かなり真面目にFFをノベライズしてみる。

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380名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/20 23:18:27 ID:dnAVp8Kc
FINAL FANTASY IV #0072 2章 2節 光を求めて(31)

停止したホバー船から降り、アリ地獄をそのまま大きくしたような巣の中央へと歩いていく。
中央へたどり着いた時、ギルバートはその場に座り込み、砂の大地の中に手を突っ込んだ。
「えーっと、確かこの辺りに…あった!」
そう叫ぶと、地中をまさぐっていた右手を引きぬく。
その手には、美しい輝きを放つ紅い宝石が握られていた。
「これが”砂漠の光”?」
ギルバートから宝石を受け取りながら、セシル。
「そうだよセシル。さあ、日の暮れない内にカイポへ…」
その時、ギルバートの背後に巨大な鋏が、地面を突き破りつつ真下から現れた。
「アントリオン!」
突然の出現にセシルは鋭く叫びながら交代し、リディアは「キャー!」と叫んで巣の上のほうまで駆け戻る始末だ。
ギルバートだけは落ち着き払った様子で、その場に立ったまま鋏の形をした腕を見据えている。
「大丈夫。凶悪な外見の割にアントリオンはおとなしいんだ。
 人間には危害を加えない。さあ、行」
そこまで言った時、鋏が突然大きく開いたかと思うと、
――ギルバートめがけて伸びてきた。

「うわあ!」
「危ない!」
セシルが咄嗟に短剣を投げる。
それはギルバートを襲おうとした鋏の関節の辺りに突き刺さって一瞬怯ませる。
その隙を見て命からがらギルバートが逃げてくる。同時に、腕だけを露わにしていたアントリオンがその姿を現す。
――蟹に良く似た、先端が鋏の形をした太い腕を2本持ち、それよりもだいぶ細い足が4本生えている。
全体としてはザリガニか尻尾の無い蠍、そうでもなければトンボの幼虫のような姿だが、全身を硬そうな甲殻で包んでいる。
砂漠の巨獣アントリオンが、今まさに3人を襲おうとしていた。
381名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/20 23:20:23 ID:dnAVp8Kc
FINAL FANTASY IV #0073 2章 2節 光を求めて(32)

「ええい!」
セシルは剣を抜き、あの独特の構えに入る。数瞬後に、その刃を闇色の光が包み、そして放たれた。
一発。顔を狙ったが、硬い皮膚に弾かれてダメージは与えられない。
二発。頭は効かないと見て腕を狙うも、やはり効果は無い。
三発。今度は少し離れた所からリディアが魔法で援護してくれ、
そちらに気を取られている隙に左腕を付け根から斬り落とした。
その痛みに怒声を上げ、体を苦しげによじるアントリオン。
だが、魔物の痛みはすぐに怒りに変わり、残った右腕を一閃して鎧を着たセシルを軽々と弾き飛ばす。
「セシル!」
宙を舞うセシルをギルバートが受け止めるような格好になり、二人はもんどりうって砂の大地に倒れる。
「だ、大丈夫?」リディアが駆け寄り、ケアルで応急処置を施す。
「ああ、なんとか…」頭を押さえ、セシル。
そこへアントリオンがザクザクと不気味に足音を響かせながら詰め寄ってくる。
その動作が以外に速く、すぐに攻撃の射程に入ってしまう。

鋏が3人の首めがけて繰り出されるその瞬間、3人の姿はそこから消えた。
382名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/20 23:22:01 ID:dnAVp8Kc
FINAL FANTASY IV #0074 2章 2節 光を求めて(33)

突然姿を暗ました敵に訝り、アントリオンが滅茶苦茶に腕を振りまわす。
が、砂以外の何にも触れない。獲物を完全に見失ってしまっている。
実は、3人はアントリオンのすぐ近く、足下の辺りに隠れていた。
攻撃を受けようというその瞬間に、ギルバートがセシルとリディアを脇に懐に飛びこんだのだ。
これが意外な盲点でまさに灯台下暗し、それまで前方にばかり注意を払っていた巨獣は彼らを見つけられずにいる。
「驚いたな…咄嗟にここまで上手い隠れ場所を見つけるなんて」
「僕、逃げたり隠れたりするのは昔から得意でね」
声を殺していうセシルに、ギルバートは自嘲気味に笑う。
「それより、ここ熱い…」
リディアが、体の砂を払いながら呟く。
確かに、彼らは砂漠の日ざしによって焼石のように熱された砂に、半ば埋もれるようにしている。
仮にこのままアントリオンをやり過ごせても、
それまでには3人とも残らず干物か天然バーベキューか、さもなければ踏み潰されてミンチ肉が関の山だ。
「どうする?ここにいたらいずれ見つかってしまうし、
 そもそも見つかるまでもなくこの熱さにやられてしまうかも…」
「それなら大丈夫だ。僕に任せて」
ギルバートはそう言うと背負っていた竪琴を取り出した。

「楽器なんかで何するの?」
「暫くの間注意を引きつけるのさ、リディア」
訝しげに竪琴を見つめるリディアにそう答えながら、吟遊詩人は狭い中で器用に演奏できる体勢になる。
「それともう一つ教えておくと、これはただの楽器じゃない。
 …モンスター用に作られた、一風変わった武器でもあるのさ」
そう言って彼は竪琴を奏で始め、辺りに美しい調べの音が響いた。
383名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/20 23:25:52 ID:dnAVp8Kc
FINAL FANTASY IV #0075 2章 2節 光を求めて(34)

その途端、アントリオンが殴られでもしたかのように悶え始める。
魔物はそのまま逃れるようにその場から逃れる。その拍子に彼らを見つけたが、
わき目もふらずに竪琴の音色から少しでも遠くへと移動して行く。
巣の反対側まで来てようやく落ちついたのか、立ち止まって憎々しげにこちらを睨むが、決して近づいてこない。

