1 :
Classical名無しさん :
04/12/05 22:49 ID:4FPONf1g
2げっとー!! スクランライブ盛り上がったー♪
前スレはもう終わり?
オンドゥルルラギッタンディスカー!! なんでコピペして書き換えなかったんだよ>スレタイ とはいえ乙。
しかしあれだな。避難してココにたどり着いたというのに別の難民スレが必要か…?
スレ立て乙です 新作待ち
八雲ルートと沢近ルート、どちらも八雲沢近を播磨に惚れさせるために、 少なくとも二人の中の播磨の存在をやたら大きくするために描いていたと いうのはどんなバカがみても容易に分かるが、 対して播磨は、二人に心易くなりはしているものの、天満バカ一代は微塵も揺らいでない。 そのあたりから目を逸らして旗だおにぎりだetcと盛り上がるのは、ネタ(シニカル)としてなら 笑えなくもないが、それがこのマンガの本質であるかのように気を吐くアホな信者を見てると、 それは違うんじゃねーのと思う。 念のため、別に播磨×天満を支持してるわけでもない。天満もまた播磨なんぞ眼中に ないわけだ。 結局、みんな間違えてるんじゃないかと。 よくあるような、実際に両方が好きで、三角関係になって、迷い悩み…、というドラマと。 全然違う。別に両方とも、好きなわけじゃ全くねーんだから。 この漫画は、登場人物が妙に一途で葛藤がない。 新作を投下する人は、この最低限の前提を踏まえ、それに対してどのような批評的態度を とるのか、ということぐらいは考えてもらいたい。常識として。
ぷっ
>>8 おめーはスレタイの”IF”の意味を一日二十五時間考えろ。
IF16とIF17が埋まっちゃたけど最後のほうの変な絵。 あれ、あぼーん対象になるんじゃない? そうするとまた容量が増えると思うんだけど。
最近、SS書きさんが少なくない?
荒れてちゃ仕方あるまい
SS総合リンクの投稿掲示板に移ったとか?
16 :
Classical名無しさん :04/12/07 01:32 ID:3Xpt4wRU
これゆうのって「ごった煮SS」ってことになっちゃうのかな? と思いつつ恐る恐る一部投下。
「花井くん、目標は一時の方角。急いで!」 「了解!」 「花井くん、播磨くんを助けてやってくれ」 司令室の沢近・烏丸からバイクで走行中の花井へ指示が送られる。 場所は変わって、とある洞窟内で人智を超えた戦いが行われていた。 「むっ・・・!?ぐわぁぁぁ!!」 異形の怪物の攻撃に仮面ライダーギャレンこと播磨拳児は苦戦中。 「ドッグワァァ!」 洞窟の岩壁を破壊してさっそうと現れる仮面ライダーブレイドこと花井春樹。 「播磨、待たせたな!」 「ぁぁぁあ・・・メガネ?」 「タックル!」 ブレイラウザーにカードを装填するとサウンドと共に忽ちブレイド花井の体が輝き、そのまま敵へと突進する。 「うぉおおおお!・・・ぐわっ!?」 ブレイド花井の必殺技を難なく弾く異形の怪物。 「ストーム!キック!・・・播拳蹴!」 その隙にギャレン播磨も二枚のカードを自身のラウザーに装填、 「ラァァアアアア!!」 ギャレン播磨が荒々しい風を纏って宙に舞い、敵へ強烈な蹴りをお見舞いする。 「ギャァァァァ!!」 続けて放たれたギャレン播磨の必殺技は防ぎきれず倒れる異形の怪物、 倒れたそれにカードを投げると異形の怪物はカードへ吸い取られるように封印されていった。 「まだまだだな、メガネ・・・ごほっ!」 変身を解いた播磨は用が済んだらさっさとバイクで走り去っていった。 「クッ、播磨め。僕より先にライダーやってるからって先輩風吹かしおって・・・」
「いやぁ、出てきたとき時はカッコ良かったんだけどねぇ」 「ムッ誰だ!・・・冬木!?」 「よっ、久しぶり。」 「貴様こんなところで何をしている?」 「今巷で有名になっている異形の怪物に、それと戦う仮面ライダーに興味あってさぁ、 偶然バイクで疾走している君を見つけて後を追ってきたんだよ。 なぁ仮面ライダーのことや異形の怪物について取材させてよ」 「愚か者!僕達は極秘裏で動いているのだ、教えられるわけがなかろう!」 「えぇ!?いいじゃん、同じクラスのよしみでさぁ。ほら、3年生になった八雲ちゃんの写真もたくさんあるぜ?」 「き、キサマ・・・まだそんなことを・・・!だ、ダメだ!いくら積まれても教えることはできん!」 「・・・君の住んでたアパート2ヶ月間、ほったらかしだったから大家さんが別の人に貸し与えてたよ」 「何っ!?過酷なトレーニングがあるから2ヶ月ほど空けると言っておいたのに!?」 「それで家賃未納じゃねぇ、家には5年は帰らないって言ったんだよね?」 「お前そんなことまで・・・」 「周防さんも中華料理屋に住み込みで働いてるって言うし・・・」 「・・・」 「よかったら俺んとこ来いよ。結構広い家だから部屋もいくつか空いてるぜ?」 「・・・すまない頼む。あとついでに・・・本当についでだが八雲くんの新しい写真はどんなのがある?」 「1セット、一万ね」 「また金を取るのかぁーーー!?」
一方、人類基盤研究所 「何故メガネをよこした、烏丸!?」 「ちょっと乱暴はやめてよ!アンタがピンチだったから花井くんを助けに向かわせたんじゃない!?」 「黙れお嬢!あんなヤツ俺一人で十分だった、今度余計な真似したら・・・」 「播磨くん!?どうしたの?」 「・・・塚本。チッ!」 「ちょっとどこ行くのよ、ヒゲ!!」 「一体何があったの?烏丸くん・・・あ、ごめんなさい。烏丸所長。」 「いや、いつも通りでいいよ、塚本さん。播磨くんはもしかしたら・・・」 ーーーとある中華料理屋 「よし、二人ともおつかれー!」 「お疲れ様です、店長!」 「よしてくれよ、あくまで代理なんだからさ。それに知らない仲じゃないんだし、な?麻生」 「あぁ、俺は周防の方が言いやすい。にしてもあの店長、まだ奥さん見つからないのかよ・・・」 「一体何があったんでしょうね?急に奥さんいなくなっちゃって」 「家に飛び込んでくるなり奥さんが消えたアル!?ウチの子と店をお願いするアル!!?だもんなぁ・・・ あっさり了承するうちの親も親だけど」 「周防先輩が陳店長と知り合いだったなんて聞いた時ホント、ビックリしましたよ」 「親父の知り合いで昔からよくここで食べてたしね、それに私に中華を教えてくれたのはオッチャンなんだ」 「なるほど、店長代理を任されるわけだ・・・うっ!?」 「どうしたんですか?麻生先輩、大丈夫ですか?」 「あぁ、何でも無い。・・・それじゃ俺もうあがるわ」 「・・・あぁ、おつかれ。気をつけろよ?」 「バタンッ」 バイト先を後にする麻生 「はぁ、はぁ、探してるのか、俺を。ち、メンドくさいことになってきたな・・・」 運命を切り開くための戦いが今始まろうとしていた・・・
勢いで書いたんでこんなもんです。おそらく続きません。
やるならやる、やらないならROMる。 中途半端いくない。
>>20 なかなか良かったと思います
>>21 久しぶりに投下してくれた人にそんな言い方、あんまりです! 感想も書かないで、いきなりそれですか?
別に内容から感じたものを書くだけが感想じゃあるまいて
>>22 その“ひさしぶり”ってのは間違い。オンドゥルってタイトルだけど、犬さんじゃないからその人。
>>20 結構面白かったんだけど、
地の文無くすならもっと説明くさいセリフ多くした方が良かったんじゃ…。
元ネタが分かればわかるのかもなのかねえ。
ところで
>>24 の方が勘違いしてる方にイピョー
久しぶりの意味だね。
>>24 ドアホかアンタは?誰だよ『犬さん』って。テメー1人で勝手に勘違いして話進めてんじゃねーっつーの。帰れ。
最近はIFスレに投下して下さる方が少なかったので、SS自体が 「久しぶり」って意味に決まってんだろーが。
>>27 そんな言い方イクナイ!(・A・)
>>24 大丈夫だとは思いますが、挑発にのって荒らしたりしないで下さいね。IFスレ好きなんで
29 :
風光 :04/12/07 16:59 ID:zmMdHZ/A
お久しぶりです、風光です。 かなり久々にSSを書いてみました。 内容はサラと麻生のほのぼのした作品です。 時期的に他の派閥は書いているうちに関係性が変わってそうであえて外してみました。 なんか荒れ気味ですけどタイトル「Shot」投下します。良かったら読んでください。
30 :
Shot :04/12/07 16:59 ID:zmMdHZ/A
――時刻は20:00 文化祭を明日に控えた矢神学園高校では生徒たちが準備の追い込みに必死だった。 すでに夜と言っていい時間だったが、多くのクラスが泊りがけで準備をしていた。 いつもならこの時間、生徒は全員下校し当直の先生を残し誰もいないので校内は静寂に包まれているのだが、 今日を入れた3日間に限っては活気に包まれていた。 けれど活気に満ちた校内にあって、体育館だけは例外だった。 文化祭では壇上でイベントが開催されるが、それに対する準備は大半がすでに終わっており 残りは他の教室で作業が行われていたからだった。 しかしながら本来は誰もいないはずの体育館には何故か照明が点いていた。 そして静かなはずの中からは、ボールが一定のリズムで跳ねる音が響いていた。 「はぁはぁ……ふぅー」 そこにはバスケットコートのセンターラインに立ち、息を整えその場でドリブルをし続ける1人の青年がいた。 次の瞬間、彼はゴールに向かってドリブルをしてスリーポイントラインに辿り着くと、 そのまま流れるような動作で右手にボールを乗せ、左手を添え真上にジャンプするとゴールに向かって投げた。 すると手から放たれたボールはまるでそこに入ることが当然のようにゴールリングに吸い込まれ、ネットを揺らした。 床を跳ねるボールを手に取り青年はスリーポイントライン内側に入ると、今度はその場でドリブルを行った。 青年の名は麻生広義。 矢神高校のバスケ部を纏め上げ、名実共にエースプレイヤーと呼ばれる選手である。 何度か彼はその場でドリブルすると、またもや流れるようにボールを掲げる動作をしてゴールを狙った。 「……ハッ!」 小さな掛け声と共にボールは手を離れ、再び同じようにリングを通過してネットを揺らした。 機械的で無駄のないその動きと、結果として揺れ続けるネットは彼の弛まない練習の成果であった。 「うわぁ、凄いです……」 ピンと張り詰めた空間の中に、不意に場違いに明るく感嘆に彩られた声が響き渡った。 その声を発した人物を探し体育館の入り口に視線を向けた麻生は、その人物の顔を見るや否や大きく溜め息をついた。
31 :
Shot :04/12/07 17:00 ID:zmMdHZ/A
「なんだ、お前か」 「フフフ、こんばんわ。麻生先輩」 ぶっきらぼうな麻生の言葉に全く気にすることなく、笑顔で返事を返した少女は彼の後輩のサラだった。 彼女は靴を脱ぐとニコニコと笑顔を浮かべたまま麻生にへと近づいていった。 「もうちょっと近くで見て良いですか?」 「……まぁ、構わねぇが。……にしてもなんでこんなとこにいるんだ?」 サラの提案自体は別段断る素振りを見せず了承したが、それよりも彼女がこの場にいることが 不思議で麻生は疑問を投げかけた。 こんな時間にサラに会うなどと想像していなかったので、麻生は傍目では分からないが少しばかり動揺していた。 「ああ、それですか。文化祭の準備がまだ残っているんですよ。それで居残りで作業してたんです」 どうやらサラのクラスもまた思いの外準備に手間取り、泊り込みで作業しなければならないらしい。 そしてその作業の合間に休憩として校内を歩いていると体育館から明かりが見え、気になって来たとのことだった。 その答えを聞いて麻生はお前もそうだったのか、と納得していると今度はサラから逆に質問をされてしまった。 「それで先輩は何をしてるんですか?」 「俺か?」 当然と言えば当然の質問に麻生は一瞬考え、言葉を選ぶように彼女に答えた。 「明日、招待試合があるのは知ってるよな」 「あ、はい。知ってますよ。なんでも相手は県内でも結構有数の強豪校らしいですね」 「ふーん、そこまで知ってるのか」 「はい。でかでかと張り紙が貼ってありましたから」 サラの言葉に思わず感心してしまった自分を彼は恥じた。 あのサラがそこまでバスケに詳しいはずなどないのに何を期待したんだかと、人知れず彼は溜め息をついた。 「それで招待試合があるからなんなんです?」 「あ、ああ」 まだ疑問に答えていなかったことを思い出し、麻生はゆっくりと彼女に答えた。 「うちのクラスの出し物の準備に多少時間が掛かったからな。それほど練習に時間が取れなかったんだ。 だから遅れを取り戻すために少しでも練習しておこうと思ってな。こんな遅くまでコートにいたってわけだ」 少し自嘲するような麻生の言葉に、サラは更に疑問を投げかけた。
32 :
Shot :04/12/07 17:00 ID:zmMdHZ/A
「でも1人でですか? ルールとかそれほど詳しくないですけど個人技じゃないんですからチームで練習する方が いいと思うんですけど……」 サラの言葉は自信なさげな声とは裏腹に実に的確な内容だった。 麻生自身もいくら個人技が優れていようが連携が取れていないチームに勝利はないと考えていた。 そのため、チーム練習を疎かにする事は勝利を捨てていることと同義だと思っていた。 「分かっているさ。だからさっきまで部の連中全て集めての全体練習を行っていたんだ」 「え? 練習していたんですか? ならなんで今は皆さんいないんです?」 「ああ。1時間位前に解散させたんだ。明日に疲れを残しても困るしな。 それにクラスの出し物の準備がまだ終わっていない連中もいたから手伝わせに行かせないと悪いだろう」 「じゃあ先輩はなんで残って練習してるんですか?」 サラの質問におもむろに麻生はボールを持つと軽い動作でゴールに目掛けて放り投げた。 それは綺麗な軌跡を描きゴールのリングにへと吸い込まれていった。 「自主練だ。毎日毎日自分で決めた数のシュート練習を行っているんでな。今やっているのもそれの続きだ」 「……はぁ……」 「幸いクラスの準備はかなり終わっていてな。俺が抜けている余裕はあるんだ」 質問に答え終わると再びドリブルを行い、シュート練習を行った。 無言で、まるでサラがそこにいないかのように黙々と練習を麻生は行った。 そんな彼の姿をサラはじっと見ていたが、しばらくすると飽きたのか出してあった籠からボールを取り出し 別のゴールリングにへとシュートの練習を行い始めた。 しかしそのボールの軌跡は頼りないもので、途中で失速しゴールに届くことなく床にバウンドし転がった。 「むぅ〜」 外すでなく、届かなかったことに腹が立ったのか、サラは頬を膨らますと再びシュートを行った。 けれど結果は先ほどと同じく、リングにかすりもせずボールは床に落ちてしまった。 何度やっても結果は同じで、それどころか方向すらずれていく始末だった。 「なんで届かないんだろう」 シュートの体勢は取りはしたが、全く入らないことにとうとうサラは意気消沈してしまった。 やっぱり力がないからかなっと溜め息混じりに彼女は呟き、一向にシュートを行う気配がなかった。
33 :
Shot :04/12/07 17:00 ID:zmMdHZ/A
すると不意にその左腕に手が添えられた。 驚いて彼女が振り向くと、その後ろにはいつの間にか麻生が立っていた。 「もう少し左腕をまっすぐにしろ」 「え?」 「早くしろ」 「あっ、は、はいっ」 麻生に促されて、慌ててサラは言われたとおり左腕を伸ばした。 「そう。ボールは右手に乗せるだけで、左は落ちないように添えるって感じだ」 「は、はぁ…………あの、先輩?」 「なんだ?」 「教えてくれるんですか?」 まさか麻生に指導してもらえるとは思わず、驚いた表情でサラは訊ねた。 「教えなきゃ何度でも出鱈目に投げてそうだからな。練習している後で変な叫び声を上げ続けられたら堪らないんだよ」 「ふぇ? 叫んでました?」 「ああ。よく分からない擬音交じりで叫んでたぞ」 麻生の言葉にサラは瞬間的に顔を赤くしてしまった。 まさかそんな声を聞かれているとは思わず、恥ずかしくて顔を俯かせそうになってしまった。 「体勢を崩すな。ゴールをしっかりを見据えろ」 「は、はいっ」 麻生の言葉に慌ててサラは顔を上げた。 続いて矢継ぎ早に飛ぶ麻生のアドバイスに逐一反応し、サラは修正を加えていった。 そして麻生のアドバイスで腕や足を位置を変えて行ったサラの姿は先ほどとは違い、とても綺麗なフォームになっていた。 「あの……先輩? これで良いんですか?」 「ああ。あとは膝のバネを使ってジャンプし、ゴール目掛けて手首を返してシュートしろ」 「はいっ」 言われるがままに手首を返すようにボールを放つと、それは綺麗な軌跡を描きゴールにへと向かっていった。 そしてボールはそのままリングの内側に当たり、一度跳ねたあとリングから零れ落ちた。 実に惜しい結果であったが、サラにとってはそれだけで十分興奮するに値することだった。 「わぁーっ、当たりましたよっ? 見ましたよね? リングに当たっちゃいました!」 「ああ、そうだな」 同意の言葉を発しつつも麻生は内心まぐれだなと結論付けていた。
34 :
Shot :04/12/07 17:01 ID:zmMdHZ/A
女性の、それもサラのような細腕でワンハンドシュートを決めるなど普通は無理で、 両手投げ、つまりボスハンドシュートでなければパワー不足で途中で落ちるのが関の山だと彼は考えていた。 つまり偶然力が全てボールに伝わった結果であって、リングに当たったことすら奇跡に等しかった。 「えへへ。私、前にやったとき下手投げでしか入らなかったからすっごい嬉しいです。先輩のアドバイスのお陰です」 サラは麻生の考えていることに気付かぬまま、嬉しそうに飛び跳ねていた。 「おい。そんなにはしゃいでるとこけ……」 ……るぞと続ける前に足を滑らせてバランスを崩してしまった。 「キャッ」 サラは咄嗟のことでバランスを保つことも出来ず、背中から床に倒れていった。 きっと痛いだろうなぁ、とか先輩に間抜けだなって思われるんだろうなと脳裏の片隅で考えながら、 目を瞑り次に来る衝撃に備えた。 しかし一向に待っても衝撃は襲ってこなかった。 訝しく思って恐る恐る目を開けると彼女の身体は後ろから抱きしめられていた。 「はれ?」 頭はてなマークを浮かべて後ろを振り返るとそこには……。 「先輩?」 呆れたような視線でサラを見下ろしながら、彼女を抱きすくめる形を取っている麻生の姿があった。 その事実に彼女は瞬間的に顔を真っ赤にしてしまった。 男に抱きしめられるなど16年生きてきた中で初めてで、酷く動揺してしまったのだ。 だがしかし、麻生はそれに気付いた風もなく冷静な口調で彼女に告げた。 「靴下のままではしゃいだら滑るのは当然だろうが、阿呆」 目だけ呆れていたはずが言葉でも呆れた口調で、いやそれ以上に馬鹿にしているらしい。 どうにも麻生自身は、自分が傍目から見たらどんな危ない格好をしているのか気付いていないようだ。 その事実に気付いたサラは自分だけ恥ずかしがるのもおかしいと考え、麻生に気づかれないように小さく息を整えた。 「酷いです、先輩。阿呆じゃないですよ」 「子供みたいにはしゃいでる時点で阿呆なんだ。……たっく、怪我はないよな」 抱きしめていた腕を離し、しっかりとサラを立たせると、麻生は彼女に顔を近づけ真剣な口調で確かめるように訊ねた。 その顔に一瞬頬を熱くしかけたが、すぐに冷静さを取り戻し大丈夫ですと彼女は答えた。
35 :
Shot :04/12/07 17:04 ID:TZmrJmEU
サラの答えに安心したのか、小さく微笑むと転がっていたボールを拾い上げた。 「当たったからもう満足だろう。あとは大人しくしてろ」 「えー、ダメですよ。どうせなら入るまで頑張りたいです。せっかく当たったんですし感覚を忘れない内にもう一度……」 「無理だ。さっきのはまぐれでしかねーよ」 「むっ。そんなことないですよ。ほら、貸してください」 頬を膨らませてボールを要求してきたサラに、麻生は小さく嘆息すると軽くボールを投げて寄越した。 サラはそれを受け取ると、勢い込んでシュートの体勢を取った。 「見ててください。今度は入れて見せますから」 サラの言葉に麻生はまぁ、頑張れと気のない返事を返した。 それを更に不満に思ったのか、サラは再び頬を膨らませてからボールをゴールにへと投げた。 ……けれどボールはゴールに届くことなく途中で失速し、空しく床に落ちてしまった。 「言っただろ、無理だって」 麻生はさっきのは偶然の産物でしかないと丁寧に説明した。 それは心から喜んでいたサラにとって気持ちに水を差すことだったが、 慰めなどを言っても意味がないと思ったからこそ冷徹にその事実を告げたのだった。 当然のようにサラは反発し、むきになって何度もシュートを行い始めた。 けれどボールは尽くゴールに届かず、床に落ちてしまった。 そのことが不満でしょうがないらしく、サラは終始唸り声を上げていた。 「たく、ガキじゃあるまいし怒るな」 しばらく無視して自主練に専念していた麻生だったが、さすがにウンザリしたらしく 転がってきたボールを拾い上げると再びサラの側にへとやってきた。 「だって先輩は軽々とやってるんですから、やっぱ一回くらい入れたいじゃないですか」 「はっ? 俺?」 「はい。あんなにポンポン入れるのを見せられたら私でもやれるんじゃないかって……」 サラの言葉に麻生は思わず額に手を当ててしまった。 そしてその状態のまま溜め息混じりに彼は告げた。 「中学の頃からずっとバスケをやってる俺と比べる奴があるか。こちとらシュート練習なんて何万、何十万本も…… いや、それこそトータル7桁は確実に投げてるんだ。ろくにバスケをやったことのない女のお前が、 こんな短時間でシュートを決められるはずがないだろう」
36 :
Shot :04/12/07 17:05 ID:TZmrJmEU
「へっ? そんなに投げてるんですか?」 麻生の言葉にサラは素っ頓狂な声を上げてしまった。 まさかそんな数のシュート練習をしているなど、彼女の想像を大幅に超えていたからだった。 「当たり前だ。試合に負けるつもりなんてないんだ、それくらいやるのは当然だろう。努力不足で負けたなんて結果、 認めるつもりなんて絶対ないんだからやれる限りのことをやるに決まってるだろう」 麻生の語り口調はとても真面目で、いつも以上に熱を帯びていた。 その言葉を聞いてサラは口をぽかんと開けて、彼の顔をまじまじと見つめてしまった。 「……な、なんだ?」 「いえ……先輩の熱いところを見るのが珍しくて」 「う……」 サラの言葉に気恥ずかしくなったらしい。 麻生は彼女から視線を外して顔を微かに赤らめた。 「ふふ、そう言う熱いところもあるんですね」 「うるせーよ。ともかく分かったのならもう練習は止めとけ。非力なお前じゃこれ以上やっても入らないさ」 麻生の少し冷たい物言いに、今度は不満を漏らすことなくサラは頷いた。 何故なら彼の突き放したかのような物言いは、サラにこれ以上無理をさせないための優しさだと気付いたからだった。 ならばここは素直に頷くべきだ。彼女はそう判断して反発をすることを止めたのだった。 「なら良いが……そういやお前、なんでずっとここにいるんだ? 気にしてなかったがまだ明日の準備があるだろう? 戻って手伝いを再開した方がいいぞ」 「え? ああ、良いじゃないですか、もうちょっとくらい。先輩が終わるまで待ってますよ」 「俺が終わるまでって……もう少し掛かるぞ。待つ必要なんてないんだ。さっさと戻れ」 彼はそう言い捨てて練習を再開しようとした。 「あっ、ま、待ってください」 慌ててサラは麻生の服の裾を掴むと彼の顔を見上げた。 「なんだ?」 麻生の表情には苛立ちがありありと見て取れた。 それに気付いたからこそ、サラは慌てて言い訳を探し周囲に目配せした。 「用がないなら離して欲しいんだが……」 「あ、その………こ、こんな暗い中を女の子1人返すなんて男の人のすることじゃないと思うんですけど」 「はっ? お前、さっき1人でこの体育館までやって来ただろう?」
37 :
Shot :04/12/07 17:05 ID:TZmrJmEU
麻生の当然の言葉にサラは一瞬怯んだが、すぐにそれはそれです。誰かに襲われたら責任とってくれるんですか? などと言われ思わず返す言葉を無くしてしまった。 彼の本心としてはお前みたいな奴を襲う奴なんていないだろうと言いたかったが、それを言うと確実に怒られそうで 敢えて彼は口をつぐんだのだ。 それに麻生自身にはサラの魅力がいまいち理解出来なかったが、万が一、いや億が一ああいうガキっぽいところを好み、 彼女が1人きりになるのを待ち校内に潜んでいる人間がいないとも限らないと考えられた。 「分かった。その辺で大人しく待ってろ」 さすがにそんな事態になるのは嫌だったので、麻生は不承不承ながらも彼女を送るのを決めた。 サラはその言葉に一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔になり『はーい』と元気よく返事した。 そして麻生は溜め息をついて、その場でドリブルを始めると先ほどからシュートをしているゴール下の スリーポイントラインまで歩いていった。 「先輩。あとどれくらいですか?」 サラは壁に背を預けて麻生に訊ねた。 「ん? ああ、あと10本だ」 麻生は答えると同時にジュート体勢を取り、間を置かずにボールを投げた。 そしてそれは当然のようにゴールリングを通過した。 「これで9本」 淡々と答え、再びドリブルを開始した麻生をサラはじっと見つめていた。 リズムに乗り、全くぶれることなく綺麗なフォームでシュートを繰り返す彼の姿はとてもカッコよく彼女には映った。 けれどその真剣な表情は少しだけ彼女を悲しくさせた。 確かに先ほどまで麻生は彼女に構ってくれたが、あくまでそれは集中が出来ないからと言う理由なだけで、 今、彼女のことを完全に意識の外の追い出している姿を見て本心では邪魔だと感じているんだなと思ってしまった。 そう思ったら、酷く所在無い気分にサラはなってしまった。 さっきはついもう少し側にいたくてあんなことを言ってしまったが、やはり麻生の言うとおり さっさと戻るべきではなかったか、そんな風にさえ考え始めてしまっていた。 「これで……ラスト」 不意に聞こえた麻生の言葉に意識を現実にへと引き戻されたサラは、思わずゴールにへと目をやった。
38 :
Shot :04/12/07 17:06 ID:TZmrJmEU
そこには先ほどと変わらず、いや先ほどよりもより綺麗な軌跡を描いてゴールリングにへと 吸い込まれていくボールが目に入った。 その光景に思わずサラは見惚れてしまった。 麻生はと言うと彼女の様子に全く気づくことなく、置いてあった自分のタオルを手に取った。 「凄いです、先輩」 「ああ」 汗を拭きながら麻生はこれと言った感情を見せずに答えた。 そのことで一瞬会話の流れが切れてしまったが、サラは慌てて話のきっかけを作ろうと考えを巡らせた。 「え、えーっと、そういえば結局シュート練習って何本撃ったんですか?」 かなりの数を麻生は撃っているような気がしていたので正確数が気になってはいたのだ。 「あん? 200本だが……」 「200っ!? え? マジですか?」 「あ、ああ。それほど驚くことか?」 サラのリアクションが予想外に大きかったことに驚いた麻生はつい聞き返してしまった。 「だ、だってそんな、200本ですよ。ふぇー、先輩って凄いんですね……」 サラの心底感心した口調に麻生は少し照れくさく感じて、頬に掻いた。 「けどそんなに練習してるなら明日の試合もきっとババーンと勝っちゃうんでしょうね」 きっと否定するんだろうなと思いながらもサラはおどけた口調で同意を求めた。 「当然だ。勝つに決まっているだろう」 「ふぇ?」 だからキッパリそう言い切った彼の言葉にサラは目を丸くしてしまった。 「なんだ?」 「い、いえ。先輩がそこまで自信満々に言い切るなんて思ってもみなかったもので」 「フン、勝負事で弱気になんてなるわけないだろ。いくら相手が強豪だろうが勝てる自信あるさ」 そのいつもとは違う熱い口調とあまり目にしない負けず嫌いなところを見て、 サラはちょっと意地悪を言ってみたくなった。 「でもそんな自信満々に言って、負けちゃったらどうするんです?」 「負けるわけないだろう。いや、絶対に勝つつもりなんだからどうするも何もないと思うんだがな」 「ふーん。じゃあ負けたら罰ゲームとかどうです?」 「罰ゲーム?」 サラの言葉に麻生は訝しげな視線を向けた。
39 :
Shot :04/12/07 17:07 ID:TZmrJmEU
変なことを企んでるんじゃないか、そう言う風にしか思えなかったが それでも彼女が何を言い出すのか気になったので続く言葉を待った。 「はい。……うーん、例えば私とデートとか?」 ちょっとした冗談のつもりでサラは告げた。 けれどそれに対する麻生の返事は失礼極まりないものだった。 「……それは本気で罰ゲームだな」 「むぅっ」 サラは頬を思いっきり膨らませてしまった。 「女の子とデートできるってのに、なんでそんな風に言うんですか?」 「はぁ? なにを言ってる。お前が自分で罰ゲームって言ったんだろ」 「だからって女の子に向かって、重々しい口調でそんなこと言わないでください」 「……」 麻生はなんでそんなに怒られているのか訳が分からなくて困ってしまっていた。 彼としてはサラが自分から言い出したことだから罰ゲームだなと答えただけであったし、 女の子とそんな真似をすることは彼にとっては面倒くさく神経を使いそうなことだったから本心を語っただけだった。 「……もういいです。それじゃあこうしませんか? 負けたら私と文化祭回るってことでどうです?」 「はっ? ……あまり変わらない気がするんだが……」 「むむむっ……」 麻生の言葉に更に彼女は頬を膨らませてしまった。 その表情につい彼は悪かったと答えてしまった。 「あー、それでかまわねーよ」 それに負けなければ良いだけなのだからそう言う約束をしても問題ないと彼は判断したのだった。 けれど彼の考えを見透かしたのか、サラはジロッと彼を睨んだ。 「その言い方、何かムカつきます。ふーん、先輩なんて負けちゃえばいいんです。 そうしたら思いっきり奢らせちゃいますから」 「はっ? 奢る? 回るだけじゃないのか?」 「女の子にお金を払わせる気ですか? そう言うときは男の人が率先してお金を出すのが基本ですよ」 「そう言うもんなのか……」 まぁ、勝ちゃ良いだけだしな。麻生はそう考えてサラの側から離れ、ボールを片付け始めた。
40 :
Shot :04/12/07 17:07 ID:TZmrJmEU
「じゃあ話は終わりだな。少し待ってろ。これ片付けて着替えたら教室まで送ってやるから」 「……え? もう終わりですか?」 「ああ。練習はもう終了するつもりだが……」 それにこれ以上遅くなってもクラスの連中に迷惑を掛けるだろうと麻生は言いたかった。 けれどサラ自身もそれは分かっているらしくちょっとだけですからと前置きをして、彼女は麻生にお願いして来た。 「あのですね。初めて先輩がバスケをしてるのを見たんですし、せっかくだから何か技を見たいんですけど」 「技? そう言われてもな……」 全ては基本技術の応用に過ぎないのだし、何を見せればいいのか彼によく分からなかった。 それとも高等テクニックが見たいのだろうかと考えたが、そんなものが素人のサラに分かるわけはないと彼は判断した。 「別にドライブシュートだとか大リーグボール見せて欲しいんじゃなくて、見た目が派手なのを見たいだけなんですよ」 「まぁ、それならないこともないが……」 と言うよりサラの口からどこぞの漫画の技が出てきたことに麻生は驚いていた。 時々妙なことを知っていたり、日本語や日本文化に詳しかったりするサラだが、 そんなものまで飛び出すとは思っていなかったようだ。 「言っとくがこう言う派手なものより、派手さは少ないがもっと高等なテクニックはあるんだぞ」 「あー、そう言うのは見ても良く分からないので」 予想通りの答えに麻生は軽くため息を付いた後、なら一回だけ見せてやるよと答えてドリブルをしながら エンドラインまで歩いていった。 「あんま実践では使わねーんだが、まっ、特別だ」 麻生はそう呟き、何度かエンドラインでドリブルを繰り返したあと、反対側のゴールに向かって一気にドリブルを始めた。 そのスピードはまるでボールを持っていないかのように速く、サラが驚いている間にセンターラインを超え、 反対側のコートに入りゴール下に辿り着いてしまった。 そして勢いをそのまま上方へのジャンプ力に変え、高く跳び上がると空中で体勢を変えて後ろ向きなり、 そのままゴールにボールを叩き込むようにシュートした。
41 :
Shot :04/12/07 17:10 ID:Ds/pwDsc
「まぁ、こんな感じか……」 しばらく麻生はリングに捕まっていたが、次の瞬間全身のバネを使って上手く床に着地し、軽く首を振った。 彼の言葉からは大したことをしていないかのように感じられたが、実際まだ揺れているゴールの支柱を見れば それにどれだけの威力があるかは一目で分かるだろう。 けれど彼はそれを全く気にすることなく床を転がっているボールを拾い上げると、手で玩びながらサラの元に歩いてきた。 「これで満足か?」 もっとも満足じゃないと答えられても、これ以上何かしてやろうとは麻生は考えていなかった。 しかし、何故か彼の呼びかけにサラは全く反応を返さなかった。 どうやら熱に浮かされたようにぽけ〜としているみたいだ。 「おい?」 訝しげに思って彼女の身体を揺すると、彼女は跳び上がるように驚いて一歩後ずさった。 その反応に逆に麻生が驚いていると、サラはすみませんと謝り何か用ですかと訊ねてきた。 「いや、満足かって聞いたんだが反応がなかったからさ」 「あっ、すみません。……えっと、大満足ですよ。ホント、先輩凄いです」 手放しで褒められ、さすがの麻生も照れくさくなって頬を掻いた。 「ホント……先輩って凄くてカッコイイです……」 再度言葉を繰り返すサラの顔をよく見ると、彼女の顔は微妙に赤くなっていた。 そのことを指摘すると、更に顔を赤くし猛烈な勢いで彼女は否定してきた。 その勢いの気圧されたのか、麻生はならいいんだがと答えボールを籠に戻そうとした。 「あっ、それは私がやっておきますよ」 「あん? お前がか?」 「はい。ですからその間に着替えちゃってください」 「まぁ、それがありがたいが……着替える前に掃除もしなくちゃならねーからやっぱ良いって」 麻生は床を指差しながら首を振った。 いつも練習で1人残っているときはやっていることだし、部外者のサラに手伝わせるわけにもいかないと彼は考えていた。 「あー、それじゃあ掃除もやっちゃいますよ。ですから早く着替えてください」 サラはなんとしても麻生に早く着替えてきてもらいたいらしい。 そのことを不思議に思った麻生は、彼女の真意を問い正した。
42 :
Shot :04/12/07 17:10 ID:Ds/pwDsc
……すると。 「だって待っている間寂しいじゃないですか。それに帰る用意が終わるまで待つより何か動いていたいですから」 彼女の答えは実に彼女らしいものだった。 だから麻生は苦笑すると自分の履いていたバッシュをその場で脱ぎ彼女に差し出した。 「大きいとは思うがこれを使え。ないよりマシだ」 「え? なんでですか?」 「そのまま靴下でモップがけでもしたら確実にこけるからだ」 ああ、なるほどと納得したサラはお借りしますとバッシュを受け取った。 「じゃあ着替えるからその間頼むな」 「はい。任せちゃってください」 サラの元気の良い答えに、麻生は片手を上げて応えロッカールームにへと消えていった。 そして麻生がいなくなったあと、サラはパコパコとぶかぶかの靴を鳴らしながら上機嫌で体育館の掃除を始めた。 まず転がっていたボールを全て籠に戻しそれを倉庫に戻したあと、モップを取り出し床全体を磨きはじめたのだが これが意外に楽しいらしい。 教会で毎日のように雑巾を使った拭き掃除をしている身であるからか、モップのように腰にそれほど負担の掛からない 掃除道具は楽であり、一度に大量に拭けるのがとても楽しくて仕方ないようだ。 それに麻生から借りたバッシュも、歩くたびにキュッキュと音がしてそれが更に楽しいようだ。 鼻歌でも歌いだしそうに軽やかにモップがけをし、ちょうど全部を拭き終えたところで麻生が戻ってきた。 「すまんな、こんなことさせて」 「いえ、気にしないでください。私が好きでやっていることですから」 麻生の言葉にサラは小さく両手を振り否定した。 それに軽く苦笑を漏らすと、彼はモップを受け取り元の場所に返しに行った。
43 :
Shot :04/12/07 17:10 ID:Ds/pwDsc
――そして 「わぁ、結構いたんですね、私」 自分の腕時計を確認したサラは、今気付いたとばかりに言葉を漏らした。 「お前、怒られないか?」 「う、うーん、どうでしょう。ちょっとサボりすぎたかも」 小さく舌をペロッと出し、サラは悪戯っ子が悪さしてるのを見つかったような顔をした。 「たっく、だから早く戻ったほうが良いって言ったんだ」 麻生は呆れたといった風に言葉を告げた。 やはり早めに返すべきだったかもしれない。それが年上の義務だったかなと、彼は思った。 けれど即座にサラは反論した。 「言ったじゃないですか。こんな暗がりを女の子1人で帰るなんて怖いんですから。変な人が出てきたらどうするんです?」 「出ねーよ」 「でも万が一ってこともありますよ」 「まぁ、そうだが……それを言うなら男の俺と体育館で2人っきりになり、真っ暗な中を一緒に帰る方が危険だと思うぞ」 架空の相手を想定するより、今現在存在する男の自分が何かするのを危惧した方がいいんじゃないかと彼は言いたかった。 けれどそれに対する彼女の答えはあっけらかんとしたものだった。 「大丈夫ですよ。先輩の事信じてますし。そもそもそんな甲斐性、先輩にないですからね」 「それはそれでムカつくな」 「じゃあ、襲います?」 くるっと回転し、麻生に向き直ると可愛く首を傾げた。 「……俺にも女の趣味ってものがある。何が悲しくてお前なんて襲わなくちゃならないんだ」 「むぅ、それすっごい侮辱です。これでもそれなりに男の子から人気あるんですから」 事実、八雲の次に一年女子の中では男子人気は高かった。 まぁ、彼女自身はそれを気にしたことはあまりないし、好意を向けられても恋愛感情を抱くことは全くなかったが。 「……物好きが多いんだな」 「先輩がおかしいだけですっ。……たく、なんで自分で自分を褒める変な女の子にならなくちゃいけないんですか」 「知らねーよ」 麻生の言い分は正しかったが、もう少し言い方を学ぶべきだろう。 当然のようにサラはへそを曲げてしまった。
44 :
Shot :04/12/07 17:12 ID:Ds/pwDsc
「いいですよ、もう。先輩ってホント女の子を平気で傷つけるんですね」 「……そんな言い方されると俺が極悪人みたいだが」 「極悪人です」 ソッポを向き、僅かにサラは麻生から距離を取った。 その行動に麻生は溜め息をつきたくなった。 やはり女ってのは話してると疲れる。心の底から彼はそう思った。 「なんでそこまで怒るんだ、お前は」 「それは当然です。先輩が女の子扱いしてくれないんですから」 「は? なんでしないと怒られるんだ?」 「え? それは……」 彼女は答えようとして言い澱んでしまった。 よくよく考えたら何故自分が腹を立てているのか分からなかったからだ。 「……なんででしょう?」 「……俺が知るわけないだろう。ホント変な奴だな」 麻生の言葉にサラは何も言えなくなってしまった。 なんで自分はこんなに向きになる必要があったんだろう。彼女は首をひねっていた。 すると不意に麻生が声をかけてきた。 「そこ、段差があるぞ。気をつけろよ」 彼の指摘に足元を見ると確かに暗がりで見えにくいが段差があった。 「ありがとうございます」 うっかり転ぶところだったので、サラはぺこりと頭を下げた。 「気にするな。それよりも足元、かなり見えにくくなってるから気をつけろよ」 いつも通りのぶっきらぼうな声であったが、その中に彼女に対する気遣いが見て取れた。 その何気ない優しさが嬉しくて彼女は笑顔を見せた。 「ほら、さっさと行くぞ」 「はい」 そして彼の優しさに触れられただけで、先ほどまでの悩みやイラつきはどうでも良くなってしまったサラだった。 ちなみに戻ったサラは当然のように怒られてしまったが、どこで油を売っていたのか何故か答える気になれず ひたすら笑って誤魔化し続けたのであった。 〜 Fin 〜
45 :
風光 :04/12/07 17:14 ID:Ds/pwDsc
どうだったでしょうか。久々で自分としては少し腕が落ちてる気がしてならないんですけどね。 まぁ、リハビリってことで。 あと書き方を多少変えてみたんですがどうでしょうか? 前の方が良かったですかね? 続きは書くかどうかは微妙。 漫画本編の進み具合によるかな。 では感想などあったらレスお願いします。
サラと麻生の話が進むのは本編がネタ切れした時だから そろそろだな
ホントに過疎スレだな、ここ…
何か書いてみようか
>47 荒れすぎ。クズリさんも様子見しているみたいだし、いつまで待っても 神は現れない。。。このままじゃどんどん過疎っていくよ・・・ >45 gj!サラアソ堪能させて貰いました!!!
作品というものが、ほとんど物質と化すほどに凝縮された情報の塊だとすると、 それを解きほぐし、切断し、細部を改めて関係づけることで、そこにある形象(物語)を 「頭のなか」に浮かび上がらせることが「読むこと」だと言える。 このときに読まれたものの(つまり頭のなかの形象=物語の)「正しさ」を保証するのは、 ある特定の「読み方の作法」を権威づける象徴的なものの体系であり、その体系を とりあえず共有している集団であるだろう。 そして批評とは、それぞれが自らの読みを示した上で、その作法の正しさを (他者に対して)主張し合い、「正しさ」について争い合い、その争うという行為によって 「象徴的な体系」を形成しつつ、象徴的なものの作用する場(圏域)を維持しようという 営みだと言えるだろう。 だからおそらく、単一の体系=法であるかのように立ち上がる象徴的なものも、 複数の言語ゲームの「覇権」争いによってのみ維持される遂行的な場、つまり想像的な 対他関係の場を通してはじめて目の前に現れるのだろう。 つまり、批評が可能であり、かつ必要であるような時空というのは、既に象徴的なもの の絶対的な専制(「正しさ」)が失われている時空であり、その「正しさ」の代替物として、 対他的な(愛と憎しみの)空間のなかで争われる、暫定的な「正しさ」を保留を設けつつ 主張し合うゲーム、という「枠組み」が必要とされ要請される時空であろう。 この時、保留という時間的な厚みの設立が絶対的に重要なのだが。 このようなゲームは、仮構されたものとしての「正しさ」という考え方 (例えば漫画批評ならば、この作品の方があの作品よりも「優れている」というような 価値の「鑑定」のようなもの)なしにはやってゆけないだろう。
>>45 乙〜おもろかった!
俺もSS書いてみようかな…
でもみなさんどうやって一気に投下してるのかやり方
がわからない……素人なもので
>>51 自分はいつも、前もってメモ帳とかに書いておいて、一気にコピーしてますね
>>53 もちろんそうですYO!
まあ、あくまで僕の場合ですので、参考程度にしてください。
>>54 投下する時はわけないといけないんですよね?
何度もすいません…
>>55 そうです。文章が長かったりするとエラーになっちゃいますので。
57 :
風光 :04/12/08 10:22 ID:3MU8P/5M
>>54 自分は一度メモ帳に書いて、それをOpen Jane Doeを使って文字数と改行数を確かめて分割し、
投下順に番号を振って一気に投下しています。
一番最初2chブラウザを使わないで書いたため、制限に何度も引っかかって失敗した経験があるので
それからはずっとこのやり方です。
>>57 なるほどそうゆうやり方もあるのか…
それでは今からダウンロードしてがんばってみようと
思います。
質問に答えてくださった方々、ありがとうございました!!
この学校において、茶道部とは平和な部活動である。 ――などというと、平和ではない部活動とはなんなのか、などという話になるのだが、 それについてはひとまずおいておく。この場合、少なくともここ以上に平穏な場所は そうそうない、という意味である。 基本的に活動内容などあってないような部活である。いわば放課後の団欒の場所であり、 教室の片隅で、食堂で、ラウンジで、学校ならどこにでも見られる光景を写し取ったような、 そんなのどかな場所――それがこの部活になる。 明確な規則があるわけでもないが、部員は現在女性陣に占められている。そうなると、 逆に今度はよろしくない考えをもって入部を試みる男子生徒も現れるわけだが、彼らの 前には大きな障害が立ち塞がっている。 即ち、部長であるところの高野晶、そして顧問であるところの刑部絃子、である。 来る者は拒まず、が基本スタンスの彼女らであるが、当然ながら不純な動機でやってくる 者に対しては、『それなりの』対応を以て相手をする。何があろうとめげずに突撃を繰り返す ような極一部の例外を除き、今のところこのハードルを乗り越え目標を達した者はいない。 今後とも現れることはまずないだろう、とはまことしやかな噂である。 そんなわけで。 今日も茶道部は概ね平和であり、いろいろと周りに気を使ってしまうことの多い塚本八雲が、 友人であるサラ・アディエマスが所属していることはさておいても、そこに平穏を見つけた、 というのは別段不思議でもないことだった。
――さて。 これはそんな彼女たちにまつわる、取り立ててどうということもない話。 季節は春、八雲が茶道部に入ってからまだいくらも経っていない、とある日の出来事だ。 では、始めよう。 ◆ その日の放課後、やあ、と言いながら部室のドアを開けた絃子が目にしたのは、静かに、と いうように、右手の人差し指を立てて口に当てているサラの姿だった。見れば、彼女の向かい には小さな寝息を立てている八雲の姿。 容姿端麗成績優秀、と基本的に非の打ち所のない彼女だったが、人付き合いを若干苦手にして いること、そしてもう一つに欠点がこの癖――と言っていいものかは分からないが――だった。 本人の意思にかかわらず、時折自然と眠りに落ちてしまう。微笑ましいと言えばそう言えなく もないが、なかなかどうして厄介な問題である。とは言っても、目下それを問題視している者は ほとんどおらず、むしろその姿さえ絵になる、と一部では評判にさえなっている。 ともかく、一度こうなってしまうと彼女が自発的に目を覚ますまで、眠りが妨げられることは まずほとんどない。サラとてそれは承知しているが、それでも先のポーズを見せたのは、やはり 友人なりの気遣いということになるのだろう――絃子もそう判断し、小声で、すまないね、と 言いつつ後ろ手に静かにドアを閉め、いつもの指定席である窓際の席へと向かう。 「先生、何か飲まれます?」 「ん、いや構わないよ。今はあまり物音を立てるのも、ね」 大丈夫だとは思うんだけどね、そう苦笑してみせた絃子に、ですね、と返すサラも似たような 微笑み。ホントに気持ちよさそう、と呟くその眼差しは、まぶしそうに細められている。
「それだけ安心してる、ってことじゃないのかな。いくらどこででもと言ったところで、目の前に 誰かがいるところじゃそうはいかないよ、きっと」 「……だといいんですけど」 不安の色がほんの少しだけ混じったサラのその声に、わずかに怪訝そうな表情になる絃子。そんな 変化を見て取ったのか、考えすぎかもしれないんですけど、と前置きをしてから続けるサラ。 「私って、ちゃんと八雲の友達でいられてるかな、なんて思っちゃうんです。こっちに来て、最初は ひとりぼっちだった私の初めての友達が八雲だったんです」 「うん、らしいね。そのときの武勇伝は私も聞いてるよ」 「武勇伝?」 「ああ。なんでも襲いくる野犬をちぎっては投げちぎっては投げで……」 大活躍だったそうじゃないか、真顔でそんなことを言う絃子。誰から聞いたんですかそれ、と問う サラには、さあ、と肩をすくめて笑ってみせる。対するサラは、もう、と口だけで怒ってみせてから、 どこかほっとしたように肩の力を抜く。 「その話はまた今度ゆっくりしましょうね。……それで、です。とにかくそれがきっかけになって、 私は友達がたくさん出来たんですけど、八雲はまだどこかみんなに遠慮してるみたいで」 「……ふむ」 「友達がいないとか、それで何か問題があるかとか、そういうことじゃないんです。でも、私に何か もっと出来ることがあるんじゃないかな、そう思うんです」 友達ってそういうものですよね、きっと。 そんな言葉で締めくくられたサラの話に、しばらく考えるような様子をみせていた絃子だったが、 やがて穏やかに微笑んで口を開いた。
「君がそう思っているんなら、絶対に大丈夫だよ」 「……そう、ですか?」 「そうだよ。そもそも君が彼女と知り合ってどれくらいになる? それは最初はいろいろあるかも知れない。 でもね、三年間というのは意外に長いものだよ。思いがけないことだって、変わっていくこと だって 山のようにある」 「……」 「それにね、これでも一応君たちの担任だ。その私から言わせればね、君と塚本さんなら絶対にうまく やっていける。親友――そう呼ばせてもらうよ――っていうのはそういうものだよ」 わずかの迷いも見せずにそう言い切る。自信と確信に満ちたその表情に、ふと思いついた疑問をぶつけて みるサラ。 「刑部先生にもそんな友達、いらっしゃるんですか?」 「ああ。今だって一番の友人だよ、彼女は」 「……なんだかうらやましいです、そういうの」 先生がその方とどんなふうに――続けられたその問に、初めて絃子が複雑そうな表情をつくる。 「まあ、そうだな……いろいろだよ」 「いろいろ……ですか?」 「……昔の話だからね。うん」 知りたいです、と身を乗り出すサラ。好奇心に満ちた、少年のような――『少女のような』ではなく―― 瞳がじっと絃子に向けられる。 「ああ、分かった、分かったから。……そうだな、君の卒業祝い、というのでどうかな。そのときまで覚えて いたなら話してあげるよ」 「今じゃダメなんですか?」 「いろいろと都合がね……」
呟く絃子の脳裏には、該当の友人――笹倉葉子の姿。先のサラの様子から察するに、今話せば根掘り葉掘り 訊かれた挙句に、彼女の方にまで聞き込みに出向きかねない。そうなるとまずいこともあるのだ、彼女の場合。 「分かりました。その代わり絶対ですよ?」 「約束は守るよ」 苦笑混じりの言葉とともに、さて、と立ち上がる絃子。 「私はそろそろ行くよ。君はどうする……なんて訊くまでもないか」 「はい。八雲が起きるまで待ってます」 「それがいい。変に焦らなくても十分だよ」 それじゃあ、という別れの言葉を残して出ていく絃子を見送るサラ。入ってきたときと同様、静かにドアが 閉められて、木製の床を軋ませる足音が徐々に遠ざかっていく。 「親友、か」 どこかくすぐったいような響きを持つその単語を呟く。 「――なれるかな、私も」
未来へと託されたその問を運ぶように、窓から緩やかな春風が流れ込む。 そして同時、ん、と小さな声をあげて身を震わせる八雲。 そんな彼女の覚醒が最後まで完了し、ゆっくりとその瞳が開かれたのを確認してから。 「おはよう、八雲」 そう、サラは微笑んだ。 ◆ さて、取り立てて特別なところのないこの話は、ここで終わる。 三年後、きっちりとその約束を覚えていたサラに促され、何故か当の葉子も交えて昔話をさせられる絃子の 姿もあったりするのだが、それはまた別の話。 ――かくして。 今日も茶道部は平和である――これはただ、それだけの話。
GJ! 上手いなー
リアルタイムで読ませていただきました。 なるほど!八雲とサラ、絃子と葉子・・・ 考えてみたらポジション的に似てますね、気づかなかったです。
よくこの状態を打破してくれた!!
やば・・・名前、消してなかった(汗) えー、以前の駄文を書いた者です。 良くも悪くも感想いただきありがとうございました、 あれは下書き程度で投下したものなのでむしろ叩かれて当たり前な作品です。 その結果、不快な空気を流してしまい申し訳ございませんでした。
やっぱ織田裕二はカッコよすぎだと思うよ
前スレから誘導張れや
>>1 気付かなかったじゃねーか!
>59-64氏 GJ! こういう穏やかな日常の話ってのもいいですね 一巻で絃子先生はもっと生徒への興味を持ったほうがいい、とかコメントがありましたが 近しい生徒には親身になって相談に乗ってくれそうなイメージはありますよね >70 専用ブラウザで見れば一目瞭然なわけだが…サイズの制限だ ついでに言わせて貰うと制限に気が付いていないということは前スレに新スレへの誘導を書こうという意思もないと見て取れる 人に文句を言う前に自分で動こう そうしておけば制限にも気がつけたはずだ
>制限に気が付いていないということは前スレに新スレへの誘導を書こうという意思もないと見て取れる 意味不明。日本語下手杉。
もうくり返せない遠い日が今も悩まし私を… 誰も居ない緑の中に居て 風に揺れる波を見れば ・なたの声 水面を伝い 何度も私に問いかける 「輝かしい日々をなぜ・の時 終らせたのか」と… 私はまた木々に紛れて 言葉を探している 途惑いを気付かずに 想いさえ知らせずにいた 硝子のような湖面に映る私を やさしい雨が醜く歪める かすかに聞こえていた雷鳴がもうそこまで 答えの出せない私はただ怯えてばかり…
>>72 確かに分かりづらいな。俺が書き直してやろう。
てめえ新スレ立てる気もないくせに人が折角立てたら文句かよ。
1さんは前スレが埋まったのに、新スレも立ってない。
しかたないから新しくスレを建てたが誘導しようと思っても、もう前スレは制限OVERして書きコできない。
苦渋の思いだったんだ1さんは。1さん(;´Д`)ハァハァ おっと地がでてしまったな。
それをお前はなんだ。1誘導しろ?(゚Д゚)ハァ?誘導したくてもできなかったんだよ。
もう書き込みできないの。分かる?容量OVER。お腹いっぱいってこと。
君はここまできて文句いうのはいいけど自分が新スレ見つけたら文句いうだけで終わり?
前スレに君の言う 誘 導 を君がしにいけば書き込みできなかったってのがわかるでしょ?
それが分かってないってことは君、人には誘導しろって言っといて自分はする気ないでしょ?
糞ですね( ´∀`)アハハ。自分に甘く他人に厳しく。糞です糞( ´∀`)アハハ
前スレの最後の書き込みが04/12/05 18:10 ID:cWK007Rg
このスレが立ったのが04/12/05 22:49 ID:4FPONf1g
これを見るだけでも前スレに書き込みできなかったんだなって分かるでしょ?
君馬鹿?三年ROMってろ( ´∀`)ギャハハ
ってことじゃないか?
>74 言いたいことは概ねあってるけど…折角良くなってきたスレの雰囲気が荒れるからやめようぜ >72 自分以外の人間は全てダメな奴などと思わずにもう少し言葉だとか行動だとかの裏について考えれ 一から十まで懇切丁寧に解説してもらわないとなにもできないようだと苦労するぞ ところで、年末は忙しすぎて睡眠時間が足りなくて困る よって、睡眠不足をネタにした話をキボン!
76 :
決着 :04/12/09 10:21 ID:zSWji2G.
サバゲーに決着がついた。 メガネがうるさく言ってくるのを無視して、教室に戻る。 鞄を持って帰ろうとしたら、呼び止められた。 「ちょっと播磨君。待ってくれる?」 声の主は、天満ちゃんの友達…たしか高野だった。 「ん? なんだ?」 「大した手間はとらせないわ。ちょっと屋上に付き合って欲しいの。そうしたらコレを…」 そう言って取り出したのは、天満ちゃんの写真だった。 「夏休みに海に行った時の秘蔵写真よ。どう?」 俺はすぐに行動に移した。 「じゃ、行くか」と。 屋上に着いて、高野が説明を始めた。 「サバゲーを私が記録映画で文化祭に出品するのは知っているわね? それで播磨君のシーンを取り直したいの。ちょっとうつ伏せになってくれる?」 (そういえば、最後はうつ伏せだったっけ)と思いながら、うつ伏せになる。 「そう、そんな感じ。それでさっきのセリフを行って欲しいの」 「ワリイ、何て言ったか覚えてねえんだ」 「大丈夫。私が教えるから」 棒読みになったりして、何回かのやり直しの後、OKが出た。 「うん、コレで上手くいくわ。ありがとう、播磨君。じゃ、コレ写真ね」 「おう、どうってコトねえよ。写真、ありがとな」 帰り道、写真を見ていて、ふと思い出した。
77 :
決着 :04/12/09 10:21 ID:zSWji2G.
(そういや俺、あんな事言ったっけ? ま、いいか) そして文化祭になった。 高野の記録映画を見た連中から、俺は評判が良くなった。 「播磨さんって、本当は凄くいい人だったんですね。感激しました!」 などと下級生が言ってきた。 反対に、メガネのヤツは評判が悪くなった。 「花井さんて、二股かけてるんですね! 最低!」 「あんなヤツだったとはな…向こうだって迷惑だろうに…」 などど言われていた。 (俺、何かやったっけ?)そう思いながら、記録映画を見に行った。
78 :
決着 :04/12/09 10:22 ID:zSWji2G.
記録映画の会場は、丁度入れ替え時だった。 空いている席につき、映画を見始める。 向こうがわの作戦、お嬢もどきの出現、バンド組の参戦… 俺の知らない様子だった。 そして、メガネとの一騎打ちで、俺が負けた… そういえば、ココを撮り直したんだっけ。 俺がうつ伏せになって、メガネとやり取りする所を。 「……フ お前が本気で周防に惚れてるとわかったからさ……」 (そうそう、何回かやり直したんだよな、このセリフ) そして、回想シーンになった。 俺が、周防を撃った所。 メガネが「美コちゃーーーーーーん!!」と叫んでいた。 これを見て、周りの生徒がささやき始める。 (あれ? 花井って一年の塚本が好きだったんじゃねえの?) (だよね、『八雲くーん』とか言ってるよね) (いや、本当は周防が好きなんじゃねえの? 播磨君もそれを感じて…) (播磨君、いい人じゃん。でも花井は…本命は周防で、次に塚本か? 許せねえ!) 何か妙な雰囲気になっていった。
79 :
決着 :04/12/09 10:23 ID:zSWji2G.
そして、映画が終わった。 教室に戻ると、メガネが2−Cの皆に囲まれていた。 「どういう事だ、花井。ハッキリしてもらおうか?」 「周防さんと塚本さん、どっちがいいの?」 メガネは必死に弁解していた。 「ぼ、僕が好きなのは、八雲君だけだ!」 それを聞いて、更に詰め寄られる。 「じゃあ、『美コちゃーーん』ってのはなんなんだ?」 「周防さんは、遊びなのね? 最低!」 遂には、天満ちゃんが言った。 「八雲は播磨君と付き合ってるの! 二人の邪魔をしないで!」 「そ、そんな……」 がっくりとうなだれるメガネ。 何故か、そんなメガネを嬉しそうに見る高野だった… おわり
80 :
決着 :04/12/09 10:25 ID:zSWji2G.
