FFの恋する小説スレPart4

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1名前が無い@ただの名無しのようだ
文章で遊べる小説スレです。
SS職人さん、名無しさんの御感想・ネタ振り・リクエスト歓迎!
皆様のボケ、ツッコミ、イッパツネタもщ(゚Д゚щ)カモーン
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 ※(*´Д`)ハァハァは有りですが、エロは無しでお願いします。
 ※sage推奨。
 ※己が萌えにかけて、煽り荒らしはスルー。(゚ε゚)キニシナイ!! マターリいきましょう。
 ※職人がここに投稿するのは、読んで下さる「あなた」がいるからなんです。
 ※職人が励みになる書き込みをお願いします。書き手が居なくなったら成り立ちません。
 ※ちなみに、萌ゲージが満タンになったヤシから書き込みがあるATMシステム採用のスレです。
=======================================================================

前スレ  FFの恋する小説スレPart3
http://game8.2ch.net/test/read.cgi/ff/1073751654/l50

>>2-10のどこかに過去スレ、詳細、及び関連スレッド
2名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/30 05:37:56 ID:PyiHeoxF
【過去スレ】
初代スレ FFカップルのエロ小説が読みたい
http://game2.2ch.net/test/read.cgi/ff/1048776793/l50
*廃スレ利用のため、中身は非エロ
FFの恋する小説スレ
http://game2.2ch.net/test/read.cgi/ff/1055341944/l50
FFの恋する小説スレPart2
http://game5.2ch.net/test/read.cgi/ff/1060778928/l50
3名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/30 05:38:49 ID:PyiHeoxF
【お約束】
  ※18禁なシーンに突入したら、エロパロ板に書いてここからリンクを貼るようにしてください。
  その際、向こうに書いた部分は概略を書くなりして見なくても話はわかるようにお願いします。
【推奨】
 ※長篇を書かれる方は、「>>?-?から続きます。」の1文を冒頭に添えた方が読みやすいです。
 ※カップリング・どのシリーズかを冒頭に添えてくれると尚有り難いかも。

 初心者の館別館 http://m-ragon.cool.ne.jp/2ch/FFDQ/yakata/

◇書き手さん向け(以下2つは千一夜サイト内のコンテンツ】)
 FFDQ板の官能小説の取扱い http://yotsuba.saiin.net/~1001ya/kijun.html#kannou
 記述の一般的な決まり http://yotsuba.saiin.net/~1001ya/guideline.htm
◇関連保管サイト
 FF・DQ千一夜 http://www3.to/ffdqss
◇関連スレ
 FF・DQ千一夜物語  第五百五十夜
 http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1090908492/l50
◇21禁板
 【FF】SSで楽しみましょ〜【総合】
 idol.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1084643139/l50
 FFDQカッコイイ男キャラコンテスト〜小説専用板〜
 www3.to/ffdqss

 どうしても議論や研鑽したい方は http://book.2ch.net/bun/
 FF・DQ板SS,小説スレ批評スレ
 http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1083041110/l50

 挿し絵をうpしたい方はこちらへどうぞ http://ponta.s19.xrea.com/
4名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/30 05:43:52 ID:rnh51xQ8
保守
5名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/30 05:59:13 ID:PyiHeoxF
ヨン様ありがとう。(*´Д`*)

【関連スレッド】
このお題でFFDQ創作小説を書いてみよう
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1097481049/l50
ファイナルファンタジーS 第6幕ウオオオ
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1101474806/l50
かなり真面目にFFをノベライズしてみる。
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1091624036/l50
FFDQバトルロワイアル3rd PART2
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1101461772/l50
FFDQバトルロワイアル 番外編
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1086838551/l50
6名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/30 06:23:10 ID:rnh51xQ8
もう一回保守。頑張って
7名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/30 06:24:21 ID:rnh51xQ8
>6
>もう一回保守。頑張って
→頑張って職人の皆さん。
でした
8名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/30 07:59:29 ID:sMzI4clP
ほんとに立ったのな
約束通り2get
92get:04/11/30 08:04:50 ID:sMzI4clP
‥できなくてすまん。
10名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/30 13:36:14 ID:kiBQlFq4
即死回避
11名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/30 14:57:47 ID:IXiFxc4Y
どれくらいで即死回避?
12名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/30 17:03:09 ID:YImRR+zz
保守、保守
13名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/30 22:23:16 ID:tlkeTFoD
4様getだぜ


















気持ちだけ
14名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/30 23:11:16 ID:MsCo2HCF
言った通り、見に来たよー。乙。
15名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/01 01:15:41 ID:uYqgtt3q
このままだと落ちる?
16名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/01 02:46:50 ID:xOK23/CN
30まではほっしゅほっしゅ。

フライヤさんとダガーさんの友情ものとか読みたいなあ、と
今の隙にリクエストしてみますよ。
17 ◆Vlst9Z/R.A :04/12/01 02:53:23 ID:OQEzh9wx

       ,;r''"~ ̄^'ヽ,
      ./       ;ヽ   <いいぞ ベイベー!
      l  _,,,,,,,,_,;;;;i     ネタが出来上がるまで保全に徹するのが創作スレの住人だ!
      l l''|~___;;、_y__ lミ;l     取りあえずコピペネタで場を埋めるのが訓練されてない漏れだ!
      ゙l;| | `'",;_,i`'"|;i |   
     ,r''i ヽ, '~rーj`c=/   
   ,/  ヽ  ヽ`ー"/:: `ヽ   ホント >1は乙だぜ! フゥハハハーハァー!
  /     ゙ヽ   ̄、:::::  ゙l, 
 |;/"⌒ヽ,  \  ヽ:   _l_  彡
 l l    ヽr ヽ | _⊂////;`)  ナデナデ
 ゙l゙l,     l,|  彡  l,,l,,l,|,iノ∧
 | ヽ    ヽ   _ _>1 ・∀・)
  "ヽ     'j ヽヽ, ̄ ,,,,,U/"U,,
   ヽ    ー──''''''""(;;)   ゙j
   ヽ、_   __,,,,,r-'''''ーー'''''
18名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/01 08:05:18 ID:aaQJPkLD
朝保守
19名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/01 12:04:15 ID:aTlqzX2s
お昼休み保全ぬ
20名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/01 17:22:25 ID:mK7/ROqx
ほっしゅほっしゅ
21名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/01 18:33:58 ID:n8w5NYm9
保全ですよー。
ところで、4様と聞いて「微笑みの貴公子」を連想しますた。












ワッカで。
22名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/01 21:36:38 ID:NOBlP6vO
セッツァーとダリルで一つ。
23名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/02 00:46:24 ID:hblKcdC8
マッチョなマッシュで漫才きぼんぬ。
24名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/02 01:13:29 ID:FC0i37v3
リルム×シャドウで
シャドウ×リルムでも、それはそれで
25名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/02 08:38:01 ID:aVFOA+Qe
シャドウ(*´Д`*) 朝のほっしゅほっしゅ
26名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/02 17:20:28 ID:3xTaSkCK
ジェクトの愉快な大冒険キボンヌ
27名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/02 23:25:10 ID:KO2ttgay
夜保守。きゅっ。
28名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/03 00:33:42 ID:bnPqACeZ
即死回避。
29名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/03 01:55:25 ID:bnPqACeZ
チョコボの大冒険で一つ。チョコボが好きだ。
30名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/03 03:03:32 ID:bnPqACeZ
「へいか けっこんけっこん!」
31名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/03 03:04:40 ID:bnPqACeZ
あと、カイエンが手紙書いてたあの女の人とか。
32名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/03 09:05:41 ID:mkj+f5M0
モーグリ物語とか。6なら悲恋か?

朝保守
33名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/03 17:48:07 ID:B9/+9Uv4
夕方保全。

モグ物語いいなあ。崩壊後の世界に佇む竜騎士、その悲恋ですか?
9のモグタ、モグミも可愛いなー。ジタンに救出されるまでが大冒険で、
それ以降は……モーグリもので成人鯖に移動?!
34名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/04 00:27:38 ID:3PMCMrFR
 HPが低くて、隣で一緒に戦っていても常に冷や冷やしていた恋人(モーグリ)が遺していった
お守りを見つめながら、洞窟で一人物思いに耽ってみたり(FF6)
 何度も何度も呼び出されては「特に用はない」と謂われ、その度に野を請え山を越え
帰る途中に、人(モーグリ)生について考えてみたり(FF9)

モーグリが活躍するシリーズって実は案外少ないんじゃないでしょうか?
と思いながら夜保守
35名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/04 07:42:03 ID:392j/T9+
朝の保守。シリアスモーグリカッコいい!「特に用はない」ワロタ。
そしてラグナのおとぼけ珍道中きぼんぬ。
36名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/05 01:45:50 ID:afMxvsrZ
深夜保守
ここはやっぱギルガメッシュのお宝鑑定でシリアスにw
37名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/05 14:29:36 ID:bN4OiiIV
お昼にほっしゅ。
10のようじんぼうもいいなあ。
38名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/06 08:05:02 ID:gYIsSY6x
朝保全。
こそっとBCきぼぼんぬ。
39名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/06 16:46:43 ID:AmSxgs6u
夕方保守

忠犬ダイゴロウ(だっけ。ようじんぼうの相棒)物語で。そういや8や6にも出てくるんだよな。
40名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/06 16:49:13 ID:AmSxgs6u
↑犬のこと
41名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/07 04:10:26 ID:jlch6l7k
早朝保全ぬ。
ダイゴロウ(・∀・)イイ!!お茶目なアンジェロ物語もいいなあ。
42名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/08 09:28:37 ID:+RDMx7+L
保全
43名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/09 03:43:15 ID:mOGyCioZ
キスティス先生のお話きぼんぬ。
44名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/09 18:50:04 ID:4DjIVF03
鞭いいよ鞭ハァハァ保守!!
45名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/10 06:53:15 ID:qNrk/+hK
キスティス先生の試験受けて死に掛けたり、目からビーム喰らったり……
夢のような学園ライフだ'`ァ'`ァ(*´Д`*)
46名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/10 09:00:45 ID:+3NfDWq7
そこで臭い息ですよw
47名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/11 18:54:49 ID:I/FAL2sq
キスティス先生に鞭打たれながら、試験受けたら楽しそうだなあ。
あっちの学園だと留年しそうですが。
48名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/13 00:30:35 ID:1QhbwPYi
ほっしゅ保守補習
49R@no-name ◆Vlst9Z/R.A :04/12/13 03:15:58 ID:r5RUZ0Fm
すいません、寝オチ前にちょっとラグナタン置いておきますね
   /////

 敵軍の偵察という任務を受けて戦地を行くのは、ガルバディア陸軍に名を轟かす、
知らぬ者なしの第08小隊。
 巨熊をもなぎ倒す銛使いの大男。
 三つ又の尾をなびかせる褐色の豹。
 そして、幸運の女神のえこひいきを一身に受け、笑顔と銃弾を敵味方問わず振り
まく愛想良し。
 そう、第08小隊隊長ラグナ。彼は今日も元気である。
「今夜の食事当番はラグナ君か」
「そゆこと〜!」
 深い夜空の下でも、晴れ空の太陽のごとくお気楽なオーラを放つこの男の前では、
俊敏なる野獣に例えられるカタール使いキロスも、冷ややかな気迫と鋭利な牙を黒い
瞳の底に潜める。時には、ラグナの滑稽で大げさな行動に、貴重な笑みさえこぼすこと
もあった。
「で、この煮込まれている食材は、一体何かね?」
 キロスがたき火にかけられた鍋の中身を指さして尋ねた。
「現地調達、だそうだ」
「細かいことは、気にしなーい!」
 熊どころか、鯨でも仕留められそうな銛の手入れをしていたウォードが代わりに
答えた。彼自身も、大熊のような巨体をしていた。
「なあ、キロスまだアレ残ってっか?」
「ん?」
「あのからーーいやつ!」
「ああ……大切に使ってくれよ、家族が持たせてくれた大切な品なんだ」
「わーってるって!」
50R@no-name ◆Vlst9Z/R.A :04/12/13 03:16:45 ID:r5RUZ0Fm
 キロスが渡したガラムマサラを豪快に振り入れると、ぐりぐりと鍋をかき混ぜる。
謎の切り身がスープの中で上下に踊った。
「さーてぇ、でっきった〜っと!」
「もう一度聞くが、この料理の材料は……」
「あ〜? いいじゃんかよー、食って美味けりゃそれでよし! なっ!」
 飯ごうの蓋にやたら焦げ目のついた飯を盛り、その上に鍋で煮込んでいたものをかける。
スパイスの効いた湯気に、周囲が一瞬、ターメリックの色に染まった。
「いっただっきまーす!」

 真夜中の森がざわめく。
 かなしや、かなしや。ああ、かなしや。
 スダジイの若者が殺された。長の自慢の種だった、二十六番目の孫が死んだ。
 かなしや、かなしや。ああ、かなしや。
 村の子供を守るため、鉄のつぶてに当たって死んだ。
 若者を殺したニンゲンは、頭をもぎ取り、肉を切り刻んだ。
 ばらばらにした亡骸を、袋に詰め込み担いで逃げた。
 かなしや、おそろしや。
 なんとむごいことだろう。
 ゆるせぬぞ、ゆるせぬぞ。
 ゆるさぬぞ、ゆるさぬぞ。
 ニンゲンを探せ! ニンゲンを探せ!
 ゆるせぬぞ、ゆるせぬぞ。
 ゆるさぬぞ、ゆるさぬぞ。

   /////
何かオチが透けてますけど続きます⊂⌒~⊃。Д。)⊃
51名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/13 10:10:05 ID:gtZSGBCE
キタァァァ(゚∀゚)ァ( ゚∀)ァ( ゚)ァ( )ァ(` )ハァ(Д`)ハァ(;´Д`)ハァハァ
お茶目な3匹が素敵です。続きを楽しみにしてます!
52名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/14 22:27:59 ID:iAP4oy2g
GJ!
53名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/15 09:48:15 ID:rAbnd3wK
「ねぇ、君はどうして・・・僕について来てくれているの?」

突然のラムザの問いに、私はすぐには答えることが出来なかった。


〜或る凡庸キャラの恋〜


ここはポエスカス湖のほとり、私達は今、野宿をしている。
私達は異端者、常に安息の時は無い。いつ刺客が襲ってくるかわからない。
それ以前に、モンスターや夜盗に襲われる危険性の方が高いのだけど・・・。
休む時はいつも交代で番をしている。今回は私とラムザの二人っきり。
他の皆はぐっすり眠っているようだ。

『何故って・・・どうしてかしらね。流れでそうなっただけよ。』
「でも君は、君の家は・・・。」
『それは誰にも言わない約束でしょ!』

私とラムザは、士官候補生時代からの長い付き合いだ。
ガリランド王立士官アカデミーでは、ラムザと私、そしてディリータとで主席を争っていた。
アカデミーに入ることができるのは貴族の子女達だけ。・・・ディリータや私は特別だったけれど。
アカデミー時代からの仲間はもう何人も死んでしまった。残っているのはもう私くらいだろうか。

『あなただって、名門ベオルブ家の出でしょう。』
「・・・ベオルブ家は騎士の棟梁だってだけさ。でも君は、その上の人間だ。」
『人間に上下なんて無い。これは貴方の口癖でしょう? そう、あの日からの・・・。』
54名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/15 09:50:10 ID:rAbnd3wK
あの日。骸旅団せん滅作戦で、ティータが殺された日。
私達がラムザとともに騎士団を去ったあの日。あの日以来ラムザは変わった。
いや、今も変わり続けていると言っていい。既に多くがラムザに従い、ついて来ている。
あの「雷帝シド」さえ我々の仲間になったのだ。
ラムザは否定するだろうが、今まで以上に遠い存在になってしまった気がする。
まだ「異端者」と呼ばれる以前の、名門ベオルブ家の末弟だった頃の方が幼い顔をしていたものだ。

「そうだけど・・・あの日、君は僕について来る必要はなかったはずだよ。いや、アカデミーに入学すること自体・・。」
『・・・・・・。』
「君は・・・王家の人間だ。何もしなくても、地位と名誉は確約されていたようなものじゃないか。」

そう、私は王家の人間。オヴェリア姫とも遠い親戚に当たる。とは言っても王家を継承するほど正家と血縁は近くは無い。
しかし、ただ王家の血が流れているだけで、何もかも守られて静かに暮らす人生。父や母がそうであったように・・・。
私はそんな運命が嫌だった。嫌だったからこそアカデミーにも入った。もちろん王家だということは隠して。
でも特に親しい友人達、ラムザや限られた仲間にはこのことを打ち明かした。仲間達は今までと同じように接してくれた。
嬉しかった。平等に扱ってくれることが何と嬉しいことか。あの頃が一番楽しかったな。

『まぁ言うなれば・・・、あなたが行くって、そう言ったからよ。』
「えっ・・・?」
『さっきの質問よ。あなたが行くと言ったから、私はついて来たまで。あなたでなければ一緒に行かなかったかも。』
「それはどういう意味・・・?」
『・・・・・あなたに興味があったからよ。それに、世界中を見て回りたかったしね。』
「そんな!それだけの理由で・・・・。」

もちろん理由はそれだけじゃない。
55名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/15 09:52:11 ID:rAbnd3wK
『何よ今さら。もしかして私を除名したがっているわけじゃないでしょうね。』
「ま・・まさかそんな! 君は頼りになるし戦力になる。君に抜けられると僕が困る。」
『何が「頼りになる」よ。散々こき使っておいて・・・
 何が悲しくて算術士から踊り子からモンクにジョブチェンジしなきゃいけないのよ!』
「ご、ごめんよ・・・・。」

こんな冗談を言いあえる間柄・・・ちょっと本音も入っているけど。昔からの「仲間」。
・・・本当は、単なる興味だけでついて来た訳じゃない。「仲間」だから、そんな単純なものじゃない。
そう、私はラムザが好き。愛してる。アカデミーで初めて出会った時から。一目ぼれだった。
今までいろんな苦しいことや困難があったけれど、ラムザがいてくれたから乗り越えてこられた。

本当に旅に出た理由・・・。それは、王家という束縛から解き放たれるから。
一人の人間としてラムザに接することができる。一人の人間として、ラムザに自分の意思を伝えることができる。

焚き火の光が、ラムザの顔の陰影を揺らす。
『ま、あのまま残っていれば今頃私もホーリーナイトやテンプルナイトになれたかも。それも良かったかもね。』
「いや、君は今のジョブが一番よく似合ってるよ!」
『・・・なんですって?』

今のジョブ・・・・その腕力と体術で敵を殴り倒す。ジョブの名前は、モンク。
「あ・・いや。その・・・・あの・・ほら、強くて、男らしくて、さ・・・・。あ、その・・・・・・。」

ゴンッ!
鈍い音とともに、ラムザが頭を抱えてうずくまった。
「・・・・ひどいよ。」
『まったく・・・アンタって昔から乙女心ってモンが分かんないんだから!』

「乙女心、か・・・。」

ラムザはそう呟くと、頭をさすりながらフッと遠い目をした。
56名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/15 09:53:34 ID:rAbnd3wK
『・・・・・・アグリアスのこと、好きなの?』

あまりに突然で意外な質問だったらしく、ラムザは痛みも忘れた様子でポカンと口を開けた。
いや、ちょうど今自分が考えていることと同じ事を尋ねられて、動転したのかもしれない。
数秒後、顔が一気に沸騰し、爆発した。
「なっ!・・・ななななななっ!」
かなりの衝撃だったらしく、視点が定まっていない。
「そ、そんなことっ!なななななっ・・・・・」

なんと分かり易い奴なんだろう。
今の一行の中でラムザがアグリアスに好意を抱いていることを知らないのは、アグリアス本人と、
一部のラムザと同じ鈍感でウブな男数人くらいだ。女性達は皆、とうに気づいていることである。
まぁ、アグリアスもラムザに負けないくらいウブで鈍感で、何より頑固だけど。
この二人がいつ結ばれるかは、神様でもわかるまい。結ばれてほしいわけじゃないけど・・・。
性格上、お互い決して自分の気持ちを告白することなんて無いだろう。ましてや今は戦いの最中だ。

『まぁ、私は単に度胸が無いだけなんだけどね。』
「えっ?」
『ふふ・・なんでもないわ。さあ、そろそろ見張りの交代の時間よ。』
「ちょっ・・・。さっきの質問、どういう意味なんだよ!」
『早く寝ないと明日が辛いわよ〜。』
「待てったら!おい!」
『ムスタディオ〜、時間よ〜。起きなさ〜い。』
「ん〜・・・もうそんな時間か・・・・・・。ん?どうしたラムザ? 顔、真っ赤だぞ?」
「なっ・・なんでもないよ!」
57名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/15 09:54:46 ID:rAbnd3wK
翌朝、以前より気分が晴れてぐっすり眠れた私と対照的に、
ラムザはあまりよく眠れていないようだった。
「ねぇ、昨日の話・・・・」
『この戦いが全部終われば、話をつけるわ。』
「えっ!?それってどういう・・・」
『戦いが終わればって言ったでしょ。さあ、出発よ!』

怪訝そうなラムザを尻目に、私の気持ちは固まっていた。
戦いが終わって、平和な日々が戻れば、私はラムザに告白する。
それがどんな結果であろうと私は受け止める気だ。
悩んでばかりいる自分なんてらしくない。

今日は晴天。良い戦闘日和になりそうだ。
58名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/15 17:27:05 ID:psCg9Twd
次々キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!
爽やかで深いお話ですね。乙です!
59名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/15 18:19:15 ID:9C2LShhC
イイヨイイヨー
ようやく職人さんが集まってきたなあ
60名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/16 01:15:06 ID:hyIo2XDb
保守して多甲斐があるってもんだぜ
61名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/16 03:11:18 ID:IXCm/XHH
モンクのねえちゃんハァハァ
62名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/16 20:25:20 ID:XtVNDo/a
(*´д`*)ハァハァ
63名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/18 01:23:22 ID:AmxxmWBn
やっぱSS読めるのっていいなあ。幸せだよー。
64名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/19 00:34:18 ID:MbSPE0vQ
保守
65R@no-name ◆Vlst9Z/R.A :04/12/19 02:54:58 ID:6IaJ5TTV
ぱしっと続きいきます
   /////

 甘い、いい匂い。
 胸いっぱいに吸い込む。
 とても心地良い。
 柔らかい、温かい。
 ずうっとこのままでいたい。
「……ラグナ?」
 優しい声。
 駄目だ、まだ眠い。
「起きて、ラグナ」
「ぬぅ〜?」
 甘いささやきに目を開けると、視界にその姿が飛び込んできた。
「……ジュリア!?」
 暗闇の中でもわかるほど、艶やかな黒髪と二つの瞳。
 寝袋を満たす温もりに、ラグナは、必要以上に取り乱した。
「な、なんでぇ!? こ、こんなところに……君が?」
「会いたかったわ」
「え? お……俺も、会いたかった、けど……?」
66R@no-name ◆Vlst9Z/R.A :04/12/19 03:00:09 ID:6IaJ5TTV
 戸惑うラグナの手を取ると、ジュリアはしっかりと握り締めた。
 長くてすべすべの指が、宿り木のように絡みつく。
 ラグナの胸は、今までにないくらい高鳴っていた。
 不思議と、いつもの癖である脚の不調はなかった。
 それどころか、擦り寄ってくる太股としか思えない感触に、脛の毛も何も
全て逆立っていた。
「ラグナ、外へ行きましょう」
「へ?」
「ここは狭いわ……もっと広いところへいきましょう。ね?」
 されるがままだった。
 気付いた時には、二人はテントを抜け出し、星空の下に立っていた。

   /////
エロくはなりませんよ
多分
67名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/20 11:22:20 ID:CK7v5XIW
ジュリアキタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!
ラグナらしい独白が和みます。
どう展開するのか、わくわくしながらお待ちしています。
68 ◆JWgMJS.fpA :04/12/20 21:37:39 ID:RfRCoUnB
ギル&ファリ(FFV)で!

「なあ…」
「ん」
「どうすんだよオレ達」
「ん〜」
「…聞いてくれよ」

薄暗い闇の中、二人の男女のやり取りが聞こえる。
一人は大きな男。一人は紫の髪を持った中性的な女だった。

二人は闇の中に佇んでいた。とくに何もせずに。
「無の世界」だった。
何もない
ただ二人が居るだけの空間。

「暇だなァ、ファリス?」
「知るか」

ファリスはこの男を見るのは前にも何回かあった。
いつ会ってもひょうきんなヤツだった。相棒においてきぼりを食ったこともあった。そんなギルガメッシュにファリスはひそかに好意を持っていた。

「敵なのに」

そう自分に言い聞かせても絶対に彼は頭から離れてくれなかった。


つまらなかったらシカトしといてください。
では今日は寝ます。いつか続きを貼るので…。
駄文スミマセン
69人である証(1):04/12/21 01:39:55 ID:v4jgggqs
良い感じに作品が集まってきましたね。自分も小ネタ投下させて頂きますー。
------------------------------------------------------------


 私は「愛」という感情を知らない……。
 それを知りたいと告げたあの夜、彼はこう言ったわ。「お前はまだ若い。いずれ
分かるようになる」と。
 それから、私たちが3度目の夜を迎える事はなかった。
 彼の墓碑の前に花を手向けながら、体の奥がじんと疼く感覚がする。その正体は
分からなかった。でも、今ひとつだけはっきり分かる事がある。

 ――許さないわ、ケフカ。

                    ***

「なあ、ティナ」
 吐き捨てるように名を呼ばれ、ティナは顔を向けた。視線の先には、壁に背を
預けながら手元で器用にカードを操るセッツァーの姿があった。
「なに?」
「お前、どうしてそんなに『愛』とやらに興味があるんだ?」
 言葉こそティナに向けられていたが、視線は手元のカードに落とされたままだった。
「……」
 彼からの問いに対する答えを用意するには時間が必要だった。セッツァーはどこ
まで事情を聞いたのだろう? そんな風に思いながら、恐る恐るティナが口を開く。
「私の父は……幻獣だから」
「だから?」
 そう言われて返す言葉が出なかった。セッツァーの方をじっと見つめたまま、声の
出し方さえも全て忘れてしまったとでも言うように、ティナの頭の中は真っ白になって
しまった。
 気が付けば、どこまでもひたすらに続く真っ白な雪原の上に足跡を残していく様に,
耳から入って来るセッツァーの声を必死で追っていた。
70人である証(2):04/12/21 01:42:29 ID:v4jgggqs

「分からないことは恥ずかしいことじゃねえし、分からなけりゃ知りたいと思うのは
当然のことだぜ? そうじゃなくて俺は、それを“知ろうとする理由”を聞いてるんだ」

 ――『理由』。
 そう問われて改めて思うのは、ティナ自身が幻獣と人間の間に産まれた子という、
不安定な自分の存在に対する確たる根拠が欲しかったからなのだろう。
 生きている理由。
 ここにいる理由。

 ――相容れぬ存在だと言われていた、幻獣と人間。父と母が結ばれなければ、
    私という存在もなかった。

 ここにいるという現実。
 その現実が存在する理由。

 ――それが“愛”なのだと言うのなら、私が生まれた理由だと言うのなら……。
 雪原に一筋だけ残された足跡を追って、やっとここへ辿り着いた。そんな心持ちで
ティナは言葉を発する。
「私が……本当に人かどうかを知りたい」
「ヒトかどうか?」
 だがセッツァーは失笑混じりに問い返したのだった。ティナはそんな彼の姿を
黙って見つめている。ひとしきり笑いの波が引いてから、ようやく顔をあげた。
71人である証(3):04/12/21 01:52:38 ID:v4jgggqs

「……笑ったりして悪かった。だがな、『愛』が何なのかを知らない人間なんて
その辺にいくらでもいるぜ? 俺だってそうだ。愛なんて物が何なのか、考えた
事もねえよ」

 その意味で言ったら、俺も人間じゃねーのかもな。と笑いながら言う。
「でも……」
「お前の両親が結ばれた理由なんざ、当人同士でなけりゃ分かんねぇよ。俺らが
今さらそんな事考えたって埒があかない。それよりも」
 重要なことがある。と言ったきり言葉を発しないセッツァーの顔を見上げれば、
思いの外険しい表情でティナの方を見つめていたものだから。本能的に身を退こ
うと、彼女の体は小さく揺れた。
「言葉であーだこーだ言ったって分かるモンじゃねぇんだよ」
 壁から背を離すと、ゆっくりとティナの方へ歩み寄る。口元にだけ笑みを浮かべ
ながら、しかし目は笑っていない。
「それじゃあ、どうして?」
 無意識のうちに身を退こうとするティナの腕を掴みあげ、力任せに引き寄せる。
痛みに顔を背けた彼女の耳元で、セッツァーは囁いた。

「そうまでして知りたいか? 知りたいってんなら教えてやるぜ……体でな」

------------------------------------------------------------
*なんていうか雰囲気です、雰囲気。
72名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/22 08:12:48 ID:S1V7eFNM
連続でキタ─wwヘ√レvv~(゚∀゚)─wwヘ√レvv~─ !!!
物凄い勢いでギルファリの続き、楽しみにしてます。
カジノ船オーナーと、幻獣の血を引く美人さんの会話が素敵です!
73 ◆NTVuCuAYpk :04/12/22 18:41:53 ID:fDZKUSUq
読んでくださった方がいたんですね!(涙
ありがとうございます!少しずつですが頑張りたいと思います。
74名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/22 22:50:49 ID:33LrG5XD
このスレでエロはないと思いながらも>>66>>71のつづきは
襲い襲われイクいか(ryな展開を期待してしまうのは
まだまだ青いってことですか?

ギルファリはまだ展開が読めないけど楽しみにしてますよ。5で一番好きな二人だし、今後に期待。
75 ◆IWtv9PdA6o :04/12/22 23:40:33 ID:fDZKUSUq
すみません…トリップ忘れてしまいました。新しいのに変えます。


正直、この気持ちを認めたくなかった。
海賊をやってきたファリスは、裏切りという罪がいかに重いかを知っていた。
(敵であるアイツを好きになったら、バッツ達を裏切ったことになる…のかな…)


「どうしたんだよ…黙り込んじゃって」

「…!?」

いきなり話し掛けられ、ファリスは驚く。
(今、オレはこいつのことを考えてたんだよな…)
(で…二人きり…)

「だーかーら!どうしたんだよ?聞こえてるか?」
「…おう」

彼の声を聞くたび顔が熱くなる。

「熱、あんのか…?」

彼の骨張った手が額に触れる。自分より大きく、たくましい手に額をおおわれて、ファリスは妙なくすぐったさを覚える。



毎回微妙なところで切るうえガキっぽい文章ですなぁ
76名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/25 03:38:18 ID:Ya5SIFhl
乙!
77名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/26 16:50:37 ID:71r9HZVi
グッジョブです。ドキドキするなあ。続きが楽しみですよー。
78名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/27 18:25:46 ID:+qobt8vs
このスレ復活してたんだ…

昔書いてた話が完結しないまま落ちてしまったんだが…
79名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/27 19:53:04 ID:kXbw/FZb
その場合は昔のと合わせて発表してもらいたいな。
80名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/27 20:12:29 ID:+qobt8vs
>>79
…と、いうと…どのようにですか
81名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/27 20:42:53 ID:IY8v+aQ3
>前スレの続き
こちらにログ置いてありますので。よろしければドゾ
ttp://www.geocities.co.jp/Playtown-Part/1039/novel2/1073751654.htm
82名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/27 22:47:43 ID:kXbw/FZb
>>80
いや、昔のスレは知らないからさ、以前書いた分も初めから貼ってってこと。
でも>>81がログ貼ってくれたから続きからで結構です、失礼。
83名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/27 23:27:07 ID:B2L9bzao
このスレの作品って長編が多かったから過去ログがあるのは便利だね。>>81激しく乙。
おもしろい話多かったし、この復活を機に続き投下を期待sage。
8480:04/12/28 14:48:59 ID:V2PcVUz9
…以前の投下分、今見直すとド下手だ…
でも途中まで書いた以上、最後まで書く責任みたいな物を感じますんで…

今日辺り過去の分を見直して、続きを書いてしまうです。といっても
残りは全てが終わった後の話だけですが。
85名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/30 02:33:37 ID:71N0RUgs
>>66の2行目の指の描写とかね、もうタマラン!!(*´д`)ハァハァ。エロでないのに
  エロスを感じるのは自分の妄想が逞しすぎるせいではないはず。続きまってます。
>>75はもどかしさというか初々しさというか、そんな雰囲気が(・∀・)イイ!ね。ファリス好きの
  自分はその後に期待大です。畜生ギルガメッシュめ羨ましいぞこの野郎。

それから、自分も便乗で前スレ・前々スレで未完のSSの続編投下&新作の
登場を願って期待sageしときます。
86名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/30 02:36:18 ID:71N0RUgs
……



んでもってさらに便乗で。
以下に投下するネタは、前スレが落ちる頃に書いていた代物です。
ここに続きを投下するにあたって、色んな意味で呵責はあるのですが…
今は職人の方も多いので、スレの賑わい的に扱って頂ければ幸いかと。

以下↓は粗筋めいたもの。

------------------------------------------------------
『血塗られた盾』を装備すると起きるステータス変化の裏で、装備者が
見る悪夢と、魔大戦より続く過去の歴史を追ってみた話のティナ編。
彼女は母・マドリーヌが世捨て人となって幻獣界に赴いた理由を知る
ために盾を持ち出そうとする。
結果的に魔法でエドガーを眠らせた隙に盾の持ち出しに成功したティナ
の後を追って、シャドウが飛空艇を出ようとしたが、そこで運悪くリルム
とモグに遭遇。彼女らの詮索をなんとか振り切り、ティナ後を追い彼も
外へ向かった。
その直後リルム・モグがセッツァーの部屋を訪れ、ティナ達の行き先を
聞き出そうというところから。
------------------------------------------------------
つまり、FF6のマニアックなネタ+妄想捏造脳内設定てんこ盛りなので
ご注意下さい。ということで。
87The Executor - 魂の抒情編30:04/12/30 02:42:10 ID:71N0RUgs

                    ***

 扉がけたたましい音を立てて開けられたのは、エドガーとセッツァーが話の結論を
導きだし、席を立とうとしたまさにその時だった。
「二人とも!! 一体どういうこと!?」
 入り口の前に立つリルムとモグに講義するように、扉が軋んだ音を立てて揺れている。
そんなことは気にせずエドガーとセッツァーの間へ駆け寄って来て、声をあげる少女の
周りには殺気にも似た気配すら感じられる。
「リルム!? モグ?!」
「そんなに慌てて、どうしたんだい?」
 興奮した様子のリルムを宥めるようにエドガーが声をかけるが、そんな気遣いに構わずに
2人――正確には1人と1匹、というのだろうか――は切り出した。
「あんた達シャドウになにか言われたでしょ?! かくさずに教えなさいよ!」
「ティナもいないクポ」
 しかも同時に話し出す二人の様子に、半ばエドガーは圧倒されながらも話を進めようと
試みる。
「ふたりとも落ち着いて。最初から順番に話してくれないか?」
「おちつけって……!」
 エドガーの言葉に尚も食ってかかろうとするリルムの肩を、セッツァーは無言で制す。
非難と疑問を込めた鋭い視線をリルムは傷だらけの顔に向けたが、逆にセッツァーに一瞥された
格好になった。
 こうして大人しくなったリルムの後ろで、落ち着きを取り戻したモグが戸口の横に立った
ままで話し始める。
「さっきまで一緒にいたティナがいなくなったクポ」
88The Executor - 魂の抒情編31:04/12/30 02:48:01 ID:71N0RUgs
 俺がこの部屋を訪れる前に、エドガーとティナはここで『血塗られた盾』に関する話を
していた。するとティナは、ここへ来る直前までモグと一緒にいたという事になる。
 ってことは――
「時間的にいけば、エドガーと会う直前か」
 そう言いながらエドガーに視線を向けた。彼は目を閉じ無言で腕を組んでいた。
――こいつの、こういう仕草には見覚えがある――セッツァーは眉を顰めながら
言い放った。
「お前……なに知ってやがる?」
 忘れもしない、あれは女優マリアに扮した元帝国将軍をはじめてブラックジャック号へ
招いた日だ。イカサマの仕組まれたあの茶番劇を、この男は今と同じ顔で見つめていた。
 何よりこいつの、こう言うところがセッツァーは気に入らないのだ。
「エドガー……、……。?!」
 反論を口にしたセッツァーの語調は、意に反して柔らかな響きを伴っていた。異変に
気付いてエドガーを睨み付ける視線は対照的に鋭さを帯びてはいるが、それも長くは
続かなかった。
「色お……っ!?」
 隣に立つリルムも驚いて両の目を大きく開いてエドガーを見つめ、何事かを口にしかけた
が、最後まで告げられることはなかった。
 寄り添うようにして倒れた二人を見やりながら、エドガーは静かに告げた。
「シャドウとの約束なんだ。すまない」
 当然の事ながら、倒れた二人からの返答はない。
「……もしかして……」
 エドガーから見て斜め後ろに立っていたモグが小さく呟いた声に、彼は振り返って。
「ティナの二番煎じ、だけどね。なるほど確かに効果がある策だと感心するよ」
 苦笑とも自嘲ともつかない笑みを浮かべた。――エドガーが使用した魔法がスプリルだとは
モグにも察しが付いたが、詠唱なしでそれを放てることに驚いていた。
89The Executor - 魂の抒情編32:04/12/30 02:55:19 ID:71N0RUgs
 半ば呆然と立ち尽くすモグの前で、手際よく装備を調える。慣れた仕草で機械類を
まとめて担ぎ上げると、エドガーは扉の横に立つモグの方へと歩いていった。
 ムダのない一連の動作に見とれていたモグだったが、エドガーが扉に手をかけるのを
見てようやく、はっと我に返って問いかけた。
「ど、どこに行くクポ!?」
「悪夢に囚われた姫君を、救出に」
 モグの問いに、やや演技めいた口調に大きめの動作を添えて答えた。
「……手伝ってくれるかい?」
 しかし続けてエドガーから向けられた言葉と視線は、とても真摯なものだったから、
その言葉に込められた意味をモグは考え、逡巡した。
 それでも、彼の中で出そうとしていた答えは既に決まっている。
 部屋の中央で倒れるふたりに一度視線を送って、一度ぺこりと頭を下げてから。
「もちろんだクポ!」
 そう言って、促されるまま扉の外へ出たモグの背中を見送ると、同じように部屋の
中で横たわるふたりを見つめてから、エドガーは静かに扉を閉め部屋を後にした。
90 ◆IWtv9PdA6o :04/12/30 20:28:23 ID:zMCl7OhY
久し振りに投下しますね!
なんか待たせちゃってすみません。
91 ◆IWtv9PdA6o :04/12/30 20:29:14 ID:zMCl7OhY
「ね、熱なんかない!それになんかくすぐったい!」「くすぐったいって…」

ギルガメッシュの手が額から離れた。

「やっぱりちょっとあついぞ、平気か?」
「熱なんかないって…」
「いいから!あるもんはあるの!…キツかったら俺に寄り掛かってていいからな」

目を覗き込まれてこの台詞…
今のファリスにとってこれ以上の誘惑はありえないだろう。

理性と本能が、脳裏でぶつかっていた。
(裏切っちゃダメだ…絶対に)
(でも…こいつは…)

黙々と自分と戦っていたファリスの肩に、何かが触れる。
そして優しく引き寄せられて…
ぼすっ

ギルガメッシュがファリスを抱きしめていた。

「なっ!どどうしたんだよいきなり!?」
慌てたファリスを気にしないかのようにギルガメッシュは落ち着いていた。

「何なんだよぉ…」
「ん…病人の看病を…な」
92名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/31 12:23:20 ID:a1oIWYyz
>>91
そこですかさずボーションですね!(ごめん…)
いきなりな展開でギルガメッシュ(゚д゚)ウ?……(*´д`)
ギルガメッシュ、お前ってやつはホントにおいしい役だ…。
93The Executor - 魂の抒情編33:04/12/31 12:27:09 ID:a1oIWYyz
>>87-89より。ひたすら親子ネタ)
--------------------------

                    ***

 セッツァーとリルムの2人が残された室内に、僅かな布ずれの音がしたのが
合図であるかのように。
「……舐められたモンだ」
 そう言ってセッツァーは身を起こす。それはエドガーとモグが部屋を去ってから
数分が経った後のことだった。上体を起こして周囲を見回し、室内には誰もいない
ことを確認すると、後ろに流れる見事な銀髪を掻き上げてそれを外した。
「同じイカサマに2度も引っかかるかってんだ」
 リボン。本当に便利なアクセサリーだと感心しつつも、一体これのどこに、そんな
力が宿っているのだろうと首を傾げたくなる。しかし、今はここでアクセサリーの
効能について問答している場合ではなかった。
 一刻も早く、彼らの後を追わなければならない。
(まったく、一体エドガーは何を知ってやがる)
 苛立ちと焦燥の狭間に言葉を吐き捨て、セッツァーは立ちあがろうと腰を上げかけた。
 が、それは思わぬ所から阻まれた。全く予期せぬ出来事に、無防備だったセッツァーは
思わず前につんのめりそうになる。
「……!」
 セッツァーの着ているコートの端をしっかりと握りしめたままで、未だ眠りの中にいる
幼い少女を睨み付けるように見下ろす。残念ながら彼女はエドガーの術中に落ちて
しまったのだろう、静かな寝息が聞こえる。
 しかし、この状態ではセッツァーは身動きが取れない。
94The Executor - 魂の抒情編34:04/12/31 12:34:14 ID:a1oIWYyz
 リルムの手を退かそうとするが、彼女は驚くほど強い力でコートの端を握りしめて
いた。へたに解こうとすれば、リルムを起こしてしまう。
 どうしたものか。
 考え倦ねるセッツァーの耳に、小さな、本当に小さな声が聞こえてきた。
「……ないで」
 その声に首を傾げた。――寝言か?
「いかないで」
 今度ははっきりと聞き取れた。一瞬、自分のことを言われているのかと身構えたが、
どうやらそうではないようだ。コートを握る手に力がこもり、小さく震えている。夢を見て
いるのだろうか。
「……、……」

   パパは……?
   パパはどこ行ったの?
   もう、帰ってこないの?

 セッツァーの耳に届いた声は途切れ途切れではあったが、発せられたその声が
紡ごうとしている言葉と、リルムの見ているであろう夢の内容にある程度の察しは
ついた。
(まったく世話の焼けるガキだ)
 心の中で毒づいてから、セッツァーは諦めて腰を下ろすと、リルムの横に座った。
「…………」
 こんなとき何と言ってやれば、どうしてやればいいのだろう。あいにくセッツァーには
持ち合わせの言葉がなかったので、とりあえずその場に黙って座っていることにした。
(…………)
 したのはいいが手持ち無沙汰である。慣れないことなどするモンじゃないな、と内心で
吐き捨てながら、相変わらずコートの端をしっかりと握って眠りに就いている少女を
見下ろす。もう、寝言は聞こえてこなかった。
95The Executor - 魂の抒情編34:04/12/31 12:39:45 ID:a1oIWYyz

(親父、ねえ……)

 自分にとっては縁のない存在だな、とため息を付いてから、セッツァーは天井を
見上げた。特に装飾の施されていない、うっすらと浮かび上がる木目が並ぶだけの
簡素な天井を見つめながら、退屈ではあるが決して居心地は悪くないひと時を過ごす
ことになった。

------------------------------------------------------




(某所の親子ネタに似てるなぁと、表現力のなさに凹みますが
基本的にこのネタが好きなんですね自分)


気が付けば大晦日だったよ…orz。今年もありがd! 良いお年をー。
96 【凶】 【217円】 :05/01/01 16:02:23 ID:NpC4Wy6y
保守。
97名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/01 19:00:18 ID:f/CZQEcg
あけおめ保守

今年もいっぱいSSを宜しくおながいします!の期待sage
98The Executor - 魂の抒情編35:05/01/02 17:29:20 ID:NfjasJjZ
(前話>>93-95。新年早々きな臭い話です)
--------------------------------------

                    ***

 セッツァーが天井を見上げ、リルムは夢の世界に微睡み、エドガーとモグは草原を
走り抜けているちょうど同じ頃、同じ空の下――ティナは帯剣を引き抜き、眼前の敵と
対していた。
 鬱蒼とした森の中を通り抜けようとした風が、枝々に行く手を阻まれて乾いた音を
立てている。
 時折その音に混じって、何かが抉られるような鈍い音がする。直後には必ず雄叫びが
あがる。
 それは命を絶たれる間際の者が、生への痕跡を残そうと叫ぶ声だった。


 彼女が歩いてきた道を辿るようにして、モンスターの死骸がいくつも転がっている。
森の入り口からここまで、途切れることなくそれはずっと続いていた。
 ――死神の行進――かつて帝国内で、魔導アーマー部隊の進軍の有様をそう表現
した者がいたと言う。
 実戦に配備される事こそあまり多くはなかったものの、ティナはその中でも精鋭中の
精鋭であった。『操りの輪』によって思考を完全に抑制された彼女を先頭にして続く小隊、
その後に築かれていく瓦礫と屍の山――
 将軍として名を挙げ表舞台で活躍する者達の影で、栄光とは程遠い殺戮を繰り返すため
だけの存在。それが彼女たちだった。

 もし、その者が今の光景を目の当たりにしたならば、何と言うだろうか?

 操りの輪の呪縛から逃れ、魔導アーマーの助けを借りることなく、モンスターの死体を
次々と連ねていく。
 混乱しているとはいえ彼女は今、たった一人で。なによりも自らの意志でこの行進を
実現している。
99The Executor - 魂の抒情編36:05/01/02 17:31:15 ID:NfjasJjZ
 彼女が自らの力を使い、死神として振る舞う理由はただ一つ。
 自分をこの世に産み落とした者が、この世を厭った理由を知りたかったから。
 鎌ではなく剣を持ち、父より引き継いだ幻獣の血をもって――命を奪っていく。
しかし、そうして答えが出るという訳ではない。
 それでもティナは剣を振るい、問いかけ続けた。
「あなたがこの世界を捨てようとした理由は、一体なんだったの?」
 森の奥深くへ分け入ったマドリーヌ、二度と戻らない覚悟だったのだろう。父の
記憶にはない、父と出会う前の出来事。彼女の身に一体なにが起こったのだろう?
どうしてそういう結論に達したのだろう?
「どうして、世を厭いながら……私を庇ったの?」
 森を彷徨い辿り着いた先が幻獣界。結局そこでもマドリーヌは異端視された。
人間も幻獣も本質は同じ。自分と違う者は排していく、不都合なものは消し去ろう
とする。
 ――あなたはあの時、それを知ったはず。なのにどうして……。

『お前達が“神”と呼ぶ存在、奴らも同じことをした』
 それはまた別の声が語りかけていた、覚えのない声。でも答えにはならない。

「どうしてあなたが捨てたこの世に、私だけを残して……?」
 矛盾――だと思った。
100The Executor - 魂の抒情編37:05/01/02 17:35:19 ID:NfjasJjZ



 一方、死神に追われているはずの暗殺者は、死神となった少女を追ってこの
森へと足を踏み入れた。
 深い森の中、彼女のところまで辿り着くには殆ど何の苦労もせずに済んだ。ほぼ
途切れることなく続くモンスターの死体が、行き先を教えてくれたからだ。
 それでも懲りずに襲いかかってくる小型モンスターを払いのけながら、森の奥へと
分け入っていく。その先に、彼女はいた。
 一心に剣を振るっている。その手が止まり、静寂の中にモンスターの断末魔が
響き渡った。
「……それを渡すんだ」
 どさり、と魔物が力尽き倒れる音がする。それを背景に佇むティナの背中に向け
シャドウは用件だけを短く告げた。彼女が振り返る気配はない。
「ティナ」
 二度目の呼び掛けにも答える声はない。それでもシャドウは待った。静まり返る
森の中、風さえもなく一切の音を失った世界はこの先、永遠に続くのではないかと
いう錯覚さえ与えた。
 やがて痺れを切らしたように溜息を吐いて、その後に言葉が続いた。
『この盾を受け取って、お前はどうするつもりだ?』
 ティナの声だった。だが普段の柔らかな印象は影を潜め、かわりに不気味なまでの
落ち着きと氷のような冷たさを帯びている。
 その声に違和感を感じてはいたが、怯みはしなかった。
「主の元へ返す」
101The Executor - 魂の抒情編38:05/01/02 17:44:21 ID:NfjasJjZ
『……主?』
 失笑を禁じ得ないと言った風だった。これまでの沈黙を切り裂くような笑い声が
森の中にこだました。つられたように風にそよぐ木々のざわめきが重なる。
『盾の主は私だ』
 笑いの波が引いて、憮然としたような声でティナ――の姿を借りた何者か――
が語る。そしてようやくシャドウの方を振り返って。
『そんなに欲しければくれてやる。……私に勝てれば、の話だが』
「…………」
 ふたりの間を生暖かい風が渦を巻くようにして吹き抜けた。お陰で周囲の気温が
一気に上昇したような気がする。それを示すように、マスクの下に隠れた肌の上には
じっとりと汗が滲む。
 しかし、その汗は気候の変動による生理現象だけではない。この膠着は一瞬の
うちに崩されることをシャドウは悟っている。主人の後ろでインターセプターがじっと
前方を見据えていた。

 枯れ枝を踏む僅かな音が、開戦の合図となって膠着を解き放った。
102名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/02 21:27:18 ID:6XqBn3ko
………ど、ドリル氏?
103名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/03 00:44:10 ID:e1l4MAOh
この人、以前に比べると書き込みかたが控えめになってるね。
104 ◆TJ9qoWuqvA :05/01/03 02:03:29 ID:PozryuNa
……
105ドリル装備の名無し ◆Lv.1/MrrYw :05/01/03 17:06:21 ID:At4x4uXf
>>102はFF7Aの作者さんでしょうか? 前スレ時代から完結編を楽しみに待ってます。
>>103「アッシにコメントを求められても…察して下せえ」(byヤンガス…ってDQ8ネタだ…)


前スレdat落ちの作品を投下するにあたって申し訳なさはあるんです。
需要ないことはもはや承知の上で(投下分は全うしようという)確信犯です。
このスレのいくらかの容量と、住人さんのご好意に甘んじて投下する次第ですので
今暫くお付き合い下されば幸いです。
106The Executor - 魂の抒情編39:05/01/03 17:10:33 ID:At4x4uXf
(前話>>98-101。三が日早々血生臭い話です)
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                    ***

 血塗られた盾を装備したティナが見ているのは、悪夢だった。目の前には刀の柄で
向けられた剣を受け止めるシャドウの姿がある。
 それは、悪夢のような現実。しかも剣を向けているのは他ならぬ自分自身なのである。
意識はあるのに身体が言うことをきかない。『あやつりの輪』では意識の自由も奪われて
いたから、その面では一層タチが悪い。
 ――お願いやめて!
 必死に訴えるティナの声も、彼女の口から出ることはなかった。意識の中で虚しく
響き渡る声に応えたのは、別の“声”だ。
『お前が望んだことだろう?』
 彼女は声を聞いている。盾に触れている部分から伝わる“声”は、彼女の意識に直接
語りかけていた。
 ――違う! 私はこんな……。

『教えて欲しいんだろう? なぜ私がこの世界を捨てたのか、世を厭う者の声を
聞きたかったんだろう? 今から教えてやる……死ぬことよりも苦しい生を
歩まざるを得なかった人間の……』

 悲しみを。苦しみを。そして――痛みを。

 最後のその言葉は、本当に微かにしか聞こえなかった。憎しみと怒りに打ち震えて
いる様にも感じられるその“声”は、しかしそれ以上に強く大きな悲しみを孕んでいる。
 ティナは反論できず、意識の外で繰り広げられる現実をただ見守ることしかできなかった。
107The Executor - 魂の抒情編40:05/01/03 17:12:38 ID:At4x4uXf


 鉾をまみえながら、ふたりは言葉を交わしている。
「ティナ!」
『お前はこれまでに何を奪って来た? 感情を捨てて生きるだと? そんな生ぬるい
償いで……いや、償いではないだろう? 単に自分がその重圧から逃れるためだけに
捨てたのだろう? 違うか』
 大地を蹴ると、そのまま一気にシャドウの前まで飛びかかり剣を振り下ろす。
刃を向けるわけにも行かず、繰り出された斬撃を手持ちの忍者刀で防ぎながら、間近に
いるティナに向けて言った。
「ティナ、その盾を渡すんだ」
『それで手加減でもしているつもりか? 言っておくが私は本気だ』
 普段は笑顔を見せることのない顔に、笑顔を浮かべた。しかしその笑みに感情の色は
ない。
「ティナ!!」
 シャドウは彼女の右手首を掴みあげ、剣を封じた。組み合ったまま睨み合いが続いた。
ティナは依然として笑顔を保ったままである。
『お前は私には勝てない。分かるだろう?』
「…………」
 仲間達の中でもシャドウの魔力はティナ、リルムに次いで高かった。そんな彼の感覚が、
ティナから発せられる魔導の流れに触れる。
 風はなかった。森は静寂に包まれ、木々は遠巻きに彼らふたりを見守っている。その中で、
ティナの髪だけが揺らめいている。
 それは明かに“前兆”だった。――ティナのみが使える特技・トランス――
「やめろティナ」
『自惚れるな。お前のためにこの力を使う事などあり得ない、この程度で充分だ』
108The Executor - 魂の抒情編41:05/01/03 17:16:45 ID:At4x4uXf
 その言葉に続いてティナの口から出たのは、シャドウを葬るために贈られた
ものだった。
『ファイラ』
 詠唱もなく、彼女の手から発せられた巨大な炎がシャドウだけを包み込んだ。
剣を封じただけで油断していたと今更ながら後悔した。もともと彼女は魔法を主とした
戦い方をする、警戒すべきは魔法だったのだ。掴んでいたティナの手は簡単に解かれた。
 灼熱の中で更にティナは美しくも残忍な笑みをシャドウに向け、言い放った。

『お前がこれまでに奪ってきたものは――奪ったことと引き替えに与えてきたものは
――こんな程度では済まされないだろう?』

 言うなり、腹に剣を突き立てた。
 とっさに添えた手からは血が滴り落ちた。声にならない喘ぎ漏らし、シャドウはその場に
膝をついた状態で留まった。
『倒れなかったのは誉めてやろう』
 ティナはさも楽しそうに笑いながら、見下ろしたシャドウに問いかける。
『さあ、質問に答えて貰おう。お前はこれまでに何を奪ってきた?』
 シャドウは答えなかった。荒く息を吐きながら、瞼をきつく閉じている。それは体に走る
激痛を堪える為なのか、自分に向けられた声を拒んでいるのか、にわかには判断でき
なかった。
 このまま膠着すると思われた事態を動かしたのは、思わぬ方向からあがった声である。
109The Executor - 魂の抒情編42:05/01/03 17:27:32 ID:At4x4uXf


「……シャドウ!」
「!!」
 その光景を目の当たりにしたふたりは、思わず我が目を疑った。頭の中では一瞬、
先へ進む事をためらったが、身体の方が勝手に動き出していた。
 エドガーはシャドウにかけるための回復魔法の詠唱を、隣にいたモグは槍を構え
宙を舞った。
 その姿にティナは気付いている。しかし防御の体勢に移ることはおろか、意に介して
いないとでも言うように、視線を動かすことすらもなかった。
「しま……った……クポ」
 その理由に最初に気付き声をあげたのはモグだった。宙を舞い槍を振り下ろそうと
したその時、急に浮力を失い失速した。ティナ達から少し離れた地点にふらふらと力無く
着地したモグは、顔を上げることも出来ずに呻いた。
「モグ!?」
「だ……め……だク……ポ」
 ようやく発したモグからの制止の声が届いた時には遅く、仲間の方へ駆け寄ろうとした
エドガーもその異変に気付き唇を噛んでいた。
 彼も既に術中にあったからだ。
「こ……れは!」
『愚か者。またお前か?』
 それは普段の戦闘では使うことのない――正確に言えば魔法を駆使したトラップ――
地形魔法だった。即ち、魔法を直接相手に撃つのではなく、周囲にその効力を放つのである。
魔法効力の及んだ一定領域に足を踏み入れた術者以外の人間は、耐性を持っていない限り
無条件に魔法の影響を受けてしまう。
110The Executor - 魂の抒情編43:05/01/03 17:39:56 ID:At4x4uXf
 この場合、ティナは周囲にストップの魔法を放っていた。モグがジャンプし落下点に
到達する前に領域内に及んだことで、軌道は乱され落下速度は急速に失われたのである。
 ティナの戦術は、才能と呼ぶにふさわしかった。
 ――いや、これは本当にティナの行いなのだろうか?
『飛んで火にいる……か』
 薄く笑いながら、依然としてシャドウに突き立てた剣を引き抜こうとはしなかった。
剣の刺さった箇所からじわじわと滲み出してくる血の色を、楽しそうに観察している風だ。
「ティ……ナ」
 ストップの効力のお陰で、うまく言葉すら紡げない。途切れ途切れに彼女の名を呼ぶが、
本物のティナからの反応は得られなかった。
『大人しく見ているがいい。……安心しろ、コイツの次はお前だ』
 立ち尽くすエドガーに向けてそう言い捨ててから、真下にいるシャドウに視線を戻すと
中断していた問いを再開した。
 しかし、ティナからの攻撃を立て続けに二度も正面から喰らったシャドウは、もはや
虫の息だ。答えることはおろか、倒れずに体を支えているのがやっとという状態だった。



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※地形魔法なんてFF6には存在しません、多分。
  (感覚的にはFFT。…)
111R@no-name ◆Vlst9Z/R.A :05/01/04 02:46:35 ID:D47wCgT0
あけおめ投稿いくです

>74>85
残念ながら今回はダウトですよ(`・ω・´)
   /////

 風が走る音だけが、二人を包む。
 月明かりに笑うジュリア。
 黒檀の歌姫は、最も似合う色であるバーガンディのドレスを纏っている。
その肩に、吸い寄せられるようにして手を伸ばすラグナ。
「ジュリア……」
「ラグナ」
 触れ、続いて抱き締めた。
 唇と、全身に感じる温もりの波。
 湧き上がる甘い振るえに、ラグナは、目を細く閉じた。

「さて、どうしたものか」
 キロスの故郷では、泥沼に頬を摺り寄せるのは水牛と猪と象と相場が
決まっていたが、目の前でぬた遊びに疲れ果てているものは、それらと
間違えようにも間違いようがなかった。
「っこらせと」
112R@no-name ◆Vlst9Z/R.A :05/01/04 02:48:31 ID:D47wCgT0
 ウォードが上下をひっくり返す。
 すっかりにやけて鼻の下が伸びている。一先ずは、当人を沼の岸に
引き上げて、日の良く当たる草地に寝転がした。
 髪や顔も含めて、あちこちに粉っぽい物質が多量に付着していた。
 キロスは、乾いた粉末状のそれを、少しばかり指につけて見定めた。
 色合いは固く茹でた卵の黄身に、細かくほろりと崩れる様子は小麦粉
に似ていた。
「花粉……? 胞子か?」
「そのようだ」
 ウォードに言いいながら、キロスは、指先のものを払い落とした。
「フンゴオンゴの胞子は厄介だ……下手にいじらない方がいいな」
「大方、縄張りに迷い込んで追い出されたんだろう」
「どうする? 目を覚ますまで放っておくか?」
「さて、どうしたものか……」
 泥に埋もれて溺死していてもおかしくはないという状況であったが、
ラグナの顔は大変幸福そうだった。

   /////
これにて一話完結でつ
お付き合いありがとうございました⊂⌒~⊃。Д。)⊃
113名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/05 01:01:49 ID:fkUbJV1k
フラッと寄ってみたこのスレ……。ヤベェ、おもしろすぎ。
特にギルファリっ!っつぅーか、FF5・7・9・10しかやってねぇから『ティナ』って誰?みたいな感じなんですゎ。(……これで気ぃ悪ぅしはったらスンマセン…。)
でも、ほんまにギルファリ面白かったですゎ。また続きよろしゅぅお願いします♪
114名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/05 23:04:33 ID:1gTVy1Lz
あげますね!
115名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/07 10:05:08 ID:hLbaz346
ラグナ'`ァ'`ァ(*´Д`*)ティナ(*´д`*)ハァハァ乙です!
116名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/07 21:13:45 ID:u8mQOhED
うぅ〜〜〜……。早く続きぃぃぃ〜〜〜〜〜
117名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/07 21:15:31 ID:u8mQOhED
うぅ……。早く続き書いてくれぇぇぇ
118FINAL FANTASY Z ATONEMENT:05/01/07 21:27:18 ID:6ODhPzIG
(前話は前スレ413-414)

「…どうするかな」
 静かに涙を流すティファの隣で、クラウドが呟いた。
 七番街スラムは、復興しようにも既に『住人がいない』状態だ。ここに
街を作り直すことは、もうできないだろう。
 それは同時に、彼らが本当の意味で『帰るべき場所』を失ったということでもある。
「俺たちはまた…帰るべき家を失ったな」
 ティファの涙の理由は、『もう誰も残っていない』という事だった。
 ニブルヘイムにいた人々も、ここの住人も――彼らをよく知り、
なじみのある者達は誰も残っていない。
 ふたりだけだ。
 クラウドとティファのふたりだけが、また生き残った。
「…寂しいよ。大切な人達がみんな……私たちの前から、居なくなって…!」
 気の利いた言葉の一つも考えつかないクラウドが、彼女の肩に手を伸ばす。
だが、その動作は後ろからの声に遮られた。
「みんな? ははーん…俺たちは、大切でもなんでもないって事だな」
 何処から聞いていたものか、シドが煙草を吹かしながらティファの肩をぽん、と叩く。
「え? …ち、違うよ! そういう事じゃなくて…」
「帰る家なんか、好きなところにまた作れよな。悩んだりする前に、まずは……」
 シドはわざとらしく考え込むような動きをした後、両手を広げて誇らしげに言った。
「…神羅の連中に、イヤミの一つでも言ってきてやろうか!」
 その瞬間、バレットが大声を上げて走り出した。
「…どうしたの!?」
 大声を出すティファに、彼は走りながら叫び返す。
「神羅の連中が、ガラクタどもと戦ってやがったんだ! あいつら…無事ならいいんだが!」
 瞬く間に7番街から姿を消すバレット。リーブは愛機の中でふと微笑む。
 ――昔は、神羅の人間をすすんで殺していたテロリストが……神羅の人間を気遣うとは。
 嬉しい変化だと、彼は思う。そして同時に、もう一度あの無骨な男と
腹を割って話したいとも思った。
119FINAL FANTASY Z ATONEMENT:05/01/07 21:31:32 ID:6ODhPzIG
 クラウドたちの輪に戻り談笑するユフィを遠目で見ながら、セフィロスはふと思案する。
 先程はああ言ったものの、本当に自分が生きていける場所などこの世界にあるのか?

 『本体』が持たなかった感情は、同時にこんな悩みをも抱かせた。
 ――「自分は、もともとその存在自体が間違ったものなのではないか?」と。
 彼の目を醒ましてくれたエアリスは、どうする事を望んだだろう。考えても
答えは見つからない。
 しかし、答えを出す前に彼は見た。崩れ落ちた残骸の中からゼロの頭部が這い出し、
その口に小さな光が集束していく所を。その砲口が狙う先にいるクラウドの背中まで、
セフィロスの強化された視力は全てを捉えていた。

 ――クラウド!

 彼は走り出した。クラウドを殺させはしない。
 過去に消えない罪を負ったセフィロスが、もっとも許しを得たかった人物を。
「…クラウドッ!!」
「え…?」
 細いビームが放たれる。セフィロスの腕は、すんでのところでクラウドの身体を
ビームの射線上から引き離す。
 ――間に合った…。
 彼は安堵した。クラウドの身体を射抜かなかった光条が、自分の胸を貫いていた事も
――その瞬間の彼には、訪れる余地の無い痛みだった。
 胸に穴が開き、肉の灼ける焦げくさい匂いがする。だがセフィロスはそのまま
倒れる事はせず、緑色のマテリアを取り出して小さく呟く。
「…しつこい、男だ……死ね、ゼロ…!」
 青白い電光が走った。断末魔の叫びか、低い唸り声を最後にゼロの頭が四散する。
 そして――サンダガを放ったセフィロスもまた、この時やっと自分の胸を貫いた
ビームの弾痕に気が付いた。
120FINAL FANTASY Z ATONEMENT:05/01/07 21:34:23 ID:6ODhPzIG
 視界がゆっくりと傾いていく。その傷が致命傷であると理解した時、彼は
同時に『答え』を見つけたような気がした。
 ――これが、あるべき終わりだ。もともと存在すべきでない自分は、
使命を果たして星に帰る。
 だが、彼の心は晴れない。
 ここで死んでしまっては、『約束』も守れない。いや、第一…自分はまだ、
クラウドにも、誰にも、許されてなどいないのだ。
 これが運命だというのなら、なぜ星は――セフィロスに償いの場を与えてくれなかったのか?

