――秋晴れの空はどこまでも遠い。
午前中から綺麗に晴れ上がった空は、遙か彼方まで続いている。高さを感じさせる夏のそれとは
違い、穏やかな陽射しが降る秋の空は、ただひたすらにその遠さを示している。
そんな中、黙々と道場で型をこなしている男――花井春樹の姿があった。道場は休み、加えて
日曜日で絶好の行楽日和ともなれば、彼を除いてそこに足を踏み入れる者もなく、淡々としたその
行為は、いつ果てるともなく続けられる……はずだった。
しかし。
「精が出るね、休みなのに」
「――周防」
そこに不意にかけられる声。振り向いた春樹の視線の先にいたのは、小さく片手を上げて笑う
美琴の姿だった。その装いはカジュアルな普段着、どう見ても稽古をしにきた雰囲気ではない。
「邪魔するつもりはないからさ、続けてていいよ」
そんなことを言いながらも、入り口の脇に身体を預け、その場を動こうとしない。
「……いつからそこにいた?」
さほど答を期待していない、そんな春樹の問に対する美琴の答は、ついさっき、というものだった。
しかし、当の春樹にはその解答が正しいかどうか判断出来ない。そうか、と短い言葉だけを返し、
その理由――声をかけられる瞬間まで、まったく彼女の気配に気がつかなかったことを思い返す。
それほどまでに集中していたのか。
或いはその逆か。
もちろん、考えたところで自信に答の出せる問題ではなく、やがて諦めたように小さく溜息を
ついてから口を開く春樹。