317 :
風見鶏:
些細な諍い。だから原因も思い出せない。
(・・・なんで、こうなのかしらね。)
本当に些細な事から始まったはずだ。それが二人の間を行きかう度に、大きく、大きく、膨らんできて
最後には・・・・。
(なんで・・・こうなるのよ。)
相手が悪い。だけどそう考える自分は、ひょっとするともっと悪いのかもしれない。
言い過ぎたかなと後悔しそれが心を深く沈めた。ひどく居たたまれない気持ちになり顔を俯ける。
カタ カタ カタ
音が鳴り、その方へ顔を向けた。仰ぐようにして視るその先には、風見鶏が一対。
黒と黄に目を染められた二羽が風上へと顔向けている。
向かい合う事のない風見鶏。交わる事のない黒と黄。
(・・・なんなのよ・・・。)
理不尽だ。なんでこんな事で哀しくなるのか。なんでこんなに切なくなるのか。
出会う事のない二羽を視ながら、さらに心深く沈むのを感じる。顔が俯き目がそれる。
カタ カタ カタ
また、音が鳴る。けれど顔を上げる気にはなれない。どうせさっきと同じ。これからもずっと同じ。
「・・・よう。」
突然の声に驚き、声の主を見てまた驚く。黒く染まった眼を見た。
「なんだ・・・、その・・・、さっきは言い過ぎた。すまん。」
「・・・私の方こそ、ごめん。」
言えた安堵が心を浮かび上がらせる。喜びが哀しみを、うれしさが切なさを払拭する。
気持ちが晴れ上がり顔を上げる。すると向かい合う二羽が見えた。
出会う二羽。向かい合う二人。交わる黒と黄、一組づつ。