「…セフィロス?」
 クラウドが唖然とした顔で、倒れ伏した彼を見る。その目はまるで、重体の親友を
見るかのような目つきだ。
 ――不思議な話だと、彼は思った。自分は、クラウドにとっての『仇』だというのに。
「どうした、私が憎かったんじゃないのか」
 皮肉っぽく、微笑んでみせる。しかし、その笑みもどこか弱々しい。
 即死しなかったのは、身体に施された改造の成せる業だろうか。どちらにしろ
彼に助かる道は無いが、最後に話す時間が与えられたのはせめてもの救いかもしれない。
「おまえ、俺を助け…!?」
 クラウドは膝をつき、その場に座り込む。セフィロスの口から、血が一筋流れ出てきた。
 クラウドやユフィらと同じ、赤い血だ。それがまた妙に嬉しい。
「…私は、お前に許されたかったんだ」
 びくん、とクラウドの肩が震える。
「世界の敵になっても…誰より、お前に許されたかった」
 彼は何もいわない。「興味ないね」と一蹴してくれた方が、むしろ気は楽だったろうに。
 そして、小さく呟く。
「……許すよ」
 歯を食いしばり、クラウドは続ける。
「許すから……死ぬな」
 今度こそセフィロスは驚愕した。既にそれを顔に出す体力も残っていないが、
胸のうちを静かな喜びがひたひたと満たしていくのを感じる。
「…そうか。だが、残念ながら私は――」
 ここまで言いかけて、彼ははじめてユフィが憚りもせず涙を流している事に気付いた。
121FINAL FANTASY Z ATONEMENT:05/01/07 21:37:06 ID:6ODhPzIG
「ば……バッカ野郎! 『生きる』って――そう言ったじゃないか!」
 突き刺さる少女の叫び。膨れ上がる罪悪感が、つかの間の喜びをも翳らせる。
 しかし彼は、かすかに腕を動かすとユフィの手を取った。
「……すまない。私はまた、約束を守ることもできない…」
 もうユフィは何も言えなかった。口を開いても、言葉など出てこない。
「ただ、これだけは覚えておいて欲しい」
 止まらぬ涙にかすんだ視界の中、セフィロスは笑った。
 およそこの世のものとは思えない、透き通るように美しい微笑み。
「私はライフストリームに還るが……もし、君が本当に、私に逢いたいと
思うのなら――いつでも、また逢えるということを」
 そしてここまで言って、セフィロスはクラウドの方に向き直った。
「残念だが、お前の希望に応える事はできない…だが、これだけは
言っておきたい」
 その言葉はかすれていたが、しっかりと全員が聞き取ることができた。

 ――『私を許してくれて、ありがとう』

 それきりかつての英雄は目を閉じ、何も言うことはなかった。

 クラウドの肩の震えが大きくなる。半開きになった口から、
押し出されるようにうめき声が漏れる。
「…あ…う、あぁ……!!」
 握り締めた手から、熱が失われていくのを感じる。
 ――セフィロスは、死んだのだ。
 ユフィは何も言わず、ただその手を握っていた。頬を流れ落ちる涙が
なぜこんなにも熱いのか、彼女にはわからなかった。
122FF7A書いてる物体:05/01/07 21:40:40 ID:6ODhPzIG
…書いてみて言うのもアレですが、引っ張りすぎたような気がします。

そしてドリル氏&no-name氏超GJ!
読んでて心が動く文章です。やっぱ活字…というか、文字は凄い。

まだ少し続きますが、残りは後日…
123R@no-name ◆Vlst9Z/R.A :05/01/08 02:25:27 ID:QRJnGhA/
ぎゃー台詞重複ハッケソヽ(;´Д`)ノカッコワルー
でもってFFA作者たんキタ━━━( ゚∀゚ )━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(゚  )━(∀゚ )━( ゚∀゚ )━━━!!!!

もうガンガレ、激しくガンガレ
・゚・(ノД`)・゚・ヒデオー
124名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/08 02:37:18 ID:ehJ/stTR
FF7Aキタァァァ!職人さんもキタァァァ(゚∀゚)ァ( ゚∀)ァ( ゚)ァ( )ァ(` )ハァ(Д`)ハァ(;´Д`)ハァハァ








す、すいません……大昔ここで書かせてもらった者ですが、
>81のログの引用、自分もやらせて頂いていいでしょうか……?
125R@no-name ◆Vlst9Z/R.A :05/01/08 03:12:39 ID:QRJnGhA/
>124
オーイエー!
むっちゃけ未完分丸ごと放り込んでるようなもんなんで
どしどし完結させちゃってください( ´∀`)ノシ
126名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/08 08:49:16 ID:k+UU+nmN
感謝します。・゚・(ノД`)・゚・。 ありがとう。
127名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/08 13:42:18 ID:1vzllhHm
スレの作品楽しく読ませてもらってます。職人さん乙!

特にFF7Aが前にも増してかっこ良くなってて面白かった。文のうまいとかへたは分からないけどGJ!!
128ドリル装備の名無し ◆Lv.1/MrrYw :05/01/09 00:28:13 ID:bGBKGXxe
>>111-112
読みやすいしこんなに艶のある文章には見惚れてしまいます。
一方で、ラグナを見守る彼らふたりのやれやれ感(?)が暖かみをもって伝わって来て和みました。
>>118-121
セフィロス格好(・∀・)イイ! 一瞬の出来事がゆっくりと流れる展開で事の重大性を突き付けられてる
気がしました。一時の平穏の後に訪れるこの結末に驚きつつ…・゚・(ノД`)・゚・



「英雄」…英雄そうかあれはヒデオ……血塗られた盾の正体はヒデオの盾だったノカー!!orz
129The Executor - 魂の抒情編44:05/01/09 00:35:04 ID:bGBKGXxe
(前話>>106-110。正月あけても辛気くさい話が続いてます)
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                    ***

 ――お願い、もうやめて!
 必死に叫ぶティナの声がシャドウやモグ、エドガーに届くことはなかった。
『お前が知りたいと言ったのだろう?』
 ――でも、こんなことを望んだんじゃないわ!
 ティナの意識の中に直接訴えかける声。その冷たい響きは世界のありとあらゆる物を
切り捨て、人の感情を否定する刃の様だった。
 彼女の視界に映る男はゆっくりと地面に伏した。激痛に顔を歪めて声を失い、それでも
最後まで屈しなかったのは、シャドウの本当の強さだろう。
『……ふん。つまらん』
 そう吐き捨てると、横たわったシャドウの腹から剣を引き抜いた。溢れ出す血の色は、
枯れた大地を鮮やかな赤色で染めんとする勢いで広がり、地溜まりを作った。
 ――どうして? どうしてあなたは……
『今更なにを問う?』

                    ***

 次にティナの取った行動を見て、今の彼女があまりにも狂気に満ちているとエドガーは
思った。担ぎ上げたシャドウにケアルを施し、その後リジェネをかけてやる。一見すれば
回復させたのだろうかと思ったが、それは更なる苦しみを与える為の手段に過ぎなかった。
『そう簡単に死なれてもらってはつまらない。それに、私は逃げることは許さない。たとえ
お前の最愛の者が許したとしても、だ』
130The Executor - 魂の抒情編45:05/01/09 00:39:48 ID:bGBKGXxe
 彼女の行動は、鳥の翼をもいだのと変わらない。生きたまま殺す、とはまさに
このことである。
「!」
 さらに不幸なことに、シャドウへ向けて語られた言葉に含まれた意味、それを
知らしめようとする意図、彼女の真意に――彼自身が気付いてしまった事である。
「……お、前は」
 ――それはかつての親友。奴の、“遺志”なのだと。
 ここと同じ深い森の中で別れを告げた友の名を口にしようとした。そんなはずはない、
そう思いながらもシャドウの脳裏に浮かぶ彼の姿を追い払うことはできなかった。
 ――これは、死神の導きなのだと。
『思い出したか?
 親友だと思っていた人間に見捨てられた絶望と、その後に待つ耐え難い拷問を経て、
死んだ男の声が。
 聞こえるか?           . . . . .
 お前は逃げ出したんだ。……俺の前から』
 そう言って、ティナはシャドウの襟首を掴む。その直後に一瞬、表情を無くしたように
呆然となったが、その後まるで別の何かが乗り移ったように口調が変わった。ゆっくりと
瞼を開くと、目の前のシャドウを見据えてこう告げた。
『共に歩んできた親友に背を向け置き去りにし、己の手を汚すことから逃げた。そして
逃げ延びたお前は、親友を裏切ったという罪悪からも目を背け逃げ続けた。その先に
あったのが、あの村だろう? そこで一人の女に助けられた』
 ティナは両手をシャドウの首にあてがい、ゆっくりと締め上げる。決して一息には殺さない、
苦しみを与え続ける事を望んでいる――それは死神などではなく、明かな憎悪の念をもった
人間の行う事だと知る。
131The Executor - 魂の抒情編46:05/01/09 00:43:15 ID:bGBKGXxe
『お前は親友を裏切った罪悪から背を向けた報いとして、感情を捨てようとした。
だが、それでも快楽を求める人間の本質は捨てきれなかったんだな』
 ――その女と肌を重ねることを求めた、男としての欲求を満たすために、女の
    身体を求めた。違うか?
    違うわけはない。
『幻獣だろうが人間だろうが変わりない。生き物にはその生存を維持するために
欲求がある。それを満たすことで生を維持し、次代へと命を繋いでいくのだ。だが我々は
自然の摂理だけで動いているのではない、そこに逃げ込む術を見つけてしまった。
その時から、人間は変わってしまった』
 ――ワタシも含めて。

 何かを嘆く愁いを帯びて、ティナの口から語られるその言葉は、はたして誰の
意志だったのだろう?




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テストはしたけどやっぱりズレた…orz

一応、救いようのない展開なのはこの辺までですがオチまでは後少しありますです。
いやなんていうか場違いな話投下しつづけて本当にスマンカッタ。
132The Executor - 魂の抒情編47:05/01/10 01:14:57 ID:rsjLeVhL

                    ***

 ――「人間の世界がいやになってしまったの。
    憎しみや欲望が渦まくあの世界に、嫌気がさして」

 脳裏に蘇ったのは父から受け継いだ記憶。父が見た母マドリーヌの姿だった。
 人間界について、言葉少なに語ったマドリーヌは被害者だったのだろうか。
『彼女が世捨て人となったのは、世界が彼女を絶望の淵へと追いやったがため。
お前はこんな世界を守るというのか? 守るに値する世界なのか?』
 ティナの意識に直接語りかけるその声は、今までのどれとも違う。暗く絶望に
沈んだ声。恐らくはこの盾の“主”の物なのだろうとティナは直感的に感じた。
「…………」
 だからという訳ではない。ただ純粋に、問うて来る声に返す言葉を見つけることが
できずにティナは押し黙った。
 ――違う。私の知りたかった事は、望んだのはこんな事じゃない――意識の外
と中で同時に繰り広げられるその光景に、ティナの中の何かが強く反応した。

                    ***

『そしてお前は、己の快楽を満たしてくれた心優しい女と、その快楽の先に待つ
ものからも逃げ出した』
 シャドウに問う声は休み無く続けられていた。僅かに首を横に動かした様に見
えたが、気のせいかも知れない。
133The Executor - 魂の抒情編48:05/01/10 01:20:17 ID:rsjLeVhL
 この頃には既にティナの表情からは笑みが失われ、ただ苛むように言葉を紡いでいる。
憎しみを通り越したその感情は、既に熱さえも失っていた。
『逃げ出したんじゃない……捨てたんだ。違うか?』
 「捨てた」――その言葉に、シャドウは初めて目に見えて明かな抵抗を示した。自身の
首にあてがわれたティナの手首を掴むと、恐ろしいほどの力で引き剥がそうと試みる。
 だが、反論の声はなかった。
『そんなに自分の行いと向き合うことを拒絶するか? 捨てたんだろう?』
 尚も続く問い――それは問いではなく断定だった――を断ち切るように、意識の外と中で
同時に上がった声は2つ。


「だまれ!」
「違うわ!」


 茂みの向こうから駆けてきたのはリルムだった。その姿を視界の端で捉えたエドガーは
自分の二の足を踏ませない様にと注意を促す。しかし、意に反して上手く声すら発することが
できず、結局はただ立ち尽くすだけだった。
 一方、ティナの意識の中では彼女が声を発していた。正確にはティナ自身の意志ではない。
かといってこの盾のように憑依した他人の意識でもない。自分であって自分ではない不思議な
感覚に、なによりティナ自身が戸惑っている。


「……そんなことないもん! パパがいなくたって、ママはリルムのことを大切
にしてくれたんだ!」
「……そんなことはないわ! たとえ始まりは迷いであったとしても、終わりに
は掛け替えのない存在であったのは事実」


 リルムの言葉は誰に向けられた物なのか?
 ティナの中に響いた「自分ではない」声は誰に向けられた物なのか?
 決して交じることのない二つの声はやがて補い合う様にして重なり、同じ句を紡ぐ。
134The Executor - 魂の抒情編49:05/01/10 01:28:12 ID:rsjLeVhL


『戯言を!』
 そう声高に叫ぶと、髪を振り乱してティナは掴んでいたシャドウの襟首を振り解いた。
彼女が初めて見せた動揺。追い打ちをかけるべく、意識の外と内からの言葉は続く。
「たわ言なんかじゃない! リルムは知ってる」
『黙れ小娘!!』
 苛立って声をあげたティナの周囲を取り囲むように風が渦を巻く。凄まじい魔導の
力の解放が起きる前兆であることは、その場にいた誰もが肌で感じていた。
 それでもリルムは立ち止まろうとはしなかった。撃てる物なら撃って見ろ! ティナに
向けて一直線に走るリルムの目が、そう言っている。
『ふん、ならば望みを叶えてやろう。苦しみぬいて死ぬがいい!!』
「……そう、は。い……かん!」
 シャドウは傷口を押さえ、よろめきながらも立ち上がると、迷うことなく手裏剣を投げ
つけた。だがティナは手持ちの帯剣で攻撃を難なくかわす。
『甘いわ!』
「……どうかな」
 痛みに耐えかねて再び膝をつきながらシャドウが小さく呟くと、彼の背後から空を切って
投げ放たれたダーツに目を奪われた。
『なにっ!?』
 予期せぬ追撃に、それでも彼女はとっさに防御魔法プロテスを施しダメージを軽減した。
ダーツの持ち主はシャドウの背後で余裕の笑みすら浮かべている。彼の本当の狙いは
ダーツによる直接のダメージではない、隙を生み出せればそれで充分だった。
「リルム!」
 セッツァーの声にリルムが応える。そうはいかないと振り向きざまにティナは帯剣を
振り上げた。
『それで隙を作ったとでも思ったか! 愚か者が』
 剣から迸る火柱を目にしたセッツァーから笑みは消え、思わず舌打ちする。
(……くそ、こっちの手札は読まれてたか)
135The Executor - 魂の抒情編50:05/01/10 01:35:46 ID:rsjLeVhL
 それだけではない。彼女自身が“囮”だったと言うことに、今になってようやく気付く。
それは彼らにとって致命的な誤算だった。
『ファイガ!!』
 ティナの周囲――魔法の及ぶ領域内に全員が集まるのを待って、彼女は全体攻撃
魔法を放つ――邪魔者を一掃する、その機をうかがっていたのだ。
 蹲るシャドウを助け起こそうと、セッツァーが屈み込んで手を差し出す。
「おい、シャドウしっかりしろ!」
「俺に構うな、それより」
 しかしシャドウはその手を拒む。主人の声で全てを悟ったようにインターセプターが
走り出す。それを見てセッツァーも回復薬を手に立ち上がった。こんな所で全滅している
場合ではない。
 乾いた草地はめりめりと音を立てて燃えている。立ちのぼる炎と煙の向こうから、
リルムは傷を負いながら尚もティナめがけて走り続けている。
『小娘!?』
 振り返ったティナに、リルムが舌を出す。「残念でした〜」といかにも子どもっぽい表情を
作ってすぐに。
「――サンダラ!!」
 声と共に天空より振り下ろされる光の刃は、ティナだけに向けられている。そうと分かって
いても、彼女は対抗するように左手を高らかと掲げた。
 その左手に光の刃が振り下ろされるのとほぼ同時に、ティナの背後には巨大な黒い影が
現れる。その影は鎌を持った死神――即死魔法デス――だった。
 それを見てリルムは立ち止まると、淋しそうに笑った。
「……バカだね。アンタ」
 なんの抵抗の素振りも見せなかった。ティナの放った死神が鎌を振り下ろすのを黙って
待っているかの様に。
「たわ言じゃないんだよ。だって、リルムは知ってるんだもん……」
 鎌が振り下ろされる瞬間、リルムの周囲を光が取り囲む。直視できないような眩しい光ではなく、
あたたかく頼りなげにも見える光。
 しかしそれは振り下ろされた鎌をはじき飛ばし、ついには死神の影をも貫いた。

 この指輪から放たれるその光を見たのは、二度目だった。
136名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/11 14:46:30 ID:WU+1HsE0
大作乙です
だけど最初から読んでないから前後のつながりが分かんない‥
137名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/11 18:02:35 ID:78efZ8ef
138名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/11 19:39:27 ID:i7k4Yys8
>>118-121
…悪い、2chで泣いたの初めてだw
139名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/13 23:46:08 ID:6d4iFsAp
さがりすぎあげ!
140名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/16 07:40:47 ID:OpMQIXNt
うああーーーっ
な、半ば諦めかけていた
FF7Aの続きがっっ
ドリル氏のお話の続きがっっ

嬉しいよぉ・゜・(ノД`)・゜・。

今頃気が付いて遅すぎかもしれないですが
お二人の作品、ずーっと読んでました。
最後まで頑張って下さいっ!!

そして、他の作品書かれておられる皆様も素敵なお話でドキドキです。
楽しみにしてます〜。
141名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/18 20:53:57 ID:yAFVCRLt
>>140

(・∀・)b<さんくす
142名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/21 00:29:08 ID:xZL3PaV+
あげ
143名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/24 09:02:34 ID:V1//p1E4
そろそろ保守
144名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/26 12:40:12 ID:LT/1ENZl
なくなんなぁ〜、頑張ってくれぇ
145名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/28 05:28:42 ID:JVP5gbkW
まったりほっしゅ
146名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/30 14:55:25 ID:SU8olQ4q
保全ぬ
147FINAL FANTASY Z ATONEMENT:05/02/01 20:58:19 ID:o3LNe/7A
「私が裁く暇すら、与えてくれなかったな」
 ヴィンセントの口調は冷淡だ。セフィロスの死に衝撃を受けるクラウドたちにとって、
その言葉はあまりに冷たい。
「…ヴィンセント、コイツは確かに俺達の敵だった……でも、俺たちと一緒に戦ってくれた!
アンタ、少しでも『悲しい』とか思わないのか!?」
 ティファやリーブまでも、ヴィンセントを睨む。その視線をうけて一言、彼は呟いた。

「――思わない。『悲しみ』という感情は、とうの昔に使い果たした」

「……!!」
 重苦しい沈黙。スラムの暗がりが、更に暗く見える。
 以前ティファは言った。『大事なのは過去に何があったかではなく、今何をすべきか』だと。
 レッド]Vやシド、ユフィ、リーブにティファ――というより、この場に居ないバレットと
ヴィンセントを除く全員が、かつての敵であった男の死を悼んでいる。
 しかし、ヴィンセントの憎しみはあまりにも深く根を張りすぎた。
 彼の中で時が凍り付いた『あの日』。その呪縛は、セフィロスの『本体』を
倒す事によって消えた。だが、その日からも彼は悪夢に悩まされ続けた。
 ――ルクレツィアが生きていると、知ってしまったからだ。
 消えない罪の意識はやがて、既に亡き敵への憎しみに変わる。セフィロスと
宝条こそ全ての元凶であり、ヴィンセントは彼らへの憎悪を募らせる。
 そんな矢先、当のセフィロスが目の前に現れた。最愛の人に
永遠の『死』を与えた張本人が。

 許せるはずなど無いのだ。

「…日のあたる世界で彼と笑いあうには、私はあまりにも闇を抱えすぎた。
クラウド、お前はどうしてそんなにも簡単に……彼を許せたのだ?」
148FINAL FANTASY Z ATONEMENT:05/02/01 21:00:55 ID:o3LNe/7A
 セフィロスは、ゆっくりと目を開けた。
 周囲は柔らかな光に満たされ、ふわふわと浮かぶような感覚から、自分は既に
身体を失っている事が想像できる。
 今ここに――ライフストリームの中にいるのは、セフィロスの精神だ。
 そして、目の前には穏やかな笑みをたたえたエアリス=ゲインズブールがいる。
「…これで、満足か?」
 光の流れに身を任せ、漂いながらセフィロスは問う。エアリスは頷き、
“地上に居たころ”と何ら変わらぬ声で答える。
「満足もなにも、最高よ。私が望んだ以上に、あなたは彼らを助けてくれた」
 それを聞くと、セフィロスは目を閉じた。
 ――彼らのためにやるべき事は、全てやった。あとは……。
 エアリスが彼の頬に触れる。身体がなくとも、その暖かい感触は感じる。
「それじゃあ……頑張ってね、負けないで」
 溶けるように、エアリスの姿が光の中に消えていく。一人になったセフィロスは、
エネルギーの渦巻く星の深淵へと降りていった。

 そこに、『彼』はいた。
 生前と同じ黒い服に、手にした長刀。降りてゆくセフィロスを見るその目には、
冷たい狂気が燃えている。
 何もない星の奥底で、二人のセフィロスは向かい合った。
「もう、終わりにしよう」
「何をだ…? 貴様が戻れたのなら、俺も戻れるはずだ。…諦めはしないぞ…
何度でも、俺は戻ってくる。神になるまではな…!」
 『本体』のセフィロスが、正宗を構える。それを見てとった『分身』の
セフィロスは、己が手にした百式正宗を捨てた。
「優しさ…思いやり…人間が己の邪悪さを隠すべく必要とする、自己防衛の手段。
そんなモノ、俺にはいらない。この手で貴様を……抹消する」
149FINAL FANTASY Z ATONEMENT:05/02/01 21:03:12 ID:o3LNe/7A
 刀を突き出し、『本体』が迫ってくる。『分身』は目を閉じ、両腕を広げる。

 避けるつもりはない。

 エアリスの言った『頑張ってね』という言葉が――そして、彼の死を悼んで
クラウドたちが流した涙がある。それこそが、己に打ち勝つ最高の武器だ。
「消えろっ!!」
 精神であっても、胸を貫く刃の痛みは恐ろしいほど生々しく感じる。
だが、『分身』はその刀身を掴むと、更に深く突き刺すかたちで敵を引き寄せる。
 そして、彼は憎しみの炎を燃やす自分自身を抱きしめた。
「……!!?」
「私とお前――『セフィロス』の残留思念は、残っていてはならないものだ。
だから私が、最後の役目を果たす……共に逝こう、我が半身よ」
 正宗の貫いた傷口から眩い光が溢れ、それが一瞬にして二人を包み込む。
「バカなっ…!? 俺は、貴様などと心中するつもりはないぞ!!」
 絶叫し、正宗を引き抜こうともがく『本体』。だが、その刃はまるで
固定されているかのように動かない。柄から手を離そうとしても、彼の手は既に
動かなくなっている。
「離せ、貴様は不要物だ! 消えるのは貴様だけで充分だ!!」
 空いた手で、何度も『分身』の顔を殴りつける。
 しかし彼は、自らの闇を抱きしめて離さなかった。もがいている内に、二人は
足元から細かな光となって消えていく。
 もはや完全に意味の無いことを喚き散らす『本体』に殴られながらも、『分身』には
遠い昔に約束を結んだ、少女の顔が見えていた。
 ――帰ってきた。ここに、君の心の中に。
 彼らの精神は半分以上が消え、やがて一足先に『本体』が消滅する。
 ――ヤツは最後まで知らなかった。君が与えてくれたもの……その大切さを。
 その思念の一辺も消えようというとき、彼は最後に笑った。

 ――いつでも、君と一緒にいる。そしてもう、どこへも行きはしない――。
150FF7A書いてる物体:05/02/01 21:04:46 ID:o3LNe/7A
PCぶっ壊れ続けて数週間…_| ̄|○
今見返すと精神ストーk(ryセフィロス怖いw
151名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/04 05:50:07 ID:iR3tZO1x
(;´Д`)ハァハァ 乙です!続き楽しみにしてます。
152名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/04 23:48:51 ID:x/BSqgLA
ほしゅ
153名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/07 03:23:33 ID:tiKa7qVC
FF7Aキテター
続きワクワク

他の作品の職人さんたちのも待ってるよ〜
ガンガレ
154名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/08 22:45:25 ID:Qs/800uV
わくわくしながら保全ぬ
155ドリル装備の名無し ◆Lv.1/MrrYw :05/02/10 23:53:14 ID:2qqyoPZH
久々の保守に乗じて。

>>147-149
それが「約束の地」という事なんでしょうか? ここから先の展開が全く読めずどんな締め
くくりになるのかが楽しみです。
>>140
ありがd。…自分も随分長く書いてたんだなと気付き…恐縮です、はい。
>>136
散在してます…すんません。

簡単に言ってしまえばこの話…
255回戦闘して呪いを解くという過程を経て『血塗られた盾』が『英雄の盾』になる訳ですが
20〜30回に1度ぐらい、こういうエピソードを盛り込んでリメイクして欲しいんですね。という
妄想の産物です。とにかく魔大戦とか魔大戦とかm(ry。
156The Executor - 魂の抒情編51:05/02/10 23:59:04 ID:2qqyoPZH
(前話>>129-135。最終的には青臭いオチなんですが)
---------------------------------------------

                    ***

「……そう、戯言じゃないわ。私も知っている……」
 もう会うことはできない、記憶すら残っていない。だけど母は確かに生きている
――だからこそ分かる。記憶でも理屈でもない――思いが受け継がれているから。
この身の中に流れる血が知っている、少ない記憶の中にある子ども達の笑顔が、
それを教えてくれた。
「この血の中に、マドリーヌは生きている。……私は……一人じゃないわ」
 ――分かったの、母さん。
    遅くなってしまってごめんなさい。みんなにも迷惑をかけてしまったわ。
    本当にごめんなさい……。
 長い眠りから目覚めるようにゆっくりと、ティナは身体の自由を取り戻す。自分の
意識の下に戻りつつある感覚、手に伝わる大地の感触、風の音、体に負った傷の痛み、
そして――仲間の声が。

 いつしか意識を支配していた存在は、彼女の中から完全に姿を消していた。
 主が目覚めてしまえば、もはや盾の居場所はどこにもない。

                    ***

 目を覚ませば、森に生い茂る木々の間から覗く臙脂色の空を背景に、見慣れた
笑顔が出迎えてくれた。
「ティナ」
「大丈夫かい?」
 モグとエドガーだ。彼らの声に応えようとティナは左腕を軸にして半身を起こす。
「……わたし……」
 まだぼんやりと霞む意識の中で言葉を発した。
157The Executor - 魂の抒情編52:05/02/11 00:09:39 ID:zbG+cgXv
「夢を見ていた気がする。そこで“声”を聞いたわ……とても……とても冷たい
声で……愁いでた」
 ――この世界を、そこに生きる私たちを。
    だから……。
「……救いを求めていた……」
「え?」
 ティナの口から小さく漏れ出た声。聞き返すエドガーの声に答えなかったのは
意図したことではなかったが、彼はそれ以上の追求はしなかった。
 言葉を続けていくうちに、意識がはっきりし始めてきた。戻る記憶――そして
肩を振るわせて叫ぶように声をあげた。
「シャドウ、シャドウは!?」
「……大丈夫。今、リルムが手当しているよ。命に別状はない」
 穏やかな声でエドガーが答える。大したことは無い、いつものことさ。と、そんな風に。
事実、旅の途中で傷を負うことは日常茶飯事だったし、今回も大事には至っていない。
ただ、ティナの精神的負担を減らそうと振る舞っていたのも事実だ。
「わたし……彼に酷いことを……」
 自分の手を見つめながら呆然とするティナに、モグがそっと短い手を差し出す。
「ティナのせいじゃないクポ」
 そう言って、ぎゅっとティナの親指を握りしめた。彼の言葉と握られた指から
モグの優しさと温もりが伝わってくる。
158The Executor - 魂の抒情編53:05/02/11 00:30:13 ID:zbG+cgXv
「……ありがとう」
 鼻の奥がつんとする。痛いような、くすぐったいような懐かしい感覚だった。
「少し休んだら艇(ふね)に戻るぞ。こんな場所に長居は無用だ」
 森の木々の間から僅かに覗く空を見上げながら、どこか素っ気ないセッツァーの
声が聞こえてきた。彼の言葉にティナはただ頷いた。
「……ありがとう」
 そしてもう一度、確かめるように呟いてから瞼を閉じる。心なしか肌に触れる風が
冷たく感じられた。
「もう、大丈夫」
 その風に背を押されるようにして立ち上がる。仲間達を振り返ったティナの瞳から
迷いの色は消えていた。

 ――帰りましょう、みんなで。

                    ***

「だいじょうぶ?」
 回復魔法を唱えながら、リルムは横たわるシャドウの隣に腰を下ろした。
「俺のことは放っておけ。それより……」
「ティナなら大丈夫。エドガー達が手当してるよ」
 その言葉に、シャドウは心からの安堵を漏らす。
「……そうか」
 ため息と同時に、瞼を閉じる。
「ち……ちょっとシャドウ?!」
 普段は煙たいだけのリルムの声が、今は妙なほど耳に心地よく響いていた。
こうして、彼にしては珍しく深い深い眠りに就いたのだった。


                         −The Executor - 魂の抒情編<終>−

----------
長々とすみませんです。お付き合いいただけました方、心の底からどうもありがd!
159 ◆ane/8MtRLQ :05/02/11 10:53:49 ID:Tqqv5QzM
ドリルさん完結おめでとうございます。
このお話は6のクリア後に読破しようと思って
ログを保存してました。
半年に渡る連載お疲れ様でした。
160名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/13 15:49:28 ID:iiIpDJCA
乙です!新作も楽しみにしてます。
161名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/16 05:17:07 ID:b0XoOnqw
844 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ sage New! 投稿日:05/02/15 17:43:21 ID:XcnYXXMg
フトO|Eトロト

874 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ sage New! 投稿日:05/02/15 19:22:18 ID:XcnYXXMg
ベホマンwwwwwっうぇwっうぇうぇwwwwwwww
162ドリル装備の名無し ◆Lv.1/MrrYw :05/02/17 15:15:53 ID:ATOhUSeI
保守で各作品の続編を待ちつつ…。

>>159 お久しぶりです。そして…新作楽しみにお待ちしております。
     6好きとしては姐さんテイストのFF6SSを読んでみたいなと贅沢を言ってみたり。
>>160 あたたかいお言葉をありがd

以下。
これまで、どうも手が出せなかった系統に挑戦…してみようかな、なんて。
「恋小説」スレの名に沿う様な作品になればなと思います。(あくまで希望)
163The Executor - 血の叙事編 1:05/02/17 15:22:12 ID:ATOhUSeI
続いているけど各話単体で懲りずに進行中の『血塗られた盾』話・第4弾。
今回の中心人物はロック、セリス、そして……レイチェル。
作者のこれまでの傾向と、語感からしてイヤな予感がした方はスルー推奨。
-----------------------------------------------------------




 人が嘘をつくのには必ず理由がある。
 そしてその理由は、何かを守るためである事がほとんどだ。
 大切な何かを、あるいは誰かを。
 もしかしたらそれは、自分自身なのかも知れない……。

 一方で、嘘は罪もない人を傷つける。
 だから人は、嘘を暴こうとするのだろうか。
 いや、そんなものは詭弁なのかも知れない。
 本当のところは、私にも分からない……。


 果たしてこの“嘘”は今、何を守り、誰を傷付けようとしているのだろうか?
 願わくば、その嘘によって傷つく者が出ない様にと


 ……祈らずにはいられない。
164The Executor - 血の叙事編 2:05/02/17 15:26:38 ID:ATOhUSeI

                    ***

 そう広くはない室内にテーブルを叩く乾いた音が響いた。その後に続いたのは、
男の声である。
「嘘をつくな、ロック」
 口調はいたって落ち着いている様に聞こえる。しかし、向けられる視線は鋭さを
帯びていた。ロックに対する質問――いや尋問、と言うのだろうか――は数時間
前から続いている。
「ウソなんて言ってない! 本当だ、意識が飛んで記憶が無くなったんだ!!」
「ここまで来てまだシラを切るつもりか? ……ならば良いだろう」
 ある街の宿屋の一室で行われる遣り取りを、彼ら以外で知る者はいなかった。
向かい合わせで座るふたりの間には備え付けの小さなテーブルがあった。その上に
“盾”が置かれている。
 その古びた盾を見ながら切り出す。
「これまでに盾を装備した者は4人。そのうち証言者は3人いる」
 不敵な笑みを作りながら、エドガーは立ち上がると窓辺へと歩きながら話を始めた。
「まず1人目はセッツァーだ」
 飛空艇ファルコンの甲板上を舞台に繰り広げられたデスゲイズとの死闘。ここで
彼は盾を装備し戦闘に臨んだ。
「そこで彼は旧友を見たと証言している」
「思い違いなんじゃないか?」
「さて……それはどうかな?」
165The Executor - 血の叙事編 3:05/02/17 15:36:35 ID:ATOhUSeI
 窓辺に立ったエドガーは、窓外に目を転じながら話を続ける。窓の外には傾きかけた
陽光を浴びて、オレンジ色に染まる街の風景が広がっている。
「2人目はティナだ」
 それはつい先日の出来事だ。彼女は盾を持ち出し、たったひとりで森の中に足を踏み
入れた。
「彼女の話によれば、そこでも出会ったそうだ……恐らく、それは“盾”本来の持ち主の
遺志だったのだろうな。……」
 その後の言葉を続けようとしたが、これはティナ自身が知る由もないことなので黙って
おくことにした。
「持ち主の意志……? どういうことだ」
「この盾は装備した者に混乱をもたらす。その作用自体が盾の持っている……あるいは、
盾本来の持ち主の残留思念なのだろう……現時点ではあくまでも憶測でしかないが」
 エドガーは言い終えると、室内に視線を戻して部屋の中のロックを見つめた。そして
うっすらと微笑んでみせる。
「そして3人目、それが俺だ」
「お前も見たってのか?」
「そうだな……敢えて『見た』と言うなら“悪夢”を、な」
 言っていることがよく分からない。とロックは怪訝な表情を作ってみせた。
「“何を見たか”なんて問題じゃない」
「じゃあ何が?」
 セッツァー、ティナ、そして自分。
 盾を装備した彼らが回復不能の混乱状態に陥っているのは、周囲にいた他の仲間達が
目撃している。
 そして盾を装備した者達が“見た”あるいは“聞いた”内容に、今のところ共通性は
ほとんど見られない。
 しかし、1点だけはっきりしている事がある。

「その盾を装備して『見た』あるいは『聞いた』事は皆、記憶している。それを
忘れるという事はないんだ……お前を除いて、な」

------------------------------------------------------
※……何か違うゲームの影響を受けている気がしなくもないですが。
166名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/17 19:32:19 ID:7wyzNi07
>ここまで来てまだシラを切るつもりか

大佐…いや、キャンベル(ry
167名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/19 20:12:47 ID:X8nZ4Yt4
第4弾キタァァァ(゚∀゚)ァ( ゚∀)ァ( ゚)ァ( )ァ(` )ハァ(Д`)ハァ(;´Д`)ハァハァ
168名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/22 16:39:07 ID:4WRfvQrJ
のんびり保全
169The Executor - 血の叙事編 4:05/02/25 00:22:08 ID:OEtwaw1q
>>163-165
-----------

「…………」
 エドガーの指摘に、ロックは黙って目を逸らし俯いた。その姿を見ながら、へたな
言葉で肯定するよりもよほど説得力があるな、とエドガーは内心で苦笑する。
「ロック。……あの日、もし本当にお前が盾を装備していたのならば答えて欲しいんだ」
 それを聞いて、一体どうなると言うのだろう? 聞いているエドガー自身にすら
分からなかった。それでも聞かねばならない、聞けばこの『血塗られた盾』について
何か手がかりがつかめるのではないか――そんな根拠もない希望が、彼を駆り立てて
いた。
 そんな中ただ1つだけ、確かなことがあった。
 ――ロックは今、明らかに嘘をついている。
「…………」
 それでも、ロックは何も語ろうとしなかった。そこまでして頑なに口を閉ざす理由、
この時エドガーには見当もつかなかった。
 ひとつ大きくため息をついてから、エドガーは窓の横の壁に背を預けて腕を組む。
そのまま思案に耽る様子で窓外の景色を黙って見つめていた。
 だが、決して追求を諦めたわけではない。

「私はこれまで数々の女性に胸の内を告げられた事があるけれど、どちらかと言えば
告げさせる方が自信はあるんだ……隠し事はしない事だ、ロック」

 視線は窓の外へやったまま、独り言のように呟いた。
「…………」
 言葉が出なかった。
 この男の“怖さ”は、おそらく仲間内ではロック自身が一番良く知っているだろう。
帝国との同盟締結とリターナーへの協力、相反する2つの顔を持ちながら一国を
維持するだけの器を持っている、それがフィガロ国王エドガーという男だ。
 その、器の底に潜むのは――
170The Executor - 血の叙事編 5:05/02/25 00:38:15 ID:OEtwaw1q
「君の意志の強さは良く知っているつもりだ。ならば仕方ない……“彼女”に
尋いてみるよ」
 ――時として残忍なまでの強さ、だ。
 エドガーの視線は依然として窓の外へ向けられたままだった。窓から入ってくる
僅かな風に、前髪だけが揺れている。
「ま……っ!」
 勢い良く椅子から立ち上がり、ロックは何かを訴えようと声をあげた。しかし
その後に続いたのは言葉でも声ですらもなく、放り出された椅子が転がる音だった。
「話す気になったかい?」
 そう言ってようやく顔だけをロックの方へ向けた。
「…………」
 ――強く、そして恐ろしい男だ――目の前で穏やかな笑顔を保っているエドガーを
見て、つくづくそう思う。諦めたようにため息をつくと、ロックはテーブルに置いた
自分の手をぼんやりと見つめた。
171The Executor - 血の叙事編 6:05/02/25 00:39:30 ID:OEtwaw1q



 「レイチェル」。しばらく経ってようやく彼の口から出た言葉に、エドガーは思わず
眉を顰めた。
「お前……」
 その一言で、ロックが頑なに口を閉ざす理由の一端が分かったような気がする。
「まだ、彼女の事を……?」
 魔石フェニックス――洞窟の奥に眠る伝説の秘宝。世界崩壊の混乱下でロックは
単身、彼女のために危険を冒しあの洞窟に挑んだ。苦難の末に手に入れた秘宝が
もたらした束の間の再会は、ロックを縛り続けていた過去の呪縛を解き放ったはず
だった。
 ――それとも……そうではなかった、というのか?
「…………」
 しかし、何を聞いてもロックからの返答はなかった。
「盾を装備して、お前は彼女を“見た”のか? それとも……」
 その声にはただ頷いただけだった。
「それで、どうした?」
「それだけだ」
 ロックは勢いよく顔を上げ、短く返した。突き刺さる様な視線に晒されて今度は
エドガーが閉口する。
 ――なにか引っかかる……。
 彼の発言には違和感ばかりが残った。それが何を意味するのか、今のエドガーが
知るところではなかった。


-----------
個人的に>>166が気になって夜も眠れません。(w
172名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/27 17:26:37 ID:8X6Kw0D2
カコイイ!!謎が謎を呼ぶ展開ですね(*´Д`)ハァハァ
173名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/02 13:32:31 ID:r4rxYYlv
保全
174The Executor - 血の叙事編 7:05/03/04 05:36:07 ID:apENJtl2
>>169-171
-----------

                    ***

 枯草に覆われた大地に乾いた音を立てて、女の手から剣が滑り落ちた。
「いや……、ろ、ロッ……ク……?」
 大地に落とされた血染めの剣。立ち尽くした女の口から落とされた声は、散発的に
言葉を紡ぐ。
 正気を取り戻した女が目にしたのは、愛する男が自らの血にまみれた姿。その中で
彼は微笑んでいた。「よかった」と小さく呟いた声が女の耳に届く。なにがどうなって
いるのか理解できず、女の肩は小刻みに震えている。
「……ロック、……どうして? ロック!?」
「ご……めん、な」
 吐き出される息は荒く、時折走る激痛に顔を歪ませながら、それでも男は女に
笑顔を向けた。口を開けばごめん、と何度も繰り返す。まるで壊れたおもちゃみたいに。
 彼がなぜ謝っているのか、女には理解できなかった。
「なにを謝ってるの、どうして……?」
 男に差し出そうとした自分の手を見て息を呑んだ。今さっきまで剣を握っていた右手が、
剣と同じ色に染まっている。

 ――どうして、私の手には血が……? まさか、まさか私が……私の手で――

 その先は考えたくなかった。両手で耳を塞ぎ、きつく目を閉じた。思考の中から“それ”を
追い出そうと頭を振る。何度も振った。壊れたおもちゃみたいに何度も何度も、ただ
その動作だけをひたすら繰り返す。
「セ、リ……ス」
 男は途切れ途切れに声を吐き出す。最後の力を振り絞って上半身を起こすと、女の
腕を掴み自分の方へ顔を向けさせた。
175The Executor - 血の叙事編 8:05/03/04 05:38:42 ID:apENJtl2
「俺、……」
 悪いのは君じゃないんだ、俺なんだ。必死にそう言った。込み上げてくる血が喉に
絡んでいるのか、それとも息が続かないせいなのか、声がうまく出せなかった。
それでも抱きしめれば伝わるのだと、そう思って女の肩を乱暴にたぐり寄せて強く
抱きしめた。腕から、体から、ふれあう全ての部分から愛おしい女性の温もりと鼓動が
伝わってくる。
 抱き寄せられた女は、ただ黙って男に身を預けた。伝わってくるのは熱いほどの体温と、
血のにおい。
「ごめん」
 この時、女は男が手に持っている盾の事にようやく思い至った。街を出た直後、その盾を
持っていたのは彼女だったはずだ。
 ――記憶がない。
 後から考えれば、男は恐らく盾の作用で錯乱した女からそれを奪い取ろうとして傷を
負ったのだろう。しかし当の彼女自身には仲間に鉾を向けた記憶も自覚もない。もちろん、
そんな事をする理由もない。
 それでも、現に盾は血に染まっている。文字通りの『血塗られた盾』――それは装備者に
禍をもたらす呪いの盾だ――と、そう言えばこの盾を譲り受けた時に聞かされた事を思い出した。
 いまや体の震えは全身にまで及び、唇がうまく動かない。
「あ……っい、いや……ロ、ッ」
 回復魔法の詠唱の句も、回復薬の在処も分かっているのに、体が動かない。
ただ目の前で血を流す男を見つめる事しか、その腕の中で震えていることしかできなかった。

 彼に鉾先を向けたのは、他でもない自分であるにもかかわらず。

「……なに、も……言えないけど……でも」
 息を吸い込むことが出来ない。肺に残された吐き出す為の息も底を尽きかけている。
それでも、男は必死に声を絞り出した。
176The Executor - 血の叙事編 9:05/03/04 05:41:41 ID:apENJtl2
 伝えるべき言葉がある。
 伝えなければならない。
 今、すぐに。
「俺は――」
 男の頭の中にかかっていた霧が徐々に濃くなっていく。目の前の景色は眩しい光に
包まれた様で、すぐ近くにあるはずの女の顔も判別できなくなっていた。彼の手に触れる
女の温もりを辿るように、血に濡れた指が女の顔をなぞっていく。
 ――この体が動かなくなる前に。
「ロ……ッ!」
 女が自分の名を告げる前に、彼はその唇を塞いだ。
 血の、味がする。
 口内に広がるあたたかい感触、愛おしさよりも恐怖をもたらすその口づけの深さに、
身が震えた。
 鉄錆びたにおい。それは戦場で何度も出会って慣れているはずだったのに、なぜだか
震えが止まらなかった。
 自らの手で傷付けた男に抱かれながら。女の頬を伝う透明な雫と混じり合う鮮血。
やがてそれは大地に転がった盾の上へと落とされる。
177The Executor - 血の叙事編 10:05/03/04 05:57:03 ID:xiTDGaH/
「俺、もう……」


 戦がもたらす物は、永遠の喪失。
 この男が失ったものは、私が奪った命。
 命につけられた名を「レイチェル」という。


「大、丈夫。だから」


 男は大丈夫だと微笑む。
 かつて愛した女との永遠の別れを受け入れ、乗り越えた。
 しかしたとえ彼が「大丈夫だ」と言ってくれたところで、私の罪が消えることはない。
 この手で奪ってきた、たくさんの命。その上に私が居る。
 その事実は変えようがない。

 ――私に、人を愛する資格はない。それでも……。
    それでも、止めることの出来ない感情がある。


「ロック……!」
 女の悲痛なまでの叫び声が草原に響き渡った。
178The Executor - 血の叙事編 11:05/03/04 06:01:02 ID:xiTDGaH/

                    ***

 世も明け切らぬ早朝、その声でいつも目が覚める。体中がじっとりと汗ばんでいる。
とにかく落ち着こうと深呼吸しながらも、汗で顔や首に張り付いた髪の毛にまでは気が
回らなかった。
 見た夢の内容は覚えていない。覚えているのは手に残る血の感覚と、温度を失って
いく男の姿。そして――
(……っ!)
「セリス?」
 人の気配がして反射的に振り返れば、ティナが横合いから自分の顔を覗き込んでいた。
あまりにも露骨に――それこそ拒絶するように――驚かれて、ティナは申し訳なさそうな
表情を浮かべていた。そうではないの、と否定しようと身を乗り出してティナと向き合う。
「ご、ごめんなさい……その……」
「悪い夢でも見たの?」
「え? ……え、ええ」
 気まずそうに視線を逸らすと、セリスは消え入るような声で返した。どうにも彼女に見つ
められると、心の中を見透かされてしまいそうな気がして恐いのだ。
「あたたかい物を飲んでもう少し休んだ方がいいわ。……今、お茶を入れて来るから」
 そう言ってティナは寝台から立ち上がると、部屋の扉へと向かった。出る際にそっと
タオルを置いていく。何気ない彼女の気遣い、優しさ……そう言う物に触れるたびに感じる
嬉しさ。
 一方で同時に感じる、痛み。
 その痛みの正体を知るのが恐くて、彼女はいつも目を逸らしていた。

(……夢……)
 ――あれは本当に夢だった?
179名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/04 20:09:25 ID:PGNI5SLR
…スゲー
俺は今神レベルの文章を読んでる気がする。
180名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/07 02:02:00 ID:rCW+iL8t
乙華麗です!(*´д`*)ハァハァ
181名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/10 18:50:08 ID:w3xE4r+J
ほぜんぬ
182名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/10 19:15:39 ID:BngCUhhu
あげなくて大丈夫?
183名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/12 06:42:48 ID:j+L5JZUF
最下層でも落ちませんが、たまーにマターリ上げるのもいいと思います。
んで、こつこつと保守するのも、それなりに大事かな?と思う訳ですよ。
184名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/15 01:22:21 ID:ckGkqbqR
ほっしゅ
185名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/15 19:17:57 ID:0t+NbOml
ジタンはアレクサンドリアに劇団タンタラスを結成する希ガス
186名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/15 19:36:03 ID:I8HNjMm+
↑誤爆?
187保守に来ますた(1):05/03/15 20:57:32 ID:jJxd6prm
 アレクサンドリアに大工達が駆け回る。
職工は瓦礫の山から工具を拾い、仕事に戻った工房が
復旧出来ない工房の仕事をこなす。
普段のいがみ合いを忘れ、力を合わせて町を再生しているのだ。

 槌音とざわめきの中で。王女が、修繕される劇場を見つめる。

「ジタン……」

 世界を支配する力を秘めた少年。
 ガイアを滅ぼす為の器。

 その少年は、管理者ガーランドの意思に背いた。
そして、仲間達の願いも振り切り
兄弟であるクジャを救いに向かった。
死を目前にした、荒ぶる敵を救いに。
以来、彼の消息は途絶えたままだ。

 慌しい足音と共に、王女の御前にプルート隊が転がり込んだ。
「陛下!このような物が!!」
それは、予告状だった。
封蝋で閉じられた犯罪予告。

 滑らかな巻き毛を翻し、女将軍が問う。
「如何致しますか?」
「警備の強化をお願いね。騎士団に協力を要請してくださいな」
188保守に来ますた(2):05/03/15 20:58:38 ID:jJxd6prm
 夕闇の中で、劇場にライトが灯される。
王冠を煌かせた王女の耳に、永遠の闇の声が蘇る。

『なぜ、自らの答えを認めようとしない』

 永遠の闇が残した謎。
うつろな、無からの問いかけ。
それは永劫を生き、幾度となく世界を滅ぼそうとする者。

「永遠の闇は……蘇るのでしょうか?」
王女の呟きに、スタイナーが答える。
「そうなったら。又戦う所存であります!」
「そうね」
そう言って、王女は笑った。

 幼い魔導士達が、観客席に並んだ。
庶民も貴族も、舞台を楽しみにしているようだ。
予告状が王女の手に握られる。
その内に書かれた一文。

『今宵。忘れ物を届けに伺います』

 劇場の幕が開ける。
懐かしきタンタラスの曲の中で。
189名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/15 23:40:52 ID:qzSGYXJo
てst
190名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/16 16:59:35 ID:XvYXZtlE
新作イイヨイイヨー
191名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/17 18:53:29 ID:XHyrzpd4
下にあるスレを無駄にage
192名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/20 16:58:31 ID:OtyLjyi9
193名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/03/21(月) 22:49:34 ID:ZdlSRJ6i
>>187-188 9のEDで一番感動したのは扉を開くシーンと、その前のアレクサンドリア
        復興場面だった事を思い出し、ちょっとあったかい気分になりました。乙です。


唐突に、大人数での会話で動作・心理描写ができない事に最近気が付くものの
それでも脳内錬金釜は今日も作動中なのが気がかりだ…。そんなわけで投下させて
頂きます。
194The Executor - 血の叙事編 12:2005/03/21(月) 22:55:13 ID:ZdlSRJ6i
>>174-178
------------

                    ***

 飛空艇の外では、たき火の前でカイエンが入念に刀の手入れをしていた。揺らめく
炎の光を受けて刀身が鈍い光を放っている。気むずかしそうな表情に、刀を見つめる
鋭い視線。ティナはその横顔にしばし言葉を失った。
「……この様な時間に、いかがされた?」
 カイエンは掲げた刃の角度を僅かに傾けて、刀身に映った少女に問いかける。彼女が
言葉を発するまでに少しの間があった。
「お邪魔してごめんなさい。あの……」
「眠れないでござるか?」
 刀を鞘に収めて脇へ置くと、カイエンがティナの方に向き直る。つい今し方までの険しい
表情がうそのように、向けられたのはとても柔らかい笑顔だった。
「……ええ」
 ぎこちなく頷き返すティナに、カイエンはやはり笑顔のままで答える。
「では、あたたかいお茶でも飲んでから休むのが良いでござる。まだ夜明けまで間が
ある故……」
 そう言って、湯を沸かす準備を始めるカイエンの横へティナがやって来る。
「あ、良いんです私がやります。それにカイエンこそ少し休んだ方が……」
「拙者のことなら心配ご無用。こういう事には慣れているでござる」
 そんな風にして、湯が沸くまでの時間をふたりはたき火の前で過ごすことになった。
特別に会話が弾むという訳でもなく、ふたりの周囲を夜の闇が包みこむ。
 多くの人々は眠りに就いているこの時間、鳥や虫も飛ぶことをやめ、風もそよぐのを
やめていた。時計の針も止まってしまっているような静寂、それはあの忌まわしき塔に
住まう神々でさえ、束の間の休息をとっているとでも言うように。世界からあらゆる音が
失われ、静まり返っている。
 今や世界で唯一の音といえば、時折カイエンが傍らの枯れ枝を折って炎の中にくべる
程度の小さなものしか聞こえない。
195The Executor - 血の叙事編 13:2005/03/21(月) 22:58:53 ID:ZdlSRJ6i
 ティナが何気なく横を向くと、カイエンは炎を真っ直ぐに見つめていた。いま放り込んだ
枯れ枝が燃える様をじっと見つめているのだろうか、顔はおろか視線すら微動だにしない。
 恐らく、カイエンとしても会話に困って仕方無しに炎を見つめているのだろう。その表情に、
先程までの険しさは見られなかった。
「……顔……」
「? せ、拙者の顔に何か付いてるでござるか??」
 ティナがふと漏らした言葉に、カイエンは慌てて両手を顔中にあてがって見せた。
その動作がほんの少し滑稽で、ようやくティナの表情に笑顔が戻る。
「……? ど、どうされたでござるか?!」
 まだぺたぺたと顔中に手を当てながらカイエンが尋ねる。ティナは小さく笑いながら
頭を下げた。
「ごめんなさい……その……顔が違うから」
 その言葉でようやく、忙しなく動いていたカイエンの手が止まった。
「さっき刀を見つめていた時の表情と、ぜんぜん違うわ」
「そういう事でござるか」
 ふう、とため息を付いてカイエンは脇に置いた刀を見つめた。
「そうでござるな……拙者達にとって、“刀”は思い入れが強い物でござる。これを持てば
自然と心も引き締まるでござるよ」
 言いながら、カイエンは刀に視線を落とした。目を細めて――まるで我が子を見るような
――慈しみの表情だった。もはや彼にとって刀が『道具』以上の存在であるのは尋くまでも
なかった。
 ――刃を見つめる鋭い視線。
    刀を見つめる優しい目。
    それはまるで……。
「…………」
 ――まるで……。
「どうしたでござるか?」
 カイエンは再びティナの方に顔を向ける。俯いてしまったティナは無言のまま首を振った。
196The Executor - 血の叙事編 14:2005/03/21(月) 23:03:30 ID:ZdlSRJ6i
 ぱちん。
 炎の中で小枝が割れる音が響いた。
 広がる闇と静寂の支配する世界の中で、ティナの脳裏にある男の声が蘇る。

 ――『どんな理由があろうと戦いは決してきれい事ではない。それを忘れるな』

 あの日、飛空艇を出る前にシャドウが言っていた言葉だ。
「……わたし」
 カイエンは黙って見守っている。
「母に……会ったような気がするんです」
 少女の口からゆっくりと告げられる言葉は細い糸だった。そのひとつひとつが紡がれ、
織り上げられて行くのは真実の心模様。
「分かっているつもりだったんです。モブリズのあの子達を守ろうって……私がこの
飛空艇に戻ってきたのは、戦う理由は――」
 ――新しい命を、守るため。
「でも、実際には分かっていなかったんです……」
 まるで何かを怖れる様に手で顔を覆った。
「戦うという事、他の命を奪うという事……そうまでして、何を守りたかったのか……
守りたかったのはウソじゃないんです、でも私は」
 魔物の断末魔――命を絶たれる間際の者が、生への痕跡を残そうと叫ぶ声――あの日、
数え切れない数の魔物をこの手で葬った。
「私は……帝国兵時代に……沢山の命をこの手で奪ってきました……たぶん」
 人間の悲鳴――命を絶たれる間際の者が、残される大切な者達に思いを託そうと叫ぶ
声――これまでに、きっと数え切れない人々をこの手にかけてきた。いくつもの声を聞いて
来たはずだ。
 幸か不幸か、操られていた彼女にはその記憶がなかった。そんなティナだからこそ、
シャドウは忠告したのだろう、戦いの醜さと正面から向き合えるのか? と。
「今、わたし達は」
「顔を上げなされ」
 少女の腕を掴み、カイエンは優しい口調のまま促した。ティナはいやいやと駄々をこねる
子どものように首を振る。
197The Executor - 血の叙事編 15:2005/03/21(月) 23:12:09 ID:ZdlSRJ6i
「目を開けなされ、目を閉じたままでは何も見えないでござるよ」
 その言葉に、ティナは小さく肩を振るわせた。

「……目を開け、前を向いて生きなされ。光は、前からやってくる」

 ティナは無言でカイエンを見つめた。
 この男と出会ったのは今からおよそ1年前。帝国によって祖国を滅ぼされた彼と、
元帝国兵という自分が同じ目的を持って旅をする――その時は立ち止まって考え
なかったけれど、きっとカイエンは複雑な思いで自分の姿を見ていたのだろう――
ティナはふと、そんなことを思うのだった。
「強いんですね」
「いいや……拙者も、お主達と同じでござるよ」
 そう言うと照れたように笑って、脇に置いた刀をティナに示した。

「目を閉じれば、瞼の裏には忌まわしき過去ばかりが蘇った。それは闇でござる。
拙者も……ずっとそればかりに囚われていた。目を開けていないから、光を見る
事ができずに闇の中を彷徨い続けていた」
 ――『パパ、大好きだよ。』
「そんな拙者に、目を開け前へ進めと教えてくれたのは家族でござる」
 ――『あなた……私達はいつも一緒です……。』
「この刀にはミナやシュンの思いが宿っているのでござる」
 ――『いつも、あなたの、傍に……。』

 ドマ城。
 アレクソウルとの死闘。愛する者達との再会、そして――正宗が残されたあの日の出来事。

「ティナ殿もきっと、分かり始めていると思うのでござる。今は朧気にしか見えていなかった
としても、やがて見えるようになるでござる。だから……」
 にっこりと微笑んで。
「光を、見て欲しいのでござる」
 そう言ってティナの頬にそっと手を触れた。
------------
198名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/03/22(火) 20:59:02 ID:xMurVRpm
続きキタY⌒Y⌒(゜∀゜)⌒Y⌒(。A。)⌒Y⌒(゜∀゜)⌒Y⌒Y !!!
カイエンとティナの深い台詞GJ!
199名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/03/24(木) 09:17:03 ID:7SvtPN4o
保守
200The Executor - 血の叙事編 16:2005/03/25(金) 00:46:58 ID:2r2uPGvN
>>194-197
------------

                    ***

 恐らくカイエンは悟っていたのだろう、と思う。
 それはきっと、命を奪った者が負う“傷”と、背負い続ける“闇”。

 飛空艇に戻ったティナは自室へ帰ろうとしていた。ファルコン号の内部はそれ程広くは
ないので、セリスとリルムの3人で使わせてもらっている部屋だった。リルム達は今夜、
街へ出ているので部屋にはセリスと2人しかいない。
 別にこういう日が珍しいという事はなかった。常に街の近くに停泊しているから、物資の
補給や情報収集に街へ出た者達は宿に泊まる。逆に飛空艇に全員が揃うことの方が
珍しかった。
 そして、こんな日は決まって悪夢にうなされるセリスの声で目が覚める。そのたびに、
ティナは飲み物を用意したり汗を拭いたりする。
 ティナには、セリスの気持ちが少し分かるような気がした。

 ――それはきっと、命を奪った者が負う“傷”も、背負い続ける“闇”も……
    似ていたから。

 しかし、ティナにはそれ以上セリスに近づくことはできなかった。帝国軍として戦場に
立ち、多くの人間の命を奪ったティナとセリス。だからこそ知り得る、両者の決定的な違い。
 一方は操られた“兵器”として。
 一方は人造魔道士、将軍という地位を得て自らの意志を持った人として。

 どちらも同じ罪を犯した事実は変わらない。
 しかし、背負った闇の色も傷の深さもセリスには遠く及ばない――ティナはそんな負い
目を感じていた。
 だからこそ、仲間達の中で誰よりも一番に彼女の笑顔を望んでいたのはティナだった。
共に笑いあえる日を、心の平穏を、分かち合いたいと願っていた。
 ……たとえそれが、この先一生叶わない願いだと知っていたとしても。
201The Executor - 血の叙事編 17:2005/03/25(金) 00:52:03 ID:2r2uPGvN



 部屋の扉を開ける。きい、と軋んだ音が静かな闇に溶け込んでいった。寝台の横に
置かれたランプの細々とした光が狭い部屋の一角を照らしている。ランプがもたらす
小さな光が、暗闇の中に消えてしまいそうなセリスの姿をこの世界につなぎ止めている
ように見えた。
「セリス、これ……」
 ベッドの上で半ば呆然と宙を見つめているセリスに、ティナがそっと声をかける。湯気の
立ちのぼるカップを目の前に差し出すと、ようやくセリスが顔を向けた。
「……ありがとう」
「これ、カイエンがくれたのよ」
 にっこりと微笑みながらティナはカップを手渡す。セリスは気まずそうな表情でカップを
両手で受け取ると、その中身に目を落とした。頼りなげなランプの明かりが部屋を照らし
出す中で、カイエンからもらったお茶はどんよりとした闇色をたたえていた。
 カップを口に運ぼうとして、思わず水面に写し出される自分と目が合ってしまいセリスは
一瞬、身を強張らせた。
(……この色……)
「どうしたの?」
 ティナの声にも反応しない。
(……似ているわ)
「セリス?」
 カップの中で揺れるその色は、薄闇に溶けて見えるあの色と同じだった。

 ――血の、色に。
202The Executor - 血の叙事編 18:2005/03/25(金) 00:55:27 ID:2r2uPGvN



「……セリス?」
 自分の名を呼ぶティナの声が揺れている様な気がして、カップから視線をあげてティナの
顔を見た。カップの中の水面に映った自分の顔と同じように、なぜかティナの顔も揺れていた。
彼女は複雑な表情で自分をじっと見つめている。
「ティ、ナ? ……どう」
 どうしたの、と口に出したはずの言葉が途中で途切れた。いつもと同じように振る舞って
いるはずなのに、出した声が言葉にならない。その異変に、セリス自身がようやく気付いた
からだ。
 頬を涙が伝う。
「う、そ……で……?」
 ――泣いているの? 私が。
「あ……れ、? っ……」
(なんで!? 何を泣いてるの? どうしたの!?)
 訳が分からなかった。何を考えて良いのか分からない、だから余計に不安だった。
こんなに、それも人前で涙を流すなんて事は初めてだ。
 そんな自分が情けなくて、悲しくて……止め処なく涙が溢れ出してきた。

 ――こんな姿、誰にも見られたくはなかった……。
    いいえ、見せてはならないものだから。

 流れ出る涙は止めようがなかった。だからせめて、とセリスは声を殺した。嗚咽を堪えて
肩が大きく震える。それでも歯を食いしばって、俯いたセリスはじっと何かに耐えるように
目を閉じた。瞼の間から大粒の涙が湧き出ては頬を濡らし、やがてその雫は固く握られた
拳の上に落とされた。
 ティナは何も言わなかった。そっとセリスの背に手を伸ばすと、宥めるようにさするだけ
だった。
(あなたは、独りではないわ)
 心の中で繰り返しながら、彼女が落ち着くまでの間ずっと傍から離れることはなかった。
203The Executor - 血の叙事編 19:2005/03/25(金) 00:58:02 ID:2r2uPGvN
 セリスは大きく首を振った。それが何を意味するのか、ティナは分かっている。触れて
いた手を引くべきか、一瞬ためらったが彼女は動かなかった。

 ――出ていって、お願い。一人にして!

 決して声に出されることのないセリスの叫びが、触れている手から伝わって来た。人に
涙を――仲間に心の内をさらけ出す事に――今でさえ慣れない彼女にとって、それは
苦痛以外の何物でもなかった。
 それでも、ティナは部屋に留まることを決めた。
 たとえ、どんな拒絶を受けたとしても。
(あなたは、独りじゃないから……)

 ――お願い、お願いだから出ていって!

