【響鬼】鬼ストーリー 参之巻【SS】

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1名無しより愛をこめて
「仮面ライダー響鬼」から発想を得た小説を発表するスレです。
舞台は古今東西。オリジナル鬼を絡めてもOKです。

【前スレ】
【響鬼】鬼ストーリー 弐之巻【SS】
http://tv11.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1170773906/

【まとめサイト】
http://olap.s54.xrea.com/hero_ss/index.html
http://www.geocities.jp/reef_sabaki/
http://hwm7.gyao.ne.jp/lica/hero_ss/

【用語集】
http://www.iiyama-catv.ne.jp/~walachia/index.html
※用語集へはTOPの「響鬼」でたどり着けます
http://hwm7.gyao.ne.jp/lica/hero_ss/glossary/

次スレは、950レスか容量470KBを越えた場合に、
有志の方がスレ立ての意思表明をしてから立ててください。

過去スレ、関連スレは>>2以降。
2名無しより愛をこめて:2007/05/13(日) 11:44:37 ID:OFWvEK3Q0
【過去スレ】
1. 裁鬼さんが主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1131944389/l50(DAT落ち)
2. 裁鬼さんが主人公のストーリーを作るスレ その2
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1138029584/l50(DAT落ち)
3. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1139970054/l50(DAT落ち)
4. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 弐乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1142902175/l50(DAT落ち)
5. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 参乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1146814533/l50(DAT落ち)
6. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 肆乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1150894135/l50(DAT落ち)
7. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 伍乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1158760703/l50(DAT落ち)
8. 響鬼SS総合スレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1162869388/l50(DAT落ち)
9.【響鬼】鬼ストーリー(仮)【SS】
http://tv9.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1164788155/l50(DAT落ち)

【関連スレ】
--仮面ライダー鋭鬼・支援スレ--
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1124581664/l50(DAT落ち)
弾鬼が主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1133844639/l50(DAT落ち)
3名無しより愛をこめて:2007/05/13(日) 12:55:44 ID:tJRTD60X0
【用語集別冊Wiki】
http://www23.atwiki.jp/hibikiyougoshu/
※現在過疎ってるので皆で盛り上げていきましょう
4名無しより愛をこめて:2007/05/13(日) 13:30:01 ID:tByimxyl0
>>3
おいおい^^
5名無しより愛をこめて:2007/05/13(日) 15:26:51 ID:Jwkg/ezbO
>>1
乙ッス!
6名無しより愛をこめて:2007/05/13(日) 18:26:09 ID:hmuf5Uzs0
こんなの何度立てても同じだ。すぐ落ちる。やめろ。
このスレも案の定 過疎ってる。
7凱鬼メイン作者 ◆KxAq6DKEkg :2007/05/13(日) 18:43:15 ID:KJ+y3S0G0
>>1
乙です。
8名無しより愛をこめて:2007/05/13(日) 20:46:24 ID:hmuf5Uzs0
乙ばかりで肝心の作品はひとつも出ないな。
やはり終わってるこのスレ
9名無しより愛をこめて:2007/05/14(月) 13:35:47 ID:iMQ14FGj0
どうせ釣りだろうが敢えて釣られてみる。

>>8
過疎ってる、終わってるといちいち言わんでいい。出てくるな。
ホントに過疎ってるんなら、そのうち落ちて消えるから。
10名無しより愛をこめて:2007/05/14(月) 14:37:16 ID:H3OveKSW0
ID:hmuf5Uzs0は、本当にお気の毒というか何というか・・・
こっちのスレ見て思ったんだけど、リアルで嫌なコトでもあったんでしょうね。
http://tv11.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1176441440/
過疎で落ちるくらいだったら、前スレが生きてるうちにこのスレたてたりしないのにねぇ。

>>3の方が気になるので不思議と>>8が気になんないけどね、俺は。
Wikiについては、前スレで話しあってからリンクを貼ればいいのに、
有無を言わさぬこの態度・・・。こんなんじゃ更新しろっていう煽りと変わらないよ^^
11裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/05/14(月) 20:24:59 ID:+2IxsVHnO
瞬過終闘―― 《十四 安達ひとみ 現れぬ太陽(ヒビキ)》

午前11時19分、猛士九州支部。

屋久島は戦場となっていた。
三日前、九州支部である工場を離れた八人の鬼達は屋久島に移り、日夜解決策の練成を目指して討議を続けていた。
本部を通して関東の剛鬼や弾鬼、電鬼達が殺された事を知り、動揺を隠せないまま『逃亡』してきた鬼達。
謎の男女が国会を襲撃した時点では半信半疑だった彼等も流石に鬼である事に危険を感じ、鬼である事で麻痺していた人間の脆さや弱さが急速に覚醒した。
彼等は九州支部として徹底抵抗や全面降伏等の意見を吐き出すだけで、共に屋久島に来た支部長、海道に至っては黒い戦闘集団を見た直後に投降した。
更に三人の鬼が投降し、現在屋久島は鬼五人対サッキ率いる戦闘集団五十人の戦場となっていた。

ひとみは今、たちばなにいる。しかしそれも後一時間程の話でありこれから猛士関東支部は柴又を離れる。
夫である明日夢が行方不明となり二日が過ぎていた。
12裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/05/14(月) 20:26:02 ID:+2IxsVHnO
しかし此処には夫を殺された剛田五月や愛する家族を失った富山ともえがおり、彼女達はひとみより気丈に振る舞いイブキの手伝いをしている。
ひとみはたちばなに泣きつけば明日夢が還ってくると少女のままだった自分を恥じた。
魔化魍に襲われた事、桐谷京介の事。最早私は『一般人』ではない。それが今、ひとみが涙を止められる唯一の術だった。

午前11時45分、屋久島。
二体目の遺体が黒い人間達の手により、彼等専用のフェリーに運び込まれた。デッキに投げ放たれた物言わぬ鬼を見下ろしているのは、つい先程、鬼を辞めた者達だった。
「‥‥コイツも、やられたのか」
「馬鹿野郎‥‥ 来月結婚じゃなかったのかよ‥‥」
死者を慈しむ彼等の声はどこか明後日を向いている。
見下ろしている自分達は正解者、そらみろこんな死に方をしなくて良かった。生きていたら勝ち。そんな本音が聞こえてきそうだった。
鬼は人間である。今屋久杉の原始林に逃げ込む姿も、その背に弾丸を打ち込む集団も、戦いを拒みかつての同胞を見下ろす彼等も、人間に変わりない‥‥
13裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/05/14(月) 20:27:23 ID:+2IxsVHnO
戦場には人間ではないモノもいた。
「‥‥対鬼音撃射・『冥凶始遂』‥‥ 発射」
その巨大な音の塊は逃げる鬼と共に様々な木々や岩を呑み込み、原始林に100メートル程の丸いトンネルを残した。
「‥‥任務・完了。終了時刻・11時52分21秒‥‥」
サッキは苔むす岩から生えた一輪の野花を踏み潰した事に気づかないまま、戦場を去った。

勢地郎がファイルの束をトランクに詰め込むと、二台の車は穏やかな昼下がりの仮面に覆われた首都を抜け出した。
「何処へ行くんですか?」
ひとみや五月達が乗っているエリシオンの運転手はバンキだった。
「幾つか避難所と呼べる処はあるけど、アイツ達からは逃げきれないからね‥‥ 取り敢えず、テンキさんの家に向かう予定だよ」
エリシオンの後を続くクロスロードでは、勢地郎が吉野‥‥ 猛士総本部への電話を試みていたが、渋い顔で携帯を収めた。
「電話も駄目ですか‥‥」
たちばなを去る直前、勢地郎は本部長であるイブキの父、和泉一文字の個人用パソコンにメールを送信したが、エラーメッセージが戻ってきただけだった。「‥‥多分、吉野は何らかの策を練っている最中だろう。電鬼と一撃鬼の事も伝えたいが、これじゃあね‥‥」
14裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/05/14(月) 20:30:54 ID:+2IxsVHnO
勢地郎は首を横に振る。緊急事態の連絡はディスクアニマルに頼っていたが、相手が『人間』である今回の戦いでは望み薄だった。
現に、北海道支部から稲妻が飛ばしたアカネタカは小暮が開発したレーダーにその所在を発見され、音波操作により小暮達の研究所へ誘導されていた。
「そういえば、あきら君とは繋がったのかい?」
「ええ。たちばなから出る前に、サバキさんを連れていける準備が終わったと連絡があって‥‥ 一足先にテンキさんの家に向かっている様です」
二台の車は、佐伯家に到着しようとしていた。

静かな山の麓で門を構える寺田家の庭は広い。あきらは助手席に石割彩子を乗せたアコードを停車すると、出迎えてくれたテンキの妻・寺田さくらに頭を下げた。
「いらっしゃい。彩子ちゃんも久しぶりね」
四歳になる息子の栄介を腕に抱く彩子は笑顔を作れない程ではないが、遺体が無いだけで一撃鬼も既に殺されたかも知れない。
事実一つ掴めない自分の無力にまた俯く時、さくらは門の右手にある蔵の方を向いて言った。
「旦那さんも来たばかりよ。ウチの人が集めた古文書が見たいって、今さっき蔵に‥‥」
「えっ!?」
彩子は栄介をさくらに預けると、蔵の戸を開けた。
続く
15名無しより愛をこめて:2007/05/14(月) 21:21:21 ID:dHzczDilO
栄の孫だから栄介か
16名無しより愛をこめて:2007/05/15(火) 08:04:15 ID:4KXhx7xd0
>>10
何言ってんの?
前スレで「なくすと決まったわけじゃないからリンクを貼るのがよい」と言われていたのにのも関わらず、
うっかり忘れてたのか意図的にやったのか、Wikiへのリンクを貼らなかったこのスレ立てにこそ問題があるだろ
17名無しより愛をこめて:2007/05/15(火) 09:58:34 ID:QisoRUrH0
>>16
言葉尻捕まえて申し訳ないですが、
>>スレ立てにこそ問題がある
、ってそんな言い方はスレ立てしてくれた>>1の方に失礼じゃないか、と思うんですけど。
前レスのときにも、wikiへのリンクはよく話し合ってから決めて、と謳っていたから、このスレのときに話せばいいんだと思ってた。
リンクは貼ってほしい、でも自分は更新に参加しない、じゃちょっと違うんじゃないかと思うし、逆にリンクを張ることを主張するからには主張する本人自身がwiki用語集に積極的に参加することが前提であるのが筋じゃないかと思うんだよね。
その状態が堅持されるのであれば、自然にリンクもつくのではないか、と思うよ。
自分はwiki用語集が現状のまま更新されないのであれば、あえてトップにリンクを貼る必然性は感じません。
現状であれば本家用語集の方から辿れるのだから、ここに今すぐ直リン貼らなければならない理由はないと思う。
18名無しより愛をこめて:2007/05/15(火) 10:22:55 ID:QisoRUrH0
>>前レス 「前スレ」の間違い
ミス入力してスマソ
19名無しより愛をこめて:2007/05/15(火) 12:23:56 ID:4KXhx7xd0
俺ではないが、誰かがWikiには項目を追加してるよ。
20名無しより愛をこめて:2007/05/15(火) 12:34:50 ID:2JCCzYKFO
雰囲気悪くなると職人的に投下しづらいと思うので、
この話題は前スレでやったほうがいいんじゃないかな。
>>19は、まだ何かあるのであれば前スレで言ってほしい。
用語集より投下の方を大事に思ってくれるのならば、
できないことじゃないと思う。
21名無しより愛をこめて:2007/05/15(火) 12:37:56 ID:QisoRUrH0
見てきた。
確かに人名の追加の跡があった。
wikiの場合には「更新しろよ」と煽るのではなく、「更新してきたよ」のほうが望ましいのかな、と思った。
22名無しより愛をこめて:2007/05/15(火) 12:41:57 ID:QisoRUrH0
>>20
了解しました。
Wiki関係の発言は前スレに行うことにしようと思います。
23高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2007/05/17(木) 02:17:13 ID:Onsglj8b0
>>1
スレ立て乙です。

前回少し告知した通り、今回からの連作は元々お蔵入りする予定だったものです。
そういうわけで内容もどちらかと言うと変則的なものばかりとなっています。
まあ暇潰しになれば幸いです。ではどうぞ。
24仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/17(木) 02:19:05 ID:Onsglj8b0
1978年、文月。
その日の晩、関西支部所属の手の空いた何人かが一室に集まって百物語をやっていた。怪談を語る度に蝋燭を消していき、百本目の蝋燭が消える時に怪異が起こるという江戸時代から続く遊びである。
ただ、集まっている面々が面々だけに内容は今までの武勇伝を語り合うというものになっており、全然怖くないのだが。
そんな百物語の定義をぶち壊すかのような集まりに参加しているのはコウキ、イブキ、勢地郎、セイキ、ドキ、バキ、イッキ、ニシキ、石川、アカツキというお馴染みの面々だった。
九十二話目を終えた時には、誰もが殆ど話し尽くしていた。
「誰か良い話の種を持っている人、います?」
イブキが一同を見渡して尋ねる。
「怖い話じゃないのであれば幾らでもあるけどね」
そう言うバキに、話すならなるべく魔化魍絡みの話にするようイブキが言う。
「どうせ今までの話も最後は魔化魍を清めて終わりってオチばっかだったから、正直全然怖くなかったんスけどね」
欠伸混じりに石川が言う。時刻は草木も眠る丑三つ時。比較的早い時間に始めたものの、流石に九十二話も話すとこれ程まで時間が掛かってしまった。
「全く……。気紛れに付き合うのではなかったな」
そうぼやきながら、コウキが珈琲を一口飲む。
「まあまあ……。誰か話したい人はいませんか?いなければ僭越ながら僕が……」
「いや、俺が行くわ」
話そうとするイブキを遮り、ニシキが名乗りを上げた。
「お、ニシキくん、まだ何かあったの?」
「まあな。……ちゅうかこれ以外もう何も思い付かれへんわ。これは非番で大阪に遊びに行っていた時の話なんですけど……」
そう前置きするとニシキは静かに語り始めた。
25仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/17(木) 02:20:33 ID:Onsglj8b0
九十三話目「沈黙の街角」

その日、ニシキは洒落た喫茶店で、美味しい珈琲を啜りながらぼんやりとしていた。
イレギュラーの大量発生に伴い、シフトが滅茶苦茶になっている昨今、久々に回ってきた休みだ。
さりとて旅行に出掛ける程行動力もなく、とりあえず大阪市内に出てきたものの、何をするでもなく街中を散策して時間を潰していた。
(平和やなぁ……)
それはそうだろう。魔化魍は基本的に山中や海に湧くのだから。もしこの平和が乱されるとしたらそれは……。
「きゃああああああ!」
人為的なものと言う事になる。
見ると、白昼堂々ナイフ片手に押し込み強盗を働きにやってきた不届き者が二名。騒ぐな、とか勝手な事をぬかしている。
ナポリタンを食べながらニシキは、もう少ししたら取り押さえてやるか、と考えていた。ひょっとしたら飲食代をタダにしてもらえるかもしれない。
と、近くの席に座っていた一人の男が立ち上がった。身長190センチは優に超えている、白人の大男だ。男は、静かに二人組の強盗へと向かって行った。
ガタイの良い白人男性の登場に、一瞬強盗達の動きが止まるが、再度ナイフを掲げて威嚇をしてくる。
だが。
白人男性は物凄い速さで強盗に接近すると、背後に回りスリーパーホールドを極めた。実に鮮やかな手際だった。
強盗はものの数秒で落ちた。あまりの出来事にもう一人の強盗はナイフを放り出し逃げ出すが……。
鈍い音が店内に響いたかと思うと、強盗は床にばったりと倒れ込んでしまった。ニシキが氷水の入ったコップを強盗の頭目掛けて投げつけたのだ。
26仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/17(木) 02:21:42 ID:Onsglj8b0
「白昼堂々と強盗やなんて、ええ度胸やな」
「警察や、誰か早よ警察呼んで!」
途端に騒がしくなる店内。ニシキは席を立つと白人男性の傍へと歩み寄っていった。
「ハロー。……えっと、日本語大丈夫?」
「心配せんでもええ。日本語はぺらぺらや」
実に流暢な関西弁で白人男性が答えた。風貌に比べて優しい感じの声だ。
「そりゃ良かった!俺はニシキや」
「スティーヴや。いやあ、助かったで。あの時機転を利かせてコップを投げてくれへんかったら、もう一人には逃げられとったかもしれん」
と、コップをぶつけられた強盗が起き上がり、入り口へと猛スピードで駆けていった。そのまま外へ出て、エンジンをかけっぱなしだったライトバンに乗り込むと、逃走してしまった。
「しもうた!手加減し過ぎたか!」
鬼は変身前でも物凄い力を発揮出来るため、兎角加減が難しいのだ。
スティーヴが後を追おうとするが、既にライトバンの姿は見えなくなっていた。
「逃がしてもうた……。こっから先は警察の仕事やな」
「いや、あんたがやる気なら、追いかけて捕まえる手ぇはあるで」
そう言うとニシキは自信満々の笑みを見せた。
27仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/17(木) 02:23:06 ID:Onsglj8b0
警察も来て、騒ぎも落ち着いてきた頃、ニシキが車の後を追わせてあった三匹の式神が戻ってきた。彼に支給されている猫型式神の試作品「灰猫」だ。
「おお、戻ってきたか。ご苦労やったな、テブクロ、バントライン、ドルバッキー」
名前を呼ばれた式神達は、ニシキの腕を上ってそのまま肩にちょこんと座った。
「スティーヴ」
彼を呼ぶと、ニシキは逃げた強盗の行方が掴めた事を知らせ、行くか?と尋ねた。既に警察が来ているため無理に自分達が動く必要は無いのだけれど……。
「勿論や。行かせてもらうで」
阿呆である。別に二人とも強盗を捕まえてヒーローになりたいわけではない。強いて言うならば、関与した以上最後まで責任持って遣り遂げたいだけである。これを阿呆と言わずして何と言おう。
だが、そんな阿呆に何故か漢(おとこ)の姿を見てしまう。きっと作者も阿呆なのだ。
肩に座っていた三匹のうち、ドルバッキーが下りて阿呆二人の案内を始めた。
「何やねん、それ?」
「うちの飼い猫や」
「ほう、最近の猫はまるで折り紙みたいなんやな……って、んなわけあるか!」
流石は関西人。ボケとノリツッコミは浪花の華である。
28仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/17(木) 02:36:06 ID:Onsglj8b0
道すがら、スティーヴは自分の事をニシキに色々と語った。十七歳の頃から日本で暮らしている事。今は英語教師をしている事。合気道七段で、他にも様々な格闘技を学んでいる事。ギターが趣味な事等である。
「あと、精神鍛錬のために禅もやっとるねん」
「凄いなぁ……。本気で猛士にスカウトしたいわ。ええ鬼になれるで」
「たけし?おに?何やそれ?」
確か関東支部には伊太利亜人の鬼が居た筈だ。亜米利加人の彼が鬼になっても不都合はあるまい。
ドルバッキーは、建設途中で放置されたビルの前で歩みを止めた。どうやらここに逃げ込んだらしい。
「さっきのライトバン、あったで。裏に放置されとったわ」
スティーヴがニシキに知らせる。
「ほな行こか」
二人は用心深くビルの中へと入っていった。

「俺は上を探すわ。下の方を頼む」
「分かった。何かあったら呼べよ。絶対助けに行ったるからな」
こうしてニシキは上、スティーヴは下を捜索する事になった。
ニシキと別れたスティーヴが、強盗を探そうと近くのドアに手を掛けた時、周囲の部屋から一斉に柄の悪そうな男達が手に手に得物を持って飛び出してきた。その数およそ二十。
「おい、そこの外人。ここに入ってきて、ただで帰れる思うなよ」
薄笑いを浮かべながら、男の一人がそう告げた。
29仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/17(木) 02:37:15 ID:Onsglj8b0
二階を探していたニシキは、とある部屋の前で殺気を感じて立ち止まった。
居る。確実にこの中に誰かが居る。
事実、部屋の中にはあの強盗が居た。手には拳銃を構えている。中に居る自分に声一つ掛けず誰かが入ってきたら、確実に発砲するつもりでいた。
ドアが勢いよく開かれた。その瞬間、入り口に向かって強盗が発砲する。命中。だが。
「お〜、痛てえ……」
そこには、虎に似た姿をした怪人が立っていた。痛そうに銃弾が当たった箇所を擦っている。
「うわわわわ!化物!」
「ま、化物言われてもしょうがないわな」
虎の怪人=西鬼は強盗の傍に近寄ると、当て身を喰らわせて気絶させた。
「嫌な予感がしたからな、ドアの前で服全部脱いで変身しといて良かったわ。さて……」
階下に居るスティーヴの下へ戻るべく、変身を解除したニシキは大急ぎで服を着るのであった。
30仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/17(木) 02:38:22 ID:Onsglj8b0
強盗を抱えて階段を降りたニシキは、そこで信じられない光景を目の当たりにした。スティーヴが三人の厳つい男達と戦っている。彼の足元には、気を失った男が十七人ばかり倒れていた。
「何やこれ……」
事態が呑み込めないでいるニシキの前で、手にナイフを持った男がスティーヴへと襲い掛かった。
だがスティーヴは小手返しで男の腕を捻ると、そのまま投げ飛ばしてしまった。コンクリートの壁に頭をぶつけて、そのまま男は動かなくなってしまう。
残る二人の男は、顔面蒼白で完全に戦意を失っていた。普通、兵法では彼我戦力差が1:3ならば確実に勝てると言う。それなのにたった一人相手に十八人もやられてしまったのだ。しかも僅かの時間で。
逃げようと踵を返す二人の首根っこを、スティーヴが掴み上げた。涙目で許しを請うも、スティーヴは聞き入れない。
「やられた仲間置いて逃げるんかい?こりゃ性根を叩き直してやらなあかんなあ」
「ひいいいいい!」
地獄絵図であった。

その後、全員を縛り上げて一箇所に纏めた二人は、警察に通報するとその場を立ち去った。前述の通り二人ともヒーローになるつもりは毛頭無かったわけだし、煩わしい事情聴取を受けるのも嫌だったからだ。
「しかし吃驚したわ。めっちゃ強いやないけ!」
「おおきに」
ニシキのお褒めの言葉に対し、合掌して答えるスティーヴ。
「なあ、俺と一緒に働かへんか?あんたなら絶対即戦力やで」
この時ニシキは本気でスティーヴを猛士にスカウトするつもりでいた。
スティーヴは少し考え込むと、丁重に断った。今の生活が気に入っているし、今更別の事をするつもりは無いと言う。
「そうか、残念やなあ……」
本当に残念そうに呟くニシキ。その後、街中で別れて以来、二人が再び出会う事は無かった。
その後の警察の調べで、捕らえられた連中は大規模な窃盗団の構成員だった事が判明した。あのビルも隠れ家の一つだったそうだ。今回の一件で芋蔓式に逮捕者が出て、組織は壊滅したと言う。
31仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/17(木) 02:39:31 ID:Onsglj8b0
「……以上で俺の話は終わりです」
そう告げるニシキ。だが室内の反応は今一つ宜しくない。
「魔化魍絡みの話では無いではないか!」
「しかも全然怖くないし!」
皆を代表してコウキと石川が突っ込む。
「いや、ある意味怖い話やろ!?素手で武器持った男二十人をやっつけたんやで!?普通有り得んやろ!?」
「与太ではないのかね?」
コウキが疑いの眼差しをニシキへと向ける。
「ほんまですって!……多少脚色はしてあるけど」
「何か言ったか?」
「何でもないです!ああもう、兎に角これで俺の話はお終い!次、誰や!?」
そう言いながらニシキが蝋燭を一本吹き消した。残り七本。
「しかし本当にそんな凄い人がいるのならば、一度会ってみたいですね。ええと、何て名前でしたっけ。ス、ス……」
名前を思い出そうとするイブキに、ニシキが告げた。
「スティーヴや。スティーヴン・セガール……」

スティーヴン・セガール(Steven Seagal, 1951年4月10日- )
ミシガン州ランシング市に生まれる。7歳から格闘技に接する。青年期はカリフォルニア州フラートン市で過ごす。
17歳で来日、英語を教えながら禅、合気道、剣道、柔道、空手を学ぶ。合気道7段。ほかにも太極拳を始めとして、複数の中国武術を学ぶ。大阪にある合気道道場の娘、藤谷美也子と1975年に結婚。1983年アメリカへ帰国。
長期間日本の大阪に滞在しただけあって日本語(大阪弁)は堪能。
(Wikipediaより抜粋)

次の話へ続く。
32名無しより愛をこめて:2007/05/17(木) 12:30:57 ID:iZjxAzRdO
これをお蔵入りさせちゃ駄目だろ。……。俺も阿呆だよ。
33名無しより愛をこめて:2007/05/17(木) 20:37:39 ID:46IxQdxo0
高鬼作者様、乙です。
それが当然と思った俺も阿呆だ……。
お蔵入り寸前に復活してよかった。俺は好きです、こういう話。
34名無しより愛をこめて:2007/05/18(金) 14:22:31 ID:YNVXXAdcO
武者童子くらいならなんなく倒しそうなのが怖い
さすがコンビニで普通に買い物をするだけで強盗とついでに店員まで倒す男
35志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/05/19(土) 01:32:59 ID:o9lzq7Rm0
前回は前スレの>>545-551

五之巻 緩む腕(かいな)

関東支部の鬼達がダンキとショウキの捜索に出てから間も無く、たちばなの電話が鳴った。
「はい、たちばなです」電話に出た日菜佳の表情が曇った。
電話の主はバンキ達が出動した先の『歩』の白崎という男だった。
白崎は二人が腹部に大怪我をして病院に搬送されたこと、意識が朦朧としている為に呼びかけにきちんと反応できていないことを日菜佳に伝えた。
出血は止まっているようだが、体力の消耗が激しく予断を許さないという二人の容態はすぐに勢地郎に知らされ、捜索に出ている鬼達の知るところとなった。
やはり、ここ数日の間に起きている事件は一つの事件と判断するのが一番自然だ。勢地郎は事此処に至って、ついにそう断じた。
本来慎重な性格の勢地郎は自分の勘だけで極力事態を決定付けないことを是としてきた。
直感的に推測だけで事柄を繋ぐことは、事象の本質を見失う危険を孕み、時には被害を広げるだけになってしまうことを少なからず身をもって感じていたからだ。
しかし、具体的な痕跡が残る事の少ない魔化魍事件において、発生後に確固たる証拠を求めることは極めて難しく、日頃の『歩』による巡回という予防行動こそが被害を最小限に食い止める唯一の鍵だった。
つまり、事件が起きてしまったということは即ち全てにおいて後手に回ったことを指す。
今回は事象の全てにおいて想像以上の後手に回ってしまった。
しかも、京介が関西で拉致され、関東では三人の鬼が相次いで魔化魍によって倒された事になる。
勢地郎にとってはあくまで推測の域を出ないが、ヒビキの話から導き出すならば『奴等』が京介を利用して鬼達に何らかの罠を仕掛けたか、あるいは対抗手段を編み出して鬼の戦力を凌駕したということであろう。
『オロチ事件』以来主だった行動に出なかった『奴等』が再び行動を起こしたという事は、はたして何を意味するのか。
事実『オロチ』の真実を隠蔽するだけでも猛士総本部は国家、マスコミに大きく手を回し、魔化魍の存在と事件の痕跡を消す為に多大な労力を払わなければならなかった。そうしなければ、この国は魔化魍の存在によって瞬く間に未曾有の混乱に陥るからだ。
神代の昔からと云われる人と鬼と魔化魍の争いはこの国の根幹に位置する事象なのだ。
36志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/05/19(土) 01:34:31 ID:o9lzq7Rm0
そして、理由こそ不明だが、この国より魔化魍を完全に消し去ることは出来ないと言われている。
だからこそ、その被害を最小限に抑える為には『清めの音』を以って魔化魍を制する『鬼』の存在は不可欠なのである。
かつて、人は自らを守る為に、毒をもって毒を制すとばかりに鬼を利用して魔化魍を退治させた。
笑顔の裏で鬼の存在を忌み蔑みながら。
そして、時にその人間の本質に怒り、悲しんだ挙句、人に仇なす鬼となった者も居なかった訳ではない。
しかし、人間を愛し、助け、護ろうとする多くの鬼達は人の中に己の血筋を繋いでいく事を選び、鬼達の思いに打たれた人々は彼らの意思と血筋を受け入れた。
以来、人を護ろうとする鬼とそれを助ける猛士という存在が人間達の陰となって魔化魍の脅威から人々を護り続けてきた。
『まさか、大昔の恐怖を再び現代に呼び起こそうという事なのか』勢地郎は歯噛みした。
かつて、魔化魍に『血狂魔党』という組織があったと古い伝承にある。
血狂魔党は幾度と無く数多の集落を襲い、自分達の餌として人々に贄を出させ、恐怖と戦慄を以って人を支配したという。
単体で現れることの多い魔化魍が徒党を組むという事には些か疑問を感じるが、『奴等』のような存在が有る以上、伝承の信憑性は極めて高いといえよう。
そして、その伝承では、血狂魔党が人々に味方する鬼達によって壊滅させられ、その一件から『猛士』という存在が始まったとある。
もし、『奴等』が再び人心を支配するべく行動を開始したというのなら、如何に猛士といえども完全にそれを防ぐ術は持ちえていない。
相手は神代の昔から存在する、文字通り『マガツカミ』ともいえる存在なのだ。
勢地郎は自分の感じる不安に慄きながらも、これ以上の状況の悪化を防ぐべく手立てを模索し続けた。
37志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/05/19(土) 01:36:16 ID:o9lzq7Rm0
一方、勢地郎達の知らせを受けた後もダンキ達の捜索を続けていたヒビキと明日夢は、偶然にも近所を流れる川のほとりにある公園のベンチに座る二人を発見した。
「おい、お前達今まで何やってたんだ?」こちらに背を向けてぼやーっ、と座るダンキとショウキにヒビキが声をかける。
「なかなか来ないから、皆心配してたんだぞ」
「…………」何故か反応がない。ダンキとショウキは見たこともない人から声をかけられた、みたいな顔をしている。
「どうした、鳩が豆鉄砲食らったような顔して」ヒビキはその顔に不審を抱きながら続けて言った。
しかし、二人の返した反応がヒビキと明日夢を驚愕させた。
「……あの、どちら様ですか?」
「……え?」明日夢が驚きを隠せず、聞き返す。
「どなたかと間違えてないですか?」ダンキとは思えない丁寧な反応だ。
「お前等、何トボケてるんだ。遅刻の言い訳に記憶喪失でも考えたのか」ヒビキも不信感を増しながら返したが、そこで、はたと気づいた。
『鬼の気がない』どちらかといえば精気のない顔をしている二人の傍から気が全く感じられない。
ヒビキはもしかすると数日前から起こっている一連の事件と関わりがあるのではないか、と思いを巡らした。
「お前達、ちょっと来い」そう言うと、明日夢と共にダンキたちの腕をとってたちばなに引っ張っていった。
38志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/05/19(土) 01:40:11 ID:o9lzq7Rm0
「ふうむ、記憶がない……」ダンキ、ショウキ発見の報を聞きつけ、たちばなに集まった面々を前に勢地郎が口を開いた。
中央に座らされている二人は、何のことやら分からない、といった風情で周囲を見回している。
「……えー、では、お尋ねします。お二人、お名前は何と仰いますか?」勢地郎が中腰になりながら落ち着いた物腰で二人に尋ねた。
「そんなの決まってますよ!ダンキさんとショウキさんスよね!」
「しっ!静かにしろ、トド」余計な口を挟んでトドロキがヒビキに小声で制される。
「あ、すんませんっス」まずい、という顔をしてトドロキが口を塞ぐ。
「え、と……、自分は……」ショウキが名乗ろうとしたとき、不意にショウキの額に墨で書いたような文字が浮かび上がった。更に顔中に梵字の様な文様が現れる。
「……がっ!……あ……う……がああっ!」頭を前後にがくがくと揺らすと目を白くして気を失った。
ダンキもショウキに呼応するように同じ反応をして気を失ってしまった。それと同時に消える文字。
「……今の、見たか?」
「ええ、文字が浮かんでいました。見間違いでなければ額の文字は『魄』という字だと思います」ゴウキとイブキがひそひそと会話を交わす。
「………まさか……鬼封呪……」勢地郎が低く呟く。
「キホウシュ?何スか、それ?」
「あ……、いや、何でもない。ヒビキ、申し訳ないが明日夢君と二人を病院に搬送してくれないか。それから、ゴウキ、トドロキ君とエイキ達の装備の回収とフォローを頼む。
イブキはイチゲキ君と番変に入ってトウキの分のフォローに出てくれ。状況が状況なので、魔化魍が現れても出来るだけ単体での出撃は避けるようにしてほしい」
トドロキの問いには答えず、勢地郎はそう皆に指示すると、少し調べたいことがあるから、と地下に入って行ってしまった。
39志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/05/19(土) 01:44:53 ID:o9lzq7Rm0
「ダンキさんたち、大丈夫でしょうか」香須実が運転する不知火の後部座席で明日夢は助手席のヒビキにそう尋ねた。
ダンキとショウキが意識を失った後、日菜佳の報によって救急車が呼ばれ、ヒビキと明日夢は付き添いということで病院へ同行した。
医師に無事二人を引き渡した後で香須実に迎えに来て貰ったが、帰りの車内には重苦しい雰囲気が立ち込めていた。
「確かに呼吸も落ち着いていましたし、脈も特に異常は有りませんでした。でもヒビキさん、ダンキさんやショウキさんに出た、あの文字は一体何だったんでしょう」
「うん……。おやっさんは『キホウシュ』と呟いていたけど、俺もあの文字は初めて見るな」
「……やっぱり、京介のことと何か関係が有るんでしょうか」
「今はどうとも言えないことだけど、可能性はあるだろうな……」そう言うとヒビキは窓の外にサングラス越しの目を移した。
そんなヒビキの様子を見ながら、明日夢は弟子のことを心配する師匠の胸の内を慮って心を痛めていた。
『京介、一体何処にいるんだ……』明日夢はそう思いながら、窓外にいるはずのない京介の姿を捜していた。
40志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/05/19(土) 01:46:56 ID:o9lzq7Rm0
「……あった、これだ」本棚を引っ繰り返す様に書物を調べていた勢地郎が手に取ったのは、表紙もぼろぼろになった一括りの薄い本だった。
表紙には『禁帯出』の朱色の文字と所処が消えているような本の題名が書かれている。
「確か、この中にあったはずだが……」破れないようにぱらぱらと頁をめくる。
「!」目的の項目を見つけるが、やがてその顔が失望に滲む。
『鬼封呪』。それは古の鬼が他の鬼の力を封じる為に用いた呪法の一つである。
本来は道を外れた鬼に対し力を封じる『鬼祓い』の原型であると言われているが、呪法を用いることと強力な鬼呪力を持った鬼が幾人も必要であったことから結局現代には伝わらず、遥か昔に失われた術であった。
《……この呪(まじな)ひ受けし者は己が鬼力を封じられる。また、呪ひを深く詰めれば半月の後に現世(うつしよ)の命を彼の世に渡らせむ事も可能なり》
「対応策はないのか」更に読み進めるが、旧き鬼の力についての記述としてしか記載されておらず、呪いを解く特定の方法は載っていなかった。
勢地郎はダンキやショウキに現れた文字から、これとアタリをつけたのだが、結局それ以上の成果を得ることは現状では出来なかった。
41志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/05/19(土) 01:49:06 ID:o9lzq7Rm0
明日夢達がたちばなへの帰りに通った道とは真逆の雑踏の中に、その情景にはそぐわないだろうと思われる男女の姿があった。
季節はもはや夏物の時期ではないのだが、乳白色の着物に絽の羽織を身につけた若い男と、薄い水色の着物に薄い朱色の帯を巻き、日傘を差した若い女が何処へともなく歩いていく。
男女の周りの人々は時期にそぐわないその服装に何ら関心を向けるでもなく、忙しそうに二人の周りを歩いていった。
「あの『ヒト』達、やっと分かったみたいね」女は涼しげな笑みを浮かべて隣の男に言った。
「これだけ手がかりをやらないと少しも分からないとは、正直言って失望したな」と男は眼鏡の奥の目を細めて少し不機嫌そうに答えた。
「でも、わざわざ教えてあげなくとも良かったんじゃない?」
「『実験』にはある程度の障害が必要だ。幾つか過程を踏まないと正しい結果は導き出せないだろう?」
「……それもそうね。さて、『あの子』はこれからもきちんと働いてくれるかしら?」
「……まあ、それは後のお楽しみだ」男はそう言うと唇を少し歪めた。女はその横顔を見て同じように笑みを浮かべる。
人々はそんな二人の光景には全く気づかない。いや、分からないと言った方が正しいのかも知れない。
二人はこの世に存在しているようで存在していない。現れていないようで現れている。そんな存在なのだ。
この国を密かに握ろうとする勢力があるとすれば、それは彼らのような存在なのかもしれない。
人々は彼らのような存在に気づくことなく、忙しい日常に押しつぶされそうになりながらも今日を生きていた。
(六之巻へ続く)
42名無しより愛をこめて:2007/05/20(日) 21:31:58 ID:2M/egKpx0
   | \
   |Д`) 乙デス…
   |⊂
   |
43仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/21(月) 19:22:41 ID:8aYcBM2o0
前回までのあらすじ…やっぱりセガールは強かった


「じゃあ次は僕が行きましょうか」
そう言ってイッキが手を上げた。
「おっ、まだ何かネタがあったんだ」
「ええ、さっきのニシキさんの話がありなら、僕のこの話もオッケーかなと思って……。別に魔化魍絡みの話でなくとも大丈夫ですよね?」
「まあなるべく魔化魍絡みの話をするという事で一つ……」
イブキが困り顔でそう答えるのを聞いて、苦笑しながらイッキは話しだした。
「以前、長期の休みが取れたので北海道へ遊びに行った事があるのですが……」
「私がドロタボウ退治に困っていた時の話だな」
「そうです。その節はすみませんでした」
別に謝る必要は無い筈だが、イッキが頭を下げた。
「北海道でノヅチと戦ったって話だろ?それなら知ってるぜ、なあ」
セイキが隣に座るドキに同意を求める。確かに、この話は関西支部内でもかなり有名だ。何せ北海道支部長から直々にお礼の電話が掛かってきたのだから。
「いえ、今から話すのは道中東京に立ち寄った時の話です」
「随分楽しんできていたようだな」
「はあ、すみません。で、東京で僕は奇妙な人達と一緒に奇妙な体験をしたんです……」
44仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/21(月) 19:23:53 ID:8aYcBM2o0
九十四話目「雨上がりの決死行」

高速を走っている時には降っていた雨も、イッキが東京に着いた頃にはすっかり上がっていた。だが、曇天模様の空は、再び降るかもしれないという不安定さをこれでもかと醸し出していた。
東京駅で眠気覚ましのガムを買ったイッキは、出発のため愛車を停めてある場所まで向かっていた。その途中で彼に出会ったのだ。
「ちょっとそこの人、今何時か分かりませんかね?」
彼は、イッキに時間を尋ねてきた。やけにそわそわしている。
「今ですか?えっと……午後三時十六分ですね」
「ああっ!もうとっくに時間を過ぎていると言うのに!」
そう言うと眼鏡に髭、登山服にリュックサックという出で立ちの男は、元々不機嫌そうな顔を更に顰めた。
「私はね、あいつらと三時に待ち合わせをしていたんだ!だのにあいつらは十六分も遅れている!十六分だよ!?私の貴重な時間を十六分も無駄にしたんだ!」
イッキに向かって彼は勢いよく捲くし立てた。厄介そうな人に声を掛けられたなと思いながらも、とりあえず相槌を打っておくイッキ。
と、二人の男性がこちらへ声を掛けてきた。どうやら彼の待ち人がやっと到着したらしい。
「あっ、お前達!」
「いやあ、遅れてすまん」
小柄な方の男性が笑いながらそう言った。長身の方も一言謝りの言葉を述べた。二人ともやはり登山服に身を包み、重そうな装備を身に付けている。
「ちょっと準備に手間取ってね。で、そちらは?」
髭の男に、小柄な男が尋ねた。
「さっき時間を聞いていたんだ。ついうっかり時計を忘れてきてしまったんでね」
紹介されてイッキが頭を下げる。
45仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/21(月) 19:25:06 ID:8aYcBM2o0
「友人が迷惑を掛けました。私は牧野森男(演・斉木しげる)と言います。博物館で働いています」
「どうも、私は飾玉三郎(演・きたろう)です。冒険家をやっております。で、こいつが……」
「友兼剛史(演・大竹まこと)。実業家だ。さっきはありがとな」
友兼が、素っ気無いながらも時間を教えてくれた事に対して礼を述べた。イッキも改めて自己紹介を述べる。
「ほう、関西から。いやあ、懐かしいな。私もね、学生時代は日本国内を色々と旅して回ったもんですよ」
今はもっぱら海外ですけどね、と飾が笑いながら告げる。
「彼が冒険先で見つけてきた物を私が鑑定しているのです」
「で、良い物が見つかったら私が買い取って転売しているんだ。まあ持ちつ持たれつというやつだな」
牧野と友兼がそれぞれそう告げた。
「で、我々はこれから山に登って幻の茸を探すつもりなのだ」
「キノコ……ですか?」
「そうだ。そして聞いた以上君にも手伝ってもらう。文句は無いな」
「は!?」
突然の理不尽な要求に、イッキは開いた口が塞がらない。
「ちょっと友兼さん……。申し訳ありません。ですが、人手が足りないのも事実。どうか我々に手を貸していただけないでしょうか」
牧野が「この通りです」と頭を下げた。飾も一緒になって頭を下げる。唯一人、友兼だけが不遜な態度のままだ。
散々悩んだ挙句、イッキは手伝う事を承諾した。我ながらお人好しだとは思う。だが急ぐ旅でもないし、話の種に付き合うかと軽い気持ちで乗る事にしたのだ。
こうして四人は山へと向かっていった。そこでイッキは、実に奇妙な体験をするのであった。
46仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/21(月) 19:26:14 ID:8aYcBM2o0
「マタンゴ……ですか?」
山登りの最中、イッキは牧野から彼等の目的について説明を受けていた。
「そうです。幻の茸がこの山に群生している事が、長年の調査で判明したのです」
「ですが……それって映画の話ですよね?今から十年以上前の……」
イッキは、昔劇場で見た同名の特撮映画を思い出していた。久保明や水野久美が出ていたやつだ。当時子どもだったイッキは、あの気持ち悪いキノコ人間を見て本気で怖がったものだ。
「実はあれには元ネタがあるのです」
「確か……海外の小説だったと記憶していますが」
以前、ふとこの映画の話題が出た際、その場に居た司書の京極が教えてくれた。英吉利の短編小説だったと言っていた筈だ。
「そうです。ですがその作者も、実は人から聞いた話を基に小説を書いたというのが我々の調査で判明したのです」
「つまり……小説の元になったお化け茸が本当に存在すると?しかもこの場所に?」
牧野は力強く「はい」と答えた。
「でな、そんなに珍しいものなら捕まえて売ってしまおうと、そう考えたわけよ」
前を歩く友兼がそう告げた。
「学会に発表したら、きっと凄い事になりますよ。まあ私は専門が違いますけどね」
ふふふ、と嬉しそうに牧野が笑う。横を歩く飾もどことなく嬉しそうだ。
47仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/21(月) 19:27:21 ID:8aYcBM2o0
ぬかるみに幾度となく足を取られながらも、四人はマタンゴの群生する場所へと向かっていった。と、目の前にぼろぼろの立て札があるのが見えた。近寄って、書かれてある内容を声に出して読んでみる。

『マタンゴというキノコは人に寄生いたします
あまねく全ての人がお庭にキノコを植えたら
キノコ人間になってしまった君の家のタマミちゃんが
目立たなくなるからいいねぇ』

「「「いいよねぇ」」」
友兼、牧野、飾の三人が声を揃えてそう呟いた。その姿を半ば呆れながら眺めるイッキ。と言うかこの立て札は一体何が言いたいのか、理解に苦しむ。
「どうやらこの近くに生えているみたいですね。手分けして探しましょう」
牧野の提案に従い、四人ばらばらにマタンゴを探す事にした。
どれだけの時間探し回っただろう。式神を使えばもう少し楽になるのだろうが、湿気で傷むのを危惧してイッキは使用していない。
そこへ飾の声が聞こえてきた。
「お〜い!見つけたぞ〜!」
イッキは声のする方へと駆けていった。
48仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/21(月) 19:29:24 ID:8aYcBM2o0
ほぼ同時にイッキ、友兼、牧野は飾の居る場所へとやって来た。飾は一点を凝視している。そこには。
等身大の茸が複数、雨に濡れててらてらと輝く体をゆらゆらと動かしていた。
「う、動いていますね……」
まさか本当に存在するとは。イッキは目の前の光景が信じられなかった。いつも魔化魍という非常識な存在と戦っているというのに。
「素晴らしい!早速持ち帰るぞ!」
そう言うと友兼は、リュックサックの中から鉈を取り出した。これでぶった切って持ち帰るつもりのようだ。
「駄目です!ばらばらにしては研究出来なくなる!」
慌てて牧野が止めに入った。
「まずサンプルを採集します。退いて下さい」
友兼を押し退け、牧野が器具を取り出しながらマタンゴに歩み寄る。
「早くしろよな。とりあえずばらしたのを持って帰って、残りは後日、改めて回収に……」
頭の中で色々と皮算用をしながら、友兼が笑みを漏らす。
「それよりさ、先に記念撮影しよう!ほらイッキくん、君も一緒に」
そう言って飾がイッキの手を引っ張り、マタンゴの前まで連れて行く。友兼と牧野も並ばせると、自分は三脚の用意を始めた。
「あ〜イッキくん、もう少し右に寄って。後で私がそこに入るから。そうそう、そのまま……。うん?」
カメラのファインダーを覗いていた飾が、素っ頓狂な声を上げた。何事かと三人が後ろを振り返ると。
動いているのだ、マタンゴが。否、動いていると言うより歩いていると言った方が正しいだろう。
「き、き、き、茸が歩いてるぅぅぅ!」
腰を抜かす飾。友兼も呆然とマタンゴの群れを眺めている。
「牧野さん、これは一体……」
「わ、分かりません。何で茸が歩いているんだ?」
イッキが問うも、牧野も予想外の出来事に目を丸くしている。
よく見ると、マタンゴは地下から二本の足を出して、ペンギンのようによたよたと歩いていた。
「足が生えてるぅぅ!何だこの茸は!」
「くっ、これじゃああの映画と同じじゃないか!」
逃げましょう、と三人に向かってイッキが告げる。だが。
49仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/21(月) 19:30:42 ID:8aYcBM2o0
「あっ!」
既に彼等の背後にも複数のマタンゴが回り込んでいた。
ゆらゆら ゆらゆら
「畜生!こんな危ないもの売り物にならん!焼き払ってやる!」
そう叫ぶや否や、友兼がジッポーライターを取り出した。
「山火事になりますよ!」
「馬鹿!このままじゃ茸に殺されちまうだろ!」
そう言って、止めるイッキの頭を叩く友兼。
「……どのみちこんなに湿気ってちゃ火も点きませんよ、多分」
諦め顔の牧野がそう呟く。飾は相変わらず腰を抜かしたまま、あわあわと呻いている。
そうこうしているうちに、マタンゴの輪が狭まってきた。
ゆらゆら ゆらゆら
「くそっ、茸に殺されるなんて末代までの恥だぞ!」
「落ち着いて下さい、友兼さん!」
「この状況で落ち着けるかあ!」
変身すればこの状況を切り抜けられる事をイッキは理解している。だが、それはこの三人に鬼の存在を教えてしまう事になる。全員職業が職業なだけに鬼について知られるのは危険に思われた。
マタンゴは揺れながら胞子をばら撒き始めた。立て札に書かれてあった「寄生」という単語が脳裏を過ぎる。
ゆらゆら ゆらゆら
50仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/21(月) 19:31:48 ID:8aYcBM2o0
この絶体絶命の状態で四の五の言ってはいられない。意を決してイッキは腕の変身鬼弦に手を掛けた。
「少し離れて!」
「何!?」
「いいから少し離れて下さい!雷に打たれますよ!」
三人がイッキの傍から離れる。充分な間合いが取れているのを確認すると、イッキは弦を鳴らした。
それと同時に雷がイッキの体へと落ちた。電撃の中、彼の体が鬼のものへと変わっていく。
変身を終えた壱鬼は、三人を抱えると跳躍し、マタンゴの輪の中から脱出した。
「ふう、もう大丈夫ですよ」
だが友兼達三人は……。
「あ、気を失っているのか……」
どうやら変身の際の落雷が決定打となったらしい。これに驚いて完全にイってしまったようだ。
マタンゴの群れの歩みは遅い。追いつかれる事は無いだろう。
(とりあえず目撃されずに済んだな。さてと……)
三人を抱えたまま壱鬼は考えた。
(着替え……どうしようか)
51仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/21(月) 19:32:58 ID:8aYcBM2o0
彼等が持っていた予備の着替えを拝借したイッキは、三人が目を覚ますのを待ってから山を下りた。自分の服は落雷で焼けたと言っておいた。
途中、麓の村落の住人と思われる男性に出会い、マタンゴについて尋ねてみた。すると。
「おめえさん達、この奥へ入ったのかい?よく無事だったな。村の者はお化け茸が出るからって、誰一人こっから先へは行かねえぞ」
「マタンゴについて知っているのか!?」
どうやらこの男性が住む村の住人にとって、マタンゴが出る事は常識らしい。男性は更にこんな伝説を聞かせてくれた。
「この山には昔、外国人で偉い学者の先生が館を建てて暮らしてたんだ。何でも粘菌の研究をやってたそうだ」
「粘菌……ですか」
「でな、その先生は朝から晩まで研究を続けていて、だども一向に成果が上がらなくて、とうとうおかしくなってしまったらしい」
そう言って男性は頭の上で人差し指をくるくる回してみせた。
「それ以来、館に近づく者は皆行方不明になるわ、茸の化物が出るようになったわで、村の人間は誰も近付かんようになったんだ」
明治の初め頃の話って聞いたな、と男性は言った。
その後、駅まで戻った三人は半ば無言のまま別れた。イッキは自分の服に着替えると、借りた服を返して再び旅に戻った。
さて、マタンゴだが、イッキは関東支部に連絡しようかと思ったが止めた。別に魔化魍は関与していないみたいだし、近隣の住人は絶対に近付かないようだし、わざわざ行く物好きも他に居ないだろうと思ったからだ。
友兼剛史はその後、かなり汚い手も使って事業を拡大し、都心の一等地に自社ビルを建てるまでになったらしい。
牧野森男はその後、持ち前の知識と技術力を活かし、某民間団体の重要ポストに就いたらしい。
飾玉三郎はその後、カレーが自慢の喫茶店のマスターになったらしい。
52仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/21(月) 19:34:22 ID:8aYcBM2o0
「ごめんなさい!」
話が終わるや否や、イッキはカメラに向かってごめんなさいをした。
「誰に謝っているんだ」
「それは勿論読者の皆さんに。あの、別にこんな話を書いたからって、ゴジラや戦隊の世界と同一時間軸にあるという訳ではありませんから……」
メタな台詞を言い続けるイッキを尻目に、セイキが呟く。
「これまた胡散臭い話だな。まあさっきの話よりはましだけどな」
「ちょっと待て!今のは聞き捨てならんで!何で俺の話が信じられんねん!」
「素手で武装した男を二十人も倒すなんて信じられねえよ。俺達なら兎も角、普通の一般人がさあ……」
険悪な雰囲気になるセイキとニシキの間に、勢地郎が割って入り宥める。その間にイブキが蝋燭を一本吹き消した。残り六本。
「今のペースのままだと、夜明け前には終われそうだな」
残りの本数を数えてバキが呟く。
怪談(?)の宴はまだまだ続く。この物語も次の話へと続く。
53凱鬼メイン作者 ◆KxAq6DKEkg :2007/05/21(月) 20:16:09 ID:c3FwsDhr0
凱鬼メインの用語を、とりあえず見せられる程度にまで纏めたので、
お目こぼし失礼します。
http://www23.atwiki.jp/kachidoki/pages/1.html

>>諸先輩方
投下乙です。
54名無しより愛をこめて:2007/05/21(月) 20:55:13 ID:IxdjDMAL0
>>53
見たこと無い名前が有りましたが。
55名無しより愛をこめて:2007/05/22(火) 09:32:40 ID:kybWzI1d0
wikiはいいから作品投下しなよ。
そういえば風舞鬼とか一話だけ投下された作品ってどうなってるの?
56名無しより愛をこめて:2007/05/22(火) 12:35:37 ID:0wXEgttYO
若気の至りってヤシじゃないか?
とりあえずカチドキを書き進めてはどうか。
57志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/05/23(水) 13:03:34 ID:afCD6O8I0
ホントはコテハンで書き込むことじゃないかもしれないし、SS投下を散々やった後で言うのもおかしいとは思うのですが、このまま口を拭ってはいけない、と思いますので書き込みます。

私が今投下させていただいているSSは裁鬼メインの中での史実や設定にのっかっていて、裁鬼SSの登場人物である「イチゲキ」さんも時間軸上登場しています。
これは本来はSS作者様の許可なくして行ってはいけない行為であり、無断使用なのではないか、と気づきました。
これは前スレで現状荒れてる「あの問題」について考えていたときに起こった思いです。
ここまで書き進めていて、何を今更、とお怒りの声もあるかと思います。
しかし、現状SSのキャラクターの無断使用をしている状態というのは決して良くない、との考えに至りました。
改めて、裁鬼SS作者様のご了解を仰ぎたく存じます。
キャラクターの使用につき、まかりならん、ということであれば遠慮なくおっしゃっていただきたいと思います。
作者様のご迷惑にならないよう、しかるべく対処いたします。
ご返答、よろしくお願いいたします。
58名無しより愛をこめて:2007/05/23(水) 15:19:21 ID:9RxYM7KmO
>57
ずーっと前にも同じ質問があって、
その時に裁鬼の職人さん自身からしっかり回答出てたよ。
59志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/05/23(水) 15:47:03 ID:afCD6O8I0
>>58
そうでしたか。過去ログ見てみます。
ご無礼いたしました。
60志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/05/24(木) 01:07:22 ID:EF0aqpmB0
過去ログ読みました。
考えた結果、設定を踏まえたまま、投下を続けることにしました。
もともと書こうとした時に乗った設定がこれだったので、共有ありきで書き始めたのではないというのが自分の見解です。
設定が乗っている以上、「終わり」は決まっているものですが、自分流を貫こうと思います。
以後、コテハンでのこうした書き込みは避けます。
スレ汚れいたしました。陳謝いたします。
61名無しより愛をこめて:2007/05/24(木) 18:32:18 ID:EUI21fpkO
>高鬼さん
これは「お蔵入り」にしていい世界ではない
鬼であることを忘れないくらいにだが、どんどんやるべき世界だっ!
62裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/05/24(木) 21:15:52 ID:buqInqt6O
瞬過終闘―― 《十五 石割彩子 触れられぬ鬼道(やいば)》

2012年、新春。予定日を5日過ぎた彩子は破水し、救急車に乗せられていた。同伴するイチゲキは彩子の手を握り続け、妻を励ました。
励ますしかなかった。出産ほど男が無力なものは皆無であり、それは鬼であっても変わらぬ事だった。
1月4日。2日後に『栄介』と名付けられる天使の誕生と共に、サバキは未だ醒めぬ眠りの中で44歳の誕生日を迎えた。
確かな温もりと、恐ろしいまでの幸せに包まれていたイチゲキと彩子。
二人は現在―― 荒れ狂う波を挟む海峡の両端に立つ様に、交われずにいた。

午前11時23分、猛士中部支部。

山道を、逃げる。
木々の間を駆け抜け、小川を飛び越え、崖を転がりながら逃げ続けるその鬼の名は、粉雪鬼。
真白く短い四本の角と両腕は血に染まり、水色と銀で斑模様に輝く体もこびり付いた血と泥に被われていた。
「源じい‥‥ 舵鬼さん‥‥ 如月鬼くん‥‥ 圧鬼さん‥‥ 半月鬼‥‥」
絞り出す様にか細い呟きが、彼女を逃がしてくれた『人々』の名を紡いだ。
空色の髪を山風に靡かせる変身したハイキと、30人の黒い戦闘集団が長野にある猛士のロッジを包囲したのは20分前の事だった。
63裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/05/24(木) 21:17:03 ID:buqInqt6O
「おやっさんは出るな! 俺達に任せろ!!」
カジキは変身鬼笛を吹き鳴らしながらドアを開け、アツキ、コナユキ、キサラキ、ハヅキが変身しながら続いた。
「わ〜い☆ たたかお! たたかっていいよね!?」
跳躍したハイキの背後で構えていた集団は、右手の小型ガトリングガンを構えた。
「‥‥ふざけるなぁっ!!」
無言で戦闘集団が斉射する清めの音を殺す弾丸は、舵鬼達の身体に食らいつき、更に上空からハイキが両腕の刃を煌めかせながら着地、斬撃を放った。
鬼達の抵抗は10分も続かなかった。舵鬼と半月鬼の音撃管が3人の戦闘員を倒したが、ハイキの髪が鬼達を絡みつける様に伸び、その自由を奪っていた。
「たいきおんげきげん・びじんはくめー!」
ハイキが両腕の刃を振りかぶった時、ロッジのドアが開いた。
「やめなさい」
猛士中部支部長、田宮源次郎が現れ、ハイキは急ブレーキを掛けた様に停止した。
「え〜と‥‥ あれ?」
「もう止しなさい。私が投降する。これ以上、彼等を傷つけないでくれ」
手を上げて戦闘集団に近づく田宮に、ハイキは首を傾げながら訊いた。
「たたかうの、ダメ?」
田宮は無言で頷いた。しかし集団の一人が叫んだ。
「何をやってる!? 殺せ!!」
64裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/05/24(木) 21:18:10 ID:buqInqt6O
彼が徐に構えたガトリングガンからは6発の弾丸が飛び出、身動き出来なかった舵鬼の身体に飛び込んだ。
それと同時にハイキが構え直し、刃で伸ばした髪を叩き始めた。
「は〜い♪ ころしまーす!」
対鬼音撃の振動が鬼達を襲う中、粉雪鬼に隣接していた如月鬼が音撃弦で粉雪鬼の身体に絡むハイキの髪を斬り裂いた。
「逃げろ!!」
田宮も戦闘員にしがみつきながら叫ぶ。
「逃げるんだ! 小雪!!」

テンキが遺していた古文書を手に、イチゲキは振り向いた。
「‥‥」
「‥‥あなた‥‥‥‥」
湿った空気が風に飛ばされ、格子窓から零れる陽光に埃が舞う。
「‥‥此処なら、安全だ。イブキ君達も来るのか?」
頷く彩子に、イチゲキは笑顔を見せた、様な気がした。
「今‥‥ お父さん、迎えに‥‥」
話したい事がある。聞きたい事がある。抱き締めたかった。体温を感じたかった。
「‥‥俺は、戦いにいく。春香さんと、サバキさんを‥‥」
歩き出すイチゲキは、まるで別人の様だった。隣にいた筈なのに、支え合ってきた筈なのに、今目の前にいるイチゲキを、彩子はイチゲキと思えなかった。
「‥‥頼む」
65裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/05/24(木) 21:24:27 ID:buqInqt6O
その感覚は、昔、一度ある。
サバキがヤマアラシに敗れ、入院した日。初めて真実を知らされ、『鬼』に変身した石割生人と馬場蛮次を見た、その瞬間に酷似していた。
「‥‥」
麻痺した身体を抱き締められた。覚悟だけが伝わり、彩子は涙を流す事すら、出来なかった。
どれくらい時が過ぎたのか解らなかった。イチゲキが姿を消し、あきらが風にめくられる古文書の山と座り込む彩子を倉の中で見つけた時には、空は再び黒い雲に覆われようとしていた。

「‥‥おっちゃん、堪忍や‥‥」
粉雪鬼は、舗装された山を貫く県道に倒れた。どれだけ逃げたのか解らない。
足音が、聞こえる。
「‥‥もぉ‥‥ ええわ‥‥」

しかし足音の主は粉雪鬼を抱きかかえながらガードレールを越え、一気に跳んだ。戦闘集団は彼女を発見出来なかった。
思考が低下する中、彼女は鬼の身体のまま、下流の河原に張ったテントに隠されていた。
「‥‥アンタ、スゴいねぇ‥‥ 何で、ウチ、助けてくれたん‥‥?」
足音の主は、右手で敬礼したかと思うと手首を返し、柔らかなピースサインを作った。
「まだまだ、鍛えてますから!」

続く
66裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/05/24(木) 21:47:15 ID:buqInqt6O
【今日の裁鬼さん】

特別編・今日のトドロキくん

「石割くん、タマってませんか?」
「いやあ、最近裁鬼さんのサポートで忙しくて‥‥」
「いけませんね〜! あ! そうだ。今からアタシが、スッキリさせてあげます!」
「いやいや、悪いよ日菜佳ちゃん‥‥」
「ダメです! さあ、横になって下さいね。 もぉ全〜部っ!! お任せ下さいませ〜」
「‥‥じゃあ、ちょっとだけ‥‥」
「ハイハイ! あ、ティッシュティッシュ‥‥ じゃあ、楽にして下さいね」
「は、はあ‥‥」
「それでは、モノを拝見‥‥ ムムム、汚れてますねぇ〜!!」
「‥‥はずかしい」
「お任せあれ! キレイキレイしましょうね〜」
「‥‥」
「‥‥」
「あっ、そんなトコロまで‥‥」
「ふっふ〜ん、もしかしてココ、弱いんですか?」
「はあ‥‥」
「優し〜ぃくしますからね♪」
「‥‥」
「‥‥」
「‥‥うっ!」
「おお〜っ! いっぱい出ましたよ〜!」
「いやぁ、スッキリしたぁ〜」
「なんのなんの! またいつでも言って下さいませ。アタシのテクニックは、ヒビキさんのお墨付きですから〜」
外で聞いてたトドロキ「ε≡(つдT)」
「いや〜スゴいなぁ、日菜佳ちゃんの耳そうじ」

トドロキ● 【趣味は耳かきコレクション】 ○日菜佳
67名無しより愛をこめて:2007/05/24(木) 21:58:21 ID:yHmYVd640
イヤ━━━━━━(n‘д‘)η━━━━━━ン!!
68名無しより愛をこめて:2007/05/24(木) 23:23:17 ID:n0y0lsAaO
ヒビキさん(゚∀゚)キター
69仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/26(土) 14:26:06 ID:BV3E0vSh0
前回までのあらすじ…シティボーイズと茸狩り


「次、誰が行きます?」
イブキが周りを見回しながら尋ねた。
「俺が行こう」
そう告げたのはアカツキだった。
「アカツキさん、まだ何かネタがあるんスか?」
珈琲を飲みながら石川が尋ねる。
「まあな。これから話すのは……まあ怖い話だな。ある意味」
「おっ、漸く百物語っぽくなるか?」
やはり珈琲を一口飲みながら、セイキが嬉しそうな声を上げる。
一度全員の顔をざっと見渡した後、アカツキは話を始めた。彼が東北支部に居た頃の話だ。
70仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/26(土) 14:27:26 ID:BV3E0vSh0
九十五話目「食らいつく屋敷」

東北支部の鼻摘まみ者だったアカツキは、他の鬼がやりたくないような任務ばかりを割り振られていた。尤も、毎回それを難無くこなして戻ってくるため、それが増長する原因の一つとなっていたわけだが。
その日、アカツキはツブヤキという名の同僚と一緒に、青森へ向かうよう命令を受けた。場所は三戸郡新郷村の近くだと言う。
新郷村は嘗て戸来村と呼ばれており、そこにはキリストの墓があるとされている。実際、ユダヤに纏る伝承や遺跡も多い。また、古代の祭祀場と思われる石造りのピラミッドも存在している。
さて、今回アカツキ達が向かう場所についてだが、何でも江戸時代に隠れキリシタンが住んでいたらしい。弾圧から逃れるべく、山の奥へ奥へと分け入り、地図にも載らないような場所に集落を形成したのだと言う。
そしてその集落の近くでは、何十年も前から登山者が神隠しに遭っているのだそうだ。魔化魍が関与している可能性が無いため、猛士は長らく放置してきたが、とうとう重い腰を上げる事となったらしい。
愛車である「陸震」に乗って現場に到着したアカツキを、既に到着して待っていたツブヤキが迎えた。
「お疲れ様です」
ツブヤキが蚊の鳴くような小声でぼそっと言った。
ツブヤキはアカツキより少し年下の鬼だ。また、珍しい毒属性を持つ鬼なので、支部としても使い辛いらしい。何せ毒属性の鬼は、一歩間違えれば魔化魍以上の被害を周囲に振りまく惧れがあるのだから。
「この先か……」
目の前には集落へと続く一本道が伸びていた。これ以上先はバイクでは無理がある。アカツキが「陸震」から降りようとしたその時。
「……ふん」
アカツキは音撃管・水晶を取り出すと、構えた。そして発砲する。銃声に反応して、一匹のカシャが飛び出してきた。
「神隠しの原因は貴様か?……まあそんな事はどうでもいいか」
変身鬼笛を吹き鳴らすアカツキ。ツブヤキも変身音叉を打ち鳴らす。眩い光がアカツキを、紫の煙がツブヤキを包み込んだ。
鬼の登場にカシャは、集落へと続く道を通って逃走していく。
「追うぞ」
呟鬼にそう告げると、暁鬼は後を追って走り出した。
71仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/26(土) 14:28:55 ID:BV3E0vSh0
集落は静まり返っていた。それもその筈、この村はとっくの昔に廃村となっているのだから。
どれだけ長い間風雪に晒され続けてきたのだろう、嘗て村人が住んでいた家屋は、どれも朽ち果てていた。
そんな中、集落の中心にある一軒の大きな西洋建築のみが、全く風化せずに聳え立っていた。
怪しい。あまりにも場にそぐわない。しかもその建物の中にカシャが逃げ込むのが見えた。
慎重に屋敷の傍へと近寄る二人。ここがカシャの巣となっている可能性は否定出来ない。
扉を蹴破り、「水晶」を構えた暁鬼が踏み込む。続いて呟鬼が屋敷の中へと入り込んだ。
屋敷の中に埃は溜まっていなかった。飾られてある調度品も、まるで新品のようだ。人が居ない筈の集落なのに……。
屋敷は二階建てだ。とりあえず暁鬼が一階を、呟鬼が二階を捜索する事になった。何かあったら式神で知らせるようにして、二人は別れた。
呟鬼が二階へ続く階段を上っていく音を聞きながら、暁鬼は近くにあった部屋の扉を開けた。「水晶」を構え、用心深く入り込む暁鬼。やはり埃は溜っていないし、換気が出来ている筈も無いのに全く黴臭くない。
おかしい。それに先刻から感じる異様な気配は何だ?カシャのものとは明らかに違う。
室内に何も潜んでいない事を確認すると、暁鬼は部屋を出て別の場所の探索を開始した。
それを何度も繰り返しているうち、とある部屋の前で小さな気配を感じた。小さな、と言うか今にも消え入りそうな感じだ。
暁鬼が扉を蹴破り室内へと飛び込む。そこで彼が見たのは。
「何……?」
我が目を疑う暁鬼。そこには、体の半分以上を壁に飲み込まれて苦しそうに呻くカシャの姿があった。
カシャは、暁鬼の目の前で完全に壁の中へと飲み込まれてしまった。カシャが飲まれた後の壁に、まるで水面のように波紋が浮かび上がった。
その光景をただ呆然と眺めているだけだった暁鬼だが、直ぐ様踵を返すと二階へと駆け上がっていった。
この屋敷がヤバいという事は確定した。二人ばらばらに行動するのは危険だ。
呟鬼を探し、二階の各部屋を順に見ていく。何処だ、何処に居る?
72仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/26(土) 14:30:06 ID:BV3E0vSh0
とある部屋に入った時、暁鬼は再び信じられない光景を目の当たりにした。
そこには、先程のカシャ同様体の半分以上が壁に埋まった呟鬼の姿があったのだ。
苦しげに右腕を伸ばす呟鬼。だが暁鬼にはどうする事も出来ない。そうしているうちに、呟鬼の体は壁の中へと消えていく。
呟鬼の全身が完全に壁の中へと飲み込まれた。壁に広がる波紋。静寂が室内を包み込む。
刹那、危険を感じた暁鬼は「水晶」を乱射しながら、部屋から転がり出た。だが既に遅かった。
廊下が、まるで生き物のように脈打っている。否、本当に生き物なのかもしれない。外の方がむしろ危険と判断した暁鬼は、再び室内へと入り、堅く扉を閉めた。
と、室内の椅子だの机だのと言った調度品が、暁鬼目掛けて飛んできた。それらを回避し、間に合わないものは銃撃で破壊する暁鬼。
床が、廊下同様脈打ちだした。まるで泥沼の上に立っているような感覚に襲われる。
暁鬼は窓目掛けて発砲すると、渾身の力で跳躍し脱出を試みた。割れた窓を抜け、屋外へと跳び出す。だが。
彼の右足首に、床から伸びてきた触手のようなものが絡み付いていた。逆さ吊りの状態になる暁鬼。「水晶」の圧縮空気弾を撃ち込もうとするが、それを察したのか触手が彼の体を振り回し、照準を定められない。
どれだけの時間振り回されていたのだろうか。触手は、暁鬼が抵抗出来なくなったと悟ると、室内へと引き戻そうとした。
だがその時、異変が起こった。急に触手の力が緩くなったのだ、
(どうやら効いてきたようだな……)
触手へ向けて発砲し、地上へと無事下り立つ暁鬼。屋敷全体が苦しそうに蠢いている。
この化物屋敷にとって最大の誤算は、呟鬼を食べた事だ。毒属性である彼の体は、血の一滴に至るまで毒に染まっている。それは、定期的に毒を中和するための投薬を受けなければ自分自身の毒で倒れてしまう程のものだ。
その呟鬼を食べたのである。しかも暁鬼を拿捕するべく動きまくっているのだ。毒の回りも早くなると言うもの。
駄目押しとばかりに、暁鬼は屋敷に向けてありったけの鬼石を撃ち込み、音撃射をお見舞いした。大きな爆発が起こり、粉塵が舞い散る。その中から、集落の他の建物同様、ぼろぼろでこぢんまりとした西洋建築が現れた。
73仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/26(土) 14:31:16 ID:BV3E0vSh0
帰り道、アカツキは今回の件について考えを巡らせていた。
(俺とツブヤキの二人である必要が何処にある?)
そしてもう一つ気掛かりな事があった。
(あの屋敷、本当に猛士は何も知らなかったのか?)
ここでアカツキは恐ろしい仮説に辿り着いた。東北支部はあの屋敷がどのようなものか知っていたうえで我々二人を送り込んだのではないか、と。
つまり、あの人食い屋敷に送り込む事で、使い難い人材を体よく処分しようとしたのではないか、と言うのだ。アカツキは以前から支部内で異端視されていたし、ツブヤキも属性故にしばしば邪険に扱われていた。
二人共、支部の中では浮いた存在だったのだ。嫌われ者だったのだ。だから魔化魍との戦いで戦死したという形で処理出来るのであれば……。
アカツキはそれ以上の事は考えなかった。反吐が出る。どうせ問い質したところで、知らなかったと言われればそれまでだ。
(確か登山者が行方不明になっているんだったよな……)
情報の裏付けを取る必要がある。万が一そのような話が過去に全く起こっていなかったとしたら……。
(その時はその時か……)
アカツキの乗った「陸震」は爆音を立てながらその場を後にした。
74仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/05/26(土) 14:33:07 ID:BV3E0vSh0
アカツキの話が終わった時、場の空気は最悪なものとなっていた。
「……結局どうしたのかね?」
皆を代表する形でコウキが口を開いた。
「別に。ただ、この一件のすぐ後、俺の関西支部への出向が決定した……とだけ言っておきましょうか」
次にバキが質問をした。
「その屋敷ってさ、結局何だったわけ?俺が思うにそれ、スライムの一種が取り憑いていたんじゃないかと思うんだけど……」
「詳しくは分かりませんが、どうやらそういう風に結論付けられたみたいですね」
「スライム?」
石川が何の事か分からないと言った風に呟いた。それに対しイッキとセイキがそれぞれ説明してやる。
「知恵を持ったアメーバみたいなものです。でもそれってSF小説の中だけの話なんじゃ……。ラヴクラフトとか……」
「あとあれだな、映画に出てきたブロブって怪物」
「ああ、『マックイーンの絶対の危機』のあれか……」
理解する石川。
「そのスライムが古い屋敷を丸ごと覆っていたんですよ。だから無駄に大きく、そして綺麗に見えたんだ」
「でも本当にスライムなんて居るのですか?さっきも言った通り、小説の中だけじゃ……」
「逆に考えなよ、スライムが実在するからそれを参考に小説が書かれたんじゃないかって……」
バキの言葉に、イッキがとりあえず納得の表情を見せる。
「おそらく当時の宣教師と一緒に渡ってきたものが何百年も生き続けていたのではないかと。人や獣や魔化魍を食べ続けてね……」

「……そのツブヤキという人、本当に助ける余地は無かったのですか?」
イブキの問いに、アカツキは何も答えなかった。
「……お前、よもやわざと見捨てたのではあるまいな?」
コウキが追い討ちを掛けるように言う。
「大体このような場で、そんな仲間が死ぬような話をしおって……。見ろ、思いっ切り興が醒めたではないか」
「じゃあ一つ聞きますがね。さっきまでの皆さんの話で、誰一人犠牲者が出なかったケースはどれだけありました?……俺がこの話をしようがしまいが、最初から不謹慎な集まりには違いなかったんですよ」
誰も言い返せなかった。
「確かに……面白半分でこんな事するんじゃなかったかもな」
「どうします?もうお開きにしますか?」
誰もがイブキの言う通りにしようとした時、部屋の扉が開けられた。
次の話へ続く。
75名無しより愛をこめて:2007/05/26(土) 16:12:12 ID:GQ80n7gk0
乙です。前回のもいま読んだんですが、イッキが使う変身道具は鬼弦ではなく音叉では?
76高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2007/05/26(土) 16:44:04 ID:BV3E0vSh0
>>75
あっ本当だ!全然気付いてなかった…。
ご指摘有難うございます。件のシーンは
>意を決してイッキは腕の変身鬼弦に手を掛けた。

>意を決してイッキは変身音叉を手にした。
に。
>イッキは弦を鳴らした。

>イッキは音叉を鳴らした。
に訂正します。元々お蔵入りバージョンじゃ別の鬼でやる予定だったので、修正をミスったみたいです。
すみませんでした。
 二体の大きな影が風のように疾る。
 親子ほども歳の開きのある二人であった。
 二人とも身の丈百八十センチを優に越えており、常人を遥かにしのぐ質と量の肉を備えて
いる。共に大型の管楽器を納めるのに使うようなケースを負い、腰の裏には一対の撥を携え、
体躯からはおよそ想像できない──いや、ヒトの常識からおよそかけ離れた速度で疾走して
いた。大通りを走る車の流れとほとんど変わらぬ速さであった。
 その三米ほど後ろを、痩身長躯の壮年の男と十代後半と見える少年とが同じく並走し、更
にその後ろを三十代半ばの口ひげを蓄えた男が追いかけていた。
 奇怪な一団であった
 皆腰に手を当て胸を張り、しかもほとんど音を立てること無く移動していた。身体にぴっ
たりとした、光をほとんど反射しない生地で出来た衣服を身に着けている。
 オートバイの間近や時たま歩道の端を歩いている人間を追い抜いてゆくのだが、誰もこの
一団の存在に気づく様子は無い。
 忍術に穏形(おんぎょう)術というのがある。
 人間は気配の存在しない物体に対する認識能力は著しく低下するという。その現象を利用
した隠れ身の術である。一団は完全に気配を完全に断っているため、道行く人の眼にその姿
は映っていはいても脳が存在を認識出来ないのであった。
 一団は晴海通りを南へ下り勝どき橋を越え、清澄通りに突き当たったところで右に折れた。
 伊賀乱波の裔(すえ)を名乗り、歴史の闇のそのまた裏側で生き続けてきた者たち。

 御所守。

 彼らの負う役目を知る者たちは、皇城の守護者の意を込めてそう呼んでいた。
 広葉樹の並木の影から陰へ。枝葉をらしながら、清澄通りを江川の通ったルートをトレー
スするように進んでゆく。
 新島橋を過ぎると昼間でも人通りが極端に少なくなる。月島警察署が見えたところで御所
守らは漸く穏形を解き、足を止めた。
 警察署裏手の豊海運動公園で、「草」の逸見巡査長を通じて手配した警官隊と合流する手
はずになっていた。清澄通りは月島署のすぐ先で車止めのバリケードで封鎖されており、二
人の若い警官が警備に着いている。奇態な一団が不意に姿を現したにもかかわらず、別段驚
様子くが無い。そのはず、知った顔であった。これは逸見の配慮であろう。
 御所守は公官庁に自分たちにゆかりのあるものや家系に連なるものを「歩」として送り込
み、有事においてスムーズに行動できるように取り計らってきた。これら特別なポジション
にある「歩」を、祖先の使った密偵になぞらえて「草」と呼んでいる。
 初音と葛島が築地市場から水路を使い──御所守の機動力についてこれない葛島に対する
フォローである──一足先に合流し避難誘導の支持を出しているはずであった。
 五人が互いを見合わせ、頷く。
 出撃前のミーティングで各個の役割は決めた。
 ハバキはここから地下に潜り、ショウケラがこのエリアから脱出できぬよう水路に結界を
張る。ヒラメキと肇は葛島らと合流し、付近住民の避難誘導と被害地区の生存者の確認。シ
ブキ師弟は同じく生存者の確認をしつつ、ショウケラの「巣」と思しき工事現場を急襲。避
難誘導が完了すれば最終的にハバキ以外はシブキ師弟に合力し、速やかに魔化魍殲滅を完了
することになっていた。

「散」

 長が古めかしい言葉で号を掛けた。
 以降、躊躇も逡巡も無用のものと知れ。

 師弟は、東卸豊海住宅と三光水産を左に見ながらバリケード脇を並足ですり抜けた。建物
の各階の片隅に警官の姿が見える。ここは既に避難誘導が入っているようであった。女性コ
ンビは予定よりもかなり早く到着できたらしい。
 ここから先は冷凍倉庫棟がひしめくエリアになる。
 ショウケラは低温を嫌う魔化魍であるから、常に氷点下で保たれた庫内で作業をしている
人間はおそらくは無事であろう。
 頼むからそこから動かんでくれよ。いまから儂らが魔化魍をやっつけてやる。お仲間には
すまねえことをしたがもう少しの辛抱だ。待っていてくれ。
 届かぬ祈りを心の中で繰り返す。
 師匠の悲壮な表情を横に見ながら弟子は切なさを募らせる。掛けてやれる言葉を捜すが、
頭の悪い自分には気の利いた科白が思いつかない。だったら俺に出来ることは身体を使うこ
とだけだ。鹿爪らしい顔で、腰で揺れている銀色の鬼笛──音渦を堅く握り締めた。
 十米ほど先の公園に気配人のを感じたのは二人ほぼ同時であった。
 腰の銀板を礫とし、金銀の笛を高らかに吹き鳴らす。絹を裂く悲鳴が上がったのはその刹
那であった。 


 加納遥はその日、娘のかなたと共に散歩がてら昼食の調達に出かけた。
 都営のアパートを出て路駐のトレーラーやトラックでいっぱいの道を、愛娘とお話をし
ながらゆるゆると歩を進め、公園に面した東京水産会館一階にあるコンビニに入ったとこ
ろで、漸く異変に気がついた。
 店内はもぬけの殻であった。客はおろか店員すら居なかった。無人の店内を有線放送の
インストゥルメンタルだけがにぎわせていた。
 おかしいと思わなかったわけではない。
 アパートからここまで約三百米ほど。平日の正午過ぎ、付近の会社や水産倉庫詰めの人
間達が昼食をとりに外を出歩いているはずの時間であるのに、人っ子一人出会わなかった。
 しかし、人影が見当たらないという以外は常と変わらぬ風景が遥の判断を鈍らせた。
 
「ママ、どうしたの?」

 幼い声が、不可思議な風景に取り込まれかかっていた意識を引き戻した。
 いまどき珍しい手動のガラス扉を半開きにしたまま、入り口で立ち尽くす母親を五歳に
なる娘が不思議そうに見上げていた。

「あ、うん。ママお財布忘れちゃったみたい。お家に戻ろう」
 かなたに動揺を気づかれないように平静を装ってみたが、膝が笑っている。ビニールの
サンダルをはいた足が滑(ぬめ)るのは気温のせいだけではあるまい。
 生き物の気配は感じ取れないのに、はっきりとした視線を感じる。
 全身を睨(ね)め回される不快感。
「かなおそばがたべたいな」
「ごめんね。お金がないんだ、一回戻ろうね」

 努めてはっきりと喋る。かなたに言い聞かせるには大きすぎる声。
 自分たちはここから去る。だから何もしないで。心の中で誰に対してか懸命に繰り返す。
 納得のいかない顔をしているかなたの手を取ると、ゆっくりと踵を返し、続いて駆け出
そうとした。

「鋭いニンゲンだこと」

 ひどくしわがれた声であった。
 駆け出そうとした先にソレはいた。
 職人のような格好をした女であった。さらしだけの上半身。変わった形のヘルメットを
乗せている。片方だけ見える目は左目はどろりと見開かれ、長く艶やかな髪と、不自然さ
なほど青白い肌とのコントラストは「この世のものとは思えぬ」妖艶さを放っており、禍々
しさすら感じる。

「駄目じゃないか、子供たち。餌が逃げちゃうだろう」

 湿気の鬱陶しさに得体の知れない恐怖感が上乗せされた。

 この女(ひと)は何を言っているのだろう?

