スクールランブルIF15【脳内補完】

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1Classical名無しさん
週刊少年マガジンとマガジンSPECIALで連載中の「スクールランブル」は
毎週10ページの週刊少年漫画です。
物足りない、もっとキャラのサイドストーリー・ショートストーリーが見たい人もいる事でしょう。
また、こんな隠されたストーリーがあっても良いのでは?
有り得そうな展開を考察して、こんな話思いついたんだけど…といった方もいるはずです。
このスレッドは、そんな“スクランSSを書きたい”と、思っている人のためのスレッドです。
【要はスクールランブルSSスレッドです】

SS書き限定の心構えとして「叩かれても泣かない」位の気概で。
的確な感想・アドバイスレスをしてくれた人の意見を取り入れ、更なる作品を目指しましょう。

≪執拗な荒らし行為厳禁です≫≪荒らしはスルーしてください。削除依頼を通しやすくするためです≫
≪他の漫画のキャラを出すSSは認められていません≫

【前スレ】
スクールランブルIF13【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1093733782/l50

SS保管庫(仮)
ttp://tenma.web.infoseek.co.jp/SS/index.html

SS投稿避難所 
ttp://web2.poporo.net/%7Ereason/bbs/bbs.php
一度投下した作品を修正したものなどはここに投下してください。
SSの書き方について話合ったり質問したりもできるので一度目を通すことをお勧めします
2Classical名無しさん:04/10/11 09:20 ID:e3Hz8p76
>>1
3Classical名無しさん:04/10/11 09:24 ID:WdzonTLM
>>1


テンプレ修正
【前スレ】
スクールランブルIF14【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/l50
4 :04/10/11 09:24 ID:rfcWRhQE
>>1
乙カレー
このスレも一ヶ月以内に容量オーバーになりますように( ´-`)†あーみん。
5前スレラストのSS書き:04/10/11 09:24 ID:FjRDn1Cw
すみません。素人ですね。
スレ要領に気を配っていなかったとは……
初めてスレ立てたんで、間違いがあるかも。
その場合は誰か別の方、も一度お願いします。

中途半端になってしまったので、も一度「Squall」投下しなおします。
6Classical名無しさん:04/10/11 09:25 ID:WdzonTLM
【過去スレ】
スクールランブルIF13【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1093733782/l50
スクールランブルIF12【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1092069593/l50
スクールランブルIF11
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1090240458/
スクールランブルIF10【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1088764346/
スクールランブルIF09【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1087097681/
スクールランブルIf08【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1084117367/
スクールランブルIf07【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1082299496/
スクールランブルIf06【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1078844925/
スクールランブルIf05【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1076661969/
スクールランブルIf04【脳内補完】(スレスト)
http://comic3.2ch.net/test/read.cgi/wcomic/1076127601/

関連スレ(21歳未満立ち入り禁止)
【スクラン】スクランスレ@エロパロ板4【限定!】
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1091365878/l50
7Classical名無しさん:04/10/11 10:04 ID:2gguKbaY
前スレ>>678 コンキスタさんへ
久しぶりにSSに感情移入して読めちゃいました。
播磨の気持ち、天満の気持ち、沢近の気持ち、誰の気持ちを考えても切ないですね。
つか、もうパソコンの前で泣きそうですよ、俺は。
次回で最終回ということですが、楽しみに待ってます。

前スレ>>683
コピペ乙。
8Classical名無しさん:04/10/11 10:04 ID:JF9dEJuY
支援いれておきます
>>1
9前スレ目次:04/10/11 10:19 ID:JF9dEJuY
10:04/10/11 10:25 ID:mJvTrK3w
では、投下します。
11Classical名無しさん:04/10/11 10:26 ID:WdzonTLM
前スレ個別作品案内がきそうなんでもう少しずらしたほうが…
12Squall:04/10/11 10:27 ID:mJvTrK3w
 少女は見上げていた。
漆黒の闇の中、葉々の擦れ合う音に潜在的な恐怖を煽られながら、ただ一人で。

 少女は見上げていた。
 音も無く降り注ぐ雨などお構いなしに目を見開いて。
 
 少女は見上げていた。
 塞いだ心を開け放ってくれるような、強い星の光を探して。
 
 少女は見上げていた。
 ……涙を自覚したくなかった。ただ、それだけ。

13Squall:04/10/11 10:32 ID:mJvTrK3w
 少し前、美琴は道場での稽古を終え、帰途に着くべく支度をしていた。
 既に他の門下生たちは帰宅しており、閑散とした場内に、彼女が着替える衣擦れの音だけが響く。
「ちっ、何だよ」
 準備を済ませ、道場を出た美琴は、いつの間にか降り出した予報外れの雨に思わず舌打ちをした。
 家は近くにあるので、急いで帰れば大したことは無いかもしれない。
しかし、翌日も学校がある身としては、できるだけ制服は汚したくなかった。
道着に着換え直そうかな、とも考えたが、流石にそれは億劫である。
「しょうがない、花井に傘を借りるか」

 ふと、見上げる。道場に隣接した、少々時代がかった大きな家。
その二階の一室が花井の部屋であるが、その部屋には、在宅を示すであろう明かりが、
カーテンの隙間から漏れていた。
「ったく、勝手にサボりやがって」
 気持ちは分からないでもない。
 花井が塚本八雲にご執心であることは事実であるし、その八雲が、播磨拳児と付き合いだしたと言う噂は、
美琴の耳にまで聞こえてきている。その真偽は定かではないが、実際に二人で会ったりしているらしいし、
本人に聞いたわけではないが、天満も認めていることであるので、可能性は高いと言えた。
14Squall:04/10/11 10:36 ID:mJvTrK3w
 想い人の恋愛をすんなりと祝福出来るほど、大人じゃないよな……
 
 美琴の意識は、あの夏の日へ飛んでいた。
 何も出来ずに終わってしまった恋愛は、今でも思い出す度に美琴の胸を抉る。
臆病だった故に何もしてこなかったことを後悔もしたが、出会ってからの年数が自分よりも遥かに少ないであろう人を好きになった先輩は、
結局のところ自分に対して恋愛感情を持っていなかったということだ。その事実は、想い続けてきた期間がまるで無駄であったかのような
気がして、美琴を酷く惨めな気持ちにさせた。

 思い出は、それが良いものであろうと、苦しいものであろうと、やがて風化されるという。
 しかし、たった二月程度で失恋を美化するには、美琴は余りに幼すぎた。
 今でも、たまに夢を見る。

「っと、早く汗を流さないと風邪引いちまうな」
 引いていく汗が体温を奪っていくことに気付き、しばし呆けていた自分を叱咤するかのように両手で何度か頬を叩くと、
道場の庇沿いに進んで行った。
15Squall:04/10/11 10:39 ID:mJvTrK3w
「よっ」
「周防……」
 花井は参考書を顔にかぶせながら、ベッドに横になっていた。
「おばさんがさ、部屋に居るから上がってけって」
「何か僕に用か?」
 普段の花井からは想像も出来ないほど抑揚の無い声。
分別をわきまえている彼らしく、客人に対する礼儀として体を起こす姿からも、いつものような覇気が全く感じられない。
「いや、雨が降ってきたから傘を借りようと思ってな。そしたらさ、おばさんに強引に上げられちまって。まぁ、いいだろ、たまには」
 幼馴染とはいえ、流石に高校生になってから部屋に上がったことは無かった。
照れ臭いと言う感情から逃れるように、無意識に美琴は頭を掻く。

「……帰ってくれ」
「って、いきなりそれかよ」
 横柄な物言いもそうだが、それ以上に「らしくない」花井の態度に思わずカチンと来る。
「じゃあ何か? お前も僕を笑いに来たのか」
「なっ……」
「滑稽だろ。誰が何と言おうと、僕は塚本君を一番想っている自信があった。しかし、彼女は播磨を選んだ。
 ……僕は男として播磨に負けたんだ」
そう言うと、花井は俯いてしまう。
「はいはい、それで花井君は独りで泣き寝入りですか」
挑発的な美琴の言葉にも、花井は反応しない。それを見て、美琴の心は理由の分からない不快感が支配していった。

「ったくよー、情けないったりゃありゃしないぜ。男の癖にウジウジとよー」
「奪い返すぐらいの気概を見せられないもんかね」
次々に出てくる蔑みの言葉。自分のことを棚に上げていることは分かっていたが、花井が落ち込む姿を見ていると、無性に腹が立った。
16Squall:04/10/11 10:41 ID:mJvTrK3w
「……お前に何が分かる」
「あん?」
見ると、花井の肩がわなわなと震えている。
「お前に何が分かると言ったんだ!」
 口を真一文字に結び、眉が吊り上る。
気色ばんだ口調は、押し殺していた鬱憤を吐き出そうとしていることを、如実に表していた。
「お前に……恋をしたことも無いような、人を愛する辛さを知らないお前に、責められたくは無い!」

 ……恋をしたことが無い? あたしが?  
 血の気が引いていくのが分かった。
 分かっている。花井は追い詰められているだけだ。
自分自身もコイツの激情を受け止めるつもりで、敢えて憎まれ口を叩いたのではないのか?
 至る所に意識が錯綜し、思考がオーバーヒートを起こす。しかし、その中でも揺るがないのは、敗北者の顔を見せ続ける幼馴染の姿。
一番信頼出来るであろう相手が、自分の本質を掴んでいてくれなかったという、哀しい真実。
17Squall:04/10/11 10:43 ID:mJvTrK3w
 ……美琴自身意識していたわけではない。気が付くと、思い切り花井の頬を張っていた。
 自分の行為が意識化で下した結論と矛盾していることに、やってしまってから気付く。
 けれど、もう、止められない。

「知ったような口を叩くんじゃないよっ!」
 頬を涙が伝う。
「周防……」
赤く染まった頬に手を当て、毒を抜かれたかのように呆然とした表情で、花井は見上げる。
「自分が世界で一番不幸だって顔してさ……あんただって、あたしのコト何にも知らないじゃない」
 お互いの沈黙が、刺すような静寂を形成する。

「無神経な言い方だったかも知れない。それは謝る。……だけど、今のあんたは最低だ」
美琴はそう言うと、踵を返して部屋を去った。
 
 自らの行動にすら納得のいく動機付けが出来ない。これじゃあただの八つ当たりじゃないか……
 そう、嘲りながら。

18Classical名無しさん:04/10/11 10:46 ID:WdzonTLM
支援
19Squall:04/10/11 10:46 ID:mJvTrK3w
 ――どうしてここに居るのか、はっきりとは覚えていない。
 黙って家に帰れば良いのに、気が付けば、ずぶ濡れのまま矢神神社の境内に腰掛けていた。
 
 何故、あんなことをしてしまったのだろう。
 美琴は、幾度と無く問いかけてきた事への答えを模索していた。
 落ち込むアイツを見たのは、別に初めてのことじゃない。十年来の付き合いなのだ。その度に、事の大小に関わらず、笑いながら強引にハッパをかけてきた。
立場が入れ替わることもあったが、その「儀式」は、二人が積み重ねてきた時間の象徴であり、お互いの不文律であったはずだった。

 そう、今回もいつも通りに笑い飛ばせばよかったのにな……

 ふと、右手の掌を雨にかざす。前に比べれば随分と楽になったものの、まだ少し赤みが残る。
闇に慣れた目が捉えるその腫れは、それ自体が美琴の業を象徴しているようで、彼女の気持ちを再び滅入らせていった。
 乾ききっていない失恋という傷口を喚起させられたため、反射的に手を出してしまったのだろうか。
「いや、違うな」
 恐らく、思っていたよりも自分が理解されていなかったことが悔しかったのだろう。
確かにアイツに先輩への想いを話したことは無かったが、それでも、自分が色恋沙汰とは無縁の存在であると認識されていたことが哀しかった。

「……なんでだよ」
花井にそう思われていただけで……美琴は搾り出す。
20Squall:04/10/11 10:49 ID:mJvTrK3w
 脳裏に浮かぶは、積み重ねてきた思い出。一つ一つが、浮かんでは消える。
 遡った記憶がどんどんと新しくなり、頬を押さえるアイツの驚愕の表情で停止し、その映像にひびが入った。
……瞬間、彼女の涙腺は一気に崩壊した。
 
 一つの想いを失って、それから初めて気付く想いもある。美琴にとって、近過ぎて今まで振り返りもしなかった。
先輩への想いが霞んでしまうほどに、体の内から込み上げてくる想い。
 ……花井春樹を慕っているという想い。
 
 随分と回り道をした。違う人を想ったこともある。
 十年かけて辿り着いたその想いの結末は、ただその手に残る、アイツを殴った感触だけ。
 アイツと共に成長してきた日々。少しずつ深め合ってきた絆。
 苦労を重ねて築いてきたのに比べ、失ってしまうことの、何と容易いことか……

「泣いている場合じゃないな」
 キッと空を睨むと、美琴は立ち上がった。……流す涙を、受け入れた。
 気付いてしまったのだから。そして、溢れているのだから……
 
 じっとしているのは性分に合わない。臆病になって失敗した前回の轍もある。
 何か行動をしよう。塚本八雲には適わないかもしれない。だけど、自分に出来ることは何でもしよう。
 
 雨はまだ止まない。しかしもう、少女は哀しい雨を己の心に投影することは無い。
21:04/10/11 10:57 ID:mJvTrK3w
以上です。
投稿し終わってから11氏のレスに気付くとは……
何か一人でテンパってて、情けないですね。

SS書き方スレでは「雪豹」を名乗らせていただきました。
今後はここでも名乗っても構わないでしょうか?
神々の中に混じって拙作を投下するのも憚れるのですが、精進しますので、
今後もお付き合いいただければ幸いです。
22前スレ目次:04/10/11 11:00 ID:JF9dEJuY
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/162 The breakout of war
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/212 Dear My Sister?
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/233 If...fire red
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/281 I don't say
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/299 thank-ful
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/317 風見鶏
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/320 Escapes from himself
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/340 ぬらり雨
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/361 Invisible full moon
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/376 縮まる距離と温もりを
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/386 Full moon of Phantasm
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/402 最終回おにぎり編
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/404 買い物
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/416 満天
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/433 Point of a look -1
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/457 In my dream
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/487 The Hymn of love
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/507 無題
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/512 the Word is the Spell
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/533 Youthful Days
23前スレ目次:04/10/11 11:02 ID:JF9dEJuY
24前スレ目次:04/10/11 11:06 ID:JF9dEJuY
訂正します。
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/538 Hello, Welcome to Bubbletown's Happy Zoo
25Classical名無しさん:04/10/11 11:15 ID:XCIY/xP.
>コンキスタ氏へ
GJ!
素晴らしいの一言です。
お嬢の涙のシーンは泣きそうになりました。
天満も良いキャラになってますね、良い意味で裏切られました。
最終回へ向けてどんどん盛り上がっていますね。
最終回頑張ってください。
あと>>7氏も言っているように前スレ>>683はいつものコピペ厨なので
スルーが一番かと思います。^^;
26Classical名無しさん:04/10/11 12:15 ID:MByCbA4Q
前スレ目次作成おつかれさまでした。恐縮ですが、ちょっと訂正させていただきたく。

>>23の 581 麻生サラ さんの作品は後でご本人がタイトルつけてらっしゃいました。
ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/586 雨、ふたり

>>1=雪豹さん スレ立て+投下乙です。
縦笛派ならずとも感情移入して思わず切ない気持ちになってしまいますね。
細やかな表現のなせるワザでしょうか……力作だと思います。
次作を楽しみにさせていただきます。
27前スレ目次:04/10/11 13:27 ID:JF9dEJuY
>>26 あ、見落としてました。 訂正乙です。
28Classical名無しさん:04/10/11 17:34 ID:iYYLSs82
前スレ678
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/678
GJです。
でも、
>私、誰かに好きになられた経験ないからちょっと……
1巻の天王寺の告白がスパッと忘れられているあたりワロタ
29Classical名無しさん:04/10/11 21:48 ID:3CVKEitc
おまいらペース早すぎです。

前スレに投稿しそこなった埋め用SS

──────────────────────

「け、拳児くん、ちょっと話があるのだが………」
「おう、何だ絃子、改まって」
「つ、塚本君のコトなんだがな………」
「! 天満ちゃんがどうかしたのか!?」
「あ、いや、そっちじゃなくて、妹の塚本八雲君の方なんだが………」
「お、おう、妹さんか。妹さんがどうかしたのか?」
「いや、あの、この間の夜のコトなんだが………」
「この間?」
「中間テストの時の………ほら、塚本君がウチに来たときのコトだ」
「おう、あんときか。いや、妹さんには世話に………」
「そ、そのコトなんだが………」
「そういや、あの夜、おまえいつの間にか居なくなってたよな。どうしたんだ」
「いや、その、わ、私のコトなど、どうでもいいだろう」
「そうは言ってもいちおう身内だしな。朝居なかったんでビックリしたぜ」
「………心配してくれたのか?」
「………いや、だから、身内だしな。まあ、学校で見かけたんで『ま、いっか』と
思っちまったけどよ」
「そ、そうか、身内………だからか」
「で、妹さんがどうしたって?」
「そ、そうだ、それなんだがな………」
「おう」
「その………何と言うか………」
「何だ歯切れが悪いな。絃子らしくねーぞ」
30Classical名無しさん:04/10/11 21:50 ID:3CVKEitc
「あの、その、えっと、あの夜な」
「ああ」
「そ、その、何だ。塚本君に………その………」
「おい、早くしないと、オレは行くぞ」
「い、いい、いや、ちょ、ちょっと待て。だからその、つ、塚本君に、その、
お、男にして………貰ったのか?」
「は?」
「ど、どうなん………だ?」
「………そういや、おめえ、話聞いてたんだっけな。ん〜〜、何つーか………」
「………」
「男になれた………のかな? いや、結果が判らないウチは何とも言えんか………」
「結果?」
「ああ、後は当たるも八卦、当たらぬも八卦………」
「あ、当たる!?」
「いや、当たるって言い方はおかしいか………?」
「け、けけ、拳児君! 当たるって、君はまだ高校生だぞ! 判ってるのか!?」
「? なんか変か?」
「は、早すぎるだろう! こういうのは学校を卒業して、社会に出てからだな………」
31Classical名無しさん:04/10/11 21:51 ID:3CVKEitc
「………そんなコトもねえだろう。現に烏丸のヤツだって………」
「烏丸? キミのクラスのか? 彼がどうかしたのか?」
「いや、アイツだって高校生だけど、もうバリバリだぜ」
「な、そ、そうなのか………?」
「ああ、アイツにだけは負けられねぇ」
「い、いや、しかし負けるとかそういう問題では………、そ、それに塚本君の
方はどうなんだ。いくら何でも迷惑だろう」
「………確かに妹さんには甘えすぎてるかも知れんな。でも、他に頼れる人も
いねぇしな………」
「い、いや………ソレナラワタシガ………」
「? 何だって?」
「い、いや、何でもない。で、その結果とやらは………」
「すぐには判らねぇよ。まあ、2,3ヶ月先だな」
「そ、そうか、そうだよな………」
「? なんか変だぞ、絃子?」
「い、いや、何でもない!」
「って、おい、泣いてんのか! 絃子!!」
「ち、違う! コレは……」
「お、おい、どうしちまったんだよ!」
「な、何でもない! わ、私はもう寝る!!」
「おい、ちょっと待て、絃子!
…………いっちまった………何だってんだ、いったい」



32Classical名無しさん:04/10/11 22:16 ID:lweJEABQ
>>29
GJ!この噛み合わない会話がすげえいい!
33Classical名無しさん:04/10/11 22:27 ID:C7So6tiI
GJ
もうなんていうか…イイ!!
それにしても埋めのSS、姉萌え定番だな
34Classical名無しさん:04/10/11 22:41 ID:ULeGgz8I
>>29-31
GJ!
めちゃワロタ
35Classical名無しさん:04/10/11 23:48 ID:4qJpL/m6
>>31
GJ!
かみ合わないってのは萌えるもんですねw
ソレナラワタシガ…に萌えた。
36Classical名無しさん:04/10/12 00:44 ID:TZFY1who
ワロタ。
GJ!
37Classical名無しさん:04/10/12 17:46 ID:Gy4opBEQ
笹倉センセーあたりに愚痴ってそうだな、絃子さん
GJ!

噛み合わなさで溜まりに溜まった絃子さんの鬱憤を一気に晴らすSSキボン
38Classical名無しさん:04/10/12 17:47 ID:cP73avbI
もしそっちなら、2〜3ヶ月経たなくても分かるんだが。
39前スレの683:04/10/12 17:58 ID:PTWbTiIQ
>>25氏へ
神に賭けて誓ってもいいですが、全然違いますよ。
いや、貴方が信じないならそれはそれで仕方のないことですが。
でも私は真実しか語ってません。

>>683は本当に読んだ直後の感想をそのまま書いたものです。
だからバイアスかかりすぎなことは積極的に認めます。
ただのしがない一読者の偏見入りまくりの感想と思ってください。
それだけです。

訳の分からないキチガイなんかと一緒にしないでくれ・・・orz
40Classical名無しさん:04/10/12 19:15 ID:skG9OrrE
まあ痛さは同レベルだし。
41Classical名無しさん:04/10/12 20:19 ID:UobiYosc
>>31
GJ!
笑えるばかりか節々に萌えポイントがあって非常に良いです。
やっぱ超姉(*´д`*)ハァハァ
42前スレの683:04/10/12 22:33 ID:TiftXipY
ともあれ、私の書き込みがそういう捉えられ方をするとは思っていなかったので
気を悪くなさったならすみませんでした
43Classical名無しさん:04/10/13 03:29 ID:ARu2ubc6
慢性信者はフィルタ取れないから
一々弁解しに来なくて良いよ。
44美女達と野獣:04/10/13 12:12 ID:aMuigKuQ
「決めた、明日こそ言うわ。女は度胸よ、うん」
満月ではないが月がきれいなある日、沢近愛里は自室のバルコニーに出て、少々古い口調
ながら月に話しかけた。
その表情からいつにも増して真剣で、まるでこれから一戦交えるかのような様相だ。
「逃げるのはやめ。第一これ以上待っていたら、ホントに取られちゃうし・・・」
そう言って部屋に戻ると電気を消し、ベッドに潜り込む。
時計の針が11時を少し回り、文化祭を目前に控えたある秋の夜であった。

――― キーンコーンカーンコーン
今は休み時間。沢近は相手にメモを渡そうとしたが、なかなかその者と二人っきりになれ
なく、時は既に3時間目まで過ぎ去ろうとしていた。
しかし、彼女の周りにいつもたむろしている天満達はトイレに行き、その男子の周りにも
誰もいない。
(今がチャンスね)
意を決し、机で寝ているその男の子にメモを手渡したら、さっさと行ってしまった。
「ん、何だこれ?」
目を覚まし、起きた男の子の名は播磨拳児、学校一の不良である。メモを開ける播磨。
[放課後屋上で待ってる 沢近]
それだけである。
(なんだこりゃ。またパシリか?)
しかし、(ツインテール恐怖症のため)無視するわけにもいかず、しょうがないという表情
で携帯を取り出し、ある相手にメールを打っていた。
[放課後屋上で待ってる]
沢近と同じ文面である。
45美女達と野獣:04/10/13 12:15 ID:aMuigKuQ
――― 放課後
沢近は用事があるということで天満達を先に帰して、自分は屋上で播磨を待っていた。
「お嬢」
播磨の声がすると、沢近はクルッと振り返る。
「来てくれてありがとう」
「なんだよ、こんなもので呼び出して」
そう言ってメモをピラピラと振っていた。
「んー、あなたに聞きたい事と、言いたい事があって」
「俺に?」
「あなたこの前、付き合っている人はいないって言っていたわね」
「そんなこと言ったっけ?」
「言ったの。それとも、今付き合っている人いるの?」
「んなもん、いねーよ」
そう言われ、胸をなでおろした。
「でね、今日はね・・・その・・・あのね・・・」
「んだよ、はっきり言えよ」
そう播磨がけしかけると、グッと勇気を振り絞って大きな声で、
「あっ、あなたの事が好きなの!!」
顔を真っ赤にし拳を握り締め、うつむきながらも上目遣いで見つめる。
「今付き合っている人がいないなら、あたしと付き合って・・・ってどうしたの?」
沢近に告白された播磨は、そのまま石化した。
無理も無い。(誤爆だが)女の子に告白した事はあっても、されたのは初めてだから。
ましてや相手が天敵(笑)なら、びっくりするなという方が無理である。
「ちょと、播磨君。大丈夫?」
そう問いかけられると、ハッとして我に帰った。
46美女達と野獣:04/10/13 12:17 ID:aMuigKuQ
「なな、何言ってんだ、おめーは」
「何よ、あたしが告白したら変?」
「変に決まってんだろうが。なに企んでんだ。ドッキリか、これは?」
そう言うと辺りを見回し、誰か居ないか、カメラは無いか探した。
「なにキョロキョロしてんのよ。あたし本気よ」
「本気ってお嬢・・・」
そう言うと沢近は播磨の首に両手を回し、目をつぶる。
――― 【チュ】
甘くやさしい口づけ。
「ななな、なにすんだーてめーは」
「うるさい。全校男子が羨ましがるあたしのファーストキスだぞ。ありがたく受け取れ」
沢近は顔を紅くしながらも、右手でピストルの形を作り、まるで"あなたのハートを狙い
撃ち"みたく、バーンと撃つ格好をした。
「ファーストキス?だってお嬢、おめーいっつもデートしてるだろ」
「確かにあたしの行動は誤解されやすいかも知らないけど、デートはしてもキスはしてい
ないわ。こう見えても身持ちは硬いのよ」
そう言われると、ふらっとする播磨であった。
(俺もファーストキスなのに。天満ちゃん、ごめん)
播磨は心の中で涙を流し、天満に謝った。謝っても仕方が無いのに。
47美女達と野獣:04/10/13 12:20 ID:aMuigKuQ
「でね、今度デートに・・・ん?」
沢近が少し言いかけたら、再び播磨の表情が変なのに気づいた。
「どうしたの?」
そう言うと、播磨がなにやら一方向を向いて固まっていた。その目線の先には八雲の姿が。
実は昼前、メールを送っていたのは八雲にであった。漫画のことで相談がある時はいつも
屋上に呼び出していて、今日も沢近に呼び出されたついでに用事を済ませようと思ったか
らであった。
「あ、いや、これは・・・」
播磨が弁解をしようとするも、両手で口を押さえ、顔を赤らめ凝視している八雲。
「あら、見られちゃったかな」
少しも悪ぶる事無く言い放つ沢近。
「ごっ、ごめんなさい。見るつもりはなかったんです」
クルッと振り向き、この場を逃げようとする八雲。播磨は天満にばれるのを恐れ、八雲を
追っかけ、腕を掴む。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、妹さん」
八雲がこっちを振り向き、その顔を見たとき播磨はドキッとした。八雲の顔には、涙が頬
を伝わっていたからである。どうやら無意識のうちで涙を流したらしい。
48美女達と野獣:04/10/13 12:21 ID:aMuigKuQ
「なっ、泣いてんのか?」
(えっ?・・・あれ、あたしなんで泣いているんだろ・・・)
二人が話しているところに近寄る沢近。
「あなた、なんで泣いているの?ひょっとして、ショックだった?」
「いえ・・・私は、別に・・・」
沢近は噂の八雲が目の前に居るため、攻勢をかけない訳にはいかない。
「でも残念ね。播磨君はたった今、私のものになったのよ」
「いつ、おめーのもんになった」
「あたし達キスしたじゃない」
「そ、それは・・・」
完全に防戦一方の播磨。さらに沢近は八雲を追い込む。
「あなた、別に彼とつきあっていないし、彼の事なんとも思っていなんでしょ?だったら
問題無いわね」
沢近に言われ、八雲の中で何かが弾けた。
――― なんとも思っていない・・・播磨さん・・・ホントに・・・好きじゃ無いの・・・
私の気持ち・・・素直に・・・このままでいいの・・・変わる事が・・・
葛藤する八雲。そして、とても八雲の口から発したとは思えない、衝撃の言葉を口にした。
49Classical名無しさん:04/10/13 12:24 ID:aMuigKuQ
「わ、私たち・・・」
「ん?」
「何日か夜を一緒に過ごしました」←ホントの事
「「えっ?」」
驚く二人(笑)
「妹さん、あれは・・・」
「播磨さんに男にしてくれと頼まれました」←ホントの事
二人の目と口が大きく開く。
「ど・お・い・う・こ・と」
沢近は額にピキマークを2つ3つしながら、播磨の首を締め上げた。
「ぐるじぃ・・・あっ、あれはだだ、でづや(徹夜)じだだげで・・・」
「徹夜!一晩中!!」
驚いた顔で叫んだ。
「お嬢、勘違いするなよ。俺と妹さんは何にも無い」
「ホントに?」
「ホントだ・・・って妹さんも紛らわしい表現はやめてくれ」
八雲は少し言い過ぎたかなと思いつつも唇をかみ締め、厳しい表情で沢近を見ていた。
「あなた、なんでそんな事言うの?」
「わかったんです」
「え?」
「播磨さんを・・・播磨さんを好きなのは、あなただけではありません」
八雲は沢近の目をしっかり見つめ、そう言った。
「ってことは何?戦線布告って事?」
「いえ、それは・・・」
「いい度胸してるじゃない。でも、負けないわよ」
沢近はそう言い残すと踵を返し、校舎の中へと消えていった。
八雲の膝はガクガクと震えていて、手の平には汗がべっとりとついていた。
・・・・・・・・・
二人の言い争いを見て、ただ呆然とする播磨。
この後、とんでもない事が起ころうとは、知る由もなし・・・
50美女達と野獣:04/10/13 12:27 ID:aMuigKuQ
――― 次の日のお昼
生徒達は教室でお弁当を広げる者、学食へ行く者とそれぞれを楽しんでいた。
「ねえ、拳児くん」
そう呼ぶのは沢近である。
「な、何だお嬢」
昨日の事があったから、警戒する播磨。
「お昼持ってる?」
そう言うとサッとお弁当を取り出した。
「お昼、一緒に食べよ」
沢近のこの発言にクラス中がどよめく。
「愛理ちゃん・・・」
「あの2人、何かあったのかな?」
「私の情報によれば・・・分からない」
高野でさえ分からないこの2人。
沢近はとなりの席のイスを播磨の席にくっつけ、お弁当を広げた。
(まっ、いいか金欠だし。腹に背は変えられん←?)
播磨は弁当の蓋を開け、中身を見たら直ぐに閉めた。
「おい、なんだこりゃ」
「ほぁにぐぁ(なにが)?」
そっと蓋を開けたら、そぼろでハートマークが。
「あたしの気持ちよ。もし食べないんだったら、昨日のこと皆に言いふらすわよ」
脅しと空腹には勝てず、中学生みたく周りに見られないよう蓋で隠すように食べている。
51美女達と野獣:04/10/13 12:32 ID:aMuigKuQ
「美味しい?拳児くん」
「ああ美味いが、その拳児くんはやめろ」
「なんで、あなたの名前拳児でしょ」
「そりゃそうだが、その言い方は気にいらん」
(女が苗字でなく名前を"くん"付けで呼ぶのは、あいつしかいないからな・・・)
播磨に言われた沢近は"ゴホン"とせきを一つしたら甘い声で、
「じゃあ・・・拳児さん(はあと)」
「「「「ぶふうーーー」」」」
その場に居たほぼ全員の口からごはんが飛び出し、阿鼻叫喚と化した教室。
「ごほっ、がはっ・・・おっ、おまえなーーー」
声を荒げる播磨。
――― ガラガラ
教室の扉が開き、その向こうには八雲と付き添いのサラの姿があった。
八雲は播磨の席を知っているので、一直線に向かう。
「失礼します。あのー、播磨さん」
「あ、妹さん」
「あの、お弁当作ってきたんです」
八雲は頬を赤く染め、両手で弁当を差し出す。この行為に再び教室がざわめき立つ。
「残念ね、拳児さんは"私のお弁当"を食べているの」
そう言って八雲を牽制するが、恋する乙女は強く、沢近を無視し弁当を播磨の前に置く。
「あ、あなたねー」
「ま・ま・ま、愛理ちゃん」
天満が間に割ってはいる。
(朝、お弁当3つ作っていたのは、播磨君のだったのか・・・)
これで3つ作った謎が解けたのである。しかし・・・
シーーーーーン
静まり返った教室。播磨を間にはさみ、八雲と沢近が対峙している。
52美女達と野獣:04/10/13 13:04 ID:aMuigKuQ
「いっ、いいな播磨君、学校1・2の美女にお弁当作ってもらって。ははは・・・」
この雰囲気に我慢できなく、額に変な汗をかき、何とかこの場を取り繕う天満。
ところがこの天満の発言が、とんでもない事を引き起こしたのである。
「どっちが1番なの?」
「は?」
沢近がすごい顔で、天満に問い尋ねる。
「天満、どっちが1番なの?」
「えー、それはーーー」
そんな事答えられるはずも無く、あたふたする天満。
助け舟を求めて皆の顔を見渡したが、クラス全員が一斉に天満から顔を背けた。関わりた
くなかったからである。
(ふっ、所詮人間は一人ぼっちなのね(T_T))
再び八雲の顔を見る沢近。
「拳児さんに似合うのは1番の人だけ。そしてあたしが1番。だから拳児さんはあたしの
お弁当を食べるの」
訳わからん事を豪語する沢近。図々しさ、ここに極まれ。
余りにも強引なため少し引き気味な八雲だが、何かを言おうとした矢先今鳥が、
「あっそうだ、こうしよう。今度ミスコンをやろう」
「「「「えっ」」」」
今鳥の唐突な発言にクラス中が驚く。
「文化祭でうちが主催でやるの。ほんでもって勝ったら、播磨と昼食できる権利を得る。
いいアイデアだろ。もち水着審査あり」
水着審査『だけ』をやりたいのが本音であろう。
53美女達と野獣:04/10/13 13:06 ID:aMuigKuQ
「「「うおーーーーー」」」
男子生徒が一斉に雄叫びを上げる。そんな今鳥に舞ちゃんが、
「ちょっと待ってよ、今鳥君。うちの出し物はどうすんのよ?」
「そっちはそっち、こっちはこっち。両方やろう」
「そんなー」
「てめー、何勝手に決めてんだよ」
「あたしはいいわよ」
「おめーも賛成するんじゃねえよ」
沢近が参戦宣言をする。ここまでくればいかに八雲といえ、火が付かないわけも無い。
「わ、分かりました」
「妹さんも・・・」
「決まり。じゃあ、細かい事は後で」
「おい、勝手に決めるな。文化祭は・・・」
そう花井が言いかけたところ、
――― パチン
今鳥が指パッチンをすると、他の男子生徒が一斉に花井を取り押さえ縛り上げ、猿ぐつわ
をかます。
「ほえほぁすふぅ。ほもけぇ、ほもこんくぁー(訳:何をする。ほどけ、ほどかんか)」
悪が退治された瞬間である。
なにやら唐突に決まった感もあるが、ここに全校生徒を巻き込んでのミスコンが開催され
ようとしていた。
(なんなんだ、いったい)
ボーゼンとなる播磨。この勢いを止める事は既に不可能である。
54Classical名無しさん:04/10/13 13:14 ID:aMuigKuQ
ありゃ、49で失敗した。
ちょっち離脱します。
55Classical名無しさん:04/10/13 13:30 ID:UQWi0dss
何このヲタ全快妄想・・・・・・・?
             /ヽ       /ヽ
            / ヽ      / ヽ
  ______ /U ヽ___/  ヽ
  | ____ /   U    :::::::::::U:\
  | |       // ___   \  ::::::::::::::|
  | |       |  |   |     U :::::::::::::|
  | |      .|U |   |      ::::::U::::|
  | |       | ├―-┤ U.....:::::::::::::::::::/
  | |____ ヽ     .....:::::::::::::::::::::::<
  └___/ ̄ ̄      :::::::::::::::::::::::::|
  |\    |           :::::::::::::::::::::::|
  \ \  \___      ::::::
56不正蓄財ますこみ幹部:04/10/13 13:38 ID:nV8FKIBM
57風光:04/10/13 14:54 ID:6HgJmL8w
前スレ
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/l50
>>650-656
読んで下さってありがとうございました。
レス、遅くなってすみません。

麻生のキャラおおむね受け入れてもらえたようでありがたいです。
またこの組み合わせで書いてみたいと思います。

>>682
いえいえ、自分はシリアスなノリでしか物が書けない性質なので581 麻生サラ氏のライトな書き方は好きですよ。
そっちタイプの麻生×サラの作品も楽しみにしています。
58Classical名無しさん:04/10/13 15:52 ID:SkR9/RVc
>>54
話としては面白いと思うけどもう少し描写を凝った方が良いかなと思いました。
あと・・・は…にした方が読みやすいですよ。
続き待ってます。
59Classical名無しさん:04/10/13 18:12 ID:wm0WXkTA
ありゃそうですね。
・・・より…ですよね。なんでこっち使ったんだろ。
60美女達と野獣:04/10/13 18:14 ID:wm0WXkTA
さて、ミスコンの概要はこうである。
・1クラス2名まで。自薦他薦問わず。
・予備選は知力と料理。料理は肉じゃが。
・本選は水着審査。
といったものである。
何故、知力と料理がいるのか?最近は美しいだけではダメ。『才色兼備』、これが今回ミス
コンのテーマである。
この発表に沢近の眉間にしわが寄る。
(料理、しかも肉じゃが…)
そう。沢近は料理が余り得意ではない。だから、以前教えてもらったことのある高野に助
け舟を出した。
「お願い。料理を教えて」
そう拝むように両の手を合わせ、頭を下げる。
「いいわよ、別に」
あっさりと承諾する高野。なにやら不気味である。
ほっとする沢近であったが、高野の口端が少し上がった事に気づかなかった。
61美女達と野獣:04/10/13 18:15 ID:wm0WXkTA
放課後。クラス全員が集まって、ミスコンの出場者を決める話し合いが行われていた。
「エントリーは2人までがOKなんだけど、あと1人どうしようか」
舞ちゃんがそう言うと、クラス中が静まり返った(花井は縛られたまんま)。
女の子は一度は憧れるのだが、出て優勝すればともかく、成績が振るわなかったら逆に恥
をかく事になるから、中々"出たい"とは言えないのである。
「ほい」
1人の男子が手を上げた。今鳥である。
「推薦でもいいのなら…」
そう言って周防の方をちらっと見た。
(あ、あいつまさか…)
「ちょ、ちょっと待て今鳥」
手を今鳥のほうに上げ、発言をさえぎろうとした周防だが、
「あれ、ミコちん出たいの。じゃあ俺、他の子推薦しようと思ったけどやめとくわ」
「え!」
驚く周防。
「嵌められたわね、美琴さん」
そのとおり。上手く今鳥の作戦に引っかかったのである。
(俺が推薦すると、ミコちん怒るからな)
「あ、ちょ、えーーー」
まぬけな声を上げる周防。
「じゃあ、周防さんで言いと思う人」
そう言うと、美琴を除く全員が手を上げた。
「それじゃあ、決まりね」
(はっ、嵌められた…)
全身の力が抜けイスに座りこみ、滝のように涙を流す美琴であった。
62美女達と野獣:04/10/13 18:17 ID:wm0WXkTA
――― ひゅーん…どどーーーん ぱぱぱぱーーーーーーーーん
空高く花火が上がる。今日は文化祭と同時に、運命のミスコンの日でもある。
エントリーは一年から三年まで全員で31人。
一次予選で15人に。二次予選で7人まで絞り、本選に進む仕組みである。
一次審査はペーパーテスト。テストを30分で解き、その後直ぐ採点をして15人を決める。
さて、そのテストの中身であるが、
【料理の さ・し・す・せ・そ とは何か答えなさい】
【生卵とゆで卵の見分け方を説明しなさい】
などといった家庭科のテストで、八雲や沢近達は無事二次審査に進む。
二次審査は料理。
単純に美味いもん順に点数を付ける。審査するのは校長・教頭、あと5人の先生方。
沢近は高野に教わった料理で、ここも無難に通過した。ここで7人に絞られる。
本選は午後からである。

食事も済み、学校内が少しあわただしくなってきた。
「おい、早く行くぞ」
「まだ一時間あるだろ」
「バカ、早くいって前の方に座るんだよ」
廊下をバタバタ走る男子生徒をあちらこちらで見かける。
「げっ、もうこんなにいるのかよ」
舞台の前のほうは既に生徒が何人かいて、カメラや携帯片手に既にスタンバイOKである。
ただその横で、高野がなにやら手渡している。
「これなに?」
「指定席券よ」
高野が持っているその紙には番号が書いてあり、イスのほうにも番号が割り振ってある。
そして何故か、夏目さんが一枚・二枚と飛び交う。どうやら高野はミスコンに託けて、バ
イトをしている様である。
クラスメートをも食い物にする高野。恐るべし。
63美女達と野獣:04/10/13 18:20 ID:wm0WXkTA
いよいよ本選。壇上に上がる司会者・今鳥。
「では、本選にのこった7名をご紹介します」
「「「うおーーーー」」」
館内のボルテージは最高である。
「トップバッターは、2−Aの浜名美佐さん」
そう紹介すると、艶やかな水着姿で登場する。カメラのフラッシュがすごい。
「おーーー」
「かわいー」
男どもは既に半狂乱である。
こうして順に7名を呼び上げるのだが、これは予選の成績が低いもの順である。

・2−A浜名美佐
・1−Dサラ・アディエマス
・2−C沢近愛理
・2−F桑田優子
・2−C周防美琴
・3−B五月しのぶ
・1−D塚本八雲
以上7名である。
水着姿で壇上に上がったビーナスたち。その誰もが均整の取れた見事なまでのプロポーシ
ョンである。
64美女達と野獣:04/10/13 18:21 ID:wm0WXkTA
「沢近もいいが、3年の五月さんもいいしな」
「同じクラスのよしみで。でも、サラも結構好みなんだがな…」
「塚本さん、ほそーい。羨ましいな…」
「やはり自分の生徒が出ているから」
とこれは先生の意見。
ここからは生徒と先生の投票で決まる。この投票はさしたる混乱も無く、無事終了する。
集計は迅速に行われ、今鳥は第7位の結果の紙を持って、壇上に上る。
「お待たせー。では、結果発表!」
生唾を飲み込む沢近。緊張の一瞬である。
「では、まず第7位から」
♪ドロロロロロロ、ダン
ドラムの音が止まった。
「第7位は…2−F、桑田優子さん」
ほっとする沢近。
(こんな所で呼ばれるわけにはいかないわ)
「つづいて第6位は、2−Cの…」
ビクッとする沢近。
(C組は美琴と私だけ。ここで終わりなの。神様…お願い…)
「…周防美琴さん」
ホッとして、額から汗が流れる。
「あーん、美琴ちゃん6位か」
残念そうな声を上げる天満。
順調に進み、当初の予想通り決戦は沢近と塚本の2人に絞られた。
「さていよいよ、残すところは後2人。一気にいきます」
♪ドロロロロロ、ダン
ドラムの音が止み、今鳥は結果の書いてある紙を開いた。
「では、発表します」
65美女達と野獣:04/10/13 18:23 ID:wm0WXkTA
静まり返る館内。
「第2位は…2−C沢近愛理さん。そして優勝は、1‐D塚本八雲さん」
その瞬間から、沢近の頭の中が真っ白になった。
「おめでとうございます、塚本さん」
「あっ、ありがとうございます」
壇上では優勝者にインタヴューしている。
そしてその横で、少しさみしげに笑っている沢近の姿があった。
沢近の耳にはもう何も入らない。
考える力も無い。
立っている気力も無い。
こうしてミスコンは無事終了したのであった……
66美女達と野獣:04/10/13 18:45 ID:wm0WXkTA
(たっく、何処いったんだよ)
播磨は沢近を探していた。ミスコンが終了してから、沢近の姿が見えないのである。
普段なら気にも留めないが、負けた瞬間の沢近を見て少々気の毒に思い、少しフォローを
入れようと探していたのであったが、校内あちらこちら探しても見つからない。
「帰っちまったのかな」
そう思いつつも屋上にやってきたが、ここでも沢近の姿は無かった。
「しゃーない、明日少し話しとくか。あいつが来ればだがな」
後頭をボリボリ掻き帰ろうとしたとき、屋上に出入りする出入り口の屋根の影が目に入る。
そして、その上の方の影が少し動いたのが見えた。
(まさか…)
はしごを登ると背中を向け体育座りをし、顔を埋めている沢近がいた。
「お嬢」
播磨の声に沢近はビクッとして、慌てて右腕で顔を拭いた。
「グズッ…何の用?」
播磨に背中を向けたまま話す沢近。
「いやー、別に用って訳でもないが」
「彼女のそばにいなくていいの?」
「妹さんか?別に俺がいなくても良いだろ」
(探しに来た?追って来てくれたのかな…)
少しホッとする沢近。
「下に行こうぜ。みんな探してるぞ」
「ぃぃ」
再び顔を埋め、小さな声で返事をする。
67美女達と野獣:04/10/13 18:47 ID:wm0WXkTA
「元気出せよ、いつものお嬢らしくねーぞ。優勝できなかったのがそんなに残念か。
1位とはたったの7票差だろ。すっげーじゃん。俺だったら一票も入んねーぞ」
「2位が悔しいんじゃなくて、八雲に負けたのが悔しいの。わかんないの?そのくらい」
少々切れ気味で播磨に食って掛かる。その目には、涙が溜まっていた。
「それじゃあ何か。ここであきらめるのか?」
「えっ?」
「たった1回けりがついただけで、あきらめんのか?もうちょっと根性あるかと思ったけ
どな。まあ、俺がお嬢だったらこういう状況でも、絶対諦めねーけどな」
播磨なりに元気をつけようとしているのであるが、そう言われても下唇を噛み、また顔を
伏せた。これ以上反論する気力が無いほど落ち込んでいる沢近を見るのは、播磨も初めて
である。
「ったく…お嬢!向こうをむけ」
業を煮やした播磨が声を荒げる。沢近は何事かと思い、顔を少し右に傾ける。
【チュ】
「ななな…」
「俺が初めて女にキスしたんだ、ありがたく受け取れ。これで貸し借り無しだな」
播磨が照れくさそうに言う。
「なんで…」
「あん?」
「なんで、ホッペなの?普通口でしょ」
「そんなことできるわけねーだろ」
「根性なし」
「ああっ、悪かったな」
両者とも肩で息をするほど言い争い、痴話げんかが一段落すると、
「さあ、戻るぞ。ったく、のどカラカラだよ」
「う、うん…」
沢近も納得したらしく、播磨に素直に従った。その顔はちょっぴり幸せってな感じである。
68美女達と野獣:04/10/13 18:51 ID:wm0WXkTA
下りる時は梯子をつたって下りるのだが、何気なくふと上を見ると沢近のスカートが。
最初に播磨が下りてしまったため、スカートの中が丸見えである。
「ばかっ、見ちゃダメ!」
「あ、ばか」
沢近は降りている最中なのに、両手でスカートを抑えようとしたから、梯子から両手を離
してしまった。
「きゃあー」
播磨は沢近を空中で受け取り着地をしようとしたが、少しバランスを崩し地面に叩きつけ
られた。
「あいたたた…お嬢、大丈夫か?」
「あ、ありがと。あたしは大丈夫よ」
播磨が下で仰向けに、沢近が上でうつ伏せていて、ちょうど沢近の顔が播磨の胸の辺りに
あり、播磨が起きようとすると、
「あっ。も、もう少しこのままで…」
「ん、どうした。どっか痛いのか?」
「そうじゃないの。しばらくこのままでいさせて」
「あ、あぁ…」
播磨と沢近がピッタリ密着状態。
(む、胸が当たる。結構大きいなこいつ…って何考えてんだ俺は)
と男子生徒が見たら100回ぐらい殺されるであろう、この状況を楽しめないでいる。
(男の子の胸板って結構厚いのね。それにこれは、拳児くんの匂い…やっぱりあたし
こいつの事好きなんだ。このまま時間が止まってくれないかしら…)
そんな沢近の願いは、近づく足音によって却下された。
69美女達と野獣:04/10/13 18:54 ID:wm0WXkTA
――― コツコツコツ、ガチャ
「あ、いたいた。沢近いたよ」
美琴達も探しに来たのである。彼女達が2人を見つける少し前足音に気づき、2人は瞬間移
動したかのように離れ、互いに背を向けていた。
(あ、あぶねー)
(あ、あぶない)
冷や汗ものである。
美琴達の後ろには八雲がいた。八雲に気づく沢近。
「今回はあたしの負けよ。でも、次は絶対勝つからね」
この迫力におされ気味の八雲。その八雲が播磨を見て驚く。
「は、播磨さん。あ、足…」
八雲に指摘され皆は一斉に播磨の足を見ると、右足が"あさって"の方向に向いている。
「な、なんじゃこりゃーーーー。い、痛ーーー」
どうやら沢近を抱いて下に落ちた時、骨を折ったようである。
「い、医者医者。病院病院」
「救急車よ、救急車」
「救急車一台お願いします」
皆がパニクっている中、冷静に携帯で救急車を呼ぶ高野。
「いててててー………」
70美女達と野獣:04/10/13 18:56 ID:wm0WXkTA
――― 次の日。ここは矢神病院。
「はい、どうぞ」
「お、すまねえ」
八雲が剥いたリンゴを美味そうに食べる播磨。しばらくは入院生活を余儀なくされていた。
「播磨君。どう、具合は?」
そこに、天満達も見舞いにやって来た。
「ああ、どってことねえよ(やった、天満ちゃんが俺のお見舞いに。感激だぜ)」
八雲は播磨の心がわからないが、その表情から明らかに自分と接する時と違うのが、手に
とって分かった。
(播磨さんの心はまだ…)
少しさみしげな八雲。
そんな八雲の心中をよそに和気藹々とする中、少し遅れて沢近がやって来た。
「入るわよ」
そう言って入室すると手には果物が。
「はい、お・み・ま・い」
沢近はてんこ盛の果物をテーブルの上に置こうとすると、そこには既に八雲が買ってきた
果物セットが鎮座していて、気まずい雰囲気が漂う。
「あっ、これ(八雲の果物)は、こっちに置こうね。ははは…」
天満が相変わらず気を使い、難を逃れる。
「ねえ拳児くん、考えたんだけどあたしが原因で骨折したんだから、これからの世話はあ
たしがやるわ、任せて。洗濯とかやってあげるから」
制服の両腕を捲り、やる気満々の沢近。
71美女達と野獣:04/10/13 18:58 ID:wm0WXkTA
「え、いや、その、妹さんがやってくれるって言…」
そう言うとすると、沢近はギロッと播磨をにらむ。とたんに黙る播磨。室温が10度ぐらい
下がったであろうか。沢近はさらに八雲に対しても、
「八雲。今回はあたしのせいだから、あたしがやるわ。だから、やらなくてもいいわよ」
少々切れ気味で八雲を制するが、
「いえ、でも…私が先に播磨さんのお世話をするって播磨さんと約束したので…その、私
やりますので…」
あの沢近に喧嘩を売る八雲。これに1番驚いたのが姉の天満。
(八雲がここまで言うなんて。恋のパワーってすごいのね)
沢近も喧嘩を売られたことを認識したらしく、
「いいの、あ・た・し・の・せ・い だから、あたしがやるの」
「いえ、私が さ・い・しょ に約束したんですから、私がやります」
この竜虎の対決に、さらに室温が10度程下がったであろうか。
親友と妹が争うのを見ているわけにはいかず、
(播磨君止めてよ)
(止めれるわけねーだろ)
2人はアイコンタクトで通ずるも、止める手段が無いのは変わらない。
「だったらまた勝負すれば」
そう言うのは高野。
「こんどは勝ったら完全看護権でどう」
「はい」
「いいわよ」
2人が間髪いれず賛成する。
72Classical名無しさん:04/10/13 19:07 ID:SkR9/RVc
支援
73美女達と野獣:04/10/13 19:15 ID:wm0WXkTA
「また勝手に決めんなよ」
「方法だけど、今度は何がいいかしら」
「って無視すんなよ」
播磨の意見を完全に無視し、ドンドン話が進む。
「あの、囲碁なんてどうですか」
「あたしが知らないわよ。それよりテニスなんてどうかしら」
「会場は広いほうがいいわね・・・」
何気に口を挟む高野。
((また稼ぐつもりか))
その場にいた皆が同じ事を考えた。
ワイワイガヤガヤ騒ぐ室内。播磨は疲れたように、
(だから…人の話を聞け…)
播磨の心の叫びは、誰の耳にも届かなかった……


                終


お目を汚してすんまそん。
時間が無く、ちゃいちゃいと書いてしまいました。
もっと勉強して、出直してきます。では…
74Classical名無しさん:04/10/13 20:06 ID:3P5PCzt.
>>73 GJ乙!
75Classical名無しさん:04/10/13 21:10 ID:u0K132vs
GJ!!
こういうノリで読めるのもたまにはいいね。
76Classical名無しさん:04/10/13 21:26 ID:/DAPdnTA
GJ!
禿げ同。読んでて新鮮だった
77Classical名無しさん:04/10/13 21:32 ID:rQS.MA3s
楽しんでいる二人が良い!
GJ!
78Classical名無しさん:04/10/13 22:39 ID:4ZL4Ugbg
何このSS・・・・・・?
             /ヽ       /ヽ
            / ヽ      / ヽ
  ______ /U ヽ___/  ヽ
  | ____ /   U    :::::::::::U:\
  | |       // ___   \  ::::::::::::::|
  | |       |  |   |     U :::::::::::::|
  | |      .|U |   |      ::::::U::::|
  | |       | ├―-┤ U.....:::::::::::::::::::/
  | |____ ヽ     .....:::::::::::::::::::::::<
  └___/ ̄ ̄      :::::::::::::::::::::::::|
  |\    |           :::::::::::::::::::::::|
  \ \  \___      ::::::
79Classical名無しさん:04/10/13 23:10 ID:/ukSFPgo
軽いテイストのSSもそれはそれで良いと思うよ。
内面に踏み込んだ繊細なSSばかりになるのもどうかと思うし。
80Classical名無しさん:04/10/13 23:22 ID:dmiV9Maw
おまいら 
「内容は好みもあるだろうが、個人的に嫌いではない。が、文はメタメタ」
はっきりとそう言ったらどうだ
81Classical名無しさん:04/10/13 23:34 ID:SkR9/RVc
>>73
乙でした。
勢いがあるというかある意味ぶっ飛んだ展開が良かったですw
確かに文章力を上げればもっと良くなると思いますよ。
自分の好きな小説の描写を真似てみるとか。
82Classical名無しさん:04/10/13 23:44 ID:bEIhW1JQ
漫画にするとしたらどのSSがいいと思いますか?
ご意見お聞きしたいです
83Classical名無しさん:04/10/13 23:57 ID:SkR9/RVc
それは描かれる方が決めた方が良いんじゃないかと思います。
84Classical名無しさん:04/10/13 23:57 ID:bEIhW1JQ
いえ・・・誠に心苦しいのですがどなたかの素晴らしいSSがあるのではないかと思いまして
85Classical名無しさん:04/10/14 00:10 ID:XIUJRoGY
いや、どれが良いとか人それぞれだし荒れるから勘弁してくれ
自分で読んでみて良いと思うのを描けよ。人に言われるもんじゃないだろ。
86Classical名無しさん:04/10/14 00:18 ID:7quL4Eog
>>85
その通りですね・・・

逝ってきます

      ||   
    ∧||∧  
   (  ⌒ ヽ 
    ∪  ノ  
     ∪∪
87Classical名無しさん:04/10/14 00:19 ID:sFNq8eOY
雑談スレへそろそろ……

以下↓ SS師お待ちしています。
88Classical名無しさん:04/10/14 07:18 ID:2ajiHacQ
なりきりチャット、播磨と天満がベタだけど結構面白かった
89Classical名無しさん:04/10/14 07:23 ID:2ajiHacQ
ごめん誤爆
90Classical名無しさん:04/10/14 19:50 ID:UGckdEkE
>>89
GO BACK!!!!
91Classical名無しさん:04/10/15 02:27 ID:koEZ2lzc
日付が変わってしまいましたが、プライベートファイルより先に読んで頂ければと
思いますので今から投下させて頂きます。
例によって『サラ麻生』SSの第4弾ですが、今回はオリジナル設定が少し入ってます。
できるだけ違和感のない設定を考えたつもりですが、プライベートファイルの内容次第では
かなり恥ずかしいことになりそうです。
もしよろしければお付き合いください。

過去作(全て『サラ麻生』です)
『Apple of the Eye』
『HANABI〜8月の日〜』
『The Hymn of Love』
92Autumn in my Heart:04/10/15 02:30 ID:koEZ2lzc
 それは10月の下旬のある土曜日の出来事。
『トゥルルルルッ……トゥルルルルッ……!』
 開店前の店内に鳴り響く電話のコール音。
 時刻は現在、午前10時15分。
「はい。中華料理の茉莉飯店です」
 何度目かの呼び出しの後に受話器を取ったのはアルバイトの高校生、
麻生広義だった。
 言葉遣いは丁寧だが、その口調に全く愛想がないのは店の電話に出るに
当たってかなり問題がありそうである。
『もしもし、先輩……サラです。コホコホッ……』
 電話の向こうから聞こえる声は麻生のバイト仲間で高校の一年後輩でもある
サラ=アディエマスのものだった。
「……具合悪そうだな」
 声の様子から感じ取って麻生は尋ねる。
『う〜、ごめんなさい……風邪ひいちゃったみたいです……』
 サラは申し訳なさそうに状況を説明した。
「そうらしいな。わかった、店長には俺から話しとく。じゃあな」
 麻生はあっさり了承の意を示すと、早々に電話を切ろうとする。
 端から見ればぞんざいな対応に見えるが、そうではない。
 口には決して出さないが、体調が悪いのに無理して話をさせることもないと
考えてのことである。
 しかし、彼の意に反して彼女は電話を切ろうとはしなかった。
『すみません……迷惑かけちゃって……コホッ』
 サラが病気でバイトを休むのは初めてのことである。
 彼女自身、かなり責任を感じている様子なのはその声からも伝わってくる。
 本当は無理にでも来たいのだろうが、そんなことをすれば余計に迷惑が
かかることも充分わかっているのだ。
93Autumn in my Heart:04/10/15 02:31 ID:koEZ2lzc
「しょうがねえだろ。気にするな」
『はい……』
 しゅんとした声で答えるサラ。
「……だから、気にすんなって言ってんだろ。治るものも治らねえぞ。
余計なことは考えないでゆっくり休んでろ。いいな」
 元気のない彼女に麻生は、今度は少しだけ強い調子で重ねて言葉を続ける。
『……はい』
 麻生のぶっきらぼうな物言いに隠された優しさを感じて、サラは少しだけ
安心したように素直な返事を返すのだった。


『Autumn in my Heart』


 同日14時18分。
「お疲れ様でした。お先に」
 タイムカードを押して私服に着替えた麻生は他の店員に挨拶して厨房を出た。
 もともと今日の麻生とサラのシフトは、11時の開店から昼時の混雑が収まる
14時までの応援要員である。
 別に本人達が希望したわけではないが、高校生にとっては貴重な休日の土曜日
ということもあって、店長が暗黙のうちに決めたルールなのだ。
 サラがいない分、いつもよりは多少忙しかったが、普段から彼女の一生懸命な
働きぶりを間近で見ている店員達からは不満の声が出るはずもなかった。
 もっとも、サラの笑顔が目当てで来る常連客の落胆ぶりまでは、残念ながら
カバーすることはできなかったのだが。
94Autumn in my Heart:04/10/15 02:31 ID:koEZ2lzc

「あ、麻生君。ちょっと待つよろし」
 店の出入口のガラス扉に手を掛けたところで、麻生は追いかけてきた店長の陳に
呼び止められる。
「はい?」
 立ち止まって振り返る麻生。
「ハイこれ。持っていくといいよ」
 そう言って店長が差し出したビニル袋の中身はタッパーに入れられた杏仁豆腐だ。
「……。……どこへ?」
 麻生は店長の言おうとしていることにあえて気づかないフリをして尋ねる。
「サラ君のところに決まってるね。これから行くつもりだったんじゃないアルか?」
 さも当然と言わんばかりに陳店長は言葉を続けた。
 今時の大人には珍しいくらい人の好い店長ではあるのだが、普段からシフトや
休憩など何かにつけて麻生とサラを組ませることが多いのは、彼なりに気を利かせて
いるつもりなのかもしれない。
 確かに日本に来て半年ほどしか経っていないサラに、多少なりとも日常的な
繋がりのある麻生をつけてフォローさせようという考えはわからなくもない。
 しかし、時折別の意図を感じるような気がして――今がまさにそれであるが――
麻生にしてみれば、それは誤解だと声を大にして言いたいところでもあった。
「……そんなこと言った覚えはないスけど」
 決めかねていただけで実は半分正解であったのだが、簡単に見透かされたことが
気恥ずかしく感じた麻生はつっけんどんに答えた。
「――それなら改めてお願いするよ。店のみんなからのお見舞いとして届けては
もらえないアルか?」
 陳店長は小さくため息をつくと困ったように苦笑して言い直す。
「……まあ、そういうことなら」
 麻生はなんとなく釈然としないものを感じながらも渋々とそれを受け取った。
95Autumn in my Heart:04/10/15 02:32 ID:koEZ2lzc

「さて、どうしたもんだか……」
 店の外に出た麻生は足を止めて少し考えを巡らせる。
(別にこの後の予定もないことだし……)
 と心の中で自分を納得させる麻生だが、既に気持ちは固まっているのだ。
(まあ、様子を見て来るくらいならいいか……)
 頭に浮かぶ『心配』という二文字を、あえて意識しないようにして麻生は目的の
方向へと足を向けた。


 同日15時22分。
 黄色く色づいた落葉樹の小さな林の向こうに、まるで一枚の絵画のように秋の
景色にとけ込んでいる英国風の伝統的なジョージアン様式の建物が見えてきた。
 教会の敷地と繋がって隣接した場所に建てられている、三階建ての古い西洋建築の
アパートメント――。
 キリスト教の聖公会(イギリス国教会)が管理する修道院寮である。
 
 麻生は片手に白色の文字で甘味屋の名前の入った小さな若草色の紙袋を下げ、もう
片方の手にはオレンジ色のキレイな包装紙の箱を抱えて、その建物を目指して
歩いていた。
 荘厳な石造りの門柱の間の鉄柵で組まれた門を抜けると、遠くに修道服に身を
包んだ20代半ばくらいの優しそうなシスターが庭の落ち葉を掃き集めているのが
見える。
「……どうも」
 クヌギやブナといったたくさんの木々の間にある石畳の舗道を通って、そちらに
向かった麻生は少し迷ってから静かに声を掛けた。
「あら、麻生さん、こんにちは。お久しぶりですね。今日はサラちゃんのお見舞い
かしら?」
 教会の聖餐式(ミサ)でも何度か顔を合わせているそのシスターは、麻生の姿を
見ると手を止めて、明るく微笑みながら挨拶してくれた。
96Autumn in my Heart:04/10/15 02:33 ID:koEZ2lzc
「ええ、まあ……。どんな様子ですか?」
 身にまとう雰囲気がどことなく彼の高校の美術教師に似ていることと、相手の
方が年上ということもあって、麻生もこの人の前では意地を張らずに素直になる
ことができるのだった。
「そうねぇ……。熱は少し下がったようだけど、風邪のせいとは別になんだか
元気が無いみたい。昨晩も遅くまで明かりがついていたようですし……。でも、
麻生さんが来てくれたのならきっと喜ぶわね」
 おとがいに人差し指を当ててちょっと考え込む仕草をしてから、シスターは
柔らかに笑って答える。
「それはどうか知りませんが……と、これは皆さんに」
 思い出したように麻生は片手に持っていた和菓子の箱を無造作に差し出す。
「気を遣わなくてもいいんですよ? あなたはいつだってここに来ていいんです
からね」
 年に似合わない麻生の心配りにシスターは感心しながらも困ったように笑った。
「あいつの見舞いを買ったついで、ですよ」
 決まりが悪そうに頬をかきながら麻生は答える。
「サラちゃんここのお店好きですものね。――ありがとう。あとでみんなで
頂きますね。それから――サラちゃんのことよろしくね」
 数ヶ月前、サラが嬉しそうに紹介してくれた、目の前の不器用だけれど優しい
少年にシスターは穏やかな微笑みを浮かべてそう言った。
 
 シスター経由で同じく顔見知りの修道女長(=寮長)から許可を得た麻生は、
階段を上がって三階の角にあるサラの部屋に向かった。
 厳密に言えばサラはここの修道会に属する修道僧ではないのだが、
アングリカン・コミュニオン(聖公会全体の組織)に含まれる各国ごとの
管区教会組織同士には教義の上での隔たりはない為、もともと巡礼教会でもある
修道院の一室を間借りしているのだ。
97Autumn in my Heart:04/10/15 02:33 ID:koEZ2lzc
「サラ、麻生だ。起きてるか……?」
 静かに木製のドアをノックして入室の許可を求める麻生。
『……』
 部屋の中からの返事はない。
 病気なのだから当然予測できた状況ではあるのだが、さすがにいざそうなると
判断に困る。
「……あー、悪いが入るぞ」
 しばらく考え込んだ結果、多少気が咎めたものの、サラの様子が気になって麻生は
ゆっくりとドアのノブを回した。
 以前教会に来た際、サラの招待で二度ほど訪れたことがある部屋。
 屋根の傾斜に形状を合わせた一見すると屋根裏部屋風の造りだが、風通しや寒暖
対策などはそれなりに考慮されているらしい。
 室内の様子はきちんと片づけられていて、小物類の位置などが多少変わっている
以外はこの前来た時とほとんど変わりないようである。
 麻生が視線でその部屋の主の姿を捜すと、予想した通り彼女はベッドの上で静かな
寝息を立てていた。 
 その穏やかな寝顔を見て少しほっとした麻生はフローリングの床を静かに歩いて、
部屋の中央にある簡素な木製のテーブルの上に、例の杏仁豆腐とサラの好きな
豆大福が入った紙袋を置くと、ポケットから出した市販の風邪薬をその隣にそっと
並べた。
 その時、麻生はふとテーブルの上に置かれたたくさんの手袋に気がつく。
 編みかけのものも混ざっているが、どれも小さな子供用の手袋だ。
「なるほどな……原因はこれか」
 そのうちの一つを手にとって麻生は小さく呟いた。
『昨晩も遅くまで明かりがついていたようですし……』
 先ほどのシスターの言葉が頭をよぎる。
(そういや、もうすぐハロウィンだか万聖節だかがどうとか言ってたな……ったく)
 手袋が必要になる季節には少し早いが、実際に寒くなる前に子供達に渡して
あげたいという優しい心遣いがサラらしいとは思う――けれど、
「何でそんなに頑張っちまうんだよ、お前は……」
 麻生は少しだけ寂しそうな、そしてどこか辛そうな表情で彼女を見つめてぽつりと
そう言った。 
98Autumn in my Heart:04/10/15 02:34 ID:koEZ2lzc

 8畳ほどの室内にはベッドとテーブルの他には、枕元のライトスタンドと備え
付けのクローゼットに数冊の文学書が並んだ本棚、そして勉強用の机があるだけで
女の子らしいぬいぐるみの類などは一切置いていない。
 壁にはポスターなどが貼ってあるわけでもなく、代わりに飾られているのは数点の
リトグラフ。
 両開きの窓の両端に同色のタッセルでまとめられている黄色のプリーツカーテン
には派手さはないが、その分だけ室内に落ち着いた雰囲気を醸し出しているようだ。
 その窓は現在開け放たれており、白いレースのカーテンを揺らして秋の風が部屋の
中に心地よい清涼感を運んできてくれていた。
 ここに来るまでの間に次第に風が強くなってきたのを感じていた麻生は、窓を半分
だけ閉めてから早々に帰ろうと考えて室内を歩いていく。
 そして窓の取っ手に手を伸ばしかけた彼だったが、ふと窓際に置かれた椅子の上に
取り込まれてきた洗濯物があるのが目に入る。
(……って、おい!)
 何気なく目にしたそれが、主にサラの下着類であることに気づいた麻生は慌てて
視線を逸らすのだが――その反動で不覚にもガタンと大きな音を立てる結果となって
しまった。
「う……ん」
 案の定、その音でサラは目を覚ます。 
「……!」
 悪いことをしていたわけではないのだが、状況が状況だけに凍りつく麻生。
99Autumn in my Heart:04/10/15 02:37 ID:koEZ2lzc
「あれ……? 麻生先輩だ……?」
 ゆっくりと目を開けて、まだぼんやりする頭で麻生の姿を見ながらサラが呟いた。
「わ、悪い。起こすつもりはなかったんだが……」
 悪気があろうとなかろうと、これは立派な不法侵入だ。
 サラが気を悪くしても言い訳のしようがないと麻生は覚悟する。
「っ!? ……麻生先輩っ!?」
 はっとして跳ね起きるサラ。しかし次の瞬間には――、
「ノウッ!?」
 クラッと強い目眩を感じて、頭を押さえながらサラはそのまま倒れるようにトサッと
枕に沈み込んだ。
「アホか、何やってんだ」
 慌てて枕元に駆け寄る麻生。
「痛い〜……だって、先輩がいるなんて知らなかったから……コホッ、コンコン……」
 ズキズキと痛む頭に手を当てて、サラは半分泣きそうになりながら麻生に答える。
「……すまん、驚かせて悪かった。とにかく今はおとなしく寝ててくれ。な?」
 麻生はサラの額から落ちた濡れタオルを水で濡らして乗せ直しながら努めて優しい
口調で謝る。
「はい……」
 サラは潤んだ瞳で麻生を見上げて素直に頷いた。
 枕に広がる軽くウェーブのかかった長い金色の髪。
 いつもの編み上げてアップにした髪型を見慣れている麻生には、新鮮な印象が
あって思わずトクンと鼓動が早くなる。
「……と、とりあえず起きたんなら何か食べるか? リンゴがあるみたいだが」
 麻生はその感情を気づかれないようにサラから目を逸らして、テーブルの上に
置かれたリンゴを見ながら咄嗟に話を変える。
「それ、さっき部長が持ってきてくれたんです。コホッコホン……後で食べなさいって
言って……」
100Autumn in my Heart:04/10/15 02:37 ID:koEZ2lzc
「高野が……? ふーん……まあいいか。で、どうする?」
 リンゴが一個だけというところに奇妙な引っ掛かりを感じたものの、深くは考えずに
麻生は尋ねる。
「え……? でも……悪いですから」
「あのな……俺が何しに来たと思ってる? まあ、迷惑だってんなら話は別だが」
 こんな時まで遠慮がちなサラに麻生は何故か苛立って捻くれた言い方をしてしまう。
「そんなことないです……! えっと、じゃあ……お願いします」
 慌てて彼の言葉を否定したサラは、それでも麻生に悪いような気がしたのだが、
せっかくなので素直に厚意に甘えることにした。
「よし。果物ナイフ借りるぞ」
 一言断ってから麻生が向かった先は室内にある小さなキッチン。
 古めかしい外観に反して内部は比較的新しい建物である。
 一階にある食堂や共同の浴場とは別に、各部屋ごとに簡易シャワーやトイレなどの
サニタリーと小さいながらも一応のキッチンは備えられているらしかった。
 麻生は部屋の隅にある小さな食器棚にナイフと皿を取りに向かったのである。
「あとこれは見舞いの品だ。店のみんなと俺から。冷蔵庫に入れておくから体調が
良くなってから食べろよ」
 途中でテーブルの上に置いてあった先ほどの袋をサラに見せながら、一緒に
キッチンの方に持っていく。 
「……ありがとうございます」
 サラはベッドの上からその様子を見て微笑みながら答えた。
 麻生は何も言わないけれど、その店の名前の入った袋がここにあるということは、
彼がたった一度だけ一緒に行った店のサラの好みを覚えていて、わざわざ買いに
行ってくれたということだから。
101Autumn in my Heart:04/10/15 02:38 ID:koEZ2lzc