サバゲ決着後のエピソードです。
>>80 乙。ただ個人的には八雲orサラも登場させたほうが良かったかもと思う
82 :
スクランの城 塚本八雲の章 :04/12/09 15:26 ID:TAQKVZFQ
スクランの城 塚本八雲の章 STAGE1 開始 八雲:ねぇ、伊織・・・・・・私、播磨さんと付き合ってるって・・・・・・。 八雲:でも、それはみんなの勘違い・・・・・・。 八雲:播磨さんは、私のことなんてなんとも思ってないもの・・・・・・。 八雲:播磨さんの心は視えないから・・・・・・。 STAGE1 ボス戦前 笹倉:表情がカタいわね。 笹倉:いえ、それだけじゃない、とても悲しい目をしているわ。 笹倉:最近の塚本さんは、とてもいい表情をしていたのだけれど、どうしたの? 八雲:(この能力がなければ、どれだけ幸せだったのかなぁ) 八雲:(この能力がなければ・・・・・・こんなに胸が痛まなかった・・・・・・) STAGE1 ボス戦後 笹倉:・・・・・・恋をしてるのね。 笹倉:でも・・・・・・辛い恋をしてるのね・・・・・・。 八雲:・・・・・・。 笹倉:ねぇ、塚本さん。 笹倉:あなたは、それでもその人の・・・・・・。
83 :
スクランの城 塚本八雲の章 :04/12/09 15:27 ID:TAQKVZFQ
STAGE2 開始 八雲:・・・・・・。 八雲:それでも・・・・・・播磨さんの・・・側に・・・居たい・・・です・・・・・・。 STAGE2 ボス戦前 美琴:よう、塚本の妹。 美琴:? 元気ないみたいだけど、どうした? 八雲:・・・・・・。 美琴:言いたくないか・・・・・・。 美琴:まあ、無理に聞きはしないけどさ、そんな顔してると、塚本の奴が心配するぞ。 八雲:(ビク!) 美琴:ど、どうした? 八雲:(姉さん・・・・・・) STAGE2 ボス戦後 美琴:も、もしかして、塚本の奴とケンカしてるのか? 八雲:(ふるふる)ちがい・・・ます・・・。 八雲:ケンカしてるんじゃ・・・ありません・・・・・・ケンカをしてるんじゃあ・・・・・・。
84 :
スクランの城 塚本八雲の章 :04/12/09 15:29 ID:TAQKVZFQ
STAGE3 開始 八雲:播磨さんは・・・・・・姉さんのことが・・・・・・好き・・・・・・。 八雲:播磨さんは・・・・・・姉さんを想って、漫画を描いてる・・・・・・。 八雲:私は・・・・・・播磨さんを手伝う・・・・・・。 八雲:それでいい・・・・・・。 八雲:それで、播磨さんが喜んでくれて、側に居られるのなら、それで・・・・・・。 STAGE3 ボス戦前 サラ:・・・・・・先輩。 晶:ええ・・・・・・悲しそうね、八雲。 晶:恋に悩む女の顔。 晶:辛そうね・・・・・・。 八雲:・・・・・・いいんです。 八雲:播磨さんの側に居られるなら、それで・・・・・・。 八雲:それで、私は・・・幸せ・・・だから・・・・・・。 サラ:八雲・・・・・・。 晶:あなたの決めたことなら、何も言わないわ。 でも・・・・・・。 STAGE3 ボス戦後 晶:でもね、何でもやっておいた方がいいよ。 晶:臆病な恋は後悔を招くだけだもの・・・・・・。 サラ:私もそう思うよ。後悔しないように、やれることは何でもやっておいた方がいいと思うから。 八雲:・・・・・・ありがとう。
85 :
スクランの城 塚本八雲の章 :04/12/09 15:30 ID:TAQKVZFQ
STAGE4 開始 八雲:・・・・・・播磨さんは、今どうしてるかな。 八雲:やっぱり、姉さんのことを想って・・・・・・。 八雲:ダメ・・・・・・余計なことを考えちゃ・・・・・・。 八雲:・・・・・・。 八雲:・・・・・・播磨さん・・・・・・。 STAGE4 ボス戦前 姉ヶ崎:悲しい目・・・・・・悲しい目を・・・・・・してるね。 姉ヶ崎:かつての私みたいに・・・・・・。 姉ヶ崎:ふられたのかな? 姉ヶ崎:それとも・・・・・・。 八雲:ふられるとか、そういう以前に、あの人は私のことをなんとも思っていません・・・・・・。 八雲:(播磨さんにとって、私は姉さんの妹というだけの存在なのだから・・・・・・) 姉ヶ崎:はっきりとそう言われたの? 姉ヶ崎:そうじゃないなら、聞いてみないと判らないでしょ? STAGE4 ボス戦後 八雲:言っても・・・ダメ・・・ですよ。 八雲:あの人は、私を一人の女の子として見ていませんから・・・・・・。 姉ヶ崎:そう思っているのは・・・あなた自身・・・・・・。 姉ヶ崎:あなたの想いは、あなたが口にしないと相手には伝わらないのだから・・・・・・。 姉ヶ崎:今は見てくれなくても、伝えることで見てもらえるようになれるかもしれないのだから。
86 :
スクランの城 塚本八雲の章 :04/12/09 15:31 ID:TAQKVZFQ
STAGE5 開始 八雲:・・・・・・。 八雲:いつか・・・・・・播磨さんは、私を塚本八雲として、見て・・・くれるかな・・・・・・。 STAGE5 ボス戦前 幽子:久しぶりね、八雲。 八雲:!? あなたは・・・・・・。 幽子:驚いてるみたいね。 幽子:まあ、あなた以上に私の方も驚いているのだけれどね。 八雲:えっ? 幽子:ねぇ、八雲。 幽子:どうしてあなたは、心の視えないあの男、『播磨拳児』のことを想うの? 幽子:あなたの能力で、『視えない』ということが、どういうことか判っているのにもかかわらず。 八雲:それは・・・・・・。 八雲:想うことは、自由だから・・・・・・。 八雲:たとえ、その想いがかなわなくても・・・・・・。 STAGE5 ボス戦後 幽子:強いわね・・・・・・恋する乙女は。 八雲:・・・好き・・・だから・・・。 八雲:播磨さんのことが・・・・・・。 八雲:心が視えなくても。 八雲:だって、それが当たり前のことなのだから・・・・・・。 八雲:だから・・・・・・。 幽子:そう・・・・・・。 幽子:八雲の答え、聞かせてもらったわ。 幽子:ありがとう・・・・・・。 幽子:あなたが幸せになれるように、私も願っているわ。 八雲:私こそ・・・・・・ありがとう。
87 :
スクランの城 塚本八雲の章 :04/12/09 15:32 ID:TAQKVZFQ
エンディング ♯:矢神高校中庭―― 八雲:んん・・・・・・。 ♯:右の頬にぬくもりを感じる・・・・・・心地よいぬくもりを。 ♯:まだ完全ではない意識の中、視線を上げると、そこには播磨の顔が。 八雲:!? 播磨:よく眠ってるな、妹さん。 八雲:(・・・・・・) ♯:播磨は八雲が目覚めていることに気付いていなかった。 播磨:側に居た方がいいよな。 播磨:妹さんかわいいから、変な奴が寄って来ないように見張っておかないと。 八雲:(!!) 播磨:でも、ほんとにかわいい寝顔だな・・・・・・。 ♯:播磨は頬を少し赤くしながら、そっと八雲の髪を撫でた。 播磨:・・・・・・。 八雲:・・・・・・。 播磨:やべえ、妹さんに惚れそうだ・・・・・・。 八雲:(!!!) ♯:八雲はそのまましばらく寝た振りをしていた。
88 :
風が呼ぶ男 :04/12/09 15:41 ID:TAQKVZFQ
えっと、スクランRPGをやったあとに思いついたので書いてみました。 当初は格ゲーのストーリーモード風にしようかと思ったんですけど、式神の城でやらせてもらいました。 個人的には、個人ストーリーのほかに、2P協力プレイ編で八雲・サラとか、八雲・愛理とかもやりたいと思ってるんですけど。 また書けたら書きます。 とはいえ、結構だめだめかも。 ちなみに、八雲の章はこれで終わりではないです。 八雲・恋する乙女編を考えています。 ボスは今回出なかった、『恋敵たち』です。
ゴメン、意味わかんない
名前はこんなにいるのか……? まぁRPGだからかもしれんけどちょっとね…
EVAみたいにも感じた 違いますね。すいません
>>88 乙です。
すぐには式神の城のパロだと分かりませんでした。
ゲームをやってないと何をしているのかさっぱり分からないので
多少なりの状況説明をしていただけた方がよかったと思います。
発想は面白いので続き期待しています。
>>88 gGJ楽しめた
SSを楽しむコツは作者の意図を素直に受け取ることだ
俺は『ボス戦前』『ボス戦後』という単語が出てきた瞬間頭をゲームモードに切り替えて楽しんだぞ
いや、こういう方式に慣れてない人間にいきなり切り替えろ、楽しめというのは無茶だろ。 どういう風に切り替えればいいか自体がわからんのだから。 個人的にはふつーに楽しめたけし、たまにはこういうのもいいと思うが。
俺は「〜の城」でピンときて、 短い会話の連続から式神だとわかったよ
シラネ
――時は流れて季節は移ろう。 言うまでもなく誰もが知っていることで、そしてその中で様々な物事も変化していく。 絶対は存在しない。 突き詰めれば矛盾したことだが、少なくとも真理の一面ではある。 万物流転、なるほど然り。 すべては泡沫の夢のように儚く消えて、また生まれ出る。そうやって続いていく。 ――さて。 それでは始めよう。 夏の終わりの、ささやかに、けれど確かになにかが変わった、そんな話を。 ◆ 地平に向かって傾いた太陽が、緩やかな黄昏の光を放っている。その光に照らされながら家路についている 二人の少女――塚本八雲とサラ・アディエマス。彼女たちにとって、今日は夏の終わりだった。 動物たちに始まり動物たちに終わる――二人から見ればそんな夏だった。 茶道部の顧問でありクラスの担任でもある刑部絃子、彼女の頼みで短い期間とはいえ世話をすることになった 動物たち。彼らとの出会いこそが夏の始まりだった。 おっかなびっくりながらも、基本的に大人しく人懐っこい彼らと過ごした日々。いつしかそれが日常へと変わり、 さながら終わらない夏休みのようにいつまでも続くような気がした毎日。そんな毎日も、二学期の始まりという 現実の前に幕を下ろした――かのように見えた。 ――けれど、物語には第二幕が準備されていた。 即ち、彼らの主人たる播磨拳児の我儘とさえ呼べる主張がもたらした、小さな戦い。ほんの数時間にすぎなかった それは、しかし確かにその日起こり、そして終わった。関わったそれぞれに、それぞれの想いを抱かせて。 これは、そんな帰り道。
「それにしてもホントにすごかったよね」 「……うん」 最善とは呼べないかもしれない、それでも最悪では決してなかったその決着に、満足げな様子のサラ。肩の荷が 下りた、といった彼女に対し、八雲はなにかを考え込んでいるような様子をみせている。 常からあまり表情を大きく動かすタイプではない彼女だが、それにしたところで今はお世辞にも喜んでいるとは 言い難い雰囲気。サラへと返す返事もどこか生返事、心ここにあらず、といった様子である。 「私なんか、どうなっちゃうんだろうってずっとドキドキだったよ」 「……うん」 八雲の脳裏にあるのは、ただ一つの光景。 拳児に寄り添う動物たち、そして別れを惜しむように彼らを抱きしめ、人目もはばからず涙を流す彼の姿。 その光景が、不思議と焼き付いて彼女の頭から離れなかった。 「八雲はどうだった……って、八雲?」 「……うん」 「やーくーもー」 「……え? あ、ごめんサラ」 ここにいたってようやくサラの声に気がついた、という様子の八雲に、いいよ、と笑ってみせるサラ。ほんの 少しずれたところのある友人と付き合うにあたって、この程度のことは問題になりはしない。むしろ、そうやって なにか一つのことに集中出来るのは、うらやましいとさえ思っていたりもする。 「ちょっと気になることがあって……」 「気になること、か。それってさ」 動物たちのこと? ――そう尋ねてから。 ほんの少しだけ考えて、続く言葉を口にする。 「――それとも播磨先輩のこと?」
特に根拠があったわけではない。二人が知り合いである、ということは八雲からキャンプの話を聞いて知って いる。サラからしてみれば、手元にあった情報はただそれだけ。 それでも、彼女のささやかな直感、そして持ち前の好奇心がその問を紡がせていた。 そして。 「え、と…………両方、かな」 それが八雲の返事。 どちらかだけ、ということはない。その光景の中で、彼女にとって両者は絶対不可分の存在だった。 「――そっか」 「サラはどう思う?」 「どっちも大丈夫だよ、きっと」 これもまた根拠はない。それでも、ごく短時間ながら接した拳児の人となりから、なんとはなしにそんな空気 を感じ取っていたサラは、当然のようにそう言ってから、空に向かって歌うように呟く。 「それにしても、両方、か」 「サラ……?」 「なんでもないよ。気にしない気にしない」 「……?」 きょとんとした様子の八雲に笑いかけ、それじゃいこっか、といつのまにか止まっていた足を再び前に踏み出す。 うん、と頷いて自分も歩き出す八雲。 そんな二人のあとを、夕陽に照らされた二つの影法師がのんびりと追っていた。
――さて、一方。 こちらはまだ神社に残っている絃子と晶。少し離れたところでは、未だに動物たちに囲まれている拳児の姿がある。 「ご苦労様でした、刑部先生」 「いや、君たちにも手間をかけた」 そこで一つ溜息をついてから、そもそも身内の問題だしな、そんなぼやきをもらす絃子。 「なにかおっしゃいましたか?」 「うん? なんでもないよ、なんでも。うん。それよりなにか訊きたいことがあると――」 「はい、一点だけ」 あからさまになにかを誤魔化している、そんな態度の彼女にあえてすぐには踏み込まず、元々想定していたステップ 通りに駒を進める晶。 「――先生と播磨君の関係についてなんですが」 「赤の他人だ」 一拍の一瞬の刹那の間もなく、即座に否定の解答がやってきた。むしろ、それ故になにより雄弁な『肯定の解答』で あるところのそんな返事にも、なに喰わぬ顔で、そうですか、と答える晶。この場においては彼女の方が一枚上らしい。 「……それにしても」 しばらくして、満足のいく解答を得た晶が再び口を開く。視線の先には未だに泣きじゃくる拳児の姿。 「ああ、彼か。学校でもあれくらいかわいげがあれば、ね」 「まったくです」 そんなことを言われているとは露知らず、一頭一頭と別れの挨拶を交わす拳児。生涯忘れえぬ記憶が――少なくとも 彼の方には――刻み込まれ。 ――そうやって、彼ら彼女らの夏は終わりを告げた。
――翌日。 「なにをしているのかしら、播磨君」 「ん? お、おう。あー……」 どうやら自分の名前が思い出せないでいるらしい拳児に、高野よ、と晶。それで、なにをしているのかしら、そう もう一度問を重ねる。 「用があるなら入って構わないのだけど?」 「いや、なんつーかな、こういうのって部外者がずかずか入ってっていいもんなのか?」 昨日は無理矢理連れてこられたみてぇなもんだし、と気恥ずかしそうに頭をかく。妙なところで律儀な彼のそんな 様子に、珍しく小さな笑みをみせる晶。 「別に構わないわ、君はある意味もう部員みたいなものだし」 「そうなのか……? まあ、コレ持ってきただけなんだけどよ。昨日は世話になったからな」 その手に提げられているのは、近隣でもそれなりに有名な店の菓子折。不良と逸品、というあまりお目にかからない 組み合わせに晶がわずかに首を傾げると、コイツか?、と拳児がその菓子折を指し示す。 「イトコにせっつかれたんだよ。なにか持ってくんならコレにしろってな」 「――イトコ」 「っ! 従姉弟、従姉弟な。うん、従姉弟だ」 「なにを焦っているの? 別に私はなにも言っていないのだけれど」 「いやそれはだな……まあいい、気にすんな。んじゃ確かに渡したからな」 そう言って即座に退散しようとするその手をつかむ晶。構わず走り去ろうとする拳児だったが、思いの外強い力に がっちりとつなぎ止められ願いは叶わない。
「せっかくなんだから寄っていくといいわ。積もる話もあるだろうし」 「は? んなもん別に……っておい、ちょっと待て!」 抗議も虚しく、そのまま部室へと引きずり込まれる拳児。 あれ、先輩――そんなサラの声と。 播磨さん? ――そんな八雲の声と。 その二つに迎えられた彼の背後で、無慈悲にドアを閉じられて。 ――かくして、茶道部に特別男子部員が一人、誕生したのだった。 ◆ かくして、男子禁制――そんなまことしやかに囁かれていた神話はものの見事に打ち砕かれ、茶道部には再び命 知らずのチャレンジャーが大挙して訪れることになった……のだが、その末路は言うまでもない。 こうやって、変わらないと誰もが思っていたことさえも、ゆっくりと変わっていく。 そして、それは物事だけに限らず、人の心にしても同様である。 心という名の湖面に起きた小さなさざ波は、やがて大きな波となって周囲に伝播していくこととなるのだが、それ はまた別の話。 ――ともあれ。 こうして、ささやかな幾つかの出来事が起きたその夏は、最後の幕を静かに下ろした。
>>97-102 氏
乙です。文章がスッキリしてて読みやすかったです。
全体的にほのぼのとしていてとてもよかったですよ。GJ!!
バタン!! 「………」 「あ。…お、おかえり八雲…」 今でテレビを見ていた天満が、帰ってきた八雲に言葉をかける。しかし… 「ああ!? テメー、馴れ馴れしく呼び捨てにしてんじゃねーよ! このクソアマが!!」 それを聞くなり、八雲は座っていた姉の背中に容赦ない蹴りを入れた。 「おい、ブタメス。少しは自分の立場ってモンをわきまえろってんだよ!!」 畳にツバをはき捨てる。 「ご、ごめんね…お姉ちゃんこれからは気をつけるから…」 謝罪する天満。その表情にはありありと恐怖の色が見て取れる。だが、その態度も八雲の気にさわったようだ。 「その姉貴面した態度もムカツクんだよ! クソアマ!! ああん!?」 今度は天満の長い髪を掴み引っ張り上げる。室内に悲痛な悲鳴が響きわたった。 「痛い! 痛いよ八雲!! お願いだから、もうやめて…!!」 「…チッ!!」 舌打ちして乱暴に髪から手を離し、テーブルの上にあった。湯飲みを壁に投げつける。甲高い音とともに割れ、破片が床に散らばる。 「ところでよぉ、今からちょっと遊び行くから金よこせや」 「え? こんな遅くにどこへ…?」 「うるせーよ! どこだっていいだろーが!! いいから、さっさと金出しやがれ!」 「八雲…」 「呼び捨てにすんなっつってんだろーが!! ブスが!!」 泣く泣く残り少ない生活費の入った封筒を差し出す。それを奪うようにひったくると、八雲は中身を確認する。 「…あんだよ、シケてんなぁ…! こんだけしかねーのかよ。チッ、まあいいや…これでしばらくは遊べるしな!」 満足したように部屋から出て行く八雲を、天満は悲しげな表情で見送ったが、不意に何かを思い出したかのように振り返る八雲。 「ああ、そうだ。アタシが次に帰ってくるまでに、なんとかして金作っとけよな。どんな方法でもいいからさぁ…アハハハハハハ!!」 言い終えると、満足したかのように高笑いして、家から出て行った。 ドアの閉まる音を、天満は暗澹たる思いで聞いたのだった… ―FIN―
前スレが埋め立てられて、前々スレにその事が書き込まれるまで 移行に気付かなかったのは俺だけでいい…。
>>105 俺はそこまで馬鹿じゃなくてよかった
もしそうだったらIP曝して切腹モンですよ?
だから今度からは気を付けような
よし、綺麗にまとまったな
>>105 気にすんな!!
立ち止まるな!!
前だけを見て歩くんだ!!なんてね〜(^^)
あぼーん
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えらいことになってるな(;´Д`)
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あぼーん
もうダメかな。このスレ…
あぼーん
どこかこのスレを引き受けてくれそうな板はないものだろうかね
「よう、お疲れさん」 「イトコ……? なんでお前がいるんだよ」 「なんだとはまたひどいな。現場監督だよ、学校全部を使ったゲームなんて無許可で出来るわけがないだろう」 「あー、そりゃそうか」 「まったく、これでもいろいろと骨を折ったんだ。少しは感謝してくれ」 「あん? 俺が頼んだわけじゃねぇだろ」 「ほう……なんでも君と花井君がずいぶん乗り気だったと聞いているが」 「ぐ……そりゃあれだ、その、話の流れってやつだ。別に最初っからだな……」 「はいはい、分かったよ。じゃあそういうことにしておくか」 「ほんとに分かってんのか……?」 「君も細かいな。まあいい、それにしてもなかなかがんばっていたようじゃないか。 少々えげつないところもあったようだけど」 「……普段のイトコに比べりゃあんな程度――いやなんでもないからそれをしまって下さいお願いします絃子さん」 「そうか? 至近距離からこれを喰らうとなかなか面白そうなんだが」 「どこがだよっ!」 「冗談だ。ま、それもこれも、最後に君らしくもなく恰好をつけたのに免じて許してやることにしよう」 「……別にイトコに許してもらわなくて――いやだからそれしまってお願い」 「まったく……さて、それじゃ帰るか。夕飯は頼むよ」 「なに? 今日は週一でイトコが作る番じゃねぇか。断る」 「私だって一仕事して疲れたんだよ。いいだろう、それくらい」 「よくねぇ! っつーか俺だって疲れてんだよ」 「……分かったよ、それじゃ外食だ。どうせ持ち合わせもないんだろう? たまには 奢って――なんだその目は」 「……いや、イトコがメシ奢ってくれるなんてなんか企んで――いてぇっ!」 「拳児君。人の誠意を疑うような人間はどうかと思うよ?」 「だからって普通問答無用で殴るか!?」 「ほう、それではやはりこちらの方がよかったと」 「だからそれはしまえっつってんだろ! だから向けるな! こっち向けんじゃねぇ!」 「――フン。まあいい、行くぞ」 「お、おう」 適当におわる。
あぼーん
>>144 久々にキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!
GJ!
俺的には
>>104 が激しくいいと思うゼ!!
どーよ?
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天満発狂は元ネタ何? 太宰芥川とか?読んだことないからわからんけど
すごい電波キター
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あぼーん
あぼーん
あぼーん
金のAAうざいな・・・
改行って30回くらいまでならOK?
>>179 改行は32回。文字数は2048字が限度。
あぼーん
もうここもお終いだな
ああ、お終いだよ…荒れ杉
スクランの投稿SS掲示板+リンク集サイトが最近出来たので、荒らしのせいでここに書き込み たくないという作家さんは、良かったらそちらに投稿していただけると読者としては嬉しいです。
俺とスクランは10ヶ月ぐらい前からあったと思うが
>>185 いえ、違います。『S5』ってサイトです。
荒らしがはびこるスレにアドレスを貼るのはどうかなって思ったので
貼ってはいませんが、クズリさんのサイトなどのTOPに宣伝がありますので、
そこから行って見てください。
あぼーん
ところで誰か荒らし報告とかしてるの? 俺は面倒くさいから、たいていNG登録してスルーしているんだが。
目をそむけるなよ ,,,,,....、、、 ./;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;\ /;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;\ レvi'Vぅ、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;\ / \;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;\ \_ \;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;\ ,| >、;;;i、;;;;;;;\ ̄ / i__/ ゛y^\| ̄ ,L i |:::::/ _/:::::::`i. ,i:::\ |::/_/:::::::::/::::| |::〈::::::只:::::::::::V:::::::::::::|
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「どういうことなのかな、高野君」 「どう、とは? 2-Cの出展が喫茶店に決まったあかつきには、茶道部が全面的に協力する、というのはお話してあったと思いますが」 「ああ、そうだね、それは確かに聞いた。おまけにそれがメイド喫茶だとかいう話も確かに聞いた気がする」 「ではなにか問題が?」 「じゃあこれはなんだろう」 「ネームプレートと制服ですね」 「……それは見れば分かる。でもね、私の見間違えじゃないなら」 「ええ、書いてありますよ。『刑部』と」 「これを私も着るのか!? さすがにそれは聞いていないぞ?」 「言ってませんでしたから」 「なっ――」 「ですが、先生もあのゲームに参加したことですし」 「ちょっと待て! だいたいなんだその理屈、それでいくならあの妙な……」 「――もう一度アレを御覧になりたい、と?」 「……いや、それは遠慮して――じゃなくてだな」 「サラも喜んで着てくれてますし」 「彼女はあれだ、ほら、ちょっと変わったところが」 「あとで本人に言っておきます」 「あー、それはやめておいてもらえるとありがたいんだが」 「そうですか」 「ともかくだな……そうだ、塚本君はどうなんだ。さすがに」 「八雲も了承してくれましたよ」 「……」 「先生がいて下さると集客率もアップするんですが」 「私は客寄せパンダか!」 「いえそんなことは。しかし、どうしても引き受けてもらえないとなると、代役が必要ですね……笹倉先生辺りどうでしょう」 「笹倉先生? 確かに彼女なら喜々として着そうだが……待てよ、着たら着たで私に見せびらかしにくるんじゃ」 「一緒に着ましょう、くらいは言ってくれるかも知れませんね。なるほど、そういう搦め手もある、と」 「なるほどじゃない! あ、こらちょっと待つんだ! 高野君!」 結局、当日はむすっとしたメイドさんと妙に楽しげなメイドさんがいたとかいなかったとか。
そして、ナンパ目的でやってきた客を強制的に帰らせるために黒服の播磨が雇われる、と… まるっきり美人局だ!
あぼーん
でかいサングラス掛けたメイドさんは教室の隅で羞恥震えつつ小さくなってます。
あぼーん
あぼーん
あぼーん
あぼーん
あぼーん
ワロタw
207 :
sage :04/12/12 04:22 ID:jtgeMu42
とりあえずこれだけ 159ありがとう!
>208 おまえが荒らしだろ
本当にもうダメだなここは… だれもまともにSS投下しないし
なんだか禿げしく荒れてるな… 楽しめない
主人公2人の誕生日には多くのSSが投下されるだろうと思っていたが… 思っていたほどの量ではなかったな。 荒らしの目論見は見事成功したわけだ
むしろ端役の方が書きたくなる
投稿SS掲示板荒らしてる人は、もうIP抜かれてて、これ以上やったらプロバイダに通報する って警告出てるの知ってやり続けてるのか? 個人のHPだから2chと違ってそういうの早いよ。
個人のホームページを荒らすのはここを荒らすのとはわけが違う。 無論ここを荒らすのも筋違いだが。
こういう香具師って、あっちこっちのマン喫から書いているのか。
そらそだろ
>>205 バーカ!!
てめぇ、S5投稿版で投稿したのはいいが削除されてやがんの!
調子に乗ってっからそうなるんだ、バーカ!!!
消えろ糞野郎! トンマ、カス、ボケ、チビ、ハゲ、デブオタ、真性包茎!!!
>>219 確かにいい気味だがあまりあおるのもよくないと思うぞ〜
本当にこのスレっておもしろいですね
222 :
sage :04/12/13 00:35 ID:DWmqh5eA
「カヴァオとカレーパソマソ 2 」は普通にワロタwんだが
>>221 ぜんぜんおもしろくねーっつうの!!
昔はよかったな……普通にSSが読めて…
ラウンジから移動か
あぼーん
非難非難。。。
227 :
風が呼ぶ男 :04/12/13 12:37 ID:QIuPfp0w
どうも、風が呼ぶ男です。 『スクランの城』の新しいSSができたので投稿します。 今回は、塚本八雲・沢近愛理編です。 尚、この作品(スクランの城)は、STG『式神の城』(特に式神の城2)をプレイしているとより楽しめると思います。 興味のある人はやって見てください。
228 :
スクランの城 八雲・愛理編 :04/12/13 12:39 ID:QIuPfp0w
スクランの城 塚本八雲・沢近愛理編 STORY 偶然にも同じ日に、播磨にお弁当を作ってきた八雲と愛理は、昼休みに播磨にお弁当を渡そうと偶然にも鉢合わせてしまう。 が、しかし、肝心の播磨の姿がどこにもないことに気付き、とりあえず二人は、一緒に播磨を探しに校内を回るのだが、事態は思わぬ方向へと進んでいくのだった。
229 :
スクランの城 八雲・愛理編 :04/12/13 12:40 ID:QIuPfp0w
STAGE1 開始 八雲:播磨さん、どこに行ったんでしょう? 携帯忘れちゃったからメールも出来ないし・・・・・・。 愛理:まったく、あのヒゲどこに行ったのよ! ムカツクわねぇ! 折角、このわたしがお弁当作って上げたってのに! 八雲:あの…怒るのは筋違いなんじゃあ…。沢近先輩は別に播磨さんと約束していたわけじゃないんですし……。 愛理:……八雲、あなたもいうようになったわね。 八雲:そ、そんなこと……。 愛理:まあいいわ。今はとにかく、あのヒゲを捜すわよ。 八雲:は、はい。
230 :
スクランの城 八雲・愛理編 :04/12/13 12:40 ID:QIuPfp0w
STAGE1 ボス戦前 ♯:屋上 愛理:いないわね……。 八雲:そう…ですね……。 花井:八雲くーん! 八雲:教室に居ないのなら、屋上だと思ったんですけど……(花井に気付いてない)。 愛理:そうね、あなたはいつもここで、『二人きり』で過ごしてるものね。(花井に気付いてない) 花井:や、八雲君? 八雲:そ、そんな……確かに本当のことですけど……。(花井に気付いてない) 愛理:(ピキピキ!)ちょっと、あんた性格変わってない?(花井に気付いてない) 八雲:そんなことないです。(花井に気付いてない) 花井:おーい! 愛理:ああーもー、うるさいわねぇ! こっちは今取り込んでるの! 話し掛けないで! 邪魔よ!!(花井に気付いた)
231 :
スクランの城 八雲・愛理編 :04/12/13 12:40 ID:QIuPfp0w
STAGE1 ボス戦後 花井:な…なんで僕がこんな目に……。 愛理:ヒゲが居ないならここに用はないわ。さっさと次に行くわよ! 八雲:は、はい! ♯:倒れている花井には目もくれず、屋上を去る二人。花井、かなりかわいそう。
232 :
スクランの城 八雲・愛理編 :04/12/13 12:41 ID:QIuPfp0w
STAGE2 開始 愛理:屋上に居ないとなると、次は……保健室かしら? 八雲:保健室…姉ヶ崎先生……のところですか? 愛理:……。 八雲:……。 愛理:急ぎましょう! 八雲:はい!
233 :
スクランの城 八雲・愛理編 :04/12/13 12:43 ID:QIuPfp0w
STAGE2 ボス戦前 八雲&愛理:失礼します! 姉ヶ崎:あら、こんにちは。えっと、たしかハリオの彼女の塚本さんと、クラスメイトの愛人さんだったかしら? 八雲:……はい。(ポッ) 愛理:激しく違うわ! あんたも肯定しない! 八雲:(播磨さんの彼女…播磨さんの彼女…播磨さんの彼女…播磨さんの彼女…播磨さんの彼女…播磨さんの彼女…) 愛理:ちょっと、聞いてるの! 姉ヶ崎:えーっと、一応ここは保健室なんだから、静かにしてもらえないかしら? 愛理:先生が変なこというからでしょうが!
あぼーん
235 :
スクランの城 八雲・愛理編 :04/12/13 12:51 ID:QIuPfp0w
STAGE2 ボス戦後 姉ヶ崎:それで、保健室に何のようだったのかしら? 八雲:あの…播磨さんはここに来てませんか? 姉ヶ崎:ハリオ? 今日は来てないわよ。 愛理:そうですか、じゃあここには用はありませんので、失礼します。お騒がせして申し訳ありませんでした。 八雲:どうも、お騒がせしました……。 姉ヶ崎:……なんか、私の扱いひどくない?
236 :
スクランの城 八雲・愛理編 :04/12/13 12:51 ID:QIuPfp0w
STAGE3 開始 愛理:あとヒゲが行きそうなところは……。 八雲:……水飲み場ですか? 愛理:ああ、そうね。昼御飯の無いあいつの行きそうなところっていったら、もうそこしかないわね。 八雲:あの……沢近先輩、一つ聞きたいんですけど……。 愛理:なに? 八雲:どうして、播磨さんにお弁当作って来たんですか? 愛理:……。 八雲:……。 愛理:…別に、深い意味は無いわ…。今までのいろんなことについてのお詫びよ……。
237 :
スクランの城 八雲・愛理編 :04/12/13 12:52 ID:QIuPfp0w
STAGE3 ボス戦前 晶:あら、八雲に愛理。 八雲:あ、部長。 愛理:晶。ヒゲがどこに居るか知らない? 晶:知ってるわよ。 八雲&愛理:どこ(ですか)!? 晶:教えてあげてもいいけど、少し私の手伝いをしてもらえないかしら? 大丈夫、時間は取らせないし、すぐ終わるから。 八雲:私は構いませんけど……。 愛理:私もいいわよ。 晶:それじゃあ、いくわよ。
238 :
スクランの城 八雲・愛理編 :04/12/13 12:52 ID:QIuPfp0w
STAGE3 ボス戦後 晶:想像以上のデータが取れたわ、ありがとう。……それで播磨君の居場所だけど……。 八雲&愛理:どこ(ですか)!? 晶:さっき刑部先生と一緒に体育館に行くのを見たわよ。 八雲:体育館ですか? 愛理:そう、ありがとう、晶。
239 :
スクランの城 八雲・愛理編 :04/12/13 12:53 ID:QIuPfp0w
STAGE4 開始 愛理:それにしても……なんで刑部先生と一緒なのかしら? あの二人ってそんなに親しかった? 八雲:(そういえば、沢近先輩は播磨さんと刑部先生が同居してること知らないんだっけ……) 愛理:どうしたの? 八雲:いえ、なんでもないです……。(みんなの知らない播磨さんの秘密を知ってるって、なんかうれしい……でも、ちょっと複雑……)
240 :
スクランの城 八雲・愛理編 :04/12/13 12:53 ID:QIuPfp0w
STAGE4 ボス戦前 笹倉:あら、塚本さんに沢近さん。 愛理:あ、笹倉先生、こんにちは。あの…刑部先生は……? 笹倉:絃子さんなら、ついさっき拳児くんと一緒に学食に行ったわよ。 八雲&愛理:……拳児くん? 笹倉:ああ、播磨君ね、播磨君。つい昔の癖で『拳児くん』って呼んじゃうのよね。 八雲:えっと……笹倉先生と播磨さんは知り合いなんですか? 笹倉:ええ、拳児くんが小さい頃からの知り合いよ。そういえば、あの頃から絃子さんは拳児くんに……。 愛理:刑部先生が播磨君となんですか!? 詳しく教えてください! っていうか、無理やりでも聞き出します!
あぼーん
あぼーん
あぼーん
あぼーん
245 :
スクランの城 八雲・愛理編 :04/12/13 12:57 ID:QIuPfp0w
STAGE4 ボス戦後 笹倉:実は絃子さんが教師になったのは、拳児くんと高校生活を送りたかったからなのよ。(まあ、私が美術教師になったのも同じ理由なんだけど) 愛理:こうしてはいられないわ、早く二人を捜すわよ! 手遅れ(?)になる前に! 八雲:あ、待ってください。 笹倉:拳児くんモテモテね。(私もそろそろ本格的に動き出した方がイイのかしら?)
246 :
スクランの城 八雲・愛理編 :04/12/13 12:59 ID:QIuPfp0w
STAGE5 開始 愛理:学食に行ったっていってたわね。この時間の学食は戦場ね。捜すのに骨を折りそうだわ。 八雲:それでも、行くんですよね? 愛理:もちろんよ! 来たくなければ、来なくてもいいわよ? 八雲:……行きます。 STAGE5 ボス戦前 絃子:んー、沢近君に塚本君じゃないか。どうしたのかね? 八雲&愛理:「播磨さんはどこですか!?」「ヒゲはどこ!?」 絃子:彼なら学食だが……もうすぐここに来ると思うが……。 愛理:そうですか。それじゃあ、その間に先生にいろいろとお聞きしたいことがあるので、少し付き合ってください。 絃子:なにかね? 愛理:先生が教師になった理由とか……。 八雲:播磨さんのことについてです。 絃子:……ほぅ、そんなことを私に尋ねるとは、この私に挑もうというのかね。おもしろい、相手になろう。
247 :
スクランの城 八雲・愛理編 :04/12/13 13:00 ID:QIuPfp0w
STAGE5 ボス戦後 絃子:さすがに、2対1では不利か。しかし、君たちは思った以上に連携しているな……。 八雲&愛理:していません! 絃子:まあいいさ。しかし、君たちではダメなんだよ。まあ、私もだが……。あのバカには好きな娘がいるからな。彼女しか見えない、彼女の声 しか聞こえない……それほどまでに恋焦がれる娘がな……。 愛理:な、なんですって!? 八雲:(……姉さんのことだ)
あぼーん
249 :
スクランの城 八雲・愛理編 :04/12/13 13:01 ID:QIuPfp0w
エンディング 愛理:誰よ! あいつの好きな娘って!? 八雲:(沢近先輩も、播磨さんのことが好きなのかな?)あの…沢近先ぱ……。 播磨:ん、妹さんに、お嬢? 八雲:あ、播磨さん。 愛理:ヒゲ! 播磨:な、なんだよ、お嬢。デカイ声出して。 愛理:ちょうどよかったわ。あんたに聞きたいことがあるのよ! 播磨:聞きたいこと? 愛理:ええ、いろいろとね……。 八雲:さ、沢近先輩……。 ♯:その後、愛理に追われる播磨と、それを追う八雲の姿が、昼休み終了のベルが鳴るまで目撃されたそうな……。 ・ ・ ・ 八雲:えっと、お弁当……。 愛理:あ、忘れてた……。
あぼーん
251 :
初代金日成 :04/12/13 13:54 ID:DWmqh5eA
お、だれかが俺の後を継いでくれてる
そしてまた荒らされてると
|д゚)誰もいない。 |д゚)投下するなら今のうち。
あぼーん
雪。 しんしんと、切々と降り続ける雪。 そのゆっくりと、さりとて重みを感じさせる降り方は積雪すること知らしめている。 季節は冬、暦は二月。 街を彩る照明もここからでは遠く、それ故に静かで幻想的と言える空気が其処にはあった。 「ごめん、稼本さん。……僕は君の気持ちに応えることができない」 音もなく大地を白化粧にしていく雲の欠片達。 今やすっかり日も落ち、日中は騒然としていた学舎もこの瞬間だけは二人の物だった。 「…………」 「気持ちはとても嬉しい。けど、僕は後数ヶ月ほどしかここに留まれない」 目に見えるほどの白い吐息は、あたりの気温と現在の彼女の心情を物語っていた。 白く、白く、ただただ白い。 何もない空中に浮かび上がる白。 心を、そして頭を、その純粋なまでの白さが徐々に、だけどしっかりと覆っていく。 「僕も…………稼本さん、君のことが好き、なんだと思う」 「鳥丸……くん……」 「こういう事は初めてで、よく分からないけど。この気持ちは……きっとそうなんだと思う」 「…………あっ、ああぁ……」 なんと言われようとも泣かない、そう心に決めたはずだった。 昨日はその練習もかねて、散々タマネギをみじん切りにしたし、大好きな時代劇の名シーンを 何度も見ては泣くのを我慢した。
でもダメだ。 これまでずっと付き合ってきた自分の体だ。 涙腺がもう耐えきれないと悲鳴を上げていることがよく分かる。 涙もろい方だとは思っている。 だから訓練もしたし覚悟も決めたというのにまるで生理反応のように瞳の奥が熱くなっていく。 「…………以前のお弁当、本当に美味しかった。一緒に見たプロレスもとても楽しかった」 「……あっ……っく、ぅぅう……」 かけられる優しい言葉が、気遣いが、いまや瞼をつぶることでせき止めている涙に更なる 圧力を加えていく。 今まで、本当にずっと今の今まで彼を見てきたから分かる。 彼が、鳥丸犬路がこれから私にはっきりとした拒絶の意志を伝えようとしていることが。 誰よりも、もしや彼自身よりもよく分かる。 「楽しかった……。稼本さんと一緒の時間を過ごしたことは忘れない。絶対に」 「…………」 力を込めるために握り込んだ拳がその一言でふっと弛緩する。 そして顔を上げた瞬間、ぽろりと何かがこぼれ落ちた。 「あっ……」 「…………」 後はもう止めようがなかった。 壊れた蛇口とはよく言ったものだ。次から次へと真珠のような大粒の涙が頬を転がっていく。
「あ、あはは。ごめん、ごめんね。泣かないって……き、決めてたんだけどね」 「…………稼本さん」 「あれ? あれれ? おか、おかしいな。全然涙が止まらない、変だ、ぞ。私っ!」 「…………」 自らの醜態に狼狽する大満だったが、しかし犬路は一瞬たりとも目を逸らさなかった。 まるで焼き付けるかのように目元をこすって涙を誤魔化す大満をじっと見つめ続ける 今生の別れを惜しむかのように、壊れやすい硝子細工を慈しむように。 「ホントッ、本当に大丈夫だから。昨日ね、ちょっとタマネギ切りすぎちゃったから。きっと その、せいだよ。うん。えへへ……おかしいよねっ」 「…………」 犬路と目を合わせることもなく、そっぽを向いて弁解する大満。 白磁のようなきめ細かい肌に涙の跡ばかりを作り、冷気を伴った風がその道を煌めかせる。 すぅっと音もなく犬路は腕を上げ、そして一歩、大満に近づく。 ザッ、とたった一歩だけの足音が大満にはとても大きく聞こえた。 二人の間にあった濃密な空気が動く。 小さく嗚咽をこぼしながらも大満には犬路が何をしようとしているか、すぐに悟った。 だがそれは甘い期待。叶わぬ夢。 「No」と言い切った彼が涙を拭ってくれるはずがない。
自らの思考が夢幻に流されていくのを必死になって止めようとするが、一度辿り着いた儚い夢想 は質量をもって、大満の頭を、心を押し流していく。 たまらず大満は顔を上げた。 そこには息づかいまで聞こえる距離に近づいた、しかし視線は大満の後ろに注ぐ犬路があった。 「…………鳥丸君……」 「……鳥丸……」 低く、怒気をはらんだ声が聞こえてくる。 ぱきんっと枝か何かが折れる音が声と共に後ろから聞こえてくる。 犬路の視線を追うように大満もまた、背後へ振り返った。
―――――― 「ふぅ……」 ぱたんっと彼女は文庫本を閉じた。 途端に広がる視界、聞こえてくるいつもの猥雑な教室、真横を走り抜けていくクラスメイト。 展開されるいつもの光景が彼女の五感に、読み始めてからさほど時間が経っていないことを 教えてくれる。 念のため時計を見てみるが、読み始めてから15分程度しか経っていないことを針は示していた。 少しずれたメガネを正し、この文庫本の持ち主でもある目の前で雑談に興じる友人に一言。 「一条、やっぱりこれ微妙」 大きなメガネがトレードマーク、二つの三つ編みお下げを少し揺らし、姿勢正しく座る少女 結城つむぎはそれでも満足した顔でそういった。
何の話をしていたか分からないが、顔を朱に染めた一条かれんと溢れんばかりの笑顔を見せる 嵯峨野恵は彼女の一言に同時に振り向いた。 「えっ? もう読んじゃったの?」 「ん? なになに〜?」 好奇心の強い、というか切り替えの早い恵はさっそく彼女が読んでいた文庫本に興味を示した ようだ。机に置いた小説をぱらぱらとめくり、挿絵と表紙をチェックしていく。 かれんはというと、何故かほっと一息ついていた。先程の様子からして何を話していたか 大体の見当はつくが、つむぎはとりあえず文庫本について言及した。 「朝から借りてたからね。休み時間の間にチョットずつ読んでみてたんだけど……」 「おもしろくなかった?」 「んー、という訳じゃないんだけどね。斬新だったし、結局最後の方まで読んじゃったし」 少し残念そうな顔をするかれんに彼女は手を振り、否定する。 面白いか、面白くないかの二者選択を迫られれば間違いなく面白いを選ぶだろう。 だけど、今つむぎが求めている内容からはほど遠い。 あの小説に出てきた人物達のようなアグレッシブさとコメディ色は必要ではないのだ。
「一条、これって恋愛小説? なんか普通の面白小説にしか見えないんだけど?」 「えっと、挿絵だけ見てたらそう感じちゃうかも……、きちんと恋愛しているから内容は」 「ふーん……でも結城が恋愛小説って珍しいよね」 「うん、私もそう思ってた」 「………………そうかな?」 空気が、流れが変わったことを肌で感じる。 まずい。 そう思った時には遅かった。 机をはさんで向かいにいた恵の目が怪しく光り、にやにやしながら徐々に近づいてくる。 この娘は妙なところで勘がいい。 かれんに好きな人がいたことに気が付かなかったを悔いてか、近頃は頓にセンサーを敏感に していることをこの時のつむぎは失念していた。 「んっふっふ〜、つむぎちゃんもお年頃だからねぇ〜。んー、相手は誰かなー? お姉さんの 知っている人かなー?」 「えっ? えっ? えっ?」 「…………」 しなだれかかってくる恵に三つ編みをいじられ、メガネを鈍く光らせるつむぎ。 しかし、彼女は絡んでくる恵を相手することなく、自体をまだ正確に把握してないのか 二人を互いに見やるかれんに彼女は小説を手渡した。
「ありがとう一条。小説、面白かったよ」 「えっ、う、うん」 「おっと、つれないなぁ結城ぃ〜。ちょっとぐらい教えてくれても――」 そして恵が喋り終わる間もなく間髪入れずに声を上げる。 「あっ! 窓際で円ちゃんと梅津君がいちゃいちゃしてる!」 そう言うや否や、突然びしりと窓際を指さすつむぎ。 廊下側に位置する彼女たちの場所から最も遠いところを指し示す。 「えっ!? どこどこ? って石山君、そこ邪魔!」 「な、なんだよっ、自分の席で飯食ってちゃ悪いのかよ!」 「ご飯食べるの遅いよっ! じゃなくてっ、あ〜もー、いいから伏せるっ!」 「あっ」 「…………」 しかして恵の見たものは、ただ談笑している梅津茂雄と木戸円のツーショット。 見ようによっては、いちゃついているように見えないこともないが、会話しているだけでいちゃ いちゃしている等と言われては学校内はカップルだらけだ。 「結城、アレでいちゃいちゃってそれは……あれ? 一条、結城は?」 「結城なら、あそこだけど……」 恵が一瞬目を離した隙に、本日の標的こと結城つむぎは教室から出るところだった。
「ふーん、当てずっぽうで言ってみたけど、この反応は……」 つむぎが完全に教室から出て、恵はにやつきを押さえられなかった。 かまかけとおふざけで、ああは言ってみたものの別に彼女に思い当たる節はない。 それだというのに、つむぎは突如黙り込んだと思えば古典的な手で気を逸らせてくる。 そうなるとなるほど、これ以上の尋問を回避するために彼女はあのような行動に出て 一時的に距離を取ろうとしているということになる。 そしてその目論見は成功し、現につむぎは恵の手の届かない位置にいる。 「……つくづく油断のできない娘ね」 「油断って…………」 独り言を言ったつもりはなかったが、しっかりとかれんに聞かれてしまう。 返事をするのも少し恥ずかしいので、とりあえず恵はかれんの一言は聞かなかったことにした。 「ふふふ、でも詰めが甘いわね結城。私の足の速さを計算に入れないとは……画竜点睛を欠くって やつね!」 「あ、嵯峨野っ! ちょっと待って」 ごまかしも兼ねて、びしりとそう言い放った恵はかれんの言葉も聞かずに走り出そうとして―― 「っきゃぁー!!」 ――盛大に転んだ。
よく見れば恵の制服は先程つむぎが座っていた机に引っかけられている。 注意すればすぐ分かるが、急ぎその場を動こうとすれば確実に引っかかるブービートラップ。 幸いなことに怪我もなく、制服も破れずに済んだがこれは逆に明確な意思表示としても 受け止められる。 結城つむぎはこの件について触れて欲しくないと言うメッセージとして。 「だから、待ってって言ったのに……」 「…………」 むくりと静かに起きあがり、恵はぱんぱんと制服に付いた埃を払う。隣で食事中の石山君は 明らかにイヤな顔をしているが気にしない。 あらかた払い落とし、引っかかっていた制服を解き、一呼吸。 「……ふっ」 「……?」 「……ふっふふふ」 「……嵯峨野?」 「やってくれたわねぇ……結城ぃ。そう、そういうこと。あくまでもしらを切るつもりってわけ」 「えっ……と、嵯峨野? もうそろそろやめておいた方がいいんじゃ……」 烈火のごとく燃え上がる恵の情熱には、かれんの静止も焼け石に水でしかなかった。 ここ最近では、文化祭でバンドをやらないかと彼女が言い始めた時に見せたあのテンションよりも 勢いだけなら上に見てとれる。 「一条は教室にいて! 結城が帰ってきたら連絡お願い!」 「え、あっ。うん……」 用件だけを端的に言い残し、恵は教室を飛び出した。
昼休みの時間も残り少なくなってきている。廊下にいる人間の数もピークの時間帯に比べれば 少なく、走力の違いを発揮するには丁度いい塩梅だ。 しかし三階の真ん中に位置する2-Cの教室からでは彼女の移動先は特定しにくい。 B棟内にいればまだ捕まえられるが、A棟、中庭、旧校舎、果ては別館まで移動されては捕まえる どころか目視することもかなわない。 それでも恵は迷うことがなかった。 つむぎが教室を出る瞬間を見る限り行き先は向かって左側、つまりA棟方向だ。 この時間帯のことを考慮すれば特別教室棟はまずない。図書室、もしくは食堂あたりが濃厚に なってくる。 そこまでの推理を一瞬で済ませれば、あとは足を動かすだけ。 テンポよく廊下を駆け抜け、体が連絡路まで差し掛かったとき、目の前に見覚えのある シルエットが姿を現した。 「あっ、丁度いいところに。ララさん、結城見かけなかった?」 「む。サ・ガノ、どうしたそんなに急いデ」 モデルかと見間違えるようなプロポーション、筋肉質でありながらしなやかな四肢、例えるなら 雌豹のような外見と闘志を併せ持つ女の子。 ララ・ゴンザレスは勢いよく目前まで駆けてきた恵に少々驚かされるものの、いつもの調子で 切り返した。
「いや、ちょっと結城を捜してて。あとその呼び方は何とかならないかな」 「ン? サ・ガノはサ・ガノだ。問題ない。あとユーキは見かけてないゾ」 「あはは……何かその呼ばれ方だと、神様でもチェーンソーで倒しちゃいそうな感じがして…… と、この話はまた今度。そう、わかった。とにかくありがとう」 ということは階段か、などと一人呟きながら来た道を戻ろうとする恵だが彼女の肩は何故か 動かない。まるで何かに固定されているかのように抵抗を感じる。 それもそのはず、彼女の肩を別れを済ませたはずのララが捕まえているためだ。 「……ララさん?」 「サ・ガノ。丁度いい、私からも一ツ聞きたいことがアル」 今日は一緒に昼食を取ってからD組の誰かが彼女を呼びに来たため、いつものように雑談に興じて なかった彼女が改まって話し掛けてくる。 急いではいたが、こんな風に話を振られては聞かないわけにもいかない。
「改まって……何?」 「サ・ガノ、オマエは足が速いそうダナ」 「ん……、まぁ、ちょっと速いほうかな」 「そして、私と勝負してミタイと言ったそうダナ」 「………………はぃ?」 「最近のトレーニングは基礎体力の向上をメインにやってイル」 「…………ふぇっ?」 「……今日の放課後、勝負するゾ。サ・ガノ」 「え、え、えぇぇぇー!?」 一緒の帰宅を約束するように平然と言うララに対して、恵の頭はパニック状態。 一体何がどうして、どうなって……。彼女の思考は纏まることもなく、だが事態は着々と 進行していく。 「……不服カ? だったら今からデモかまわない。オーバルコースへ行くゾ」 「いや、そうじゃなくてって……ちょ、ちょっと下ろしてララさーん!!」 何事かと廊下にいた人々が振り返り多くの視線が集まる中、その身を拘束された、というよりも 文字通り捕まえられた恵の叫び声だけが廊下へ消え去っていった。 一人のメガネの女の子を残して。
「あ、おかえり」 「ただいま」 友人からの挨拶を受けて、つむぎは先程まで座っていた自分の机に着席した。 その友人たるかれんは、誰からでも分かるぐらいに頭を悩ましている様子。 「どしたの一条?」 「……うん、どうしようかなぁって」 「ん?」 要領を得ない返事に首を傾げるつむぎだが、少し考えて思い当たることを言ってみる。 「もし、嵯峨野が何か言い残していたらきっとそれ、無視しててもいいと思うよ」 「えっ? どうして?」 「きっと今頃忙しいと思うから」 「……?」 つむぎの謎めいた一言に従うわけではないが、かれんは手にしていた携帯電話を机脇に 置いていた鞄に仕舞い込む。 今、恵に連絡を取ったところで彼女の本懐は達成できないだろう、と判断したからだ。 気が付いてみれば昼休みも終わり間近、教室内を見ていると開放されていた賑やかな時間が 慌ただしく収束されていく様子がよく分かる。 次の授業の準備をする者、動かしていた席を戻す者、そして教室の外から帰ってくる者……。
「た、ただいまぁ……」 「おかえり」 「ど、どうしたの嵯峨野、 何か疲れてない?」 「あー、うん。すっごい疲れた……。後で話す。今は休ませて」 言葉少なくそれだけ言い残すと、ふらふらと覚束ない足取りで彼女は自分の席へ歩いていった。 「何があったんだろう……」 「さぁ……?」 残された一人ともう一人は互いを見やる、そんな彼女らに予鈴だけが返事をしていた。 「起立、礼!」 今や形骸化されたと言っても過言ではない、一日の終業の挨拶を行うと途端に活気が溢れるのは 何も2-Cだけに限ったことではない。 ないはずだが、やはりこのクラスがその落差を一番大きく見せている気がするのは、決して 気のせいではないはずだ。 挨拶の号令を掛けたそばかすの女の子、大塚舞がのほほんと教室を出ていく担任の谷速人教諭を 追いかけていく様を机に座ってぼうっと眺めていると、昼休みの困憊など微塵も感じさせず春爛漫を 絵に描いた表情で恵が近寄ってきた。
「さて、結城ぃ。昼休みはまんまと逃げおおせたみたいだけど、今度は――」 だが彼女が最後まで言葉を紡ぐことはなかった。 ばんっという何かを叩きつけるような激しい音が、二つある教室の出口の一つから発せられる。 そこには開けっぱなしになっていた入り口、その二重になっている引き違いの扉を何故か 二枚とも逆にこじ開ける人物が一人。 「勝負ダッ! サ・ガノ!」 「…………また今度ね、結城」 「――! 其処カ!!」 「わわ、見つかった! じゃね、結城。バイバイ一条!」 挨拶もそこそこ、恵は鞄をひっつかむとわき目もふらずにララのいない入り口へ駆けだした。 「待テ! 逃げるナッ!」 「…………」 「…………」 それを追うララも進路上にあるものを吹き飛ばさん勢いで猛追していく。 他の生徒が事態を把握する頃には二人は既に廊下へと姿を消した後だった。
「……何だったんだろう、ララさん」 「嵯峨野に用があったみたい。一条はこの後部活なんだし、そのときララちゃんに聞けば?」 「……うん、そうだね。嵯峨野も結局教えてくれなかったし……」 相変わらずよく分からない展開に疑問を投げつけるかれんだが、光の加減か、メガネが反射して 表情の読めない結城は素っ気なく応える。 そしてがたりと椅子をならして席を立った。 「じゃあね、一条。また明日」 「うん、結城も頑張ってね」 気が置けない友人達はそれぞれ部活に帰宅。一部イレギュラーはあるが概ねいつも通り。 つむぎもいつものように鞄を手にして教室を出た。 向かう先はこの学校で唯一ヨーロピアンな建築物である別館。 文化祭という文化系である天文部の唯一の晴れ舞台が迫りつつある昨今。展示物の制作と 今年の新入生の提案によりやってみることにした簡易プラネタリウムの準備に、いつも以上に 部室は賑わっている。
「頑張ってね、か……」 別れ際のかれんの一言が妙に耳に残る。 彼女のことだから単純に天文部のことを言っているのだろうと思うが、今日の昼休みのことを 考えると、どうしても深読みしてしまう。 「人のことよりも自分のこと、だよ。一条」 彼女に好きな人がいることを知ったのは割と最近。体育祭が始まる直前ぐらいだ。 恵の追求にとうとう根負けしたかれんが口にしたその名が、一度耳にしたとはいえ友人二人に 衝撃を与えたことは言うまでもなかった。 予想外の人物で確定となってよいよ勢いを増す恵の質問は、これまたかれんの消えるような一言で 沈黙に伏す。 「うーん、確かに今鳥君は格好はいいと思うけど……でもやっぱりわかんないなぁ。一条さぁ、 今鳥君のどこがいいの?」 「………………今鳥さん、……優しい人、だから」 二人が再び驚かされることとなった、未だ記憶に新しい出来事だ。 さて友人の微笑ましいエピソードとは異なり、こちらはなかなかどうして、四面楚歌。 特に体育祭が終わってからますます窮地に追い込まれていく感じがしてならない。 全て杞憂だったらいいのだが……。 そんなことを考えていると、いつの間にか目の前には扉。もちろん見慣れた天文部のものだ。
「告白の成功率と場所、時間の関係性! ――P.48」 手を伸ばしページを開きかける。 だがつむぎは思い直し、その雑誌を片づけた書籍類の一番上に置いた。 「……告白、ね」 想いを告げるまでが花、とは誰が言った言葉だったか。 ふと、そんな皮肉めいた考えが浮かんでくる。 告白することを今まで考えなかったわけではない。寧ろ彼を見ていると熱烈なアプローチよりも はっきりと自らの想いを伝えた方がよいとすら思う。 だけど、何度も考えたことだが今の状況で告白することはできない。 「…………」 室内の美観を損なわない程度に片づけたつむぎは再び席に着く。 少し舞った埃が斜光を反射し、そんな埃しか目に付かないほど室内は静かで流れる時間すら 遅く感じてしまう。 机の上には昨日から書き続けている大きな製図紙、マジックインキ、それと参考資料が少々。 やることは昨日の続き、既に下書きを済ませてある紙面を艶やかに彩る作業。 今年は太陽系をメインに星々や惑星の紹介、古代の神話や正座の起源を織り交ぜた一見さんでも 興味を引かれる、いわば入門的な方針で展示物を作ることとなっている。 製図紙を大きく広げ、端々を適当なもので押さえ固定する。 黒のマジックを片手に持ち、つむぎはまず枠縁および説明文のペン入れから始めだした。
「…………」 やることは単純明快、誤字や脱字に注意するだけのシンプルな作業。 キュッキュッとマジックを滑らせて展示物の完成度を上げていく。 だが、幾ばくも経たずしてつむぎの集中力はあっけなく途切れた。 手にしていたマジックを机に転がし、背もたれに体を預ける。 コロコロと転がっていく音がぴたりと止み、彼女は深くため息をついた。 「なんだかなぁ……」 今日の恵の態度から始まり、かれんの一言、雑誌の見出し、それら全てがつむぎの意識を 一つの事柄に向けさせる。 目の前の、誰にだってできる作業ですら煩わしいと思えるほどに。 こうなっては仕方がない。 だったら頭が納得するまでとことんその件について考えよう。もやもやした気持ちなんてものは 持ち続けていても何もいいことがない。 つむぎは頭を切り換えると、机にあったコピーミスのプリント用紙を裏返しボールペンを 手に持った。 まず、何から考えよう。 とりわけ今から考える事柄は思考すべき問題が多い。 状況は刻々と変化していくのだから、以前まで想定していたことも場合によっては修正しなくては ならないだろう。 うーむ、と腕を組み考えること数分。 まず、現状の確認を仮定条件を含めて行ってみることにした。
一条を案ずる友人としては素直に歓迎できないが仮に一条、今鳥君ペアが成立したとしてみよう。 そうなると当然周防さんに攻勢を掛けていた今鳥君の立場に変化が訪れる事となる。 今鳥君の性格から考えて誰か一人の彼女で落ち着くとは思えないけど、相手が一条だとすると 案外どうなるか予想がつかない。今鳥君には一条の扱いを苦手とする節が見られるし……。 でも周防さんは想像しやすい。今鳥君が誰かとつきあい始めたら、彼女は絶対今鳥君には なびかない。これは断言できる。 現状、花井君の好きな人は1-Dの塚本八雲ちゃんということで周知の事実となっている、裏も 取ってある。まず間違いないだろう。 そして、本人には悪いがほぼ全ての人の見解はこの二人はあり得ないとなっている。 静かな部室にサラサラとペンを走らせる音だけが響く。 人名を一つ、二つ、と徐々に増やしていく。当然関係性を示す矢印も忘れない。 仮定条件に置ける思考実験はなおも続く。 周防さんと花井君の関係は幼馴染みだと聞き及んでいる。あと少林寺だったかな、道場の同門 だとか。 教室で見ているだけだと特に親しそうとは思わないが舞ちゃんや嵯峨野曰く「アレはわざとだね、 冷やかされたくないから周防さんが花井君に言い含めているんだよ」だそうだ。 ここのところはよく分からない。追って調査する必要がある。 今分かっていることは、少なくとも花井君と周防さんの間柄は友達以上だと言うことだ。 幼馴染みが全員恋仲になるなんて小説のような話は全く信じていないが、二人を見ていると なんというか独特な空気を感じ取ることができる。 互いを信頼しているというか、傍にいることが当たり前の存在というか、相手を見ずして見ている というか、って考えていて訳が分からなくなってきたけど。 とにかくあの二人は特別だと思う。これは一学期から不変の事実だ。
聞こえるのはペンの音と自らの小さな息づかい。 最初に書いた矢印は今や×印だらけ。だが、ここまで書いてぴたりと手が止まった。 「となると、やっぱり私と周防さんの一騎打ち……となるわけだ」 結論付いた思考は無意識に口からこぼれていく。 考えたことはあったが、こうやって図にしてみるとなんともわかりやすい構図だ。 消されていない矢印は春樹に向かう二つだけ。美琴とつむぎから延びるそれら。 二つの矢印が同時に成立することはない。つまりどちらかは矢印に×がつくことになる。 かといって安易に×を付けることもできない。困ったことに美琴からの矢印以外にも春樹からの 矢印も考えられるからだ。八雲を諦める、または振られるという前提付きだが。 二人の関係を推し量る材料が少ないため、どうしても美琴―春樹間の方向性が明確にならない というのも否定を決定づけられない理由となる。 結局結論は分からないとしか言いようがなかった。 今の状況ではあまりにも不確定要素が多すぎて、判断のしようがない。 「でも……仮に周防さんと戦うことになったとしたら……」 周防美琴。成績はそこそこ、運動神経抜群。高い身長とため息が出るスタイル。家事もそつなく こなし、うちのクラスでは男女関係なく好感を持たれている2-C女子四天王の一人。 とある情報筋によると告白されること数回、その全てを断っている。片思いの相手がいるとか。 現在、今鳥君から猛烈なアプローチを受けているが殆どを袖にしている……。
彼女について分かっていることを書き上げていく。 だが、書けば書くほど自身と相手の性能差が如実になってくるばかり。自然と筆圧は下がり 勢いも失われていく。 自分が持っていないものを彼女は持っている。 そう結論付けてつむぎは書き出すことを止めた。 「…………」 じっと彼女の項目を見ているとだんだんと気分が滅入ってくる。 大体から、幼馴染みで、スタイルがよくて、家事もできて、人気者で、その上可愛いなんて 反則に近い。いや反則だ。 こんな……こんな化け物みたいなポテンシャルの相手に私は勝てるのだろうか……。 不安と絶望がない交ぜになった、暗い沼の底のような重く不快な気分がのし掛かってくる。 あのアポロ13号の船長、ジム・ラベルもこんな気分で真空の闇の中で戦い続けたのだろうか。 彼はNASAのバックアップと頼れる船員、さらにその不屈の精神で無事帰還できたが私には応援 してくれる人もいなければ、他の人以上の胆力もない。とてもじゃないが無理だ。 つむぎは雑多に書き込んだ目の前の紙を静かに握りつぶした。 仮定における仮定の、いわば絵空事とはいえ「不可能」の三文字がはっきりと自覚できた今、 これ以上考えても精神に負担をかけるだけでなんらメリットは存在しない。 「……続きやろ」
無用の紙くずとなったプリントをゴミ箱に捨て、三度席に着く。 キャップも閉めずに放り出していたマジックを手に取り、適当な紙に試し書き。 問題なく紙面には線が引かれる。 先程まで書いていた項目を目で探し、つむぎは静かにペンを入れ始めた。 室内には再び静寂。時折聞こえる運動部のかけ声と吹奏楽部の練習が僅かながらのBGM。 緩やかな時間にふさわしく、彼女の動きも緩慢だが作業は滞りなく進んでいく。 程なくして説明文の清書は終了した。 「――それぞれ反転した領域が帯状に広がっていることがわかる、っと」 文末の文章を書き終わり、マジックに蓋をする。 製図紙をそのままにつむぎは席を立ち、紙から距離を取ってみた。 「まぁ、こんな感じかな」 ある程度離れて見てみるが、文字が潰れて読めないなんてことはない。 それなりに読みやすく、難しい表現で文意が読めないこともない。 そのまま誤字、脱字のチェックに入る。 「………………反転」 なぜか目にとまった単語。 「反転」――ひっくりかえること。反対にすること。逆にすること。 脳裏にひらめくものがあった。
昔の人の言葉に確かこういうものがあった。 「戦って勝つことは良い。戦わずして勝つことはそれ以上に良い」 意味はそのままだ。何も難しいことはない。 そう、何も直接戦うことはないのだ。 確かに周防さんのパフォーマンスは現状の私を遥かに越えている。 それは抗いようのない事実。避けようのない事実。 一度結論を出して凍結させた議題が頭の中で蘇る。より鮮明に、よりヒートアップして。 自然と足が動き出す。俯きながら意味もなく室内をうろうろし始める。 いや、これは「余波」なのだろう。 行き詰まっていた思考が別の切り口を見つけ、今まさに未知なる領域へと飛び出そうとしている。 その力場が、エネルギーが思考だけに費やされず体まで動かしている。まさしく「余波」。 ならば直接ぶつからなければいいだけの話。 勝てない相手と戦うなんて愚の骨頂。愚かの極み。 勝てないならば戦わなければいい。それだけの話だったんだ。 じゃあ、どのようにして衝突を回避するか。 それはさっきまでの議論から自ずと答えが見えてくる。 今鳥君と周防さんがくっつく。 これこそが絶対にして唯一の勝機、……いや戦わないのだから勝機も何もないか。 とにかく今鳥君と周防さんがカップルとして成立すれば、花井君は完全にフリー。 最も花井君が八雲ちゃんに振られることがやっぱり前提だけど。まぁこれはいずれ訪れる未来。 さて、そうなると一条には悪いが彼女の恋は幕を下ろしてもらうほか無い。 自分がうろうろしていることにやっと気が付いたつむぎは、とりあえず席に座る。 そのとき丁度視界に件の雑誌が目に入った。 目を引きつけたあの見出しが今度は彼女に一つ案を浮かばせる。
そう、例えばアドバイスと称して嵯峨野から一条に告白のイロハを教え込ませる。 もちろん、予め嵯峨野には間違ったアドバイスをさせるため、微妙にずれた知識を植え付け なければならない。難しいかもしれないがでも、嵯峨野も恋愛経験がなさそうだし決して不可能では ないと思う。 いや、逆かな。 今の一条を見ている限り今鳥君との仲は発展しそうにないし、下手な横やりを入れるよりかは 現状維持に固執させて―――― 「『怪物と戦う者は、自ら怪物とならぬように心せよ。汝が久しく深淵を見入るとき 深淵もまた汝を見入るのである』」 その言葉にはっとなり、つむぎは顔上げる。 椅子を大きく鳴らし、思わず立ち上がって振り返るが当然其処には誰もいない。 心臓が早鐘のように鳴り続ける。だが頭からは、ざぁと血の気が引いていく。 今、私……何を……。何を考えて……。 白い闇が頭を覆い尽くし、思考実験の発端となった雑誌から自然と足が離れていく。 足取りはふらつき、顔面は蒼白。まるで自らの死体でも見たかのような、そんな有様でよろよろと 後ずさる。
「何だっけ、それ?」 「もぅ、稲葉ったら。今度の中間テストで出るって言われたでしょ?」 外から聞こえる声も、今の彼女にはただの「音」にしか過ぎない。 どんっと背中に硬い感触。知らず知らず体は本棚まで後退していた。 スチール製の本棚と接触することで体温調節が狂いつつある体から、さらに熱が奪われる。 しかし、その冷たさが一瞬だけ思考をクリアーにする。 私は今……一条を、嵯峨野を……利用しようと、いや! それだけじゃない! それだけじゃなく……彼女達を陥れようと…………。 それ以上は心が保たなかった。 心の悲鳴は体に伝播し、体はそれを緊急事態と察する。 すぐさま体はブレーカーを落とそうとした。 それは何の解決にもならないが、心が支えられる負荷は肉体と同じく絶対量が決まっている。 普遍の身体反応。生理反応と言ってもいい。 しかし意識が飛ぶことはなかった。 それ故に体は動いた。 ドアノブをひねると同時に飛び出す。驚きを示す声が耳朶に届くが、殆ど反射の領域で一言口を 動かす。 あとは何も考えずただ走った。 より速く、より正確に、右足を出しては左足を出す。 早く! 速く! 疾く! どこへ行こうというのか、そんなこと分かるわけがない。 ただ足を動かす、一心不乱に、一意専心に。 さもなくば心も、頭も、一瞬にして食い散らかされてしまいかねない。 意識を断つことさえ許さない自己嫌悪という名前の化け物に。
ばんっと大きな音を立て、外界と校舎をつなぐ扉が開く。 勢いそのままに、出入り口からは一つの影が走り出してきた。 荒い呼吸も、流れる汗も気にならず影はそのまま鉄柵まで走りきり、物理的可動距離の全力疾走は 終わりを告げた。 心拍が、脈拍が、狂ったように体中で音を立てる。 ここから聞こえるあらゆる音よりも、体内で作られる生命のリズムの方が勘に障るほど五月蠅い。 だがその騒々しさが今は心地よい。 とにかく何も考えたくない。 そして誰にも見られたくない。 脳裏を埋めたのはその二項目。 彼女の体が取った行動はとてもシンプルだった。 体を抜けていく風、かけ声、怒声、何かを蹴る音、打ち返す音、そして眩いばかりの光。 頭がようやく理解の色を示した。 「……お、屋上…………」 荒ぶる吐息も、踊るような血潮もまだまだ収まりを見せない。 その火照りを冷ますように、風は秋独特の僅かな冷気を伴った夜気を運んでくる。 日が没するまであまり時間もないな、と頭の冷静な部分がすぐさま判断した。 こういうとき自分が天文部だということがイヤというほど分かる。 考えることを放棄してやってきた屋上だというのに、気が付けば星を探している自分がいる。 宵の明星を探そうと西側を見ると、沈みゆく太陽のまぶしさに思わず目がくらむ。 つむぎは空を見ることを止めた。
今度は逆に下を見てみる。 眼下には様々な体育会系の部活動が行われている。 走り、跳び、投げ、打ち、蹴る。 その様子をぼうっと眺める。手に入らない宝石を見つめるかのごとく。 知っている顔もちらほらと見える。 たったいま綺麗なフォームでコースを走り抜いた女の子はおそらく円ちゃんだろう。 なにやら記録を付けている娘と話し込んでいる。 自己新記録更新に向けて頑張る彼女の姿は見ているだけで気持ちいい。 重かった気分が少しだけ軽くなる。 そこへこちらも走り追えた後なのか梅津君が近づいてくる。 つむぎはグラウンドを見ることを止めた。 そうやって頭を動かしていると額に異物感を感じる。 指先で触って見てみればそれは冷却液たる汗。それも零れんばかり。 つむぎはポケットからハンカチを取り出し、メガネを外して額をぬぐった。 しかし発汗量は予想よりも多く、うなじから首筋にかけても薄っすらと汗が光る。 以前ほど運動が嫌いではなくなったが、こうやって汗まみれになるのは今でもあまり 好きではない。 編みこんである後頭部も蒸れているように感じたので、汗を拭きながらついでに三つ編みも ほどいてみる。 そこへ流れ込むように涼やかな風が髪を靡かせた。 水鳥の羽毛のように、軽くウェーブのかかった髪が宙を舞う。 かかる前髪を後ろに流し、その手で軽く手梳く。 体に纏わりつく湿度も、自らを取り巻く環境も、さっきの記憶も全部この風に 流されていけば……。 ぼやける視界の中、詮無き事とはわかっているものの思わずそう考えてしまう。 どうせならこの位相のずれた世界のように、確かにわかるものが自らの手元と 前方で沈み行く光源だけになれば、どれだけ世の中は過ごしやすくなるだろうか。
「世の中全部……こうやって見えればいいのに……」 そんな呟きも風に流されていく。 汗を拭き終われば体はすっかりいつもの調子。 違うものは心のありよう、心の状態。 はぁと大きなため息が出る。 部室で湧き上がったマグマのような自己嫌悪と罪悪感は、その熱量と勢いこそ失われたが いまだ心の容積のほとんどを埋めている。 結局ここまでの障害物走に大した意味などなかった。 いや、そんなことは走る途中、走る前から理解している。 重たい気分を走って紛らわせるなんて絵になることは、陸上部でも運動部でもない 自分の柄ではない。でも嵯峨野だったら様になるかも。 「……ホント、何やってんだろ私」 自嘲と自虐ばかりが頭の中を駆けめぐる。 独り言が増え、なおかつその喋り方にどこか馬鹿にしたものが含まれる。 自分でも分かった。 ああ、私は……私が嫌いなんだ。 熱を奪っていく風が、屋上に独りぼっちという構図が自らを表しているようで滑稽だった。 不意に目尻から一粒涙がこぼれる。 数瞬遅れて気が付いた。 この涙は何だろう。 自身の不甲斐なさを悔やむものか、単身という寂しさに同情したものか、乾いた瞳による ただの肉体の反応だろうか。 自分でも分からなかった。 静かな屋上に一つの音が生まれたのはその時だった。
気圧の差なのか自重のためなのか、ばたんと音を立てて扉が閉まる。 その音に惚けていた頭が瞬時にロジックを組み立てた。 慌てず騒がず目標を確認。 ――焦点が合わずに失敗。 視力を矯正させて、再度確認。 ――外見から男子学生、様相から驚きが見て取れる。 「……結城君か?」 ――目標から発せられた言葉、近づかれた事による視認性の向上により該当人物が思い浮かぶ。 「…………はないくん?」 思考停止。 何故か頭はそれ以上考えることを止めた。まるで急にリミッターでも現れたかのごとく。 だが、そんな事情などお構いなく屋上に突然現れた、文武両道、熱いパトスを公開開示する男 花井春樹はつむぎの元へどんどん近づいてくる。 「やはり結城君か、一瞬誰だか分からなかったぞ」 「…………」 「どうかしたのか? 茶道部の近くで見かけたときはひどい顔色だったが」 依然、止まったままの頭に叱咤が飛ぶ。 忘れたのか、ここに来た理由を。そして目の前の男こそ今最も会いたくない人物だろう、と。 それは叱咤と言うよりも悲鳴に近かった。 自らが傷つけてきた心が最後の叫びを叩きつけてくる。 再度体が動いた。
「――――!」 「おっと、待ちたまえ結城君」 大きく分厚い手の平が、すり抜けようとしたつむぎの肩を捕らえる。 いつぞや感じたその存在感は今はただ鬱陶しい。 「は、放してっ!」 「それはできない」 パニックめいた叫びに動じることもなく、春樹は平然と言い放つ。 その声は聞く者が聞けば怒っているのではないかと思わせるほど、重く静かな否定の言葉だった。 「どうしてよっ! ほっといてよ!」 「今の君は昔の僕に似ているからだ」 身じろぐつむぎの動きが止まる。 時間が逆流したように再び静けさがあたりを支配した。 暮れる夕日はグラデーションを描き、黄昏時が迫りつつある。 屋上には長い影が二つ。 金網の影と重ね合わせると、一枚の絵画のようだ。 「…………ぇ?」 「今の君を放ってはおけない。これは君自身のためでもあるし、僕のアイデンティティにも依る」 女性には決して出せない低音の声。 春樹の落ち着いた声色が彼女の鼓膜を振動させる。 それは混乱した頭でも分かるほど信じがたい内容だった。 花井君が私と同じ……? 方便だと頭はすぐさま断定する、が同時に激しい興味も沸き上がる。
彼なら分かってくれるかも。 今来たばかりの彼に何が分かるというか。 いや、彼はすれ違ったらしい私を捜して追ってきてくれた。心配してくれた。 それはただの自己満足そして自己欺瞞。彼は自らの行動指針に従っただけ。 でも、私と彼は似ているって、放っておけないって。 よくある言い回し。なんて事はない。彼は常にそうであるように彼らしく振る舞っているだけ。 葛藤に勝利したのは疑心だった。 「……同情ならいらないよ? 花井君には私の気持ちなんて分かるわけない」 「…………」 できるだけ感情を抑えた声がつむぎの声帯から紡がれる。 それは明らかな拒絶。 春樹から現在の彼女の表情は窺えない。窺えないからこそ、その一言は重みを増す。 けれども、春樹はつむぎの肩から手を放すことはなかった。 「昔話になるが……」 「…………」 つむぎの抵抗が無くなったことを聞く体勢になったと受け取った春樹は、一言だけ前置いて ゆっくりと語り出した。 「僕も小さい頃、自分が嫌いだった。イジメられっコだったんだ」 「…………」
今の僕からは想像できないかもしれないが。 そう続ける春樹の手に彼女の動揺が伝わってきた。 相変わらず表情は分からないが、話の続きを期待していることだけは分かる。 「嫌いで、嫌いで……そのくせ友達のことが凄く羨ましかった。僕の友達は僕が持っていないものを 沢山持っていた。人気者で拳法の腕前も僕より上、いつでもクラスの中心にいる存在」 「…………」 「当時の僕はそんな友達と自分を比較しては妬み、落ち込み、ひねくれ、自己嫌悪を深めていった。 今の君みたいに」 そっと春樹は手を放す。そしてその場で彼女に背を向けた。 ここから先は少しばかり面と向かって話しづらい。 つむぎ自身は先程から身動き一つしていないが、かといってさっきのように直接語りかけるには 少々面映ゆいものがある。 「だがある時をきっかけに僕はその友達みたいになろうと決心した。世界を、友達を、自分を 否定するのではなく、受け入れ、乗り越えていこうと思うようになった」 ちょっとした切っ掛けで人は変われるし強くなれる。 春樹は最後に一言加えて話を終えた。 途端に環境音があたりを包み込む。 まるでオーケストラの発表を終えたかのように。 「……一つ、いいかな?」 「ああ、構わない」 沈黙を守り続けたつむぎが発した言葉は質問。 背中合わせの二人は互いの顔を見ることもなく会話を続けていく。
support?
