スクールランブルIF12【脳内補完】

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575【夏祭りの夜に -yakumo side-】:04/08/27 18:31 ID:epX08F5k
「あとは…どこにいるでしょうか」
「一応、町内会の本部に行ってみる?迷子として届けられているか
もしれないし」
「先輩、そんな…」
 でも確かにありえなくはない。迷子として預けられている天満を
想像して妙に納得しまい、一応行ってみようということになった。
 人混みを掻き分けて二人が辿り着いたのは、参道真ん中付近にあ
る町内会本部。町内会の役員の人に特徴を伝えてきていないかどう
か確認する。すると、一人の人が天満の浴衣を覚えていた。
「あー、あの山吹色の浴衣を着た、髪の長いお姉ちゃんだね?その
子なら二条先生と連れだってどこかへいったよ。まー、二条先生と
一緒なら大丈夫だよ。信頼おける人だし」
 はっはっはと豪快に笑ってその人は仕事に戻っていった。
「二条先生…?」
「まあ、一人じゃないってわかっただけでも一安心かな」
 参道を神社と出口方面へと向かったという目撃情報を元に天満捜
索を続行する二人だった。
576【夏祭りの夜に -yakumo side-】:04/08/27 18:32 ID:epX08F5k
 八雲と晶は目を皿のようにして、屋台をしらみつぶしに当たって
いたが、参道中程まできても天満は見つからなかった。そのかわり
に見つかったのは…。
「先輩、あれ…」
「サラだね」
 二人が見つけたのは晶の同級生、麻生広義と金魚すくいに興じる
八雲の親友、サラ・アディエマスの姿だった。
 サラの顔は水面にむかい一心不乱に金魚に対峙しているせいか、
八雲と晶の側からは見えない。だがその金髪とピンクの大輪の花柄
の浴衣は遠目にも目を引いた。麻生は隣で金魚すくいのこつを教え
ているようだ。
 サラの笑い声が微かに届く。はたからみたら恋人同士とも見える
二人の仲の良さげな様子に八雲は得も言われぬ淋しさを覚えた。
「邪魔はしないでおこうか」
「はい…」
 二人はお好み焼きの屋台の裏を通り、サラと麻生に見つからない
ように天満捜しを続けることにした。
577【夏祭りの夜に -yakumo side-】:04/08/27 18:33 ID:epX08F5k
「見つからないね…」
「そうですね…」
「帰ってしまったということはあると思う?」
「それはないと思います…」
 参道、出口付近。八雲と晶はなかなか天満が見つからないことに
少々焦れていた。ただでさえ祭りの人混み。しかも手数は二人だけ
とあっては無理のない話なのだが。
 特に八雲はいつもなら聞こえるはずの天満の思念が聞こえないこ
とに不安を感じていた。
(どうしたんだろう、姉さん…。ひょっとして姉さんの身になにか
…)
 きょろきょろと当たりを見渡したその時まさに、天満の心の声が
聞こえてきた。
(八雲…)
「姉さん?」
「どうしたの、八雲。天満、見つかった?」
「い、いえ…」
 もう一度、意識を集中してみる。すると再び天満の思念が伝わっ
てきた。
(ごめん、八雲、愛理ちゃん、晶ちゃん。でも今日は私の人生で最
良の日だよ…)
578【夏祭りの夜に -yakumo side-】:04/08/27 18:33 ID:epX08F5k
 そのとき、八雲の目はべっこうあめの屋台の前に立つ天満の姿を
見つけた。
「姉さ…!」
「待って、八雲」
 八雲は思わず声をかけようとして晶に止められた。
「どうして止めるんですか?せっかく姉さんが見つかったのに…」
「理由は…あれ」
 すっと、晶が指を指す先を見る。そこにはべっこう飴を買って天
満に渡そうとする烏丸大路の姿があった。
(姉さん、烏丸先輩といたんだ…)
 満面の笑みでべっこうあめを受け取る天満。そこにはまぎれもな
く恋する乙女の姿があった。
 その笑顔を見ていると、八雲の胸には言葉にはできない小さな傷
みが胸に広がった。
「そっとしておいてあげよう。烏丸君なら無事天満を家まで送り届
けてくれると思うよ。八雲は私が家まで送るから」
 晶の提案に無言でしか答えられない八雲であった。