「あの先輩……風邪うつらないように気をつけてくださいね……」
 戻ってきた麻生にサラは心配そうな顔でそう言った。
「病人が余計な心配すんな。俺は人の風邪はうつされない体質なんだよ」
 テーブルからリンゴを持って来ながら、ぶっきらぼうに答える麻生。
「……どういう体質ですか」
 彼らしくもない子供のような理屈にサラは苦笑する。
 けれど、その滅茶苦茶な論理も彼女に気を遣わせない為に言ってくれた言葉だと
わかるから、サラはそれ以上何も言わなかった。

 麻生はベッド脇の椅子に座って、無造作に赤いリンゴにナイフを入れる。
 しゅるしゅると器用な手つきでリンゴを回しながら剥いていく麻生。
「その、悪かったな……」
 視線を手元のリンゴに向けたまま、麻生は言いにくそうに口を開いた。
「? さっきのことでしたらもう謝ってくれましたけど……」
 何に対して謝られたのかがわからず、サラはきょとんとした顔。
「いや、それもなんだが……勝手に部屋に入ったことだ」
「へー……先輩にそんなデリカシーがあったなんて、意外ですね」
 ちょっと驚いた顔をしてから、クスッと笑ってサラは答える。 
「……茶化すなよ。これでも結構気にしてるんだぞ」
 そう言って麻生はナイフとリンゴを持っている手を下ろして力なく肩を落とす。
 サラが怒っていない様子なのは救いだが、どう考えても自分に非があるとわかる
だけに麻生は相当落ち込んでいるようだ。
102Classical名無しさん:04/10/15 02:40 ID:D/xYaJ06
支援?
103Autumn in my Heart:04/10/15 02:40 ID:koEZ2lzc
「……心配してくれたんでしょう?」
 サラは麻生の目をじっと見つめて穏やかに微笑みかけた。
 麻生の性格から、ドアの前でどんな葛藤があったかはサラにもなんとなく想像が
ついている。
 そして、普段の麻生なら間違いなくそのまま帰っただろうということも――。
「……そりゃまあ、少しは、な」
 麻生はわずかに言葉に詰まった後、そっけなくそう言った。
 素直に「そうだ」とは絶対言わないが、それだけでサラには十分だった。 
「だったら、何も問題はないです」
 サラは嬉しそうに明るく笑って答えた。
 意地っ張りで頑固な麻生が、彼のスタイルを崩してまで自分のことを気にかけて
くれたのだとわかるから、それを怒ったりするはずがない。
 むしろ嬉しいという気持ちでいっぱいだったのだが、朴念仁の麻生にそんな
彼女の心情まで理解しろというのは無理な相談だった。
「そういうもんか?」
 なんとなくすっきりしないものを感じて、麻生は複雑な心境で尋ねた。
「そういうものですよ。いいじゃないですか。私が気にしてないんですから」
 困惑した表情の麻生にサラは楽しそうにそう言った。
 
 窓の外から聞こえる風の音が少し強くなったような気がする。
 麻生がリンゴを剥いている間に、時計を見ようと何気なく視線を動かしたサラの
視界に窓際に置かれた椅子が映った。
「はうっ!?」
 その上にはシスターが干してきてくれた洗濯物が積まれているわけで――それに
気がついてサラの顔は一瞬で真っ赤になる。
 サラの視線をつい目で追ってしまった麻生も、半分ほど振り返ったところでその
ことを思い出し、内心“しまった”と思いながら硬直した。
104Autumn in my Heart:04/10/15 02:45 ID:koEZ2lzc
「み、み、見ました……?」  
 麻生が洗濯物に気がついていることはもはや隠しようがない。
「まあ、そのなんだ……。誰かに頼んでしまっておいた方がいいな。シスターは
ともかくクラスの男友達とかが見舞いに来たらまずいだろ?」
 まさか自分が片づけるわけにもいかず、麻生は後ろを見ないようにしながら
そう言うしかない。
「え? あ……えっと、その心配は……ないと思います」
 麻生が何気なく言った言葉に、サラは何故か困ったように答えた。
「……何でだ?」
 リンゴを剥く手はそのままにしながら、麻生はその態度が気になって尋ねる。
「何でと言われても困るんですが……コホッ……えと、基本的に寮の中は関係者
以外は入れないので……だからその、つまり、男の人でこの部屋に入ったことが
あるのは、麻生先輩だけなんです……」
 サラは布団を鼻の頭まで引き上げて恥ずかしそうにそう言った。
「……」
 その言葉に麻生の手がぴたりと止まる。
「……ちょっと待て。そんな話は聞いてなかったぞ」
 混乱する頭を落ち着かせながら麻生はサラの方に顔を向けて尋ねる。
「……言って、ないですから」
 布団で顔を隠すようにしながらサラはおそるおそる小声で答える。
「は……? 何だってそんなこと……」
 彼女の意図がわからない麻生はそう尋ねるしかない。
「だって、言ったら先輩、来てくれなくなっちゃったでしょう……?」
 病気のせいで幾分気弱になっているのだろう。
 少しだけ顔を覗かせて、サラはすがるような瞳で麻生を見つめている。
「それはまあ……そうだろうけどな」
 予想もしなかったサラの答えに麻生は戸惑いながらそう答える。
105Autumn in my Heart:04/10/15 02:47 ID:koEZ2lzc
 そもそも修道院の居住フロアに自由に立ち入りできること自体が、かなり特殊な
例であることに麻生は気づいていなかった。
 仮にサラの級友が訪ねて来たとしても、基本的には応接室から先には入れないのが
修道院のルールなのだ。
 つまり、麻生がここにいられるのはサラが彼を寮長にそういう風に紹介したからで
あり、また教会の手伝いなどを通じて麻生自身の人柄が特別に認められているという
ことを示していた。
 もちろん、それはサラが修道会の正式な一員ではないということと、他に訪ねて
くる身内が近くにいないという事情に対する特例措置であることは間違いない。
「ごめんなさい……気を悪くしました?」
 サラは不安そうな顔でおずおずと尋ねる。
「そんなことはないが……まあ、いい。ほら、剥けたぞ」
 多少困惑はしたものの、正式な許可が下りている以上は結局のところ規則を破って
いるわけではないらしいので麻生は小さくため息をつくと、そう言って枕元の机に
リンゴの皿を置く。
 確かに知らないところで自分という人間が試されていたのは気分の良いものでは
ないが、サラを預かっている寮長の立場を考えれば当然だとも思える。
 それに何より――。
 今のサラの言葉を、どこかで嬉しく思っている自分がいることに気づいてしまった
のだから、それを責められるはずがないのだ。
106Autumn in my Heart:04/10/15 02:47 ID:koEZ2lzc

「少しだけ起きられるか?」
「あ、はい」
 背中にクッションを入れてサラが上体を起こすのを支えてやりながら、麻生は
彼女の額から落ちたタオルを受け止めた。
「……ちょっといいか?」
 そう言って麻生はサラの返事も待たずに彼女の額にそっと手を当てる。
「はうあっ!? ……せ、せ、先輩!?」
 突然の出来事に思わずぼっと顔を赤くするサラ。
「……まだちょっと熱が高いな。これ食べたら休めよ」
 サラの気持ちなど全く気づかずに麻生は自分の熱と比べながらそう言った。
「いえ、これは違……」
 慌てて答えようとするサラだが上手な言葉が見つからずに口ごもる。
「? なんだ?」
 怪訝そうな顔で尋ねる麻生。
 こういうところがデリカシーがないと言われる所以なのだが、彼にしてみれば
小さな子供の熱を測ったのと同じ感覚なのだろう。
 実際、麻生はサラのことをそういう目で見ている節がしばしばあった。
 妙に世慣れたところのある麻生から見れば確かにサラは子供なのかもしれないが、
それでも彼女にしてみればそれはおおいに不満な点であるのだが。
「な、何でもないです……」
 麻生の態度が普通である以上、意識しすぎるのもどうかと考えてサラは言いかけた
言葉を飲み込む。
107Classical名無しさん:04/10/15 02:52 ID:ETD8.jx.
108Autumn in my Heart:04/10/15 03:06 ID:04kV8BHM
「変な奴だな。ほれ、リンゴ」
 訝しげな顔をしたまま麻生はサラにリンゴの乗った皿を渡す。
「あ、ありがとうございます」
 まだ赤い顔をしているサラだが、やられっぱなしでは悔しいと思ったのか、ふと
何かを思いついた表情で麻生の方を見る。
「? ……どうした?」
 その視線に何かを感じ取る麻生。
「あっ、なんだかフォークを持つのもタイヘン……先輩、食べさせてくれませんか?」
 サラはわざとらしい演技を交えつつ、いたずらっぽく笑って子供のように麻生に
尋ねた。
「……」
 サラの表情は本気とも冗談ともとれるが、その本人に散々鍛えられたおかげで、
今更その程度で動じる麻生ではない。
 すっと目を細めてジロリとサラをにらむと、
「……それだけボケられるんなら大したことはなさそうだな。さっさと食え」
 麻生は膝の上のハンカチにまとめたリンゴの皮を片づけながら、彼女の頼みを
あっさりと却下する。
「あぅ、残念です……。上手くいくと思ったのに。……じゃあ、頂きます」
 サラは大げさにため息をついて見せてから、渋々と自分でフォークに刺したリンゴを
口元に運ぶ。
「旨いか?」
 ちらっと視線を上げて麻生は尋ねる。
「はい。美味しいです」
 明るく笑って頷くサラ。
「そうか」
 麻生も彼女の元気そうな様子にどことなく安心したように答えた。
109Autumn in my Heart:04/10/15 03:07 ID:04kV8BHM

「他に何かしてほしいことがあれば今のうちに言っとけよ?」
 サラを再び横に寝かせて、洗い物を済ませてから戻ってきた麻生がそう尋ねた。
「……」
 大丈夫というようにサラはふるふると小さく首を横に振る。 
「そうか、それならまた少し寝た方がいいぞ」
 サラの額にきちんとタオルを乗せ直しながら麻生は穏やかに言った。
「先輩、帰っちゃうんですか……?」
 不安そうな瞳で麻生を見上げながら尋ねるサラ。
「……ん、まあ、お前の顔も見たし、俺がいたんじゃ休めねえだろうし……。
あんまり長居するのも迷惑だろうしな」
「そうですか……」
 これ以上ないほどわかりやすく、サラの表情が曇る。
「そんな顔すんな。明日……教会の方にも手伝いに来てやるから」
 さすがにそこまで落ち込むとは思っていなかった麻生は慌てて思いつきの約束を
口にした。
「はい……大丈夫ですよ。そんなに気にしないでください」
 小さく微笑むサラの笑顔は明らかに無理をしているようだ。
「今日はもう休め。その方が治りが早い」 
 こういう時に何を言えばいいのかわからない麻生はとりあえず間違っていないと
思われることを言ってみる。
「はい……」
 サラは寂しそうに同じ返事を返すだけだった。
110Autumn in my Heart:04/10/15 03:08 ID:04kV8BHM
 正直言って、サラの反応は麻生には今一つ理解に苦しむものがある。
 自分といたところで楽しいとはとても思えないのに、何故こうも彼女は一緒に
いたいと言ってくれるのか。
 ――だが、いつからこうなったのかはわからないが、麻生が彼女のこの表情に
どうしようもなく弱いことだけは確かだった。
「……わかったよ。お前が眠るまではいるから。……だから安心して寝ろ」
 自分が恥ずかしくなるくらい傲慢なセリフだとは思うが、それで彼女が
安心してくれるのなら構わないとも思った。
「! ……はい!」
 思いがけない麻生の言葉にサラの表情が明るくなる。
「ホント変わってるよな、お前」
 目まぐるしく表情を変えるサラに麻生は小さく苦笑した。
 ――彼女の笑顔を見ただけでこんなにもほっとしている自分も、人のことは
言えないと心の中で自嘲しながら。 
「それとな……」
 言うか言うまいか逡巡しながら麻生は口を開く。
「はい?」
 サラはそのまま麻生の次の言葉を待つが、何故か彼はなかなか話し出そうとしない。
「あー……その、なんだ。あんまり……無理するなよ。一生懸命なのはいいが、
あんまり心配させるな」
 赤くなった顔を隠すように、窓の外に視線を向けながら麻生は聞こえるか聞こえ
ないかくらいの声でぽつりとそう言った。
「……はい。ごめんなさい」
 彼の言葉にサラは一瞬だけ驚いた顔をして、そして心から嬉しそうに微笑む。  
 羽根が舞うような、ふわりとした優しい笑顔。
 胸の奥に溢れる暖かな想いを感じながら、サラは泣きたいくらいに幸せだった。
111Autumn in my Heart:04/10/15 03:08 ID:04kV8BHM

「……先輩? 今日はありがとうございました。それと……せっかくのお休み
なのに、ごめんなさい」
 サラは麻生をじっと見つめて素直な気持ちを伝える。 
「別にいいさ。他にやることもなかったな」
 彼女の言葉に迷惑をかけたと思っている響きを感じ取って、麻生は意識して
何でもないことのように答えた。
「優しいですね、先輩」
「気のせいだ。さっさと寝ろ」
 照れくさそうに否定する麻生にサラは楽しそうに微笑みかけた。

     ◇      ◇      ◇

「あら? もうお帰りですか? さっきいらしたばかりなのに」
 別の用事を終えて寮に戻って来たシスターは、ちょうど玄関から出て来たその
人物に声をかける。
「ええ――。今回はちょっとリンゴが気になっただけなので」
 そう言って高野晶は意味ありげにフッと笑って答えた。
「リンゴ?」
 シスターはその意味がわからず不思議そうな顔をする。
「それに――」
 そこで言葉を切ると晶は穏やかな眼差しで三階の窓を見上げた。
 再び舞い始めた木の葉の向こう、真っ青な秋空を背景に白いカーテンが静かに
揺れている。
「――一番の薬はもう届いていますから、ね」
 どことなく柔らかな表情で、晶は静かにそう続ける。
「ふふ。それもそうですね」
 晶の言葉にシスターは小さく頷いて、優しい微笑みを返した。

     ◇      ◇      ◇
112Autumn in my Heart:04/10/15 03:09 ID:04kV8BHM
「あの、先輩……もう一つだけお願いしてもいいですか……?」
 サラは少し迷ってから麻生に尋ねた。
「なんだ?」
「……すごく我が儘なことなんですけど」
 サラはもじもじと言いにくそうにそう前置きする。
「いいから言ってみろ。出来る出来ないはそれから決める」
「じゃあ、えっと……何でもいいですから、歌を歌ってほしいんです……」
 恥ずかしそうにサラが口にしたのは、子供のような、可愛らしい『お願い』
だった。
「ああ? いや、それは……」
 思いも寄らない頼みに驚く麻生。
「ダメですか……?」
 サラは悲しそうに瞳を潤ませて麻生を見つめた。
「うっ……! ダメとかじゃなくてな……言っておくが俺は上手くないぞ?」
 そんな目で見られては麻生に断れるはずもなく、及び腰になりながらも一応
確認してみる。
「……」
 そんな麻生にサラは何も言わずににっこりと微笑む。
「はあ、わかったよ……その代わり、ちゃんと寝ろよ?」
 観念したようにそう言ってから麻生はすっと息を吸って、静かな歌を口ずさみ
始めた。

『……Goodnight, my angel. Time to close your eyes.....』
 
 麻生が選んだのは歌いやすくてよく知られているけれど、もともとはたった一人の
大切な人のために歌われた、想いの込められた古いバラード――。
113Autumn in my Heart:04/10/15 03:11 ID:04kV8BHM
『And save these questions for another day.
I think you know what you've been asking me.
I promised I would never leave you.....』

 秋の風に乗って流れるゆったりとした優しいフレーズ。
 その声を聞きながらサラはそっと目を閉じる。

(今日のお休みはダメになっちゃったけど、先輩に優しくしてもらえたから、
風邪をひいてよかった……って言ったら、きっと怒られちゃうだろうな……。
――でも、ごめんなさい先輩。私、今とっても幸せです――)

 せっかくの休日が病気で台無しになったにも関わらず、心地よい眠りに落ちていく
サラの表情はとても満ち足りているようだった。

 歌い続けながら穏やかな表情で彼女を見守る麻生。

 この小さな幸せが、二人の中でとても特別でとても大切な想いへと変わっていく。

 窓から見える空は透き通るようにどこまでも青く、優しい秋の風が
そっと二人の心を包み込んでいた――。

 
                                      Fin.  
114Classical名無しさん:04/10/15 03:14 ID:04kV8BHM
以上です。
どうでもいいことですが、設定が土曜日なのは日曜日は聖餐式があるのでサラを
動かせないからです。

私が行っている教会はカトリックなので、聖公会については実はよく知りません。
一応はカトリックに準じて設定してますが、もしかしたら大きな勘違いを
している可能性もあります。
修道院併設という教会は日本にも実在してますが、制度が微妙なんですよね。

今時アイスバッグではなく濡れタオルを使ってますが、保冷剤系は冷却しすぎて
逆に頭痛を引き起こすことがあるというのが表向きの理由で、本当の理由は
その方が雰囲気出るからです。
どちらにしても、額を冷やすのは気休めにはなりますが解熱効果はないそうです。

麻生が歌っているのはビリー・ジョエルの古いバラードですが、彼は歌詞の意味は
あまり意識していないということにしています。
日本語訳の歌詞では恥ずかしくて絶対歌えないですし。
サラにはストレートに聞こえるんでしょうけど、有名な曲だから深くは考えない
だろうな、と。

問題のサラの住居については、今後「教会でお世話になっている」という説明が
出たとして「修道院に住んでいる」と意訳できるかな、と浅知恵で考えました。
普通の家にホームステイしてたらダメですけど。

ここまで読んで頂いてありがとうございました。
115114:04/10/15 03:16 ID:04kV8BHM
言い忘れてすみません。
途中で支援して頂いてありがとうございました。
116闇夜 ◆PMny/ec3PM :04/10/15 05:19 ID:qdPBZz8M
グッジョブ( ´ー`)


最近麻生サラ多いね。イイヨイイヨー(・∀・)
117Classical名無しさん:04/10/15 09:43 ID:rwPQqSxQ
ほのぼのー

GJ
118風光:04/10/15 14:15 ID:vt9ht/4s
GJ!
麻生×サラ、とても良かったです。
自分は教会関係の知識が皆無なのでそのしきたりなどを絡めた作品を書けるのは尊敬します。
この二人のほのぼのとした作品、また読めることを願ってます。
119Classical名無しさん:04/10/15 15:16 ID:Rk0HT5ao
サラは俺のxxxから出る汁が大好きなので困っています
120Classical名無しさん:04/10/15 15:42 ID:nefPZLJA
>119
と、鰹節が申しております。
121119:04/10/15 15:55 ID:nk5qgUlQ
>>120

オイ、俺は誇り高き利尻産の昆布だ。
そんじょそこらの鰹節と一緒にするねぇい。
122Classical名無しさん:04/10/15 16:19 ID:IHdCQgpY
グッジョブ!! 麻生サラSSが増えてきて嬉しい限りです。
読んでいて説得力があったというか、細かいところまで配慮がいきわたっていたというか。
……ていうか、今まで読んだスクランSSで一番良かったかも……麻生サラびいきというのも
利いているのでしょうが……。

ともかく、お疲れ様でした。
次も(・∀・)イイ!! 麻生サラSSをお待ちしておりますw
123fragments:04/10/15 19:52 ID:.CvQdp6g
 空を、見ていた。
 遠く、遙か彼方にある空だ。
 手を伸ばしたところで届くはずもなく、たとえ翼があったとしても辿り着くことなど永久に出来は
しない――そんな空。
 いつだって当たり前のように、そして当たり前にそこにある空。変わらずにただあるだけだと思い
こんでいたそれが、日々移ろいゆくものだと知ったのはいつだったか、そんなことを考えていると。
「――何してるの?」
 不意に声をかけられる。辺りには誰もいないと思っていたので軽い驚きを覚えたけれど、それも
今日の空の下ならばありえてもおかしくない気がした。それくらい、遠く美しい空だった。
「空を見ているの」
 問いに対する答は簡潔。もちろんそれで分かってもらおうなどとは思ってはいない。ただ、余計な
言葉を紡ぐ必要がない、そう思ったからだ。
「そっか」
 意外にも、見ず知らずの私のそんな態度に腹を立てるでもなく、穏やかに彼女は笑った。強くも
なければ弱くもない、緩やかな陽射しにゆれるその笑顔が、少し眩しい。
 ――それは、私が持っていないものだったから。
「隣、いいかな」
 そんな心の内を悟られないよう、言葉ではなく軽い頷きを返すと、それじゃ、と彼女も腰を下ろす。
そして、まっすぐな眼差しで空を見上げた。
 変わった子だ、と思ったけれど、向こうにしてみれば自分も同じなのか、と納得し、私ももう一度
視線を空へと飛ばす。
 点々と浮かぶ白い雲、それだけが視界の中でゆっくりと流れていく。
 ただ空があって、他には何もない。緩やかな風とともに、時間だけが過ぎていく。
「私もね、知らなかったんだ」
 やがて、彼女がぽつりとそう呟いた。
「昔は余裕がなかったのかな、空を見上げることなんて全然しなかった。そんなことする必要なんて
 考えもしなかったし」
 独り言か、それとも私に言っているのか。どちらともつかないそれに、静かに耳を傾ける。
124fragments:04/10/15 19:52 ID:.CvQdp6g
「それがね、この国に来て、友達が出来て、ずいぶん変わったんだ。こんなにも素敵なことがあって、
 自分はそんなことに今まで気づけもしなかった、って。空だけじゃなくて、いろんなこと」
 あなたはそう思わない?、とそこで視線をこちらにやる彼女。どうしてそんなことを訊くのかしら、
そう返すと、ほんの少し困ったような表情を見せて、ゆっくりと答える。
「なんとなく、あなたが昔の私と同じような眼をしてたから……かな。まだいろんなことを知らなくて、
 これからそれを知ろうとしているような」
 そう、と返事をしながら、彼女の言葉は当たっているだろうか、と考える。
 ――考えるまでもない。
 日々が移ろうことなど気にも留めたことがなかった。思い出すことさえ出来ない無限の時間の中で、
それはただ繰り返すだけのものだと思っていた。日は昇り、そして沈む。それ以上でもなく、それ以下
でもない、と。
 それが、変わった。
 戯れに声をかけた一人の少女。彼女と視線を重ねているうちに、日々が、そして景色が色を変えていく
ことを知った。それは、今までまったく知らなかった感覚だった。
「そう……そうかもしれないわね」
 もう一度繰り返したその返事に微笑んで、さらに彼女は言葉を紡ぐ。
「きっとね、焦ることなんてないと思うよ。取り返しのつかないことと同じくらい、取り返しのつくこと
 だってあるはずだから。それに、あなたには私より時間がありそうだし」
「あら、あまり人を外見で判断しない方がいいわよ」
 容姿から判断したのか、その最後の一言に異議をとなえてみる。いつもの癖だ。
「……うん、そうだよね。だからそのつもりで言ってみたんだけど」
 でも、彼女の言葉は予想とは違って。
「なんだかね、私よりずっとずっと長く生きてるような、そんな風に見えるんだ、あなたのこと」
 変なこと言ってるね、そう頭を下げる彼女に。
「それじゃ一つ忠告よ。そんなおかしな存在とは関わらないこと」
 自分に冗談などというものが言えたのか、などということに軽く驚きつつ、それに、と続ける。
「お迎えが来たようよ。行ってあげなさい」
125fragments:04/10/15 19:51 ID:.CvQdp6g
 視線の向こう、彼女の名を呼びながら手を振る子供たちの姿が見える。……彼女にはあるのだ、帰る
ことの出来る、帰るべき場所が。
「ありがとう」
 そんなことを考えていると、何故か彼女はそう言った。むしろそれは私の台詞だと思ったけれど、その
言葉を口にした彼女の表情はやはりまっすぐで、そう口にするのは躊躇われた。
 そんな私の様子をどう受け取ったのか、それじゃ行くね、と彼女は立ち上がる――が、ええ、と返した
私に、何かを思いついた、という表情。
「また、会えるかな」
「そうね、いつか、また」
 即答、だった。何故そうしたのかは分からなかったけれど。
「ありがとう。じゃあね!」
 もう一度その言葉を口にして、さっと身を翻して駆けていく。その先にあるのは、彼女の日常だ。
「……また」
 呟いてみたその言葉が、不思議と弾んで聞こえる。そして同時、一つのことを悟る。
「――そう、これが『楽しい』ということね」
 久しく忘れていた感情は、今初めてそれを知ったかのように新鮮だった。あの他愛のない短い会話、それで
さえこうなのだから、もしもう一度彼女と会ったなら、そのときはどうなるのか。
 そんな、いつか来る未来に思いを馳せる。
 過去も現在も未来もない、凍りついた時の流れの中では想像さえしなかったこと
 ――空を、見上げる。
 やはり手の届きそうにもない空。
 けれど、それがほんの少しだけ近づいたような。そんな気がした。


―――――― The world is made of fragments.
But nobody knows where they are.
Because everyone has own fragment.
So, the world is beautiful, isn't it ?
126Classical名無しさん:04/10/15 20:06 ID:PyrQosRI
サバイバルゲームも盛り上がる中、西本が『間者の計』を発動
買収された冬木と今鳥の裏切りにより、なんと水着相撲派が勝利する。
負けた以上仕方が無いと、水着相撲を容認する男達+サバゲー言いだしっぺの晶
追い詰められた女子は、男もやれと要求
エロミーティングが受諾し、水着相撲開催に至る。
こうして、播磨と花井の戦いは水着相撲に持ち越されたのであった。
127Classical名無しさん:04/10/15 20:34 ID:oQuqLZwc
文章自体はしっかりしていると思うが、如何せん背景が全く分からん。
というか、スクランSS?
128Classical名無しさん:04/10/15 20:55 ID:BqOtph42
「私」がサラで、「彼女」が幽子、子供たちが教会にいた子たちかな?
129Classical名無しさん:04/10/15 23:18 ID:VYxKTLkE
幽子タンSSに会えたのは嬉しいけど……なんか……。
130Classical名無しさん:04/10/15 23:35 ID:UVacNvQs
実はピョートルとアレキサンダーの会話でした
131Carnival eve:04/10/16 00:35 ID:V0PlSc8c
「なんかさ、微妙に納得いかないんだよね」
 むすっとした顔でぼやく舞。
「……花井君のこと?」
 つむぎの問いに、そ、と素っ気なく答えたの視線の先では、鬼気迫る形相でサバイバルゲームのルールを
睨んでいる花井の姿。どうやら完全に持ち直したようである。もっとも、それが一時的なものかどうかは
この先まだまだ分からないわけなのだが。
「そりゃずーっとあのままいられても困るけど、こうもあっさり立ち直ってくれちゃうと、ね」
 私が言っても全然だったのに、とそのぼやきは止まらない。
「いいじゃない、あれなら仕事もやってくれそうだし」
「『任せておきたまえ!』、とか言って全部持ってっちゃったけどね、仕事」
 はあ、と溜息。
「普通は楽が出来て喜ぶところだと思うけど……仕事好きだもんね、舞ちゃん」
「別に好きっていうわけじゃないよ。ただ、目の前にやることがあって、誰もそれをしないんだったら
 やるしかないでしょ?」
 何でもないことのようにそう言ってのける舞に、それが好きっていうことじゃないかな、と思うつむぎ
だったが、あえて何も言わない。
「それじゃ、そんな舞ちゃんにお仕事を」
 代わりにそう口を開く。
132Carnival eve:04/10/16 00:36 ID:V0PlSc8c
「仕事?」
「そう、どっちに転んでもいいように両方の下準備。お芝居でも喫茶店でも、高野さんがいろいろ考えてる
 みたいだし、出来ることはあるんじゃないかな」
「……そっか。そうよね、私は私に出来ること、か」
 ありがと、と笑顔で言って、晶の方にぱたぱたと駆けていく舞。どうやらもう大丈夫らしい、とその後ろ姿に
ほっと一息ついていると。
 カシャリ。
「え?」
「いや、いい顔してたからさ」
 シャッター音を響かせたのは、あはは、と笑う冬木。もう、と一応怒ったポーズをみせるつむぎだが、普段の
彼の素行からこの程度はもはや慣れに近いものになっている。
「現像したらちゃんと渡すからさ」
「はあ……ありがとう、って言うべきなの? こういう場合」
「それはお任せ。でもさ、いい顔してたってのは本当だって」
「はいはい、それじゃ期待してます」
 任しといて、と言いながら、次なる被写体を求めて去っていく冬木。どこか、もう文化祭が始まっているような、
そんなお祭りめいた空気に、一人微笑むつむぎ。見回せば、皆それぞれがそれぞれに動き始め、耳を澄ませば
校内のざわめきさえ聞こえてくる気がする。
「ねー、つむぎ、ちょっと来てー」
 見れば、舞が手招きして呼んでいる。
「うん、今行くよ」
 それじゃ、私も自分のやることを。
 心の中でそう呟いて歩き出すつむぎ。

 ――文化祭準備期間、既に祭は始まっている。
133Classical名無しさん:04/10/16 00:39 ID:io1d7aVM
シエン?
134Carnival eve:04/10/16 00:58 ID:V0PlSc8c
祭の前の一コマ、というだけなのでこれで終わってます。
>>133 お手数かけて申し訳ありません orz
135Classical名無しさん:04/10/16 02:18 ID:wx.rPdtY
アソサラという組合せ自体は好きなのに SS だと最後まで読めなくて何でだろ何でだろと
思っていたのですが、ここに至ってようやく理由がわかりましたよエエ。
彼らはあまりにも初々しくて清らか過ぎるんですよ。
汚れてすれ切った俺にはドロドロした部分が心臓をえぐるような要素が無いと、
あまりにも眩し過ぎて正視できなかったんですよ orz


というわけで、清らかだった? あの頃? を取り戻すべく、アソサラモノを漁り読んで
みようかと思う今日この頃です。
136Classical名無しさん:04/10/16 02:28 ID:iB.4uYOg
>>135

エロパロに来てネタを出せ。
137Classical名無しさん:04/10/16 07:36 ID:rU.lltdY
サラがSSに出てくる場合、「むー」というセrフが多いのはなぜですか?
138Classical名無しさん:04/10/16 08:37 ID:/3SbbsRs
>137
牡羊座だからです(たぶん違う)
139Classical名無しさん:04/10/16 09:30 ID:60cTL97A
>>137
その方が萌えるからです。
主に書いているときに(あくまで自分はですが)
140Classical名無しさん:04/10/16 09:31 ID:bNKdiPeY
サラ「うろたえるな小僧―――!!
 
ってこれは師の方か。
141Classical名無しさん:04/10/16 09:50 ID:2Pui3vLY
アソサラがアンスラに見えた私は、萩原板に逝くべきですね。
142Classical名無しさん:04/10/16 10:52 ID:ecmbU/aE
プライベートファイルによると
結城つむぎ→花井らしいっす。
143Classical名無しさん:04/10/16 12:17 ID:EkpMqzlw
>>142
KC vol.A ♭05 にそんな感じの台詞ありました。
144Classical名無しさん:04/10/16 12:28 ID:6U8NVIos
イチさんが今鳥に惚れてる描写を見る時と同じく止めておけと言ってあげたくなる組み合わせだな。
145Classical名無しさん:04/10/16 15:27 ID:Q8p1CnEA
八雲のいない一年のころの花井ならまあホレちまうやつがいてもしかたないかもな
146Classical名無しさん:04/10/16 18:30 ID:NxndcmX.
雷鳴の下、触れ合った手が、そっと離される。
「さ・・・・さんきゅーな」
「いえ・・・・・どういたしまして・・・・・」
頬をわずかに染める二人。
動揺する心を静めるためか、播磨はあれこれと呟きながら蝋燭を探し始めた。
『クッ、事故とはいえ女の子の手に触れるのはドキドキするぜ・・・こんなんじゃ天満ちゃんの手に触れたら死んじまうな俺』

程なく蝋燭に火を灯し、漫画作業が再開された。
音もなく静かな空間。気を紛らわせるためか、播磨がラジオをつけた。

―――停電になってみんなビックリしてるんじゃないか?
―――ま こんな時は女の子と二人きり、部屋の中でイチャイチャするのがサイコーだぜぃ! ウヒウヒ
―――じゃ、これからYOSHIMOが女の子の口説き方を伝授―――――――――

ブチッ

「やっぱ静かなほうが作業はかどるな!」
慌てて止めた。見ると、八雲は真っ赤になっている。

場の空気を換えるために、少々焦りながらも播磨が八雲に手伝いについての感謝を述べた。
「いえ・・・完成した播磨さんの作品を早くみたいですから・・・・・・」
どこか寂しそうな、複雑な表情だった。

そんな八雲を、播磨がじっと見詰めていた。ふと、八雲に呼びかける。

「・・・・・・・・・・そのままでいてくれないか」
「え・・・・・・・」

再び、八雲の頬が染められる。部屋には、蝋燭の火が揺らいでいた。
147Classical名無しさん:04/10/16 18:31 ID:NxndcmX.
「そうか! このライティングかーーーーー!」
蝋燭に照らされる八雲の表情を、指のファインダーに収めている播磨。

漫画で主人公とヒロインが洞窟で焚き火をするシーンがあるのだが、八雲のおかげでそのイメージが掴めたらしい。
ついでだからそのシーンの台詞を読んでくれと播磨は頼んだ。

八雲が試しに台詞を読むと、播磨のイメージにぴったりだったらしく、かなり参考になると絶賛された。
「妹さん、演技派だな!」
そのまま、どんどん続きの台詞を読むことになった。

漫画の中では、天満似のヒロインとサングラス&髭なし&カチューシャなしの主人公が火にあたっている。

「・・・・2人きりの相手があなたで良かった! でも・・・・これから私たちどうなるんだろう・・・・・・」
「大丈夫だ!! 安心しろ!! 俺が守り続けるぜ!!」
「え・・・・? は 播磨さん・・・?」

突然割って入る播磨の声。

どうやら八雲の演技に全面的に感情移入してしまったようで、自身も成りきって喋っている。

『つ・・・続きの台詞を読めばいいのかな・・・・やっぱり』

少々驚きつつも、次の台詞を追いかける八雲。
だったが――――――

『・・・・・・! この台詞は・・・・・・』

固まる。紅くなった頬が、その感情を示していた。

「す・・・・・好・・・・・・好き・・・・・・・」
148Classical名無しさん:04/10/16 18:34 ID:NxndcmX.
たどたどしく紡がれる「好き」という言葉。
もはや播磨の顔を見ることが出来ないほどに紅くなっている。
「おうよ! 俺も愛してるぜ!」
そんな八雲の恥ずかしさを余所に、播磨は絶好調だった。
ガシッと八雲の肩を掴み、瞳を覗き込んで熱弁を振るう。

「約束するぜ!! 俺は君を幸せにする!! 2人で温かい家庭を作るんだ!!」

あの、播磨さんそろそろ・・・・という八雲の声も届かぬ世界に行ってしまった播磨だったが、突然、動きが停止した。。

眼前の八雲と、天満がダブって見えたのだ。
彼女は播磨に微笑みかけている。

一方八雲は、突然播磨が黙ってしまったために少し不安になっていた。
『気を悪くさせちゃったのかな・・・・・・』
心配げに、ちらりと播磨の方に視線を向ける八雲。そして―――――

「え・・・・・・」

今度は八雲が停止した。
なぜならば、

『か・・・・・・かわいい・・・・・? 天』

後ろの二文字は播磨の背中に隠れているが、確かに播磨の心が視えている。

「あ・・・・・・・視え・・・・・」

気づかぬうちに染まる頬。そして、呟き。
149Classical名無しさん:04/10/16 18:35 ID:NxndcmX.

「? ど・・・・どうした・・・・・?」
はっと我に返る播磨。八雲は別に何でもありませんと言葉を濁す。
その後、播磨は彼女に勢い余って感情移入しすぎたことを詫び、作業を再開させたのだった。

・・・・・・気のせい    かな・・・・・・・・

次の日。
「ヤベーな・・・・・・・! 遅刻すっからバイクで送っていくぜ!」
「あ・・・・・ハイ」
少しだけ、少しだけ近くなった二人が、バイクで登校するのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――

なんて妄想SSはいかがでしょうか?
150Classical名無しさん:04/10/16 18:51 ID:1MnXRy6M
ばれちゅうい
151Classical名無しさん:04/10/16 19:18 ID:HFCOFVJ6












以下再開
152Classical名無しさん:04/10/16 19:57 ID:A6tJ.Uq.
もうすこし離そうか



























再開
153Classical名無しさん:04/10/16 21:19 ID:io1d7aVM
>>150-152
おまえらナイスだ!
154114:04/10/16 23:21 ID:/sYotDbI
遅くなりましたが、皆様感想ありがとうございました。
スランプ……と言うのもおこがましいのですが、少し方向性のようなものを迷っていまして
迷いながら投下した作品でしたが、やっぱり読んで頂いて良かったと思います。
今後も細々と書いて行きますので、またよろしくお願いします。

ところで、プライベートファイルを読みましたが……危なかった。
寄宿舎でしたか……「寮」って一文字を入れておいて助かりました。
外観はジョージアンというよりチューダー様式っぽかったですが、まだ不明ですね。
あとは全体的に見て、概ね的外れにならなくて一安心でした。

>>闇夜様
麻生×サラ、もっと増えるといいですね。
今回は前作から10日と自分的に異例の早さでしたが、できるだけ早めに次を投下したいと
思います。

>>117
一応、自分の主題が『作品の中の「空気」とか「温度」のようなものを表現する』
ということなので少しでも雰囲気を感じて頂ければ幸いです。

>>風光様
風光さんのSSが大好きなので、感想頂けて嬉しいです!
こちらこそ次回のお話、楽しみにさせて頂いてます。

>>122
そこまで評価して頂けるとは思わなかったので何だか照れますが、
気に入って頂けて良かったです。そして、ありがとうございます。
もしよろしかったら次の話も読んでやってください。
155All's well that ends well:04/10/17 00:02 ID:s4MWJaqo
 ――十月。
 足踏みをしていた夏もようやく遠ざかり、秋がその足音を響かせ始めている。刺すような陽射しは
和らぎ、吹く風も穏やかなものへと変わりつつある。
 そんなうららかな午後、サラは一人部室で外を眺めていた。開け放った窓から吹くゆるゆるとした
風に、金色の髪がさらさらと揺れている。まさしく『絵になる』光景だったが、ただ一つそれを許さ
ない点があった。
 テーブルの上、頬杖をついたその顔。そこに、わずかに憂鬱が影を落としていた。はあ、と一人
ついた溜息が風に流されて消えていく。
 そんなところに。
「……ん?」
 わずかに乱れた風の流れに目をやれば、いつのまにかテーブルの上に黒猫が座り込んでいた。振り
返ってみればドアは閉まったままであり、となると当然それが入ってきたのは窓からに違いない。
外を眺めていたというのに、そんなことにもまったく気がつかなかった自分に苦笑しつつ、黒猫――
伊織に話しかけるサラ。
「こんにちは。でもごめんね、今八雲はいないんだ」
 猫に話しかけたところでどうなるわけでもないのだが、現在部室にいるのは彼女一人、どこかゆったり
とした周囲の空気にも引きずられるようにして、二人の会話が始まった。
 さて、そんなサラの言葉に対し、伊織の返事は『なおう』の一鳴き。ここで喋ってくれたら面白いん
だけど、などと思いながらも、その意味を考えるサラ。
「えーと、分かってる……ってことかな」
 ちらりと向けられた視線、わずかな首肯の仕草から同意と受け取る。もっとも、猫相手といえば猫相手、
間違っていたところであまり問題はないのだけれど。
「だったらどうしてここに来たのかな」
 自問にも似たその問いかけに、ぷいと顔を背ける伊織。あまり訊かれたくない、というその様子が、
かえってサラの好奇心を引き、ふうん、と気のないふりをしながら、ゆっくり彼女は考え始める。
 まず、八雲はいないと知っているのに伊織がここに来た、というのを前提条件にする。そもそもこれが
間違っていると話にならないのだが、それを言ってしまえば答などないに等しく、とりあえずは目をつぶる。
その上で、じゃあどういうことなのか、を考えて――
156All's well that ends well:04/10/17 00:02 ID:s4MWJaqo
「そっか」
 一つの解答を得る。正答である保証はどこにもないが、間違っていたところで失うものは何もない。
「八雲取られちゃって寂しいんだ」
 ぴくり、と伊織の耳が立ち上がり、一拍置いてから、何でもない、と誤魔化すように全身を震わせる。
どうやら図星だったらしい。それでも、あくまで関係ない、というように背を向けたままのその姿に、
思わず笑みのこぼれるサラ。
「なんだ、伊織も私と同じ、か」
 相変わらず反応のない後ろ姿に、けれどサラは語り続ける。
「八雲が播磨先輩のこと気になってるみたいだったから、最初はちょっと背中を押してあげるだけのつもり
 だったんだよね。……そしたらちょっとやりすぎちゃったみたい」
 寂しげな色を含んだ声音。そして、それこそが彼女のわずかな憂鬱の種でもある。
「八雲だって、嫌だったら嫌だ、って言うし、間違ったなんて思ってないんだ。でもね、やっぱりちょっと
 急ぎ過ぎちゃったかな……ってね」
 どうなのかな、と呟いて、今度は視線を窓の外に向ける。
「それに、こうなっちゃうとなんだか少しだけ寂しいんだ。八雲のこと考えたら、メチャクチャ言ってる
 のは分かってるし、全部私のワガママなんだけど、それでも……ね」
 はあ、と再び溜息をついたところに、伊織がひょいと顔を上げ、身体ごとサラの方に向き直る。その一対の
漆黒の瞳がまっすぐ見つめる先は、彼女の顔。
「伊織……」
 いつもは仏頂面に見えるその表情が、何故か気にするな、といっているように見えて、ありがとう、そう
彼女が言おうとした瞬間。
「あ――」
 さっと身を翻し、飛ぶようにして窓から出ていく伊織。紡ごうとした言葉が行き場を失ってそのまま消える。
「もう、お礼くらい言わせてくれてもいいのに」
「……そろそろいいかしら」
「――え?」
 ぽつりとそう呟いたところに、予期せぬ声。驚いて振り向いたそこには、腕組みをしてドアにもたれかかる
晶の姿があった。こんにちは、とそれこそジョークなのかどうなのか、まったく分からない口調。
157All's well that ends well:04/10/17 00:03 ID:s4MWJaqo
「こんにちは……って、あの、先輩」
「何かしら」
「……見て、ました?」
「ような気がするわね」
「……どの辺りからでしょう」
「最初からだと思うわ、多分」
 あちゃー、と彼女らしくもない声とともに頭を抱えるサラ。確かに、誰もいない部屋で猫と語らう姿、という
のは見られたいものではなく、ましてその内容が内容である。あまり他人に聞かれたくはない。
「えっと……」
「そんなに気に病むことはないと思うけど」
 そう言って、そのまま窓際へと足を進める晶。見回したそこには伊織の姿は既になく、残念、と小さく呟く。
「あの、先輩」
「世の中ね、それなりになるようになるものよ」
 くるり、と振り向いた晶は静かにそう口にする。
「今回のことがどうなるのか、それは確かに分からない。もしかしたら、あまりよくない結果になるかもしれない。
 でもね、傷つかずに生きていく方法なんてないわ。誰だって、ね」
「でもそれじゃ」
「あら、あなたは最初から上手くいかないと思っていたのかしら?」
「そんなことないですけど……」
「だったら、それでいいんじゃないかしら。それに」
 そこでわずかに微笑む晶。
「遅かれ早かれ、八雲は自分で答を出していたと思うけど。違うかしら」
 だから、強いて言うなら最後までちゃんと八雲の友達でいてね、というところかしら。そう言って結ぶ晶。
「以上、たまには先輩としてのアドバイス」
 最後にそんな一言を付け加えるのを忘れない辺りは実に彼女らしい。
「ありがとう、ございます」
158All's well that ends well:04/10/17 00:03 ID:s4MWJaqo
 わずかに言葉に詰まるサラにほんの少し肩をすくめてから、それにしても、と話題を変える。
「残念ね、せっかく伊織を可愛がってあげようと思ったのに」
「可愛がる、ですか?」
「そう。熱いミルクをあげてみるとか」
「それじゃいじめじゃないですか」
 伊織は猫舌なんですよ、と思わず笑ってしまったサラ。
 そこに。
「そう、その顔」
「……え?」
「やっぱりあなたには笑顔が一番似合うわ。だから、さっきみたいな顔はあまりしないこと」
「先輩」
「さ、それじゃ伊織の代わりに私たちがいただきましょうか。お願い出来る?」
「はい!」
 笑顔で頷き、シンクの方に駆けていくサラ。その姿をこちらも微笑んで見守る晶。
「さて、どうなるのかしらね、実際」
 播磨や花井も含めた人間関係、その落ち着く先を模索しつつ呟く。それぞれの思惑をある程度誘導すること
は出来る。それでも、結局最後に大事なのは自身の意思、そこまで踏み込んでしまうのは彼女の本意ではない。
なるようになる、そんな先程の自分の言葉を噛み締めているところにサラが戻ってくる。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。……ねえ、サラ」
 変なことを訊くかもしれないけれど、そう前置きをして尋ねる晶。
「神様っているのかしら」
 唐突なその問に、一瞬言葉に詰まったサラだったが、すぐにその答を返す。
「いると思いますよ。少なくとも、私はそう信じてます」
「そう。だったら上手くいくかもしれないわね、全部」
 意味が分からず首を傾げるサラに、こっちのことよ、と晶。
「じゃあいただきましょうか。冷めないうちに、ね」
「もう、先輩ってば。そんなこと言ったら伊織に悪いですよ」
 そして、かちゃん、という二つのカップが合わされる音に重なって、二人の笑い声が辺りに響いた――
159クズリ:04/10/17 02:35 ID:42.jOrfM
 お久しぶりです。皆様。覚えていてくださってますでしょうか?クズリです。
 最近はずっと、自分のHPにこもってしまい、御無沙汰しておりました。

 さて、本日、10月17日は、プライベートファイルによるとウメこと梅津茂雄の誕生日です。
 ということで、(私的)恒例の、一レスBDSSを投稿させていただきます。
160クズリ:04/10/17 02:37 ID:42.jOrfM
 少年は、明日が来るのをずっと、心待ちにしていた。初めて恋人がいて迎える誕生日。
 だから、眠れずにいた。布団にもぐりこんだが、妙に目が冴えてしまったのだ。何度も繰り返す
寝返り。そして思う。
 はぁ。どうしたらいいんだろう。どんな顔して会えばいいんだ……?
 考えないようにしているつもりでも、自然と胸の中に浮かんでくる少女のイメージ。そしてまだ、
唇に残るキスの感触。いい加減、女々しいと自分で思っていても、梅津はあの不意打ちを忘れるこ
とが出来なかった。
 ふと、カレンダーを見る。明日は日曜日。朝練があるが、午後からは自由だ。それから後の時間
は円によって抑えられている。二人でどこへ行くのかとか、何をするのかとかは、全部秘密だった。
「だって、その方が楽しいでしょ?」
 と笑顔で言われると、何も言い返すことが出来なくなってしまったのだ。
 正直、プレゼントなんてどうでもいいと、梅津は思っていた。自分でも呆れてしまうが、円が一
緒にいてくれる、それだけで十分なのだ。
 まあ確かに、少しはしてもらいたいことがなくはなかった。健全な青少年なだけに。例えば……
キス、とか。
 もっとも、それを口に出して言うだけの度胸はない。ただもし、何が欲しい、と聞かれたら……
 いや……やっぱり言えないだろうなぁ。
 梅津は深く溜息をつく。自分の度胸のなさに、ほとほと呆れ果てて。
 悶々として寝付けぬままに、やがて日付が変わろうとする頃、携帯が突然に鳴り響いた。
 驚いて飛び起きた彼は、ろくに名前も見ぬままに電話に出る。
「もしもし」
「あ、もしもし?茂雄?私、円」
 苛立って半ば刺々しい声を出していた彼だったが、聞こえてきた少女の優しい声に目を見広げる。
「ま、円?どうしたんだよ、こんな時間に」
「もしかして寝てた?ごめんね。でも、ちょっとだけいいかな?」
「ああ……って、何だよ?」
「待ってね。後1分――――30秒――――5、4、3、2、1、0。ハッピーバースデー♪茂雄♪」
 言うだけ言って、電話は切れてしまう。
「何だよ……ったく。これだから、女ってのはよー」
 ぼやく彼だが、その頬はゆるんでしまっている。
 切れる直前、確かに受話器の向こうで円が、チュッ、と口付けをする音を聞いたから。
161クズリ:04/10/17 02:40 ID:42.jOrfM
 タイトル入れ忘れた…… _| ̄|○

『Birthday... Shigeo Umezu』です。

 まあどちらかといえば、分校一周年の方が大きなイベントのような気もしますがw
 にしても、プライベートファイルで明らかになった誕生日、10月後半に固まりすぎです……ふぅ。

 何はともあれ、これからもよろしくお願い致します。
162Classical名無しさん:04/10/17 06:03 ID:2Wfi/52I
ウメ誕生日か、おめ〜
163Classical名無しさん:04/10/17 07:02 ID:OiiTwdJQ
円は初めてじゃな(ry
164Classical名無しさん:04/10/17 14:18 ID:rF5.Oc8U
ウメは初めてだ(ry
165Classical名無しさん:04/10/17 16:40 ID:hYHn4vBI
学園祭は二人羽織

沢近x播磨

天満x花井
166Classical名無しさん:04/10/17 18:54 ID:AmQjGlyw
天満x花井
この根拠は?
167Classical名無しさん:04/10/17 19:40 ID:dOIWIP8U
ハリマが悶えるのが面白そう、とか?
168Classical名無しさん:04/10/17 20:13 ID:sOJxZ5/M
>>166
>>165は荒らし。スルー汁
169:Classical名無しさん :04/10/17 22:49 ID:ByPTD2.o
「わぁど☆らいふ」の隠しページどこにあるのか誰か教えて下さい
170Classical名無しさん:04/10/17 23:18 ID:TBKLP.f.
・・・tab連打ぐらいすませてから言え
171Classical名無しさん:04/10/17 23:34 ID:EsnrNSP2
Operaとかの、リンク一括表示機能でも使えば?
すっごくわかりやすいリンク名だよ、と。
172Classical名無しさん:04/10/17 23:35 ID:BgGO2EoE
隠しページの意味もわからん厨房は氏ね
173Classical名無しさん:04/10/17 23:44 ID:PnSC7vXc
>>169
厨房キター!!
174Classical名無しさん:04/10/18 00:05 ID:pu16/np.
>>169
つーかそのサイト知らなかった。
ここの住人の間では周知の事実?
裏ページは2秒で見つけたが。
175Classical名無しさん:04/10/18 00:48 ID:D1NiKCIU
雑談は他でやれ
176Classical名無しさん:04/10/18 18:06 ID:VHKB.esE
177Classical名無しさん169:04/10/18 21:32 ID:rjUyw4RA
・・・・わかんねーよ。見つかんねーよ
178Classical名無しさん:04/10/18 22:00 ID:a/MvK6gM
随分初歩的な隠し方だな・・・。<隠しページ
179Classical名無しさん:04/10/18 22:01 ID:ht4LzHUo
>>177
> きっとすぐわかるはずですよー。というか、探すのを楽しんでいただきたいと思う次第。

そこの管理人がこう言ってんだから自分で探せ。
180Classical名無しさん:04/10/18 22:02 ID:ht4LzHUo
>>178
初歩的というか、基本というか。隠す気余りないというのは伺える。
181Classical名無しさん:04/10/18 22:07 ID:a/MvK6gM
>>180
禿同。
太古の昔に、使い古された手だな。
なつかしい・・・。
182Classical名無しさん:04/10/18 22:22 ID:UZIlhTCI
 雑談スレ:スクールランブル雑談スレ10 
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1095855137/l50 

ていうか、あれで初歩的なんだ……。何時間もかけたしorz
183Classical名無しさん:04/10/18 22:25 ID:PxScG4Oo
18歳以上とはとても思えない
184とりあえず空気を読まずに:04/10/18 22:50 ID:ka/GOPcQ
「なあ絃子、今日のメシはどうすんだ?」
「任せる。適当にどうにかしてくれ」
「……わーったよ」
「なんだその返事は。不満でもあるのか?」
「いーや、別に。ったく、こんなときに妹さんがいてくれたらぱぱっと作ってくれんだろうけどな……」
「――拳児君。女性を飯炊きか何かのように言うのはあまり感心しないが」
「……そうだな。妹さんにも失礼だし、今のは俺が悪かった」
「素直でよろしい。……で、なんだ。彼女は食事を作ってくれたのか?」
「おう。ロクなもんがなかったけどな、うまいもん食わせてくれたぜ」
「ほう」
「あり合わせのもんで作ったの考えりゃ文句なしだったぜ、あのスパゲティ」
「……そうか。よし」
「あん? どうかしたか?」
「今日は私が作ろう」
「……は?」
「だから今日は私が夕食を作ろうと言ってるんだ」
「いや、そりゃ別に構わねぇんだけどな……」
「なら黙って待っていろ」
「……おう」
「ふん。そうさ、私だってそれくらい……」

 小一時間後。

「――出来たぞ」
「遅かったじゃねぇか……妹さんはもっとぱぱっと」
「うるさいな、出来たんだからいいじゃないか」
185とりあえず空気を読まずに:04/10/18 22:51 ID:ka/GOPcQ
「ちっ……で、なんだ」
「……スパゲティだ。ほら」
「……」
「なんだ、その沈黙は」
「……いや、これはなんつーか」
「だからなんだ」
「どっからどう見てもこげてる……っつーか食いもんなのか、これ」
「……」
「っ、あ、いや待て今の取り消し! 取り消しだ! うん、あれだ、見た目はちっとなんだ、あー」
「……もういい」
「……あの、イトコさん?」
「そうさ、私は所詮料理も出来ない駄目な女さ。ふふ……」
「俺は何も言ってないぞ!? 言ってないからな!?」
「はは……」
「なあ、聞いてるか? おい」
「……の」
「ハイ?」
「けんじくんの――」
「イトコ……?」
「バカーッ!!」
「おい待て、どこ行くんだよっ!」

 どたどたどた。
 がつん(転けた)
 がちゃん。
 ばたん。

「……どうすんだよこれ」
 取り敢えず一口。
「……まじぃ」
186以下気になさらずどうぞ:04/10/18 22:52 ID:ka/GOPcQ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ぴんぽーん。

「はい……あら」
「……やあ、葉子」
「えっと……今度はどうしたんですか、絃子さん」
「ようこぉ」
「え!? え!? え!? ちょっ、絃子さん!?」
「うぅ……」


おわれ。
187Classical名無しさん:04/10/18 22:53 ID:7vQ/NQ.Y
非常にツボにキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

超GJ!!
188Classical名無しさん:04/10/18 22:57 ID:ht4LzHUo
>>181
懐かしいよなぁ。

>>182
しつこく雑談してすまんかった。でも、初歩的なのは本当。

>>186
いいね。こういうの大好き。
189Classical名無しさん:04/10/18 23:20 ID:gUllvXX6
しつこいとは >188 のようなものを言う、ということをいいかげんわかれよ。

>184
何でも小器用にこなしそうな絃子センセだが、普段やらないことはやっぱりわからない
ということか。お嬢とキャラが被るな(w
190Classical名無しさん:04/10/18 23:43 ID:Ty9QVink
絃子可愛いよ、絃子
191Classical名無しさん:04/10/18 23:59 ID:PbvH810c
絃子はいーとこあるなあ
192Classical名無しさん:04/10/19 00:01 ID:LyTuD7t.
>>186
激しくワロタ
面白い、GJ!そして(*´Д`)ハァハァ
193Classical名無しさん:04/10/19 00:02 ID:FhmTyWEc
泣いている絃子さんを抱きしめたいぞ、と
194Classical名無しさん:04/10/19 00:08 ID:o/iXTXV.
きっと笹倉先生の家で練習して、播磨に食わせるんだろうな…萌えるぜ。
>>186 GJ!
195Classical名無しさん:04/10/19 00:19 ID:3Db/7ayc
>>191
おまえそのネタ前にもやってただろ
196Classical名無しさん:04/10/19 01:33 ID:0J5FUXAI
絃子さん話見つつテレビから流れてきた電波ソングを聞いていたら

ネコミミをつけての行動様式について笹倉先生に講義してもらってる絃子さんが浮かんできた
197Classical名無しさん:04/10/19 03:30 ID:5XgTf2VM
こけるところがツボだw
頭なでたいよ
198Classical名無しさん:04/10/19 07:57 ID:pJLYEElo
(´<_` ≡ ´_ゝ`)!!
199蛇足:04/10/19 10:16 ID:WbyS7AgY
「はあ……事情は大体分かりました。それで、どうします?」
「……どう、って?」
「だからお料理ですよ。絃子さんなら練習すればすぐ出来るようになると思いますけど」
「そう、かな」
「そうですよ。と言うより、出来ないことの方が意外でした……って、また泣かないで下さいよ」
「ごめん……」
「時々信じられないくらい脆いですよね、絃子さんって……さ、それじゃ早速がんばってみましょうか」
「……うん」

 一週間後。

「――ただいま」
「やっと帰ってきやがったな。どこ行ってたんだよ」
「まあいいじゃないか、そんなことは。それよりもだな……え?」
「メシの支度は出来てるし風呂は沸いてるぜ。どうすんだ?」
「あ、いや、その……これは?」
「ん? 俺が作った……っつーか他に誰がやるんだよ」
200蛇足:04/10/19 10:16 ID:WbyS7AgY
「……どうして」
「そりゃ絃子に作らしてたら俺の命……じゃなくて! あれだほら、所詮俺は居候だしな、普段イトコさんに
 は大変お世話になってると思うからそれくらいやってもいいんじゃないかというわけなんだが!?」
「いや、何を言っているのかよく分からないんだが」
「……ええと」
「……うん、まあいいよ、もう。それより一つだけ訊きたいんだが」
「……なんだよ」
「私が今日帰ってくると知っていたわけじゃない……よな」
「……そりゃそうだろ。どこ行ってたかも知らねぇのに」
「なら、さ。――どうして夕食の準備が二人分なんだ?」
「あー……」
「もしかして……その、この一週間ずっと……」
「ななな何言ってんだよ! んな面倒なことこの俺がするわけねぇだろ? な?」
「……そうか。そうだよな」
「お、おう」
「じゃあせっかくだから先にいただこうか」
「そうか。んじゃちっと待ってろよ、すぐ持ってくる」
「ああ。……なあ、拳児君」

 聞こえていないのを確認して、一言。

「――ありがとう」
201蛇足の蛇足:04/10/19 10:17 ID:WbyS7AgY

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……」
「どうした? その、もしかして不味かったか……?」
「……いや、そんなことはない。おいしいよ。むしろ私より……」
「ん?」
「なんでもない。しかし、こうなると何かお礼をした方がいいよな」
「なんだよ急に。俺は別に」
「明日は私が作るというのはど」
「駄目だ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「っ……」
「ちょっと待ておい! なんでそこで泣く!?」
「……泣いて、なんか」
「いやどう見ても……ってなんなんだよ!?」
「泣いてない……」

 ……………………
 ………………
 …………
 ……

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 とぅるるるるる。
 とぅるるるるる。
 とぅるるるるる。
 がちゃ。

「はい笹倉です」
「……もしもし」
「あ、拳児君。……どうでした? 絃子さん」
「言われた通りにしたけどな、機嫌よくなったりすぐ泣いたり、ワケ分かんねぇよ……」
「やれやれ、重症ですね……それで今は?」
「自分の作ったメシ食わねぇと機嫌直さない、とすねてやがる」
「食べたらいいじゃない、それで一件落着だと思うけど」
「いや、葉子ねえ……じゃねぇ」
「あら、私は『葉子姉ちゃん』のままでもいいんだけど?」
「……」
「冗談、冗談だって。それで?」
「……だから、あれ見たら絶対食えねぇってこないだも言っただろ」
「あら、大丈夫だと思うけど? 絃子さん、一生懸命練習してたし」
「練習? 転がり込んでただけじゃなかったのか?」
「そういうこと」
「……ったく、分かったよ。食えばいいんだろ、食えば」
「そ。じゃ、しっかりがんばってね」
「がんばる……? なんでメシ食うだけでがんばらなきゃ――もしもし? もしもし?」

 つーつーつーつー……


 結局料理出来るようになっていたのかは――
203Classical名無しさん:04/10/19 10:30 ID:ab6zbw7s
絃子さんステキ!
GJです!
204Classical名無しさん:04/10/19 11:33 ID:4lXjG8L2
気丈な女性が泣くのは、激萌。
漏れにとっては、絃子かさくらさんかってとこか。
205Classical名無しさん:04/10/19 11:56 ID:Cvjsxsw2
>204
さくらさんって、うる星? いや、俺も萌えだけど。
206Classical名無しさん:04/10/19 12:19 ID:LyTuD7t.
>>202
GJ!
ヤバイ、台詞だけでここまでやれるとは凄いですね。
絃子さん良いな
207Classical名無しさん:04/10/19 14:06 ID:0J5FUXAI
超姉最高!
GJ!
208Classical名無しさん:04/10/19 20:18 ID:8rsZm4/Q
>205
 そ、うる星のさくらさん。泣いた時は感動した。

 それより一度、高野を泣かしてみたい。
 絶対屈しない態度が少々鼻につく。

 しかし、普通に泣かれたら、たぶんオロオロするだろうな。消防だな、漏れは…
209Classical名無しさん:04/10/19 22:10 ID:riSNoNbU
>>208
( ´,_ゝ`)プッ
210Classical名無しさん:04/10/19 23:21 ID:DxHtfDIs
「妹さんちょっとこれ見てくれねーか?」
「こ、これは・・・」

播磨と天満に非常に良く似た男女が絡み合っている

「いやー、あのよー。編集が何事も練習だっていうからよ・・・」
「ごめんなさい、動揺してしまって。」

十分後
「で、感想はどうだい?」
「ちょっと、判らないので・・・」
「そうか、じゃあ明日もまた」
211Classical名無しさん:04/10/19 23:25 ID:DxHtfDIs
「あ、妹さんから原稿返して貰うの忘れてた・・・」

同時刻
「八雲!この漫画は何?!まさか・・・播磨君が悪い遊びを教えたんじゃ!」
「ね、ねぇさん違う。」
「ふしだらさんだよ、八雲。お姉ちゃんとっても悲しい!」

212Classical名無しさん:04/10/20 01:14 ID:6Gi.NdH6
次の日 教室でいつものように座っていると
播磨にメールが来た

from:八雲
本文:放課後茶道部に来て下さい
(原稿返して貰ってまたネーム切り直すべ)
213Classical名無しさん:04/10/20 01:15 ID:6Gi.NdH6
がらがらがら

茶道部には高野、周防、サラ、天満、沢近、そして八雲が円卓に座っていた。

「い、妹さんこれはいったい?」
---------------------------------
面倒なので誰か勝手に続き考えろ
214Classical名無しさん:04/10/20 01:17 ID:JSj4LyO6
天満がモチーフと気付くわけないか天満じゃ
215Classical名無しさん:04/10/20 01:23 ID:91uQZUdE
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    ,,、ィ、,  ヾ ;;::;;::l ゞノ         ll/)~レ'' 〃   _,,、
-==ノ"′/::::ヽ=-ゝ)ヾソ X      ヾ゙  ' ヒゞー-=人  v-ヽ

216Classical名無しさん:04/10/20 01:29 ID:6Gi.NdH6
サラ「不潔です・・・」
周防「変なもの読ませるな!」
沢近「見損なったわ!」
天満「お猿さんだよ!」
八雲「先輩すいません・・・(漫画のことばれてしまいました)」

播磨「うぅ・・これは・・・その・・・あの」

ジー 包囲を狭めつつ、播磨は皆から追及され思考がパンクする。
そして地球が自分を中心に回っているような感覚になり倒れた
217Classical名無しさん:04/10/20 01:48 ID:6Gi.NdH6
播磨が倒れた後、高野が皆を説得し事無きを得た

「だ、だから、編集の人が成人漫画の方が掲載されやすいし何事も経験だって言うからよ・・・」

天「今度は普通の漫画描いてね」
八「姉さん・・・(気付いていない?)」
沢「漫画書いてる事隠してたのは何故かしら?」
「む、それは・・・」
「あ、わたし用事があるんで帰りますね」皿が時計を見て帰り
「あ、バイト」高野がバイトに行き
「道場行かないと」周防が家に帰る

そして茶道室は三人が残った。
218Classical名無しさん:04/10/20 01:59 ID:6Gi.NdH6
八「あ、あのバイトがあるんで・・・」
播「あ、また明日ー」

「私も帰ってカレー作らないと行けないからさよならー」
「あ、(天満ちゃん)」

沢「女の子にあんな漫画を見せるなんてちょっとあなたおかしいんじゃないの?
さっきは天満も居たから言えなかったけど、貴方にとってあの子は大切じゃ無いの?」
219Classical名無しさん:04/10/20 02:06 ID:6Gi.NdH6
沢近の真剣な物言いに押され、紅茶を飲み干し反論する。

「妹さんは大切だと思ってるぜ」
沢近「だったら、なんで天満と貴方が・・・している漫画を見せるのよ!ふざけないでよ!」
ぱっっしーーーーーーーーーーーーん
「・・・あの漫画のキャラクターはオリジナルだ、塚本と関係無い。」
沢近「関係無いって、そんな嘘が私に通じると思ってるの?」
「関 係 無 い っ て 言 っ て ん だ ろ !」
ビクッ
沢近「そんないい加減な事が許されないわよ!」
220Classical名無しさん:04/10/20 02:38 ID:6Gi.NdH6
「これを見ろ」

播磨がカバンから茶封筒を出し、中身の原稿を見せる。

沢近「こ、これは・・・」
「ヤマなし、オチなし、イミなし、って、そんな一部の女性向け」
沢近「こんな物を描かされたの?」
「最近はボーイズビー漫画が一大ジャンルだからって編集が・・・」
沢近「こ、これは貰って置くわ」

「帰りやがった・・・ 奈良x花井の漫画はいいのかよお嬢・・・見損なったぜ」
--------------------
それから、お嬢がヤオイに目覚めたり、
八雲が奈良とくっ付いたり、
天満が烏丸を追って転校しちゃったり、
皿があやしげなカルト宗教を立ち上げたり、
色々大変ですが元気にエロ漫画描いてます。

高野「オワリ」
221Classical名無しさん:04/10/20 02:50 ID:SKzhS5uM
>皿があやしげなカルト宗教を立ち上げたり

ワロタ
天満が烏丸追いかけるよりありそうだと思ってしまった
222Classical名無しさん:04/10/20 02:51 ID:hGl9KFy6
台詞の前に名前つけたりつけなかったり滅茶苦茶だな。
223Classical名無しさん:04/10/20 03:01 ID:4b7q5L16
内容的には面白そうだから、もうちょっとマジでやったら。
あと、構成・かき方・その他考えてね。
224Classical名無しさん:04/10/20 11:00 ID:B.B3bFp.
面白そうか?
いかに何でも無理がありすぎる
ラストなんかifというよりif 〜 wereの内容だ

まあ、途中で書く気がなくなっただけぽいが
225Classical名無しさん:04/10/20 12:46 ID:JSj4LyO6
一瞬あまりのむちゃくちゃっぷりに笑った
一発屋じゃなかったらセンスあるよ
なんか絵コンテ見て笑ったような爽快感がある
226The day of departure:04/10/20 19:26 ID:7zoQwFqQ
 忘れ物はないか。
 喉元まで出かかったそんな言葉に苦笑する絃子。その目の前では、何をコイツは笑ってやがるんだ、
ときょとんとした表情の拳児が立っている。
「なんでもないよ。我ながら、ひどく馬鹿なこと言いそうになったんでね」
「あん……?」
 まだ腑に落ちない、という顔をしている拳児に、だから気にするなと言っているだろう、そう言いな
がらぽんぽんとその頭を軽く叩く。
「何しやがるっ!」
「いや、君も随分と大きくなったもんだと思って」
「……高校入ってからほとんど身長伸びてねぇぞ」
「そういう意味じゃない。まあ、確かに君に初めて会った頃から考えれば、そっちも十分すぎるくらい
 大きくなった気がするけどな」
 ふっ、と懐かしむような笑み。どうでもいいようなその思い出は、不思議と彼女の中で色褪せずに
あの頃のまま形を留めている。
「……昔のことは忘れてくれ」
「おや、さすがの君でも羞恥心はあるんだな。でもね、残念ながら私の方は何故か忘れたくても忘れ
 られなくてね、例えば……」
「てめぇ……そっちがそうならな、こっちだって知ってるんだぜ、いろいろ」
 拳児のその言葉に、そうだった、とすっかり忘れていたように絃子。それは困ったね、とわざとらしく
顔をしかめてみせる。
「じゃあお互い触れられたくない過去、ということで痛み分けにしないか?」
「っつーかよ、そもそも絃子が言い出さなきゃ」
「何かな?」
「なんでもねぇ」
 この三年間、幾度となく繰り返されたそんなやりとり。どこか予定調和めいてさえいるそれに、どちら
からともなく笑い出す二人。
227The day of departure:04/10/20 19:27 ID:7zoQwFqQ
「駄目だね、やはり君とまともな会話は出来そうにないよ」
「けっ、言ってろ。で、さっきのはどういう意味だよ」
「うん? ああ、大きくなった、というやつか。別にそのままだよ」
 だからそれが分かんねぇんだ、そう返してくる拳児に、やれやれ、と溜息。
「そういうところを見せられると、私の見込み違いじゃないかと思えてくるけどね……。まあいい、折角
 の門出だ、ちゃんと言っておこう。要はね、大人になった、ということさ」
「大人に……?」
「ああ、まだまだ及第点とはいかないけどね。それでもここに転がり込んできた頃に比べれば飛躍的な
 進歩だよ。もっとも、もう十八なんだから当然と言えば当然だが」
 思いがけずかけられたそんな言葉に動揺する拳児。思い返せば、この部屋に住むようになってから、
彼女に褒められたことなど何回あっただろうか――そんな思いが頭をよぎる。一方、絃子はそんな彼の
様子に気づいているのかいないのか、淡々と話し続けている。
「てっきり私はずっとあのままかと思っていたんだけどね、勘が外れたよ。にしても、だ。目に見えて
 君が変わりだしたのが二年の終わりくらいからだったよな」
 と、その口調がいつもの意地の悪いそれへと変わる。む、と拳児が視線を上げれば、そこにはにやにやと
したこれまた意地の悪い微笑み。
「やはりこれはあれかな。オンナが出来るとオトコは変わる、というやつか」
「っ! んな、な、何言ってやがるっ!」
「……ムキになると逆に怪しい、というのはいい加減学んだ方がいいと思うぞ」
 まだあたふたとしている拳児の様子に、今度は苦笑がもれる絃子。
「さて、こんなところにしておこうか。あまりいじめるのも可哀想だからな」
「覚えてやがれ……」
「ああ、いつか君が私を言い負かせるくらいになるまで、ね。それじゃ――」
 さよならだ、と。
 まるで何でもないことのように絃子は口にする。
「おう」
 拳児の返事もまた同様。
228The day of departure:04/10/20 19:27 ID:7zoQwFqQ
 それはいつも出かけるときと同じように。
「じゃあな」
 ただその最後だけが。
「達者でな」
 別れを告げるそれだった。



 ばたん、という音とともにドアが閉まる。
 それを見届けてから、ふう、と大きく息をつく絃子。誰もいない玄関、そこで一人立ったままでしばらく
瞳を閉じ、それから鍵をかけて居間へと戻る。
 なんとはなしに、いつものようにスナック菓子の袋を片手に――ただしビールには手をつけず、テレビの
リモコンを操作する。ぶうん、と音を立てて画面に像が結ばれる。毒にも薬にもならないようなワイドショー、
その喧騒を聞き流しながら、黙々とポテトチップスを頬張る。
「……」
 やがてそれにも飽きたのか、テレビを消してついと立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。向かう先は主を持た
ない無人の部屋。
「……広いな」
 ほんの数日前までは窮屈に見えていたその部屋が、がらんどうの今は何倍にも見えてぽつりと呟く。誰も
いないそこからは、当然ながら返事は返ってこない。そんな当たり前のことに、安堵と寂寥の入り混じった
複雑な感覚を覚えつつ、そのまま窓を開けてベランダへと出る。
「――――――――」
 普段とはほんの数メートル離れただけの、そのベランダから見えた景色。それが、彼女には何故かいつもと
まったく違うものに見えた。
 三年間、一度も足を踏み入れることのなかった場所。
「君はこの景色を見ていたんだな」
 恐らく、次にこの場所に立ったときにはもはや見ることの出来ない、今この瞬間、ただ一度きりだろう景色
を目にしっかりと焼き付ける絃子。
「さあ、がんばろうか」
 自分自身か、あるいは巣立った彼か。
 どちらにともなく呟いたその言葉は、緩やかな春風に吹かれ、宙に舞った――
229Classical名無しさん:04/10/20 20:40 ID:B.adoYRo
切ない…。。・゚・(ノД`)・゚・。 ウエーン
230コンキスタ:04/10/20 20:57 ID:NCD3tfk.
 ども。コンキスタです。ようやく第9話が完成したので投下に参りました。
前スレ
>679
 ご支援ありがとうございました。
>680
 今から第9話を投下します。少し長いですが付き合っていただけると幸いです。
>681
 8話の展開をできるだけスムーズにするために6,7話を書いたので良かったと言ってもらえて嬉しいです。
 ありがとうございます。
>683
 スルーするのは憚られたのでレスを書かせていただきます。
 結論から言いますと、天満のSSは書きません。というか、書けないというのが本音です。
 天満は「これが天満だ」っていうのがわかるのに、書こうとするといまいちうまくできないキャラだと思います。
 文章で簡単に書き表せないすごいキャラだと思いますし、自分も天満のこと結構好きです。
 ただ、話しを書こうとしても何を書けばいいのかよくわからないんです。今書いたとおり天満は自分には難しいのです。
 そういう意味で天満のSSは書けません。もちろん話しが思いついたら書きますので、そのときはよろしくお願いします。
現行スレ
>>7
 楽しんでいただけたようでなによりです。
 最終回、多少強引なところもあるかもしれませんがこちらも楽しんでいただけたら幸いです。
>>25
 ありがとうございます。第8話はそこにもっていくまでに苦労したので、素晴らしいと言ってもらえて良かったです。
>>28 
 天満が天王寺の告白を忘れてたのは意図的に……やってるわけがないです、はい。素で忘れてました。ごめんよ、天王寺……。
231コンキスタ:04/10/20 21:00 ID:NCD3tfk.
それでは投下します。
前前スレ
 ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1093733782/329-345n 『Be glad』
 ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1093733782/479-493n 『True smile』
 ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1093733782/521-535n 『True smile -2』

前スレ
 ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/281-295n 『I don't say』
 ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/320-330n 『Escapes from himself』
 ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/433-444n 『Point of a look -1』
 ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/565-576n 『Point of a look -2』
 ttp://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1095091828/660-677n 『Point of a look -3』

 なお、今回花井が登場しますが、本編の彼の状態(対応?)と全く異なってます。ご了承ください。

第9話

『Heroine is a blond girl』
232Heroine is a blond girl:04/10/20 21:00 ID:NCD3tfk.
 『Heroine is a blond girl』


 その日も播磨はいつもの時間に家のドアを開けた。
 だがそこに彼女はいない。
 たった一週間ぐらいのことだったのに、何故だかこの時間にドアを開けることが習慣になっていた。
 いや、習慣というのは少し違うのかもしれない。毎日ドアを開けて落胆する度に、播磨は変な期待をしている自分に気づくのだから。
――――なにしてんだ、俺。
 ドアを開けては自分をバカにする。そんな日が、もう一ヶ月近く続いていた……。
233Heroine is a blond girl:04/10/20 21:03 ID:NCD3tfk.