 全身から、冷たいものが大量に噴き出していた。
 小刻みに震えだした腕に小さな細い腕が絡みつき、しがみつく。遥はこの女がヒトでは
ないことを本能的に悟った。
 逃げなきゃ。植え込みを周って大通りへ出るまでどのくらいだろう。走るならサンダル
は邪魔だ。

 「柔らかそうなメスとコドモだよ。『かか』が手伝ってやるから早く食べちまいな」

 女が男の声で言った途端、背後の店内に突如複数の気配が出現した。

「嫌!」

 かなたを抱き上げ、女を突き飛ばし駆け出しすのと、背後のウインドウが派手な音を立
てて吹き飛ぶのはほとんど同時であった。

 かかかかかか

 鳴き声とも笑い声ともつかない音を上げ、複数の「何か」がすさまじい勢いで迫って来
る。サンダルを脱ぎ忘れた足が伸び放題の芝生にとられ、もつれた。まだ公園の中央に到
達したところだ。逃げ切れない。

 この子だけは──!

 死を覚悟し、かなたを抱えこんだ瞬間。
 
 凝!

 鳥の鳴き声のような鋭い音を合図に、笑い声が苦悶のソレに変わった。続き、重いものが
地面を叩く音六つ。鬼か、と無感情に叫ぶ声が聞こえた。
 顔を上げると二つの鳥形が、片や遥たちを囲む「何か」を威嚇するかのようにホーホーと
鳴きながらホバリングし、片や親子を気遣うようにおろおろと頭上を旋回ていた。夜の猛禽
のような姿をした藤色のボディは美しく煌き、工芸品のようにさえ思える。
 大通りに面した公園の入り口から巨大な人影が二つ、こちらへ近づいてくるのが観えた。
それらは人の範疇からはかけ離れたスピードで見る見る距離を詰めながら、右手に握った金
属光を放つ塊を口元にあてがうと一気に吹き鳴らした。
82皇城の〜の中の人 皇城の鬼:2007/05/27(日) 19:26:26 ID:e9nXj0AN0
>>80修正

片方だけ見える目は左目はどろりと見開かれ、

            ↓

片方だけ見える左目はどろりと見開かれ、
83皇城の〜の中の人 皇城の鬼:2007/05/27(日) 19:33:42 ID:e9nXj0AN0
〜予告〜

 清涼なる音高らかに。真夏の空を切り裂いて。

 霧笛に似た甲高い音色。
 音が呼んだのは渦であった。

 金色(こんじき)と銀(しろがね)の笛煌々(きらきら)と。額に重なる鬼の顔。


「史郎、でもんすとれーしょんだ。一人でやってみな」

「ほーら、ユデダコさんだ」


次回、「予定は未定」に「音激斜射・一吹怒涛!」
84名無しより愛をこめて:2007/05/27(日) 22:52:26 ID:q3eXacI10
 ,,,,,
( ・ω・) 待ってたがな
彡,,,ノ
85皇城の〜の中の人 ◆COP3Lfy.8w :2007/05/28(月) 17:40:26 ID:qz18LjiA0
>>70修正

気配人のを→人の気配を
86名無しより愛をこめて:2007/05/29(火) 12:16:45 ID:bNBQLXjhO
皇城さんの江戸結界ってテーマは帝都大戦とか結構扱われてますよね?
魔化魍が結界内で出現するってのが気になる。
些細な事かも知れないけど好きな作品だけにね!
87名無しより愛をこめて:2007/05/29(火) 23:49:10 ID:yBj/WxWI0
>>86
「一之巻」参 side Aを見ると、結界の効果は『魔化魍を完全に発生させない』コトではなく、
『発生数を減らすと共に、外部からの魔化魍の侵入を防ぐ』コトにあるみたい。
結界内で発生した魔化魍は、結界内で修行を終えた鬼と等しく、呪力に縛られないらしい。

作者の100%が読者に伝わることは稀なので、読んだヒトの心に自然と残るように書ければ
いいんだろうけど、難しいねぇ。俺は「なんかそんなことも書いてあった」程度には覚えてたんで、
アタリをつけてまとめサイトに見に行って確認したけど。
8886:2007/05/30(水) 12:38:12 ID:xScDA6r8O
>87サンクス。夜にでもまとめに飛んで確認するよ!
結界内部で発生した魔化魍ならば弱いのか?
守護鬼達は雑魚キャラ相手とか変な想像してたんだ。
結界呪力に縛られない魔化魍だと話しは別だな!
好きな鬼は強くあって欲しい。敵は厄介でいて欲しい。
単純だがそんなとこ。スレ消費スマン!
89皇城の〜の中の人 ◆COP3Lfy.8w :2007/05/30(水) 14:55:17 ID:W0RDKbKi0
 江戸の風水結界は本来江戸の地の富貴繁栄のために造られたられたもので、
「外敵の侵入を防ぎ、陽の気を逃がさず繁栄を祈願する」というのが本来のシステ
ムであるとされています。(実際、江戸城は建築されてから一度も落城した記録が
無いそうです。ただし太平洋戦争における大空襲で焼け落ちたケースは別とします) 
 拙作ではそのあたりを引用させていただき、響鬼の設定にそぐうようにいじらせて
頂きました。
 ですので、結界自体は対魔化魍用に張られたものではなく、外敵から街を、ひい
ては幕府を護るためのもので、江戸の外の魔化魍の侵入を防いでいるのは副産物
であるという定義であります。

 結界内で生じた魔化魍はむしろ通常より強力凶悪であるとしているつもりです。通
常より繁殖スピードが速かったり、あるいは同じ固体よりも強靭であったり、本来なら
ば持ち得ないはずの「知恵」や「感情」を持っていたりします。(序、の三人の鬼達の
会話そして>>86様のおっしゃるとおり、参、肆、を参照いただけると幸いです)

 判りにくくて申し訳ありません。精進いたしますので、皆様、今後もどうかよろしくお
付き合いください。
90名無しより愛をこめて:2007/05/30(水) 17:41:54 ID:zB6kH4sYO
漫画版陰陽師だと京の結界は現世には強固だけど重なりあう別次元には脆いとか言われてたね
別次元から来たモノが現世では外に抜けられず、怪異が頻発するとか
91志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/05/31(木) 18:37:57 ID:Izbqn6o60
六之巻 交わる音

勢地郎の指示でエイキとバンキの装備を回収に向かったゴウキとトドロキは一晩宿泊した後、ゴウキがエイキの車を運転して帰路につくことになった。
「昨晩日菜佳さんのメールで送ってもらった資料で大体の事は把握出来たんスが、事は相当厄介っスね」トドロキは宿のロビーでゴウキと向かい合わせに座っていた。
朝食も済み、チェックアウトを終えたら一旦たちばなへと戻り、再度シフトに入るための準備に入る事になっている。
「ああ、鬼封呪の解除の仕方についてはおやっさんや日菜佳ちゃんが調べてはいるみたいだが、何分吉野でも存在自体を知っている者が殆んどいないらしいからな。こっちとしては今のところ、かけられそうになった時には逃げる以外方法がなさそうだ」
そう答えたゴウキの腕時計は午前九時を少し回ったところだった。
二人の前にはコーヒーが柔らかい湯気を立てている。
「しかし、鬼封じの呪法で、しかも鬼しか使えないものがどうして魔化魍に扱えるんスかね?」
「……トドロキは『血狂魔党』の話は聞いた事ないのか?」
「チグルマトン?ラム肉の種類っスか?」
「違う、血に狂う魔の党と書いて『ちぐるまとう』、と読むんだ。血狂魔党というのはかつて魔化魍が組織していたモノだ。あくまで伝承でしかないが、その中には人に対する憎しみに満ちた鬼もいたという話もある。『奴等』が絡めば決してありえない話じゃあない」
「まさか、京介がそれに係わっているとでも言うんスか?あり得ないっスよ」
「俺もそう思う。だが、すでに五人の鬼がやられているし、内三人は鬼封呪の疑いが濃い。本当に鬼の呪法となれば、何らかの形で鬼の力が利用されているという可能性もある」
「…………」
「勿論まだそう決まった訳じゃないが、今回の一連の事件に『奴等』が絡んでいる以上はより一層の注意が必要だろう」
「……そうスね」トドロキは砂糖とミルクをたっぷり混ぜたコーヒーを啜りながら浮かない顔をした。
半年前の京介の嬉しそうな顔が目に浮かぶ。
92志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/05/31(木) 18:40:30 ID:Izbqn6o60
「明後日から関西に行くことになりました」京介がトドロキに関西行きの話をしたのは京介の短期移籍の二日前のことだった。
「ヒビキさんから暫く弦と管の修行をして来い、と言われまして……。無事終わった後は独り立ちの試験をしてくれるそうです」京介は厳しい修行や試験のことを通り越して、早々と独り立ちした自分を思い描いているようだった。
トドロキもそんな京介の様子に釣られて、図らずも自分の修行時代を思い出した。
『俺の時はザンキさんの怪我でいきなりデビューだったけど、まずい独り立ちだったよなぁ。魔化魍を『雷電激震』で清めたのは良かったけど、気が抜けて全身解除。
ザンキさん、苦笑いしながら、早く顔だけ解除するのを覚えろよ、恥ずかしい、って自分のコート掛けてくれたっけ』
「……トドロキさん、どうしたんです?顔赤くして」
「あ、い、いや、良かったじゃないか、京介!……ようし、それじゃちょっと早いけど前祝いだ!寿司でも食いに行くっスよ!」
いぶかしげに顔を覗き込む京介にあははは、と大笑いしながら、その後日菜佳を加えた三人で、しっかり光りモノ食うっスよ、と食事に出たのだった。
トドロキ自身は第一印象が悪かった京介にはヒビキに弟子入りした当初も面倒な奴と思わされることが多く、正直長くはもたないだろうと思っていた。
しかし、こうして長い修行に耐え、もうすぐ独り立ちとなるこの少年の嬉しそうな顔を見ていると、トドロキはまるで自分の事のように嬉しくなる気持ちを抑えられなかった。
93志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/05/31(木) 18:41:50 ID:Izbqn6o60
「……トドロキ、浮かない顔だな」ゴウキの呼びかけにはっ、とする。
「い、いえ。何でもないっス」トドロキは自分の不安を打ち消すように返事した。京介に、いや鬼に限ってそんな状況はあり得ない。
たとえ修行中の者であっても確たる意思でそれを目指している者が魔化魍に与するなどと言う事は、純真無垢の塊といえるトドロキには考えられない事だった。
コーヒーを飲み終えフロントで支払いを済ませると、二人はそれぞれ車に乗り込んでたちばなへと向かった。
94志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/05/31(木) 18:42:42 ID:Izbqn6o60
一方、トウキのフォローに入ることになったイブキとイチゲキは夜が明けてからイチゲキの車でトウキがウブメに倒されたと疑われる湖に向かい、その近くにベースキャンプを張った。
幸いなことに、地元の歩からも昨日まで魔化魍らしい動きはないという報告を受けており、イブキはこれ以上の犠牲が避けられそうな状況に安堵していた。
「トウキさんが鬼封呪によってやられたとすると、敵方に鬼がついているという事になるのかな」イチゲキがディスクケースを広げながら話しかけてきた。
「しかし、拉致された京介君が『奴等』に靡いているとは到底考えられない。もしかすると、『奴等』は鬼しか使い得ない呪術も使えるのかもしれない。……イブキ君、君はどう思う?」
「僕も同じ意見です、イチゲキさん。鬼封呪自体が失われた術だと事務局長もメールで言っていましたし、むしろ『奴等』が何らかの方法でその力を得たのではないかと思います」
「そうすると、京介君はそのために『奴等』に捕らえられたという図式が成り立つね。今までの『奴等』のやり方からすると、これも何かの『実験』なのかもしれない。出来るだけ早く鬼封呪への対抗策を見つけ出して京介君を無事に救出しなければ」
「いずれにしろ、完全後手の現状は何とかしたいですね」
「そうだね」話しながらも手を休めることなくケースを開くと、二人はディスクアニマルを展開して魔化魍の探索に当たらせた。
95志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/05/31(木) 18:56:32 ID:Izbqn6o60
帰路に就いたゴウキとトドロキだったが、暫く走ったところで奇妙な感覚に襲われた。
心の信号が黄色を示す。魔化魍か、と思ったトドロキは車を左に寄せると、ダッシュボードから浅葱鷲を二枚ほど起動させ、頼むっス、と言って空に放った。
ゴウキも同様に茜鷹を放ち、二人は状況を確認するべく車を交通の邪魔にならないように移動させると、エンジンを切って車を降りた。
「どう思う?」ゴウキがペットボトルをトドロキに差し出しながら問いかけてきた。
「歩の報告のない場所っスから、まだ出たばかりの奴かもしれません」ボトルの口を切り、ゴクゴクと中のミネラルウォーターを飲む。口の中が乾いたようなのも魔化魍を感知しているせいかもしれない。
しばらくして、一羽の浅葱鷲が戻ってきた。ひどく急いでいる。
トドロキの肩にとまると、ぴぃい、ぴぃい、と激しく鳴き出す。
その勢いに二人は状況を理解すると、すぐさまラゲッジにある音撃武器を取り出した。
間髪を入れず、二人の十数メートル先の路面を割ってノツゴが出現した。
「くっ、こんなところに稀種か!」ゴウキが舌打ちする。
ノツゴ自体は出現頻度が三十年周期と言われ、どちらかといえば稀種魔化魍に区分される。
しかし、出現地は同一地点に重なることが多く、今回のようにノツゴがイレギュラーとも言える出現をしたのは『オロチ事件』以来の事だった。
オロチの時のノツゴは大量発生の影響か通常のものよりも若干御し易かったが、二人が見た限り、今回の相手は相当苦労させられるであろうと思われた。
ノツゴの外身は硬い殻に覆われていて、装甲響鬼の『鬼神覚声』をもってしても砕くことは出来なかった。
無論、鬼達は響鬼の経験を踏まえ更に自らを鍛え上げてはいるのだが、それ以来ノツゴは出現していなかった為、自分達がこの稀種に対して何処まで戦えるのかは実際のところ二人にも分からなかった。
しかし、やらねばならない。
今、ここで倒せなければ多くの命が危機に晒される事になる。
二人は決死の覚悟を持って鬼弦を弾き、音叉を弾いた。
96志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/05/31(木) 18:58:45 ID:Izbqn6o60
イチゲキとイブキが放った探索の網には魔化魍は掛からなかった。
「移動したのでしょうか」イブキがイチゲキに振り向いて尋ねる。
「……もしくは最初から存在していなかった、か」イチゲキは遠くを見ながら呟いた。
「……え?」
「あくまで可能性の話だ、イブキ君。昨日も話していたようにトウキさん程の人が魔化魍に後れを取るというのも早々俄かには考えられない。
つまり、何らかの異常があったと考えるのが筋だと思う。おそらくはこちらのデータにないパターンの攻め方をされ、鬼封呪にかけられた、という事だと僕は見ている。
例えば、幻覚や呪法の類。いや、こちらは既に鬼封呪というのが当て嵌まるな。後は、稀種か新種……」イチゲキの話が終わらないうちに後ろのほうから激しい水音と共に桃色がかった銀色のウブメが二体出現した。
「何!?」気配は全くなかった。しかし、ウブメはすぐ傍にいたのだ。
「全く感じることが出来なかった……、まずい!来るぞ!」イチゲキはイブキに注意を喚起すると左手に飛び退き、すぐさま左手の鬼弦を弾いた。イブキも呼応するように右に退いて音笛を吹く。
銀の炎と蒼い風が二人を包み、一撃鬼と威吹鬼がその中から姿を現した。
「威吹鬼君、少し時間を稼ごう!まずは奴等の出方を見る!」一撃鬼はそう言うと音撃管『白銀(しろがね)』を構えウブメに圧搾空気弾を数回発射した。威吹鬼も併せてもう一体の方に向けて音撃管『烈風』の空気弾を撃ち込む。
三点バーストで打ち出された弾はウブメにそれぞれ命中したものの、牽制程度の効果しかなかった。
ウブメ達は体を若干震わせると、二人に向かって殺到した。
「くっ、速い!」威吹鬼は転がって攻撃をかわすとすかさず単発モードに切り替えて『烈風』の引鉄を数回引いた。比較的近い距離から打ち出された鬼石は何とかウブメの硬い外皮に食い込んだ。
「よし、音撃射『疾風一閃』!」威吹鬼の清めの音がウブメに向かう。激しく悶えるウブメ。
しかし、通常なら爆発四散する筈のウブメは胴体の外皮と肉の一部を吹き飛ばされただけで、四散しなかった。それでも一定のダメージにはなっているようだ。
97志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/05/31(木) 19:00:17 ID:Izbqn6o60
「出方を見ている場合じゃないようですね」威吹鬼が冷静に現状を見て一撃鬼に語りかける。
一方ウブメをいなしながら策を練っていた一撃鬼だったが、威吹鬼のこの言葉には是非も無かった。
「かなり固そうな奴だね。確実に仕留めないとこっちがやられるかもしれない」
一撃鬼はウブメを出来るだけ引き寄せてから、鬼石をウブメのウィークポイントに撃ち込んで倒そうと考えた。
「叩き落せれば、勝機もあるはずだ。性根を据えてかかろう」
「了解しました」イブキの返事を聞き、一撃鬼は銃を持つ自らの掌にふと目を移した。
右手には拳の先を守る様に白銀招が手甲と化している。
「……行きますよ、裁鬼さん」かつて固く繋いだ拳の先にいる師匠に向かって一撃鬼は語りかけた。
たとえ引退し、鬼でなくなったとしても、鬼としての裁鬼さんは常に自分の進む道と共にある。
一撃鬼はこの思いを片時も忘れた事はなかった。
向かってくるウブメの口めがけて引金を引こうとしたその時、一撃鬼の内に激しい警報が鳴った。
刹那、一撃鬼は前転してウブメの攻撃を避けた。
ウブメの攻撃は突進ではなく、口から吐かれた溶解液だった。今まで一撃鬼がいた場所とその少し後ろの地面に生えていた草はすべて融かされ、ぐじゃぐじゃした泥のようになっていた。
「……こいつか!」一撃鬼はその状況を見て、闘鬼はこれに惑わされたであろう事を理解した。
「威吹鬼君、こいつらは他の奴とは少し違うぞ!気をつけろ!」一撃鬼はウブメの行動力を奪い、地上戦に持ち込む旨を改めて威吹鬼に伝えた。
「羽とその近辺に狙いを絞って奴等を地上に落とします!」威吹鬼はそう言うと再び接近するウブメの羽とその根元に向けて鬼石を近くから打ち込むようにした。
敵も溶解液を吐いたり、体当たりを仕掛けたりと思うように攻撃させないようにしている。
一撃鬼も威吹鬼も溶解液をかわして互いを援護しながら、ウブメに徐々にダメージを与えてゆく。
そうして、数回交錯する内、威吹鬼と一撃鬼が打ち込んだ鬼石が徐々に反応を始めた。
98志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/05/31(木) 19:03:28 ID:Izbqn6o60
「よし、今だ!音撃双射『閃風嵐覇(せんぷうらんぱ)』!」
「はい!」互いに呼吸を合わせ、それぞれの音撃武器から旋律を奏でる。
巧みに組み合わされた旋律は激しい清めの音となって、ウブメの羽とその根元を直撃した。
自身を宙に保つ術を失ったウブメたちは地上へと落下していく。
「威吹鬼君、『閃光裁き』をかける!援護してくれ!」
「了解しました!」威吹鬼の返答を確認するや否や一撃鬼は腰の小型音撃弦『烈光』を取り出し、両手に持つとウブメに向かって駆け出した。
重傷を負ったウブメたちは必死で抵抗したが、威吹鬼の援護の下、一撃鬼が繰り出す『烈光』の斬撃に徐々に抗いきれなくなっていった。
「音撃斬『閃光裁き』!」一撃鬼が紡ぎ出した弦の清めの音が援護として威吹鬼が撃ち込んだ鬼石と相乗効果を生み、二体のウブメは完全に爆発、四散した。
「……ふう……」土煙が止んだ中で呼吸を整えた一撃鬼が後ろを振り向くと、後ろを向いた威吹鬼が銀色の影と対峙していた。
(七之巻へ続く)

前レス書き忘れていました……。
前回>>35-41っス…。
申し訳ありません。
99名無しより愛をこめて:2007/05/31(木) 20:47:10 ID:Sb+j6qVX0
「……行きますよ、裁鬼さん」

燃エタ(・∀・)コレ!
100名無しより愛をこめて:2007/06/01(金) 09:01:35 ID:j+x8qGuMO
江戸結界って考えてたら本来陰のninja服部半蔵思い出した。
名を名乗るって上忍は許されたらしいが
半蔵門みたく地名になるほど主君家康に感謝されたって凄いな!

あぁそっか、名字名前共HAで始まるんだな…
101名無しより愛をこめて:2007/06/01(金) 13:42:51 ID:j+x8qGuMO
ULTRAMAN見た。家族持ちのヒーローってなかなかいいな。
裁鬼→一撃鬼に格好良さ感じるのは「守るモノ」持つ強さかな?

一度壊れた一撃鬼のゲンコツに裁鬼が宿ってると思うと


…熱い、そして嬉しい!
102仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/01(金) 20:25:39 ID:P6QZQEnF0
前回までのあらすじ…場の空気を悪くする男、アカツキ


「君達、何してるの?」
扉を開けて入ってきたのは、医師のモチヅキだった。
「先生……」
どうやらモチヅキは、室内に置かれた大量の蝋燭を見て、コウキ達が何をやっていたのかを察したようだ。
「百物語かい?面白そうだね。僕も混ぜてもらおうかな」
「えっ?ですが……」
しかし、参加する気満々のモチヅキに、止めようと思っていたところだとは言えない。結局百物語は続ける事となり、早速モチヅキが話す事となった。
「有難う。……ところでこれで全員?セイキくんのサポーターはどうしたんだい?」
「まつなら、夜更かしはお肌に悪いからって最初から参加していませんよ」
「夜更かししようがしなかろうが、冴えない女に変わりはないのにな。ねえ先生」
石川に振られてモチヅキが苦笑する。
「よく考えたら、先生の現役時代の話ってあまり聞いた事無いですよね?」
蝋燭を一本消しながらセイキが尋ねた。残り五本。
「そうだね。僕も滅多に人には語らないし。……さて君達、『雪月花』という言葉を聞いた事があるかい?」
「確か花鳥風月と同じで、美しい景色を意味する言葉だったかと……」
イブキの答えに、モチヅキが満足そうに頷く。
「そうだね。でもこれから話すのは、『雪月花』の異名で呼ばれた三人組についてなんだ……」
103仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/01(金) 20:26:48 ID:P6QZQEnF0
第九十六話目「真夏の氷点下」

昭和三十年代。季節は夏。茹だる様な暑さが毎日続いていた。
蝉時雨の中、仲良くベンチに腰掛けてかき氷を頬張る男女が三人。一人は暑い中でもきちんとした身なりの男性。一人は対照的に上半身裸の男性。そして最後の一人がハンカチで汗を拭いながらかき氷を頬張る女性。
「あっついねぇ〜」
女性がぼやいた。
「まるで太陽がぶっ壊れたみたいだ……」
上半身裸の男性が、団扇で扇ぎながら同意を示す。
「暑いのは分かるけどさ、もっと身だしなみにも気を使ったらどうだ?」
きっちりした男性が、上半身裸の男性に向かってそう告げた。更に。
「あと、とりあえず俺みたいに帽子を被れよ。日射病になるぞ」
「そう言うお前こそ脱げよ。恥も外聞も捨てちまえ」
「あ〜、あたしも脱いじゃおっかなあ……」
お前は止めとけ、と二人の男性が口を揃えて言った。
「でもさ、こう暑いとあたしも脱ぎたくなるよ。半蔵みたいにさ」
半蔵と呼ばれた上半身裸の男性が、溶けたかき氷をぐいっと飲んだ。喋っているうちにどんどん溶けていく。
「……そろそろバスの時間だな。行こう」
「そうだな。……おい恵、行くぞ」
「ちょっと待ってよ!……ところで元基、今日行く場所って何処だったっけ?」
恵と呼ばれた女性が、元基と呼ばれた身なりの良い男性に尋ねる。それに対し、呆れ顔で。
「お前聞いてなかったのか?滋賀の裏白峠だよ」
「お〜い、早くしろよ!」
三人はバス停へ向かって歩いていった。
104仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/01(金) 20:27:55 ID:P6QZQEnF0
一見ごく普通の仲良し三人組。だがその正体は猛士と呼ばれる組織に所属する音撃戦士、通称「鬼」である。
彼等はそれぞれコードネームをハツユキ(半蔵)、モチヅキ(元基)、ケシキ(恵)と言う。三人揃って「雪月花」。三人とも他者より秀でた能力を持っており、魔化魍撃破率は関西支部の中でも極めて高い。
バスを降りて暫く歩くと、今夜泊まる「歩」の老人の家に辿り着いた。ここで老人から詳しい説明を聞いた後、魔化魍を探しに行くのだ。
戸を叩くと、中から老人が現れた。関西支部から来た鬼である事を告げると、老人は満面の笑みで三人を家の中へと招き入れた。
「わしがこの家の主です。近所……と言ってもここから歩いて数十分は掛かるが……兎に角近所の者からは山彦爺さんと呼ばれております」
自己紹介を終えると、山彦爺さんは三人にお茶を振る舞った。
「有難う御座います。僕はモチヅキと言います。で、こっちが……」
「どうも、ハツユキって言います」
「初めまして、ケシキです。宜しくお願いします」
山彦爺さんに、三人は自分達のコードネームを名乗った。普通鬼は普段からコードネームで呼び合う。だがこの三人は高校時代からの付き合いのため、鬼になってからもずっと本名で呼び合っているのだ。
三人が一息吐いたのを見計らって、山彦爺さんは話を始めた。
「ここの峠は急カーブが多く、昔から事故の絶えない場所だったのですが、ここ最近になって事故による死傷者の数が鰻上りに増えまして……」
生存者は、急に酷い寒気に襲われてハンドルを切り損ねたと証言していると言う。
「……それに得体の知れない何かを目撃したという話もありまして、警察もほとほと手を焼いているようなのです」
「それって魔化魍だよね?」
「ああ、おそらくな」
「完全に後手に回っちまったな」
三人は何事か相談すると、これから調査に向かう旨を山彦爺さんに伝えた。
「どうか宜しくお願いします」
山彦爺さんは深々と頭を下げた。
105仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/01(金) 20:29:33 ID:P6QZQEnF0
山中を歩きながら三人は、出現した魔化魍について話し合っていた。
「寒気に襲われたというのが本当なら、ユキオンナとかか?でも季節が季節だしなぁ……」
確かに半蔵の言う通り、ユキオンナやユキオトコが夏場に出てくるとは思えない。
「いや、寒気に襲われたというのは魔化魍特定のための重要なヒントだと思う。だから俺の予想としては……」
「待って!声が聞こえる」
元基の話を恵が止めた。成る程、よく耳を澄ましてみると鬼を揶揄する男女の声が聞こえてきた。彼等にとっては聞き慣れた声だ。声は木霊していて、距離感が掴めない。
「来たか……」
各々の変身道具に手を掛ける。
と、頭上の木から真っ白い衣装の童子が飛び降りてきた。散開し、距離を取る三人。いつの間にか彼等の背後からは、同じ格好をした姫も現れていた。
「やっぱりブルブルか」
変身音叉を鳴らしながら元基が呟く。同じく半蔵は変身鬼弦を、恵は変身鬼笛を鳴らした。
淡い光が元基を、吹き荒れる風雪が半蔵を、色取り取りの花弁が恵を包み込んだ。そして。
気合一閃、望月鬼、初雪鬼、芥子鬼の三人がその姿を現した。
地面を滑るように向かってきた童子が、初雪鬼の顔面を鷲掴みにしようとする。だがその手を払い除けると、初雪鬼は間髪入れず蹴りを叩き込んだ。
吹き飛んだ童子の体は、大木に当たるとそのまま初雪鬼の方へ撥ね返ってきた。その間に鬼爪を出した望月鬼が割って入る。
鋭い爪が、童子の腹を抉った。爆発の直前、童子が最後の力を振り絞って望月鬼の顔に冷たい息を吹きかけた。望月鬼の顔面が瞬時に凍りつく。
「無事か?」
「心配するな。この暑さだ、すぐに溶けるさ」
106仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/01(金) 20:30:51 ID:P6QZQEnF0
一方、芥子鬼は妖姫と戦っていた。物凄い勢いで冷たい息を吐き、芥子鬼を凍らせようとする妖姫。だが芥子鬼は跳躍して避けると、妖姫の傍に降り立った。そして妖姫の顔に掌を翳す。
芥子鬼の掌から、花粉のようなものがばら撒かれた。鬼法術・妖花香気。芳香と花粉で相手を麻痺させる技だ。痛み止めとして応急処置的に使われる場合もあり、その際医術に明るい元基が簡単な手術を行う事もある。
鬼爪を出し、妖姫を貫く芥子鬼。相手は一切の痛みを感じずに死んでいくのだ。彼女なりの慈悲である。
童子と姫を倒し、集まる三人。肝心の魔化魍は近くには居ないらしい。
「さて、これからブルブルを探さないと……」
望月鬼が言うブルブルとは、臆病神やぞぞ神の異名で伝えられる魔化魍である。これに襲われると、言い知れぬ悪寒が全身を走ると言う。自動車事故の原因はこいつで間違い無いだろう。
「なら俺の出番だな」
そう言うと初雪鬼は精神を集中させ始めた。数秒の後、初雪鬼の額に真っ赤な第三の目が現れた。俗に「千里眼」と呼ばれるものだ。千里眼とは元々鬼の名前である。初雪鬼は鬼の中でも本当に珍しい、千里眼の力を継ぐ者なのだ。
暫く周囲を見回していた初雪鬼だったが、ある方向を凝視すると、突然駆け出していった。
「あ、あいつ抜け駆けする気だよ!行こう、元基」
そう言うと芥子鬼は望月鬼の手を引っ張り、初雪鬼の後を追いかけていった。
どれだけ進んだだろう。この三人の中では最も身体能力の高い初雪鬼の姿は、とっくに見えなくなっていた。
と、初雪鬼の音撃弦が落ちているのが見えた。駆け寄る二人。その傍の木の陰では、蹲った初雪鬼ががたがたと体を震わせていた。
107仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/01(金) 20:32:00 ID:P6QZQEnF0
山彦爺さんの家では、元基の手で薬を打たれた半蔵が、床の間で眠っていた。
「あの人はどうしたのです?」
山彦爺さんの問いに元基が答える。
「彼は魔化魍ブルブルの毒にやられたのです。ブルブルの毒にやられると、体温が急激に低下して死んでしまう」
「大丈夫なのですか?」
「ここに運ぶまでは、彼女の技で一旦仮死状態にしていました。今は僕が打った解毒薬が効いて眠っています」
元基は常に様々な種類の薬品を鞄に詰めて持ち歩いている。他にも手当て用の包帯や、簡単な手術を行うための器具が入っている。お陰で彼が出撃する時は、味方や一般人の負傷率が極めて低くなっている。
「半蔵、大丈夫かな……」
「あいつは体力もあるし、すぐ回復するだろう。それより俺達にはやらなけりゃならない事があるだろ?」
そう、彼等にはブルブルを倒すという使命がある。半蔵を助けた際、式神を打ってきた。そろそろ戻ってきてもいい頃だ。
と、一枚の式神が戻ってきた。どうやら当たりらしい。元基は爺さんに半蔵の事を頼むと、恵と一緒に再び出て行った。
108仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/01(金) 20:33:07 ID:P6QZQEnF0
耳をつんざく悲鳴が聞こえた。どうやら誰かがブルブルに襲われたらしい。声のした方へ急ぐ二人。
そこでは、一人の登山者が腰を抜かして宙を見つめていた。彼が見つめるその先には。
巨大な海月(くらげ)が浮かんでいた。驚く程に薄く、余程眼を凝らさなければ分からないぐらい透明な体をした海月だ。
ブルブルである。
ブルブルの周囲は、まるで真冬かと思えるぐらい気温が低下していた。冷やされた大気が真っ白になって漂っている。
「へっくしゅん!」
薄着をしていた恵がくしゃみをしてしまう。それにブルブルが反応した。だがそれよりも早く、音叉を鳴らして変身を終えた望月鬼がブルブルに跳び掛かっていった。
迎え撃つべくブルブルが触手を伸ばしてきた。刺されると、その先端に仕込まれた毒によって先程の半蔵みたいになってしまう。
音撃棒・残月で触手を払いながら接近を試みる望月鬼。一方芥子鬼は登山者の方へと向かっていった。
「恵、その人の様子は?」
「大丈夫、動転しているみたいだけど外傷は一つも無いよ」
「そうか。じゃあいつもの通りに頼む」
「オッケー」と軽く言うと、芥子鬼は登山者に向けて妖花香気を放った。その芳香を吸って、登山者はみるみるうちに眠りについてしまった。
これで次に目が覚めた時には、魔化魍に出会ってからの記憶は綺麗さっぱり消えているだろう。彼等は今まで誰かに目撃される度にこれをやってきたのだ。
109仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/01(金) 20:34:15 ID:P6QZQEnF0
「元基、ちょっと退いてね!」
そう言うと芥子鬼はブルブル目掛けて音撃管を撃った。だがブルブルは急浮上してこれを躱す。
「嘘っ、避けられた」
「あいつ、意外とすばしっこいな」
空高く浮かび上がったブルブルを見上げながら望月鬼が呟く。芥子鬼は続けて管を乱射するも、遠過ぎるためか上手く狙いが定まらない。
ブルブルが冷凍ガスとでも呼ぶべきものを吹き付けてきた。周囲の木々が瞬時に凍りつき、次の瞬間には砕け散った。
「これは浴びるわけにはいかないな!」
回避し、上空目掛けて鬼棒術・渡り柄杓を放つ望月鬼。しかし目があるのか分からないような相手に光の技が通用するとは思えない。
「夜までに退治しないとな……」
今はまだ日が昇っているから良いが、夜になって周囲が闇に染まると、透明なブルブルの体は闇に溶け込んで見えなくなってしまうだろう。
ブルブルはふわふわと宙を漂いながら、道路の方へと向かっていった。また車を襲うつもりだろうか。望月鬼と芥子鬼も後を追っていった。

曲がりくねった道路を走りながら、ブルブルの後を追う二人。しかしどんどん距離は離れていってしまう。
「くそっ、バイクか車でもあれば……」
このまま山を越えていってしまったら、もうこれ以上の追撃は不可能となってしまう。と、その時。
「ね、ねえ元基。後ろから何か聞こえない?」
確かに何か音が聞こえてくる。音の出所を確認するために振り向くと、そこには。
「邪魔だ邪魔だああ!」
なんと、鬼法術・氷結魂で道路を凍らせながら初雪鬼が走ってくるではないか!よく見ると彼の足の裏からは、スケート靴のような刃が生えていた。これで氷の上を猛スピードで滑ってきているのだ。
「いぃぃやっほう!」
前方を行く望月鬼達を追い越し、完全に復活した初雪鬼がブルブルを追い掛けていく。
「あ〜!あいつまた抜け駆けする気だ!」
「いつもの事だろ。諦めな」
初雪鬼は手にした音撃弦を、ブルブル目掛けて思いっ切り投げつけた。弦は真っ直ぐに飛んでいき、ブルブルを貫いた。姿勢が崩れ、ブルブルが墜落していく。
「逃がすかよ!」
初雪鬼もまた、勢いよく崖下へと飛び出していった。
110仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/01(金) 20:35:21 ID:P6QZQEnF0
ブルブルを追って崖を下りきった初雪鬼は、近くを流れる小川に手を突っ込むと、氷の剣を作って取り上げた。弦の代わりに使うつもりのようだ。
ブルブルは、弦を刺したままふわふわと浮かんでいた。じりじりと距離を詰めていく初雪鬼。
ブルブルが触手を伸ばして攻撃してきた。それを俊敏な動きで躱すと、氷の剣で斬りつける初雪鬼。
「芸の無い奴だな。同じ手を二度も喰うかよ!」
次にブルブルは冷凍ガスを吹き付けてきた。氷属性のため寒さには耐性のある初雪鬼も、流石に足を止めてしまう。一瞬怯んだ彼に向かって複数の触手が伸びる。
だが銃撃音と共に、全ての触手は粉々に吹き飛ばされてしまった。芥子鬼だ。更にブルブルの真上に、音撃鼓・満月を手にした望月鬼が姿を現す。
落下と同時に「満月」を貼り付ける望月鬼。そして。
「音撃打・月下夜想!」
望月鬼の奏でる清めの音が峠に木霊し、ブルブルは爆散した。
「ふぅ……」
「元基〜!お疲れ〜!」
芥子鬼と初雪鬼が手を上げながら近寄ってくる。
「いぇ〜い!」
ハイタッチを決める三人。魔化魍退治の後は、こうするのが三人の中でお約束となっているのだ。
「一日で片付くなんて、俺達運が良いな」
「後手に回っていたからな。これでとんとんだろ」
「今夜はお爺さんの家でゆっくり休んでいこ!」
と、崖の上の方から急ブレーキの音が聞こえてきた。次いで激しくぶつかる音が響いた。
「な、何よ今の音!?」
「まさか……」
「やべえ!」
そう。初雪鬼が道路を凍らせたままだったため、自動車がスリップしてしまったのだ。
「半蔵、あんたねぇ!」
「うるせえ!それより早く助けに行くぞ!」
「やれやれ……」
氷が溶けた後、峠は気化熱で暫くの間涼しかったと言う。
今は昔、関西支部に「雪月花」と呼ばれる三人の鬼が居た。これはそんな彼等のお話の一つである。
111仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/01(金) 21:05:42 ID:P6QZQEnF0
話を終えたモチヅキは、昔の思い出に浸りきっていた。
「前の世代にも過激なのがいたんだなぁ。道路を凍らせるって……」
感心しながらセイキが呟く。
「先生、勿論その件については報告されたのですよね?」
「うん?……も、勿論だとも!ちゃんと報告したよ、うん!」
怪しい。事故の件は報告していないような気がする。
「つーか俺、先生の本名初めて知った。元基って言うんだ」
これは石川の言。尤も、ここに居る者は全員そう思っている事だろう。
「その恵さんと半蔵さんは今何を……」
「ああ、あの二人ね。僕同様もう引退しているけど、今でも猛士関係の仕事をしているよ。以前の鞍馬山の一件では、他のOBと一緒に久々に変身して戦っていたよ」
イブキの問いに笑いながらモチヅキが答える。どうやら二人とも健在のようだ。
「一度会ってみたいもんやな……」とニシキ。
「会えるさ。もし良かったら今度紹介するよ」
未だにまめに連絡を取っているからね、と言いながらモチヅキが蝋燭を吹き消した。残り四本。彼の話のお陰で、場の雰囲気は再び良くなってきた。
そしてとうとう、今まで沈黙を守っていたあの男が話を始める。
次の話へ続く。
112名無しより愛をこめて:2007/06/01(金) 22:47:20 ID:HdQVwpet0
あの男……。やっぱり、ドキさんかなぁ……。
沈黙の人だし。
113名無しより愛をこめて:2007/06/04(月) 01:30:36 ID:4I7tnQpu0
モチヅキ「……さて君達、『雪月花』という言葉を聞いた事があるかい?」

       (゚д゚ )
       (| y |)


イブキ「確か花鳥風月と同じで、美しい景色を意味する言葉だったかと……」

      ( ゚д゚)  雪月花
      (\/\/


モチヅキ「そうだね。しかしそれも見方を変えると」

         月
     雨ヨ ( ゚д゚)  ++ノ|ヒ
     \/| y |\/


モチヅキ「雨の日に萌えるやつになる」

      ( ゚д゚)  雨ノヒ萌
      (\/\/
114名無しより愛をこめて:2007/06/04(月) 23:11:54 ID:iRh82xNM0
モチヅキ「『雪月花』→『雨ノヒ萌』となるわけだが、さらに見方を変えると」

   アメノヒ ( ゚д゚)  萌
     \/| y |\/


モチヅキ「姫に萌えるやつになる」

      ( ゚д゚)  アノヒメ萌
      (\/\/


モチヅキ「つまり、敵にも萌えられるぐらいの大らかさが必要ということだ。
     事故の件の報告など、小さなことついては気にしなくてよろしい」

       (゚д゚ )
       (| y |)
115仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/08(金) 19:27:20 ID:1kcLChjb0
前回までのあらすじ…三馬鹿が行く


「残り四本。次、誰が行きます?」
「……俺が話そう」
そう言ったのはドキだった。しかし基本的にセイキと行動を共にしている彼には、何も話す事は無い筈だ。全てセイキが話し終えた筈である。
「俺も一つ昔の話をしよう。長野で修行をしていた頃の話だ」
滅多に自分について語らないドキの突然の発言に、場にざわめきが起こる。
「本当かよ。先生に続いてドキまで……。こりゃ参加しなかった奴が可哀相だぜ」
嬉しそうにセイキが言う。
「……この中で『隠形鬼(おんぎょうき)』という鬼を知っている人はいますか?」
そう言ってドキが各人の顔を見回す。
「確か平安時代に逆賊と手を組んで暴れた四人の鬼の一人ですよね?」
イブキの言う通り、隠形鬼とは平安時代に藤原千方と手を組んで朝廷に反旗を翻したと「太平記」に記されている鬼の一人だ。
鋼鉄の体を持った金鬼(きんき)、強風を操る風鬼(ふうき)、洪水を引き起こす水鬼(すいき)、そして自在に姿を消す事の出来る隠形鬼の四人で、最終的には改心し争いの場から身を引いている。
この四鬼は忍者の先祖とも言われており、伝説の存在として語り継がれている。特に隠形鬼は別格だ。
そもそも「おに」とは、昔は「隠」の字を当てていた。「目に見えない霊的な存在」という意味である。その「隠」の一字を持ち、実際に消える能力を持つ隠形鬼が特別視されても不思議は無い。
「隠形鬼は俺の師匠です。勿論本人ではなく、何十代目かの末裔ですが」
「未だ隠形鬼の名を継ぐ鬼がこの世に存在していたのかね?」
コウキが驚きの声を漏らす。彼も司書の京極との会話で、隠形鬼については多少の知識があったが、これは初耳である。
「ええ。……結局俺ももう一人の弟子も、その名を継ぐ事は許されませんでしたがね」
これは俺ともう一人の卒業試験の時の話です――。そう言うとドキは話し始めた。
116仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/08(金) 19:28:42 ID:1kcLChjb0
第九十七話目「鎌鼬の夜」

嘗て、お伊勢参りに向かう人々が通った東海道。その中でも難所の一つとされるのが、金谷と日坂の間にある小夜の中山峠だ。
ここには遠州七不思議の一つに数えられる「夜泣き石」がある。否、あったと言うべきか。
山賊に殺された妊婦の霊が宿り、夜な夜なすすり泣いたと伝わる夜泣き石は、明治時代に峠から撤去されている。
そんな中山峠にやって来た男女が一組。男性の方は隻眼、女性の方はサングラスを掛けている。それぞれ名をドキ、カゲキと言った。
二人は師匠であるオンギョウキの命を受け、長野の戸隠山からここまでやって来た。卒業試験のためである。
ここに現れる魔化魍を二人で倒してこいと言うのが、師匠の出した課題であった。魔化魍に関する情報は一切与えられていない。
山中にキャンプを張って二日が経過した。二人共気配を読む力には長けているが、何も感じられなかった。
出現を待つ間、二人は連日組手を行っていた。寸止め無しの実戦形式である。
そんなある晩の事、組手の最中だった二人は、山の気配が明らかに変わった事に気付いた。穏やかさとは対極の気配が山を包み込んでいる。
大物が出た。二人はそう直感した。師匠抜きで魔化魍と戦うのは初めてだったが、やるしかない。二人は直ちに気配が最も濃い場所へと向かっていった。
117仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/08(金) 19:29:53 ID:1kcLChjb0
「怖いか?」
現場へと向かう途中、怒鬼は影鬼にそう尋ねた。
「何を言う!私は……」
「恐怖心は死に繋がるぞ」
そう告げると怒鬼はそれっきり黙ってしまった。影鬼もまた、口を開く事は無かった。
最も禍々しい気配がする場所に辿り着いた二人は、背中合わせになると周囲を警戒し始めた。そこへ現れる童子と姫。
「我等小夜の中山の……」「カマイタチなり……」
童子と姫は自らをそう名乗った。ここ、小夜の中山峠には昔からカマイタチが出るという言い伝えがあるのだ。
怪童子と妖姫に変身すると、二人の鬼に向かってゆっくりと近寄ってくる。
先手必勝と言わんばかりに、影鬼が手にした飛苦無を怪童子へと投げつけた。それを片手で払うと影鬼の傍に急接近する怪童子。
一方、上空から襲い掛かるべく跳躍した妖姫を追って、怒鬼も宙へと跳び上がっていた。星一つ無い夜空を背景にぶつかり合う二つの影。
音撃棒・無明で妖姫に打撃を与える。しかし怒鬼もまた、その攻撃を受けて胸に傷を負ってしまった。
着地と同時に気合いを込めて傷を閉める怒鬼。妖姫は何やら構えを取っている。まるで剣豪のようだ。
刹那、妖姫が背中に回した右腕を前方へ向けて振り抜いた。それにより真空の刃が発生し、怒鬼目掛けて飛んでいく。先程彼の胸に傷を付けたのもこれだ。
見えない刃を、僅かな音を頼りに驚異的な身体能力で回避する怒鬼。妖姫は縦横に腕を振るい、刃を飛ばしてくる。
一瞬の隙を衝き、怒鬼は鬼法術・根堅州國を使った。片足を捕らわれて身動きが出来なくなった妖姫に接近すると、怒鬼はその体に鬼爪を深々と突き立てた。
「……ただでは死なないよ」
そう呟くと至近距離から真空の刃を浴びせようとする妖姫。だが、それよりも少し早く、怒鬼が突き立てた鬼爪を上方へと切り上げた。体液を撒き散らしながら妖姫は後方へと倒れ込み、爆発して大地へと還った。
怒鬼の背後で、眩い光が明滅する。どうやら影鬼も戦いを終えたようだ。
「ほぼ同時に撃破か……」
悔しそうにそう呟きながら影鬼がやって来る。残るはカマイタチだけだ。
118仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/08(金) 19:31:26 ID:1kcLChjb0
突然、二人を真空波が襲った。跳躍して回避するも、あと少し遅ければ直撃は免れなかっただろう。
真空波でずたずたになった木々の向こうから、三匹一組の魔化魍が姿を現した。カマイタチだ。
「一匹ずつ倒すとして、残り一匹は……」
「考えるのは後だ!」
再度三匹が同時に真空波を放った。回避すると同時に怒鬼が正面左の、影鬼が右のカマイタチに躍り掛かる。
「喰らえ、蛍火!」
影鬼が鬼法術・蛍火を放ちカマイタチの視覚を奪う。一方怒鬼も鬼法術・影分身を使いながらカマイタチに接近していく。
影鬼の投げた飛苦無がカマイタチの片目を貫いた。間髪入れず手持ちの飛苦無を全て投げつける。顔面を血塗れにして悶え苦しむカマイタチ。
と、隣に居た少し小柄なカマイタチが、血塗れのカマイタチに向けて口から液状の何かを吐きかけた。どろりとした液を顔面に浴びるカマイタチ。すると、みるみるうちに傷が塞がっていくではないか!
「……まずはあちらから倒さないと不利か」
そう呟くと影鬼は小柄な方に狙いを定めた。
カマイタチは三匹一組の魔化魍。伝承では一匹目が人を転ばし、二匹目が鎌で切り付け、三匹目が血止めの薬を塗るとされる。この小柄なカマイタチは薬を塗るやつらしい。
その頃怒鬼は、生み出した分身と共にカマイタチの体力を徐々に削っていた。動きがだんだん鈍くなってきているのが目に見えて分かる。
今だ!と心の中で思った時には、既に音撃鼓・血風をカマイタチの背中に貼り付けていた。そして。
「音撃打・影駭響震(えいがいきょうしん)!」
怒鬼の音撃打が炸裂する。だが、カマイタチは苦しそうに暴れるだけで清めきれない。もう一度と怒鬼が「無明」を構え直すも、カマイタチの背から振り落とされてしまった。
怒鬼は、己の未熟さを心から恥じた。
119仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/08(金) 19:33:33 ID:1kcLChjb0
「音撃打・影駭響震!」
激しい爆音と共に、小柄なカマイタチが塵芥へと変わった。影鬼がやったのだ。
「どうした怒鬼?私が先にやったぞ!?」
「……小さいのを清めたぐらいで粋がるな」
最も気性の荒い、切り付け担当のカマイタチと戦いながら怒鬼が答える。影鬼は転ばし担当と再び戦い始めた。
真空波と鎌のように鋭い爪で怒鬼を追い詰めていくカマイタチ。
(くっ……。音撃棒よりもリーチの長い武器が必要だな)
カマイタチの攻撃がだんだん激しさを増していく。先程の撹乱で体力は削ってあった筈なのに……。逆に影分身を使ったせいで怒鬼の方が体力を消耗していた。これでは大技の鬼法術・闇飛礫を使う事も難しい。
そうこうしているうちに再び爆発音が辺りに響いた。影鬼が二匹目を撃破した音だ。
「見たか怒鬼!この卒業試験、私の勝ちだ!」
声高らかに影鬼が宣言する。だが。
「……?お前、首が残っているじゃないか!」
怒鬼の言う通り、カマイタチの首だけが清められず地面に落ちていた。音撃打を受けながらも、真空波を使って自分で自分の首を切り落としていたのだ。
「再生するぞ!」
怒鬼の声に、影鬼がトドメを刺すべく首に駆け寄っていく。だがそれよりも早く、首は浮かび上がると怒鬼と戦うカマイタチの傍に飛んでいき落ちた。そして。
切り付け担当が食らい付いたのだ、仲間の首に。骨の砕けるおぞましい音が辺りに響く。取り込んでいるのだ、その力を。
力を増したカマイタチが、一声高く吼えた。周囲の木々がざわざわと揺れる。
約二倍の強さになった真空波を、怒鬼と影鬼に向けてカマイタチが放った。間一髪で回避する両者。
「こんなケース聞いた事が無いぞ!」
樹上で影鬼が呟く。
カマイタチは唸り声を上げながら、樹上へと逃げた二人を睨み付ける。刹那、再度真空波が放たれた。
地上へ降り立つと同時に、カマイタチ目掛けて駆け出す二人。相手は真空波を放った反動で隙が生じている。仕留めるのは今しかない!
跳躍し、その背に乗った二人がほぼ同時に音撃鼓を貼り付けた。そして同時に音撃棒を構える。
しかしカマイタチは二人を振り落とさんと暴れ始めた。まず影鬼が振り落とされ、次いで怒鬼が落とされた。
「うう……」
120仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/08(金) 19:34:48 ID:1kcLChjb0
怒鬼の目の前でカマイタチが大きく口を開いた。喉の奥から風が渦巻く音が聞こえる。
ああ、死ぬんだな。怒鬼がそんな事を思っていたその時、突如として彼の目の前に一人の老人が現れた。
文字通り突然現れた男は、怒鬼の体を担ぐと跳躍し、カマイタチの攻撃を躱した。
「馬鹿弟子が。お前達、もう一年やり直せ」
影鬼の傍に着地すると、男は二人に向けてそう告げた。
「お……お師匠」
そう。この男性こそがオンギョウキその人である。
「密かに付けてきていたのですか……?」
「よく手入れされておるな。少し借りるぞ」
怒鬼の質問には答えず、彼の「無明」を借りていくオンギョウキ。
「よく見ておれ」
「ですがお師匠……」
オンギョウキは人の姿のままである。だが、怒鬼の心配は杞憂に終わった。
残像が見える程の動きでカマイタチの爪による攻撃を躱すと、簡単に間合いの中へと入っていってしまった。そしてその背に跳び乗ると。
「影駭響震とは影を見、音を聞くだけで相手が震える様を言う。お前達の音撃打はその境地には程遠いわ!」
そう叫ぶや否やオンギョウキは人の姿のままで音撃打を叩き込んだ。たった一撃でカマイタチの体は爆発し、塵芥と化した。それ程重く、力強い一撃だったのだ。
二人の弟子は、師匠の姿を呆然と眺めていた。過去、師匠が魔化魍と戦っている姿を二人は一度も見た事が無かった。いつも二人に戦わせ、横から指示を出すだけだったから。
初めて見た本気の師匠に、二人は戦慄を覚えた。変身もしていないのに、その老人は明らかに鬼だった。
「帰るぞ」
オンギョウキが静かに二人に告げた。二人は反射的に「はい!」と大きな声で返事をしていた。
その数秒後には、中山峠は元通りの静寂に包まれていた。
121仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/08(金) 19:35:55 ID:1kcLChjb0
「その後、俺とカゲキはもう一年お師匠の下で修行し、翌年漸く免許皆伝となりました」
そう言うとドキは話を終えた。場は水を打ったかのように静まり返っていた。
「……どうした?」
「いや、終盤の超展開に俺達皆唖然としているわけだが……」
セイキの言う通りだ。
「人のまんまで音撃を使うって……」
「俺の親父より凄いかも……」
ニシキとバキが口々に感想を言う。
「……君の師匠は今どうしているのかね?」
「さあ、分かりません。俺とカゲキはお師匠の下を離れてから戸隠に戻った事は一度も無いし、お師匠から連絡が来た事も一度としてありません」
元々猛士と言う組織の枠組からは外れたような人だったので、とドキ。コウキもこれ以上何も質問しなかった。
「結局オンギョウキの名を俺もカゲキも継ぐ事は出来なかった。ひょっとしたらお師匠は最初から自分の代で終わらせるつもりだったのかもしれない……」
伝説の鬼、オンギョウキ。彼の生死は今もって不明である。
「なあ、他にも昔の話は無いのか?」
「無いわけではないが……」
セイキとドキがそんなやりとりをしているうちに、イブキが蝋燭を消した。残り三本。
「僕も聞きたいのはやまやまですけど、連続というわけにはいきませんから」
次は誰が行きますか?と問うイブキに対し、もう少し時間をくれないかとバキが言う。
「……分かりました。では次は僕がお話ししましょう」
何事か意を決したように、イブキが話し始めた。
次の話へ続く。
122志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/10(日) 16:02:04 ID:PzfrKQbo0
前レスは>>91-98

七之巻 穿たれる巌

変身してノツゴを迎え撃った轟鬼と剛鬼だったが、二人共ノツゴの弱点である口元に効果的に音撃を撃ち込める音撃管を持参していなかった。
元々轟鬼は弦が本職である。太鼓こそ夏の魔化魍対策で若干は使えるが、管はさっぱりだった。
剛鬼も太鼓が専門で、管は殆ど使わない。したがって、轟鬼も剛鬼も専用の管は持っていなかった。
ノツゴ退治のセオリーとしては、開けた口へ音撃管から撃ち出される鬼石や朱鬼の武器である音撃弦『鬼太楽』から放たれる音撃光矢を撃ち込み、それを音撃を以って共鳴させて内部より破壊するのが一般的である。
バケガニの様に外側から弦を差し込むのは動きが激しく装甲の硬いノツゴに対しては非常に難しく、管を持たない現状は二人に圧倒的に不利と思われた。
ノツゴは明確な意思を持ってこちらを威嚇している。餌を狙う仕種ではない。
明らかに敵を屠る、と言う意識が感じ取れる。
「……剛鬼さん」轟鬼は意を決した様に剛鬼に話しかけた。
「自分に考えがあるっス」
「何だ?」剛鬼は顔をノツゴに向けたまま轟鬼の考えを聞いた。
「自分が囮になって隙を作ります。動きを止めますから、タイミングを合わせてノツゴの背に乗って下さい」
「……轟鬼、お前!」剛鬼は轟鬼の考えに危険を感じた。自分の命を引き換えにする気か、と。
「心配ないっスよ。策はちゃんとあるっスから」轟鬼は剛鬼の不安をかき消すように穏やかに言った。
「『雀刺しの陣』をかけます」
「…………わかった。呼吸はお前に合わせる。『雀刺し』なら、音撃は『剛力招雷の型』で行く。合わせは大丈夫だな?」
「了解っス。……行きますよ」
「応!」並び立った鬼達は距離を取ってノツゴに向かう立ち位置を縦の一列に変えた。
『雀刺しの陣』とは自身を将棋の陣形に見立てた陣形で数人の鬼が縦一列となり攻撃を仕掛ける陣形である。『鳥串』と暗喩で言う者もいるが、猛士の中でもアニメ好きの者は陣形に因んで『ジェット・ストリーム・アタック』と称する事もあるという。
轟鬼は通常の逆手持ちにしていた音撃弦『烈雷』を正面に戻し、正眼に構えた。
精神を統一し呼吸を整える。
123志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/10(日) 16:03:58 ID:PzfrKQbo0
「……戸田山、『明鏡止水』って言葉、知ってるか?」
戸田山登己蔵、後のトドロキがそう問われたのは師匠であるザンキとの修行の中で全身の変身が出来るようになってから少し経った頃の事だった。
「確か剣道で習ったような気がしますけど……。集中すると周りが良く見えるって事スよね」
「そうだ。ただ、俺達の場合は其処より一歩先を行かねばならん」
「一歩先っスか?」
「剣道をやっていたんなら聞いた事があるだろう。剣の達人は明鏡止水の極意を以って水滴さえも斬る事が出来る、と」
「!」はっ、とする戸田山。
「受け売りだが、こんな言葉がある。『心を細くせよ。巌(いわ)を穿つのは水ではない。幾滴もの水の滴が積み重なってこそ、初めて巌を穿つことが出来る』。…………見てろ」そう言うとザンキは『烈雷』を持って、自分の背の高さ程ある岩の前に立った。
正眼に構えると目を閉じて気を刃先に籠めていく。
124志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/10(日) 16:04:58 ID:PzfrKQbo0
すっ、と上段に構えると目を見開き『烈雷』を覇ぁっ、と言う気合と共に振り下ろす。
刃は岩に触れていない。しかし、『烈雷』が振り下ろされた一瞬の間の後、岩はナイフで切ったように真っ二つになってしまった。
「……鬼刀術『雷穿(らいせん)』。体内の清めの音を気に変えて心眼を以って刃と成し、触れずして対象を斬る。……やってみろ」
「えっ!?」驚く戸田山にザンキは、ほれ、と『烈雷』を渡した。
暫く逡巡していたが、やがて心を決めた様に戸田山が岩の前に立った。ザンキの時より少し大きいサイズの岩だ。
深呼吸をして、はぁあああああ、と大仰に声を上げると力一杯『烈雷』を振り下ろした。
案の定、戸田山の馬鹿力による強い一撃で岩は粉々になった。
「……やった」ほっとした戸田山をザンキがにっこりと手招きする。
喜んで近づいた戸田山の頭の上にザンキの拳骨が飛んだ。ごん!と大きな音がする。
「ばかやろう!切っ先ガッツリ当たってるじゃねえか!触れずに斬るって言っただろ!『烈雷』壊す気か!?」
「す、すんません!」
「…………まあ、いきなりじゃ、やっぱ無理だよな」ザンキは九十度以上頭を下げて詫びる戸田山に溜息をつくと、その日のうちに戸田山を禅寺に連れて行った。
しかし、その後の厳しい精神修養の後、僅か一ヶ月で戸田山は見事『雷穿』を習得したのだった。
俺は三ヶ月近くかかったが……、とザンキはこっそり陰で戸田山の類稀な集中力と早い成長に舌を巻いていたという。
125志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/10(日) 16:05:55 ID:PzfrKQbo0
ザンキさんに教わった『雷穿』なら斬れる、と轟鬼はそう確信していた。厳密に言えば『雷穿』は音撃ではない。だが、ノツゴにとって最も弱い部分である口元に『雷穿』で斬撃を加えてダメージを与える事が出来れば、倒せずともそこに隙が出来る。
その後ならば最悪でも剛鬼一人の音撃でノツゴを倒すことが出来るだろう。
大事なのはノツゴを此処で逃がさない事だ。逃げられれば、ノツゴは自らの回復の為に手当り次第人を襲うだろう。それだけは何としても避けねばならない。
それは剛鬼もまた同様だった。
人が襲われる、という事はその人だけではない。家族や縁者にも深い悲しみを残す。守るべき『家族』を持つ身としてその事は剛鬼には余計に深く感じられ、絶対に譲れない線だと思った。
『護ってみせる』剛鬼は大事な妻と子供の事を思い浮かべて、腹を括った。最悪でも此処で轟鬼は守ってみせる。そうすれば、奴が止めを刺してくれるだろう。
二人は互いを思い遣りながら、自らの立ち位置で深く気を籠めた。
ノツゴは軽く半身を後ろに反らすと猛然と二人に向かって来た。体格に物を言わせて突っ込んでくる格好だ。口の前にある二本の湾曲した角が鬼を貫こうと速度を上げる。
轟鬼は『烈雷』をすうっ、と上段に構えると、勢っ!と気合をかけて振り下ろした。明鏡止水の境地から繰り出される無形の刃がノツゴに向かう。
ノツゴの両方の角の丁度真ん中を抜け、弱点の口元にばっくりと裂け目が入った。裂け目はさらに広がり、魔化魍の顔面が体液に染まる。
「ギイヤァァァァァァ!」ノツゴの悲鳴が木霊し、その足が止まった。
「剛鬼さん、今っス!」
「応!」轟鬼の合図に前後して剛鬼が跳躍する。狙うはノツゴの背。
「そりゃぁああああ!」気合一閃、音撃棒『剛力』の阿を剣状にしてノツゴの傷口に突き刺す。
「入ったぞ!喰らえ!」剛鬼はさらに傷口を切り裂き、すかさず右手で剣を引き抜くと腹部の音撃鼓『金剛』を左手で傷口の上に張りつけた。
「音撃打『剛腕無双』!」剛鬼の音撃打でノツゴの動きが完全に止まった。
「剛鬼さん、入ります!」轟鬼がノツゴの腹に『烈雷』を怪力を以って突き刺した。
「応!重音撃『剛力招雷の型』ぁ!」『剛腕無双』から型を切り替える剛鬼。轟鬼もそれに加わり重音撃と成す。
ノツゴの体が清めの音で荒々しく波打ち、やがて雷と共に爆発した。
126志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/10(日) 16:07:34 ID:PzfrKQbo0
濛々と上がる土煙の中轟鬼が後ろを振り返ると、剛鬼が両手をだらりと下げて立っている。両手に有るはずの音撃棒は地面に転がっていた。
「……逃げ……ろ……。……と……どろ……き……」呟きのように言うと崩れ落ちる剛鬼。
その後ろには頭部の両端を尖らせた銀色のフードを被った人影があった。
「……貴様!」轟鬼は『烈雷』を逆手に構え直して体勢を低くした。人影の面を見て、呟く。
「般若……だと?」
フードの下にあったのは般若の面。突起はその一対の角だった。
「さてはお前が、鋭鬼さん達を……!」轟鬼は猛然と走り出すと『烈雷』を横に薙ぎ払った。
般若はバックステップでそれを避けると、すかさず手に持った杓杖で鋭い突きをかけてきた。
轟鬼は素早く『烈雷』を逆に払ってこれを弾いた。
その後暫く斬撃と棒術の応酬が続いたが、般若の振り下ろした杓杖を轟鬼が下から振り上げた『烈雷』で弾き飛ばした時に般若の面を刃が掠めた。
その切っ先が面を割り、その素顔を見た轟鬼に一瞬の隙が出来てしまった。
「……京介!」面の下にあったのは青い隈取を施した桐矢京介の白い顔だった。
般若――京介の顔を持つ男――は弾き飛ばされた杓杖を気にすることもなく、隙の出来た轟鬼の腹に迷いのない手刀の一撃を見舞った。
巌を穿つように轟鬼の腹を突き抜けて背に現れる手刀。
「何故……何で……何でお前が…………京介ぇぇぇぇぇ!!」変身を解除され、苦悶の表情で涙を流して叫ぶトドロキ。
「……急急如律令」何がしかの言葉を唱える般若。それと共にトドロキの体が薄く発光する。
トドロキの叫びが木霊する中、その額に非情にも浮かんだ文字は『魃』の文字だった。
やがて全身に文様が浮かび、力が抜けたように『烈雷』を落としたトドロキはその場に崩れ落ちた。
般若は倒れた二人を交互に見やってから隈取を歪めるように冷酷に笑うと、トドロキさん、鬼はこの世に一人だけでいいんだよ、と呟いて消え去っていった。
しかし、その声が京介のものとは明らかに違っていた事をトドロキは知らない。
127志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/10(日) 16:09:30 ID:PzfrKQbo0
一方、威吹鬼の向こうに銀の影を見つけた一撃鬼だったが、自分の背後を取る気配に気付き、その攻めを間一髪でかわしていた。
「…………」無言で一撃鬼の前に立つ影は威吹鬼と向かい合っていた影に似ていたが、少し違った印象を一撃鬼は覚えていた。
「……能面か……。魔化魍にしては酔狂だな」呟きながら、一撃鬼は状況の把握に努めていた。
『ウブメを清めはしたが、童子と姫はいなかった。どうやら、こいつ等がそうらしいが、それにしてもクグツのような扮装に面とは……。一体……』一撃鬼は背後で別の影と戦っている威吹鬼の方を見ようとしたが、注意を反らす事が出来なかった。
一方、威吹鬼も翁の面を被る銀の影に銃撃を加えてみたが、予想通りかわされてしまっていた。
『この見てくれからすると、クグツかもしれない……。だが、奴がクグツならば間違いなく『不動縛』を使ってくる筈。それに、あの威圧感がない。空気みたいな気配のなさといい、……何者なんだ、一体』
面を被っていることもあって、威吹鬼もまた敵の正体が掴めきれずにいた。
二人の動きを制するように外側の影達が動く。
「挟撃されている。……一撃鬼さん!」威吹鬼がすかさず一撃鬼の背に接近する。互いに背を合わせ、背後を守るような格好になる。
「挟み撃ちでは分が悪そうです。奴等を引き離しましょう」
「敵の実力が見えないが、大丈夫か?」
「現状よりはマシかと」威吹鬼はそう言うと『烈風』を背後の装備帯に結わえた。格闘戦の構えに出るようだ。
「わかった、君の言葉を信じるよ。打って出て奴らの連携を封じる事にしよう」
「先手必勝です。いきましょう」慎重な性格とは思えない思い切りの良さで正面の影に向かう威吹鬼。
風を纏った蹴りが影を襲う。
「挟撃はさせない」一撃鬼は一人呟くと、『烈光』を腰に装着し、両の拳を強く握り締めた。
駆け寄ると、左のジャブを数発繰り出す。
能面は一撃鬼と同じく手には獲物を持っていない。威吹鬼と対峙する翁も同様だ。
それ故、動きは素早くなると踏んだ二人は自分の音撃武器を腰に結わえたのだ。
128志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/10(日) 16:10:14 ID:PzfrKQbo0
拳で牽制して中段の蹴りを放つ。K−1という格闘技などでよく見られる攻め手である。
能面は防御を巧みに行い、一撃鬼の攻撃を受け流していた。
隙を見せると、途端に強い一撃が襲うだろう。一撃鬼は能面の防御からそれを本能的に感じ取った。
それと同時に、その防御の仕方にどこか見覚えのあるものを感じていた。
能面の右の回し蹴りが一撃鬼の側頭部を狙って放たれた。一撃鬼が左腕でそれを防ぐのを見るや、逆に回転して後ろ回し蹴りを腹部目掛けて見舞う。その素早さはやはり人外の者。
しかし、回転系の技で攻めを続ける手法に一撃鬼はある人物のことを思い出した。
『まさか……』しかし、それが『彼』だという証拠にはならない。まして、明確な殺気を持って迫る相手に僅かな緩手も許されなかった。
倒さなければ、こちらが倒される。一撃鬼は非情の決意を持ってそれを決めた。そして、それは目の前の存在が『彼』ではない、という強い気持ちに裏付けられたものでもあった。
一撃鬼は相手の攻撃を一瞬で見切ると間合いを詰め、左のジャブから右のストレートを撃ち込んだ。
衝撃で吹き飛ぶ能面。倒れたその面には皹(ひび)が入っていた。
能面はダメージを負った様だったが、立ち上がると再び一撃鬼に殺到した。
一撃鬼は先程以上の鋭い攻撃を何とか防御すると、隙を見逃さず蹴りを放った。腹部に入った蹴りに体をくの字にする能面。
その顔に清めの音を籠めた右拳を放つ一撃鬼。白銀招の煌く拳は面の中央を捉え、面を砕いてその下にめり込んだ。衝撃で能面は後方へと吹き飛んでいった。
一撃鬼は呼吸を整えると能面の起き上がりを待った。程なく能面は起き上がったが、その面は完全に割れ去り、素顔が曝け出されていた。
「京介君!」驚く一撃鬼の前でその素顔は更にぐずぐずと溶け出し、その下から異様な真の顔が現れた。
「悪鬼……」一撃鬼はその顔を見て思わず呟いた。
その顔は左半分が青く染まった童子の顔を、また右半分が赤く染まった姫の顔をしていた。
「そうか。やはり、新手のクグツだったのか……」その素顔に安堵すると同時に呆然とする一撃鬼の前で銀のクグツはぐずぐずと全身を溶解させていった。
129志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/10(日) 16:10:56 ID:PzfrKQbo0
「……威吹鬼君!」一撃鬼は我に返るとすぐさま威吹鬼の所にとって返した。
威吹鬼の力ならば渡り合えると判断して分かれたが、クグツの面の下に京介の顔があるとなれば話は別だ。
それによって一瞬でも隙が出来れば、奴の能力ならば威吹鬼を倒すことは可能だろう。おそらくあの顔はその為の保険なのだ。
「まずい!」威吹鬼は鬼としては優し過ぎる。万が一、それが裏目に出れば……。
辿りついた一撃鬼が見たものは既に翁によって倒された威吹鬼の姿だった。
(八之巻へ続く)
130志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/10(日) 16:13:19 ID:PzfrKQbo0
>>129 2行目「分かれた」=「別れた」に修正ください。
131名無しより愛をこめて:2007/06/10(日) 20:35:35 ID:bg0cwPWP0
本編の鬼は今まで色々な人が書いてきたけど、新しいコンビ編成とか合体技とか出てくるとまた新鮮。
132「1年C組の冒険」 ◆yPxAREn4oY :2007/06/12(火) 05:58:49 ID:iYwhUzSW0
皆様はじめまして。
初めてSSを投下いたします。かなりドキドキしてます。
結構長いのでずいぶんレス消費しそう・・・。
ちょっと普通の鬼SSと感じの違う、青春テイストなお話です。
能天気な感じでお楽しみ下さい。
133「1年C組の冒険」第一話 ◆yPxAREn4oY :2007/06/12(火) 06:01:23 ID:iYwhUzSW0
第一話「サプライズ・アクション」

