ときメモ ネタ系総合スレッド

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818双鳴曲 (1)
 ひびきの、という名前の街があります。
 そこは、やさしい鐘の響きに包まれた街。
 誰もがやさしい気持ちになれる街。
 そしてそこには、お姉さんの名前を白雪美帆、妹を真帆という、一組の双子の女の子が
住んでいたのです。
 私が今からおはなしするのは、その双子に訪れた、すこし……
そう、ほんのすこしだけふしぎな物語――。

 そのお店は、真帆ちゃんの高校からの帰り道、ショッピング街の途中に、ふときまぐれ
に入り込んだ、細い路地の向こうにありました。
 それは、小さなアンティークのお店でした。
 愛らしいフランス人形や、大きな柱時計、上品なティーセット……そんなものが並べ
られたそこは、大勢の人の行き交う商店街とは少し違う、ゆるやかな時間の流れの中に
あるように、真帆ちゃんには感じられたのです。
 姉さんに教えてあげたら喜ぶかな――真帆ちゃんは一瞬そう考えた後、頭を軽く一振り
しました。――姉さんの方から謝ってくるまで、絶対に許してあげないんだから。
なぜなら、その日の少し前から、二人はけんかしていたのです。
819双鳴曲 (2):03/04/20 07:07 ID:???
 きっかけは、お姉さん――美帆ちゃんの、ちょっとしたスランプでした。美帆ちゃんは、
学校のお芝居をするクラブで、そのお話を書く役目をしていたのです。ところが、次の
お話がどうしても思いつかなくて、困っていたのでした。
 真帆ちゃんは最初、そんなお姉さんを励ますつもりだったのですが…………。
 最初のきっかけがほんとうはどっちだったのか、今となっては二人にも分かりません。
たぶん、ちょっとしたボタンの掛け違えだったのでしょう。
 いつまでも夢見てないでよ、もっと大人になりなよ――。
 夢を見ることの何が悪いんですか、夢のない人には分からなくて結構です――。
 気がつけば、そんな風にお互いをなじり傷つけあう、大げんかになってしまっていた
のです。
820双鳴曲 (3):03/04/20 07:07 ID:???
 きしむドアをくぐりぬけて、ほこりのにおいがする店の中へと入ると、まっ白なひげを
たくわえたおじいさんが、奥の方で一人、眠っているのか起きているのかよく分からない
様子で、ひとりお店番をしています。
 真帆ちゃんは、とりあえず店の中をぐるっと見わたしてみました。あんまり私の好み
じゃないな……というのが第一印象でした。彼女はどっちかというと、流行の先端を行く
ような、新しい品物が好きだったからです。
 それでも、いくつかのアクセサリーなんかは、真帆ちゃんの目を引きました。たまには
こんなのをコーディネートするのもいいかな――そんな事を考えながら店内を散策して
いくうち、ふと、ひとつの品物に目が止まりました。
 それは、小さな鍵穴のついた、宝石箱のようなオルゴールでした。それ自体もずいぶん
古そうですし、長い間ほうって置かれていたのか、うっすらとほこりが積もっていて、
あまりきれいだとはいえませんでした。
 でも、真帆ちゃんはなぜか、そのオルゴールが気になって仕方なかったのです。
気に入ったかね、という声がしました。声の方をふりむくと、おじいさんがこっちを向いて、
にこにこ微笑んでいました。それはとてもいい物で、世界に2つしかないんだよ、と。
真帆ちゃんが、私高校生だからお金ないよ、と言うと、おじいさんは細い目をもっと細く
して笑います。君が気に入ったのなら、ただとは言わないが、少しはサービスしてあげるよ、
と。そしておじいさんが言った金額は、真帆ちゃんから見て、ちょっとだけ高いかな? と
いうぐらいのものでした。
 真帆ちゃんがどうしようかと考えていた時間は、そんなに長くはありませんでした。
821双鳴曲 (4):03/04/20 07:07 ID:???
 お互いに会話もしない、顔も見ないという、きまずい夕食の時間が終わると、真帆ちゃん
は自分の部屋に戻り、ドアに鍵をかけて、それからかばんの中のオルゴールを取り出しました。
 なんでこんなの買っちゃったんだろう。ところどころにある汚れをウェットティッシュで
ふき取りながら、真帆ちゃんは自分に問い掛けます。こういうのは姉さんの専門なのになぁ。
 ――これを姉さんにプレゼントしたら、仲直りできるかな? 一瞬だけ、そんな気持ちが
心をかすめます。でも、真帆ちゃんはその気持ちを追い払ってしまいました。そうやって
姉さんを甘やかすからいけないんだ、たまにはびしっと思い知らせなきゃ、と。
 ようやくオルゴールが拭き終わりました。真帆ちゃんは、音を鳴らしてみようと、おじい
さんからもらった鍵を、鍵穴に差し込みました。
 ……あれ?
 どんなに鍵をひねってもまわしても、ふたが開く様子はありません。10分ほどの悪戦苦闘
の末、真帆ちゃんは怒って鍵を投げ出してしまいました。壊れてるものを売りつけるなんて、
なんて悪徳ショップ!
 真帆ちゃんはベッドの上にごろんと横になりました。明日は休みだし、お店にクレームしに
行こう。もし直んなかったら返品してやるんだから……そんないらいらした気分のまま、真帆
ちゃんは眠りについたのです。
822双鳴曲 (5):03/04/20 07:08 ID:???
 その夜、真帆ちゃんは夢を見ました。
 それは、二人がまだ小さかったころの夢でした。