 泣き濡れた顔がティナに向けられ、必死に何かを訴えている。声を出そうとすれば嗚咽
に混じって言葉にならず、セリスはただ真っ直ぐにティナを見つめていた。
「……セリス」
 こんな時、なんと言えば良いのか分からない。居たたまれない気持ちになって今すぐに
でも部屋を飛び出してしまいたい衝動に駆られる。だけど、ここでセリスを一人にするわけ
には行かない。
 ティナはほんの少しだけ微笑んで、セリスに告げたのだった。
204The Executor - 血の叙事編 20:2005/03/25(金) 01:02:35 ID:2r2uPGvN

「忘れないで。あなたは、独りじゃないわ。
 あなたを待っている人がいる。あなたの笑顔を望んでいる人がいる。
 どうか……その人達の事を忘れないで……」

 そうしてこの夜、セリスは初めて人目をはばかることなく声をあげて泣いたのだった。
流された涙の理由が語られなくても良い、ティナはそれ以上なにも言わず、黙って傍に
付き添っていた。
 命を奪った者が負う“傷”、背負い続ける“闇”の中で……彼女たちはそれぞれで
必死に戦っていた。
 いつか訪れる光を手にするために、それを分かち合う日のために。


 セリスが平常心を取り戻しようやく眠りに就いたのを見届けた後、部屋の外に出た
ティナを出迎えたのは目映い光だった。
 すでに太陽は地平線を離れ空の一番高い位置から、大地を照らし出していた。



------------
色々誤字がありましたが、脳内修正頂ければと思います。
205名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/03/26(土) 04:28:22 ID:VPyRk1JX
乙です。うう、切ないよう。・゜・(ノД`)・゜・。
女の子がんがれ。超がんがれ。
206名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/03/28(月) 03:24:00 ID:1R+bQyKH
ほっしゅほっしゅ
207FINAL FANTASY Z ATONEMENT:2005/03/29(火) 15:21:03 ID:XEebBGfZ
「お…オイ! なんて有り様だ、これは!?」
 『外』に通じる暗い路地は倒れた神羅兵で溢れ、動いていない者が生きているのかどう
かさえ判別するのは難しい。
 バレットはその兵士達――あるいは兵士だったもの――を踏まぬように注意しながら、
一箇所に固まったタークスの面々を見つけ、そこに駆け寄った。
「一体、何をしたらこんなことになるんだ!? ルーファウスは!!?」
 イリーナが下を向いたまま、ゆるゆると首を振る。よく見れば、タークスの3人が居る
場所は、そこから放射線状に焦げ跡のようなものが見受けられる。
「…オメガウェポン。ヤツが、このクソ狭いスラムにまで入ってきやがったのさ」
「我々は応戦し、なんとか撃破することに成功したが……社長が、ヤツの攻撃をまともに
受けてしまった」
 しばし、呆然とするバレット。彼らの口ぶりと、イリーナの態度を見ればルーファウス
がどうなったかは容易に想像がつく。

 ――今にしてわかった。俺は、あの男に期待していたのだ。

 一時はプレジデント以上の暴君と罵り、敵対した男。しかし、今回の騒動で知ることと
なったルーファウス神羅の意外な一面は、バレットに微かな期待と信頼を抱かせた。
「俺は……あの野郎を、信じてたのか…」
 黒く焦げ、灰か土かも区別できぬ地面には、ルーファウスがいた形跡など残っていない。
えぐられた大地――跡形もなく、消えてしまったのだろう。
「…クソッ!!」
 ギミックアームで、黒ずんだ地表を激しく打ちつける。皮肉るように笑った男の顔が、
目の前にちらつく。
 ――どうしてここまできて……ヤツが死ななきゃならない!?
 誰よりも部下のことを考え、己の理想を追い続けた彼が。その理不尽さに、バレット
はただ歯を食いしばり、涙を流す。
「――ほう、テロリスト風情が私のために泣いてくれるのか」
 そう。きっと彼ならそう言うだろう。 ――いや、実際に聞こえた…?
「し…社長っ!」
208FINAL FANTASY Z ATONEMENT:2005/03/29(火) 15:24:00 ID:XEebBGfZ
 驚愕した様子で、タークスの3人が顔を上げる。同時に前を向いたバレットの目の前に
確かに彼が、ルーファウス神羅がいた。
「な…てめ、生きて……?」
「フン、私は最初に言ったはずだ。『死ぬ覚悟で戦うのではなく、生きるために戦う』と
な――そうだろう、レノ?」
 やはり唖然としていたレノだが、彼に問われてやっと口を開く。
「え? ……ええ、ハイ。確かに」
 十数秒前まで回想していたものと全く同じ、皮肉な笑みがバレットを見下ろしている。
「…それを、どこかの馬鹿が早とちりをしたらしく、私が跡形もなく吹っ飛んでしまった
と思い込み、挙句泣き出す始末ではな。…出て行きにくいこと、この上なかった」
 バレットの中につかの間湧き出た喜びは瞬時に消え去り、代わって彼に似つかわしい怒
りがこみ上げてくる。
「…一瞬でも、テメーのために泣いた自分を恥じるぜ」
「是非そうしてくれたまえ。なかなか貴重なものを見られたが、私は死んでいないのだか
らな。…で、ゼロは仕留めたのだろうな?」
「当たり前だ! やることやらずに逃げ帰ってくるほど、俺は臆病じゃねえ!」
 ルーファウスの姿を確認した兵士達が、彼らの周りに集まってきた。犠牲者は決して少
なくないが、生存者も驚くほど多い。
「社長……」
「我々は…勝ったんですよね…?」
 タークス、バレット、そして全ての兵士の視線がルーファウスに注がれる。そんな中、
彼は手にしたショットガンを腰に掛け、傷ついた身体からは想像もできない声を出した。
「――神羅兵、各位! …ウェポンは消滅し、諸悪の根源たるゼロも死んだ。この戦い、
我々の――勝利だ!!」
 割れるような歓声が響き渡る。その最中、堂々と胸を張るルーファウスは確かに指導者
としての風格を持っていた。
「む、英雄達のご帰還だ」
 バレットが振り返ると、7番街からクラウド達が出てくる。しかし、セフィロスの姿は見
当たらない。
209FINAL FANTASY Z ATONEMENT:2005/03/29(火) 15:27:17 ID:XEebBGfZ
「こっちもどうやら一件落着したらしいぜ! …セフィロスはどうした?」
 ヴィンセントを除く全員が沈鬱な表情になり、ユフィが首を振った。その行動の意味をは
かりかね、彼はヴィンセントに尋ねる。
「…答えろよ。セフィロスは……なんで居ない?」
「彼は…」
 ヴィンセントが答える前に、クラウドが押し殺した声で言った。
「あいつは……ゼロの、最後の攻撃から…俺を守って……」
 その表情、口調。やっとバレットにも事情が理解できてきた。個人的な私怨が無かった
だけに、セフィロスの死に対する衝撃も大きい。
 ひと時は、共闘する仲間だった男。一度死んだ身とはいえ、彼には生きていて欲しかっ
た。生きて、罪を償ってほしかった。
 しかし、目の前で悲しみに頭を垂れる仲間を見て、彼は悟る。その願いすらも、もはや
虚しいものであるのだと。
「…そうか……もう少し、まともに話したかったんだがな」
 彼らの悲しみをよそに、ルーファウスは身を翻した。
「社長? どこへ――」
「すでに我々のやるべきことは終わった。いや、やることはこの後の方が多い」
 ユフィは彼の態度にかすかな怒りを覚えた。かつての敵とはいえ、共に戦ってくれた仲
間の死に、もう少し反応を示してもいいのではないか?
 しかし彼女は、幼い少女のままでは無かった。ルーファウスにはセフィロスの死を悼む
義理などないし、それを強制できないことも解っている。そんな現実が虚しい。
「…ゼロの言ったこと、ある意味じゃ正しいのかもしれない」
「何だと?」
「『そうして、古来よりヒトは、際限なく愚かな戦いを繰り返してきた』…仲良くできな
い人間ってのも、やっぱりいるんだよね。お互いを認め合えず、受け入れられないで、結
局は戦うばかりで……私たちがどうにかできることじゃないけどさ、なんか悲しくなるよ」

 ――『俺を生み出したのも! 全ては、ヒトの為したこと!』
 
 人間とは、結局そんなモノなのだろうか。何度戦争を起こしても、学ぶことを知らずに
ただ繰り返すだけの存在なのか――自らが滅びるまで?
210FINAL FANTASY Z ATONEMENT:2005/03/29(火) 15:34:13 ID:XEebBGfZ
 自分への問いかけでもあったユフィの言葉を受け、クラウドは呟きをもらした。
「……それでも…」
 引き上げていく神羅兵の背中に目を向けながら、彼は自分の思いを述べる。
「それでも、人は変われると思いたいな。もし遠い未来にでも、人が戦争なんてせずに、互
いを受け入れられるようになったら……そのとき、この世界は“約束の地”になれる気がする」
「…来たらいいね、そんな時代が」
 黙って話を聞いていたヴィンセントが、彼の隣に並んだ。
「私は…恐らく、これからも『彼』を許すことはできないだろう」
 今更何を、と言いかけたユフィを制して、彼は続ける。
「しかし、彼の死を悼んで涙を流せるお前たちを憎んではいない。むしろ、羨ましくさえ
ある――まずは、我々が互いを受け入れる必要がありそうだ」
 あまりに『仲間』としてなじんでいたが故に、気付かなかった。彼もルーファウスも変
わらぬ、意思を持った一人の人間だ。
 自分が悲しいからといって、同じように悲しまない彼を責めた。そのことが恥ずかしく
思えてくる。ユフィは頭を下げ、ストレートに謝る。
「あ、アンタの気持ちも考えないで……責めて悪かったよ」
「…いや、いい。墓参りくらいには行ってやろうと思っている」
 少女の顔に、ぱっと笑顔が戻る。クラウドも、次いで無表情が常のヴィンセントもとう
とう微笑んだ。
「――行こうか、俺たちも」
 クラウドの一言で、誰からともなく彼らは歩き始める。

 ――敵に突きつけられた、残酷とも言える現実。
 それでも、彼らはそれぞれの思いを抱いてハイウインドへ戻る。たとえこれがひと時の平
穏に過ぎなかろうとも、戦いは終わった。少なくとも、今は。
 『会いたいと望むのなら、また会える』
 境遇も歳も、まったく違う仲間達。その思いこそが、彼らをつなぐ絆だ。
211FF7A書いてる物体:2005/03/29(火) 15:46:33 ID:XEebBGfZ
……レッドとティファとリーブは空気かよorz
でもひとまずはこれで本編終了。あとはキャラごとのエピローグで締めます。

>>ドリル氏
まず初見の感想が「( Д) ゚ ゚」でした。
2chでこれほどの文章は見たことがない。もしかして自分が特定の板しか巡回してないから
かもしれませんがそれを差し置いても半端ない巧さです。
所々のスペース、改行が「無駄な空白」にならず、挟んだ文章が脳に染み渡る助けとなっている
ような気がします。とにかくGJ!

>>187-188 の保守氏
すっごくイイ(・∀・)!!
短い話ながら心動かされるライフストリーム(?)の流れを感じます。

「この投下が少しでも保守に繋がらん事を、切に願う…」
212名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/03/31(木) 21:47:03 ID:ucRq0Qqx
社長生きテタ─wwヘ√レvv〜(゜∀゜)─wwヘ√レvv〜─ !!
お疲れ様です。エピローグがものっそい楽しみです。
213名前が無い@ただの名無しのようだ:皇紀2665/04/01(金) 01:11:12 ID:VgQ+AbiE
FF7A良かったよー。
バレットが戦いを通して見出した指導者ルーファウスの真価、とか。
ヴィンセントの墓参りって、あれはもう彼の精一杯の妥協なのかな、とか。
だけどユフィタン、悲しみの表現の仕方は人それぞれなんじゃないか? とか。
ケット・シー出してくれケット・シーとか。(個人的な希望です)

良かった、本当に良かった。各々の行方、どんな描き方されるのか楽しみです。
214名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/03(日) 15:08:00 ID:NzVm3FLZ
保守中
215名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/06(水) 01:51:49 ID:EYZWe7O+
ほっしゅっしゅ
216名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/08(金) 16:36:40 ID:zpx4nN0a
ほぜんぬ
217名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/10(日) 19:33:27 ID:WUAKfdhb
保守まりむ
218名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/12(火) 17:41:40 ID:pI4dFZq6
保全
219名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/12(火) 18:59:17 ID:HcPKcEoV
歌舞伎役者みたい
220 ◆Vlst9Z/R.A :2005/04/15(金) 00:49:54 ID:RwLznzJ+
更新差し入れドゾー
ttp://www.geocities.co.jp/Playtown-Part/1039/index.htm
221名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/16(土) 23:13:09 ID:0mW+hUGi
更新激しく乙です!
222名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/17(日) 12:04:40 ID:vpdvHvLc
HOOSH


…静かだ……。
223名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/19(火) 06:15:56 ID:iIc0pmS4
では誰もいない隙に飛空艇(*´Д`)ハアハアしておきます。
224名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/22(金) 01:47:48 ID:HQIyOcVS
保守中
225名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/24(日) 19:38:45 ID:LzLZyguq
ほっしゅっしゅー
226名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/25(月) 17:12:06 ID:BdUgSB+w
保守。
227名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/25(月) 18:55:26 ID:QSyllbks
保全…だけじゃさみしいなあ。ここ、ギャグとか書いてもいいですか?
228名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/25(月) 20:33:04 ID:BdUgSB+w
書けば。
229名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/25(月) 20:46:14 ID:QSyllbks
んじゃ気楽に書くよ。レスdクス。
230名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/26(火) 23:01:41 ID:5a2G9Ry8
なんなら漏れがFF小説書こうか?
231名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/26(火) 23:11:57 ID:yzjboP3d
いちいち尋く前に書け。書いて下さいお願いします。
232名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/26(火) 23:12:51 ID:/BH6QoiL
ワクワクテカテカしながらお待ちしてます!
233230:2005/04/26(火) 23:16:21 ID:5a2G9Ry8
今頭でおおまか出来ているのがFF6のその後なんだけど

短めと長編どちらがいいでしょうか?
234名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/26(火) 23:36:58 ID:zsjwdcv6
好きな方で結構。

個人的には長編の方がいい。
235230:2005/04/26(火) 23:39:28 ID:5a2G9Ry8
宣言・・・

近々ここに書くよ!( `・ω・´)Ф
236名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/26(火) 23:46:00 ID:yzjboP3d
>>233
面白ければどっちでも良い…ってかむしろ両方。
237名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/27(水) 00:51:10 ID:C5HEsTBz
> FF6のその後


(*´Д`)ハァハァが止まらない。
よしっ、期待sageしつつの待機保守だ!
238名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/29(金) 21:50:59 ID:GJpy+PdH
+   +

  ∧_∧  +
 (0゜・∀・)   ワクワクテカテカと待ってみるテスツ
 (0゜∪ ∪ +        
 と__)__) +
239名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/30(土) 22:15:42 ID:mYrWVevL
まだですか?
240名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/01(日) 00:06:18 ID:DIH3vOii
今日は全板トナメ投票日だったからそれどころじゃなかったのでは?


落ち着いたら自分も保守がてら投下に参加させて頂きます。
241FF7A書いてる物体:2005/05/01(日) 11:40:57 ID:xKz1flYG
…誰の話からはじめようか、正直迷ってますw
242名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/01(日) 21:39:39 ID:dl5obkDo
>>241
とりあえずケフカとガストラあたりでキボン。
243名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/01(日) 23:01:38 ID:asFYMcpQ
>>242
「FF7」なんでケフカとガストラは出ない予感…。
……ケフカとパルマーの笑い方はかぶるので、パルマーあたりからでキボンしてみるテスト。(w

という冗談はさておき、各作品・新作まとめて期待sage。
244又保守に来てみますたよ(1):2005/05/02(月) 06:25:25 ID:AI6v4sOR
ずっと前から、勇者と旅を続けて来ました。
美姫と口付けを交わし、騎士の涙を拭きました。
勇者の為に戦い、勇者と共に生きて来たのです。

はじまりの時。私は勇者の仲間でした。
まどろみの中。凛々しき王が私を撫でました。

また或る時は。竜神の胎内より産まれ、
狼と勇者の友となりました。

輝ける月の元。澄んだ目をした幼子と
笑顔の勇者が私を抱きました。

そして今。波に洗われ、潮騒に包まれながら。
勇者の鼓動を聞いています。

常に彼等を待っています。どうか私を見つけてください。
触れて欲しい。貴方を、もっと見ていたい。
側に居させてください。ひとりで闇に待つのは嫌です。
貴方が望む物を私は与えましょう。
無限の力を。富を。栄誉を。

ですからどうか────私に、熱い血を与えてください。
245又ほぼまりもんばですよ(2):2005/05/02(月) 06:27:49 ID:AI6v4sOR
命を奪う。それはとても恐ろしい事。
しかし、それが魔王の血であるならば。
貴方が魔物以外に刃を向けたなら。
私が貴方を斬ります。

その約束を守れる人はとても少ない。
だから、貴方と仲間以外に勇者は居ないのです。

さあ、勇者さま。私と共に行きましょう。
ああ…そうよ。もっと私に触れて。
永く眠って、沢山の事を忘れていたのです。


私が何者だったのか…


私の体に、お前の瞳が写っているよ。
何一つ偽らぬ鋼。それが私の肉体。

我が名はアルテマ。

神々が作り出し、光の内より生まれ来る剣。

絡み合う森の深奥から、宇宙の最初の一掬から。
滅びと再生を見続ける命。

愛しき勇者よ。お前の望む力を私は持っている。
怖がらず、私と戦うがいい。

END
246名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/03(火) 20:49:29 ID:qoB9c0C9
新作イイヨイイヨー
247名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/04(水) 00:02:14 ID:J5wkFNDw
>>244-245
なんて艶のあるアルテマなんだろう…。
そんなあなたに斬られたい(*´Д`)ハァハァ

触れる者を傷付ける存在でしかない、そんな悲嘆を知るが故に所有者を選ぶという
発想が良かとです。
248奇跡の軌跡 1:2005/05/04(水) 00:13:09 ID:J5wkFNDw
新作・続編の待機保守。
FF6マニアック短編ネタに走ります。
今回の主人公はシドです。
----------------------------------------




 いま、全てを終えこの場所へ戻ってきた。
 ここに彼女の帰りを待つ者はいない。それは彼女自身が一番良く知っていることだった。
それでも彼女はこの場所へ帰ってくる事を望んだ。
 今は誰もいなくなってしまった島――ここから、神々との決戦に至る旅が始まった。
出発点。
 崩れかけたあばら屋がぽつんと佇んでいる、その光景は変わらない。
 あの時と変わっているのは、芽吹いた緑が鮮やかな色を放っていることぐらいだった。
傾きかけた戸を開けてから。

「ただいま……おじいちゃん」

 彼女は呼び掛けた「おじいちゃん」――帝国屈指の科学者シド――が眠るのは部屋の
中のベッドではない、庭の土の中だった。そんなことは分かっている。
 なぜ戻ってきたのだろう? セリス自身ですらそう思った。塔を降りてから仲間達に
誘われた街へは行かず、たった一人でここへ戻ってきた。
 まるで忘れ物を取りに戻るとでも言うように。
 久しぶりに目にする部屋の中は、あの日と同じままだった。小さな机に簡素なベッド、
生活に必要な最低限の物しか置かれていないせいか、そう広くはない部屋でもゆとりを
感じる。崩れかけた屋根からは陽光が漏れ入っていた。
 時計の針が時を刻む事をやめてしまった島。歴史から取り残された孤島。それでも、
ここが彼女にとって第二の故郷と呼ぶ場所にふさわしく、帰るべき場所だった。
249奇跡の軌跡 2:2005/05/04(水) 00:25:29 ID:J5wkFNDw
 あの日、絶望に沈む彼女を救ってくれたのは、海岸で出会った一羽の鳥だった。
 僅かな希望を見出した彼女の背を押してくれたのは、彼の残した手紙だった。

 ――外の世界へ出ろ。
    仲間はきっと、お前のことを待っている。

 そして今、セリスはたった一人で再びこの暖炉の前に立っている。

               ***

第 1日目:
 気が付くとあばら屋の一室に横たわっていた。
 どうやらここの主らしき男に助けられたようだ。
 ドアの向こうから波の音が聞こえる、海辺の家だ。

第 2日目:
 幸いなことに外傷もなくほぼ無傷である。
 部屋から外へ出てみた。
 ……信じられないが、見たこともない景色が広がっている。
 ここは何処だろうか。研究所…ベクタでないことは確かだ。
250奇跡の軌跡 3:2005/05/04(水) 00:27:14 ID:J5wkFNDw

第 3日目:
 この家屋の主らしい男から長い説明を受けた。
 話によれば、どうやらあの日、世界は崩壊したらしい。
 分かるのはこの島に僅かばかりの人間が生き残っているということだけだ。
 他の土地がどうなったのかは分からない、と言う。
 海岸に倒れている私を助けてくれたのも、この男と数人の島民だった。
 そしてこの男は、この建物の本当の主ではないという。
 建物の所有者の行方は分からない。
 けれど雨露を凌げる家屋が残っていたのは有り難い、
 ここで生活することに双方異論はなかった。
 現時点では分からない事が多すぎる。
 頭の中を整理するためにも、記録をつけていこうと思い立つ。


--------------------
マニアック過ぎるネタですみません。あと改行規制でレス細切れなんですが気にしない。
251名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/04(水) 00:40:10 ID:BQADUDbR
新作キタァ(゜∀゜)ァァ( ゜∀)アァ( ゜)ァア( )ァァ(` )アア(Д` )ァア(*´Д`)アァン
日記とお魚の味(違)が楽しみです!
252奇跡の軌跡 4:2005/05/05(木) 02:09:39 ID:4rSROVoa
オチはバレバレですが、それでも続きます。性質上ちょっと暗い話ですが保守。
>>248-250
----------------------------------------


第 4日目:
 まずは食料を探すことからはじめる。
 地上には収穫すれば食べられそうな作物がまだ残っている。
 幸い海にも食料となりそうな魚が泳いでいるから
 当面の食糧を心配する必要はなさそうだ。
 ただ、心配なのは飲料水の確保だ。急場しのぎで簡単な濾過装置を作った。
 しかしこれでは塩分を完全に除去することはできない。なんとかしなければ。

第 5日目:
 飲料水確保の方法を考える。
 島に井戸は無い。
 たとえ掘り当てる事ができたとしても
 地理的な面から考えれば飲料用には向かないと思われる。
 簡単な濾過装置を作ることで問題は解決できるだろうが、
 それ以前に井戸を掘る技術、掘削機械を作るには材料が乏しすぎる。

第 6日目:
 降雨なし。兆候すら見られない。
 海水は飲めない。
 海水を濾過するために作った簡単な装置を利用して最後の手段を提案した。
 ……あまり気は進まないが、背に腹は代えられない。
 もっとも、研究所にいた私はこんな程度では何とも思わない。
 理論的にも、この飲料水の確保の方法は今考えられる中では
 最も安全な方法だからだ。
 一滴の水もムダにはできない。住民達の説得を試みる。
253奇跡の軌跡 5:2005/05/05(木) 02:18:03 ID:4rSROVoa

               ***

 決して達筆とは言えないが、丁寧な字で埋め尽くされた本は実際以上の重みを
感じさせた。
 そこに書かれていた記録は、セリスがこの部屋で目覚めるまでの間シドがこの
島で見た全ての事が記されていた。時が経つのも忘れ、セリスは本を手に立った
ままでページをめくり続けていた。
 まるで、眠っていた1年間の記憶を取り戻そうとするかのように。

               ***

第 10日目:
 島の海岸に何かが漂着したと騒いでいる。
 実際に出向いてみれば、ベクタで見たことがある……防具類、だろうか。
 とりあえず、こんな物が流れ着いても役には立たない。
 住民達は漂着したそれらを海岸に捨て置いている。
 しかし海岸で放置されたそれらを見て、つい昔が懐かしくなってしまった。
 研究所に出入りする兵士達が持っていた物を思い出させるからだろうか。
 私はそれを自宅へと持ち帰り、地下室の隅に置いておく事にした。

第 13日目:
 飲料水の問題に進展無し。
 私の提案した方法を試してくれてはいるが、飲料として拒否する者も
 中にはいた。
 背に腹は代えられないと受け入れる者もいれば、頑なに拒み続ける者もいる。
 こちらから無理強いはできない。できないが……。
 雨が降らない以上はこれしか方法がない。
 現状への絶望からか、島の北側にある崖から投身自殺を図った者が出た。
 住民達は精神的に疲労し始めている。
254名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/05(木) 02:22:18 ID:4rSROVoa
こういった話に詳しくないので一部ウソをついているかも知れませんがキニシナイ!で下さい。
255名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/06(金) 07:32:01 ID:RZzf/bIZ
シドの記録カコイイ!深刻になる状況描写に震えがきました。
続きが楽しみです。むしろ孤島にセリスさんと置き去りにされたい…(*´д`*)
256名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/07(土) 00:13:44 ID:QuEw71uD
>>255
ありがd。むしろおいらがセリスさんを看b(略)。


お詫びがひとつとお断りがひとつ。
(お詫び)
>>249の最終行でシドが
「研究所…ベクタでないことは確かだ。」と言ってますが
そもそも魔大陸突入時点でベクタ(研究所)は崩壊してました。不注意ですんません。

(お断り)
このお話は後半になるに連れ徐々に暗くなります。
書いている本人がこういう系統に不慣れ&得意分野ではないことを差し引いても
自分的には15禁ぐらいの内容です。(描写はそれ程でもないですが、内容が)
グロテスクな話が苦手な方は注意して下さい。
(と、言った時点で鋭い人はどういう話の展開かが読めてしまう…)
257奇跡の軌跡 6:2005/05/07(土) 00:22:05 ID:QuEw71uD
本格的に内容が深刻になるのは250日目ぐらいからです。苦手な方は避けて下さい
>>252-253
----------------------------------------
               ***

 『投身自殺』。この文字を見てページをめくる手が一瞬止まった。
 セリスが目覚めたときには既に、島に残っているのはシドだけだった。しかしシドは
多くの島民の死を目の当たりにして来たのだと言うことを、セリスは今さらながら
初めて知ったのだった。
 記録にはシドの感情が記される事はなく、ほとんどがその時の状況を書きつづって
いる物だった。長年の研究生活からか、根っからの研究者気質なのかまでは分からない
けれど、そんなところがシドらしいと思った。
 そしてこの先セリスが目覚めるまでの間、島は数々の危機に直面することになった。

               ***

第 20日目:
 僅かに残る島民の精神的疲労が行動に現れている。
 同居している男の様子からも分かる。
 北端の崖から2人目の投身自殺者を確認。
 とにかく飲み水だ。これ以上は限界だろう。

第 31日目:
 ここまで一度もまとまった雨が降っていない。
 気候変動が起きていると考えるべきだ。
 とにかく、これ以上は危険だ。
 3人目の死体を確認。
258奇跡の軌跡 7:2005/05/07(土) 00:24:11 ID:QuEw71uD
第 33日目:
 島の崖から投身自殺を図ったと思われる者の遺体が海岸に漂着。4人目。

第 35日目:
 今朝、起床した時に男の姿が見えなかった。食糧を集めに出たのだろうか。
 飲料水問題に関して進展はない。

第 37日目:
 それにしてもこの海岸には様々な物が流れ着く。
 海流の影響だろうか?
 うち寄せられた刀や剣などが海岸の岩場に山と積まれている。
 私にそれらを扱うのは不可能だが、
 いつかと同じように家の地下室へ持ち帰ることにした。
 ベクタが懐かしく感じられる。
 島の外はどうなっているのだろうか?

第 40日目:
 最悪だ。
 海岸に流れ着いたのはあの男だった。変わり果てた姿……。
 5人目の遺体を丁重に葬る。

第 42日目:
 また海岸に人が横たわっている、もううんざりだ。
259奇跡の軌跡 8:2005/05/07(土) 00:26:29 ID:QuEw71uD
第 48日目:
 これで何人目になるだろうか。海岸の遺体を回収……
 何と言うことだ!
 私はこの者をよく知っている
 ……懐かしい、こうして昔を知る者と巡り会えたことが奇跡のようにすら感じる。
 事実、奇跡なのだろう。
 引き上げてみれば、体の至る所に裂傷を負っている。
 どうやら彼女は流木に乗ってここまで漂着したようだ。
 信じられない。
 何より……まだ息がある。考えられない。
 これは魔導注入によって得られた生命力なのだろうか?
 魔導注入を受けた人間は、受けていない人間に比べて
 身体的に特殊な変異をもたらすのだろうか?
 幻獣が死ぬ時、その力が魔石となって残されることから考えれば、
 幻獣から魔導を引き出し注入するという行為は、
 即ち幻獣の生命力そのものを与えるという事なのだろうか?
 しかし、そうと結論づけるにはデータが足りなさすぎる。
 なにより魔導以外の変容は、魔導注入実験の被験者に現れた
 精神的な副作用しか認められなかったはずだ。

 いや今はそんなことよりも、彼女の治療に全力を注ごうと思う。

               ***

 この日の記録は、いままでのどのページと比べてもシドの筆跡が乱れていた事に
気付いて、これまで順調に読み進めていたページをめくる手が止まった。
 日記の本文、というよりは行間に細かな文字で単語や数字が走り書きされている。
恐らくはシドが書き取ったセリスの容態変化に関する記録なのだろうとは思ったが、
実際それらが何を意味しているのかまでは分からなかった。
 ただ彼が必死だったことだけは、文字からでも痛いほど伝わってきた。
「……おじいちゃん」
 誰もいなくなった部屋で、思わず零れた彼女の声だけが空気を揺らす。
260名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/07(土) 09:28:15 ID:bAbYIbHh
何気なく立ち寄ったスレで、思わず見入ってしまったよ…
セリスが流れ着いてきたことが、このときのシドにとっていかに救いとなり、希望となったかが
ひしひしと伝わってきたよ。
マジで続きを楽しみにしてます。
261名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/08(日) 03:37:21 ID:SI1/zRvF
同じく続きを楽しみにしてます!ううっ、切ない。
262奇跡の軌跡 9:2005/05/08(日) 03:45:29 ID:yswxrawJ
あたたかいお言葉をありがd。むしろ自分の方が救われt(略)。
>>257-259
----------------------------------------


 ここから最後のページに至るまで、量に多少の差はあるものの全てのページの隅は
容態変化の記録と思われる数値や単語類が並び、それらは小さな矢印で繋がれていた。
時にはページ全体が真っ黒になるほど書き込みされた日もある。どれもこれも次々と書き
直されており、数字や単語の一部には線が引かれていたり、中には何重にも丸で囲われて
いるものもあった。たくさんの矢印が導く先に、セリスが目覚める日が来るのだと――
少なくともシドは――信じて書き記していったのだろう。
 海岸に打ち上げられたセリスの姿を見つけたシドが奇跡だと、再会を喜んだ思いを、
今度はセリスが味わっている。本を読んでいると、まるで今もシドがそこに居るような
錯覚さえした。
 セリスははやる気持ちを抑えつつ、ページを読み進めていった。

               ***

第 82日目:
 息はあるものの意識が戻らない状態が続く。
 その他の機能数値は一定値を保っている。
 残念ながら私自身に魔導の力はない。ケアルすら施せない。
 なんのための研究だったんだ、情けない。
 島の住民達は日に日に数を減らしている。
263奇跡の軌跡 10:2005/05/08(日) 03:48:59 ID:yswxrawJ
第 90日目:
 遂に島民が半分になった。
 意識は未だ回復せず。
 気ばかりが焦る。

第 91日目:
 変化無し。何もしてやれる事がない。

第 92日目:
 進展無し。

第 93日目:
 変わらず。

第 94日目:
 同上。

第 95日目:
 容態に変化無し。
 浜辺に上がった死体を片付ける時間の方が長くなった。
264奇跡の軌跡 11:2005/05/08(日) 03:51:21 ID:yswxrawJ

第 96日目:
 どうか目を開けてほしい。願うばかりで何もできず。

第 97日目:
 苛立ちが募る。
 確かに数値は彼女の生存を示しているはずなのに目覚めない。何故か?
 測定方法を間違えたのだろうか。
 それとも私は幻を見ているのだろうか。
 夢なのだろうか。
 夢だとしたらあまりにも酷い悪夢だ。
 こんな悪夢からは一刻も早く目覚めて欲しい。
 セリスが目覚める気配はない。

第 98日目:
 変わらず。

第 99日目:
 ー
265奇跡の軌跡 12:2005/05/08(日) 03:59:40 ID:yswxrawJ

               ***

 しばらくの間、ノートには白い部分が目立つようになった。「変わらず」「特になし」
「前日に同じ」などで数週間が過ぎていく。そんな中で容態の記録は相変わらず書き
続けられているものの、以前ほどの勢いはなく矢印も頼りなげだった。
 それ以外の文字があると思えば、それは悲嘆に暮れる声であり、読んでいる方さえ
容易く飲み込まれてしまうような深い絶望の底を描写したスケッチだった。
 しかし、この先に待つ本当の絶望が記されたページの存在を、彼女はまだ知る由も
なかった。

               ***

第132日目:
 このまま目覚めないのではないか。
 不安に襲われる。
 容態変わらず。

第142日目:
 目覚める気配は無いものの、
 依然として一定値を保ったセリスの容態は落ち着いている。
 食糧集めのために外へ出た。風はない。
 空にも不気味な色の薄雲が漂うだけで相変わらず降雨の気配は見られない。
 島民の数自体は少ないが、
 それでも地上に食物を求めるのは困難な状況になりつつある。
266奇跡の軌跡 13:2005/05/08(日) 04:04:01 ID:yswxrawJ

第152日目:
 草は枯れ、土は雨を失い明らかに衰えている。
 種を植えてもこんな土壌では育つ見込みがない。
 もともと島に自生する植物は、比較的乾燥に強い種類であったようだが、
 それでも限界がある。
 セリスの容態が好転する気配は見られないが、
 このままいけば悪化することは目に見えている。なんとかしなければ。

第162日目:
 海岸に打ち上げられた死体を発見。一時期よりも数が減ったように思うが、
 裏を返せば生存者自体が減少しているだけだ。
 生きる者がいなければ、死ぬ者も居ない。
 これまでと同様、火葬後に埋葬。
 ここまで行ってきた処置はどうやら功を奏しているようだ。
 感染症等で死亡した者は確認していない。
 しかし今回は、状況から見て身投げのものではない。
 食糧不足がいよいよ深刻になってきた。

第172日目:
 残っている島民同士で食糧を持ち寄る事になった。
 確認できた人数は28名。この少人数にとってみれば島は広い。
 ここで初めて顔を合わせる者達も多くいた。
 彼らに出身地を尋ねてみると、皆ばらばらである。
 ほとんどの者が、私やセリスの様に他の土地からここへ流れ着いたことを知る。
 私を含めて集まった全員に言えることだが、疲労の色を隠しきれない。
267奇跡の軌跡 14:2005/05/08(日) 04:08:25 ID:yswxrawJ

第185日目:
 鳥の声で目を覚ます。外は相変わらず不気味な薄雲に覆われている。
 一滴の降雨もない。
 セリスの容態にも変化はない。
 悪化することもなければ、回復する兆しも見えない。
 ただ眠り続けるだけのセリスの姿を見て、毎日胸を撫で下ろす。
 …けっきょく私の研究は、一番大事なところでは役に立たないことを知る。

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268名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/09(月) 00:56:13 ID:+JMTtjpg
続きキタY⌒Y⌒(゜∀゜)⌒Y⌒(。A。)⌒Y⌒(゜∀゜)⌒Y⌒Y !!!
徐々に疲弊する博士が切ない…この先が楽しみで怖くてゾクゾクします。
269名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/09(月) 23:37:07 ID:iopBsWG/
このスレの職人さんの作品が好きなので、
とりあえず今は24時間に一回保守。
270名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/10(火) 02:17:00 ID:msnuza9l
自分もこのスレに投下された未完作品の続きや>>227>>230など新作登場を
心よりお待ち申し上げつつ保守に参加。

それにしてもこれは新板設置に伴う現象なんだろうか?
271奇跡の軌跡 15:2005/05/10(火) 02:18:48 ID:msnuza9l
保守を兼ねて投下。
>>262-267
----------------------------------------


第196日目:
 容態は安定、目覚める気配はなし。
 降雨無し。
 上空を飛び回る鳥の数が、以前より増している様に感じられる。

第202日目:
 状況変わらず。
 食糧の方は魚を捕れば何とか飢えを凌げる。
 ここへ来て改めて思うのはセリスの生命力だ。
 これだけ長期間に渡る昏睡にも関わらず、筋肉の後退等が全く見られない。
 本当に眠っているだけのようだ…。

               ***

 いつしか日は傾き、部屋の中がオレンジ色に染まっている。隙間から吹き込む風の冷たさに
セリスはようやく顔を上げ、ずいぶん時が経ったことを知った。
 いったん本を置いてから室外へ出ると、適当に枯れ枝を集めて再び部屋に戻り暖炉の火を
おこして来るべき夜の寒さに備えた。
 昼間はそれほど気にならなかったが、やはり誰もいない島に一人だけ残されると押し寄せて
来る不安と孤独感に飲み込まれてしまいそうになる。だけどそれでは戻って来た意味がない。
それらを振り払うように一度大きく頭を振って、セリスは再び本のページを開いた。

 シドはそれ以上の孤独感と不安を抱えながら、セリスを看病していたのだから。

               ***
272奇跡の軌跡 16:2005/05/10(火) 02:25:53 ID:msnuza9l

第210日目:
 この家の扉を私以外の人間が開くのは何十日ぶりだろう。
 訪ねてきたのはまだ若い娘だった。彼女もこの孤島で生き残っている一人だ。
 しかしその表情は晴れやかではない。
 こんな生活を強いられているのだから無理もないことだが、
 …それだけではなさそうだ。
 彼女は私に告げた。
 「逃げた方がいい」と。
 この島を離れて逃げ延びる地があるのか? と聞くと、
 彼女は一枚の紙切れを寄越した。
 どうやら伝書鳩に託された手紙のようだ。
 内容から察するに、どうやらマランダの人間に宛てられた物のようだ。
 差出人の名前があるが――この島に該当する者は居ない。
 ……。
 世界崩壊後、残ったのはこの島だけではない。
 ……結論を出すにはもう少しデータを集める必要はあるが、
 その大きな手がかりを彼女は教えてくれたのだろうか。
 私は彼女に礼を述べると共に、ここに残る意志を伝えた。
 セリスの意識が戻るまで、この島を出るわけには行かないのだ。
 その言葉を受けて、彼女は深々と頭を下げて立ち去った。

 世界はまだ生きている。
 今は細い光明だが、確かな希望を見出した。



-----
※マランダ宛というのは、崩壊後の地形移動でちょうど孤島がその辺の位置にあった…ような気がする
  という(無理矢理な)根拠から。
273名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/10(火) 17:00:30 ID:+pLpKwO3
続きキタ*・゜゜・*:.。..。.:*・゜(゜∀゜)゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*!!生きてる人いたああああ!
セリスさんの体力に惚れますた。続きや新作、自分も期待してます!
274保守便乗@主人公当てクイズ 1:2005/05/11(水) 19:15:11 ID:RX9wHFA7
煙草を吸い始めたのはいつから、だぁ?
んなこたあ忘れちまったぜ。……いや、忘れたかっただけか。
雨かよ。火が付きゃしねえ!傘?おめえだって分かるだろ?俺達ぁ使わねえんだ。
ケッ、おかしな野郎だぜ。昔話なんざ、どうだっていいじゃねえか。
ま、入ろうや。一杯奢るからよ。

上司できっつーい奴が居てよ!ああ、面の形が変わるまでボコられた。
おまけにカードがクソ強えのなんの。部下は全員カモだぜ?カモ!けどな。

誰も飛空艇事故なんざ起こさなかった。
設計も操縦も、そいつに叩き込まれた。

そのクソ上司?墜落しちまった。いや。そいつの所為じゃねえ。
お上が大型爆撃機を囮にしやがったのさ。作戦は失敗、無傷の飛行艇は俺だけだった。
腐っても竜騎士の端くれだ。飛竜に会やぁ、そいつらの言葉で話す。
雲ん中からでも撃てるぜ。だがよ。結局の所は運だ。
ひでえもんだったな。
水を滑る船が襤褸クソの蜂の巣。ターキーだって、あすこまで焼かねえ。
オイルと黒煙、おまけに誘爆と来た。弾丸だの破片だの、バンバン弾けてやがる。
何人も引きずり出した。終いにゃ数も分からねえ。
275保守@ようこそバーボンハウスへ 2:2005/05/11(水) 19:19:32 ID:RX9wHFA7
そうだ。クソ上司も居た。
止血と魔法と……やべえと思ったぜ。歴戦のエースを犬死さしちゃいけねえ。
脈がズンズン弱くなってよ。馬鹿馬鹿しいが、エリクサーだのフェニックスだの。

あん?なんでおめえが辛そうな顔すんだよ。戦争があった。お前さんは眠っていた。
けどな、博士は何度実験したってんだ。そっちの方が一大事じゃねえか!
銃の腕、地下で磨き続けたんだろ?
星を救うには、お前さんの長年の知恵ってのが必要なんでい。

でよ。部下全員、クソ上司にぞっこんだった。
ブロンドにブロンズの肌。胸がバカでけえのに、腰は豹みてえだ。
あ?いい女が飛んじゃいけねえのかい?面白え奴だな。
そいつが言うんでい。「水をくれ」と。
黒焦げだったかんな。狂ったみてえな乾きだ。良くねえが、助かるならと。
だから。水筒を含んで、飲ましてやったのさ。

唇から、血とコイーバの味がした。そう、煙草の味だ。

上司がほざいてたぜ。「殴ってすまねえ」と。なに、死んじゃいねえ。今も会社にいるぜ。
火が天井を嘗め進んでいたな。生まれて初めて、キスしたってのによ。

END
276名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/11(水) 19:28:50 ID:QGXxaHxp
FF7のシドとみた。

ついでに昼寝士とみた。
277名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/11(水) 23:03:16 ID:x3RJ1K0M
もしかしてここはシドなインターネッツですね。

>>274迷わず7シドだと思ったんだけど、上司 ってのが謎だ。生きている上司はスカーレットぐらい・・・?
278ほぼまりもんばですよ ◆SIRO/4.i8M :2005/05/11(水) 23:29:26 ID:RX9wHFA7
主人公正解です!今なら記念にチョコボレースチケットプレゼント!
でも昼寝士さんみたいな、すげえカコいい文章は書けません。。・゜・(ノД`)・゜・。
上司はただの名前のないオリジナルです。すいません。

とりあえず>>187-188>>244-245>>274-275は自分です。
大昔書かせていただいた奴の続きを、投下していいのか迷ってたので
つい名乗れませnうわなにをするおまえt亜qwsでrftgyhふじこ@lp;
279(´ _ `*マターリ旅(仮)番外編:2005/05/11(水) 23:31:41 ID:RX9wHFA7
■今迄の粗筋■
エアリスが真剣白刃取りで生きてて、ザックスが拾ったフェニックスの尾で生きてて
なんとなーくセフィロスが味方。そんなやじきたFF7の旅が、DISC3に突入しますた。

前話はここの↓>>190-195になります。
ttp://www.geocities.co.jp/Playtown-Part/1039/novel2/1060778928.htm
280メテオ太郎 DISC1:2005/05/11(水) 23:37:24 ID:RX9wHFA7
 昔々の[μ]-εγλ1977年、宝条博士が川辺を研究していると、
上空からサイヤ人が乗って来るような何かが激突。
中から猫目の赤さんが飛び出して来ると、宝条博士にミルクを要求。
正宗を首に突きつけ、スラムに立てこもったのです。
「サンプルは、ヴィンセントやぬこを飼ってるから間に合っている」と言う博士に
厄災赤さんは保護者としての義務履行を要求。
こうして凶暴性の高いジェノバサンプルが、神羅の管理下に置かれました。

 赤子は宝条英雄と名づけられ、どえらいハンサムに成長しました。
神羅では次々とミッションをこなし、英雄と呼ばれたのです。そしてある日。
「クックックッ……私は星と一つに……全ては私となる」
何かの電波を受信しました。仕方なく博士がテントやお弁当を持たせると
喜び勇んで会社を飛び出して逝きました。

 宝条英雄がダンジョンを進むと、触覚が仲間を見つけました。
そしてゴンガガでカエルに、ニブルでチョコボに、神羅屋敷でカオスに出会ったのです。
呪文によって変身させられた人間のようですが、宝条英雄くんには関係ありません。
チョコボとカエルが暴れるので、すごーく嫌そうにエスナをかけると、
クラウドとザックスとヴィンセントに戻りました。キビ団子で仲間になったのでパーティ編成です。

宝条英雄: ジョブ 神 LV50
チョコボ:  ジョブ ナンバリング無し LV1
カエル:   ジョブ ソルジャー LV30
カオス:   ジョブ もうすぐ還暦 LV40

 強いのか弱いのか正直さっぱり分かりません。そして彼等の旅がはじめりです。
鬼が島で宴会したり祠で滝に打たれていると、大空洞から携帯が。
「……ママン?」
とっとと星を滅ぼせこのドラ息子と、かあさんにジェノバ語で怒られてしまいました。
「俺は神羅社員のままでいいのだが」
宝条英雄くん、反抗期の様子。しかし、給与や栄誉を考えると無理もありません。
281メテオ太郎 DISC2:2005/05/11(水) 23:39:01 ID:RX9wHFA7
 するとそこにカダージュとロッズとヤズーが現れました。
「忘れてしまったのかい?戦うべきはアバランチだと!」
  
     Σ(゜Д゜)ガーン

 宝条英雄くん(メテオ太郎)は回想しました。
フヒトにフフフフとかゆわれて逃げられたり、タークスと組んだあの日々を。
カダージュは続けます。
「今ここにいるアバランチ。それは、兄さんだよ!」
「俺?き、興味ないね!」
クラウドがぶんぶん首を横に振ると、ふと、ヴィンセントが口を開きました。
「そんな理由で戦うつもりか?星を喰らう為に」
ケルベロスを構え、ヴィンセントが立ち上がります。

 ってゆうか、ヴィンセントは元タークスで現アバランチの仲間。
ケット・シーは神羅幹部でクラウド達の味方。シドは神羅社員のままクラウドの仲間。
タークスはクラウド一行と共同戦線を張った事があり……と、もう訳わかめです。

 ふと、英雄くんがゆいました。
「星の支配者となる為に、私は復活した。今成すべき事。
 それは――神羅に宝を持って帰る事だ!!」
やっぱ桃太郎かよ!とのザックスの叫びがこだまします。

 そうして、神羅の元にクリスタルやらフェニックスの羽やらが
ストライフデリバリーサービス便で届きました。
今までの記録を元に、宝条博士は「英雄のひみつ」と言う
小学生向けの学習教本を執筆し、のんびりと定年退職に備えたと言う事です。
282名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/11(水) 23:40:51 ID:RX9wHFA7
■次号予告■
着々と進行するBC!発売日決定のAC!
情報が集まりつつあるDC!未だ不明のCC!
でもやっぱりマターリ旅のまんまの今日このごろ。

次回「昆布茶をすすって9月に備えよう」
   「ばあさんや、ACはまだかいのう」の2本です。
283名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/11(水) 23:58:43 ID:uRcQ4h7g
キャーキタ━━━━(・∀・)━━━━!!
実はずーっと待ってました。GJ
284名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/12(木) 14:34:40 ID:6J/GSyL5
>274
もしかすて、聞き手は棺桶で寝てた元ター楠ですか?
285名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/13(金) 04:38:49 ID:Xelw5+um
ほっしゅっしゅ
286保守しつつ↓:2005/05/14(土) 01:33:21 ID:oUVX+iM3
【5/14】全板トーナメント@FFDQ板17th【ブロック決勝】
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1115826777/


>>274-275
なんかスゲー(・∀・)イイ! 場面燃え(萌え、でしょか?)があるのならこういう事を言うのかと思うほど。
何度も読み返してしまう中毒性すら感じます。タバコを吸うたびに脳裏によぎる上司の表情、思い出。
せ、切ねぇ…。けれどもそれを語るシドには男気を感じます。
 その余韻に浸った後。「シド」「上司」の言葉から連想して思わずパr(精神衛生上省略)したのは
 自分だけのはず。とにかくGJ!!

>>280-282
「宝条英雄」の名付け親「宝条博士」も、まさか名前…なのか?w
だとしたら深い、深いぞFF7!
287名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/14(土) 03:17:34 ID:r1cXCzmr
288名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/14(土) 15:46:38 ID:GRXxB0BY
ほす
289白 ◆SIRO/4.i8M :2005/05/14(土) 18:13:47 ID:RmkXmmm6
ほすの人、レス下さった方、ありがとうございます。
ドタバタしていて以前のようにお返事するのは難しいのですが、
生暖かく見なかった事にしていただければ幸いです。_| ̄|○

>283 感謝します。( ´Д⊂ヽ まったりお付き合いくださいです。
>284 大当たりです!シドがボケるとツッコミは棺桶の中の人のような気が。
>286 トーナメント(*´д`*)ハアハア 水茎の跡も麗しいご感想感謝です。
277さんの予想が素敵だったので使わせて頂きます。ありがとうです。
290興味無いね(´ _ `*と愉快なマターリ旅(仮) :2005/05/14(土) 18:15:13 ID:RmkXmmm6
■今迄の粗筋■
      l  _,,,,,,,,_,;;;;i  <いいぞ ベイべー!
      l l''|~___;;、_y__ lミ;l  神羅の連中が漫才をしてるんだ!
      ゙l;| | `'",;_,i`'"|;i |  ボケ続けるのは訓練されたソルジャーだ!
     ,r''i ヽ, '~rーj`c=/  爆発してもアフロで終わるぞヒィヤッハー!
   ,/  ヽ  ヽ`ー"/:: `ヽ
  /     ゙ヽ   ̄、:::::  ゙l, ホント 神羅は地獄だぜ! フゥハハハーハァー

前話は>>280-281です。
291【大空洞の怪人!】1:2005/05/14(土) 18:22:07 ID:RmkXmmm6
 氷原に風がうねる。夕靄に照らされ、係留された飛空艇が軋んだ。
小さな灯に、束の間、荒地の男達が浮かび上がる。

「ちくっと呑み過ぎたか?お前さんも吸うんだな」
ヴィンセントは微かに笑い、ターボライターの火を移す。
「初恋はスカーレット、か?」
シドが激しく咳き込み、絶叫する。
「冗談は止せや!確かにミサイル技術も操縦もたたっ込まれたが、
 それ以上のこたあ何もねえんだ」
オーロラが清かに揺れ、天球を旋回する。空洞の光が天に向かって伸びてゆく。

「遂に大空洞へ来たか……」
「ああ」
なあ、ヴィンセント、とシドが向き直った。
「ダイヤモンドの話、知ってるかい?地中深くにダイヤの層があってよ。
 そいつが噴火なんぞで陸に噴出すんだと。
 俺達のヒュージマテリアはメテオに使えねえが、ひょっとすると……」
「大空洞にある、と?」
あるいは、な。そう呟きながら。シドは深く煙を吸い、味わう。

 不意に、足音がした。
黒衣に包まれた青年が、男達を見据える。腕に刻まれし刺青。
眼光の底に、哄笑を浮かべ立っている。
「!」
剣と、銃身。そして槍が一点に叩きつけられ、火花を散らす。
銀玉鉄砲やモップを構える男達の間から、ザックスが叫んだ。
「ア○○ルだ!!」
「いや違うだろ!!つうか髪型同じじゃねえか!」
興味ないけどそのネタ不味いからとドタバタする内に、青年は消えていた。
292【大空洞の怪人!】2:2005/05/14(土) 18:24:23 ID:RmkXmmm6
 薄明の飛空艇内で、安全灯だけが輝いている。
「眠れないの?ユフィ」
「うん。ここが最終目的地だと思ったら、何かね」
ティファがミールで、手際良くミルクを温める。
「カクテルは駄目よ」
少女はふくっと頬を膨らませ、足を振る。

 ミルクから柔らかな蒸気が浮かび、ユフィの輪郭をなぞった。
「コスモキャニオンで、エアリスと飲んでたじゃん。
 楽しそうでさ。仲良しなんだなあって思ったよ」
長く艶やかな黒髪に、少女が頬を寄せる。
「寂しいよ」
柔らかい腕がユフィを抱き寄せ、小さな背中を撫でる。

 幼い嗚咽が、微かにミールに響く。
「ウータイは……生まれた時から、戦争してたからさ」

 だから、もう人の死は見たくないんだ。
 覚えてるよ。エアリスが居なくなった時。
 巻き毛を撫でたのは、触れたのは、ティファだけだったよね。
 ――エアリスが居なくなった時?
 だってさ、エアリスは真剣白刃取りで剣をかわして……
 でも、覚えている。あの苦しみを。仲間を失った痛みを。

「ユフィ?」
温かなティファの腕から離れ、ユフィは走り出した。
飛空艇内に閃光が広がる。鈍い金属音と共に、艇の壁が凍りつく。
「何の用だい?お嬢ちゃん」
「シヴァ、あんたに聞きたい事があるんだけど!」
293名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/14(土) 18:26:18 ID:RmkXmmm6
■次号予告■
メテオ太郎は越中褌を発見すますた。
犬も猿も雉も履きたがらないので、おとーさんにメールすると、
「新聞も越中も間に合ってます」とゆわれますた。
報復として、宝条博士に赤いちゃんちゃんこを宅急便しました。
親孝行のような気もしますが、多分気のせいです。

次回「モーグリでぱふぱふ」
   「ゆうべはおたのしみでしたね」の2本です。
294名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/14(土) 18:50:33 ID:RmkXmmm6
×ミール
○ギャレー  ……逝ってきます。
295ルリ ◆Ruri/bfS4. :2005/05/14(土) 20:28:11 ID:Z4al4W0l
最下層おめ
296名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/15(日) 00:30:36 ID:/0FthnQ9
>>290-293
今回の“次回予告”が個人的にかなりツボでした。
FF6で様々な踊りを踊るモグには、ぜひとも「ハッスルダンス」を拾得しt
ところで>>291
> 「ア○○ルだ!!」
これはあれですか、麗しの瞳を我が仔に向けられ選択を迫られつつも
ご利用は計画的にしなきゃいけないあれですか? と本気で悩みました。
(しかし未だに元ネタが分からないわけですがw)

とにかく今回もGJ!です。
297奇跡の軌跡 17:2005/05/15(日) 00:34:43 ID:/0FthnQ9
>>271-272
----------------------------------------

第215日目:
 あれから暫く考える。
 世界がこの島を残して全て崩壊してしまったと思い込んでいた。
 しかし、そうではない。
 伝書鳩に手紙を託した者がいる。
 差出人の名や書かれた内容からすると、
 (主に差出人自身や周囲の状況が記されている)
 この島から出された物ではない。
 となれば……。
 他の土地も(どれ程の状況かを知る手がかりはないものの)
 ここと同じようにして人々が暮らしているのではないか。
 そうなれば、ここよりもいい環境でセリスの看病にあたれるのではないか。
 だが、少なくともこの島から出るためには海を渡らなければならない。
 船以外の手段では島から出ることができない。
 眠ったままのセリスを乗せて、どれぐらいかかるか分からない航海に出るのは
 あまりにも危険すぎる。
 どうにかして外の世界の状況を知る方法はないものだろうか。

第219日目:
 セリスの容態に大きな変化は見られず。
 外の世界を知る手がかりも、今のところ見つからない。
 しかし考えているだけでは仕方ない、セリスの容態は一定値を保っている。
 このまま急転しない限り、いつ目覚めてもおかしくはない、
 彼女はもうそこまで来ている。
 これは確かに私の希望的観測かも知れない。
 だが、学者としての目で、彼女の数値を見ても同じ判断ができる。
 セリスが目覚め、ある程度の回復が見込めれば
 島の外へ出るという選択肢も考慮に入れておくべきだ。
298奇跡の軌跡 18:2005/05/15(日) 00:38:19 ID:/0FthnQ9
第220日目:
 船を造る材料はない。残念ながら動力となる物がここにはないからだ。
 それでも、外へ出る手段がないという訳ではない。
 枯れた大地に倒れた巨木は、乾燥具合もちょうど良い。
 それらを使って筏を作ることを思い立つ。
 セリスが目覚めるまでに、私ができることが見つかった。
 容態に変化無し。

第229日目:
 あれから筏を作る作業を海岸で続けている。
 手頃な木を持ってきて、まずは等分に切り揃えている。
 ここで地下室に保管しておいた刀が役に立った。
 少し微熱があるように思われるが、それ程心配はいらないだろう。

第230日目:
 微熱が続く。顔色があまりよくない。
 汗をかかせるために水分を接種させる必要がある。
 私の分を与えることにした。
 今日は一日屋外での作業を控えよう。ここで私が倒れてしまっては
 意味がない。

第232日目:
 数日続いた微熱も下がった。
 看病の合間に筏作りも再開。順調に進んでいる。
 木と木を結びつける綱は他の廃屋から余っていそうな物を拝借して来たが、
 これでも充分いけそうだ。
299奇跡の軌跡 19:2005/05/15(日) 00:41:13 ID:/0FthnQ9
第245日目:
 セリスの容態は依然として一定値から変動がない。
 筏を作るという目的ができたことで気分が紛れる。
 海岸で作業をしていると、鳥を見かける。
 そう言えば伝書鳩はもうこの島にはいないのだろうか。
 外の世界の手がかりを、なんとかして得たい。

第250日目:
 容態安定。
 海岸での作業が続く。土台の完成目処が立ちそうだ。
 ここ10日間ほどで土台部分は完成するだろう。

第255日目:
 セリスの容態に特筆すべき変化が見られた。対光反射だ。
 数値は一定でも、外部からの刺激に対して彼女が反応を見せることは
 これまでに一度もなかった。
 これで一歩、彼女が目覚めるまでに近づいたことを確信した。

               ***
300奇跡の軌跡 20:2005/05/15(日) 00:47:33 ID:/0FthnQ9

 妙な気分だった。
 ここに記されているのは他でもない自分の姿である。傷付き、昏々と眠り続けていた
自分を看病したシドが書いた物である。それなのに、この嬉しさは何だろう? 身の内に
わき起こった不可解な感情に戸惑いながらも、そんな自分の姿がなんだか可笑しかった。
 書かれていたのは耳慣れない言葉だった。ただ、その言葉が持つ意味をなんとなく
理解した。それ以上に、この記録を残したシドの喜びの方が、文字を通して伝わって来る。
自分の回復する姿を見て喜ぶシドの姿を思うと、セリスの表情も自然と柔らかくなった。
 未だかつて味わったことのない感覚に戸惑いながらも、セリスは続きを読もうと本に触れる。
 しかし次のページを開いた途端、セリスは体中が強張るのを感じた。
「……!」

 この先に続く文字と、ボロボロに破れたページ、そして所々に残る血痕が語るのは、
孤島で起きた悲劇の記録である。

               ***

-----
※セリスさん、たぶん自力呼吸はできてたっぽいと予想。
  そして次回以降、多少えぐい表現が出てきますので苦手な方はご注意ください。
301名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/15(日) 04:13:29 ID:cwy2TaVS
対光反射キタ━━━━━━(☆◇☆)━━━━━━ !!!!!
博士ガンガレ!血まみれの悪寒するけど超がんがれ!
302興味無いね(´ _ `*と愉快なマターリ旅(仮):2005/05/15(日) 18:54:10 ID:IZz0+SrV
>295 さすが恋スレだ。のったりと海底を潜行してるけどなんともないぜ、ですよ。
>296 ○イフ○ですか?!だとすると、つぶらな瞳のケット・シーが(ry
    セリスさんやお手紙に希望が出てきますたね。おじいちゃんが健気で(*´д`*)ハアハア

■今迄の粗筋■
俺は、許されたいんだと思う……うん、俺は許されたい。
いやだからこのちょっと背伸びパンツはその
うはwwwwwwwwwおkwwwwwやめwwwwwwwwああっ!

前話は>>290-293です。
303【大空洞の怪人!】3:2005/05/15(日) 19:02:40 ID:IZz0+SrV
 巨大な飛空艇内に。玲瓏な召喚獣の声が響く。
「何が聞きたいんだい?」
「アタシはマテリアハンター!アンタ、大昔から居たんだろ?だったらさあ」
シヴァが哂う。
「ふふ。お前が知りたい事は、厄災の事かい?
 違うね。お前が聞きたいのは『死人』の事。そうじゃないかえ?」
ユフィの表情が変わった。
「お前の知る通り、召喚獣は記憶を喰らう。
 そして死人は成長し、実体もある。しかし、これ以上は教えぬ。
 それだけは、賢き冒険者よ。お前が確かめるがいい」
シヴァの冷たい指が、ユフィの肩を滑る。
緩やかに飛空艇の空気が解け、召喚獣が霧散する。

 唐突かつ脈絡も無く、ザックスが背後に立っていた。
「ねー!おにーさんの肩揉んでくんない?」
「デタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!! ききっき、聞いてたの?!」
「うん、全部!」
ザックスが髪をかき上げ、繰り返した。
「聞いてたよ。全部」
二人で秘密にしようぜえ!とユフィを抱え上げ、ぐるんぐるん回す。
「あああっ、酔うって!ちょ……うぷっ」

 んでもって。爽やかな上天気に、ラスダンに冒険です。
「はーい。右手に見えますのが大空洞入り口。
 記念撮影はダークドラゴンさんとどうぞ!」
「修学旅行か?!興味ないけどね」
ふと、セフィロスが呟いた。
「この奥に、忌々しきホーリーがある。恐らく、術者も」
業と、憎しみを含んだ魔晄の光が、地の底から冒険者をなぶる。
竜の叫び声が、岩を揺さぶった。
304【大空洞の怪人!】4:2005/05/15(日) 19:06:15 ID:IZz0+SrV
 クラウドが皆へ合図する。
「いいか?ここから先は過酷な迷宮だ。だから、誰も負傷しないでくれ」
全員が頷き、先を見つめる。
「私はクラウドと行こう」
「オイラも行くよー」
「俺様も行くぜ!」
「じゃ、アタシ一人で行くから。エヘへ。またねー♪」
プチン。クラウドがスーパーサイヤ人に変身すますた。
「全員逆だあッ!」

 さくっ。いきなし、トンベリさんに刺されますた。主人公、ご臨終です。
しかしファイナルアタック+フェニックスに救われたっぽいです。
「……ちっ」
「なんだよセヒロス、チッって!」
「それよかアレだよアレ!ムーバー狩り!行こうぜえ!」
こうなると、冒険者だか金儲けだか分かりません。

 飽きるとチョコボレースに行き、時々思い出したように
最終リミットとか武器とか回収しつつ、年月が過ぎてゆきますた。
そうして。バリバリマッチョなLV99パーティ完成です。
「よし、行くぞ!ラスボスのルビーウエポンを倒しに!」
スパーン!と、オリハリセンが炸裂すますた。
「魔王は私だ!」
「あれ?何でセフィロス味方なんだっけ?」
「エアリス殺せず、放火も失敗したから味方なんだよね?」
「……それじゃトホホ大魔王だろ……」

 そんなピクニック気分の皆を尻目に、パウリー、もとい艇長が大空洞の狭間へ。
「――あったぞ!」
炎を放つ結晶。秘められたヒュージマテリアが、静かに、鮮やかに輝く。
305白 ◆SIRO/4.i8M :2005/05/15(日) 19:07:55 ID:IZz0+SrV
■次号予告■
【それでは皆さん、また来襲!】に、興味なく続きます。。。

それは、いつから始まった戦いなのか。
戦士は疲弊し、剣は折れ、その中で始まった壮絶な対決。
「赤コーナー、他称ニャホニャホ玉クローこと、バレット!」
「青コーナー、ネアンデルタール雪男こと、ロッズ!」
ゴングと共に――FFVII世界の、巨乳を決める対決が始まる!

次回「おっぱい!おっぱい!」
   「おっぱいで世界を救おうなぞ、おこが(ry」の2本です。
306名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/16(月) 09:33:09 ID:7UzfBOuH
FFシリーズの中で1番好きなのは?
http://www.37vote.net/ffdq/1115218725/
307興味無いね(´ _ `*と愉快なマターリ旅(仮):2005/05/16(月) 20:10:57 ID:rP43Sofy
■今迄の粗筋■
イカはトップソルジャーなのニャ。
王冠を被った猫に神にしてもらうのニャ。
実験室の天井のシミから血まみれのクラウドが覗いているn
「セフィロスからの通信が途絶えました!」

前話は>>302-305です。
308【それでは皆さん、また来襲!】1:2005/05/16(月) 20:17:50 ID:rP43Sofy
 厄災の星、メテオ。その濁った光が、不気味な地鳴りを唸らせる。
星を守護せし者、ルビーウエポン。星の命のために戦う勇者。
そしてデブモーグリとぬこの死体。そして棺桶。
仲間が気絶してる感じで、戦いの火蓋は切って落ちてみた。

  ウエポンの攻撃!
 蔵うどんはコマンドカウンターで何もしない真似をした!
 ウエポンの反撃!
 蔵うどんはお料理対決を始めた!
 ウエポンの料理終了!
 蔵うどんが棺桶にボコられた!
 ウエポンの昼寝!
 最強デスペナルティ棺桶が、ヘルマスカーになってしまった!
 蔵うどんはオール7フィーバーした!
 しかし、意味が無かった!
 死んでしまった勇者を横目に、ぬこがこっそりオールオーバー!
 ウエポンを倒した!クズチョコボを手に入れた!

