ギャルゲー板SSスレッド Chapter-4

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1名無しくん、、、好きです。。。
ここはギャルゲーに関する二次創作小説、いわゆるSS(=サイドストーリー、
ショートストーリー)を投稿するスレッドです。

大作から一発ネタまで、ほのぼのからダークまで、健全からえろえろまで。
あなたの胸の中に生まれた、あなただけのストーリーを聞かせてください。
もちろん感想やリクエストも大歓迎です。

前スレ
http://game.2ch.net/test/read.cgi/gal/998140261

初代
http://yasai.2ch.net/gal/kako/972/972092485.html
二代目
http://yasai.2ch.net/gal/kako/989/989185904.html

詳しい事は>>2-10くらいを参照
□本スレッド使用上のご注意■
・基本的にテキストエディターで書いたものを数回に分けてカキコしましょう。
・長文が続いた後は回し(短いカキコをsageで9回)を行ってください。
 (長文が上がると他のスレに迷惑になるので)
・連載形式を取る場合は頭に前回の部分を『>>』を使って書き、最後に「続く」(又は「終わり」)と書いて下さい。
・誰かが作品をUPしている時はできるだけその人があげ終わるまで待ちましょう。
・作品をUPする時は時間を空けずなるべく早めにお願いします(書きこみ規制に注意)。
・最後に自分の作品についてまとめてくれると読む方が読みやすくなります。
 ‐例‐

>>X4-1X(番号) 
『×××××』(SSの題名)
〇〇〇(元ネタゲーム) △△△(ジャンル)
XXXXXXXXXXXXXXXXX(作者から一言)

・ジャンルはエロや鬼畜に嫌悪感を示す人もいるので必ず書きこんで下さい。
・良いと思った作品には、一言感想を。それがSS作者の心の支えになります。
他のゲーム系SSスレ
【ときめきメモリアル総合官能SS】(半角かな板)
http://vip.bbspink.com/test/read.cgi/ascii2kana/1022302329/
【SS投稿スレッド@エロネギ板 #3】(エロネギ板)
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1013970729/
【SS書きの控え室】(エロパロ板)
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1002022822/
【ユーディーのアトリエロSS】(エロパロ板)
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1025550374/
さて、たてては見たものの需要があるかどうか…。
乙です。
どんなSSを読みたいかアンケート取ったら?
7流水塔 ◆skb1Nfqs :02/09/02 20:26 ID:???
シスプリ・ときメモ系に偏るのが住人を増やすカギかと。
8佐倉楓子の告白:02/09/02 23:25 ID:???
私は今、高三で受験生なの。だからこの夏は勉強ばかりしてたんだ。
彼氏とは遠距離で、彼は私に内緒で他の女の子にちょっかいを出すような人。
最近は彼との関係もマンネリぎみで、一番最近電話をしたのも8月頭だったの。
勉強のしすぎだったのかな。最近はストレスが溜まってなんだか体がうずうずしてたんだ。
(部活も引退しちゃったものね)

昨日は友達の家で一緒に勉強してて、帰りが11時過ぎになり私は最終電車に乗ったの。
駅に着いて外に出たとたん、後ろから抱きつかれて口押さえられてその人の車に連れてかれて……。
全てがあっと言う間でした。
もうされることは分かったから相手の顔見たら少しカッコよかったの。
(そういえば、不思議と怖くはなかったなあ)
彼氏への当て付けのつもりだったのかもしれないね。
その人に抱かれると分かっても何も抵抗はありませんでした。
9佐倉楓子の告白:02/09/02 23:26 ID:???
家には友達の家に泊まるって電話入れて、まずキス。
その後、胸を服の上から揉まれて、だんだんと手が下の方に…。
服を脱がしてもらって性器を弄られたらもう濡れてきてるのが分かって、思わず声だしちゃった。
彼がもっと声だしてって言うから、恥ずかしかったけどたくさん出しちゃった。
で、一回目の挿入。始めてだったからキツかったらしく、彼は「締まるっ」とか叫んでた。
もちろん私も痛かったんだモン。
彼のペニスはとても大きくて、子宮の奥まで突かれた。
危険日だったから中に出さないでってお願いしたらちゃんと外に出してくれたんだよ。

二回目は、ディープキスをしながら彼のペニスをしごいてあげたの。
不思議だね。最初はグロテスクに見えた彼のペニスも一度した後はかわいく見えちゃった。
知ってる? ペニスって指先で弾くとピクッて反応するんだよ。
「うっ…うぅ…」ってとっても気持ちよさそうだったなあ、彼。
言われた通りお口で奉仕してあげたら口内に出されて仕方ないからに飲んであげた。
始めて味わう味。苦かったけど嫌じゃなかったよ。
10佐倉楓子の告白:02/09/02 23:27 ID:???
彼のが私の中入ってきて一時間くらい合体してたと思う。
腰を激しく振ってきて、私はすぐにイっちゃった。
彼が俺もイカせてよって言うのでもう一度お口でイカせてあげた。
その後は挿入は無かったけど、あそこをいっぱい舐めてもらった。
終わったあと彼と話したらいつも朝同じ電車に乗っていた事がわかったの。
彼は20歳。ずっと私の事が好きだったんだって。
遠距離恋愛に疲れちゃってたのかな、私。
彼から付きあってくれと言われて、すぐに彼氏とは別れようって決意をしちゃった。
だって彼の方がいつでも会えるしカッコ良いし。それに始めての人だし…。
まだ別れ話はしてないけど後で電話するつもり。
ところでなんでカーセックスってあんなに興奮するんだろ。
人に見られてる気がしてドキドキしちゃった。
ほんと気持ちよかったなぁ。
今日も彼は会おうって言ってるし、今から夜が楽しみなんだモン!      

おしまい
>>8-10
題「佐倉楓子の告白」
元ネタ:ときメモ2もの 
ジャンル:エロ、強姦、寝取られ 

前スレで新スレがたったら書くといった手前、即興だけど一つ書いてみました。
自分で言うのもなんだけど、こんなの凸たんじゃないよ〜ヽ(`Д´)ノ

これくらいなら回さなくてもいいよね?
しまった…間違え発覚。
まあ、いいや。誰かに指摘されるまで黙ってよう。
(・∀・)
えろーい
現在執筆中の人は挙手!


いねーだろーなぁ。
前スレが圧縮に…危なかった。
980超えてたからでしょ。どのスレでも一緒。
age
18缶珈琲:02/09/04 23:55 ID:???
>14
はーい。

えーと、今書いてる話、けっこう長くなりそうなんですけど、連続書き込み対策
なんかも兼ねて、連載形式にしていいでしょうか?
スレの私物化とか言われてしまうと困るので・・・。
節目節目をしっかりとしておけば連載形式でいいと思いますよ。
待ってます。

ちなみにジャンルは何ですか?
20缶珈琲:02/09/05 00:41 ID:???
>19
すいません、例によってメモ2です。主役は舞佳さん。
「3」ネタも書きたいけど、どうもネタが思いつきにくくて…。
(他のタイトル、ほとんど知らないんですよ)

とりあえず、冒頭部分は週末には出せると思います。
残りは、とりあえず週一うぷ目標ぐらいかなぁ。
期待してます。
ときメモSS書いてる人は主人公の名前はどうしてんの?
23「おとうと」を書きました:02/09/08 04:45 ID:???
>>19
その言葉、もっと早く聞きたかったです・・・
でも今聞いてもうれしいです。
>>23
またなんか書いてYO!
25 ◆KAORIr62 :02/09/08 17:15 ID:???
>>22
昔は名前を適当に考えていましたが、
エロSSには付けていないような・・・。
名前を書くと、読者様の中に嫉妬される方がいるみたいです。
個人的には名前があった方が、遥かに書きやすいのですが・・・。(´Д`;)ゞ
他のキャラに
キミと呼ばせたり、アナタと呼ばせたり、おまえと呼ばせたり…

かなぁ
27遥かなる鐘の音〜第1幕-1:02/09/08 22:18 ID:???
 午後の授業の、けだるい雰囲気を吹き飛ばすかのように、彼は現れた。
 教室の後ろの扉を、狭そうにくぐりぬけてくる、巨大な姿。身長2mに届こうかと言う
巨漢だが、これでも立派に高校3年生、私たちの同級生だったりする。身にまとった古風
なガクランは、いくら自由な校風を誇るひびきの高校だって、立派に校則違反のシロモノ
だ。あざやかな緑色の制服の中にまじった、その姿はまるで、静かな森の中の人食いグマ
……ってとこかしらん。
 そんな彼に対する、教室のみんなの反応はといえば、ひたすら黙りこくり、彼と目が合
わないように、じいっと黒板を見つめている。
(まぁ、無理もないわよねん)
 と、私は思った。あのでっかいのが、鬼みたいな物凄い形相で、しかも全身の大小の傷
口にはうっすら血がにじんでる――そんなのを目にすれば、まぁフツーは呼吸も止まるっ
てものだろう。
 彼の名は一文字薫。今や絶滅寸前とも言われる、「番長」を地で行くオトコ。
 彼は凍りついた教室の空気をものともせず、自分の席にどかっと腰を下ろして、言った。
「先生……授業、続けてくれや」
「あ……はい、いや、ああ」
 おー、先生ビビってるビビってる。かわいそーに。よし、ここはいっちょ、助け舟を出
すことにしよーかしらん。
「先生! 一文字君は怪我してるみたいなので、保健室に連れてった方がいいと思いまーす」
「いらん」
 薫ちゃんが低く唸るが、とりあえず無視する事にする。
「そっ、そうだな。頼めるか、九段下」
「はーいセンセ。副学級委員こと九段下舞佳、任務了解いたしましたん♪」
 ラッキー、これで授業抜け出す口実ができた、っと。
28遥かなる鐘の音〜第1幕-2:02/09/08 22:19 ID:???
 保健室。担当の先生はどうやら不在らしいんで、私でもできる程度の軽い手当てを
する事にした。
「にしても、今日はまたこっぴどくやられたもんねー」
「かすり傷だ」
 お、出たわね定番の強がり。そゆこと言うと、消毒液を余計にサービスしちゃうわよん。
 それにしても、彼がケンカで怪我するのは日常茶飯事ではあるんだけど、今日のは
ちょっと不可解だった。まるで包丁か何かで切りつけられたみたいな、鋭い切り口。何よ、
これ?
「薫ちゃん、通り魔でも取り押さえたの?」
「……違う。奴だ」
「というと、例の元剣道部員?」
 私はそいつと面識はないんだけど、薫ちゃんからいつも話だけは聞いてる。薫ちゃんと
好敵手を認め合った間柄らしく、顔を突き合わせてはケンカばっかしてるらしい。
何が楽しいんだか、ねー。確か戦績は、えーと……
「……46勝45敗8引き分け、だっけ?」
「……46敗、だ」
 薫ちゃんは苦虫を噛み潰したような顔で、小さく訂正した。
29遥かなる鐘の音〜第1幕-3:02/09/08 22:20 ID:???
「あーらら。ついに並ばれちゃったワケね。ここんとこ、負けが込んでない?」
「……奴には、奥義がある」
「おうぎ?」
「そうだ。剣道部に伝わるという幻の技……あの太刀筋を見切らない限り、俺に勝ち目は
ない」
 いや、んなマンガみたいな話をされても困んのよねん。あくまでコッチは日常の世界に
住んでんだからさ。
「ま、そーゆーマユツバものの話は置いといて。負けちゃった原因はそれだけかしらん?」
「……何の話だ?」
「最近さ、ケンカ以外のことで、なんか夢中になってる事があるんじゃないの、って事よん。
例えばさ、好きな女の子ができたとか」
 私がいたずらっぽく微笑んでやると、薫ちゃんはどうやら動揺したらしく、声のトーン
を一段上げた。
「馬鹿な!漢として、勝負以外のことに興味など……!」
 とその時、保健室のドアが静かに開いた。
「舞佳、一文字くん? 入るわよ?」
 長い髪を揺らして現れたその女性を見たとき、薫ちゃんの顔色がモロに変わった。
30遥かなる鐘の音〜第1幕-4:02/09/08 22:20 ID:???
「やっほー華澄。どしたの、まだ授業中でしょ?」
 私が尋ねると、華澄――麻生華澄、我が親友にしてひびきの高校始まって以来の才女、
全校男子生徒憧れのマト、もひとつおまけに学級委員長――は、かすかに怒ったような
口調で、こう答えた。
「でしょ? じゃないわよ、舞佳。もう5限は終わったわよ」
「げ、マジ? まだ鐘、鳴ってないじゃん」
「いつもの故障よ。最近多いわね」
 このひびきの高校にて、授業の始めと終わりを知らせる役を果たしているのは、少し
ばかり古風な、ナマの鐘の音だった。その鐘は、この高校の名物ともいえる古びた時計
塔の頂上で、毎日生徒たちを見下ろしてる。ただし、なにせ古いもののせいか、どーも
ここんとこ調子がよろしくないらしい。
 もっとも、生徒の間では、鐘が鳴らないもう一つの理由が噂されていた。それは……。
「……また誰か失恋したのかしらん?」
「……舞佳、信じてるの?そんな根も葉もない噂」
 私の台詞を一蹴した華澄を、私はしらけた目で見返した。
「ロマンがないわねー、華澄。せめて“伝説”と言って欲しいわん」

 そう、それは、今では誰が最初に言い出したのかも解らない、生徒たちの間に伝わる
“伝説”だった。『失恋鐘』の伝説……誰かの一途な恋が、想い実らず破れたとき、鐘は
それを悲しみ、鳴ることをしばしの間止める……という話。
31遥かなる鐘の音〜第1幕-5:02/09/08 22:21 ID:KJQf/3vd
「なんとも物悲しくも美しい伝説じゃない」
「そうかしら?」
と、華澄はすまして答える。ったく、このゲンジツ主義者め。
「とにかく、私は先に行くけど、次の授業にはちゃんと出ること。一文字くんもね」
「はいはーい」
「“はい”は一回!」
 華澄、すっごくいい友達なんだけど、この先生口調が玉にキズなのよねん。……ま、
そういうとこに魅力を感じる男の子もいるみたいだけど。
 そう、例えば、私の隣で、華澄がドアの向こうに消えた後も、まだぼーっとドアを
見つめてるデカブツみたいにさ。
「ふーん……こりゃそうとう重症みたいね」
「かっ、かすりキズだと言ったろう」
 数十人の不良に取り囲まれても平然としていたと言われる薫ちゃんが、この時、声を
うわずらせた。
「そうじゃなくてさ、こっちの方よん」
 薫ちゃんの左胸辺りを、私は人差し指でツンツンと突っつきつつ、彼の耳元に口を寄せ、
そっとささやいた。
「華澄のこと、好きなんでしょ?」
32遥かなる鐘の音〜第1幕-6:02/09/08 22:21 ID:???
「…………」
「隠し事したってムダよん。薫ちゃん、ウソつくのヘタなんだから。ほれ、観念して
キリキリ白状したまい」
 薫ちゃんは、長いながーい逡巡の後、がっくりとうなだれた。
「情けない男だと、笑ってくれ……」
「なんで笑わなくちゃいけないのよ。男の子が女の子を好きになる、女の子は男の子を
好きになる。当たり前の事でしょーが」
「しかし俺は、親父と同じ漢の道を……」
「そのあんたのお父さんだって、ちゃんと奥さんもらったから、今のアンタがいるん
じゃない。ったぁく、番長のクセにぐじぐじしてんじゃないわよ」
 らしくなく困惑しまくる薫ちゃんに、私は一気にたたみかけた。
「確かに、華澄はライバルも多いし、ガードも固いけど、だからってあきらめてちゃ
そこでお終いだわ。いい? 今のアンタに必要なのは、とにかく一歩だけでも距離を
詰めるための、そのきっかけよん」
「……きっかけ、か……俺にはどうしていいのか、全く解らん……」
「うふふふ、そこんとこは任せときなさい、って」
 ずっと後日の話だが、この時の私の表情を薫ちゃんは「堕落を誘う小悪魔のような笑顔」
と評した。失礼な話よねん。
33遥かなる鐘の音〜第1幕-7:02/09/08 22:22 ID:???
 さて、時間は少し流れて放課後。私は、帰宅の準備をしてた華澄に声をかけた。
「どうしたの舞佳? 今日はアルバイト、お休み?」
「いやー、ちょっと華澄の週末の予定でも聞いとこうと思ってさ。どう、空いてる?」
「今週はなあに? カラオケも映画も、先週と先々週に付き合ったわよ?」
「あ、いや別にそーゆー意味じゃないんだけどね。ただ、ちょっと聞きたいって思っただけ」
「ふーん……?」
 華澄は、腑に落ちない、といった顔をした。やっぱ、ちょっと不自然だったかしらん。
「まあいいけど……今週は、ショッピングに付き合う約束が他にあるの、ごめんなさい」
「というと、オトコ?」
 私が聞くと、華澄は苦笑いした。
「残念だけどハズレよ。近所に住んでる、幼なじみの女の子」
 あ、そーいやいたわね、なんか華澄の後ろをちょこちょこついて走ってる女の子。
「なるほどね、いいオトコはまだいない、と」
「……そうだけど、それは舞佳も知ってるでしょう? どうしたの、今更」
「いやいや、一応確認。オッケー、あんがと華澄。じゃ、またね〜」
「???」
 いっそう不審そうな表情を強めた華澄を後にして、私は走り出した。
 さてと、これから演劇部と野球部のツテをまわんなきゃ。さ、忙しくなるわよん!

                                     (つづく)
34缶珈琲@回します:02/09/08 22:29 ID:???
あら?なんかクッキー効いてない…途中で間違えてageちゃいました。ごめんなさい。
35缶珈琲@回します:02/09/08 22:30 ID:???
さて、予告していた通り、舞佳さん(と番長と華澄さん)の、ちょい長編です。
36缶珈琲@回します:02/09/08 22:30 ID:???
今回、いろいろオリジナルの設定も多いので、受け入れられるかどうか心配なんですが…。
37缶珈琲@回します:02/09/08 22:31 ID:???
4,5回くらいの分割掲載になると思いますので、
38缶珈琲@回します:02/09/08 22:31 ID:???
もしこれを見て気に入ってくださった方、続きが気になる方は
39缶珈琲@回します:02/09/08 22:32 ID:???
最後までお付き合いいただければ幸いです。
40缶珈琲@回します:02/09/08 22:33 ID:???
もう少し回しますね。
41缶珈琲@回します:02/09/08 22:33 ID:???
よいしょ。
42缶珈琲@回します:02/09/08 22:34 ID:???
こんなもんかな。
43缶珈琲:02/09/08 22:39 ID:???
>>22
私の場合、誰かの一人称で本文を書き、ひたすら「キミ」「あなた」「彼」「あいつ」
などでごまかしまくる事が多いです。三人称形式の場合、地の文を「少年は〜」
という書き方でごまかしたこともありますね。

他に、主人公を「主人 公」(ぬしびと こう)という名前で書くという人もいる
みたいですね。こっちの方が簡単ですけど、なんか雰囲気出ないなぁ(w
ご苦労様です。
今後に期待しています。
他スレに貼ってあったSSのリンク貼り付けて紹介っていうのはダメ?
良いんじゃない。
こ れ で も か ?
http://game.2ch.net/test/read.cgi/gal/1022345163/204-205

ちなみに自分は45じゃないよ
苦笑・・・。
>缶珈琲氏
ごくろうさま。また書いてね。
半角かな板のスレ、消えちゃいましたか?
150日ルールってやつだっけ?
作 家 募 集 中
前スレの末で誰か書くっていってなかった?
下げ失敗した…
書いてあるじゃん
(誤爆した…)
気を取り直して、他スレより。

渡井かずみ
http://game.2ch.net/test/read.cgi/gal/1030942756/184-188
5755:02/09/16 13:03 ID:???
鬱氏。 ..・:.・(´Д⊂ヽ

http://game.2ch.net/test/read.cgi/gal/1023139018/185-188
ご苦労様
59遥かなる鐘の音〜第2幕-1:02/09/17 23:25 ID:???
 日曜日のショッピング街。親子、友人、あるいは恋人……さまざまな人たちが笑顔で
行き交うそこは、平和そのものを絵に描いたような風景と言えた。
 そう、物陰に潜んでいる私たち4人――私と薫ちゃんとあと2人――を除いては。
「あのー、九段下先輩、やっぱやるんですかー?」
「あったり前よん、どした、いまさら怖気づいたの、甲二くん?」
「怖気づいたつーかなんつーか、このカッコ、恥ずかしいんですけど……」
 と、自分の服装を見下ろして赤面する彼は、私たちの2年後輩で野球部員の、四ッ谷甲二
という少年だ。たまたま声が似ているのをきっかけに知り合い、以後なんとなく先輩後輩
の関係が続いている。熱血野球少年の彼だが、今着ているのは、演劇部から借りてきた、
袖の破れた紫の短ラン。少々背が足りないことを除けば、立派にヤンキーのにーちゃんで
ある。
「それに九段下先輩、俺、甲子園目指してますから、もし暴力沙汰起こした事がばれると、
すごーくヤバいんスけど……」
「大丈夫だいじょぶ」私は、にっと笑った。「もみ消すためのツテならあるから」
「うあああああああ」
 情けない声をあげて、甲二くんは力なくへたりこんだ。
60遥かなる鐘の音〜第2幕-2:02/09/17 23:26 ID:???
「さて、茜ちゃんの方はOK?」
「うん! これをきっかけに、お兄ちゃんが真面目になってくれるかもしれないんだもん、
ボクがんばるよ!」
 と、甲二くんとは対照的に、元気な声で答えたのは、薫ちゃんの妹、一文字茜ちゃん。
やっぱりこっちも不良っぽい服装に身を包んでいる。さらしの下で窮屈そうにしているバ
ストは、中学生の割には発育が良かったりするのよねん。
「よし、んじゃ薫ちゃんは……」
 視線を薫ちゃんの方に向けると、彼は念仏でも唱えるかのように、一心不乱になんかブ
ツブツ言っている。
「待てそれ以上の手出しはこの俺が許さん待てそれ以上の手出しはこの俺が許さん待てそ
れ以上の手出しはこの……」
「薫ちゃん、準備は!?」
「が許さん待てそ……、んっ、あ、ああ、大丈夫だ」
 ……ホントに大丈夫かしらん。
「よーし、んじゃ改めて作戦説明するわね。ターゲットは……」
 私は、物陰から、ファンシーショップのウィンドウを眺めている華澄たちを指差した。
61遥かなる鐘の音〜第2幕-3:02/09/17 23:26 ID:???
 事前のリサーチで、華澄の幼なじみの子はガラスの小物好き、という情報が入ってる。
華澄もぬいぐるみとか好きだし、とすればここに一度は立ち寄るだろう、という私の読み
は見事に的中していた。ふっふっふ。
「……ターゲットは彼女、いいわね。平和にショッピングを楽しむ可憐な美少女二人、し
かしそこに襲いかかる、恐怖のヤンキー軍団!」
「軍団って、あの、二人しかいないスけど」と、甲二くん。
「しょうがないでしょ、薫ちゃんが手下呼ぶの嫌がったんだから。それはおいといて……
恐怖におびえおののく少女、しかし神は二人を見捨てていなかった! 風のように颯爽と
現れる男一人! はいここで薫ちゃんセリフ!」
「待てそれ以上の手出しはこの俺が許さん」
 ……果てしなく棒読みね、薫ちゃん。
「で、なんだかんだで少女たちは救い出され、平和が訪れ、少女は助けてくれた男にほの
かな思いを抱くのだった。めでたしめでたし。と、まあそういう筋書きよん。質問は?」
「はい」と甲二くん。「一つ気になるんスけど」
「ん、何かな少年」
「あまりにもベタじゃないですか?」
「…………」
 一瞬凍りついた私に構わず、甲二くんは続ける。
「なんかものすごーく、失敗の予感がするんですけど……」
「だっ、大丈夫よん!」私は胸を叩いた。「こーゆーのはちょっとベタなくらいの方が
いいのよん。ここはおねーさんにどーんと任せときなさいって!」
 と、物陰から顔をちょこんとのぞかせて、華澄の様子をうかがっていた茜ちゃんが振り
向いた。
「あの、舞佳お姉ちゃん?」
「何、茜ちゃんまで不安になってきたの? だから大丈夫だって……」
「ううん、そうじゃなくて……麻生さん、もうからまれてる」
「何ーーーっ!」
62遥かなる鐘の音〜第2幕-4:02/09/17 23:27 ID:???
 茜ちゃんの言ったとおりだった。
 華澄にからんでいるのは、まるでハンコで押した様におんなじカッコの不良3人組。今
ひとつ中身のない台詞をぺちゃくちゃと喋っているが、やってることはと言えば、つまる
ところ、ナンパ。それもとびっきりタチの悪い奴だ。
 華澄はといえば、おびえる連れの女の子をかばうように、毅然とした態度を貫いている。
同性ながらほれぼれしちゃうわね……って、ンなこといってる場合じゃない!
「あいつら……よりによって……覚えておけよ……」
 と、薫ちゃん。どうやら手下らしいけど、だったらちゃんと教育しておいてもらいたい。
「どうすんスか、九段下先輩?」
「んー、こうなったらあんたらの代わりに、あいつらにヤラレ役やってもらうしかないわねー。
……あ、危ない!」
 そろそろ不良たちもしびれが切れてきたらしい。だんだんと態度が威圧的になり、そして
ついに、その一人が拳を振るおうとしていた。
「よし行け薫ちゃん! 華澄を救うのよん!」
「おうっ!」
 と勢い込んで飛び出そうとした薫ちゃんの――いや、私たち全員の動きが、次の瞬間凍
りついた。
 どういう魔法を使ったのか、殴りかかろうとしていた不良は、地面に倒れ伏していた。
63遥かなる鐘の音〜第2幕-5:02/09/17 23:27 ID:???
 二人目の不良が、華澄に向けて突進する。と、華澄は、体を半歩ずらしてパンチを避け
ると、その腕をひっつかみ、そのままぐいっとひねって、まるで手品か何かの様に、不良
の体をアスファルトに打ち付けた。
「うわ……華澄、どこであんな技を?」
「あれって、女性向けの護身術だよ」と茜ちゃん。「すごいなあ、タイミングとか呼吸とか
バッチリだよ。あのまま護身術の先生になれそう」
 ううむ、さすがひびきの高校始まって以来の才女と言われた女、華澄恐るべし。……っ
て感心してる場合じゃない!
「まずい、このままじゃ全員華澄にKOされちゃうわ! 薫ちゃん、せめて残りの一人でも
やっつけて来なさい!」
「お、おう!」
 と、慌てながらも走り出す薫ちゃん。華澄の前に颯爽と現れ、キメ台詞を……あ、ヤバい!
「待て! それ以上の手出しはこの俺が許さん!」
 ……あ〜、言っちゃった。
 とたんに、生気をなくしていた不良の顔が明るくなった。こそこそと薫ちゃんの陰に回
りこみ、華澄を指差して言う。
「ばっ、番長! 助けてください、この生意気な女が!」
 あっけに取られたように、薫ちゃんのあごがカクンと落ちた。
 華澄といえば、最初はいきなりの薫ちゃん出現に驚いた顔をしていたが、しだいに薫
ちゃんを見つめる視線が冷たくなっていく。
「一文字くん……どういう事かしら?」
 こうなってようやく、薫ちゃんも失敗に気付いたようだ。今や彼の顔は半病人の様に真
っ青だ。ったく、アドリブきかない男はこれだから……。
「あなたがそんな人だとは思わなかったわ」
「ちっ、違うんだ、麻生、俺はお前を……」
「あなたに『お前』呼ばわりされる筋合いはありません」
 華澄の声は、断頭台のギロチンが落ちる音の様に、冷たく響いた。
「最低だわ」
64遥かなる鐘の音〜第2幕-6:02/09/17 23:30 ID:???
 次の日からの、学校での華澄の様子は、特にいつもと変わる事はなかった。
 ただ一つ、薫ちゃんをまるで空気の様に無視する以外は。普段の華澄なら、相手が誰だ
ろうと分け隔てなく、朝のあいさつはかかさなかったのに、だ。どうやら、内心では相当
怒っているらしい。
 そして、一週間がたった今も、華澄の怒りはどうやら収まっていない。
 薫ちゃんはといえば、最初はなんとか平静を保っていたものの、どうやら無視され続け
る事が本格的にいたたまれなくなってきたらしく、昨日から学校を休んでいる。もともと
さぼりがちだったせいで、事情を知らない先生やクラスメートたちは気にかけてもいない
けど……。
(ふぅ)
 私の口から、思わずため息が漏れる。薫ちゃんのためを思ってしたこととは言え、二人
の仲は前進どころか大逆走してしまったワケで……。私のせいよね。
(なんとか誤解を解かなきゃ)
 まず、華澄と話をしよう。そう決意した私は、華澄に放課後残っていてもらうように約
束した。そして……。

(華澄、遅いわね……)
 誰もいない教室で、私はぽつんと一人、先生の手伝いに行った華澄の帰りを待っていた。
ほんのやぼ用、って言ってたけど、その割には遅い。んー、私もいっしょに手伝いに行け
ばよかったわ。
 んなことを考えていると、廊下から足音けたたましく、誰かが走ってくる音が聞こえた。
「九段下先輩、ここにいたんですか!」
「……なんだ甲二くんか。華澄見なかった?」
「それがそのとにかく大変なんですよお!」
 甲二くんは、自分を落ち着かせるかのように、一回だけ深く息を吸って、そして言った。
「麻生先輩が、誘拐されました!!」

                                     (つづく)
65缶珈琲@回します:02/09/17 23:35 ID:???
うひゃー連続投稿でシステムに怒られますた。
66缶珈琲@回します:02/09/17 23:36 ID:???
怖いので今日は、回しは半分ほどにしときます。
67缶珈琲@回します:02/09/17 23:37 ID:???
さて、2回目、起承転結の承にあたる話なわけですが。
68缶珈琲@回します:02/09/17 23:38 ID:???
果たしてこの辺りの話、読んでて面白いのかなぁ、と不安しきり。
69缶珈琲@回します:02/09/17 23:39 ID:???
つってもクライマックスまで行って面白くなる保障もないわけですが(w
ともあれ、楽しんでもらえるように頑張りますんで、あと2,3回ほどお付き合いよろしくお願いします。
乙v(´∀`)vカレー
お疲れさまです。
ところでまたゲームブックシステム使うのかな?
age
74加賀谷:02/09/19 00:31 ID:???
漏れも出してくれよ
75名無しだけのため生きるのだ:02/09/19 11:17 ID:???
缶珈琲氏のSSが面白いのは、ゲームの設定を微妙に膨らませて
「ああ、こういう考証もあるんだなあ」と唸らせつつ、
それを上手く演出に使っているからなのかな。

例:甲二と舞佳の絡み、『失恋鐘』の伝説
76缶珈琲:02/09/20 00:04 ID:???
>>72
【番長の戦いを続ける→0180-000-011】
【番長の戦いを止める→0180-000-022】                うそ。
…えーと、今回は分岐はなしです。前のアレが特殊な例だったと言うことで。

>>74
すまん今回キミ出番なし。
だってこのプロット立てたのMRO出る前だし(ってどんだけ温めてたんだ。腐るぞ)

>>75
うわー、そういう誉め方されると恥ずかしくて身もだえ。がんがります。
設定を膨らませると言えば、今回華澄さんが不良に絡まれる展開、前回から伏線
張っておいたんですけど、気付いた方はおられますか?
そう、実は華澄さん、>>33で言ってる通り、カラオケ、映画、ショッピングと
3連続で駅前エリアに遊びに行ってるんですねえ。って誰が気付くねん(w
龍騎かよ!
保守
はるか昔に書き上げた話でした。
完成形をギャルゲ板あぷろだへ上げていましたが、新しい倉庫へ置くことと致しました。
本当に何にもない倉庫ですが、とりあえず宣伝であります。
〜新規ダウンロード先〜
ttp://loudspirit.tripod.co.jp/
宣伝ですいません・・・
8079:02/09/22 06:24 ID:???
そうそう、書き忘れであります。
改めて此度の缶珈琲氏の話を読みますた。よいお話ですね。
81野猿萌え ◆KAORIr62 :02/09/23 15:27 ID:???
非エロで、2ch風の主人公一人称SSを書いてみました。
かなり長くなってしまったので、あぷろだを使わせて頂きました。

http://yukito.cside.com/uploader/general/image/img20020923152020.html

>>缶珈琲氏
SSを拝見させて頂きました。
若かりし頃の総番長の恋を取り上げたストーリーみたいですが、
なかなか見かけない設定で、非常に斬新だと思います。
舞佳さんがいろいろと策を練って、応援しようとしていますが、
変な方向に転ばない事を願うばかりです。
続きも今から楽しみにしておりますので、慌てない程度に執筆活動頑張って下さいませ・・・。
ご苦労さまですた
すた
84遥かなる鐘の音〜第3幕-1 :02/09/29 23:30 ID:???
 夕暮れせまる、河川敷公園。
 オレンジ色に染まる川面をバックに立つ、二つのシルエットがある。一つは細身で長身、
もう一つは小山の様に大きい。
 私は、それに向かって歩き出した。恐怖が私の足を止めようとする。空気そのものが、
ねっとりと私の体にからみついているような気さえ感じられた。
 長身の影が、私に気付いた。
「……何者だ?」
 たった一言なのに、ものすごい威圧感がある。彼の名は神田秋葉――薫ちゃんが、肉親
以外に唯一ライバルと認める存在。
 足が震えそうになるのを自覚する。ええい、気張れ九段下舞佳! ここが女の見せどころ!
「おっ、おひけえなすって!」
 こんな場面にふさわしい言葉かどうか、なんて事を気にしてる余裕は、もちろん無い。
「俺様の名は人呼んでバイト番長! 夜露死苦!」
 顔はグラサンとマスク、胸にはさらし、そして短ラン……てな、怪しいヤンキーのコス
プレ状態で、私は言った。
 なんでまた、こんなワケわかんない状態になってんのかというと――話は少しさかのぼる。
85遥かなる鐘の音〜第3幕-2:02/09/29 23:31 ID:???
「どういう事よ、茜ちゃん!」
 華澄が誘拐された――そんな脅迫状が一文字家に届いたという話を甲二くんから聞いて、
私は自転車をぶっ飛ばし、一文字家に駆けつけた。
 茜ちゃんが涙ながらに見せてくれたその手紙には、こう書かれていた。
『お前の女は預かった。貴様にまだ意地があるなら、女を助けに来い。決着をつけよう。
                                    神田秋葉』
 ……なに勘違いしてんのかしらコイツ、だれが薫ちゃんの女よ。
「どうしよう、舞佳おねえちゃん……」
「どうしようったって……肝心の薫ちゃんはドコなのよん!?」
「それが……自分を見つめなおす、って言っただけで、どこに行ったのか……」
 茜ちゃんは半ばパニック状態に陥っている。こうなったら、私だけが頼りってワケね……。
 どうする? 誘拐事件で警察に届ける? いや、それはマズい。ただでさえ落ち込んで
る薫ちゃんの事、唯一のライバルとの勝負を警察沙汰にしたなんて事になれば、彼のプラ
イドはズタズタ……もう立ち直れなくなるかもしれない。
 じゃ、薫ちゃんの面子をツブさない方法って?
 私は考えた。考えて考えて考えて……自分でもマトモとは思えないアイデアにたどり着
いたのだった。
「茜ちゃん……この間の演劇部の衣装、まだあったわよね?」
 要するに、番長の代理がいればいいのよね。
86遥かなる鐘の音〜第3幕-3:02/09/29 23:33 ID:???
 という訳で。
 九段下舞佳、一世一代の大芝居……なんだけど、神田は、フッと鼻で笑い飛ばした。
「一文字も落ちるところまで落ちたな。女一人よこして、自分は布団かぶってオネンネか?」
「かお……番長はちょっとヤボ用でな、わた……俺様が代理を頼まれてるってワケさ」
 その証拠に、背中には「代番」の文字が……いや、こんなんじゃ説得力ないって事ぐら
いは解ってんだけど、まあ無いよりマシだわ、多分。
「女は無事なんだろうな?」
 慣れない男言葉でそう問いかけると、神田は、土手の一点をあごで示した。見れば、華
澄がそこに横たわっている。
「眠ってもらってるだけだ。一文字さえ来れば、無傷で帰すつもりだったが……そうも行
かなくなった様だな」
「だから自分が代理だっての!」
 私が言うと、神田は大声で笑いだした。
「そんじゃ、お前さんが俺の相手をしてくれるって訳か? こいつぁとんだ喜劇だ」
「……やっ、やってみなけりゃ解んないでしょーが!」
 その時、神田の傍らに控えていた、もう一人の男――体の大きさは薫ちゃん以上、なん
かよく解んないけど背中に金属製の亀の甲羅みたいなのを背負っている――が口を開いた。
「きょっ、兄弟、オデにやらせてくれないか?」
「……いいだろう桜田門、好きなようにしな」
 ……桜田門?
 ああっ、思い出した! 桜田門長太、かつて相撲部部長だったけど、あんまり部員をし
ごくもんだから、みんな逃げ出しちゃって、ついには相撲部を廃部に追い込んじゃったヤツ
じゃない! なんでこんなトコで神田とつるんでんのよ!
 桜田門は口元に薄ら笑いを貼り付けて、一歩進み出た。
「お、女とやるのは初めてなんだな」
 誤解を招くよーな発言してんじゃないわよ!
87遥かなる鐘の音〜第3幕-4:02/09/29 23:34 ID:???
 私は、桜田門と距離を置いて向かい合った。にしてもデカい。こりゃどうやったって
マトモな勝負になるはずがない。
 私は、袖口に隠したスタンガンの感触を確かめた。バイト仲間から借りてきたものだ。
ヒキョーだろうがなんだろうが、腕力のない私にはこれだけが頼りだ。
「さ、さあ、かかって来なさい!」
 私の声に応じるかの様に、土煙を蹴立てて桜田門が突進してくる!
 こ、こわっ!
 迫力に押されて、私は力いっぱい横っ飛びに逃げた。間一髪、桜田門の張り手は私をか
すめ、後ろにおいてあった金属製のゴミ箱を、空き缶か何かの様に軽く遠くまでふっとば
した。
 ……少し遅れて、その方向から「はにゃ〜!」という声がしたのは、吹っ飛ばされた
ゴミ箱が、どこかの運の悪い子に命中したらしい。大丈夫かしら……。
(とにかく、もう一度、冷静に、冷静に……!)
 ものすごい勢いに見えたけど、私のところに来るまで、思ったよりも時間がかかってた。
そりゃ、あんな甲羅背負ってりゃ動きも鈍くなるわよね。……となれば、隙を狙って一撃
必殺っきゃない!
 軽く挑発のポーズを取ると、またもや桜田門が突進を始める。なんか闘牛士にでもなっ
たような気分だわ。
 今度は無闇に逃げない。ギリギリのところまでひきつける。ひきつける。ひきつける……
今だ!
「でえええい!」
 決まった! 私の突き出したスタンガンは、桜田門の胸に青白い火花を散らした。
 桜田門は、呆然と立ちすくみ、そして……。
「…………あつっ。」
 それだけかーーーーい!
88遥かなる鐘の音〜第3幕-5:02/09/29 23:36 ID:???
 桜田門は、スタンガンの当たったあたりをぽりぽりと掻いて、まるっきり何事もなかっ
たかのように肩をぶんぶんと回した。な、なんて非常識なヤツ……。どーすんのよ、アレ
一応こっちの切り札だったのよん!? 
「屁の突っ張りはいらんのじゃー!!」
「ひぇぇぇぇぇっ!?」
 私は逃げた。今度こそ本気で逃げた。向こうは足が遅いし、私の方もスタミナもそれな
りにあるつもりだから、なんとか避け続けていられるけど……でも、いつまでもこんな事
してたらバターになっちゃうわ。なんか次の手を考えなきゃ!
「う、うわっ!?」
 後ずさりしようとして、私は木の杭でできた柵にぶつかった。いつの間にか、私は川べ
りに追い詰められていたのだ。まずい、これじゃ逃げられない!
 桜田門はといえば、距離はまだ少し離れてるものの、私を追い詰めた余裕さか、舌なめ
ずりなどしながら私を見つめている。思わず背中に悪寒が走り、力なく背中の杭にもたれ
かかると、その杭が頼りなく軋んだ。……あっ、そういやこの杭って、確か……。
 ……よぉし、こーなったら、イチかバチか!
「どうしたの!? 女一人捕まえられなくて、それでも男なの、この(自主規制)野郎!」
 私は最後の気力を振り絞って、思いつく限りの悪口雑言で挑発した。ううっ、顔見知り
には間違っても聞かせられない……。
 効果はてきめんだった。桜田門は、顔を真っ赤にして文字通り猪突猛進してくる。その
張り手が私に襲い掛かり突き飛ばそうとする、そのコンマ数秒前。
 私は、スライディングの要領で、桜田門の足と足の間をくぐり抜けた。
「ぬおおおっ!?」
 桜田門の突進を、古びた木の杭は受け止め切れなかった。この杭、だいぶ前から腐って
弱くなってんのよね。やー、人助けってのはしておく物ねん。
 どっぱーん。
 私の狙い通り、桜田門は水面に特大の水柱を作った。
89遥かなる鐘の音〜第3幕-6:02/09/29 23:39 ID:???
 ぜぇっ、はぁっ、ぜぇっ、はぁっ……。
 乱れる呼吸をなんとか押さえつけて、私は桜田門の落っこちた川面を見つめた。とっさ
にやっちゃった事とは言え、あんな重たい甲羅抱えて大丈夫かしら……。
「奴なら大丈夫だ、この程度でどうにかなるようなタマじゃねえ」
 と、神田の声。その声に答えるかのように、向こう岸に上着を脱ぎ捨てた桜田門が上陸
して……仰向けにひっくり返った。
「わ、私の勝ち……よ。文句、無いわよね!?」
「ああ。ただの道化かと思ったが、なかなかの度胸じゃねえか。気に入ったぜ」
「と、とにかくっ、これで、華澄は返してくれんでしょーね!?」
 神田は首を横に振った。
「さあて、そいつはお前さんが俺を倒せるかどうかだな」
 うげ。
「何ムチャクチャ言ってんのよ!?」
「無茶なものか、一文字の代理を名乗ったのはそっちだろうが。こっちにも面子ってもん
があるんでな、はいそうですかと返してやる訳にゃいかねえのよ」
 手にした木刀で肩を叩きながら、神田が言う。ああっ、もうこうなりゃ自棄だわ、どう
にでもなれっ……!
 太く力強い声が公園に響いたのは、私がそう決心した瞬間だった。
「あいにくだが、ここで選手交代だ」
 私は驚いて声のほうを振り返った。声の主は土手の上で、夕日の照り返しを受けて、悠
然と腕を組んでいた。見慣れたはずのシルエットだったけど、それは今までになく心強く
見えた。
「……遅刻よ、薫ちゃん……」
 私には、それだけを言うのが精一杯だった。
                                     (つづく)
90缶珈琲@回します:02/09/29 23:51 ID:???
さて、第3幕をおとどけしました。
91缶珈琲@回します:02/09/29 23:51 ID:???
今回の見所、それは
92缶珈琲@回します:02/09/29 23:52 ID:???
何の脈絡も無くカメオ出演するゆっきー(w
93缶珈琲@回します:02/09/29 23:52 ID:Bcw5+Mrv
…ではなくて、バイト番長誕生エピソードですね。
94缶珈琲@回します:02/09/29 23:54 ID:???
さて、次回は
95缶珈琲@回します:02/09/29 23:55 ID:???
思いっきりかっこいい番長を書ければいいな…とか思ってるんですが。
96缶珈琲@回します:02/09/29 23:55 ID:???
しかしこれときメモか?ていう話になってきた気がしますね(w
97缶珈琲@回します:02/09/29 23:56 ID:???
ところで、この話を書く上でこっそりお世話になってる方がいます。
98缶珈琲@回します:02/09/29 23:57 ID:???
それはキャラネタ板の舞佳さん(w いろいろ口調とか参考にさせてもらってます。
(番長を薫ちゃん、と呼ぶのはこの人からヒントをいただきました)
99缶珈琲@回します:02/09/29 23:59 ID:???
多分こんなとこ見てないでしょうけど、お礼を申し上げておきます。ありがとうございました。
では次回、また頑張りますのでよろしくお願いします。
乙カレー。
101名無しだけのため生きるのだ:02/09/30 00:11 ID:???
舞佳ちゃんカコ(・∀・)イイ!
ご苦労様です。
これから読ませてもらうよ。
読んだよ
104名無しくん、、、好きです。。。:02/10/06 16:46 ID:pr+BNKHa
300近いんで保守age
放っておくとすぐ落ちそうになるね。
1日一保全状態?
上げておくか・・・
sageておこう
109ハ重花桜梨 ◆HF.po64HXY :02/10/12 01:57 ID:???
「……という訳なんだ」
「ふんふん」
「で、どう?」
「うんっ!あたしも賛成ー!」
「じゃ、決定だね?」
「あはは、もちろん!」

いやー、お友達想いだね、本当。
あたしも何かしようかなって思ってたけど、
やっぱり皆でお祝いした方が楽しいもんね。
110ハ重花桜梨 ◆HF.po64HXY :02/10/12 01:57 ID:???
話をまとめると、こういう事だ。

穂多琉ちゃんの誕生日に、お祝いをしてあげたい。
それで、あたしにも協力して欲しい。

二人で話し合った結果、
穂多琉ちゃんをあたしが前に働いていた喫茶店まで連れて来て貰い、
そこでお祝いをしよう、って事になったんだ。
何でそのお店かって言うと、そのお店、土曜日は定休日なんだ。
店長も、話をしたら「良いよ」って言ってくれたから、
あたし達はその日に向けて、策を練ったのだった!!
……なんちって。
111ハ重花桜梨 ◆HF.po64HXY :02/10/12 01:58 ID:???
そろそろかな?
もうそろそろ、穂多琉ちゃん達がやって来るはずの時間だ。
あたしは準備万端、今か今かと待ち構えていた。

「かずみちゃん。そわそわしなくっても大丈夫だよ」

店長に言われてしまう。
うーん、そんなに待ち切れなさそうにしてたかなー……。

「最初『お店を使わせて下さい』って聞いた時に何をするのかなって思ったけど……」

店長が楽しそうにしている。

「かずみちゃんは、本当に良い子だねぇ……」

そう言うと、一人でウムウムって感じに頷いているのだった。
112ハ重花桜梨 ◆HF.po64HXY :02/10/12 01:58 ID:???
「お店、本当にありがとうございました」

快くお願いを聞いてくれた店長に、改めてお礼を言う。

「良いんだよ、こっちもかずみちゃんにはお世話になってるんだから。いつもありがとう」

一応、あたしは既にこのお店を辞めてはいるんだけど、
どうしても人手が足りない時なんかは、臨時でお店を手伝っていたりしている。
もちろんレギュラーで入っているバイトが優先ではあるのだが、
それでも時間の都合が許せば手伝ってあげていた。

そういう場合、店長はこっそり多目にお給料をくれていた。
あたしは貰いすぎだって言うんだけど、店長は「うん? 昇給したんだよ♪」と言って耳を貸さない。
店長は、変な所が頑固だったりする。

そうこうしている間に、からんからん…と、来客を示すベルが鳴る。

「それじゃ、行って来るね」

店長が、席の案内の為に出て行く。

店長が戻ってきたら、あたし達の番だ。
頑張んなきゃっ。
113ハ重花桜梨 ◆HF.po64HXY :02/10/12 02:00 ID:???
>>109-112

「和泉穂多琉の誕生日:渡井かずみ編」です…。
114ハ重花桜梨 ◆HF.po64HXY :02/10/12 02:00 ID:???
「和泉さん。明日、一緒に来て欲しい所があるんだ」

そう言われたのは昨日の事だった。
それで、今私は喫茶店に向かって歩いている。
彼と私に特別な接点があるかと言えば、これと言って特に思い当たる節は無い。
学校の部活動で同じ部に属している。……ただそれだけの関係だった。
それでも部屋に一人居るよりは気も紛れるかと思い、家を出た。
……彼がまさか家の前まで迎えに来ているとは思わず、少々驚かされたが。

「突然でごめんね」

彼が話し掛けてくる。
彼はすごく良い人だった。
はっきりと目立つような人ではないのだが、
ふとした時にその気遣いに気付かされるような、
そんな……優しい人だ。
115ハ重花桜梨 ◆HF.po64HXY :02/10/12 02:01 ID:???
「別に、構わないわ」

私はつい、素っ気無く言ってしまう。
彼は誰にでも優しいし、私は彼にとってはたくさん居る知り合いの中の一人だ。
そして、それは私にとっても同じ……。
……いいえ、同じでなければならない人……。

「着いたよ」

入り口のドアを開け、私に入るよう促す。
私は一言「ありがとう」とだけ言い、店内に入った。
私たちの他に客はおらず、店の中にはアンダンテなBGMと一緒にゆったりとした空気が漂っていた。

店員に案内され、席に着く。
心なしか、彼は店内に入ってから少し嬉しそうに見える。

彼が紅茶を二人分注文した。
そう言えば、以前文化祭の準備期間中に紅茶が好きだという事を話したかも知れない。
覚えていたのだろうか?
ご苦労様です。
リアルタイムで上げてるの(・∀・)ミテタヨー
117ハ重花桜梨 ◆HF.po64HXY :02/10/12 02:02 ID:???
オーダーを受けた店員が去ると、彼が口を開く。

「今日は付き合ってくれて、有難う」

別に、礼を言われる筋合いは無いのだが…。

「ちょっとね…。どうしても今日、ここに来て欲しかったんだ…」

そう言って、彼は微笑んでいる。
確かに昨日も言っていたが、どうしてここだったのだろう?
取り立てて特徴が有る訳ではない、普通の喫茶店だ。
雑誌で特集されたとか、男の子だけじゃ入り難いような店だとか、そういう訳でもない。

「……今日、どうしたの?」

不思議に思った私は、その事を尋ねてみた。
しかし、彼はその事には答えてくれなかった。

「ちょっとだけ、待っててね?」

そう言い残すと席を立ち、何処かへと行ってしまった。
何なのだろうと思いながらも、何となく落ち着かないまま、しばらく待っていた。
118ハ重花桜梨 ◆HF.po64HXY :02/10/12 02:03 ID:???
二分位経った頃だろうか。彼が戻ってきた。

「お待たせ」

そう言って、私の脇に立っている。

「どうしたの?」

やっぱり答えようとはしない。
どうしたのだろう?

「和泉さん」

彼が、私の名前を呼ぶ。

「何かしら?」

彼はさっきから「嬉しくて待ちきれない」といった表情だが、
私は一人で置き去りにされているみたいだった。
一体、何なのだろう?
一人怪訝に思っていると、彼が突然声を上げる。

「それじゃ、お願いします!」

そう言うと、店員がやって来る。
119ハ重花桜梨 ◆HF.po64HXY :02/10/12 02:04 ID:???
「お待たせしました!」

その声の主は、かずみちゃんだった。
手には、可愛らしく飾り付けられたケーキの皿がある。

「か、かずみちゃん?」

かずみちゃんが色々なアルバイトをしているのは知っていたが、
まさか今この場所で会うとは、思ってもみなかった。

かずみちゃんが、ケーキのお皿をテーブルの上に置く。

かずみちゃんも嬉しそうな顔をしていた。
もちろん、隣に立っている彼も、さっきからずっとそうだ。

そして、向き合って「にぃっ」と笑うと、二人でこっちを向き、歌い出した。



ハッピーバースデー トゥー ユー
ハッピーバースデー トゥー ユー
ハッピーバースデー ディア 穂多琉〜
ハッピーバースデー トゥー ユー
120ハ重花桜梨 ◆HF.po64HXY :02/10/12 02:06 ID:???
「和泉さん/穂多琉ちゃん、お誕生日おめでとう!」

二人はそう言うと、手に持ったクラッカーを大きく鳴らす。
パァンという火薬の弾ける音と、銀色のテープが宙を舞う。

私は驚くばかりで、何も言えなかった。

「穂多琉ちゃん、このケーキ、あたしからのプレゼントだよ!」

かずみちゃんが話しかける。
さっきからずっと変わらない、幸せそうな顔で私に言う。

「和泉さん」

彼も話しかけてくる。

「何?」

この時の私は、どんな顔だったのだろう?

「これからも、よろしくね」

きっと……私は……嬉しそうにしていたのだろう……。
121ハ重花桜梨 ◆HF.po64HXY :02/10/12 02:08 ID:???
>>114-120

「和泉穂多琉の誕生日:和泉穂多琉編」です……。

あと、途中に入った>116君……。
ttp://game.2ch.net/test/read.cgi/gal/1020006366/ こっちのスレで待ってるからね…。
>>121
116です。
すいません>>113の次に書き込んだつもりだったのですが結果割り込む形になってしまいました。
お詫びします。
123名無しくん、、、好きです。。。:02/10/13 23:08 ID:mGqNcsct
(・∀・)!
124缶珈琲:02/10/14 22:07 ID:???
>ハ重さん
お疲れ様です。穂多琉の雰囲気がすごく出ていていいですねえ。
ちなみに、余計なお世話ではありますが、一人称の時は、できるだけ早く
語り手の名前を出しておいた方が読みやすいかと。>>109で相手に名前を呼ばせるとか。


さて、私の方の宿題ですけど…すいません、もうちょっと待っていただけますか?
一応次がクライマックスの予定なんですけど、どうもいろいろ詰まってしまって…。
なるべく早く書くようにします。申し訳ない。
頑張ってね
126ハ重花桜梨 ◆HF.po64HXY :02/10/16 00:44 ID:???
>124
>一人称の時は、できるだけ早く語り手の名前を出しておいた方が読みやすいかと。

わざとそうしたの…。

あと…122君……。
お詫びは身体で払って貰うから……。
それじゃ……。
126で50 KB か
SSスレにしては少ないな?
ある日、俺は家の前でアメ玉くらいの大きさの黒い塊を見つけた。
なぜだろう? 拾った瞬間、それが何かの種子であると感じた。
その種子を眺めていたら、育てたいという気持ちが芽生えてきた。
俺は物置から鉢を引っ張り出し、その種子を植えた。

それから3ヶ月後、種子はすくすくと育ち、大きな蕾を付けていた。
いったいどんな花が咲くのだろう? 毎日楽しみにしていた。

さらに数日後、ついにその蕾が開いたのだ! 待ちに待った瞬間。
す、すごい…本当に大きな鼻だ…。

これが全ての始まりだった。
129遥かなる鐘の音〜第4幕-1:02/10/20 23:18 ID:???
「九段下先輩、大丈夫ッスか!?」
 そう言って、私のもとに駆け寄ってきたのは甲二クンだった。どうやら、彼が薫ちゃん
をここへ連れてきてくれたらしい。ううっ、持つべきものは良き後輩だねえ。
「いやー、大丈夫なのはなんだけど……ちょっと手、貸して」
「は?」
「あはは……足が笑っちゃって立てないのよん、これが」
 我ながら情けない。
 一方、薫ちゃんと神田は、そんな私たちにかまわず、互いににらみ合っていた。
「ふん……どうやら腐りきった訳でもなさそうだな」と、神田。「まだ漢の目をしてやがる」
「腐ったのは貴様の方じゃないのか」薫ちゃんが答えた。「女を人質に取るなんぞ、外道
のやる事だ」
 神田は、口元に不敵な笑みを浮かべた。
「元より手を出すつもりなんぞねえさ……さあて、そろそろ始めようじゃねえか」
「いいだろう……ルールはいつも通りだな?」
「ああ、5時の鐘が鳴り終えた後、最初にダウンした方が負けだ」
 ちなみにこのとき、時刻はだいたい4時30分。30分一本勝負ってワケね。
 そしてその次の瞬間、場を取り巻く空気が、どこか変わったように感じられた。
 ゴングが鳴った訳でもないが、間違いなく勝負は始まったのだった。
130遥かなる鐘の音〜第4幕-2:02/10/20 23:19 ID:???
 さて、私の方は、甲二クンに肩を支えられながら、華澄のところにたどり着いていた。
 どうやら、これといって怪我なんかはなさそうだ。ホントに眠らされてただけだったのね。
「華澄っ! 起きなさい華澄!」
「…………う……母さん、朝ごはんいらない…………」
 誰があんたの母さんか。
「えーい、寝ぼけてないでさっさと起きんかーい!」
 肩を強くゆすると、どうにかこうにか目を覚ましたようだった。この低血圧娘め。
 目を覚ました華澄は、私の方をじろじろ見つめて、そして噴き出した。
「ぷっ! 何よ舞佳、その格好!」
 ええい笑うな。こっちはあんたの為に死にそーな目に会ったのよん。
 私は、事情をかいつまんで説明した。話を聞く華澄の表情から、しだいに笑いが失われ
ていき、驚きと戸惑いがそれに取って代わる。
「そ、それで一文字君はどうしたの!?」
 私は無言で、背中の方向を指差した。ちょうど二人は、最初の攻防を終え、再び間合い
を広げたところだった。
「目が覚めたか、麻生……」
 野獣のような荒い呼吸で、薫ちゃんが呟く。華澄は、はじかれたように飛び出そうとした。
私と甲二クンが、どうにかそれを押さえこむ。
「離して舞佳! 二人を止めないと!」
「ふん……暴力をふるう男は嫌いか、麻生」
 華澄の様子を肩越しに見ながら、薫ちゃんが言う。
「あっ、当たり前です!」
「ならば……嫌ってくれ」
 そう言った薫ちゃんの表情は、奇妙にすがすがしかった。
「嫌って嫌って、嫌いまくれ。ゴミみてえにな。だが……一つだけ、頼みがある」
「……え?」
「忘れないでいてくれ。こんなバカな生き方しかできなかった男が、一人いた事をな」
 言いながら、薫ちゃんは拳を構えた。
「さあ、続きと行こうぜ、神田ぁっ!」
131遥かなる鐘の音〜第4幕-3:02/10/20 23:20 ID:???
 二人の勝負は、一進一退のまま進んでいた。薫ちゃんの拳が神田を捉えれば、神田の木刀
が薫ちゃんを打ち据える。二人の力はほとんど互角だった。
 太陽は、すでにずいぶん低い。決着の時間は、刻一刻と迫ってきていた。
 神田が、ふいに呟いた。
「……そろそろ、奥の手を出させてもらおうか」
 言いながら、木刀を体のど真ん中に構える。次の瞬間、鋭い気合とともに繰り出された
木刀が、空気を切り裂いた。
 それは、明らかに薫ちゃんの体に届いていなかったのにもかかわらず、彼のガクランは
切り裂かれ、宙に一筋の赤いしぶきが舞った。
 この技に驚いたのは、薫ちゃん当人より、むしろギャラリーである私たちだったと思う。
「なっ、なんなのよアレ!? あれって木刀でしょ、刃、ついてないんでしょ!? てい
うか届いてないし!」
「たぶん……」と華澄。「カマイタチみたいに、真空を作ってるんだと思う……私にも信
じられないけど……」
 息をつく暇も与えず、神田の第二撃、第三撃が繰り出される。見えない空気の刃物が、
薫ちゃんの体に傷を増やしていく。一方の薫ちゃんは、完全に攻撃の手を塞がれていた
――なんせ、リーチがぜんぜん違うので、近寄る事さえままならないのだ。
 私は、数日前の保健室での事を思い出していた。なるほど、あのキズはこういう理由だっ
たワケね……。
 そんな中、突然薫ちゃんが動きを止めた。
132遥かなる鐘の音〜第4幕-4:02/10/20 23:22 ID:???
「えっ……!?」
 もう少しで、私は悲鳴を上げるところだった。
 しかし、薫ちゃんは力尽きた訳ではないようだった。闘う意志が無くなった様でさえない。
ただ、両目には闘志を燃やしつつ、しかし指一本さえ動かす気配はなかった。
「何のつもりだ……!?」
 薫ちゃんは答えない。
 神田は攻撃を再開した。薫ちゃんは、防ぎも避けもせず、神田の技を食らい続けていた。
「自殺でもする気か、一文字!」
 ついに、溜まり続けたダメージが一線を超えた。薫ちゃんはその場にくず折れ、そのまま
伏して動かなくなった。
「……つまらんな」
 神田が背を向けて立ち去ろうとする。しかし。
「……まだだっ!」
 振り向いた神田の目に、満身創痍のまま仁王立ちする薫ちゃんの姿があった。
「死にぞこないがっ!」
 神田の猛攻が再開される。今度も薫ちゃんは動かない。まばたきすらせず、自分に襲い
かかる神田の姿を、真正面から見据えている。
 私の脳裏に、ふいに、保健室での薫ちゃんの一言が蘇った。
(あの太刀筋を見切らない限り、俺に勝ち目はない)
 …………! そうか…………!!
 私は傍らの甲二クンを振り向いた。
「甲二クン、今何時!?」
「えっと……4時57分ス」
 あ、あと3分!? それじゃ間に合わない! 5時の鐘の後に、薫ちゃんがダウンを食
らっちゃったら、そこで負けだわ!
「ごめん、ちょっと急用を思い出した! 華澄、甲二クン、ここをお願い!」
「えっ、ちょ、ちょっとどこに行くのよ舞佳!」
 困惑する華澄たちを置き去りにして、私は走り出した。
133遥かなる鐘の音〜第4幕-5:02/10/20 23:23 ID:???
 さて、川原での出来事だけど、ここから先は私は見てないから、甲二クンたちから後で
聞いた話になる。
 神田は戸惑っていた。すでに数回のダウンを薫ちゃんから奪ったにもかかわらず、その
度に彼は立ち上がり、そしてまた攻撃を無防備に受け続けるのだ。
 そして、今もまた。
 二人の時間の感覚は、とっくになくなっていただろう、と思う。
「……どうした神田よ、その程度でおしまいか?」
 薫ちゃんの一言が、神田を逆上させた。
「いいだろう、ならば最大の一撃、真の奥義を見舞ってくれる!」
 神田の「気」が燃え上がった。低い叫びは、空気を震わせ、川面にさざなみを起こすほ
どだった――と甲二クンは言う。
「真っ! 不動明王、唐竹割りぃっ!!」
 裂帛の気合とともに、木刀が繰り出された。
 しかし。
 次の瞬間、乾いた音とともに、神田の足元に何かが転がった。
 折れた木刀だった。
「……バ、バカな!」
 呆然とする神田をよそに、薫ちゃんは空に向かって呟いた。
「親父……ついに開眼したぞ、『超眼力』……」
 完全に状況は逆転した。神田は今や、ヘビににらまれたカエルのように、完全に薫ちゃ
んの気迫に飲まれていた。彼の目には、薫ちゃんの姿はさながら巨人のように見えていた
に違いない。
「うおおおおおおおっ!!」
 薫ちゃんの体から、炎のようなオーラが立ち上る。それはやがて彼の拳に集まり、一つ
の形を作った。
「袖龍ゥゥゥゥッ!!」
 伝説の生き物、龍の形をした闘気の流れが、彼の袖口から解き放たれた。荒れ狂う龍は
一直線に神田に襲いかかり、彼の体をやすやすと吹き飛ばした。
 彼の意識が、地面にうちつけられた後にもあったとしたら、彼は星の輝く空を見つめて
いぶかしんだかも知れない。
 そう、太陽は、とっくに西の大地に沈みきっていた。
 5時の鐘は鳴らなかったのだ。
「……と、言うわけだったんスよ!」
 興奮気味に話す甲二クンを、私は少し冷ややかな目で見つめた。ここはひびきの高校、
川原での事件の翌日である。
「あんた、格闘マンガの読みすぎなんじゃないの? オーラとか龍とか、いくらなんでも
さあ」
「いや本当なんですって! くうっ、九段下先輩にも見せてあげたかった……ってか先輩、
どこ行ってたんですか?」
「あ、いや、それはまあなんつーか」
 私は無理やり話題をそらした。
「で、甲二クンはすっかり感動しちゃったワケだ」
「当然っス! 一文字先輩こそ男の中の男、いや漢! あれを見て感動しなくて何にしろっ
てんですか!」
 身を乗り出して叫ぶ甲二クンの目は、らんらんと燃えていた。
「俺は決めた! いつか野球部に伝わるという奥義を身につけて、あの一文字先輩につい
ていく! そしていつか、その片腕と呼ばれる男になってみせる!」
 ……奥義だらけか、この学校は。
 予鈴がなった。それは聞きなれた鐘の音ではなく、スピーカーを通した、味気ない
電子チャイムだった。
「おっと、そろそろ授業だから行くわね、甲二クン」
「うおおおおっ! 父ちゃん、俺はやるぜ! ひびきのの燃える火の玉になってみせるぜ!」
 甲二クンは一人で燃え続けていた。
 ダメだこりゃ。
 その日の放課後。
 まるで人目を避けるかのように、二つの影がここで出会っていた。
 薫ちゃんと、華澄だ。
 二人は互いに声をかけることをためらっていたようだ。互いの息遣いが聞こえそうなほどの
静寂が、二人の間に流れる。しかし、それを破ったのは華澄だった。
「あの……舞佳から、いろいろと聞いたわ」
「何をだ」
 言う薫ちゃんは、華澄に背を向けたままだ。華澄が続ける。
「日曜日のショッピング街のこと、それに昨日の川原でのこと。私、あなたに謝らなきゃ
いけない……」
「何も謝る事など無いはずだ」
 薫ちゃんの口調は、吐き捨てるようなそれだった。
「ううん、私、あなたの事誤解してた……と思う」
「誤解だと?」
 薫ちゃんの背中は、岩のように巌として動かなかった。
「何が誤解なものか。あの川原で見た通り、俺はケンカ一筋のつまらん男さ」
「でも……」
 言いかけた華澄を、薫ちゃんはさえぎった。
「俺を呼び出した用とはそれだけか? ふん、くだらん用だったな。俺は帰るぞ」
 薫ちゃんは、ゆっくりと歩き出した。裏庭の雑草を踏みしめる音が、やけに大きく聞こえた。
「麻生、さらばだ。こうして話すことも、もう二度とないだろう……」
 ついに薫ちゃんは、最後まで、華澄の方を振り返る事はなかった。
「あれで良かったの、薫ちゃん」
 物陰から呼び止めた私に、薫ちゃんは苦笑いしたようだった。
「覗き見か。趣味が良くないな、舞佳」
「答えて。本当にあれでいいの? せっかく、気持ちが……そりゃまあ、まだほんの少しかも
知んないけど、ともかく通じ合ったかも知れないのよ? このまま、もしかしたら……」
 薫ちゃんは、ふっ、と小さく息を吐いた。どうやら、笑ったようだった。
「神田と決着をつけた事で、俺はこのひびきのと、隣町までをシメる総番になる。子分が増え
りゃ当然敵も増える。神田みてえな生ぬるいヤツばかりとは限らん……」
 私は、はっと息を飲んだ。そんな私を尻目に、彼は、時計塔を見上げた。
「鐘……鳴らなくなっちまったな。どうやら、失恋鐘の伝説はホンモノだったようだ」
「あ、あの鐘は、だって、自然に壊れたとかじゃなくて……!」
 言いかけた私を、薫ちゃんは手で制止して、小さくうなずいた。まるで、全部解ってる、
とでも言わんばかりに。
「お前さんには世話になった」
 それ以上、何も言う気は無いらしかった。
 彼はまた、歩き出していく。どこか、私の知らない場所に向かって。
 ……ったく、男ってのは、どうしてこうバカなんだろう。
 立ちすくむ私と、去り行く薫ちゃんを、鳴らなくなった鐘が静かに見下ろしていた。
(早いもんね。あれからもう5年か……)
 私は、回想を打ち切った。
 ひさしぶりに、母校の時計塔に登って見下ろした街並みは、あのころと変わりなく見えた。
そこに住む人々が、時とともに変わってしまったとしても。
 生徒だった華澄は、大学を優秀な成績で卒業。いまでは教える立場、つまり教師として、
この母校に通っている。私は、進学せずにそのままフリーターとして、日々多種多様なア
ルバイトにいそしんでいる。甲二クンは本人の目指したところの通り、番長四天王の一人、
火の玉番長としてその名を轟かせている。あの日闘った神田や桜田門も、今ではその四天
王の一員だ。さて薫ちゃんはというと……相変わらず、かな。
 そうそう、変わったものはもう一つある。
 この、目の前にある鐘だ。鳴らなくなってしまった事で、この鐘は失恋という悲しい伝
説を脱ぎ捨てた。それに取って代わったのは、「卒業式の日に告白して、この鐘に祝福さ
れた二人は永遠に幸せになる……」という、幸せな伝説だった。
 もっとも、その伝説を広めたのが誰だったか、なんて事まではだれも知る由もないだろ
うけど。私を除いて、ね。
 そして、明日がその卒業式。
 華澄がはじめて担任した生徒たちが、ここを巣立っていく日だ。
(さあて、そいじゃ一発、気合入れて修理と行っちゃおっか!)
 私は、バイト先から調達した工具箱を開いた。
 明日から、本当の意味で、伝説は生まれ変わる。そして、もう二度とあの悲しい伝説は
語られないはずだ。
 なんたって、私が見込んだ少年なんだから、ね。

                                    (おわり)
138缶珈琲@回します:02/10/20 23:33 ID:???
完結〜!かんけつかんけつ!かんけつかんけつかんけつ!!
139缶珈琲:02/10/20 23:34 ID:???
えーと、今まで私が書いた中で、2番目の長編になってしまいました。
140缶珈琲@回します:02/10/20 23:35 ID:???
もっとも、長い分面白いかどうかは保証しかねますけども(w
141缶珈琲@回します:02/10/20 23:36 ID:yNzJkU3V
この辺りのエピソードは、きっとオフィシャルのどこかでフォローするだろうと
142缶珈琲@回します:02/10/20 23:37 ID:???
思っていたのですが、結局それは叶わず…。
143缶珈琲@回します:02/10/20 23:37 ID:???
しょうがないから自分で妄想しちゃえ、というのがこの話のそもそもの動機だったりします(w
144缶珈琲@回します:02/10/20 23:39 ID:???
一応、オフィシャル各種設定には反しないように気を使ったつもりですが、
145缶珈琲@回します:02/10/20 23:40 ID:???
もし変なところがありましたら、生暖かく許してやってください(w
146缶珈琲@回します:02/10/20 23:41 ID:???
もう一回かな。途中で間違って上げちゃったけど…
147缶珈琲:02/10/20 23:45 ID:yNzJkU3V
『遥かなる鐘の音』
ときメモ2より、九段下舞佳、麻生華澄、一文字薫他でお送りしました。
第1幕 >>27-33
第2幕 >>59-64
第3幕 >>84-89
第4幕&エピローグ >>129-137
ここまでお付き合いいただけた、すべての方に感謝いたします。
乙カレー。
ご苦労様です。
次回作も期待してます。
缶珈琲氏、お疲れさまッス

気の効いた感想付けられず、申し訳ないッス
フカーツしてくれてマジに嬉しいッス、感激ッス
この調子で盛りあがろう?
sage
age
ものすごく下がっていますが誰もSSを書かないのでしょうか?
では貴方から書いてください
156s:02/11/05 01:38 ID:sVMsJC6P
age
150こえて作品3こくらい?
158真祖鮮烈風子 ◆VsoWQFuuko :02/11/08 20:32 ID:???
そういえばほたる(メモ3)のSSでもかこうかなーなんて思った。
ここでは何を書けば気に入られるんでしょうか?
159真祖鮮烈風子 ◆VsoWQFuuko :02/11/08 20:38 ID:f0xTajmW
ごめん、はやくききたいんであげるわ。
ほんと自分勝手でごめんよー
俺がAIRの美凪のSS書くわ。
ちょっと待っててくれ。
161真祖鮮烈風子 ◆VsoWQFuuko :02/11/08 21:03 ID:saXIHZfH
よりによって葉鍵は…
いやまぁいいんだろうけれど、葉鍵専用スレで書いた方が…
   スッキリシタモナ
    ∧_∧
    ( ´∀`)
   /   つ
   (_(__⌒)  |^lヽ、  (´・ω・`)
  ┌─(_)─┘.| )  (∩ ∩)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


         ∧_∧
         ( ´∀`)
         /    ヽ、
      (( (_'(_, )´ ふきふき
        (:・:ω:・:)
        (∩ ∩)


     -─-、
__ / /  ̄ヽヽ_ ごぼごぼ・・・ざーー
  |  |;;.;..,;::;;;l |
  |   |(:・ω・:)'l | 
  \ ヽ~~。゚;; \\
    \ \;;゚;;。;;; \\
      \ \   ゚ )/
        \二二ン´
銃を持って戦う詩織
銃になって戦う詩織
>>158
昔の彼氏と戯れている様子
166真祖鮮烈風子 ◆VsoWQFuuko :02/11/14 18:17 ID:TrAoJDO3
>>165
まじで…。
いや、でもそれはそれでいいかも。
なんでもいいよ。
読者を意識しないで執筆を楽しんで。
>>147
いまごろ気付いたわ・・・。お疲れ。一気に読んだよ。
すげー面白かったです。キャラの配置と設定の生かし方がうまいですね。
まあ、舞佳さん萌えで総番長大好きってのもあるだろうけど・・・。
次回作期待してます。

>>166
期待してます。トナメのふみつきSSは面白かったしね。
ボケコニアンはいずこへ
がんがれ
171名無しくん、、、好きです。。。:02/11/19 23:04 ID:aRAXxx3a
新作が 出そうで出なく 閑古鳥
172流水塔 ◆WpsF3VMtwc :02/11/20 03:02 ID:???
ここってエロ有りだとだめなの?
この際だ
何でもいいよ
>>169
みつめてナイトスレに降臨した模様
ここにもこないかな。
つーかここ見てるかな?
揚げておくか
おう!今、光にパイズリしてもらってるんだ。いいぞー光、その調子だ。とても気持イイよ。
そうだ、パイズリとフェラを交互にやってくれ、そうそう。うまいぞ、とても気持イイよ。
おまえも気持イイって?それはよかった、うれしいよ。きもちいいだろ?おっぱいおっきいなあ。
もうがまんできないよ。バックから突っ込んでいいかい?じゃあいれるよ。パンパンパン!
ああ、きもちいい、光のおまんこきもちいい。おっぱいもおっきくてやわらかくて
きもちいいよ!ああ、いきそうだ、もうがまんできないい、いっくううう!どぴゅ!
178ボケコニアン:02/11/24 21:36 ID:???
とりあえず今日ここまでにして。また明日仕事なんで

ほたるのはか

2004年12月12日

「ごめんなさい、それじゃ・・・」
受話器を置く音が、静かな部屋をほんの一瞬だけ、にぎやかにした。
彼からのデートの誘いを、私はどうしても受け入れることができなかった。
その日は・・・ あの人と逢った、最後の日・・・。
そして・・・

あの人のことを、あの日のことを想い浮かべようとすると
すぐに、目の奥から熱いものがこみ上げてくる。
私、どうすればいいの・・・

こんなときは、ニャントロ星人さんだったらなんて言ってくれるかな?

