まだ少し雲は出ているが、昨晩から続いた大雪は完全にやんでいる。時折優しく肌をなでて通り過ぎてゆく風は、冬にしては暖かだ。
しかし、今だこの町の一面は白雪に包まれており、ときおり太陽を反射して光る様子などはとても美しい。
そんな中、雪をも溶かしそうな熱き闘志を静かに燃やし始めている10人の戦士たちがいた。
ちなみに、八雲たちがいる場所を中央とし、そこからフィールド全体を適当に半分に分け、男子は西側、女子は東側と、ゲームスタート地域を決めた。
当然、この設定はゲーム開始の時だけであり、ゲームが始まればお互いを発見するため、フィールド全体を駆け回ることになる。
バトル開始まであと十分弱。自分たちの開始地点に歩いて向かいながら、周防美琴は女子チーム一同に話かけた。
「ま、やる以上は向こうも本気で来るだろーし、こっちも真面目にやるとすっか!」
「何言ってんのよ、美琴。やるからには勝つ! そんなの当然じゃない!」
それに答えたのは愛理だ。髪を後ろで一つに束ね、彼女の言葉の通り、やる気充分といった様子だ。
「おー、愛理ちゃんハリキってるー!!」
「やっぱり楽しみにしてたのね、愛理…」
天満と晶にヒヤかされる愛理。怒ったように反論する。
「そんな訳ないでしょ! …とにかく、これは真剣勝負なのよ。いい、分かった?」
「分かってるよ〜! カレリン、がんばろーね!」
「塚本さん、カレリンはちょっと…でも、一生懸命頑張ります!」
一条かれんも胸の前で小さく拳を握り締め、天満に答えた。
「おお〜!その意気だよ、カレリ〜ン!」
「あ、あの、だから、カレリンはちょっと…」
当然、天満はそんな一条の言葉など聞いていなかったが。
「なーに言ってんのよ! 一番の不安要素は天満じゃない!」
「ああ〜! 愛理ちゃんヒドーイ!」
「ま、確かになー。その浮かれっぷりじゃあ、1番に脱落しそーだしな!」
「…同感だね」
「も〜う! ミコちゃんに晶ちゃんまで〜! もういいもん! プンプン!」
「あ、あの、塚本さん、落ち着いて…」
「大丈〜夫!! こうなったら、皆に私の本当の力を見せ付けて…あっ!」
ズコッ。…転んだ。何にもないところで。
「だ、大丈夫!? 塚本さん!?」
「…やっぱ不安だ…」
「うぇ〜ん! 烏丸く〜ん…!」
そんなことをやっているうちに女子のテリトリーの奥までやってきた。ここからゲームを開始するのである。
「さて、と。やっぱ、作戦は立てといたほうがいいよな…」
そう発言したのは美琴であったが、全員が同じことを考えていた。
普通に戦っても、まず勝ち目はない。ならば策を練るしかない、と。
単純に考えて、男子に体力面で劣る女子チームは不利である。とはいえ、相手が並みの男子であれば全く問題はない。
運動神経に優れている周防、沢近、高野、そして一条がいるのだ。普通の男子などには引けをとらない。
しかし、相手チームにも、播磨、花井、麻生というエースがいる。烏丸の能力は未知数だが、今鳥の運動神経もなかなかのものだ。
いくらなんでも、策もなく戦うのは無謀だと女子チーム全員が分かっていた。
「ええ〜!? 作戦なんて面倒臭〜い! みんなで一気にドーンといけば大丈夫だよ〜!!」
「………」
いや、一人だけ分かっていなかった。というか、何も考えていないだけだが。
「ゴホン! …とにかく!何か作戦が必要なんだ。誰か、いい案はないか?」
天満によって皆に生じた脱力感を取り除こうと、一つ咳払いをして美琴は意見を求めた。
『………』
しかし、誰も妙案は浮かばないようだ。開始時間は刻々と迫っている。このままだと本当に、天満の『全員で特攻大作戦』になりかねない。
「…はぁ〜、どうしたもんか…」
ため息をつく美琴。こりゃダメかな? と、少し諦めモードになっていると、考え込んでいたメンバーの一人が意見を出した。
「…ねえ、こんなのはどうかしら…?」
ところ変わって、こちらは男子チーム。こちらも、女子チームとは違う意味で作戦の立案で悩んでいた。
「だからお前ら! 僕の話を聞け!! 今から僕が必勝の策を授けると言っておるのに!!」
「作戦なんていらねーよ〜。俺はミコチンを狙うし〜! …そしてドサクサに紛れてあのDカップの胸を…!D〜♪D〜♪」
「おーし、なら俺は天…いや、塚本を狙うぜ!…言っておくが、これに深い意味はねーぞ! 俺は、あくまでチームの勝利のためにだな…」
「………カレー……チキンカレー、ビーフカレー、カツカレー……」
「だぁ〜!!! 貴様ら人の話を聞かんかぁ〜!! 八雲君のためにも、僕は負けるワケにはいかんのだぞぉ〜!!!!」
団結力はどうやら限りなくゼロに近いらしい。
(…ダメだコイツら…。)
大騒ぎしている3馬鹿と、完全に別のことを考えているであろう1人を見ながら、麻生は深いため息をついた。
「…おい、花井」
「ゼー、ゼー…あ、あのアホども〜…! 少しは僕の話を…」
「おい!!」
「…ん?なんだ麻生?」
あまりにも興奮していたため、初めは呼びかけられていることに気づかなかった花井が麻生のほうを向いた。
「今から細かい作戦を立てるのはムリだろう。ヘタなチームワークで作戦を立てるより、この際、各自で単独行動のほうがいいんじゃないか?」
あまりにも収集がつかない状況を打破しようと、麻生は提案した。
本当は、キチンとした策で戦ったほうがいいと思っていた麻生だったが、結局諦めたのだ。
「…うーむ。1対1に持ちこんでの各個撃破を狙うというワケか…ちっ、仕方があるまい。それでいくか。」
花井も渋々それに賛同した。時間が迫っていたため、まだバカ騒ぎしていた播磨たちに手早く説明する。
「じゃあ俺は当然ミコチン担当でいくぜー!」
「おし! 塚本は俺に任せろ! いや、本当に深い意味はねーが!」
「ふむ。では僕は一条君を狙おう。相手にとって不足ナシ!! 八雲君…見ていてくれ…!」
「烏丸は…何を考えているか分からない者同士ってことで、高野でいいか?」
「……(コクリ)………」
「よし。じゃあ俺は、残りの沢近か。油断できないな…」
『ピーッ、ピーッ、ピーッ!!』
男子チームの作戦(と言えるほど立派なものかは置いといて)が決まったちょうどそのとき、
タイマーをセットしておいた携帯電話からアラームが鳴り出した。決戦開始の時間だ。
「よーし、時間だ! いくぞ、お前ら!!」
「命令すんな、メガネ!!!」