「一体何をしたんだ?」
訝しげに、まだ竪琴を奏で続けるギルバートを見やる。
「この竪琴は特殊でね。人間には普通に聞こえても、
 モンスターが聞くと驚くぐらいに嫌がるんだ。あんな風にね」
答えながら、近づこうか近づくまいか迷うような素振りをする魔物を見やる。
「それよりセシル、倒すなら今だ!」
「わかってる!」

怒鳴り返し、剣を手に一気にセシルが走り寄る。
動きが鈍い鋏の迎撃をかわして顔まで到り、一気に鎧のような甲殻に守られていない眼に剣を突き刺す。
太い鳴き声でアントリオンが咆哮する。それに混じって、リディアの「どいて!」という叫び声が聞こえる。
セシルが剣から手を放してその場に伏せると、背後からサンダ―の雷が飛んできた。
雷は狙いたがわずセシルの突き刺した剣にあたり、そこから巨獣の全身を剣もろとも貫いた。
ゴオウ、という唸り声とともに、アントリオンが数歩後ろに仰け反る。
しかしそれも束の間、体勢を整えて目の前のセシルだけでも殺そうと隻眼片腕で襲いかかる。
が、当のセシルはその場で棒立ちし、ただ迫る魔物を見据えていた。
「チェックメイト」

そう暗黒騎士がいうが早いか、
眼に刺さったままの剣から放たれた暗黒の刃によって砂漠の巨獣アントリオンは中から切り刻まれた。
384名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/20 23:28:25 ID:dnAVp8Kc
FINAL FANTASY IV #0076 2章 2節 光を求めて(35)

「おかしい」
竪琴を背負いなおし、アントリオンの死骸を見下ろしながら、ギルバート。
「おれほど大人しい生き物の筈のアントリオンがなぜ…」
「最近、魔物の数が以上に増えている」
訝る彼に、セシルが言う。
「これまで大人しかった者達まで襲いかかってくる…」
そこで一旦、かぶりをふる。
「やはり、何かが起ころうとしている前触れ…」
そう続けると、3人を厭な予感めいた物が襲った。
何かとてつもなく不吉で、不穏な何か…
バロン王の豹変、戦争の拡大、魔物の増加に生き物の狂暴化…
一体、何が起きている?
いくら考えてもわかりそうにない。
「ね」
沈黙を破ったのはリディアだった。
「早くローザさんの所へ!」
「ああ、行こう!」
懐から”砂漠の光”を取りだし、セシルはホバー船に走った。

カイポに戻った時には、日は既に西に沈みかけていた。
385名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/20 23:33:00 ID:dnAVp8Kc
ど根性でなんとかアントニオ戦終了…
アントニオの外見がもう見ただけでOTLでイヤだったので勝手にFF9ティストも加えて見ますた。
もう一つ問題だったのがFF4随一のヘタレ野郎、ギルちゃん。
こいつのする事は隠れたり謎の音波飛ばしたり(くすりコマンドの事は忘れてました)描写し辛いのが多い。
よって捏造設定出しまくりですが、果たして良い物やら…
もっと表現力が欲しいです。
386 ◆HHOM0Pr/qI :05/03/21 01:57:47 ID:jU3rswCH
かふっ、モタモタしてる間に先を越されてしまった…。
幸い目立った矛盾はなさそうなので、サイドストーリー扱い(?)で投下します。

>378
あの人東大受けてたんですか。そりゃ書いてる暇ないはずだ…
せっかく続いているんだし、見てくれてるといいんですけどね。

>379-385
あのギルバートが、ボス戦でまともに活躍している!?
俺としては捏造大歓迎ですよ。ただ原作のストーリーをなぞるだけでは面白くない、と以前のレスにもありましたし。

じゃあ次から黒歴史スタート。
387 ◆HHOM0Pr/qI :05/03/21 02:03:03 ID:jU3rswCH
FINAL FANTASY IV SubStory 1 継承者の出立(1)

ギルバートの言に従い外へ向かう途中、セシルたちは無残に踏みにじられた城の様子を再び見ることとなった。
壁や天井を彩る飾りタイルは砕け落ち、中庭の優美な噴水は悪臭を放つ溜池と化し──そして一面に広がる、人の肉の焼ける臭い。
その蛮行に旧知の者が加わっていた点を差し引いても、充分に胸の悪くなる光景だった。
まして幼い子供を連れて長居をすべき場所ではない。足早に通り抜けようとするセシルの腕を、当のリディアが後ろに引いた。
「ねえあそこ、さっき動いたみたい」
少女が指し示す先に意識を凝らすと、崩れた柱と壁の陰に、何者かの気配がある。瓦礫を除けると、下働きらしい少年が肩を押さえ息を殺していた。体を挟まれ身動きが出来ないようだ。そのおかげで、逆に難を逃れたのだろう。
ひどく怯えた様子の少年にうなずき、セシルは残る瓦礫に手をかけた。
「まってて、今なおしてあげる!」
全身に痣を作った少年を見て、リディアも習ったばかりの回復魔法を唱え始めた。魔道士の素質を見出したテラが、彼女に教えを授けたのだ。
ブリザドやサンダーといった初歩の攻撃魔法まで、短い道中の間にリディアは身につけてしまった。少女の才能もさることながら、師である賢者の力量には感嘆するほかない。
「……ケアル!」
瓦礫をほぼ取り去ると同時に正しい呪文が完成し、リディアの手に淡い光が生まれた。緑色を帯びた粒子となって少年の体に吸い込まれ、傷を癒す。
「だいじょうぶ? もう痛くない?」
「……あ…………」
「えーっと、魔法、ちゃんとかかったよね?」
「あ……うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
自由になった少年は、突然悲鳴をあげ、身を乗り出してきたリディアを突き飛ばした。とっさに支え事無きを得たが、その間に少年は城の奥へ走り去ってしまう。
そして。
「…………………。
 コラ〜〜〜っ! なにすんのよっ!!」
しばし呆然とした後、親切を仇で返されたリディアが少年を追って駆け出す。引っかかるものを感じながらも、セシルもまた子供たちに続いて、再び城の奥へと向かった。
388 ◆HHOM0Pr/qI :05/03/21 02:05:50 ID:jU3rswCH
FINAL FANTASY IV SubStory 1 継承者の出立(2)