179ボケコニアン:02/11/24 21:38 ID:???
2003年12月13日

−今日は。とってもつらいことがあって、メール出しました。
私、前に初恋の人がいた、ってメール出しましたよね?
もちろん、今でもその人のことを忘れたことはありません。
でも・・・、最近、気になる人がいるんです。
その人の気持ちが私の心の中でだんだん大きくなって・・・
その人も初恋の人と同じくらいやさしくて、みんなに好かれる
ステキな人なんです。
私、その人に想いを伝えるべきか、悩んでいます。
裏切りたくはない、でも、自分に嘘はつけない。
ニャントロ星人さんなら、きっといいアドバイスを下さると思うので
もしよければ、お力をお借りしたいのですが・・・

月夜見

あのメールに返事が出せなかった。
穂多琉が・・・苦しんでいるのは僕も知っている。
だけど・・・穂多琉のことを考えると、僕の気持ちをここで書いたら、
傷つくのは穂多琉なんだ。
僕は穂多琉の元彼のかわりになれないんだ。
だから・・・
180ボケコニアン:02/11/24 21:43 ID:???
ここで余談でも。
3月に鹿児島を離れ、一人宮崎のほうへ引っ越しました。
暇も金もなく、なかなかネットにつなげられませんでしたが、
YAHOOのおかげでようやくネットできるようになりました。
しかし俺のほかに「bokekonian」ってIDとる物好きがいるなんて・・・
登録できないとは!
パソコンも買ったので(といっても7万円で組んだ)またページでも作る予定です
とりあえず今日はこの辺で(文章が短すぎますが)
オツカレ
保全
新作まだー?
184名無しくん、、、好きです。。。:02/11/27 22:51 ID:uzUAvGXe
【ひろゆきのメルマガの答え】
---------逮捕者続出------------
警察が動いてるのは、この板だ!!
http://okazu.bbspink.com/test/read.cgi/ascii/1038220622/541

詳細は電波2chで
http://dempa.2ch.net/
185 ◆8iKAORIr62 :02/11/29 09:42 ID:???
期待sage
186名無しくん、、、好きです。。。:02/12/02 23:50 ID:7dvFGIuU
期待age
新作いくか?
――ひびきの高校を卒業して3ヶ月。
――光との同棲を始めて1ヶ月たったある日の事。

 バイトの給料が入ったその日、久しぶりに匠と飲み、そのまま勢いで匠も"俺達の部屋"に連れて帰った。
 光はいきなりの来客に驚いた様子だったが、それが匠だとわかると太陽を思わせる笑顔で応対してくれた。
 早速、光を加え3人で飲み直しとなったが、いかんせんバイト疲れのせいか、1時間ほどで俺はダウンしてしまった。
 ふと目を覚ますと、ベッドの上。どうやら光と匠が運んでくれたらしい。
隣を見るとまだ光の姿はない。
 時計を見るとまだそんなに時間はたっていなかった。
 二人はまだリビングで飲んでいるのだろうか? のそのそと起き上がり、リビングへと移動する。
 ドアを開けようとした時、光の声が聞こえた。
「ああっ…だめっ…ダメだようっ」
 明らかに嬌声とわかる。一体何が? 匠が光を犯しているの……のか?
 鼓動が早くなる。ゆっくりと物音を立てないようにして扉を少しだけ開けた。
 耳を澄ませて中を伺う。ぴちゃぴちゃという水音と光の喘ぎ、時々ぎしっとソファのきしむ音が聞こえる。
 慟哭を抑えつつ、もう少し扉を開け、覗いてみた。
「!!」 
 光がソファに座ったまま匠に脚を大きく広げられていた。
ベージュのスカートは捲り上げられ、ピンクのパンティは既に片足から外れ、もう一方の膝に引っかかっているだけだった。
 ブラウスのボタンは、ほとんどが外されており、ずり下げられたブラから露出した乳房を下から匠の手がもみしだいている。
「あはは。光ちゃん、お酒弱いんだね」
「はぁ…はぁ…ダメ、ダメだよぅ…匠くぅん……」
 匠のもう一方の手は光の膝裏のあたりを掴み高く上げ、ちょうど股間に潜りこむ格好で光の秘部を舐めているようだった。
 恥ずかしいからだろうか、光は両手で顔を覆っている。
 それでも乳首を摘まれたり激しく秘部をすする音がする度に「ひゃん」と喘ぎ声を上げて首をのけぞらせていた。
(なんだこれは!!)
 この状況に俺はひどく興奮していた。自分の彼女が親友によって感じさせられている…。
 確かに光は敏感な方だと思う。未熟な俺の愛撫でも十分に反応し、いつも愛液を溢れさせていた。
 ついでに言うと光は酒に弱い。酔うといつも意識が朦朧としてしまうのだ。
 ………匠はプレイボーイとして有名な男。
 この状況は十分予想の範囲だった。
 匠が顔を上げ、硬くしこった乳首に吸い付いた。光がびくっと体をのけぞらせる。
 いつも間にか匠の手は光の股間に忍び込み、秘部にさし込まれているようだった。
 クチャクチャとかき回す音が響く。光の肉体はピクピクと痙攣し、指の動きにあわせるように腰が上下する。
「ああっ、いやあ…っだめ…だめだよぅ!」
「いいんだよ光ちゃん、何度でもイカせてあげるから…。あはは、僕ずっと光ちゃんとやってみたかったんだ」
「ああっ、ダメっ…変なのぉ、変になっちゃうよぅ、漏れちゃう、漏れちゃうっ!」
「あ、そっかあ。光ちゃん潮吹いたことないんだね。じゃあ思いっきり潮吹きさせてあげるよ。そうらっ――」
 匠の手が一際激しく動くと、光は全身をのけぞらせて「ひいいぃっ」という悲鳴にも似た声を上げた。
 次の瞬間光の股間から透明な液体が飛び散り匠の腕を濡らし、一部はソファの前のテーブルまで汚したようだった。
 同棲記念にと、二人でお金を出し合って買ったテーブルが白濁液に犯される…。胸がチクリと痛む。
 それは衝撃的な光景だった。俺とのセックスで光は潮を吹いたことなどなかった。
 自分の彼女が他の男の指技によって見たことのない程の絶頂を極めさせられる姿。それは俺にとって大変な屈辱と同時に興奮でもあった。
 俺のペニスはこの時、ズボンの中で驚くほど固くいきり立っていたのだ。
 光の身体がゆっくりとソファに崩れ落ちた。荒い息をしているようで呼吸の度に胸が上下している。
 カチャカチャと匠がベルトを外す音がした。ゆっくりと身体を持ち上げて、光の股間に狙いをつけているようだ。
 光は視線を下に向けている。今まさに自分の貞操を奪おうとしている彼氏以外のペニスに視線がくぎ付けらしい。
 はたして光は今、何を思っているのだろう。
 嫌悪感? 罪悪感? それとも――――。
 匠のペニスは俺と比べてかなり大きい(修学旅行の時に確認)。なんと勃起していない状態でも、俺の最大時のサイズとさほど変わらない。
 そのペニスは十分に充血して、今まさに光の秘部へと差し込まれようとしているのだ。
「光ちゃん、そろそろ」
 匠は光の脚を抱え込む格好で覆い被さっていく。2、3度腰を動かすと光は「ヒッ」と声を上げた。クリトリスを擦ったのだろうか。
 低い声で「入れるね」と匠が言った。それは同意を求めると言うよりも宣告に近いものだった。
「いや…ダメぇ…」光の小さな抵抗の声も実体を伴っていなかった。
 さっきよりもやや深い角度で匠は腰を光の中にゆっくりと沈めていく。光の首がのけぞる。
「ああん…はああんっ……ああっ…」光の口から喘ぎが漏れた。
「はは、やっぱり光ちゃんだ。まだまだ初々しいや」
 光の膣がキツイのだろう、匠は何度か浅い抽送を繰り返しながら光の耳元で囁いた。
「光ちゃんのおまんこはキツイね、なかなか奥まで入らないや。どう、アイツと比べて?」
「ああっ、大きいよぅ……とっても大きい、裂けちゃうっ」
 匠の眼を見つめながら光は答えた。すでに状況はレイプではなくなっていた。
 嘘だと思いたい現実。 
 光は自分からゆっくりと腰を動かしてより深い挿入を促している。
 その成果はすぐに結果となって現れた。匠が一際深く腰を突き入れると光は小さな悲鳴とともに首をがくんを折った。
 軽くオーガズムに達しているようだった。
 匠は光の上半身からブラウスを剥ぎ取り、腕を回してブラジャーのホックを外した。豊満な光の乳房が露になる。
 汚れ無き光の乳首は硬くしこっていた。それを匠の無骨な指が摘み、弄ぶ。
「―――ッ!!」苦痛と快楽の狭間の表情を見せる光。
 その間もピストン運動は休みなく行われていた。光の喘ぎはとどまる事を知らない。
 濡れた粘膜の擦れ合うぬちゃぬちゃという音がリビングに響いている。
 光が何度目かの絶頂に達すると、匠は光の身体をひっくり返して今度はバックから撃ち込み始めた。
 後ろから乳房をわしづかみにし、髪を引っ張り唾液を飲ませる。俺には到底真似できないサディスティックな責めだ。
 しかし何より驚いたのはそういう行為を光が喜んで受け入れたように見えたことだった。
 少し前まで光は処女だった。ゆえに当然、俺たちのセックスはアブノーマルな行為に走る事はなかった。
 なのに…いや、だからこそか? もう何がなんだかわからない。
 匠の指が光のアナルに差し込まれ、光が狂ったように腰を振りたくるのを見て俺は悟った。
(光を匠に寝取られた)
 未体験の快楽を与えてくれる男になら、女なら誰だって服従するはずだ。
 悲しい現実。女としての"性"。
 匠の撃ち込みが速くなり、フィニッシュを迎えようとするときに光の口から発せられた決定的な言葉。
「中、中に…」
 脳天をハンマーで殴られたような衝撃。そして恍惚。
 自分の彼女が他の男に膣内射精を乞う。今まで経験したことのない程の屈辱と興奮が俺を襲う。
(うっ!)
 匠が光の中に射精する姿を見て、俺はパンツの中に大量の精液を発射した。
 ゆっくりと匠がペニスを抜き取り、光の前に回ると光は、いとおしそうにそれを咥えた。
「ふふふ、アイツよりよかったろ?」
「……はい」
 俺は二人に気づかれないように2階に戻った。
 光が寝室に入ってきたのはそれから2時間後、風呂上りの石鹸の匂いをさせていた。
        
 ―END―
>>188-195
ときメモ2 光 エロ 寝取られ
乙まわし
!!
回してよ
200
200こえたか…
hozen
誰?
age
208てすと:02/12/09 00:48 ID:CT0a20Gu
TESTUO
sa-ge
閑古鳥やね
211@切身 ◆5IGroOvBoY :02/12/12 04:04 ID:???
本スレにSSを貼ると流れを止める恐れがあるのでここに貼り付け

……って使い方はマズいですか?
>>211
気にしないでどんどん貼ってもらいたいです。
SSスレだから、SSを貼ってもらえるに越した事はないし。
213@切身 ◆5IGroOvBoY :02/12/12 10:32 ID:???
すみません、結局本スレに貼ってしまいました。
後からリンク張ります。
214@切身 ◆5IGroOvBoY :02/12/12 10:55 ID:???
http://game.2ch.net/test/read.cgi/gal/1031137017/855-861 
ゲーム:双恋〜twin girls〜(電撃G'sの読参企画)
登場人物:桜月キラ・ユラ姉妹(双子)
内容:桜月姉妹のレズエロ。エロ薄め。らぶらぶ?

じっくり腰をすえてエロを書くのは久しぶり(1年振り位?)です。
SSっていうよりエロ小説みたいなのは相変わらずです。進歩ないです。
お疲れさま
お前ら!
ネタもない事だし、今年ギャルゲ板に貼られたSSでよかった作品を出しあいませんか?
このスレに限らず今年ギャルゲ板で発表された作品ならどれでもOKって事で。
そういうのもいいかも。葉鍵板SSでは過去こういう良スレがあったよ。

・葉鍵板からSSを発掘するスレ
http://wow.bbspink.com/leaf/kako/1015/10159/1015942550.html
優劣をつけることを目的としないのなら賛成
いい作品を発掘するっていうのも面白いかも。

>218
同意。
だれか早速・・・
閑古鳥だな
222はっぴぃのじじょう(1):03/01/01 00:19 ID:???
 その日、寿美幸はご機嫌ナナメだった。
 と言っても、正月早々、買ったばかりのぞうりの鼻緒がいきなり切れてしまったとか、
初詣に出かける途中で3回も犬に追いかけられたとか、屋根の上に残っていた雪がどさどさ
落ちてきて生き埋めになりかけたとか、さいせん箱の前で500円玉が後頭部に直撃した
とか、そういう――いや、それもあるのだが――理由ではない。
 彼女の不機嫌の原因は、もっぱら彼の前を歩く少年にあった。
(……手ぶら、だよねぇ)
 美幸は、今日ちょうど10回目の確認の結果を、心の中だけでつぶやいた。何度見ても
少年の後姿は同じ、手には何も下げていないし、特にふところが膨らんでいるような様子
もない。
(やっぱ、忘れちゃってるのかな〜……)
 忘れられる事には慣れていた。年末年始の忙しい時だし、学校の友達は冬休みだ。たまに
遊びにくる親戚は、お年玉こそくれるものの、それにまで気付いてくれる事はまれと言えた。
 それでも、彼だけは特別だと思っていた。思っていたのに――。
「どうしたの、寿さん?」
 ふと気付くと、前を歩く少年がふりかえり、気遣わしげな表情を浮かべている。
 考え事をしながら歩いていたせいか、いつの間にか二人の間には少しの距離が開いていた。
「は、はにゃ〜、なんでもない、なんでもないよ〜」
 忘れてしまったものは仕方ない、いっしょに初詣に来れただけでもラッキーと思わなくて
は……美幸はそう思い直す事にした。
「で、次はどこ行くんだっけ〜」
「うん、おみくじ引こうと思ってさ。いっしょに引かない?」
(あ、やっぱり……)
 美幸は内心げんなりした。今まで、おみくじにはロクな思い出がない。小さい頃のたった
一回を除いて。
「え〜と、美幸は、無理にやらなくてもいいかな〜、な〜んて……」
「そう言わずにさ、ほら、行こうよ!」
「はにゃ!? ちょ、ちょっと待って〜!」
 強引に手をとって歩き出す少年に、美幸はなかば引きずられるようについて行くのだった。
223はっぴぃのじじょう(2):03/01/01 00:19 ID:???
 目の前の木の筒とにらめっこする事、約30秒。
 えいっ、とばかりに振ったそれから出てきた棒の番号は、いかにも縁起の悪そうな13番
だった。
「何番だった?」
 少年が無邪気に聞いてくる。一瞬、ひとつずらして答えようかと思ってしまう美幸だった
が、それでもっと悪いのを引き当ててしまったら洒落にならない気がする。結局、正直に
答える事にした。
 少年が、美幸の番号と自分の番号を巫女装束の女性に告げると、巫女は手馴れたしぐさで
小さな紙片を取り出してくる。それが少年を経て自分の手の中に収まるまでの時間が、美幸
には妙に短く感じられた。
(まぁ、悪いのにはなれっこだし〜、今更……だよねぇ)
 自分の感情を、あきらめというオブラートに包んだまま、少女は折りたたまれた紙片を
ほどいた。その中身を目にする――。
「どうだった、寿さん?」
 そう少年に聞かれた次の瞬間、少女の体からふっと力が抜けた。
「うわぁっ! こっ、寿さんしっかりしてー!」
 少年の叫びが妙に遠くに聞こえた気がした。美幸は、夢の領域に落ちていこうとする
意識を、どうにか繋ぎ止めた。
224はっぴぃのじじょう(3):03/01/01 00:20 ID:???
「は、はにゃ〜……だいじょび、だいじょび……」
「そ、そう、良かった……でもどうしたの、いきなり?」
「あ〜、ちょっとびっくりしちゃっただけ〜。だってさ〜、ほら……」
 美幸が差し出したおみくじを、少年は確かめた。
 小吉。
「……小吉で、気絶するほどびっくりしちゃったの……?」
「だって〜、美幸『吉』ってついてるおみくじひくの、今までの人生で1回しかなかった
んだよ〜! ……やっぱり、なんかの間違いじゃないかな〜?」
「そ、そんな事ないって! きっと運勢が上向きになってきた証拠だよ、うん」
 なぜか視線をそらして答える少年だったが。
「あ、そうそう、それとさ……ちょっと待ってて」
 何かを思い出したように、少年は神社の建物の裏へ走り出す。そして戻ってきた時、
彼の手の中には小さな包みがあった。
「え、それって……」
 美幸は、大きな目をさらに大きくして、少年と包みを交互にみつめる。少年は少し照れた
仕草で、包みを美幸に差し出した。
「驚かせようと思ってさ、昨日からあそこに隠しておいたんだ。……誕生日、おめでとう」
 少しの沈黙があった。
 美幸の瞳から、ふと一粒の涙がこぼれて……次の瞬間、爆発した。
「うわぁぁぁぁーん!!」
 美幸に飛びつかれて、少年は少しよろめきつつも、彼女の小柄な体を受け止めた。
「うわっ、ちょっと、寿さん!?」
「嬉しいよぉ〜〜〜!! 美幸、最高にハッピーだよぉ〜〜〜!!」
 泣きじゃくる美幸に抱きつかれたまま、少年は動く事もできず、ただ赤面してぽりぽりと
頭を掻く事しかできなかった。
 大勢の初詣客が、好奇の目を向けながら通り過ぎて行く中、少年と少女は、いつまでも
そうやって立ちつくしていた――。
225はっぴぃのじじょう(4):03/01/01 00:21 ID:???
 その日の夜。
 こたつでTVを見ていた少年を、唐突にチャイムが呼び出した。
「よっ、あけましておめでとさん、色男っ!」
 玄関口で待っていた女性は、少年の顔を見るや、開口一番そう言った。
「茶化さないでくださいよ、舞佳さん……。でも、協力ありがとうございます」
「なぁに、どういたしましてよん、少年の頼みとあっちゃね。で、こっちは少年に渡して
おこうと思ってさ」
 先刻の巫女装束を脱ぎ捨て、カジュアルな私服に着替えた女性――九段下舞佳は、言い
ながらひとつの紙片を少年の前に取り出した。
「あ、それってもしかして」
「そう、すり替える前の、ホントの13番のおみくじ。ま、これの中身を見る限り、すり
替え作戦は結果的に正解だったみたいね」
「……やっぱり、そうですか……」
 少年の顔が暗くなった。
「ねぇ、舞佳さん……不公平だと思いませんか? どうして寿さんだけがこんな目に……
彼女はいつも元気にがんばってるっていうのに……」
 ほぞを噛む少年に、舞佳は意味ありげな微笑を向けた。
「あわてないの。ちゃんと中身をみてごらん?」
 そう言われて少年はおみくじを開いた。そして――
「ね? 小吉であの調子だもの、そんなの見せちゃ心臓が止まりかねないわよん」
 舞佳は少年の手を、おみくじごと包み込むようにそっと握った。
「だからさ、これは今は少年が持っときなさい。いつか、彼女がこんなのメじゃないってな
くらい、幸せになったときまで、さ」
「舞佳さん……」
「もちろん、少年にはその覚悟、できてんでしょ?」
「……はいっ!」
 少年は顔を上げてはっきりと答え、もう一度手の中に視線を落として、おみくじの
文字を確かめた。
『大吉』の字が大きく書かれた、そのおみくじを。
                                       <<FIN>>
226缶珈琲:03/01/01 00:25 ID:???
おひさしぶりの缶珈琲です。正月早々、私は何やってんでしょうか(w
>>222-224「はっぴぃのじじょう」ときメモ2より寿美幸、誕生日記念SSです。
…思えば、この話も思いついたの去年の1月だったよーな…(w

このくらいなら回さなくていいよね?
227缶珈琲:03/01/01 00:27 ID:???
うげリンク間違えた。>>222-225ですね。
まぁ中島みゆき(あ、こっちもみゆきだ)も歌詞を間違えたしって事で。風の中のすぅっばる〜♪
228 ◆8iKAORIr62 :03/01/01 02:03 ID:???
>>226
SS執筆、御疲れ様です。(´∀`)
小吉で気絶できるゆっきーは人一倍、幸福の有りがたみが分かるんでしょうね。
新年早々、いいものを拝ませて頂きました。ありがとうございます。
229ゆっき〜 ◆fni2MIYUKI :03/01/01 02:56 ID:???
缶珈琲ぴょん〜、あけおめ&SSうp乙カレーだよ〜!!
美幸のお話なんだね〜。感動したんだよ〜!
全然関係ないけど〜、缶珈琲ぴょんも〜、中島ゆっき〜の紅白見てたんだね〜。
美幸も見てたよ〜!
ご苦労様〜
231名無しくん、、、好きです。。。:03/01/06 01:04 ID:iye3tO6n
たまには上げさせてもらいます。
232ゾリンヴァ ◆i3srl4VmZs :03/01/06 21:27 ID:AkQzxR9E
希望(しあわせ)をその手に掬い取れ。

幸福(しあわせ)とは乾いた砂丘を形作るその小さな黄金色の一粒。

ゆっくりと、ゆっくりとその手に掬い取れ。

欲を出せば砂は掌から零れ落ち、

忽ち風の前に塵へと帰る。

欲張るな。

幸福とは風に浚われた岩くれの欠片。

欲張るな。

あなたの掌に、そっと優しく掬い上げて。

●卍●ゾリンヴァデス●卍●
233ゾリンヴァ ◆i3srl4VmZs :03/01/06 21:27 ID:AkQzxR9E
夜明け前の海。

硯で墨をすったような海面に顔だけを出して
わたしはぷかぷかと浮いていた。

夏の終わりの朝ぼらけ。

海の体温が風に心地良かった。

別にそうしたかったわけではない。

寧ろ何もしたくなかったと言うべきだろう。

ただ、頭の中を空っぽにしたかった。
狂おしいほどに。

わたしが狂ってしまったのには、そうした理由があったのだろう。

●卍●ゾリンヴァデス●卍●
234ゾリンヴァ ◆i3srl4VmZs :03/01/06 21:27 ID:AkQzxR9E
 父サン 母サン  チェルシー   マクゴガナル先生

                 ミルキーチャン   まりあサン
おどぅサン     
               YO         クロンさん

ドンドン  ドコドン  ドンドコドン     二級天使     
                                      囚人
         二万マイル

ARIGATO!!!!!!!!!!!!!!!!!!         ミンナ     アリガ

ト!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
235ゾリンヴァ ◆i3srl4VmZs :03/01/06 21:28 ID:AkQzxR9E
うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!
いくぞおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!


           クメール凧!!!!!!!!!!
           クメール凧!!!!!!!!!!
           クメール凧!!!!!!!!!!
           クメール凧!!!!!!!!!!
           クメール凧!!!!!!!!!!
           クメール凧!!!!!!!!!!
           クメール凧!!!!!!!!!!
           クメール凧!!!!!!!!!!
           クメール凧!!!!!!!!!!
           クメール凧!!!!!!!!!!
           クメール凧!!!!!!!!!!
           クメール凧!!!!!!!!!!
           クメール凧!!!!!!!!!!
           クメール凧!!!!!!!!!!
           クメール凧!!!!!!!!!!
           ギャルゲーキャラ!!!!!!!!!!
           武蔵丸!!!!!!!!!!
           クメール凧!!!!!!!!!!
           クメール凧!!!!!!!!!!
           ゾリンヴァ!!!!!!!!!!
lkrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrriiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii
保全
239山崎渉:03/01/09 09:42 ID:???
(^^)
ゆきやこんこん あられやこんこん
ふってもふっても まだふりやまぬ
ひかりはよろこび にわかけまわり
ことこはこたつで まるくなる
上げ
>>226
今更に読み終えました。
とはいえ他の方の感想を先に読んじゃってた訳ですけども…大失敗。
で、オチ(?)が効いてて好きです。あぁもうそんなに畳み掛けられたら
嫌でも暖かくなるじゃないか、ってな感じでしょうか(w
こういうノリが缶珈琲氏の強味だなぁと改めで思う次第です。
…とか書いてると際限なくなるのでここまでにしておきます。
お疲れ様でした。
こんにちは。初めましてかしら?私は水無月琴子。
六月の水無月に、楽器の琴で琴子。ひびきの高校の二年生よ。
好きな物は和風な物。嫌いな物はカレーと冬。だって、冬って寒いじゃない?
苦手なのよ、寒いのって。あ、でも……そう言えば前にこんな事があったのよ。
ちょっと長くなるけれど、聞いてくれる?

「こーとこっ!」
元気がよすぎる位の声で声を掛けてきたのは光。中学に入ってからの私の友人。
めんどくさがりの私と違って、部活は陸上部。誰にでも好かれる明るい性格。
髪もロングの私とは対照的なショート。でも何故か気があって今では一番の友人。
「わたし今から部活なんだぁ!って何?そのおっきいの」
この寒いのによく自分から外に出て走るわね、と言おうと思ったけれど、
それよりも私が持っている、およそ学校内で(しかも女子生徒が)持ち運んでいるには
不似合いなモノの説明をしないといけなそうだった。もっとも、
「こたつよ」
めんどくさいから、説明は省略したけど。
「なんでこたつなんか学校にあるの?」
……やっぱり説明はしなきゃダメみたいね。
「なんでって、寒いからよ?ホラ、うちの茶道部も三年生が引退して、
私が部長になったじゃない?だから部長権限で、部費で買ったのよ。私、寒いのって嫌いなのよね」
「あははっ!琴子らしいね!」
光は楽しそうにいった。他の人なら顔をひきつらせてるのに。でも私も少し、笑った。
「手伝おうか?」
「いいわよ。それより、部活に行くんでしょう?遅れちゃうわよ?廊下は走っちゃダメなのよ?」
「あははっ!そっか。それもそうだね。じゃ、今度私も遊びに行くね!がんばってね!」
そう言って光は私の忠告を無視して、廊下を元気よく走って行った。
「まったく……。さて、私も行かなきゃね」
私も茶道部の教室へ向かう。ちょっと、廊下は寒い。
それはそうね。先月14歳になったばかりの――中学二年の一月だったもの。
「……猫?」
何故か教室に、猫。というか、茶道部室に猫が一匹。
「ちょっと……どこから入り込んだのよ」
とりあえずこたつを置く。私の学校の茶道部には、茶室なんて立派な物はなく、
教室に畳を敷いて、その上で部活をやっている。その畳の上に、猫が一匹。
「部活の邪魔なんだけど……困ったわね」
と、言っても今ここにいる部員は私一人なんだけど。今日は部活はお休み。
私もこたつが届いたから、運んできただけ。少し考えた後、
「先生に見つからなければ、ここにいてもいいかもね」
……正直めんどくさかっただけだけど。そう言ってこたつのセットをしてみる。
「あら、いい感じじゃない」
寒かったし、少し暖まっていく事にした。猫もこたつの上で丸くなり始める。
「どうせなら、中に入ればいいじゃない。暖かいわよ?」
でも猫はめんどくさそうに目をつぶるだけだった。まるで私みたい。
「ちょっと、そんな人生の送り方でどうするのよ。もっと、人生の目標を持って
何か熱中できるものを見つけなさい?まだ若いんでしょう?」
猫に説教。何だか愛着が沸いてしまったみたいね。
「じゃあ、あなたが前向きな姿勢を持つようにいい名前を付けてあげるわ。
『ひかり』。いい名前でしょ?わかったわね?ひかり」
猫に自分の友人の名前を付ける自分のセンスは置いておいて、
彼女(多分ね)は心地良さそうに眠っていた。しばらく眺めていたら、
「ふぁ……」
余りのこたつの気持ち良さに私も眠ってしまった。
だって、しょうがないわよ、コレは。朝布団から出られないのと同じよ。あと、五分……

ガバッ!!!!

起きた時はもう、真っ暗。六時を過ぎていた。『ひかり』ももういない。
「……所詮、猫なのね」
ブツクサ言いながらこたつをしまう。
「さて、急いで帰らなきゃね」
そしてゆっくり、学校を出た。
その帰り道。ふと、途中の雑貨屋の店先に目が留まった。
「あら、いい色じゃない」
薄い、紺の湯のみ。柄も悪くない。値段は……1200円。微妙なところね。
「むむむ……」
しばらく考えた後、「限定品」の文字が目に入る。何よそれ。卑怯じゃない。
「すいません、あの湯のみをお願いします」
卑怯に負けたけど。
「はい、ありがとうございます」
店員の態度もいいじゃない。ふふ、気に入ったわ。今度からひいきにさせてもらうわね。
そう思った直後、自分の失態に気付く。
「あら?サ、サイフ……おかしいわね」
鞄の中を探したけれど見つからない。そうよ、昨日入れ忘れたんだわ。
「こちらでよろし……」
「このお店はっ!」
同時だった。店員は驚いて、文字通り三歩下がった。
「何時まで営業しているのかしら?」
「は、8時までです……」
二歩進んで彼女が答える。八時……ギリギリね。
ああ、もう何で手に入らないとわかると、どうしても欲しくなるのかしら!?
「すみません、また来ますから!」
そう言って、家まで走り出す。見てらっしゃい。水無月琴子の本気を見せてあげるわ。
家に帰って即、部屋に駆け込む。普段の私にはありえない剣幕に、母親も驚いていた。
そして、ありえないスピードでとってかえす。ゼェゼェ、ハァハァ……こういう時だけ自転車があるといいなと思う。
時間は七時五十五分。まだ店の明かりは消えてなかった。良かった、私の為に待っていてくれたのね。
今度から、私が上客になるまで通ってあげるわ。
「す、すいません、さっきの……」
何とか笑顔で息を整える。今は笑顔を作るので、やっと。良かったさっきの店員だわ。
「あ、すいません……つい、さっき売れてしまったんです」

ガ―――――――ン!!

笑顔のまま、膝を付いてしまった。水無月琴子、一生の不覚よ。
「ええと、在庫は無いのかしら?」
おもわず、普段の口調。でも、
「はぁ……あいにく、ただ今当店には……」
ちょっと、どういう事よ。客の期待に答えられないなんて、おかしいんじゃないの?
お客様は神様じゃない、おぼえてらっしゃい。二度と来ないわこんな店……なんて考えていると
「他の店に在庫が無いか、確かめてみますね」
よっぽど見かねたのか、営業時間が過ぎているのに電話をしてくれた。
「ええ……はい、あ、じゃあお願いします……」
柄にも無くドキドキしてしまう。ど、どうなの?どうなのよ!?

カチャ

「お客様、同じものと色違いが残ってるそうですけど、どうします?」
「ほんとう!?」
思いがけず大きい声が出てしまった。二人しかいない店内によく響く。でも、
「良かったですね」
二人ではしゃいでしまった。こういうのも悪くないかもね。
そしてお礼を言って、店を出た。届くのは一週間後。その日の帰りは寒かったのに、私は上機嫌だった。

                                          <つづく>
ハジメマシテ〜。えっと、初書きさせていただきます。
前スレにも、こたつで琴子ネタがあったり、
他でも色々やってんだろうなとかあるんですが書いちゃった後なんで後の祭り。
ときめきメモリアル2から、水無月琴子SSです。

ってのも、222-225の缶珈琲氏のSSを読ませて頂いて、なんか、こう、刺激されてしまいまして。
で、ネタを探してたら、240さんの書き込みを見て、これだーみたいな。んで、後の祭りだわっしょいみたいな。

それでも一応、続くんで最後まで見て頂けたら幸いです。
今回、ど素人なんでテキストエディターの使い方わからないんで使ってません。ほんとすいません。
なんで、回しもしませんでした。マズイんかなー……。んでわ、また。
>>247、お疲れ。
続きを楽しみに待ってるわよん。
「こーとこっ!」
次の日の朝、光が元気良く声をかけて来た。
「あら、おはよう光」
「あれ?今日の琴子、なんか嬉しそうだね」
ちょっと嬉しい事があったのよ。そう思ったら自然に顔もほころぶでしょう?なんて思ってたら光が残念そうに
「ふーん。何だかちょっと先を越されちゃったって感じだなぁ」
そう言って両手を腰に当てた。
「先?」
思い当たるふしが無いので首をかしげると
「コレさ、昨日見つけたんだけど絶対琴子が気に入ってくれると思ってさ!
お年玉貰ったばかりだし、思わず買っちゃったんだぁ」
光はそう言ってやや小さめの紙包みを私に差し出す。中を開けてみると、
「これ…!」
昨日の湯のみが入っていた。
「ま、普段から琴子にはお世話になってるしね。気に入ってくれるかな?」
「いきなりこんなの受け取れないわよ」
「あれ?気に入らなかった?」
光が残念そうに言う。
「そ、そうじゃなくて!」
「じゃ、気に入ってくれたんだぁ!」
今度は顔が明るくなる。もうこれは何を言っても無駄ね。
「…ありがとう。その代わり、今度お礼させてもらうから覚悟しなさいよ」
そう言って二人で笑う。来週覚えてなさい。すごく驚かせてあげるから。
また楽しみが増えて、嬉しかった。同じ物を渡したら光はどんな顔をするかしら。
光の方を向くと、光は別の物に気をとられていた。
「あ、猫だ」
「あら、ひかりじゃない」
光が驚いてこっちを向く。
「この子、昨日から茶道部員なのよ。名前は『ひかり』いい名前でしょ?」
そう言うと
「もぉー!友人を猫扱いしちゃダメだぞっ!」
先に行こうとした私を追いかけてきた。
それから一週間後。
「さて、どうしようかしら?」
今日の放課後、光の部活が終わったら一緒に雑貨屋に行こう。そう思ったけれど、今日は水曜日。茶道部はお休み。
「一回帰ろうかしら」
そう思っているとまた教室に猫。いや、茶道部室にひかりかな。
「ちょっと付き合ってよね?」
そう言ってこたつを出す。例によって、ひかりはこたつの上で丸くなる。
私も湯のみにお茶を入れて、こたつに入る。ふと、ウトウトとまどろむ。そして――
ガシャン!!
その音で目を覚ます。いや、覚まされた、が正解ね。
そして瞬間的に状況を想定する。結果が違う事を願ったけど――目で確認できた結果はやはり最悪の結果だった。
「何てことするのよ!」
ひかりに向かって怒鳴りつける。ひかりはキョトンとした顔。
湯のみは畳の上ではなく、教室のそのままの床に跳んでいた。湯のみはもちろん、割れていた。
「あぁもう、光がせっかく…何やってんのよ!」
自分が情けなかった。しばらく頭をかかえた後、
「光に謝らなきゃ」
まず、そう思った。ひかりはキョトンとした顔。思わずカッとした。
「ちょっとアンタのせいでしょう!?少しは責任…」
そこまで言ってふと気が付いた。同じ物が今日入るんだったわ。だって、私のせいじゃないのに謝るのって、おかしくない?
――黙ってればいいじゃない。
だって、光はこの事を知らない訳だし、光が悲しむよりは、何事も無かった事にした方がいいんじゃない?
かけらを拾いながら、そう考えた。だって、私のせいじゃなくて、ひかりが――
「ニャー」
初めてひかりが声を出した。ビクッとしてひかりの方を見る。ひかりの金色の目と目が合った。
いつもはめんどくさそうに目を閉じているひかり。でも今日は前を――私を見ていた。そしてずっとそのまま。私もひかりを見つめていた。
「…………」
ひかりはまだ目を反らしてくれない。まばたきもしない。
「…………」
「止めてよ」。そう思った。勝手に目から涙が出てくる。
「ごめんなさい……」
気づいたら、手で顔を覆っていた。
ひかりは悪くない。光だってもちろん悪くない。なのに私は、
ひかりのせいにして光の気持ちに嘘をつこうとした。今まで何の為に茶道部なんかやってたの?
自分で自分が許せなかった。
「ごめんなさい」
目の前のひかりかここにはいない光にかはわからないけれど心からそう思った。だから、声に出していた。
「ナー」
また、ひかりが鳴いた。気づくと彼女はもう目を伏せている。
「ひかり?」
けれどもう、ひかりはめんどくさそうに眠るだけだった。
「許してくれるの?」
でももう答えない。その代わりにしっぽが少し揺れた気がした。
「そうよね、私、光に謝らなきゃ」
もう大丈夫。立ち上がって準備をする。でも顔があんまり情けないから、顔を洗って気持ちを入れ替えた。
「後悔なんてしたくない」なんて最近よく聞くけれど、するわよ。人間なんだから。
でも反省できないよりはマシでしょ?そうして次があるんじゃない。そう思った。
「じゃ、行ってくるわね。後片付けは任せたわよ?」
コンセントだけ抜いて、片付けはにわか茶道部員に任せておいた。
あーあ、せっかく先生受け良かったのに、台無しだわ。そんな事を考えながらあの店に向かった。

最初、光に先に謝ろうとした。けれど、光に渡すつもりだったんだもの。
全部話して、光に受け取ってもらわないと気が済まない。そう思ってお店に向かった。
今度は財布も大丈夫。確認してからレジに向かう。
「いらっしゃいませ。あ、この間の…」
「届いてますか?」
「はい、届いてますよ」
そう言って取り出す。同じ物だけどひかりの物だと思うと別の物に見えた。
「贈り物用に、包装してもらえますか?」
そして学校に戻った。光に謝りに。
そして、次の日。結局、光は学校から帰ってしまった後だった。家まで行こうかと思ったけど、少し考えて止めておいた。
「こーとこっ!」
光が元気良く声をかけてくる。
「光、実は先週貰った湯のみなんだけど」
「うん?」
光がキョトンとする。
「実は私の不注意で壊しちゃったのよ。ごめんなさいね」
そう言って頭を下げた。光は
「そうなんだぁ…。残念だったね。でもありがとう、ちゃんと謝ってくれて。よし、許してあげるね!」
そう言ってくれた。なんだかこういう時光は私の事わかってくれてる気がする。
それは光に甘えすぎかな。そう思いながら包みを取り出す…
「じゃあ、わたしから残念賞」
…前に、光が私に包みを差し出す。…何よ、これ。
「開けていいよ?」
何かしら。でもこの大きさってひょっとして
「これ、」思った通りあの湯のみだった。ただ、色違いの。
「私も琴子と同じの欲しいな、って思って買っちゃったんだぁ!でもかわいそうな琴子にプレゼントしてあげるね」
思わず笑いが出てしまった。普段のわたしなら、余計な事しなくていいの。って言うんだろうけれど
「そうね。じゃあ私も、私にあげてしまって、かわいそうな光に贈り物してあげるわ」
そう言って包みを渡す。光はそれを見てビックリした後、笑ってくれた。
「でも光に二度も払わせちゃったわね」
「ううん、いいよ!…でもせっかくだし、今度おごってもらっちゃおうかな?」
「そうね、じゃああんみつなんていかが?」
「アンコ・ド・カンテーヌかぁ。うん、ごちそうになります!」
「何よそのフランス語は。あんみつよ」
そこまで言ってチャイムが鳴った。急いで二人で駆け出す。
そして、またいつもの日常に戻った。中学二年の一月に――

ま、そんな事もあったのよ。中学校時代の思い出。何でこんな事話しちゃったのかしら。
普通わざわざ自分から恥なんて晒すものじゃないわよね。でも、今度またお話しましょう?光も呼んで――ね?

                                 <おわり>
254回しますん:03/01/16 22:16 ID:???
と、いうわけで後編です。
255回しますん:03/01/16 22:17 ID:???
なんか改行にひっかかりまくって
256回しますん:03/01/16 22:17 ID:???
一部ボロボロです
257回しますん:03/01/16 22:18 ID:???
削ったり、効果狙って改行したのを
258回しますん:03/01/16 22:19 ID:???
一行にまとめたりで
259回しますん:03/01/16 22:20 ID:???
でも読んで一部分でも気に入って頂けると
260回しますん:03/01/16 22:21 ID:???
幸いです
もういいかな?
今回はやる気をあたえてくだすった缶珈琲氏と
ネタをあたえてくだすった240さんと場所を提供してくれてる1さんに感謝感激あべ静江。
また、次の作品も読んで頂けたらと思います。でわ、股♪
乙カレー
乙。琴子は萌えキャラじゃないんだけど、読んでて楽しかったYO!
自作に期待。
264缶珈琲:03/01/19 00:07 ID:???
>>261さん
お疲れ様でした。
琴子って、なかなかややこしい感情の持ち主で、個人的には書くのが難しい
キャラの一人なんですけど、これは彼女の心情がうまく表現されていて、
すごいな、と思いました。よければ、また次回作を期待してますね。
あと、私の作品に刺激を受けたってのはちと照れくさいですが(w ありがとうございました。

遅くなりましたが、拙作に感想を下さった皆さん、ありがとうございました。
大変励みになりますです。

まぁ228から242まで自作自演なんだがな。
            ∧_∧
     ∧_∧  (´<_`  )  ゾリンヴァもかよ、兄者。
     ( ´_ゝ`) /   ⌒i
    /   \     | |
    /    / ̄ ̄ ̄ ̄/ |
  __(__ニつ/  FMV  / .| .|____
      \/____/ (u ⊃

…いや冗談ですって。 ではまた。
265浮上:03/01/21 00:39 ID:???
浮上
閑古鳥上げ
267山崎渉:03/01/27 18:47 ID:???
(*^^*)
俺は、気絶した梨代を抱きかかえると、足音を立てないようにして階段を上った。
あんなものを間近で見てしまっては、梨代が倒れてしまうのも無理はない。
・・・梨代と俺が見たもの。
それは、ついさっきまで物静かな笑みを浮かべていた少女のなきがらだった。
まばたきもせず、にこりともしない魂のぬけがらは、
見た物を恐怖に至らしめるだけの絶望感を十分に与えてくれた。
俺自身、胸の中で何かが逆流するのを必死にこらえている。
そのせいか、一歩一歩歩くごとに息が切れる。
梨代を介抱したい一身で、俺はあの部屋へ向かって歩きつづけた。
「開かずの間」
間抜けな落書きがかかれたドアを、俺はそっと開けた。
ちょっとの間とはいえ、片手で女の子一人を抱えるのは堪える。
半開きになったドアを足で無理に押し広げ、
目の前のとベッドにそっと寝かせた。
梨代のとなりに腰掛けてそっと手を握ると、冷たい感触が感覚を刺激する。
不安になった俺は、思わず梨代の手を両手で握り締めた。
10分、いや、もっと経過したかもしれない。
梨代が再び現実の世界に戻ってきてくれたのは。
「大丈夫かい。」
と俺は言う。
梨代の不安をできるだけ取り除きたい一心で。
一瞬間を置いて、「ここは」
と梨代が弱々しい声で聞き返してくれた。
「さっき梨代がいた部屋だ。しばらくここで休むといい」
梨代は自分の周りの状況がようやく変わっていることに気づいてくれたらしく、
「ありがとう」と一言いうと、上体を起こして俺の顔を見る
「こわい・・・こわいの。私たち、どうすればいい?」
梨代はまだ完全にショックから立ち直れないようだ。
まあこんな状況で立ち直れというのが無理だけど。
「今はへたに動き回らないほうがいいとおもう。
だれがあんなことをしたのか分からない状況でうごくのは危険だよ。ちょっと梨代、立てる?」
そう言って俺は、梨代が横になっていたときに考えていたことを試みた。
まだ足取りがぎこちない梨代をベッドの横に立たせると、俺は渾身の力をこめてベットを動かした。
そう、ドアのところにこいつを置いて、文字通り「開かずの間」にしてしまおうという計画だ。
これだけの重量があれば、俺のささやかな野望は達成されたも同然だ。
「梨代、これでしばらくは誰も入ってこれないよ。まあ、ベッドに腰掛けてしばらく落ち着こうよ。」
俺は梨代の肩に手をまわすと、梨代とベッドに向かった。
偶然思い出した、梨代と2人3脚をしたときのことを考えながら。
2人ベッドに腰掛けると、不意に梨代が口を開いた。
「優しいんだね。私なんか、千砂さんになんにもしてあげられなかったのに。」
梨代らしいせりふだ。
「そんなことないさ。そうやって他人を思いやることができるの、一番梨代らしいと思う」
無意識のうちに、そんな言葉が口をついて出た。
「あなたのそんなとこ、ぜんぜん変わってないよね。
・・・わたし、あなたのそういうところ、昔から・・・好きだった。」
突然の展開に、俺はさすがに返す言葉がなかった。梨代は続ける。
「みんなのためにこんなに必死になってるような人とわたしみたいな女の子じゃ、つりあわないよね。
だからこれ以上言うのは恥ずかしいけど・・・好き。」
正直、驚いていた。梨代が、俺のことをそんなふうに想ってくれていたなんて。
同時に、そういわれて、すごく意識してしまった。
なぜもっと梨代の気持ちに気づかなかったんだろう?
嫌いだったから?・・・違う。
・・・怖かったんだ。梨代との関係が壊れてしまうことを。
でも、梨代がそんなちっぽけな垣根を、壊してくれた。
だから、俺自身も梨代に答えを出さないといけないんだ。
俺は、口を開いた。
「俺なんかで、後悔しなければ・・・」
「後悔なんて、・・・しない。」
俺は、梨代の方をそっと抱き寄せた。
271ボケコニアン:03/01/29 22:50 ID:???
268から270、書いてみました。
暗がりで、密室で、しかもベットが有って、そこには一組のカップルが・・・
続きはあした上げます。どんな展開になるか?これ以上書くのはヤボというもの。
以前ちょいと書いたやつは・・・
仕事の休み時間をぬって紙に書き留めていたのがなくなって
テキストを思い出せません。
クリスマスに全部掲載する予定だったのに。・・・
272昨日の後半部分です:03/01/30 22:54 ID:???
ほんの少し、時間が止まったような感覚に襲われた。
沈黙のしたままの、俺と梨代。
この外で、何が起きているか・・・
一切の物音が聞こえない中で、それを予測するのは不可能だった。
でも、あでやかなタッチで音を奏でる梨代にとって、音のない空間は不満だったらしく、
「ねえ、私たち、どうなるのかな。」
と、ひと時の静寂を消し去って、話しかけてきた。
「分からないさ。でも、二人無事で帰りたい、と思ってはいる」
「ありがとう。でも・・・」
梨代は、心配そうにつぶやいた。そして、付け足す。
「でも、もし、千砂さんみたいになったら・・・」
俺は言葉に詰まった。少しの間、梨代の嫌いな静寂が訪れる。
「ご、ごめんなさい。ばかなこと言って。でも、せっかく想いが通じたのに、
はなればなれに、なりたくなかったから・・・」
「大丈夫だよ。どんなことがあっても、梨代は俺が・・・」
と言いかけたところで、梨代が言葉をはさんだ。
「約束して。二人でここから出るって。」
うかつだった。俺にもしものことがあれば、梨代の想いは水のあわなんだ。
「分かった。約束するよ。」
俺は、力強くそう答えた。
273昨日の後半部分です:03/01/30 22:55 ID:???
俺は、梨代の肩に回していた手をどけて、立ち上がろうとした。
が、梨代が「待って」と静止をかけた。
「さっきは、約束してって言ったけど、私が約束を守れなかったら・・・困るから・・・
だから、私のわがままを聞いて欲しいの。」
「どんなこと?」
「私のすべてを、受け取って」
俺は、その意味がわかるまでに少しばかりの時を要した。
梨代の顔は、もう真っ赤だ。
こんな恥ずかしいことを梨代に言わせてしまったことを、俺は少し情けなく思った。
「俺、梨代のその気持ちを、すべて受け止めたいけど・・・
でも、俺こんなことになるなんて思ってなかったから、・・・その、持ってないよ」
そう、クラスの奴はたいてい所持してたけど、俺には縁のないものだったし、
ふだんそんなものを持ち歩くことはなかった。
「ううん、いいの。あなたになら・・・
それに・・・あなたの赤ちゃんができたら・・・うれしいかな」
梨代にしては、大胆な言葉だ。同時にそれは、俺に対する愛と信頼の裏返しなんだ。
梨代の気持ち、絶対に無駄にはさせない。確固たる意思が、今俺の中で燃え上がった。
そう考えていると、梨代は立ち上がった。
274昨日の後半部分です:03/01/30 22:56 ID:???
「こっち、見ないでね」
そう言うと、梨代は何かをしだした。
最初は分からなかったが、ジッパーの音で
梨代が着ているものを脱ぎ始めたことに気づいた。
肌寒いこの部屋で、梨代だけが裸になるのは不公平だと思って、
俺も服を脱いだ。
ぱちんという金具の音がしてまもなく、
とん、とんと足ぶみの音が2回聞こえて、それっきり沈黙した。
おそらく、生まれたままの姿になったのだろう。
梨代は普段、どんな下着を着けているのだろうか。
僕はちらりと下を見た。
・・・上下とも白。予想通りというか、梨代らしい。
「もう、恥ずかしいから、あんまり見ないで」
ばれたようだ。気まずくなって、さっさと服を脱ぐ。
275昨日の後半部分です:03/01/30 22:57 ID:???
一糸まとわぬ姿になった俺と梨代は、そっとベッドにもぐりこんだ。
お互いに体を寄せて、互いを受け入れる準備の始まりだ。
どちらが口に出して要求することもなく、俺たちは自然に唇を重ねた。
かすかに感じる梨代の息吹が、くすぐったいような気もする。
時間にして1分くらいたって、唇を離す。
梨代の目は潤んで、今にも壊れてしまうのではというくらい
艶やかだった。
「私、初めてなの。だから・・・乱暴に、しないで」
実は、俺も経験がない。正直に告白する。
「俺も、実は梨代で初めてなんだ。できるだけ、痛くないように、するから」
といってみたものの、俺も漠然としか知らない。
俺は、梨代の胸にそっと手を当てた。手のひらが、梨代の生きているリズムを感じている。
どちらかといえば控えめなサイズだけど、梨代の胸が好きなわけではないので
そんなことは微塵も気にしない。
「あんまり、大きくないよね・・・」
梨代が言う。やっぱり女の子は、こういうことを気にするのだろう。
「そんなことないよ、かわいいよ。」
ありきたりな言葉だけど、そういえば梨代が気にとめなくなる、と思って
そっとささやいた。
そして、今まで感じたことのない感触を、俺はしばらく堪能していた。
276昨日の後半部分です:03/01/30 22:57 ID:???
は、次のことに取り掛かることにした。
「梨代、少し足開ける」
「うん・・・」
「梨代の女の子の部分、よくぬらしとかないと痛いと思うんだ。だから・・・」
梨代は無言で、足の力を緩めた。
俺は、そっと手を伸ばし、梨代の花びらに手を触れた。
梨代の顔はまた真っ赤になり、その熱気が伝わってくるようだ。
梨代の花びらを数回なでると、梨代はびくっと体を反応させた。
おそらく、絶頂に達したのだろう。
梨代の目がさっきとは違って、とろんとしている。息も荒い。
少したって、梨代が息をきらせながら、言う。
「わたし、どうなったの?こんなの、初めて・・・」
「大丈夫だよ、イったんだよ」
「なんだか、体が宙にういたような気がして、それっきり・・・」
おそらく、自らを快楽に導くような行為を行った事がないのであろう。
梨代は、恐ろしく敏感だった。俺は、自分をよく慰めるが、とても梨代のようには行かない。
ここまできたら、最後の試練だ・・・
俺は、梨代に改めて同意を求めた。
「梨代、いくよ」
梨代は、無言でうなずいた。
277昨日の後半部分です:03/01/30 22:58 ID:???
俺は梨代の上になると、そっとひざをつき、右手で自分のモノを持った。
「梨代、もう少し、足、開けるかな」
梨代は、もう何も言うことができない。羞恥心で答えることができないのだろう。
「痛かったら、ごめん」
半ば強引に、梨代の足を開いた。
改めて見る梨代の女の子の部分は、安っぽい風俗雑誌で見るそれより、
毛が薄く、まだ発達途上であることを思わせた。
そっと、俺はモノをあてがうが、滑ってなかなか入らない。
何回か試して、ようやく先端をあてがうことができた。
あとは、ここからゆっくり進めるだけだ。
俺は、腰に力を入れた。
瞬間、「痛っ」という声とともに、梨代の顔が苦痛にゆがむのが見て取れた。
「やっぱり、やめようか?」俺は言った。さすがに、梨代が痛い顔をするのを見るのは俺も苦痛だ。
「続けて・・・」梨代が言う。
「だって、女の子はみんなこの痛みに耐えるんでしょ。
耐えなくちゃいけないのなら、あなたじゃないと、イヤ」
改めて梨代の俺に対する想いを確認した。
ならば・・・俺も梨代の気持ちに応えないと。
俺は、慎重に、少しずつ先へと進めた。
梨代は、俺に表情を悟らせまいとしているのか、顔をそむける。
俺は、そんな梨代がいとおしくて、そっとほほに口付けをする。
ほほが湿っていた。おそらく、涙をこぼしたのだろう。
それを見て、自分も熱いものがこみ上げてきた。
278昨日の後半部分です:03/01/30 22:59 ID:???
何とか半分くらい入ったところで、先端が何かにあたった。
ここからが大仕事だ。さっきよりも、慎重に先を進める。
1センチくらい進めたとき、あんなにきつかった先端が、少しずつ、スムーズに進むようになった。
数瞬して、自分のモノに何かが伝ってくるのを感じる。
・・・梨代と、一線を越えた瞬間だった。
伝ってくるものが、ベッドに小さな花を咲かせる。
結ばれた二人の祝福の証だ。
「梨代、ごめんね、痛かっただろう。もう少しだから」
そういって、俺は腰に再び力を入れた。
あてがっていた右手で、丁寧に梨代の花びらを撫でながら、
腰を少しずつ動かす。
梨代の体が、徐々に緊張していく。
自分でもどれくらい腰を動かしたかは分からなかった。
梨代が再び絶頂の世界へ誘われるのと時を同じくして、
俺も梨代の世界へと向かった。
先ほど咲かせた、深紅の花の横に、
今度は純白の花を咲かせて。

俺たちは、完全に結ばれた。
279昨日の後半部分です:03/01/30 23:00 ID:???

自分の服をお互いに着替えながら、俺は考えていた。
このドアの先にな何があるか。それは分からない。
でも、二人の約束と決して壊れることはない、二人の絆。
何があっても、お互い守ってゆけるはずだ。
紅白の花が、その名残をいつまでもとどめるように・・・、

280ボケコニアン:03/01/30 23:04 ID:???
二日がかりでやっと書き終えました。
昔と違って暇がないので、なかなかネタが作れなかったのですが、
一年ぶりくらいにウプしました。
タイトルは・・・「脳内補完IN慟哭」
とでもしましょう。
完全なIFストーリです。

では、カキコしないでまっててくださった皆さんに
敬意を称しつつ、寝ます
>ボケコニアン氏
乙カレー
282ボケコニアン:03/02/03 20:58 ID:???
回します
個人的にはまわすために書き込むことがないので
回しは好きではないのですが・・・
283ボケコニアン:03/02/03 20:58 ID:???
以下、回しです
284ボケコニアン:03/02/03 21:00 ID:???
以下、回し
285ボケコニアン:03/02/03 21:00 ID:???
回し
286ボケコニアン:03/02/03 21:01 ID:???
回します
287ボケコニアン:03/02/03 21:03 ID:???
回し
288ボケコニアン:03/02/03 21:04 ID:???
まわし
289ボケコニアン:03/02/03 21:06 ID:???
これでいいだろうか?
サゲ進行でいけば問題ないけど
アゲ荒らしがきたことのことを考えるとあれなので。

次はどういうの書こうかな?


