「……ふう」
テーブルの上に置かれた薄い紙らしきものを見つめて、刑部絃子は深い溜め息をついた。窓の外に
広がる澄み切った空とは裏腹に、絃子の表情は冴えない。意を決したように立ち上がると、絃子は
リビングを後にし、同居人の部屋の扉を叩いた。
「……拳児君、ちょっといいかい?」
その声に、絃子の同居人―――播磨拳児が扉を開ける。クーラーが効いているのか、心地良い冷気が
廊下へと漏れた。
「あ? 何だよイトコ」
「さんを付けろ」
「へぇへぇ、何でございますかイトコさん」
「話がある。ちょっとこっちに来てくれ」
渋々といった様子で、播磨が部屋を出てくる。播磨を連れてリビングに戻ると、絃子は再び
テーブルの前に腰を下ろし、先程の紙を手にした。
「拳児君、夏休み突入おめでとう。早速だが、これを見て欲しい」
「あ? 何だそれ?」
「君の成績表だ。ちょっとしたツテで手に入れた」
「ああ、別に構わねぇよ。見られて減るもんでもねーしな」
絃子に対し、播磨は余裕の態度を見せた。夏休みに入ったこともあってか、播磨の表情には
開放感が溢れている。テーブルの下に隠れた絃子の拳に、僅かな力がこもった。