「播磨さん……?」
 昼休み、屋上で寝ていた播磨に声をかける人物がいた。
 塚本八雲である。
「ん……。ああ、妹さんか。どうしたんだ、こんなとこに」
「いえ……なんとなく、です」
 その言葉に彼女の姿が思い浮かぶ。『なんとなく』といって自分の横にいた彼女の姿が。
 もう一ヶ月も経ったのに、それはつい最近のことのように思えた。
「播磨さんは……どうして屋上に来たんですか?」
「ま、俺もなんとなくなんだけどな」
 そう言って笑う播磨だったが、彼の寂しそうな笑顔が八雲の目に焼きついた。
 ――やっぱり沢近先輩がいないからだろうか。
 播磨が天満に告白したことを八雲は知っていた。そしてその結果も。
 しかし、なぜ愛理が播磨と一緒にいないのかがわからない。
 彼女はどうしてだろうと疑問に思い、そして気づく。
 八雲自身、二人が一緒にいることを当然のことのように思っていた事を。
 それだけ播磨と愛理は自然で、楽しそうだった。
 寂しいのは播磨だけでなく、八雲もなのかもしれない。
 学校中に予鈴が鳴り響く。しかし播磨は寝たまま動こうとしない。
「あの……予鈴、鳴りましたけど……」
「ああ、妹さんは先戻ってていいぜ。俺は……どうすっかな」
 毎日学校に来ている播磨だったが、こういう風に時々サボっていた。そして、その時はいつもここで考え事をしているのである。
 八雲は播磨に軽く会釈をすると、屋上を去った。
 愛理のように『私も一緒にいます』と言えない自分の臆病さが少し悲しかった。
234Heroine is a blond girl:04/10/20 21:06 ID:NCD3tfk.

 喫茶エルカド。四人用の丸テーブルを愛理と美琴の二人が使っていた。
 放課後遊ぶことに決まったのはいいが天満と晶には用事があり、しばらくしてからここで落ち合うことになっている。
 愛理は店の壁にかかっている時計に目を向けた。待ち合わせの時間を少し過ぎている。
「遅いわね、天満と晶。天満はいつものことだけど」
「……ああ、そうだな」
 ぶすっとした態度で答える美琴。しかし、それは天満達が遅れているせいではない。
 彼女の不機嫌そうな瞳は愛理の顔に向けられていた。
 愛理は自分の顔を睨みつける美琴をよそに、澄ました顔でコーヒーに口をつけた。
 なぜ美琴が自分のことを睨みつけているのか、彼女にはだいたい予想がついていた。
 今までも遠まわしにだったが何度も問い詰められてきたからだ。
「……おい、沢近。ほんとにいいのかよ、このままで」
 そう、こんなふうに。
 美琴の問いに愛理の眉がわずかに動いたが、すぐに彼女は冷静を装い、静かに手に持っていたコーヒーカップを下ろした。
 そしてなんでもないように答える。
「なんの話?」
 そんな、絶対に気にしていながらの白々しさに美琴は少しかちんときた。
 今まで触れなかった核心の部分にも踏み込むことに決めた。
「アンタね。……播磨とのことに決まってるだろ」
 しかし愛理は全く表情を変えない。
 いくら播磨のことを聞かれようとも、何を言われるのかわかっていれば仮面をかぶり続けることだって簡単だった。
 だから彼女はさっきと同じように、とぼけて言った。
「だからなんの話よ。それに前にも言ったでしょ。別に彼とは何もないって」
 平然という嘘だらけの仮面。だがそんなもの、美琴の前では通用しない。
 彼女には愛理の素振りすべてがひどく不自然に見えて、その姿が夏の自分にダブって見えた。
 あのときの、泣きたくなるぐらいバカな自分に……。
 だからこそ余計に美琴はイライラした。
 少し感情的になり、愛理を挑発するように言った。
「へえー。そっかそっか。アンタ、播磨のこと好きじゃなかったんだ」
235Heroine is a blond girl:04/10/20 21:08 ID:NCD3tfk.
 だがその言葉も愛理にとっては予測の範疇だ。仮面をかぶったまま軽い調子で肯定すればいい。好きではないとさらりと言ってしまえばいい。
 にも関わらず、愛理は言いよどんでしまった。
 ――――どうして?
 喉まで出かかってるのに、言えない。
 しかしそれは違う。愛理は言いたくないのだ。
 播磨のことを『好きじゃない』だなんて、いくら覚悟していても愛理が簡単に口に出せるわけがなかった。
 だから無意識のうちに彼女は誤魔化そうとする。
「……だから彼とは何もないって――」
「播磨のこと好きじゃないって言えるのか? 言えないだろ」
 しかし、その逃げ道もすぐにつぶされた。
 なんでこんなにも美琴が自分を追い詰めようとするのか、それが愛理にはわからなかった。
 だから少し意地になった。愛理は負けるのが嫌いだ。負けるくらいだったらと、自分を傷つけるようなことだって何度もしてきた。
 そんなくだらないプライドを、愛理は彼女自身いやになるぐらい持ち合わせていたのだ。
「好きじゃ……ないわよ」
 最後の方はほとんど聞こえない、くぐもった声。
 しかし彼女は言った。好きではない、と。
 そして後悔する。何故言ってしまったのだろう、と。
 その後悔は彼女にとって矛盾した想いだった。
 自分は彼のことが好きじゃないはずなのだから、本当ならなんの抵抗もなしに言えるはずなのに。
 本当に好きなら、彼が天満に告白することを私みたいな女が応援するわけがない。だから私は彼のことが本当は好きじゃない。
 そんな勘違いを、いまだに愛理はしている……。
236Heroine is a blond girl:04/10/20 21:11 ID:NCD3tfk.
「これでいい? 私、用事思い出したから帰るわ。二人にはごめんって言っておいて。それじゃあね、美琴」
「え。あ、おい。ちょっと……!」
 引きとめようと席を立った美琴の声も振り切って、愛理は逃げるように去っていった。
 ドアのベルがカランカランとむなしく音を立てる。
 それもやがて小さくなり、ついには止んだ。
「あ〜〜〜〜〜。やっちまったよ……」
 美琴が頭を抱えて椅子に腰を下ろした。
 彼女の意地っ張りな性格を知っている美琴は、不用意に煽ってしまったことを後悔した。これで彼女は今まで以上にへそを曲げるだろう。
 しかし、美琴には今の愛理を放っておくことはできなかった。あの時の自分にダブって見えるから。
「でも私はあそこまでひねくれてなかったぞ……」
 ため息をつきながら、美琴はテーブルに体を預けた。そして目の前に置かれているコーヒーカップを見て、思い出す。 
「あ、コーヒー代……」
 彼女はとりあえず明日、愛理に会ったら最初にコーヒー代を請求することに決めた。
237Classical名無しさん:04/10/20 21:12 ID:rZAxAGus
支援
238Heroine is a blond girl:04/10/20 21:14 ID:NCD3tfk.

 一方そのころ、矢神神社では制服を着た二人の男の姿があった。
 今にも雨が降り出しそうな空模様。その下で、播磨と花井は向かい合って立っていた。
「なんだよメガネ。こんなとこに呼び出しやがって」
「播磨。お前に聞いておきたいことがある」
 放課後、帰ろうとした播磨に花井が声をかけた。そして彼は播磨に有無を言わせずに『ついてこい』とだけ言った。
 なんだかわからないまま播磨がついていくと、矢神神社に行き着いたというわけだ。
 二人の間に冷たい風が吹く。
 花井は播磨に鋭い眼光を叩きつけながら、それを聞いた。
「君は八雲君のことを愛しているか?」
「……はぁ? 何言ってんだ。つーか、なんで俺がそんなこと答えなくちゃいけねーんだよ」
 突飛な質問に間抜けな声を上げる播磨。しかし花井の眼がその質問が冗談でないことを証明していた。
「答えろ。拒否権はない」
「なんでだって聞いてんだよ。まずテメエがそれに答えろ」
 しかし、播磨はもともと人の言いなりになることを好む人間ではない。
 今となっては多少柔らかくなったとはいえ、もとは『俺は俺だけのもんだ』と信じていた男である。
 その彼が理不尽な返答の強要を腹立たしく思わないはずはなかった。さきの『ついてこい』という命令も気に食わなかったので、余計に腹が立った。
239Heroine is a blond girl:04/10/20 21:20 ID:NCD3tfk.
 花井はわずかの間、目を閉じ、思案して、口を開いた。
「僕はな、播磨。八雲君がそれでいいと言うのなら、お前と付き合っていても良いと思ったんだ」
 それは、花井の苦悩のすえの結論だった。
 花井は一度八雲から播磨とのことは誤解だという話を聞いていたが、彼にとって問題はそこではない。
 関係がどうこうではなく、八雲の想いが事実誰に向けられているかということが問題だった。
「しかし、君は沢近君のことが好きなようだ。もし二股をかけて――」
「ちょっと待て」
「なんだ?」
 唐突に話の腰を折られて拍子抜けする花井。
 播磨は耳を疑っていた。いや、疑っているのは心のほうか。
 ――今、メガネはなんて言った?
「俺が……誰を好きだって?」
「今さら何を言っているんだお前は。お前は沢近君のことを…………違うのか?」
 違うと言おうと播磨が口を開いたが、まったく声を出せないまま閉じられた。しばし沈黙。そしてまた開こうとし、閉じる。
 開く。閉じる。沈黙。
 ……何度かその動作が繰り返されたあと、播磨はあたかも今までの行動はなかったかのように振舞った。
「だいたいなぁ、妹さんとのことは誤解なんだっつーの」
 しかし播磨の口から誤解だということを再度聞いても、花井は喜ぶことも取り乱すこともしなかった。
 今の彼は播磨を真剣に見つめている。播磨の心の奥を見透かすように……。
240Heroine is a blond girl:04/10/20 21:22 ID:NCD3tfk.
 やがて花井は肩をすくめ、大きなため息をついた。正直、呆れていた。
「そうか。播磨、お前の気持ちは良くわかった」
「なっ……てめ! なにがわかったんだコラッ!」
「まったく君といい沢近君といい、素直じゃないな」
 その言葉に播磨の顔が次第に赤くなっていく。
 播磨は顔をそらし、恥ずかしさを紛れさせようと大声を上げた。
「し、知るか! 俺は帰るぞ、いいな!」
 そして悪態をつきながら、播磨は逃げるようにして神社から立ち去った。
 播磨が去った後、一人その場に立ち尽くす花井に冷たい風が吹きつく。
「八雲君……」
 花井は気づいていた。播磨に対する八雲の想いに、彼女が自覚する前からだ。
 最初は信じることができなかったし、それからも知らないふりをすることもできた。気づかないつもりでいることもできた。
 しかし、それを花井は選ばなかった。
 悩みに悩みぬき、花井は自分なりの結論を出した。
 彼女が幸せであれ、と。
 だからこそ、おそらくは叶わないであろう彼女の恋心を思って彼の心が痛む。
「なぜ君が好きになったの男が僕じゃないのだろうな……」
 そうだ僕なら君を――――いや、考えまい。
 彼は播磨の去っていった方向を見た。風が吹く。もうすぐ雨も降り出すだろう。
「いっそあいつが嫌な奴なら楽だったのかもしれんな」
 それは心にもないこと。
 悲しげな笑みを浮かべ、花井春樹は神社を去った。
241Heroine is a blond girl:04/10/20 21:24 ID:NCD3tfk.

 エルカドを出てから、私はあてもなくその辺を歩いていた。
 何を言われても冷静に対処できると思ってたんだけど――。
「バカね、結局逃げただけじゃない……」
 さすがに一ヶ月もすれば完璧に諦めついてると思っていた……。
 自分の馬鹿さ加減にため息もでない。
 でも……本当はわかっていた。簡単に彼を忘れることができないことぐらい。
 今だって彼の顔が目に浮かんでしまう。
 学校でも、見ないようにしているのに気づいたら見ていたなんてことが何度もあった。
 私は彼を忘れることができるのだろうか。何年かかるのだろう。一生かかるのかもしれない。
 それでも忘れなくちゃ……。
 私は彼を諦めたんだから。本当は好きじゃないはずなんだから……。
 忘れなくちゃ。
242Classical名無しさん:04/10/20 21:27 ID:T89OoFWg
支援?
243Heroine is a blond girl:04/10/20 21:27 ID:NCD3tfk.
 ぽつりと、肌に何かが落ちてきた。
 冷たい。
 ……ああ、雨か。
 そう気づくのに何秒かかったのかわからない。気づいたときにはもう強くなっていた。
 傘――は持っている。今朝の天気予報を見たから折りたたみ傘を鞄に、少し窮屈だったけれど入れておいた。
 だけど取り出す気にならない。雨が涙を流して、隠してくれるなら濡れてもいい気がした。
 いつのまにか足も動いてない。立ち尽くしている自分がいる。
 播磨君の顔が浮かぶ。前にもこんなことがあった。
 思えばあの時から私は、彼に惹かれていたのかもしれない。
 頬を伝うのは雨か涙か。
 きっと、ぜんぶ雨だ。
 忘れなきゃ。彼の顔も、彼との思い出も、みんな。
「やだな……」
 ……どうしよう。
 雨のせいで私、少しおかしくなってる。
「やだ……」
 ダメじゃないの。どうしてそんなこと考えてるのよ。
 雨のせいで視界が滲んできた。胸が痛い。体が冷たい。
 ……忘れなくちゃダメ。
 私は播磨君こと忘れなくちゃ……!

 でも本当は――

    ――――忘れたくなんかない。

 そのとき、突然涙を隠してくれる雨の感触がなくなった。
244Classical名無しさん:04/10/20 21:29 ID:x7sf.GEI
Support
245Heroine is a blond girl:04/10/20 21:30 ID:NCD3tfk.
 代わりに頭上で雨音が聞こえる。
「おい、なにしてんだ?」
 そして、唐突に背後から声がした。
 無意識に私は振り返った。
「風邪ひきてえのかオメーは」
 そこには彼が立っていた。傘の中に私を入れて、自分は濡れて、彼はそこに立っていた。
「播磨……くん?」
「お嬢? お前泣いて――」
 はっとする。不自然だとわかっていても慌てて目を拭い、『少し前のいつもの調子』で反論した。
「そ、そんなわけないでしょ! 雨よ雨っ!」
「え、あ……お、おう」
 無理やり播磨君を納得させる。そしたら今度は彼のほうが聞いてきた。
「こんなとこで突っ立って何やってんだ。傘もってねえのか? 今日の天気予報、雨だっただろ」
「傘なら――」
 鞄に手を伸ばす。だけどやっぱり、取り出そうとは思わなかった。
「持って……ない」
「ったく」
 そして播磨君はあのときと同じように、なんでもない風に言ってくれた。
「……そこまでだったら送ってやるぜ。ほんのそこまでな」
 あのときの同じ言葉。たぶん彼は覚えていて言ったのではないのだろうけど、それはあのときと一緒だった。
 私は歩き出す、播磨君と一緒に。さっきまで止まっていたのが嘘のように足は動いてくれた。
 とても暖かい気持ちになっていた。幸せっていうのがあるのだとしたら、こういうことをいうのかもしれない。
 でも……私は本当は播磨君のことが好きじゃないはず。
 諦めなくちゃいけない。忘れなくちゃいけない。
 だけど――。

 だけど今だけはこのまま、このまま彼と歩いていたい……。

246Heroine is a blond girl:04/10/20 21:32 ID:NCD3tfk.

 ひとつの傘の中に二人で入り、一緒に歩いていると、愛理がそのとき一番会いたくなかった相手に会ってしまった。
「あ……」
「沢近……?」
 美琴だった。傘を差して、驚いたように愛理を見ている。
 彼女はあの後エルカドで天満と晶を待っていたが、結局用事が終わりそうもなかった二人が謝罪のメールをいれてきたので、
仕方なく帰ろうとしていたところだった。
 お互いの姿を確認して、二人ともしばし固まった。
 思考が焼きつく。
 愛理はうまくものを考えることができず、ふらふらと一歩、さらにもう一歩後ろに下がった。
 そして――。
「ごめんなさい、播磨君……」
「お嬢? って、おい!」
 振り返り、愛理は走り出した。逃げるために。
「っ……待ちな、沢近!」
 それを見て美琴も走り出す。追いかけるために。
 何が起こったかわからない播磨には、ただ呆然とその場に立ち尽くすことしかできなかった。
247Heroine is a blond girl:04/10/20 21:34 ID:NCD3tfk.
 こういう追いかけっこは初めてじゃない。以前も播磨がらみであったことだ。
 美琴が走る。なかなか差は縮まらないが、愛理の背中は見えたまま。さすがに運動神経がいいことだけある。
 しかし追いかけるのはあの周防美琴だ。
 何度も前に出される足が、地につく度にパシャパシャと水を散らす。
 ――あのときは服と靴が邪魔だったけど!
 美琴は傘を投げ捨てた。そして逃げる愛理の背中を睨みつける。
 ――今度は逃がさない。絶対に逃がしてやるもんか。
 ここでつかまえてやらないと、あいつはもっと泣くことになっちまうんだ。
 そんなの、絶対に許さないからな……!
248Heroine is a blond girl:04/10/20 21:39 ID:NCD3tfk.
 坂を登る。だんだんと二人の距離は縮まってきており、今では手を伸ばせば届くほどの距離になっていた。
 逃がさない。
 美琴は雨で濡れた手を伸ばす。少し、また少しと彼女の手は愛理に近づいていく。あと、わずか。
「沢近!」
 そして美琴は、親友の肩をしっかりとつかんだ。
 それでも逃げようと一瞬の抵抗があったが、愛理のほうも体力の限界らしい。
 愛理は肩をつかまれたまま停止する。美琴は肩をつかんだまま停止する。
 すでに二人はびしょ濡れだった。
 それでも愛理と美琴はそのまま動かない。
 雨音と、二人の荒い息のみが彼女達には聞こえていた。
「なあ、沢近……」
「やめてよ」
 背を向けたまま、愛理がつぶやいた。
「まだ何も言ってないのにそれかい。いいかげんにしな。播磨のこと、好きなんだろ?」
 だからやめてって。
「違う……! 違うわよ!」
 背を向けたまま愛理は、肩にのせられていた美琴の腕を思い切り振り払った。
 私は播磨君のことが好きじゃない。好きだったら天満への告白なんか応援しない。
 だから決めたのに。
「私は諦めたの! だから――」
 せっかく決めたのに。
「諦めたってことは好きだったんだろ!? それで今も好きなんだろ!? どう考えても諦めきれてないじゃねーか!!」
 諦めようって……そう、決めたのに。
「私は……私は、播磨君のことなんか……」
 そのとき、美琴が彼女に言った。

「逃げるのか?」
249Heroine is a blond girl:04/10/20 21:42 ID:NCD3tfk.
 その言葉は容赦なく愛理の胸に突き刺さる。
 何かを言おうとしていたはずの口の動きもなにもかも、愛理の動きをぴたりと止めた。
 愛理はそれをどこかで聞いた覚えがあった。
 どこで聞いたのだろう?
 そしてすぐに想起する。あの日、夕焼けの教室を。
 そうだ、聞いたんじゃない。言ったんだ。
『逃げるの?』
 そう播磨に言ったのは、紛れもなく愛理自身だった。
 もう一度、美琴が言った。
「なあ、沢近。このまま逃げちまうのか?」
 それは何からか。
 考えなくてもわかる。
 そう、自分の想いからだ。
 愛理は何も言えない。何も考えられない。心から溢れ出ようとする感情を抑えるのに必死だった。
 肌にあたる雨粒だけが、たしかに自分がそこにいることを愛理に教えてくれた。
250Heroine is a blond girl:04/10/20 21:43 ID:NCD3tfk.
「知ってるか?」
 沈黙を破り、美琴が口を開いた。背中を見せている愛理に語りかける。美琴の声はどこか寂しげで、悲しそうだった。
「自分の本当の気持ち隠して、何も言えないで、終わっちゃう……。そういうのってすごく悔しいし、悲しいんだ」
 夏。美琴は自分の臆病さを恨み、後悔し、不本意だったが愛理に慰められた。
 正直嬉しかったし、助かった。けれど、『今度は私が』だなんていうのは嫌だ。
 美琴は愛理の慰め役なんてまっぴらごめんだった。そう、どうせなら――。
 彼女の幸せを喜びたい。
「ほんと……ほんとに悲しくなるんだよ」
 だから彼女は言葉を紡ぐ。愛理にはあのときの自分みたいになってほしくないから。
「私は……さ。親友の悲しんでるとこ見てられるほど強くない。だから、今から言うことは私のわがままだ」
 愛理はゆっくりと振り向き、目の前に立つ親友を見た。彼女はとても優しい、それでいて悪戯っぽい笑顔を愛理に向けていた……。
「あと少しでいいから。素直になれ、沢近。あとで後悔してあんたが泣いたって、私は胸なんか貸してやらないぞ」
 その瞬間、めったに他人に見せない愛理の涙が地面にこぼれ落ちる。それは雨と一緒に見えるけれど、たしかに彼女の涙だった。
「そんなの……他の男に頼むわよ、バカぁ」
「だーから、まだ泣くなって。もし砕け散って泣くんだったらそんときは、ほら。一緒に飲み明かしてやるからさ」
 ――縁起でもないこと言わないでよ。
 そう言いたいのに、言葉じゃなくて涙が出てくる。止まらない。
 泣きじゃくる愛理と困った顔で彼女を見守る美琴、そこには親友同士の姿があった。
251Heroine is a blond girl:04/10/20 21:46 ID:NCD3tfk.

 俺は部屋のベッドに倒れ込んだ。
 あいつらはどうしたんだろうか。探しても見つからなかったから帰ってきたが……。
 ベッドの上の目覚まし時計で時刻を確認する。すでに日にちが変わっていた。
 まあ、あいつらももう帰ってるだろ。
 ……にしても、よくよく考えてみればだ。
 お嬢に傘を差し出した時はあんまり気にしないでいられたが、今になって考えたら何やってんだよ俺は。
 やべえ、なんか顔が熱いぞ?
「くそっ。メガネの野郎……変なこと言いやがって」
 だが、それが真実かもしれない。
 俺はお嬢のことが好きなのか?
 たしかにアイツはなんかほっとけねえとこあるし、気になる。
 学校でも、気づけばアイツを目で追ってたなんてことが何度もあった……。
 だけど……な。
 俺は天満ちゃんのことが好きだったはずだろ?
 天満ちゃんのためならなんでもやれるって思ってたろ?
 今さら本当はお嬢のことが好きなんだって思ったところで、俺でさえ本当なのかわかんねえ。
 俺には『俺はお嬢が好きだ』っていう自信がない。
 現実から逃げたくてそう思い込もうとしてるだけかもしんねえんだ。
 そんなんでアイツに『お前が好きだ』って言う資格があるか?

 ――――ねえだろうが。

 考えるのは苦手だ。
 つかれた。
 テーブルの上にあった飯を食うのもかったりい。
 ……もういいや、寝ちまおう。

 それでも俺は、振り向いたときのアイツの泣き顔が目に焼き付いちまって、なかなか眠ることができなかった……。
252Heroine is a blond girl:04/10/20 21:48 ID:NCD3tfk.

「おはよう、拳児君。また随分と眠そうだね」
「おぅ……」
 いつもの時間に播磨拳児は目を覚まし、制服に着替え、軽く朝食をとった。寝不足のためか非常にまぶたが重い。
 準備を終えると播磨はリビングで新聞を読んでいる絃子に言った。
「んじゃ、いってくる」
「ああ。よかったな、拳児君」
「あん?」
「なんでもないよ。いってらっしゃい」
 絃子の不可解な言動に首を傾げながら玄関に向かう。
 そして播磨がいつもの時間にドアを開けた途端、彼は放心した。
 そこに、彼女が立っていた。
 顔を赤らめ、うつむいて、彼女はドアの前に立っていた。
 驚いて声が出ない播磨だったがそれも束の間、彼女が言った。顔を上げて、微笑んで。
「……おはよう、播磨君」
 なんだかひどく懐かしい。
 心が暖かくなるのを確かに感じながら、播磨はぶっきらぼうに答えた。
「……おう」
253Heroine is a blond girl:04/10/20 21:50 ID:NCD3tfk.

 播磨がぼんやりと目を開けると、そこは教室だった。
 ただずいぶんと熟睡していたようで、いつのまにか放課後になっていたらしい。
 夕日の閑静な光が差し込み、その光景はどことなくあの日の教室に似ていた。
 播磨には今日一日、学校での記憶がほとんどなかった。昼食をとったかどうかすら曖昧だ。大きなあくびをする。
 横で声がした。
「おはよう、播磨君」
 振り向くと愛理がいた。あの日と同じように、天満の机に腰掛けて。
 播磨は少し胸が高鳴ったのを気のせいだと心の中で誤魔化してから言った。
「……今、何時だ」
「五時ちょっと前よ。ずいぶんと良く眠ってたわね」
「昨日ぜんぜん眠れなかったからな」
 その原因は彼女にあったが、愛理は知る由もない。
 彼女は「そう」とだけつぶやき、二人はそれっきり黙ってしまった。
 二人とも何も言わず、なのに帰ろうとも思わない。少し懐かしい心地良い空気。
 ただそこにいるだけで、播磨はなんだか恥ずかしくなってきた。
 妙な雰囲気を誤魔化そうと播磨が口を開いた瞬間、逆に愛理が言った。
「播磨君」
 そして次の瞬間、播磨の思考回路は完全にその機能を失った。

「私ね、やっぱりあなたのこと好きみたい」

 そう言って、夕焼けを背に彼女は彼に微笑んだ。
254Heroine is a blond girl:04/10/20 21:53 ID:NCD3tfk.
 言った。言ってしまった。愛理は思う。
 だけど今ならまだ間に合う。冗談ということにすれば、まだ……。
 でもそんなのは嫌だ。決めたんだ、告白しようって。
 とにかく冷静に、落ち着いて彼に想いを告げなくては。
「お……お嬢?」
「嘘じゃ、ないわ。本当に……好きなんだから……」
 ……無理だ。落ち着いてだなんていられない。
 顔がすごく熱くなってるのがわかる。今の私は笑われてしまうぐらい真っ赤なんじゃないか。
 考えてみれば自分から告白するの、はじめてだ。
 なんだか悔しいな……。
 それに、すごく恥ずかしい。
「な……なんとか、言いなさいよ……」
「え! あ、ああ。な、なんとか」
「お、おお落ち着きなさい、とりあえず」
 二人とも錯乱しており、会話はめちゃくちゃになりつつあった。
 顔が真っ赤になっているのは播磨も同じだが、ただ彼はそのことに気づかないほど混乱しているようだった。
「あ、あーと、俺は……俺は、だな……」
 まだ考えがまとまっていない播磨は、彼女を見つめながら考える。
 それは落ち着いてものを考えるのには逆効果なのだが、どうしても播磨は彼女から視線を外すことができなかった。
 彼女が泣くか笑うかは播磨の返答次第。どちらにせよ愛理は覚悟ができている。
 しかし覚悟ができているからといって緊張や不安、期待というのがなくなるわけもない。
 心臓が破裂しそうだ。
 それでも彼女は夕日を浴びる彼の、その眼差しから目を逸らそうとはしない。
 何も言わずに愛理は、彼の返事を静かに待った。
 どれぐらい経ったのだろうか。十秒か、一分か。少なくとも愛理には永遠に思えていた時間が、ようやく終わりを告げる。
 播磨の出した結論は――。
255Classical名無しさん :04/10/20 21:54 ID:utiGhzII
支援いれておきます。
256Classical名無しさん:04/10/20 21:57 ID:Q7UAx2/M
支援!!
257Heroine is a blond girl:04/10/20 21:57 ID:NCD3tfk.
「わかん、ねえ……」
 結局それだった。
「…………はぁ?」
 YesでもNoでもない、そのあまりに拍子抜けで予想外の返答に思わず愛理が間抜けな声を上げる。
 しかし、それは今の播磨が一番正しいと思える結論だった。
「いや、さ。なんかまだ返事しちゃいけねえ気がすんだ……。わりぃ。もすこし……待ってもらえねーか?」
 彼の目は嘘を言っていないと愛理は感じた。
 事実、播磨はその場しのぎで言ったのでもないし、彼女を傷つけないために嘘を言ったのでもない。
 本当に、彼はまだ自信が持てていなかった。
「……わかった。ま、いーわ。気長に待ってるから」
 愛理は安心したような、残念なような、複雑な心境だった。
 けれど、自分が嫌われていなかったことだけでも彼女は嬉しかった。
 これで彼も自分のことを好きだと言ってくれたらどうなってしまうのだろうと、本気で心配になる。
「でもなるべく早くしてよね。待つのって好きじゃないの」
「おい、気長に待つんじゃなかったのかよ」
 二人は小さく笑うと、意識していつもの調子に戻した。
 しかし二人の距離は、ほんの少し前とまったく異なるものになっていた……。
258Heroine is a blond girl:04/10/20 22:02 ID:NCD3tfk.

 昼休みの屋上。播磨は一人で空を見上げながら寝ていた。
 愛理に告白されてまだ数日と経ってないが、このままではいけないことは彼だって百も承知だ。
 しかしわからなくなってくると、どうしても考えることを放棄してしまう。
 そのことを思って播磨が大きなため息をつくのと同時に、屋上のドアが開いた。
 彼が身を起こしてドアの方を見ると、八雲が立っていた。彼女は播磨に歩み寄っていく。
「おう、妹さん」
「あ、はい……こんにちは。あの、もうすぐ予鈴……鳴りますよ」
「ん? あ、もうそんな時間かよ」
 播磨は立ち上がり、ズボンを軽くはたく。
「あの……」
「ん?」
「播磨さんは……沢近先輩のこと、好きなんですか?」
 どことなく寂しげな瞳で彼を眺めていた八雲が、播磨に聞いた。どうしても聞かなくてはいけない気がしたからだ。
 最近、播磨と愛理はまた一緒にいるようになった。
 一緒にいる二人を見て八雲が得た安心感と不安感。もう、自分をごまかすのも限界だ。
 播磨は八雲の質問に驚きながらも、彼女の目を見て何故かわからないが、これは真剣に答えなくてはいけないのだと理解した。
 空を見上げる。空は青く、澄んでいた。
「……わかんねえ」
 ため息混じりに播磨はそう言った。
「たぶん、好きなんだと思うんだけどよ。なんかあいつのこと好きでいていいのかわかんねーっつーか、なんつーか……」
 照れくさそうに播磨は笑う。自分の支離滅裂な回答がなんだかおもしろかった。
259Heroine is a blond girl:04/10/20 22:07 ID:NCD3tfk.
 空から視線を外し、八雲に顔を向ける。笑顔のまま、播磨は言った。
「わりい、やっぱ良くわかんねえわ。俺、馬鹿だからな」
 その顔を見て八雲は確信する。
 ああ、やっぱりそうなんだ……。 
 だけどそれを言う必要はないんじゃないか。
 言わなければ播磨さんは……。
 ううん……そんなのダメ。
「播磨さん」
 八雲が呼びかける。
 自らが初めて好きになった人の背中を押すために――。
「播磨さんが好きなのは沢近先輩です」
 そう、彼女は言い切った。
「妹さん……?」
 そうだ。私が播磨さんに遠かったんじゃない。私が近づこうとしなかったんだ。
 ――――私には勇気がなかった。
 だけど先輩は違った。沢近先輩は近づいたんだ、播磨さんに。だから播磨さんは先輩に振り向いた……。
「播磨さんは沢近先輩のことが好きです。私が……保証します」
 八雲があまりにも真剣な目をしてそれを言うので、播磨は驚いていた。
「あ……私なんかがそんなこと言っても仕方ないと思いますけど……」
 困り顔の八雲を眺めながらしばし呆然としていた播磨だが、八雲の言ったことを理解すると優しく言った。
「ありがとな、妹さん」
 彼はもう一度青い空を見上げる。その横顔は優しく、それでいて決意に満ちていた。
「……まだ、自信ねえけどよ。もう逃げねえ。あとは自分で納得できるように考えるぜ」
 その言葉に八雲の心がちくりと痛む。それでも彼女はこれが正しい信じている。
 それが彼女の出した結論。
 彼が幸せであれ、と。
 だけど――――。
260Heroine is a blond girl:04/10/20 22:10 ID:NCD3tfk.
「播磨さん。最後にひとつだけ、言わせてください」
「ん?」
 八雲はもう一度だけ播磨の顔を見る。やはり心は視えない。
 だけど一度くらい、勇気を出して言わなくちゃいけない。彼女も決意した。
 そうじゃないと私は前に進めないから。きっと後悔するから。
 だから言わなくちゃ。
「私……播磨さんのこと……」
 ゆっくりと言葉を紡いでいく。気づくのが遅すぎた自分の想いを、たしかに声にしていく。
 自分の『本当』を隠しておきたくない。
 だから今日だけでも。そして今日から私は――――勇気を出そう。

「好きです」

 頬を染めて困ったように、それでも彼女は、穏やかに微笑んだ。
261Heroine is a blond girl:04/10/20 22:09 ID:NCD3tfk.

 その夜、播磨は珍しく机に向かっていた。だが、もちろん勉強をするためではない。
 家に帰ってきてからずっと、播磨は机に向かって考えていた。
 八雲に背中を押された瞬間からずっと今まで、ひたすら彼なりに考え抜いた。
「ありがとな、妹さん……」
 結局彼女には迷惑をかけっぱなしになってしまった。ありがとうなんていう気持ちだけじゃ安すぎる。
 だけどそれ以上は応えられない。
 もう答えは出した。
 思い浮かぶのは愛理の姿。
 そして播磨の答え。

 ――――今の俺じゃアイツに好きだなんて言う資格はない。

 播磨は机の中から、もう当分使うことはないだろうと思っていたそれを取り出した。
262Heroine is a blond girl:04/10/20 22:13 ID:NCD3tfk.

 その日の夜。私がソファーに座っていると、横に置いておいた携帯電話が鳴った。
 私はそれを手に取り、その瞬間あやうく携帯を落としそうになった。
『播磨拳児』
 画面にはそう表示されていた。
「な、なんで?」
 まさか……。と、とにかく落ち着かないと。
 ニ、三回深呼吸をしてから、おそるおそる私は着信を押した。そしてゆっくりと携帯電話を耳に近づけていく。
「も、もしもし?」
『おう、お嬢か?』
 電話越しだからなのか、その声はいつもと違う印象を受けた。でも間違いなく播磨君の声だ。
 心臓がばくばくとうるさい。
「ななななによ、こんな時間に」
『とりあえず落ち着けって』
「無理言わないでよ!」
『開き直んな……。で、だな。明日からでいいんだけどよ。ちょっと手伝ってもらいてえことがあんだ』
 それを聞いて内心ほっとする。どうやら告白の返事じゃないようだ。だけどやっぱり残念な気もして複雑な気持ちだった。
263Heroine is a blond girl:04/10/20 22:17 ID:NCD3tfk.
「そ、そう。……それで手伝ってもらいたいことって何?」
『また、漫画描こうと思ってんだ』
 ――――なぜだろう。その言葉を聞いた瞬間、心臓が一際大きく鼓動した。
「なん、で……?」
『あんときと同じだ。好きな奴に告白するために描く。今のままの俺じゃそいつに申し訳がたたねえからな』
 ――――だんだんと胸は高鳴り、涙は目から溢れ出ようとする。
『んで、ストーリーはさ……』
 彼の声が聞こえる。
 頭がぼうっとして何も考えられない。今自分がどこを見ているかもよくわからない。
 息、しているだろうか。……うん、してる。
 物語はまた、ラブストーリーのようだった。
 彼の声が聞こえる。
『主人公はとにかく馬鹿な野郎で……』
 ああ、播磨君はホントに馬鹿だ。
 彼は楽しそうに、そして少し恥ずかしそうに主人公の話をしていく。
 彼の声が、聞こえる。
264Heroine is a blond girl:04/10/20 22:19 ID:NCD3tfk.
 アイツは何もしゃべらない。
 俺の手元には一枚の紙。
 その紙の左半分には電話しながら描いた物語の主人公。落書きみたいになってるが、ラフ画といえば聞こえはいい。
 右半分にはまだ何も描かれていない。
 手に持ったペンを動かす。
 紙の右半分。主人公の隣に、今度はヒロインを描いていく。
 馬鹿な主人公なんかよりずっとゆっくり、丁寧に……。
 描きながら電話の向こうのアイツに話しかけるが反応はない。
 アイツは何もしゃべらない。それに呆れながら俺は言った。
「おい、聞いてんのかお嬢。こっからが重要なんだぜ。いいか? ヒロインはな……」


『 Heroine is a blond girl 』
....THE END
265Heroine is a blond girl:04/10/20 22:20 ID:NCD3tfk.
たくさんのご支援ありがとうございました。
以上、第一話の目的を果たしたということで、#95(たぶん)からのIFストーリーは完結です。
すいません、本気で長くなりすぎました。^^;
もとは『Be glad』単発のつもりだったのですが、いつのまにか連載モノにしてました。
いくらSSとはいえ、好き勝手やりすぎた感もあります。それでも多少のことは大目に見ていただけると幸いです。
終わるかどうかほんと怪しかったので、無理やりなところもあるとはいえどうにか終わらせることができて良かったです。
今まで付き合っていただいた方々、どうもありがとうございます。
ではでは。
266Classical名無しさん:04/10/20 22:23 ID:D5m5PKhQ
GJ
267Classical名無しさん:04/10/20 22:23 ID:sfWGxVLk
激しく乙&GJです!
268Classical名無しさん:04/10/20 22:30 ID:x7sf.GEI
God Job!!
269Classical名無しさん:04/10/20 22:32 ID:ygExS94Q
>>コンキスタ氏

連作お疲れ様でした!!
旗派の俺には破壊力有りすぎます。
正直ちょっと泣けました。
とにかく、めっちゃ面白かったです!!
さぁてもっかい読むかー。
270Classical名無しさん:04/10/20 22:32 ID:9zEMsxA6
激しくGJ!
漫画で始まって漫画で終わるのが実に良いですね。
お疲れ様でした。
271Classical名無しさん:04/10/20 22:36 ID:EzrTtz8k
素晴らしい作品をありがとうございました。
ほんとうに、心からそう思います。
272Classical名無しさん :04/10/20 22:37 ID:E2qkvClA
GJ!!
連作乙でした!!
273Classical名無しさん:04/10/20 22:43 ID:rZAxAGus
>>265
激しくGJ!
ほんと感動した。
ストーリーも情景描写も、そしてなにより播磨と沢近の心理描写が素晴らしかったです。
この連載を読むのが楽しみの一つになっていました。
大作お疲れさまでした。
274Classical名無しさん:04/10/20 22:55 ID:55rA.1k.
なんというか、気持ちの良いラストだな。
良いSSだった。GJ!!
275Classical名無しさん:04/10/20 23:54 ID:o1E62wtY
クズリさんのおにぎり派SSと合わせて旗派の代表作だなぁ。
お疲れ様でした。
276Classical名無しさん:04/10/20 23:59 ID:aaFRZgDY
昨日中に投下する予定が日付が変わってしまった…_| ̄|○
というわけで(?)投下させて頂きます。
わけあって2部構成になっておりますのでご了承ください。
277Carnival:04/10/21 00:00 ID:2zrmka9g
「おし、それじゃいったんきゅうけーい!」

冬木武一がそう声をかけると、第二音楽室は先刻までの喧騒が嘘のように静まり返った。
ややあって、塚本天満が割れんばかりの拍手を──主に烏丸大路に──浴びせ掛ける。

「烏丸くんもみんなもお疲れ!すっごく良かったよ〜!」
「ありがと、塚本さん。確かに大分サマになってきたんじゃない?ねえ結城」
「そうね。各パートの息も合ってきたし……一条だいじょぶ?疲れてない?」
「ううん、平気。それにみんなだってクラスや部活の出し物の掛け持ちしてるのは同じだし…」

矢神学院文化祭に向けて2-C有志で結成されたバンドは順調に練習を重ねていた。
メンバーはヴォーカルに一条かれん、ギターに烏丸大路、ベースに嵯峨野恵、
キーボードに結城つむぎ、ドラムに冬木武一、試聴者(?)に塚本天満という構成。
発表日も押し迫ったこの日、何度目かのリハーサルをこなし、
素人ながら自信のようなものもついてきた彼らの前に──────
「それ」は何の前触れもなくあらわれた。
278Carnival:04/10/21 00:01 ID:2zrmka9g
「んーだからさ、烏丸がリフ入れてる時はやっぱみんなでポーズを……」
「全員だとかえってカッコ悪いって。
 私が烏丸くんの背に回ってシンメトリーな……って烏丸くん?」
「なに?嵯峨野さん」
「そのネックについてる白い紙……なに?」
「え……いや、僕は知らない。いつのまにこんなものが…?」

烏丸はギターのネック部分の弦にはさまっていた、白い紙を手に取った。
見たところ何かの本のページを破ったものらしく、さらに二つ折りにされている。
全員がその紙に注目するなか、烏丸は折られた紙を開いてみた。

 MAXYBKLMTGGBOXKLTKR 10-17 CC

「……何だこりゃ?」
「何でしょうか……」
「一応今日の日付が入ってるみたいだけど……」
「誰がこんなことしたの?この中には……居るわけないか。
 ギターはさっきからずっと烏丸くんの手にあったわけだし」
「烏丸くん、ほんとに覚えがないの?」
「うん、嵯峨野さんに言われるまで気が付かなかった」

その紙は、英語で印字された本から破り取られた1枚のページで、
中にはアルファベットと数字で構成された文字列がサインペンで書かれていた。
その場で考え込んでしまった皆の沈黙を破るように嵯峨野が言った。

「とりあえず誰がやったのかは置いとこ。それよりコレに何の意味があるのか、それが知りたいわね」
「ちょ、ちょっと嵯峨野、今はそんなことより練しゅ……駄目だわ、聞いてない」

ミステリマニアの血が騒ぐのか、嵯峨野の眼がらんらんと輝いているのを見て
結城はため息をついた。冬木や天満も興味津々の様子だ。
かくしてバンドの練習はそっちのけとなり、全員が額をつき合わせて
謎解きに励むこととなったのであった。
279Carnival:04/10/21 00:04 ID:2zrmka9g
「意味のある単語を抜き出してみると……『MAX』『BOX』くらいね」
「それじゃ何にも判らないな。アナグラムで何とかならないかね」
「法則も示されてないのに、これだけの文字数じゃ難しいわね。
 やってやれないことはないだろうけど」
「それならこの日付がキーワードとか!
 10番目と17番目の文字だけだったら……GT?やっぱわかんない…」
「この最後の『CC』って何かしら……」
「一条、いいトコに眼をつけた!
 それじゃみんな、この文字から思いつくこと言ってみようよ」
「じゃ俺から。えーっと『Carbon Copy』。メールのやつね」
「私はねぇ……『C Compiler』かな」
「ええと、『Country Club』とか?」
「……クローンネコの名前」
「あ、わかった!『CCレモ」
「「「「それは違う」」」」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ふう……駄目ね。とっかかりすら見つからないんじゃお手上げだわ」

嵯峨野が肩をすくめた。皆慣れない頭の使い方をしたせいか、
バンド練習の後よりも疲れた顔をして座り込んでいた。
例外は、紙を光に透かすなどしていじっていた天満のみ。
280Carnival:04/10/21 00:05 ID:2zrmka9g
「う〜ん、この英文何が書いてあるのかなあ?」

その言葉にハッとしたように嵯峨野は顔を上げた。

「確かにそれも材料の一つにはなるわね……
 ちょっと、この中で英語得意な人手ぇあげて」

返ってきたのはため息だけだった。察しろ、という言外の声だろう。

「やっぱ無理か……待てよ、そうだ!
 塚本さん、沢近さんてまだ校内に残ってないかな」
「あ、駄目駄目。愛理ちゃんは大分前に美コちゃんたちと帰っちゃったよ」
「あちゃあ……一縷の望みが…」

とそこにトントン、とノックの音が聞こえた。

「はいはーい、どちら様?…って八雲じゃない!どしたの?」
「みなさん失礼します……姉さん、私サラとちょっと寄るところがあるから、
 帰り遅くなるって言っておこうと思って…」
「うん、わかった。あっ、サラちゃん久しぶり!」
「お久しぶりです、お姉さん。……あれ?その手にもってるのは…?」
「ああこれはね………!!サラちゃん、英語読める!?」
「ええっ?それはまあ読めますけど……?」
「姉さん、サラはイギリ……」
「ごめん八雲、ツッコミは後にして!サラちゃんお願い!これ何だか判る!?」
281Carnival:04/10/21 00:06 ID:2zrmka9g
差し出された紙片を手に取り、サラは僅かに目を走らせると、

「これは新約聖書のマルコによる福音書の一部ですね。誰が破ったか知りませんが
 ラクガキまでしてあるし。バチが当たっても知りませんよ?」
「わ。私たちじゃないもん!突然烏丸くんのギターに……」
「ちょっと待って!今『マルコによる福音書』って言ったわね?」

慌てる天満を抑えて嵯峨野がサラに問い掛けた。サラはうなずく。
嵯峨野は相当興奮した様子で、サラが持つ紙片をひったくるようにして受け取ると、
シャーペンを持ち出して何やら紙片に書き始めた。

「出来た!……全てが繋がったわ。謎はおおむね解けた!」
「ええっ!本当か嵯峨野……ていうか『おおむね』って何だよ!
 普通こういうときは『すべて』じゃないのか!?」
「あせらないで冬木くん。これからじっくり説明してあげるから。
 真実はいつもひとつ!ばっちゃんの名にかけて!」
「嵯峨野のおばあちゃんがどうかしたの?」
「……言ってみたかっただけよ。それじゃあこの紙片に注目してくれるかしら?」

嵯峨野は皆を車座にさせると、場の中央にすっくと立ち、気取った調子で語り始めた…………
282Carnival:04/10/21 00:07 ID:2zrmka9g

<読者への挑戦>
推理に必要な手がかりは全て提示してあります。
はたしてこの文字列は一体何をあらわしているのでしょうか?
読者諸氏の名推理を期待します!

……なんちゃって。実はある決定的な手がかりを一つ伏せさせて頂きました。
それ書いたら簡単に答えがわかっちゃいそうなので。
まあ書かなくても、序盤だけでわかる人には一瞬でわかると思うので、
わざわざ解決編を後にとっておくのもダメダメかも知れませんが……
ともあれ解決編はもう少ししましたら投下します。
283Classical名無しさん:04/10/21 00:10 ID:H83qN7YA
播磨「・・・神なんて居ないだろ」
サラ「この異端審問官サラが神に代わってお仕置よ!」

サラが取り出したのは八雲から借りた天満の写真
その写真には額に肉、頬にはうずまき、鼻の下と口には髭、耳は尖ってて、角が書き加えられていた。
播磨「ジーザス!」

そして立ち去るサラ、しばらくぼぉっとしていると天満がやって来た。
天満「私に見せたいものってなぁに?」
播磨が呼んでいるとサラが八雲経由で天満に連絡したようだ。
(あ、あいつ・・・)
天満「あ、その写真なに?」
播磨「な、なんでもねーよ。」
天満「見せて、見せて。」
嫌がる播磨の手を強引にこじ開け、写真を奪う伝馬。
天満「播磨くん、こんな物を見せる為に私を呼んだの?ひどいよ播磨くん・・・」

サラはそんな二人を陰から見ていた。
サラ「マリア様が見ている ですょ ぅふふふ」
284Classical名無しさん:04/10/21 00:10 ID:JsKJtUsQ
回答編までの間、他のSS師さんは投下するなってことね…
285Carnival:04/10/21 00:17 ID:2zrmka9g
>>284
あ……そういう事にもなりかねませんね。申し訳ありませんでした。m(__)m
続きは最低でもまた日付が変わるまで投下しませんので……ホントすみません。
286Classical名無しさん:04/10/21 00:17 ID:p3/aYW6M
前に一度誰かやって叩かれてたな・・・
287Classical名無しさん:04/10/21 00:19 ID:UFr.tp9M
 コンキスタ氏GJ! そして完成乙。

 八雲の諭す、適どころな役が良い。
 それと、沢近と播磨のラスト。見事な展開でした。
「続きは脳内でお願い♪」なところが上手い。もう、脳内でしまくります。

>>285
 とりあえず、落ち着け。
288Classical名無しさん:04/10/21 00:28 ID:aITOhvqQ
激しくGJ!
最高ランクの作品だと思いますタ。
お疲れ様でした。
289Classical名無しさん:04/10/21 00:41 ID:S9owZnYI
>>285
前から気になってたけどもしかしてpillowsファン?
アウィエー?
290Classical名無しさん:04/10/21 02:07 ID:BzCB0jc2
一周年?
291Classical名無しさん:04/10/21 05:20 ID:T01d2ORg
>>265
激しくGJ!
これだけのキャラ数出しながら、それぞれの心情書ききってて見事!
それでいて主題は一貫してて理解しやすいし。
っていうかもう沢近の弱さが存分に表現されてて蝶・感動っす。

SSは好き勝手やっていいんスよ。
そしてそれを読んで面白いと思った俺のような存在が一人でもいれば、
それでいいと思います。
292Classical名無しさん:04/10/21 08:31 ID:lsx2ENMQ
アンカー付ければいいんだから他のSS書きさんも遠慮しないでいいだろ
293Classical名無しさん:04/10/21 09:16 ID:7sANensE
ミステリネタはやっても構わんと思うのだが、
別に「少し待ってから投下します」とか言わなきゃいいんだよな。

書き手としては、推理が見たいってのもあるかもしれないけど、
普通に「次は解決篇なので、読む前に考えてみてくださいね」でいいと
思うのだ。
294Classical名無しさん:04/10/21 16:46 ID:lijFmTLc
最近、本編よりこのスレの方が楽しみになってきている。
本末転倒なんだけれども。
295Handkerchief:04/10/21 18:38 ID:YBLIk6tE

 人の記憶とは引き出しのようなものである。
事柄をその中にしまいこんだままにしてしまえば、それはいつか忘れ去られてしまう。
だけどまた、引き出しを開ければ。

 一度は忘れてしまったことを、思い出すことも時にある―――――


「ん……?」
 自分の部屋にあるタンスを探っていて、見慣れない物があることに美琴は気付く。
それをひょいとつまみ、引き出しの中から取り出してみる。
―――ハンカチ。

 誰のものだろう?
少なくとも自分のではないことは確かだ。
「ん〜…」
 頭をポリポリと掻きながら、このハンカチが自分の手元にある経緯を思い出そうとする。
天満や沢近、高野からは借りた記憶はない。
花井のものだったら、家が隣にあるんだしすぐに返しにいっただろう。
するとこれは、誰のものなのか。
他に心当たりがあるとすれば……
「あ…そっか。これ、あの時のだ」
 どうやら、手に入った経緯を思い出したらしい。
同時に、それが誰のものであるかも思い当たる。

一学期の期末テスト前日。
美琴は、花井との組み手の際に利き手を痛めた。
その痛みはどんどん酷くなり、翌日には鉛筆を持てなくなりそうになるほどのものだった。
でも、それでもどうしても結果を残したかった。
何故ならあの頃はまだ、初恋は終わっていなかったから。
誰に何を言われてもいい、不純だと思われたって構わない。
好きだった先輩と一緒の大学に行くことが、あの頃の美琴の何よりの目標だった。
296Classical名無しさん:04/10/21 18:39 ID:nhOf2tik
最近おにぎりが無いですね。
297Handkerchief:04/10/21 18:39 ID:YBLIk6tE

 そしてテスト当日、不安に駆られた彼女は家の近くの神社で神頼みをした。結果は悪く
てもいい、けどせめて最後まで鉛筆を持てるようにと。
その際、何故かそこで神様の真似事をしていたクラスメイトに、ハンカチをもらったのだ。
結局そのおかげで、最後まで無事テストを受けることが出来た。
そう、これはあの時の自分を助けてくれたハンカチなのだ。

「今更……だけど、やっぱ返さないとマズいよなぁ」
 じっとそのハンカチを見つめ続ける。
と、同時に思い出す。
まだ片想いをしていた頃の自分を。
それから一ヶ月もしないうちに、理不尽な終わりを告げられた初恋を。
手を下ろし、ハンカチを床に置く。視界から外した。
気持ちを吹っ切ることは出来たものの、あの時の胸の痛みを忘れたわけではない。
もう終わった恋を思い出させるものを手元には置きたくなかった。
それに、これは元々人のもの。
だったらその人物に返せばいいのだ。
 それを鞄の中にしまいこむ。
これをアイツに、播磨に渡せばこの件については終わりだ。
明日学校でとっとと返そう。
それで終わりだ―――



 そして翌日の教室。
美琴は播磨にハンカチを返そうと決めたのはいいものの、なかなかそれを実行できないで
いた。
普段なかなか話をすることはない相手ではあるが、彼女はそんなことで躊躇することなど
ない。誰とでも気兼ねなく話せるのが、美琴の大きな長所なのだから。
それなのに、何故実行できないのかというと……
298Handkerchief:04/10/21 18:41 ID:YBLIk6tE

「グゥーーー」
 播磨がいびきを掻いて、机に突っ伏して寝ているのだ。
いくらなんでも、ハンカチを返すためだけに彼を起こすわけにはいかない。
ちらちらと彼の様子を窺う。
 その時。
播磨のポケットから『プロジェクトA』のメロディが流れ出す。
その音に反応して、彼は気だるそうに体を起こす。
携帯電話を取り出し、面倒そうにカコカコと弄り始めた。
(メールでも届いたのか?)
 美琴はそんなことを考えていたが、今は彼のメールの内容などどうでもいい。
せっかく相手が目を覚ましたのだ。早くハンカチを返そう。
素早く彼に近付こうとする。
「お…」
 突然、播磨が目を見開いた。
次の瞬間、播磨は手早く携帯電話をポケットにしまいこむと、鞄の中から分厚い封筒を取
り出し、教室を出て行く。
「あ……」
 タイミングを逃し、思わず言葉を漏らす。
どこに行こうとしているのだろう。そもそも播磨とメールをやり取りするような相手が、
この学校にいただろうか。
 早くハンカチを返してしまいたい気持ちと、メールの相手が誰なのかが気になったのか。
美琴も教室から顔を出す。
が、播磨の姿はもうそこにはなかった。
少し逡巡したものの、このまま教室で待っていても億劫だという結論に達する。
幸い、今は昼休み。時間ならまだ充分に残っている。
今度こそ美琴は教室から出る。播磨を探しに廊下を歩き始めた。

299Handkerchief:04/10/21 18:42 ID:YBLIk6tE


「探すのはいいけど、どこにいやがんだ?」
 よく考えてみれば、美琴は播磨のことをよく知らない。
だから、普段彼がどんなところによく行ったりしているのか分からなかった。
他のクラスを見回ったり、窓から校庭を眺めたり、あちこち探すが彼の姿は一向に見当た
らない。
と、その時。階段から見知った顔の女性が降りてくる。
「お、妹さんじゃねーか」
「あ……先輩」
思わず声をかける。その女性とは親友の妹である、塚本八雲。
美琴が階段の下から八雲を見上げていると、この状態で話すのは相手に悪いと思ったのか、
八雲は少々急ぎ足で階段を降りきる。
「ど……どうも」
「うっす」
 そこで美琴は気付く。
美琴たち二年生の教室はこのB棟の三階である。そして、今二人がいるのも三階だ。
そして一年生である八雲の教室は二階にある。しかし今八雲は確かに四階から姿を現した。
彼女の姉である天満は美琴と同じく二年生。八雲が四階まで行く必要はない。

ということは、そういうことだ。
「屋上にいんのか?」
「……え?」
「播磨だよ」
 八雲と播磨、当人達にそんな意識はないが、美琴は二人が付き合っていると思っている。
先日、喫茶店で美琴の親友である沢近がそう言っていたし、何より、最近二人が屋上で出
会っているところを何人ものクラスメイトが目撃している。
ほぼ全員でその場面を見たこともあった。
 ということは先ほどの播磨のメール相手も、彼女に違いないのだろう。
それで全て合点がいく。
300Handkerchief:04/10/21 18:43 ID:YBLIk6tE

「あ…はい、播磨さんなら屋上にまだいますけど」
「そっか、ありがとな」
 その言葉を聞くと、美琴は階段を上がっていく。
「あ……あの」
折り返しのところまで来たところで八雲に呼び止められた。
「ん?」
「播磨さんに…何か用があるんですか?」
「あぁ、ま……ちょっとな」
 ハンカチを返しにいく、と理由を言ったところで彼女を混乱させるだけだろう。
ついつい言葉を濁した。

「そう……ですか」
 八雲の言葉尻が小さくしぼんだように聞こえた。表情も浮かない。
そんな彼女に気付いたのか、美琴は笑みを浮かべながらもう一度言葉をかけた。
「心配すんなって。別に変なことしねえよ」
「そっ…そういうわけじゃ…!」
 焦った様子で否定する八雲に、さらに美琴の笑みが深まる。
「心配なら一緒に来るかい?」
「いえ…大丈夫です。それじゃ」
「おう」
 ペコリ、と深く頭を下げると彼女は階段を降りていった。
「ちょっと悪かったかな…」
 自分だったら、恋人が自分じゃない女性と二人きりにさせることなんてできるだろうか。
でも、ただハンカチを返すだけだ。こんなことで誤解されることなんてないだろう。
そう考え、屋上まで上っていく。
 播磨と八雲の仲を、自身が誤解しているとは知らずに。

301Handkerchief:04/10/21 18:44 ID:YBLIk6tE


「おーい、播磨」
 屋上への扉を開けるなり、美琴は探していた人物の名前を呼ぶ。
見ると播磨は、随分と焦った様子で先ほど持ち出した封筒になにか書類のようなものを詰
めている最中だった。
「……何やってんだ? お前」
「う、うっせぇ! てめぇには関係ねえだろ!」 
 後ろを向き、それを隠すように背中を見せる。
やがて、ようやく詰め終わったのか体勢を元に戻す。大きな封筒は足元に置いて。
「つーかオメェ、何しに来やがった?」
「お前に用があったからだよ」
「はぁ? どういうこった?」
 そこまできて、美琴は取り出す。
自分の力になってくれた、今は辛い思い出しか残さないハンカチを。
「これ、お前のだろ?」
「んー?」
 眉間にしわを寄せ、そのハンカチを見つめる。
やがて、ふいに視線をそこから外した。

「知らねえなぁ」

「知らねえって……、あたしがお前から受け取ったんだけど」
「憶えてねえよ」
 播磨は元々、過去を懐かしがったり、振り返ったりすることは少ない。
自分が想いを寄せる相手である天満については、全身全霊でぶつかっているからか彼女に
関する全てのことを憶えているのだが。
その分、他のどうでもいいことはすぐに忘れるのだった。このハンカチのことについても
その中の一つだったのだろう。
もっとも、当時の播磨は天満に振られた(と本人は思い込んでいる)頃であったから、余計に
忘れたかったのかもしれないが。
302Handkerchief:04/10/21 18:44 ID:YBLIk6tE

どちらにしろ、彼の頭の中では美琴にハンカチを渡して勇気付けてあげたことは既に忘却
の彼方にあるようだ。

「でもこれはお前のものなんだから受け取れって!」
「そんなもん憶えてねーって言ってんだろ!」
「あたしが憶えてるんだよっ」
 二人の口調は段々と激しくなる。だが、どちらもなかなか折れようとしない。
お互いに頑固だった。
「そんなもん渡すためにいちいちここまで来るか? 普通よぉ」
「いいだろ別に! さっさと渡したかったんだからさ」
「それによ、もしそれが俺のだったとして何で今更持って来るんだよ」
「それは……」
 そこで初めて美琴は言いよどむ。
同時に、彼女の脳裏に浮かんでくるものがあった。


――――大学に合格するため、懸命に勉強した自分


――――その先にいたのは、自分があこがれた先輩


――――でも、久しぶりに会ったときにはその先輩には彼女がいて


――――初めてだった自分の恋は、惨めな終わり方をしたことが


 彼女の胸を貫いた。
303Handkerchief:04/10/21 18:46 ID:YBLIk6tE


「………」
 急に美琴が黙り込んでしまったことで、唐突に雰囲気が悪くなる。
そして彼女の顔に浮かぶのは胸に痛みが走ったような、触れて欲しくない部分に触れられ
たような、そんな表情。
それを見られたくないのかつい俯く。
「お前には……関係ないだろ」
「……」

 今まで吹き続けていた風が、一瞬だけ強くなる。

「けっ」
 そんな美琴の様子に気分が変わったのか。
それともその表情に、言ってはならないことを言ってしまったことを悟ったのか。
播磨は美琴の方に手を伸ばすと、彼女の手に握られていたハンカチを掠め取った。
「あ……」
「俺のなんだろ?」
 そう言いながら、それをポケットにしまいこむ。
「……ったく、最初っからそうやって受け取れよ」
 浮かべた表情を隠そうとしながら、隠せないまま美琴は口を開く。
「うるせえな」
 播磨はそのまま、足元にある封筒を掴むと扉へ向かっていく。
それ以上、彼女のほうに目をくれることはなかった。

 美琴の耳に扉を閉める音が開く。
彼女もまた、それを黙ったまま見送る。
やがて視線を前に戻すと、矢神町の景色が美琴の目に飛び込んできた。
 坂の上にあるこの高校は、随分と高い位置にある。
それゆえに屋上からは街を見下ろすことが出来、その景色は心奪われるものがあった。
304Handkerchief:04/10/21 18:47 ID:YBLIk6tE

ガシャッ
 
 フェンスを掴んで、この高校に続く道となる長い長い坂を見つめる。
その次には、工務店を営む自分の家とその向かいにある花井家の道場。
また風が少々強くなる。それが美琴の長い髪をなびかせる。
(先輩も…)
 そこで久しぶりに思い浮かんだ顔は、言うまでもなく初恋の人。
(昔はあの坂を上ってこの高校に通って……うちに家庭教師に来てくれて……花井の道場で
稽古してたんだよな……)
 もうこの想いが叶わないことは分かっている。
ならば、せめて。
これから何年か経った時に。このことが、笑って話せるくらい強くなりたい。
もちろん、今はまだ無理だけど。

 憂いと、虚しさと、切なさと。そしてほんの少しの「強くなりたい」という渇望感。
それらを全て混ぜ込んだような感情で、今の美琴の心は満たされていた。

 階段を少し降りたところで、播磨は扉の方へ振り返る。
「……」
 あの時の彼女の表情は何だったのだろう。
それが頭に引っかかる。
今、自分が持っているハンカチに何か嫌な思い出でもあるのだろうか。
「けっ…アホらしい」
 そう吐き捨てると、それまでよりも幾分速く階段を降りていく。
しかしその言葉とは裏腹に、美琴のあの表情が離れない。