579【夏祭りの夜に -yakumo side-】:04/08/27 18:34 ID:epX08F5k
 塚本家への帰り道。八雲は晶となにを話すわけでもなく、もの思
いにふけっていた。修治とサラと天満のことが気にかかっていたの
だ。
(修治君、無事見つかったかな…。サラ、麻生先輩とあのあとどう
しただろう…。姉さん、無事に帰ってこれるのだろうか…)
 修治がいなくなったときに感じた不安…。サラを見かけたときに
覚えた淋しさ…。姉を見つけたときに広がった痛み…。それぞれが
八雲の心を頼りなく心細くさせた。
(大事な人がいつも自分のことを想ってくれるわけでも、そばにい
てくれるわけでもない…。そんな当たり前のことが、私にはちっと
もわかっていなかった…。姉さんは、姉さんで、サラはサラだ。姉
さんもいずれは好きな人と結ばれて私たちの家を出て行く…。サラ
も留学期間が終わればイギリスに帰ってしまう…。修治君も大きく
なれば私のことなど忘れてしまうだろう…。それはまぎれもない事
実なんだ…)
 急に襲ってきた孤独感。それはまるで恐怖のように八雲の心を震
わせた。
 そこへふと、晶が話しかけてきた。
「どうしたの、八雲?」
「え?」
「あなた、ずっと黙ったままだし、なんだか深刻な顔してるから」
580【夏祭りの夜に -yakumo side-】:04/08/27 18:35 ID:epX08F5k
 八雲は勇気を振り絞って晶に尋ねた。
「先輩は…もし大事な人といられる時間が限られているとしたらど
うします?」
「今を大切にする」
「今、ですか…」
「人との出会いって本当に一瞬しかないものだと思う。だからね、
今ってそれこそ八雲と居るこの時のように人と居るこの一瞬にしか
感じられないものじゃないかな。
 一瞬、一瞬に出会って、その次の一瞬、一瞬には別れ、また次の
一瞬に会う。だからね、その人といられる今が大事なんだと思うし、
大切にしたいと思う」
「そうですか…。でも…今しか一緒にいられないのなら、別れが怖
くありませんか?もしもその一瞬出会えても、その次の一瞬に会え
ることがなかったとしたら…?」
「その時は、その時。別れに始めから恐怖していてはどんな出会い
も始まらないよ。
 例えば今日私たちは播磨君にあった。修治君にあった。美琴にも
花井君にも刑部先生にも笹倉先生にも会った。そしてその都度別れ
た。
 でも、別れるのが怖くて今日一日家にいたら会えたはずのみんな
に会えなかったわけでしょう?一緒に遊んだり話したりすることも
出来なかったわけでしょう?それはとてもとても淋しいことだと思
うよ」
「そうですね…」
 八雲は晶に言われてみて、気がついた。修治やサラや姉との別れ
以上に自分の周りには無数の出会いがあることに。いつか別れがく
るとしても、それ以上に大切な今があることに。そう気がつくと感
じていた心の震えが幾分か収まった気がした。
581【夏祭りの夜に -yakumo side-】:04/08/27 18:36 ID:epX08F5k
「ありがとうございます、先輩…」
「なに改まっているの?」
「いいえ、とても楽になりました」
 そう、と晶はつぶやく。八雲は今一人でなくて、隣に晶がいてく
れてこの上なく良かったとそう思った。
 やがて塚本家が見えてきた。
「先輩、わざわざ送っていただいてありがとうございました。」
「どういたしまして。一応、玄関まで送るわよ」
「いいえ、ここで大丈夫です…」
 電灯の下で話す二人。固辞する八雲の前で、晶は巾着袋から薄い
グリーンの包み紙に包まれた箱を取り出した。
「先輩…?」
「今日、という今の記念よ。あげるわ」
「いいえ、そんな…」
「遠慮しないで。あなたのために獲ったようなものだから」
 なら…と受け取る八雲。
「なんでしょう、これ」
「開けてみたら?」
 晶の見守る中、がさごそと包み紙を解く。そこに出てきたのは箱
に入った淡水パールの組み合わさったイヤリングだった。
「可愛い…」
「八雲に似合いそうね…。貸して、つけてあげる」
 晶は八雲からイヤリングを受け取ると、彼女の耳たぶにそっとつ
けた。
「似合うわよ、八雲」
「ありがとうございます…」
582【夏祭りの夜に -yakumo side-】:04/08/27 18:36 ID:epX08F5k