 のどかな牧場に、鈍足チョコボが駆け回る。
「オールオーバーすげえ!これでメテオ倒せないのか?」
ケット・シーが肩をすくめる。
「ワイは、あくまで分身です。本体程器用じゃありません」
「要するに、スロットが揃わねえって事か?」
殆どピクニック状態のパーティの横で、セフィロスがメテオを見据える。
309【それでは皆さん、また来襲!】2:2005/05/16(月) 20:22:10 ID:rP43Sofy
 地底湖の澄んだ流れが、魔王の顔(かんばせ)を照らす。
「何故私を倒さない?」
クラウドが淵に佇む。すうっと、己の首に指を滑らせ、魔王が笑う。
「あんたの自殺を手伝いたくない。旅の間も、仲間だっただろ?」
正宗が、勇者の喉笛を押さえ込む。
「私はお前の支配者。お前は私の人形。忘れたのか、クラウド」
「――ッ!」
じわりと、勇者の血が滲んで。アルテマウエポンが、正宗を弾いた。
「き、興味ないね!俺は『ぱふぱふ』にハアハアするんだー!!!」
「何がどうなって『ぱふぱふ』だこの無節操勇者がっ!!!」
来い、いいから来いとイカに引きずられ、大空洞最深部に到着です。

 清かなホーリーの輝き。空間を満たす、優しい体温。
「エアリスの祈りが……!」
「大空洞は、厄災の呪詛と怨嗟も満ちている」
 厄災は、人の望みを叶える者。力を与え、進化を促す。
 我が同胞は兵器。しかし、何処かで人になりたがっていた」
「おまえのゆってる事は意味不明なんだよ!」
「……呪文を一つ、教えてやろう。ホーリーを解き放つ魔法を」
「え?」

 1 腕を伸ばし、黒マテリアを凝視。
 2 そして同時に唱える。
 3   バ   ル   ス

「Σ(゜Д゜;≡;゜д゜) マジで?!」
何だかよく分からない勢いで、最後の迷宮が瓦解してゆく。
ホーリーの光が天に満ち、同時に厄災が瘴気を放つ。
「おいでなすったか!うしっ、行くぜ!」
ノーズアートの女神が皆を乗せ、メテオに向かう。
310白 ◆SIRO/4.i8M :2005/05/16(月) 20:23:43 ID:rP43Sofy
■次号予告■
クラウドに与えられた時間は短い。
フェンリルは猛攻をすり抜け、剣を交わす。
エキゾ―ストノートと共に。孤児達の元へと走り出した。
「ピザお持ちしました!」

次回「点数が足りない!」
   「駐車違反ですよ」の2本です。
311名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/17(火) 10:49:35 ID:NVz0ru8N
最下層だ
312興味無いね(´ _ `*と愉快なマターリ旅(仮):2005/05/17(火) 20:24:34 ID:F/+nmFdv
>311 地の底でまったり中です。⊂(゜∀゜⊂⌒`つ

■今迄の粗筋■
「これが銀髪の男か?」
「うひょ!うっひょっひょ!」
エルフェさんが頭を抱えますた。
もっさりしたヤズーが、物陰から偵察です。

前話は>>307-310です。
313【それでは皆さん、また来襲!】3:2005/05/17(火) 20:30:38 ID:F/+nmFdv
 アクロバティックな急上昇に、飛空艇酔い絶好調。
「ちょっと!どーすんだよヒゲオヤジ!!」
「大気圏を突破させんに決まってんだろ?なーに、心配すんな。
 それによ。こいつぁ、大将の願いでもあるんでい」
セフィロスが静かに立ち上がった。

 デッキをうねる、ホーリーと瘴気のジェット。
「セフィロス?何をするつもりなんだ?!」
常人ならば一瞬で窒息し凍りつく空間に、勇者と魔王が立っている。
英雄の表情は不思議と優しく、柔らかい。
ただ、黙って。クラウドのチョコボ頭をこれでもかこれでもかと掻き回す。
「うわ?な、何だよ?!」
ウルトラマン飛びで英雄はジュワッチし、妖星へと飛び去った。
「勝手だよ、あんた。又居なくなるなんて、冗談じゃないぞ!」

 ふわり、と。花の香りが高高度に広がって。
「大丈夫。セフィロスのこと、私に任せて」
「そうそう!トモダチに任せとけって!」
ロッドが軽やかに旋回し、金色の息吹が皆を包む。
「エア……!」

 マリンの真っ直ぐな眼差し。
その瞳に写るミッドガル。そして集まる、ライフストリーム。
飛空艇が変形し、内蔵されたジェット機が陸へ。
ミサイルが、凄まじいスピードでメテオに向かった。
古代種の聖魔法と、スーパーノヴァのイカっ羽根。
ついでにヒュージマテリアが混ざって、無茶苦茶な空間に。

勇者の刃が――魔晄の風をまとい、燦爛たる光彩を放つ。
314【それでは皆さん、また来襲!】4:2005/05/17(火) 20:32:37 ID:F/+nmFdv
 ――そして。砕け散ったメテオが、無数の光の帯となり、天に広がる。
地に落ちる前に。ホーリーの青白き光が打ち消し、弾ける。
ライフストリームの光の中で。エアリスが、皆に駆け寄った。
「綺麗。空、花火みたいだね」
「……エアリス!」
ドカッとクラウドを突き飛ばし、ティファがエアリスを抱きしめた。
押し競饅頭状態になりながら、皆が帰って来た仲間を歓迎する。
「あ、あのね、みんな」

 みんな、大好きだから。だからお願い。
 分かって。今はさようならを、言わせて。

 すうっと、ユフィの瞳に涙が零れる。
「アタシ、探すから!又会えるよな?」
「うん、KHといたストで」
「ACNG集にも出るよね?」
「うん、え?どう……かなあ」
思い出したよーなタイミングで。ドカドカっと赤いライフストリームが
勇者に星痕症候群感染させやがりますた。
「お前の物は私の物。私はいつもお前の側に(ry」
「それジャイアン。興味ないけどね」そう突っ込みつつ、クラウドが囁く。

 別れの前に、伝えさせてくれ。おかえり。ずっと待っていたんだ。

 遥か遠き星で、空を旅した者達。
懐かしい人の声が。太古の民の祈りが。凍てついた宇宙を包んでゆく。


おしまい。
315白 ◆SIRO/4.i8M :2005/05/17(火) 20:34:10 ID:F/+nmFdv
■おまけ■
――500年後。
雄叫びを上げるレッドXIIIの元に、子供達が集まる。
漣と緑に囲まれた都市。満ち溢れる陽光。
花咲くミッドガルの庭で。子供達が遊んでいる。
ポテポテとヴィンセントとケット・シーが、レッドXIIIに近づく。

空を渡る、真白き鳥の群れ。
クラウドがゆっくりと微笑み、天を仰いだ。
316名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/18(水) 01:41:46 ID:KyzMnYTq
個人的にはこの位置が好きだったりします。(最下層)

>>312-315
毎回毎回読みながら腹を痛くさせてもらってました。超GJ!!
さりげなくACとかいたストとかに繋がってる配慮はさすがです。
結局なんだかんだ笑わせておいて、最後の別れの描写は切ないですよ・゜・(ノД`)・゜・
言葉の選定の仕方は相変わらずきれいでうっとりしてました。
本当にお疲れさまです。

で、もちろん新作待ってます。
317奇跡の軌跡 21:2005/05/18(水) 01:52:36 ID:KyzMnYTq
描写は甘いかもしれませんが、今回は間違いなくえぐい内容です。苦手な方は避けてください。>>297-300
----------------------------------------
第259日目:
 朝、海岸に出てみると信じられない光景が広がっていた。
 完成間近の筏(土台部分)が壊されているのだ。
 それだけではない。
 崩された筏の山の中に人が倒れている影が見える。
 驚いて駆け寄れば、いつかの娘の姿があった。
 首だけを出して、全身が材木に埋まってしまっている。
 私はその木をどかし彼女を救助しようと試みた。
 慎重に除けたつもりだが、途中で音を立てて崩れてしまった。
 彼女の首が、足下に転がった。
 身体はすでに無くなっている。
 木で隠されていた部分が露わになってなって初めて気づいた。
 海岸には夥しい量の血が飛び散っている。
 モンスターの仕業だろうかとも考えたが、それにしては不自然な点がある。
 1点目はこの状況だ。
 モンスターが人間を襲う理由はただ1つ、補食するためだ。
 この場合、残るのは消化することのできない骨のみである。
 頭部だけがそのまま残っていることはない。
 2点目はえぐれた切断面だ。
 人間を襲うモンスターの場合、ほとんどは鋭い牙か爪を持ち、
 それらで骨や肉を砕き、あるいは切り裂く。
 この傷跡から察するに、おそらく切れ味の悪い何かで、何度も何度も
 切断を試みたのだと考えられる。
 壊された筏。
 バラバラになった木を組み直して、飛び散った血を隠したのは意図的だろう。
 その上に彼女の首だけを乗せていた。
 ……この事から考えられるのは、それは「見せしめ」のために行われた
 一種の処刑なのではないかということだ。
 とても嫌な予感がする。
 急いでセリスの元へ戻った。
318奇跡の軌跡 22:2005/05/18(水) 01:54:40 ID:KyzMnYTq

第260日目:
 セリスの回復は明らかだった。
 たとえ僅かな反応だったとしても次に繋がる。その手応えを私は確かに感じた。
 間違いなく、セリスは目覚めようとしている。
 だから、彼女が目覚めるまで傍にいようと私は決めた。
 地下室に放り込んであった漂着物をあさり、手頃な武器や防具を護身用に
 持ち歩く事にした。
 もしかしたら、この鉾先を向けるのは同じ人間である事を思うと
 居たたまれない気持ちになる。

第262日目:
 「食糧不足が招いた悲劇だ」
 男はそう言った。
 この家の扉を開いた4人目の人間は……残念ながら狂気に満ちていた。
 どうやらこの島に残る最後の人間は、我々だけになってしまった様だ。
 今になってようやく、いつかここを訪れた娘が口にした言葉の意味が分かった。
 …逃げるべきだったのだ。



 海岸に漂着した武器類のうち、男がたまたま扱える短剣を手にした事が全ての発端
だったという。
 島の内陸部に生活の拠点を置いていたこの男は、慢性的な食糧不足に悩まされていた
のだろう。後になって冷静に考えれば、海へ出れば魚だっているというのに、男はその道を
選ばなかった。北端の崖から身を投げる人々――彼にとっていつしか、その人々が貴重な
食糧源となっていたのだ。
 しかしこれで、ある日を堺にして海岸に漂着する遺体の数が減少した事や、鳥の数が
増した現象にも納得がいく。
319奇跡の軌跡 23:2005/05/18(水) 02:03:34 ID:KyzMnYTq
 極限にまで追い込まれたとき、人は人であることをあっさりと手放してしまう。
力とは――人間から“心”を奪うものなのだと知った。

 こうしてシドは、はじめて自分の行っていた研究の顛末を見たのだった。

 確かに最初は、同じ人間に刃を向けるのをためらっていた。しかし、そんな事は
言っていられない。抵抗しなければ、こちらの命を奪われるだけなのだ。 いいや。
 自分の命などどうでもいい。しかし、背後で眠り続ける少女の――生きようと、
目覚めようとしている――生命だけは、なんとしても守り通さねばならなかった。
 持ち慣れない剣を手に、シドは男と向き合った。
 生まれてこの方、研究一筋で剣になんて触れたこともない。そんなシドがこの
歳で初めて剣を人に向けている。剣を握る手は汗ばみ、足は震え立っているのも
やっとだった。震えにあわせて身につけた盾や鎧がカタカタと音を立てた。まるで
情けないシドの姿をあざ笑うかのように。
「せ、セリスには……指一本ふれさせんぞ」
 震える声をようやく絞り出して吐いた言葉も、男の前で呆気なく立ち消えた。殺気と
呼ぶよりも狂気に近いその気迫に、シドは思わず後ずさった。しかし崩れかけた薄い


-----

壁一枚を隔てた部屋の奥に、セリスが眠っている。ここを退けば、セリスの命が危ない。
 シドは意を決して剣を振り上げた。
 ――何もない。何も感じない。あるのはただ、セリスを守る一心のみだった。
320奇跡の軌跡 23[改行訂正]:2005/05/18(水) 02:05:38 ID:KyzMnYTq
>>319不自然になってますが、単なる入力ミスです。読みづらくしてすんません。

ちなみにこれで内容的にアレな部分は終了です。
321名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/18(水) 02:52:38 ID:UngBtjWn
聖餐キタ━(((゜Д゜)))━…! ケフカ思い出して切ないです。
おじいちゃんがんまれ!物凄いがんまれ!
322名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/18(水) 20:52:38 ID:x4asAVPY
最下層安芸
323名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/19(木) 04:26:59 ID:T8kW5yGt
ほしゅりんば
324 ◆BELLSBdFOI :2005/05/19(木) 06:08:06 ID:W7lAHP46
お久しぶりです。
現在絶賛放置プレイ中のSSがありますが、新作投下させてください。
性懲りもなくFF10、ユウナのエンディングその後のお話です。
10-2はなかったことになっています。
325ETERNITY:2005/05/19(木) 06:10:32 ID:W7lAHP46

 そこは初めて見る場所だった。
海の底のように暗く、けれど水の中とは違って息苦しさを全く感じない場所。
漆黒に埋め尽くされた視界から、海の底を連想したのかもしれない。
けれど、海とは違い、そこに生き物の気配は全くなかった。
ユウナ一人を除いては。

 置き去りにされたような不安な気持ちを抱いたまま、ユウナは一歩ずつ前進した。
硬くもなく、柔らかくもない地面を歩いていると、まるで宙に浮かんでいるような気持ちさえしてくる。
辺りを見回しても、濃霧のような黒が視界を完全に遮断してしまっている。
誰かを呼ぼうとしたけれど、どれだけ張り上げても声は響かない。
為す術の無くなったユウナは、口元に指を当てた。
召喚士としてシンを倒すための旅の中で、彼に教えられた指笛。
困った時はすぐ助けに来てくれる、という約束。
彼は消えたのだ、朝陽を溶かしたような真っ赤な海の中へと溶けていってしまったのだ。
分かっている。
だが他に何をすればいいのかも思いつかない。ユウナは構わずに指笛を吹いた。
風を切ったような高い音が響いた。
不意に後方から光が差し、反射的にユウナは振り返った。
目も眩むような眩しさに何が起こっているのか直視することが出来ない。
思わず手で両目を覆った一瞬、光が何かヒトのような形を成していくのが見えた。
やがて光の洪水が止み、辺りに再び薄暗い闇が戻ると、ユウナは恐る恐る目を開いた。
326ETERNITY 2:2005/05/19(木) 06:16:45 ID:W7lAHP46
「ユウナ」
誰かの声を聞いた。
とても懐かしい声だ。
そして、ずっと聞きたかった声だ。
「ティー……ダ?」
柔らかな唇がその名を形作った瞬間に、ユウナは力強い腕に抱きすくめられていた。
ずっと探していたのはこの腕だった。
「キミ、なの?」
ゆっくりと、その形を確かめるようにユウナはティーダの頬に触れていく。
「私、ずっと待ってた。……ずっと、会いたかった」
旅の間ずっとユウナを見つめていた空色の瞳に、再び自分の姿が映っているのを見ると、
ユウナは安心したようにティーダの胸に顔を埋めた。
「俺も、会いたかった」
ユウナを抱きしめる腕にひときわ強い力がこもると、どちらからともなく唇を求め合う。
触れるだけの口付けはすぐに深いものへと変わり、次第に増していく激しさが互いの熱を伝え合った。

 硬くもなく、柔らかくもなかった筈の地面が、ふわりと二人の身体を抱き留めた。
もつれ合ったままで、懐かしいその感触に酔いしれる。
もう二度と会うことはないのだと、諦めたはずのあの感情が再び燃え上がる中で、
ユウナの意識は歓喜の海へと埋没していった。
327名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/19(木) 07:04:28 ID:SSDqwrNV
キタ━(゜∀゜)━( ゜∀)━( ゜)━( )━(゜ )━(∀゜ )━(゜∀゜)━!!!!
胸に迫る描写や、読みやすくて美しい文体に萌えました。続きも楽しみにしてます!
328名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/20(金) 00:54:50 ID:rRQ+tSsY
>>325-326
描写がよかとです。無駄なくスムーズに、だけど味のある描写は読むだけで
情景が流れ込んで来るようです。ため息しか出ませんですはい。
その秘訣は文章のまとめ方なんでしょうか?

で、もちろん続きも待ってます。(首を長くしすぎて絡まってるぐらいの勢いで)
329奇跡の軌跡 24:2005/05/20(金) 01:00:30 ID:rRQ+tSsY
>>317-319
FF6の諸悪の根元は三闘神でもケフカでもなくシドだ! という主張について考察する話。
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               ***

 血の色に染まったページを破らないように慎重にめくり、消えかかった文字を補いながら
読み進めていく。文字だけではなくページ全体が、ここで繰り広げられた悲惨な光景を
目撃した――記録ではなく、まるで証言者だった。
 かつて帝国将軍にまで上り詰めたセリスにとって、戦場で行われるその光景はいわば
日常である。人が人に刃先を向け、その命を奪う。
 恐ろしいことだが、人の感覚は麻痺してしまう。戦場という極限の状況に置かれた人間は、
その身を守るために武器を取り、心を守るために感情を殺す。
 将軍として皇帝ガストラに仕えていた頃、まだ幼いながらも魔導の力を得つつあったセリスは
ふと疑問に思う事があった。
 ――剣で殺されるのと、魔導で殺されるのは、どちらが苦しいのだろう? と。
 魔法を放つときは相当の精神集中を要する。それでも、剣で相手を傷つけるよりは負担が
少なかった。
 間近で苦しむ顔を、あるいは声を聞かずに済んだからだ。
 セリスは力を与えてくれたシドに感謝していた。
「…………」

 けれど、それはただ単に汚い物をヴェールで覆い隠しただけに過ぎない。

 シドのしたことは、形を変えた殺戮だ。
 多くの帝国兵を、私や……ケフカという破壊をもたらす力そのものを産み落とした……科学者だ。
 三闘神が魔法と幻獣の生みの親であり、文字通りの神と崇められるならば。
 幻獣達から無理やり魔導力を引き出し、移植したシドの行為は神の意に背く大罪人なのだろうか。
 そうだとしても、私はシドに感謝している。

               ***
330奇跡の軌跡 25:2005/05/20(金) 01:02:47 ID:rRQ+tSsY
第263日目:
 私の体中が血に染まっている。
 痛みはない。
 もはやこの血が誰の物かは分からない。
 散らばる残骸を片付けよう。
 足が動かしづらい。

第264日目:
 私はセリスを救うことができるだろうか?
 帝国の研究所にいた私はこれまで、数え切れない人々に魔導の力を与えてきた。
 しかし、果たしてその力で救えた者はいたのだろうか。
 いったい何人の者が救われたのだろうか。
 魔導の力を得た者の多くは、戦地でそれを発揮した。
 ここ数十年という短い間の帝国の繁栄が、すべてを物語っている。
 …犠牲者が出た。
 魔導の力を得るために、多くの幻獣の生命を奪った。
 ここ数十年という短い間の帝国の繁栄の裏に、その暗い歴史がある。
 …犠牲者が出た。
 人間も、幻獣も。
 私は誰も救うことができなかった。
 だからせめて、こうして再会したセリスだけは救いたい。
 数値は安定。

第272日目:
 前庭反射を確認。セリスの身体は着実に回復を見せている。
 私はセリスを救おうとしているのだろうか。
 回復を見せるセリスに救われている、そんな気がしてならない。
 こんな私にも、救える者がいるかもしれない…。
 私はセリスに感謝している。
331奇跡の軌跡 26:2005/05/20(金) 01:09:54 ID:rRQ+tSsY
第278日目:
 壊された筏の修復を始める。このままいけばセリスは確実に目覚めるだろう。
 そのとき、島の外に出るという選択肢を残しておくためだ。
 傷のため足が動かしづらくなった。必然的に作業効率が落ちる。
 あのとき負った傷はそれほど深くはないので心配はいらないが、
 作業がしづらくなったのは難点か。

第285日目:
 幸い壊れていたのは木と木を結びつけていた綱が切られていたぐらいだ。
 以前と同じようにして土台を組み直す作業を続けていけば、わりと早い時期に完成できるだろう。
 動力はやはり風の力を頼るしかない。
 帆の代わりとなる材料を探さなければならない。

第290日目:
 廃屋にはまだ使えそうな材料が眠っている。
 何枚かあるシーツを重ねて帆の代わりになるだろうか。とにかく形にしてみよう。
 セリスの容態は安定。
 反応を示すようになったものの、まだ小さいものばかりだ。油断はできない。

第300日目:
 セリスに咽頭反射を確認。ここ数日間、彼女は目に見える早さで
 回復を遂げている。
 私も体の不調などとは言っていられない。
 一応、化膿して熱を持った部分は切除しておいた。
 彼女が目覚めるまでに、終わらせておかなければならない事はまだ残っている。

----------------------------------------
>>329
> 移植したシドの行為は神の意に背く大罪人なのだろうか。
                         ↓
                        大罪なのだろうか。
度重なる訂正ですんません。
332名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/20(金) 18:48:31 ID:gifOHG2D
キタ━ヾ(   )ノ゛ヾ( ゜∀)ノ゛ヾ(゜∀゜)ノ゛ヾ(∀゜ )ノ゛ヾ(  )ノ゛━━!!
セリスさんの独白の最後がじーんとします。読んでたらおじいちゃん好きになりました。
333名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/21(土) 14:42:48 ID:5vBtH6Mr
ほす
334奇跡の軌跡 27:2005/05/22(日) 01:57:52 ID:g35lKq79
>>332 そう言ってもらえると嬉しいです。

それでは保守兼ねての投下。>>329-331より
----------

第315日目:
 筏の土台部分はほぼ完成した。
 帆の代用とするために、廃屋に置き去りにされていたシーツを縫い合わせる。
 何軒かまわって、ようやく数がそろった。
 私の方は、多少微熱がある。
 やはり疲れがたまっているのは否定できないようだ。

第320日目:
 セリスの皮膚反射も戻った。。
 筏の方は土台と支柱になる部分は完成した。あとは帆のみだ。
 最近ひどい目眩に襲われる事がある。

第330日目:
 帆の部分を縫い合わせるための作業が続く。
 しかし体調の悪化を考えて、
 今のうちに地下室に筏を運んでおいた方が良さそうだ。
 セリスが目覚め、一人であの場所から海岸まで筏を持っていくのは重労働だ。

第335日目:
 セリスの表情が変わっているような気がする。
 外からの刺激にも多くの反応を示すようになった、
 以前にもまして代謝が活発になっている。
 いよいよ、目を覚ますのも時間の問題だ。
 よくがんばった。
335奇跡の軌跡 28:2005/05/22(日) 02:01:14 ID:g35lKq79
第339日目:
 筏の搬入作業を終える。
 この家の地下室は、そのまま海に出られる構造になっている。
 漁師の使っている建物だったのだろうか。
 それとも帝国からの攻撃に備えた構造なのだろうか。
 いずれにせよ好都合だ。

第340日目:
 寝返りを打とうとしたのだろうか、セリスがベッドから落ちた。
 突然のことで驚いたが、
 彼女自身の意志で身体を動かすことができるようになった証拠だ。
 何度か同じような事を繰り返す。

第342日目:
 ベッドの上で必死に寝返りをうとうとしているセリスに手を貸す。
 少し無理な体勢だったのだろうか、苦しそうに息をしている。
 その合間に、わずかだが確かに聞き取った。
 セリスののどから発せられた、声にならない音。
 感覚が戻っている。

第350日目:
 目眩が頻繁になる。
 頭痛や吐き気のため、ろくに外へも出られない。
 しかし、セリスが目覚めるまでは元気でいなければ。
336奇跡の軌跡 29:2005/05/22(日) 02:02:57 ID:g35lKq79
               ***

 ページをめくるたびに近づいてくる時間。真っ白だったセリスの脳裏に書き込まれていく記憶。
 それは同時に、シドとの永遠の別れの時が近づいていることも意味している。
 書き続けられていたシドの文字が途絶える日まで、残されたページは少ない。この記録を見つけ、
読み始めた当初の「早く先を読みたい、読み終えてしまいたい」という気持ちは、やがて不安へと
すり替わっていた。

 ――シドは、命を削ってセリスを守り抜いたのだ。
337奇跡の軌跡 30:2005/05/22(日) 10:17:28 ID:6NWY19G2

               ***

第360日目:
 セリスは依然安定を保っている。
 目覚めてから1年が過ぎた。
 これまでの記録を眺めながら、長い孤島での生活を思い出す。
 筆を執るのもつらくなってきた。足だけではなく腕の神経までやられているのか。

第362日目:
 起きていることさえも困難になってきた。
 セリスが目覚めるまでは……。

第363日目:
 このまま、私は誰も救えずに死ぬのだろうか。
 すまない。

第365日目:
 夢ではない。
 セリスが目覚めた。ようやく、やっと。
 私はどれほどこのときを待ちわびた事だろう。

               ***

 セリス自身、目覚めた当時のことはそれほどよく覚えていなかった。しかしこの記録を読みながら、
ゆっくりと、そして確実に記憶がよみがえる。
 セリスが聞いたシドの言葉。シドが語った言葉の真実が、この記録に残されている。

               ***
338奇跡の軌跡 31:2005/05/22(日) 10:19:27 ID:6NWY19G2
『おお、セリスよ……やっと目覚めたか』
『私……どれぐらい眠っていたの?』

 目覚めたセリスが最初に尋ねてきたのは、
 どれほどの期間、自分が昏睡状態にあったか、という事である。
 彼女らしい。そう思った。

『ちょうど1年じゃよ。もう助からんと思っておった』
『1年間も……シドが私を介抱してくれたのね?』

 これでようやく……私は役目を果たせた。
 そう思うと全身の力が抜けた。
 回復しきらなかった傷は、認めたくはないが確実にこの身を蝕んでいた。

『ああ。でもわしはもう疲れた……。
 ここは小さな無人島じゃよ。世界が引き裂かれた後、気づいたらこの島に倒れて
 おった』
『引き裂かれた……夢じゃなかったのね。みんなは? ……ロックは?』

 セリスが流木に乗ってこの島に流れ着いたのは、
 空中分解したブラックジャック号から振り落とされた事をはじめて知る。
 彼女が命を落とすことなく、この島に流れ着いたのが
 改めて奇跡だと思った。
339奇跡の軌跡 32:2005/05/22(日) 10:27:06 ID:6NWY19G2
『わからん。島以外の事は何も……。
 世界はこの島を残して全て沈没してしまったかもしれん。あの日から世界は一歩一歩
 破滅に近づいている……。草木や動物はどんどん死に追いやられ、生き残った
 島の人も次々と希望を失い北の岬の崖から身投げしよった』
『みんなはもう……生きていないのかも……』

 なるべく手短に…事実を伝えた。
 あの事件の事には触れなかった。セリスが知る必要はない。
 知れば彼女は傷つくだろうと、そう思ったからだ。
 それに…
 もうこれ以上、セリスが絶望を味わう必要はないのだ。

『セリスよ、気を落とすな。
 お前はわしにとって世界で一人の家族じゃ。ここでいっしょに静かにくらそう』
『ええ……そうね…シド……
 いえ、おじいちゃん。そう呼んでいい?』

 セリスが無理をしているのは一目で分かった。
 私の言葉も慰めでしかない、そうと知りながら、悟られまいと笑顔を見せる。
 すまない、セリスよ…。

『おじい!?
 へへ てれるのォ突然孫娘ができたみたいで……』

 どうやら私の容態は思っている以上に悪化しているようだ。
 セリスが「おじいちゃん」と呼ぶ理由は、何となく察しがつく。
 しかし、呼び慣れない名で呼ばれるのは、嬉しくもあり恥ずかしくもある。
 ……おじいちゃん、か。
340奇跡の軌跡 33:2005/05/22(日) 10:32:10 ID:6NWY19G2
第369日目:
 目覚めたセリスは献身的に介抱してくれている。
 あれから、私のために魚を取りに行ってくれる。
 その姿からは、1年間の昏睡状態から目覚めたばかりとは思えない
 力強さを感じられる。
 やはり筋力等の後退は見られなかった。

第370日目:
 容態の悪化が手に取るように分かる。
 もう時間がない。
 私にやれることは、終わらせておかなければ…。

               ***

 ここで1ページ分が破られていた。
 どうやらセリスに残した手紙を書いていたらしい。筏の在処を記し、島の外へ出る様に
書き残したシドの身体は、もはや限界だったのだ。

 そして、この日を最後に記録は途絶えている。この先どのページをめくっても、ただ
ひたすらに真っ白なページが続いているだけだった。

「……シド……!」
 
 誰よりもセリス自身がシドの死を目の当たりにしていた。文字が書かれることのない
白紙が延々と続くだけで、それでもページをめくる手を止めなかった。
 続きなんてないと分かっているのに、記された文字を必死で探した。シド、ごめんねシド。
そう何度もつぶやきながら。
 分厚い本のうち、シドが書き記すことのできたのはおよそ半分のページだった。誰も
いなくなった孤島にかろうじて残ったあばらやの一室で、紙をめくる音と、その合間に
薪がはぜる音だけがする。
 一晩中、その音がやむことはなかった。
341名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/23(月) 00:46:51 ID:rSmbrExT
す、すごい!いっぱいキt…おじいちゃーん…。・゜・(ノД`)・゜・。
読み続けてるセリスさん、すごく素敵なシチュエーションだと思います。
体が弱りながらも記録するおじいちゃんが切ないです。
342名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/23(月) 22:45:17 ID:Byt/H9dl
保守うううう!
343名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/24(火) 13:21:32 ID:2aC/lNfg
真昼の保守
344白 ◆SIRO/4.i8M :2005/05/25(水) 03:14:45 ID:hhJkG2gO
>奇跡の軌跡
涙で前が見えませんです。( ´Д⊂ヽ うまい魚1tぐらい食べさせたかったよう。
すげくいい科学者さんだけに、最後の日々は幸せを願うですよ。。。
345真夜中のほぼまりもんば(1):2005/05/25(水) 03:16:08 ID:hhJkG2gO
 神殿に古代種の意識と悲鳴が溢れる。魔王の冷たい声がした。
「この星を喰らい、神となる。それが兵器である私の使命だ。
 それが嫌ならば、復活させてしまった科学者を憎め」


  二千年前、星に与えられし厄災。
 それは遠き星の戦争から始まった。
 武将は猛き剣を求め、科学者は兵器を創り上げた。
 その一振りの剣は、人の躯から生まれし者。
 彼の者は文明を滅亡させ、贄を求め旅に出た。
 残された人々は、科学を禁呪としたと言う。

  やがて兵器は新しい星に辿り着く。
 その地には、星を渡り育てる人々が居た。
 穏やかで優しい日々。兵器である者は、彼等の仲間になりたがった。
 ここでなら、人に戻れるかも知れないと。
 思い出の人々の姿を写し、彼等に話しかけた。しかし。
 兵器の身に仕込まれたウィルス。
 それは星を育てし者に感染し、怪物へと変えた。
 同時に酷い飢えが兵器を襲った。

  それでも、兵器には友がいた。初めて得た平和だった。
 兵器は飢餓のまま、友と逃げ続けた。
 不思議なことに。友達は怪物にならなかった。友は言う。

 「君はさ。兵器じゃなくて、きっと神様なんだよ。
  だから、すごい力や魔法が使えるんだ。きっと」
 「私が神? そうなったら、みんな幸せになる?」
 「なるよ。だから、悪い事はしないって約束してくれ」
346ほぼまr@祀り損ねた神(2):2005/05/25(水) 03:18:02 ID:hhJkG2gO
  やがて、冒険者と星の守護神が立ち上がった。
 勇者は魔法を結晶にし、怪物達と戦う。
 剣を前に、兵器は邪神の姿へ戻る。
 もはや友に、兵器を庇うすべは無かった。

 「さようなら。私は、貴方になりたかった。
  いつか貴方の子孫に、会える事を祈っています」

  永き戦いの果てに。勇者達は厄災を封印した。
 厄災が封じられた後、一つの船が星に到着する。
 はじまりの星からやって来た人々だった。
 彼等は科学と魔晄の知識を持ち、星に定住してゆく。
 封じられし厄災は、新しい種族を憎んだ。
 厄災には成しえなかった、古代種の仲間となった為に。

  やがて、封印が解かれる。長過ぎた封印は、彼女に狂気を宿した。
 そして科学者達を操り、古代種に良く似た息子を産んだ。
 美しく、優しい古代種に似た子供。
 作り出した科学者は、後に真の古代種と出会う事となる。


 釘バットと軍手と銀玉鉄砲とロケットパンチとスーパーボールと
モップと法螺貝とかんざしとアンブレラの猛攻をかわし、
魔王は古代種の娘を見つめる。
ずっと厄災が、仲間になりたかった種族を。

END
347(゚Д゚)ウボァー ◆SIRO/4.i8M :2005/05/25(水) 07:31:17 ID:ZD7DOX9N
すんません。一行追加すます。これじゃシンさんだよ…。(;´Д`)

>>345
× 残された人々は、科学を禁呪としたと言う。
○ その後文明が復興したが、又科学によって滅亡し
  残された人々は、科学を禁呪としたと言う。

       ‖
      ('A`)
       l( l)
        | |
348名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/25(水) 22:57:20 ID:wESQLXyg
作品たくさん
どれもイイヨイイヨー
349名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/26(木) 19:38:18 ID:TgXh9+P/
作品たくさん(*´Д`)ハアハアほっしゅ
350名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/27(金) 09:27:24 ID:m2dZhjtl
FF7のアルテマウェポンかな?
短くて読みやすかったけど神秘的な話でうっとりしました。
351名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/28(土) 00:52:24 ID:UKTfKv3v
圧縮があったようなので保全
352名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/28(土) 05:20:44 ID:GhAR7zfy
>>345-347
個人的にFF6、7、10に強く現れている、“人の生み出した科学の恩恵と戦争という副産物”
という構図を、科学者という視点でそれを描くより生み出された「兵器」の視点っていうのが
またツボです。兵器として生まれたが故に背負わされた運命と、自身の存在理由に反して
平和を求めて彷徨う姿は泣けてきます。
乙でした。
353奇跡の軌跡 34:2005/05/28(土) 05:33:42 ID:GhAR7zfy
>>334-340。もしかしたらテーマは「帝国の人々」かも知れない話。
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 ――いつの間に眠ってしまったのだろう。
 暖炉の火も消えて、すっかり闇に包まれた部屋の中でセリスは目を覚ました。机の上には
閉じられた本だけが置かれていた。埃をかぶったベッドの上に、崩れかけた屋根の隙間から
星の光が細い筋となって注いでいた。
 再び暖炉の火をおこして、部屋はようやく温もりと光を取り戻す。それでもこの島に、人々の
笑顔と流れる時間が戻ることはない。
 長い夜だ、そう思った。
 どうして目覚めてしまったのだろう? もう読むべきページは残っていないのに。そんな風に
後悔した。
 割れた窓からわずかな風が吹き込んで来る。何気なくその方向を見れば、傾きかけた木柱が
見えた。それはシドの眠る場所を示す墓標にと旅立つ前にセリスが立てた物だった。
 まるで誘われるようにセリスは立ち上がると、本を片手に外へ出た。
 月明かりを背にして墓標の前に立てば、2本の細長い陰が海岸に向けて延びている。いつの
間にか風はやんでいた。
「……シド、……」
 本を置き、跪いたセリスは手を合わせて目を閉じた。祈り方なんて分からない、だからいつも通りに
話しだす。
354奇跡の軌跡 35:2005/05/28(土) 05:39:55 ID:GhAR7zfy
「……おじいちゃん、終わったよ。全部終わった……私たち、みんなで三闘神を倒したわ」
 長かった旅路の果てに、ようやく勝ち得た平和。シドに見せたかった世界。セリスの声は
明るく弾んだ。
「フィガロや……ツェン、マランダも、他の町も、復興に忙しいみたい!」
 人々の表情に笑顔が戻り、私たちを迎えてくれた。通り過ぎた各地で「ありがとう」と何度も
言われた。嬉しかった。
 けれど嬉しさの波が通り過ぎた後に残ったのは、どうしようもない孤独感だった。

「だけど……私……、これから何をしたらいいのかが分からなくなっちゃった」

 ――戦うことしか知らないの。この先、私にできることなんて何もない。
 世界から取り残されてしまった、そう思った。
 戦いが終わって、みんなはそれぞれ自分の帰るべき場所へ戻っていった。自国の復興に
邁進する者たち、故郷に待つ者との再会を果たし日常を取り戻す者たち――その中で、
私には帰る場所がない事を知った。

「そうだよね。今までさんざん、人の国や故郷を滅ぼしておいて……今さら、『帰る場所』
なんてね……ムシが良すぎるよね」

 自嘲気味に笑いながら、顔を上げた。目の前の木柱は返事をするはずもなく、ただ闇の中で
佇んでいた。
「…………」
 世界から取り残された孤島、セリスにとって戻るべき場所はここだけだった。
 ここで、静かに暮らそう。私にはそれしかできないのだから。だからこそ、たったひとりで戻って
来たのだ。
355奇跡の軌跡 36:2005/05/28(土) 05:51:57 ID:GhAR7zfy
「……この続き、私が書いてもいいかな?」
 置いた本を取り上げ、胸に抱いてぽつりと呟いた。
 木柱は何も語らない。明けることのない夜の闇と、永遠に続く沈黙だけがセリスを優しく
包み込んでくれた。愁いと安堵の狭間に沈んだ彼女の心に、光は届かなかった。
 部屋に戻ろうとセリスが立ち上がって振り返ると、あばら屋の軒先に一羽の鳩の姿を
見つけた。足に何かがついている――伝書鳩だ。
 懐かしい。
 不意に浮かんだのはそんな感情だった。ここへ来て何を懐かしむというのだろう? 
それでも、セリスは手を差し出した。
 どうやら人に慣れているらしく、セリスが手紙を受け取るのは苦労しなかった。小さく
折り畳まれた手紙を広げると、簡潔にこう書かれてあった。

    おたくのセリス、元気がないからさらいに行くぜ。
                さすらいのトレジャーハンター

 演出と呼ぶにはあまりにも稚拙で、だからこそ思わず顔がほころんだ。彼ららしい、
そんな風に思いながら。
 ――それにしても、これはどういう意味だろう?
 手紙を前に、セリスは思案に暮れた。差出人はすぐに思い当たった。以前にも同じ様な
“手紙”を読んだことがあったからだ。そしてそのときは――。
 記憶をたどるよりも先に、異変に気づき顔を上げた。
 途端に耳をつんざく音が響き渡る。闇と静寂に沈んだ孤島に起きたあまりに急激な変化に、
セリスは身構える。
356奇跡の軌跡 37:2005/05/28(土) 06:07:12 ID:GhAR7zfy
「な……何!?」
 今はない帯剣に手を伸ばそうとするのは、長年の軍属生活で身に染みついたクセ
なのだろう。苦笑を浮かべながら手を広げ、音のする方角――海岸と、その先に広がる
漆黒の海――を見つめた。
 やがて耳に懐かしい轟音と、月明かりに浮かぶ目映いほどの輝きと曲線が闇色の海に
浮かぶ。その姿を見いだして、セリスは叫んだ。
「ファルコン!」
 世界最速にして唯一の飛空艇。その所有者は三闘神討伐の旅路を共にした男であった
はず。それがなぜこんな場所に?
 考えている暇もなくファルコンは海岸に着地し、扉を開けて中から出て来たのは飛空艇の
所有者その人だった。
「よお。久しぶりじゃねぇか」
「……どうしてセッツァーがこんな所に?」
 言いながら、ほとんど無意識のうちにセリスは脇に抱えていた本を背に隠した。そんな
動作に気づきながらも、何食わぬ顔でセッツァーは答える。
「手紙、届いてないか?」
「え? え、ええ。手紙……ってもしかして……」
 おずおずと差し出したそれは、ちょうど今さっき見つけたもので。
「ああ、これこれ。それで俺がここにいるってワケ。2度目なんだから説明は要らないだろ? 
分かったらさっさと乗れよ」
「ち、ちょっと……!」
 差し出された右腕を強引に引っ張り上げて、セッツァーはセリスを艇へと押し込んだ。
彼女の意思などお構いなしだ。
357奇跡の軌跡 38:2005/05/28(土) 06:14:39 ID:GhAR7zfy
 飛空艇に入ったセッツァーは入り口の扉を閉めると、セリスの腕を放してそのまま操縦桿へ
向かった。強引に乗せておいて、何の説明もないのとセリスはその後をついて甲板へ出た。
「ちょっとセッツァー! どこへ行く気?!」
 そんな抗議の声には答えず、セッツァーは操縦桿を握っている。飛空艇が浮上してから
ようやく振り返ると、短くこう告げた。
「少しは静かにしてられねぇかな? 俺、操縦で忙しいんだよ」
「勝手に乗せておいて何よ! こっちの質問に答えなさいよね!」
「一応、事前に断りを入れてあるだろう? そんなにヒステリックになるなって」
 確かに『さらう』と予告している。差出人と実行犯は違うような気もしたが……と、危うく
セリスは納得しそうになってしまう自分を振り払い、抗議を続けた。
「予告すれば何してもいいって訳じゃないわよ!!」
 はいはい。と聞き流してセッツァーは再び操縦桿に向かう。そんな男の肩に手をおいて、
セリスは強引に引き寄せて叫んだ。
「降ろして! 今すぐ!!」
「あの島に戻ってどうする気だ?」
 対するセッツァーの声に熱はない、面倒くさそうにセリスを横目に見ながら問うのだった。
「そんなの私の勝手じゃない!!」
「お前の言うとおり、確かに勝手だけどな……やること無いならちょっと顔貸すぐらい良いだろう?」
 肩に置かれた手を払い、セッツァーは吐き捨てるように言った。


----------
書いておきながら言うのもアレですが、展開に差がありすぎますね…。(w
次回ぐらいで完結の予定です。
358名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/29(日) 07:18:27 ID:TnQwTOTF
ファルコン号もセッツァーも素敵かっけー!(*´Д`)ハアハア
深い地の文も明るい展開も、ホント神レベルで読めて幸せです。
おじいちゃんと一緒にセリスさんの幸せを願います。
359名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/29(日) 13:48:54 ID:yjNUV4m1
セッツァーいいやつだな。
セッツァーのやろうとしてることは大体わかってるだろうに
なんだか意地っ張りのセリスもたまらなくかわいい…
360名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/30(月) 17:21:49 ID:KfWhu6Jr
新作ラッシュがとっても嬉しい保守
361名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/30(月) 21:56:43 ID:ZxC5AFSK
復活キタ━━━ヽ( ゜∀゜)人(゜∀゜ )メ( ゜∀゜)人(゜∀゜ )メ( ゜∀゜)人(゜∀゜ )ノ━━━!!!!

FF・DQ千一夜物語 第五百五十一夜
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1117410562/l50
362名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/31(火) 22:25:02 ID:V5EKVMVD
千一夜キタコレ!!保守
363名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/01(水) 12:45:25 ID:rFzbDGw5
にぎわってきたよイイヨイイヨー
364名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/01(水) 17:57:32 ID:rK/d+6Fd
365最下層 ◆mjByRhDpIo :2005/06/01(水) 19:23:55 ID:J7NwAvrA
(´・ω・`)
366最上層 ◆6/G8kMZkXI :2005/06/01(水) 19:58:26 ID:sN+hVzeP
あげ
367名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/02(木) 21:52:18 ID:r+XvAwnv
意味もなく367ゲット保守!⊂(゜Д゜⊂⌒`つ≡≡≡(´⌒;;;≡≡≡
368臼 ◆SIRO/4.i8M :2005/06/03(金) 20:19:58 ID:icySW975
ほぼま(ry 
ついでに>>244-245書いてる間、ずっと頭の中でループしてた
ネタを置き逃げして逝きます。
ttp://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1094557827/591-593n
369名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/04(土) 21:43:36 ID:EXY0Scb/
370名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/04(土) 22:15:03 ID:R+ue2cyD
371ドリル装備の名無し ◆Lv.1/MrrYw :2005/06/04(土) 23:25:14 ID:eBxt9Z3p
>>368
ネタもさることながら、AAがか、カワエエ…(*´д`*)


50レス近くなってしまったFF6孤島物語にお付き合い下さいました方へ、
どうもありがとうございます。一部お見苦しい点があるのはご愛敬ということで。

以下、チラシの裏。
----------
※出典:FF6
  舞台:世界崩壊後〜1年間
  追記:
   孤島で目覚めたセリスからスタートするFF6後半戦。そこに至る1年間の
   話の辻褄を合わせるために書いてみたもの。特に押さえたかった点は。

   ○ セリスが全装備・アイテムを所持した状態で孤島にいること。

   ……だってホラ、エクスデス城に捕まった彼らだってアイテム没収されたら
   ちゃんと別の場所に収納(しかもそれを救出者が律儀に回収)されていたし。
----------


長々失礼いたしました。今回の投下分にて(あり得ないオチも含め)完結します。
372奇跡の軌跡 39:2005/06/04(土) 23:33:58 ID:eBxt9Z3p
>>353-357
--------------------
「相変わらずね」
「そりゃどうも」
 そう言ってわざと大げさに手を広げて見せる。この男のこういう態度が好きになれない。
そういえば初めてこの男と会った――オペラ座からブラックジャック号へと招かれた――時も、
こんな態度だった事を思い出してよけいに腹が立った。
 しかし喉元まで出かかった言葉は、あえなくセッツァーに遮られてしまう。
「おっとセリスさんよ、ご立腹のところ悪いがな、お前の質問に答えてやるよ。……見てみな」
 背を向けたままで片手をあげる。その方向に渋々セリスが目をやるが、ただ海が広がっている
ばかりで何も見えない。
「何よ?」
「まぁ黙って見てなって」
 白み始めた空の色が、夜明けの近いことを告げている。長かった夜が終わりを告げ、世界に
朝がやってくる。
 星々の光を飲み込み、やがて空は鮮やかなオレンジ色に塗り替えられていく。金色に輝く雲海を
すり抜け、眼下に広がる海原を見渡し、全身に風を浴びているうちに心までが洗われていくようだ。
「……きれいね」
 素直に口から出た感想は、思わぬところからあっけなく否定される。
「見てくれに惑わされるなって事だ。お前に見せたいのはこんな退屈な風景じゃないぜ」
 え? と振り返ったセリスをよそ目にセッツァーは飛空艇を旋回させる。
「? どういう……」
373奇跡の軌跡 40:2005/06/04(土) 23:47:42 ID:eBxt9Z3p
 やがて海原に浮かぶ大陸が姿を現す。海岸線から内陸部へ入り、森を越えたところで
町が見えてきた。地上を見つめながら操縦を続けるセッツァーが、静かに告げる。

「見ろ。アンタの滅ぼした国だ」

 マランダ。
 彼の声は恐ろしいほど鋭く、セリスの心を抉った。
 確かにまだ彼らと出会う前、帝国の将軍として彼女はここを訪れた事があった。忘れ
かけていた記憶が脳裏によみがえり、言葉を失った。手すりを強く握りしめ、うつむいた。
朝日を浴びて美しく金色に輝く髪が風になびいて、表情を覆い隠してくれる。そんな些細な
ことにさえ、セリスは安堵した。
 そんな彼女に構わず、セッツァーはさらに言葉を浴びせる。
「悪いがなセリス、今さらアンタを責めるほど奴らは暇じゃないんだ」
 高度を下げ、マランダ上空を何度か旋回した。甲板から町を見下ろせば、まだ夜が明けて
間もないというのに、建物の修復や野良仕事に勤しんでいる人々の姿が見えた。
 ――「たとえ町が100回壊されたって、101回直してやるんだ!」――どこかの町で出会った
少年の言葉が、セリスに聞こえた気がした。
「お前が帝国の将軍だった。そして滅ぼした国がある。殺した人間がいる。そ
りゃ変えられない事実なんだろう。だがな……いつまでも過去にしがみついて生きてるなんて、
格好つかないぜ?」
 そう語ったセッツァーの表情が、セリスには憎らしく見えた。もちろん、彼が自分を責めるために
言っているのではない事ぐらい分かってる。そして、こう言ったところでどうにもならない、それも
頭では分かっているはずなのに。
「言ったところであなたには分からないでしょうね。戦場で武器を取って戦わざるを得なかった人間の
気持ち……なんて」
 相手を責めるように吐き出した言葉。しかし、本当は分かってほしい、無意識のうちにそんな願いが
込められていたのかも知れない。顔を上げセッツァーと目を合わせられなかったその姿が、何よりも
雄弁に物語っている。
374奇跡の軌跡 41:2005/06/04(土) 23:57:17 ID:eBxt9Z3p
 セリスの言葉を受けてセッツァーの顔から笑みが消える。操縦桿を片手で操りながら、
半身をセリスに向けて断言した。
「そんなモン、教えてやると言われてもこっちから願い下げだ。それにな……どう言い訳
したところで、それはお前が選んだ道だったんだ」
 一瞬の沈黙。うつむいたセリスを見てもその表情は分からなかった。セッツァーは迷った。
これ以上言うべきかどうか――ただいたずらにセリスを追いつめるだけなのではないか――と。
 しかし、そんなものは杞憂でしかない。

「帝国に殺された人間が、殺した人間の気持ちを理解するなんて千年かけたって不可能だぜ?」

 あまりにもあっさりした口上に、セリスは驚いて顔を上げた――正義や悪、そんな概念に
とらわれずに生きてきたのがこの男だ――そう、セッツァーの言う通りなのだと、改めてセリスは
その姿を見つめていた。
 言葉が出なかった。不安と戸惑いの色を濃くしたセリスの表情を見て、セッツァーが笑う。
「……理解するって以前に、死んだ人間にどうやってお前の気持ちを伝えるんだ? 違うだろ。
伝わらない物を伝えようとしたってしょうがない。そこには……そう書いてなかったか?」
「えっ!?」
 それを聞いて思わず手元に抱えた本に目を落とす。手にうっすらと汗がにじむ。セリスは顔を上げて
問いただそうとした。その言葉の意味を、セッツァーが語るものの根拠を。
 ――どうして?
 しかし、セリスにのしかかる緊張が身体の自由を奪っているのが分かった。最初に言葉を発したのは
セッツァーの方だった。
「見な」
 言われるままに、視線をセッツァーの指し示す方角へ向けた。
 眼下には、人々の暮らす町が見える。
 崩れかけた建物には足場が組まれ、修復の作業に従事する人々。
 枯れた大地には新しく耕された跡が見える。
375奇跡の軌跡 42:2005/06/05(日) 00:01:40 ID:eBxt9Z3p
 空の上から、セリスはかつて滅ぼした国の復興を見つめていた。
 その国に朝日が降り注ぎ、まぶしく輝く。人々の姿も、町も、蕾を付けた枝葉の緑も、
何もかもが光を放っているように。

「『夢を取り戻せる』。……いつか俺にそう言ったのはアンタだ。だから今度は、俺が案内してやるよ」
 ――『どこへ行く気?』だと、まだ聞くつもりか?
    名前なんてどうでも良いだろう? それでも聞きたいってんなら教えてやるよ。
「未来、って場所にな」

 うつむいていたセリスに優しくかけられた声に顔を上げれば、操縦桿を握るセッツァーの背中が見えた。
 ――シドのくれた奇跡。仲間たちと共に取り戻した平和。私は……。
「お前をさらいに来るとか言ったヤツもな、いろいろと忙しいらしい。だから俺が代わって迎えに来てやった。
こうして強引にでも連れ出さなけりゃ、お前ずっとあそこでうじうじ泣いてたんだろ?」
「なっ……! 泣いてな……」
 言い終えないうちに足下が大きく傾いた。とっさのことに驚きながらも、手すりに捕まりなんとか横転を免れる。
操縦を続けるセッツァーは平然と言い放つ。
「降下するぞ」
「する前に言ってよ!」
「……、……だ」
 甲板の上を、風が吹き抜ける。その風と、飛空艇の轟音にセッツァーの声はかき消された。
「なによ?」
 そう問うセリスに、セッツァーはただほほえみ返すだけだった。


 ほどなくして、土煙を上げて飛空艇は町の外に着陸した。その姿を地上で見守っていた男と、セリスは
再会を果たす。
 シドの残した白いページが、やがてセリスの手で綴られた文字で埋まる。
 そこには彼らが歩む、もう一つの軌跡が記されることになった。



                                        −奇跡の軌跡<終>−
376奇跡の軌跡 42.05 [瓦礫の巨塔−シドの手紙]:2005/06/05(日) 00:06:34 ID:RUng63Zm

セッツァー君へ

この手紙をもって私の研究者としての最後の仕事とする。
まず、魔導力の源流を解明するために、三闘神の居城たる瓦礫の塔と周辺の地理分析をお願いしたい。
以下に、魔導研究についての愚見を述べる。
魔導その他エネルギーの利用について考える際、第一選択はあくまで平和利用であるという考えは今も変わらない。
しかしながら、現実にはケフカ自身の場合がそうであるように、
手に余る力を発見した時点で、使用者がその力に取り込まれてしまう事例が見受けられる。
その場合には、対抗できる第二の勢力が必要となるが
残念ながら未だ満足のいくものには出会っていない。
これからの飛空艇文明の飛躍は、魔導以外のエネルギー開発の発展にかかっている。
私は、君がその一翼を担える数少ない人間であると信じている。
能力を持った者には、それを正しく行使する責務がある。
君には崩壊後の世界復興とその発展に挑んでもらいたい。
遠くない未来に、戦争による死がこの世からなくなることを信じている。
ひいては、私の屍を三闘神とケフカ打倒の後、君の研究材料の一石として役立てて欲しい。
屍は生ける師なり。
なお、自ら魔導研究の第一線にある者がケアルすら施せず、治療不能の傷で死すことを心より恥じる。


                                        シド=デル=ノルテ=マルケズ





----------
(内容的に微妙な)コピペネタなオチかよ! と思われた方、どうもすんません…イチドヤッテミタカッタンデス。。。
377名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/05(日) 21:55:11 ID:VqxawfLQ
おおお、完結乙かれさま!
染み入るSSでした…。
378名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 01:21:38 ID:tB1iZaKr
乙華麗様です。最後に素敵ネタで爆笑させられるとは夢にも思わzたわばっ
希望と力に満ちた、爽やかな余韻が胸に来ます。 。・゜・(ノД`)・゜・。モットヨミタカッタ
次の作品も熱く情熱的にハアハアと期待してます。
379FF7A書いてる物体:2005/06/07(火) 18:46:32 ID:PZ0PlZRe
あの、言い訳がましいとは思うのですが一応。

今年は一年通して『諸事情』により、来年の2月くらいまで忙しいので
月水金曜日はPCに触れる事すら出来ない日が多いと思います。
上手くすれば年末あたりで落ち着くのですが希望は薄いと思われます。

そんな自分ですが、やる気を失ったとかではないので、読んでくれてる人は
他の皆様の神作品を見ながら気長に待っててください。
思えば一年前くらいにはもう書いてたかな…?
380名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/08(水) 13:31:57 ID:30il62YX
完結乙イイヨイイヨー
保守して待ってるから気にしないでイイヨイイヨー
381名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 23:06:34 ID:jwn/v3aB
ゆっくりとFF7Aの続き期待してますよー♪
382名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/11(土) 00:57:23 ID:P5w9utlQ
まったりほっしゅ

 星空の下、異形のシルエットが荒野に一つ。とても、大きい。その名はミッドガル。
 再建された神羅ビル。輝きを取り戻したミッドガルを、最上階から見下ろすは一人の男。
 彼の名はルーファウス神羅。ネオ・神羅カンパニーの社長を務める男。

 視線はうつろい、青く光る宇宙へと向けられる。星空を見ながら彼は、あの星のうちで
どれか一つがメテオとして落ちてきてもおかしくはなかったのだと、皮肉な思いを馳せる。
「……どうした、ノックもしないのか」
 ドアの方には一瞥もくれていない。しかし、彼には入ってきた者が誰であるか解っていた。
 機械的な、『ガシャン』という足音。社内でそんなモノを着用しているのは、一人だけだ。
「すみませんね、寝ているかもしれないと思いまして」
 足音の主――何やらふかふかしたロボットのような者。中に入っている人物はこの会社の
ロボット工学部門で部長を務める、リーブ。
 以前の部署ではなくロボット工学部門に配属されたのは、ケット・シーを調整したり乗り
回したりするうちに、彼自身が社内の誰よりもロボットに詳しくなってしまっていたためだ。
 そして、彼を名で呼ぶものは少ない。社内でさえこの『ケット・シーMk3』(前2作に比べ
て愛嬌が増し、性能も当社比20%増し&フライトユニット実装型)を乗り回す彼はある種の
マスコット的な存在でもあり、社員は愛称としてただ『ケット・シー』と呼ぶ。
 リーブ自身、その名は気に入っていた。
「寝ていようと、無断で部屋に立ち入るのがお前の礼儀か」
「いえ……ただ、明日は休暇をとらせて欲しいのです」
「休暇?」
 明日という日に何かあったかと、ルーファウスは記憶を辿る。少なくとも、カレンダー
には何も書いていなかった。
 そんな思考を、リーブの一言が断ち切る。
「明日は……セフィロスの、命日です」

 結局、ルーファウスは休暇を許した。別に情が動いたわけでもないが、延々とあの奇妙
な訛りで『説得』されるくらいならば、休暇のひとつくらいやってもいい。
 一人になり、再び静寂が訪れた社長室。今度は、目を閉じて過去の記憶を振り返る。

 ゼロとの戦いが終わった後、彼らはクラウド達と『ある取引』をした。
 それによって彼は、何ら邪魔されることもなく新たな神羅カンパニーを設立することが
できた。もともと神羅の跡を継ぐような組織は存在しなかった為、復活した神羅が元のポ
ジションに収まるまでそう時間はかからなかったのだ。

 当然の如く、元の場所へと戻ってきたルーファウス。修理された社長室は広く、そこだ
けで通常の住居よりはるかに大きい。
 が、彼にはなすべきことが山ほどある。むしろ、神羅として復活したこれからが本当に
大変な時だ。
「世界は……変わった。まだ作り続けている無数の兵器も、やがては用無しになるかも知
れない。だが……」
 ――人が住む限り、おそらく世界から戦いはなくならない。
 ルーファウスが指令を出せば、ゼロとの戦いで回収された物も含めて神羅の兵力は世界
を武力によって制圧できるほどのものだ。しかし、彼にはそんな野望はない。
 この権力を、武力を。自分と、自分を信じて付き従う者のために使う。

 神羅の軍が持つ力は、守るための力に。

 それが、ルーファウスの出した結論。戦争には金が掛かるというドライな計算と、クラ
ウドたちとの約束がある。
 第一、もはや世界に『戦うべき敵』はいないと言っていい。
「親父とは違うのだ……それを、証明して見せるさ」
 プレジデントは金の力で人を支配しようとした。
 そして、かつてルーファウスは恐怖で人を支配しようとした。
 父親とも過去の自分とも違う、第三の道。願わくば、毎日が『退屈なほどの平和』であ
れるような世界を望む。

 ――『退屈な時間、暇な時間こそが最高の贅沢である』
 これが、ルーファウス神羅という男の持論だ。

                 終
385FF7A書いてる物体:2005/06/11(土) 16:11:16 ID:M0SB8q09
なんか文章の前後が支離滅裂だと気付いたのは投下した後orz
次は……バレットかヴィンセント当たりかな。
ヴィンはもッの凄く短くなりそうだけれど。

そして!今更だがドリル氏神文章乙&God Jobキタ――(∀゚∀゚≡゚∀)―――!!!
最後の財前教授オチで一気に爽やかに。本当いい。
386名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/12(日) 23:50:51 ID:ovNFoD+u
乙です。(*´д`*)ハアハア 若社長カコいい!
387名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/13(月) 23:35:51 ID:d8WZeO+F
フライトユニット実装のケット・シー!!
イイヨイイヨー、乗りたいよー。
388名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/15(水) 08:32:47 ID:9r8swJmR
保守
389名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/15(水) 19:24:39 ID:LhOyKRcz
age
390名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/16(木) 23:46:44 ID:Cwnrw2YP
スレタイ合体スレの「はぐれメタルの恋する小説スレッド」が
激しく気になるんですが……。
お互いすばやく逃げ去るよーな金属的な恋なんでしょうか?

でも、ウオータープリンとか、マジックポットとか、鉄巨人とかに
「仲間になりたそうに恋に落ちられて」もすごく困る気がします。
391名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/17(金) 19:52:46 ID:HiZIccHd
(*´Д`)モンスターのらぶ
ちょっと萌える
392名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/18(土) 01:05:03 ID:M0yyyXGj
>>390
…と、すると。オチはこんな感じですね?

くらだないネタ投下で保守↓
393ナギ平原でつかまえて(DQ5仕様):2005/06/18(土) 01:06:06 ID:M0yyyXGj
モンスター預かり所のオヤジ曰く、
「モンスターに愛を持って接すれば彼らを捕らえられる」って言うから、
戦ってるわけだけど。

ここはナギ平原、無駄に広い草原を歩き続けていい加減もう足が痛いっつーの。
チョコボ乗ろうよチョコボ。
……って誰もきいちゃいないよ。

そんなこんなでヘトヘトに弱ってるところにヘッジバイパー×2体に遭遇、面倒くさいなー。
オレの横で顔色一つ変えずに大剣振り回してるオッサン、あんたすごいよ、オレより若いね。
……あ、ごめん。確か死人だったっけ。

それでさ、弱ったところで捕らえるわけだけど、なんかいつもと様子が違う。
倒したと思ったら幻光虫にならない、おかしい。

!!

ヘッジバイパー が 起きあがり 仲間になりたそうにこっちを見ている!
ヘッジバイパー を なかまにして あげますか?

  →はい
    いいえ

思わずつぶらな瞳に見つめられたからさ、その……つい。

  その目に見つめられて、ティーダ たちは 石化した
  ティーダ たちは 全滅した!

      *

祈り子 「おお ティーダ 死んでしまうとは 情けない!」
ティーダ(……オレ今、悪い夢を見てるんだ、きっと)
394名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/18(土) 01:19:59 ID:M0yyyXGj
>>383-384
戦争景気に頼らない経済復興が、ルーファウスに課せられた使命。物語後への(・∀・)イイ!余韻を残してると思います。
ぜひFF7は神羅経営シミュレーションをプレイしたかったと思う今日この頃。
惜しまれるはケット・シー(の中の人)との会話のやり取りがもう少し描かれてると味が出たかなと感じたことでしょうか。
それにしてもケット・シーの手触りも前2作に比べて格段によくなってるんだろうなと思うと…(*´д`*)
りーぶの有給がセフィロスの命日ということで、エピローグ@命日にも期待ししてます。
395名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/19(日) 22:06:46 ID:fktS3Bmi
>>393
その流れだとそれじゃあニブルヘイム屋敷地下の棺桶はあけられないまま
ミッドガルの教会行きになるんじゃ…w
396名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/21(火) 00:54:13 ID:f3MM5Yas
アレですか、びんせんとさんの棺桶引きずって冒険ですか。

>ナギ平原でつかまえて(DQ5仕様)
(*´Д`)ハアハア ティーダ一行が激しく素敵です。
ものっそい笑って和みました。GJ! 
397名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/21(火) 01:48:24 ID:vXOr4dMD
訪れた人々のレベルに応じて金を巻き上げ、レイズを施す教会が
実は神羅の貴重な財源だったなんてことがバレたら暴動ですよ暴動。

そんなネタもいいなと思った。



そして他の作品を待ちながら、保守兼ネタ投下です。
398フィガロの動く城(仮) 1:2005/06/21(火) 01:57:42 ID:vXOr4dMD



 フィガロ城は移動する。
 黄金の砂漠に沈みゆくその雄志は、フィガロに暮らす民達の代々の言い伝えとして、また確実に
受け継がれていく技師達の知恵として、この地に脈々と息づいている。

「父上! ぼく、このお城がうごくのを見てみたい」
「ぼくも!」

 息子達にせがまれて、彼らの父でもありこの国の王である男――スチュアートは告げた。
「今は動かない……動いてはいかんのだ」
「どうして?」
 父を見上げる息子達の瞳はまるで小さな星空のように輝いていた。頭上に広がる星空のきれいな夜、
親子は城の最上階にある見晴台に上り、広がる砂の海を見つめていた。細い月の姿は、地平線の
すぐ傍から彼らを見守っている。
「この城は、国王の命によってしか動かないからだよ」
「じゃあ、動かしてよ!」
 目を輝かせてせがむ息子達に、スチュアートは目を細めてわずかに笑った。そして、まだ幼い双子の
兄弟を見下ろして語り出す。
「いずれこの国を継ぐわが子達よ、覚えておくのだ」
 低く厳かに、それは父親としてではなく、国王として。

「この城が動くとき、それはフィガロの歴史が動くとき……」

 願わくば我が子達の代で、フィガロ城が動く事態が起きなければと願うのは――父親としての
スチュアートが抱いたせめてもの願いだった。


----------
元になった作品見てないくせにタイトルだけパクってすまんかった。と最初に謝っておきます。。。
399名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/22(水) 04:09:17 ID:WdK3qj1N
動く城キタ*・゜゜・*:.。..。.:*・゜(゜∀゜)゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*!!
クロスオーバー、新鮮でいいですね。
ジブリ絵のちっちゃい美形兄弟想像してワクワクテカテカです。
400名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/23(木) 19:25:14 ID:OsPVa6zG
再復活なのでぺたし。

FF・DQ千一夜物語 第五百五十二夜
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1118967327/l50
401名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/25(土) 00:08:25 ID:egJM1+P7
ほっしゅっしゅっ
402名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/25(土) 23:34:36 ID:Ur/9VtVl
保守りんば
403名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/26(日) 22:14:29 ID:F05IS6+Z
404名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/27(月) 22:24:45 ID:QhwmrjP4
405名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/28(火) 00:50:15 ID:cbCntLHJ
406Phoenix−生者の願いを叶える魔石 1:2005/06/28(火) 04:53:39 ID:75rns6Wc

 魂に、器は必要なのだろうか?


 彼女が死んだと言う知らせを受けたのは、旅先での事だった。風の噂で聞いた
帝国によるコーリンゲン襲撃。その話を聞いたとき、真っ先に浮かんだのは彼女の
笑顔だった。
『ねえロック! 今日のトレジャーハンティングはなあに?』
 ――レイチェル。


 1年ぶりに戻って来た村は半壊していた。真っ先にレイチェルの住んでいた家へ
向かった。何度も通った家までの道だったのに、とても長く感じた。
 レイチェルの家の半分は崩れ落ちていたけれど、レイチェルのいた部屋は無事
だった。急いで彼女の元へ向かう。屋根が崩れて室内の半分がむき出しになった
状態で、レイチェルはベッドに横たわっていた。見た目に傷はなさそうだった。
 だから俺は彼女の姿を見出した途端、構わずに大声で叫んでいた。
「レイチェル! 良かった……! 生きてたんだな」
 あの日、この場所で拒絶されたことも忘れ無我夢中で彼女を抱き起こした。
ずしりと手に重みを感じた。信じられないぐらいの重さだった。抱き寄せても、ただ
ぐったりと両腕が垂れているだけ。彼女の腕は俺を抱き返すことも、拒むこともなかった。
「レ、イ……チェ……ル……」
 頬に触れた肌に弾力は失われ、恐ろしいほど冷え切った彼女の身体。どれほど
呼びかけても微動だにしない――まるで美しく精巧に出来た置物のようで。
 彼女の肩を抱いていた手が震え出す。
「う……ウソだ……、レ……イ、チェル。レイチェル!!」

 俺が抱いていたのはレイチェルではなく、その亡骸だった。
407Phoenix−生者の願いを叶える魔石 2:2005/06/28(火) 05:00:25 ID:75rns6Wc

               ***


 ベッドの上に横たわる彼女の姿を見るたびに、複雑な思いに駆られた。
 あれから、俺はレイチェルの亡骸を保存する秘薬を手に入れ、その人の家の地下室に
レイチェルを安置してもらっている。
 ときどき彼女の様子を見に戻ってくるたびに、罪悪感と焦燥感に駆られた。
 姿こそ生前のままの美しい状態に保たれてはいたものの、二度とその瞼が開かれる
事はない。ベッドに横たわったまま動かない彼女の手に触れ、脳裏によぎった言葉に
思わずレイチェルから目をそらした。

 ――彼女をここに縛り付けているのは俺自身なんじゃないか?

 それでも俺は探し続けた、「死者をよみがえらせる秘宝」。本当にそんな物があるのか
どうか分からない、それでも僅かな可能性があるのなら、信憑性のない噂話だったとしても、
喜んで騙された。

 ――ここでずっと待っていてくれるレイチェルを、早く自由にしてやりたい。

 いつしかそう願う自分に気づいた。
408Phoenix−生者の願いを叶える魔石 3:2005/06/28(火) 05:01:00 ID:75rns6Wc

               ***

 信じる者は救われる。秘宝フェニックスは砕け散り、最期の力で俺の願いを叶えて
くれた。
 再び開かれる瞼、取り戻す笑顔――ベッドの上に横たわるレイチェルが目覚め、
その瞳が俺を映し出している。やがて彼女の口から出た言葉は、俺を救ってくれた。
きっと彼女は……。

「この私の感謝の気持ちで、あなたの心を縛っている。その鎖をたち切ってください」

 そうして彼女は、自らの意思で再び眠りについた。今度は引き替えにフェニックスを
蘇らせて――彼女はようやく自由になった。
 魔石フェニックスを手に入れた俺は、もう一つの大切なものを手に入れた。

「だから……
 あなたに言い忘れた言葉。……ロック、ありがとう」

 それはレイチェルのくれた真実。

                      ―Phoenix−生者の願いを叶える魔石<終>―
409Phoenix−死者の願いを叶える魔石 1:2005/06/28(火) 05:36:54 ID:75rns6Wc

 魂の、器は必要なのでしょうか?