「その友達のこと……今ではどう思ってる?」 「大切に思っている、今も昔も。そしてこれからも。ずっと変わらず思い続けるだろう」 即答だった。 迷いのない、そして誇りを感じさせる一言。 彼と友人の絆の深さが直接見たことがあるわけでもないつむぎにも理解できた。 「自分が悪かったな、とか――」 「思わない。あの時の僕も含めて今の僕だ。過去を否定することは友達すら否定することになる」 投げかける前に告げられる答え。 力強い発言はとても彼らしく、その彼ですら彷徨った時期があったことにやはり驚かされる。 ああ、なんだろう……。 重たい何かが氷解していくような感触。 足下が固定されたような安定感。 さっきまでのささくれだった感情がなりを潜める。 一時的とはいえ私は友人の不幸を願い、利得を求めようとした。 そんなことを考える自分を呪い、憎みさえした。 認めたくなかった。損得勘定で一条や嵯峨野を売りさばこうとする自分を。 だけど、もう大丈夫だ。 花井君のようにきっぱりと自分を肯定することはまだ難しいけど 今ならきっと前を向いて歩ける。 強くなると言う意味がやっと分かった気がする。 一条達にあっても、笑える。
「うん、ありがとう花井君。もう……大丈夫だから」 「そうか、元気になったのなら何よりだ」 振り返った彼女が見たものは、茜色に縁取りされた広く大きな背中。 先を往く者、立ち上る情熱、優しき父性、男らしさ。 様々な言葉が思い浮かぶがどれもピンとこない。小骨が喉に引っかかったような感触が残る。 思いつきそうで頭に浮かんでこないときは、誰しも気持ち悪いものだが多分に漏れずつむぎも そうだった。 もどかしく思いつつも、頭をひねる。 その結果やっと出た言葉は何とも簡単だった。 『いつまでも見ていたいもの』 途端に頬が上気する。 我ながら現金なものだ、と冷静な部分が自分を冷やかすがそんなことで冷却できるような ものでもない。 「あ、あとさ! その友達って男の子? それとも……女の子?」 誤魔化すように質問しておきながら、別に自分の狼狽を悟られた訳じゃないことに後から気付く。 がもう遅い。 ゆっくりと春樹がつむぎの方を向く。表情は逆光で読めない。 普段では想像もできないほど二人の距離は近い。 その事実が彼女の頭を言葉で埋め尽くしていき、ここへやってきたときとは違う意味で 心拍数が上がっていく。
「結城君」 「……う、うん」 いや、別に告白するわけでもないし、花井君から何か言ってくるとも思わないけど。 背中が格好良かったし、なんだかいい雰囲気だし、っていつの間にか肩捕まれてるっ! えっ、これってどういう―― 「言おうか言うまいか悩んだが……」 「……う……ん」 ――ダメッ! 顔が赤いの絶対バレた! それよりも、これってもしかして……。ううん、そんなはず無い。はず無いのに……。 でも、でも……もしかしたら。ひょっとすると! 「三つ目だ」 「……………………へっ?」 「質問の数だ。それで三つ目になる。二つ目の時から気になっていたが…………どうした急に しょぼくれて?」 「……いい、何でもない」 春樹の手前ため息はつかなかったが、つむぎはがっくりと肩を落とした。 こういうキャラだと分かっていても、あんな風に迫られては女の子は皆夢見るものだ。 ましてやそれが好きな人ならば尚のこと。 こればかりは勘違いした自分が悪くても春樹を責めたい気分だった。
「そうか、だったら暗くなってきたことだし家まで送ろう」 「えっ?」 「ほら、行くぞ結城君」 「あ、ちょっと。私、自転車だよ?」 「分かっている。以前の時と体重が変わっていなければ大丈夫だ」 この男はまた……。 ずんずん先行する目の前の男とは裏腹に、少しばかり彼女はげんなりする。 これでもう少しデリカシーというか、女の子への配慮というものがあれば文句ないのだが……。 それは贅沢というものだろうか。投げかけた疑問に自らが即答する。 いや、至って当たり前の要求のはずだ。 「ちなみに春先での君の体重は45kgぐらいだったか。ならば+5kg程度増えていても問題ないな」 「………………」 「おっ、そんなに急いでどこに行くんだ結城君。玄関はこっちだぞ?」 「……部室に鞄を置いてあるの。取りに行くからついてきて」 「…………君、怒ってないか?」 「……別に。そんなこと全然無いよ」 ……でも、やっぱりそれじゃダメだ。 この機微のなさが彼の魅力に迷彩を施している。 これ以上の人気上昇は返って私の首を絞めるだけだ。 競争相手は少ないに限る。ただでさえその相手があの周防さんなんだから。 「それにしても、屋上で君を見たときは誰だか分からなかったぞ?」 「…………メガネかけてなかったから?」 「それもあるが、君が髪を下ろしている姿は初見だったからな」 「……あっ」
言われて気が付いた。 そういえばまだ髪を結っていなかった。どうにで校舎内に入ると首元に熱が籠もるわけだ。 ふわっと髪をかき上げてみる。 「一瞬塚本君かと思ってしまった」 「えっ?」 その一言につむぎの頭は高速思考を展開する。 この場合の「塚本君」は天満ちゃんじゃなくて妹さんの八雲ちゃんの方よね。 えっと、それは……つまり。 私と八雲ちゃんが近似して見えたということで、つまるところ。 私の外見が現在彼の意中の人である、塚本八雲ちゃんと同じように感じたということは……。 ……たまには、下ろしたままでもいいかもしれない。 「逆光のせいとは言え君と塚本君を見間違うなんて、花井春樹一生の不覚! すまない塚本君!」 「………………」 前言、いや前考撤回。 もう金輪際、彼の前では絶対髪を下ろさない。 彼女の後方では、彼方を見ながら懺悔する唐変木が夢見がちな瞳で空中を見つめている。 今度は遠慮無く大きなため息をついた。 ホントに、どうして私はこんな男を好きになっちゃったんだろう。 その後、天文部部室に辿り着いた二人。しかめっ面のつむぎと、後に続く至って普通の春樹が 部屋に残っていた一年コンビにあれやこれやと詮索されたことは言うまでもなかった。
雪野美奈は時々思うことがある。 どうしてうちのクラスの男子はこんなにアホばかりが集まったんだろう、と。 特に一部の男子が定期的に開く訳の分からない話し合いは、聞いているだけで頭が痛くなる。 そんなどうしようもない男ばかりのクラスだが、ごく稀に放課後、潮が引くように男子が帰宅する 時がある。 友達にそれとなく話してみたが、その事に気が付いているのはどうやら自分だけのようだ。 まぁだからといって、別に何かするつもりはない。 「君子危うきに近寄らず」、知らなくていいことが世の中にはあることを美奈はこのクラスで 学んだのだった。 そして彼女の考えはずばり的を得ている。 ここ体育館裏で開かれる隔週に一度の祭典。カメラ小僧、冬木武一による美少女生写真即売会は いつも通り盛況を見せていた。 「おいおい、冬木。また沢近売り切れかよ。もっと数焼けねーの?」 「いやいやー、最近規制がきつくってね。こっちも頑張ってるんだけどなかなか。次回はもう ちょっと早くきてよ」 集まる男子は2-Cだけにとどまらず、他学年に他のクラス、中には別の学校のヤツに頼まれた なんてヤツもいたりする。
「お。何? 今回は2-C特集? って塚本無いジャン」 「永山のそれ、一枚くれ」 「げげっ、周防もないし。しっかりしてくれよタケ〜」 「あぁ、じゃ俺はそっちのを2セット。ほら金」 「毎回思うんだが、何で高野の写真ってカメラ目線なんだ?」 個々の客に対応する武一の顔は笑顔が絶えない。 そろそろ個人で切り盛りするには限界の客数だというのに、それでも客の要望はしっかりと聞き 可能な限り沿う形で結果を示している。 彼の撮影能力もさることながら、その人当たりの良さと不可能を可能にするチャレンジブルな 姿勢がこの盛り上がりを作っているのは言うまでもなかった。 「さて、そろそろ店じまいだ。お兄さん方買い忘れはないかな〜」 張りのある声が客の購買欲を高める。 武一のこのお決まりの台詞は、この店に別の顔を出す。本人曰く「女体の神秘と無限の可能性に 迫った美術的な価値の高い、今回お薦めの一枚」、それをオークション形式で売る合図。 有り体に言えばエロ写真販売だ。 そして、毎回タイミングを見計らったかのようにこの時になると現れる男がいる。 「ちょっと通してくんろ」 2-C男子の夢と欲望を司る、仏の願寺こと西本願寺、その人だ。 別に予め話を通していたわけではないが、彼が現れると自然と場が引き締まり、彼のために 道が作られる。まるで聖人が海を割るかのように。 「お。今日もいいタイミングで来るねぇ」 「それで冬木君。今日の品は?」
挨拶もなく早速本題に入る願寺。 彼もまた自らに寄せられている期待を理解している。 一刻も早く見てみたい欲求に駆られている皆をとりまとめる器を持っている人物は、彼を置いて 他にはいない。 「ふふふ、今日の一枚はこれだっ!」 おおー、と沸き上がる一同。 武一が懐から撮りだした写真、それは見事なまでに瞬間を捕らえたパンチラ画像だった。 いや、もうこれはパンチラというよりもパンモロとでも言えばいいのか。 見ているだけで柔らかさを感じさせる丸みを帯びた臀部、それがウェストからなんと膝裏近くまで はっきりと写っている。 よく見ればパンツには小さな皺まで写り込み、そのフィット感たるやスカートを直接捲っても 表現できるかどうか怪しいほどの迫力。 瑞々しい太股は無駄な肉などみられず、若く引き締まったそのラインがパンツとスカートの コントラストによいよ映える。 そして地味にポイントが高い点はスカートが挟み込んでいるシャツの部分。 この生々しさが一種の芸術品とも言えるこの写真から扇情感を消さずに残している。 まさにみそ汁に置けるダシのように被写体の存在感を底上げする。 その上、要のパンツは水色のストライプ。 誰かと言わず、その場にいるものほぼ全ての喉が鳴った。 サンプルとして回し見されている写真と武一の手元に一斉に視線が集まる。 皆、彼の競売開始の合図を今か今かと待ち望んでいるが、そこへ鶴の一声。 「冬木君、被写体の情報は?」 「くっ、さすが西本。できればそこは聞かれたくなかったが……今回からは教えることができない」
その一言で高まった興奮がそのまま一気にブーイングへと点火した。 今までのお宝写真は基本的に顔が入っているものか、仮に局部的なものでも被写体の情報を 教えることが慣例だった。 それ故に、武一の一言は多くの購入者に落胆と怒りを触発させたのだ。 いくら素晴らしいパンチラ写真でも、被写体が誰か分からなければ価値が半減するというもの。 この願寺の一言で既に三分の一ほどが購買意欲を失い、その場を後にし始めている。 残りのものは不平、不満のバッシング大会。なまじ写真としての出来がよいため、彼らの熱が 自然鎮火する様子はない。 欲求不満な彼らが今にもなだれ込みそうになったその時、やはりこの男が声を上げた。 「皆、静かにしてくれろ」 ファイヤースターターでもある願寺。だが事がこういう顛末になったとき火消し役となるのも また彼であった。 逃げ腰になっていた武一に変わり、回ってきたサンプルを凝視すること暫し。 ゆっくりと口を開く。 「被写体はおそらく運動部の、いや陸上部の誰か……」 その一言にあたりはまた騒然となる。 願寺の審美眼と情報網は2-Cの男ならば誰しもが一目置くほど高い水準を維持している。 つまりここにいる男子達の中で一番と言っていいほど信憑性の高い情報持っていると言うことだ。 その彼の目を持ってして、女子陸上部員となると俄然話は盛り上がってくる。 口々にどのクラスの誰が陸上部か、と情報交換が活発になっていく。 その機を武一は逃さなかった。 一度は暴落しかかった写真の価値が、願寺の一言でまた盛り返しを見せ始めた。 ここで始めなくてはいつやれと言うのか。
support! support!
「さぁさぁ、本日のこの一枚……ってアレ?」 気が付けば手に持っていたはずの写真がない。 さっきの騒動で落としたかと思い、あたりを探すがそれらしきものは見つからない。 基本的にお宝写真は一度焼き出すとネガやデータは消す取り決めになっている。 だがそれはあんまりだという武一の交渉の末、サンプルという文字をでかでかと真ん中に 据え置くことで、焼き回しの一部許可を得たというのに、肝心のマスターが行方不明では 話にならない。 「どうしたタケ?」 「いや、参ったなぁ……写真が見あたらないんだよ」 「はぁ!? ここまで煽っておいてそりゃねーだろ!!」 「おい冬木。冗談はもういいからよ、さっさと始めようぜ!」 「オマエ、まさか本当に無くしたって言うんじゃないだろうな!?」 だんだんと険悪になってくるムードは徐々にその輪を広げていく。 あの仏の願寺さえ、穏やかな顔をしていない。よほど気に入ったのだろう。 だがそんな空気を破ったのは小さな大将、吉田山次郎の意外な一言だった。 「おい、三沢。さっきまで隣にいた石山は?」 「ん? そういえば……いない…………ってアイツ何やってんだ?」 長身の三沢がキョロキョロと周りを見れば、集団から離れてこそこそと距離を取っている 男が一人。 「おいっ! 石山が持っているあの写真もしかして……」 「……野郎、やっちゃなんねぇ事を。タブーを犯そうってのか!」 「許せねぇ……アイツは俺たちを怒らせたっ!」
高まる熱気、高まる怒気、高まる殺気。 一触即発の緊張感は願寺によって爆発した。 「総員、目標変更。標的は石山。生死は問わないが、写真だけは傷つけるな」 「「おおおぉぉぉー!!」」 怒声と砂煙を上げ、男達は壊乱人を追って走り出した。 その様相は外国で行われる牛追い祭のごとし。鬼の面構えで皆が一人の男を追いかける。 一歩間違えれば自分があの立場だったかと思うと、背筋に冷たいものが流れ落ちる武一であった。 「まぁ、石山の位置だと微妙に見えなかっただろうからね」 「……? 何の話、冬木君」 「ああ、こっちの話。気にしない気にしない。それより奈良は追いかけなくていいの?」 「えっ? あ、うん。あっちも気になるけど……」 そういって2-Cで最も影の薄い男、奈良健太郎が手にした写真は、売り切れて展示してあるだけの サンプル品。 その写真には見慣れない少女が写っていた。 「ウチのクラスにこんな娘いたかなぁって、気になっちゃって」 「さすが大和撫子好きの奈良っち。いいところに目を付けるねぇ」 「え゛っ!?」
何故か必死になって否定する健太郎を放っておき、武一は改めてその写真を見る。 距離があり、さらに沈む直前の猛烈な西日と厳しい撮影角度でお世辞にも完成度が高い一枚とは 言い難いその写真だが、武一が今回の撮影で最も気に入っているものが何を隠そうこの一枚だった。 半ば偶然の産物に近いものではあるが。 「それで、この娘。結局2-Cの誰かだよね?」 一通り言い訳を終了させた健太郎は再び武一に食い下がった。 買うか、買わないか迷っている内に売り切れてしまった品ゆえに、彼にとってはいま逃走劇を 繰り広げているあの写真以上にどうしても気になるのだ。 「想像に任せるよっ」 「じゃあ、せめてヒント。ヒントだけでも」 「んー……、一言で言えば秋の女神、デメテルってとこかな」 「……それじゃ益々わかんないよ」 柔らかそうな髪を軽く押さえながら夕暮れの屋上に佇む美少女の写真。 それは光る目元と、儚げな表情、捕まえていなければ飛んでいきそうな浮遊感が三位一体となった まさに恋する少女の姿絵だった。
というわけで、需要の欠片もない脇役達の脇役達による脇役達のためのスクラン。 群像ランブルでした。 でもあえてカテゴライズするなら虹になる、かな? 奇しくも昨日から今日にかけて、ふたご座流星群が夜空を彩り そんな日に虹チックなSSを無事投下できたことは本当に幸運だと思います。 とにかく少しでも楽しんでいただければ幸いです。
コメントは……身も蓋もないので、この一言で以て。 素晴らしい。 わりとマジ泣き。
オツカレーだコンチクショゥ! 脇役話がこんなに面白くて良いのか。 とおる、じゃなくて「三つ目」の所で不覚にもワ(ry ところで稼本大満と鳥丸犬路の読み方が気になる木。 幡磨券児も出して欲しかったなぁー等と戯言スマソ
支援
チェーンソーにワロタw
チョリソー食いたい
>>304 GJ!です。
すごく良かったです。
最初
>>296-303 を書いた理由が分からなかったんですけど最後の数行で分かりました。
確かにこのエピソードは必要ですね。
にしてもちょっと自分もその写真はほしいかも。
あと
>>306 さんと同じくつむぎが読んでいた小説の犬路や大満の読み方を教えてほしいです。
すごくよかったです。良い話から後半はなんか全く別の話であれ? って思ったけど最後に話の流れと意味がわかって納得です。 それにしてもチェーンソーかあ。なつかしいなあ、魔界塔士ですね。 これからも頑張ってください。
ここはとあるマンションのとある一室のさらにその住人の一部屋。そこでは、飲み会が開かれていた。 結論から言うと、塚本八雲は酔っていた。一目でそれとわかるほど酔っていた。日本泥酔者認定協議 会などあろうものなら、真っ先に審査対象になるほど酔っていた。 同じように、刑部絃子も酔っていた。正確に言うならば、同じではない。彼女は、塚本八雲以上に酔っ ていた。それはもう、世界泥酔者認定機構などあろうものなら、審査を受けずに試験を通ってしまうほど に酔っていた。 おお、ごっど、俺が何かしたのでしょうか――唯一、この中で素面だった播磨は、泣きながら主に問い 掛ける。実際のところ、彼の瞳は少しばかり潤んでいるだけだが、心の中では、確かに滂沱のごとく涙が 流れていた。涙じゃなくて、汗かもしれなかったが、とにかく播磨は焦っていた。 「播磨さん、どうしたんですか?」 「拳児君、どうしたのかね?」 とろんとした瞳で、播磨を見つめる二人。別にそれだけなら構わなかった。多少色っぽい程度ならば、 彼の天満一筋の心は少しも揺らがない。問題は、距離だ。そう、距離。 「どうしたんだい、塚本君。君らしくもないな、先輩を「さん」付けで呼ぶなんて」 「刑部先生こそ、生徒を名前で呼ぶなんて、不謹慎じゃありませんか」 剣呑な雰囲気で言葉を交わす二人。できることなら、播磨は頭を抱えたかった。ついでに言うなら、す ぐさまこの場を逃げ出したかった。だが、できないのだ。なんと言っても、両腕を掴まれているのだから。 まるで時代劇に出てた子役のようだ、と播磨は思う。両腕を抱え込まれている光景からすれば、あな がち間違いとは言えない。ただ一つ違う点があるとすれば―― 「刑部先生、いくら親戚とは言え、少し近づき過ぎだと思うんですけど」 「おやおや、拳児君が君を襲わないよう、わざわざ片腕を封じてあげているんだがね」 言って、二人の距離がさらに近くなる。必然、播磨と彼女らの身体がさらに密着することになる。これ では大岡捌きとは真逆だ。
「おばさ、じゃなくて、教師と生徒が付き合うよりは健全だと思いますよ」 年齢も近いですし――と、ふにふに。 「自活も出来ない子ど、っと、生徒に万が一のことがあったらと思うと、どうもね」 私はお子様と違って責任を取れるぞ――と、ぷにゅぷにゅ。 似たようなやりとりがこれまでに何度も。テントの設営は当の昔に済んでいる。何というか、 痛いぐらいに張り切っちゃっているのだ、彼の息子は。隠そうにも、繰り返すようだが、両腕 は既にふさがっている。無論、そんなことだから、二人もチョモランマの存在には気付いて いた。というか、メーター代わり。ついでに言うと、チェッカーフラッグでもある。 旗をめぐって、二人は氷面下で探り合う。先の先、敵が疲労で気が緩む一瞬の隙か。後の 先、敵が手を離す際に訪れる一瞬の好機か。どちらが先にトロフィーを手に入れるのか。な んと熾烈な戦いだろう。犬と猿、龍と虎、ハブとマングース。どれもが、この二人の前では褪 せて見える。 勝者には祝福を、敗者には屈辱を。賞品は言うまでもなく播磨。拒否権はない。逃れるため には、彼自身が勝者となる他ないのだ。だが、それを許す二人でもない。 結局のところ、彼女たち二人が先に酔っ払った時点で――否、この飲み会が始まった時点 で、播磨の行く末は決まっていたのだった。 ――とりあえず、END――
むしゃくしゃしてやった。絃子が書ければどうでも良かった。今は満足している。
うん…勢いで書いたってことがよく伝わるよ…。 それでもヤクモン萌(ry
バタン!! 「………」 「あ。…お、おかえり八雲…」 居間でテレビを見ていた天満が帰ってきた八雲に言葉をかける。しかし… 「ああ!? テメー、馴れ馴れしく呼び捨てにしてんじゃねーよ! このクソアマが!!」 それを聞くなり、八雲は座っていた姉の背中に容赦ない蹴りを入れた。 「おい、ブタメス。少しは自分の立場ってモンをわきまえろってんだよ!!」 畳にツバをはき捨てる。 「ご、ごめんね…お姉ちゃんこれからは気をつけるから…」 謝罪する天満。その表情にはありありと恐怖の色が見て取れる。だが、その態度も八雲の気にさわったようだ。 「その姉貴面した態度もムカツクんだよ! クソアマ!! ああん!?」 今度は天満の長い髪を掴み引っ張り上げる。室内に悲痛な悲鳴が響きわたった。 「痛い! 痛いよ八雲!! お願いだから、もうやめて…!!」 「…チッ!!」 舌打ちして乱暴に髪から手を離し、テーブルの上にあった。湯飲みを壁に投げつける。甲高い音とともに割れ、破片が床に散らばる。 「ところでよぉ、今からちょっと遊び行くから金よこせや」 「え? こんな遅くにどこへ…?」 「うるせーよ! どこだっていいだろーが!! いいから、さっさと金出しやがれ!」 「八雲…」 「呼び捨てにすんなっつってんだろーが!! ブスが!!」 泣く泣く残り少ない生活費の入った封筒を差し出す。それを奪うようにひったくると、八雲は中身を確認する。 「…あんだよ、シケてんなぁ…! こんだけしかねーのかよ。チッ、まあいいや…これでしばらくは遊べるしな!」 満足したように部屋から出て行く八雲を、天満は悲しげな表情で見送ったが、不意に何かを思い出したかのように振り返る八雲。 「ああ、そうだ。アタシが次に帰ってくるまでに、なんとかして金作っとけよな。どんな方法でもいいからさぁ…アハハハハハハ!!」 言い終えると、満足したかのように高笑いして、家から出て行った。 ドアの閉まる音を、天満は暗澹たる思いで聞いたのだった… ―FIN―
少しは改造しろよ
変化がないのは非常につまらんぞ。 荒らし失格だ。
320 :
友情 :04/12/15 00:01 ID:uptXoKCw
これは、周防美琴と沢近愛理がケンカをした次の日の話である。 ――放課後。学校の昇降口。他の生徒はとっくに下校している時間だ。そして、美琴は懐中電灯を片手に、愛理の下駄箱の前にいた―― 「ケッ! 上等な靴履いてやがる、あのクソ金髪女…ちょっと金持ちだからっていい気になりやがって…! フン、前から気に入らなかったんだ、ちょっと痛い目見せてやんぜ」 靴を取り出し、靴の片方に、手に持っていた何かを入れる。 「毒薬を付着させた画鋲さ。数日の間に身体を腐食させるシロモンさね…御自慢の美脚が腐り落ちていく様を楽しむんだネェ、お嬢! クックック…」 もう一足の靴に痰を吐き入れ、美琴は満足そうな表情で一人笑った。 「…さて。ついでだ、あの無愛想女にもアタシの怖さ、思い知らせてやるとするか…」 今度は晶の靴箱の前まで移動し、上履きを取り出す。 「とはいえ、コイツにはお嬢ほどの恨みはない…程々にしといてやるかねぇ…」 そう呟いた美琴。周囲を見回し、近くにあった『あるモノ』を発見した。 「まあこれでいいだろう。クックック…アタシの優しさに感謝するんだねぇ」 美琴が発見した『あるモノ』。それは、学校にはよくおいてあるゴキブリ取りであった。紙で出来ている装置の中に溜まっていたゴキブリの死骸を晶の上履きいっぱいに詰めた。 「あの無表情が歪むところが見られるかもねぇ。フッ、楽しみね…」 晶の上履きを靴箱に戻した。ちょうどその瞬間、家から持ってきた懐中電灯の電池がきれてしまったようだ。 美琴の周りを漆黒の闇が包み込む。汚い言葉を吐きながら懐中電灯を叩く美琴だったが、電池切れは直りようがない。 「仕方がない。今回はこんなとこにしとくか… あの天然バカのブス女にも仕掛けてやりたいが、アタシだけ無事だと怪しまれるかもしれないしな」 とりあえず目的は達した。もう随分遅いし、自分ももう帰ろう。 美琴は見えなくなった下駄箱を手探りで進みながら、なんとか手探りで自分の下駄箱までたどり着いた。靴を取り出し、代わりに今まで履いていた上履きを中に入れた。 「さーて、明日が楽しみだ。アイツらビチクソどもがどんな声で泣くのか、クックック…」 そう言いながら自分の靴を履いた。しかし…
321 :
友情 :04/12/15 00:03 ID:uptXoKCw
「…!!?? なっ、なんだ!? チクショウ、なにかがアタシの靴の中に…!? 痛っ、な、なんだ!? 足の裏を刺されたっっ!!!???」 慌て転げる美琴。急いで靴を脱ごうとするが、焦りのためうまくできない。、 そんな美琴を嘲笑うかのように一人の女が柱の陰から出てきた。暗いため、顔は確認できない。倒れている美琴の前に立つ。 「あら、美琴じゃない? 何をしているのかしら、そんなところで?」 楽しげな調子で声をかけた少女。曇っていた空の雲間から照った月光に、その美しい金の長髪が煌めく。 「お前…沢近!?」 「そうよ。ヒドいわね、今まで近くにいたことに気づいてくれないなんて。私たち友達なのに。ウフフ… それに、私の靴箱には上履きじゃなくて外履きが入っていたんだから気づいてもおかしくなかったのに。そんなことにも気づけないニブい頭じゃ、やっぱり大学はムリじゃない?」 美しく整った顔に笑みが浮かぶ。が、今は冷酷なイメージしか感じられない。 「ところで、どうかしら? 私からのプレゼント。靴箱にサソリを入れておいたのだけれど」 「な…!?? サソリ…だと!?」 「ええ。昨日、アナタにヒドイことを言ってしまったでしょう? だから仲直りのしるしに受けとってもらおうと思って。気に入ってもらえたかしら?」 自分が悪かった、といった感じで言う愛理。そんな態度が美琴の感情を揺さぶった。 「沢近ぁぁぁぁ!!! テメェェェェッェェェェ!!!!!」
頑張りました
323 :
友情 :04/12/15 00:12 ID:uptXoKCw
「あら、気にいらなかったみたいね。残念だわ。せっかく晶と一緒に選んだのに」 残念そうに肩をすくめてみせる。しかし、そんな愛理の態度よりも、何気なく言った一言を美琴は聞き逃さなかった。 「高野、だと…? どうしてアイツが、アタシを…!?」 「簡単なことよ。私が晶にこのことを相談したら、『おもしろそうだから協力する』って。ホント、晶らしいわよねぇ? そう思うでしょ、美琴?」 微笑み。いつもの微笑を美琴に向ける。 「テメェ、ら…!! 覚え、とけ、よ…っ!!」 「そろそろ毒が回ってきて、限界みたいね。安心しなさい、アナタの後始末は中村にやらせるわ。だって、友達の死体をほおっておくなんて、私にはできないもの」 「…さわ……ち、か…」 「じゃあ私は帰るわ。夜更かしはお肌に悪いものね。それじゃあ美琴、おやすみなさい。――いい夢を」 次の日から、周防美琴は学校を欠席し続けた。 そして1週間後、美琴が行方不明だという話が担任からクラスに話された。 ざわつく教室。心配のあまり、泣き出す者もいた。その中には、美琴の友人・沢近愛理もいたのだった。 ――FIN――
324 :
なんか荒らし呼ばわりされた者 :04/12/15 00:24 ID:uptXoKCw
>>317 誤字を修正させていただきました。改造というほどのものではありませんが。 (今→居間)
>>318 あなたの気に入らないSSを投下してしまったのは謝ります。申し訳ない。
ですが、くたばることはできません。ご理解ください。
>>319 荒らし?もしかして私のことでしょうか?なるほど。こういうジャンルを書くと荒らしにされてしまうのですね。
一生懸命つくったのですが、残念です。個人的には色々なジャンルのSSを書いてみたかっただけなのですが…
GJ!! あぁ、こんなSSもありだなと思いました。
荒らしというよりは愉快犯か。 ブラックユーモアというにはまだちょっと足りん。 笑えんから。
遅ればせながら、つむぎストーリー読破しました。 実に素晴らしい。 花井はレギュラー落ちした方がいい男になると思うんだが… 無理だよなあ、彼の場合。
>>324 あと今後も同じ路線で行く気なら、コテハン付けてくれるか注意書き付けてくれると非常に助かる。
324さん。殆ど同じに見えるものを事前の説明なしに投下されたのは あなたの落ち度であると思います。コピぺしていると私も思ってしまいました。 ジャンルの在り方は人それぞれであるので、どんな作品でも原作のイメージ をある程度持った物であるのならばよいと思います。 これからあなたの作品がどのように展開して行くかを楽しみにしています。
304さんちょっと遅くなりましたがGJ!!です! こうゆう話を待っていたんでこれからも頑張ってください!! あと、気になったんですが冬木のパンチラ写真て嵯峨野ですか?
沢近「あなたの顔見ると精神的苦痛を感じるのよ」 天満「播磨君、沢近さんに謝ったら?」 播磨「お、お嬢・・・(俺はただ水着が無くて困っていただけなのに・・天満ちゃん・・)」 一日後 播磨「目には目を!お嬢!俺に裸見せろ!そして抱き付け!」 沢近「キモイ」 天満「播磨君 愛理ちゃんと何があったか知らないけど変態さんだよ・・・」 高野「ビデオ撮ってある(ボソッ」 播磨「宇和ーーーーーーーんんんんんんんんんんんんんんんんn」 と、云う夢を見たんだがどう思うピョートル?
三島由紀夫とフーコー
正直に言ってもいいか? つまらん
334 :
Classical名無しさん :04/12/15 10:08 ID:kys859i2
おまいら、せっかくまともな作品投下されたんだから大人しくしる
前から疑問なんですが、なんでクラウンにこんなスレがあるんですか?
なんでだろーなんでだろー
338 :
304 :04/12/15 14:26 ID:hv.FIszk
概ね好評のようで嬉しい限りです。 >読み方 自分も教えて欲しいです。 orz 「とりまる」は確定ですが、稼本大満に至っては…… >ラスボス瞬殺 結構分かる方が多くてびっくり。 □の名作RPGの一つだからか、歳が近いだけなのか。 >パンチラ 西本もいい所までいってるんですけどね。 あと、そこの描写は完全に趣味です。ノリノリで書きました(笑) ではまた、機会があれば次の作品でお目にかかれることを。
かもとおおま・・・? ちなみにサガ1はコピペでも有名です、多分・・・。
あぼーん
あぼーん
あぼーん
あぼーん
あぼーん
あぼーん
保守派
星降る夜には、そんな気分になることだってあるのだ。 だから、願った。 Shooting star 「……ごめんね、か」 しんとした夜の闇の中で呟く。言葉に続いて送り出された吐息は、透明な空気の中で白く煙って見える。 漆黒の背景に光の粒を散らした夜空は、なんの返事も返さずただ静かにそこにある。そんな当たり前のこと に、声の主――結城つむぎはもう一つ溜息をつく。再び空気が白く染まり、そして消えた。 季節は急ぎ足で秋を通り過ぎ、もう冬と呼んでも差し支えない。日中も厚手の上着が手放せなくなり、 ましてや夜間は言うまでもなし。街はクリスマスの気配に染まっているとはいえ、一人出かけるのはそれな りに酔狂な行為だ。 そんな中、彼女が空を見上げているのは今日がそうするべき日――流星群が見られる日だからである。三大 流星群の一つに数えられるそれを見るのは、つむぎにとっては欠かせないイベント。同好の士とともに、空気 の澄んだ山中にさえ足を伸ばすほどのもの――だった。本来ならば。 しかし、今年彼女が選んだ場所は自身の住まう矢神市内、神社の裏を抜けた先にある小さな高台――天文部 の活動の一環として、いくつか見繕っていた場所のうちの一つ。確かに近場ならばベストポジションだと言え るが、当然ながら例年に比べればランクは落ちる。 けれど、それでもつむぎは今年、その場所を選んだ。理由はただ一つ。彼と同じ街で、同じこの空の下で、 それを見たいと思ったからだ。彼、とは無論、言うまでもない。 ――それなのに。 「重症、かな」
夜の空気に包まれていると、あのときの光景が脳裏をかすめる。自ら立てた目標から逃げることをよしと しない、そんな彼女でさえ無謀と判断するその試み。それをいっそ諦められるかもしれなかった――けれど 出来なかった、苦い記憶。 自分はいったいなにに負けたのか。 答の出ない問いかけ、そして『ごめんね』という言葉がくるくると回り続ける。あの言葉にどれだけの意味 が込められて―― 「おや、結城君じゃないか」 聞こえるはずのない声に思考が途切れる。え、なんて間の抜けてるとしか言いようのない声がもれ、とくん、 と鼓動が不自然に跳ね上がる。 だってそれは。 「花井、君……?」 それは彼――花井春樹の声だったから。 「なにをやっているんだ? もう夜も遅い、こんな所に一人でいては危ないぞ」 「え、あ……そ、それなら花井君だって一人だし」 しどろもどろになりながらもどうにか紡いだその反論は、返す言葉であっさりと打ち破られる。 「ん? 別に僕は一人というわけではないぞ」 一人じゃない。 前提条件はそれ一つ、けれどそれで十全。導かれる解答は考えるまでもない―― 「どうかしたのか……って、あれ、結城さん?」
果たして、彼のあとから現れたのは、つむぎの想像通り周防美琴の姿だった。先程とは違う意味で、再び早く なる鼓動。対し、美琴の方もどことなくばつの悪そうな顔。なんとなれば、行事が立て込んでいたせいもあって、 件のゲーム以降、あまり会話をする機会のなかった二人。わだかまり、と言っては大袈裟だが、双方ともに抱え 込んでいるものはある。一瞬、そんな微妙な空気が場を支配しかけるが、 「偶然ここで会ったんだが……もしや家出か?」 「そんなわけないでしょっ!」 春樹の一言であっさりと霧散する。相変わらずのズレた部分に感謝しつつ、流星群よ流星群、と続ける。 「そうだよな。っつーかさ、花井はもうちょっと頭使えよ」 「なに? この僕に頭を使えとは……」 「はいはい、分かったよ。……にしても、ここって結構とっときの場所だったんだけどね。知ってたんだ」 「うん。これでも一応天文部だし」 そっか、と頷いて、一拍間を置く美琴。すっ、とわずかに大きめに息をするその姿を見て、つむぎの方も、 来るんだな、と直感する。 「こないだはさ、その……」 「ううん、気にしてないよ。私の方もちょっと大人気なかったし、それに」 予想通りに投げかけられた言葉に、彼女は答えた。 「ゲームだったんだから」 ゲームだから。 自ら口にしたその答えは、つむぎ自身に予想外の動揺を生む。 つまり、だからこそあれほど自分は『本気』になれたのではないだろうか、と。
今まで口に出したことも、素振りさえ一度も見せたことのない秘めた想い。それを激情とさえ言える形で表に 出せたのは、あれがゲーム――単なる遊戯にすぎなかったからではないのか。そんな思いがつむぎの頭をよぎる。 事実、あれから現実はなんの変化も見せてはいない。変わらない、変われない、自分。 そばにいられるだけで幸せだ。 報われなくても構わない。 そんなことを言えるほど、この気持ちは甘くない。 もっと強くて。 もっと激しくて。 そして、もっとどろどろしたものだ。 あのとき、確かに自分は周防美琴という存在を打倒しようと思っていた――そう振り返る。 「確かにあれは熱くなりすぎていたな、周防らしくもない」 「っ、なに言ってんだよ。花井だってあのあと……」 にもかかわらず、今目の前にあるこれが現実だ。彼の隣には彼女がいて、そして楽しげに会話を交わす二人を 微笑ましいとさえ思っている自分がいる。笑い話にさえならない、絶望的にも過ぎる状況。 「いくらなんでも『美コちゃん』はないだろ」 「くっ、あれはだな……」 なのに、悔しいけれどやはり微笑ましいその光景が、不思議とささくれだった心を癒してくれる。気心知れた 相手だからこそ出来る、親友という言葉に相応しい―― 『――そっか』
そこでようやく思い出す。 そんな、なんだかとても絶望的な気がする恋は、けれどまだ誰もスタートラインに立っていない――そう、美琴 さえその場所にはいないのだ。 二人の走るべき距離には信じられないくらいの差がある。それでも、まだなにも始まってはいない。 勝負はフタを開けてみるまで分からないし、越えるべき山は高いほど登りがいがある。 それは見失いかけていたつむぎのポリシー。 「まあまあ、せっかく見に来たんだからさ、仲良く見ようよ」 やるべきことさえ見つかれば、あとはただそれに向かうのみ。戦うべきは他人ではなく自分、そして果たすべき 目標。ただそれだけ。抱えていたわだかまりは消えないけれど、これから乗り越えていかなければならないものの ことを思えば、それはもはや障害でさえない。 だから彼女は微笑んで二人に声をかける。今日はそれでいい、そう思えたから。 「……うむ」 「ごめん、そうだね」 そして、互いに申し訳なさそうにしている二人の間に立って空を見上げる。彼方を流れる光の姿はまだない。
『流れ星、か』 星に願いを。 そんな言葉はあるけれど、それで願いが叶えば誰も苦労などしない。ましてやただの他力本願は、彼女が最も嫌う ものと言っても過言ではない。 それでも。 それでも、星降る夜にはそんな気分になることだってあるのだ。 『なにがあっても、最後にはちゃんと笑えますように』 ――だからそう願った。 甘い甘い、偽善にも似た願い。 それでも、どうせ願うなら大きい方がいい。叶えてくれるならそれに越したことはない。もしも駄目なら。 『自分で叶える』 つむぎが願いにも似た誓いを胸の内で立てたとき。 その晩最初の星が、空を流れた――
なんかこう、いろいろと影響されすぎているのは気のせいです。 ……嘘です見逃して下さい。 むしろあんな素敵極まりないつむぎを見せられると(以下延々と続く
最近このスレもダメかと思ってましたが… いい作品が来てよかったです。
花井って捨てキャラ?
>>353 GJ!でした。
なんか虹派になりそう。
つむぎには幸せになってほしいんだけどなぁ。
作品投下シマス。 タイトルは『Art of nostalgia』。
春、某日の放課後。 「いらっしゃい、播磨くん」 「……うーす」 美術教師、笹倉葉子に呼び出されたのはヒゲにグラサンの男子生徒。校内一の不良と名高い播磨拳児だった。 そんな播磨に対しても、笹倉はまったく動じることなく語りかける。 「どうして授業サボったりしたの?」 「フリョーがクラスメイトと一緒にお絵描きなんてガラじゃねぇよ」 「そんなことないと思うけどなぁ」 おっとりとそう言う。 播磨ははぁとため息一つ。彼女が本気でそう思っているのがわかるからだ。 「んなことより、なにすりゃいいんだ?」 「皆にはね、人物画を描いてもらったのよ。二人一組でお互いを描いてもらったの」 「……マジ出てなくてよかったぜ」 はっきり言ってぞっとする。こういうときは普通男女が一緒になることはない。愛しの女性を描くと言うのなら別だが、何が哀しくて硬派で通してる不良が男と向き合って絵を描かにゃならんのだ。 まあそうはいっても単位は欲しい。また留年の危機を迎えるわけにもいかない。だからこそ素直に呼び出しに応じたのだ。
「んじゃ俺はどーすんだ? 自画像でも描けばいいのか?」 「ううん、相手、いるでしょ?」 「は?」 きょろきょろと美術室の中を見渡す。誰もいない。 「だーかーら、目の前にいるでしょ」 「…………マジ?」 「マジ、よ」 「あー、仕事は?」 「今日は大して忙しくないのよ。播磨くんが終わってからでも間に合うわ」 にっこりと。その微笑みを見て、反論はまったく無意味と知る。こういうときの彼女には敵うはずがない。同居人にして自分の知る限り最強・最凶のジョーカーである絃子ですらあっさり手玉に取る存在を相手に噛み付く気は起こらない。 大人しく席に着き、画板に紙を数枚はさみこむ。 笹倉もその対面に座ると組んだ手を膝上に置き、動きを止める。 「センセ、別にじっとしてなくていいぜ。仕事してていーよ」 「え?」 「別に写真撮るわけじゃねぇし。絵なら融通効く」 「……それ、覚えてたんだ拳児くん」 笹倉はふっと一際柔らかい笑顔になる。一方の播磨は照れたように視線を逸らしながらさっと鉛筆を滑らせ始めた。
播磨拳児の絵の才能に気付いたのは、目の前の女性が最初だった。そして彼に絵の基本を教えたのもまた笹倉葉子だ。 出会いは、ずいぶん昔のことになる。 葉子が高校のときに刑部絃子と出会い、仲良くなってしばらくのときだった。 たまたま絃子の家に遊びに来ていた葉子がそこで出会った小生意気な腕白小僧。それが播磨拳児だった。 また、幼い拳児にとっても、葉子との出会いは大きな意味を持っていた。 拳児の周りにいる大人の女性は、一様に厳しい人ばかりだった。 喧嘩っ早い拳児を煙たがり、問題を起こすごとに厳しく叱り飛ばす。例えどんな理由があったとしても、拳児は常に悪者だった。 刑部絃子も厳しい人だったが、きちんと理由を聞き、それが筋の通るものならば咎めはしなかった。 もっとも筋の通らないときは誰よりもキツイお仕置きが待ち受けていたが。それでも話を聞いてくれる分、拳児は絃子には懐いていた。 そんな中で、常に微笑んでいる葉子の存在は播磨にとっては未知のものだった。 明らかに拳児が悪いようなときも、優しく額を突いて「めっ」とやんわり諭す葉子は、一回り以上歳の離れた弟しか持たない拳児にとってまさに憧れの『優しい姉』そのものだった。 だからだろうか。 拳児は葉子にだけはめっきり甘えてしまうようになっていた。
『よーこねーちゃん、あそぼーぜっ』 『……拳児君、私の部屋にノック無しに入ってきて第一声がそれか?』 『まあまあ絃子先輩、そう怒らなくてもいいじゃないですか』 『葉子、キミは甘すぎる。第一今日は絵を仕上げないといけないんだろう? ただでさえこんなところで描いているというのに子供に付き合う時間も必要も無いじゃないか』 『大丈夫ですよ、ちょっとくらい』 『まったく……。拳児君、今日は葉子は忙しい。大人しく帰りなさい』 『えーっ!?(ギロリ)ハイワカリマシタ……』 不満を口にした瞬間に、殺す目で睨まれてあっさりとそれを引っ込める。肩を落としてスゴスゴと引っ込もうとするところを、 『じゃあ拳児くん、一緒に絵、描こうか?』 やっぱり優しく葉子が引きとめた。
『うあー、ぜんっぜん上手くかけねぇ……』 『どれどれ……。そんなことないわよ。拳児くん、よく描けてるわ』 『でもこんなんだぜ?』 拳児の画用紙には、かろうじて葉子?と思われるものが描かれていた。 『そうねぇ、じゃ私が基本的なこと教えてあげるわ。一緒に絃子先輩の事描きましょ』 『……葉子、私もモデルをやれるほどヒマじゃないんだが』 そう言う絃子はストラトを肩に新曲作成中だった。アンプには繋がず、ごく小さい音を並べながら譜面にコードを書き込んでいる。けっこう煮詰まっている様で、言葉からも表情からもトゲと苛立ちが見える。 気弱な子供なら泣き出しそうな今の絃子の視線をあっけらかんと受け止めたまま、葉子はあっさりと、 『別にじっとしててください、なんて言いませんから。先輩はそのまま続けててください』 『ああ、そうさせてもらう』 そういうとすぐに顔を伏せて自分の作業に戻る。 『……俺、じっとしててもらわないと絵なんて描けねーよ?』 『拳児くん。絵はね、ありのまま描くだけじゃないのよ』 そう言うと葉子は素早く手を動かす。見る見る画用紙に絃子の姿が浮かび上がる。 『おおっ!?』 しかし彼女がその腕に抱くのは愛用のストラトキャスターではなく、大きなハープ。服装も古代ギリシャ人が着るような貫頭衣だ。それはさながら―― 『タイトルは、≪音楽の女神≫ってところかしら』
うんうん、と満足げに葉子。当の絃子はしっかり集中しているためかこちらを見ようともしない。もしかしたら本当に聞こえてすらいないのかもしれない。 しかし一方で拳児は少し首を捻る。 『でもさー、女神って割にゃ表情キツ過ぎない?』 『そうね。なら――』 ちょちょいと手を加える。それだけで、 『…………すげぇ……』 絵の中の絃子は、拳児が見たこともないような慈愛に満ちた温かい微笑みを浮かべている。彼女の奏でる音楽は、間違い無く優しい曲だと、そう思った。 『……と、まあこれは私のイメージした絃子先輩。モデルはそれほど重要じゃないわ。 大事なのはイメージすること。感じたままを描けばいいのよ』 『感じたまま……』 『そう。言っちゃうと、全部想像で描いたって全然いいの。写真じゃないんだからそのあたりは好きに描いて問題ないわ。 ううん、むしろそういうこと描いたほうが描いてる方だって楽しいじゃない』 そう言う葉子は本当に楽しそうで。拳児は、彼女が本当に絵が好きなんだなぁ、と改めて思うのだ。 『じゃ次は描き方の基本、教えてあげるね。まずは――』
拳児の飲み込みは早かった。絵の最も基本である形の把握は天性のものがあった。だからラフスケッチでそれをきちんと形にすることをまず教えた。それだけで目に見えて拳児の絵は見事になっていった。 とりあえず、今日はそのまま彼に描かせることにする。枠にはめるよりも、好き勝手に描かせて、彼が壁を感じたときに助言すればいい。 一心不乱に描く拳児を見ながら、葉子は、 (なんだか先生みたい) と思い、くすりと微笑む。 『できたっ!』 『あ、出来たの?』 『ほらっ』 『ぷっ……け、拳児くん上手上手〜〜』 一目見て、葉子はけたけたと笑う。そんな葉子を見て拳児はえっへんと胸を張った。……しかしその直後、葉子の背後から伸びた腕に画用紙を奪われた瞬間に彼は凍りつく。 『ほう、拳児君、出来たのか。どれど……』 出来上がった拳児作の絵を見て、絃子は無言で愛用のハンドガン(改造済み)にリロード。拳児は全力で逃げ出し、葉子は怒りに狂う絃子を羽交い絞めにて何とか押さえつけた。 そんなドタバタのせいで絵が宙を舞う。その絵にはギターを必死に弾く絃子の姿が。しかし、何故かその頭には悪魔のような角が、その口元には鬼のような牙が付いていた。
昔を思い出しながら、播磨は鉛筆を動かす。 目線の前には、あのころより髪が伸びた葉子。しかし変わったのはそこだけではない。あのころの笑顔と今の笑顔には違いがある。 どちらが良い、というものではない。時が経った。そういうことなのだ。それでも―― (それでも寂しいとか思っちまうのは、感傷か……) そんなことを思いながら、最後の仕上げを済ませる。 出来た。 これを提出しようと、腰を浮かしかけ――また、椅子に身を預ける。 ふと、思いついたことがあったのだ。 播磨は完成した絵をひっくり返して隣の机に置くと、まっさらな画用紙に再び鉛筆を滑らせた。
葉子は採点中の手を止めると、そっと対面の男子を見る。 ……大きくなったなぁ。そう、思った。長いこと会わなかった間に、いつのまにか身長は追い抜かれ、かつては屈んで頭を撫でてあげた男の子は、今はこちらが見上げなければならないほどに。 ……ちょっと、寂しいかな? そんなことを考えてしまう。 その瞬間、播磨も顔を上げた。二人の視線がぶつかる。 「拳児くん、出来たの?」 「ん、終わった」 「そう。じゃあもう帰ってもいいわ。……それとももう少しここで描いていく?」 「んー、いや、帰るわ」 「そう? いつでもここにいらっしゃいね」 「……気が向いたら、な」 そういうと薄い鞄を引っさげて播磨は歩き出す。 引き戸を開ける。そこで、振り返らずに播磨は言った。 「……じゃあな、葉子姉ちゃん」 「ええ、またね。拳児くん」 手をひらひらさせながら美術室を出て行く播磨を見送る。 なんだかんだいっても、やっぱり変わってない。やっぱり彼は可愛い弟だ。
「あら、二枚?」 播磨が机の上に残した画用紙を手に、葉子は首をかしげた。 ま、いっかと深く考えずに播磨作の絵を取る。 よく描けてる、素直にそう思う。でも、ちょっと美人さんに見えるなぁ。微苦笑しながら紙をめくり送ってもう一枚のほうへ。 それを見て、珍しく――本当に珍しく、葉子は驚いた。大きく目を見開く。そして――それはすぐに笑みに変わる。いつものおっとりとした微笑みではなく――少し子供っぽい、『嬉しいから笑う』といっているような、そんな笑みだった。
それから半年後、文化祭当日。 「葉子姉ちゃん、ありゃどーゆーこったっ!?」 「あら拳児くん。ウェイター姿、良く似合ってるわ」 「んなこたぁどーでもいいっ、何であの絵が飾ってあんだよ!?」 「何でって、今日は文化祭よ。生徒作品の展示は美術担当なら当然でしょ?」 「そりゃわかる! けどなんであれだけあんなにでかでかと!?」 「んー、それはね……」 人差し指をぴっと立てる。まるで重大な何かを発表するように、葉子は声を潜めて播磨の耳元で囁く。 「私のお気に入りだ・か・ら(はぁと)」 その言葉に、播磨はがっくりと崩れ落ちた。そう言う理由なら彼女がアレを引っ込めてくれるはずがない。実力行使もムダ。ヘタすりゃ100倍になって返ってくる。 大人しく晒し者にならなければならない現状に播磨は心の中で涙する。 「それより拳児くん、いいの?」 「……何が?」 「こんなところでその呼び方。拳児くんが『葉子姉ちゃん』って呼んだから私もいつもどおりにしてたんだけど」 「…………あ゛」 現在場所、2−C主催・茶道部共催の喫茶店。 クラスメイト達や客の好奇と、友人一同の妙に冷たい視線が播磨に突き刺さる。
美術室。生徒作品展示として廊下の壁に多くの絵や彫刻などが並んでいる。 そんな中、特に目立つ場所にきちんと額に入れられた作品があった。その中には『作者 2−C 播磨拳児』の名と、二枚の絵。 一枚には、緩やかなウェーブを描く長い髪の大人の女性。その表情には慈しみに満ち、おっとりとした微笑を浮かべている。例えるなら、月のような女性。 そしてもう一枚には、弾けんばかりの笑顔で笑う、セミロングの女の子。生き生きとしたその笑顔は太陽のようだ。その余白に、子供の書いたような字で大きくこう書いてある。 『よーこねーちゃん』と。
以上で『Art of nostalgia』、終了です。 ではあらためて。 はじめましてー、『Art of nostalgia』作者、??な者と言います。 スクランSSはこれが初。 それが笹倉先生ってのはどうかとも思いつつ、やっぱり好きだからいいじゃん、と開き直ったり。 ネタがあったらまた書いてみたいので、その時はよろしくお願いします。 んで、『Art of nostalgia』ですが、播磨の絵の上手さについてと、それに準えて文化祭に絡めてみました。 せっかくの『文化』祭だから、本編でも笹倉先生のエピソードが欲しいです。
リアルタイムで読ませてもらいました。GJ!