ひどく壊されたとはいえ、はじめてこの城を訪れたセシルたちと、もともとの構造をよく知る少年では条件に差がありすぎる。あっという間に見失い、諦めて外に出ようとして、ギルバートとかち合った。
「君たち、どうしてこんなところ?」
「お兄ちゃん!! そっちに男の子来なかった!?」
まだおかんむりのリディアは、外で待てと言われたことなどすっかり忘れているようだ。面食らった様子のギルバートに気付かず、勢いよくまくし立てる。
「ひどいんだよ!
 助けてあげたのに、お礼もいわないで逃げてったの!
 あたし、もうちょっとで転んじゃうところ──」
「待ってくれ!
 城の者が……生き残りがいたのか!?」
「え? うん、あの、そうじゃなくて」
「下の、中庭の南側の廊下にいた。瓦礫に隠れていて見つからなかったらしい」
強い調子でさえぎられ、逆に驚く少女に代わって、セシルが事の次第を説明する。ギルバートの顔に喜色が浮かび、そしてセシルは、自分が感じていた引っかかりの正体を知った。
彼はこの国の王子だ。ダムシアンの人間でもないセシルに手を貸し、見ず知らずの女性を救うよりも先に、やらなければならないことがある。
「ギルバート、やはり君は……」
──だから。リディアが気付いたあの少年の気配を、彼は感じなかった。
生存者を探そうともせず、さっさと城から出ようとした。
惨禍に心を痛めるふりをして、結局はローザと、彼女を助けたい自分のことしか頭になかった。
臆病で我が身がかわいい暗黒騎士。一度や二度命令に逆らったぐらいで、都合よく変われやしない。
「君は……」
異様な空気を察した二人がセシルの顔を注視する。後に続く言葉を、なんとかして外に押し出そうとした。
ギルバートは、ここに残らなければならない。
だけどローザが。
「殿下。
 これは一体、如何なる仕儀にあらせます」
結局は口を噤んだセシルを、まるで叱責するかのように、厳めしい声が彼の背を打った。
389 ◆HHOM0Pr/qI :05/03/21 02:09:15 ID:jU3rswCH
FINAL FANTASY IV SubStory 1 継承者の出立(3)

「ムスターファ! お前も無事だったか」
六十は越しているだろうか。ギルバートに名を呼ばれた老人は、一国の重鎮であろうと推測するに充分な風格を漂わせていた。
「……殿下」
その場で膝をつく老ムスターファ。組んだ指を眉の高さに持ち上げて、恭順の意を表す。動作のひとつひとつに、異様な気迫がみなぎっていた。
「この老いぼれめは、殿下の器量を見誤っておりました。さぞやいままで御不快にあらせられたと存知ます。
 されど──それほどの覇気がおありなら、なにゆえ隠しておられました!
 殿下が御座を省みぬからこそ、兄君がたも!」
(……おじいさん、何で怒ってるの?)
言い回しは理解できずとも異様な空気は察したか、小声で尋ねるリディアに、セシルは黙って首を横に振るしかなかった。
愛する女性の死を前に取り乱しでもしなければ、彼の出自は容易に知れる。今はバロンに弓引く身だと、察してくれなど無体な話。
「ムスターファ……
 まさかお前……僕が?」
「さもなくば、なにゆえ御身は怪我もなく、そうして立っておられるのです!?
 なにゆえ暗黒騎士など、お側に召されているのです!!
 なにゆえ──」
「違う! 彼は……」
「違います、僕は……」
顔を上げ、怒りとも憎しみともつかぬ眼光を向ける老人の誤解を解こうと、遅まきながらセシルとギルバートが声をあげる。
だが最後まで言い終わる前に、抜き放たれた刃を認め、それが逆手に握られていることを見て取り……
「よせ、ムスターファ!」
老人の意図を悟り、反射的にセシルはリディアの顔を手の平で覆った。
390 ◆HHOM0Pr/qI :05/03/21 02:11:48 ID:jU3rswCH
FINAL FANTASY IV SubStory 1 継承者の出立(4)

「ちょっと、離してよ!」
「……だめだ。君は、見ちゃいけない」
間に合っていてくれと願いながら、激しくもがく少女を押さえつけることだけにセシルは神経を集中させた。
ギルバートが何か言っている。ムスターファは、まだかろうじて息が残っているようだった。しかし、血臭に気付いたリディアの手から力が抜け、セシルが彼女を解放したときは、既に事切れていた。
「………なんで?」
まだ温かい死体の側に、とぼとぼとリディアが歩み寄る。
「おじいさん……なんで?」
「じい。ひどいね。
 最期まで信じてくれなかった」
少女の疑問を放置して、年若い王子は皺だらけの頬を撫ぜている。
形だけでなく、詩人の作法が心身に染み付いているのだろう。放心しきった呟きさえ、節らしいものがついていた。
「それとも、そう思いたかったのかい?
 城にも戻らず歌ってばかりいるよりは、バロンと通じていたほうが、まだましだと言うのかな……」
今は何を言っても無駄だろう。所在なくさまよわせた視線が、物陰に潜んだ誰かのそれとぶつかった。
誰何の声を上げる前に、勢いよく飛び出したのはリディアが救ったあの少年だ。憤激の中に、わずかに後悔の色があった。もしかすると、彼が故人にセシルのことを知らせたのかもしれない。
「裏切り者!」
ありったけの敵意を投げつけ、即座に身を翻す。幾分迷った後、とにかく行き先を知っておこうと動きかけたセシルの肩に、ギルバートが手を置いた。
「いいよ、砂漠の光を取りに行こう」
「しかし……」
「おいでリディア、ここまで来たんだ、ホバー船が動く所を見せてあげる」
「ギルバート!」
「僕らは今、ここにいるべきじゃない」
「……すまない」
飄然と歩くギルバートの背に、セシルは彼の返事を探した。
会いたかった。ローザに。カインに。シドに。テラに。
挫けている場合じゃないと、叱り飛ばして欲しかった。
「なにさ、助けてあげたのに!!」
リディアが悔しそうに、少年の消えた回廊の奥に向かって叫ぶ。
ちょうどいい高さにある柔らかな髪を撫で、のろのろと、セシルは足を動かした。
──人の気配が絶えた城は、途方もなく広かった。
391 ◆HHOM0Pr/qI :05/03/21 02:14:53 ID:jU3rswCH
以上です。個人的趣味により鬱全開。
なによりストーリーが一歩も進んでいない所が。orz
392名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/03/21(月) 21:04:31 ID:yla1/ECz
乙です。
読んでて「なるほど」と感じさせられました。
確かに、ギルの立場って実際問題で考えると日当たり厳いよな…盲点。
物語が進まずとも、こんな感じのストーリーの掘り下げはあってもいいかと。
それが文章化の一つの楽しみや強みでもありますし。
393名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/03/25(金) 13:01:19 ID:eqMcSiSi
保守
394名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/03/26(土) 01:30:21 ID:lIHOXnld
>379より
セシルの股間にそびえる巨峰を見やりながら言う。
「おっきい…」
リディアはその巨大さに圧倒されている様子だ。
395名前が無い@ただの名無しのようだ:スクエニ暦03/04/01(金) 10:30:49 ID:SmSVb4qQ
日付がおかしい
396名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/03(日) 02:28:04 ID:/o49IANt
な!?
397299:2005/04/04(月) 21:55:47 ID:elG0Kpcb
FINAL FANTASY IV #0077 2章 3節 新たなる旅立ち(1)