1,

いつもと変わらない今日。今日と変わらない明日。
何事も無く過ぎていく普通の日々。
でも、ほんのちょっとその均衡が崩れたら……


青葉の生い茂る初夏、柴又の空気は緩やかに流れていく。
3時限目、城北高校1年C組は英語の授業の真っ最中だった。
「江沢、また教科書忘れただと〜!!」
「す、すんませーん!」
長髪の少年、衛士(えいじ)は勢いよく頭を下げた。教室中に失笑が沸く。
「ごめん明日夢、ちょっと教科書貸してくんね?」
衛士は右斜め前の席の安達明日夢に懇願した。
「またぁ?しょうがないなぁ…」
明日夢は衛士にしぶしぶと教科書を渡した。
「サンキュー。えっと It sounds fishy to me…」
衛士はたどたどしい調子で英文を読み始めた。

お昼休み、衛士は友人の大野優と一緒に教室で昼食を食べていた。
優は衛士と同じバスケ部であり、学校の内外でも仲良くしていた。
「そんでさー、うちの家族がまたあれでさぁー」
「へぇー」
衛士と優は、購買で買ったパンを食べながらとりとめの無い会話をした。
「あ、そうだ。衛士、俺今日いい物持ってきたんだ」
「え?何々?」
優はウキウキとカバンから何かを取り出した。
「じゃーん!!」
それは、『ペア入場券&乗り物フリーパス』と印字された2枚のチケットだった。
134「1年C組の冒険」第一話 ◆yPxAREn4oY :2007/06/12(火) 06:02:50 ID:iYwhUzSW0
「うお!それ『青武ミラビリスパーク』のチケットじゃん、どーしたの?」
「これさー、俺のねーちゃんが職場の人からもらったんだ。今度の日曜に遊びに行こうぜ!」
「マジでー!!行く行く!」
「へー、アタシもそれ連れてってよ」
横から小柄なショートヘアの少女が顔を出した。
同級生の内田理香である。
「ペア入場で2枚なら、アタシもいけるでしょ?」
「なんでオメーを連れてかなきゃなんねーんだよ」
「あれ?この間クリームパン代立て替えてあげたの忘れたんだ?」
「うっ…」
優は言葉に詰まった。
「その前はサンドイッチ。その前の前はカップラーメン。その前の前の前は…」
「わ、分った分った!お前も連れてってやるから、な!」
「やった!」
理香は小さくガッツポーズをした。
「じゃあ明後日、朝9時に柴又駅前に集合な」
優は二人に向かって念を押した。


2,

衛士は部活を終えて帰路についていた。
時刻はすでに夜の7時である。
衛士はコンビニの前を通りがかった。その時、
(げっ!何やってんだよ!)
年は40に差し掛かったくらいだろうか、背広を着た小柄な男性が、コンビニの前で煙草を吸っている
学生服の少年達と揉めている。
その男は衛士の父、栄吉だった。
135「1年C組の冒険」第一話 ◆yPxAREn4oY :2007/06/12(火) 06:03:53 ID:iYwhUzSW0
「だからなー、お前達、タバコを吸うのはまだ早いって言ってるだろ」
「あぁ!?何言ってんだよ」
学生服の方は険悪な雰囲気である。
「今すぐタバコを消しなさい。早く」
「はぁ?オメーに指図される筋合いないんですけど」
「いいや、ある。お前達のやってることは正義じゃない!」
栄吉はビシッと指を突きつけた。
(まずい!)
衛士はあわてて父親の元に駆け寄った。
「すいません!!ちょっと、ごめんなさい」
「ん?なんだ衛士。父さんはまだ説教が終わってな…」
「いーから、もう帰るぞ親父!」
衛士は栄吉の袖を引っ張って無理矢理退場させた。
(はー、正義正義って、ガキじゃないんだから…)
衛士は呆れ果てて父親の顔を見た。


「ただいまー」
「ただいま」
「お帰り。ご飯出来てるわよ」
二人を母とも子が出迎えた。
衛士は、家に入るなりリビングのソファーに無造作にカバンを放り投げた。
栄吉は背広をハンガーに掛け、隣の部屋で私服に着替え始めた。


衛士は柴又近辺のアパートに、父栄吉と母智子の三人で一緒に暮らしていた。
母親は普通の性格なのだが、父親の栄吉は、どうも正義感が強すぎる…というか、
性格が潔癖すぎるのか、時々周りと揉めてトラブルを起こす。
それと、衛士にはもう一つ、どうしても許し難い父親の性癖があった。
136「1年C組の冒険」第一話 ◆yPxAREn4oY :2007/06/12(火) 06:05:16 ID:iYwhUzSW0
「いただきまーす」
食卓には美味しそうな料理が並んでいる。
「お、エビフライか。美味しそうだな」
栄吉はエビフライを箸でつまんだ。
「このエビフライはAB型?なーんちゃって…」
「…………」
食卓を気まずい沈黙が支配した。
「はぁ…」
衛士は深くため息を付いた。
これが衛士の、許し難い父親の性癖その二なのである。
(この二つがなければ、いい父親なんだけど…)
「衛士、日曜日はどうするの?」
智子が衛士に聞いた。
「俺、優達と一緒に遊園地行くから」
「そっか、父さんは日曜も仕事だからな」
家族三人の夕食はつつがなく続いた。


日曜の朝、衛士はパジャマ姿で携帯から優の電話を受けていた。
「何ぃ〜?チケットをなくしたぁ〜!?」
 電話口で衛士はのけぞった。
「ゴメン!ホントにゴメン!!昨日までは確かにあったんだけど…」
携帯の向こうから、優の申し訳なさそうな声が聞こえてくる。
「もう準備しちゃったじゃねーか!どーすんだよ!今日の予定!」
衛士の部屋の片隅には、カメラやら財布やらを詰め込んだバッグが転がっている。
しかし…
いまさら衛士達に入場料+乗り物フリーパスの四千円を支払う余裕はない。
「悪いけど、今日は近所の葦美野山で川釣りに変更って事で…」
「川釣り…」
衛士はがっくりと肩を落とした。
137名無しより愛をこめて:2007/06/12(火) 06:10:41 ID:s2l3S/AIO
うわ、連投規制に引っかかった…。
続きをどうぞ。
138「1年C組の冒険」第一話 ◆yPxAREn4oY :2007/06/12(火) 06:20:30 ID:iYwhUzSW0
3,

結局、三人は葦美野山へ行った。
三人はめいめい荷物を持って山道を歩いた。釣り具は川の近くで貸し出してくれるらしい。
「あーあ、ジェットコースター乗りたかったなぁ…」
「罰として、今日の昼食は優のおごりだからな」
「はいはい」
三人は奥へ奥へと山道を歩き続けた。
苔の生えた石だらけの山道は、じめじめとして歩きにくい。
遙かな峡谷より聞こえる川のせせらぎ。幾百年の時を湛えて静かにそびえ立つ大木達。彼方から響く鳥の声。、
深い山の内奥部は、むせ返るような緑の気に満ちていた。
山道を歩き続けて数十分。三人はすでに汗だくになっていた。が…
「…なんか、妙に寒くないか?霧も出てきたし…」
「確かに…なんか変だよ、ここ…」
三人は不安にかられはじめた。そのとき、突如三人を強い突風が襲った。
「うわっ!!」
衛士は上空を見上げた。
鳥、しかも空を覆うほど巨大な。
「な、なんだよコイツ!?」」
全身が黄色と黒の斑に染まった、巨大な怪鳥である。
怪鳥は蹴爪で三人を狙い、地上に急降下してきた!!
「危ないっ!!」
三人は草むらの中に逃げ込んだ。
怪鳥は奇怪な声を上げ、三人を執拗に狙ってくる。
「きゃああああぁぁぁっ!!」
「走れ!」
衛士の掛け声とともに、三人は無我夢中で山中を走りぬけた。
走って走って、しばらくすると、怪鳥の気配が消えた。
「た、助かった…のか?」
三人はとりあえず息をついた。
139「1年C組の冒険」第一話 ◆yPxAREn4oY :2007/06/12(火) 06:22:49 ID:iYwhUzSW0
三人は山を降りるため歩き続けた。
河原に差し掛かった時、4WDのオフロード車が止まっているのを。
その横で、テントを張り簡易テープルを立て、様々な道具を展開している二人組の男がいた。
二人を見た衛士はぎょっとした。
(あれは……親父?)
そこにいたのは、確かに自分の父親、栄吉だった。
側にいたのは見たことのない短髪の青年だった。
二人は大きなトランクを車から出して、何かの作業をしている。
なんで親父が私服で山の中に居るんだ?
今日仕事じゃなかったのか?リストラされたのか??
「なんだ?あれ衛士の親父さんか?」
三人は脇の茂みから耳をそばだてた。

「しかし、戸田山とコンビを組んで仕事するなんて、思ってもみなかったなぁ」
栄吉が青年にしみじみと語りかける。
「ザンキさんから、しっかり勉強してこいって言われましたから…
 それと、今はもう戸田山じゃなくて、トドロキッス」
「そうか、戸田山が立派な一人前になるなんてオドロキだねー!!なんつって!!」
「………」
「いや、今日はお祝いでコオドリだねー!なんつって!!」
「…………」
あぁ、あれは親父だ、絶対間違いない。
トドロキと呼ばれた男は、飛んできた鳥のような機械をキャッチした。
鳥は驚くべき事に手の中で変形し、CDのような形になった。
(親父達は一体何をやってるんだ?)
二人は鳥や犬状の機械を回収し、何かを調べて地図にピンを刺すという行為を
延々と繰り返している。
トドロキが険しい表情になって栄吉に告げた。
「……エイキさん、当たりッス」
エ イ キ さ ん ?
衛士は、父親がそんな名前で呼ばれているのを初めて聞いた。
140「1年C組の冒険」第一話 ◆yPxAREn4oY :2007/06/12(火) 06:24:21 ID:iYwhUzSW0
「よし、行くぞ」
二人は急いで走り出した。
「まさか親父、あの鳥の化け物を探してるんじゃ…」
衛士の顔がにわかに曇った。
「なぁ、俺達も行ってみよーぜ」
「えぇ?危ないよー!!」
「このまま親父を放っとけねーよ!行くぞ!」
三人は慌てて栄吉達の後を追っていった。

4,
数分後、衛士達は栄吉…エイキたちに追いついた。
(いた…)
上空では怪鳥が旋空している。
衛士たちは物陰に息を潜めた。
トドロキと栄吉…いやエイキは、敢然と怪鳥を見上げた。
「トラツグミか。この辺で見るのは久々だな…行くぞ」
「はい!!」
二人は怪鳥に向かって走り出した。
エイキ腰から金属で出来た何かを取り出し、額にかざした。
「はぁぁぁ……」
エイキの額に鬼面が浮き出た瞬間、突然、エイキの圧迫感が増大した。
逆巻く力と風、生命のうねりが見えない壁となって、衛士達を押し返しているようだった。
三人が唖然としていると、見る間にエイキの体が緑色の炎に包まれ始めた。
(親父ッッ!!)
飛び出そうとした衛士を、とっさに優が押さえた。
炎がエイキの被服を燃やし尽くそうとしたとき、エイキは右手を挙げ、一気に炎を振り払った。
「はぁっ!!」
炎が散り散りになって大気にはじけた。
そこに居たのは、もはや自分の知る父親ではなかった。
隆々と盛り上がった胸、極限まで鍛えられた逞しい腕と脚。鋭い角と隈取りを備えた頭部。
一分の隙もない肉体から、立ち上る少煙の闘気。
そこに居たのは魔化魍を狩る鬼------荒ぶる緑炎の戦士、鋭鬼だった。
141名無しより愛をこめて:2007/06/12(火) 06:36:57 ID:s2l3S/AIO
ああ…また連投規制…。
142「1年C組の冒険」第1話:2007/06/12(火) 06:48:55 ID:s2l3S/AIO
三人は言葉も出なかった。
特に衛士は、顔色を失って失神寸前である。
トドロキも鋭鬼の後に従い変身した。ただし、こちらの纏ったのは炎ではなく雷だったけど。
「行くぜ、戸田山」
「轟鬼っス…」
鋭鬼と轟鬼は、武器らしきものを構えて怪鳥に狙いを付けた。
143「1年C組の冒険」第一話:2007/06/12(火) 06:57:44 ID:s2l3S/AIO
「そりゃあっ!!!」
轟鬼は、ギターのような武器でトラツグミに斬りかかった。
「おいおい、あいつらあの化け物と戦うつもりなのかよ!」
優が思わず口にした。
鋭鬼と轟鬼はなおも攻撃を続けた。
「ギャアァァァァ!!」
山中にトラツグミの悲鳴が飛散する。
144「1年C組の冒険」第一話 ◆KG2j1kHUXQ :2007/06/12(火) 07:20:19 ID:aTyfsIZM0
トラツグミはバランスを失ってよろよろと高度を落とした。
「鋭鬼さん、今ッス!!」
「おう!!」
鋭鬼はトラツグミの背に飛び乗った。
「そりゃぁぁぁぁっっ!!」
鋭鬼は両手に持った音撃棒・緑勝で、力の限り音撃を叩き込んだ。
トラツグミは必死に抵抗するが、鋭鬼は落とされない。
トラツグミは見る間に膨張し、辺り一面に枯れ葉となって爆散した。

三人はぽかんと口を開けて見入っていた。
「すげー…お前の親父さん、めちゃめちゃ強えーな」
「馬鹿!そういう問題じゃないでしょ!!」
理香が優をたしなめた。
衛士といえば、もはや紙のような顔色で、立ってるのもやっとの状態である。

(なんだあれ。本当に……親父だったのか?)
(俺の親父って……一体何者なんだ??)

衛士の体が震え、歯がガチガチと鳴り始めた。
                                 
  続く
145「1年C組の冒険」作者:2007/06/12(火) 07:22:42 ID:aTyfsIZM0
うわぁ!トリップが変わってる!!
ううう・・・連投規制に引っかかるわ、トリップが変になるわ
もうボロボロです・・・すいません・・・。
146名無しより愛をこめて:2007/06/12(火) 12:13:43 ID:YdpqivWvO
面白いぞー
早く続きが読みたいッス

頑張ってください!!
147名無しより愛をこめて:2007/06/12(火) 12:40:53 ID:VMhP6Gb3O
かなり早起きだな。
148名無しより愛をこめて:2007/06/12(火) 14:17:15 ID:BRbj5GvE0
徹夜明けかも。

とりあえず無理のないようにガンガレ。
続き、楽しみにしてます。
149裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/06/12(火) 21:29:33 ID:1RIBOkQCO
瞬過終闘―― 『十六 小暮耕之助 《高すぎた希望(ねがい)》』

「ふぇ〜ん!! クジキがおこった〜!!」
中部支部の鬼達の亡骸を車両に乗せている黒い集団を背にし、携帯にべそをかくハイキ。通話相手は瀕死のエイキを担いだクジキだった。
「使えねえ馬鹿だな。なに逃がしてやがる‥‥ 日高のヤツが『処分』する前に、俺が壊してやろうか?」
「え〜〜ん!!」
一層激しく泣き出すハイキに、クジキはうんざりして抱えていた鋭鬼を、北海道支部の残骸を撤去している集団に投げ放った。
「‥‥弾は撃ち込んであるんだろ。ならさっさと東京に戻れ。どうせその鬼は変身出来なくなるからな」
「ぐすん‥‥ ウン‥‥」
クジキは溜め息をして携帯を集団の一人に渡すと、早々と彼等の専用車両に乗り込んだ。
「‥‥俺に子守りまでさせやがって‥‥日高のヤツ、しくじってたら殺す‥‥」

日高博昭が部隊の半数に及ぶ100人の戦闘集団を率いて永田町を占拠したのは、クジキ達が各支部を壊滅させてから1時間後の事だった。
150裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/06/12(火) 21:30:39 ID:1RIBOkQCO
これまで考え無しに垂れ流した『猛士』の情報に寄せられる国民の意見と『猛士』の処理を任せろと迫る日高と集団の持つガトリングガンに萎縮した官僚達。
彼等は日高に全てを押し付ける事が自分達の保身に結び付くと弛緩し、呆気なく日高に首を縦に振り特命大臣の権限をも与えていた。
「私は身内に鬼を持ち、今回の問題に干渉せずに済む立場では有りません。皆様もお疲れのご様子ですので、この辺りで御起立頂けませんか?」
安堵の表情を重ねて歩き出す老人達の背に、日高は小声で呟いていた。
「甘い汁と金の脂に浸された話し合い、いつの時代も中心は虚無‥‥ まるで不味いドーナツだな」
日高は席を外さなかった3人の若い官僚を見た。
彼等『協力者』は唇の端を吊り上げた。

机の上に置かれているのは数十年前の写真だった。現役時代、無頼派だった自分を中央に、仲間達が笑顔を咲かせていた。
写真立てを手にした小暮の頬を伝う涙は、若い彼と『彼女』の間に落ちた。
「‥‥‥‥」
東京湾に浮かぶ政府の特別施設。その地下に存在する研究所の主任研究員室は小暮のものだったが、先程日高が数日前に拉致した安達明日夢がベッドに運ばれてきた。
151裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/06/12(火) 21:35:53 ID:1RIBOkQCO
明日夢は睡眠薬を投与されイチゲキが行方不明になった事も三大支部の壊滅も、ヒビキが粉雪鬼を助けた事も知らぬまま、目を覚ました。
「‥‥気付いたな。安達君」
頭痛と記憶の混乱に明日夢は小暮の顔を思い出すのにかなりの時間を要した。
「猛士関東支部直属の間島医院に勤めていたか‥‥ 君には手伝って貰いたい事がある。今もう暫くは、休みなさい」
部屋を出ていった後、明日夢は小暮を思い出した。ベッドから起き上がりドアを開けようとするが白い扉は動かない。
心に落ち着けと連呼しながら部屋の中を見渡すと、机に置かれている若い小暮達の写真に目が止まった。
若い小暮は笑っていない。彼の隣に立つ女性が笑いなさいよと言わんばかりに頬を膨らませていた。
明日夢が写真を机に戻した時、写真立ての裏が外れた。古い留め金が緩くなっており、2枚の写真が机に滑り落ちた。
昔の鬼達に隠されていたもう一枚の写真。凛とした壮年の女性と、若い女が並んで写されていた。
明日夢はその若い女を見た記憶があった。女の首から下は青竹色をした鬼の身体だった。
「誰、だっけ‥‥?」
明日夢がその女をハイキと、壮年の女性を南雲あかねだと知るのは、それから2週間後の事だった。

続く
152裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/06/12(火) 21:41:40 ID:1RIBOkQCO
【今日の裁鬼さん】
とりあえずイマジンが憑きました。

○モモタロス
石割「なんか荒々しくなった!?」
裁鬼「魔化魍ぅ〜? 知るかそんなの!! やいなんだこのクモ! うわ! ぁ痛っ! ぎゃ〜〜!! 」
石割「‥‥」
裁鬼「‥‥俺、惨状‥‥ ガクッ‥‥」
◇ウラタロス
裁鬼「千の負けに一つの勝ち。だから僕は負けるんだ」
石割「‥‥アカンがな‥‥」

刄Lンタロス
裁鬼「俺の弱さにお前が泣いた!」
石割「さっきからどうしたんですか裁鬼さん!?」
裁鬼「涙はコレで拭いとき!」
石割「あ、どうも‥‥ ってトイレットペーパー!?」
♪リュウタロス
裁鬼「やられてもいい?」
石割「‥‥ダメです」
裁鬼「答えは聞いてなうわ〜〜っ!」
石割「‥‥」
☆デネブ
裁鬼「石割、ゴメン。サバキ、いつも石割に申し訳ないと思ってる。サバキ、いつも石割に病院へ連れて行ってもらったり、病院へ連れて行ってもらったりしてる」
石割「まあ、そうですが」
裁鬼「だから、今日は頑張る」
石割「えっ!? それじゃあ‥‥」
裁鬼「うん! 頼んだぞ、石割」
石割「はあ!?」
裁鬼「サバキが戦うから負けて、石割病院へ連れてく。だから戦わない。さあ頑張って石割、デネブキャンディーだ」
石割「(;´д⊂)」
153名無しより愛をこめて:2007/06/13(水) 00:14:37 ID:cNyCqfZD0
    ),,)
   (*`w´)<このスレにも俺、参上!
154名無しより愛をこめて:2007/06/13(水) 12:00:23 ID:sm0dBxSDO
志〜に出た剛力招雷ってのはハイパーバージョン示唆?
いやギター弾きとしたら轟鬼にはリベンジチャンスなら嬉しい!

イナズマンかな?
155志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/13(水) 16:35:46 ID:0LppYgU50
『剛力招雷』にからんで、チラシ裏ということで合体技について触れておきたいと思います。

今まで出てきた合体技は『合同音撃』『音撃双射』『重音撃』の三つです。

『合同音撃』は関東支部における共通楽曲による音撃で基本は太鼓、弦、管の3パートによる構成ですが、2パートでも使用可能なものと設定しています。
個人の必殺音撃の組み合わせではなく、共通のフレーズを用いた音撃という風に考えていただけると良いかと思います。
入りも同時のため、呼吸を合わせて一斉に入らないと効果が半減し、最悪の場合反撃されます。
『響天導地』は弦と太鼓による共通フレーズです。ただし、使う者としては蛮鬼と鋭鬼が一番相性はいいようですが。

『音撃双射』は音撃管2基による音撃です。3基ならば『三連』という風になります。
太鼓、弦の場合もあり、弦で有名なのはあの『雷電大激震』です。基本は特定のフレーズにサブのフレーズを重ねたもので、共通型のものと特定の必殺音撃に付随するものとがあります。
『閃風嵐覇』はイチゲキとイブキの共作です。同じ傾向の武器の際の合体技として使います。

『重音撃』は特定のフレーズに別の音撃武器でセッションのように音撃のフレーズを重ねるものです。
誰かが音撃に入った少し後に飛び入るように入るのが特徴です。特定の鬼同士の合体技として使います。
合わせが重要なので、呼吸やリズムが取れないと効果が半減します。
『剛力招雷の型』は語源は「イナズマン」です(>>154さん、正解です)が、ゴウキとザンキの共作という風に設定しています。
剛鬼が轟鬼に「合わせは……」と訊いたのはこのためです。轟鬼とのセッションの経験がなかったため、覚えているかどうかを確認したのですね。

154さんの問いについてはお答えできませんが、楽しんでいただけているようでありがたく思います。
次の投下はまた後日に……。
156名無しより愛をこめて:2007/06/14(木) 18:21:02 ID:MJDtMmFZO
音撃って意外と扱われてるんだな!
漫画だとハーメルンのバイオリン弾き
小説だと超能力セッションシリーズとか

後者読んだのは厨房の頃で廃刊らしいがお勧め!
坊さんに集められるのはが羅漢がジャズマンとして生まれた者
大自然とシンクロするピアニストとか

作家は今野敏
ブクオフにでも在ればお勧めしますよ!
157名無しより愛をこめて:2007/06/14(木) 19:51:48 ID:6twBsQL00
なあ、中四国が自分で用語集作るって言ってたけどまだ出来てないの?
158名無しより愛をこめて:2007/06/15(金) 00:07:44 ID:VQwAsDLg0
>>157
気になるなら見てこいよ。ナイけどな。
って、釣りか?
159名無しより愛をこめて:2007/06/15(金) 09:08:34 ID:y8PVp3E2O
>>156
阿佐ヶ谷Zippyの東京ボンテージなんかもいるよ
浄土宗のお経をヴィジュアルロックに乗せて放つ罰当たり坊主たち
音楽には霊的な力が宿るって言うし

そういえば弦楽器は糸で天と地を結ぶ神聖な楽器だとなにかで読んだ覚えがある
160名無しより愛をこめて:2007/06/15(金) 12:43:35 ID:kh7xmpuVO
>>158
157は、今も中四国がスレの一作品だと言い張るいつもの人でしょう。
異を唱えられれば汚い言葉でやりかえし、過去ログを見ろと言われたら、誤魔化すか黙る。
それから用語集が好きで、よくageる。
161名無しより愛をこめて:2007/06/15(金) 20:20:22 ID:2sqYRZbD0
>>160
単に質問しただけの人にそこまで噛み付かなくてもw
162名無しより愛をこめて:2007/06/15(金) 23:53:46 ID:nCztvTGi0
彼を忘れたい住人の心情より彼の用語集の方が大事、それが>>157
そして、彼を忘れたい住人の気持ちを考えずに>>157を擁護する、それが>>161
163名無しより愛をこめて:2007/06/16(土) 00:02:26 ID:2sqYRZbD0
いや、忘れたかったらその人が勝手に忘れてればいいと思うし
中四国戻って来いって唱えてでもいるならともかく、今回みたいにちらっと名前が出るくらいは仕方ない
そういう形ですら名前を見るのが嫌ならこのスレに来なけりゃ済む
164158:2007/06/16(土) 00:07:59 ID:fPSlWfK+0
自分で突っ込んでナンだが、結局もめるんだから、もうヤシの話題はやめようぜ。
157もここでヤシの名を出すのはもうやめな。
前スレのラスでヤシが用語集は自分でちゃんと作るって言ってんだから、見たい奴はヤシのサイトに行けばいい。
それだけのことだろ。
空気悪くなるから、161も擁護と取られる発言はしないほうがいいぜ。
165名無しより愛をこめて:2007/06/16(土) 01:40:53 ID:0n0NvRp4O
そんな事より作品の
話しようぜ!
166名無しより愛をこめて:2007/06/16(土) 01:50:32 ID:WGsAoXGV0
『皇城の守護鬼』のヒラメキさんの本名を予想しようぜ!

 日之出 ひ○○○

「ひろゆき」とか「ひろすけ」とか。
167名無しより愛をこめて:2007/06/16(土) 06:57:01 ID:Ilxi/MA50
>>164

>>157の質問の何がどう釣りなのか意味不明
>>158とか>>160みたいな煽りが何をどうしたら正しい発言になるのか意味不明
>>161がどっからどう見たら擁護(そもそも誰の?)と取れるのか意味不明
今回スレの空気悪くしてんのお前だよ?

中四国や雪風の話が全く出なくなるなんてどうやっても有り得ない
多くの人が集まってくる2chで特定の話題だけ出ないようにするなんて絶対有り得ねえ
そして皆が皆お前みたいに思ってるわけじゃないってそろそろ身に染みてわかってるんだろうから、
次からはお前が勝手にスルーするようにしような。
168名無しより愛をこめて:2007/06/16(土) 08:33:32 ID:evekti980
中四国さんは神だと思っている。
7年ほど前の正月休みに両親と静岡市の中四国さんの実家(もんじゃ焼き屋)に
食べに行った時の話。
両親と3人で鉄板を囲んで食事をしているといきなり中四国さんが
玄関から入ってきた。もんじゃ焼き屋に似合わないイタリアンないでたちで。
中四国さんが「俺いつもの〜」と言って二階へ上がろうとすると、
店内にいた高校生集団が「中四国さん!」「中四国さんかっけー!」などと
騒ぎ出し、中四国さんが戻ってきてくれて即席サイン会になった。
店内に13、4人ほど居合わせた客全員に店内にあった色紙を使い
サインをしてくれた。
高校生達が中四国さんの母校静岡学園のサッカー部だとわかった中四国さんは
いい笑顔で会話を交わしていた。
そして中四国さんは「またな〜」と二階に上がっていき、店内は静かになった。
私と両親は中四国さんの気さくさとかっこよさに興奮しつつ
食事を終え、会計を済ませようとレジに向かうと、店員さん(中四国さん妹)が
階段の上を指差しながら
「今日のお客さんの分は出してくれましたから。また来てくださいね」と。
あれには本当にびっくりした。
169名無しより愛をこめて:2007/06/16(土) 12:54:08 ID:E2/dZPHX0
>>166
彦左衛門(ひこざえもん)

そして愛称は「ひこにゃん」と、妄想してみた
 清涼なる音高らかに。真夏の空を切り裂いて。

 霧笛に似た甲高い音色であった。余韻収まらぬ鬼笛を額にかざし、師弟は疾駆する。

 音が呼んだのは渦であった。

 二人の足元より碧(あお)い渦が立ちのぼり一瞬で巨大な姿をその内に取り込んでしまうと、
その回転はにわかに勢いを増す。轟々と音を上げ、行く手の芝生を吹き飛ばし、移動速度は保っ
たまま、渦の向こうに霞む人影はアクションを起こす。年配の巨漢は片腕を頭上高く掲げ、年
若き巨漢は両腕を顔前で交差させ、

 っぃいよいしょおっ!

 鉄色の鋭い爪が渦を真っ二つに切り裂いて、

 せいっ!

 鋼色の逞しい腕(かいな)が渦を薙ぎ払い、二匹の鬼は現れた。

 二匹はまるで鏡に映したかのようによく似ていた。

 七尺を優に超える小岩のごときその異形。
 のっぺらぼうの頭部を紺碧の曲線が隈取り、額の鬼面は恐ろしげな表情で宙を睨む。そして
そこから天に向かって生えた大きな一本角。わずかに違(たが)うは金銀の鬼面、方や碧(あ
お)みを帯びた、また一方は藍(あお)みを帯びた黒い皮膚。
 どこから、そしていつの間に取り出したか両手には撥を携え、背には必殺の管が鈍い光沢を
放つ。
 撥の先端で、鬼面をあしらった、碧色に透き通る鋼玉(こうぎょく)がきらりと耀いた。

 年経た鬼の名は≪飛沫鬼≫。

 若き鬼はまだ鬼としての呼び名を持っていない。
171皇城の〜中の人 ◆COP3Lfy.8w :2007/06/16(土) 17:41:37 ID:w3AOfsTt0
訂正orz

方や碧(あお)みを帯びた、
     ↓
片や碧(あお)みを帯びた、
172158(164):2007/06/16(土) 18:24:48 ID:fPSlWfK+0
>>167

意味不明、とか言われているのは釈然としないが、結果的に空気悪くしてスマソ。

ただ、語るのは自由だろうが、皆が皆167みたいに思ってるわけじゃないことは分かってくれ。
それと彼がこのスレで話題に出るたびにそのことがついて回るであろう事と彼がスレとかかわりを残したくない発言をしていることは忘れないでくれ。
話題に上るたびに傷つくのは本人とあの一件の当事者だ。いちいち思い出されるんだからな。
触れないようにしてやるのも大事なんじゃないのか。

まあ、俺は反省してスルーするようつとめるよ。余計してすまんかった。
173名無しより愛をこめて:2007/06/16(土) 20:16:22 ID:r9kh5otAO
>>170
Σ(゚Д゚) コ、コレデオワリ!?
174名無しより愛をこめて:2007/06/16(土) 23:03:55 ID:XLQ4B8TRO
流れを本来の投下スレに戻そうと
一話でも緊急投下してくれたんじゃね?
175志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/16(土) 23:04:31 ID:fPSlWfK+0
前回は>>122-129

八之巻 俯く瞳

その日より甘味処たちばなは急遽不定期の休業に入った。表向きは社員研修並び次期新商品開発の為である。
勿論得意先よりの特別注文については承っているが、木戸は閉められ、その内側に薄い無地のカーテンが張られていた。
店の地下にある猛士関東支部ではトドロキの帰りを待つ日菜佳を中心に重い空気が流れていた。
朝方に装備を回収したゴウキとトドロキから帰還する旨の報告を受けた後、時計は既に昼を回り午後の二時半を差そうとしていた。
「遅いですねぇ……」古文書を読んでいた目を止め、日菜佳が心配そうに口を開いた。
「大丈夫だって。きっと寄り道したトドロキ君がお昼を沢山食べてるから時間掛かってるのよ。あの辺、ご飯の美味しい所多いから……」香須実が妹を元気付けようと明るく振舞う。
何時もであればこんなに心配にはならない。大方寄り道でもしているんだろう、と携帯に一言入れてやれば、トドロキは飛んで帰って来る。勿論、土産の耳かきを持って。
ところが、今回はあまりにも凶事が多すぎた。相次いで鬼が倒され、出かけて行ったトドロキもゴウキも何時その状態にならないとも限らないのだ。
トドロキと連絡の取れない日菜佳は湧き上がる不安と必死に戦っていた。
一方、香須実もイブキからの定時連絡が途絶えた状況から魔化魍と接触したと想定される事態に心を痛めていた。気丈に振舞いながらも、内心は不安で一杯だった。
そうした姉妹を気遣いながら、ヒビキと勢地郎は万が一の事態に備えつつ鬼封呪の解除法を調べていた。
四人は吉野の総本部より送られてきた多くの古文書のデータを一つ一つ検索し洗い出していたが、 『金』である日菜佳や事務局長としてデータの扱いに慣れている勢地郎はともかく、コンピューターの扱いの苦手なヒビキには苦痛とも言える作業だった。
そんな中、関東支部の技術担当の『銀』、滝澤みどりが吉野から戻ってきた。
176志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/16(土) 23:06:59 ID:fPSlWfK+0
「みどりさ〜ん!」地下に降りてくるみどりを日菜佳が駆け寄って出迎える。
「ごめんね、遅くなって。ちょっと手間取っていたものだから……。それと、これ」みどりはそう言って両手の荷物を置くと、右側のトランクから大きな封筒を勢地郎に渡した。
「資料室の史書さんが向こうにあった古文書を解読したものよ。吉野でも倉庫の相当奥に入っていたものだったみたい。昨夜見つかったやつを今朝一番で渡されたの」
「みどりは目を通したのかい?」中の紙をぱらぱらと捲りながら勢地郎が尋ねる。
「それが、着くまでは見るなって。何処で目が光っているか分からないからって」
「…………」
「おやっさん、何て書いてあります?」ヒビキが覗き込みながら訊いた。
「書き下してあるな。これによると、鬼封呪は真言密教の文言を基にして作られていて、術者はその呪(まじな)いを持って鬼力を封ずる、とある。また、その際に鬼の文字に別の文字を付けることで鬼の属性を中和し消し去る呪いをかけるらしい。
鬼の属性が消えれば、いかに体内に清めの音があろうとそれを発揮させる事は出来ない、という訳だ。鬼の属性というのは純潔の血筋を発動させた場合と『鍛え』によって超人的能力を得た場合とに大別されるが、鬼封呪自体はそのどちらにも使う事が出来るようだ。
ただし、効果は後者にかける場合の方がより強く得られるらしい。だが、やっぱり、と言うか、具体的な方法は記されてはいなかったようだ」
「……どうやら、かけた奴を捕らえて解かせるか、解き方を吐かせる以外なさそうですね」ヒビキが鼻を擦りながら勢地郎の話に相槌を打った。日菜佳を宥めていた香須実が頷く。
「今現在動ける鬼は五人……か。何とか敵の尻尾を掴まないと……」勢地郎が書類から目を上げて言う。
「……ところで、みどり。例の件はどうだった?」ヒビキが思い出した様にみどりに尋ねた。
「あ、あの事ね。ヒビキ君の言う通り、やっぱり少しおかしかったみたい。あの装甲声刃」
177志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/16(土) 23:07:47 ID:fPSlWfK+0
一方、翁によって倒されたイブキではあったが、変身を解除されたのは顔だけだった。
一撃鬼はイブキを抱き起こすと、大丈夫か、と訊ねた。
「……すみません、やられてしまいました。……面の下の顔に気を取られまして……。不覚です」
「そんな事はいい。ところで、君は鬼封呪をかけられなかったのか?」
「わかりません。打ち負けた後、意識が少し飛んでいましたので…………。でも、その前に奴が『鬼ごっこはもう飽いた。お前達の為に青木ヶ原の樹海に《墓場》を建てた。……子鬼を取り返しに来るがいい』と……」イブキは虚ろな目でそう語った。
「……墓場……?」一撃鬼が訝る間にイブキの眉間に文字が浮き上がり、更に文様が全身に広がると、イブキはがくがくと全身を痙攣させて気を失ってしまった。
「しまった!……くそっ!」一撃鬼は気絶したイブキを抱き上げて立ち上がると、ベースキャンプへと急いだ。
奴らの話が本当だとするなら、すぐに襲っては来ないだろう。今は一刻も早くイブキを運んだ上で現状をたちばなに知らせ、早急に対応策を練らなければならない。
一撃鬼はイブキを抱えたまま、山中を駆けた。
178志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/16(土) 23:12:04 ID:fPSlWfK+0
「やっぱり、そうか」ヒビキはみどりの言葉に相槌を打つと腕組みした。
「どういう事だい?」勢地郎はヒビキに向き直って訊ねた。
「装甲声刃って何回か使うと、時折眩暈みたいなのがする事があったんです。最初は出力の大きい装備なんでそのせいかな、と思っていたんですけど……。
最近では使う度にやたらと誰かに見られているような気がしていたんで、ひょっとして『奴等』に奪われた時に何かされたんじゃないか、と思いましてね。みどりに頼んで吉野の小暮さんの所に送って貰っていたんです」
「最近は使う回数は少なかったように聞いていたけどね」
「使っていたのは今年の春ぐらい迄ですね。その後吉野に送りましたから」
「……それで問題はあったのかい?」ヒビキの話をひとしきり聞いた後、勢地郎はみどりに本題を戻した。
「小暮さんが内部を解析して調べた結果、『奴等』の手が確かに入っていたことが分かったわ。どうやら、目立たないようにデータを『奴等』に送っていたみたいね」
「盗まれた時に心配していた事が現実になった、って訳か……」ヒビキがお茶を啜りながら言った。
「残念ながら、ね。分解こそされていなかったけど、出力や音撃刃の威力は完全に筒抜けだわ。それと、見られているって言ってたヒビキ君の話もどうやらこのせいね。
まあ、眩暈は単なる使い過ぎのせいじゃないか、って小暮さんが言ってたけど」
「……鍛え足りない、と言う訳か」
「可能性としての話だけどね」
「じゃ、また鍛えるだけだな」ヒビキは鼻を擦りながら呟くように言うと、それで装甲声刃は何時届く、とみどりに訊いた。
「小暮さんが分解して再調整しているから、あと二、三日はかかると思うわ。出来次第、送ってくれるって言ってたから間に合うとは思うんだけど」
179志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/16(土) 23:12:51 ID:fPSlWfK+0
「……状況はあまり有利とは言えなくてね……」勢地郎がそう言ってお茶を啜ると電話が鳴った。
香須実が出ると、イチゲキからの連絡だった。
イブキが鬼封呪にかけられた事などを簡潔に報告すると、イブキを病院に搬送して戻る、と告げた。
「……ありがとう。頼むわね、イチゲキ君」香須実はそう言って受話器を置くと、イチゲキからの報告を皆に話した。その顔色は青ざめて白くなっていた。
「……香須実……。少し、横になりなさい。日菜佳、香須実に付いて行ってあげなさい」勢地郎はそう言って姉妹を上に上げると再び椅子に腰を下ろした。
「これで四人、か……」溜息混じりに言う。
「『墓場』の話、言葉通りの罠だとは思いますが……」
「乗るつもりかい?」
「他に手がかりがありません。『奴等』の撒き餌に食いつくしかないでしょうね」
「……よし。私は他の支部から応援を呼べるように掛け合ってみよう。ゴウキ達の事は白崎さん辺りから手を回して貰うとして……。ヒビキはイチゲキ君の到着を待って、樹海の方の調査に当たってくれ」勢地郎はそう言うと、受話器を取って電話をかけ始めた。
「他が手薄になりますが、来てくれるとありがたいですね」
「装備やDA、チェックしておくわね」みどりも立ち上がって奥の研究室に向かう。
「頼むよ」ヒビキはみどりの背中にそう言うと、階段を上がって外に出て行った。
180志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/16(土) 23:13:38 ID:fPSlWfK+0
イチゲキは携帯を切るとテントに寝かせていたイブキを助手席に乗せ、装備を片付けた。
イブキの呼吸は安定しており、外傷もない。ダンキの報告にあったトウキの状態に良く似ていた。
ただ、鬼の『気』は失われており、その外見どおりの繊細な青年になってしまったように見えた。
「これが、鬼封呪の効果なのか……。まさに『鬼祓い』だな」イチゲキは呟くとテントを畳み、車のラゲッジに荷物を積み込んだ。
自分も下手をすればこうなっていた。しかし、もう少しクグツを倒すのが早ければ……。イチゲキは唇を噛んでイブキのサポートに入れなかった事を悔やみ、自分の判断の甘さを恥じた。
イブキや他の鬼を封じた鬼封呪には幾つか種類があるのか、また、果たしてその効果は何時まで続くのかはイチゲキには分からない。
しかし、明確な策のない今は出来ることを一つ一つしていくしか方法はない。その為にも、先ずは得た情報を持ってたちばなへと戻らねばならない。
イチゲキは気を取り直して運転席に座ると、イブキを搬送するべく病院へと車を走らせた。
181志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/16(土) 23:14:28 ID:fPSlWfK+0
増援要請の電話を猛士の各支部にかける合間に白崎へゴウキとトドロキの捜索を頼んだ勢地郎だったが、彼の元に届いた各支部からの返事は芳しいものではなかった。
どういう訳か、この二日程で各地に魔化魍が相次いで出現していたのである。
龍鬼を失った関西支部を始めとして各地の支部はその対応に追われ、既に増援を出せる状態ではなくなっていた。
「オロチの時と同じだ……」『奴等』の介入としか思えない事態に勢地郎は更なる不安に襲われた。
吉野の猛士総本部もこの状況に危機感を募らせてはいるものの、『歩』による探索の強化と『野生動物の多数出現による山野への出入り制限』といったマスコミ向けの偽メッセージを放つぐらいしか順当に打てる術は持ち合わせていなかった。
勢地郎に届いた総本部のメッセージも『貴支部の健闘を期待する』と何処かの防衛団体のパリ本部のような文面でしかなく、勢地郎は歯噛みしながら人員の少ない中で最大の効果が得られるよう対策を検討するしかなかった。
そんな中、イチゲキがイブキを病院へと搬送し、たちばなへと戻ってきた。
クグツとの戦闘と倒されたイブキの回収で疲労したイチゲキの様子を見た勢地郎は、イチゲキに仮眠を取るよう指示し、自身はヒビキに連絡を取るべく明日夢の携帯電話に連絡を入れた。
182志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/16(土) 23:16:43 ID:fPSlWfK+0
この日午後の講義がなかった明日夢は手足にウェイトを付けた状態でロードワークに出ていたが、不意に鳴った携帯電話に驚き足を止めた。
前日にダンキたちが病院に収容された後、非常事態となった関東支部からは自宅待機状態になる旨を告げられていたので、呼び出しと思った明日夢はすぐさま電話に出た。
「もしもし、明日夢君?……今、大丈夫かい?」
「はい。どうしました?」急いだ様子の勢地郎に明日夢は何やら妙な胸騒ぎを覚えた。
「もしかして、例の件でしょうか」
「ああ。ヒビキは近くにいるかい?」
「いいえ」
「すまないが、捜して連絡してくれるように言って欲しいんだ。携帯持っていないから連絡がつかなくてね」
「わかりました。……少し待ってもらえますか。見つかりましたら折り返し電話します」
「頼むよ」
明日夢は電話を仕舞うと、ヒビキがトレーニングに使っている寺へと向かった。
『この時間なら多分あそこで昇降しているだろうな』弟子だった明日夢はヒビキのトレーニング場所も一応知っている。実はその他にも秘密の場所がヒビキには幾つかあるのだが。
明日夢の予想通り、トレーニングウェアに身を包んだヒビキは日課通りにタイヤを背負って寺の階段を上り下りしていた。
「ヒビキさん!」明日夢は上りながら背を向けるヒビキに声をかけ、勢地郎が連絡を求めている旨を伝えた。
183志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/16(土) 23:18:57 ID:fPSlWfK+0
「……明日夢、悪いけど携帯貸してくれ」タイヤを下ろしたヒビキはそう言うと明日夢の携帯でたちばなに連絡を取った。
勢地郎からはイチゲキが戻ったので、今後の動き方について打ち合わせをしたい、との話が出た。
「分かりました。これから戻ります」
「どうかしたんですか」電話を返すヒビキに明日夢が尋ねた。
「実はイチゲキと出ていたイブキがやられて、昨日より状況が悪くなったんだ。今、おやっさんからイチゲキが戻ったと知らせがあったんで、戻ろうと思う」
「京介は?」
「まだ、見つかっていない。しかし、それについてはイチゲキが何かを掴んだらしい」
「……僕も行っていいですか」明日夢は何かを決意したかのようにヒビキに向かって言った。
「明日夢は帰っていい。今、俺達といるのはお前にとっても危険だ」
「併し……」明日夢はヒビキに食い下がった。
「頼む」ヒビキに頼まれてしまっては帰るしかない。
明日夢は俯いて唇を噛んで堪えると、失礼します、と小さく言って背を向けて帰っていった。
「……すまない、明日夢……」ヒビキは明日夢の背に向けて小さく呟くと、タイヤを肩に担ぎ上げ、たちばなへと急いだ。
(九之巻へ続く)
184名無しより愛をこめて:2007/06/17(日) 00:12:00 ID:JozukwnW0
投下乙です。話の展開が面白いと思います。

  l;:::::ヽ,_:::::.. :.:.:. : : : :.:.:.::. j;:::..:ト、      . .::;;、:':ー'.::}::l
   ト、r',.:::::::i:/'ー-、__,.、イ::|:::::{::::ヽ、....、-―''´|:::::: ...: .;イ
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    `T :::::::::::.:.:.:.:.:.:__   .::::::     _,,,_. .:.:.:.::::::::.:.:.::|
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         ゙、: ::::l.! い=r、ニ二ニニrオ'///:. ::/
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185仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/17(日) 00:27:14 ID:3lldIQ330
前回までのあらすじ…鬼道とは死狂ひなり


2005年夏、東京港。
その日関東支部の威吹鬼は、愛車「竜巻」に乗り魔化魍の出現を待っていた。
ここ最近、とある都市伝説が中・高校生を中心に語られていた。「ターボばあちゃん」の話である。トンネル内を車で走っていると、突如窓を誰かに叩かれ、見ると自分の車と並走する老婆がこちらを見ていると言う全国的に有名な話だ。
時期同じくして魔化魍の出現が確認されたため、猛士はこれを魔化魍の目撃情報が独り歩きし始めたものと判断、すぐさま対抗神話を流して噂を否定すると同時に捜索に入った。その任に威吹鬼が選ばれたのだ。
時刻は真夜中。小雨が降っており、実に蒸し暑い。
と、バックミラーにこちらへ向かって走ってくる二つの影が映った。エンジンを吹かす威吹鬼。
二つの影は、猛スピードで威吹鬼の両脇を駆け抜けていった。ちらりと見えた姿は、間違い無く童子と姫だった。威吹鬼が「竜巻」を急発進させる。
童子と姫を追う威吹鬼。しかし最高速度で走っているのに、前を行く童子と姫に全く追いつけない。
(何て速さだ!)
音撃管・烈風を構えるも、いつの間にか童子と姫は夜の闇に消え去っていた。
186仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/17(日) 00:28:30 ID:3lldIQ330
翌日、開店準備中の甘味処たちばな店内で、イブキは支部長の立花勢地郎に昨夜の報告をしていた。
「この間のオオナマズ同様、街中にも平気で湧くようになったようだねぇ」
冷茶を啜りながら勢地郎が呟く。イブキもまた冷茶を一口飲んだ。今日も湿度が高く、兎に角蒸し暑い。
「物凄いスピードでした。あんなに素早い童子と姫は初めてです」
「そうかぁ、追いつけなかったか……」
そう言うと勢地郎は、顎に手を当てて何事か考え始めた。
「……実はね、君のお父上が現役だった頃、私もその童子と姫に遭遇しているんだよ」
勢地郎の突然の告白に、イブキが驚きの表情を見せる。
「それはライジュウの童子と姫だよ。ライジュウは主に山野に出る魔化魍だから、障害物の多い場所では自慢のスピードも活かせず、比較的容易に退治が出来るんだけど……」
障害物の無い場所じゃねえ……と勢地郎がぼやく。
「でね、君のお父上もやっぱり山野以外の場所でライジュウと遭遇してね、そのスピードに付いていけず、一度敗北しているんだよ」
「父が、ですか?」
あの時の彼は本当に悔しそうだったなぁ、と勢地郎。
「教えて下さい!父はどうやってあの童子と姫を倒したのですか!?」
身を乗り出して尋ねてくるイブキに落ち着くよう促すと、勢地郎は話し始めた。
187仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/17(日) 00:29:29 ID:3lldIQ330
1978年、文月。
百物語の宴は残すところ三話となり、次はイブキが話す事となったのだが、何か様子がおかしい。
「イブキくん、まさかあの話をするつもりじゃあないだろうね……」
勢地郎が不安そうに尋ねるも、イブキは返事をしない。
「……コウキさんとイッキくんが中国支部に出向していた時の話です。僕と勢ちゃんはある魔化魍を追っていました」
ああやっぱり……と勢地郎が声を漏らした。
「そのある魔化魍とは?」
「ライジュウです。あの日、僕と勢ちゃんはライジュウの童子と姫にこてんぱんにやられちゃって……」
両者のスピード戦法に全く太刀打ち出来なかったと言う。
188仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/17(日) 00:30:40 ID:3lldIQ330
第九十八話目「地上の太陽」

イブキと勢地郎は本部に帰還すると、真っ先に開発局長の南雲あかねの下へと向かった。ライジュウの童子と姫への対策を練るためである。
話を聞いたあかねは、暫し考え込むと、二人を連れてラボへと向かった。ある物を渡すために。
そこには、二台のバイクが置かれていた。一台は真っ白、もう一台は真っ黒に塗装されている。
「白い方が『白雷』、黒い方が『黒雷』。イッキくんに支給した改造バイクを基に私とコウキくんとで製作したの」
まじまじと二台を眺めるイブキと勢地郎。あかねが説明を続ける。
「カラーを見ても分かる通り、元々はセイキくんとドキくんのために製作したんだけど、事態が事態だから使ってもいいわ」
「これ……速いんですか?」
イブキの問いかけに「勿論!」と胸を張ってあかねが答えた。
改めて二台のバイクを見る。ベースとなっているのはイッキの物と同じGT750Kのようだ。
「随分とエンジン周りを改造してあるみたいですね」
そう言って勢地郎がエンジン部分を触り始めた。
「あっ、気を付けてね。それは小型の重水素核融合炉だから」
あかねがさらっと告げた一言に、勢地郎の動きが止まる。
「……えっ?」
「その原子炉が動力よ。大丈夫、安全性に問題は無いわ。多分」
そういう事をあっさりと言ってのけるあかねを、たまに恐ろしく思う。当のあかねは、嬉しそうに説明を続けている。
「計算ではスタートから僅か三秒で最高時速1300キロにまで達する事が出来るの。どう、凄いでしょ?」
「計算では……?」
それはつまり、ちゃんとした実験をしていないという事ではないのか?
イッキの改造バイクが耐久性を重視していたのに対し、この二台はそれに加えてスピードを極限まで追求したと言う。
「コウキくんは、まだ少し改良の余地ありって言ってたけど、まあ大丈夫でしょ」
本当にそうなのか?中性子線の遮蔽は?プラズマの保持は?と言うか戦闘に用いる物にそんな物騒な代物を積んで良いのか?1300キロものスピードで万が一転倒しようものなら即核爆発ではないのか?
実に不安だ。今回ばかりはあかねを百パーセント信用する事が出来ない。
「好きな方を乗っていっていいわ」
これしか方法は無いのだろうか……。イブキと勢地郎は、ただただお互いに顔を見合わせるだけだった。
189仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/17(日) 00:31:46 ID:3lldIQ330
その日のうちにイブキ達は再びライジュウの童子と姫の居る場所へと向かっていった。今回はあかねも一緒だ。データを集めたいからと、撮影用の機材を用意してきている。
イブキはとりあえず「白雷」に乗っていた。この二台はガソリンエンジンが併用されており、普段はそちらで走っている。原子力エンジンは、あくまでも緊急時用らしい。
変身し、待つ事数分。漸くライジュウの童子と姫が現れた。
「新しい乗り物だね」「追いつけるかな?」
挑発的な台詞を残し、童子と姫は疾走していった。鬼ごっこの始まりだ。
「威吹鬼くん、無事を祈っているよ……」
「勢ちゃん、もし僕に何かあったら後は頼んだよ……」
「さあ早く行ってきなさい。もうカメラは回してあるから」
嬉々としてあかねが告げる。威吹鬼も勢地郎も、彼女の本性を垣間見たような気がして怖かった。
原子力エンジンを起動させる。そして……。
威吹鬼の乗った「白雷」は、あかねの言う通りものの三秒で最高速度へと達していた。プラズマを発生させ、紫色の光を放ちながらかっとんでいく「白雷」を呆然と眺める勢地郎。
「あかねさん……」
「大丈夫よ。これは特別製のカメラでね、ばっちり映っているんだから」
「いや、そうじゃなくてですね……」
勢地郎は威吹鬼の無事を、心から祈った。
190仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/17(日) 00:35:25 ID:3lldIQ330
強烈なGの中、威吹鬼は意識が遠のきそうなのを必死で堪えていた。
音速を超えているのである。発生する衝撃波が容赦無く威吹鬼と車体を襲う。しかも車体はプラズマによって紫色に発光しているのだ。
今まで潜り抜けてきたどの修羅場よりも怖かった。ぶっちゃけ本気で死を覚悟した。
雷どころか太陽のような輝きを放ちながら、「白雷」は童子と姫を易々と追い抜いていった。衝撃波が二人を吹き飛ばす。
何となくではあるが、童子と姫を追い抜いた事を認識した威吹鬼は、急制動用のパラシュートを展開した。正直、最初に説明を受けた時は「こんなもので停まるのか?」と思ったが、予想以上に効果を発揮している。嘘みたいだけど。
「白雷」が完全に停止すると同時に、後方に振り向き音撃管を童子と姫目掛けて発射する。全弾命中し、激しい爆発が起こった。
「……ふう」
威吹鬼は今、自分が生きている事を心の底から喜んだ。
と、次の瞬間、威吹鬼の目の前の地面からライジュウが飛び出してきた。伝承ではライジュウは空から降ってきた後や冬場には、地面に穴を掘ってその中に潜んでいると言う。
「……そうだよな。肝心の魔化魍を倒さなきゃ終わらないよな」
その後、威吹鬼は見事にライジュウを退治したのであった。
191仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/17(日) 00:36:42 ID:3lldIQ330
イブキが話を終えた瞬間、コウキが怒声を発した。
「お前だったのか!あれを勝手に持ち出したのは!」
「いや、ちゃんとあかねさんの許可を貰っていますが……」
「黙れ!中国支部から帰ってきたら『白雷』が修理不能な程に壊れていた私の気持ちが分かるか!」
装甲は確かに頑丈だった。だがしかし、内部メカはGに耐えられなかったようだ。特殊な部品を多く使っていたらしく、コウキの言う通り修理は不可能らしい。
コウキが警策を手に立ち上がった。慌ててニシキと石川が止めに入る。今ここで暴れられたら堪ったものではない。
「ああ、だから嫌だったんだ……」
勢地郎がぼそっと呟いた。
「……そんな物騒なものを俺達に支給しようとしていたんですか?」
唖然とした表情でセイキがコウキに尋ねる。
「確かに俺、京都の小学校での一件の後、バイク免許取って、それでイッキみたいなバイクを作ってくれるようあかねさんに頼みましたよ。けど……」
京都の小学校での一件とは、昨年の十一月に起きた魔化魍絡みの事件の事である。
「物騒なものだと!?私が作った物にけちを付ける気かね!?」
「そういう訳じゃないですって……」
怒り心頭のコウキを、モチヅキが宥めた。
「落ち着きなよ。残り二話じゃないか。ここでぶち壊す訳にはいかないだろう?」
年長者のモチヅキに宥められ、コウキが落ち着きを取り戻す。その間、イブキが蝋燭を吹き消した。残り二本。
192仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/17(日) 00:38:19 ID:3lldIQ330
再び2005年。話を聞き終えたイブキは文字通り絶句していた。
「核融合炉……ですか?」
エネルギーとなる高圧力のプラズマを保持出来るのは、今の技術では三十秒程度が限界だ。確かに、それだけあればライジュウの童子と姫を追い抜いて撃破する事も可能だろう。
と言うか約三十年前に既にそれだけの技術を持っている事の方がイブキには衝撃的だった。バンキなら、その南雲あかねと言う技術者に一度会ってみたいと言い出すだろうと思う。
「じゃあ今から吉野に連絡しようか」
「……はい?」
「まだ『黒雷』の方は残っている筈だから、それを送ってもらおう。多分それしか方法は無いと思うから……」
勢地郎の言っている事が理解出来ない。つまりあれか?約三十年前に父親がやったのと同じ事を息子の僕にやれとそう言うのか?イブキは頭がどうにかなりそうだった。
相変わらずの人懐っこい笑みを浮かべたまま、勢地郎は話を続ける。
「『黒雷』の方はあの後改良を重ねて、調整やテストもきちんと終えたんだけど、結局誰も乗りたがらなくてねえ。当の小暮さん自身も」
それは駄目だろ、常識的に考えて。
勢地郎が席を立ち、奥へと向かう。本気で本部に電話をするつもりのようだ。イブキは目の前が真っ暗になった。
193仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/17(日) 00:39:26 ID:3lldIQ330
数日後、本当に「黒雷」が総本部からたちばなへ送られてきた。更にライジュウの童子と姫が再び現れたという報告も入った。
「期待しているよ、イブキくん」
店先で勢地郎が笑顔で告げた。
弟子のあきらが心配そうにイブキの顔を覗き込む。
「は、はは……。じゃあ行こうか」
「黒雷」の後部座席にあきらを乗せ、慎重に発進させるイブキ。
「前にも言ったけど、改良はちゃんとしてあるようだから、使用後走行不能になる事は無い筈だからね」
走り去るイブキ達の背に向かって、勢地郎がそう声を掛けた。
「『筈』って……」
断定でないのが怖い。本当に怖い。しかし弟子の前で不安を顔に出す訳にはいかない。
「イブキさん、このバイク、確か時速1300キロで走るんですよね……」
「うん、そうらしいけど……」
「東京港について少し調べてみたのですが、確か最長が有明の2.4キロだった筈……」
「……」
イブキは全てが嫌になった。
それでも何とかライジュウ及びその童子と姫は退治されたと言う。あと、やっぱり「黒雷」は壊れたらしい。
次の話へ続く。
194名無しより愛をこめて:2007/06/17(日) 00:56:31 ID:QLcae/wB0
高鬼さん、乙!

マッハ3という素敵バイクと、「トルク」ってトンデモ映画思い出した
・・・・壊れたのは、「黒雷」だけだったのかw
195志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/17(日) 23:29:36 ID:bWh7uN5i0
前回は>>175-183

九之巻 染まる闇

「鬼ごっこは止め、とは思い切ったことをするものね」女は傍に立つ長髪の男に呆れた様に言った。
「あのまま続けていても問題はなかったでしょうに」
「正直、あまりにも手応えがなくてね。二、三それらしいのもいたけど、この辺の鬼達の力がこんなものならば手っ取り早く終わらせるのもいいかな、と思ってね」
男は長い髪を掻き揚げるとテーブルの上の試験管を取り上げて軽く振った。
「そろそろ『彼ら』にも働き口を世話してやらないと、本当に失業してしまうからね」
「『彼ら』にも失業なんて言葉あるのかしら」女は妖しく笑うと、自分の後ろのテーブルにあった般若の割れた面を取り上げる。
「……多少は頑張れる鬼もいたのね」
「ああ、『比売(ヒメ)』は砕かれたようだ。しかし、また作るのも良し悪しだな」男は眼鏡の中央を指で押し上げながら言った。
「前のことを気にしているの?」女が面を顔に当てて言う。右半分しかない面の横で左目が怪しく光る。
「まあ少しはね。前にも言ったように今回の『彦』や『醜悪(しこお)』は半分しか言うことを聞かない変り種だ。後の半分はあの子鬼の持ち分だしな」
「自分で考えられると何かと面倒だって訳ね」
「まあ、そんなところだ。変り種の奴等では『縛』は使えない事が多くなる。その前の『戦童子(いくさどうじ)』や『勇姫(いさひめ)』なんかは余計なことをしてしまったのか、それすらまともに使えなかった。
考える頭がありすぎるのも考えものだ」
「まあ、あの子がしっかりしていてくれれば問題はないんじゃない?」
「そう願いたいね。幸い、あいつに合う得物も出来たことだし。『墓場』で迎えを待っててもらうさ」
「……『氷鬼(こおりおに)』ってわけ?」
「ま、そんなとこ」男は唇を歪めると、持っていた試験管をテーブルにあるストッカーに置いた。その横には同じような液体の入った試験管が幾つか置いてある。
「じゃ、出かけましょうか」女はそういって立てかけてあった傘を持つと出口へと向かった。
男は壁に掛けてあった羽織に袖を通し、ゆらりと女の後に続く。
出口のあたりでぱちん、と指を鳴らすと部屋の隅に立っていた銀の影が二つ、すっ、と部屋から消えた。
196志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/17(日) 23:30:56 ID:bWh7uN5i0
たちばなに戻ったヒビキは仮眠室に眠るイチゲキを気遣って、音を立てないようにそっと地下に降りて行った。
「やあ、急がせてすまなかったね」勢地郎が奥から茶を持って現れた。
テーブルに向かい合わせに座る。
「それで、詳しいことは訊いたんですか」ヒビキが小声で尋ねる。
「いや、ヒビキが戻ってからにしようと思ってね。イチゲキ君にはもう少し休んでもらおうと思う」
「……そうですね。それと、トドロキたちの方から連絡は?」
「まだだ。白崎さんからは地元の青年団に頼んで捜索を行っていると連絡があった。車だし、じき見つかるだろうと思う」
「香須実は出かけているようですね」
「イブキのところだ。もっとも、他の鬼達も運び込まれているから、何かあったらすぐ連絡してくれるだろう」
「増援の方はどうでした?」
「それなんだが……。どうやら、『奴等』が我々を孤立させようと魔化魍をあちこちに送り込んだらしい」
「すると、増援は……」
「当てにはならん、という事だ」勢地郎は苦々しい顔で呟いた。
イチゲキが起きて来てヒビキさん、お疲れ様です、とヒビキに声を掛けた。
「もう起きて大丈夫か」ヒビキの気遣いに問題ありません、と真剣な面差しで答える。
「……それじゃ、これからの『対策』と言うことになるんだが、先ずはイチゲキ君の話を聞こう」勢地郎はイチゲキを座らせると、テーブルの湯飲みに茶を注いだ。
197志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/17(日) 23:31:58 ID:bWh7uN5i0
「先程報告したことと重複しますが……」イチゲキはそう前置きして、先程の戦闘について語った。
勿論、戦闘記録用のDAもあったが、はっきりと敵の姿が映っているものはほとんどなかった。
実はこのイチゲキの持っていた記録以外で銀クグツとの戦闘状態を撮影できたものは存在していない。それ以前に記録用のDAを展開できずにやられている場合が多かったからである。
しかし、一撃鬼が一体を撃破したと言う事実がこのクグツと渡り合える十分な証拠となっていた。
「私とイブキ君が対峙した銀のクグツは体術を使う種類で接近戦を得意とする個体のようです。ただ、その面の中に京介君の顔を仕込んでいて、イブキ君はその顔のせいで隙を作ってしまったようです」
「京介の……顔……」ヒビキがDAの記録にあるぼやけた銀の影を見ながら呟いた。
「私が撃破した際に面が崩れ京介君の顔が出ましたが、その下に童子と姫の顔が半分ずつあった状態の素顔がありました」
「『奴等』が作った、と言うことになるね。おそらく新種の『実験』だ」勢地郎が相槌を打つ。
「ええ。ただ、能力的には通常のクグツより低いかもしれません。『不動縛』を使ってきませんでしたし、何よりクグツ特有の威圧感がありませんでした」
「ただ、あまり動かない奴に比べて、機動性に振ったとも言えるよな」
「はい。それ以上に鬼封呪を使うと言うのが厄介です。私の場合は使われる前に何とか撃破出来ましたが、体術を使うと言うのも実は至近距離から確実に鬼封呪を打込む為のものなのではないかとも思えるのです」
「何にしろ、こんな奴がわんさと出てこられた日には俺達もあっという間にお陀仏だ。『実験』だとするなら、まだ数もそれ程いないだろう。早いところ倒してしまわないとな」
「それと、京介君の拉致の件ですが」
「『墓場』に迎えに来い、と言うやつだな。貰った、と言ったり還す、と言ったり忙しい奴等だな」
「罠だと思います」
「俺もそう思う。しかし、他に何もない以上、京介を助けるには『奴等』の手に乗ってみるしかないかとも思う」
198志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/17(日) 23:32:40 ID:bWh7uN5i0
「……そうですね。京介君はまだ生きている。そう思えますし」
「それで、例の樹海なんだが……」勢地郎が照明を消してプロジェクターに地図を映した。
「とりあえず、トドロキ達の帰りを待って、河口湖側の方からDAの網で奴等の『墓場』を特定した上で突入すると言う作戦で行きたいと思う。
おそらくは装甲声刃もその頃には間に合うかと思うので、装備もしっかりと整えてかかるのが現状ではベストだろう」
「磁気のせいで方角が効かないから、行ったら帰れないなんて事はない様にしないとな」
「DAを視認出来る範囲で配置しておく、と言う事で対処できるかと思いますが」
「いずれにせよ、探索だけでも相当数のDAが必要になるな」
「その辺は大丈夫よ」そう言ってみどりが研究室から出てきた。
「入院中の鬼さんたちのDAを借り出せば、数はこなせるわ」
「わかった。事は非常事態だ。私の権限でそのDAの使用は許可しよう。皆も許してくれるだろうしね」
勢地郎の決定により、トドロキとゴウキの合流を待って河口湖にベースを設置して樹海内の『墓場』を探すことになった。
199志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/17(日) 23:33:42 ID:bWh7uN5i0
イチゲキが帰って暫くしてから店の電話が鳴った。上で日菜佳が出る。外はもう暗くなっており、そろそろ香須実も帰ってくるか、という時間になっていた。
「……父上、白崎さんからです」保留にした状態で受話器を持って日菜佳が降りてきた。
勢地郎が電話に出た。
「白崎です」落ち着いた壮年の男の声が聞こえてきた。
白崎は猛士の『歩』として長く従事しているが、地元でも名の通った男であった。
「お疲れ様です。……で、如何でした?」
「青年団の協力で何とか見つけました。と、言っても山間の町道から山の方に入った所だったので、見つけるのに少し梃子摺りましたが」
「ありがとうございます。で、彼らは無事なんですか?」勢地郎は少しほっとした様子で続けた。
「……残念ながら、二人とも腹部に大怪我をした状態です。意識もありませんので、とりあえず、昨日のお二方同様こちらの病院に搬送しました。容態を見ながらそちらに送ります」
「……分かりました。よろしくお願いします」
「それと、昨日、今日と全裸で大怪我をした人間が相次いで発見されたことと、町道に突如大穴が開いたとかで地元のマスコミが騒ぎ始めています。面倒な事にならない様、対応をお願いします」
「分かりました。総本部の広報に対策を依頼しておきます」
「車両は明日でもこちらで何とか対応しますので……。それでは」白崎は的確に報告と依頼を済ませると電話を切った。
「父上……」日菜佳が不安そうな顔をしている。トドロキは無事だ、と言ってやりたいが日菜佳も猛士の『金』。受け止めると信じて真実を話す。
「…………」日菜佳は黙って聞いていた。目を少し潤ませていたが唇を噛んでじっと耐えていた。
勢地郎は震える日菜佳をそっと抱きしめて言った。
「トドロキ君は大丈夫だ。前の時もちゃんと戻ってきた。今度もちゃんと戻ってくるよ」
日菜佳は父のそんな優しさを嬉しく思った。そして、その言葉を信じようと誓った。
200志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/17(日) 23:34:56 ID:bWh7uN5i0
「……なあ、みどり」DAのチェックをしながら、ヒビキはみどりに話しかけた。
「明日夢の奴、俺に何を言おうとしていたのかな」
ヒビキは明日夢に会った時の事をみどりに話していた。そして、その時の明日夢の表情を思い出していた。
「それは、ヒビキ君が一番良く分かっているんじゃないの?」みどりはイブキの音撃管をチェックしながらそう答えた。私にはそう見えるけど、と続けるみどりにそうかな、と答える。
「明日夢君と京介君は兄弟弟子だった訳だし……。そういう仲にしかない事ってあるんじゃないのかな」
「…………」
「でも、ヒビキ君の判断は正しいと思うよ」
「うん?」
「だって、いくら兄弟弟子だったって言っても、明日夢君は一般人な訳だし……。まして、連れて行く事も出来ないしね」
「…………」
「でも、明日夢君もヒビキ君と考えてる事はきっと一緒なんだと思う」
「……うん」
「誰かを助けたい、って気持ち。その為に何が出来るかって考える事。大事にしてあげたいよね」
「……そうだな」ヒビキはみどりの言葉に相槌を打ちながら、明日夢に心の中で詫びた。
明日夢を危険に晒す様な事はヒビキにはどうしても出来なかった。例え明日夢自身がそれを望んだとしても。
201志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/17(日) 23:36:42 ID:bWh7uN5i0
あいつには人として、誰かを助け、護れる人間になって欲しい。命を護るのは何も鬼だけの仕事じゃない。
明日夢が医師への道を選ぶと知った時、俺はとても嬉しかった。
鬼になりたい、と言った明日夢の中に何か違うものを感じていたからだった。
初めて会った時から、あいつは俺の弟子だった。昔も、そして今も。
人としての俺の思いを継いでくれる最初の弟子。
あの時、あいつを救えなかった俺。その苦い思いを胸に俺は鬼を目指した。
鬼になれれば、誰かを助けられると思った。
鬼になれれば、皆を護れると思った。
しかし、現実は違った。
鬼でも助けられない時がある。
鬼でも護れない時がある。
人として俺が願った事と鬼の役目はあまりにも違っていた。
言うなれば、これは『業』、宿命だ。
魔化魍から人を助け続ける。人を護り続ける。それが鬼の役目。
俺はそれを受け入れ、鬼として生きてきた。
何時しか、俺はあの時の思いを誰かに継いで欲しいと心の底で思う様になっていた。
ただ人を助けたい、と思うこと。
ただ命を護りたい、と思うこと。
そんな時、明日夢に出会った。
従姉妹の命を必死に助けようとするその直向さに俺はあの頃の自分を見た。
こいつなら、俺の『志』を継いでくれるに違いない。
そう思ったあの時から、俺は明日夢を弟子として見ていた。明日夢自身がそうと気付かなくとも。師弟関係を絶った後も。俺の傍で自分らしく生きてみろ、と言ったあの日も。そして今も。
俺が伝えられるであろう事は全て伝えてきたつもりだ。
だから、あいつはあんな顔をして俺に訴えようとしたのだ。
自分も京介を助けたい、と。
202志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/17(日) 23:37:51 ID:bWh7uN5i0
だが、それは俺の務めだ。鬼の師匠としての俺の務めだ。
京介に継がせたもの、それは鬼としての『業』だ。
俺が京介にそれを背負わせた。京介がそれを望んだから。
鬼として人を助ける。
鬼として命を護る。
その『業』を京介は強い信念で継いでくれていた、筈だった。
何かが崩れたのだ。京介の中でその信念を破壊するような事が起きたのだ。
だから、『奴等』の手に落ちた。
だからこそ、京介は俺が助けなければならない。
一人の鬼として。

