夜の校舎、というものが彼女は嫌いではない。人気のない空間、日中はあれほどざわめきに満ちていた
その場所を支配するのは、しんとした静寂のみ。人によっては不安を呼び込むそれは、逆に彼女にとって
は安らぎにも似た何かに感じられる。
それはそれで問題かもしれないけれど、というのは幾度となく胸の内で呟いた言葉。
昼間の喧騒が嫌いなわけでも、まして友人がいないわけでもない。ただ、それでもどこか孤独を求めて
しまうのは悪い癖だと自覚はしている。
とは言っても、とこれもまたいつもの思考。結局好きなものは好きだからしょうがない。夜間の見回りも
何もない、よく言えばのどか、悪く言えば不用心、という習慣につけ込んで、今日も彼女はそこにいる。
もっとも、今日に限って言えばもう一つ理由もあったのだが。
ひとしきりそんな思いを巡らせてから、その目的を果たすべく教室を出る。
「あれ? 先輩何してるんですか?」
――と、そこに思いがけず人の姿があった。偶然残っていた、というにしてはいささか遅すぎる時間。
なればこそ、彼女も自分一人だと思っていたわけで、そのまままるきり同じ問を投げ返す。
「文化祭の準備です。ほら、もうすぐですし」
なるほど、理由としてはおかしいものではない。今はまだそれほどではないにしても、直前ともなれば
泊まり込みに近い行為はそこかしこに見られるものになる。
しかし、それも『直前』の話。まだ体育祭も終わったばかり、追い込みにはいささか早い。しかも、見れば
彼女の他に人影もなく、一人で作業をしていたように見受けられる。