【ときメモ3】毎度ォ!渡井かずみ/2軒目【ときめきメモリアル3】
<<エイプリルフールの災難>>
「うーん…、良い天気だなー」
余り大きいとは言えないその身体を、目一杯に伸ばしながら呟く少女。
鼻歌を歌いながら小刻みにリズムをとって歩く姿は、その小さい身体をより愛らしく見せていた。
彼女はいつも忙しそうにあちこち駆け回っているが、
今日は春休みである上にアルバイト(これは、彼女の忙しさの原因の一つ)も無く、
たまの休日を一人満喫しているという訳だ。
「せっかくのお休みだもんね。遊ぶと決めたら、たくさん遊ばなきゃっ」
そんな風に、彼女はいつでも、何をするのにも一所懸命だった。
いつも明るく。前を向いて、ひたむきに。
天真爛漫という言葉は彼女の為にある――そんな風にも思えた。
(今日は何だか良い事がありそうだな…)
そんな気分を何となく感じながら、街を歩いて行く。
今日のコースはショッピング街から。
三月も終わると春物の新作はとうに落ち着き、かといって、
未だ冷たい風も吹くこの時期とあっては夏物を見て楽しむという気分にはまだなれない。
それでも、洋服や小物を見て回るのは決して退屈しない。
買うか買わないかは別として、あれこれと考えたりする
ゆっこだったら、これが良いな。こっちはちとせちゃんかな?
うーん…。ちょっとこれはパスだなー。
そんな風に、自分の知り合いに当てはめたりして、想像を膨らませる。
「んー…。ちょっとお腹空いたかなー」
家を出てから、かれこれニ時間くらい経った。そろそろお昼時かという時間だ。
一旦家に帰ってお昼にしようかな…と思っていると、後ろから声を掛けられた。
彼女はその声の主を知っているらしく、勢い良く振り返る。
「おつかれー!」
右手をくっと前に突き出すポーズは、彼女の溢れる元気を表している様だ。
「どうしたの?」
突然の知り合いとの出会いに、彼女は尋ねる。
「実は、渡井さんに教えてあげようと思って」
「何々?」
「実はね、今…あっちの店で食べ放題やってるんだ!」
「ええーっ!!」
よほど驚いたのだろうか。
ビックリした猫のように、髪の毛が逆立っている気がする。
「すぐ行かなくっちゃ!」
そう言い残すと、ものすごい勢いで走って行ってしまった。
…と思うと、今度は同じ勢いで駆け戻ってきて、息を切らせながら話し掛ける。
「あ、あのねっ」
「う、うん」
「教えてくれて、ありがとう!」
それだけ言い、また走り去っていった。
そのお礼を言うためだけに、律儀にもわざわざ引き返して来たのだった。
「食べ放題、食べ放題、食べ放題〜〜〜〜〜〜!!!」
姿は見えなくなったが、遠ざかりつつある少女の声は大きく響き渡っていた。
(あらら…。こんなにあっさり行くとは…)
小さく、思わず呟く。
今日は四月一日。
空は穏やかに晴れ渡っていた。