それを振り払うかのように、播磨は更に足を速めて階段を駆け降りていった――――



305Handkerchief:04/10/21 18:52 ID:YBLIk6tE

この3、4ヶ月、IFスレに何も投稿してなかったので久々に投下

初めて鉛筆を書いてみたんですが、
ネタが全然タイムリーじゃない上に
何を言いたいのかよく分からないSSになってしまいました


力足らずの作品ですが
読んでいただければ、それだけで幸いです
ありがとうございました
306Classical名無しさん:04/10/21 19:05 ID:HiXSKH6s
>>305
乙ー。

少し気になったんだが、美琴って八雲のこと「妹さん」じゃなくて「塚本の妹」と呼んでなかったっけ?
307Classical名無しさん:04/10/21 19:35 ID:nmklxwV6
八雲本人に対しては「妹さん」
天満達と話している時、八雲の話が出たなら「塚本の妹」

かな…

やっぱ美琴は「八雲」って呼び捨てにしてホスイ
308Classical名無しさん:04/10/21 20:59 ID:JsKJtUsQ
>>305
GJ!
綺麗にまとまってて良い感じだと思います。面白かった。
次の投下お待ちしています。
309Classical名無しさん:04/10/21 21:03 ID:MrpviSfk
>「お、妹さんじゃねーか」
播磨のセリフかと思ったわ。

でもGJ!
310Still:04/10/21 21:16 ID:zWwtq/Ew
「ふぁ……」
 気の抜けた声とともにゆっくりと身体を起こしたのは、現在この場所――保健室の主である姉ヶ崎。
何かと理由をつけてやってくる男子生徒の姿も今日はなく、一人午睡を満喫していた、といった様子
である。
 部屋の中はしんとした静寂が支配して、彼女の背後では間仕切りのカーテンが風に揺れている。
そして、その布越しにさえ辺りを金色に染める黄昏の光が射し込んできている。
「あれ、もう夕方なんだ」
 片手で髪の先をもてあそびながらぽつりと呟く。
 いつも傍に誰かの温もりを感じていたい――そんな想いから、いつからか自然と身についてしまった
独り言の癖。返ってくるはずもない返事を、それでもほんのわずか期待している。そんな自分にわずかに
自嘲気味の笑みがもれた、そのとき。
「――起こしてしまったようね」
 予期していなかったその返事に、え、と思わず声が出る。
「またの機会にしようかと思っていたけれど、ちょうどよかったのかしら」
 独白めいた、そんな台詞を聞きながら、ゆっくりと引いたカーテンの向こう側。そこに、夕陽に照らされ
ながら窓際に立つ、一人の少女の姿があった。


「こんにちは」
 彼女に対する姉ヶ崎の第一声はそれだった。
 この状況にあまり似つかわしいとは思えないその言葉に、けれど少女はその表情を崩さない。代わりに、
何も訊かないのかしら、とそれだけを口にする。
「訊く、って、例えば?」
「どこから来たのか、誰なのか……別に何でもいいわ」
 あくまでとぼけたような姉ヶ崎の言葉に、まるで答えるつもりはない、といった口調で応えてみせる少女。
よくよく見れば、わずかに肩をすくめてさえいる。
311Still:04/10/21 21:17 ID:zWwtq/Ew
「うーん、だって訊いても答えてくれそうに見えなかったし。それに……」
 ホントはこんなこと言っちゃいけないんだろうけど、そう前置きしてから。
「――あなた、普通の子じゃないよね」
 疑問ではなく断定の言葉。投げかけられたそれにも、やはり少女はゆらぐことなく、そう、とただ一言
返事を返す。肯定か否かはともかく、少なくとも否定ではないその言葉に、姉ヶ崎はわずかに満足そうな
微笑みを浮かべる。
 開け放たれた窓から秋風が吹き、二人の長い髪がそれぞれに風に舞う。
 一瞬の静寂。
「あなたに訊きたいことがあるの」
 そして、少女が口を開く。それまではただ光を吸い込むだけに見えた漆黒の瞳が、その奥にわずかに光を宿す。
「どうして人を好きなるのかしら」
 問はただそれだけ。少女はそれ以上何も言わず、その素振りも見せない。
 けれど。
 その瞳は、知っている、と。そう語っていた。
 過ごしてきた過去を、忘れることのない思い出を、消えるのことのない傷痕を。
 その上で、問うていた。
 ――何故、人を好きになるのかと。 
「――――――」
 そんな鋭いナイフの切っ先にも似た問を受け、普段はどこかとぼけた風を装っている姉ヶ崎の瞳も、少女同様
真剣な光を宿らせる……が、それはほんの刹那の間に消え失せる。後に残ったのは、悪戯好きのような人懐っこい
色のいつもの彼女の瞳。
「んー……」
 いろいろなんだけどね、そう言って頬に手を当てて首を傾げる。
「いいことばっかりじゃないのは分かってるけど」
 でもね、と。微笑む姉ヶ崎。
「それでも好きになっちゃうんだから仕方ない――かな」
312Still:04/10/21 21:17 ID:zWwtq/Ew
 理由も何もない、答になっていないような答。
 けれど、微笑んだ彼女の表情、それこそが自信を持ってその答を示していた。

『例えどんなことがあったとしても、人が誰かを好きになるのは決して間違ったことじゃない』

 理屈はまるで通らない、しかしそれ故に力強い響きを持った答。
 対する少女は、そう、と短く返事。
「そういうもの、なのね」
「そういうもの、じゃないかな」
 なかなかうまくいかないんだけどね、そう付け加えるようにして、バツが悪いようにふふ、と笑う。
 そこに。
「――大丈夫よ」
「ん?」
 唐突にそう言った少女に、きょとんとする姉ヶ崎。それを気にした風もなく、淡々と少女は続ける。
「あなたはきっと将来幸せになる。だから大丈夫」
「えっと……どうしてかな」
 その問に。
「なんとなく、よ」
 真顔で返される返事。思わず姉ヶ崎は吹き出してしまって――そして同時、ほんの少しだけ目の端に涙が浮かんだ。
どういうわけか、ぶっきらぼうなその言葉がひどく優しいものに思えたから。
「ありがと」
 ひとしきり笑い終えた彼女のそんな言葉にも、そろそろ行くわ、と素っ気なく口にする彼女。けれど、それが少女
なりの照れ隠しであることを見抜いているのかいないのか、そっか、と返す姉ヶ崎の表情に不満は見えない。
「それじゃ、ばいばい」
 小さく手を振る姉ヶ崎には答えず、そのまま背を向ける少女。その瞬間、一際強い風が吹き込んできて、ばたばたと
部屋のカーテンを揺らし――
「――ありがとう」
 その向こう、微かにそんな言葉を聞いたような気がして、姉ヶ崎の意識はふっと闇に落ちた。
313Still:04/10/21 21:20 ID:zWwtq/Ew



「ん……」
 チュンチュン、という小鳥の囀りで目を覚ます。
「……あれ?」
 自室のベッドで身を起こしたことに、何故か違和感を感じて辺りを見回す姉ヶ崎。しかし、取り立てておかしなところ
もなく、覚えた違和感も次第に薄れていく。
「まあいっか」
 誰にともなく呟いてから立ち上がったところで、不思議と寝覚めがいいことに気がつく――が、これもたまにはそんな
こともあるか、と深く考えずに部屋のカーテンを開け放つ。
 シャー、というレールの滑る音に続いて、穏やかな陽射しが舞い込んでくる。
「よし、今日もがんばろうかな」
 勢いでそのまま開けた窓、そこから流れ込んでくる冷たい朝の空気を胸一杯に吸い込む。
 その視線が見上げた先、遙か遠くにある空は突き抜けるような快晴。
 今日も良い一日になりそうだ――


――――――So, still I fall in love with someone, some day.
314Classical名無しさん:04/10/21 23:56 ID:rTnNdUtA
手馴れてるし、素直に上手いと思う。

でも、風景画に対して「写真みたいで凄いですね」というのが褒め言葉なのかどうか一瞬迷うのと
同じような感じで、このSSに対して手馴れてて上手いと言うことが褒めてることになるのかどうか微
妙なような感じがしないでもない。かも。
315Classical名無しさん:04/10/22 00:43 ID:xL/4oe5k
俺も>>314氏と全く同じような感想です。
確かに凄く上手いと思います。描写とかは本当に凄い。
けど上手いだけ、というか何というか…。上手いからこそもったいない気ガス。

>>314
良い例えだなぁとオモタ。
316Classical名無しさん:04/10/22 00:51 ID:BINYq/Xo
ちょっとした日常の一コマ。
だから山のないし、オチもない。
手馴れた文章で、もちろんGJではあるけれども、
次回はもっと動きのある物語が見たい。

期待してまっす。
317Carnival:04/10/22 01:26 ID:ulE7D.qU
昨日はスレ汚し申し訳ありませんでした。
改めて>>277-281に続く解決編の投下をさせて頂きます。
諸々の理由で解決編を見たくない方用に
名前欄に“Carnival<解決編>”(<>は全角で投下します)を入れますので、
専用ブラウザをご使用の方はNGネーム等で対処して頂ければ幸いです。
(最初からこうすりゃ良かった……orz)

>>289
さわおかっこいいよさわお
ささやかな自己主張+こんな「ど」マイナーバンドの曲名ならお釈迦様でも気が付くめえ
という矛盾した気分でタイトルつけてました。今の気分はWonderful Sight アゥイエー
318Carnival<解決編>:04/10/22 01:30 ID:ulE7D.qU
「いい?まずこの文字列は何らかの意味を持っている暗号だとします。
 すなわちこれを解くには、何らかの法則を見出す必要があります。
 ここに書かれた文字列

 MAXYBKLMTGGBOXKLTKR 10-17 CC

 の中で、末尾にわざわざ間隔をおいて置かれた『CC』の文字。
 私はこれが解読のための一番目の鍵になると仮定しました。
 では『CC』とは何を指しているのか?ここにいる皆がそれぞれ見解を出し合いましたが、
 私にはいずれも適当とは思えませんでした。そこに、塚本さんの妹さんの友人─えっと、お名前は…」
「サラ・アディエマスです」
「そう、サラさんがこの破り取られたページについての情報を教えてくれたおかげで、
 私にはこの暗号が何であるか見当がついたのです。
 サラさん、このページについてもっと詳細な情報を話してくれないかしら?」
「は、はい。ええと、このページは先ほども言いましたが、
 新約聖書中の『マルコによる福音書』第12章にあたります。
 ちょうどこのページには有名な問答がありますね。え、それも言うんですか?それでは…

========================================
 彼らは言いました『皇帝に税金を納めるべきでしょうか、納めないべきでしょうか』
 イエスは言われました『このコインの肖像は誰か』
 彼らは答えました『カエサルです』
 イエスは言われました『神のものは神に、カエサルのものはカエサルに返しなさい』
========================================

 ここまででいいですか?はい…」
319Carnival<解決編>:04/10/22 01:31 ID:ulE7D.qU
「ありがとう、サラさん。今の問答で出てきたカエサル──これはローマ皇帝をさす代名詞ですが、
 元々は共和制ローマの末期、三頭政治の後に独裁体制を敷き、後の大ローマ帝国の基礎を築いた
 ガイウス・ユリウス・カエサル(英名ジュリアス・シーザー)という人物のことです。
 彼は様々なものを後世に残しましたが、その一つに西洋暗号史の出発となったと言われている
 『シーザー暗号』の発明があります。英語で言えば『Caesar Cipher』となり、
 この文字列の『CC』と一致します。またシーザー暗号はアルファベットから任意の数字の分だけ
 文字をずらすという方法を用いており、この文字列が全てアルファベットであることからも
 これがシーザー暗号によって書かれたものであるとの確信をもった、というわけです」
「で、でも『10-17』は数字だぜ。今日の日付を書く意味はあったのか?」
「いい質問ね、冬木くん。それは確かに日付ではあるけれど、
 実はこの暗号を解く第二の鍵でもあるのよ。さっき私は解読法として
 『任意の数字の分をずらす』って言ったわよね?でも『10』を使っても『17』を使っても
 意味のある文章にはならなかった。シーザー暗号の基本である『3』でもね。
 そこで私は『10-17』という表記に着目してみました。
 ……この数字の間のハイフン、何かに似てると思わない?」
「え〜っと……そうか!マイナスよ!数式を表してるんだわ!」
「結城正解!さてそうなったら『10-17』=『-7』になるわけよね。
 マイナスになってるから、この場合はアルファベットをさかのぼってずらすことになる。
 『A』だったら『T』を表してる、ってワケ。それでこの文字列を解読すると

 THEFIRSTANNIVERSARY

 となる。単語で区切ると

 THE FIRST ANNIVERSARY

 となるわね。つまり『一周年記念』って意味になるわ。……どうかしら?」
320Carnival<解決編>:04/10/22 01:32 ID:ulE7D.qU
「す…すごいよ嵯峨野!お前何者!?」
「嵯峨野にこんな特技があったなんて!ただの推理小説オタクかと思ってたのに…」

ここまで息を呑んで聞いていた皆は感心することしきり。
だが、一人首をかしげていた天満が言った。

「ねえ嵯峨野さん、確かに文字列の意味はわかったけど……
 『一周年記念』ってなんのことなの?」

その言葉を聞き、それまでの嵯峨野の微笑は苦笑に変わった。

「それなのよ、さっき『おおむね』って言った意味は。
 私に限って言えば思い当たるような事は何もなかったわ。みんなはどう?」
「私は特に……一条は?」
「ううん、わからない」
「俺もだな……烏丸と塚本は?あ、やっぱダメ…
 八雲ちゃんもサラちゃんも?あらら、全滅だなこりゃ」
「…………まあいいじゃないの。何の一周年だろうと、
 つまるところ、誰かが一年続けたことを誰かがお祝いしてるってことなんでしょ?
 だったらそれでいいじゃない。おめでたい事なんだから……って私今いいこと言った?」
「フフ、まあ理屈ではあるわね。……それにしても、嵯峨野には
 最初から最後まで美味しいとこもってかれたような気がするわ」
「よおし、綺麗にオチもついた所で練習再開と行きますか!」
「……がんばろう」
「おーっ!!」
321Carnival<解決編>:04/10/22 01:33 ID:ulE7D.qU
彼らは再び楽器を手に取り、にぎやかに楽曲を奏で始めた。
文化祭はもう目前にせまっている。この音楽室と同じように、
教室で、校庭で、体育館で、年に一度のお祭り騒ぎを精一杯楽しもうと準備に勤しむ風景がある。
その苦労は報われる。何倍にもなった喜びとなって返ってくる。
その紙片が誰かさんに宛てた祝福は、そう学校中のみんなに約束したものだったのかも知れない。
一周年おめでとう。本当におめでとう。

(了)
322Carnival<解決編>:04/10/22 01:34 ID:ulE7D.qU
という感じです。いかがでしたでしょうか?
見ておわかりのとおり、分校一周年記念SSとして書き始めたものですが、
諸般の事情により5日も遅れてしまいました。残念無念。

分校関連という内容からすればむしろSS避難所あたりでやるべきだったかも知れませんが、
私はこのスレで生まれ育ったSS書きですので、あえてこちらに投下させて頂きました。
結果として自分のネタに熱中し、空気を読めないまま突っ走ったあげくがこの醜態です。
解決編の死蔵も考えましたが正解を出した方(>>290さんお見事!)がいた事と、
賞味期限ギリギリのネタを捨てきれない未練がここに解決編を投下させて頂く事となりました。
自戒をこめて、今後書き込みを遠慮することにします。申し訳ありませんでした。

また、拙作にレスをくださった方々、某所で誉めてくださった方々、
自分の中のつまらない縛りでレスは返していませんでしたが、
一々全部チェックして、モニタの前で悶えたり喜んだりしていました。
これらのレスが次回作へのどれだけのモチベーションとなったか計り知れません。
この場を借りて御礼申し上げます。どうもありがとうございました。
最後になりましたが、分校管理人様、一周年おめでとうございます。
月並みですがお体に気をつけて頑張ってください。
長文になりましたがそれでは失礼します。。。

以後何事もなかったように

−−−−−−−−−− 再開 −−−−−−−−−−−
323Classical名無しさん:04/10/22 01:39 ID:EJu8lk3Q
こりゃわからんよ
324Classical名無しさん:04/10/22 01:46 ID:1wMfkgh6
AがTを表すならMAXYBKLMTGGBOXKLTKR
の二文字目のAはTになる
よってTHEFIRSTANNIVERSARYには成りえない
問題文作る時の変換が逆じゃあないのか?
325Classical名無しさん:04/10/22 08:31 ID:xQZ1QLL2
「水着相撲と喫茶で水着喫茶ってのはどうだ?」
(天満ちゃんのみじゅぎ・・・)
(播磨の裸・・・)
(D D D)
326Classical名無しさん:04/10/22 11:17 ID:ELNm5n6M
まあ、水着喫茶で賛成する女子はおらんだろな。

そこで、水着男子喫茶に汁。
勿論男子はビキニで。
結構、校外からも腐女子が集まったりして…
327Classical名無しさん:04/10/22 11:53 ID:xQZ1QLL2
「水着相撲と演劇で水着演劇ってのはどうだ?」
(天満ちゃんのみじゅぎ・・・)
(播磨の裸・・・)
(D D D)
328クズリ:04/10/22 14:04 ID:MIkAmlic
 10月20日 三井 雅顕
 10月21日 東郷 雅一
 10月22日 冬木 武一

 誕生日おめでとー。ということで、BDSSを投稿させていただきます。
329Birthday... Masaaki Mitsui:04/10/22 14:06 ID:MIkAmlic
 時計の針が、十二時を回った。
 誕生日、である。今日は、男の誕生日、なのである。
 だが祝ってくれる人とて特になく、彼はPCの前に座り、HPの更新に勤しんでいる。
 最初は一日のアクセス数も二十を越えるか越えないか。ちなみにその内、約九割は自分だったり
した。会社のPCからこっそり覗き、掲示板に書き込みがないのに落胆する。その繰り返し。
 しかし、地味でも長く続けていたことが功を奏したのか、最近はちょくちょくと人も来てくれて
いる。感想を書き込んでくれる人もちらほら。中にはもちろん、耳に痛い意見もあったりしたけれ
ど、何はともあれ活気付いてきたことは嬉しいものだった。
「ふぅ……」
 これまでに書き上げた分をアップして、椅子に座ったままグルグルと肩を回す。
 小説家になりたい、という欲望があるわけではないが、それでも読んでくれる人、続きを待って
くれている人がいるというのは、気持ちがいいものだった。
 ふと思う。これを自分だとは知らせずに、知り合いの人間、例えば談講社の同僚に読ませたら、
どんな反応を示すだろうか。
 想像して、思わず一人、にやける彼。もっとも、実際にはそんなことをする度胸はないのだが。
 そろそろ寝ようか。
 思いながら、ベッドに寝転がると同時に、枕元に置いてあった携帯が震えた。手にとって見ると、
差出人の欄には『シオンちゃん』と出ていた。慌ててメールを開くと、
『ミッキーへ。ちょっと遅くなっちゃったけど、誕生日おめでとー♪今日はお店に来て欲しいな♪
たーっぷりサービスしちゃうから♪』
 時計を見ると、確かに日付は一時間ほど前に変わっていた。
 さすがにこの年になると、誕生日を歓迎する気分にもなれない。とはいえ、気になる女性からの
お祝いのメールをもらうと、やはり嬉しく思うわけで。
 また浮かんでしまう、ニヤニヤ笑い。
 財布の中身を見ると、かなりぎりぎりだが、何とか遊びに行けそうなだけのお金は入っていて。
 必ず行くから、とメールを返して、彼はベッドに潜り込んだ。
 今日は、いい日になりそうだ。
 そんな風に思いながら。

 彼の誕生日は、こうやって過ぎていく。
 日常に埋もれて。だが、ささやかな幸せ。
 それで、彼は十分だった。
330Birthday... Masakazu Tougou:04/10/22 14:07 ID:MIkAmlic
「東郷。スマナイが、放課後、屋上に来てくれないか」
 相棒と目するハリー・マッケンジーに言われて、屋上に来てはみたものの、肝心の彼の姿は見当
たらない。仕方なく、一人、フェンスにもたれかかって空を見上げる。
 広がる雲は、薄い紅に染められていて。
 この街の夕焼けは、やけに目にしみるぜ。心の中で呟いて、東郷は振り返る。己のルーツを。
 幼い頃より、父の仕事の関係で日本を離れ、各国を回ってきた。ロシア、ドイツ、イギリス。そ
れぞれの土地に思い出があり、人との出会いがあった。
 その結果として、今の自分がいる。ふと浮かんだ思いに、東郷は苦笑する。珍しく感傷的になっ
ているのは、今日が彼の誕生日だからかもしれない。
 高校入学と同時に母国へ戻ってきた彼が感じるのは、やはり自分が日本人だということ。
 何が、と問われたとしたら、彼としても困ってしまう。ただ、そう感じてしまうのだ。
 生活の習慣であったり、細かな言葉の使い方であったり、物の考え方であったり。自分が普通の
日本人とは違うことを、時に彼は意識させられる。
 それでも東郷が疎外感を感じずにいられるのは、彼が今、所属している2−Dというクラスのお
陰なのだろう。留学生が多いということもあるかもしれないが、誰もが東郷に対して普通に接して
くる。
 さらには学級委員として、全面の信頼を置いてくれている。
 ありがたいことだ。思って、彼は小さく笑う。
「待たせたナ、東郷」
 やっと現れた金髪の親友は、挨拶もそこそこに、彼を教室へと連れて行く。
「何だ?それなら最初から、教室で……」
 言いながら、東郷が扉を潜り抜けた瞬間。
『ハッピー・バースデー!!』
 鳴り響くクラッカーの音の中、目を丸くする彼の前には、クラスメイト達が並んでいた。ハリー、
ララ、天王寺らの姿も見える。
 祝いの言葉を口々に言ってくる彼らに、さしもの彼も唖然としていたが、
「お前ら……」
「イツモ学級委員で頑張ってるオマエのために、皆でサプライズ・パーティーを企画したんダ。驚
いたカ?」
 ハリーに言われ、無意識に頷いた後、東郷は不敵な笑みを浮かべる。
「フッ……俺はいい仲間に恵まれたものだな」
 彼の、心からの本音。その言葉を皮切りに、パーティーは始まったのだった。
331Birthday... Takeichi Fuyuki:04/10/22 14:10 ID:MIkAmlic
「冬木君、冬木君」
 朝、登校してくると同時に呼びかけられて、彼が振り向くとそこには、2−Cのエロソムリエこ
と、西本願司の姿があった。挨拶もそこそこに、こっそりと紙袋を渡される。
「これは……もしかして、もしかする?」
「そう。冬木君がずっと欲しがってたあれダスよ」
 目と目で通じ合う、参謀とソムリエ。高校入学時からの長い付き合いで、息はぴったりだ。
「ちょっと、冬木君?」
 ニヤニヤしながら、袋を鞄に入れようとした冬木に声をかけてきたのは、
「その手に持ってるもの、何かしら?」
 2−Cの女委員長、大塚舞だった。疑わしげな目で見つめてくる彼女に、
「やー、こ、これは」
 としどろもどろになる彼。ふと気が付くと、西本の姿はもうない。
「見せてもらうわよ」
 言うや否や、冬木の手の中から袋を奪い、さっさとそれを開けてしまった。
「……何、これ?」
「見ての通り。ある戦場カメラマンの映画だよ」
 DVDのパッケージに目を丸くする舞に向けて、冬木は小さく肩をすくめて見せた。
「俺の憧れの人の一生を映画にしたやつ。すげーいいぜ、これ。何回も西本のビデオ屋で借りて見
てんだけど、いっつも泣きそうになるもん」
「ふーん。何か、意外」
「失礼だなぁ、大塚は。で、買おうかどうしようか迷ってたんだけど、西本が親父さんとかけあっ
てくれて、ちょうど在庫整理しようとしてたところだし、誕生日プレゼントにくれる、ってことに
なったんだよ」
「そうだったんだ……ごめんね、疑って」
「うんにゃ。でも、委員長、何だと思ってたんだよ?」
「……!?な、何でもないわよ」
 それじゃあね。顔を真っ赤にして立ち去る彼女の、揺れる三つ編みを見ながら、彼はほっと胸を
撫で下ろす。
 危ない、危ない。中、開かれてたらヤバカッタな。
 思いながら、彼がパッケージを人に見えないように開けると、そこには。
 おそらく舞が予想していた通りのものが入っていた。心の中で、彼は呟く。
 まだまだ甘いな、委員長。
332クズリ:04/10/22 14:12 ID:MIkAmlic
 三日連続かよ……誕生日。

 ということで、一レスで誕生日を祝おうという企画でした。

 書き忘れていましたが。
 プライベート・ファイルを読んでいない方へ。

 三井雅顕とは、播磨の担当編集の彼のことです。そんなキャラにまで誕生日があるとは……
おそるべし。
333風光:04/10/22 14:59 ID:3PkXLTg6
>>305
アニメだと美琴は八雲のことを「八雲ちゃん」って読んでるけどね。
自分のSSではそっちを採用しようかと思ってる。

>>322
難しすぎですよ。聖書とかそっち系知識ないとヒントにすらならないですもの。
もうちょっと分かりやすいヒントを採用した方がいいですよ。
334Classical名無しさん:04/10/22 14:59 ID:x6FqD4yM
               r-vへ,
             ,-ー|⊥|⊥トー、
             LソX X X.E_/
            〈_-| X X X├ `>
             / ゝX_X,イ.T'´   ______
             `ーくTイ F-┘  /
              /⌒|〈⌒ ヽ、 | 333ゲット!
              ⌒〜| |=ニ´、 \_  ____
             ∠⌒_| (__ヽ    |/
         「`_>ー' "´ ̄ ̄``丶、_ _,..-┐
         レ'´   、     -ー-、ヽ   |    __ i i
         /  ,  /\   ト、    ヽ.ヽ  l       /  ┼┼ __
       ム、ィノゝ_/   \|_ \.     |ニ|  ヽ    /\  /     ツ
      _ヲレ--―    ―--- `Y  |ニ|  ,ト、
     く ./             |   ト┼'´ ノ-┐         (´⌒(´;
      ⊂ユ   '┬―--ー、   ⊂⊃ レヘ、ィ八~       (´⌒(´⌒;;
      イ`>、   ゝ    j___/ , ノ--イ丁V. ト 、_  (´⌒(´⌒;;
      '(¨'T| `''ー--`'ーベ、_} ノノレ' ゝ_LL__」---'゙≡≡≡(´⌒;;;≡≡≡
        ̄^`'ー-ー‐''"~ ̄ ̄~`''‐-=ー'¨     (´⌒(´⌒;;

335Classical名無しさん:04/10/22 15:02 ID:x6FqD4yM
      ||
    ∧||∧
   (  ⌒ ヽ ←漏れ
    ∪  ノ
    ∩∪∩
    (・∀・| |←>>333
     |     |
   ⊂∩___∩ノ
    (・∀・| |←>>336
     |     |
   ⊂∩___∩ノ
    (・∀・| |←首謀者は実はクズリ氏
     |     |
   ⊂⊂____ノ
336風光:04/10/22 15:08 ID:3PkXLTg6
追加

>>332
クズリさん、三井編集者とはまたえらくマイナーなキャラの誕生日SSですね。
まっ、冬木はまだ良いと思いますけど。
けど普通に戦場カメラマンの映画や戦場ドキュメンタリーでも良いと思いますけどね。
彼はそっちも本当に好きですし。

にしても舞ちゃんの照れたとこ、萌え。希望を言えば美琴もからませてくれると嬉しかったです。
337Classical名無しさん:04/10/22 17:28 ID:cUby5qNM
>>クズリさん
乙です
誕生日もいきなり増えて大変ですね
編集さんもまさか自分のSS書いてくれる人がいるとは思ってないでしょうなw
338Classical名無しさん:04/10/22 19:47 ID:pupaSHWY
皆乙。

>>335
そのAAはどっかの人気投票の時に見た覚えが……
339Chance at the perfect shot:04/10/22 20:52 ID:6vtKhE/o
 お祭り、というものはその日が来るよりもずっと前から始まっているものだ。もちろん、皆の熱気が
臨界点に達する当日こそが、やはり最高の盛り上がりを見せるのだが、熱気が徐々に高まっていく過程
もその一部だと。そう冬木は思っている。
 故に、彼がシャッターを切る音は、しばらく前から途絶えることはなかった。
 一見おちゃらけているようでその実根は真面目である冬木、自前のバンドの練習をしっかりとこなし
つつも、その精力的な活動は普段通り。例によって例の如く、あからさまにきわどい写真を撮って追い
かけられたりもしていたが、それさえも楽しみのうちだったらしい。取り押さえられるときでさえその
表情から笑顔が消えることはなかった、とはまことしやかな噂である。

 ――さて、そんな喧騒も今は遠く。夕焼けに染まる校舎はひとまず祭に幕を下ろし、打ち上げという
名の第二ラウンドに備えて一時の平穏を取り戻している。
 そんな中、今は使われていない旧校舎のとある一室、学校全体が祭の場と化している中ですっぽりと
抜け落ちた空白地点。その場所で、早速現像を終えた写真を眺めている冬木の姿があった。鼻歌交じり
に繰っている写真の枚数は、没収されたフィルムもあるというのに軽くアルバムが作れてしまうほどの
ものだった。
 後に本人が語ったところによれば、『囮って大事だよね』、だとか。つまるところ、あからさまに
見つかるような撮り方はしない、と言っているのだ。いろいろと奥は深いらしい。
 閑話休題。
 そこに忍び寄る一つの影があった。
 既に相当の年月を歩んできた旧校舎、どれだけ気をつけたところで、どこを歩いても床が軋むことは
避けられないはずだった――だからこそ冬木もこの場所を選んだ――が、どういうわけかその人影は
一切の物音を立てない。教室に入るときすら無音、滑るように移動すると、彼の後頭部に無骨な銃を
突きつける。
340Chance at the perfect shot:04/10/22 20:53 ID:6vtKhE/o
「チェックメイト、かしら」
 そこで初めて口を開く。一方の冬木は、その来訪を予期していたかのように、あーあ、と天を仰いで
から両手を上げる。
「ここならいけると思ったんだけど」
 ゆっくりと振り向いた先には、銃を構えた影――晶の姿があった。
「誰でも思いつく場所が逆に安全、っていうのはダメだったかな」
「冬木君ならそう考えると思っただけ」
 そんな晶のにべもない返事に、溜息一つ。降参だよ、と笑ってから、とりあえず尋ねてみる。
「でもさ、足音までしない、ってのは反則っぽいんだけど、どうやったの?」
「木の床を軋ませずに歩く裏技」
「そりゃ確かに裏技だ」
 吹き出しつつも、もしかすると彼女なら本当に知っているかもしれない、と思う冬木。彼をしても高野
晶は未だに謎の多い人物である。
「じゃ、分かってると思うけど」
「了解、ほら」
 そう言って差し出したのは先程まで眺めていた写真の束。
「でもさ、こんなことしなくても普通に見せてあげてもいいんだけど?」
「それじゃ面白くない」
 でしょう、と問いかけてくる視線に、まあね、と小さく苦笑い。んー、と一伸びをしてから軽い解説を
始める冬木。
「今回は自分でも上出来だと思うよ。二年目だからかな、みんないい顔してる」
 その言葉通り、晶が目を落とした先にあるのは生き生きとした笑顔ばかり。クラスの出し物からそれぞれ
の部活動、加えて校内での何気ない一コマさえ自然な表情と楽しんでいる空気が伝わってくる。
341Chance at the perfect shot:04/10/22 20:53 ID:6vtKhE/o
「普段の表情、っていうのもいいんだけどさ、やっぱりこういうときは違ったよさがあるよ」
 ファインダーのぞくのが楽しくってね、と笑う。
「そうね。それに、あなたはそういうところを見抜く目を持ってる。向いてると思うよ、カメラマン」
 やがて目を通し終わった晶が写真を返しながらそう言った。
「高野さんに言われると光栄だね、ありがとう」
 言ってから、それでさ、と続ける。
「……なんでまた銃を構えてるのかな」
 その言葉通り、写真を返した晶の手には、再び銃が握られている。
「あら、分からないのかしら」
「えーっと、何のこと?」
 一応とぼけて見せたところに。
「――これだけじゃないでしょう?」
 斬りつける、ではなく突き刺すように鋭い言葉。
「……厳しいなあ」
 まあ、ここを見つけられた時点で負けなんだけどさ。そうぼやきつつ机の中から取りだしたのは、また別の
写真とフィルム。その内容はと言えば。
「西本に怒られるかな……」
 つまり、その手の写真である。心底残念そうな表情で差し出す。
「これで全部だよ」
 そのようね、と答えて受け取る晶。
「……で、そろそろしまってほしいんだけど、それ」
 指差した先には相変わらず突きつけられた銃。けれど、晶にそれを下ろす気配は微塵もない。
 その代わり。
「昔からよく言われるんだけど、知らないかしら」
 ――即ち、敵に情けをかけるな。
「うわ、笑えない冗談だね」
「笑えないわね、冗談じゃないし」
 微妙に引きつった笑顔の冬木に淡々と告げて、その指がゆっくりと引金を――
342Chance at the perfect shot:04/10/22 20:53 ID:6vtKhE/o
「……へ?」
 ――引いた瞬間、銃口から飛び出してきたのは、ぽん、という気の抜けるような音。
 そして。
「フェイク……?」
 手品にでも使うような――この場合はまさしくそうなのだが――色鮮やかな花々だった。
 そして、呆気にとられている冬木に追い打ちをかけるように晶の声。
「ハッピーバースデー、おめでとう」
 見れば、珍しく微笑みさえ浮かべた彼女がそこにいた。
「……参ったなあ」
「因果応報」
 要するに、たまにはお灸もすえておこう、ということらしい。こんなひねくれたやり方をするのは彼女の
他にいないだろうが。
「それじゃプレゼント」
 差し出されたのは一枚の写真。
「本当はファインダーをのぞいているところにしようかと思っていたけど――」
 そこに写っていたのは。
「――いい顔だと思わない?」
 バンドの面々とハイタッチをしている彼自身の姿だった。そんな予期せぬ贈り物に、照れくさそうにぽりぽり
と頭をかく冬木。その様子に満足したのか、ようやく銃を下ろして、それじゃ、と晶。
「もうすぐクラスの打ち上げだから、忘れないでね」
「分かってるよ、ちゃんと行くって」
 その返事に頷いて、晶は教室を出て行く。ちなみに足音はやはりない。
「……参ったなあ」
 それを見送ってから、もう一度呟く冬木。
「こりゃ高野さんの誕生日は大変そうだ」
 手元にある写真の中では、そんなこととはお構いなしに最高の笑顔を見せている自分がいる。それをしっかり
目に焼き付けてから、荷物を片付けて立ち上がる。
「それじゃもうひとがんばり、いってみようか」
 誰にともなくそう言って、相棒であるカメラにフィルムを仕込むと颯爽と踏み出した。
 ――その中に、また新しい世界を焼き付けるために。
343Chance at the perfect shot:04/10/22 20:58 ID:6vtKhE/o
シャッターチャンス、というのは和製英語らしく、向こうではこう表現するらしいですが……
馴染みの薄い表現はなんのこっちゃ、という気がします。
そんなわけで、毎度終わりが分かりにくいようなので久々に後書きしつつ、誕生日らしくない誕生日ネタでした。
冬木はこういう役回り「も」出来るような気がします。
あくまで、「も」、なわけで、やっぱり基本はエロ担当っぽいですが、それはそれで。

>>314-316
苦笑いしつつ、でもこのまったり感がやりたいことなのです、と言い訳。
と言うかこの手のヤツしか書けないとかなんとか。
344Classical名無しさん:04/10/22 21:24 ID:3uiW0.qs
>>339-343
GJ!
個人的には冬木好きだなー。
3枚目だけに良い味がw
345Classical名無しさん:04/10/23 01:29 ID:qm3Ns6kQ
縦笛っぽいの投下します。LOVEは無いのであしからず
346Classical名無しさん:04/10/23 01:32 ID:qm3Ns6kQ
「全く……息子一人に押し付けるとは、なんという親だ……」
 何が入っているのかよくわからない、古びたダンボールを両手でしっかりと抱え、石段を一歩
一歩進んでいく。もう秋とはいえ、正午を回ったばかりのこの時間帯は、動けばじっとりと首筋
に汗がにじむ……。神社までは、もう少し。
「私も手伝ってるだろ?」
美琴は、憤慨する花井の少し後から、その背中を笑いながら見上げる。それにつられるように、
木立の葉もざわわ、と風に揺れた。
「むう、そういう問題でもないと思うが……」
納得いかん、という風に苦い顔をするが、不意にその足が止まる。
「ほう……」
「どうした?……へえ……」
何事かと、早足で花井に追いついた美琴も、感嘆の声を上げる。木々の切れた一角から、矢神市
の住宅街、そしてその先には、深みのある青い海の広がりが一望できる。緑の額縁に納められた
その風景を、二人はしばらくぼけっと、眺めていた。緩やかな暖気をふくむ真っ青な空を、ジャ
ンボジェットが悠々と飛んでいく。
「絶景、というやつだな。」
「これはもうけもんだなー。昼飯、ここで食おうぜ」
何やら感慨深げに呟く花井と、うれしそうに顔を輝かせる美琴、しばらくして、どちらからとも
無く再び石段を登り始める。なんとなく、先ほどより足が軽い。
347Classical名無しさん:04/10/23 01:33 ID:qm3Ns6kQ
「ふう……やっと付いた」
鎮守の森に包まれた、結構な広さのある境内の奥に、落ち着いた雰囲気の社が佇んでいる。二人は、社ま
で歩いていくと、どっかりとダンボールを敷石の上に置く。
「ふう、どこにおいておくかな」
一息ついて、額の汗を袖で拭う。
「奥の目立たないところに置いといたほうが良いんじゃないか?結構ここ人くるし」
狛犬を見上げながら、美琴は呟く。花井が、社の奥まで、箱詰めされた祭事用の道具を運んでいる間、美
琴はこの狛犬は笑っているんだろうか、それとも怒っているんだろうか?そんなことを考えながら、境内
をのんびりと歩き回る。
「ふう、終わったぞ、周防」
「お疲れさん、さっ、飯にしようぜ」
そう言って、小ぶりなコンビニ袋を持ち上げると、花井は少しうれしそうに表情を緩めた。
「まったく、地区の倉庫からかなりあったな」
「筋トレ筋トレ」
そんな言葉を境内に残しつつ、先ほどの、絶景ポイントまで戻っていく。
「シャケとオカカどっちにする?」
「どっちでも構わん」
「じゃあ、はいオカカ」
斜面の淵に座り込み、お茶をのどに流し込む。なんでもないペットボトルのお茶も、やけに美味しく感じ
られる。食も進む。二人はあっという間に一つ目のオニギリを平らげた。
348Classical名無しさん:04/10/23 01:35 ID:qm3Ns6kQ
「これだけか?周防」
「うんにゃ、シーマヨがあと一個づつ。」
ガサゴソとコンビ二袋から新たなオニギリを取り出し、花井に渡そうとするが、ポロリ、とオニギリは
二人の手から離れ、斜面を転がり落ちようとする。
「ぬっ!?」
慌てて手を伸ばしたものの、花井のては空を切り、勢い余って、その体を斜面に投げ出してしまう。
「!!」
とっさに美琴が花井の服を掴み、一時的に踏みとどまったものの、双方かなり無理のある姿勢。このま
までは二人とも斜面を転げ落ちるのは時間の問題であろう……。
「花井……何とかなりそうか?」
「……すまん、だめだ……」
「わかった。一二の三で離すから、キッチリ受身とってすべろ」
「ん……一」
「二の」
「三!」
「三!」
美琴が手を離し、花井はいっ回転した後、きれいに受身を取って、滑り降りていく。その様子を美琴は
、息を飲んで見守っていたが、どうやら、木にもぶつからずに、無事降りれた様子。安堵の溜息を吐き
、ゴミを片付けて、花井の落下地点へと降りていく。
349Classical名無しさん:04/10/23 01:36 ID:qm3Ns6kQ
「おーい、怪我無いか……ってしつこいなお前も……」
降りてみれば、花井は元気に草の茂みを掻き分けている。どうやらオニギリを探しているようだ。
「こんな目にあった上に、見つからなかったじゃ、完全に負けだろうが」
「なんの勝負だよ……」
呆れ顔で呟くが、ただ待つのもなんなので、手伝おうと一歩踏み出す。
「しかたねえなぁ………へ?」
ぐに、と足の下にヘンな感触。見下ろせば、そこには無残な死に様を晒すオニギリ……。
「……あはは」
「……帰るか」
はあ、と溜息をつき、花井は、頭に引っかかった葉っぱを払う。
「くそう、擦り傷だらけだ」
「これくらいなんでもないって」
「イタッ、何をするか周防!全く、乱暴なやつめ!それに比べて八雲くんは……」
「あーはいはい、どうせ塚本の妹ほどおしとやかじゃないですよ」
色惚けをジト目で睨みつけながら、石段を下っていく。前にもこんなことがあったような。そして
この先もこんなことがあるんだろうな、そんなことを考えて、美琴は青い空を見上げる。すっ、と
一本の飛行機雲が伸びていた……。
-了-
350Classical名無しさん:04/10/23 01:48 ID:qm3Ns6kQ
長さ的には、SSSってとこですね。縦笛書いてみたんですが、あんまりカップリングとしては
成立していないかも。まあ、当たり前にいる相方との日常を書いてみました。次はもっとLOVE
を前面に押し出してみようかな……
351蕗月:04/10/23 03:34 ID:sfkTfMA2
のうも。久しぶりに旗SSなんぞを書いてみました。
当初の予定では連載だったはずなのですが、内容が内容だけに全話一気にいきます!
ちこーっと長いっす。
では、衝撃の問題作、電・撃・投・下!
352「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 03:35 ID:sfkTfMA2

 ほんの少し前まで俺はクソ生意気な中学生で、どうしようもないバカで、
そして神だった。誰にも俺を縛らせやしねぇ。
 
 俺は、俺だけのモンだ。

 そんな俺を変えた女、塚本天満に恋をしている。

 ――ただ、変わったと思っていたのは自分のコトだけで、俺がしてきた
コト、歩んできた道は何一つ変わってはいなかった。

 憎悪と暴力、怒りと憎しみが渦巻く血に汚れた陽のあたらない道


「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」 

353「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 03:36 ID:sfkTfMA2
1.
「きれいだねぇ〜」
「ホントな。なぁ高野」
「・・・・・・秋は夕暮れ」
「なに? それ。詩?」
 あたりに涼しい風が吹きはじめ、それまで虫達の四重奏だったBGMに
草木のコーラスが入る。空はとても高く透き通り、見上げていると吸い込
まれてしまいそうだ。しかしそれでいて、今夜の主人公、夜空に輝く大き
な月は、手を伸ばせば掴めそうに思う。 
 俺は我知らず手を伸ばした。しかし虚しくも手は空を切る。
 手が届きそうな場所にありながら、いくら手を伸ばしても求めるものは
するりと手のひらから逃げてしまう。
 まるで何かと一緒だな・・・・・・。播磨は自嘲の笑みを浮かべた。
「どうした? 拳児くん。やはり月見などつまらなかったか?」
 突然の絃子の出現に、慌てて手を戻す。
「!? ・・・・・・い、いや。ちょっと酒が回ってきたみてーだ」
 早急に現実に引き戻された俺は、何の気なしに周りを見回す。
 今日は茶道部主催で月見大会が催されていたのだ。参加しているのは、
茶道部を初めとして4人娘、例によって花井、今鳥もいる。まあ、簡単に
言うと、「いつものメンバー」ということになろうか。

(いつものメンバー・・・・・・か)
 思えば、播磨にとって、その「いつものメンバー」に自分が入っている
ことは、少し自分でも意外で、それでも、いつのまにか少し嬉しく感じて
しまっている。
 常に一匹狼で、周りに誰も近寄らせずに過ごしてきた中学時代。それが
原因で、高校に入ってからも同じ。しかし天満と、こいつらと同じ学級に
なってから、それも少しずつ変わりつつあることに、自分でも気づき始め
ているのかもしれない。
354「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 03:37 ID:sfkTfMA2
(おっと。俺がこんなこと考えるなんて、ホントに酔ったか?)

「ふむ、気をつけたまえよ。・・・それとだな、君の飲んでいるものは、
 ビールっぽい水だ。間違えないように」

 へいへいと俺が頷いている間に、絃子は笑いながら去って行った。
 残された俺・・・と、その横に酔いつぶれて眠っている花井と今鳥。
そしてその二人に上着をかける妹さんの姿。
 月見もそろそろ佳境だな・・・・・・

 
 播磨が誰かさんに「はぁ? 原人に情緒なんて理解できるの?」なんて
言われながらも月見に来た目的はやっぱり天満だった。
 始めの頃はそれでもいつも通りなんとかアプローチしようと得意の暴走
を披露したものだ。そして何故か花井に飛び火して、全体に燃え広がって、
まぁ天満ちゃんには近づけなかったけど、それなりに賑やかで楽しかった
ところもある。しかし・・・・・・

 今、播磨の目に映るのは天満ちゃんが烏丸と二人きりで話す姿。

 気づけば周りには誰もいない、皆が天満に協力していたようだ。
 
 播磨が今日空回りしていた理由、
           それは天満が烏丸しかみてなかったから。
355「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 03:38 ID:sfkTfMA2
 風が火照った頬に心地よい。
 燃えるがごとくの赤い紅葉と、黄金の海のようなすすきの群れ。そして
それを照らす月明かり。その中心にいる天満と烏丸。周りの虫達さえあの
二人のために鳴いているように感じられる。まるで1枚の絵だ。
 柔らかな風は2人を包み込んで、播磨の決して届かないところへ運んで
いってしまいそうだった。

 あれ、おかしいな。悔しいはずなのに、悲しいはずなのに・・・!
 俺はみとれてしまった、その光景に。
 なぜなら、天満が本当に嬉しそうな顔で笑うのだ。何を話しているのか
は聞こえないが、顔を真っ赤にしながらも、時々はにかんだように笑う。
 見てるこっちが幸せになるくらいの、無邪気な笑顔だった。

「・・・・・・きれいだ」
「そうね」

 振り向くとお嬢が立っていた。
「・・・・・・だな」
 視線を戻しながら答える。
 また風が吹いた。

「隣、いいかしら?」
 いい終わる前に播磨の隣に腰を落とした愛理。
 二人はそのまま何も言わずに、天満達が去るまで一緒に時を過ごした。

 清らかな空気のもとで、それでも秋の夜は更けていく。
 
356「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 03:39 ID:sfkTfMA2
2.
 どんなことがあろうと時は進んでいて、明日はくるわけで。
 それから何日かして。今日も学校がようやく終わった。その独特の開放
感があふれる喧騒の中で

「烏丸くぅ〜ん! 一緒に・・・・・・帰らない?」

 今日も烏丸を誘う天満ちゃんの声が聞こえる。
 くう、毎度ながらその恥じらう姿は可愛いゼ天満ちゃん・・・・・・!
 ――あの月見から俺の心で何かが変わった。おっと! まだ俺は諦めた
訳じゃないぞ! ただ、天満ちゃんは烏丸が好き、けどだからといって、
彼女が俺の心の中のエンジェルだってことに変わりはないことに気づいた
だけなのだ。
 天満ちゃんが俺に振り向いてくれないのは悲しいけど、天満ちゃんの笑
顔が見られなくなる方がもっと悲しいんだ。
 これもある種の現実逃避だということも分かってる。でも、天満ちゃん
は誰と付き合っていようが天満ちゃんなんだよ!

「ふっ、俺って健気だぜ」
 ・・・・・・なんて馬鹿やってる場合か。帰ろ帰ろ。
(バフッ)「!?」
 なんだ? 後頭部に黒板消しがぶつかってきた・・・・・・

「どこに行こうとしてるのよ? はいコレ」
 と言って俺にほうきを手渡す(投げ渡す)お嬢。

「これは?」
「見て分からないの? サスガ原人ね。あのね? これはほうきと言って、
 こうやって柄の部分をもって床をこうやって掃いて、ゴミを集める道具
 なのよ?」
357「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 03:40 ID:sfkTfMA2

 と、笑顔全開で言って俺の足下を掃いている。
「何してる?」
「掃除よ。でもこれはちょっと大きすぎてほうきじゃ無理ね・・・・・・」

 教室内から苦笑、笑いが起きはじめる。それは二人のやりとりが、決し
て険悪なものではなく、微笑ましいことであることを証明していた。
 ・・・・・・誰もそれを言わないが。

 カチン。
 やっちまったなお嬢、俺の心に火をつけちまった(ある意味で)。

「へぇ? でも原人でも別の使い方なら知ってるぜ?
 原始的なのをよう」
 と言って、ほうきを振り上げてみせた。

「あら、自分で原人だって認めるの? それにすぐに手を上げようとする
 なんて、本当に猿以下ね。最低」
 凄んで見せたが、あえなく撃沈。
 
「ぐ、ぬぅ。・・・・・・わーったよ! 今日は掃除当番なんだな!?」
「そ。じゃーとりあえずその黒板消しの跡、綺麗に消してね」
 はぁ!? これはお前が・・・・・・!
 と、思ったがやめた。これ以上屈辱を重ねたくない。

「じゃ、水汲んできて。おじーちゃん?」
 教室を出ようとしてる俺にお嬢がそう声を掛ける。また、どっと教室に
笑いが起こった。
358「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 03:42 ID:sfkTfMA2

 水飲み場まで来た俺は、お嬢の言葉と、廊下ですれ違いざまに笑われる
意味を理解した。ふと鏡を見ると、なんと髪の毛が黒板消しの粉で真っ白
になっている。
 ちくしょーっ! 髪を洗う水にも増して冷たい、冷たすぎる! これは
本当に旗SSなのか!? こんちくしょーっ! 

 トイレに、聞こえないはずの播磨の遠吠えが木霊した。

 
 それまでにあった播磨と一般生徒との間にあった誤解、先入観といった
ものは、徐々に取り払われつつあった。まあ、女性徒に体よくあしらわれ
ているのだから、それまでのイメージは崩れるも当然なのだが。
 それまで怖くて避けていた生徒も、自然と挨拶してくるようになったし、
播磨もそういう人に気を使って、サングラスをはずして挨拶を返していた。
 ・・・・・・それがまずかった(?)。人間というのは、すごくいい人だ
と思っていた人がちょっと悪いことをすると、その人にとても悪い印象を
持つもので(黒サラがいい例)、逆もまたしかり。
 計らずも播磨は、純情な少女達に、
 怖い人→友達から「実はいい人だよ」→勇気を出して挨拶してみよう→
→「こ、こんにちは」「あ、ども」→え?実は優しい人?→素顔を見る→
→え?素顔は結構かっこいいかも→
 ・・・・・・という路線を歩ませることになったのだ。
 ここに「播磨ファンクラブ」が秘かに結成されていた。
359「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 03:43 ID:sfkTfMA2
3.
 帰り道、メールで呼び出された播磨は街に出るためバイクにまたがる。
その道のりの中で、確かに自分に居場所があったことを実感していた。
 いつも一人だった中学とは大違いだ。
 うちのクラスの連中は、気楽なヤツばっかりで俺が恐れられていた不良
だなんて忘れてやがるに違いねえ。
 
 俺は、最近天満ちゃん以外の理由で、学校が楽しくなってきている。
 そして、そうなる1番の原因になったヤツが――

「遅かったじゃない」
 
 そこで待っていた。

「3分遅刻。今日はおごりね」
「うるせぇ、誰がおごるかよ」
「この3分でどれだけのことができたと思ってるの? 
 私の時間は貴重なの」

 言いながら俺の腕を引いてお嬢は歩き出す。――やれやれ。


「でさぁ、あの時のヒゲときたら・・・・・・」
「ち、うるせぇなぁ」
「もう、最高〜〜! でね、その時美琴がね・・・・・・」

 こいつは、今もこうやってカフェで休んでいる間も俺のネタを使って馬
鹿笑いしてやがる。買い物に付き合ってくれっていうからなんだと思えば、
新しいオウムの餌を選ぶのを手伝え? 俺に、テメェの、オウムの、何が、
分かるん、だ・よ!
360「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 03:44 ID:sfkTfMA2
 口パクで伝えてみたが効果がなかったようだ。相変わらず俺の話に夢中
になっている。
 
「ねぇ! ちょっと聞いてる?」
「あー! 聞いてるよ! オウムが逃げ出して中村の秘蔵コレクションの
 隠し場所をしゃべりまわった上秘密の暗号を叫んで隠し部屋にあった家
 の財宝がでてきたってんだろ!?」
 どーだ、思いつく限りまくしたててやったぞ。

「あら、ちゃんと聞いてるじゃない」
「マジか!?」
「冗談よ。聞いてなかったのね? もー、ほんと嫌になるわね」

 じゃあ俺を誘うな。
 今回ばかりじゃない。先週は新しくできた遊園地の視察、その前は都内
のデパートが見たいとか言い出して案内してやった。その前は、何だっけ。
しかしわざわざ遠いところばかり指定してくる。行くほうの身にも・・・・・・
 ん?

「どうしたの?」
「いや、そういえばなんでこんなに遠くに来たんだ? ペットショップな
 ら近くにでもあるだろ?」
「え・・・・・・?」
 急にお嬢がよそよそしくなり、目が泳ぎはじめた。

「こ、ここがよかったのよ」
「そーか? 近場にもっと品揃えのいいところあっただろ? ってゆーか
 そもそもお嬢が買いに行くのがおかしいぞ?」

 まだ他にもおかしい事はたくさんある。
361「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 03:45 ID:sfkTfMA2
「私も近場ですますことができるならそのほうがいいわよ」
「じゃあ何で・・・・・・? その方が楽に決まってる」

 お嬢がどこか寂しそうに、しかしはっきりと答えた。
「あんたのためよ」
「はぁ?」
「あんたまだ学校では天満の妹と付き合ってることになってるのよ? 
 それなのにあたしと二人で遊んでる、みたいに見られたら、どう解釈
 されると思ってんの?」
 
 意外だった。播磨にとっては、まさか来るはずのない話の方向だった。
そりゃあ、悪いイメージを持たれるにきまっている。二股野郎とか、もし
くわ妹さんは遊ばれているという噂がたってもおかしくない。この3人は、
それだけの話題性は十分にもっているのだ。

「そ、そうだな」

 俺はそれだけ言うのが精一杯だった。・・・・・・ってちょっと待て。
 今までにも何度か疑問に思わなかったことじゃないが、じゃあなんでお
嬢は俺に構うんだよ。んな面倒なこと考えてまで。

「なあ、じゃあなんで――」
「あっ! そうだ、へっへーん。ずっと気になってたのよね〜? その
 カバンに挿してある封筒! 見せなさい!」

 言うが早いがお嬢は、今日帰る時に下駄箱の中に入っていた、何通かの
手紙を取り上げてみせた。
362「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 03:46 ID:sfkTfMA2
「わっ! バカ、やめろ!」
「えぇっ! ラブレター? 果たし状の間違いじゃないの?」
「・・・・・・ケンカ売ってんだな? いいぞ、今なら高価買取中だ!」

 
 二人で騒ぐこと10分、店を追い出されたのは言うまでもない。

 
 そして今日の別れ際。いつものように愛車でお嬢を送っている途中、お嬢
が聞いてきた。

「・・・・・・あんた、割と素顔はいい男らしーわね」
 棒読み風なところに少し頭にきたが、まぁいいだろ。

「後輩の娘が言ってた。あんた、猫かぶってるのね〜。実態を知ったらどう
 思うでしょうね?」
 そう言ってクスクスと笑う。
 播磨から表情は伺い知れぬが、バイクの横を流星のごとく駆け抜ける電灯
や車のヘッドライトの光に照らされて、少女の笑顔は、一緒に星を見に行っ
た夜のそれと同じであろうことが思われた。
 
「・・・・・・なんで、私には見せてくれないのよ?」

 言われて初めてその事実に気づいた。そういえばそうだったかな?

「なんてね、実は見てるんだぁ。寝てるときだけど」
 ぐっ・・・! ここは夜の国道だ。運転に集中しなければ。しかも2ケツ
にノーヘルだし、「ねずみとり」にもチェックしつつ運転しなければ。
363「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 03:50 ID:sfkTfMA2
「フフッ、寝顔はかわいいのにねぇ〜。起きたら・・・・・・ねぇ?」
 ねぇってなんだよ? 何か文句あんのか。

 
 播磨のバイクは次々と他の車の群れを追い越していく。
 路上に静止しているかのごとく見える車と車の間をぬって走っていると、
まるで自分達以外の時間が止まってしまっているみたいに感じる。二人の会
話は、同じスピードで進んでいる二人だけにしか聞こえ得ることができず、
そして誰も、今二人が感じている世界に踏み入ることはかなわない。
 
 スピードを上げる。
 大気が二人を引き剥がそうと牙を向ける。
 負けてたまるか。愛理はそうつぶやくと、播磨にしがみつく腕にさらに力
を込めた。
 聞こえるのは風の音だけ。感じるのは、互いの存在だけ。
 時が過ぎていく。


 そうこうしてるうちにお嬢がここでいいと言ってバイクを降りた。
「ホントにここでいいのか?」
 お嬢はええ、と答えると何故か改めて俺を見た

「なんだよ」
「いや、こんな奴にラブレター出す娘がいるんだーってね」

「ち、言ってろ」
364「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 03:54 ID:sfkTfMA2

 じゃあな、と言ってから彼はバイクを出した。
 ここから先は同級生がいるかもしれない。私は中村に連絡するため携帯を
取り出した。そしてコール音が始まったと同時に彼の後ろ姿が闇に消える。

「それは私も同じ・・・・・・か」
 私は誰にともなくつぶやいた。
 


 播磨は愛理に振り回されながらも、それが嫌ではなかった。なぜなら播磨
が最近学校に溶け込めてきた一番の理由、それは考えるまでもなく、愛理が
何かにつけて播磨にかまうようになってからだったから。
 月見から数週間、二人の関係は、想いを伝え合うことなく、ただ既成事実
だけが着々と作られてきていた。
 
 自分の隣にお嬢がいる。
 それが今の播磨にとって「普通」の事になりつつあった。
 
365「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 03:56 ID:sfkTfMA2
4.
 問題は山積みだ。俺には時間もなければ、この状況を打破する技能もない。
ああ、人間は無力だ。

「なあ、俺は敷かれたレールの上なんざ通りたかねぇんだよ」
「そう?」
「こう、普通にだなあ。大自然と戯れたいわけ」
「たまには重力と戯れなさい?」
「あのだなぁ、こうゆうのわああぁぁぁあぁぁあぁあぁ!?」
「キャアアアアアアアアア♪」

 まいった。降参だ。あー、テメェはすげぇよ。この播磨拳児をここまで追
い詰めるなんざ、そうはいねぇ。だがそれも空の上の話だ。おら、陸に降り
てこいや。今度はこっちのフィールドで勝負だコラァ!

「何ジェットコースター睨んでファイティングポーズとってるのよ。バカ」
「うるせー」

 本日も晴天なり。見事な秋晴れに見舞われました。
 そして本日もお嬢に呼び出され、動物園にやってきていた。どうもここは
遊園地も兼ねているらしい。広い園内には人が溢れ、トカゲにも鶏にも見え
るマスコットキャラが子供達に夢、もとい中身は空っぽの風船を義務的に配
っている。

「野暮なこと言ってんじゃないわよ」
 俺の心の中を読むな。これは地の文といって、俺の心情や周りの様子を描
写する文なんだぞ。
366「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 03:56 ID:sfkTfMA2
 しかし、動物園と遊園地を一緒にするなんざ、俺はあまり好きになれない。
なんでもかんでも一緒にすればいいってもんじゃないだろ。お前らは食い物
頼むときにステーキセットとハンバーグを一緒に注文するのか?

「ステーキ&ハンバーグなんてのはあるわね」
「あのなぁ、そう言おうとして俺は深いため息をついた」
「バーカ」
 お嬢が笑う。声を上げてさもおかしそうに。つられてこちらも笑い出して
しまいそうなほど楽しく笑うのだ。
 まあ、たまにはこういうのもいいか。

 朝一番で乗ったジェットコースターの後は、二人で園内を見て回る。
 今日も空が高い。先程まで途切れる事無く続いていた子供達の笑い声も、
この動物園の方では遠く聞こえる。
 最近のガキ共は、動物園より遊園地の方がいいってのか。嘆かわしい事だ。
動物達はこんなにの純真で、素直に俺達に接してくれると言うのに。
「ねぇ、聞いてる?」
 ・・・・・・こいつとは大違いだ。
「――すみませーん。ここにゴリラが脱走してるんですけどー」
「おいっ!」
 本当に係員の人に声掛けやがった。
「さぁ、早く次行きましょうよ。ほら、あれ面白そう!」
「テメェの回るのが速いんだよ。もっとゆっくり見ろ」
「ほらぁ!」
 そう言って腕を引っ張る。――もう好きにしてくれ。
367「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 03:57 ID:sfkTfMA2

 一緒に昼食を食べ、そしてまた一回りする。
 カフェで休憩してるときにふと播磨は聞いてみた。

「なあ、どうして俺を連れてきたんだ?」
「虫除け」
 間髪いれずに、そしてきっぱりと愛理は言い放った。

「はぁ?」
「だから、あんたが隣にいたらナンパされなくてすむでしょう?」
 そう言って席を立つ。
「てめぇ」
 アハハと笑いながら店を出て行く少女を、播磨は急いで追いかけていった。


 1日でまわるのも大変な園内を3週もすれば、それは日も暮れるだろう。
そしてここにも、暮れた感のある男が一人。
 
「お嬢、もう疲れた」
「何言ってんの! と、言いたいとこだけど、流石に疲れたわね」

 二人は、ナイトパレード会場が見えるベンチに座った。
「へぇ、こっからでも見えるんだな、パレード」
「でしょ。この動物園側の丘の上が穴場なのよね」

 人はそれなりに集まっていたが、それでもすし詰めのようにしないと見れ
ない本会場よりは大分ましだろう。なによりそんなにして見るほどの体力は
もうすでに播磨には残されていなかった。
 このお嬢に連れ回されたおかげでな。
368「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 04:00 ID:sfkTfMA2
 心中でそう悪態をついて見せるが、体に感じるのはどこか心地よい疲労感。
 今日は俺もめずらしい動物達が見れたし、お嬢も楽しそうだった。それで
いいじゃないか。

 ふとお嬢を見る。お嬢の顔は、打ちあがる花火の色が反射して、赤や黄、
青など様々に様変わりしていた。それにならって、今日のお嬢の表情が次々
と連想される。
 俺をからかって笑う顔、責めるように上目遣いで睨む顔、妹さんの名を出
して何故か不機嫌になった顔、挑発的な目で笑う顔、めずらしい動物に大き
な目を丸くして見入っている顔・・・・・・etc
 そして今の、どこか寂しげでも真剣にパレードを見ている、吸い込まれそ
うな瞳をしている顔。
 日本人離れした、あまりに白く、整った顔立ち。それは精巧にできた作り
物のようで、今にも神仏かなんかに連れていかれてしまいそうで、

 ふれたら今にも壊れてしまいそうだ。

「・・・・・・なに?」
 気づいたら俺の指はお嬢の頬をふれていた。やわらかい、しかし確かな体
温が指先を通して伝わってくる。
 俺はそれを感じて何故か安心し、あわてて指をどけた。

「あ、いや・・・・・・。今日は、楽しかったなと、思ってよ」
 めずらしく気の利いたことを言えた! と、俺は、思った。

「この私が一緒にいるのよ。当然でしょ。っていうか光栄に思いなさい」

 前言撤回だ。こいつは壊しても多分壊れねえや。むしろ破壊不可能?
369「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 04:03 ID:sfkTfMA2
 
「俺、ちょっとトイレにいってくるわ」
 そう告げて立ち上がる。あ、そう? じゃあここで待ってるわと答えた
お嬢は、どこか寒そうで。
 俺は着ている上着をお嬢の肩にかけた。

「ありがと」

 おう、と後ろを振り向いたとき
「あ、ヒゲ!」
 シャツの裾を掴まれて呼び止められた。

「・・・・・・なんだよ?」
「あ、いや、その。け、携帯、ポケットに入ってた」

「おう、サンキュ」

 そして俺はその場を離れた。離れてしまった。

370「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 04:07 ID:sfkTfMA2
5.
 流石にこの時期になってくるとと日が沈むと冷え込み始める。用を足し
て戻る途中、うまそうに中華まんを頬張る子供とすれ違った。湯気を立て
るものに顔を真っ赤にして息を吹きかけながら食べている。
 
 温かいコーヒーでも買ってってやるか。
 そう思い立った俺は急いで今来た道を引き返す。

 どうやらパレードはクライマックスに近づいてきたようだ。
 急がなければ。大事なとこを見逃したら、お嬢にまた何を言われるか分
かったもんじゃない。あの生意気な笑顔が俺の脳裏に浮かぶ。

「クソ、これ以上調子に乗らせてたまるか!」

 歩きを早める。と、子供にぶつかってしまった。
 子供は転び、泣き始める。

 俺は焦る気持ちを抑え、必死に子供をあやす。
 苦戦する。
 少したつと、母親らしき人が現れた。事情を説明し、頭を下げる。
 ちょっと俺の外見に警戒していたようだが、なんとか分かってくれた。
 
 先を急ぐ。
 
 ち、なんだってこんなに人が多いんだ。
 人を掻き分け進む。早歩きは自然と駆け足になり、焦りは大きくなる。
 息が上がる。
 動悸も激しくなってきた。
 
 この頃運動不足だったことを実感した。少し朝にでも走るか?
371「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 04:10 ID:sfkTfMA2
 よし、もう少しだ。ここを上れば・・・・・・!

「お嬢!」

 声を掛ける。しかしそこにお嬢はいなかった。

「ハァ、ハァ・・・・・・。・・・・・・?」
 辺りを見回す。だがお嬢の姿はなく、ベンチの上にはお嬢に貸したはず
の俺の上着だけが残されている。

「なんだってんた?」
 息を整えつつ、俺は持っていた缶コーヒーをベンチに置き、携帯を取り
出す。
 メールがきていた。お嬢からだ。

 題名はなく、ただ本文に「トイレに行ってくる」とだけある。
 なんだよ、テメーも便所か。
 今まで必死に急いで戻って来たことが馬鹿馬鹿しく思えてきた。

「電話でもすりゃあいいのによ」
 相変わらず自分勝手な奴だぜ。

 ベンチに腰を下ろす。少し遠くに見えるステージ上では、どうやらお姫
様がさらわれたところらしい。王子がオーバーなリアクションで悲しみを
表現している。
 しょうがねぇ、待つか・・・・・・

372「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 04:11 ID:sfkTfMA2

 ――と、思ってからどれくらいの時間が過ぎたのだろう?
 ステージ上では王子が見事お姫様を救い出し、グランドフィナーレを迎
えている。めでたしめでたしなことだ。手元にある2本のコーヒーはすっ
かり冷めてしまった。
 しかしお嬢は現れない。先ほどから何度も迎えに行こうかと思ってはい
たが、俺がここを離れた瞬間にお嬢が来て、すれ違いになるかもしれない
と考えてしまい、離れられずにいた。
 なぜか携帯はつながらない。電源が入っていないようだ。

「あーぁ、パレード終わっちまったじゃねぇか」

 見事にハッピーエンド。周りの人々はその余韻を残しつつ帰途に着き始
めた。一人、また一人この場から去っていく。
 しかしその合間からも、お嬢の姿を見つけることはできなかった。

 ――先に帰ったのだろうか? ありうる。あいつには帰る足があるには
あるはずだ。しかし、お嬢の携帯はいぜん電源が入っていない。携帯から
それを告げる音声を聞くのはもう飽きていた。

「ったく、覚えてやがれ! 見つけたら思いっきり文句いってやる!」
 
 席を立つ。
 走る。走る。胸のあたりがざわざわする。
 根拠のない不安が俺を襲う。
373「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 04:15 ID:sfkTfMA2
 どうせそのへんで珍しいものでも見つけて見入ってるんだろ?
 どうせ俺が息を切らして現れても、あんた何やってんの? なんてとぼ
けた台詞を吐くんだろうよ。
 どうせそんなとこだろう。 そうだよな?

 辺りには、「今日1日幸せでした」って顔に書いてる人々が帰り道を急
いでいる。 寄り添いあう恋人。遊びつかれて親におぶされて眠る子供。

 お嬢と離れてから小1時間ってところだが、いかんせん閉園時間も近い。
呼び出してもらおうとも思ったが、案内センターの前には列が出来ていた。

 焦りばかりが大きくなる。
 もしかしたらと思ってベンチに戻ってきてみるが、やはり姿はない。

 汗で背中に張り付いた下着が気持ち悪い。頬を伝う汗をぬぐい、また走
りだす。

 まさかとは思ったがトイレもさがしてみる。
 この際変態扱いされてもいい、女子トイレにも入ってやる。
 
 やはりいない。
 ここじゃないトイレに行ったとしたら。次に一番近いのは、動物園の裏
手に作られていた、人気のない市立公園の敷地内のトイレだ。

 そういえば昼間お嬢が言っていた。この公園なら星がよく見えそうねと。
もしかしたら、用を足してからそのまま星でも眺めているのかもしれない。
 最後の望みをかけ、俺は走り出した。
374「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 04:16 ID:sfkTfMA2
 昼間二人で見つけた裏道を通り、金網をくぐりぬけ、公園内に入る。
 駐車場に出たときだ。辺りにすさまじい爆音が発生し、無数の光が踊り
だした。
 思わず飛び跳ねる。周りの木々からも鳥が羽ばたき、奇怪な声をあげた。
 
 この腹の底に響く音は、バイクだ。と思った瞬間。無数に連なるヘッド
ライトの光の渦は、耳をつんざくような爆音と乗り手の奇声とともに俺の
横を瞬く間に過ぎ去っていった。
 後に残るのは静けさのみ。

「ち、馬鹿どもが」

 すれ違い様に中指を立てられたが、まあ俺の見た目のせいだろう。
 それに・・・・・・気のせいだろうか、見た顔があったような。

 いや、今はお嬢を探すのが先だ。と、奴らが走り去った駐車場に面する
公衆トイレを見たときだ。

 ドクンッ!!