自分の『志』を継いでくれる弟子をヒビキは戦場へと連れて行く事は出来なかった。
そして、『業』を継ぐはずだった弟子を見捨てることもヒビキには出来なかった。
ヒビキはDAをチェックしながら、自分の成すべき道を考えていた。
203志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/17(日) 23:39:34 ID:bWh7uN5i0
(十之巻へ続く)って入れ忘れた……○TL
204名無しより愛をこめて:2007/06/18(月) 01:39:20 ID:0eZ58ZN20
ヾ(o゚ω゚o)ノ゙ ワクワクプニプニ
205名無しより愛をこめて:2007/06/18(月) 14:56:29 ID:s2boF5ZcO
まとめサイト(簡易版)さん、瞬過終闘の最新の話補足し忘れですか?
206まとめサイト(簡易版):2007/06/18(月) 22:07:20 ID:OQyRxwhz0
キャ〜忘れてマシタ〜。ゴメンナサ〜イ。
今アップしマシタ〜。ヽ(゚∀゚ )ノ
207名無しより愛をこめて:2007/06/19(火) 00:42:14 ID:tRfxiovFO
まとめサイト(簡易版)さん、いつも乙です!
208名無しより愛をこめて:2007/06/23(土) 00:11:51 ID:wgpnGJhuO
スレの過去ログ見返してると、ZANKIの人がSSで書いてなかった(書く予定だった?)
設定を見て、これ読んでみたかったなぁ、と思ってみたり。

「関西出身の管の鬼」が蔵王丸少年と出かける話とか。ザルフ誕生のきっかけとか(家族が殺されたとか)
先代斬鬼さん自体が、テレビ本編で会話の中にしか出なかった設定を具現化してくれたものだったんで、
更にその周辺の設定も残さず具現化・・・ってのはゼータクな話かもしんないけどね。
209仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/23(土) 14:03:12 ID:BibAXbY30
前回までのあらすじ…和泉親子の受難


「話す内容も纏まったし、行かせてもらうよ」
バキが一同に向かって告げた。
「最初に言っておくけど、これは俺が体験した話じゃない。それはもう語り尽くしちゃったからね」
「じゃあ何を話すんです?」
ニシキの質問に、バキは人から聞いた話だと答えた。
「この間の大会議の時、空き時間に俺は沖縄のムカツキさん、四国のコンペキさんと一緒に、丁度今みたいな感じで互いの武勇伝を語り合っていたんだ」
よく知る名前の登場に、コウキが興味を示す。
「大宴会に先駆けて多少アルコールも入っていてね、俺も含めて皆結構饒舌になっていた。そのお陰で、普段絶対聞けないような面白い話を聞く事が出来たって訳さ……」
210仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/23(土) 14:05:14 ID:BibAXbY30
第九十九話目「待ち続ける水底」

その日、バキ、ムカツキ、コンペキの三人は、大宴会の準備が整うまでの間、本部の施設である温泉に入っていた。折角だからとこっそり酒を厨房からくすねてきており、三人ともすっかり良い気分になっていた。
関西のバキ、沖縄のムカツキ、四国のコンペキと言えば、格闘戦主体の鬼の中では知らぬ者無しと言われるほどの手練れである。その三人が揃っているのだ。出てくる話は当然ながら自身の武勇伝ばかりとなっていた。
「夏の奴なら、一度に百体は倒したかなぁ」
「ふん、甘いな。私は百二十だッ!」
「お二人とも凄いですね。私なんて五十と少しが限度ですよ」
もっと精進しないと、とコンペキが呟く。
「恥じ入る事は無い。四国のムジナは手強いと聞く」
「ムカツキさんの言う通りだよ。それに俺達は一度に前後左右四体までしか倒せないけど、君なら髪の毛の技でもっと多くの相手と渡り合えるんだろ?凄い事だと思うぜ」
「ふふ……有難う御座います」
そう言って自慢の黒髪に手をやるコンペキ。今は入浴に邪魔にならないよう纏めてある。
その後も様々な武勇伝が飛び出してきた。そんな中、少し離れた位置で湯船に浸かる男が一人。四国支部のウズマキだ。コンペキが心配らしく、先回りして温泉に入っていたのだ。彼の姿は湯気のせいでコンペキには気付かれていない。
211仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/23(土) 14:06:28 ID:BibAXbY30
しかし、お風呂大好きのコンペキは当然として、バキとムカツキも熱い湯船に浸かったまま数十分もの間平然と話を続けている。ウズマキなど何回熱さに耐え切れず、その都度湯船から上がった事か。
「いつも思うのだが、ここの風呂は少しぬるくないかね?」
「あ、俺も思ってた。気が合うね、ムカツキさん」
「やはりお風呂は熱めじゃないと駄目ですよね」
恐ろしい事を言い出す三人に、呆れ顔のウズマキ。そんなに熱いのが好きなら、石川五右衛門みたいに釜茹でにでもされたらどうだと思う。……平気で耐えそうな気もするが。
「……俺、ムカツキさんの沖縄の話が好きだな。なんつーか物珍しいんだよな」
酒を一口飲みながらバキが呟く。
「私も。他に何かありませんか?」
「私としては君の話によく出てくるキリサキという男の事が気になるな。君の恋人かね?」
そう言われてコンペキは、少し照れながらこう告げた。
「……はい」
離れて会話を窺っていたウズマキは、その一言に撃沈されてしまった。分かっていた、それぐらい分かっていたのだ。だが、コンペキ本人の口から言われると、破壊力が桁外れに違う。湯気が目に沁みて、思わず上を向いてしまうウズマキ。
結局、二人に乞われたムカツキが沖縄での話をする事となった。これは、その時話されたエピソードの一つであり、おそらくしらふの状態では絶対に聞けないであろう話である。
212仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/23(土) 14:07:40 ID:BibAXbY30
その日、ムカツキは新たに開発された新型音撃棒の性能を見るべく、与那国島へと赴いていた。上手い具合に――という言い方もあれだが、ウミニョウボウが現れたらしいのだ。
現場へはサポーターを付けずに単身で乗り込んでいる。そういうところはバキと同じだ。
与那国島は自転車で三、四時間もあれば回る事が出来るぐらいの小さな島だ。ムカツキは見晴らしの良い丘の上で海を眺めていた。今日はよく晴れているため、水平線上には台湾の山々が浮かんで見える。
大きく深呼吸をする。潮風が鼻腔を擽った。
(海は良い……)
海を見ていると心が落ち着く。
彼が生まれた時、故郷の沖縄は亜米利加の支配下にあった。1972年に日本へと返還され、彼の周りの環境が慌しく変わっていく中でも、海は変わらずにそこに在り続けた。
だから、そんな海を見ていると、落ち着くだけでなく初心に帰ったような気持ちになれる。そして、魔化魍に対する闘志がふつふつと湧いてくるのだ。
(そろそろ行くか……)
ムカツキは魔化魍の目撃情報があった場所へと向かっていった。
213仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/23(土) 14:09:29 ID:BibAXbY30
ウミニョウボウが現れたという島の南側へとムカツキはやって来た。蒼い海、青い空、心地良い風。これが任務でなければとムカツキは思う。
式神を打って暫く待っていると、向こうの方から姿を現した。怪童子と妖姫だ。ムカツキは変身音叉を鳴らして鬼の姿に変わると、両者を相手に大立ち回りを始めた。
「むううんッ!」
その豪腕で怪童子を殴り飛ばす向月鬼。その背後から妖姫が襲い掛かってきた。だが向月鬼はすぐさま振り向くと、地面に変身音叉を突き立てた。そして。
「鬼法術・綿津見(わたつみ)!」
刹那、向月鬼の眼前に、物凄い勢いで水柱が噴き上がった。まるで間欠泉だ。頭から飛び込んできた妖姫が、水圧で弾き飛ばされる。
「鍛練が足りんぞッ!」
よろよろと起き上がった怪童子の首を取って、力任せに圧し折りながら向月鬼が言う。地面に倒れた怪童子の体は、そのまま砂となり風に浚われていった。
次いで、再び襲い掛かってきた妖姫を瞬殺する向月鬼。一人で百二十匹を倒したと言う腕は伊達ではない。
「さて……二十二、三といったところか」
向月鬼が呟いた通り、二十匹ぐらいのウミニョウボウがわらわらと出てきた。
「貴様等全員、この新型音撃棒で退治してくれるわッ!」
そう言うと装備帯から新型の音撃棒を取り出す。一見、ごく普通の一組の音撃棒に見える。だが、よく見ると二本が鎖で繋がっている。――早い話がヌンチャクの形をしているのである。名付けて「海人弐式」。
1973年にブルース・リーが映画で使用した事で有名になったこのヌンチャク、元々は沖縄古武術で用いられたものである(まあ中国発祥説もあるのだが)。
214仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/23(土) 14:10:56 ID:BibAXbY30
恐ろしい速さで「海人弐式」を振り回す向月鬼。その風切り音に気圧されて、ウミニョウボウ達の歩みも止まる。
「行くぞッ!ぬうおおおおおッッ!」
言うが早いか、ウミニョウボウの群れを片っ端から「海人弐式」で打ちのめしていく。骨の砕ける鈍い音が周囲に響き渡った。
鬼神の如き強さ(まあ本当に鬼なのだが)の向月鬼の前に、次々と倒れていくウミニョウボウの群れ。しかし当然ながら音撃を決めないと倒した事にはならない。
向月鬼は、倒れたウミニョウボウの群れを積み上げると、その山の上に音撃鼓・海王を貼り付けて叩き始めた。豪快且つ迷いの無い音が鳴り響き、ウミニョウボウを清めていく。
全て倒し終えたが、まだ油断は出来ない。先程の群れの中に親の魔化魍は居なかった。近くに来ている筈なのだが……。
と、僅かな物音が向月鬼の耳に入った。音の方を見ると、親のウミニョウボウが逃げていく姿が目に入った。
「逃がさんッ!」
このまま海へ逃げ込まれるわけにはいかない。向月鬼も後を追って駆けていった。
215仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/23(土) 14:12:21 ID:BibAXbY30
道路を行く車が一台。乗っているのは一組のカップル。旅行者だろうか。前述の通り小さな島なので、とりあえず車で一通り回ってみようとでも思ったのだろうか。
その時、彼等の目の前に急に何かが飛び出してきた。別にスピードを出していたわけでもなかったので、すぐに停まる事が出来たのだが……。
「……え?」
暫し思考が停止した後、出てきた言葉がこれだった。まあそれも仕方あるまい。飛び出してきたのは、洋画でお馴染みの半魚人にそっくりな怪物だったのだから。
半魚人は、呆然とこちらを見つめるカップルの視線を気にしてか否か、さっさと立ち去っていった。それを見送ると、運転席から男性が出てきて半魚人の去っていった方を眺め始めた。
「何だったんだ、ありゃ……」
と、車中の女性が悲鳴を上げた。慌てて振り向くと、何かがこちらへ向かってくるのが見える。よく見るとそいつもおよそ人とは思えない姿をしていた。
「あっ!」
男性と異形=向月鬼がほぼ同時に声を上げた。男性は驚きで、向月鬼は迂闊にも目撃された事で。
(い、いかん!ここは何とか誤魔化さなければッ!)
鬼を目撃して目が点になっている男性と、車内で震えている女性に向かって向月鬼が言った一言とは……。
「わ、私は月よりの使者、月光仮面ッ!」
「月光仮面!?」
向月鬼は、つい勢いでそう言ってしまった事を激しく後悔した。
(しまった!どう見ても覆面ではないではないか!)
「そっちかよ!」「そういう問題じゃないでしょう……」と話を聞いていたバキとコンペキからツッコミが入った事を明記しておく。
未だ目が点状態の男性に向かって、改めて名乗る向月鬼。
「わははははは!実は私の名はミスター黄金バット!」
「黄金バット!?」
ますます無理がある。
漸く自分で自分の首を絞めている事に気付いた向月鬼は、「この事は他言無用だぞッ!」と告げると、ウミニョウボウの後を追っていった。後には、呆然と立ち尽くす男性と車だけが残った。
216仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/23(土) 14:13:37 ID:BibAXbY30
思わぬ所で時間を無駄にした向月鬼は、まんまとウミニョウボウに海へと逃げ込まれてしまった。物凄い速さで沖の方へと泳いでいくウミニョウボウ。だが、ここで逃がすわけにはいかない。
(この距離なら……何とかなるか!)
海へと飛び降りた向月鬼は、着水と同時にそのまま海上を 走 っ て ウミニョウボウの後を追い掛けていった。
「水駆け」という鬼闘術がある。文字通り水上を走る技だ。だが向月鬼はこの技を習得していない。彼は、「片足が沈む前にもう片足を前に出す」という理論を実践しているだけに過ぎないのだ。何という身体能力!
突然、ウミニョウボウが海中へと潜った。向月鬼を引き離すつもりのようだ。当然ながら向月鬼も走るのを止めて海中へと潜っていった。
海中を泳ぎながらウミニョウボウを探す向月鬼。水中戦となると、明らかにこちらが不利だ。発見次第即撃破するしかない。
と、ウミニョウボウが向月鬼の真下から襲い掛かってきた。間一髪で避けるも、ウミニョウボウの姿は再び見えなくなってしまう。水上に出たのだろうか。
(おのれッ、やはり分が悪いッ!)
水中戦では360度全てが敵のテリトリーとなる。場所柄海上での戦いは多いが、本格的な水中戦は向月鬼にとって初めての事であった。
再びウミニョウボウが攻撃を仕掛けてきた。今度は背後からだ。今回は回避しきれず直撃を喰らう向月鬼。
長時間潜水しても平気でいられるぐらいに鍛練を積んではいる。しかし戦闘となると話は別だ。やはり何とかして短期決戦に持ち込まなければ勝ち目は無い。
向月鬼は確たる足場を求めて、深く潜っていく事にした。やはり両足を地に着けた戦いが自分には相応しいと向月鬼は思う。
217仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/23(土) 14:14:45 ID:BibAXbY30
暫く潜ると、何やら石造りの土台が見えてきた。これ幸いと土台の上に降り立つ向月鬼。そして石壁を背にして「海人弐式」を構え、ウミニョウボウを待ち受ける。
来た!今度は真っ正面から向かってくる。おそらく勝負は一瞬で決まるだろう。
そして。
「海人弐式」の一撃がウミニョウボウの脳天にめり込んだ。間髪入れず「海王」を貼り付ける。奏でるは音撃打・怒髪天衝。
水中も何のその、向月鬼の音撃によってウミニョウボウの体は水泡に帰した。
魔化魍を倒し終えた向月鬼は、自分が今立っている場所について気になり始めた。いざ戦いを終えて冷静に周囲を見渡してみると、どうも何かがおかしい。自然物っぽくないのである。
全体を見るべく、向月鬼はなるべく遠くへ向かって泳いでいった。ある程度距離を取り振り返ると。
(おお……!)
そこには、巨大な石造りの遺跡が聳え立っていた。
218仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/23(土) 14:15:54 ID:BibAXbY30
「嘘くせぇ〜!」
話を聞き終えたバキの第一声はそれだった。
「嘘など吐くものか!本当に与那国の海底で見たのだ!」
「ムキになるところが怪しい」
どんなにムカツキが自分の正当性を訴えようとも、バキは聞く耳を持たない。コンペキも半信半疑の様子だ。結局ムカツキは「もういい!」と叫ぶと、それっきり話を終えてしまった。
「……ところでそろそろ大宴会の時間じゃないですか?」
コンペキが尋ねる。
「ではそろそろ上がるとするか。今年も会場を沸かせてくれよ、バキ」
ムカツキにそう言われ、バキが任せてくれよと答える。バキは毎年、大宴会で「バケツ一杯の砂糖水一気飲み」という芸を披露しているのだ。
「毎年思うんですけれど、あんなに飲んで体大丈夫なんですか?」
コンペキが素朴な疑問を尋ねる。
「ああ、あれね。あれ、実はただの砂糖じゃないんだ。果物から作った果糖でさ、水に溶け易いうえに飲み易いんだよ」
そう言うとバキは豪快に笑うのだった。
219仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/23(土) 16:55:18 ID:f3jO1JIg0
「しかし月光仮面とは、何処も考える事は同じなんだな」
バキの話を聞き終え、セイキがイッキを見ながらそう言った。昨年、イッキはやはり子ども達に目撃された際「仮面ライダー」を名乗り、しかもそれが全国の鬼の間で流行してしまっているのだ。
その話で一同が盛り上がる中、絶句している男が一人。コウキだ。彼は以前に大宴会で、不在のバキに代わり例の出しものをやった事があるのだ。普通の砂糖水で。
(普通の砂糖水ではなかったのか……)
その時の事は何故か詳しく覚えていない。砂糖水を一気飲みした後遺症だろうとコウキは解釈している。なお、ムカツキが見たと言う与那国島の海底遺跡は、1986年にダイバーによって発見され、話題を呼んでいる。
バキが蝋燭を吹き消した。いよいよ残り一本。
「……で、実はさ、さっきの話はもう少し続きがあるんだよね」
消し終えた後になって、バキがそんな事を言いだした。
「へえ、何かな」
モチヅキが嬉しそうに尋ねる。他の者も同意だ。
バキは話の続きを語り始めた。
220仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/23(土) 16:56:36 ID:f3jO1JIg0
温泉から上がろうとした時、湯煙の中から誰かがコンペキにもたれ掛かってきた。悲鳴を上げるコンペキ。
もたれ掛かってきたのはウズマキだった。湯当たりしてふらついた彼は、湯気で前がろくに見えないという事もあって偶然コンペキにぶつかってしまったのだ。
「何ッ!?まさか痴漢かッ!」
「俺達の目の前で痴漢をするとは良い度胸だな」
ばきぼきと指を鳴らしながら臨戦体勢を取るムカツキとバキ。
「え!?ち、違……」
「問答無用!」
そうムカツキが叫んだ直後、彼等が居る位置とは別の方向からも声が聞こえてきた。今まで話に夢中で、他にも人がいるのに気付いていなかったのだ。
「何、痴漢だと?それは本当か!?この私が成敗してくれる!」
「同じ女として許せない……」
「由々しき事態です!僕達で取り押さえましょう!」
声の主は、それぞれ中部支部のカラスキ、カゲキ、リュウキだった。
湯煙の中、ウズマキに詰め寄るバキ、ムカツキ、カラスキ、カゲキ、リュウキ。コンペキも、酔いが回っているせいか相手が同じ支部の仲間だと気付かぬまま臨戦体勢を取っている。
6対1。しかも猛士最強を争う太鼓使い三人に、猛士最強の陰陽師とその取り巻きが相手なのだ。
「そんな……。コ、コンペキさぁ〜ん!」
哀れなウズマキの叫びは、高く上がった水飛沫の音に掻き消されたのであった。合掌。
次の話へ続く。
221高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2007/06/23(土) 16:59:59 ID:f3jO1JIg0
途中で連投規制に引っかかって、暫く放置してたらID変わってたけど本人ですので。
念のため。
222名無しより愛をこめて:2007/06/23(土) 19:23:56 ID:1J+7WgVq0
99本目の蝋燭が消えました・・・
                      γ
                      (
                      _ノ

                   /
                __
             ,、'"   .  `' 、
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         ,、-,、'         ハ- 、
         ( .( '、_    _ ,ノ  ノ:i   )
        ,、'""`ー---‐'"フ、_ - _,、' -'"
        (  _   ,、'"    ̄
         `ー--─'"
残りあと1本です・・・
223「1年C組の冒険」第二話 ◆yPxAREn4oY :2007/06/25(月) 00:16:31 ID:mpkPf95O0
第一話>>133-144

第二話「ミッション・インポッシブル」

5,
事件の後、衛士はなんとか学校に通っていた。しかし、完璧な茫然自失状態で、
アクションを起こしたのは、なんと山に行った日から三日も経ってからだった。
「……なぁ優、俺の親父って一体何者なんだろーな」
学校の休み時間に、衛二は優にぽつりと呟いた。
ようやく聞く気になったか、といった感じで、優は向き直った。
「なぁ優、親父って人間なのかな?人間じゃなかったら、俺も人間じゃないのかな?」
その表情はすっかり忘我の境地に行ってしまった、悟りの人である。
「安心しろ衛士。お前は十中八九、正真正銘、純度100%の凡人だ!!」
「……それもどうかと思うけど」
衛士は頭を抱えた。
「親父の正体を調べたいけど、なんかいい方法ないかな…」
「親父さんの後をこっそり尾行するってのは?」
「ムリムリ。俺、不器用だもん。絶対途中でばれるよ」
二人は溜息をついた。
「誰か、親父の正体調べられる人いないかな……」
「…一人…一人だけ、俺の思い当たるヤツでいるけど…」
衛士はにわかに色めき立った。
「誰!?誰だよそれ!?」
「うーん……ホントはあんまり紹介したくないけど…」
優はどういうわけだか気乗りしない様子である。
「頼むよ優、俺の家庭の平和がかかってんだ、な!!」
「…しょーがないなー…わかった、紹介するよ」
「ホント!!優、マジサンキュー!!で、その人ってどんな人?」
「うーん…腹黒くて…狡猾で…一言で言うと卑怯者っていうか…」
優はどこか遠い目をしている。
「本人は探偵とか言ってるけど…ありゃぁ、ペテン師だな…」
224「1年C組の冒険」第二話 ◆yPxAREn4oY :2007/06/25(月) 00:21:54 ID:mpkPf95O0
6,

部活が終わってから、二人は電車に乗ってとあるアパートへ向かった。
優が部屋の前でインターホンを鳴らすと、おもむろにドアが開き、一人の男が顔を出した。
「はーい」
(ええっ!?)
衛士は不意をつかれた。
目をむくほど真っ赤なボサボサの髪。豹柄のシャツにだらしないズボン。
(こ、この人…ホントに探偵かよ…!?)
「お、久しぶりだな、優。用があるなら上がってけよ」
男はニヤニヤと笑みを浮かべ、そのまま部屋の中に戻っていた。
「優、この人誰?」
「……俺の姉貴の…元カレ…」
「ええええええ!?」
「姉貴が付き合ってるときはそりゃもー大変だったよ。毎日毎日調査だとか
張り込みだとか言って、危ないことやらされてこき使われてさ。
そのくせ、解決する事件はペット探しとかセコイのばっかりなんだぜ」
優の表情は心底うんざりといった感じである。
「で、今はここで探偵事務所をやってるのか」
「いや……今はただの大学生だったと思うけど…」
(え?プロの探偵じゃないの!?)
 衛士の顔が青ざめた。
「ま、俺らよりは優秀な人だからさ。たぶん力になってくれるよ」
(大丈夫かな…この人…)
衛士は不安を感じながら部屋に上がった。
225「1年C組の冒険」第二話 ◆yPxAREn4oY :2007/06/25(月) 00:24:31 ID:mpkPf95O0
男は広瀬界(かい)と名乗り、二人の話を聞いた。
二人は三日前に起きた出来事を話し始めた。山の中で怪物に襲われたこと、
そこに父親が見知らぬ男と一緒にいたこと、そして、父親が変身して怪物を退治したこと…。
「……で、親父さんの正体を調べて欲しいと」
「…信じるんですか?俺の話?」
「冗談で赤の他人にすがったりしないだろ?」
衛士はうつむいた。
「俺ずっと、父さんは普通のサラリーマンだと思ってました。
 家を出るときも、帰るときも背広だったし…」
とは言ったものの、時々衛士は怪しいと思うときがあった。
普通の会社勤めのはずなのに、突然一週間も休みを貰って家でゴロゴロしてたり、
急な用事が入って二日も家を空けたりした。
でも母親が何も言わなかったので、他の家もそうなのかな…と、なんとなく思っていた。
「お前のお母さんは、親父さんの事は知ってるのか?」
「わかんないです。親父、あまり仕事の話は家でしなかったから…」
 当然三日前の件も、衛士は母親に話していない。
「何か、調べる手がかりはあるか?」
「あ、それなら」
優は、山に行ったときにデジカメで撮った写真を広げた。
そこには鬼やら巨大な化け物やら、一般人なら目を疑うものばかりが写っていた。
「優、こんなのいつ撮ったんだよ?」
「いつって、山で親父さんが化け物と戦ってるときに決まってるじゃん。
 こんな美味しいネタ、撮り逃したら一生の大損だもんな」
「お前って意外と神経図太いんだな…」
界は写真を一瞥すると、車の後部が写っている写真を手に取った。
4WDタイプのSUV型乗用車だと思われる。
「この車、家で乗ってるヤツ?」
「……いや、違います。たぶん仕事用なんじゃないかと…」
衛士も初めて見る車だった。
「ナンバーが写ってるな……ちょっと小さいけど」
界はPCを起動させ、写真をPCに取り込んだ。
226「1年C組の冒険」第二話 ◆yPxAREn4oY :2007/06/25(月) 00:26:37 ID:mpkPf95O0
「拡大してみるか」
界がソフトを使い、写真を拡大すると車のナンバーがくっきりと映し出された。
「この車が軽じゃなくてよかったな。…これで車の所有者が分かるぞ」
「マジッスか!?」
衛士と優は声を上げた。
「もしかして、警察に連絡するとか…」
「違う違う、ちゃんと一般人でも調べる方法があるんだ」
界は笑いながら手を振った。
「全国の陸運局に行って、『登録事項証明書』っていうのを請求すれば、
 車の所有名義者が分かるんだよ。ただ、最近は身分証明が厳しくなってるけどな」
「へぇー…」
二人はただただ感心するばかりである。
「そうだなぁ…お前達は未成年者だから、ちょっと請求は難しいだろうな。
 いいだろう、俺が行ってやるよ。明日部活が終わったらまた家に来い」
界に言われ、とりあえず二人は帰路に付いた。

翌日、部活を終えた二人は界の家に集合した。
「証明書、取ってきてやったぞ」
(よくあんな怪しい恰好で証明取れたな…)
衛士は心の中で呟いた。
「所有者名義は『NPO法人 TAKESHI 関東支部代表 立花勢知郎』
 …やっぱ仕事用の車だったみたいだ。
 名義人住所は…柴又の…『甘味処 たちばな?』」
界は首を捻った。
「なんで甘味処が4WDの社用車なんか所有してるんだ??しかもNPO??」
「その住所、たぶん学校の近所です」
「近所か。ならよかった」
界は笑みを浮かべた。
「とにかく、このたちばなって甘味処が怪しいのはわかった。飲食店をやってるのは好都合だ。
 誰でも侵入できるからな」
227「1年C組の冒険」第二話 ◆yPxAREn4oY :2007/06/25(月) 00:31:42 ID:mpkPf95O0
「じゃあ明日、俺が行ってきて…」
「待った。衛士、お前は行くな」
「…え?」
「顔がばれてる可能性が高いし、親父さんと鉢合わせしたらまずいだろ」
「そ、そっか…」
「で、どうすんの、界兄ちゃん?」
「そうだな…」
界は、腕を組んで思案した。
「まず、店に行って店内を偵察する。とりあえず様子見だな。それから…場合によっては盗聴器か隠しカメラを仕掛ける」
「盗聴!?」
衛士は声を上げた。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。盗み撮りに盗聴って、それ、は、犯罪じゃないですか!」
「嫌ならやめてもいいんだぞ。お前が父親に直接聞けばすむ話なんだから」
「そ…それは…」
衛士は口ごもった。
「それに、もう気づいてるんだろ?今までのままの生活じゃ居られないって。
 お前と父親の関係は、三日前に終わったんだ」
そうだった…。
界の言葉は、衛士に容赦なく現実を突きつけた。
「じゃあ、俺が明日行くよ」
優が界に呟いた。
「いや、行くなら日曜の方がいい。客が多くて怪しまれる確率が少ないからな…
 …よし、こうしよう」
界は二人に向き直った。
「衛士、お前は親父さんと次の日曜日に遊びにいく約束を作れ。
 ゲーセンでもデパートでも何処でもいい。とにかく親父さんを『たちばな』に近づけないでくれ。
 優、お前は『たちばな』に行って、このカメラで店内を撮影してくれ。バッグの底に仕込んでおくから」
そういって界が見せたのは、驚くほど小さな隠しカメラだった。
「鬼か出るか蛇が出るか……ま、相手にとって不足なしだな。
 騙されたら騙し返す……衛士、十六年間お前を騙し続けたツケは、俺がきっちり徴収してやる」
界はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。   
                                    続く
228名無しより愛をこめて:2007/06/26(火) 00:56:12 ID:XUMSG5hO0
( ゚д゚)オッツー
229名無しより愛をこめて:2007/06/28(木) 20:11:27 ID:LnXlkdv/O
(・∀・)ヌッヘッホー
230志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/29(金) 00:49:50 ID:nQDqg/lM0
前回は>>195-202

十之巻 見えぬ標(しるべ)

翌朝、イチゲキが出発準備の為にたちばなに現れた。
「ゴウキさんやトドロキ君もやられたのですね」昨夜遅くにトドロキ達の状況を聞いたイチゲキは念を押す様に勢地郎に尋ねた。
「その通りだ。残念なことだが、他の支部の増援も望めない以上は君達二人でやってもらうより方法が無くなってしまったよ」勢地郎は申し訳無さそうにイチゲキにそう言うと、昨日話していたDAは準備してある、と続けた。
「預かった装備はみどりが昨夜メンテナンスをしてくれた。念の為にヒビキにも『烈風』と『烈斬』を持って貰った。向こうでは何が出てくるか分からないけど、事を急いでの無茶はしないで欲しい。
確実に敵を叩かなければならないし、京介君の救出もかかっている。……イチゲキ君やヒビキには面倒ばかり掛けるけど、宜しく頼むよ」
「わかりました。……荷物、積んでしまいますね」イチゲキはそう言って装備を外にある車に積み始めた。
装備を手にしたヒビキが階下から出てきて、よう、と声を掛けてきた。
荷物積んだんですか、と尋ねるイチゲキに大体はね、と返す。
「『奴等』に貸した分は倍にして返して貰おう」サイドバッグに武器を積みながら淡々と言うヒビキの顔は何時もの様に飄々としていたが、その目は厳しい光を放っていた。イチゲキはその瞳の中に渦巻くヒビキの激しい感情を感じた。
ヒビキの言にはい、と頷くとラゲッジに音撃武器を包んだケースを積み込む。
今回はあの銀クグツの上にどんな敵が出てくるか分からない。それ故各種の音撃武器を扱えるヒビキとイチゲキの二人が残っていた事はある意味僥倖とも言えたが、何分二人しかいない。
もう少し人員があれば、とも思うが、敵もそれを見越してこちらの動きを封じるように魔化魍を出して来ている。
二人で何処まで出来るかは分からないが、何としても此処で終わりにしたい。否、終わりにしなければならない。
イチゲキはそう思いながら残った装備を積み込んだ。
231志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/29(金) 00:52:01 ID:nQDqg/lM0
ヒビキとイチゲキがたちばなを出発したのは午前十時を少し回った頃の事だった。
何時もならば追う立場の自分達が今回は追われる立場にいる。今回の魔化魍の標的は明らかに人間ではなく『鬼』の方だった。
二人は自分達が魔化魍に襲撃される事による人的被害を避ける為、高速の利用を出来るだけ避けて一般道と裏道を使い分けながら、遠回りをして目的地である河口湖を目指して車を走らせた。
ヒビキは『凱火』に跨り、イチゲキはサバキのお下がりになる『泰山』に乗っている。
安全を確保する為とはいえ、遠回りをしながらの行程は意外に長いものとなり、二人が河口湖の近辺に着いたときには日は傾きかけていた。
この日は勢地郎が手配した猛士関連の設備であるコテージに泊まり、此処を拠点にして明日から本格的に『墓地』の捜索に当たる事になる。
ヒビキとイチゲキは必要な荷物を降ろすと、勢地郎と連絡を取った。
232志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/29(金) 00:52:46 ID:nQDqg/lM0
「何か変わった事ありました?」ヒビキの問いに勢地郎は状況に特に目立った変化はない旨を伝えた。
「向こうで入院している四人については、明日以降で容態の安定している者からこちらに搬送すると連絡があった。四人とも怪我は酷かった様だが、幸い致命傷にまではなっていなかったようだ」
「それはよかった。それと、誰か意識を回復した者はいませんか」
「残念ながら、皆昏睡状態が続いている。こっちで最初に病院に入ったトウキなんかは眠った状態が続いているので、もしかすると筋力が低下しているかもしれん」
「鬼封呪の発現とかは」
「否、それらしいものは出ていないようだ。しかし、この状態が何時までも続くのは鬼としては危険な事かもしれないな」
「身体と精神のバランスの問題ですね」
「ああ。このまま行くと仮に意識が回復しても、本来の状態に戻るまでに相当の時間が必要になってしまうだろう。鍛え直す時間が余計にかかる様になってしまうからね」
「早急に見つけ出せるよう、やってみます」
「すまないが頼むよ。何か分かったらすぐ連絡する。……あ、それと小暮さんから伝言だ。『改装した装甲声刃は明日にも送る。私の最高傑作だから、大事に使う様に』との事だ」
「……最高傑作、ね……」ヒビキは少し困ったような顔をしながら、また明日連絡入れます、と言って電話を切った。
傍にいたイチゲキはヒビキの様子から大体の事を察していた。進展はなかったようですね、と話題を振って来る。
「明日から『墓場探し』だけど、あまり無駄な時間は掛けたくないな」ヒビキはイチゲキの問いに頷いてから、そう言葉を継いだ。
「ところで、サバキさんとは連絡ついたのか」
233志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/29(金) 00:53:34 ID:nQDqg/lM0
勢地郎は事此処に至って、人手不足を補うべく北海道に旅行に行っていたサバキをサポーターとして呼び戻そうとイチゲキに繋ぎを取ってくれるように頼んでいた。
「それが、サバキさん携帯を忘れて行ってまして……」サバキが今回の旅行は宿などを決めずに自由に回る、と言っていた為に、イチゲキも連絡をつける事が出来なくなっていた。
「とりあえず、札幌のフブキさんに、もし寄ったらすぐ帰ってきてくれる様に伝えて下さい、とお願いしておきましたが……」
「そうか。ま、このまま連絡がつかない方がいい。その方がサバキさん達にとってもいいだろう。それと、フブキにはエイキのことは……」
「一応大丈夫です、と伝えておきました。総本部から各支部へも情報が流れているでしょうし……」
二人は関東を取り巻く状況が予断を許さないものだとは分かっていたが、出来る事ならサバキ達を呼び戻したりしないでおきたい、と考えていた。
それでなくとも心配性で世話焼きのサバキの事だ。事情を知ったらすぐにでも帰ってきてしまうだろう。
困っている者や苦しんでいる者を置いておけるものか、と自分の体を省みずに無理を重ねてしまう。
そんなサバキをよく知っている二人は、引退したサバキにこれ以上無理をさせたくなかったのだった。
その後、二人は持ち込んだ食料で夕食を済ませると、明日に備えて早めに床に就いた。
234志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/29(金) 00:54:44 ID:nQDqg/lM0
翌朝からヒビキとイチゲキは関東支部から持ち込んだ大量のDAを展開し、『墓場』の特定に全力を挙げたが、二人の思惑を他所にその場所は杳として知れなかった。
通常であれば百五十枚ほどのDAで相当の地域をカバーできる筈だが、磁気の乱れなどが生じやすいこの樹海においては情報の散逸とDAの紛失を避ける為に有視界による探索を行っている。
故に区域的に狭い場所を一日に何度も探ると言う手間の掛かる方法を取らざるを得なくなっていた。
「やっぱり、そう簡単にはいかなかったか」戻ってきたDAをホルダーに収めながら、ヒビキは探索ポイントにピン止めしているイチゲキに話しかけた。
既に捜索を開始してから三日目を回り、ヒビキたちが河口湖に入った次の日に吉野から関東支部に送られた装甲声刃はみどりのチェックを受けた後、香須実が届けてくれる算段になっていた。
魔化魍が一向に現れる気配もなく、二人は内心に焦る気持ちを持ちながら、持久戦に耐えていた。
「『奴等』はどう言う積もりで僕達に『墓場』に来いなんて言ったんでしょう」イチゲキはそう言ってから、ふと虚しい気分になった。
その答えは既に分かっている事なのだ。
鬼を誘き寄せて狩る。それが今回の『奴等』の目的だ。しかし、分からないのは何故こうもまだるっこしいか、という事である。
鬼を狩りたいのであれば、魔化魍を『オロチ』並みに発生させて鬼に大きな負担を掛けてやればよい。
わざわざ場所を指定した上に焦らす様な真似をするというのは返って無駄ではないのか。まさか、『オロチ』に懲りて無茶をしない訳ではあるまい。
しかし、その答えも実は二人には既に見えていた。
「『実験』の仕上げか何かだな、きっと」ヒビキがピンを刺しながら答える。
其の通り、とイチゲキは心の中で相槌を打った。
『奴等』がまだるっこしい手を打ってくる時は何時もそうだ。自分達の『実験』の合間にこちらの反応を見ながら楽しんでいる節さえある。
こちらは必死になっているのに、孫悟空の様に掌で遊ばれているような気さえしてくる。
イチゲキは吐気がしそうなやり口に怒りを覚えながらも、その怒りを必死に押さえ込んだ。
必要以上に熱くなる事は冷静な判断力を失わせる。怒りに身を任せてしまう事は人間を遥かに凌ぐ力を持つ鬼にとって何より危険な事だった。
235志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/29(金) 00:56:06 ID:nQDqg/lM0
「……時にヒビキさん、装甲声刃は今日届くんでしたか」イチゲキは自分の感情を静めようと話題を違う方に振り直した。
「昨日のみどりさんの話ですと、外見が少し変わったらしいですけど……」
「外見と言っても、刀身が少しばかり長くなったってくらいだろう。まあ、接近戦の時には少しは有利になるだろうけどな」ヒビキもイチゲキの意を察したのか、すぐに話に乗ってきた。
「重みが増してるとなると、また鍛え直さないといけないな。今から準備しておくか」言うや否や体をほぐし始めるヒビキ。
「香須実さんが来るのはきっとお昼過ぎでしょう。装甲声刃がどんなになってるか、少し気になりますね」イチゲキも相槌を打つと、ヒビキに合わせるように体をほぐす。
男達の身ほぐしは暫く続いたが、その間も『墓地』が見つかったとの知らせはなかった。
236志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/29(金) 00:57:38 ID:nQDqg/lM0
香須実がヒビキたちの下へ追加の食料や装備を届けに出てから暫くして、明日夢がたちばなを訪れた。
勢地郎と日菜佳は病院に収容された鬼達の見舞いと転院手続きの為に外出しており、みどりが留守番をしていた。
「こんにちは。……どうしたの、ちょっと暗くなってない?」入って来た明日夢の様子を見たみどりは開口一番、何時もの調子で明日夢に話しかけた。
「いえ、大丈夫です。何でもありません」明日夢は作り笑いをして、皆さんは、とみどりに尋ねた。
「日菜佳ちゃんとおじさんはお見舞い。香須実ちゃんはお使いに出ているわ」言いながら明日夢に座る様に勧める。明日夢は木の椅子に腰掛けながら、お使いですか、と聞き返した。
「ええ。ヒビキ君達の所よ」
「…………」明日夢の表情が曇る。みどりはその変化を見逃さなかった。
「気になるのね、ヒビキ君達の事」
「……はい」明日夢の表情が険しくなる。自分だけじっとしていて良いのか、と言う疑問がありありと顔に浮かんでいる。
「ヒビキ君からあの日言われたんでしょ。『帰ってくれ』って」
「はい。でも……」口ごもる明日夢に向かって、みどりは明日夢の目を見ながら話し始めた。
「ヒビキ君にとっては明日夢君も京介君も大事な弟子なの。その事は分かるわよね」
「はい」節目がちにみどりの話を聞く明日夢。
「その大事な弟子をこれ以上危険に晒したくない、って事も」
「…………」
「私はヒビキ君の判断した事は間違ってないと思ってる」
「…………」
「でもね」みどりがそう言葉を継ぐと明日夢は伏せていた顔を上げた。
「明日夢君の気持ちも分かるような気がするの」
「みどりさん……」
「今の明日夢君の目を見ていると、昔のヒビキ君を思い出すの。友達の事を思い詰めていた、あの頃のヒビキ君」みどりの言葉に明日夢は思い当たる節があった。以前みどりから聞いた、ヒビキが鬼を目指したきっかけとなったヒビキの友人の話。
明日夢はその時に当時のヒビキと明日夢の姿が重なって見える、とみどりに言われた事があった。
「見ていて辛かった。自分が何も出来なかった事が分かった時のヒビキ君の目……」
みどりの話に真剣に耳を傾ける明日夢。
237志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/29(金) 00:59:55 ID:nQDqg/lM0
「私には明日夢君が何をする積もりなのかは分からない。でも、京介君を何とかしたい、という気持ちに偽りは無いと思うの」
明日夢はみどりの話に頷いていた。確かに京介を助けたい。その事は間違いない。だが、みどりの言葉通り自分がその為に何をする積もりだったのか、その答えが出ていた訳ではなかった。
「確かに自分を犠牲にしてでも他人を救うという行為自体はカッコいいと思うわ。だけど、自分を護れない人は他人を護る事は出来ないの。ヒビキ君はその事を言いたかったんだと思う」
「自分を護れない人は他人を護れない……」明日夢はその言葉の真意を測ってみた。だが、よく見えない。
「決して自己保身が正しいって訳じゃないの。『身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ』とも言うしね。……私の言いたいのは、適材適所って事」みどりは明日夢にそう言いながらも明日夢の体つきを見て、相当に鍛えているであろう事に気付いた。
おそらくヒビキの修行時代の鍛え方をそのまま踏襲しているのだろう。
「適材適所、ですか……」明日夢は困惑しながら俯いた。
「明日夢君、鬼の使命って何だったっけ」その様子を見たみどりは椅子から立ち上がると、店の奥にお茶を入れに行った。
「……魔化魍から生命(いのち)を護る事、ですよね」みどりを目で追いながら答える明日夢。
「そう。その為に鬼は心と体を精一杯鍛えて自分の身を文字通り『鬼』に変えるわ。それだけの事をして、はじめて魔化魍から人を護れるの」お茶を淹れた茶碗を二つ持って坐り直すと、一つを明日夢の前に置いた。
238志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/29(金) 01:01:10 ID:nQDqg/lM0
「私達『銀』は鬼が確実に魔化魍を倒す為に武器を作り、整備するわ。同じように情報を集める『金』がいて、『歩』の人が地域で頑張ってくれている。何故だと思う?」
「……生命を護る為、ですか」置かれた茶碗をじっと見て明日夢が呟く。
「そうよ。皆が自分の出来る事、自分しか出来ない事を一所懸命にやっているの」
「自分にしか出来ない事……」
暫くの間、沈黙が流れた。かちこち、と時計の音が響く。
そして、みどりが思い付いた様に口を開いた。
「……実は、最近私の車、噴け具合が悪いのよね。と言っても、ザンキさんが前に乗っていた車なんだけどね」
何で今車の話なんだろう、と明日夢は内心不審に思った。
「長距離走らせると調子良くなるっていうから遠出したいところなんだけど、こんな時でしょう?……悪いんだけど、明日夢君ドライブして来てくれないかな。出来れば明日にでも荷物持って」
「え?」突然の申し出に明日夢は目を丸くした。

十一之巻へ続く
239志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/06/29(金) 01:19:33 ID:nQDqg/lM0
>>236

「節目がち」→「伏目がち」に修正してください。

これじゃ節穴みたいだ・・・OTL
240名無しより愛をこめて:2007/06/29(金) 02:42:47 ID:9WZ2mekt0
(=゚ω゚)ノぉっ
241高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2007/06/29(金) 20:54:23 ID:nAWk3btS0
今回の百話目は、昨年のカブト劇場版の頃に思い付きながらもボツとなった番外編のプロットに手を加えたものです。
今までの話の中で一番ぶっ飛んだ内容となっている筈です。どうか御了承下さい。
242仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/29(金) 20:57:09 ID:nAWk3btS0
前回までのあらすじ…湯けむり温泉私刑事件


「……さて、この百物語の宴も残すところ後一話となりました」
イブキが全員の顔を見回しながら、静かな口調で告げた。
「折角なので最後は、僕達のリーダー的存在であるコウキさんに〆てもらおうかと思っているのですが……」
イブキの提案に歓声が起こるも、当のコウキは不満気な顔で文句を口にした。
「何故私が大トリなのだ!?もう語るべき事は全て話した筈だぞ!?」
「とか何とか言っちゃって、まだ何か面白い話を持っているんじゃないんスか?」
石川が意地悪そうに笑いながらそう言う。
「僕もコウキくんの話を聞いてみたいな」
「モチヅキ先生まで……。分かった、分かりましたよ!」
意を決したコウキは、その場に居る全員に嫌々ながらもこう告げた。
「……これから話すのは、先程のニシキやイッキ以上に荒唐無稽な話だ。私自身、今でも悪い夢だったのではないかと思っているぐらいだ。と言うかそう思いたい」
「勿体ぶらないで早く聞かせて下さいよ」
そう急かすニシキに、コウキは今の開発局長の前任者が誰か知っているかを尋ねた。それを聞いてモチヅキの表情が強張る。
「ま、まさかコウキくん、あの人の話をするのかい……?」
モチヅキの問いには答えず、コウキは話を続けた。
「あの日の事は今でも忘れられない。あれは丁度中秋の名月が綺麗な夜の事だった……」
243仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/29(金) 20:59:01 ID:nAWk3btS0
第百話目「Fly Me to the Moon」

東京天文台から猛士総本部へと緊急連絡が入ったのは、月が綺麗に輝く秋の日の晩であった。
やけに本部内が慌ただしくなったなと思いながらも、コウキは研究室で機械いじりを続けていた。と、そこへ開発局長の南雲あかねが何やら神妙な顔をしてやって来た。
「あ、あかねさん。一体何があったのです?」
「騒がしくなってる理由ね?実は……」
あかねが語ったのは、俄かには信じられないような話だった。
「月に魔化魍が現れたのよ」
「……はい?」
東京天文台から、月面に異様な影が確認出来たという報告が入ったらしい。
「……それは本当に魔化魍なのですか?」
コウキの疑問も尤もだ。と、誰かがよく透る声で話しながら部屋の中に入ってきた。
「それは僕が答えよう」
司書の京極だ。古今東西あらゆる知識に精通した、文字通り猛士の知恵袋とでも言うべき存在である。
「その魔化魍の名はカツラオトコ。『桃山人夜話』にも記されている、月に住む稀種魔化魍だ」
そう説明しながら京極は、一冊の古い和綴本を捲ってコウキに見せた。その頁には、黒雲の姿をした魔化魍が描かれてあった。
「俗説では見たら寿命が縮むとか言われているが、実際には何もしない。ただ月に住んでいるだけさ。しかも……」
放っておけば自然消滅する、と京極は相変わらずてきぱきした口調で告げた。
「でもこの魔化魍の存在が公になれば話は別よ。徒に人心を惑わせてしまう事になる。分かるでしょう?」
確かにあかねの言う通りだ。事実、天文台の方には猛士から緘口令が敷かれたらしい。
「だがアマチュア天文家だっている。自然消滅まで隠しきる事は出来ない。猛士は遅くともあと三日以内に事態を収拾しなければならなくなってしまった」
真剣な面持ちでそう告げる京極。しかし。
「……どうやって月に住む魔化魍なんかを退治するのです?しかも三日で……」
コウキの至極当然な意見に、あかねも京極も閉口してしまった。
244仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/29(金) 21:01:03 ID:nAWk3btS0
二日目、早朝。
翌日になっても総本部内は慌ただしいままだった。特に研究室は昨晩以上に空気が張り詰めていた。
仮眠室から出てきたコウキが、何故ここまで慌ただしくなったのかをあかねに尋ねると。
「……実はね、今回の一件で先代の開発局長が現場に戻ってくる事になったの」
「先代……と言う事は、ひょっとしてあかねさんの師匠に当たる方ですか?」
「うん。ただちょっと変わり者でね……。私も若い頃は散々振り回されたわ」
一体どのような人物なのだろう?
「その方はいつこちらへ来られるのですか?」
「……今日のお昼には来るみたいよ」
溜め息混じりにあかねはそう答えた。この数時間後、コウキはあかねの溜め息の理由を知る事となる。
245仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/29(金) 21:03:19 ID:nAWk3btS0
お昼過ぎ、総本部前では総本部長の和泉一流、あかね以下研究室のスタッフ一同、京極やモチヅキといった古参のスタッフ等が集まって出迎えの準備をしていた。コウキもあかねの弟子としてその場に居た。
今までそこここで鳴いていた野鳥が、突然一斉に飛び立った。何か危険を感じ取ったらしい。急に厭な予感がしてくるコウキ。
そして、とうとう先代の開発局長なる人物がやって来た。その登場の仕方は実に派手であった。否、派手と言うよりは意味不明であった。
「……来た」
「え?あれって……」
先代開発局長は空からやって来たのだ。しかもゼロ戦に乗って。
「何故ゼロ戦……?」
「コウキくん、意味を求めてはいけないよ。あの人にこちらの理屈は通用しないからね」
そう京極が耳打ちする。
コウキ達が呆然と見ていると、突然ゼロ戦は黒煙を吐き出し、そのままふらふらと飛びながら総本部の建物に激突してしまった。
絶句する一同。一流など今にも卒倒しそうになっている。そんな中、炎上する機体の中から一人の人物が出てきた。
「いやぁ〜参った参った。ついうっかり操縦をミスってしまったわい。ははははは」
年齢は五十代後半から六十代といったところか。その割には長身で無駄に筋骨隆々な男性である。白衣を着て、ロマンスグレーの長髪を後ろで束ねている。これほどの惨事を引き起こしたくせに何故か無傷だ。
「叔父さま!」
先代開発局長に向かってあかねが叫ぶ。
「叔父さま……?」
「あの御仁はね、あかねさんの叔父上に当たるのだよ」
再び京極がコウキに耳打ちした。驚きの事実である。あかねが家族について語った事は今までに一度も無い。だから叔父がいるなどコウキは知らなかったし、しかもその人物が先代の開発局長だったとは……。
246仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/29(金) 21:04:45 ID:nAWk3btS0
「おお、あかねか」
「叔父さま、お久し振りです」
そう言うあかねの表情は、どこか疲れて見える。多分、嫌なのだ。だがそんな姪の表情には気付く事なく叔父さまは。
「久し振りじゃな、一流くん。おっと、今は総本部長と呼ぶべきかな?」
「……ええ、まあ。それよりよくご無事でしたね。建物はこんな事になっちゃったのに……」
「そりゃそうじゃ!何せ強化白衣を着ておるからのう!」
嫌味は通じないらしい。
「ところであかね、君がよく噂をしている男とはどいつの事かな?」
どうやら自分を探しているらしい。そう感じたコウキは、一歩前に出ると叔父さまに向かって名乗った。
「初めまして。私がコウキです。お会い出来て光え……」
「おお〜!君がそうか!」
目の前の一流を突き飛ばして叔父さまがコウキの傍に近寄ってくる。
「鬼をやりながら科学を学んでいるそうじゃな。うむ、健康そうで何よりじゃわい!よし、早速……」
九州に行くぞ!そう叔父さまは笑いながら告げた。
「……は?」
「諦めたまえ。この人のゴーイングマイウェイぶりは今に始まった事ではないのだから……」
京極がそう言ってコウキの肩に手をやる。モチヅキもまた、コウキの背中をぽんぽんと叩いてやった。
こうしてコウキは、訳も分からぬまま叔父さまとあかねに連れられて九州へと向かっていったのであった。
247仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/29(金) 21:07:00 ID:nAWk3btS0
「あの、ちょっと宜しいですか……?」
コウキの話を遮るように、イッキが手を上げながら質問をした。
「何かね、人が話している最中に……」
「その叔父さまについて、もう少し詳しく説明していただけると有り難いかなぁと思いまして……」
「仕方のない奴だ」とぶつぶつ文句を言いながらも、コウキは説明を始めた。
「戦前から猛士で働いていたらしい。戦中は軍部に出向して新兵器の開発に従事していたらしい。予算の問題で実現出来ず封印されたものが幾つもあるらしいが、詳しくは分からん。どうやら731部隊にも関与していたらしい」
「らしい」だらけだが、ああいう人物のため、経歴が何処まで本当なのか分からないのだ。姪のあかねでさえよく知らないと言う。
「専門というものを持たず、あらゆる分野に精通している。昔は医務室も一緒に預かっていたそうだ」
「皆あの人の事が苦手だから、医務室は使わずに当時現役の鬼だった僕の所へ治療に来ていたけどね」とモチヅキ。
「猛士を引退してからは科技庁や防衛庁で働いていたらしい。勿論表立ってではなく、裏の方でらしいが……」
「何か、凄い人ですね……」
「本当ならな。ただ腕は本物だ。間違いなく世界でも指折りの天才だろう」
もし日の当たる世界で仕事をしていれば、間違いなくノーベル賞の一つや二つ受賞していただろう。お世辞でも何でもなく、コウキは本当にそう思う。
「……さて、続きを話そう。静聴するように」
一同に向かってそう念を押すと、コウキは話の続きを語り始めた。
248仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/29(金) 21:09:12 ID:nAWk3btS0
三日目、鹿児島県種子島宇宙センター。昨夜のうちに九州入りしたコウキ達は、早朝、ここ種子島の地へとやって来た。
「……」
そこでコウキは、ある物を見上げながら絶句していた。発射台に、大きな銀色のロケットが立っていたのだ。ご丁寧に猛士のマークが入っている。
「どうかねコウキくん!こんな事もあろうかと私が密かに作っておいた宇宙ロケットじゃよ!」
「……これで行くのですか?月へ?」
だが叔父さまはコウキの問いには答えず、「宇宙の色はぁ銀の色ぉ!」とか叫んでいる。
「諦めて。叔父さまのゴーイングマイウェイぶりは今に始まった事じゃないから……」
京極と同じ事をあかねが言った。
そして、とうとう打ち上げの時がやって来た。既に変身を終えた高鬼がロケットの前に立って待っていると、宇宙服に身を包んだ叔父さまがやって来た。
「あの……私の宇宙服は?」
「何のために変身してもらったと思っているのかね?ほら、さっさと乗り込まんか!」
生身で宇宙へ上がれと言うのか!?
ロケットへと乗り込む二人を、あかね、そして今回のお膳立てを引き受けた九州支部長の海道始が不安そうに見ている。
「行ってきます!」
どちらかと言うと自分自身を鼓舞するために大きな声を出し、あかねに向かって決めポーズを取る高鬼。
「気をつけてね!私は九州支部のお店でお茶してるから!」
「……出来るならその間ずっと祈っていて下さい」
ロケットへ乗り込み、座席へと座り体を固定する。間もなくしてカウントダウンが始まった。そして。
轟音と白煙が周囲を包み込む。銀色のロケットは、太陽光を反射させてきらきらと輝きながら空の彼方へ向かい飛んでいった。
249仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/29(金) 21:11:07 ID:nAWk3btS0
1969年7月16日にケネディ宇宙センターから打ち上げられたアポロ11号が月面に大きな一歩を残してから僅か数年後、日本で非公式に有人ロケットが月へ向かって打ち上げられたなど誰が信じるだろうか。
「……」
信じざるを得ない。高鬼の眼前には広大な宇宙空間が広がっているのだから。
「もう間もなく到着するぞ。油断せぬようにな!」
「……は?」
月と地球の間の距離は38万4400キロ。そう簡単に到着する筈がない。
「高鬼くん、私を甘く見てはいないかね?」
ふっふっふ、と不敵な笑みを見せる叔父さま。高鬼は考える事を放棄した。もう何もかも叔父さまに任せてしまおうと、そう思った。
そうこうしているうちに本当に月が見えてきた。とりあえず高鬼は自分の頬を抓ってみた。痛い。夢じゃない。
「おおっ!見たまえ高鬼くん!」
叔父さまが前方を指差しながら大声を上げる。見ると、厚い黒雲が月面をびっしりと覆っていた。かなりの規模だ。これなら確かに地球からでも観測出来る。
「雲の中に突入するぞ!」
「……大丈夫なのですか?」
このままロケットが壊れて地球に帰れなくなるなんて絶対に嫌だ。
(……ん?)
高鬼は嫌な事に気付いてしまった。帰りはどうするのだ?必要以上に大きく作られているから燃料は大丈夫なのだろうが、しかし……。
(やはり考えては駄目なのだろうな……)
なんとなくではあるが、戦時中の神風特攻隊の気持ちが分かったような気がした。
250仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/29(金) 21:13:19 ID:nAWk3btS0
ロケットは、うねうねと絶えず形を変え続ける黒雲の中へと突入していった。星の光も届かない漆黒の闇の中を真っ直ぐに突き進んでいく。と、ライトに何か大きなものが照らしだされた。
「見えたぞ高鬼くん!あれがカツラオトコの本体じゃ!」
叔父さまが嬉しそうに高鬼に知らせる。そこには……。
大きな、実に大きな一本の桂の木が立っていた。その大きさ、凡そ1.5キロ!中国の伝説では、カツラオトコとは月面に生えた巨大な桂の木の番人の事だと言われているのだ。
で、黒雲を払うにはこの木を何とかしなければならないのだが……。
「……どうするのです?」
このロケットに武装が取り付けられているなどという話は聞いていない。
「心配せんでもいい!こんな事もあろうかと、人型兵器を用意してある!」
「人型兵器……?」
無駄にでかいと思ったら、そんな物を積んであったのか。
「よし高鬼くん、出撃じゃ!」
「やっぱり私が行くのですね……」
高鬼は、その人型兵器とやらの保管場所へ向かっていった。
251仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/29(金) 21:15:35 ID:nAWk3btS0
「高鬼くん、準備は良いかな?」
叔父さまから通信が入るも、高鬼には答えるだけの余裕が無かった。今彼は人型兵器のコクピットに座っているのだが……。
その人型兵器、某有名ロボットアニメに登場するロボットと酷似した外見をしているのだ。叔父さまが喜々としてその名を告げる。
「これこそ私の最高傑作、『バリンガーZ』じゃああ!」
「駄目でしょう、それは!」
漸くそれだけを言う事が出来た。しかし叔父さまにはそんな突っ込みは全く通用しない。柳に風である。
「まあプロデューサーが同じだから大丈夫じゃろ」
「そんな訳無いでしょうが!」
バリンガーZについてよく分からない人は「激走戦隊カーレンジャー バリンガーZ」でググってみて下さい。
「準備は完了したものと解釈して、発進んん!」
「ちょっと待……うおおおお!」
高鬼の乗ったバリンガーZは、強制的にロケットから外へと射出された。
「うおお!まだ動かし方も何も分かっていないと言うのに!」
マニュアル片手に必死で操縦を行う高鬼。何とか背面に取り付けられたブースターを点火し、姿勢制御に成功する。
「ふぅ……。まずは一安心か……」
目の前には桂の巨木がそびえ立っている。本体であるこれを倒せば黒雲は消える筈だ。しかし問題が一つ。
(こんな大きな相手をどうやって清めろと?)
確かに、高鬼には今まで沢山の大型魔化魍を倒してきた実績がある。しかし、全長が1キロを超える相手などと戦った事は一度として無い。
そんな高鬼の心配を見透かしたかのように、叔父さまから通信が入った。
「別に音撃を使う必要は無いぞ。どうせそのうち自然消滅する魔化魍じゃ。我々が月までやって来た目的はあくまでも『黒雲を晴らすため』じゃからのぉ」
叔父さまの言う通りだ。だが。
「何をどうしろと?」
「ほれ、『危険』と書かれたいかにも怪しげなスイッチがあるじゃろ?それを押してみたまえ」
叔父さまの言うスイッチはすぐに見つかった。だが、あまりにも怪し過ぎて押す気が起きない。
252仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/29(金) 21:17:01 ID:nAWk3btS0
「どうした?見つかったなら早く押したまえ」
「……本当に大丈夫なのですか?実は自爆装置だったなんてオチは御免ですよ」
「誰がそんなベタなオチを持ってくるか!早よ押さんかい、ボケェ!」
叔父さまの気迫に圧され、スイッチを慌てて押す高鬼。と、胸部に取り付けられてある放熱板に膨大な量の熱エネルギーが集中していった。
「行けえ!煉獄の炎をもって月面を焦土に変えてみせえい!」
叔父さまの物騒な台詞と同時に、放熱板から熱光線が放たれた。光線が当たった面が瞬時に発火し、炎上していく。酸素があるのだ。どうやら黒雲で覆われた中には、大気が作られているらしい。
「月面に盛大な篝火を焚けえい!ははははは!」
叔父さまはこの後もずっと物騒な台詞を叫び続けていたようだが、あまりの声量にマイクがハウリングを起こしたらしく、コクピットの高鬼にはキーンという耳障りな音しか聞こえてこなかった。
カツラオトコは、大きな火柱と化して崩れ落ちていった。それと同時に、徐々に周囲の黒雲が薄くなってきているのが感じられた。どうやら上手くいったらしい。
宇宙空間で燃え盛る火を見ながら、高鬼はこんな事を考えていた。私である必要はあったのだろうか、と。
「なんじゃ、反撃も何もしてこんのかい。他の必殺武器も試してみたかったのに。ロケットパンチとか強酸性の風とか、あと脚部に収納した刀とか……」
悔しそうに叔父さまが呟く。だがすぐに気を取り直すと。
「まあ良い!任務が終わればこんな雑風景な場所に長居は無用!帰るぞ!」
「それなのですが、どのようにして地球へ帰還するのですか?」
「バリンガーZでこのロケットを抱えて地球まで飛んでいくのじゃよ!ははははは!」
一仕事終えてテンションが上がった叔父さまの高笑いは、止まる事がなかった。
253仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/29(金) 21:19:51 ID:nAWk3btS0
三日目、晩。九州支部。
支部長の海道が店じまいの準備をする中、あかねは席に座ってハーブティーを飲んでいた。彼女の向かいには、九州支部に所属する弦使いのヤミツキがにこにこ笑いながら座っている。
「コウキくんと叔父さま、大丈夫かしら……」
「さっきからそればっかりですよ。なあに、あの『疾風鋼の鬼』が死ぬもんですか。しかし月かぁ……」
俺も一度行ってみたいもんだなぁとヤミツキ。
「……外に出てみましょう。今夜は月がよく見えるから」
そう言って席を立ったヤミツキは、あかねの手を引くと店の外へと足早に出て行った。夜空には成る程、ヤミツキの言う通り綺麗な月が架かっている。
静かに耳を澄ますと、秋の虫の音が聞こえてきた。風流とはこういう事を言うのだろうか。
と、何かが月の中に見えた。初めは小さな点だったのが、次第に大きくなってきている。
何かがこちらへ向かってきている。絶句するあかね。
大気圏突入の際の摩擦熱で真っ赤に燃え上がったそれは、紛れもなく銀のロケットを抱えたバリンガーZだった。物凄い勢いで、まるでわざとやっているかのように九州支部目掛けて突っ込んでくる。
254仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/29(金) 21:21:33 ID:nAWk3btS0
「駄目ぇ!こっちに来ないでぇ!」
声の限りにあかねが叫ぶ。その声が届いたのかどうか定かではないが、バリンガーZは方向転換をすると、そのまま九州支部の建物の脇をすり抜けて着陸――と言うより墜落した。激しい爆発が起こり、破片が周囲に雨霰の如く飛び散る。
「危ない!」
ヤミツキが飛んでくる破片からあかねを庇った。あかねは、絶望的な言葉が脳裏にずっと浮かんでいた。
と、炎上を続ける残骸の中から出てくる影が二つ。叔父さまと高鬼だ。高鬼は全身に怪我を負っているようだが、叔父さまの方は掠り傷一つ負っていない。
「いやぁ、こんな事もあろうかと強化白衣の上に強化宇宙服を着込んでおって助かったわい!ははははは!」
「何がはははだ!一歩間違えたら大惨事を引き起こしていたのだぞ!」
最早敬語を使う事すら忘れて、高鬼が叔父さまを罵倒する。
「二人共……無事で良かった……」
張り詰めていたものが緩み、地面に座り込むあかね。
叔父さまへと一方的に罵声を飛ばす高鬼に向かって、ヤミツキが声を掛けた。
「おい『疾風鋼の鬼』!月世界旅行はどうだった?二度と無い今日の日を風流出来たかい?」
その声に我を取り戻した高鬼は、周囲を見回し、更に天空に輝く月を一瞥するとこう答えた。
「……今度から竹取物語がまともに読めそうにないよ」
255仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/29(金) 21:23:06 ID:nAWk3btS0
四日目。
総本部に戻り一通りの報告を済ますと、叔父さまはすぐにここから発つ旨を告げた。誰も引き留めようとはしなかった。
出迎えの時とほぼ同じ顔触れが集まり、叔父さまを見送る。乗ってきたゼロ戦は大破したため、帰りは徒歩らしい。
「……もう二度と来ないで下さい」
一流が正直な気持ちを叔父さまに告げる。だが。
「ではあかね、達者でな。いずれまた遊びに来るぞ」
一流の言葉を完全に無視して叔父さまがあかねに別れを告げている。それが終わるとコウキの方に向き直って真剣な面持ちでこう告げた。
「コウキくん。生半可な気持ちで科学を学ぼうとは思わん事だ。時には他者や自分の命も平気で犠牲にするだけの冷酷さを持たねばならん。それが科学者というものだ。ゆめゆめ忘れるでないぞ」
「はあ……」
「私は科学という名の悪魔に魂を売って以来、毎日が楽しくて仕方が無いわい!ははははは!」
一頻り大声で笑うと、叔父さまはパイプを燻らせながらその場から立ち去っていった。彼の後ろ姿を眺めながらコウキが一言。
「嵐のような人でしたね……」
「そんな生易しいものではないよ、あの人は。あえて例えるなら嵐やら旱魃やら猛吹雪やら地震やら――およそ考えうる限りの全ての天変地異が一度にやって来たと言った方が妥当だな。君なら分かると思うがね」
まあ天災のようなものには違いないよ、天才だけに。そう京極が真顔で告げた。笑えなかった。本当にあの叔父さまは色々な意味でヤバイ人だったから。
空を見上げると、真昼の月がぽっかりと浮かんでいた。
256仮面ライダー高鬼「百話語りの夜」:2007/06/29(金) 22:06:11 ID:nAWk3btS0
「……以上で私の話は終わりだ」
そう言ってコウキが一同の顔を見渡す。
「そういえば以前、総本部の壁がぶち壊れていた事があったけど、まさかそれが……」
信じられないといった表情でバキが呟く。
「モチヅキ先生が現役の頃の猛士関係者って、全員こう過激なんですか?」
「そういう訳じゃないけど……」
石川の問いに苦笑しながらモチヅキが答える。
「ひょっとしてイブキくんが乗ったあのバイクに積まれていた原子炉は……」
「そうだ。あれは元々叔父さまが作った物を私とあかねさんが流用しただけに過ぎん」
勢地郎の問いにコウキが即答する。たとえあかねと雖も、この時代にあんな核融合炉は普通作れないだろう。恐るべきは叔父さまの科学力!
「コウキさん、俺、オチがだんだん読めてきたんですけど……」
急にニシキがそう告げた。
「百本目の蝋燭を消した途端、その叔父さまがやって来るんじゃないですか?また遊びに来るって言ってたんでしょ?」
「先の読めるつまらないオチだな」
これはアカツキの言。
「ここまで百物語を引っ張っておいて、そんなベタなオチにはせんよ」
そんなやりとりをしているうちに、誰かが百本目の蝋燭を消した。
室内は闇に包まれた。
宴は終わった。だが、物語は次の話へ続く。そう、百物語の真の本番は、語り終えた後に始まるのだから……。
257名無しより愛をこめて:2007/06/30(土) 00:13:01 ID:ISfBWDeq0
高鬼作者様 乙です。
258名無しより愛をこめて:2007/06/30(土) 17:58:21 ID:DXQi0a2x0
百物語、長々と楽しませていただきました!お疲れ様でした!