カイポに戻ったセシル達は、直ぐにローザを介抱してくれている老夫婦の家へと向かった。
「まさか本当に持ち帰ってくるとは……」
「でもよかった! もうだめかと思ったよ」
老夫婦は少しばかり驚いていたが、明るい表情でセシル達を迎えてくれた。
「ローザはまだ生きて居るんですね」
そんな二人の反応にセシルもほっと胸を撫で下ろした。
もし間に合わなかったら。カイポを出発してからずっと心の何処かで思っていたのだが、その考えはどうやら杞憂に終わったようだ。
「ああ、だが急いでくれ。様態は以前より悪くなっている」
二人の案内でローザの部屋に通される。
「ローザ……」
ローザは以前と同じく、ベットに伏したままであった。
しかし前より顔色は悪くなっており、病状が悪くなっているのは一目瞭然であった。
「すごい熱……」
ローザの額に手をあててリディアが言う。
「昨日から急に熱があがりだしてな、手の施しようもなくなっていた所だったんじゃよ」
「セシル、早くローザさんに砂漠の光を」
ギルバートが言う。
「ああ」
セシルは懐から砂漠の光を取り出す。
「ギルバート、これはどうやって使うんだ?」
手の中で輝くその宝石をもう片方の手で指しながら訪ねる。
398299:2005/04/04(月) 21:56:53 ID:elG0Kpcb
FINAL FANTASY IV #0077 2章 3節 新たなる旅立ち(2)

「そのままローザに向かってかざして」
「それだけでいいのか?」
その答えに、セシルは思わず訪ねる。
セシルは今まで宝石で病気が治るという事例に遭遇したことがなかった。そのため、かざすだけでよいというのは少しばかり驚いた。
もっと複雑な手順がかかるとおもっていたのだが。
「ああ、それだけだ。だけど、あえて言うなら一つだけ注意することがあるね」
「何?」
「その人が治ってほしいと願うこと」
「え?」
その一言だけではギルバートが何を言っているのか分からなかった。
ギルバートは少し間をおいて続ける。
「大切な人を失いたく無い。そう願えばきっと大丈夫さ……」
「分かった……」
アンナの事を思い出していたのか、ギルバートは悲しそうな顔をしていた。
「ローザ……すぐに直ぐに治してあげるから」
セシルはローザの耳元で優しく言い放ち、懐から砂漠の光を取り出した。
ギルバートに言われたとおりに、砂漠の光をローザの枕元でかざす。
その途端、宝石が輝き始め、ローザに向かって光りを照射した。
光がローザを優しく包み込む。
お願いだ……ローザを……
砂漠の光をかざしながら、セシルはそう願い続けた。
誰もが黙ってその様子を見ていた。
どれぐらいの時間がたったのだろう。突如、砂漠の光が砕け散った。
それによりさらに輝きは増し、部屋を光りが支配する。
その光にセシル達は目を覆った。
399299:2005/04/04(月) 21:58:32 ID:elG0Kpcb
FINAL FANTASY IV #0077 2章 3節 新たなる旅立ち(3)