 心臓が跳ねた。
 
 
 急いで駆け寄る。
 これは、今日お嬢が持っていたバッグだ。
 
 鼓動が早まる。
 不安が現実になっていく。

 急激に頭に血が上っていくのが分かった。
375「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 04:18 ID:sfkTfMA2
「くっ・・・・・・!!」

 と、その時、

「・・・・・・ぅぇ。・・・ひっく・・・・・・」

 ・・・・・・?
 泣き声? 女の泣き声だ。
 小さく弱弱しいが、確かに聞こえてくる。

「・・・・・ぅぅ。・・・・くぅう、ぅぅ・・・・・・」

 
 バクンッッ!!!

 今度こそ心臓が飛び出すほど揺れた。

 バクンッッ!! バクンッッ!! バクンッッ!!  

 心臓の音が耳にうるさい。
 全身のあせが急激に引いていく。
 鈍器で殴られたかのように頭の中が暗くなっていった。

 お嬢・・・・・・?
 喉がカラカラで声にならない。
 口の中が乾ききっていた。
 でない唾を飲み込む。
 空気だけだったが、それでも喉はゴクリとなった。
376「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 04:23 ID:sfkTfMA2

 
 裏手にまわる。

 人影が見える。

 
 そして俺は見つけた。
   お嬢、いや、変わり果てた沢近愛理を。



 俺は忘れていたんだ。俺の歩んできた道を――

  憎悪と暴力、怒りと憎しみが渦巻く血に汚れた陽のあたらない道

―第一部 完―
377「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 04:26 ID:sfkTfMA2
6.
 うまく呼吸ができない――
 
 体中が震えている。
 
「お嬢・・・・・?」
  
 声になったかどうかさえ定かではない。
 激しい耳鳴りが俺の聴覚を遮り、焦点はうまく定まらず、さらに液
体が溢れ出しさらに視界が悪くなってきた。
 
 
お嬢は、衣服をちぎりとられ、うずくまるように小さくなって嗚咽
をもらしていた。
 あちこちに暴行をうけた跡がある。自慢の肌も髪の毛も、痣とドロ
で覆われてみる影もない。
 
 泣きながら震えている。

 
 足が動かない。自分の足じゃないみたいだ。
 前へ、進めない。

 俺は奥歯が砕けるほど歯をかみ締め、足を踏み出した。

 目の奥が熱い。
 胸が張り裂けそうだ。
 握り締めた手は、すでに感覚がない。

 なんとか、なんとかお嬢の傍まで来れた俺は、とりあえず上着を掛
けてやろうとした。
378「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 04:31 ID:sfkTfMA2
 小さい――ちいさすぎる。コレは本当にお嬢なのか?

 うずくまっていたお嬢が、顔を弱弱しく上げる。
 そして俺を見た瞬間――!

「いやああああー!! やめてぇぇぇえーー!!!」

 悲鳴を上げ必死に俺から離れようとする。

「もう、許して・・・・・・・・・もうやめてよぅ・・・」
 
 そして子供のように泣きじゃくり始めた。

 ・・・・・・声もでなかった。
 俺の時間はその一瞬確かに止まった。何も考えられなくなった。

 絶対的な拒絶。

 そして何よりも、俺はお嬢のあんな顔を見たことがない。
 あんな人は知らない。
 
 いつも自信たっぷりで、生意気で、勝気なお嬢の面影は、もうどこ
にもなかった。

 ついさっきまであんなに笑っていたのに?
 あんなに自信に満ちた顔で俺を見下ろしていたのに?
 
 目の前で震えている人は、本当に、お嬢ではない別の人なのではな
いか? 本気でそんな考えが頭をよぎる。
 ・・・・・・現実を、認めることができない。
379Classical名無しさん:04/10/23 04:32 ID:mnu1ENBM
支援?
380「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 04:36 ID:sfkTfMA2

 俺は、何とか頭を働かせ、今最善だと思われる人に連絡を入れた。 
その人が来るまで、俺は泣きじゃくるお嬢に何もしてやることが出来
なかった。――体が、動かなかった。
 夢なら早く覚めてくれ。


 しばらくして

「播磨様!」
 その声を聞いて俺の体は今はじめて動くようにびくんと跳ねる。
 お嬢の執事の中村が到着した。

「すいませんでした!!」
 おれの体は反射的に地面に頭をこすりつけていた。

「すいませんでした!! すいませんでした!!」
 何度も頭を地面にたたきつける。

「俺が! 俺がついていながら!!」
 
 ――そうだ。そのとおりだ! 
 俺がついていながら!! 俺がついていながら!!!  
 俺は何をしていた!? 何をしていたアァッ!!!

 中村は俺とお嬢の様子を一目見て事情を理解したようだ。
「播磨様。お顔をお上げ下さい。少なくとも、私に謝るべき事柄では
 ございません」

 そう言われても頭を上げられるわけがない。
 俺はただ頭を地面に打ち付けることしかできない。
381「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 04:39 ID:sfkTfMA2
「ひとまず、お嬢様のことはお任せ下さい。私の車で運びます」

「お、俺も・・・」
「ダメです」
 中村ははっきりと断った。

「あなた様が今出てきても事態はいっこうに好転しません。今必要な
 ことは休養と時間です。大丈夫。私におまかせを」

 そう言うと中村は、暴れるお嬢を無理やり車に乗せると、播磨に目
を配ることなく。走り去った。
 
 
 一人残された俺は、激しく自分を責めることしかできなかった。
 何故あの時俺はお嬢を一人にした!?
 何故あの時俺はすぐに戻ってやらなかった!?
 何故あの時俺はすぐにお嬢を迎えにいかなかった!? 探してやら
なかったんだよ! 俺がアホヅラかましてパレード見てる間にもお嬢
は・・・! お嬢はアァッ!!
 
 ♪ 〜♪〜〜♪〜  〜♪
「!?」
 あたりに突然携帯の着メロが鳴り響いた。
 俺の携帯だ。だが悪いが今それどころではない。俺は携帯を取り出
し、切ろうとして・・・・・・指が止まった。
 
 画面には「お嬢」と出ている。
 
 そんな馬鹿な。だがぐずぐずしていると切れてしまうかもしれない。
残念ながらこちらから電話を返す自信はない。
382「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 04:38 ID:sfkTfMA2
 
 俺は震える手で通話ボタンを押し、携帯をを耳にあてた。

「はろ〜〜? 元気かな? 播磨拳児くん?」
 ・・・・・・男の声だった。俺の記憶にはない、と思う。

「・・・・・・誰だ」
「誰だ! ・・・さあ?」
 その後に男共の下品な笑い声がした。最低5人以上、もしくはもっ
といるのかもしれない。

「何のようだ」
 極めて冷静さを保ちつつ言う。相手の出方が分からないうちは。
「別に用ってほどでもないんだけど、ちょっと便所に俺らが使い捨て
 たゴミが落ちてたはずなんだが・・・・・・分かる?」

 ブチンッ!
 頭の中で何かが切れるのを感じた。
 全身の毛が逆立つ。
 俺の左腕はその便所の壁を我知らず殴りつけている。こぶしから血
が流れていたが、痛みを感じる余裕は無い。

 怒りで目の前が真っ赤になる。
 殺す。 絶対にぶっ殺す。

「おお、コワ」
 
 声に出ていたようだ。しかし相手は怖がるどころかおどけている。
383「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 04:41 ID:sfkTfMA2
「お前らそこを動くな? 今から俺が押し入って全員殺してやる」
「まずこちらの話を聞いてもらおうか?」
 頭に血が上った俺の勢いは止まらない。
「うるせえぇっ!! 誰が話しなんか聞くか!! 貴様らよくも、よ
 くもお嬢を! ただですむと思うなよ! 絶対に楽に死なせねぇ!
 地獄に落ちる苦しみよりも――!」

「――塚本天満」

「っ・・・!!?」
 一瞬で体が凍る。

「お? 効果ありか?」
「・・・・・・知らねぇな」
 自分の失敗を死ぬほど後悔した。いまので動揺したことは誰の耳に
も明らかだろう。

「ほう? 周防美琴、高野晶ってのは?」 

 そうか、あいつ等お嬢の携帯を!
 早くも脳内で危険値がレッドゾーンを振り切る。
 やばい、番号さえ知れば後は呼び出すことなど簡単にできてしまう
ことになる。例えば――今名前の出た3人なら、
「愛理の事で話がある」
 とでも言えば簡単に出てくるだろう。学校にお嬢の姿がない限り。

 それだけじゃない。学校も知られてしまった。
 それはつまり現時点で、矢神高校で播磨と交流を持った全ての人々
が全員、奴らの射程圏内、人質となりえるのだ。
384「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 04:43 ID:sfkTfMA2
「・・・・・・話とは?」
 俺は細心の注意を払い言葉を選ぶ。ただでさえ怒りと動揺で何を言
い出すか分からない脳みそだ。言葉は最小限のほうがいい。

「ふーん? 話の分かる奴は嫌いじゃないぜ?」
 電話の向こうで奴がたばこをふかすのが分かる。

「簡単なことだ。明日深夜0時に、俺が指示する場所へこい」
 またしばしの間。

「ひさしぶりに会うんだ。感動の再会といこうぜ?」

 ひさしぶり?
「待て、目的はなんだ」

「目的ぃ?」
 フゥーーー、と煙を出し終えた後、奴は答える。
「でめえだよ! てめえ!! 播磨拳児をぶっ潰す! 昔のカリは、
 かえさせてもらうぜ?」

「な、なんだと?」

「孤狼、我龍、鬼とも呼ばれた男が落ちたもんだぜ。よくこの近辺に
 姿を現せたもんだ。忘れたか? そんなはずねぇよなぁ? あの血
 で汚れた充実した日々を」

 確かにこの辺の街は俺が中学時代、活動の中心だったところだ。

「この街に貴様の敵は腐るほどいる! 覚えてるだろ? 自分が吸っ
 てきた相手の血の味を。悲鳴を。肉が潰れ、骨の砕ける音を!」
385「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 04:45 ID:sfkTfMA2
 ・・・・・・忘れていた訳じゃない。

「最近噂が聞こえなくなって、何してるんだと思えば、馬鹿面下げて
 女と二人で、よりによってこの街をあるいてやがる。てめえの腑抜
 けたツラをみてると吐き気がするぜ」

 俺は・・・・・・変わったんだ。

「せっかくてめえを殺るチャンスが来たのに。てめえはすっかり木偶
 の坊になっちまってる。俺が殺りてえのは鬼神・播磨だ」

 お、俺は・・・・・・

 先ほどから何故か声が出ない。体全体が固まったみたいだ。

「あの頃のてめえはいい目をしてたぜ。自分以外をまるで虫けらを見
 るようだった。あの頃のお前に戻すために、ちょっとスパイスを加
 えてみたのよ」

 何? 
 
「神に感謝しねえとなあ。計画練ってる段階で、目の前をてめえと歩
 いてた金髪が横切って行きやがる」 

 あ、ぁ、まさか・・・・・・。

「1人だと無敵の男っつっても、女1人守れねえとはな」

 俺のために・・・・・・? 俺をおびきよすためだけに?
386「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 04:48 ID:sfkTfMA2
「所詮てめえは人を不幸にすることしかできねぇのよ。どーよ? 気
 持ちよかっただろ? 心を怒りで満たすのは。血がさわいだだろ?
 ・・・・・・てめえは、俺達と同じだ」

 お嬢は・・・・・・俺のせいで。

「必ず来い。俺をぶっ殺してくれるんだろ?」
 そして電話は切れた――。

 雨が降り出した。
 聞こえるのは携帯からの電子音と雨の音だけ。

 俺には、自分の心臓の音も聞こえなかった。
 ――このまま止まってしまえばいいと思った。
 
 雨脚は強くなる一方で、止む気配は無い。
 
 俺はそこに立ち尽くしたまま――、動くことができなかった。
387「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 04:50 ID:sfkTfMA2
7.
 一夜明けて――
 あれからどうやって帰ったのか覚えていない。
 ただ気がついたら、学校へ向かっていた。
 
 雨は、まだ降り続いている。

 いつもより少し早いくらいか。しかし学校はいつもの明るい様相を
している。いつもどおりの。

 校庭を横切る。

「あ、播磨センパイ。おはようございまーす!」
 後輩の娘が挨拶する。いつもどおりの。
「・・・」 
 しかし俺は足早にその場を後にする。
「・・・・・・ぇ?」
 あとには困惑した顔の生徒が残された。

 教室につくまでずっとこんな調子だった。いつもどおりの風景のは
ずが、1人の男が、通る道に暗い空気を漂わせている。

 教室のドアを開ける。すると――
(あら。早いのね。今日はバナナでも降るのかしら?)
(あら? ここは人間の学校だけど? あなたの学校は日光でしょ)

 ――いつも生意気な顔で、1番にそう俺に語りかける奴は、いない。

 当然だ。
 自分に言い聞かせる。
388「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:07 ID:sfkTfMA2
 お嬢の席を見ていると、あいつの表情が蘇る。
 そして最後に、昨夜の泣き顔がフラッシュバックし、慌てて頭を振
った。
 お嬢の笑顔は、勝気な顔は、失われたんだ。 

「よーお、はりまぁ。なんだ? 沢近ならまだ来てないぞ?」
 周防が俺を見つけて声を掛ける。高野も一緒だ。
「連絡、無し」

「知ってる」
 俺はそう答えると、自分の席に急ぐ。
  
「は? っていうかあいつ、何であんな怖い顔してんだ?」
「さあ」
 
 俺に構うな、俺に構えば不幸なことが起こる。
 俺は所詮不良だ。1人には慣れてる。
 もし俺に近づけば、お嬢のように・・・! お嬢の!!!

 クソッッ・・・・・・!!

「おは、よぅ・・・」 

 天満ちゃんだった。いつの間にか来ていたらしい。
 しかし俺は思いっきり睨んでしまった。天満ちゃんは完全にたじろい
でいる。
「あ、アハハ。 ど、どうしたの? 私、何かしたっけ?」
 違う、君は何もしちゃいない。
「あ〜、あは。ごめんね」
 君は何も悪くない! 悪いのは俺だ!!
389「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:08 ID:sfkTfMA2
「・・・・・・どうしたの?」
「なんでもない」 
「ウソ! 播磨君、今凄く怖い顔してるよ。見たこと無いくらい」
 心配してくれるのは凄く嬉しい。だけど、もしかしたら君の身に災い
が起きるかもしれない。俺のせいで!
 これ以上、お嬢のような目に遭う人を増やしたくない。
 天満ちゃんが笑えなくなったら、それはきっと、死ぬよりも辛いこと
だろう。俺にとっても、何より天満ちゃんにとっても!
「なんでもない!」
「そ、そう・・・・・・」
 

 俺の雰囲気を悟ったのか、教室内で俺に声を掛ける奴はもういなかっ
た。最近俺のところにくる今鳥や麻生、菅なんかも遠慮しているようだ。
もちろん他の女子など、もってのほかだ。
 教室内の雰囲気はどんどん悪くなり、ピリピリしたものになってくる。

 昼休みに入り、我慢が出来なくなったのか、花井が俺の側に来た。
「おい、播磨。何があったか知らんが、貴様のせいで教室内が殺気で溢
 れている。はっきり言って迷惑だ。何とかならんか」
 迷惑・・・? 俺が? そうかもな。
「そうだぜ、今日のお前、めっちゃつまんね〜」
「何があったんだ? 話せる範囲でなら、教えてくれないか? 力にな
 れるかもしれない」
 今鳥と麻生も加わる。
「そうだ。僕も本意ではないが、委員長としての勤めだ。なんとかして
 やらんこともない」
 ・・・・・・言える訳なんてあるはずがない
「ん〜。今日はこういう時頼れる奴が休みなんだよな〜」
 周防がそう言ってお嬢の席を見る。
「・・・・・・なんでもねぇよ」
390「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:09 ID:sfkTfMA2
「そんな訳無いです! だって播磨君、今日まだ1度もも笑ってません! 
 ・・・・・ずっと、見てた、から・・・・分かります!」
 俺の右隣に座っていた娘が叫ぶ。
 俺を心配するクラスメート達。しかし、その関係は皆が思っているよ
りずっと脆く儚い。こいつら、今はこう言ってるけど、昔の俺の実態を
知ったらどう思うんだろうな?
 やはり軽蔑するだろうか。嘲り笑うだろうか。恐れ怖がるだろうか。

 ――俺から、離れていってしまうのだろうか。

 俺の体を、言いようのない不安が襲う。焦りが募る。
 俺を目の敵にしてる奴らは、俺の居場所など、まるで簡単に壊す事が
できるのだ。
 
 皆が俺に注目する。
 心臓が締め付けられるようだ。
 ――ダメだ。これ以上視線に耐えることができない。
 俺は何も言うことができないまま教室を出て行く。教室には、互いに
顔を見合わせるクラスメート達が残された。


 空は暗く、雨は降り続く。そして俺には行く場所もなければ帰ってい
い場所ももうない。
 居心地のいい空間は、たった一人欠けただけでこれほどまでに様変わ
りするものなのか。あいつ等は、お嬢が戻ってくるかどうかも分からな
いという事も知らない。
391「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:10 ID:sfkTfMA2
 人目を避け、校舎の裏側に身を潜める。
 俺が授業をふける時は、ここか屋上と相場が決まっていた。
 ちょうど、今のように木に体を預け呆けていると、決まってお嬢が俺
を探しにきて授業に出るようにせがむのだ。
 そして俺は、ここにいるとお嬢に見つかることは分かりきっているの
にこの場所で惰眠を貪る。
 しかし――、今はもう、あの耳に馴染んだお嬢の怒鳴り声や、ちょっ
と、はにかみながらも俺の横に座る姿は、もう、ない。
 俺の日常は、かくして脆くも崩れ去った。

 胸に大きな穴が開いた。俺の「いつもどおり」の大半が飲み込まれた。
そしてその穴の奥深くから。どす黒い負の感情が湧き上がって来る。 
 クソッ・・・!! ゲスが! クソ野朗共がぁっ・・・!!

(そいつは貴様も同じだ。そうだろう?)

「っ・・・!?」
 あの電話の男の声が聞こえたような気がして、慌ててかぶりを振る。
 そうだ。一人にならなくては。これ以上だれも巻き込んではいけない。
俺がいる限り、この学校もいつ襲われるか分かったもんじゃない。
 
 そして立ち上がろうとした時、背後に人の気配を感じた。
 お嬢――!?
 そう思い振り返ると、

「あ、あの、・・・・・・こんにちは」
 妹さんの姿が。・・・・・・そうだよな、お嬢がいるはずが無い。
「あの・・・・・、皆が、今日播磨さんの様子がおかしいって。
 それで、あの・・・・私が様子を見に行ったほうがいいって・・・・・・」
 この雨の中を? わざわざ俺を探して?
392「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:11 ID:sfkTfMA2
「だから来たのか?」
「・・・・・・ぇ・・・・?」
 これ以上誰も俺に深入りしてほしくない。
「あ、いえ! 違います! ・・・それで、心配して・・・・・・」
「心配なんていらない。悪いが俺にはかまわないでくれ」
 俺の周りの世界がどんなに危険なものだったのか、君には分からない
だろう?
「そ、そんな・・・・・・。・・・何か、あったんですか・・・・?」
 妹さんとは、相変わらず周りから変な誤解をされたままだったが、別
に今までと変わることなく、原稿を見てもらったり、時々漫画を描くの
も手伝ってもらったりしていた。いやな顔をすることなく、何度も俺の
頼みを聞いてくれた実にいい娘だと思う。
 ――絶対に巻き込んではいけない。

「妹さんには関係ない」
 俺は顔を逸らした。これ以上目を見ていられない。
「! ・・・・・・あの、わ、私に・・・できることがあれば――」
「もう、これ以上俺にかまうな!」
 お嬢のような目に遭いたいのか!? お嬢のような!!
「・・・・・・・・・わた、しは、そんなに、頼りないですか・・・・?」
 それだけじゃない。もしかしたらもっと酷い事をされるかもしれない。
あいつらは俺を倒すために利用できるものは何でも利用するだろう。
 あいつらはそうやってお嬢を・・・! お嬢をぉっ!!

「・・・・・・播磨さ――」
「失せろッ!!」
 振り向き様口走った瞬間にしまったと思ったがもう遅い。
 妹さんはびくりと肩を震わせ持っていた傘を落とすと、その美しさに
拍車をかける宝石のような瞳から、一つ、また一つ涙を流し、降り続け
る雨に混じりたちまち全身を濡らしていった。
393「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:12 ID:sfkTfMA2
 
 沈黙が落ちる。 
 俺は耐え切れず、顔を逸らした。
「――っ」
 それを見た妹さんは、踵を返して走り去る。俺は追いかけることはも
ちろん声を掛ける事もできなかったし、その資格もないと思われた。

 ――何をやっているんだ、俺は。
 妹さんと、お嬢の泣き顔がダブる。そしてあの声が聞こえる。
(所詮・・・・・・てめえは、俺達と同じだ)
 皆を巻き込みたくない。これ以上かまって欲しくないのなら、どうし
て俺は今日、わざわざ学校に来た? ここに来ないほうが、俺にとって
も学校にとっても一番安全じゃないのか?
 ・・・・・・答えはもう、出ていた。
 俺は、自分がいてもいい居場所にいたかった。誰かにかまってほしい、
誰かに俺を気にして欲しかったからここに来たんだ。
 
 俺の人生で、陽だまりの中にある場所。
 それが今、無残にも壊されようとしている。俺の闇に。
 
(だがそれも、自分から壊していきゃあ、世話ねぇよな)
 思わず自嘲の笑みが漏れる。いよいよ自分の馬鹿さ加減に嫌気が差し
てきた。
 クソッ! クソッ! クソッ!!
 地面を殴りつける。しかしそれは泥となって俺に跳ねて戻ってくる。
 ――失われる、ここから俺の居場所が――
 俺の体に昨夜と同じような感覚が蘇った。 
 足元から何もかもが崩れ去っていくような感じ。
 手が震える。
 俺の心臓に、得体の知れない何かが絡み付いて離れない。
394「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:17 ID:sfkTfMA2
 昔、1人だったころは決して感じたことの無い感情。
 これが――――「恐怖」か。

 前はどんなに多勢に無勢の喧嘩でも怖くもなんとも無かったのに。
 今、お嬢が失われたことが、また居場所が失われようとしている事が
こんなにも怖くて恐ろしい。

 逃げ出したい。
 俺は生まれて初めて本気でそう思った。だが今夜の呼び出しでそんな
事をすれば、さらなる報復が実行されるだろう。それではダメだ。

 雨は降り続く。
 とりあえずこれ以上学校にはいられない。
 俺はバッグもそのままに、帰るべく立ち上がった。
 足取りは、重い。

(てめえは、他人を不幸にすることしかできねえのよ)
 雨の音の中に奴の言葉が聞こえた気がする。
 そして思い出されるお嬢と、妹さんの泣き顔。

 ――そうなのかも知れない。
395「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:20 ID:sfkTfMA2
 制服が雨に濡れて重い。容赦なく打ち付ける雨は冷たく、そして俺の
心も冷え切っていくのが感じられた。
 駐輪場に着くが俺のバイクがない。一瞬焦ったが、今日は人目を憚っ
て旧校舎の裏に停めた事を思い出す。
 暗く、雨の降る日に見る旧校舎は薄暗く、陰険な雰囲気が漂う。明る
く清潔な新校舎とはまるで別世界だ。
 俺にはそれが、俺の住む世界の何かを案じているようで嫌気が差した。
 バイクのエンジンに火を点ける。
 行く当てもないが、とにかく約束の時間まで身を潜め、後は向こうか
らの連絡を待つほか無い。
 俺がそんな事を考えていると、 

「拳児くんじゃないか」
 絃子が窓から顔をだして俺に呼びかけた。どうやら茶道部の教室にい
たらしい。バイクの音で気づいたようだ。 
「どこに行こうっていうんだ。学校はまだあるぞ?」
「・・・いいんだ」
 絃子が怪訝な顔をする。俺の返事に対してではなく、俺の様子がおか
しいことに対してだろう。
「・・・・・どうかしたのか?」
 と、絃子は続けた。
396「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:21 ID:sfkTfMA2
「昨日何かあったのか? そういえば、どうして帰ってこなかった?」
「帰ったさ」
 制服とカバンを取りにな。
「それは今日の朝の話だろう。まあ、いい。だが私には保護者として君
 を守る義務がある。分かるな?」
 
 無理だ。それに、俺は絃子のマンションに帰らなかったのではない。
どうしても、帰れなかったんだ。

「拳児くん?」

「ああ」
 俺はそれだけ言うとバイクを走らせる。 

「・・・あ・・。・・・・・・ふむ」
 
 
 スピードを上げるほどに、体にぶつかる雨の勢いが強くなる。
 かまうものか。
 がむしゃらにスピードを出す。何かを振り切るように。
 しかし俺の背後には、確実に、闇が追いすがって来ていた。
 
 この広い街の中で、俺が行くところはどこにもない――

397「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:23 ID:sfkTfMA2
8.
 空が完全に暗くなってからも、依然として冷たい雨は降り続いている。
時刻は既に午後11時を回っていた。だが依然として奴らからの連絡は
なく、いたずらに苛立ちだけが募っていく。
 知らなかった。たった1人で過ごす時がこんなにつまらなく、寂しい
ものだったとは。最近は学校ではない時でも大抵はお嬢と過ごしていた
し、家に帰っても絃子がいた。
 1人には慣れているつもりだった。しかし俺は、自分でも気がつかな
い内に、ずいぶんと弱くなってしまっていたらしい。

 30分を回った頃にようやく奴らからの連絡が入る。
 ・・・・・・俺の手は、決まった。


 呼び出されたのは、街外れにある廃工場だった。
 周りに他の建物などは確認できない。なるほど、ここならいい溜り場
になるだろう。もはや営業していた頃の面影は微塵も感じられず、陰鬱
な雰囲気を醸し出している。だが、確かに人の気配がする。いや、正確
に言うとこちらに向けられる剥き出しの殺気だ。
 時刻は――深夜0時。時間だ。
 
 表にバイクを停め、入り口に向かう。搬入口だったのだろうか、楽に
大型トラックなら3台は同時に出入りできそうだ。そして続く奥の方に
も、それなりに巨大な空間が認められる。まるで何か巨大な生物が、大
きな口を開けて餌をいまかいまかと待っているようにも見える。
 今回の場合は、餌はもちろん俺だろう。
 今までにもこのような呼び出しは何度もあった。だがそれも昔の話、
今とは置かれている状況も立場もまるで違う。
398「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:22 ID:sfkTfMA2
 中に踏み入る。
 予想以上に人数が多い。見える範囲内でざっと4〜50人ってとこか。
皆俺を見るなり露骨に挑発してくる。だが手は出してこない。
 ・・・・・・嫌な感じだ。
 立ち止まっていると、後ろからどつかれた。バランスを崩しながらも
なんとか踏みとどまる。笑い声が広がる。
 中はだいぶ薄暗かったが、この空間がかなり広いことは分かった。そ
してその中心に、1つだけ煤けた裸電球が点っている。見渡す限り光源
はそれだけのようだ。しかしかなり弱弱しい。
 その灯りの真下、かなりでかいソファに座っている1人の男。

「よ〜お、播磨くん? 会いたかったぜぇ」
 電話の声の主だった。
 奴はソファに預けていた身を乗り出し、その全身を電球の光の下に晒
す。ちょうどブーメランのような形をした刃渡り30cmはあろうかと
いうグルカナイフを手元で遊ばせている。
 そして最後に光の下へ出た奴の顔を見て俺は全身に悪寒が走った。
 ・・・・・・奴の顔は左半分が髪によって覆われていたが、その合間から見え
る皮膚は削げ落ち、ただれていた。そして、それに俺は見覚えがあった。

「・・・・・・安藤・・・」
 俺は、俺が現れるまでここら辺一体を締めていたその男の名を呼んだ。
「貴様に呼ばれると、俺のこの傷がうずく」
 そう言って、もはや半分なくなったともいえる顔をさする。
「・・・・・・ひでえ傷だ。どうやったらこんな風になるのか、知ってるか?」
 
 知ってるかだって? 当たり前だ。――俺がやった。
 引っ繰り返った奴のバイクの回ったままの後輪に、俺は奴の後頭部を
掴んで思いっきり顔を押し付けた。今でも覚えている。耳について離れ
ない奴の悲鳴、飛び散る血の色、肉の焼け爛れる臭い。
399「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:24 ID:sfkTfMA2
 
「まあいい。さて、久しぶりの感動的再開だ。派手に祝おうぜ?」
「――何?」
 俺が聞き返そうとした瞬間――!
 突然背後からものすごい爆音と爆風が襲ってきた!
 耳をつんざく様な音と振動、遅れて漂い始める焦げ臭い匂い。突如明
るくなる工場内。そして周りを取り囲んでいる不良の群れのテンション
が一気に上がり、地鳴りのような歓声が包み込んだ。

 ――俺のバイクが!?
 いや、厳密には絃子から借りていたバイクだが、俺の命とも言える存
在が、今激しい炎につつまれながら燃えている。降っている雨にも負け
ない勢いで。

「たーまや〜。いい花火だろ?」
 口笛を吹き、にやけたツラで安藤が俺を見ている。
「どうした? 悔しいだろうが、早くかかってきたらどうだ?」
 取り囲んでいる奴らも臨戦態勢を整えにじり寄る。

 ――クッ! 落ち着け! 落ち着け俺!! 
 今日俺は何のためにこの場所に来た!? 今この場で暴れちまうこと
は簡単だ。だがそうすると、またいつか同じような報復を返されるだろ
う。さらにどんどんエスカレートして行くかもしれない。それに俺が今
まで作ってきた敵の数はこんなもんじゃない。ここにいる人数の数十倍
は叩きのめして来ているのだ、きりが無い。
 昔は俺ただ1人だったから何も気にせず暴れていられたが、今は違う。
失いたくないものが多すぎる。そして現に今こうして失ってしまったも
のがあるじゃないか!?
 
400「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:27 ID:sfkTfMA2

「――――すまなかった」
 俺は心中に往来する全ての想いを抑え付け頭を下げ、言葉を吐いた。
昼間から夜にかけての間、考えに考えた挙句、俺は今は頭を下げこの場
を切り抜けるしかないと思い立ったのだ。

「・・・・・・はぁ?」
 安藤は立ち上がり、つかつかと俺の方に寄ってくる。そして俺の前へ
くると、いきなり俺の下げている頭の顔面に思い切り膝を入れてきた。
 目の前で火花が散る。
 サングラスは弾け飛び、鮮血が飛び散る。なんとか踏ん張ろうとした
が、勢いは強く俺は後ろへ昏倒した。
 口の中に血の味が広がる。ボコボコにされるであろう事は分かってい
たし、覚悟もしてきたが、やっぱり――痛ぇ。
 俺は立ち上がり、口の中に溜まった血を吐き出した。
「目は、覚めたか?」
「――俺を殴って気が済むのなら、いくらでも殴れ」
「ちっ」
 奴の右拳が俺の顔面を捉える。辺りに豪快な炸裂音が響き渡った。攻
撃は休むことなく続く。俺の顔面に、ボディに。一瞬攻撃が止んだかと
思ったら、奴は上体を捻り大きく外側からの強烈な蹴りを浴びせてきた。
 まともに喰らった俺は吹っ飛び、きりもみするように地面に叩き付け
られる。あまりの衝撃に受身もまともに取れない。
「――ガハッ!」
 口から血が吐き出された。全身が焼けるように熱い。
 安藤はそんな俺を蔑みながら、自らの煙草に火を点けた。
「ざまぁねえな。どうしちまった? そのテメーのない頭で何を考えて
 いる? ごちゃごちゃしたこと考えてるんじゃねぇのか?」
 そう言って一服する。
「昔のテメェはよかったぜ? 気に入らねぇ奴がいたら殴る。それだけ
 の、実にシンプルないい男だった」
401「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:28 ID:sfkTfMA2

 何とか立ち上がろうと足に力を込める。だが膝が笑っていて、うまく
力を入れることが出来ない。
 俺が起き上がろうとしている所を、安藤は無造作に蹴り飛ばした。い
い所に入ってしまったらしい。急激に腹の奥から何かが込み上げ、俺は
胃の中にあったものの大半を吐き出してしまった。

「――テメェは強い。強い男だ。そうだろう? だが今じゃあ、余計な
 物を背負いすぎて、そいつらが足を引っ張ってやがるから随分弱くな
 っちまってる」
 ・・・・・・心当たりはある。

「俺は神だ――なんてほざいてた奴がよ、雁字搦めに縛られて、遂には
 地面に這いつくばってゲロにまみれてやがる。腑抜けたもんだな」

 何とか呼吸を整え、立ち上がる。いつのまにか拳が握られている事に
気づき、苦労して制した。

「・・・・・・そう言えば、あの女は元気か?」
 ――あの女?
「金髪の女のことだよ。テメェよほどあの女に好かれてたんだなぁ。あ
 いつ、『ヒゲー!!』だの『播磨くーん!!』だの騒ぎ立ててうるさ
 かったのなんのって。まぁ、呼ばれてた本人は、馬鹿面下げてナイト
 パレードでも見てたんだろうがなぁ」
 そう言って笑う。周囲にいる奴も下品は笑い声を立てた。

 ざわっ・・・! 俺の体が震えた。

「最後には『ごめん』だってよ。あ〜あ、連れの女1人も守れないへた
 れはテメェなのになぁ?」 
402「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:29 ID:sfkTfMA2
 ――!!
 握りすぎた拳から血が滴り落ちてきた。体は、痛みを忘れてしまった
かの様に何も感じない。ただ心の奥底から怒りと憎しみが濁流のように
押し寄せる。
 
「ちったぁマシな顔になってきたじゃねぇか。そうだ、その目だ」

 耐える。耐えろ。動くんじゃねぇぞ俺の拳!
 限界まで歯を食いしばる。

「ん? 刺激が足りないか? じゃあもう少し他の――」
「やめろっ!! 他の奴には手を出すな!!」
 それだけは、何としても阻止しなければ!

「――ったく、どうやら本当の腑抜けに成り下がったようだな。もうい
 い、気がそれちまった。――今度から街中を歩いてみろ、見かけたら
 ただじゃおかねぇ。おいオメー等! 気が済むまで殴って言いそうだ。
 お望みどおりにしてやれ」
 
 安藤がそう言うと皆一斉に飛びかかってきた。
 右に左に、次々と襲い掛かってくる不良ども。俺の頭は休むことなく
上下左右に振らされる。温かい雨が降っていると思ったが、それは俺の
血だった。意識が遠のいていく。
 だが俺は安藤から視線を外さなかった、最後の最後まで睨みとおす。
俺が意識を失うまで、奴は俺を見下ろし、蔑み、あざ笑っていた。
 
 心の底に溜まって行く何かを確かに感じながら、
 世界は遠くなり、そして、そこで俺の意識は途絶えた――

403「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:32 ID:sfkTfMA2
9.
「う・・・・・うぅ」
 体中に感じる激痛によって目が覚めた。
 ――どれほどの間気を失っていたのだろう。ここはあの廃工場のよう
だが、既に周りには安藤達の姿はなく、そして薄暗くなっていた。
 激痛に耐えながらも何とか立ち上がる。詳しく調べないとなんとも言
えないがどうやら手足は無事に動くようだ。あの人数を相手に考えると、
ほぼ奇跡に近い。
 落ちていた上着を拾う。最初に脱ぎ捨てていたのが幸いしたか、少し
汚れてはいたが、中に入っていた携帯は何とか無事だ。日にちを確認す
ると、ほぼ丸1日経っていたことが分かる。
 冷え切っていた手を擦り合わせる。まだ血は乾いておらず、ヌルヌル
とした感触が広がった。
 上着を羽織る。ふと地面に転がっていた俺のサングラスを見つけた。
ひびが入ってはいたが、何とか掛けられる。どうせ俺の顔は腫れて見る
影もないだろう。何もつけないよりはいいと、サングラスを掛けた。
 
 踏まれずに残っているとは、運がいい。――運がいい?
 俺は昨夜奴が座っていたソファを見やった。
 心中にどす黒く渦巻く何かが鎌首をもたげる。俺の奥底に追いやった
はずの暗い部分が、怒りという餌につられて徐々に目覚めていく。

「クソがっ!!」
 工場の壁に拳を叩きつける。響き渡る音が工場内に反響し増幅される。
さながら、今俺の心の中で怒りが高まっていくのと同じだ。ただ違うの
は、音はいつか聞こえなくなるが、怒りや憎しみは増幅し続けるという
事だ。
404「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:33 ID:sfkTfMA2
 ――いつまでもここにいる訳にはいかない。
 足を引きずるようにして外へ出る。雨は小降りにはなっていたが、い
まだに降り続いてた。
 止まない雨――か。
 そして足元には炭になった俺のバイクが転がっている。全焼だ。もは
や修復とか言ってるレベルではない。
 お嬢は俺のバイクに乗ることが好きだった。何処へ行くにも、迎えの
車があるはずなのに決まって俺の後ろにしがみつく。一緒に星を見に行
ったときも。海を見に行ったときも。何かむしゃくしゃすることがあっ
た時も。
 ――このバイクには思い出に満ちていた。しかしそれも今ではもうた
だのゴミ。もう誰も乗せて走ることはできない。こうしてまた1つ、俺
の周りにあった大切なものが消えていく。

 ――最初から何もなければ、こんな思いをしなくても済んだのに。


 また暗く深い夜が訪れた。ようやく繁華街へ差し掛かる。なんせ全身
血だらけのようなモノだ。通報されることを危惧し、人目につかない所
を身を潜めながら移動する。
 しかし、どこへ行ったらいいのだろうか?
 少し朦朧とする意識の中で、それでも何も思いつかない俺はあてもな
く夜の街をさまよう。大きくなっていく孤独感と、この状況に対する理
不尽な怒り、そして何より奴らに対する憎しみだけが募る。

 裏通りを進んでいると、足がもつれて人にぶつかってしまった。

「ってーなぁ、何処見て歩いてやがる!? 汚ねぇカッコしやがって」
 6人ほどのヤンキー集団だった。ちっ、と心の中で舌打ちしながらも、
付き合ってられないと俺は頭を下げてやり過ごす。苛立ちが増す――。
405「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:34 ID:sfkTfMA2

「――ったく。このへたれが」
 その言葉が安藤の言葉と重なった。
 ――と、思った瞬間! 俺の右拳はそいつの顔面にめり込んでいた。
 潰れた鼻や歯が折れた所から噴出する血が俺に返り血となって降り注
ぐ。一瞬あっけにとられていた残りの5人が声を上げて飛び掛ってくる。
右のデブのパンチを叩き落とし、左にいる奴の顎に踵を入れる。そして
そのままデブの腕を取り躊躇無く思いっきり捻り上げる。ボキリと骨が
砕ける音と甲高い悲鳴が妙に耳に心地よい。
 なんだ、そのパンチは? 止まって見えるぞ。4人目の拳を難なくか
わし、カウンターをわき腹に決める。あばらが折れる感触が伝わる。こ
れは4,5本はいったな。ついでにと同じところに回し蹴りを加えた。
そいつは泡を吐いてうずくまると動かなくなった。
 剃込み野朗がナイフを振り回して来る。全然なってない、俺がナイフ
の使い方を教えてやるよ。俺は野朗がナイフを突きつけてくる手をその
まま折り返し、野朗の太ももへ突き刺した。そのまま数cm下へ切り込
む。辺りに絶叫が響き渡る。もっと聞かせてくれよ?
 最後の奴は完全に戦意喪失してやがる。振り向いて逃げ出そうとする。

「おいおい、連れ置いて逃げるんじゃねーよ」
 俺は奴の後頭部を掴み上げると、遠心力を利用しつつ思い切りコンク
リートの壁にたたき付けた。壁に赤のグラディエーションが広がる。
 ――綺麗だ。それにしてもなんだ? 体に感じるこの高揚感と、最近
は久しく感じたこの無いこの興奮度は。・・・・・・まあいい。
 
 俺は、未だ転がりうめき続けている最初に殴った奴に近寄った。そし
て奴の膝の皿を思い切り踏みつける。グシャ、と言う音の後に男の悲鳴
が続く。
406「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:35 ID:sfkTfMA2
「てめぇに聞きたいことがある。誰がへたれだって?」
「ひっ・・・ご、ごめんなひゃい・・・・・」
 既に歯が半分ないのでつたない言葉で奴が答える。
 俺は再度奴の顔を踏みつけながらしゃべった。
「答えろよ、誰がへたれだって?」
 もう1度踏みつける。もう1度。もう1度。
「ひぎっ・・・・・ぁ・・・・・・あ、助け・・・・・・がぼぉ・・・」
「ほら、どうしたよ?」
 何度も。
 何度も。
 何度も。
 何度も。

 そうだ、呼び出された時もこうしてやりゃあよかったんだ。あいつ等
がもう起き上がることが出来ないくらいボコボコにしてやれば、別に学
校のこととかあんなに考え悩む事なんてなかったじゃないか。
 っていうか――。何で俺はそんなこと悩んでいたんだ? 別に俺以外
の誰かがどうなろと、俺には関係のないことじゃないのか?

 なんだ。

「くく・・・・・・くっくっくっく」
 そう思った時、俺は始めて自分が今笑っていることに気がついた。
 俺の足元には小さく痙攣している男が転がっている。もう呼びかけて
も反応はない。なんだ、もう終わりか。
 
 ああ――、久しぶりに「あの」感じが戻ってきた。
 昔暴れまわっていた時に、喧嘩の後に感じた心の中の空虚な荒涼感。
407「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:36 ID:sfkTfMA2
俺はそれを埋めるために、次なる熱い戦いの場を求めさまようという悪
循環を繰り返していた。
 だがどんなに暴れまわっても、熱い戦いをしても、その荒涼感が埋ま
ることは決してなかった。ただ黙々と相手を殴り続ける日々――。

 ちっ、もうここには用はねぇ。と、立ち去ろうとしたとき
「――たっくん!?」
 女の声が後ろから聞こえてきた。
 振り返ると、ちゃらちゃらと着飾った女が今しがた俺が踏みつけてい
た男を抱き上げ、しきりに名を呼んでいる。
 俺のほうを向くと涙で化粧もぐちゃぐちゃになった顔でキッと睨んだ。
 
 そしてその顔は、似ても似つかなかったのだが、お嬢とだぶった。

 ――俺は、何をした? 改めて俺のしたことを見る。
 あさっての方向を向いている手足、飛び散った血、泡を吹いて倒れて
いる人。そして泣いている女。

(所詮お前は・・・・・・俺達と一緒だ)
 安藤の言葉がフラッシュバックする。
(てめぇは他人を不幸にすることしかできねぇ)

 俺は、その場を逃げ出した。
 認めたくない、認めたくはないが。

 ――その通りだった。
408「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:38 ID:sfkTfMA2
10.
 俺は今、絃子のマンションのドアの前に立っている。
 色々考えた結果、俺は姿を隠すことに決めた。安藤に見つかることを
危惧しての事だったが、何よりも、俺は、俺自身が恐ろしい。いつ先刻
と同じような事が起こるのか分かったものではない。
 五肢が無事ならこの身一つで何とか食っていけるだろうし、すぐにで
も身を隠したかったが、服はボロボロだし如何せん無一文だったため、
一度帰らなければ何ともしがたい状態だったのだ。
 
 体についた血はなんとか雨で目立たない程度に流れ落ちた。
 意を決して鍵を取り出す。が、鍵が見当たらない。一通り体をまさぐ
り終えたところで、バイクのキーと一緒だったことを思い出す。
 ため息をつき、ダメもとでドアノブを回す。すると、鍵は開いていた。

 ドアを開けて中に入る。すると――
「おかえり」
 驚いたことに、絃子が玄関の壁に体を預けて立っていた。
 玄関横の時計を見ると、もう深夜の3時を過ぎている。明日も絃子は
学校はあるはずだろう。何をしていたのか。

「・・・・・・何してやがる」
「君の遅い帰りを待っていたのだよ。――連絡もつかなかったしね」
 確かに、俺の携帯は奴らとの連絡用の、お嬢以外の携帯からは皆着信
を拒否していた。
 しかし、待っていたといってもその限度はとうに超えているだろう。

「おかえり」
 絃子は再び繰り返した。
 だが、そう言われても、これから出て行こうとしている俺が返す言葉
などなかった。
409「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:41 ID:sfkTfMA2
「昨日もそうやってたのか?」
 俺がそう聞くと、絃子は肩をすくめてみせる。
 まあいい。できれば見つからないうちに済ませたかったが、致し方な
い。ともかく、早く姿を隠さなければ。

 俺は絃子の横を通り過ぎ、自分の部屋へ入ると急いで荷造りを始めた。
荷造りと言ってもそんなに多い訳じゃない。適当に服を詰め込み、早々
に部屋を出る。出る時に、壁にかかってある制服が目に入った。
 ――アレは、もう必要ない。

 俺はバッグを担ぎ廊下に出て、玄関に向かう。
 ・・・・・・玄関には、絃子が立ちはだかっていた。

「どこへ行く?」
「・・・・・・そこをどけ」
 絃子は目を閉じ軽くため息をはいた。
「出て、行くのか?」
 俺は何も答えない。

「一昨日君に会った時、様子がおかしいとは思っていたが・・・・・・
 聞けば沢近さんも欠席だったらしいね?」
 お嬢の名に俺はピクリと反応してしまった。
 絃子がそれを見逃すはずがない。

「おおかた、今になって自分の過去から報復でも受けているのだろう」
 絃子が真意をつく。
「だが――」
 絃子が真っ直ぐに俺を見据えた。

「逃げるのかね?」
410「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:42 ID:sfkTfMA2

「自分の過去から逃げること――。それは一番やっちゃいけない事だ」
 絃子が続ける。
「私の播磨拳児は、そんなことは決してしない」

「鏡でも何ででも、君が今どんなに酷い顔をしているか見てきたらどう
 だ? 殺気剥き出しで――、まるで昔の君を見ているかのようだ」
 昔の君という単語に急に頭に血が上り、思わず叫び返してしまう。

「テメェに、俺の何がわかる!?」
「わからないさ!」
 何? 絃子は俺の叫びに臆することなく返してきた。

「わからないさ。君が話してくれない限り、私が知りえるのは普段私が
 見ている君だけなのだからね」
 いいか――。そう言って絃子は続けた。
「人は、他人の数だけその人が存在する。私が知っている播磨拳児、
 塚本天満が知っている播磨拳児、塚本八雲が知っている播磨拳児、
 沢近愛理が知っている播磨拳児、天王寺昇が知っている播磨拳児。
 ――どれも違ったものだが、全て同一人物だ」

「なに?」

「今は分からなくてもいい。だが聞け。人は、誰しもが他人には見せな
 い隠した部分を持って生きている。――もちろん、私もだ。だが他人
 にとってはそんな事は関係ない。その人の見えている部分が他人にと
 ってその人の全てであり、それ以上でもそれ以下でもない。もし隠し
 ていたことを暴露したとしても、他人に見える部分が大きくなっただ
 けで、他人にとってその人であるという事にはなんの変化も無い」
411「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:43 ID:sfkTfMA2
 ・・・・・・話は終わったのか。
 俺は絃子の横をすり抜け、ドアノブに手を伸ばす。

「私の知っている播磨拳児は――、
 ばかでシンプルでバカで一途で馬鹿ないい男だ」 
 そう言って絃子はふっと微笑った。
 
 ドアを開ける――

「一つだけ私の言うことを聞いて行ってくれ。今もし君が本当に自分の
 過去と対峙しているのなら――、自分を見つけることだ。『先輩』か
 らのたった1つのアドバイスだよ」
 
そしてドアは閉められた。

 誰もいなくなった玄関に一人残り、絃子は播磨の出て行った玄関を見
つめたまま動かない。
「そして、帰ってくるんだ」

「私は、待ってる。――いつまでも待ってるよ」


 俺はいまだ降り続いている雨の中に飛び出した。夜はまだ明けない。
闇に覆われたこの街に、もう俺の姿が現れることはないだろう。
 一瞬浮かぶ天満ちゃんやクラスメート達の影、そしてお嬢。
 だがそれにも増して、血の味や断末魔の悲鳴が聞こえた気がする。

 俺は、どこまでも続く闇に向かって走り出した――。

―第二部 完―
412「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:44 ID:sfkTfMA2
11.
 ――あれから、何故かは分からないが、動物達にぱったりと懐かれな
くなった。
 できなくなった事と言えばもう一つ、あれほど打ち込んでいた漫画を
描くことも、できなくなった。描こうと思って、いくら机に向かっても、
どうしても腕が止まってしまう。俺は心の中の何かを表現する場も失っ
てしまったようだ。――いや、そもそも何を表現すると言うのだろう?
俺は今まで、何を自分の漫画に描いていたのだろう?
 どうやら俺は、もう、自分の事など何一つ分からくなっているようだ。

 
 絃子の家を出て、住み慣れた街から飛び出してから、俺はあての無い
流浪の旅を続けている。いや、旅というのは適切では無いのかも知れな
い。どこへ行っても、バーテンダーや、簡単なイラストレイターなどの
仕事をして食っていけるにはいたが、そこで知り合う人々と交流を深め
る内に、どうしても自分の本性がばれる事を恐れ、ある一定の親交以上
に人と接することができずに、また「俺」をを全く知らない人々がしか
いない環境を求め、各地を転々としていたのだ。 

 必死に、俺は自分の中に潜む悪魔を、自分の過去を切り落とそうとし
てきた。しかしあれから、あの血の匂いや骨の砕ける音、響き渡る悲鳴、
安藤の言葉、そしてお嬢や妹さんの泣き顔が出てくる悪夢を見なかった
夜はない。
 毎晩うなされ、そして汗だくになって飛び起きるのだ。

 俺を仲間として受け入れてくれる人々、しかしそれは上辺だけの俺で
あって、本当は悪夢に出てきているような男なのだ。
 ――自分が、嫌になってくる。
413「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:46 ID:sfkTfMA2

 そして――、あれからもう一ヶ月の時が流れようとしていた。
 
 あたりは白で覆われ、しんしんと雪は降り続いていた。周囲から聞こ
える音は小さくなり、己の呼吸音だけがやけに耳につく。
 今現在、俺は東北地方、秋田県に存在するある温泉旅館に、住み込み
で働いていた。一日一日、ただ黙々と働き、眠る。何かしていたほうが
余計なことを考えずに済む。
 
 そんなある日、ここで本当に働かないかという、正式採用の話が出て
きた。まじめで誠実、要領もいいというのが理由だそうだ。
 雪山で倒れているところを助けてくれた事に始まり、なにかとお世話
になっていた女将さんの話だ、ぜひ受けたかったが――
 心の中の誰かが囁くのだ。――また誰かを不幸にするのか?

 
 答えを出さないまま、俺は買出しのために町へ降りてきていた。底冷
えする寒さなのに、町は活気に満ちている。温泉街では、誰もが頬を赤
くしながらも屈託なく笑っていた。
 
 俺は公園のベンチに腰を下ろす。大分山を下ってきたせいか、少し疲
れたようだ。公園内では数人の子供が雪だるまを作って遊んでいた。
 雪はゆっくりと降り続く。
 笑い声を聞きながら、俺はまだ長く、暗いトンネル内を彷徨っている
事を実感していた。立ち寄った町で出会う人々の温かさ、優しさ。だが
どうしても、もう一歩踏み込めない自分の不甲斐なさを思う。
 そして俺の昔の姿を思う。――あの夜のことを思う。
 
 俺の時間は、多分あの時から止まったままなのだ。
 俺の心では、あの雨は未だ降り続いている。夜は明けてはいない。
414「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:47 ID:sfkTfMA2

 雪だるま作りは架橋に入ったようだ。後は、二つ出来た大きな雪の塊
を乗せるだけになっている。だが少し大きくしすぎたかな、子供では持
ち上げることが出来ず苦戦している。やっと乗せ終えようかという時に、
雪の塊は反対側に転げ落ち粉々になってしまった。
 子供達の悲しげな顔が目に入る。
   
 ふう――。
 ため息をつくと、俺は体の雪を払い、用件を済まそうと立ち上がった。



「――やっと見つけたわ」


 ――ドクンッ!
 背後から、ありえないはずの、しかしとても耳に馴染んだ声がした。
 ・・・・・・恐る恐る振り返る。
 体が動かなくなった――。

 サングラス越しの目に映ったのは、
 いつものように美しい金髪をツインテールにまとめ、
 背景の雪に溶け込むかのように白い肌をし、
 腰に片手を当て俺を見つめる――

 沢近愛理の姿だった。

 ――運命の時計が、かちりとその秒針を刻み始める。
                  俺の時間が、動き出した――
415「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:48 ID:sfkTfMA2
12.
 まず――、目の前に立っている人物が信じられない。いやいや、って
いうかどうしてこんな所にいる? じゃなくて、体の方は無事なのか?
いや、なぜ俺の居場所が分かった? そもそも俺に会いにくる理由は?
それとも幻なのか? あれは偽者?

 次々と疑問が湧いてくるが、どれ一つ口に出てこない。浮かんでは消
え浮かんでは消える。少なくとも今自分が混乱しているだろう事は理解
できた。
「・・・・・・お嬢――?」
 やっとそれだけ喉から出てくる。
「そうよ。見て分からない?」
 確かにお嬢だ。だが信じられない。俺は夢でも見ているのだろうか?
 
「それとも――」 
 片方の手で髪を払う。
「私のコトなんて、もう忘れてしまったのかしら?」
「――っ!? んな訳あるか! 俺はオメーの事をこれっぽっちも忘れ
 たことなんかねぇ!」
 ――忘れられるワケねぇだろうよ!?
 
 ふうん? そう言ってお嬢は腕を組む。
 なんだってんだ? どういう展開だこれは!? 俺のことが許せなく
て探してたんじゃないのか?
 まだ頭が混乱している。言うべきことがあるはずなのに、何も頭に浮
かんでこない。どうすればいいか分からない。

「・・・・・・何しに来た」
 口下手な自分をここまで恨めしいと思ったことはなかった。これじゃ
立場が逆みたいだろ!?
416「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:49 ID:sfkTfMA2
「秋田県の温泉街にゴリラが出没するって言うから、引取りに来たの」
 ・・・・・・はぁ?
 
「――あんたこそ、こんなところで何やってんの? そのワケの分から
 ない頭で、何考えてるのよ!?」
 ――う!?
 お嬢が距離を詰める。昔と同じ、あの強い瞳をしていた。
 だがそんなことよりも、俺は一刻も早くこの場を逃げ出したい気持ち
で心が一杯になった。おれにはお嬢の前に姿を現す資格もなければ、そ
の度胸もないんだ!

「バカじゃないの!? もともとそんな大して考えるだけ頭のCPU足
 りて無いくせに、慣れないことするもんじゃないわよ」
 ――なんだと? 俺はお前の、皆のためを思って――!
 そこまで考え、そもそもの原因は俺が作っていたことを思い出す。
 
 いや――、違うな。俺のためだった。俺が自分で蒔いた種だったんだ。
「・・・・・・だが俺は――、オメーを・・・・」 
「――確かに痛かったわ。とても。・・・心も、体もね」
 俺はお嬢を見る事ができず、顔を背け、歯を食いしばった。そうだ、
許されることではない。

「でもそれ。あんた、何か根本的な勘違いしてない?」
 ――勘違い?
「だれが見たってそうでしょ? 悪いのはやったあいつ等よ!?」
 何だ、そのことか。それなら勘違いしているのはお嬢の方だ。
 俺は心の中に溜まっていた物をぶちまける。

「違う! 俺の責任なんだ。俺が悪かったんだ! 奴らの狙いは最初か
 ら俺だった! 俺をおびき寄せるためだけに、奴らはオメーを――!」
417「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:50 ID:sfkTfMA2
「・・・ふんっ――!!!」
 え? お嬢が何か振り被ったと思ったら、次の瞬間猛烈な衝撃が俺の
側頭部を襲った!
 辺りにすごい音が鳴り響き、俺は吹っ飛ばされたと思ったら横にあった
木に、これまた猛烈な勢いでぶち当たった。しかも顔面から。そしてお約
束とばかりに木に積もった雪がドサドサと俺に降りかかる。――全身雪ま
みれだ。って言うか半分埋まってる。極めつけはその俺の姿を見て爆笑す
る町のチビッ子たち。
 ――!? 一瞬何が起こったのか分からない。お嬢を見る。これまた、
見るからに、いかにも重そうなバッグを振り切った状態のまま肩で息をし
ている。
 ――あれで殴ったのか。しかも全力で。道理で頭がクラクラする訳だ。
いや、お嬢には俺を殴る理由は十分にあるのだが。それにしても、殴られ
るタイミングがずれてなかったか? 俺、何言ってたっけ?

 ――ふう、と大きく息をつくと、お嬢は何処か神妙な面持ちで、何やら
一人でぶつぶつとしゃべり始めた。
「――ったくもぅ。この一ヶ月、どれだけ必死に探し回ってたと思ってん
 のよ。やっと見つけたって連絡が来て――、会ったらそれこそ胸に飛び
 込んで、思い切り泣いてやろうと思って飛んで来たのに――」
 俺を横目でちらりと見る。
「――こんな調子じゃあね。萎えるどころじゃないわよ・・・・・・」
 そしてため息をはく。深ぁーく。 
「?」
「あ、いや。こっちの話」
 そう言って俺に手を差し伸べる。
 正直に言ってかなり躊躇した。この手をとっていいものかどうか。
 だがお嬢は、なかなか煮え切らない俺を睨みつけると半ば強引に手をとる。
そして手を引いて立たせると、そのまま、戸惑う俺をよそに俺の体にについ
た雪を払うのを手伝ってくれた。
 ・・・・・・お嬢の手は、優しく、そして温かかった。
418「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:51 ID:sfkTfMA2
 
 ふと、雪を払いのけながらお嬢が言う。
「・・・・・・聞いたわ、刑部先生から」
 お嬢の表情が悲しげなものに変わる。
「あんたはもう、ダメになっちゃったかも知れない――って。頑張ろう
 とかいう気持ちが無くなっちゃったって。自分自身を見失っちゃって
 る――って」
「・・・・・・」
 何も言えず俯く。

「でも――」
 お嬢は、俺の右頬に手を優しく当て、俺の顔を見つめ、
「私にとって、あんたは――、あんたよ」
 そして、
 ――微笑んだ。

 ・・・・・・それは、失われたと思っていたもので。
「あなたは――」
 俺の心の闇に飲み込まれたと思っていたもので。
「――播磨拳児、」
 二度と見る事は出来ないだろうと思っていたもので。
「――でしょ?」

 いつの間にか雪は止んでいた。
 俺の頬を触れるお嬢の手のひらから温もりが伝わってくる。それは、
確かにそこに、俺の傍にお嬢が存在することを証明し、また、俺の心の
奥底に凝り固まったものを少しずつ、少しずつ溶かし流していく。

「・・・・だが、俺は・・・」
 拳を握り締める。
「俺は、他人を・・・・・傷つけることしか、できないんだぞ・・・・?」
419「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:53 ID:sfkTfMA2

 お嬢が手をどける。そして下から上目遣いで聞いてくる。
「ねぇ、なんでさっきあんたを殴ったと思う?」
「え?」
「――あんたの態度に腹が立ったからよ。分かる? 人間なら誰だって、
 ムカついたら手が出ることだってあるじゃない?」
 ・・・・・・そういう問題ではないような気がするのだが。

 そしてまた、お嬢は優しく微笑みかける。
「あんたは、弱いわ――」

 ――何?

「人を傷つける痛みを知っているのね。――だから、他人を傷つけるこ
 とが怖い。他人と関わらず、いつも一人でとんがってる。けど、ホン
 トは、私に負けない位、寂しがり屋なのにね?」

 心を取り囲む壁が、音を立てて崩れ始める。

「――だから、私が隣にいてあげる」
 そう言って得意げに、大きなバッグを担ぎなおして見せた。

 何だ? 俺と一緒にいるつもりか?
「お嬢・・・。――俺は、俺じゃあ、お嬢を、幸せにすることは・・・できねぇ」
 唇をかみ締める。
「――自惚れないで!」
 !?
 お嬢がすごい勢いで俺に食って掛かる。
「あんた、何様のつもり? 自分の幸せぐらい、自分で探すわ。そして、
 必ず手に入れてみせる――!」
420「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:55 ID:sfkTfMA2

「私の幸せは――、あんたの傍にいることよ」
 ビシッと俺を指差し、あの強気な表情で、お嬢はそう言い切った。

 フフッ。相変わらず無茶苦茶言いやがる――
 ん? 俺、今、笑った・・・・・・?

「――敵は多いぞ?」
「これ以上増えても変わんないわ」
「・・・また同じ事が起こるかもしれない」
「あんたが守ってくれるんでしょ?」
「それにも限界がある」
「――何とかしなさい」
 まさに、ああ言えばこう言う。
 ――だがこの問答も、すごく、懐かしい。

 ふぅ、やれやれ――。
 俺は空を仰ぎ見る。そこには、どこまでも透き通る青空が広がってい
た。サングラスをしているのに、太陽がとても目に眩しく見える。太陽
光は優しく、温かく俺達を照らしていた。

 安藤は、俺は一人だと、俺は強いと言った。
 ――だがお嬢は、俺は弱いと言う。
 
 そうだったんだ――!
 俺は、俺以外に失いたくない物があると分かった時に、自分は弱くな
ったと思った。だけどそれは違う。俺は初めから、自分の居場所を、自
分の居ていい所を探していたんだ。
 そして俺は初めから、最初の頃から、手に入れた場所を失うことが怖
かったから、居場所を作らずに一人になるしかなかったんだ。
 それだけ俺は弱かったんだ!
421「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 05:58 ID:sfkTfMA2

 瞬間――! 俺の世界が、青空が急激にその大きさを増した!
 暗く長い、何処までも続くと思われたトンネルを瞬間的に抜けた!
 目の前に広がる、どこまでも続く青空が俺達を包み込んでいる。今生
まれて初めて見るような光り輝く太陽がそこにはあった。
 辺りに降り積もった雪に太陽光が反射し、まるでこの世界全体が光輝
いているように見える。そしてその中心に、俺を見つめるお嬢の姿があ
った。いつもと変わらぬあの表情で。俺の傍に――いてくれる!

「・・・・・・少しはマシな顔になってきたじゃない?」
 お嬢が俺を覗き込む。
「――ねぇ、今あなたの目の前にいるのは誰?」
 お嬢だ、と俺が言うと、お嬢が首を横に振る。
「・・・・・・沢近愛理だ」
 そう――
「じゃあ、私の目の前にいるのは?」
 そうだ。今お嬢の目の前に立っているのは他の誰でもない――
「――俺だ。播磨拳児だ」
 そのことを、今更ながら再確認する。
 しかしそれはもしかしたら、誰かに確認してもらわなければ案外気づ
く事が難しい事なのかもしれなかった。本当に、当たり前の事なのだが。
だがそれ故に、誰もがその事を気にしなくなっているのかもしれない。

「私が好きな――、播磨拳児?」
 お嬢は咳払いをコホンと一つすると、上目遣いにそう聞いてきる。
「――そうあって欲しいな?」
 そう言って笑ってみせる。自然に笑みが出せた。
 何よそれと言いながらもお嬢もつられて笑い出す。笑いがとまらない。
楽しくて堪らないのだ。誰かと笑うということが、こんなにも素晴らし
い事だったとは。
422「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 06:02 ID:sfkTfMA2
 
 ひとしきり二人で笑いあった後、お嬢が急にしおらしくなった。
「――ねぇ?」
 そう言って俺のサングラスを外し、吸い込まれそうな瞳で俺の目をじ
っと見つめた。
 ――う。な、なんだよ急に。不覚にも心臓が高鳴ってくる。
「・・・・・・目、つぶって」
 さらに見つめる。よく見るとお嬢の目はうっすらと涙に揺れているよ
うにも見える。
 互いの顔が接近する――。俺の顔が上気する。綺麗な大きな目。サラ
サラと揺れる金色の前髪。キリリと整った眉。肌理細やかな白く透き通
った肌。水に濡れたように艶やかな唇。そして感じる熱いお嬢の吐息。

 「・・・・・・・・・ねぇ・・・」

 俺は目をつぶった。――――――が、
 
 何か気配が消えたなーと思ったのも束の間、俺の腹のあたりにズドン
と重たい衝撃が走り、あれ?と思った時には何故か俺の体は華麗に空中
を舞っていた。太陽がキラキラしてる。――綺麗だなぁ。
 地面に着地した後も、俺はそのまま数m転がり、木にぶつかってやっ
と止まった。・・・・・・俺は見事に雪だるまとなった。
 
 何が起こったのか分からない。さっきもこんなことがあった気がする。
 お嬢を見る。何か映画の格闘シーンのような構えをして固まってる。
ご丁寧に手から湯気っぽいものまで出てる始末だ。 

「・・・・・・あ〜〜〜! スッキリした!!」
 そう言って、ん〜!と伸びる。確かにすっげぇスッキリした顔してや
がるなおい。
423「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 06:04 ID:sfkTfMA2
「まったく、お見舞いも何も無しで、やっと会えると思って五日ぶりに
 学校に出て見れば、会いたいと思ってた人は行方不明中ですって?」
 お嬢はつかつかと俺に詰め寄る。
「今度会った時、絶対一発ぶん殴ってやるって思ってたのよねぇ〜」
 ・・・・・・ぶん殴る? それどころじゃない、吹っ飛んだぞ?
 ん? そう言えば、俺も何かやりたかった事があるような?

「へっへ〜ん! どう? 効いたでしょ。私悔しくって、この一ヶ月の
 間、護身術の修行もしてたのよ? まだそれくらいしか出来ないけど、
 いつかあんたに守ってもらわなくてもいい位強くなるかも――、って、
 どうしたの?」

 俺の目に、見事に完成した大きな雪だるまが映った。あの子供達が作
っていたものだった。何度も失敗していたのだが、遂に成功し、素晴ら
しい雪だるまが出来上がっている。子供達の喜びようも一塩だった。
 それは――、太陽が出て雪が少し溶け、固まりやすくなっていたから
作り上げることが出来たということもできるが、失敗した後も挫けずに
子供達が挑戦したからこその賜物であったとも言える。

 ――ガキ共に遅れを取るわけにはいかねぇな。
 お嬢の一撃で、俺は完全に目が覚めた。 
424ポメラ煮あんこ ◆YZ4HIMANko :04/10/23 06:04 ID:xq3InLA6
キモイスレ
425「LIVEALIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 06:05 ID:sfkTfMA2
「いらねぇよ」
「・・・・・・え?」
「俺が守るからいらねぇよ」
 急に用事を思い出した。
「――行くぞ。お嬢」
 え? という顔をしているお嬢を尻目に、俺はお嬢の持って来ていた
バッグを担ぐと歩き出す。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。そうだわ、中村からあんたに渡して欲
 しいって頼まれていたモノがあるのよ」
「・・・・・・何だよ」
「知らないわ、ただ場所だけ指定してあって――。あ! ちょっと!
 絶対渡してって念押されてきたんだから!」

 
 そしてその場所に行ってみると。
 
 そこには、俺に今一番必要なモノがあった――――
426「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 06:05 ID:sfkTfMA2
13.
「ふぅ――・・・・・・」
 安藤は深く、深く煙草を吹かすと、足を組み替えて徐に階下を見渡す。
ここは安藤がやくざと組むようになってから、やっと経営を任され始めた
地下クラブの中だった。かなりの面積を誇り、300人は余裕で収容可能
な大規模なものだ。辺りには豪華な装飾が施され、正面にはメインホール
を取り囲むように巨大なステンドグラスが輝いている。そして常に大音量
のウーハーやストロボのシャワーが降り注ぐ。
 今日も、既に深夜だというのに200人を越える人々が安藤の足元で狂
ったように踊り続けている。全て安藤の息がかかった奴らだ。
 安藤は満足そうに頷いてみせると、どっかりと椅子に体を預ける。

 ――とその時!
 ドルルンッ!! ドルルンッ!! ドドドドドドド・・・・・・!

 辺りにバイクのエンジン音が響き渡った! 何事かと見回してみるが変
わった所はない。だが客も互いの顔を見合せ困惑している。DJもF言葉
を連発しながらも演奏を止めてしまった。

 まだ続いているエンジン音。そしてその音が少し小さくなったかと思っ
たら、・・・・・・次の瞬間――――!!

