太陽が沈み、赤く染まっていた空を闇が静かに包み込んでいく。昼間の熱気も、さまざ
まな思いも一緒に。
体育祭の終わったグラウンドでは、ゆるやかに流れるオクラホマミキサーの音楽と共に
生徒達が踊りを楽しんでいる。
中心にあるキャンプファイアが放つ暖かい光を浴びながら輪になって踊る人々、もし空
からその場景を眺める事ができたなら、それはさながら夜空に咲く花火のようにも見える
のだろう。
「踊らないんですか?」
輪から少し離れた位置に腰を下ろし、みんなを眺めるようにしている麻生先輩を見つけ
ると、そっと近くに歩み寄り声をかけた。
「あんまりこういうのは得意じゃないんだ」
いつものように素っ気ない答え、私は「そうですか」とだけ返すと隣に腰を下ろす。
横を見れば先輩の横顔、炎の光で微かに赤く照らし出されたその顔は、いつも以上にそ
の凛々しさを際立たす。
「お前は行かないのか?」
「ええ、ここでいいんです」
私にそう言わせたのは、ここにいたいという正直な気持ちから。
「今日はお疲れ様でした」
「お互いにな」
二人ならんでグラウンドの片隅に座り、ぼんやりと眺めながらお互いを労う。
「リレー、すごかったです」
思い出される最後のリレー。 熾烈な争いに逆転に次ぐ逆転。 今日の体育祭の目玉は
完全に2年C組とD組のトップ争いだったと言えるだろう。