>370 素晴らしい。くそ、この二人絶対に接点があると睨んでいる んだがなぁ、原作ではその暇がない。
2-C担任と葉子の繋がりの方がありそうだが
なぜ谷となんだ。
>>240 GJ
とてもよかったよ。またこういうのを読みたいねぇ。
GJ! 最近再び活性化してきたようで、嬉しい限り。
駄文しか書かない癖に頻繁に更新を繰り返す業者っぽいサイトがあるんだが
知るか
ほのぼの〜
よーこねーちゃんラブ! とにかくGJでした。
祝良スレ復活
GJ! IFスレならではの良さを感じました
>>370 GJ!でした。
こういうほのぼのした話っていいなぁ。
葉子先生にも惚れちゃいそうだし。
>>373 谷先生と関わりがあるとしたら姉ヶ崎先生の方だと思う。
葉子先生との関わりは皆無じゃないか?
384 :
伯白 :04/12/17 18:17 ID:8opG7JFs
一本短いの落とします
385 :
伯白 :04/12/17 18:18 ID:8opG7JFs
プロローグ 12月、季節は完全に冬となり朝の気温が氷点下になることも珍しくはなくなった。 学生にとってのこの季節の朝は大変厳しいものになる。 そう彼もその一人 「まじかよ。明日の朝の気温は−2度?やばいな〜」 街はすっかり暗くなっているが時刻はまだ5時半。テレビの天気予報を見ていた 播磨拳児は事態をそう深刻には考えていなかった。 「明日の朝さみーんだろうな〜。コート出すか」 フローリングに座っていた拳児は立ち上がり自室の押入れを開けて古びたコートを出した。 茶色い少し肩がほころびているコート。彼はこれを3年ほど無理して着ていた。 「よっと」 コートを着てみると腕は釣りあがり、丈はお腹まできていた。 「まあいいか。着れないこともないな」 そういって鏡を見ようと歩こうとすると、 ビリッ 不吉な音がした。コートの肩が外れている。それだけでなく背中までもが縦に切れている。 「うわっ、やべっ」 焦って脱ぐはいいがもうどうしようもない状態にまでなっていた。 思い入れのあるコートならこれでも修繕すれば着れる、となるがそれほど思い入れもなく 幸い彼の懐には少し余裕がある。 「買いに・・・行くか」 フードの付いた服を着ると鍵をかけ寒空の下へ彼は出かけていった。
386 :
伯白 :04/12/17 18:20 ID:8opG7JFs
氷点下0度。天気曇り。これらが表すように外は非常に寒かった。 いやコートがあればそうでもないだろうが彼が上着に着ているのはシャツにフード付の服の二枚だけ。寒さを凌ぐにはさびしい様相だった。 ちょっとした大通りに来ると街はイルミネーションの明かりに照らされていた。 「2000円くらいがいいよな〜」 そうつぶやきながら幾多の店の前を通り過ぎていく。2000円の壁は高かった。 このご時世安い所はいくらでもあるのだが2000円のコートなどそう見つかる物 ではない。もう通りでのウインドウショッピングを2周ほどしたころ 「やっぱしねーなー。2000円がまずいかな」 そんなことを考えていると。横の店から女の人が出てきた。 ドン 肩と肩がぶつかる 「痛てーじゃねーかよ、おい」 不良らしく絡みに行くが、そこであることに気がついた。彼が呼び止めた人の髪は長く肩にかかっていて、背は少し高い。そして見慣れた背中。 「なんだい拳児くん。私にケンカ売ろうとはいい度胸じゃないか」 ストレートの髪をなびかせ振り向くとそれは播磨拳児の同居人、刑部絃子だった。 拳児の顔が色を失っていく。 「いや〜。今日も寒いですね〜絃子さん」 「君は私を怒らせたいのか謝りたいのかどっちなんだ?」 凛とした目が拳児を捕らえる。 「すみませんでした」 「素直でよろしい」 先生の貫禄だろうかいやそれ以上の何かがあるのであろう、拳児はいつも頭が上がらない。 「元々同居させてもらってる身、その辺の身分きっちり理解してもらわないとなぁ。拳児君」 「ご指摘ごもっともで」 すこしありえない冬の1ページ、一人の学生と一人の女性の一夜だけの物語
387 :
伯白 :04/12/17 18:20 ID:8opG7JFs
「present for you」 吐く息は白く待ち行く人々は少し厚い服を着込んでいる。そんな中に男が一人・・・ 「まあいいとしよう、しかしだ拳児くん。その格好はなんだ?」 たしかに彼の服装は季節に合致しない薄着である。 「かっ、関係ねーだろお前にわよ」 痛い所をつかれ明らかに動揺する拳児 「ははん、さてはあの古いコートを出したはいいが着てみると小さすぎ破けてしまい仕方なく買いに来たが予算をまったく現実と合致させずに来たためどうしようもなくウロウロしていたんだな」 的確かつ完璧な推理である。その完璧さのあまり拳児は少し後ろに退いた 「な、なんか悪いのかよ」 「いやなに、今回はこの可哀想な同居人のために私が一肌脱いでやろうとしているんだ。ありがたく思え拳児君」 呆然とする拳児。それもそのはず。同居人とはいえども二人の生活は住まい以外は完全に別物。拳児が家賃として絃子に払うことはあっても、絃子が拳児に物を買うなど奇跡に近いことだった。 「なっ、なっ、なんとおっしゃいましたか絃子サン」 驚きのあまり無意識の内に敬語になる拳児 「だから、私が君に服を買ってやろうと言っているんだ。ついに日本語も分からなくなったか?」 「・・・。なぁーーーーーーーーーーーーーーにーーーーーーーーー!」 街に拳児の咆哮がこだました。天変地異、まさしくこの言葉が拳児にはひらめいた。 そう世界が変わったのである。これは夢だ、拳児は頬をつねった 「いててて」 「ついに頭がパーになったか?拳児君」 頭を叩く絃子。石化した拳児。街に一陣の風が吹いた。
388 :
伯白 :04/12/17 18:23 ID:8opG7JFs
石化中の拳児、世界が一瞬で変わったのだ無理もない 「(どういうことだ、絃子が俺に服をおごる? もしかして俺なんか悪いことしたか、それで報復する前に機嫌をよくさせといて一気に下げるとかか?)」 現実を受け入れようとしない拳児を引きずって店に入る絃子。すこし高級感が出ている 紳士服の店で品定めをする絃子 「どうだ拳児君?こんな色は?」 絃子が手に少し明るいグレーの服を持って振り返る。その姿は初デートの少女のようでもあった。 「えっ、いいと思います」 まだ状況に頭が着いていっていないのか返事もあやふやである 「おい、君、私が真剣に選んでやっているんだ、もっと身の入った返事があるだろう」 「すごくいいと思います、はい」 絃子が『まったく・・・』と言っているのを横に聞きながら拳児は過去の悪行を振り返っていた 「(先週そういえばゴミ出しサボったな、そういえば先々週は食器割ったな、いや3日目の絃子の靴踏み潰したことか・・・。あ〜分からん)」 頭を掻きながら必死に思い出そうとする拳児 「まったく何をやっているんだ君は。それよりもだこの色はどうだ?」 この繰り返しが約10回続いただろうか。お店の扉が開き一組のカップルが入ってきた 「あれ?刑部さんじゃないか。どうしたんだい?こんなところで」 カップルの男性は絃子を知っているようだった。この男性から声がかかったとき明らかに絃子の表情はおかしくなった 「や、やあ。君こそどうしたんだい?こんな所に」 動揺は言葉に現れていた。手に持っていたコートを元に戻すと少し二人で話したいと店の隅へ行った。 「何なんだいったい」
389 :
伯白 :04/12/17 18:24 ID:8opG7JFs
まだ拳児は顔を見てはいなかった。 4人以外は客は誰も居らず少し耳を澄ますと会話が聞こえてくる 「そういえば君に貰ったプレゼントもコートだったよな。」 「そうだったか?」 「そうだよ、そうこんな色のコートもらったよ」 男性が取り上げたコートは一番最初に絃子が拳児に勧めた物だった 「じゃあ彼女が待ってるし行くよ、またな」 男性が拳児の方を向いた。そこで拳児は気づいてしまった。自分の顔とその男の人の顔が非常に似ていることを、そして理解した絃子が自分とその人を重ね合わせていたことを しばらく後 「帰るぞ、絃子」 「こら、さんをつけろ」 絃子は知っていた、これが彼なりの優しさだと。彼はこのようなやさしさの表現しか出来ないことも。 「分かりましたよ、絃子さん」 そしてまた彼も知っていた。彼女の過去には触れていけないと、それだけ彼女がもろく壊れやすい存在だと。 次の日の朝 「ふぁ〜あ」 大きなあくびと共に起きた拳児の目に大きな袋が目に入った 中には真っ黒なコートが一着、そして一枚メモが入っていた。 拳児君へ まあ早いクリスマスだ、ありがたく受け取りたまえ。値段は13000円 家賃と一緒に払うように。 P.Sありがとう 「馬鹿野郎だな俺も」
390 :
伯白 :04/12/17 18:28 ID:8opG7JFs
いかがでしょうか? 感想も叩きも(後者は少ないほうが・・・)よろしくお願いします
乙でした。マターリしたいい話でした。 謎の男の正体が気になりますな。 それにしてもカップル投票と反して何故か超姉派が多いですな。
人気出たの投票期間後だからな
7巻で数コマしか出てない…。でも萌え。
>>390 GJ
播磨が絃子を呼び捨てにしてるのをうまく使った作品だと思いました
>>391 超姉は好きだけど、一番好きな派閥ではない人が多かったのでは?
かく言う俺はおにぎりに入れてしまったorz
>>390 GJ!でした。
やっぱ絃子っていいですよね。
そして拳児のさりげない優しさが良かった。
>>395 自分も超姉は好きですがそれ以上に旗が好きなのでそっちに。
もしかしたら超姉派って他の派閥と被ってる人がかなり多いんじゃないですかね。
超姉は好きだけど最終的にはおにぎりか旗、神王道って人が大半だとか。
397 :
??な者 :04/12/18 11:33 ID:WQIshcdU
投稿シマス。 七巻ゲット、読破後に八巻収録分を思い起こしてたら浮かんだネタです。 タイトルは『たとえばこんな演劇シナリオ』。 ……うわ。なんて、安直――。
12月24日。クリスマスイブ。 矢神駅前で、私は一人佇んでいた。 何人もの男の人が声を掛けてきたけど、気にもしなかった。 アイツを見つめていたから…… 実際に、誘いはあった。 でも、全て断った。 日本では、イブが大事な日でも、イギリス育ちの私にはピンと来なかったから。 なによりも、大事な人と過ごしたかったから…… そして、イブ当日。 喧騒が響く駅前で、アイツはケーキを売っていた。 プラカードを持って、サンタの格好をして、 「ケーキ、いかっすかあ」と声を張り上げていた。 そんなアイツを私は見つめていた。
399 :
??な者 :04/12/18 11:34 ID:WQIshcdU
うあ、被った。 お先にどーぞ。
あ、ごめんなさい。投下中止します。
時間的にそちらが先なので、どぞ
402 :
??な者 :04/12/18 11:38 ID:WQIshcdU
すみませんー。 では、投下します。
じゃ、こちらは一時すぎに投下します。
それは、いつかどこかの物語。 あるところに、『ニーシー王国』という国がありました。 小国ながら、美しい国土は恵まれた土壌、豊かな水を湛え、楽園の代名詞にも使われるほどです。 その国に、一人の姫君がいました。名を『テンマ姫』といいます。 妖精と称えられるほど可愛らしく、この国の皇太子の一人娘という背景もあり、彼女には求婚者が絶えません。 今日もまた、一人の貴族の若者が彼女に愛を語りに城を訪れています。 しかし―― 「一昨日来い、ヒョーロク玉が!」 ヒゲに黒眼鏡で強面の男が摘み出します。 一見そこらのチンピラのようですが、彼は実は、 「テンマにちょっかい出してぇんなら、俺を倒してからにしろや!!」 何を隠そう彼こそが第一王子、つまりはニーシー王国皇太子にしてテンマ姫の父親、ハリマ王子です。
親バカにしてバカ親の極地に立つ彼は、娘テンマ姫を溺愛していました。そのため、テンマ姫は今まで同年代の異性とは接したことすらありません。 しかし仮にも一国の姫君。放って置いても縁談やら求婚者は湧いてきます。それに加え、テンマ姫自身ももう年頃。本やらなにやらで知識を得たのでしょう、恋に恋するようになり始めました。 ハリマ王子にとって、最も恐ろしいのはテンマ姫が自分を嫌うことです。男を頭ごなしに追い返しては、いつかはテンマ姫が怒り出すのは予想できます。それは避けなければなりません。しかし悪い虫が付くのも耐えられません。 ハリマ王子は考えました。そして出た結論。それが、 『俺より弱ぇやつにテンマは任せられねぇ。 テンマと付き合いてぇんなら、俺を倒してからだ!!』 と、いうものです。 ちなみにこのハリマ王子、ニーシー王国どころか大陸最強と呼ばれる猛者だったりします。今でこそ妻を娶り子供まで居るので落ち着いてはいますが、その昔は世界中を渡りえらそーな悪人やら喧嘩売ってきた秘密結社なんかを潰し歩いたという伝説の持ち主。 ある意味『蓬莱の珠の枝』や『火鼠の皮衣』を持って来い、というよりも無理難題だったりします。 その結果、求婚者の数は激減しました。 それでもゼロではないのは、身の程知らずや自信過剰、またはハリマ王子の噂をデマと決め付けるバカがいるからです。 そんな連中を趣味の絵画の合間に叩きのめし、ハリマ王子は今日も愛娘を愛でるのでした。
ところで、テンマ姫ですが。 彼女には母と護衛の女騎士だけが知る秘密がありました。それは―― 「カラスマ君、遅くなってごめんね」 「…………(ふるふる)」 そう、彼女にはすでに好きな男の子がいたのです。 彼の名はカラスマ。没落した小貴族の息子で下級騎士です。 恋に恋していたテンマ姫ですが、偶然にカラスマと出会い、それは見事に形を成したのです。彼女は初めての恋に戸惑いつつも、母や幼馴染でもある女騎士に励まされて、見事にその恋を実らせていました。 しかし、これが父に知れたら大変なことになります。二人が引き離されることは、容易に想像できました。 だからこそ、人目を忍んでわずかの時間だけが二人のデートです。といっても城の裏の林でのんびりしているだけなのですが。 それでも、二人にとってこの時間は掛け替えの無いものでした。
そんな、いつものデートの時間。その日のカラスマは、いつものボーっとした雰囲気がわずかに薄れ、何かの決意をその瞳に宿していました。 「……テンマ姫」 「えっ? な、なにかな、カラスマ君」 「……僕は……ハリマ王子に挑戦しようと思う」 「えっ!!?」 その言葉に、テンマ姫は驚きました。カラスマは騎士ではありますが、極端に争うを嫌う性格でした。その彼が、父と戦おうというのです。驚かないはずがありませんでした。 「ど、どうして……」 「……いつか、僕たちのことはハリマ王子にばれる。そうなったら、離れ離れになってしまう。 僕は……それは、嫌なんだ」 「カ、ラスマ、君……」 ぽろぽろと、テンマ姫の大きな瞳から涙がこぼれます。 「泣かないで。……きっと、勝つから」 「…………うん、うんっ」
「……なあ、高野」 「なに、美琴さん?」 「やっぱ無理ないか、この台本。 つーかこれ台本じゃないだろ。単なるあらすじじゃん」 ぱさり、と読んでいた薄い本を机の上に放る。どうやらそれが台本らしい。 「塚本さんをメインに据えるのを決めたときに綿密な台本なんて破り捨てたわ。 というよりこういう風にしないとかえって劇が崩れてしまう可能性が高い」 「…………まあ塚本だしなぁ……」 美琴は大きくため息。彼女は天満とは中学校は一緒ではなかったために天満が中二の時の劇の惨状は知らないが、それでも『普通の劇』をやった時の大混乱は容易に予想できた。 「……うわ、ひっでぇ」 そう、思わず声が出てしまうほどに。 ある意味美琴も酷いことを言っているのだが、その予想は『ピーターパンの悲劇 〜ティンカーベルの乱〜』の異名を持ってすでに現実となっているものだった。例え誰かが美琴の言葉を聞いていたとしてもそれを咎める者はいまい。 「まあそんな訳で劇は基本的に決まったセリフはほんの少しだけ、ニュアンスが違わなければそれもアドリブにしても良しってことにしたのよ」 「わかった、それには納得したよ。でもさ……」 美琴は腕を組み、厳しい目をする。その先には、薄っぺらい台本、その最終ページ。 ハリマ王子が二人の逢瀬を目撃して激怒。強引にテンマ姫を城へ連れ戻し、カラスマに翌日の決闘を叩き付けるシーン。そしてその直後の展開。そこで終わっている。締めのはずの、決闘シーンがすっぱりと存在していない。 要するに、クライマックス直前で台本が終わっているのだ。 「マジでラストは一回きりのアドリブにするのか?」
そう。これが監督・高野晶の最終決定だった。 それまでのシーンは、何度も練習を繰り返している。しかし晶はラストのシーンをまるっきりアドリブでやる、と言い出した。それもシナリオ一切なし。出演者が作り上げろ、と言うのだ。さすがにこれにはクラス中が驚いた。 「ええ、マジよ。一回だけの真剣勝負」 きらり、と晶の瞳が輝いた。 ……うわ、燃えてるよこいつが。美琴は一歩引く。あまりにも珍しい光景だ、あのクールの代名詞がこんなに燃えるとは。 「で、でもよー、収集つかなくなったらどうすんだ? 塚本に播磨、さらに烏丸……常識外ればっかメインだと何がおこるか解かんないぞ」 「その時は私が責任を持ってまとめるわ。……なにをしてでも、ね」 ぶるっ。美琴は晶の言葉に、何か殺気のようなモノを感じて身震いしてしまう。 「まあそんな心配は要らないと思うけどね」 「? 何でそう思うんだ?」 「なんとなく。まあなるようになるでしょう」 文化祭まで、あと僅か。
終わり?それとも支援要る?
411 :
??な者 :04/12/18 11:49 ID:WQIshcdU
うい。調子に乗って本編に喧嘩を売るストーリーを展開させてみました。 まあIFスレだし、いいよね? ……よね?(二回言った) そんな訳で、文化祭演劇ヴァージョン。 ♯103のヒゲ復活は『天満との親子設定の伏線かっ!?』というアホな事を当時思ったのです。 ちなみに連載です。まだ続きます。 先の展開はまだ不透明ですが、真・王道展開は間違いないと思います。 つーか、原作の如く予想の斜め上を突っ走るような展開にする力量が無いだけなのですが。 きっと神・王道派の人にはぶっ飛ばされそうな話になりそうです。 そんなんですが、もしよろしければ今後も読んで頂けると幸いです。 そしてなにより5.4bdWoEさん、被ってしまって申し訳ありません。 順番ゆずって頂きありがとうございます。 自分の今回の投下は以上ですので、投下よろしくお願いします。 あなたの作品、楽しませていただきます。
では、
>>398 の続きを投下します。
(ふうん、結構真面目にやってるんだ…意外)
そんな事を思っていると、いきなり振り返ったアイツに見つかってしまった。
「ん? お嬢ココでなにやってんだ?」
不意を付かれた私は、
「え、えっと、その」と上手く言葉を発せられなかった。
そんな私を見て、アイツは言った。
「わはははは、なんだお嬢? いつもいろんな奴をとっかえひっかえしてるくせに、一番大事なイヴにお誘いは0だったのかよ」
反論したかったが、出来なかった。
言える訳がない。『アンタと一緒にいたいから断った』なんて。
(落着け、冷静になれ、愛理)
私は、自分に言い聞かせて言い返した。
「バカね。アンタと違って誘いは沢山あったわ。でも私、そういうお付き合いはもう止めたから断ったのよ…」
「ボソ アンタにいい加減なヤツって思われるのイヤだし…… ボソ」
「あ? 何ボソボソ言ってんだ? 聞こえねーよ」
(聞こえないようにいったんでしょ? バカ…)
私が目をそらしてそんな事を思っていると、アイツはちょっと待ってろと言って、その場を離れた。 2、3分して、戻って来たアイツの手には、缶コーヒーがあった。 「ほれ、やるよ。いくらお嬢でも、立ちっぱなしは冷えるだろ」 「あ、ありがと」 コイツ相手に、素直にお礼が言えた。初めての事だった。 (初めてのプレゼントが缶コーヒーか。フフ… ! そうだ!) 私は、実行するのは今しかないと思った。 「ねえ、ヒゲ。バイトが終わるのは何時?」 「ん? 9時だけど、なんだ?」 「アンタは私に缶コーヒーをくれたわよね? それってクリスマスプレゼントって事よね?」 「え? いやそうゆう…」 アイツの言葉には耳を貸さなかった。 「なら、私だってアンタにお礼をするわ。ウチでパーティーするわよ、いいわね?」 「え、あの…サワチカサン?」 「待ってるから…いいわね?」 最後に凄んで、アイツは了承してくれた。 アイツとの二人だけのクリスマス。 今夜は楽しくなりそう…… おわり
ID:WQIshcdUさん、被って申し訳ありませんでした。 今朝、分校で見た、試し描き氏の絵でSSしました。
乙カレー。 目新しさはないけど、読みやすかったよ。
>>411 GJ! 烏丸×天満ですか
しかし一番の見所は播磨が既婚者というシナリオ
さて、どちらが奥方の座を勝ちとったのか!?
今後の展開と並んで気になる所です
>>414 絵と併せて楽しませていただきました
やはり試し書きさんは神ですネ!
417 :
ニャンコ先生 :04/12/18 23:32 ID:y1P7y1mQ
むぅ…なんだかスレがいい方向に向かってしまっているニャ… 荒らしの血が騒ぐニャア…!
なんとなく書いてみる。 八雲(以下や)「ひっく・・・ひっく・・・・」 天満(以下て)「どうしたの八雲」 や「あっ、姉さん・・・ううん、なんでもない・・・」 て「あらそう、でもなんかあったらあたしに言ってね。」 や「うん・・・」 八雲が泣いているのは深いわけがあった。 播磨(以下は)「妹さん・・・」 や「なんですか・・・播磨さん・・・」 は「俺、ぶっちゃけ言うと、君の姉さん、天満ちゃんが好きなんだ・・・」 や「えっ・・・?」 は「俺の口からは言えないから、代わりに伝えて欲しい・・・」 や「えっ・・・あ・・」 は「凄くあつかましいかも知れないけど、お願いだ・・・」 や「播磨さん・・・」 は「じゃ、また。」 や「あっ、播磨さん・・・」 ブロロロロ・・・・ や「今日こそ、今日こそ伝えようと思っていたのに・・・」 姉さんにあなたの想いを伝えるの――?私から――? 思い出すとまた涙が溢れてくる。
て「八雲?もー、夕飯まだー?」 や「・・・・」 て「・・・八雲?まだ泣いてるの?」 や「・・・・」 て「やーくーもー」 や「・・・あっ、姉さん・・・・」 て「どうしたのよー、ずっと泣いててさー」 や「なんでもないよ・・・」 て「ははーん、もしかして好きな男の子にフラれたとか?」 や「(ドキッ)そ・・そんなんじゃないけど・・・」 て「ふーん・・・ま、いいわ今日はあたしが夕飯作るから、泣きたいだけ泣いていいよ。」 や「ありがとう姉さん・・・」 ぴーんぽーん て「あら、誰かしら・・・」 は「こんばんは・・・」 て「あっ、播磨君。どうしたの?」 や「(播磨さん・・?)」 は「あのさ、天満ちゃん・・・」 て「ん?なぁに?」 は「妹さん、いるかな?」 て「八雲・・・今ちょっと忙しいみたい。」 は「そっか・・・」 て「八雲のコト幸せにしてあげてね。」
は「・・・・」 や「・・・・」 て「どうしたの?」 は「ああ・・・(きみのコトが好きなのになあ)」 て「じゃ、また今度ね」 は「おう、じゃあ。」 や「待ってっ!!」 は「あ、妹さん・・・」 や「播磨さん、私じゃダメですか・・・?(やだっ、何言ってんだろあたし・・・)」 は「うっ・・・・」 て「えっ、播磨君ほかの子が好きなの?まさか愛理ちゃん?」 は「・・・それはない。」 や「私の気持ちに応えてください・・・拳児さん・・・・」 は「・・・拳児さん・・・か・・・」 て「誰なの?教えてよ〜」 は「天満ちゃん、ごめん。2人きりにさせてくれないか?」 て「・・・うん」
や「拳児さん・・・やっぱり姉さんのコトを・・・?」 は「・・・最初はな。」 や「えっ・・・?」 は「そりゃ最初は天満ちゃんが好きだったよ。でも、君の俺に対する想いっつーかなんつーか・・・すごく伝わってきてさ・・・」 や「・・・ありがとう・・・ございます・・・」 は「その、つまり八雲ちゃん、俺と付き合って欲しい。」 や「え・・あ・・・」 は「ダメか?」 や「そ・・そうじゃなくてっ・・・・ぐすっ・・・」 は「あ、八雲ちゃん・・・」 や「あっ、ごめんなさいっ・・・あたしっていつも泣いちゃって・・・」 は「気にすんなよ。とりあえず・・・(抱きしめる)」 や「はぁっ・・・拳児さんって温かい・・・」 は「もう・・・離さないからな・・・・」 や「・・うん・・・・」
や「はっ・・・全部夢・・・?姉さんが好きだってことも・・・?」 しかもそこは学校の屋上だった。 や「屋上で寝ちゃってたんだ・・・あっ、もうお昼休み終わってる・・・」 すると、播磨が屋上にやってきた。 は「あ、妹さん。こんなトコでなにしてたんすか?」 八雲はドキッとした。 や「え、あ、その、なにも・・・」 は「授業サボっちゃうか」 や「えっ?」 は「サボってさ、こんなこととか・・・」 と播磨は八雲にキスをした。 や「んっ・・むふっ・・・」 は「俺、八雲のコト好きだよ。」 や「(初めて名前で呼んでくれた・・・)ありがとう・・・」 嬉しさのあまり、八雲は涙が止まらなかった。 は「大丈夫?」 や「え、あ、ごめんなさい。」 は「いいよ、あ、今日泊まりに行ってもいいかな。明日休みだし」 や「あ、来てくださいっ!!」 は「ありがとう。じゃ、今日行くから」 や「はい。」 といってまたキスをした。 このまま時が止まればいいのに――――― 八雲は、心の中でそっとつぶやいた。
423 :
Classical名無しさん :04/12/19 06:25 ID:hA1rgeLI
IPとホストをわからなくする方法を見つけたから荒らしちゃおうかな
>>411 面白そーなんでGJなんですが、
父親で王子ってのは激しく違和感が残る。
普通に兄貴で良かったのでは。
>>424 なんで?
王国なのに皇太子というところには違和感あったけど、
そこは別に何とも思わなかったなあ。
王国で皇太子ってのは普通でしょ。 第一位王位継承者がいわゆる皇太子だから。
いや〜多分違うな。 王国なら王太子が正しいと思う。 皇太子は皇帝や天皇の継承者に使うんじゃないかな。 細かいツッコミですんません。
ところが「北部アイルランドおよびグレートブリテン連合"王国"」の第一王位継承者も皇太子なんですよ。 違和感はあるが間違いではない、ってところだね。
つーかそれってPrinceの和訳だから何でもアリじゃねーか。 基本的に意味は同じだし。 年頃の姫の父親が未だ王子ってのが違和感あったんだが。 まあ最近だと皆長生きするからそうでもないか。 しかしそれだと国王をさしおいて 王子だけが婿吟味してるのに違和感を感じてしまうのだ。 まーどっちにしろ年齢的にもとい個人的に兄貴の方が良かったと。
日本語的には
>>427 が正しい。
>>428 の弁は、単にマスコミその他が語彙に敏感でないだけ。
もっとも、
>>429 の言うように、英語には区別が現存しない。
結論:どうでもいい。
こっから、本題
>>411 お疲れ様です。
台本部分と、実生活部分で語り口を変えるとかすると、違いが出てよいかも。
431 :
??な者 :04/12/19 16:21 ID:yIGv8.iA
いろんな反応ありがとうございます。 親子設定ってのはそう無理があるもんではないと思ってました。 中世くらいのイメージでしたんで。 そのころは結婚適齢期は十台半ばくらいだし、ヒゲ付きなんで老けて見えるかなーと。 その背景とだぶらせると王族だと兄妹婚もありえるんでその辺すっぱり切れるように親子にしました。 皇太子については、自分の王国ってイメージはイングランドだったんであっさりこう書いてました。 王太子なんて思いもつかなかったよ……orz まあ書いちまったので今後も皇太子で統一します。 セリフの口調を変えるというのも、天満がミスをしそうなので素のままに。 一人だけ素ってのも何なので、全員素でやることに、という設定です。 では、続きの作品投下します。
文化祭を前に、幸福の絶頂にいる人間が二人いた。 播磨拳児と塚本天満である。 (て、天満ちゃんを人前で堂々と呼び捨てにできる日が来るとは……。 生きてて良かったぜっ) (烏丸君と恋人♪ 烏丸君と恋人♪ うわ〜〜っ、幸せ〜〜っっ!!!) どこまでも幸せな二人である。 播磨も本来ならば喜びよりも怒りが先に来るはずだった。『王子 播磨拳児』『姫 塚本天満』というキャスティングに、嘘は無い。しかし普通ならば王子と姫が結ばれるストーリーだ。 それがどっこい。二人の関係は恋人どころか親子であった。それどころか天満の恋人役に、こともあろうに烏丸の野郎が選ばれていやがる。女相手にはめったに怒らない播磨も、さすがに晶に詰め寄った。 その際にあっさりと口車に乗せられたのだ。
曰く、 『この脚本、クライマックスが無いのよ。そこは全部アドリブでやって貰うわ。アドリブだから、どんな話でもありよね。 ……たとえば、最終戦で敵役の王子があっさりと騎士を伸しちゃっても、しょうがないわ』 これを聞いて、久々にハリマ☆ハリオ的ポジティヴ暴走が。 俺がカッコ良く烏丸をK.O. ↓ 「播磨君、かっこいい……」 ↓ 劇終了後に告白 ↓ 「俺は天満ちゃんが好きなんだ!」 ↓ 「播磨君、私も……」 ↓ 「ねぇ、劇みたいに呼んで……」 ↓ 感 無 量 ! ! ! そんな幸せ妄想を全開させてつつ、またも今日という一日が終わろうとしている。 明日はいよいよ文化祭。 播磨拳児は、今日も幸せな夢を見る。
434 :
??な者 :04/12/19 16:25 ID:yIGv8.iA
うわ短っ! 書いた自分が一番びっくりです。 話の切りのいいところで切ると、どうしてもここで切ることに。 これなら無理してでも昨日のに続けときゃよかったか…… 次回はいよいよ劇本番に入ります。
>>434 漫画本編と同様くらい続きが楽しみです。
どんな結末が待っているのかなぁ。
……まぁ、播磨の妄想展開だけは絶対無いって自信持って言い切れますけど。
――きっかけは一枚の原稿だった。 「あれ?…これ、わたし…?」 ――一気に動き出す想い、そしてついに告げられた言葉。 「て…塚本、これ見たのか?」 「あ、う、うん…読むつもりはなかったんだけど、め、目に入っちゃって…」 「俺が、俺が好きなのはて…つかも…天満ちゃん、君なんだ!」 「え?え?え?ちょ、ちょちょちょっと待って播磨君」(なんで?わたし今ドキッとした?) ――様々な想いの狭間で葛藤する天満。 「知らなかった…私の中で播磨君がいつの間にかこんな 大きな存在になってたなんて…でも私には烏丸君が…」 「姉さん大丈夫?ここ最近顔色も悪いしなんか悩んでるみたいだけど…」 「え?そ、そうかな…ぜ、ぜーんぜんそんなことないよ…ほ、ほーら、 お姉ちゃんこんなに元気だもん、あはははははは…」 (うー、播磨君に告白されたなんて八雲に言えないよー)
――姉を気遣う妹、妹を気遣う姉。そして… 「姉さん?」 「あ、うーん…播磨君に話があったんだけどね…」 「…姉さん、ひょっとして播磨さんに告白されたの?」 「!!!な…なんでそれを…」 「私…前から知ってたから…播磨さんが姉さんを好きなこと…」 「姉さんが謝ることじゃないよ…最初から…最初から、わかって、た、こと、だった、し…」 「八雲…」 「……」 「…ごめんね八雲」 「ごめん…姉さん…泣かない…つもり…だったんだけど…」 「妹さん…そうだったのか…畜生、オレはあんだけさんざん世話になっておきながら その気持ちを踏みにじるような真似を…今更どの面下げてあの二人に会えるってんだ…」 ――交錯するそれぞれの想い。 「行かせてくれお嬢!俺はもう天満ちゃんにも妹さんにも合わせる顔がねぇんだ!」 「ふざけないでよ!アンタ逃げるの?あの二人の…それだけじゃないわ、周りの私たちや みんなの気持ちもかき乱すだけかき乱しといて一人知らん顔して逃げ出すの?」 「…それに、今の塚本さんの瞳に映っているのは僕じゃないと思う」 「そ、そんなこと…」 「ありがとう塚本さん…君のおかげで楽しい思い出がたくさんできたよ」 「え…ちょっと待って、待ってよ烏丸君!」
――そして初めて天満以外のために描いた漫画。 『…気付いたんだ、俺にとって本当に大事なのは誰かって』 『え…』 ――天満の、そして播磨の出した答えは? 「塚本…いや天満ちゃん」 「播磨君、あのね…」 School Rumbleいよいよ最終章突入! 乞うご期待!! ――感じたことのないキモチ、ありますか?
紫煙
雪合戦話は投げっぱなし?
支援
>>429 中年の王子なんて、最近どころか古代から幾らでもいますから。
少女マンガ的な「王子様」のイメージに囚われてるんじゃないの?
まあイメージだけで語ってるのは確かだよな。 だったら尚更親子にする必然性がわかんね。 というよりもうどうでも良いよ。 何を言った所で違和感が消えるわけでもなし、 納得出来る訳でも梨。 書いた人、気分を害されたらスマソね。
親子愛と兄妹愛、どちらが深いかって事なんじゃないかな。 シスコンと親バカ、どっちがマシかな、とか言ってみる。 まあまだ途中だし、今どうこう言う事はないでしょ。 すこしまったりしよう。
サラエボ事件で暗殺されたオーストリア=ハンガリー帝国の皇太子も 50 歳くらいだったぞ。
448 :
??な者 :04/12/20 14:55 ID:sB6AW3.g
作品投下シマス。 劇本番、胎動編。
体育館は満員御礼。びっしり埋まった客席を前に、2―Cの劇は恙無(つつがな)く進行している。 舞台袖から劇の進行に目を配るのは、監督である高野晶。彼女の隣には、もうすぐ出番の美琴も一緒だ。 『僕は……それは、嫌なんだ』 『カラスマ君……』 「うわ、シナリオどおりに泣いてる。高野、あんた目薬でもさしたの?」 「確かに目薬は渡してあるけどアレはマジ泣きよ。彼女が隠れて目薬させるほど器用ならこんな脚本書かないわ」 「……確かに」 『泣かないで。……きっと、勝つから』 『…………う゛んっ、ぐずっ』 「なんだかなぁ……。普通なら感動するシーンなんだろうけど……」 「ボロ泣きするから涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃ。リアルではあるわね、これはこれで良し」 「冷静だな……」 「美琴さん、そろそろ出番よ。準備は?」 「おっけ。んじゃ行って来るよ、監督」 美琴が離れると、ポツリと晶は漏らした。 「播磨君は出番以外は舞台に近づけさせないで正解ね。これ見たら今すぐ飛び出しそう」 舞台の上には天満の涙を優しく拭う烏丸がいた。
城の裏の林。テンマとカラスマの密会場所で、二人の人間が模擬剣を用いての剣戟を見せていた。 一人は茫洋とした雰囲気の男、カラスマ。そしてもう一人は、凛々しい表情の女騎士。テンマ姫の幼馴染にして護衛でもある近衛騎士、ミコトだった。 カン、カンッと高い音が鳴り響く。その迫力は並大抵ではない。 しかし、それもある意味当たり前なのだ。二人とも、かなりマジに剣を振るっているのだから。……いや、烏丸はどのへんからどのへんまでがマジなのかいまいちよく解からないのだが、ともかく美琴は演技ではないレベルでアクションをしていた。 脚本どおり、徐々にミコトが押しはじめる。演技なのかそうでないのかは判らないが。 『カラスマっ、そんなんでお前本当にハリマ王子と戦う気があるのか!?』 『っ……』 『本気でやれ! 守るなら、誰も傷つけない方法もある。けどな……』 『!?』 一瞬で密着するほど懐に入り込み―― カッ。 カラスマの剣が、高く跳ね上がる。 カラーン。 大地に転がる、カラスマの剣。一方の美琴の剣先は、カラスマの喉元に突き付けられていた。 『……勝つには……奪いとるには、相手を倒すしかねーんだ』
『カラスマ君、ミコちゃん、お疲れ様ー』 『姫』 『……テンマ姫』 『はい、差し入れ』 『ありがとうございます、姫』 『ううん、私のワガママ聞いてもらってるんだから、これくらいはね。はい、カラスマ君も』 『……うん、ありがとう』 テンマから渡された手ぬぐいで、滴る汗を拭き取ると、カラスマは跳ね上げられた剣を拾い、二人に向かい、 『今日は、これで帰ります。ミコトさん、またお願いします。……テンマ姫、それじゃ』 『あ、うん……』 テンマはもう少し一緒に居たかったのだが、いつもと様子が微妙に違うカラスマに首を傾げつつも手を振りながら後姿を見送る。 その姿も見えなくなると、ぽつりとミコトに問いかけた。 『ねえミコちゃん。カラスマ君、どうしたのかな?』 『……悩んでいるのでしょう、きっと』 『そっか。お父様、強いもんね……。ねえミコちゃん、カラスマ君勝てるかな?』 『そう、ですね……正直、実力は下級騎士でいるのが不思議なくらいです』 ミコトはしかし、とかぶりを振る。 『彼は、争いには致命的に向きません。それは本来は美点なのでしょうが』
来る日も来る日もカラスマはミコトとの模擬戦を続けた。 日を追うごとに打ち合える時間は伸びていったが……やはり、詰めの甘さから最後にはミコトに負け続けた。 『技術の問題じゃない、心の問題だ』 ミコトはそう言う。 だが――だからこそ、根深くカラスマを縛りつける。 それを断ち切るように、一心不乱に剣を振るう。袈裟懸けから逆胴、そして突きへ。流れるような一連の連携。しかしミコトには――そしてなによりもハリマ王子には、まだ遠い。 『……カラスマ君っ』 『テンマ姫……。なぜ? もう帰らなくてはならないのでは……?』 『うん、ミコちゃんにちょっと無理言ってきちゃった』 カラスマの元へ駆け寄る。 『最近、カラスマ君の様子が少しおかしかったから心配で……』 『……テンマ姫』 『カラスマ君……』 『僕は……』 『待てっ!!』 『『!?』』 「うわっ、播磨少し早いぞ!」 「いえ。むしろベストタイミングよ。このままいきましょう」
『は、じゃなくてお父様!!』 うろたえるテンマ姫、すぐさま片膝を立てて跪くカラスマ。そんな二人の間にハリマ王子は強引に割って入る。 そしてカラスマをギロリと睨む。いつものように黒眼鏡をかけているために明確に判る訳ではないが、その雰囲気は並大抵のものではない。それでもカラスマは揺るがない。 『……帰るぞ、テンマ』 『え、ちょっ、まっ……カラスマ君っ』 『ミコトっ、来い!』 『は、ただいま』 『テンマを部屋まで連れてけ、いいな』 『……わかり、ました。さ、姫……』 『ミコちゃん、お願い離してっ、ミコちゃんっ!』 駄々をこねる子供のようにじたばたするテンマ姫。そんなテンマ姫に、ミコトは無言で首を横に振る。その仕草に、テンマはようやく観念する。カラスマのことを見つめながらも、ミコトに手を引かれ、城の方へと向かう。 その様子に……初めて、カラスマの雰囲気に、表情に揺らぎが見えた。まるで親とはぐれた子供のような、そんな表情。 ハリマ王子は、跪いたままテンマのほうへ視線を送るカラスマの胸座を掴んで強引に自分と向き合わせさせる。 この場で切り捨てなかったのは、怒り狂う彼に僅かに残された理性だったのだろうか。 そんな溢れんばかりの怒りを隠そうともせず、ハリマ王子は問い掛ける。 『カラスマっつったか、てめぇ……ウチのもんだな?』 『……はっ、王国騎士団第三大隊所属、下級騎士カラスマです』 『人目を盗んでテンマに近づくたぁいい度胸だ。……明日の正午、武闘場に来いや、真剣持参でな!』 ……事実上の、死刑宣告だった。 『命が惜しきゃ逃げてもいいぜ。そんときゃ……二度とテンマに近づけると思うなよ』
テンマ姫の寝室。そこに、弱々しい声が延々と流れつづける。 『カラスマ君……カラスマ君っ……』 ベッドに伏せ、泣きつづけるテンマ姫。そこへ、ミコトがやってくる。 『姫、すみません、ハリマ王子があそこへ来ることを止めることが出来ず……』 『ううん、ミコちゃんは全然悪くないよ。悪いのは、ミコちゃんが止めたのにカラスマ君に会いに行った私だよ……』 『姫……』 顔を上げるテンマ姫。震える声で、ミコトに問う。 『ね、ミコちゃん……。カラスマ君、勝てる?』 懇願するような目でミコトを見る。安心させようと口を開きかけ――すぐにそれを飲み込む。安易な慰めはかえって彼女を傷つけてしまうだろう。ましてやそれが現実に起こるのが難しいということが判るのならば。 ミコトは一度目を伏せ、自問する。正直な答えを言うべきか、否か。 顔を上げる。そして、告げた。 『彼は……確かに非凡です。いつかはハリマ王子並になれるかもしれない。けれど……明日では、勝ち目は極めて薄いでしょう』 『そんな……』 真っ青になるテンマ姫。 『お父様、真剣で勝負するって言ってた……。真剣って、斬れるんでしょ? 痛いんでしょ?』 震える身体を抱きしめながら、テンマは涙声で呟く。
『嫌だよぅ……カラスマ君が怪我するのなんて、やだよぅ……』 嗚咽交じりでそう言うテンマ姫。しくしく、しくしくと泣きつづける。 どれほど泣いただろう。いつまで泣き続けるのだろう。いつまでも泣きつづけそうなテンマ姫に、ミコトは優しく、しかし厳しく言う。 『姫……。姫が出来るのは、泣くことだけですか?』 『…………え?』 『祈ることも、信じることも出来ませんか?』 『ミコ、ちゃん……』 『泣いているだけでは、なにも変わりません。臆病な想いは、後悔を生みます。あの時ああしていればよかった、こうすれば違っていた……。そんなことを考えしまうようになる。 私は、あなたにそんな思いはして欲しくありません。例えどうなろうとも。 考えましょう? 今あなたが出来る、なにかを』 『…………』 「……いいアドリブ入れるわね、美琴さん。流石に、経験者の言葉は強い」 その言葉に、テンマ姫はごしごしと目元をぬぐう。 そして、考える。考える。考える。今までの人生の中で、一番考える。そんなテンマ姫ををミコトは静かに見守る。 やがて。 テンマ姫は顔を上げた。 そこにはもう、弱いだけのお姫様はいない。弱さの中に、譲れない何かを秘めた、恋する乙女がそこにいる。 『ミコちゃん、お願い、聞いてくれる?』
『来たか、カラスマ』 『……ミコトさん』 城の裏、いつもの場所。ここにミコトはカラスマを呼び出していた。 テンマ姫からの『お願い』を果たすために。 『テンマ姫からの伝言だ。逃げてほしい、と』 『…………』 『もう会えなくてもいい、とは姫も思っていない。テンマ姫は……国を捨てるつもりだ。 何を捨ててでも……お前と、共に在りたいと、そうおっしゃていた』 それが、彼女の決意。 『そのときは私が何をしてでも姫をお前の元に――』 『……ダメです』 『なに?』 『家族を捨てるなんて……絶対にダメです』 はっきりと、そう言い切るカラスマ。その様子に、しばし唖然とするミコト。 ミコトは少しの間考え込み……答えに至った。 深く、ため息を吐く。 『そう、か。そうだったな……。お前は……家族を早くに亡くしていたんだったな』 カラスマはなにも言わない。いつものどこか遠くを見つめるような瞳で、静かに佇んでいる。
『で、どうするつもりだ、カラスマ?』 『戦いまます。戦って、勝ってみせます』 珍しく、淀みなく即答するカラスマ。 『彼女が去っていったとき……ものすごく不安になりました。また、一人になってしまうと、そう感じて。 テンマ姫に会うまでは、僕は一人でした。それが、当たり前でした。 それに戻るだけなのに……昔に戻るだけなのに、それがとても怖かった。 僕は、もう……一人ではいられない。僕は勝って、いつまでも彼女の隣に居続けたい』 珍しく多弁なカラスマ。 そんなカラスマに、ミコトはにかっと笑う。そして、 『男だな、カラスマ。ほれっ』 手にしていた一振りの剣を放る。それを受け止めるカラスマ。 『? これは?』 『ウチに代々伝わる剣だ。けっこうな名品だよ、餞別にやる』 『そんな……受け取れません』 『いいから持ってけ。剣で腕の差が埋まるわけじゃないが、多少の足しにはなると思う』 そう言うと、ミコトはくるりと背を向ける。 『姫は私にとっちゃ掛け替えの無い大切な人だ。彼女を、一番幸せにできるのはきっとお前なんだろう。 ……しっかりやんな、カラスマ。死ぬんじゃないよ』
458 :
??な者 :04/12/20 15:10 ID:sB6AW3.g
以上で胎動編、終了です。 うわ。主人公がミコトみたいだ。 天満、烏丸、播磨が霞む霞むw きっと『三匹が斬られる』で上様役の人はこんな気分を味わったんでしょう。 次はいよいよラストバトル。 ヒロイン天満の復権なるか!? 烏丸はボス・ハリマ王子を倒せるか!? 播磨は妄想を実現させることができるのか!? はたまた、ダークホース美琴がまた美味しい所を掻っ攫っていくのか!? 次回、激闘編!! (さて、マジでどうしよっか……)
乙。 ミコチンカッコヨスギ。 惚れたぜ…
乙。ま、読んでないけど。
461 :
Classical名無しさん :04/12/20 20:10 ID:lFkYostw
乙。続きが楽しみ! <<460 ・・・・読め。
訂正
乙。続きが楽しみ!
>>460 ・・・・読め。
<<462 …読む。
<<462 …俺も読む。
<<462…金も読む
<<462 …読んだ。
しつこいよ
<<467 …ごめんちゃい
支援
初めてSS書いてみました。 こんな駄文を投稿してしまっていいのかどうか不安ですが、 読んで頂けたら幸いです。
窓から差し込む朝陽。 いつもと変わらない朝。 朝飯のトーストを三分で食って、軽く身だしなみを整え、バイクにまたがっていつもの道を かっ飛ばして学校へ。 お嬢と口げんかして、妹さんにマンガを見てもらい、花井の野郎の暑っ苦しい声を聞いて、 懲りずに喧嘩をふっかけてくる天王寺をぼこぼこにして…。 そして… 愛しの天満ちゃん。 彼女の最高の笑顔を眺めながら、つまんねえ授業を右から左へ聞き流し、ぼんやりと一日 を過ごす。 最高だ。 何気ない、代わり映えのしない一日かもしれないが、そんな一日がいつの間にか俺の中で大 きな物に変わっていた。 けど… もうそんな日は過ごせないかもな。 なぜなら、俺は昨日その天満ちゃんに告白して… フラレタんだから
Schoool Rumble SS 「Tender Love」 記憶の映写機がモノクロームの映像を映し出す。 いつもの屋上。 そこにたたずむ俺。 そして…、天満ちゃん。 今回の作戦は完璧だった。 天満ちゃんの鈍感さに対して、面と向かって告白してもまた勘違いをされるだけだろう。 ならば、やはり原始的な手だがラブレターがもっとも効果的だ。 これならこちらが伝えたい気持ちを一方的に、話の流れを遮られることなく、最後まで 伝えることができる。 くつ箱や、中身の手紙を間違えたりしなければ。 以前の経験があるので、その点だけは二重三重に注意した。 そして、彼女は今、その手紙を読んでここに来た。 その証拠に、彼女の手には俺の書いたラブレターが握られている。
「播磨くん…、手紙読んだよ…」 「塚本…」 緊張で心臓が張り裂けそうになる。 「今までごめんね…。播磨くんはずっと私に気持ちを伝えようとしてくれてたのに、私 ったらいつも勘違いばかりして…。知らず知らずのうちに、播磨くんを傷つけてたんだ ね…」 汗ばんだ手のひらをシャツで拭いて、深呼吸をする。 そして意を決し、口を開く。 「塚本…。返事を聞かせてほしい…」 「私…、嬉しかったよ。私のことを好きだって言ってくれる人がいる。それってとっても 幸せなことだよね。でも…」 自分ののどがゴクリと鳴ったのが聞こえた。 「ごめんなさい…。私、好きな人がいるんだ…」
ショックだった。 振られたことも勿論だが、それ以上に目の前の光景が俺にとっては一層の衝撃だった。 彼女は泣いていた。 振られたのは俺の方なのに。 ごめんなさい…ごめんなさい… そう繰り返しながら泣きじゃくる彼女を見て、俺は胸をかきむしられる様な感情が湧い てくるのを感じた。 俺は彼女のことを好きになって本当によかったと心底思った。 振った相手のことを思って、みっともなく泣ける彼女のことが本当にいとおしく思えた。 だから、俺は涙が溢れそうになるのを必死で堪えながら、無理やり笑顔を作った。 「泣かないでくれ、天満ちゃん。」 そういうと、彼女は涙交じりの顔で俺の方を向いた。 「俺は馬鹿だからよ、こんなこと思っちまうのかもしれねえんだけどさ。 天満ちゃんに振られてすげえ悲しい。今にも涙が溢れてきそうだ。 けどよ、それよりもずっと感じてるものがあるんだよ。 初めて出会ったときから俺は天満ちゃんに一目ぼれだった。 天満ちゃんがこの高校を受験するって分かったとき、何が何でも合格してやるって、 それまでの人生で勉強した時間よりも下手すりゃ多いんじゃねえかってくらいに、 死に物狂いで勉強した。 二年になって天満ちゃんと同じクラスになれるかってどきどきしながらクラス発表を 見に行ったとき、留年だって言われて目の前が真っ暗になった。 特例でなんとか進級できることになって、席替えのときに天満ちゃんの隣になったと き、心が躍るようだった。 俺が事故って見舞いに来てくれたこと、クラスの奴らと海に行ったときのこと、キャ ンプでの肝試し、体育祭…、そんな思い出の一つ一つを噛み締めてみるとよ、俺の気 持ちは偽ものじゃなかった、俺は本当に君のことが好きだった、そして……………… ………君のことを好きになって本当によかった、そう思えるんだ。」 彼女はようやく涙が止まり、赤く腫らした目で俺を見つめる。
ずっと以前から決めていた。 もし俺の天満ちゃんへの恋がうまくいかなかったとしても、そのときは……きっとこう 言うから、って。 「だから俺はよ…」 「君のおかげで幸せだった。」
その後のことはよく覚えていない。 落ち着いた彼女と何か話して、これからもいい友達でいてほしい、とか言われて、俺は 彼女のそんな気遣いがありがたくて…。 その後、どうやって家に帰ったのかは全く覚えていない。 そして気がついたら自室のベッドで朝を迎えてたってわけだ。 時間は午前7時半。 おそらく昨日は帰宅してすぐ寝てしまったのだろう。 ずっと泣いて、泣いて、涙が枯れるほどに泣きぬいた記憶はあるのに、体の方はすっか りいつもの調子、すこぶる健康体だ。 しかし、心の方は一晩明けても回復しなかったらしい。 昨日のダメージが抜けきっていないのだろう、どこか焦点があってない感じがする。 けど……
「…そうだよな。 昨日俺は天満ちゃんに振られた。 けど今度こそはっきり言えたんだよな。 好きだ、って。 そして、君の事を好きになれて俺は幸せだった、って。」 そうだ。 そして天満ちゃん、……いや、塚本と約束したんだ。 これからも良い友達でいよう、って。 明日からもまた同じ学校で、同じ時間を過ごして、みんなと思い出を積み重ねていこう、 そう約束したんだ。 だから俺はこんなところでふて腐れてる訳にはいかねえ。 いつぞやみたいに、学校に行かなくなって、あてもなく町をブラブラして…、そんな行為 は俺の気持ちに真剣に答えてくれた塚本への裏切りだ。 だから俺は、そんな塚本の気持ちに答える為にも、いつものように学校に行かないといけ ないんだ。 そして、初めはちょっとぎこちなく塚本と挨拶を交わして、お嬢をいつものようにからか い、授業中に昼寝をしてイトコに呼び出され、茶道部室で妹さんとその友達と話をして、 そして…、マンガを描く。 俺の初めてのラブストーリー。 先はどうなるかまだわからねえが、とりあえず第一部はこれで完結だ。 この先、新しい恋を見つけられるのかどうか、まだ今はわからねえけど、でもきっと完成 させてみせる。 このマンガは、俺の想いそのものなんだから。
「さてと…。」 腕を上にして体を大きく伸ばす。 そして脱力し、大きく深呼吸。 ここで気持ちを切り替える。 昨日までの俺とはここでおさらばだ。 ここからは新しい俺が始まる。 そうやって、気分を落ち着ける。 そういえばイトコに奴、いつもなら起こしに来る時間なのになかなかこねえな。 妙に察しのいいあいつのことだ。 きっと昨日のことを薄々勘付いて、俺に気を使ってくれてるのかもな。 でも、そんなさり気なく優しいところがあいつの良いところなんだけどよ。 本人の前じゃ死んでもいわねえが。 それじゃ、とっととリビングに行くか。 この部屋のドアを開けた瞬間、昨日とは違う日々が始まる。 変わってしまったもの、変らないもの、これから変わっていくもの…。 そんな新しい世界に胸を躍らせながら、俺はドアを開けた。
初SS、初投稿で非常に不安なのですが、ご意見、ご感想等頂ければ幸いです。 一応続きの構想はあるのですが、自分の書いたものは客観的に見れないもので、 どの程度の出来になっているのかわからず、もしみなさんのお目汚しになりそう でしたら今回ですっぱりとやめにしたいと思います。 それでは、よろしくお願いいたします。
いささか反則な気もしますが、初投下。
「ただいま!」 「あ……姉さん、おかえり」 残業を終えて帰宅した私を、八雲と伊織が出迎えてくれる。 急いで着替えを済ませて居間に降りると、もう夕食の準備はできていた。 どうやら今日のメインは肉じゃがらしい。 昔から料理の上手かった八雲だけど、最近はいっそう腕を上げていて、私はお店で食べるどんなものより、八雲の手料理が好きだった。 「うん、今日もおいしい!」 「……ありがとう」 そう言う八雲の顔は、でも、どこか心ここにあらずという感じだった。 私は少し心配になって尋ねた。 「ねえ、八雲どうしたの?」 「え……あ、別に何でも」 その言葉が嘘であることくらい、いくら鈍感な私でも分かる。 でも、八雲が言いたくないのなら、それを無理に聞くことはしたくなかった。
夕食を終えて片づけも済ませ、私と八雲は居間でテレビを見ていた。 八雲は相変わらず何か思いつめたような顔をしていたけど、不意に私の方に向き直ると口を開いた。 「姉さん、ちょっと話があるんだけど」 「え、もうすぐ万石の時間だよ。終わってからじゃダメなの?」 「大事な話だから」 いつになく強い八雲の口調と表情に、私は「うん、分かった」と答えるしかなかった。 「あの……花井さんがね、アメリカの研究所に来ないかって誘われてて」 「へえー、アメリカかー。すごいね」
大学受験で花井君はいとも簡単に難関の国立大学に合格。 一年後、今度は八雲が同じ大学に入学した。 そして二人はつきあい始めた。 高校時代、花井君は八雲にとって苦手なタイプの人だった……と思う。 それがなぜつきあうようになったのか、私には分からない。 けど、花井君が就職した今でも関係が続いているのは、正直羨ましかった。 私はと言えば、烏丸君は相変わらず昔のまんまで、控えめに言っても微妙な関係が続いていて……
「姉さん、聞いてる?」 「も、もちろん聞いてるって!」 私が反射的にそう答えると、八雲は少し疑いの混じった視線を投げかけながら話を続けた。 「それで、私にも一緒に来て欲しいって」 「うんうん」 「でも私、どう返事したらいいのか分からなくて」 「えっ、断っちゃったの!?」 「ううん、少し考えさせてくださいって」 そこまで聞いて、私は大きくため息をついた。 ま、八雲に男女の機微が理解できるなんて思ってなかったけど、 今回は事情が事情だから放っておくわけにもいかない。 「あー、もう八雲はホントに恋愛オンチなんだから。その一緒に来て欲しいってのはプロポーズと一緒なの」 「そ、そうなんだ……」 普段あまり感情をあらわにしない八雲が、心底びっくりしたような表情を見せる。 そんな動揺している八雲を見て、私は今がチャンスだと確信した。 なにごともタイミングが肝心だって、誰かが歌っていたっけ。
「ね、八雲は花井君のこと好きなんでしょ?」 「う、うん」 微かに頬を赤らめて答える八雲。 「じゃ、もう決まりじゃない。今すぐ花井君に電話して、一緒に行きますって言うの」 「でも、私がアメリカに行ったら姉さんは……」 八雲の心配ももっともな話で、私ひとりじゃ家事もままならないのは目に見えていた。 でも、そんなことで八雲が掴みかけた幸せを奪い取るわけにはいかない。 私は久しぶりにお姉ちゃんパワーを発動させた。 「私のことなんかどうでもいいの。これは八雲と花井君の問題。そうでしょ? 分かったらすぐ電話するの!」 私が促すと、八雲は少しためらいながらも席を立った。 その時、なぜだか私の胸がチクリと痛んだ。
色々な準備や手続きがあって、出発までのひと月はあっという間に過ぎ、そして八雲が日本を発つ日がやって来た。 いつもと変わらない朝食の風景。 だけど、私と八雲はほとんど口をきかなかった。 話したいことは山ほどあるけど、それが上手く言葉にならない。 たぶん、八雲も同じなんだと思う。 それから八雲は出発前の最後の準備に取りかかり、私は朝食の片づけに精を出した。 ほどなくして、聞き慣れた車の音が家の前で止まった。 小さいクラクションの音。 そして静寂。 どうやら、花井君は車の中で待っているつもりらしい。 私にはそんな小さな心遣いが嬉しかった。 「八雲ー、花井君来たよ」 私が呼びかけると、大きなトランクを抱えて八雲が階段を降りてきた。
「姉さん、今まで本当にありがとう」 「全然いいお姉ちゃんじゃなかったけどね」 私の言葉に、八雲は大きく首を振った。 「ううん、そんなことない。私は姉さんの妹で本当に良かったって思ってる」 そう言う八雲の瞳からは涙が何粒もあふれ出て、ゆっくりと頬を伝っていく。 八雲の涙を見たのは本当に久しぶりのことで、私は少し戸惑った。 でも、今日ぐらいはお姉ちゃんらしく振る舞わなくちゃいけない。 「何泣いてるのよ。そんな顔花井君が見たら心配するでしょ」 私は八雲の涙を指でそっと拭ってやった。 それから何分間かが過ぎ、私はようやく泣き止んだ八雲を玄関へと促した。 「さ、もう行かないと。向こうでも元気でね」 「うん……姉さんも」 「たまには電話してよね」 「うん……それじゃ」 それでも名残惜しげな八雲を、玄関から押し出すようにして送り出す。 私は精一杯の笑顔で、花井君の車が見えなくなるまで手を振って見送った。
私は八雲の部屋にいた。 きれいに片づけられて、すっかり殺風景になってしまった部屋。 窓から射し込む春の光が眩しい。 ふと机に目をやった私は、そこに一通の手紙を見つけた。 私は口下手だから手紙に書くね。 そう始まった手紙には、色んな思い出や私への感謝が便箋いっぱいに書き連ねてあった。 それを読みながら、私は湧き出してくる色んな感情が抑えられなかった。 もちろん八雲には幸せになって欲しいと思っていたし、いつかこういう日が来ることも分かっていた。 でも、それがこんなにも悲しくて辛いことだとは思ってもみなかった。 手紙を読み終わって、私は泣いた。 主のいなくなった八雲の部屋で、私は声をあげて泣いた。
何時間泣いていたのだろうか。 気がつくと、外はもう暗くなっていた。 私は涙を拭って立ち上がった。 八雲に余計な心配をさせるわけにはいかない。 なんたって私は八雲のお姉ちゃんなんだから。 「よしっ!」 私は夕食をどうしようか考えながら、階段を駆け下りた。
投下完了!