「そういえば、先輩の獲った腕時計はどんなものだったんですか?」
「私の?」
 巾着袋から腕時計が取り出される。
「OMEGA…?」
「OMEGA スピードマスターのフェイクね…。それにしてはよくでき
ている…」
 あの店儲かっているのかしら、と晶は首を傾げた。
「男物ですね…」
「そうね…。でも気に入ったわ」
 ちゃら、と音をならして晶はその細い手首に腕時計をつけた。腕
時計は晶の手首には緩かったが、手のところでかろうじてなんとか
止まった。
「調節すれば、使えるでしょ」
「格好いいです…。先輩」
「そう?ありがとう」
583【夏祭りの夜に -yakumo side-】:04/08/27 18:37 ID:epX08F5k
 じゃあ、ここで。そういって別れようとしたとき、八雲は晶にふ
と聞いてみたくなった。
「あの、先輩」
「なに?」
「先輩の大事な人って、今そばにいらっしゃいますか?」
「いるわよ」
「え?」
「ここに、ね」
 そういって晶は浴衣の胸を親指で指さした。八雲は晶がそのとき
初めて見せた愛おしげな微笑と仕草につかの間、心奪われた。
「じゃあね」
「あ、はい。おやすみなさい…」
 八雲が一瞬気をとられた隙に晶はくるっと踵を返し、そのまま振
り返りもせず去っていった。
 八雲はさっき晶が見せた表情に少し気をとられながらも晶を見送
り、姿が見えなくなったあと塚本家の玄関の戸をくぐった。
584【夏祭りの夜に -yakumo side-】:04/08/27 18:40 ID:epX08F5k
 家には天満はまだ帰り着いていないようで、しん…とした家の中
には人気も灯りもなかった。
 下駄を脱ぎ、玄関を上がる。そのまま自室には行かず、浴衣のま
ま居間にぺたん、と座った。
 たたっという軽い足音と共に猫の伊織が八雲の元に駆けてきた。
「ただいま、伊織…」
 伊織に声をかける。伊織はにゃぁ、という泣き声と共に八雲の腰
に擦り寄った。
「淋しかった…?」
 そっと、猫の背を撫でる。猫は体重を八雲に預け、無言で八雲に
答えた。
 淋しいのは八雲のほうだった。いつもは姉のにぎやかな笑い声の
絶えないこの家に独り座っていると、ひどく深い孤独が近づいた。
(でもこれが当然なんだ…。大切な人がそばにいる時の代わりの幸
せの代償…)
585【夏祭りの夜に -yakumo side-】:04/08/27 18:40 ID:epX08F5k
 どのくらい経ったころだろうか。パチン、と灯りをつける音がし
た。そっと体を揺する誰かの優しい手を感じる。
「八雲、こんなところでうたた寝していると風邪引いちゃうよ?」
「あ、姉さん…」
「ただいま、八雲」
 八雲を起こしたのはいま帰り着いたばかりの姉、天満だった。手
にはべっこう飴を二本持っている。
「先に帰って来ちゃってごめんね…。無事帰ってこれた?」
「ううん、大丈夫。烏丸君とばったり会って、彼がね…。えへへー、
送ってくれたのー!」
「よかったね、姉さん…」
 心の底からそう思える。そこにはさっき二人を見たときに感じた
小さな傷みはすでになかった。
「あ、そうそう。これ八雲におみやげだよ。心配させたおわび」
 天満は紅色のべっこう飴を八雲に差し出した。
「え、でも姉さん。それは烏丸先輩に買って貰ったものじゃ…」
「それはこっち。そっちは八雲用に私が買ったやつ。…ってなんで
烏丸君が買ってくれたものだって知ってるのー!」
 ずさっ、と天満が飛びすさる。
「ごめん、二人が一緒にいるところ、高野先輩と一緒に見かけた…」
586【夏祭りの夜に -yakumo side-】:04/08/27 18:41 ID:epX08F5k
「ええっ、晶ちゃんと?!ううっ、二人とも趣味悪いなぁ…。声か
けてくれればいいのに…」
 次に会ったらからかわれる〜、と頭を抱える天満。そんな天満
を見ていて、八雲は胸に安堵が広がるのを感じた。
(やっぱり、姉さんは姉さんだ…)
「姉さん」
「ん?なに?」
「帰ってきてくれて…ううん、一緒にいてくれてありがとう」
「変な八雲」
 天満に意味は伝わらなかったようだ。でもそれでいい。一緒にい
られるだけでいい。八雲はそう思った。