光が止み、辺り今までの光景が戻ってくる。
先程までセシルの手で輝いていた宝石は、砕け散り輝きを失った状態で、辺りに散乱していた。
「ううん……」
ローザの目覚める声が聞こえた。
「此処は……」
ローザは寝起きのような、ぼんやりとした目で周りをきょろきょろと見回し、近くのセシルと目が合った。
「セシル……何故あなたが……そうか! 私、あなたを追って」
そこでようやく自分がどどのような経緯で、此処にいるかを思い出したようだ。
「私……あなたにこんな顔……」
寝起きを見られたのが恥ずかしかったのか、ローザは顔を真っ赤にしたまま黙り込んでしまった。
「全く……無茶だよ君は」
そんなローザを見て、今までの張りつめていた緊張の糸が一気に途切れる。
「私、ミストであなたが死んだと聞いて、でも信じられなくて」
「もう良いよ、ローザ」
あたふたと話し始めるローザを制止する。
何故セシルを追ってきたのか。その事はローザの口から聞かなくても分かっていた。
ただ、そんなにも自分を想っていてくれるローザを少しかわいいと思った。
「ねえ、ところでカインは。カインとは一緒でないの?」
しばらくして、ローザが訪ねてくる。
「ああ……ミストではぐれてね。そのまま……」
ミストはリディアの呼び出した召喚獣によって地割れに飲み込まれた。そして自分が目覚めた時にはカインはすでに居なかった。
あまり考えたくはないがカインはひょっとしてもう……
「そう……」
「大丈夫、きっと生きているよ」
肩を落とすローザを見て思わずそう言ってしまう。だが今はそう思うしかなかった。
400299:2005/04/04(月) 22:00:54 ID:elG0Kpcb
FINAL FANTASY IV #0077 2章 3節 新たなる旅立ち(4)
「ローザ、今度は僕の方から質問があるんだ」
「分かったわ」
突然険しい口調に変わったセシルを見て、少し戸惑ったがローザは了解した。
「その前に紹介するよ、ギルバート、リディアこっちへ来てくれ」
後ろを向き、先程からセシル達の会話を側で聞いていた二人を呼ぶ。
「君たちにも関係のある話なんだ」
「ああ」
「うん」
二人はセシルの呼びかけに答え、こちらにやってくる
「彼はギルバート、ダムシアンの王子だ。君の病気を治ったのも彼のおかげだ」
「どうもありがとう」
ローザが深く一礼をする。
「いえ……僕は別に」
ギルバートは少し照れながら答えた。
「この娘はリディア。ミストの召喚士の生き残りだ」
セシルは続けた。
「ミストがどうなったかは君も見ただろう?」
「ええ……」
「ここからが君に聞きたい事だ、ローザ」
セシルは少し間を開けて、話始めた。
401299:2005/04/04(月) 22:03:17 ID:elG0Kpcb
FINAL FANTASY IV #0077 2章 3節 新たなる旅立ち(5)

「ゴルベーザーとは誰なんだ?」
ダムシアンで聞いた時からずっと気になっていたその名を訪ねる。
「どうしてその名を?」
ローザは少しばかり驚いた様子だ。
「ダムシアンを赤い翼が襲った時ギルバートから。その時の赤い翼は酷く残虐なやり方でダムシアンを攻撃した。
僕のいた頃はあんな事などするわけがない。その時、赤い翼を指揮していた男、それがゴルベーザだ。奴は一体」
「あなたがバロンを出てから直ぐのことよ」
しばらくして、ローザは話し始めた。
「王はゴルベーザーと言う男を、赤い翼の新たな指揮官にしたの。それからの事よ、王が以前にも増しておかしくなったのは。
自分のやり方に反対するものは皆、牢に入れ、民へも厳しくなっていった。ダムシアンを攻める時だってシドが反対したので牢に……」
「シドが!」
セシルは思わず声を荒げた。
「ええ」
ローザが続ける。
「そんな時にあなたとカインが死んだって噂が流れて、そのままいても立ってもいられずに」
「そうか……」
自体はセシルの予想以上に大きくなっていた。
402299:2005/04/04(月) 22:04:25 ID:elG0Kpcb
FINAL FANTASY IV #0078 2章 3節 新たなる旅立ち(6)

「ローザ、バロンは……いや赤い翼は次は何処のクリスタルを?」
「え?」
予想外の問いにローザは思わず声を上げる。
「もうバロンには帰れない。ならば赤い翼が次にねらおうとしてるクリスタルを守らなければ」
「ダムシアンのクリスタルを手に入れたとなるとおそらく次はファブールだろう」
ギルバートが横から口を挟む。
「こうしてはおけない、ファブールへ。ゴホゴホッ!」
突然ローザが立ち上がろうとして咳き込む。
「ローザ、無理をするな。ファブールは僕らが行く」
「でもファブールへ行くボブス山を通らなければならないな」
ギルバートが言う。
「なにか問題があるのか?」
セシルが訪ねる。
「ボブス山の入り口は、厚い氷で覆われている。それを何とかしなければ」
「そうか」
「その氷を黒魔法で退かせばどう? リディア、あなたファイアは使える?」
ローザはリディアの方に向き直り訪ねる。
「! ……ううん、つかえない……」
そのまま黙り込んだ。
「召喚士のあなたが魔法の初歩ともいえるファイアを使えないはずは……うッ……ゴホッ!」
「ローザ! やはり君は待ってなきゃだめだ!」
またもや咳き込むローザを見て、強い口調でセシルは言う。
「私なら大丈夫。それに私は白魔導士。足手まといにはならないはずよ……」
「…………」
「セシル……ローザは君と一緒に居たいんだよ」
「……分かったローザ……一緒に行こう」
セシルはしばらく考え込んでそう言った。
「もう夜だ……とにかく、今夜はゆっくりお休み」
「セシル……分かったわ」
403299:2005/04/04(月) 22:14:38 ID:elG0Kpcb
訂正
>401最後
自体でなく事態です。
404名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/05(火) 13:49:59 ID:O9MeQRvW
乙です。いつのまにかうぷされててびっくり。
あいかわらずここのSSはレベル高いですねぇ。
405 ◆HHOM0Pr/qI :2005/04/08(金) 01:10:22 ID:u+xWIEr2
FINAL FANTASY IV #0078 2章 3節 新たなる旅立ち(7)