 一瞬全ての音が消え去ったかと思うと! ガラスの割れる音が大音量で
響き渡る!! 正面の巨大なステンドグラスを突き破り、一台のバイクが
突如として豪快に出現した!!
 降り注ぐガラス片と暴走するバイクに、階下で女性客の悲鳴が響き渡る。
一気にクラブ内は混乱の渦と化した。安藤はぎりりと歯を食いしばる。
 よく見ると暴走しているバイクには二人乗っているようだ。二人とも黒
いライダースーツにヘルメットを被っているので誰かは分からない。バイ
クは一頻りメインホールを暴走すると、そこに直結する正面入り口の大き
なドアの前で停まった。
427「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 06:06 ID:sfkTfMA2

運転していた奴がホールの中心にカツカツと足音をならし進み出る。安
藤は部下に顎で指示し、あっという間にそいつの周りを部下達に取り囲ま
せた。
 ふふ、どこの馬鹿かは知らないがこれで袋の鼠だ。生きて帰れると思う
なよ? 安藤は二階から暴走野朗を嘲笑う。
 安藤の部下の一人が誰だてめぇと大声で牽制する。 
 とその時――、

「よーぅ、安藤」
 そう言って暴走野朗はヘルメットを外した。その下にあった顔は――
「借りを、返しに来たぜ?」



 ――そう言って俺はヘルメットを外し、そして頭上にいる安藤を見た。
奴は初め驚いていたようだが、直ぐに気を取り直したようで、
「おや? 誰かと思えば負け犬の播磨拳児くんではないか」
 と言う。
「どうやら、やられ足りなかったようだな? スマンスマン。・・・・・・今度は
 確実に殺してやるよ」
 青筋を立てながらそう俺に話し掛ける。

「待ってろ。直ぐにその場所に行ってやる」
 俺はそう言った後、拳を構えた。
「言っとくが――、今の俺は、一味違うぞ?」
 にやり。ついでに手を前に出し、クイックイッと相手を誘ってみせる。

 ――ぶちん。そんな音が聞こえた気がした。安藤は凄い顔をしながら
手を振りかざす。その合図を皮切りに、一斉に相手が飛び掛ってきた!
428Classical名無しさん:04/10/23 06:47 ID:CmhThuII
支援?
429「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 06:49 ID:sfkTfMA2

 俺は一瞬屈んでみせ――、次の瞬間には最初に掛かって来た7〜8人
の男を瞬きをする間もなく床に叩きのめす。次々と床に降ってくる仲間
を見て臆したか、残りの奴らは少しの間尻込みをする――。

「・・・・・・どうした? 一度に掛かってくるなら、せめてあと10人以上は
 増やしたほうがいいぜ?」
「クッ・・・! 殺っちまえオメェ等!!」
 大気が震えるほどの雄たけびが響き渡り、その場にいた百数十人ほぼ
全員が洪水のように俺に押し寄せる!

 ――負ける気がしねぇ。顔を引き締める。
 まず転がったテーブルを足で立たせ後方からの攻撃を遮断する。その
間に前方から突っ込んでくる集団をヒラリと避け、そのまま飛び込み前
転の途中から逆立ちに移り足を自在に振り回し、目に付いた所にいた奴
等の手にある凶器を片っ端から叩き落とす。勿論この時、相手の頚椎、
たん中、鳩尾などいわゆる急所と呼ばれる部分を攻撃し、相手の戦闘能
力を奪うことも忘れない。
 前後から同時に突っ込んでくる。俺は手だけの力で上空に跳躍し、空
中で捻りを加えそのまま両側に蹴りを加える。爆発的な突進力で一気に
距離を詰め、何もさせないまま気絶させる。次々と掛かってくる野朗共、
右から、前から、左、後ろ、上、下。
 見える――。――敵が見える!!
 最小限のダメージで相手の戦闘力だけを的確に奪い取る。顎だけをピ
ンポイントで狙い脳を揺さぶる。その他にも水月や脳天。人間は、いい
ところに適度な強さや角度の刺激を加えるだけで、いとも簡単に気を失
ってしまうのだ。
 だがそんなこと、普通の戦闘で狙える事では決してない。今の俺は、
まるで何かが憑いたような、初めて枷を外されたかのような、体の奥か
ら湧き上がる新しい「力」を感じていた。
430「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 06:51 ID:sfkTfMA2

 ――お嬢は、俺は播磨拳児だと言う事を俺に教えてくれた。当たり前
の事なのに、俺はその事でかなりの間悩んでいた事と思う。
 学校で馬鹿やってる俺も播磨拳児だし、昔鬼神と恐れられていた男も、
やっぱり播磨拳児だったのだ。俺はそんな当たり前の事を今まで自分か
ら認めようとしなかった。
 自らの過去を自分から切り離そうとしてもがいていた。だがそんな事
は最初からできるわけはない。なぜならそれは自分自身なのだから。
 それでも自分の過去を認めない奴は、それはただ自分から逃げている
だけだ。絃子の言う通りだった。
 そして俺は――、自分自身の罪からも逃げ出そうとしていた。
 与えられた苦痛を罰として受け入れる事も出来ず、街を逃げ出した。
 そもそも、その罪に対し、後悔に苛まれ苦しみ続ける事が罰なのでは
ない。その罪に対し、いかに償って行くかという道こそが罰なのだ。償
う事も忘れ、自らの罪から逃げ出そうとしてた者、それが俺だったんだ。
 ――誰が見たってカッコ悪ぃやな。

 そんな暗闇にいた俺にまず必要だったのは、ただ苦しむだけの罰だけ
じゃ決して無かった。光を差し伸べてくれる者。俺を受け入れてくれる
者。即ち、いつか「許し」を与えてくれる人の存在だったんだ。

(お嬢は、腑抜けちまった俺を見捨てなかった――)
 ナイフを突き刺してくる。かわしつつ手を捻り上げナイフを落とす。
そのまま頚椎に一撃。後ろの奴が鉄パイプを振りかざした。
(「俺」を受け入れてくれた――!)
 間一髪で相手の懐に飛び込み、顎に掌低をぶちこむ。左右からクロス
で蹴りが襲ってくる。すかさず下段強蹴りだ。
(俺を必要としてくれた――――!!)
 さらにざっと30人程度の奴等が一斉に全方位から飛び掛る!
(そのお嬢が後ろで見てんだ!! 無様なカッコ晒せるかよ!!!)
 気合一つで吹き飛ばす!
431「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 06:53 ID:sfkTfMA2

 着いて来るなと行ったが、絶対一緒に行くと強引に着いてきたお嬢を
見る。するとなんと、大の男を2〜3人のしてしまっているではないか。
 ・・・・・・あれほど黙ってろよと言ったのに。いや、そういう問題じゃない。

 お嬢は俺に気づくと、ヘルメットを取った。サラサラと金髪が舞う。
そして得意げに俺にウインクをしたあとVサインを決めた。
 ――ったく、とんだ女神さまだぜ。

 メインホールが静かになった。床には人、人、人。だが血を流してい
るような形跡は一切見られない。奇跡だ。
 さてと――。俺はお嬢にそこで待っているように声を掛け、安藤の居
る二階へと続く階段を目指す。側近だろうか、まだ残っている奴等がい
た。だが今の俺の敵ではない。
 
 俺は見つけた。俺が戦う意味を、理由を。
 守りたい人を。守りたいものを、守りたい場所を。
 俺は本当の意味で強くなる。強くなってみせる。弱かった今までの自
分と一緒に。
 
 お嬢は、これからも襲われた時の恐怖や痛みを背負って生きていくの
だろう。そして俺も、血まみれの過去とその罪を背負ってこれからも生
きて行く。
 だがそれでも、沢近愛理は沢近愛理で、播磨拳児は播磨拳児だ。
 お嬢もきっと戦ってる。
 俺はもう――――絶対に逃げ出さねぇ!!!
 
432「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 06:57 ID:sfkTfMA2
 安藤の部屋のドアを蹴破る。既に傍にはもう俺達以外誰もいない。
「キエェェエェェーッ!」
 安藤がグルカナイフを切りつける! 俺はそれを片手で握り押さえつ
けた。
「・・・何っ!」
 ぎりぎりと両者は拮抗し合う。俺の血がナイフをつたい、ゆっくりと
たれ落ちる。銀色のナイフに血の色がよく映えた。

「安藤。前にテメェは、俺とお前は同じだって言ったよな?」
「・・・?」
「流れる血の色は同じみてぇだが――やっぱあれ、違うわ。・・・・・・テメェ
 と同じにすんじゃねぇ!!」
 俺はそう言うとナイフを叩き折り、そのまま奴に回し蹴りをお見舞い
した! 奴は吹っ飛び、机も破砕して壁に激突しやっと止まる。

「ぐふっ・・・! な・・・なぜ・・・それほどまでに強く・・・・・・?」
「哀しみ。・・・・・・哀しみが俺を変えた!」
 言ってみたかった。いや、でも事実よ?
「さぁ〜て、テメェに受けた借りはこんなもんじゃねぇしなぁ。覚悟は
 出来たか?」
 ボキリボキリと手をならす。ついでだ、殺気も浴びせてやれ。
「・・・ひっ!」
 今の俺なら昔の俺以上のの殺気、迫力と言ったものを自在にコントロ
ール出来る。なぜなら、昔を含めた、自分と言うものを見つけたから。
 今の奴には、俺が悪魔か猛獣に見えていることだろう。
「・・・ば、化け物め!!」
「その通りだ。お前以上のな」
 俺は拳に力を込める。殺気が膨れ上がる――!
「た、助けて・・・! 俺が悪かった!!」
「――もう、遅い!!」
 部屋に響き渡る豪快な破砕音と安藤の悲鳴! そして巻き起こる粉塵。
433「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 06:59 ID:sfkTfMA2

 しばらくして、辺りが落ち着いてくると。そこには泡を吹いて白目を
むき、失禁しながら気絶している安藤の姿と、奴の顔のすぐ横の壁にめ
り込む俺の右拳があった。

 ――けっ。
「二度と――――」
 俺は気絶している安藤に向かって叫ぶ。
「二度と――、俺の女に手をだすな!!!」

434「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 06:59 ID:sfkTfMA2
14.
 俺は、お嬢の待つバイクのところへ戻った。お嬢は待っていてくれた。
「だぁーれが、あんたの女なのよ?」
 既に後部座席にまたがっていたお嬢は、あのいつもの、何か企んでい
そうな、勝気で、こちらを挑発するような笑顔で俺を見ている。それも
一度は失われたと思っていたものだった。

「・・・ちっ、聞いてやがったのか」
 しかし、今はこうして俺の目の前にちゃんとある。
 俺は・・・・・・守れたのだろうか?

「ねぇってば! ねぇ、誰よ? お〜い」
「うるせー!」
 言いながら、バイクにまたがると発進させた。
 もうっ、と言いつつも俺にしがみつくお嬢。
 
 いや、俺はこれからもずっと守ってみせる――! 
 どんな事があっても!



 流石に夜通しバイクで走り続けて、そのままあれだけの喧嘩をし、そ
してまだバイクで走り続けると、全国廻って鍛えられていた俺の体も悲
鳴を上げるってもんだ。ようするに疲れた。

 今、俺はあの街に向かっている。俺達の学校がある街に。
 途中、お嬢が海を見たいというので、遠回りになるが、俺もその意見
に賛成し海沿いを走り続けた。
435「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 07:01 ID:sfkTfMA2

 俺にぎゅっとしがみつくお嬢。口数は少ない。
 その時、太平洋から太陽が昇ってきた。急激に明るくなる空。
 ――夜明けだ。
 紫がかる空の色、太陽光に黄金に輝く海。そして暖かく照らす太陽。
俺は今日ほどの夜明けを、見たことがない。ただ――、美しい。
 俺の、長い長い夜は明けた。どんな夜でも、終わらないものなど無い
のだ。降り続く雨もまた然り。
 お嬢は、その光景を見ながら何も言わない。言葉など必要なかった。

 しばらくして、太陽も海から離れた頃、俺は口を開いた。
「なぁ、俺がいない一ヶ月間、寂しかったのか?」
 お嬢はふっと笑う。
「――あんたの事なんか忘れてたわ」
「・・・・・・かわいくねーやつ」
 
 またしばらくして――、
「なぁ、本当は寂しかったんだろ?」
「しつこいわね、だから忘れてたって言ってるでしょう?」
 お嬢はそう言うと、俺にしがみつく腕にさらに力を込めた――

「・・・・・・本っ当に、かわいくねーやつ」
 俺はそう言って笑みを浮かべる。
 二人だけの時は続く、だが時は確実に未来へ続いて行く。
 
 俺達の街が、すぐ目の前まで近づいてきていた――――。
436「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 07:03 ID:sfkTfMA2

 お嬢を送り届けに、お嬢の家に向かった。
 お嬢は最後までいやいやと被りを振っていたが、家に何も言わず出て
きてそのままではまずいだろうと何とか説得させた。
 そして門の前へ到着すると、そこには執事の中村が立っていた。

「お待ち致しておりました――」
 中村はそ知らぬ顔をして立っている。だがこの人、お嬢に聞いたのだ
が人知れず俺の場所を探し出したり、俺のバイクが燃やされた事も知っ
ていたり。まるで最初からそうなる事を見越したような働きをする。
 あの時俺用のバイクを用意していたあたり、もしかしたらお嬢に励ま
された俺が立ち直り、バイクが必要となることも見越していたのかもし
れない――。そして今も、まるで俺達が帰ってくることを知っていたか
のように門の前で出迎えている。
 ちっ、喰えないおっさんだぜ。
 お嬢は中村に促され一足先に家に入っていった。大分後ろ髪引かれて
いたようだったが――、何、これからはいつでも会えるさ。
 
「ありがとうございました」
 俺は帰り際、中村に頭を下げた。自分でも驚くほど自然に言葉が出る。
「いえ――。私は特に何もしておりません。播磨様は、私が思った通り
 の殿方で御座いました。さすが、お嬢様が見込まれただけの事はあり
 ます」
「あの、このバイクは・・・?」
「あなたに差し上げます。私が若い頃愛用していたものですが、大分
 じゃじゃ馬で。しかし播磨様は、十分乗りこなしておられるようだ」
 俺は笑いながら返した。
「お嬢よりも、ずっとおとなしいですよ」
 それを聞くと、中村は一瞬目を丸くし、そしてこれ以上ないかと思わ
れる笑顔になった。――そして俺に向けて、親指を立ててみせる。
 俺も、バイクを走らせ走り去ると同時に親指をグッと立てた――
437「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 07:05 ID:sfkTfMA2
 早朝の街を走る。どれもが懐かしく感じられた。
 矢神駅、公園、矢神神社に高校の通学路。そして――、俺が住んでい
た絃子のマンション。
 「いつもの」ガレージにバイクを止め、「いつもの」エレベーターに
乗る。そして、意を決して通路に踏み出ると――、
 
 自宅前のドアに体を預け、絃子が体を丸めて座っていた。
 こんな、朝は冷え込む12月の頭に、一体家の外で何を?
 近づいてみる、眠っているのか? 俺が覗き込もうとしたその時、俺
の気配に気づいたのだろうか。絃子はピクリと反応し、静かにその頭を
上げる。
「・・・・・・あ・・・」
 絃子の目が俺を捕らえる。すると絃子はスッと立ち上がると、優しい、
優しい微笑みを浮かべて俺を見つめた。
「・・・ケリは――、つけて来たのか?」
 ――まだまだ問題は多い。
 まだ大勢いる俺の敵、学校、お嬢の事に、妹さん、成績――
 だが、絃子が言ったのは、「自分を見つけてきたのか?」という意味
である事は直ぐに分かった。 

「――ああ!」
 俺は笑ってみせる。
 絃子は、フッと笑って右手の平を頭上に掲げた。
 俺は、その掲げられた手の平に向けて俺の手の平を合わせるように叩
く! 辺りに小気味よいハイタッチの音が響く。
 そして後は、それだけで十分だった。

 絃子が家のドアを開ける――
「おかえり――、拳児くん」
 俺は、俺の家に、帰るべき場所に足を踏み入れる。
「――ただいま」
438「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 07:06 ID:sfkTfMA2
15.
 いざその時が来るとけっこー緊張するもんだな・・・。
 絃子にも急かされ、それから学校に行く事になったのだが――。

 いつものように矢神坂を登り、そして約一ヶ月振りとなる学校が見え
てきた。いつも通りの、学校だった。
 ――うう。考えてみれば、最後に学校に来たとき俺は随分悪い印象を
与えていたように思う。っていうか、俺はこの二日間ほぼ一睡もしてな
いぞ? 酷い顔してるんじゃないだろうか。
 なんとなく、不安が広がる。う、皆がなんとなく、俺に注目している
ようにも見える。
 
 とうとう、2−Cの教室の前にきた。ついてしまった。
 ドアに手を掛ける――、が、その前に深呼吸を一つ。はぁあー。
 心臓がどきどきする。顔がこわばる。
 えぇーい! 男らしくないっ! 当たって砕けろだ!

 俺は思い切って教室のドアを開けた――!!


「「「「おかえり〜〜〜〜!!!」」」」
(パンッ! パンッ! パパパンッ!!)

 ・・・・・・打ち鳴らされるクラッカーに、降り注ぐ花吹雪。
 そして、そしてクラスメート達の笑顔が、教室に入った俺を出迎えた。
 ・・・・・・・・・え?

「おかえり、播磨くん!」
 天満ちゃん・・・・・・。そして・・・
「よ!」
 周防、高野・・・・・・
439「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 07:09 ID:sfkTfMA2
「・・・・・・これは?」
「な〜に言ってるのよ。あんたのご両親に不幸があって、元気になるま
 で看病してたんでしょ?」
 ――お嬢!? ・・・・・・なんだって?
「お見舞いに行こうにも、誰も播磨君の家知らなかったから・・・」
 
「お前が学校で馬鹿してくんないとつまんなくてさぁ〜」
「少しは俺達を頼ってくれてもよかったんだがな」
 今鳥と麻生だ。それに菅に吉田(山)・・・・・
「まったく。貴様の補習はまた僕が担当になったぞ!」
 ・・・花井・・・・・・

「播磨ぁ。事情は刑部先生の方から聞いてるぞぉ。今までの欠席は休学
 という扱いになるからな。まったく、次からは連絡くらいしろ」
「せんせぇ、次があったら困るって」
 教室内に笑いが広がる。

 その他のクラスメートも次々と俺を心配した言葉をかけてくれる。
 ――俺は、馬鹿だ。何を心配していたのだろう。何を不安に思ってい
たのだろう。皆は、こんなにも普通に、いやそれ以上に俺の存在を認め
てくれてるじゃないか! 受け入れてくれてるじゃないか!!

「・・・・・・みんな・・・」
「――何? ガラにもなく感動しちゃった?」
 ・・・・・・俺が本当に感動してるというのに、この女は水を指す。
「やめてよ、気持ちワルーイ」
 くぅ――、こんのお嬢・・・!
「まぁ播磨、落ち着けよ。こいつは今照れてんだよ。何せお前がいなか
 った間一番心配してたもんなー?」
 周防がお嬢の肩に手を廻しながら話す。
440「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 07:10 ID:sfkTfMA2
「え!? 私が・・・!? 何で」
「なんでって、・・・オメー等付き合ってたんじゃないのか?」 
 なんだと!?
「んー、付き合ってるって言うか――」
 そして、お嬢はいたずらな目をして笑い、俺をちらっと見ると、
「――主従関係?」
 そしらぬ顔でしれっと言ってのけた。
「――ほほう? 少しは殊勝な考えができるようになったじゃねーか。
 どれ、命令してやるから『ご主人様』と呼んでみな?」
「ふぅ――、無能な下僕を持つと苦労するわ。しかもド変態ときてる」

「・・・・・・なんだと?」
「――なによ」
 教室の中央で睨み合う二人――。

「あ〜あ、さっそく始めたよ。あの二人・・・」
「でも、コレがないとなんか物足りないよね〜? ね、晶ちゃん!」
「――めでたしめでたし。・・・ハッピーエンド?」

 ――俺は、俺の居場所を見つけた。守りたいものを見つけた。これか
らも絶対に守り続ける。そして、絶対に、もう逃げない。
 
 俺は、俺の歩んできた道を忘れていたんだ――
  憎悪と暴力、怒りと憎しみが渦巻く血に汚れた陽のあたらない道

 今、その道の上にも、確かに、明るい陽がさした。もう、見失わない。
 ・・・・・・っていうか、本当に、この女は――!

「・・・・・・かわいくねぇーー!!」

              〜劇終〜
441「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 07:12 ID:sfkTfMA2
エピローグ♪
 
 あれから、何とか平穏無事(?)な学校生活を続けている。寒さも厳し
くなってきているが、全くこいつ等は退屈させてくれないぜ。

 あれから、巷ではどうやら播磨・鬼神伝説が予想以上に広まったよう
で、不良界ではしばらく播磨が恐怖の代名詞となり、街で不良らしき奴
らを見つけても俺を避けて通るようになった。報復してくる何も、音沙
汰さえ聞こえてこない。 ・・・・・・俺が期待した結果とは違ったが、まぁいいか。

 妹さんには平謝りに謝った。それはもう凄い勢いで土下座しまくった
もんだ。そのかいあったかどうかは知らないが、
「あの・・・・・・一つ、お願いがあります」
「おう! 何でも言ってくれ! 俺に出来ることなら――いや、出来な
 いことでも何とかしてみせる!」
「・・・また、播磨さんが描く漫画、読ませてもらってもいいですか?」
「え? あ、いや、それは願ってもないことだが――」
「・・・・・・お願い・・・します――」
「え、あ・・・こちらこそ」
 と、言うことになった。まぁ結果的によかったと言えるだろう。って
いうかよすぎだ。本当によかった。一安心だ。

 動物達にもなつかれるようになったし、オヤジとの約束である漫画で
も、自分を見つめ本気で描けるようになった。目指すのはプロだ。
 ――変わったことと言えば、絃子が妙に優しくなった。俺がバイトで
遅くなった時も何故か夕食を作って待っているようになったし、家にい
る時は風呂、トイレ、寝る以外は大抵一緒に過ごそうとするようになっ
た。まぁ悪い気はしないが。
 ふと、俺が旅から帰ってきた朝の事を聞いてみたことがある。すると、
お嬢の執事の中村から、帰ってくるという連絡を聞いて、迎えてやろう
とドアの前で待っていたらしい。ホントに頭が下がる。
442「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 07:14 ID:sfkTfMA2

 そして、俺は今、お嬢の家からもらったバイクのお金を払おうと日々
バイトに励んでいる。お嬢は払ってもらわなくても別にいいと言ってく
れたが、それでは俺の沽券にかかわる。
 そう言う訳で、俺は今も中々に渋い喫茶店げアルバイトに勤しんでい
るところだ。白シャツにジーパン。その上に真っ赤なエプロンを下げて、
グラサンも外している。そこまでは別にいいのだが、スマイルというの
が苦手だ。
 ここのマスターは気さくないい人で、俺が全国放浪中に知り合った。
そのつてでバイトさせて貰っている。

「・・・お客様、こちらをお下げしてもよろしいでしょうか?」
「ちょっと、よく見てよ。まだ底の方に残ってるでしょ?」
 そう言ってグラスの底を指差してみせる。確かに液体があるが――、
それは氷が溶けたものだぞ。
「では、こちらお下げします・・・」
「待ちなさいよ! そのパセリ最後に食べようと残しといたの!」
「ぐっ・・・!」
 プルプル・・・。このお嬢――、一体どういうつもりだ? 毎日俺の
バイト先に現れやがって。そんなに俺の邪魔がしたいか?
「そんなことよりも、ほら、コーヒーおかわり」
 そう言ってカップを差し出す。

「おいコラ、いいかげんにしろよ? 何考えてやがる」
 おいおい、お客様は大切にしろと奥から店長が声を掛ける。
「テメェに関わってると、俺の給料が減るんだよ。リアルタイムで」
「だから別に払ってもらわなくてもいいって言ってるでしょ?」
「ダメだ。俺のプライドが許さん。っていうかなんだ? そんなに俺の
 バイト邪魔して楽しいか?」
「だって――」
443「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 07:17 ID:sfkTfMA2
 ふと、お嬢は(いろんな意味で)ドキッとする様な笑顔で俺を見上げた。
「バイトすると、あんたと会う時間が減るじゃない?」
 奥で店長が口笛を吹く。ついでに熱い熱いと扇いでみせた。まだ冬の
真っ只中だぞ。
「それに、変な虫がついたら困るしね。だから監視してんの♪」
 そしてニカッと笑った。
 う。いや、だまされるな(?)、この笑顔に何度してやられた!?
「じゃあさ、愛理ちゃんもこの店で働いてみたら?」
 奥から店長が顔を出す。ちなみにお嬢はもうここの常連だった。
「――え?」
「な――!? 店長!?」
「そしたら、今言った問題を網羅しつつ、全面解決でしょ?」
 そう言って自慢のパイプを吹かす。
「わぁ〜、マスター話せるぅ」
「ちょっ!? 店長! こいつの料理の腕知ってるんですか!?」
「――何よ、それ。関係ないでしょ? ウェイトレスなら」
「最低限コーヒー淹れられるようにならねぇと話にならねぇんだよ」
 ま、無理だろうがなと肩をすくめる。
「はぁ? あんたも自分の顔鏡で見てきたら? 子供が泣いて怖がる様
 な顔してるくせに」
「ここは子供をターゲットにしてねぇからいいんだよ」
 大歓迎中だよ〜とつっこみを入れる店長の言葉はもはや聞こえない。
「私がウェイトレスやってやるって言ってるのよ? 光栄に思いなさい!」
「なんで俺が光栄に思わにゃならんのだ! 引っくり返って俺の仕事増や
 してくれるだけだろうよ!?」
「――何ですって!?」
「――何だよ!?」
444「LIVE A LIVE 〜播磨拳児と沢近愛理の場合〜」:04/10/23 07:19 ID:sfkTfMA2

 ふう、こりゃこれからは退屈しなくて済みそうだな。店長は、今もな
お傍(旗)からみたら痴話喧嘩にしか見えない問答を繰り返している二人
を見ながら、パイプを吹かした。
 っていうか、二人とも笑い合ってる。やれやれ――、なんとまぁお似
合いのカップルだろうね。

 この二人の痴話喧嘩が、この喫茶店の名物になったことは、
 言うまでもない――――。

 時は進む。俺達を乗せて。だが、お嬢と一緒なら、どこまでも俺は俺
らしく生きていけるだろう。ずっと。

「ヒゲ! 何やってんの、早く行くわよ?」
 手を引いて、歩き出す――――、未来へ!

――THIS IS ONLY THE BEGINING To Be Continued――
445蕗月:04/10/23 07:20 ID:sfkTfMA2
うわぁ、やっちまった(いろいろと、色んなとこで)。
――すいません、どうしてもどん底に落ちて這い上がる播磨を書きたかったんですっ。
ぶっちゃけヒロインはまぁ誰でもよかったんですが、どう考えても、
っていうか自分が旗派だもんで沢近にしました。
しかし、相当長いっすねこれ。全部読まれた方、ご苦労様です・・・。
ちなみに最初は>>352からです。長。
書き終わってみると、なんか旗SSと言うより、播磨SS的な感じがしますねぇ。
しかしもしかしたら、本編の播磨も心のどこかに闇が潜んでいるのかもしれませんねぇ。(?)
この話では二人は無事に結ばれました(?)が、本編では以外とこれよりも波乱万丈な話でもこない限り、旗派は成就しないのではないかと思う今日この頃です。
 それでは長々とシツレイシマシタ
 ・・・・・・あ〜連続投稿引っかかりまくり。しんど
446Classical名無しさん:04/10/23 09:08 ID:5.YSDr0k
良かったよ
447Classical名無しさん:04/10/23 09:10 ID:mBNhOFb6
GJ 蕗月さんあんたすげーよ
448Classical名無しさん:04/10/23 09:32 ID:NQr7f65Y
GJだけど疲れたヨォ…
449Classical名無しさん:04/10/23 10:19 ID:aIG8NC5I
GJ
よく頑張った。

ところで、沢近の台詞にある
>頑張ろうとかいう気持ちが無くなっちゃったって。
この部分、どこかで見たような気が……
450Classical名無しさん :04/10/23 10:35 ID:VrO0y8uM
内容はGJですが、
付く→着く 喫茶店げ→喫茶店で 
とか推敲をもちっとお願いします。
451Classical名無しさん:04/10/23 11:20 ID:ELSbu01I
GJ!
でもsageはして欲しかった。
452Classical名無しさん:04/10/23 11:25 ID:R6f2F8pU
蕗月さんにお聞きしたいのですが沢近は安藤にやられてしまったのですか?
453Classical名無しさん:04/10/23 12:09 ID:.PGLcnoo
>>445
レイプとか入れるなら事前に警告でも書いといてくれよ。
少しは考えてくれ。
454Classical名無しさん:04/10/23 12:28 ID:iwYZ9sgU
乙です。
ただ、セリフの元ネタが分かるとなんか萎える
455Classical名無しさん:04/10/23 12:48 ID:vlowDK0s
重力の虹読みはじめたけどムズ.....
頭悪いの再認識しちゃったよ。
456コンキスタ:04/10/23 12:53 ID:1IhObbS.
 ども。コンキスタです。
 皆さん感想ありがとうございました。好評だったようで何よりです。ほっとしました。
 連載は自分で勝手に始めたことですが、書くのに時間を使うので少し苦労しました。
 変な義務感で書いていった感じもします。
 それでも皆さんのご感想を読んで、やってよかったなと思いました。本当にありがとうございます。
 次があるかどうかはわかりませんが、もしあったならば、そのときもどうかよろしくお願いします。
 本当に、ありがとうございました。
 ではでは。

>>445
 長かったですが、GJです。
 微妙に問題作(?)ではあったと思いますが、よくできていて面白かったです。
457Classical名無しさん:04/10/23 12:53 ID:lv4lfbG2
長すぎ。てめーのサイトでやってろバカ。
458Classical名無しさん:04/10/23 12:53 ID:x.Y/cp.A
GJ!GJ!大河巨弾連載乙でした!旗派の漏れには珠玉の逸品!
これであと10年は戦える!
459Classical名無しさん:04/10/23 13:00 ID:lv4lfbG2
っつー訳でID「sfkTfMA2」をNG登録。おー、消えた消えた。
460Classical名無しさん:04/10/23 13:26 ID:LWPvdaGs
sageはしといてくれ
長い上に延々と上げてるってだけで読む気失せる

あと、問題ある内容なら前置きとNGワード設定もな
461Classical名無しさん:04/10/23 13:52 ID:f5rpO2LY
>>445
文章も話の構成も中学生っぽいですね。
なんだかとても素直で若い感じ。
462Classical名無しさん:04/10/23 13:54 ID:L1TRJWhM
GJです.
GJだけど,やられてしまうのはちょと...



463Classical名無しさん:04/10/23 14:56 ID:5.YSDr0k
短すぎ。てめーのサイトでやってろバカ。
464Classical名無しさん:04/10/23 15:07 ID:iPaptCcU
ただの暴行だとダメだったんでしょうか?
話の内容は自分でも考えたことある内容だったから
すんなり読めたんですけど…
うまくまとまってるとは思います
465Classical名無しさん:04/10/23 15:50 ID:ZsMWXcBQ
>>445
まず投下前に必ず警告を入れてください。
あと文章ももう少し研究されたほうが良いかも。
・・・は…にするとか。
まあ個人的には受け付けられない内容でした。
466Classical名無しさん:04/10/23 15:59 ID:lv4lfbG2
じゃ、まあ気分転換に作ったんで以下に投下。
467Synchronicity_fairy_tale(1/10):04/10/23 16:00 ID:lv4lfbG2
 シンクロニシティ、という言葉がある。
 まあ、刑務所の死刑囚が一斉に脱走して日本に来たり、猿が百匹
一斉に芋を洗うようになったり、ニトログリセリンが固まったりと、
よくある不思議現象である。

 で、今夜この矢神町でもそのシンクロニシティ現象が起ころうと
していた。


 ――沢近家。

「すぅ……すぅ……」
 恐らく一般庶民では一生眠ることを許されないようなフザけた豪
華さのベッドでこの家の一人娘である沢近愛理は安らかな寝息を立
てていた。

 夢。
 夢を見ている。

「ん……?」
 気付くと、学校の中庭にぽつんと突っ立っていた。
 はて、授業が始まっちゃったのかしら? いけない、急がないと。
 あ、ちょっと待って。わたし、確か何か約束してなかったかな?
「お嬢……」
「あ、ヒゲ」
 それで思い出した。自分は確かこのヒゲに呼び出されていたんだ
っけ。話があるとか、珍しく深刻な表情で。
「で、何よ話って。さっさと済ませてよ、わたし授業に遅れたくな
いんだけど……」
468Synchronicity_fairy_tale(2/10):04/10/23 16:02 ID:lv4lfbG2
「そうだな」
 振り返った播磨がサングラスを外す――不覚にも、その真摯な瞳にドキリとさせられる。
「ま、まあ……別に、ゆっくりしていってもいいんだけど、でもその、誤解されるとお互い困るし……」
 しばらく押し黙った後、ゆっくりと播磨が言葉を吐き出した。
「カレーを作ってくれ」
「……は?」
「だから、カレーを作って欲しいんだ」
「わたしのカレーが食べたい訳?」
「お前のカレーが食べたいんだ」
 カァッと、頬が熱くなっていくのが分かる。
 わたしの? わたしのカレーが食べたい? 天満の妹さんじゃなくて、わたしのカレーが?
「お嬢……」
 え、と思う暇もなく播磨に両肩をつかまれる。
「え、ちょ、ちょっとやだっ、こんなとこでいきなり何すんのっ」
「俺のために、カレーを作り続けてくれ……一生」
 一生、というフレーズが電撃のようにわたしの心臓を直撃した。
「そっ! そそそそそそそれって、それって、何、ぷっ……ぷぷぷ
プロポーズ!? だ、ダメッ! 早いわよそんなの! わたしたち、
まだ高校生だし! 清く正しい交際しなきゃだし!」
「ダメか?」
 播磨の瞳が悲しみに彩られる。自分の言葉をわたしは心底後悔した。
「ち、違うわよ! その、こういうのはもうちょっと……お互いの
ことをよく理解してから……だ、だってわたし達付き合ってもない
し、キスしてもないし……」
 播磨の顔がぐっと近付く、抵抗しようにも真摯な瞳に射抜かれた
ままで、一歩たりとも下がることもできず。
「!&$#%&$#&#!?」
 唇が、塞がれた。
 ――と同時に目が覚めた。

「キャ…………キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
469Synchronicity_fairy_tale(3/10):04/10/23 16:03 ID:lv4lfbG2
 ――ほぼ同時刻、塚本家。

「すぅ……」
 普通のベッドで穏やかな寝息を立てている塚本八雲。彼女もまた、
夢を見ていた。

「……あれ?」
 屋上だった。
 ええと、私はどうしてここへ……あ、そうか。いつもみたいに、
播磨さんに屋上に呼ばれたんだっけ……。
「漫画できたのに、どうしたのかな」
 あ、でももしかしたら新作を思いついたのかも。
 少し心が浮き立つ。播磨さんの漫画は好きだし……。
「悪い、八雲ちゃん遅くなった」
「あ、いいえ……あれ?」
 首を傾げた。今、自分の呼び方が変だったような……。
「どうした?」
「い、いえっ……何でもないんです」
「今日は……」
「あ、漫画……ですか?」
 播磨さんが首を横に振った。ちょっとだけガッカリすると同時に、
不思議に思う。
「漫画もあるけどよ……今日は、八雲ちゃんに大事な話があるんだ」
「あ……」
 そうだ。八雲ちゃん、私……いつもは「妹さん」って呼ばれてい
るのに。
470Synchronicity_fairy_tale(4/10):04/10/23 16:03 ID:lv4lfbG2
「八雲ちゃん……俺のパートナーになって欲しい」
「ぱーとなー……?」
 こくんと播磨さんが頷いて、サングラスを外した。あ、そう言え
ば播磨さんがサングラス外した顔って初めて見る……。
「えと……その……」
 頭の中で一生懸命考えを纏める。パートナー、播磨さんのパート
ナー……何のパートナー?
「あの、パートナーって……」
 播磨さんが瞬間移動したのかと思うくらい、ぐっと近くに来た。
 いつかのときのように、しっかりと両肩を掴まれる。
「俺の、人生のパートナーになって欲しい!」
 頭の中が真っ白になった。
 じ……じんせいのぱーとなー……?
 人生のパートナーっていうと……その、それって、まさか。
「あ、のっ……人生の、パートナーって……」
 自分で言った瞬間、顔に熱が溜まっていく。人生のパートナーが
指し示すものは一つしかないではないか。
「八雲ちゃん……」
「え?」
 ぐっと顔を近づけられる。抵抗することもできない、抵抗するこ
とを考えない。

「あ――――――」

 唇が塞がれた。

 そして目が覚めた。

「……………………ゆ、め………………」
 カァッと頭に血が昇るのが自分でもよく分かる。バタバタと足を
バタつかせ、枕に顔を埋める。
471Synchronicity_fairy_tale(5/10):04/10/23 16:04 ID:lv4lfbG2
 ――同時刻。姉ヶ崎宅(マンション)。

「むにゃむにゃ……」
 温かい布団に潜りながら、姉が崎妙は尽きることのない睡眠欲を補給していた。
 まあ、これだけ眠っても保健室で眠くなるのが常ではあるのだが。
 ……そしてまた、彼女も夢を見ていた。

「姉さん……お姉さんって」
「あれ〜?」
 ゆさゆさと揺さぶられて気付いた。
「いっけな〜い、また寝ちゃってた」
「しょうがねぇなぁ……」
 背後でそんな声と共に笑い声が聞こえてきた。振り返る。
「あら、ハリオ。もう、またサボり?」
 くすくすと笑う私を見て、ハリオは照れ臭そうに頭を掻く。
「違う。今日はお姉さんに大事な話があるんだって」
 あら? いつもと違ってシリアスな表情。ひょっとして、恋の悩み相談かな?
 少し寂しい気持ちを押し隠して、私は彼に改めて向き直る。
「どうしたのかな?」
「あのよ……俺、フラれたんだ」
 ……そっか、フラれちゃったか。
「そっか」
 よしよし、と私はハリオの頭を撫でる。でも、不思議なことに彼
の表情はサッパリとしているようだった。
「いや、でもよ。あんま悔しくねーんだコレが。ずっと惚れてた人だったんだけどさ」
「そっか……自分の中で区切りついてんだ」
 ううん、慰めてあげようと思ったのに、ちょっと残念。
 ……などと思っていると、ハリオは首を振った。
「違う。俺も最初そう思ってたんだけどよ……本当は、もう俺の心
の中には別な女の人がいたんだ」
472Synchronicity_fairy_tale(6/10):04/10/23 16:04 ID:lv4lfbG2
「へぇ……」
 何だ、やっぱり恋の悩み相談じゃない。
「もう、人に相談しているんだからグラサンくらい外しなさい」
「そ、そうだな」
 素直に、大人しくサングラスを外すハリオ。
「うーん……フッた女の子も、今のハリオの顔を見たら後悔するか
もね」
 そう言って、くすくすと笑う。ハリオの素顔を見たことがある人
間なんて、この学校でも数えるほどしかいないのでは……などと考
えると、少しばかりの優越感を抱く。
「でさ、俺の中にいた女の人ってのは……」
「えーと、沢近さん?」
「……いや、違う」
「じゃあ、あの子かな。ほら、今ハリオが噂になってる……」
「塚本の妹さん? いや、違う」
「じゃあ、私だったりして〜」
 あはははは、と笑いに紛らわせて、ちょっとだけ自分の希望を入
れてみる。
 宝くじを買ったときの「もしかして」という気分だった。
「まさかね」という気分も入っている。
 が。
「そうなんだ」
 ハリオがそう言って頷いた。

「……え?」
473Synchronicity_fairy_tale(7/10):04/10/23 16:04 ID:lv4lfbG2
 言葉を失う私を他所に、ハリオは続ける。
「何つーかさ、俺が最初にフラれて雨ん中拾ってくれたお姉さんの
顔が浮かんでさ、そーっすっと告白してフラれても全然悔しくなか
ったっつーか……」
「え? あ、ちょ、ハリオ、それ、えと……」
 私は、人を好いたことがあっても……こうして好かれたことなど
幾度もないのではないだろうか。
 剥き出しの、情熱的なこの気持ちをぶつけられたことなど、一度
もなかったような。
「お姉さん……」
 ハリオが椅子から立ち上がり、私の両肩を掴んだ。
「え、ちょっと、やだ……ここ、保健室……誰か来たら……」
 声が震える。大人の余裕など、もうどこにもない。
「かまわねぇ」
 そう言って。

「――――――!」

 唇を塞がれた。
 そして、目が覚めた。

「あら……?」
「……ハリオ?」
「……なんだ、夢かぁ……」
「あー……勿体なーい……」
「……もしかして私ってば欲求不満なのかな……」
474Synchronicity_fairy_tale(8/10):04/10/23 16:07 ID:lv4lfbG2
 ――同時刻、刑部宅(マンション)。

「……すー……すー……」
 規則正しい寝息を立てているのは、刑部絃子だ。もうここまで来
れば自明の理というかバレバレというかベタベタというか、当然の
ように彼女も夢を見ていた。

 マンションのベランダで、水割りを片手にぼんやりと夜景を見て
いた。
 ここからの風景はすごく綺麗だ。だからこそ、ここを購入したの
だけど。

「ふぅ……」
 だって言うのに。今の私はどうしてか寂しかった。
 お金がいくらあったって、人の心が買える訳ではない。人の過去
が消える訳でもないし、私がやってきた事が帳消しになるはずもな
い。ましてや、相手がお金に心を動かされないならば尚更だ。

 子供の頃、拳児くんと私はさほど仲が良くなかった。
 従弟である彼の生意気さを受け入れるほど、当時の私はキャパが
広くなかったし……。
 彼もまた、そんな自分の感情を察知したのかたまにぶっきらぼう
な会話をするくらいで、親戚らしく遊んだりしたことはなかったよ
うに思える。
「イトコー」
 隣のベランダで、拳児くんが手を振っていた。
 む、と先ほどの感傷も忘れて睨みつける。
「拳児くん、ここから入ると殺すと言ったはずだが」
 だが、彼は生意気そうな表情を浮かべてひょいとこちらへやって
来た。
475Synchronicity_fairy_tale(9/10):04/10/23 16:07 ID:lv4lfbG2
「やれるもんならやってみろ」
「む」
 生意気な。
 ……素早くエアガンを取り出す。が、普段の彼からは考えられな
いほどの俊敏な動きで腕を抑えられた。
 水割りがその拍子に床に零れ落ちる。
「……なっ、何をする!?」
「そのままでいい。大事な話がある、聞いてくれ」
 そう言えば、今の彼はサングラスをしてない。珍しいこともある
ものだ。
 いや、そんなこと考えている場合ではなく。
「な、なんだ……」
「イトコ。俺、ずっと前からお前に言わなくちゃならないことがあ
ったんだ」
「……」
「俺さ、最初に会った頃から生意気だっただろ?」
「まあな、君ほど生意気な子供はそういなかったぞ」
「あれはな……イトコに、子供扱いされたくなかったからだよ」
「……ま、まあ年頃の子供なら誰でもそう考えるだろうな」
「違う」
 拳児くんが首を横に振った。
「イトコだけには、子供扱いされたくなかったんだ。分かるか、俺
の言っていることが?」
 段々と、心の余裕が消えていく。
 そんな真っ直ぐな瞳で見られると、自分が丸裸にされた気分だ。
476Synchronicity_fairy_tale(10/10):04/10/23 16:08 ID:lv4lfbG2
「そ、そうだな……私が君の初恋ってことかな、こ、光栄だな……」
「そうだ、初恋だった。俺の初恋は、イトコだったんだ。……それ
で、今もその初恋が続いてんだ、俺の心の中では」
 カチンと、私の心が凍結した。何も考えられなくなる。
「そ、れは……」
「イトコ……」

 抵抗しようという考えすら起きなかった。
「…………!?」

 唇を、塞がれた。
 ……そしてまた、お約束通りに目が覚める。

「%#”!%”%#”423!?」
 ベッドから跳ねるように起きるなり、全力で廊下を疾走。拳児く
んの部屋のドアを破壊せんばかりに開く。

「ぐがー……ぐごー……」
 寝ていた。
 起きていたという気配すらない。
「ゆ……ゆめ……か」
 へなへなと絃子は床にへたりこんだ。


 シンクロニシティというものが存在する。
 この日、矢神町でまさしくそのシンクロニシティ現象が起きたの
であった……。
477Synchronicity_fairy_tale:04/10/23 16:08 ID:lv4lfbG2
えー……翌朝の話はまた今度とゆーことで。
478Classical名無しさん:04/10/23 16:13 ID:LWPvdaGs
翌朝に超期待
播磨の幸せ者め!

>471の4行目が姉が崎になってます、とだけ指摘を
479Classical名無しさん:04/10/23 16:37 ID:ZsMWXcBQ
>>477
GJ!
四人一気にくるとは…。やられました。
翌朝の話がとても気になります。
480Classical名無しさん:04/10/23 16:46 ID:jRjRsDsw
幸福は真理ではなく存在の範疇に属するものにすぎない
@Alain Badiou
481Classical名無しさん :04/10/23 16:46 ID:3f0Qi06s
>バタバタと足をバタつかせ、枕に顔を埋める。
萌えた。
482Classical名無しさん:04/10/23 16:51 ID:iwYZ9sgU
GJ!
続編期待大です
483Classical名無しさん:04/10/23 16:55 ID:iwYZ9sgU
スマソ
sage忘れた
484Classical名無しさん:04/10/23 17:06 ID:.PGLcnoo
>>477
4人ともそれぞれ良いですねー
沢近はカレーの夢なのかw
個人的にはお姉さんのエピが気に入りました。
どれも萌える。GJ!
485蕗月:04/10/23 17:30 ID:sfkTfMA2
どうも。まず始めにお詫び申し上げます。
数々の波紋を呼んだ今回の作品ですが、読んだ人がより深く播磨に感情移入
できるよう、あえて警告せずに、「そーいう」ニュアンスを含んだ表現に止
めました。その結果、良くも悪くも、この作品全体の印象が深まったかと思
います。厳密に言うと、沢近はやられていません。その詳細をエロパロ板で
暴露しようとしていたところでした。
 今回私が表現したかったのは「絶望する播磨と、それを救うお嬢」であり、
しかしそれをこういう描写でしか表現できなかった自分の未熟さを反省し、
また、私の意図を通り越して不快感を与えてしまった事を深くお詫び致しま
す。すみませんでした。
486Carnival<解決編>:04/10/23 17:40 ID:UkYq7TLs
>>485
意図してるのじゃなければsageたほうがいいかと。
sageを知らなければこちらへ→ttp://info.2ch.net/guide/faq.html#C0
487Classical名無しさん:04/10/23 17:39 ID:UkYq7TLs
コテ残ってた…orz
恥曝し(でもsage)
488464:04/10/23 17:49 ID:iPaptCcU
>>485
とりあえず、やられてないならよかったです(ーoー)
489Classical名無しさん:04/10/23 18:00 ID:iUbz0IKE
>>485
あえて警告しないってのはまずいと思います。
あと、エロパロ板は21禁ですよ。
490Classical名無しさん:04/10/23 19:10 ID:BUxBPVCM
バタバタ萌え。
GJ
491Classical名無しさん:04/10/23 19:18 ID:xuRSOyCk
とりあえず大魔王と竜魔人のとこだけ元ネタがわかった
492Classical名無しさん:04/10/23 19:34 ID:fB4WAr7A
>>485

 よい作品だったと思います。
 前半部分、沢近と播磨の会話のテンポが良かったですし、最後のシーンでもカタルシスが
ありました。
 非常に文章もお上手だったと思います。

 それだけに、御指摘された方もおられますが、残念な点が多いです。

 まず、最初に警告について。
 あえて警告をしないというのは、やはり問題だと思います。
『より深く播磨に感情移入できるよう』
 と御自身で語られていますが、そういった手腕を使わなくとも、文章に引き込めるだけの実力を
お持ちだと思います。そういった本文以外の場面で仕掛けられずとも、御自身の文章だけで勝負
されてはいかがでしょうか?

 次に、暴行について。非常に個人的な意見ですので、聞き流してくださって結構です。
『暴行』というテーマは、やはり非常に重いものだと思います。なので、厳密には『ヤラレテ』いない
のでしたら、それを本文中に明記していただけていれば、嬉しかったです。何というか、沢近が元気
になっているのが、ものすごく違和感がありました。沢近が播磨を救うのがこの話のメイン、とおっし
られますが、どうにも違和感が残りました。
 結局それが、実際は『ヤラレテ』いない為だと言う事が、ここになってわかったわけですが。本文中
に、少しだけでも触れておいていただければ、と思いました。それを語らない必然性がなかったわけ
ですし。
493Classical名無しさん:04/10/23 19:34 ID:fB4WAr7A

 最後に、もう一つだけ、気になった点が。
>>445
>ぶっちゃけヒロインはまぁ誰でもよかったんですが、どう考えても、
>っていうか自分が旗派だもんで沢近にしました。
 ……つまりストーリー先にありきですか?つまり貴方がおにぎり派だったなら、八雲がやられてた
かもしれなくて、そしてやっぱり八雲は播磨を助けるために、自分を犠牲にしたと?
 出来上がったストーリーにキャラを当てはめた作品よりも、良い作品を作れるだけの実力をお持ち
なのですから、キャラからストーリーを組み上げてもらいたい、そう切に願います。

 以上。だらだらと長くなってしまい、申し訳ありませんでした。これにて、失礼致します。
494Classical名無しさん:04/10/23 20:11 ID:R2ZaLqy2
>>485
ぶっちゃけていうと、エヴァSSで山ほど読んだパターンだったりする。
スクランでやる意味があるのかどうか・・・。そのへん、非常に苦しくないか?
495Classical名無しさん:04/10/23 20:12 ID:2IKz6k76
楽しめたから俺はOKだな。
まあいろいろ気になった点はあったが、スクランSSにもいろんなパターンがあるんだなと再認識。
播磨が不良で無敵なせいか、なかなか誰かと戦うってのが難しいんだよな。
496Classical名無しさん:04/10/23 20:16 ID:R6f2F8pU
>>485
是非エロパロの方に詳細を投下してくれ。
はっきり言って漏れ的には旗SSではかなり上位に来た。
次回作も是非期待したい。
色々細々とおっしゃる方もいるけど新風を吹き込むという意味でこういうのもいいんじゃないのかな。
497Classical名無しさん:04/10/23 20:22 ID:mnu1ENBM
そうだな、やりはじめたらラストまでやってほしいぞ
エロパロも頼む
498Classical名無しさん:04/10/23 20:29 ID:.JproEn6
>485
脇役のセリフ回しがなんだかなぁって部分があったが、
第二部まではオレはフツーに読めたよ。

第三部で沢近がえらくアッサリ復活しちゃったのと、
結局暴力で片つけてるあたりが拍子抜け。
もうちょい練って欲しかったかな。
499Classical名無しさん:04/10/23 20:31 ID:2IKz6k76
>>477
沢近の反応がたまらなくカワイイな
翌朝の話も見たいね
500Classical名無しさん:04/10/23 22:02 ID:KONqBew6
いいんだけど…ダークな部分はちょっとね。う〜ん。
まぁ、一意見ということで。
501500:04/10/23 22:05 ID:KONqBew6
ちょっと失敗した。

500はLIVE A LIVEに対する意見ね。
502Classical名無しさん:04/10/23 22:28 ID:88BBtvlo
>>485
なんか叩かれてるけど、個人的には良かったと思うんで凹まないで下さいね。
沢近が元気なところや警告がなかったところから、
「ヤラれてない」ってことはちょっと頭使えば普通わかることだしね。

でもsageような。
503Classical名無しさん:04/10/23 23:06 ID:.lvKAkas
>>485
何事も経験だよ。失敗は成功の母ってね。
504Classical名無しさん:04/10/23 23:34 ID:BUxBPVCM
失敗出来ないよりも失敗出来たことに喜べ!

と、どっかで似たような言葉があったな。
505Classical名無しさん:04/10/24 00:17 ID:q91bAc5A
>445
今更ながら全て読ませて頂きました。バイオレンス色の強い作品は
個人的に好きな方なのですが、沢近がヤラレル様な表現は
ちょっと・・・(ヤラレていないと分かっても)
『絶望する播磨、救う沢近』という設定は良いと想われます。

また質問ですが、播磨は殴りこみに行く前に、古武術を習ったの
でしょうか?素人では経験上、的確に人体急所を突くのは難しい
と想います。

長文ですみませんでした。次回作も期待しています。
506Classical名無しさん:04/10/24 00:25 ID:0S9clMLA
>>485
エロパロがどうとか言ってたし、叩かれたくないからヤラれてないという事にしたように見えちゃうな。
ヤラれてなかったら播磨が助けに来た時にあんな反応にはならないんじゃないかなぁ。
播磨のヘコみ方も、取り返しの効かない事に対するものにしか見えないし。
まあ、ヤラれてたら沢近の復活は唐突だし、ヤラれてなければ播磨の落ち込みは大げさ過ぎかなと。
そのへんに違和感がありました。
507Classical名無しさん:04/10/24 00:29 ID:Z.TdoK.6
ヤるヤらないとかこんなとこで議論になること自体ウザイから
初めからエロパロ板行ってくれ。
508Classical名無しさん:04/10/24 00:52 ID:jEqiRtyI
天満って烏丸のお面付ければコロッと騙されて

簡単にやらせてくれるような気がする
509Classical名無しさん:04/10/24 00:52 ID:l4ux1SNg
細部を見るとツッコミどころ満載だが、全体を見るとかなり面白いぞ?
俺は氏の文章に才能を感じる。
この先努力を重ねればもの凄く伸びる人だと思う。
510Classical名無しさん:04/10/24 01:06 ID:wR7bEwSI
良い作品だからこそ余計に浮き出て見えるかな…
そこを徹底すればもっと良くなると思います。
素人がでかい口をすいませんm(__)m。
511Classical名無しさん:04/10/24 01:31 ID:RKN/1nG.
とりあえず、技量と、こういうネタに手を出す度胸はすごいと思う。
512Classical名無しさん:04/10/24 02:14 ID:OT3T8yGQ
その度胸を前置きなし、なんていうチャレンジャーな部分で使ってるのは理解しがたいわけだが
513Classical名無しさん:04/10/24 02:21 ID:DG3i4W..
>>477
GJ!

沢近と八雲はプロポーズで先生ズは押し倒されるのか・・・これは経験の差なのか?w
翌朝編も期待してますよー。
514Classical名無しさん:04/10/24 03:04 ID:7P0Iap7o
翌朝、シュラーバの悪寒。
三すくみならぬ四すくみか。
515Classical名無しさん:04/10/24 03:16 ID:Lj4kWXpo
>>LIVE A LIVE
ドラマガがかなり散らばってたような気がするが。
加えてsageてなかったし、新手の嵐かとも思ったが……そうでもなさそう。
でも全て切って貼ったわけじゃないみたいだし、
むしろうまく繋げてる所は凄いと思った。面白かったし。
漏れは普通に読めたからいいと思うけど……

でも、やはり問題になってる沢近の描写など、
誤解を生むかも、と少しでも思ったのならば一言必要だと思った。
516Classical名無しさん:04/10/24 07:23 ID:jEqiRtyI
沢近は水虫
天満は魚の目
八雲は外反母趾
517Classical名無しさん:04/10/24 07:43 ID:oTH7iXQs
ここまでいろいろいわれること自体
才能を感じた人間が多いって事だろうな
俺はひさしぶりに震えた
地震じゃないよ
518Classical名無しさん:04/10/24 10:47 ID:p2RiP6ws
つーか、いろんなもんからパクッて繋げてるだ(ry
519Classical名無しさん:04/10/24 12:21 ID:4oaA4uYE
エディター(編集者)もまた一つの才能
520Classical名無しさん:04/10/24 12:50 ID:uSpZG.X2
>>519
そういうのはあるね。確かに。
クソ+クソ=神 なんて事もあるにはあるし。
521Classical名無しさん:04/10/24 13:04 ID:uzAYHHeE
>>477
       / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
Λ_Λ  | 君さぁ こんな妄想垂れ流すから             |
( ´∀`)< キモヲタって言われちゃうんだよ             |
( ΛΛ つ >―――――――――――――――――――‐<
 ( ゚Д゚) < おまえのことを必要としてる奴なんて         |
 /つつ  | 二次元にしかいないんだからさっさと首吊れ     |
       \____________________/

(-_-) ハヤクシンデネ… (-_-) ハヤクシンデネ… (-_-) ハヤクシンデネ…
(∩∩) (∩∩) (∩∩)

(-_-) ハヤクシンデネ… (-_-) ハヤクシンデネ… (-_-) ハヤクシンデネ…
(∩∩) (∩∩) (∩∩)

(-_-) ハヤクシンデネ… (-_-) ハヤクシンデネ… (-_-) ハヤクシンデネ…
(∩∩) (∩∩) (∩∩)
522Classical名無しさん:04/10/24 13:09 ID:Z.TdoK.6
(・∀・)ニヤニヤ
523Classical名無しさん:04/10/24 13:09 ID:WlJTmUhk
スクランの本編が正にそうじゃないか
先を考えてないムチャクチャな流れや、
パクリ・どっかで見た設定の嵐なのになぜか読者が勝手にマンセーしてくれる
作者は楽だわ
絵は上手いと思うけどやっぱオタクってビジュアルで騙されやすいんだなあ
524Classical名無しさん:04/10/24 13:40 ID:rEA9zV02
>>521>>523
(・∀・)ニヤニヤ

>>477
GJ!
四人とも反応がマジでイイ!
次の日の朝の話が是非読みたいでつ。
(*´Д`)ハァハァ
525Classical名無しさん:04/10/24 13:41 ID:OT3T8yGQ
絵が上手いだけでいいならその辺のCG描きに幾らでも仁丹より上手い人はおると思うが…
スクランの設定は大部分どっかで見たようなものばかりではあるが
そこに播磨と天満という他にいない二人の主人公が加わることにより味がでてる

例えば、播磨の代わりにありがちなクールで美形な不良を当てはめたところでこんなに人気でないだろ
526Classical名無しさん:04/10/24 13:59 ID:VrZWxY.w
どっちにしろスレ違いだから。
雑談でも本スレでも行ってくれ。
527Classical名無しさん:04/10/24 14:02 ID:maKiuuTI
>live a live
なんというかタブー破り自慢というか注目されれば良い、みたいな態度が鼻につく。
それで作品自体がなかなか面白かったから賛否両論なわけで。
作品の腕とともに人間性ももう少し磨いてください。
528Classical名無しさん:04/10/24 14:18 ID:oUt5NXtw
人間性はどうでもいい。誤字が減ってもうちょっと短くまとめられれば神レベル。ガンガレ>live
529Classical名無しさん:04/10/24 15:03 ID:BxvAGqAY
個人的にとても読み応えのある作品だったから自分としては高評価
これからも楽しみにしています。
530Classical名無しさん:04/10/24 15:23 ID:GI68ELLQ
(どこかでよくある一発ネタ)

「け、拳児クン。少し尋ねたいことがあるんだが……」
「あん? どうした?」
「き、キミは、見た目も中身も新しい物と、み、見た目はちょっと古ぼけているけれど
 中身は同じように新品同様の物……ど、どちらがいい?」
「? そりゃ中身が同じなら、見た目が新しい方がいいんじゃねえの?」
「う……だ、だが、そのちょっとだけ古ぼけている方が、あ、味があるというか……
 趣があるとは思わないかい?」
「どうかなぁ……そのへんは人に寄るんだろうが、俺は――」
「(コクコク)」
「――俺はやっぱり、見た目も新しいほうが好みかな」
「――そうか、やっぱりそうだよな」
「ま、あくまで俺の好みだけどな ……ってイコト? ど、どうして涙ぐんでんだよ?」
「なな、なんでもない! そ、それじゃ!(ぐす)」
「行っちまった……なんだったんだ一体」

おしまい。
531Classical名無しさん:04/10/24 15:25 ID:Z.TdoK.6
絃子さんは見た目も新しいですよ。
532Classical名無しさん:04/10/24 15:25 ID:aV0XiYds
絃子さん…・゚・(つД`)・゚・
533Classical名無しさん:04/10/24 16:53 ID:7QcS16L6
絃子は既に中古なんだが。
何故なら漏れが(ry
534Classical名無しさん:04/10/24 17:45 ID:xZX5ouOY
まとめサイトの人忙しそうだから誰か手伝えや
535Classical名無しさん:04/10/24 20:24 ID:ZZ0JcKAE
絃子関連の短編を投下してる人って全員同じ人?
よくネタが持つな。GJ
536Classical名無しさん:04/10/24 21:38 ID:GI68ELLQ
「あ、あの……ヒース兄さん、ちょっといいですか?」
「あん? なんだ?」
「に、兄さんは、中身が同じなら、大きい物と小さい物……ど、どちらが好みですか?」
「ふむ。そりゃオレ様みたいなビッグな天才魔道士には、やはりビッグなほうがお似合いだろう!」
「う……で、でも! 小さい方がちょっと感度がよかったりするかもしれないんですよ!?」
「『感度』……よく意図がわからんが、まぁ『大は小を兼ねる』とも言うしな。
 中身が同じなら、大きい方がなにかといいんじゃないのか?」
「そっか……やっぱりそうですよね……」
「まぁそういうこった……・って、イリーナ? ど、どうして涙ぐむんだ!?」
「な、なんでもないです! そ、それじゃ!!(クスン)」
「お、おい! イリーナ!! ――一体何だったんだ?」

―終―

( ; ´ー`)y-~~
537Classical名無しさん:04/10/24 21:40 ID:GI68ELLQ
ゴメ(;´Д`)
同ネタでエロパロ向けの投下しようとしたらゴバークしたよ。

>>535
漏れはいつもの人とは違いまつ。
スマソ
538Classical名無しさん:04/10/24 22:33 ID:xZX5ouOY
新SWかよ
539Classical名無しさん:04/10/24 23:46 ID:oTH7iXQs
>>534
ここの過去ログのSSをまとめてメールで送るだけでもいいのかね
誰か手伝ってやれ
540Synchronicity_fairy_tale2(1/10):04/10/25 00:00 ID:iJC2CKUI
「ふぁぁぁぁ〜……」

 いかにも眠たいという腫れぼったい目をしながら、播磨拳児が
リビングにやってきた。

「ケッ! け、拳児くん。おはよう」
 コーヒーを飲んでいた絃子がなぜだか狼狽しつつ、朝の挨拶を
交わす。
「ういっす。……あ〜……ん? 絃子、どうした?」
「なっ、何がだ!? 今の私が何かおかしいか!?」
「いや……新聞、逆さだぞ」
 言われて絃子は、自分の紅潮した頬を隠すために取り出した新
聞紙の文字が逆転していることに気付いた。
 誤魔化すように咳払いをしつつ、新聞を逆さにする。
「どうした? 体の調子でも悪ぃのか?」
「い、いや……君の方こそ、調子が悪そうだが?」
「ああ……なんかなぁ……変な夢見ちまってなぁ」
「げっほごほげほ!?」
 コーヒーが気管に入りそうになった。
「悪ぃ、朝飯いらねぇ。……とりあえず、学校行ってくるわ」
「あ、ああ……」
 確かに調子が悪そうな顔をしながら、播磨拳児はフラフラと家
を出て行った。
「夢……」
 彼が去った後、ぽつりと呟いた。
「まさか、な……まさか、うん、まさかだ」
541Classical名無しさん:04/10/25 00:00 ID:rBrRcX.k
誰かhtmlにまとめたらどう?

なんて言ったらお前がやれよって言われるに60ズキューン
542Synchronicity_fairy_tale2(2/10):04/10/25 00:00 ID:Ku7Z0hSQ
 ――学校、2−C教室

「愛理ちゃんおはよー……どうしたの? 調子悪そうだけど」
 塚本天満がおはよう、と挨拶してきた彼女の顔を覗き込むなり、
そう言った。
「え? あ、う、えと、その……な、何でもないわよっ」
「でも、頬が赤いよ? 風邪でも引いたんじゃ……」
「だ、大丈夫っ! 何でもない何でもないっ」
 何でもなくはない。あれから一睡もできなかったので猛烈な睡
眠不足である、眠たいのである、でも眠ろうとするとあの夢が頭
に思い浮かんでくるのである。
「そう?」
「うん、何でも……」
「チース」
 播磨登場。彼の声を聞いた瞬間、今度は目をつむってもいない
のに、あの夢が思い出された。
「あ、播磨くんおはよ〜」
「”!$”!%!?」
 ガガガッ、と物凄い勢いで沢近は椅子から飛び退く。
「ん? どしたの愛理ちゃん」
「え、えっと……お、おはようヒゲ」
「んあ? ……ああ、おはよっす」
「あれぇ……播磨くんも調子悪そうだね」
「あ、て、もとい塚本。いや、何か変な夢見ちまって」
「夢ぇ!?」
 反射的に素っ頓狂な声をあげる沢近に、クラス全員の視線が集
まった。
543Synchronicity_fairy_tale2(3/10):04/10/25 00:00 ID:Ku7Z0hSQ
「……」
「……」
「……愛理ちゃん?」
「ご、ごめん。ヒゲ、その、あんたの視た夢って……どんなの?」
 う、と播磨が喉に声を詰まらせる。
「い、いや……」
 心なしか頬が赤い気がする、少なくとも愛理にはそう見えた。
「ま、まあこういう夢は他人に言い振るのはいけねぇよな」
 訳の分からない理屈をこねながら、播磨はカバンを机に放り投
げ、
「ちょ、ちょっと保健室に行って来る。夢のせいで調子悪くて…
…」
 そう言いながらよろよろと去って行った。
「夢……」
 ついでに言うと、見送る沢近の頬もまた、昨夜の夢を思い出し
て羞恥に染められていた。

「チース」
「あ! ハリオ〜っ!」
 保健室に入るなり、熱烈な抱擁を受けた。すりすりと柔らかい
頬で播磨の胸板を擦る。
 当然のことながら、柔らかい胸が彼の腕にまとわりつく。いか
に塚本天満一筋の播磨とはいえ、この攻撃≠ノはさすがに辟易
というか参るというか、一瞬陥落しそうになる。
 学校でなければ、理性が飛んでいたかもしれない――と播磨は
一瞬思った。
「ぬぁぁ!? ちょ、お姉さん!」
「あ、ゴメンゴメン。つい」
「ついで人に抱き着かねぇでくれっ!?」
「だってハリオが悪いんだよ〜」
544Synchronicity_fairy_tale2(4/10):04/10/25 00:01 ID:Ku7Z0hSQ
 やっとの思いで引き離してからも、お姉さん――姉ヶ崎妙は不
服そうな顔をしていた。
「何で俺っすかっ」
「夢に出てきたのに、中途半端に終わらせちゃうし」
「……へ?」
「だからぁ、夢にハリオが出てきたのよ」
 心底納得いかねぇ……と播磨は心の中で呟いた。
「でも、夢か。……ああ、思い出した」
「どしたの?」
 きょとんと、あどけない表情で姉ヶ崎が尋ねる。
「いや、変な夢見て……」
 言った途端、ぱっと表情を輝かせた。
「夢ってどんな夢ッ!?」
「え!? いや、その、なんだ、うー……」
 珍しいことに、播磨が狼狽した。
「ねぇねぇ」
 甘えた声で播磨にしなだれかかる、セクシャルな声ではなく、
何と言うか……こちらの欲情を刺激するような声だった。
「し、失礼しますッ!」
 播磨は迷わず逃亡を選択した。
「あ……もう、ハリオのいじわる〜」
 じたばたと地団駄を踏む。
545Synchronicity_fairy_tale2(5/10):04/10/25 00:01 ID:Ku7Z0hSQ
 放課後。
「悪ぃ、待ったか?」
「あ、いえっ……」
 同じシチュエーションだ……と思わず塚本八雲は思った。
「その、もしかして漫画ですか?」
 夢だとここで違うって言われたんだけど……。
「いやそうなんだよ。実は、新しいネタを思いついてな」
「あ――」
「ん? ひょっとして何か都合が悪かったか?」
「いえ……」
 何となく、がっかりした自分に驚く。
「それで漫画のネタなんだけどよ」

 さて。
 放課後の屋上には塚本八雲と播磨拳児の他には誰もいない。
 もし、来たとしてもこの二人のそこはかとない他人を寄せ付け
ない雰囲気に当てられてたちまち退散するだろう。

 ……しかし。
 屋上入り口のドア付近。沢近愛理と姉ヶ崎妙が二人の様子をそ
れとなく(バレバレに)様子を窺っていた。
「ヒゲの奴……付き合ってないって言ってるのに、こんな事ばっ
かりするから誤解されるんじゃないの……」
「そうねぇ。ハリオはちょーっと乙女心に関心なさすぎよねぇ」
「全く……って、何で私が先生と一緒になってこんなとこで覗き
やらなくちゃいけないんですかっ」
「あっ、ほらほら。あの娘の表情見てっ!」
「え、あ……」
546Synchronicity_fairy_tale2(6/10):04/10/25 00:01 ID:Ku7Z0hSQ
 播磨が饒舌に漫画のネタを語っている。それを聞く八雲の表情
は何とも落ち着いた安らかな表情で、その癖頬に赤みが差してい
るのだ。
「あの娘……あんな顔できるんだ……」
「あーあ、うらやまし〜」

 ちなみに絃子は職員室でノートパソコンを弄りながら、播磨の
学生服にそれとなく取り付けた盗聴器でちゃっかり様子を窺って
いた。
「拳児くん……随分とまあ楽しそうじゃないか……人の唇を奪っ
ておいて……」
 加藤先生が声をかけるのもはばかれるほど、絃子の周りは憎悪
のオーラに満ち満ちていた。

「それでよ、インド人が右に……」
 今度の漫画のネタはやや不条理のラブコメ兼ギャグ漫画らしい。
 お笑いにはさほど関心がない八雲だったが、それでも身振り手
振りで説明する播磨にくすくすと笑顔を見せてしまうのであった。
「面白いですけど……前から考えていたんですか?」
「いや実を言うとだな、今日見た夢がヒントになって」
「え……ゆめ?」
 ビクッと八雲が身を竦めた。
 ビクッと絃子の全身が硬直した。
 思わず「ゆめぇ!?」と叫ぼうとした愛理の口を咄嗟に姉ヶ崎
が塞いだ。
547Synchronicity_fairy_tale2(7/10):04/10/25 00:02 ID:Ku7Z0hSQ
「どした?」
「い、いえ……その、夢って」
「おお、そういや夢ん中にお嬢とか絃子……もとい、刑部先生と
か妹さんとか、あとお姉さ……いや、他にも色々出てきてよ……」
「ゆ、夢に……わたしが……」
「私が?」
「私も?」
「ほう……」

 ごくり、と唾を飲む。

「お嬢が出てきたんだけどよ……こいつがインド人になっててな、
ガン黒の」
「い、インドですか?」
(何よそれ――――ッ!)
「で、カレーを食わなければ処刑するって脅されてだな」
 播磨は笑いながら続ける。
「次に刑部先生が出てきて、『パスタ……食べたい、食わせろ』
と迫られてだな」
(私はどこのヤンマーニかね、拳児君……)
「保健室の先生の髪がドリルになって土に潜ってだな」
「……ハリオったら私の髪でそんなこと考えていたんだ……へー
え……」
「いや、だってよあの髪型を見てたら誰だって一度はそんなこと
考えるぜいやお姉さんこんにちは」
548Synchronicity_fairy_tale2(8/10):04/10/25 00:02 ID:Ku7Z0hSQ
 振り返ると、普段の笑顔なのにどこか奇妙な迫力を持つ姉ヶ崎
と、怒りを露わにして、足を軽く振る沢近の姿があった。

「えーと……その……」
「いいのよ、ハリオ。何も言わなくて、っていうか黙れ小僧」
 修羅場をくぐっただけあって、姉ヶ崎のビンタは痛かった。
 修羅場をくぐっていないので、沢近のシャイニングウィザード
は痛くなかった、というか痛みを感じる前に失神していた。

「刑部先生? 拳銃なんて持ってどうしたんです?」
「120%アップした攻撃力の銃技を見せてやりたい男がいてな」

「あっつ……」
「だ、大丈夫ですかっ」
「い、妹さんか……」
 腫れた頬に、濡れたハンカチを押し当てる。
「くそ、まさか聞かれていたとは……しかしお姉さんのビンタは
痛かった……」

 八雲が心配そうな表情をしているのに気付いて、播磨は笑顔を
見せた。
「ああ……妹さんももういいぜ。遅くなると天……もとい、お姉
さんが心配するだろ」
「いえ……もう少しこのままでいいですか?」
 言われて播磨は気付いた。
 彼の頭の下にあるものが、八雲の足……要するに太ももだとい
うことに。
「い、いや……悪いぞ、足痺れるだろ。それにまた誤解されたら」
「大丈夫です。誰も来ません……から」
549Synchronicity_fairy_tale2(9/10):04/10/25 00:02 ID:Ku7Z0hSQ
 しばらくの沈黙。
 かぁかぁと冴えない声で烏が鳴いた。
 彼女の太ももが、柔らかい枕のように気持ちよかった。

「あの……播磨さん」
「ん……?」
「夢で、私はどういう役だったんでしょうか……」
「あー……変な役じゃなかったぜ。それにちょこっとしか出なか
ったし」
「そ、そうですか」
 ホッと胸を撫で下ろす、と同時にちょっとしか出なかったこと
が寂しく感じられる。そして、今度は自分の役回りが気になり始
めた。
「えと、具体的に聞いてみても……いいですか? 私、どんな役
だったんですか?」
「あー……誰にも言わないでくれるなら」
 こくんと八雲は頷いた。

「妹さんはだな……」
「はい」
「妹さんは……インド人とパスタ女とドリル先生に追い駆けられ
た俺が家に帰ると、普通にそこにいてくれて……俺に、『お帰り
なさい』って言ってくれて……」
「!」
「そこで目が覚めてな」
 手が震える。頬の紅潮は夕焼けのせいだと誤魔化そう。
「あの……」
「ん?」
550Synchronicity_fairy_tale2(10/10):04/10/25 00:03 ID:Ku7Z0hSQ
「今度、お夕食作りに行ってもいいですか?」

「おう、また頼む。……妹さんのスパゲッティ食ったら、カップ
焼きそばなんか食えたもんじゃなくてなぁ」
「はいっ」

 もしかすると。
 もしかすると、いつの日か私の夢は正夢になっちゃうのかもし
れない。

 その時は、私も夢のことを告白しよう。
 あの時見てしまった、甘くてどきどきした、あの夢のことを。


 ――余談。
「拳児くん」
「な、なんだ」
「君が見た夢に、まあ罪はないと思う」
「あ、当たり前じゃ! 人が見た夢で殴られたり蹴られたりして
たまるかッ!」
「だが、私の役回りと比較して、塚本八雲くんの役が良過ぎない
か!?」
「っつーか手前、また盗聴してやがったなぁぁ!?」
「やかましいッ! それとこれとは話が違うッ! スパゲッティ
だって? それなら私が嫌というほど食わせてやるっ!」
「だったらスパゲッティの麺はオーブンで焼くもんじゃなく、茹
でるもんだってことをまず知りやがれぇぇ!」



                                 おわる。
551Classical名無しさん:04/10/25 00:18 ID:CZdt0yrE
GJ!
最高です。良いですねこういう話は。
播磨の夢もワロタw
552Classical名無しさん:04/10/25 00:20 ID:taWiz2Lk
八雲一人勝ちですね
グッジョブ!
553Classical名無しさん:04/10/25 00:21 ID:eJJvHcZU
>>550
GJ!
しかもおにぎりの比重が大きくてサラにGJ!
554Classical名無しさん:04/10/25 00:22 ID:sJmbFSpE
GJ!!
「インド人が右に」って某誤植ネタかと思ったら
ちゃんと沢近のカレーに繋がっててヤラレタ。
555Classical名無しさん:04/10/25 00:25 ID:ZJ3XijJ6
>>550
美味しいおにぎりでした。
愛しいほどにGJ!!
556Classical名無しさん:04/10/25 00:26 ID:2v1GLTn.
GJ!
ヤクモン♪
557Synchronicity_fairy_tale:04/10/25 00:26 ID:Ku7Z0hSQ
どもです。おかしいなぁ、描き始めたときは「おにぎり旗お姉さん超姉全部
まとめて」って思ったのに。おかしい、インド人を右に、をついうっかり
思い出してしまったせいだ。ゲーメストが悪い。
558Classical名無しさん:04/10/25 00:27 ID:u5P.j.tI
GJです!ただ気になったのは>天・・・もとい塚本、と似たようなフレーズが何度かありましたが、
ちょっとそこに読みにくさを感じました。
まぁ所詮トーシロの言う事ですから、あまり気になさらないで下さい。。。

最後の余談がツボでした(笑)スパの麺をオーブンで焼くなんて・・・
ちょっと食べてみたい・・・かも?
559Classical名無しさん:04/10/25 00:28 ID:32hW/9CY
>>557
これはヤバイぞ、と。⊂⌒〜⊃*。Д。)-з
文句なく萌えました、お姉さん良いなぁ…
560Classical名無しさん:04/10/25 01:00 ID:Noly2cAE
いやいやGJでした。
ただ個人的には後半も前編同様、四者平等のハーレム路線を貫いて欲しかったかな。
561Classical名無しさん:04/10/25 00:59 ID:gDL6lwU6
GJ!
なんかほのぼのと笑えて素敵です。
八雲がしっとりとしてていいなあ。
562Classical名無しさん:04/10/25 01:58 ID:YYLAF78k
>>541
>>1見れ
563Classical名無しさん:04/10/25 02:03 ID:6iir5/vU
八雲一人勝ちですか、ちょっと意外な展開でした
なにはともあれGJ!