(ずっとは一緒にいられないかもしれない…でもいつまでも一緒に
いられますように…)

「ねー、八雲ー。べっこう飴を永久保存しておくにはどうしたらい
いと思う?」
「冷凍室にでもいれればいいんじゃないかな…」
「ん、わかった!」
「それより姉さん、浴衣着替えないと…」
「えー、もう少し着ていたいよー」
「だめ、皺になるから…」
 こうして八雲は姉といる今という日常に戻っていった…。
587午後の抹茶:04/08/27 18:43 ID:epX08F5k
書きたいシーンをすべて書ききったら予想以上に長くなりました…。
お待たせしてすみませんでした。
冗長だと感じられた方もいらっしゃるかも知れません。批評が怖いです。

あと文中の射的屋店主には「サバゲーで財産を持ち崩し、自慢のコ
レクションを使って射的屋を始めたはいいが素人なのでさっぱり儲
からない脱サラのおじさん」という裏設定があります。
ワルサーやデリンジャーを揃えた射的屋なんて現実にはありません。
………たぶん。

あとは愛理編や美琴編や晶編が待っています。本当は夏休み中に全部
書きたかったのですが私の筆の遅さだとそれは無理かも知れません。
なるべくお待たせしないで次の作品をお贈りできればと思います。
588Classical名無しさん:04/08/27 18:58 ID:lwoTpx7A
>>587
GJ!
でも八雲編なのに完全に高野に喰われてるような…
あとキャラの呼び方が少し気になったっす。
589Classical名無しさん:04/08/27 20:51 ID:GIrhiIME









スクールランブルのエロ画像
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/ascii2d/1093511223/












590午後の抹茶:04/08/27 22:49 ID:WhLyy1og
>>588
感想、ありがとうございます。
晶の活躍はちょっと私にも予想外でした…。
もうちょっと構成を変えた方がよかったかなぁと反省しています。
あとキャラの呼び方のところですがどこが気になりましたか?
後学のために教えていただけると幸いです。
591Classical名無しさん:04/08/28 00:20 ID:8hrnjT4c
589さん板違い。
592Classical名無しさん:04/08/28 01:27 ID:PzQFoiP2
>>590
GJです。呼び方で一番気になるのは沢近が播磨を「播磨」と呼び捨てにしてるところですね。
普通は「ヒゲ」などと呼ぶのでは?メインの娘で播磨を呼び捨てにするのは美琴くらいなもんですしね。
593Classical名無しさん:04/08/28 03:25 ID:QsraPbqU
高野家がヤクザとつながりを持っている云々の独自設定は、正直どうかと。
594Classical名無しさん:04/08/28 04:20 ID:///NXCuY
IFスレなんだしこれぐらいならOKだと思うけど。
>>590
グッジョブです、続きも期待してます。
595Classical名無しさん:04/08/28 07:46 ID:zjyh30bg
>>590
大したことじゃないけど、本編では美琴は
誰のことも苗字呼び捨てで呼んでる。
596Classical名無しさん:04/08/28 07:49 ID:zjyh30bg
誰のこともってこたぁないか。
勿論目上の人間は別だね。

そういえば、回想シーンでは「沢近さん」
と呼んでたこともあったなー
597Classical名無しさん:04/08/28 11:29 ID:ySASSTnI
>>593
高野関連のギミックから推察するにモデルが映画「キル・ビル」のオーレン・イシイの可能性もあるので、
あながち無茶な設定でもないかと思います。
あと蛇足ですが、テキ屋とヤクザは混同されないほうがよろしいかと。
598Classical名無しさん:04/08/28 18:03 ID:4QUjVG7w
>597
……高野晶はオーレン・イシイより前に世に出てるだろ……(w
599Classical名無しさん:04/08/28 22:16 ID:PokbSo92
話が長すぎる。
読んでて飽きる。
600Classical名無しさん:04/08/28 22:19 ID:PE78hr82
600
601Classical名無しさん:04/08/28 22:20 ID:dFAqVv1E
誰か次スレを頼む。
602Classical名無しさん:04/08/28 23:20 ID:FlTj/fwc
全スレ最後旗SSみたいにストレートなやつが最近少ないから読みたい
凝ってるやつはお腹いっぱいだわさ
603ゾリンヴァ ◆i3srl4VmZs :04/08/28 23:28 ID:Q22ZWF8E
>>1のSS保管庫のURL、まだ直ってないです。