ギルバートとふたり、カイポの北側に向かってリディアは歩いていた。
セシルとローザは、まだ老夫婦の家にいる。ダムシアンの壊滅に始まって、赤い翼の現状、消息を絶った竜騎士、バロンに残された人々の安否──リディアの知らないことばかり険しい顔で話し込む二人の側に居辛くて、用事があると部屋を出たギルバートについてきた。
セシルの大切な人が無事だった。そのことは、もちろん嬉しい。それにしても。
「……きれいな人だね。ローザって」
初めて見たときからわかっていたことだが、病が癒え、面と向かって話してみると、その印象は更に強い。
わかったことは他にもある。セシルがローザを大切にするのと同じぐらい、彼女もセシルが好きなのだ。それに大人で、きっとリディアより魔法もたくさん使えるんだろう。
だからどうだというわけではないのだが、自分の胸にしまっていると、据わりが悪くてしかたなかった。
「そうだね。それに、行動力もある。
 ……ちょっと似てるな」
考えていたことを吐き出して、賛同もしてもらったのに、まだ気分がすっきりしない。いろいろ理由を考えるうち、そもそも彼が何のために、どこへ向かっているのか知らないことをリディアは思い出した。
「ねえ、こっちってオアシスがあるんだよね?」
「そうだよ。たくさんのキャラバンがテントを張っている。
 知り合いが結構いてね、できたら話を聞こうと思って」
カンテラを手に日の落ちきった町を歩くギルバートの足取りは、ずいぶんと迷いがない。リディアに合わせ遅らせていることもあるが、元々このあたりを歩き慣れているのだろう。
おいしそうな料理の匂いと話し声を夜風が運ぶ。だんだんと道が広がり、ささやかな灯火に代わって湖面に踊る月の光が二人の行く手を照らし出す。
岸辺に並んだ大きなテント、何十人もの人が囲んだ大きな大きなかがり火に、リディアは思わず立ちすくんだ。
406 ◆HHOM0Pr/qI :2005/04/08(金) 01:23:46 ID:u+xWIEr2
FINAL FANTASY IV #0079 2章 3節 新たなる旅立ち(8)

オアシスの南に広がる平地。そこでは複数のキャラバンがテントを張って、焚き火を囲み酒を飲み、日没から就寝までのひとときを過ごす。
スパイスの効いた炙り肉。蒸留酒に水煙草。小銭を賭けてのカードゲーム。
無秩序な騒ぎの中で、ふいに場違いな音を耳にし、商人たちの間に緊張が走った。
宵闇の向こうに、小さな光が見えている。おぼろげに浮かぶ影は、大人と子供の二人連れに見えた。
「誰だ?」
部下たちの中に欠けた者がないことを確かめて、ビッグスは声を放った。
「怪しいものじゃない」
返答に混じって、再び同じ音がする。今度はやや長く──リュートが奏でる音階と、聞き覚えのある声に、ビッグスは警戒を解いた。
「……おまえか、ギルバート。おどかすな」
40年以上も商売を続けていれば、酒場や広場で技を披露し対価を得る芸人たちとも、それなりの縁が出来てくる。ギルバートもその1人で、他の町へ移るついでに連れて行ったこともあった。
「それは悪かったね。でも、町中でそこまで用心してるとは思わなかった」
「まあ、普通ならな」
このところ物騒な話が多い。地下水路に巣食った怪物、山崩れに飲まれたミストの村、ここカイポでも、どこぞの宿が人間に化けた魔物に襲われたらしい。
「知ってるか?
 何でも、ダムシアンまで襲われたって話だ。
 城から逃げてきたって連中も近くにいるが、それっきり音沙汰が無いってんで──」
「なんだって!
 その人たちはどこに!?」
勢いに呑まれたビッグスが、避難者が集まっているテントを指すと、若い詩人はすぐさま身を翻した。
「あ、おいてかないでよ!」
カンテラを下げた女の子が後を追うが、運悪く横切った商人とぶつかり、見失ってしまったようだ。
「もう〜〜〜っ、ギルバートのバカ!」
「仕方ねえ、連れてってやろうか?」
ビッグスの申し出に、少女は力いっぱいうなずいた。どうも見覚えがあると思ったら、以前拾った暗黒騎士が連れていた子だ。あのときはずっと眠っていたので、ビッグスのことは覚えていないだろうが、今はすっかり元気らしい。
「じゃ、ついてきな」
親切心だけでない。顔と名前と歌い手としての力量以外、ほとんど知らないギルバートの変貌に、彼は好奇心をそそられていた。
407 ◆HHOM0Pr/qI :2005/04/08(金) 01:27:27 ID:u+xWIEr2
隊アントリオンでしっかり活躍しておいて、いまさらサハギンと殴りあうのもなあ……ということで、激しく捏造第2弾。
続きは土日にアップする予定です。
408名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/10(日) 00:28:55 ID:HiB1iaFC
よくやったと褒めておこう。
409名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/10(日) 00:59:50 ID:pV7DD/fA
期待してますと言わせて頂こう。
410 ◆HHOM0Pr/qI :2005/04/11(月) 01:01:23 ID:yMKi0aLs
FINAL FANTASY IV #0080 2章 3節 新たなる旅立ち(9)

その後、いくどか道を尋ねながら、ギルバートは目指すテントの前に立った。
7,8人も入ればいっぱいだろう。賑わいを避けるように離れた所に張ってある。入口にかけられた幕は膝上ちかくに巻き上げられ、隙間から光がこぼれていた。
注意を引こうとして、ギルバートは逡巡する。
あの襲撃を逃れた者たちがいると聞き、駆けつけはしたものの──どうすれば力付けてあげられるれるのだろう?
「どちら様かね」
「ああ──その……」
垂れ幕越しに声がする。迷っている間に先をこされ、思わず漏らした声を聞きつけたか、布地を突き破らんばかりの勢いで初老の女性が顔を出した。
「ギルバート様! よくぞご無事で!」
「マトーヤ。その……苦労をかけた」
「ああ、やっぱり!」
「今のお声は!」
目を潤ませた女官長マトーヤを押し退けるようにして、次々と中から人が現れ、ギルバートを取り囲む。
飛空挺が姿を現した時点で、念のためにと王はホバー船による脱出を命じた。間に合ったのがわずか6人、うち5人が女性で、ただ1人の例外は、母親に手を引かれた5歳ぐらいの男の子だった。
「ダムシアンに戻れるんでしょうか?」
「夫は、わたしの夫はどうなりました!?」
「一体、何故こんなことに……」
「ええい、静まりや!」
それぞれ不安を訴える女たちが、マトーヤの一喝で口を閉ざす。全員の視線が一点に集まった。
「城は……落ちた。父も、母も亡くなった。
 何人か生き残った者もいるけど、長く住める状態じゃない」
血の匂いは魔物を呼び寄せる。破壊された城壁でそれを防げるか。隊商の行き来が絶えれば、焼け残った食料はまたたく間に尽きるだろう。水は。薬は。埋葬が遅れれば、夥しい数の骸から疫病が発生する。
他の集落に身を寄せても、受け入れる側に充分な蓄えがなければ遠からず問題が起きる。
砂漠の光を手に入れカイポに向かう段階になって、ようやくギルバートが残された人々の苦労と向き合う時間を持った。
セシルのせいとは思わない。どうせ彼らが来なければ、アンナの側を離れることなく、自棄に任せて首でも括っていただろう。まだギルバートにも誰かを救うことができる、それを教えてくれて感謝している。
これ以上、甘えるわけにはいかなかった。
411 ◆HHOM0Pr/qI :2005/04/11(月) 01:16:49 ID:yMKi0aLs
FINAL FANTASY IV #0081 2章 3節 新たなる旅立ち(10)

