「あ、ここ。10番を貼ってくれ」
「あ、ハイ」
夜の空に走った稲妻、轟く雷鳴、降り始めた雨。カーテンを開け放したままの窓から見える外の
闇と光の競演に、一瞬、気を取られていた八雲は、播磨の声に再び作業に戻った。
If... Fire Red
ぐう。
唐突に、播磨の腹が鳴った。
「腹、減ったな……」
「あ……そうですね」
苦笑交じりに言う播磨に、八雲は微笑を返す。
考えてみれば夕方、学校から直接、播磨邸に来て以降、二人とも何も口にしていない。お腹も減
ろうというものだ。
「ハイ。晩飯」
「…………」
ゴソゴソと播磨が取り出してきたのは、ビーフジャーキーだった。思わず八雲は、その場に固ま
ってしまう。日頃から塚本家の家事全般を取り仕切る彼女にとって、その言葉は冗談にしか思えな
かったのだが、しかし、どうやら彼は本気のようだ。
「ワリーな、こんなんしかなくて。でも美味いぜ」
「……………………」
もりもりとそれを食べる姿に、一瞬、眩暈を覚えるが、すぐに気を取り直す。
「あの……何か作りましょうか」
「え!?作れるの!?」
カップラーメンないぞ!?と続ける播磨に、八雲は普段の彼の食生活の一端を垣間見た気がした。
そして思う。よくこれで、ここまで大きく、強くなれたものだ、と。
「えっと……もうすこし栄養のあるものを……」
せめて出来合いのものでない何かを作ってあげたい、そう思って八雲は立ち上がり、キッチンへ
と向かう。
「冷蔵庫、お借りします」
サスガ天満ちゃんの妹さん……出来た妹さんだぜ!
背中の向こうで播磨がそんなことを思っているとは知らぬまま、彼女は冷蔵庫を開けた。