わずかに緊張をしながら、だがそれ以上に優しさに溢れている。それは八雲だけでなく、側で成
り行きを見ていた天満や美琴をすら、はっとさせる笑顔だった。
迷いながら自分を見てきた妹に、天満は大きく頷いて見せる。
それでもしばし惑った後、八雲はゆっくり、播磨に頷いて言った。
「は、はい……」
二人が並んで、病院の廊下の角を曲がっていくのを見送った後、天満は大きな溜息と共に、肩を
落とす。
「はぁぁぁ」
「どうしたんだよ、塚本。そんな溜息ついて」
我が子を胸に抱きかかえて立ち上がった美琴が、落ち込む天満に尋ねる。
「私って、本当、バカだなぁって。何であんなこと、しちゃったのかなぁ……」
「まあ、自分がバカだってことに気付いたのは、いいことだろ」
突き放したような彼女の言葉に、天満は恨みがましい目で見つめてくるが、美琴は意に介さない。
「美琴ちゃん、冷たい……」
「そりゃ悪かった。けど、事実だろ」
ずばっと指摘され、また激しく落ち込む少女に、彼女は苦笑しながら、助け舟を出した。
「ま、それでも、あの二人にとっては、結果オーライだったみたいだけどな」
美琴は、二人が醸し出していた空気を、懐かしく感じたのだ。
それは自分達――――美琴と花井が、お互いの気持ちを知った頃のものと似ていたから。
私達も不器用だったもんな――――思った後、彼女は小さく胸の内で笑う。だった、じゃないか。
今でも変わらないだろう、それは。
もう一度美琴は、二人が去った後の病院の廊下を見る。
まだそこには、冷め切らない熱と、ぎこちない沈黙が残っているような。それは決して不快なも
のでなく、青臭いまでに純粋な、想いの交換。
「うん……そうだといいんだけれど……」
「元気出しなって。そんな風にしてるの、塚本らしくないよ?」
バンッ。赤ん坊を抱いていない方の手で、天満の背中を強く叩いた美琴は、とびっきりの笑顔を
見せる。
「お姉ちゃんがしっかりしてりゃ、あの子に何があったって、大丈夫だろう?」
「うん――――そうだね」
「そうそう。だからあんたは、笑ってな」