うーん・・・
<<490 ・・・・うーん・・・
>>490 うーん、このSSは
八雲が花井のことを好きになるような描写が全く無いのですごく厳しい気がするのですが・・・
花井ヲタはほんといい加減にしてください。
>491 名前:Classical名無しさん 投稿日:2004/12/21(火) 06:32 ID:TMqHKnVE
>うーん・・・
>492 名前:Classical名無しさん 投稿日:2004/12/21(火) 09:19 ID:2Tc5kimk
><<490 ・・・・うーん・・・
>493 名前:Classical名無しさん 投稿日:2004/12/21(火) 10:16 ID:1xUiZF3M
>
>>490 >うーん、このSSは
なんかワロタ
まぁ確かに現状の花井と八雲の関係ならほぼノーチャンスだろうけど 人間関係ってのは変化するもんだし将来的にそうなる可能性はゼロじゃないと思う でもだからこそ現状からどう変わってそういうことになったのかをちゃんと描いてほしいなぁつーか 例えば花井が成長して落ち着いてきてストーカーチックなところが消えてきて 今美琴やつむぎに見せているような一面を八雲の前でも発揮できるようになって 八雲にとって「表裏のないまっすぐな愛情を注いでくれる」好感できる人物に変わったとかね あと現状八雲の心の中で大きなウエイトを占めているはずの播磨がどう消化されたのかとか 結局恋愛感情までは達していなかったのか自覚した時には全て終わった後だったのか 好きだと認識してたけど届かなかったのか まぁ「八雲の巣立ちを見送る天満」を書きたくて書いたSSだろうからその辺おざなりになっちゃったんだろうけど 例えばもし八雲が播磨に(どういう形であれ)『失恋』してたんだとしたら、その時天満がどう動いたのかを見せておくことは メインテーマである塚本姉妹の姉妹愛を表現する上でもとても効果的だと思うし
まぁ、旗SSでもなんで播磨が沢近になびいたのか、さっぱりわからんのも あったからなぁ。
>>497 そのときには大した文句も出ないのにな。
人間なんて勝手なもんですよ。
それが人気の差だよ 頭悪いなあお前は
500 :
??な者 :04/12/21 14:01 ID:oo.epNic
投下シマス。 『たとえばこんな演劇シナリオ 〜激闘編〜』です。
太陽が最も高くに存在する時間。即ち、正午。 城の一角にある武闘場。その中央に二人は立っていた。 『逃げなかったことは誉めてやる。バカだとは思うがな』 『…………』 その場内は観客が大勢入っている。ハリマ王子の戦いは、すでに娯楽に分類されているのだ。まあ最近はめっきりここで決闘をすることは無くなってきた。あっさり逃げ帰る奴らがほとんどになったためだ。 そんな理由もあり、久々の決闘に場内はやたらテンションが高くなっていた。 ちなみにこんなイベントに付きものなのが賭けだが、対戦者に賭ける人間がいないためにどれくらいでハリマ王子が相手を倒すか、が賭けの対象になっている。一番人気は一分以上、二分以内。二番人気が一分以内というところらしい。 そんな中、特に見晴らしのいい場所である特別観覧席にテンマ姫とミコトはいた。ただし、二人だけではなく、もう二人の男がその両脇に佇んでいる。 『で? 何であんた等がこんなとこにいるんだ、アソウ、スガ?』 ミコトとは同僚にあたる近衛騎士、その中でも指折りの腕利きが彼らだ。 いつもは近衛といえど若い男である彼らはテンマ姫から離されている。テンマの近くにいるのはミコトをはじめとした数少ない女性騎士か、老齢の者たちだけ。しかし彼らが今日に限ってここにいるというのは、つまり。 『命令だ。決闘は手出し無用に、と命じられた。決着が着くまで二人にはここにいてもらうことになっている』
予想どおりの言葉に、ミコトははぁ、と息をつく。 『あっそ、ごくろーさん。ハリマ王子も心配性だね、そんなことにお前らを使うとは』 『そーでもねーさ。ハリマ王子の最大の弱点は姫だし、王子と多少はマトモに戦えるのもお前くらい。 乱入されでもしちゃ厄介だしな』 『そう言う事だ』 『……ちっ』 ミコトは二人に聞こえないように小さく舌打ちを一つ。もしものときは、そのつもりだったのだ。 この二人は顔見知りだ。実力は知っている。どうしても勝てない相手ではないが、あっさり倒せるわけでもない。そんなもしもが起きたとき、駆けつけたくとも二人と戦っている間にカラスマの命運は尽きてしまうだろう。 ……やはり、カラスマ自身が勝たなくてはならない。たとえそれがどんなに分の悪い賭けであっても。 ミコトは隣のテンマ姫を見る。昨日はあれほど泣いていた上にあの後も一睡も出来なかったのだろう、顔色は悪く、目は赤く腫れぼったい。 彼女は震える手を、祈るようにぎゅっと組む。その表情は、泣きたいのを必死に堪える子供のようだ。 ミコトが声をかけようと、口を開いた瞬間。 場内がわっと歓声に包まれた。
ハリマ王子が無造作に剣を抜く。 『さっさと抜きな。なんもしねーで終わっちゃてめえもあの世で浮かばれねぇだろ?』 しばし躊躇い――そして、それを振り切る。軽い音とともに、カラスマも剣を抜いた。 『? そいつは、ミコトの――?』 少し眉を顰めると、ハリマ王子はハン、と鼻を鳴らし、構えを解くと剣を肩に担ぐ。まるで隙だらけのような様子だ。 『オンナ誑(たら)し込むのは得意だってか? ああん? ますます気にいらねぇな』 『誰が誑し込まれるかっ!』 『落ち着け、ミコト』 『……わかったよ、アソウ』 ハリマ王子の隙だらけの様子にも挑発にも、カラスマは動じない。 むしろ特別席のミコトが過剰に反応していたが。同僚に宥められ、勢いよく立ち上がったミコトもしぶしぶと席につく。が、なんか隣のテンマ姫の視線がイタい。 『あ、あの……姫?』 『…………なにかな?』 『イエ、ナンデモアリマセン』
『……ふん。今、斬りかからない上に安い挑発には乗らねぇか。構えも勘も精神も悪くねぇ。 実力はそこそこあるみてぇだな』 観客席から、『おおっ』とどよめきが。ハリマ王子が相手の実力を認める発言をした。これは今まででも極僅かしかないことだった。今回の相手が、かなりの実力者である証だ。観客たちの期待も高まる。 『だが――』 剣を担いだままという状態で、ハリマ王子は無造作にカラスマに近づく。あまりの大胆不敵な行為にカラスマも驚く。それでもカラスマは自分の間合いに入り次第攻撃できるように細心の注意を払う。 あと、三歩。二歩。一歩。 入った。そう思った刹那、ハリマ王子の横薙ぎの一閃が繰り出されていた。疾(はや)い!! あんな体勢から、どうやったらこんな疾さが出るのか? その斬撃を、何とか立てた剣で受ける。だが。 『っ!!』 疾いだけではない。なんて、重さ――。カラスマの半身が揺らぐ。カラスマの身体が泳いだ瞬間、ハリマ王子は突っ込んできた。右肩でのショルダータックル。 木っ端のように吹っ飛ぶカラスマ。カラスマは追い討ちから逃げるために転がりながら距離を取る。しかしハリマ王子は追撃をしなかった。そのままカラスマを見下ろし、 『俺と戦(や)るにゃ、経験不足だ。十年ほどな』
レベルが、違う。この戦いを見る者全てがそう思う。 カラスマが弱いのではない。彼の動きを見れば判る。動きは機敏で剣筋は鋭く、連携は流れるように続く。 しかし、ハリマ王子はそんな彼を子供のように軽くあしらう。 カラスマの必死の攻撃は、無造作に避けられ、何事も無いように受け止められ、至極あっさりと流され、あっけなく跳ね返される。 防ぐだけではない。攻めでもハリマ王子はカラスマを圧倒していた。 どうにか剣の攻撃だけは防ぐカラスマだが、その次の体術には為す術がなく、拳が、蹴りが叩き込まれるたびにカラスマは吹っ飛ぶ。 ハリマ王子がその気ならば、すでに勝負はついている。 『これじゃ嬲(なぶ)り殺しだぜ……』 観客から、そんな声が漏れる。 断っておくが、播磨にはそういうつもりは無い。このアクションには、日頃の恨み(逆恨みだが)とかそういうものは関係していない。 播磨としては、“天満に、烏丸よりもカッコ良い所を見せよう”としているのだ。それがこういう形というのは、喧嘩バカの哀しい性(サガ)か。強い=カッコ良いという認識なのだ、自分では。 まあ完全な外れという訳ではないのだが、こういった所ではそれは逆効果だということに、本人は気付いてない。
『もう、いやっ……!』 戦うカラスマを、もう見れない。これ以上彼が傷つくのを見たくない。テンマ姫はとうとう涙をこぼして顔をそむける。 『姫……』 『もう嫌だよミコちゃん……もう……こんなの、見たくないっ』 『姫っ!!』 『……っ』 がしっとテンマ姫の肩を掴む。そしてその濡れた瞳を見ながら、きっぱりと言う。 『カラスマは、諦めません。決して。何があろうとも。 たとえハリマ王子であっても、彼の心を折ることは出来ない。 姫……目を背けては為りません。そんなことでは、彼を見失いますよ』 最後にミコトは柔らかく微笑んだ。 『ミコちゃん……』 涙を拭う。そしてミコトに笑いかける。今の自分の出来る、一番良い顔で。 『ありがとう、ミコちゃん。いつもミコちゃんは私を助けてくれる。 ミコちゃんが励ましてくれるから、私は今こうしていられる。ホントに……ホントにありがとう。 私は、今出来る事をしないと。後悔、しないために』
『頑張って、カラスマ君……』 立ちあがる。少しでも、彼に近づいて。 『頑張って、カラスマ君』 声を大きく。少しでも、彼に届くように。 そこで、スガが動く。 『姫、席で大人しくして――』 『おっとスガ、姫に近づくんじゃないよ』 『ミコトっ、お前何を』 『煩(うるさ)いよ。私ゃ姫の護衛だ、姫の邪魔はさせない。それが私のすべき事だからね。 止めたきゃ……力ずくで止めてみな!』 ありがとう、ミコちゃん。そう言うと、テンマ姫は前を向く。もう振り返らない。後ろは、ミコちゃんが守ってくれるから。それが、自分のすべき事だといってくれたのだから。 だから。私は私のすべき事をする。 テンマ姫は力の限り叫ぶ。 『頑張って、カラスマ君!!!!』 『お、おいアソ、どーすんだよっ』 『……ほっとけ。俺たちの受けた命は『手出し無用』を守らせることだ。 口出す分まで止めるのは俺たちの仕事じゃない』 『話がわかるじゃないか、アソウ』 『……俺も、そろそろ王子には子離れしてもらいたいんだよ』
沢近私怨
その声は、戦う二人の元へも届く。 ちょうど蹴りをくらって吹っ飛んだカラスマが、身を起こした瞬間だった。カラスマの手には剣は無い。吹き飛ばされたときに手放してしまったのだ。五メートルほど横に転がっていた。しかしハリマ王子はすぐ前にいる。 ……まさに絶体絶命の大ピンチだった。 『テンマ?』 『……姫』 二人が同時に特別観覧席のほうへ視線を向ける。 テンマ姫は、身を乗り出さんばかりの様子。そして、叫ぶ。 『頑張って、カラスマ君!! 負けないで……勝って!!!』 『なっ……!?』 『っ!!』 その声は、ハリマ王子に動揺を、カラスマに力を齎(もたら)した。 カラスマは横っ飛びでハリマ王子の射程から抜けると同時に剣を拾う。ハリマ王子が動揺していなければ飛んだ瞬間に無防備になった体を斬られていただろう。 ぶるっ、とハリマ王子の身体が一度大きく震えた。……泣いて、いる? カラスマはそんな風に感じた。 ぎりっ……。それは歯軋りか、強く、強く剣を握った拳の悲鳴なのか。 『う、おあああぁーーーっ!!』 ハリマ王子が、吼える。
ハリマ王子ははじめて完全に攻める為に剣を振るう。半狂乱のような状態だ。今まで常にあった余裕が、まったく無い。確かに鋭い一撃。だが、剣筋に雑念が感じられる。 これならばっ。 『くら、えええぇぇぇっっ!!!』 『っ、せいっ!』 振り下ろすハリマ王子。それに合わせ、切り上げるカラスマ。 カラスマの裂帛(れっぱく)の声とともに放たれた一閃。それは今までのどの攻撃よりも鋭く、疾く、美しい軌跡を画き――。 か、らん……。 ハリマ王子の剣を両断した。 「よし、成功だね」 晶は胸を撫で下ろす。正直、賭けだった。 烏丸の使っている剣――あれには少しだけ細工がしてあった。他の剣よりも硬いのだ。他の剣でも振り回すのは危険なのだが、あれは直撃すればかなりヤバイレベルのもの。鋭く振り切れば、今のように斬撃になりうるほどに。 そこは播磨を、烏丸を信頼していた。 播磨ならば直撃を受ける可能性は高くない。それを扱うのが烏丸ならばなおさらだ。 それでも、もしも、はある。もしかしたら、は消えない。 ひとまず、あれを使ったアクションは無事に終わった。……おそらくは。まだ確定はしていない。 晶は改めて緊張感を張り直し、再び舞台に眼を向ける。
『なん、だと……』 呆然とした声を漏らすハリマ王子。僅かとはいえ、隙が生まれる。その僅かの間にカラスマは、ハリマ王子を押し倒す。 素手でもハリマ王子は強い。剣を破壊したくらいで諦める人ではない。ならば。 倒れたハリマ王子に覆い被さるようにして、彼の動きを封じる。そして、剣は彼の首元に。 ……どうあっても、チェック・メイトだった。 『……終わり、です』 『ク、ソがっ!!』 ハリマ王子は抵抗を止める。覚悟を決めたのだ。 しかし――カラスマは剣を退き、彼から離れる。 『何、してやがる! 止め刺せやコラ!!』 『……断ります。……彼女が、テンマ姫が悲しみますから……』 『ち、くしょう……ちっくしょおぉっ!!』 ハリマ王子の、慟哭。それが、この勝負の結末だった。 静まり返っていた場内が――一斉に、大歓声に包まれる。
『カラスマ君っ!!』 『テンマ姫……』 特別席から駆け出してきたテンマ姫が飛びつくようにカラスマに抱きつく。 アソウ、スガは止めなかった。決着は着いたのだから。ミコトもそこに残った。無粋な真似はしたくない。 『……危ないですよ、テンマ姫。剣、まだ持ってるんですから』 『うん、ごめん。でも……良かった。ホントに、ホントに良かったよぉ……』 ぽろぽろと、カラスマの胸の中で泣くテンマ姫。嬉しいからの涙。 『これなら、いくらでも泣いていいよね……。ね、ミコちゃん』 観客席を見上げるテンマ姫とカラスマ。 そこで、ミコトが嬉しそうに大きく手を振っていた。 『くっ……テン、マ……』 よろよろと立ち上がるハリマ王子。その声は、先ほどまでの強く荒々しかった人間と同一人物とは思えないほど弱々しい。 その視線の先には、カラスマに抱きかかえられた愛しい愛娘。それを見つめるハリマ王子の背には、この上ないほどに哀愁が漂う。 そんなハリマ王子の背後に、一人の美しい女性が現れた。 『あなた……』
支援
514 :
??な者 :04/12/21 14:18 ID:oo.epNic
ここで激闘編、終了です。 やはりミコトが微妙に美味しいw さて、次で幕と相成ります。 2パターンのエンディングを考えてるんですが、どっちにするか…… 悩みどころです。 支援して頂いた方々、サンクス! 自分、最後まで頑張ります!!
奥さん誰だー!同じクラスだよなぁ、普通… 激しくGJです。正座して待ってます。
っていうか誰も
>>479 に感想言ってやらないのか。じゃぁ、俺が。
まぁ、そんな自分を卑下するほど悪い出来でも無かったよ。
でも展開として言うなら…播磨のキャラ違う…。
>479 個人的に好きな内容。絶望の淵から一生懸命立ち直ろうと する播磨に感涙です!!!
>>514 GJ!スッゴイいい展開です。
そして誰だ、奥さんは。
わざわざ美しいって言ってるし……まぁ、2-C女子は全員レベル高いけど、やっぱ彼女か?
金髪ツインテールの彼女ですか?
続き、激しく期待してます。
相次ぐ投下の箸休め。 短めで一つ行ってみます。
彼女の父親は実に多忙な人物だった。 職業の関係上、世界各地を転々として回る日々。 一つどころに落ち着くことはなく、流転に次ぐ流転に彼女も同伴していた時期があった。 しかし、友人達との別離にそのつど深く消沈する彼女を見るたび、父親は心を痛めた。 彼は優しく諭し、彼女を彼の持つ家に住ませることにした。 家にはあらゆるものがあった。 彼女の見慣れているものから見たことのないものまで千差万別。 幼い心はすぐに夢中になった。 だがそれも束の間。 心配事のない生活空間は、されども全く生活臭がなかった。 食事を用立ててくれる人はいる。 室内、室外を清潔に保ってくれる人もいる。 家を出れば、友人達もいる。 ――ただ一つ、家族だけがそこには無かった。 時には一年近くも彼女は一人、大きな家で待ち続けることがあった。 少女はそんな時いつも思った。 家もあり、ご飯もある。なのにどうして忙しく働き続けるのだろうか、と。 友人の家は毎晩家族そろって夕食を取る。 また別の友人は、週末いつも家族と団らんの時間を過ごす。 分かっている。 彼女の父の仕事はとても重要で、多くの人の人生を左右することは理解している。 だけど心は納得しなかった。 結果、当然のように幼い彼女は他者とのコミュニケーション不足を招いた。
父親は決して愛情を傾けなかったわけではない。 様々なこと、お茶の作法から射撃術に至るまで彼の知りうるあらゆる知識、技術を時間をかけて 惜しみなく教えていった。 時には優しく、時には厳しく。 そして時間が取れたときは、どのような優先事項よりもまず先に、愛娘と過ごすことを選んだ。 絶対量こそ少ないが、その密度たるや誰と比較されても決して引けはとらない。 彼はそう自負していた。 過保護と言われるときもあった。 放任しすぎだと言われるときもあった。 戸籍上、親子じゃないだろと揶揄されることもあった。 彼はそれらの意見に頷き、否定し、実力で黙らせていった。 彼の娘は親バカと言われるかもしれないが、幼少の頃より格別に愛らしかった。 彼が家を離れ、諸外国へ赴くときも心配することは娘の安否。 身辺の報告は頼んである業者から逐一報告されるが、手の届かない場所にいる限り このもどかしさはどうにかなるようなものでもなかった。 それは彼女が美しく華麗に成長していくほどに強くなっていった。 ――そんなとき、彼は運命的な出会いを果たす。
「……ナカムラ」 「……ハッ」 豪奢な絨毯にシックな家具、空間的な広さが如実に分かる調度品の配置。 上品かつ洗練された部屋でゆっくりと紅茶を楽しむ貴婦人、沢近愛理は姿勢をそのままに 傍に控える男へと声をかけた。 「……『アレ』はどうにかならなかったの?」 「『アレ』……と申されますと?」 ぱたんと扉の閉じる音がする。 愛理の目の前で客人の食器を下げていたメイドが部屋を退出した。 その音が合図とばかりに彼女の口調は一段と強くる。 「…………もしかして、からかってる?」 「とんでもございません、お嬢様。不肖このナカムラ。一度たりともお嬢様を愚弄するような 真似など――」 「だったら『アレ』は何だったのよ!」 フォーマルな執事の格好で鋼の肉体を覆い隠すヒゲの隻眼に、噛みつくような勢いで詰め寄る。 対して執事の男、ナカムラは冷静さを通り越し冷徹なまでの眼差しで仕える主の娘へ 視線を送った。
「はて、私めには何の事やらさっぱりと」 「ああ、そう! ならはっきりと言ってあげるわ。彼女のあの『変装』を止めさせなさい!!」 びしりという擬音がぴったりの手振りで愛理は既に閉まっている扉を指さす。 そこは先程メイドが退出した扉。 ようやくそこで納得がいったのか、ナカムラはぽんと手を打った。 「お嬢様、アレは変装ではなく特殊視覚効果技術でございます」 「そんなことはどうだっていいのよ! いいから即刻止めさせなさい!」 半刻前のハイソな雰囲気など微塵もなく、鼻息荒く愛理はナカムラに食ってかかる。 別に使用人だからという理由で個人の趣味をどうこう言うつもりはない。 つもりはないが、物事には限度というものがある。 「初対面の客人に変装して接客する行為」は彼女の常識の範疇には存在していなかった。 「そういえば刑部様も何故かお怒りのご様子でしたな」 「当たり前よ! あんな風体のメイドなんて見たこと無いわ。変装ならせめてもっと可愛らしい 格好はできなかったの!?」 「あれは……少々恥ずかしがりでして、刑部様のような花のあるお客人のときは緊張して動くことも ままならず、さりとてメイドの勤めに実直な娘。お嬢様、どうかご理解の程を」 「……それは……知ってるけど」
彼女の仕事ぶりは今更言うまでもない。 勤労という言葉がこれほど似合う人物を愛理は未だ見たことなかった。 細やかな心配り、控えめながらも上品な動作、そして完璧な出来栄え、数人いるメイド達の中でも 彼女を越える逸材は存在しない。 年齢とその「特殊な趣味」がある故にメイド長にこそなってはいないが、この屋敷で困ったことが あればナカムラか彼女に言付ければほぼ全て解決すると言っても過言ではない。 「でも、お化粧も上手だし……普通に綺麗なんだから別にあんな格好じゃなくてもいいじゃない」 「技術とは使うために存在いたします。とはいえ、かくいう私も今日の格好には少しばかり 驚かされました。いやはや、藍は青よりも蒼しとはよく言ったものですな」 朗らかに笑うナカムラに嘆息を付き愛理は椅子に座り直した。 どのような用件にも二つ返事で即座に行動する男だが、こと彼自身の娘においてはその限りでは ないことを改めて痛感せざるを得なかった。 もちろん彼に言う前に、彼女自身にも何度か言ったことがある。 趣味が高じてか、メイク技術にも長けている彼女に化粧を教えてもらったとき、はっきりと 変装を止めるように言ってみたのだ。 はにかみながら返ってきた返事はとてもシンプルだった。 「そうでもしないと、仕事になりませんから」 親が親なら子も子だ。 口には出さなかったものの、彼らの隙のない徹底した仕事ぶりと一部逸脱した癖みたいなものは 戸籍の上では親子ではないとしても、立派な親娘(おやこ)だと思うしかなかった。
「とにかく、二度とあの格好はさせないで。びっくりして惚けちゃったじゃない」 「かしこまりました。娘は残念がるかもしれませんが、私の方から厳重に注意しておきます」 恭しく一礼すると、ナカムラは愛理のそばを離れ出入り口へと歩き始めた。 その背中はいつも通り広く、きっちりとスーツを着こなしているはずだが、どことなくいつもと 同じように感じられない。 愛理は視線を逸らすと誰に言うわけでもなく呟いた。 「やるなとは言ってないのよ? あの『おじさんみたいな格好』はやめてと言っているだけで……」 ぴたりと足音が止まったように聞こえる。 普段から音など立てない男なのでそれは錯覚かもしれないが。 「お嬢様のお心遣い、痛み入ります。お優しいところは……旦那様そっくりでいらっしゃる」 「…………」 視界に入っていない彼の顔は、しかし何故か笑っているように感じられた。
今回ばかりは仁丹、悪いがアンタを否定するぜ! ということでIFスレらしく妄想全開で書いてみました。 ネタは熱いうちに撃て!
私は、拒絶する!
>>527 オリジナル設定は基本的に受け付けないんだが、
今回はキャラがキャラだけに普通に面白かった。
>>526 実際それだったら激しくワラえるんだが。
>>479 ,490
初投稿、お疲れ様です。
自分的には両方とも楽しめました。
>>514 2パターンってことは、あの二人のどちらかがお妃ってこと?
両方みたいです!
お願いします。
>>526 あのナカムラに育てられた娘だから、
そのオチもありだと思ったのは俺だけか?
Gjです。
アニメで沢近の下半身に播磨の下半身が密着していましたが あれは入っていると思う
みうらじゅんがいるな。
532 :
??な者 :04/12/22 18:38 ID:6ppCrQN.
最終話、いきます。 『たとえばこんな演劇シナリオ 〜終劇〜』
『派手にやられたわね』 『…………くっ……』 その言葉に、ハリマ王子は振り返る。その先には妻である皇太子妃・エリの姿が。下ろした長い金髪と、飾り気の少ない、しかし品の良いドレスは彼女の美しさを一層際立たせている。 エリは夫の元まで寄ると、肩を落とす彼を見上げる。 『怪我、してない?』 『なんともねぇよ』 『そう。でも、負けは負けよ』 『んぐっ』 『おとなしくしてなさい、負け犬』 『……おまえにゃヒトの心ってねぇのかよ!? ここで言うセリフかそれは!?』 『可愛い娘の恋愛の障害物に情けなんてかける義理は無いわ』 『なんって、ヤツだ……』 がくり、とハリマ王子の全身から力が抜ける。崩れ落ちそうな体を何とか支えて前を見る。 その視線の先には、カラスマと寄り添い、観客からの祝福の言葉に満面の笑みで手を振り続けるテンマ姫。 幸せそうなその姿が、ハリマ王子には嬉しくもあり、同じくらい哀しくもあるのだった。
テンマ姫を見て、本気で落ち込むハリマ王子に、エリははぁと大きなため息をつく。 『娘がお嫁にいくのが寂しいっていうのはわかるけど、そこまで落ち込まなくてもいいじゃない。 それに……どうしても寂しいっていうなんら、その……もう一人や二人くらい、作ればいいわけだし……』 顔を赤らめて、もじもじしながら少し小声でそう言うエリ。しかし、 『ううぅぅ……、テンマ……』 ハリマ王子はこれっぽっちも聞いちゃいやしなかった。 ぶちっ。 どこかで何かが切れた音を、誰もが聞いたような気がした。ハリマ王子以外は。 すっ、と音も無くハリマ王子の側によると、彼の左腕を掴む。 『ちょっと、あなた……』 『あん? まだなん、かぁっ!?』 右手で掴んでいた左腕を強く引き、同時に左足への足払い。ハリマ王子の足は綺麗に払われたが、そこは持ち前の反射神経と運動能力で転倒は回避した。 ……あるいは、転倒していたほうがマシだったのかもしれない。今の体勢は、片手と片膝を着いている状態。それ即ち。 『な、なにしやが』 る、の発音と同時に、エリの膝が飛んできた。左の側頭部、と言うかこめかみにクリティカルヒット。いかにハリマ王子でも、急所へのピンポイントクリティカルには耐えられるはずもなく。 ハリマ王子は、苦悶の声も漏れることなく夢の世界へ旅立った。
『『『『『………………』』』』』 場内完全沈黙。そりゃそうだ。今の今まで魔王の如き力を見せていたハリマ王子が一撃であっさりK.O.させられたのだから。 なんというか……苦労してなんとかラスボスを倒したのに、破壊神が降臨したような。それがドレス姿の美女だってのは、演出上最強ではないだろうか。美しさは、畏怖にも繋がる。 そんな見目麗しき破壊神は、一度美しい髪を手櫛いてから娘とその恋人へと視線を向けた。 『さて、テンマ?』 『ひぇっ、は、はいぃっ』 『……何ヘンな声出してるの。そんな事じゃ彼に呆れられるわよ。 まあそれはさておき……、よかったわね』 『愛理ちゃ……ひふぁふぁ、ひふぁひふぉ(痛た、痛いよぉ)』 素で答えようとしたテンマ姫の両頬を、エリはむにーと引っ張る。けっこう伸びる。……やたらぷりちーだったりした。 が、それで心が動くエリではない。綺麗な、しかし凄みのある笑みをしつつ娘に優しさの中に妙な迫力を込めた言葉をかける。 『お母様、でしょテンマ。お・か・あ・さ・ま』 『ふぁい』 うっすら涙を浮かべながらコクコク頷く。よろしい、と言ってエリは手を離した。 ちょっと赤くなった頬をさするテンマ姫。 『う゛う゛〜〜〜……』 『……大丈夫?』 『あ、うん。えへへへ』 カラスマに気遣われ、テンマ姫の顔がだらしなく緩む。そんな表情が似合うのも、彼女だからだろう。カラスマも、その顔を見て少しほっとしたような感じになった。相変わらず表情に変化はないが。 そんな二人を、エリは微笑ましげに見るのだ。
エリはしっかりとカラスマに向き合う。 『カラスマ君。テンマはちょっと頭が弱くて、かなりドジで、ものすごい天然ボケだけど……』 『…………ひどいよ、エ、じゃなくてお母様……』 エリ、完全無視。カラスマもフォロー無し。 『でもね、きっとあなたに寂しい思いはさせないコよ』 『……エリ様』 『テンマのこと、よろしくね』 『……はい』 こくりと肯くカラスマに、エリは満足げににっこりと笑う。 『さて、それじゃお邪魔虫は退散するわ。行くわよヒゲ』 『…………』 無言。ハリマ王子、いまだ昏睡中。 『まったく、世話焼かすわねぇ』 ハリマ王子の襟首を引っつかみずるずる引きずって、エリは二人から離れる。
『……幸せに、なろうね』 『私は……今、最高に幸せだよ』 両親の後ろ姿を見送りつつ、テンマ姫はカラスマに凭(もた)れるように寄り添う。カラスマは、そんなテンマ姫の小さな体をそっと抱き寄せた。 スポットライトが徐々に光を落としていく。美しいBGMもどんどん小さくなる。そして、ゆっくりと幕が下りる。 そんな中、袖に控える晶はマイクを手に取る。最後の締めだ。 『――こうして、テンマ姫を巡る騒動は終わりを告げました。 テンマ姫と騎士カラスマの仲は正式に認められ、二人はそれから仲睦まじく過ごしたとの事です。 また、余談ですが、この一年後、テンマ姫に妹が産まれました。 聡明で優しいこの子は、成長すると絶世の美女と称えられるようになり、今回に似た騒動がまた起こるのですが――それはまたの機会に語る物語……。 それでは、その機会を祈りつつ――今回は、幕とさせて頂きます』 ――――完
支援
539 :
??な者 :04/12/22 18:50 ID:6ppCrQN.
もう一本、続いて投下。 支援サンクス。引っかかってました。
『大丈夫ですか、あなた……?』 そう言いハリマ王子の身を案じるのは、皇太子妃・ヤクモだった。すっと夫に寄り添うと彼を支える。 『俺は、何とも無い。そんなことよりもっ、すまん……俺は、テンマを守れなかった……』 そう言うと、がっくりと項垂(うなだ)れるハリマ王子。そんな夫に、ヤクモはふるふると首を横に振った。 『きっと……その必要がなくなったって事なんだと思います』 『……え?』 『だって、ほら。見てください』 ヤクモの指差す先には、カラスマと寄り添い、観客からの祝福の言葉に満面の笑みで手を振り続けるテンマ姫。その表情は――とても、とても幸せそうだった。 『今、幸せなんですよ。……きっと、一番』 『…………』 『愛し方は、一つじゃないと思います。一番側で守ることだけが、愛し方じゃありません。 それは……彼に任せて、私たちは、私たちの方法であの子を……愛していけばいい』 『……俺の……方法で、か』 すっくと立ち上がる。すんずかと二人に歩みより、そして、 『カラスマぁっっ!!』 叫んだ。
『ッ!? もう、終わったでしょ!?』 そう言うと、テンマ姫はカラスマを庇うように両腕を広げて立ちふさがる。そこに、今までの弱々しさは無い。 こちらを睨むテンマの姿に、胸が痛むと同時に妙に安心してしまう。この娘(こ)は、強くなった。 噛みつかんばかりの勢いでカラスマを庇うテンマ姫だったが、それを制したのは庇われたカラスマ本人だった。 『テンマ姫……大丈夫だから』 『でもっ』 『……お願い』 『……うん、わかった……』 しぶしぶながら、天満は退く。カラスマとハリマ王子は向き合う。 ハリマ王子は、カラスマの胸座を掴む。その行為に周囲は一斉に、はっと息を飲む。例外は三人。掴まれた本人とその後ろに立つ者、そして掴むものの後ろに立つ者。 一人は何を考えているのか判らず、一人はその行為に怒りを覚え、一人はその意味を知っているために安心して。 『テンマ泣かせてみろ……生きながら地獄ってモンを見せてやるぞ、わかったなっ!!』 『……はい』 『はり、お父様……』 『……っく、チクショウ、汗が止まらねぇ……』 カラスマの答えを聞くと、ばっと背を向け天を仰ぐ。黒眼鏡の下から、雫がこぼれ落ちる。
『テン、マ……幸せに、なれよ……っ』 擦れる声で、なんとかそう言い、 『うおおおぉぉぉぉっっっ!!!』 ハリマ王子は、叫び声とともに駆け出していった。 そんな夫をしばし見送り、ヤクモはカラスマへ深く礼をする。 『カラスマさん……どうか、この娘を末永くよろしくお願いします』 『……はい』 『よかったね……どうか、幸せになってね』 『うんっ……、うんっ!! ありがと……あり、がとう……』 ヤクモが優しくそう言うと、テンマ姫は母に抱きつく。目に涙を溢れさせながら。そんな娘を、ヤクモは慈愛に満ちた顔でそっと抱きしめた。 カラスマは、その側で静かに二人を見守る。自分が守ることのできた、家族の光景を。 スポットライトが徐々に光を落としていく。美しいBGMもどんどん小さくなる。そして、ゆっくりと幕が下りる。 そんな中、袖に控える晶はマイクを手に取る。最後の締めだ。 『――こうして、テンマ姫を巡る騒動は終わりを告げました。 この後、すぐにハリマ王子は王位継承権を娘と、いずれその婿になる人物に譲る事にしました。――もっとも、それはすでに騎士カラスマに確定していますが、そこらへんはハリマ王子の意地なのでしょう。 そして彼は王国の片田舎に妻とともに隠居をし、芸術的創作活動に専念し始めたそうです。 テンマ・カラスマの両者が王位につくと、ニーシー王国はますます平和になったということです。 また、ハリマ・ヤクモの名は、芸術史に長い時を越えてなお語り継がれています。 ですが、そのあたりは、また別の話――』 ――――完
543 :
??な者 :04/12/22 18:56 ID:6ppCrQN.
最終編、2つ上げて幕と成りました。 結局どちらかを選べませんでした。 そんな自分はおにぎりスキーなお子様ランチ。 普通ならば沢近編が妥当でしょう。彼女自身演劇派だったわけですし。 それでいて何で悩んでたかっていうと、自分がおにぎりだから。 八雲編は完全に趣味全開です。 でも天満と八雲の関係って姉妹よりは過保護な母親とお馬鹿な娘だと思う自分。 なんか本編でも演劇もやることになったみいですが、さて、配役はどうなることか。 希望としては、沢近も美琴並みのアクションがあったらなぁと思ってます。 剣道の腕は相当らしいですし。 それでは、五日に渡っての連載中編でしたが、お付き合い頂き、ありがとうございました。 多くの支援、感想に感謝しつつ、この経験を糧に、さらに皆様に楽しんでいただける作品を書けるようになりたいと改めて思います。 そんな、突っ走りすぎたマラソンランナーの如く、現在へばってる??な者でした。 それでは、また。
>>543 GJ!
と言いたいところだが、気になった点をいくつか。
・呼称チェンジャー晶の天満、美琴に対する呼び方。
細かいかもしれないけどやっぱり気になる。既に晶は名前を呼び捨てているから。
・演劇の内容だけではなく、演劇そのものをSSの題材とした理由。
これは好みの差かもしれないけど劇中の内容だけでSSを構成した方が良かったと思う。
途中の晶の思惑や美琴の素の動揺などの描写は盛り上がっているシーンに水を差すように感じられた。
あと、このスタイルだったら最後に楽屋裏落ちをつけて終わって欲しかったかな。
ていうかばだ本編のことバラしたらいかんのじゃ…?
今日解禁日じゃない? それはさておき、GJ! 毎日の連載乙でした。 新作待ってます。
ばだばだ
うん、まあ、悪くはないと思うが、よくはない。
誰もいない
そんなことはない
クリスマス記念 SS はないのかな?
ていうかマジで雪合戦SSはいずこへ……?
知るか蛸 自分で書け
>553 そんなに続きが読みたかったんですか?
べつに
558 :
クズリ :04/12/25 11:59 ID:2.YCwsGE
山に息づく木々の、紅に美琴は目を細める。 何て赤が綺麗な季節だろう、ふとわきあがる思い。そしてそんな自分を彼女は小さく笑う。 感傷的になるなんて、らしくない、と。 My Place 〜そして私は、失われた道を探す〜 告白の日から、一週間が過ぎようとしている。眠れない夜を繰り返す彼女だが、表面上は変わら ぬ生活を保っていた。 「うっし、授業も終わったことだし、天満、高野、沢近、エルカド行ってハリケーンパフェ食わね?」 「いいねー、サンセー」 「私もいいよ」 「また?昨日も行ったじゃない。あんまり毎日行ってると、太るわよ?」 口ではそう言いながらも、嬉々として立ち上がる沢近を交えて、四人は教室の扉へと向かう。 「ミコチン♪どこ行くの?俺も連れてってよ」 目ざとくそれを見つけた今鳥が話しかけてくるが、 「エルカドだよ。けどダーメ。男子禁制の集まりだからね」 「えー。いいじゃん、連れてってよー」 「しつこいな。ダメったらダメなんだよ」 美琴は軽くあしらう。後ろで天満と沢近が、苦笑してる気配を感じながら。 「ちぇっ、残念ー」 「ほら、用がないならとっとと帰った帰った」 手をひらひらさせて追っ払う彼女の笑みは、だがどこかぎこちなかった。 思い出してしまうのだ。 あの告白のシーンを。 舞い散る赤と黄金の葉に、自らとその気持ちを覆い隠した少年の姿を。 それを知ってか、知らずか。今鳥は捉えどころのない微笑を浮かべて、肩をすくめて立ち去る。 「美琴もいつも、大変ね」 「まったくだよ……」 おそらく事情を何一つ知らないであろう、愛理の言葉に溜息混じりに答えた彼女の視線が、さま よってふと、一人の男の所で止まった。 花井春樹。彼女が想いを告げ、そして答えをまだもらっていない相手。
教室の中のざわめきの全てが消えたような錯覚。向き合い、ぶつかる視線は、絡み合うことなく すれ違う。 その彼の瞳に戸惑いが浮かびあがりそうになった瞬間。 「じゃあな、花井」 美琴はそう言って笑い、身を翻した。 これ以上、見つめられていると、心が潰されてしまいそうだ。そんな想いに駆られて。 何かを告げようと口を開いた彼は、結局、少女の見せた態度に唇をひきしめた後、少し硬い声で 答えた。 「ああ。またな、周防」 耳に響くその声の重さに、美琴は思わず鞄を握り締める手に力を込めた。常は溌剌とした彼女の 顔に落ちる影は、自責。 ダメだ。私、また、逃げてる。 唇を噛み締めて、眉をしかめて、自分の中に生まれた痛みに必死に耐える。叫び出したくなる衝 動は、体の底から次から次へと溢れてきて渦を巻き、やむことがない。 それでも。 「美琴ちゃーん。早くいこー」 「おーう。すぐ行く」 自制心を全力で働かせて、表情から影を追い払った彼女の笑顔は、友人達をたやすく欺けるほど 綺麗だったのだ。 いつも通りに。普段のままに。心の中で念じる彼女は、だから気付かなかった。 少年の、複雑な気持ちに。 「よっ、花井」 花井が勉強をする手を止めて道場に行くと、そこには美琴がいた。子供達を相手にたわむれる姿 に、普段と変わった様子は何もない。 それは彼を前にしても、同じだった。 まるで告白の、あの日のことなどなかったかのように振舞う彼女の様子に、花井は形容し難い感 情の波に翻弄される。それは安堵でもあり、苛立ちでもあり。 「……ああ」 結局、どう答えればいいのかわからずに、彼は生返事を投げて目をそらす。だからその仕草に、 美琴の顔から血の気が引いたことにも気付かない。
「何だよ、元気ないな。ちゃんと飯、食ってんのか?」 唐突にバンバンと音が出るぐらいに背中を叩かれて、花井は一瞬、咳き込んだ。何をする、と抗 議しながら目を上げればそこには、にこやかに笑う少女の姿があって。 「勉強で大変なのはわかるけどさ。体も動かせよ」 「ああ、わかってる」 花井の答えに、そっか、ならいいんだと言って美琴は、子供達の指導に戻っていく。残された彼 は更衣室へと向かう途中に一度、足を止めて彼女の横顔を盗み見た。その視線に気付いて少女が振 り向くと、慌てて花井は彼女から顔を背ける。 結局、と彼は服を脱ぎながら、心の中で呟く。 どうすればいいんだ、僕は。手に取った道着を強く握り締めた後、襲い来る不快感に耐え切れず、 花井はそれを床に叩きつけようとして、止めた。そして脱いだ服をまた身に付けて、彼は道場をそ っと抜け出す。 美琴が気付いた時、彼の背中はちょうど閉まる扉の向こうに消えて行くところだった。わずかに 揺らいだ表情を、しかし彼女は次の瞬間には押し隠して、明るく大きな声をあげた。 「うし、お前ら、柔軟しっかりやれよー。怪我しても知らねぇぞー」 投げ出した体をベッドが優しく受け止める。引かれたままのカーテンを、美琴は見つめる。 あの日から、一度も開いていない。もしも開けて、そこに彼がいたらと思うと。 やるせない気持ちを抱えながら、視線を彷徨わせる。 付けっぱなしのテレビからは、時代劇が流れる。並ぶ賞状とトロフィー。大きな熊のぬいぐるみ が、テーブルに向かうように座っている。 見上げれば壁にかけたコルクボードに、並ぶ写真達。浮かび上がるは思い出、そして彼女が歩ん できた道。 だがそこに花井の写真はない。 せつなくて、苦しくて、眠れない夜に彼が写る全ての写真を外してアルバムへと閉まったのだ。 枕元に置いたそのアルバムを、手にとろうとして彼女は止める。見たところでどうせ、泣きたく なるだけに違いなかったから。 彼の態度が、よそよそしくなってることに少女が気付かないわけがなかった。ぎこちない口調、 そらされる目、避けるような態度。 告白なんて、しない方が良かったかな。 口に出さず彼女はそう呟く。
いつも通りの二人でよかった。 幼馴染で良かった。 ふつふつと湧き上がる考えは、美琴の心に小さな、細かい傷を付けていく。 告白しなければ、前と変わらずにいられたのに。 下らない会話でも、何でも良かった。 彼の声が聞きたかった。 今の状況が例えようもないほどに辛くて、少女は改めて知る。自分の中での、彼の――――花井 春樹の存在の大きさを。 そのぬくもりをもっと確かなものにしたくて、側にいたくて想いを告げた。だが結果として残さ れたのは―――― こんな状況を望んでいたわけではなかったのに。 美琴はぬいぐるみの手を引っ張り、その胸に抱え込む。抱きしめる――――少しだけ、寂しさが 薄れたような気がして、彼女は力を込めた。 熊は当たり前のように何も言わない。ただされるがままに、抱きしめられている。 私はどうしたかったんだろう。 ぼんやりと天井を見上げながら、美琴は考える。 ただ、好きで。好きで。好きで。どうしようもなくて。 想いを告げてしまわなければ、壊れてしまいそうに感じた。 だから言った――――好きだと。 その先のことを、何も考えていなかったことに、今更に思い至る。 付き合いたいとか、一緒にいたいとか、そういうことは何も望んでいなかった。 ただ、感情が内で膨らんで、全てを――――体も心も乗っ取っていって。それ以外のことは何も 考えられなくなって。 暴走してしまった、恋を止めることが出来なかった。 熊を抱きしめたままに、美琴は寝返りをうつ。開かずのカーテンが目に入る。 開けばそこに彼へと続く空があるのに。今の彼女にはそれだけの勇気ももてなかった。 「……疲れた、な……」 もう、耐えられなかった。前のように話すことが出来れば、それで良かった。 恋人に、ならなくても。 幼馴染でも。
563 :
クズリ :04/12/25 12:05 ID:2.YCwsGE
というわけで、短いですが、今回はこのへんで。 何と言うか、色々とへこむこととかもあるわけですが、何とか頑張っていこうと思います。 とりあえずはもっと上手にSSを書けるようになりたいです。 それでは、今日はこのへんで。 では、よろしくお願い致しますm(_ _)m
GJ! お疲れ様です。続き楽しみに待ってます。
565 :
Classical名無しさん :04/12/25 23:12 ID:P3TrAsi.
この作者とこれを読んで喜ぶ連中を最終流動刑にかけるべきだな
クズリ氏お疲れ様です。続き待ってました。GJでした。残りも気長に待っています。
クリスマスプレゼントは沢近のクリトリス
>>563 乙です!ちょっと間があいてて内容を忘れたので
最初から読みました。次で花井になんらかの動きがあると
期待してまってます。
>>653 乙
あえて厳しいことを言うけど、一連の誕生日SSほどは酷くないけど、わりとありがちなストーリー
を雰囲気のみで読ませているという印象を受けるなぁ…。
それだけ文章そのものが上手いということでもあるけど、展開をもと練ってみて欲しい。
凄く勿体無い。
だそうです
>>653 様。
冗談はともかく、元々キャラ漫画なんだから
SSだってキャラクターノベルとして評価すればいいと思う。
本編二次問わず人気の3つ(旗・おにぎり・縦笛)は
単にストーリーだけなら、マニュアル通りのお約束展開以上でも
以下でもないんだから。
こだわるべきポイントは、雰囲気を醸し出す美文と
妄想の引き出しを増やすようなキャラの立たせ方では?