と書き込もうと思っていたらまだ続きがあるのですね。楽しみに待ちます。
ここで話は、百物語の宴が始まる少し前に戻る。室内で参加者全員が揃って宴の準備をしていた時の事。
「百物語って確か、百話語り終えたら化物が出るんですよね」
そう尋ねたのは石川だった。
「ええ、司書の京極さんに尋ねたらそのように言われました」
イブキが答える。彼は今宵の宴の幹事として、京極に百物語の作法について尋ねに行っていたのだ。
「その化物ってのはどんな奴なんです?」
「『青行灯』という名前の鬼女が現れるらしいです」
青行灯の名前の由来は、百物語の際に雰囲気を出すべく行灯に青い紙を貼った事からきていると言われている。
「なんだ、同業者か。それなら怖くはないな」
笑いながらセイキがそう言った。
「そんな事言って、突然出てきたらやっぱり怖くないですか?」
参加はしないが準備は手伝っていたサポーターのまつがそう言うも、セイキは相変わらず笑いながら。
「今まで色んな魔化魍と戦ってきてるんだぜ?一々そんな事で怖がってられるかよ」
まあそれはそうだろう。
「馬鹿馬鹿しい。化物など出る筈が無いだろう」
無駄話をする暇があったら手を動かせ、とコウキがきつく注意を入れた。
「『青行灯』か……」
まつは並べられた蝋燭を見ながらそう呟いた。
さて、再び百物語終了後の室内。しかしさっきまでと明らかに雰囲気が違う。
「……おい、さっき最後の蝋燭を消したの、誰だ?」
セイキの声が闇の中に響いた。だが誰も答えない。
「近くに居たイブキさんかコウキさんじゃないの?」
しかし石川のこの言葉を否定するかのように闇の中から二人の声が聞こえてきた。
「僕じゃありませんよ。コウキさんのお話が終わった後、僕は勢ちゃんと少し喋っていましたから……」
「私でもないぞ。私もニシキやアカツキの方を向いていたから、蝋燭など消せよう筈もない」
どよめきが起こる。
「おい、こんな悪戯面白くもなんともないぞ!早く名乗り出ろよ!」
石川が周囲に向かって大声を出すも、誰も返事をしない。
「ひょっとして本当に出ちゃってたりして、化物が」
「バ、バキさん、そういうのは無しですよ」
鬼と違ってあくまでも普通の人間である石川は、やはり今の状況が少し怖いようだ。
(化物だと?そんな筈はない)
コウキがそう考えるのにはちゃんと理由がある。何故ならこの宴は、百物語の形を借りた武勇伝発表の場だからだ。終盤の何話かに至っては、与太話にしか聞こえないものもあった。そんな状況で出るわけがない。
と、突然イッキが静かにするよう告げた。
「何か聞こえませんか?ほら……」
言われて耳を澄ましてみると、何やら妙な音が聞こえてきた。
「本当だ……。何だこれは?」
「まさか本当に『青行灯』が……」
「それは無いよ。魔化魍の気配は感じられない」
イブキの呟きに対し、バキがそう答えた。
その時、漸く闇に目が慣れてきていたコウキの視界の隅に、何やら白いものが映った。しかし今宵の宴に参加している者の中に、白い衣装の者は誰も居なかった筈だ。モチヅキも白衣を脱いできている。
「おい、何か居るぞ!」
反射的にそう叫ぶと、警策を手に立ち上がるコウキ。次いでアカツキとセイキも立ち上がった。
「確かに……何か見えた」
「おいおい、本当かよ……」
部屋中を見回してみるが、参加者以外の姿は確認出来ない。コウキ達が座り直そうとした刹那。
室内が真っ青に染まった。石川と勢地郎がほぼ同時に悲鳴を上げる。
「何だこれは!?」
と、セイキの悲鳴が上がった。慌てて彼の方を見やるとそこには……。
真っ白い装束を着込んだ、長い黒髪の鬼女が立っていた。その足元でセイキが腰を抜かしている。
「誰だ、お前は!?」
変身音叉を手に、立ち上がりながらイッキが叫ぶ。
「待て!よく見ろ。あれはただの面だ」
コウキの言う通り、それは般若の能面だった。ニシキが近寄り、面を取る。
そこには、まつの顔があった。
「うふふ、すいませんでした」
「ま、まつ、お前……」
「セイキさん、怖がらないんじゃなかったんですか?」
足元のセイキに向かって、まつが笑いながらそう尋ねた。何も言い返せないセイキ。
「やいてめえ、この冴えない女!何が夜更かしはお肌に悪いから参加しないだよ!こんなドッキリ仕掛けやがって……!」
石川が捲くし立てる。余程驚いたらしい。
「しかし君一人でこんな仕掛けが出来るとは思えん」
そう言うとコウキは共犯者について考え始めた。まず、我々が今夜百物語をやる事を知っている人物は限られている。そして百本目の蝋燭を消した人物の事も気になる。何より、部屋中を青く染める舞台装置の導入となると……。
「そろそろ出てきたらどうです?あかねさん、京極先生。それとモチヅキ先生にもお話を伺わないと……」
「流石ね、コウキくん」
そう言いながら、カメラを手にしたあかねと京極が室内へと入ってきた。スイッチを入れて部屋の電気を点ける。
「え、モチヅキ先生もグルだったんですか!?」
ニシキが驚いて尋ねる。
「考えてもみろ。実にタイミングよく飛び入り参加してきたではないか」
そう言ってコウキはモチヅキの顔を見た。
「と言う事は百本目を消したのはモチヅキ先生だったのですね」
「そうだ。我々が先代開発局長の話で盛り上がっている際にこっそり消したのだろう。後は黙り込んでいればいい。先生を疑う奴など、いるとは思えないからな」
納得の表情を見せるイッキ。しかし今度はイブキが疑問を投げかけてきた。
「百本目の蝋燭は位置的にモチヅキ先生には消せないかと思いますが……」
と、アカツキが床から何かを拾い上げてコウキの傍に近寄ってきた。
「おそらくこれで消したのでしょうね」
彼が指で摘まんでいたのは、硬貨サイズをした金属製の円盤だった。
「鬼円か」
それを見てドキが呟く。鬼円とは鬼投術に用いる武器である。
「先生程のベテランならばこれぐらい朝飯前か……」
まじまじと鬼円を見つめながらイブキが呟く。
「いやあ、ははは。その通りだよ。流石はコウキくんだ」
笑いながらそう答えるモチヅキ。
「どうしてこんな大掛かりな悪戯をしたのか、話してもらえますか?」
そう言ってコウキはあかねの顔を見た。明らかに主犯は彼女だ。京極やモチヅキやまつがこんな計画を立てて実行するとは思えない。
「決まっているでしょう?私を仲間外れにして盛り上がった罰よ」
そう言ってあかねはにっこりと笑った。
今夜百物語が開かれる事は、あかねには話していなかった。それは仲間外れにしようとしていたのではなく、仕事で忙しいあかねの睡眠時間を削るわけにはいかないだろうというコウキの親切心からだったのだが。
あかねは、偶然図書室へ行き、そこで京極に教えてもらったと言う。イブキが百物語について尋ねに来ていたため、京極は今夜の事を知っていたのだ。
更にそこへ、青行灯について詳しく知りたがっていたまつがやって来た。あかねは早速二人に悪戯の相談を持ち掛けたのだそうだ。怖がるわけはないと豪語していたセイキをぎゃふんと言わせたいと思っていたまつは、直ぐに話に乗った。
あかねが舞台装置を、京極が青行灯風の衣装を用意する事になったが、ここで問題が一つ。誰かが百話終了後に場の雰囲気をそれっぽく変えなければならない。だがあかねとまつは準備があるし、京極はそういうのに参加するキャラじゃない。
「そこで選ばれたのが僕だったって訳さ」
夜勤を終えたモチヅキは、そのまま何食わぬ顔で百物語の宴に参加したのだ。
「どのタイミングで行こうかと思っていたんだけど、途中で百物語が終わりそうな雰囲気になって、これは不味いと思ってね……」
「あの時は本当にドキドキしたんだからぁ」
そう言ってアカツキの顔を見るあかね。当のアカツキはそっぽを向いてしまった。
「直前に我々が聞いた妙な音は、演出であると同時にまつが室内へ入る際の音を消す為だった――そうですね?」
「何もかもお見通しかぁ」
吉良邸の事件を解決したのは伊達じゃないね、とあかね。
「ところでそのカメラは何です?」
「これ?皆の驚いている顔を撮影しようと思って。折角全員集まっているんだから、後で記念撮影しましょうね」
イッキの問いに、カメラを掲げながら笑ってみせるあかね。
「まあ兎に角大成功って事で……ね?」
そう言うとあかねは「どっきり大成功!」と書かれたプラカードを取り出して掲げてみせた。わざわざこの為だけに用意したらしい。
「あ〜、それを見せられたら怒るわけにはいかんなぁ……」
プラカードを眺めながらニシキが呟く。
「ちょっと待ってくれよ。バキさんとドキさんは気配で気付いてたんじゃないの!?」
石川がバキに詰め寄るも。
「そりゃ当然気付いていたさ。けど俺は空気は読める方なんでね。なっ」
バキにそう振られ、ドキもまた無言で頷く。「あ〜もう!」と悔しそうに喚く石川。
「さあ君達、そろそろお開きにしたまえ。大体、『青行灯』など出るわけがないのだよ。ほら」
そう言いながら京極が窓を覆っていた暗幕を開け、次いで窓を開けた。
外は既に明るくなってきていた。小鳥の囀りが聞こえてくる。確かにこれでは怪異も起こりようがない。
一日が動き出す中で、最初から参加していた十人は一斉に大きな欠伸をするのであった。 了
265高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2007/07/01(日) 00:33:49 ID:4Xyc7uip0
と言うわけで。
今までに考えた没ネタ、お蔵入りネタの中から幾つかを百物語という形で出してみました(エピローグ除く)。
投下するにあたり、オリジナルとは内容をかなり変えてあります。九割以上変えた話もありました。
それでもセガール、マタンゴ、月世界旅行はどうなるか心配でしたが…。
とりあえず次回からはまた通常営業という事で。久々に番外編でもやろうかなとか思っています。
それでは、長い間お付き合いありがとうございました。
266名無しより愛をこめて:2007/07/01(日) 01:37:34 ID:9walDNUb0

      _,,..,,,,_  オ゙ツ゚
     / ,' 3  `ヽーっ 
     l   ⊃ ⌒_つ
      `'ー---‐'''''"
267凱鬼メイン作者 ◆KxAq6DKEkg :2007/07/01(日) 21:30:32 ID:tbsrOsq10
どうもお久しぶりです。
長い間、仕事や親戚のことなどで全く書けませんでしたが、ようやく投下できます。
「投下できる」といっても、長期間の間全く筆をとっていなかったので自分でも満足のいくようなものは書けませんでした・・・orz
言い訳がましくなりますが、敢えて言わせていただくと、今回はいつもより念入りに推敲したのですが、やはり私のような生半可な文章力しかない者にはブランクはかなり大きく出てしまいますね。
今後はブランクを埋めるべく、自分なりの努力をしていきたいと思います。
268凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/01(日) 21:32:11 ID:tbsrOsq10
十六之巻「訪れる嵐」

「鬼笛を渡した!?」
とある病院の個室。深手を負った30代後半の男が、驚嘆の声をあげた。
「なんで!?」
「だってあなた・・・。鬼笛があったらまた抜け出すでしょう?」
「む・・・。」アカツキは痛いところを突かれて言葉が出ない。
「まあ、あの人たちに偽りはなさそうだし。宗家直々の申し出は受けとくべきよ。」
「お前は何も分かっとらん・・・。今、吉野の申し出を受けるということは・・・・。」
「分かってないのはあなたのほうでしょう!?」
膨らんだ風船が破裂したかのように、蘭は言い放った。
「なにがだ・・・?」
「吉野じゃなくて、和泉家よ!それに・・・また私を一人にするつもりなの・・・!?」
「・・・スマン。」
「いいわ。・・・ちょっと今から支部長に挨拶にいってくるから。」
そういって蘭は病室を抜け、病院の東口から駐車場に入った。
丁度そのとき、駐車場ですれ違いに入ったバイクが、蘭の目にふと止まった。奈良ナンバーのえらく硬派なバイクである。
蘭はそのバイクに見覚えがあった。それの乗り手の骨格、ヘルメット、首をかく仕種もよく知っている。
蘭は車を走らせた。恐山の麓にある東北支部に向けて。
流れる窓の景色を横目で見ると、儚い雪が降っていた。夏の雪である。
269凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/01(日) 21:35:54 ID:tbsrOsq10
198X年、初夏。
「お前、蘭のこと好きやろ。」
「なっ!なんで分かったんや!?」
二人の青年が、吉野の研修寮で消灯時間過ぎに懐中電灯の明かりを点けて、話し込んでいた。
時期はずれな研修のため、この二人―明日馬と勘助―の他に研修生は居ない。
否。正確に言えば、居ないはずだった。それがつい先日、途中参加で明日馬の幼馴染である天美蘭が研修に入ってきたのだ。
そんな急な出会いに明日馬は驚き、勘助は一目惚れをしてしまったということである。
「だってお前、一日中ずっと目が蘭にいってるもん。」
「畜生〜!バレてもうたら、しゃあないなぁ〜!!」
「蘭に言っといてやろうか・・・?」
「いや!その必要はない!男たるもの、自分で伝えるもんやー!」
「お前声が大きい・・!!」
「あっ・・・すまん・・・。」

翌日。
明日馬と勘助は5時に起床、着替えて吉野の研修生食堂へむかった。食堂と言っても大した広さはなく、時期の外れた研修のため、食材もなにもない。
そこで彼らは本部の方の食堂まで行って、食材を調達してくるのである。
もちろん自炊。明日馬は野菜を切ることくらいしか出来ないが、そのぶん勘助と蘭が人並以上の腕を振るって調理する。
明日馬には精々、薪割りや皿洗い、使い走りといったことしか出来ない。
「天美さん、こっち魚焼けましたよ。」
「あ。じゃあ勘助くん、あっちの大鍋、こっちまで持って来てくれる?」
「ハイハーイ。」
そう返事をすると、勘助は大鍋を軽々と持ち上げ、炉の上に置く。
炉の中で淡いオレンジ色の炎がユラユラと燃え、大なべの底を照らしていた。

「アカツキィ!見舞いに来たったでぇ!?」
時は戻って現在。アカツキの病室に、背の高い二枚目な男が騒音とともに入ってきた。
少しオールバックになりつつあるくせ毛、首筋をかく仕草。間違いなく勘助である。
「お前・・・勘助か!」
勘助はニヤッと笑うと、右の腰から変身音叉を取り出して見せた。
270名無しより愛をこめて:2007/07/01(日) 21:37:13 ID:tbsrOsq10
「オレも鬼になれたで。」
勘助は古くから金ばかりを輩出してきた家の跡継ぎである。
家柄のため、幼い頃から金に必要な教育を受けてきたが、勘助本人は鬼の仕事をやりたくて密かに鬼の修行も受けていたのだ。
「親父さんは許してくれたのか?お前が鬼をやること、凄く反対してたろう。」
「オヤジは2年前に死んだよ。」
勘助の思いがけない告白に、アカツキは驚いた。しかし、勘助からその件で何も連絡がなかったと言うことも分からなかった。
「親父さん、最期はどうだった?」
「家族に囲まれて息を引き取った。親父の業の深さにしては幸せな最期やった。」

―― 東北支部。
「カ〜チド〜キく〜ん。」
支部長がとある歩からの報告書を片手に、カチドキと連絡をとっていた。
「いま、カチドキくんの居る辺りで妖狐が出たって報告が来たんだけど・・・行ってくれるかな?」
『俺はいいけど、今日は美夏が体調崩しててさ・・・。相手は妖狐だろ?今日中に終わらすのは無理かもなぁ。』
妖狐とは――。
伝承は各地で様々であるが、老いた古狐が邪気にあてられた場合に発生することが多く、そのまま放って置くと邪気に呑まれて強力な魔化魍に変貌してしまうモノだ。
そうなると腕利きの鬼でも手が付けられなくなってしまう。そうなる前に、東北地方などの里山の多い地域では、特にこの妖狐を恐れ警戒している。
「まぁとりあえず、大事になる前に接触してみてよ。明日には応援を呼ぶから。」
カチドキは美夏の体を案じ、あまり乗り気にはなれなかったが、妖狐を野放しにしておくわけにもいかず渋々美夏に車を走らせるよう指示した。
(仕事とはいえ・・・車の運転もできずに負んぶに抱っこじゃあ申し訳ないよな・・・。)
そう思ったとき、ふっと自分がバイクに乗った姿を思い浮かべたが、今更教習所なんて・・・と思い、妄想を掻き消した。
271凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/01(日) 21:39:56 ID:tbsrOsq10
「じゃ、俺は支部に顔見せしてくるからな。」
勘助はそう言うと、病院を出て愛車にまたがり、駐車場を颯爽と出ていく。
勘助が駐車場を出るのを病室の窓から眺めていたアカツキは、しばらく虚空をみつめ、これからのことを考えた。
(勘助が鬼に・・・しかも東北に来たってことは・・・。和泉の爺さん、本気で俺を戦わせないつもりだな。)
そう思うとアカツキは和泉家に憤りさえ感じたが、自分の代任となった人間が勘助だということを思うと、なんだか嬉しい気分になるのも事実であった。

十六之巻「訪れる嵐」
272名無しより愛をこめて:2007/07/04(水) 00:39:57 ID:SFHDTtOc0

      _,,..,,,,_   ソー… |ヽ⊥/|
     / ,' 3  `ヽーっ  ⊂(ミ夫シ*)
     l   ⊃ ⌒_つ   . ( ∪..)〜
      `'ー---‐'''''"     ∪∪
273名無しより愛をこめて:2007/07/04(水) 21:07:06 ID:RqUguvuE0
        ブワッ!  ガッ!
  、ゞヾ'""''ソ;μ, 从 ,. |ヽ⊥/|
 ヾ  ,' 3    彡∵;".(;:ミ夫シ)
 ミ        ミ''W`;⊂⊂ノ
 彡         ミ  と⊂ノ〜
  /ソ,, , ,; ,;;:、ヾ`
274名無しより愛をこめて:2007/07/07(土) 12:58:19 ID:D/1yOArl0
今日は七夕か・・・。
275名無しより愛をこめて:2007/07/07(土) 14:53:08 ID:RRdUaNBqO
キハダガニの彦とバケガニの織姫の逢瀬の日だね……
彦くん、がんばって!
276凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/07(土) 16:42:20 ID:D/1yOArl0
十七之巻「叩き割る運命」

青森県南部の里山。
カチドキと美夏は支部長に頼まれ、妖狐が現れたと報告のあったこの場所に来ていた。
「カチドキさん・・・妖狐って強いんですよね?私・・・妖狐は初めてなんですけど。」
すこしばかり体調を崩している美夏は、不安げにそう言った。
「強いといっても、それは本格的に邪気に染まったらの話ね。今なら未だ間に合うかな・・・。」
カチドキは余裕を見せ、車からベースキャンプ用品やディスク達を降ろした。
「じゃあ・・・妖狐の行きそうな水辺と、山の中腹あたりを中心によろしく。」
「ラジャッ!」
美夏はそう受け答えると、早速ディスクにポイントを入力しはじめた。
カチドキはベースキャンプを組む前にコーヒーでも飲もうと、先ずテーブルから組み立て始めた。

――東北支部。
二階の猛士の間では、支部長が伝承に残る妖狐の情報をかき集めている。
支部長が明治時代の記録が記された巻物に手を伸ばしたとき、外からえらく硬派なバイクの音が聞こえ、ちょうど東北支部の前で停まったようだった。
「もしかしてアカツキさん!?まだ怪我治ってないはずだけど・・・。」
東北支部の人間で、バイクに乗っている鬼は以外に少ない。
この辺りではアカツキくらいしか居ないし、他のバイク好きな鬼たちは、青森とかなり離れた区域を担当している。
もしかして、また抜け出して来たのでは・・・支部長はそう思い、記録を手にしたまま玄関まで行った。
支部長が玄関までいくと、硝子越しにジャケットのようなものを着た背の高い男性らしき人物が、今まさに戸に手をかけるところだった。
―― 誰だろう?こんな時間に居酒屋に来る人なんて、近所の子供くらいだし・・・。
ガラガラガラガラ!!
戸は盛大な音をたてて開き、二枚目で背が高い男が入ってきた。
「毎度、おおきに〜!!関西支部のもんですけどぉ!!」
突然の来客に、支部長は唖然としてしまう。
「・・・は?」
「ん?東北支部長の坂本仇ってアンタやろ?何も聞いてへんの?」
277凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/07(土) 16:44:57 ID:D/1yOArl0
「え・・・何がですか?」
その男 ―神木勘助― は、呆れたようにため息をつくと、真新しい変身音叉を取り出してこう言った。
「アカツキの代任で来たんや。和泉のオッサンから何も連絡ない?」
「いえ、なんにも・・・」
「あーっ!そうやった!!俺がアンタらに説明しとかなアカンのやわ!すーっかり忘れとった!!」
勘助はそう大声で言うと、ジャケットのポケットから何かの書類を取り出して内容を確認すると、小難しい顔をして支部長に向き直った。
「えーっとな。この書類、小難しく書いてあってようワカランわ!!せやから単刀直入に言わしてもらう!耳をようかっぽじって聞けや!!」
そう言われるがまま、支部長はその言葉に従って耳の穴を指でほじった。
「俺がここに来させられたんは、アカツキが床に伏せってる間の人手不足を解消するためらしい。せやから、いつまでかは分からんけど暫くの間はここに居候させてもらう!!」

―― この人は一体・・・何を言ってるんだ?

「異動・・・ということですか?それならば、前もって連絡が無いはずないですよ。今話されたことは本当なんですか?」
そう支部長が切り返すと、勘助は小さく舌打ちして支部長の耳元で囁いた。
「ええか、坂本・・・。アンタぁまだ若いからワカランやろうが、猛士という“組織”の中にも一丁前に派閥をつくって威張っとる連中が少なからず居る。
連中は、天美家のことを良く思っては居らんのや。和泉のオッサンは・・・総本部長は、その状況をよう知っとる。だから表には極力出さずに、天美を支援しとるんや。
そんな状況で・・・公に異動命令を下せば、連中は何か勘付くやろう。せやから今の吉野では、俺は1年間の海外留学に行ったっちゅうことになっとるんや。
くれぐれも・・・他所から来たもんに他言するんやないぞ。」
支部長は勘助の先ほどまでとは違った威圧感に圧倒され、静かに頷いた。
それを確認した勘助はいつも通りの笑顔にもどると、快活にこう言った。
「ほんなら、俺の寝床を決めよか!!」
278凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/07(土) 16:45:31 ID:D/1yOArl0
支部長はそれを聞いて慌てて勘助に告げる。
「部屋・・・一つも空いてないんです・・・。」
「・・・何〜っ!?それは困るっ!1年間分の賃貸料なんて持って来とらへんわー!!」
―― タダでここに泊まる気だったのか・・・。
「まぁ・・・泊まれないこともないですよ。・・・狭くなりますけど。」
申し訳なさそうに支部長が言うと、勘助は嬉しそうにはしゃいだ。
「この際、贅沢は言わん!タダで“三食つき”なんて、それだけで充分や!!」
―― この人・・・飯まで世話になるつもりなのか・・・。
支部長はそう思うと、これからの生活が不安になってきた。居候はカチドキ兄弟の2人だけでも精一杯なのに、3人ともなればどれだけの粗食か想像もできない。
「ん・・・?お前、その手に持っとるもん何や。」
勘助は支部長の持っていた妖狐の記録を奪い取ると、不敵な笑みを浮かべた。
「こいつが出たんやな・・・?」
「え・・・ええ。」
「場所はどこやっ!?」
勘助は支部長に詰め寄って場所を聞くと「おおきに!!」といってさっさと出て行ってしまった。
「なんだったんだろう・・・あの人は・・・。」
279凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/07(土) 16:46:28 ID:D/1yOArl0
―― カチドキのベースキャンプ
美夏とカチドキは、戻って来たディスクたちを音叉にかけていた。
「これは・・・外れだな。」
そう言ってまた一つケースに戻し、地図にさした虫ピンをとっていく。
「水辺にいったディスクたちがまだ戻って来てない・・・やっぱり水辺が怪しいですね。」
「う~ん・・・特に北側のここ。ここにいった奴ら、一つも戻ってきてないな。ちょっと見に行ってくるよ。」
そう言って、カチドキは猛士支給のジャージに着替えた。もし戦闘にでもなればお気に入りの服が台無しである。
「気をつけてくださいね。」
美夏はそう言うと、火打石を打った。
「それじゃ行ってきます!」
カチドキは敬礼のようなポーズをとると、森の中へ駆けていった。

―― 山の北側
「地図じゃこの辺りなんだがな・・・。」
カチドキは地図とコンパスを見ながら現在位置を確認する。そのとき、物陰で何かが動く音がした。
「・・・なんだ?」
恐る恐る近寄ってみると、音はさらに激しさを増していく。
「・・・これは!?」
そこには、カラダの半分が熔けてしまった茜鷹と瑠璃狼が必死にもがいていた。
280凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/07(土) 16:47:30 ID:D/1yOArl0
「妖狐の仕業か・・・?」
そう言って指を鳴らしてディスクを眠らせると、カチドキは周りに自らの存在感を張り巡らせた。
これによって魔化魍が鬼の気配に気づくと、その大半は自ら姿を現して襲ってくる。
それは妖狐も例外ではなかったようだ。カチドキが殺気に気がついて辺りを見回すと、樹上に狐の面を被った生き物がいた。
それは四本の足を巧みに動かすと、樹上からカチドキの目の前に降り立った。
体の形は尻尾が3本あるくらいの違いだけで、他は狐となんら変わりは無いが、大きさは虎の2倍はあろうかと思われる。
「まさか、妖狐が自分から出てきてくれるとは思わなかったぜ。」
言葉が通じるのかどうかは分からないが、挑発の意味をこめてそう言った。
すると妖狐の面が怒りの形相を露にして、3本の尻尾がうねり始めた。どうやら意味は通じたらしい。
「俺もアンタみたいなのと戦るのは初めてなんでね。前振りはここでお仕舞いだ。」
カチドキはそういうと腰から音叉を取り出し傍にあった木にあて、音を額に浴びせた。
刹那、燃え上がる炎と共に凱鬼があらわれた。妖狐も容赦なく凱鬼に襲い掛かる。
シャァァアア!!
凱鬼は烈凱に気を込めて妖狐に一発お見舞いすると、全身に炎の気を滾らせた。
「ハァァ・・・セイヤァッ!!」
凱鬼は蒼の炎を纏う強化体、凱鬼 竜胆に変化をとげると、素早く両方の烈凱から炎の刃を出現させて妖狐に切り込む。
「おらぁっ!!」
烈凱の刃が妖狐の腹部を貫いた。それと同時に吹き出る白濁した血。凱鬼の腕は返り血を浴びた。
「このまま、お前をLOSTしてやるぜ!!」
多少汚いセリフを吐いてバックルから音撃鼓を取り外し、妖狐に貼り付ける。
281凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/07(土) 16:48:03 ID:D/1yOArl0
音撃鼓は妖狐の体の上で巨大化し、音撃の準備が整った。
「よし!さっさとお前を終わらせ・・・あれ!?」
先ほど妖狐を貫いた烈凱が、刺さったまま抜けない。妖狐の面は不気味な笑みを浮かべた。
「糞がぁ!抜けろって!!」
凱鬼が思いっきり抜こうとするが、全く抜けない。炎の気で形成された烈凱剣のはずだが、気を烈凱から分散させても刃が消えることもない。
「一体どうなって・・・うわ!?」
妖狐の体に刺さった烈凱剣の刃がみるみるうちに黒ずんでいく。おそらく妖狐の邪気に呑まれているのだろう。
このままでは・・・そう凱鬼が思ったとき、目の前の烈凱が弾け飛んだ。
―― 誰だ?
凱鬼は驚いて思わず上を見上げた。樹上には、黒のジャケットを着た男が背丈以上もありそうな大刀を握っていた。
「毎度、おおきに!!兄ちゃん、お困りでんなぁー。俺が助太刀しちゃろか?」
「・・・何!?」
その快活な声を聞いた凱鬼は唖然とするばかりだ。
「まぁええわ。そいつ、俺に殺らせてや!?」
そう叫ぶと男は樹から飛び降り、大刀を妖狐の面に振り下ろした。斬撃と同時に、和音があたりに響き、妖狐の面がパキンと割れる。
シャァァアアアアア!!!!!!
面が割れた妖狐は苦しそうにもがくと、必死の形相で立ち上がって恐ろしげな素顔と殺意を露にした。
「まだ立てるんかぁ・・・久々に豪くおもろい相手やわ。」
男はそう呟くと、腰から変身音叉をとりだし、その音色を額にあてた。

十七之巻「叩き割る運命」
282凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/07(土) 16:50:12 ID:D/1yOArl0
【次回予告】

「喰らえ!俺の音撃!!」
「俺の名前は、神木勘助!アカツキの代打で1年間くらいここに居候させてもらう!!」
「神木さん、短冊になんてお願いしたんです?」
「カチドキくん、神木さん!!妖狐はまだ生きてます!!」
「凱鬼!俺を信じろ!!」

十八之巻「ちぎれる願い」
283名無しより愛をこめて:2007/07/07(土) 17:46:13 ID:Q2iXa3vG0
そういえば次回予告を書く作者さんって、
次に投下する話が大体書き上がって、予告を打てる状態になってから前の話を投下してるの?
それとも先に大枠だけ決めといて予告をまず打って、それに沿って次の話を書くの?
284凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/07(土) 18:05:02 ID:D/1yOArl0
>>283
私の場合は、大枠を決めてそれに沿った形で予告を書いています。
それゆえに推敲していく上で、予告と若干変わったりもするのが難点ですが・・・。
その日、猛士総本部で開かれた大宴会の席上は、実に騒然としていた。各支部の参加者達がこぞって北海道支部の席を訪れていたからだ。
彼等の目当ては、慣れない浴衣姿でちょこんと座っているショートヘアの金髪白人女性だった。話し掛けてくる人々に対し笑顔で挨拶をしている。
彼女の名はサーシャ・サポフスキー。ソビエト人だ。鬼としてのコードネームはササヤキ(囁鬼)。彼女の祖国でよく見られるダイヤモンドダスト、その時に出る微かな音を表す「天使の囁き」という言葉から取られた名前だそうだ。
外国人の彼女が鬼になれたのは、既に関東に伊太利亜人の鬼が在籍していた事が大きかったようだ。ただ、同じ理由で厳しい身辺調査を受けたらしいが。
「やかましいッ!うっとおしいぜッ!!」
周囲の喧騒に耐え切れず、彼女と同じ北海道支部に所属するジョウキが一喝した。いつもの学生服もどきのコートではなく、既に浴衣に着替えている。彼女に付き合って温泉に入ってきたのだ。
ジョウキは、支部で一番ストイックな男性だからという理由で、支部長のトウキから彼女の教育係兼ボディガードを任されているのである。
ジョウキの一喝で、群がっていた男性陣は渋々と自分の席へ戻っていった……かに見えた。まだ残っているのだ、一喝されようが暴力を振るわれようが懲りない面々が。
残ったのは関東支部のザンキ、カザムキ、北陸支部のコイキ、中国支部のユキツバキ、レンキ、四国支部のサカズキ、九州支部のヤミツキの七名だ。
まず初めにユキツバキが口説き始めた。
「君のような美しい女性は初めてだ。どうだい、このハンサムな俺と一緒に……」
「黙れ、このスケコマシ!」
ザンキの一撃がユキツバキを宙高く打ち上げた。頭から落下し、泡を吹きながら痙攣するユキツバキ。そんな彼を、顔を真っ赤にしながら中国支部のツワブキが席まで引っ張っていく。
「お前等馬鹿だろ。彼女はソビエト人なんだぜ?日本語で話し掛けたって通じないに決まっているじゃないか!」
ザンキの言っている事も尤もである。しかし。
「お前さんだって、日本語と伊太利亜語しか喋れないんじゃないのか?」
「馬鹿にしなさんな。万国共通語の英語だって喋れる!……と言うかカザムキさん、あんたがここに残るとは正直予想外だったぜ」
「ふっ、いい女を口説かないのは男として失格だからな。それに俺は英語の腕前も日本一だ」
互いに火花を散らし合うザンキとカザムキ。次の瞬間、両者とも英語でササヤキを口説き始めた。……と言うかこいつら、彼女が英語を喋れないという可能性は考えないのだろうか。
散々二人が喋り捲った後、ササヤキは笑顔のまま一言。
「ダイジョーブ、私、日本語分かりますから」
まだ少し発音がおかしいところがあるも、ササヤキは日本語がぺらぺらなのだそうだ。完全に道化を演じてしまった事で気を悪くしたカザムキが、無言のまま席へと戻る。残り五人。
「何だよ、日本語が喋れたのか……。まあいいや。ところでそこのお前!出入り禁止になったんじゃなかったのかよ!」
ザンキがヤミツキを指差して怒鳴る。それに対しヤミツキはさも面倒臭そうに。
「そんなもん、もうとっくに解かれたに決まっているだろうが」
「またあの暴れ馬を連れてきてるんじゃないだろうな!」
「ササヤキさん、俺と一緒に乗馬と洒落込みませんか?文字通り風のように走る黒馬がいるんですよ」
ザンキを無視してササヤキを口説き始めるヤミツキ。
「私、乗馬は初めてなので……」
「俺が手取り足取り教えますよ。日ソ友好のためにも是非!」
そう言ってヤミツキが差し出した手を、サカズキが掴んだ。
「待ちな、若いの。何が日ソ友好のためだ。……お嬢さん、俺が大人の男の魅力を一から教えてやるぜ」
手にした日本酒の一升瓶をぐいっと飲むサカズキ。四国支部の座席の方から歓声が上がった。
「巫山戯た事抜かすなよ、おっさん。大人の男の魅力だとぉ?あのな、男と言ったらやっぱ腕っ節よ。あんたみたいな老頭児に何が出来る?ん?」
酒が入っているせいか、今宵のヤミツキはやけに絡む。だが、本来ならこういう手合いを諌めなければならない立場である筈のサカズキも、ササヤキに良いところを見せたいばっかりに喧嘩を買ってしまった。
「面白い。年季の違いを見せてやるぞ」
「そっちこそ、後で吠え面かくなよ」
慌てて四国のウズマキと九州のツマビキが先輩達を止めに入るも、二人とも逆に裏拳を顔面に喰らって伸びてしまった。役に立たない。
と、両者の間にいつの間にか一人の女性が立っていた。四国支部のコンペキだ。彼女は「覇っ!」と一声叫ぶと、二人の鳩尾にそれぞれ強烈な一撃を叩き込み倒してしまった。一瞬の早業に誰もが目を丸くする。
動かなくなったサカズキとヤミツキ、同じく気を失ったまま倒れていたウズマキとツマビキを抱え、コンペキが席へと戻っていく。
「相変わらず良い腕をしているな」
席に座って酒を飲んでいた沖縄支部のムカツキが、彼女の腕前を褒めた。一方……。
「はぁ〜。コンペキはん、相も変わらず素敵どすなぁ……」
レンキだ。嘗てコンペキが中国支部へ応援に来ていた時のように、目がとろんとしてきている。
「おうおう、相変わらず惚れっぽいねぇ」
「あらコイキはん、引退した筈やのに何でおるん?」
この当時の大宴会は、現役の鬼しか参加出来ない筈だ。引退者であるコイキが居るのはおかしい。
「俺は雲。空の雲を人が自由に出来るわけがない。勝手気儘に流れていくだけさ」
変わり者揃いで知られる北陸支部の鬼の中には、自分のサポーターを無理矢理連れてきている者もいるので、コイキが参加していても別段不思議な事ではない。
「コイキはんも相変わらずやなぁ。ほなうちはコンペキはんのとこへ行くさかい、後はよろしゅう……」
そう言うとレンキは、にこにこしながら四国支部の座席の方へと向かっていった。
「さて……ササヤキちゃん、俺は太鼓使いなんだけど君は何を使うのかな?非常に興味が沸いてね」
無難な質問から入っていくコイキ。この質問に対しササヤキは少し考えた挙げ句。
「……鬼さんの中にはハープ型の武器を使っている人がいると聞きます。私のはそれに近いかもです」
「じゃあ弦か。うちの支部の弦使いは妙な奴ばっかりでさ。ほら、あそこにいる仮面を着けたのと、やさぐれた目で煙草吹かしてるのと、鉢金なんか巻いちゃってるの。あいつらがそう。でさ……」
大声で一人喋り続けるコイキを遮り、ササヤキが再び口を開いた。
「弦じゃないです」
「じゃあ何……ぐぼっ!」
突然、コイキの脳天に強烈な踵落としが決まった。ザンキだ。不意を衝かれたためか、完全にコイキは意識を失ってしまっている。
「この傾奇者が!べらべら喋って気を惹こうなんて甘いんだよ!」
気を失ったコイキは、北陸支部のメッキが脚を引っ張って座席へと連れて帰ってしまった。
「やった!最後まで残ったのは俺一人だけだ!これで心置き無く口説け……めきょっ!」
奇妙な悲鳴を上げながらザンキは、関東支部の座席の方へ向かって飛んでいってしまった。派手な音を立てて御膳の上へと落下する。
やったのはジョウキだ。鬼闘術・白金世界で超高速移動し、ザンキの顔面に強烈な一撃を打ち込んだのだ。
「……やれやれだぜ。やっと静かになった」
そう呟くとジョウキは煙草を吹かすのだった。
宴は進み、恒例の隠し芸大会が執り行われる時間となった。今回の司会進行役は、司書の京極だ。無駄のない、てきぱきとした進行を続ける京極。
バキの宴会芸が終了し、会場が大いに沸いた後、壇上に上がったのは何とササヤキだった。手には大きな鞄を提げている。
「日本の皆さんオーチン プリヤートナ(初めまして)。ミニャー ザヴート ササヤキ(ササヤキと言います)。私、お近付きの印に、祖国の楽器を演奏します」
その言葉に、場内から割れんばかりの拍手が起こった。一礼するとササヤキは鞄の中から何やら箱のような物を取り出した。
場内が静まり返る。ササヤキが箱の真上に手を翳した瞬間、音が響いた。場内にざわめきが起こる。
「あら、これって……」
「知っているのですか?」
リョウキの問いにコンペキが答えた。
「これは『テルミン』ね。キリサキさんが教えてくれたの」
(またキリサキか……)
テルミンとは、1919年にソビエトで開発された世界初の電子楽器である。
何故キリサキが知っていたかと言うと、かの有名なハードロックバンド「レッド・ツェッペリン」が、このテルミンを楽曲に用いて演奏した事があるからである。
テルミンの奏でる幽玄的とも言うべき音色が、場内を包み込む。さっきまでテンションが最高潮にまで上がっていた者達の気持ちも、安らいできていた。
関西支部のイブキもまた、テルミンの音色に酔いしれていた。
「良い音色ですね、コウキさん。このちょっと不安感を煽るような感じがまた何とも……」
「うむ、全くだ」
「ただ……あの楽器、テルミンですか?何処かで見た事があるような……」
ササヤキが演奏するテルミンは、二本のアンテナ以外にレバーやつまみ、更には銃口のようなものまで付いていた。それはまるで……。
「それはそうだろう。あれは……」
コウキが何かを言おうとしたその時、壇上に誰かが乱入してきた。案の定と言うか何と言うか、闖入者はザンキだった。ブーイングが巻き起こる。
「ギャラリーは黙れ!……なあ、俺はあんたみたいな女を無視する事なんて出来ないんだ。せめて一回だけでもデートしてくれ!頼む!」
そう言って何とササヤキの目の前で土下座を始めたではないか。これには流石のコウキも呆れてしまった。
「あいつ、プライドは無いのか……?」
困惑してジョウキの顔を窺うササヤキ。それに対しジョウキは一言。
「……『許可』するぜ。そいつには一度痛い目を見せた方が良い」
「……ダー(はい)」
そう言うとササヤキは照準をザンキに合わせ、テルミンに取り付けられていたレバーを引いた。刹那、銃口から鬼石の塊が飛び出し、ザンキの顔面へと減り込む。
「げぼっ!」
夥しい量の鼻血を撒き散らしながら、ザンキが後方へと吹っ飛んでいく。
唖然としながら一部始終を眺めていたイブキに向かって、コウキが話を続けた。
「……あれは『カタストロフくんW世』を改造して作った音撃テルミンだ。あの鬼石の塊を魔化魍に撃ち込んだ後、音撃奏で清めるわけだ。私としても初めての試みだったが、どうやら上手くいったようだな」
どうやらコウキは、人食い島での一件の後も「カタストロフくん」を作製していたらしい。そしてそれを北海道支部の要請を受けて音撃武器に改造し、支給したようだ。
鬼石の直撃を受けて血塗れになりながらも、ザンキがササヤキの傍へと這い寄っていく。まるでゾンビ映画のワンシーンのようだ。何という執念!
「そこまでしてデートがしたいのか!」
堪らずコウキが叫ぶ。
「デ、デート……。俺と……一緒に……イタ飯でも……」
「……言ってる事がわからない。……イカれてるのか?……この状況で」
ちらりと関東支部の席に視線を移すジョウキ。それに対しシュキが「構わん、やれ」と告げた。
まるで護るようにササヤキの前に立つと、ジョウキはザンキの手首に目をやりながら。
「……やれやれ、趣味の悪い時計だな。だがそんなことはもう気にする必要はないか……。もっと趣味が悪くなるんだからな……顔面の形の方が……」
「……え?俺、時計なんてしてな……」
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら!」
有無を言わせぬ勢いで、ジョウキがラッシュを叩き込んでいく。その拳に打ち上げられ、ザンキの体が宙を舞った。だがジョウキの攻撃は終わらない。
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら!」
物凄い速さで叩き込まれる拳は、ザンキの全身を隈なく抉っていく。周囲に血反吐が飛び散るも、ジョウキの攻撃が緩む事は無かった。
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら!」
鍛え抜かれたザンキの肉体は、これだけの攻撃を受けてもなお生命活動を停止させる事は無かった。それは幸福なのか、不幸なのか。
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら!」
見ている者達も、流石は百戦錬磨の鬼達だけあって悲鳴の一つも上げない。むしろザンキを知る者の中には、「ザマミロ&スカッとサワヤカ」な思いを抱いている者も少なくなかった筈だ。
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら……おぉぉらっ!」
「ヤッダーバァアァァァァアアアアア!」
派手に悲鳴を上げながら、ザンキは宴会場の隅に置かれたゴミ箱へと頭から突っ込んでいった。一瞬の静寂の後、拍手が、次いで歓声が沸き起こる。
「素晴らしい!今日見てきた中で一番の出し物です!」
北陸支部のドクハキが、割れんばかりの拍手と共にそう告げた。横ではサポーターの葛木弥子が、顔に油性マジックで「無料○○○(ヤバイ表現につき自粛)」と書かれたまま酔い潰れて眠っている。
その後、京極が呼んできたモチヅキによってザンキは医務室へと運ばれていった。これだけの事が起きたにも拘らず、大宴会は滞りなく続けられた。ヤミツキの愛馬が暴れた時とは違い犠牲者は一人、しかもそれがザンキだったからだろう。
「コウキさん……」
「これであいつも少しは懲りただろう。さあ飲むぞ!最後まで付き合えよ」
これで懲りるぐらいなら世話ないのだが。そう思いながらもイブキは、コウキがコップに注いだ吉野の地酒をぐいっと飲み干すのだった。

その後も北海道支部には、各支部の男性陣からササヤキ宛に沢山のプレゼントやラブレターが届けられた。中には北海道支部への移動を吉野へ直談判してくる猛者もいた。
だが1980年、西側諸国がモスクワオリンピックをボイコットし、それに日本も同調した事に腹を立てたササヤキは帰国、それ以降来日する事は二度と無かったと言う。 了


イメージソング
めざせモスクワ
作詞 M・BERND 作曲 S・J・RALPH 歌 ジンギスカン

オリジナル
ttp://www.youtube.com/watch?v=BQAKRw6mToA&mode=related&search=
もすかう
ttp://pya.cc/pyaimg/pimg.php?imgid=16420
久しぶりにどうでもいい設定
ササヤキ(囁鬼)
 本名サーシャ・サポフスキー。ソビエト人。
 留学中に魔化魍に襲われ、それを機に猛士に加入する。
 急な事だったためちゃんとした師匠に師事する事が出来ず、北海道支部長のトウキが師匠代わりをしていた。そのためかトウキ同様、変身後は熊に似た姿となる。
 音撃武器は音撃テルミン・霧氷。遠距離攻撃は勿論、近距離においても鈍器として相手の頭をかち割る事が出来る。耐水性。

鬼闘術・熊爪
 ただの鬼爪だが、外見が熊なのでベアークローと呼ばれる。
 片手のみだと100万パワー。両手で200万パワー。いつもの二倍の跳躍で400万パワー。更にいつもの三倍の回転を加えて1200万パワーの光の矢になれる!……かもしれない。
鬼法術・悪魔の囁き
 口を開いて冷たい息を吐きかける、接近戦用の技。
 コードネームの由来にもなった「天使の囁き」を意識して名付けられたが、外見が熊なのでよく「あ、熊の囁き」と間違えられる。
鬼法術・氷結魂
 氷属性の大技も使える。
 他の氷結魂使用者と異なり、何故か技を出す前に白鳥の舞を模したダンスを踊る。熊なのに。きっとダンスに深い意味は無い。
294名無しより愛をこめて:2007/07/09(月) 21:02:11 ID:7DRlzRhX0
葛木弥子、無料肉べn(ry
295名無しより愛をこめて:2007/07/09(月) 21:50:55 ID:IqAke3Wa0
高鬼作者様、乙です。
296名無しより愛をこめて:2007/07/09(月) 22:22:07 ID:bDMTmc/V0
萌えるザンキは月・水・金
297名無しより愛をこめて:2007/07/12(木) 01:09:58 ID:wD+7wLG20
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   『鬼闘術・熊爪』
298志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/12(木) 08:19:17 ID:U/trHoKM0
前回は>230-238

十一之巻 誘(いざな)う墓

自分の車をドライブしてきて欲しい、と言うみどりの申し出は明日夢にとって突飛なものだった。
「遠出するとなると、そこそこの場所でないと効果がないから……。そうね、富士山の麓ぐらいまで行って貰えればいいかなぁ」
「みどりさん、それって……」明日夢はみどりの言葉で全てを理解した。
「あとね、一応車に積んである物も持って行って。用意しておくから。明日は土曜だし、明日夢君の所の講義は休みでしょ?」
「はい。一応、二、三日分の休講の手続きはとっておきます」
「悪いわね」言葉では謝りながらもにっこりとした顔でみどりは言った。明日夢もその笑顔に釣られて笑顔になる。
「……でも、僕まだ若葉マークですよ。いいんですか?」ひとしきり笑った後、明日夢は不意に不安になってみどりに尋ねた。みどりは、大丈夫、オートマだし保険もちゃんと掛けてるから、と太鼓判を押すように答えた。
明日夢はみどりの好意に甘えることにして、それじゃ使わせていただきます、と言って席を立った。
「あ、それと」みどりは立ち上がった明日夢に声を掛けた。
「初心者マーク、忘れないでね。私、もう持ってないから」
「はい。分かりました」明日夢は笑顔で答えてたちばなを後にしたが、その顔に先程の暗い影はなかった。
みどりはその背中を見送ると、ごめんねヒビキ君、とそっと呟いた。
299志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/12(木) 08:20:08 ID:U/trHoKM0
翌朝、たちばなに立ち寄った明日夢の目の前でDAの緑大猿が腕を振って、よろしくな、と言わんばかりに挨拶するとくるりと回ってディスクになった。
「トドロキ君の緑大猿よ。結構役に立つと思うわ」みどりはそう言いながら、緑大猿を収めた携帯用のディスクケースを明日夢に預けた。ケースの中には十枚程のDAが入っている。
「それと……はい、これ」渡された木箱に入っていたのは陰陽環と変身音叉だった。
「明日夢君は音叉だけではDAは起動できないでしょうから、これを使って」
「ありがとうございます」明日夢は装備を受け取ると、みどりに礼を言った。
「くれぐれも危険は避けるようにね。あくまで、『後方支援』と言う事で許可したんだから」後ろに立っていた勢地郎が明日夢に釘を刺す。
勢地郎は明日夢が帰った後でみどりから今日の事を頼まれたようだった。
みどりと勢地郎の間で何が話されたのかは明日夢には分からない。しかし、みどりが粘り強く説得してくれたであろう事は勢地郎の渋い表情から見ても確かな事だった。
明日夢はみどりから車の鍵を受け取ると、車を駆って河口湖を目指した。と言っても、明日夢は初心者の為郊外や遠方の道路には不案内だ。
途中で車を止めて、インパネの中央にあるナビゲーションシステムにディスクケースから取り出した茜鷹を挿入する。
茜鷹にインプットされたナビゲーション情報により画面に出た地図と音声を頼りに明日夢を乗せた車は目的地まで走り出した。
300志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/12(木) 08:22:02 ID:U/trHoKM0
近隣のホテルに一泊した香須実が無事東京に出発したのを確認すると、ヒビキ達は昨日と同様にDAを放って『墓場』探しを再開した。
香須実が持ってきた装甲声刃は革のケースに入った状態でテーブルの上に置かれている。
以前のものよりその長さはかなり長くなっており、短刀より少し長い程度だった刀身は中脇差程の長さに細く伸ばされていた。
「重さはあまり変わりませんでしたね」イチゲキが箱を見ながらヒビキに話しかけてきた。
「刀身を鍛えなおしてリーチを伸ばしたみたいだな。強度は確実に上がっているようだし、烈火剣のようにも使えそうだ」ヒビキは箱をちらりと見るとイチゲキの方を振り向いて答えた。
「波動はどうなんですか?最初の時には、強すぎて使えない、とかみどりさんに言われて小暮さんも相当落ち込んだと聞きましたが」
「波動に関しては以前と変わってはいないようだ。特に増加したり押さえ込む事もしていない。ただ、前に感じていた持った時のざわついた感覚はなくなっていたよ。きっと、『奴等』の仕掛けが取れた事で本来の持ち味が戻ったんだろうな」
「よかったですね、間に合って」
「全くだ。『紅』だけじゃちょっと厳しいからな」
響鬼が変化する『紅』は夏の魔化魍に対抗する強化形態である。
その強化能力は非常に高く、全国の鬼の中でも最高と評される響鬼の能力が通常時の二割増ぐらいまで上昇する。
しかし、『紅』を発動するには事前に通常以上の鍛錬を一定期間実行する必要がある上に、極限まで体力を酷使する為に六十分程しか能力を保持できない。
万一限界を越えると強制的に変身が解除されてしまう。
301志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/12(木) 08:23:03 ID:U/trHoKM0
一方、装甲声刃はその特殊な波動によって鬼の潜在能力をほぼ百パーセント引き出すことが理論上可能になっている。
ただし、その波動があまりに強すぎる為に使い手を選び、現在は『鍛え』を重ねた響鬼のみが装甲声刃を使いこなせる唯一の存在だった。
響鬼は『紅』に変化した後、装甲声刃の効果を以って無数のDAを装甲として纏う事で『響鬼装甲』に変化する。その活動時間も装甲の効果により『紅』よりも高い能力のままで長時間活動する事が可能になっていた。
しかし、その状態を維持すると言う事は身体の限界レベルで肉体を酷使し続けると言う事でもあり、一部ではヒビキの鬼としての寿命を縮めるであろう事も危惧されていた。
そう言う点で、装甲声刃はまさに諸刃の剣とも言える。
ヒビキはイチゲキに軽く答えてはいたが、装甲声刃があっても実際の厳しさはちょっとどころではないだろうと考えていた。しかも、敵は鬼封呪を使う嫌な新手のクグツなのだ。
銀クグツは体術的には何とか渡り合える相手のようだが、例え諸刃の剣と言えども、少しでも優位に立てる条件を付けておくに越した事はなかった。
「京介の救出もあるが、まずはあの銀クグツをどうにかしないとな」
「そうですね。ゴウキさん達を倒した奴もいますから、最低あと二体は居る事になります」
「うん。……今日で四日目か……。もうそろそろ見つかりそうなもんだがな」
「DAの網もだいぶ狭まってきましたし、あと一息ですよ。頑張りましょう」
「そうだな」
二人は言葉を交わすと再び『墓場』探しの作業に没頭した。
302志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/12(木) 08:24:17 ID:U/trHoKM0
ナビゲートに従って車を走らせてから数時間で明日夢は河口湖にある猛士の設備――ヒビキ達の泊まるコテージ――を見つけ出し、車を建物の傍に停めてあるヒビキのバイクの横に付けた。
「やっぱり出かけてるな……」明日夢は独り言を言うとエンジンを切って、車に積んであった荷物を持ってコテージの階段を登っていった。
ドアの鍵は当然掛かっていたが、みどりから預かった車の鍵束の中にそのコテージの鍵も入っていたので、明日夢はすぐに中に入る事が出来た。
着替えなどの荷物をコテージの一室に置き、支給品のベストに着替えるとDAを吊るす為の装備帯をジーンズの上に巻き、みどりから持っていくように言われた『荷物』の入ったリュックを背負う。
大き目のリュックには長い革ケースに入った蒼い鬼石の音撃棒と、小型の革ケースに入った蒼い音撃鼓が入っている。一見するとダンキの装備と似ているが、微妙に違う様だった。
「京介君の装備よ」途中で電話した際にみどりはそう言って荷物の中身を説明した。
「京介君が独り立ちする時に渡そうとヒビキ君が用意していたの。屋久杉を使った棒に京介君のカラーをあしらった鬼石と音撃鼓を吉野に頼んだのね。半年前に組み上げて仕舞ってあった物よ」
「これ、どうするんですか?」
「何となくあればいいかな、と思ってね。ヒビキ君、予備の音撃棒もないことだし」
「ヒビキさんに渡せばいいんですよね」
「うん。何かの役には立つと思うから。じゃ、よろしくね」
明日夢はみどりとの話を思い返してリュックの中身をもう一度確認すると口を閉めて背負い直した。
左手に陰陽環を巻き、腰にDAを提げると、反対の腰に変身音叉を提げた。この音叉はヒビキの持つものと同じ仕様である。
しかし、自分が背負った音撃棒と音撃鼓が後に大事な働きをするとは、この時の明日夢には知る由もなかった。
303志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/12(木) 08:26:05 ID:U/trHoKM0
明日夢はドアに鍵をかけて外へ出ると、腰に提げていた浅葱鷲を音叉で起動させ、ヒビキ達の後を追う事にした。
浅葱鷲は明日夢の斜め前をつかず離れずの距離を保って、視界に入る仲間を捜しながら明日夢を誘導していた。
「ヒビキさん達は何処まで入っていったんだろう……」明日夢は誰に話しかけるでもなくそう独り呟いたが、浅葱鷲はそれに返事するかのように明日夢の方を振り向いて、くくっ、とひと鳴きした。
「……だいぶ奥かい?」明日夢が問いかけると浅葱鷲はまた、くくっ、と鳴いた。
「遠いんだね」明日夢は目前を飛ぶ浅葱鷲に微笑むと、力強い足取りで後をついて行った。
暫く歩いたところで、浅葱鷲がその場で止まった。やがて堰を切ったように、ぴいぃぃぃぃ、と激しく鳴き出す。
「何だ!?」明日夢も歩を止めて辺りを見回した。
不意に明日夢の頭上が暗くなると、ばさあっ、と言う音と共に明日夢の前後に銀フードの『男』達が現れた。
『男』と称したが、前に立った影は般若の面をし、杓杖のような物を持っている。
後ろの影は翁の面を被り、諸手に獲物はない。
「!?」驚く明日夢の腹にどすん、と言う音と共に杓杖が食い込む。
不意に喰らった一撃に明日夢は身構えることも出来ず、その場で昏倒した。
明日夢が倒れた後ろから和装の男女が音もなく現れる。
「子鬼のトモダチだな」
「『贄』に使えそうね」
「仕掛けをより完全にするには良い『贄』だな」男は口を歪めて笑うと、頭上を飛び回る浅葱鷲を差し伸べた指先から放つ念で叩き落し、醜男、担いでゆけ、と般若に命じた。
その面に斜めの傷を持つ般若は無言で明日夢を右手で担ぎ上げると、男の後ろをついて行った。
男達の歩く先に靄が立ち込めると、やがてその向こうに古びた洋館が見えてきた。
この樹海に建っている筈のない建物。
これこそが、洋館の男女が示していた『墓場』だった。
304志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/12(木) 08:27:46 ID:U/trHoKM0
明日夢が洋館の男女に拉致された頃、羽田空港に一人の男が降り立っていた。
精悍で、それでいて優しげな眼差しを持つその男は黒い革の長めのジャケットを羽織り、左手には鬼の面を模したブレスレットのような物をしている。
男は駐車場に入り胸ポケットに入っていた鍵束を取り出すと、駐車場の一箇所にあったホンダ製の大型のバイク、ワルキューレ・ルーンに跨り、横に吊るしていたフルフェイスのヘルメットを被ると何処かへと走り出していく。
疾風の如く走るバイクのガソリンタンクの横にはローマ字で「TAKESHI」と刻印が施され、小さな円形の植物の模様に似た紋章が描かれていた。
都内を駆ける男のバイクはその中に存在する住宅街の一つにある一軒の民家の前でその走りを停めた。
男は家の中に入ってゆき、やがて中から持ってきた幾つかの大小の革ケースをバイクの後ろに括ると、再びバイクに跨って何処かへと走り去っていった。
305志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/12(木) 08:29:18 ID:U/trHoKM0
バイクの男が都内を走り去るのと同じ頃、放たれた茜鷹の一羽がヒビキとイチゲキの前に戻ってきた。
「ヒビキさん、当たりです!」ディスクを回して感知した内容を確認したイチゲキが叫ぶ。
「やっと、見つけたな」ヒビキは親指で鼻の上をしゅっ、と擦ると立ち上がって、行こう、とイチゲキを促した。
ヒビキは装甲声刃と音撃真弦・烈斬を両手に持ち、音撃棒・烈火と音撃管・烈風を背中に背負った。
イチゲキは小型音撃弦・烈光と音撃管・白銀を手に取ると深く息を吸った。暫し息を止めてゆっくりと吐く。
「これで終わりにしましょう」
「ああ」二人は短い言葉を交わすと眦を上げて茜鷹の導く方向へと歩き出した。
茜鷹は明日夢を案内していた浅葱鷲と同じように二人の近くをつかず離れず飛翔し、仲間と繋ぎをつけながら二人を導いてゆく。
やがて、二人の周囲に靄がかかり、その向こうに建物らしき影が見えてきた。
「……あれでしょうか」イチゲキが確認するようにヒビキに尋ねた。ヒビキは、おそらくな、と答え、さらに歩を進めていった。
イチゲキもヒビキに歩調を合わせて先を急ぐ。
靄の中を抜けた二人の歩む先にあったのは古びた感じの洋館だった。
瀟洒な造りの塀があり、その向こうに蔦のようなものが無数に張り付く壁が見える。
屋根裏部屋もありそうな造りのこの洋館はまさに自然溢れる樹海には似つかわしくない物だった。
強いて言うなら、この館には悪意のような物が感じ取れる。
鬼達が感じ取る、魔化魍の『におい』だ。
『京介、今助けてやる』ヒビキは心の中でそう呟きながら、イチゲキを伴って館の塀を開けた。

(十二之巻へ続く)
306名無しより愛をこめて:2007/07/12(木) 13:34:24 ID:T98KGXqwO
(・∀・)ktktktkt♪
307名無しより愛をこめて:2007/07/12(木) 21:59:31 ID:He2l7+Ok0
(・(エ)・)kmkmkmkm
308名無しより愛をこめて:2007/07/13(金) 01:55:21 ID:5KVUwbNl0
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 ヽ  i   /  ●   ● |  /
  ヽ  \ |    ( _●_) ミ/ 両手で200万パワ──!!
   \  彡、   |∪|  /
     ソ      ヽノ /
     ヽ        /

    『鬼闘術・熊爪 二刀流』
309高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2007/07/13(金) 19:26:18 ID:8gNAEol20
前回北陸支部の面々を登場させた際に思った事。
「あれ?レンキが帰った後、あそこの太鼓使いはどうなったんだ?」

どうせだから最後まで責任持って書くか、と思って仕上げました。
本編終了後には、また思いつきで書いた小ネタも入れときます。
それではどうぞ。
310仮面ライダー高鬼番外編「浮かぶ文様」:2007/07/13(金) 19:29:24 ID:8gNAEol20
1978年、睦月。北陸支部。
コイキの引退とレイキの負傷の穴埋めのために訪れたレンキが中国支部に戻ってから一月後、漸く北陸に新たな太鼓使いが赴任してくる事となった。
北陸支部の「金」である直江なぎさは、応接セットのソファに腰掛けて、その人物の履歴書を眺めていた。
「コードネームはトゥキ。北海道支部所属。男性。年齢は……」
書類の内容を完璧に記憶するべく、あえて口に出しながら内容を読んでいく。
「変わった名前ですね、新しく来る人」
向かいの席に座って、お客様の食べ残しのお菓子を頬張りながら「飛車」の葛木弥子が尋ねた。
「アイヌ語だそうよ。儀礼の際に酒を入れて神に供えるための道具だって注釈が付いているわ」
従って、あえて漢字表記をすると「杯鬼」となる。
「アイヌの人なんですか……?」
「あなた、アイヌって分かる?」
「……分かりません」
アイヌとは北海道の先住民族であり、「アイヌ」は彼等の言葉で「人間」を意味する。
「独自の歴史と体系を持つ北海道支部はアイヌに伝わる呪術を基盤にしているところもあるから、名前から察するにこのトゥキって人はそっちの方に優れているようね」
「呪術ですか……」
北陸支部の二人の太鼓使いは、言霊を操るレイキと霊面を操るセンメンキだ。それにアイヌのシャーマンまで加わると言うのか。……どこまで濃くなるのだろう?
「……どんな人なんでしょうね」
「さあ……。でも一つだけ言える事があるわ。それは……」
変わり者であろうという事。
なぎさと弥子は、二人同時に溜息を吐くのであった。
311仮面ライダー高鬼番外編「浮かぶ文様」:2007/07/13(金) 19:33:13 ID:8gNAEol20
その日、弥子が北陸支部の表の顔である鬼小島商事の事務所を訪れた時、室内にはコイキ、そして壁にもたれながら文庫本を読む屈強な大男が居た。
「お早う御座います。珍しいですね、ジュウキさんが事務所に居るなんて」
そう言われて本を読んでいた大男=ジュウキが顔を上げた。
「俺だっていつも外を回っているわけじゃないさ」
それだけ答えると、ジュウキは再び本を読み始めてしまった。
試作品であるバズーカ型音撃菅を扱う彼は、筋骨隆々の肉体が自慢だ。表の仕事も基本的に肉体労働系ばかりを担当している。しかし。
(いつも思うんだけど、寒くないのかなぁ……)
暖房の効いた室内とは言え、彼は上半身タンクトップ一枚なのである。しかも外でもそうなのだ。見ているこっちが寒くなるので、弥子はなるべく冬場には会いたくないと常々思っている。
「よう弥子ちゃん!今日も相変わらず可愛いね。どうだい、今度映画にでも行かない?」
「遠慮しときます」
いつものコイキの挨拶に、いつもの通り答える弥子。コイキは引退後も北陸支部に残って働いている。調子の良い時は戦闘にも参加するようだ。
「……ところで今日でしたよね、新しい人が来るの」
「そう。今支部長となぎささんが迎えに行っているよ」
「あ、それでなぎささん居ないんですね」
支部長の鬼小島は兎も角、なぎさが事務所を留守にする事は滅多に無い。
312仮面ライダー高鬼番外編「浮かぶ文様」:2007/07/13(金) 19:34:37 ID:8gNAEol20
「まあのんびり待とうや。北海道土産は何かなぁ〜」
そう言いながらコイキがソファに寝転がった時、来客を告げるベルの音が室内に鳴り響いた。次いで。
「儂が鬼小島商事社長、鬼小島平八である!」
物凄い声量に空気が震えた。支部長の帰還だ。いつもの事とは言え、未だに慣れる事が出来ない。ジュウキも読んでいた本を床に落として耳を塞いでいる。
「支部長、そろそろ馬鹿の一つ覚えみたいに大声を出すのは止めていただけませんか……」
耳を押さえながら、なぎさが苦言を呈した。
「……連れてきたわよ。北海道支部のトゥキさん」
なぎさに紹介され、中に入ってきたのは……。
顔に刺青を入れた髭面の男だった。
「い、刺青!?」
「これは……『文身(もんしん)』か」
トゥキの顔に入れられた刺青を見ながら、コイキが呟く。
「文身?何ですか、それ?」
弥子の問いになぎさが答えた。
「文身というのは、一種の呪術的行為の事よ。狩猟民族であるアイヌでは、弓の上達を願って体に刺青――つまり文身を入れるみたい」
「これはインディアンの例だが、身体に文様を描く事は神や精霊を肉体に降ろすという意味があるらしい。以前読んだ本に書いてあった」
これはジュウキの言。更に。
「歌舞伎や京劇で役者が顔に隈取を描くだろ?あれも色との組み合わせで感情やら肉体やら性格やらを表しているんだぜ。知ってた?」
コイキが得意気にそう説明する。どうやら文様について何一つ知らなかったのは弥子だけだったらしい。
「……俺の名はトゥキ。宜しく頼む」
そう挨拶するとトゥキは深々と頭を下げた。
313仮面ライダー高鬼番外編「浮かぶ文様」:2007/07/13(金) 19:37:59 ID:8gNAEol20
その日の晩、北陸支部内ではトゥキの歓迎会が開かれた。レンキの時と違い、今回は全員参加が可能らしく、次々と事務所に集まってきた。
「やあ!元気してる?」
まず最初にやって来たのは、仮面を着けた無駄にハイテンションな男、チョウキだ。
マスカレードの参加者みたいな仮面を着けているせいか、やけに優雅な歩き方でジュウキの傍に歩み寄ると、おもむろに一冊の本を取り出して。
「なかなか俺の趣味に合う本だったな。また何か貸してくれよ」
チョウキとジュウキは、互いに本の貸し借りを行うくらい仲が良いらしい。
「こっちの彼が北海道から来た新入りか?ふふん、超イカしたタトゥーを入れているじゃあないか」
「……そんな風に言われたのは初めてだ」
「ノンノン、そういう時はもっと嬉しそうに言わなきゃ……」
「チョウキくん、彼困ってるみたいよ……」
見兼ねてなぎさがチョウキを止めた。
次に支部を訪れたのは、センメンキとその弟子の柿崎香菜だ。センメンキは手に食料の入った大きな袋を抱えている。差し入れのようだ。
香菜がトゥキの顔を見て「きゃっ」と驚きの声を上げた。
「香菜」
「あ、ご、ごめんなさい。つい……」
弟子を注意するセンメンキに、トゥキが気にするなと告げた。
「いつもの事だ。慣れている」
それでも香菜はトゥキに向かって謝り続けた。と、またしても誰かが室内へとやって来た。
やさぐれた目をした咥え煙草の青年――サッキと、鉢金を巻いた熱苦しい感じの青年――トツゲキだ。
「おお!その人が北海道から来た……!」
「……どうも」
相変わらず真逆のテンションである。しかしこの二人が同時に事務所を訪れたという事は……。
「……お二人でお仕事だったんですね。また借金の取り立てですか?」
「そうだ!いくつもの借金を作って逃げていた男を二人で捕まえてきたんだ!」
「……馬鹿な奴だったぜ。俺達二人を相手にして逃げきれるとでも思ったのかねぇ……」
債務者に同情する弥子であった。普通に返済するよりも高くついた事だろう。
314仮面ライダー高鬼番外編「浮かぶ文様」:2007/07/13(金) 19:40:26 ID:8gNAEol20
次いでやって来たのはソゲキとメッキだ。途中で一緒になったらしい。更に少し遅れてレイキもやって来た。
入ってくるなり挨拶もそこそこにトゥキの顔を凝視し続けるレイキ。どうやら顔の文身が気になるらしい。トゥキの方もレイキをじっと見ている。
沈黙。
静寂に誰もが耐えきれなくなったその時、突然二人は歩み寄って堅い握手を交わした。どうやら口数の少ない者同士、何か通ずるものがあったようだ。よく分からないが。
そして、とうとうあの男が事務所を訪れた。
「あ、ド、ドクハキさん……」
北陸支部一の問題児、ドクハキだ。弥子は彼の専属サポーターに抜擢されてから長く、それ故に彼の恐ろしさを一番よく知っている。
「弥子……」
彼女の名前を呟くや否や、ドクハキは弥子の片腕を掴むと、鬼の力で思いっ切り振り回し始めた。
「ぎえええええっ!」
突然の出来事に、トゥキが目を丸くする。彼が表情を崩すところを始めて見た。
「あ、気にしないでね。いつもの事だから……」
そうなぎさが言うも、やはり納得出来ないようだ。更に。
「……まああれだな。うちの名物みたいなもんだ」
「おお、今日は超気合いが入っているじゃないか」
「照れ隠しよ。ああ見えて人見知りなところがあるから……」
サッキ、チョウキ、メッキが思い思いの事を口にする中で、ドクハキの戯れは益々酷い事になっていくのであった。
その後、「銀」の代田政影を始めとする北陸支部の全人員が勢揃いし、トゥキの歓迎会が開かれた。まず、鬼小島が乾杯の音頭を取る。その場に居た全員が刮目する中……。
「儂が北陸支部支部長、鬼小島平八である!以上!!」
一斉にグラスのぶつかり合う音が響いた(肩が外れて隅の方で呻いている弥子を除く)。
315仮面ライダー高鬼番外編「浮かぶ文様」:2007/07/13(金) 19:41:41 ID:8gNAEol20
翌日、早速トゥキが出撃する事となった。他のサポーターは皆出払っていたため、弥子が同行する事となった。当然「持ち主」であるドクハキも一緒だ。
「何が現れたんですか?」
4WD車を運転しながら弥子が尋ねる。それに対し後部座席のトゥキは一言。
「ヤマビコらしいのだが、何か様子がおかしいらしい」
「おかしいと言うと……?」
助手席に座っていたドクハキが尋ねるも、トゥキはそれっきり一言も喋らなかった。どうやら彼も詳しくは分からないらしい。
「歩」から報告があった、その様子がおかしいと言うヤマビコの目撃地点へと到着した一行は、すぐさま式神による捜索を開始した。そして。
「……これだな。当たりだ」
日が沈む前に魔化魍の位置を特定する事が出来た。現場へと急ぐ二人の鬼。勿論、万が一の時の囮役として弥子も一緒だ。
現場へと到着したトゥキ達を、樹上で童子と姫が待ち受けていた。更にその背後には……。
「え?ヤマビコ……?」
そこに居たのはヤマビコであってヤマビコでない魔化魍だった。全身の皮膚が、まるで岩石のように硬化し、皹割れている。しかも体長は従来の種のそれを遥かに上回っていた。
「ほう、これは噂に聞くデイダラボッチですね……」
ドクハキがその巨体を見上げながら、感慨深げに呟く。
「ド、ドクハキさん!何ですかデイダラボッチって!」
「日本各地に伝わる巨人伝説の正体ですよ。富士山に腰掛けたとか、こいつの足跡が琵琶湖になったとか、色々な伝承が残っていますね」
つまり放っておけばそれぐらいにまで成長する可能性があるという事か。想像して顔面蒼白になる弥子。
316仮面ライダー高鬼番外編「浮かぶ文様」:2007/07/13(金) 19:43:52 ID:8gNAEol20
「そ、そんな大きな相手、どうやって退治するんですか!?」
「昔は巨大化能力を持った鬼がいたようですがね。四国には嘗て『手洗い鬼』と呼ばれた鬼がいたそうです。香川の高松と丸亀の間三里の距離に足を掛けて、湾内で手を洗ったとか……」
あまりのスケールの大きさに、弥子の思考回路は半ば停止しかけてしまう。
ドクハキと弥子がそんな会話をしているうちに、トゥキは変身音叉を取り出して鳴らしていた。
「はぁぁぁぁ……」
音叉を額へと翳したトゥキの肉体が、異形のものへと変貌していく。
「あれ?見て下さいドクハキさん!」
弥子が変身途中のトゥキを指差した。服が破れた彼の裸身には……。
「あれって文身ですよね……?」
彼の全身には隈無く文身が刻み込まれていた。顔だけではなかったのだ。
変身を終えた杯鬼の全身にも、文様は消えずに残っていた。呪術的なものだというのは本当らしい。
童子と姫も戦闘形態へと変身を終えている。
「お一人で大丈夫ですか?」
「心配無用」
ドクハキにそう告げると、杯鬼は音撃棒を手に静かに歩いていった。
317仮面ライダー高鬼番外編「浮かぶ文様」:2007/07/13(金) 19:46:59 ID:8gNAEol20
ドクハキと弥子は、杯鬼の戦いぶりにみとれていた。強いのだ。あのコイキの後釜というのは伊達ではないらしい。
荒っぽいながらも的確な戦い方で怪童子と妖姫を倒すと、杯鬼はデイダラボッチに向かっていった。
咆哮と共にデイダラボッチが杯鬼目掛けて掌を叩き付けた。轟音が周囲に響き渡り、大地が揺れる。
「ドクハキさん、援護しなくても大丈夫なんですか!?」
「向こうが大丈夫だと言ったんです。何より、あの体に菅の攻撃が通用するとは思えませんしね。それよりほら」
押し付けられたデイダラボッチの掌が、徐々に持ち上がってきた。杯鬼だ。凄まじい怪力である。気合いと共に杯鬼はデイダラボッチの掌を跳ね除けると、足元に駆け寄り、これを掴んだ。引っ繰り返すつもりのようだ。
「ぬうおおおおおお……!」
渾身の力でデイダラボッチを引っ繰り返すと、無防備になった腹部に音撃鼓を貼り付けた。彼の音撃鼓は、アイヌの伝統楽器である「カチョー」という太鼓を模して作られてある。儀礼の際にシャーマンが使う物だそうだ。
雄々しく勇壮な音撃打の音色が、山間に響いた。清めの音が、デイダラボッチの全身を駆け巡り、これを大地へと還す。
実に見事な戦いぶりであった。
「……あ!お、お疲れ様です!」
彼の戦い方に見惚れていた弥子が、顔の変身を解除してこちらへ歩いてくるトゥキに、慌てて労いの言葉を掛けた。
「素晴らしい戦いぶりでした。何故北海道支部はあなたのような方を手放したのか、理解に苦しみますね」
ドクハキのその言葉に、トゥキは自嘲的な笑みを浮かべながらこう答えた。
「決まっている。単に俺が古い人間だからだろう」
季節は冬。山々の嶺が雪化粧で白く染まる時期、北陸支部に新たな音撃戦士が現れた。その名は、トゥキ。 了
318高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2007/07/13(金) 19:50:09 ID:8gNAEol20
小ネタ「別に帰ってこなくてもよかったドクハキさん」

毒(声・緑川光)「弥子、これを見なさい」
馬鹿「あっ!何ですか、この(声)っていうのは!?」
毒(声・子安武人)「こう表記すると、人間というのは単純なもので、本当にその声で脳内再生されるのです。まあ中の人を知らなければ効果はありませんが」
馬鹿「やけに格好良い声で揃えてますね……。私にも素敵な声をお願いします」
毒(声・檜山修之)「いいですよ。これでどうです?」
馬鹿(声・玄田哲章)「やったぁ〜!うふふ、これで私も可愛い声に……って、何ですかこれは!やめて下さいよぉ!」
毒(声・速水奨)「我が侭ですね。ではこれでどうです?」
馬鹿(声・若本規夫)「ふぅ、これで……ってぶるぁぁぁぁぁ!何ですかこれは!こんな声じゃ私、お嫁に行けないですよぉ!うっ、うっ……」
毒(声・石田彰)「もう一つおまけに……」
馬鹿(声・大塚明夫)「もう嫌ぁぁぁぁ!元に戻して下さいよぉぉ!ふえ〜ん!」
毒(声・関俊彦)「ふははははは!なかなか潜入任務が得意そうな声になったじゃあないですか!ふはははははは!」

鬼小島(声・郷里大輔)「これで終わりである。以上!」
319名無しより愛をこめて:2007/07/13(金) 22:13:45 ID:uCgZhgJ+0
    _, ._
  ( ゚ Д゚) 「投下乙である。以上!」
320名無しより愛をこめて:2007/07/13(金) 22:31:56 ID:0qLDNRF70
To be continued
「アギ」
321凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/15(日) 00:12:28 ID:SqU0FxyB0
十八之巻「契れる願い」