お疲れサマー
スゲーわざとらしいな。
虹野スパッツスレで変わったSSを発見した。
一風変わってて面白かったんだけど勝手にこっちにのっけちゃまずいんかな?
293粘着:03/02/06 19:00 ID:???
許可する。
>>292
もしかして消防のSSの事か?
載せるも何も七十話以上あるんだが。。。
でもああいうのも面白いな。
緊急浮上
296名無しくん、、、好きです。。。:03/02/18 00:31 ID:R5BM0Izl
誰か書いてください
普通にネット上を探せばいいだろが。
エロパロ行くという手もある。
hosyu
300
300名無しくん、、、好きです。。。:03/02/26 01:16 ID:MSvZDc5S
↑299

300げっと〜。

\(∫)/


朝に起床する、というのは誰が決めたんだろう。
目覚めたくない身体を『朝が来た』という理由で無理矢理叩き起こす事に、
僕は前々から疑問を抱いていたんだ…。
疲れたら眠って、目が開いたら起きる……生物はそうして生きて然るべきじゃないか?
「…………君」
だから、いいんだ。
眠いんなら無理に起きなくても。
身体が睡眠を欲しているのなら、その欲求を満たしてあげよう。
「……田君」
ユサユサと、僕の身体が優しく揺すぶられる。
揺らされる心地良さに意識が一瞬跳び、
それは僕を現実へと引き戻す切っ掛けとなった。
「……ん……」
重い瞼を持ち上げると、そこには少しだけ顔をしかめた女性の顔があった。
「時田君」

「……あ……真理絵先生」
目の前の先生の顔を確認してようやく、僕の意識がはっきりした。
しかし先生は僕がまだ寝ぼけていると思ったのか、小さく溜息をついて
「もう起きないと遅刻するわ。私がいるのにそういう事するの、感心しないわね」
と言ってから、僕の額に指をコツンと当ててきた。
もそもそとベッドから這い出る僕を見てから、
真理絵先生はキッチンへと向かう。
僕の頭は今日も飛び跳ねているというのに、
先生の短髪は乱れなどなく今日も艶やかな光りを放っている。
紫のネグリジェを纏ったその色っぽい後姿に釣られるように、
僕も先生の後についてテーブルについた。

「簡単なもので済ませてしまって御免なさい」
そう言って僕の前に差し出されたのは、トーストの乗った皿とインスタントのコーンスープ。
同じものを用意して、先生も僕の向かいの椅子に座る。
「いえ、充分ですよ……いただきます」
ちら、と先生の方へ目を向けてから、僕はトーストに噛り付いた。
サク、と軽い音がして、香ばしい独特の匂いが鼻腔をくすぐる。
「でも朝はきちんと食べないと、勉強に身が入らないでしょう?」
「ははは……きちんと食べても、勉強に身を入れることは難しいですね」
先生は僕のペースよりいくらかゆっくりと朝食を片していく。
食べ方1つにしてもどこか落ち着いていて、大人の雰囲気を匂わせていた。
「あら……それは駄目ね。学生の本分は…」
「勉強でしょ?先生の言う事は解かってるんですけど、なかなか…」
僕は先生の後を取るように言って、トーストの最後の一切れを口の中に放りこんだ。
それを遂行できている生徒が、クラスに何人いるだろうか。
理想と現実はあまりにもかけ離れすぎている。
そんな僕を見て先生は口許をわずかに緩めると、悪戯っこのような笑みを浮かべて言った。

「じゃあ今日の私の授業、当ててあげるから予習しておいてね」
「え?」
「それなら時田君も勉強に身が入るでしょう? 私が緊張感を与えてあげます」
「そ、そんな、いいですよ……わざわざそんな」
僕が少し慌てた様子で言うと、真理絵先生はさらに面白がるように笑いながら、
「遠慮なんてしないで。時田君のためになることよ?」
と、あくまで『僕のためを思って』のことだと主張した。
真理絵先生は化学を教えている。
ことこういう関係になってから、僕も化学の成績は悪くはなくなったんだけど…。
「……せめて、高校生が答えられる質問をお願いします。この前みたいなのはちょっと…」
「ふふふ。あそこで答えられたら格好良かったのにね」
「あんな聞いたこともない単語並べられて、答えられる訳ないじゃないですか…」
あの時のことを思い出すと、今でも手の中に汗が浮いてくる。
まるで見た事のない記号の羅列を見せられてただ立ちすくむだけの僕を笑うクラスメイト達、
それをさっき起こしてくれた時と同じような意地悪な笑みを浮かべて見つめる真理絵先生。
「最近調子良いみたいだったから、少し試してみたのよ」

「習ってないものは答えられません。あれじゃイジメですよ…」
真理絵先生は時折僕を困らせては、その表情を楽しんでいるように思えてくる時がある。
ここ最近になって僕も初めて知ったことだが、先生はその大人っぽい外見からは
想像し難い悪戯っ子のような面を持ち合わせていた。
そんな先生が出す難題をいつかクリアしてやろうというのが今の僕のささやかな目標だ。
日常会話から唐突に質問が出されることもあれば、授業中にさらりと出されることもある。
教師というだけあって知識の幅も広い真理絵先生が出す問題は、
まだ高校生の僕のは皆目見当などつかない。
「ふふ、御免なさいね。じゃあ今日はこの間より少しだけ優しい問題にしておくわ」
「………お手柔らかにお願いします」
僕は少し冷めたコーンスープを素早く平らげて席を立つ。
同じ家から登校すると言っても、一緒に行くわけにはいかない。
僕らの関係はまだ誰にも知らせていないのだから。
「じゃあ先に行きますね」
「ええ」

玄関に向かおうとする僕に、真理絵先生も付き添う。
こうやって必ず送り迎えしてくれる先生の気遣いは、細かいことだけどとても嬉しい。
「あら……時田君、どこか痛いの? 何だか歩き方がおかしいけど…」
真理絵先生が心配そうに声をかけてきた。
僕の方を不安げに見つめている。
今こうして歩いてみて気づいた事だが、確かに身体が痛い。
「……なんか、腰の辺りが」
そう言って僕が腰を摩ると、先生もその部分に手を当ててきた。
労るように優しくさすってくれるその手からは、
真理絵先生の心配そうな気持ちが流れこんでくるように思えた。
「昨日、頑張りすぎたかな……」
僕の呟きを聞いた真理絵先生は、『仕方ないわね』とでも言いたげに一度溜息を吐いた。
「やっぱり無理してたのね。だから言ったのに……」
「いいんです。若いんだから」
ピシャリと言いきった僕に、先生は笑みを返してきた。
どうやら心配するほどでもないと思ったのか、摩ってくれていた患部から手を離す。

「そうね。若いものね」
その言葉にどこか含みを感じたが、深く考えることはしなかった。
靴を履き終わった僕は先生に向き直り、その端麗な顔を見つめる。
「いってらっしゃい」
いつもの落ちついた笑みを浮かべて、真理絵先生が言う。
先生が1番よく見せる、その人柄を表したような温かい笑み。
しかし、先生の口から出た送りだしの言葉に対する答えには
まるでそぐわない言葉が僕の口から飛び出した。
「……あの、今日も来ていいですか?」
「え…?」
それは意図していなかったことだったみたいで、先生は驚きの表情を浮かべている。
それから少しはにかんで、こちらを気遣うように口を開いた。
「私は別に構わないけど……時田君の方は大丈夫なの? ご家族の方が心配してるんじゃない?」
「大丈夫です。今日もアリバイを作ってきますから」
僕の強い口調に真理絵先生は心内を悟ったか、嬉しそうな顔で
「………私の方は、断る理由なんてないわ」
と言ってくれた。



朝の登校中、ふいに後ろから声をかけられた。
馴染みのあるその声に僕が振りかえると、爽やかな笑顔と共に
僕を見つめる幼馴染の顔があった。
「おはよう、一也君」
「梨代」
身体の前でカバンを持ち、彼女は僕の隣に並んだ。
緩やかな風が、梨代のシャンプーの香りを僕へ届ける。
「おはよう」
「今日もいい天気だね。風がとっても気持ちいい……」
そう言って目を細める彼女は、とても可愛く見えた。
最近とみに梨代が女らしく見えるのは何故だろう。
彼女の身辺に何かしらの変化があったのか、それとも僕が変わったのか。
「そう言えば昨日、一也君の家に行ったんだけど留守だったね。どこに行ってたの?」
梨代の言葉に僕はわずかに動揺した。
「え、えっと……友達の家に遊びに行ってたんだよ」
「あんな夜遅くに?」

梨代が何時頃僕の家に来たのかは解からないが、結構遅い時間だったようで
僕の『遊びに行く』と理由に不審そうな表情を浮かべている。
「うん……き、昨日はそのまま泊まったんだ」
「……」
彼女とは長い付き合いだ。
もしかしたら、僕の嘘を見抜いてしまうかも知れない…。
背中に冷や汗を感じながら、梨代の反応をじっと待つ。
「……そうなんだ。じゃあ間が悪かったんだね」
梨代はそう呟いて、それっきり昨日のことは聞いてこなかった。
僕が話題を振るといつも通り受け答えしてくれたものの、
その表情はどこか落ち着かない様子に見えた。
彼女のそんなわずかな変化が解かる僕と同じく、
梨代も僕のわずかな変化に気がついているかも知れないな。
でも、本当のことは言えない。
それは今の僕らの関係に何らかの変化をもたらすだろうから。
彼女に隠し事はしたくないけど、同じ学校にいる間だけは……
いや、一緒のクラスの間だけは、梨代にも告げることはできないだろう。



「よぉ時田、おはよーさん」
今まさに自分の机に着こうとした僕に声をかけてきたのは、顔なじみのクラスメイトだ。
何かと一緒になることが多い彼とは、最近よく話すことが多い。
「おはよう」
自分の席でもないのに、僕の前にどっかと座りこんだ彼がヘンな視線を向けてくる。
「それで、彼女との一夜はどうでしたか一也君?」
予想通り、彼は”いの1番”で聞いて来た。
そう、真理絵先生の家へ泊まるなんて親に言えるはずもない僕は、
昨日は彼の家へ行くと断って出てきたのだ。
しかしそう簡単に事がうまく運ぶはずもなく、彼にはその理由を問われたのだけど…。
「おかげさまで助かったよ。ありがとう」
「おう、感謝しろよ。で、そろそろ教えてくれたっていいんじゃないか? お前の彼女」
机に肘をついて乗り出してきた彼に僕は苦笑いしながら、
「う〜ん……もうちょっと待ってよ。きちんと付き合うようになったら言うからさ…」
と切り返した。それを聞いた彼が怪訝そうな表情を浮かべる。
「きちんとって……なんだよ、もしかしてSFってヤツか?」

「そ、そんなんじゃないって!」
卑猥な行為を示す動きを指でしながら聞く彼に、僕は慌てて否定した。
「ふ〜ん……まぁ別にいいけどさ。 いつか紹介しろよ?」
「う、うん……それで、今日もお願いしたいんだけど」
僕がそう言うと、彼は目を大きく見開いた。
その大袈裟な態度に思わず仰け反る。
「………はいはいはいはい。
 今日も明日も明後日でも、俺をダシにして乳繰り合ってくださいな!」
「こ、声が大きい!」
ぎょっとして僕は周りを見まわした。
幸いなことに、クラスの皆には聞こえていなかったようだ。
「この貸しは大きいからな。覚えとけ」
「ごめん、恩に着るよ」
両手を合わせて拝む僕を他所に、面白くなさそうな表情で彼は離れていった。
彼には僕も本当のことを話したいけど……卒業するまで無理だろうな。
先生が相手なんて聞いたら、どんな顔をするか想像もできないよ。



時間潰しにブラついていたショッピング街に灯が灯り出した頃、
僕は先生のマンションへと足を向けた。
やや冷たい風が僕にぶつかってきて、すっかり秋めいてきたことを告げていく。
1つ身震いしてから、僕は気持ち早足で街道を後にした。

ピンポーン。

チャイムを押してから数秒、ドアが開けられる。
学校で見たスーツ姿ではなく、普段着に着替えた姿で真理絵先生は僕を迎えてくれた。
「いらっしゃい。どうぞ上がって」
「お邪魔します」
後ろ手にドアを閉めると、温かい空気が僕の身体を包み込んだ。
脱いだ靴を並べて、僕は先生の後についていく。
「外、寒かったでしょう?」
「…少し。もうすっかり秋めいてきましたね」
「本当。季節が変わるのは本当に早いわね……」

リビングは程よい温度に調節されていて、僕を心底ホッとさせてくれた。
先生はキッチンに向かって、夕食の用意を始めた。
「御飯、すぐできるから少し待ってて」
「すみません」
僕はテーブルについて先生の後姿を見つめた。
真理絵先生の発達した腰周りに行ってしまう目を慌てて反らし、
僕はつけっぱなしのテレビを見やる。
さして興味の涌かない番組も、この穏やかな雰囲気の空間ではいくらか面白く見えた。


先生の手料理を食べてから、僕はお風呂を先にいただくことになった。
『先に入りなさい』と半ば強制的に浴室へ押しこまれた僕は、
少し熱めのお湯に浸かりながら、さっきの問答を思い出す。
(……まだ一緒に入るのは無理か……)
思いきって真理絵先生を混浴に誘ってみたものの、
『後片付けがあるから…』と言われてしまった。
あれは柔かく断られたんだろう。
身体を合わせることと、一緒にお風呂に入ることはまた別の恥ずかしさがあるのだろうか…。

僕がそんなことを考えて入ると、脱衣所から俄に音が聞こえてきた。
布擦れの音、ドア越しに見える成熟した女体のシルエット。
「せ、先生!?」
「………入っていい?」
「えっ!?」
僕の返事を待たずに、浴室のドアが開かれる。
身体の前でタオルを持って、真理絵先生が入ってきた。
手にしたタオルは、女性にしては長身な先生の身体を隠すにはあまりにも丈が短い。
その豊かな胸の膨らみは先の突起を隠すだけで、布地は主に下半身を覆っている。
「やっぱり2人で入るには少し窮屈ね」
明るい浴室の中で見る先生の身体は、また違った魅力で僕を虜にした。
その豊満な乳房、ふっくらとした臀部、先生が動く度に見え隠れするデルタ地帯が
僕の視線を捕らえて離さない。
「……時田君、そんなまじまじと見られると恥ずかしいわ……」
そう言って、真理絵先生は僕から少し身体を背けた。
その恥らう姿が妙に新鮮で、僕の官能をくすぐる。
「す、すみません」

僕は真っ赤になって先生から視線を外した。
少し露骨すぎたかな…。
しかし次の瞬間、真理絵先生はいつもの落ちついた声で、
「時田君、背中流してあげるわ」
と言ってきた。気まずくなろうとした場の空気が、先生の一言で救われたような気がする。
僕は言われるままに浴槽から立ちあがり、先生の前にある腰掛けに座った。
ボディブラシを手にして、真理絵先生が控えめに僕の背中を洗い出す。
「ふふ、こんなことするの初めてね」
「……まさか入ってくるなんて思いませんでした」
「え? だってさっき私を誘ったじゃない」
心外そうに真理絵先生が言う。
その答えに、僕自信も戸惑ってしまった。
「いえ、僕はてっきり断られたのかと…」
「私は『先に入りなさい』って言っただけよ? 入らない、なんて言った覚えはないけど」
ク真理絵先生は背中越しに僕の顔を覗きこんで、クスリと笑った。
おそらく僕の顔を見て笑ったんだろう……そんな変な顔してたかな?
「ふふっ…御免なさい、笑ったりして。でも、そんな時田君の顔も好きよ」

「……」
顔中に血が集まっていくのがわかる。
からかい半分の言葉だというのはわかっているけど、先生の口から『好き』という言葉を聞くと
どうもこういう反応をしてしまう自分が恥ずかしかった。
「ふふふ、お顔が真っ赤っ赤」
「か、からかわないでくださいよ」
「別にからかってなんかいないわ。私が嘘を言っていると思う?」
「う……」
こういう質問は返答に困る。
嘘だとは思わないけど……だけど、本気だと言いきることもできない。
僕が混乱していると、真理絵先生が徐に僕の肩越しに顔を乗せてきた。
その普段からは考えられない突発的な行動に、僕の心臓が激しく動きだす。
「……嘘じゃないって、教えてあげましょうか?」
「ま、真理絵先生…」
「時田君のこと、好きだって……証明してあげましょうか?」

僕の背中に、先生の胸が押しつけられる。
ぎゅっと形が変わるぐらいに密着する肉の感触は、いくら味わっても飽きないほどの柔かさだ。
そして、これから反応を示そうとしていた僕のモノに、真理絵先生の指が…。
「あら……まだ柔かい。昨日の影響?」
「……」
「それとも、私って魅力ない?」
「そんなことは、天地天命に誓ってありません」
僕ははっきりそう告げて、真理絵先生を見つめた。
先生の顔を間近で見て、改めて今の状況を思い知る。
手馴れた感じで僕のモノを擦る先生の手の動作に、僕のモノが次第に反応していく。
「嬉しい……」
それは、僕の言葉に対しての感情なのか、それとも僕の身体の反応に対してなのかは
解からなかったが、真理絵先生は微笑を浮かべて僕の頬にキスをしてくれた。
僕が唇を突き出すと、先生はその行動を見逃さずに自らのそれを重ねてくる。
もう何度味わったか解からない、真理絵先生の唇の味。
まだ少し口紅の匂いが残っているが、それが逆に『大人らしさ』を意識させる。
「……んん……」

先生が呻くと同時に、僕は口を開けて舌を伸ばした。
それに呼応するように、真理絵先生の舌が絡みついてくる。
その生暖かい感触と、気持ちの高ぶりを示すかのように激しくなる先生の手の動きに、
僕の全身が大きく震える。
空いた手で真理絵先生の胸に触れた僕は、その大きな肉丘に指が埋まるくらい強く掴んだ。
「………っ」
「先生…」
それはゆっくりした動きだったためか、真理絵先生が痛みを感じた様子はなく、
少し驚いたように見えただけだった。
僕は指全体でその膨らみを確かめるように揉み始めた。
とろけるような肉の感触、与え続けられるモノへの刺激。
そして何より真理絵先生の恍惚とした表情が、早くも僕に射精をもたらした。
「……うっ!」
「……!」
先生も手で感じただろう、僕の精液が勢い良く跳ぶ。
2,3度ビクビクと大きく波打ってから、先生の手の中で僕のモノが収縮し出した。
「気持ち良かった?」

あまりにも早い射精、自ら先生を求めた行動。
僕は真理絵先生の問いかけに答える必要はないと思い、黙って先生と対峙した。
「今度は僕が……」
先生の裸体を隠していたタオルは床に落ちてお湯を存分に吸い上げている。
今、僕の目の前には浴槽の明かりに照らされた真理絵先生の肉感的な肢体が
惜しみなく晒されていた。
僕は徐に先生の胸へ両手を伸ばし、そのたっぷりとした重みを下から持ち上げるようにした。
その紅い先端は先ほどの行為の影響からか、やや尖って見える。
下から指を曲げると、真理絵先生の乳房の感触がダイレクトに伝わってきた。
「昨日僕を3回もイカせたのは、この胸ですか……?」
「ふふ…時田君、女性の胸が好きなのね。昨日もさっきもあんなに反応して…」
「それは先生の胸がすごく魅力的だからです…」
僕は乳房の先端を一舐めしてから、突起を口に含んだ。
硬い感触が伝わり、それは唇をすぼめてゆっくり吸い上げる。
「ん、そんな優しく吸わないで・・・」

背中に手を回して、僕は全身を真理絵先生と密着させた。
ちゅうちゅうとまるで赤ちゃんのように乳首を吸う度に、先生が小刻みに反応する。
「はっ……ぅん、ふっ…」
すでに口内で硬くしこった乳首をいつまでも舐り続ける僕に、真理絵先生は
「もう、いつまで吸うの?」
と切なげな表情で語ってきた。
僕が先生の太股に片手を這わせると、明らかにお湯とは違う、透明の液体が滴っていた。
まだ肉茎は完全に復活したとは言えなかったが、
一刻も早く先生の膣内へ入りたいという気持ちが、僕をはやらせる。
「今度は私が吸ってあげようか?」
と、真理絵先生が口許を上げて提案してきたが、
そんな事をされると先生と一つになるまで持ちそうにないと思い、断ることにした。
「いえ、それより早く先生の中に入りたい…」
真理絵先生はスッと立ちあがると、すぐに僕の手を引いて同じように倣わせた。
立ったまま、という初めての体位に戸惑いながらも、
僕はその内心を悟られまいと先生のむっちりとした太股を片方抱え上げた。

大きく開かれた股間でヒクつく膣口に自分のモノをあてがっただけなのに、
真理絵先生の陰唇は誘うようにその奥へと蠢く。
「来て…」
その言葉に、僕はぐっと強く腰を突き出した。
ヌルヌルした膣道を掻き入り、僕の肉茎が真理絵先生の子宮に向かって進む。
「はぁ……っ、んん……!」
一瞬呼吸を止めてから、先生は大きく息を吐き出した。
それは僕のモノが先生の1番深いところに行き届いたことを示していた。
「先生の中、すごく熱い……」
ぐちゅぐちゅと、愛液に濡れそぼった膣内を貪るために腰を前後に動かす。
それだけでグイグイとモノに絡みついてくる真理絵先生の肉襞は、
瞬く間に僕の肉茎に本来の硬さを取り戻させた。
「あぁ……時田君のが、どんどん硬くなっていくわ……!」
「先生……! 先生っ!!」
真理絵先生の尻肉が僕の腰に打ちつけられて、卑猥な音が浴室に響き渡る。
狭いこの空間で、その音はエコーがかかり、より強調されて僕の耳に届いた。
「あぁっは………っ!!」
ズンズンと身体の奥を突かれるままに、先生は艶やかな声を僕に聞かせてくれる。
真理絵先生を気持ち良くさせてあげられていることが何より嬉しかった。

「そんな、奥まで……! 硬い、すごい……!!」
「先生、真理絵先生! 好きです! くっ…」
僕のその言葉に、肉圧で答えてくれる真理絵先生。
膣内が締まり、僕のモノをぐっと咥えこむ。
「うわっ……! せ、先生、もう駄目です! 僕…」
「いいわ、来て! このまま出して……!」
真理絵先生は僕の首に腕をまわし、そう懇願してきた。
「えっ……でも……!」
「構わない、時田君を感じたいの、お願い……!」
言いようのない迫力が、僕の心を締めつける。
今までになかった真理絵先生の頼みをきくため、僕はできる限り大きく、早く腰を動かした。
「ああぁっ! 来て! 時田君、来てっ! 妊娠させてくれてもいい……っ!!」
「……くぅっ!!」
目の前でちぎれんばかりに踊っていた両の乳房を思いきり掴んだ刹那、
僕の肉茎は真理絵先生の膣内で一切の遠慮なしに暴発した。
凄まじい快感が身体全体を包み込む。
「あぁ……感じる……熱い……!」
僕の吐き出した液体を一滴残らず搾り取ろうと、先生の膣が収縮している。
ただその動きに身を任せ、僕は先生の柔かい身体を抱きしめた。



「今日、時田君が来てくれて……先生、とても嬉しかった」
汗を流すように頭からシャワーを浴びていた真理絵先生が、ポツリと呟いた。
僕にはその言葉より、その時に垣間見せた先生の寂しそうな表情が印象に残った。
この人は、人一倍寂しがりやなのかも知れない。
誰でも包み込んでしまうような優しい雰囲気を持つ真理絵先生が
僕に見せてくれた、本当の気持ち。
それは孤独感に押しつぶされそうになって
泣いている少女のような印象を僕の脳裏に刻み込んだ。
「先生……」
僕らの関係はまだ始まったばかりだ。
だけど、目の前の女性の心の隙間を埋める役目を担うのは、常に僕でありたいと思う。


                  完
いささか板違いの感はあるけれど
もとネタはギャルゲだということで
許してもらうことを夢見ながら
今日は眠りにつこうと思う訳だけども
しかしあれですな
ときメモなども書いてみたいとは思いつつ
なにぶんエロしか書いたことがない俺は
どこまで彼女達をエロく書いてOKなのかわからず
イマイチ書く踏ん切りがつかないんだコノヤロー
ヽ(`Д´)ノ
お疲れ様です。
元ネタは慟哭ですね。
ここはときメモ系が多かっただけに新鮮でした。
慟哭スレでは、真理絵先生はどうやっても不幸にしかならないが定説ですが
幸せそうでなによりです。
個人的には、梨代タンにやきもちを焼く先生というシーンがみたかったりしました。
お疲れ
338名無しくん、、、好きです。。。:03/03/08 23:17 ID:PxXy00Ud
書いたら上げようほととぎす
定期上げ
340孫悟空 ◆1CL6vYZ2rM :03/03/17 15:31 ID:???
ドラゴンボールZ
フジ(関東)で毎週月曜16:30〜放送中!!

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と〜けたこおりのな〜かに〜♪恐竜がい〜たら〜たまのりし〜こ〜みたいね〜♪
341むーさん ◆mBnwnNvirM :03/03/17 22:05 ID:???
この間KIDより発売されたIrisのSSです。
発売して間もないのでネタバレは無し、エロもしておりません。
ゲームの舞台が冬なので、思い切って夏のお話を書いてみました。
ではどうぞ。
342ビーチで受難(?) 1/3:03/03/17 22:07 ID:???
目の前には人、人、ヒト。大人から子供まで家族連れ、恋人同士などが男女問わずたくさんの人が
砂浜で、水中で思い思いに過ごしている。
そう、僕は今海水浴場に来ている。いや、今は僕一人しかいないが、正確には僕「達」だ。
「―――っ!」
どうして僕はこんなところに立っているのだろうと、突き抜けるような青空を見上げて
考えている時だった。突然背中に強い衝撃が走り、目の前には夏の太陽にきらめく細かな
砂の粒がせまっていた。
なぜ?と思う暇もなく僕はうつ伏せのまま頭だけ振り向き、この原因を作ったであろう人物に声をかけた。
「東雲、いいかげんにしてよ…」
そういって僕が振り返った先には「22cm」と掘り込まれたビーチサンダルの底を見せている
東雲がいた。
「何よ!さっきからずっと呼んでるのに気づかないアンタが悪いんでしょ!全く…
 返事くらいしなさいよ。」
『着替えるから待ってなさい』と言われ、かれこれ20分近く暑い太陽の下で待たされた
人間に対する仕打ちがこれですか?
「だって、あんまりみんなが待たせるものだからついぼーっとしちゃって…」
『みんな』……そう、今日僕たちは夏実さんに連れられて来ていたのだ。
「で、他のみんなはどうしたの?まだ着替え中?」
と、東雲に問いかけた時だった。
「し、しのちゃん…ダメだよ。そんなに乱暴しちゃ…」
343ビーチで受難(?) 2/3:03/03/17 22:11 ID:???
「し、しのちゃん…ダメだよ。そんなに乱暴しちゃ…」
そういって東雲の二歩後ろほどから顔を出したのは……さくらだった。
「わかってるわよぉ、あたしだって治樹以外のヤツにこんなことしないってば」
と、手をパタパタさせながらようやく僕の視界の半分近く覆っていたサンダルをどけた。
そこでようやく起き上がり、二人のちゃんとした姿を確認したのだが……僕は忘れていた。
ここが海である事を。
僕らは海に釣りをしにきたわけではなく泳ぎに来たわけだ。なら水着になるのは当然である。
けど、僕にはその普段目にしない光景を見る覚悟というか心構えが出来ていなかったのである。
東雲は、ナナメに青と黄色のストライプの走ったセパレートタイプのスポーティな
デザインの水着で、いつも活動的な東雲にはかなり似合っている。
それで、さくらの方は……薄いピンク色でビキニタイプにワンポイントで花柄の入った
シンプルなデザインで、モスグリーンのパレオをしていた。
そんな二人を見て僕は……正直ドキッとした。
「どう…かな治樹?……私、似合ってる…?」
不意に目が合ったさくらから突然尋ねられ、僕は思わず喉を鳴らした。
「に、似合ってるよ、すごく。さくらにピッタリだ。」
普段見ることのない水着姿。それは彼女達のまだ成長途中である体の曲線を
はっきりと浮かび上がらせ、普段より全然露出の高いその格好は、僕には――刺激が強すぎた。
「あれぇ?治樹ぃ、顔が耳まで真っ赤だよ?やっだぁ〜私達の水着見てやらしいこと
 考えたんでしょう、治樹のヘンタイ〜♪」
そう、僕は自分で顔の温度が上昇していくのがわかったのだ。
「し、しのちゃぁん……」
それを聞いたさくらの方まで頬を染めていく。
344ビーチで受難(?) 3/3:03/03/17 22:15 ID:???
「全く…そんな事でどうするのよ?男として情けないぞぉ。」
と、僕の背後から声が……夏実さんだ!
夏実さんの水着は以前何度か見たことがある。普通のワンピースだったはずだ。
本人曰く「あまり泳ぎに行く機会がないから水着にはそこまでこだわらないわ」とのこと。
火照った顔を覚ますためにも、夏実さんと今日の予定を話でもしてとにかく邪念を
追い払わないと…
「あ、夏実さ……」
後ろを振り返った僕は固まってしまった。
そこには、大きくヘソの周りの開いた黒のハイレグを身にまとってポーズをつけている
夏実さんがいた。
「わぁ…なっちゃんすごぉい、そんな水着持ってたんだ?」
東雲が感嘆の声をあげる
「ふふん、まあねん♪今年の最新流行なんだからぁ。フンパツしちゃった。」
そこで僕の意識が戻る。といってもまだ頭の中は混乱しているのだが。
「な、夏実さん!?フンパツしたって、じゃあ『今月キビシイわねぇ…お酒少し控えなきゃ』
 とか言ってたのは――?」
「もっちろん♪この水着を買うためよ。」
当然とばかりに胸を張って言う。
「でも、どうしてわざわざ!?」
「そりゃあ、折角可愛い息子と海に行けることになったんだもん。ここは一つビシっと
 決めて、治樹のコト悩殺しちゃおうって思って――ほら?実際見とれちゃったでしょ、
 正直に言ってごらん?うりうり。」
そういって僕の額をつついてくる
「そ、そんなわけは……大体僕にはさくらが…」
って、なんでそこでさくらの名前が出てくるのだろう?
我ながら言ってることが支離滅裂である。しかもそれを聞いたさくらが余計に顔を赤くしていく。
345ビーチで受難(?) 3/3:03/03/17 22:17 ID:???
「あぁ〜ん、照れちゃって♪ホントに可愛いんだからぁ、もうぎゅぅ〜ってしちゃうんだから」
そういっていきなり僕に力一杯抱きついてきた。
「ちょ、ちょちょっと?夏実さん!?い、息が……」
「夏実さん!?」
それまで成り行きを見守っていたさくらだったが、さすがに驚いた顔で抗議の声を上げた。
「わ、なっちゃんったらだいた〜ん♪」
逆に東雲はニヤニヤしながらこっちを眺めている。いや、そんなところにいないで助けて……?
「え〜〜、だって可愛いんだもぉん♪」
そういって更に力を込める夏実さん――そこで僕に限界が来た。
すっかり頭に血が上ってしまった僕はのぼせ上がってしまい、視界が暗転していった。
そんな中、
「んもう…なーちゃんったらぁ、着いて早々何してるのよ?」
あ…そう言えばもう一人来ていたんだった。
その人はオレンジ色のフリルがやたらとヒラヒラした、正直オトナの女性が着るような水着とは
思えない格好をしていた。
「ほらぁ瀬戸原クンだって嫌がってるでしょ?離してあげなさい。」
「えぇ〜、わかったわよぉれーちゃん。ちょっとふざけてみたかっただけなのに……って治樹!?」
ようやく僕の異変に気づく夏実さん。
「は、治樹……!?」
さくらもそんな僕に声をかける。
だけど既に時遅く、僕は意識を深い底へ押しやろうとしていた。
……今日も大変な一日になりそうだ……
薄れ行く意識の中そんな事を考えながら、最後に一人心で呟いた。
『五十嵐先生、その水着はあまりにも幼すぎるよ……』と。
乙かれ
みんなどこへ??
348ボケコニアン:03/03/25 23:32 ID:???
とりあえず生きてます
今自分のHPの製作中です
がんがってください>ボケコ氏
何か書こうかな。

でも今はどんなんが流行っているのかわkらない
351名無しくん、、、好きです。。。:03/03/30 22:58 ID:iqd4F9kp
需要がないだろうけど上げておく
冬の海・春の海 1 北海

  客船は転覆して海面にその赧い船底を晒して浮いていた。三、四時間ばかりは
浮いていたかもしれないが、もはやそれも時間の問題だった。その巨鯨の
片隅でかろうじて命の灯火を点している恋人たちがいた。
「アン、船外へ脱出しよう」
「ダメ、できない」
「できないじゃない、やるんだ!きみは泳ぎが得意だったじゃないか!」
 男は女の細い両肩に手を掛けて軽く揺さぶった。苛立ちも混じっていたかも
しれない。男の励ましはスタールビーの瞳にシンプルな恐怖を植えつける
だけだった。
「ごめん、アン」
「状況があまりにもちがいすぎるの。こわくて、こわくて泳ぐことなんか……あなた
だけでも脱出して」 
 アンは自分で自分の躰を抱きしめる。男はさむさに顫えるアンをぎゅっと抱く。
「きみと一緒じゃなきゃ意味はない。置いて行くことなんかできない」
 あるものはかろうじて船外への脱出を試みていたが半ばで溺れるか、たとえ
大しけの海上に出られても低体温症にやられて波に呑まれて空しく死んで
いっていた。
 いくらアンが泳ぎが得意だったとはいえ、北海の凍てつく水は彼女のなかに
絶対的なまでの恐怖と対峙させていた。生き残っていた誰もがそうだった。
薄着のイブニングドレスを纏った彼女の素足はその凍てつく水のなかにあった。
「きみを置いて行くことなんかできない……!」
冬の海・春の海 2

  アンの頭のなかは早く回転する。愛する人がいっしょに残ると言ってしまえば、
最後の望みすら掻き消える。たとえ自分は死んでも、彼が生き残る可能性に
賭けてみようと考えていた。しかし、ほんとうにあるのだろうか……海上に出て
救助艇を待ち堪えることが。そんな保証はどこにもなかった。
「わかったわ、いきましょう!」
 さむい、とてもさむかった。
「いっしょに、生きよう!必ず助かろう、アン!」
「ええ、必ず!」
 顫える口でそう答えると不思議と彼のやさしい声とともに凍えた躰がぬくもりに
包まれて生きる望みが満ちてくる。アンは持てうる笑顔で恐怖を打ち消して、彼の
唇に擦り付けるように口吻をした。もう助からないと諦めていたはずなのに、
ひょっとして助かるかもしれないとそう信じて彼の背に首にしがみついていった。
だが、逃れようの無い現実は厳然としてあった。アンのローズピンクの唇は既に
土気色と化していた。
「深呼吸して、アン!そう、深く吸って吐いて……」
 腰にまで水を浸けると凍てつく寒さが容赦なく躰を突き刺した。堪えなければ、
堪えなければいけない。祈る想いでアンは深く深呼吸を続ける。
「いくよ、アン!」
「はぁーっ」
冬の海・春の海 3

  その合図で恋人たちは水中へと潜っていった。総身が凍てつく寒さに包まれる。
さむさは痛さになり、それさえも超越して心臓をすり潰すような感覚が恋人たちを
襲ってくる。
 しかし残酷な状況とは相反して水中のアンの姿は長い髪がケプルのように
たゆたうとして闇のなかの光りのように幻想的でさえあった。多くの船客たちが
浮遊する地獄絵図のなかで、それを目にして愉しむものはタナトスだけだった。
 船内で僅かばかりの生存者たちも迫り来る水の恐怖に堪えながら、その死の
瞬間を確固たるものとして受け入れなければならないでいた。その時は……
迫っていた。
 恋人たちは荒れ狂う海面へと浮び上がっていた。男は背中にしがみついて
いる恋人の様子を窺った。アンは笑っていた。笑うようにして二度と起きることの
ない眠りについていた。男は失われたアンのローズピンクの唇に胸が張り裂け
慟哭するも容赦なく肺に大量の海水が流れ込んでくる。渦に巻き込まれながら
彼が最期に見たもの、それはエクボのかわいいアンの笑顔だった。人の造りし
巨鯨は北海の黒い海へと多くの命を呑み込んだまま、その巨体をゆっくりと
墓場へと沈めていった。

 海難史上の災厄が人々の記憶からようやく忘れられた頃、ひとりの東洋人が
ドルファンの土地を踏んだことから、止まっていた時計はゆるやかに針を刻み
始めた。

 
 冬の海に別れを告げるため、そして春の海を迎えるために。
冬の海・春の海 4 孤独

  黄昏のフラワーガーデンで男はなにすることもなくただぼんやりと花を眺めて
ベンチに腰掛けていた。故国からの子供時代を慰めてくれた妖精ピコを
パートナーにして各地を転戦し彼の地へと流れ着いた。その前の国では最たる
理解者だと思われていたピコ以上の女性の出現に剣を置く覚悟でさえいた。
その矢先の出来事だった。恋人は流れ弾から男を庇って逝ってしまった。
男は憎悪に駆られて戦場に立ち剣を振るっていた。しかし、その闇を鎮め鞘と
なったのは子供時代の孤独を救ってくれた妖精のピコだった。だが、男の
奥底には死への願望が取り憑いて消えないままにドルファン王国に男は
死に場所を求めてやってきていたのだ。
 そのことは、ヤング・マジョラム教官に見抜かれていた。なにかにつけ気を
掛けてくれ、懇意にしてもらっていた。初めて知る家庭の味、だが男に巣くった
死神に柵を作ることなく、いとも簡単に影のようにすぐ傍までに忍んでいた。
 イリハ会戦の際、敵将ネクセラリアの剣を受けて死を呼び込んだ男の盾と
なってヤング教官は散って男は命を拾う。その血飛沫を浴び、ふたたび怒りに
闇に身を置いて闘ってしまうのだった。
『ダメだよ!闇に心を染めないで!』
「どけ!じゃまだッ!いくらお前でも赦さないぞ!」
「おまえとは嘗めてくれる、若造!」
 ピコは小さな躰をいっぱいに拡げて男を止めに掛かる。
『クレアさんはあんたをもっと憎むわ!闇が同胞をも滅ぼすのよ!』
「ピコ、わかったようなことをいうなッ!」
『どうして、わかんないのよ!バカ!』







冬の海・春の海 5

『きゃああッ!』
 ピコを押しのけて男は紙一重でヴァルファバラハリアンの疾風を退けることに
かろうじて成功した。だが、男は帰還しても闇のなかに身を寄せたままのクレアに
夫ヤング教官の戦死の訃報を告げての帰りだった。たとえ、前回のようにピコが
慰めてくれたとしても彼に立ち直る気力はもう失せていた。ひとりきりに
なるのがただただ怖かった。しかし、クレアへの通知の役をかってでたのは
彼なりのけじめでもあった。償い、最初はそう捉えていた。
 クレアの哀しむ姿が忘れられない。扉を開けるなり、男の貌を窺って両手で
口を押さえ、瞳をいっぱいに拡げ潤ませた姿が焼きついていた。夫人はその場に
倒れそうになる躰を気丈にも堪えて声を殺して泣いて言葉を待っている。
「御主人は戦死されました。御立派な最期でした」
 機械的な虚しく見知らぬ言葉を男は口にする。彼は最愛の女が死んだ時、
号泣した。そして怒りのままに敵を殺めていた。クレアの姿を見て敵だった
ものにも哀しむ家族がいることを知る。クレアに夫・ヤング・マジョラムの戦死を
告げるのがやっとで、慰めることもできずにただ棒立ちになっていた自分が
情けない。男はやっとの思いで口を開いた。
「クレアさん……」
『ダメだよ、いったりなんかしたら!あんたが肩の荷を降ろしてどうすんのよ!』
 ヤングの最期を語ろうとした男の言葉をピコが遮った。
『あんたが背負っていかねばならない傷なのよ!』と。
冬の海・春の海 6

「ありがとう。わたしひとりで安置所には行けますから……。そうさせてください」
「ああ……そうですか。それでは、俺はこれで失礼します」
「ほんとうに、今日はありがとうございました」 
 クレアは男に静かに別れの言葉をいった。なんで俺がクレアさんに礼を
言われなきゃならないんだと男は握り拳にギュッとちからを込める。クレアは
男から視線を外しゆっくりと扉を閉める。
 哀しみに打ちひしがれるクレアの姿を扉によって阻まれる瞬間までじっと
みつめていた。それが男に出来る唯一の償いだった。男の目の前で扉は
パタンと閉ざされる。

 ピコは男の肩に乗っていた。
『ほんとうのことをいったってクレアさん苦しむだけだよ。クレアさんが知りたいと
いうのなら別だけど。それまでは言ったりなんかしたらダメなんだから。いい!』
「わかったよ……」
 黄昏のフラワーガーデンのベンチにひとり腰掛けていた男は頭を抱えて蹲ってしまう。
「どうかされたのですか?」
「えっ?」
 顔をあげると目の前には女性が立っていて男の様子を心配そうに窺っていた。
ベージュのやわらかそうなシフォンスカートに淡いブルーのシルクニット、腰には
紐状の臙脂の革ベルトを巻いたジプシールック調の清楚で素朴な出立を
していた。そして長くゆったりとウェーブがかった髪に透き通るような白い素肌は
病的といえるほどで生命の息吹とは縁遠い感じで、印象は儚い美しさと
いった風情の女性だった。
冬の海・春の海 7

  ただ、肩にかけた赫いストールが男に衝撃を与えて、ある一点を気づかせる。
男は彼女の覗いていた瞳の赫い彩りに驚いていた。妖しいまでの煌きは宝石と
見まがうほどだった。
「あの、いかがされたのですか?」
 彼女のやさしい言葉の響きの温かさに包まれて、一瞬だったが男は全てを
忘れて彼女に魅せられていた。
「いえ、ちょっと頭痛がしたものですから休んでいただけです」
 男は感傷に浸っていたのを見られてしまったことで、はにかみながら答えて
いた。悪い癖だと思いながらもどうすることもできない。まるでピエロだった。男は
女を不快にさせてしまったのかと少し心配になってきていた。女はなにかを
じっとみつめて固まっていた。今度は男が聞く番だった。
「どうしたの?」
「あっ、いえ、なんでもないです。ただめずらしく先客がいらっしゃったものだから
驚いてしまって」
「先客?ああ、俺はもう帰りますから、どうぞ座ってください」
 男は立ち上がろうとしていたが、女は慌てて言葉を繋いでいた。
「いいんです。休んでいてください。わたしは別のところへ行きますから」
 ペコリと頭を下げると男のもとを駆け出して行ってしまう。男は溜息をつくと、
またドカッとベンチに腰を下ろす。
「べつに走って行くことはないよな。な、ピコ?おい、ピコ?ピコ?」
 男がいくらピコの名前を呼んでみても、妖精はなんの反応も示さなかった。ピコと
男は以心伝心、想いを描くだけであらかたのことは伝わってしまう。
冬の海・春の海 8

  それに加えて付き合いも長い。あまりにも筒抜けであることから、人として
語らうことでコントロールする術を男は知った。孤独とはちがう、ひとりになれる
時間は欲しいものだ。その点はピコも重々わきまえていた。いや、それ以上に。
 男に恋人が出来たとき、そして剣を置いて生きようと決心したとき、ピコは自分の
存在を打ち消そうとして覚悟を決めていた。しかし恋人の悲劇とともに別れは
来ることもなく、闇に包まれそうになった男の鞘としてピコは傍にいた。
「まったく……。しょうのないやつだなあ。花でも眺めているのか?」
 今までと勝手がちがうことに男の心は不安にざわめく。

『待って!ねえ、待ってよ!』
 男のもとを逃げるように駆け足で去っていった女をピコは飛んで追いかけて
行き纏わりつく。
「きゃっ!」 『ねえ、驚かないで!わたし、モンスターなんかじゃないから!』
 かといって女にとっては似たようなものだったかもしれない。
「あなたは妖精さんなの……?」
『うーん、正確には、のようなもの』 「のような……?」 女はピコを訝る。
『うん、詳しくは話せないけれど彼のパートナーみたいなもの。へへっ』
 女の驚いている顔の前でピコは羽ばたいていた。恐る恐る右手を差し出して
人差し指でピコの躰にふれようとするのをピコは両手で彼女の指を掴んで
握手をした。ピコが自分の名前を言うよりも早くアンがあいさつをした。
ピコにとっては、はじめてのあいさつだった。
冬の海・春の海 9

「わたしはアン。妖精さんのお名前はなんていうのかしら?」
 アンの白い容貌は黄昏に赧く染まる。ピコの方は初めて男以外の人間に存在を
認めてくれたことで有頂天となり、道化のようなライムグリーンの衣装を纏った
妖精はアンの驚いている顔をぐるりと一周して夕日にキラキラと煌く燐粉の
ようなものを撒き散らす。アンの方も、子供の頃なら誰もが思い描くだろう空想が
現実となったことで、いささか興奮ぎみであった。
『わたし、ピコっていうの!』 
「ピコちゃん」
『そう、ピコ!ピコっていうの!わたしはピコよ!』
 ピコは妖精などではなく男の空想が生み出した妄想、思念が実体化したもの
だった。だからといって、虚無などではなく確かに生きていた。そして男が
孤独だったようにピコもまた孤独だった。彼以上に孤独を知っていた。
『ねえ、ねえ!彼のおともだちになってよ』 「彼?ああ……」
『うん、ダメかなあ?』
「ダメってわけじゃないけれど、彼にだって選ぶ……」
(わたし、なにをしているんだろ)
『ほんと!いいのね!よかったあ!じゃあ、またね!』
 ピコの頭の中には迷子の子供が泣きながら母親を探して叫ぶ声が鳴り響いて
いたのだ。ピコはそれだけ言うと急いで来た道を戻っていこうとする。
冬の海・春の海 10

「あっ、待って!」
 ピコはアンの声を聞く前に戻って来た。
『ねえ、どこにいるの?』 
「えっ、ああ……病院の近くの薬局に勤めているわ」
『そして、ときどきは百花庭園に来るのね!』
「百花……フラワーガーデンね」
『彼がそう呼んでいるの。じゃあ、またね!』
 今度はほんとうに男のもとへと戻っていった。「強引な妖精さんなのね」とアンは
少しだけ溜息をついて、嬉しそうに久しぶりに微笑んでいた。アンもまた孤独
だった。哀しみも喜びもなかった。記憶がなかったのだ。
 カミツレの魔女・メネシスに倒れているところを拾われ、暫らく彼女のラボで
世話になっていたことがある。今では住まいを別にしているが、彼女のつてで
薬局の仕事に就くなど気に掛けてももらっていた。

『ごめんね』 「いったいどこへ行っていたんだよ!」
『へっへへ』 「へっへじゃないだろが!」
『なによ!その言い方はないでしょ!あったまきちゃう!』 「ほんとうに……
心配したんだからな」 (もう、ひとりはたくさんだ)
『だから、ごめんて言ったでしょ!』 「おまえ、なんか企んでるだろ」
『なんのことかなあ?さあ、帰ろう!』
 ガッツポーズで拳を掲げピコははしゃいで飛び廻っている。男はピコに
呆れながら陽の落ちたフラワーガーデンを後にした。
お疲れ様です
冬の海・春の海 11

『ねえ、怪我した?』 
ピコが男に尋ねる。もちろん男を心配してのことなどではなかった。
「なんだよ、さっきから!気が散るから隠れてろ!」
 男はカミツレ地区の森林で剣術の訓練をしていた。訓練場の非難の目に
堪えられなかったというわけではない。精神の収斂の場としてふさわしかったからに
過ぎない。
『ほんとに、そう?』 「五月蝿い!隠れてろっていったろ、ピコ!」
『ねえ、ここ怪我してるよ』
「こんなもんは怪我なんかじゃない!舐めてりゃいいんだ!」
『ああん、ばい菌が入っちゃうよ』
 男が手の甲の擦り傷を舌で舐めるのを見てピコが更に茶々を入れる。
「いいかげんにしろよ!」 『薬局に行って薬を買いに行こう!ねっ、ね。
そうしようよ』 「薬なんか……」
『戦闘まえに風邪なんかこじらせたら洒落になんないじゃん』
「まあ、たしかに」 『そいじゃ、いこう!』
「お前、何を喜んでんだ?それに行こうって、どこいくんだよ」
『バカ、薬局にきまってんじゃん』
「だから、どこにあるんだよ」
『病院の近くだって言ってたよ』
「だれが?」 『だれって……、へへっ、うわさ。うわさだよ』
冬の海・春の海 12

「なにが噂なんだよ」
『美人の看板娘がいる薬局』 「なんだそれ」
『なんでもいいから、いくのッ!』
 地団太を踏むみたいにして羽を勢いよくピコはばたつかせると、男の背中に
廻り込んで押す格好をする。

『おばちゃんだねえ』 「だな」
 男はドルファン地区の病院近くの薬局にいた。
「どうされましたか?」
「あっ、はい。エタノールとガーゼ、それに風邪薬をおねがいします」
「包帯はいかがされますか?」 「それもよろしく」
「かしこまりました。少々おまちください」
『ねえ、アンていう人、どうしたのか聞いて見てよ』 「だれだ、それ」
『だから、聞いてみてよ。一生のお願いだから』
 ピコが手を合わせて上目遣いに男を見る。
「わかったよ、聞いてやるよ。あの、すみません」 「なんでしょうか?」
「アンという方、おられませんか?」
 店員はまたかという呆れ顔で男を一瞥する。
「なにか、御用でも?」

『この前のお礼をしたくて』
冬の海・春の海 13

「この前の……ってナンだよ!!」
 男が急に怒り出したので、店員はつい本当のことを喋ってしまった。
「彼女なら今日はお休みですよ。なにか伝えておきましょうか?」
「あっ、いえ。結構ですから。お手数かけました」
 男は薬を受け取って薬局を飛び出すように出て行った。
「おい、ピコ!アンて誰だよ!答えろよ!」
『昨日の女の人だよ……。会ってくれるって言ったのに』
「会ってくれるだ!おまえ、またなんか勘違いして……って、そのひとにはピコ
が見えるのか!?」
『うん……。だから走って逃げちゃったんだよ』
「また、くればいいだろ。元気だせよ」
『そうだ!百花庭園にもいるんだ!』


アンは休みの日はマリーゴールド地区のロムロ坂を登った高台にある史跡の
野外円形劇場で歌をうたっていた。史跡の劇場は客席も舞台も全て石を
切り出して造られた物だ。そしてこの劇場は国によって修繕もされていて春と夏に
催し物が開かれている。しかし普段は人気がいなく、たまに子供が遊んでいる
程度だった。アンはだれに聞かせるでもなく、ただ歌が好きだから……澄んだ
美声が劇場に響き渡る。
 もうひとり、歌を愛している少女・ソフィア・ロベリンゲがひとり、彼女の歌声を
聞いていた。
冬の海・春の海 14 記憶

  歌を唄い終ったところで、居る筈の無い客席から拍手が聞えてきたのでアンは
驚いて視線を向けた。
「すごくお上手なんですね。わたしが昔見た……」
 客席から舞台の方に拍手をしながらソフィアは降りていったが、舞台に立っている
女性を真近に見て彼女は驚いた。
「ありがとう、拍手してくれて。どうしたの?」
「昔見た人にあまりにも似ていたものですから……」
 ソフィアのその言葉を聞いて、アンは舞台を飛び降りて彼女の方へと駆け
寄る。
「それは、いつの話しなの!もっと詳しく教えてくれないかしら!」
「は、はい。わたしがまだ3才の頃ですから、十年も前のことです。あなたと
そっくりな女性が歌っているのを劇場で見たんです」
「劇場で……?」 「は、はい」 「十年も前……?」
「子供の頃にお父さんと一緒に、あなたに似た様な人を劇場で見たんです。
歌声も同じでしたから不思議に思っていたんですが、つい歌の魅力に引き
込まれて……すみません」
 アンの必死そうな詰問にソフィアは不安になっていた。否、不安になって
いたのはそんなことではないはずだった。変わらぬ容姿、あの時の歌声、こうも
似た人がこの世にいるのだろうか。
冬の海・春の海 15

  そうでないとしたら、このひとはなんなのと考えてしまう。すると女性は突然
呻いて地に蹲った。
「いかがされました?だいじょうぶですか!」
 人を呼んでくるべきなのか、ソフィアは思案をめぐらせていたが、女は彼女の
行動を制するように言葉を発した。
「もう、だいじょうぶだから。少しめまいがしただけなの」
「でも……」 ソフィアには女性がめまい程度に苦しんでいるには見えなかった。
「ええ、ほんとうにだいじょうぶ。心配ないから」

「アンの記憶喪失は外傷性のものでなく、心因性によるものでなにかを思い
出そうとするとセーブがかかって発作のようなものが起るのよ」、とメネシスが
教えてくれた。そのときアンはメネシスに「人の記憶って面白いですね。記憶を
わたしは失っているというのに、生活に不自由しないだけの記憶は残って
いるのですもの」といった。
「人の記憶か……。わたしにも消したい過去があるわ。ご、ごめんなさい。
へんなことをいっちゃって」
「記憶って海のように広いのですね」
 アンは諦めるというよりも、驚き感心したといった風情でそんな言葉をぽつりと
吐いた。
冬の海・春の海 16

「海?そうね、人の記憶は海のように深いものなのかもしれない。あんた、
おもしろいこというね」 数学とおんなじよとはさすがにアンには言えなかった。
「おもしろいですか?」 「うん、おもしろいよ」
 そうしてアンとメネシスは笑い合った。メネシスは彼女のもつ歌声のとりこに
なったひとりでもあった。ラボで実験に行き詰って、外に出ると天使の歌声かと思う
ようなアンの声が流れてきた。
「それ、流行歌かなにか?」
 古木に腰掛けていたアンがメネシスの方に哀しそうな瞳を向けて顔を横に
振る。
「ごめん、あんたを苦しめるつもりじゃなかったんだよ。わたし、ラボに閉じこもりきりで、
そういうのは疎いから。で、なんか、思い出した?」
 アンはまた静かに顔を振った。
「あっ、そうそう。今日は知らせがあるんだよ」
「なんでしょうか?」
「有能な助手を手放すのはおしいけど、病院の近くの薬局で働けるように
したから」
「ここにいたら迷惑ですか……?」
「誤解しないで聞いて。結局、人はひとりなんだよ。だからって、ここじゃあ本当に
ひとりだからね。あんたの為によくないだろ?まあ、思い出そうとするか、
そのまま記憶を封印したまま生きるかは、あんた次第だけれどね」
冬の海・春の海 17

「……」
「こわいかい?でもいつかは闘わなきゃ。わたしはあんたをそう見ていたんだよ。
あんたの歌は祈りだけじゃないんだろ?」
「祈り……だけじゃない?」
「わたしは歌のことはわかんないけどさ、あんたの歌に惹かれるのはいろんな想い
みたいなものを語りかけてくるような気がするからだよ。前に歩いてみなよ。
少なからず応援してあげるよ。春の華を咲かせな」
「メネシスさん……ありがとう」
「はは、なんからしくないな」
 そういうとメネシスは黒いケープの裾を引き摺りながら、またラボへと入っていった。
前へ、前へという想いでアンはメネシスのラボを離れ、シーエアー地区に
移り住んだ。最初のうちは道が開けたような錯覚に陥っていた。しかし、なにも
思い出せない。思い出そうとすると制御が掛かっていた。

「前に……、前へ」
「えっ、なんですか?」 「ううん、なんでも。ほんとにもうだいじょうぶだから」
 ソフィアは彼女の肩を抱いて座席の方へ連れて行った。
「ありがとう」 「いえ、いいんです。こんなことぐらい」
 無理にあがいてみるよりも、自然に生きてみようとアンは思っていた。休みの
日は海辺や野外の円形劇場で歌をうたい、花を眺めたり。
みつナイかあ…いいねぇ。
頑張ってん
冬の海・春の海 18

「わたしも、歌が好きなんです。だから、時々は此処に来て唄っています」
 アンは少女の方を見た時、眩しいばかりのオーラの輝きをその少女に見た
ような気がしていた。そして自分が過去からの訪問者であるような淋しさめいた
感慨に包まれる。この娘には間違いなく未来があるという確信めいたものが
浮んでいた。
(わたしが、この少女に嫉妬しているの……どうして?なぜなの!)
 アンの奥底に潜む記憶の不安か、それとも才能ある者が新たな才能を発見
したときに持つ心情なのか、そのどちらもがない交ぜとなって迫ってきていた。
また微かに頭が痛み始めていた。
「わたしオーディションを受けたんです。でも……」
「落ちたの……?」
「いいえ、ちゃんと受かりましたよ」
 ソフィアはアンににっこりと微笑んだが、なにかを我慢しているような雰囲気
があった。
「どうして、淋しそうにしているのかしら?ご、ごめんなさい。初対面なのに
差し出がましいことを聞いたりして」
 アンの白い貌がみるみる赧く染まって彼女は俯いてしまう。ソフィアは
ドルファンの澄んだブルーの空を眺めながら静かにゆっくりとアンに答えた。
「家の事情で学費が払えるかどうか判らないんです」
冬の海・春の海 19

「ごめんなさいね」 
アンはまたソフィアに謝っていた。
「いえ、きっと誰かに聞いて欲しかったんだと思います」
 そう言うと、ソフィアはすっと立ち上がってアンの方を向くとぺこりと頭を下げて
野外劇場の階段を駆け上がっていこうとした。
「待って!あなたは舞台に立って聴衆に自分の歌を聞いて欲しいの?それとも、
ただの趣味だけなの?ちがうでしょう」
 もちろんソフィアの夢は舞台に立つことだった。冷やかしでオーディションを
受けたのでは決してない。スポットライトを受けて喝采されること、それを目指していた。
「舞台に立って喝采を浴びたい……むかし、わたしが受けた感動を多くの人にも
分けてあげたいです!」
 欺瞞や誇張などではなかった。
「だったら、戻って舞台に立ってわたしにあなたの歌を聞かせて。出来るわね」
「はい!」
 ソフィアはアンに即答していた。帰りかけたソフィアは踵を返して、しっかりとした
足取りで舞台へとあがる。そして、ソフィアは唄う。シンプルなラブソングを……
四月の波止場で不良たちに絡まれて、とある男性に助けられたことを想いながら。


「お名前はなんと言うんですか?わたしに教えていただけませんか」
冬の海・春の海 20

「いや、名乗るほどのことでもないから、いいよ」
「どうして教えてくれないんですか!」 「どうしてって、だから……」
「もう、いいです。ありがとうございます!」
 ソフィアの周りにそんな奥ゆかしい反応を示す男性はいなかった。今、思うと
あの時どうしてカリカリしていたのだろうと不思議だ。あまりにこわくて、急に
ほっとしたから。アルバイトで嫌なことがあったから。もういちど会って、助けて
くれた男性に謝りたい。感謝を込めてソフィアは唄い終えた。そしてソフィアに
とってはじめての観客の拍手の音が耳に聞こえてきた。
「まだ、あなたの名前を聞いていなかったわ。おしえて」
 舞台に立っていた少女は右の手のひらを胸にあて名乗りをあげる。
「わたしはソフィア。ソフィア・ロベリンゲです!」

『こないねぇ』
「こないねじゃないだろ、ピコ。バイトもすっぽかして、首になったらどう
するんだよ」 男は顔を手で掴んで、指の隙間からピコを覗く。
『とっても大切なことなんだから、とっても……』
「とっても大切だア!」 『う、うん……』
 男はフラワーガーデンのベンチに腰掛けて昨日の女性を待っていた。
急にピコが元気がなくなる。いつもの掛け合いの時の元気は見て取れなかった。
男はつい口調がきつくなってしまった事に詫びを入れるが、ピコはますます
しょんぼりとするばかりだった。
冬の海・春の海 21

  男はピコが彼自信の孤独ゆえの妄想が生み出した具現化したもので
あることを知らない。だかからこそピコは不安だった。男がもし自分の存在を望まなく
なってしまったら、自分はどうなってしまうのかと。いつまでこうして男の傍に
いられるのだろう。なんの保証もなかった。
(わたしが、いつまでもあんたをこうやって見ていられるか判らないんだよ。
そりゃ、これからだって嫌なことはいっぱいあるだろうけれど、心を閉ざしたり
しちゃダメなんだから)
 もっと人と触れ合って欲しい、男に強くなって欲しいとピコはそう願っていたが、
ネクセラリアを撃退したときの男の激昂ぶりに烈しく不安を掻き立てられる。
以前男に恋人が現れたとき、ピコは自分の消滅を真に願った。その時の想いは
今も変わる事がない確かなものだ。稚拙な行動のピコだったが、それなりに
母性にも目覚めていたし、その想いは切実で真摯なものだった。
『あっ!来たよ、あのひと!』
 男はピコの声に手で掴んでいた顔を上げた。なんなんだろう、この感覚は。
恋人を亡くし、自分のあやふやな気持ちでクレアさんまでも巻き込んでしまった
というのに恋のタッチが一陣の風のように駆け抜けていだが、男は自分の心を
強く否定していた。
 肩からダイブをするようにして前のめりになって躰を落として、ゆるやかな曲線
を描きながらアンの方へピコは飛んでいった。キューピッドの役割を演じる
というよりも自分の存在を認めてくれるひとがいることが単純に嬉しかったのかも
しれない。
冬の海・春の海 22

『薬局に会いにいったんだよ』 
「ごめんなさいね」
 アンは子供をあやすような笑顔で微笑んでいる。その笑顔に男は安らぎに
似た感情に包まれていた。否定しようとした感情を呼び起こされて、決まり悪そうな
男はアンの真直ぐな視線から逸らしてしまっていた。
もちろんアンはあけすけにそんなことをしたのではない。初対面といっていい
人間にそんなことをされてはたまったものではない。男にとってはアンの持つ
その視線が眩しかったのだ。アンは男の様子に気がついて表情が少しだけ曇る。
ピコもアンの表情の微妙な変化に気がついたのか、ふたりに気をきかせた。
『わたし、花でも見てくるね』
 ピコは二人にそう言うと、どこかへ飛んでいってまった。
「あいつ、キューピッドきどりなんですよ」 「こ、こんにちは」
 男はアンになんの挨拶もせずにともだちのように話していた自分にまた驚いて
いた。
「こんにちは」
 慌てて付け加えた挨拶が女にぶっきら棒にとられたのではないかと男は気にする。
(なにをやっているんだ、俺は。ピコ、やりすぎだぞ)  『どうしてよ。ほら』
 男は薬局で買ってきた包みをどけて、アンを促した。
「どうぞ」 「ありがとう」 男の誘いに女は素直に従ってベンチに腰掛ける。
冬の海・春の海 23

「まだ名前、いっていませんでしたよね。わたしはアン、ただのアン。記憶が
なくて思い出せないんです……」
 アンにしても、初対面といってもいい男に記憶がないことを喋っていたことが
不思議だった。なにかを期待しているのだろうか。名乗りをあげて華を
咲かせたいとでも思い始めているのだろうか。
 しかし男は聞いていなかった。名前、許婚・言い名づける……かつての
恋人の笑顔が掠めていて、顔を歪ませていた。
「どうかされましたか?なにか気分がすぐれないような」
「あっ、ああ……すいません」 『バカ、なに謝ってんのよ』
(むかしを思い出していたなんて、言えるわけないだろ) 『あっ、そっ』
 また、男の顔が歪んでいた。だが貌に出るほどのものではないのだが、恋人
の死、ヤング教官の死、そしてクレアの哀しみを見たばかりだというのに、この
浮かれぶりはどういうことなのか。
「あいつのこと、見えるんですか?」 「ピコちゃんのこと。ええ、はじめはびっくり
したけれど」 
 男はアンの言葉に苦笑していた。その変化にアンはすぐに「わたし、なにか
変なことをいいましたか」とすこし拗ねたように返してきた。
「いえ、ピコちゃんなんて珠じゃありませんから」 
『ばか!ばか!ばか!ばかああっ!』
 いまにも、顔の前に現れて、蹴り飛ばされそうな感じの罵声が頭の中で鳴り
響いていた。しかし、男は微かに笑っていた。アンも男につられて笑っていた。
珠……彼女のエクボは男の宝石となった。
頑張れ
冬の海・春の海 24 花

  アンの男に向けた笑顔に男は安らぎを見ていたからだろう。ヤングとクレアの
築き上げた家庭を見せられて、その温かさ居心地のよさに憧れていた。男が
恋人と生きる為に剣を置こうとした時に夢見ていたこと、それは温かい家。窓の
外から見るだけで男が持つことの無かったものだ。傭兵に身を置いて、それは
程遠いものとなっていた。かけがえの無いものを失ったことは堪え難かった。
だが死に切れなかった。さらにヤング夫妻に懇意にしてもらい、その結果が
クレアの哀しみだったことに男はアンに掛けるべき言葉を躊躇っていた。
(俺と付き合ってもらえませんか……)
「わたしとおともだちになっていただけませんか?」
「ダメです。俺にはできません」
 アンは男がいま一瞬なにを言ったのか訳がわからなかった。そして徐々にその
感覚は拡がっていった。ドルファンで生活して絶えず闘おうとしていたもの、夢の
なかで自分は少女であって花咲き乱れる野原で突然大きな黒い壁に阻まれる。
青かった空は一気に灰色に澱んでいくあの悪夢。アンのスタールビーの瞳は
みるみる煌きを失い潤んでいった。
「わ、わけを話してもらえませんか!」
「俺は傭兵なんです」
「だから、だからどうなんですか……。どうしてですか!」 
 アンの口からは信じられないくらいの大きな声が上がっていた。
冬の海・春の海 25

