スクールランブルIF17【脳内補完】

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雲間から太陽が差し込んできた。どうやら晴れてきたようだ。
これから激戦を繰り広げる者たちを祝福するかのように…

開始早々、男子チームのメンバーは各々の戦うべき相手を求め、散っていった。
まあ、悪く言えば自分勝手に行動を開始したとも言えるのだが。
そんな中、男子チームの今鳥は、自分のターゲットである周防美琴を発見すべく、行動を開始した。
「さーて、ミコちんはどこかなー?あ、とりあえずは雪玉を用意しねーとなー」
一応、少しは雪合戦をやる気があったらしい。今鳥は足元の雪を集め、雪玉を作り始めた。
「ドジッ、ドジッ、ドジビロ〜ン♪ …ふぅ、やっと1個できた。ん…? おおっ、いいこと思いついた!!」
今鳥は何かを思いつくと、急いでもう1つ雪玉を作ると、2つの大きさを整え始めた。そして…
「いえ〜い! 巨乳♪ 巨乳♪」
作った2つの雪玉を嬉そうに上着の中に入れた。
ユッサユッサ。そして自分の雪乳を見て、
「このサイズ…これはまさしくDの大きさ! イエーイ! ちょっと冷たいケド、ミコチンとおそろいのD〜♪ いや、ミコチンのはもっとあるかな〜!アハハハハ…」
満足そうにバカ笑いした。流石は3馬鹿の1人といったところか。見事なアホっぷりである。
高校生にもなって、たかが雪でここまでできる男もそうはいないであろう。
ご満悦の今鳥だったが、そこに、鋭いツッコミが入った。
「くぉらぁあ!! アホ今鳥!! …テメ〜、何、恥ずかしいことほざいてやがる!!」
美琴であった。さっきの今鳥の独り言を聞いていたのであろう。その顔は怒りと羞恥で真っ赤に染まっていた。ちなみに今鳥と美琴の間の距離は10メートルほど。
「あっ、ミコチーン!! ちょうどいいところに! 見て見て〜おそろいだよ〜!」
ユッサユッサ。再び雪乳を揺らす。
「だぁぁぁ!!! もうそれはいい!! …それより、お前、アタシを倒さなくていいのか?」
いつものように今鳥にペースを握られていた彼女であったが、気を取り直して、そう告げた。
「あっ!そうだ!俺、ミコチンをターゲットにしたんだった!」
…雪乳作りに夢中になりすぎて、すっかり忘れていたようだ。
「へぇ〜、このアタシをターゲットにねぇ…。でも、アンタがアタシを倒せると思ってるのかい?」
少しバカのしたように言う美琴。その表情には余裕の笑みさえ浮かべている。そんな美琴に、珍しく熱くなって今鳥は反論した。
「いや、今回だけは意地でも倒してみせる! なぜなら、俺たち男子チームが勝てばミコチンのDカップが俺のモノに…」
「なるわけねーだろーが! このド変態!!」
そう叫んだ後、美琴は元来た道を走って引き返して行った。
「あっ、待て〜! ミコチ〜ン!!」
「へへーん、追いつけるもんなら追いついてみなー、アホ鳥〜!」
それを追いかける今鳥。流石に自分の願いがかかっている分、普段よりも必死な様子が見てとれる。
(へへっ、どうやら、うまく引っかかってくれたみたいだな…沢近と高野の作戦どおり!)
そんな今鳥をチラリと見て、彼女は心の中で喜んだ。こんなにも上手くいくとは思っていなかったからである。
今鳥は自分を追いかけるのに夢中で(バカだし)、例の場所に誘導されていることに完全に気づいていないようだ。
(よーし、もう少し…!)
そして、しばらく走った2人は、少しひらけた場所に出たところで立ち止まった。美琴が走るのを止めたためである。
女子のスタートエリアの、中央部分あたりだ。
「へっへっへ…追い詰めたよ〜、ミコチ〜ン…!!」
半笑いで、木に寄りかかっている美琴に近づいていく今鳥。知らない人が見たら、110番しそうな雰囲気を醸し出している。
今鳥を挑発してから今まで、ずっと走っていたため、美琴は雪玉を用意していない。今鳥はというと、走りながら1つ雪玉を作りあげていた。
「観念したの〜…? ミコチ〜ン…?ならば潔く、俺のモノになるのだぁ〜!!」
「…お前、完全に悪役になりきってるな…それはともかく、観念するのはそっちなんじゃねーのか?」
通常ならピンチと考えるべきだろう。だが美琴は、怯えるどころか不敵に笑ったのだった。
「なに!?」
ガサガサッ!!
今鳥の背後の木の陰から物音がした。
「だ、誰だ!?」
「へっへー、私だよー、今鳥くん♪」
「て、天満ちゃん!? それじゃあ、まさか…」
今鳥はやっと気づいたようだ。自分がここまで誘導され、すっかりはさみ打ちにされたということに。
「さーて今鳥…覚悟はいいよなぁ?」
さっきまで胸のことで恥をかかされた恨みを一気に晴らすつもりなのだろう、彼女はすっかり殺気だっている。
寄りかかっていた木の枝にのっている雪を集めて雪玉を作る気のようだ。天満はというと、すでにたくさんの雪玉を腕に抱えている。
「き、汚ねーぞミコチン! こんな卑怯なことがDのすることかよ!」
「う、ウルセェー!! 胸は関係ねーだろーが、胸は!!!」
美琴は赤くなって反論する。今鳥はこの好機を見逃さなかった。
(チャンスだ!!)
一瞬の隙をついて手にもっていた雪玉を美琴に投げつける。それほどスピードはないが、胴部に直撃コースだ。
「チッ!!」
しかし、流石は武道経験者。鍛えられた動体視力で雪玉を手で払い、空中で破壊する。しかし、とっさの反応だったため、美琴は体勢を崩した。
それを見た今鳥は素早く反転し、背後にいた天満の方向に走る。一気に逃げ切るつもりだ。
(ミコチンより天満ちゃんのほうがトロいし、突破しやすいはず!)
今鳥はそう考え、天満のほうを狙ったのだった。
「マズい! 塚本!! 今鳥に雪玉を当てろ!!」
「ええ!?う、うん、わかった!!」
天満は手に持っていたたくさんの雪玉を次々に投げつけた。
「えいっ!えいっ!…これでど〜だぁ!!」
…しかし、そこは運動オンチの天満だ。とっさに投げて、そうそう狙ったところに行くハズがない。
たくさん投げている分、今鳥のほうに向かって飛ぶこともあるのだが、ルールでは、『頭部もしくは胴部に一撃くらったらアウト』である。
つまり、腕を使っての防御も認められているため、正面からの攻撃では、ほとんど直撃は期待できないのだ。
「やっぱノーコンか…うわっ、あぶねっ! どこに投げてんだお前は〜!?もういい、ストップストップ!!」
この無差別攻撃を続けられたら味方である自分すら危ない。そう思い、天満を止めようとしたのだが…
「あう〜、玉切れだよ〜…」
どうやら打ち止めのようだ。
「へへーん、ラッキー♪ じゃあまったねー! 天満ちゃん、ミコチン!!」
「………」
逃走成功を確信し、笑顔で別れの挨拶をする今鳥。今、ちょうど天満の横を通り過ぎるところだ。