しかし、最近このスレの絃子さんはすっかり料理下手で定着しちゃってますね
そんなところも魅力的なわけですがw
564Classical名無しさん:04/10/25 02:18 ID:JK3iBo2s
>>563
実際下手なんじゃないか?
565554:04/10/25 02:24 ID:sJmbFSpE
>>557
悪いのは石井ぜんじの手書き原稿。ハンドルとは読めない。
次は「ザンギュラのダブルウリアッ上」で……は使いようがないので
「神のみそ汁」あたりでお願いしますw

スレ違いスマソ。
566Classical名無しさん:04/10/25 03:16 ID:lQ8eQNVU
面白いんだが1つ。
絃子は「やかましい」とは言わないんじゃないかな。
言うんなら「うるさい」だと思うが。
ああ見えて言葉使いはしっかりしている方だから。
567Classical名無しさん:04/10/25 06:56 ID:T9fYMrCU
暴言クズリスト モザイクなHallelujah
惜しみ無く祖注ぐはDead Angle Show
さらに加速する 人材はOnaniepet
鬼畜が生み出すはInformal Organization ... Selfish
嘘しく無いですか? 悲しく無いですか?
見えない独裁者 Dead Angle Show

Super deadication
Super segregation
Super civilization
Set in Set on Set off Die
568Classical名無しさん:04/10/25 06:58 ID:T9fYMrCU
暴言クズリスト モザイクなHallelujah
惜しみ無く祖注ぐはDead Angle Show
さらに加速する 人材はOnaniepet
鬼畜が生み出すはInformal Organization ... Selfish
嘘しく無いですか? 悲しく無いですか?
見えない独裁者 Dead Angle Show

Super deadication
Super segregation
Super civilization
Set in Set on Set off Die
569Classical名無しさん:04/10/25 06:59 ID:T9fYMrCU
暴言クズリスト モザイクなHallelujah
惜しみ無く祖注ぐはDead Angle Show
さらに加速する 人材はOnaniepet
鬼畜が生み出すはInformal Organization ... Selfish
嘘しく無いですか? 悲しく無いですか?
見えない独裁者 Dead Angle Show

Super deadication
Super segregation
Super civilization
Set in Set on Set off Die
570Classical名無しさん:04/10/25 07:00 ID:T9fYMrCU
暴言クズリスト モザイクなHallelujah
惜しみ無く祖注ぐはDead Angle Show
さらに加速する 人材はOnaniepet
鬼畜が生み出すはInformal Organization ... Selfish
嘘しく無いですか? 悲しく無いですか?
見えない独裁者 Dead Angle Show

Super deadication
Super segregation
Super civilization
Set in Set on Set off Die
571Classical名無しさん:04/10/25 07:00 ID:T9fYMrCU
暴言クズリスト モザイクなHallelujah
惜しみ無く祖注ぐはDead Angle Show
さらに加速する 人材はOnaniepet
鬼畜が生み出すはInformal Organization ... Selfish
嘘しく無いですか? 悲しく無いですか?
見えない独裁者 Dead Angle Show

Super deadication
Super segregation
Super civilization
Set in Set on Set off Die
572Classical名無しさん:04/10/25 07:01 ID:T9fYMrCU
暴言クズリスト モザイクなHallelujah
惜しみ無く祖注ぐはDead Angle Show
さらに加速する 人材はOnaniepet
鬼畜が生み出すはInformal Organization ... Selfish
嘘しく無いですか? 悲しく無いですか?
見えない独裁者 Dead Angle Show

Super deadication
Super segregation
Super civilization
Set in Set on Set off Die
573Classical名無しさん:04/10/25 07:14 ID:T9fYMrCU
おまえ死ね
574Classical名無しさん:04/10/25 09:56 ID:nPfzRKBY
自演乙。
神降臨でしたね!夢SS最高でした!
575Classical名無しさん:04/10/25 10:18 ID:pZG7PKw6
自演ワロタ
576Classical名無しさん:04/10/25 14:37 ID:u5P.j.tI
さて、神をを待つか。。。
577Classical名無しさん:04/10/25 16:36 ID:rBrRcX.k
>>562
間違えた。手伝うの意。
578Classical名無しさん:04/10/25 17:25 ID:3R5768CQ
神、未だ現れず。。。てかここのサイト相変わらずレベル高いぞ、と
579Classical名無しさん:04/10/25 18:14 ID:gUo3EXss
明らかにいろんな作品書いてきた人々だって分かるよなぁ……。
さて、俺も一丁書くかな。
580Classical名無しさん:04/10/25 18:14 ID:ztMptDKk
「イトコ、腹減ったぞ」
「……まずその言い方をどうにかしないか? まあいい、確かまだ何かインスタントのカップが
 残っていただろう。自分でどうにかしたまえ」
「……飽きたんだよ」
「何? 今の今までそれで何の文句もなかったやつが……どこかでうまいものでも食べたのか?」
「ん? ああ、こないだちっとな、妹さんが作ってくれたのがすげえうまくてな」
「…………そうか」
「何だよ」
「いや、別に。だったら君が自分で作ればいいんじゃないのか?」
「出来るわけねぇだろ」
「……まったく、君もそろそろ料理の一つも覚えるべきだな。仕方ない、じゃあ何か作ってあげよう」
「……は? イトコ、今なんつった……?」
「だから今日は私が作ると……なんだその顔は」
「いやだって……出来んのか? 料理」
「当たり前だろう。君は私を一体なんだと思ってるんだ」
「…………………………………………」
「……またなんとも腹立たしいリアクションだね。いいだろう、待っているんだな。すぐに証拠を
 見せてやる」

 ――エプロン姿の絃子でも想像してお待ち下さい。

「ほら、出来たぞ」
「……見た目は普通だな」
581Classical名無しさん:04/10/25 18:15 ID:ztMptDKk
「――拳児君。いい加減にしておいた方が身のためだと思うが?」
「匂いも普通だな……」
「……」
「よし、いくぜ……!」
「そんな決死の表情で食べられても嬉しくないんだが。――で、どうかな?」
「……うめぇ」
「当たり前だ。何を期待していたかは知らないがね、誰だってそれくらいは……」
「やれば出来るんだな! 俺はてっき……痛ぇ!」
「警告はさっきしたからな。いつも君は一言多い」
「わーった、悪かったよ……でもよ、絃子」
「うん? なんだ」
「さっきも言ってたけどよ、その、こういうのは誰でも……」
「まあ、練習すれば簡単なものならどうにかなるが……それがどうかしたのか?」
「――絃子さん」
「うわ、気持ち悪いな。なんだ急にあらたまって」
「俺に料理を教えてくれ」
「それは別に構わないが……どうするんだ?」
「……笑うなよ?」
「ああ」
「普段すげえ世話になってる人がいるんだ。でもな、俺はその人に何もしてやれてねえんだ。だからな、
 せめてそれくらい出来たらと思うんだが……っておい、笑うなっつたろーが」
「いや悪い、君にしちゃあまりに殊勝なことを言うもんだからさ。うん、そういうことないいだろう」
「そうか! 悪ぃな、絃子」
「……それでなんだが、その普段世話になってる人、というのは……」
「あん? んなの決まってんだろ、普段俺が世話になってるって言ったら――」
「ああいや、やっぱり聞かないでおこう。……その方が楽しみだ」
582Classical名無しさん:04/10/25 18:15 ID:ztMptDKk
「ん? なんか言ったか?」
「何でもないよ。じゃ早速明日からでも始めるか」
「おう!」

 ――エプロン姿の播磨でも想像してお待ち下さい。

「――とこれはスーパーで買えるんだよな」
「全部そこに書いてある通りだよ。頼むよ、子供のお使いじゃないんだから」
「分かってるよ。でもな、ここで失敗とかしたくねぇだろ」
「その気持ちも分からなくはないが……まあいい、それじゃあ行ってきたまえ」
「おう。じゃあな」
「ああ、気をつけてな。――さて、それじゃゆっくり待つとしようか。メニューが分かっているのが
 玉に瑕だが、珍しくがんばっていたようだし、ね」

 ――ちょっとだけ上機嫌でそわそわする絃子でも想像してお待ち下さい。

「帰ったぜ」
「遅かったな。待っていたんだ……ぞ……?」
「お邪魔します……」
「……あ、ああ。どうぞ」
「んな遠慮することないぜ」
「いえ、あの私……」
「いや、気にすることはないよ、塚本さん。で、その……なんだ、拳児君。つかぬことを訊くが、もしかして
 普段世話になってるというのは」
「そんなの妹さんに決まってんだろ」
「……そうか、そうだよな」
「えっと、やっぱり私……」
「は、はは……は……」

 収拾つかずにおわる。
583Classical名無しさん:04/10/25 18:24 ID:hbsX7TgA
>580-582
やべっ、涙出てきた。
絃子さん、せつねー
584Classical名無しさん:04/10/25 18:30 ID:eJJvHcZU
>>582
絃子やっぱりこういうオチか。泣ける。
585Classical名無しさん:04/10/25 18:46 ID:CZdt0yrE
GJ!
絃子さん(つд`)
586Classical名無しさん:04/10/25 19:10 ID:5s5A.oxs
次の日の朝、播磨のコーヒーに塩を入れる絃子。
587Classical名無しさん:04/10/25 19:46 ID:taWiz2Lk
「じゃ、そーいうことだから」となって
絃子さんまた家出か・゚・(ノД`)・゚・。
588Classical名無しさん:04/10/25 21:16 ID:Eql4OODA
(゚Д゚)ハリオォォォォォォ!
589Classical名無しさん:04/10/25 22:12 ID:ly6Q1lwc
絃子さんにつれなくするプレイは萌えるな。
590Classical名無しさん:04/10/25 22:26 ID:IOu0F0HI
姉さん女房の悲哀だね・・・
591Classical名無しさん:04/10/25 22:40 ID:IpXY52Bg
このスレの絃子さんSSがよく出来てるから、
時々本スレでも絃子さんを語るときの指向が混乱してしまう。
本編の絃子さんは拳児くんなんか歯牙にもかけないと思うと哀しいな。
592Classical名無しさん:04/10/25 22:46 ID:32hW/9CY
>>591
煽り乙。もしくはもうちょっと本編しっかり読め。

>>582
何か最近の絃子さんの悲惨キャラがツボだ。
(*´Д`)ハァハァ
593Classical名無しさん:04/10/25 22:48 ID:D/DcisfU
絃子さんには幸せになって欲しいゾ、と
594Classical名無しさん:04/10/25 23:44 ID:taWiz2Lk
>>591
歯牙にもかけてないのは事実だが
それをこんな妄想で楽しむためのスレでわざわざ言わなくてもいいだろう
595Classical名無しさん:04/10/25 23:49 ID:6iir5/vU
歯牙にもかけない、とは言うものの
本編中、絃子さんに一番近しい男は播磨だし…

なにより、スクランである以上なにがどうなってもおかしくない
596Classical名無しさん:04/10/26 00:07 ID:PzL...Zo
>>595
これから何があるかなんて全く分からんし、
絃子の色々な反応を見ても恋愛感情云々は不明としても気にしてることは事実。

と釣られてみる。
597Classical名無しさん:04/10/26 00:17 ID:jtVy6oCo
がちゃん。
「てでーいまっと…っあー、今日も疲れたな…」
がららら。
「…イトコ?おーい、いねぇのか?イトコー? …やっぱいねぇのか …?置手紙か?」
がさがさ。
『拳児クンへ。今日はちょっと用事ができたので葉子のところにお世話になることになった。
 学校へはこちらから直接行くので心配はしなくていい。
 あと気がむいたのでチャーハンをつくってやった。ありがたく頂戴するように。
 …ああ、寂しいからといって泣いたりしないでくれよ? それではな。 絃子さんより』
がさがさ。
「…ったく、あんのヤロウ。誰が泣くかっての!小学生と間違ってんじゃねぇのか?…
 まあ、たまには一人もいいかもな。 えーっと?…チャーハンなら一分ちょいで平気だな」
ピッ ピッ ブイーン… チーン!
「いたーだきますっと」
がつがつがつがつ。
「…」
がつがつがつがつ。
「…」
ピッ
『万石…まさかお前、あの娘がお前を好きだと知っててワザと身をひいて…』
『何を言う、誤解だ。あの娘は俺なんか見ちゃいなかったのよ』
「…っっくぅぅ〜!!やっぱ再放送でも万石はカッコよすぎだぜぇ〜!!」
がつがつがつがつ。
598Classical名無しさん:04/10/26 00:14 ID:jtVy6oCo
翌日・夕刻。
「まあ、狭い家だが。遠慮なくあがってくれ。」
「はい、オジャマしまーす… わ、意外とかたづいてるんですねー」
「…葉子。ヒトの家にあがるなりいきなりソレはいささか失礼というものではないかな?」
「ふふ、まあまあ。書類のお手伝いしてさしあげたんだし、いいじゃないですか」
「まったく…」
「それにしても刑部さんが飲みに誘ってくれるなんて珍しいですね。しかも刑部さんの家でなんて。」
「ああ、今日は同居人がバイトで夜遅くまで帰ってこないんでな。それに久しぶりに二人でゆっくりするのも 
いいんじゃないかと思ったんだが」
「はあ。どーきょにんですか。」
「…君が期待しているようなことは全くないから安心したまえ」
「あらら。そうなんですか?ちょっと残念ですねぇ」
「…葉子。その話はあとでゆっくりしよう」
「ふふ、そうですね」
「はあ…まあ、適当にくつろいでいてくれ」
「はい、失礼します」
「さて、それじゃまずは適当になにかつまんでから… ?置手紙か?」
がさがさ。
『イトコへ。わかってると思うが今日はバイトなんで遅くなる。どうせ飲むんだろうが、あんま散らかすんじゃねぇぞ。…それとな、えーと、なんだ。… チャーハン、うまかったぜ。また作ってくれな。 ケンジ』
がさがさ。
「…ふふ。 …あのバカモノめ…」
「刑部さん?」
「うん?」
「どうしたんですか?そんなうれしそうな顔しちゃって〜」
「ふふ…なんでもないよ。なんでも」
「またまた〜。 私に隠し事なんて、水くさいですよ!」
「なんでもない!」
599Classical名無しさん:04/10/26 00:14 ID:XtOAZ30A
>>595-596
激しく同意。
超姉はこれから来ると信じて疑わないぜ。
600Classical名無しさん:04/10/26 00:16 ID:jtVy6oCo
翌日・夕刻。
「まあ、狭い家だが。遠慮なくあがってくれ。」
「はい、オジャマしまーす… わ、意外とかたづいてるんですねー」
「…葉子。ヒトの家にあがるなりいきなりソレはいささか失礼というものではないかな?」
「ふふ、まあまあ。書類のお手伝いしてさしあげたんだし、いいじゃないですか」
「まったく…」
「それにしても刑部さんが飲みに誘ってくれるなんて珍しいですね。しかも刑部さんの家でなんて。」
「ああ、今日は同居人がバイトで夜遅くまで帰ってこないんでな。それに久しぶりに二人でゆっくりするのも 
いいんじゃないかと思ったんだが」
「はあ。どーきょにんですか。」
「…君が期待しているようなことは全くないから安心したまえ」
「あらら。そうなんですか?ちょっと残念ですねぇ」
「…葉子。その話はあとでゆっくりしよう」
「ふふ、そうですね」
「はあ…まあ、適当にくつろいでいてくれ」
「はい、失礼します」
「さて、それじゃまずは適当になにかつまんでから… ?置手紙か?」
がさがさ。
『イトコへ。わかってると思うが今日はバイトなんで遅くなる。どうせ飲むんだろうが、あんま散らかすんじゃねぇぞ。
…それとな、えーと、なんだ。… チャーハン、うまかったぜ。また作ってくれな。 ケンジ』
がさがさ。
「…ふふ。 …あのバカモノめ…」
「刑部さん?」
「うん?」
「どうしたんですか?そんなうれしそうな顔しちゃって〜」
「ふふ…なんでもないよ。なんでも」
「またまた〜。 私に隠し事なんて、水くさいですよ!」
「なんでもない!」
601Classical名無しさん:04/10/26 00:19 ID:jtVy6oCo
うわ重複。激しくスマソ。
602Classical名無しさん:04/10/26 00:25 ID:XtOAZ30A
>>601
割り込みスマソ。
久しぶりに可哀想じゃない絃子さんを見たきがする。
GJ
603Classical名無しさん:04/10/26 00:28 ID:qmrePJ9k
>>597-598
GJ!!

くっつける気がないのなら、そもそも従姉妹じゃなくて姉でいい
だから俺も超姉が来ると信じてるぜ!





……ほんと信じてます_| ̄|○
604Classical名無しさん:04/10/26 00:29 ID:4Uzz5mAs
グッジョブ
ほのぼのしてていいですね〜
605Classical名無しさん:04/10/26 00:58 ID:vWFx2l.I
「俺の絃子」発言が正しくなる展開は俺もキボン

八雲→天満と播磨と絃子先生の同居が伝わり、何時の間にやら学校中の噂に
職員室に呼び出された播磨が全教師の前で「俺のイトコなんだよ」とか言う展開キボン

絃子先生頭真っ白、笹倉先生ニヤニヤ、おねーさん少しムカムカな具合だったりすると
もう富士山の天辺で超姉を叫ぶ以外手がなくなる
606Classical名無しさん:04/10/26 01:07 ID:4Uzz5mAs
>>605
本編では期待できないのでいっちょSS書いてくれ
607Classical名無しさん:04/10/26 04:33 ID:kVHDHk3I
姉ブレイク中?
608Classical名無しさん:04/10/26 10:35 ID:hgZrcei.
ブレイクで、日本ブレイク工業を思い浮かべてしまった…orz
609Classical名無しさん:04/10/26 11:21 ID:W77SoPec
>>608
染まりすぎ。
だが、気持ちはわかる。
610Classical名無しさん:04/10/26 17:47 ID:kVHDHk3I
じゃあ姉壊れ中
611Classical名無しさん:04/10/26 18:26 ID:vWFx2l.I
>606
すまん、俺には文章をまとまる自信がないorz

アニメも来週は遂に絃子さん登場…万が一バイト入ってもでない事は決定済みだ…
612Classical名無しさん:04/10/26 18:40 ID:1VJOYXsk
八雲は播磨と絃子の事、天満には言わんだろ。
あの、歩く拡声器に言った日には…
613Classical名無しさん:04/10/26 18:55 ID:XO2KoDDU
確かに
天満はたとえ他人に知られたくないであろう事でも
「これは内緒なんだけど…」とか言いながら
いろんな人に言いふらしそうなイメージあるな
しかも微塵の悪意も無く
614Classical名無しさん:04/10/26 19:35 ID:vWFx2l.I
八雲が言いたくなくても押し切って聞き出しそうだと思う、お姉ちゃんパワーで
もしくは晶かサラに相談でもしてるのを立ち聞き、とかの線でも

ところで天満は何故花井の行動に対してお姉ちゃんパワーを発揮しないのか、というのが気になるんだが
615Classical名無しさん:04/10/26 20:08 ID:FcQ7EItQ

           _∧_∧
        / ̄ ( ・∀・)⌒\ 殺
   __    /  _|     |   |
   ヽヽ   /  /  \    |   |           ,,,,,,,iiiiillllll!!!!!!!lllllliiiii,,,,,,,
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`ー― ̄          ヽ、__`/ー_,,,, ゙゙゙゙!!!!!!!lllllllliii|               |
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                                   ゙゙゙゙!!!!llllliiiiiiiiiilllll!!!!゙゙゙゙
                                /.// ・l|∵ ヽ\  ←>>612
616Classical名無しさん:04/10/26 20:09 ID:4Uzz5mAs
現在のところ八雲には
絃子さんと播磨の関係に嫉妬するほど恋を知らないだろうな。
もし次に三人で会うことがあるなら
そのときにちょっと胸が痛んだりするのかもしれないが。
617Classical名無しさん:04/10/26 20:12 ID:FcQ7EItQ
なんで絃子さんと播磨の関係に嫉妬なんかしなくちゃいけないんだ?
とっても頭が悪そう
618Classical名無しさん:04/10/26 20:19 ID:bHeVRC9k
なんか普通にいとこ同士って抵抗あるなぁ。
漫画とかだとほいほいそういう設定が出てくるけど、本人達はともかく周りの人は
すんなり受け入れられるものかな?
619Classical名無しさん:04/10/26 20:51 ID:4gQuV6Yg
雑談はスレ違いだから。
620Classical名無しさん:04/10/26 20:51 ID:kVHDHk3I
周りっつってもな。一概に言えないだろ。
621Classical名無しさん:04/10/26 20:55 ID:kVHDHk3I
自治厨うぜー
FFに関する雑談は問題なし
622Classical名無しさん:04/10/26 20:57 ID:XpfC3TwI
FFってナンダー
623Classical名無しさん:04/10/26 20:57 ID:4gQuV6Yg
早く雑談スレでも行って下さいね。( ´,_ゝ`) プッ
624Classical名無しさん:04/10/26 20:58 ID:Bgy6OUZA
なんだろう?
エヴァ系のところだとFFって言ってるのを良く聞く。
SSはショートストーリーとかサイドストーリーだよな?
625Classical名無しさん:04/10/26 21:01 ID:4gQuV6Yg
ファンフィクションの略。

駄レスで流してんなよ。雑談したいならここ行け。
スクールランブル二次創作支援スレ
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1088682837/l50
626Classical名無しさん:04/10/26 21:03 ID:5.3wJcj2
>>624
ファンフィクションだよ
627Classical名無しさん:04/10/26 22:00 ID:Yzbhf/RY
どこかの穴にこぶし入れる事さ
628Classical名無しさん:04/10/26 22:04 ID:wcoWpqlE
雑談終了!神を待たれよ!
629Classical名無しさん:04/10/26 22:38 ID:9V1Uy2F6
播磨「ふう……遅くなったな……」
今日は災難だった。化学の実験でふざけた今鳥が
ビーカーを割ってしまい、バツとして俺たちの班が
化学室の掃除をさせられることになってしまったのだ。
たまたま運悪くこの日の実験の班長だった俺は、
教室のカギを返そうと職員室へ向かっていた。
当の原因の今鳥や他の連中は掃除が終わると
さっさと帰ってしまい、結局、残ったのは俺だけだった。
班長は週変わりなのだが、
今日のこの日に当たってしまった俺は、
つくづくついていないと思う。
さすがにこの時間ともなると、
廊下も不気味なぐらいに静まり返っている。
時折、同じように居残っていた人とすれ違いもしたが、
今から職員室へ向かう者の姿は見えない。
播磨「俺が最後なのかな……」
やれやれと思いながら、俺は少し早足になる。
あまり遅いと担当の先生に叱られてしまう。
見つかる前にさっさとカギを戻しておかないと……。
職員室が近づいてくると、
そこから廊下に明かりが漏れているのが見えた。
それを見て、俺は何となくホッとする。
630Classical名無しさん:04/10/26 22:39 ID:9V1Uy2F6
学校に伝わる怪談話などを信じているわけではないが、
やはり薄暗い校舎内というのは、何となく気味が悪い。
播磨「ん……?」
何かの声が聞こえてきて、俺はふいに足を止める。
もう職員室が間近だというのに、
俺はとうとう幽霊に遭遇してしまったのだろうか……?
いや……その声は職員室のほうから聞こえてくるのだ。
だとしたら、残っている先生たちが話でもしているのだろう。
どうということはなかったのだ。
暗くなると、何だか少しの物音にでもビクビクしてしまうのは
しかたがないのかもしれないが、
我ながら情けない状態だった。
播磨「さっさと帰ろう……」
俺はそう呟いて、職員室へと足を急がせる。
631Classical名無しさん:04/10/26 22:42 ID:9V1Uy2F6
職員室に入るとすぐのところに鍵置き場がある。
俺はそこにそっと鍵を返した。
職員室にいたのは保険の姉ヶ崎先生だけだったが、
ちょうど電話中のようだった。
姉ヶ崎先生は何やら楽しそうに、電話の相手と話をしている。
声をかけて職員室を出ようと思ったが、
電話を止めるのもためらわれたので、
俺はそのままそっと職員室を後にしようとした。
姉ヶ崎「うふふ……へえ、そうなの?」
電話の相手はどうやらプライベートな相手のようだ。
こんなに遅くまで残って仕事をしているのだから、
まあそういうのもかまわないかもしれないが……。
俺は何となく姉ヶ崎先生のいつもとは違う一面を
見たような気がした。
姉ヶ崎「あら……まあ……うふふ……」
あんなに楽しそうに喋って……
ひょっとして姉ヶ崎先生の恋人なのだろうか……?
いや、姉ヶ崎先生は確か失恋していたはず……。
俺は何となく立ち去りがたい気分になり、
職員室の隅からそっと姉ヶ崎先生の様子を見つめた。
632Classical名無しさん:04/10/26 22:44 ID:9V1Uy2F6
姉ヶ崎「え……っ……?」

姉ヶ崎「は、はい……やってみますけど……」
どうやら相手は年上もしくは目上の人のようだった。
やってみる、ということは、
何かを頼まれているのかもしれない。
やはり仕事の電話か……
俺はそう思って今度こそ職員室を後にしようとした。


姉ヶ崎「ん……っ……こ、こうですか……?」
播磨「…………!」
俺は一瞬唖然としてしまった。
姉ヶ崎先生は……いったい何をしているのだろう。
姉ヶ崎「ん……ふぅ……っ……」
姉ヶ崎先生は微かに息を弾ませていた。
だが、まさかという気持ちが、まだ俺の中にはあった。
姉ヶ崎「ん……っ……は、
    はい……やってますよ……っ……ん……っ……」
電話の相手はいったい何を姉ヶ崎先生に指示しているのだろう。
まだはっきりしたことはわからない。
俺はますます立ち去りがたくなっていく。
だが……本当は立ち去ったほうが良いのかもしれない。
見なかったことにして、
まだ確信のないうちにここを離れたほうが……。
633Classical名無しさん:04/10/26 22:45 ID:9V1Uy2F6
姉ヶ崎「ほっちゃーん! ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!」
634Classical名無しさん:04/10/26 22:45 ID:9V1Uy2F6
表情はいつもの姉ヶ崎先生と変わらない。
違うところがあるとすれば、妙に艶かしい吐息だけだった。
まるで気分でも悪くしたときのような……。
だがあの声色に俺は聞き覚えがあった。
あれは女の人が気持ちいいときに出す声だ。
俺は息を詰めて姉ヶ崎先生を見つめる。
立ち去ろうという理性とこのまま見たいという欲望が、
俺の中で激しく葛藤していた。
あと少し……
様子を見てから立ち去っても良いのではないだろうか……?
姉ヶ崎「んふぅ……っ……あっ……ん……っ
    ……く……ん……っ……」

だんだん俺の中に確信が沸いてくる。
姉ヶ崎先生は堀江をた……つまりオナニーをしているのだ。
あの姉ヶ崎先生が……。
どちらかというと、
そういう話題とはかけ離れたイメージがあっただけに、
俺は衝撃とともに激しい興奮を覚えた。
635Classical名無しさん:04/10/26 22:47 ID:9V1Uy2F6
姉ヶ崎「え……?も、もっと……ですか?」
どうやら電話の相手はさらに激しい行為を
要求しているようだった。俺は思わずゴクリと喉を鳴らす。
その音が聞こえてしまわないかと思うくらい、
職員室は静かだった。
姉ヶ崎先生の吐息が生々しく聞こえてくるぐらいに……。
俺はあげそうになった声をすんでのところで押しとどめた。
姉ヶ崎先生の下着があらわになってしまう。
この後は……いったいどうするつもりなのだろうか……。
俺はさらにゴクリと生唾を飲む。
もう立ち去ろうという気分は一気に失せてしまった。
姉ヶ崎先生の吐息が、いやらしいほどに弾んでいる。
俺は女性がこんなことをするのを見るのは初めてだった。
知識としては知っていたが、
特に姉ヶ崎先生のような人までもが、
こんなにいやらしいことを自ら進んでするとは思えなかった。
いまだに目の前の光景が信じられない……。
しかもあの手の動きは、
今日が初めてというわけではないのだろう。
確かに姉ヶ崎先生は失恋もしているし、
それなりに性的な経験もあるのだろうが……。
どちらかというと受身というのなら信じられる。
だが、この状況は無理やりというわけでもなく、
ましてや受身でもなく、
姉ヶ崎先生は自ら望んでエッチなことをしているのだ。
636Classical名無しさん:04/10/26 22:49 ID:9V1Uy2F6
姉ヶ崎「あ……っ……ん……はぁ……っ……
    き、気持ち……良くなってきた……かな……?」
相手の男は姉ヶ崎先生の声を聞きながら、
いやらしい姿を想像して自分の逸物を慰めているのだろうか。
だが俺はその様子をライブで見ているのだ。
電話の相手なんかよりも数倍興奮する状況だ。
電話の相手にもこの様子を見せてやりたい……。
俺は心にもないことを思いながら、姉ヶ崎先生を注視し続ける。
姉ヶ崎「ん……ぁ……はぁ……ん?
    ぬ、濡れて……来てるかな……っ……
    うん、す、少し……だけどね……」
相手は姉ヶ崎先生のアソコが濡れているかどうかを
確認しているようだ。
電話口だから、そんな音も聞こえないだろうし、
いちいち確認しなくてはならないのだろう。
だが俺の耳には、
姉ヶ崎先生の股間から微かにクチュクチュという
濡れた音がしているのが聞こえていた。
姉ヶ崎先生は感じているのだろうか……?
637Classical名無しさん:04/10/26 22:49 ID:9V1Uy2F6
姉ヶ崎「んふ……っ……はぁ……ぁ……ふあ、
    ん……っ……あっ……んんっ……」
指の動きにあわせて、ちいさな水音が艶かしく響いている。
何だかとてもいやらしい……。
姉ヶ崎「えっ……?も、もっと激しく……ですか?
    え、ええ……わかりました……」
やはり電話ごしだともどかしくて仕方がないのだろう。
相手はさらに激しい行為を姉ヶ崎先生に要求したようだった。
姉ヶ崎「んくぅ……っ……あっ、
    あんっ……はぁ……ううん……っ……」
股間から漏れる音がさらに激しさを増した。
よほど濡れているのだろう。
姉ヶ崎先生が指を動かすたびに、
湿ったいやらしい音がピチャピチャと響いている。
638Classical名無しさん:04/10/26 22:51 ID:9V1Uy2F6
姉ヶ崎先生はいつもこんなことをしているのだろうか。
相手からの指示に合わせて、
どんどん淫らな姿に変貌していく。
俺の目はもう姉ヶ崎先生の姿に釘付けだった。
こんな光景を目の前で見られるなんて……。
あのとき立ち去らなくてよかったと心底思う。
姉ヶ崎「んふぅ……っ……ぁ、
    ぁぁ……っ……んぁ……っ……あっ、ああんっ……」
姉ヶ崎先生に気づかれるのではないか……
そういう心配は多少あったが、
そうなった時はなった時だと開き直った。
それにこういうスリルが俺をさらに興奮させているのだ。
まさに快楽のスパイスといえるかもしれない。
次第に姉ヶ崎先生の声が大きくなる。
ずいぶんと高まってきている様子だった。
そろそろ『イキそう』になっているのだろうか。
それにしてはずいぶんと早いような……。
姉ヶ崎「あっ、んんっ……んくっ……はぁ……
    う、うん……ち、力が抜けてきちゃって……っ……」
姉ヶ崎「んぅぅっ……ふあっ、あんっ……
    い、いいっ……え……?んんっ、どこって……
    ア、アソコが……っ……」
639Classical名無しさん:04/10/26 22:52 ID:9V1Uy2F6
姉ヶ崎「す、すごく熱くなってるの……っ……
う、うん……溶けちゃいそうな感じ……っ……
んふぅ……っ……」
電話の相手に答えるのももどかしそうな様子で、
姉ヶ崎先生の手はせわしなく蠢き続ける。
ここが職員室だということを、
いつの間にか俺はすっかりと忘れていた。
もう他の教師はここに戻ってくる心配はないのだろうか。
だから姉ヶ崎先生はこんなことを……?
姉ヶ崎「んふ……ふあ……っ……あんっ……くぅっ……
う、うん……す、すごく……
気持ち良くなってきた……っ……んんっ…」
んんっ、んくぅ……も、
もう……体が……っ……んふ……っ……」
あふっ……ん……はぁ……はぁっ……
あっ、い、いい……っ……
す、すごく……気持ちいい……っ……!」
あ、あんっ……
が、我慢……できない……っ……んふ……っ……
あくっ、んんっ……」
640Classical名無しさん:04/10/26 22:53 ID:9V1Uy2F6
俺はさらに興奮して息を呑んだ。
目の前には……姉ヶ崎先生の股間が晒されている……。
いや、股間だけではない。
胸の辺りもすっかり着衣が乱れてしまっている……。
姉ヶ崎「そ、そうよ……だ、
    誰も来ないから……んふ……大丈夫……っ……
    んあぁ……っ……」
これほどの痴態を間近で見ることができるとは……。
俺は激しい興奮とともに、一種の感慨を覚える。
こういうのはエロ漫画の世界のことだけだと思っていたのに。
俺の目の前には、エロビデオよりもリアルで卑猥な映像がライブで繰り広げられているのだ。
俺はその映像を脳裏に刻み付けるように、姉ヶ崎先生の動きを凝視した。
今ここで、俺自身も硬くなったものを取り出してしごきたい衝動にかられるが
それはかろうじて我慢する。
姉ヶ崎「んんっ……ヌルヌルしてる……う、
    うん……っ……すごくたくさん出てきてる……っ……
    んんっ……」
姉ヶ崎先生の相手は今どんな状態であの声を聞いているのだろう。
きっと今の姉ヶ崎先生の様子を想像しながら
興奮を高めているに違いないが……。
641Classical名無しさん:04/10/26 22:54 ID:9V1Uy2F6

姉ヶ崎「んあぁ……っ……はぁ……んっ、んんっ……
あっ、はぁ……っ……」
う、うん……す、すごく……
熱くなってきちゃった……っ……な、何だかすごく
……んんっ……き、気持ちいいの……っ……」
日ごろは少しおとぼけた印象のある姉ヶ崎先生と、
性的な行為は結びつきにくかった。
だがこんな正体を知ってしまった今……
俺は女性に対する認識を変えなくてはいけないかもしれない。
女性がみんなこういうことをするのだとしたら……天満ちゃんも……
こんなことをしているのだろうか……?
姉ヶ崎「あっ、あんっ……い、いいっ……はぁんっ……
う、うん……む、胸もちゃんと触ってる……っ……
あっ、あんっ……
んふ……っ……
んくっ、ふあっ……あんっ……んぁぁ……っ……
はぁ……っ……はぁ……っ……!」




姉ヶ崎「あっ……はぁ……はぁっ……んっ……あぁ……っ」
姉ヶ崎先生の胸が……やっぱりそんなに大きくはない……
少しふくらみがある程度で……。
小さくても胸は感じているようだから、
大きさは感度には関係ないのかもしれない。
642Classical名無しさん:04/10/26 22:54 ID:W77SoPec
割り込み失礼するが、エロパロ行け。
643Classical名無しさん:04/10/26 22:56 ID:9V1Uy2F6
姉ヶ崎「んはっ……はぁ……っ……あっ、いい……っ……んくっ、ふあっ……あんっ……」
ああいうふうに少し濡らすとと気持ちがいいんだ……。
姉ヶ崎先生はこういう行為にずいぶん慣れているようだ。
どこをどうすればいいのか、熟知している……。
姉ヶ崎「んふ……っ……む、胸も……見えてるよ……う、うん……ちょ、直接触ってる……乳首?
うん……硬くなってる……」
姉ヶ崎先生の乳首は綺麗だった。
年増の人はもっと色が黒くなるって話も聞いたことがあったのだが……。
姉ヶ崎「あっ、んんっ……はぁ……っ……ふあっ、あんっ……はぁ……んんっ……」
あんっ、あぁっ……はぁ、はぁっ……んっ、あんっ……はぁっ……」

もうほとんど着衣は乱れてしまっている。
服を着ているというものの、裸体よりもこんな姿のほうが、ずっといやらしい……。
ずいぶん動きが激しくなってきている……
ひょっとしてもう達してしまいそうなのかもしれない。
先ほどまでは自分の状態を細かく伝えていた姉ヶ崎先生も、今は快感を追うのに必死になっているようだった。
姉ヶ崎「んあぁっ……はぁっ、はぁんっ……んくっ、あっ……あぁっ……」
んんっ……はぁ……す、すごく……熱くなってきて……
も、もうっ……あっ、あんっ……はぁっ……!」
う、うん……も、もうイキそう……っ……あっ、はぁっ……んあっ……んんっ……」
俺は自身の股間がじんじんと熱くなっているのを感じる。
こうして秘めやかな行為を眺めているだけでも
吐精してしまいそうだった。
644Classical名無しさん:04/10/26 22:58 ID:9V1Uy2F6

姉ヶ崎「あっ、あんんっ……はぁっ……い、いいっ……あぁっ……はぁんっ……!
あぁぁっ……!んっ、あぁっ……はぁ……はぁっ……ゆ、指……入れたの
……はぁっ……あっ、あんっ……」
う、うん……ね、根元まで……んくっ……は、入ってるよ……っ……んふ……っ……
あくっ、んぁぁっ……!」
姉ヶ崎先生は自分の指を相手の逸物だと
思い込んでいるのだろうか。快感を作り出すために自ら奥へ奥へと出し入れを繰り返している。
電話の相手のほうだって、きっと姉ヶ崎先生の中に入れたつもりで自分のモノをしごいているに違いない。
姉ヶ崎「す、すごく熱いよ……っ……あっ、はぁっ、ダメっ……も、もうっ……来ちゃうっ……!」
クチュクチュといやらしい音を立てて、姉ヶ崎先生の指が激しく中へ外へと動いている。
あんなふうに指を出し入れするのが気持ちがいいんだ……。
俺はまるで映画のクライマックスでも見るような気分で、姉ヶ崎先生を食い入るように見つめた。
姉ヶ崎「あくっ、はぁっ……イ、イキそう……っ……あっ、イッちゃう……っ……あっ、あぁっ……
はぁっ、イクッ……あんっ……イッちゃう……っ……」

姉ヶ崎「ほっちゃーん! ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!」
645Classical名無しさん:04/10/26 23:10 ID:SmBv8Cq6
>9V1Uy2F6

氏ね!
646Classical名無しさん:04/10/26 23:13 ID:wwdc9PiA
キャラの名前を使っているだけで、スクランものじゃないなこれ。
板違いだし。荒しだろ。
647Classical名無しさん:04/10/26 23:16 ID:BSQZtu/s
てゆうかお姉さんって胸小さくないだろ
648Classical名無しさん:04/10/26 23:17 ID:vWFx2l.I
キャラ云々以前に>633とかどう見ても荒らしだろ、と
649Classical名無しさん:04/10/26 23:43 ID:9V1Uy2F6
エロパロ板のつもりで書き込みました
みなさんの気分を害し遺憾に思います
650Classical名無しさん:04/10/26 23:50 ID:ZzLHUsbI
遺憾に思うのはこっちだバカ。
651Classical名無しさん:04/10/26 23:53 ID:9V1Uy2F6
雰囲気が悪くなってしまいましたので、もう寝る事にします。
荒らすつもりは毛頭ありませんでした、それだけは心に留めておいて下さい。

おやすみなさい
652Classical名無しさん:04/10/26 23:54 ID:4Uzz5mAs
>>633はちょっと笑ったが
キャラの名前変えただけの荒らしなんで以下スルーしましょう↓
653Classical名無しさん:04/10/27 00:33 ID:8mD9XsNY
>なんか普通にいとこ同士って抵抗あるなぁ。
オレもそうだよ。
従姉妹とと二人だけで同居なんて、ちょっと考えられん。

だからこそ、それでも同居してる二人には、特別な感情が
あるんじゃないかと妄想してしまうワケで・・・
654Classical名無しさん:04/10/27 00:43 ID:DY.v01dQ
バイクのガス代とか誰が払っているんだろうね
655Classical名無しさん:04/10/27 01:17 ID:y65rO05o
雑談はホントやめた方が良いよ。投下しづらくなるから。
他にいくらでもスレあるんだからそこに行ってくれ。
656Classical名無しさん:04/10/27 01:25 ID:87rkNtGE
↓以下作品投下
657Classical名無しさん:04/10/27 07:16 ID:AXJFA3lo
そろそろ、旗かおにぎりのネ申SSが読みたい。
超姉がこうも続くと飽きる。
658Classical名無しさん:04/10/27 08:43 ID:Gtn8g5qU
ちょっと前に大量にあったじゃん。
旗かおにぎりだって続きすぎて飽きる。
659Classical名無しさん:04/10/27 08:50 ID:Gtn8g5qU
そんなわけで王道のネ申SSが読みたい。
分校のごがつさんみたいなネ申がここにも降臨してくれないかな。
660Classical名無しさん:04/10/27 09:45 ID:y65rO05o
要するに旗でもおにぎりでも王道でも超姉でも何でもキボンヌ、と
661Classical名無しさん:04/10/27 10:27 ID:mhWZ5N.Q
王道のSS書くなら烏丸出すかで悩むよな
出すなら出すで性格に困る
662Classical名無しさん:04/10/27 11:40 ID:FxAsKPvA
八雲と天満が頭ぶつけて入れ替わり話。八雲の能力も天満が引き継ぐ。
んで奈良だっけ?あれの心の声が視えて、能力に気付いた天満が烏丸の
心を視ようと奮戦するも何も視えず(´・ω・`)な中、播磨に漫画の
打ち合わせで屋上に呼ばれて…な話を誰かきぼん。
663Classical名無しさん:04/10/27 19:12 ID:D6lpjm56
>>662
自分でがんばって書いてみてよ
俺はおまいのSS読みたいぞ
664Classical名無しさん:04/10/27 21:15 ID:yE6wkWy6
なんで最近こんな雑談多いの?アニメ化余波?
665Classical名無しさん:04/10/27 23:01 ID:hO1yHoGo
厨は雑談スレその他に誘導するしか方法がないからな。
ま、マターリSSを待つか。
666Sometime, Somewhere:04/10/28 01:29 ID:03..g5xA
「それまで!」
 その一声で、張りつめていた空気が一気に緩んだそれへと変わる。次に訪れるのは拍手と歓声。真剣勝負と
いえども、どこかにそんな和やかさを残している辺りが花井道場盛況の所以でもあるらしい――とは言っても、
今この場はその花井道場ではない。以前から親交のある隣町の空手道場、そこに出稽古に出向いているところ
である。
「さすがだなミコちゃん!」
「今日は調子がよかっただけだって。まだまだ私の方が負けが込んでるよ」
 苦笑混じりの美琴。それでも勝利したことに違いはないのだが、その表情は晴れない。なんとなれば――
「……大丈夫かな、アイツ」
 視線の先では、魂の抜け落ちたような様子で対戦相手に一礼をする花井の姿。ベストにはほど遠いどころか、
美琴の知る限りワーストと言っても過言ではない状態である。
「春坊か……俺も無理じゃねぇか、っつったんだけどな。ったく、何考えてやがんだ、弥三郎はよ」
 花井弥三郎――花井春樹の父にして、花井道場の現在の主である。普通に考えたなら試合など出来るはずも
ない花井を連れてきたのは、彼の意向である。美琴の見立てでは、恐らく活の一つも入れる代わりに、という
ことなのだが、それにしたところで当人があの様子ではさすがに不安にもなる。
 初めは遠慮する素振りを見せていた対戦相手も、その弥三郎に頭まで下げられては他にすべはなく、その
表情はきっちりと引き締められ、緊の色を帯びている。
「それでは――」
 その声に、辺りの空気は再び張りつめる。
 ただ一点、花井を除いて。
 そして。
「――始め!」


Sometime, Somewhere
 ――いつか、どこかで


 本日はお世話になりました、そう言いながら弥三郎が道場主に頭を下げている。その声を聞きながら、なんとは
なしに空を見上げる美琴、そこにあるのは茜色の雲と大気。到着した時分ではまだまだ高かった日も、既に地平線
にかかろうとしていた。
667Sometime, Somewhere:04/10/28 01:30 ID:03..g5xA
 ――勝負の結果、は言うまでもない。 
 一撃。
 ただそれだけで花井の敗北は確定していた。普段ならば当たるはずもない、威圧と牽制の意味を込めた初撃。
それを真正面から綺麗にもらい、あっさりと勝負は決していた。
 誰もが想像した通りの結果に、ある意味で一同が安堵したところに、今度は誰もが予想しない展開が待っていた。
「情けないところをお見せした。代わりと言ってはなんだが、私がお相手させてもらおう」
 そう言って進み出たのは弥三郎だった。一転してざわついた空気が辺りに漂う。それも無理はない、近年でこそ
指導に専念し、実戦にはほとんど携わらない彼ではあるが、様々な逸話とともにその強さは折り紙付である。
 その噂に対する興味本位か、それとも単なる蛮勇か。ともかく手を上げた幾人かと立ち合い――そして圧倒した。
最後には自らの道場の面々とさえ手合わせしていたが、結局彼を打ち負かす者はなかった。
 それを見ていた美琴――ミコちゃんもどうだい、と周りから言われたりもしたが、丁重にお断りした――の感想
は、あれってやっぱ怒ってんのかな、というもの。普段から寡黙であまり表情を変えない弥三郎だが、決して感情
が乏しいわけではない。なにせ、かつては駆け落ちをしたこともあるのだ、その仮面の下には人一倍の激情が静か
に眠っているに違いない――それはさておき。
 そんな風にして、ちょっとした波乱を起こした出稽古も終わりを迎え、挨拶を終えた弥三郎が表へ出てくる。
ちらり、とその視線を相変わらず抜け殻のような花井に移したあと、何も言わずに歩き出そうとする。
 ――と。
「あのさ、おじさん」
 その背中に、少しだけ言いにくそうに頭をかきながら美琴。
「コイツ、少し借りてっていいかな」
「今の春樹が何かの役に立つとは思えないが?」
 淡々と返される身も蓋もないような言葉に苦笑しつつ、そうなんだけど、と説明を試みる。
「私でどうにか出来る、なんて思わないんだけど、さっきちょっと思いついたことがあって……なんて言うのかな、
 見せてやりたいものがあるんだけど……」
 自分でも説明になっていない、と思いながらもそう告げた美琴に。
668Sometime, Somewhere:04/10/28 01:30 ID:03..g5xA
「……分かった」
 言って、押し出すようにして花井を自分の前に立たせる弥三郎。
「よろしく頼む」
 実直、あるいは無骨。そんな言葉がよく似合うような深々とした一礼に、分かりました、とこちらも礼を以て
返す美琴。そして、別れの言葉を残して帰路についた彼らの姿が見えなくなるまで見送ってから、いまだにふらふら
と立ち尽くす花井に声をかける。
「聞いてたか……って言うだけ無駄か、このままじゃ。んじゃ、行くぞ」
 そう言って、美琴はゆっくりと歩き出した。


 夕暮れの街、その中を歩いていく。
 先導するような形をとる美琴が後方を確認するためにときたま立ち止まる、その後をふらふらとした足取りで
花井がついていく。それは二人が歩いているというよりはむしろ一人と一人、スローペースの鬼ごっこ。それも、
永遠に鬼が追いつくことはない、そんな光景。
 けれど、美琴は何も言わずにただ花井がついてくるのを辛抱強く待っている――それがしばらく続いて。
「……ったく」
 暮れなずむ空の色、そして時計を見比べた美琴が遅々として進まない歩みに一つ溜息。視界の中でとぼとぼと
歩いている花井の姿に目をやってから、しばらく考えて、よし、と決断。そちらへ向かって歩み寄る。
「……」
 あいかわらずぬけがらのように反応を返さない花井。
「――行くぞ」
 そんな花井の手を握る。瞬間、わずかにその表情に変化が見られたのを視界の端にちらりと収めつつ、しかし
そちらを見ることなしに、正面を向いて美琴は歩き出した。
「……」
 やはり花井からは言葉はなく、それでも確かに一人と一人は二人になって、歩いていく。
 夕暮れの街を、歩いていく。
669Sometime, Somewhere:04/10/28 01:31 ID:03..g5xA



 美琴の足は止まることなく、やがて市街地を抜け、矢神市との境の小さな山の中、道なき道へと進んでいく。
日は既に地平線の向こうへと姿を消し、残照が空をわずかに照らしているのみ。それでも、その足取りが揺らぐ
ことはなく、迷いなくリズムを刻み続けている。
「なあ、覚えてるか?」
 やがて、そんな風にしてつぐんでいた口を開く美琴。
「もうずっと前だけどさ、初めてあの道場に行ったときのこと」
 花井は答えない――が、気にした素振りもなくそのまま話し続ける。
「あんときもあっさり負けて、ちょっと落ち込んでたよな、花井」
 前を向いたままで、遠い昔を懐かしむような眼差し、そして微笑み。
「あげく、おじさんに不甲斐ない、なんて言われちゃって逃げ出しちまうんだもんな。苦労したよ、見つけるの」
 それは、他の誰でもない、二人だけが共有している記憶。
「で、なんでだか歩いて帰る、なんて話になって……今思うとバカみたいだな、どう考えても。あんときゃ花井が
 絶対こっちだって行っちまうから道に迷うわ暗くなるわで」
 大変だった、そう言おうとしたときに。
「……違う」
 ようやく花井が口をきいた。
「ん?」
「僕を引きずり回していたのはお前の方だろう、周防」
「なんだ、ちゃんと覚えてるじゃん」
 そこで初めて振り向いて、笑ってみせる美琴。
「……」
 少しだけむっとした表情を見せる花井だが、美琴にしてみればあの状態から抜け出してくれただけでも儲けもの。
それを気づかれないように何でもないふりをして、さらに歩を進めようとする。そこに。
「……周防」
「なんだよ、まだなんかある?」
「……一人で歩けるんだが」
「……あ」
 今の今までそれを忘れていた、というように自分の手を見る美琴。その先はしっかりと花井の手に繋がっていた。
670Sometime, Somewhere:04/10/28 01:31 ID:03..g5xA
 ――が。
「わりぃ、でももう少しだからさ」
「なっ、ちょっと待て! おい周防!」
 悪戯っぽくそう言って、そのまま駆け出す美琴。そして、まだまだ本調子ではない花井は抗議も虚しくそのまま
引きずられるような恰好になる。夜の山道ともなれば普通は足下もおぼつかないものだが、そこはどうにか持ち前の
身体能力で乗り切っていく。
 やがて、前方に少し拓けた場所が見えてきたところで、美琴が足をゆるめる。その隙に、ようやく繋いだままだった
てを振りほどく。乱れた呼吸で大きく肩を上下させる様子を、だらしない、というように見る美琴。花井の方も、この
一、二時間でさすがに自分の状況を把握出来る程度にはなっていたため、自らの不甲斐なさは自覚済み。甘んじてその
視線を受け入れる代わり、一つの疑問を口にする。
「……それで、だ。見せたかったもの、というのは何だ?」
 これだけ引き回された本題、とでも言うべきその問に、今度はゆっくりと歩きながら美琴は答える。
「何って言うほどのもんじゃないけどね、強いて言うなら――」
 この場所かな、その言葉と同時に辿り着いたのは山の峰、わずかに拓けた空き地だった。木々のない頭上には星空、
眼下には彼らの街、矢神市の灯りが見える。
 その光景を前に、覚えてる?、と話し始める美琴。
「調子に乗ってどんどん進んでたのはよかったんだけどさ、結局迷っちゃって。結構いっぱいいっぱいのとこまで
 いっちゃってたんだよね、あのとき」
 花井の脳裏にも、当時の光景が再現される。ほんとにいいの、とついていく自分。だいじょうぶだって、と笑う彼女。
その声がわずかに震えていたことを、今更のように思い出す。
「でもね、ここについて、この景色見たら――全部吹っ飛んだ」
「……そうだったな」
 見覚えのある街の光は不安を帳消しにしてくれたし、現れた星空はそれまでとのギャップも手伝って、二人にとっては
途方もなく素晴らしいものに見えた。
「危ないから、って朝までここで話して、それから帰ったんだよな。で、メチャクチャ怒られた」
671Sometime, Somewhere:04/10/28 01:34 ID:03..g5xA
 そういうさ、と美琴は笑う。
「思い出があるだろ、いろんなとこやいろんなものに」
 それはただの記憶とは違うもので。
 もっと、ずっとずっと強く輝いている、決して消えることのない、そんなもの。
 きっと。
「それにすがれ、ってんじゃなくてさ、今の花井は世の中真っ暗で何にもないと思ってるかもしれないけど」
 意外とね、言葉とともに微笑。
「――なんでもあるもんだよ、手の届くところに」
 一息に言い終えて、なんか私らしくないね、と背を向ける美琴。あはは、という小さな笑い声を最後に、鈴を転がす
ような虫の声だけが辺りに響く。りん、という音をした静寂。
「――周防」
 やがてしばらくして、その背中に花井は声をかける。
「んー?」
 小さく伸びをしながら返事をする美琴に、ずっと言いたかったことがあるんだ、と花井。
「なんだよ、あらたまって」
「……大事なことなんだ」
 だからこちらを向いてくれないか、そう続ける。
「……花井?」
「頼む」
 いつになく真剣な様子に、ゆっくりと振り返る美琴。正面には神妙な面持ちでまっすぐに見つめてくる花井の姿。
 月光と星明りが二人を照らしている。
 そして。
「周防――」
672Sometime, Somewhere:04/10/28 01:34 ID:03..g5xA
「そこじゃあぁぁぁぁぁ!」
 ――外野から突如飛び込んでくる老人。
「……」
「……」
 呆気にとられた、といった様子の二人を尻目に、きゅぽん、と瓢箪の栓を抜いて酒を口に流し込んで一言。
「ワシは気にせず続けるといい」
「またアンタかっ!」
 怒声とともにうなりをあげて美琴の拳が飛ぶ……が、フォッフォッフォ、と笑いながらそれを避ける老人。
「だいたいなんでこんなとこにいるんだよ!?」
「それはな、お嬢さん――」
 フッ、とナナメ四十五度の角度で。
「――迷ったからじゃ」
「アホかーっ!」
 二度目の怒声。そして老人はあっさりとそれを聞き流してまたもや笑っている。
「……あー」
 タイミングを逃し、一人その騒ぎに乗り遅れた花井。止めるべきか、と一瞬思ったものの、老人の性格を考えて
すぐに諦める。
「また言えずじまい、か」
 ぽつりと呟き、近くの手頃な岩に腰を下ろす。その見つめる先では、今度は何を言われたのか真っ赤になっている
美琴の姿、そして相変わらず飄々とした様子で彼女を翻弄する老人。どことなく間の抜けた、そんな微笑ましい光景
に表情を崩し、今度は夜空を見上げる。
 星空だ。
 そして、どこにでもありふれているようなそんな景色には、確かに幾つかの思い出があった。彼女が気づかせて
くれた、目をつぶっていては見えない思い出が。
 いつもこうだ、と花井は思う。迷ったとき、立ち止まったとき、いつも励ましてくれるのは彼女だ、と。
 ――だから。
「いつかどこかで、必ず」
 今度こそ君に言おう、と。
『ありがとう』――いつも言えなかった、その言葉を。
 まだまだ騒ぎの収まらないそんな中、花井は星空に向け、そう誓った――
673Sometime, Somewhere:04/10/28 01:37 ID:03..g5xA
そこでいつものようにまったく流れを読まずに花ミコ。
落としてみようとして落としきれなかったラストはお察し下さい。
でもやっぱ恋愛より友情ですよ、と思いつつ。
674Classical名無しさん:04/10/28 01:55 ID:3xkJyLBM
約二ヶ月ぶりの投下。
今回、久々に一人称に挑戦、なんだが……これっきりにするかも OTL
きっついアドバイス、期待してます。
675Classical名無しさん:04/10/28 01:55 ID:yvA618yE
GJです。花井を元気付けようとする周防がかっこよかった!
676Classical名無しさん:04/10/28 01:59 ID:3xkJyLBM
 今日はついてねぇ。なんでたって、お嬢なんかと一緒に帰らなきゃならねーんだ。
 真っ赤に燃える夕日が綺麗なこんな日にこそ、天満ちゃんと一緒に帰りたいのに。
 そんでもって告白なんかできたら――ん?

「おい、どうしたんだ」

 ふと気付くと、お嬢は俺の後ろの方で立ち止まっていた。なんとなく表情もいつもよりきつい。
 くそ、俺は何もやってないぞ。ほとんど喋ってすらいないんだから。

「ねえ、髭」

 そういって、言葉を切る。なんとなく続きが言いにくそうだ。

「なんだよ」

 お嬢が何を考えていようが俺には関係ない。関係ないが、なんとなく続きを促す。
 くそ、なんでこんな緊張するんだ。夕日の赤が金髪に映えてるし、目だってなんだかよくわかんねー
けど真剣っぽいし、今更だけどスタイルもいいんだな――って
 ああ、ごめん、天満ちゃん。お嬢を一瞬でも綺麗だなんか思っちゃって!!

「あのさ」

「お、おう」

 口の中が粘っこい。心臓だってバクバクなっている。

「腕」

「腕?」

 自分の腕を目の高さまで持ち上げる。ちょっと見た感じだけど、特に何か付いているわけじゃない。
677Classical名無しさん:04/10/28 01:58 ID:3xkJyLBM
「なんだよ、なんかついてるのか?」

「そ、そうじゃなくて!!」

 ちょっと焦ってるみたいだ。
 俺だけが緊張しているわけじゃないのか。ちょっと安心する。

「じゃあ、腕がどうしたんだよ」

「その、あの、ね……腕、組んでもいいかな?」

「は!?」

 腕、腕を組む? 誰が、誰と?
 って、この場には俺とお嬢しかいないんだ。つまり、俺とお嬢は腕を組むのか!?
 えっと、どうすりゃいいんだ。って、俺は天満ちゃん一筋じゃなかったのか! 何を迷っているんだ
よ。断ればいいんだ。断れば、こと、われ、ば。

「何、黙ってるのよ」

 俺だって、好きで黙っているわけじゃねぇよ。
 そんな軽口すらいえない。

「黙ってるなら……別にいいのよね」

 ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待て!!
 そういいたいのに、口はパクパク動くだけだ。一歩、二歩とお嬢が近寄ってくる。
 目の前まで来た。そして――――おもむろに両手を組み始める。

「おい」

 思わず突っ込む。
678Classical名無しさん:04/10/28 01:58 ID:3xkJyLBM
「何、どうしたの? 腕を組んでいいんでしょう?」

 ものすごい意地の悪い表情を浮かべてやがる。

「あれ、もしかして、私と腕を組みたかったとか?」

 下から俺の顔を覗き込んできた。当然、浮かべる表情はより一層こっちをからかうものになっている。
 ああ、もう、一瞬でもこいつを可愛いとか思った自分が馬鹿だった!!

