「八雲……本当に、ごめんね……」
五分ほども、そうしていただろうか。やっと泣き止んだ天満は、赤い目をこすりながら、鼻をす
すりあげる。八雲がティッシュを渡すと、チーンと大きな音を立てて鼻をかみ、彼女を苦笑させる。
「播磨君の言う通り……あんな嘘をつくなんて、よくなかったね」
しょぼんと肩を落とし、小さくなる姉から伝わってくる心の声。
ごめんね、八雲
「姉さん……」
心の底から姉が申し訳なく感じていることを知り、八雲はわずかに内に残っていた怒りが溶けて
いくのを感じた。
「そんなに……心配だったの?私と……播磨さんのこと……」
今なら、素直に聞けるかもしれない。思って問いかける八雲に、天満は小さく、だがはっきりと
頷いた。
「だって……八雲、播磨君のことが好きなんでしょう?」
飾る事のない言葉と、まだわずかにうるむ真っ直ぐな瞳が、八雲の心を貫く。
「姉……さん……」
熱くなる頬、そして体の中心。まともに姉の顔を見られなくなって、彼女はわずかに顔を伏せた。
「隠さないで、八雲。播磨君のこと、好きなんでしょう?」
再びの問いかけに、八雲は口を開き、何も言わず閉じ。
ゆっくりと、頷いた。
「そっか」
天満は、微笑む。暖かに、包み込むように。そして手を伸ばし、八雲の髪を軽く撫でる。
幼い頃に、よくこうされていたことを思い出して、彼女は目を閉じた。
そのままたゆたう時。姉妹は何も語らずとも、心を通い合わせる。
八雲は思い出す。いつの時でも、姉が自分のことを誰よりも想ってくれていたことを。
あまりに当たり前にそこにある愛情、だからこそ時に見失ってしまう絆。側にいていつも見てく
れているからこそ、自分で気付いていない心の乾きを汲み取ってくれるのかもしれない。
姉がしたことは、やりすぎだと確かに八雲も思う。播磨が怒るのも無理はない、とも。
普段の天満なら、そんなことは重々承知しているはず。逆に言えば、そこまでしても彼女は、播
磨の八雲への気持ちを確かめたかったということなのだろう。
そしてそれは確かに、八雲も心のどこかで望んでいたことなのだ。