先程も述べたが、この雪玉サバイバルゲームでは腕での防御が可能なため、確実に相手を仕留めることが出来る方法は限られてくる。
相手に気づかれない遠距離や死角からの狙撃、たくさんの雪玉を用意しての一斉射撃(天満の技量ではムリだったが)。そしてあと一つ…
「まだ笑うには早いんじゃないか?今鳥!」
「強がりはよくないよ〜、ミコチ〜ン!!」
そう言った瞬間、今、目の前にある木の陰からなにかが飛び出してきた。最初に天満が隠れていた木だ。
「周防さんの言うとおりですよ、今鳥さん!」
「な…!? い、イチさん!?」
「イチさんはやめてください!」
それは今まで木に隠れていた一条かれんだった。右手には雪玉を一つ持っている。もう一つの必殺の方法、それは接近戦、インファイトであった。
すべては、接近戦では無類の力を誇る一条で今鳥を落とすための布石だったのである。狙われやすい天満は、おとり役として使ったのだ。
…しかし実は、今鳥を発見した時、美琴は気づかれないように雪玉を当てることもできたのだが、
バカなことをしている今鳥におもわずツッコんでしまったため、当初の予定通り、この作戦で行くことにしたのである。
あと、美琴VS今鳥なら、一対一でも美琴が勝つと思うかもしれないが、美琴は今鳥のペースに乗せられやすい。戦闘の相性が悪いのだ。
よって、最も安全かつ確実だと思われるこの作戦を選んだのである。
「ク、クッソ〜! ならば仕方がない…奥の手だ!! くらえ、ドジビロン・Dミサイル!!」
手には雪玉を持ってはいなかったが、ずっと胸に入れていた雪玉(Dカップ級の大きさ)を取りだし苦し紛れに投げつけたが…。
バシッ
あっさり手で切り払われ、子供のようなネーミングセンスの最終兵器は無残にも砕け散った。
「ご、ごめんなさい、今鳥さん! あなたを倒します!」
一気に距離を詰める一条。どうやら本気モードのようだ。
「い、一条、ち、ちょっと待っ…うわぁーっ!!!」
ボスッ
鈍い音とともに、ゼロ距離で今鳥の腹部に押し付けられた雪玉は崩れた。
「うう…ヒデーよ、一条…」
完全に敗北を喫した今鳥が、寝転がってうめく。
「す、すみません、すみません!大丈夫ですか、今鳥さん!?」
大げさに泣きマネをしている今鳥を気遣う一条。悪いことをしてしまったと思っているらしく、オロオロとしている。
「気にすることないよ、一条! 正々堂々と勝負した結果なんだからな!」
「そーだよー! カレリン、かっこよかったよー!!」
「あ、ありがとうございます…!あ、ところで沢近さんと高野さんは…」
美琴と天満に褒められて照れながら、別行動している2人を思い出した一条だったが…
ヒューン…ベチャッ。
「へっ?」
「な、なに、これ、誰が!?」
一条の頭に雪玉が降ってきたのだ。敵かと思い、周りを見渡すが、辺りに人影はない。
「…ふっふっふっ…はぁーっはっはっはっ!!」
突如今鳥が笑い出した。気でも狂ったのだろうか?
「な、なんだ…!?急に…?」
「やっと効果が出たようだな…!必殺、時間差Dミサイル・ドジビロン・サンダーボルト!!」
寝たままの体勢で偉そうに説明する今鳥。やはりネーミングセンスの悪さを窺わせる。
「名前長っ!…って、まさかお前が!?」
「そーいうことだよミコチン…さっき俺が投げた雪玉がそこの木の上にのっかり、時間がたって落ちてきたというワケさ!」
「どー考えても偶然じゃねーか…しかし、いつの間に投げてやがったんだ?」
「全然分かんなかったよね〜!」
「は、はい!目の前にいた私も気がつきませんでした!」
頭に付いた雪を手で払いながら、一条も言った。
「ふっ…甘いな…」
そういうと、今鳥は上体を起こし、今日一番のさわやかな笑顔で言った。
「オッパイは一つじゃない! 二つあるのサ!! 左右に一つずつな!!」
あの時(Dミサイル)、実は両乳同時に投げていた、ということだろう。
「…寝てろ。」
ゴスッ!
かかと落としがキレイに入った。オッパイ星人・今鳥は、頭を抑えながら転がりまわっている。
「さてと。まさか今鳥ごとき相手で一条がやられるとは思わなかったが、とりあえず次のターゲットを探さないとな」
「ごめんなさい。こんなに早くやられてしまって…」
シュンとする一条。自分としても勝利を確信した勝負だったこともあり、少し悔しそうだ。
「いや、アレはまず誰も避けられないし、仕方ないさ。ま、あとはアタシらに任しときな!」
「うん、まっかしといて〜、カレリン!!」
親指を突き出してサインを出す天満。一条は笑ってうなずいた。