勘助は腰からとった音叉を鳴らし、額にかざした。すると額に鬼面が浮かび上がり、彼は地面を思い切り踏み込む。
ダァン!という音と共に彼の周囲の地面が割れて、岩が宙に舞い上がった。
瞬間、地面が怒涛の勢いで火を噴きだし、彼は火の中に呑まれる。
―― なんて派手な変身なんだ・・・。
周囲の気温は急上昇し、瞬く間に30度を超えた。
面が割れて気の荒くなった妖狐は、唸って苛立ちを示すと口から邪気のこもった火炎弾を放った。それの凄まじい邪気に、凱鬼は堪らず後ずさる。
勘助を取り囲む火柱にそれは直撃した・・・が、火柱は何事もなかったかのように噴き続ける。
「そんなに急かさんでも、てめぇの相手は俺やぁ!!!」
勘助が気合をこめて叫ぶと同時に、周囲の火柱が爆発。溶岩のようなものが辺りに飛び散り、妖狐とついでに凱鬼にも直撃した。
「熱っつ〜ッ!!」
「おう、兄ちゃん悪いな!!」
悪気がないのかどうか些か疑ってしまう。
「アンタ、一体何者だ!?」
「俺か?俺はなぁ・・・」
シャアアアア!!!
勘助が自己紹介を始めようしたところに、妖狐が鋭利な牙を剥き出しにして襲い掛かってきた。
「説明は後や!とりあえず、今はコイツを俺がなんとかする!」
―― 俺が・・・?
それは暗に「手を出すな」と言っているのだろうか?確か、ド派手な変身をしたときもそんな風なことを言っていた気がする。
「妖狐だろうが良い子だろうが、俺の前では塵同然や!!」
勘助はそう叫ぶと、バックルから盤状のものをとりだし、なにやら細かい操作をして鍵盤ハーモニカのマウスピースのような形にした。
それを大刀の柄にはめ込み、気合を放って跳躍。十数メートルほど上昇すると、刀の矛先を妖狐に向けて落下。風を切る音が心地よかった。
ギシャアアアアアアア!!
妖狐は悲痛の叫びをあげ、背に刺さった大刀を振りほどこうと暴れまわる。
「無駄だ、無駄だぁ!!」
勘助は妖狐の体にさらに深く刀を差し込むと、刀身のスリット部分をずらした。
そこに現れたのは、紛れもない無数の鍵盤である。勘助は音撃の準備を整えると、気合の声をあげた。
「喰らえ!俺の音撃!!」
322凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/15(日) 00:13:17 ID:SqU0FxyB0
マウスピースに口をあて、息を吹き込む。鍵盤を叩く右手はめまぐるしく動いていた。
曲はおそらく、ベートーベン第九。彼らしいといえば彼らしい選曲である。
彼が一つ一つの鍵盤を叩くごとに刀身が震え、妖狐に音撃を流し込んでいるのがよく分かった。
丁度、第九が終わったときに妖狐も爆発四散し、勘助がなにやら派手なポーズをとっているのが爆発の中でも見て取れた。
「兄ちゃん!俺の名前が聞きたいか!?」
突然、勘助が快活な口調で声をかける。
「え・・・あ、はい!」
凱鬼は顔だけ変身を解除すると、唖然としながらも応えた。
「俺の名は・・・。」
323凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/15(日) 00:18:06 ID:SqU0FxyB0
―― 東北支部。
「俺の名前は、神木勘助!アカツキの代打で1年間くらいここに居候させてもらう!!」
その場には支部長や天美母子、イツキに一真・・・一緒に支部まで帰ってきたカチドキと美夏しか居なかった。
勘助は、あまりにもシンプルな自己紹介に呆気にとられている一同を見回すと、満足げに喋りだす。
「噂には聞いとったが・・・東北支部がここまで人員不足やとは思わんかった。ここに居るもんで全員か?」
支部長は「まさか!」と否定すると、東北支部の立地的事情により年末年始にしか殆どの者は訪れず、それでも全員が集まることは珍しいことを説明した。
「成る程成る程。そういう事なら安心や。ここいらの地域は、とても一桁の鬼だけでは抑えきれない土地やからな。」
勘助の単純且つ、偉そうな物言いに、流石のイツキや支部長も呆気にとられている。入院中のアカツキも、決して控えめな人物とは言い難かったが、今自分たちの目の前にいる神木勘助なる人物は、それ以上に自己中心的なオーラを漂わせていた。
「さて、坂本・・・。早速俺から提案があるんやが、良いかな?」
「何です?」
この人はまた何を言い出すのだろう、と誰もが思って今まで以上の注目を勘助に浴びせる。
「この居酒屋は寂れてて好かん!七夕の飾りつけをするで!」
この発言に殆どの者は絶句。確かに、仮にも老舗として地元に名の通っている居酒屋が、季節に応じた飾り付けをしないのも可笑しい。
324凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/15(日) 00:19:12 ID:SqU0FxyB0
しかし、居酒屋はあくまで仮の姿。本来は猛士の東北支部なのである。それを考慮に入れたカチドキとイツキはブーイングを飛ばした。
「お前たちが嫌がるのも分からんでもない。しかしや!地域に馴染めぬということは、同時に身近な情報をドブに捨てているということに等しい!
ここは古くからある建物やから、見栄えさえどうにかすれば常連はすぐにつく!人間、酒が回ればどんな些細なことでも捲くし立てるように喋りよる。
この地域の天候の変化、山の様子・・・農業の不作、豊作・・・怪奇現象を語る者も少なくない。
地元を味方に付けるということは、千人の歩をばら撒くのにも匹敵するほどの情報源を身につけるのと同じや。」
「・・・確かに神木のいうとおりだ、カチドキ。」
イツキが勘助の弁論に納得すると、そう言ってカチドキを宥める。
「納得してもらえたやろか?それではまず、野郎共は竹を伐りにいこう。レディは飾り付けの準備を。」
その日はたまたま魔化魍の発生情報もなかったので、青森担当のカチドキ兄弟やイツキ、勘助らが近所の竹林へ竹を伐りに行き、美夏やあきら、蘭とその後たまたま支部に寄ったミチビキたちが店内の掃除、飾りつけ、笹につける短冊の準備をすることになった。
その後、男性陣が竹取から戻ってきたのは夕方の6時過ぎで、勘助がより良い竹を選ぼうとして竹林の中を散々彷徨った挙句、時間が大幅にかかったらしい。
まぁそうやって時間をかけたお陰で、店内が完璧と言ってもいいほど綺麗になり、昨日までとは見違えたようである。
伐ってきた竹はその日のうちに店先にしっかりと固定し、各々の願い事を短冊に込めて笹に結びつけた。
「神木さん、短冊になんてお願いしたんです?」
あきらが興味津々な様子で勘助に聞いた。
「俺か?俺の願い事はなぁ・・・。『ぜんぶの願い事が叶いますように』や!!ガハハハハ!!」
あきらの予想の範疇をはるかに超えてしまった願いは、その場にいた者全員を唖然とさせた。
だがそんなことはお構いなしに今度は勘助があきらの願いを聞いた。
325凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/15(日) 00:21:14 ID:SqU0FxyB0
「私ですか?私は・・・まだ何も思い浮かばなくて・・・。」
勘助はそうか、と言ってあきらの頭を撫でた。
「じゃあ変わりに俺が願おう。君にな。」
それを聞いたあきらは、意味が分からないといった表情を勘助に向ける。
「なに、そんなに難しいことやない。君の親父さんが、いつか嫁に行く君を見たときに、素直な涙を流せますようにってな。」
「・・・はい!」
あきらはしばらく考えて笑顔でうなずくと、勘助の言った願いをそのまま短冊に書いた。
それを微笑みながら見守った勘助は、いきなり支部長の襟首をつかんで猛の間へ引っ張っていった。
猛士の間に入ると、勘助はディスクリーダーに零番の緑大猿をセットする。妖狐戦のときにあらかじめ放っておいたものだ。
「坂本、少し見てもらいたいものがある。」
勘助はそういうと、テレビのスイッチをいれて映像を映し出した。
「俺が妖狐に音撃をきめた瞬間や・・・。」
支部長と勘助は画面全体を見張る。大刀を深々と突きたて、音撃を決めた瞬間に妖狐が爆発四散した模様が映されていた。
「どこか・・・おかしな点でも?」
支部長が問い返すと、勘助はもう一度再生するから画面左上を見ていろとだけ言う。
もう一度同じ映像が再生されたとき、支部長は明らかにおかしいところに気がついた。妖狐が爆発四散する直前、妖狐の瞳が無くなって画面左上に真っ黒なモノが漂ってすぐに消えたのだ。
鮮明すぎる映像のために、見間違いとは思えない。
「・・・どう見る?」
326凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/15(日) 00:23:32 ID:SqU0FxyB0
勘助がそう聞くと、坂本はしばらく唸って立ち上がる。
「おそらく、妖狐はまだ何らかの形で存在している・・・。それ以外に考えられません・・・。
今からこれと同じ現象が過去に無かったか、記録を漁ってみます。」
そう言って妖狐に関する記録を漁りだす支部長に「よろしくな」とだけ言い、勘助は居酒屋の方へ向かった。

「グッモーニン!!ユーたち!!」
相変わらず、快活な口調で朝の挨拶をする勘助。一真やカチドキ、支部長は快く挨拶を交わしていたが、どうやらイツキは朝っぱらから騒がれるのがお気に召さないようだ。
だが、そんなことはお構いなしにハイテンションぶりをぶちかます勘助。
「それにしても、昨日の晩は部屋が酷く男臭くてな〜。流石に一人部屋に男2人が寝るのはキツイな〜。ね?イツキくん?」
イツキの頬が一瞬怒りを示したが、即座に作り笑いで誤魔化すイツキ。
「まぁ、突然に居候が一人増えれば仕方のないことだ。」
そう皮肉をこめてイツキは言ったつもりだが、通じているのかいないのか分からない反応を示す勘助。
その間で不安げに両者を見守る支部長と一真。何故かカチドキは嬉々とした様子で更なる会話の発展を望んでいるようだ。
「大体アンタ、アカツキの代打で来たというが、奴とはどういう関係なんだ?」
「一夜を明かした仲だ。」
勘助のふざけた回答にとうとうイツキは腹を立てる。
「てめぇ、ふざけるのもいい加減にしろ!!もっとマシな答え方があるだろ?
大体、寝床まで貰っておいて朝っぱらから文句つけるとは、いったい何様のつもりだ!?」
そういって勘助に飛びかかるイツキ。それを止めに入る一真と支部長。これから先の勘助の居る生活を予想して、少し不気味に微笑むカチドキ。
妖狐の影がチラつくいま、東北支部は一人の男によってゆっくりと、だが確実に大きな変化を始めていた。

十八之巻「契れる願い」
327志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/15(日) 17:24:11 ID:gWapoGHe0
前回は>298−305

十二之巻 途切れる刻(とき)

ヒビキとイチゲキが塀の扉を開けると、その向こうに更に扉が見えた。
黒塗りの木の扉は館の玄関のようだが、その周りには人ひとりいる気配はなかった。
感じるのは押さえ込まれたように低く漂う鬼に対する激しい悪意と噎せ返る様な瘴気のみ。
二人は持っていた音撃武器を地面に置くと、姿を変えるべく変身装備に手を伸ばす。
ヒビキは右手に持った変身音叉・音角を軽く左手に当てて弾いて額に当てた。
イチゲキも持ち上げた左手首にある変身鬼弦・音閃を右手の指で弾き額に翳す。
導かれた清めの音が額に鬼面を浮き上がらせると、紫炎と銀炎が激しく燃え上がり二人を包んだ。
「勢やぁぁっ!」
「破ぁっ!」
裂帛の気合と共に二人が炎を振り払うと、ヒビキ達の立っていた場所に二体の鬼が並び立っていた。
「正々堂々、正面から行きますか」響鬼が飄々として言う。
「そうですね」一撃鬼も落ち着いて答えた。
罠だと分かってはいるのだが、『墓場』が見つかるまで心の中に強くあった怒りや焦燥感は既に消え、プロらしく冷静に物事を捉えることが出来る様に気持ちが切り替えられていた。
二人は置いた武器を拾うと正面の扉へと歩み寄ってゆく。
一撃鬼は右手に持った烈光を腰の装備帯につけ、取っ手に手を掛けた。
扉は鍵が掛かっている風でもなく、何の問題もなく手前に開くことが出来た。
「如何にもお招き下さった、と言う感じだな」薄暗い奥を見て響鬼が言う。
自然体と言う風情だが、二人は身辺に隈なく気を配っている。相変わらず瘴気は強く殺意も感じる。
暗い中に踏み込んだが、特に周囲からの攻撃はなかった。
徐々に目が慣れると、そこは広い空間だった。奥と左右にドアらしき物が見える。
しかし、明らかに外と中では見える状況が違っていた。洋館の外見からこの空間があるとはどう見ても考えられない。
『奴等』の作り出した一種の結界なのかもしれない。
「帰れるでしょうか」状況の違いに気付いた一撃鬼が問う。
「昔話じゃ化け物退治の後は化け物のアジトも消滅するのが決まりだ」響鬼がそう返事するや否や不意に正面から十数体の影が現れた。
328志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/15(日) 17:25:47 ID:gWapoGHe0
影は黒装束のようなものに身を包み、白い狐の面を被っている。一見すると以前四谷で見たカシャにも似ているが、どこか人の扮する忍者の様にも見えた。
「狐の面か。……イナリとは恐れ入ったな」
「時代劇みたいな物量作戦って奴かもしれませんね」響鬼の言に一撃鬼がこう返したのには理由があった。
以前、鬼封呪について調べている際に『血狂魔党』についての記述を見つけたヒビキは魔化魍忍群、通称『イナリ』の事をこの時に知った。
イナリは狐のような顔をした等身大の魔化魍で多数で行動すると言われる。
イナリ自体の戦闘力はそう高くはないが、多数になると清める上では厄介な事が多い。
しかし、魔化魍の割には物理的攻撃に弱く、直接音撃以外の攻撃でも倒すことが出来る代物だった。
どちらかと言うと魔化魍を育てる童子や姫の類に近い種類と言えるものだが、その発生の仕組みや生育環境などについては謎に包まれていた。
ヒビキは今回の『墓場』調査の合間にイチゲキにその話をしていた為、狐面のこの人型魔化魍を見た時に二人はすぐさまこのイナリを連想したのである。
「新手が出てきたってことか」
「数、増えましたね」一撃鬼は淡々と響鬼に突っ込みを入れた。
「倒すだけのことさ。行くぞ」そう言うと響鬼は烈斬を床に突き刺し、装甲声刃を腰に結わえると、背中に吊っていた烈風を取り出した。
一撃鬼も左手に持っていた白銀を右手に持ち替えて構えた。
左右に跳んで分かれると同時に動きながら圧搾空気弾を三点バーストで幾度も射出する。
遮蔽物のない閉鎖された空間では射撃自体は高い効果を持つ。特に相手が銃器を所持していない場合において、それは如実に現れる。
案の定、空気弾は銃器を持たないイナリの体を打ち抜き、たちまち数体のイナリがその場に倒れた。しかし、粉砕される風ではない。残ったイナリも素早く対応してきた。数体のイナリが放つ手裏剣が二人に襲い掛かる。
響鬼達はこれを回避し、空気弾を撃ち込んだ。
イナリは確実に倒れているはずなのだが、何故か数が減る気配がない。そして、その答えはイナリの強靭さにあった。
圧搾空気弾はイナリの体にダメージを与えてはいるものの、致命傷には結びついていなかったのだ。
倒れたイナリも暫くすると立ち上がり、戦闘に復帰していたのである。
329志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/15(日) 17:26:34 ID:gWapoGHe0
「接近戦に切り替えます」一撃鬼は白銀を装備帯に付けると、烈光を左手に持って打って出た。
響鬼も烈風を腰に回し、装甲声刃を右手に持ってイナリに走り寄る。
苦無を持つイナリと切り結ぶ鬼達。
響鬼はリ−チのある装甲声刃でイナリ達を忽ちのうちに斬り倒してゆく。
一撃鬼は音撃を放てる右拳、左手の烈光、そしてサバキ直伝の足技を駆使し群がるイナリ達を打ち倒してゆく。
音撃武器や体内に清めの音を持つ鬼の肉弾攻撃にはイナリも堪らず爆砕していった。
こうして二人は十数体あったイナリを見事全滅させた。
「次は何処だ」
「扉は三つ……」
二人の鬼の前には新たな罠が待ち構えていた。
330志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/15(日) 17:27:17 ID:gWapoGHe0
その頃、洋館の男女に囚われた明日夢は『墓場』の一室らしき場所で目を覚ました。
明日夢はがば、と起き上がるとすぐさま身の回りと自分の様子を確認した。
奪われた物も無く、腹部に打たれたときのダメージが若干あるものの、体調にも問題は無かった。
屋根裏部屋の一室と取れる形状のその部屋には小窓が一つあるきりだった。
窓からは明かりが差し込んでいるが、時間が分かる要素は無い。
明日夢は右手に付け替えていた腕時計を見たが、デジタル表示のそれは何故か電池が切れているようで何の表示もしていなかった。
次いで、ベストのポケットに入れていた携帯電話を見てみたが、こちらもやはり何の表示も無い。
「両方とも電池切れなんて……」明日夢は溜息をつくと、再び部屋を見回した。
小窓が一つしかない部屋は薄暗く、明日夢が寝かされていたのは古い建物らしい木の床だった。
丁度正面に扉がある。
何処かは分からないが、外へ出なくては状況が分からない。明日夢は覚悟を決めて扉から出る事にした。
腰にあったDAを音叉で起動させる。緑大猿、瑠璃狼、鈍色蛇の三体が現れた。
「頼むよ」明日夢はDA達をステルス化させると自分の周りに配置した。
立ち上がり、リュックを背負い直すと扉に向かう。
扉に鍵が掛かっている様子も無く、明日夢はするりと外へ出ることが出来た。
廊下も薄暗く、道は左右に続いていたがその右側には行き止まりらしい壁が見えている。
「左か……」明日夢は呟くと用心しながら壁に沿うように歩き出した。
331志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/15(日) 17:28:03 ID:gWapoGHe0
「こっちは鍵が掛かっていますね。破りますか?」
「こっちは……ん、開いているな」一撃鬼と響鬼はそれぞれ左右のドアを調べていた。
一撃鬼が調べた右側の扉は鍵が掛かっている。響鬼の調べた左側は開いている格好だ。
念の為に一撃鬼はドアから少し離れると、白銀の圧搾空気弾を撃ち込んだ。
その古い造りとは裏腹にドアはまったくダメージを受けていない。
「やはり……というべきか」一撃鬼はそう呟くと響鬼の傍に歩み寄る。
「選択肢がある様で実は全く選択肢がない。『奴等』らしいやり口ですね」
「『帰すから来い』と言っているのだから、仰せのとおりにするか」響鬼はそう言って少し下がると、烈風を扉に向けて弾丸を撃ち込んでゆく。
 ダダダン、ダダダン、と発射音がした後、ドアはばらばらになった。
「云う事を聞く割には荒っぽいですね」
「まあな。誘拐犯に強制される謂われはないからな」
「では、行きましょう」一撃鬼は響鬼を促してその廊下に入って行く。
「……ああ」響鬼は短く返事すると、一撃鬼の後をついていった。
 二人が通路に姿を消してしばらくしてから、壊されたはずのドアがいつの間にか閉まっていたことを彼らは知らない。
332志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/15(日) 17:30:00 ID:gWapoGHe0
 道なりに廊下を進むと、再び扉にあたった。
 薄暗いが見えない程ではない。
 響鬼は用心しながらドアノブに手をかけた。ノブは……回る。
響鬼は再び少し距離をとった。今度は一撃鬼も同時に音撃管を構える。
無数の空気弾が扉に撃ち込まれ、穴だらけになった扉が奥に軋んだ音を立てて開いた。
響鬼と一撃鬼が中に入って行くと、部屋の奥に和装の男女が待ち構えていた。
部屋の中は客間と言った風情の造りだ。但し、前の部屋同様相当に広い。ホテルのロビーか洒落たレストランのようだった。電気の照明はなく、天井に吊るされたシャンデリアと壁に並んだキャンドルがいくつも燈されている。
男女はその正面にある階段の踊り場の上に並んで立っていた。
「ようこそ、我らが『墓場』へ」
「『御造り』は楽しんでいただけたかね?」男女はさも歓待するかのように響鬼たちに声をかけて来た。
「イナリの盛り合わせか。黴た物にしては大した細工だな」響鬼が冷淡に返すと男女は嬉しそうに笑って、こう言った。
「まだ、二之膳も用意しているよ。……大いに愉しんでくれたまえ」
「……ふざけるな。京介君は何処にいる」一撃鬼が怒りを押し殺して詰問する。
男は不敵な笑みのまま、一撃鬼に右手を差し伸べた。銀色の人差し指が鈍く光る。
「君は口の利き方を知らないな。洒落には洒落で返すものだ」軽く指先を滑らせた。
 一撃鬼は不意に体の自由を奪われ、部屋の右壁に吹き飛ばされた。
 大きな音を立てて激突し、崩れ落ちる。シャンデリアが大きく左右に揺れる。しかし、その炎は消えるどころか揺れもしない。
「一撃鬼!」響鬼が一撃鬼の方を見て、声を掛ける。
「……心配要りません。……不動縛を忘れてました」一撃鬼は打った右肩を抑えて立ち上がった。
 だが、ダメージはそれ程でも無さそうだ。
「なかなかお利口のようね、この鬼。この状況でも受身が取れるなんて」女が笑みを浮かべながら一撃鬼の方を見る。
「比売を砕いたのは君だね?」男が一撃鬼に問いかける。が、一撃鬼は真っ直ぐに男女を見据えたまま口を噤んでいた。
「実は彼女の仲間が御礼をしたい、と別室で君を待っている。君にはそちらの膳について貰おう」
 男はそう言うと再び一撃鬼に手を伸べた。
 空中で何がしかの印を結ぶと、一撃鬼の体が不意にその場から消えた。
333志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/15(日) 17:31:16 ID:gWapoGHe0
「貴方にはこれから二之膳を……」女が言うと同時に階段の上に人影が現れた。
黒いロングコートに身を包んだ若者がこちらに背を向けて立っている。
右手には剣のような物を持っている。それに響鬼は見覚えがあった。
「装甲声刃……」
「……お久しぶりです、響鬼さん……」その声にも響鬼は覚えがあった。
「…………京介!」ゆっくりと振り向いた若者は、数日前に関西から消えた桐矢京介だった。

(十三之巻へ続く)
334名無しより愛をこめて:2007/07/15(日) 19:10:55 ID:GpQoklDm0

    ∩ ∩
    ( ・(ェ)・ )  いつもの二倍の跳躍で400万パワー!!
   彡( 乙 )ミ
     v v
          ぼいんっ
      川
    ( (  ) )

『鬼闘術・熊爪 二刀流・二倍跳躍』
335凱鬼メイン作者 ◆KxAq6DKEkg :2007/07/15(日) 22:49:00 ID:SqU0FxyB0
単発ネタとして一本思いついたので投下させていただきます。
正直、お遊びの範疇なので設定とか色々無視してるかも知れませんが悪しからず。
336【もしも支部長にイマジンが憑いていたら】:2007/07/15(日) 22:49:54 ID:SqU0FxyB0
【もしも支部長にイマジンが憑いていたら 〜三之巻より〜】

支部長(以下、支)「いや〜お待たせしました。佐古さん久しぶりですね。」
佐古(以下、佐) 「久しぶり、仇ちゃん。」
支「懐かしいなぁ〜その呼び名は。大学のとき以来じゃないですか?」
佐「そうね。でもそれ以上にビックリよ。あなたがその若さで支部長なんて。」
(ウラタロス憑依)
U支「僕も正直・・・驚きなんです。一年前まではただのヒヨッコだったのに・・・。これもすべて親身になってくれた佐古さんのお陰です!如何です?今度一緒に、お・茶・で・も・?」
佐「ハハハ・・・随分変わったわね・・・。単に才能が認められただけでしょ。坂本先生の後任に相応しいって。」
U支「そんな・・・僕なんかまだまだですよ。みんなに迷惑かけてばっかりだし。佐古さんは立派ですよね。
開発者として最善を尽くせるんですから。・・・・それで、今日は?」
佐「ああ、ゴメンゴメン。実は・・・。」
(「あの子、ガード堅いねぇ。」)
(「ったりめーだ!坂本に口説かれたんじゃ、どんな女だって引くぜ!」)
支「はい・・・。」
佐「恐山・・・行きたいんだけど。」
(モモタロス憑依)
M支「はぁ!?」
佐「ホラあそこ、鬼石の産地じゃない。自分で直接みて、選びたいの。だからさ・・・だれか空いてる人居ないかな?」
M支「ふざけるんじゃねぇ!!誰がてめぇの都合なんかに合わせられるかってんだ!!」
佐「そ・・・そんなに怒らなくたっていいじゃない・・・。」泣き出す佐古。
M支「あぁ・・・そ、そんなに泣くな。な?」
(「『泣く』!?」)
M支「うわぁあ!!泣いてない泣いてない!!」
(キンタロス憑依)
K支「泣けるでぇ!」
佐「・・・は?」
K支「お嬢さん、泣いたらあかん。涙はこれで拭いとき!」
佐「あ・・・ありがとう。じゃあ一緒に行ってくれる人、探してくれる?」
337【もしも支部長にイマジンが憑いていたら】:2007/07/15(日) 22:50:27 ID:SqU0FxyB0
(リュウタロス憑依)
R支「ん〜・・・。それって楽しい???」
佐「楽しいかどうかは分かんないけど・・・。」
R支「じゃ、や〜めた。」
佐「今の嘘!楽しいよ!!」
R支「ん〜・・・。お姉ちゃんも一緒?」
佐「え・・・えぇ!勿論一緒よ!」
R支「それなら一緒に行く人探しといてあげる〜!」
佐「ありがとー!!宜しくたのむよ!!」

「なんでそんな面倒なこと引き受けんだ!この小僧!!」
「え〜?だってお姉ちゃんも一緒なんだも〜ん。」
「ま、いいんじゃない?せ・ん・ぱ・い・?」
「気持ち悪いんだよ!スケベ亀!!」
「なんか言うたか、モモヒキー!!」
「なんだと!熊こ・・・。」
「zzz・・・。」
「寝るなーっ!!」
「ま、とにかく行ってもいいよね!?答えは聞かないけど!!♪」
「・・・・。」

注)お姉ちゃん=あきらのことです
338名無しより愛をこめて:2007/07/16(月) 16:30:19 ID:RuDzWiJt0

        いつもの三倍の回転を加えて1200万パワー!!

クマ━━━(・(ェ)・)━( ・(ェ))━( ・()━( 乙 )━()・ )━((ェ)・ )━(・(ェ)・)━━━!!!!

        『鬼闘術・熊爪 二刀流・二倍跳躍・三倍回転』
339凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/16(月) 22:57:13 ID:Ayz43Fex0
十九之巻「蘇える妖魔」

前回の七夕の一件が過ぎ、東北支部の表の顔である居酒屋しゃくなげも、少しずつではあるが客足が増えていった。
地元の農家の人々や小中学校の職員などが、その主な客層である。
板前である支部長がもともと器用な人物で腕利きだったために、肴や小料理もすぐに評判となった。
それに加え、店を手伝う美夏の愛想の良さが客の心を鷲掴みにして離さず、3日ほどで看板娘としての地位を得たのだから、常連となりつつある客も出てきた。
「流石に猛士と両立させるのは慣れないな・・・。」
その日の営業が終わり、坂本がぼやく。
「まぁしばらくは辛抱やで。」
まるで、その独り言を聞いていたかのように励ます勘助。
「なにか目ぼしい情報はあったか?」
「別段、これといったことは・・・。」
そうか、と勘助は頷くと、猛士の間へ入っていった。
340凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/16(月) 22:58:03 ID:Ayz43Fex0
―― 青森、十和田湖。
「糞鬼如きに、この儂がやられるとは・・・少々見くびりすぎたわ。」
呻きのようなおぞましい声で唸りながら、一人の男が林から這いずり出てきた。
体はもはや壊死し始め、目は完全に光を失っている。
そのとき、湖の中から一組の男女が飛び上がってきた。イッタンモメンの童子と姫である。
「お前、人間ではないな。」童子が警戒しながら男に言った。
「中にいるのは何者だ?」と姫。
「アッハッハッハッハ!・・・イッタンモメンか!百歳ぶりに蘇えってみれば、このような北国の方にまで現れおって!・・・丁度いい。腹が空いていたところだ・・・。」
男は狂気染みた叫びをあげると、およそ人とは思えぬ形相・・・というよりも、人ならざる異形へと姿を豹変させ男女に襲い掛かった。
咄嗟に男女も異形の姿へ変化するが、妖姫は凄まじい勢いで襲い掛かってきた牙に頸を喰いちぎられてしまう。
それを見た怪童子は、接近戦では不利と悟って上空へ飛び上がり、脚を伸ばして攻撃を図った。
「お前たちの子供は我が餌食となる・・・喜ぶがいい!」
男は怪童子の攻撃を鋭利な爪で弾くと、咆哮をあげた。同時に男から放たれた邪気が怪童子を襲う。
「ぐあぁ・・・!」
怪童子の体に圧力がかかり、押し潰されたトマトのようにその肉片を飛び散らせて爆発した。
・・・その日、青森と秋田で猛士の鬼が追っていた何体かの魔化魍が、鬼が出動したときには遺体のようなもので発見されたと、各地の歩から東北支部に報告が入った。
341凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/16(月) 22:59:07 ID:Ayz43Fex0
―― 東北支部。
「いやぁ参ったよ。俺と美夏が追っていたオオナマズ、俺たちが行ったときには川に浮いていただけだったんだから。」
カチドキが自らの仕事を奪われ、本当に残念な様子で語る。
「俺もだ。カッパの親の骸だけが残されていた。」と、イツキ。
「イツキさんもですか・・・一体何が起きたんでしょうね。」
と、支部長が店から戻ってきた。なにやら勘助と一緒に重々しい空気で部屋に入ってくる。
「岩手の北部でカシャを捜索していたムツキさんから新たな報告がありました。どうやらこの近辺の魔化魍を屍にしていたのは、変種と思われる魔化魍だそうです。」
「ムツキがそいつと遭遇したのか!?」カチドキが驚いた様子で聞く。
そのようです、と報告書を片手に続ける坂本。
「ムツキさんの弟子の武藤くんからの報告だと、ムツキさんはその変種と実際に対峙して酷くやられ撤退。カシャの骸は近場を担当していたジンキさんが清めてくれたそうです。」
「・・・まさか、ムツキがやられるとはな。」
イツキがため息をつく。カチドキも心配しているようだ。
「そのムツキって鬼は強いんか?」東北に来て間もない勘助が、誰ともなく聞いた。
「強いと言うか・・・ムツキはある意味セコいな。」とイツキ。
「どういう意味やそれ。」
その疑問に応えるべく、坂本が咳払いをした。
「ムツキさんは、全国的にもかなり稀な二つの属性をもつ鬼で、それを組み合わせた攻撃は、どんな魔化魍相手でも反則的に勝負を決めることが可能なのです。」
「二つの属性?何と何や。」
342凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/16(月) 23:01:43 ID:Ayz43Fex0
「氷と光だよ。」イツキが坂本の台詞を代弁する。
「それが何で強いんや?」
「少し考えれば分かることです。まず魔化魍を発見したら、空気中に無数の氷の粒を散らし、光の屈折角を操って上手い具合に身を隠す。
その後、無数の氷の槍を生成して魔化魍に浴びせたりと・・・。いわば、一方的なタコ殴りが可能というわけです。」
「それほどの者がやられるとはな・・・。」
「なに、所詮あいつは技に頼っていたに過ぎない。身体能力そのものは並の鬼よりも低いほどだ。」とイツキ。
「しかし、注意は必要です。彼が今までに魔化魍にやられるということは無かったのですから。」
坂本の指摘にうむ、と頷くイツキやカチドキ。
「とりあえず今回のことは吉野に報告して、その変種の対抗策を練ります。
みなさんは対抗策が見つかるまで、変種らしきものに出くわしても深追いはしないようにして下さい。」
各々は少々不満げに了承すると、それぞれの寝床に就いた。
343凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/16(月) 23:03:06 ID:Ayz43Fex0
―― 宮城県北部の森林。
「一体何なんだ!あの魔化魍は!?」
「分からん!だが今は勝てそうにない!兎に角、走れ!!」
装備帯に音撃鼓と音撃棒を携えた2人の鬼が、森の中を必死に走っていた。
大柄で白い体表に淡い青の隈取、雄雄しい単角をもつ雹鬼。
それとは対照的に、小柄で深緑の体表と金の隈取、三本の黒い角をもつ業鬼。
その二人を後ろから凄まじい勢いで追ってくる魔化魍こそが、東北で数々の魔化魍を喰らい、ムツキを初の敗北に追いやった張本人である。
「鬼の血を飲ませろぉぉおお!!」魔化魍がおぞましい叫びをあげる。
「おい雹鬼!いま喋ったぞ!?」
「言われずとも分かっている!!・・・このままじゃ時間の問題だ・・・。二手に分かれよう!」
よし!と業鬼が承知し、二人は反対方向に別れた。魔化魍は一旦立ち止まると、体の大きい雹鬼めがけて再び走りだした。
「やはり足の遅い俺の方を狙ってきたか・・・。考えが甘いんだよ!!」
雹鬼は気合を上げ、両の手で印を結ぶ。
「鬼法術・極氷牢!!」
雹鬼が叫ぶと同時に、魔化魍の足元に氷が纏わりついた。空気中からも氷が発生し、魔化魍の周り3メートルを氷が埋め尽くす。
「ふぅ・・・。一体なんだったんだコイツは・・・。」
ため息をつき、装備帯の背から音撃棒・烈雹を取り出して氷の牢獄に近寄っていく雹鬼。
氷ごと清めるつもりなのか、音撃鼓・霧氷鼓も取り外す。
「こんなワケのわからん奴は早々に消しておくに越したことは無い。」
そう呟き音撃鼓を展開させ、両方の烈雹を大きく振り上げた刹那。
「こんなモノで儂を止められると思うなぁああ!!」
いきなり氷が爆発し、中から動きを封じたはずの魔化魍が襲い掛かってきた。
「何!?」困惑した雹鬼が反射的に後ずさる。が、魔化魍の狂ったまでの牙に脚を咬まれてしまった。
344凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/16(月) 23:03:50 ID:Ayz43Fex0
「ぐぁああああああ!!」
苦痛の叫びを上げながら転がりまわる雹鬼。しかし魔化魍は喰いついて離さない。
「とりゃ!雷電堕魂!!」
そのとき、反対方向へ走っていったはずの業鬼が、魔化魍に雷を帯びた一撃をお見舞いした。
「業鬼!何故ここにいる!?」
「へへっ!魔化魍が俺を追わなかったから、こっちに来てみたんだよ!」
「ならとっとと逃げろ!こいつは俺たち二人でも倒せない!」
何?と、業鬼が魔化魍を見た。なにやら先ほどとは違い、体が変化をし始めたのだ。
「ハッハッハ!漸く気づきおったわ、自分たちの無力を!!鬼の血は飲んだ・・・今こそ、我は蘇えらん!!」
魔化魍はそう叫ぶと、大量の邪気を一気に放出させた。周囲の木々が邪気にあてられ、存在そのものが消滅していく。
「なんだこの邪気は!?・・・業鬼!このままでは俺たちも巻き添えだ!逃げるぞ!!」
「ああ分かった!!」
二人はその場を命からがら逃げ延び、東北支部へと向かった。
「我は蘇えった!!鬼どもも、我に抗うことは出来ぬ!!我と共に蘇えれ!!この北方の地に封じられし妖魔たちよ!!」

その日、突如として現れた魔化魍 ―元妖狐― の邪気により、東北地方で永い眠りにつかされていた大妖怪たちが一挙に目を覚ました。
345凱鬼メインストーリー ◆KxAq6DKEkg :2007/07/16(月) 23:05:39 ID:Ayz43Fex0
「まさか、こんな田舎でこんなに面白いことが起こるとはね・・・。」
冷酷な笑みを浮かべる身なりのいい男。
「しばらく傍観しましょうか。」男に寄り添っている、これまた身なりの良い女。
「ああ、そうしよう。丁度、ここの鬼たちの情報も欲しかったところだ。それに何より、この地に封じられていたという妖魔たちも見てみたい。」
「そうね。私も興味があるし・・・。」

―― 青森県、高倉医院。
「この邪気はまさか・・・。」
アカツキは、この強大な邪気にいち早く気づいた数少ない人間の一人だった。
「遂に蘇えったのだな・・・九尾の妖狐・・・。」
その邪気に気づいた人間は、アカツキと和泉一文字。
そして最も強く肌で感じたのが、鬼の心得さえも知らぬ天美あきらだった。

十九之巻「蘇える妖魔」
346名無しより愛をこめて:2007/07/17(火) 23:39:36 ID:Urx8jycQ0
凱鬼作者様、乙です。
347志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/18(水) 01:00:37 ID:DOc7kgI00
前回は>327-333

十三之巻 煌く双弦

洋館の男によって飛ばされた一撃鬼が現れたのは、二体の銀クグツと大勢のイナリの待ち構える庭の中だった。
 どうやら、洋館の裏側にある庭のようだ。転がって倒れたが、すぐに立ち上がる。
「随分と手厚いおもてなしだな」一撃鬼は洒落には洒落で返せ、と言った男の言葉を皮肉るように呟いた。
「……吾が名は『彦』」向かって左側に立つ角のない翁面の銀クグツが名乗る。
「吾が名は『醜男』」と顔面に傷を持つ般若の銀クグツが名乗った。
「仲間の仇はお前の『血』で贖ってもらおう」醜男が杓杖をぶん、と振って言った。
「ほう、昨今のクグツは自己紹介もするんだな。それに『仇』か……やめておけ。俺は鬼だ。喰うと不味くて腹を壊すぞ」一撃鬼はそう言いながら左手に烈光を構えた。右手は白銀のグリップを握っている。
 彦と醜男は掲げた腕を振り下ろした。それを合図にイナリの集団が一撃鬼に殺到する。
 その数、ざっと三、四十体。響鬼と二人で集団を屠ったさっきとは違い、今度は一撃鬼一人でこれだけの数を相手にしなければならない。
 だが、一撃鬼の闘志は激しく燃えこそすれ、決して萎える事は無かった。
『俺は裁鬼さんの弟子だ』決して心折れる事無く戦い続けた師匠の姿に自分を重ね、一撃鬼は自らを奮い立たせた。
 事実、既に一撃鬼は猛士関東支部のみならず全国でも指折りの猛者に成長していた。
 もし、現役時代に疾風鋼の鬼と呼ばれた小暮耕之助が現在の一撃鬼を見たならば、決して響鬼にも劣らない力をその内に秘めているであろう事を見抜いた筈だ。
一撃鬼は迫り来るイナリ達を撃ち、斬り捨て、蹴り飛ばし続けた。
銀クグツ達は趨勢を見極めようとしているのか、一向に襲ってくる気配はない。
 しかし、戦闘が続く内にイナリの苦無がその刃を防いだ白銀の銃身を破壊した。一撃鬼はそれを見るや、白銀を集団に投げつけると空いた右拳でイナリを殴り飛ばした。
音撃を喰らったイナリが吹き飛びながらその場で爆散する。
イナリは一撃鬼の激しい猛攻にその数を徐々に減らしていったが、当の一撃鬼自身も疲労を隠すことは出来なくなっていった。
『このままじゃ、拙(まず)いな……』一撃鬼がそう思った瞬間、クグツ達が戦闘に介入してきた。
348志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/18(水) 01:03:07 ID:DOc7kgI00
 過日威吹鬼と共に襲われた時と同様に挟撃をかけられている。
 前に立つ醜男が自身の得物である杓杖で突いてくる。背後からは体術を使う彦が隙を見て拳や蹴りを放ってきた。
 一撃鬼は杓杖の突きをかわしつつ、背面の敵に蹴りを見舞う。
 彦は比売を屠った一撃鬼の力を警戒して、無理には攻めてこない。身を守りつつ牽制するような形を取っていた。
 しかし、二対一の状況は明らかに一撃鬼に不利に傾いていった。
体力を消耗し続ければ、確実に鬼封呪の餌食となって倒されてしまう。
 負けられない、と言う感情が焦りとなって、一撃鬼の心に隙を作った。
 背後の彦を右肘で打ち飛ばした一撃鬼だったが、一瞬死角となった左横から薙ぎ払うように振り回された杓杖に打たれてしまった。
「くっ!しまった!」左手の烈光を取り落とし、地面にうつ伏せに転がされる一撃鬼。
 そこへ殺到するイナリの集団。
『これ迄か!』そう思った刹那、一撃鬼の頭上で炎が爆発した。吹っ飛ぶイナリ達。
 クグツ達も炎が飛んできた方向に視線を向ける。
一撃鬼はその隙を逃さずにすぐさま体を起こすと烈光を持ち直した。
「どうやら、間に合ったみたいだな!大丈夫か?一撃鬼」外の光で逆光になっているが、洋館の屋根の上に立っている影に一撃鬼は見覚えがあった。いや、決して忘れる事のない影だった。
 影は銃のようなものから炎を帯びた弾を次々と打ち出してゆく。
 狙い打たれたイナリ達は激しい炎を噴き上げて燃え朽ちていった。
一撃鬼は影の援護を受けながらクグツたちと距離を置き、体勢を立て直した。
 その傍に、影が飛び降りてくる。
349志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/18(水) 01:04:16 ID:DOc7kgI00
「遅くなって済まなかった」横に立った赤い四本角の鬼はそう言って一撃鬼に詫びた。
「いえ。ありがとうございます、裁鬼さん」
「話はおやっさんから聞いた。俺も手伝うぞ」
「……やっぱり」
「ん?何だ、不服か?」一撃鬼の呟きに裁鬼は少し不満そうに言った。
「いいえ。裁鬼さんと組むの久しぶりなんで、何か嬉しくなってしまって……」そう言う一撃鬼の口調は本当に嬉しそうだ。
「それと、頼みがある」と裁鬼は神妙そうに言った。
「何でしょう?」
「……急いで帰って来たんで皆に土産を買って来るのを忘れた。後で一緒に謝ってくれ」
「分かりました。それと、中にまだ響鬼さんや京介君がいます。早く助けないと」
「分かっている。行くぞ」そう言うと裁鬼は音撃管・夕凪を背中に回し、腰の音撃双弦・閻魔・釈迦を両手に握り、クグツ達に向かって駆け出した。
「はい!」一撃鬼も烈光を左手に持つと白銀招を纏った右拳を握り締め、裁鬼の後を追って走り出す。
350志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/18(水) 01:04:59 ID:DOc7kgI00
「雄ぉおおおおおおおおおっ!」
「破ぁあああああああああっ!」
雄叫びを上げて魔化魍に向かう二人の鬼。その戦い方はまさに鬼神そのものだった。
一撃鬼は先程の疲れを微塵も感じさせない程強烈な右拳をイナリ達に打ち込んでゆく。
 裁鬼もブランクがあるとは思えない華麗な足技と斬撃を次々と叩き込んでいった。
 残っていたイナリ達は瞬く間に蹴散らされ、消滅した後に残ったのは、般若の面の醜男と翁の面の彦の二体のみだった。
「…………」後が無くなった二体は印を結ぶと何事が唱え始めた。
 フードの下が徐々に盛り上がったかと思うと、やがて裂け始める。その破れた布の下には黒い鎧のような物が付いていた。
「あれは……」それを見た一撃鬼が驚愕する。
「鬼の体……か!」裁鬼も驚きを隠せない。
無言で己が面を剥ぎ取る二体の魔化魍。その下にあったのは、まさしく悪鬼の形相。
 彦は右半分に青い童子の顔を、左半分に赤い姫の顔を持っていた。
 醜男は顔の中央に青い隈を持ち、両眼の半分あたりからは左右に赤く色が分かれている。額にある大きな一つ目がこちらを睥睨していた。
 二体とも唇から牙を生やし、後頭部に角を生やしている。
 清めねばならない、その邪悪なる魂を。
 討たねばならない、その悪逆なる心を。
 裁鬼と一撃鬼はそれぞれの音撃武器を構え、悪鬼に相対した。
351志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/18(水) 01:06:32 ID:DOc7kgI00
「二之膳はお気に召しましたか?」女は響鬼に向かってぞくり、とする笑顔で言った。
「……何の真似だ」響鬼は僅かに怒気の篭った声で答えた。
「偽者なんてあまり良い趣味じゃないな」
「偽者ではないよ」男が笑いながら否定する。
「彼は自分の意思で誓約(うけい)を交わしたのだ」
「……莫迦を言うな」烈風を握った右手に力が入る。
「力が欲しい。誰をも超える力を……。そう願った彼に我々は力を貸したまでの事。あくまで彼の意思を尊重したに過ぎない」
「その通りですよ、響鬼さん」口を閉じていた京介が言葉を発した。
「俺は貴方を超えたいとずっと願っていた。鬼の中で最強の名を縦(ほしいまま)にする貴方をね……。そして、それが叶ったんです。彼らの手で」
「莫迦を言うな。それがお前の答えなのか、京介。力のみに頼ることで鬼として人の命を護れると思うのか?」
「……俺に力さえあれば、誰も犠牲にはならない。……誰も傷つかない。俺の力が全てを護る。全てを自由にする。人の命も、魔化魍も、鬼の命さえも…………。そう、俺がいれば…………鬼は要らない」
 京介に不意に風が吹き付ける。下ろした前髪が捲れ上がったとき、その額に『魔』の文字があったのを響鬼は見逃さなかった。
『鬼封呪!』一瞬響鬼はそう思った。が、鬼封呪ならば鬼の力は封じられる筈。京介がこれ程までの気を放っている所から見ても、それはあり得ない事だった。
「そう、君の思っている通り、彼の額にある物は鬼封呪ではない」
「鬼の血を目覚めさせる為の、いわば触媒」男女が響鬼の心中を読んだように言う。
「純血の『鬼』が目覚めたのだよ。我らの手でね」
「その力……示してあげなさい」二人はそう言うと後ろに下がっていき、やがて消えた。
 京介は左手で黒い音叉を握ると、右手の剣に軽く当てた後、額に音叉を押し当てた。
 京介の額に黒い波動が走る。浮かび上がる鬼面も黒く、目は爛々と光っている。
 京介の周りに黒い炎が走る。一見すると裁鬼の修羅の炎に似ているが、憎しみをも力に転化する修羅の炎にある生命の輝きのような煌きはそれには無い。何処までも黒い炎は闇そのものが立ち上っているような印象を受ける。
やがて、右手を一閃し炎を振り払うと、全身を黒く包んだ鬼がそこに現れた。
 その面には顔全体を覆う黒い鬼面。眼光も鋭くこちらを見据えていた。
352志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/18(水) 01:07:51 ID:DOc7kgI00
「我が名は凶鬼(まがつき)。全てを護り、支配する者」変身した京介は響鬼に向かって、そう名乗った。
「俺の力の一端を見るがいい、響鬼!」言うや否や右手の刃で左の掌を切り裂く。切れた掌からぼたぼたと床に落ちる血潮。
 血は床を伝い、一階の床に滴って行く。その血がむくむくと形を成し、やがて、数十人のイナリが現れた。イナリの服装は先程のものと違い、鮮烈な赤色だった。
「これは!」鬼が魔化魍を作り出せるのか。響鬼は愕然とした。しかし、響鬼のこの認識は誤ったものだった。
 鬼と魔化魍は根源的には同質の物だとする説がある。しかし、決して鬼から直接魔化魍を作り出すことは出来ない。
 響鬼からはよく見えないが、凶鬼が立つ階段の真下にはクグツが用いる液体が流されていた。本来はそれだけでも魔化魍を作り出せる液体だが、洋館の男女はこれに純血の鬼の血を一定の比率で混ぜることで魔化魍を強化することに成功したのである。
 鬼封呪により封じられた鬼達が戦った魔化魍が急速に成長し、且つ予想以上に強固だったのも、先程裁鬼と一撃鬼が見たクグツの鬼化もその秘密は此処にあった。
 また、三体の銀クグツ自体も魔化魍と鬼の血を混ぜたことによって誕生したものであり、彼らが鬼封呪を放つことが出来たのも、この純血の鬼の血と魔化魍の掛け合わせの結果によるものだった。
 しかし、銀クグツを生み出した掛け合わせはその副作用として、造物主に絶対の服従をする筈のクグツでありながら完全にはその影響を受けない体質を作り出してしまった。
 銀クグツは純血の鬼――凶鬼――の影響をも受けてしまっていたのである。
 その戦闘スタイルが格闘を基本とするのも、黒クグツや白クグツのように男女の気をそのまま不動縛に転化できないのも、これに起因することであった。
 今現れたイナリの服装が違うのも、おそらくはこの掛け合わせの影響であろう。
 響鬼は気を取り直すと烈風を腰に回し、烈斬を順手に構えた。
 装甲声刃を使い装甲化する手もあったが、切り札であると共に消耗の激しい響鬼装甲を今使う訳にはいかなかった。
 音撃を使う事で力を消費する事を避ける為には、物理攻撃による強いダメージを与えるのが確実と響鬼は判断した。
 そこで響鬼は持っている武器の中で最も長い武器である烈斬を使う事でリーチを生かしてイナリに対抗する事にしたのだった。
353志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/18(水) 01:09:39 ID:DOc7kgI00
幸いなことに吉野の技術部が最新技術の粋を結集して製作したこの音撃真弦・烈斬は『既存の物より軽く』が開発テーマの一つに据えられていた。
 伝説の武器である烈雷の様に重さをフルに生かした重厚な造りの音撃弦はパワーがあるがスピードと言う点では相当の腕力を持つ鬼で無いと取り扱いが難しい。
そこで、バランスの良い重さを作り出すことで弦使いの弱点でもあるスピードを強化しようという狙いを以って烈斬は作り出された。
奇しくもこの狙いは当たり、これを用いた斬鬼は身体に不安を抱えた状態でも弦使い特有のリーチを犠牲にする事無く、不安をカバーできるスピードを持つ事が出来た。
 響鬼はその烈斬を縦横無尽に振るい、赤イナリ達を斬り捨てていった。
 しかし、今回のイナリは斬られても爆砕することなく平然と立ち上がってきた。さながらゾンビ映画のようだ。腕の無い者、足の無い者、頭が半分無い者……。
体の一部の欠けた者はそのスピードこそ落ちてはいるが、じりじりと響鬼ににじり寄って来る。
「どうやら、さっきのより丈夫な奴等の様だな」響鬼はきりがない、といった口調で吐き捨てた。
「やっぱり、こっちの方が良いか」そう言うと烈斬をぶん、と横に放り投げる。
烈斬は轟音を立てて飛ぶと、真っ直ぐ横の壁に突き刺さった。
響鬼はすかさず背中に手を回し、音撃棒・烈火を両手に握る。
「破ぁああああああ……!」烈火に気を籠めて炎の剣を作り出す。響鬼の鬼棒術・烈火剣である。
「勢りゃあっ!」向かってくる赤イナリの一体に右手の烈火剣を振り下ろす。
 イナリは真っ二つに裂かれ、激しい炎に包まれた。
 これを皮切りに再びイナリ達と大立ち回りを演じる響鬼。
 凶鬼はこの様子を黙って見ていた。まるで響鬼の実力を測るかのように。

(十四之巻へ続く)
354名無しより愛をこめて:2007/07/18(水) 02:04:23 ID:MHndvsn20
結末はわかっているし、言ってみればキャラも一次や二次の借り物なんだけど……
はっきり言って面白い。まだ終わってないけど、とりあえずGJと言わせて。
355名無しより愛をこめて:2007/07/18(水) 07:39:06 ID:c+v0h29S0
「志を〜」って簡単にいうとどんな話?
読んだことないんだけど、もうすぐ夏休みでヒマだし、面白ければ読んでみようかなと思ってる
356名無しより愛をこめて:2007/07/18(水) 09:15:46 ID:fFC3gs2BO
>>355
グレちゃった京介を明日夢が更生させる話
357名無しより愛をこめて:2007/07/18(水) 22:25:54 ID:okMnG3WN0
>>320の意味がわかりません・・・。
358名無しより愛をこめて:2007/07/19(木) 11:39:31 ID:4eoA7IdXO
>>357
ジョジョ3部
359名無しより愛をこめて:2007/07/20(金) 11:06:25 ID:fvdfsxZCO
こなゆき
360名無しより愛をこめて:2007/07/20(金) 13:30:01 ID:Df4O3C230
>>359
1、き・・・・・・キ・・・・・・キンタロス(しりとり)
2、レミオロメン(連想)
3、SS(キャラクター)

さあ、答えはどれ?
361名無しより愛をこめて:2007/07/21(土) 00:37:42 ID:xQanzUaM0
こなゆきさん懐かしいなw
362名無しより愛をこめて:2007/07/21(土) 08:16:32 ID:x/hLNWCU0
そういえば電王がクレヨンしんちゃんとコラボってのをきいて、
これが響鬼でコラボだったらどうなってたんだろう?

音撃打「一気ケツだけ星人の型!!」
ってな感じか?
363名無しより愛をこめて:2007/07/21(土) 17:10:38 ID:QDysPauN0
>>362
技云々の前に、変身して「ふんどし〜、イヤ〜ン」となるしんちゃん鬼が目に浮かぶw
364志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/21(土) 22:55:06 ID:m9oeE20m0
前回は>>347-353

十四之巻 届かぬ思い

鬼達が魔化魍と刃を交えている頃、部屋を脱した明日夢は長い廊下を彷徨っていた。
 一本道のはずの廊下は幾ら進んでも先が見えてこない。扉らしい物も発見できていない上、通路の明かりは暗く窓も無い為、外の様子も伺えずにいた。
「何処まで行けばいいんだろう……」どれだけ時間を経過したかも分からない状態は、明日夢の心に不安と焦りを呼んでいた。
 明日夢の足元で警戒態勢を敷いていたDA達も状況を把握できず、互いに顔を見合わせている。
「何か感じないかい?」既にステルスを解いているDA達に明日夢が問いかけるが、トドロキの緑大猿を始め瑠璃狼も鈍色蛇も首を振るばかりだった。
「まだ進むしかないか……」明日夢は気を取り直して足取りを速めた。
365志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/21(土) 22:55:50 ID:m9oeE20m0
 悪鬼達の放つ邪気は空を覆わんとする勢いだったが、裁鬼と一撃鬼は自身の武器に気を籠めて敢然と立ち向かっていった。
 裁鬼は杓杖を構えた醜男の突きを右手の閻魔で払うと左手の釈迦で素早く斬りつけた。
釈迦は醜男の右腕を切ったが傷は浅く、当然斬り落とす迄には至らない。すかさず払われた杓杖が裁鬼の正面を襲う。
裁鬼はこれをバックステップで回避したが、伸びてきた杓杖に脇腹を打たれた。
「ぐぅっ!」後ろに跳んでいた為ダメージは最小限の筈だが、力が増しているのか、思ったよりも痛い。横に弾かれながらも何とかしゃがんで着地する。
「ちっ、どうやらそこそこ出来るようだな」裁鬼は脇腹を押さえながら余裕ありげに呟くと、しゃがんだ姿勢から横に転がって体勢を立て直した。
一方、一撃鬼は鬼に変化した彦の体術に比売と戦った際との明らかな違いを感じていた。
 一回り大きくなった彦の拳と蹴りはそのリーチ以上に踏み込みが深く、ゴムの様に手前で伸びてくる。
『見立て以上に踏み込みが深くなっている』一撃鬼はそう思いながら間合いを計り直していた。
 彦は警戒を強めていた先程とは打って変わって、強気に攻めを展開している。変化した事で性格まで変わった様に見えて来た。
「裁鬼さん、気をつけて下さい! さっきと様子が違います!」一撃鬼は彦と距離を置きながら裁鬼に呼びかけた。
「ああ、そのようだな!」裁鬼も醜男の攻撃を何とか見切りながら呼びかけに応える。
「無駄だ。大人しく吾等の餌食となれ」鋭い突きを繰り出しながら醜男が唇を歪めて言う。
「ふん、つまらんブラフ(脅し)まで出来るとはたいしたものだな!」裁鬼は言うや否や左に跳ぶと腰の音撃震・極楽を閻魔を持ったままの右手の指で爪弾いた。
 清めの音が体を伝って音撃弦に流れ込む。
差し出した左手の釈迦の柄のスイッチを押すと、刃が醜男の腕に向かって射出された。
 特殊鎖が醜男の右腕に絡みつき、刃が刺さる。ぐおっ、と悲鳴を上げて杓杖を落とす醜男。
「音撃射『極楽雄薙』!」間髪を入れず極楽の弦を弾く。
特殊鎖を通じて流れる清めの音が醜男の右腕を吹き飛ばした。
巻き取られて、かしん、と音を立てて釈迦に戻る刃。
しかし、腕を落とされた醜男は一旦痛みに蹲ったものの、にやり、と笑うとすぐに立ち上がり激しい勢いで吼えた。
366志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/21(土) 22:56:34 ID:m9oeE20m0
「グオオオオオオオオオッ!!」左手を硬く握り、全身を震わせる。
 硬直した筋肉が激しく脈打ち始めると、失った右腕が上腕部から伸びるように再生されてゆく。
「……やれやれ……」裁鬼は音撃弦を構えながら呆れた様に溜息をついた。
「だから、無駄だと言ったのだ」醜男は笑みを浮かべながら裁鬼に向かって言った。
「吾等は不死身よ」
「……さあ、それはどうかな?」裁鬼は醜男の言を意に介せず、と言った風で聞き流した。
 既に醜男の仲間である比売は一撃鬼によって倒されている。醜男の言葉は明らかな妄言だ。
「この現世(うつしよ)において肉体を持つ者で死せぬ者など存在しない。……例え魔化魍といえども、だ」 
「……小癪な奴めが!」意に染まぬ反応をする裁鬼に向って、ぎりっ、と歯を噛む醜男。
「小癪は貴様だ」呟くや否や、裁鬼は猛然と醜男に向かってダッシュした。
 醜男は再生した右手で杓杖を拾うと、すぐさま裁鬼に向かって突きをかける。
 裁鬼は醜男の突きを寸前で見切ると、たん、と真上へ飛翔し、醜男の頭を踏み台にして後方へ着地した。振り向き様に両手の音撃弦の刃を醜男に向って撃ち出す。
 刃は同時に振り向いた醜男の顔面目掛けて飛ぶが、顔を守る様に刃を弾いた杓杖に絡みついた。
 鎖鎌の鎖のように絡みつく特殊鎖に清めの音を流し込む。清めの音に感電したかのように杓杖を取り落とす醜男。
「そんななりをしていても矢張り魔化魍だ。『清めの音』は良く効くらしいな」裁鬼は言いながら杓杖を引っ張り、後方へと捨てた。
「ふん。棍が無くとも、貴様などこの拳で捻じ伏せる迄の事よ」
「鬼封呪は使わんのか」
「そんな物、貴様を屠った後でゆっくりとかけてやるわ」
「ふ……面白い! やれるものならやってみろ!」裁鬼は叫ぶと両手の音撃弦を構えた。
音撃弦を持たない状態の裁鬼と醜男の腕のリーチ差はおよそ十五センチ。身長差も頭一つと言ったところだ。普通ならばリーチでは劣っているとはいえ、武器を持っている分こちらの方が有利な筈だった。
 しかし、踏み込んできた醜男の打撃は裁鬼の予想以上に速く、かつ手前で伸びるものだった。
『一撃鬼が気をつけろ、と言ったのはこの事か』油断こそしていなかったが、裁鬼は改めて銀クグツの実力を知ったような気がした。
367志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/21(土) 22:57:22 ID:m9oeE20m0
 一方、一撃鬼は彦と拳を交えながらも、以前感じたあの疑問が心を過ぎっていた。
『矢張り今回も使ってこない……。いや、もしかして使えないのか……?』
 一撃鬼が気にしていたのは、先程『あの男』に自分がかけられた不動縛の事だった。
 奴のクグツなのに、全く用いてこない。
 体術の能力はさっきの変化で格段に上がっている。このスピードに不動縛を絡められれば、間違いなく鬼封呪の餌食になるだろう。
 同士討ちを恐れてのことかとも思えるが、それにしてもおかしい。
 敵は一撃鬼の烈光の刃を確実に回避し、拳と蹴りで攻め立てて来ている。
 一撃鬼は受けに回っている状況を打破しようとしたが、相手の左の突きを右手で流した際に繰り出した烈光の刃を見切られ、逆に右の後ろ回し蹴りを腹に打ち込まれてしまった。
「ぐあっ!」もんどりうって斜め後ろに飛ばされる一撃鬼。
「……どうした。比売を倒したお前の力はそんなものか」魔化魍だけに息を切らせている様子も無く、淡々と彦は倒れている一撃鬼に言った。
「まだ終わった訳じゃないさ」一撃鬼は立ち上がると再び烈光を持った左手を前に構えた。
「そう来なくては。こちらはまだ打ち足りないのだからな」彦はそう言うと一撃鬼に駆け寄り、再び連打を浴びせる。
『妙だな。さっきからやけに人間臭い反応を見せている。クグツが……何故だ……?』一撃鬼は彦の拳を受けながら、新たな疑問が湧き上がるのを押さえる事が出来なかった。
368志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/21(土) 22:58:54 ID:m9oeE20m0
凶鬼の血によって強化された赤クグツの集団に響鬼は烈火剣の斬撃で対抗し、しかもそれはかなりの効果を示していた。だが、おかしなことに数を減らしたはずの赤クグツが何時の間にか増えている。しかも、元気な奴が幾人も。
『何処かから増えてきているみたいだな……此処までくれば奥の手しかないか』響鬼はこの状況が消耗戦にしかならないと悟ると、烈火を背中に括り、腰の装甲声刃を胸元に構えた。
「響鬼、装甲」柄の下のスイッチに左手を当てて、右手を下に動かす。がちっ、と音がして装甲声刃が波動を発し始めた。
「やっと出したか」凶鬼は誰にも聞こえないような声でぼそりと言ったが、まだ自分が手を出そうという雰囲気ではなかった。いつの間にか右手にあった黒い装甲声刃は腰の装備帯に吊るされている。
 凶鬼は見ていると言うより意識を此処に置きつつ、どこかに飛ばしている風に見受けられた。
 その状態は、あの洋館の男女がクグツを操作している時の状態に何処か似ていた。
 響鬼は炎を纏い、全身を赤色に染める強化形態、響鬼紅へと変化してゆく。その上を装甲声刃の発する波動によって召喚されたDA達が鎧化し、次々と覆っていった。
「勢やあぁぁっ!」頭部に鋼鷹を装甲(まと)い、燃え盛る炎を装甲声刃で振り払って響鬼装甲がその姿を現した。
「ようし、一気呵成に清めてやる」言うなり目の前に群がるイナリ達を装甲声刃で薙ぎ払う。
 小暮耕之助の手による改装で刃渡りが長くなった装甲声刃の刃に、忽ち数体のイナリが真っ二つになった。
響鬼は陣を崩すイナリから距離を取ると装甲声刃を腰に回し、腹部の音撃鼓を地面に勢い良く貼り付けた。
音撃鼓が、いよぉおおおっ、と作動音を鳴らすと、たちどころにその場に大きな三つ巴の紋を持つ円が展開されてゆく。
響鬼は背中の烈火を握ると、どおおん、と音撃鼓を両手で打ち鳴らした。
 その清めの音の衝撃で床がせりあがり、響鬼の前に大太鼓のような形を成した。
「装甲音撃打『爆熱散打の型』! 破ぁっ!」叫ぶと同時に眼前の音撃鼓を打ち始める。
高く低く。強く弱く。速く激しい旋律を紡いでゆく響鬼装甲の音撃に、イナリ達はその場を動く事が出来なくなっていった。
地から伝わる轟音と空間を伝わる振動。激しい響きは洋館に遍く鳴り響いた事だろう。
その両面の清めの音によって、次々と爆裂し散ってゆくイナリ達。
369志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/21(土) 23:01:18 ID:m9oeE20m0
どどおん、と旋律の最後の響きが終わると同時にその場にいた全てのイナリは完全に消滅してしまっていた。
「……へえ、そんな型も持っていたんですね。響鬼さん」凶鬼はイナリ達を倒した響鬼装甲に向かって、階段の上で、ぱちぱち、と拍手をしながら言った。
 ゆっくりと階段を下りてくる凶鬼。腰から変身音叉を右手に握る。
 響鬼は烈火を両手に握りながら、静かに上を見て佇んでいた。
 凶鬼は音叉を静かに左腕に当てると横に払った。振ると同時に音叉の先から剣が飛び出す。
「古の業(わざ)ですよ……。音叉剣、と言うらしいですがね」凶鬼は含み笑いをしながら剣を軽く縦に振った。
「いいかげんにしろ、京介。何時迄惑わされているつもりだ。お前のその姿は本当の『鬼』じゃない。目を覚ませ」響鬼は目の前に降りてくる弟子に向って呼びかけた。
しかし、弟子である筈のその鬼は首を振って響鬼の言葉を退けた。
「……俺はあの日、誰も助けられなかった。誰も……。それは俺に力が無かったからだ。だが、今の俺には力がある……誰に与えられたかなんてどうでもいい。この力さえあれば、俺は誰よりも強くいられる。この力こそ『鬼』の力そのものだ」
階段を下りた凶鬼は響鬼の正面に立つ。
「それは違う。『護る心』の伴わない鬼の力など、本当の鬼の力じゃない。それは……負の力だ」
「そんな事、俺にはどうだっていい。力は力だ。…………響鬼さん、どうやら貴方とはこれ以上話しても無駄の様だ」
「京介!」
「もうその名前で呼ぶの止めて下さいよ、響鬼さん。……俺は……凶鬼だ」
 響鬼は無貌の面の下で歯噛みした。
本当に心変わりしてしまったというのだろうか。あの真っ直ぐな京介が。
 響鬼にはどうしても目の前の鬼が本当の京介だとは思えなかった。
370志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/07/21(土) 23:03:27 ID:m9oeE20m0
 明日夢は未だ続く長い廊下を歩き続けていたが、不意に地鳴りのように建物が揺れるのを感じた。
 揺れは随分と長く続いた感じがしたが、その場に留まって待っていると、やがて静かになった。
「何だ? 地震だったのか?」明日夢は足元にいたDA達に聞いた。
 DA達はくるくると首を回してその状態を分析していたが、やがてそれぞれに啼き声を上げて何かを明日夢に知らせようと騒ぎ出した。
「いっぺんに騒がないで。……で、何なの?」明日夢はDA達の発生する音声が分かるわけではない。勿論、それは鬼として修行していない事にその原因があるのだが。
 鬼達は修行の際にDAの発する音声や録音してきた魔化魍の音等から、暗号を読むが如く情報を収集出来る様に訓練を受ける。
 しかし、鬼としての修行を途中で断念した明日夢はそこ迄の修行はしていなかった。
 それに気づいた緑大猿は明日夢に分かるように、とジェスチャーを始めた。
 両手をくいくい、と突き上げる。万歳かい、と尋ねる明日夢に瑠璃狼と鈍色蛇が首を振る。
 明日夢は暫く考えていたが、緑大猿の突き上げる手先が尖っていた事から、ひょっとして鬼かい、と尋ねた。
 緑大猿がうんうん、と肯く様に首を振る。次いで両手を交互に縦方向にぶんぶん、と振った。
「……ひょっとして、太鼓のつもり?」明日夢の答えに瑠璃狼がうぉん、と吼える。
「…………もしかして、音撃なのかい?」しばらく考えて、明日夢は連想で浮かんだ言葉をDAに問いた。
 DA達は意を合わせたように一声鳴いた。
「……誰かが来ているんだ…………きっと、ヒビキさん達だ。急ごう!」明日夢は暗闇に一縷の光明を見出したように暗い廊下を真っ直ぐに走り出した。
 DA達は明日夢に遅れまいと一斉に後を追う。
 その遥か後方で、和装の男女がにやり、と笑っていたのを彼らは知らない。

(十五之巻へ続く)
371名無しより愛をこめて:2007/07/22(日) 02:22:39 ID:ADejBiR50

     __  L⌒) モキャッ
    (゚ω ゚ ) / フ モキャッ
  /| ヽ◎ノ |ノ
∠  / ]二二[
L_) /ヽv/\
    Z |  Z |
     ̄   ̄
372名無しより愛をこめて:2007/07/22(日) 19:11:46 ID:N6AsXuzQ0
        __
    /(_|_)\
   /\(゚ω ゚ )/ヽ ……。
   | _ヽ◎ノ_ |
   ヽ ]二二[  /
    \Z vZ/
         ̄ ̄
 『緑大猿・ディスク形態』
373名無しより愛をこめて:2007/07/22(日) 22:39:21 ID:c/DwJ2e50
「例の作品」の最新話にDMCが登場する件。
374名無しより愛をこめて:2007/07/22(日) 23:13:42 ID:GJKSap5f0
報告乙。
まぁ例の方とは関わりは無いんだし良いだろ。
きっと、このスレで誕生したDMCとは別の組織なのさ。
375用語集サイト:2007/07/22(日) 23:15:58 ID:MVKo7rp00
用語を拾うためにDA年中行事さんの作品を読み返していたら、地元の(といってもそれなりに離れてるけど)
戸隠や鬼無里が舞台の伝承が出てきた件。
でも後編はまだ投下されていない件。
376名無しより愛をこめて:2007/07/22(日) 23:28:24 ID:FzFmd9UJ0
DA年中行事さん、続き希望です。
377名無しより愛をこめて:2007/07/22(日) 23:29:50 ID:FzFmd9UJ0
ミスってあげちまいました。
スマソ
378名無しより愛をこめて:2007/07/23(月) 00:40:30 ID:O2gp3b6v0
>>373
例の作品はこのスレとは無関係になってしまったけどまだ一緒だった頃の設定が残ってるんだなあとか考えると感慨深いものがある
379名無しより愛をこめて:2007/07/23(月) 01:28:29 ID:BWvBXxlK0
>>376
   ∩___∩
   | ノ      ヽ
  /  ●   ● |   俺も俺も
  |    ( _●_)  ミ
 彡、   |∪|  、`\
/ __  ヽノ /´>  )
(___)   / (_/
 |       /
 |  /\ \
 | /    )  )
 ∪    (  \
       \_)
380名無しより愛をこめて:2007/07/23(月) 08:34:01 ID:m0nfyH4o0
違う路線を走っているライナーだと思えばいいんでは。
381凱鬼メイン作者 ◆KxAq6DKEkg :2007/07/23(月) 23:07:46 ID:M9e5PoIv0
本編に少し詰まってしまったので、その間のつなぎの話を投下させていただきます。
ノリで書いているので、いろんな設定とか無視してるかもしれません。
382【番外偏】凱鬼メイン ◆KxAq6DKEkg :2007/07/23(月) 23:09:55 ID:M9e5PoIv0
【番外偏】凱鬼メインストーリー
エピソードT 集う十鬼 〜宴〜

2001年、12月下旬。
この日、猛士東北支部では毎年恒例の忘年会が開かれることになっていた。
支部長や非番のカチドキと吉村美夏、ミチビキと天美蘭は昼過ぎから宴会の準備を手伝っている。
準備といっても、経営状況の悪い居酒屋で使っている埃被った食器を洗ったり、とりあえずキレイにするという掃除がメインで、飾りつけなどは皆無であった。
午後6時をまわると、そこそこ広い居酒屋も5人だけでなんとか掃除が完了した。あとは、東北支部の面々がある程度揃うのを待つのみである。
午後7時を過ぎ、青森県南部へヤマアラシ退治に行っていたイツキと一真が戻って来た。それに次いで、アカツキとあきらが秋田からバイクに乗って登場。
一気に4人も増えたので、店の真ん中へ支部長が出てくる。
「それでは大体人が集まりましたので、そろそろ始めたいと思います!」
支部長が一次会の開会を宣言し、宴の祝杯が盛られた。無論、未成年の一真やあきら、美夏(当時19歳)はジュースである。
一真とあきらの仲の良さそうな様子を見て、苛々しはじめるアカツキと、それを宥める妻。
カチドキは美夏とミチビキに挟まれて「男としてみた場合のカチドキ」という議題の論議を聞かされ、作り笑いを強制される始末。
端のほうでは既にイツキの酔いがまわって、昔の苦労話や辛い思い出など喋りだした。それを他に話し相手も無い支部長が相手をする。
383【番外偏】凱鬼メイン ◆KxAq6DKEkg :2007/07/23(月) 23:11:09 ID:M9e5PoIv0
そうこうして30分も経つうちに、一気に6名が東北支部の敷居を踏んだ。
「ミチビキさ〜ん!今日もお美しいですね〜〜!!」
そう言ってミチビキに駆け寄ってきた男は、東北支部一の女垂らしの東屋助兵衛である。
「あら、東屋くん久しぶりね。」
「ボク、前にミチビキさんと会ったときからこの日を待ちわびていて・・・ゴフッ!」
突如、心地よい東屋の頭蓋骨の響きを出したのは、彼のサポートする管の鬼。キキだ。
「ここまで来ておいて、女を垂らしこもうとするとは情けない奴だ。」そう言って嘲笑うキキ。
「もう〜!いきなり殴らないでよ!危ない奴だなぁ!!」そんなだらしのない叫びをあげる東屋。
「一体、どっちがお守りなのかしらね。」そう言って豪快に酒を流し込むミチビキ。
「相変わらず酒豪なのね、ミチビキは。」その様子を見ていた茶髪でヤンキーのような風貌の女。冬の夜だと言うのに、ヘソ出しルックである。
「おや、ランキ嬢じゃない。相変わらず場を弁えない装いだこと。」ランキ嬢と呼ばれたヤンキー風の女は、その言葉に顔を歪ませると東屋を押しのけ、ミチビキとカチドキの間に入った。
押しのけられた東屋が、「うわぁぁああ!!」と叫んで吹っ飛ぶ。女といえども、鬼の怪力を普段でも出してしまう癖のあるランキに押しのけられれば無理もない。
「ねぇーカチドキ?久々に会ったんだし、この後私と一緒に楽しいことやりに行かない?」そう言ってカチドキに胸を押し付け、胸を強調するランキ。
「あわわわ、ランキお嬢さん駄目ですよぉ!!そんなところ親方様に見られでもしたら・・・!!」入り口のほうから大きなカバンを持って入ってきた、気の弱そうな若い男が、ランキの淫らな様子を見て注意する。
だが、ランキは五月蠅いと言わんばかりに「浩侍は黙っていろ」と“命令”すると、再びカチドキに寄り添う。その様子を見て嫉妬し始めた美夏も同様に寄り添って、無い色気を必死に出そうと努力していた。
384【番外偏】凱鬼メイン ◆KxAq6DKEkg :2007/07/23(月) 23:12:16 ID:M9e5PoIv0
「おいおい、まだ一次会で18歳未満だっているんだから少しは慎みなさいって。」
「見てほら、東屋のスケベ野郎がのびてるで。」
そう言って入ってきた大柄な男と、そいつとは頭二つ分くらい小さい小男が東屋の顔をペシペシと叩いて起こす。
2人ともカチドキと同じ太鼓遣いの鬼で、大柄な方がヒョウキ、小柄な方がゴウキである。
二人はカチドキを誘惑しているランキを蹴散らすと、カチドキを囲んで山形や宮城で出現した珍しい魔化魍の話を持ちかけた。
ランキは獲物を逃した獅子のように苛立ちを示すと、彼女の飛車を勤める浩侍に酒を持ってくるように“命令”する。
その後は一発芸大会で盛り上がり順調に宴が進んでいったが、ジンキが来たことによってみんなのテンションが落ちてしまったことは言うまでも無い。
その後、ムツキとその弟子の武藤、医師として銀をやっている高倉が訪れ、その30分後にジンキの妻でありサポーターでもある陣内美恵子が差し入れのお菓子をもってきた。
「あら、みなさんもうお揃いで。」
「よっ!待ってますた美恵子しゃん!!今年のお菓子はなんれすか!?」と完全に酔っ払って舌が空回りしだしたイツキが急かす。
「あらまぁ、もうこんなに酔ってしまわれて・・・今年はきなこ餅を作ってみましたの。」
そういってきなこ餅を大きな皿にまとめて、テーブルのうえに置いた。
「まだたくさんあるから、好きなだけ頂戴ね。」
実に品の良い女性だ。と夫以外の男性陣はみな思うのであった。
きなこ餅も大方、平らげたところで一次会はことなく終了し、酔いつぶれたイツキ、未成年の一真、あきら、美夏、武藤は二階の寝室へ上がっていった。
385【番外偏】凱鬼メイン ◆KxAq6DKEkg :2007/07/23(月) 23:16:54 ID:M9e5PoIv0
二次会は恒例の腕相撲大会で大いに盛り上がった。
今年は、決勝でキキとヒョウキが競り合ってヒョウキがめでたく優勝し、キキ得意の鬼法術 酒洗礼を浴びて、あえなく酔いつぶれてしまった。
その後、喉自慢大会ではランキとミチビキが同点で相打ち。
同時にゴウキも参加したが、パフォーマンスが唄ではなくブレイクダンスだったために種目違いで失格。
まぁそんなこんなで順調に二次会も終わり、各々は支部を離れてそれぞれの宿泊先へ向かった。
その際、カチドキがランキに拉致されそうになったが、浩侍が本気で怒ったために彼女は渋々、旅館へ戻ることにしたようだ。