──ダムシアンに着いた後も、アンナはギルバートを説得した。父テラと話し合い、結婚を許してもらおうと。
”無理だよアンナ、ぼくなんかが……”
”そんなこと言わないで。もっと自分を信じるのよ!”
既に一度、にべもなく断られている。いくら愛していようとそれだけで娘はやれん、そう言われてギルバートは反論できなかった。身分を持ち出しても怒りを買うだけだろう。
”きっと今度こそ、君と引き離されてしまう。そうしたら、ぼくは……ぼくはどうしたらいいんだ!”
”ギルバート、勇気を出して!”
そして。度重なる懇願に、遂に折れたギルバートが城を出ようとした矢先。
アンナは彼を庇って死んだ。
もっと早く決心していれば、少なくともアンナは命を落とさずにすんだ。
”大丈夫。あなたは、私が選んだ人なんだから……”
彼女は何度も、そう言ってくれたのに。

「明日ファブールに向かう。
 バロンで起きてることを止めなければ、いつまた今度のようなことが起きるかもしれない」
泣き崩れるダムシアンの民に向けて、ギルバートは言葉を続けた。
「バロンにも今のやり方に反対している者がいる。
 彼らと同行し、ファブール王との橋渡しをする。ぼくにしかできない役目だ。だから……」
「我らを捨て置いて、この国を出られる、と?」
「違う!」
ずっと逃げていた。何かを決めること。なにかを背負うこと。何かを伝えること。
「今すぐに、皆の力になれないことはすまなく思う。
 でも、信じてほしい。
 ぼくにできる精一杯の事をする。そして……必ず戻ってくる」
ギルバートは訴えた。厳しい目をしたマトーヤに。頼りなさそうに彼を見あげる女たちに。
「ぼくのことを、信じてほしい」
ひとり仇を追うテラに。愛してくれたアンナに。
そして自分自身に。
「うん! ぼく、しんじるよ!」
声を上げたのは、一同の中でもっとも若い──否、幼い子供だった。それを号令として、5人の女たちが一斉に膝をつく。おごそかに、マトーヤが宣言した。
「クリスタルの祝福を。……吉報をお待ちいたします」
412 ◆HHOM0Pr/qI :2005/04/11(月) 01:20:50 ID:yMKi0aLs
FINAL FANTASY IV #0082 2章 3節 新たなる旅立ち(11)

「ギルバート……王子……?」
「うん、そうだよ。知らなかった?」
一部始終を見ていたリディアは、隣で硬直したビッグスの呟きを質問と受け取った。ずいぶん仲が良さそうで、セシルのことまで知っていたのに、何で驚くのかいまいち腑に落ちないが。
オバサンたちが出てきたところで追いついて、どうも邪魔してはいけなさそうだったので、ギルバートの用が済むまで大人しく待っていた。ぶじ仲直りしたようなので、遠慮せず声をかける。
「ギルバート! おいてくなんてひどいよ!」
「リディア?
 ……ごめん、忘れてた!」
「なにそれ〜〜!!」
口では悪いと言いながら、ギルバートの目は笑いっぱなしで、反省した様子がない。オバサンたちまで、なぜかくすくす笑っている。目のはしに、ちょっと涙を浮かべながら。
「あやまるから許しておくれ。
 ……ビッグス、頼みがある」
「あ、いやその、俺は……」
「今夜だけ、僕のことは黙っていてくれないかな。
 聞いてたかもしれないけど、しばらく砂漠を離れなくちゃいけない。
 思い切り歌っておきたいんだ」
くしゃくしゃとリディアの頭を撫でながら、ギルバートの足は早くも、商人たちが集まった焚き火の方に向いている。ずいぶんと嬉しそうなので、特別にもう許してあげようとリディアは思った。
キャラバンの所に戻る。たむろっている商人たちにギルバートが話し掛け、座が大きく盛り上がった。詩人のために場所を空け、ありあわせの木材で即席の舞台をつくる。
人が動いて風がおき、煽られた火が大きく揺れる。
ミストの村でもこうやって、いつも火を燃やしていた。どんなに深い霧が出ても、すぐに村が見つかるように。
大事な目印。大切な火。
もっと大きく、どんどん燃やす。もっと。もっと。もっと。もっと。
そうしたら、炎がはじけて──
「リディア? リディア!」
とつぜん体が揺さぶられる。地面が揺れてる。山が怒る。
「リディア、しっかり!」
「……え?
 なんでもないよ?」
「なら、いいけど……具合でも悪いんなら、ちゃんと言わないと」
肩を揺すっていたのはギルバートだった。ちょっとぼんやりしてただけなのに、ずいぶん心配しているみたいだ。
413 ◆HHOM0Pr/qI :2005/04/11(月) 01:23:59 ID:yMKi0aLs
FINAL FANTASY IV #0083 2章 3節 新たなる旅立ち(12)