 私が死んだと知ったのは、皮肉にも体の自由を奪われベッドに横たえられていた時のこと
でした。私の周囲で交わされる会話を聞けば、コーリンゲンが帝国に襲撃され、その巻き
添えで私の命が絶たれたと言います。最期の瞬間、脳裏に浮かんだのは彼の顔でした。
『今日はお前の……いいや、なんでもないんだ』
 ――ロック。


 魂になった私が目にした光景は、悲惨な物でした。真っ先に自分の住んでいた家へ
向かいます。何度も通った道のりのはずなのに、とても長く感じました。
 私の家の半分は崩れ落ちていましたが、私のいた部屋だけが無事だった様です。急いで
周囲を見回しますが、家族の姿はありません。屋根が崩れて室内の半分がむき出しに
なった状態で、私だけがベッドに横たわっていました。身体に傷はありません、痛みも
感じませんでした。
 そんな私の横で、叫ぶ青年の姿が見えました。
「レイチェル! 良かった……! 生きてたんだな」
 彼はあの日、拒絶されたことも忘れ無我夢中で私を抱きしめていました。どれほど強く
抱き寄せられても、私にはただ身をゆだねるより術はありません。抱き返したくても、
拒みたくても、自分の腕を動かすことができないのです。
「レ、イ……チェ……ル」
 頬に触れた肌からはぬくもりが伝わってきます。私にとっては熱いほどの彼の体温を
感じました。
 しばらくすると、私の肩を抱いていた手が震えだしました。
「う……ウソだ……、レ……イ、チェル。レイチェル!!」

 彼が抱いていたのは私ではありません、その抜け殻だったんです。
410Phoenix−死者の願いを叶える魔石 2:2005/06/28(火) 05:40:16 ID:75rns6Wc

               ***

 ベッドの上に横たわって彼の姿を見上げるたびに、複雑な思いに駆られます。
 あれから、私はロックによって別の場所に運ばれ寝かされています。私の家と
違い、ここには日の光が射し込んできません。
 時折、私の様子を見に戻って来るたびにロックは複雑な表情を浮かべていました。
何かを悩んでいるように見えました。私はそんな彼に手を差し伸べる事もできません。
手も足も、姿形は以前とどこも変わらないのに、指一つも思い通りに動かせません
でした。ベッドに横たえられた動かない身体――まるで何かに縛られている様に感じ
ました。
 それでもロックは通い続けてくれました。「いつか秘宝を見つけて来る」、いつも
そう言っていた彼の瞳は本気でした。秘宝があると本気で信じて疑いませんでした。
僅かな可能性を信じて、噂話にさえも喜んで騙されていた様です。
 ある日、ロックは私に触れていた手を引くと、目をそらして俯いたまま黙ってしまい
ました。そんな彼の姿を見て、気づいたのです。

 ――彼をここに縛り付けているのは、私だったのです。

 彼の呼び声にも、抱きしめてくれる腕にも、私は応えることができません。それなのに、
ずっとここにいる私のために、ロックは……。

 ――ずっとこの場所に縛られているロックを、早く自由にしてあげたい。

 いつしかそう願うようになりました。
411Phoenix−死者の願いを叶える魔石 3:2005/06/28(火) 05:43:56 ID:75rns6Wc

               ***

 信じる者は救われました。秘宝フェニックスは砕け散り、最後の力で私の願いを
叶えてくれました。
 再び自由を取り戻す身体、ベッドの上で横たわっていることしかできなかった私が、
これまで伝えることのできなかった思いを、ようやく口にすることができます。きっと
彼は……。

「この私の感謝の気持ちで、あなたの心を縛っている。その鎖をたち切ってください」

 そうして私は、自らの意思で再び眠りにつく事を決めました。それは私の本当の
願いを叶えてもらうためでもあります。今度は引き替えにフェニックスが蘇りました。

「……フェニックスよ、よみがえり、ロックの力に……!」

 それが、私の願いです。


                      ―Phoenix−死者の願いを叶える魔石<終>―
412名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/28(火) 17:32:28 ID:SSWCJu5+
保守
413名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/28(火) 20:06:24 ID:WfHpqzwg
SUGEEEEEEEEEEEEEEEE!!
フェイとエリィが椅子に座って交互に語るシーンを思い出した!
414名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/29(水) 22:10:16 ID:WK6MI0bO
うっはあ!二倍も三倍も面白いです!
415名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/01(金) 01:41:10 ID:/keqiiWF
捕手
416名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/01(金) 23:31:26 ID:dQA6hXt0
ほっしゅっしゅっ
417ETERNITY 3:2005/07/02(土) 00:48:09 ID:OpnE7i2N
前回>>325-326

 大型の飛空挺が、ビサイドの上空へ到着した。
南の島は色鮮やかな緑色に覆われ、ところどころに群生している花々や、古の遺跡が単調な風景に彩りを添えている。
窓の外、徐々に近付いてくる島の景色を眺めながら、リュックは常夏の太陽のようだった青年と、大好きなイトコのことを思い出していた。
膝の上には、前日にルールーから届いた手紙。そこには、相談したいことがあるから、できるだけ早くビサイドに来て欲しい、
と短い用件のみが彼女らしい丁寧な字で綴られていた。
シンを倒し、かつての仲間達はみな帰るべき場所へと帰っていった。そして三ヶ月。
世界は変わり始めていて、リュックも例外なく目の回るような忙しい日々を送っていた。
時折、ユウナやルールーに会いに行こうとは思っていたが、それもままならないままに時だけが過ぎていたのだ。
その矢先に、この手紙である。
目前の明るい眺めとは裏腹に、リュックは嫌な胸騒ぎを覚えていた。
418ETERNITY 4:2005/07/02(土) 00:50:10 ID:OpnE7i2N
「話ってナニナニ?何があったの?」
頬を少しだけ上気させてリュックが部屋に入ってくると、ルールーは戸口に誰もいないことを確認してから扉を閉めた。
息を吸っては吐き出す、まるで何かを言いかけては押しとどめているかのようなルールーの様子に、
焦れったそうにリュックは口を開いた。
「ユウナんの、こと?」
「……ええ」
大方は予想がついていた。
普段はあれだけ冷静かつ的確な判断を下せるルールーが、急な用件でリュックを呼ぶ。
その上それは他人に聞かれては余程まずいことらしい。
とすれば、リュックの従姉妹であり、スピラに永遠のナギ節をもたらした大召喚士・ユウナに関わることだろう。
「ユウナんがどしたの?黙ってちゃ分かんないよ」
低いベッドに腰掛けて、大きく前屈みになった体勢で、リュックは尋ねた。
「ユウナが……目を覚まさないの」
「へ?」
リュックは目を丸くした。ユウナは確かに旅の途中何度か寝坊をしたりもしたが、
それは決まって体力のない彼女が無理をした時だった。
それで寝坊癖がついたのだとしたら、平和になった証拠ではないだろうか?
しかし、ルールーの表情は真剣そのもので、冗談の通じそうな雰囲気ではまるでない。
「もう三日は眠り続けているわ。その前は四日間ずっと眠っていたの。それに……様子がおかしいのよ」
ルールーは、口元に手をやって首を振った。その顔はひどく青ざめている。
「三日も四日も眠ってるって、それに様子がおかしいって、どゆこと?」
「ついてらっしゃい、ユウナに会わせてあげるわ」
手招きするルールーに、リュックは腰を上げた。
419ETERNITY 5:2005/07/02(土) 00:51:52 ID:OpnE7i2N

 ビサイド寺院の一室、ユウナが旅立つ前から住んでいた部屋で、ユウナは文字通り「眠って」いた。
安らかな寝顔に、微かな寝息を立てながら。
「ずっと、この調子?」
「ええ」
リュックは頭を掻いた。
「誰かに言った?」
「いいえ。ワッカにもまだ伝えてないわ。……今は大会があってルカへ出掛けているの。
 それに、ビサイドの人には体調が悪いって言ってあるし。言わない方がいいと思って」
「うん、その方がいいよ」
大召喚士に起こった一大事は、すなわちスピラの一大事である。
彼女に何かあれば、スピラは荒れる。
時期が時期だけになんとかなるまでは誰にも言わないでおくのが一番だ、とリュックは思った。
「いつから、こうなっちゃったの?」
「二ヶ月……三ヶ月かしら。シンを倒した直後は何ともなかったのよ。気が付いたら、いつの間にかね」
「そっか……。ユウナん……」
恐る恐る、リュックはユウナの滑らかな頬に触れた。
暖かい。
薔薇色には程遠い白い頬は、それでもリュックが想像していたよりは熱を帯びていた。
この暖かさがなければ、まるで、綺麗な、死体のようだ。
そう思った瞬間、背筋に寒気が走った。
「……怖いのよ。ユウナが眠るたびに、今度はもう目を覚まさなくなるんじゃないかと思って」
「それ分かる、かも」
ゆっくりと、その手をユウナから離してリュックは頷いた。
究極召喚によってシンを倒したそれまでの召喚士に待ち受けていたのは『死』だった。
ユウナもまた、死を覚悟して召喚士としての旅に臨んでいたのだ。
究極召喚の力を借りずにシンを倒したからといって、安心しきっているべきではなかった。
その後に何が起こるかなど、誰にも分からないのだから。
420ETERNITY 6:2005/07/02(土) 00:53:31 ID:OpnE7i2N
「ワッカが帰ってきたら、どう説明すればいいのかしら。……それまでに治ればいいけれど」
ルールーは、ずっと閉めきられていた窓を開いた。
常夏の甘い香りと、鳥たちの囀りが部屋の中に流れ込んでくる。
まるで死んでいた部屋が、生き返ったようだった。
リュックはルールーを振り返った。
「ルールー?」
窓の外をじっと見つめるルールーは、ユウナの方に視線をやるのを明らかに恐れていた。
妹のようにかわいがっていたユウナ。
そのユウナが、こんなことになってしまった。しかも彼女はそれを3ヶ月もたった一人で見守り続けてきたのだ。
ルールーがどれほど気丈であると言っても、容易に耐えられるものではないだろう。
ほとんど無意識に、リュックは口を開いていた。
「ルールー、あたし、しばらくこっちにいていい?」
「……そうしてくれると嬉しいわ」
「っていうか、そのために呼んだんでしょ?」
疲れた表情で微笑む姿を見て、ルールーも限界だったんだな、とリュックは思った。
421名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/02(土) 13:30:46 ID:xxN4n/h2
思いやりが切ないロックとレイチェルイイヨイイヨー
ユウナ心配するリュックとルールーに絆を感じてイイヨイイヨー
422名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/02(土) 22:59:56 ID:T0lbYAi3
友情を感じさせる文章に萌えました。
ホント心配ですね…先が気になります。続編激しくGJ!
423名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/04(月) 00:12:35 ID:tP9WMG0j
>>417-420
ユウナ昏睡がナギ節の代償という不安、この辺りにやられたと感じました。FF10世界の中で
その不安がリアリティあって、そんな不安を抱えるルールーの描写も読み応えがあります。
っていうか萌えました。
424Phoenix−蘇る流転 1:2005/07/04(月) 00:23:04 ID:tP9WMG0j
>>406-411を書いている間に頭のどこかで繰り広げられた妄想。トンデモナイ設定&変な文章ですご注意を。
----------



 魂の器、肉体とは滅びるものだ。

 それを憂いでも仕方がないと分かっている。だが、失った事実に対する感情は否定しようがない。
失意に沈む姿をたとえ無様だと罵られようが、臆病だと笑われようが、その痛みを知らない者を
引き留めてまで俺は説法する気はない。――そんな気力も失せちまった。そんなとき、なぜか
脳裏にアイツの顔がよぎった。
『雲をぬけ、世界で一番近く星空を見る女になるのよ!』
 ――ダリル。


 この村を訪れるのは何年ぶりだったか? 思い出したくもないが、アイツを弔った直後に立ち寄って
以来、ここへひとりで来ることはなかった。世界が崩壊し翼を失った俺が流れ着いた場所が、よりに
よってここだったとは――良くできた皮肉だと笑おうとしたが、うまくいかなかった。
 以来ずっと酒場のカウンターで酒を飲む、ただそれだけの日々を送っていた。酒がなければ、頭の
中を支配する絶望に飲み込まれてしまいそうだった。
 マスターが追加の酒をグラスに入れてテーブルの上を滑らせた。俺の目の前でぴたりと止まるグラスを
手に取ると、一気に喉に流し込む。音を立ててグラスを置き、思うところがあって顔をあげてカウンターの
奥に立つ男に尋ねた。
「……これ、流行なのか?」
 男はにやにや笑っている。
 そのときの俺には、そいつの笑みが示す意味が分からなかった。
425Phoenix−蘇る流転 2:2005/07/04(月) 00:36:25 ID:tP9WMG0j

               ***


 魔石フェニックス。
 その存在を知ったのはどの街でのことだったか、そんな事はどうでも良かった。アイツと再会して
すぐに、またこの町を訪れてその神秘に触れた。蘇りの秘宝はフェニックス――不死鳥と言うらしい。
ロックはその魔石を大事に身につけていた。
 そんな俺達は村を出てからほどなくモンスターに遭遇した。今さらな話になるかも知れないが、世界が
崩壊してからと言うものモンスターの数が増え、凶暴化したような気がする。
 相手にする数が多かった事もあり、情けない話だが苦戦を強いられた。この中で唯一、強力な全体
攻撃魔法を使えるセリスが戦線離脱しいっそう深刻さを増した戦況を打破すべく、ロックに提案したのは
エドガーだった。
「なあロック。さっきの魔石さっそく使ってみたらどうだ?」
「幻獣召喚か……そうだな」
 ロックはその提案に賛同し、魔石を天高く掲げたのだった。

 フェニックス――それは、「転生の炎」を使う不死鳥の魂を宿した魔石……だったはずだ。
セリスを戦線に復帰させ、さらに敵にダメージを与える。『秘宝』と呼ばれただけあってその力は
絶大で、俺達はその力に望みを託したのだ。
426Phoenix−蘇る流転 3:2005/07/04(月) 00:38:04 ID:tP9WMG0j




 召喚。




 ……には成功した。しかし、俺達はその異質な姿にしばし目を奪われた。姿を現したのは妙な
青い服を身に纏った――幻獣というよりは、人間の形をしている、いや普通の――人間、だった。
それにしてもこんな服は見たことがない。
 しかも、召喚されたそいつのした事と言えば、敵に向かって人差し指を突きつけて、おまけに
腹の底から大声で「呪文」めいたコトバを叫ぶだけだった。
 しかし、何も起こらない。
「‥‥あ、アレ??」
 叫び終えた当の本人は、後頭部に手を当てへらへらと笑ってやがる。そいつに思わずロックが尋ねた。
「何者だ? ……その、なんていうか‥‥名前と職業は?」
「‥‥えっ? あ、あの‥‥一応『フェニックス』ですけど‥‥英名で」
 質問の半分に答えたところで「訳の分からないことを」と横から冷たく言い放ったのはエドガーだった。
「いや、実はぼくも訳が分からなくて」
 そう言う彼に、エドガーは視線を合わせることすらしなかった。かわりに事情を説明してやったのは
ロックだった。自分が喚んでしまった手前、責任でも感じたのだろうか?
「今、オレは幻獣フェニックスを召喚したはずなんだけど……」
「? おかしいですね」
 何が? と問う俺の言葉に。
「そもそも、ぼくが召喚される場所はここではありませんし」
 通称『裁きの庭』です。とコイツは言った。まるで意味が分からない、噛み合わない会話にいらだちが募る。
427Phoenix−蘇る流転 4:2005/07/04(月) 00:44:34 ID:tP9WMG0j
「まったくお話にならない」
「勘違いしてないか? 『裁きの庭』、じゃなくて『裁きの光』だろ?」
「それは人間だから、間違いや勘違いは誰にでもある事だろうけど」
「っていうか、いっそ場違いじゃないかなと‥‥」
 喚ばれて出て来たぼくが言うのもなんですが、と、そいつは言った。

「そう思うなら、とっとと帰ってくれないか?」

 悪夢だ。そう思った、そう思うしかないだろう?
 しかしな、ヤツが自分の住む世界に戻る前に――おそらく二度と顔を合わせる事もない
だろうと思ってな――言ったんだよ。
「なあ、アンタ。さっきのアレもう一回やってくれねぇか?」
「え?」
 記念だ記念、なかなか見れないものだし。ちゃかすように言った俺を見て苦笑しながらもヤツは
力一杯「あの言葉」を叫んだんだ。たぶん、この場に自分自身がいるという理不尽かつデカすぎる
ムジュンに対する、ヤツなりの最大限の抵抗だったんだろう――と、後になってみれば思う。



 ヤツが去った後、フィールドに残された俺達と目の前の魔物はしばし沈黙した。その沈黙を破ったのは、
エドガーの放った思いもよらぬ一言だった。それは信じられない現象を目の当たりにした俺達の心情を、
的確に現しながらも、仲間達の誰もがエドガーとの微妙な距離を感じた瞬間でもある。


「そのセリフ、しびれるね!」


 しびれたのはお前のセンスだよと言ってやりたかった。


                                          ―Phoenix−蘇る流転<終>―
428:2005/07/04(月) 00:50:07 ID:tP9WMG0j
※自分的「クロスオーバー」。というより、脳内は既にゲームオーバーな雰囲気です。
  半分が板違い、作者の妄想が基地外気味ですがどうか生暖かく見守ってやって下さい。
  とにかく両作品に思い入れがあり大好きだということを、最後の釈明とさせて頂きます。
429名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/04(月) 23:43:30 ID:OP9dLGg1
>428
むしろセッツァーこそ気に入るんじゃないかと思うが、とにかく



430名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/05(火) 23:37:26 ID:Z1cySLGz
とぼけた不死鳥さんに、ものっそい笑ってしまいますた。
シリアスな地の文と面白い展開が絶妙です。
431名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/07(木) 00:04:15 ID:4KJ0+2e2
432:2005/07/08(金) 01:35:43 ID:ehnfPc2X
情状酌量に感謝です。生暖かく見守ってくれてありがd。
罪滅ぼしに保守兼まじめにネタ投下いきます。

…ネタが続く限りがんばってみようと思います。
433フィガロの動く城(仮) 2:2005/07/08(金) 01:40:25 ID:ehnfPc2X
>>398より。
----------

               ***

 あれからおよそ10年。いつか父が息子達に語ったことは、彼の願いに反して現実になってしまった。
 フィガロ城――整備以外の目的でその潜行命令を下したのは、スチュアートの息子にして現国王の
エドガーである。その稼働命令は、同時に帝国と結んだ同盟の破棄を意味する決断でもあった。父の
予言通り、それはフィガロの歴史が大きく動いた瞬間である。
 しかし、父王にすら予測できなかったことは。

 フィガロの城が動くとき、それはフィガロだけではなく世界の歴史が動くきっかけとなった事である。

 帝国と戦うことをと決意し仲間達と共に立ち上がったフィガロ王。しかし一度は戦いに敗れた彼が
歩むのは、奇しくも過去と同じ道であった。

               ***

 あの日からエドガーは祖国フィガロを目指し孤独な旅を続けている。彼がフィガロ城を目指すのには
2つの大きな理由があった。
 1つはもちろん国民の安否を確かめたいというもので、2つめは仲間達との合流の拠点とするためだ。
 目が覚めて、彼はまず仲間達を探そうと試みた。しかし、世界崩壊を機に文字通り地図は書き換え
られ、墜落の折りに仲間達も散り散りになってしまった。手がかりも何もない状態で、徒歩やチョコボでの
探索は機動力に欠ける。飛空艇ブラックジャックもあの混乱では機体を維持できたかどうか確証がなかった。
そこでまず、移動手段としてフィガロ城を利用しようと考えたのだ。もちろん、フィガロ城という目立つ場所に
なら、自分と同じように各地に散った仲間達が集まって来やすい――そういう思いもあって、彼の足は
迷わずフィガロへ向けて動いたのである。
434フィガロの動く城(仮) 3:2005/07/08(金) 02:00:14 ID:ehnfPc2X
 ようやくサウスフィガロに到着したのは、世界崩壊からずいぶん時間が経った頃だった。ここまで
ただの一度も、他の仲間達の手がかりは得られなかった。彼らの行き先はおろか安否すら分からない。
崩壊の絶望に沈む世界の中で、それは想像以上の孤独をもたらした。
 変わり果てた世界を歩き続け、ようやくたどり着いたサウスフィガロの地でもそれは同じだった。しかし
エドガーはこの土地を訪れ、内心ではほっと胸をなで下ろしていた。

 ――世界は破壊し尽くされていない。少なくともまだ、生き残っている人々がいる。

 酒場の扉を開ければ、テーブルを囲む人々の――まるで以前と変わらない――賑やかな光景が
広がっていた。多くの人々が集う酒場のカウンターで、エドガーもひと時の安堵を得ようと腰を落ち着ける。
 ところが席についてすぐ、自分の認識の甘さを痛感することになった。
「……おいアンタ、聞いたか?」
 1つ離れた横の席に座っていた旅人風の男が、空のグラスを大きく振りながら尋ねてくる。彼が着ている
服は相当に着込まれているらしく、埃まみれで袖口や裾はすり切れていた。旅を続けてきたエドガーの服も
決して整っているとは言えなかったが、それでもこの男の着ている物よりは見目が良かった。元々の仕立てが
良かったことが功を奏していのだろう、この服をあつらえてくれた女中に感謝すると同時に、城へ戻ったら礼を
言おうと思った。
435フィガロの動く城(仮) 4:2005/07/08(金) 02:08:04 ID:ehnfPc2X
 どうやら目の前の先客はずいぶん飲んでいるらしい。顔を向け語りかけられただけで、エドガーの
嗅覚は強い酒気を察知したからだ。わずかに視線を逸らしてやり過ごそうとするが、男は構わずに話を
続けた。それでもエドガーは無視を決め込む。こういう手合いには関わらないのが一番だ。

「フィガロ城が消えたんだってよ」

 しかしその言葉で、エドガーの興味は一気に男に注がれる。正面から見据えるだけでは飽きたらずに、
話の先を促す。男は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐにまた口元をだらしなく緩めて笑った。
「どうせアレだよ、城にいる連中だけ『裁きの光』から逃げたんだろうよ」
 瞼が半分ほどしか開いていない。出で立ちも手伝ってか見窄らしいという印象の男は明らかに泥酔して
いた。ろれつも回らず、それでも男の口から語られる内容を即座に理解できたのは、エドガーの集中力の
賜と言えるだろう。
「違う! それにフィガロ城は国王の命令なしで勝手に潜行する事はない」
 その反論はもちろん事実に裏付けされたものである。現に、自分以外の人間が命令をして城を動かした
事はこれまで一度もないのだ。仲間達と旅路を共にしている時ですら、それは変わらなかった。
「じゃーあ、国王サマがそう仰ったんだろう? 国民を置き去りにして逃げ出したんだよ。ヤツは」
「何を根拠に!! それに……」
 ――つい語気が荒くなったのは、図星だったからか?――エドガーの脳裏で、彼は自分自身に問いかけた。
そして自分がその「国王」であることを明かそうとしなかった事が何よりの証拠か、と、自嘲気味に笑うと口を
閉ざした。そんなエドガーに声をかけたのは、この店の店主らしき人物だった。
「……どうぞ」
「…………」
 カウンター越しに店主が静かにグラスを差し出す。まるでエドガーの言葉の先を促そうとでも言うように
微笑むと、ひとつ頷いた。エドガーは我に返り軽く会釈をしてグラスを受け取ると、小さく呟いた。

「それに国王は……不在だ」

----------

上記は酒がマズくなる典型例。酒はうまい方がいい。
あと、>>433の「と」が大杉ですごめんなさい。
436名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/10(日) 00:23:45 ID:te5ffFr5
続きGJ!(*´Д`)ハアハア 王様カコいいです!
お城の行方と王国の明日はどっちだ。先が楽しみです。
437名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/11(月) 02:38:51 ID:qGWbx9/M
438名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/12(火) 00:33:36 ID:6kK2lkyU
439名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/12(火) 21:30:59 ID:ed/j+/Jm
440名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/12(火) 23:10:43 ID:s4rcfBjH
441名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/14(木) 01:00:45 ID:Hyy8QpxK
ほ、干し肉?!
442名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/14(木) 20:28:36 ID:9vveJOCw
ほぼま
443名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/16(土) 00:53:34 ID:PXPNCrz8
保守
444名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/17(日) 01:48:34 ID:PIfZ9ioC
ほしゅ
445名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/17(日) 21:54:33 ID:hMwSwA11
保守肉
446名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/17(日) 22:53:20 ID:XoJ8t89k
ガウ
447フィガロの動く城(仮) 5:2005/07/18(月) 02:23:30 ID:Mxmg46X5
>>433-435より。世界崩壊後の空白の1年間@エドガー編
----------

 店主はエドガーの1つ横の席に座る男にも、同じグラスを差し出した。彼は無言でそれを受け取ると、
一気に飲み干した。大きな音を立ててグラスが置かれる。
「コンキョ? 語るまでもねぇだろおがよ」
 半開きの目がエドガーに向けられる。唇には飲みきれなかった酒がまとわりついていたが、男はそれを
拭くこともせずに続けた。
「見たところアンタだって旅人だろ? なら破壊されたこの世界を見て来たんだろ?」
「…………」
 エドガーは無言だった。男は席を離れ、エドガーの背後に立つとその肩に手を置くと這うように首に手を
回した。男の手と同じように、耳にまとわりつくようなイヤな声が鼓膜を揺らす。とてつもない嫌悪感に襲われ
たが、エドガーはなんとか理性と表情を保つことができた。
「一部の金持ちや……王族ってのはよ、オレたち一般庶民とは違うってことだ。命の重さってヤツか、ん?」
「そんなことはない」
 男の方を振り返ろうとして、エドガーは止まった。振り向かずとも、男の顔はすぐ傍にあったからだ。
肩に回された手はそのままに、頼んでもいないのに至近距離に男の顔がある。強いアルコール臭と嫌悪感に
思わず眉ひそめた。やがて男はにやりと笑うと、エドガーを睨み付けながら告げたのだった。
「その証拠になァ、城は跡形もなく消えてるんだよ。国民を残して……城だけが」
「だから今、国王は不在だと言っている」
「それなら、なおさら問題だな」
 男はエドガーの前に置かれていたグラスを取り上げると、顔を離した。
「国民を残してヤツはどこへ消えた? この非常事態に!」
448フィガロの動く城(仮) 6:2005/07/18(月) 02:26:29 ID:Mxmg46X5
 顔は笑っている。依然としてエドガーを睨み付けてはいるが、半分しか開かれていな瞼の奥に宿る色は
――明らかな絶望の色だった。
「俺が国王やってたら……道は2つしかないな」
「なんだ?」
「自分だけ逃げるか、自分と身近にいる仲間だけで逃げるか」
 男の酒気にあてられてか、その言葉を聞いたエドガーは勢いよく立ち上がり男を見下ろした。
「私が国王ならば、そんな真似はしない」
「まーまーそう興奮するなって、たとえ話だよ兄ちゃん」
 男はまただらしない笑顔を作り、エドガーの腕を引っ張って席に着かせる。恐ろしいほどの力だった。
席に着くなり、男はエドガーの正面に息がかかるほどの距離まで顔を近づけ、瞳を見つめながら呟いた。
「でもよォ、現実として国王は不在なんだろ?」
 酒臭い息が周囲に充満する。呼吸困難になるのではないかと思うほどの息苦しさを感じたのは、酒気を
過剰に含んだ空気のせいだけではなかった。

「国王でありながら、国民を裏切った……フィガロ史上最低の王だよ」

 最期の言葉だけは妙にはっきりと、低く響いた。その声を聞いて、エドガーの顔は凍り付いたように
表情を無くした。
449フィガロの動く城(仮) 7:2005/07/18(月) 02:40:16 ID:Mxmg46X5



 数時間後、男から解放されたエドガーはそれでも席を離れられずにいた。いつの間にか賑わいを
失った店内を見渡せば、さすがに客の姿も疎らだった。ろくに飲んでもいないのに、既に悪酔いした
気分で身体は重く、目の前がぼんやりと霞んで見えた。そんな彼の視界に、再び琥珀色の液体を
満たしたグラスが映る。顔を上げた先には、カウンター越しに微笑む男の姿があった。
「……どうぞ」
 先ほどの店主だ。注文はしていないとエドガーがグラスを返そうとすると、店主は穏やかな笑顔で
それを拒んだ。
「お疲れのようですね。これは私からです、宜しければどうぞ」
「……それではお言葉に甘えることにします」
 差し出されたグラスを受け取り中に広がる琥珀色を楽しんだ後、エドガーはそれを口に運んだ。
一口含めばたちまち広がる柔らかな香りと心地よい舌触りで口内が満たされた。しかし次の瞬間には
砂漠の熱砂を思わせるような熱を感じた。飲み込んで喉を落ちた後もなお余韻は尾を引いて、身体の
中からふつふつと熱さが湧き出している。長旅の疲れもあってか、それはかつて味わったことのない、
驚くほど美味い酒だと感じた。
「……これは」
「純度が高いんです。ふだんお客さんに出すことはありません。……気に入っていただければ良いのですが」
「そんな貴重な物を、なぜ?」
「私の気分ですよ。それに……こんなご時世ですからね。出し惜しみせずに楽しみたい時に楽しんで
悔いのない人生を送ろうと思うようになったんです」
 返す言葉が見つからなかった。






----------チラシノウラ
実際に居酒屋で部下に絡まれている上司って光景はよく見かけると思いますが、今回の元ネタ。
いろいろ頑張ってみたんですが、やっぱり艶のある文章は難しいですねという結論に達しましたです、はい。
450名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/18(月) 18:42:03 ID:Uw0gHUuu
薄口しょう油味ですな。
451名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/20(水) 05:36:15 ID:FNhoo/qh
店主がさりげに素敵です。おいしそうなお酒ですね(*´Д`)ハアハア
国王がんがれ、超がんまれ。
452名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/21(木) 11:28:18 ID:kBTUFv5u
ちょうどリレースレの方でも崩壊後のフィガロの王様ネタがあったよ。
リレーの方でいきなりレベルの高い人が出てきてびっくらこいたけど、こっちの人もレベル高いよ。
今、エドガーが熱い!
453名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/22(金) 01:22:05 ID:mkAp9Clb
>>450-451
素材の味を活かしつつ、描写の甘さは控えめな作品を目指し鯛。ありがd。
>>452
詳細キボン。エドガーが熱いと聞いちゃあ見ないわけにはいかないですよ(もしやこの板じゃない?)

リレーといって検索したらたった1行で瞬時に展開を変えていくラプソーンスレ、新鮮でした。
454フィガロの動く城(仮) 8:2005/07/22(金) 01:29:59 ID:mkAp9Clb
>>447-449より
----------------
 エドガーはグラスの中で揺れる酒を見つめていた。何を考えていたわけでもない、ただ――

「酔っぱらいの戯言を、あまり真に受けてはいけません」

 店主はエドガー本人ですら自覚することのない深層の嘆きに、答えるように呟いたあと。
「さあ、今晩は思う存分飲むと良い」
 笑った。
 その笑顔は心の底からの笑顔と言えるものではなかった。それでも、久方ぶりに見る柔らかな笑みに
エドガーの心が和らいだのは事実だった。
「……ありがとう」
 心からの礼とわずかな謝罪の意を込めて、エドガーはその言葉を口にした。カウンターを挟んで目の
前に立つ店主はグラスを傾けながら、柔らかと言うよりも優美さを備えた表情を浮かべていた。
 そんな彼を見ていてふと思うことがあった。今日はじめて顔を合わせたはずの彼は、この大衆酒場の
店主であるはずなのに「懐かしさ」に似た感覚を覚えた。それは賑やかな町の光景にはいささか不釣り
合いのようにも思う。その正体が何か、最初は分からなかった。
「ずいぶん落ち着かれているのですね。いえ……落ち着きというよりも、まるで」
 他愛のない会話を続けていくうちに、エドガー自身が口にした言葉で気づく。そう、この店主から感じる
場に不相応な――
「風格や気品にあふれている」
「ははっ。あなたは人を褒めるのがお上手ですね」
 笑顔でその言葉を受け流そうとする彼の仕草、商いを営む人間には珍しくないが、そこに備わった気品、
間違いなかった。
455フィガロの動く城(仮) 9:2005/07/22(金) 01:42:04 ID:mkAp9Clb
「ずっとこの店で?」
「……いいえ。私は雇われ店主ですよ。今は留守中のこの店の主にかわって立っているだけです」
「では、本当は?」
 男は答えるかわりに手持ちのグラスを口に運んだ。エドガーにそれ以上の詮索を許さない、無言の拒絶。
飲み終えたグラスを静かに置くと静まり返った店内にことん、と乾いた音だけが響いた。 沈黙が流れる中、
店主はエドガーに背を向け棚から1本のボトルを取り出す。栓をあけただけで、中に入れられている酒の
芳香が広がった。グラスの半分に満たない高さまで注ぐと、エドガーの顔を見てボトルを傾ける。
 自分の手に持ったグラスの中身を飲み干してから、エドガーはそのまま手を差し出した。そこに店主が
酒を注ぐ。ボトルをテーブルに置くと、今度はごとんと低い音が響いた。
「……さきほど」
 2杯目のグラスを口に運んでから、店主は口を開いた。
「あなたのお隣にいらっしゃった方のお話は、残念ながら事実です。そして」
 フィガロ城が姿を消した、泥酔した男はそう言っていた。だが、彼の言う事実とはそれだけではない。
「これが今のこの国の……現実なのです」
 国王不在、さらに都の消失。取り残された国民は絶望に沈んだ。それでもこの街には“笑顔”があった。
その理由も、この店主の語る言葉の中に見つけることができた。
「現実を否定したい、フィガロという国と国王を信じたい……しかしこの崩壊した世界の前で、それは願い
でしかありません。だからこそ、人々は現状に深く絶望しているのです」
 それだけ信じたいという国民の思いが強い。店主はそう語った。
456フィガロの動く城(仮)10:2005/07/22(金) 01:43:02 ID:mkAp9Clb
「そんな話をなぜ……私に?」
 エドガーはなぜか強い不安に駆られた。「なぜ」と聞いたその理由も店主は知っている、そんな気がして
ならなかった。カウンターを挟んで立つ彼は、グラスを揺らしながら穏やかな声で告げた。

「あなたも、同じのではないですか?」

 故郷の城を目指してようやくここまでたどり着いたというのに、今やその城は姿を消していた。
 救おうとした国民には絶望され、それでも彼らは必死に生きていた。

 ――国民を裏切ったのは、自分だ。

 帝国との同盟破棄。世界を救うはずの戦いにも敗れ、仲間を失ったあげく国王だけが生き延びた事実。
この崩壊で命を落としたフィガロの民と残された者達にしてみれば、一連の決断と行為のすべてが裏切りに
他ならない。国王でありながら民を苦しめ、それだけでは飽きたらず最悪の事態を招いてしまった。

 ――国王として民に頭を下げることも、国王だと名乗ることすらもできなかった。

 彼の心に残ったのは、罪の意識だった。
457フィガロの動く城(仮)11:2005/07/22(金) 01:51:33 ID:mkAp9Clb

「…………」
 エドガーの手にあるグラスの中身が揺れた。今、目の前にいる店主はすべてを見抜いているのでは
ないかと思えた。そこへ再び店主の声がする。

「あなたも、この国を信じ……救いたいとお考えなのではないですか?」

 しかし思わぬ言葉にはっとする。
 ゆっくりと顔を上げ、エドガーは頷いた。その様子を見た店主は安心したように笑う。
「良かった。今でも私の目に狂いはないようですね」
 その言葉にエドガーが疑問を示すよりも先に、笑顔を崩さずに店主は告げた。
「港町ニケアに向かうと良いでしょう」
「ニケア?」
 唐突に聞いた地名に、エドガーが首を傾げる。ニケアに、なぜ?
「先日、盗賊団がここへやって来ましてね。フィガロ城に投獄されていたという彼らは、どうやら一度
この大陸を離れるらしいのです」
 目的は分かりませんが、と付け加える。フィガロ城の地下に拘束した彼らがサウスフィガロにいると
いうことは――消えた城に通じる道があるという事だ。エドガーは勢いよく席を立った。こうしてはいられない。
「ありがとう!」
 身支度を整え、お代を机に置くと酒場を出て行こうとする。そんなエドガーを呼び止めたのは店主だった。
「お待ち下さい」
「すみません。もしそれで支払いが足りなければ後日必ず……」
「いいえ、お代は充分です。……そうではなく、お名前をお伺いしていなかったと思いまして」
458フィガロの動く城(仮)12:2005/07/22(金) 01:58:41 ID:mkAp9Clb
 思わぬ言葉に、酒場の入り口で足を止め振り返ったエドガーは笑顔で答えた。

「必ず戻ってきます。そのとき、また」

 階段を下りる足取りも軽く、エドガーはそのままサウスフィガロを後にした。
 彼を見送った後、カウンターをくぐって外へ出た店主は、先ほどまでエドガーの座っていた席に並んだ
グラスを見つめながら微笑んだ。
(……あの方を見ていると思い出しますね)
 そのまま、男は店を出て街の北にある屋敷へと足を運んだ。そこは以前、彼が勤めていた屋敷であり、
先代のフィガロ王暗殺未遂事件の舞台となった場所でもある。その事実を知る者は、今やこの国に彼以外の
他にはいなかった。
 乾いた風が街を吹き抜ける。今は当時の主を失った屋敷を見上げ、店主は呟いた。「再び城は動く」と。
------
459名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/22(金) 02:41:11 ID:021cQzk0
>>458
最高。上手い。
先代フィガロ王の暗殺ネタを持ってくるとは思いもよらなかった

リレースレの熱いエドガーはここの>>705から。
ttp://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1118050081/

>そう、この努力は国のために。
>それなのに、リターナーのため世界のためと城を空け。
>その結果が、潜ったままの城に閉じこめられた人々だというのだから、なんて、無様。
460名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/23(土) 21:33:12 ID:+k1AMecO
王様ー!。゜(゜´Д`゜)゜。
お城も国王もモチロンですが、店主が只者じゃないですね。カコいい!
国王の手で、過去の軛を解き放って欲しいです。
461名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/24(日) 00:57:10 ID:67ZbzzfJ
>>459
触手戦、純粋に格好いいと思った。自信家なエドガーが生き生きしててすごく彼らしい。
それに一編一編の話も味があって読み応えあって面白かった。家族いいね家族。
…それにしても量が膨大、話が壮大過ぎでっせ(w。(全容が把握できずorz)でも斬新なスレだ。
量が多すぎて感想書けなかったのでこちらで失礼しました。
>>460
一瞬、「店主が兄者」に見えt(ry。


以下、捏造気味のフィガロ政変ネタに突入します。
462フィガロの動く城(仮)13:2005/07/24(日) 01:01:37 ID:67ZbzzfJ
>>454-458
--------------------

               ***

 男は剣を構え、じっと前方を見据えていた。よく見れば、その後ろにしゃがみ込んでいる少年の姿が
あった。男のマントに遮られて彼の視界には男と相対しているものの姿は見えなかった。男が少年の
方を振り向くことはなく、少年もまたその場から離れようとはしなかった。
 室内だというのに、少年は頬に受けた風が妙に冷たく感じた事をよく覚えている。
 長い膠着、時計の針が時を刻む音だけが室内に響く。わずかな衣擦れの音、それは降着が破られる
直前に少年が聞いた音だった。

「剣を取れマッシュ!」

 降着を破った男の声で立ち上がり、マッシュと呼ばれた少年は腰に帯びた剣に手をやり引き抜こうとした。
その瞬間、頭上にこだました男の声は思いがけない言葉を発した。

「走れ!!」

 いきなりの衝撃。背中を思い切り押されて前のめりになった。異議を唱えようと振り返った時、男の意図を
思い知る。向き直った少年はそのまま扉まで全力で走り、部屋を飛び出した。

「いいか、必ず城までたどり着くんだ。そしてなんとしても助け出すんだ……頼んだぞ」

 男の言葉を背中で受けて、頷くだけでは足りずに思わず振り返った。そして剣戟の響き渡る部屋の中に
向けて少年は言い放った。
「かならず……必ず戻ります!」
 叫んだ後、マッシュは振り返らずに街を飛び出し一直線にフィガロ城を目指したのである。それは、大切な
者達を救出するための道程である。
463フィガロの動く城(仮)14:2005/07/24(日) 01:05:30 ID:67ZbzzfJ

               ***

 この事件の舞台となるのはサウスフィガロ北端に位置する大きな屋敷と、その主たる人物だった。
彼の名はフランシス。先代フィガロ国王・スチュアートの弟にあたる人物である。そんな彼がなぜ、
暴挙に及んだのか――本人亡き今、その真実を知る術はない。
 店主は屋敷を見上げると、ふとため息をついた。
「フィガロ城……もう一度そのお姿を拝見したくなりました」
 戻らぬ過去を思い出しながら、それでも彼はもうしばらくの間この街に滞在しようと決めたのだった。
――まるで何かを、誰かを待つように。


 さかのぼること十数年前、今と同じようにしてフィガロ城が砂中に没したまま姿を消した事があった。
 あのときと、同じように。

               ***

 一直線にフィガロ城を目指すマッシュにとって、唯一にして最大の難関がこの洞窟である。ここを抜け
なければフィガロの砂漠を目にすることも、もちろんその中央にそびえるフィガロ城に辿り着くことも
できない。「必ず戻ります」と言って屋敷を飛び出したまではいいが、これでは戻るどころではない。
腰に携えた剣を握りしめてから、洞窟の前で大きく深呼吸をした。少しひんやりとした空気が肺の奥に
まで広るのを感じた。
464フィガロの動く城(仮)15:2005/07/24(日) 01:09:15 ID:67ZbzzfJ
 そういえば、ひとりで街の外を歩くのは初めてかも知れない。いつもは兄や……見知った人が傍に
いてくれた。今は、誰もいない。助けてくれる人も、見守ってくれる人も。マッシュはたったひとりで
この洞窟を抜けなければならない。

 ――行かなければ。

 強い思いに反して、足がすくんだ。薄暗い洞窟への入り口に立ったまま、マッシュはその場から動く
ことができなくなってしまった。
 そんなとき、脳裏をよぎったのは自分を送り出したあの男の顔だった。マッシュを庇いサウスフィガロの
屋敷に単身で残って今も戦っている騎士――ジェフリー――だ。
 剣術は彼に習った。城の中庭で、兄と一緒に稽古をしてもらった。しかし兄に比べ、体調を崩して稽古を
休むことが多かったマッシュの剣術はなかなか上達しなかった。そんな自分がイヤになることもあった。
だけど、強くて優しく聡明な騎士ジェフリーを純粋に尊敬していたし、誰よりも憧れていた。
 そんな尊敬できる師から託されたのは、フィガロ城の奪還だった。まだ幼いマッシュにとって事の重大性は
大人ほど理解できていない。しかし、だからこそ純粋にその任務を遂行できるのは彼しかいなかった。

『……頼んだぞ』

 脳裏によみがえったその声に背中を押された。今まで前に進み出ることをためらっていた足が、剣を持つ
手が、まるで縛り付けられていた物から解放されたように一気に軽くなった。頭上で見守る青空に別れを告げ、
洞窟の闇に身を投じる決意を固めた少年は顔を上げ、一歩を踏み出した。
----------
465誤字訂正:2005/07/24(日) 01:13:21 ID:67ZbzzfJ
>>462
×降着
○膠着
>>456
×同じの
○同じなの

もうホントすんません。
466名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/25(月) 22:52:00 ID:mO6aJaCk
ちっちゃいマッシュキタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!! 
洞窟からお城までの冒険がんまれ!
467名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/27(水) 11:11:53 ID:t6xOYQc1
(*´Д`)ハアハア
468名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/27(水) 17:09:35 ID:CyvavZLJ
暑い、暑すぎだハァハァ。
と、いうわけで保守兼小ネタ投下が通ります。




夏ということで季節ネタ + 2chということで2chネタ + FFDQ板ということでFF10ネタ ÷ FF6 ≒ な話。
469“列 車 男”:2005/07/27(水) 17:12:54 ID:CyvavZLJ


 うまく話せないかも知れないけど、少しだけ話してみる。
 いつも黙ってばかりだったから……笑わないで下さいよ。
 それに、ほら。
 最後……かも知れないじゃないですか? だから。


 だから全部、話しておきたいんです。


               ***


 ここはとある駅の乗降口。終着駅ではあるが人気はなく、ホームも待合室も閑散としている。
というよりも、ホームと待合室があるから辛うじてここが駅だとわかるようなもので、それ以外には
切符売り場も売店もない有様だった。建物の作りも古く、年季の入った柱や壁が人気のない駅に
ただよう哀愁をさらに演出していた。待合室といっても気持ち程度の簡素なもので、その中に掲げ
られた時刻表は「下り」のみの表示、しかも白紙だった。
 だからといって決して列車の乗り入れ数が少ないわけではない。最近では一日に何本もの列車が
このホームで沢山の人々を吐き出し、またすぐに発車していった。ただこの駅で降ろされた人々が、
ここでゆっくりくつろぐという訳ではなかった。列車にとっての終着駅というだけであって、人々にとっては
単なる通過点でしかない。そういうことだ。

 そんな寂れた駅の待合室には時刻表の他にもう一つ、置かれている物があった。それが「伝言板」である。
伝言する者もされる者もここにはいない。それを示すように、いつもはここに文字が書かれる事はなかった。
それでも撤去されることはなく、せめて駅らしさを演出したいという、ささやかな願いが込められていたのかも
知れない。あるいは単に、撤去する者が居なかったというだけだろう。

 そんな伝言板に書かれてあったのが、あの文面だった。
 誰に宛てられたのかも分からないその文面を、まだ誰も読んではいない。いつかこの駅を降りた誰かが
目にしてくれればいい。そんな思いを込めて書かれた「伝言」が、この物語の全てである。
470“列 車 男”:2005/07/27(水) 17:19:02 ID:CyvavZLJ


               ***


 こんにちは。僕は名もない男……いや女だったかな?
 昔の記憶は既にありません。今はここ……列車の中で給仕の仕事をしながら細々と生活している
名も無い者です。
 そんな僕はある日、列車の中で1人の女性と出会いました。年の頃はまだ若く、見た目はとても
美しい、「絶世の美女」という言葉を生まれて初めて――いえ、もう死んでるんですけどね――当て
はめたくなるような、そんな女性でした。有名人でいうとマリアさんに似ているような気がします。ああ、
死ぬ前に一度公演を見に行きたかったです。
 それにしても、彼女のような方がどうしてこの列車に乗り合わせているんだろう? そんな好奇心が
僕の視線を彼女に向けさせていました。いやぁ、こんな姿になっても好奇心などは以前と変わらない
ものですね。


 ここは魔列車。
 死人の魂を運ぶ列車です。


(かわいそうになぁ……)
 そんな風に思いながら、僕は彼女の方をずっと見ていました。彼女は4人掛けの席の窓側、進行方向を
背にして座っていましたが、とうとう僕の存在に気づくこともなく、ずっと車窓から外の景色を眺めていました。
 彼女が見ている方向が、この列車の出発地点だったことを知るのは、それから間もなくのことです。
残していった恋人の事を思っているのでしょうか? それとも家族? 涙を流すことも忘れ、彼女はただじっと、
車窓に流れる風景を見つめ続けています。
 いたたまれなくなって、僕はカートを引いて彼女の座る席の前までやって来ました。
471“列 車 男”:2005/07/27(水) 17:20:22 ID:CyvavZLJ
(……えーっと……)
 久しく女性とは会話をしていません。いえ、そう言うわけではなくてこんな人を目の前にしたら、誰だって
声をかけるのをためらうはずです。僕が弱虫だからじゃありません。

「おっ、オ? ……おおおおみのにのお飲物、は、いかっ……いかかがですかっ?」

 ああ、そういえば声を出すこと自体が久しぶりだったと今さら思い出したんです。思いっきり噛んだうえ声も
すっかり裏返って。我ながらなんとも情けない有様だなと思いながらも、彼女から視線を逸らすことは
ありませんでした。
 しかし、彼女もまた窓外から視線を動かすことはありませんでした。窓へ顔を向けたまま首を横に振ります。
 僕の存在にすら目を向けてもらえないのが悔しかったのでしょうか? 僕がこれ以上、彼女に関わる義理は
ないのだけど。それでも彼女に向かって言いました。

「こっ……この列車の終点はまだ先です、……のま、飲まず食わずでは身がもちません」

 彼女の横顔が僅かに揺れました。考える間もなく彼女の唇が動き、言葉が紡がれます。
「死人に『身がもたない』って、笑えない冗談ね」
 低い声。視線は動かさないままで――もしかすると、こちらを向かないという彼女の意思表示なのかな?――
言いました。たぶん怒っています。
 考えてみれば、どういう形にしろこの列車に乗っていると言うことは死んだわけですから、乗客のみなさんが
心穏やかでいるはずありません。どうやら僕の気遣いから出た言葉は、相手の神経を逆なでしてしまっただけ
のようです。
「飲み物も、あなたの言葉も要らないわ。私はあなたに用はない。あなたも私に用はないはずよ」
「え?」
「あっちへ行ってちょうだい」
 その言葉を聞いたとき、とても寂しかったんです。
472“列 車 男”:2005/07/27(水) 17:23:14 ID:CyvavZLJ



 最後の停車駅を発ってから、列車はずいぶん長い間走行しています。昨日、あんな風に言われてしまった
僕ですが、それでも、やっぱり彼女のことが気になって仕方がありません。ワゴンを押しながら、あの車両へ
向かいます。

 昨日と同じ席に、彼女は座っていました。相変わらず視線は窓の外の、列車が通り過ぎていった方向を
見つめています。
「……どっ、どうぞ」
 昨日のことを思い出して、カップを差し出す手が思わず震えてしまいます。拒絶されたらどうしよう? と。
それでも声をかけずにはいられませんでした。
「要らないと断ったはずよ」
 そう言ったきり彼女は無言でした。僕の方を見ることもありませんでした。もちろん、僕の差し出したカップを
受け取ることもありません。しばらくの間、彼女が受け取るのを待っていましたが、けっきょく僕が持って帰る
事になりました。



 その翌日も、彼女は同じ席の同じ場所で同じように窓外の景色を眺めていました。それでまた、僕は懲りずに
飲み物を勧めています。やっぱり彼女からの反応はありませんでした。それどころか。
「……あの、よかったら」
「…………」
 断りの文句すら発してくれませんでした。いい加減しつこいと思われているのでしょうか? 言ってもムダだと
思われているのでしょうか……。
 「あっちへ行って」と突き放されたとき以上に、寂しかったです。
473“列 車 男”:2005/07/27(水) 17:25:14 ID:CyvavZLJ



 こうして数日が過ぎました。列車が目的地に到着するまでにはまだまだ時間があります。
 僕は今日もあの車両へ向かっています。
 拒絶されてもいいのです。不思議と、最初の時のような恐怖は――確かにまだあるけど――強くありません。
ただ、ただ伝えたい想いがあるのです。
「……しつこいと思うかもしれませんが」
 その言葉と一緒に差し出したカップ。ここ最近ずっと繰り返されている光景。何やってるんだろうね? 僕。
そう思いながらカップを差し出しています。
 いつものように、しばらく沈黙が続きます。今日もだめかとあきらめて手を引こうとした時、彼女は口を開きました。
「そんなに飲ませたかったらここへ置いて行けばいいじゃない」
「えっ?」
 嬉しかったです。拒絶以外の反応って初めてですから。
「置いて行けばもう、あなたはここへ来る用はないでしょう?」
 ……と、思った僕が甘かったですね。最初の時と同じです。確かこの後に続くのは『あっちへ行って』でしたよね。
だから言ってやったんです。
「いいえ」
 拒絶される前にこっちから拒絶してやる、というそんな状態でした。……なんだか自分でも意味が分かりません。
とにかく必死でした。
「のっ……飲み終わったカップ……、回収しなな……しなきゃ……いけ、ませんか……ら」
 惨敗でした。
474“列 車 男”:2005/07/27(水) 17:26:46 ID:CyvavZLJ
 重たい沈黙の時間。もう消えてしまいたいと思いましたが、逃げ出したい衝動をぐっとこらえてその場に止まった
僕の方に、彼女の視線が向けられます。
「この列車、いつになったら駅に着くの?」
「お急ぎですか?」
「急ぐも何も……」
「すっ、すみません」
 ぺこりと頭を下げました。彼女は再び窓外へ視線を移してから、ぽつりと呟きます。
「ずっと同じ景色」
「何が見えますか?」
 カップを置いて、僕も彼女の正面の席に座って窓外を眺めました。
「あなたには何が見えますか? 僕にはこの窓からは何も見えませんから……」
「えっ?」
 驚いたように彼女は顔を上げました。
「あなた見えないの? この列車の下には……」
 この列車に初めて乗る彼女が知らないのも無理はありませんね。だから僕は簡単に説明したのです、
“見えない理由”を。

「この列車の車窓から見える景色は、この席に座った人の“記憶”の風景です。僕みたいになってしまうと、
もうなんの景色も見えなくなってしまいます」

「……そう、なの」
「ハッキリ見えますか?」
「ええ。少しずつ遠ざかっている事は分かるけど……。ほら、あそこ」
 女性は窓に指を当てて、少しだけ身を乗り出します。
「あそこね、私の生まれた家。その隣に小さな川が見えるでしょ? あそこがね……」
「あの」
「……ごめんなさい。あなたには見えないのね」
 肩を落とした女性に、僕はもういちど飲み物を勧めました。彼女は何も言いませんでした。
「この列車の終着駅はまだ先です。この窓から……なんの景色も見えなくなった所に、終点の駅があります」
 まだそれだけ景色をハッキリ見ることができるのなら、終着駅までは遠いんです。そう心の中で呟いてから、
僕は席を立ちました。
475“列 車 男”:2005/07/27(水) 17:32:53 ID:CyvavZLJ



 それからまた数日が経ちました。僕は毎日彼女の乗る車両に通っています。以前のように拒絶されることは
もうありませんでしたが、飲み物にはいっさい手を着けていませんでした。だから前日に置いたカップを取り
替える日々が続きました。
 それで、ふと考えついたのです。
「もしかして、紅茶はお嫌いでしたか?」
「いいえ。毎日欠かさず飲んでましたよ」
 それじゃあどうして? と聞いた僕に、彼女は顔を向けて答えます。
「また……思い出してしまいそうだから」
 それ以上彼女の口から語られることはありませんでした。その日以来、僕は紅茶を出すのをやめました。
「ごめんなさいね」
 寂しそうにそう告げる彼女の声が、耳に残って離れませんでした。



 僕が彼女にしてあげられることといったら、飲み物を勧めることぐらいです。ときどき彼女が呟く言葉に
耳を傾け、少しの時間を一緒に過ごすことだけでした。彼女の顔が徐々に細くなっているような気がします。
肉体を失って、この列車に乗っている人の顔に変化があるのかと思われるでしょうが、気のせいでは
ありません。確かに彼女の顔はやつれています。
 心配でした。
 彼女はもしかしたら、このまま終着駅までたどり着けないのではないかと。
「あの……」
 そんなことを考えていた僕の思考を遮ったのは、彼女の声でした。思いがけず振り返ります。
「これ、よかったら」
 そういって差し出されたのは少し大きめの箱でした。彼女の足下に置いてあった荷物の1つだったようです。
「どうして?」
「毎日、ここへ来てくれているのに私はなにもしていないでしょう? だからせめて……お礼……にはならない
かも知れないけど」
476“列 車 男”:2005/07/27(水) 17:35:30 ID:CyvavZLJ
「いえ……。それに、僕はこの列車の乗員ですから」
 そう言ったら、彼女は少し笑ってくれた。それからまた箱を差し出した。それ以上断る理由も見つからなくて、
僕はその箱を受け取った。最初は僕のことを拒絶していた彼女からの贈り物。とても嬉しかったです。
 自室へ戻ってから、さっそくその箱を開けました。中には1足の靴が入っていました。どこの靴かはよく
分かりませんが、とにかく彼女から頂いたプレゼントです、大切にしまっておこうと思いました。
 そう思って箱をしまおうとしたところへ、珍しく車掌さんが尋ねてきました。いつもにこにこしている彼は、僕の
持っている箱を見て聞いてきます。
「それ、どうしたんだい?」
「え、あ、これですか? 実は、お客さんにもらったんです」
「へーえ、プレゼントかい? いいねぇ」
 車掌さんは他意なくそう言いました。僕も笑顔で応じます。
「中身は?」
「靴……みたいです。足のない僕には履けませんけどね」
 そう言って箱のふたを開いて見せた。車掌さんはその中身をのぞき込んで驚きの表情を浮かべた。
「こ、これは……!」
「『いつも来ていただいているお礼に』、だそうです」
 自分で言いながら、彼女のことを思いだして少し照れてしまう。しばらく箱の中に釘付けになっていた車掌さんは、
顔を上げてやっと僕の方を見てくれた。表情を堅くしたまま、唇だけが動いた。
「これは……エルメスの靴じゃないか」

 『エ  ル  メ  ス  の  靴』
 僕でも聞いた事がある。なんでも少し高価な靴で――

「そんなことはいい。いいか、靴のお礼に食事誘え!」
 こんなに真剣になる車掌さんを見たのは、はじめてでした。勢いに圧倒されてうんうんと頷くことしかできず、
そんな僕を放って置いて、車掌さんは嬉しそうに部屋を出ていきました。
 そう言えば車掌さん、僕の部屋へ何をしに来たんだろう?
 小さな疑問と大きな幸せを乗せたまま、列車はひたすら走り続けていました。
477名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/27(水) 17:36:39 ID:CyvavZLJ
中途半端にパロディです。もうちょいで終点ですので今しばらくご辛抱下さい。
478“列 車 男”:2005/07/28(木) 19:40:49 ID:6c+vfHTW
>>469-476
----------



 靴のお礼に食事に誘うかどうかは別として、食堂車にご案内してあげよう。とは前々から思っていました。
ですが、飲みのもにすら口を付けることをしない彼女を、食堂車に連れて行くなんてできませんでした。
だけど、これは良い機会なのだと思いました。
 それでこの日、僕は思いきって言ってみたんです。
「食堂車……2両前にあるんですけど、一緒に行きませんか?」
 彼女はほんの少し驚いたような顔をしていましたが、首を横に振りました。ああ、やっぱりなと思いました。
「食欲、ありませんか? 飲み物も飲んでもらえないですし……」
 あれ以来、紅茶の代わりにコーヒーを出すことにしていました。だけど、やっぱり飲んでもらえていません。
「コーヒーも嫌いですか?」と聞こうとして、ずっと聞けずにいました。コーヒーも出せなくなってしまうと、もう
何もない。ジュース類は置いてないからです。
「ごめんなさい。気にしないで……」
「あの……すごく言いづらいことなんですが」
 俯いた彼女に、意を決して僕は言った。
「飲まず食わずでは身が持ちません。……僕が最初に言ったのを覚えていますか?」
「……ええ」
 彼女は小さな声で答えた。僕はさらに続ける。
「終点まで、僕はあなたが終着駅のホームに降りるのを見届けたいんです。途中で……」
 途中で列車を降りて欲しくない。そう言おうとして言葉が続きませんでした。どう伝えればいいか、分からな
かったのです。黙り込んだ僕に代わって先を続けたのは、彼女の方でした。
「分かっているわ。……この列車の終着駅の名前は知らないけれど、どこへ行くかは大体見当がつく。
それに、この前あなたが話してくれたわよね?」
 そう言って窓の外を見つめた。
 ――この窓からなんの景色も見えなくなった所に、終点の駅があります。
 確かに僕はそう言った。もういちど彼女が振り返る。
「私はきっと、終着駅には降りられないの。永遠に」
「そんなことは……!」
479“列 車 男”:2005/07/28(木) 19:42:36 ID:6c+vfHTW
「忘れられないもの。肉体が消えても、魂は覚えてる。……ううん」
 首を横に振って、彼女は笑顔を作った。

「忘れたくないの。生まれ変わって忘れてしまうぐらいなら、生まれ変わらなくていい」

 そう言ったきり、彼女は瞼を閉じて俯いた。なにかを堪えるように唇をかんで。
 見ていられなかった。そんな彼女が痛々しく映った。魔列車に乗って冥界へ運ばれると彼女は分かっている。
それでも、頑なにそれを拒めば――

 魂は永遠に魔列車に閉じこめられたままになる。そして、やがては腹を空かせたモンスター達の餌食になる。

 そうはさせたくなかった。僕に戦える力は残っていない。彼女を守れるかどうか、正直分からなかった。でも、
彼女を終点の駅ホームまで送り届けてあげたかった。
 僕が口を開く前に、彼女の言葉が耳に届く。
「ありがとう……」
 優しく、だけど何よりも強い拒絶だった。
 僕はカップを置いて、何も言わずその場から立ち去るしかできなかった。
480“列 車 男”:2005/07/28(木) 19:45:13 ID:6c+vfHTW



 次の日。
 彼女の姿はどこにもなかった。いつも座るあの席にも、他の車両のどこにも、もちろん食堂車にも
見あたらなかった。もう一度いつもの席へ戻って、僕は車窓に流れる景色を見つめた。
 やっぱり何も見えない、ただ霧とも雲とも見分けのつかない、ぼんやりとした景色が流れているだけだった。
 そんな僕の前に、車掌さんがやって来て告げた。
「さあ、そろそろ終点だ」
 僕は頷いた。それから通路に出て振り返る。聞いておきたいことがあった。
「ねえ、車掌さん。魔列車を途中で降りることはできる?」
「できないよ」
 即答だった。
 今さら聞くことではないし、僕自身もそのことは充分理解している。魔列車の走行中に姿を消すというのが、
どういう意味を持っているか。

 ――忘れたくないの。生まれ変わって忘れてしまうぐらいなら、生まれ変わらなくていい。

 ふいに、彼女の言葉がよみがえった。
 悔しかった。こんなに悔しい思いをしたのは生まれて初めて――いや、もう死んでるんだけど――だった。
僕は何も言わずに、車両を後にした。
481“列 車 男”:2005/07/28(木) 19:50:43 ID:6c+vfHTW


               ***


 何度目の乗車になるか分からない「下り」の魔列車に乗り込んだ。あの出来事以来、僕はいつも最後部の
車両にいる。あの出来事も記憶から薄れはじめていた。伝言板に託したメッセージは、いつか無くなってしまう
僕の記憶を残す唯一の手段だった。
 そんなとき、彼らと出会いました。たしか迷いの森駅を発車した後でした。この列車の乗客には似つかわしくない
明るい表情をしていたのが印象的でした。
 彼らは言います、「魔列車に間違えて乗ってしまった。だから降りたい。俺達には行かなければならない場所が
あるから」。その言葉は嘘じゃないと思いました。
 珍しいこともあるものです。しかし、僕は彼らに同行したいと思いました。服務規程には反すると思います、
でも、彼らと行きたかったんです。
 本当に途中下車することは不可能なのか? 彼らに賭けてみたかったんです。

「拙者達と行こうというでござるか?」
 老剣士の言葉に、声もなく頷いて。

「よしっ! 行くぞ!」
 モンク僧の笑顔に、力がみなぎってきた。


 魔列車を止めることはできないけれど、僕は彼らを助けることができる。
 彼らが途中下車できたとすれば、きっと彼女も……。
 そう、信じたかった。
 彼らと共に、最後部車両からの短い旅が始まる。
482“列 車 男”:2005/07/28(木) 19:56:38 ID:6c+vfHTW


               ***


 列車がホームに滑り込む。人々を吐き出した魔列車は、発車ベルも見送る人もないままで、ホームを出ていく。
 伝言板。
 その前に立った2つの影が揺れている。
「ママ、見て」
「……あら」
 2つの影は寄り添って揺れた、まるで笑っているようだった。最後まで読み終えると、彼らは仲良く並んで
駅舎を後に歩き出した。
 伝言板の最後は、こんな文章で締めくくられていた。



 エルメスの靴をお忘れになったお客様がいらっしゃいます。
 お心当たりのある方は、魔列車車掌または最後尾の乗務員までお申し出下さい。


                                        −“列 車 男”〜異界の車窓から<終>−



----------
実際、魔列車内に『エルメスの靴』はありませんが、その辺は夢です(w。
電車男のパロディですが、魔列車考察が主題だったり。
主人公は仲間になってくれる“ゆうれい”です、ヤツの存在は心強かった。
お粗末様でした。
483名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/30(土) 14:21:25 ID:61g3T8bm
乙です!前向きな乗客の皆さんが素敵です。
484名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/31(日) 15:35:10 ID:uvbIUu6l
485名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/01(月) 02:16:47 ID:M+wJEq/G
真夜中の保守
486名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/01(月) 02:24:13 ID:3iuFWNMj
487名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/02(火) 01:31:29 ID:ADxRYNWU
488名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/02(火) 20:19:37 ID:IVUU+liw
真夏の夜の保守
489白 ◆SIRO/4.i8M :2005/08/03(水) 21:54:04 ID:vPD9CVQr
ほっしゅ。ドサクサまぎれに投下。FFVII、逝っ休さんキャストです。
第一話はこちらの>>85-86です。
ttp://www.geocities.co.jp/Playtown-Part/1039/novel2/1055341944.htm
第二話はこちらの>>43-47になります。
ttp://www.geocities.co.jp/Playtown-Part/1039/novel2/1060778928.htm
490血脈 1/6:2005/08/03(水) 22:00:53 ID:vPD9CVQr
 昔々。竜と騎士の時代に。神羅と呼ばれる帝国がありました。
小学校低学年のクラウドが、安国寺、いえ暗黒城内を駆け回ります。
別名とんち小僧。
将軍、じゃなかった皇帝ルーファウスに呼び出されては
無理難題を解決させられる日々です。
和尚さん、もとい城の主セフィロス公が、クラウドをとっつかまえます。
「母親に会いたくないか?」
「え? お、お母さん?」
「私とて母がいる。人間ではないかも知れんが。
 お前に母が居ない筈は無いだろう」

 ずっと、孤児だと教えられていたクラウド。
自分の素性も知らずに。ただ皇帝に似ている自分が不思議で。
修道院で育てられる貴族の子供は、大体訳ありですが、
小さな子供にそれは理解できる筈もなく。
セフィロスに引き取られた時、間違って「お父さん」と呼んだぐらいです。

 新右衛門さんみたいなザックスがチョコボを駆ります。
チョコボの上でクラウドがきょろきょろしてます。
「落ち着かねーなー」
「母さんに会うの、初めてなんだ。緊張するよ……」
森の奥に、静謐な修道院が見えて来ました。
491血脈 2/6:2005/08/03(水) 22:02:04 ID:vPD9CVQr
 禁域の向こう側、格子を隔てて。とても綺麗な女性が座っています。
「大きくなったね」
母親の声はとても優しく。クラウドは声が出ません。
「離れ離れにさせて、ごめんね」
想像よりもずっと綺麗で、若々しいお母さん。
やっと会えたのに、触れる事も叶わず。
泣く訳でもなく、小さな肩を震わせるクラウド。

 棘の付いた鉄格子が、母子を引き離しているのです。

 その時。そっと小さな扉が開きました。
華奢なシスターの一人が、禁域の扉を開いたのです。
「……え?」
「こ、こちらへ」
「いいの?」
「よ、良くはないです……破戒だと、思います」
良くはないのかよ!と、ザックスは衝撃を覚えました。
「でも」
悲しすぎますから。
そう言われて、クラウドは禁域の向こうへ進みました。
そして母親の胸に抱かれ、静かな時間が過ぎてゆきます。
492血脈 3/6:2005/08/03(水) 22:03:03 ID:vPD9CVQr
 ふと。面会室の扉が開きました。
「!」
面会室に緊張が走ります。ザックスが叫びました。
「えーい!邪魔はさせないぞ!……え?」
若く凛々しい金髪の騎士二人が、シスターに一礼します。
騎士の一人が、クラウドを撫でました。そしてゆっくりと母親に口付けます。
扉が開いてたからって、ズカズカ禁域に入ってくるのはどうかと思います。
接吻までぶちかますとは、PTAに怒られるくらい悪逆非道かつ破廉恥です。
「貴方……何故ここに?」
「お前と、息子に会いに」
「クラウドの父親ー?!」
ザックスは愕然としました。クラウドは、と言えば。
ハンバーグとシチューとパフェを同時に並べられた子供の目になってます。