そして次の日、担当区域に戻るはずだった東北十鬼が、急なバケガニ大量発生で青森から身動きが取れなくなることを、まだ誰も知らない・・・。
386凱鬼メイン作者 ◆KxAq6DKEkg :2007/07/23(月) 23:17:45 ID:M9e5PoIv0
一日ででっち上げた設定。
【東屋 助兵衛】
キキのサポーター。
モデルは某特撮番組に登場する、某喫茶店常連客の名物記者。
双子の兄がおり、兄はオカルトが趣味だとかなんとか。
【キキ】
頭の堅い人物。サポーターである東屋のお守り役。
【ランキ嬢】
とある組のお嬢様。一見してヤリ○ンだが、実はかなり無邪気で純粋。
【古渕 浩侍】
ランキ嬢の飛車。ランキの組の親方に命を救われ、忠義を全うしている。
その壮絶な過去に纏わる秘密も・・・。
【ヒョウキ&ゴウキ】
ナインティナインのお二人がモデル。
【ムツキ&武藤】
( 0H0)
【陣内 美恵子】
ジンキの妻。普段は和菓子屋を経営しているが、飛車としての仕事もこなす。
387名無しより愛をこめて:2007/07/23(月) 23:46:08 ID:J+Zn1QPT0
凱鬼メイン作者様、乙です。

番外偏、次回へ続きますでしょうか?・・・それとも単発ですか?
続き、気になります。
388凱鬼メイン作者 ◆KxAq6DKEkg :2007/07/24(火) 00:14:39 ID:83pyPfCX0
>>387
どもです。
番外は本編を描いているなかで、筆が詰まってしまったときに書いていますから、
投下がいつになるかは分かりませんが続きはありますよ。
389387:2007/07/24(火) 00:52:43 ID:OFntOmM50
>>388
それは楽しみです。
帰れなくなった鬼さんたちが、はたしてどんだけ〜暴れまくるのか、楽しみに待ちたいと思います。
390凱鬼メイン作者 ◆KxAq6DKEkg :2007/07/25(水) 23:26:13 ID:S3OCRrBd0
本編の方、二十之巻執筆中ですが、今後の展開の大事な基盤となる話だけに、
なかなか思うように行かない次第です。
息抜きに番外編書き始めたら、こちらはノリでやってるので筆が進む進む。
・・・ということで、番外編の続き投下させていただきます。
追記
前の投下のとき、かなり誤字やらありましたが・・・。
タイトルのところ、「番外篇」とすべきところを、「番外偏」としてしまっていました。
簡易版まとめサイトさま、余力ありましたら、そこのところの修正お願いできますでしょうか。
「番外偏」を「番外篇」に修正よろしくお願いします。
391【番外篇】凱鬼メイン ◆KxAq6DKEkg :2007/07/25(水) 23:27:09 ID:S3OCRrBd0
【番外篇】凱鬼メインストーリー
エピソードT 集う十鬼 〜厭〜

「や〜だ〜!カチドキとまだここに居たい〜!!」
忘年会翌日、早朝。
東北支部の前では、いい年こいて駄々を捏ねるランキとそれに振り回される浩侍が居た。
「お嬢さん!もう親方様に帰宅予定時刻を告げているんですから!早く空港に行かないと遅れてしまいます!」
その騒ぎが支部内まで聞こえたのか、カチドキと美夏が降りてくる。
美夏は昨日の宴会で水と間違えて酒を飲んでしまい、ごく僅かな量でしかなかったのだが、どうやら二日酔いになってしまったらしい。
階段を降りてくる足がふらついており、今にも転げ落ちそうだ。
「よくもまぁ毎年毎年、支部の前で駄々を捏ねてられるなぁ。」とランキをみて呆れた様子のカチドキ。
「だってぇ〜、今度いつ会えるか分かんないしィ〜。」ランキは頬をぷっくらと膨らませて不満をあらわにする。
「まぁ、今度近いうちに会いに行ってやるよ。親方にも会いてぇしな。」
カチドキはそう言ってランキの頭をポンと撫でてやると、ランキは満足した様子で微笑み、「浩侍、何をグズグズしている!」とさっきまでの駄々っ子ぶりを吹き飛ばした。
「ハハハ、相変わらずだねぇお嬢様は。なぁ、浩侍。」
「あぁ。相変わらずだ・・・。」そう言った浩侍の表情は、カチドキの声掛けに反して浮かばれないものだった。
392【番外篇】凱鬼メイン ◆KxAq6DKEkg :2007/07/25(水) 23:28:50 ID:S3OCRrBd0
「・・・・・未だ記憶が戻ってないんだな。」
「まぁ・・・・・な。・・・・・ただの記憶喪失じゃない。
魔化魍の影響で記憶が喰われたんだからな。そう簡単には取り戻せん。」
そう言ってため息をついて車のトランクを開ける浩侍。
「俺もずっと考えてたんだが・・・・ランキの記憶を喰った個体は清めたのか?」
「・・・・・あのとき、確かにキキさんが清めたはずだ。」
それを聞いてカチドキは少しばかり考える。
「・・・記憶を喰ったのが、コトワスレだけではない。という可能性はないのか?」
「コトワスレ以外に、記憶を喰うようなモノがいるのか?」とカチドキの論を切り捨てるような物言いで切り返す浩侍。
「ヒトの意識の中にあるものを糧とする魔化魍や異形のモノは結構いる。まぁ有名なのは、バクかな。」
「・・・・・バク?」
「なんだお前、バクも知らないのか?
バクってのはヒトの悪夢を喰らって生きる、基本的には無害なモノだ。だが、何かしらの要素が加わると、見境無く憑いたヒトの夢を喰らうようになる。
それがあまり長引くと、憑かれたヒトは記憶を整理する機能が衰えていってしまう。」
浩侍はしばらく考えていたが、「一つの可能性として受け取っておこう」とだけ言うと、別れの挨拶もそこそこにランキの待つ車を三沢空港へと走らせた。
393【番外篇】凱鬼メイン ◆KxAq6DKEkg :2007/07/25(水) 23:31:35 ID:S3OCRrBd0
青森県内、三沢空港。
「ねぇ、ウチの組の自家用機まだなの〜?」
「おかしいですね。もうとっくに到着してる頃なのに・・・。」
そう言って腕時計を確かめる浩侍。アナログの時針は丁度12時をさしていた。
「お腹すいた!何か食べたい!!」人の気など知らずに駄々を捏ねるランキ。
そのとき、浩侍の携帯電話が着信を報せた。画面には『赤司 哲』と表示されている。
「古渕だが。」
「古渕兄貴、申し訳ありません!あっしが組の自家用機飛ばして来てたんですが、低空飛行中に海から物凄い勢いでクジラが潮が噴出しまして!
右翼の風切が利かなくなったんで、機を海に捨てて命からがら脱出用のパラシュートで生き延びたんでさァ。」
「そうか。無事でなによりだ。・・・・・機はもう完全に無理なのか?」
「へぇ、あっしが海に機を捨てたあと、なにやらでっかい妙なモノに引き釣りこまれて残骸だけが海に浮いてます。」
「・・・・・妙なモノ?」
「・・・・・お嬢と古渕兄貴の、お仕事の範疇のものかと。それ以上は皆目、検討つきやせん。」
「そうか。分かった。お前、金は持ってるな?バスだか何だか使って恐山の麓にある、『しゃくなげ』っていう居酒屋に行け。
そして今俺に言ったことをそのまま店の者に伝えろ。あとはなんとかなるはずだ。分かったな。」
電話の男はへいっ、と応えると、お嬢によろしくと言って電話をきった。
「さて、これからどうしたものか・・・。」
完全に予定を狂わせられた浩侍は、とりあえずランキに魔化魍らしきモノが出た旨を告げると、組の本部へ連絡した。
394【番外篇】凱鬼メイン ◆KxAq6DKEkg :2007/07/25(水) 23:35:22 ID:S3OCRrBd0
「フェリー、遅いなぁ・・・。」
青森県日本海側に位置する、とある船着場。
ここには山形に帰るゴウキと山形を経由して宮城へ戻るヒョウキ、同じく山形を経由して福島に戻るキキとサポーターの東屋の5人が“偶然に”居合わせていた。決して作者の陰謀ではない。
「もう10分もオーバーしてるのに・・・変ですね。」とヒョウキ。
周りの観光客も次第に騒ぎ始めた。と、切符売り場の前の拡声器からアナウンスが流れる。
『ただいまお待たせしております、山形行きのフェリーは、船内のトラブルにより運航が遅れております。
ご利用のお客様には大変申し訳ありませんが、もう暫くお待ちいただきますようお願いいたします。』
「船内でトラブル?一体なにがあったんだ?」と、東屋が心配な様子でキキを見つめる。
「・・・・・各々、式神を放て。厭な予感がする。」
キキは全員にそう告げると、腰から3枚のディスクを取り出してステルスにしたあと機動させた。
「おいおい、どうしたのさキキく~ん!」東屋助兵衛。実に喧しい男である。
ゴウキ、ヒョウキはそんな東屋を無視してキキに倣い式神を放つ。
それぞれのケモノたちは、およそ並のヒトには聞き取れぬ声で吠えて海原へと発った。
395【番外篇】凱鬼メイン ◆KxAq6DKEkg :2007/07/25(水) 23:37:42 ID:S3OCRrBd0
「ムツキも将樹も、相変わらず仲のいい師弟よね。」
青森県、八戸港。忘年会を終えて岩手の自宅に帰るため、ムツキは親戚の漁師の船に乗せてもらうことにしたらしい。
ちょうど、岩手で大学時代の友人と忘年会兼、同窓会に呼ばれたミチビキもそれに付いていくようだ。
「まぁ、元々近所で兄弟みたいにしてましたから。」と、先ほどのミチビキの問いに笑顔で答えるムツキ。
「おーい!ムツキやーい!」
突如声のした方を向くと、漁船の上でこちらに手をふる、頭にねじり鉢巻をした男が立っていた。
「あの人が俺の叔父です。猛士の歩もやってるので、気兼ねなく話せますよ。」
そう言ってムツキはミチビキの手をとり、彼女をエスコートした。
その傍らでは、ムツキがミチビキに好意を抱いていることを悟った弟子の武藤将樹が微笑んでいる。
396【番外篇】凱鬼メイン ◆KxAq6DKEkg :2007/07/25(水) 23:40:33 ID:S3OCRrBd0
―― 場所は再び船着場。
「・・・・・やはり魔化魍だったか。」
人気のないところへ移動したキキたちは、戻ってきたディスクを解析した。
ディスクに記録された音が、音叉と鬼笛を介して甲高く響く。
「・・・・・何の魔化魍だ、コレ?」ヒョウキとゴウキには甲高い音の検討がつかない。
それもそのはずである。音の正体は、通常ならば音撃弦で退治するバケガニの脚が軋む音だったのだから、専ら太鼓しか極めていない2人に分かるはずもない。
その音の正体を最初に悟ったのは、音撃管の戦士キキだった。
「バケガニなら前に戦ったことがある。」それを聞いて驚くヒョウキとゴウキ。
「キキさん、音撃管でどうやって!?」とヒョウキ。
「俺は音撃弦も習得しているからな。」キキは顔色ひとつ変えずに淡々と答える。
「だが今日は管しか持って来ていない。俺は専ら童子たちの相手だな。」
「そんなぁ〜」と、ため息をつく太鼓専門の2人。
「大丈夫だ。バケガニは太鼓でも倒せない相手じゃない。要は清めの音を響かせればいいのだからな。」
「成るほど、じゃあ2人で挟み撃ちにでもしよか。」と、一気に元気を取り戻すゴウキ。
そのとき、船着場のほうで何かが崩れるような爆音が轟いた。
各々の脳裏に最悪の事態が過ぎり、研ぎ澄まされた感覚をもつ鬼たちは間髪入れずに駆け出す。
船着場には案の定、上陸したバケガニが両の鋏を振り上げて人間を威嚇していた。
その背には怪童子と妖姫が乗り、今まさに我が子の餌を狩ろうと降り立ったところだ。
船着場にいた人間たちは、誰もが目の前で起こった事態に我が目を疑い、悲鳴をあげる者や立ち尽くす者と様々だった。
「ヒョウキ、ゴウキ!まずは一般人の安全を確保する!」
そう言って鬼笛を吹き鳴らし、間欠泉のように吹き上がる水を纏って変身を完了させる酒鬼 ― キキ ―。
ヒョウキとゴウキもそれに倣い、一瞬にして氷結した氷柱を破って雹鬼が、雷を右手で払って業鬼が現れた。
397【番外篇】凱鬼メイン ◆KxAq6DKEkg :2007/07/25(水) 23:42:59 ID:S3OCRrBd0
「鬼法術、霧酒洗礼!!」
掛け声と同時に、酒鬼と雹鬼が地に掌をつける。次の瞬間、地面から霧状になった酒が噴出された。
「今だ、業鬼!」
「押忍!鬼幻術、地雷矢!!」
業鬼は体を大の字に開き、全身から雷を放出した。さきほど噴出された霧状の酒が電気分解されて、アルコール濃度が高くなっていく。
「・・・・・業鬼、もういいぞ。」
酒鬼がそう言った頃には、その場にいた一般人全員がアルコールを吸って酔いつぶれてしまっていた。
「さてと・・・バケガニの親御さんよぉ。もしかしてここに来る前に船をひとつ襲ったりしたか?」
酒鬼の問いかけに、笑みで返す怪童子と妖姫。
「我らの子は大きくなった・・・このまま里へ行こうと思う。」
「お〜にさ〜んこ〜ちら。手〜のな〜るほ〜うへ。」と、怪童子が3人の鬼を挑発する。
「・・・業鬼、落雷氷柱だ。」そういって両の手を前にかざし、空気中の水分を怪童子の頭上で氷結させる雹鬼。
それに呼応するかのように、業鬼も雷の気を雹鬼の作り出した氷柱に纏わせる。
「喝ッ!!」
雹鬼が気合を放つと同時に、怪童子の頭上にあった氷柱が勢いよく落下。雷を帯びた氷柱は怪童子の脳天を貫き、彼を塵へと帰す。
突然の容赦のない攻撃に、二、三歩ほど後ずさる妖姫と、戦意バリバリの3人の鬼。

両者の睨み合いを皮切れに、これから2日間ほど続くバケガニ総進撃の火蓋が切って落とされた。
398凱鬼メイン作者 ◆KxAq6DKEkg :2007/07/26(木) 00:43:20 ID:9tVkX07o0
【小ネタ】東北十鬼、音撃戦隊オニレンジャー!【総本部宴会にて】
宴会会場のステージを埋め尽くす、色とりどりの炎やら風やら雷やら水やら・・・。
暁「我が身も焦がす紅蓮の炎!東北十鬼一ノ鬼、暁鬼!!」
厳「燻し銀は不屈の証!東北十鬼二ノ鬼、厳鬼!!」
凱「蒼の炎は魔の眼(まなこ)をも焼き尽くす!東北十鬼三ノ鬼、凱鬼!!」
酒「宴の酒は芳しくとも、鬼の酒は人気を惑わす!東北十鬼四ノ鬼、酒鬼!!」
業「身長的には難あれど、業師の軽業見ておくれ!東北十鬼五ノ鬼、業鬼!!」
迅「我が迸る愛刀を以って哀悼を捧げん・・・東北十鬼六ノ鬼、迅鬼。」
雹「デカイだけが取り柄じゃない!細かい術にも長けている!東北十鬼七ノ鬼、雹鬼!!」
導「全国唯一の三味線の遣い手!東北十鬼八ノ鬼、導鬼!!」
睦月「愛弟子のためならどこまでも!東北十鬼九ノ鬼、睦月鬼!!」
嵐「彼氏ボシュー中だから後でアタシに興味ある人は東北支部の座席まで会いに来てねぇー♪東北十鬼十ノ鬼の嵐鬼ちゃんでぇーっす!」
東北十鬼「我ら、音撃戦隊オニレンジャー!!」

会場「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

反省会。於、東北支部座席
暁「だから止めろと言ったんだ・・・(泣」
導「いいじゃないですか、楽しかったし!」
凱「あれ、雹鬼と業鬼は?」
睦月「関東のエイキって人に気に入られて、あっちで話してるよ。」
エイキ「身長低いって、結構コンプレックスだよね。」
業「まぁ・・・ね・・・。」
酒「も〜どうにでもなれぇ〜・・・ヤケクソだぁ〜・・・。」
厳「ん、嵐鬼はどこ行った?」
迅「奴なら北陸の若い鬼と何所かに行っちまったァ。」
399凱鬼メイン作者 ◆KxAq6DKEkg :2007/07/26(木) 00:51:20 ID:9tVkX07o0
一同(首から下は鬼の姿のままで・・・?)
凱「まさかアイツ、やる気じゃないだろうな・・・。」
暁「おい!手分けして嵐鬼を探せ!!古渕はどこ行った!?」
導「北陸支部の人たちにも手伝ってもらわないと・・・!」

その後、何ヶ月間か北陸支部のある種ゴシップ好きな人間によって、ランキのヤリ○○伝説が流され、
その伝説が冷め切るまで、東北支部へランキ宛に何通からか男性からの文が届いたという。
400凱鬼メイン作者 ◆KxAq6DKEkg :2007/07/26(木) 00:52:21 ID:9tVkX07o0
ついにやってしまった。反省はしている。だが私は謝ら(ry
音撃戦隊オニレンジャーというネーミングはもしかしたら既存のSSと被っているかもしれない。
もしそうだったら、先に謝る。ごめん。私が悪い。でもきっと凱鬼も心の中では(ry
・・・ともかく、これからも凱鬼SSをよろしく。ほら、デネブキャ(ry
401名無しより愛をこめて:2007/07/26(木) 09:34:30 ID:r7kwstD50
凱鬼がまさかここまでの中二病小説だとは思わなかったぜ
402名無しより愛をこめて:2007/07/26(木) 12:52:24 ID:247JVQscO
心無い言いかたするねぇ。感想の一つとしてはアリだろうけど、
言葉選びとか、ageる必要があるかとか、も少しアタマ使ってもイイんじゃない?
作者は特にレスとかいらないから、これも批評の一つとして受け取って、今後に活かしてほしい。
403名無しより愛をこめて:2007/07/26(木) 21:59:12 ID:r7kwstD50
凱鬼SSが実は中高生向けの小説だったとは驚かされました。
そういえば今までのストーリーや基本設定などを見ても中学二年生あたりが喜びそうな要素が多分に散りばめられていましたね。
おそらく作者さんのメンタリティもそのあたりの年齢層と合致するところがあるのでしょうね。
今後のご活躍を期待いたします。
404名無しより愛をこめて:2007/07/26(木) 22:43:48 ID:UD/G4u/00
心無い(ry
405名無しより愛をこめて:2007/07/27(金) 01:42:49 ID:NIt2VBXMO
厳しい意見かも知れんが、テーマが見えんのだよ凱鬼さん
406名無しより愛をこめて:2007/07/27(金) 10:06:36 ID:ar8rKzTm0
俺は中二小説だと割り切って読んでたけどな。

テーマが見えんというよりは単に響鬼を自分好みに焼き直しただけに感じる。
他の作者が響鬼と言う作品を違うアプローチで表現しようとしているのに対し
て、凱鬼の作者は単に鬼が活躍する話を書きたいだけに思える。

作者には申し訳ないんだけど、これが率直な感想かな。
407名無しより愛をこめて:2007/07/27(金) 18:09:15 ID:yPNcJmmdO
406
それでいいんじゃね?
408名無しより愛をこめて:2007/07/27(金) 20:23:02 ID:6/EDBqHV0
>>406
オレも同意。
409名無しより愛をこめて:2007/07/28(土) 01:02:03 ID:gB/njGXz0
響鬼オリジナル・フィギュア
 ttp://ameblo.jp/hibikikurenai/entry-10041282508.html
410名無しより愛をこめて:2007/07/28(土) 10:01:31 ID:J8rncDW80
轟鬼 「乾杯ッスー」
威吹 「お疲れ様ですー」
轟鬼 「響鬼さんは誘わなかったんスか?」
威吹 「誘ったんですけど、都合が悪いって。明日夢君と何かあるみたいです。」
轟鬼 「明日夢君は、響鬼さんの弟子にはならないんですかねぇ。素質あると思うんスけどねぇ。」
威吹 「響鬼さんにお尻狙われてるって、薄々気づいてるんじゃないですか?だから避けてるんですよきっと。」
轟鬼 「ブッ! ちょっ、威吹鬼さん、それは無いですよ!響鬼さんそんな趣味ないでしょ!?冗談スよね!?」
威吹 「本人に確かめた訳じゃないですけど、間違いなくそうですよ。轟鬼さん、気づきませんでした?」
轟鬼 「いやー、全然気づかなかったッス。って、威吹鬼さん、たちの悪い冗談はよしてくださいよ〜。」
威吹 「でも、今日だって変身解いた後、裸の斬鬼さんの股間とかチラ見しまくってましたよ?」
轟鬼 「え〜、マジッスか〜!? 威吹鬼さん真剣な顔してるから、だんだん冗談に聞こえなくなってきたっスよ〜。」
威吹 「最近、音撃の後の掛け声が「ハァッ!」から「アッー!」に変わってきてますから、聞いてみてください(笑)」
411名無しより愛をこめて:2007/07/28(土) 10:13:34 ID:VRmAQSKI0
イヤァン*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘д‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・* !!!!!
412名無しより愛をこめて:2007/07/30(月) 20:00:50 ID:nqd4HOTu0
SS投下はないのかい?
413名無しより愛をこめて:2007/07/30(月) 21:29:04 ID:aYgpmKDJ0
>>412
不思議な事にある時は重なるし、無きゃ無いでしばらく誰からも無いんだよな
まぁ気長に待つよ
各作者さん方もそれぞれのペースで無理なくゆるゆると
414志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/08/01(水) 13:31:07 ID:J9g8FTzT0
前回は>>364-370

十五之巻 突き抜ける拳

目の前にいる凶鬼――桐矢京介――は響鬼に向かってゆっくりと音叉剣を構え、向かってきた。
 響鬼は両手の烈火を反射的に構え、その一の太刀を防いだ。
「やめろ、京介!」響鬼は懸命に制止するが、凶鬼はそれを受け入れる様子は全く無かった。
 凶鬼の鋭い太刀筋を寸前で防ぎ、上段から振り下ろされる音叉剣を交差させた烈火で受け止める。
 互いに力が入っているのか、二人の動きはそのまま硬直した状態になった。
「流石は響鬼装甲。凄い力ですね」凶鬼は感心した様に言う。響鬼は冷静を装いながらも凶鬼の身体能力に内心驚いていた。
 見かけは鬼の通常形態と同じ様だが、力は響鬼装甲に近いものを持っている。
『これが純血の鬼とやらの力なのか』響鬼は京介の隠された能力がよもやこれ程とは思っても見なかった。
 それもその筈である。ヒビキが最初に京介に出会った頃、京介はどちらかと言えばモヤシっ子といえる部類の少年だった。
 確かに勉強は人並み以上に出来ているらしく、その面では頭脳は優れていたようだ。
 しかし、細いが筋肉質に見える見かけの割には運動と呼ばれるものは全くと言って良いほど出来ず、病気や怪我を偽って授業に参加する事すら拒んでいたという。
 物質的に不自由は無かったとはいえ、唯一の肉親である母と離れて暮らすという感受性の豊かな年頃にはやや辛い環境に育ったせいか、京介は精神的に脆く幼い点が多かった。
その脆さは望む事を成す為には不正でも行うと言う手段を選ばないところや、事ある毎に自分の有利になる土俵でのみ勝負を挑み、他者の上に立つという子供じみた傾向に現れていた。
 ヒビキはその精神的幼さを是正するべく、修行当初はあまり京介を叱らず、良いところを見つけてはひたすら誉めると言う子供の特性を伸ばす時の様な方法を取った。
 その点では明日夢に対する鍛え方とは正反対のやり方をしたといえる。
 実際、明日夢にはあまり深入りしすぎずに距離を置いてそっと見守りながら、適切に進むべき方向を示すように接していた。
 それは明日夢が京介よりも精神的に成熟していたからであり、ある意味大人と同様に接する形の方が相応しかったからでもある。
415志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/08/01(水) 13:32:26 ID:J9g8FTzT0
 明日夢が自らの進むべき道に迷いを持った時にヒビキが突き放すようにして破門したのも、明日夢ならば自分一人で答えが見つけ出せるであろう事を見抜いたからだった。
 事実、一年後に再会した明日夢は自分の進む道をしっかりと見据えた成長を見せており、ヒビキは自分の判断が決して間違っていなかった事を確信したのだった。
対して、京介には徹底して傍について鍛える様にしてきた。
 魔化魍の退治に関しては問題が生じないと判断できるまでは同行を許さないようにしていたが、ヒビキ自身が持てる技術は惜しみなく伝えた。
 京介はヒビキのその真摯な態度に深い尊敬と信頼を寄せ、その期待に応えようと努力を続けた。
僅か一年程で京介が体を変化させられる迄に心身ともに成長したのは、京介本人が自らを鍛えに鍛えた結果によるものであろう。
しかし、もともとの京介の身体能力から考えるとそれは尋常ではない速度の成長であり、その早さの裏側にはこういう事情もあったのかと思うと、響鬼にも得心する部分があった。
 徹底して鍛えたことにより、京介の中に眠っていた鬼の血が覚醒を始めたのだろう。
 恐らく、あの男女によって覚醒し始めた鬼の血が利用されているのは間違いない。
京介をこのまま闇に堕とさせる訳には行かない。絶対に助け出さねばならなかった。
「目を覚ませ、京介!」響鬼はぎりぎりと烈火に食い込む凶鬼の太刀を防ぎながら、搾り出すように再び呼びかけた。
416志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/08/01(水) 13:33:16 ID:J9g8FTzT0
 しかし、当の京介はそれを聞こうとはしなかった。
「話しても無駄だと言った筈だ!」烈しい声と共に音叉剣が烈火の吽を切断する。
 響鬼は太刀を素早く避けると、右手の阿を眼前に構えた。
 しかし、霊木である屋久杉で出来たその撥も大きく傷が入り、到底次の太刀が防げるとは思えない。
 響鬼は傷を確認するや音撃棒を背中に回すと、腰にある装甲声刃を両手に構えた。
「それでいいんですよ…………。見せて貰いましょうか、装甲声刃の力とやらを!」
 凶鬼は再び振りかぶると上段から響鬼に向かって襲い掛かった。
「京介!」響鬼は烈しい気合を以って音叉剣を薙ぎ払った。
 がきぃん、と音を立てて折れる音叉剣。折れた刀身は横に飛び、離れた床に突き刺さった。
「……ふ……ふふふ……」びりびりと痺れるであろう腕を力で押さえるようにして嗤う凶鬼。
「矢張り、強い。……だからこそ、響鬼さん、貴方を倒せば俺は最強の『鬼』になれる」そう言うと音叉を腰に括り、腰から取り出した黒い装甲声刃を手前に引き寄せて響鬼と同じように構えた。
「凶鬼、……魔装」呟くと同時に柄のスイッチを押す。それに反応して鍔の横にある黒い鬼の顔の装飾のあたりから黒い霧がぶわっ、と噴出した。
 霧は凶鬼を覆い、凶鬼の周りにさっき以上の黒い炎が噴き出す。
「これは!?」
「俺も出来るんですよ……。貴方と同じ様にね!」驚く響鬼の前で、黒い炎を振り払って、凶鬼魔装がその姿を現した。
417志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/08/01(水) 13:34:01 ID:J9g8FTzT0
不意に彦の動きが鈍くなったように感じた。
先程まであれ程鋭かった拳や蹴りが急に精度を欠いてきている。
疲れたのか、と疑ってみたが、クグツのような魔化魍にスタミナ切れは無いという事は既に一撃鬼自身が良く知っている事だった。
 強いて魔化魍の動きが鈍くなるとすれば、着実に体の各部に損傷を与える事でその身体機能を低下させる事以外には考えられる事象は無い。
 押され気味で確かな損傷を与えられなかった状況から、身体機能の低下という線は一撃鬼の中から既に消えていた。
 また、それと同時に先程から一撃鬼がいぶかしんでいた彦の感情の発露も現れなくなっていた。
 どちらかと言えば、先般面をつけていた頃の彦や比売の感じに戻ったと言うべきか。
 しかし、外観が鬼のように変わり、その持てる能力が向上したと言う変化が既に現れていたせいか、特段に弱くなったと言う感じはしない。
『どういうことだ……』一撃鬼は相手の変化に僅かながら戸惑いを隠せなかった。
『しかし、これで付け込む隙が出来たとも言える。チャンスは少ないだろうが、さっきよりはマシかもしれない』一撃鬼はそう思い直すと烈光を構え、反撃に転じた。
 一方、醜男に向かっていた裁鬼も一撃鬼が戸惑うのと同じ様に、先程まで勝ち誇るように物を言っていた醜男が不意に黙って向かって来る事に違和感を覚えていた。
『妙だ。まるで憑物が落ちた様に変わっている気がする』そう思ってから、裁鬼の中である連想が生まれた。
『どう変化しようとも奴等は傀儡だ。操る奴で能力にも差が出るとすれば、もしかすると……』徐々に考えが確信めいたものに変わってゆく。
「一撃鬼!」裁鬼は一撃鬼を呼んだ。彦の攻撃をかわしながら一撃鬼が返事をする。
「操り元が何かの事で止まっているんだ! 勝てるぞ!」
 裁鬼はそう叫ぶと醜男の突きを眼前で見切り、右の閻魔で醜男に斬りつけた。
 間合いは浅かったが、さっきの様に押されてはいなかったので閻魔は醜男の体を深めに斬った。
『入る!』裁鬼はこの一撃で確信した。明らかに奴等の動きは鈍くなっていると。
 裁鬼と一撃鬼は醜男や彦の技の切れについてゆくことで、短時間でその動きに慣れていった。
 従って、僅かな動きの鈍化であっても、それは裁鬼たちに有利に働くこととなっていったのだった。
418志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/08/01(水) 13:34:47 ID:J9g8FTzT0
「……少し、拙いわね」離れた所から趨勢を見守っていた女が男に言った。
「あの子鬼め、自分の分を忘れた様だな」男は腕組みをしながら苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「今ならこちらの呼びかけにも言うことを聞くんじゃないかしら」女はそう言うと持っていた傘を前に差し出した。傘の先は男の指先と同じ様に銀色に輝いている。
 傘の先にいる彦は拳を瞬時に止めると身を引き、構えを変えた。体重を後ろに六割ほど載せる様な姿勢で右半身に開いて構えている。右手は腰の辺りに置き、左手を前に翳す。
『何か来る』一撃鬼はその構えから何かが繰り出されるとすぐに判断した。が、間に合わなかった。
一瞬の間の後、一撃鬼は体の動きを封じられた。
 すかさず駆け寄ってきた彦の右足を腹に打ち込まれる。
 一撃鬼は悲鳴を上げる間もなく後方に弾き飛ばされた。
「一撃鬼!」一瞬の出来事に裁鬼が叫ぶ。
しかし、一撃鬼の動きが封じられたのは僅かの間に過ぎなかった。
 一撃鬼は縛が解けた瞬間に何とか受身を取ると、彦の次の攻撃に備えた。
『……あの構えから不動縛が来るならば、……読みきってみせる!』一撃鬼は唇を噛んで、その間合いを計った。
「ふ、あの鬼、縛を破るつもりのようね」女は面白そうに笑ってクグツに傘を向けた。
「……奴を侮るな。縛のかかりが浅いことを見破られたかもしれん」いつもとは逆に男が慎重そうに言う。
「破ったなら破ったで、それもまた面白いんじゃない?」女は男の方をみて、にっこりと笑った。
「…………ふ。まあ、それもそうか」男も思わずその微笑に唇を歪めた。
「では、私はこっちの相手をしようか」そう言うと右手の指を醜男に向ける。
 醜男もまた拳を止めて構え始めた。こちらは体を正面に開き、膝を曲げて腰を落とす。
 中国拳法などで見る『騎馬式』という構えだった。
 醜男は両手を前に突き出すとゆっくりと気を溜め始める。
 裁鬼は追撃に踏み込もうとする足を止め、様子を伺った。
 一見、隙だらけに見える構えに全く踏み込む隙が見えなかったからだった。
 醜男の周りの空気が歪んだかと思ったその瞬間、見えない気弾が裁鬼に向かって撃ち出された。
『拙い!』裁鬼がそう思った刹那、気弾が体に命中し、裁鬼は大きく後方に弾き飛ばされた。
419志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/08/01(水) 13:42:27 ID:J9g8FTzT0
「ぐはっ!」裁鬼は地面に仰向けに叩きつけられ、口から血が吹き出した。
 醜男は裁鬼を追撃するでもなく左に体を開いて腰を落としている。右手は手刀の形を成してこちらを向いていた。
「……やるじゃないか」裁鬼は小さく呟いてから、ゆらり、と立ち上がると両手の音撃弦を構えて四肢に再び力を籠めた。
『戦い方がまた変わった。……さては操り手が交代したか』裁鬼は醜男の攻撃から結論を導き出した。 
さっきの気弾で体は相当のダメージを受けている。万が一、醜男の次の攻撃が入った時に耐え切れるかどうかは当の裁鬼本人にも読めなかった。
「どう来るか、読みきるしかないが……」裁鬼はそう独白すると両脚に更に力を籠めた。
 残存する体力は多分醜男に分がある。ここは敵の攻撃を読みきって駆け寄り、音撃斬を決めるしかない。
 恐らくそのチャンスは一回きりだろう。
 体術で攻めてくるか、あるいは気弾か。
傀儡の操り手がそうころころと変わるとも思えない。
 裁鬼はクグツが気を放つ方に賭けた。右手で極楽を爪弾くと全神経を研ぎ澄まし、醜男に定める。
一方、賭けをしたのは一撃鬼も同じだった。
 彦の動きを読みきるために精神を集中し、それ以上の事は考えなかった。
『奴が使ってくるのは不動縛と鬼封呪だ。今はそれ以外にはあり得ない』何故そんな根拠の無い考えに至るのかとも思ったが、不思議とそう考えるのが一撃鬼の中で一番しっくり来ていた。
 一撃鬼も裁鬼と同様に敵の動きを読みきった上で接近し、右拳による音撃を撃ち込む事を決めていた。
『ワンチャンス、ワンアタックだ。失敗すれば、後は無い……!』腹部に入った一撃は相当のダメージだ。肋骨の二、三本が折れたであろう事は覚悟しなければならない。
 一撃鬼は左手の音撃弦を強く握ると、右の拳に装着された白銀招に清めの音を送るべく、腰の音撃震・瞬光を爪弾いた。
 清めの音が右腕に伝わる。
 腹部に強い痛みはあったが、一撃鬼はそれに耐えて振り払うように一気に彦に駆け寄っていった。
「姑息な」女は呟くと彦にそのまま縛を放つよう気を放った。
 一撃鬼と呼吸を合わせる様にほぼ同時に醜男に駆け寄る裁鬼。醜男の方もまた、裁鬼に気を放つ。
 一撃鬼が彦の攻撃を見切るのと裁鬼が醜男の攻撃をもろに喰ったのもほぼ同時のことだった。
420志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/08/01(水) 13:43:30 ID:J9g8FTzT0
 一撃鬼は気の動きを見切り、大空に飛翔した。
 裁鬼は気を全身に浴びたが、それに縛られる事も打ち倒される事も無く、そのままその気の流れを突っ切った。気を放った醜男に一気に肉薄する。
「莫迦な!?」その様子を遠くから見ていた男の顔が歪む。
「縛が効かぬなどと、そんな筈は無いが……」男は少し呆然とする様に独り言を言った。
一瞬の形勢を分けたのは、まさにここだった。
 裁鬼は醜男が不動縛に来る可能性を打ち消し、気弾で来るほうに賭けていた。
 しかし、操り手の男は不動縛で裁鬼の動きを封じよとクグツに命じた。
 その縛を喰らったにも関わらず裁鬼が止まらなかった理由はわからないが、裁鬼の動きが不動縛では封じられなかったのだ。
「くらえ!」気力の放出から立ち直らない醜男の首の右側を右手の閻魔で切り裂く。
 白い血を吹き、ぐらり、と醜男の体が傾く。
 裁鬼は返す刃で醜男の体を突き刺し、左手の釈迦を突き立てると、腰の極楽を掻き鳴らした。
「音撃斬・閻魔裁き!」烈しく掻き鳴らした後、両手の音撃弦を交差させて醜男の体を両断する。
 醜男は爆音と共に塵に帰り、裁鬼は音撃弦を持ったまま、力が抜けた様にその場にがくり、と膝を落とした。
 一方、彦の不動縛を見切った一撃鬼も彦の上に飛び上がると、その頭上に右拳の一撃を見舞った。
 音撃となった拳によって彦の頭が体にめり込む。
 一撃鬼は更に左手の烈光を彦の体に突き刺し、背後に立つと半身になって音撃斬・閃光裁きを注ぎ込んだ。
「今度はお前達が封じられる番だ…………破あっ!」
 閃光裁きの清めの音によって全身を白く発光する彦の正面に回り、その腹に白銀招の煌く渾身の一撃を打ち込む。
 鬼のような体を持った銀クグツの最後の一体はその右拳に腹部を打ち抜かれ、爆裂、四散した。

(十六之巻へ続く)
421志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/08/01(水) 13:47:29 ID:J9g8FTzT0
>>413
お気遣いありがとうございます。
時間の都合で書けたり書けなかったりで不定期みたいになって申し訳ないですが、気長にお付き合いいただければありがたいです。
あまり待たせないようにはしたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。
422名無しより愛をこめて:2007/08/01(水) 18:38:22 ID:KluRf5wD0

今日も投下ごくろうさま。

でも、あんまり頑張りすぎないでね。

あたし、

       金麦と待ってるぅー!(次の投下を)
423名無しより愛をこめて:2007/08/02(木) 00:24:24 ID:/3ScVmbU0
        __
    SUNTORY
   彡 金 麦 羊
   夫 /⌒ノl) 羊
   夫 ( (゚ヮ゚)) 彡  マッテル〜
    \ ∩ ∩/
         ̄ ̄
『音撃待・SUNTORY金麦の型』
424名無しより愛をこめて:2007/08/02(木) 23:39:11 ID:rwAcjb1z0
コナユキさん三票

絶対このスレの誰かがひそかに投票してるだろ?w
425名無しより愛をこめて:2007/08/03(金) 00:09:45 ID:Pv8QWm/K0
またそんな荒れやすい話題を……







どれ、俺も一票入れてくるか
426名無しより愛をこめて:2007/08/03(金) 14:53:09 ID:5R8qVy2zO
投票って何の話?
427名無しより愛をこめて:2007/08/03(金) 23:58:09 ID:8qW3ZxUa0

SS作成がんばってください。

あたしは、

あたしはね、

         金
         麦
         と
         待
         っ
         て
         る
         ぅ
         |
         !

           (次の投下を)

檀れいさん可愛いと思う。
428名無しより愛をこめて:2007/08/04(土) 01:27:08 ID:rIFAY6QC0
>>427
禿同
金麦片手にSS・・・・・・。
ちょっと優雅。
429名無しより愛をこめて:2007/08/05(日) 01:16:21 ID:aNQhemrI0
そろそろ瞬過終闘の続き読みたいっす。
430名無しより愛をこめて:2007/08/06(月) 09:52:18 ID:uZ9QKD4a0
新番組 仮面ライダー金麦鬼

「金のうまさに、麦のコク!三鶏流 十四代目 金麦鬼、見参!」
「最初に言っておく!俺は味とコクが違うぜ!」
「くらえ!音撃打!格安発泡酒の型!」
先輩鬼は山崎鬼。十二年のベテラン。

檀れいさんもいいけど、金麦って価格の割りにおいしいと思う。
431新番組 仮面Rider-Jump!!:2007/08/07(火) 15:50:16 ID:4AmQevGN0

432名無しより愛をこめて:2007/08/08(水) 00:56:41 ID:oDIXoRr80
        __
    /)._|_|_.(\
   /\[   ]/ヽ
   |\二◎二/|
   ヽノ|ヽ_/|ヽ /
    ヽミ゚w ゚彡/ ……。
         ̄ ̄
 『瑠璃狼・ディスク形態』
433名無しより愛をこめて:2007/08/08(水) 21:58:41 ID:MhttSgZ70
新番組 仮面ライダーキツネ憑鬼
              
              
              
              
              
434名無しより愛をこめて:2007/08/09(木) 22:11:07 ID:LeAvAYNB0
test
435名無しより愛をこめて:2007/08/09(木) 22:48:26 ID:sQ1fRLW/O
響鬼本スレはもうたたないんですかね…
436名無しより愛をこめて:2007/08/09(木) 23:35:53 ID:uKjaL8ed0
無いなら立てればいいんじゃないかな。






























裁鬼本スレはもうたたないんですかね…
437名無しより愛をこめて:2007/08/10(金) 00:13:15 ID:1WqXIVry0
>>436
では、君が立ててくれ
438高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2007/08/12(日) 13:34:16 ID:YSCcyNF40
プロバイダ変えた途端、アク禁に巻き込まれたorz

今、自宅以外の所からカキコしてます。
前回投下から馬鹿みたいに間が空いたけど、そういう理由だったわけです。
別に間が空いたからっていつもより面白いわけではないです。
いつも通り暇潰し用としてお読み下さい。それではどうぞ。
439仮面ライダー高鬼「狂い笑う面」:2007/08/12(日) 13:36:20 ID:YSCcyNF40
1979年、睦月。北陸支部。
この日、センメンキは弟子の柿崎香菜と共に、戦闘に使用する霊面の整理をしていた。事務所内の一番大きな部屋に全ての霊面を並べて、二人で手入れやチェックを行っている。
「……こんなにあったんですね、霊面」
香菜がぼやくのも無理は無い。センメンキは普段戦闘に用いている物だけでなく、自宅に保管してある全ての面を持ってきていたのだ。
無論、全ては日々激しさを増す魔化魍との戦いのためである。いつも使っている仮面だけでは、これからの戦いは厳しくなるだろうと判断したのだ。
と、とある面を手にしたセンメンキの動きが止まった。みるみるうちに表情が変わっていく師に、香菜が不安げに声を掛ける。
「……センメンキさん?どうしました?」
「……参ったな。まさかまだ残っていたとは……」
センメンキが手にしているのは、一見ごく普通の能面に見える。だが、口では上手く説明出来ないものの、何か異様な雰囲気を放っているのが香菜にも分かった。
「これは『肉附きの面』だ」
香菜に対しセンメンキが説明を始める。
「霊面には違いないのだが……一度被ると自分の力では取れなくなってしまうという厄介な代物だ」
「呪われた装備というやつですか……」
「しかもこれは、被るとその人物の能力が極限まで引き出される代わりに、一種の暴走状態に入り修羅と化してしまう。てっきり先代が処分したとばかり思っていたのだが……」
迂闊だった……、そう頭を押さえながら呟くセンメンキ。
「……あの、それでその仮面はどうするんです?」
「うん?ああ、これはとりあえず本部に送ろうかと思う。あそこなら保管するにしても処分するにしても、ちゃんとした設備が整っているからね」
そう告げるとセンメンキは面を手に立ち上がった。早速吉野へと送るつもりのようだ。……確かに、下手にこの支部に置いておくのは色々と不味いだろう。
「……あの、でも、もし間違って本部の人がこの面を被っちゃったらどうします?」
「ははは。こんな曰く付きの面をわざわざ被る物好きなどいる筈がないだろう」
「そうですよね。そんな間抜けな人が本部にいるわけがないですよね」
二人は声を合わせて笑うのだった。
440仮面ライダー高鬼「狂い笑う面」:2007/08/12(日) 13:40:08 ID:YSCcyNF40
吉野総本部。研究室。
その日、開発局長の南雲あかねとコウキは、ここ数年間に起きた例の男女絡みの事件について整理していた。
「1974年、日本全国でのノブスマの発生。更にその変異体であるヤマチチの出現を確認。1975年、『聖域』に童子と姫の強化体が出現するも詳細は不明……」
淡々と口に出しながら、ホワイトボードに時系列順に書き記していくあかね。
「1976年、紀伊半島沖での水棲魔化魍の大量発生及び『人食い島』での神代の魔化魍の復活。1977年、那智勝浦でのカッパの養殖。1978年、関西支部を含めた六つの支部で画霊の出現を確認……」
「……関西に出たあれには参った。調子が狂いまくりでしたよ……」
「そして記憶に新しい昨年の『京都動乱』でのスクナオニの復活……。とりあえず関西支部の管轄内で起こった、例の男女絡みの大きな事件のみを取り上げてみたけど……」
他の支部からの報告も合わせると随分な数になるわよ、とあかねが言う。
「特に北陸支部ではそれが顕著ね。数年前、宗教団体の教祖を煽って一騒動起こしたそうよ」
「あの連中が人と関係を!?そんな馬鹿な……」
「でも事実だからね。今まであの連中は節操無くただ実験を繰り返しているだけかと思ったけど、こうしてみると何かこう……」
切羽詰まったものが感じられないかしら、とあかねは言った。焦りのようなものも感じられるわね、とも。
コウキが何かを言おうとした時、誰かが室内へと入ってきた。司書の京極だ。手には何やら匣を抱えている。
「あかねさん、例の物が北陸支部から届きましたよ」
「あら京極くん。わざわざ届けに来てくれたんだ」
「何ですか、それは?」
コウキの問いにあかねは匣を受け取ると、蓋を開けて中身を見せてやった。中には、何やら札を貼られた古い面が入っていた。
「仮面……?」
「肉附きの面と言って、ちょっと厄介な代物なのよ。本部が管理する事になったんだけど、その前に少し研究してみようと思ってね」
厄介な代物という意味がコウキには気になって仕方がない。そんな彼の心情を酌んでか、京極があかねから仮面を受け取ると、貼られてあった札を剥がして……。
441仮面ライダー高鬼「狂い笑う面」:2007/08/12(日) 13:41:25 ID:YSCcyNF40
「僕がこれを被ったらすぐにお札を貼って下さい」
そうあかねに告げると、仮面を被る京極。
「UREEYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!」
「きょ、京極くーん!」
「あかねさん、早くそのお札を!」
コウキに言われ、慌ててあかねが札を面に貼り付ける。と同時に京極は奇声を放つのを止め、仮面は彼の顔から剥がれ落ちた。
「ふぅ……。見ての通りすぐに札を貼れば面は剥がれる。だがしかし、時間が経てば経つ程面は顔に食い込み、同化し、二度と剥がれなくなる」
どうやら想像以上に厄介な代物のようだ。
「まあ精々一時間が限度だな。それ以上経つと札を貼ろうが何をしようが仮面は顔から取れなくなる。その人物が死ぬまでね」
そう言う京極に対しあかねは。
「勿論こちらとしても取り扱いには最善の注意を払うつもりよ。雲外鏡の時みたいになったら大事だからね……」
「こんにちは〜!……あれ、どうしたんです?皆さんお揃いで」
ニシキだ。立ち並ぶ三人を見て、不思議そうにしている。
「ああニシキくん。修理に出してた弦を取りに来たんだよね。そこの作業机の上に置いてあるから……」
「あ、これですね」
自身の音撃弦・剣心を手に取り、嬉しそうに笑うニシキ。
「今日は石川と一緒ではないのだな」
「やだなコウキさん、四六時中あれと一緒なわけ無いでしょうが!……ところで何です、この仮面?」
そう言いながらニシキは肉附きの面を拾いあげると、札を剥がしてまじまじと見つめだした。
「やけに古ぼけた仮面やないですか」
「馬鹿、よせ!」
被ろうとするニシキから仮面を奪い取ろうとコウキが手を伸ばす。
「ええやないですか。減るもんでもないし」
「そういう問題じゃないんだよ!いいから離したまえ!」
だがニシキもまた、頑に手を放そうとしない。揉み合い始める二人。と、その時。
「あ」
勢い余って、ニシキがコウキの顔面に仮面を押し付けてしまったのである。仮面は見事に彼の顔に嵌り、そして。
「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!」
コウキが奇声を上げる。慌てて京極がニシキから札を奪い、仮面に貼り付けようとするが。
「うわっ!」
コウキはニシキと京極を突き飛ばすと、そのまま研究室の外へと飛び出していってしまった。
442仮面ライダー高鬼「狂い笑う面」:2007/08/12(日) 13:43:42 ID:YSCcyNF40
それからの各人の対応は実に迅速だった。仮面の力で暴走したコウキを止めるべく、急遽関西支部に来ていたセイキとドキが呼ばれ、ニシキと共に後を追っていった。
「この札を貼り付ければいいんだな?」
「そうです。俺達三人でなら楽勝でしょう!」
俺だけでも充分なぐらいだぜ、と札を手にしながらセイキが嘯いてみせる。
漸くコウキに追いついた三人。だが。
「おいおい、嘘だろ……?」
彼は既に鬼へと変身していたのだ。変身の過程で全身炎に包まれる筈なのに、相変わらず仮面は高鬼の顔面を覆っている。肉体と仮面とのミスマッチ感が実に不気味だ。
高鬼が音撃棒・大明神を構えた。やる気満々のようだ。
「おい!こんなの聞いてねえぞ!」
「いや、俺に言われても困りますって……」
ニシキの首根っこを掴みながら、セイキが喚き散らす。
「本気の高鬼さんなんて、バキさんかイッキぐらいしか止められねえぞ!」
しかし残念な事にバキはいつもの如く任務明けにそのまま失踪、イッキも今は山に入っていて繋ぎが取れないようだ。
「くそっ!せめてイブキさんかアカツキさんでも居れば……」
確かに、管使いならば遠距離から足止めを行う事が出来る。だがイブキは出撃中、アカツキは非番で何処かへ遊びに行っていて今ここには居ない。
ぼやいていても仕方が無い。三人はそれぞれ聖鬼、怒鬼、西鬼に変身すると、高鬼目掛けて向かっていった。
443仮面ライダー高鬼「狂い笑う面」:2007/08/12(日) 13:47:39 ID:YSCcyNF40
それぞれの音撃弦を手に、斬りかかる聖鬼と西鬼。だが高鬼は容易く攻撃を躱すと、逆に手にした「大明神」で擦れ違い様に二人の尻を叩いていった。
「痛ってえ!」
振り向き様に追撃を加えようとする高鬼の腕に、怒鬼の七節棍が絡みついた。力任せに引っ張り、何とか動きを封じようとする。だが。
高鬼の全身から紅蓮の炎が噴き出した。鬼法術・焦熱地獄を使ったのだ。劫火に焼かれ、七節棍はあっという間に消し炭と化してしまった。
次に聖鬼が、鬼法術・蓑火を放った。命中と同時に眩い光が高鬼の全身を包み、視界を奪う。更にそこへ、痛む尻を擦りながら西鬼が鬼法術・高気圧を放った。物凄い風圧で地面に押さえ込まれる高鬼。
「よっしゃ!動きを止めたで!今や!」
「お前は馬鹿か!?これじゃあ近付いて札なんか貼れないだろうが!」
「二人とも、言い争っている暇は無いぞ!」
怒鬼が叫ぶ。見ると、高鬼の周囲の空間が熱で揺らめいている。そして次の瞬間。
空気が破裂し、その中から「紅」と化した高鬼が姿を現した。
「く、紅ぃぃぃ!?冬場なのに!?」
「高鬼さん、奴等との決戦が近いからって、機械いじりの時間を削ってまで鍛えてたから……」
高鬼紅が一歩一歩近付いてくる。対する三人は、一箇所に固まって各々の得物を構え直した。
「おい、俺達で勝てるのか?相手は本気を出した『疾風鋼の鬼』だぞ?」
「腕の一、二本程度で済めば良いが……」
どうやら怒鬼は、最早手加減して戦える状況ではないと判断したらしい。彼もまた本気になったようだ。
「……俺達も腹括るか」
「……ですね」
本気を出した三人が一斉に躍り掛かった。だがしかし、全員一瞬のうちに「大明神」の一撃を受けて弾き飛ばされてしまう。
「つ、強い……!」
関西支部でも常にトップを争う撃破数は伊達では無いという事を、身をもって知る聖鬼であった。
唯一、怒鬼だけが立ち上がり、再び高鬼紅に挑んでいった。掌を翳し、鬼法術・闇飛礫を使う。
「おい、殺す気か!?」
「そうでなければこちらが殺られる!」
444仮面ライダー高鬼「狂い笑う面」:2007/08/12(日) 13:49:53 ID:YSCcyNF40
だが、炎を纏った「大明神」を手にした高鬼紅は、飛んでくる闇飛礫を全て弾くと怒鬼に急接近した。そして強烈な一撃を叩き込む!怒鬼の腹部に音撃鼓を模った炎が展開された。
音撃打・天罰覿面。まともに喰らった怒鬼の体が、炎に焼かれながら遥か後方へと吹き飛んでいく。
「音撃打を使いやがった!信じられねえ!」
高鬼紅は、未だ蹲っている聖鬼と西鬼の方へと歩み寄っていった。肉附きの面は所謂「笑い面」だ。まるで高鬼が笑っているかのようで、二人は戦慄を覚えた。
聖鬼の前に立った高鬼紅が、「大明神」を振り上げた。刹那。
大量の式神が現れて高鬼紅の体に群がっていった。何事かと上体を起こした聖鬼が周囲を見回すと、少し離れた位置に、音叉を手にした京極が立っているではないか。
「どうやら間に合ったようだな……」
彼の背後では、医師のモチヅキが全身の変身を解除して気絶しているドキを介抱していた。
「ドキくんの方は心配するな!」
「さあ、今のうちに早く札を!」
「ありがてえ!」
そう叫ぶと聖鬼は札を西鬼の前に差し出した。
「やれるな!?」
「それぐらいの体力は残ってますって!」
そう答えるや否や、西鬼は掌から衝撃波を放ち、札を前方に向けて物凄い勢いで撃ち出した。そして寸分の狂いも無く仮面のど真ん中へと札が貼り付く。
高鬼紅の動きが止まった。彼の両手から「大明神」が落ちる。固唾を呑んで見守る一同。
次の瞬間、肉附きの面が剥がれ落ちた。次いで「紅」が解除され、更に顔の変身も解除されたコウキが地面へと倒れ込む。成功だ。
「や、やった……」
「ほんまに死ぬかと思うたわ……」
「さあ帰るとしようか。あかねさんが暖かい珈琲を淹れて待ってくれている筈だよ」
そう京極がよく透る声で二人に向かって告げた。モチヅキはドキの体に自分の白衣を掛けてやり、背負っている。
その後、セイキとニシキはコウキを連れて、京極達と共に本部へと帰還したのであった。
445仮面ライダー高鬼「狂い笑う面」:2007/08/12(日) 13:51:21 ID:YSCcyNF40
ドキはかなりの大怪我を負い、そのまま入院する事となった。今回の一件の原因を作ったニシキ、そしてコウキは仲良く始末書を提出する羽目となった。セイキも尻を痛めて暫く椅子に座れなかったと言う。
「……散々だったね」
やはり監督不行届として処分を受けたあかねが、珈琲を飲みながら呟く。それに同意を示すコウキ。
「私は被害者だというのに、何故ニシキと一緒に始末書を書かねばならないんだ……」
ぶつぶつと文句を言い続けるコウキに向かって苦笑すると、あかねは机の上に置かれた肉附きの面を見やった。
そこへ一人の人物がやって来た。イッキだ。どうやら山篭りから戻ってきたらしい。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい。どうだった?」
「『鳴神』で戦える時間はほんの数秒延びた程度ですね。でもその数秒があると無いとでは全然違いますから。……あれ、何ですこれ?」
どうやら机の上の肉附きの面が気になったらしい。触らないようにとあかねが注意する間も無く、仮面を手に取り札を剥がすイッキ。……何か嫌な予感がする。
「古いお面ですね。能面かな?」
そう言うと案の定イッキは面を被ってしまった。
「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!」
関西支部の悩みの種はまだまだ尽きない。 了
446名無しより愛をこめて:2007/08/12(日) 22:55:29 ID:AfC4oEOg0
ロマンホラー・真紅の鬼伝説w
447名無しより愛をこめて:2007/08/16(木) 13:05:10 ID:FH75R0S+O
ほす
448名無しより愛をこめて:2007/08/16(木) 18:27:51 ID:Nh6XFoUz0
空気読まない中四国が自前で用語集作っちゃったせいでいよいよ誰もwikiに見向きもしなくなったな
449DA年中行事 ◆E0pZYGOruA :2007/08/18(土) 02:07:17 ID:6GUN1Gv50
どちらさまもおひさしぶりでございます。

長いことご無沙汰をしておりまして、今更なんだよぅという感じかとは思いつつ。
去年の暮れ頃に前編投下したまま後編も投下せずにアレですが、夏まっさかり
な今頃に初冬の話というのも、年中行事でも何でもないじゃんつか誰よアンタ、
かなーとかなりの混乱ぶりです。相変わらずです。
去年の続きはまたそういう季節になりましたらば。

そんなこんなでこのたびは、夏の話でございます。
450番外 抱(いだ)く獣:2007/08/18(土) 02:09:54 ID:6GUN1Gv50
おや。
こんな所に誰か来るなんて珍しいと思ってたら、あんた達かぇ。
まぁゆっくりして行きなよぅ。こう暑いンじゃ息つくのだってひと仕事だ。さ、こっちおいで。
ここなら日もあたらないさ。こうお出でな。
ふぅ、暑い暑い。あんた達よっぽど日に炙られておいでだねぇ、日なたの匂いが―――――
え?
猫かぇ?
ほほほ、猫ならほれ、ご覧の通りさ。違う?どんな猫だぇ?

・・・・バケネコ、かい。

フン、あたしにバケネコの話を聞こうなンざ、良い度胸だわの。
ほほ、おやおやそんなに殺気立たせるもンじゃないよ、人のヤサに上がり込ンどいてサ。
まあ良いわさ。あたしも退屈していたからね。
なにしろこんな所だろう、盆だ何だと言っても誰も寄り付きゃしないよ。
わかったよ、バケネコの話を聞きたいんだろ。
ああ、知ってるともさ。
バケネコ。
昔ね。
451番外 抱(いだ)く獣:2007/08/18(土) 02:11:06 ID:6GUN1Gv50
昔ここらは遊郭だったのサ。わかるかい、遊郭。ははは、そうサ、男が金で女買って、チョン
の間遊んで行くところの事サ。男にとっちゃ極楽、女にとっちゃァ地獄だわいな。
おや、あたしは違うよぅ。さすがに客はとれないサ。ほほほほ。
でも姐さん方には随分世話になってね。
色んな妓(こ)がいたねェ。
色の白いの黒いの、情が濃いの薄いの、綺麗だったりおへちゃだったり。ま、それでもみんな
女だったのに変わりゃ無いがね。ついてンのは同じサ。ほほほ。
女郎の子としてここに産まれついた子もいたけど、大抵は泣き泣き売られて来ンのさ。
十(とお)やそこらで地獄に落とされるンだもの、そりゃ涙も出るわいな。
それでも綺麗なべべ着て三度のおまんまにありつけるンだ、ありがたいと――――

ああ、バケネコの話だったねぇ。

あの妓は、まだ十四、五だったかね。
色の白い可愛い子でね、仕込みも済んで楼主も女将もその妓が客をとったらどれだけ稼いでく
れるかと皮算用してたもんサ。
ところが、さ。
好事魔多しとでも言うのかね。ああ、そうさ。文字通り。魔が、ね。
バケネコさ。
452番外 抱(いだ)く獣:2007/08/18(土) 02:13:46 ID:6GUN1Gv50
本当に優しい娘だったんだよ、ああ、泥水に漬けるにゃちぃとウブすぎるくらいにね。
女郎達の嘘八百並べた身の上話にいちいち貰い泣きしてサ、ただでさえ親の借金と支度金でぎ
ちぎちに縛られてンのに、「病のおっかさんの薬代に」って人の肩代わりまでしてサ。
あたしにもお菜のお裾分けしてくれてね。優しい娘サ。
だから、なのかねェ。
バケネコにサ、目をつけられたんだよぅ。
親から貰った守り袋を肌身離さず身につけていて、それがその娘を守っていたンだろうね。
バケネコもなかなか迂闊に手を出せなかったのサ。
その親から売ッ飛ばされて、地獄に身を落としたってェのに、皮肉な話さね。
ところが、風呂に入るときだけは、産まれたまんまのすっぽんぽん、いくら大事な守り袋だっ
て一緒に風呂に漬けるワケにはいかないだろう?
彼奴らは、そン時を狙ってたンだ。
え?
馬鹿言っちゃいけないよ。
あたしがただ指咥えて見てたとでもお言いかえ?
化け物め、このあたしのヤサを断り無しに荒そうてェ性根が気に喰わない。否サ、あの娘はね、あ
の堅気の娘ッ子より素っ堅気な娘はね、こんな地獄で化け物に寿命喰われていいような娘じゃな
かったンだよ。
あたしゃあの娘を守ったよ。ああ、守ろうとしたのサ。
453番外 抱(いだ)く獣:2007/08/18(土) 02:15:03 ID:6GUN1Gv50
四六時中その娘に引ッ付いて、目を光らせていたよ。
じれったかったねェ。だってどんなにその娘や朋輩に「悪い化け物が狙ってる」って言ったとこ
ろで、誰もあたしの言葉を真実聞いてくれやしないもの。
ああ。わかってるともサ。
所詮人は、あたしら猫の言葉なんて、わかるはずないからね。
あたしがあんまりその娘に纏わり付くもンだから、段々みんな気味悪がってね。ああ、あの娘
は猫に魅入られたんだ、って。あたしは棒ッ切れで追っ払われたり、石ィぶつけられたり、散
々な目に遭ったっけね。
でもさ、あの娘だけはあたしを庇ってくれたんだよぅ。「漁師の娘だから、魚の臭いがするンで
しょうよ」なんて言ってね。もうその頃にはサ、潮ッ気なんてこれっぽちも無かったのにサ。
その晩は月も無くてね、嫌ァな雨が降ってたっけ。
あいつら化け物にとっちゃ、お誂え向きって所かね。
あたしも愈々だなと思ってサ、ピッタリその娘に引ッ付いてたよ。
風呂場の外にね、居たんだよ。あいつら。それであの娘が守り袋を離す頃合を見計らっていた
のサ。
ああ、こっちから先に飛び掛ってやったよ。
ほほほほ、見損なって貰っちゃァ困るよぅ。
ご覧な、あたしだって立派な猫又サ。何十年も廓で飼われていたンだからねェ。
そんなあたしでも、必死だったよ。命懸けサ。
454番外 抱(いだ)く獣:2007/08/18(土) 02:16:49 ID:6GUN1Gv50
ところがあいつら、このあたしがどんなに爪を立てようが牙を剥こうがお構いなしサ。
目を潰そうが喉笛を噛み切ろうがちっとも弱りゃしない。あげくにこっちがやられてね。
騒ぎを聞いて廓の若い衆がやっとお神輿あげた頃にゃ、もうこっちは虫の息。
そン時――――
ああ、そうそう、そン時だよぅ。あんた達のお仲間がやって来てね。大層な男振りサ。
鬼?
そうかい、亡八者なら掃いて捨てるほど見て来たがね、鬼を見たのはあれが初めてさね。
強かったねェ。惚れ惚れしたサ。
ドンドンドーンって、尻尾の付け根が、こう、ぞくぞくするほど良い音だったねェ。
忌々しい化け物どもが、花火みたいにパァーっと散ってサ、ああ、小気味良かったよぅ。
あたしの事も見ていてくれたんだね。「お前ェは強ぇな」って言ってくれてサ。
嬉しかったねェ。
「俺と一緒に来るかい?」って言って貰ったンだけど、あたしは断ったよ。
だってあたしは廓で産まれた猫だもの。ここで女ァ磨いて磨いて、挙句にすり減らして死んで
った姐さん達に世話になった猫だもの。
墓石一つ建てて貰えなかった姐さん達のサ、菩提を弔う事ぐらいさせてもらうよ。
前はここも墓地だったンだけどね、この通り、今じゃ人様ンとこの床下さ。墓石代りにあたし
が居るようなもんだァね。ま、誰も気付きゃしないだろうがね。ほほ。
そうだねェ、あン時あの鬼について行ったら、あんた達と一緒に化け物退治ができたかもしれ
ないねェ。
455番外 抱(いだ)く獣:2007/08/18(土) 02:20:10 ID:6GUN1Gv50
え?
ああ、あの優しい娘がどうなったかって?
死んじまったよぅ。
バケネコの餌食にゃならずに済んだけどね、その年の冬にタチの悪い流行り病に罹っちまって
ね。他の姐さん達と一緒に、あたしが今こうしてる下にね、投げ込まれたよ。
あっけないもんサ、人なんてね。
でも、あんた達は護るんだろ?
何度も何度も器を変えて、地に潜り岩を穿ち空を飛び風を裂いて、化け物を追うんだろ。

そうかい、もう行くかい。

年寄りの繰言を長々聞かせちまって、すまなかったね。
ああ、バケネコならね、ここにゃ出ないよ。きっとあン時の鬼さんが、あたしに魔除けの力を授け
てくれたんだろうよ。猫又が魔除けなんて、みょうちくりんな話だけどね。ほほほ。
気をつけてお行きよぅ。あいつらときたら・・・・ああ、あんた達の方が知ってるか。
さぁねぇ、覚えちゃいないよぅ、あン時の鬼の名前なんて。どれだけ昔の話だとお思いだえ?
こう、癖の強い髪を髷も結わずにほっぽらかしてるようなお人だったけど、良い男だったサ。
おや、涼しい風が吹いてきた。良い風だねぇ。
ああ、またお出でよぅ。あたしはずっと、ここで姐さん達に抱かれてるからサ。


             =完=
456名無しより愛をこめて:2007/08/18(土) 02:30:24 ID:MKGNTQrv0

次の投下も待ってるから。

去年の続きも待ってるから。

あたし、

       金 麦 と 待 っ て る か ら ー !

                   おかえりv
457DA年中行事 ◆E0pZYGOruA :2007/08/18(土) 02:54:33 ID:6GUN1Gv50
ただいまv

あたし、


       金 麦 飲 ん で る か ら ー !(今まさに)


今後とも不定期ですが宜しくです。金麦旨いよねー。
458名無しより愛をこめて:2007/08/18(土) 09:31:57 ID:ntQUN5ul0
中四国の名前がちょっとでも出たら皆で必死に流してご苦労様です><
459名無しより愛をこめて:2007/08/18(土) 12:12:23 ID:pO1oPEpL0
DA年中行事作者さん、お帰りなさい。

レス見てて何か金麦呑みたくなった。帰りに買って帰りますw
460志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/08/19(日) 10:12:46 ID:YC+yylEZ0
前回は>>414-420

十六之巻 弾ける鎧

 彦を倒した一撃鬼だったが、広間での戦闘から重なったダメージは予想を遥かに上回るものであった為、最早余力といえるものは残されていなかった。
 一撃鬼はそれでも気力で何とか立ってはいたものの、片膝をついて荒い息をしていた裁鬼同様、数メートル先に接近していた男女の気配に気付くことは叶わなかった。
「君達は本当に面白い鬼だね」男は先程の渋面とは違い、むしろ楽しげに笑みを浮かべて言った。
「まさか君が縛を読みきるとは思ってもみなかったよ」
「本当に……。お見事でしたね」女も傘を持つ手で拍手しながら言った。
「貴様等……何がそんなに楽しい……!?」一撃鬼は構えるのもやっとと言う状況にありながらも必死に身構えた。
「まあ、君は少し黙っていたまえ」男はゆったりと右手を上げて一撃鬼に不動縛を仕掛けた。
 途端に身動きがままならなくなる一撃鬼。
「貴様!」裁鬼が立ち上がって男に向かおうとする。
「まあまあ。実は貴方に聞きたい事があって、私達はこうして来ているのですよ」女はまるで友人に語りかけるように裁鬼に話しかける。
「お前達に語る事など無い」裁鬼は両手の音撃弦を眼前に構えて男女を牽制した。
「まあ、そういきり立たずに……。腹が減っては何とやらと言いますし、何なら食事でもご馳走しましょうか?」
「結構だ。お前達の接待を受けてイナリの鮨詰なんか出されては堪らんからな」裁鬼は吐き捨てる様に言うと、何が聞きたい、と続けた。
「何故、貴方が我等の縛をものともしなかったのか、という事ですよ。今も私は貴方に縛を掛け続けているのに貴方はそれを感じる風でもない……。何故なのでしょうね」
「さあな。俺達より長生きなお前達にも分からんのだから、俺に分かる筈も無かろう。……それよりも早く一撃鬼の縛を解け。さもなくば、二人ともここで塵に還る事になるぞ」
裁鬼は体中の力を搾り出すように集めて姿勢を固めた。
男は暫くそんな裁鬼を凝視していたが、やがて可笑しそうに笑い出し、そうか、分かったぞ、と満足げに頷いた。
「お前、……『混じって』いるな?」
「……何だと?」男の言葉に耳を疑う裁鬼。
「『修羅』を失ってもなお心に修羅を宿し、その焔に身を焦がすか……。ふふふ、面白い」
461志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/08/19(日) 10:13:37 ID:YC+yylEZ0
「……どういう意味だ。まさか、貴様……!」一撃鬼が体を縛られながら叫んだ。人間としてのサバキと鬼としての裁鬼の境界が曖昧になっている事が奴らに気付かれたか、と思ったからだった。
自身の体に起こっている変化を知っている裁鬼は叫ぶ一撃鬼を制して、貴様のその言葉の意味を聞かせてもらおうか、と静かに言った。
「いや、それは断る。それに、どうやら今お前が考えている事とは私の考えは少し違う様だしな。……まあ、時満つれば己が身で分かる事だろうし、それ迄せいぜい自分で考えてみるのだな」
「お友達の縛は解きましょう。その短い命、大事にするのですね」男女はそう言うと一撃鬼の縛を解き、その場から消えた。本当に面白い鬼達だ、との言葉を残して。
「……人外の者め……」裁鬼は上げていた腕を下ろし、ふらつく一撃鬼を支えた。
 一撃鬼の左腕を自分に回して肩を組む様に支える。
「すみません」一撃鬼が申し訳無さそうに裁鬼に言った。裁鬼は、気にするな、この方が俺も楽だしな、と努めて明るく返した。
「しかし、響鬼達はまだ中だ。そう休んでもいられんな……」
「……はい。急ぎましょう」二人は重い足取りを引き摺りながら、建物へと向かっていった。
462志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/08/19(日) 10:14:30 ID:YC+yylEZ0
響鬼装甲と対峙する凶鬼の強化形態、凶鬼魔装。その形はまさに響鬼装甲と瓜二つのものだった。
 全身を黒と銀に包んだその体は禍々しい邪気に満ち溢れていた。
 鬼面が大きく前面に張り出した顔は髑髏の様な貌(かお)に変わっており、その貌を護るが如く甲冑の様な防護面が上に張り付いていた。
「これが凶鬼魔装。全ての鬼を超えたこの凶鬼の真の姿」
「…………」黒い装甲声刃を右手に提げて立つ凶鬼を目前に響鬼は黙して語らなかった。
「この凶鬼に勝てますか?……響鬼さん」凶鬼は勝ち誇る勝者の余裕を見せる様に悠然と刃を構えた。
「…………勝つさ」響鬼も装甲声刃を正眼に構えて迎え撃つ。勝てなければ、京介の目を覚まさせて暗闇から助け出す事は絶対に叶わないだろう。
 響鬼装甲と凶鬼魔装、清めの音と闇の瘴気が互いの刃を通して烈しくぶつかり合った。
 互いに正眼から袈裟切りに相手に斬りつけるが、その速度や威力は共にほぼ互角。
 刃が咬み合った後、互いに相手を弾き返すように素早く引くと凶鬼は左から右へと向かって刃を横に払った。
 響鬼はその太刀をかわして間合いを取ると、そこから踏み込んで上段から真一文字に斬り込んで行く。
 凶鬼もまた、響鬼同様太刀筋をかわして間合いを取った。
 響鬼は八双に装甲声刃を構える。凶鬼は下段に構えていた。
 凶鬼の持つ黒い装甲声刃は響鬼のそれより刀身がやや短い。響鬼から見るに改装前の装甲声刃より少し長いくらいのように感じられる。
しかし、間合いに入られれば刀身の長さは問題ではなくなる。
 何とか出来るだろうか、と響鬼は思案を巡らせるが、思うように策は思いつかなかった。
 その後も幾度か切り結ぶが、互いに決定的な太刀を振るう事が出来ず、疲労が徐々に響鬼の体に蓄積されつつあった。
「では、これはどうだ……」凶鬼は黒い装甲声刃を八双に構え、何事かを唱え始めた。
 凶鬼の周りに瘴気が渦巻き、刃に集約される。
「やあっ!」凶鬼が上段から縦に刃を振り下ろすと、弧を描く瘴気が黒い光線のように真っ直ぐに響鬼の方に向かった。
 響鬼は瘴気を見切ってそれを回避すると、再び凶鬼に向かって構え始めた。瘴気の刃は響鬼の後ろの壁を激しく破壊した。しかし、壁の奥には分厚い鉄板のような物が見える。
「今の太刀は……鬼神覚声か……」
463志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/08/19(日) 10:16:39 ID:YC+yylEZ0
「そう。貴方の技だ」凶鬼は高揚した声で言った。
「俺はこの力を手に入れて、貴方の奥義すら使えるようになった。音撃ではなくとも、この力さえあれば俺は全てを手に入れられる。魔化魍も人も鬼も……そして、貴方の命も俺のものだ!」
 凶鬼は目を爛々とさせて響鬼に襲い掛かった。
 邪気に包まれた鋭い刃先が響鬼を切り裂こうと烈しく振られる。
 響鬼は刃を受け、かわしつつも意識の底で逡巡していた。
 鬼神覚声を使えば京介を殺してしまうかもしれない。
 しかし、能力的に響鬼と互角かそれ以上の能力を持つ凶鬼に打ち勝つためには、最早鬼神覚声以外残る術は無かった。
 それ程迄に凶鬼の持つ力は響鬼の想像を超えていたのだ。
 響鬼の逡巡を他所に凶鬼は再び刃を八双に構えると刀身に瘴気を集中させた。
「何時までも逃げ回れると思うな……」先程以上に暗い波動が寄り集まってゆく。
「仕方ない。…………音撃刃・鬼神覚声! 覇ぁあああああ……」かくなる上は鬼神覚声を以って凶鬼の技を破るしかない。
 響鬼は非情の覚悟を以って装甲声刃に自身最大の清めの音『言霊』を注ぎ込んだ。
 黒く、何処までも黒く染まる瘴気の刃。
 はたまた燃え上がる炎と共に白く輝きを増す装甲声刃。
「せいいっ!」先に技を放ったのは凶鬼の方だった。左から右へと薙ぎ払いの様に刃を振ると、轟音と共に闇の刃が響鬼へと殺到した。
「覇あっ!」響鬼も凶鬼と同様の構えで鬼神覚声を放つ。紅蓮の炎を帯びた光の刃が闇の刃に向かう。
 ばしいぃぃぃぃん、と烈しい音を立ててぶつかり、真っ二つになる刃だったが、互いに相手の刃を完全に砕くことは出来ず、それぞれが軌跡をずらしながらも目標に向かって飛んでいった。
 凶鬼は刃を一遍に払い落とそうとしたが間に合わず、その鎧に清めの音を受けてしまった。
 耐え切れず後方に飛ぶ凶鬼。背中からどうっ、と音を立てて倒れてゆく。
 一方、響鬼は割れた刃の片方の軌跡を見切ってかわしたものの、もう片方を払う事が出来ず、右肩に瘴気の刃を受けてしまった。
 鎧が千切れ飛び、肩口がぱっくりと割れて真っ赤な血が噴き出す。
「うぐうっ!」装甲声刃を取り落とし、左手で傷口を押さえて片膝をつく響鬼。
 凶鬼の技を受けた装甲はその衝撃で全身に皹が入り、どの位次の攻撃に耐えられるかは分からないくらいの傷みようだった。
464志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/08/19(日) 10:18:16 ID:YC+yylEZ0
また、倒れた凶鬼も響鬼の鬼神覚声によってその鎧の殆どを引き剥がされ、元の形態に戻されたと言っても過言では無い程のダメージを受けていた。
 しかし、凶鬼はそこからゆらり、と立ち上がると含み笑いを始めた。
「ふふふふふ…………。ははははははは!」やがて大きな声でひとしきり笑うと、呟くように言った。
「響鬼、敗れたり」
「……何だと?」響鬼は息を荒げながら凶鬼を見上げて聞き返した。
「貴方の体はもう限界だ。何故なら、あと一撃で貴方は装甲を維持することが出来なくなるからだ」
「お前……知っていたのか」響鬼は響鬼装甲の限界時間について京介には教えていなかった。
実際、何処までが装甲の活動限界なのかは響鬼自身も完全に把握していた訳ではないし、そこまでの使用を自身に強要したのは『オロチ事件』の際の清めの儀式の時以外ではありえなかった。
しかも、オロチの清めの際にはその場所が特殊な力場だったこともあり、響鬼は仲間の手助けによって自身の限界を遥かに超えた力を引き出す事が出来ていた。
 従って、響鬼装甲が単体として相当数のダメージを負った際の限界時間についてのデータは、全く無いと言っていいものだった。
 響鬼自身が未知とも言える情報を凶鬼が持っている。
 響鬼はその事に驚くと共に、それも無理のないことか、と考えていた。
 実際、『奴等』は仕掛けによって装甲声刃の能力を完全に複製したこの武器を作っている。
 清めの音を用いた物ではない以上その力の源は魔化魍と同一の物だろうが、能力的には装甲声刃と寸分違わない。
 その事からも『奴等』が装甲声刃の限界を知っていても無理はない、と響鬼は思い当たったのだった。
「しかし、お前も見てくれは相当なものじゃないか」響鬼は半ば駆け引きを仕掛けるように言った。
「装甲の殆どが消し飛んでいる。お前こそ限界を超えているんじゃないのか」
「……そう見えますか? 矢張り、貴方は俺に超えられた存在ですね……」凶鬼は嘲笑うように言うと、黒い装甲声刃を八双に構えて、破ぁっ、と気合を入れた。
 黒い瘴気が再び烈しく燃え上がり、凶鬼は再び魔装状態へと変化した。
「……どうです?」右手の刃を、ぶん、と振って凶鬼魔装は冷笑した。
465志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/08/19(日) 10:19:50 ID:YC+yylEZ0
「参ったね、どうも……」響鬼は床に落ちた装甲声刃を拾い上げ、片膝をついた状態から立ち上がると肩の傷を気合で塞ぎ、ぎりぎりの状態で身構えた。
 全身に若干の痙攣がある。
 凶鬼の指摘どおり、響鬼装甲はそれまでのダメージの蓄積によって最早装甲を維持する体力の限界点まで来ていた。
 これを超えれば、恐らく紅の時同様の事態が起こるだろう。
 下手をすれば意識を保てず、全身の変身が解除されるかも知れない。
 しかし、その前に装甲を解除するのも矢張り危険な事だった。
 進退の窮まった状態は響鬼にとって、まさしく絶体絶命の危機であった。
 凶鬼魔装が再び黒い鬼神覚声を放とうと刃に最大の瘴気を集めたその時、異変が起こった。
 原因は凶鬼が構えた黒い装甲声刃にあった。
 先般響鬼が放った鬼神覚声によって既に大きく傷ついていた刃は再度の魔装と黒い鬼神覚声の為に集まった瘴気に耐え切れずにその存在が弾け飛んでしまったのだ。
「ぐああああっ!」刃の消失によって魔装もまたその存在を維持できず、凶鬼の叫びと共に消失していった。
「……負けない。俺は……最強の……鬼だああっ!」魔装が消失する勢いで暴走する瘴気の渦の中で凶鬼は自らを保とうと激しく叫んだ。
暫くして、渦が止んだその中心には元の凶鬼が息を枯らして立っていた。
右手には刃の無くなった黒い装甲声刃がある。
「条件は同じ、という訳だ」響鬼は静かに言った。響鬼が持つ装甲声刃も凶鬼が失ったそれと同じく大きく損傷を受けている。
「倒す……。絶対に……」凶鬼は刃の無くなった黒い装甲声刃を投げ捨てると、再び音叉剣を手に持った。
 再び斬り結ぶ両者。しかし、今回は凶鬼に分があった。
 凶鬼の猛攻に疲労が極限に達した響鬼が押され、装甲声刃も音叉剣から幾度も受ける衝撃に耐え切れずに刃の中心から真っ二つに折れてしまったのだ。
「ぐぅぅっ!」力場を保てなくなり消失してDAへと戻ってゆく装甲の中、響鬼も凶鬼同様その衝撃に耐えて鬼の体を何とか維持した。
 極限まで力を使い、円盤状に戻って動かなくなる無数のDA達。
「どうやら、勝負あったようですね……」DAの輪の中でがくり、と片膝をつく響鬼に向かって凶鬼が荒い息で言った。
「俺の……勝ちだっ!」

(十七之巻へ続く)
466名無しより愛をこめて:2007/08/19(日) 11:30:48 ID:gkEzF1hAO
   ガウッ
ガウッ
    |ヽ_/| _    _
   ミ゜w ゜彡 |二二/_/
     ̄\[ (__[ (
     ∠/ /  |.丿ヽヽ
     ∠丿     |_丿
467466修正:2007/08/19(日) 12:02:45 ID:gkEzF1hAO

    |ヽ_/| _    _
   ミ゚w ゚彡 |二二/_/
     ̄\[ (__[ (
     ∠/ /  |.丿ヽヽ
     ∠丿     |_丿
468名無しより愛をこめて:2007/08/22(水) 15:10:44 ID:EoJ8omG7O
高鬼SSさんの話に出てくる他支部オンリーの話とか読んでみたいなぁ!