  男の貌を見ていつになく興奮ぎみに、いまにも喰って掛かりそうな勢いで
喋っていた。手放したくない温かさが手から砂のようにこぼれていく。男は
ベンチからおもむろに立ち上がった。
(ピコ、来るな!) 『どうしてぇ!うまくいってると思っていたのに!なんで
こんなことしちゃうの!あんまりだよう!アンが可哀相じゃないの!』 (黙れ、ピコ)
『う、嘘だよ……嘘だよね?嘘だといってよおおおッ!』
「いかないでください……、わたしはひとりぼっちなんです」
 アンの鼻を啜りながら喋る涙声が男を苦しめる。傭兵に日々戦に身を置いて、
命のやり取りをして久しく、今なら安らぎがどういうものか良く判っていた。家を
よりしろとして生きることによって日々の活力が湧く。そして、そこに女がいる
ということは、なにを意味するかという事を。字面の如く安らぎだ。
 だが、自分はこのドルファン王国を守るための傭兵に過ぎない。ただの消える
駒なのだ。一般の民間人の女性と恋を語らうことなど赦されようがない。もう剣を
置くきっかけすら逸しているほどに、人を殺めてもいる。
「俺は君みたいな女性にはふさわしくない男だよ」
「冬の海みたい」
 わたしのことが嫌いですかと、言おうとしていた言葉を呑む。アンは男に
すがりつくのを諦めてぽつりと呟いていた。そしてまた、頭が痛み始める。
ねえ、あんたの春の華を咲かせてごらん、メネシスのいってくれた言葉が
むなしくアンのなかに響き始めた。
冬の海・春の海 26

「冬の海……?」 「ええ、北海の凍てつくような黒い海」
「おれは、俺は人殺しなんだよ。俺の手は血で汚れている」
 拒絶の言葉とは裏腹に、むしろ烈しく惹かれ始めている自分がいた。このまま
だと遅かれ早かれきみを愛してしまう、男は思っていた。こうも恥ずかしい想いを
なんのてらいもなく冷静に分析できてしまう俺はどうかしていると。しかし、アンの
傍にいると和む自分がいることは否定しようもない事実であることも男は
気が付いていた。
「ひ、ひとごろし……」 アンは男の事実を突きつけられて絶句する。「俺は傭兵なんだよ」 
(どっぷりと首まで浸かっているんだよ) アンにはそう聞えていた。
 男のラフな服装からは兵士とは見て取れなかったが、アンはなによりも自身の
驚きに口に手をあてていた。病院の手伝いで看護らしきことはしたことがあったが、
重症者ではなかったし、完治した患者をレッドゲートでの行軍を見送ったことも
無かったからだ。城門の外の戦争に想いを馳せることすらなかった。日々の日常を
男のような者たちで守られているということに見て見ぬ振りをしてきたに等しい。こうして
フラワーガーデンで花を愛でていられるささやかな時間が……兵士たちの闘いによる
贈り物であるということさえ気づこうとはしなかった。
「ご、ごめんなさい」
「君が謝ることではないよ。俺は気にしてないから。ありがとう、愉しかったよ」
 男が軽く会釈をして去ろうとしたときだった。 「なにがでしょうか!」 アンもすっと
ベンチから立ち上がった。「前に進んでごらんよ。春の華を見てみたいだろ?
そう思ってごらんよ、アン。森をこんな風にしたあたしが言うのも妙だけれどさ。」
メネシスのやさしさがアンのなかでもういちど意味を持とうとしていた。
冬の海・春の海 27

「だから、きみと喋っていて愉しかった」
 男はそこまで言葉を発してしまってから後悔していた。はっきりと言葉にして
しまったのだ。アンが男の方へとゆっくりと近づいてきた。アンは男とキスする
くらいにまで接近して男の下げていた両手を取って握り締め、それを掲げた。
「わたしは無知でした。あなたがたがわたしたちの生活を守るために闘って
くれている手です。決して血で塗られたひとごろしの手だなんて」
 アンは握った男の手を交互に見てから男の瞳を真直ぐに見詰めてきた。
「ありがとう、それだけで十分だよ」
「どうして、どうしてなの?わたしはもっと、あなたのことを知りたいのよ!」
「ごめん、おれには恋人がいるんだ」 「えっ!」「だから、きみのことは考えられないよ」
 アンの掲げられていた手はだらっと下へ落ちて、握っていた男の手も離して
いた。
「ごめんなさい、我儘を言って……」 「すまない、期待に添えられなくて」
「もう、いいですから」 
天使の声が哀しみに染まっていった。アンは俯いたまま何も話さなくなった。
ピコが堪りかねて実体化してアンの顔へと近づいていった。
「ピコ、もういくぞ!」
『ねえ、泣かないでアン。本当は、ほんとうは……ごめんなさい!』
 ピコは男によかれと思ってやったことを後悔していた。ふたりが好き合っている
と錯覚したのだろうか。いや、錯覚などではないはずだ。ピコはクレアのことを
思い出していて、結局哀しみにくれているアンに男の恋人はとうに逝ってしまった
のだという事実を言えなかった。それは男が言うべきことだとピコは知った。
冬の海・春の海 28 

  フラワーガーデンの失意から二週間が過ぎようとしていた。アンは無為に日々を
送っていた。薬局の同僚も彼女のことを心配していた。
「アン、ねえ?アン」 「は、はい。なんでしょうか?」 
「なんでしょうかじゃないわよ。あなたが、しっかりしないと患者に迷惑がかかるのよ。
今日はもういいから、これをメネシスさんのところに届けてあげて。そしたらもう
そのまま帰ってもいいから。ちゃんと休むのよ」
「もうしわけありません」
 アンはそういってぺこりと頭をさげていた。
「わたしに謝っても仕方がないことよ。何があったかは知らないけれど、早く乗り越えて
もらわないとね」 「ほんとにもうしわけありません」
 アンは包みを受け取ると奥に入って白衣を脱ぐとストールを肩に掛けて薬局を出て
行った。アンは馬車を拾ってメネシスのラボのカミツレ地区まで行こうかと考えたが、
せっかくだからとフラワーガーデンを通って行こうと決めた。あえて失意の場となった
そこを通ることは訣別を意味していた。あれからというもの、花さえも眺めに行って
いなかった。訣別、そんなのはイヤだと思っていてもどうしょうもないとだから、迷いを
いつまでも引き摺っていても仕方が無い。

「ねえ、ソフィア。わたしはあなたの家庭の事情は知らないけれど、だれも只でなんか
教えてくれないわよ。いわんとしている意味、わかるわよね」
「はい……」
「だけど、わたしは特別に人に教える技術は持っていないけど、もしよかったら私から
なにかを盗んでみるというのはどうかしら?」
「ほ、ほんとうによろしいんですか!」
 あの時ソフィアは手を合わせて嬉しそうに微笑んでいた。
冬の海・春の海 29

「勘違いをしないでね。わたしはプロフェッショナルではないのよ。いつかは
ちゃんとした人に教わりなさい。その分、リスクだって背負い込むことに
なるのよ」
 そんなことをソフィアに言っておきながら、気持ちが混乱していて彼女の前で
唄を披露するどころではなかった。このままではソフィアにだって迷惑を掛けて
しまう。アンは包みをしっかりと抱きしめると足早に歩き始める。花を眺める
はずだったフラワーガーデンを通り過ぎようとしていたとき、背中から彼女を
呼び止める声がした。 「アン!アンってば!待ちなさい!アン!」
 彼女がその声に気が付いて、後ろを振り向くと、黒いケープの裾を引き摺って
追いかけてくるメネシスの姿を見つける。
「メネシスさん、ごめんなさい……」 「はあ、はあ……。どう、元気してたって
感じじゃないね。まあ、そこのベンチにでも座ろうよ」 「は、はい」
 アンはここ二週間前に起ったこと、そして自分の気持ちの変化を包み隠さずに
ネメシスに話していた。
「ふ〜ん。それは、残念だったね。それで、傷ついたかい?こわく感じているの
かい?」 アンはメネシスの問い掛けに暫らく考えていた。爽やかな春の風が
ふたりの女の頬をやさしく撫でていった。
「わたしは諦めたくありません。こ、これが最後のような気がするから……」
 どうしてそう思ったのか、アン自身もよく分かっていなかった。
「それは穏やかじゃないねえ。でも、自分に正直なのはいいことだよ」
 メネシスは昔の男との苦い思い出を浮かべていた。だからといって、
その過ちを犯さないようにアンを導くことは無理だろう。ただ、そっと背中を
押してやることしかできない。選択するのは自分自身だから。
アンの沈黙に「心の恋人かあ……」とメネシスはぽつりと呟いた。
凄いな・・・
書き終わったら回してから最後に>>でくくって上げといてね。

頑張ってねー
冬の海・春の海 30

「心の恋人……」 アンはメネシスの放った言葉を知らずのうちに反芻していた。
「そうなんだろ?アン」 
「わ、わたしは……」 アンの頭が微かに痛み出し始める。「あんたのその瞳を
みてりゃ判るさ。真直ぐな綺麗な瞳をしているよ。それ依然に潤んじゃっている
けれどね」 アンの白い貌は桜色になって俯いてフラワーガーデンの石畳に
視線を落とす。「いいなあ……。うん!実にいいっ!わたしも恋したいなあ!」
メネシスは、立ち上がってううんっ!と万歳をしていっぱいの伸びをした。彼女の
おどけた言葉に軽く握った拳をローズピンクの唇にあてクスッとアンは笑っていたが、
メネシスの言葉の裏にはどこかしら淋しさがあることにも気が付いていた。
「男の人もそうかもしれないよ」 アンは笑うのをやめてメネシスの方を見る。
「遠くにいるんだよ、きっと」 「傭兵といってましたから、きっと故郷に……」
 アンの貌が少しだけ曇ってしまう。そんな自分がイヤでもあり、苛立ちも隠せず
変ってしまうことがこわくて、途中で言葉を呑み込んでしまう。「やっぱり、こわいかい?」
 メネシスはくるっとアンの方を見て前屈みになると、大きな丸眼鏡を
掛けた顔をにゅっとアンに近づけて彼女の淡い薔薇の唇にチュッと口吻した。
「あっ……」 そしてアンの細い両肩をポンと力強く両手を置く。
「恋してるんだもん。こわがって、こわがって綺麗になりなよ。でも自分を偽っちゃ
いけないよ。そんな自分を嫌いなることもないんだ。わかるよね」 
「でも……」 アンはメネシスの励ましは嬉しかったが、もういちど勇気をもって
告白しようという気にはなれなかった。メネシスには諦めたくはないと言って
しまったけれど。「きっとチャンスはまだあるさ。元気だして、アン」 「は、はい」
冬の海・春の海 31

「そう、その笑顔がいちばん。あんたのファンだから食べたくなっちゃうよ」
「もう、メネシスさんたら」 先ほどメネシスに唇を奪われたことを思い出して
貌の彩りが桜から薔薇に変り始める。それを見たメネシスは桃色の舌を
チロッとだしてアンの小鼻をぺろっと舐めた。
「あっ……!」 メネシスのやさしい愛撫にアンの躰はジュンと反応していた。
「アン、ずっと遠くにいるんだったら、そいつから奪っちゃえ!」
 メネシスが急に大声を出したものだから、周りの観覧していた人たちは
何事かとベンチのふたりに視線を集中させていた。羞ずかしいことなのに、
可笑しくて可笑しくて、人目をはばからずに腹の底から声を出してアンと
メネシスは笑っていた。観覧者たちはふたりを見なかった事にして花に
視線を戻していった。
「じゃあ、元気だしなよ」 メネシスはアンにそういうと、背を向けてすたすたと
去っていったが、暫らくすると立ち止まってまたアンの座っているところに
戻って来てアンの握り締めていた白い包みを見詰める。
「これ、届けようとしていたんだろ?」 「はい、そうでした」
 メネシスは包みを小脇に抱えふふふっと笑いながら黒いケープを引き摺りながら
フラワーガーデンを後にした。さすがに、フードまでは春の暖かさに頭へ被っては
いなかったが、やはりどう見てもカミツレの森の魔女だった。観覧者が
あまりにも痛い視線を向けるものだからビッグベアよろしくガオッ!とひと吼えし
「うりゃ、魔女の鉄槌を喰らわしたるよ!」とからかいながら。しかし、彼女が
どれだけドルファンにとって大切な人物であり貢献していたかは極限られた
人しか知らない。人嫌いでへんこ、偏屈とも思われていたが、頓着していなかった。
アンはそのやさしさに触れた数少ない人だった。
冬の海・春の海 32

  心の恋人、メネシスが呟いた言葉だった。その言葉を考える度にアンの頭は
痛み出す。遠い自分の記憶に何かあるのだろうかとアンは胸騒ぎを覚えて、
笑みは掻き消え真顔となっていた。ソフィアは十年以上も前に自分と瓜二つの
女性を見たといっていた。
「ドルファン国立図書館に行ってみようかな……」
 アンもベンチから立ち上がった。そして、もうひとつのことに気が付いた。男の
瞳、メネシスの言葉の裏に見えた翳りが、自分のなかの何かを呼び起こそうと
していることに。「でも、野外円形劇場にソフィアが来ているかもしれない……」
アンは記憶の小箱をこじ開けてしまうと、しゃぼん玉のように弾けて消えて
しまうような不安に再度囚われたことで、無意識にソフィアとの約束の再開を
持ち出すことで封印しかかろうとする。前に進んでみよう。やっぱり、自分を見極めて
みよう。ソフィアには悪いけれど、今日は……アンは腹を括った。

 いつぞやのアンをメネシスが励ましていたのをたまたまフラワーガーデンに来ていた
ソフィアが見ていたのだった。そのことからソフィアはアンのことが心配になって
カミツレの森へと足を運び入れ、メネシスのラボへと訪れた。ラボに近づくにつれ
生い茂っていた緑の木々は葉を茶色に染め枯れかかっているものがほとんどに
なっていった。ひとりで魔女の森に入るのは恐ろしかったがライズに頼んで一緒に
いってもらうというのは論外だ。ごく私的な相談をするために赴いたのだから。
ソフィアは扉の前に立つと、ノックを数回繰り返した。するとすぐに開いて小柄な黒い
ケープを纏った大きな眼鏡を掛けた女性が現れる。
「なんだ、アンじゃないのか……。帰っとくれ」
 そう言って、扉をメネシスは閉めに掛かったので慌ててソフィアは手を挟んで
それを止める。「ま、まってください!わたしはアンさんのことでここに来ました!」
冬の海・春の海 33 霧

「アンのことで?」 「はい」 「あんたが、ソフィアだね」 「はい、そうです」
「入りなよ。ちょっと臭いがするけれど我慢しておくれ」
 そういうとソフィアを招きいれて、椅子に掛けさせた。メネシスも腰掛けテーブルに
手を乗せると組んでソフィアの話を待っていた。ソフィアはメネシスに史跡の
円形劇場であったことを全て話していた。アンに直接聞いてみることは躊躇われ
それでいて彼女の様子を見るにつけ不安だけがどんどんと水に落ちた赫い塗料
のように拡がることに堪えられなかった。
「ふうん。十年も前にアンと同じ女性を見たのか……」
「馬鹿げているでしょうか」 「心配しなさんな。妖女(あやかし)なんかじゃ
ないからさ」 「わたし、そんなことじゃなくて」 「ちょっと、待っててあげなよ。
友だちなら出来るよね、ソフィア」 「はい……」 「アンが立ち直るまで待っていて
あげて」 なんとかソフィアを励まして送り出す際に「歌の練習がんばりな」と付け
加えると屈託の無い少女らしい笑みを浮かべてかるく会釈をして帰っていった。
「気が進まないけど、少し調べてみるか……」
 カミツレの森でアンを拾って面倒診た分、気に掛けていた。
「ともだちか。ふふっ、らしくない、らしくない」
 首を振ってコキコキッと数回鳴らして、またメネシスは中断されてしまった実験へと
戻っていった。
そして、月日はさらに流れた。一時は、かなり落ち込んでいたが周囲には
気取れないように気丈を装ってアンは乗り越えていった。ただ、アンの様子に
メネシスはかなり心配していたが、もはやどうこう言える時は過ぎていた。
確実に時計の針は回り始めていたのだから。
長くなってもいいから「 」で段落かえたらどうかな?
行の間違いだった
冬の海・春の海 34

  男とアンはその後街中で何度かすれ違ってはいた。しかしふたりは挨拶すら
することなく通り過ぎていった。ピコも小さな胸を痛めていたが、このことに
関しては男に何も言わないでいた。もちろんアンのところへ行って仲を取り持つ
ような真似事も。それと呼応するかのように、男はさらに寡黙になってはいたが
傭兵仲間からは信頼されていて、命を預けられる男として認められていた。
戦役に於ける活躍にも目覚しいものがあった。その勲功から一傭兵から小隊
を任されるまでになる。

「おい、隊長が来ているじゃねえか、誘おうぜ」 「よ、よせって」 「なんでだよ!」
「おめえだって、ひとりになりたいときぐらいあるだろ」 
「あの隊長、暗れえんだよ」 「いいかげんにしろ!だったら、てめえも家庭を
持ってみろってんだ!」 「なにぃ!」 「なにじゃねえ!ホームベースあってこそ
戦ってられるし生きていられるんだ!てめえみたいな新参者はおっ死んでしまうぞ!」
「うるさいなあ……」 「あなたの噂をしているみたいですよ」 
「それはすまなかった……」 
 ドルファン港の目と鼻の先に兵舎はあって、そこからちょっと歩いたところに
酒場があって兵士たちの溜まり場となっている。さしずめ、この酒場が兵士たちの
家となっていた。 「どうぞ。ダナンの勲功、おめでとうございます」
 マスターが奢りですとグラスに酒を注いで差し出す。
352 読んでくれてありがとうございます。

 最初はそうしていたけど、骨みたいに見えて格好があまりにも
悪かったので、このスタイルにしました。
やはり、読みにくいでしょうか。 此処というところでは、という風に
使い分けしたいと考えてます。
冬の海・春の海 35

「まだ、ドルファンが勝ったわけではない」 「失礼しました」 「すまない、素直に
歓べなくてな」 「いえ、滅相もありません」
 ぐいっと一気に酒を呷ると、男はカウンターから躰を捻って立ち上がるとカジノの
グリーンのテーブルへと近づいていった。
「どうぞ。いくらお賭けに……」 ディーラーはクレアだった。席に着いた男が夫
ヤングが気に掛けていたこともあってか、凛としていたはずのクレアに微かな
動揺が走っていた。彼の様子、チップを持っていないこともそのことに拍車を
掛ける。 
「あの、お客様。チップは……」「クレアさん。俺を占って欲しい」 「えっ……!」 
「大の男が占いなんて可笑しいだろ」 
  自虐的な匂い、夫が死んで間もない頃の自分と同じ危険な香り。クレアは
右手を顎にもっていって人差し指を曲げてそこにあてると暫らく考えていた。
「お客様、構いませんよ」 「それじゃあ、おねがいします」
「それでは、ソロモンの指輪で占わせていただきます」
 クレアはグリーンフィールドにサーッとカードを拡げジョーカーと各マークの
2から5までのカードを抜き取り、拡げたカードを鮮やかな手つきで元に戻して
切り始める。そしてフィールド上に14枚の円が描かれ、それを囲って22枚の
円がカードを裏側にして完成した。クレアはエメラルドの瞳を閉じると左手を
差し出して一枚のカードを指し表にする。ダイヤの10……。
(今の恋人とはうまくいかないでしょう……)
「申し訳ありません、間違ってしまいましたのでやり直します」
 クレアはカードを元に戻すと、さらによく切って同じようにして一枚のカードを
表にした。(ハートのエース……だ) 恋人は現れますが、友達を失います。
冬の海・春の海 36

「クレアさん?クレアさん!」 「えっ!何かしら?」 「何かしらじゃないでしょう」
「そう、そうだったわね」 「なにか、よくない結果でも出たのですか……」
「ちょっとね。どうしますか?」 「頼んだのは俺だからお願いします」
「わかりました」 
クレアは一呼吸置いてカードの結果を男に告げた。
「あなたの前に恋人が現れますが、ともだちを失うことでしょう」
「ともだち……?」 「なにか、心当たりでもあるのかしら?ご、ごめんなさい」
「ひょっとして、俺のこと心配してくれているんですか!」
「ば、ばか。オトナをからかうもんじゃないわ」 クレアの耳が赧に染まっていた。
「クレアさん可愛い」 「もう、知りません!」 クレアは拗ねて貌を朱に染め上げて
いた。クレアにしたら、むしろ好都合なことだった。それでくだらない占いの
結果を忘れてくれるのなら安いものだと。
『ねえ、ねえ。恋人ってアンのことかなあ……?』 (で、お前が俺のともだちって
言いたいのか?) 『ちがうよ!わたしはあんたの保護者なんだから!』 
「言うにことかいて」 「えっ?」 男が口に出してしまったことで、クレアが驚いていた。
『わたしはあんたの保護者なの!ともだちじゃないの!』
「ふっ、ハッ、ハハハハ!」 『なによッ!もう!』 「あ、あまり気にしないで。
たかが占いなんだから……」 「い、いえ、そういうんじゃなくて、ハハハ!」
「よう、隊長!愉快そうですね!たまには俺たちとも飲みましょうや!」
「よし、俺の驕りだ!」 「おい!おめえら!今夜は隊長の驕りだとよ!」
「ヒャッホー!」 兵士たちの歓声で酒場が揺れる。 『ばか!』
(いいんだ、ピコ。今日知った顔が明日いるとは限らないからな。ありがとう)
冬の海・春の海 37

「おい、雨だぜ」 「チッ!うんざりだ」 「今さら気にしてもしゃねえ!お頭、飲むぞうッ!」
「ようし、もっと飲みやがれ!」 また、どっと歓声が響きわたっていたが
雨脚は早くなり屋根を叩く音が聞こえ始めていた。
 男は時間を忘れて部下たちと前後不覚になるまで酒を浴びていた。
『もう、よしなったら!ねえ、ねえってば!』 「いっ、いいんだって……」 
「頭、なにぶつぶつ言ってるんすか!」 『ばか、もう知らないから!』
 遠くの方で愉しんで飲んでいるのではなく、酒に呑まれている男を心配そうに
眺めていた。

 カミツレの森の奥、メネシスのラボでも雨音は烈しくなっていた。
「ふうっ、流石に酷いな。仕事になんないなあ」 ラボの周囲は薬品の出す排気
の所為で大概の緑がやられてしまっていた。 「森が泣いているか……」
 メネシスは仕事に区切りをつけて雨が叩く窓の外を覗いた。外には驚いたことに
人影が雨に濡れるがままに立ってそこにいた。「くそうっ!」 メネシスはケープ
のまま駆け足で飛び出して、その人影に近寄ろうとしたが土は既にぬかるんでいて
態勢を崩して転んでしまう。それでもメネシスは這い上がってアンへと近づいて
いった。アンは何事が起ったのかと顔を上げると、ラボの扉が開かれていて
入ろうとしても入ることの出来なかった温かな明りが見えて気を失って倒れてしまう。
メネシスは倒れ掛かったアンの冷えた躰を寸でのところで抱きとめ、
ラボへと連れ帰った。
 メネシスはアンのずぶ濡れになった衣服を引き剥がすように脱がして、寝室から
シーツを掻き集め、エタノールを少量だけ暖炉に掛けてマッチを擦って放り投げる。
「解熱剤と酒と水と……」 ぶつぶつ言いながら、部屋を素早く駆け巡りながら
メネシスはケープを床に落とし、赫い紐状のフリンジの付いたベルトを解いて
ゆったりとした黒いワンピースをも床へ落として、下着をも脱ぎ捨てた。
>352
濃いエロ書けるほど文才がある訳ではありませんが
ここで、そういうの書いてもよろしいんでしょうか?
やはり、ぼかすのがベストなのか教えてください。
>396
7行目・訂正  酒に呑まれている男をクレアは心配そうに眺めていた。
>>397
SSなのだし自分の書きたいものを書けばいいと思うよ。
極エロなら最初か最後に注意を書いておけばいいのだし。
>>398
今日も乙
自分も楽しみにしてる。

最悪エロパロの某スレにうp(省略されました。どこをクリックしても表示されません。
冬の海・春の海 38

  化粧気など頓となく女にこだわりをもっていることをやめたメネシスだったが、
(髪を後ろに留めていたリボンに至っても便宜上のものであって、まあ色には
こだわっていたが)その程度のものでしかなかった。小柄で華奢な少女のように
見える外見に反して意外と大きなツンと上を向く乳房にプリンヒップな躰つき、その
褐色の素肌はきめ細かくしっとりとしていた。
 メネシスは暖炉の傍でシーツを掛けて寝かせているアンの躰の傍に腰を
下ろして抱き込むようにして手早く雨に濡れた躰を擦りながら拭いていった。
アンの躰の水をたっぷりとすったシーツを剥いで新しいシーツに替え、という
手順で三枚のシーツを使った。夢中で、それでいて冷静にアンの処置を施す
メネシスだったが、その瞳には哀しみが宿りアンを拭いていたシーツに雫を
こぼしていた。そして、もうひとつ。メネシスの呼吸は微かではあったが、別の
意味で乱れていて、褐色の乳房を喘がせていたことに気づかないでいる。
 濡れた長い髪も丁寧に拭いてやると四枚目のシーツでアンの躰を包んで
抱き起こすと、アンの貌は糸が切れたマリオネットのようにしな垂れメネシスは
腕で背中を抱えて手で頭を支えてやらねばならなかった。
「アン!アン!起きなさい!起きてちょうだい!」 右手でアンの頬をメネシスは叩く。 
「う、ううん……」 すかさずアンの顎を掴んで口を開けさせ床に置いた
ウイスキーを含み口移しにアンへと与えてやった。口腔に拡がる液体にアンは
無意識に咽喉をこくんと鳴らして嚥下する。 「げほっ、けほっ!けほっ!」
 アンの口腔に残っていた琥珀色の液体がシーツに滲みをつくる。
「よかった。よかったよ。こんなことなら、あんたを……」 「誰ですか……?」
 メネシスは一瞬蒼ざめたが、床に置いていた眼鏡を取って掛けてアンに
見せる。アンのスタールビーの瞳にメネシスの姿が映る。
冬の海・春の海 39

「メネシス……さん……」 「そっ、メネシスさんだよ」 
  メネシスはアンににっこりと微笑む。髪はぐっしょりと濡れてベタッとしていて
あの大きな眼鏡には泥が付着して曇っていて、右側のレンズは割れていて
フレームも歪に曲がっていた。アンの瞳に映った彼女はいつもの自分に
やさしいだけのメネシスではなく母のような温もりをも感じる。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……。うっ、ううっ……」
「アン、泣きたかったら思いっきり泣きな。淋しかったら我慢すること無いよ。
わたしがついていてあげるから、慰めてあげるから」
 メネシスはシーツに包まれたアンの躰をぎゅっと抱きしめて、やさしく囁く。
「ううっ、うあぁあああああああああッ!」
 アンの号泣がメネシスの心に突き刺さる。前に進んでごらんよと彼女を送り
出したのに、こんなことになるなんて。
(止まない雨は無いなんていうけれど、こんな雨は大キライだ!)
 好きだった雨を恨めしそうに窓へと視線を向け、いまだ雨脚は強く烈しく窓を
叩く。(なんにも変らないなんて!アンの哀しみを流せないなんて!神様、
酷すぎます!) 恋を諦めた時でさえ神のことなんぞ、考えもしなかったのに
今その神を信じて呪い、アンの白いシーツに包まれた躰を抱いた小柄の褐色の
裸のメネシスは慟哭に躰をゆっくりと揺らす。

『ねえ、起きてってば!起きなさいよ!早く、起きてよ!』 「五月蝿いな、ピコ。
もっと寝かせて……」 ピコは男の頬をぺたぺたと弄っていた。本人にすれば
必死になって叩いているつもりなんだろうが……手首と足首におかしな感覚が
あった。薄目を開けると右手首がスカーフで縛られていた。慌てて左を見ると
おなじく赫いスカーフがある。顔を起こして男は脚の方も見る。
『ねえ、どうしよう!どうしよう!』
冬の海・春の海 40

  男の四肢はベッドに赫いスカーフでエックスの字に括られていた。敵が酒場に
いたのかと考えたが、それにしては縛りが弱い。
『ち、ちがうよ……クレアさんがしたんだよ……』
 男はピコの言葉にぎょっとした。そう、右手首を見たとき椅子に座っている黒い
人影らしきものが……いたような。部屋は薄暗くよく見えない。椅子に座っていた
人影はテーブルの方へ近づいてランプに火を点した。温かい明りにその人影は
包まれてぼうっと琥珀色に浮かび上がらせる。
「ク、クレアさん……!どうして、こんなことを!」
 いくら弱いといっても四肢が拘束されているため簡単には千切れない。
いや、出来るかもしれない、出来るかも……だが、イリハ会戦のクレアの夫
ヤングの戦死が男の枷となる。 (真意を見極めてからでも遅くない!)
『なに、格好つけてんのよ!クレアさんが、あんたを殺しに掛かったらどうすんの!』 
男に恋人が喪失して怒りに身を委ねて剣を振るった記憶が蘇ってくる。
(いいよ、それでクレアさんの気が済むのなら……酒場で戦の様子でも話して
いるのを聞いたのだろうか。俺の口から話しておきたかった)
『アン!アンのことはどうするの!きっと、いまでも待ってるよう!』
(彼女とは最初からなんでもないんだよ、ピコ……)
 ピコは男の顔の前に飛んでいって叫んだ。
『うそ……、ぜったいに嘘!わたしはあんたの気持ちがわかるんだよ!
あんた、わたしにぜったいに嘘ついてるッ!嘘ついているんだから!』
 涙をいっぱいに溜めて胸に左手を当て、右腕を宙に投げるようにして
いっぱいに伸ばして激昂するピコ。そんなピコを見るのは三度目だった。
絶望にくれていた子供時代、恋人を亡くした時、そしていまクレアさんのベッドに
全裸に縛られている男を叱責する。
冬の海・春の海 41

  クレアの躰をランタンの琥珀が照らし、どうして黒っぽかったのかが初めて
わかった。彼女はマントに躰を包んでさっきまでじっと椅子に座って男を見ていた
のだ。クレアが躰を捻ってゆっくりと男の四肢を拘束したベッドへと近づいてくる。
男には見えていた。クレアが躰を捻った時、白く豊満な乳房が揺れるのを。
歩いてくるそのむっちりとした太腿から流れるような美脚のラインが動いて女の
叢が一瞬はっきりと見えてから光りをマントが遮って黒々と見えるようになった
眺めを生唾を咽喉をごくんと鳴らして呑み込んで。男は右側に顔を捻じって
クレア・マジョラムをじっと見ていた。
「やっと気がついたようね」 「クレアさん、いったいこれは……」
「どういうことって聞きたいの?」 「あ、あたりまえでしょう」
「声が顫えているわ。わたしが怖い?」 「なにを考えているんですか?」
「だめよ。こういうときは犯人とおともだちになるようなことを話して、場を
和ますもの。根掘り葉掘り聞くものではなくってよ」
 また、男は生唾を呑み込んだ。クレアはマントを纏ったまま男の裸身に跨って
クレアの濡れる叢に触れた屹立に彼女の細い指を絡めて軽く扱きたてた。
「や、やめてください。クレアさん!」 
 クレアは動きを止めて、男の両脇に手を付いて貌を見下ろして、男の頬を右手で
やさしくひと撫でする首を絞めるようなしぐさでそこを通って男の胸をもの狂しく撫で回す。
クレアの艶やかな長い髪がカーテンのように男に注がれている。ふたりを隠すかのように。
「いいの?あそこは元気みたいだけれど。こわくなんかないみたい」
「いいかげんに……!」 男の顔に雨がぽたぽたっと落ちてきた。
「復讐ということにしておいて」 男はなにも言えずに凍りついて下唇を噛む。
『リョウ、どうしよう!どうしよう!』 ピコの声が男の頭の中でまた響く。
冬の海・春の海 42

「わたしの今纏っているこのマントをあなたにあげるわ。だから今夜だけ
男と女になって」 「クレアさん……」
 クレアにとってヤングのことに加え、ネクセラリリアのことは突然の衝撃だった。
目の前に黒く大きな壁が立ちはだかって押し潰されそうな想いで偲び泣く夜を
越えてきた。マジョラムの華は爛れ愛液が内腿を濡らしていた。クレアは膝立ちに
なって、男の肉茎に手を添えると彼女の濡れそぼる秘孔に赫く艶やかな亀頭
をそっと宛がって腰を落とす。
 男の目には黒いマントを纏うクレアと、いまヴァギナにグランスを俯いて埋め
込んだクレアは別人に思えていた。白い裸身がランタンの明りでぼうっと浮ぶ
ようだ。揺れるマントの裏地の鮮烈な血のような赫がクレアの白く透き通る素肌
を男に妖しく魅せる。
「疵の舐め合いでもいいの。それで癒されるなら羞ずかしくなんかない。わたしも
あなたの疵を獣になって舐めてあげるから」
「俺もクレアさんの疵を舐めてあげます」
「ありがとう、リョウ!」
 クレアの秘孔をいっぱいに押し拡げてリョウのペニスは根元まで埋まる。
「んああっ!」と悦びの声をあげると、貌をゆっくりと徐々に烈しく天上に向けて
仰け反って、長い艶やかな髪をふわっと舞わせていた。幻想的な光景が男の
心をしっかりと捉えていた。
「あ、愛とか恋じゃなくて……かりそめでいいから……それでいいの」
 クレアの仰け反った唇から切ない言葉が落ちてきた。やさしさの夜のなかに
与え合って奪い合う、男と女のかりそめのひと夜の爛れた華が開いてゆく。
冬の海・春の海 43

 カミツレの森でも愛にはぐれた者たちが慰め合おうとしていた。メネシスは
壊れた大きな眼鏡を外して床にそっと置く。アンの躰をそっと下ろしてシーツをやさしく
とった。傍ではパチパチと燃える暖炉の火がアンの素肌を桜色に見せている。
しかし活力をアンは取り戻したわけではなかった。「ごめんよ」 「いや……」 
アンは乳房を両腕で隠すようにして小さくメネシスへと呟く。
「わたしが嫌いかい?ごめんよ、アン」 霞むアンの白い躰に跨ってメネシスは
覆いかぶさるように褐色の素肌を重ねていった。「あっ」 「ごめんよ、アン」
 メネシスは跳ね除けたシーツを掴んでふたりの重なり合った躰を覆う。
白と黒の乳房が押し合い、叢も女のいのちも蕩けあうような感触にふたりは熱い
息を吐いていた。「あやまらないでください。わるいのはわたしですから」
「眼鏡なんか壊れたっていいさ。アン、あんたには替わりはないんだよ。もう、
無茶しなさんな」 アンの細い腕が薄っすらと肋骨を浮かべている脾腹を通って
背中へと廻される。メネシスはアンを感じて左頬を彼女の右頬に擦り付けて
囁いた。「あんたは悪くなんかないよ!あんたが悪いってんなら天上に唾を
吐き掛けてやるさ!だから、好きなように生きてみな」 「ふっ、ふふふ」
 メネシスはアンの赫い瞳を不思議そうに覗き込んだ。「だって、それじゃあ
自分に掛かっちゃいますよ。メネシスさん」 「ベタだったかい」
「可笑しかったですよ、メネシスさん。わたしは古い女ですから」
 メネシスも笑いながらアンの額と頬に絡みついている髪を取ってやる。
「ねえ、そろそろメネシスさんはやめてくれないかな。こそばゆいよ」
「はい、メネシス」 メネシスはやっと血色を取り戻したアンの唇に口吻をして
いった。ただ残念なことに眼鏡を取ったことで潤んでいる赫く綺麗な瞳は見ることが
出来なかったがキッスは塩辛い味がしていた。彼女の涙も混じっていて。
冬の海・春の海 44

「ま、まだ終わりじゃないわよ……リョウ」
 クレアは男の躰にその豊満な乳房を押し付けて荒い息を付いていた。 男は
クレアの膣内に、いままでの思いの丈を解き放っていた。
『こんなことをしても……変りっこしないじゃない!』
 ピコはそういって泣いていた。
(いいんだ。いいんだ、これで。どうしようもないことだってある)
『朝になればわかるの……?』 
(どうだろう。変っているかもしれない。もっと疵ついているのかも……ピコ、
もうわかんないよ……)
 クレアの押し付ける乳房としこった乳首に蕩けるような膣内の感触に男は耽溺
している。 『ずるい。そんなのずるいよう』 (ずるいな。俺はずるいよ)
「はあ、はあ、はあ、す、すぐにスカーフを解いてあげるわ……!」
 男の手首に絡みついている赫いスカーフをクレアは細い腕を伸ばして
解いていった。男は右手が解放されるや「クレア」と吐いて手で盆窪(ぼんのくぼ)を
撫で擦り、腕を廻して掻き抱く。
「ああ……。ひ、左手も脚だって残っているわ」
「はやくして、はやくクレアさんを抱きしめたい」 「まって、まってて!」
 クレアは首をリョウに抱かれたまま必死に腕を伸ばして左手首の赫の拘束を
解いた。男の手はすぐにクレアの指に絡みついてきた。クレアはその指を
必死になって拒んでいた。 「だ、ダメ。脚がのこってる!」 
 滑稽なはずだのに、ふたりの切羽詰った想いがこの夜を狂おしく彩る。ひと夜
に咲くあの華のように、いまは狂い咲く。
頃合をみて一度回して上げたら?
間隔をあけて投下していても、
回すのは必要でしょうか?
その効果というのは、
他のスレが落ちるのを防ぐ為のもの?
初めて回すという言葉を聞いて、
少々戸惑っています。
あと、上げるのもなんらかの付随した効果があるんでしょうか。
教えてください。
よろしくお願いします。
冬の海・春の海 みつめてナイト(アン編のつもり)

プロローグ・北海  >>352-354

孤独         >>355-361 >>363-365

記憶         >>366-369 >>372-377

花           >>379-384 >>386-388

霧           >>389 >>392 >>394-396 >>401-407 続く


 あっちの方に載せるものとして書き始めた物で、長い、引っ張る、
薄いで・・・それに本家も戻られたのでここへと流れて来ました。
ということで、気が向いたら読んでやって下さいのコソ−リupにて。

 それと、寒い頃に投下して、そろそろ春になったんだなあって頃に
終わっているのが理想だったのですが、大きく思惑ズレちゃってます。
さくらの満開過ぎちゃいましたし。



冬の海・春の海 45

 クレアはゆっくりと上体を起こし始めて、躰を後ろへと向ける。男も上体を
起こして後座位となって左腕をクレアの胴に廻して引き止める。そして、ヤング
のマントを留めていた紐を解いて脱がすのだった。
「あっ」 クレアは小さく呻いた。違う場所を刺激してのことなのか、それとも
ヤングのマントを脱ぎ捨てられてのことなのか、クレアにさえも判らない。
 女ともだちどうしで卑猥な話しをしていたときのこと、アナルエントリーとか
バックで膣に突き挿れられるのが犯されているみたいで好きだと、他愛も
ないことで盛り上がったことがあった。逞しいペニスで強姦されるような被虐心が
満足するのということらしいが、クレアは違っていた。無防備な背中を預けて
愛される。それは夫への服従、信頼の証だった。しかし、いまはその夫はもう
いない。戦争の生んだ悲劇がすべてを奪っていった。クレアはリョウの熱い吐息を
背中に感じながらベッドに両手を付いてシーツをきつく握り締めてか彼を拘束している
赫いスカーフへと這ってゆく。
(ねえ、どうして夫の葬儀に来てくれなかったの?あなたを覆うものは何かしら?
わたしが慰めてあげられるのならいいけれど)
 リョウの太腿にクレアの豊満な乳房が載って、長い髪が脚を刷くことで快感が
増していて、膣内でペニスは烈しく跳ねて彼女を掻き回す。
「解いたわよ、リョウ……わたしを慰めて……!」
 リョウはクレアの汗に濡れる背中へと覆い被さっていった。待っていた抽送に
クレアの総身が快美に顫え、性器が交じり合う調べが流れる。
「いいっ、んああっ!」 律動に揺れる乳房をリョウの大きな右の手で掴まれて、
火のような吐息をうなじに感じてクレアは悶える。長い髪がクレアの羞恥に
染まる容貌を覆うことで、より積極的に臀部を掲げて脚を拡げていった。
お疲れ様
回すのは上げた時、他のスレの迷惑にならないため(だっけ?。
上げが必要なのは落ちそうだから・・・
あと、折角のSSが人目につく前に消えるのは悲惨だから・・かな。
確認します。
sage 進行だったら回さなくともよい。
上げた時だけ回すということでいいのですね。

ありがとうございます。
冬の海・春の海 46

「どう、温まったかしら?」 「んあっ、あぁああんっ!」
 暖炉の煌々と燃える火をかがりとして、シーツに包まって白い透き通る肌と
褐色の肌は求め慰め合っていた。メネシスの指がアンの濡れる秘裂をそっと
撫で、仰け反った白い首筋に唇が吸い付くように這いながら、アンの鎖骨へと
降りてゆく。 「はあぁあ……ああっ、つ、つよく吸わないでぇ……メネシス」
 メネシスは吸い付いていた唇を離すと、そこに褐色の朱を刷いて火照っている
頬を擦り付ける。
「ごめん、アン。キスマークがついちゃうね。しかも、女のだもの」
「そ、そんなことをいわないで……メネシスさん」
「メネシスでいいから、そう呼んでいて」
 メネシスの手がアンの乳房をやさしく揉み始める。
「わたし、あんたにキスマークをつけてやりたいの。永遠に消えない印を」
 アンの胸をメネシスの涙が濡らして、アンの背中に廻されていた両腕は、
メネシスの脇から手を廻して細い肩を抱きしめる。
「つけて!わたしに消えない印を!おねがい、メネシス!」
 アンの躰はメネシスの指を秘孔に感じて、ぐんっと綺麗な女のブリッジを描いて
いた。アンの両脚はメネシスの指、彼女自身を迎え入れるためにゆっくりと
拡げられていった。その反応にメネシスは貌をあげて言った。
「今夜だけ。わたしは女になる。そして男にもなったげるから!いいよね、
いいよね、アン!」 「いい、いいっ!んああっ」 アンは仰け反らせた容貌は
眉間に縦皺を深く刻んで口を大きく開いて前歯を覗かせる。ふたりのセックスは
合わさって蕩けあい、白と黒の素肌はうっすらと汗ばんでいてシーツを剥ぎ取っていた。
いつまでも絡み合うピュアホワイトとライトキャメルの躰は熱情にうねりはじめた。
冬の海・春の海 47

 クレアはベッドにうつ伏せとなり裸身を真直ぐに伸ばして抽送を受けている。
まさに子宮口を叩くというような感覚がクレアを捉えて往かされて、快美を噛み
締めるのもままならなくなった躰をリョウに衝きあげによって揺さぶられていた。
「も、もう……かんにんして……」
 夥しい量の精液を受けたというのに、リョウのペニスは逞しさを維持してクレアを
責め立てていたが徐々にゆるやかにはなっていっていた。男はシーツに快美に
弛緩した貌を伏せているクレアの朱に染まった耳に囁く。
「誘ったのはクレアさんでしょ。まだ疲れて眠るのは早いですよ」
「はあ、はあ……す、すこしでいいから休ませて……」
 頭上に上げるようにして腕を伸ばしてシーツを必死になって握っていた力が
今は入らずにぐったりとしている。リョウの手が脇に潜り込んでくるのがクレアに
判った。「す、するのね、リョウ」 クレアのうつ伏せになっている躰はリョウの
右手がクレアの脇から入って引き剥がされるように起こされ始める。クレアの
ベッドに拉げていた本来のカタチの綺麗な乳房が左だけ現れる。性愛に疲れた
容貌を見られたくないという羞恥からなのか、腕で貌を隠すようにして手を軽く
握り締めて脚を折って胎児のような姿勢を取っていた。
 乱れていた呼吸もようやく整いかけた頃に、リョウの手はクレアの右太腿を
抱えて彼の右太腿に掛ける格好を取らされる。そしてリョウの右脚が入り込んで
来て、シーツから左の乳房もぷるんと露になった。小刻みな律動がクレアを再び
揺り動かし始める。「あっ、いや、いやああっ」 むろん拒絶などではなく……
クレアは咽喉がカラカラに渇いていた。
(また、連れて行かれる。慰めるつもりが、慰められるだなんて……!)
 クレアは待ってとばかりに右手を後方に伸ばして右太腿を掴んでいるリョウの
腕を掴むのだが、本格的な突きの再開に「んあぁああッ!」と咆哮してしまう。
冬の海・春の海 48

 白いシーツに散る長い艶やかなクレアの髪がリョウを揺さぶり衝動に駆り
立てる。リョウの放ったものが交じり合って、与える摩擦はよりスムーズには
なっていたが、耳に届く淫猥な湿り気を帯びた音が、スパイスとなって灼熱の
棒で掻き回され女を組み敷かれる強烈な感覚が降りてきていた。
(これが、犯されるということなのね……) 奪われる快感にクレアの躰は
昂ぶってゆく。一突きごとに高みに押し上げられていく。
「ひいっ」(声が擦れて出ない……ああ……) クレアの唇からか細い悲鳴が
上がっていた。
 リョウは躰を起こして、深い突きでクレアの躰を仰け反らせ、彼女のしがみ
付こうとしていた右手を振りほどいて、右脚を抱え込んでいた。クレアは息も
できないほどの挿入感に襲われて口を大きく拡げてぱくぱくしていた。
(た、たすけて……) 躰がぐんっと弓状に反りあがり、クレアの白い首も伸びる。 
左手はしがみ付くことも出来なくて、いっぱいに伸びてリョウの律動で烈しく
揺さぶられる躰を支えるので、それこそ手いっぱいとなっていた。
 しがみ付こうとリョウの右手を掴んでいたクレアの右腕は、荒馬を御する
手綱のごとくに彼の左手に掴まって仰け反る躰をさらに曳き付けられている。
 リョウの瞳にはクレアの快感に喘ぐ汗に塗れた裸身が横たわって映っていて、
脾腹に薄っすらと浮んでいる肋骨、自分の律動で揺れる豊かな乳房、桜色に
素肌が染まる後側位のクレアにペニスを痛いほどに勃起させていた。
「ク、クレア!射精すよ!」 一瞬、クレアは亡き夫の声を聞いていた。仰け反る
貌をなんとか上下に振って、その閃光に包まれてゆく瞬間に備えていた。
(わたし、後悔なんかしないわ!絶対にしないから!来て!来てえええッ!)
冬の海・春の海 49

 アンとメネシスはひとつのシーツに包まって暖炉の燃え盛る火をただ
ぼんやりと眺めていた。メネシスは思い出したように立ち上がってコップに
水を注いで解熱剤をとってしゃがみ込んでアンに渡す。
「解熱剤、一応飲んどいて。たっぷり汗掻いちゃったけれどさ」
 手渡された薬を飲んでから、アンはくすっと笑ってシーツのなかにメネシスを
招き入れるように白い羽を拡げる。「いいのかな、わたしなんかで」 メネシスは
アンに聞く。「ええ」 アンはメネシスに微笑んでいた。
「わたし、ここに戻ってきてはダメですか?」
メネシスはアンの肩に手を廻して答えた。「ごめん。それは出来ないよ、
やっぱり。ごめんよ」 メネシスはアンの為にはならないとは言わなかったが
アンには十分に伝わっていた。そのかわり「好きなんだろ、彼の事」とメネシスは
アンに尋ねた。彼女はこくんと頷く。
「あんたは綺麗だからきっと、伝わるよ。あれ、なんかすごい後ろ向きに
聞えるね」 アンはメネシスに静かに顔を横に振る。
「自分を好きになって綺麗になれってことなんですよね」
「う、うん。わたしには出来なかったけれど、あんたには諦めて欲しくないんだ」
 アンはメネシスの華奢な肩にそっと頭を寄せる。
「わたしの助手は師匠を越えてるからね、ハハハハ」
 またふたりは黙って暖炉の火を見ていた。暫らくしてメネシスは思い出した
ように口を開いた。「そうだ!来週、ザクロイドの小娘の船上パーティとやらに
行ってきなよ」 「わたし、騒がしいところは。それに服だって」
「彼、来るかもしれないよ」 アンはメネシスの言葉にぱっと明るくなっていた。
「ほんとうですかって貌してるね」 羞ずかしそうにアンは俯いた。
冬の海・春の海 50

「わたしは病院絡みで招待されていてさ。彼の場合、勲功著しい活躍している
からきっと来るよ。なにかと隊にも便宜を図ってもらいたいだろうからさ」
「そうでしょうか?」 アンの瞳が恋する乙女の瞳となる。
「う〜ん、いなかったらいないで愉しめばいいじゃないか、ハハハ」
「もう。でも、メネシス……」 「着ていくパーティドレスだろ。へっへへへ。
ちょっと待ってな」
 メネシスはまた立ち上がってどこかへ消えていった。なかなか戻って来ない
ので心配になって立ち上がろうとしたとき、肩紐で吊るベルベット地の赫い
シンプルなワンピースを褐色の裸身の前にかざして現れた。
「これ、これ。プロムのときのなんだけどさ、着てくれる?」
「ええ、ありがとう」
「でもさ、わたし小柄だからアンが着るとタイトになるけどいいかな?」
 メネシスは少しだけ悪戯っぽく笑っていた。「い、いいですよ」
「そっ、エッチっぽくなっても背に腹はかえられないもんね。いま、着てみてよ」
「はい」 アンは白いシーツをぱさっと床に落として、素肌に赫いパーティドレスを
着込んだ。メネシスは白い長いグローブを置いて、アンを眺めながら後ろに
廻ってドレスの金具を留めてやった。 「ほんとうに、ありがとう。メネシスさん」
「メネシスだってば」 アンは涙が溢れそうになって来た。メネシスは手に隠し
持っていた首飾りをアンの胸に掛けてやる。「わたしからのプレゼント」
 それはシルバーの首飾りで、中央には淡いブルーのアクアマリンが鎮座して
いた。アンはそれを見てメネシスを涙目で見詰める。言葉が出てこなくて、ただ
涙が頬を濡らすだけ。メネシスはキッスでアンの涙を拭う。
「ルビーの瞳にはエメラルドが栄えるかなと考えたんだけどさ」
「わ、わたし、海が……海が好きなんです」 「うんうん、よかった。よかったよ」
冬の海・春の海 51

 男は安らかな寝息を立てて横たわっているクレアを起こさないように腕をそっと
抜いた。ベッドから降りてクレアが座っていた椅子の傍に畳んで置いてあった
衣服を着込んで自分のマントを小脇に抱えて、もう一度クレアが寝ているベッドに
近づいた。窓からは光りがカーテン越しに射し、あれほど酷かった雨は
あがって小鳥のさえずりが聞えてきていた。
「クレアさん、ありがとう」 そう小さく呟いて彼女の頬にそっとキッスをする。男は
床に落ちていたマントを拾ってクレアの裸身に掛けようとしたが、考え直して自分
のマントを掛けてやった。
「俺のマントじゃ心もとないでしょうけれど、赦して下さい。クレアさん」
 男はドアへと歩いていって静かに開け、そっとドアを閉める。小さなぱたんと
ドアが閉ざされる音、男の放った名残りが秘所からこぼれ落ちる感覚にクレアは
涙して残していったマントで顔ごと覆おうとして手を止めた。
 そして、マントを纏って部屋に残る性愛だけに塗られたやさしい夜の残り香を
少し躊躇ってから、シャーッと勢いよくカーテンを開いて窓を外に放ち新鮮な
空気を部屋と導いた。
『ねえ、ついていてあげなくてもいいの?』 「いいんだ」 『ほんとに?』
「ほんとにだ」 『でも、恋人なんでしょ?』 「ちがう」 『ちがうの?』
「ああ、ちがうんだよ、ピコ」 『じゃあ、キライになったの?』
「お前、さっきから質問ばっかだな」 『いいじゃない!クレアさんかわいそう』
「そういうことじゃないんだよ、ピコ」 顔の前から羽ばたいて男の肩へと腰
掛ける。『なんなの?』 「もういちど、生まれ変わったら逢いたいなあって」
『それ、むりっ!やっぱりヤングさんだよ』 ピコは愉快そうに両脚をばたばた
させていた。「そうか、むりっか。ハハハハ!」 『ねえ、兵舎に帰っても入れて
くれるかな?』 「おい、俺は隊長になって宿屋に……やつら叩き起こして入るさ」
冬の海・春の海 52

男の評価を決定付けたのはダナン攻防戦における敵将・バルドー・ボランキオを
打ち破ったことだった。国境線へ本隊が向ったための少数残存勢力のみの駐留する
部隊ではあったが、敵将の異名、不動が意味するところは他にもあったからだ。
少数を残して移動した部隊を任されるだけ長に信頼されている。
すなわち、ボランキオと命を共にしようと残った有志の兵たちは彼に絶大な信頼
を寄せるものばかりで、それが不動の意味するところだった。その戦いは好機と
いえるほど単純なものではなかったはずだ。
 しかし、それを駆逐したのは正規軍ではなく傭兵ばかりを集めた愚連隊。リョウという
東洋から流れてきた男を隊長とした一枚岩の小隊の勲功。それでもドルファンに
あっても、それは国情に照らし合わせば取るに足らぬことだったのだ。しかし、アンテナを
張り巡らせた者たちにとって彼は無視できない存在に生長していた。そのひとりでも
あったのが、ザクロイド財閥の小娘、もとい。令嬢リンダだった。
『ねえ、なんでクレアさんのところに来たの?ねえ、ねえってば!』
「ねえ、ねえうるさいんだよ、ピコ!」 と叫んだところでクレアがドアから顔を
覗かせる。 「あっ、リョウ……か、帰ってちょうだい……」 「ちょ、ちょっとまって!」
 慌てて男は足を入れて、ドアを掴んだ。 「叫びますよ……」 ぎょっとしたが、
男は話しを続ける。 「頼みがあって来ました」 「頼み?」 「そうです」
「俺、ザクロイド令嬢の船上パーティに招待されているんですよ」
 クレアはくすっと笑って、リョウの着ている服をじろじろ見てから、けらけら笑い
出した。「ひどいじゃないですか……」 「ご、ごめんなさい。でも、可笑しくって!
ふふふっ、ハハハ!」 男は羞ずかしいというより、涙を溜めて笑うクレアの表情
が嬉しかった……が。 「それじゃあ、どこにも行けないものね、アハハハ!」 「……」
ダークオレンジのラフなシャツにオリーブグリーンのズボンでは行けるわけが
なかった。 「もう、いいですよ!」 「ま、まって。いま着替えてくるから!」
>428 訂正・五行目

少数を残して移動した、この捨て駒の部隊を
冬の海・春の海 53 はじまり

「絹のピュアホワイトのシャツに、ロイヤルパープルのビロードのベストでしょ。
そう、金糸の刺繍も忘れないでね」 「はい、かしこまりました。あの、ズボンは
いかがいたしましょう?」 「そうね、白でもいいけれど、やはり黒にしておいて」
「はい、承知いたしました」 「あっ、それとブーツもおねがいするわ」
「ク、クレアさん……」 「ダメダメ、そんな泥だらけのブーツでなんかいけないわ」
「い、いえ。俺は見立てて欲しかっただけで」 「もう、こういう時はオトナに甘えて
いればいいの。来てくれたとき、ほんとは嬉しかったんだ」 「えっ」 
「ううん、なんでもない。なんでも。あっ、ネクタイはみずいろのアイシーアクアね」
「はい、かしこまりました。五日ほど見ておいてください」 「わかったわ」
『嬉しいだってさ』 「クレアさん、ありがとう」 
「いいの、いいの。最初はヤングのをと考えていたけど、この方がいいものね」
リョウとクレアは紳士服店でパーティの服を見立てて、そこを後にした。外に
出るなりクレアは彼の腕に纏わりついてきた。
「このまま、職場に行こうかと思ったけれど、つまらないから何か食べていこう」
「え、ええ。だったら、俺がおごりますから」 「そう?」 「それぐらいさせて
ください」 「あなた、ザクロイドの令嬢に興味があるの?」 
「ち、ちがいますよ。こ、これも仕事のうちです」 「やっぱりそうよね。ヤングも
そうだったから。でも愉しんでいらっしゃいな。ねっ」 「は、はい」
「それ〜と、あなたダンスできるの?」 「そんなもん、できないですよ!」
「出来なきゃ困るでしょう!」 「へっ」 「へ、じゃないわよ。そうか、これは特訓ね」 
「クレアさん、仕事があるんでしょ」 「ばか、これは騎士としての嗜みよ!
わかってるの!」 「はい。でも、ばかはないんじゃないかな」
 そんな、ふたりの愉しそうな姿を遠くから見ていた娘がいた。
冬の海・春の海 54

マリーゴールド地区、ロムロ坂を登ったところの海を臨む一角に古に造られた
野外円形劇場がある。座席も舞台も石を切り出して造られたもので遺跡群の
ひとつだったが、国によって維持管理され春と夏に祭事に使われている。
 ソフィアはそこでアンという女性と知り合い、歌のレッスンを受けていた。
レッスンといっても正式のものではなく、アンの美声に耳を澄まして、なにかを
感じ取るというものだった。 「お家の事情はあるかもしれないけれど、いつかは
ちゃんとプロのひとに教えを請うてね。それまでは、わたしがしてあげてもいい
けれど、あなたはリスクを背負い込むことになるけどいいの?」 ソフィアはアンの
言葉の招待に乗った。ソフィアの歌はアンの存在を吸収するかのようにみるみる
成長していたが、しかし今日のソフィアは様子がおかしかった。
「なにかへんね、ソフィア」
 ふたりは舞台に座って話しをする。アンは心配そうにソフィアの表情を窺って
いる。ソフィアが唄ったのは人魚をモチーフにした恋歌。愛するひとの心変わり、
もとの世界へ誘う姉たちの言葉を振り切って泡となって消えた人魚姫。
彼女はほんとうに諦めて逝ったのだろうかという問い掛けを現代に置き換えて
綴った歌だった。
「わたし、好きな人ができたんです」
「恋するっていいことよ。ひとのこと言えないけれど歌にはプラスになると思う」
 その言葉にソフィアは俯いていた顔をあげてアンの方を見る。赫いストールに
スタールビーの瞳。銀の長い髪を淡いブルーのリボンで結っていて、光りの加減で
アンの髪はアクアマリンのようにも見えた。にっこりと微笑むアンのエクボに
ソフィアは思わず小さく呟く。 「人魚姫みたい……」 
「ソフィアの好きな人って波止場で不良たちに絡まれていたのを、助けてくれた人
でしょ。どんなひとなのかなあ?」 
「わたし、婚約者がいるんです……」 「えっ!」
冬の海・春の海 55

「婚約者がいるのに好きな人ができたんです」
「婚約者のこと好きじゃないの?」 「わからないんです」 「そ、そうよね。15歳
くらいで結婚のこと考えろって言われても無理よね」
 ソフィアはまた俯いてしまう。それに構わずアンは話しを続けた。
「わたしも好きな人がいるの。ふられたのかな。でも諦め切れなくて、もういちど
ちゃんと告白しようかと思っているの。こわくて仕方がないけれど素直になるのが
一番かなって。好きになったひとが運命の赤い糸で結ばれていたらいいね」
「どっちがでしょうか……?」 「あっ……ごめんね」 
 さすがにソフィアのその問い掛けにアンは言葉を失ってしまった。
「アンはどうして元気になったの?」
「ああ……心配掛けてごめんね。やはり素直がいちばんかなあって考えたの」
 アンは決して立ち直っていたわけではなかった。遠い過去に起った悲劇を
呼び起こされて自分が未来に跳ばされて来た事を知った。そして、その時間が
限り或ることもなんとはなしに判る。砂時計の砂がさらさらと細くなって流れ落ちるのが
判るのだ。記憶のパズルのピースがひとつひとつ収まるたびに実感する。
ならば何故此処に跳ばされて来たのか、その理不尽さに抗って意味づけを
するために素直に生きようと思うに至っていた。メネシスという親友に助けられて。
ただ、メネシスに言われていた部外者の因子としての自分が誰かに作用して時を歪めて
いることが心に刺さった棘となっていて、消えることは無かった。
 メネシスは神を呪ってやるとまで言って慰め励ましてくれたが、時の報復に今だ怯え
迷惑を掛けているその人にすまないと思うアンだった。素直に生きよう、
因子としての自分が迷惑を掛けていると、たえずアンの振り子は揺れている。
冬の海・春の海 56

「なんか、たのしそうですね」
「そう、ザクロイドさんの船上パーティにいくことになって」
「わたしも行くんですよ。それじゃあ、逢えますね」 ソフィアは笑っていたが、
無理をした淋しそうな笑顔だった。
「わたし、騒がしいところはあまりとくいじゃないのだけれど……」
「アンの好きな人が来られるのですね」
「たぶん……ね。さあ、唄いましょう、ソフィア」
 アンは立ち上がってソフィアに両手を差し伸べて、立ちなさいと促していた。
陽光を背にして立ち上がったアンはやはり人魚姫だとソフィアは確信する。


 ソフィアはドレスを纏い、婚約者にエスコートされてリンダの誕生会の催しの
客船に乗っていた。しきりにあたりを見回してアンの姿を探している。
「ソフィア、あんまりきょろきょろしていたらみっともないぞ」
「ごめんなさい。おともだちが来ている筈なのだけれど……」
「ともだちって、学園のかい?」 「いえ、学園の……あっ」
 婚約者はソフィアの両手を掴んでかざして「さあ、踊ろう」と声を掛ける。
婚約者に白いグローブをつけた手をやさしく握られて少しだけ不安が紛れた
ような気がして彼のエスコートでステップを踏み始める。
 主賓のリンダ・ザクロイドは片隅にひとり立っていた東洋からやって来た傭兵
にダンスを申し込んでいた。
「あなたのお噂はかねがね耳にしておりましたわ。感謝しておりましてよ。
ところで、エスコートされていらっしゃったレディはおりませんの?」
 高飛車なリンダではあったが、それなりに礼はわきまえた少女だった。
冬の海・春の海 57

  ソフィアの細いウエストに婚約者の右手があてられて、躰をぐっと引き寄せ
られる。婚約者の貌が近づいてソフィアの頬が火照り甘い調べが躰に流れてくる。
彼を好きなんだろうかという迷いが霧散していくような感覚に浸り始めていた頃、
ソフィアのブルーの瞳にリンダと東洋人の姿が映っていた。(彼、来ている……)

「わたし、ひとりですが」 「そうでしたら、折り入ってお願いいたします。わたくしと
踊っていただけませんか?」 「私でよろしければ喜んでお受けいたします」
『ねえ、アンが見ているよ』 (嘘だろ) 『ほんとだってば!あっ、出ていっちゃったよ!』 
(どこへ!) 『デッキに決まってんじゃん!もう、バカァあッ!』
 ピコは男の肩を蹴って勢いよく飛んで、アンの姿を追っていった。

「なあ、リンダと踊っているの、噂の東洋人」 ハンナ・ショースキーが御馳走を
頬張りながら喋っていた。 「みたいだな」 レズリー・ロピカーナがぶっきら棒に
答えた。 「噂って何なの?」 ロリィ・コーウェルが面白そうに尋ねる。
「ドルファンが躍進中のおおもと。ソフィアを助けた王子さま」 「王子さま!」
「そっ、王子さまだよ!」 「おまえ、食べながら喋るのよせよ。みっともないだろ」
「いいじゃん。べつに。でも、なんで食べないの?」 「もう、かるく食べてきたよ」
「どうして!ロリィもなのか?」 「うん、そうだよ」 
「だから、お猿って言われるんだよ」 ハンナは食べていたものを置いて、貌を
赧く染めている。羞ずかしいのか、それともレズリーに言われて怒っているのか。
「そういうことは、はやくボクにいってくれよ」 「あんもレディになりなよ。あの高慢ちきみたいにさ」 
「レズリーってやなこと平気で言うんだね」 「そうかい、ごめんよ」
「ああん、喧嘩しないで。ハンナ、たべよう」 「もういい」
がんがれ
冬の海・春の海 58

アンはデッキに出てから柵に両手を添えて気持ちを整えようとしていた。
するとそこにピコが飛んで来て、話しをしていたら急に……。
(そこまでは記憶があったのに急に眩暈がして……どうしたのだろう……躰が
冷たくてとてもきもちいい……くるくる廻って落ちてゆく。わたし、どこに向って
逝くんだろうか……。あっ、わたしのアクアマリン!)
 メネシスに貰った首飾りが落ちてゆくのを、アンは手を伸ばして掴み取った。
(たすけて!だれかたすけて!わたし、死にたくない!わたしは、生きて
いたい!死にたくなんかない!) ピコはアンのドレスのストラップにしがみ付いていた。
『リョウううううっ!アンが海に落ちちゃったアアアアッ!』
(どこだ!答えろ!) 『右舷の後部デッキ!はやく、早く来てええッ!流されて
いっちゃうよおおッ!』 (アンにしがみ付いてろ!いますぐいくから、誘導しろ!)
『うん、はやくきてね!』
 男は突然ダンスをやめてリンダに言った。
「いま、ひとが海に落ちた。停船するように船長に言って欲しい」
 リンダは一瞬キョトンとしていたが、男の真摯な眼差しを見てドレスをたくし上げて
すぐに駆けて行った。それと同時に男はロケットのようなすばやさで駆けて人を
掻き分けて出て行く。ほどなく主賓がいないことに気がついて場内はざわめき始めていた。
 男はデッキに出て胴着とシャツを素早く脱いで、後部にいた船員から浮き輪を
取って夜の黒い海へと飛び込んだ。
(ピコ、返事をしろ!どこにいるんだ!)
『ここ、ここにいるよ!はやくさがして!はやくみつけて!』
 それは男が子供時代に思っていたこと。そして、アンの赫い瞳に映っていた
翳りだった。 (俺は彼女になんてことをしたんだ!必ず探してやるッ!)
冬の海・春の海 59