「それじゃあ、私たちは塚本さんの妹さんたちの所に戻ってますから。頑張ってくださいね!」
「うあ〜、俺、疲れて動けねーよぉ〜…ミコチ〜ン、おぶって〜!」
「あ、大丈夫です。今鳥さんは私がかついで行きますから。」
「………」
「おう、じゃあ、そこのバカはよろしく頼んだ、一条!」
「じゃあね!カレリン、今鳥くん!」
2人は走って去っていった。今鳥と一条を残して。
「さて、それじゃあ私たちも行きましょう、今鳥さん!」
「…いや、やっぱ自分で歩くわ…」
予想外の相打ちで、いきなり一条という大きな戦力を失った女子チームであったが、天満と美琴はそれほど気落ちしてはいなかった。
最後は今鳥の意外性にやられた形にはなったが、とりあえず当初の作戦通りに計画を進めることができたのだ。
「よーし、あの2人の作戦でいけばなんとか勝てるかもしれないぞ、塚本!!」
隣を走る天満に話しかける美琴。
「何いってんのミコちゃん!やるからには絶対に勝つ!…でしょ?」
そう言ってイタズラっぽく言う天満。
「へへっ、そーだったな。確かにアイツなら、そう言うに決まってるな!」
いつも強気な友人を思い出し、2人は笑いあった。
ちょうどこの時、愛理と晶が窮地に立たされているとは知らずに…


男子チーム:今鳥恭介……脱落
女子チーム:一条かれん…脱落
残り人数:8名

もしかしたら続かないかも…