 クラウドと同じブロンド。不思議な蒼の瞳。
似てるのはむしろ、ベイオウーフ、じゃなかったルーファウスに似てます。
「プ、プレジデント前皇t……!」
顎が外れそうになりながら、ザックスは自分の口を塞ぎました。
同行したもう一人の騎士、シドが、
「ケッ、俺は飛竜の運転手じゃねえっつうの!」とか何とか愚痴ります。
同時に扉を開けてくれた、あの眼鏡のシスターに頬を赤らめましたが、
それは割とどうでもいいです。


ちょこっと続きます。
493名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/04(木) 22:02:35 ID:Z+sshlZL
>>490-492
白さんのFF7ドタバタ喜劇、いつも楽しく読ませてもらってます。
今回も展開が楽しいです、ってシスターはシエラですかハァハァ。
続き期待sage。
494 ◆SIRO/4.i8M :2005/08/05(金) 22:12:31 ID:40bYFNwq
>>493
まりがとうございます。( ´Д⊂ヽ この板の住人さんがとっても好きです。
職人さんの皆さんも尊敬してますです。自分もワクテカ期待sage。
495血脈 4/6:2005/08/05(金) 22:19:40 ID:40bYFNwq
 遠い昔の話です。ある日、お妃さまが命じました。
「貴方が王の寝所に行って」
侍女は断りました。とんでもない、と。しかし。
「私は、血が近すぎるのよ。王の体を、私の体だと思っているらしいの」
「ならば、どなたか尊い血の方に」
「いやよ! 野心を持つ者なぞお断り。このままでは血が途絶えるわ。
 帝国内は敵だらけ。貴族全て信頼できないのよ!」
切ない言葉でした。
例えこの話が、新しい愛人を欲しがる王の好色な提案だとしても。
城の豪奢な生活に倦み、刺激を求めた王妃の悪趣味だとしても。
「血が途絶える」
この言葉に偽りはありません。
そして侍女の美しい髪は、皇妃と同じ色でした。

 月満ちて。侍女は双子を産みました。
より強く泣かなかった王子が、帝国を継ぎました。
侍女が皇妃に訴えます。
「継がなかった子を私にください。王家の事は、全て忘れますから」
「どうして? 貴方は王母。愛妾や寵妃どころか摂政になれるのに?!」
「王母はお妃さまです。私の役割は終わりました」
侍女は愚かしい程純朴に、皇妃を慕っていました。

──ただ皇妃が望んだから、命がけで孕んだのです。

対立したくありませんでした。
侍女は尼僧となり、お城から出て行ったのです。
毎日皇妃の髪を梳き、いつも共にいた侍女。
スカーレット皇妃は嘆きました。友達が居なくなってしまった、と。
496血脈 5/6:2005/08/05(金) 22:20:51 ID:40bYFNwq
 お母さんの説明を聞いて、クラウドはいっぱい頷きました。
教会は平和領域(アジール)。悪い人が暗殺に来たり出来ない所です。
「もし、誰かがお前を王にしようとしても、断りなさい」
とても強い目で。お母さんはそう言いました。
「俺は、魔法使いになりたい」
「うん、それでいいわ」

 ふと、お父さんが剣を抜きました。
「ぬうお?! 何すか?!」
全天を、ざわざわと禍つ者が覆います。
「……君達、すまない。どうやら儂について来たようだ」
プレジデントさんは、大きな国の元王様です。
年中戦争もしてます。王宮は陰謀策略が常時渦巻いてます。
「我が城の怨霊全て、儂が引き受けたのだよ。
 そうでなければ、ルーファウスを喰らおうとするのでな」
「なるほどねー」
とかゆってる間にも、禍つ者さん(ミッドガル在住 年齢不詳 職業魔物)が
キシャーとかシャゲーとか吼えてます。
「で、どうすんの? アレ」
「倒すしかねえだろうよ!アンちゃん!」
やっぱりそーなりますか。仕方なくザックスも抜刀します。

 騎士三人が飛びかかると、妖怪変化が
最も幼い者に乗り移ろうとしました。
「クラウド!」
轟音。そして魔晄の輝き。
大気が湧き上がり、クラウドの画龍点晴が炸裂します。
497血脈 6/6:2005/08/05(金) 22:22:09 ID:40bYFNwq
 怪獣が怯みました。騎士達の呪文詠唱が始まるが早いか、
お母さんの超究武神覇斬が閃光を放ちます。
「な、なんだってー?!」
おかーさん、太ももとか見えちゃうのも構わずに、ものすごい連続攻撃です。
つか、禍つ者さん細切れです。そんであっさりと戦闘終了しました。
「いつか覚えてね、クラウド」
「は、はい!」

 修道院を後にして、飛竜が翼を広げます。
「これで幽鬼が消えた訳ではない。しかし、礼を言わせて貰おう」
「いや俺、なんもしてないっすけど」
助さん格さん、じゃなくてレノとルードが迎えにきました。
「むしろ、何時まで水戸黄門なんだ、ぞと」
レノもルードも、思いっきり巻き込まれてるっぽいです。
「束の間であれば、城に戻れなくもないがね。
 ……旅の間に様々な物を見たよ。
 正直で優しい。そんな民草も居ると言う事を。では、失礼」
修道院の天文台に、仄かな灯が点ります。

 星の元。幼い皇帝が休んでいます。
「勝手だな」
「はっ?」
「前皇帝の話だ。死んだふりまでして国を子供に任せて、諸国漫遊などと」
宰相のリーブさんが困っています。
「まあいい。僕の好きにするさ」
眠る皇帝の頭を、先帝がそっと撫でながら夜は更けてゆきます。


END
498名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/06(土) 01:09:19 ID:qM8SFlWW
>>490-492>>495-497
やわらかい文章が印象的です。最初の方の賑やか要素と相まって全体的に優しい感じが漂ってます。
> おかーさん、太ももとか見えちゃうのも構わずに、ものすごい連続攻撃です。
カコ(・∀・)イイ!けど…萌えまs(ry。すべてにおいて母者最強かーちゃん万歳!!
普段、台所でこんなことされてたら凄い家族だなとか妄想してたら楽しかったです。↓以下

1.超究武神覇斬でタマネギのみじん切りを実行します。
2.セフィロスさんは(あの有名なムービーで)超強火で目玉焼きを焼いてます。
3.バレットの左腕(?)のアレからは味塩こしょうが出てきます、後列からでも同じ威力です。

そんなジェノバの3分クッキング。

チラシの裏っていうか、側面って感じの感想ですいません。
499フィガロの動く城(仮)16:2005/08/06(土) 01:19:30 ID:qM8SFlWW
* 注意 *
 「捏造」のレベルではありません、フィガロ政変ネタ@スチュアート謀反。
 考察よりも、己の萌えに忠実になってみましたので苦手な方はご注意下さい。
 今回のパートは、エドガーとグウィネヴィア。

前話>>462-464
-------------------

               ***

 フィガロ城。
 堅く閉ざされた窓から青空を望むことはできず、少年は途方に暮れていた。もう何時間もこの部屋に
閉じこめられている。どうすれば良いか分からなかった。
「さあエドガー、行きましょう」
 そんな少年を呼んだのはエメラルドグリーンのスリップドレスに身を包んだ女性だった。細身の身体に
よく似合ったシンプルなドレスと背に垂らされたストールは、見る者に艶やかさよりもしなやかさを強く
印象づける。おそらく身につけた人物の快活な性格が影響しているのかも知れない。
 暗く沈んだ表情の少年とは対照的に、彼女の声は室内に灯る照明よりも明るく、よく通る声で響いた。
「行くって……?」
「決まっているでしょ? 機関室よ」
 そう言いながら、彼女は手早く身支度を整える。数本の矢の入った弓籠を持ち向き直ると、少年を見つめて
微笑んだ。ドレスに籠弓――それ以前に、城内で弓を装備するという姿の方が異質なのだろうが――という
取り合わせも、彼女の笑顔に中和されたように馴染んでいた。その姿に半ば呆気にとられる少年に、彼女は
さらに言う。
「さあ、さっさと行くわよ!」


 ――後にして思えば。
   彼女はなぜ、城へ来るために弓籠……弓を装備して来たのだろう?
   この日、この城で起きる『何か』を知らなければ……知っていたからこそ、
   彼女はここに、こうして居たのだろう。
   すべてを、覚悟して。
500フィガロの動く城(仮)17:2005/08/06(土) 01:24:17 ID:qM8SFlWW


 道に迷うこともなく辿り着いた機関室だったが、重く大きな鉄扉は彼らの前で完全に閉ざされていた。
「……やっぱりダメか」
 扉を手のひらで強く叩いて文句を吐き捨てた後、彼女は屈んで扉と床の間を熱心に調べ始めた。普段は
後ろに流した美しい栗色の髪の毛を、邪魔だと言わんばかりに掻き上げる。一体なにをしているのかエドガーには
分からず、おそるおそる尋ねた。
「あの……」
「見れば分かるわよね? いま取り込み中。急ぎの用じゃなければ後にして」
 こう見えて――いや、贔屓目を抜きにしても――エドガーは城内を歩けば振り返らない女性はいないほどの
端麗な容姿の持ち主で、おまけに頭脳明晰な、しかもフィガロの王子である。そんな彼の言葉をぴしゃりと遮った
彼女の名前はグウィネヴィア。エドガーの叔母に当たる人で、彼が密かに好意を寄せている、あこがれの女性だった。
「今日は城の整備が行われるはずです。整備中……とりわけ潜行中に機関室へ出向いたところで、扉が開かないのは
当然だと……」
 その言葉に、彼女は振り返って問う。
「整備の正式な日程、あなたは知ってたの?」
「えっ?」
 単純すぎるその問いかけに、エドガーは答えられなかった。
 正直なところを言えば、今日が整備の日だという事も知らなかった。彼が「整備中に機関室へ」と言ったのも、
今の状況から推測した話に過ぎない。グウィネヴィアはそのことを見抜き、指摘したのだ。
「少なくとも国王が城をあけている時に、こんな大がかりな整備なんかしないわ。……それにねエドガー」
 動かしていた手を止めて立ち上がると、エドガーの顔を見上げて告げた。

「どんな目的であろうと、城の潜航命令を下せるのは国王だけよ」

 彼女とはずいぶん年齢が離れていたはずなのに、上目遣いに見つめられたエドガーはその表情に思わず
見とれてしまうのだった。人間の美しさは年齢とは関係ないのだと、違うところで感心していると。
「私の美貌に見とれる気持ちは分かるけど、後にしてくれる? 今は別の問題を話しているの、集中しなさい」
 と、窘められてしまう始末である。エドガーは我に返って頭を下げ、それから考える。
501フィガロの動く城(仮)18:2005/08/06(土) 01:31:57 ID:qM8SFlWW
 確かにグウィネヴィアの言うとおり、城の潜行を命じられるのは国王のみである。息子である自分たちにも、
また叔父のフランシスにもその権限は与えられていなかった。だとすれば当然、今日の潜行も父・スチュアート王が
指示したという事になる。
 同時に、城の潜行は定期的に行われているものでもあった。これだけの巨大な設備を維持するためには
定期的な整備が欠かせない。城の外壁や防砂扉などの小規模な整備は短い期間で定期的に行われるが、
年に1〜2度、数日間を費やし国をあげての大規模な保守点検が行われる。その際、潜航・浮上に至るまでの
全機能の動作テストを兼ねて、フィガロ城は潜行する。
 確かにこの数日間で、城の外壁の防砂機能など小規模なメンテナンスが行われていた事も知っている。
しかし、城の潜行テストは技術者達の意見を汲んだ上でその日程が一週間以上前に言い渡されるのが通例
だった。万が一の事故に備え、十分に体制を整えてからテストに臨むためである。
 ところが今日の潜行は一昨日の夜、突然発表されたのである。そして不思議なことに、エドガー達ですら
父スチュアート本人の口から聞かされておらず、全て書面での通達がなされただけである。
 ――まさか。
 そう、ここまで考えてエドガーははじめてある事を疑った。グウィネヴィアの言おうとしていることは……。
「これが父の意思ではない、と?」
「その通りよ」
「でも……!」
 思わず声が大きくなった。信じられない、それが本当だとしたら――。

 ――この潜砂はいったい誰が、何のために行った?

 エドガーの言葉を遮った沈黙。グウィネヴィアは無言のまま彼の手を引いて通路を引き返した。
「待って下さい! 機関室へ……」
「無駄よ。緊急開閉用のボタンも使えなかったわ……誰かがロックをかけたのね。意図的に」
 「意図的」と、最後の言葉を呟いた瞬間、エドガーの手首をつかんでいた彼女の手に力がこもった。
502フィガロの動く城(仮)19:2005/08/06(土) 01:39:04 ID:qM8SFlWW
 通常、潜行中は機関室の扉は閉ざされている。しかし不測の事態に備えて、外からも扉が開く仕組みが
あった。緊急開閉用のボタンは扉の下、床下に隠されたスイッチをある順番通りに操作することで機能する。
先ほど熱心に調べていたのはこれを探していたのだろう。
 それさえ分かれば充分だった。
「待ってグウィネヴィア」
 エドガーはあることを思い出して呼びかけた。名前を呼ばれ先を歩く足が止まり、振り返る。
「そう言うことなら僕にまかせて。あなたよりも機械には通じています」
「……ごめん。忘れていたわ」
 とたんに手首を拘束していた力が緩められ、グウィネヴィアはにっこりと笑った。彼女の笑顔は城で見ることの
できない種類の笑顔だった。エドガーにとって、それはとてもまぶしく見えるのである。




----------
>>499は「フィガロ政変ネタ@フ ラ ン シ ス謀反」が正解です。
     エドガーマッシュの父がスチュアート、叔父がフランシス…だという噂です。
503名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/06(土) 13:41:28 ID:VNYJxSMx
 山に囲まれた湖。そこに流れこむ一筋の滝の裏には、一握りの者しか知らない洞窟がある。
 そしてそこを知る一握りの者たちは、『ルクレツィアのほこら』と呼ぶ。

 ジェノバの呪いに縛られた美しき女。彼女は長い時をここで過ごしてきた。険しい山が
彼女の平穏を守り、異常な再生能力を持つジェノバ細胞は彼女に歳をとることを許さない。
 実験台となったあの日。宝条の悪夢に囚われた時、彼女の時は止まったのだ。

 彼女――ルクレツィアは、孤独だったのだ。

「世界はもう、私を必要とすることもないだろう」
 薄暗いほこらの中、男の声が低く響く。
「やっとわかった。君が望んだことならば、それを尊重しようと行動してきたつもりが、
じつはただ……拒絶されるのが怖かっただけなのだと」
『なにが言いたいの? 私にはわからない』
 彼女は薄い光のベールに閉じこもっている。どんな来訪者であれ、嬉しくはない。
 しかし男の声は続ける。彼女が聞いているかどうかなど、意に介せず。
「間違っているとわかっていながら、君を引き止めなかった。どんなに拒絶されても、
あの時私は君を引き止めるべきだった。無理矢理にでもつれて逃げるべきだったのだ」
『あなたは何を言っているの?』
 足音が近付いてくる。――やめて。わたしに近付かないで。
「……あの時の私に足りなかったものは…………」
 男の腕が光の壁をつき抜け、ルクレツィアの腕をつかんだ。嫌なのに、何故だろう。
この手には抗えない。
 その腕は力強く、彼女を光の中から引っ張り出した。
「……ほんの少しの、強引さだ」
 そのまま、男はルクレツィアを抱きしめる。優しく、それでいて彼女に似た冷たさ。
 幻想の中から引き出された彼女は、初めて相手の顔を見る。
「ヴィンセント……」
 本当はわかっていた。その声だけで、胸が苦しくなるような感覚を覚える。
 どうしてだろう。自分は宝条を愛していた。悪魔のような所業をなした男だが、それでも
確かに彼を愛していたのに。
504エピローグ2:『咎人』 ヴィンセント:2005/08/06(土) 13:44:44 ID:VNYJxSMx
 なのに、どうして――ヴィンセントに抱かれて、抗うことができないのだろう?
「人は変わっていく。世界もまた、変わりはじめた。……私達だけが、変わることを許され
ない。ならば、せめて私は君とともに朽ちてゆきたい」
 独立したジェノバ細胞は、本体が死んだ今でも再生能力を失わない。もちろん、無限に
再生できるわけでもなく、いつかは彼女にも死ぬ時がくる。
 だが、その時までは……。
「わたし、あの人を愛していたのよ」
「それでもいい。君があいつを忘れられないというなら、私は君を守る壁になる」
 ――やっと、わかった。わたしは、この人に愛されてるんだ。
 心に広がっていく安堵感。孤独という檻を開いてくれた鍵は、彼の愛だ。
「……ダメよ。それじゃあ、あなたは孤独なまま」
 彼女も、腕をまわす。ヴィンセントの身体は強靭さに似合わず、細かった。
「守られるお姫様ではいたくないから、研究者になったのよ」
「ルクレツィア……」
 長いこと、ずっとそのままの時間が続いた。二人が一つになったような、暖かい一体感
が彼らを結びつける。
 やがて身体を離したとき、ヴィンセントはある事を思い出した。
「そういえば……明日は、行かなきゃならない所がある」
「どこ?」
 すぐ帰ってくるから、と笑い、彼は言った。
「明日は、セフィロスの命日なんだ」

 ――ともに死を許されぬふたり。それが永遠の片思いでも構わない。
 できるなら、彼女を守り続けよう。死がふたりを分かつまで。
 ふたりの共有する世界が終わる、その時まで――。


                エピローグ2 糸冬
505FF7A書いてる物体:2005/08/06(土) 13:51:31 ID:VNYJxSMx
予想どおりヴィンセントの話は短い……w
しかもまあ、訴えることのないお話に('A`) そりゃヴィンセントは
ルクレツィアのほこらで隠遁生活だとは思ってましたけど。
永遠の片思いじゃ可哀想過ぎるのでちょっとした救いを用意した、といった所か。

>>498-502
スゲー…城が潜っちゃいますか。
砂に潜るという所でユグドラシルを連想したのは安直すぎますでしょうかw
あっちも王族の人乗ってるし……。
506名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/06(土) 19:25:08 ID:aRbNbitu
賑ってキタヨ━━━━━━(=゜ω゜)━━━━━━ !!!!!

>フィガロの動く城
グウィネヴィアさんカッコヨス!謎だらけのお城が気になります。

>エピローグ2:『咎人』
ルクレツィアさんに萌えますた。他のエピローグも楽しみにしてます。
507名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/08(月) 06:23:28 ID:mdBMFzi6
>>503-504
最後の3行かっこいい! しかし究極に切ないですね両者。
逃げることも忘れることもできないというのは、死ぬよりもつらいんでないかと。
科学者としての探求心でなはく、悪魔に取り憑かれた宝条戦@神羅ビルから考えると、この2人の結末が泣けてきます。
(ちなみにファティマとフィガロの設定をした人が一緒だとか。…FF6プレイ前にハマった懐かしい思い出)
508フィガロの動く城(仮)20:2005/08/08(月) 06:35:23 ID:mdBMFzi6
>>499-502より。スチュアート暗殺未遂事件[フィガロ城脱出編]
--------------------



 頻繁に利用するものではないことと、頻繁に利用されては困るという2点の理由から、緊急開閉用の
ボタンが収納されている床下の小窓は見つけづらく、エドガーがパネルと対面するまでには少しばかり
時間がかかったが、ようやく操作までこぎ着けることができた。
 エドガーは並んでいる9つのボタンを慎重に操作する。1つ1つパズルを解いていく過程は、原理を
知らないグウィネヴィアにもなんとなく分かった。
 しばらくしてからエドガーの手元でガタンと大きな金属音がした。どうやら解除に成功したようである。
「解除できたの?」
「1つめを」
「ということは、他にも?」
「全部で4つあります」
 エドガーは大きく息を吐いてから、再び床に埋め込まれたパネルに向かい操作を始めた。その横に
屈んでグウィネヴィアもエドガーの手元をじっと見つめている。パネルの上をせわしなく動き回る指は、
まるで鍵盤の上を行き来するそれの様にリズミカルで、見ているだけで楽しかった。
「一体どんな仕組みになっているの?」
 この質問に、エドガーは手を休めることなく答えた。とても丁寧に、ひとつひとつの仕組みを解説して
いった。およそ10分ほどしゃべり続けたところで、2つめの解除に成功する。
「どうですか?」
 顔を上げて少し嬉しそうに尋ねるエドガーだったが。
「……ごめんなさいエドガー。さっぱり分からなかった」
「すみません」
 明るく笑うグウィネヴィアとは対照的に、エドガーは肩を落としている。それでもめげずに3つめの解除を
試みる。今度も話を切りだしたのはグウィネヴィアだった。
「マッシュの容態はどう?」
「えっ? マッシュがどうかしたんですか?」
 しかし、先ほどとは違いエドガーの返答ははっきりせず、逆に問い返されたグウィネヴィアは驚いた様子で
答えた。
「どうかって……。また容態が悪くなったからって、2日前からサウスフィガロの別邸で療養しているんでしょう?」
509フィガロの動く城(仮)21:2005/08/08(月) 06:40:01 ID:mdBMFzi6
 エドガーの手が止まる。パネルから顔を上げてグウィネヴィアを見つめた。
「……おかしいですね。マッシュは元気そのものです」
「それじゃあ、マッシュは今日どこに?」
「サウスフィガロの別邸です。静養中の父上をお迎えに……」
 そう言いかけてエドガーは表情を堅くした。
 ――おかしい。

 弟のマッシュが体調を崩してサウスフィガロへ行っていると言うグウィネヴィアの話。
 体調を崩した父・スチュアートを迎えるためにマッシュがサウスフィガロへ行っていると思っていた自分。

 お互いの認識はまったく逆なのである。

「決まりね」
「な……何がですか?」
「エドガー、できるだけ急いで。早く地上へ戻りましょう」
 グウィネヴィアの表情が明らかに険しくなった。心なしか声が震えているような気がする。その理由が
知りたくて。
「教えて下さい」
 手を止めて彼女を正視する。いつもは明るい彼女の表情は曇り、エドガーと視線を合わせようとはせず
周囲を気にするように顔を動かしている。しかし部屋を出てから誰ともすれ違っていないし、もちろん今も
廊下には彼ら以外の姿はなかった。潜行中は城内がエリアごとに仕切られているせいもあったが、よほどの
事でもない限り潜砂中、おまけに整備中の城内を出歩こうとする者はいない。
「話は後。さあ早く」
「何を心配しているんですか? あなたらしくない……」
「私らしかろうと、らしくなかろうと関係ないわ。とにかく早くしてちょうだい」
 明らかにいらだったグウィネヴィアに、それでもエドガーは問うのだった。
「何が、一体どうして……分かるように説明して下さい」
510フィガロの動く城(仮)22:2005/08/08(月) 06:48:40 ID:mdBMFzi6
「少しは自分の頭で考えなさい!!」
 感情にまかせて大声を張り上げたことを、グウィネヴィアはすぐに後悔した。謝ろうと再び顔を向けた
エドガーは俯いたままで動かない。
「ご、ごめんなさいエドガー……」
 僅かな沈黙、そのあとで。
「あなたのおっしゃるとおりです」
 そう言って、ゆっくりと手だけを動かし始めた。視線はまっすぐパネルだけに向けて、決して彼女の方を
向こうとはしなかった。そこで3度目の解除音を聞いた。
 まるで拗ねているエドガーの言葉を否定して笑おうとした、そうすれば彼はまた、いつもの笑顔に戻って
くれると思った。けれど。

「僕は、大人が嫌いなんです。特にこの城に出入りする人間の多くが」

 かちゃかちゃとボタンをいじる音が響く中で、エドガーの零した声も機械的に聞こえた。グウィネヴィアの
背筋に冷たいものが伝った。
 成人の儀式も終えて、彼も充分「大人」である。そんな彼の言葉を、城内で理解している数少ない中のひとりが
彼女だった。
「でもエドガー。彼らは……確かに権力や富が目当ての者もいるかもしれない。だけどね、王族の全員が
そうだと言う訳じゃないの」
「では、この国のことを本当に考えているのは、この城の中に何人いるでしょうね?」
 純粋にエドガーは頭がいいと思っている。双子の弟マッシュは病弱だったせいもあってか、頭がいいと言う
よりも、どちらかといえば感性が鋭かった。しかしエドガーは自分の感性を表に出すことよりも、目の前で
起きた出来事を理論的に処理する能力に長けていた。それは叔母である自分の目から見た素直な感想だった。
 だからなおさら、さっきの発言を後悔していた。彼は充分「自分の頭で考えて」いる。
「それではお聞きしますがグウィネヴィア。あなたはフィガロと帝国の同盟締結について一体どうお考えですか? 
王位継承問題は? 領土については? 他国への技術支援については?……」
511フィガロの動く城(仮)23:2005/08/08(月) 06:53:46 ID:mdBMFzi6
 ガタン。4度目に聞く金属音だった。エドガーの手が止まり、パネルから視線をはずし扉を見上げながら
言葉を続ける。
「……『国民のため』、『自国のため』……それは決まり切った彼らの口癖です。しかし私は、ずっと彼らに
聞きたいことがあるんです」
 立ち上がり、扉に手を当てる。つられるようにグウィネヴィアも立ち上がると、エドガーの視線と正面から
ぶつかった。

「“国”は誰の物ですか? 誰が納得すれば“国のため”なんですか?」

 国という盾に隠れているのは、大人の醜い欲でしかない――エドガーが幼い頃から見続けてきた、それが
王家の真実だったのだろう。現にグウィネヴィアも、それと同じ景色を彼よりも長いあいだ見続けてきた。
ただ、その景色の中心に立つことはほとんどなかった。だから彼らよりはつらい思いをしないで済んだ。
 そんな景色、かなうならばこの手で塗りつぶしてしまいたかった。しかし彼女の透明な心では、塗りつぶす
事はできなかった。
 ――結局、自分もその色に染まってしまっただけ。染まりきれずにくすんでしまったガラス玉のように、
今はなにも映し出せない――心の中で呟いて、目を伏せた。目の前の少年に、どんな表情を向ければいいのか
分からなくなった。
 質問には答えなかった、答えられなかったと言った方が正しかった。彼女自身でも分からない。しかし少なからず、
エドガーの言っていること、吐き出したくなるような思いは、同じものだと感じた。
 嬉しかった。
「エドガー」
 腕を伸ばす。彼の頬に触れた。
「ごめんなさい。あなた方にツライ思いをさせている、本当にごめんなさい……」
 肩に手を回し、抱き寄せた。エドガーは微動だにしなかった。そんな彼の耳元で、小さく呟いた。
「国という盾で己の身を守り、大義名分という剣を振りかざす腐った人間がいるのは事実よ。でもね、そんな人たち
ばかりじゃない。なによりも国を愛し、不器用なほど真っ直ぐに生きてその思いを貫いている人だっているわ……」
 ――透明すぎる、全ての色を吸収してもなお透明な心を持った人。
「……うん。僕も知ってる」
512フィガロの動く城(仮)24:2005/08/08(月) 07:03:13 ID:mdBMFzi6
 おそらく、ふたりの脳裏に真っ先に浮かんだ人物は同じだったはずだ。グウィネヴィアの腕に抱かれ、
エドガーはその騎士のことを思った。自分たちが尊敬できる騎士であり、同時に彼女が好意を寄せる
相手でもあるその男の事を。
「彼は、この国を愛しているわ。そしてあなた方を心からお慕いしている」
「…………」
 グウィネヴィアの腕に力がこもる。思わずエドガーは彼女の方を向く。声をかけようとしたが、けっきょく
言葉にならなかった。
 言葉の代わりに、彼女の背に腕を回しエドガーも同じようにしてグウィネヴィアを抱きしめた。肩が小刻みに
揺れていることを初めて知った。
 ――泣いて、いるのだろうか?
「私も、ジェフも。あなた達には幸せになって欲しい。心からそう望んでいるの。だから」
 肩に埋めていた顔を離し、エドガーを見つめた。私は今、どんな顔をしているのかしら?
513フィガロの動く城(仮)25:2005/08/08(月) 07:04:11 ID:mdBMFzi6
 彼女の瞳はたくさんの涙をたたえていた。気丈な彼女が見せた涙の意味を、この時エドガーはぼんやりと、
おぼろげながらだが何となく分かったような気がした。
 ――きっとこれ以上を尋いても、答えは返ってこない。
    自分の目で、見極めるしかない。
    たとえそれが、どんなにつらい現実だったとしても。

「だから……生きて」

 ――扉の向こうにある真実を見極め、現実として受け入れなければならない。

 彼女から重ねられた唇に、返答しようとしたエドガーの言葉が封じられる。ずっと憧れていた女性の存在を、
その体温を間近で感じた。互いを深く慈しむような口づけを交わした後、再び見たグウィネヴィアの目から
涙は消えていた。真っ直ぐに見つめてくる彼女の顔を、正面から見ることができずにエドガーは視線を逸らす。
 一歩前に出て、機関室へ続く扉に左手をあてながら振り返ると、短く告げた。
「……行きます」
 グウィネヴィアは深く頷くと、籠から弓矢を取り出して鉄扉の前で構えた。エドガーは背を扉に当て、右手で
帯剣を握った。全身を使って扉を開け放ち、同時に剣を引き抜く。

 ――生きます。

 エドガーの中で、それは誓いであり決意だった。



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514名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/09(火) 01:45:30 ID:V5Oiuda+
キタ*・゜゜・*:.。..。.:*・゜(゜∀゜)゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*!!
美麗な描写と緊迫感が素晴らしいです。つ、続きを…ハアハア
515名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/10(水) 02:00:42 ID:eF55LWo9
圧縮回避ほぼまりむ
516名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/10(水) 12:44:54 ID:UnmGQra+
真昼の保守
517名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/11(木) 17:29:10 ID:ZghKhXHZ
ぽっしゅっしゅ
518名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/12(金) 08:02:24 ID:R02la7k4
保守しときます
519名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/13(土) 15:32:59 ID:8uoJmq3N
真夏の保守
520名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/14(日) 02:10:16 ID:HmrxMNWl
>>350
遅くなりましたが、ありがとうございます。励みになります。

書いたまま放置してたのを、今更こっそり投下してみるテスツ。
元ネタはじゃんぷる!です。
521がんばれ勇者くん!  1  ◆SIRO/4.i8M :2005/08/14(日) 02:12:10 ID:HmrxMNWl
 パーティ会場のざわめき。緊迫した空気の中、ルーファウスが叫ぶ。
「3番は15番と組み、勇者になって魔王退治しろ!」
「いいぞー!若社長!!」
社員の中から、一人の兵士が立ち上がる。
「……3番です」
眉間に深ーく皺を寄せたセフィロスが、ルーファウスの前に仁王立ちしますた。

「何で俺まで?」 
うららかな昼下がり、ジープの中でザックスがごねています。
セフィロスは答えません。てか、王様ゲームの結果だなんて秘密です。
「なあ!勇者はいいけどさ、野郎だらけじゃ華がないよなあ?!」
青ざめてぶっ倒れそうな15番、クラウドにザックスがガンガン話しかけます。
不意に、3番勇者くん(でんりょくがいしゃ しんらしゃいん)が切り出します。
「これは、社長の密命だ」
「密命じゃないじゃん。おもいっきし宴会場でバレバレじゃん!」
3番勇者くん、体育座りでブツブツゆってますよ?

   そう……ルーファウスはこう語った。
  『別世界の扉が開いたようだ。調査して欲しい』と。
  我々の星に似ているが、生態系は明らかに違う。社会形態は中世に近い。
  別世界の魔法やアイテムには共通する部分もある。しかし通貨の価値は約10倍。
  ルーファウスめ。愚かしい事だ。支配する世界がインフレと気づかなかったらしい。
  俺は貴重な休暇の予定だったのに、下らないミッションだ。
 
 最後は何だか愚痴みたいな気もするんですが、とりあえず
「>>おっぱい まで読んだ」
怒られました。
522がんばれ勇者くん!  2:2005/08/14(日) 02:13:27 ID:HmrxMNWl
 モンスターの様子が変です。
いつものモンスターならカツ上げに変化と、悪逆非道強奪を尽くす所ですが。
倒した後のモンスターが、時々フレンドリーにこっちを見てます。
モンスターに転職とか出来ちゃって凄いです。
でもイン&ヤンに懐かれても困ります。イン&ヤンに転職するのはもっと困ります。

 会社に戻ると、若社長が次のレベルまでどのくらいか教えてくれました。
「一つ聞きたい。賢○まではどの位だ?」
「まず、遊○人になるべきだな」
聞くことも聞いたし兵舎に帰ろうとした、その時です。
「……うわっ!!!」
なぜか床にバリアが張ってありました。勘弁してください。
魔王、じゃなかった勇者一行が気絶から目覚めると、そこは教会でした。

 ┌-┐ パーン
 │†│  ,//、
( ‘д‘) /ツハW>  神父様が優しく紳士的に起こしてくれました。
  ⊂彡☆))Д´)

「お会計3000000ギルになりまーす」
「マジで?!」
かなりのぼったくりっぷりです。
フェニックスの尾が品切れらしく、如何ともしがたい状態です。
「世界○の葉はないのか?」
「そんな貴重品は支給しない」
回線の向こうで、若社長が嬉しげに応えました。

勇者の旅は続きます。魔王は何処に居るんでしょうか。
523名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/14(日) 05:58:15 ID:j/keSpSN
524名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/15(月) 13:46:27 ID:dkTkq5pY
たしかにFFのモンスターにはあまり懐かれたくないのが多いなw
525名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/15(月) 20:35:32 ID:s5uyeuN4
保守の方々、まりがとうございます。レス下さった方、感謝します。

>FFのモンスターにはあまり懐かれたくないのが多いなw
モルポルとか物凄く怖いです。FFもDQも大好きです。
めぐれメタルさん復活希望!と叫んでおきます。
526がんばれ勇者くん!  3  ◆SIRO/4.i8M :2005/08/15(月) 20:37:06 ID:s5uyeuN4
 超臨時勇者(別名:電力会社社員あああ) 一行が、転職するべく
ダーマ神殿に向かいます。
鍵がないと宝箱が開かない事に衝撃を覚えたり、
どーしても倒せないイベントバトルにムキになってたら。
エンカウントしたので、楽しい戦闘タイムです。
「む?」
見慣れない、いたいけなパーティが剣を構えます。
ちっちゃい冒険者達が、魔法を失敗したり、剣を揮いきれず転んでいます。
「……あれは?」
「プチット族だねー。モンスターはモンスターみたいだけど」
ダーマwalkerを片手に、ザックスが解説します。

 ふと。背後から石が落ちました。
「――危ない!」
セフィロスと何者かの、鋭き刃の音。悪魔が倒れました。
さらりと、艶やかな黒髪が流れ落ちて。
赤い服に、滑らかな肌。とっても綺麗なおねえさんです。

「やーありがとう!おねーさん、名前は?」
ザックス、速攻ナンパくさいです。
「わたし?ユバール族のアイラよ。この子の名前はアルス」
おずおずと笑う、純朴な少年がそこに居ました。
「あたしはマリベル! お嬢様、でいいわ。あんた達も旅人?」
鞭を構えた、可愛らしい娘さんが一行を見つめます。
「そんな所だな。神殿に向かってるようだが」
魔王が魔王退治に向かってるともゆえません。
この際、ピサロとかピサロとかピサロとかは忘れます。
「一緒に行こうぜ! オイラ、ガボってんだ!」
人懐こい笑顔の男の子が、クラウドの背中を押しました。
527がんばれ勇者くん!  4:2005/08/15(月) 20:38:45 ID:s5uyeuN4
 カントリーティストの、清潔な宿屋に到着です。
クラウドが、会社から支給された機関銃を洗浄していると
アルスが興味深そうに覗き込んで来ます。
「これか。手入れが楽なんだ。弾詰まりもしない。
 子供でも扱えるから、俺も神羅兵になれたんだよ」
アルスと居ると、なんだか安心できます。
色々話しました。
優しいボルカノさんの事、シャーク・アイさんの事。
クラウドのお父さんは亡くなっている事。
過去と現在を旅している事。

 沢山話した筈なのに。
「……あれ?」
アルスの言葉を覚えていません。
はにかんだり笑ったりした顔は、ちゃんと覚えているのに。
「もう! 分かんないの? 
 いい? アルスは『あなた』なんだって。
 物語を紡ぐ目であり、同時に伝承を聞く者らしいわ」
主人公って、こーゆー人の事を言うんですね。
「あたし、アルスと旅をするのが好き。
 楽しいし、心配だからね。どこまでもついて行くわよ!」
マリベルさん、いい子です。ふとクラウドの髪を引っ張りました。
「痛てっ!」
「あんたって、金髪なのね」
会えなくなってしまった、大切な友達と同じ色。
ちょっと思い出しちゃったみたいです。
クラウドが少しだけ、肩を貸します。
528がんばれ勇者くん!  5:2005/08/15(月) 20:40:41 ID:s5uyeuN4
 薪を囲んで。アイラさんが踊っています。
遠い昔にやって来た、異国の王子の歌を歌いながら。
「鼻血、拭いたほうがいい。興味ないけど」
全身ハートマークのザックスを横目に、クラウドがテッシュを出します。

「ふむ……」
そんなやりとりを見て、老騎士が呟きます。
「お二方、救世主の相でござるな」
「救世主? それだったらセフィロスだよー! なあ?!」
メルビンおじいちゃんの白いヒゲが、ぴくっと動きますた。
英雄って、こうゆう人のk(ry
穏やかな表情の奥にある、鋭い眼光。両英雄の表情が、かすかに変わります。
「……止めろ。もう、いい」
善の英雄と、未だ目覚めぬ厄災の神と。
「わからぬよ。だが凄まじい力じゃな。
 太古神の、正邪両面が宿っているようでござるよ」
両者に共通した、血塗られた記憶。
アイラさんの優しい歌だけが、労るように響きます。

 何はともあれ。無事にスライムとか羊飼いとかに転職でけますた。
ついでに大神官フォズさんにまで、ふくろの名前で怒られてきますた。
「はなのあな」はいけないんでしょうか、やはし。
ガボが首を傾げます。
「一緒に行かないのか?」
賢者とかパラディンを前にして、笑わせ師LV1はついていけません。
「話を聞く限り、我々の世界に戻る石版が必要のようだ。
 そちらの旅を続けて欲しい」

 七つ目の伝説が――束の間重なって。
どうか元気でと、祈りながら離れて行きます。

END
529名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/16(火) 22:05:46 ID:jhO6ETKv
保守。 FF8の雷神と風神のお話キボンヌ。
ありそうでない組み合わせで難しいでしょうか。
530名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 12:40:09 ID:VEmWe1l9
乙です
たのしいクロスオーバーでした
いたスト物も読んでみたいなと言いながら保守
531名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/18(木) 17:35:14 ID:8qLZTPnt
ho
532名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/18(木) 20:26:52 ID:9eURRpiz
vo
533名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/19(金) 20:43:16 ID:HzZyenHT
ma
534名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/20(土) 00:02:16 ID:lsQOTJmU
>>521-522まではてっきりDQ3だと思ってました。
それで、勇者3番のステータスで「うんのよさ」が圧倒的に低そうだとか
すごろく場でいっつも穴に落ちたりするからいい加減アタマに来てイカサマダイス乱れ討ちしちゃったりだとか
(シリーズが違う)、魔王の居城よりもぱふぱふ屋探しに奔走したりだとか、そんなスペクタクル冒険記になる
のかと思いきや。
>>526-528でキレイに締めくくられていて素敵です。
535人である証(4):2005/08/20(土) 00:12:39 ID:zQHdkOV7
>>69-71

                    ***

 ブラックジャックは魔大陸に向かう……はずだった。
 しかしこの飛空艇の主の気まぐれで、予定航路を大きく外れてこの地へ降り立った。
「これはどういうつもり? セッツァー」
 セリスが僅かに苛立った声を向ける。艇(ふね)を降り目の前に広がるのは、
目指すべき魔大陸とはかけ離れたのどかな田園風景だった。遠くに見える建物からは
子ども達のはしゃぐ声が聞こえてくる。
 まさに、平和を絵に描いた様な風景だった。
 しかしどう考えても今、彼らにはこんな所でのんびりしている暇はないはずだ。
魔大陸が浮上してしまった以上、なんとしてでも三闘神の復活を阻止しなければならない。
もちろん、セッツァーも事情はよく分かっている。分かっていても尚――いや、だからこそ
――この場所を訪れたのだ。
 とはいえ、残念ながらセッツァーという男は理由を問われたところで素直に答えるような
性格ではなかった。
「別に来るのはオペラ座でも良かったんだがな、こっちの方が手っ取り早いと思ったんだ。
……すまねえな、『マリア』」
「誰がマリアですって!?」
 結局セッツァーの口からその理由が語られる事はなかった。満足な回答を得られず、
そのうえ自分のことをマリアなどと呼び明らかにからかっている態度に、苛立ちを隠しきれない
セリス。そんな彼女に微笑みかけた後でエドガーが続ける。
「ここは?」
「俺が聞きたいぐらいだが」
 操縦桿を握り自分たちをほぼ強制的にここへ降ろさせておいて、その言いぐさはないだろう? 
というのがエドガーはじめ仲間たちの主張である。
 セッツァーによれば、この土地はロックに教えてもらったのだという。位置的に見れば、ドマの
北東にあたる山間の小さな村だった。
 しかし、いまのところ着陸に当たって問題になるのは地理的なものではなく根拠の方だった。
こんな場所へどうしてセッツァーが降り立ったのか、やはり理解できない。
536人である証(5):2005/08/20(土) 00:21:04 ID:zQHdkOV7
「今日、この村の豊年祭があるんだって」
 セッツァーの目的は恐らくそれだろうとロックが横合いから口を挟む。が、残念ながら
これでは納得できるだけの理由にはならなかった。

 ――……どう考えても、豊年祭よりも魔大陸だろう?

 疑問と、残りの半分以上は非難を込めた視線をセッツァーに向けるものの、当の本人は
意に介した様子を見せずロックに道案内を頼んでいた。今日中に飛び立つつもりがないと
分かると、仲間達は渋々ロックの後について村を目指して歩き始めた。
 列の最後尾、両腕を組んで眉間に深いしわを寄せながら歩くエドガーに、セッツァーは
笑いながら言ってやった。
「ティナがな……」
 言いかけて、言葉を止めた。妙なところで言葉を切るものだから思わずエドガーが先を
促すように繰り返す。
「ティナが?」
 自分から切り出してはみたものの、どうしていいか分からずに頭をかいて空を見上げた。
混じりけのない青、まぶしいほどに輝く空の色が目に飛び込んで来た。
 左手をかざしながら、まるで独り言のように言葉が漏れた。
「ああ。ティナが少し疲れてるみたいだったからな。あのままアイツを魔大陸へやったんじゃ
死にに行くようなモンだろ?」
 確かに、振り返ってみれば帝国で行われた会食以来、封魔壁の解放、幻獣の暴走と
ベクタ崩壊。サマサを経由して幻獣の聖地を訪れ、多くの幻獣たちの犠牲とレオ将軍を失った
サマサでの戦い――と、立て続けに事が起きて休む暇もなかった。特にティナにとっては
心労も重なっていただろう。
537人である証(6):2005/08/20(土) 00:22:15 ID:zQHdkOV7
「イカサマにしろ真剣勝負にしろ、大きな勝負であればある程、その前の時間をどう過ごすかが
重要だ。……悪いが、今のティナなら負けが見えてる」
 厳しい口調でセッツァーは語った。勝負――それは戦場においても同様で――に臨むとき、
僅かな迷いが敗北を招く。たとえ万全の体勢で挑んだとしても、これから先の戦いに勝てる
保証はない。
「俺は初めから負けると分かってる勝負はしない主義なんでな。それに」
 これから挑もうとする勝負。敗北の先には、確実な死が待っている。

「負けの決まった勝負に賭なんかしないぜ? ましてやチップは俺の命だ。
……悪いようにはしない、付き合えよ」

 地上に視線を戻すと、そう言った。エドガーの表情はいつの間にか柔らかくなっている。
「セッツァーにしては珍しく気が利くね」
「……賭博師をバカにしてるのか?」
「いや、“セッツァーにしては”だよ」
 振り返ったエドガーは笑顔だった。いけ好かない野郎だとエドガーを睨み付けながら、一行は
村に入った。
538名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/20(土) 00:50:28 ID:6+yA1j3G
>>532
ri
539名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/21(日) 12:52:29 ID:RNyXMZXM
おおお!続きキタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!!
セッツァーの配慮が素敵です。村で何が待つのかワクワクテカテカ。
540人である証(7):2005/08/22(月) 01:34:20 ID:pahwIkrJ
>>535-537

                    ***

 村人達は見知らぬ旅の一団を快く出迎えてくれた。帝国の手も、辛うじてこの
山間の村にまでは届いておらず、人々の表情には純粋な笑顔がのぼっている。
「ちょうど手が足りなくて困ってたんだ。手伝ってくれないか?」
 迎えられるというよりは、入った途端に村人にされてしまったという感があり、
有無を言わさずマッシュやロックなどは貴重な男手として荷の搬入などに駆り
出されていった。
「さあ、夕方までにこれを完成させなければならないの。悪いんだけど、お願いしても
いいかしら?」
 セリスやティナは村娘達に混じって宴に出す料理の準備に取りかかる。ストラゴスや
リルム、ガウやモグも薪集めや飾り付け要因として一緒になって働いていた。
 それは神事と言うよりも、純粋にお祭りと呼べるものだった。大地の恵に感謝し収穫を
皆で祝う。準備……というよりも、準備の段階からして既にお祭りである。村中に漂う
独特の高揚感に、疲労していたはずの仲間達の顔も自然と綻ぶ。
 こうして太陽が地平線に姿を消そうとする頃に、宴が始まった。
 村の力自慢に混じってマッシュが樽を投げてみたり、賭博師セッツァーがお得意の
イカサマ……もといカード妙技を披露してみたり、リルムのスケッチ技やロックの追い剥ぎ
実演などもあって、祭りは例年以上の盛り上がりを見せた。

 世界を救うはずの英雄達は、今となってはもはや旅芸人の一座である。

541人である証(8):2005/08/22(月) 01:36:55 ID:pahwIkrJ


 こうして月が南中する頃には、広場にいた殆どの者達に程良くお酒も入っていた。
一人の村人がそれを持ち出してきたのは、そんな頃合いだった。
「……あれは……?」
 男の手に握られていたものに、セリスは見覚えがあった。あれと似たようなものを、
どこかで見た覚えがある。
 ――オペラ座。
 しかしそれが奏でる旋律は、オペラで聞いた物とは全く違っていた。あえて言葉で
表現しようとするのなら――素朴な音、といったころだろうか。弦が奏でる音色は
単調だけれど、どこか懐かしい。
 申し合わせたように数人の村人が小屋から楽器を持ち出して来る。それらはオペラ座で
見た物と似た形の物もあれば、初めて見る物もあった。
 やがて誰かが口笛を吹いたのを合図に、名も無き村の即席の楽団の演奏が始まる。
 それぞれが奏でる素朴な音は、重なり合って旋律を紡ぎ出す。ひとつひとつは小さく
簡単な音のはずなのに、重なり合ったそれは信じられない大きな波となり人々の身体を
飲み込んでいく。波間に揺られるように自然と肩が揺れ手が動き出す。
 重なる手拍子は人から人へと伝わっていく。誰に教えられたわけでもないのに、気が付けば
仲間達もそれに参加していた。出身地の違う彼らが、同じ敵ではなく1つの音楽に集う。
 体の底から湧き出てくる高揚感は奏でられる旋律に煽られて、はけ口を求める様に体内を
駆けめぐる。やがて、我慢しきれなくなったとばかりに立ち上がった者がいた。
 形なんて決まっていない、旋律に身を預ければいい。
 次々と立ち上がり、炎を囲んで歌い踊る。歌われている詞の意味なんて分からないけれど。

 ――なんだろう?

 それはティナも例外ではなく。
 けれども、どうしたらいいのか分からなかった。そこへ手を差し出したのがモグだった。
542人である証(9):2005/08/22(月) 01:41:34 ID:pahwIkrJ
「さあティナ立つクポ! いっしょに踊るクポ!!」
 戦闘中は数々の踊りを披露するモグに、半ば無理やりに引っ張り出されて輪の中に
放り込まれた。それでも最初はどうしていいのか分からず、呆然と立ち尽くしていたティナに。
「格好なんて気にしない。好きなようにすればいいんだ」
 次に手を取ったのはマッシュだった。彼の後ろではガウが形容しがたい格好で踊り狂っている。
ちなみにその横で物理的な被害を受けているのはロックだったが、お酒の効果もあってか
実に楽しそうに踊っている。
「ほら、な?」
 その笑顔に、思わずティナが頷いた。

 流れていく旋律。その上に乗せられる人々の歌声が、月夜の空に立ちのぼる。
 旋律は歌を乗せて大地を離れ、歌のリズムに合わせてかけ声を放つ。
 声のリズムに合わせてステップを刻めば
 その躍動は大地をも揺るがし、気持ちを天の頂へと運んでくれる。
 すると身体が、自然に動き出す。
 止まらない連鎖は、悦楽の形。

 ――これは……。
 体はリズムを求め、リズムは声を求め、声は人を求める。
 そうして集った人々は祭りを楽しむ。それは理屈ではなく全身で、あらゆる器官を使って音楽に触れる。
 横を見れば、セリスとリルムもよく分からない振り付けで一緒に踊っている。傍目には
決して格好のいい物ではないが、ふたりの表情はどこまでも明るい笑顔で彩られていた。
 ――これが……。

 よく分からないけれど、そう言うことなのかも知れない。ティナはそう思った。人である証――
何か大切な物が、そこにあるような気がした。
 愛という物を知るための、手掛かりとなる大切な物が。

 それは言葉による伝承ではなく、代々受け継がれてきた営みであり、体の奥底に眠っている
人としての証。

                                        −人である証<終>−
543名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/23(火) 13:34:51 ID:5NHRLoq6
乙華麗です。暖かい展開にほっとしました。
華やかなお祭りの描写にうっとりです。
544名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/24(水) 09:36:05 ID:vfkfr4tB
乙です!
545名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/25(木) 19:11:05 ID:ZVypMvuZ
保守
546名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/25(木) 20:33:16 ID:fiotp1ll
547名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/26(金) 20:34:41 ID:dyeiDBsq
548名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/27(土) 09:22:01 ID:IaoL0B8D
ほしゅ
549名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/27(土) 21:42:06 ID:z7yc4flt
550名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/27(土) 21:45:21 ID:2rBkYmS4
お忙しい所すみません
http://tv8.2ch.net/test/read.cgi/ana/1125146063/l50
↑このスレに
VIPPER参上
と、書き込みをしていただきたいのですが
時間がありましたらお願いいたします
551名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/28(日) 07:57:22 ID:r2ZF8VR0
552名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/29(月) 00:16:01 ID:e5Smgr+a
穂酒肉?
553名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/29(月) 17:48:33 ID:j2JUGbW9
千一夜落ちた?
554名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/29(月) 19:30:25 ID:zI6GKJrT
おちたよ
555名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/29(月) 22:59:09 ID:HfGvfH3F
もう二度と立つまい
556名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/29(月) 23:24:30 ID:eoVVlAVg
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1125091395/l50
ここ、割といい感じ。FF・DQ小説リクエストやSS投下可能の模様です。
千一夜さんもDQ小説スレさんも、連載中だっただけに勿体無いな…。
FFだったらこちらでもどうぞー。恋愛物でなくてももちろん歓迎しますよ。
557フィガロの動く城(仮)26:2005/08/30(火) 01:02:26 ID:x2PxbE90
>>508-513より。スチュアート暗殺未遂事件[フィガロ城脱出編]
--------------------



 開け放たれた扉の先に広がる光景に、エドガーは引き抜いた剣を落としそうになった。
 稼働し続ける機械の轟音と、立ち並ぶ動力機関は身の丈を遙かに超えていた。数メートル先に
ひしめく機械達の間から辛うじて覗けるほどの天井は、まるで地底に広がる空だった。初めてこの
部屋を目にした者ならば、まずその圧倒的な迫力に目を奪われただろう。
 しかしエドガーはそうではなかった。彼の視界には巨大な機械群ではなく、目の前に佇むひとりの
人物だけが映し出されていた。
「……父上……」
 ただ、それだけしか出てこなかった。後ろで構えていた弓をおろしたグウィネヴィアは静かに近づくと、
エドガーの背後に立って告げる。
「エドガー」
「父上が……なぜ」
 呆然と立ちつくすエドガーの背中に向けて、グウィネヴィアは微笑んだ。
「言ったはずよ。『どんな目的であれ、城の潜航命令を下せるのは国王だけ』よ?」
「それは……そうなんですが……。でも」
 さらに言い募ろうとするエドガーの言葉を遮ったのは、冷静な男の声だった。
「ひとまず向けている剣を降ろしてはどうだ? エドガー。我が子に剣を向けられるのは気分の良い
ものではない」
 機関室の中枢、潜航中のフィガロ城を支えるために今も稼働を続ける機械達の音が響くその部屋に、
立っているのは彼一人である。どうやら「整備」は行われていないようだった。
 ではなぜ、父上が? この潜砂の意図は? 聞きたいことはたくさんあった。エドガーは剣を収めると
歩み寄った。
「父上これは一体」
「すべては彼女らのお陰だ」
 そう言ってスチュアートは真っ直ぐにグウィネヴィアを見つめた。
558フィガロの動く城(仮)27:2005/08/30(火) 01:12:13 ID:x2PxbE90
「どうやら私を罠にはめようと企む輩がおるということでな、逆にこちらがひとつ芝居を打っ
たのだ。他の者達には悪いことをしたと思うが……」
 脚本家ジェフリーによる芝居のシナリオはこうだった。
 あらかじめ今日が潜航テストだと告げておき、ごく一部の者達には王が体調を崩されてサウス
フィガロの別邸で静養していると伝える。潜航テストで兵が手薄になったところへやって来るで
あろう刺客を捕らえ、黒幕を暴き出すというものだった。ちなみに今日が潜航テストだと知らされ
集まった技師達にはテストは延期だということで引き取ってもらい、今に至っている。
「それは城の潜航テストに乗じて、国王を暗殺しようという……恐ろしい計画。その存在に気
づいたジェフリーの進言で実行されたの」
 スチュアートの後を補うように、背後からグウィネヴィアが続けた。
「サウスフィガロのある人物の屋敷で働く男が、計画書を見つけたことが事の発端。それで私と
ジェフが裏で動いていた。あなた方に余計な心配をさせたくはなかったのと、話すためにはもう少し
確証がほしかったの。騙すつもりはなかったわ、でも結果的に余計な心配をかけてしまった様ね。
ごめんなさい、エドガー」
「しかし彼女らの判断は正しかったと私は思っておる。こうして互いが無事であることが何よりの……」
 そこで不意に言葉が止まった。
 フィガロ王スチュアートという人物はいかなる事態に対しても冷静で客観的な判断を下す賢王だと
エドガーは思っている。自分の親だから、というのではない。王としての彼を目指していた。いつか、
彼の助けになりたいと純粋に思っていた。
 そんなスチュアートが表情を変えた。エドガーですら見たことのない表情だった。驚き、恐れ……
違う。この表情は――

 侮蔑。

 エドガーははっきりと、父王の瞳に宿るその色を感じた。彼の視線の先、自分の背後に向けられた
蔑みと嫌悪。
559フィガロの動く城(仮)28:2005/08/30(火) 01:21:49 ID:x2PxbE90
 しかしその意味が分からなかった。背後に立っているのは――

「そう、とんだ邪魔が入ったものだから我々は計画を変更せざるを得なかった」

 聞こえて来るはずの声とは似ても似つかぬ憎々しい響きに振り返れば、真っ先に視界に飛び
込んで来たのはグウィネヴィアだった。彼女はいつもと変わらない表情で立っている。
 そこで一瞬ためらった。父王が向ける視線の対象がグウィネヴィアだったのだろうかと、先程の
声の主も彼女だったのだろうかと。しかし、すぐに答えは見つけることができた。言葉よりも先に、
エドガーの身体が反応する。足を一歩踏み出し収めたばかりの帯剣に手を振れる。
「慌てないことだ、王子」
 グウィネヴィアの右脇から身体にまとわりつくように回された腕は、彼女の顎を捕らえた。彼女を
盾に取るようにして後ろに男が立っている。出で立ちからすれば技師……だった。もちろん、格好
だけの技師であって本性は全く別のものだということはすぐに分かった。
「なにを……っ!」
 剣を引き抜こうとしたエドガーの姿を見て、男は僅かに声を大きくして告げる。
「慌てるなと言った、聞こえなかったか? エドガー王子」
 そう言って僅かに体勢をずらす。ちょうどグウィネヴィアを押し退けるようにしてその背中に突き
つけたナイフを示しながら言い放った。
「今すぐにでもこちらのレディのドレスを赤く染めたいというなら話は別だが」
「ふざけたマネを……!」
 視線と口調にあからさまな敵意をむき出しにしながら、エドガーは抜きかけた剣を収めた。しかし、
意外なことを男は口走る。
「おっと、剣を収めてもらっちゃ困りますな王子。あなたには剣を引き抜いてして頂かなければならない
事があるのですから」
 下卑た笑いを浮かべて男は言う。エドガーは視線をはずそうとはせず、グウィネヴィアの方をじっと
見据えていた。隙を見て救出のチャンスをうかがうためでもある。
「そんなに必死にならなくても大丈夫ですよ王子。あなたには特別に選択肢をご用意してあります」
「…………」
 この状況で、次に男が口にする台詞ぐらいだいたい予想がつく。しかし、その言葉を否定する術は
――今のところ見あたらない。エドガーは黙って男の言葉を待った。
560フィガロの動く城(仮)29:2005/08/30(火) 01:33:15 ID:x2PxbE90
「選択肢の1つ目は、王子の後ろにあられる男の息の根を止めて頂く事。そうすればこちらの
レディをお引き渡し致しましょう」
 ふざけるな! と、どれほど叫びたかっただろう。しかしエドガーの口がその言葉を発することは
なかった。優越感に浸っているような男の声がひどく耳障りだった。
「2つ目の選択肢は、王子の後ろにあられるお父上を守って頂く事。その場合は残念ながら
こちらのレディの身の安全は保障できかねますが……さあ、どう致しましょうか?」
「…………」
 エドガーは唇を噛んだ。背後に父王、目の前には刃を突きつけられ人質に取られたグウィネヴィアが
いる。どちらかを助ければ、どちらかが命を落とす。
 しかも、自らの手でその選択をしなければならないのだ。
 扉を開ける前、たしかに覚悟を決めたはずだった。顔を上げてグウィネヴィアを見つめる。背後に
迫る命の危険、それでも彼女は表情ひとつ変えていない。ただ、真っ直ぐ見つめてくる彼女の瞳は、
無言でこう訴えていた。

 ――『生きて』。

 あの時、この機関室の扉を開ける前に告げられた言葉が脳裏によみがえった。決意と誓いを込めて、
この手で扉を開けたはずなのに。
「エドガー」
 背後から聞こえてきた懐かしい声。ついさっき耳にしたばかりのはずなのに、妙に懐かしいと感じた
父王の声はとても穏やかだった。しかし振り返った父王は長槍を手に佇んでいた。機関室の壁面に飾って
あったものは護身用だったのだろうなと、ふと思った。
「……私を討て」
 父王はそれ以上を言わなかった。


----------
561名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/30(火) 13:40:00 ID:phO8pKD/
王様キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!!
緊張感と切れ味のいいテンポにゾクゾクします。カコイイ! 

そして再復活もキタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!!
FF・DQ千一夜物語 第五百五十二夜の2
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1125368949/l50
562名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/31(水) 20:58:13 ID:lP+b4gKq
563名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/02(金) 01:21:40 ID:DmcO5pn1
564名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/02(金) 01:28:31 ID:933vYfgf
565名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/03(土) 00:39:33 ID:hsf2u7Ot
566名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 17:21:25 ID:F1+QO6CS
もんば!保守肉乙華麗様です。こっそり自分も保守参加。

リクエスト、ワッカのほのぼのキボンヌします。
雷神風神、初代スレに素敵SSがありましたね。
いたストだと、ゼシカさんとビビの会話とか、アーロンと竜王が並ぶ訳で。
飛空艇マップを駆け抜ける魔法の絨毯や、お店を巡る攻防とか。
すごく読みたいかもです。

>フィガロの動く城
重厚で迫力のある機械の描写がすごいです。切ないよう、おとうさーん…。

>人である証
完結おめでとうございます。深い人物描写と、再生に向かう世界が素晴らしいです。
「イカサマダイス乱れ討ち」素敵過ぎます。リクエストしていいですか?