 リンダは執事を連れて船長に掛け合ってすぐに停船させた。後部デッキでは
すぐにボートが下ろされ、タラップもすぐに降ろされた。男はピコの誘導により
すぐにアンを探し出して、ボートにあがりすぐさま蘇生術を施して彼女は一命を
取り留めて、冥府から引き摺り上げたのだった。
「げほっ、げほっ」 「だいじょぶか?」 「は、はい……。あ、あなたは」
「知り合いなんですか?」 船員が二人に尋ねる。 
「いえ……」 「俺のパートナーです!」 アンは男の顔をじっと見ていた。
 船員は濡れたふたりの躰に毛布を掛ける。男はアンの驚いた貌を見やり、
濡れて乱れている銀の髪を手櫛でやさしく梳いてやっていた。タラップに
ボートが着くや船員がしょうとしていたのを代わってアンを抱いて階段を上がる。
リンダはボートに乗っていた船員の説明を受けていた。
「船室を用意いたしましたわ。どうぞこちらに」
「お嬢様、そのお役目は私目が」 「あなたはお客様たちのホストをしてあげて
ください。たぶん騒ぎになっているでしょうからね」 「しかし」
「それに、わたしはこのひとに言いたいことがあるの」 「承知いたしました」
「ありがとうございます」 「そんなお礼はいいから、さあ、早く」
 アンは男の腕の中でうつらうつらとしていた。 「アン、まだ眠るんじゃない」
「さあ、早く」 船員が先導してアンは男に抱かれて、リンダはふたりに付き添って
船室へと付いて行った。そして三人の娘たちも。
 アンをベッドに寝かせると、男は部屋を出て医師とリンダが出てくるのを待っていた。 
「もう、心配いりませんよ」 「ありがとう、ございます」 男は医師に頭を下げていた。 
「ところで、どうして女を泣かせるようなことをしたんですの!」
「俺はただ」 「言い訳は、みっともないですわよ!」 リンダは男の頬を引っ叩く。
リンダは本気で怒っていた。 『勘違いしている訳でもないみたいだね』 
冬の海・春の海 60

「責任は取ってもらいますわよ!」 「ダンスのやり直しですか」
「いい加減にしなさい!」 リンダは上半身裸の男の厚い胸板を握り拳で烈しく
叩いた。「うっ」 「エスコートして来たのでしたら、ちゃんとナイトらしくなさいな!」
 リンダはかなり烈しい語調で船室の扉を指差した。「ありがとうございました」
「ふん!」 男は丁重に礼をして、扉を開いてなかへと入っていった。
「あれま。リンダがまともなことを言ってるよ」 ハンナが船室の前のふたりの
感想を述べる。 「だから、ただの高慢ちきじゃないんだよ」 レズリーが付け
加える。 「ねえ、だからハンナはいくら運動公園で朝練しててもスポーツの祭典
でリンダに負けちゃうの?」 なにもわかっていないロリィがハンナを突っつく。
「それは言いすぎだぞ、ロリィ」 「ウッキーーーッ!」 
「びっくりしたあ」 レズリーとロリィは口を揃える。ハンナは悪戯っぽく笑って
ショートカットのブルネットの頭を掻いている。「へへっ、一度やってみたかったんだ」 
「ばか」 「ばかはないだろ。いつも猿、猿って言ってるくせに!」
 すると後ろからリンダの畳んだ扇子がハンナの頭に振り下ろされた。
「いったああっ。なにすんだよ!」 ハンナは頭を抱える。
「オーホホホホ!でもね、山猿からお猿に進歩したのですから、褒めてさしあげなくてはね!」 
「なにいッ!来年はぎゃふんて言わしてやるからな!」
「せいぜい、お猿さんどまりですわよ!オーッホホホホ!」
「ねえ、レズリーお姉ちゃん」 「んっ?」 「王子さま、なかでなにしてるんだろ」
「子供はまだ知らなくてもいいの」 「えーっ、ロリィ子供じゃないのにぃ」
 リンダは歩き始めてから後ろを振り返り、気持ちのいい微笑で三人の
仔猫たちを誘った。 
「ほら、みなさん!パーティはまだまだこれからですわよ!」
話は書きながら考えてるの?
構想だけはもうすんでるの?
いっぺんに投稿できなくて、本当に申し訳ありません。
最初の行と後半部分を大まかにしか書いていなくて、
なんとかなるかと思ってはじめたのですが、やたら長くなってしまって
申し訳ないです。

投稿されるようでしたら中断か、やめたほうがよろしいでしょうか?
一応、話しとしても区切りに来ていますし。
冬の海・春の海 61

  男はアンが寝息を立てているベッドへ近づいて、傍にあったガウンを羽織って
椅子に座った。ほっとする安堵感が男を包みはしたが、複雑な想いでいた。傭兵の契約
を名目に死に場所を求めてここへと渡ってきたことで、クレアを傷つけてアンをも
苦しめる結果に陥っている。
 だが、アンの申し出を断ったにせよ、彼女のおかげでもあった。たかが一人の
傭兵が戦況を変えるなどおこがましい、驕り以外のなにものでもないことぐらい男は
重々承知している。それでも、彼女を守りたい一念で此処まで来れたのだから。アンの
安らかな寝顔がデスマスクに一瞬映っていた。男は歪んだ貌を両手で覆い
膝に蹲って声無き声で泣いていた。


 どれぐらいの時間が経ったのだろう。アンはゆっくりと瞳を開いた。
(ベッドの感触がちがうわ。髪も潮の香りがする。わたし、どこにいるの……)
 顔を横に向けると男がいた。椅子に腰掛けて腕を組んで眠っている。
不意にアンのなかに温かいものが込み上げてきた。 
(ごめんなさい……あなた) アンは心の中で呟いていた。その言葉でアンは
自分自身に驚く。遠い昔に愛した人に謝っているのか、それとも、もういちど
めぐり逢えた愛しのきみに……アンは潤んだ瞳で男をじっと見詰めていた。
 すると視界に煌く燐粉のようなものを振りまいて、ピコがアンの枕元に舞い
降りる。『よかったあ。ほんとうにしんぱい……』 ピコは言葉が詰まってアンの頬
を両手いっぱい拡げて静かに泣きはじめてアンの頬を濡らし、アンの涙もピコの
顔を濡らしていた。 「ありがとう、ピコちゃん。あなたが彼を呼んでわたしを
助けてくれたのね。ほんとうにありがとう」 
『もう、あんなことしないで……。もう、こんなのイヤだああっ……!』
 ピコの言葉は男の過去からの叫び、そして生きている妖精・ピコの
叫びだった。
冬の海・春の海 62

「ごめんね、ピコちゃん」 アンは頬に抱きついて静かに泣いているピコをそっと
両手でやさしく包むように撫でてやる。 (あんなこと……?わたしは身を投げて
死のうとしたのだろうか……それとも、これが時の報復なの?わたしは死にたくない。
生きていたい。神さま、赦して下さい。わたしを見逃して!)
 ピコがアンの頬に埋めていた顔を上げて彼女に尋ねる。
『ねえ、どうしてわたしがリョウを呼んだのが判ったの?ねえ、ねえ』
 ピコはひとしきり泣いたことですがすがしい気分になって、いつもの知りたがりの
癖が顔を覗かせる。アンはやさしくふふっと笑っているだけ。自分が人ならぬ存在、
過去からの因子だからなのか、本当のところはよくわからない。でも、その不幸
のなかでこの娘と彼と繋がれるのなら、それはアンにとっては福音に思う。
『ママみたい……』
「ママ?」 『うん、やさしいママ』 ピコはまたアンの頬に顔を埋めすりすりと
する。ママになってあげようかとアンは思わず安請け合いをしてピコに声を
掛けそうになる。 (彼と付き合っているわけでもないのに、そんなこと軽々しく
言えないよね) 『わたし、ママのことしらないの?わたしずっとひとり。ずうーっと
ひとりぼっち。アンとこうしているとママに抱かれているみたいなの』
「リョウがいるじゃないの」 ピコはアンの言葉にハッとする。自分は彼の思念が
具現化した存在の虚無であることを知る。そんな孤独の沈黙のなかでずっと過して
きた想いをアンに聞いて欲しい。そしてわたしのママになってと叫びたい。
『リョウのママはわたし』 「あら、恋人にも見えてよ」 『恋人はアン』
「なれたらいいな」 『リョウはアンのことが好きなんだよ』 「そうだといいな」
『ほんとうだってば!』 ピコがアンに言い切る。
冬の海・春の海 63

(愛し合って、躰を重ねて始まる優しさや真心。でも、わたしには何が残るの
だろうか……その先に何があるのだろう) アンの問いに答えられる者は
誰もいなかった。また時計の砂が細くさらさらと落ちてゆくような。

 アンはその予兆を打つ消す温かなひだまりのような視線に包まれていることに
気がつく。 「よかったよ、ほんとに」 ピコはリョウが近づいてきたのを知って
羽ばたいて彼の肩にちょこんと座った。アンの瞳にピコの笑顔が映る。
「ご、ごめんなさい」 「俺の所為なのか?」
「あなたには関係ありません。でも、赦して下さい……」
(わたしはなにを言っているんだろう。これじゃあ、ただ拗ねているだけの小娘
じゃないの) アンの枕に載っていた頭が深く沈んだ。リョウがベッドに手を
付いてアンの貌を見下ろす。 「俺はそんな君を赦さない」
 アンは男の吸い込まれるような漆黒の瞳が潤んできているのがわかった。
「じゃあ、どうするんですか……!」 アンはリョウの視線が堪らなくなって視線を
外して横を向く。 「お仕置きをする」 「お、お仕置きして下さい」
アンはリョウが座っていた椅子を眺めながらそっと赫い瞳を閉じる。頬に
知覚されたのは痛みなどではなく、やさしく触れた彼の大きな手。そして親指が
哀しみの涙をそっと拭う。アンの躰が歓びに顫える。
「俺は英雄なんかじゃないし、雇われて人を殺めるだけの傭兵なんだ。きみを
俺のなかの闇で抱くのが怖かった。それでもいいのか?」
「前にも聞きました。わたしも答えたはずです」
「ちがうな」 「なにがちがうんですか!」
「俺の気持ちだよ。恋人を亡くして死に場所を探しに来たのに、ひだまりを
見つけたことが、裏切るようで怖かったんだ」
(この人もわたしといっしょだったんだ……) アンは横向いていた貌をリョウへと
真直ぐに向ける。
>440
気にしなくてもいいと思われ
もちろん新たな投稿も大歓迎!
冬の海・春の海 64

「わたしが代わりになってあげたい」 アンの手が毛布から伸びてリョウの頬に
ふれて、そのアンの手をやさしく包み込む。 「それはできない話しだよ。きみは
彼女の変わりなんかにはならないよ」 「そ、そうよね」
「俺のホームになって欲しい」 アンの曇りがリョウの告白で晴れてゆく。
「わたし、あなたのお家になれるかな……」 嬉しくてアンは涙声でとつとつと
リョウに喋っていた。あり得ない存在として、この時代にいて唯一残せる確かな
証をアンは見つけ出していた。この愛に生きてみたいとアンは一途に思う。
「でも、ほんとうに赦してくれるかい?」
「なにをなんですか?」
「俺が剣を置かないことを……そんな俺のためにホームベースになってくれる
ことを」 「あなただけの、ホームではなくてよ」 「そうだね。ありがとう」
「どういたしまして」 ふたりの様子を見ていたピコがアンにやさしく笑っている。
そんなアンの笑顔に可愛らしいエクボが浮ぶ。リョウはかけがえのない宝石を手にした。
 彼の肩に載っていたピコはリョウの躰がアンに近づいてキッスをしょうとするのを
知って、彼の肩を蹴って背中からダイブをするようにまっさかさまに床に向って
落ちて行く。すれすれのところで羽ばたいて大きな曲線を描きながらドアの
ところにきりもみしながら飛んでいって鍵を静かに下ろして姿を消した。
 ふたりの唇が甘く蕩けあう。行き違ってしまった時を埋める挨拶にアンの躰は
燃えていた。呼吸も微かに乱れて、さっきの水に落ちたときの感覚に近い
気もしていた。それは、これから始まる羞ずかしい体験の序章。アンはリョウに
唇を舐め廻されてゆっくりと開いてゆく。気持ちまでも裸にされたようで、秘所が
ジュンと潤う。リョウは纏っていたガウンを床に落とす。
(キッスだけでこんなに鼓動が速くなっちゃうなんて、どうしょう……)
冬の海・春の海 65

 リョウは上半身裸になるとブーツを脱いだ。ブーツからは海水が漏れて床を
濡らしその場を和ましてはいたけれど、リョウのペニスは烈しく勃起していた。
それはアンの目にもわかるほどでチラッと見ただけなのに貌が火照る。
 最後のブーツを脱いで、リョウはアンに掛けられていた毛布を引き剥がした。
そしてガウン姿のアンの上に跨って躰を重ねる。アンはてっきりガウンの紐を
解かれると思っていたので焦らされたことと更なる期待に呼吸荒く蒼白で綺麗な
乳房は喘ぎ始める。 「い、いじわる」 「どうしてだい」 「だ、だって……」
 アンの手首をそっと握って股間へと導くと、彼女は硬い感触にハッとして一瞬
手を引く仕草をする。 「アンは俺のを欲しくないの?俺は欲しくて堪らない」
「リョウ、好き」 アンの左手はリョウの股間にあてがわれ、右手は彼の首に
廻されて掻き抱いた。アンの左耳にリョウの唇が触れる。 「好きじゃダメだよ」
「だって、羞ずかしいもの……」 アンの耳は朱を刷く。しかし、まだ満開という程
ではなく上部の方が仄かに染まって淡いチェリーピンクを呈するといったところ。
「アンの耳に桜の華が咲いている」 
「えっ、な、なに?」 「さくらの華」 たえずメネシスに言われていた言葉。あなたの
華を咲かせてごらんよ、嬉しさが躰中に拡がる。それこそ爪の先までも。
「どんな華なの」 「巨木の枝にさくたくさんの小さな花々。いまのアンの素肌
みたいな」 そう言ってアンの耳朶をリョウは舌で舐め廻して唇で挟み啄ばむ
ように引っ張った。「好き、好き!ああっ……!」 リョウの手はアンのガウンの裾
を割って彼女のしっとりとなめらかで吸い付くような内太腿を弄る。突然の
侵入者にアンは腿を閉じ合わせるも長くは続かない。 「はあ、はあ、はあ……」
「さっきの続き」 「い、いやぁああっ」 「ピコが鍵を掛けたから誰もこないよ」
 リョウの唇が頬から首筋へと降りた。 「んあああっ……」 濡れる秘所を探り
あてられ、唇は鎖骨の部分に吸い付いていた。アンの股間にあてられていた
左手はリョウの背中に廻されて右手は彼の黒髪を掻き毟るように弄る。
冬の海・春の海 66

  アンの閉じられた太腿は弛緩して開き始め、リョウの指には性愛を望む蜜が
たっぷりと絡みついている。アンはガウンの下は生まれたままの姿だった。
アンの下腹は波打つように喘いでいた。リョウの指がアンの柔らかい肉の
裂け目を撫でる。その肉襞の蠢きからアンの女の命はいま咲こうとしていた。
「はああ……」 アンの濡れた声とともに赫い華は開いてゆく。リョウはベッドに
付いていた手でガウンの紐をほどき、拡げる。 「ああっ、いやぁ」 アンの小さな
悲鳴がローズピンクの唇からこぼれるる。 
 リョウはアンの蒼白な裸身を眺め愉しみたいという衝動を無理やり押さえ込んで
乳房へと降りて行った。左の乳房を揉まれ、右の乳房をリョウの唇と舌が這い
廻っている。そしてもっとも敏感な部分の赫い華を彼の右手で摘まれ心が淫らに
なって烈しい欲望がアンのなかで沸々と湧きあがってきていた。
男が望み女も望むもの、すべてを忘れてひとつに蕩けあう瞬間をアンは想い描いて、
下腹に降りていこうとするリョウの躰を抱きしめられず、せつなく両腕は胸元で合わさり
右手を軽く握って口元にあて、左手はその手首をそっと握り締めていた。気持ちが
どうしても先走ってしまう。 「もうしないで……」 「どうして」
 アンはリョウを受け入れるだけの愛液を十分に滴らせていた。リョウはアンの下腹から
愛液で煌く口元、貌をあげて躰を起こしてズボンと軽く巻いた腰布をほどき、
アンを想って滾るその屹立を外気にやっと晒した。リョウのペニスは下腹
に付かんとするかのように天上を向きグランスは赤黒い艶を見せて、ときどき
びくんびくんと顫えている。その逞しい物を魅せつけられてアンはか細い声で
哀訴する。 「リョウのオチンチンが欲しいの。あなたのモノにわたしをして下さい」 
ふたりのはじまりの時に羞恥はいらないとわかっていても、アンの躰の火照りは
治まることを知らなかった。
冬の海・春の海 67

アンのベッドに投げ出されるように真直ぐに伸びて拡げられていたしなやかな
両脚を太腿の外側に触れて閉じ合わせると、リョウは彼女の細い足首を両手で
掴んで、くの字に折り曲げた。なにかの儀式のような蠱惑にアンの乳房は深い
呼吸で上下して揺れていた。
 リョウにしても愛を差し置いて、アンの清楚な肉体を淫らに開花して行く様は
男の支配欲を烈しく満足させるものだった。彼は両手を足首からゆっくりと
這わせて膝に登り、少し太腿に降りたところで手を割りいれてぐいっと開いた。
改めて濡れた叢と爛れきった性器を晒す羞恥にアンは「ひいっ!」と悲鳴を
上げていた。アンの髪と同じ銀の叢は雫で輝き赫い華は瞳のような彩りを魅せて
リョウを誘って肉襞が今かと蠢いている。血が逆流するかのような羞恥にアンは
両手で貌を思わず覆ってしまう。
 それでもリョウは構わずに彼の大きいザラッとしていて、それでいて温かい手は
ゆっくりと内太腿を捉えて秘所へと向った。今か今かと挿入を待っているのに
その時は訪れることなく内太腿に五指の指が柔肌に埋まる感覚に熱い吐息を
洩らし涙をこぼして歔いていた。
 リョウはこれ以上アンを焦らすのをやめて腰を進め怒張をひくつく秘孔に
あてがい沈めていった。いっぱいに躰が開かれる感覚にアンは「あううっ!」
とひと吼えして貌を仰け反らせる。口に当てられていた手は頭上にあげられて
折り曲げられ揺れる顔を隠そうとしている。 「ああっ……リョウ……」
「アン、動くからね」 リョウはアンの両脇に手を付いてゆっくりと律動を始めた。
 アンの素肌にはうっすらと汗が浮き雫のように、銀の髪が頬に纏わり付いて、
長い髪がシーツに散らばって唇を開いて前歯をこぼれさすその絵は海中の
人魚姫そのもの。リョウはその人魚を律動で衝きあげて押し上げていった。アンの
容貌はリョウの一撃に呼応して仰け反り左右に烈しく揺れていく。
冬の海・春の海 68

  ハンナが肉料理を食べている横で、ロリィが一生懸命にグレープフルーツを
食べていた。するとハンナはテーブルを突然ドン!と叩いた。
「いいかげんにしろよ!なんで御馳走食べている横で柑橘系のものを食べて
いるんだよ!」 「どうして、おいしいよ?ほら」 ロリィは食べていた房を掴んで
果汁をステーキにかけた。 「よけいなことすんなよ!肉の香りがわかんなく
なっちゃうだろ!」 「いたいよう。首絞めないでよ」 むろん本気でなど絞めては
いない。 「レズリーだろ。ロリィに変なこと吹き込んだの」 「よくわかったね」
「なんで酸っぱくて苦いものを教えたんだよ!オレンジぐらいにしろよ!」
「たいして変んないと思うけどな」 「どうせ初恋の味とか、オトナの味とか
言ったんだろ」 「よくわかったね」 「ムッキー!」 そう叫ぶと、後ろからまたリンダの
扇子が振り下ろされてきた。 「いったぁー!なにすんだよ!」
「お猿は静かにしてくれませんこと!」 「わかったよ……。もう」
「で、なんのお話しをしていたんですの?」 「オトナの味だよ!」 ロリィが房を
かざしてリンダに見せた。 「これがですの……?」 
「そうだよ」とそっけなくレズリーが言う。 「どうしてですの?」
「すっぱくておいしいけれど、たべていたら苦味を感じるでしょ」 ロリィが
説明し出す。「恋もおんなじって。深追いすると安売りして火傷するんだってさ」
「こ、この娘は判って言ってますの!?」 「さあ、どうかな。でも、さっきのことは
誉めてあげるよ」 レズリーがリンダに言う。 「な、なんのことですか!」
「お猿の前で言ってもいいのかい?」 レズリーが頬杖をつきながらリンダを
チラッと見た。 「ふん!」 リンダが去った後、ハンナは何事かと尋ねるが
もっとあんたが女の子らしくしなって話さと言われ、ロリィの食べている房を取って
果汁をレズリーに飛ばそうとしたら、それはそのままロリィへとかかってしまった。
>>440
気を使わせてスマソ
気にしないでマイペースでドゾー
ルールを破っているので、こちらこそです。
くどくなりそうなので、これくらいにしておきます。

冬の海・春の海 69

  この燃え上がる恋は、やがて愛へと変るのだろうかとアンはぼんやりと考えていた。
女にとっての処女喪失は多くのものにとっては深く刻まれる思い出となるだろう。
場合によっては女性の品をも作りかねないという。
 アンは初恋の人に処女を捧げた。その一途な想いは今も変わらずに存在して
心のなかにあり、未来に跳ばされてもなんら変らぬものだった。過去の恋人の
想い、そして現在(いま)のリョウへの想いが非情にアンへと圧し掛かってくる。
(この愛に生きたいと躰をリョウに開いて、船室の扉を開けた時、わたしは
どんな貌でいられるのでしょうか……) それは、アンの神へのささやかな反抗
だったのか、孤独から男を求めてしまった想いの戒めだったのか、その両者を
内包したままリョウの欲望の烙印によって思考が弾き跳ばされて粉々になってゆく。
膣内でグランスの傘がいっぱいに拡がっている。それはアンのなかのひとりよがりの
シンプルなイメージに過ぎないけれど、リョウのストロークによって熱い吐息を
浴びせられて、汗が裸身に朝露のように吹き上がり、愛があふれてくる。
(恐れをリョウの精で洗い流してちょうだい!おねがい!おねがいよおおおッ!)
最後の決定的な一撃がぐぐっとアンを抉りたてた……。
「ああ、いい、往くううっ!」 アンはリョウに向ってありったけの声で喚いていた。

 アンはベッドで抜け殻のようになって眠りについている。その柔らかな貌を
横にしてリョウに無防備になって晒していた。彼の腕枕に頭を載せて満たされて
安らかな寝息を立てている。手は彼の胸板を触るようにしてそっと添えられて
一方の手は軽く握られてエル字に折られてアンの顔近くにある。リョウは支配
した女性の容貌をじっと見ていた。射精されて遠ざかるはずの性愛が限り或る
命によってずっと引き留められていた。アンの汗に濡れて頬に纏わりついている
長い銀の髪を取ってやる。彼女のそよぐような叢もそして柳眉も同じ彩りの煌きを
放って、リョウはいままで気づかなかったアンの綺麗な柳眉に魅せられていた。
冬の海・春の海 70

 リョウはアンを肉棒で刺し貫いた時、彼女が眉間に縦皺を深く刻んで細い眉を
吊り上げた容貌を記憶しているが、それはあくまで嗜虐心を満たしてペニスを
鼓舞する為の一要素でしかなかった。むしろアンのローズピンクの唇が官能の
リズムによって開花して薄く、やがては叫びを伴って大きく開かれて上唇から
透き通る前歯がこぼれることの方によりインパクトがあった。たぶん彼女の唇に
濡れて爛れるヴァギナをイメージしていたからなのだろう。
 貌……その美をカタチ造る上でも重要でありながらも、その存在を示さない眉。
その眉が濃いのか薄いのかさえも記憶に残らないほどの漠然としたもの
だった。太いか細いのか記号のようでしかない。
 リョウは安らかに眠っているアンの顔の眉を見る。彼女の長い銀……プラチナ
だろうか……それよりも遥かに濃い彩りでリョウを魅せる。それは多分細かい毛が
密集しているからそう見えるのだろうと思いながらリョウは人差し指をそっと
あててなぞってみる。そのタッチにアンの眉がぴくっと顫える。アンの柳眉は細い
というより、むしろキリリッとしていて太くも感じる。太い眉と細い眉の中間のやや
細い寄りといったところだろうか。眉間からすうっと細く引かれて、やや吊り
上がって幅が太くなってすっと細くに下がる。
 リョウはきみを血に塗られた手ではもう抱けないとアンを拒絶した想いを語って、
自分の真意ではないと悟り違うなと吐いた時に、「どうしてですか!」 と烈しく
食い下がったアンの一途さを思い出していた。アンの柳眉を吊り上げて怒る様にたじろぐ。
(きみに安らぎを見ることが、かつての恋人への裏切りだと思っていた……。
かつての恋人……か) アンのリョウの胸にあてられていた手がやさしく頬を
撫でる。 「どうしたの?淋しそう……」 「きみだけが眠っちゃったから」
「もう、ばか……。あっ」 男は口吻をして女は瞼をそっと閉じて歓びに眦を
濡らし、躰もまた潤い始めて。
 
「またして下さい。今度はおもいっきりやさしくして」 

「わかったよ、アン」
冬の海・春の海 71

「やさしくして」 アンもリョウも初めての恋人などではない。アンにしても、単に
リョウへ甘えるつもりで洩れた言葉に違和感を覚えていた。また、何がしかの
不安が巣くったような気がしてならなかった。
(ほんとうにリョウのセックスはバイオレントなものだったのかしら……)
「あっ……はうっ……」 濡れた吐息が唇からこぼれて唾液が滴った。それを
リョウの唇が掬ってやさしくアンに重なる。柔らかい唇の感触にアンは痺れた。
先ほどは擦り付ける様な烈しいキスだったのに、今はマシュマロのように繊細に
撫でるように唇をなぞる。 「んあっ……あぁああん……いやあっ」 
「やめたりしていいの?」 「いや、いゃあん……。いかないでっ!んんっ!」 
(唇までごつごつしているわけじゃないのだから、柔らかくってあたりまえよね)
 アンはそう思いながらリョウの口吻に陶酔してゆく。呼吸の乱れとともに、
先ほど感じていた違和感はなくなっていた。アンの違和感は、過去の恋人と
現在の恋人の愛され方を無意識に比較しての感想が隠れていた。彼らが
アンに与えてくれたものは等しくかけがえの無いもの。しかし、その違和感が
なんだったのかはリョウの強張りがアンの波打つようにして喘ぐ柔らかな下腹に
触れた時には忘れてしまっていた。アンは蕩けるような甘い快美に呑まれる。
「くうぅううっ……ください。はあ、はあ、はあ……あいして……ください、リョウ!」
 アンの両腕がリョウの脇から入って肩を手が抱きしめる。また、アンは心を裸に
される感じに身悶え始める。

 パーティもお開きになって下船する際に、タラップで足を止めていた少女が
いた。 「どうしたんだい、ソフィア?」 「い、いえ。なんでもありませんから」
 ソフィアが見たものはリョウとアンがデッキ上を二人一緒に並んで歩いてくる姿
だった。ソフィアは婚約者が握っている手を強く握り返していた。
冬の海・春の海 72

  リョウとアンは行き違っていた時を埋めるかのように付き合って過していた。
アンの家に泊まったり、アンの方から彼の宿に押しかけたり。そのリョウの
のほほんとした雰囲気にピコは著しく闘争心が削げてしまわないかが心配の
タネになっていたが、さすがにそのことをアンに言うわけにはいかずに、悶々と
した日々を送っていた。そして、季節は秋になっていた。そんな或る夜……。
『ねえ、アン。ねえ、アンてば、起きてよ。起きて』 「う、う〜ん。ピコ、どうしたの?」 
『リョウが痛いって泣いているの……。痛いって言ってるよ』 
 アンはベッドにリョウがいないこと気が付いた。 「リョウはどこなの?」
『リビング』 「それに、痛いって、病気なの?」 『病気じゃないけれど……』 
「ないけれど」 『とりあえず、来てよ』 「ええ、ちょっと待っていて」
 アンは脱いだナイトドレスを着て、リビングの方にそっと忍び足であるいていくと
啜り泣く声が聞えてきて足の歩みを止めた。 『ねえ、どうしたの?』 ピコが囁く。
「う、うん……」 アンの抱いていた違和感が思い起こされていた。 『はやくう』
「え、ええ……」 そっとリビングを覗くとリョウは椅子に座って膝に蹲るような
格好で泣いていた。アンはリョウがレッドゲートを潜る際は必ず見送りに行って
いた。自分がリョウのホームになり、彼がアンのホームになることでうまく事が
廻っているものと信じていた。戦場がどういうものかアンは知らないことが辛くて
堪らなくなる。 (わたしの胸で泣き言をこぼしてもいいのに……。ほんとうに、
そうなのだろうか。わたしはリョウの哀しみを持て余すばかり逃げ腰になって
いたから) 『ちがう』 「えっ?」 『そんな訳がない。アンの所為なんかじゃない』 
「ピコ……」 ピコが羽ばたいている下に手の平に載せるように差し出した。
「ごめんね、ピコ。わたし慰めてあげられない」 『どうしてぇ!』 「待っている。
リョウから言ってくれるまで」 『そんな、リョウの心が壊れちゃうよ!』
「ごめんね、ごめんね」 アンはピコを抱き寄せた。(病院で聞いたことがある。
リョウは兵士が罹る戦闘ノイローゼに陥っている。どうすれば……いいの)
冬の海・春の海 72 愛の調べ

リョウがアンと付き合う事において躊躇っていた理由はもうひとつあった。
八騎将軍・バルドー・ボランキオとの一騎打ちの後、時を置かずに果たしあい
を受けていた。同じ八騎将軍のひとりで紅一点のルシア・ライナノールだった。
単身敵地に乗り込んできての決闘を申し込んできたのだ。
 この件についてはアンに言うべからずとピコには固く口止めをしていた。

「よくきてくれた。礼を言うよ」 死神のような黒いケープを纏った戦士のそれは
粉々に切り裂かれて赫い甲冑を付け、ふたつの細身の剣を下段に交差して
構える姿を現した。 「おんななのか……!」 「だったらどうした。おまえもすぐに
ここの共同墓地の仲間入りだ。おんなに殺されて本望ではないかえ」
「な、なにぃ!」 『だ、だめだよ!挑発になんかのったりしちゃ!』
 合図の教会の鐘を待ち対峙した者たちは牽制し合っていていた。氷炎の
ライナノールは一呼吸を置いて左手に持っていた剣を地に突き立てた。
リョウは一瞬身構える。ライナノールはその左手を後ろへ廻すと腰まで届く長い
赤毛を根元から右手に構えた剣でバッサリと切り落とす。髪は風にのって散って
いく。 (ピコ、隠れていろ!) そして腰の布のスカートも取り除いてふたつの剣を掴んだ。
 剣技において同じ条件下であれば、その優劣は格上のものが必ず勝つものと
決まっている。虚をついた攻撃など通用はしないのだ。どのように精神を収斂し
必殺の一撃に賭けた者が勝機を掴むことはふたりには判りきっていた。遠くから
風に乗って鐘の音が響き渡ってきた。間合いを詰める沈黙の時が墓地に流れ
始めた。先に動いたのはライナノールだった。交互に剣撃を放ち相手に反撃の
手を封じ込めて倒す必殺剣。その手数を紙一重でかわしてリョウはしのいでいた。
「ちょこまか、ちょこまと、鼠が!我に死角などあろうかああっ!」
冬の海・春の海 74

  リョウはその怒声を合図に捨て身の技を仕掛ける。剣圧に押されたと
見せかけ腰を落として跳ねた。墓石の間を低く構えて烈しい速度で駆け回り
ライナノールを翻弄し始める。
(右か……、左……?ボランキオ、わたしを守ってくれ!) 徐々にライナノールの
間合いは詰められて、狩る者が狩られる側の恐怖を味合わされて額に粒状の汗を
彼女は噴き上げている。 「そこかああっ!われに死角など……!」
 リョウの両肩にライナノールの放った二刀氷炎斬が入っていた。肩の甲冑は
裂け鎖帷子も破き血をしぶかせた。ライナノールはリョウの咽喉笛を狙った
つもりだったが、彼女はカッ!と目を見開く。リョウの剣先はライナノールの
咽喉笛を突いていた。(剣を返して背中から、こやつごと貫いて我も死す!)
たがライナノールのリョウの後方に退いた腕は無念そうに顫えて剣を手放して
躰は背中から崩れ落ちたのだった。視界が暗転する刹那、彼女はボランキオが
死んでも流さなかった涙で初めて泣いてドルファンの青空を見ていた。ダナンに
居座った際にすら見上げたことのない空を見て氷炎のルシア・ライナノールの
命……と存念は潰えた。 
(おんなの腹部に柄を突いてさえいれば助けられたかもしれない。いや、おんなが
髪を切った時、死を俺は恐れていた……俺は、俺は……どうしようもなかった……!)
『ねえ、あれ、ロケットアタックだよね。そうだよね。なんかバカっぽいけど役に
立って……』 抜き取られた剣からはライナノールの血糊が滴り落ちていた。 
「ピコ、だ、だまれ!」 咽喉笛からは弱々しく血が噴き上がっている。
『ごめんなさい』 ピコはすぐに素直に謝っていた。 「すまん、怒鳴ったりして赦してくれ」 
『ごめんなさい、リョウ……』 ピコはリョウが助かって心から歓んだだけだ。
「もう、いい。ピコ」 『ごめんなさい……』 ピコはリョウにいつまでも謝っていた。
冬の海・春の海 75

  リョウがアンとの付き合いを始めたのにはそんな理由もあったが、本人は
ライナノールの死の影を払拭する為にアンに甘えたという感覚はなかった。
女性を殺めたという手触りが根を深く下ろしてしまって、ライナノールが捨て身で
立ちはだかっていたという死の恐怖をいつしか直視できなくなってきていた)
血に塗られた手でアンを抱きたくないという考えに固執してアンというやさしい
女性の傍にいることで、知らずのうちに危うい精神のバランスを保っていただけに
過ぎない。守れなかった存在を今度は守り抜いて見せるという存念で。ゆえに
アンの乳房に顔を埋めて泣くわけにはいかなかった。アンは恋人であり母では
ないという事実に、ひとり恐怖に泣く。リョウはまだ家には帰れない根無し草
だった。


 ソフィアはリョウとアンの一緒の姿を見てから、自分の記憶を手繰り寄せ、
ドルファン国会図書館に赴いて十年前の書籍、新聞の記述に目を通す。
劇団に所属していた女優や歌手、そして北海の海難事故にアンらしき女性の
名前を見つけるに至っていた。アンに抱いていた不安をソフィアは嫉妬から
暴こうとしていた。
「どうしたの?今日は何かおかしいわ」 「……」 「黙っていないで答えて」
 ロムロ坂を登った一角の史跡の野外円形劇場でソフィアはアンの歌のレッスンを
受けていた。アンは歌の中にソフィアの心の変化を見つけて、それを指摘して
いた。ソフィアはそのどろっとした嫉妬の心を暴かれたようで黙して語らない。
「だまっていたらわからないでしょう!」 アンは自分でも驚くような声を出した
ことでハッとする。 (リョウとの苛立ちをこの娘にぶつけようとしているわ)
そのひとことがソフィアの心を決定づける。リョウにアンのひみつを打ち明けようと。
そのふたりの様子を遠くの席からレズリーとロリィが見ていた。
冬の海・春の海 76

  アンの信じられないような強い言葉に、クロッキー帖に目を落としていた
レズリーは顔をあげる。 「いつもとかわらなくうまかったよね、ソフィア」
ロリィがレズリーを見ていった。 「そうかな。ちょっとムラ気があったような気が
したけどな」 「そうなの?」 「いや、ただなんとなくだから。わたしだって
そういう時があるのしってんだろ」 「いつもおんなじ貌をしてるからわかんない」
「もっと、笑えってか?」 「だね。レズリーずっと格好良くなるよ」 「はいはい」
「もう、ほんとなのに。でも、ソフィア重症なのかな?」
「アハハハ」 「もう、お姉ちゃんなんで笑うのよ!」 ロリィは頬をぷうっと
膨らました。 「リンダの気持ちが今やっとわかったよ。アハハハハ」
「もう、笑わないでったら」 「ごめん、ハハハハ」 「もう!」
 レズリーはひとしきり笑ってからコンテを置くと金髪を耳後ろに掻きあげた。 
「それより、気になったのはお姉さんの方だな。」 「お姉さん?」 「ああ、初めて
怒っているのを見たよ」 「王子さまとうまくいってないのかな」 レズリーはまた
ロリィの方を見て腹を抱えて笑い出していた。 「ねえ、ねえ、お姉ちゃん」
レズリーは笑い転げていた顔をあげた。
「わ、わたしに触らないで下さい!」 「ごめんなさい、つい……」
「ついなんなんですか!」 「……」 「だんまりですか」
「ごめんなさい。イライラしていたものだから」 「ひとのこと言えませんよね」
「そ、そうね。でも、ソフィアは十分にうまくなってるわ」 「アンみたいに」
「ううん、わたしよりきっとお上手よ。だからムラが気になったの」
「もうわたしのことはほっといて下さい!」 ソフィアは舞台を飛び降りて駆け出して行った。 
「ソフィア、あなたは舞台に立ちたかったのではなくって!そんなのじゃあ、通用しなくてよ!」 
アンは舞台を逃げ出したソフィアの背に向って叫んでいた。
冬の海・春の海 77

「おい!ソフィア!」 「レズリー、どうしてあなたがここにいるの!」
 駆け出していたソフィアがレズリーに呼び止められて立ち止まっていた。
「そんなことはどうでもいいよ。あんた、舞台に戻りな。そしてあのお姉さんに
謝りなよ」 ソフィアは顔を真っ赤に染めて俯いてしまう。 「戻りなよ、な」
 ロリィも立ち上がってレズリーの手を握って背に隠れてしまった。ソフィアは
顔をあげてレズリーをキッと睨んで 「わたしのことは、もう放っておいてよ!」と
言い放ち野外円形劇場を出て行ってしまった。
 ロリィはレズリーの背後ろから出るとレズリーに言った。 
「どうしたんだろうね、ソフィア」 「彼女の問題だから、わたしにはわかんないよ」
「う、うん。そうだよね」 ロリィにはよくわからなかった。あの時のソフィアの容貌は
怖かったけれどやさしく説得してくれて舞台のところにいるお姉さんのとこに戻して
くれると思っていたからだ。
「レズリーお姉ちゃん」 
「ん?」 「自分の問題ってなに?お家の事情とかなにか?」 「ちょっとちがうな」
「どこが」 ロリィはソフィアの家庭の事情は少なからず知っていた。もちろん
レズリーがひとりで暮らしていることも。それに悩みを抱えていることもなんとなく
わかっていた。
「ロリィ、おえかき好きか?」 「まっさらな画紙に筆で絵の具を下ろす時の感じを
思い出してごらん」 「最初に考えたのと違うものになっちゃうよ」 
「そうだろ。でも、それまでに何度も考えて直していくだろ」 「あっ」
「けれど、それはソフィアだけの絵なんだよ」 「ソフィア、苦しんでるんだね」
 レズリーは微笑みながらロリィを見下ろして大きな黄色い蝶を留めている頭の
髪をくしゃっと撫で回した。 「お姉ちゃん、やだあっ」と髪に手をあてる。
「ソフィアの絵、綺麗に描けたらいいね」 「そうだな、綺麗にな」
冬の海・春の海 78

  ソフィアとの諍いがあったその夜、アンはリョウに烈しく求められていた。アンは
ベッドにうつ伏せになって臀部を突き出す格好で何度目かの交合を受けて
いた。一旦は 「あしたにして」 と気のない返事をしていた。そんな時だって
ある。ソフィアのことだってあった、おんなの手管などではなかった。リョウは
それを無視して愛を仕掛けてくる。首筋に唇を這わせて愛を囁きながら耳朶を
そっと愛撫され吐息が洩れそうになる。アンは顔を烈しく振った。
「い、いいかげんにして!わたしは年中発情している訳じゃないのよ!」
(わたしはあなたのお家になりたい。そして、ずっと遠くまでいっしょに歩いて
行きたいのよ。それができるなら。あなたの声が聞きたい……いま、なにを
考えているの。教えてよ) 「ごめん、きみの気持ちも考えないで」 アンは食卓を
立つと後片付けを始めた。しかし、ベッドに入ってからアンは自分からリョウの
躰を求めていった。確かな未来が咽喉から手がでるほどに欲しいから、淫らな
おんなと思われることに怯えながらも愛を確かめたくなる。ほんとうは確かな
言葉が欲しい。愛の未来を約束する言葉が欲しい。(ふたりの光と影はいつ溶け合うの?)
 アンはリョウの顔にそっと手をふれる。 「リョウ、わたしは……ううん、なんでもない」 
「どうした?」 「なんでも」 アンは自分の未来が話せないことがもどかしかった。
三度目、いや四度目だろうか、リョウのバックからの烈しい抽送に喘ぐ。
この体位はどうしても馴染めなかった。躰を起こされて貫かれながらリョウの胸に
背中を預けて愛されるのは好きでも、ひくつくアヌスの粘膜をあけすけに
見られるのは堪らなく羞恥を煽る。そして、いまのリョウは犯すような烈しさで
衝きあげを繰り出してきてアンを情欲の焔で焙る。意識が朦朧としていた矢先、
そのひくつくアヌスにリョウの指が触れた。 「あうっ、そんなところはいやぁ……」
くたくたにされた躰からあがった声は拒絶にも思えない妙に間延びしたものだった。
冬の海・春の海 79

  掲げられた双臀の肉は割り開かれ、ひくつく蕾を指で弄られるとアンの
なだらかなスロープを描く裸身はぞくっと顫えるのだった。 「あううっ、や、やめて……」
 弾力のある閉じた蕾を親指で押し拡げるようにゆっくりと浅く挿入しながら、
咥え込まれているアンのヴァギナからぬぷっと滾るペニスを抜去した。
その満たされていた物の喪失感に 「んあぁああっ」 と声を顫わしていた。
「アンのアヌスが欲しい」 「いやぁあっ、なにをするの……」 言葉が噛み合っては
いなかった。アンはシーツに伏せていた惚けた貌を捻じってリョウを見た。
「アンのここが……」 アンは思いつめた瞳をしてシーツに這わしていた腕を
腰にあげて手首を交叉した。 「リョウ、縛って。我慢するから縛って!わたしの
リボンで縛ってちょうだい!」 (リョウ、あなたは何が欲しいの……?)
部屋の片隅でピコは胎児のように膝を抱くように丸まって肩を顫わせて泣いて
いた。
 リョウはアンの髪を結ったトゥルーレッドのリボンをしゅるるっと解いて、細い
手首を縛った。 「ああ……」 「嫌なのか」 「い、イヤじゃありません……」
「うそをつけ、イヤにきまっている」 静かな声だったが底のない悪夢を見た思い
だった。 「い、いいです……。お尻の穴……に、リョウのオチンチンを……
入れて……ああ……」 「するよ。アンのここを貰う」 
  リョウは愛液に濡れたペニスを右手で握って、左手で尻肉を掴んで開くと、
恐怖に怯え蠢いている蕾に赤黒くてかったグランスをあてがう。ゆっくりと呑み
込まれる様にグランスはアンのなかに埋められていった。アンは下唇を強く
噛んで痛みを堪えていた。アンはアヌスを押し拡げて満たしてゆく量感に涙を
溢れさせる。アンのリボンを解いた長い銀の髪は背中から散ってざわめき始めていた。
冬の海・春の海 80

「アン、口を開いて大きく息を吐くんだ」 アンのアヌスがリョウのグランスを呑み込んだ
ままで挿入は止まっていた。リョウはアンの躰に覆いかぶさるようにして
口をこじ開けて指を含ませた。アンはリョウの指を噛んで口に拡がった鉄の味に
顎のちからを緩める。 「そうだ、くちを開けて息を吐くんだ、アン」 アンはこくんと
頷いて指示に従って頃合を見て、リョウは腰を進めた。アヌスの締め付けは
弛緩していたが 「あうっ」 というアンの呻きは絶えず洩れていた。そしてリョウの
ペニスは根元までアンのアヌスへと埋まった。 
「アン、動くから」 こくんと頷いたのを見て、リョウはゆっくりとストロークを開始
すると 「うああっ……」と喚いてシーツにうなじを伸ばして貌を埋めた。灼熱の
鉄棒をお尻に捻じ込まれて引き裂かれるような衝撃が総身を貫き、口からは
臓腑が飛び出すような思いがする。クリトリスを弄られて快感を呼び起こそうと
されていても、あるのは痛みだけだった。アンの素肌に汗がどっと噴き出て、
性愛が破滅色に染まって行く。痛みに堪えきれず唾液を垂れ流していた口は
リョウの指を噛んで血を滴らせていた。その代償と引き換えにリョウのペニスは
傘を開いて直腸内に精液を射込ませていった。射精とともに直腸を掻き回すように
ペニスは痙攣していた。
 リョウのペニスが萎んでアンのアヌスから抜かれる。リョウはリボンを解きアンの
背中から退いてベッドに仰向けに転がると、ぐったりとしていたはずのアンが
黒猫のように起き上がって這うようにしてリョウの汚れたペニスを掴んでいた。
「リョウ、なぜこれをわたしのお尻に突っ込んだのよ!訳を言いなさい!」
アンは戸惑うばかりのリョウの柔らかい下腹にも爪を立てて指を埋める。
「あっああ……」 おんなのような声。 「さあ、言いなさい!」 アンは告白を
待つことなく自分からリョウへと迫った。 (破壊なんかわたしは欲しくないわ!)
冬の海・春の海 81

「お、俺はライナノールを手にかけた……」 リョウは貌を横に向けようとした。
「わたしを見なさい!リョウ!」 
 アンは臀部をリョウの顔に向ける格好で四つん這いになって右手でペニスを
握って、左手の指をリョウの下腹に喰い込ませていた。アンは銀の髪を振り
乱して首を捻じって赫い瞳で恫喝してリョウを見ていた。
「俺は女性をこの手に掛けたんだ、アン……」
 立て肘を付いて上体を起こしていたリョウの貌は歪みベッドへと沈む。
「で、でも、あれはエリータスの者が仕留めたと聞いたけれど」
「事実だ」 リョウの啜り泣く声が届いてきた。 「そ、それでなの!それで
わたしのお尻を犯したのね!」 リョウは左手でシーツを掻き寄せて握り
締めると右腕で顔を隠した。 
「わ、わからない……」 
 あの時の違和感はこれだったのかとアンは思っていた。やさしさと暴虐が
隣り合わせに居るような。アンは胸を顫えさせながら深く息を吸ってから、ゆっくりと
吐いた。 「言うのよ!リョウ!ちゃんとわたしに答えてちょうだい!」
吉と出るか凶と出るか、ここまでプライベートな部分に踏み込んでしまった以上
賭けてみるしかなかった。 「そ、それ以前にもこわいと思った……ことは
あった。だが、彼女は仇を追って単身乗り込んできたんだ」 アンの凄んでいた
貌がやや歪む。 「ライナノールは長い髪を切ってから闘いに挑んできた。
俺は死に場所を求めて流れてきたのに、ただ死から逃れて迷惑を掛けていただけだ。
死ぬことがこわかったんだああああッ!」
「掛けなさいよ!わたしはリョウを愛しているの!もっと声を聞かせて!もっと!」
 アンはリョウの脚を拡げて顔を跨ぐと太腿を微かに顫えさせながらも、手にしていた屹立
の根元に細い指を添え、口を開いて柔らかい貌で愛しいものを呑み込んでいった。
冬の海・春の海 82

リョウのざらついたやさしい手が柔らかい両太腿に添えられて撫で回しながら、
アンに腰を落とすように促す。アンの開かれたアヌスからはリョウの放った白濁
の残りがとろりとこぼれてきた。アンのそこは裂傷は起きていなかった。リョウは
撫で回していた手を双臀にあてると割り開き、残滓を掬いひくつき始めた爛れた
アヌスに舌が這うと収縮を見せて、元の形へと戻っていった。アンの 「んんっ」という
くぐもった嬌声が拡がった鼻腔から洩れる。イヤイヤをするようにしてアンは顔を
振ったためにリョウのグランスに歯が擦られ、快感が走ってアンの温かい口腔粘膜に
包まれていたペニスは小刻みに揺れた。
アンは舌先で尿道口をくすぐるようにして舐め廻して、ペニスを咽喉奥深くに
迎える。根元まで呑み込まれて、アンの鼻腔から洩れた熱い吐息が恥毛の生い茂る
下腹にそよぐ。唇と頬がキュッと窄まってアンの顔はストロークを始めた。
(熱い……あんなに射精したのに、また硬くなっている、すごいわ……)


「おめえらは引いていろ!くずどもの相手はオレさまがしてやる」
 勝敗は決し敵将が一騎打ちを申し出てきた。迅雷のスパン・コーキルネィファは功を焦り、
これにより還る場所を無くしてしまった。 「受けよう」 兵が彼らを囲むように環を作った。
リョウは中段の構えを低く取ってロケットアタックの態勢で待つ。
(やつも二刀を使うのか……しかも、まだこども) 「こないなら、こちらから
行かせて貰うぜ、犬っころよ!」 両腕の甲冑に剣を据えていた。コーキルネィファ
は腕を交差させて駆けて来た。 (はやい!) 『リョウ!右腕のはからくり!からくりだよ!』
「くそっ!」 リョウが悔しく吐く。 コーキルネィファは間合いを詰めて横に跳ね、左腕の
からくりから帯電加工を施したニードルでリョウの脚を封じた。直撃は免れたが数本で
十分だった。
冬の海・春の海 83

  アンはリョウのペニスを吐き出していた。 「ひとつになりたい……」 そう言うのが
やっとなほどに声は擦れ躰は重かった。 「すまない」 「う、ううん……」
アンは歓びを感じて四つん這いになって前へ躰を動かして顫える腿で膝立ちに
なって起き上がり、カタチの綺麗なあごをクイッと引くとペニスに白魚のような指を
絡めてゆっくりと腰を下ろしていった。太腿が顫える。アンの躰には仰け反るほどの
快美が総身を貫いて長い睫毛をも顫えわしてはいたが、あごをグッと引いたまま肉との
繋がりを朱にけぶる瞳で凝視していた。躰はくたくたなのにいつになく積極的にアンは
リョウのペニスを求めていった。悦びが拡がってリョウへの蟠りが霧散した。アンは躰を
前屈みにして開いたリョウの太腿に手を付いて腰を振って行く。まるで踊るように烈しく、
貌も揺れて銀髪が乱れて淫らに舞う。
アンは躰を弓状に反り返らせると後ろに手を付いて、リョウはアンの細く白い手を力
いっぱいに握り締める。リョウの脚の動きによって太腿の上に載っていたアンの
脚は開いていった。アンのヴァギナはリョウのペニスをしっかりと締まって声にならない
喚きがあがる。 (アン!俺はきみをもう離さないから!)

「俺は死なない!絶対に生きて還ってやる!」 
  コーキルネィファが左腕の剣を抜き必殺技のスパークリングニードルを
仕掛けてきた。動きの封じられたリョウは剣を上段に構え、刃先を敵に向け
舞桜斬の形に入ろうとしたとき、リョウの部下たちが彼の盾となって敵の前に立ちふさがる。
「よせえええっ!退くんだ!」 「隊長!またいっしょに飲みましょうや!」
「お頭、また奢って下さいよ!」 「やつに必殺剣の形なんか見せてやるこたあ
ねえですぜ!」 烈火の如くに怒ったコーキルネィファが駆けて来た。
「シャアアアアアアアアアアッ!どけええッ!犬っころどもめがあああッ!」
冬の海・春の海 84

「ねえ、隊長?」 「なんだ」 「ほれ、あの娘。また来てますぜ。隊長のスケなんですかい?」 
「ま、そんなもんだ……」 リョウはアンに顔を合わさないようにして
真っ赤になる。 「頭、スケなんかじゃなくて愛しの君ですよねぇ」 「あほ、愛しの
君っつう柄かよ!た、隊長のことじゃないっすよ」 「ねえ、隊長!ほれ!手を
振ってさしあげなさいよ!」 リョウの顔を無理やり掴んで横を向かせて、腕を
掴んで手を振らせる。 「おい、いいかげんにしろ!こら!」
「か、かわいい〜!」 アンはレッドゲートの見送りに来ていたが、この様子を
眺めていて右手を口にあてて、くすくすっと笑っていた。そして小さくリョウに手を
振る。 「あっ、俺に手を振ってくれた」 「あほ!隊長に決まっているだろが!」
「そうか?」 「そうに決まってんだろ?」 「お頭、あの娘は誰です?」 「ん」
「ほれ、あそこ。学園の生徒じゃないっすか!」 「二股掛けているんすか!」
 リョウは部下に言われた方を向くとそこにはソフィアがいた。 「あの娘は俺が
ここに着いた頃、チンピラに絡まれた時に助けたんだ」 「で」 「で、ってなんだ」 
「名前に決まってるでしょうが!名前!」 「なまえ!」 「なまえ!」 「なまえ!」 
合唱になっていた。 「いや、名前は聞いていないんだ」 
「へ〜っ」 「ほ〜う」 「ふう〜ん」 「ばか、ほんとうだ!」 
「だれが、そんな戯言を信じると思うんすか!」 
大勢の部下が隊長の首を絞めていた。本気で……。


「隊長、正々堂々とか卑怯とか関係ないんすよ!俺たちゃあ傭兵なんだ!」
肉と骨の砕ける音が迫ってくる。 「お頭、還ったら、かわいい娘っ子、紹介して
くださいよ」 「ああ、きっとだ。約束だ!だから」 「きっとで……すよ、お頭……」
部下の躰が目の前で弾けた。
冬の海・春の海 85 聖夜

  リョウは部下の血の飛沫を受けても構えを崩さずに目をカッと見開いていた。
コーキルネィファのブラッディアーマーは血を吸った赫で現れた。部下が崩れた
瞬間にリョウは必殺剣を仕掛けて踏み込んでいった。
(この痺れた脚、動かしてみせる!きっとだ!)
「でぃあぁあああッ!舞桜斬んんんんんんんんんっ!」
コーキルネィファは跳び上がる暇もなくリョウの剣が貫いていた。テラ河の戦い
はドルファン側の勝利で終わった。残った兵を率いてレッドゲートをリョウは
生きて潜り、出迎え駆けて来たアンを受け止め両手で強く抱きしめた。


 東洋人の男の活躍ぶりは目覚しく二年目にしてドルファン城の聖夜の宴の
招待を正式に受けていた。当初は騒がしいところは苦手だからという理由で、
丁重に断わりを入れようかと思案していた。しかし、ここまで生きて勝ち抜いて
これたのは部下たちの犠牲にあったことに、小隊の代表として出席を決めていた。
そして、アンという女性が傍にいてくれた感謝も込めて。
 アンも騒がしいところは嫌いだったからリョウの頼みでも素直に首を縦には
振らなかった。アンは無抵抗というイメージによく見られていたが、それは彼女の
もつしなやかさがそうさせていただけで、決して芯がないというものではない。
「ねえ、ふたりでいっしょに過しましょう」 「ダメ」 「えっ?」 「だからダメ」
「えっ」 「だめだめだめだめだめ。わかった」 「もう、ピコみたい」
『なんで、わたしなのよう!』 「あっ、お買い物してこなくちゃ」 『ああッ!アン!』
「俺もいくよ」 「う、うん。ピコも行く?」 『い〜やっ!』
「ごめんね」 『知らないッ!』 「アン、ピコは俺たちに遠慮してふたりで行って
こいっていってるのさ」 アンが拝むようにして手を合わせていた顔がパッと
明るくなる。 『そんなこといってなぁあ〜いッ!』 「まあいいや、アン出かけよう」
「えっ、ええ……」 

『ああん、わたしも行くんだから!』
冬の海・春の海 86

少しずつ時を重ねる。歳を取るのではなく、歳を重ねてゆく。アンはいつまでも
続いて欲しいと願う。これがかりそめの時に許された、愛であっても手放したくはない。
また時計の砂がサラサラと細く落ちてゆくイメージが拡がる。
「いい服なかったね」とアンがいった。「なんか嬉しそうだな」 リョウに買い込んだ
食材を持ってもらって、彼の腕にしがみ付いて躰を寄せる。 「残念だなあ。アンの
イブニングドレス見れなくて」 「でも、ドレープのクリアアクアのナイトドレスを
買ったわ」 『ひらひら。ひらひら。綺麗だね』 「ねぇ」
 リョウはアンとピコが喋っているのを見て顔をくしゃくしゃにする。
「ねえ、どうしたの?」 『ねえねえ』 「アンはみずいろが好きなんだなあって」
『うそ』 ピコとリョウを交互にアンは見た。 「うそなの……」 「ご、ごめん」
「言葉、呑み込むのよくない」 『よくないよくない』
『俺は仲間に守られてアンと一緒にこうしていられる。だから隊の代表として
きみにも感謝を込めて行きたかったんだ」
 アンはリョウの顔を見て血の付いた手できつく抱きしめられた日を思い出していた。
リョウは笑いながら「いや、中身はダンスパーティみたいなもんだから」
『そうそう、たいしたことないよ』 「おまえが言うな」とリョウはピコにいう。
 アンがきつくリョウの腕を握り締めていた。 
「ごめんなさい。そして、ありがとう」 「いいよ。そのかわり」 「そのかわり?
え、えっち」 「俺、なにも言ってないぞ」 『べたべたべたべた!』
「ピコ!」 ふたりは声を揃えてピコを叱っていた。家に帰ると扉のところに衣装
ケースが起れていた。そこにはカードが挟まれており、メネシスのメッセージが
書かれていた。 「パーティ、行ってきな。それから、約束の物も入れといたから。
赤と緑は相性がよくないらしいけれど、わたしはいいと思うんだよ」
冬の海・春の海 87

  ドルファン城で聖夜に開かれる宴にリョウは純白のシルクのドレスを着た
アンをエスコートしてここに来ていた。城に入ってからはおどおどとしていたアン
だったがダンスになってからは水を得た魚のように生き生きとしていた。
 彼女の銀の髪はアップにされて、耳には金の大きなイアリングが揺れて煌く。
そして彼女の胸には、銀であしらわれたエメラルドの首飾りが輝いている。
アンの赫い瞳と胸に輝く緑の宝石の色彩のコントラストは見るものに眩暈にも
似た美しさを印象付けていた。そしてアンはこのダンスパーティを愉しんでいる
ことが、リョウには最高の贈り物だった。アンの微笑むエクボは世界一の宝石
だった。 「あなたのダンスを見るの初めて」 「で、どう」 「上手よ」
「師匠がよかったからね」 「師匠?」 「そう、あそこにいる女性」 
 踊りながら視線を送って軽くメッセニ中佐と踊っているクレアにお辞儀をする。
「綺麗なひと」 「そうかな」 「そうよ。なら遠慮いらないわね」 「おいおい」
 アンは芸事らに秀でているようで、リョウを驚かす。 
「こわがることなんてない。心でリズムを掴んで、わたしのステップに着いて
来て。そしたら……」 リョウはアンに顔を寄せる。 「そしたら?」
「ご褒美あげるから!」 そう言い放ってアンはふふふっと笑っている。 「よし!」
 アンのステップに追いつくため武術の鍛錬の要領でリズムを掴み始める。
「そう、あなたって優等生ね!簡単に諦めたりしちゃダメなんだから」
 遠い昔に誰かから聞いた言葉を東洋から渡ってきた傭兵のリョウ、今は最愛の
人に向ってやさしく微笑んでいる。エクボのかわいらしいアンがリョウと踊って
生きていた。リョウはアンの笑顔に魅了され、煌くように潤っている赫い瞳に魂を
奪われそうなくらいに釘付けになる。
冬の海・春の海 88

「その調子よ。ダンスは相手の瞳を見てするの。少しぐらいヘタでも気にしないの」 
「その言い方、なんか気になるよ」
「ごめんあそばせ」 「リンダみたいだ」
 シンプルなやさしい気持ちが深く拡がって、笑いがふたりの躰を温かく包み込む。
「だったら、今度はわたしをリードしてみてよ。あなたなら出来るわ」 
 あなた、アンのなかでは特別な意味を持って響いていた。指の先、爪の先までも。
アンは踊りながら知らず知らずのうちに唄を口ずさんでいた。昔に流行った歌で
今は誰も唄わなくなってしまった歌をやさしく口に載せて。
 一組のカップルが脚を止めて、またひとり、またひとりとアンの声に耳をすましていた。
優雅な姿とその所作、そして透き通るような美声に。バンドの楽士たちもアンの声に
気が付いて、リーダーの合図で曲をアンが口ずさんでいたものにゆるやかに変えていった。
 リョウは周りの変化に気が付いて、アンの耳元に唇を寄せる。リョウの突然の行動に
アンは耳朶を赧に染め上げる。 「アン、なんか周りが変なんだよ」
「えっ、あっ」 「ほら、みんなこっちを見ているよ」
「伴奏曲も変わって……い、いやだぁ……!」 アンの白い顔は面白いくらいに
みるみる瞳の色に変っていった。 「ほら、アン。羞ずかしがらずに顔をあげて」
「もう、リョウったら」 「みんなも踊り始めた。僕らも踊り続けよう。ねっ」
 アンはリョウのやさしくて心強い響きに遠い昔を想う。
「はい」 小気味よいアンの返事がリョウを嬉しくさせる。やがて曲が終わった頃に
一人が拍手をした。また一人、一人と拍手の環は拡がっていってふたりを祝福
するかのように全員が喝采していた。
 アンはまた貌を真っ赤にして俯いてしまう。当初はまんざらでもなかったリョウも
なかなか拍手が鳴り止まず頭を掻いていっしょになって照れていた。
「ねえ、リョウ」 「なに?」 「ご褒美よ」 「えっ!」
 アンは顔をあげて首に腕を絡ませてリョウに口吻をする。もちろん拍手は暫らくは
鳴り止まなかった。そして拍手が嘘のように鎮まり厳かな空気が空間を支配する。
ひとりの女性が恋人たちに近づいて来た。
冬の海・春の海 89

「アン、王女がこちらへ歩いて来る」 「王女さまが……」 「ああ……」
真っ白なドレスに真紅のマントを纏しプリシラ王女が静々と歩いてふたりの前に
立った。その真紅のマントには金糸で刺繍の飾りが施されていた。
「面をあげになってください。そう固くならないで」 「は、はい」 アンとリョウは声を
揃えた。麗々しさなどまったくなく、むしろプリシラの容貌と所作がそれさえも
凌駕していた。 
(どこかで見たような……思い出せない) 『どうしたの?』 (ん、なんでもない)
「良いメロディですね。わたしはこんな素晴らしい歌があるとは存知ません
でした。とても愉しませてもらいましたよ」
『歌詞も教えてあげようか!』 (黙ってろ、ピコ) 『は〜い』 
 そういうとピコはプリシラの顔の前を羽ばたいてくるくる廻り出した。ピコの行動に
アンも驚き出した。 (ばか、よせって) リョウが叱る。
「いかがされましたか?」 「あまりにもお綺麗で……歌をお褒めいただき、
ありがとうございます。王女さま」 アンはいつになく緊張しながら深く頭を垂れる。
 プリシラ王女もアンに合わせるようにして頭を下げてアンの耳元で囁く。
「あなたの方がずっと綺麗ですよ。あなたの祈り、殿方に届きますよう」
 アンはびっくりしてプリシラ・ドルファンの顔を見上げていた。プリシラはアンを
応援するかのように微笑んでいる。
 プリシラが戻られると、さっきまでのしっとりとしていたナンバーから
ブルーグラス調の軽快な曲調に変っていた。
「ねえ、プリシラ王女はアンに何を言っていたの?」

「ひ・み・つ」

 ホールには恋人たちの笑い声があがる。 「なに、聞こえないよ」
「さあ、踊りましょうですって!」 ホールにはいつまでも恋人たちの笑い声が
響き渡っていた。
冬の海・春の海 90