保管庫(仮)
http://tenma.web.infoseek.co.jp/SS/index.html
604午後の抹茶:04/08/28 23:32 ID:FdXjGf86
ご指摘、ご感想ありがとうございます。大変励みになります。

>>592
愛理の播磨についての呼び方は大分迷ったのですが、
1〜5巻を読んで、シャイニングウィザードの回→播磨君
夏休み中→アイツ、ヒゲ剃り事件後→ヒゲ
と変化していることからヒゲを剃ったあとからヒゲと呼び始めた
のではないかと推測し、播磨と呼ばせました。
でも言われてみれば素直にヒゲのほうが良かったかも…。
愛理の回に反映させたいと思います。

>>593
ヤクザと繋がりを持っているというより地域で力を持っている
ぐらいに考えていただければ。
ひょっとしたらふつーの家かもしれませんが。

>>594
ありがとうございます。頑張ります。

>>595
ああー、そうでした。反省。ご指摘ありがとうございます。

>>597-598
「キル・ビル」は見ていません。でもマフィアの回の晶を思い浮かべつつ
「晶ってなんらかの戦闘訓練うけていてもおかしくなさそうだよなぁ」
なんて思いながら書いていました。

>>599
それはひとえに私の腕の未熟さかと。次回以後気をつけますね。
605Classical名無しさん:04/08/29 02:18 ID:XPvmqaUU
>>604
ちなみに沢近はキャンプの時既にヒゲと呼んでいる。
しかも夏休み中もやっぱり君付けしてまつ>#49,#55参照
606Classical名無しさん:04/08/29 04:48 ID:cNpuqUDE
隊長!旗濃度が低下しています!至急補充を!

とか言ったら誰か投下してくれるかなぁ。
いや、自分でも書こうとか思うんですよ?
607Classical名無しさん:04/08/29 07:53 ID:30empH8s
えーと、スレ建て挑戦してみていいですか?
15分音沙汰がなければ回線不調ですので次の名乗りお願いします。
608Classical名無しさん:04/08/29 08:00 ID:30empH8s
新スレ
スクールランブルIF13【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1093733782/

スレ立てなんて初めてでしたからちょっとドキドキです。
609Classical名無しさん:04/08/29 08:09 ID:dy5i0jkI
避難所なら下げろ
スレ使い切る前に次スレ立てろ
早杉じゃぼけ
610クズリ:04/08/29 08:49 ID:uSNghHYU
 もう終わりですか、早いですね。クズリです。
 埋めてみようかな。

>>539さん、>>606さんに応じてチャレンジ、旗SS。
611All for you:04/08/29 08:50 ID:uSNghHYU
 目を覚ますたびに浮かんでくるその顔を、いつも苛立ちと共に愛理は頭の中から追いやる。
 出てくるな。入ってくるな、私の中に。アンタの存在なんて。
 思えば思うほどに、余計に強く浮かぶ面影に、少女の胸はひどく、痛んだ。

 All for you

「止めて」
 隣に座っていた男の話し声を、これ以上、聞いていたくなくて、愛理は車を止めさせた。
 訳もわからず、言われた通りにする男。
 つまらない奴。
 胸の中で吐き捨てながら、彼女は扉を開け、外に出た。
「楽しかったわ。それじゃ、さよなら」
 とっておきの作り笑いと共に、心にもない台詞を口にする。真に迫った偽の笑顔に、彼は心を乱
されたのだろう、精一杯の虚勢を張って、
「ああ、じゃあ、またな」
 物分かりの良い男を演出する。
 馬鹿な男。走り去った車を見送った彼女は、その影が視界から消えると同時に、蔑みを隠すこと
なく、その美しい顔に表した。
 普通の女ならば、それは見ていられないほどの醜悪な表情になることであろう。だが愛理の場合、
その素質がなくても男達は、気高さの中に浮かぶ侮蔑に被虐心を強くそそられるに違いない。
 それほどまでに少女は美しく、華やかに咲き誇る。

