……暇だ。
と、カウンターの裏側でつぶやいた。胸の内でだが。
時計を見やる。5時半を回った所。そして、思い出すのは両親の言葉。
『5時過ぎには帰るから、店番お願いね』
「……はぁ」
ため息を吐(つ)くと幸せが逃げると言うが、今はそんな事を気にしていられない。
5時過ぎというのは、果たして5時以降からどれほどまでの時刻なのだろうか。
まあ別段、今日は用事があるわけでもない。今の時刻がピークという訳でもない。
そういう意味では構わないのだが……。
「人間、約束は守るべきだと思う」
なんて事を声に出している時点で、思いのほか俺は疲れているらしい。
偶(たま)の休みに店番なんてさせられたらゲンナリするのは自明の理だろう。
そんなこんなで無為に時間を過ごしていると。
ガララ
「っと、いらっしゃいませ」
店の戸が開く音。声は半ば反射的に出た。
「あ、どうもこんにちは。……アレ? こんばんは?」
暖簾をくぐり、入ってきた奴を見て俺は思わず脱力した。
「……なんでお前がこの店を知ってるんだ?」