   ドルファン城での喧騒がうそのように静まり返った街並みをふたりで歩いていた。
馬車で帰るつもりだったはずか、石畳をゆっくりと歩いている。リョウにアンは
おねだりをしたのだった。
「どうしたの」
「雪……」
 アンが赫いケープのフードを手で取ると、手を差し出して軽く握っていた手を
ゆっくりと開いていった。アンの手の平に載るか載らないかのうちに儚く消えていく
雪たち。 「どうした?」 「ううん」 「言葉を呑むの良くないんじゃなかった」
「そうだね。でも、ひみつ」 
「おんなの特権?」 
「あなたを愛していても安売りはしないから」 とアンはふふふっと微笑む。街灯に
照らされた蒼い夜に恋人たちへやさしく贈り物が天上から舞い降りる。アンは顔を
天上に向けて閉じた瞳をゆっくりと開いていった。頬にのった雪がゆっくりと溶けて
涙に変る。
リョウはアンをヤングのマント、今は紛れも無い自分のマントにやさしくアンの躰を
包み込んだ。
「あたたかい」 
「俺にとってもアンは陽だまり」
「ほんと?」 「もちろん」
「仔猫が躰を伸ばしてお昼ねしているみたいな」 「俺は仔猫なの」
「騎士さまはかわいいからなの」 「俺のどこがかわいいの?」 
「さあ、どこかしらね。ずっと……ずうっとあなたの傍でこうしていたい。ずっと」 
ふたりは雪降る街を歩く。あの歌を男に抱かれながらスキャットでやさしく
口ずさみ……ルルル〜ルルルルル〜ラルルルル〜♪ 
冬の海・春の海 91

「ルルル〜♪」 
  寄り添ってリョウに抱かれながらやさしく口ずさみ、アンは生きていると実感して
神に感謝しますと祈りを込めて唄う。 (メネシス、怒るかな……) 祈りを込めて。
「さっきアンは泣いていたね」 「わかりましたか」
「うん……なにか、そうどこか遠くにいってしまいそうで、不安だった」
「ごめんなさい」
 男は遠き異国の地でふたたび安らぎにめぐり逢い、女は時を越えてもういちど
愛に生きていた。
「この素晴らしいドルファンであなたとともに春を迎えたい」
 その言葉はアンの祈り。そのやさしい響きは男の心に流れ込んでくる。
「いつか、いつかきっと故郷の春の華をアンに見せてあげたい」
「フラワーガーデンにもないものなのね」 「ああ、小さな花たちが巨木に咲き誇っている」
「どんな彩なのかしら?」 「アンのあの時の素肌の色に似ている」
 アンは彼の肩に預けていた顔をあげてじっと見る。
「う、嘘じゃないよ」 「……えっち」 「うそじゃないぞ」 
「ふふっ、わかっています。見たいな。いっしょに見たいな」 
 アンはリョウにまた顔を寄せる。
「きっと見れるさ。きっと連れて行くから」

 家の中に入って扉を閉めるなり、リョウはアンを抱きしめて求め肌を重ねようとした。
「ま、まって。火を起こさないと凍えちゃうわ」 「俺が温かくするから」
「もう、だめだってば。ダメっていってるんじゃないんだから」
「だめでダメじゃない?」 「そ、そう」 
アンは顔を捻じって、リョウは鼻をアンに擦り合わせて笑う。
「ベッドへ行こう。抱いていってあげるよ」 「我慢できない。抱いてほしい」
 リョウはマッチを擦って暖炉に投げ、アンと口吻を愉しむ。ふたりはお互いの柔らかい
唇の感触に燃え上がり、薄暗かった部屋も温かい彩りに染まっていった。
冬の海・春の海 92

  アンは躰を起こして窓から洩れてくる明りを眺めながら、囁くような声で春を
待ちわびる歌を口ずさんでいる。ベッドで寝ていたリョウは心地よい眠りの
いざないを振り切って薄目を開く。窓から洩れてくる蒼く儚いような明りのシャワー
を浴びるアンの裸身は女神のように綺麗で、その美声は美に神秘性をもたらしていた。
「ごめんなさい、起こしたのね」 「アン、とても綺麗だよ」 「ありがとう」
 アンはリョウの方に目をやると、彼は腕枕をして彼女を見つめていた。
「ごめん」 「あら、どうしてあなたが謝るの?」 「だって、きれいだなんて言葉しか
思いつかない」 「ううん、わたしは十分に嬉しくってよ」
 アンは躰を傾けると両手を返してベッドに手をついてリョウへ感謝の口吻をした。
彼女の銀の長い、今は海のように蒼くみえる髪が流れるようにリョウの躰に触れてくる。
ゆっくりとアンは顔をあげる。唇から唾液が細い糸を引いていた。 「あっ」
「そうはいきませんよ」 リョウは手を廻してアンの頭を掴んでまた愛そうとしていた。
「ふう。じゃあ、アンの歌を子守り唄にして寝ようかな」 少し拗ねた感じ。
「じゃあ、寝ていればよかったのに」 他意はなく。 「もったいないと思ったのさ」
 今度はリョウが起き上がって、アンの濡れているローズピンクの唇を奪う。
「あっ」という小さな驚きの声。何度もキスをしたのに、どうしてこんな声が出てしまうのか
アンは不思議に思う。マシュマロのように柔らかく、ぷりっとした唇の感触。リョウが
唇を離すと、アンは指でそっと自分の唇に指をあてる。濃密な時間が過ぎていた。
ドルファンにいて過した日々。速いようであり、ゆっくりと流れたような甘い時。
いろんなことに驚いていた。 『わたしのこと呼んだ』 我慢できなくなったピコが姿を
あらわした。そう、ピコの存在も驚いたことのひとつ。

 自分はリョウとの恋愛ゲームに勝っているんだろうかと考える。男の場合とは少し
違ってカードの手の内を曝け出しての安売りはしたくない。飽きられるのはいやだから。
そんな駆け引きを愉しんでいた遥かな記憶がアンのなかに朧に浮んでいた。
100マデガンバレ
冬の海・春の海 93

「ピコ、呼んでなんかいないぞ」 リョウはそういってアンの方を笑いながら見る。
「わたしも呼んでいないわ」 しまったと思ったふたり。ピコが拗ねて暴れるのかと
思っていたら、しょんぼりとしてしまって男と女は戸惑ってしまった。
 アンは右手をピコに差し出すと、やさしい声で 「おいで」 と子供をあやすように
呼んで誘うとピコはアンの手に纏わり付いて母親にアンの細いしなやかな指へと
しがみつく。
「ねえ、ピコ。いっしょに唄おうよ」 『うん!』 ピコは嬉しそうに笑う。
「ちょっと、まて」 「どうしたの?」
「こいつ、なりは妖精だけど似ても似つかない声なんだよ」
「ほんとなの?」 『う、うん……』 ピコがまたしょんぼりとする。
「でも、気にしないの。心を込めて唄えばいいのよ」 『そ、そうだよね!』
「ちがあううっ!それはぜぇったいにちがうぞ、アン」 
さっきまでピコがしょんぼりしていて心配していたことをリョウはごっそりと忘れていた。 
「なによ、いきなり」 『そ、そうよ。失礼しちゃうんだから』
「おまえ、初めはぎょぇ―――っ!だったくせに、まともに発声したと思ったら今度は音を
外しまくりだったじゃないか!」 
「いいじゃない、それくらい。ねっ、ピコ」 意外なアンの反応にピンチ! 『うん!そうだよね』
「そんなわけないだろ。カミツレで訓練している傍で歌われる身にもなってくれっつーの」
 今度はリョウが拗ねてしまう。リョウとピコの母親になったアンはたいへん。 
「ねっ、いいじゃない。ピコ、唄ってもいいから」
『あんたをずうーっと慰めてきたのはいったい誰なのよ!』 ピコはアンの手を離れて
リョウの顔の周りを羽ばたいてぐるりと廻ってからアンの丸い肩にちょこんととまる。
「そうだよね」 
「ねーっ」 『ねーっ』 
  アンとピコは声を揃えてリョウへとにっと笑った。女ふたりに共同戦線を張られて
しまったのではリョウに勝ち目は無い。
ありがとう、励みになります。
冬の海・春の海 94

「それじゃあ、おじゃまな俺は、どうしょうかなあ……」 「リョウ」 心配そうなアンを
よそにおもむろにベッドから躰を起こして立て掛けている剣の方へ歩いて行く。
 愛し合ったあとだから無論……はだか。それもまだ膨らみを有して垂れ下がって、
ベッドから起き上がって歩いている間、ぷらぷらと揺れているのを目にする。
アンはそれを見て小さく 「あっ」 という声をあげる。 
『なんか付けて行きなさいよ!』 
 アンの容貌はみるみる桜色に彩られ、けれども薄暗がりではその綺麗な
羞じらいの貌は見られないが……アンは躰の奥がまたジュン!と濡れ始めたのを感じていた。

 リョウは剣の傍へ立つと背伸びをし、その上の棚へと手を伸ばした。アンは
リョウがなにを取ろうとしているのかよりも股間から垂れ下がっている黒く太い
影の方が気になっていた。アンはシーツについていた手を唇にあてる。
(だんだん淫らになっていくみたい。でも、好きなんだからいいよね)
リョウは細長い木箱をとってくるっと振り返る。アンが今度はペニスではなく、
リョウの手にした細い木箱が気になっていた。部屋を掃除する時でもアンに触れ
させようとしなかった物だからだ。それをもってベッド近くの椅子にリョウは座ると
箱を丁寧に開ける。そこからあらわれたのは弦楽器だった。
 その外観は長い棹状の木の下に小さな筒のようなものが付いている。細くて
しなやかな感じがする。まるで女性の躰みたいな気がした。リョウは二本の弦に
松脂(まつやに)を適量塗りつけると、恋人を抱くようにして弓をあてた。
「チェロみたい」 
 アンはリョウの所作を興味深く眺めていた。
『二胡っていうの』 ピコはアンの肩から羽ばたいて顔の傍にいく。 「ニコ……?」 
『うん、ニコ。リョウが弾くとね、ぎょえ―――っ!ぎぎぎぎぎっ!ってうるさいの』
 ピコは自分の手で首を絞めておどける。
「ま、まさか……!」 『へっへへへ』 
「もう、ピコったら!」 ピコがにんまりと笑う。
冬の海・春の海 95

  その弦楽器はリョウが愛した女性がもっていたもの。リョウが二本の弦に
あてた弓を曳くと深みのある物悲しい音色が奏でられる。アンはリョウの弦を押さえ
つけているしなやかな指使いも見ていた。
(二本の弦だけで、こんな深みのある心を揺さぶる音色を奏でるなんて……)
 ただ物悲しいというのとはちがって、悠久の時を経て歴史がなにかを語りかけてくるような
音色にアンは聞き入っていた。
『ネッ!』 ピコが悪戯っぽくアンに同意を求める。 「もう、ピコったら」
『へっへへへ。でもね、最初はそうだったの。師匠は……見よう見まねでね、
武術の鍛錬よりも厳しかったみたい』
「すごいのね」
『だって、あの楽器はリョウが……ご、ごめんなさい、アン』
「ううん、いいの。いいのよ」 
 アンは素直な心持でその言葉がいえた。はっきりとではなかったけれど、アン
にはリョウの気持ちが何とはなしに判っていた。だれかと語り合っている。
そう、誰か大切な人と祈りを込めて語り合っている。それは自分ではなかったけれど、
それでもいいと思っている自分がいた。
『どうしたの、アン?』 
 アンの潤んだ赫い瞳を見てピコは心配していた。アンは手の甲で顔を拭った。
それは哀しみの涙ではなかったから、リョウに見られてもよいとは思ったけれど
やはり羞ずかしくてはにかんでみせた。
「アン、唄って」 リョウがアンに呼びかける。
「わたしでいいのかな……」
「俺にはきみしかいない」 リョウのやさしい呼びかけにアンの瞳はまた潤んだ。
481丹下 桜継:03/04/17 13:54 ID:ASOEs9eo
ときめきメモリアル2 Substories4 Violent Desire スペシャル Fourteen Riders 1

半ヘルを被りやがりHONDAの原チャ、CREA SCOOPY、パープルシーガルブルー色に乗りやがりながら走ってやがる雌がいやがる。
みんな久しぶりーーーっっっ!!!みんなのアイドル寿美幸だよーーーっっっ!!! と思ってやがンのはテメーだけだ。
今雑誌社で情報誌のライターして働いてるんだ。
でさあ、今乗ってるバイク バイクじゃなくて自転車でやがる。 なんだけど、お金貯めてやーーーーっと買ったんだあ。
名前はグレイちゃん号、ボタンを押すとメッセージとかあ、キャラクターとかあ、あとお、誕生日とか日付まで出るんだあ!!!すーーーごいよねえ!!!!
・・・ビーッビーーッ!!
寿「んーーー?あ゛ーー!!!!!」
ドオオンッ!!グシャ・・・ 考え事をしやがった所為でセンターラインを超えやがって4輪車と正面衝突しちまいやがった。
寿「にゃーー!!!」
ゴロオンゴロオオン・・・
寿「はーにゃーー・・・」
こんな事しやがっても軽傷で済みやがるのが寿のいいトコだ。
4輪から運転手が出てきやがる。
雄「ワレなにさらしてくれとンねんゴルァ!!!!」
寿「ごめんなさい・・・」
雄「免許はゴルァ?・・・」
真性馬鹿の寿には原付免許を取得しやがる知力もありやがらねえ。
寿「持ってませえん・・・」
雄「無免かゴルァ?」
寿「はい・・・」
雄「面倒なコトしてくれとったらアカンぞゴルァ・・・」
流石寿でやがる。
482音難 尤一:03/04/17 14:13 ID:???
荒らしは、禁止ですYO!!神様以上の丹下と幸田は、荒らしに必要さ!!
俺、丹下と幸田さんにあこがれてここに来ました!!初心者です!!!!!
483音難 尤一:03/04/17 14:13 ID:???
荒らしは、禁止ですYO!!神様以上の丹下と幸田は、荒らしに必要さ!!
俺、丹下と幸田さんにあこがれてここに来ました!!初心者です!!!!!
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俺、丹下と幸田さんにあこがれてここに来ました!!初心者です!!!!!
484音難 尤一:03/04/17 14:16 ID:???
がんがん書いて欲しいYO!がんがん書いて欲しいYO!がんがん書いて欲しいYO!
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485山崎渉:03/04/17 14:55 ID:???
(^^)
音難 尤一の正体は丹下 桜継=幸田大助に確定しますた!
487音難 尤一:03/04/17 15:44 ID:???
>>486 全然違う
冬の海・春の海 96

「ピコ、ほんとうに唄うのか?」 『えぇ―――っ!なんでよう!』
「だって、ぎょえ―――っだろ」
「いっしょに唄おう、ねっ。リョウ、いいでしょ」 すかさずアンが頼み込む。
『アンがいうならしょうがないか』 「それは俺のせりふだ」
 
 夢のようなひと時が終わって、ピコはすうっと姿を消した。アンは毛布を掴むと
ベッドを降りてリョウの座っている椅子へと歩いていった。
「どうしたの、アン?」 「だって、羞ずかしいから」 
 やはり裸で彼の前まで歩いて行くのは羞ずかしかった。囁くような小さな声で
アンは答える。脚を拡げているリョウの股間に跪いて、海からあらわれた人魚姫
のように裸身をさらして顔を近づけていった。リョウの股間にアンの銀の髪の頭が
埋まってゆく。細い指が絡まりアンの唇がグランスへとかぶさる。
「温かいよ、アン……」 (今度はわたしがリョウを楽器にみたててあげるから)
 アンの口腔に鈴口から溢れた液体の味が拡がって、舌先がそれをさらに
味わおうとしてなぞっている。 「ああ……気持ちいいよ」 アンの頭をリョウは
やさしく撫でつける。少しだけグランスに歯をあててみると、リョウは躰を
仰け反らせて腰を突き出して口腔を衝きあげる。不意の衝撃に嘔吐感が込み上げて
きたけれど、リョウの躰が小刻みに顫えていたことで懸命に堪えて奉仕を
続けていた。
 今迄にもリョウに何度かやってみはいたけれど口腔深くに呑み込んで
咥えるというのは、アンには正直あまり馴染まなかった。アナルエントリーの時は
無我夢中でやっていたからで、前戯としてやる時も深くは呑み込んではいない。

そう……嘔吐感が……どうしても……枷となっていたから。
冬の海・春の海 97

  しかし今はとてもしてあげたいという衝動に駆られ、深く愛してあげたいと
思っていた。ひくつくペニスに舌をねっとりと絡ませながら穏やかな貌で
ゆっくりと顔を沈めていった。
 頬をくすぐる長い髪をうるさそうに耳後ろへ掻きあげてから、ふぐりを揉み
しだき始め、唇は根元で締まり扱くようにして上下に揺れ出す。清楚にして
蒼白のアンの美貌に桜の花が咲き始めた。耳の上側の周囲を染め上げ、
中心部の白さを残しつつ花は頬へと移動する。以前のように眉間に深い
縦皺が刻まれて柳眉が吊り上がることもなく、柔らかい陶酔し切った表情が
浮んでいた。溢れる唾液が醸し出す「くちゅ、くちゃ」という淫らな音が、アンの
怜悧で清楚な容貌を淫らにさせていることに烈しくペニスが顫え出す。 
「ああっ……」 
 リョウの口からは少年のような声がこぼれ、アンの乳房はストロークだけで
揺れているわけでなく、自分がリョウを歔きさせているのだと思うと烈しく昂ぶって
鼓動が速くなっていくのだった。頬が窄まって魂をも奪われそうな快美が背筋を貫いた。
「アン、もういいから……もう……赦してくれ」
 リョウのアンを撫で付けていた手が所在無く置かれていたのを、アンの手が
上から触れた。それがなにを意味するのかリョウにわかった。 
「い、いいのかい……?」 
 鼻腔は拡がって熱い吐息が洩れ、こめかみは玉のような汗を噴き上げている。
それでもアンは閉じていた瞼を開いて羞ずかしさを堪えた瞳で上目遣いにリョウを見て
頷いていた。そしてアンのゆるやかなストロークにリョウの力が加わる。
後頭部をしっかりと押さえ込まれてピッチがあがり、一突きごとに口腔深くに
グランスが送り込まれる。 「んっ、ぐうっ……ぐふっ……」 と喚きとともにアンの
口腔を満たしていた唾液が流れてリョウの恥毛を濡らしていた。
冬の海・春の海 98

  やがて、アンの眉間はくしゃっとなって、眉が吊り上がり始める。ふぐりを揉み
しだいていた手もリョウの太腿に添えられてゆるく掴んでいたのが拳へと変る。
淫らになって奉仕していたアンの唇の締め付けは弛緩し、リョウの思うままに
寄り添って……エトランジェに連れられて果てる瞬間を愛の国で静かに備えて
待っている。浅黒いリョウの開かれた太腿の付け根に蒼白の素肌……今は桜色
に染まって、なだらかな曲線を描いて蹲り奉仕を続けるアンの背中に流れる銀の髪…
…その後頭部をがしっとリョウの両手で掴まれ、揺れるたびに淫らに
散ってゆく。窓から射す外の蒼白い微かなひかりに浮ぶアンはうつくしい。
銀髪から……いまはメタリックブルーに煌いていて、覗いたアンの耳のカタチが
リョウのペニスを血をどくんどくんと流れ込ませ硬く滾り、ついに椅子に座っていた
リョウの肉棒の傘がぐぐっと拡がって腰が跳ね上がっていった。
 覚悟していたこととはいえ、やはり嘔吐感が込み上げ閉じていた瞳の眦から
涙がどっと溢れ出る。裸身は汗が噴き出てしまいアンの美貌は朱を刷き、
はっきりとした縦皺が眉間に刻印された。膨張し続けたペニスを吐き出したのでは
今までのことが徒労に終わる。口腔の奥を叩くように吐き出されたおびただしい精液を
必死に飲み呑み込もうとするが、その量とリョウの手による後頭部の拘束がアンを
むせ返らせていた。 「ぐっ……んぐっ」 というくぐもった声がアンの膨らんだ鼻孔から
洩れる。いくら咽喉をごくんごくんと鳴らして呑み込んでも終わらないような気がしたら、
意識が遠のいて漂うような快美に包まれていた。
 気がついたらリョウの腰に載り腕のなかにいて口を吸われていた。失神していたのは
僅かな間だけだったが、彼の腕の中で眠りを醒まされたことが何故か嬉しい。リョウが
コップに注いだ水で口を漱ぐようにいっていたが、アンはリョウの顎に滴った残滓を指に
掬って口へと含んでいた。まだむせ返っているというのに。
冬の海・春の海 99

  まだ口腔に残っている残滓をアンは懸命に呑み込もうとしていたが、あごは
痺れて思うようにいかない。しかも躰が鉛のように重かった。リョウの手のひら
が頬を軽く叩く感触は伝わっては来るも、いまいち意識ははっきりとせずだらしなく
口を開けるだけだった。
 開いた口に杯をあてがわれ水を注ぎ込まれる。 「口を漱いで吐き出せ」
アンのあごから水がこぼれて、躰を濡らしていた。リョウに言われた通りに口を
何とか閉じて漱ぎ始めて、それをこくんこくんと飲み込んでしまったのだ。
アンはあごを掴まれて軽く顔を揺さぶられる。 「もういいから、吐き出せ」
「どうして。あなたがくれたものよ」 「ごめん」 「ううん、わたしが欲しいの」
 リョウは杯の水を口に含んで転がすとアンの唇に寄せて口移しに水を注いだ。
生温かいアンにとってはおいしい水が流れ込んできて、おいしそうに咽喉を鳴らした。 
「あなたがほしい」 「少し休もう」 「いや」 「どうして?」 「聞かないで……」
「ここで」 「ええ、ここで」 アンは床へだらりと垂らしていた腕をあげて手のひらで
リョウの太腿をなぞって重くなっている躰を起こし始め、アンとリョウは椅子で向かい合う
格好になって、リョウは椅子に浅く掛け腰をせり出した。立ち上がっていたアンはペニスに
そっと手を添えて濡れそぼる秘孔へあてがい、ゆっくりと腰を降ろし始める。アンは腰と背中を
しっかりと抱かれてはいたが、顔はぐらぐらと揺れていた。 「イヌホオズキ……」 「なにが」 
「わたしたちが初めて愛し合った日の誕生花。その花言葉はね……はあっ、ああ……」 
リョウの肩に触れていたアンの手が首に絡みついて 「真実なの……真実、リョウ」 「あいしてるよ」
「愛しています」女は唄う、男の二胡の囁きに載せ、愛の祈りを込めて。アンの声は人々を
魅了した。透き通った声の向こう側に祈りがあったからだ。


男の傍にいつまでも居れますようにと女は祈りを捧げる。
いよいよ100ですな
493丹下 桜継:03/04/18 10:01 ID:gpCTTXjM
Fourteen Riders 2

警察署に迎えに来られやがった後自宅で絞られてやがる。
オヤヂ寿「無免運転するとは、全く・・・どうしてお前はそんなに馬鹿なんだろうなゴルァ?」
寿「・・・」
婆寿「まあまあテメーそんなに怒らなくてもゴルァ・・・」
オヤヂ寿「お前に似たんだなゴルァ。」
婆寿「冗談ぬかしやがるな俺はここまで馬鹿じゃねーよゴルァ。」
オヤヂ寿「そりゃそうだ。はははははははは!!!!!!・・・」
婆寿「ははははははは!!!!・・・」
寿「ううーー・・・うわああああああああっっっ!!!!!・・・」
ダダダダダダ・・・グバン!!!・・・
自室にこもりやがる。できやがれば1生ひきこもりやがれ。
寿「パパもママもひどいよお・・・確かに美幸は馬鹿だけど・・・あんなに馬鹿にしなくても・・・
うわあああああああんっっっ!!!!!・・・もう死んじゃおうかなあ・・・」
ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィヒィィィィ・・・
寿「・・・なんだろ、この音?・・・」
俺「幸せになりてえでやがるか?」
寿「・・・?・・・丹下君?・・・うん・・・?」
俺「なら戦いやがれ。」
ライダーどもの資料とカードデッキをツラに投げつけてやる。
バシュゴチイッッッ!!!
寿「あたっ!」
俺「他のライダーどもを殺しやがれ。最後の1ぴきになりやがった時、誰にも馬鹿にされちまいなくなっちまうぜえ。」
寿「???」
・・・消えちゃった・・・
寿「??何コレ?」
住所録を見やがる。
寿「・・・らいだー・・・じゅうしょろく・・・美幸が知ってる人達が・・・」

・・・美幸・・・
494音難 尤一:03/04/18 10:25 ID:???
いらね
495音難 尤一:03/04/18 10:27 ID:???
丹下さんはこれからのギャルゲー板に必ず必要な方です。
頑張って下さい。
冬の海・春の海 100

  その後もアンは椅子で愛された。また濡れそぼってリョウをもとめ、今度は背中から
愛される。貌に噴出す粒状の汗に額と頬に絡みついてくる長いアンの髪。
背中を向かされてぐらぐらと揺れる鉛のように重い躰、アンのプラチナの煌きは
たゆたうと。躰は折れてアンの背は骨を浮かび上がらせる。
 リョウはアンの喘ぐ腹部に両手を廻して躰をやや起こし、まっすぐな背骨へ
下唇をあて舌を触れるか触れないかでゆっくりと這いあがってくる。アンの躰は顫える。
「あいしてる……愛してる……の」
 リョウの太腿は開かれて、それに載るアンの蒼白の太腿は割られて爛れた華を
あけすけに外気に晒されて身悶える。リョウの手がスッと伸びてきて肉の絆を弄られる。 
「ひぃーっ!はあっ……ああっ、あうううっ……」
 背骨から肩甲骨という翼の名残りへと移り、うなじへ、そして躰をグッと起こされて
厚い胸板に背中をあずける。リョウの口は耳朶にあった。

「アンのここを剃りたいんだ。ダメかな」

 リョウの指がぷくっと膨らんでいる花唇から、下腹の濡れて銀の彩りを濃くしている叢を撫で廻す。

「う、うそ……」

 アンのペニスを咥え込んでいるヴァギナがキュッと収縮した。

「本気だよ」

 アンは耳元で囁いているリョウへ貌を向けた。セックスに耽溺している容貌を
見られるのが羞ずかしくて頬を擦り付けるようにして。
「いやあっ……ゆるしてえ、かんにんしてください」

「アンのここに絵を描きたい」 アンの躰は痙攣していた。
冬の海・春の海 101

「タトゥー……なの?」 「そう、刺青」 「はあ、ああ……消えない……あううっ」
「心配しなくていいよ。数日で消えるから」
「き、消えるの……」 「そう、消えるから」
 アンは狂おしそうに背中を顫わした。 「ここと、ここにも絵を描きたい」
リョウはアンの恥丘から付け根近くの内腿を撫で付ける。 「あああ……」
「おねがいだから……たのむよ」 「いやぁ……消えないでぇ……」
「消えるよ、アン」 「いや、いや、いや……んあああっ」
 リョウの躰を嵌めこんだ腰を前後の揺さぶりから、イヤイヤをするように腰を
捻って動かす。アンは腰に腕を廻されて、ぐっと引き付けられて挿入感を
深められて、前屈みになって手と膝を床についていた。躰が重くて床に沈み
そうなアンの躰を引き戻され、腰を掲げられた。 「はぁあ、はぁあ、はあ……」
リョウがアンへと覆いかぶさって 「いいだろ、書いていいだろ、アン?」
 あごを床に載せるようにして熱い吐息を洩らし続けていたアンは貌を伏せて
額を擦り付けるように首を振り、万歳をするように伸びていた腕は引き戻されて
床を掻いていた。リョウの硬くなったペニスがアンを引き摺ってまた淫らに変貌
させる。 「いっ、いいッ!か、描いてぇ!どこにでも……好きにしてええッ!
あああ……んあぁあああああっ!」 熱情にゆだねた抽送にアンの唇からは
獣のような悦びの声があがり、豊満な乳房はゆっさゆっさと揺れ、それを
御するように揉みしだかれ腰を尻肉へ打ち付ける音が速くなっていって、
ふたり弾け跳んだ。「いいっ、いいから……描いて……ちょうだい……」 
汗にぬめる背にリョウの同じ火照る重みが降りてきて、アンの躰は弛緩し
床へと真直ぐに伸ばされ最後の衝きあげを受けて眠りへと落ちた。
冬の海・春の海 102 戯れ

  アンはひとりテーブルに置かれた茶色の小袋を眺めていた。それを人差し指で
小突いて溜息を吐く。 「もう……」 ピコがアンの肩にとまって真似をする。

「はい、これ」 「あら、またプレゼントなの。嬉しい」 アンはそういって袋の口を
結んだ赤い紐を解いて中を覗くと萌葱色の粉があった。 
「なに?お守りなの?」 「お守りなら、なかを見ちゃ効き目ないよ」 「そうよね」
「ねえ、昨日のこと覚えていないのか」 アンは最後の方は意識が朦朧として何を
口走っていたのか記憶が無かった。 「う、うん」 リョウが顔をくしゃっとした。
「じゃあ、もういいから」 アンはその手にしている茶色の小袋を後ろ手にさっと
隠す。 「ダメっ!何なのか話さないと返してあげないから」 「い、いま話さないと
ダメか……?」 「ええ」 「ほんとにか」 「なんかまずいの?」 
「まずいというか……」 リョウは人差し指で頬を掻く仕草をする。
「なんか、えっちなことなのね」 少し怒ったみたいに。 「ア、アンがいいって言ったんだぞ」 
「だって、覚えてないもん」 にべもない。 「だから、返せよ」 「イヤ」
『ねえ、なにしてんの?』 ピコがあらわれ、リョウは話しがややこしくならないか
ハラハラしだす。 「ねえ、ピコこれなんなの?」 『なになになに』 ピコはリョウの
肩からアンの差し出した小袋へと飛んだ。 『ああ、これね。これは……』
「ピコ、言うな」 「どうしてよ。いいじゃない」 『そっ、いいじゃない』
「ばか、反芻するな。腹立ってくる」 「あっ、そんなこと言うんだ。返さない」
『返さない、返さない』 「俺、もう出かける」 「今日ぐらい休んだら」
「ダメ……ダメダメダメダメダメ。わかった」 「ばかあ!」 と叫んだアンのあごを
クイッと上げて口吻をする。 「ごめん、行ってるわ」 「あっ……ばか……」
『いってらっしゃあい』 「ピコ、お前も来いよ」 『いやあだよう。アンといっしょ
だもん』 「へいへい」 扉を開けて振り返ると小さく「いってらっしゃい」といって
手を振っているアンを見て外へと出て行く。外は昨夜の雪が積もっていて陽光が反射し眩しかった。
冬の海・春の海 103

「ねえ、アン。花はどうして咲くんだろう」 メネシスとアンはフラワーガーデンの
花を見ながら喋っていた。アンは愉快そうに笑ってメネシスの方を見る。
「少なくとも人のために綺麗に咲いているのではないですよね」
「うん、そうだね」 メネシスはいつか咲かせた花を追って花壇の花を眺める。
「生きているから……ちゃんと生きて種を残して枯れるんですね」
「ご、ごめん……アン」 「ううん、いいんです」
 メネシスは急に立ち上がって花壇の方に行ってしゃがみこんだ。アンもそれに
つられていっしょにしゃがむ。 「なにをされているんですか?」
「うん、ちょっとタネを拝借しょうかと思ってさ」 「いけないんですよ」
「まあ、そうお堅いこと言いなさんな」 「ダメです。それに花が可哀相です」
「いつかドルファンに頼み込んでラボをどこか安全な場所にこさえてもらうから。
それまでとっとけばいいだろ、なっ」 「もう、やめてください」

 メネシスはぼうっとしながら、窓の雪景色……ジーンの言った森の泣き声とやらを
聞きながら枝に積もった雪の華を眺めて考え事をしていた。すると、ドアを
ノックする音が聞こえた。
「お客さんか……はいはい、今行きますからね」 と言いながら、黒いケープを
引き摺って扉を開けた。ドアの隙間からメネシスは顔を覗かせると、そこには
アンが羞ずかしそうに立っていた。 「こ、こんにちは」 「やあ、アン。あんたが
来るとは思わなかったよ。さあ入って。寒かったろう」 「おじゃまします」
「で、パーティはどうだった。ん?どうしたんだい。なにか相談ごとかい?」
「ええ……実は」 「まあ、そんな急ぐことのほどでもないんだろ。座んなよ。
今、ホットミルク持ってくるからさ」 「どうもすみません」 「いいって、いいって」
 暫らくして、カップを持ったメネシスがあらわれてテーブルについた。
「アンの相談てなんなのかな?」 メネシスが切り出す。
500丹下 桜継:03/04/19 10:02 ID:slEZTg/x
Fourteen Riders 3

今日は仕事。やーっぱ美幸が落ちこんじゃいけないよねえーー。
寿「ここがこの間失踪した人が最後に目撃された場所かーー・・・別になーーんて事ないトコだよねええー・・・」
キィィィィィィィ・・・
鏡の中から出てきやがったおかしな物が寿の首に巻きついてやがる。
寿「ん?」
寿が引っ張られやがる。
シュルルル
寿「はゃーー!!」
キュイイーン・・・
ミラーワールドに入れられやがる。

寿「痛い・・・?」
?「ギャーゴルァ!!」
ドガン!!
モンスターが現れて寿を殴り飛ばしやがる。
寿「にゃああ!」
?「ギャアアアギャアゴルァ!!!」
寿「?!」
すぐ近くを1台のバイクライダーが通りかかりやがる。停車して交通鏡を見やがる。
そのゴミクズは黒いフルフェイスヘルメット、黒いレザーロングコート、黒いカッターシャツ、バイク用の黒いレザーパンツ、黒いショートレザーブーツ、レザー黒尽くめでやがる。
?「お!!」
ヒシュウーーーカシッ
?「変身だぜ!!!」キュイイイイン ヒィィィシャキイイン!!キュイイーン・・・
final vent
?「ドラゴンライダーキーーッッッッック!!!!!!!」
ガアアアンッッ!!!!!!!
モンスターは吹き飛ばされやがる。
寿「え?」
?「来い。」
ライダーに手を引かれやがりミラーワールドから脱出しやがる。500ゲット。 
501山崎渉:03/04/20 02:37 ID:???
   ∧_∧
  (  ^^ )< ぬるぽ(^^)
502山崎渉:03/04/20 06:45 ID:???
   ∧_∧
  (  ^^ )< ぬるぽ(^^)
503缶珈琲 ◆NAcoFFEEto :03/04/20 07:19 ID:???
長編連載中の方、お疲れ様です。
えーと、私の方の新作、別スレの方にうぷしておきましたので、よろしければ
そっちも読んでやってくだされば幸いです。
http://game4.2ch.net/test/read.cgi/gal/1020006366/818-825
では、割り込み失礼しましたー。
お疲れ様
冬の海・春の海 104

「……」
「どうしたんだい、アン?黙ってちゃわかんないよ」
「こ、これなんです」
 アンが手にしていた茶色の小袋をテーブルにそっと置いた。
「これがどうしたの?」
「えっ、え〜っと……」
「なにうじうじしてんのさあ!あれ、前にも……まあ、いいか」
 アンはメネシスの大声にビクッとして白い貌を真っ赤にして俯いてしまった。
メネシスはその小袋を手にして口の赤い紐を解いてなかを覗いた。
「なに、この粉?モスグリーンみたいな褐色掛かった緑の粉は?」
 メネシスは指を突っ込んでいじって見ていた。
『ねえ、おしえてあげたこと、どうして言わないの?』
 ピコがしゃしゃり出てきた。
「だって、羞ずかしくて言えない……」
『じゃあ、どうしてこんなとこまで来たの』
「こんなとこって……メネシスしか頼む人いないもん」
「ねえ、あんた。さっきから誰と喋ってんの?」
 メネシスは粉いじりをやめて、アンが小声でぼそぼそ喋っているのを見咎める。
「い、いえ……ひとりごとですから」
 両手の手のひらをメネシスに小さく振って見せてアンははにかんでいた。
「で、なんなんだい。これ。植物の粉っぽいけど」
「ボディペイントに使う粉なんです。レモン水でペーストにして使うらしいんですけど……」
「数日で消えちゃうとか?」
「そうです!」 アンは身を乗り出してメネシスへと迫った。
506丹下 桜継:03/04/21 10:52 ID:Y8MR87hs
Fourteen Riders 4

シューーーン・・・ピキィィィィィン
寿「水無月さん・・・」
琴子「てめーの持ってやがる札組をこの俺様に渡しやがれ。」
寿「どうして?」
琴子「言うとおりにしろごるぁ!!!!!!殴られてえか?」
寿「ええ?」
不安なツラで聞きやがる。
琴子「今まで通りの生活に戻ったほうがいいぜ。」
寿「そんなわけにいかないよ!!みんなが殺しあいしてるのに!!!」
琴子「当然だ。乗り手になった奴等は、己の望をかなえる為に、最後の一人になるまで戦わなきゃいけねえでやがる。それができねえ奴等は落ち零れでやがる。」
寿「何だよそれえ!!?他人のために何かしようとするのがいけないの!!!?美幸はみんなを助けようと思う!!!」
琴子「馬鹿な事ぬかしてねえでよこしやがれごるぁ!!!!!!!」
寿の服襟を左手でつかみやがり奪い取ろうとしやがる。
寿「何だよお!!!?」
必死に抵抗しやがる。が、琴子はすぐやめやがる。
琴子「忘れねえようにな。乗り手の1ぴきになるならこの俺様の敵って事になりやがるからな。」
琴子はVALKYRIE RUNEのブラック ( 逆輸入車 ) に乗って去っていきやがった。
507丹下 桜継:03/04/21 10:52 ID:Y8MR87hs
Fourteen Riders 5

東京特別少年院
きたねえ建物でやがる。その奥に幽閉されてやがる雌がいやがる。
マスクを付けさせやがられ拘束衣を着せさせやがられ手足の自由を完全に奪われてやがる。
雄「面会時間は5分だゴルァ。」
馬鹿井「だれだてめえごるぁ!!!!!!!!!?」
カードデッキを見せやがる。
馬鹿井「らいだあかごるぁ、かくごはできてんのかごるぁ?らいだあになったやつはみんなおれさまのえものだごるぁ!!!!!!!!!」
寿「また・・・」
ガシャンッッ!!
拘束鎖を引っ張りやがりながら寿を睨みつけやがる。
馬鹿井「おれさまはなあごるぁ!!!いつもはらがへらされちまってんだよごるぁ!!てめえをたおせればごるぁ、すこしはまんぞくできやがるかもしれやがらねえごるぁ・・・」
寿「やめないの?・・・」
ゴミクズが2ひきのもとに歩いてきやがる。
灰色無地のスーツを着やがり、弁護士のバッジを付けやがった雌だでやがる。
寿「?・・・麻生先生?」
華澄「止しな。こいつとまともに話そうとしたって無駄だから・・・もしかして、赤井を殺しに来たとか?
でもこいつはもう終わってるって。しかしお前もドジったな、折角脱獄したのにまた逮捕されて・・・
それからこれ、お前の所持品から失敬しといた。他の誰かに使われないようにな。」
タイガのデッキを取り出しやがる。
キィィィィィィ・・・
華澄「やばいゴルァ!!」
華澄が左手で寿が右手に持ってやがる半ヘルを床に叩き落としやがる。
コチャ!!!
デストワイルダー「ガーーーゴルァ!!!」
ヘルの表面からデストワイルダーが現れやがり鉄格子を体当たりで壊しやがり馬鹿井の拘束を解きやがり華澄と寿を殴り飛ばしやがって気絶させやがる。
カチャンカチ
リーーーーーー・・・
警報がやかましく鳴りやがる。
508bloom:03/04/21 10:53 ID:5jcGR6OD
>503

お気遣い、恐れ入ります。
長く引っ張ってしまい申し訳ありません。
こんな言い方は失礼かと思いますが、一向に構わないので
載せてください。
冬の海・春の海 105

  メネシスはアンの迫力にたじろぐ。眼鏡を押さえて掛けなおし、深く息を吸い込む。

「あんた、いったい彼となにやってんの?ヤリまくってばかりじゃ飽きられちゃうよ」

「メ、メネシス!」
『アン、リョウとのえっち、だぁ〜いすきだもん!』
 踊るようにして、赧く染まったアンの顔周りをくるくるとピコが飛ぶ。アンは
眩暈がして倒れ込むようにして腰を椅子へ沈めた。
「まあ、やりまくるは言い過ぎだったけどさ、男に裸ばっか見せてたらホント飽きられちゃうよ」

「経験あるの……?」

 俯きながら上目遣いにアンの赫い瞳がメネシスを見た。
「え……?」
「えっ、じゃないです。経験あるんですか?」
 天使の声が低くなってゆっくりとよく通る声で喋っていた。

「そりゃあ、わたしだって女だから、す、好きになった男のひとりやふたりくらい」

「で、やりまくっちゃったんだ」

『アン、怒っちゃった!おこっちゃったよ!』 
 ぐるぐるぐるぐる〜、ピコが顔を廻っているのも気にしないで、両腕をだらりとしてじっと見ている。
怒った時のアンのスタールビーの輝きほど怖いものはない。
「え゛っ」

「だ・か・ら、ヤリまくってたんですか!」
511ゆめりあ:03/04/22 16:45 ID:???
 今日は久しぶりにメイと下校している。
「伊集院さん、最近元気ないみたいだね。もしかして……便秘?」
「ぶっ! な、何を馬鹿なことをいっているのだ!」
 顔を真っ赤にして怒るメイもなかなか可愛い。
「ご、ごめん。違った?」
「違うのだ。おもしろくない噂を耳にしたのだ」
「どんな噂?」
「語尾に『なのだ』を付けて話す輩が現れたらしいのだ」
「それがどうかしたの?」
512ゆめりあ:03/04/22 16:47 ID:???
「『なのだ』はメイのみに許された言葉なのだ」
 他にも誰か使っていたような気がするが……。
「バーカ、お前の専売特許じゃねーよ」
 突然背後から声がしたかと思うと、サッと一つの影が駆けていった。
「なな、なんだと、この山ザル! 今日こそ成敗してやるのだ!」
 メイが赤井ほむらを追いかけていく。
「ちょ、ちょっと待ってよ、伊集院さーん」
 こうして俺とメイの楽しいはずのひと時は終わってしまうのだった。
冬の海・春の海 106

『やりまくり!やりまくり!アンのやりまくり!』
「うるさい、ピコ!」
 調子にのってからかっていたピコは姿を消した。
「ピコ……?」
 メネシスはびっくりしていたが、突然出てきた言葉に聞き返す。
「だれでもいいんです。それよりどうなんですか」

「そりゃ、わたしだってやってたさ。女だし」
(ほんきで怒らしちゃったかなあ……)
 気分を落ち着けるように、ホットミルクの入ったカップをメネシスは口に運ぶ。

「ちがうんです」
 メネシスがカップをコトッとテーブルに置く。
「なにが?」
「ふふっ……わたしこんな女じゃありません。淫乱なんかじゃないのに…
…ううっ、うう」
 アンはテーブルに腕を乗せると顔をそこへ埋めてしまった。
「ちょっと、アン」
「もうほっといて」
「ほ、ほっといてってさあ……アンてば。ねえ」
 メネシスはテーブルに蹲ってまるまっているアンへ近づいていって背中をやさしく撫でてやる。
「せっくす、いやなのか……?」
 アンは泣いていた貌を上げた。
「いやじやないです。頼まれたら拒めないし、でも羞ずかしくて堪らなくて……好きで……」
「で、これなんだね」
 茶色の小袋をアンに見せると、こくんと頷いていた。
冬の海・春の海 107

「チョコレートの方がよかったかなぁ?」

 顔をあげたアンの濡れた頬をメネシスの手の甲がやさしく撫でミルクを勧めた。
アンはマグカップを両手に包み込んで、ふぅーふぅーと冷ますしぐさをした。
しかしそれは熱くもなく冷めてもいない。アンの躰に流れ込んでくる白い液体は心を
落ち着かせていた。

「消えないようにするのは無理だね。そうしたいなら、イレズミしかないよ、アン」

 左手で右肘を抱えて右人差し指を立ててアンに話しかける。

「いろ……綺麗なのにしてほしい……」
 アンが降ろしたカップを見ながら呟いた。

「色?これ、どんないろなのか聞いてなかったな?」

「黒っぽい茶色……」

「ふう〜ん。それもそれで、色っぽいかも」
「色々調べてやってみるよ」
「ほ、ほんとうですか!」

「一週間したら、またおいでよ。彼氏連れてさ」

「えっ……」
 メネシスはアンの後ろから抱きついて腕を廻した。アンの頬に擦り付ける様にして
甘く囁く。
みんな頑張れ
冬の海・春の海 108

「綺麗な色、こしらえてあげるよ」
 メネシスのアンの胸に廻されて組まれていた手が解かれ、アンの頬に触れ
唇を向けさせる。
「メ、メネシス……やめて……おねがいだから……」
「わたしのこと、嫌いなの?」

「そんな、いじわる言わないで……ああっ……!」
 アンの鼻がメネシスの頬をくすぐり、ふたりの熱い吐息が交じり始める。
メネシスの手はアンの股間をスカートの上から弄り始めた。アンの手は
それをやめさせようとしてメネシスの指と絡まっては解けという抗いを続けた。

「ふたりでエッチになればきもちいいよ。いっしょに気持ちよくなろうよ、ねえ」

「は、はい……」
 アンの手は抗いをやめると切羽詰ったように太腿へと移り、スカートとパニアを
掴むと裾を手繰り寄せて白いむっちりとした太腿を自ら曝け出した。

「彼、ここのを剃りたいっていったんでしょう。剃るところ、わたしに見せてよ」
 メネシスはすぐにでもショーツの端から指を忍び込ませようとたが……。
「うああっ、はうっ……!」

 椅子に座って背中からメネシスに抱き締められているアンは乳房を前に
突き出すような格好で仰け反った。メネシスの指はショーツ越しに微妙な
タッチで責める。そして、メネシスのもう一方の手は開き始めた官能の唇に
人差し指でそっとなぞっていた。

「メ、メネシス……ああっ、よ、よごれちゃうから……よごれちゃううっ!」

「じゃ……じゃあ、自分で脱いでよ……アン……は、はやくうっ……!」
冬の海・春の海 109

  アンは臀部を椅子から持ち上げ浅く腰掛けショーツを降ろした。
「アン……ひ、拡げてよっ!ほら、はやくうっ、アン!」
 メネシスの切羽詰った声がアンの昂揚感を烈しく煽り立てる。

「いっ、いやぁああっ!いやあ、ま、まってぇえっ……」

 メネシスの手はアンの内太腿を撫で擦り始めた。ぞくっとする感じにアンの
太腿は閉じ合わさって顫える。けれども柔らかい内腿に掛かる指圧のタッチに
脚が開きメネシスの手もそうせよと、また撫で擦っていた。呼吸は深くなって
ふたりの肩は大きくスライドする。メネシの唇はアンの耳朶を甘咬みしてから
耳の下に這ってうなじを吸うように移動する。
 そしてメネシスの唇はアンの肩でとまりちゅうちゅうと吸い立てていた。

「いっ、いやよう……メネシス。キスマークがついちゃうわ。おねがい……
かんにんして……」

 アンの紅潮した容貌がふたたび仰け反り椅子の背もたれからぐらんと垂れる。

「き、綺麗だよ。アン…。たべちゃいたいくらいだよ」

 アンの濡れそぼっている秘所を愛撫していたメネシスの手が引かれて、椅子の
背もたれで仰け反って逆しまになっている貌を両手で挟みこむ。アンの頬に愛液
にべっとりと濡れたメネシスの手の感触が更なる彩りを貌に刷く。
「はあ、はあ、あああ……あうう……んん……」
 アンもまた、両腕を掲げてメネシスの頬を両手で挟んで唇を大きく開いて舌先
を差し出して愛のあいさつをして、ふたりの吐息が甘く蕩け合っていく。
冬の海・春の海 110

スカートをアンは片腿を椅子に腰掛けたボトムが見えるまでに手繰り寄せていた。
ショーツは膝小僧の所にまだ掛かったままだ。アンは限りなく淫らに崩されて
いっているのに、メネシスはまだケープを纏ったままアンとのキスに夢中になっている。
椅子に座ったアンは貌を仰け反らせて上からメネシスに愛されて……。
「んん……んはっ、んぐっ……ず、ずるい、わたしだけなんて……」
「アン、とてもいやらしくなってる。まってて」

 メネシスはケープを床に落とすと腰に巻いていた臙脂の紐のフリンジベルトを
解いてワンピース脱いでキャミソールとタップパンツだけになった。
そのゆったりとした姿は華奢な躰つきのメネシスにコケティッシュな華を咲かす。
「どう、これで満足した」
 メネシスの両手が蒼白の肌から薔薇の彩りへ変ったアンの頬をやさしく包み
貌を覗き込む。

「きれいよ、メネシス……あなたの素肌とランジェリーのホワイトがとても」

 シルクのピュアホワイトにメネシスの褐色の素肌は鮮やかな衝撃でアンを魅せて、
アンもまたメネシスの頬を両手で挟む。

「わたしの肌、チョコレートみたいだろう」

 少し自嘲気味なメネシスの言葉。アンは顔を振ってメネシスの顔から腕を掴むと
アンの白い手はメネシスの手首へと滑っていく。

「わたしが溶かしてあげるから、メネシス」
 アンは彼女の手首をやさしく撫で擦っていた。

「チョコレートソースとコンデンスミルクが蕩け合うんだね。アン、ベッドへいこう」
 メネシスはアンに微笑んだ。
冬の海・春の海 111

アンとメネシスのふたりはベッドの上で終わりのない愛の歌を奏でていた。
部屋にはベッドが軋むギシッギシッという音と湿った音に熱い閨声が流れている。
今はアンがメネシスを組み敷いて、メネシスは膝を立てて彼女を受け入れていた。
アンはメネシスの手に白魚の指を絡めて水平に持っていって白い臀部振り続けている。

「ああっ、あっ、だめ、だめぇ……アン……は、烈しすぎるよ」

 メネシスのクリットに強い刺戟が襲ってくる。
「だ、だめです……!わたしはすごい……えっちなんですからあぁああッ!」

 水平に拡げていたメネシスの褐色の腕をアンの白い腕がメネシスの頭上へと掲げた。

「わ、わたしの方が……たべられちゃうようぅううッ!」

 アンはメネシスの躰に覆いかぶさると、メネシスの脇に舌を差し出して舐め廻し
始めた。アンの長い髪は後ろでリボンに結われてはいたが、前髪が垂れて
メネシスのチョコレートの肌をアンの唇と舌が愛撫するたびにあやしく刷いていた。
アンは下唇を擦り付けて薄桃色の舌を出してメネシスの脇を何度もくなくなと蠢いていた。
そして時折、そっと甘咬みをしてみたりしてメネシスを痺れさせる。

「ああっ、いいっ、いいっ、いくうううっ!」
「いっ、いいっ!メネシスっ!んっ、んんっ!」

 アンはメネシスの腕を一つに束ねていた手首を離し、ダイニングの時みたいに
ふたりは互いの顔を両手で挟んで口吻を交わし出した。チョコレートみたくとても
甘い蕩けるようなキスを与え合って快楽を貪り合っていった。
冬の海・春の海 112

「メネシス……ほんとに彼をここへ連れてくるの……?」

 ベッドに四肢を投げ出して天井をメネシスは眺め、開かれた太腿の間にアンは
綺麗に両脚を揃えて胎児のような格好で貌をメネシスの乳房に置いて尋ねた。

「心配?」
「ううん、そうじゃないけれど……」
 アンは考えていた。自分がほんとうにひとりぼっちだったこと。メネシスは
どうなんだろうと。リョウがいいと言ってくれたらメネシスを抱いて欲しいとさえ
思っている。

(わたし、ものすごくインモラルなのかなあ……流されてるみたいな)

「なに考えてるの?アン」
「うん、ちょっと」
「ちょっと?」
 メネシスは額の汗に濡れてほつれている前髪を丁寧に整えてやっていた。
アンはメネシスの乳房に頬を擦って甘えるような仕草をすると、メネシスはアンの
銀の髪のてっぺんにそっと口吻をした。窓の外は雪雲が割れて陽光が射して
部屋に入り込んでいた。
「イヤなんかじゃないです。連れて来ます。彼が言い出したのですから」
 アンはメネシスの乳房から顔をあげて彼女の唇にキッスをした。
「メネシスは彼に抱かれたいですか?」
 メネシスの手がアンの火照っている頬をやさしく撫でる。

「かもしれない。わたしも男が欲しくて淋しいのかもしれないね」

「さみしい……?」 「うん、さみしいよ」
「ごめんなさい」 「どうしてアンが謝るのかな」 「さあ、どうしてでしょう」
冬の海・春の海 113

枝に積もっている雪が融けてトサッと地面に落ちる音がした。アンがメネシスの
鼓動から陽の射す窓の方に目を移すと、ピコが羽ばたいていって硝子に手を
あて外の様子を窺っている。
「わたし、そろそろ帰らないと」
 アンがベッドに手をついて上体を起こす。
「まだいいじゃない、アン。まだ外は明るいよ」
 メネシスのチョコレート色の手がアンのミルクのような二の腕をそっと掴んで
引き留める。
「もう、陽は傾いていますよ。メネシス」
 わたしの時間はあとどのくらいあるのだろうとアンは思った。
「引き留めはしないけれど、ほんと、まだ明るいよ」
「わたし、わかるんです。淋しい時、百花庭園でぼうっとして花を眺めていましたから。
家で窓からの眺めを見ていたこともあります」
 アンは笑ってはいたが翳りがあったことぐらいはメネシスにもすぐにわかった。ラボの
前で扉を叩けずに雨にずぶ濡れになって立ちすくんでいたアンは、もういないよと
メネシスは声を掛けてやりたがったが、できなかった。時は正午過ぎ二時になっていた。
細い砂時計の砂がサラサラと下に落ちていく感覚がふたりをとらえる。 「アン……あんた……」
「メネシス」 「なんだい、アン」 メネシスはアンの腕から手を離して、頭の後ろで手を組んで腕枕をする。

「雪が融けるとどうなるか知っていますか?」 「ん、そりゃあH???恋人だね」

「ふふっ」 「アンは春のもとへ帰るんだ」 「はい」 「えっちな奴のところに」

「メネシスのばか……」
冬の海・春の海 114

「でも、汗を流していく時間くらいあるんだろ?」
 腕枕を解いたメネシスは躰を捻って起き上がった。
「ええ……」 か細い声でアンが答える。 「んじゃ、行こう」 
メネシスはアンのベッドに手を付いている甲に彼女の手を被せた。
「もう、へんなことはしないでくださいね」
 メネシスはベッドに仁王立ちになると両手を腰に掛ける。
「そりゃあ、聞き捨てなんないなあ。人として、あたりまえの欲求なんだから」
「そうでしょうか……。なにか、言いくるめられているみたい」
「ちょっとだけ」 「なにがです?」メネシスの裸身はジャンプして床へと着地した。
「ちょっとだけ、イチャイチャしよう」
 ベッドに裸で正座して、メネシスを呆れて見ているアンに、右拳をさしだすと
蕾が華を咲かすかのように、ゆっくりと指を順に伸ばしていった。アンはメネシスの
差し出してくれたチョコレート色の手にミルク色の手をお姫さまのようにそっと
のせ、やさしくつつまれるように握られると、綺麗な脚を崩して揃えたままベッド
から外して素足を床に下ろした。


「それじゃあ、一週間後にね」 外に出てアンにメネシスは言う。 「は、はい」
「ねえ、ほんとにやりまくってたらだめだよ。たまには、興味ないわ、みたいに
嘘でも振舞うのさ」 『ずぶずぶずぶ。リョウはアンの虜』 
「え、ええ……ありがとう」 (ピ、ピコのばか……)
「ねえ、アンはいましがたエッチしてましたって貌してるよ」
 メネシスの唐突な言葉に真っ赤になる。「もう!どんな顔ですかッ!」
「こんな顔」 メネシスは自分の頬をひっぱってムニュッとした。カミツレの
魔女の森に、温かいひだまりのような女性の声が響き渡っていた。(メネシス、ありがとう)
冬の海・春の海 115

暖炉の煌々と照らす温かい灯かりとテーブルの中央にある燭台の三本の蝋燭
の火に揺らぐ美貌ときらめくゴールドの耳飾りと、彼女の手作りのご馳走に舌鼓を打ち、
アンのやさしい眼差しを肴にゴブレットの芳醇な香りを放つ葡萄酒を飲むはずだった……。
アンの赫い瞳が蝋燭の火に照らされてこわかった。

「アン、なにか怒っているのか?」 「さあ、なんでしょうね」
「じゃあ、もういいから、あれ返してくれないか」 「無いです」
「無いって、捨てたのか!」 「他の女に使われるのも厭ですから」
「って、おい!」 「おいってなによ!朝っぱらからバカなこと言ってからに!」
『ばか、ばか、ばか。リョウのばか』 
 ピコが食卓の上を旋回して飛んでいる。

「ピコ、いっかいしばくぞッ!」
 虫を払うように手をリョウは振るった。「ピコ、いらっしゃい!」 『はあ〜い』
リョウはゴブレットをテーブルに置いて溜息をつき、椅子の背に深くもたれ
掛ける。 「ふたりして苛めるんだ」
「んふふふっ」 「なんだよ、その笑い方」 「いじけるんじゃないの」

 アンの小悪魔のような笑い。 「そっちが、そうさせたんだろ……が」
「ごめんなさい」 アンは両手を合わせて拝むようにして微笑した。それは、リョウ
がアンに謝るときの癖をまねたもの。 「もういいよ」 「ふ〜ん、もういいんだ」
またアンの悪戯っぽい笑み。「なんだよ、それ」 リョウがアンの言葉に訝る。 「ほんとにいいのかなあ?」
「ん?」 「だから、うそなの」 「うそ?」 

「そう、うそでしたあ」 「じゃあ、いいのか!」「え?」 「え、じゃないよ。それじゃあ、さっそく剃ろう」 
「ちょ、ちょっとまってよ!まってったら!」
冬の海・春の海 116

「待つってなにをだい?後片付けなら俺がするからさ。な、いいだろ?」
 アンの手を取ってリョウはバスルームへと連れて行こうとしていた。
「きょ、今日はダメなのよ」 「俺は気にしないから」
 リョウは喜びまくっている。

「叩くわよ。もういちど、椅子に座ってよ」 「んじゃ、湯舟に浸かりながら話そうよ」 
「お風呂のなかで挿れるのは、なしよ」 「なんで?」
「なんでって……くたくたになっちゃう」
 アンがぼそっと呟いて、視線を下に向ける。

「それだけ?」

 リョウはアンの含羞するこういうひと時が堪らなく嬉しかった。そう、まるで子供が
恋に目覚めたお姉さんをからかって苛めている感じに近い。

「そ、それだけって……どういうことかしら……?」
 アンは上目遣いに赫い瞳をリョウの黒い瞳へと向ける。

「言って欲しいの?」  「だ、だってわかんないもん……」
 アンがうじうじし始める。イノセントの貌からリョウとメネシスしか知らないアンの貌があらわれる。
「俺さ、アンを躰に載せてセックスしたとき、妖精が踊っているように思ったんだ」
「ば、ばか……」
 アンの蒼白の顔がみるみる赧く染まり始める。セックスだってジュンと潤っていた。
「アンは自分の姿を想像したことはないの?アンの白い両太腿を割り開いて、俺の
汚らしいお尻が蠢いているとか」 「き、汚らしいって……言い過ぎだわ……」
「アンって踊りはうまいけど、セックスと関連付けて考えたことない?」 
「えっ!ダンスとセックスを……」 「ダンスは男と女がするものだろ」
「そ、そうよ」 「でしたら、わたくしめと踊って蕩けあっていただけませんか、姫さま?」
 リョウはアンの手を取って甲に口吻をする。
冬の海・春の海 117

  アンはバスタブの縁を人差し指でそっとなぞっていた。アンはバスタブに躰を
伸ばしているリョウに背中をあずけて抱かれ、首筋をやさしくリョウにマッサージ
されていた。そして左手でアンの房をやさしく包む。
「考えたこと……なかったわ」
 アンがぽつりと呟いていた。
「何が?」 「言いたくない」 「どうして?羞ずかしがることなんかないじゃない」
「べ、べつに羞ずかしいんじゃないもん」
「なら、言いなよ。ほら、アン」
 リョウは首筋と乳房をゆっくりと愛撫する。

「あっ……」 
 か細い溜息が洩れる。アンの乳首のしこりを指に挟まれて乳房をじんわりと
揉みしだかれる。首筋を愛撫する感じも手の温もりが残って心地いい。
「あっ、って何?」 「もう、ばか」
 アンはバスタブの縁をなぞっていた左手を湯舟に潜らせ、リョウのふぐりを
少しだけギュッと掴んだ。
「ア、アン、よせってば!」
 湯舟が波立つ。直ぐにアンはやさしく玉を転がして揉みしだいたが、リョウには
鈍い痛みが暫らく続いた。

「ダンスとセックスをいっしょに考えたことなんてなかったわ。だからかしら。時々、性に躊躇ったりするの」
「なわけないって、アンは十分に烈しいよ」 「ばか。わたし、リョウに馴染んで躰を開いていいのかな?」 
「何言ってるの」 「だって、エッチになったら、きっとわたしの躰にリョウは飽きちゃうわ」 
「そんなこと心配してたのか?」
 アンはリョウに躰をくるっと向いて対峙した。

「そ、そんなことですって!」
冬の海・春の海 118

「どうしたんだよ、アン……!? 俺、何か気に障ること言ったか?」
 湯舟から両手を上げて、濡れる両手でリョウの頬をしっかりとアンは掴んでた。
「わたしは、わたしは、いつ……」 (消えるかわかんないのよ……!)
「いつ、どうした……アン、アン!」
 アンは涙を見せまいとしていたが、あふれる涙に堪えきれずに下を向いてしまう。
そして、波立っている湯舟にアンの人魚の雫がこぼれた。
「おい、アン!どうしたんだよ!ひどいこと言ったのなら謝るから!泣くな」
 アンは泣き顔をあげてリョウに言った。
「理由もわからないで、謝ったりなんかしないで!わたしは……わたしは!」
 アンはそのままリョウにしな垂れかかってキスをした。ふたりにとっては、
何度目かのしょっぱい接吻。

(ときどき、怖くなることがあるの。明日には消えるかもしれないって…
…でも、あなたには言えない……ごめんなさい)

 唇を合わせるだけのキッスが暫らく続いた。ふたりは時が止まったような感覚
に陥る。蝋燭の琥珀の灯かりがふたりをやさしく包んでいた。アンは唇を外して
リョウの肩にあごをのせ首に両腕を廻して抱き締める。
 リョウのペニスはアンの下腹と乳房の感触で硬くなっていった。

(わたし、あなたに躰を開いて時間の限りにやりまくりたいって思ったことがあるの。
でも、すぐに羞ずかしくなって無理しているんだってわかった。けれど、しなくちゃって思うと…
…もう、どうしようもなくて訳がわかんなくなるの……ごめんなさい、ごめんなさい。ゆるして!ゆるしてね)

「勃っちゃったね。暫らく我慢していて。少しだけでいいから、わたしに時間をちょうだい。
このまま抱き締めていて。おねがいだから、リョウ」
「いや、このままでいいよ。なにもしないから、アン」
 リョウはアンの背中に廻していた手で彼女をやさしく愛撫する。
冬の海・春の海 119

「落ち着いた、アン?」
 リョウはアンの両肩をそっと掴んで抱いた。アンのあごはリョウの肩に載ったまま。
「どうしたって、聞かないのね」 
 アンが瞑っていた瞳を開いてリョウの黒髪を見て撫でている。

「聞いて欲しいのか?」

 また、暫らく沈黙が続いた。不安が発端の沈黙だったのに、やさしい時が静かに
流れている。バスライトの蝋燭がそうさせるのだろうかと、アンはその灯かりを
ぼんやりと見ていた。
「リョウはわたしのこと聞きたい?」
 アンの肩から二の腕をやさしく愛撫する。
「むずかしい質問だな」
「なんか、安心」
 アンはリョウのとまどいの言葉にすぐに応える。

「そういうもんか?」 「喋りたくなきゃいいよって言われちゃうよりはね」

「最初、そう言うところだった」 「ふふっ、そうなの。だったら、あぶなかったね」
「あぶないか……」 「あら、どうしたの?」
 アンがリョウの肩から、貌を起こして赫の瞳が黒の瞳を見る。
「俺も十分あぶなかったからな」

「人ってあぶなっかしいと、綺麗に見えちゃうのかな……なんか、淋しい」

「ねえ、アン。おしゃれのポイント、教えてあげよっか」
「なんなの、メネシス」
「利き手で物を扱うよりはね、違う方で扱った方が綺麗に見えるものなのよ」
 アンがメネシスのラボを離れる時の、男を惹きつける為の変なアドバイス。



いつも、ありがと
冬の海・春の海 120

「あぶないから、ほっておけないってアレ」
 アンのリョウの首に巻かれていた右手が頬にふれ、彼の耳元に囁く。
「さあ、どうかしら」
「おいおい、アンから振っといてそれはないだろ?」
 アンは湯舟のなかでまた躰をひねって、リョウの胸に背をあずける。
「先に言ったのは、リョウの方よ。あぶない英雄さん」
「なんか、うやむやにされたって感じがする」
 リョウの手が子宮あたりをやさしく撫でて、両手が組み合わさる。アンは喘ぐと預けていた
背から右肩を剥して前のめりに躰をくねらせて、また背を胸へとあずけた。
アンはリョウの太腿を愛撫していた手を湯舟からあげて、また頬と耳を撫で擦る。