北海道支部編とか九州支部編とか。
469名無しより愛をこめて:2007/08/22(水) 15:35:34 ID:nwOJwjOm0
個人的にはDMCの話とか読んでみたい。
470名無しより愛をこめて:2007/08/27(月) 01:57:55 ID:OqxaStzN0
166 :名無しより愛をこめて:2007/06/16(土) 01:50:32 ID:WGsAoXGV0
『皇城の守護鬼』のヒラメキさんの本名を予想しようぜ!

 日之出 ひ○○○

「ひろゆき」とか「ひろすけ」とか。

169 :名無しより愛をこめて:2007/06/16(土) 12:54:08 ID:E2/dZPHX0
>>166
彦左衛門(ひこざえもん)

そして愛称は「ひこにゃん」と、妄想してみた


これか。
ttp://www.excite.co.jp/News/bit/00091187958390.html
ttp://www.hikone-400th.jp/hikonyan/
471169:2007/08/27(月) 22:41:24 ID:V8vRGgm00
>>470
>これか
それだw

伊達男は古風な名前、でも一回り下のオネエチャンたちには「ひっこにゃーん、かーわーいーいー(はぁと)」
と呼ばれ、愛されている・・・・・うわぁ、いろいろゴメン!
472高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2007/08/29(水) 19:07:49 ID:ZA30EkPc0
相変わらずアク禁に巻き込まれたまま自宅から投下が出来ませんorz また他所から書き込んでいます。
何処の誰だよ、クソ迷惑な。


土日に京都の東映太秦映画村へと行ってきました。
ここで行われている電王ショー、「仮面ライダー電王〜モモタロウ外伝〜」って題なんですけど、
ご存知の方もおられるかと思いますが、「電王と響鬼が協力して京都に蘇った悪鬼と戦う」って話なんですね。
で、これを見てSSのネタになりそうだなぁ〜なんて思ったりして…。

……ぶっちゃけた話、もしそういう内容のSSが書けた場合、ここに投下しても大丈夫ですかね?
こういうのは事前に確認をとっておかないと、後で揉めたりしたら嫌だし。


高鬼SSの方も書いてはいますが、上記の事情で前ほど頻繁に投下出来なくなるかと思います。
そこのところ、宜しくお願いします。
473名無しより愛をこめて:2007/08/29(水) 19:20:29 ID:VB0MaJXu0
>>472
もちろん、投下OKでしょう。
クライマックスな連中と音撃がどう合わさるのか、気になるところです。

アク禁問題、早く解消するといいですね。
474名無しより愛をこめて:2007/08/29(水) 20:24:51 ID:+P2kSChZ0
>>472
響鬼から見始め、電王にはまった自分としては凄く凄く読みたいです!
作者さんのご都合やPCの都合等がついたときに、是非投下お願いします。楽しみにしております。

一日も早くアク禁が解けることを祈りつつ。
475名無しより愛をこめて:2007/09/02(日) 02:04:18 ID:dc+YkrDr0
イカンイカン、まったり投下を待ってたらスレ落ちしてしまう


と、いう事で保守(投下じゃなくてゴメンよ)
476名無しより愛をこめて:2007/09/03(月) 10:39:59 ID:LefzSCE00
投下ないから雑談

電王ネタなら京介と侑斗を入れ替えるのはどうだ?
京介が何かやらかすたびにデネブ降臨。
477名無しより愛をこめて:2007/09/03(月) 12:37:52 ID:nv0GtlqW0
「キョースケ!人のものを盗んじゃ、だめだ!」
「俺はあの高校生を助けようとしてたんだよ!バーカバーカ」

こんな感じかw
478名無しより愛をこめて:2007/09/03(月) 14:05:36 ID:LefzSCE00
京介変身体は凶鬼・彦星と凶鬼・織姫(名前は志〜より引用)
やはりデネブは魔化魍扱いなのだろうか?
479名無しより愛をこめて:2007/09/03(月) 18:32:44 ID:5UpKCZfmO
烏(鴉)天狗ってところか?
響鬼風だとカラステング。
480名無しより愛をこめて:2007/09/04(火) 10:48:30 ID:LbPVq7Lv0
明日夢と良太郎を比較すると同じヘタレなのに良太郎のほうが向上心がある。
481用語集サイト:2007/09/08(土) 22:00:04 ID:9qmRNLAVO
一種の音撃かなぁ、と思ってカキコ
陰陽座のライヴに参加しました
やはり素晴らしい、和でメタル、これぞまさに音撃!

そこんとこどうですか、陰陽座ファンの弾鬼作者さん?
482名無しより愛をこめて:2007/09/11(火) 03:57:36 ID:oL5RwA3V0
        __
    /ノノノノノ\
   /⌒(゚∈゚ )⌒ヽ ……。
   | \ヽ◎ノ/ |
   ヽ i⌒ll⌒i  /
    \ミミミ彡/
         ̄ ̄
 『茜鷹・ディスク形態』
483名無しより愛をこめて:2007/09/11(火) 10:12:48 ID:mzmnwAzQO
>482
ちょwwwwwwそのDA展開キケンwwwwwww
484名無しより愛をこめて:2007/09/11(火) 20:44:46 ID:ms+zHzE90
御殿観てて、OH!YESと絶叫するみどりさんと、パスタを豪快にすするカスミさんを想像した。
485名無しより愛をこめて:2007/09/12(水) 00:29:00 ID:hucTur5Q0
【30代以上】居酒屋「オトナ家」【全板SSスレ住人】
http://bubble6.2ch.net/test/read.cgi/nendai/1188158092/
486弾鬼SSの筆者:2007/09/12(水) 22:04:04 ID:2x9x6OqF0
10ヶ月ぶりですね・・・ご無沙汰しております。

>和でメタル、これぞまさに音撃!
書き出すとスレ違になりそうなので、簡潔に。
要所要所で使われる和楽器もですが、自分は、あの『声』と『音』が絡み合った瞬間に『音撃』を感じます。
487名無しより愛をこめて:2007/09/12(水) 22:37:05 ID:iaSx8AxM0
>>486
   ∩___∩
   | ノ      ヽ
  /  ●   ● | ご無沙汰クマ――!!
  |    ( _●_)  ミ
 彡、   |∪|  、`\
/ __  ヽノ /´>  )
(___)   / (_/
 |       /
 |  /\ \
 | /    )  )
 ∪    (  \
       \_)

488名無しより愛をこめて:2007/09/15(土) 20:12:48 ID:zHWbRWuy0

      /ミ
   ノノノノノ⌒⌒)
   (゚∈゚ )⌒二二二彡 アカネタカ――!!
      / /| |ノ\
     / /. ヽ/ヽミ
    ミ丿
489志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/09/16(日) 20:20:47 ID:wtYeKNWX0
前回は>>460-465

十七之巻 挫けぬ心

凶鬼が刃を振り下ろそうとした刹那、背後から炎を纏った玉のような物体が飛んできた。
 凶鬼が炎を避けて後ろを振り返ると、裁鬼と一撃鬼が立つのもやっとという状態で互いを支えるように立っている。気力を振り絞って右腕から火炎弾を撃ち出した様だった。
「裁鬼さん……、一撃鬼……」片膝をついたままの響鬼が呟く様に言う。
「ふん……。生きていたのですね」
「その姿……、京介君なのか」
「驚く程の事も無いでしょう。元々俺は鬼になるべき存在だ」驚く裁鬼に凶鬼は鼻白んで言った。
「ですが、昔俺の申し入れを断った貴方達には最早用は無いのですがね」そう言うや否や左手を前に翳す。構えた左手より黒い炎が放たれた。
 先程の銀クグツ達との死闘の直後の為に回復もままならなかった二人は、凶鬼の放った火炎弾をかわすことが出来ずにそのまま直撃を喰らって体の動きを封じられた。
「ぐふっ!」
「がはっ!」全身を貫く衝撃に二人の口から悲鳴が上がる。
「貴方達の始末は後でつける事にします。それよりも今はこっちが先決だ」再び響鬼に向かおうとする凶鬼だったが、頭上からそれを静止する叫び声が上がった。
凶鬼が上を見ると、先ほど凶鬼が立っていた二階の扉の傍に明日夢が息を切らせて立っていた。
「やめるんだ……。京介」手すりに両手を掛けて、ぜいぜい言いながら呼びかける明日夢。
「その名を呼ぶな……安達。俺の名は……凶鬼だ……!」凶鬼が明日夢に向けて左手を翳す。
 強烈な圧が明日夢を壁に叩きつける。
「くうっ!」圧を受け、顔を護っていた左手に付けられていた陰陽環が千切れ飛んだ。
『しまった!』明日夢はそれを見て臍(ほぞ)を噛んだ。これでDAを使役することは叶わない。
圧は更に強まり、鬼に変わっている裁鬼や一撃鬼とは違う生身の明日夢は体を突き抜ける激しい衝撃に体内を損傷し、吐血した。腰が落ちて壁にもたれる様に座り込む。
「肋骨の一、二本も折れたか。……黙って見ていろ、安達。俺達が目指してきたものが一体どんな程度のものだったのかをお前にも見せてやる」凶鬼は含み笑いをするようにそう言ったが、明日夢はそれに反駁するかのように背中を壁で支えてずりずりと立ち上がった。
490志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/09/16(日) 20:21:31 ID:wtYeKNWX0
「……やめるんだ」唇から血を垂らし、苦痛に耐えながら訴える明日夢。
「そんな体で何が出来る? つまらない意地を張るな」凶鬼は呆れる様に言った。その前にいる響鬼は体の損傷が激しく、片膝をついた状態から思うように動く事が出来ない。
 明日夢は身を起こしながら、何とかこの窮地から響鬼を救う方法はないかと必死で考えていた。
自分を導いてくれたDA達でも、恐らく京介、否、『マガツキ』には歯が立つまい。しかも、そのDAを使役する為に必要な陰陽環は既に吹き飛ばされてしまっている。階下にいる裁鬼達の方もダメージが大きく、闘う事は最早叶わない様に見えた。
『やっぱり駄目なのか……』半ば絶望しかけて下を見たときに、腰の装備帯に付けておいた音撃鼓が目に入った。
 鼓に塗られた蒼い色を見た瞬間、明日夢の脳裏にあの時の事が浮かんだ。
『……天美さん……!』

嘗てコダマの森で捕らえられたイブキ達を救うべく変身したあきら。
 身体的には既に条件を満たしていたにも拘らず、それ迄如何に音笛を吹こうとも決して変身する事が叶わなかったのは、心の裡に『憎悪の心』をずっと抱き続けていたからだった。
 明日夢は夏休み中にあきらに会った時に、初めてあきら本人の口からその過去を聞かされた。
 両親の深い愛情の中で何不自由なく育ってきたあきらが魔化魍によって両親を失ってから、魔化魍に対する憎しみをずっとその胸の奥にしまい続けて修行に明け暮れてきた事。
 猛士の中の名家の生き残りとして、何れは組織の中で重要な役割を担わねばならない、と自分にずっと課してきた幾つもの重圧。
 その中で、何時しか誰に向かうでもない『憎悪の心』が心の裡に育ってしまっていた事。
 朱鬼の生き方の中に憎しみのみで生きる鬼の哀しさを見てしまったあきらは、コダマの森での仲間達の危機において初めて過去の恩讐をかなぐり捨てた。
ただ眼前の命を救いたい、と強く願う心のみで音笛を吹いた。
 あきらの心と身体に吹いた蒼い風は、瞬く間にあきらを魔化魍に立ち向かう『鬼』に変えた。
 全ては愛する者を護ろうとする『護る心』の発動が成せる業だった。
491志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/09/16(日) 20:22:36 ID:wtYeKNWX0
明日夢は腰の音撃鼓の蒼い色に『護る心』の存在を見た。
 ヒビキが実践し続け、自分が憧れ、ずっと追いかけてきた心の『かたち』。
 足元にいたDA達が明日夢の方を見て僅かに頷いたように見える。
『自分の命を護れない人は他人の命も護れないの』不意にみどりが言った言葉が頭に浮かぶ。
 自分に出来るかは分からない。しかし、目の前の生命を護り、自らの命をも護る為にはそれに賭けるしかない。
明日夢は眦を決して腰の変身音叉に手を掛けた。
「……ほう、変身するつもりか。安達、お前にそんな真似が出来るのか?」嘲る様な言葉の凶鬼にきっ、と目を向けると明日夢は無言で音叉を右手で開き、壁を打った。
「いいだろう。お前がやれるのかどうか見てやるよ」凶鬼は動けない響鬼から少し離れて明日夢の成り行きを見守った。しかし、無駄な事だ。そう言いたげな態度をしている。
「……明日夢……」その場を動くこともままならない響鬼や裁鬼達もまた、それを見守る事しか出来なかった。
 明日夢は奇妙な静寂の中、きぃぃぃん、と音の鳴る変身音叉を額(ぬかづき)にそっと当てた。
 腹部や背中が酷く痛むが敢えてそれを堪(こら)え、目を閉じて心を落ち着ける。
 最初はひんやりと冷たく感じた音叉がやがて熱を帯び始めた。
 額から広がる熱と全身を駆け巡る激しい鼓動。
 永遠とも思える一瞬の後に明日夢の周囲から激しい勢いで炎が噴き上がった。
「まさか……。そんな莫迦な!」明日夢の周りに広がる炎に驚きを隠せない凶鬼。
 凶鬼の驚きを他所に、明日夢を包んで燃え盛る白い炎は明日夢の体を『鬼の体』へと変化させていった。
「はぁぁぁぁぁぁ……!」炎の中で声と共に気を吐く明日夢。
「破あぁっ!」音叉を握り締めて眼前に上げていた右腕を横に振って炎を振り払うと、外観が響鬼と寸分違わぬ一人の鬼がそこに立っていた。
 鬼と響鬼との違いはその纏う色だ。
 響鬼のそれよりも黒に近い紫色の体に銀の胸当てをつけ、輝く金色の鬼面と二本の角を頭部に頂く無貌の面。その体の隈取や肘から下の腕の部分は深い紅に輝いていた。
 マジョーラカラーと呼ばれる色の様に見る角度によって微妙に変わる色彩は時に七色の光彩を放ち、ある種の神々しさを感じさせる。
 まさに猛士の鬼達が纏う色そのものの輝きだった。
492志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/09/16(日) 20:23:28 ID:wtYeKNWX0
「あり得ない。鬼でもない安達が変身するなど……」凶鬼はかぶりを振って改めて階上の鬼を見据えた。
「……変われた……」驚いているのは明日夢も同様だった。
 土壇場の賭けに明日夢は勝ったのだ。
 しかし、それはまさに奇跡と言う言葉でしか表せないものだった。
 これならば、何とかなるかもしれない。いや、してみせる。
 明日夢はそう誓うと二階の手すりを飛び越え、一階へ降り立った。
 背中に括ってあった一対の撥を取り出して、響鬼がそうしていたように構える。
「ふん、矢張りそんなものか」凶鬼は右手に持っていた音叉剣を明日夢の前に突きつけて言った。
「そんなへっぴり腰じゃ、この俺は倒せないぞ」
「倒す必要は無い」
「何だと?」
「俺はお前を倒す為にこの姿になったんじゃない。皆やお前を助ける為に変わっただけだ」
「俺を助けるだと? ふん、馬鹿馬鹿しい」
「この姿になってみて改めて分かった。……鬼のこの姿、この力は魔化魍と戦う為だけにあるんじゃない。『生命』を護る為に鬼はいるんだ」
「……何を知った風な事を」
「京介、お前なら分かる筈だ。鬼が鬼を倒すなんて行為は無意味だ」
「お前は何も分かっていないな、安達。俺にとってこれは意味のある事だ。響鬼という存在を倒す事で俺は響鬼という目標を超えられる。誰よりも強い鬼を俺の力で倒す事で、俺は俺自身の強さを証明出来るんだ」
「子供じみた行為だ、それは」
「何ぃ!」それ迄動じることの無かった凶鬼が明日夢の一言に反応した。
「強さは誰かを倒したり、命を奪う事だけで証明するものじゃない。生命の尊厳を踏み躙る様な行為に誰も本当の『強さ』を認めたりなんかしない」
「黙れ! お前のその口から先に封じてやるっ!」言うや否や凶鬼は明日夢に走り寄ると、右手に持った音叉剣を振りかぶって目の前にいる『鬼』に向かって刃を振り下ろした。
 明日夢変身体は構えた音撃棒――京介用の蒼い鬼石を持つ音撃棒――を構えて交差させ、その太刀を何とか受け止めた。
 先程の響鬼との戦闘で疲労した凶鬼は音撃棒に剣を食い込ませて圧し折ろうとするがそれも叶わず、二本の腕で支えられた音撃棒に刃を弾き返された。
493志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/09/16(日) 20:24:34 ID:wtYeKNWX0
「目を覚ませ、京介! お前のその力は本当に自分で勝ち取ったものなのか!?」
「!?」
「響鬼さんを殺そうとする程の力は本当にお前自身の力なのか!?」
「貴様……!」
「今のお前は誰かに操られているだけにしか見えないぞ!」
「黙れっ、……黙れぇ!」凶鬼は再び踏み込むと明日夢を袈裟斬りにしようと刀を右頭上から振り下ろす。
 明日夢変身体はこれを左に避けたが、刃を囮にして振り向き様に放たれた回し蹴りを腹に受けて後ろに飛ばされてしまった。
「ぐあっ!」地面に叩きつけられる明日夢。
「明日夢!」
「明日夢君!」動く事が出来ない響鬼たちが口々に明日夢に声を掛ける。
 明日夢変身体は体を起こすとすぐにその場に立ち上がった。
「……あれは……!」響鬼は明日夢変身体の腹部にあった音撃鼓を改めて見て声を上げた。
「京介の……音撃鼓……」
「まだ立つかぁ!」凶鬼は響鬼の呟きにも似た言葉も聞こえないのか、明日夢の腹部にある音撃鼓が自分の為の物だと気付く事も無く、目の前に立つ『鬼』に向かって刃を振るってゆく。
「お前は、お前は何時もそうだ! 自分だけ何もかも分かって、飲み込んだ様な顔して……! 
何時も何時も俺の先を行って、いきなり勝手に辞めて行った癖に! また俺の前に立ち塞がって、分かった様な顔して偉そうに説教するのかぁ!」凶鬼は怒りを露わにして音叉剣を振るう。
 明日夢は凶鬼の刃を避けるのが精一杯で、動きを止める事が出来なかった。
 そんな中、無茶苦茶に振るわれる音叉剣が床に当たって、折れた。
 元々先程の戦闘で一度は折れた剣である。鬼の気を以って作るものとはいえ、心身共に疲労した凶鬼の今の状態では音叉剣の本来の強度を保つことは出来なくなっていた。
 明日夢はこの機を逃さなかった。今なら京介を止められる。そう考えて正面から組み付こうと凶鬼に向かって突進した。
「なめるなぁっ!」凶鬼は折れた音叉剣を持ったまま、明日夢変身体を正面から殴り飛ばす。
 カウンターのように顔面に入った拳によって、明日夢は再び後ろに飛ばされた。
 転んだ拍子に手から音撃棒が零れ落ちる。
 凶鬼は明日夢の上に乗りかかると上から更に顔面を殴りつけようとするが、明日夢はその手を掴んでぎりぎりと締め上げた。
494志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/09/16(日) 20:25:09 ID:wtYeKNWX0
「こいつっ!」締め上げる手を振りほどこうとして拳を出してくる凶鬼。明日夢はその手も掴むと更に締め上げてゆく。
「く……、くそぉっ!」凶鬼は締め上げてくる手を左右に伸ばすようにして開くと頭突きを明日夢に喰らわせた。しかし、これが裏目に出た。
 明日夢変身体の方が頭が固かった為に、喰らわせた凶鬼の方がダメージを負ってしまったのだ。
「京介ぇ!」悲鳴を上げて仰け反る凶鬼を押し退ける様にして立ち上がる明日夢変身体。
「この莫迦野郎! お前こそ、お前の鬼に対する『思い』はそんな程度のものだったのか?! 誰かの上を行くとか行かないとか、何時までそんな事に拘っているんだ! ふざけるな!」明日夢は立ち上がった凶鬼に間を取らせず殴りかかった。
 明日夢の右拳が凶鬼の顔面を捉える。
 凶鬼も負けじと殴り返す。そこには、鬼としての戦いは無かった。
 ただ、互いの意地と相手に対する思いだけが激しく交錯しているようだった。
 互いの拳が何度も互いの顔を打つ。鬼面や無貌の面で内側がどうなっているかは見えないが、その内側は相当に腫れ上がっているように思われた。

「おやおや、どうやらおかしな方に向いてしまったみたいだね」館の外で立っていた和装の男が呟いた。
「もう少ししっかりやってくれると思ったんだけどな」
「子鬼同士で取っ組み合いになるとは思わなかったわ」女も呆れた様に言う。
「どうするの? 少し梃入れする?」
「いや、その必要も無さそうだ。思わぬ収穫もあった事だし、もう少し見物と洒落込もう。暫くぶりに面白い見物だと思わないか?」
「そうね。こちらには何の損もないし、まあ、いいんじゃない」男女はのんびりとした口調で言葉を交わすと、視線を再び館に向けた。
(十八之巻に続く)
495志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/09/16(日) 20:28:27 ID:wtYeKNWX0
1ヶ月近く空いてしまいましてすみませんでした。
本業とプライベートが忙しかったので、SSに向かう時間がまともに取れず、途中で止まったまんまでした・・・・・・。
ようやく少しずつ時間が取れるようになって来ましたので、頑張っていこうと思います。
今しばらく、お付き合いください。
496名無しより愛をこめて:2007/09/16(日) 21:00:20 ID:3wjHV8Gn0

                      + 激しく乙 +
            卍
        、ヘ, ∩
        ( _X_)丿
       ( ||| 二⊃
       |ll(光)
        ノ>ノ
       UU

497名無しより愛をこめて:2007/09/17(月) 16:13:37 ID:3ZYyaDDCO
雪風age
498名無しより愛をこめて:2007/09/17(月) 17:13:36 ID:BLdl2pUR0
もう容量少なくなってきてるので誰か次スレ立てお願いします・・・・・・。
499名無しより愛をこめて:2007/09/17(月) 18:36:09 ID:iUOaj7hE0
まだいいんじゃないの
500名無しより愛をこめて:2007/09/19(水) 13:55:20 ID:/6yIsI230
なんとなく雑談
久々に用語集を見たけどなかなかおもしろいね。
本家さんのは何度か見てたけど、wiki形式じゃない方の用語集もおもしろい。
一話だけの投下のものとかも入っていて、設定だけでも楽しめた。
誰でもいいから復帰とかしてくんないかなぁ………
501名無しより愛をこめて:2007/09/20(木) 15:06:10 ID:dNKSIWTJO
確かに復帰してほしい作品はあるよな。
ここんとこ過疎ってるし…
502名無しより愛をこめて:2007/09/21(金) 09:09:56 ID:SEL9D3Xv0
このスレが過疎ってる。というよりも『響鬼』自体が過疎なのかも。
本スレがないってある意味すごい。純粋なファンのスレってここだけかも。
短編とか書いたら投下してもいいのかな?
503名無しより愛をこめて:2007/09/21(金) 09:19:41 ID:rMDh9TZC0
短編投下、ぜひお願いします
504名無しより愛をこめて:2007/09/21(金) 23:37:46 ID:nupUr3+VO
放送終わって二年近くもたつから、SSスレが過疎るのも無理ないわなぁ。
続きが気になる作品は数々あるけど、スレが残ってて投下してくれる職人
さんがいてくれるだけでもオラ嬉しいだよ。

短篇投下、及び連載作品の続き、角を長くして待ってるだ!
505名無しより愛をこめて:2007/09/23(日) 01:22:07 ID:Pt2gZlG60

               、ヘ,
               ( _X_)
              /||| ||⊂)
              U(光)⌒l    + 激しく過疎 +
             (__ノ ^ U

506鬼島〜未来の水鬼:2007/09/23(日) 18:04:43 ID:nDkMmc0a0
昭和57年8月。

 猛士の音撃訓練機関『鬼島』の教官である十獅子唐吾(とじしとうご)とその生徒の須田菫(すだすみれ)は連

れ立って買い物に出ていた。購入するのは主に食料品だ。鬼というものはなべて大喰らいであるうえ、その鬼が見

習いを含めて常時五人いるのである。週に一度の買出しでは乗用車のトランクのみならず、後部座席の大半までが

大量の食品で埋まってしまう。
『卵、大丈夫かな?』
 間違って飲料や醤油等の瓶と一緒に入れてしまったかもしれない生卵10パックを心配しながらハンドルを握って

いるのが菫だ。
 今年20歳になる彼女は『と』としては遅くに鬼の道を志した。理由はあまり話そうとしないが、教官という立場

上、鬼島の中では十獅子だけが知っている。
 小学生の頃に仲がよく、彼女が転校した後も文通を続けていた少女が突然行方不明になったのだ。それを調べる

うちに魔化魍とそれに対抗する猛士、そして鬼の存在に行き着いた。その情報収集能力と、なによりも単独でそれ

をなした体力・精神力を見込んだ総本部長和泉一流その人が直々に鬼にならないかと勧誘したのだ。
 しばらく考えさせてくれと言い残して吉野を辞去した彼女は、一ヵ月後に再び現れた。驚くべきことに一人で両

親を説き伏せ、通っていた高校の休学手続きをし、すっかり身辺整理を済ませていたのだ。
507鬼島〜未来の水鬼:2007/09/23(日) 18:06:12 ID:nDkMmc0a0
 たまたまちょっとした会合のため吉野を訪れていた十獅子がこれを聞きつけ、是非鬼島に呉れと頼み込んだ。
 潜在能力の高さに感じ入ったこともある。だが、本当のところは全てを一人で片付けたというその一点を不安に思ったからだ。このまま鬼になったとしても、一人で全部を抱え込んで押しつぶされ、仕舞いには名誉の殉職という破目になりかねない。
 それならば師匠とマンツーマンで修行するよりも鬼島で集団生活をしながら学んだほうがいい、そう考えたのだ


 当時、丁度弟子を取ろうという鬼がいなかったこともあり、十獅子と同じことを考えていた一流はこれを承諾。その三日後には菫は鬼島の地を踏んでいた。
 はじめのうちは鬼島でも孤立を保とうとしていたようだが、一月もしないうちに他の生徒たちと打ち解け、友人が亡くなったことを知ってから笑うことを忘れていた菫の顔に笑顔が戻った。
508鬼島〜未来の水鬼:2007/09/23(日) 18:07:31 ID:nDkMmc0a0
 前方から霊柩車が来た。あまり気持ちのいいものではないが、人がいずれ死ぬのは不変の宿命である。
 そう思いながら見送る葬斂のあとは……
「火の轍!」
 なんということだ、火の轍ということはつまりカシャ。しかも霊柩車の後をぴたりと尾けている。
 菫は慌ててブレーキを踏もうとするが、十獅子に止められた。
「周りをよく見ろ、今急ブレーキをかけたらどうなる?」
 言われてはじめてバックミラーを見ると、数台の自動車が自分たちの後ろを走っているのが見えた。
「俺たちの仕事は人助けだ。魔化魍の退治はその方法の一つ。そこを履き違えるなよ」
 そう言う十獅子の顔にも焦りの色がありありと浮かんでいる。
 菫はぎり、と奥歯を噛みしめて小さく頷く。大急ぎで目に付いた何かの店の駐車場に入り、後続車が通り過ぎるのを待って、安全を確認するとタイヤを軋ませて急発進した。
 キュキュキュキュ!という甲高いスキール音が耳を突く。
 安全運転で火葬場へ向かう霊柩車とカシャに見る見る追いつくが、ここで攻撃してカシャが暴れてしまっては元も子もない。
 前を凝視して運転する菫の横で十獅子はシートを倒して後部座席に手を伸ばし、二挺の音撃管を取り出した。
 十獅子の『世良田』と菫の『水流』だ。
 鬼石を装填し、いつでも撃てることを確認して左手に世良田のグリップを握り、指をトリガーガードにかける。
 カシャは霊柩車の真後ろにいるため、霊柩車に乗っている者がそれを見つけることはできない。こちらが―――むろんそんなうかつな真似をする気はないが―――攻撃した場合にはちょっと左右に振れるだけで霊柩車を傷つけてしまう。
 火葬場に到着するのを待つほかなかった。
509鬼島〜未来の水鬼:2007/09/23(日) 18:08:15 ID:nDkMmc0a0
「めずらしいですね、カシャが湧くなんて」
 近代化が進んで土葬の風習が廃れるにつれ、死体を食うカシャはその出現数を減らしていった。それゆえ現代においてカシャと戦った経験のある者は少ない。
「ああ、しかも俺との相性はかなり悪い」
 十獅子の属性は熱と光。菫の属性は水だ。
 熱で攻撃すれば火の属性を持つカシャに力を与えることになりかねない。
 頼みの綱は五行相剋で火に打ち剋つ水属性の菫だ。しかし彼女は訓練生の身であり、カシャについては外見と名称くらいしか知識がない。しかも管の戦士だ。
「大丈夫です。私がカシャを引き付けますから、先生はできるだけ早く避難誘導をお願いします」
「ああ、避難完了次第援護に回る。やばそうだったら攻めずに守りに徹しろ」

 永遠にも思える数分が過ぎ、火葬場に到着した霊柩車がスピードを緩める。そこにカシャが殺到し、しかしカシャは菫が運転する4WDにはね飛ばされた。
 けたたましくクラクションを鳴らして警告を発し、いまだ止まりきらない車から十獅子が飛び降りる。もちろん突撃銃によく似た世良田は袋に入れて隠してある。
 菫は車内に隠れながら、音撃管でカシャを牽制する。
「皆さん、今すぐ車に戻って逃げてください!早く!」
「な、何を……!」
 一人の中年男性が反論しかけたが、自動車のすぐ後ろで乱舞する火の車輪を見ると即座に悲鳴をあげて逃げ出した。他の者たちもそれに続いたが、子供と老人二人が取り残されてしまった。
 しかしこれ以上待つわけにはいかない。
「菫!」
 呼ぶと同時に菫が水流を構えて飛び出した。
 十獅子は泣き出して動こうとしない子供を背負い、老人を脇に抱えるようにして戦場から離脱した。
510鬼島〜未来の水鬼:2007/09/23(日) 18:09:08 ID:nDkMmc0a0
 菫は十獅子が離れるのを確認してから変身鬼笛・音涼を吹く。
 ピィィィッ、と爽やかな音色を発し続ける音涼を額にかざし、次いで頭上に振り上げる。
 どん、という轟音とともに地面から水柱が上がり、それが再び地に返ると、そこには一人の鬼見習いがいた。
 マリンブルーの身体にパールホワイトの腕、額に金の一本角、その後ろにエメラルドグリーンの二本角。
 菫変身体。正式な申請はまだだが、十獅子からは水鬼の名を内示されている。
 一呼吸置き、素早く水流の照準を合わせる。複数の標的を一度に狙って一度に撃つという訓練を生かした、全身の急所をすべて撃ち抜く射撃。
 だがカシャは半数をその身に受けた時点で体をひねり、残りを急所からはずした。
 そもそもこれは動きが鈍重な巨大魔化魍に対してこそ有効な攻撃法だ。もとより菫とてこれで攻めきろうとは思っていない。あくまでこれはカシャを高速移動形態である火の車輪にせずその場にとどめるため、あえて近接戦闘に持ち込むための布石。
 カシャが体勢を立て直そうとするたびに圧縮空気弾を撃ち込み、足止めをする。その間にじりじりと距離を詰め、並行して己の体内から流れ出る水の気を練り上げる。
 カシャとの距離が3メートルほどになったとき、素早く流水を装備帯に吊ると水の気を纏った鋭い手刀を繰り出した。
 ―――鬼闘術・水斬掌。
 体の末端に水の気を集中し、指向性と高圧を付加することで体術にウォーターカッターの切れ味を持たせるものだ。
 青く透明な刃が魔化魍を裂く。寄らば手刀、離れれば足刀と、大技を狙わず着実に削ってゆく。
 これならばいけるかもしれない。そう思ったとき、気の刃を纏っていない両肘をカシャにつかまれた。
511鬼島〜未来の水鬼:2007/09/23(日) 18:11:14 ID:nDkMmc0a0
 みゃーぁ。
 カシャが吠える。まずい、と思ったときには顔、胸、腹に火の玉を叩き込まれていた。
 強力な火球を三発立て続けに食らい、吹き飛ばされ―――なかった。カシャは菫変身体の肘を握ったまま、立て続けに攻撃を繰り返す。食らうごとに襷が砕け、肉が焼け、骨が軋む。やがて意識がかすみ、力が抜けた。
 そのとき、唐突に解放された。
 菫が感じたのは安堵だった。とどめとなるであろう攻撃を待つ数秒間、菫は朝のまどろみのような浮遊感と安心感に包まれていた。
 だが待てど暮らせどとどめはこない。不安と、それ以上の恐怖に駆られて目を見開き、あわてて周囲をうかがう。
 不安は的中していた。逃げ遅れた人がいたのである。火葬場の中にいた職員が、二人の『怪人』が取っ組み合いになったのを見計らって逃げ出してきたのだ。

 みゃーぁぉ、と咆えてカシャは彼に襲い掛かる。
「このカシャ……人を死体にしてから食うっていうの!?」
 悲鳴をあげる体に鞭うち、力を振り絞って立ち上がる。流水は既に右手に。
 記録にあるカシャはあくまで死体を奪うだけだった。しかしこれは、生者を死者に変え、しかる後に喰らうという危険きわまる代物だ。
 流水を撃つが、いまだ腕は精密射撃ができるほどに回復してはおらず、そのことごとく外れてしまった。流水を装備帯に吊り、カシャに駆け寄る。
 カシャは男に肉薄し、火を吐くべく背をのけぞらせている。
 菫は走りながら右手だけに水の気を集中させ―――唐突にそれが弾けた。
「水斬掌・解!」
 両腕をカシャに向け、水の気を解放する。水斬掌は水の気に高圧と指向性を与えることでウォーターカッターの如き切れ味を持たせたものだが、その指向性を大まかに『前方』として一気に放つのが水斬掌・解である。
 切れ味は劣るが、攻撃範囲と高圧からくる強烈な衝撃波を伴うそれは菫の切り札だった。
 実体を持たぬ水の奔流はまさに火を吐かんとするカシャに命中し、それを吹き飛ばした。
512鬼島〜未来の水鬼:2007/09/23(日) 18:12:18 ID:nDkMmc0a0
 だが、遅かった。
 カシャには命中したものの、わずかに間に合わず男性は右腕を灰にされてしまった。
 不幸中の幸いというのもおこがましいが、焼かれたことで傷口がふさがって血が出ていないことが唯一の救いである。ショック死していないのであれば、急いで処置をすればまだ助かる可能性は充分にある。
 カシャは全身を傷だらけにされたが、まだ動くことはできる。対して菫は解放した水の気を練るために数秒を要し、その時間があるとは到底思えない。
 腰の流水を素早く構え、三点バーストで圧縮空気弾を放つ。この状態は明らかに薫に不利だ。
 気絶した男性を守りながら音撃管を放ち、それだけならまだしも接近戦に持ち込まれたらなす術はない。
 そもそも音撃管はミドルレンジの武器である。それをこのショートレンジで使うことにも無理はあるし、カシャは太鼓の鬼が担当する魔化魍。つまりショートレンジあるいはクロスレンジで倒すのが理にかなっているのだ。
 流水を連射しながらじりじりと位置を変え、カシャと男性の間に入る。
 呼吸を整えて再び水斬掌を纏おうとするが、どうにもこの状況で集中できない。慣れているはずの流水の扱いにもぎこちなさが現れ、先ほどの負傷もあって段々と圧縮空気弾を外すことが多くなってきた。

―――やれる?
 今の状況から音撃を決められるか。
 射撃を中断してセレクターを変更。
 鬼石を発射、弾着を確認。
 再び射撃を中断し、装備帯から音撃鳴を外して音撃管に装着、音撃形態へ移行。
 音撃射のため深呼吸をして、清めの音を吹く。
 不可能だ。音撃まで最短で五秒、最長で十秒はかかる。その時間でカシャは逃走するか、あるいは男性を灰にするだろう。下手をすれば菫も。
 前者ならばまだいい。背を向けたところに何とか鬼石を撃ち込めばいいのだ。しかしこちらに向かわれた場合、なす術はない。
 短機関銃型である流水はクロスレンジに入られると利点がなくなるばかりか、格闘戦の邪魔になる。しかも格闘戦をしようにも水斬掌を纏う時間がない。
 その不安がさらに狙いを甘くする。もはや十発撃って当たるのは二、三発だけだ。
513鬼島〜未来の水鬼:2007/09/23(日) 18:13:38 ID:nDkMmc0a0
―――まずい!
 足が柔らかなものに当たる。目の端で捉えたそれは、失神した男だった。
 不安のあまり、無意識裡にカシャの前進にあわせて後退していたのだ。
「うわああああああああ!!!」
 菫はカシャも男も投げ捨てて今にも逃げ出したくなった。しかし、それを引き止めたのは一発の銃声だった。
 ばすっ。たーん。
 目の前のカシャに着弾し、次いで二秒近く遅れて銃声。
 ばすっ。たーん。
 菫の耳に幽かな声が届いた。
「……すみれ…おんげき……いそげ…」
 十獅子だ。
 彼の音撃管・世良田は形状こそ何の変哲もない突撃銃型だが、しかしその精度は比類なくすばらしい。もちろん十獅子の腕前があることが大前提だが、500メートル以上離れての狙撃が可能なのだ。
 ばすっ。たーん。
 菫は慌てて音撃鳴・湧水を外して水流に取り付け、マウスピースを装着する。
 大きく深呼吸して水流を構え―――
「音撃射・大河滔々!」
 吹き鳴らす!
 静かに、だが力強く流れ続ける大河の如き音が邪なる怪異を祓い、清める。カシャの体内からは清めの音に共鳴した十獅子の鬼石が黄色く光を放っている。
 鬼の肺活量とはいかほどのものか。迸る音は三十秒をゆうに越えている。か細い音から堂々たる大河に、そして大海にそそぐ雄大な情景へと音調が変わり、かっきり一分で魔化魍は爆散した。

 大きく息をつく。菫は顔の変身を解除し、すぐに右腕を灰にされた男のもとに駆け寄った。
 脈は……弱いが、ある。腕を焼き尽くされながらもショック死を免れた強靭な精神と肉体の持ち主だ、必ずや回復するだろう。
 そこへ十獅子が走ってくる。弟子が魔化魍を清めたとはいえ、二人のミスで犠牲者が出てしまったので沈んだ表情をしている。
「先生。あの……すみませんでした」
「うん…謝るなら、彼に」
 十獅子はかがみこんで男の傷を検め、4WDから医療キットを出して手当てを始めた。右胸が露出するくらいまで服を切り裂き、炭化した傷を消毒。火傷用の軟膏をたっぷりと塗り、ガーゼを厚く当てて包帯で固定した。
「病院にいこう。幸い、今日は銀がいるはずだ」
 菫は無言で頷き、男を後部座席に横たわらせる。十獅子は火葬場の中に入り、勝手に電話を借りると鬼島と中部支部に連絡して事後処理を依頼した。
514鬼島〜未来の水鬼:2007/09/23(日) 18:14:38 ID:nDkMmc0a0
 病院へ向かう車内では十獅子がハンドルを握っていた。菫はまるで自分を縛り付けるかのようにシートベルトをつけ、じっと俯いている。
「菫。鬼だったら腕、持ってかれなかったよな」
「………………」
 その通りである。事実、カシャの火球を何発も受けた菫は目に見える傷はすでに完治している。
「だからって盾になれってことじゃない」
「………………」
「でも俺たちはたまたま人より頑丈な鬼の体を持ってる」
 だから。そう、だからこそ、その頑丈な体に見合う頑丈な心を持たねばならない。
 あのとき、菫は数秒だけ戦いを放棄した。その心の弱さが、後部座席に横たわる男に一生ものの傷を負わせてしまった。
「魔化魍と戦っていれば―――いや、人助けっていう仕事をしているのなら目の前で誰かが怪我をしたり、最悪死んだりするのは避けられない」
 その避けられないことを最大限に避けるのが、ちっぽけな人でありちっぽけな鬼である自分たちがなすべきこと―――
「お前は技と体は一人前に鍛えてある。それは俺が保障するよ。だからあとは」
 心は自分で鍛えるしかない。

 わずかに上げた顔には、涙と決意が光っていた。
515鬼島〜未来の水鬼:2007/09/23(日) 18:15:22 ID:nDkMmc0a0
テーマ曲
陰陽座『火車の轍』
作曲:瞬火

風が猛る虚空を抜けて
死者を攫い何処へ消える

羅袖はためき裂けて
呼ぶ声も遠く闇に飲まれた

葬斂の跡は 火の轍
弔いを焦がす

雨に濡れる五月雨の午后
引き裂かれた儕の許

逆巻く風に煽られて
呼ぶ声も遠く闇に飲まれた

葬斂の跡は 火の轍
弔いを焦がす

驀地に駆ける 火の轍
焦熱の葬車
516鬼島〜未来の水鬼:2007/09/23(日) 19:11:24 ID:nDkMmc0a0
唐突なんで一応設定を。

須田菫(すだ・すみれ)
水鬼となる予定の訓練生。属性は水。19歳。音撃管の戦士。『音撃管・水流』と『音撃鳴・湧水』を使用し、必殺音撃は『音撃射・大河滔々』。
鬼の姿は鋭鬼に酷似。

十獅子唐吾(とじし・とうご)
鬼島の訓練教官。現役時代はトウキ(燈鬼)と名乗っていた。属性は光と熱。音撃管をメインに使うが、音撃打と音撃斬も使える。
興味本位で先代ザンキにウルフになる訓練を数週間受けたことがあるが、結局なれなかった。

鬼闘術・水斬掌
菫が使用する。水の気を纏った手刀・蹴撃で、ウォーターカッターの如き切れ味を持つ。
切り札として溜めた水の気を解放することで半径3メートル範囲を強烈な衝撃波とともにずたずたに切り裂くことができるが、再び水斬掌を使用するには改めて水の気を集中

しなければならない。

音撃管・水流
須田菫が使用する音撃管。烈風とほぼ同型で、菫のために新造された。本体は銀色で、発射する鬼石は水色。

音撃鳴・湧水
須田菫が使用する音撃鳴。本体は銀色で、ラインは水色。
517鬼島〜未来の水鬼:2007/09/23(日) 19:12:09 ID:nDkMmc0a0
音撃管・世良田(せらだ)
十獅子唐吾が使用する突撃銃型の音撃管。きわめて精度がよく、突撃銃でありながら狙撃も可能。

音撃鳴・次郎三郎(じろうざぶろう)
十獅子唐吾が使用する音撃鳴。主流になりつつある短機関銃型の音撃管に組み合わせるものより幾分大きい。

鬼島(きじま)
古くから続く猛士の音撃訓練機関。
本来ならば戸隠で忍術を基礎とした体術を学んでから鬼島で音撃を学ぶのが慣例だが、近代では技術の進歩により戸隠で学ぶ必要性が薄れ、いきなり鬼島で鬼の訓練を始める

者がほとんど。
とはいえこちらも鬼のなり手が減少していることと師匠とマンツーマンで修行するのが主流であるため、かなり規模は縮小されており、現在では教官の十獅子唐吾と四人の生

徒、数人のサポーターがいるだけ。
基本的に充分な実力を持ったトレーナーが教えるが、訓練の後期には中部支部・関東支部の鬼と共同任務に就くこともある。
後に光厳寺光太郎が酒呑院寮を設立してからは戸隠とともに吸収合併される(戸隠はオンギョウキがドキとカゲキが引退してすぐに世界を放浪する旅に出た、という設定)。
518鬼島〜未来の水鬼:2007/09/23(日) 19:18:06 ID:nDkMmc0a0
へたくそなモノでスレを汚して申し訳ない
鬼島の四人でそれぞれ一本、そのあとまとめ的な決戦を書く、という構想はあるにはありますが、まず無理ぽ
519名無しより愛をこめて:2007/09/24(月) 00:08:00 ID:mtUPwyyvO
470KB越えたんで次スレ立ててくる
520名無しより愛をこめて:2007/09/24(月) 00:18:00 ID:mtUPwyyvO
「このホストでは、しばらくスレッドが立てられません」だってさ orz
誰か代りに立ててくらはい
521名無しより愛をこめて:2007/09/24(月) 13:35:05 ID:mtUPwyyvO
連投ごめんなさい。テンプレ貼っときますね。

スレタイ:【響鬼】鬼ストーリー 肆之巻【SS】

本文:
「仮面ライダー響鬼」から発想を得た小説を発表するスレです。
舞台は古今東西。オリジナル鬼を絡めてもOKです。

【前スレ】
【響鬼】鬼ストーリー 参之巻【SS】
http://tv11.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1179024153/l50

【まとめサイト】
http://olap.s54.xrea.com/hero_ss/index.html
http://www.geocities.jp/reef_sabaki/
http://hwm7.gyao.ne.jp/lica/hero_ss/

【用語集】
http://www.iiyama-catv.ne.jp/~walachia/index.html
※用語集へはTOPの「響鬼」でたどり着けます
http://hwm7.gyao.ne.jp/lica/hero_ss/glossary/

次スレは、950レスか容量470KBを越えた場合に、
有志の方がスレ立ての意思表明をしてから立ててください。

過去スレ、関連スレは>>2以降。
522名無しより愛をこめて:2007/09/24(月) 13:38:49 ID:mtUPwyyvO
本文2:
【過去スレ】
1. 裁鬼さんが主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1131944389/(DAT落ち)
2. 裁鬼さんが主人公のストーリーを作るスレ その2
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1138029584/(DAT落ち)
3. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1139970054/(DAT落ち)
4. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 弐乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1142902175/(DAT落ち)
5. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 参乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1146814533/(DAT落ち)
6. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 肆乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1150894135/(DAT落ち)
7. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 伍乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1158760703/(DAT落ち)
8. 響鬼SS総合スレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1162869388/(DAT落ち)
9.【響鬼】鬼ストーリー(仮)【SS】
http://tv9.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1164788155/(DAT落ち)
10.【響鬼】鬼ストーリー 弐之巻【SS】
http://tv11.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1170773906/(DAT落ち)

【関連スレ】
--仮面ライダー鋭鬼・支援スレ--
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1124581664/(DAT落ち)
弾鬼が主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1133844639/(DAT落ち)
523名無しより愛をこめて:2007/09/24(月) 22:21:19 ID:q1MLQu160
次スレ立ててきました

【響鬼】鬼ストーリー 肆之巻【SS】
http://tv11.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1190639343/

今後SSの投下はこちら、ということでお願いします
524519:2007/09/24(月) 23:17:54 ID:mtUPwyyvO
スレ立て乙
(昨日からずっとレスがなくて
イヨイヨ自分以外誰もいなくなったかと思ってた)
525名無しより愛をこめて:2007/09/25(火) 12:35:41 ID:z3dhraIN0
>>518

おいでませ、投下乙です
過疎しておりますが今後ともよろしくお願いします
「鍛え足りなきゃ、また鍛えるだけさ」といったところで、次の投下に向けて頑張ってください
526名無しより愛をこめて:2007/09/25(火) 20:11:07 ID:AYdMgjuO0
>>506-518
投下乙。
ところどころに不要な改行が散見されますので、投下前にチェックした方がいいと思いますの。
527名無しより愛をこめて:2007/09/27(木) 00:13:23 ID:mK40rOe50

      ∧∧    ミ _ ドスッ
      (   ,,)┌―─┴┴─―┐
     /   つ あと20KB │
   〜′ /´ └―─┬┬─―┘
    ∪ ∪        ││ _ε3
528名無しより愛をこめて:2007/09/27(木) 22:53:07 ID:jeoU0uTl0

                      + 激しく風牙 +

    彡\   、ヘ,/ミ
     \\( _X_)/
       | |||| ||||
        |ll(光)l|
529名無しより愛をこめて:2007/09/30(日) 00:24:05 ID:W2mT+kPy0

                      + 激しく茜鷹 +

    彡\  ノノノノ/ミ
     \\( ゚∋゚)/
       | \//
        |   |?
530名無しより愛をこめて:2007/09/30(日) 17:58:54 ID:8JsS/L1S0
           ______________________
          ||                                 ||
          || 仮面ライダー響鬼は韓国が起源ニダ!     ||
          ||                    。   ∧_∧  ||
          || 謝罪と賠償を要求するニダ!   \ <`∀´丶> || 
          ||_______________⊂(    )_||
  ∧∧    ∧∧    ∧∧                | | |
  <  ∧∧ <   ∧∧ <  ∧∧             ヽ_ヽ__>
〜(_<  ∧∧ __<  ∧∧__<   ∧∧
  〜(_<  ∧∧_<  ∧∧_ <   ∧∧
    〜(_<  ,,>〜(_<  ,,>〜(_<  ,,>ハ〜イ、先生
      〜(___ノ  〜(___ノ   〜(___ノ
531名無しより愛をこめて:2007/09/30(日) 18:52:20 ID:DGUrhp3u0
スレ埋めに変なの湧いてるぞ・・・・・・。
532名無しより愛をこめて:2007/09/30(日) 20:45:05 ID:nh4jALz50

                   卍
               、ヘ, ∩
                ( _X_)丿
            ⊂二||| |||
              /ll(光l二⊃
           ⊂二ノ ̄

              ===

+ 激しくスレ埋め +
533名無しより愛をこめて:2007/10/02(火) 23:51:51 ID:JvwubCkp0
|
|                                    + 激しく勝鬼 +
|
| ヘ,
| X_)                         ノノノノ
| ||)                        ( ゚∋゚)
|ノ                        /⌒\/⌒ヽ_______
|                       | ̄⌒\ 彡ノ_   |
|                       |_________\_|__ 丿____|
|                      /_____________\彡ノ_________\
|                        ‖      \ヽ    ‖
|                                ヽミ

534名無しより愛をこめて:2007/10/02(火) 23:58:27 ID:JvwubCkp0
|
|                                    + 激しく手裏剣 +
|
| ヘ,
| X_)                        ノノノノ
| ||二つ         ―=≡卍       ( ゚∋゚)
|ノ                        /⌒\/⌒ヽ_______
|                       | ̄⌒\ 彡ノ_   |
|                       |_________\_|__ 丿____|
|                      /_____________\彡ノ_________\
|                        ‖      \ヽ    ‖
|                                ヽミ

535名無しより愛をこめて:2007/10/03(水) 00:04:08 ID:nvq22BfN0
|
|                                    + 激しく失敗 +
|
| ヘ,
| X_)                        ノノノノ
| ||)                        ( ゚∋゚)    ―=≡卍
|ノ                        /⌒\/⌒ヽ_______
|                       | ̄⌒\ 彡ノ_   |
|                       |_________\_|__ 丿____|
|                      /_____________\彡ノ_________\
|                        ‖      \ヽ    ‖
|                                ヽミ
536名無しより愛をこめて:2007/10/03(水) 00:10:16 ID:nvq22BfN0
|
|
|
| ヘ,
| X_)                         ノノノノ
| ||)                        (゚∈゚ )                ―=≡卍
|ノ                        /⌒\/⌒ヽ_______
|                       | ̄⌒\ 彡ノ_   |
|                       |_________\_|__ 丿____|
|                      /_____________\彡ノ_________\
|                        ‖      \ヽ    ‖
|                                ヽミ
537名無しより愛をこめて:2007/10/03(水) 22:53:03 ID:I4rdqy6H0
        __
    /ノノノノノ\
   /⌒(・∋・)⌒ヽ ……。
   | \ヽ◎ノ/ |
   ヽ i⌒ll⌒i  /
    \ミミミ彡/
         ̄ ̄
 『浅葱鷲・ディスク形態』
538名無しより愛をこめて:2007/10/03(水) 22:54:50 ID:I4rdqy6H0

         彡\
       (⌒⌒ノノノノノ
   ミ二二二⌒(・∋・) アサギワシ――!!
    /ヽ| |\ ヽ
   彡/\.ノ  \\
            \彡
539名無しより愛をこめて:2007/10/04(木) 00:11:19 ID:4g0dGmXD0

                            + 激しくピンチ +

                        ノノノノ  -___
   、ヘ,                  (゚∈゚ )  ─_____ ______ ̄
  (_X_ )    ≡=―         丿\ノ⌒\  ____ ___
 と|||⊂ ||)                彡/\ /ヽミ __ ___
   \光)ll|    ≡=―           ./∨\ノ\  =_
    (  < ⊃               .//.\/ヽミ ≡=-
    ∪    ≡=―          ミ丿 -__ ̄___________

540名無しより愛をこめて:2007/10/04(木) 00:16:37 ID:4g0dGmXD0

    (⌒\ ノノノノ
     \ヽ( ゚∋゚)
      (uu」\ノ⌒\
       ノ    / /
       (    、ヘ,
    ミヘ丿 ∩(__)
     (ヽ_ノゝ ミ彡ノ
          ̄ ̄

         + 激しく捕獲 +
541名無しより愛をこめて:2007/10/04(木) 00:18:47 ID:4g0dGmXD0

    (⌒\ ノノノノ
     \ヽ( ゚∋゚)  !
      (uu」\ノ⌒\
       ノ    / /
       (   ⊂⊃
    ミヘ丿 __. |il i!|
     (ヽ_ノゝ( ̄ ̄)
          ̄ ̄ ̄

         + 激しく変わり身 +
542名無しより愛をこめて:2007/10/04(木) 00:21:45 ID:4g0dGmXD0

         + 激しく逃亡 +

          | | | |

          、ヘ,
          (_X_ )
         /⊂二))
         つ(⌒)
http://tv11.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1190639343/39
543名無しより愛をこめて:2007/10/05(金) 02:28:40 ID:6VqdYcMD0
Wikipediaの「陰陽座」のページ見てきた。
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%99%B0%E9%99%BD%E5%BA%A7
曲名が「泥田坊」とか「塗り壁」とか、響鬼に出てた魔化魍と同じのが結構多いのね。
陰陽座の曲はあまり聞いたことないけど、「甲賀忍法帖」は結構好き。

響鬼のSSテーマ曲としてはぴったりだと思いますよ。>鬼島〜作者さん
できれば>>518で触れてる残りの話も投下してもらいたいんですけど、どうすかね?
544名無しより愛をこめて:2007/10/08(月) 00:01:50 ID:tctPUdJC0

   ドキュ───────ン !!
          、ヘ,
         ( _X,)
        (((=(,,(^)
       (ノ-(嵒ノ,ノ、
       (_) 'リl(_)
     /⌒  ⌒ ̄ ̄ \

     + 激しく弾鬼 +
545名無しより愛をこめて:2007/10/08(月) 00:04:51 ID:L2kuUSTZ0

          、ヘ,
         ( _X,)
        (((=(,,(^)
       (ノ-(嵒ノ,ノ、
       (_) 'リl(_)
     /⌒  ⌒ ̄ ̄ \

                        ノノノノ
                       (゚∈゚ )
546名無しより愛をこめて:2007/10/08(月) 00:09:50 ID:L2kuUSTZ0

                            + 激しく人違い +

                        ノノノノ  -___
   、ヘ,                  (゚∈゚ )  ─_____ ______ ̄
  (_X_ )    ≡=―         丿\ノ⌒\  ____ ___
 と(,(=⊂))                彡/\ /ヽミ __ ___
   \嵒)ll|    ≡=―           ./∨\ノ\  =_
    (  < ⊃               .//.\/ヽミ ≡=-
    ∪    ≡=―          ミ丿 -__ ̄___________
547名無しより愛をこめて:2007/10/08(月) 00:11:16 ID:L2kuUSTZ0

      ノノノノ ノ彡
     _,( ゚∋゚)//
 (⌒   \/ /
  ヽヽ     (
  彡ノ \   ヽ
     / r⌒丶)
    / / |  /
    \)  ! ||
    彡ヽ‖|‖
       从/ 、ヘ,
  ⊂⌒ヽ/ つ; _X_)

         + 激しく濡れ衣 +
548名無しより愛をこめて:2007/10/08(月) 00:17:58 ID:L2kuUSTZ0
        !
      ノノノノ ノ彡
     _,( ゚∋゚)//
 (⌒   \/ /
  ヽヽ     (
  彡ノ \   ヽ
     / r⌒丶)
    / / |  /
    \)  ! ||
    彡ヽ‖|‖
       从/ ヽ_ ノ ゝ
  ⊂⌒ヽ/ つ;≫w≪)

         + 激しく身代り(蛮鬼) +
549名無しより愛をこめて:2007/10/08(月) 00:27:38 ID:L2kuUSTZ0

     + 激しく逃亡(2) +

         | | | |

          、ヘ,
         ( _X,)
        (((=(,,(^)
       (ノ-(嵒ノ,ノ、
http://tv11.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1190639343/47
550名無しより愛をこめて:2007/10/08(月) 19:11:41 ID:vdU+mI6j0

 /《。三。>\
 |彡《.◎.》 ミ|
 \_〈〈_〉〉_/

    |
    |
『黄檗蟹・展開』
    |
    ↓
   _
 ∠《<
 \〈。_。(V)
 彡《.◎.》ミ
   < ̄>
551名無しより愛をこめて:2007/10/09(火) 00:41:50 ID:aKi7Op0y0

                            + 激しく逃走 +

                        ノノノノ  -___
  ヽヽ_ ノ ゝ                 (゚∈゚ )  ─_____ ______ ̄
  (≫w≪)   ≡=―         丿\ノ⌒\  ____ ___
 と|ミ| ⊂| )                彡/\ /ヽミ __ ___
   \三)ll|    ≡=―           ./∨\ノ\  =_
    (  < ⊃               .//.\/ヽミ ≡=-
    ∪    ≡=―          ミ丿 -__ ̄___________
552名無しより愛をこめて:2007/10/09(火) 00:46:56 ID:aKi7Op0y0

             ヽヽ_ ノゝ∩
               (≫w≪)丿
            ⊂二|ミ| |ミ|
              /ll(三l二⊃
           ⊂二ノ ̄

              ===

+ 激しく振り切り +
553名無しより愛をこめて:2007/10/09(火) 00:50:12 ID:aKi7Op0y0

     + 激しく調査 +

   ヽヽ_ ノゝ
   (≫w≪)
  / |ミ| |ミ/ ̄ ̄ ̄ ̄/
__(__ニつ/  FMV  /____
    \/____/
      ガガガガ・・・・
554名無しより愛をこめて:2007/10/09(火) 00:57:47 ID:aKi7Op0y0

     + 激しく案内 +

       ヽヽ_ ノゝ
        (≫w≪)
     ⊂ |ミ| |ミ|二つ http://xxx.2ch.net/test/read.cgi/xxx
        |l(ミ´⌒l
        (__ノ ^U
                   ノノノノ
                   ∈゚  )
                  /⌒  )
                  ミイ  /
                   |  (
555名無しより愛をこめて:2007/10/09(火) 01:01:24 ID:aKi7Op0y0

              + 激しく追跡 +

                  | | | |

                彡\  ノノノノ/ミ
                \\( ゚∋゚)/
                  | \//
                  |   |
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/mona/1173549182/l10
556名無しより愛をこめて:2007/10/09(火) 23:49:41 ID:omAZ7BDI0

いまだにメインの話が・・・
          ヽ(,._.,(ノ
   ヽヽ_ ノゝ  (ミw彡) ないよな俺ら。
   (≫w≪) /||| II |||⌒i
  / |ミ| |ミ/ ̄ ̄ ̄ ̄/ |
__(__ニつ/  FMV  / .| .|___
    \/____/ (u ⊃
      ガガガガ・・・・
557名無しより愛をこめて:2007/10/10(水) 00:04:03 ID:ZKJHQeVT0

短編ならありますけどね。
          ヽ(,._.,(ノ
   ヽヽ_ ノゝ  (ミw彡) お前のは夢オチだけどな。
   (≫w≪) /||| II |||⌒i
  / |ミ| |ミ/ ̄ ̄ ̄ ̄/ |
__(__ニつ/  FMV  / .| .|___
    \/____/ (u ⊃
      ガガガガ・・・・
558名無しより愛をこめて:2007/10/10(水) 00:07:24 ID:omAZ7BDI0



   ヽヽ_ ノゝ
   (≫w≪)
  / |ミ| |ミ/ ̄ ̄ ̄ ̄/
__(__ニつ/  FMV  /____
    \/____/
      ガガガガ・・・・
559名無しより愛をこめて:2007/10/10(水) 16:01:58 ID:kOF9Gak+0






























560名無しより愛をこめて:2007/10/10(水) 23:39:11 ID:MVlD27Uh0

        、,._.,_//
        (ミw彡)     + 激しく鳴刀音叉剣 +
───╂⊂〔_X_〕il二0
        |ミ(嵒⌒l
        (__ノ ^U
561名無しより愛をこめて:2007/10/10(水) 23:40:07 ID:MVlD27Uh0
            |
            |
            |
       、,._.,_/┿
       (ミwシ)0⊃    + 激しく鳴刀音叉剣(2) +
       (li 二⊃´
       |ミ(嵒)
        ノ>ノ
       UU
562名無しより愛をこめて:2007/10/11(木) 00:24:39 ID:Atw3YAsi0

   + 激しく羽撃鬼 +
        _
     \ヽ ノ /
      ヽ≫w≪フ
      ○===∩レ,
     川ll(光)ll
     (_ハ_)
563名無しより愛をこめて:2007/10/11(木) 00:26:43 ID:Atw3YAsi0

   + 激しく西鬼 +

       ヽ--/
      ミ≫w≪彡
     Wl><_lっ/ヽ
    -(/ ll(嵒)ll /__ヽ
     (_ハ_)
564名無しより愛をこめて:2007/10/11(木) 00:28:03 ID:Atw3YAsi0

   + 激しく煌鬼 +

       Σニヽ
      ∈゚__ 〉
       (ミ彡wフ
 ^○と三〔〈^^〉_〕il三
      ll(嵒)ll,○^
     (_ハ_)
565名無しより愛をこめて:2007/10/11(木) 00:36:07 ID:Atw3YAsi0

   + 激しく凍鬼 +

  | | | |            | | | |
  |_|_|_|_           _|_|_|_|
 / 〉〉〉〉         〈〈〈〈 ヽ
 {  ⊂〉          〈⊃  }
 |   |    ∩___∩ |   |
 l   l    | ノ      ヽ !   !
 ヽ  i   /  ●   ● |  /
  ヽ  \ |    ( _●_) ミ/ クマ──!!
   \  彡、   |∪|  /
     ソ      ヽノ /
     ヽ        /
566名無しより愛をこめて:2007/10/11(木) 00:38:38 ID:vctdxBm10
      ∧∧    ミ _ ドスッ
      (   ,,)┌―─┴┴─―┐
     /   つ  あと5KB  │
   〜′ /´ └―─┬┬─―┘
    ∪ ∪        ││ _ε3
567名無しより愛をこめて:2007/10/13(土) 02:14:53 ID:nifVwVNS0

                    コソーリ
                    キアカシシ。

                  (( (( ((,_
                 Σ゚w ゚ フ |
                   WW\[ 
                    ∠/ /
                    ∠丿


    (( (( ((,_    _
   Σ゚w ゚ フ |二二/_/
     WW\[ (__[ (   ) ) ) )
      ∠/ /  |.丿ヽヽ
      ∠丿     |_丿



_
/
(

_丿・・・・

568名無しより愛をこめて:2007/10/13(土) 02:21:14 ID:nifVwVNS0


/

− ガシャ
−  ガシャ
\ ガシャン





  ヽヽ  __
    /)._|_|_.(\
   /\[   ]/ヽ
   |\二◎二/|
   ヽノ ( (( ((ヽ / ゴ
    ヽΣ゚w ゚フ/  ト
        ^^^^   ッ
 『黄赤獅子・ディスク形態』
569名無しより愛をこめて:2007/10/13(土) 19:22:50 ID:EYCETZUJ0

 ┌─────────┐
 │               .|
 │   あと2KB   │
 │               .|
 └―――──――――┘
      ヽ(´ー`)ノ
         (  へ)
          く
570名無しより愛をこめて:2007/10/14(日) 01:15:52 ID:pJYnQc2S0
         _ _
         〉 ヽ〉 ヽ ……。
       ΘΘ\_ 「  ヽ
       (Д     コ |ヽヽ
       \⌒ノ ノ|_ノ  | |
       (山 (山)  /|ヽ /|ヽ
571名無しより愛をこめて:2007/10/14(日) 01:19:22 ID:pJYnQc2S0

  ゲコォ  ΘΘ\
       (Д   ヽ「\
     (山\⌒  (山)コヽ
         \    ヽ )
          ヽー―ノヽヽ
           | |    | |
           /|ヽ  /|ヽ

             | | |
             | | |
           \ヽW//
572名無しより愛をこめて:2007/10/14(日) 01:23:21 ID:pJYnQc2S0
       ヽー―ノヽヽ
        | |    | |
        /|ヽ  /|ヽ
           ・
           ・
           ・
573名無しより愛をこめて:2007/10/14(日) 01:24:39 ID:pJYnQc2S0
      / / | | ヽ \
       ガシャ  ガシャン
        ガシャ



574名無しより愛をこめて:2007/10/14(日) 01:26:13 ID:pJYnQc2S0
      〃〃
        __
    /) 主 (\
   / /二| |二ヽヽ
   | ̄|_| ◎ |_| ̄|
   ヽ |/ΘΘ) | / ゴ
    ヽ山Д山/  ト
             ッ
 『青磁蛙・ディスク形態』
575名無しより愛をこめて:2007/10/14(日) 16:48:35 ID:Kfl/mhkv0





















576名無しより愛をこめて:2007/10/14(日) 18:40:38 ID:DgFALD7/0



              ノノノノ
              ∈゚  ) ヽヽ
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/mona/1173549182/l10
577名無しより愛をこめて:2007/10/14(日) 18:42:02 ID:DgFALD7/0



              ノノノノ  ノノノ
              ∈゚  ) 三 (  ゚∋
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/mona/1173549182/l10
578名無しより愛をこめて:2007/10/14(日) 18:47:05 ID:DgFALD7/0

            ? ノノノノ
              ∈゚  )
             /⌒  )
             ミイ  /
              |  (
579名無しより愛をこめて

      /ミ
   ノノノノノ⌒⌒)
   (゚∈゚ )⌒二二二彡 ≡≡≡≡====−−−−
      / /| |ノ\
     / /. ヽ/ヽミ
    ミ丿

    =≡≡≡==−