↓以下台詞がいつもの10割り増し無茶苦茶です。ごめんなさい。
567晴天快晴 1/3  ◆SIRO/4.i8M :2005/09/04(日) 17:23:16 ID:F1+QO6CS
  胡姫の酒が、詩人の唇を潤す。
  黒髪の旅人に魅せられた娘が、
  緋色の巻き毛を傾け、彼の歌を聴く。

 訓練施設の森で。鋭き刃を抱え、少女が俯く。
突如。
少女は藪へ刃を押し込み、引き抜いた。
削がれた夾竹桃が、白銀の髪に散る。
奥に潜んでいたドローポイント。
湧き上がる魔法が揺らぎながら、少女を照らす。

 虫取り中の少年は、不思議そうに少女を覗き込んだ。
「すごいもんよ。よく見つけたもんよ!」
ふっ、と。彼女が振り返る。
少年は息を飲んだ。初めて見る薔薇色の虹彩。
あやういまでに白く、哀しい表情。
「我勝了。可是……」(私が勝った、でも)
じりじりと陽光が突き刺して来る。脆い白子の肌が、赤く染まる。
「在訓練中我傷害了朋友」(訓練で友達をケガさせてしまった)

 少年には少女の言葉が判らない。判らない、けれど。
傷ついている事は分かったので。
腫れあがった頬に、冷えたタオルをかけてやった。
「名前教えて欲しいもんよ」
「……風神」
それは、幼い日の記憶。
G.F.に喰われながら――わずかに残った、思い出。
568晴天快晴 2/3:2005/09/04(日) 17:24:28 ID:F1+QO6CS
 灼熱の洞窟で、風神が膝を抱える。
「サイファー……」
轟音と共に、大量のボムが崩れ落ちた。
「こんな所で、どうしたもんよ? なあ、寮に戻るもんよ」
炎の中に。掴んだ白い手が、震えている。
「我不想返回宿舍」
「返り点は何処だもんよ?!」
雷神の額に冷や汗が浮かぶ。
「戻りたくないよ。一人にして」
「か、漢字じゃないもんよー?!」

 熱い一滴が、逞しい腕にかかる。
「……駄目なんだ。雷神。どうしたらいい?
 アタシじゃサイファーを止められないよ。
 アデルの復活なんて、どうやって止められる?」
気丈な風神が、心細そうで。
ああ、綺麗だな。と、雷神は思う。

 彼等に降りかかったのは、歴史の巨大なうねり。
 その最中でサイファーは、悪のカリスマになろうとしている。

 ゆっくりと、抱き寄せた。
初めて会った時からの気持ちを、飲み込んで。
「泣くのはまだ早いもんよ。出来る限りの事をするもんよ!」
赤銅色の指が、紅の瞳を拭う。
彼は知っていた。眼帯の奥に潜む、強い瞳を。
569晴天快晴 3/3:2005/09/04(日) 17:25:42 ID:F1+QO6CS
 悪しき魔女は滅び。時間圧縮を抜けた世界に。
疲れきったサイファーへ、風神が駆け寄る。
サイファーの腕が彼女を押し返した。
「俺はもう、仲間じゃない。ただの犯罪者だ」
何か、もんのすごい音がして。黄金の髪に棍棒が炸裂した。
「男なら、おなごの気持ちを受け取るもんよ!」
サイファー、破顔一笑。
何よりも風神が笑うので。
償いも処分も、学園を辞める事になっても。
三人共に居られれば、それで良かったので。
雷神も又、笑った。

 サイファーが波に華麗なスピンを決める。
小気味良い音を立て、砂にパラソルが突き立てられた。
「ふははは! 完成!」
風神がパラソルの影で、グラスとフードを外す。
「一緒に砂山作るもんよ!」
「宿題」
「あ」
おお、泳いでくる! と、サイファーに駆け寄った雷神を引っ掴む。

 謹慎と、大量の課題。それらをさっさと片付けた元風紀委員達。
その横で現在、雷神が半泣きレポート作成中。
ふと、大きな手が風神を引き寄せた。
「おなごは影に入るもんよ」
「日焼不可能。心配無用」
「皮膚ガンは困るもんよ。終わったら遊ぶもんよ!」
彼女が、ふんわり微笑んで。
賑やかな海岸。三人がゆったりと夏を楽しんでいる。

END
570名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/05(月) 20:33:36 ID:A9OP/3fB
乙です!
雷神がいい感じにかっこいい…
571名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/06(火) 19:17:35 ID:Nxy756HV
572名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/07(水) 10:32:16 ID:2zk9dO8C
乙です!雷神て鈍感でどちらかというとお間抜けキャラっぽく
書かれがちだけど>>567の雷神は漢だ…。
573名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/08(木) 11:49:00 ID:L3jF6uCV
574名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/08(木) 19:06:17 ID:jWQBUqe4
575名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/09(金) 08:32:08 ID:qLbaPt4x
まっ
576名無しさん@そうだ選挙に行こう:2005/09/10(土) 17:35:29 ID:plMHLuvB
577名無しさん@そうだ選挙に行こう:2005/09/11(日) 13:59:04 ID:T7ScQMzS
578名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/12(月) 19:53:13 ID:L2gCHICB
FF7AC発売前で人いないのかな?
保守
579名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/12(月) 21:27:29 ID:VOpRG21B
人はいるよー 皆様がんがってくださいです
580名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/13(火) 22:13:29 ID:riReZTvV
ほしゅしゅ
581名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/14(水) 18:08:41 ID:3T3SSx5N
ほーほしゅ
582 ◆nullpoOUGI :2005/09/15(木) 00:58:38 ID:VfHhGCyK
ほしゅしゅほ
583名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/15(木) 20:20:38 ID:jOJlqMFS
しゅっぽっぽ
584名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/15(木) 21:40:25 ID:M8aXzZ0l
レスを落とさず
585名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/16(金) 19:10:12 ID:u87/fNCp
スレも沈ませず
586名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/17(土) 19:29:37 ID:mPwhE+da
保守してみます
587名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/18(日) 12:51:23 ID:QVLeDat0
ほーしゅー
588名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/18(日) 15:16:32 ID:YqeKY28e
保守乙です!えーと……FFVIIACの感想文を置き逃げすます。
脳内妄想ビシバシのネタバレがあるのでご注意ください。(;´Д`)

>570 >572
雷神も風神も大好きです。ありがとうございます。
589Apostate[υ]-εγλ0009 ◆SIRO/4.i8M :2005/09/18(日) 15:19:02 ID:YqeKY28e
堕天の道。
血と怨嗟に満ちた道。

ジェノバが行こうとする闇。
星々を死で満たす事。
天を喰らい、獲物を求める心。
孤高の魔王は探し続けた。
優しい笑顔を。温かな絆を。
友は、すぐ近くにいた。けれど。
得られたものは、厄災たる母。

勇者は与える。
魔王への一太刀を。

兵器として生まれし者が。
初めて傷を――子供に喰らう。
子供が何故、魔王に一撃を与えられたのか。
ありふれた子供が、どうして。
それはおそらく、未だ見ぬ謎。
子供は勇者となり、星を守ろうとする。
魔王は、母と共に神を目指す。
彼を愛さない世界を憎んだまま。

息子を失い、母は我が子を再現する。
幼き息子達が呼ぶ。勇者を兄と。
590Apostate[υ]-εγλ0009 (2):2005/09/18(日) 15:20:32 ID:YqeKY28e
魔法は繋げる。
魔王と、太古の民。そして冒険者達。

ティファは感じる。
愛しき友の吐息を。
壊れた世界を直そうと、人々が立ち上がる。
神羅の者も、また。
恋人の名を冠した船。
周到に用意された神羅の計画。
諦めずに進む。
兇刃を前に、怯む事無く。

崩れ落ちる塔。刃が輝き、死闘が始まる。
鍛え上げた業物が、唸る。

世界は再び炎に包まれる。
忘れ得ぬ、大切な人。
免疫か。魔法の奇跡か。
癒しの力よ、どうか。
病める幼子に届くように。
孤独な息子達に、伝わるように。
591Apostate[υ]-εγλ0009 (3):2005/09/18(日) 15:21:48 ID:YqeKY28e
それは、輝く道。
永く遠く続く道。

クラウドは一人、走り続けた。
やっと得たトモダチも失って。
冒険で出会った仲間。
戦いの後に、ようやく得た家。
疫病がクラウドを食む。
彼は果てしなく兵器に近づく。
それでも仲間は離れない。
勇者の望みは、穏やかな日々。

それは明るい道。
温かく、そして大切な道。

END
592名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/18(日) 19:28:57 ID:qyT7KTle
保守クポ
593名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/19(月) 01:29:41 ID:HO11r0+4
FF7ACとアレの発売日が1日違いで、嬉しくも切実に悩んでいた日々が懐かしい十五夜(だっけか?)です。

>>567-569
既出ですが雷神がカコ(・∀・)イイ! 「漢字じゃない!」が素直すぎて笑えます。
567の最後の1行が切ないです。…そうだ8って切ない話だったよ…。
>>589-591
詩的な文体が神秘的。周到に用意された神羅の計画、というくだりがネタバレ?
となると、いよいよ気になって仕方がないFF7AC…。



以下、FF7ネタで短編。
FF7ACは考慮に入れていないのに、なぜかアレの影響を強く受けているような気がしなくもない話。
594罪状認否 1:2005/09/19(月) 01:38:55 ID:HO11r0+4
FF7 Disc1近辺
リーブとエルミナ、マリンの話
------------------------------



 朗読される起訴状。犯行時の状況が克明に記されたそれを読み上げる声に、男は
黙って耳を傾けていた。
 瞼を閉じれば、今でもそのときの光景がよみがえった。それは読み上げられている
よりも日常的で、穏やかなものだった。

               ***

 男は手に拳銃を持ち、それを女へ向けながら告げた。
「大人しくして頂けますか? 貴女にはこれから、人質になってもらいます」
 背広を着こなし、ひどく落ち着いた声と丁寧な口調で言われたものだから、身に
迫る危険とは裏腹に、女は少しおかしくなった。
「……説得力がないわね」
 その行為が略取、あるいは営利目的の誘拐であることを知りながら男は銃口を
向けた。
 その行為が神羅、あるいはプレジデントの意思である事を知りながら女は向け
られた銃口を見つめ、微笑んだ。
 引き金が引かれることは絶対にない――初対面であるはずの男に、それでも
確信めいたものを感じた。それは銃を持つ男の目を見れば分かる。魔晄色に
染まっていない瞳は、心身共に純粋な人間であることを物語っていた。
「不慣れな物で。色々と至らない点はあるかと思いますが……」
「分かったわ」
 こうして女は、男の人質となることを承諾したのだった。

               ***

 ――さて、ここで裁かれるのはいったい何の罪か?
595罪状認否 2:2005/09/19(月) 01:50:05 ID:HO11r0+4

               ***

 目の前に広がる書類の海。真横に整然と並べられたディスプレイには無数の
数字が羅列されている。
 雑然としたその部屋に、男は一人佇んでいた。
「……吐き気がする」
 片付けても片付けても増す一方の書類と、増加を続けるコンピュータ上の数字を
一瞥して、彼は溜息混じりに呟いた。
「どないすれば……ええんやろか?」
 独特の言葉と抑揚をつけたその口調、顎にひげを蓄えた中年男性――このビル
の中では少し名の知れた人物だった。
 突然、机の端に置かれた電話が騒がしい声をあげた。慣れた手つきで受話器を
取り上げると、形式的な短い返答を返す。スピーカーからは早口でまくし立てる
部下の声が聞こえてきた。
『統括、新しく入った被害状況報告をお送りしました。ご確認お願いします』
「ああ、ありがとう。いま手元で確認していたところだ」
(言われなくても見とるわい!)
 神羅都市開発部門統括――それが、この男の肩書きであり職業だった。彼は
ここミッドガルにもっとも深く関わる者の一人であり、今やその責任者にまで上り
詰めた人望と才能にあふれた人物だった。
 自らが携わり、築き上げた都市『ミッドガル』。誰よりもその都市の繁栄を願い、
都市開発という仕事を誇りとして来た彼にとって、あの会議で下された決定は
受け入れがたいものだった。


「七番街プレートを爆破する」


 神羅による自作自演。プレート下7番街住民の生存権は侵害どころか奪われる
ことになる。それを認識したうえで良しとするプレジデントの決定だった。
596罪状認否 3:2005/09/19(月) 02:01:20 ID:HO11r0+4
 この決定に対し、幹部の中で異を唱えたのはリーブのみである。しかしその声は、
圧倒的な権力と道徳を伴わない営利主義の前に呆気なく敗れ去った。
 そんな自分の姿を揶揄した同僚に反論することもできず、ただ呆然と立ちつくす
リーブを労ったのは、他でもないプレジデント自身である。
「君は疲れているのだよ、休暇でも取ってゆっくり養生したまえ」
 そう言って自分の背を押す彼の手を振り払うことはできなかった。こうして、彼は
7番街の爆破を見守り、その後の事態の収拾に奔走することになった。


 そんな彼が、再び5番街郊外に建つこの家を訪れたのは真夜中の事だった。

「……あの、夜分に申し訳ないのですが、少しお願いしたい事がありまして」
 キッチンに立つ『人質』エルミナに対し、『誘拐犯』リーブが申し出る。
「電話に出ていただきたいのです」
「電話?」
「ええ。……一応、形式的には誘拐ですから。……その、“取引”を……」
「……アンタも大変だねぇ」
 リビングでソファに座っているマリンが、眠い目をこすりながらキッチンに立って
いたリーブを指さしながら。
「あとかたづけ、ジャマしちゃだめだよ!」
 と窘める。
 マリンにごめんねと謝りながら、リーブは困ったようにエルミナに視線を戻した。
彼女は食器を洗う手を休めないで答える。
「……形式も崩れてる気がするよ」
「すみません」
 そう言ってまた頭を下げるリーブの姿を見て、「どうも迫力に欠ける誘拐犯だね」
とエルミナは一笑した。誘拐犯にも被害者にも、一様に緊張した様子は見られなかった。
むしろ、ここに漂っている奇妙な雰囲気は何だろう、リーブはそう思う一方で居心地の
良さを確かに感じていたのだった。

----------
(FF7ACは見てないので…という以前に、そもそも本編との相違点があるかも)
597罪状認否 4 :2005/09/20(火) 00:43:13 ID:4icP/LwQ
 しかし彼女の顔から笑みはすぐに消えた。それから真顔になって続ける。
「ただね。どういう事情があるのか知らないけど、こういう卑怯なやり方は感心できないねえ」
「……そうですね」
 反論はしなかった。彼とてそれは重々承知していたし、彼女の指摘はもっともだ。
その上での行動だったが、だからといって今さら自分一人の意思で中止するわけにも
いかない。
 背広のポケットにしまってあった通信機を取り出す。これは当時の小型通信機器の
主流だったPHS――のような形態はしているが、どうにも様子が違って見えた。
エルミナはリーブの様子を見ながらさらに問う。
「すべての事情を話してもらえないのかい? でなきゃ私は電話には出ないよ」
「…………」
 まるで子どもを叱る母親のようなエルミナの語り口に、それでも優しい瞳を向けられて、
リーブはどう言葉を返して良い物か分からなくなった。
 いっそのこと、自分の行い全てを否定してくれた方が楽だったのに、と思う。
7番街プレート爆破の事から――それこそ、歩んできた全てをうち明ければ、望み通りの
言葉が返ってくるのかも知れない。ふと、そんな考えが頭をよぎった。
 しかし全容を語る訳にはいかない。もちろん、エアリスの育ての親にあたる立場にあった
エルミナには、語らずともある程度の背景は見えていたはずである。だからこそ、自分の
口から全てを話すわけには行かなかった。
 真実を隠すため、憎まれ役に徹しよう――リーブはそう決意していた。PHSを左手に
持ち替え、あいた方の手で背広の内ポケットからそれを取り出しエルミナに向けると、
静かに告げた。

「エルミナさん。申し訳ありませんが――今は立場をわきまえて頂けますか?」

 そう言って銃口を向けたものの、エルミナの目を見る事ができなかった。
598罪状認否 5:2005/09/20(火) 00:53:07 ID:4icP/LwQ
 一方のエルミナは、そんなリーブの姿を痛々しく思いながら見つめていた。
(あんたに、引き金は引けないんでしょうに……)
 迫力のかけらもない誘拐犯だと思った。それでも彼は、必死に役を演じている。
だから声に出すことはしなかった。
 エルミナにとって、銃口を向けられるぐらいでは今さら怯むことはない。エアリスの
後をつけ狙う神羅の総務部調査課の連中に比べれば、リーブの方がよっぽど礼節を
重んじているように感じる。事実、やっていることとは不釣り合いなほどに彼は紳士的
だった。神羅の社員であることは社章を見れば分かるが、同じ部署の人間だとは思え
なかった。
 だからこそ、銃口を向ける彼の姿がエルミナの目には痛々しい姿として映ったの
だろう。
 そんな必死の決意を足下で揺るがしていたのはマリンだった。リーブの上着の裾を
引っ張りながら、エルミナの方を向くと短く告げた。
「この人わるくない、たぶん」
「マリンちゃん?」
 エルミナが怪訝そうな表情を向けて問いかけたが、マリンはそれ以上なにも答えなかった。
 ――分かってる。
    この人が、お人好しすぎるんだって事ぐらい。
 だけど言ってしまえば、きっと彼自身が困惑するだろうから。そう思ってエルミナは黙って
いることにした。
 共犯になってしまう事はもちろん承知のうえで、それでも彼女は見守ることを選んだのだ。

----------
599名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/20(火) 20:41:44 ID:CFhXgqNz
新作キタ*・゜゜・*:.。..。.:*・゜(゜∀゜)゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*!!
いい人なのに辛そうなリーブさんテラカッコヨス!
エルミナさんもキリッとしてて素敵です。
600名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/21(水) 23:03:04 ID:sV5IidzJ
601名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/22(木) 15:03:51 ID:XFuhXN8h
602名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/23(金) 15:13:40 ID:LOCNiPH9
603名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/24(土) 00:05:50 ID:+vHqMz55
604名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/24(土) 21:53:43 ID:cLfrBdYo
ホイミン(*´д`*)
マジックポットと並べてみたい
605名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/25(日) 20:45:41 ID:vJlm8qHs
606名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/26(月) 18:01:52 ID:HZkAqjmu
607名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/26(月) 18:12:21 ID:IMOP13+x
608名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/26(月) 20:18:26 ID:YbjGKbiO
609名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/27(火) 19:39:54 ID:joh7TOLY
610名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/27(火) 22:18:52 ID:yxb2VYOp0
611名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/27(火) 22:41:02 ID:sA6VZnjv
612名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/28(水) 02:07:32 ID:A0vqyAYG
613罪状認否 6:2005/09/28(水) 02:10:43 ID:A0vqyAYG
>>594-598
----------


 やがて通信が始まる。通話に応じることは拒否したものの、一方的に会話を聞かされる
エルミナの表情は暗かった。通話の相手を知っている――通話中、リーブは自分の名前は
もちろん、取引相手の名前も口に出す事はしなかったが――そんな気がしたからだった。
 ソファに座るマリンに通信機を向ける。リーブは先程、予め渡して置いたメモを指さした。
そに書かれているのは、マリンにとっての父親の名前。
「父ちゃん」
 そう口に出した瞬間、受話口から声が返ってきた。聞き覚えのある女性の声にマリンは
躊躇いなく彼女の名前を口に出した。
「……あのね!」
 心配しないでと、伝えてあげよう。自分とエルミナさんの無事を。とにかく必死に叫ぼうとした
マリンをやんわりと遮って、通信機を遠ざけるようにして立ち上がったリーブは言い放った。
「……と言うわけです、みなさんはボクの言う通りにするしかあらへんのですわ」
『最低だ』
「最低よ」
 エルミナはリビングを見つめながらそう呟いた。自分が呟いた言葉が、通話先の相手と
同じ言葉だとは知る由もない。
 リビングからは少し控えめになったリーブの声が聞こえてくる。
「そりゃ、ボクかてこんな事やりたない。人質とかヒレツなやり方は……」
 その声を聞いたエルミナはエプロンをたたきつけるようにして台所に置くと、リビングへ
足を向けた。その間もリーブの話は続いている。
「まぁ、こういう訳なんですわ。話し合いの余地はないですな。今まで通り、仲良うしてください。
明日は古代種の神殿でしたな? 場所知ってますからあとで教えますわ。神羅のあとになり
ますけどまぁ、そんくらいはガマンして下さいな」
 この家で見せる表情とは違う、狡猾な態度。エルミナが憤りを感じたのは、なにもそれだけの
理由ではなかった。
614罪状認否 7:2005/09/28(水) 02:14:24 ID:A0vqyAYG
 リーブが通信機の通話を終えるのと、エルミナが叫ぶのはほぼ同時だった。
「いい加減になさい!」
「……あ、すんません」
 頭を下げたところまでは良かったが、とっさのことについ訛もそのままに言葉を発して、
リーブは我に返ってまた頭を下げた。どこまでも腰の低い誘拐犯だ。
「不快な思いをさせてしまって申し訳ありません。ですが、これであなた方の役目は
終わりです。窮屈な思いをさせてしまった事もお詫びします」
 このまま本社へ帰ろうとリビングを出て玄関へ向かおうとしたリーブの背中に、エルミナは
ぶつけるように言葉を吐いた。
「やりたくないと思うなら、今すぐやめてしまいなさい」
 彼女の声に驚いてマリンが顔を上げる。その姿に気づいてエルミナは口元に手を当て、
今度は小さく呟くようにして言った。
「そんなことをしていたら、きっと今に後悔するわよ」
「…………」
 リーブは立ち止まり言葉を失った。彼女は、ここに至るまでの全ての経緯――夢を抱いて
神羅に入社した日の事、都市開発部門に配属になって必死で働いた事、そして……その都市を
神羅自らの手で破棄し、その計画に荷担した事――を、知っているとでも言うのか?
 こみ上げてくる感情が、のどの奥で息をふさぐ。
「取り返しのつかない間違いを、あとで後悔したって遅いのよ」
「分かっています。それは、そんなことぐらい……充分」

 現に7番街は潰れた――もう、遅い。

 リーブは拳を強く握りしめる。あふれ出した感情を手の中で握りつぶした後、言葉を続ける。
「それでも私は、神羅の社員である以上……会社には、逆らえないんです」
「最低よ」
「ええ、自分でもそう思います」
 玄関の戸を開け建物を去る間際、彼は一度だけ室内に身体を向けて深々と頭を下げた。
615罪状認否 8:2005/09/28(水) 02:17:57 ID:A0vqyAYG
「でも、私は神羅の社員です。社員でいることを望んで今もここに立っています。
その意味も、負わなければならない責任も分かっています。ですから今度こそ……」

 この都市を守ってみせると、心の中で呟いて。
 頭を上げると、振り返ることなく家を後にした。

 ぱたんと静かに扉が閉じられてから、エルミナは言いようのない脱力感に襲わ
れていた。
 なんと不器用な男だろうと、つくづく思うのだ。
 遠い昔、同じ様な事を言ってここから出ていく夫を見送った日の事を思い出し
ていた。彼は――二度と帰ってくることはなかったけれど。



 こうして、この奇妙とも思える誘拐事件は幕を閉じる事になる。

               ***

 起訴状の朗読が終わり、意見陳述の機会が与えられる。
「エルミナおよびマリン誘拐の罪について、君はそれを認めるかね?」
 自分の横に立つ男に問われ、リーブは起訴事実は認めると答えた。しかしその直後、
自信と確信をもって彼は口を開き、己の裁かれるべき本当の罪を告白した。

「述べられた事実は認めます。……しかし私が裁かれるべき罪状は、他にある」

 誘拐罪について、確かに被害者であるエルミナとマリンからの直接の訴えはなかった。
この機会も略式的な物にすぎないことは、この場に集まった全ての者が認識していた。
616罪状認否 9:2005/09/28(水) 02:28:12 ID:A0vqyAYG
 しかし、リーブはあえて言葉を続ける事を選択した。

「私は、神羅都市開発部門の責任者でありながら、もっともしてはならない罪を犯しました。
私が裁かれる罪状は――殺人罪です」

 判事の誰もが顔を見合わせ、言葉を失った。リーブに罪状を問うた本人さえも口をつぐむ。
 真っ直ぐに見つめるその先に、この場所における最高権力者が座している。判事と呼ばれる
その男は、一言も発さなかった。
 沈黙の時間が過ぎ、ようやく言葉を発したのは質問者だった。
「誘拐罪について彼はそれを否認しました。被害者からの起訴もありません。何よりも、我々は
立件できない事案について証拠なしに審理することはできません。ただ、1つだけ言える事は、彼の
……リーブの行動によって、ミッドガルの多くの住民が、救われたという事実です。……私から申し
上げるのは以上です」
 罪を追及する側であるはずの質問者は、その発言を最後に着席した。
 再び流れた沈黙。それを破ったのは、判事の声だった。
「罪があるからこそ罰が存在する。私はそう考えています。犯行を立証できない以上、
この場でその真偽を見極め裁くことは不可能です。ですがあなた自身が罪と認識して
いるのであれば、その罪を償う事ができます。そして我々の手を借りずとも、あなたには
それができると判断しました――」

 はっとして見上げれば、壇上の男は微笑んでいるようにも見えた。
 その後、判決の言い渡しはとても短い物だった。
 しかしその先に続くのは、果てしなく遠い道。
 彼は言う、「その道を進む足を止めないことが、あなたの犯した罪の償いなのだ」と。


 主 文

 本件公訴を棄却する。


                    罪状認否〜それは愉快で不可解な誘拐犯の物語〜<終>
617名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/29(木) 00:36:13 ID:d2Wjzd7X
完結乙です!
リーブさんも裁判長も渋くて大人ですね。カコイイ!
618名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/30(金) 02:03:12 ID:yD9HfelC
ほしゅ
619名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/01(土) 01:46:23 ID:ysH3Vr44
1日1保守
620名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/01(土) 14:13:50 ID:crd6BsHw
イイヨイイヨー完結乙!リーブイイ奴だー
621名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/02(日) 11:59:38 ID:5bIt5BJi
真昼の保守
622名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/02(日) 18:02:54 ID:kXUdHbHd
夕方の保守
623名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/04(火) 01:27:09 ID:LgXUdK1J
ぽっしゅっしゅー
624名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/04(火) 13:24:02 ID:ZgHwtt3r
真昼な保守
625名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/05(水) 07:41:09 ID:BfrPna+A
朝ほしゅ
626名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/06(木) 20:32:49 ID:E2AKrnhY
ぽしゅ
627名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/07(金) 19:56:37 ID:7ABtyEk9
保守乙でございます。見事な連携プレーに感動しますた!
睫毛ビシバシFFキャラの、ケガ治すホイミンたんとか妄想しかかったのは秘密です。

>罪状認否
7番街…リーブさんガンガったですね。台詞がとても良いです。
リーブさんへの愛を感じて萌えました!乙です!

えー。前回[υ]-εγλ0009って書いたですが、[υ]-εγλ0010だったとです…。('A`)ヴァー
628ないたぎんぱつき 1/4 ◆SIRO/4.i8M :2005/10/07(金) 20:03:09 ID:7ABtyEk9
 割と最近、英雄と呼ばれた人がいました。
英雄はお仕事でニブル山に行きました。
 魔晄炉に行ったら、神羅謹製モンスターが出てきました。
嫌な悪寒がして神羅屋敷地下書庫で調べたらば。
自分が人間ではないらしい、むしろモンスターである事を知りました。
「マジで?」

 悲しみに打ちひしがれつつ、体育座りで焼き芋してたら村に火が付きました。
一応消防車は呼びましたが、田舎故間に合いません。
あっちゅー間に放火魔にされてしまいました。
 神羅が元々信用されてないので、仕方ないですが理不尽です。
「苦労して大企業に就職したと言うのに、こんなトラップが!」

 脱サラする
 サンプルになる
→伝説のソルジャーになる

 選択肢を間違えた気がします。
村人AやBが、鍬だの猟銃だの持ち出して、英雄と戦おうとかしてます。
仕方ないので村人倒してたら、ザックスやその他大勢部下に見られました。
激しくヤバイです。ピンチです。
 何かもう、ティファは超重量剣振り回すわ、
ザックスは飛び掛ってくるわ、えらいこっちゃです。
マジ切れクラウドはトンでもない力で刺して来た上、目になんかあって、
ニブル村の住人は改造されてるくさいです。つか、何この超サイヤ人。
629ないたぎんぱつき 2/4:2005/10/07(金) 20:04:34 ID:7ABtyEk9
 どーしていいのか分かんないので。
英雄はおかーさんのゆうとおり、一緒に神を目指す事にしますた。

 宝条博士が父である事は、なんとなく知ってました。
あとザックスは情に厚く、クラウドは英雄に憧れてたんですが。
友情・努力・勝利が芽生えるには時間が短すぎて、孤独ですた。
 そこにやっと会えた肉親。首だけですが、うねうね動きます。
かなり嫌ですが、背に腹は変えられません。はらはらと英雄落涙です。
新たなるパワーを求め、勢い良く魔晄炉へダイビングしましたよ。

 そして、全てを知りますた。
ビデオの返却期間過ぎてる事も、ねらーに田代と呼ばれている事も。

 ドタバタしてたら、数年後ザックスが脱走しました。
魔晄中毒気味のクラウドも連れ出しました。
サクサク素手で神羅兵士を倒します。華麗な剣技も炸裂です。
クラウドを「見捨てたりしないよ」とかゆってます。いい奴です。
 タークスさんが保護に来てます。神羅軍も必死こいて追っかけまんた。
のんびりライフストリームで見物してたら、ザックスが大変な事になりました。
習慣でアレイズを唱えてみますが、三途の川越しなのでどうにもこうにも。
やや正気に戻ったクラウドが、ミッドガルを前に叫びます。

 セフィロスは、ただ見てました。
闇の支配者に縋り付く、世界の悪意を飲み込みながら。 
 とかやってたらザックスが来ますた。
「おー! セフィロス元気か?!」
「ちょっwwwおまwww」
630ないたぎんぱつき 3/4:2005/10/07(金) 20:06:05 ID:7ABtyEk9
 色々中略して、黒マテパワーで英雄が復活しますた。
神になったのに、イカ呼ばわりされてショックです。
「宝箱にアイテム詰め込んで待ってたのに……」
 なんか又倒されました。しかも8対1で。
「タイマン勝負だ!」
で。覚えて無くても超究武神覇斬炸裂って何すか?

 リベンジするべく、ライフストリームに自分を解き放ってみます。
ボスたるもの、一般人を改造人間にしたりしとくのがお約束です。クックックッ。
 黒い魂が大量にやって来ますた。殆どが子供のものです。
泣いてる子供、寂しがってる子供。黒い膿に飲み込まれた子供達です。
母さんが大喜びしてます。英雄はどっか苦しげな表情です。

 ……俺は……分かってるよ、母さん。私は貴方の望むままに。
 おいで。可愛い子供達。さあ、私の元へ。

 材料が揃ったんで思念隊作ってみました。
負のライフストリームに、お湯を注いでレンジに入れて完成。
 はじめ夜泣きがすごかったです。しかも3人分です。
子供なので、すぐベソをかいたり遊びたがったりします。
「私の遺伝子の何処を継いだ!」
叫んでも触ることも出来ません。幽霊は不便です。

 と思ったらリユニオン成功です。マンセー。
たった2歳でがんばった思念体を、労ってやりたいです。
631ないたぎんぱつき 4/4:2005/10/07(金) 20:09:14 ID:7ABtyEk9
 一応、セフィロスよりも強い人はいない世界です。
なのに、クラウドの仲間が「タイマン勝負にしてやろう」とゆってます。
同情なんかいらないやい!と思わなくもないですが、
イカが激しく弱っちかったので仕方ありません。
「全員LV99のステータス255ナイツが反則だ!」と叫んでみます。
 ズルズルズルズル絶望してたクラウドもノリノリです。
良く見たらクラウドだけ限界突破になってます。恐過ぎです。

 しかし、二年間待ち望んでいたバトルです。
お中元を贈ろうかお歳暮にしようか、
何を言おうか伝えようか、剣の技なんにしようか。
星を船としたらどこ行こうか。
そりゃもう期待に胸膨らませて考えてたんです。

 今。ライフストリームには関係者がいます。
天国も地獄もなく、死者はフラットに魔晄に溶け込んでます。
 現世には永遠のライバルがいます。
戦友になれたかもしんなくて、敵になるしかなかった、光の存在。
ちょっとチョコボ頭ですが。もう、ひとりぼっちじゃありません。

 さあ来いカモーンと戦闘開始。それがラスボス魂クォリティです。


ヲハリ
632名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/07(金) 23:29:51 ID:UXwepQma
>>628-631

なんか泣けた
英雄カワイソス
633名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/08(土) 23:10:25 ID:FMNQQd5+
634名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/09(日) 19:40:24 ID:au+qWtrG
635名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/09(日) 21:07:42 ID:Ez7bG4vO
保守ありがとうございます。
ほう…砲…崩壊後、方天画載、包丁、えーとそれから…。

>632
dです。英雄は幸せになって欲しいですね。
636Interlinear 1/4  ◆SIRO/4.i8M :2005/10/09(日) 21:14:28 ID:Ez7bG4vO
 ライフストリームが都市を覆い、妖星が光の魔法に飲み込まれる。
世界の命運を決した戦い。その戦いが終わって。

 クラウドはフェンリルを整備する。
漆黒のボディに日差しが照り映え、誇らしげに仕事を待つ。
マリンが配達物を持って来てくれた。
「……これは」
「シルキスの野菜だよ? ちゃんと覚えてね」
 世界を救った勇者に野菜の名前は難しかった。
ついでに料理が出来ず、アイロンがけも知らなかったりした。

 ミッドガルの廃材から生まれた街、エッジ。
その街の穏やかな暮らし。新たに生まれた、懐かしい店。
丁寧に荷物を積み込み、フェンリルが出発する。
 
 廃墟に差し込む光。バイクが教会に止まる。
「クラウド!」
椅子の陰から、ヌイグルミを抱えた少女が顔を覗かせた。
「荷物だ。他には無いのか?」
「うん。おねえちゃんがね、この苗が一番いいって」
 昔そこに居た優しい人。残された花々。
ステンドグラスが、石畳にあでやかな色彩を落とす。
靴底でしない、匂い立つ百合。
 
 ふと。何者かが、フェンリルに下げられた携帯を手にする。
637Interlinear 2/4:2005/10/09(日) 21:16:02 ID:Ez7bG4vO
 鋭い風が吹き込んで。教会の外で何かが倒れる音。
鉄錆の生臭い匂い。轟音。
「なーに?」
「下がって」
クラウドは教会の外に向かう。

 そこには。巨大なモススラッシャーが蠢いていた。
地に伏している赤毛の少年。
迷いは無く。勇者は幾重にも組み合わされた剣を構える。
 錆付いた巨躯は、クラウドへ照準を合わせる。
刃の、空を斬る音。旋回する無数の兇刃。戦場の土煙。

 それは、かつて彼が居た世界。

 ――何故。放置された鉄塊が、突如動き始めたのか。
考えながら、クラウドの足が矩形の胴へ舞い上がる。
 二刀の刃が、鉄塊へ剛撃を与える。
ぎしり、と。重い音を立て、モススラッシャーが軋み傾く。
大剣の放つ火花。素早いスラッシュがピアスを弾き飛ばす。
 子供を斬ろうとする動きを察して。クラウドは鉄塊の頭上に飛ぶ。
全身が宙で回転すると同時に。
勇者は正確に回路を切り裂いていた。

 戦闘終了。あっちゃこっちゃに飛んだ剣を拾うクマウド。
「どうして魔法使わないんだろ」
ヌイグルミを抱えながら、ひーちゃんはちょっと思った。
638Interlinear 3/4:2005/10/09(日) 21:17:12 ID:Ez7bG4vO
 クラウドの腕の中で、赤毛の幼子が呻く。
「……ううっ」
子供の手の中で、クラウドの携帯が光を放つ。
額と小さな手にこびり付く、漆黒の膿。
駆け寄るひーちゃん。その腕の淡い痣。
携帯から、ティファの心配そうな声が伝わってくる。

「兄さんの実力、分かったよ」
カダージュの怜悧な瞳が、クラウドを捉える。

 幼子をバイクに乗せてやる。
ぞくりと。殺気がクラウドを射る。

 何者かの視線。それは、世界を席捲した魔王の眼にも似て。
クラウドの腕に、チリチリと痛みが走る。
 勇者の瞳孔は、刹那――魔王と同じ形に変わった。
今際の際に、勇者の体内へ逃れた魔王の魂。
それはクラウドの体を侵食し、蝕み続けている。
 異様に脆く、しかし鬼気迫る強さ。
神羅兵の時から、否。少年の時から。
勇者は何かを持っていた。果てしなく魔王に似た、何かを。

 クラウドは首を横に振った。スロットルを全開にし、加速する。
巨大な風が、路上をなぶった。
639Interlinear 4/4:2005/10/09(日) 21:18:33 ID:Ez7bG4vO
 赤毛の少年が目覚める。そこは冒険者達が再建した店。
7番街プレートが落下し、両親を失った孤児が辿り着いた場所。
「ここは?」
「心配ないよ。ねえ、おなか空いてない?」
ティファが温かいスープを並べる。染み渡る、柔らかな味。
 少年はデンゼルと名乗った。デンゼルは夢中で料理を口に運ぶ。
じわり、じわり。堪えていても嗚咽が漏れる。マリンは心配そうに覗き込む。
「痛いの? 大丈夫?」

 親切だった大人達も、仲間も、食べたかっただろうな。
 真っ黒な膿を吐いて。
 どうして死ななければいけなかったんだろう?

 夜気に星々が揺らぐ。デンゼルは熱を出した。
その額を誰かが拭い、ガーゼを換える。
 クラウドだ。戦いの時と違い、優しく笑っている。
クラウドの耳に新しいピアス。ポケットに、もう一つのアクセサリー。
幼子をかき抱いたまま、クラウドも眠りに就く。
 マリンはティファの手を握り、まどろむ。
「クラウド、デンゼルは『俺の所に来た』って言ってた」
「うん、そうだね。きっとみんなの所に呼んだんだよ」
ティファの心に浮かぶ友達。
 
 懐かしき人が、教会にクラウドをいざなったのだ。
今はただ、救う事の出来た命に感謝して。
セブンスヘブンの夜が静かに更けてゆく。

END
640名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/10(月) 02:07:53 ID:u2Jelwn1
641名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/10(月) 03:18:15 ID:SuYJiCan
642FF7 AC戦い終了後【1】:2005/10/10(月) 05:19:34 ID:D28pDbDU
「よし!マリンとデンゼルは今日は父ちゃんと泊まろうな!」

戦いが終わって、教会から引き揚げる途中、
マリンを肩の上に乗せながらバレットは上機嫌で言い放った。
マリンは一瞬目をぱちくりとさせ、クラウドを見たが、
彼の頬がうっすらと頬が紅くなったのを見て子どもなりに何かを悟ったらしく、
「うん!」と元気良く頷いて父の頭にぎゅっと抱きついた。

「バレット、そんな気を遣わないで。
家にみんなで泊まったらいいじゃない?
デンゼルもクラウドの帰りをずっと待ってたのよ。」

ティファに肩を抱かれていたデンゼルがうんうん、と何度も頷く。
クラウドは家にいない間、どこに行っていたのか、
あの銀髪の男達は何者だったのか、
どの様に彼らと闘ったのか、とりわけ武勇伝が聞きたい。

643FF7 AC戦い終了後【2】:2005/10/10(月) 05:22:12 ID:D28pDbDU
が、見上げたティファの顔も紅くなっていて、
クラウドもティファもなんだか困っているようだ。

(二人きりになりたくないんだ…)
でも、それはちょっと違うような気もする。
(嫌がっているんじゃなくて困ってるんだ…)

そうなると、男の子らしいいたずら心がこみ上げて来た。
困ってる二人をもっと困らせてみたい。
聞きたいことはたくさんあるけど明日でも大丈夫。
クラウドは帰って来たんだから。

「ティファ!俺、今日、マリンと一緒に行くよ!」

思った通り、ティファは言葉を詰まらせてデンゼルを見つめる。
一瞬混乱して呆然と成り行きを見守っていたクラウドだが、
「バレット、折角だが、今日は家族と過ごしたいんだ。」
「俺だって過ごしたい。久しぶりにマリンとデンゼルに会えたんだ。」
優先権は自分にある、と言わんばかりに悠然と言う。
そして、クラウドの肩を掴み、引き寄せると、

「何も、二人きりになってえっちしろ!つってんじゃねぇよ。」
と、小声で耳元に囁いた。
「…バレット…」
クラウドのため息まじりの口調にもバレットは気にする風でもない。
「冗談だよ。オマエ、ずっと家にいなかったんだろ?
今日は久しぶりに二人で積もる話でもしろって。な?」
「子ども達がいても出来る。」
「風呂に入れて、寝かしつけてなんてやってたら話す暇なんざねぇよ。な?いい機会だから、ちゃんと色々話しておけよ。な?」

644FF7 AC戦い終了後【3】:2005/10/10(月) 05:23:27 ID:D28pDbDU
「おう!俺がちゃんと送ってやるから心配すんな。」
いつの間にかシドまで話に割り込んで来ている。

「オマエ見てると、時々イライラすんだよ。
なんか、こう、じれったくてよ。
な?たまにはティファを労ってやれよ。」

その言葉をそっくりそのままアンタに返してやるよ。
そう呟いたクラウドの声は
中年男二人のガハハ笑いにかき消されたのだった。

結局、仲間達に押し切られてティファと二人帰路についた。
店の前につけたバイクを停めると、
ティファは身軽に後部座席から飛び降りた。
鍵を開け、店内の明かりを点ける。
カウンターの中に入ると、コンロにかけてあった大鍋の蓋を開け、
くんくんと匂いを嗅ぎ、「うん、大丈夫。」と一人頷く。
「クラウド、お腹空かない?」と、入り口に突っ立ったままのクラウドに声を掛けた。
645FF7 AC戦い終了後【4】:2005/10/10(月) 05:24:35 ID:D28pDbDU
久しぶりの帰宅に緊張している自分を気遣ってくれているのか
いつもと同じ様に振る舞うティファに、
クラウドも思わず「あぁ。」と頷きカウンターに座った。

やがて、大きなマグカップに入ったコンソメスープとホットドッグが出て来た。

「ごめんね、簡単なものしか出来なくて。」
「いや、うまそうだ。」
よかった、とにっこり微笑むティファの顔が正視出来ない。

ティファに、そして仲間達にどれだけ感謝しているか伝えたいのに、
どう言えばいいのか分からないのだ。
気持ちは溢れそうになのに、言葉が出て来ない。
自分一人で気まずさを感じ、それをごまかすかの様にカップに手を伸ばし、口に運んだ。
646FF7 AC戦い終了後【5】:2005/10/10(月) 05:25:33 ID:D28pDbDU
「どうしたの、クラウド?」
一口飲んで、驚いた様に目を見開いて固まっているクラウドに
ティファは心配そうに声をかけた。
「いや…」

クラウドはまじまじとカップの中身を見つめ、
やがてそれを両手で包み込む様に持ち直し、ゆっくりと飲み干した。

カップを置いた所で、目を丸くしているティファに気付き、
「…うまかったんだ、すごく。」
クラウドの言葉にティファはほっと胸を撫で下ろした。

「びっくりした。スープが痛んでるのかと思った。」
「すまん…その…」
ティファが「ん?」と顔を覗き込んで来る。
「ティファの味だって…」
647FF7 AC戦い終了後【6】:2005/10/10(月) 05:30:57 ID:D28pDbDU
タマネギとベーコンのシンプルなコンソメスープだった。
だが、一口飲んだだけで身体に染み渡る様な優しい味だった。
漸く顔を上げたクラウドに、ティファは
「…うん。」
と、うれしそうに頷いた。

ティファも自分の分をトレイに乗せ、
カウンターから出るとクラウドの隣に腰掛けた。
そして、言葉少なくクラウドが語るのに、黙って耳を傾けた。

食事が終わると、クラウドは黙り込んでしまった。
ティファも隣で所在なげに座っている。

「なぁ、ティファ。」

ティファは黙ってクラウドを見つめる。
吸い込まれそうな薄茶色の瞳に店の照明が映って
きらきらと光っている。

「…すまなかった。」
648FF7 AC戦い終了後【7】:2005/10/10(月) 05:41:22 ID:D28pDbDU
「…すまなかった。」

ティファは口元に笑みを浮かべ、瞳はくるくると楽しそうだ。

「謝ってなんか、欲しくないな。」

スツールをくるりと回転させて、クラウドに背を向ける。
クラウドは慌てて立ち上がり、
ティファの背中に何かを言おうと必死に頭を巡らせる。

すると、ティファはまたくるりとクラウドの方を向き、

「感謝の言葉なら喜んで受けるけど、
謝ってなんか欲しくないな。」

かわいらしく微笑むティファに釣られて、
クラウドの口元にも漸く笑みが浮かぶ。
649FF7 AC戦い終了後【8】:2005/10/10(月) 05:42:54 ID:D28pDbDU
「ティファ…」

クラウドは、スツールの上にちょこんと腰掛け、
ぴんと背を伸ばし、手を膝に乗せているティファの肩に手を置いて…
それでもなかなかその言葉は出て来なかったけど、

「ありがとう。」

ティファは腕を伸ばし、クラウドの首にゆるく巻き付ける様にして
その胸に飛び込んだ。クラウドはその身体を受け止めると、きつく抱きしめた。

「もう帰って来れないと思ってた…」
「もう言わないで。」

ティファはゆっくりと身体を離すと、クラウドの瞳を真っすぐに見つめた。

「帰って来たんだよ、クラウドは。自分の力でね。」
「ティファ…」

「私達の為に戦ってくれてありがとう。」
ティファの言葉にクラウドは顔を歪め、ティファの首もとに顔を埋めた。

やがて、首筋に湿った感触がして、クラウドが声を出さずに泣いているのだと知る。

「おかえり、クラウド。」
ティファはクラウドが落ち着くまでずっと、背中を優しく撫でてやったのだった。

終わり。
650642:2005/10/10(月) 05:43:27 ID:D28pDbDU
初投稿です。お目汚し失礼致しました。
何か粗相がないかとびくびくしております。
何か失礼があったらごめんなさいです。
651名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/10(月) 12:48:19 ID:i1xkpyN1
>>650
うまい
すげーうまい
きれいにまとまってて無駄がないよ
イイもん読ませてもらった
アリガトン
652642:2005/10/10(月) 15:02:21 ID:D28pDbDU
>>651
ありがとうございます。
自分の作品でスレ止めてしまったんじゃないかと
ヒヤヒヤしておりました。
また何か書いたら投下に参ります。
653名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/10(月) 19:51:14 ID:lsHanYI6
>>650
泣いた。心にしみた。
654名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/10(月) 23:43:14 ID:V2gr4r5y
>>650
最後良かったです〜!クラウドの涙…クラティ最高!!(*´∀`)
小説のサイトつくってたりするんですか?
655642=650:2005/10/11(火) 01:21:09 ID:gbmZcHrK
うれしい言葉にまた出て来てしまいました。

別ジャンル者でしたが、AC発売で萌えが生じて
イッキに書いてしまいました。
サイトは持っておりませんし、作りたいけど時間がない状況です。
よろしかったら、ここにまた投下に参りますね。

656654:2005/10/11(火) 01:59:34 ID:zLhta+xx
>>655
次回作を密かに期待して待ってますよー!ww
657 ◆Vlst9Z/R.A :2005/10/11(火) 03:07:30 ID:HgjmFcOU
大型新人キタワァ*・゜゚・*:.。゜(n‘∀‘)η゚・*:.。 ゜゚・*

>628-631も同時上映キタコレ!
658名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/12(水) 01:21:37 ID:fTWgZ5iO
659名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/12(水) 05:52:21 ID:D6AAEBAZ
>>628
泣いた。しかも笑えるw
660名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/13(木) 14:24:53 ID:MTwq95BL
661名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/15(土) 00:15:50 ID:am2VkNZh
662砂糖 ◆SATO.VV1aU :2005/10/15(土) 22:16:17 ID:m2kpGxh1
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1125091395/24-30
はじめまして。こちらよりお邪魔します。
663It's a small world 1:2005/10/15(土) 22:17:37 ID:m2kpGxh1
 坂道で、近所のおじさんがふうふう言ってました。
「おてつだいしましょうか?」
すごく大きなダンボール箱が三つ。一つだけでも重たいです。
「これ、なあに?」
「限定版が売ってたからね。オクで売ろうと」
 おじさんはおたくの人です。だから、高く売れるものにくわしいです。
中身はマンガだって言ってました。
「マンガ? 見たい!」
「うーむ……ゲームのマンガだからなあ。
 よーし、佐藤君。通常版なら貸すよ」
ゲームのマンガならもっと見たいです。お手伝いしてよかった。

 長い、長い坂道。
ぼくがゼイゼイしてたら、おじさんが全部持ってくれました。
パパは若いので、ぼくの兄弟みたいです。
おたくのおじさんは、お父さんみたいです。
 おじさんがお金を出しました。
「そうだ。そこのガチャポン、やってきてくれないかな。
 ダブった分、一つあげるからさ、頼むよ」
おじさんはもうすぐ四十才。ガチャポンするのは微妙なお年頃です。
「鈴木くんがいるんじゃないかなあ……」

 やっぱりいました。鈴木くんは三才。
ガチャポンにお金を入れるでもなく、一日中ぐるぐる回してます。
 でも、三才だけど、補助輪なしで自転車に乗れます。
ぼく、小学生だけどまだ補助輪外れないです。
664It's a small world 2:2005/10/15(土) 22:18:41 ID:m2kpGxh1
 鈴木くん(三才)に聞いてみます。
「回すのすき?」
「……」
 こう言うときは魔法の呪文です。
「ヘルクレスオオカブト……グランディスオオクワガタ!」
 鈴木くんはムシキングが大好きです。
振り返ったスキに、ガチャガチャガチャガチャ。
あんまり占領しちゃうと鈴木くんが泣くので、大急ぎです。

 かわいいキーホルダーが、おじさんのお目当てです。
ぜんぶ揃ったので、おじさんに渡しに行きます。
おじさんは三つのダンボール箱に囲まれて、休憩です。

 お礼にゲームのマンガを借りました。やったー!
ん? これ、ビデオじゃない!
「ママ、うちDVDあったっけ」
「あー……あるぞ。パパがパチで当てた奴。ちょっと待ってろ」
 ごそごそ。押入れの奥から、DVDプレーヤーが出てきました。
TVをつけると、ちいさな女の子の声がします。
とってもキレイな画像です。きっとマンガって嘘です。本物に決まってます。

 FINAL FANTASY VII
 ADVENT CHILDREN

 ちょっと漢字も読めるようになりました。
えーと、えふ、エフ……まだちょっとむずかしいです。
665It's a small world 3:2005/10/15(土) 22:20:13 ID:m2kpGxh1
 パパがお店から戻ってきました。
TVの中で、かっこいいお兄さんがバイクに乗ってます。
「ねえパパ。これ作れる?」
「すごいバイクだな。たっかいぞー! これ」
 ぼくの家はモータース屋さんです。オイルのいい匂いがしてます。
パパは坊主頭でピアスして、腕に入れ墨が入ってます。
健康ランドには行けないけど、海水浴は大好きです。
パパとママ、年とピアスだけクラウドとおそろいです。
 クラウドのバイクは黒くてピカピカです。かっこいい。
「ぼくも作ってみたいな」
「お? 跡継ぐ気になったか?」

 昨日、おじさんにもらったキーホルダーをランドセルにつけます。
「あれー? ロッズ(笑)だ」
「もらったの」
佐藤さんがびっくりしてました。おなじクラスの子です。
 ロッズは五個でました。クラウドは十一個目でやっとでました。
でも、かっこ笑いってなんだろう。

 帰り道。高橋くんと公園に行って、みんなでかくれんぼしました。
ぼくも植え込みに隠れます。あれ?
「クラウドの電話だ」
まっくろな携帯です。これ、なくした人困ってるだろうな。
666 It's a small world 4:2005/10/15(土) 22:25:50 ID:m2kpGxh1
 給食当番の時、ゲームがすきなふじょしさんと一緒になりました。
ぼくが佐藤でふじょしさんも佐藤さんなので、出席番号が近いです。
「これ使い方わかる?」
「あ、ちょっとまって」
 持ち主さんは、いっぱい景色を撮ってました。
かわいい猫。お花。持ち主さんは、女の人なのかな。
 ふしぎな画像がありました。
ちゃいろの写真で、着物のオヨメさんとおムコさんが写ってます。
「あとね。となりの県の番号が多いみたい」
佐藤さんは探偵みたいです。

 しってるスーパーも写ってたので、行ってみました。
もちろん、持ち主さんはわかりません。
「ん?」
 ベンチで佐藤さんが、ぽつんと座ってます。
ふじょしさんは、かわいい子です。だからオトナの彼氏がいます。
「デートだったの。一時間まっても来なくて……」
ひどい奴です。
「いっしょに待つよ」
「いいよ! カンチガイされちゃうもん」
 ホッカイロをむりやりヒザにのっけます。
佐藤さんは、しくしく泣きはじめました。

 ゆうやけのスーパーにつめたい風が吹いて、
ちいさい佐藤さんの手があかくなってます。
「……ウチにおいでよ。あったかいお茶くらいあるから」
ひとしきり泣いて納得したのか、佐藤さんがうなずきます。
667It's a small world 5:2005/10/15(土) 22:26:57 ID:m2kpGxh1
「おー? なんだ龍。彼女か?」
違います。人の彼女です。ママが佐藤さんにポテチを出しました。
「あ! アドベントチルドレン! どこで買ったの?」
佐藤さんは漢字が読めるみたいです。
「み、見る?」
 佐藤さんがぶんぶんうなづくので、TVをつけます。
目がキラキラ輝いて、ほっぺたが赤くなってます。
本当にゲームが好きなんだなあ……。

 いやもう。たいへんです。
「きゃーステキー☆」とか、「クラウドたんかわいいー!」とか。
クラウドはお兄さんのはずです。たん、てなんでしょうか。
 でも、アクションは本当にかっこいいです。
みんなでクラウドを投げる所で、ぼくもがんばれ! って言ってました。
「きゃあ! 社長もカダたんもレノたんもサイコー!!」
すごいパワーで佐藤さんが叫んでいます。
 デンゼルがマリンと手をつなぐので、ぼくも佐藤さんにそうしたかったです。
さいごのわるものがでました。クラウド、星を守って! と思ったら。
「いやああああああああああ! セフィロスさまがー!!」
佐藤さんがリミットブレイクしてます。なぜかぼく、首を絞められました。
た、たすけて。

 最後に優しい曲になりました。
すごくキレイな場面です。佐藤さんもぼくもウルウルしてます。
 見てなかった佐藤さんが、ぼくより詳しいのがふしぎです。
でも。
泣いていた佐藤さん。元気になってよかったです。
668It's a small world 6:2005/10/15(土) 22:28:02 ID:m2kpGxh1
 佐藤さんの携帯が鳴りました。あっさり彼氏と仲直りです。
野球の試合に出てたんだって。ちぇっ。

 佐藤さんを家に送って。誰かの携帯だけが謎のままです。
レポートが終わったママの袖をひっぱってみました。
「なあ、龍。ドコモショップ行きゃいいんじゃないか?」
「それなあに?」
「あー……。知り合い五人の法則って知ってるか?」
知り合いの知り合いをつなぐと、世界中がつながるそうです。
「携帯貸してみな」
 ママは着歴の人達に、待ち受けの画像を送りました。
保護メールの人の名前も書いていたみたいです。
しらなかったんだけど、ママが充電もしてくれてたみたいです。

「うっし。分かった。龍、乗れ」
 ママのビップカーがうなってます。
うしろはピンクとむらさきのキティちゃんがいっぱいです。
子供命 夜露死琥、です。
 昔はハーレーの後ろに改造チャイルドシートしてました。
ママは力持ちです。200kgぐらいのバイクも平気で起こします。
ものすごく飛ばすので、ちょっと恐いです。

 となりの県にきました。
ぼくの町の向こう側。見たことのない町を抜けていきます。
どんどん山道になって、みどりが濃いです。
669It's a small world 7:2005/10/15(土) 22:29:01 ID:m2kpGxh1
 田んぼの中に、そのおうちはありました。
とっても古くて、なつかしいおうちです。
決め手になったのは、あのちゃいろの写真です。
携帯の向こうの人が持ち主さんの家族でした。
 ちいさなおばあちゃんが出てきました。
「ありがとうね。ぼく。孫が買ってくれたんだよ」
おばあちゃんは、お野菜をたくさんくれました。

 また来てね、また来てね……おばあちゃんはそう言いました。

 さみしくて、携帯が手放せなかったクラウド。
 ひとり暮らしのおばあちゃん。
 泣いていた佐藤さん。
 みんな、ひとりぼっちは嫌みたいです。

「ぼくも、携帯ほしいな」
「プリペイドなら買ってやるぞ」
「うん」
 高速の風が気持ちいいです。ちょっとクラウドみたいです。
たぶん。クラウドの道とぼくたちの道はつながってるんです。
知り合いをつなぐとみんな知り合いだから、きっとそうです。
670名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/17(月) 00:10:31 ID:VDfz/PGL
>663-669
いや・・・なんというか・・・
ちょっとした長編のいいCMを見た気分になってしまった・・・
671名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/17(月) 01:36:45 ID:0Ym5yVEs
お陰様で買う予定の無かったFF7AC(通常版)をハシゴしてまで買っちゃった自分が来ましたよ…。
大繁盛(・∀・)イイ!


>>628-631
泣ける…。泣けるんだけどなぜか笑える。そんな白さんの作品が本気で好きです。
あと三途の川越しにアレイズとかの表現が大好きだ! しかしFF7ACは親不孝者続出だ…。

>>636-639
スープ飲むデンゼルの描写、いい味出してます。公式小説も(まだ読了してませんが)ふまえて、
救えた命が与えた影響ってのがしみじみ伝わってきますよ。っていうか……どっちもエエ話です。

>>642-649
特にマリンとバレットのやり取りとか、会話なんかの描写から自然に伝わってくるあたたかさが素敵です。
それにしてもシドに「じれったい」とか言われたくない!! と、思うのは自分だけだろうか?w

>>663-669
Fortune favors the braveの時もそうでしたが、外側で繰り広げられる人間模様が微妙に絡み合って
いく様子が巧く描かれていて好きな作品です。プレイ日記、ともまた違いますし。今後の作品にも期待sage。
ところで母者が某ゲームの怪盗夫人に見えて仕方がないw。
672星に願いを、地に祈りを 1:2005/10/17(月) 01:42:50 ID:0Ym5yVEs
FF6 世界崩壊前(ブラックジャック不時着後)
本編中、直接会話のないロックとセッツァーの接点を探ってみたくなっただけ な話。
--------------------



 流れ星に願い事をすると、その願いが叶うという。
 ――幼い少年の記憶に残った、母親らしい面影は確かそんな事を言っていた。
 星に願い事をしたところで、いったい何になるのだろう?
 そもそも神など、この世に存在するハズはない。


 星を眺めて願うより、星さえも手の届く場所へ行きたいと強く思った。


               ***


 大地に祈りを捧げれば、その祈りが通じるのだと言う。
 ――幼い少年の記憶に残った、父親らしい面影は確かそんな事を言っていた。
 神に祈りを捧げたところで、いったい何になるのだろう?
 そもそも神など、この世に存在するハズはない。


 青年から向けられた真っ直ぐな視線は、彼の全てを否定していた。


               ***

673星に願いを、地に祈りを 2:2005/10/17(月) 01:45:07 ID:0Ym5yVEs
 ダリルという女に出会ったのはいつの頃だったか。いや、そんなことはどうでも良い。
俺はアイツに勝てなかった。勝ち逃げしやがった。
 ……生きているウチにアイツの前に出られなかった俺が悪い、それだけなんだがな。


 アイツがいなくなって、こんなにも空が広いと思った事はなかった。


 飛空艇ブラックジャックと共に、俺は今でも生き続けている。
 共に空で生きる者を失ってから、すっかり鈍っちまったのは艇の動力と、操縦の腕。
 今じゃ賭博場に招く客を乗せての遊覧飛行だ。こんな姿、お前が見たら笑うか?
 それでも、俺は地上じゃ生きられないんだ。どんな姿になっても、空の上で――空に
しがみついていたいんだろうな。
 自分で言うのもなんだが、情けねぇ話だ。


 頭上に広がる星空を見て、思わず感傷にふけっていた自分に気づいて苦笑を浮かべた。
思い出したように視線を下げて地上を見渡す。

 夜の闇に浮かんでいたのは、天をも貫かん勢いで猛り狂う炎だった。
 不気味なほどに赤く輝く炎。

 この日見たものが、命を食らいつくす化け物だと知ったのは、ずいぶん後になってから
だった。


               ***

674星に願いを、地に祈りを 3:2005/10/17(月) 01:48:43 ID:0Ym5yVEs
 バナンという男に出会ったのはいつの頃だったか。いや、そんなことはどうでも良い。
俺はアイツを信用していなかった。「祈りは通じる」というあの軽薄な言葉を。
 ……生きているウチに大切な人を守れなかった俺が悪い、それだけなんだけどな。


 彼女が居なくなって、こんなにも大地が広いと思った事はなかった。


 記憶を失ったレイチェルと最後に会話を交わしてから、俺は宛のない旅に出た。
 共に生きる者を失ってから、すっかり鈍ったのは人を信じようとする心。
 今じゃ単なる放浪者だ。こんな自分の姿を君が見たら笑うだろうか?
 それでも、俺は地上でしか生きられないんだ。どんな見窄らしい姿になっても、この
大地にしがみついていたいんだろうな。
 そんな自分が、情けなかった。


 頭上に広がる青空がまぶしくて、思わずため息が出た。見上げたって何も始まらない、
だから地上に顔を戻した。

 照らし出される大地の中央が、緑を失い黒く沈んでいた。
 不気味なほどくっきりと浮かび上がる黒い大地。

 その場所が、命を食らいつくす化け物が通った道だと知ったのは、それからすぐ後の
ことだった。


               ***

675星に願いを、地に祈りを 4:2005/10/17(月) 01:57:47 ID:0Ym5yVEs
 空を翔る者が降り立った場所、大地を駈ける者が辿り着いた場所――遙かに続く地平
線を隔て、これまで交わることのない両者が出会ったのは、オペラ座。
 アリアを歌う美しい女性。バラと女神の導きによってふたりは出会い、こうして旅路
を共にする事になる。


 願うことも、祈ることも手放した彼らが選んだのは――戦いの道。


                              −星に願いを、地に祈りを<終>−





--------------------
案外境遇は似てる様な気もする。
それだけw
676名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/17(月) 21:00:02 ID:o8mBD2G2
キタ━━━ヽ( ゜∀゜)人(゜∀゜ )メ( ゜∀゜)人(゜∀゜ )メ( ゜∀゜)人(゜∀゜ )ノ━━━!!!!
セッツアーテラセツナス。流麗な文体と重い世界の描写がかっこいいです。
677名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/18(火) 22:58:50 ID:3HCnPb4n
ほす
678名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/19(水) 19:21:24 ID:YdElp5oo
679名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/20(木) 23:59:59 ID:CId1t+BZ
680名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/21(金) 03:53:43 ID:TfPWRT3a
681名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/21(金) 21:06:14 ID:F9h3gkhG
682名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/21(金) 21:53:38 ID:FFQsrAHg
683名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/22(土) 22:47:10 ID:z+ZTw/rS
ほぼマリア…FFII?(゚Д゚)ウボァー


684名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/23(日) 22:54:54 ID:WpxQSLU/
685名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/24(月) 17:57:13 ID:/x+zxqpp
686名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/25(火) 02:00:51 ID:idGHih70
687名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/25(火) 23:17:21 ID:yIlLb2nq
688名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/26(水) 00:02:32 ID:IkPGpdlN
689名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/26(水) 22:16:37 ID:IEvT6/07
保守っぽっぽ
690名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/27(木) 21:54:12 ID:xIod/I8M
ホーホシュ。
691名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/28(金) 18:03:12 ID:jOqc/SDU
ほっほっ保守
692名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/29(土) 21:52:02 ID:QyiPlUGV
ほっしゅっしゅ
693名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/29(土) 22:49:26 ID:EYFEWuZ9
700逝くまでに何とかひとつうpしたいんですが

ここって1レスに最大何行くらい入るんでしょうか
SSのつもりが長編になってきて削り中です orz
まんまうpしたら100レスくらい使いそうなんで
694名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/29(土) 22:53:21 ID:GNEcz5/d
過疎ってるし無理して削らなくても長いの読ませていただきたいと思ってますが……
695名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/29(土) 23:01:31 ID:EYFEWuZ9
そ、そうですか
なにぶん小説書くのもこういう形でうpするのも初めてなもんで
とりあえず推敲作業を続けます
696名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/29(土) 23:17:30 ID:ytq8967z
参考

 FFDQ板での設定(game10鯖)
 http://game10.2ch.net/ff/SETTING.TXT
  1回の書き込み容量上限:2048バイト(=2kb)
  1回の書き込み行数上限:32行
  1行の最大文字数     :255文字
  名前欄の文字数上限   :24文字
  書き込み間隔       :45秒以上
  (書き込み後、次の投稿が可能になるまでの時間)
  連続投稿規制       :3回まで
  (板全体で見た時の同一IPからの書き込みを規制するもの)
   1スレの容量制限    :512kbまで
  (500kbが近付いたら、次スレを準備した方が安全です)


お題スレPart2にあった物を転載してますよー。
新作期待sage
697名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/29(土) 23:34:03 ID:EYFEWuZ9
>>696
ぉぉっ
マジでdクスです
字数に気をつけてがんがってみます
698名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/30(日) 19:59:31 ID:xHfBZTtB
最近FF7AC見たけど、ルーファウス生きてんのな。
なんかそういう話がここにあった希ガス。エピローグマダー( ・∀・)
699名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/30(日) 20:46:36 ID:jXtlQUfH
FF7A?
あれのセフィロスの最終決戦もACなみにかっこよかった。ってかぶっちゃけ泣いた
自分もエピ待ちなんだが、確か受験とか言ってたよな…
あとFF6の長編書いてた人も続きまってますと言ってみるtest
700名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/30(日) 23:37:38 ID:qD0EiYsY
保守
701名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/10/31(月) 12:11:59 ID:+nyRHffw
てst
702FF7A書いてる物体:2005/10/31(月) 13:04:59 ID:+nyRHffw
はい、カキコ可能になったのでエピローグ3です。
しかし先に謝罪せねばならない罪状が二つほど。裁判に掛かるべきはリーブじゃなくて自分です……

1:シドのエピローグが1レスに収まってしまい、非常に短いこと
2:しかもシエラ視点で、シド本人の語りなどが入らないこと

ここまで言うなら修正しろ、一から書き直せと友人に蹴りを入れられましたが
ダメなんです。シドのイメージはただ一点「空」に集約してしまっててorz
とりあえず保守かねて行きます。
703エピローグ3:『天空の男』シド:2005/10/31(月) 13:08:44 ID:+nyRHffw
「よう、帰ったぜ」
 シエラは声のするほうへ振り返った。しばらく帰っていなかった『夫』の姿をそこに見
出し、彼女は安堵する。
 駆け寄って抱きしめて、「おかえりなさい」と言いたい。けれどそんな勇気は持ち合わ
せていない。結局、彼女はありがちな質問をする。
「……どこへ行ってたんですか?」
 ふんぞり返ってシドは言う。
「あ? ちょっとよ、まーた世界の危機を救いにな」
 思わず吹き出してしまう。どうしてこう、予期せぬ答えを返してくるのだろう。それと
も、私の思考がカタくて彼の発想についていけないだけなのか……
 なんにせよ、そんな彼が愛しい。
 シドが言うなら、不思議とどんな大言壮語もそれほど荒唐無稽な嘘には聞こえない。
「しかし、ハイウインドの『浮いてる感』に慣れちまうとアレだな。地上にいるのが逆に
おちつかねえ」
 いつか、家も飛ばすか――そう言って彼は、また豪快に笑う。
「そうですね、それもいいんじゃないですか」
 真面目に同意されて、シドは少し戸惑った様子だ。
「何だそりゃ、ツッコまねえのか」
「ええ。私も……」

 ――私も、空……好きですから。
 シエラは空が好きだった。数字や図面に囲まれて仕事をしてきた彼女が触れた、最も身
近ではるかに遠い自然。その雄大さに心惹かれる。
 きっと、この人の心のなかにも空があるんだろうな。
 彼女は何事も断言するタイプではなかったが、主観と偏見を持ってたった一つのことは
断定できる。『シドほど空の似合う男は、この世界のどこを捜してもいない』と。
 廃材をかき集め、裏庭で新しい飛行機など作っている夫の後ろ姿。彼女もその隣に並ん
で、空を見上げた。
 ――私が好きなもの、それはこの青い、とても青い、綺麗な空。
 でも、きっとこの人と一緒なら――どこにいても、私には青空が見えるはず。

                      エピローグ3 終
704名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/01(火) 09:29:21 ID:VOVPhv9m
乙ー
シドが言うとなんか実現できそうだな空飛ぶ家w
705名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/02(水) 17:50:48 ID:1zpppP/V
保守
706名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/03(木) 00:45:16 ID:ppSWbV/n
真夜中の保守
707名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/03(木) 23:50:27 ID:JMU+hXzu
708名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/04(金) 17:09:17 ID:AMkGIwzP
709名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/04(金) 23:07:49 ID:plaJoOxu
ほし
710名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/05(土) 21:45:50 ID:f7kyhRJR
しい
711名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/05(土) 23:25:27 ID:d3rtLMUy
たけ
712名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/06(日) 00:53:00 ID:MDepAAiX
保守
713名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/06(日) 23:59:10 ID:iGL5QiU+
保守ついでにリクエストいきます
キスティス先生きぼん
714名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/08(火) 00:30:24 ID:9g7VjXO7
干しシイタケが登場するFFを真剣に考えつつ保守
715名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/08(火) 02:11:34 ID:hSY33ciV
ほぼマリアや
ほぼ干椎茸なFFってどんなんだろうと想像を巡らせながら保守。
716名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/09(水) 00:36:50 ID:cY1NNa++
こうていがサンダー10とかする→マリアさんが干し椎茸の盾で防ぐ→
ウォール + トードで(゚Д゚)ウボァー


ここまで捏造した
717名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/09(水) 12:27:37 ID:gPBFhlZO
だs
718名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/09(水) 18:18:34 ID:jH/OdAy3
また保守が延々と続くのか…
719名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/10(木) 19:48:13 ID:cUPeKREa
新作が出れば又盛り上がるよ。
リクエスト行きます。リルムの絵の話きぼん。
720名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/11(金) 00:24:15 ID:T08XMQSH
オルトロスがマリア目当てでオペラ公演を見に来る→マリアに似てるけど実際はほぼマリアなセリス
→事実を知って憤慨→さんせいう→干し椎茸の盾で攻撃を凌ぐ→(゚д゚)ウマーなだs

そんなわけで捏造しつつ保守。
721名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/11(金) 22:03:42 ID:ET6lpT/L
(゜д゜)ウマーな出汁が出たオルトロスの煮物完成→ガーランドが見物
→光の四戦士と、銭形警部っぽい騎士がすっ飛んでくる→
保母なマリアとセリス将軍も参戦→ガーランドによってこうていとタコ復活→
公演大混乱→干し椎茸の盾で無敵→(゜д゜)ウマー

更に捏造してみるテスツ
722名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/12(土) 00:04:11 ID:4US4bEPw


恥ずかしくねーの?