「ふん、そんなわけないだろ。誰がお前なんかと」

「何ですって!!」

 あ、またか。
 ふわっとお嬢が浮き上がったかと思った瞬間に襲い掛かってきた衝撃に頭を揺らされた俺は、告白を
誤爆した日を思い返しながら意識を失っていった。


「髭、そこでうなずきなさいよね!! そうしたら――
 って、別に腕を組みたいわけじゃないのよ。そう、播磨君がどうしても、って言うなら組ませてあげ
てもいいかな、とか思ってただけなんだから」

 彼が失神していることに気付いてなどいない。ただ、溢れるように言葉を紡いでいく。
 その顔が赤いのは、夕日のせいか、それとも――
679Classical名無しさん:04/10/28 02:02 ID:3xkJyLBM
以上です。
>673
 みたいな上手い文章の後に載せるのは正直気後れしたんですが、逆に
上の作品の引き立てになるでもいいやと開き直って投下。ちなみに、
これっきりにしようというのは一人称に限っての話です。


というわけで、>673
GJ!!
恋愛でも友情でも、どちらでも上手いと思わせる作品でした。
680Classical名無しさん:04/10/28 02:03 ID:nQofhypg
縦笛はイイ
うざいはずの花井がまるで化学反応を起こして別の物質になったかのように感じる
グッジョブだ
681Classical名無しさん:04/10/28 02:08 ID:nQofhypg
感想書いてる間に旗SSが来てた!
いいよいいよ旗はいいよ
素直じゃないからつい変な行動に出ちゃうお嬢かわいいよ
播磨も真剣に迫られたらタジタジだろうな、根はやさしいやつだから
グッジョブだ
682Classical名無しさん:04/10/28 02:12 ID:yvA618yE
旗SSはやっぱりいいね〜
沢近らしさが出ていたと思う
GJです。
683Classical名無しさん:04/10/28 02:25 ID:3xkJyLBM
 感想ありがとうございます。
 一応、意図しているところ(沢近の照れ隠しみたいなもの)を伝えることが出来て少し安堵して
います。

 自分の作品に足りないものがあるのは分かっているのですが、それが何かわからないので、
問題点をバンバン指摘してくれる方もお待ちしております。
684Classical名無しさん:04/10/28 08:32 ID:NOS4xzfA
>>673
縦笛イイ!! 激しくGJ!
花井を元気付けようとする美琴も、
しっかり立ち直る花井も、実に格好いい。
685Classical名無しさん:04/10/28 18:04 ID:rEo2RQ1s
>>683
GJ!
読み易くて良かったですよ。
沢近も可愛くでイイ。
686Classical名無しさん:04/10/28 19:27 ID:30sa89ZE
8 彦 野
6 立 浪
7 ゲーリー
3 落 合
5 宇 野
4 仁 村
9 川 又
2 中 村

ちと違うかもしれないが・・・
687Classical名無しさん:04/10/28 20:20 ID:7ezDwrUc
面白かった
688Classical名無しさん:04/10/28 20:58 ID:0QN2.pns
<b>始めまして</b>つい最近この掲示板を見つけました
春先まみれの山殺し裏切り御免の松葉咲き夢見草に物申すいつになったら会えるのかです。
これからもよろしくお願いします
689春先まみれの山殺し裏切り御免の松葉咲き夢見草に物申す:04/10/28 21:02 ID:0QN2.pns
すみませんいきなりしっぱいしました
690Classical名無しさん:04/10/28 21:49 ID:50tSFdJM
>>687
あーあ。あげたりするから厨が来た・・・
691クズリ:04/10/28 22:57 ID:5XFaSR9.
 どうも、皆さん、こんばんは。

 誰もが忘れていそうな、烏丸君誕生日記念SSを投下してみます。
692クズリ:04/10/28 23:03 ID:5XFaSR9.
 空。青い。
 雲。白い。
 のんびりと天を仰いでいる彼の心にあるのは、ただそれだけ。
 茫洋とした眼差しは、しかし、見る者に内を読ませない。
 ザー ザー ゴゥ
 風。秋の風。
 葉を散らす。涼しい風。
 目を下ろす。手に持った小説。文字を眺める。
 そこに刻まれているのは、記憶。
 記憶を刻んだもの。それが記録。
 ふと彼は思う。
『今日は、僕が生まれた日だ』
 それも記憶。そして記録。
 感慨はない。
 年をとることに、彼は何も感じない。
 一つだけあるとすれば。
 また少し、祖母に近付いた、ということだけ。

 僕はあとどれぐらい、記憶を作ることが出来るんだろう。
 あとどれぐらい、記録を残すことが出来るんだろう。
 焦りも、力みもない。そこにあるのは、純粋な好奇心。
 だから彼は、出来るだけの記憶を作ろうとする。
 記録を残すために、ペンをとる。

「烏丸君」
 声をかけられて、彼は振り向く。そこにいたのは、クラスで席が前の少女。
 不思議な子。見ていて飽きない子。
 ――――気になる子。
 少女は、後ろ手に隠していた物をおずおずと前に出して、そして言った。
「ハッピー・バースデー、烏丸君」
「……ありがとう、塚本さん」
 また一つ。記憶が、増えた
693クズリ:04/10/28 23:07 ID:5XFaSR9.
 というわけで、お目汚しになってしまいましたが。烏丸君、誕生日おめでとうございます。

 日付が変わる前に投稿できて良かった……
694Classical名無しさん:04/10/29 00:28 ID:3jBF6JFE
>>693
GJ
695Classical名無しさん:04/10/29 01:15 ID:4MeHyU1A
>>692
上手いと思いますが、プライベートファイルの設定をそのままストーリーにしたようにも見えてしまいます。
あと、天満からのプレゼントに感慨の無い単なる記憶としての意味しかない、とも読めてしまうところが・・・。

散文詩的な表現の粗探しみたいになって申し訳ないですが、今回はそいういう感じを受けました。
696Classical名無しさん:04/10/29 02:33 ID:JIRwdKig
GJ
697Classical名無しさん:04/10/29 05:26 ID:TwG7K6zQ
ま、作者の思い入れのなさが、よーく伝わってくるわな( ̄ー ̄)ニヤリ
別段そのことを批判するわけでもないけどさ
698Classical名無しさん:04/10/29 08:02 ID:hpT6JyT.
>332に書いてある1レスで書く縛り+烏丸を題材にって事をふまえればきちんとまとまってる話だと思うんだが

誕生日密集してるから大変だと思うけど、もうちょい長いほうが読み手としては嬉しいなあ
699風光:04/10/29 10:39 ID:.ZMMzdjc
こんにちわ、風光です。
少し間が開きましたが新しいSSを投下します。
最近、旗やおにぎりSSが少ないって事なのでおにぎりSSを書いてみました。
内容は最近風邪を引いたのでそれを元ネタにしてみました。
では八雲のSSをお楽しみください。

タイトルは「ぬくもり」です。
700ぬくもり:04/10/29 10:38 ID:.ZMMzdjc
「ゲホッ、ゴホッ……」
 苦しげに播磨は咳き込んだ。
「あ〜、キッチィ〜」
 久しぶりに風邪を引いて彼は寝込んでいた。
「絃子も……はぁー、はぁー、ほっぽって学校行きやがるし……」
 播磨が風邪を引いたと知ったとき、絃子は君でも風邪を引くことがあるんだな、などとのん気な口調でそう言って
市販の薬を目の前に置いて行っただけでこれといって心配してくれなかった。
「俺は病人だぞ……」
 もしかしたら絃子は自分が病気になって喜んでるんじゃないか、などと詮無き想像までする始末であった。
 実際のところ、絃子はただ単に播磨の風邪がそれほど酷い症状ではないと判断したから出勤しただけなのだが。
「うう……なんか不幸だ……」
 病気になったことで播磨は弱気になっているようだ。
「ゴホッ、ゴホッ……ゲホッ……はぁー……あちぃ……」
 発熱と咳で苦しみながら脇に差していた体温計を取り出した。
「37度7分。……そこまで酷い熱じゃないのになんでここまで苦しいんだ?」
 おそらくそれは普段風邪を引かないからであろう。
「はぁー、もうひと眠りすっかなぁ……」
 もう結構寝てる気もするが……と思いながら播磨はふとかけてある時計を見た。
「あー、もう昼か……って昼飯食う気しねぇな」
 そもそも簡単に作れそうな料理など播磨にはなかったし、作る気力もなかった。
 それにだからと言って、さすがにビーフジャーキーなどを食べる気にもならなかった。
「はぁー、あん時の妹さんの料理は美味しかったなぁ……」
 少し前、新人賞へ応募するための原稿を書くために八雲に泊まってもらった際、彼女に作ってもらった
スパゲッティの味を思い出して懐かしそうに播磨は呟いた。
701ぬくもり:04/10/29 10:39 ID:.ZMMzdjc
「って、そうだっ! 妹さんっ!! ごほっ、げほっ」
 つい大声を上げて播磨は咳き込んでしまった。
「くそっ、忘れてた」
 けれどそれには構わず、のそのそと起き上がると、播磨は机の上に置いてある自分の携帯を手に取った。
「彼女に言っておかないと……」
 そう言って熱で朦朧としながら播磨はメールを打った。
 内容は今日は風邪を引いて原稿を見てもらうことは出来なくなったという旨のものだった。
「ゼェー、ゼェー、約束してたの……ゲホッ、すっかり忘れてたぜ……」
 もしかしたらこの寒空の中屋上で待っててくれたかもなぁ、と申し訳ない気持ちになりながらメールを打ち終えた。
「送信っと」
 ピッ
 そしてメールを送ると彼は再び布団に横になり眠りに就いた。

 プルルル……プルルル……
 不意に彼の携帯が鳴り響いた。……けれど……。
「がー、ごー」
 眠っている播磨は一向に目を覚まさなかった。
 プルルル……プルル……
 何度目かのコールの後、諦めたかのように着信音は鳴り止んだ。
 そして数分後。
 ピリリリリリリ……
 先ほどとは違う着信音が少しの間鳴り響き、すぐに止んだ。
 どうやらメールの着信だったようだ。
「ぐー、ごー……ゲホッ、ゴホッ……がー」
 けれど播磨は咳をしつつも目を覚ますことなく寝続けた。

702ぬくもり:04/10/29 10:39 ID:.ZMMzdjc
 ――そして数時間後。
 ぴちゃ
(ん? なんかつめてーな……)
 額に感じた冷たい感触に播磨はうっすらと目を開けた。
 ゆらゆら
 その瞬間、何か人の姿のようなものが視界に飛び込んだ。
(泥棒か?)
 朦朧とした意識の中そう結論付けると播磨は風邪でだるい身体を無理やり起こし、その人間の腕を掴んだ。
「誰だ、てめぇっ」
 すかさずマウントポジションを取ろうとしたが熱の所為でうまく身体が反応せず、
中途半端な格好で押し倒すことになってしまった。
「……へ?」
 そしてその人物の顔を見た瞬間、播磨は固まってしまった。
「あ、あの、その……播磨、さん」
 その人物は播磨が数時間前メールを送った相手である塚本八雲、その人であった。
「なんで、妹さんが……」
 播磨は危うく混乱しかけた。まさか自分は夢を見ているのか? それとも幻でも見てるのか?
 そんなことを考えていると。
「あの……痛い、です」
「あっ、す、すまねぇ」
 慌てて手を離し、八雲の身体からどいた。
「い、いえ。その……勝手に上がりこんだ私が悪いですから。……その、すみません」
 そう言って八雲は深々と頭を下げた。
「あー、いや。別に構わねぇよ……コホッ、コホッ……」
 家に泊めた事もあるし、数え切れないくらい借りを作ってる相手でもあるのだから怒ろうとは一切思わなかった。
「けどなんでここに?」
 純粋にそのことが気になった。
 八雲と言う人間が何の理由も無しに、無許可で他人の家に上がり込むことが播磨には考えられなかったからだ。
「それは、その……播磨さんから風邪を引いたってメールをもらって……」
「あー、そういやそんなメール送ったような……」
 ボーっとしながらメールを打ったので彼は内容をいまいち覚えていなかった。
703ぬくもり:04/10/29 10:39 ID:.ZMMzdjc
「それで、その……心配になって何度か電話やメールをしたのですが全然反応がなくて……」
「え?」
 八雲の言葉に播磨は慌てて枕元に転がっていた携帯を手に取った。
「あっ……」
 八雲の言うとおり数件の着信記録と数個のメールが届いていた。
「それで……心配になってしまって放課後こちらを訪ねたんですけどインターフォンを何度押しても反応がなくて、
ついドアノブを捻ったら鍵が開いてて……それで……」
 そこまで言って八雲はうな垂れた。
「そう、だったのか」
「すみません。悪いことだってのは分かっていたのに……播磨さんのことが心配でつい無断で……」
「いや、良いって、妹さん」
 播磨は慌てて八雲をなだめた。
 そうでもしないと彼女が泣き出しそうな、そんな気がしたからだった。
「でも……ごめんなさい……」
「別に妹さんなら……ゲホッ……いつ来てもらっても良いんだからさ」
 そう言って播磨は八雲に笑いかけた。
 チラリと床を見ると濡れたタオルが落ちていた。おそらく自分の額から落ちたのものだろう。
 きっと妹さんが必死に看病してくれたのだ。なら責める謂れはどこにもない、そう播磨は思った。
「はい…………あっ、タオルが……」
 八雲もタオルに気付いたのかそっとそれを拾い上げ、水を張った洗面器につけた。
「ありがとな、そんなことまでしてもらって」
「い、いえ、別に……」
 八雲は播磨の言葉に顔を俯かせて頬を赤くしてしまった。
「妹さん?」
「あ、えっと、それじゃあ横になってください。タオル、頭に載せますから」
 赤い顔のまま八雲は播磨にそう言って濡れたタオルを絞った。
「あ、いや、そこまでしてもらうことねーって。見舞いに来てくれただけで十分だぜ」
704ぬくもり:04/10/29 10:42 ID:QwPmIsjA
「で、ですが、その……」
「ん?」
「播磨さん、苦しそうですし……看病、させてください」
「え?」
 八雲の言葉に播磨は一瞬呆然としてしまった。
「お願い、します」
 八雲は深々と頭を下げた。
「お、おいおい、妹さん。頭を上げてくれ。……ゲホッ、ゲホッ……そこまでしてもらうほど酷くはねぇんだから」
「でも………苦しそうですよ。……播磨さん、熱、何度なんですか?」
「熱? 確か……そう、37度7分だったな」
 昼ごろ体温計で計った体温を思い出し、彼は八雲に告げた。
「十分です。……十分、酷いです」
「い、いや、でも……」
 そこまで世話になるのは憚れると思い、彼は断ろうとした。
 ……けれど。
「お願い、です。看病、したいんです」
 珍しく八雲は頑固に意見を通そうとした。
 それがあまりにも意外で、播磨はついつい……。
「お、おう。じゃあ、お願いな」
 頷いてしまった。
「あっ、はい」
 一瞬嬉しそうな顔で返事をしたが、慌てて恥ずかしそうに八雲は顔を伏せてしまった。
「すみません。無理言っちゃって……」
「いや、構わないぜ。えーっと、寝ちまえば良いんだよな?」
「はい、それでは……」
 八雲は答えて濡れたタオルを播磨の額に載せた。
705ぬくもり:04/10/29 10:43 ID:QwPmIsjA
「すまねえな」
「いえ。……あ、それと出来れば氷枕を作りたいんですが……氷嚢はどこに?」
「え? いや、大丈夫だって。そんなんしなくてもこれだけで……」
 播磨は手を振ってその申し出を断ろうとしたが。
「播磨さん……」
 ジッと八雲に見つめられてそれ以上言葉を続けることが出来なかった。
「どこに、その……あるんですか?」
「あ、ああ……えーっと……確か廊下の上の天袋にあったと思うが……」
「分かりました。……取ってきますね……」
 八雲は答えて部屋を出て行ってしまった。
「ふぅー、なんか妹さん、いつもと微妙に感じが違ったな……」
 いつも素直で控えめなところがあると認識していただけに、八雲の変わりようにただただ播磨は驚いていた。

706ぬくもり:04/10/29 10:43 ID:QwPmIsjA
 カツカツカツカツ……
「ふぅー」
 あれから天袋から取り出した氷嚢を洗い、冷凍庫から氷を取り出そうとしたが、
運よくロックアイス用の氷の塊を見つけ、それを八雲はアイスピックで砕いていた。
「後はこれを氷嚢に詰めてと……」
 ジャアァー
 氷を詰めその中に水道水を流し始めた。
「でも……どうして私こんなことしちゃったんだろう……」
 キュッ
 水道の蛇口を止めながら、八雲は独り言ちた。
 彼女は自分の先ほどの行動が信じられないでいた。
「もしかしたら迷惑かもしれないのに……」
 なのに自分は彼に食い下がり看病するのを半ば強引に認めさせてしまった。
「でも、心配だから……」
 あのまま帰ったら心配でどうにかなりそうだった。
「こんなこと姉さん以外初めて……」
 前に天満が風邪で倒れたときは学校にいる間中、姉が心配で勉強に手がつかず、帰った後付きっ切りで看病をしたのだ。
「ううん、それ以上かも……」
 その時、彼女の献身的な看護に天満はそこまでしなくて良いよと言い、それに彼女は素直に従ったと言うのに、
今回は播磨の遠慮の言葉に八雲は首を振り続けたのだから。
「どうして……」
 何度自問自答しても分からなかった。
「あっ、氷枕……」
 早く持って行かなければ播磨が待っているかもしれないと思い、
八雲は慌てて氷嚢の口を閉じタオルを巻いて播磨の部屋にへと向かった。
707ぬくもり:04/10/29 10:44 ID:QwPmIsjA
 トントン
「入りますね、播磨さん」
 遠慮がちに声をかけて八雲は部屋にへと入った。
「おお、ありがとな」
 布団の横になりながら播磨は片腕を上げた。
「ちょっと、良いですか?」
 八雲はそう言って播磨の横に腰を下ろすと彼の頭の後ろに手を差し入れた。
「え? い、妹さ……」
「……氷枕、入れますね……」
 八雲は播磨が慌てている理由が分からず、首を傾げながら枕をどけてその頭の下に氷枕を敷いた。
「気持ち、良いですか?」
「あ、ああ。……けど妹さん」
 播磨はどもりながらも彼女の名前を呼んだ。
「はい……」
「氷枕くらい、自分で敷けたんだが……」
「え? あ……」
 八雲は自分の行動がどう言ったものか自覚して耳まで顔を真っ赤にしてしまった。
「す、すみません。ね、姉さんにするのと同じ感覚でやってしまって……」
 何故ここまで真っ赤になるのか自分でも分からないまま彼女は謝罪した。
「い、いや、謝らなくて良いって」
「はい……」
 けれど彼女の顔の赤みは全く引かなかった。
「え、えっと……そ、そう言えば、播磨さん」
「ん? なんだ?」
「私……播磨さんがサングラスを外している姿……初めて見ました……」
 それは話題を変えるための一言だったが、同時に先ほどから気になっていることでもあった。
「そ、そういやそうか。まっ、家で寝てたわけだからな」
「そう、ですけど……前に泊まった時は一度も外しませんでしたよね?」
「ま、まぁな」
「どうして、外さないんですか?」
 それは素朴な疑問だった。他の女性なら外した方がカッコイイと言う感想を抱くだろうが、
八雲にとっては目を直接見て話せた方が良いのにと言う気持ちがあっただけであった。
708ぬくもり:04/10/29 10:44 ID:QwPmIsjA
「あー、それはだな……」
「はい……」
「いや、話せば長いんだが……」
 そうは言いつつも播磨は理由を話すことが出来ないでいた。
 当然であろう。天満に素顔を見られたくないから、そんなことを彼女の妹の八雲に言えるはずはなかった。
「ええ……」
「あーっと……ゴホッ、ゴホッ……」
 どうしようかと頭を悩ませていたところ、不意に彼は咳き込んでしまった。
「あっ……だ、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。問題ねぇよ」
 彼は軽く手を振って答えた。
「あの……播磨さん。お薬、ちゃんと飲んでますか?」
 八雲は心配そうに訊ねた。
「薬? あ、ああ……飲んでないかも」
 播磨は正直に答えた。
「播磨さん……」
 八雲は少し非難の色を込めた瞳で播磨を見た。
「あー、いや……ちょっと飲む気力がなくて……」
 ついつい播磨は謝ってしまった。
「無理してでも飲まないと……治りませんよ」
「……そう、だな。すまん」
 確かにその通りだと思い播磨は謝った。
「い、いえ……あ、あの……じゃあお水、入れてきますね。お薬は、これで良いんですよね?」
 そう言って八雲が指差したのは絃子が置いて行った市販の薬だった。
「ああ」
「それじゃあ……あっ」
 薬を手に取った八雲は何かに気付いたように声を上げた。
「どうした? 妹さん」
「あの、お食事はどれくらい前に取りましたか? これ、食後って書いてあるのでかなり前なら何か食べないと……」
 八雲は薬の箱を掲げながらそう言った。
「食事………………朝から取ってねぇかも……」
 記憶を辿りながら播磨はポツリと答えた。
709ぬくもり:04/10/29 10:45 ID:QwPmIsjA
「え?」
「朝、絃子に焼いてもらったパンくらいで後はなんも食ってねぇな」
「そう、なんですか?」
 八雲は信じられない面持ちでそう訊ねた。
「まあな。飯作る気も沸かなかったし……」
「あ、あの……昼食、作ってもらったりしてないんですか?」
 恐る恐る彼女は訊ねた。
「ああ。……妹さんも知ってると思うが……あんま冷蔵庫に材料入ってないしな。さすがにビーフジャーキーとか
食う気にゃならなかったし」
「……」
 八雲は少しの間フリーズすると深く溜め息をついた。
「あの、播磨さん」
「あん? なんだ、妹さん」
「お台所、お借りして……良いですか?」
 そう言いながら八雲は立ち上がろうとした。
「お、おいおい。また妹さんに作ってもらうわけには……」
 さすがに申し訳ないと播磨は思った。
「でも……その……何か口に入れないと治るものも……治りませんし。……それに薬も飲めません……」
「うっ……た、確かにそうだが………えっと、さっきも言ったがあんま冷蔵庫入ってないぞ」
 作ろうにも材料がなければ何も出来ないのでは、と暗に播磨は言っていた。
「たぶん、その……なんとかなるかと。……あの、食欲は?」
「ん? まぁ、あるぞ」
「お粥、などではなくても大丈夫ですよね?」
「ああ」
 お腹の調子を考えながら播磨は答えた。
「なら、大丈夫です。……その……少しだけ待っていてください。栄養のあるもの、作りますから」
 八雲はそう言って立ち上がると、エプロンをお借りしますねと言って部屋を出て行った。

710ぬくもり:04/10/29 10:50 ID:QwPmIsjA
「はぁー、なんか妹さんには世話になりっぱなしだなぁ……コホッ、コホッ……」
 借りの作りっぱなしと言うのは本来彼の嫌うところだが、何故か八雲には甘えてしまう自分が不思議でしょうがなかった。
「治ったら……何かしてあげないといけないよな……」
 と言っても女の子へのお礼の仕方なんて全く思いつかなくて、その時になったら途方に暮れそうだが、と彼は思った。

 そんなこんなでしばらく布団に横になって八雲を待っていると。
 トントン
「あの、失礼します」
 部屋がノックされ、遠慮がちな声と共に八雲が部屋にへと入ってきた。
「ああ」
 答えながら播磨は起き上がった
「えっと、お気に召すかどうか分からないですけど……どうぞ」
 そう言って差し出されたのは丼物と炒め物だった。
「卵とネギ、それに豚肉が少々あったのでそれで丼物を作ってみました。あと豆腐とトマトがあったので卵と絡めて
炒め物を作ってみたんですが……どうですか?」
 八雲は不安げな表情で播磨を見た。
 その播磨は……。
「……」
 絶句していた。
「あの、その……播磨さん? お嫌い、でしたか?」
 更に不安そうな顔で八雲は訊ねた。
「い、いやいや。そうじゃなくて、あまりにも美味そうだったから驚いただけだ」
「本当、ですか?」
「ああ。……じゃあ食べていいか?」
 播磨が訊ねると。
「はい、どうぞ」
 八雲は頷き、箸を差し出した。
「じゃあ頂きます」
 播磨は手を合わせるとすぐさま料理をかき込み始めた。
711ぬくもり:04/10/29 10:51 ID:QwPmIsjA
「どう、ですか?」
「ああ……はふはふ……ウメェよ。やっぱ、妹さんの料理は最高だな」
「そ、そんなこと……」
 八雲はポッと頬を染めてしまった。
「いやいや、謙遜しなくて良いぜ。……はぐはぐ……うん、これならいいお嫁さんになれるぞ、妹さん」
「えっ?」
「ホントホント……ごくんっ……ふぅー、美味い美味い。……いやー、もし妹さんが毎日食事を作ってくれたら、
家の食生活は飛躍的にアップするんだろうなぁ」
「っ!?」
 播磨の言葉に更に八雲は頬を染めてしまった。……いや、耳まで真っ赤に染まってしまっている。
「はふはふはふ……ガツガツガツ……」
 そんな八雲の様子に気づくことなく、播磨はひたすら料理を食べ続けた。
 自分が八雲に対しどんな凄い発言をしたのか全く気付くことなく、ひたすら食べ続けた。

 そ・し・て

「ごっそーさん」
 播磨はポンッと手を合わせた。
「はい、お粗末さまでした」
 それに合わせてぺこりとお辞儀をする八雲。
「いやー、美味かった、美味かった」
 播磨は満足そうな顔で何度も腹を撫でた。
712ぬくもり:04/10/29 10:51 ID:QwPmIsjA
「あ、ありがとうございます。……そ、それじゃあ、その、お薬を……」
「おう、そうだったな」
「それでは……その、お水です」
 そう言ってスッと八雲は水が入ったコップを差し出した。
「すまないな、妹さん」
 播磨は礼を述べるとコップを受け取り水を口に含んだ。
「1回、2錠ですよ」
「ふぉーほ」
 水を口に含んだまま頷くと薬を取り出し口の中に放り込んだ。
「ん……ん……ごくんっ……はぁ〜」
 薬を飲み終えて、ドンとコップを床に置いた。
「それでは播磨さんは寝ていてくださいね。洗い物は私がしておきますから」
 そう言って八雲は立ち上がった。
「ああ、ありがとな」
 もう、播磨は彼女を止めることなく、好意を甘えることにした。
「それでは」
 ぺこりと頭を下げ、八雲は部屋を出て行った。

 キュッキュッキュッ
「ふぅー」
 播磨が食べ終えたお皿や調理に使用した鍋を洗い終え、八雲は額を拭った。
「ふふ、播磨さん、本当によく食べるな」
 前に泊まった時に作ったスパゲッティも残すことなく食べ切ってくれたことを思い出し、八雲は口元に笑みを浮かべた。
「喜んでもらえて、良かった」
 ああいう風に勢い良く食べてもらえるのを見るのは、作った者としてとても気持ちが良いものだった。
 姉の天満も結構食欲旺盛だがやはり女の子。男の、それもガタイの良い播磨のような人間とは食べ方が全然違った。
「また、食べてもらいたいな…………あっ」
 ポツリと漏れ出た言葉。
 八雲は慌てて自分の口を押さえたが、それは彼女の心からの言葉だった。
「え、えっと、播磨さんどうしてるかな?」
 誰に言うともなく呟いて、八雲は播磨の部屋にへと向かった。
713ぬくもり:04/10/29 10:52 ID:QwPmIsjA
 トントン
「入りますね、播磨さん」
 八雲はそう断りながら部屋にへと入った。
「……」
「え? 播磨さん?」
 反応がないことを訝しがりながら八雲は布団に寝ている播磨にへと近づいた。
「あっ……」
 播磨の様子に気づいた八雲はスッと自分の口元に手の平を当てた。
「播磨さん、寝ちゃったのか」
 播磨の枕元に膝を付いて八雲は彼の寝顔を見た。
「……うん、さっきよりも寝顔が穏やかかな」
 ホッとしたように彼女は呟いた。
 最初家を訪ねた時に見た播磨の寝顔は苦しそうで、かなり心配になってしまったがこれなら大丈夫だろう。
「ゴー、ガー……」
 播磨は平和そうに寝入っていた。
「……今のうちにタオルを取り替えておこう」
 八雲は播磨の額からタオルを外すと洗面器に付けそのまま洗面所に向かった。
                            ・
                            ・
                            ・
「うん、これでよし」
 冷たく濡れたタオルを播磨の額に載せ、また彼の目に見える汗を掻いた部分を彼女は拭った。
「後は……何もないかな」
 もう八雲が出来ることは何もなくなってしまった。
「それじゃあ……刑部先生が帰ってくるまで待ってよう」
 けれど彼女はそれを全く退屈だとは思わず、寧ろ播磨の寝顔を見てるだけで楽しいとさえ思っていた。
「フフフ……」
 そしてそんな彼女が浮かべる笑顔は、天満ですらそんなに見たことのない幸せそうな笑みだった。

714ぬくもり:04/10/29 10:52 ID:QwPmIsjA
『待っていたよ、播磨君』
 放課後、天満に呼び出されて播磨は屋上に来ていた。
『お、おう。待たせて悪かったな』
 当の播磨は何故呼び出されたのか分からず頭に疑問符を浮かべながら彼女の次の言葉を待った。
『あのね播磨君……ううん、拳児君』
『な、なんだ、塚本』
 天満のいつもとは違うウットリとした視線に見つめられて、播磨はどもりながら答えた。
『ううん、天満って名前で呼んで』
『え? い、いいのか?』
『うん』
 その言葉に播磨はごくりと喉を鳴らした。
『じゃ、じゃあ……天満ちゃん』
『うん、ありがとね、拳児君』
『お、おう。それでなにか用か?』
 心臓はもうバクバク言っているが、それでも平静を装いながら訊ねた。
『うん……私ね。あなたに、言いたいことがあるの』
『俺に? ああ、なんでも言ってくれ』
『それじゃあ……』
 そう言いながら天満は播磨の手を握った。
『て、天満ちゃん?』
『私ね……いつからか……あなたのことを……』
『ゴクッ……』
 生唾を飲み込みながら播磨は彼女の次の言葉を待った。
『あなたのことを……好きになっちゃったの』
『ほ、本当か? マジでお、俺のことを……』
 播磨は震える指で自分を指差した。
『うん……』
 天満は小さく頷いた。
715ぬくもり:04/10/29 10:52 ID:QwPmIsjA
『お、おお……』
 ずっと、ずっと待ち望んでいた展開。彼は危うく踊りそうになってしまった。
『それでね……拳児君は……私のこと……好き?』
 小首を傾げながら訊ねてくる天満は、凶悪的なまでに可愛かった。
『そ、それはも……』
 『勿論』、そう言い掛けて何故か一瞬播磨は言葉に詰まってしまった。
 何か……いや、誰かの顔が一瞬浮かんだような気がして彼は動けなくなってしまったのだ。
『拳児君?』
 天満の不安げな表情。それを見て播磨は慌てて頭を振った。
 何を考えてるんだ、俺は。俺が好きなのは天満ちゃんただ1人なのに何故躊躇したりするんだ。
『天満ちゃんっ』
 播磨は彼女の両肩に手を置いて彼女を呼んだ。
『拳児……君?』
『俺は……俺は君のことが……好きだっ。大好きなんだっ』
 言った。ついに言えた。
 播磨は心の中でガッツポーズを取っていた。
『嬉しい、私もよ』
 そう答える天満は何故かウェディングドレスを着ていた。
『天満ちゃんっ』
 応じる播磨もいつの間にかタキシードを着用していた。
 バッ
 そして彼はそのまま両手を広げ……優しく彼女を抱きしめた。

716ぬくもり:04/10/29 11:00 ID:ZtrxNvCM
 バッ
 突然播磨が両手を広げたかと思うと。
 ギュッ
 優しく八雲は抱きしめられた。
「え……?」
 彼女は突然のことに思考が停止してしまっていた。
「あ、あの……その……」
 当然だろう。
 八雲はただ寝ている播磨の様子が急におかしくなったのを心配しその顔を覗き込んだら、いきなり抱きしめられたのだ。
 固まらない方がおかしい。
「あ、あぅ……」
 いや、反応はしているようだ。
 八雲の顔は徐々に赤みを帯び始め、目の焦点が合わなくなってきていた。
 ギュゥ
「わ、私……播磨さんに……」
 ――抱きしめられてる。
 その事実を確認した八雲の理性は一瞬で焼き切れそうになったが、なんとか踏み止まることに成功した。
 ……けれど。
「はぅぅ……」
 播磨の力強い腕の感触が、汗の匂いが、少し高い体温が、響き渡る心臓の鼓動が八雲の理性を少しずつ瓦解させていく。
(どうしてこんなことに……でも……何か安らぐ……)
 八雲は播磨にされるがままにされても良いかなぁっと思い始めていた。
 すぅー
 そしてそう思った瞬間、彼女の腕は播磨の身体にへと伸びていた。
(あれ? どうして、私、こんなことを……?)
 自分の行動が理解出来ず、けれど止める事も出来ず、八雲はただ呆然と自分の腕が播磨の身体を抱きしめるのを見ていた。
「あっ……」
 そうすることで更に播磨と密着し、八雲はなんとも言えない幸福感を感じ、そしてそのことに心底驚いていた。
(私……なんでこんな気持ちになっているんだろう……)
 出来ればずっとこうしていたい。
 そんなことは出来るはずもないし、してもいけないと分かっているはずなのに彼女はそう思ってしまった。
717ぬくもり:04/10/29 11:00 ID:ZtrxNvCM
「くっ……」
 けれど残った理性はその誘惑に必死に抵抗しようとし、播磨の身体を引き離そうとした。
 …………でも。
「好き……だ」
「え?」
 播磨のその言葉を聞いた途端、力が抜けてしまった。
「好きだ……」
「あっ……」
 そしてそれは彼女の理性を完全に掻き消すのに十分な威力を秘めた言葉だった。
 ギュッ
 八雲は播磨を抱きしめていた腕に力を込め、その存在を身体全体で感じた。
「播磨、さん」
 その名を呼ぶことが、その身体に触れることが自分にとって至上の幸福だと八雲は思い始めていた。
「はふ……」
 ずっと、ずっとこうしていたい。
 こうやってこの人のぬくもりを感じ続けたい。
 もはや彼女は播磨にその全てを委ねたいとさえ思っていた。
 ……けれど。
「天満ちゃん」
「っ!?」
 その言葉に一瞬で我に返り、八雲は播磨の身体を突き飛ばした。
「はぁー、はぁー、はぁー……」
 荒い息を吐きながら八雲は自分の身体を抱きしめた。
「え? い、いったい何が……」
 突き飛ばされたショックで播磨は完全に目を覚ましていた。
「はぁー、はぁー、はぁー……」
 分かっていたことだった。播磨が天満のことを大切に思っていることくらい。
 なのに播磨が天満の名前を呼んだ事がとてもショックで、そしてショックを受けた事自体が八雲にとってショックだった。
「なん……で、私……」
 続く言葉は「こんな事をしたのだろう?」か。それとも「こんなに悲しいのだろう?」なのだろうか。
 どちらにせよ、八雲は自分の身体を抱きしめる力を弱めることはなかった。
718ぬくもり:04/10/29 11:01 ID:ZtrxNvCM
「俺、今……」
 播磨は呆然としながらも自分の腕に残った微かなぬくもりと、目の前の八雲の行動に様々な想像をめぐらせた。
「俺は……夢の中で……」
 天満ちゃんを抱きしめたはずだ。けれどそれは夢で……なのに何故抱きしめた感触が残っているんだ?
 そしてなんで妹さんはあんなにも自分の体を抱きしめて震えているんだ?
「まさ……か……」
 そうまで考えて、播磨はある想像に思い至った。それは彼にとっては最悪の展開で、けれど可能性が最も高いものだった。
「妹、さん」
「……はい」
「俺、もしかして君のこと……抱きしめたか?」
 恐る恐る播磨は訊ねた。
「あっ……」
 八雲は小さく声を漏らした後。
 コクン
 小さく、けれどしっかりと頷いた。
「っ!? す、すまねぇ!!」
 播磨は床に額を擦り付ける勢いで土下座をした。
「播磨さん?」
「俺、とんでもないことしちまった。寝ぼけてたとはいえそんな真似しちまうなんて……」
「い、いえ、その……」
 気にしないでください。八雲はそう続けようとした。
 けど、播磨の続く言葉が彼女から言葉を奪ってしまった。
「好きでもなんでも無い奴にそんなことされるなんて嫌だったろう。……けど信じてくれ。俺は君に対して
一度も疾しい気持ちなんて抱いたことは無いんだ」
「っ!?」
 ハンマーで殴られたかのような衝撃を八雲は受けた。
 確かにさっき播磨が天満の名を呼んだこともショックだったが、今の彼の発言はその何倍もショックだった。
「本当だぜ。俺、妹さんをそう言う対象でなんか一度も見たことないんだ。…………いや……だからと言って
俺みたいな男に触れられた事実は変わりねぇか」
「……」
「わりぃ、言い訳ばっかして。……本当にすまなかった。謝って許してもらえるとは思えないけど……ごめん」
 播磨は再び頭を下げた。
719ぬくもり:04/10/29 11:01 ID:ZtrxNvCM
「い……いえ。……その、私は……気にしてませんから」
 八雲は搾り出すように言葉を紡いだ。
「え?」
「私……不快だって思ってません。ですから……頭を上げてください」
 困ったように、けれど優しい笑顔を浮かべて八雲はそう告げた。
「妹さん……」
 播磨はその表情の裏に見え隠れする悲しげな表情に気付くことなく感激したように呟いた。
「いい子だな、妹さんは。……いつも世話になっているくせにこんなことをしちまった俺を許してくれるなんて」
「いえ……それは好きでしていることですから」
「……なるほど、な。でもやっぱ妹さんは凄いいい子だよ」
 八雲の言葉は播磨の役に立つことが好きだ、と言う意味だったが彼はそれをただ単に世話好きだと勘違いしていた。
「あ、あの……その……」
 黙っていると涙が零れそうな、そんな錯覚に陥って八雲は話しかけた。
「な、なんだ?」
 話しかけられた播磨はつい先ほどのこともあり、少し狼狽しながら訊ね返した。
「体調は、もう大丈夫ですか?」
 話題を変えるためでもあったが、それ以上に本当に播磨の身体が心配で八雲は訊ねた。
「お、おう。結構回復してると思うぞ」
「そうですか。……では……」
 八雲は頷くと、両手を播磨の方にへと差し出した。
「え? 妹さん……」
 播磨は驚いて身じろぎしようとしたが……。
「動かないでください」
 八雲の静かな、けれどはっきりとした口調に彼は動きを止めてしまった。
 スッっと八雲はまるで播磨の頭を抱くように側頭部に手を添えた。
720ぬくもり:04/10/29 11:01 ID:ZtrxNvCM
「へ? い、妹さ……」
「そのまま、じっと……」
 そう言いながら八雲は顔を彼の顔にへと近づけて行き……。
 コツン
 額を重ね合わせた。……姉の熱を計るときと同じように……。
「え? あ……」
 播磨は目を白黒させながらその光景に見入っていた。
「確かに、大丈夫そうですね……」
 八雲の女の子特有の甘い匂いが、髪から香るシャンプーの香りが、額から伝わる彼女のぬくもりが、
頭に添えられた白魚のような指の感触が、喋るたびに顔に掛かる彼女の吐息が……播磨の理性を駆逐して行った。
「良かった……」
 八雲は小さく微笑むと播磨の身体から手を離した。
「あっ……」
 思わず播磨は声を出してしまった。
「え? どうかしましたか?」
「い、いや、なんでもねぇ」
 ドギマギしながら播磨は答えた。
「ん? そうですか」
 納得してないと言う顔だったが八雲は頷き立ち上がった。
「妹さん?」
「それでは……私は帰りますね」
「お、おう。気をつけてな」
「はい……」
 八雲は微かに笑顔を見せ頷くと、部屋を出て行こうとした。
「あっ、妹さん」
 その横顔が一瞬儚げに見えて、思わず播磨は呼び止めてしまった。
「はい。なんですか?」
 八雲はいつもと変わらぬ穏やかな声で訊ね返した。
「あー、いや、なんでもねぇ」
「そうですか。……それでは、お大事に」
 ぺこりと頭を下げて八雲は部屋を出て行った。
721ぬくもり:04/10/29 11:02 ID:ZtrxNvCM
「俺の勘違いだったか?」
 播磨はそう呟きながら布団に横になった。
「けど……なに考えてんだ、俺は」
 彼は己を激しく恥じた。
 一瞬ではあるが八雲に惹かれてしまった自分に驚き、後悔していた。
「すまねぇ、天満ちゃん」
 俺は君一筋のはずなのに……。彼は心の中でそう続けた。
「けど……」
 さっき初めて気付いた、彼女の柔らかい感触や白い肌、長いまつげや吸い込まれそうな瞳に形のいい唇、
そして女の子の香り……そう言ったものが思い出されて悩ましい気持ちになってしまった。
「あー、もう、なに考えてんだ。相手は妹さんだぞ」
 激しく脈打つ心臓を落ち着かせようと深呼吸し、播磨は布団の上に落ちてた濡れタオルを拾い上げ、額に載せた。
「はぁー」
 深い溜め息をつき、彼はそのまま目を瞑った。

 ……もっとも、寝れる状態では全く無かったが。

722ぬくもり:04/10/29 11:06 ID:n2MNqqwk
「なんで……私こんなに……」
 心が痛むんだろう。
 八雲は訳が分からず首を捻りながら、壁に背を預けた。
「はぁー」
 彼女は深い溜め息をついて玄関にへと向かった。
「お邪魔、しました」
 聞こえないとは分かっているが八雲は小さな声で呟き、玄関のドアのノブを捻ろうとした。
 ガチャッ
「え?」
 いきなり目の前でドアが開き、八雲は呆然とそれを見た。
「ん? つ、塚本君?」
 ドアを開けた人物、刑部絃子も目の前に予想外の人物がいることに驚き、しばし固まってしまった。
「ご、ゴホンッ。何故君がここに?」
 けれどさすがに絃子はすぐに復活し、八雲に問いかけた。
「え、えっと、その……播磨さんが風邪を引かれたと聞いたので……その、お見舞いに」
「そ、そうか。なるほど……」
 納得したように頷いたが、それでも絃子はまじまじと八雲の顔を見た。
「えっと……なにか?」
「いや、何……彼が風邪だと聞いて飛んで来たのに驚いてね」
「そ、それは、その……」
「そんなに心配だったのかね?」
 絃子の確かめるような口調に八雲は小さく頷いた。
「ふむ、君が拳児君と付き合っているという噂、やはりあながち間違いと言うわけではないのかもな」
 絃子は独り言のように呟いた。
「い、いえ、それは、違っ……」
「ん?」
 絃子の確かめるような視線に八雲は何故か言葉を詰まらせてしまった。
「どうしたのかね?」
「い、いえ……」
「? まぁ、いいが……もう帰るのかね? なんだったらもう少しいてもいいんだよ」
 少しからかいを含めた口調で絃子はそう告げた。
 ……けれど。
723ぬくもり:04/10/29 11:06 ID:n2MNqqwk
「いえ……たぶん、迷惑ですから」
「え?」
 一瞬寂しそうな顔をしてしまった八雲に絃子は驚きの表情を浮かべた。
「なにを言ってるんだね。きっと君がいれば彼は喜ぶよ」
 八雲の事を高評価している播磨の顔を思い出し、絃子はそう告げた。
「そんなこと、ないです。私が側にいても……播磨さんは別にどうとも思いませんし……」
「それはいったい……」
 絃子は訝しげな視線を彼女に向けた。
「いえ、なんでもないです。……では帰りますね、刑部先生」
「あ、ああ」
 有無を言わせぬ、そんな雰囲気を感じ取り絃子は黙って頷いた。
「あっ、お夕飯。播磨さんの分作っておいたんですが、良かったら先生もどうぞ。冷蔵庫の一番上に入れてありますから」
「ああ、分かった。ありがたく頂かせてもらうよ」
「それでは……」
 八雲は深く一礼し、玄関の扉にへと向かった。
「あっ、塚本君」
 その横顔が泣きそうな顔に見えて、慌てて絃子は呼び止めようとしたが。
「お邪魔しました」
 ドアを開け、八雲は玄関から出て行ってしまった。
724ぬくもり:04/10/29 11:07 ID:n2MNqqwk
「……ふむ」
 絃子は頷くと自分の部屋にへと向かった。
 そして。
「よし……」
 自分の部屋の引き出しから愛用の得物を数挺取り出すと、絃子はそのまま播磨の部屋に殴り込みをかけた。
 バンッ
「のわっ、い、絃子? 帰ってたのか?」
 全く寝れなくて布団に転がっていた播磨は、絃子の乱入に慌てて飛び起きた。
「やぁ、拳児君。体調は良さそうだな。……あと「さん」を付けたまえ」
「あ、ああ、少しは回復したぜ。……って言うか、なにノックもせずに入ってきてんだよっ」
 先ほどまでの気持ちを振り払うかのように、播磨は大声で抗議した。
 ジャキッ
「へ?」
 けれど絃子が持っていたエアガンのセーフティーを解除したのを見て、播磨は間抜けな声を出した。
 パシュパシュパシュパシュ
「ぐのぉぉぉおっ」
 問答無用で銃弾をぶっ放され、播磨はその場で悶絶した。
「な、なにしやがる……。お、俺は病人だぞ……」
 息も絶え絶え、播磨は抗議した。
「君にいくつか聞きたい事があるのだが」
 けれど絃子は播磨の抗議を一切無視してそう訊ねた。
「へ? 聞きたい事? なんだよ、そりゃ。それと今銃を撃ったのと何か関係が……」
 カチッ
 ズダダダダダダダダダダッ
「グギャァーッ」
 今度はフルオートのエアガンで撃たれて、播磨は断末魔の叫びを上げた。
「黙っていたまえ。今質問してるのは私であって、君の質問は許可していないよ」
「は、はい、すみません」
 その場で土下座をして、播磨は謝った。
「ふむ、なら早速質問をさせてもらおう。なに、私も鬼じゃないんでね。何の申し開きもさせずに
成敗するのは忍びなかったんだよ」
「は、はぁ……」
725ぬくもり:04/10/29 11:07 ID:n2MNqqwk
「では簡潔に問おう。君は塚本八雲君になにをした?」
 銃を突きつけながら絃子はそう質問した。
「へ? 妹さんに?」
「ああ。看病、してもらったんだろう? その際彼女になにをしたのかね?」
「え? ……あっ……」
 播磨は先ほどの自分の行動を思い出し、青くなった。
「ん? その顔は何か思い当たる節がありそうだね」
「そ、その……妹さん、何か言ってたのか?」
 恐る恐る播磨は訊ねた。
「それを確かめるために聞いているんだよ、拳児君。さて、君が彼女のなにをしたのか、こと細かく喋ってもらうよ」
 ゴリッ
 播磨の眉間の中心にエアガンの銃口を押し付け、彼女は質問した。
「お、おう、実は……」
 播磨は背中にびっしょりと冷や汗を流しながらポツリポツリと自分がなにをしたのか話し始めた。
                            ・
                            ・
                            ・
「ふむ、なるほどね」
 絃子は興味深そうに何度も頷いた。
「ああ。妹さんにはすまないと思ってるさ。気にしてないとか言ってたけど、やっぱ気にしてたんだな」
「ふむふむ……」
「当然だよな。好きでもない奴にそんなことされて気にしないはず無いものな。やっぱしばらくは
妹さんと距離を置いてほとぼりが冷めるのを……」
 ズガガガガガガガガガガッ
「グギョーッ!?」
 いきなり至近距離でエアガンを撃たれ、播磨はその場で転げ回った。
「し、至近距離で撃つんじゃねぇっ!! 死ぬって、マジで」
 播磨は泣きながら抗議した。
「彼女が何に傷つき、悲しんでいたのか大体想像がついたよ」
 けれどまたもや絃子は播磨の言葉を一切無視して納得したように呟いた。
726ぬくもり:04/10/29 11:08 ID:n2MNqqwk
「や、だからそれは……」
 ドゴンッ
「ヒッ!?」
 いきなりの銃声に播磨は身を硬くした。
「い、今のはなんだ?」
 恐る恐る後ろを振り返ると、布団から退かしてあった枕に穴が開いていた。
「はぁ!?」
 播磨はその光景を確認して、矢のような速度で絃子の方に向き直った。
「あ、あの、絃子さん?」
「おや、ちゃんと「さん」付けで呼べるじゃないか。何かね、拳児君」
「その銃はいったい?」
 震える指先で先ほど絃子がトリガーを引いたエアガンを指差した。
「ああ、これかね。趣味で色々と改造してね。速射性や命中率の向上は勿論、威力も段違いに上げているんだ」
 絃子は得意げに解説を始めた。
「あー、威力を上げたってどのくらいだ?」
 顔を引くつかせながら播磨は訊ねた。
「そうだな。当たれば骨くらい折れるかもって程度だな」
 クールにそう告げる絃子の顔を見て、思わず播磨は逃げ出したくなった。
「でだ」
 ゴリッ
 絃子は播磨の眉間を抉るように改造銃の銃口を押し付けた。
「な、何を……」
「今からお勉強を始めようか」
 口元に笑みを浮かべながら絃子はそんな言葉を紡いだ。
「はっ、いきなり何を言って……」
「ふむ。本当は他人の色恋沙汰に口を挟むなど私の主義に反するんだが、これでも私は女でね。
女心を踏みにじるような行為はやはり許せないんだよ」
「あん? どういう意味だ?」
 播磨は訳が分からないと言った表情で絃子の顔を見つめた。
「気にしなくて良い。それよりもお勉強の内容だが、単純なものだ。今から私がするたった一つの質問に答えるだけだよ」
「一つの質問?」
 播磨は訝しげに聞き返した。
727ぬくもり:04/10/29 11:10 ID:FXxohX2A
「ああ。それに正解したらこれ以上もう追及しないし、部屋からも出て行く」
「……間違ったら?」
 顔を青ざめながらも、播磨は聞かずにはいられなかった。
「なに、その時は罰ゲームとしてある実験に付き合ってもらうだけさ」
「実験?」
 播磨がその内容が想像できずに首を捻ると。
「単純なことだよ。……そうだな、この銃弾を何発食らうまで人は生きていられるか。そう言う実験だな」
「ひっ」
 絃子の目はマジだった。
 その目は喧嘩で無敵を誇る播磨を心の底から震えさせるのに十分なものだった。
「では質問だ」
「ちょ、まだ心の準備が……」
 播磨は必死に抗議をしようとしたが、絃子はそれを完全に黙殺してしまった。
「質問。『好意を持っていない男性の部屋にわざわざ出向き、看病をするような女性がいると思うか?』」
「……え?
 播磨は呆然とその言葉を聞いた。
「ついでに『食事などの身の回りの世話までする』というフレーズまで付けようかね」
 絃子はいつも通りの冷静な口調で告げた。
「…………」
「考える時間は10秒。答えられなくても罰ゲームは受けてもらうよ」
 彼女はそう告げてトリガーに指をかけた。
「……8……7……6……」
 絃子はゆっくりと数を数える。
 けれど播磨はその声が全く頭に入っていなかった。
(好意を持っていない男の部屋にわざわざ出向き、料理まで作って看病する女がいるかだって?)
「……4……3……」
(そんな女……そんなことする女なんて……)
 ぐるぐると様々な思いが渦巻き……。
「……1……ゼ……」
「いるわけねぇ」
 彼は答えを述べた。
728ぬくもり:04/10/29 11:10 ID:FXxohX2A
 ピタ
 その答えを聞いて絃子は動きを止めた。
「絃子?」
「その答え、自信を持って言えるかね?」
「お、おう」
 播磨は神妙な顔を付きで頷いた。
「正解だ、拳児君」
 クルッ……ゴンッ
「イッテーッ」
 絃子は銃をくるりと回し、グリップ部分で播磨の額を殴った。
「な、なにを……」
 悶絶しながら播磨は絃子を見上げた。
「今君が自分で言った言葉の意味を何度でも噛み締めたまえ」
 そう言い捨てると絃子は播磨の部屋のドアに手をかけた。
「絃子……」
「「さん」を付けたまえ。……フンッ、君が女を泣かせるプレーボーイ振りを見せるとは思わなかったよ」
 小さく笑い、絃子は部屋を出て行ってしまった。
 後には額に手を当て、虚空を見上げる播磨が残されているだけだった。
「自分が言った言葉の意味……か」
(好意を持っていない男の部屋にわざわざ出向き、料理まで作って看病する女はいない……)
「ならわざわざ男の部屋に出向き、料理まで作って看病してくれた妹さんは……」
 考えるまでも無かった。そこから導き出せる答えなど、救いようの無い馬鹿以外は間違えようがなかった。
 そして播磨は救いようの無い馬鹿ではなかった。
「妹さん……」
 少女の顔を思い出し、播磨はポツリとその名を呼んだ。
「俺は……俺は……」
 結論の出ない自問自答を彼は続けた。

                              〜 Fin 〜
729ぬくもり:04/10/29 11:10 ID:FXxohX2A
と言うことでどうだったでしょうか?
八雲のSSはラブラブで書くのが難しいのでこんなになっちゃいました。
今回は播磨が八雲の気持ちに気付きかける、そう言う内容に留めましたが
……もしかしたら続きを書くかもしれません。
自分でもここで止めるのは消化不良だって思ってるので。

それと今回八雲が作った料理は本当に冷蔵庫の残り物で作れるものです。
その辺はちゃんと調べましたから。

あと今回は八雲のドラマCDとCVの能登麻美子のラジオをBGMに書いてみました。
結構筆が進みましたね。

では感想等、ありましたら是非レスを。
730Classical名無しさん:04/10/29 11:14 ID:mrLB7g8.
ライブで見させてもらいますた。
GJ!
731Classical名無しさん:04/10/29 11:18 ID:dtU6wR4E
リアルタイムキタ────(゚∀゚)────────ッ
いやもうGOOD JOB!!デスヨ。
ぜひ続きをm(_ _)m
732Classical名無しさん:04/10/29 11:57 ID:UaLYW8w6
GJ!
これは是非ともラブラブな続きが読みたいです。
おにぎりはやっぱり最高ですなー。
733Classical名無しさん:04/10/29 12:37 ID:3jBF6JFE
GJ!!




だったんですけど、書いてるサラ×アソ(順番は合ってます)SSと風邪ネタが
カブッタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!

どうしよう_| ̄|○
734Classical名無しさん:04/10/29 12:52 ID:rNcis7Ck
オマエら、新スレの季節ですよ。


だんだんペース早くなってきてるな。
735闇夜 ◆PMny/ec3PM :04/10/29 13:12 ID:Sd.ReRXY
GJ!
ちょっと積極的な八雲かわいいよ八雲。

で、この後>>580-582に続く、とw(違
736Classical名無しさん:04/10/29 13:36 ID:gv0rOFFU
>>729
GJ!かなりイイ!
八雲に萌えました。絃子さんもクールですね。

そして次スレ立ててきます。
737736:04/10/29 13:44 ID:gv0rOFFU
弾かれた。。。orz
誰か次スレお願いします。
738Classical名無しさん:04/10/29 14:14 ID:6qps.Rk6
次スレ、立てました。

スクールランブルIF16【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1099026765/
739Classical名無しさん:04/10/29 18:21 ID:l5TvP5Ek
>>733
私は見てみたいっ。ぜひお願いします。
740恒例絃子埋め:04/10/29 21:45 ID:7PNlQFGo
「あの、私が言うのもなんなんですけど」
「うん? にゃんだ、よおこ」
「ほどほどにしておいた方がいいと思いますよ」
「なーにいってるんだ、まだまだいけるさ。ああそうだ、まだまだゃ!」
「思いっきり駄目そうじゃないですか……」

 ――で。

「ぅ……ん……」
「やっぱり……でも珍しいですね、絃子さんがここまで潰れちゃうなんて」
「……」
「えーと、絃子さん? 絃子さーん? ……はぁ、仕方ないですね。でもこの時間にタクシー呼ぶのも――あ。
 こういうときは、と」

 ぴぽぱ。

「もしもし……よかった、まだ起きてたんだ。うん、それでね、ちょっと頼みたいことがあるんだけど――」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……うっす」
「あ、ごめんねこんな時間に。それでなんだけど」
「連れて帰ればいいんだろ。ったく……」
741恒例絃子埋め:04/10/29 21:45 ID:7PNlQFGo
「うん。拳児君に頼むのが一番だと思ってね。いろいろ」
「いろいろ?」
「ん、こっちの話」
「……ま、いいけどよ。んで、イトコのヤツは?」
「あそこ。さっきからぐっすりで全然起きないの」
「だったら泊まってった方がいいんじゃねぇのか?」
「でも着替えとかも考えると、ね。明日が休みだったらよかったんだけど」
「それじゃしゃあねぇか。でもよ、これどうやって連れて帰りゃいいんだ?」
「――おぶってく、とか」
「なっ!? いや無理だろそれどう考えても!」
「あー酷いな拳児君。絃子さんそんなに重くないよ?」
「そういう意味じゃねぇっ! 普通こういう場合タクシーでも呼んでだな」
「でも私が電話したとき言わなかったよね、それ」
「っ……」
「『すぐ行くから待っててくれ』とか」
「ぐ……分かった、分かったよ。でもな、背負うっつーのはちょっと……」
「じゃあお姫様だっこ」
742恒例絃子埋め:04/10/29 21:46 ID:7PNlQFGo
「せっかくだから俺は背負う方を選ぶぜ!? なあ!?」
「……残念」
「あのよ、もしかしてなんだが……酔ってるだろ」
「ううん、全然」
「……」
「さ、そうと決まったら明日もあるんだから、ほらほら」
「なんか納得いかねぇ……」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ったく、いつもならどんだけ飲んでもけろっとしてるヤツがよ……」
「ん――?」
「なんだ、起きたのか。……寝てていいぞ」
「けんじ、くん……? っ!?」
「っと、んだよ、んな驚かなくてもいいだろうが」
743恒例絃子埋め。おしまい。:04/10/29 21:47 ID:7PNlQFGo
「そんな、だって私は、葉子の、家、で……」
「だからそこでぶっ倒れてたのを引き取ってきたんだよ。寝ぼけてんじゃねぇぞ?」
「……そうか。だがもう大丈夫だ、自分で歩ける。それにこんな恰好誰かに……」
「だぁっ! 無理すんなって……うおっ!?」
「つ、あ……」
「バカヤロ、だから言っただろうが」
「……すまん」
「――ほら、乗れよ」
「何を……」
「ごちゃごちゃ言うな、俺だって好きでやってんじゃねぇ。でもな、今のイトコじゃ歩いて帰るなんて無理だろ」
「それは……そうだ、タクシーは」
「金がねぇ」
「……分かったよ。まったく、葉子のさしがねか……?」
「ん? なんか言ったか?」
「何でもない」
「よっ、と。じゃ、無理しないで寝てろ」
「……ああ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……なあ、拳児君」
「寝てろっつっただろ……なんだよ」
「その……」
「だからなんだよ」
「……なんでもない。すまん、忘れてくれ」
「あん? ワケ分かんねぇぞ……まあいいや、行くぞ」
「――――がとう」
「ん?」
「なんでも、ない」
「……」
744Classical名無しさん:04/10/30 01:52 ID:BqsIa9X2
埋め立て絃子さんキテターーーー!

今回は絃子さん幸せそうですね
播磨に強気に出られると素直にありがとうとも言えない絃子さんがかわいい

GJ!
745Classical名無しさん:04/10/30 02:21 ID:Er/exY3U
「それにしても……『絵を教えてくれ』ってどういう風の吹き回しなのかな?」
「い、いや。特に理由はねーんだけどよ、やっぱ基本くらいは学んでおいた
方が有利かなって」
「有利って何が?」
「な、なんでもねぇ!」
「ふふん、でも……万年サボりの播磨くんがやる気を出してくれて、お姉ちゃん
嬉しいかな」
「……」
「あ、そこはダメよ。ちゃんと物を見て、立体的に描かないと」
「お、おう。悪ぃな、葉子おねえ……もとい、笹倉先生」
「……ふふ。昔は葉子お姉ちゃんだったのねぇ……絃子先輩は絃子絃子って
呼び捨てにしてたのに」
「……」
「私たちが高校生の頃だから……えーっと、播磨くんはまだ小学生よね」
「そういう話、勘弁してくれよ……小学生の自分なんて思い出したくもねぇや」
「ふふっ……生意気言うじゃなーい。会った頃は葉子おねーちゃん、葉子
おねーちゃんって懐いてくれたのになー、おねーちゃんさみしーなー」
「だぁぁぁ。もう、絵に集中させてくれよ……」
「でも、あの頃から絃子先輩に対してはイトコイトコって呼び捨てにしてた
わよね?」
「う」
「何で?」
「……ノーコメントっつーことにしておいてくれ……」
「ふふふ……当ててみせようか?」
「!?」
「絃子先輩を絃子おねーちゃんと呼ぶと、何か自分が弟みたいで、彼女の
恋愛対象に入ってないみたいで癪だなー、くやしーなー……図星?」
「ちっ、ちちちちち違わいっ!」
「播磨くん、すーぐ顔に出るんだから」
「くっそ……やっぱ別の教師に頼みゃ良かったか……」
「葉子おねーちゃんには勝てないわよね、ふふ」
746Classical名無しさん:04/10/30 07:32 ID:VntvWSzM
絃子さん(゚∀゚)キター!GJ!
今回は葉子さんも(*´Д`)ハァハァ
747Classical名無しさん:04/10/30 13:11 ID:AhWVJsvQ
>729
 文章に変化が無かったせいで読みにくかった。具体的には語尾が変化していない
ところ。ほとんどが過去形の文章。話が長ければ長いほど、リズムのない文章を
読むのは疲れます。
748Classical名無しさん:04/10/30 19:31 ID:bA8hdEHc
何KBまで書き込めるんでしたっけ?
749Classical名無しさん:04/10/30 20:07 ID:bA8hdEHc
容量限界わかんないので埋めSS投下

ある日の二人。

「いやー今日も漫画の件で付き合わせちまって悪かった。」

「いえ…私も早く完成したの見たいですから。」

「お、妹さん家はこっちだったっけか。俺用事あるから今日は送れないんだ。すまねえ。」

「い、いえそんな、構いませんから。」

「じゃあな妹さん。」

「……」

「?どうしたんだ?急に塞ぎ込んじまったような顔して。」

「そ、その…あ…」

「?」

「あの、播磨さんま…また明日っ。」

「お?おう。じゃあ『また明日』な妹さん。」

「ええ…また明日」
750Classical名無しさん:04/10/30 20:10 ID:bA8hdEHc
終わりです。
流石に会話だけだと楽だけど短くまとめるの難しいやな。
751絃子埋めその2:04/10/30 20:21 ID:8aIymZwk
「別にさ、あがめ奉れ、なんて言ってるんじゃないんだ。でももう少しくらい考えてくれても
 罰は当たらないと思うんだ」
「うーん、そうかもしれませんね」
「家主である私に断わりもせず女の子を連れ込んで、しかも挙句はその私を追い出すんだよ?
 何をしてたか知らないけどさ、まったく」
「はあ、それはまた」
「結局説明なんてしちゃくれないし、そもそも私が家主だという根本的なことを忘れてるよう
 な気まで……」
「ですね。……あれ、どうかしました?」
「さっきから気になってたんだが……葉子、君ちゃんと人の話を聞いてるのか?」
「もちろんちゃんと聞いてますよ」
「にしちゃ返事がずいぶんと適当だと思うんだが」
「それはほら、言わぬが花、っていうこともあるじゃないですか」
「なんだ、言いたいことがあるならはっきり言ってくれ」
「……いいんですか?」
「だからいいと言っているだろう」
「じゃあ訊きますけど――どうしてそんな面倒ごとばかりなのに彼と暮らしてるんですか?」
「なっ……」
「絃子さんの話を聞いてると、全然いいことないみたいに聞こえますけど」
「それは……ほら、いくらそんなやつでも頼みごとを無下にするわけにはいかないだろう?」
「拳児君の場合って、ご両親もいらっしゃるんだし、断っても大丈夫だと思いますけど」
「……いや、その、彼が男の意地がどうこうとかごねるもんだし」
「でもそれって絃子さんには関係ないですよね、全然」
「う……」
「不思議ですね、どうしてなんでしょう? あ、マスター。同じのもう一ついただけます?」
「……葉子、君ってほんとこういうとき……」
「はい?」
「……なんでもない。すまんマスター、何か強いやつを頼む」
「ふふ」
「何がおかしい」
「いーえ、別に」
「……」
752Classical名無しさん:04/10/30 20:23 ID:I8kal/1s
彦 野
立 浪
ゲーリー
落 合
宇 野
仁村徹
川 又
中 村
小 野
753Classical名無しさん:04/10/30 20:25 ID:I8kal/1s
荒 木
井 端
立 浪
福 留
アレックス
谷 繁
井 上
渡 辺
川 上
754Classical名無しさん:04/10/30 20:41 ID:I8kal/1s
佐藤友
赤 田
フェルナンデス
カブレラ
和 田
貝 塚
中 島
細 川
高木浩
755Classical名無しさん:04/10/30 20:43 ID:H0iANJYg
>>751
GJ!
どちらも良いけどどっちか選べと言われたらその2の方が好きだ。
動揺する絃子さん萌え。
毎回楽しみにしています。
756Classical名無しさん:04/10/30 21:04 ID:xk5/NhuU
容量って512じゃなかったっけ?
500超えるてほかっとくと、勝手に落ちる。
757Classical名無しさん:04/10/30 21:23 ID:ccQksWco
鯖ゲ編

「ふっ、追えば追うだけお前が不利になるんだよ」
播磨は15mほど後ろの影の様子を伺いながらつぶやいた。
しかし、その言葉は連射音にかき消され、夜の闇に溶けた。

花井と播磨はいくつもの教室で戦闘を重ねていた。
しかし、戦闘といっても播磨は逃げる一方で勝負をしにこない。
「男なら逃げずに勝負しろ!」
誘い込まれてることは百も承知だったが、さすがに焦らずにはいられなかった。
「このまま、戦闘を続ければ敵陣に直行だ。って、僕がこっちに来るってことは守備が手薄ってことじゃないか!!」
花井はやっとそのことに気づいた。
「くっ、弾ももう少ない。どうする?どうすればいいんだ?」
考えているうちにも、刻一刻と弾は減っていく。
いやな汗が一滴、花井の頬をつたった。

花井の弾は、あと十数秒もすれば切れてしまうであろう数を残すのみとなっていた。
弾切れの焦りに支配される花井の思考。しかし、その焦りの中である案が浮かんだ。
(くそっ、弾がもうない!!)
もう、花井に残された選択肢はひとつしかない。
(かくなるうえは!)

「播磨ぁ!!僕は八雲君が大好きだぁぁぁ!!!」
花井の突然の叫びをきっかけに双方の銃声がピタリと止んだ。
教室につかの間だが静けさが戻った。

「だからなんだ?」
播磨はわけがわからずも、そう答えた。
「僕と八雲君をかけて勝負しろ!」
花井は立ち上がり、銃を捨てた。
(なっ、銃を捨てやがった!撃つか?あ〜、でもここで撃ったら男としてなぁ…。
ってか、何でみんな付き合ってる前提なんだよ…)
758Classical名無しさん:04/10/30 21:24 ID:ccQksWco
播磨は花井の行動に驚きつつも心の中でつぶやいた。
「だから、妹さんとは何の関係もねぇって!」
わかってもらえねぇんだろうなぁ、と思いつつも否定してみる。
「じゃあ、何で八雲君はお前の家に泊まったんだぁ!!?」
「なっ!?」
花井の言葉が播磨の全ての機能を止めた。
(なぜこいつがそんなことを!?どこからそんな情報が!?やべぇ、また問題が大きくなっていってるよ…。
まさか、みんな知ってるのか!?
やべぇ、また妹さんに迷惑かけちまった!!!妹さんゴメン!!!
って、、まずはこいつをなんとかしなくちゃ。
まさか俺がマンガ描いてて、原稿を手伝ってましたなんて言える訳ねぇし…。
どうしよう、何かいい言い訳はないか?)

播磨の思考は突然のことに滅茶苦茶になり、言い訳を必死に模索している。
「べ、勉強教えてもらってたんだよ…」
とっさに思いついた言い訳を言ってみるも、その言葉は陳腐なこと限りなかった。
「何で、上級生のお前が勉強教えてもらってるんだよ!!!?」
「あ、いや…、なんでだろ?」
「そんなこと僕が知るか!!!」
759Classical名無しさん:04/10/30 23:15 ID:VntvWSzM
>>751
GJ!
これは萌える(*´Д`)
760Classical名無しさん:04/10/31 01:15 ID:Z7NEluiY
その日、俺 播磨拳児はどうにかしていたらしい
どことなく感じる違和感
霧がかかったようなモヤモヤでいっぱいになる
ここ2,3日どうも心が晴れない

そう 天満ちゃんと、烏丸へのプレゼントを買ったあの日から
……
で、こっそり美術室に忍び込んで絵なんか描いてるわけだが…
もちろん漫画ではなく、今描いているのはれっきとした自画像だ
…こんなの描いてるトコなんか、ぜってー絃子には見られたくねーんだが
都合のいいことに、今日は午後から出張らしい
よってこっそり絵を描いている姿を見られたうえで散々言われて
こっ恥ずかしい目に会うということはないだろう…
まぁ、笹倉センセーにでも見つかればバレちまうが、直接見られなければ
べつにたいして恥ずかしくもない。あとは他の先公に見つかってもテキトーに
ごまかせるだろーし、別にそんなに悪さしてるわけでもねーし。ま、いいだろ

とりあえず黒板の周りに転がっていた用具を拾って使うことにする
その辺に落ちてたちびた鉛筆と左上の隅に切れ目の入った鏡
そして画用紙をパクれば、とりあえず絵は描ける
画力だけなら、漫画作りのおかげで無い訳じゃねぇ
ならばあとは描くだけ
……
描くだけなんだが、いまいちうまくできない
デフォルメ画じゃなく、鏡に映った自分をみるとどうにも輪郭がハッキリしない
どことなくボヤけて、今どこを描いているのか分からなくなってくる


はぁ
761Classical名無しさん:04/10/31 01:20 ID:Z7NEluiY
そもそも、なんでこんなことをしようと思ったのかもよく分からなねぇ
……。どれくらい居ただろうか、乾きかけの油絵の具やらニスやらの
独特の匂いで溢れたココに…
時計を見ると、もうかなりの時間が経ってやがる…そろそろ飽きてきた

天満ちゃんはもう帰ったんだろうか。聞いた話だと烏丸たちのバンドの
練習につきあってるってクラスの奴らは言ってたが…
”付き合って”という単語が、薔薇の棘のみたくチクチク刺さる
………。泣いてないよな、俺
 俺、そんなに神サマから嫌われてんだろーか?
いや…。そんなこと考えるのはよそう。
なにも考えず、やるって決めたこたぁやり通そう
「…」
…かえって天満ちゃんの姿が頭に浮かんでくるんだが…
今頃烏丸と… 
はぁ 何が悲しくて惚れたオンナの恋を密かに見守ってなきゃいけないんだよ!
ジーザス、俺はどうすりゃいい?
やっぱあのまま邪魔してた方がよかったのか
でもよ、あの目を見てると、なんだか、妨害したくねぇ
どーしても、悲しませたくないって気持ちが先になっちまう
だから、妹さんのことは誤解だっ て言うことも出来ないでいる
まぁ、それが恋ってヤツだが、どうもつらい
しかもよりによって俺は妹さんと付き合ってることになってるし
ちょっと前はお嬢と恋人だとか誤解されていたし…
せめてそんな誤解だけは解かないと…
そんなことを思った時、空気が変わった気がした
誰かいるような錯覚、瞬間、筆を止めて辺りを見回す
「ずいぶんぜいたく願いじゃない? アナタ?」
762Classical名無しさん:04/10/31 01:23 ID:Z7NEluiY
おまけに幻聴まで聞こえる。って幻聴か?
「天満ちゃ …。違う!」
そう 目の前には見たことのない少女が立っていた
少し薄手の洋服を着て、長い髪を揺らしながら、こっちへと歩いてくる
見たことも…ないのだが、どことなく、塚本天満に見えた
「こんにちは 」
唐突に話しかけてきたコイツ。見たところ、この学校の生徒にしては背がちっこい
「あ、あのよ。迷子か?」
とりあえず、テキトーに返事をする。自分すら思ってもいないことを口走る
それを聞いて、なんか不気味に笑っている
どこからか、涼しげな空気を感じる。なんかいやな予感。むしろ殺気だろうか?
「そういわれたのは二回目よ。 あなたも信じないのね…。」
どうも話が通じない、サッパリ何のことだかわからねぇ
「おい、何のコト 」
言おうとした瞬間
ふっと風に揺れるように、少女の髪が広がって見えた
次の瞬間、俺は身動きが取れなくなっていた
あまりに突然そうなったので、何がなんだかわからねぇ
が、更に長く伸びた髪は、手錠のようにガッチリと両手両足を拘束している
「くそっ」
力だけなら、絶対負けるはずねぇ俺だが
どんなに力をかけても、ピクリとも動かない
「無駄よ、それは金縛りみたいなものだから…」
枷をはめられた囚人のように、その場に軟禁される
とりあえず大声出せば、誰か来るかもしらねーが
騒ぎになるのはマズイだろうし、何よりも不良の俺が
ちっちゃな女の子にイジメられてました〜、じゃもう二度と学校に来れねー
ここは一つ、なるべく冷静に…
763Classical名無しさん
「あ、あの…。もしかして、 幽 霊…とか?」
あんまり冷静じゃなかったが、その質問がおかしかったのか、クスクス笑っている
「ビンゴ! そう、私はフツウの人間じゃないの 」
ニンゲンじゃない?だったら何をしに…
「あなたに、聞きたい事があるの」
…。なんだ、そういうこと…か
どーやら天使でも悪魔でもないらしい、が、厄介なのは予感通りだった
「で、何だ?」
「 話が早いのね、あなた、じゃあ聞くわ」

「答えて。あなたは誰が好きなの?」
 そんなことか、考えるまでもない
「あぁ、塚本、天満 って娘だ」
「嘘… だってあなたには付き合っている人がいるじゃない…」
…っ
幽霊にまで誤解されてるってのはどういうことだか知らねーが
まぁ、これも誤解を解く練習だと思えばいいか
「あ、あのよ、何聞いてるか知らねーが、
 俺と妹さんはそんなんじゃなくて… 」
「彼女のことは、好きじゃないの?」
「嫌いってわけじゃねーが、ソーユーのとは違う」
「じゃあ、沢近愛理とは?」
「だからなんでお嬢となんだよ、アイツとはむしろ敵同士だ
 つーかどっからそんな根も葉もないコトを聞いて…

「それでも、周りはどう見てるか分かってるの?」