自分が上3つの派閥話を元々ありがちなご都合主義的なものとしか
思ってないから、こんな感想にしかならない。一応
>>570 へのレス。
以前IF16スレにてFAREWELL,MY LOVELYというSSを書いた者です。
そのとき続きをそのうち書くと言いましたが、一月半以上たってようやく
書き終わりました。リアルの忙しさもさることながら、申し訳なくなる遅筆
っぷりでございます。
続きを待っていてくれた方は申し訳アリマセン。
前作FAREWELL,MY LOVELYを読んでいない方、
または読んだけれどそんなもんとっくに忘れたに決まってんだろぉぉぉ
このド低脳ガァァァァーーーッッ!! という方はスクールランブル2ch分校
のスレ保管庫のIF16スレの268から始まるFAREWELL,MY LOVELYを読んでから
このSSを読むことをお薦めします。
スクールランブル2ch分校スレ保管庫 IF16スレ
ttp://sawachika.sakura.ne.jp/IF/1099026765.html
では投下させていただきます 「TOMORROW MADE NEW]
開演を30分前に控え,2−Cの教室では生徒たちが慌しく動き回っていた。 舞台作りに大道具,小道具の用意。照明の準備に音響の手配とやることは山ほど あり多くの人間が忙しく働く中,一際目を引く二人の少女が所在なさげに立ち 尽くしていた。 「はぁ〜〜、まったく天満にも困ったもんよね〜」 沢近愛理は大きく溜息をつきながら言った。美しい金の髪を下ろし、白を基調 とした可憐なドレスに身を包むその姿に、気品ある仕草はまさに御伽噺の世界の 王女様といった感じで、この上も無く似合っていた。 「まぁ、でも塚本らしいし。それに今連れてくるのは野暮もいいとこだろ」 仕方ないと言いながらもどこか楽しげに笑いながら美琴が言った。騎士役である 彼女は髪を後ろに撫で付けおり、沢近家にあった白亜の鎧を身につけ腰には剣を 差している。凛々しい表情と相まってその姿は男装の麗人と呼ぶに相応しかった。 美しき王女と白馬の騎士といった取り合わせに周囲のあちこちから溜息が漏れる。 二人は決してサボっているわけではないのだが,劇の打ち合わせをやろうにも 肝心の主役である播磨がまだやってきていないために,することもなくこうして 談笑しながらその時を待っていた。 「そりゃまぁ、ね」 沢近は表情を緩めながら言った。なんだかんだいっても親友の恋が上手くいった というのは彼女にとっても喜ばしいことだった。それにこの王女の衣装が着れるの はちょっとだけ嬉しい。 「でもアンタは大丈夫なのか? ほとんどぶっつけ本番だろ」 天満の不在により急遽王女役に抜擢された沢近だったが、当然練習する時間など ほとんどなく行き当たりばったりもいいところだった。 「誰に言ってんのよ、大丈夫に決まってるでしょ。天満が練習してたところは良く 見てたし、ストーリーは覚えてる。いざとなればアドリブでなんとかなるわよ」 「ま、アンタがいつもの猫かぶりをやりゃ問題ないんだろーけどな」 「ちょっと、それどういうこと」 沢近が美琴に詰め寄る。その時、ドアが開き晶と見知らぬ男子が一人教室に 入ってきた。
「晶、ヒゲなしは見つかった?」 晶が頷くと沢近は周囲を見回してみるが播磨の姿は無い。 「呼んできてないわけ?」 呼んだよ、と晶が当然のように答えると、なんですぐ来ないわけと苛立たし そうに呟いた。晶と一緒に入ってきた男子がそんな沢近を何言ってんだこいつ? といった表情で見ているのに気づくと、美琴は晶に声をかけた。 「なぁ、あっちの男子って高野の知り合いか?」 晶が頷く。見覚えがあるような無いようなと首を捻る美琴になんでもないよう に晶が言った。 「だから、播磨君」 「あぁ、播磨か……って何ぃーー!!?」 突然の叫び声にクラス中の注目が集まる。諦めたように苦い顔をしている男子を 見やりながら晶は小さく静かに、だがその実面白くてたまらないといったように 微笑んだ。 「いきなりどうしたのよ!?」 突如叫びだした親友に沢近が勢いこんで尋ねると、美琴は驚きに目を丸くした まま沢近に言った。 「こ、これ播磨だってよ!」 「はぁ? 何言って…」 沢近は男子を見ながら途中で言葉を止めた。そして恐る恐る指差しながら口を 開いた。 「え、アンタ本当にヒゲ…?」 「だからもうヒゲじゃねーだろが」 そう答える声は間違いなく播磨拳児のものだった。播磨はサングラスを外し、 さらにカチューシャまでをも外し髪を下ろしていたためまるきり別人のような 印象を与えていた。その素顔は元々のしっかりとした精悍な顔立ちに加え、 鋭く野性的な目は失恋の哀しみを経たためか攻撃的な色を潜め、落ち着きにも 似た深みをたたえていた。
その整った容貌と普段とのギャップは人目を引くには十分すぎた。クラス中が にわかに色めきたち、多くの生徒たちが取り囲むようにして詰め寄ってくる。その 大半が女子生徒であり、あちこちから黄色い声が挙がっていた。 物珍しさから多少に好奇の視線にさらされることは覚悟していた播磨だったが、 さすがにこうまで露骨ではいい気はしなかった。 「打ち合わせってのをやるんだろ? とっととやろうぜ」 投げかけられる視線を断ち切るように言い放つと播磨は自らの準備を始めた。 周りにいた人々も播磨の強い口調にすごすごと引き上げ、それぞれの持ち場へと 戻っていった。 それでもやはりチラチラと盗み見るような視線を感じながら播磨は衣装に着替え 始めた。播磨の衣装はよく童話にあるピエロのような格好ではなく、瀟洒な貴族服に 深紅のマントという出で立ちだった。凛々しく秀麗なその姿に周囲から おぉ〜という喚声が挙がる。 播磨は居心地悪そうに眉を顰めながらも、大人しく打ち合わせへと加わっていった。 まともにクラスメートたちの輪の中に混じり,まじめに打ち合わせをこなす播磨に 沢近は訝しげな視線を向けながら,こっそり晶に耳打ちした。
「ねぇ、あれって本当にヒゲ?」 「そんなに意外だった?」 晶が尋ねると沢近は腕を組み少し考えるようにして言った。 「…そりゃあの顔には驚いたけど、それとは別になんていうか馬鹿に見えないって いうか……」 いままでの播磨はクラスメート達の中にうまく馴染めず,また照れくさいのか それとも恥ずかしいのか打ち合わせや演技指導のときも顔を赤くしたり,微妙に そっぽを向いたりしながら傍目には不精不精やっているように見えた。しかし実際 には意外なほどやる気があるようで,その態度と行動のギャップが沢近には可笑し かった。それが今やああやって冷静に淡々とこなしている。 「一つ大人になったってことなんじゃないかな」 「お,大人ってどういうことよ!?」 「さぁ?」 晶は微笑むようにしてそう言うと素早く身を翻し,沢近の制止も聞かずにその場を 立ち去っていった。まんまと逃げられた沢近は悔しげに晶の後姿を睨んだ。やがて 諦めたようにフゥと小さくため息をつき,そしてもう一度播磨を見つめ 「・・・・・・まぁアンタは,アンタよね?」 と,小さく呟いた。
開演時間が近づいてくると他所のクラスから観客が続々と入り始めてきた。 校内でも有名な美人の多いクラスということもあってか、あっという間に教室は 満員となってしまった。 しかしそのせいか客の大半は男子生徒だった。そんな男子達の中、塚本八雲 は所在無さげに身を縮こまらせていた。飢えた男子たち、さらに上級生も含めた 見知らぬ人々に囲まれ、八雲はいつもよりずっと大きなストレスを感じていた。 何人もの男子が彼女に声をかけようとタイミングを伺い、またある者は邪まな 思いを巡らせていた。彼らの心の声を聞くたびに八雲の心はなんとも言えず重く暗く なっていった。だからだろうか、聞きなれた声に呼びかけられた時,その声にひどく 安心し、嬉しく思えてしまったのは。 「お、妹さんじゃねーか」 八雲が顔をあげると、目の前に見知らぬ格好をした見知らぬ青年がいた。しかし なぜか八雲にはそれが誰なのかすぐにわかった。 「播磨さん…」 播磨の名が出ると周囲の声がさっと小さくなった。八雲の周りにいた男子たちは ビクッと身をすくませ、そして用心深そうに辺りを見回した。やがて八雲の目の前 にいる青年がそうであると気がつくと、ポカンと口を開き呆然とした。 八雲は声が聞こえなくなったことに安堵する一方で、初めて見る播磨の素顔に ひどく驚いていた。サングラス越しでは解からなかった真直ぐな視線に見つめられ、 自然と頬が熱くなっていくのを感じる。
「見にきてくれたんだな」 「あ、はい。姉さんが見にきてって…」 八雲がそう言うと、播磨は一瞬沈痛な表情を浮かべたあと、困ったように頬を掻いた。 八雲は播磨の表情に何か違和感を感じたがその正体は解からなかった。 「て…塚本な、そのちっと用事が出来ちまったみてぇでよ、劇に出れねぇみたいなんだわ」 「姉さんが…!?」 八雲は驚いた。あれだけ練習していたのに、出れないなんて一体どんな用事なの だろう。何か大変なことがあったのだろうか。 八雲の不安そうな表情に気づいたのか、播磨が慌てたように言い出した。 「あ、心配することはねぇよ。その、用事っつっても良い用事だからよ」 明るく笑いながらの播磨の言葉に八雲はほっと胸を撫で下ろした。しかし違和感は 強まる一方だった。一体何があったのかよくわからないが八雲はそれでも播磨を信じた。 言わないということは、きっと播磨の口から言うべきことではないのだろう。 「あ〜、でもどうする? 塚本は出てねぇけど、それでも見てくか?」 「はい、姉さんはいなくても播磨さんが出てますし、それに高野先輩が演出ですから」 「そっか。じゃあ、まぁ、楽しんでってくれ」 播磨はそう言って立ち去っていった。その後姿はどこか小さく覇気がない。先程 感じた違和感といい、いつもの播磨とどこか違う。八雲の視線に気づいたのか、播磨は 一度振り返ると八雲に向かって小さく笑ってみせた。八雲は胸を掻き立てられるような 儚さを感じ、わけも無く悲しかった。
そして開演の時間がやってきた。 劇の演目自体は白雪姫というありきたりのものだった。その内容を誰もが知っている せいか観客たちの眼に期待の色は薄かった。だが幕が上がるとおぉ〜、というどよめき の声が挙がった。 それは高校生の文化祭とは思えぬほど緻密に作りこまれた背景と、その世界観を表す 細かな小道具、そして華美な衣装に身を包んだ見目麗しい役者たちの存在だった。期待が 薄かった分、その強烈な印象に観客たちは一気に引き込まれた。これは晶の伝手と沢近家 の力、そして必要以上に熱くなり凝りに凝った道具係たちの努力の賜物だった。 さらに誰もが知っていることを逆手にとり、元の内容に晶なりの解釈と演出を加えた 舞台は良い意味で観客たちの予想を裏切り、しばらくする頃には誰もが舞台から目を離せ ないようになっていた。 劇は順調に進んでいき中盤に差し掛かったころ、教室のドアが恐る恐る開かれた。その 隙間から塚本天満は首を出してきょろきょろと中を覗き込むと,気づかれぬようそっと 中へ入っていった。そして観客の後方を迂回して、舞台裏のクラスメート達の方へと 近づいていった。 「あ、塚本さん!」 ボブカットの少女が天満に気づき小さく叫んだ。その声に控えているみんなが 振り向いた。 「みんな、ホンット〜〜〜〜〜にごめん!」 天満が両手を合わせて深々と頭を下げると、仕方ないなぁといった感じでみんなが 肩をすくめた。申し訳なさで身を縮こませている天満に遅れてやってきた烏丸が声を かけた。
「ごめんね、塚本さん。気づかないで連れまわしちゃって」 実際に連れまわしていたのは天満だったのだが、責任を共にしようとする烏丸なり の思いやりだった。 「ううん、烏丸クンのせいじゃない。私が忘れてたのが悪いの」 そう言って見つめ合う二人の態度の変化に、聡い何人かの生徒はという少し驚いた ような表情をした後、にやりとした楽しげな笑みを浮かべた。 舞台上で演技をしていた沢近にも二人の姿が見えた。観客には気づかれぬよう小さく 微笑むと、一層熱の篭った演技で朗々と謡い上げた。 クラスの一人一人に謝っていく天満を、出番を待つ播磨は奥まった場所で一人見つめ ていた。天満は晶の前へ行くと十数回目の頭を下げていた。 「晶ちゃんもホント御免ね」 「気にしないで」 と晶は淡々と言った。気にするなと言われてもまだ申し訳無さそうに項垂れる 天満に、晶はそっと耳打ちした。 「うまくいっておめでとう。今度お祝いをしよう?」 「えっ、えっ」 天満はカーッと赤くなりながらあたふたと慌てだす。そんな天満に晶は穏やかに 微笑みながら言った。
「ホント、気にしないで。私は喜んでいるから」 天満は照れて赤くなりながら小さくありがとうと呟いた。それから思い直した ように播磨君は? と晶に尋ねた。 「播磨君なら、あそこ」 と晶は播磨を指差した。天満は播磨を見つけると普段とまるで違うその姿に 驚きながらも、パタパタと小走りに近づいていった。 晶は走っていく天満の背中越しに播磨を見つめた。それに気づいた播磨と一瞬 視線が交わる。 悲しげなその目はそれでも、心配いらないと気丈に語っていた。 「えっと、ごめんね播磨君」 播磨の前までやってくると天満は彼の姿に戸惑いながらも口を開いた。 「いや…、気にすんな」 ごめんという言葉がやけに重く、胸に響く。返す言葉は低く苦いが、震えない だけ上等だった。 「でもあんなに練習したのに、無駄になっちゃって……」 少なくとも天満の前では播磨は常に一生懸命だった。劇の練習のときも失敗して ばかりの天満に文句一つ言わず、根気よく付き合ってくれた播磨に対して天満は 申し訳ない気持ちで一杯だった。
その気持ちが今の播磨には痛かった。頑張ったのは劇のためじゃない、彼女のため。 無駄だったわけじゃない、ただ不甲斐なかっただけだ。 「無駄なんて言うな」 「えっ?」 「無駄だったわけじゃねぇ。ただ…、それより大事なことがあった。そうだろ?」 「うん…」 「そりゃ仕事をスッポかすのはよくねぇが、……でもそれだったらそんな下を向いて ちゃいけねぇ。少なくとも、俺なんかに謝ることはねぇさ」 「播磨君……」 天満は何か言おうとしたが、播磨はそれを待たずに背を向けた。 「わりい、もう出番だから行くわ」 小さく振り返りそう言うと播磨は舞台へと上がっていった。天満は思わず播磨へと 手を伸ばすが、それは中空で止められゆっくりと引き戻された。天満は行ってしまった 播磨の姿を眺めながら晶に声を掛けた。 「ねぇ、播磨君怒ってなかったよね…?」 「そうね、怒っては無いはず」 「だよね。でも、なんだか……辛そうだったな」 「それはきっと貴方が気に病む必要は無いことなのよ」 だといいんだけどな〜、と納得いかないような表情を浮かべた。そしてしまいには 腕を組みながらうんうん唸りだした天満に晶が言った。 「途中からだけど、よかったら向こうで劇を見てったら? 八雲も来てるしね」 「八雲も来てるんだ。じゃ、行こうか烏丸クン」 ついさっきまで唸っていた天満は晶の言葉にあっさりと気持ちを切り替えたのか、 明るい声で烏丸へと向き直った。烏丸がコクリと頷くと、二人はコッソリと観客席の 方へ出ていった。
八雲が肩を叩かれて後ろを振り向くと、そこには本当ならば今舞台に上がっている はずの天満の姿があった。 「姉さん!?」 「あははは、八雲見にきてくれてたんだね〜〜…」 少しばつが悪いのを誤魔化すように天満は笑いながら声をかけた。そんな姉の姿に 安心する一方で、こんな時にいなくなり心配をかけたことを少しだけ責めるような 口調で天満に尋ねた。 「姉さん、今までどうしてたの?」 「うん、それがね〜〜……」 天満は頬を朱く染め、恥かしそうに隣にいる烏丸を見やった。すると烏丸は八雲に ぺこりと小さく会釈した。 そこでようやく烏丸の存在に気づいた八雲は慌てて頭を下げた。そして二人を見比べ て、その関係が今までとは違うということに気がついた。これまでは天満が一方的に 想っていただけだったが、今目の前で彼女を見つめ返す烏丸からも天満に対する 少なからぬ想いを感じる。 なるほど、用事というのはこういうことだっとのかと八雲は察した。なにがあったの かはわからないが、姉の恋はうまくいったのだ。知らず知らずのうちに口元に微笑みが 浮かびんでくる。大好きな姉の幸せそうな顔を見ていると、まるで自分のことのように 嬉しく思えた。心の底からの祝福が胸を満たす。 それを言葉にしようとしたその時、はっとあることに思い至ってしまった。八雲は 無意識に舞台のほうを振り返り、段上の播磨を見つめた。
「八雲?」 突然の八雲の行動を訝しげに思った天満が声をかける。名前を呼ばれ向き直る八雲 の表情は固く険しかった。 「八雲ちょっと顔色悪いよ、大丈夫?」 「大丈夫、気にしないで……」 そう言って八雲はもう一度舞台へと向き直った。 播磨は良い用事だと言っていた。それはつまり、天満と烏丸のことを知っていたと いうことだ。八雲はあの一瞬浮かべた悲痛な表情、どこか儚かった笑顔を思い浮かべた。 それでも平静であろうと、良い用事だからと笑っていた彼の心を思い遣った。 どんな気持ちだったんだろう、人を好きになるということをいまだ知らない八雲には 想像もつかない。にも関わらず、まるで自分のことのように悲しかった。 俯いていた顔を上げ、播磨の姿をしっかりと見つめる。今何を想っているんだろう、 誰を想っているんだろう。初めて、見えぬ"力"がもどかしく思えた。
天満と烏丸の二人が去ると、入れ替わるようにして沢近が舞台から戻ってきた。 ならんで歩く天満と烏丸を見やりながら沢近が晶に小さく言った。 「あの二人結構お似合いみたいね」 「そうだね」 観客席に着いた天満と烏丸は八雲と2,3言葉を交わすと席に座り劇を見始めた。 バンドで忙しかった烏丸と違い、自身が主役として練習をしてきた天満は、劇の内容 もみんなの演技も細部まで詳しく知っているはずだ。それでも彼女は目をキラキラと させて舞台に魅入り、心から楽しんでいるようだった。烏丸は劇と、そしてそれを 見ている天満とを交互に眺めていた。無表情なので何を思っているのかわからないが、 おそらく楽しんでいるのだろう。そうやって天満を見ていたくなる気持ちは沢近にも よく分かった。 「まぁ、こっちは問題無いとして…」 沢近はそう呟くと今度は舞台の方に目を移す。 練習の時の播磨はどんなに言っても王子としての役になりきれず、どうやっても播磨は 播磨のままだった。人前で演技するということが恥かしかったのか、しょっちゅう 顔を真っ赤にしながら、それでも一生懸命練習する姿を沢近は見ていた。学校一の不良 として名を轟かす彼が一体どうしてあそこまで必死に頑張っていたのかわからないが、 とにかく彼がこの演劇に対して情熱を傾けていたのは間違いない。 舞台の上では播磨が従者役の花井に向かって命令をしていた。その凛然とした声と 揺ぎ無い堂々とした立ち姿は王子としての威厳と気品に満ち、一見名演技に見える。 これが今までの播磨であったなら、不良がパシリに命令するのと同じニュアンスでしか 演技できなかった。
だがこれは違う。何があったのかはわからないが、彼はもう今までのような熱意を 持っていない。あまりにも必死であったがゆえに、有りのままの播磨がでてしまって いた練習の時と比べ今の播磨には彼自身と呼べる部分が無い。本気ではないから、王子と いう役柄をこなしているに過ぎないのだ。 舞台の上の播磨を見つめていると、ふとまるで播磨がいなくなってしまったような 気がした。その途端、沢近は何故か胸が苦しくなったような気がした。 「…アイツ、本当どうしちゃったわけ?」 「気になるんだ?」 「別に気になんてっ「気になるなら」 わずかに声を荒げた沢近を遮るように、はっきりとした声で晶が言った。晶は沢近 には目を向けず、舞台の方を見つめながらゆっくりと続けた。 「気になるなら、聞いたっていいと思うよ。答えてはくれないかもしれないけど、 想いは伝わると思うから」 「だ、だから! 気になんてしてないったら!!」 ムキになって否定する沢近に、晶はフゥと小さくため息をつくと沢近の肩をポンポン と叩いた。 「……なによそれ」 「別に。ほら、もうすぐ出番だよ。いってらっしゃい」 沢近はそう言って小さく手を振る晶をキッと睨み付け、何か言いたそうに体を震わ していたが結局何も言えず、後で覚えてなさいよと捨て台詞だけを残して舞台へと上が っていった。 晶は舞台へ向かう素直になれない沢近を見送った。そして舞台の上の踏み出せなかった 播磨を見つめた。観客席の方を向き、舞台を熱っぽく見つめながらもまだ理解するには 幼い八雲を見つめた。目を閉じて弱かった、そして今も弱い自分を見つめた。目を開くと、 烏丸の隣に座り楽しさを体一杯に表現している天満の姿があった。 「……やっぱり、天満はすごいね」
やがて劇は終盤へと差し掛かり、この物語のクライマックスであるキスシーンを迎え ようとしていた。勿論実際にキスをするわけでは無く寸止めである。練習の時は播磨は 当然ながら平静でいられず、いつも理性と欲望の葛藤に悶え苦しんでいた。恥かしさの あまり最後まで演技できなかったこともあり、本番の時には一体どうしようかと悩んだ ことを思い出して播磨は小さく苦笑いを浮かべた。 一方、ベッドに身を横たえる沢近は気が気ではなかった。考えてみれば沢近にとって このキスシーンは初めてだった。別に本当にするわけじゃないし、ただ寝てるだけで いいんだからと心を落ち着けようと何度も言い聞かせるが、心臓は一向に鳴り止まな かった。 カツッと靴音が聞こえると沢近の心臓は一際大きく跳ねた。そうして播磨の足音が 近づいてくるたびに鼓動は激しく大きく鳴り響いていった。息苦しいほどに体が熱を 帯びていくのが分かる。やがて沢近の顔を覗き込むようにして播磨の顔が現れた。 播磨の顔がゆっくりと近づいてくる。もう心臓の音以外何も聞こえない。 (私、すごい顔してる……) 沢近は播磨の瞳をじっと見つめた。そしてその瞳に映る自分の姿を見た。緊張に口元を 強張らせながらも、頬を上気させ瞳を熱っぽく潤ませているその顔は彼女自身初めて見る ものだった。 突きつけられた真実はつまらない意地も、捨てられなかったプライドもあっさりと 突き破った。 (私、やっぱりコイツのことが……) 播磨の顔が触れ合わんばかりに近づき、そして止まった。播磨の体温が伝わってくる。 だがそれ以上近づくことは無い。当たり前だ、これは演技なのだから。 それが沢近には少しだけ グラリ 「あっ…」 播磨の顔が近づき、口に何かが押し当てられるのを沢近は感じた。
「きゃっ地震!?」 「お、おぉおデカいぞ!」 突然の揺れに悲鳴にも似たざわめきが湧き起こる。立っているのも困難なその揺れに あるのは身を低くし、あるものは机や椅子にしがみ付き揺れに耐える。やがて地震が 静まりガタガタという物音が途絶えると、つかの間の静寂があたりを包んだ。 みな無事を確かめるようにキョロキョロと辺りを見回す。そして何事もなかったこと を確かめるとほっと息をつき、先程の地震についてガヤガヤと話しだした。 播磨はとっさに差し入れ沢近の口に押し当てていた手を離し、ゆっくりと身を起こした。 今まで息をすることができなかった沢近がプハァッと大きく息を吐き出すと、播磨は 悪かったなと小さく目配せをした。そこには照らいも恥じらいも無い。そんな播磨を 沢近は呆然と見つめていた。 播磨は正しい行動をした。本当にキスをするわけにはいかないし、あの場面で咄嗟に 行動できたのは賞賛されこそすれ、非難されるいわれはない。 (だけど、もうちょっとこう……なんかないわけ!?) 一人で盛り上がってた自分が馬鹿みたいだ。天満が相手のときはあんなに恥かしがってた くせに、私のときはスルーってどういうことよ!? 眼中に無いってわけ!? カーッと頭が熱くなり、なぜだか無性に腹が立って沢近はベッドから跳ね起きた。 「お、おぉ! 姫様が目覚められたぞ!!」 「えっ?」 沢近が起き上がると、小人役の一人が慌てたように台詞を叫んだ。その声に地震に 気をとられていた観客たちも舞台へと注目を戻す。 「「おぉ、なんという奇跡だ!」」 同じように地震によって我を忘れていた役者たちも、急な続行に慌てふためきながら も自らの役柄へと就く。
沢近は自らの意思と反していつのまにか進行しだしてしまった劇に呆気にとられていた。 しかし自分の出番が回ってくるとハッと思い出したように演技へと戻った。 そうしてどうにか劇は再開されたものの、地震によって乱されてしまった集中力は 役者にも観客にも大きな影響を与えていた。さらに最も肝心なクライマックスといえる シーンを見逃してしまった観てもらえなかったということが、観客と役者の両方から 熱意を奪っていた。 一見滞りなく続けられたように思えた劇だったが、演じる側も観る側もそれまでと 比べてどこかぎこちなく上の空だった。そして、結局そのまま終幕を迎えるという 不本意な結果に終わってしまった。 「な〜んか、締まらないよな〜〜」 引き上げていく観客を見送りながら美琴はうめくようにぼやいた。 「仕方ないよ。あんなアクシデント予想できないし」 晶の言葉にまぁな、と答えながらも美琴は残念そうに大きくため息をついた。 「でも、楽しんでくれた人はいるよ?」 晶は慰めるようにそう言うと視線を移した。
「みんなよかったよ〜〜〜〜〜!!」 天満がピコピコ髪を揺らしながら大きな声で言った。その声においおい直前で居なく なったお前が言うことか? といった捻くれた考えを持つ者がいなかったのは彼女の 人徳の成せる技だろう。そればかりか天満の本心からの賞賛の言葉に、満足のいかない 結果に落ち込んでいたみんなの顔が次第に明るいものへと変わっていく。 「特に播磨君なんて練習の時よりずっと上手くなっちゃって。カッコよかったよ〜、 ね、八雲」 「えっと、その…素敵でした」 「あ〜、…ありがとよ」 そう返す播磨の口調はどこか歯切れが悪かった。一見何でもないような表情がその実、 悲痛に歪んでいるのだと八雲にはわかった。いまや姉の隣にいる男性と、そして無邪気な 笑顔を見せる姉をちらりと見た。播磨のことを考えると胸が痛む。 「あ、そうだ。劇も終わったしさ、よかったらさ播磨君と八雲と、私たちとで一緒に 文化祭巡りしようよ!」 「姉さん!」 咄嗟に叫んでしまい八雲はハッとした。思わず声を荒げてしまったことを後悔した。 でもこれ以上播磨が傷つくかと思うと耐えられなかった。
「もぉ〜、八雲ったら恥かしがらなくったいいんだよ〜〜」 しかしそんな八雲の想いに気づくことなく、天満は恥かしがってるのだと勘違いしていた。 「姉さん、それはちが…」 いつもの癖で訂正しようとして言葉に詰まる。本当のことを言うわけにもいかず、また 八雲自身今の自分の気持ちをうまく言葉にすることができなかった。 「悪ぃけどよ、ちょっとやることがあるから遠慮しとくぜ…」 播磨がそう言うと天満は心底残念そうな顔をした。その表情に播磨は誰も気づかないよう な小さな苦笑いを浮かべた。 「そっか〜、じゃあ八雲はどうする?」 「私もいいよ、二人で行ってきて…」 播磨から目を離さぬまま八雲が言うと、そんな二人きりだなんてもぉ〜気を遣わなく たっていいんだからね〜〜、と天満は顔を赤くしながら八雲の背中をバシバシ叩いた。 「ちょ、姉さん痛い…」 天満が八雲の言葉にようやく我にかえり、播磨の方を向き直りながら 「じゃ私たちは行くけど播磨君、八雲のこと……ってあれ?」 と言おうとした時には、既に播磨の姿はそこに無かった。
播磨は教室から抜け出し、屋上にやってくるとそのまま大の字に寝転んでしまった。 陽は少し傾き始めているが見上げる空は眩しく、サングラスが少しばかり恋しい。 播磨は目をつぶり深く息を吸うと、そのまま大きく溜息を吐いた。わかってはいたこと だがやはり辛い。自分なりの整理をつけたつもりではあったが、だからといっていきなり 好きでいることを止められるわけではない。好きなものは好きなのだ。たまらないほどに。 播磨は胸のポケットからサングラスの欠片を取り出すと,それを陽に透かし眺めた。 思えば何時だってサングラスを通して彼女の笑顔を眺めてきた。それを無くした今、 これほどに眩しいものだったのかと思い知らされた。それは言うなれば太陽の光。 どれだけ手を伸ばそうとも届かず、迂闊に見つめればその輝きに瞳を焼かれる。しかし それは離れ難く、暖かく照らし自分を生かしてくれる希望の光。忘れることも、誤魔化す こともできず、無かったことにするにはあまりに尊い。 どうしたらいいかなんて見当もつかない。たぶんどうしようもないのだろう。 時間が解決してくれるその時まで、こうやって一人煩悶とするしかないのだろう。 播磨は目を閉じて、胸を苛む痛みを噛み締めた。 これが失恋。
その時カチャッと小さくドアの開く音がした。 目を開け、体を起こすと一人の少女が扉を開けて入ってくるところだった。 「どうした妹さん、なにか用か?」 播磨は立ち上がり、やってきた八雲に声をかけた。八雲は大きく息を吸い、何かを 言おうと口を開いた。しかし言葉はでない。それでも八雲は言いにくそうに目を 伏せながらも、 「あの、姉さんのこと、なんですけど……」 となんとかそれだけを口にした。そのひどく申し訳なさそうな表情に、播磨はそれが 何についての話なのかを見て取った。 「…そっか、そういや妹さんにはバレてたっけな」 播磨は以前漫画を手伝ってもらったときに、その主人公とヒロインが一体誰をモデルに しているのかを八雲に知られてしまったことを思い出した。漫画の内容からいってそれが 一体何を意味しているのかを察するのは難しくないだろう。 「塚本は上手くいったみてぇだな」 不自然に朗らかな播磨の声に,ひどく複雑な表情を浮かべながら八雲は静かに頷いた。 それきり、二人は何も言おうとはしなかった。耳を打つ僅かな風の音だけが響いていた。 播磨は八雲に背を向けるとゆっくりと歩き出し,屋上の手すりに肘を預けよりかかった。 八雲はじっと播磨を見つめ、播磨は八雲の視線を受けながら遠い街並みを見つめていた。 時間だけが流れ、やがて八雲がポツリと言った。 「平気…なんですか?」
「そりゃ平気じゃねぇけどよ」 播磨は振り返ると小さく肩をすくめ、軽くおどけたようにして言った。それは必要以上に 八雲に心配をかけまいとする強がり。相変わらず《声》は見えない、それなのに播磨の そういった思い遣りがまるで目に見えるようで、嬉しかった。いたたまれなかった。 「けどよ、て…塚本が烏丸のこと好きだってのは結構前から解かってたんだ。こんな日が 来るかもって覚悟はしてた。だからかな、そこまで辛いってわけでもねぇんだ」 だからまぁ、心配いらない、と軽い口調で播磨は続けた。 しかし、八雲は悲しげな表情を深める一方だった。 「嘘、ですよね」 「……妹さん?」 播磨は驚いたような表情で呟いた。八雲は俯きがちなその眼をしっかりと上げ、真剣な 表情で播磨を見つめていた。そして一つ一つ言葉を確かめるようにゆっくりと口を開いた。 「私、今播磨さんがどんな気持ちでいるのか、よく、わかりません。誰かを好きになった ことも、その、失恋したことも、ありませんから……」 自分は今ひどく場違いな、間違ったことを言っているのではないだろうかという考えが 頭をよぎる。それは異性の心の声が見えるゆえに、それが自分の想いとはあまりに違うが ゆえに八雲が常に感じている他者との隔たりだった。 言うべきことと言うべきではないこと、それを見極めるのは誰であろうと難しい。まして こと恋愛に関しては八雲の心はあまりに幼かった。それでも、八雲は播磨に何かを言って あげたかった。
「それでも、播磨さんの言ったことが,嘘だってわかります。播磨さんがどんなに真剣に, 姉さんのことが好きだったのか、わかります。あの、だから……」 ともすれば胸につかえ,息が止まってしまいそうになりながら,それでも八雲は搾り出す ように言葉を接ごうとした。 だけど何を言っていいのかわからない。それはわかっていたこと、私はいつだって何かを 上手く言えたことなんて無かったのだから。それでも私はここに来ることを決めたのだから、 言わなくてはいけない。言葉を止めることなんて、できなかった。 だから想ったことをそのまま口にしようと思った。それは八雲にとって,とても勇気の いることだった。 「私姉さんのことが大好きです。だから、姉さんが嬉しそうなのを見てると私も嬉しく なります。だけど今、私苦しいんです。播磨さんが苦しんでるのを見てると、私も苦しく なるんです……」 八雲は片手で胸を押さえ、まるで本当に苦痛に喘いでいるかのようだった。播磨は八雲の 真意を掴みかねていた。だが、その切々とした声に真剣に耳を傾けていた。 「そうやって播磨さんが無理をしていると、堪らない気持ちになって……。私に話したって、 なんにもならないかも知れないけど、それでも…隠さないで欲しいんです。その、私…私……」 何時からか,彼女自身知らぬ間に芽生え,そしていまや心を埋め尽くさんばかりに育った想い。 おそらく多くの人々は彼女が抱いているこの気持ちを“好き”と呼ぶだろう。しかし八雲には わからなかった。胸の中に息づく初めての感情に、なんという名前をつけていいのかわから なかった。ただわかるのはそれがとても大切で、愛おしく感じているということ。いつだって 考えや思いを表に出すことのできなかった自分が,初めて心から伝えたいと,そう思えるほどに 眩しくて暖かい。
しかしすぐそこまで出かかっている気持ちをどうしても上手く言い表すことができず,八雲は もどかしそうに顔をしかめた。 「…前に、付き合っているってどういうことなのかって……播磨さんに聞きましたよね」 ふと八雲の脳裏に播磨に尋ねた質問のことが浮かびあがった。付き合うということは,どういう ことなのかと。嬉しいこと、楽しいことを共有していくことが付き合うということじゃないかと、 播磨は言った。だとすると、自分の想いはそれとは違うのかもしれない。けれど自分の想いが確か だということは間違いなかった。 「その時の答えとは……少し違うのかもしれないけど……私、播磨さんが辛いときに、何も せずにいたくないんです。離れて…いたくないんです。だから、私には、そうやって…… 誤魔化さないで欲しいんです」 傍にいたい。それが八雲の偽らざる本心だった。 かつて八雲が異性の心が視えるようになり始めたころ八雲はそのことにひどく苦しんでいた。 その時、八雲は彼女を気遣う天満の気持ちが視えたことで救われた。 辛そうなこの人を見ていたくない。自分では慰めることなんてできないし、きっと支えに だってなれっこない。だけどほんの少しだけなら、この人の力になれるかもしれない。 希望をあげられるかもしれない。なにもしてあげられなくても、傍にいるだけで、ただ想う だけで、それを伝えてあげるだけで、この人の痛みをほんの少しでも癒せるなら、それだけで 勇気を振り絞る価値がある。 「私にとって播磨さんは、とても大切な、人ですから……」
長い沈黙があった。もしかしたら、一瞬のことであったのかもしれない。だが八雲には 永劫にも思える時だった。何かを求めて来たわけじゃない。ただ力になれればと。播磨の 優しさは知っている。しかし今答えを期待し、恐れるこの気持ちはなんなのか。 「八雲ちゃん……」 播磨の呟きに八雲は体を震わせた。八雲は播磨を見つめた。播磨もまた、八雲を見つめ ていた。絡み合う視線に頬が熱を帯びていくのを八雲は感じた。播磨の視線はどこまでも まっすぐで、今彼が見つめているのは自分なのだ、という気持ちが強く湧き上がってくる。 それは切々と自らの想いを語る八雲に、初めて播磨が“天満の妹”ではなく、塚本八雲という 一人の少女を見た瞬間だった。 「名前…初めて呼んで……」 聞きなれた筈の自分の名前が、どうしようもないほど激しく耳を揺さぶった。その響きが、 何度も何度も胸の中でこだましている。気がつけば涙が零れだしていた。 「ちょっ―――妹さん!?」 突然涙を流しはじめた八雲に、播磨は狼狽した。八雲の周りをあたふたとうろつきまわり、 意味不明なジェスチャーを繰り返す。その姿が可笑しくて八雲はクスリと小さく微笑みながら、 涙を拭った。 「名前……名前で呼んでください」 八雲の言葉に播磨はピタリと動きを止め、頬を掻きながらこそばゆそうに 「えっと、……八雲、ちゃん?」 と,言った。 「…・・・はい」 嬉しそうに微笑み返事をする八雲に、播磨は混乱しながらもほっと一安心した。そして、 彼女のくれた言葉に対して何か言わなくては、と強く思い至った。 「・・・その、俺のことそんな風に心配してくれる人っていなかったからよ、なんつーか……、 すげぇ嬉しかった」 心配とは少し違う気がするのだが、嬉しいというその言葉だけで今の八雲には十分だった。 八雲は微笑みながら小さく首を振った。
「いえ、その……私が好きで、してることですから」 そう言って気づいた。そうか、私は播磨さんのことが好きだったんだ、と。 これが好きなんだ、この暖かい気持ちが。ずっとずっと知りたくて、憧れていたものは やっぱり素敵なものだった。八雲は胸に手をあて、全身でその感情を感じていた。 そしてさっきまで自分の言っていたことが急に恥かしくなった。あれではまるで、告白の ようなものではないだろうか。いま自分は顔を真っ赤にしてるんじゃないだろうか、泣いて しまってみっともなくなかっただろうかといったことが急に気になりだした。 しかし当の播磨は彼女がそんなことを考えてるとは露知らず,先程泣かれてしまったことも あって,顔を赤くして俯きだしてしまった八雲を少し困惑しながらも心配そうに見つめていた。 そのことにホッとする一方で、考えてみればいまも変わらず播磨の心の声は視えないのだと 気がついた。正直ちょっとだけショックだが、それほど気にならないのも事実だった。 好きになってもらいたい、愛されたいという感情は確かにある。だがそれ以上に湧き上がる のは愛したいという想い。 好き、なんて不思議な言葉。このたった二つの文字が、これほどまでに自分を変えてしまった。 いままでずっと抱えていた不安や恐れが驚くほど小さくなっている。遠い風景のように漠然と していた世界が、急速に色を帯びすぐ目の前にまで近づいてきたような気がした。 ふと、人を好きになるとはどういうことなのかと尋ねてきたあの不思議な少女のことを 思い出した。そしてなぜか、この色鮮やかな世界では二度と彼女に会うことはできないだろう という予感がした。 一抹の寂しさを感じながら、八雲は目を閉じて心の中であの少女に語りかけた。 ……私は人を好きになれたよ。すごく素敵なこと、……いつか貴方にも解かってもらえるかな?
届くことを祈りながら、八雲がゆっくりと目を開けると播磨はいまだに心配そうに 八雲を見つめていた。 「なんでもないんです。ただ少し……」 その時、校庭の方からワーッという歓声が聞こえてきた。その声が静まったあとも ガヤガヤとしたざわめきが治まることなくこの屋上まで届いてくる。 「なんだか、やけに外が騒がしくなってきたな」 播磨が校庭を見下ろすと、大勢の生徒たちが続々と校庭に集まってきていた。中には 資材やらなにやらを忙しそうに運んでいる生徒なども見受けられ、何かが始まろうとして いるようだった。 「確か、6時から全校でのイベントがあったと思います」 「そっか、だからか」 みればキャンプファイヤー用の組み木や松明などが用意され、さらに朝礼台は改造されて 特設のステージと化している。 気がつけば夕陽は沈みはじめ、世界は紅く染まりかけていた。播磨の影が長く長く伸びて、 八雲の足元へと繋がっている。そんな何でもないことに八雲は微笑みながら、その影を伝って 播磨のすぐ傍へと歩いていった。 「よかったら……一緒に観に行ってみませんか?」 播磨は少し驚いたような表情をした。いつも控えめな彼女が自分からそういうことを 言い出すとは思わなかったからだ。これも自分を元気づけてくれようとしているのだと 思うと,無碍にはできない。 「…そうだな,せっかくだし行ってみるか」 播磨はそう言うとゆっくりと歩き出した。歩幅の違う八雲が簡単に追いつけるぐらいゆっくりと。 八雲は播磨の隣よりもほんの少しだけ後ろを歩きだした。それはいつもより少しだけ近い場所。
「全くヒゲのやつどこ行ったのよ…」 播磨が何時の間にか教室から姿を消してからというもの、沢近は播磨を探して校舎の中 を歩き回っていた。既に一階と二階は回った。あとは三階と屋上を残すのみだった。 もっともどこかで入れ違っているという可能性もあるし、もしかしたら見落として しまっているのかもしれない。その可能性を考えて沢近は昇りかけた階段で立ち止まり 大きな溜息をついた。 一体なんで自分はこんなにしてまで播磨を探しているのだろうか。何度目になるか わからない疑問を自分へと投げかける。そのたびに答えは”よくわかんない”に帰結するの だった。 あのキスシーンが今も自分の心の中で尾を引いているのは確かだ。何か言ってやりたいの だが、何を言っていいのかわからない。まさかなんでキスしなかったんだ、などとは口が 裂けても言えるわけがない。じゃあ何をするのかというと、結局わからなかった。 何か目的があるわけではなく、ただ会って何か話がしたい。だがそんなはずは無い、何か 理由があるはずだと思う。しかし彼女はその理由が純粋な好意からだということを、認めよう とはしていなかった。 「とりあえず会えばすっきりするわよね」 疑問の数だけ導き出してきた答えを呟き、再び階段を上りだした。 三階にあがり廊下を見渡すと反対側の廊下のつきあたり、屋上へと繋がる階段から 降りてくる播磨の姿が見えた。ドクンと胸が高鳴り、自然と足取りが早まる。小走りに 近い勢いで駆け寄り、播磨の名を呼ぼうとした。 「播…磨……クン……」 だがその声は播磨の後ろから現れた八雲の姿によって弱々しく消えていった。二人が こちらに向かってこようとしているのに気がつくと、沢近は咄嗟に手近の教室の中に 隠れてしまった。
sien?
そして、寄り添うようにして歩く二人が通りすぎていくのをただ眺めていた。二人の 様子、特に八雲の様子が今までと違うことはすぐに気がついた。今までのどこか流されて いたような気弱な印象が薄れ、自分の意思で播磨の傍にいるのだと、播磨を見つめるその 瞳が語っていた。播磨のほうも八雲に対する態度がどこか変わっていた。それが何なのか 沢近にはわからなかったが、気分は重く暗く沈んでいった。 「出遅れちゃったね」 背後からの突然の声に驚き振り返ると、いつのまにか晶がそこにいた。 「晶!? なんでここに?」 驚愕のあまり叫ぶように尋ねると、「それは尾けてきたから」と当然のように晶はのたまった。 「尾けてきたって……アンタねぇ!」 やっていいことと悪いことがある、と怒鳴ってやろうとしたが晶の意外なほど真剣な表情に 言葉を続けることができなかった。 「もう少し背中を押してあげたほうがいいかなって、そう思ってたんだけどね」 「それってどういう意味よ……」 晶は呆れたように沢近を見つめた。 「播磨君のこと、気づかれてないと思ってたの? まぁそんな意地っ張りな愛理だから少し 協力してあげるつもりだったんだけど……」 そう言って晶は八雲と播磨が去っていった方向を見つめた。その瞳は沢近が驚き息を呑む ほどに優しかった。
「…晶、貴方八雲もそうだって知ってたの?」 「知ってたって言っていいのかどうか。あの子はまだ自覚してなかったから。だから私は 八雲には何もしてないよ。それは八雲が自分で気がつかないと意味が無いし。私が手を だすのはそこからだから」 「じゃあ、あの子は……」 「うん、自分の意志で踏み出すことをきめたのよ。本当は、八雲も愛理も公平に手伝って あげるつもりだったんだけど」 晶はそう言って困ったように微笑みながら向き直った。 「でも、これ以上はダメ。これ以上愛理の味方したらズルになっちゃう」 同じ、優しい瞳が自分にも向けられていることに沢近は気がついた。思い返せば彼女は 影ながら、本当に影ながらずっと自分を応援してきてくれていたのだ。だというのに私は つまらない意地を張って彼女の思い遣りを無駄にしていた。その間に八雲は自分の意思だけ で歩き出すことを決めていた。その差が先程見せ付けられた光景だった。 沢近は大きく溜息をつくと、じろりと晶を睨み付けた。 「…私がそう簡単に素直になれないって知ってるでしょ?」 「うん、よく知ってる」 「だったら、蹴っ飛ばしてでも突き出してくれればよかったのに」 「そんなこと言って。それはそれでへそ曲げるくせに」 二人とも憮然とした表情を浮かべながらも、口元は小さく笑っていた。ひとしきり笑うと 沢近はフゥと鋭く息を吐き、真直ぐな眼差しで八雲とそして播磨が去っていった方へ向き直った。 そこには動揺も後悔もなく、ただ一つの決意だけが示されていた。
「始まったばっかりなんだから、まだまだこれからよね」 「それは愛理の頑張りしだいかな」 「私が頑張るのよ? 上手くいくって思わない?」 「さぁ? でも応援はしてる。手伝わないけど」 晶の言葉に苦笑いしながら、沢近は播磨達とは反対の方向へと歩き出した。 「追いかけたりしないの?」 「今日は八雲に免じて譲ってあげるわ」 沢近は振り返るとそう言い放った。晶は迷いのない颯爽とした足取りで歩く沢近を追いかける ようにゆっくりと歩き出した。 「でも、恋は先攻のほうがずっと有利だよ」 「うるっさいわね!」
空は暗く、地平線の近くだけが僅かに薄紫色に染まり、太陽はその姿のほとんどを 隠していた。煌々と辺りを照らす篝火だけがいまなお世界に光を残していた。そこら中に 据えられた松明の炎とたくさんの人々の熱気が校庭を訪れた播磨と八雲を迎えた。 校庭を見回すと、屋上で見ていたときよりもさらに多くの生徒が集まっている。まだ 始まっていないにも関わらず,暴れ盛りの少年少女がこれだけの密度で集まると気圧される ほどの喧しさが溢れ出していた。中心に据えられた一際大きなキャンプファイヤーの周り では,見るからにやんちゃそうな男子がその周囲をぐるぐると走り回り,それを眺める 他の生徒たちが可笑しそうに笑い声をあげていた。 あまり喧騒を好まない二人は少し遠巻きからこの光景を眺めていた。するとステージの 前の人だかりの周りを歩き回っている天満の姿を見つけた。前の方へ行きたいのか、 どうにかして中に入りこもうとするが、小柄な天満は人垣に弾かれてしまい中へ入ることが できない。 「ちょっとここで待っててくれるか?」 播磨は八雲にそう言うと天満の方へ踏み出そうとした。 「播磨さん!」 呼び止める八雲はひどく不安そうな面持ちで播磨を見つめていた。 「心配いらねぇって、八雲ちゃん」 そう言って笑う播磨はまだ少しぎこちなかったものの、それまでにはなかった力強さが あった。元々播磨は自分を卑下し、過小評価する傾向があった。自分のような不良が、 と考え、他人の善意や好意を受ける資格が無いと思いがちだった。事実、他人の好意を 受けることは少なかった。しかしだからこそなのか、好意に報いたいという気持ちは 人一倍強かった。
その彼を八雲は信頼し、心から思い遣ってくれた。数え切れないほどの恩を受けた。 彼女だけは裏切れないと、傷つけたくないと心底思う。 心配はかけたくない、不安な顔をさせたくない、そのための努力を俺はしなくちゃならねぇ。 メソメソはしていられない、空元気じゃ意味がない。だから、芯から強くなる。 播磨はゆっくりと天満の方へと歩き出した。気負った風もなく、悠然としたその 足取りにはその実万感の思いが込められていた。 播磨が近づいていくと、人垣がまるで十戒のように左右に割れていった。素顔の彼を 播磨拳児だと気づかなかった者も多かったろう。だがその身から発せられる威圧感は 彼らを下がらせるには十分だった。 播磨は天満の前に立つと、そのまま道を開きながらステージの一番前へと歩いていった。 天満は少し驚いたような表情を浮かべたあと、微笑みながら播磨の後についていった。 一番前に着き、天満は播磨のすぐ横に立つと播磨の方へ向き直り言った。 「ありがとう、播磨クン」 それからキョロキョロと辺りを見回すと不思議そうに聞いた。 「あれ、八雲は? 一緒じゃないの?」 「八雲ちゃんにはちょっと向こうで待ってもらってる」 播磨がそう言うと、天満は播磨をジッと見つめた後ニッコリと微笑んだ。 「よかった〜、ちゃんと名前で呼んであげてるんだね。いつも妹さんってしか言って なかったから少し心配だったんだ〜〜」 「あ、あぁ、まぁな。それでちょっと塚本に話したいことがあるんだがいいか?」
「うん、なに?」 無邪気な表情で天満は聞き返した。播磨は小さく深呼吸するとゆっくりと小さく辺りを 見回した。皆他のことに気をとられて誰もこちらを気にしていないし、たとえ聞かれたと しても構いやしない。それでもいざ切り出すとなると勇気がいる。告白をするわけじゃない。 ただ知ってもらいたいだけだ。そうして今も捨てられず胸の中で燻り続けている想いの欠片を、 彼女へ手渡すことで初めて、本当の意味でのケリをつけられる気がする。 「あのよ、こんな時にこんなこと言うのもどうかと思うんだけどよ……」 「うん」 播磨の真剣な声に、天満の表情が引き締まる。これから告げる言葉に一体どれだけの 想いが込められているのか、彼女はきっと知らないだろう。この2年、自分が何を求め、 何に飢え、何を想ってきたのかを。全部でなくていい、ほんの少し彼女の片隅に置いて おいてもらえればそれでいい。今からはもう、彼女にとって、自分にとってすら過去の 想いなのだから。 傍らの彼女以外には聞こえないような小さな声。だがそれは聞くものに耳をすませず にはおかない響きがあった。 「俺はさ、お前の、塚本のことが好きだったんだ」 「えっ……」 今、残っていた最後の想いが手放された。何かが抜け落ちた感覚と共に、欠けてしまった 部分が音をたてて軋んでいるのが解かる。だが、崩れかけた心を支える何かが確かに息づいて いることもまた実感していた。
驚愕に固まった天満に播磨は小さく笑って告げた。 「慌てんなって。好き「だった」って言ったろ? 昔の話さ」 「え、あ、なんだもうビックリしちゃったよ〜〜」 天満は困惑の色をわずかに残しながらも、ホッと胸を撫で下ろした。 「塚本は烏丸と付き合うことになったんだろ?」 「う、うん。や、やっぱり解かっちゃう?」 そりゃまぁな、と播磨が言うと天満は赤く染めた頬を両手で覆い、恥かしそうに身を縮こま らせた。そんな彼女の姿がやけに好ましく思える。 「それでかな。自分でもよくわからねーけど、塚本のことが好きだった野郎として言って おきたくてよ」 「……なに?」 複雑な思いはある。哀しみは鋭く胸を刺したが、それは播磨を傷つけるものではなかった。 痛みは過ぎ去ったものへの追憶だった。取り戻せないものへの懐かしさと、惜別の念。 播磨はゆっくりと口を開いた。ほんの少しだけ唇が震えていた。それはまるで彼自身聞くの を恐れているかのようだった。それでもはっきりと響いたその声はもしかすると 「おめでとう」 別れの言葉に似ていたかもしれない。
「……ありがとう、播磨クン」 長い沈黙のあと、天満は静かに呟いた。そう言った彼女の瞳には涙が滲んでいた。 訳もわからず流れ出した涙に戸惑いながら、天満は慌てて涙を拭うと、次の瞬間にはビシッと 指を突きつけ胸をそらしながら 「でも、駄目なんだから! いくら前の話だからって簡単に女の子に好きって言っちゃ!」 と叱るように言い放った。 「簡単に言ったわけじゃねぇんだぜ?」 「わかってる。でもちゃんと言っとかないと、播磨クンはお猿さんの前科があるんだから!」 「気ィつける」 「八雲を悲しませりしちゃ駄目なんだからね!」 「努力してる」 「どうかな〜、播磨クン結構浮気性かも」 「そんなことはねぇさ」 播磨の言葉に天満は播磨の目を真直ぐに見つめた。何も言わずただ見つめつづけた。そして 僅かに顔を伏せたあと、にっこりと微笑んだ。 「いきなりで驚いたし、なんか複雑だし、八雲とのこととか中学の時に助けてくれた時の こととか色々聞いてみたいこともあるけど、播磨クンのこと信じてる。おめでとうって言って くれたこと、本当に嬉しかった」 播磨は驚愕に身を震わせた。素顔をさらしている以上その可能性はあった。だが気づいて いないものだとばかり思っていた。覚悟は決めていた。だが不安は拭えなかった。辛い言葉を 投げつけられるのではないか、なにより彼女を怯えさせ傷つけることになるのではないかと。 しかし彼女は言った。信じると。
思えば彼女に恋をした時も自分が見ていたのは彼女の泣き顔だった。あの時は誤解とはいえ 彼女を傷つけた涙だった。ついさっき涙を見せてくれた彼女、自分の想いが彼女の心を震わせた のだと信じたい。笑顔で信じるといってくれた彼女。今まで俺にあんな笑顔を向けてくれた人が いただろうか。彼女の心を得ることはできなかったが、それでも俺はあの笑みを向けられるだけ の男になれたのだろうか。 胸がたまらなく熱くなった。熱は全身を駆け巡り、目で涙に、喉で嗚咽へと変わろうとする。 だが播磨は拳を握り締め何一つ漏らさぬようにと耐えた。そうしなければ何を言ってしまうか 解からなかった。 その時、耳を聾するほどの歓声が巻き起こった。驚きと共に播磨の中の力が緩んだ。 内心で安堵をしつつ、何事かと播磨が辺りを見回した。するとステージの上に2−Cの バンドのメンバーが上がってくるところだった。 「一番人気だったバンドがね、全校の前で演奏することになってるんだよ」 事態を掴めていない播磨に天満が弾むような声で説明した。いかにも嬉しそうで誇らしげな その顔はおそらくそれが2−Cであることを事前に知っていたのだろう。
やがて演奏が始まると、天満は播磨の存在など綺麗に忘れ去ってステージに魅入っていた。 その横顔に播磨は見覚えがあった。かつて耐え難いほどの胸の痛みを覚えたその横顔に、 今は寂しい解放感とでもいったようなものを感じていた。それは身を蝕むような寒さを伴って 播磨の全身を包んだが、播磨は目を閉じてあえてそれをより深く感じ取ろうとした。それは まるで、失くなってしまったものを悼むかのようだった。 目を開き播磨はステージの上の烏丸を見つめた。すると烏丸が演奏の最中、ふとこちらの方を 向いて微笑んだように見えた。それに気づいた天満が飛び跳ねながら、小さな体で精一杯 アピールしている。 播磨は天満を、そして烏丸を見やった。ステージの上で、あの無表情だった烏丸が確かに 笑っている。 全く本当に憎たらしい面だった。だから、だからせめて微笑っていろと、そう思う。 播磨はステージに集中している天満に気づかれないようにそっと後づさり、そして背を 向けて歩き出した。 歩きながら播磨は胸のポケットに手を入れると中からサングラスの欠片を取り出した。 これはもういらない。これに込められた想いはもう彼女が知っている。こんなものが なくても、俺は彼女が好きでいたことを忘れやしない。 播磨は振りかぶると一際大きく燃え盛るキャンプファイヤーの中にその欠片を投げ入れた。 炎の中へ飲み込まれていく欠片を、播磨はじっと見つめ見送った。 火の中で欠片は溶け、やがて煙となって消えていくだろう。それは捨て去ったわけではなく、 ただ形を変えただけなのだ。
支援?
やがて人ごみを抜けると、煌々と輝く篝火の向こうに八雲の姿が見えた。 彼女はこちらに気がつくとゆっくりと歩み寄ってきた。陽炎に揺らぐその表情は、 微笑んでいるようにも悲しんでいるようにも見える。 彼女は播磨のすぐそばに立つと、両手で包み込むようにそっと播磨の手を取った。 その手は柔らかく、沁みるほどに暖かった。まっすぐに見つめる彼女の瞳が炎に照らされて 煌いて見える。そのまるで吸い込まれるような瞳にふと、喧騒が遠くなったような気がした。 播磨は八雲を見つめたままゆっくりと切り出した。 「……俺なりに、ケリをつけてきた。満点とはいかねぇけど、上出来だったと思う」 八雲は何も言わなかった。泣き出しそうな瞳でただゆっくりと頷いた。 「あとワリィ、八雲ちゃんとの誤解を深めるようなこと言っちまったかもしれねぇ」 「……そんなこと、気にしないでいいです」 八雲は微かに微笑むと小さく首を振ってそう言った。播磨はもう一度小さくスマネェ、 と呟いた。まだまだ心配をかけていると思う。だがその想いにどれだけ支えられているか 解からない。彼女の想いが、優しさが勇気を与えてくれた。今こうして僅かでも胸を張り、 自分の足で立っていられるのも、自分の手でこの恋に決着が着けられたのも彼女がいれば こそだ。言い尽くせぬ感謝と、かつて感じたことのない暖かく柔らかな想いがあった。
八雲は一瞬、目を見開いた。そして何も言わず播磨の手をそっと引き寄せた。播磨もまた 何も言わなかった。手を引き戻すこともなく、その温かみを感じていた。 辺りは騒がしく沸き返っていたが、二人の時間は静かに、穏やかに流れていた。 静寂の中過ぎ去っていくものの気配があった。胸を去来するのは様々な想い。その多くは 恋焦がれた人と目の前の少女への感謝、そして不甲斐なかった自分への悔恨。 記憶は巡り、あの信じると言ってくれた天満の笑顔を、そして大事な人だと言ってくれた 八雲の真摯な眼差しを思い出す。この二年、多くのことがあった。その全てを正しく行えた わけではない。失敗のほうが多かった。後悔が無いと言えば嘘になる。それでも今は二人が 信じ、想ってくれたこの身が誇らしかった。心から何かを誇れることなど播磨にとって 初めての経験だった。 ふと高野の言葉を思い出した。手に入れたもの、失ったもの。自分は今、手にしたものの 本当の大きさを理解できたような気がした。 播磨は彼女の手を握り返した。八雲は微笑んだ。薄闇の中、開いたばかりの花のような 笑みだった。 そして播磨は確信する。立ち直るにはまだ時間がかかる。だが、必ず立ち直るだろう。 手に入れたものの大きさが、見出した価値が、自分を前へと歩ませるはずだ。 そしていつかまたきっと恋をする。それはきっと、そう遠くない。 「TOMORROW MADE NEW」 <了>
617 :
Classical名無しさん :04/12/26 04:12 ID:KxzPhT3M
AnonymousCowboy (,,´@:ё:@)y-┛~~~ airh032125109.mobile.ppp.infoweb.ne.jp
乙です! リアルタイムで読ませてもらいました。 表現力がすごいです!一場面一場面がはっきりと頭の中に浮かんでくるようでした! 続きに期待大です。
リアルタイムでGJ! もう播磨を含め皆かわいいよ皆。 ちょっと沢近が弱かった鴨ですが。 次作に蝶期待しまする。
大作乙です。GJです。 途中「また沢近敵前逃亡か?」と思いながら読んでましたが、 とりあえず認識した上での見逃しだったので安心したのは秘密ですw
というわけで「TOMORROW MADE NEW」でした。 いやもう長くってすいません。支援ありがとうございました。 タイトルは自分が好きなTMNというグループの曲の一つTOMORROW MADE NEW から。別に大した意味はなくTOMORROWにMADEにNEWと、前向きそうなのが三つ 並んでたからです。 前作がそれなりに評判がよかったようなので、続きとなる今回はちょいプレッシャー があります。そしてその割りには出来のほうはちょっと不安なので倍率ドンって感じです。 土日に数時間書く時間が取れるか取れないかという状況だったので、ちょっと書くたびに 次に書くときに自分が何書いたか忘れて、わけわかんなくなりがちだったので。 書きたいことは結構はっきりしていたのですが上手く書けたかどうか。 本当は旗のつもりで書き始めたのですが、途中からおにぎりに転向。しかし八雲ムズイ 沢近が途中退場気味なのはそのせいです。 あとがきが長くなりましたが、読んでくださった方々ありがとうございます。 賛否両論あると思いますが楽しんでいただければ幸いです。
早速感想ありがとうございます >618 ありがとうございます。この続きは残念ながら今のところ考えていません。 いずれ考え付けばまたその時に。 >619 続きは考えてませんが次作は書くと思いますw。 >620 最初は旗のつもりだったんですが、ツンデレ書いてるうちにコメディに なっちゃって収拾つかなくなってしまって…
素晴しい! これだけ臨場感、葛藤といった表現力があるSSは、 今まで見てきたスクランSSの中でも、トップクラスに入ると思います。 乙でした!
すごいのキテタ━━━━(Д゚(○=(゚∀゚)=○)Д゚)━━━━━!!! おにぎり(・∀・)イイ!! 乙でした、次もがんがって下さい
>>622 GJ!
ホント凄いと思います。
描写の節々に、上手いなぁ…と感心させられっぱなしでした。
これほどの物を書けるというのは本当に尊敬します。
次回作も期待しています。
>>621 GJ!!
読んでいて非常に心地よいSSだったよ。
ただ、旗派としてはちょっと寂しいのぉ。
沢近の恥ずかしい汁
ほんっと今旗は弱いな…序盤ガンガン行っていただけに余計。 しかし、これはいいシリアスですたよ、間違いなく。
GJ!! 前作、今作共に読んでてすごく楽しかったです。 次回作にも期待しています。
…泣けた
良い話しダス
美琴以外のすべての主要女性キャラが立ってて良かった
633 :
Classical名無しさん :04/12/26 19:48 ID:OCgZ0nAQ
沢近のアナル周辺は金髪の陰毛
636 :
Classical名無しさん :04/12/26 22:48 ID:VsxyzWWk
本格的な旗がみたい
637 :
Classical名無しさん :04/12/26 22:49 ID:tY2el96Q
>>622 お疲れ様です。
伏線の使い方とか心理描写とか、秀逸でした。
都合よく地震が起こるのはご愛嬌かな?
ともかく、私の中ではこれがスクランのトゥルーエンドと相成りました。
今鳥も神津も、花井を振り向かせるために美琴が仕組んだ当て馬だったんだよ。 これまでの縦笛展開は、煮え切らない幼馴染をゲットするために美琴が仕組んだ自作自演だったんだ! これ以降は、♯45話を読んだ後にお読み下さい。 みこと姉さん 1話 さて、今回から始まりましたみこと姉さん。舞台は、海旅行後の矢神駅です。 姉さん:えぃりぃ、どうだった?今回の旅行のわ・た・し。 愛理:そぉりゃもう、最高の水着姿でしたよ! 姉さん:でっしょう。まったく春樹の気を引くのにわざと溺れるのも楽じゃないわ。 愛理:お疲れ様です。 姉さん:それにしてもむかつくわぁねぇ、あの女。 愛理:は? 姉さん:は?じゃねぇんだよ!あのツリ目女のことだよ!! どか! 愛理:す、すみませんみことさん!そ、それで八雲が何か・・・。 姉さん:何かじゃねーんだよ!あの女のために、春樹、弁当を重箱で2段も作りやがった! 今鳥:僕が当て馬のためにみことさんに夜這いをかけた時も、気づかずに寝ていました、花井さん。 どか! 姉さん:誰がしゃべっていいっていった今鳥!靴なめてろ!! 今鳥:す、すいません!みこと姉さん!!ペロペロ・・・。 姉さん:たくよぉ、春樹の野郎、八雲にぞっこん過ぎるんだよなぁ。まさか八雲の方から春樹になびかないだろうなぁ。 愛理:今のところ八雲が動く気配はありません、安心してください姉さん。 姉さん;それにしても愛理、うまい具合に播磨を塚本の前で自作自演させて海に連れてきたわね。 愛理:はい、八雲が来ると聞いてすぐに手配しました。姉さんの言いつけ通り、播磨は私の肉奴隷にしました。既に私無しでは生きられない体です。 姉さん:やるじゃないか愛理。八雲を消すには、姉の天満に惚れている播磨は邪魔な存在だったわ。あいつら3人がつるむとかなりの戦闘力だからねぇ。 愛理:ありがとございます。 どか! 愛理:ぐはぁ! 姉さん:調子のんなよ!愛理。 愛理:す、すみません。
つづき 姉さん:ふん。あとあみだの手配をしたのもあんたなの? 愛理:い、いえ私は何も・・・。 姉さん:今鳥ぃ、あんたがやったの? 今鳥:い、いえ、バカの播磨が線を1本間違え・・・。 どか! 姉さん:しゃべんじゃねーよ! 今鳥:す、すみません。ペロペロ・・・。 姉さん:まぁいいわ。丁度いい当て馬になったし。春樹は気が気でなかったはずよ。 愛理:き、きっと運命ってやつですね!! どか! 姉さん:メルヘンちっくなこと言ってんじゃねーぞ、愛理。運命ってもんは自分で作るものなんだよ!この私みたいに!! 愛理:は、はい!すみません! 姉さん:ふぅーーーー。ところで、春樹の私に対する現在の感情は? 愛理:は、はい!放っておいても大丈夫な面倒見のいい幼馴染ってところですね。 姉さん:ふぅーーーー、今のところはそれでいいわ。
つづき 花井:おーい周防!そろそろ帰るぞ。 姉さん:あ〜わりぃ、ちょっと用事があるから先にバス停で待っててくれ。 花井:うむ、早く来いよ。 すたすた・・・・ 姉さん:・・・ 愛理&今鳥:・・・・・・ どか!!ばき!!ずが!!どけ!! 姉さん:何接近を許してんだよ!しっかり見張っとけ! 愛理:す、すみません!すみません!! どか!!ばき!!ずが!!どげ!! 姉さん:もう少し神経とがらせておけよ!てめーなんかどうでもいいんだよ!! 今鳥:す、すみません!すみませんみこと姉さん!! 姉さん:はぁ、はぁ。ったくよぉ、2度とナンパできね〜体にすんぞ! 今鳥:そ、それだけは・・・。 姉さん:けっ、失禁してやがる!ガキが! 愛理:アワアワアワアワ。 姉さん:おっと、そろそろ時間か。じゃあな。 今鳥&愛理:…うっぐ…えっ…うわ〜〜〜〜ん。
元ネタは神岸あかり姉さんか?
>>642 というかまんまです。
美琴だと素とあまり変わらないなぁ・・・。
>>622 今更ながらGJ!!
引き込まれて一気に読ませていただきました。
久しぶりに凄いと思える作品を読んだ気になりましたよ。
機会がありましたら是非ともまた書いてください
>>622 うわ、出遅れた。
前回読んだ時からすごいなー、とは思ってたけどこれほどとは。
旗の巻き返しを読んでみたい、と思うのは贅沢ですか?