「へいきへいき。ほら、呼んでるよ。
 はやくギルバートの歌聞かせてよ」
気がつくと、やけに大勢の人がギルバートの方を見ていた。他の隊の人まで集まってきたらしい。手近な青年にリディアを見ているように頼んで、ギルバートは輪の中央へと進んだ。
主役の登場を受けて歓声が湧き上がり、弦の調子を整えて前奏を始めると、潮のように引いていく。
そして歌い始めると、他の全ての音が消えた。
高く、低く。流れるように、踊るように。人が出しているとは思えないような豊かな声が、いつも大人しいギルバートの喉から生まれ、複雑な旋律を危なげもなく歌いこなす。
爪弾かれた竪琴は、ときには朝の雫のように艶やかな光を宿し、ときには真冬の星のようにキラキラと輝いて、出せない音などないかのように様々な音色を紡ぎ出す。
人と楽器が織りなす鮮やかな夢をリディアは見た。
戦乱に巻き込まれた4人の若者が抱く希望。
からくり仕掛けの巨人を操り、夜の雪原をさすらう少女。
囚われた青いナイトを待って姫が眠る硝子の宮殿。
星空のむこうから時を越えて届いた祈り。
そして──
幻想に心を奪われていたリディアが、なぜかふと視線をそらしたとき、人込みの中にその姿を見つけた。
And no one knows it- where she came from, whereshe's going
(アンナ!?)
ダムシアンで息絶えたはずのアンナが、歌うギルバートを見つめている。
血の跡などどこにもなく、穏やかに、幸せそうに。
She's like a rainbow.
When she cames up, all are lit up
And when she whispers, you will hear this-
"Don't chase after rainbow
ギルバートは気付いてないようだった。
リディアの視線を感じたのか、こちらを向いて悪戯っぽい笑いを浮かべ、人差し指を口に当てる。
Everyone is sad abd blue when she is far away,
Don't you know it's time to pray she'll be coming soon?
(なんで……)

And once you meet her--
414 ◆HHOM0Pr/qI :2005/04/11(月) 01:25:49 ID:yMKi0aLs
FINAL FANTASY IV #0084 2章 3節 新たなる旅立ち(13)

優しく体を揺さぶられ、リディアは目を覚ました。
「リディア……リディア、帰るよ」
「え? あたし、寝ちゃってた?」
誰かが運んでくれたのだろう、箱に被せた毛布の上にリディアは横たわっていた。
瞼をこすってあたりを見ると、アンナどころか他の人も、ほとんど姿を消している。
「だいぶ遅くなったからね。負ぶっていこうか?」
暗い気持ちでリディアは首を横に振った。ものすごい失敗だ。せっかくアンナを見つけたのに、どこに行ったかわからない。いつのまに寝入ってしまったのだろう。
「まだ眠そうだよ、大丈夫?」
この様子だと、ギルバートは絶対気付いてなさそうだ。ここに来てたことだけでも教えあげないと。
「あのね、あたし……」
言いかけたリディアの脳裏に、アンナが見せた最後の笑顔がよみがえる。
唇の前で指を立てた彼女は、淋しそうではなかった。
(ナイショ……なんだ)
理由はわからない。でももしアンナにそのつもりがあったなら、会っていかないはずがない。
「あのさ。また歌ってね。
 あたし、もっとギルバートの歌、聞きたい」
「そうだね。今度は君が起きてる時間に」
子供あつかいされてしまった。頬をふくらせるリディアを見て、ギルバートは楽しそうに笑う。
見上げると、円い月は見たこともないほど高い位置にあった。
415名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/12(火) 09:38:25 ID:pRiWmp47
今回はいつにもまして素晴らしいノベライズで・・・
まさかギルバートとサファギンのエピソードがここまで綺麗にアレンジされるとは・・・・
感動しました。
416名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/12(火) 14:08:50 ID:7mBx+6wI
GJ!!
417名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/13(水) 21:27:46 ID:iyxWK4FO
マジすげぇです!!
GJ( ^∀^)b
418名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/14(木) 01:38:43 ID:mbG0wLTD
乙です!
毎回楽しみにさせてもらってます。ガンガってください!
419名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/14(木) 03:30:26 ID:bSEOM+gl
小説の内容もさることながら、歌にも感動した。
PRAYだよね?
ささやかなところでもマジ感動した。
420名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/17(日) 02:43:31 ID:My48y6Ks
最高!!毎回続き楽しみにしてるぞ!!
421名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/18(月) 00:26:53 ID:D/wJYCjm
そろそろほしゅage
422名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/18(月) 01:14:15 ID:ZlCizSQS
ギルバートがビデオの録画に失敗して
まで読んだ
423 ◆HHOM0Pr/qI :2005/04/18(月) 23:08:46 ID:Q4P3BT8M
>415-421
どうもありがとうございます。正直、話変えすぎと叱られる覚悟でいたんですが、
なんとなく程度で踏破できるホブス山はどうしても嫌だったので(そこで修行してるモンク僧の立場なさすぎ)、ギルやんにも早々に覚悟を決めていただきました。
ご指摘の通り、今回ギルバートに歌わせた曲は全てボーカルコレクションI『PRAY』からです。
424名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/20(水) 13:12:44 ID:tSzkWgux
むしろ、あの(オレにとっては)つまらないサハギン戦闘を
ここまでおもしろくしてくれるとは・・・ 話アレンジマンセー
425名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/21(木) 23:48:33 ID:jFd5rD3i
ほしゅ EDまで小説化したら神スレ認定
426名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/22(金) 15:19:43 ID:u91yRLgR
前回うpされたのが10日前(´・ω・`)
このスレには何人職人さんがいるんだろう
427名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/23(土) 01:03:09 ID:j2Txb3L0
イベントアレンジの職人さんといえば>>353-358の人はもう書かないのかな。
この人のギルバートシクシクイベントはマジに秀逸だったと思うのだが(シクシクのくせに)。他の場面も書いてホスィ・・・。
428名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/24(日) 00:13:52 ID:dI/8V1Ma
前に一部書かせてもらったものですが、ここんところ皆さんのアレンジが素晴らしすぎて
あれこれ考えてみているうちに先に素晴らしいのが来て考え直しの繰り返しですw
EDまでいったら全部繋げて読みたいね。
429名前が無い@ただの名無しのようだ
何ヶ月後、何年後になるかわかったもんじゃないけどねw
しかし、いつかは完成させたいな〜