 だが、その内は。

 携帯を手に取り、中村を呼ぼうとして愛理は、思いとどまる。
 ――――もう少しだけ一人でいたい。
 心の命ずるままに、彼女はその足を踏み出す。目的地もなく、ふらふらと。
 消えなさいよ。
 胸の内に訪れる思い出達を、愛理は必死にかき消そうとする。
 告白をされたこと。海で羽交い絞めされたこと。体育祭でジャージを差し出され、優しくされた
こと。
 忘れようとしても、忘れられず。その記憶はより鮮明に、心に刻まれる。
612All for you:04/08/29 08:51 ID:uSNghHYU
 例えるならば彼女は、蜘蛛の糸に絡まれた一匹の蝶だ。
 羽ばたけば羽ばたくほどに、その拘束は強くなり、逃げられなくなる。
 薄々と彼女は、蜘蛛の名前に気付きながら、目をそらし続けている。
 一歩ずつ、着実に己を喰らうために近づいてきているその蜘蛛の存在を、無視している。見えな
いふりをしている。
 だがそれも、限界が近づいていたけれど。
 疲れ果てた蝶の羽ばたきは、弱々しいものに変わっている。
 蜘蛛の口が、その美しい体を飲み込もうとしているのに、逃げる気力は、もう、ない。

 あてどもない彷徨は続き、いつか彼女は駅前へと戻ってきていた。
 田中商店の前を通って、ふと彼女は歩みを止める。
 目の前には、空き地。
 つい先日まであったはずのビルが、跡形もなく姿を消していた。

 思い出の場所から消えた要素に、何故か少女は、殴られたかのような衝撃を感じた。

 そこに、少女は立ちつくしていた。雨の中。
自慢の髪が濡れ、頬を冷たい雨粒が伝って落ちていく。
 差し出された傘。見上げた顔。
「そこまでだったら送ってやるぜ――――ほんのそこまでな」
 ぶっきらぼうな台詞。

 微かにぶつかった腕に感じた、ぬくもり。

 蘇る記憶が、彼女の心を熱くする。
 まさにこの場所が、そうなのだった。
 愛理が蜘蛛の巣に触れたのは。

 しかし、同じ場所から見ているはずなのに、光景は変わってしまった。
 無くなってしまった。ビルが、ほんの少しの間に。
 訪れる喪失感。心の中に生まれた小さな穴は、徐々に徐々に、広く大きくなっていって、愛理の
心臓を圧迫する。きりきりとした痛みに、少女の瞳は微かにうるんだ。
613All for you:04/08/29 08:52 ID:uSNghHYU
 変わっていくのだ。愛理はそう、思い知らされる。
 何を感傷的になっているのだろう、私は。思いながらも、考えるのを止めることは出来ない。む
しろ加速していく。
 変わっていく。何も変わらないように思っていても、変わっていってしまうのだ。
 そして消え去ってしまう。
 私を残して。
 あの男も。
 彼の隣に立つのは、どこか儚げな少女。
 自業自得じゃない。そんなの。愛理の内に声が響く。
 貴方は何をしたの?優しくしてやったことが、これまでにあったというの?あの子は――――き
っと、優しい。自分とは違って。
 優しくする。それぐらい、とても容易いことなのに。他の男には、何時だって私は、そうしてき
たじゃない。
 ――――だから、か。
 唐突に、最後の一ピースがはまって、愛理の心の中に絵が現れた。
 彼といることで、どんなに苛立ったとしても、愛理はそれを隠そうとしなかった。隠す必要もな
かったからだ。
 つまりは、素だったのだ。自分の心の、本音をさらけ出せる相手だったということ。
 他の男の前では、無意識のうちに仮面を被ってしまう。誰も心に寄せ付けないために。
 その仮面を外して、本当の自分のままで向かい合える、それが播磨拳児という男だった。
 だから、か。惹かれたのは。
 居心地の良さを感じたのは。
 嬉しかったのは。
 あんなにも、男としての魅力など皆無なのに。
 彼の前では、演じる必要などなかった。だから、落ち着けた。
 心、安らいだ。

 だがその彼の存在は、遠い。
 その事実が、彼女の胸にのしかかり、心を潰そうとする。

 頬を雫が伝わった。
 それが雨なのか、それとも涙なのか、彼女自身にもわからなかった。
614All for you:04/08/29 08:52 ID:uSNghHYU
 ザァザァと、降り続ける雨。
 空を見上げようとして、愛理はとどまる。うつむいた瞳は、アスファルトに生まれる水溜りを映
し出している。