>>643 あかり姉さんもあんまり好きじゃなかったな…
こういうのは黒さの中にも愛らしさが見えないと
キャラクタをただ壊しているだけで
読んでて楽しくないな
――春が来た。 心のどこかに引っ掛かるような抜けない棘を残した、いつまでも続きそうな冬。けれどそんな冬もいつかは終わり、 当然のように新しい季節が訪れる。 春。 それは新しい一年の始まりで―― First Movement / Spring I ざわめきが満ちている。 クラス分けの名簿が張り出された掲示板、その前にあるのは黒山の人だかり。ずっと昔から変わらない、そして恐らく これからも変わることのないであろう、例年の光景。そんな雑踏の中に彼女たちもいた。 「みんな分かれちゃったね……」 「あのね、天満。別に会えなくなるわけじゃないでしょう?」 「でも……」 三年生とは即ち受験生とほぼ同義であり、そうなれば必然的に発生するのが文理選択。その時点において、文系を 選んだ天満と美琴、理系を選んだ愛理と晶、既に全員が再び同じクラスになる可能性はなかった。それでも二人ずつ なら誰かは、と思っていたところに、綺麗に各クラスに一人ずつが割り振られた名簿がそこにあった。 もっとも、天満がやや不安定な様子をみせているのは、それだけが原因ではない。卒業という別れを前にして、一足 先に姿を消した一人の生徒――烏丸の不在によるところも大きい。 あの冬の日、ひたすら遠回りを続けてきた彼女の想いは、ようやくその目指すところへと行き着いた。そこで出来た 確かな絆は、今でも二人の間に存在している。空回りを繰り返した分だけ、見えない糸でもその強さには折り紙つきの もの。 ――それでも。 それでも、『見えない糸』はやはり『見えない』。ましてやあれからほんの二ヶ月程度、歩き出したばかりの恋は、 彼女にとっては分かっていてもまだまだひどく不確かなものだった。
「もう、ほら美琴も何か言ってやりなさいよ」 「つってもなあ……塚本が自分で納得するしかないだろ?」 「そうだね。やっぱり最後に決めるのは自分自身」 「美コちゃん、晶ちゃん……」 「ちょっと、それじゃ私の言ったことが」 「分かってるよ、沢近の考えてることは」 「愛理は見た目より心配性だからね」 「な、なによ。別に励まそうとか、そんな……」 落ち度はないはずなのに、何故かやり込められる愛理。顔を赤らめて動揺するその姿に、天満にも笑みが浮かぶ。 「それだよ、塚本」 「え?」 「そうやって笑えるなら大丈夫だって。それにさ、もし本当にダメなときは絶対私たちがそばにいるよ」 なあ、という美琴の言葉に無言で頷く晶と、まだ恥ずかしそうにしながらも、当たり前でしょ、と答える愛理。 「……ありがとう」 泣き笑いのような表情になる天満に、そう思うんなら笑っとけよ、とその頭をぽんと叩いてから、再び掲示に目を 戻す美琴。その視線が探すのは、自分の名前ではない。 「……」 目指すそれを自分と同じクラスに確認して一度辺りを見回すが、名前の主の姿は見当たらない。別に見つけてどう こうしよう、そう思っていたわけではない。ただ、抜けない棘のような小さな引っ掛かり、それだけが彼女の中で 消えずに残っていた。
「どうかしたの? 美琴」 「ん……いや、別に」 ふう、と小さく息を吐いて、最後にもう一度だけそこに記された名前を見つめる。 ――播磨拳児、という、その名を。 「よ、やっと来たな」 結局拳児が学校に姿を現したのは、それから数日後のことだった。笑顔とともに向けられた挨拶にも、ちらりと そちらに視線を移すだけ。どこか生気の抜け落ちたようなその様子は、休み前と変わってはいない。それでも、 とりあえずは学校に姿を見せたことに満足する美琴。 ――どっかに行っちまいそうだったもんな。 あの晩、雪の舞う中に消えていった後ろ姿は、彼女にそんな不安を抱かせるには十分すぎるものだった。翌日、 意外にあっさりと拳児が登校してきたことにより、ひとまずそれは打ち消されたものの、美琴の中でその予感は燻り 続けていた。 良くも悪くも喜怒哀楽の激しい、騒がしいヤツ。2-Cにおける拳児の最終的な評価はそれだった。タチの悪い不良、 そう思われていた彼も、体育祭や文化祭をはじめとした幾多の行事の中で、次第に周囲に認められていった証拠である。 塚本八雲との一件が、結局はなんでもなかった、という結末に落ち着いたときでさえ、彼をくちさがなく言う者はほぼ 存在しなかった。 そんな拳児が、一日にして無気力無感動な人間に変わったことは、当時クラスでもそれなりにインパクトのある出来事 として記憶されているが、それを、バレンタイン、というイベントに結びつけて考える者がいなかったことは、果たして 良かったのか悪かったのか。 ともあれ、誰もがそれを気にかけ、少なからず心配し――そして、誰もがそこに踏み込めなかった。
播磨拳児はいいヤツである、ということは、だから友人である、ということと必ずしもイコールではない。元々クラス の中で他人と親交を深めるタイプではなかった彼にとって、声をかけることに二の足を踏む相手が多かったのは、不幸な ことに事実だ。それでも、紆余曲折を経て『友人関係』を構築した花井春樹は、最後まで何かと彼のことを気にかけ いたが、拳児はやんわりとそれを拒絶し続け、そのままこのクラスのデッドライン――二年生の終わりを迎えることに なった。結局、真実を言い当てていたのは、『まだ無理だと思うけど』、そんな今鳥恭介の言葉だけだったことになる。 そしてその間、美琴もまたずっと迷い続けていた。理由を知らないからではなく、知っているからこその迷い。ある 意味で最もプライベートな部分と言ってもいいその領域に、踏み込んでいいものなのか。そんな迷いとともに踏み出せ ないまま、彼女もまた同様にデッドラインを迎え――そして決めたのだ。もう迷わない、と。 だから、今日ようやく姿を見せた拳児に声をかけた。もはや迷いなしに、少しずつでも何かが変わっていくのなら、と。 その想いが届いた、というわけではないだろうが、久しぶりに自ら口を開く拳児。 「……なあ、俺の席はどこだ」 「ん? ああ、それならあそこ、一番後ろの窓際。ったくさ、いないってのにくじ引きでそれが残っちまうんだから。 ついてるな、播磨」 「……そうか」 短いけれど、それは紛れもなく会話だった。ほんの些細な、ごくごくありふれたそんなことに、けれど自然と美琴の 顔には微笑みが浮かぶ。 ――どんなことでもやってみないと、ね。 胸の奥の小さな呟きとともに、春が始まる。 日常は変わらないからこそ日常である。 誰の言葉だったか、そんな言葉通りに毎日は過ぎていく。突拍子もない出来事などそうあるはずもなく、大抵のことは 予測の範疇内で穏やかに進んでいく。易々とは揺るがない日々、それをして人は日常と呼ぶ。
美琴の場合もそれは同様である。事あるごとに拳児のことは気にかけていたものの、三年生につきものの選択授業の 存在もあり、常にその近くにいるわけではない。もっとも、関わることを決めたとはいえ、彼女には必要以上の干渉を行う 気もなかった。大切なのは、手を引いて先導してやることよりも、折を見て背中をそっと押すこと。そんな経験則と持論に 基づいて、焦らずに出来ることをやっていこうと、そう考えていた。 しかし、それはいつだって唐突にやってきて扉を叩くものだ。そんな日常に不意を打つように、思いがけない方向から 変化は訪れる。 故に、先の言葉はこう訂正しておくべきなのだろう。 日常は変わらないからこそ日常であり――そして、その変化はいつも急激である、と。 「周防先輩、いらっしゃいますか?」 それが彼女の日常のドアをノックする音だった。 放課後の教室で、のんびりと帰り支度をしていた美琴。その元を訪れたのは、一つ年下の少女――塚本八雲。 姉である天満とは言うまでもなく友人関係、したがって彼女と会う機会も幾度かあり、美琴にとってそれなりに親しい相手で あるのは事実である。それでも、わざわざ彼女が自分を訪ねてくるような用事があっただろうか、そんな疑問が脳裏をよぎる。 けれど、お話ししたいことがあるんです、そう口にする八雲の眼差しを見て、それはひとまず棚上げにする。 「分かったよ。場所は変えた方がいいのかな、大事な話みたいだし」 「はい。部室なら今ちょうど誰もいないので……」 「了解。んじゃちょっと待ってて」 すみません、と小さく頭を下げて廊下に出て行く八雲。その姿を見送ってから、もう一度机の中を覗き込む美琴。空だ。 忘れ物はない。それを確認して、うん、と一人頷いて立ち上がる。 ――あの娘、あんな眼も出来るんだ。 どこかでなにかに遠慮しているような、いつもの控えめなそれとは違う、真っ直ぐな眼差し。そこにあるのは確かな意思。 思えば、正面から彼女の視線を受けるのは初めてではないだろうか――そんな考えを胸に、廊下への一歩を踏み出した。
窓から射し込んでくる光に照らされ、穏やかな日溜まりにあふれている廊下。そんな中を、二人は並んで歩く。部室に行く までは本題に入るつもりのないらしい八雲に、自然と話題は二人の共通項、天満についてのものになる。 「最近、天満どうしてる? 選択が違うとなかなか会わなくってさ」 「……時々寂しそうにしてます」 「そっか。そうだよな……」 分かることと出来ることは違う、そんな当たり前の事実。誤魔化すのではなく納得する、それはときに時間ですら解決出来 ない、自分自身で立ち向かう他にない問題。よみがえる苦い記憶に、わずかに顔をしかめる美琴。 けれど。 「――でも」 「でも?」 「私の前ではいつもの姉さんでいてくれるんです。心配しないでいいから、って笑ってくれるんです。だから私は、姉さんを 信じます。絶対に」 そう言った自分もまた微笑んでいることに、彼女は気がついているのだろうか――隣を歩く八雲の表情を見ながら、美琴は 頷きを返す。戦うのは本人だとしても、周囲の人間にも出来ることはある。それぞれにそれぞれの方法があって、そして塚本 八雲という少女は、決してそれを間違えはしないだろう、そんな穏やかな確信がある。 「うん、天満なら大丈夫だって思うよ、私も」 目一杯の空回りを以てしてもまだ余りある行動力。そのすべて噛み合ったとしたら、作り上げられるベクトルはいったい どれほどのものになるのか。きっと、誰より輝いている塚本天満がそこにいるのだろう、そんなイメージを思い描く二人。自然、 会話は途切れるが、流れるのは心地良い沈黙。同じ一つのことを想う二人の足音だけが柔らかく響く。 やがて、その音がコンクリートを反射したものから木材を軋ませたものへと変化し、どこか夢にも似た時間は終わりを告げる。 目的の場所――茶道部の部室前で足を止め、どうぞ、とうながす八雲。そして、その最後の分岐点で美琴は迷わなかった。 ――決めたから。 だからドアノブを回し、開いた扉の向こう側へと足を踏み入れた。
そんな決意とは何の関係もなく、ドアの反対側にあるのは普段通りの部室の姿。八雲にとっては毎日のように見慣れた、 そして美琴にとっても記憶に残る程度には訪れたことのある風景。正面にある窓から入ってくる柔らかな陽射しと春風が、 古びてはいても整えられた部屋をそっと包んでいる。遠く、グラウンドから響く運動部の声が聞こえる。 「見ていただけますか」 部屋の中央に置かれた円形のテーブルに、向かい合うようにして席に着くと、そう言って八雲は一つの封筒を差し出した。 その中に収められていたのは、一編のマンガの原稿。荒々しい線で描かれたそれは、下描きとさえいえるかどうか怪しい ものだった。それでも、美琴は黙ったままそれを読み始める。ゆっくりと、何一つ見落とさないとでもいうかのように。 そして、八雲はそんな美琴を静かに見つめている。どこか祈りにも似た表情で、ただ静かに。 「……読んだよ」 美琴がそう言って原稿から顔を上げたのは、空の色が黄昏へと変わりつつある頃だった。どちらともなくついた、ふう、 という溜息が、粘性を帯びた時間の流れを溶かしていく。 どうでしたか、と。急かすわけでもなく、ただ尋ねてきた八雲に答える前に、美琴も一つの問を口にする。 「八雲ちゃんが持ってきたってことは、さ」 「はい。播磨さんが描いた――描いていたものです」 想像通りの解答に、もう一つ溜息が重なる。 播磨拳児がマンガを描いている――それは、彼と八雲の関係にまつわる誤解を解く際にカミングアウトされた事実だった。 つまり、八雲は拳児のいわばアシスタントであり、それ以上の関係は存在しない、と。当の拳児がそのマンガを最後まで 誰にも見せようとしなかった――当然と言えば当然だ。そこに描かれているのは、誰が見ても彼と天満なのだから――ことも あり、当初はそれを信じる者はほとんどいなかった。
しかし、とある証言により状況は一変する。彼の描いたマンガを見たことがある人物が名乗り出たのだ。 ――沢近愛理、である。 それがよりにもよって『あの』愛理だったことにより、体育祭の一件をも含んだ新たな噂が飛び交うことになるのだが、一貫 して『拳児がマンガを描いていた』という事実だけを主張し続けた彼女の努力により、いつしかその風聞も消え去っていた。 「上手いとか下手とか、そういうのは正直分かんない。でもさ、これを描いたヤツが一生懸命だった、それくらいは分かる」 そんな顛末があったために、美琴にとって八雲の返答自体は驚くことでも呆れることでもなかった。彼女の溜息が向けられた のは、ただその後半。 「でも、『描いていた』――そう言ったよね、今。つまりやめるって言ったんだ、アイツは」 「……はい。もう描く意味がなくなったから、そう言っていました。それでも作品を捨てることは出来ないから、せめて私に 受け取ってほしい、と」 「……なるほどね。それじゃ私のやるべきことは一つだけ、か」 幸いなことに、美琴にはこの時間帯なら探すべき相手の居所に心当たりがある。三度目の溜息を、よし、というかけ声に 変えて立ち上がり、歩き出す――その前に。 「あのさ、」 八雲ちゃんはアイツのことを。 そんな、訊いたところでどうなるわけでもない問をほんの一瞬だけ思い浮かべてから。 「どうして私に?」 そう尋ねた。 八雲が答える。
「……いろんな人に話を聞きました。そして思ったんです」 一度口をつぐみ、少し考えるようにしてから、一気に言葉を放つ。 「私の言葉は播磨さんに届かなかったけど、周防先輩ならきっと――私が、私が自分でそう思ったんです」 だからよろしくお願いします。深々と頭を下げ、そこでじっと動きを止める。応えるように、分かった、という一言だけ を口にして、振り向かずに部屋を出て行く美琴。その向かう先は、放課後拳児がいるはずの、この学校で最も空に近く、最も 世界を見渡すことの出来る場所――屋上だ。 「よう、たそがれてんな」 果たして、そこは一人たたずむ彼の姿があった。夕陽に向かい合うようにして、フェンスの向こうに広がる暮れなずむ街を 眺めている。 「話があるんだ」 美琴の言葉に、ゆっくりと振り返る拳児。彼女からはちょうど逆光のかたちとなり、その表情は見えない。それでも、構わず 言葉を続ける。 「さっき八雲ちゃんに会ってきた」 拳児は答えない。 「これ、読んだ」 差し出された見覚えのある封筒にも、拳児は答えない。
「やめちまうんだってな」 念を押すようなその言葉にも、拳児は答えない。 「播磨、ほんとにそれでいいのか」 詰問するわけでも、激高するわけでもなく、ただ純粋にその問をぶつける。 「これはお前にとって捨てていい、捨てられるもんなのか?」 それでも、拳児は答えない。 「違うだろ。そんなことしていいわけないし、だいたいホントに諦められるのか?」 それだけが美琴の訊きたかったこと。その原稿から彼女が感じたのは、言葉に出来ない類のもの。強いて言うならば、 『情熱』とでも言うべきそれは、果たして自分にそこまですべてを懸けられるものがあるか、考えさせられるものだった。 そして、それを捨てると、本心だとはとても思えないことを口にした相手が目の前にいる。そんなことが許せるはずが ない――なら、自分は怒っているんだろうか。そう考える美琴の思考は、けれど正逆にひどく冷静だ。言いたいことと 言うべきことがある。だとしたら、ただそれを放てばいい。 「少なくとも私はそう思ったし、きっとあの子も――八雲ちゃんもそう思ってる」 それでもなお答えない拳児に、伏せていたカードを開く。 「あの娘さ、泣いてたんだよ」 よろしくお願いします、と。そう言った彼女の眼差しは、先に美琴に見せたあの芯が通った真っ直ぐなものだった。 ただ、決定的に異なっていたのはその一点。八雲自身は気がついていたのかどうか、目尻からは一筋の涙がこぼれて いた。だから、と美琴は思う。ここにあるのは二人分の想いだ。
「……俺は」 そこでようやく口を開いた拳児、その声は苦渋に満ちた響きをしていた。なおもなにかを言おうとする彼を、焦る なよ、と押し止める美琴。欲しいのはすぐに出せるような解答ではない。 「言いたいことは全部言った。今すぐじゃなくていいから、一晩ちゃんと考えてさ、播磨が自分で決めてくれよ」 ただ、さ。そう言葉を繋ぐ。 「どうしたかだけは教えてくれ。それだけ」 じゃあな、その一言を残して背を向けて、あとは振り向くことなく屋上を出る。校舎に戻り、後ろ手に扉を閉める その段になって、ようやく足を止める美琴。扉にもたれかかるようにして、飲み込んでいた三度目の溜息を吐き出す。 「……ホントはそんなの全部分かってんだろ。なあ、播磨」 複雑な感情の入り混じった呟きに、返事は、ない。 それでもすぐに美琴は歩き出す。自分に出来ることはしたのだから、そう思いながら。 ――翌日。 普段通りの時間に拳児は登校してこなかった。 けれど、ぽかりと空いたその席を見つめる美琴の視線には、不安の色はない。そこにあるのは、彼が裏切るはずはない という確信。播磨拳児はそういう男でなくてはいけない。塚本八雲という少女に、あそこまでの真似をさせたのだから。 もし裏切ったのなら―― 「ぶっとばすからな」
そんな穏やかではない言葉は、けれどまだ続く。 「……だから早く来いよ、播磨」 じりじりと時間が過ぎていく。 一時間目はとうの昔に始まっているが、まだ拳児は姿を見せない。 それでも、美琴は待ち続ける。 じりじりと時間が過ぎていく。 時計の針はくるくると回り、正午を過ぎて昼休みが訪れる。 それでも、美琴は待ち続ける。 じりじりと時間が過ぎていく。 やがて授業は終わり、放課後の喧騒が始まる。 それでも、美琴は待ち続ける。 ただひたすら待ち続け、空が茜色に染まり出そうかという頃になって、ようやく。 廊下を駆け抜ける騒々しい足音とともに、教室の戸を叩きつけるようにして開けて。 播磨拳児が姿を見せた。 「……読んで、くれねぇか」 息は荒く、髪は乱れ、疲労困憊といった様相を見せながらも、その手にはしっかりと封筒が携えられていた。その 中身は考えるまでもない、完成された原稿なのだろう。ある意味でこれ以上ないほど予想通りの事態に苦笑しながら、 美琴は口を開く。 「あのさ、それって私より先に言わなきゃいけない人、いるんじゃねぇか?」
虚をつかれたようにして、呼吸まで含めてその動きを止める拳児。わずかの間をおいて、こぼれるのは『妹さん』 という言葉。 「大事なことってヤツはけっこう近くにあるもんだよ」 おかげで見つかりにくいけど――そんなささやかなアドバイス。対する拳児はようやく茫然自失の様相から立ち直り、 今度は即座に教室を飛び出そうとしている。その背中に、あとで私にも頼むよ、と美琴。ったりめぇだ、そう彼女に背を 向けたままでぶっきらぼうに答え、今度こそ飛び出していく。再び廊下を駆け抜ける騒音が響き、次第に小さくなっていく。 「――ったく」 それが聞こえなくなってから、小さくぼやく美琴。続けて何かグチの一つも言おうかと思ったものの、結局思いつかずに そのまま口を閉じる。 その視線の先。 窓の向こうでは、昨日と同じ夕焼けがゆっくりと空の色を変え始めていた。 ◇ ――そうやって、高校三年の春は過ぎていく。 それぞれの心に、緩やかに、けれど確かに変化を起こしながら。 そして夏が訪れる。 芽吹いたばかりの小さな緑が驚くほどの勢いで伸びていく、そんな季節が――
――以上、春でした。 一応夏秋冬で卒業の春、のハズです。きっと。 次はスレが沈む前に出せるとよいのですが、と思いつつ。 ……にしても、播ミコとかありえない風味の昨今、需要はどうなんだか。
現時点では鉛筆展開の可能性はかなり低いでしょうけど こういう話はありだと思いますよ。 播磨×八雲も絡ませてますしね。 ということでGJ!でした。
鉛筆キターーーーーーー GJ! 需要は少なくともここにあります まだ恋愛、っていうほどじゃあないようだけどこれから、ってところですかね このみこちんと播磨の関係に他の面子がどう関わってくるのかとか楽しみです 続きも期待しております
なんか八雲の「姉さんを信じます。絶対に」ってとこに 違和感を感じたっつーかちょっと大げさかなと思った。 後はよかったよ! 乙〜
おにぎりの次に鉛筆は好きだ。 続き待ってます。 GJでした!
ずっと続きを待ってました。今回もすばらしすぎます…。
めっちゃGJ! 面白いです(;´Д`) 続き待ってますよー
あれ・・・これ鉛筆だったんだ… なんかおにぎりとして読んでた…w
一条→今鳥-?-三原 ↓ 美琴-?-花井←つむぎ ↓ 八雲→播磨→天満→烏丸 ↑ 沢近
沢近のまんこ 舐めたい
んーそうだね。漏れも舐めたいよ もまえの尻を
遅れたけど、
>>621 さんGJ!
晶の
「でも、恋は先攻のほうがずっと有利だよ」
と言う言葉に痺れました。
次作があるということなので、できればベタなツンデレ旗話でもお願いします。
感想が一杯、しかももったいないお言葉ばっかりで・゚・(ノД`)・゚・ 昨今の旗不足のせいかみなさん旗に飢えてらっしゃるようで。 やはり次回は旗だろうか。でも自分、こいつはメチャゆるせんよなぁぁぁ〜〜!! ってくらい遅筆なんで気長にお待ちください。 >638 地震の部分は一番最初の原型だったコメディの唯一の名残です。最初は あそこで本当にキスして沢近VS黒ヤクモという今とは似ても似つかぬもの だったのですw
黒ヤクモも興味はあるが、今の八雲の心理描写が出色の出来なので、 このまま続けて欲しいところ。 旗展開、期待してます。
>>674 質問。
今までの話を一言でまとめると
要するに誰と誰がくっついたの?
あぼーん
黒八雲はまんこ真っ黒
テストテスト
だっ誰だ!?誰もいないよ… ならいい
雪…積もってるよ
誰も…
沢近のおっぱい
書く者と書かれる者という単純な図式をたててみる。 そして「小説」(と、便宜的に呼んでおく)とは、「無名のものたち」に名前を与えようとする運動だったと、 これも単純に定義してみる。 19世紀からの小説とは無名のものたちに名前を与え、その生に軌跡を与える言葉の試みだった。 小説家は無名のものたちとその生に名を与える存在となり、或いは同情に満ちた言葉の視線となる。 だからここに小説の…「文学」の良心がかたちづくられることになる。 しかし、このことは同時に、ある問題を抱え込んでしまう…。 小説≒文学は無名のものたちの生に名前を与えることによってそれを忘却の中から救い出すが、 同時にそれらの生を作品の言葉の中に閉じ込めてしまい、或いは監禁してしまうことになるのだ。 つまり、小説は近代警察組織に酷似したものになる。 あらゆる無名の細部を監視し名付け閉じ込めるものとしての臨床的良心の警察。 書く者の臨床的良心によって書かれる者はある救済を施されるが、同時に書かれる者はそれによって 作家の言葉の世界に監禁されてしまうことにもなる。 20世紀以降の文学が引き受けなければならなかったのはこの良心的矛盾であるだろう…。 無名のものたちに名前を与えながら、なおそれらを支配し閉じ込めることのない言葉は可能だろうか?
「はい、どうぞ」 「ああ、悪いね。せっかくここに来てもらったのに」 「気にしないで下さい。この部室の雰囲気、私も好きですし。お茶を淹れるのも嫌いじゃないですよ」 「そう言ってもらえると助かる」 「ふふ。……それにしても」 「うん?」 「お疲れみたいですね」 「――ん、まあね。今年は……いろいろあったからね」 「いろいろ、ですか」 「ああ、いろいろだ」 「んー……例えば?」 「……あまり言いたくない」 「えー」 「えー、じゃない。葉子、君もいい歳してそういうのは」 「誰かさんも私より年上なのに、そういうところは子供っぽいですよね。絃子先輩」 「……葉子」 「別に誰のこととは言ってませんよ?」 「……まったく」 「でもね、絃子さん」 「今度はなんだ」 「――来年って、もっといろんなことがあるような気がするんですけど、どう思います?」 「勘弁してくれ……」 「冗談です」 「……だといいんだけどね」 ――とまあそんなわけで。 きちっとしたのを書こうと思っていましたが、時間の都合で小ネタです。 明日は書けるかな、と思いつつ。 今年も一年お疲れさまでした。 来年もまた、まったりと過ごせますように。 それでは。
今年も乙、来年もよろ>ALL
沢近と一緒に初詣に行った後 姫初めしたい
俺ならとりあえず姫始めしてから初詣に行くよ。
大晦日に性器を除去したことを忘れていて、
あぼーん
慌てて大人のオモチャ屋に走り
天満ちゃんホール発売
あけましておめでとうございます。 こんな日ですが時候ネタではありません。 ≪投下≫
高校の保健室と不良とくれば授業をさぼっての昼寝と相場は決まっているが ここの保健室は少し違うようで、とある不良が机を占領し漫画原稿にペン入れをしていた。 傍では白衣が眩しい美人保健医が嬉しそうにその様子を眺めている。 「はいハリオ、コーヒー。疲れてるときは甘いほうが良かったよね?」 「あ、すまねえお姉さん。場所借りてる上にここまでしてもらっちまって」 「い・い・の。私がそうしたくてやってるんだから」 播磨拳児と姉ヶ崎妙。ほんの一時期素性も知らぬまま一緒に暮らしていた二人である。 居眠りでこそないものの授業を抜け出している事には変わりはないので注意すべき所だが、 彼女にとって彼は生徒である前に「心を許せる唯一の男性」なので少々甘やかし気味だ。 そのまま彼女は播磨に話しかける。 「いったん誰かのいる生活に慣れちゃうとね……やっぱりダメみたい。 ハリオにもう一度逢えた今だから言えるけど、あれから毎晩夜が来るのが厭だったんだ。 部屋の中に一人でいるだけで、世の中に自分しかいないような気がしてきて」 「ひょっとして、寂しかったのか?」 彼女の弱音を吐く姿など見た事がなかったせいか、播磨は不思議そうに問う。 「当たり前じゃない。ハリオだって家族が急にいなくなったら寂しいでしょ?」 「……そか、家族か」 どうしても実感が沸かず、拍子抜けしたように答える播磨。 反抗期というには少々ハードだった中学までの自分をどう思い出しても、 彼の中で家族というものはあまり大きな意味を持つ存在ではなかった。 今は歳の離れた弟がときどき家に遊びに来てくれる事を嬉しく思っていたりするが、 自分がいなくなったとしてあの両親が寂しがる光景など想像もできない。
播磨の急激な態度の変化にまずい事を聞いてしまったのかと不安になった姉ヶ崎だが、 筆を止め天井を見上げている彼の表情にあったのは、不快感ではなく戸惑い。 「家族って、どんな関係のことを言うんだろうな。俺にはまだわからねえや。 妹さんに付き合うってのがどういう事を指すのか聞かれた時も上手く答えられなかったし、 もっともっと人生経験を詰まねえといけねえのかな。漫画家としても漢としても」 「そうだね、頑張れ! ハリオはまだ高校生なんだからわかんない事があっても大丈夫! ……ところで、その『妹さん』っていうのが学校中で噂になってる彼女のこと?」 姉ヶ崎にも噂は届いていた。 校内一の不良が、校内一の大和撫子を口説き落としたと。 告白に成功したからこの高校にいると頭では理解していたが、感情は理解を拒んでいる。 それは目の前の青年に、恋愛を成就させた男の雰囲気というものが一切感じられないから。 もしかすると傍目にはすごく幸せそうで自分だけがそう見えていないのかもしれないが、 やはりこういった事は本人に聞いてみるまでわからない。姉ヶ崎は答えを待つ。 「そういうことになっちまってるみたいだけど、妹さんは俺のアシスタントなんだよな。 クラスの奴らには漫画の事を内緒にしてるせいで揃いも揃って誤解してやがるけどよ」 あっさり疑問氷解。自分も秘密を共有する側である事が少し嬉しい。 しかし、誤解されてもそれを否定しようとしない彼女の側の気持ちはどうなのだろう。 体育祭の時のあのハーフの少女といい、播磨はもてないようでいて女たらしなのだろうか。 姉ヶ崎本人も魅力を感じている一人だけに、彼の現在の女性関係が気になってしょうがない。 思い切って今まで聞けずにいたことを問いかける。 「それじゃあ、告白はどうなったの? 退学届は出してないんでしょ?」
「学校はやめねえっすよ。越えるべき目標がここにいる以上逃げるわけにもいかねえし。 今は二条丈を越える漫画家になるためなら、どんな努力も厭わないつもりでいるから。 もっとも、三年に昇級できなかったらおそらく自主退学を勧告されるだろうけどな」 清々しさすら感じさせるほどの播磨の返事。 退学の意思がないことに安堵しそうになった姉ヶ崎だが、あることに気付く。 彼が肝心の告白の結果については一切触れようともしていないことに。 それはつまり、―――駄目だった ということか。 かける言葉に迷いはしたが、ここで最もしてはいけないのは沈黙することのはず。 椅子に座っていてもなおほんの少し長身の播磨を、包み込むように背後から抱きしめる。 「お、お姉さん!?」 「辛かったんでしょ? 甘えてくれたっていいんだよ?」 「……いや、それはできねえ。今の俺に必要なのは漫画だけだ」 こんな時に言い訳でもなんでもなく信念としてそう言い切る播磨。 そんな播磨だからこそ、自分は惹かれてしまったんだろうと姉ヶ崎は思う。 「ハリオは立派だね。漫画という自分の夢を掴み取るためにすごく努力してる。 目標は二条先生なんだね。私にできる事があったら何でも言って? 応援するから」 「そんな。たまにこの保健室を使わせてもらえるだけで充分っすよ。 あとは教室でいつもボーっとしてるような奴を目標だなんて言わねえでくれさえすれば」 そう言ったあと、播磨は姉ヶ崎の反応を見て自らの失言に気付いた。 「……二条先生が、教室でボーっとしてる?」
播磨は焦る。 別に秘密にしろと言われていたわけではないが、烏丸が二条だとは知られたくない。 自分が尊敬していた漫画家の正体は、自分の夢を既に叶えてしまっているクラスメイト。 それだけでも充分にショックだったというのに、以前とは事情がさらに違う。 播磨の想い人だった塚本天満がその烏丸に恋しており、悔しい事に現在関係良好なこと。 こんな時に彼の正体を皆に知られて騒ぎになれば当然天満にも迷惑がかかってしまう。 「いや、もちろん俺んトコの教室に二条丈なんていないっスよ? 本当ですYO?」 「ハリオ、嘘つくの下手だよね……。それだけ純粋だからなんだとは思うけど。 一度絵が下手になったのは二条先生の影響を受けていた部分を変えてたからだよね? 秘密にするって約束するから、何があったのか少しだけでも教えてくれないかな?」 あっさりと嘘は見破られたが、だからといってはいはいと口外するわけにもいかない。 世話になった人にこれをするのは気が引けたが、播磨は黙秘権を行使した。 「うん、わかった。誰にでも言いたくない事ってあるものね。 ひとりで舞い上がっちゃってごめんね。ファンだからつい嬉しくなっちゃって」 「……お姉さんが謝ることじゃないっすよ。俺が言いたくないだけなんだから」 しかし、すでに播磨の最初の一言から姉ヶ崎は二条丈の正体を推測できていた。 二条丈が高校生だと新人漫画賞を受賞したのが中学ということになるのでそれはない。 生徒でないとすると当然残るは教師であり、教室でボーっとしているといえばただ一人。 つまり職員室の机に食玩の恐竜を並べているあの男こそが、人気漫画家・二条丈らしい。 「そっかー。もう一度、お菓子でも焼いて持っていこうかな……」 「ん?」 誰もその間違いに気付かぬまま、保健室の平和な時間は過ぎてゆく。 ≪おわり≫
701 :
696 :05/01/01 23:50 ID:EgAz8//I
谷先生がモテるのも何か違うような気はするわけですがまあいいか。 仁丹はもっと人気投票8位の人の出番も増やすべきだと思います。
沢近のアナル
関係ないが、烏丸×姉ヶ崎はアリだと思った
>>701 GJ!
というよりこのスレでも出番を増やすべきだと思います。
お前が書けとか言わんでくれよ
ちょっと待って下さいよおながいしますよ
お姉さん(*´Д`)
いない
一条の閉め技は天下一品
なんか異常に重くて2chブラウザじゃ書き込めないので普通にカキコ。
>>701 GJ!
姉ヶ崎先生メインってあんまり見ないので良かったです。
一応お姉さんは播磨と同程度くらい谷先生に好意を持ってるらしいのでまっ、ありかと。
>>708 それは編集が勝手に言ってるだけ。
騙されるな。
ごぉん――と。遠く鐘の音が聞こえる。年の終わりを告げる鐘の音だ。白い雪の舞う晦日の街の空に、荘厳な 音色が響いている。 その空の下、街を満たしているのは人々の雑踏が作り出す喧騒だ。新しい年の始まりを前に、普段は静寂が支配 する時間帯も、今日ばかりは勝手が違う。どこか浮かれたような足取りが、街の中にあふれている。 ――さて。 そんな中を歩いている一組の親子に目を向けてみることにしよう。悠然としたふうの父親は絵に描いたような 紳士、その隣を歩くブロンドの少女は平静を装いながらも、嬉しさが隠しきれないといった様子である。 では、彼と彼女の会話に耳を傾けてみることにしよう―― 『すまないね、愛理。お前と出かけるのももうずいぶんと久しぶりだ』 『そんな、気にしないで。私だって、もうお父様の都合くらいは考えられる年よ』 『そうか』 『そうよ。……それはもちろん、もっと一緒にいてくれた方が』 一瞬曇る少女の表情。だが、次の瞬間には自らその失敗に気がつく。 『……愛理』 『あ、その、違うの! だからその分だけ今日はとっても楽しみにしてたんだから!』 ほら、と笑う少女は軽い足取りで父親の前に躍り出て、くるりと回って見せて―― 「ぬおっ!?」 「きゃぁっ!」 ――勢いあまって近くを歩いていた少年を巻き込んで転倒してしまう。 「ごめんなさい、私……?」 「いや、こっちこそわりぃ……?」
少女を助け起こす少年と、少年に助け起こされる少女。 その視線が交錯して、そして互いに硬直する。 「――ヒゲ」 「――お嬢」 よりにもよって、と言うべきか。ある意味で最も会いたくない相手に遭遇してしまった二人。すぐさま普段の 口論を始めようとするが、状況はそれを許さない。 『おや、愛理の知り合いかな』 『え!? そんなことあるわけないじゃない! ほら、あんたもなんか言いなさいよ!』 少女は慌てふためいて少年を急かすが、勉学の不得手な少年には彼女の口にする異国の言葉が理解出来ない。 「あん? 何言ってんだお前」 「あ・ん・た・ねぇ……!」 状況をただの少しも理解しようとしない少年に、今にも噛みつきそうな表情の少女。だが、彼女の父親はその 様子を見て微笑みを浮かべている。 『ずいぶんと仲のいい友人のようだね。せっかくだから二人で楽しんできたらいい』 『……え?』 『若い二人の前では、老人は邪魔だろうからね』 気を利かしたような笑みを置き土産に――それが勘違いとは気づくはずもなく――去っていく。あとに残された のは、呆然とした様子の少女と、未だに事態が把握出来ていない少年。 「……なあ、今のおっさんって」 「――おとうさま」
彼の声が聞こえているのかいないのか、少女の口からこぼれたのはそんな単語。ことここに至り、ようやく彼も 状況を理解する。 ――つまりは、自分がやってはいけない類のミスをしてしまった、と。 「すまねぇ。今回は俺が悪かった」 「……れるのよ」 「……?」 「……どうしてくれるのよ」 どんな相手であろうとも、そこで素直に謝れるのが彼の彼たる由縁でもあるのだが、当然ながらその言葉は彼女 に届くはずもない。そして、行き場を失った彼女の想いの向かう先もまた、言うまでもない。 「どうって言われてもよ」 「――私がどれだけ今日を待ってたか分かる?」 「は? んなこと」 「分からないわよね、ええそうよ、分かるわけないわよ。クリスマスだって誕生日だって、もうずっと、ずっとよ!?」 「……おい、ちょっと待てって」 「待つ? 私はもう十分待ったわよ、待って待って待ち続けたわよ。それが今日なの!」 それをあんたが――刺すような射抜くような貫くような眼差し。その瞳の奥に燃えるの焔、そして。 「なっ、ちょっ、お前そこで泣くかっ!?」 「あんたがきっちり責任取って」 大きく一呼吸。 「私と付き合いなさいよっ!」 その一言――今日は、というその一言を言わなかったことについては、彼女自身に罪はない。そこまで頭がまわる 状況ではなかったのは確かなことであるし、最初から聞いていれば分かることだ。 ……そう、最初から聞いていれば。
『え?』 故に『最初からそれを聞いていなかった』友人がその場に居合わせたことは、彼女にとって最大級の不幸に違い なかった。たとえそれが盆と正月が一度にやってくるような、ありえない偶然だったとしても。 「愛理ちゃん、今のってどういうこと!?」 「……播磨さん」 「沢近、お前やっぱり」 再び凍りつく二人。 ぴしり、という時間の止まる音さえ聞こえたような、そんな一瞬の永遠が過ぎて――そして時は動き出す。 「み、みみみ美琴!? やっぱりって何よ!?」 「てん……じゃねぇ、塚本……って妹さんもいるから――ああもう、なんなんだよっ!」 そうやって、またいつもと同じ騒動が巻き起こる。 ……が、所詮はそれも街の片隅で繰り広げられる小さな出来事に過ぎない。一時は興味深そうに足を止めて いた人々も、すぐにその足を動かし始め、喧騒は雑踏に飲み込まれていく。 結局、彼ら彼女らの日常は、まだまだ変わることなく続いていく、ただそれだけの話。 ――それがいつまで続くのかは誰にも分からないけれど。 ごぉん――と。遠く鐘の音が聞こえる。年の始まりを告げる鐘の音だ。白い雪の舞う元日の街の空に、荘厳な 音色が、ただ響いている――
支援?
終わりっぽいな、多分。 無茶苦茶な事言うお嬢萌え。
SEXに興味ある順位 1.沢近 2.周防 3.天満
>>713 おもろかった!本編では最近この二人は絡んでないから
ここのSSで潤すしかないからね
沢近は天満と烏丸が大人の付き合いをしていると播磨にバラシマス。 沢近は播磨に純潔を捧げて八雲に大人の付き合いをしているとサラアディエマス。
719 :
Classical名無しさん :05/01/04 23:58 ID:1LewOQ0.
サラ出してよサラ
そんな気はサラサラ無い
ここはツッコミを入れるのが優しさだろうか。 と悩みに悩み抜いた正月明けの午前2時。
サラ番茶で血液サラサラ
723 :
Classical名無しさん :05/01/05 09:19 ID:YLug7yEY
くそ、不覚にも周りの殺風景さに笑ってしまった…
>>723 磁器のような真白い肌は、やはり英国由来のものなのかねぇ。
艶もあって、思わず手を触れたくなる。
女体盛!
>>725 気品があるよね。
でも、あんな剥きだしで良いのだろうか?
>>725 温かみのある素朴さの中にも、そこはかとなく高貴さを感じます。
コンクールなどに出れば、審査員をうならせることになるのは間違いないでしょう。
「ベースはシンデレラ、か。……にしても、よくここまでアレンジしたね」 「どうかしら」 「うん、私はいいと思うな。舞ちゃんはどう?」 「……いい、とは思うんだけど」 「なにかまずかったかしら」 「……私が魔法使いの役、っていうのは深い意味はないんだよね」 「あ……でもほら、高野さんにはアレ見せてないし」 「うん、そうなんだけどね……」 「別に意味はないけど――なにかあるの?」 「え? あ、なんでもないよ、なんでも。ねえ舞ちゃん」 「う、うん。そうそう。そんな……ねえ」 「お望みなら追加してもいいけど」 「……ええと、なにを、かな」 「――二段変身、とか」 「「え゛」」 「まほうしょうじょまじか」 「いらない! いらないから!」 「ジョークジョーク」 「たーかーのーさーんー……」 「……ちょっとだけ見たいかも、魔女っ子舞ちゃん」 「……つむぎ、今なにか言わなかった?」 「ううん、別に?」 よくわかんないけど終わる。
高野って私服だと美人度増すよね。制服の時は あまり綺麗ではない
むしろ綺麗でない事は無いんだが、時々男に見える
マフィアの御曹司を匿ってたサマードレスに萌えた。 あの坊やがウラヤマスィ・・・
晶はまあ、笑わせてみたいと思えるキャラではあるな。 旗から乗り換えようという気になる程ではないが、晶の動向が気になるよ。
>>732 というか制服のときは周りにもっと見た目が濃い面子がいるから目立たないだけ。
八雲に近いが晶は純粋に綺麗なタイプだから、あまり目立たない。
花に例えると百合や秋桜、霞草って感じか。 控えめながら美しい存在。 でも薔薇や向日葵、チューリップに囲まれれば大したことのないように思えてしまう。 やっぱ単独で晶の話をしないと活躍できない感じがするな。 SSでもどうも引き立て役だしさ。
雪合戦をひたすら待ってるんだが もしかしてここ以外に投下されてたりする?
「……なにか面白いことないかしら」 お嬢様はいつだって憂鬱だ――と、いうわけでもないのだが、物思う季節を迎えて沢近愛理の周辺には 『面白くないこと』が山積みになっていた。もちろん、その大半が播磨拳児に関するフクザツカイキな 感情――友人たる高野晶辺りから見れば、逆に単純極まりない感情ではあるが――によるものだという ことを彼女が認めるはずもなく、さらにはそこに少なからず自身が掘った墓穴がある、などという話に なれば、こちらはもうそんなことに考えすら及ばない。 曰く、アイツが全部悪いのよ、である。 ともあれ、そんなこんなでせっかくの休日にもかかわらず、秋空の下でお嬢様は溜息をつくのである。 「お嬢様」 そんな彼女に声をかけたのは、執事の中村。さしでがましいようですが、私でよければなにか準備いた しましょうか、そう言葉を続ける。 「……あなたが?」 「はい」 彼が優秀な執事である、ということについては彼女も認めるところである。主人が不在であることの多い この屋敷を、必要最低限の人員で切り盛りしているところは、ひとえに彼の手腕によるものである。 ――だとしても。 彼がそれを補って余りある奇行を示すのもまた事実である。平たく言えば、大抵はろくなことにならない。 「そう。じゃお願いするわ」 にもかかわらずそんな返事を返していたのは、それだけ彼女が憂鬱だった、ということだろう。そして、 それに気づいたときにはもう遅い、ではしばらくお待ち下さい、という言葉を残した執事の姿はすでにない。 さすがにしまったという表情になるが、過ぎたことはもう取り戻せない。ならどうするのか、を少し考えて から席を立つ。 「……出かけよう」 自分の意思を確かめるように呟く。そう、こんなに天気がいいんだからいいことの一つくらいはきっとある はずだし、誰か一人くらいはつかまるでしょ、だからろくでもないことにならないうちに――心の内はそんな ところ。よし、と頷いたあとの行動は素早い――が。人間慌てていると、それこそろくなことにならない、と いうのを彼女が思い知るのは、そのすぐ後のことだったりするわけで。
「……どうするのよ」 それに彼女が気がついたのは、街に出てしばらくしてから。忘れたのだ、携帯を。 これさえあれば大丈夫、万能アイテムとしてのそれがすっかり浸透した現代は、つまりはそれがなければ どうにもならないことが増えた、ということでもある。誰かと連絡を取ろうにも、その連絡先は携帯の中に しか存在しない。直接家に遊びに行くのも手ではあるが、それで空振りになった場合は目も当てられない。 そうなると、上昇に向かいかけていた気分もあっさり下降に転じる。今更一人ショッピング、という気分 にもなれず、結果として馴染みの喫茶店で暇を持て余すのみ。楽しげに道行く人々を窓越しに眺めながら、 空になったグラスのストローをもてあそぶ。からりからりと音を立てる氷に、在庫の一斉処分でも始めた かのように溜息は尽きることがない。 「これなら家にいた方がよかったかしら」 それなら少なくとも一人じゃなかった、そんな呟きに当然ながら返事はない。頬杖をついてもう一つ溜息 ――と、その視界に見覚えのある人影が映る。 「美琴――」 これやっと、そう立ち上がりかけた身体は、しかしそこで動きを止めて再び椅子に座り直す。彼女の周り をはしゃぎまわる子供たちの姿が見えたからだ。愛理も彼女の面倒見のよさはよく知っている。なにより、 『あいつらうるさいったらありゃしない』 いつだったか、そう言って笑う楽しそうな顔をはっきりと覚えていた。 「さすがに、ね」 小さく苦笑した視線の先を、子供たちの集団、そしてもう一人のクラスメイト、花井春樹が通り過ぎて 行く。そこにあったのは、『面白いこと』にあふれた確かに楽しげな空気。 「あーあ、まったく」 溜息一つ。けれど、それはこれまでとは違う、どこかなにかに吹っ切れたような前向きなもの。続いて、 帰ろっか、そう呟いて今度こそ立ち上がる表情には明るさが戻ってきている。 ――中村に付き合ってあげるのも悪くない、か。 そんなことを考えながら勘定をすまして外に出る。どこまでも続いているような秋の青空は、今度こそ いいことがある、そう言っているように彼女には見えた。
――さてそして。 屋敷に戻ってきた彼女を出迎えたのは、やはり執事だった。お待ちしておりました、という言葉とともに 接客に用いている広間へと先導する。 「どこへ行かれたのかと心配しておりましたが……とにかく、無駄足にならずにすんでよかった」 「悪かったわね。……ところで本当に面白いんでしょうね、それ」 「はい。お嬢様なら必ずや喜んでいただけるかと」 確信に満ちた態度と言葉。逆にそれが怪しいのよね、と内心不安に思う愛理。そしてまあ当然ながら、その 不安はきっちりと的中するわけで。 「――ナカムラ」 「はい」 「コレはなにかしら」 指差した先、広間の床には簀巻きにされた上に猿ぐつわをかまされた『なにか』。 「御覧になったままですが」 しれっとしたその回答に思わず頭を抱える。それでも、どうにか気を取り直してとりあえず猿ぐつわだけ でも外してやると、すぐさまその口から飛んでくる怒声。 「テメェなにしやがるっ!」 「おや。あなたが素直に招待に応じて下さらなかったので、それなりの対応をとっただけなのですが」 「ンだとっ!」 「頭痛い……」 執事とその『なにか』――播磨拳児の間で繰り広げられる不毛な会話。いろいろな意味でそれに半分泣き そうになりながら、事態の収拾を試みる愛理。 「……で、なにやってんのよ」 「……そこのオッサンがな、いきなり『なにも言わずに私と一緒にお越し下さい』とかぬかしやがったんだよ。 んなもんに付き合う義理はねぇからな、断ったら……くそっ、あれか、お前の差し金か」 「なんで私がそんなことしなきゃいけないのよ。……ナカムラ?」 「おおむね間違いありませんな」 「……そう」 はあ、と深々とした溜息をついて状況を整理する。 つまりは。 どこでなにを聞きつけたのかは知らないが、よりにもよって『コレ』が彼女にとって『面白いこと』だと 判断して連行してきたというのだ、この執事は。
「なによそれ……」 「ご満足いただけませんでしたか?」 いつもと変わらず真顔で訊いてくる。彼女としては、どこに満足すればいいのよ、と言う他ない。 「そうですか……では――埋めますか?」 「なんでそうなるのよっ!」 「なんでそうなるっ!」 期せず重なる声に思わず顔を見合わす二人だが、すぐに気まずそうな様子になってどちらからともなく目を そらす。 「……もういいわ。ナカムラ、あなたは下がりなさい」 こっちはどうにかするから、という彼女の言葉に、特に異議を唱えることもなく一礼して去る中村。こういう ところは実によく出来た執事である。そんな姿を半眼で見送ってから、今度はまだ簀巻きのままで床に転がされ ている拳児に一言。 「ほら、あんたもさっさと出てきなさいよ」 「出来るかっ!」 ――で。 「ったく、なんなんだよあのオッサンは……」 「ウチの執事よ、執事」 何故か連れ立って歩いている二人の姿があったりする。要は、『なんとなく』そのまま追い返すのも悪いような 気がした愛理が、『なんとなく』そうしてみた、というだけの話。ちなみに、当然ながら拳児の方は嫌がったの だが、彼女にぎろりと睨まれただけであっさりと敗北している。情けないとは言うなかれ、その気になってしまえば 人間まんじゅうだってなんだって怖いものである。少なくとも、彼にとって彼女はそういう対象だ。 「なんで執事があんなに強いんだよ」 「昔軍隊にいたとか言ってたわね。ま、あんたじゃ勝てる相手じゃなかった、ってことよ」 「……バカにしてんのかてめぇ」 「なによ、相手はプロなんだから負けても恥じゃないって言ってあげてるんじゃない」 そう口にした後で、なんだって自分はこんなヤツのフォローをしているんだろう、と自分で自分に首を捻る愛理。 拳児も拳児で、思いもかけない相手から思いもかけない言葉を聞いた、と眉をひそめている。 「……」 「……」
どことなく気まずい沈黙に、たまらず愛理が口を開く。 「あんたに訊いてもしょうがないと思うんだけど、なにか面白いことってない? 別にものでも場所でもいいんだけど」 「あん?」 そして、尋ねてからまたしまったと思う。どう考えたところで、この男と自分に共通して面白いと感じることなど あるとは思えない。そもそもからして、訊く相手を間違っている。 「ごめん、忘れて。私が馬鹿だったわ」 「お前やっぱバカにしてんだろ! いいぜ、だったら教えてやるからついてきやがれ!」 だがしかし、こちらもこちらで理不尽なことの連続に参っていたのか、そう言い放つ拳児。え、と彼女が言う間も なく、一気に歩みを早める。 「ちょっと、待ちなさいよ!」 仕方なくそれを追いかける愛理。よくよく考えたなら、そんな必要はどこにもないのではあるのだが。 そして。 「――ここだ」 やがて二人の行き着いた場所は。 「……動物園じゃない」 呆れたような顔をしつつ、内心ではそれなりに驚いている愛理。まず、この播磨拳児という男にこの場所は似つかわ しくない、という思い。加えてこの動物園という場所は、彼女にとっても嫌いではない、むしろ好きな部類に入る場所 だったからだ。 ――まさか、それを知ってて。 一瞬そんなことを考えるが、即座に打ち消す。この男に限って、それだけは絶対にありえない、と。 「それで、なにが面白いの? あんたのことだから猿山?」 「……とことん分からせてやる必要があるみてぇだな」 完全にどこかのメーターが振り切れているのか、さっさと入園してしまう拳児。こうなると、愛理の方も後には引け ない。入園料を払ってその後に続く。 「見てやがれ……」 「はいはい」 生返事よろしくさほど期待などしていない彼女だったが――以降繰り広げられた展開は大いに裏切られるものだった。
ライオンが宙返り、ゾウが逆立ちし、トラが二本足で歩いてみせる。 それだけではない、二人の訪れたありとあらゆる場所で、彼の合図一つで動物たちは素晴らしい芸をやってのけた。 確かにそれはサーカスにでも行けば見られる類のものだったかもしれない。だとしても、そんなものが目の前で見られる ことに、いつしか彼女は魅了されていた。次は一体なにが見られるのか、それを誰より楽しみにしている自分がいて―― 「おい、そろそろ休憩しねぇか?」 ――その声で夢からさめた。 自分がどこに誰といて、なにをしているのか。それを思い出す。そして思い出してしまえば、そこにあるのは特別でも なんでもない、ごくありふれた日常だった。 「……そうね」 自ら驚いてしまうほどに覇気のない声でそう言って、近くのベンチに腰掛ける。忘れていた疲労が一息に押し寄せて 来て、瞳を閉じて天を仰ぐ。一方、その様子に気がついているのかいないのか、なんか食いもん買ってくる、と拳児。 思えば昼前からなにも口にしていない、と同行を申し出る愛理だったが、 「……お前、俺と一緒に並びたいのか?」 その一言で諦める。考えてみれば、今は休日の昼下がり、売店もそれなりに混雑しているはず。このテンションで その中に、しかも隣にいるのが彼となれば、この選択は道理、ということになるだろう。買ってきてやるから逃げん じゃねぇぞ、という台詞を切り返す気力もなく見送る愛理。 「なにやってるのかしら」 グチにも似たささやき。辺りを見回せば、先程までの空気はとうの昔になく、動物たちは檻の中で悠然としている。 囚われの身にもかかわらず、彼らの瞳には諦観も反抗もない。ただ強い意志の色、それだけがある。 「檻の中なのに」 どうして、と呟いたその鼻先に、突如突き出されるサンドイッチ。視線を上げればいつのまにか拳児が戻ってきて いた。なにを訊いてくるわけでもなく、普段通りの不機嫌な顔で、ほれ、とただそれを差し出してくる。 「……ありがとう」
別にそれが嬉しかったわけでもなんでもないが、彼女にしては珍しくその言葉を口にして受け取る。気を取り直す ためにも、とそれに手をつけようとするが、何故かその目の前には彼の手が差し出されたまま。その意図が読めずに 首を捻っていると、代金だよ代金、という身も蓋もない言葉がやってくる。 「俺は誰かと違ってんな金持ちじゃねぇんだよ」 「……そう」 なにやら腹が立つ以前に呆れる方が先に来てしまい、言われた通りの金額を手渡す愛理。いろいろと考えていた 自分が馬鹿らしくなり、黙ってサンドイッチにかじりつく。意外においしいのが少し悔しい。 「――あいつらはな」 「え?」 独り言のようにぽつりと呟く拳児に、驚いてその横顔を見る。けれど、彼の視線はここではないどこか遠くに 向けられている。 「あいつらはな、ここに居場所を見つけたんだ」 だからいいとも、だから悪いとも言わず、ただそれだけを呟く。 「――ねえ」 その言葉になにを思い、なにを言おうとしたのか。結局、その後彼女には思い出せなかった。その日そのとき その瞬間にしか紡げない言葉、というのは確かに存在するのだ。 「よう」 だから、そのとき唐突にそうやって話しかけられたことが、愛理にとって幸運だったのか、はたまたその逆だった のか、それも分からない。ただ、現実はそうやって進んだ、というだけのこと。 「っ! ……美琴?」 「偶然だな、こんなとこで会うなんて。で、なにやってんだ?」 「なにって……」 あらためて訊かれると困る、とそこまで考えてはたと気づく。 隣に座るのはまだサンドイッチをぱくついているあいつ。 休みの日。 動物園。 二人きり。 そこから導かれる結論といえば――
「ちょっ……美琴、あなた変なこと考えてないでしょうね」 「変っつーか、まあ普通に考えたらデ」 「だからそれが変なのよ!」 叫んでみたところでもう遅い。辺りはいつのまにやら物珍しげな子供たちによって囲まれているし、美琴は美琴で、 やるじゃん、などと言いながら肩を叩いてくる。ワラにすがる思い出隣を見れば、 「……播磨。そういうことだったのか」 「そういうってのはどういう意味だ」 「いや、でもまさかな……」 「おいこらメガネ、なに一人で納得してやがるっ!」 案の定まったく助けにもならず、むしろ頭痛の種が増す一方。そしてさらに火種に油を注ぐ存在が現れる。 「あれ? にーちゃんってこないだ教会に来てたよな」 「……なに?」 「ほら、八雲ねーちゃんがお嫁さんやったとき」 その発言に、男性陣二人の顔が歪む。それぞれにあまり思い出したくはない記憶だ。しかし、その発言に興味を 持つ者が一名。 「ねえ、それってどういうことなのかしら」 即ち、愛理である。清々しいくらいに爽やかな笑顔で質問。逆に怖い。 「……えっと。ホントは花井がしんろー――でいいんだっけ――だったんだけど、それを途中からこのにーちゃんが 乱入してきて、八雲ねーちゃんさらっていこうと」 「待てガキ。ありゃあな、ただちっとばかり間違えただけで」 「あら、一体なにをどう間違えたのかしら」 「そりゃあ」 そこで止まってしまう拳児。 言えない。言えるわけがない。こんなところでそれを口にした日には、どうなることか想像も出来ない。故に、彼に 出来るのは何故かとげとげしい目つきで睨んでくる愛理の視線に無言で立ち向かうのみ。 そんな剣呑な空気の中、ことの原因を作った彼が一言。 「――さんかくかんけい?」 「違うわよ!」 「ちげぇよ!」
「じゃーねー」 疲れを知らない子供たちの声にも、力なく手を振るだけの愛理と拳児。それぞれ別れ際、美琴と春樹に、元気出せよ、 などと言われているのだが、それでどうにかなるくらいなら誰も苦労はしない。その集団が見えなくなった後、二人して がくりと大きく肩を落とす。 ――結局。 あのままなし崩しに大騒ぎ、子供たちに引き回されるような形で、二人も動物園をぐるりと回ることになった、という 次第である。子供の扱いは慣れているならともかく、そうでないなら著しく体力気力を消耗する。この場合もまさしく その通り。 「疲れたわ……」 心底げんなりした顔でそう言ってから、でも、と小さく笑う愛理。 「それなりに楽しかったわよ」 別に答を期待していたわけではなかったが、横に立つ拳児の方をちらりと見る。 ――と。 「……まあ、退屈じゃなかったな」 「――そう」 もう御免だけどな、伸びをしながら言うその顔は疲れ切っていて、確かにもう金輪際お断りだ、という様子。それでも、 『楽しかった』ではないにしろ、予想外の言葉が返ってきて若干戸惑う愛理。変なことを言われた言い返してやる、そう 思って準備していた言葉があっさりと霧散する。 「じゃあな」 そして、これだけ慌ただしかった一日なのに、その終わりはどうしようもないほどにあっさりしていた。そんなことを 何故か残念がっている自分に、ぶんぶんと首を振る愛理。 「じゃあね――」 それでもささやかな冒険として。 「――播磨くん」 最後に彼の名前を呼んでみた。返事はない。先程もう別れの挨拶はすませた、ということなのだろう。その素っ気なさに、 再び何故かむっとする彼女だったが、まあいいか、と思うことにする。 その程度には楽しかったのだ、今日は。 そんな思いを胸に家路への一歩を踏み出してから、なんとはなしに肩越しに振り返ってみる。その先には、金色の夕焼けに 照らされた長い影法師、そして遠くを行く彼の小さな背中が見えた――
なんとなく沢近づいている、そんな今日この頃です。 今週の本誌見た限り、それなりに普通に会話は出来そうな噛みつき具合でしたが、さて。 ……それより問題は、明日がいつのまにか一条さんの誕生日なんだよな、と思いつつ。
>748 乙。GJだった。レベル高いなぁ。恋愛関係というほど濃いものではない、 スクランっぽい人間関係をよくかけてたと思うよ。
>748 乙
>>738 俺が知ってる限りでは投下されてないと思ふ。俺も実は楽しみにしてるんだが…
誰か知ってる人いたら教えてプリーズ
752 :
初詣 :05/01/06 23:10 ID:SKY2sPSE
12月31日。大晦日。 昼から雪が降ってきた。 夕方になっても、止みそうになかった。 それでも、姉さんは先輩たちと初詣に行った。 そして、数時間後。 姉さんは、雪で滑って転んで帰ってきた。 明けて元日。 雪も止んで、いい初日の出だった。 昨夜、はしゃぎ過ぎたのか、姉さんはまだ寝ている。 伊織に、正月だからとメザシをいつもより多くあげる。 心なしか、喜んでいるようだ。 「さて、と」 一段落ついて、初詣に出掛ける事にした。 矢神神社は、昨夜に初詣を済ませた人が多いのか、閑散としていた。 お参りを済ませ、おみくじを引く。 結果は、大吉だった。 恋愛の項目を見ると、『かなうでしょう』とあった。 『かなうでしょう』……嬉しい響き。 (かなうかな……かなえたいな……今年は一歩、踏み出してみよう……) そう思って、おみくじを括りつけた。 今年は、いい年になるといいな…… おわり
753 :
初詣 :05/01/06 23:12 ID:SKY2sPSE
間違ってネタバレスレに投下してたorz ってことで改めて投下です。 試し描き氏の絵でSSしてみました。
晶×播磨ものなら、なかなかの大作が某所に投稿されてるよ。
何処の事だ?
S3にシリーズであったな。 中々面白かったが、それか?
多分、それ。ホザキ氏万歳。
最近SSは微妙に飽き気味だったんだが、晶×播磨という あまり見ないカップリングに興味を引かれて読んでみた。 ヤバイ、ツボった。超姉だったが、こっちに転びそうだ。
>>758 俺はもう転んじったぜ!
ホザキ氏には足を向けて寝れません。
激しく同意
播磨と笹倉先生が旧知の仲だったりお姉さん3人組がライバルだったり してる話が時々あるのは何故? 妄想の産物か
( ´_ゝ`)
なんか晶×播磨の#1は歌月十夜っぽいな
あの晶×播磨モノは内容的には面白くて好きなんだけど、 サイトの中で話をバラバラに分散させないで一個所にまとめてくれ! と思ったよ。
サイトの構成上しゃあなかろうて。 あとは茶道部室での連作のやつがマターリしててよかったな。
#5まで読んだ 俺、晶×播磨派閥に入るわ(*´Д`)
晶 × 播 磨 の 時 代 到 来 の 予 感 (;´Д`)
S3って途中で止まってるの多いのな 雪合戦マダー
せめて派閥名が欲しいな。晶×播磨はあまりに可哀想。
個人的には冷熱派、と認識してたりする
雪合戦の作者って誰だっけ?
ここまで増えて少数派…。なんか微妙。 でもとりあえず、SSを携帯に入れといた。
>772 わざわざアリガd! 読み返したらさらに続きが読みたくなってキター…
布にくるまれていないサラはとてもコケティッシュばい
雑談くさいが、一応ここではないにしろSSの話だし ちょうど話題があるので。 晶×播磨読んだ。……俺も晶×播磨派に。いやマジデ; SSってひとつ神作品があがるだけで、すごい影響があるなと再び実感。 それにしても、今まで呼称が少数派だったからな…… もっと呼び名ないかなーと思っても、原作の方で絡みがないからムズイ…
おもしろい派
・・・携帯派
なんかわぁどらいふにもS5にも繋がらないんだが・・・
繋がったや すんません
なんで四人衆で一番世話になってる人の名前すら まだ覚えてないんだ播磨。
今氏の皿饂飩(+おにぎり)にも期待してる。あそこは少数、皿、おにぎりが主力っぽいな。
晶めろ派って聞いたんだが
キリン派、とか
本編で絡みがないからなぁ 察する派とか?
789 :
Classical名無しさん :05/01/09 17:57 ID:uXzYf95Q
馬鹿一かイヤ展かは判断できんが、天満→烏丸関係のラストに向けて、 こういう事前の動きがありえないでもない。 -播磨の応募した漫画は佳作で、ジンマガ紙面には載らず- 播磨:そんな中、自分は一目惚れで→天満だったわけだが、妙、お嬢や八雲と関わってるうちに, 自分が天満の内面に惚れたわけではい事に気づき、愕然とする。 お嬢:いつものように播磨と夫婦漫才やってたら感情が抑えきれなくなって思わず告白モードに。 -お嬢逃走、播磨呆然- 播磨:お嬢を探し出し、単車で2ケツドライブ。矢神神社到着後、お約束の 「今まで好きなんて言われた事なかったからよぉ」とか言っちゃう。 播磨が真実を打ち明ける。お嬢ショック。しかし播磨、お嬢の気持ちを受けた事で 自分の天満への想いがいつのまにか意地になってた事に気づく。自分も逃げずに 天満に告白して散る事を決意、グラサンを外しお嬢にもその旨を伝える。 お嬢:播磨の素顔に胸キュン。 -翌日、校舎屋上- 播磨:天満を呼び出す。播磨、グラサンを外し、自分が「変態さん」である事を 気づかせる。天満がいつものように勘違い暴走しようするが、播磨は真顔& 大声で制止。天満に真実を打ち明ける。天満、激しく困惑。事故嫌悪一歩手前までいく。 しかし播磨は「好きだった」と過去形で伝え、「これはもう、通過儀礼みたいなモン だからさ」と助け舟を出し、天満の返答を誘導する。 天満泣きながら「ごめんね」、その後笑顔で「でも、ありがとう」と言う。 -播磨、フラれるが一片の悔いなし- お嬢:フラれた播磨を後夜祭バリのカッコいいセリフで播磨を励ます。 播磨:強がってみるものの涙が溢れ、お嬢の胸の中で男泣き。 -播磨×お嬢フラグ、完全成立- そして、スクランはいよいよクライマックスヘ…(続く)
そんなことはどうでもいい! 早く雪合戦の続きをば!