「リョウのペニスがわたしのお尻でまた大きくなったわ。わたしの花も開き始めてる」
「挿れてほしいのかい?」
 アンの髪はアップになっていて、その無防備なうなじに、熱情の唇が這う。
「あっ、ううん……わ、わたしも言うわ。リョ、リョウは挿れたいの……あぁああん」
 アンの両手がバスタブの縁を掴んで躰を起こして、ふたたび向かい合う。
アンの手がリョウのペニスに指を絡め、ケプルのたゆたうとする神殿の奥へと
いざなった。
「いいのかい?」 「わたしはリョウが欲しいわ。いまとっても。ダメかしら?」
「ダメなことなんかあるもんか」

 波が立ち始め二人の躰が揺れ始める。アンの時とリョウの時が交じり始めて、
砂時計の細くこぼれゆくさらさらとした砂にアンの永遠が揺れた。リョウへの
想いと過去に残せし愛しのきみの間で揺れ、乳房がたゆたうとして蕩けあう
躰が水面を烈しく波立たせる。
「わ、わたしの花、感じる……?」
「か、感じるよ、アン。気持ちよくて、とても切なくなる……胸が掻き毟られるような……」
冬の海・春の海 121

   ふたりの濡れた手は恋人の貌を挟んで、唇を貪りあう。
「んっ、んんっ、んはあぁあっ……はあ、はあ……ね、ねえ……聞いて……」
 躰がセックスで揺れていた。
「な、なんだい……ううっ」
「す、すき……すきなの……ああっ!」
 アンの躰が弓なりに反り返り、湯舟に逆しまに浸かりそうになる。リョウは左腕で
なんとか支えて、アンを自分へと引き付ける。
「あ、あぶないよ、アン」 「ふっ、ふふっ」
 セックスの狂おしい感覚から開放されふたりに笑みが拡がって行く。
「もっと、もっと、俺を受け入れてくれ、アン」
(俺はアンが欲しい。きみと結婚したいんだ!)
 しかし、その言葉はリョウの言い出せられない壁だった。それは、アンにしても
おなじこと。リョウがプロポーズしても、それを歓んで受けたかはわからない。

「あ、あっ、あっ、あっ、あああっ……わ、わたし、わたし……すごく…いっ
…いいいッ!気持ちいいッ!気持ちいいのッ!」
 アンの律動とヴァギナの引き千切るような締め付けとリョウの浮力を生かした
下からの衝きあげの果てに揺らぎは波濤となってアンを悦楽へと呑み込んでいった。
絶頂を迎えてアンは烈しく痙攣すると、躰をぐったりとリョウにすべてを寄せてきた。
アンの性愛の美しき華は次の時までの眠りへと着く。

「ごめんよ。無茶させたりして……」
 アンは朱に染まった貌をゆっくりと横に振っていた。
「わたし、ともだちに一途って言われたことがあるの。でも、ほんとは臆病な女」

「そんなことはないよ。アンはいろんな歌を知っていて、その気持ちを唄える。
みんな歌に込められたきみの祈りに耳を傾けているんだ。きみは弱くなんか無いよ」

「ふふっ、プリシラさまにも言われたわ。もしそれが、プロポーズなら上出来ね」
冬の海・春の海 122

「そう、とってくれてもいいよ。この戦争に目処がついたら俺と結婚してくれないか?」

(わたしは答えてもいいの?誰か教えて。わたしは、どうしたらいいの?)
 アンは汗に濡れた額をリョウにゆっくりと擦り付ける。
「わたし、待っていても……いいのかな?」

「不安か?」
「それは、わたしの問題。いまは、ありがとうとしか言えないけれど、それでも
いい?」
「なにか、記憶と関係あるの?俺じゃあ、力になれないか?」

「まだ、いくつか思い出していないことがあるの。まだ、アンのままだから」
 自分の名前を記録で見てもすぐに忘れてしまう。ものの10分も覚えていられなかった。
メモをとっても黒いままなのだ。そして、アンにはもうひとつ気懸かりなことがあった。
存在するはずの無かった自分がこうしてリョウと生きていることで、弾き飛ばされた
……本来の時間のあることを。

 それは、到底アンの口からリョウに言えるものではなかった。本流から泥棒猫との
謗りを受けても仕方が無い酷いことだと思っている。もしかして、ソフィアが
そうだったのではという疑念が過ぎるのだったが、アンはあえて振り払った。
何度も考えたこと。悩んで悩みぬいて、出した結論。もう、手放したくないものがここにあるから。
「だいじょうぶか?」

「もうだいじょうぶ。わたしには、確かな記憶があるから。不安と哀しみのなかで見出したもの、
それはあなただから」

 ふたりは見詰め合って鼻でバードキッスをするかのようにして擦り合わせると、
口吻をゆっくりと愉しんでいった。
冬の海・春の海 123

「あれ、やってもいいから。でも、条件があるの。それでも、よかったらだけれど」
 唇を離したアンがリョウに思い出したように語った。バスタブのなかの肉の絆は
雲の上を踏みしめて歩くような感覚にふたりの躰を捉えていた。まだ味わっていたい。もっと味わいたいというような、さざ波が押し寄せてくる。射精したばかりというのに、その心地よさに浸り続けていたいという渇望が肉体を維持し蘇らせた。
 無理して淫猥な絵を思い描いて勃起したのではなく、アンの繊細な肉襞の微妙
にしてやさしい蠢きに応えてしまう。
「羞ずかしいなら、無理しなくていいよ。でも、条件ってなんだい」
「あの粉、メネシスに頼んだの」 少しだけアンの赫い瞳が妖しくきらめいている。
「メネシス……?」 「わたしの恩人にして親友。彼女を抱いて欲しいの」
「えっ……!」
 リョウの背中を撫でていた手が脾腹を挟んでアンの躰を起こした。
「ことと次第によってはなんだけれど」 リョウの頭のなかは錯乱していた。

「俺にアンの前で他の女性を抱けというのか?」
「他の女じゃないの?わたしの躰の一部が淋しがっているの」

 アンの裸身がリョウの躰にしな垂れかかってくる。
「一週間後に来てって言われたわ。あなたが、行くっていうなら、わたしそこで
この女の飾り毛を剃り落してもいい」
 そう言ってアンは肉の繋がりに手を入れてペニスを指でキュッと挟みこむ。
「お、俺、アンが言ってることが、うまく呑み込めないんだけれど」
「わたしもよ」 「おい、ひょっとして酔っているの?」 「酔ってなんかいないわ。
わたしから好きって言ってるばかりじゃしゃくだし、メネシスのこともたいせつ。

やっぱり酔ってるのかも。一週間したら行ってみましょう、ねっ。いいでしょう?」
 アンは躰をかるく揺すりたてただけで、リョウのペニスは膣内でびくんと跳ねる。
冬の海・春の海 124

  アンの潤んだ赫い瞳がリョウの黒い瞳を覗きこみ、リョウの手がアンの腰をぐっと引き付ける。
「ねえ、しましょう」 「じゃあ、俺の首にしがみ付いてくれたら」 
「えっ……?」
 アンがリョウを訝っている。
「ひとまず、ベッドで続きをしようよ、アン」
「ちょ、ちょっとまって!このままわたしを連れて行くの!」
「そう、だから摺り落ちないようにしっかりと脚と腕を俺に絡めていてよ」
 リョウの手がバスタブの縁にかかって、筋肉が膨らみ始める。アンはそれを見ておろおろするばかり。
「ねえ、待って!待ってってば!ああっ、いやああっ!わたしばかり、こんなのって、ずるいわああッ!」
 アンの腕はリョウの逞しい肩に乗って首筋に絡みついていった。腰が湯舟から上がると脚もリョウの
引き締まった臀部の上で交差した。
「これが、俺の条件だからね」
 アンは貌を烈しく横に振って、アップにしていた髪が宙へと舞い、蝋燭の灯かりのなかできらめいていた。
「アン、とても綺麗だよ」
 アンはまたしても美貌を振って銀の髪を振り乱す。
「あ、ああ……あなたばかり……ずるいわ、ずるいわよ……うああっ!」
 リョウのペニスが浮力が解けて、深くアンの膣内に挿入された。アンは顔を反らしてリョウへ白い咽喉を
いっぱいに伸ばして魅せる。立ち上がったリョウは左腕でアンの双臀を抱え、右腕で背中と深い衝きあげに
仰け反るアンの頭を支える。バスタブからリョウの脚が跨いで床に下りたときも、ズンという衝撃がアンの躰を突き抜けた。 
「ひぃーっ、い、いやあっ……ああっ……!」
 アンのか細い喚きがバスルームに響いている。
553と554の字面が不統一になってすみません。
冬の海・春の海 125

  もたげた鎌首に刺し貫かれて、アンの唇からは生々しい呻きが洩れる。
リョウはタオルを取ってアンの背中の雫を拭き取っていた。アンの
絞り出すような嬌声にリョウのペニスは烈しく顫える。
「はああ……ああっ、うぅん……な、膣内で……動いてる……。
こ、こんなのって……んんっ、んぁああっ!」
 リョウは貌を肩に伏せて歔いているアンの丸くなっている背中をタオルで
撫でながら勃起していた。タオルを取って掛けなおした時に鏡に映った、
アンの蒼白の仄かに朱に染まっている姿態がとてもエロティックに感じていた。
 情欲に溺れてしなる背中に、その背骨の窪みもそうだったが、自分を
頼りきってしがみ付きながら、小さく丸くなって、背骨を浮き上がらせている
アンに今にも爆ぜそうなまでにペニスが熱く硬くなっていた。このまま床に
アンの躰を降ろして腰を打ち付けたいという衝動に駆られる。
 リョウは我慢をして摺り落ちそうなアンの躰を抱えなおす。
「んあぁああっ!はあ、はあ、はあ……」
 そして寝室へ向けてゆっくりと歩き始めた。一歩一歩を踏みしめるようにして。
その一歩はアンの秘所へ重い一撃となって突き刺さり、その度ごとに短い
切れ切れの喚きを噴き上げさせていた。咽喉の奥から臓腑が飛び出しそうな
突き上げがアンの女芯を的確に捉えていた。
 湯舟から上がってタオルで顔に噴き上がっていた汗も拭ってもらったはずなのに、
素肌は既に汗に薄っすらと濡れ始めている。
「あ、あ……ま、まだあぁ……まだなの……」
 擦れたか細い声がリョウの肩に落ちた。
「も、もうすぐだから……もうすぐ」
 リョウの方もベッドに雪崩落ちて、数回の律動で果ててしまいそうな感触を得ていた。
肉の繋がりからは湯のなかではなったものが性愛に溺れた涙のように太腿に伝い始める。
「もうすぐだから、アン」 
 リョウはアンの締め付けに我慢する為に、自分に言い聞かせていた。
冬の海・春の海 126

リョウが歩くたびに躰が揺さぶられ、重い衝きあげで、あとからあとから咽喉から
絞り出すように呻きをこぼれさせていた。
「ひっ、ああっ……も、もうゆるして……かんにんして……」

 そういいながらも摺り落ちそうな躰をアンは登るようにしてしがみ付いてくるのだった。
リョウのペニスに女に成り切ってしがみすがり付いているという感覚が
露骨にさせられているようで、堪らなく羞ずかしかった。そして、なによりも早くに
ベッドに降ろされて、このもどかしい衝きあげから開放され、逞しい肉棒で膣内を
掻き回すように刺し貫いて貰いたいと思う。
「もうすぐだ、アン……」
 ようやく寝室のドアの前に立ち、ノブを回す。
「ああ……かんにんして……あっ、はあ……はあぁあっ」
 伏せているアンの貌は荒い息を吐いて唾液を垂らして、リョウの肩をべっとりと濡らしている。
「ほら、着いたよ」
「は、早く降ろして、わたしを突いてえええッ!はやくううっ、おねがいよおおっ!」
 アンは肩に顔を擦り付けるように振り立てていた。リョウはアンと繋がったまま
ゆっくりとベッドに上がると、躰をそっとベッドに沈めた。ようやく安定が得られた
というわけでもないが、空中散歩よりは幾分かはましだと思った。アンはリョウに
突かれ泣きじゃくった貌を肩からやっと剥して愛しい人の顔を見あげた。

「はあっ、はあ、はあ、はあぁあっ……ず、ずるい、わたしばっかり……あああッ!」 

「ごめん、もう俺、我慢できないんだ!」 
「ば、ばかああああッ!うあぁあああッ!」
 リョウの爆発しそうなペニスを慰める為、アンの膣内で烈しく律動をはじめる。
アンはブリッジを描いて咽喉をいっぱいに伸ばしリョウを力いっぱいに締め付けた。
そろそろ一旦回して上げない?
冬の海・春の海 127

汗にぬめって摺り落ちそうな躰でバスルームから寝室まで、堪えてここまで来た。
リョウの首筋にアンは細い腕をしっかりと絡め、リョウの尻のところで脚を交差して、
歩かれるたびのペニスの衝きあげがアンの躰を最高潮に持っていっていた。
落ちそうになる躰を引き戻すように、太腿と臀部に廻った手がしっかりと支えることで、
離れ行く躰をより密着させる行為がこの上なくアンには嬉しかった。アンの性愛は
前後不覚になるほどに錯乱し昂ぶっていた。それは男の名を叫んだことにあらわれる。
過去の生々しい記憶が呼び起こされたというより、生きた証としての愛しい人の名を叫んでいた。

 立位で歩きながらという不安定な体位からやっと正常位で貫かれたという安心感、
そして今までになかった子宮の衝きあげに核(さね)への愛撫よりも遥かに越える快美を
アンは味わっていた。ペニスのヴァギナへの衝きあげはアンに果てを見せようと
跳ばすかのような強いストロークをみまわせる。意識が朦朧としているというのに、
愛しているという言葉だけが明確になって、鼓動が性愛とともに速くなっていく。

「・・・!・・・!いゃああっ、いやぁあああッ!こ、こんなのおッ、たまんないいッ!」

 リョウの動きはアンの大きく開かれた唇から迸った昔の恋人の名に動きが緩慢
になる。動作が止まらなかったのは、いままでみたことがない淫らななかに
生を実感させるアンがベッドに、リョウの腕のなかにいたからだ。
 アンの跳ばされないようにとリョウの腕にしがみ付いていた手が、脇下から廻り込んで
肩甲骨を抱き締めた。「も、もう、離さない!話さないいッ!」 仰け反りながら眦を
濡らすアンの美貌に極まる。何度とアンが口走った言葉とともに。
「射精そうなんだ、アン!」 
「だ、だしてええっ!わたしの膣内(なか)へいっぱいだしてええええッ!」

 アンとリョウは永遠を夢見て、かりそめの陽だまりのなかに甘く蕩け合う。
1 廻します
2 結末は出来ているものの
3 整合性をもたせるのに
3 手間取ってます。
4 冬の海はアン
5 春の海はソフィアとして書きました。
6 冬の終わりを告げ
 
7 ソフィアに春を感じさせることが出来れば
8 成功なんですが、悩みどころです。
9 長々とすみません。
冬の海・春の海 みつめてナイト (アン編のつもり)

プロローグ・北海 >>352-354
孤独        >>355-361 >>363-365
記憶        >>366-369 >>372-377
花          >>379-384 >>386-388
霧          >>389>>392 >>394-396 >>401-407 >>419 >>422-428
    >>430-434 >>436-438 >>441-443 >>445-449 >>452-455
551名無しくん、、、好きです。。。:03/05/10 01:46 ID:Jgn4rjP8
冬の海・春の海 みつめてナイト

愛の調べ     >>456-467
聖夜        >>468-475 >>477 >>479-480 >>488-491 >>496-497
戯れ        >>498-499 >>505 >>510 >>513-514 >>516-527 >>530-534
   >>536-537 >>539 つづく、とおもう
冬の海・春の海 128

「それじゃあ、フラワーガーデンで待っているわ」
 アンがボディペイントの粉をメネシスのところへ持っていって、一週間が経っていた。
「ほんとにいいのか?」 
リョウはアンに改めて尋ねてみた。
「ほんとにって?」
アンはケープを羽織って扉に手を掛けようとしたとき、扉に手をついて腕のなかに囲う。
アンはくるりとひるがえってリョウを見る。

「ここ剃り落しちゃうんだよ」
 アンの股間にそっと手をあてて擦り上げる。

「ちょ、ちょっと。やめてよ!夜まで我慢できないの……」
 アンの手は擦り上げる手首を必死になって掴んだ。

「生えてこなかったらどうしよう」
「困るわね」
「アンのここのやわらかい毛がごわごわしちゃったらどうしようか」
「それも、もっと困るわよね」
「ふふっ」 「ハハハ」

『もう、なにじゃれあってるのよ!早くお出かけしないと遅刻しちゃうんだから!』
 ピコが姿をあらわしてキッスをしようとしていたアンとリョウの顔の間に割り入って、
ふたりの鼻を手で押さえる。
「ピコ、じゃましちゃだめだろ」 「そうよ、せっかくいいところだったのに」 『もう!知らないから!』
 アンはリョウにかるくチュッとした。 「あれ、おしまいか?」 
「そう、おしまいよ。さあ、出かけましょう、ピコ」
 アンはリョウの腕をくぐって扉を開けた。 「戸締りちゃんとしてね」 
「アン、待ってくれよ!」 
 ピコがアンの肩に乗って後ろを振り向きリョウにベロを出していた。
冬の海・春の海 129

「じゃあね、質問に答えたら待っていてあげる」
 歩き出したアンは立ち止まって、鍵を掛けようとしているリョウの方を見た。
『ねえ、あんなのほっといて行こうよ』
「おい、ピコ!」 『んべぇ〜っ!』
 ピコはアンと知り合って明らかに変った。永遠に続くと思われていた孤独から
自分の存在を庇護してくれる居場所を見つけたのだから。そして、ピコは
子供っぽい行動を取るようになっていった。リョウにとっては心なし淋しい感情を
持つものであったが、それ以上に喜ばしいこと。

 それはリョウにも言えたことで、ふたりは牽制しあってアンの気を引こうとしている
他愛もない日常のひとコマ。そんな日常がやさしい雪が降り積もるように重ねられる
永遠の環が続くものとリョウとピコは信じて疑わなかった。
「喧嘩したらだめでしょう」 『そうそう、ダメなんだから!』
「ピコが仕掛けたんだろ」 「リョウがわるいのよ」 「なんでそうなる」
「ピコは子供でしょう。強いものがいたわってあげないとダメじゃないですか」
 リョウは鍵を掛けてアンの元へ歩いていった。

「ピコ、子供だってさ」
 アンの肩からふわっと飛んでリョウの頭の上を廻る。
『いいもん。アンの子供でいいもん。ねぇ〜っ』 「ねぇ〜っ」
 アンはリョウの腕へと絡みつくと、ピコは気を利かせて姿を消した。
「さっき、質問がどうこう言ってなかったっけか」 「ああ、あれ。聞きたい?」
「聞きたい、聞きたい」 「ほんとに、ほんと?笑わない?」 「ああ、笑わないから、聞かせてよ」 「じゃあ言うね」 「うん」
 アンはリョウの腕に仔猫がじゃれるようにしながら、頬をほんのりと桜色に染め上げる。

「あのね……」
冬の海・春の海 130

一緒に家を出て腕を組んで歩いていた。しかし、それを偶然通りかかった
ソフィアが見ていたことをふたりは知らなかった。
「で、なんなんだよ」 「やっぱり、羞ずかしいからいい……」
 リョウの腕に頬を擦りつけて目元に朱を刷いているアン。そんなことをされては
よけいに気になる。
「おい、言えってば。気になるだろ。修行に身が入らなくなる」 「それは困るわ」
 アンが少しだけ心配して顔をあげてはにかんでいた。その表情がなんとも
いえない。おもわず勃起してしまう。
『リョウは煩悩の塊だから、ホントあぶないよ』
 ピコが姿をあらわしてアンの肩にとまる。
「いい加減なこと言うなよ、ピコ」
 アンの肩を払う仕草をして、ピコはあっさりとかわして舞い上がる。
『へへっ、うそ。うそだから心配しないで。えっちなこと考えて死んじゃうことなんて
ないから』 「し、しんじゃう……!」 アンの笑みが曇った。
「ピコ」 「ごめんね、アン」 「でも、気になるぞ。なにを言おうとしたんだ?」
「う、うん……リョウは見たことあるかしら?」 「なにを?」
「だから、見たことある?」 「また、話しがよく見えないんだけれど……」
 困惑しているリョウに白い貌を桜色に染めたアンが街中でキッスをするようにして
リョウの耳元にくちびるを寄せる。

「だから、わたしとえっちしているとき何か見たことあるって聞いているの!」

 アンの囁く声にえっちな話しがさらにリョウのペニスを勃起させる。
「アン、耳を貸して」 「う、うん」 アンは耳周りを赧く染め上げた耳を銀の髪を
掻き揚げて、ゴールドのリングのフリンジを揺らして差し出した。リョウはアンの耳、
複雑なカタチのボディパーツにこれほどまでエロティックを感じたことはなかった。

「アン俺、夜まで我慢できなくなっちゃったよ」 
冬の海・春の海 131

「ダメだから……ね」 アンが突然に立ち止まる。
「人気の無い路地裏とかへ、行ってみないか?」
 アンは彼の腕を離してささっと後ずさりした。リョウは照れて、アンに右手を差し出す。
「急ごう。ほんとうに遅刻するぞ」  「なにも、しないよ……ね?」 「するわけないだろ」 
「ほんと……?」 「ほんとだってば」『わかんないよう〜』 ピコがニヤニヤとしてアンの
顔へと回り込む。ためらいながら、そっと差し伸べていたアンの手がすっと引かれた。
「ほら、なにしてんだよ」
アンの手がリョウの差し出した手にそっと乗せられる。その柔らかくて儚きものが
逃げて往かないようにと、リョウはすこしだけきつく握り締めていた。すこしだけ、きつく……。 
「いっ、痛いってば」 「バツ、罰だよ。朝から変な質問なんかするからさ」 
そう言って、アンの華奢なケープを纏った躰を引き寄せる。
「わたしの所為なんだ……」「拗ねてるのか。遠因は俺だってことくらい自覚してますよ」 
「じゃあ、つづき」とアンが切り出した。 「つづきってなんだ?」 アンはもじもじとしている。
「ああ……その話しのつづきか」 
「それしかないでしょ」
「う〜ん、俺、そういうのは見ないけどな。アンはなんか見たことあるのか?」
「う、うん……あるよ」
 アンにの顔は赧く染まって、明らかにそっちのことを考えていますよ〜、
という感じになってしまっている。ピコもアンの肩にとまって、火照る頬を
押さえながら聞耳を立てていた。 
「ど、どんなだ……?」 「蒼い海とヘブンリーブルーの空だけど……緑の草原とかも……ありかも」 
リョウはアンの顔をまじまじと見詰めている。
「そ、そんなに見ないでよ……!」 ピコと同じようにして、イヤッという感じで両の頬を押さえてしまう。
がんばりな
冬の海・春の海 132

「俺、そんなの見たことないけど……」
 そういうと、右の人差し指で頬をぽりぽりと掻いていた。
「なんで?余裕ないの?」
 アンは今までとは打って変わって、臆面もなく尋ねてくる。
「よ、余裕……?そ、そりゃ、あの時はアンがぎゅううって締め付けてくるから、
余裕なんかないけど……」
 アンは真っ赤になっていた。でも、どうやら羞ずかしくて赤くなっているのでは
ないみたいだ。
「ば、ばかじゃないの!よその人にエンドルフィンを使い捲くってんでしょ!」
「飛躍しすぎだって……」 『す、するどいよ、アン!』 「ややこしくすんなよ!」
 ピコがアンの周りをくるっと飛ぶ。

「ど、どういうことよ!」
 アンは腰に両手をあてて、本気で怒っている。
「ピコ、いい加減なことを言うなよな!アンが誤解しちゃうだろ!」
『誤解なんかじゃないもん!』
「おい、なに言ってるんだよ!でたらめ言うな!誤解だから、信じてくれよ……」

『港で助けてあげた女の子とかあ〜、わたしとか……んなことないか、へへっ』
 アンは両手を差し出して拡げるとピコがそこへと降り立った。最後の呟きは
アンには聞えていなかった。
「港で助けてあげた女の子……?」 『うん、そうだよ。わたしたちがドルファンに
着いて下船しようとしてたら、柄の悪い連中に絡まれていた女の子を助けてあげたの』
「その子の名前、ソフィアじゃないの?」
『ううん。たいしたことじゃないから、名前を聞かれたんだけれど、名乗らなかったら、
すご〜く怒っちゃって帰っちゃったんだよ。ねえ、アン?どうしたの?』

(わたしが本来あるべき時間から跳ばしてしまったのは……ソフィアなの?
だから舞台を投げ出すほどにわたしに苛立っていたの?)
冬の海・春の海 133

「アン!おい、アン!遅刻するぞ!」
 リョウの差し出した手を取ると、ふたりは足早に歩き始める。
「話、うやむやになったね」
 アンはにこりと笑う。男にはなにがなにやら、さっぱり判らない。
「なあ、それって単に小説とかの表現でさあ……」
「ちがうのよ。頭だって肉体のひとつなんだから、見ないってのはやっぱり余裕がないのかなあ」
「ふ、不満なのか……」 「そうは、いってないでしょ」 「俺にはそう聞えるけど」
「たださ……」 「何?」 「やっぱり、余裕が無いってのは当たってると思うよ」
『ほらね』 ピコがアンの貌の傍を飛ぶ。
「じゃあ、どういう意味なの?」 「言ってしまっていいのかなあ……」
 アンを見ながら歩いているリョウの貌が心なし曇っていた。

「言ってみて。わたし、聞きたい」
「戦争だよ」
「せ、戦争……?」
 リョウは歩きを止めた。
「血で塗られた手でアンを抱き閉めたくない気持ちと、白兵戦で人を
殺してだ……それでもアンの温もりが欲しくて抱きたくなる。セックスして生きていることを
確かめたくなるんだ。余裕無いんだよ、俺。ごめん」

「そ、そんなこと、謝らないで……ください」
「この前がそうだった。女の騎士を殺してアンを抱いてしまって、壊れそうだった」
「そして、次の戦いで凱旋した時、わたしを抱き締めてくれたわ」
 アンがリョウの言葉を続ける。
「血だらけの躰でだ」
「迷惑だと思ってたの?わたしは抱きしめてくれて、とても嬉しかったわ」
「そう言ってくれると、救われるよ」 

「ばか、嘘なんかじゃないんだから……!」
冬の海・春の海 134

『ねえ、はやく行こうよ』 
ピコはアンを急かして、服を引っ張るような仕草をしていた。
「そ、そうね。じゃあ、夕方、フラワーガーデンで……あっ」
 リョウはアンの繋いだ手を離さずに引き寄せ、アンの頤をあげてかるく口吻を
した。そして笑うと、訓練場の方へと駆けて行った。

「ねえ、ピコ」
アンは自分の唇に指をそっとあてて、彼の残した柔らかい唇の感触を確かめていた。
『なに?』 「ついていってあげなくてもいいの?」 
「いいの、いいの、ほっといたらいいの。それに、今はアンがいるんだしね、
ねっ、そうでしょう」
 ピコにそう言われて、アンは貌を赧く染めていた。

「行こう、ピコ」 『うん』
 アンはリョウの背中を見送るのをやめると、薬局へと入っていった。
「おはようございます」 「おはよう、アン」
 アンは包みを棚に置いてケープを脱ぎ、着替えていた。
『ねえ、さっきから持っていたのなに?』
「この前、いっしょに行って買った、ひらひらよ」 
『ひらひら?あっ、あのひらひらね!』
「なに、ひらひらって?」 「えっ?」 「だから、ひらひらってなんなの?」 
 同僚が不思議そうにアンを覗いて聞いてくる。
「ゆったりとした、胸あたりからプリーツ掛かったナイトドレスなんです……」
「ふ〜ん」 同僚はにやにやしていた。
「よかったね。丸く収まったんだ。さあ、今日も一日がんばろう」 「はい」
 アンは笑顔で明るく返事をした。
昨日は休み?
561缶珈琲 ◆NAcoFFEEto :03/05/20 00:13 ID:???
ではそのお休み中に宣伝を…。
前回と同じく、ときメモネタ系総合スレッドに自作品をUPしてます。
http://game4.2ch.net/test/read.cgi/gal/1020006366/869-874n
「剣光、閃きて」ときめきメモリアル3より、神条芹華のお話です。
よろしければこっちも読んでやってくださいね。

>冬の海・春の海の作者さん
継続は力なり、といったところでしょうか。純粋にすごいなぁ、と思います。
私だったら途中で絶対へたばる…(w がんばってくださいね。では。
いま、へばってます。
冬の海・春の海 135

 リョウは百花庭園で白い花が来るのをベンチに座ってじっと待っていた。冬の
百花庭園は寒かったが男の心は温かかった。冬の花壇を見ながらプレゼントに
贈ったプリムラの鉢植えを女が何故にあんなに歓んでいたのを考えていた。


「ねえ、クレアさん」
「ダメでしょう。プレゼントくらい考えなさいよ。あなたの気持ちが大切なんだから」
 そういいつつも、そんなことを真面目に相談してくるリョウのことが弟みたく可愛くて、
ケラケラ笑っていた。
「そんなに、笑わなくともいいでしょう」
 偶然街で出会ったクレアを掴まえて、クリスマスプレゼントの相談をしていた時のことだった。
「じゃあ、ひとつだけ教えてあげるわ」
 クレアは右手を出して人差し指でリョウの鼻を触る。
「なんですか?」
「だから、ひとつだけ。もうひとつはあなたが、考えた物を差し上げてね。
左手の薬指に嵌めるものとかね」
 そういったそばから、耳を赧く染めている。またクレアはケラケラ笑っていた。
「もういいです」
 踵を返して歩いていこうとするリョウの後を追いかけて、腕をむずんと掴む。

「ちょっとは、わたしにも気をつかいなさいよ。ほら、いらっしゃいな」
 そういってクレアはリョウを花屋へと連れて行った。応対に出てきたのは
ハンナだった。リョウには花のことはわからず、ただぼうっとしてふたりの様子を見ていた。
「はい、これ」
 クレアが鉢植えをリョウに渡す。あわてて、お金を出そうとした。
「いいわよ。これぐらい」
「だ、ダメですよ。カノジョへのプレゼントなんですから」
冬の海・春の海 136

「そんな、淋しいこといわないの。もうひとつの方をちゃんとお金を掛けなさい。ねっ」
 リョウはクレアに慇懃に礼をする。クレアはそんなことはいいから、といって
困っていたが嬉しそうにしていた。
「クレアさん、誕生日は6月でしたよね」
「ええ、そうだけれど……あら、誕生日になにかいただけるのかしら?」
「はい、愉しみにしていてください」
「もう、無理しなくていいから、恋人にしてあげなさいって言いたいけど、愉しみにしているわ」
しかし、リョウが考えていたのは誕生日プレゼントではなく、いろいろあったことへの
感謝を込めてのプレゼントだった。クレアに鉢植えを渡された時から、リョウ
の気持ちは固まっていた。

「これ、なんですか」
「鉢植えの花よ。ほら、まだ咲いていないでしょう」
「この花、どんな色を咲かせるんですか?」
「淡い黄色。暖かくなったころにね」 「あっ」 「どうやらわかったようね」
 そういうと、クレアはリョウに最初にしたように人差し指を出して彼の鼻に指を置く。
クレアが差し出した鉢植えは早春を待つプリムローズの花だった。リョウはその鉢を
大切に抱えて、アンへのもうひとつのプレゼントとクレアへの感謝のプレゼントを
探しに花屋を後にした。

アンは華美な装飾品は好きではなかったが、その想いはちゃんと受け取って
くれていた。リョウが向ったのはジュエリーショップだった。そう、この鉢植えの花
を咲かせてやろうと考えていたのだ。
 ショップにはめったに行かないのだから、店に入るなり気後れしてしまう
ものの、買う物はしっかりと決めていた。結びのリボンと花びらのカタチをした
シルバーのブローチだった。石はピュアホワイトとブルーとを買おうと決めていた。
565山崎渉:03/05/22 04:31 ID:???
━―━―━―━―━―━―━―━―━[JR山崎駅(^^)]━―━―━―━―━―━―━―━―━―
冬の海・春の海 137

クレアへのプレゼントはリボンをあしらったシルバーの台座に、リボンの結び目に
パールを鎮座させたもの。アンへの贈り物はシルバーの花の中央に濃い青の
ブラックオパールをあしらった、プリムローズのブローチだった。
感謝してもしきれないほどの、多くのものをふたりから貰っていた。
そのささやかなお返しがしたかった。百花庭園の閉ざされたゲートの傍のベンチで、
冬の花壇を見ながら数日前の女たちの歓ぶ貌を思い出しながら、ぼんやりと
そんなことを考えていた。

「どうされたんですか?」
 あどけない口調の妙かなる声。アンと共鳴するような魅力を感じる女の子。
ソフィア・ロベリンゲだった。
「きみは……あの時の港の女の子」
「あの……」
「ああ……ごめん。掛けて」
 リョウはベンチに置いていたランタンを自分の方に置きなおす。しかし少女は
どうすることもなく立ったままだった。

「きみ、座りなよ。でも、こんなに遅くにどうしたの?」
「す、すみません。バイトのかえりに、あなたを見かけたものだから……」
 リョウの言葉に気づかされて、ベンチに腰掛ける。ふたりは腰掛けたまま暫らく
座ったまま沈黙の世界にいた。港で会った時は怯えた少女だったが、今も何か
に怯え苦しんでいることがわかる顫えるスパイシーブルーの瞳だった。
「どうした。何か悩んでるの」
 リョウは腿の上に肘をついて手を組んで少女の貌を見た。ほとんど面識は無いとはいえ、
年上の特権を行使してみる。
「わ、わたし嫌な女なんです……わたし、あなたのことが好きで、あのひとのことを……」
 ソフィアが口にした言葉をいくら鈍いとはいえ、どういうことなのかおよその察しがついた。
>>561


連載中の人もがんがれ
冬の海・春の海 138

  ソフィアは言葉を膝に置いていた手をきゅっと握り締めて呑みこんでしまい、
それ以上は続けられなかった。今朝、アンがこの港で出会った少女のことを
気に掛けていたことを思い出していた。
「きみは……」
 ソフィアのスパイシー・ブルーの瞳は潤んでいて戸惑ってしまう。

「きみ、だいじょうぶ?」
 ソフィアにしても、彼の名前を聞きたかったし、名乗りたかった。そしてどうして、
これほどまでに心が掻き毟られるようになってしまったのかも知りたかった。
けれど、彼がアンと付き合っていることは知っていた。自分にはフィアンセも
いる。ソフィアは膝の上の両手の拳をぎゅっと握る。

「……」

「きみ、だいじょうぶかい?」
 名前を呼んでもらえないことが、とても哀しかった。ソフィアはリョウの方へと
貌を向けた。

「これから、どちらかへ行かれるんですか?」
 涙を堪えていたぶん、鼻がぐずっていた。泣いてしまえたら、みっともなく
ぐずってしまうことなどないと知っていても、泣くことなんかできるわけがない。
「ああ、カミツレの森へ行くんだ。それで、このランタンが要って……」
 けれど、一滴ソフィアの頬を伝い、ソフィアは立ち上がる。

「ごめんなさい。わたし、もう帰らないと。ごめんなさい」
「きみ、名前は……」
「も、もう、いいんです。あの時は、本当にありがとうございました。さよなら」
  ソフィアはリョウにぺこりと頭を下げて、アンのひみつについては結局なにも
言えないままに、リョウの元を駆けて立ち去っていった。
冬の海・春の海 139

『ねえ、ねえってば。どうしたの?』
 百花庭園のゲートの傍のベンチに腰掛けたいるリョウにピコが声を掛けていた。
「あ、ピコ……」 『あ、ピコじゃないわよ!』
 ピコはリョウの冴えない貌にぺたぺたと手を付ける。
「こらっ、俺だって考え事ぐらいするんだよ!」
 万歳をするようにして拳を掲げる。

『きゃあっ!もう、ばか!』
 ピコは躰を捻ってアンの方へと飛んでいった。アンはベンチに座っているリョウの
前に立って微笑んでいた。
「アン、今朝……いや、なんでもない」
「そう、なんでもないの?」
「ん……?」
 アンはリョウの様子を訝る素振りも見せずに微笑んでいる。
「なんでもないのなら、いきましょうよ。暗くなるわ」
 アンが座っているリョウに手を差し伸べた。
「これがあるから大丈夫さ。いこう」
 傍に置いたランタンをポンと叩いて、アンの手を取った。


 ふたりはランタンの灯かりを頼りに、とうに夜になってしまったカミツレの森の
道なき道を奥深くへと歩いていた。
「ぬかるんでいるから気をつけて、アン」 「ありがとう」
「アンはこわくないのか?」 
「どうして?」
 寄り添って歩くアンがリョウの貌を見る。 
「真っ暗だし、寒いだろ」
「そうね。冬の冷たい夜の空気、淋しい森に魔女が住んでいるって言われているしね」
冬の海・春の海 140

「マジョ?」
 リョウの方が驚いてアンを見る。
「ふふっ、こわいの?」 
「こ、こわいわけないだろ。ここで剣術の訓練だってしいるし」 
 アンは口元に手を当てて笑っていた。
「魔女はわたしの大切なともだち。この淋しい森はわたしの住んでいたところよ」
 リョウはアンの過去について特段関心が無いわけではなかった。記憶がないと
聞いていたから、日々の重ねがアンとの記憶なんだと単純に考えて自分からアンの
過去については詮索したことはなかった。やがて周囲の木々に枯れ木が目立ち始める。

『うわああっ!』
 ふたりの前に躍り出て脅かしピコが悪さをした。
「ひっ!ピコったら!」
「こら、ピコ!なにベタなことやってんだよ!」
 アンとリョウはふたりして声を荒げて怒る。
『へへっ、でもビックリしたでしょう?』 「してないッ!」
 また、ふたりの声が揃う。
『うっそお!ぜったい、びっくりしてたよう!』 「してないのッ!!」 『してた!』

「ねえ、あんたたち誰と喋ってるの?」
「きゃああッ!」 「うわああッ!」
 不意に声を掛けられ驚いたが、さすがにリョウの方は身構えていた。
「なかなか来ないから、迎えに来てやったのに。あんた、傭兵なんだろ?肝っ玉ちっちゃいのかい?」
 ランタンの灯かりを掲げているメネシスは、身構えているリョウに近づいて股間を握り締めた。
「メネシス!」
冬の海・春の海 141

  アンは裸身に淡いグリーンのゆったりとしたナイトドレスを身に纏って椅子に
腰掛て、肘掛に太腿を引っ掛けて開脚していた。
 そこから、少し離れてメネシスがふたりの様子をじっと見ていた。彼女は
シルクのキャミソールとタップパンツ姿で膝を抱えて椅子に座っていた。
アンの吐息とメネシスの吐息。暖炉のパチパチという燃え立つ音と、暖色系の
オレンジ色が三人を妖しくさせていた。

「ほんとにいいのか?ここを剃ってしまって……」
 リョウはアンの繊毛をやさしく撫でると、アンは「はあっ……」と濡れた声を
洩らし潤んでいる赫い瞳が淫に染まる。リョウだけは裸になってアンの開脚して
秘園を晒しているところに跪いている。彼の股間のものは垂れ下がっていたが
性交が可能なほどに膨らんでカタチを成していた。その腿から覗く肉棒の
大きさにメネシスも濡れた溜息を洩らしていた。

 アンはリョウに言葉では語らずに左手を突き出して、彼の頤にふれて
人差し指で唇をそっと押さえる。そのアンの左手首をリョウの手が握って
アンの薬指を口に含んだ。すこし横にして唇の感触を伝え女性がペニスを
しゃぶるようにピチャピチャと唾液の音を立てながら四、五回繰り返した。
リョウのペニスはむくむくと膨らみ、アンとメネシスの女芯はジュンと
秘めやかな音をたて濡れた。

 リョウはメネシスの用意してくれた蒸しタオルを空中でダンスさせるようにして
幾らか冷まして濡れるアンの秘園へとあてがう。
「あっ……」
「熱かったか、ごめん」
 アンの肘掛に掛かっている白い太腿と下腹はふるふると儚げに顫える。アンの
羞恥に耐えて脚を開いて羞ずかしい行為を赦すイノセントさがリョウを勃起させる。
「す、すこしだけだから……」
「ごめん」
下がってない?
573山崎渉:03/05/28 12:19 ID:???
     ∧_∧
ピュ.ー (  ^^ ) <これからも僕を応援して下さいね(^^)。
  =〔~∪ ̄ ̄〕
  = ◎――◎                      山崎渉
冬の海・春の海 142

  白いといっても、アンの柔肌はほんのりと桜色を呈していた。先にリョウが
バスルームに入って汗を流した後で、メネシスが入ってからアンが入ったのだった。


 それは、食事が済んだ後でメネシスから切り出された。
「そろそろ、はじめるかい?」
 妙に打ち解けた会話が空々しく感じがしていたのは、夜のイベントのことで
みんなの頭がいっぱいだったので無理からぬことだった。逆にそのぎこちなさが
可笑しくて、へんなところではにかんでもみたりしていた。そんな女たちの
コケティッシュな様はリョウの股間を膨らませるのに一役かっていた。

 リョウは自分から言い出しておきながら、その返答に窮していたら、アンの
「はい……」と小さな声ではあったが、メネシスの大きなメガネを掛けた褐色の
貌を驚かせる。
「ごちそうさまでした」 
「な、なに……。メネシス」
「さあ、なんだろうね。そうだ。先に汗を流してきなよ」
「メネシスから、どうぞ……」
 アンは貌を真っ赤にしている。
「あたし?あたしは後でいいよ。んじゃ、あんただ」
「お、俺ですか……?」
「黙って行く。考える余地なんかないよ。それとも、アンと洗いっこしたいのかい?」

 メネシスはケープから手を出してバスルームの方を指差していた。
「さっさと行きな。ちゃんと大事なとこも、ごしごし洗いなよ」
「メ、メネシス……」 「ほら、ぼさっとしてないで、あんたはさっさと行く!」
 メネシスは立ち上がったリョウの背中を両手で押して、彼はしぶしぶと部屋を出て行った。
「で、何貰ったの?」
 メネシスはアンの隣へと腰を下ろした。
私見ですが半分下がったところだから、
まだいいのではと。
冬の海・春の海 143 

「なにって、あんた……へっへへ」
 テーブルに身を乗り出して頬杖を付いたメネシスがニヤニヤしている。
「プリムラの鉢植え……です」
 アンは俯いて目元を朱に染め上げる。
「へえ、ふうん。でも、あれって三月に咲く花なんだろ?」
「えっ、ええ……。花は……」 「花は?」 「ブローチを」
「ブローチ?プリムラの花をしたブローチ?」 「ええ……シルバーの花のブローチ」

「あいつが?ほう、へえ」
 メネシスはめがねを掛け直しアンを見る。
「ほうって、そんな風に言わなくても……」
「あいつがほんとに考えたのかなあ。まあ、いいや。で、あんたは何をあげたの?」
「わ、わたし……ですか?」
「歌とか、ひょっとしてわたしのカラダとかベタなオチじゃないよねぇ。この
イベントもその延長ってワケ?」

「へんでしょうか……?」 「まあ、へんじゃないけれど。そうだ、アンの左手見せてよ」
 メネシスが頬杖を付いていた手を差し出してアンに言う。
「左手ですか?」
アンは不思議そうにメネシスへ聞き返す。
「ほら、はやく」
 メネシスの差し出した褐色の手にアンの白い手がそっと乗る。
「あれ、まだ無いんだ。そんじゃあ」 「あっ……メネシス」
 アンの手の甲へメネシスが口吻をして、彼女の薬指に唇を付けて、下唇を
指先に引っ掛けるようにして薄く開いた。 
「はあ……。だったら、あたしが一番乗りだね」 「あっ、メネシスたら……」
いきなりで悪いんだけどどれくらいの人がこのスレ見てるの?
(・∀・)ノ 見てるぞー
冬の海・春の海 144

メネシスの下唇を押えるようにして開いている口はアンの左の薬指を咥え込んだ。
メネシスの唇に挟まれた感触と舌の絡みついてくる感じがアンを昂揚させる。しかも、
秘めた想いの左の薬指にメネシスが瞳を閉じてペニスをおしゃぶりするみたいに
恍惚とした表情で行為に没頭している。

 メネシスは指の根元までペニスを呑み込むようにして咥えると、アンの秘所は明らかに
潤いを帯び始めていた。アンは羞ずかしさから俯いてしまう。俯いていてもメネシスの
おしゃぶりする貌を見ていたい、という淫靡な夜に躰が疼く。
上目遣いにアンはメネシスの様子を窺っていると、メネシスは唇を開いて舌の上に
載せた指を見せた。ゆっくりと唇が開いて銀の糸が伸びて切れ、ピンクの舌に
メネシスの唾液に濡れて光っている指を見た。アンの左手はメネシスの頤に
彼女の唾液を塗りたくりながら引かれていった。

「はあ、はあ、はあ……はあっ」
 アンは儚げな声で息をついで、胸板を大きく上下させている。そんなアンに
メネシスの片方の手が伸びてきて桜色に染まった頬に親指がふれ、赧く
染まった耳の下の首筋を四本の指がやさしく撫で回した。
「アン、キッスしよう」
「はい……」
 アンは俯いていた貌をゆっくりと上げて貌を近づけ、くなくなと揺すりながら、
かるく触れるか触れないかの微妙なタッチの口吻を愉しむ。マシュマロのような
柔らかさとプリッとした感触が躰を火照らせる。メネシスはアンの唇に被せるように
唇を付けて立ち上がって頬から耳元へと滑らせる。
「あっ……」
「もう、おしまい。続きはあとでね」
「どうして……!」
 だだをこねるように立ち上がったメネシスを桜色のアンが見上げている。
こんなに長くなったのに、読んでくれてうれしいです。
ありがとうございます。
実は見てます。殆ど黙ってますが。
冬の海・春の海 145

「だって、彼氏が淋しそうにして見てるもん」
 立ち上がったメネシスがアンの肩を抱いてリョウの方を向かせる。
「えっ……。あっ!」
 アンは小さな声で悲鳴をあげ、両手で口元を押さえる。メネシスはびっくりしている
アンの肩をぽんぽんと叩いて、ケープの裾を引き摺ってバスルームへと
歩いていく。その途中、棒立ちになっているリョウの傍を何食わぬ顔で通り過ぎ
股間をぐっと握った。

「あんた、アンを哀しませるようなことしたら、わたしが赦さないからね」
「痛うっ」 「返事は」 「は、はい……」 「あんた、あと用意しといてよ」
 前屈みになっているリョウの耳にメネシスが言う。
「な、なんの……ぐうっ!」
「なんの?タオルとか、カミソリとかしゃぼんに決まってんだろ!ほら、こっちに来い!」
「痛っ、ちょっと、メネシスさん……」 「あっ、メネシス!」
 アンも立ち上がろうとするが、メネシスはそれを手で制する。
「アンは座っていて。こいつにさせるからさ」
「いっ、いいよ。俺がするから、アンはそこにいて、イテテテ……!」
 メネシスはリョウの股間から耳をぎゅっと掴むと躰を引っ張っていった。
脱衣場に入って洗面化粧台へと連れて行く。

「ほれ、カミソリに石鹸にタオル。懐紙はラボから何枚か取ってきてよ。それと
容器とか気がついたものもね。わかった!」
「は、はい」 「ねえ」 「なんですか?」
 あずけられた物を両手に抱えてリョウはメネシスを見ていた。メネシスは
リョウの存在も気にせずケープを落として、赫いフリンジベルトを解いて
ワンピースもさっさと脱ぎ捨てていた。
冬の海・春の海 146

「じゃ、俺は用意しておきますから……」
「まだ話しが終わってないよ」
 白いシルクのキャミソールとタップパンツ姿の褐色の肌のメネシスがリョウへ
にじり寄る。
「ちょ、ちょっとまずいですよ」
「あんた、わたしがアンを好きでも問題ないよね」
「なんでですか?親友なんでしょう?俺はべつに……」
「んじゃさ、わたしを抱くのはどうなワケ?」
 メネシスはキャミソールのストラップを肩からずらして落として褐色の乳房を
見せる。アンとは全く違うモカの彩りのツンと上を向く小ぶりの美乳だった。
「そ、それは……」
 そしてメネシスはゆったりとしたタップパンツも前屈みになって、すらっとした
脚を曲げて脱ぎ始める。

「やっぱり、俺……行きます」

「ダメ、ここにいて!」

 メネシスがリョウにすがるような瞳をしていた。眼鏡を取った所為なの
だろうか。やけに潤んでいるようにさえ見える。そして焦点が定まらない分、
遠くを見ているような、それでいて真摯な眼差しが切なかった。
「で、でも……」

「荷物を其処に置いて。おねがいだから」

 やわらかい物腰の言葉がリョウに掛けられる。全裸になったメネシスが
洗面化粧台のカウンターを指す。リョウは言われた通りに荷物を置いた。
メネシスはその傍に手にしていた眼鏡を外して、そっと置くと一歩前へと出る。
フラワーガーデンで会った頃のアンの翳りある瞳に似ている。
冬の海・春の海 147

「アンからあんたを奪う気なんかさらさらないよ。ただね、ぎゅっと抱き締めて
欲しかったんだ。アンにも抱き締められたけれど、男にも抱き締められたいんだ。
あんたにゃ、この気持ち、わかんないだろけどさ。わたしをちょっとだけ、
安心させてくんないか……。あっ……!」
 リョウはメネシスの言葉が終わらないうちに、褐色の細い肩を掴んで胸に
引き寄せて、ぎゅっと抱き締めていた。ほんの三十秒程度だったが、メネシスには
かなり長い時間抱き締められていたような気がしていた。

「ごめんよ。もういいから……ありがとう」
 メネシスが潤んだ瞳でリョウを見上げている。
「俺、アンからあなたを抱いてくれって……」
「じゃあ、そういうムードになったら抱いとくれよ。躰洗ってくるから、離してくれる」
「ごめんなさい」
「謝るのはわたしの方さ。ま、そんな風になったら頼むよ」
 そう言ってメネシスはバスタブへ歩いていった。リョウは華奢な後ろ姿と小さな
双臀が小気味よく揺れているのを見ていた。
「はやく、用意しなよ!」  「あっ、はい!」

 リョウは脱衣場を出て行ってアンがいるリビングへと行った。するとアンは
椅子に深くもたれてテーブルに肘を付いて両手の指を真直ぐに伸ばして、
小鼻のところできちっと合わせて山のようにして入ってきたリョウを見ていた。
一瞬、リョウはアンが怒っているのかと思い、謝っていた。
「ご、ごめん」 「どうして、あやまるの」 「俺、アンをうら……」 アンが言葉を遮る。
「ともだちにやさしくしてくれたのでしょう。ねえ、ここへ来てちょうだい」
「う、うん……」 「わたしにキスして、リョウ」
 アンは思慮に耽るポーズを解いて、荷物を抱えて屈み込んだリョウの貌を
後ろ手に廻し頬を撫ぜてふたりは唇を合わせた。
冬の海・春の海 148

  メネシスが上がってくると、次にアンが立ち上がってバスルームへと消えていった。
「あんた、あれ、ひとりで考えたのか?」 「えっ?」
「えっ、じゃないだろ。プリムラのことだよ」 「あっ、あれのことですか……」
 リョウは右手の人差し指で頬をポリポリと掻いていた。
「はっは〜ん、おんなだね。アンに言いつけちゃろか」
 そう言って白いシルクのキャミソールとタップパンツ姿のメネシスはリビングから
スタスタと出て行く。

「ちょっと待って下さいよ!メネシスさん!」
 リョウはメネシスを追って寝室までついて行っていた。寝室の扉は開いていて、
メネシスはベッドに腰掛けてリョウを手招きしている。褐色の素肌に華奢な躰の
上からのゆったりとした白のシルクのランジェリーはメネシスを妖しく見せていた。
「どうしたの。おいでよ。それとも、わたしって魅力ない……かな?」
 黄色い蝶々は留まっていなくて、メネシスの髪の毛は肩へと真直ぐに垂れている。
「そ、そんなことないですよ」
「なにどもってんのさ。早くこっちにおいでよ」
「は、はい……」 「ほれ、またどもってる」
 リョウはメネシスが座っているベッドへと近づいて彼女を見下ろすと、メネシスは
立ち上がって眼鏡を取った。
「近眼だからさ、とっちゃうとぼやっとしてて焦点定まらなくてさ。うるうるしてる
見たいで、なんかいいだろ?ほら」
「そうですね。とても綺麗な瞳をしている。でも、唇は綺麗でもっと可愛らしいですよ」

「ふ〜ん、そうかい」
 メネシスの小さな口元が微かに笑っていた。
「え、ええ……。ぐうっ!」
 メネシスはリョウの股間を右手でぐっと下から握り締める。
「少しは勃起してくれてたんだ。んじゃ、そこの机の椅子を運んどいてくれよ」
冬の海・春の海 149

「へ……?」 
「へ、じゃないだろ。ほら、言われた事はとっととやる。女の子に嫌われるよ」
 また、あられもない姿で寝室の開いている扉の方へスタスタと歩いていって、
眼鏡を掛けたメネシスが顔を覗かせた。
「さっきは何も言わないで、抱き締めてくれてありがとう。嬉しかったよ。それだけ
ちゃんとここで言っときたかったんだ」
「そんなこと……」
「ほら、さっさと運んで、あんたも服を脱ぐんだよ。そうしないと、プリムラのこと
アンにホントに言っちゃうからね」
「もう、冗談はよしてくださいよ」 
「さあ、どうかね。半分本気だったりしてね」 (ほんきになったりしてね)
 リョウはメネシスに言われた肘掛のある椅子を抱えると、急いで彼女の後を
追ってリビングへと行った。


 暫らくしてアンがゆったりとした淡いグリーンのナイトドレスを着てリビングへと
入ってきた。ゆったりとしたナイトドレス越しにもアンの躰のラインと豊かな乳房、
そして剃り落とされる恥毛が薄っすらと見えていた。

「あんまり、じっと見ないで……」
「ごめん」 
「ほい」
 リョウが視線を外した処にメネシスがいて、蒸しタオルを手渡す。
「アチチッ!」
「そんじゃ、わたしは傍で見てるから、勝手にやってよ」
 メネシスは引いてきたワゴンを椅子の近くに置いてテーブルの方へと戻っていくと、
リョウもシャツとズボンを脱ぎ始める。暖炉のオレンジの温かい灯りに鍛えられた
肉体が照らされるのを見て、ふたりの女たちはコクリと咽喉を鳴らして唾を呑み込んでいた。
冬の海・春の海 150

   アンはゆっくりと歩いていって椅子の背もたれに躰を沈めると緑のナイトドレスの
裾を捲くって白い太腿があらわになり、微かに顫える脚を揃えたまま踵を尻に付けた。
リョウは裸になってアンの前に跪く。
「アン、開いて」
「はい……」
 アンの返事の声も微かに顫えている。リョウは容器のソープを掻き混ぜて
シャボンを作って刷毛を手にした。
「湯舟で温まったのなら大分毛穴は開いていると思うけど」

「もう、言わないで……」
 アンは堅く閉じ合わさったように見えていた両太腿をあっさりと開いて、肘掛に脚を
掛けて繊毛が繁る秘園をリョウへと晒し、シャボンを載せられていった。
「んっ……」
 アンの小さな声が洩れる。髪の色と同じ銀色がアンの素肌と同じ雪色に恥丘に
盛られていった。リョウはそこに蒸しタオルをそっとあてる。
「んっ、あっ……!」
 今度ばかりは敏感なところが痺れるような熱さに包まれて、アンははっきりと
聞えるように声を上げていた。熱かったかい、と尋ねたリョウにアンは手を差し出して
言葉を遮った。そしてメネシスに舐めてもらった左手の薬指をリョウに舐めさせる。
舐めてもらうことで少しでも勇気を得ようとしていた。暖炉のオレンジの灯りを映して
ワゴンに置かれている剃刀が妖しくきらめいていて、無防備に晒した女の命に
立てられると思うと、頭では納得していてもそそけ立つのがわかる。

 そして、もういちどシャボンを秘園へと盛られていった。むずかゆい感覚とそそける
相反する感覚がアンを儀式の蠱惑へと引き摺り込んでいっていた。そして
無毛となったおんなの飾り毛を剃り落とされた恥丘に、消えるとはいえ絵を描かれること
が待っている。
冬の海・春の海 151

   アンの下腹は顫えナイトドレスからでも揺れていることがわかるまでに乳房は
喘ぎはじめている。秘めた左の薬指をメネシスとリョウに舐めてもらって濡らした躰が、
淫靡な蠱惑に染まりつつあるアンだった。リョウが剃刀を手にして恥丘に刃を
立てようとする。

「掻き傷なんか作ったら赦さないからね」 「はい……わかっています」
「いいの、気にしないで」 「ダメだよ、アン。大切なところなんだから」
「そうだよ、アン」
「もう十分にやわらかくなっているから……。ねっ。してちょうだい」
「わかった」
 リョウは刃をアンの柔肌に立てて押し当てて剃刀を引き下ろす。白い泡が
恥丘から削がれて懐紙の上にアンの泡に包まれた繊毛を載せる。
「あっ……」
 女の命ともいっていい飾り毛を剃られて、アンは小さな歔くような声を洩らす。
乳房が絶えず揺れていて、晒した太腿を掴んでいた右手が口元で人差し指を
コリッと噛んだ。リョウのペニスもそれに反応して勃起している。それを見ている
メネシスも太腿を摺り合わせてもじもじさせていた。

 そそけ立つ感覚と暖炉の妖しい灯りに照らされた儀式がアンに女神の
ネクタルをあふれさせてくるのがわかる。微かなひりつく痛みも秘所の疼きに
なっていて、花唇を濡らしているアンの貌は眉間に縦皺を作っていた。
 一度、肚を括ったリョウの手捌きは巧みに剃刀を操って白い泡を落としていった。
ひと段落したところでアンに声を掛ける。
「痛くないか?正直に答えてくれないか」 「少し、ヒリヒリするだけ……だから」
「ここ、濡れてるね」 
「言っちゃヤダ……。ばか……」
 アンは両手で朱に染まっている貌を隠した。
上げ推奨
590名無しくん、、、好きです。。。:03/06/06 01:24 ID:TZeoNxhr
冬の海・春の海 152

「仕上げに入るから、もう少しだけ我慢して」
「はい……」
 アンは貌を隠したままで小さい声で呟いた。出血はなかったが、ほんのりと赤く
なっている。とにかく早く終わらせようと、ぬめる秘肉を摘んでは丁寧に迅速に残った
恥毛を剃っていった。
「ほら、新しいタオルだよ」
「あっ、すみません」 
「あっ、ああ……。見ないで」
 横から突然にメネシスの声が聞えてアンは躰を屈めて背を丸くする。リョウは剃刀を
ワゴンに載せてタオルをメネシスから受け取ると飾り毛を無くしたアンの儚げなセックスを
丁寧に拭いていった。
「綺麗だよ、アン」 メネシスの自然なやさしい声が囁いている。
「見ないで、メネシス!羞ずかしい……!」

 すらっとした綺麗な両脚を椅子の肘掛に載せて開いているアンの未成熟な少女のように
なってしまった躰から立ち上がって、その場所をメネシスへと譲った。
「いいの……かい?」
 メネシスの質問に瞳で答えていた。
「も、もう……いいのよね?」
「まだだよ、アン」
 リョウがアンに返事をする。しかし、ワゴンに載った小瓶から羊の油から
精製したラノリンクリームを褐色の指に絡めやさしくほんのりと赤くなった
柔肌に擦り込むようにして塗っていたのはメネシス。

「痛い……?」
 アンは貌を両手で覆ったままふるふると振って長い銀髪を揺らしていた。
「でも、これじゃあ今日は此処には図案は描けないね」 「いやあっ」 「爛れちゃうよ」
「いやあっ……!そんなの、そんなのって……ないわ」
回し@
592_:03/06/06 01:29 ID:???
回しA
回しB
回しC
回しD
冬の海・春の海 153

  股間からメネシスの声と耳元ではリョウが囁いていて交互に聞えて
きていることに気がついて、アンは顔から両手を取り除く。
「ひっ……!」
 スキンクリームを塗っているメネシスの手付きと見上げる瞳に息を呑んだ。
アンは脚を閉じようとのそっと動き始める。
「あしたも泊まればいいじゃないか。そうしなよ」
 メネシスは片手でキャミソールのストラップを肩から外して躰をくねらせて
モカ色のツンと上に跳ねた乳房が貌をあらわす。

「あっ、だめっ……。ダメったら……ダメぇ」
 メネシスの手はアンのセックスを愛撫したまま、くちびるを内腿に近づけて
閉じようとする両脚の抑止としての熱い口吻をして、吸いたててからツ―っと
あわいへと降りていった。メネシスを止めようとして手を彼女の頭に
差し出そうとしたが、ためらいに膝に添えられて背もたれに躰は沈む。 
「いやあ、やめて……」

 納得ずくで此処へやって来たはずなのに、いざ無毛になった秘所を
愛撫されながら徐々に口が近づいている予感にどうにかなりそうで
たまらない。しかも右の耳元では赧く染まった外側からリョウが舌を
渦のように舐め回しながら耳穴へとねっとりと侵入してくる。

 下ではメネシスがだんだんと秘所へと近づいて切羽詰ったような感じが
アンの躰を焦がして情欲の濡れた華が開いていく。もう、脚を閉じることは
アンにはできない。顫える膝にのせていた右手を落とすと、椅子に
よせているリョウの躰の灼熱のペニスをしなやかな指を絡めて、親指で
赤黒くなって艶やかにてかっている亀頭を押え込み、残りの指は肉茎を
包み込んで、きつく握り締めた。
冬の海・春の海 154

アンはまるで自分が生贄に捧げられた乙女のような気分で椅子の背もたれに
躰を沈ませながら時折跳ね上がって躰と長い銀の髪をゆらゆらとさせていた。
それはリョウとメネシスも同様で、アンのイノセントな姿態に高揚感が増して、
三人三様の吐息が暖炉のオレンジの灯りに包まれて絡み合い蕩け合って……
めまいを起こしてクラクラとしていった。

「ねえ、アン。そろそろ立って、ナイトドレスを脱いで」
 メネシスがアンの股間からべっとりと濡れた唇を上げて、アンを見る。
「も、もっとして……」
 アンはペニスを握り締めた右手に力を入れる。
「ここに、オチンチンがほしいの?」
 アンは椅子に深く沈んだままで瞳を閉じて答える。
「ほんとは、彼に寝室へ抱いていってもらおうと思ったけれど、寒いでしょ。
だから、寝室に行ってシーツを取ってくるよ。ここで、ペインティングしようよ」
 そういって、アンの秘所をメネシスは右手を返して、下からすっとひと撫でして
立ち上がる。

「シーツなら俺が取ってきますから」 
「いいよ。わたしが取ってくるから。毛皮とかありゃあ絵になるんだけどね、ごめんよ」
 メネシスはにまっと笑って、白いゆったりとしたシルクのタップパンツ姿で、
アンに寄り添うように前屈みになっているリョウの前にいく。背筋をピシッと
伸ばしてツンと上を向くモカ色の乳房が小気味よい。

「ばか。アンが離してくんないだろ」
 秘所を愛撫した手でリョウのペニスを握る。もちろんそこにはアンの指が
しっかりと絡みついている。アンはペニスを握っている手を思わず緩めて
引いてしまいそうになる。自分の愛液で濡れる感触でやさしく包まれたから……。
150突破してる・・・
冬の海・春の海 155

「だめだよ。離したりしちゃ」
メネシスはアンの目線に合わせて少し屈んで呟いた。それはふたりへと贈った
言葉だった。アンの手を包み込むように滑って下から亀頭をひと撫でして中指が
鈴口をなぞって離れていって、その手で自分の唇を撫でる。尖った頤は雫でまた
ぬらっと煌いた。メネシスは唇が指を撫でる時、「はあっ……」と熱い吐息を
洩らして舌をチロッと出し、濡れる指を舐めていた。

「メネシスって、エッチでしょう……?」
 細い褐色の指は頤から咽喉を辿って乳房へと行った。
「そうか?俺はアンの方がえっちな気がするな」 「ばか……」
「いいじゃない。えっちでもさ。生きてるって実感できる、人類の最高の言語さ」
「もう……。メネシスったら」
「ま、それは大げさかもしんないけど、あながち外れてもないだろ?」
 少しおどけながら、姿勢をしゃんとするとやさしい笑顔でふたりに声を掛けた。
ふたりはどうして、指を舐めていた艶っぽい貌からこんなにもやさしい貌が
できるのか不思議そうに見ていた。

「ん?わたしの貌になんか付いてるかい?」 「い、いえ……。なにも」
「なに、気になるじゃない。リョウ、答えてごらんよ」
 微笑みはそのままに、腰に両手を当てて小首を傾げる。褐色の素肌に
コケティシュな仕草は厭味ではなかった。そのアクティブな美貌は妖精のようでもある。
「なんか、赤ちゃんを抱いているおかあさんの笑顔みたいだなあって……。
すみません!」 「アンもなの……?」 「はい……」
「ふ〜ん」 「おこったの……メネシス?」 アンが恐る恐る聞いてみる。
「うんにゃ、嬉しいよ。ふたりがそう思ってくれたのもそうだけど、いっしょのことを
考えていてくれたなんて素敵だね。そいじゃあ、用意しといて。すぐに、戻って
来るからさ」 「はい……」  ふたりは声を揃えてメネシスに答えた。 「上出来だよ」  
メネシスは笑いながらシーツを取りに部屋を出て行った。
冬の海・春の海 156

「立てる、アン?」
 リョウのペニスを握り締めていた手を離して、椅子の肘掛から脚を下ろして
ふんばって立ち上がった。
「ほら、気をつけて」
 裸になっているリョウが、おぼつかない足取りで立ち上がったアンの手を取る。
「わたし、そんなにえっちなの……かな?」
 片方の手でアンはリョウの貌を撫でる。

「なんだ、そんなこと心配していたのか?」
「なんだはないでしょう。淫乱なんてやだもの」
「メネシスの言葉、聞いてなかったのか」 「あれはあれ。これはこれ」
「よくわかんないよ」
 アンは悪戯っぽく微笑み、苦笑しながらリョウはアンの背中を開いてナイトドレスを
床に落として、蒼白の裸身をあらわにした。暖炉の灯りに照らされて寄り添うリョウと
アンは創世の男と女のように睦み合う。

「俺の希望だよ」 「ん?なにが?」
「だから、アンがえっちかどうかって話しさ」 「もう、どうでもいいわ……」
 リョウがアンの背中を取って、後ろから豊満な乳房をやさしく愛撫して、首筋に唇を
這わす。アンは双臀にペニスを押し付けてくるリョウの引き締まった臀部を弄りながら、
首筋を舐めるリョウの頭も撫でていた。
「生きているって実感できると言ったろ」 「うっ、うん……」
「どっちが……えっちかといったら、俺の方だよ」 「ど、どうして……」
「前にも言ったろ……。血を見たら辛いんだ。見た後で、無性にアンを抱き締めたくなる。
悪いと思いながらも……この手で抱き締めたくなる。ごめん、アン」
「だったら、もっとえっちになるから……。もっと抱いて……リョウ」
「ダメだよ、アン。そんなに甘やかしちゃ、こいつ満腹になって飽きちゃうから」
冬の海・春の海 157

シーツを抱えたメネシスが部屋に入ってきて暖炉の傍にそれを敷く。
「そ、そんなことないですよ」
「ふ〜ん、だったらあんたは神様だね。なんなら、わたしが誘惑してみよっか」
 そういって立ち上がると、流し目で品をつくって頬から頤をすうっと撫で回した。
「メ、メネシス……」
 アンが心配そうに声を上げる。
「今日は、抱いてくれるって話で来たんだよね」 「そうだけど……」
 アンが少しだけ雲って拗ねていた。

「ほら、あんたが望んでた染料だよ。図案を見してごらんよ。アンの綺麗な躰に
くだらない落書きなんかしたら、あんたのチンポの毛を剃ってやっからね」
 そう言ってメネシスは今はぶら下がってしまっているリョウのペニスをぎゅっと掴んだ。
「痛っ……」
「なにが、痛いんだよ。あんな敏感な処の繊毛を剃られて、どれだけ痛かったと
思ってるんだよ。この、バカは!」

 掴んだペニスを上下に下腹に付けるようにしてぐいぐいと振ると彼の逸物は
ムクムクと膨らみ始める。
「ほ、ほんとに、痛くなかったから……。メネシス」
 メネシスはペニスをパッと離して、リョウの背中を手のひらでバン!と張る。
「ほら、さっさとナイトさまは図案を取って来い!」 「は、はい……」
 リョウはメネシスの言われた通りにアンの躰に書こうと思っていた図案を
テーブルへと取りに行く。

「ぷらぷらしてるね」 「えっ、あっ、ああ……」 
 アンはメネシスの方を見て、にっと笑う彼女の貌から視線を外して、赧く顔を
染め上げる。 「アン、うつ伏せになんなよ。ここはまだ無理そうだからさ」
 メネシスの指が無毛のスリットをそっと撫でた。 「んあっ……。もう」
冬の海・春の海 158

  メネシスの悪戯にアンは太腿を閉じ合わせて、そのまま腰を下ろしてしまう。
「あら、もう座っちゃうの……?つまんないよ」
「あ、あとで……」
 一旦は俯いていた貌を上げてメネシスをアンは仰いでいた。そのはにかんだ
表情がメネシスのど真ん中だった。
「こほん。そっ、あとでね……うん、うん」
 メネシスは眼鏡の端を掴んで直して、リョウの手前歓びをどうしたらいいものか迷っていた。

「どうしたんですか?風邪でも……」
「バカいうんじゃないの!さっさとよこしなさい!」
 アンは口元にかるく握った右手をあててクスッと笑ってから、メネシスが敷いた
シーツへと寝そべった。両腕を組んで顔をその上に横たえる。雪のように白い肌の
描くゆるやかなラインに瑞々しい双臀はいささかも卑猥な感じはしなく、むしろ
透度の高い波ひとつ立っていない湖水のイメージがする。

「なに、ぼけっとしてんだよ!あんたが用意するんだろ!早く銀のトレイを降ろしな」
「あっ、はい……」
 リョウはワゴンに載っている銀のトレイを持ち上げたが、手が振るえてカタカタと
鳴らしていた。メネシスは前屈みになって穿いていたタップパンツを脱いで
ワゴンの方へとポイッ!と投げてよこした。そしてアンの貌の近くに腰を降ろす。

「あんたがずぶ濡れになって、やって来た夜のこと思い出しちゃった」
「はい」 「ねえ」 「はい……?」 「心配ないみたいだね」 「えっ……?」
 メネシスはアンのほつれ毛を手櫛で整える。そして耳下の首筋をやさしく
マッサージするように愛撫していた。
「だって、あんたの背中に勃起してんだよ。んにゃ、かわいいツンと上向いているお尻にかなぁ……」
 アンは茶化さないでの「もう」は洩らさずに、やわらかい笑みとエクボをメネシスに向けていた。
 
605こうちゃん ◆T4ImKp7KZc :03/06/14 04:09 ID:???