「何、やってんだ?お嬢」
 差し出された傘。見上げた顔。
 ぶっきらぼうな台詞。

 愛理は耳元に、確かに自分の心臓の音を聞いた。

「アンタ……何やってんの?」
「それはこっちの台詞だろーが。傘もささねぇで、何やってんだ。こんなとこで」
 問いかけに答えず、愛理は逃げるように歩き出す。
「あ、おい、待てよ、こら」
「付いてこないでよっ!!」
 その叫びに一瞬、播磨は歩みを止める。微かに顔に怒気をはらませるが、
「お嬢……泣いてんのか?」
 横顔を見て気付いたのか。どんどんと、早足で進む彼女の横に、彼は追いついてきた。
「バカ言ってんじゃないわよっ!何で私が――――」
 どうしてこういう時だけ、素直になれないのだろう。
 思ってしまった瞬間、また熱い雫が溢れ出す。
「ほっといてよ!!ほっときなさいよっ!!」
「ほっときてぇのはヤマヤマだけどな、泣いてる女をほっとけるほど、男捨ててるつもりはねえん
だよ」
 少女の叫びに、播磨は苛立ちまじりの声を返す。彼女のずぶ濡れの体を、彼の持つ傘が雨から守
っている。
 手を伸ばす彼は、代わりに自らの体を犠牲にしていた。あっという間に、今度は彼の服が濡れて
色を変えていく。
「アンタ……」
 立ち止まる彼女に、舌打ちをしながら、播磨は言った。
「ったくよ。前とおんなじ場所じゃねえか。何かあそこに思い入れでもあんのか?」
 また、跳ねる心臓の音が、大きく聞こえた。
615All for you:04/08/29 08:53 ID:uSNghHYU
「アンタ……覚えてたの?」
「あ?――――おんなじ場所でおんなじように雨に打たれてるんだから、思い出して当然だろうが」

 まずい。
 蝶は、思う。
 これは、まずい。
 目の前に、蜘蛛が大きく口を開けているのに。
 自分の体を食べようとしているのに。
 逃げる気がしない。
 むしろ喜んで、己の体を差し出そうとしている自分がいる。

 胸の内に生まれた熱の、おもむくままに愛理は言葉を紡ぐ。
「アンタってさ――――天満の妹と付き合ってる、ってホント?」
「あ?なんだよ、突然――――けど、いい機会だ。天……皆の誤解を解いてくれよ。俺は妹さんと
つきあってなんかいねぇ」
「――――そう。でも、二人っきりで会ってるんでしょう?」
「そ、それは――――頼み事をしてるだけだ。天に誓って、俺と妹さんの間に、なんらやましいこ
とはねぇっ!!」
「……ふぅん」
 言ってから、彼女は肩をすくめて続けた。
「ま、私には関係ないけれど」

 蝶は、酔っていた。
 安堵に、心が狂喜する、その感覚に酔いしれていた。
 そして思う。ああ、私は。
 望んでいたのだ。食べられるのを。

 彼女を、蝶を絡みとった蜘蛛の名前は。

 恋という。

 そして蝶は、蜘蛛に食べられ、一つになった。
616Classical名無しさん:04/08/29 09:10 ID:AvQD4gbE
>>610
⊂⌒〜⊃*。Д。)-зムッファー
こ、これぞ理想の旗展開…これでしばらくは生きて行ける
神よありがとう、GJですた
617All for you:04/08/29 09:13 ID:uSNghHYU
「――――お嬢?」
 急に黙りこくった目の前の少女を心配するように、近づいてきた彼の胸倉を、愛理はつかんで引
き寄せた。
「……!?」
 驚く播磨を気にせず、彼女は唇を寄せる。
 彼の唇に。
 凍りつく彼に構わず、押し付ける。力強く、乱暴に。
 つまるところ、それは奪う行為。
 だが同時に、それは捧げる行為でもあった。

 心ゆくまで、彼の唇のぬくもりを自らの唇に刻み込んだ後、彼女は彼からゆっくりと顔を離す。
 サングラス越しにも、彼の瞳が驚愕に見開いているのがわかって、愛理は微笑んだ。

