340 :
ぬらり雨:
雨がシトシト。コンクリートを濡らしていく。
下駄箱は風を呑み込む。そして彼女たちを包み込んでいた。
沢近愛理は吹き荒れる風からスカートを抑えた。右手には履き替えた上履きを握り
しめている。奥に居る彼女たちに目線を合わせる。
風でブロンドのツインテールが幾度も揺れた。
彼女の目の前には、播磨拳児と塚本八雲が顔を合わせていた。
困り顔の播磨に、顔を赤くしている八雲。
「あ、あなた……」
「せ、先輩……」
八雲は傘を握り直した。手前に彼女は戻す。
「あれ、お嬢じゃんか……ど、どうかしたか?」
播磨は慌てて原稿を隠す。
彼から笑顔が消えたのが腹立つ。
愛理は唐突に播磨に近づくと、傘を差し出す。
頬が緩むのを必死でこらえる。
「入りなさい」
愛理は言った。
「もう一度言うわ……入れてあげるから入りなさい」
八雲は出かかっていた言葉を呑み込む。
愛理の凄みにビビル播磨。
「ああ、わ〜ったよ。入るから」
彼のその様子に満足すると、彼女は八雲に言った。
「あなた……なにぐずぐずしてるの? 早く帰りましょ」