中間試験最終日の翌日の土曜日。午前中だけの授業が終わり、多くの生徒達が笑顔で学校から出ていく。
そんな中、塚本天満は妹の八雲のいる一年の教室に向かっていた。
八雲はテスト期間中、友人のサラの家に泊まると嘘をつき、どこか別の所に泊まっていた。
テストが終わり、八雲が帰って来た金曜日、彼女は八雲に真相を問い質した。
登下校を共にした播磨といたのかと聞いたが、彼女は謝るだけで何も語らなかった。
その次の日…要するに今日、八雲は朝ご飯の準備だけ済ませて、朝早くに学校へ行ってしまった。
つまり、天満は避けられたのだ。真相を聞かれないように。
彼女にとって、八雲はたった一人の家族。今まで、八雲は天満に嘘をついた事などなかった。
何も無かったのだとは信じている。だが、真相は聞いておきたい。たった一人の信じ合える家族なのだから…
八雲のいる教室に近づいた。もう、殆どの一年は下校しており、周辺は閑散としている。
「八雲ももう帰ったのかな…」天満が教室の中を覗き込むと、
そこには机に伏して寝ている八雲と、その傍で静かに待っている播磨がいた。
もちろん、播磨は八雲に漫画の原稿を見せる為にここにいる。
「播磨君…八雲が起きるのを待ってるの?」
天満に声を掛けられ、慌てて原稿の入った封筒を鞄に押し込む播磨。
「え…えーと、まあ…妹さんに用事があったんだが…起こしちゃ悪くてよ…
――いや、実はさっき一度だけ起こそうとしたんだけど、なんかすごい殺気を感じてさ。手が出せねえんだ」
「ああー…起こさなくてよかったね、播磨君!八雲は無理矢理起こそうとすると遠慮無く投げてくるんだから!
まったく、せっかくのデートの前に寝ちゃって!彼氏を目の前で待たせたらダメじゃない、八雲!
…よーし、私が起こしてあげるから、ちょっと待ってて!」
当初の目的を忘れ、誤解を解こうとする播磨を無視して、天満は八雲の前に近づいていった。