723名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/12(土) 22:48:55 ID:A7L6Iok9
>>693の長編職人さん、いるかな?
連投規制で一度に全てうpは出来ないはずだから、
連載の形で投下するといいとオモ
724名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/12(土) 23:00:50 ID:XtaaRRNQ
>>723
>>693です
前半とエンディングはできますた
中盤まだ手入れ中なんですけども
なんかいくつかリクエスト出してる方もいますんで
これは投下しない方がいいのかなと
様子見てますた


連載の形ってことなんですけども
次スレにまたがっても大丈夫ですか?
725名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/12(土) 23:33:39 ID:LP1I1y7R
>>724
そこは発想を逆転させて、
「次スレにまたがる話があれば、スレは続きます」
ってことで。
千一夜でもここでも、自分の好きな方に投下するのが良いんじゃないかなと。

1文字保守リレーやネタ振りやリクエストは保守の一環(…で、いいんだよな?)
総合スレ的な要素があるから、他のキャラ・シリーズ単体スレのように
ネタが振りにくいのは事実かも。


…保守代わりに萌・燃えシチュでも書いていくか?w
それなら間違いなく<<空中戦>>に一票。
726名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/12(土) 23:34:19 ID:A7L6Iok9
次スレに確実に投下される作品があるのは、とてもありがたいです
まったりとお待ち申し上げております




rァ チラシの裏
こっそり自分も投下しようと思ったら、規制に巻き込まれました
やっと解除されたので、とりあえずただいまです orz
727名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/12(土) 23:34:57 ID:CeaRPT38
というかこの漫然とした保守の流れを変えてほしいわけでゲスよ。
ひとつヨロシク。
728693:2005/11/12(土) 23:51:31 ID:XtaaRRNQ
レスありがとうございます
冒頭を少し落としてみます
なにぶん萌えが高じて初めて書いたものなので
やや異端かと思います
もしスレにそぐわないようでしたら
遠慮なくストップかけて下さい
よろしくお願いします

内容はFF7 本編から半年後くらい
ジュノンの名も無き神羅リーマンとヴィンセントで
729693:2005/11/12(土) 23:54:09 ID:XtaaRRNQ
ジュノン・スパイラル (1)

 朝は部署でいつも一番に出勤する。
 静かで明るくて、仕事がはかどるからだ。
 ミッドガルが崩壊し各地の魔晄炉も死んだ今、電力供給はおそろしく不安定で、その不便極まりなさは企業としてのまとまった機能を辛うじて残した、ここ神羅ジュノン支社も例外じゃなかった。
 そのガタイと轟音の割にはしょぼい発電力の、旧式の発電機が搾り出すわずかな発電量。それは蓄電された後、まずはオフィス全体のセキュリティシステムに回される。人間に必要な照明や空調は後回し。
 なんて会社だ、と悪態をつきたくなることもしばしばだが、扱っているブツの重要性を考えれば無理もない。特に今は、崩壊した本社から運び出された様々な機密文書や重要機器等がどっさりと詰め込まれている状態なのだ。
 業務開始と同時に発電機が各所でうるさく唸り出し、ウェポンにやられた内外装の修復工事もほぼ同時に始まる。モーターの回転音と金属を打つ工事の音が職場のBGMになる毎日だ。そんな環境でデスクワークをこなすのは、多大なストレス以外のなにものでもなかった。
 
 あの闘いと混沌から、そろそろ半年が経つ。
 世界の終わりを決め込んで逃げ出していた社員たちも、今では徐々に業務へ戻りつつあるが、それでも人手は全然足りなかった。
 交通網や移動手段の分断・破壊で本社に戻れなくなったタークスやソルジャーの生き残り連中も、ちらほら顔を出しては来ている。
が、奴らはデスクワークなんざからっきしだし、オフィスでも使えそうな精鋭であればあるほど、もうとっくに、社長の保養先のヒーリンで側仕えに入っていた。
 そして何より、あの闘いの直後から世界的に流行り始めた訳のわからない黒い病。
 神羅の社員とて例外なく襲われ、命を落とす者がじわじわと増えていた。俺の所属部署のいくつかのデスクには、供花代わりの白い布が今も掛けられたままになっている。同様のデスクは他の部署でもぽつりぽつりと見かけられた。
 気が滅入る光景ではあったが、四六時中それを気にしていられるほどの時間的・精神的余裕もなく、とにかく目の前に積み上げられた業務を哀悼がわりに黙々とこなしていくしかなかった。
730693:2005/11/13(日) 00:00:38 ID:XtaaRRNQ
 朝日に輝く海が見える窓側からは程遠い、通路側の隅っこにあるいかにも平社員用のデスクが俺のテリトリーだ。
 スーツの上着をロッカーにかけ、扉裏の小さな鏡で身だしなみを確認する。
 少し伸びた黒髪と黒い目と、ウータイ系のどうということはない肌色に、ちょっと落ち着かないネクタイの結び目が映る。
 20代後半の、どこにでもいそうなオフィスワーカーの顔。それが今の俺だった。
 Yシャツの両袖をまくる。左の袖をまくるのに少々手間取るのはいつものこと。
1年半ほど前の「作戦」時の負傷が元で、右肩と肘に運動障害が残ってしまったせいだ。落ち着きが今ひとつのネクタイの結び目も、その産物ではある。
 それでも日常生活やデスクワークをこなす程度ならほとんど問題はなかったが、愛用の武器をとったり格闘をこなすことは2度と叶わなかった。
 かつて背中をあずけた同僚たちは潮が引くように遠ざかっていき、見舞いの言葉の裏に流れ聞こえてきた台詞といえば、


「あいつはもうだめらしい」

 昔の仲間たちの活躍を見る度に込み上げる負の感情が、俺に何度も退職を決意させ、実際に書いた退職願は覚えているだけで4通を超えた。
 が、提出する度に人手不足を理由に慰留され、結局配置転換を受け入れてだらだらと今に至る。
 以前の仲間とは完全に切れた上に、たたき上げの内勤連中には変に怖がられたりそうでなければ疎まれたり。
 特に俺のような経歴の者は、職場になじむのさえ努力が必要であり、ひとたびそれをばかばかしいと思ってしまえば、孤独になるのは簡単だった。
 そして職務内容といえば、輸送機の手配やら式典の準備やら、重要書類の作成だの管理だの、人員配置に伝票整理に各種清掃保守点検まで。
 全てを完璧にこなすにはそれなりの体力と頭脳が必要だが、実動部隊に比べれば第三者の評価は今ひとつだったし、見劣りがするのも確かだった。
 そして自分自身も、何でもこなす会社の便利屋だと、心のどこかで自嘲していた。
 …まあいいさ。組織には雑事をこなすこんな部署のひとつやふたつが絶対必要だってことはまちがいないのだから。それに、前職で叩き込まれた様々な知識や技術は今もって健在だ。何かの役に立つこともあるだろう。
731693:2005/11/13(日) 00:06:12 ID:BJFP5JBp
 あの日も俺は、突然こっちに回ってきた他課の関連業務を早く済ませたくて、いつもよりさらに早く出勤していた。 
 眠気覚ましに不味い業務用コーヒーでも淹れて、と背中を伸ばした刹那、何か背後にふわりと軽いものが落ちてきたような、不自然な風を感じた。
 何だろうと思うより先に、俺の首に冷たい金属ががっしりと乱暴に巻きつく。
 それが金色のガントレットであることは何とか見て取れたのも束の間、既に俺の背中には銃口らしきものが押し付けられていた。
 声も出せずにただゆるゆるとホールドアップしかける俺の耳の上辺りから、わずかに錆を含んだ静かな男の声がした。
「…すまないが、資料室に見たいものがある」と。
732693:2005/11/13(日) 00:08:36 ID:XtaaRRNQ
冒頭、以上です
733名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/13(日) 00:20:02 ID:MkNfJ5yk
新作キタキタキタキタ━━━(゜∀゜≡(゜∀゜≡゜∀゜)≡゜∀゜)━━━━!!!!すっげーカコいいです!
734名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/13(日) 18:27:29 ID:jlmv8U2e
どうせまた保守かと思ったら新作が!
なんか久々にカコイイのが来た(*´∀`)
こういう、会話で繋がない文章って見た目よりずっと大変なんだよね。
期待して待ってます!
735ジュノン・スパイラル:2005/11/13(日) 23:44:03 ID:9XkTgtBe
>>729-731から続きます

 カードキーは後ろのキャビネットに、パスワードは、とつらつら言いかけた俺を、その長身らしい男の声が静かにさえぎる。
「…パスワードは3時間ごとに変更されるはず…声紋チェックも復旧していると聞くが」
 …畜生。ミッドガルの闇市場で、こづかい稼ぎに社内情報を売ってる現役や元社員がいるとは聞いていたが。こいつの情報の入手先もその辺りか。
 馬鹿のとばっちりで命が危うくなるとは、と怒りの矛先が背後の侵入者よりもそちらへ向きかけた時、突きつけられた銃口がより一層強く背中を押してきた。
 まずい。これは本気だ。
「…助けてくれ」と俺は努めて平静な声で言った。こんな時は慌てるとろくなことがないのは経験上よく知っている。
「…おまえでは開けられないのか」と、俺の命乞いを無視して再び静かな声。
「自由にしてくれれば開けられる。だから」と、ささやかな取引を持ち掛けてみる。
 男は一呼吸置いて、「…手のひらを頭の後ろに」と言った。それからおもむろに俺から身を離し、数歩下がる気配。足音は全くしない。ここまで侵入できたことを考えても、相当場数を踏んでいる奴だ。
736ジュノン・スパイラル:2005/11/13(日) 23:46:39 ID:9XkTgtBe
 ふと、俺のぐずぐずと上がらない右腕を見咎めたのか、男がわずかに強い口調で再度同じ台詞を言った。
「以前の任務で肩を壊したんだ…腹より上に挙がらない。試してみてくれていい」
 わき腹の辺り、ぎりぎり動くところまで持ち上げて見せると、男は少し思案したように間をおいて低く呟いた。
「…タークス崩れか」
 命運を握られているにもかかわらず、その言い草に少々むっとした俺は、おっしゃる通りだようるせーよと言い返したかったが、「まあね」と精一杯強がり、格好をつけたつもりの返事をした。
 引いていく汗にひとまず大きく息をついてから、
「あんたの側にカードキーとパスワード用のディスプレイがある。そっちを向いてもいいか」と言うと、男は平然と「かまわない」と答えた。
 肝の据わった奴だ。覆面していようがなんだろうが、とっくりと人相風体を拝んでヒマそうな現役どもに速攻で通報してやる、と振り返った俺は、明るい窓を背中にひっそりと佇む、黒と暗赤色に彩られた「実物」に初めてまみえた。
――23年前、科学部門統括の餌食になった男。
 星を救う闘いに参じた男。
 そして、存在自体が既に特Aクラスの社外秘となっている男。
 まことしやかに囁かれていた神羅屋敷での凄惨な事件の数々と、それを綴ったいくつかの最重要機密文書ファイル。そんなものでしか知り得なかった彼を、俺は目を皿のようにして見つめていた。
737ジュノン・スパイラル:2005/11/14(月) 00:00:07 ID:CaT63PKt

 長い黒髪に巻かれた暗赤色のバンダナ。今どき都市部では珍しい、ケープ付きの大きなマント。肌の一箇所も晒さない、黒づくめの服。
 先般、俺の首に巻きついたガントレットはマントの下になって見えない。
 垣間見えるレッグホルスターに収まっている銃は、一見して俺の背中に突きつけたサイズではないとわかる。彼は今既に何も手にしていないようだったが、この種の人間なら他にもいろいろ装備しているのはまちがいなかった。
 こんな様子の男に反撃を試みるほど俺は馬鹿でもない。黙ってキャビネットからカードキーを取り出し、メインコンピュータに暗証番号を打ち込んで現在のパスワードを読み取る。
 そうして、資料室に入る準備ができたところで俺は彼に訊いた。
「何がお望みなんだ」
 彼は必要としている資料の種類と内容を、簡潔かつ的確に伝えてきた。
 この男、なぜそれらがここにあるのを知ってるんだ、という驚きもあるにはあったが、それ以上に、とにかく量が多すぎた。
全部はとても無理だ、と俺は断言した。全てを抽出していたのではまちがいなく、出勤してきた同僚たちと鉢合わせる。
「一番必要なものだけにしてくれないか」と、拒否を承知で言ってみた。彼は黙って俺の顔を見つめている。
 疑われているのは明白だったが、こればかりは事実だ。
 だてに重要機密の倉庫番をやってるわけじゃねえ、と俺は視線を返したが、今は逆光から抜けた場所に立つ彼の、息をのむほどの端正な顔立ちにあっさりと敗北してしまった。
 闇には浮き上がって見えそうな、磁器を思わせる肌色。
 密生した長い睫毛に縁取られた、琥珀に溶ける深紅の瞳。
 決して、中性的、という類ではない。声を聞かずとも、身体を見ずとも、まちがいなく男だとわかる顔だ。
 なのに、臆面もなく頬から首まで上気している自分がいた。彼についての事前の知識がなければ、こんな程度の反応で済んでいたものかどうか。
 それほどまでに、間近で見る彼の暗い美貌は強烈だった。
738ジュノン・スパイラル:2005/11/14(月) 00:04:04 ID:CaT63PKt

「では最初のものだけいただこう…残りは次の機会に」
唐突に、彼の声が耳に入ってきた。はっと我に返る。
「…ちょっと待て、次の機会ってあんたまた…」
「時間がないのではなかったか」
 …くそっ。
 俺は資料室に入り、要求された資料の写しを撮りにかかった。

 縮小して写し撮った十数枚を彼に手渡しながら、俺はこれっきりにしてくれと吐き捨てるように言った。
 神羅への忠誠心や義理立てをする気持ちなどこれっぽっちもなかったが、結果として抵抗もせず彼の言いなりになったということが、俺のささやかなプライドを傷つけていた。
 そして、不覚にも男に見とれてしまったということも。
 それを察したのかどうかは彼の表情からは全く読み取れず、その口からはただ一言、「すまない」という謝罪の言葉が静かに発せられた。
 対する言葉を見つけられないでいる俺を一瞥し、彼は現れた時と同様、ふわりと去った。
 
 …ああ、そうだ。通報を、しなければ。
 思うばかりで、身体は動かなかった。
 脳裏に焼きついた深紅の瞳が、身体中の神経を麻痺させてしまったかのように。

739名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/14(月) 02:49:20 ID:YJ9uVgxP0
>>ジュノン・スパイラル
(・∀・)イイ!
なんだこの静かな中に漂う緊迫感は!
それ以上に神羅リーマンを通して描かれる世界の姿が
細かくてリアルなのに読みやすいから自然と引き込まれてしまいます。
この先の展開について、なんだか色んな想像をかき立てられるんですが、
とにかく続き期待sage
740フィガロの動く城(仮)30:2005/11/14(月) 02:56:02 ID:YJ9uVgxP0
忘れた頃にやってくる、それがフィガロクオリティ(嘘)
>>557-560


----------
 鋭い視線が向けられ、思わず怯んでエドガーは一歩後ずさる。しかしそれが自分に宛てられた
ものではないことを、父王の次の言葉で知る。
「エドガーが私を討つ、これでいいか?」
 怯む息子のことなど意に介していないとでも言うように、スチュアートは息子の背後に立つ男に
声を向けた。少しの間をおいて彼は満足そうな笑みを浮かべながら頷いた。男の卑しい笑顔が
エドガーの頭に焼き付いて離れそうもなかった。
 悔しい。
 エドガーが剣を握る手に力がこもる。相手をこれほど憎らしく思った事が今まであっただろうか。
 しかし、そんな強い思いをうち砕いたのは父王だった。
「……私も命が惜しいのだ、息子とはいえただ討たれるというのも本望ではない。そこでどうだろう、
私にも抵抗の機会を与えてはくれまいか? 頭を下げよう、この通りだ」
 そういって、スチュアートはゆっくりと頭を下げた。思わぬ事に驚いたエドガーは視線だけでなく
身体ごと父王に向け、その姿に釘付けになる。
(父上……? どうして!?)
 背後にグウィネヴィアを人質にとって立つあの男が憎らしい。しかし、そんな卑劣な男にも頭を
下げた父王の姿は、エドガーに動揺をもたらす。
 悔しかった。
 一方、目の前で国王自らに頭を下げられた男は、愉快だと言わんばかりに高笑いを浮かべた。
「これはこれは! さすがのフィガロ王と言えども、死を恐れるということか! 構いませんぞ。
……私めはせいぜい、こちらから親子の決闘を愉しませて頂きますよ」
 許せない。
 エドガーが口を開くよりも数瞬だけ早く、その言葉に反応したのはグウィネヴィアだった。きつく
睨み付けようと首を回そうとしたが、顎にかかる男の手がそれを許さなかった。男はグウィネヴィアの
首筋に唇を当てながら告げる。
741フィガロの動く城(仮)31:2005/11/14(月) 03:02:36 ID:YJ9uVgxP0
「あと一歩と言うところで残念だったな、君が弓ではなく剣を選んでいれば、こうはならなかった
だろうに。ジェフリーも判断を誤ったか」
 グウィネヴィアは首筋に与えられる不快感と屈辱にじっと耐えた。救い以外の何かを求めて
スチュアートに視線だけを向けると、まるでその意図を察したように彼はゆっくりと頷いた。
 ふと、彼の発した言葉が頭の中で繰り返される。

『しかし私も命が惜しいのだ、息子とは言えただ討たれるというのも本望ではない。
そこでどうだろう? 私にも抵抗の機会を与えてはくれまいか? 頭を下げよう、この通りだ』

 顔を動かすことのできなかったグウィネヴィアは、スチュアートを見据え一度ゆっくりと瞼を
閉じた。
 頷くかわりに、閉じた瞼を開く。その奥にある瞳は分かったと告げていた。刹那、スチュアート
の表情が一瞬だけ和らいだように見えた。

 ――エドガー……。
    あのときの言葉、忘れないで。

 グウィネヴィアは祈るようにエドガーの背中を見つめていた。

「エドガー、剣を取りなさい」
 穏やかな声に導かれるようにして、躊躇いながらもエドガーの手が剣にのびる。ゆっくりと引き
抜いて、父王に剣先を向けた。正対したスチュアートは長槍を身体の正面で真横に倒した状態で
構え、槍を握る右手に左手を添えて目を閉じた。
 漂う闘気は偽りではなかった。父と自分の間に流れる空気が、一瞬にして凍り付いたような感覚
を覚えた。うまく息を吸い込むことができず、エドガーの額にうっすら汗がにじんだ。
742フィガロの動く城(仮)32:2005/11/14(月) 03:16:30 ID:Jd4eb/GK0
 父王が武器として槍を持つ姿を初めて見る。その迫力に気圧されながら。
(…………)
 おかしいと思った。
 エドガー自身、剣術と槍術を――機械いじりのように熱心とは言えないまでも――学んでいる。
その中で、こんな構えを教わったことも、また文献の中にも見たこともなかった。機関室の中枢、
いくら空間が広くあいているとは言っても、槍を身体の正面で真横に倒した状態からは突くにも
なぎ払うにも、次の動作に移る前に隙が生まれてしまうのではないだろうか? 視線だけを動かし
て周囲を見ながらそんな風に考えた。
 再び視線を正面に立つ父王に戻す。彼もまたゆっくりと瞼を開き、息子を見つめた。僅かに視線
を上に動かしたように見えた、その直後。
「行くぞ、エドガー」
「!!」
 言い終わると同時に、手にした槍を半回転させて跳び上がる。その姿はまるで――
(竜騎士の……靴!)
 巨大な機械設備が収められた機関室中枢、動力部を司る機械がひしめくその部屋の天井は高く、
跳躍には申し分のない環境だった。スチュアートは、事前にこうなることを予想していたのだと初め
て気づく。
「なんだ………!」
 背後で上がった男の声で我に返ったエドガーは剣を構え直した。槍を持ち高く跳躍した父王に剣
の攻撃など届くはずもない。軌道を追い、落下点に先回りして攻撃を加えるより他に術はなかった。
 ――違う。
 そうではない、とエドガーは首を振った。
 ――違う、違うんだ。父上の意思は……他にある。


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ID違うかも知れませんが、投稿者は同一ですよと念のため。
743名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/14(月) 07:36:08 ID:3X+gkLnh0
あえてジュノスパと呼ばせていただきますw
すごいカコイイ。
どういう方向にいくのかドキドキします。
フィガロさんも待ってました。
ジュノスパがいい刺激になって、書き手さんいっぱい来るといいな。
そして期待sage
744名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/15(火) 14:40:09 ID:Iogmj+LaO
新作イイヨイイヨー
フィガロ続編イイヨイイヨー
期待と保守のsage
745名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/16(水) 14:22:00 ID:+7BjweSRO
まずは保守
746ジュノン・スパイラル:2005/11/16(水) 22:16:18 ID:5qD6Zez20
>>729-731 >>735-738から続きます

 その日の深夜を過ぎて漸く、俺はエルジュノンのアパートに帰ることができた。
 扱う業務の多さと煩雑さに加えて、今朝の事件。脅されたとはいえ、機密情報を漏洩させたということが、抜けない棘のように心に刺さっていた。
 これでは闇市場でこづかい稼ぎにいそしむ奴らと大差はないどころか、俺の方が罪科は重い。
 …いや、罪の意識を感じているというよりは――情けない自分に幻滅しているのか。
 自分が現役だったら?
 右腕が動いていたら?
 武器を持たずに仕事をするなんてありえない。
 反撃のチャンスはいくらでも――と考えかけて、やめた。
 だいたい、現役の身体なら最初からあんな所にいるものか。
 馬鹿か俺は。
 いまだ前職に未練がましい自分を嫌悪しながら封印すると、とって代わってすぐに暗赤色の影と深紅の双瞳が浮かび上がってくる。
 身体も頭もぼろくそに疲れきっているのに、なぜか無性に攻撃的になっている自分に気づいた。努めて機械的にシャワーを浴びて、ベッドにばったりと倒れ込む。
747ジュノン・スパイラル:2005/11/16(水) 22:17:24 ID:5qD6Zez20
 彼との邂逅は、俺に心煩うものを増やしただけのように思えた。
 アバランチの掃討からセフィロス、古代種、そしてメテオ事件まで、関わったタークスたちが随時上げていた報告書の所在が、記憶の端にちらついていた。あれを精読すればあの時期、彼がどういった動きをしていたのかが容易にわかる。
 神羅屋敷を出た理由、後には使命を帯びて世界中を飛び回り、おそらくは闘いに明け暮れる日々の中で、出会った仲間たちと共に死線を越えそして――

 …俺は、彼の――何を思おうとしている…?

 ――寝てしまおう。明日だって仕事がある。考えてもどうにもならないことは考えない。今までも、数えきれないくらいそうしてきたじゃないか。
 乾き切らない冷たい髪のまま、俺は毛布にくるまって眠りに就いた。
 寝つきは悪くなかったが、激しく疲労している時に限って変な夢を見る、というのは誰にでもあるらしい。
 浅い眠りの中で俺は、白い肌に深紅の瞳、柔らかな薄い唇を持つ美丈夫に激しく欲情していた。

 ――当然、翌朝の寝起きの最悪なことと言ったら。
 なんてこった。
 いくら美人とはいえ、よりによって俺よりでかくて腕に覚えもありそうなしかも男。
 自分で自分の身体が信じられなかった。受けた衝撃はある意味、右腕が一生治ることはないと宣告された時以上だった。
748ジュノン・スパイラル:2005/11/16(水) 22:22:00 ID:5qD6Zez20
 
 それから数日が過ぎた。
 彼の「来襲」はなかった。
 次の機会に、という言葉がかなり引っ掛かってはいたが、来ないのならそれに越したことはない。
 けれど、後ろから銃を突きつけられるなんてのはもう2度とごめんだ。万が一を考えて、久しぶりに銃を持ち出してみた。と言っても護身用の、手のひらサイズのリボルバー。
 引退後は丸腰で仕事をするのが普通になっていたし、重要機密の倉庫番とはいえ所詮は支社の事務屋。命を狙われるような物騒なこともなく、自宅の引き出しの奥で眠りっぱなしの代物だった。
 正直、ないよりはましかという程度だが、とりあえず寝る前にメンテナンスを試みた。
 …あぁあぁ、バレルにサビ。チャンバーには火薬の残りカス。シリンダーとの隙間にはなんと綿ぼこりがはさまっていたり。
 こんなにほったらかしにしていたのは、俺が元々銃の使い手ではないせいもあるにはある。
 が、さすがに見ていて辛くなった。これはそのまま、引退直後の投げやりな俺の姿を彷彿とさせる状態だった。
 ガンオイルはどこだ、クリーニングロッドは、などと夜中にごそごそやり始め、よしできあがったと構えてみれば何か金属の擦れる音。これはパーツのどこかに余計な隙間がある証拠だ。やれやれと再度やり直し。
 豆鉄砲ひとつまともなコンディションに持っていくのに、夜が明けてしまいそうだった。

 内勤が堂々とヒップホルスターを装着するわけにもいかず、翌朝、俺は眠い目をこすりながら、デスクの一番上の引き出しを空っぽにして、そこに銃をしまい込んでみた。
 これじゃ緊急時にはどうしようもない。ホルスターをつけて上着を着込むしかないかと考えながら、ふと窓の方へと目をやったそこに――あの朝と同じ、逆光にひっそりと佇む彼がいた。
 眠気がきれいさっぱり吹き飛んだ。
749693:2005/11/16(水) 22:26:13 ID:5qD6Zez20
本日 以上です
テンポたるくてすいませんです orz
気長に読んでいただけるとチョトうれしかったりします…

イイと言ってくださってる皆さん
ものすごくありがとうございます
めちゃくちゃ励みになってます
今後もよろしくお願いしますです
750名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/17(木) 17:14:21 ID:9nVVUmZ60



ホモかよ!
751名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/17(木) 18:30:04 ID:BSoWt6du0
でも衝撃受けてるみたいだから

ほ、ほもの人ではないと期待したい・・・
752名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/17(木) 18:56:21 ID:wVXHx6eFO
ジュノンスパイラルイイ!




ホモには引いたケドナー
753名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/17(木) 20:46:21 ID:/3qVl+1X0
>>ジュノンスパイラル

けっこうかっこよさそう?なのにタークスに未練がましくて
でもリーマンの仕事はちゃんとやってて
けどホモな夢みちゃってうろたえてたりとか
それでも銃の手入れは普通にやってたりとか
なんか好きだこの兄さんw
754名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/18(金) 17:34:27 ID:fHZSqUYEO
とても楽しく読ませてもらった
しかしホモなのか…
755名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/18(金) 17:54:54 ID:0qRmMs0Z0
乙です。銃の詳細な描写がカコイイ!基本に戻って欲情はやめた方がいいです。
鯖そのものがエロ・下品禁止ですので…。でもいつも楽しみにしてますよ。がんがってください。
756ジュノン・スパイラル:2005/11/19(土) 23:52:36 ID:trSbvKZ40
保守兼ねて少量ですいませんが貼ります
>>729-731 >>735-738 >>746-748から続きます

 絶対に遅い、とわかり切ってはいたが、銃を取り出すために精一杯の早さで引き出しに手をかけた。その時点で既に、組まれていたはずの彼の右手にはオートマティックが握られており、照準がぴたりとこちらに合わせられていた。
 恐ろしく早い。しかも衣擦れの音すらしなかった。その技量はおそらく、現役タークスどころかソルジャークラス1stたちのはるかに上を行く。
 紛うことなく、セフィロスと闘った男だった。悔しいが、正直俺などの歯が立つ相手ではない。
 再び手を挙げかけた俺に、彼はゆっくりと呟くように尋ねてくる。
「…残りの資料をいただけるだろうか」
「…いやだ、と言ったら…?」
「……」
 彼が何かを思うように目を閉じたのが見えた。こんな時に。
 構えていた銃が静かに下ろされ、右手が腰の辺りを通っただけで銃はもうその手になかった。
「撃たないのか?」
 俺の挑発もどきは無視して、彼は半ば独り言のように問い掛けてくる。
「……所詮は神羅がおまえの居場所か」
 ――こめかみの辺りが、ちりりと痛んだ。
「…どういう意味だ」
「…言った通りの意味だが」
757ジュノン・スパイラル:2005/11/19(土) 23:54:04 ID:trSbvKZ40
 ――こいつ…。
「今日は通報する、覚悟しておけ」
「好きにしろ」
「…2度と来るなよ」
「それは約束しかねるな」
「…舐めてるのか?」
「また来る」
そう言いながら彼はゆっくり、そして堂々とオフィスの入口に向かって歩き始めた。
「ちょっ…待てよ!」
「…ふ…来るなと拒んで待てよと止める…悩むところだな」
 入口のガラスドアの前で立ち止まった彼の呟きには、嘲笑うかのような響きが含まれていた。
「ふざけるな!」
引き出しを乱暴に開け銃を取っつかみ、たった今オフィスを出た彼を追って通路に走った。
彼の姿は既になかった。
758名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/20(日) 00:00:55 ID:trSbvKZ40
読んでくださってる皆さん ありがとです

>>755
dクスです
>>1をしっかり読みますたのでダイジョブだと思います
欲情てのがまずかったですか すんません
ただアレ以上の表現はないかと思いますので
ホモかどうかはこのレスで書くのは簡単ですが
それでは小説になりませんので
先を読んでいただければと思いながら本日は引っ込みます
ありがとうございますた
759名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/20(日) 00:14:02 ID:0CNcG0tq0

× アレ以上の表現はないかと

〇 アレ以上の表現はもう出てこないかと

orz
760 ◆Vlst9Z/R.A :2005/11/20(日) 03:03:21 ID:NqkLJxvU0
>758
ひょっとして病院に運ばれた子供のパパはどっち?の話というか
某闇医者の元カノみたいなオチが待っているのかー!
と思いつつ久々の保守
761名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/20(日) 20:14:59 ID:OCaa1oO1O
とても楽しく読ませて頂きました、銃の表現が凄くいいどすね!
762名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/21(月) 22:57:48 ID:IT1e6S8RO
保守
763名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/22(火) 00:18:46 ID:sHqw19dz0
ものすごく不安なのでage
764名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/22(火) 02:21:13 ID:5QeVNfTo0
>>ジュノン・スパイラル
静かな戦い、格好((・∀・)イイ!
悪夢とか757での問答の描写とか、心情の矛盾とか混乱とかが
いい具合に描写されていて良かったです。
(747の描写は、主人公が受けた衝撃を読み手も一緒になって受けたので思わず
巧いなとw)
765名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/23(水) 03:07:15 ID:tJ9agdvW0
保全
766名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/23(水) 23:36:19 ID:TTpUllQN0
色んな作品を楽しみにしつつほしゅ
767ジュノン・スパイラル:2005/11/24(木) 23:01:38 ID:9Tn8TSp00
>>729-731 >>735-738 >>746-748 >>756-757から続きます

 午前中の仕事が長引き、ほとんど時間外の社員食堂で俺は黙々と定食を食っていた。ひところの物資不足は解消されつつあるようで、とりあえずきちんとした食事が供されている。
 外はもう、昼休みを終えた作業員たちが修復工事を開始していて、ガンガンと金属を打つ激しい音が食堂まで響いていた。いつもならやかましくてたまらないその音が、今はどうでもよかった。
 仕事をしていても食っていても、今朝の彼の言葉が頭から離れなかったからだ。
 ――くそ。
 俺の居場所が神羅だから何だと言うんだ。
 タークス崩れの次はそれかよ。1回来るごとに俺を怒らせる算段か?
 最初の日は「すまない」などと殊勝な台詞も口にしていたのに、あんたを見損ないそうだ、と思いかけて唐突に気がつく。
 何だよ「見損なう」って。ちがうだろう。俺は最初から、彼を見込んでなんかいやしない。見損なう以前の問題だ。
 ……落ち着け俺。
 内通者を必要とする時の常套手段だ。相手の弱味を握り、巧みに突いて、動揺を誘って味方につける。現役時代は競合企業の管理職クラスによく仕掛けた。特に珍しくも難しくもない、普遍的な手段。――まさか自分にそんなものを仕掛ける奴が現れるとは思ってもみなかったが。
 だが、彼は出だしでまちがっている。
 俺の弱味と言えば、最初の日に資料の一部を渡してしまったことくらいだが、彼はそこを突くことができない。突けば残りの資料を手に入れることがほぼ不可能になる上、俺の出方によっては彼自身の所業が明るみに出る。
 
 ――確かに社会的・人道的に許せない部分を併せ持つ企業ではある。が、慰留や配置転換を抜きにしても、俺は神羅に残ることを自分で選択した。調査課の現場にはもうもどれないが、他にも仕事はたくさんある。
 そう、神羅に仕事があったから。だからここにいる。それだけだ。
 あんな風に言われる筋合いはない。

――ではなぜ、かくも彼の言葉が頭にこびりついて離れないのか――

 その理由を考えるのは、少し恐かった。
 彼の言葉を全否定しながらも、心に掛けた覆いを全て取り払わなければ答えは出ない、そんな気がしていた。
768ジュノン・スパイラル:2005/11/24(木) 23:06:42 ID:9Tn8TSp00
 また来る、という言葉に偽りはなく、俺が銃を用意した日から、彼の日参が始まった。
 早朝訪れては資料を要求し、その度に俺はそれを撥ねつける毎日。
 繰り返される、短い台詞の応酬。
 俺が銃に触れる気配だけで抜かれる彼の銃。殺気がないのはわかっていたし、俺が銃に気を向けなければ彼もまた何もしないのだが、それでは俺の気が済まなかった。
 何より彼は、彼自身が意識しようとしていまいと、もうひとつの、ある意味銃より効果絶大な武器を持っていた。
 光の加減で時には琥珀に、時にはより紅く、そして時にはそれに金色が差し込むあの瞳。真っ直ぐ視線を合わせてしまおうものなら、その夜は必ず後悔するはめになることを俺は身を以って知っていた。
 さすがに最初の日の夜のような、砂を吐くが如き淫夢を見ることはなくなったが、それを抜きにしても彼はよく夢に現れた。
 誘惑に濡れた紅瞳の夜もなくはなかったが、それよりも、むしろ落ち着きと思慮深さをうかがわせる彼の視線の方が、今の俺にとってははるかに問題だった。
 彼はほんの少し小首をかしげて、いつも短く、そして静かに問い掛けてくる。
 おまえの居場所はそこなのか、と。
 俺は応えることができなくて、ただ彼を見つめるだけ。
 彼はゆっくりと踵を返して去って行く。
 オフィスの朝と同じ光景で目が覚める。
 艶やかな彼と思慮深げな彼、どちらにしても結局、その眼差しに見入って終わる自分の間抜けぶりには、ほとほとあきれ果てていることも確かだった。
 それでも気を取り直して出勤すれば、オフィスには現実の彼が降って湧いたり待ち伏せていたり。
 朝の小バトルと夜の夢に挟まれて、俺は1日中、暗赤色の影がついて回っているような錯覚に捕らわれていた。
769ジュノン・スパイラル:2005/11/24(木) 23:11:47 ID:9Tn8TSp00
 そうして、今朝も俺は飽きずに繰り返す。
「撃つなら撃て」
 やや腐りかけてはいるが俺にも多少のプライドはある。
 脅されてあんたの言いなりになるのはごめんだ。
 彼は既に銃を抜くことすらなくなっていたというのに、正義漢もどきの虚勢を張る典型的小市民のような自分の台詞が、次第に情けなくなっていく。
 否、身体の一部をぶっ壊した今の俺に、使える武器などそう多くないから仕方がないんだ、と、変な後付けをしてはその情けなさを肯定する自分がまたさらに情けなくなる。
 そんなループをさまよう俺を知ってか知らずか、彼はその日に資料を手に入れられないとわかっていても、あの極上の赤い瞳を伏し目がちに隠して、何も言わずに去って行くだけだった。
 
 それからさらに数日後のことである。
 またしても要求を撥ねつけた俺に、彼はいつものように静かに、しかしいつもとはちがうことを問い掛けてきた。
 見返りが必要か、と。
 以前の仕事柄、感情抑制の訓練は受けていたし、激情も激昂も、少なくとも今仕事をしている俺には無縁のものだと思っていた。
 けれどもこの日の彼の問い掛けだけは、俺の感情の枷をはずすのに十分な効果があった。
「見下されたものだな」と俺は即座に噛みついた。
「タークス崩れのただのリーマンがプライドや信念持って仕事してちゃおかしいか?その辺のごろつきと一緒にするなよ。見返り?俺がそんなもの要求するとでも思ってたのか。そんなに資料が欲しけりゃ、」と勢いよく放ちかけた言葉の続きを、彼はすかさず引き取り、
「欲しければどうすればいい…?」と再び問い掛けられてしまった。
 ぅ、と詰まった俺を、けぶる琥珀の紅い瞳が真っ直ぐに見つめている。穏やかだが、真摯な表情を映し込んだそれは、俺が思わず視線を泳がせてしまうほどの威力があった。
こんな時にそんな目で相手を見るのは、あんたの戦略なのか?
 気がつけば額に手のひらを押し当て、下を向いて目を閉じている自分がいた。
 …カンベンしてくれ。
 
 今頃気がついた。
 俺に弱味があるとすれば、ひとつは紛れもなく彼の眼差しだということに。
770ジュノン・スパイラル:2005/11/24(木) 23:17:47 ID:9Tn8TSp00
>>769で誤字発見しますた

× 極上の赤い瞳
〇 極上の紅い瞳

orz

脳内変換でおながいします
今回もご精読ありがとうございますた
771名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/24(木) 23:22:39 ID:6wky8qv7O
>>770
GJ!!
初めてリアルタイムで読ませてもらいますた

続き期待してまつ
772名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/25(金) 00:36:59 ID:VICobda40
>>ジュノスパ
今日は長くてうれしい!

悩んでループしてる兄さんがたまりませんww
どうでもいいけど書き手さんは男性でしょうか?
なんかちょっと気になるw
続き楽しみにしてますよ〜!
773名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/25(金) 18:30:10 ID:u0ryjVcD0
>>ジュノンスパイラル
イイ(・∀・)!

タイトルにスパイラルとつけてあるのが何となくわかってきたw
774名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/26(土) 22:08:43 ID:1Xl5Uap20
775名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/26(土) 22:19:07 ID:WiLqf8Yp0



じゃないみたいですね<ジュノンスパイラル
けど今後の関係はどうなるんだろう
ワクテカで待ってみる
776名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/27(日) 14:28:56 ID:bGSk7HWU0
保全
777名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/28(月) 09:14:14 ID:TVCdNndH0
保守
778名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/29(火) 21:06:47 ID:1iKOdLa70
ほぼまりもんば
779名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/29(火) 22:29:17 ID:DPEc4LW20
>>778
めるとだの
780名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/11/29(火) 22:40:50 ID:bsBx2Zr70
何か召喚されそうでこえーな
781名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/01(木) 19:22:14 ID:+PK9qfxZO
保守
782名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/02(金) 20:28:55 ID:IaDRHqsp0
ほしゅ
783名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/02(金) 23:57:19 ID:A1fe52vy0
スパイラルな兄さんを密かに待っているんですが
784名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/03(土) 21:29:03 ID:FnklDvtD0
海底から2番目なのであげときます
785名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/04(日) 18:46:21 ID:MRcN97uOO
まったり保守
786名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/04(日) 21:08:27 ID:kK0DHYto0
すんません
>>769で脱字をハケーンしますた  orz

× 激情も激昂も、少なくとも今仕事をしている俺には無縁の〜…

〇 激情も激昂も、少なくとも今の仕事をしている俺には無縁の〜…

脳内校正でおながいします
そして続きを
787ジュノン・スパイラル:2005/12/04(日) 21:13:25 ID:kK0DHYto0
>>729-731 >>735-738 >>746-748 >>756-757 >>767-769
から続きます

「…明日も…、明後日も…、俺が資料を渡すまで毎日来るんだろうな、あんたは」
 下を向いたままで訊くと、「そのつもりだが」と彼の呟くような返事が聞こえた。
「……」
 俺は天井を仰ぎ、ため息をついた。そして疲れた頭で言葉を繋ぐ。
「せめて……そんなにも資料が必要である理由を、きっちりと教えてくれ。…これを見返りの要求と思うならそれでも結構だ」と。
 この申し出が既に、彼に対する敗北であることは十分すぎるほどわかっていたが。
「欲がないのはわかったが……面倒なものだな」と彼は呟き、目を伏せた。
「日参するよりは面倒じゃないはずだ」などと、往生際悪く混ぜっ返す。
「…確かに」
 言葉ほどに面倒がっている様子はなく、彼は口元に穏やかな微笑を浮かべて肯定した。
 一瞬、いっそこのまま、彼の言いなりになるのも悪くないかもと思わせるほどに、それは優しく魅惑的だった。
 ――彼に会って以来、俺は本当にどうかしている。
788ジュノン・スパイラル:2005/12/04(日) 21:15:36 ID:kK0DHYto0
 最初の日に要求された資料の数々を、俺はまだ覚えている。ライフストリーム、魔晄、中毒、マテリア、ガスト、古代種、宝条、セフィロス、そしてジェノヴァ―――大分類はこんなもので、そこから中分類、小分類と、彼の要求は細かく、かつ大量になっていた。
 それでもとにかく、星を救った彼のことだ。正直言えば、量的にも質的にも落ちた今の上層部などよりはるかに有意義に使うだろうし、それは実際、きっと多くの人々のためになるのだろうとは容易に想像できる。
 けれど、何も知らずにそれら資料の横流しをさせられる俺は?
 壊れた企業の壊れかけた歯車は、彼にとってもただの都合のいい歯車なのか?
 誰が俺を認めてくれる?
 ただでさえ軽んじられている、事務屋兼倉庫番の背徳を。
「…俺は…」
 言葉を続けようとしたその時、オフィスのどこかで物音がした。誰かが出勤してきたにちがいない。
 はっとした俺とは対照的に、目の前の彼はあわてる様子もなく、そばのデスクにあったメモパッドに素早く何かを書き込んでよこした。
「私はここにいる…話を聞きたければ来るといい」
 道を表す簡単な線と、それに付随した流麗繊細な筆記体に見入ったわずかの間に、彼はもう姿を消していた。
 張りつめていた空気が一気に緩んだのがわかる。大きなため息をつき、ゆっくりと肩を落としたところに隣の部署の女性社員が入ってきた。――危なかった。
 俺よりいくつか年下の彼女は、パーティションで仕切られた向こう、経理課の所属だ。愛想よく朝の挨拶をしてきたところを見ると、彼はいつも通りに首尾よく去ったのだろう。挨拶を返しながら、もらったメモをさりげなくポケットにしまい込む。
 そうして、最早習慣になりつつある不味いコーヒーを淹れながら、言いかけて言えなかった言葉を心の中でそっと反芻している自分がいた。
789ジュノン・スパイラル:2005/12/04(日) 21:18:26 ID:kK0DHYto0
 ――そうだよ。
 あんたの言う通り、俺の居場所は、ここ。
 ここしかなかったんだ。
 タークス時代から、もう、ずっと。
 ここでしか生きられないように、いつの間にか自分を馴らしてしまったのかもしれない。
 何だかんだとゴネながらもこうして事務屋になって、神羅に居残っているのが何よりの証拠だろう。
 ――プライド?信念?
 そんなもの、今も昔もいちいち考えたことなんかなかった。
 タークス時代はそんなこと考える暇もなかったし、事務屋になったところで、機密書類の重要性を理解してはいるけれど、プライドや信念でそれを守るような気持ちなんて端からなかった。
 後方支援でもいい、もしかしたらいつかは復帰できるかもしれないなんて、前職への未練をずっと引きずりながら、毎日惰性で仕事を続けていた。

 ――本当は、わかりきっていた。
 毎朝のバトルは彼に対する、そして何より自分に対する、単なる言い訳と格好つけだということが。
790ジュノン・スパイラル:2005/12/04(日) 21:22:46 ID:kK0DHYto0
 業務の前倒しに次ぐ前倒しに昼休みさえも削って、俺は彼に会うために、なんとか夜中になる前に仕事を終わらせた。
 メモの場所は、アンダージュノンから南に少し下り、最初に見える森の入り口付近。
 あの辺りは以前、コンドルフォート侵攻のためによく精査していた。ライフストリームの噴出で未だに公道が寸断されているものの、他に使える道や地形はいくらでも知っている。
 魔晄エンジンを搭載したバイクや車はもう使えないので、空港の整備員が港内移動に使っていた自転車を無断借用した。今や使う者すらいなくなった一般兵の控え室に突っ込んでおいて、あとは直通エレベータでアンダージュノンに降りる。 
 少し肌寒く感じる夜風に前髪とネクタイと上着の裾を飛ばしながら、俺は森へと急いだ。
 左手には黒々とした山脈、右手には暗い海。聞こえるものと言えば遠い波音と、ざわざわと草木を揺らす風の音だけだ。下弦の月が冷たく白い光を投げかけてくれてはいたが、一般人ならさぞかし肝が冷えるような夜半の道のりである。
 ジュノン近辺には手ごわいモンスターはあまりいないが、ライフストリームの影響で、変種や亜種が出現しているとの話は聞いていた。一応、件の銃を持ってきてはいたものの、運良くそれを使うこともなく、ほどなくして木々の合間に小さな明かりが灯る廃屋を見つけた。
 自転車を降りて近づくと、雨ざらしの一枚板張りのドアがノックするより先に開き、漏れ出でる明かりの真ん中にひっそりと彼が立っていた。
791名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/04(日) 21:28:01 ID:kK0DHYto0
ご、5KB使わせていただきますた
続けて落としたかったんですが
この次の段落が長いつーか切れ目が少ないんで
本日は以上です
今回もご精読ありがとうございますた

>>772
男です 変なヤツですんません orz
792名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/04(日) 23:50:54 ID:MRcN97uOO
>>791

ついにジュノンから出て、いよいよって感じだな
793名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/05(月) 00:32:59 ID:bZaGRS310
ジュノスパキテタ━━(゚∀゚)━━!!
>>791
乙でっす
次回ヴィンセントと兄さんの本格的なやり取りが?
ワクテカで待ってます
794名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/05(月) 18:46:35 ID:ateIIuow0
>>ジュノンスパイラル
続きキターー(・∀・)!
一人称で心理描写入ると、
省略のしどころが難しくて大変なんだよね。どうしても長くなる。
書いた経験あるからすごくよくわかります。
でもペース上げようとかヘタに小細工しないで、
ゆっくり書いてほしいです。
あ、でもヴィンセント好きなんで出番たくさんあるとうれしいw

あと、個人的にはトリプつけてもらった方がわかりやすくていいんですが・・・
795名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/06(火) 01:26:52 ID:v9hwiw1R0
>>ジュノン・スパイラル
いよいよ物語が展開しそうですね。
それにしても葛藤要素満載で、読んでいると妙に応援したくなります。
続き期待sage。


気が早い?かも知れませんが
次スレのテンプレに>>696も加えてホスィーと言ってみる。
796名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/06(火) 08:55:47 ID:0vGWtKov0
>>790がうまいなと思った。
「コンドルフォート侵攻」とか、ゲーム本編の使い方みたいなの。
あとジュノンの中とか、南へ向かう時の風景とかゲームそのままで何かうれしくなるw
自転車置いた控え室って、クラウドが神羅兵の服に着替えたとこだよね?
797名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/07(水) 13:33:52 ID:XP8Jsf0bO
保守
798名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/08(木) 15:10:14 ID:BGKQcNsgO
保守
799名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/09(金) 21:23:30 ID:/7TJQirIO
るくれつぃあ・くれしぇんと保守
800名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/10(土) 19:17:18 ID:/g5BAcv10
800記念あげで保守
801名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/11(日) 19:42:20 ID:RO3gU1LvO
保守
802名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/12(月) 20:08:13 ID:KZjbJ5D10
 
803名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/13(火) 21:01:07 ID:ZNz/in5P0
DCルクレツィアさん美人だったなあと、ほーしゅ
804名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/14(水) 17:41:27 ID:fX/VkHuiO
保守
805名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/15(木) 21:34:36 ID:BMqNf9RPO
保守
806 ◆Junon.Y37Y :2005/12/15(木) 23:34:17 ID:QLaVnefQ0
>>729-731
ジュノン・スパイラルです
なんかよくわかんないんですが
わかりやすいということでしたらトリプつけてみます
>>735-738
>>746-748
>>756-757
>>767-769
>>787-790
から続きます
807 ◆Junon.Y37Y :2005/12/15(木) 23:36:44 ID:QLaVnefQ0
 コンドルフォートの人々の狩小屋、あるいは避難小屋だったこの廃屋は、ジュノンに一番近いせいもあってか、侵攻以前に早々とうち捨てられたものだった。
 そのため兵が叩き壊すこともなく、朽ちた外見の割には中が比較的整っていて、手を入れればまだ十分に使えそうな造りをしていた。
 床板はなく、土間そのままの中央に古びた木製のテーブルがあり、その上に、彼のものであろう、暖かな光をまたたかせる小さな携行用ランプが置かれている。周囲には木製の、やはり古びた椅子が何脚か。
 泥とほこりで汚れた窓の下には、あちこち破れた簡易寝台がある。奥の壁際には小さな暖炉が作りつけてあり、今はきちんと火が熾されていて、人心地のつく明るい炎が踊っていた。
 彼は目立たない手振りで俺に椅子をすすめてから、そのまま暖炉の前にかがみ込んだ。俺はなるべくがたつかない椅子を選びながら、彼は何をしているのかといぶかったのも束の間、コーヒーのいい匂いがあっという間に辺りに漂い始めた。
 戸惑う俺の目の前に、彼は湯気の立つホーロー引きのごついカップをことりと置き、暖炉のそばの椅子に腰掛けた。
 
 …て、ちょっと待ってくれ。
 いきなり客扱いか?
 …ええと、と、とりあえず何から話せばいいんだ。 
 訊きたいことはたくさんあったし、話す順番まできちんと決めていたのに。
 彼が淹れてくれた1杯のコーヒーで、俺の計画はすっかり立ち消えてしまった。
 しっかりしろ俺。まずは礼を言うんだ、礼を。
808 ◆Junon.Y37Y :2005/12/15(木) 23:40:52 ID:QLaVnefQ0
 ありがたくいただくよ、などと、努めてさりげなさを装いながら、俺は夜風で思いのほか冷えていた指先をカップのぬくもりであたため、そして熱く香り高い液体を口に含んだ。職場で毎日飲んでいる業務用とは大違いだった。美味い、と素直な台詞が口をつく。
 その一口で何とか落ち着きを取り戻し、俺はやっと彼に質問する余裕ができた。
「…俺もだてに調査課だったわけじゃないし、今じゃ事務屋に資料室の倉庫番も兼ねてる。
あんたが最初の日に要求した資料の数々…あれが最終的に何を示すのか、どこに帰結するのかはおぼろげながらわかるつもりだ。
…闘いは全て終わったはずなのに、なぜあんな資料が大量に必要なんだ…?
…もしかして、あの黒い病に関することなのか…?」
 黒い病に限らず、星と、それに関する調査をしているという彼の話は、いっそ弊社の社長より至極真っ当で、この世界に生きる者なら誰でも思わず頷き共感してしまうような内容ばかりだった。
 さらに彼は、黒い病がミッドガルでは既に「星痕症候群」と名付けられていることや、ジェノヴァが古代種に与えたウィルスとの関連性やその考察、忘らるる都の小さな異変等々、他のいくつかの具体的で興味深い事例を挙げた後、続けて驚くべき事実を口にした。
「…セフィロスは完全にこの星から消滅したわけではない…もちろんジェノヴァも」
「!!……ジェノヴァ…はともかく……奴は……、倒したんじゃ、なかったのか…?こっちに上がってきてる報告書にはそんなこと全然…」
「…確かに肉体は滅した…しかし、不死身をもたらすジェノヴァと融合した思念が気になる…あれがそう簡単に消えるとは思えない」
809 ◆Junon.Y37Y :2005/12/15(木) 23:42:07 ID:QLaVnefQ0
 息を呑む俺とは対照的に、彼は暖炉の火掻き棒を手にとり、静かに火を掻きながら話を続ける。白い横顔と紅の瞳に火のゆらめきが映えて、こんな話を聞いているのでなければまたもや見とれてしまいそうだ。
「…そんなものがライフストリームに紛れた以上、余計厄介なことになる可能性はある…星痕もおそらくは…」最後の方は呟くように消えた。
それらをさらに詳しく調べ、検証し、そして次の調査に繋げるためにどうしても、神羅に蓄積された様々なデータが必要だった、と彼は言った。
彼の話を聞くほどに、機密の横流しなどより一緒に行きたい、行ってさまざまな調査を助けたい、行けたらいいのにという気持ちでいっぱいになっている自分に気づいた。新たな居場所ができるかもしれないし、それは、少なくとも誰かの役に立つことにはちがいないのだ。
が、武器もろくに持てない壊れた身体のオフィスワーカーが、彼のような行動をする者にとってはどんなに足手まといになるかも、当の自分がよく知っていた。
――やはり俺には、横流し程度が似合ってるってことだ……。
810 ◆Junon.Y37Y :2005/12/15(木) 23:45:24 ID:QLaVnefQ0
 彼は暖炉の内側から、細長い注ぎ口を持つホーロー引きのポットを取り出し、俺におかわりと、そして彼の1杯目を注いだ。新たに広がる芳香が気持ちよく鼻をくすぐる。
 穏やかな静寂は、彼の唐突な話題の変換で破られた。
「…リーブを…知っていると思うが」
 …何だって?
「?都市開発部門統括…で、ええと、最終的にはあんたたちの仲間になってしまった…?」
 彼は小さく頷いた。しかしまた、ずい分と繋がらない名前を持ち出してくれる。
「社員として重役の名前を知っていた、という程度だ。配下にいたこともないし…」
「おまえは以前、ミッドガルの資料室にいたのではなかったか?」
「…ああ、それは…。短期間だけどリハビリを兼ねて、62階用に延々と文書作成をしていた時期はある。
市長みたいに腐っちまいそうですごく落ち込んだけど、業務命令だったしな…。
接触があったとすれば…都市開発系の何かをまとめたかもしれない…いや、よく覚えてないな…数ヶ月後にはこっちに転勤だったし」
「ケガのために退職を願い出るも、慰留を受け入れた後は不本意な配置転換…そのためか神羅に対してやや反抗的…」
 ――全くその通りだが、くそ面白くもない評価を統括はいつの間に、と思いつつコーヒーを一口すする。
「…そんな背景の人物なら、事情を話せば協力してくれるかもしれない、と」
 俺はふん、と鼻を鳴らして苦笑した。
「内通者にするにはうってつけの経歴ってとこか」
「そういう意味ではない…誤解しないでほしい」
 火を見つめながら淡々と語っていた彼が、この時だけは視線をこちらに向けた。その曇りがちな表情に少し驚いたが、彼にとって俺は内通者以外の何ものになれるわけでもない。そんな目で見るなと言いたかった。
 毎朝のバトルでも感じていたことだが、彼からは時々、何かの拍子にとても繊細であるかのような印象を受けることがある。星を救った者たちの1人、という豪気なイメージからは程遠いというか、そんな風に思ったことが幾度かあったのは確かだ。
 機嫌を損ねたのでもあるまいが、再び火を見つめて黙り込んでしまった彼に、今度は俺の方から切り出してみた。
811 ◆Junon.Y37Y :2005/12/15(木) 23:51:23 ID:QLaVnefQ0
「…統括経由なら、最初の朝にいきなりあれはない。…本当にびっくりしたんだ」
「…人相風体がよくわからなかったのが大きな理由だ…
20代後半、黒髪に、灰色の縁取りがある少し風変わりな黒い瞳…
聞いていたのはそれだけで、背後を取ったのでは瞳の確認はできないし…ああするより他になかった」
「何か俺を怒らせようとしたのは?」
「瞳が黒なら元ソルジャーということはありえない。他に作戦でケガをするといえば一般兵かタークスくらいのものだが…おまえの落ち着きぶりはどう見てもタークスのそれだった。
正直、元とはいえタークスに良い印象はない…
すまないとは思ったが、協力を依頼する以上、どれほど冷静でいられる人物なのかを試させてもらうつもりでいた」
「…銃を押し付けてきた時はさすがに冷や汗が出た。はっきりと殺気を感じて…」
「マガジンは抜いていた」
 銃に関してはあっさりと、何ごともなかったかのように彼は言い、カップを口に運んだ。
「…ち」
 俺はテーブルに左肘をつき、額に手を当てて目を閉じた。
 それでは彼は、最初からあそこで銃を使う気など全くなかったのだ。しかも今になって思えば、彼は銃を手にした時に限って逆光に立っていた。
 それはたぶん、マガジンのエンドが見えないことを俺に気づかれないようにするためだ。
 素人向けの初歩的ブラフにまんまと引っ掛かった自分が恥ずかしいやらおかしいやらで、いつの間にか俺はくつくつと笑い出していた。
「俺はあんたのおめがねに叶ったってわけだね。…統括の代わりの情報源として」
「代わり、とは思ってない…資料の情報量に関してはむしろ、それ専門に扱っているおまえの方がリーブの上をいくだろう。しばらく迷惑をかけると思うが…引き受けてくれるだろうか」
「あれだけ連日押し掛けておいて今さら神妙な台詞を言うな」と俺はまた少し笑ってしまった。
812 ◆Junon.Y37Y :2005/12/15(木) 23:56:24 ID:QLaVnefQ0
「…まあいいよ。…あんたが言った通り、俺の居場所は神羅しかない…
そんな俺がこれからやることは、会社に対する裏切りで…
ついでに言えば、誤解だろうが統括の代役だろうが俺はあんたの内通者ってことになる……
でも、あんたがやってきたこと、これからやろうとしてること、それから……その……あんた自身のこととか……、
いろいろ…めちゃくちゃ気になってることも確かだ。
俺はそれを、その……ええと……あんたのそばで……見ていたい……。
そしてできれば…これからの自分のことも、少し…考えてみたいと思う……」
 何だか次第に顔が赤くなっていったような気もするが、とにかく、言いたいことは全部言った。
 彼は黙って聞いた後、何かを思い出すかのように目を閉じ、低く穏やかに言った。
「…社員のせいか…昔のリーブと似たようなことを言うのだな…」
「え…?」
「いや…すまない。協力を感謝する」
 ――契約成立、ってとこか。
 2人ともしばらくは黙って、揺れてはぜる炎を見つめながらコーヒーを飲んだ。朝のような緊張感は皆無だ。
 ふと家の中を見回せば、ここが意外に居心地がいい空間であることに今さらながら気づく。隠れ家という言葉がしっくりきそうな、古くて小さくて暖かい家。土間に床など張ったら、そのまま住み込んでしまいそうだ。
「…ここ…また来てもいいか…?」
「私の家というわけでもないからな…許可は必要ないだろう」
「そうだな…好きにさせてもらうよ。あんたに会えることもあるだろう?」
「…いつもいるとは限らない」
 ――そっけない台詞が続けて繰り出される。契約は成立しても、馴れ合いは無しってことか。
 上等だ、と言いたいような、少し寂しいような、両極入り混じりの複雑な気持ちになる。
 とりあえず言われっぱなしもちょっと癪だ。「期待はしてないさ」と、肩透かしのつもりで言ってみた。
 彼は何も言わずに目を伏せ、ほんの少し小首をかしげて、ふ、と笑った。
 何度か見せてくれていた、優しい微笑だった。
813 ◆Junon.Y37Y :2005/12/16(金) 00:00:56 ID:QLaVnefQ0
以上です
今回もご精読ありがとうございますた

>>792-796
感想・アドヴァイス他dクスです
つたない長文で申し訳ないですがもうしばらくお付き合い下さい

>>796
その通りです
つか無断借用なのでその辺に置いとくとヤバスかなと思ったんで…w
814名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/16(金) 00:20:55 ID:fyemMWEfO
>>813
毎度乙です
この小説の雰囲気が好きだ
815名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/16(金) 01:43:23 ID:hVk0/v5X0
おお
今日は大量だ
激しく乙です<ジュノスパ
しかし馴れ合ってないのにナニか雰囲気いいなこの2人w
816名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/16(金) 08:36:08 ID:Mc8ztXRT0
>>ジュノン・スパイラル
乙!
ヴィンセントがヴィンセントらしくて、とても自然な感じでイイ(*・∀・)!
ほとんどゲームのイメージ通りでうれしくなるw
続き期待してます!
817名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/16(金) 17:57:36 ID:AnrCcLLG0
>>813

鳥がけっこうすごいってか鳥に地名持ってくる人って初めて見たw
818名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/17(土) 00:02:47 ID:k4VR948I0
>>ジュノン・スパイラル
おお、良い展開ですね〜。
葛藤要素満載のこのお兄さん、どこか似た印象の人がいるなと思ったら
そうかそうでしたよそうですね、統括ですね。自分、統括(の、立ち位置が)大好きなので
今回のお話いつも以上に楽しませて頂きました。続き期待sageです。


ところでそろそろ480KBなので次スレ用意した方が良いと思うのですが…。
以下、テンプレ案。修正あったらご指摘下さい。
819Part5テンプレ案>>1:2005/12/17(土) 00:04:13 ID:k4VR948I0
文章で遊べる小説スレです。
SS職人さん、名無しさんの御感想・ネタ振り・リクエスト歓迎!
皆様のボケ、ツッコミ、イッパツネタもщ(゚Д゚щ)カモーン
=======================================================================
 ※(*´Д`)ハァハァは有りですが、エロは無しでお願いします。
 ※sage推奨。
 ※己が萌えにかけて、煽り荒らしはスルー。(゚ε゚)キニシナイ!! マターリいきましょう。
 ※職人がここに投稿するのは、読んで下さる「あなた」がいるからなんです。
 ※職人が励みになる書き込みをお願いします。書き手が居なくなったら成り立ちません。
 ※ちなみに、萌ゲージが満タンになったヤシから書き込みがあるATMシステム採用のスレです。
=======================================================================

前スレ
FFの恋する小説スレPart4
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1101760588/
820Part5テンプレ案>>2:2005/12/17(土) 00:06:36 ID:NlsBPZPN0
【過去スレ】
初代スレ FFカップルのエロ小説が読みたい
http://game2.2ch.net/test/read.cgi/ff/1048776793/l50
*廃スレ利用のため、中身は非エロ
FFの恋する小説スレ
http://game2.2ch.net/test/read.cgi/ff/1055341944/l50
FFの恋する小説スレPart2
http://game5.2ch.net/test/read.cgi/ff/1060778928/l50
FFの恋する小説スレPart3
http://game8.2ch.net/test/read.cgi/ff/1073751654/l50
821Part5テンプレ案>>3:2005/12/17(土) 00:10:31 ID:NlsBPZPN0
【お約束】
  ※18禁なシーンに突入したら、エロパロ板に書いてここからリンクを貼るようにしてください。
  その際、向こうに書いた部分は概略を書くなりして見なくても話はわかるようにお願いします。
【推奨】
 ※長篇を書かれる方は、「>>?-?から続きます。」の1文を冒頭に添えた方が読みやすいです。
 ※カップリング・どのシリーズかを冒頭に添えてくれると尚有り難いかも。

 初心者の館別館 http://m-ragon.cool.ne.jp/2ch/FFDQ/yakata/

◇書き手さん向け(以下2つは千一夜サイト内のコンテンツ】)
 FFDQ板の官能小説の取扱い http://yotsuba.saiin.net/~1001ya/kijun.html#kannou
 記述の一般的な決まり http://yotsuba.saiin.net/~1001ya/guideline.htm
◇関連保管サイト
 FF・DQ千一夜 http://www3.to/ffdqss
◇関連スレ
 FF・DQ千一夜物語 第五百五十二夜の2
 http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1125368949/
◇21禁板
 FF総合エロパロスレ2
 sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1129822592/
 FFDQカッコイイ男キャラコンテスト〜小説専用板〜
 www3.to/ffdqss

 どうしても議論や研鑽したい方は http://book.2ch.net/bun/
 FF・DQ板SS,小説スレ批評スレ
 http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1083041110/l50

 挿し絵をうpしたい方はこちらへどうぞ http://ponta.s19.xrea.com/
822Part5テンプレ案>>4:2005/12/17(土) 00:11:53 ID:NlsBPZPN0
参考

 FFDQ板での設定(game10鯖)
 http://game10.2ch.net/ff/SETTING.TXT
  1回の書き込み容量上限:2048バイト(=2kb)
  1回の書き込み行数上限:32行
  1行の最大文字数     :255文字
  名前欄の文字数上限   :24文字
  書き込み間隔       :45秒以上
  (書き込み後、次の投稿が可能になるまでの時間)
  連続投稿規制       :3回まで
  (板全体で見た時の同一IPからの書き込みを規制するもの)
   1スレの容量制限    :512kbまで
  (500kbが近付いたら、次スレを準備した方が安全です)
823Part5テンプレ案>>5:2005/12/17(土) 00:13:15 ID:NlsBPZPN0
【FF・DQ板内文章系スレ】
かなり真面目にFFをノベライズしてみる。その3
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1125830783/
■トンベリ復讐ものがたり■
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1129954774/
ドラゴンクエストの小説を書かないか?
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1132071287/
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら四泊目
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1128780044/
めぐれメタルの冒険 3 そして伝説へ…
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1132238960/
824名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/17(土) 00:17:08 ID:9DyvuItt0
えっと文字数とか行数とかの制限を入れた方がってレス、
ありませんでしたっけ
あれ、あった方がいいかなと
825名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/17(土) 00:18:35 ID:9DyvuItt0
被りました_| ̄|○ 
>>819->>823
激乙です
826名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/17(土) 15:07:35 ID:GxaSj02M0
>>819-823
GJ! 立てられるかな。試してみます。
827名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/17(土) 15:15:55 ID:GxaSj02M0
立ちました。

FFの恋する小説スレPart5
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1134799733/l50
828名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/20(火) 20:28:48 ID:kQj0Cg8W0
もうちょっと使えそう?
829名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/20(火) 21:20:03 ID:b38BlVaE0
もうちょっと容量は余ってるけど、作品投下は新スレの方がいいんでないかな。
投下してもすぐに落ちちゃうだろうしもったいない。
830名前が無い@ただの名無しのようだ
^-^