 小学校に上がって、買ってもらったばかりの二段ベッド。
 でもその日、真帆ちゃんは一人で寝ることができませんでした。
 学校で怖いお化けのうわさを聞いてしまったからです。友だちの前では平気だって強がっ
てはいましたが、夜、一人で暗がりを見つめていると、天井の模様もカーテンのゆらめきも、
みんなお化けに見えてきてしまうのでした。
 しょうがないから、真帆ちゃんはお姉さんのベッドにもぐりこむことにしました。美帆
ちゃんは最初びっくりした顔をしていましたが、にっこり微笑むと、ふとんを半分貸して
くれました。
 そして、いろんなお話をしてくれたのです。森の国の王子さまのお話や、砂漠の国のお姫
さまのお話。テレビの中でしか見たことのない、ずっと遠くの、ずっと昔のお話を、美帆
ちゃんはまるで見てきたみたいに生き生きと話してくれました。
 そんなお姉さんを、真帆ちゃんは魔法使いみたいだと思いました。そして、心の底から誇
らしく思ったのです。

 次の場面は、もうちょっとだけ大きくなったころの思い出でした。
ある日、泣きながらはだしで帰ってきた美帆ちゃんを見て、真帆ちゃんはびっくりしました。
話を聞くと、クラスの男の子にからかわれて、靴をどこかに隠されてしまったらしいのです。
 話を聞き終わると、真帆ちゃんはすごい勢いで、どこへともなく飛び出して行きました。
 そして、帰ってきたとき、勝ち誇った笑顔の真帆ちゃんの手には、美帆ちゃんの靴が
ありました。
 それを見て、美帆ちゃんはもっと泣き出してしまいました。驚いたのは真帆ちゃんです。
どうして泣くの? と聞くと、美帆ちゃんは妹の服を指差しました。ごめんね、私のせいで、
ぼろぼろになっちゃった、と。その服が真帆ちゃんのお気に入りだったことを、お姉さんは
知っていたのです。
 お姉さんをなだめようとするうちに、とうとう真帆ちゃんも泣き出してしまいました。
そして、しばらくの間、そうして二人で泣いていたのです――。
823双鳴曲 (6):03/04/20 07:08 ID:???
 気持ちのいい朝を、真帆ちゃんは迎えました。
 なんだか、ずいぶん懐かしい夢を見ていた気がします。でも、それがどんな物だったか
までは思い出せないのでした。
 でも。
 ひとつだけ思い出せるのは、夢を見ている間、ずっとひとつのメロディーが流れていた
こと。それは聞いたことのない、でもどこか懐かしいメロディーでした。
 ――もしかして。
 真帆ちゃんは、昨日買ってきたオルゴールを確かめました。でもオルゴールは、買って
きたときと同じ、鍵がかかったままでした。
 真帆ちゃんは、部屋のすみに投げ捨ててあった鍵を拾い、それから服を着替え始めました。
今日は出かけなくてはいけません。大切な用事のために。

 おっかしいなぁ。
真帆ちゃんは口の中で小さくつぶやきました。昨日、オルゴールを買った、あのアンティーク
のお店が、何度探しても見つからないのです。
 この辺だったはず、という場所で、なんどもなんども道をたずねてみましたが、帰ってくる
答えは同じ、そんなお店は知らない――それだけでした。何十年も前からここでお店をして
いるという、古いお店のおばさんでさえそうなのです。
 このオルゴール、修理してもらわなくちゃいけないのになぁ。
 もう一度、街を一周してみよう。そう決めて、角を曲がったとたん――。
 美帆ちゃんにばったり出会ったのです。
824双鳴曲 (7):03/04/20 07:09 ID:???
 二人は、鏡にうつった自分を見るように、しばらくの間、お互いの姿をぼうぜんと眺めて
いました。そして、ほとんど同時に、バッグから何かを取り出しました。
 二人の手には、同じ形のオルゴールと、同じ形の鍵が握られていました。
 何かをひらめいたように二人は、互いの持っていた鍵を相手に差し出しました。美帆ちゃん
からもらった鍵を差し込むと、真帆ちゃんのオルゴールは、かちっ、と小気味のいい音を
立てました。
 二つのオルゴールから、二つのメロディが流れ始めました。ひとつは、ゆるやかな春風の
ような、優しいメロディ。ひとつは、夏の太陽のような、元気で明るいメロディ。
テンポも曲調もぜんぜん違う二つの旋律は、なのに不思議に絡み合って、きれいな二重奏を
かなでていたのです。
 二人はしばらくぼうぜんとした後、やがて笑い始めました。笑って、笑って、ひとしきり
そうした後、自分の持っているオルゴールを、姉妹に差し出したのです。
 仲直りのしるしのプレゼントよ――と。

 ひびきの、という名前の街があります。
 そこは、やさしい鐘の響きに包まれた街。
 誰もがやさしい気持ちになれる街。
 これは、そこに住む双子に訪れた、ほんのすこしだけふしぎな物語。
 だけど、あなたが街を歩いていたとき、小さなアンティークのお店をみつけたら。
 そして、どこからか不思議なオルゴールの音色が聞こえてきたら。
 次の物語は、あなたが紡ぐのかもしれませんね。
                            <おわり>
825缶珈琲 ◆NAcoFFEEto :03/04/20 07:15 ID:???
お久しぶりの缶珈琲です。SSスレがみつナイ長編連載中なので(著者の方お疲れ様です)
割り込むのも何かと思ってこっちにUPしてみました。
童話調を狙って、いつもと文体を変えてみてますが、さて、どうだったでしょうか。
(書き手的には、ちょっとあざとく見えちゃうかもなぁ…とか気になってるんですけどね)

>>818-824「双鳴曲」、ときメモ2より白雪姉妹のお話です。
ではまた。