コピペかもしれんが長文を「そんなこと」で切り捨てるなw
黒サラを悪魔祓いしようとして半殺しにされる花井はまだか
>>779 ぶっちゃけ超姉とか鉛筆とかもどっちかっつーとそんな感じだもんな
(超姉は例の会話モノで鉛筆はエロパロのあれか)
晶×播磨、名前は知らん派は…さすがにアレだな(w
「姉派」「超姉派」に対抗して「姉御派」とか。
晶×播磨。S3で盛り上がってるから「S3派」でいいじゃん、もう
ホザキ派
どうでもいいが、SS書けや…
あぼーん
雪合戦!雪合戦!!
SS書いた。長くなりそう。もし不評だったら、ここでは連載せずに分校のうpろだ にでもtxt形式で上げるとかするつもり。ちなみに、不安定な八雲の状態を文体で 表現してみようとか思ったんだが、ただ読みにくくなっただけの可能性もあるんで なにか意見あったら頼む。今後に生かしたい。
終わりの始まり、そんな季節。今日もここ数日と同じように、木枯らしが吹き荒れているがその寒さにも幾分なれた。 「……っ」 乾燥した一陣の風がほほを打つ。八雲は、瞼を閉じてつむじ風をやり過ごすと、通学路脇の公園に視線を投げかけた。すっかり葉を落とした木立の合間を、子供たちが楽しそうに駆け抜けていく。半ズボンの少年たちの姿をみて、思わず身震いをひとつ。 ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン 遠くから、澄んだ空気を伝って列車の走る音が聞こえて来る。なんでもない冬の風景。普段なら、子供たちが無邪気にはしゃぐ光景に、やわらかい笑みのひとつも浮かべるのだが、今の八雲の顔は、頭上に垂れ込める厚い雲のように、暗澹としたものだった。 「はあ……」 この日何度目かのため息をつくと、視線を落とし、懐をまさぐる。携帯の着信は……無し。 再びため息をつこうと息を吸ったちょうどその時、ポン、と肩にやわらかい感触を覚える。 「もう、先に帰るなんてやだよ?八雲」 「え……サラ……あ、ゴメン……その、考え事しててつい」 オロオロとうろたえる八雲に、気にしなくていいよ、と親友は笑いかけたが,八雲の浮かない表情に、少し心配そうに顔をゆがめる。しかし、すぐいつものやわらかい表情にもどり、ゆっくりと歩き出す 「……いこうか。それとも、どこかよってく?」 「……うん」 サラと並んで歩きながら、少し控えめな答えを返す。昨日はこの問いにNoと答えた。 (だめだ、こんなにサラに心配かけちゃ……) サラはここ数日、浮かない顔の八雲を心配し、最初のころは、どうしたのか問い詰めてきたが、こちらが、返答に困って言葉を濁していると、やがて何も聞いてこなくなった。そしてその代わりに、いつも以上に優しい笑みを投げかけてくれるようになった。 「じゃあいこっ。どこいこっか?ココアとか飲みたいなー。」
「うんそれじゃあ……」 サラに手を引かれながら、手近な喫茶店を目指す。曲がり角の手前で、一度振り返り公園を眺める。子供たちは、迎えに来た母親たちに連れられて、公園を出て行くところだった。なんとなく足を止め、ほんの少しの間無人の公園を眺めるが、サラに呼ばれ、なんでもないと答える。 (……どこにいっちゃったんだろう、播磨さん……) もう一度だけ、振り返り、サラと共に再び歩き出す。播磨さん、ちゃんと暖かくしているだろうか。そんなことを考えながら。明日は、この冬一番の冷え込みらしい……。 播磨さんがいなくなった。四日ほど前のこと。風邪かな、とはじめは思ったけれど、メールの返事は全く来ない。迷惑だとは思いつつも、電話をかけてみた。だけどやっぱり返事はない。 シュッ、シュッ、シュッ…… まだ薄ぼんやりとした、夜と朝の境目の時間。一日で一番気だるげに思える時間。少々古ぼけた石油ストーブと、小柄ながら快活な姉だけが、一面の静の中、人の存在を示すかのように、動のアクセントをつけていく。 「それじゃあ八雲、行ってくるね!」 姉の活力に満ちた声が私に向けられる。私は、多分とっさに頷いたんだと思う。あんまりぼんやりしていると、また心配させてしまうから。せっかく烏丸さんと会うのだから、気持ちよく出かけてもらいたい。 「いってらっしゃい、姉さん」 玄関口まで見送れば、姉は一つ頷いて、冷たい空気の中に飛び出していった。足音が通りを駆け抜けていく……。
「私は……」 どうしようか。冬の休日、一人家で過ごすのは、それなりに楽しみもあるけど、やっぱりなんだか寂しい気もする。居間のコタツにに 再び収まる。 「……」 さっきまで暖かいテレビの上に陣取っていった伊織もどこかに行ってしまったらしい。 はあ、とため息がまた一つ。今日はじめてのため息。どうして播磨さんはいなくなってしまったのだろう。いや、原因はわかっている。 ほぼ間違いなく……。 「……洗い物、しようかな」 もやもやした気分を振り払うかのように立ち上がり、まだ湯気の立つ二つの湯のみ茶碗を 手に台所に向かう。流しに茶碗を置き、定位置にないスポンジを探そうと視線を横に滑らせたとき……大変なものを見つけた。 「あっ!」 流しの横に置かれていたそれをつかんで、はじけるように玄関を飛び出していく。 「はっ、はっ、はっ……」 眠りから覚めたばかりの体は、急激な運動に驚き、自制を促してくる。わき腹がずきずき痛むけれど、とまるわけにはいかない。白い息 に先導されて、左右に流れる風景の中を一心不乱に前へ、前へと足を出す。まだ大丈夫、まだ大丈夫なはずだ。姉が出て行ってから、余り時間はたっていないはず。 「はっ…はっ…はっ…」 次第に呼吸のリズムが整っていき、余裕が生まれてくる。ああ、車から見る風景と 歩いてみる風景は違うというけれど、走りながら見るのも、また違った光景に見えるのだな、こんなときにのんきな関心をしてしまう。冬の朝の凛とした空気も関係 あるのかもしれない。挨拶をする暇もなくすれ違っていく枯れかけた柿の木や、ヒビの入った石塀も、普段とは違い、背筋の通った老人のように、凛と力強く立って いる。 いつの間にか、わき腹の痛みもおさまっていた。十分に温まった脚が、力強くアスファルトを蹴って、体を前へと推し進めていく……けれども、姉の後姿は見えて こない。
余程急いで行ったのか。もしかしたら姉も走って駅まで行ったのかもしれない。早く烏丸さんに会いたかったのかな。そんなことを考えれば、走る速度も速くなる。これを忘れてしまっては台無しなのだ。急がなきゃ……。 しだいに、道幅も広がり、人影も増えてくる。……駅が近い。電車は何分に出るんだたっけ、今、何時だったっけ、なんとも心もとない……。 「あっ」 ようやく見つけた。駅の入り口で、奥のほうとこちら側を交互に見比べて、おろおろとしている姉の姿。その姿に笑みがこぼれる。 「姉さん!」 大きく姉を呼んで、手を振る。 「あっ、八雲!」 姉もこちらに気づいたのか、ぱたぱた、と足音を立てて駆け寄ってくる。 「ありがとう!ごめんね」 「ハァ……ハァ……うん、いいから……」 電車来ちゃうよ?と促すと、姉は慌てて駅に駆け込んでいって……消える寸前に手を振った。その姿を最後まで見送って…… 「……」 ようやく周囲の視線に気付いて、顔が真っ赤になるのを感じながら、自分のスニーカーのつま先を見つめた。 「ふぅ」 行きとは違い、ゆっくりと歩いて戻ってきた自宅。薬缶の蒸気を吹く音が迎える。ストーブを消し忘れてた……。気をつけないと。 「お風呂、入ろうかな……」 大分汗を掻いた。帰るうちに冷えてしまって、シャツが肌に吸い付く、気持ち悪い。油の切れかけたストーブを切り、着替えを抱えると洗面所の引き戸を開く。
私怨?
「……」 鏡の 中の自分と目が会う。彼女は、思いのほか沈んだ表情をしていた。これでは周囲の 人たちも心配するだろう、と思うけれど、なぜか他人事のように思える……。 うなじに張り付く髪をゆっくりと掻き揚げ、カーディガンのボタンをはずしていく。下か ら一つずつ……。昔何かの本で、パジャマのボタンは下からはずさないと悪魔に取り付か れる。何かの本で読んだ。別に信じたわけじゃないけれど、なんだか可笑しくってそれか らは下から脱ぐようにしている。 ハイネックのシャツに手を掛け、一気に脱ぐ。一瞬の暗闇の後、再び目があった少女は、 先ほどより幾分元気を取り戻していた、静かに頷いて見せる。 素足に感じるタイルの冷たさに肩をすくめる。足早にシャワーに手を掛けるけれど…… 。 「お湯、貯めようかな」 今日は時間もたっぷりあるし、ゆっくり温まるのもいいかもしれない。蛇口をひねると、 小気味良い音がと共に勢い良くお湯が吐き出される。 「……」 なんとなく、本当になんとなく、ほとんど空の浴槽に座り込んでみる。もたれた背から体 温が一気に逃げだしていくけれども爪先までお湯が這い上がってくれば、だんだんと暖ま ってきて。 ぱしゃ 薄く張った湯を手で掬い、汗でべたつく首筋に浴びせる。そのままうなじからなぞるよう に指を滑らせ、鎖骨で止める。溜息一つ。臍まで湯がくれば、もうぽかぽかと温まってき て。 「姉さん渡せたかな……?チョコレート」 昨日姉さんががんばって作った手作りのチョコレート。……私はほんのちょっと手伝った だけ……ほんのちょっと……。今年のバレンタインデーは生憎休日と重なってしまって。 学校では昨日、チョコレートのやり取りが交わされていた。私もサラにもらった。お返し 、ホワイトデーでいいのかな?
なんだか、姉さんのクラスはやけに賑やかだった。そういえば、沢近先輩も播磨さんの こと探してたっけ……。 す、と目を細めて体を壁に傾ける。火照る頬を押し付け、虚ろな視線を虚空に向ける 。 「なんだか、いやだな……」 廊下で沢近さんに播磨さんのことを尋ねられた。二人を包んだお互いに気まずい、息ぐ るしくて冷めた空気。沢近さんも、なんだか気まずそうにしていた。 「……どうしてるんだろう」 播磨さん。最後の言葉はなぜか飲み込まれて。ああ、やっぱりショックだったんだろ うな……姉さんと烏丸先輩のこと。よりによって、告白の相談を播磨さんにするなんて ……。 「けど」 そういえば、前にも似たような相談をしたことがあるっていってたっけ。 「播磨さんは姉さんのことが好き……」 そう、そのはず。どういう気持ちなんだろう、好きな人に好きな人がいること、そして それを自分で後押しすること。……わかるわけがない、いくら考えたところで。 「好きって気持ちも……」 わからないのに。 気がつけば結構な時間が過ぎていたらしい。お湯もだいぶぬるくなってしまった。も やもやした気持ちのまま、湯船から上がる。シャンプーが切れかけていることを気に掛 けながら、頭と体を順に洗って……。 とりあえずはさっぱりした。脱衣籠のバスタオルに手を伸ばした瞬間、一番上におい ていた携帯が振動を始めた。 「っ!……ぁ、サラ、かな?」 一瞬息を呑むけれど、すぐに力ない笑みを浮かべる。なんの用だろう。バスタオルを頭 にかぶせながら、携帯を開く。 「え?」
バスタオルを持つ手が止まる。播磨さん……だった。 「……っ!!」 一瞬の間のあと、慌ててメールを開く。 お姉さんはお元気でしょうか? それだけ、たったの一文がそこにあった。……どういうことだろう。別に腹が立つわけで はないけれど、今までの今までで、これだけなのはあんまりな気もする。けど……播磨さ んも辛いんだろうな、とは思う。もしかしたら、学校に来なくなってから今の今までずっ と姉さんの事を考えていたんじゃないだろうか。 「どこにいるんだろう」 今なら返信してくれるかもしれない。いや、それよりも直接電話を掛けようか。 「くしゅっ」 ……その前に、服を着よう -続く-
途中まで改行するのを忘れていた。正直すまん。
内容はまだ判断できないけれど、こういう重厚な語り口は好き。 ちと流れが不鮮明な文章も狙いの内なら問題ない。 是非これからも書いていただきたい。
乙〜 今のところ何とも言えないけど 正直、続きがメチャクチャ気になるし、期待してますよ。
続きが気になってしょうがないです!めっさ楽しみにして待っております。 ・・・話変わりますが上で雑談されている晶×播磨SSってどこで読めるんですか? かなり話題になってるようなので自分も読んでみたいのですが。
>>810 正直…職人がS3に移ったりしてこのスレも末期かな…とか思ってたところだった。乙。
特にキャラが変わってるとかそういう部分も無いし、語り手=主人公っつースタイルは割と好き。
続編期待。
俺もS3から晶×播磨派に入ったクチなんだが さすがに本スレまで出しゃばるのはどうかと思う(;´Д`) サイレントマイノリティで行こうぜ
んなもん別に自由だろ。好みなんて十人十色。 むしろ過剰反応してる奴の方が荒らし。
>>819 俺も「なんか流行り物が好きで自分の好みを自慢げに垂れ流す厨房共に目をつけられたみたいだな」
と気の毒に思ってたが表面上は完全黙殺していたよ(´ー`)
だが
>>819 はその文を書いたから黙殺でなくなった。
いや、本スレは王道、旗、おにぎり、縦笛以外は排除っぽいっていうか なんか声の大きなヤツがいるからさ… 好みはそれぞれ持ってて良いんだが、主張する前に空気読もうと つまりここだけにしておくのが無難かと(;´Д`)
接点なしのカップリング排除ってなんだ本スレは腐女子が占領してるのか
排除云々っつーかフラグも立ってないのにマンセーは原作支持派にとっちゃ異常以外の何者でもないだろ。 あくまで補完という形でこのスレがあるんだからそれを本スレで言うのはお門違いだと思うぞ。
何遊んでんだよ、お前らぁ!!ウザイんだよ!!オラオラオラオラオラ!!!
麻生×絃子とか主張する奴いたら、アチャーって思わない?
俺はマジで麻生×八雲を期待している。
見てる側は120%つまらんと思う。
このスレに、3バカの一人がおる。
>>825 お前やろ。
830 :
825 :05/01/12 19:37 ID:eDFfh/gA
ああん!? ボディーだけ残ってりゃいいんだろぉ!!
まぁ最初の頃はそこそこいたよな、麻生×八雲派。 カレー弁当届けに行く回で一人だけ八雲にあんま興味なさげだったから 逆に心が見えなくていいんじゃないかって感じで期待されたんだけど それ以降二人が絡む気配すら全くなくそのうち八雲が播磨と絡みだし 麻生もサラとか美琴とかと絡むようになって一巻の終わり、ってところか。 あと花井×サラなんてのも初期の遺物っぽいけど こっちは結婚式の話とかあったから辛うじて食いつなげてるって感じか?
花井も麻生も致命的に人気ないからそんなこと思う奴はおらんだろ あ、もちろん腐の人たち以外の話ね
…とりあえず自分の好み以外の派閥を全部腐女子で片付けるのはどうかと思うぞ ここは脳内補完上等のIFスレなんだし
保守
とりあえず、煽りをスルー出来ないということは確認した
この悪い流れを今こそ俺が変える!! 一巻の最初に出てくる美琴は今の美琴よりカワイイと思う人 手〜上げて♪
そういえば、本スレかなり長いこと見てないな。 そんな流れになってんのか。
美琴は失恋話以降がぜんかわいくなったと思われ。
>>838 たいしたこと無い話を延々議論してループしMacTellから
見てもたいした意味無いよ
「おつかれさま播磨君」 「えっ!?…て…塚本」 「…播磨君もクッキー食べなよ」 「あ、あぁ…ありがとよ…」 「……」 「…うめぇぜ」 「そう、よかった…みんなで焼いたんだよ?」 「そうか…でどれが塚本の焼いたのなんだ?」 「あー、いや…それがね、『お前が入るとろくな事にならないから』って美コちゃんが言って…」 「…なるほどな(w」 「あ〜、播磨君までなんか納得してる〜…ひどーい」 「あ、いや悪ィ塚本…でもなんかそういうの凄え塚本らしい気がしてな」 「むぅー」 「まぁ人間得手不得手ってもんがあるんだからしょーがねぇだろ。 他に塚本のいいところもいっぱいあると思うし」 「え…そ、そうかな?」 「…少なくともオレはそう思うぜ」 「ありがとう播磨君…お世辞でも嬉しいよ」 「世辞じゃねぇよ。つーか世辞でこんな恥ずかしいこと言えるか…」 「あはははは…なんかそういうの播磨君らしいや」 「え…そ、そうか?」 「播磨君そういうトコ意外と不器用だよね」 「そ、そうかなぁ…?」 「そうだよ」 「…そうか」 「うん」 「……」 「……」 「…すまねぇな、なんか気ィ遣わせちまったみたいで」 「え?」
「オレこんなだからまだ微妙にクラスに馴染めてねぇし…」 「えー?そんなことないよー?」 「…まぁ確かに普段は割とフツ−になってきたけどさ、こういう時になんか輪の中に入りづらいというか」 「うーん…それは単に播磨君が『いっぴきおーかみ』だからじゃないかなぁ?」 「一匹狼、なぁ…」 「晶ちゃんとか麻生君とかも割とそーいう感じだよね。でも馴染めてない、ってわけじゃないでしょ?」 「…まぁ確かにあの二人はそうだな」 「だから播磨君もちゃんと馴染めてるんだって、きっと」 「でもオレはこんなだし…」 「だいじょーぶ!確かに播磨君はちょっと不良っぽいとこあるけど 本当は優しい人だってきっとみんなもうわかってるはずだから!」 「て…塚本…」 「だから自信持って、ね?」 「あ、あぁ…」 「…よかった」 「……」 「……」 「…なぁ塚本」 「ん?」 「さっき言っただろ、塚本にもいいところいっぱいあるって」 「…うん」 「一つがこういうとこだと思うんだ」 「え?い、いや、これはただ単に自分のこともちゃんとできないのにお節介焼きなだけで それにいつも勘違いで逆にメーワクかけちゃうことばっかだし、そんな人にほめてもらうようなことじゃ…」 「…例えそれが見当違いで逆に迷惑なことだったとしてもな、誰かが自分のために 一生懸命世話焼いてくれて悪い気がする奴はあんまいないと思うぜ」 「そ…そうなの?」 「あぁ、そういうもんだ…特にオレみたいな人間にとってはそれが凄え有難い」 「ありがとう…そう言ってくれると嬉しいよ。やっぱ播磨君はトクベツだし…」 「!!!…て、つ、塚本、それって…」 「だって…」 「……(ゴクリ)」
「私のクラスで播磨君が寂しい想いをしてたりしたら八雲に申し訳ないでしょ?」 「…へ?」 「播磨君は大事な未来のオトウトだもん。これぐらい当然だよ」 「あーいや、だからそうじゃなくて…」 「…もー、今更照れない照れない。私と播磨君の仲じゃないの」 「いや、だから…」 「だいじょーぶだいじょーぶ、ぜんぶおねーちゃんにまかせんしゃい!」 「……」 「…あ、烏丸君だ!…え、えっとクッキーみんなで作ったんだけど…」 「あ…オレのクッキー…」 「…ま、しゃーねーか。自分で見当違いでも構わねぇって言っちまったしな…」 おしまい。
GJ このくらいの絡みでも嬉しすぎる がんばれ播磨
845 :
Classical名無しさん :05/01/13 22:26 ID:yPXRP3Jk
くだらねぇSSばっかだなここは
>>841 GJ!
本誌でもそうだったけど、泣けるな、播磨。
…播磨を落とすなら今だな。
あぼーん
昔の、天満に出会う前の播磨ってどれ位荒れてたのやら。 ギャグが一切ない播磨なんて想像がつかない。
荒れてはいても、当時さらに幼かった修治が未だ懐いてるので、 例えば義理堅さだとか、播磨の人格みたいなのはほぼ完成されてて 大して変わってないんだろな。 ギャグは普通にやってただろう、別に今だって本人が狙ってるわけじゃないw 前田文尊の「飛び降りるんぢゃなかったのか!?」みたいなのを しょっちゅうやってたんだろう。
>>850 (前略)
歳が離れていた上、ぶっきらぼうな兄のことを修治はなかなか「家族」だとは
認識できず、むしろ冷めた目で兄を観察することのほうが多かった。
(中略)
修治と兄の会話が増えたのは、むしろ兄が家を出て行ってから。(PFより抜粋)
中学時代の播磨にギャグ要素など無さそうですな。
荒れてた間、ちゃんと見ててくれたのはもしかしてイトコだけとか。 かなり淋しいな。
隣子って 一人称 私? あたし? どっちかな ほわわん
854 :
850 :05/01/14 10:58 ID:GkJnW522
PF買ってないから知らなんだ。 ちょっと播磨像が変わった。 ともあれthx。
PF、貸したまま帰ってこない…orz
>>852 それも無さそうだ。中学で家を出た播磨はアパートで一人暮らしをして、
天満に投げ飛ばされて一目惚れする。(2巻長編)
つまり絃子さんの家に転がり込んで来た時には既に荒れた播磨は
消えてたんだろう。中坊播磨は天満に会うまで正真正銘の孤独だったと思う。
中学生播磨を絃子さんが嫌ってたのならば勉強の手伝いも同居の容認もしなかったろうよ 親は中学時代一人暮らししてた頃から播磨とほぼ絶縁状態で 警察とかに迎えにいってたのが絃子さんなんじゃねえのかな、と妄想 播磨が絃子さんに、ひいては女に頭があがらないのはその辺が原因ぽいような気がする
858 :
825 :05/01/14 15:50 ID:NPh.8zbc
それよりPF借りパク疑惑のほうが気の毒だ
>857 PF によると、絃子さんは受験勉強を手伝うどころかむしろ入学を妨害していたぞ(w まあ、播磨のことが嫌いで意地悪した、というわけではなさそうだが。 あのハーレーだって絃子が当時からずっと貸してるわけだし。
ヤベ(;´Д`)激シブで女の臭いがしない荒くれ者がいきなりもててるってやっぱ格好いいな 俺は駄目人間で感化され過ぎる
俺は俺だけのもんだ、だっけか。 異様にカッコイイ播磨。 でも、どんなにカッコ良くても孤独じゃなー。
連載を考察するやつとか好きだったんだけど…もうないの? 自分の知らない小ネタとか補完してくれて楽しめたんだが…
マガジン伝統の不良マンセーですか・・・
>863 避難所にあるはず…多分
マンセーっていうには播磨の扱いは色々とアレだけどな
マガジンの不良マンセーというより、スクランヲタの播磨マンセーの気が強いような マガジンは完全にヲタク路線にシフトしてるしね…
「もうしませんから」見て正直引いた。
ナージャに引いた
>>868 チャンピオンもそうだよ。
ジャンプは婦女子向けにシフトしてるし。
サンデーはシラネ。
サンデーは今一番バランスがいい時代なんじゃない? あえて言うなら読者層を低年齢にシフトしてるかも。
もう職人さんたちは死んでしまったのかなァ
もうFlashが作られなくなって久しいな
876 :
Classical名無しさん :05/01/16 21:20 ID:NFHxbINg
最近の拳児君からは女の匂いがする。 少し前まではなかったこと。 塚本八雲君や、彼のクラスメイトの沢近君、それから、 あの新しく来た保険医の姉ヶ崎先生。 少し前ではなかったことだ。 本当に、彼の周りには他の、私以外の女の匂いがするようになった。 本当にどうしてしまったのだ。 最近はこんな事ばかり考えている。 少し前まではなかったことなのに。 いつからだろうか、拳児君を従弟ではなく、男として見るようになったのは。 「はぁ」 溜め息と共にこの憂鬱な気分を吐き出す。 彼は子供で、私は保護者だ。 彼は生徒で、私は教師だ。 彼は…、
877 :
Classical名無しさん :05/01/16 21:21 ID:NFHxbINg
ダメだな、私は。 一人で部屋にいると、こうしてまた考え込んでしまう。 葉子にでも電話しようか。 ダメだ、またからかわれるにきまっている。 私が、そんなことを考えていると、玄関の戸が開く音がする。 「イトコ帰ったぞ。」 この男は…。 気づいているわけはないのだが、どうしても苛立ってしまう。 拳児君、君に呼び捨てにされる度に勘違いしてしまうのだよ。 私と君が恋人同士なのではないかと。 だから私はいつも通り、この気持ちに気づかれないように、 手元にあるモデルガンを君に向け、 「『さん』をつけろと何度も言っているだろう。」 撃つんだ。 この弾は、決して君の心は打ち抜けないと分かっていても。
878 :
Classical名無しさん :05/01/16 21:23 ID:uYi.HWX2
物語は、唐突なシーンから始まる。 周防美琴は激しく悩んでいた。今、自分の置かれている状況に……。 「…………」 「…………」 ここは、人気の無い校舎裏。目の前には、播磨。後ろには、壁。ナンデコンナトコロニ イルンダロウ?確か、今日は珍しく一人で帰ることになって……そんで播磨に呼び止めら れて……。なんで? 「あ〜……は、播磨?」 「……」 話しかけてみても、やたらと真剣な播磨の表情に、うまく声が出せない。 ナンナンデスカコノジョウキョウ 冬の一瞬の夕空が、やけに重く押しかかってくる。氷ついた二人を見ているのは、視界の 片隅で、木立の上からこちらを睨む一羽の烏のみ。それも、カーと一声ないて、沈む茜に 向かって、飛び去っていく。 「あの……いった…」 バン!! 話しかけようとした周防の左右に、播磨の両手が突き出される。 「……」 「なっ、なんだよ!!」 これには頭が来た、逆に元気を取り戻し、播磨に食って掛かろうとするが……。 「ぇ?」 気付いてしまった。播磨が、この以下にも無頼漢風なサングラスのオトコが、顔を真っ赤 に染めている……。時折、何かを言おうとして、口をわずかに開閉させているが、言葉に はならない。 「な、ななな……」 も、もしかして、もしかして、この状況は、いわゆる愛の……。
「な、ななななななな……」 なんだこの状況は、勝手にこっちの顔も赤くなる、なんと言うか、サングラス越しに感 じる視線が、今までほとんど見たことが無いくらいに真剣で。 「お、俺は……、俺は……だなぁ」 「つ、塚本の妹がいるだろうがっ!!」 致命的なせりふを大声で遮る、なんか聞きたくない、このオトコが原因で親友と大喧嘩し たことを思い出す、ああいうのはいやだ、なんか凄くいやだ。 「っ!…………?」 思わず身をすくめて肩をすくめるが、奇妙なことに、静まり返ってしまった、不思議そう に瞼を開くと……播磨が、顎が外れそうなくらい大きく口を開けて、震えていた……。 「どっ、どこでそれを聞いた!……妹さんか!妹さんか!」 「へ?いや、聞いたも何も!」 「誰 に 天 満 ちゃん!が好きなことをきいたぁ!?」 「へ……?」 その時、確かに時は止まった。 「あ〜、で……話を要約すると、だ」 所変わって、自販機前、長いすに座り、ソフトドリンクのプルタブを開ける。噴出す炭酸 の音を聞きながら、美琴は疲れたような顔をしながら、横の心持ち小さくなった、無頼漢 の横顔に視線を向ける。 「あ〜、実は塚本姉の方が好きだけども、なんかひたすらに誤解を与えまくって、沢近に 告白し、妹の方と誤解され……今に至る……」 なんか泣けて来た。目じりが熱くなる 「……アホだ」 「……うるせぇ。」 恥ずかしさに震えてるんだろう。長いすがかすかに揺れている。
「……で、このままじゃいかん、と、恥を忍んであたしに相談にきた……と」 「妹さんに頼んだら、さらにややこしいことに成りそうだし、お嬢に弱み握られるのもい やだし、た、た……高倉?はよくわからんし……」 ポリポリと頭をかく播磨を見て、溜息一つ。 「まあ、賢明な判断、かもなぁ……」 本当に、泣ける。気持ちいいくらいの馬鹿だ、このオトコは……。 「そ、それでだな……手、手伝ってくれるのかっ!?」 もう、赤を通り越して、青くなって、美琴の肩に手を掛ける。 「けど……」 塚本には好きな人が……とは続けない。無粋だろう、そんなことを言うのは 「よし!お前の気持ちよぉくわかった!」 播磨の肩をしっかりと掴み返し、その瞳を見つめる 「あたしにまかせな」 あんたの気持ち、ばっちりあたしが届けてやるぜ、と押し殺した声で囁く 「……周防!」 感動したか、播磨は、何度も何度も頭を下げて……。 「……」 そんな様子を、離れた位置から見守る人影が一人。 「そうか、そうだったのか……」 一瞬だけ、めがねが光り、そして、姿をくらませるのだった……。 -続け-
>>883 GJ!
すげー続きが楽しみ。
本誌みたく花井と播磨のダブルノックアウトオチは無しの方向でひとつおながしますw
続きキボリ
GJ!播磨の自爆っぷりにワロタ。 続き期待して待ってるYO。
やっべー! ここまで続きが気になるのは久しぶりだ。 頑張ってください!
――ええ、はい。分かりました。 いえそんなことは。むしろ大変なのは叔母さんの……はは、そうですね。 まあ、彼もじき分かるときが来ると思いますよ。ええ、ええ。 では、叔父さんにもよろしく。はい。 「――やあ」 「……」 「おや、誰だか覚えていないかな。まあ、最後に会ったのももう随分と」 「……イトコ」 「なんだ、覚えていてくれたのか。じゃあ久しぶり、拳児君」 迎えに来たよ、と。 彼女は微笑んだ。 Reason 「さて、それじゃ帰ろうか」 送っていこう、となんでもないかのように口にして歩き出す絃子。足を止めたままその背を黙って見つめる拳児の 表情には、警戒と疑惑の色。 「うん? どうしたのかな、まさか自分の家が分からなくなったわけじゃないだろうな」 ついてこない彼に対し、振り向いてそんなことを言う絃子。果たして、彼の視線は一層鋭くなる。 「……そんなんじゃねぇ」 「ふむ、じゃあなんなのかな」 「なんでアンタが来るんだ」 あくまでとぼけてみせる彼女の態度に、不審を隠そうともしない。恫喝にも近いその声に、けれど絃子はやれやれ と肩をすくめてみせるのみ。 「私の名前は『アンタ』じゃないよ。さっきまでは覚えていてくれたのに、もう忘れてしまったのか。じゃあ折角 だからもう一度言っておこう。刑部絃子、それが私の名前だよ」
「んなこた分かってんだよ!」 「そうか。じゃあちゃんと呼んでもらいたいな、絃子さん、と」 「……イトコ」 「『さん』だ、『さん』」 日頃彼が相対しているような輩であれば、ここで手の一つも出してくるところ。そうなればあとは相手がなんで あろうと叩き潰すのみ――ある種シンプル極まりない生き方をしている彼にとって、彼女のような相手は未知の領域 だった。踏み込めば避けられる、何もしなければ踏み込まれる、出来たのはただ舌打ちして視線をそらすことのみ。 「もう終わりかな? それなら、」 「親父に言われたのか?」 結局引き出されてしまったそんな本音にも、さあね、とはぐらかされるだけ。 「そんなことは関係ないだろう? ここにいるのは私と君、それだけだ。君はあまり細かいことを気にしないタイプ だと思っていたが……私の勘違いかな」 「うるせぇ。こ」 ろすぞ、そう続くはずだった言葉はそこで途切れる。それを為したのは絃子の視線。それなりの修羅場をくぐり抜けて きた彼でさえ気圧されてしまうほどの、鋭く冷たい眼差し。 「っだよ、やんのか?」 「あのね、拳児君」 ただ静かに絃子は告げる。 「――冗談でも、あまりそういうことは口にしない方がいい」 「……っ」 なにをされたわけでもないのに、ぞくりとした悪寒に後退ってしまう拳児。本能が叫ぶのは、こいつには関わるな、 という警告。こいつは普段お前が相手をしているような雑魚じゃない、もっと―― 「ほら、なにをやってるんだ。帰るんだろう?」 気がつけば、そこにあるのは先程同様肩をすくめているただの女の姿。少なくとも、彼を慄然とさせるようなものは もうどこにも残ってはいない。 「……分かったよ」 それでも渋々と歩き出す――否、拳児には歩き出すしかほかなかった。力が物を言う世界で生きている彼にとって、 それ以外の選択肢は存在しなかった――のだが。
「なんだよ、どうかしたのか」 数歩歩いたところで立ち止まった背中に、まだなにかあるのかと不審そうに声をかける拳児。返ってきた返事は。 「いや、よく考えたら私は君の家を知らないんだよ。案内してくれると嬉しいんだが」 「……じゃあなっ!」 それを聞くや否や即座に逃亡を図る拳児だったが、あっさりと阻止される。案内してくれると嬉しいな、そう笑いながら 腕を極めてくる絃子に、分かった分かったからもうやめろいえやめて下さいお願いします、という彼の悲鳴が響き渡った のはその数秒後である。 ともあれ。 そんなふうにして二人は久しぶりの再会を果たし、彼はもう金輪際彼女には関わるまい、と心に誓ったのだった。 ――の、ではあるが。 「まったく、相変わらず汚い部屋だね。床は散らかすなと言っているだろう」 「だったら来るんじゃねぇよ」 数ヶ月が経過しても、彼と彼女の関係は継続中だった。しかも、折を見ては拳児の元を訪れる絃子、いつのまにやら 部屋の合鍵さえその手にしている。加えて、部屋にやってきた日はどこに行くにもなにをするにも同行しようとする。 おかげで、彼女が来ない日でさえ素行が大人しくなってきている今日この頃である。 「……暇なのか、イトコ」 「だから『さん』だと言っているだろう。それに私は君と違って暇じゃない」 「んだと!?」 いつか交わされたそんな会話。絃子の教師、という職を考えれば冗談でも言えたことではない台詞だが、どうせ言った ところでややこしくなるだけ、と彼女はそれを伏せ続けていた。教師と生徒の信頼関係、というものを決して軽視しては いない――むしろそれこそがこの職を選んだ理由なのだが――絃子だったが、今ここで必要なのはそうではないと感じて いた。それはもう少しだけ身近で、それ故に構築に時間のかかる信頼関係。 「……まあ、まだまだこれからだ」 「なんか言ったか?」 「いや、別に」
そして、そのことも彼女は告げていない。むしろ、彼に対してなにかを要求したことはほとんどない。一度だけ、家に 帰らないのか、と訊いたことがあったが、黙って頷いた拳児の答えに、そうか、と言ったきりになっている。 明らかな違法行為以外には口を出さず、ただ同じ時を過ごす。急かすわけでも急かされるわけでもない、週に数度あるか ないかのどこか奇妙な共同生活。ぬるま湯とは似て非なるそんな日々は、のらりくらりといつまでも続くように思われたが、 唐突にそれは終わりを告げることになった。 ――その日。 絃子はずっと違和感を感じていた。些細なことをあげつらえばきりがなく、なにより文句も言わずに夕食の支度をして いる拳児の姿が背後にある。普段は散々小言を言われた挙句にやっと腰を上げる男が、だ。もはや不思議を通り越して 不気味の領域である。 とはいえ、そこで『なにがあった』とも訊けない。ここで藪蛇にでもなった日には目も当てられず、結果彼女にしては 不本意ながら、ひたすら逃げの一手を打ち続けることしか出来なかった。 「……なあ」 「……なにかな」 その微妙な空気に、見えてもいないのに背筋をぴんと伸ばす絃子。そして彼が口にしたのは。 「女ってなんだ?」 「――はあ?」 予想どころか塵芥ほども考慮に入れていなかった発言に、思わず素っ頓狂な声が飛び出す。それでもなお、しばらく拳児 がなにを言ったのか理解出来ない絃子。 おんな、オンナ、女……女? そんな単語がぐるぐると頭の中を走り回る。ほんの一瞬、想い人の一つも出来たか、という考えも浮かぶが、即座に却下 される。この播磨拳児に限ってそんなことはない、と。実際、それは真相を言い当てていたのだが、彼女がそれを知るのは しばらくあとのことになる。 「……いや、なんでもねぇ」 「……そうか」 微妙すぎる空気を引きずりながらも、その日はどうにか終わりを迎えた。けれど、異変はとどまらずに進行を続ける。その 数日後、彼女はそれこそ驚天動地の相談を持ちかけられる。即ち。 「なあ絃子、勉強ってどうやりゃいいんだ?」
もはや『さん』がどうこう、などと言う余裕はない。鈍器で思い切り殴打されたような感覚を味わいつつ、べんきょう、と オウム返しに呟く絃子。 「……なんだよ、俺が勉強しちゃ悪いのか?」 「いや、悪くはないよ。うん、悪くない」 悪くはないんだが、今の今までそんなこと一言も口にしなかったヤツがだぞ、などと思っている彼女に構わず、行きたい 高校が出来たんだよ、とわずかに照れくさそうに拳児。 「そ、そうか。そうだな、君だったらどこに行くにも勉強くらいしないとな。普段まったくやってないわけだし」 うんうん、そう頷いてペースを取り戻そうとする絃子。 だが。 「なんか引っ掛かるんだけどな……で、その高校なんだけどな――」 そこで告げられた高校の名前がトドメを刺した。 「ちょっ、ちょっと待った拳児君。なにもそんな冒険しなくてもいいだろう? ほら、あそこはこの辺りでもそれなりに難関 だぞ、人間無理しちゃいけないこともある。悪いことは言わないから、なあ」 「オトコにゃ譲れねぇときがあるんだよ。……にしてもなんだ、なんか知ってんのか? あそこの高校」 「知ってるもなにも、私はあそこで教師をやってるんだよ!」 「……あん?」 「あ……」 「んだよ、そんなこと黙ってたのかよ」 「あ、いや、だって君のことだからさ、私が教師だと知ったらいろいろ面倒な……聞いてるのか?」 「よし、なら俺を入れろ」 「なっ!? ななななにを訳の分からないことを言ってるんだ君は!?」 「はあ? だから俺を矢神に入学させろって言ってんだよ」 「え? あ、そ、そうか……って出来るわけないだろうそんなこと!」 「問題ばらしてくれるだけで十分だからよ」 「出来るか!」
……とまあ、そんなこんなで。大騒動を繰り広げ、近隣の方々からありがたい苦情を戴いた二人。以降、絃子が拳児の元を 訪れることもなくなった――となれば綺麗なのだが、現実はそうもいかない。なんとしても彼の入学を退けたい彼女、考え られる限りのありとあらゆる妨害行動を実行したのである。この辺り、子供っぽいと言うべきか血は争えないと言うべきか。 しかし、そのどれもが実を結ばない。誘惑には耳を貸さず、妨害にもめげず、拳児はひたすら机に向かい続けた。そうなると、 自然荒れていた素行も大人しくなり、結果だけ見れば真人間への更正に役立った……と言えなくもない。もちろん、絃子の方は そんなことに気づく余裕もなかったが。 そして、合格発表の日。初めて自分から彼女の部屋を訪れる彼の姿があった。 「……やあ」 「よう」 その対照的な表情が結果を物語っている。 「人間やりゃあ出来るもんだな」 「……そのようだね。私としてはあまり喜びたくないんだが」 その通知を目の前で突きつけられ、あらためてげんなりする絃子。 「でな、実は頼みがあるんだけどよ」 「……ああ、もうなんでもいいよ。これより悪いことがあるとは思えない」 「そうか? んじゃわりぃんだけど――」 そうして告げられた事柄は、彼女をさらなるどんぞこに突き落とすことになるのだった。 ――そして時は過ぎ、現在に至る。 ちびちびとビールの缶を傾ける絃子の正面には、頬杖をついてテレビを眺めている拳児の姿。 「……なに一人で笑ってんだよ、気味悪ぃな」 「いや、どうして君みたいなヤツを放り出さないで置いといてやってるんだろう、と思ってね」 「なっ!?」 まさか今更放り出されるのか、とびくりとする拳児。急に上目遣いになり、彼女の方をうかがう。そんな態度に溜息をつく絃子。
「別に追い出しはしないよ。乗りかかった船だしね、泥船でも最後まで付き合ってやるさ」 「そ、そうか」 ほっとした様子を見せる彼に、心がけ次第だけどね、と言ってから残りのビールを一息に飲み干し、席を立つ。 「んじゃ片付けよろしく」 「ちょっと待て! 全部てめぇが飲み食いしたんじゃねぇか!」 「こころがけ」 「……くっ」 悔しくて仕方のない顔をしている拳児には構わず、さっさと居間を出る。後ろ手に閉めたドアの向こうから怒声が聞こえるが、 それも聞かなかったことにする。 「やれやれ、本当にどうしてだろうね」 自室へ向かいながらぼやくのはそんな言葉。ほんの少しだけその理由を探してみて、いつかの電話をふと思い出す。 ――ええ、まあなんとかやってますよ。万事順調とはいきませんけどね。 いえいえ、さすがに嫌だったら放り出してますよ。はい……はい。 そうですね。性格にはいろいろと難はありますが―― 「ちっともかわいくないんだけどね……そういうことにしておいてあげようか」 そのとき最後に言った言葉を、苦笑いとともにもう一度口にした。 『出来の悪い弟みたいなものですよ』
雑談に乗っかってみるテスト。 やや甘々かとも思いますが、実際のところ距離感はこんなもんじゃなかろうかと。 絃子かわいいよいt(ry
896 :
キンカラ :05/01/17 15:12 ID:cWK007Rg
はじめまして、キンカラといいます、二つほど質問させていただきます。 学校のパソコンからでも一気に投下する方法はありますか? もし時間の都合で全部書き込めそうにないときどうすればいいんですか? できれば教えてください、そのうち書きにきますから
家にPCないん?
>895 GJ! 同居開始の時点での距離感はこんな感じだったのかもしれませんね でも、一緒に暮らしているうちに自分の家が自分と播磨の家、に変わっていくくらいになじんでしまったんじゃないだろうか 絃子さんから播磨へのある種の信頼などが成立していないのならば漫画編の家出絃子さんはなかったはずですし >896 テキストファイルに書き起こしておいてそれを文字数制限に合わせて貼り付けていけばいいんでないの? 連続投稿制限にかかったりはしらんけど…
>895 文体から察するに例の人かな、とりあえずGJ!
あぼーん
具現化キタワ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!! やた、待ってました。ええもう、枕を涎で濡らしながら。 見事な回収っぷりに、妄想ちからが爆発です。 とにかくありがとう。良い物語をありがとう〜
超姉ええのお…… で、ちと早いが次スレどうする?なんか少し活気を取り戻してきたみたいだし、 容量的に、次スレに行く?
>>895 こういう話の流れかた、凄い好きです。
超姉は久しぶり、かつ良い作品だったんで楽しめました。
GJ!
810 名前:島根の人[sage] 投稿日:05/01/17 19:46:49 ID:EkG5vlJ8. カメラマンの卵の24歳。各地のチームや試合回って写真とるのが仕事。おやすみ〜
俺は他人の妄想カップリングも楽しめる方だから IFスレはあった方が嬉しい
とりあえず次スレは作ってみて様子見るか。 外部にどえらいもんができたとはいえ、ここにしか投下しない職人様もいることだし。 つーかおまえら、折角いいSS来たっていうのに雑談していたときの熱意はどこいったんだYO! GJな話じゃねーか。
>>895 遅れたけど、GJです。
初めは少し短いかもと思ったけど、逆にダラダラせずにテンポよく読めてよかった。
中学生播磨の話は読んだことなかったのでそれも新鮮でした。
>>906 この程度の話で?
向こうができたおかげでここのレベル下がってるなぁw
きっと>909が凄いSSを書いてくれることだろう
>910 おおよ、まかしときな! 今から書くから3年くらい待ってな!
その外部にできたどえらいもんてのは何のことなのさ?
あそこほとんど見に行ってないけど、(リンク見に行くだけ) SS投下って結構あるの?
沢近愛理は清々しい気分でリムジンに乗っていた。 「いたらこんな苦労はしてねッスよ。」 アイツのたったこの一言が彼女の先程までの陰鬱な気分を全て消し去り、 喜びさえ与えているようだった。 車内に掛かっているお気に入りの曲が、 今は格段に良い旋律を奏でているように聴こえてくるから不思議だ。 「ねぇナカムラ。」 彼女はリムジンを運転している執事のナカムラに声を掛ける。 「何でしょうかお嬢様。」 「アイツ…いや、さっきの彼の事どう思う?」 彼女はこう言った後、何かとんでもない事を聞いてしまったような気がしたのか、 はっと口を噤み、少し気恥ずかしそうな顔をした。 「…」 ナカムラは答えない。 「ナカムラ?」 彼女は沈黙に耐えられず再度声を掛ける。 「目…ですな。」 「目?」 「そう、彼の目には強い意志の光を感じました。今時の若者には珍しい。」 「確か彼サングラス掛けてなかったっけ?」 「…」 「ナカムラ?」 「お嬢様、今日のパーティーは楽しかったですか?」 「誤魔化すな!」
ちょっとワラタ
>>914 なかなかGJ
ナカムラは確かにこんなこと言いそうなイメージだw
次スレは?
>>904 うわァァァ
オレの
自演レスが
晒されてるゥゥゥ
沢近の靴下
ソックスハンター現る!!
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執事って沢近の父親に仕えている筈だよな 沢近って侍女とかメイドと折り合いが悪いのだろうか・・・ メイドって変なのしか出てきてないし・・・ あの家はどうなってんだ
あの性格だぞ? 折り合いが良い訳ない。 ベルセルクのファルネーゼみたいなもんだ。
295 名前:神奈さん[sage] 投稿日:2005/01/19(水) 02:00:10 ID:ryzFKXXU ∧__I__∧ 神奈川生まれの | ノ ヽ /二⊃ 新AAだよ! / A A | / ( ⊇i ))) みんな応援するカク | __) |ノ / l、 .|---- ,/ /__ .└─ /´ (___) / ヽ / / /\ \ / / ) ) / / ( \ (_/ \_)
友人思いな一面もあるから、態度はでかくても主人としての気配りは 結構マメそうだが。
/:::::::::::::::::::::::::::::;'/l::::;';/l; ;::;;;;;;;;:::; ;:::::::::::::;;l, ヽ /::::;','::::::::::::::;','::::;∠l ;:;'/' l; ;:l、_ '''l ;::; ;:::::::; ;l、 | /:::;','::::::::::;;::;'/l ;:/⌒l ;/ l;;:l,.-二ニl ;::; ;:::::::; ;l‘v /';:;';:::::::::::::; ;'l‐l;/三ミl:/ V〃三ミ:! ;:;; ;::::::,; ;l | l;';/|:::;';';:::; ;ll/ _,ノ' 'ヽ、_ lι::; ; :; ;:: ; ::l| . l:/ l:;';::;';:;;::l( -=・= , 、-=・= ,》l,'',l;:,':,';; l/ ノリバーガー大絶賛発売中やで〜 l;';: :,'::ハ;:l゙ .,、、⌒) ・_・) ⌒,、ヽ ''/l二);;'';:';lリ l:::,:::,ミ、、,l ┃トェェヨョェョイ┃; /l::::::l:::,:;';/ 買えや貧乏人供!! l,;:;;:::::::゙-ヘ、 ┃ |コュユコュ|┃ /〕'三´:::;;/ l,;:;;::::;;::::;;::ヽ、 ┃ヽニニニソ┃,/;;:;;::::::/l::;'/ l;;;;::;;;;::::;;;;:::::;ヽ┗━━┛ll;:;;/l::::/ l:;/ ヾ;:; ;:::::::; ;::;;::l ゙ヽ--〃 ll;::/ l:::/ l;/ ,,、ィ、, ヾ ;;::;;::l ゞノ ll/)~レ'' 〃 _,,、 -==ノ"′/::::ヽ=-ゝ)ヾソ X ヾ゙ ' ヒゞー-=人 v-ヽ
小さい頃から親いない。 周りは召使で自分の言うことを必ず聞き 反抗、反対はされない。 召使は道具的な感じで見ているんじゃないか?
>>928 は今まで何を見ていたんだかわからんな…
ため息しかでないよ
●分からない理由● 1. 読んでても肝心な所が見えてない。 2. 類推という概念がない。 3. それ以前に普通に頭が悪い。
あぼーん
>>932 俺は記憶にないんだけど、今まで召使とかの描写ってあったの?
横レスでスマソ
>933 沢近家には中村が戦場から拾って来て育て上げたメイドがいるよ。 マガスペに登場。人見知りが激しい。
_r=、 __ _, -'´ ̄`ヾヾー─-、 ,ィ |:.:.:レ'´/7N´⌒ヾァ─‐ー-、ミV´:.:! ∧ ∧.___rヘ:./i; l /l | l l\:.:.:.|_/:.:.| /:.:.:.:.:.:.7′ ; | | ヽ ! ゙li;, ! ;, l 、:.レ'⌒ヽ L__,ノ ゞ \ ゙ ゙lli;,. l|/二ヽ、ヽ. ,' // i ゙li;, 〃 / i i ヽ ヽ l| \ , / // /i i゙li,l|, l !li, ! | ヽ、 ,!il|゙li;|, ! li; ヽ i l /l /|| |__l| ゙li,|iiト、゙゙llii,, ト、ii|ヾ_」L..l|_ !゙li,l|ヽ. ! i | | |ll| ! | | |:::: _,ノ' 'ヽ、_ :::: |l`l|l l| | | l| | l | |ll|ii |l -=・= , 、-=・=- l| l| ! | i| | レ ヾト、|l //.,、⌒) ・_・) ⌒,||ヽ_ | !/ l /`! |li, |lli / | } ┃トェェヨョェョイ┃ j'ノ | | ゙li,|li | | l / i l| ,!lj ┃ |コュユコュ|┃ /ニンl| | ゙li! ゙l! |l|, l |!|il' ト、 ┃ヽニニニソ┃""" /l'" !l l i'| l| .jl// ゙! !|' | \ ┗━━┛ /ノ) ,i ll ! !l / /li;. | l l i| ` 、 ,. ´! l| ノl | | ヽ / /l| ゙li;. |ヽ,l| `lー‐ | j|ノ |゙lli;il |l;i, ! }
そろそろ次スレを…
たてたよ
70 名前:U-名無しさん [] 投稿日:05/01/19 09:51:54 ID:AqTNJM4i0 四捨五入すると三十路ですが青春18切符は利用できますか? 71 名前:U-名無しさん[sage] 投稿日:05/01/19 09:59:51 ID:BqTc2SCp0 __________ ≡∩..いつでも青春.∩≡  ̄| |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| | ̄ \\(`・(ェ)・´)// 72 名前:ボツorz ◆D5tssJJ4hA [sage] 投稿日:05/01/19 10:09:25 ID:b0m6xYrRO 大丈夫、少年の心を持っていれば使用可能な18切符。 というか頑張ったらしょっぱな全試合行けるな…
owari
the last
942 :
キンカラ :05/01/21 15:10 ID:cL4e0YmE
初投下!
943 :
いつかと同じ空の下で :05/01/21 15:15 ID:cL4e0YmE
「いつかと同じ空の下で」 体育祭も終わりもう数ヶ月が経ちました。 色々な行事も終わり、何もない毎日を過ごしています。 今私は学校の屋上で寝転んでいます。 授業の開始を告げるチャイムが鳴りましたが、私は動く気になりません。 いわゆるサボりという訳です。 そんな事していいのか、と思われそうですが悪人は私一人だけじゃないので安心です その人は今、私の左隣で静かな寝息をたてて寝ています。 いつも通りサングラスを外さずに。 伸ばした彼の右腕に頭をあずけ、冬の空を眺める。 私はこの時間を彼と過ごすのがとても好きなんです。 なぜなら、普段ぶっきらぼうの彼が優しくなるのもこの時間だけだからです。 私が彼、播磨拳児を校内最強の不良と思わなくなったのはあの日からです。
944 :
いつかと同じ空の下で :05/01/21 15:16 ID:cL4e0YmE
それは夏休みが終わって間もない時のことでした。 「おはよう諸君、早速だが授業をはじめるぞ」 二時間目の開始を告げるチャイムと同時に刑部先生がはいってきました。 教卓に教科書などを置き、出席をとりはじめます。 「塚本君……播磨君……ん?彼はどこ行った」 刑部先生の言葉にまたか、とクラスが軽くざわめきます、そういえば休み時間の時にはいたはずの播磨君がいません…って隣何だから気づけよ私。 それよりどこ行ったんだろ。 「ふむ…私の授業をサボるとはいい度胸だそうなると意地でも受けさせたくなるものだ、よし…」 そう言い刑部先生はクラスを見回しはじめました、まさか……。 ふと私と先生の目があいました、もしや………。 「よし、君、悪いがあの馬鹿を呼んできてくれ」 やっぱりぃ〜!! せせせ先生! いくら私が隣にいるからってなにもあの不良の播磨君を呼びにいけだなんて、あんまりですよ! でも先生命令は絶対、泣く泣く私は席を立ちました。 うう…、播磨君、怖いですー。 ですが、言われたからにはやるしかありません。 ふぁいとです、おー。
945 :
いつかと同じ空の下で :05/01/21 15:17 ID:cL4e0YmE
さて不良と言えば屋上で昼寝です(多分)と、言う事で私は今、屋上で大の字で寝ている播磨君の目の前に居います(早っ!) まさか本当にいるとはおもいませんでした。 播磨君…、寝る時くらいはサングラス外そうよ……じゃなくて。 「播磨君、起きて」 とりあえず播磨君の横に座って体を 揺すりますが、反応はありませんでした。 「は〜りまくん、はーりーまー、け〜ん〜じぃ〜」 おちゃらけても反応なし、再度揺すっても駄目、鼻をつまんでも駄目。 「も〜〜…ん?」 ふと目にはいったのは播磨君のサングラス、そういえば私って播磨君がサングラス外した所って見た事ないのよねぇ…。 そうなるとやってくるのは好奇心、播磨君は熟睡地中…くふふ、これはチャンスです。 ではではサングラスを…、私は両手を播磨君のサングラスにかけました。 かちゃ。 あら、やけにあっさり、ではお顔を拝見。 ……………………………………。 っは!思わず見とれて思考が停止していました。 播磨君、カッコ良すぎです…何でしょうか…男前っていうんでしょうか?…素敵な寝顔です。 どうしましょう…ときめいてきました。 落ち着け私! す〜は〜…ふう。 それにしてもほんっとにかっこいいなぁ播磨君、なんでサングラスかけてるんだろ? と、その時です。 「う…ん」 !!、大変です、播磨君が目を覚ましすー! 急な事なのでどうすることもできず、むっくりと上半身を起こした播磨君と鉢合わせしてしまいました。 サングラスを持ったまま固まってる私を見て、播磨君は2、3度瞬きをしました。 「なにやってんだ…お前」 私は殺されるかもしれません。
946 :
いつかと同じ空の下で :05/01/21 15:19 ID:cL4e0YmE
「えと、あの、その〜」 どどどどうしょう…なにか、なにか言わなきゃ! 「なんでお前が俺のサングラスを持ってんだ?」 「あ、あの、あのね、私が来た時に播磨君が寝てて…サングラスかけたままだったから、寝返りとか打っちゃったら痛そうだったから」 「…そうか、ありがとよ」 ほっ…どうやら気にしてないようです。 私は播磨君にサングラスを返しました。 ほっと一息つきます、とりあえず殺されずには済みそうです。 「で、お前はここでなにやってんだ? お前もサボりか?」 「え?あ、はい」 ……あ。 「そうかー、お前もサボりか」 しまった…安心してた時なんかに話し掛けたから、とっさに返事しちゃった、 違うの、私は刑部先生に言われてあなたを呼びに来たの! 「そうか、お前もかじゃあ俺達サボり仲間だな」 心の叫びも空しく、「気に入ったぜ!」とバシバシ私の肩を叩く播磨君、もう駄目です。 「いい天気だぜ」 そう言うとまた播磨君は寝転びました。 「そうだねー」 確かに、空は青く広がっていていろいろな形をした雲がふわふわと漂っています。 空気もよくて日差しも柔らかいし絶好のお昼寝日和です。 「私も…」 せっかくなのでちよっとだけ私もお昼寝することにしました。 んっ、と伸びをして私は播磨君の隣に寝転んで…。 「はえ?」 ぽふ、と置いた所に固い感触はなく、何か柔らかい感触がしました、これは…腕? 「播磨君?」 見てみると、それは播磨君の腕でした。 「コンクリは固いから頭が痛くなるし、髪が汚れちまう、ほれ、腕枕だ」 ぶっきらぼうにそう言うと播磨君はそっぽを向き「女の娘だしな……」とつけ加えました。
947 :
いつかと同じ空の下で :05/01/21 15:19 ID:cL4e0YmE
へぇ…あの播磨君が…。 「ありがと、播磨君って優しいんだね」 播磨君の方を向き、私は言いました、今まで聞いた播磨君とは全然ちがいます、もっと凄く怖いって聞いたんですけど…でまかせのようです。 私の言葉を聞いた播磨君は照れた様に頭をかきました。 「……ふふ」 「ん、なんだよ」 急に笑いだした私に播磨君は怪訝顔になりました。 「ううん、私達せっかく隣同士になったのにあんまりはなせなかったでしょ、だからこうやって腕枕してもらって寄り添ってるのがなんかうれしくって……えへへ」 「…………」 「どうしたの?」 「いや、どっかで同じ様なこと聞いたような…」 「?、変な播磨君」 小首を傾げる播磨君にを見て、私はまた笑ってしまいました。 それにつられてなのか播磨君も苦笑いをしました。 しばらくの間、私達は静かに、流れる雲を見つめてました。 …なにか忘れてるような気がしますけど…何でしたっけ、まぁ、いいや。 それから少しすると、隣から寝息が聞こえてきました。 どうやら播磨君は寝ちゃった様です。 ああ…またサングラスをかけたまま…。 「ふふ…」 なんとなく笑みがこぼれます。 なんか可愛いかも。 日差しにあたってるうちに、私もまどろんできました………ふぁ……。
948 :
いつかと同じ空の下で :05/01/21 15:22 ID:cL4e0YmE
私たちはその後もよく屋上でサボることが多くなりました。 今では不良少女なんて言われちゃったりしてます。 でもそっちのほうが彼とおそろいの様な感じがするのでちょっと気に入ってたりします。 あの日、私達は「サボり仲間(播磨君談)」となり、いつしか「親友」として見てもらうようになり、そして今では…。
949 :
いつかと同じ空の下で :05/01/21 15:23 ID:cL4e0YmE
ふと、大きな手がわたしの髪をなでました、彼が起きたみたいです。 その手はしばらく私の髪をなでました、くしゃくしゃと、ぶっきらぼうに、それでいて優しく。 「ねぇ…播磨君」 「ん……?」 「やっぱり寝る時はサングラスは外したほうがいいよ」 「へ………うるせぇよ」 今では私達は「恋人」という関係になりました。 少し前まで好きな人がいたらしいのですが、色々あって身を引いたといいます。 自分の幸せよりも、彼女の幸せを考えてのことだと、彼は呟いていました。 今はもう吹っ切れたらしく、私との付き合いも悪くないと言ってくれます。 なにはともあれ、私達はもう恋人同士だからです。 ふいに播磨君が私を抱き寄せました。 お互いの息づかいが感じられる程顔と顔が近づきます。 彼の心音を聞きながら私はゆっくりと目を閉じました。 私の心臓の音も聞こえてるのかな…。 小さく風が吹いたあと、私達は唇をかさねました。 ゆっくりと、愛しく。 ただ時間だけが流れていきました。 いつかと同じ空の下で。 ああ……私達は今、恋をしてるんだ。 終
950 :
キンカラ :05/01/21 15:25 ID:cL4e0YmE
初投下完了! いかがでしたか?一応隣子メインなんですが、感想などお聞かせください。
萌えた こういうの好き
952 :
Classical名無しさん :05/01/21 15:38 ID:H1pL8Ufk
隣子メインは、自分はじめてみました。 隣子スゲーかわいい
あぼーん
書き込める?
管理人さんに言いたいこと 2005年2月18日 18:21:12 荒らしとは無関係な奈良支持派 何で、ここでは奈良の話題はご法度なの? それって荒らしとは無関係な奈良ファンに対して失礼なんじゃ? 俺も1年以上も前から本スレなどを見ているので六商をはじめとする 奈良厨たちが奈良健太郎というキャラクタをネタに荒らしているということは知ってるよ。 でもさ、ここが一番重要なんだけど 奈良健太郎というスクランの一キャラクタには何の罪もないじゃん? そう思わない?何も荒らしもやってない奈良ファンがかわいそうだと思わない? 奈良が好きでもない奴らに散々荒らしのネタにされて…。そういうあんたも同類だと思うよ。 結局、あんたも荒らしと変わらない奈良を差別している同じ穴の狢じゃないの? まとも奈良ファンがこれを見たら怒るのも仕方がないでしょ?違う?
管理人さんに質問 2005年2月20日 1:10:30 六商健一 この質問は真剣に投球しているんで、管理人さんも逃げないで真っ向から回答をお願いします。 何度も言われていることだと思いますが、なんでこのサイトでは奈良というキャラクタのことを書くと削除されてしまうんですか? 理不尽です。納得できません。一方的に荒らし扱いするのは人間として間違っていると思います。黙って削除するだけでは書き込んだ 人は「どうして?」って思うだけだと思います。きちんとここや雑記で説明するのが管理人としての義務だと思いますが、どうですか? それに奈良健太郎というキャラクタには全然罪はないでしょう。善良の奈良ファンの気持ちを踏みにじるようなことはしないで欲しいと 思います。 どうか、今度こそきちんとした返事をお願いします。