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 ┬r─────-┐   |-=・=-  -=・=-  6)|
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 || |::ちんこ,,,,,.||    |    . (・・)       |   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 || |;;;;;;;花火 ||    \   ∈∋     /   < このスレは僕が居ないと駄目だね
 || |     .  ||      \____/     \_______
 || └───- ┘|    r''" `'-、     ヽ
 コ┴───-┬─┘  / `ヽ  /  '^'ヘトハト!`ト、
  ̄|| ̄ ̄ ̄ ̄-日-|   | /  〉--''''''''''''''''''''l ノ \
 ヨ .||二二二二二二|_  //,/ |    ___  |入_, /
  ̄〔`-、キキキキキキキキ`-| ,/ /    |___| | `'/
. 二二二二二二二二二|/  |l__ /三/_|''''′
        __|_,、,、/  l| /  ̄||三|
   / ̄ ̄    `''`'l   |l/へ、_,||三|   
   | `\`''-、     〈、  j-二==-||三|  
   |l  ``'''ニ=-──┤`Y_,,,,,,ム..ノ゙||三|、
.   | l   /    |  ノ`''{===f==i==イ=ヲ''
  || l  |    |  |  ノ |、[ ̄|  | |
  | l. |    |  l|ト,ヽ | 「''-'1 ||
 _|  ヽ 」--''''''''`'''''--..,,,,||   | ||
冬の海・春の海 159

  カタカタと顫える手で銀のトレイをゆっくりとリョウはアンの背中の傍に
下ろした。
「刺青彫るわけじゃないんだから、緊張しなさんな」
 メネシスは平手でリョウの背中をバシッ!とまた叩いた。
「痛っ!そ、そんなこと言ったって……」
「そんなに、わたしの背中は綺麗?」
「う、うん……」
 アンの暖炉の灯りに照らされてスタールビーの煌きがリョウの貌をみて
満足そうな笑みを浮かべる。

「ねえ、これホントに描くの?」 「なんか、へんですか……?」とリョウが聞く。
「綺麗なんだけど……フェニックスが翼を拡げてるように見えるけど、そうなのか?」
「いや、天使のつもりで描いたんですけど」
「染料の肌への定着は一時間てとこかな。んで二週間ぐらいで消えるみたい。
で、色は赤と青と茶と黒。あんた、この翼を赤で描く気なの?」

「はあ……」
「はあ、じゃないだろ。赤とか黒なら天使っていうイメージじゃないしね」
「じゃあ、青で描いたらいいんでしょうか?」
 メネシスはリョウの質問も上の空で、アンの方を見る。
「ねえ、アン。わたしもあんたのオッパイになんか描いてもいい?」
 両手を付いてアンの瞳を窺い、シーツからはみ出している膨らみを指の背で
すうっと撫でる。 「あんっ……。えっ、ええ……いいですよ」
「やっほう!」 メネシスは両手を握り締めて貌の横に持ってきて歓喜していた。
「メネシスさんてば……!」 「なんだい、うるさいなあ」
「うるさいって……青にしますッ!」 「あっそ。んじゃ、カップで練り状に溶かした物を
この袋に詰めてよ」  「これ、なんなんですか」 「なにって、なにだよ。あんた知らないのかい?」
 そういってアンの方にメネシスが目をやると彼女は困ったようにして笑っている。
「動物の腸をなめして干した奴だよ。ほら、詰めな」
冬の海・春の海 160

「この、白と緑は使えないんですか?」
「ん?うん。ちょっと発色があんまり良くなくてね。小さい部分だけなら使えるよ」
 リョウに一応顔を向けてメネシスは話してはいたが、すぐにアンの方を見て顔を
落として正座する格好で腹ばいになって頬杖を付く。
「な、なんですか……メネシス」 「なんですかはないよなあ」
「なにを話しているんですか、ふたりして?」
「あんたにゃ、関係ないの!残りの絵の具もちゃんと詰めときな」
「わ、わかりましたよ……」 「男は拗ねたりしない」 「はい」

「この間と随分と話が違うね。赤ちゃん出来ちゃうよ」
「あ、赤ちゃん……」
 メネシスは幸せそうなアンをからかうつもりで言ったのだったが、意外な反応が
返ってきて、しまったと思っていた。
 愛するものを絶えずゲートを隔てた戦地へと送っている特異な状況に加え、
説明はつかなかったが過去からの来訪者という、やっかいな因子が絡まっていた。
忘れられない過去を失くした淋しさ、そしてそれを思い出してしまったことへの怯えを
メネシスは思いやることの出来た数少ない親友だった。

 メネシスは両手をついて上体をゆっくりと起こした。
「ごめん。言いすぎたみたいだ」 「ううん。そんなことないです」
「いいんだよ。擦り切れるくらいにやりまくって、赤ちゃん作ってさ、こいつが生きて
還ってこれるように、どっしりと構えてりゃね」
 アンは淋しそうに笑っていた。
「なんならさ、わたしが箱ごと買ってプレゼントしたげようか?」 
 アンは一瞬何を言われたのか分からなかったが、ぷっと吹き出す。
「やっと笑った。でも、本気も本気だかんね」 「ごめんなさい」 
「アンが謝ることなんかないの。オイ、出来たかい!」 
「なに、ヒソヒソ話してたんですか?」 
冬の海・春の海 161

「あんたにゃ、関係ないの!ってこともないか。ほら、あんたは反対側に行く」
「ええ。わかりましたっ、うぅうっ!わわっ!」
 メネシスはペニスをぐいっと引っ張って急かせ呻かせる。態勢を崩してアンの
真直ぐに揃えられて伸びてキュッと引き締まった臀部から太腿……。
そしてふくらはぎへのまろやかな涙形の曲線に細い足首のぴたっと
揃えられた美脚を跨ぐ格好でふんばっていた。

「あんまり、無茶しないでください」 「そ、そうですよ……」リョウも答える。
「さっさと座る。ペースト、こぼしなさんなよ」 「うっ、あっ、ああ……」
「こわれちゃいますっ……」 アンが心配そうに声を上げた。
 メネシスは掴まれて膨らんだペニスをかるく扱いてパッと離した。アンの言葉には
すぐに反応するのにリョウの言葉には、サラッと聞き流す。
「アンの綺麗な背の肩甲骨に絵を描くってんだから、ワンポイントになるように
ビシッと決めなよ」 「はい、メネシスさん」
 メネシスの手はやさしくアンの肩甲骨を愛撫していた。リョウは跪き、メネシスに
ペーストを腸詰めにしたブルーの染料を渡す。

「メネシスさんが翼の大きさを決めてください」 「メネシスでいいよ」
「俺は先に中央に紋様を描きますから」 「うん、わかった」
「アン、今から描くから」 「うん、おねがい」
 リョウもブルーを取って、アンの両肩甲骨の中央やや下にY字の天使の身印の
幾何学的な紋様を繊細な線で描いていった。紋様の中央をダイヤで補って三方
に分かれたラインに蔦が絡まるような処理を施していく。
「ふ〜ん、やるじゃん」 メネシスはリョウの筆遣いに見惚れていた。
「チンポの方はどうかな?」 「メネシス……」 「だいじょうぶ、こいつ熱中してるよ」 
「えっ」 「死にはしないだろうけれど、あぶない奴かもね」と言ってアンに
笑い掛け、アンもクスッと笑っていた。伊達に傭兵はやっていない。死なない。
その安心から来る温かい笑いだった。 「そいじゃ、わたしも描くね」 「おねがいします」
冬の海・春の海 162

  メネシスは画紙に記された図案の片翼を描いて行く。腕の内側をピタッと
合わせて手を拡げたようなカタチを描く。大きさは赤ちゃんの手の大きさぐらいの
蒼いつばさ。それに倣ってリョウもペーストを絞ってアンの白い肩甲骨に盛っていく。
そして蒼の翼のうえに放射状に白のラインを引いて、ふちの所に緑の小さな点を
落としていった。蝶々の翼のようでもある。

「できたよ。こんど、お尻にプリムラのシルエット描いてあげる」
 メネシスは赤の染料を取って、アンのヒップの肉を揉む。
「あぁあん、メネシス。やめて」
「それから今度、来た時はもっと色を増やしといてあげるから」 「あ、ありがとう」
 アンは羞ずかしそうにお尻のメネシスに答え、依然リョウは一心不乱になって
描いているようだが、貌は赧くなっている。

「おい。おいってば。あんた、これして、毎晩アンとやり捲くる気なのか?」
「あっ、ああ……!」  急にうろたえてライン取りを間違えてしまう。
「ありゃ。ほらタオルで拭き取って修正」
「もうすぐ、終わるから、アン。ごめん」 「うん、いいから。でも、綺麗に描いてね」
「わかった」 「煩悩に喰われなさんな。貌まっかだよ」
 メネシスはアンの双臀の片側に赤のプリムラの花を描き上げて、合図にポンと
かるく叩いた。そして、アンの貌へと寄っていく。

「アン、二時間ぐらいで完全に定着するようにしといたから。で、ほんとに
いいの?こいつを、わたしが借りても」 
 アンのとろんとしていた赫い瞳が、心なし大きくなったようにメネシスには見えた。
「ええ……」 「ホントだね」 「はい」 「わかった」
 メネシスはトレイの砂時計をひっくり返し、アンの貌のところで四つん這いに
なっていた躰を起こす。そしてアンの背中の完成した蒼い天使のつばさを跨いだ。
冬の海・春の海 163

「やった。できた。メ、メネシスさん……。なにを」 
 メネシスはアンの裸身を跨いだままで、リョウの肩をちょんと押して、彼は
バランスを崩して仰向けにぶざまに転がった。なにせ、小柄な褐色の美女が全裸で
前に立っているのだから。
「ちょ、ちょっと」 「アンの赦しが出たの。あんたを貰う」
 リョウは手にした染料とタオルに気が取られていて、メネシスに気が
廻っていなかった。褐色の裸身から微妙に視線を外している。メネシスはすぐさま
リョウの躰を跨いで腰を下ろす。右手で大きくなっているペニスを包み込んで腰へと
導いて、彼女は太腿で挟んだ。

 アンは横を向いたまま、メネシスがリョウと抱き合っているのを見ないでいる。
「あっ、あぁああ……!」
 リョウはヴァギナにペニスが挿っているものと錯覚していた。
「なにしてんのさ、肩を抱きなよ。エスコートして」
「は、はい。メネシスさん……」
「メネシスっていったろ」 「すいません」 「いちいち、謝りなさんな」
 メネシスはリョウが握っている蒼い染料が付いたタオルを奪って、モカ色の
臀部をさっと隠した。

「二時間、こうしといて」 「えっ。動かなくてもいいんですか……?」
「うん。萎んできたら動くだけでいいから」
「それだけ」 「そうだよ。それだけ。まあ、ペッティングくらいはしてよ」
 そういってメネシスのつぶらな唇がリョウの唇に重なった。アンにとっては、
とても長い時間の始まりだった。口吻のピチャピチュっという唾液の立てる音と
メネシスの吐息が洩れてくる。そして時折聞えてくる床板の軋む音が、メネシスを
衝きあげるリョウの腰さばきだということが正直辛い。
 この動作がアンの背に染料が定着されるまでの二時間、繰り返されていた。
冬の海・春の海 164

「はあ……いい。うん、よかったよ……。アン、そろそろバスルームへ行って
かるく盛った染料を落としてきてちょうだい」 「は、はい……」
 アンの声は微かに顫えていた。そして、床に敷いた白いシーツからのそっと
気だるそうに起き上がる。

「アン……」
 リョウがそうアンを呼び止めようとしたとき、メネシスの手が口を塞いだ。
「ダメ。帰ってきてからだよ」
 リョウはメネシスとは繋がっていないとそう告げようとしていたが、メネシスに
制止させられてしまう。そしてアンにはメネシスが彼との行為に耽溺しようと
しているように思えて、ぴくっと細い肩を顫わして、アンはバスルームへと消えていった。

「ごめんよ……。ちょっと、ひどいね」 「いえ。俺たちが招いたことですから」
「そういってくれると、助かるよ」
「帰ってきたら教えたこと、アンに実践してあげな」 「おしえたこと……?」
「あんたは天然ボケかい。いましてることに決まってんだろ!」
 そういって、口から離した手でおでこをぺしぺしと叩いて躰の上で動く。
「ちょ、ちょっと」 顔をメネシスの攻撃からかわしはじめる。
「アホ、ちょっとじゃないだろ!わざとなら、承知しないよ!」 
 メネシスはバン!と床を両手で叩いて上体を起こして、太腿にペニスを挟んだまま
リョウの小さな乳首を唇に咥え舌で舐める。
「そうじゃなくて、う、動かないで……射精ちゃうから」 

『ねえ、アン。泣いているの。せなかのつばさ、わたしのより綺麗だよ』
 背中に描かれ浮き上がった紋様から、盛られた染料が流されて剥がれていく。
「ううん。そうじゃないのだけれど、泣いているように見える?」
 ピコが湯を掛けて染料を落としていたアンを心配する。
『う、うん……。帰ったらとっちめよ!』
冬の海・春の海 165

「いいの、約束だったから。でも、ピコ。わたし、おともだちに嫉妬しているの」
『嫉妬……?アンが嫉妬しているの?』
「そう、おかしいね」 『うん!なんで、怒らないの!イヤなら怒ればいいじゃない!』 
「ごめんね」 『どうして。ねえ、どうしてわたしにあやまるの!』 「ごめんね……」
 ピコは羽ばたいていってアンの哀しそうな頬を抱き締めて、アンの背中の翼も
泣いている。暫らくして染料を剥がしたアンは腰を落として床に付いていた右膝を
あげて立ち上がった。

「烈しくやる時よりも、いい時もあんだろ。すごい浮遊感があるからさ。戻って
きたらアンにやってあげて」 「はい……」 
「そう、あんたにだって相応の快感があるはすだよ。まあ、わたしがしてあげた
かったけど、まあそればっかりはね」 「……」 
「あと、ありがとね」 (あのヲタのおきみやげだったけどね、あんたたちにあげるわ)

 真直ぐに見てくるメネシスの瞳が眩しくて少しだけ視線を逸らした。
「じゃあ、ひとつだけ聞いてもいいですか……?」
「ん?わたしでわかることなら教えてやるけど」
 一瞬女の貌を見せていたメネシスが、すぐにいつもの彼女の瞳に戻っている。
「あの最中に昔の男の名前を呼ぶのって、やっぱり昔の男のことを好き……ってことじゃ」
「なんだ、おのろけかい」 面白くなさそうにリョウを睨む。
「真面目に聞いてください!」
「あんた、チンポ磨り潰されたいのかい?」 「気に障ったなら謝ります。俺、本気です」
「理由、わかんないのかい。この大きいので前後不覚になるくらいに愛してあげたんだろ」
 メネシスが太腿に挟んだリョウのペニスを尻を揺すって悪戯する。
「だったらそれでいいじゃんか。あんただって、むかしの女ぐらいいるだろ。それといっしょなんだってば。
いっしょだよ」
 そう言って、メネシスは人差し指でリョウの額を弾く。
冬の海・春の海 166

「いえ、ひとりですが。痛う!」 メネシスに額を裏拳で殴られる。
「あんた、ホントにナイトかい?」 「いえ、傭兵です」 「うりやあッ!」
 そう言ってしまってからリョウはメネシスの攻撃に腕で身構えて受け止める。
「あんた、死になさんなよ。いいね」
 メネシスがリョウの胸板に肘を付いて躰を起こそうとした時だった。

「さっきから、なにぐちゃぐちゃ喋っていたんですか」
「ん、アン……。言った通りに抱いたげなよ」 (やば、この前とおんなじだ)
 リョウの躰からさっと離れて、アンの方に褐色の裸身が駆け寄って行った。
「アン、おいでよ。今度はあんたが抱かれる番だから」
 あざといと思いつつも、アンの手をとる。
「いや……。やめて、メネシス!」 怒気の入り混じったアンの声に心が痛い。

「イヤなんていってないで、座ってよ。ね」
 メネシスはアンを引っ張ってリョウの傍に腰を下ろさせようと辛抱強く説得する。
背中からアンの躰に抱きついて、巻きつけていたバスタオルを床へ落す。
アンは振り返ってメネシスを睨んでいて、紅い瞳は怒りに染まっていた。
「アン、よせ!早まるな!」 リョウが咄嗟に叫んでいた。 「いいよ。ぶっても」
 メネシスがゆっくりと眼鏡を外す。アンは手を上げて頬を叩くことも、肩を突き
飛ばすこともできなかった。下ろされている手は拳になってぶるぶると顫えていた。
「そ、そんなことできるわけないじゃない……」 「ごめん、アン。甘えたわたしが
悪かったんだよ」

 アンの蒼い天使の翼が丸くなって、瞳からはぽたぽたと涙がこぼれ落ち、
リョウの両腕がそっと廻される。
「アン、座ろう」 「いやあ。離して……」
 リョウは左腕でアンの悲しみに喘いでいる乳房を抱えながら右手でアンの手首を取って、
リョウはペニスへと導く。 
冬の海・春の海 167

「いやあぁあ」 
 アンは細い肩を揺すりながら小さく吐いて、微かな抵抗を示していた。リョウは
アンをきつく抱いているわけではなかった。それなのに、処女のようにペニスに
ふれることをアンは拒み続ける。
「そんなこと言わないで、触ってごらん。たのむから」
 リョウのペニスは鎌首をもたげてアンの尻肉にふれてくる。
「ね、アン。おねがいだから、たしかめてみてよ」 「たしかめる……?」
 アンはメネシスを見て背中のリョウに首を捻って見ていた。メネシスは眼鏡を
掛け直すとアンに右手で人差し指と中指を揃えて敬礼してみせて、すまなそうに
笑ってテーブルの方へと下がっていった。

「メネシス……」
 灼熱の棒にふれるように怯えて、ちょっとでもふれるだけで火傷しそうなほどに
手を引いていたアンの細長い指が妖しく絡まって、その熱さと硬さを確かめる
ように扱いている。アンの乳房の喘ぎも動揺から性にゆさぶられるものに変っていた。
「ごめんなさい」 「いいって。気にしなさんな」 「ごめんなさい……」
 アンの声は顫えて赫い瞳は潤んでいた。

「わかった。じゃあ、ゆるしてあげる。これで気が済んだかい」 「はい……」
 メネシスはアンの返事を聞くと部屋を出て行こうとしていた。
「行かないで、メネシス。ここにいて、おねがいだから」 
「アン……」 リョウがアンに心配そうに声を掛けていた。
「もう、だいじょうぶだから。ねえメネシス、いて欲しいの。メネシス……」
 ふたりに背を向けようとしていたメネシスがアンの懇願する赫い瞳をチラッと
見た。「う、うん……。後悔しないの?」 暫らくの沈黙があった。
「わからない。するかもしれないし、しないかもしれない。それが偽らざるわたしの
気持ちです」 「うん。じゃあ……ここにいるから」 「そうしてください」
冬の海・春の海 168

   メネシスは手に掛けていた椅子の背を掴んでテーブルから引いて座る。
メネシスはしなやかな脚を揃えて肘を膝に付いて眼鏡を外した。
「メネシス……」 「ううん。うれしいの。ありがとう」 
 涙声になっている。メネシスは貌を上げてアンにそう答えていた。
「アン」 「なに、リョウ?」 「メネシスを迎えに行ってあげて」
 アンはリョウの怒張を扱く手の動きを止めた。
「いいの?」
「俺はアンとメネシスが仲直りしているのを眺めているだけで満足だから」
 アンはくすっと笑ってリョウのペニスをむぎゅっと握った。

「ぐわっ、いっ、いきなりなにすんだよ……。メネシスとおんなじことすんなよ」
「あら、わたしはメネシスの弟子よ。でも、これでチャラにしてあげるから」
 アンはそう言って椅子に座って泣いているメネシスを迎えに行った。
「来て、メネシス」 「ダメだよ。リョウの処にいてあげな」
「あの人が言ってくれたの。迎えにいってって」 「あの、ばか……」
「さあ、行きましょう」 「いいの……?」 「いいもなにもないじゃない。ほらあ」

 アンがメネシスの手を引っ張り暖炉の傍に連れて行って白いシーツの波に
腰を沈めさせると、メネシスは膝を立ててアンの躰を迎え入れた。メネシスの
モカ色の腰がアンの蒼白の腰を受け入れてうねりだす。すぐにアンとメネシスは
女の世界へと没頭していった。

 リョウはメネシスの座っていた場所で、もってきた細長い木箱から楽器を取り
出して、弓を弦にあて静かな曲を奏で始めていた。
「メネシス、余所見なんかしちゃダメ」
「ちょっと、ちょっとまってよ。あいつなにしてんの?」 「弦楽器を演奏しているのよ」 
「アン!まじめに答えなよ……」 「ふふっ。やっぱり、気になるの?」 「うん」
「あれは東洋の楽器。リョウの大切な人が持っていた物なの」 
冬の海・春の海 169

「そうだったんだ。ごめんよ」 
 演奏を眺めていたメネシスがアンに貌を向ける。
「ううん。いいの」 
「なんか、物悲しい音色。というか……なんだろう。染み入るってかんじだね……。ここに」
 メネシスの手がアンの鎖骨のちょっと下のところにあてられた。
「もう、おしゃべりはいいでしょう」
 アンの手がメネシスの頬をそっとさわる。嫉妬に駆られていた弱さから一転して、
つよさを見せるアンに安心する。アンの恋は今も継続しているのだろうかと、
メネシスは瞳を潤ませていた。忘られぬ恋に、忘れることのできない笑顔……。

「どうしたの、メネシス?」
 アンはそう呟いていたが、なんとはなしに分かっていた。メネシスの頬を撫でた手が
アンの胸に添えられたモカ色の手に被さる。メネシスのぬくもりで胸が熱くなっていた。
「うん。むかしの男のことを思い出していてね」
 アンに気取られまいと話しを遠ざけるつもりが、それほど遠くにいけなかったことに
メネシスははにかんで見せる。

「ねえ、もうひとつだけ聞いていいかい?」
 アンの豊満な乳房がメネシスの小ぶりな乳房を押しつぶしていった。
メネシスの貌はアンの影になってリョウからは見えなくなっていた。
「どうやったら、そんなにオッパイが大きくなるの?」
「気持ちいい恋をしているから」

 メネシスはアンの耳元に唇を寄せた。アンの長い銀の髪が滑って背中から
蒼い翼があらわれる。 「わたし、彼のことが忘れられないの……」
「少しぐらい嫉妬させてやりな。それぐらいでちょうどいいよ、あんたたちは」
「うん」 アンは小さく返事をしてメネシスに頭を撫でられる。
617冬の海・春の海:03/06/26 01:47 ID:???
『170』

 メネシスの褐色の手はアンの銀の髪を滑って後方の蠢く蒼白の双丘を捉えて
ゆっくりとやさしい時を刻み始めた。
「んあっ……」
 アンの唇から濡れた吐息が洩れ、メネシスの唇を求める。ひらいた唇は
メネシスの唇をそっと挟んで、柔らかな女らしさに敬意をもって応えていた。
貌をアンは離して、めくれたアンの唇が戻ってゆく。そして唾液が糸を引いていた。
 アンは羞恥に染まる貌を真直ぐにメネシスへ向ける。そして、ピンク色の舌が
そっとさしだされ、メネシスの舌と顫えながら絡まって押し合って、蕩けるような
感覚が貌をさらに火照らしてゆく。そっと触れ合って、舌で押し合って、メネシス
が折れてアンの温かい舌を口腔へと招き入れる。

 メネシスの手はリョウの奏でる旋律に溶け合って、双臀から腰の部分を
やさしく撫でて脾腹へと這ってゆく。指頭から指、そして手のひらがアンの
しっとりと吸い付くような柔肌を早くもなく、遅くもなく胡弓の調べに合わせて
上下するのだった。アンはメネシスの躰の上で快美にのたうっていた。
それは組み敷かれたメネシスもおなじ。
「んあぁああっ!な、なんかへんな感じ……ああん」
 何度目かのメネシスの手が脾腹からアンの柔肉を迫り上げたとき、
堪えきれずにアンの唇を解いていた。音楽に合わせてセックスをするなんて
初めてのことだから。その妙かなる音色に感覚が研ぎ澄まされて行く。
総身が性感帯にでもなったような卑猥な感じに堕ちてゆくのに厳かな気がする。

 それがやがて、コットンキャンディのようなエロティックな夢をふたりに見させる。
アンの指がメネシスの躰を、メネシスの指がアンの躰をそっと這い廻る。
終わりの無い時のなかで。メネシスは腰をさらにひらいて、アンを受け入れようとした。
アンを子宮のなかに戻そうとするかのように愛し合って。
「だ、抱いて!メネシス」 「あっ、ああ……。あぁあああッ!」
 メネシスの喜悦の声が仰け反った貌からこぼれだしていた。メネシスの両手は
アンの脇から潜り込んで、肩甲骨に描かれた蒼の翼をしっかりと抱き締めていた。
618冬の海・春の海:03/06/26 13:51 ID:???
『171』

 アンの手が二胡を奏でているリョウへと伸ばされる。
「アン……」 「いいの。メネシスも誘ってちょうだい」
 アンの蒼の翼から手を下ろして、メネシスも下からリョウを求める。白と褐色の
腕がリョウへと伸びて、うっすらと汗を浮かべた女たちが妖艶な貌を向けて男を求めていた。
『ねえ、ふたりがリョウを誘ってるよ』 「えっ?ああ……。ほんとだ」
『で、行くんだ』

 ピコが姿を消すと楽器を木箱に入れて、テーブルに置くと、リョウは椅子から
立ち上がってふたりの女たちの裸身へと近づいていく。勃起は後退していたが
ボリュームはまだ維持されていて、垂れ下がったペニスがぷらぷらと揺れていた。
暖炉の炎に照らされて、鍛えられた肉体に女たちは頬を赤く染めるが、視線は
羞じらいにも逸らすことはない。リョウは折り重なっているアンのボトムに立った。

「抱いて……」
 アンが貌を向けて、その下からメネシスが右手を差し伸べていた。アンの
吸い付くような肌はうっすらと掻いた汗で滑らかさを増していた。桜色に染まる背中に
浮ぶ天使の蒼い翼。リョウは膝を付いて躰を重ねていった。双臀のあわいに
女たちの淫らな姿を見て勃起した怒張を一気に埋め込む。

「あっ、あああ……!」
 アンの背の天使はリョウの律動によって羽ばたいて、組み敷かれたメネシスをも
歔かせていた。その歔き声のメネシスも槍を刺されたような嬌声へと変る。
その時はまだ、メネシスは痛みが和らぐとは思ってはいなかった。ただ忘れたかった
だけなのだから。肉襞を押しのけて挿入されたペニスにあけすけな女の悦びで応え、
締め付けて離すまいとする。そしてストロークにメネシスの女が引き摺られ
快美に陶酔していっていた。
「ご、ごめん。アン」 メネシスはアンに赦しを請うていた。
「いっ、いいの!いいのッ!」 「あっ、あ、あっ、うあぁあああああああッ!」
619冬の海・春の海:03/06/28 20:33 ID:???
『172』

 アンはベッドに脚を八の字に投げ出し、メネシスはその上に圧し掛かって
安らかな寝息を立てていた。リョウはベッドを降りるとリビングへ戻って
ワゴンの上の濡れタオルをとって寝室へと戻って行く。するとメネシスは
アンの投げ出されているあわいに胡坐を掻いて座っていた。

「ありがとう」
 そう言って、リョウへと細い褐色の腕をすっと伸ばした。
「ど、どうぞ」
「ほら、アンタもここへおいで」
 メネシスは白いシーツをぽんぽんと叩いて、にんまりと笑っていた。リョウから
タオルを受け取ると「何よこれ!ボディペイントの拭き取りにつかってたやつじゃないの!」と
文句を言って、あわてて立ち上がるリョウを引っ掴んでベッドに座らせてから
アンの始末を丁寧にしてやっていた。

「うっ、ううん……。リョウ……」
 ほら、見てみなという貌をしてメネシスはリョウを見る。
「安心しなって。この娘はアンタにゾッコンなんだよ」
「そうでしょうか?」
「まだ言うかい!」

「ううん、そんな汚い食べ方しないでぇ……」
 メネシスはぷっと吹き出してリョウも一緒に笑っていた。メネシスは自分のを始末して
タオルを見る。当たり前のことだが、リョウの射精したものと女たちの分泌物で汚れていた。
メネシスはタオルをテーブルへと投げる。
「アンタのはわたしが綺麗にしたげるよ。だから、ほんとに死ぬんじゃないよ」
 リョウの腰へ褐色の手が伸びて、汚れているペニスを手の平に乗せピンクの舌が掬うと
口腔へと含んだ。メネシスの貌が上下に揺れ、舌戯の蠢きが肉襞のような
快感をもたらす。 「射精ちゃいますって!メネシスさん!そんなにしたら!ううっ」
620冬の海・春の海:03/06/28 20:44 ID:???
『173』

 メネシスは砂漠で旅人がオアシスの泉に辿り着いて、夢中になって泉を飲んでいるような
動作を続けていた。正座して上体と貌を烈しく揺すって。
「で、射精ちゃいますって!す、すいません!メネシスさん!」
 両手を後ろに付いて腰を衝きあげていた。メネシスはリョウの全てを甘受して嚥下する。
「んはあ、はあ、はあ……。アンを前後……不覚にするぐらいの……弩級チンポなんだから。
自信持ちなってば……んっ」

「うわあぁああっ」
 アンがむっくりと起き上がって、獲物を狙う女豹のように忍び寄っていた。
「さっきから、なにぐちゃぐちゃ喋ってたんですか……!」
「いっ、いつから聞いてたの?」
「弩級チンポがどうのこうのって……ダメですから、これは渡しません……よ!」
 アンの白い指がペニスに絡まって、赤銅色の亀頭に唇を擦りつけた。

「アン、あんた寝ぼけてる……?」
「寝ぼけてなんかいません!」
「ほら、むかしがどうなんていいじゃんか、ねっ」
 メネシスがリョウの背中を平手で思いっきり叩いた。
「またあ、内緒話なんかしてぇ、お仕置きです」
 アンはグランスを摘んで横しゃぶりにすると歯を立てた。もちろん甘咬みを仕掛けて。
「おっ、おい!やっ、やめろってば!アン……ああっ」
 メネシスはアンの躰を覆うようにしてシーツに両手を付いて、白い背中に浮ぶ汗と
蒼い翼を舌で舐めていった。アンは陰嚢を揉みしだき、指をアヌスへと潜らせて
屹立を呑み込んでいった。
(わたし、むかしね……ともだちに一途だって言われたの。でもね、たぶん臆病な
だけだと思うの。あぶなっかしいかしら、ねえ、ほっておけないでしょう……リョウ?)
621冬の海・春の海:03/06/29 16:06 ID:???
『174 冬の海・春の海』

 戦況の好転はドルファンにかりそめの平和をもたらしていた。三年目のドルファン
はリョウにとっては平和な一年となった。小競り合いと節目となる戦いはあったが、
勢いに乗ったドルファンは強かった。
 そのなかで、アンとの日々はかけがえのないものとなっていく。ドルファン城の
クリスマスパーティでは、白いオフショルダーの白い大きく背中の開いた華のような
アンがいた。その笑顔に誰もが魅了され、エスコートする東洋人に嫉妬の目を向けていた。
そして蒼白の胸元には大きなブルートパーズが輝いていた。それを基点に下と左右にも
蒼い海の石を連ねて。

「綺麗ですね」 「ありがとうございます」
「その宝石も綺麗ですけれど、あなた自身が輝いて見えますよ。祈りが届いてよかったですね」
「プリシラさま……」
「もういちど、あなたの祈りを皆のものたちに聞かせてもらえませんか?」
「よろしいのですか?」 「みなに分けてほしいのです。あなたの祈りを」
 手の平で溶けてしまう雪……けれども、人の心になにかを残す。プリシラの願いにアンは
ダンスホールで廃れてしまった歌をうたい、集いしものたちに等しく祈りの
火を灯していったのだった。そして、ドルファンは新しい年を迎える。

「あの人、おかしいんです」 「ハハハ、俺も十分変だけど……」
 くだらない冗談だと思いつつも、そういわざるを得ない様相を少女は呈していた。
以前、メネシスのラボへ赴いた際、待ち合わせの場所、百花庭園で出会った少女。
港でチンピラに絡まれていたところを救った少女はソフィアと名乗った。あの百花庭園の
出会いに、奇妙でどこか心にわだかまりをつくっていたことを一気に思い出させ、
黒い霧が立ち込めていた。
「変って、いきなり言うきみがどうかしてると思うよ」「そ、そうですよね。ごめんなさい」
 ソフィアはなにも言わずにぺこりと頭を下げると、リョウから去っていこうとする。
「いっ、痛い!」
622冬の海・春の海:03/06/29 16:10 ID:???
『175』

 リョウはそんなソフィアの腕を咄嗟に掴んで引き止めた。
「す、すまない。でも、なにか話があるから、訓練所までわざわざ来てくれたんだろう?
その話、俺にちゃんとしてくれないかな」
 ソフィアは瞳を潤ませてリョウを見ていた。その大きなスパイシーブルーの瞳が哀れさを誘う。
「ご、ごめんなさい。やっぱりできません……。ほんとうに、ごめんなさい」「そうか」
 リョウはソフィアの腕を掴んでいた手を離した。ソフィアはその日、一日をぼうっと過し、
気が付けばアンの勤めている薬局の前に突っ立っていた。

「ソフィア……」アンは店の前に少女の姿を見つける。「どうしたの?」 「あっ、いえ、なんでも……」
「正直に言いなさい」 咎める風でなく同僚はアンを心配して言っていた。
「ともだちが来ているんです」「少しだけなら、いいわよ。話していらっしゃいな」
「すみません」
 アンは素直に好意に甘え、許しを得て裏口から出てるとソフィアの姿を追う。
「アン……」
 ソフィアの方から、アンに言葉を掛けてくる。儚げでか細いソフィアの声。
そのすぐ後にぽろぽろと泣き出して子供のように手の甲で瞳を拭いながら謝り出してしまう。
「どうしたの?この前のことは謝るから、赦してね」

「ち、違うんです。わたしは……わたしは……」
 ソフィアはとつとつと泣いている訳をアンに話し始める。馬鹿げていると思いつつも、
婚約者がいるにもかかわらずアンの恋人を好きになってしまったこと。そして
アンのひみつを知って、リョウへ打ち明けそうになってしまったことを包み隠さずに話していた。
アンは何の反論も聞き返すこともなく、ただうんうんと頷いて、時折それからどうしたのと
言うだけだった。

「ソフィア、あなた歌はいまも歌っているの?」「うたですか……?」
 ソフィアは泣きじゃくった貌を羞ずかしそうにあげる。
「そう、あなたのうたよ。あなたが祈る歌」 「わたしの祈り……?」
623冬の海・春の海:03/06/29 16:14 ID:???
『176』

「そうよ。歌っていないなら、歌い続けてね。あしたの正午に百花庭園に来て頂戴。
必ずよ、いいわね」 「えっ?ええ……」「あなたに渡したいものがあるの」
 アンはそれだけソフィアに言うと薬局へと戻っていった。


「ソフィアだね」 「はい……」
 ポーチでラボに尋ねてきた心配そうな貌をしているリョウとメネシスは話していた。
「ソフィアを決して嫌な奴だなんて思ったりしちゃダメだよ。あんたのことを愛しているんだから」
「な、なにを言っているんですか。俺にはなんのことだか」
 メネシスはリョウの言葉にすぐさま睨み返す。
(本来、あんたはあの娘を選ぶはずだった。アンがそこへ割って入ってあんたを愛した。
死ぬほどに。それで、必要以上にアンは苦しんだんだ!神なんか呪ってやるってね)
 メネシスは拳をつくってドアをおもいっきり叩いた。

「ごめんよ。実験中だったもんだから、気が立っちゃってね」
「す、すいません」
 メネシスの烈しい怒りにリョウは気おされる。
「あんたに忠告しといてあげるわ。もう、アンに深く関わらないことよ」
「どういうことなんですか!ソフィアもなにか言いたそうな……」
 メネシスはリョウの胸倉を掴んで背中を壁に押し付ける。その凄まじい力にリョウは驚いていた。

「どうして、どうして!すぐに否定しないんだよ!どうして……どうして……。アンには
あんたが必要なんだ。捨てたりなんかしたら、わたしが絶対に赦さないからね!」
 メネシスはカミツレの森中に聞えるような大声で叫んでいた。
「俺がアンを捨てるわけなんか無いでしょう!」
「じゃあ、なんで式を挙げないんだ!戦争やってるって引け目はわかるよ。で、でも
そんなことじゃないだろ……。真似事みたいなのでもいいからさ、どうなんだよ!」
「ちょ、ちょっと……」
624冬の海・春の海:03/06/29 16:17 ID:???
『177』

「なにがちょっとだよ!アンをほっとけないんだろ!愛しているんじゃないのか!」
「俺はアンを愛しています」
 メネシスは涙を流しながらリョウを見続けている。
「アンは死んでるんだ。いや、正確には今は生きているけれど……」
(ごめん、アン……いっちゃったよ)
「どういうことなんですか!詳しく説明してください!」「時が来ればあんたの前から
アンは消える」 「……き、消える」「蒼ざめているけれど幽霊じゃないよ。安心しな」
「でも、なんですね」
「調べたければ、図書館に行ってみな。アンはあの海難事故の船客だったんだ。
噂ぐらいはあんたも知ってるだろ」

「いつかは、わからないのですか……。いつかは!」
「明日かもしれない。ずっと先のことかも。でも、知ったのなら覚悟はしておきな」
「アンは……」
「蒼い翼を描いた時から知ってたよ。記憶が完全に蘇っているなら日は近いと思うよ」
「な、なんとか……なんとかできないのですか!」
 今度はリョウが錯乱する番だった。
「すべては人智を超えてるんだ。せいぜい……の、のこされてる……時間を愉しむんだよ。
はい、これ渡しておく……」
 メネシスがケープから染料の小袋を出してリョウに手渡す。

「じゃあ、アンはまた死の恐怖を味わうのですか……」
「あ、あんたがアンを殺す……?苦しまないで、なんてやさしさで殺すことができる?」
 リョウの貌が歪む。アンの白い頸に手を掛けると彼女が静かに瞼を閉じる映像が
浮んでいた。もし、いっしょに死のうと言えばアンは決して拒まないだろう。リョウの頬に
烈しい痛みが夢から引き摺り出す。
「アンが限りある時間をあんたとともに生きていこうとしてるなら、そうしてあげることが
あんたにできることじゃないのかい!」
625冬の海・春の海:03/06/29 16:22 ID:???
『178』

「ありがとう、メネシスさん」
「もういいだろ。柄にもなく熱くなったよ。それじゃあ。あっ、このことは」
「わかってます」 「頼んだよ」
 リョウを送り出して、扉を閉めると背をあずけて床に崩れて、膝を抱え眼鏡を雫で
濡らすメネシスだった。
「もう、時間はないよ。早くアンを抱き締めてあげて。そうすればアンは救われるよ」
 メネシスは号泣する。

 しかし、その日はダナンで軍団長を拘束したとの一報が入り、正規軍が武勲と褒章目当てに
大挙して出兵していた。
「ごめん。今日はいっしょに居てやれないんだ。ほんとうにごめん……。ピコ、お前は
アンに付いてやっててくれ」
 アンの只ならぬ思いつめたような様子は隠そうとしても隠せるものではなかった。
リョウがメネシスから話しを聞かされていたことにも多少は起因していたが、手薄になってしまった
城塞を維持し不足の事態に備えなければ、なんの意味もない。いやな雨だった。雨脚は
どんどんと強くなって。

「ご、ごめんなさい。これから、戦場に行くというのに……」
「いや、詰め所で備えているだけだから、大丈夫だから」
「ねえ、ピコもいってあげて」『アンといっしょにいるう……』
 アンとソフィアが話しをしていたのをピコは見ていて、固く口止めをされていた。そして、
なにかただならぬ決心をしていることもピコは薄々感じていた。

「ダメ!ピコはリョウの目になってあげなくちゃ。ねっ、そうでしょう?」
『う、うん……』 「いい子だから、そうしてあげて」
「手薄でも、傭兵なかまは磐石だよ。心配ないよ、アン」
「でも、ピコは連れて行って。安心だから」 「わかった。暫らく戻れないと思うけど、後を頼む」
626冬の海・春の海:03/06/29 16:24 ID:???
『179』

 その晩のうちにレットゲートはヴォルガリオの一点突破の猛攻を受けた。雷鳴と
閃光が夜空を裂き大粒の雨が大地を叩き、大地を血で穢し雨が流してゆく。
その繰り返しの悪魔の嵐がドルファンを強襲する。ながいながい時が過ぎていった。
「お頭……?」 「おい、よせって」 「でも、今日ぐらいは」
「すまん、早く帰って安心させてやりたいんだ」 「いっ、いいっすよ。すいません」
「ほんとうにすまない」
 リョウは仲間たちに東洋式の所作で深々と頭を下げていた。
「お頭……」
 リョウが扉から出て行こうとするとき、またひとりの仲間が呼び止めた。
「お頭!俺たち勝ったんすよね?勝ったんでよね!」
 その男は涙声になっていく。
「ああ、俺たちは凌いだんだ。この美しいドルファンを守りきった。みんな、最高の
ナイトだ!俺たちは勝った……俺たちは勝ったんだあぁあああッ!」
 酒場は歓喜の声の渦に呑み込まれていった。酒場から家へと還ると、アンの
最高の笑顔が出迎えてくれた。

次の日、アンはベッドに熟睡しているリョウの背をやさしく撫でてから身支度をして
百花庭園へと出向いていった。すでにベンチにはソフィアが座って待っていた。
 そして、ソフィアにとっては辛い言葉がアンから聞かされていた。アンはソフィアに
言った。

「わたしは冬の海に還らなければならないの。あなたが、リョウの春の海になってあげて」
「な、なにを言ってるんですか!わたしは……そんなつもりで……」
 ソフィアは確かにアンに嫉妬していた。どうして、そんなにまで嫉妬するのかさえもわからないままに。
「あなたに、これを受け取ってほしいの」
 ソフィアの手を取ってプリムラのブローチを手のひらに乗せる。そして指をゆっくりと折り曲げて握らせる。
627冬の海・春の海:03/06/29 16:28 ID:???
『180』

「春を一番はやく告げる花よ。あなたも華を咲かせてね」
 アンはソフィアにブルートパーズの首飾りを掛けてやると、おもむろに立ち上がった。
「いかないで!わたし受け取れません!」
「あなたが持つべき物だったの」 「なにを言ってるんですか!」
 アンへとソフィアは詰め寄る。
「ごめんなさいね。苦しい想いをせたりして」「な、なにをいって……」
 ソフィアにはそれ以上喋ることができない。自分の引き起こしてしまった事の重大さに
打ちのめされていた。


 リョウがけたたましいノックに起こされて、ドアを開くとそこにはソフィアが立っていた。
ソフィアのあやうさにも感ずいていたがアンの方が気懸かりだった。
「きみは、ここにいてくれ。帰ったら詳しい話しを聞くから、すまない」
 リョウは飛び出して行って、ソフィアは力なくポーチへと泣き崩れてしまう。
(迂闊だった!) 『ねえ、アンは海にいるんじゃないのかな』
(海か……。いや、きっとそうだ!そうに違いない!)

「来ないで!」
 砂浜で見つけたリョウは彼女へと駆け寄るが、座っていたアンは立ち上がって海へと後じさる。
「さあ、帰ろう」 リョウのなかに戦場以上のただならぬ緊張が渦巻いた。
「来ないでったらあぁああああッ!」
「ソフィアが泣いてたよ」 「わたし、あなたのことをソフィアに頼んだの……」
「どうして……。どうして、そんなことを言うんだ!」
 リョウは涙声になって喉を絞るように吐いていた。
「信じて!誰にもあなたを渡したくなんかないのよ!」
「だったら、帰ろうよ。家へ帰ろう!」 リョウが手を差し出して海を歩いてくる。
「ソフィアはあなたのことを好きなのよ……」 「な、なにを言ってるの?」
リョウが海へと脚を入れる。 「いや、いや……。おねがい、こないでぇ……!」
628冬の海・春の海:03/06/29 16:31 ID:???
『181』

「ぼくたちの家へ帰ろう、アン!」
「ダメ!もう全てを思い出したの。わたしが誰でどう生きていたかを!」
「それでも、いいから!」
「そんなの、いいわけなんかないじゃないのッ!いいわけなんか……。
リョウ、わたしはね……」
「きみの最後までいっしょにいたい。そうさせてくれ!」
「イヤなの。あなたが冬の海に戻るのはもっとイヤなのよ……だから、ソフィアに……
本来の時間に……」

「俺はもう……きみひとりだけだ。こんな想いはもう疲れたよ」
 アンは貌を振って口に両手をあてる。アンの瞳に出会った頃の自分が映っていた。
リョウは歯軋りをして烈しく後悔をした。
「いや、いや、いやあぁああああああああああッ!」
 ついにピコが我慢できなくなって、リョウの顔の傍で実体化するとアンの元へと
羽ばたいて行った。月明かりにピコの軌跡が燐粉となって、きらめいて暗い海へと
落ちて掻き消されていった。

『逝かないで!わたしの命をあげるから!リョウの傍にずっといてあげてよ!』
「ピ、ピコ……!ごめんなさい。わたし嘘つきになっちゃったわね。わたしはこの
時間にいてはいけない……因子なのよ……」
『そんなこと、ないよう!いていけない命なんかないよう!ねっ、わたしの命をあげるから、
そうすればきっと……きっと、リョウといっしょに生きていられるからあぁぁああああああッ!』
 アンの濡れた頬を小さな躰で両手いっぱいに拡げて抱き締めようとするピコ。
「ピコ、おまえ……なにを言ってるんだ……」
『リョウ、わたしがアンに命をあげれば、きっと生きていられるよ!レムレスだって、
思念体だって、それでも生きてるもん!いっしょに、いてほしいの……アン、おねがいだから、
生きてよう……、生きていようよ!』
629冬の海・春の海:03/06/29 16:37 ID:???
『182』

 ピコがアンの頬を抱き締めながら、リョウへ貌を向けて泣き叫び、アンの濡れた
頬へと崩れた。泣き続けるピコをアンの両手がやさしく包み込む。
「ずっと前にね、平凡な毎日なんてつまんないって思ったことがあったの。でも、
それがどれほど大切だったかということがよくわかるわ。少しずつリョウと時を経て
歳を重ねることがどれほど大切なことなのか」 「アン……」

「赦されるのなら、何も望みはしない……何もよ!でも、それがいちばん贅沢な願いだったのね」
「アンの祈りをもういちど俺に聞かせてよ……」
「さよならは言わないわ。桜の花、いっしょに見れなくてごめんなさい」
 リョウはすぐそこまでアンに近づいていた。しかし、アンはまだ後じさる。
「逝くな、アン!傍にずっといてくれ!」
 アンの躰がびくっとなって動きがとまった。リョウはアンの手を掴んで躰をぐいっと
引き寄せて、ありったけの気持ちを込めて引き止めようとする。
「わたし、生きていたよね。ねえ、リョウ……」 (ありがとう、ピコちゃん。あなた)
 アンの瞳に映る世界が別離の涙で霞んでゆく。アンはリョウの耳元に口吻をした。

「稜、わたしの名前を忘れないで。わたしの名前はアン・――」
 アンの探し出せなかった最後のピースがぴたりと収まった……。稜に廻されていた
アンの両腕が糸が切れたマリオネットのようにだらりと垂れ下がる。あんなに温かかったはずの
アンの躰は氷のように冷たくなっている。

『どうして……!』 「いま、アンは還って逝ったよ」 「言っちゃヤダ!うそだよう!
そんなのうそに決まってる!起きてよ!起きてよ……。だから、わたしの命をあげるって言ったのに……」 
「もう、眠らせてあげよう、ピコ」
『いやだ!いやだよ!ママ!ママアァアアア――ッ!わたしのママになってくれるって約束したのに!
起きてよ!眠ったりなんかしたら、いやだあぁあああああああッ!』
 稜の孤独を癒すために生まれた思念体は確かに生きて、いま自分の為だけに
号泣している。
630冬の海・春の海:03/06/29 16:41 ID:???
『183』

 ピコのなりふり構わない哀しみを前にして稜はどうにか立っていられた。しかし、
冷たくなったアンの躰の重さがふっと掻き消え着物だけとなった時、
海に膝を付いて跪いて、アンが残した数々のものを抱き締めて――。

 ゴンドラに乗ったアンは珍しくはしゃいで、稜に川の水を手で掬って掛けてきた。
「おい、よせってば。こら!」「だったら、仕返しをしてごらんなさいな。ふふっ」
「じゃあ、そうするよ」 稜は陽光にきらめく波に手を入れて動きが止まった。
「どうしたんですか?かまいませんよ、好きですから」
「調子に乗って泣かせちゃったんだ……」
 アンは稜の座っている傍に移ってきて言った。 「好きですから」 稜の腕に
しがみついて肩に頭を寄せる。アンの好きがリフレインして稜の水に濡れた手が
彼女の紅潮した頬にそっとふれる。「ほら、かけたよ」 「つめたい。もっと掛けてください」 
ゴンドラが橋に掛かった時、稜はローズピンクの柔らかい唇を奪う。そっと唇を離すと、
ゴンドラに陽光が降り注ぐ。
「イヌホオズキ」「俺たちがリンダの誕生会で出逢った日の誕生花。覚えているさ」
 ふたりの関係は真実だった。アンの貌が朱に染まる。稜はアンへ口吻をした。
瞼は閉じられていたけれども、口元は笑っていた。
「こら、笑うなよ」 稜も笑いながら鼻を擦り付ける。 
「だって嬉しくって。いろんなことがあったなあって。これから……」
「これからも、いろんなことがあるだろう?」
「はい……。そうですね。いろんなことが、いっぱい」
「うわあぁああああああああああああああああああッ!」
 潮の打ち寄せる調べを咲いて、男の慟哭が夜の浜辺に響きわたっていた。

そして――。
「ほんとにいいのかい?」
 ジーンは今更と思いながらもウエディングドレスの花嫁に尋ねながら、
ロング手袋の手を掴んで馬車に引き上げる。
「いいんです、早く行ってください!」
631冬の海・春の海:03/06/29 16:44 ID:???
『184』

「愚問だったね。まあ、落ち着きなって」
 教会からは人が飛び出してきて、馬車に乗った花嫁を見つける。それなのに
ソフィアの意志をジーンは確かめようとする。
「は、早く出して……!」「いまなら、まだ間に合うよ」
 ソフィアはロングコートを脱いでいるジーンの腕にしっかりと掴んで、瞳を
いっぱいに開いている。
「間に合わなくなっちゃう!おねがいだから……!」

「それから、このブローチは外しな」
 革のグローブがソフィアの胸元に触れる。
「ダメです。これは大切な人からの贈り物だから」
「そっかい、わかった。よっしゃ!じゃあ、これを着な」
ソフィアはジーンが差し出したコートを手にして躊躇っていた。
「早く!」
 ジーンはノースリーブのジャケット姿になってソフィアに重いコートを渡し、
両手で手綱をしっかりと掴む。ソフィアはドレスの上からコートを羽織った。
「さあ、わたしの腰に振り落とされないようにしがみついてるんだよ。いいかい、
決して喋るんじゃないよ!」
 ジーンの細い腰に華奢な腕が蔦のように絡み付き、ソフィアは黙って頷いた。
その間にも、馬車に気がついた男たちが鬼さながらに迫ってくる。
「上等、いくよ!ハイヤアアッ!」

 馬車は追っ手を引き離して駆けて行った。後には花嫁のベールだけが残されていた。
それを白いグローブが拾って大事そうに土を払う。
「なにをしている!追うぞ!」「もういい、追うな」
「なにを馬鹿なことを言っている!花嫁に逃げられるなどエリータス家の恥さらしもいいとこだ!」
「このまま、追いかけることの方がよっぽど恥ずかしいではないか!」
 新婦に逃げられた新郎は掴まれた胸倉の手を叩き落す。
632冬の海・春の海:03/06/29 16:46 ID:???
『185』

「間に合ったかい?」「えっ、ええ。ほんうにありがとうございます」
 ソフィアはジーンのコートを脱いで彼女へと手渡す。
「じゃあな、がんばんな」
 手綱を掴んだまま、膝に肘を付いてジーンはソフィアにエールを送る。しかし、
その言葉は港へ掛けて行く花嫁の背に掛けられたもの。ジーンはニッと笑うと
馬車を走らせた。

「待ってください!」 ソフィアが稜の背に声を掛ける。
「きみは……どうして、ここに」ウェディングドレス姿のソフィアに稜は目を丸くする。
「わ、わたし、あなたのことが好きなんです。いっしょに連れて行ってください」
「俺はきみのことをなにも知らないんだぜ」
「ここに来られた時に助けていただきました……。でしたら、はじめまして。
よろしくおねがいします。イヤならどこかの国で降ろしていただいても構いませんから」
 場違いな花嫁に稜は微笑んでいたが、ソフィアは必死だった。
「強引なんだな。まるで、まるで……」
 長い付き合いのともだちを思い出そうとしても、その存在も名前も思い出すことができなかった。
「いかがされましたか?」
「いや、たいせつなともだちの名前を思い出そうとしても……思い出せなくて」
 稜は花嫁の前で格好悪くぽろぽろと涙をこぼしていた。
「でしたら、わたしがその女(ひと)の代わりになってさしあげます」
 ソフィアは彼の中にいるアンをイメージしていた。
「だとしたら、これで泣くのは最後ということになるな」
「わたしの前でだけ見せてくれる姿なら、それは嬉しいものですよ」
 しかし、男はそのあとは女とともに歩み、女の前で弱みを見せることは無かったという。
この日、彼女の前で泣いたのを最期にして。

 稜の肩に腰掛けていて、笑うピコの姿がゆっくりと透けて夕闇へと融けていって
完全に彼の世界から消失した。
633冬の海・春の海:03/06/29 16:49 ID:???
『186』

 男にはピコが存在していたという記憶すらも失われていて、ピコはそれでも満足だった。


「ねえ、レズリー?」
 ロリィはレズリーのアトリエで絵を眺めながら彼女に尋ねていた。
「なんだ」「この綺麗なお姉さん誰なの?」
 レズリーはクロッキーを置いてロリィが眺めている絵に視線をやる。
野外円形劇場の舞台に立って唄っている女性の姿が描かれていた。
「記憶にないなあ」「ねえ、ここにアンって描かれているけど」
「それでもよく覚えてなくてね」「ふーん。でも、このお姉さん綺麗だね」
「そうだろ。しあわせそうで、とても綺麗なんだ。とても忘れられない笑顔なんだよ」
 クロッキー帖に描かれた素描の忘れられない笑顔。ロリィもなつかしい不思議な
気がしていた。

「レズリー、この絵をコンクールに出品すればいいのに?」
「最初はそう思っていたけどさ、そっとしておいてあげた方がいいかなあって思ったのさ」
「そうなの。残念だなあ。誰に向けられた笑顔なんだろうね」
「誰に向けられた笑顔……。そんなふうには考えてなかった」

「どうして。レズリーが笑うのだってお父さんとお母さんを待っているからでしょう?」
 レズリーは絵を眺めているロリィを母のような眼差しになって、少女から女へと
変ろうとしている躰をぎゅっと抱き締める。
「いたいよう、レズリーお姉ちゃん。ねえ、お姉ちゃん?レズリー……お姉ちゃん。
泣かないで」
「うん……。わかってるんだけど」
 レズリーの風景画に混じって壁に貼られていた、史跡の野外円形劇場の舞台に立って
唄うアンの姿にスティゴールドの輝きを留める。
「でもね、レズリー。描いてコンクールに出してみようよ。このなかのお姉ちゃんも
きっと歓ぶよ。うん、きっとだよ」
634冬の海・春の海:03/06/29 16:53 ID:???
『187』

 アンの不安と哀しみのなかで時が紡ぎ出したしあわせの歓びをレズリーの絵は
画紙に定着させていた。
「ねっ、お姉ちゃん」「そうだね。うん。そうするよ。彼女と対話してみるよ」 「うん!」
 レズリーは画架を立て、キャンパスを立て掛けた。
「ロリィ、ありがとう」「ねえ、レズリー。ありがとうは、このお姉ちゃんにね」
「そうだったね」

『リョウの胡弓の妙かなる音色、もういちど聞きたかったなあ……』
『アン、きみの愛の祈りも』
『夢も心もここへ置いて逝くね。それでわたしを赦して。ほんとうにありがとう』

 稜の手がソフィアの胸に付けられていたプリムラのブローチを見つけて伸びて行くと
ソフィアは差し出された稜の手にそっと触れた。

『ねえ、アン。花は誰のために咲いているのか……な?』
『すくなくとも、人のために咲いているのではないでしょう』
メネシスは窓の外の景色を眺めながら誰かと会話していた。もう、いなくなってしまった誰か……。
「ねえ、あきらめちゃうのかい?」「いいえ、ソフィアに託したんです」
 アンのやさしい声が力強く心に響いて来る。
「あいつ、とうとう品物になっちゃったね。それぐらい我慢してくれなきゃ、割りに合わないしな」
 アンの困った貌がメネシスには見えるようだ。「うまくいくでしょうか……?」
「いくさ。いくに決まってるよ。あんたの教え子なんだろ、あの娘は。きっとアンの心も唄い続けるさ」
「そうでしょうか……?」

 メネシスは返答に窮する。答えていいものか迷っていた。その暫らくの間がアンをいたずらに
不安にさせることに気がついて、咽喉から絞り出すような声で答えた。
「ああ……本来の時の流れに収まれば、指先のタッチだけで恋ははじまるよ。
アン、あんたの時みたいにね」
 ラボで夕焼けを眺めながらアンに語りかける。
635冬の海・春の海:03/06/29 16:57 ID:???
『189』

「そろそろ魔女のカミツレの森の汚名は返上しなくちゃな」
「ふふっ、メネシスったら」
「よいしょっと。実験の続きでもするか」
 行きかけて、メネシスはもういちど外を振り返った。

「アンは自分の為に綺麗な華を咲かせたよ。とても綺麗な華だったよ」


                                          ――おわり

 長々と居座ってしまって申し訳ありませんでした。それと端折ってしまったのでちょっと
わかりにくくなってしまったと思います。
乙━━━━━(゚∀゚)━━━━━ !!

パチパチパチ
完結おめ。
久々にみたら終わってた。
お疲れ様〜
ウホっ…いいSS!

(また) や ら な い か ?
しずんじゃうよ〜
641直リン:03/07/12 09:06 ID:ToHlmfOP
642山崎 渉:03/07/15 10:38 ID:???

 __∧_∧_
 |(  ^^ )| <寝るぽ(^^)
 |\⌒⌒⌒\
 \ |⌒⌒⌒~|         山崎渉
   ~ ̄ ̄ ̄ ̄
643山崎 渉:03/07/15 13:30 ID:???

 __∧_∧_
 |(  ^^ )| <寝るぽ(^^)
 |\⌒⌒⌒\
 \ |⌒⌒⌒~|         山崎渉
   ~ ̄ ̄ ̄ ̄
よく沈まないね。
645名無しくん、、、好きです。。。:03/07/24 18:30 ID:QLYzpsfA
お宝モロ動画
http://66.40.59.93/xxxpink/
646_:03/07/24 18:31 ID:???
647名無しくん、、、好きです。。。:03/07/24 18:35 ID:zE2CusmW

期間限定!もうお目にかかれない!

http://alink3.uic.to/user/angeler.html
おまいらはギャルゲー板の事を何も分かっちゃいない