 蜘蛛に食べられて、一つになった、蝶。
 そう、彼女は蜘蛛になったのだ。
 罠をしかけよう。絡みとろう。
 自分のものにするのだ。
 彼を。
 播磨拳児を。

「な……な……な……」
「アンタが天満の妹と付き合ってようがそうでなかろうが、関係ないわ――――奪ってやるから」
 腰に手をあて、胸を張って。
 愛理は、まるで戦乙女のように、凛とした表情で播磨を真っ直ぐ指差す。
 その気迫に押されたかのように、雨が止んだ。
「アンタが悪いんだからね?私を本気にさせたんだから」
 言葉の一つ一つが力強く、彼を縫いとめる。
「私のファースト・キスをあげたんだから、それ相応の対価はもらうわよ。わかったわね?」
 突然の出来事に呆然とする播磨を、愛理は叱咤する。
「返事はっ!?」
「お、おう」
「よろしい」
618All for you:04/08/29 09:14 ID:uSNghHYU
 その後、帰宅した愛理は熱いシャワーを浴びながら、戸惑いを隠せずにいた。
 焼け付くような熱が去った今、自分がしでかしたことに彼女は赤面する。
 何て告白だ。尋常ではない。
 もっと他にやり方はあっただろうに。
 自己嫌悪を、しかし、愛理は感じなかった。
 優しいフリだとか、しおらしいフリだとか。今更、自分を偽っていても仕方がない。
 彼に惹かれたのは、自分が自分らしくいられるからだ。
 ならば、こうして彼に想いを告げるのだって、自分らしいやり方だったということ。
 確かに自分が、こんな風に人を好きになるなんて、思ってもみなかったけれど。
 愛理は、微笑む。
 悪くない。恋をするというのも、悪くないものだ。
 あんなにも望んでいた、芯からゾクゾクするような想いが自分にも訪れた。
 冷静に考えれば、相手に不満がないわけでもないが、仕方ないことだ。
 好きになってしまったのだから。

 自室に戻って彼女は、無理やりに聞き出した彼の携帯の番号を見つめる。
 電話をかけようとして、彼女は思いとどまった。
 時間はたっぷりある。そして逃がしはしない。
 ゆっくりと、つかまえればいいのだから。
 最後には必ず。
 彼の心を、自分のものにしてみせる。
 自分なしでいられなくしてみせる。
 横になったベッドの上で、嫣然と笑いながら、沢近愛理は。
 そう、誓ったのだった。
619クズリ:04/08/29 09:16 ID:uSNghHYU
 言われる前に先に言っておきますね。

 こんなの沢近じゃな〜い。
 どうしてこうなったのやら。
 そして連続投稿にひっかかりすぎ。
 回避方法を教えてもらいたいものです。
 埋め完了?
620616:04/08/29 09:23 ID:AvQD4gbE
あ、続きがあったのか!失礼しました…orz
しかし凄い展開ですね。蝶と蜘蛛が逆転するとこが素晴らしい。
では改めて、GJ!
621Classical名無しさん:04/08/29 10:11 ID:y5vaIyyU
沢近がフレイ化していく…(((( ゜Д゜)))


とにかくGJ!続きキボンヌ
622Classical名無しさん:04/08/29 10:45 ID:3D6mJJLg
続きはエロパロで是非
623Classical名無しさん:04/08/29 10:51 ID:3D6mJJLg
しかし、沢近vs播磨を進めるには、やっぱりこの手の展開しか無いのかな?
舞台設定はさておき、沢近からの強引なアプローチしか思いつかない……。
624Classical名無しさん
>>623
本スレでちょっと話に上がってたけど、スクランは人間関係ごちゃごちゃしているように見えるが
実は殆ど1対1での関係が複数あるだけで、AとBの関係とAとCの関係は切り離して描かれているから
BとCも殆ど絡まない。で一旦誰かのモードになると他の登場人物を使いにくくなるっていうのがあった。
要は最初から、天→烏、播→天、沢→播、八→播、の関係が順に描かれてるってこと。

今の本編の八雲−播磨に沢近が不自然なまでに絡んでこないことから見るに
作者は3人以上の複雑な人間関係を描けないんじゃないかな。

って答えにもなんにもなってないですね…

あとクズリさんGJです。押しつけがましいですが、
願わくは播磨視点による、天満八雲沢近が絡んでくる作品を読んでみたいです。