「…………」
「貴方は何時の鋭鬼くんから生まれたの……?」
腕と腕の鍔迫り合いを吹雪鬼は足払いで外す
「………!」
体勢を崩した雪女の鋭鬼は、それを利用して吹雪鬼の頭部目指して蹴り上げた
「自分の足の長さ考えたら!」
酷い事をさらりといいながら、吹雪鬼は頭をそらす
紙一重でかわし、カウンター……
――ガシ!
鋭鬼はもう片方の足も投げだし、両の足で吹雪鬼の首を締め付けた
「う……!!」
外そうともがいた吹雪鬼に鋭鬼の頭突きが炸裂する
視界が何重にもぶれて見えるなか、吹雪鬼が鋭鬼を捜すのだが、探し出した頃には接近を許していた
「!!」
内蔵を剔られるような感覚――鋭鬼の拳が吹雪鬼に突き刺さると、残酷にもグリグリと捻ってくる
「かは……っ」
鬼に変身した鋼の肉体を易々と打ち破るこの力、技、この鋭鬼は自分よりも強いと吹雪鬼は確信した
「けど……勝敗は別だってばっちゃが言ってた!!」
「……!!」
鋭鬼の体にかかっていた水がどんどん熱を失っていく
緩慢にならざるおえない鋭鬼めがけて、吹雪鬼は鬼爪を向けた
「だぁぁぁあぁぁあ!!!」
雪女とはいえ……鋭鬼の顔を鬼爪で串刺しにするのは気が引けた……だからだろうか?いや、そうではない
「本当に……強くなるんだね、鋭鬼くん……」
鬼爪を歯で咥えた鋭鬼に、戦慄と感嘆が混じった感情が吹雪鬼の中に押し寄せる
「……!!」
鋭鬼は鬼爪を噛み千切る。その隙をついて吹雪鬼はバックステップを踏んで距離をとった
「……ばっちゃが…言ってた…『諦めたら終わりだ』…って」
鉱の気を持つからだろうか?目の前の鋭鬼は折った鬼爪を鋭利な刀に物質変化させて迫ってくる
「……はぁ!」
対する吹雪鬼は裂帛の気合を地面に叩きつける。二人の間の小川に水柱が連々と立つ
「氷れぇ!!」
幾千もの氷柱と氷礫が宙に舞う
「そして……吹け!!」
鬼法術・氷衝 と名付けたこの技は吹雪鬼の切り札でもある(元々水が沢山ある場所でしか使えないが)
「ぐあ……!?」
(今の内に…退……く!?)
右足に焼け付くような痛みが広がり、膝の付け根から先の感覚が麻痺する
吹雪鬼は無様にもその体を地に叩きつけると、限界を超えたせいか、顔の変身が解けていったのを感じた
「あ…ぅ……」
全身の血の気が失われていくのが判る。おそらく真っ青な唇をしているだろうと思いながら、乾く目で自らの足を睨む
「ぅ……ぐ……」
右の足を鋭鬼の刀が貫通していた
何の抵抗もないように、右から左へ、刃が突き抜けていた
「はぁ……はぁ……」
震える手でその刀を抜こうと伸ばした手は……
――ザク
「う…あぁぁぁあぁあぁあぁぁぁぁ!!!」
「………フ…ブキ…サン……」
全身に氷柱を刺した鋭鬼が、吹雪鬼の手の甲に刺した刃を引き抜く
その体から流れる血は赤ではなく、この者が人外の……決して吹雪鬼の知ってる鋭鬼ではないと改めて認識させられる
だが……
「鋭鬼…くん……」
紛れもなく鋭鬼なのだ。おそらく未来の……そんなに老け込んではいないから数年先の鋭鬼の念が、生み出した魔化魍の雪女の鋭鬼
その鋭鬼は冷たい手で自らが刺した吹雪鬼の、真っ赤な手を取ると、流れ出す血に口づけをした
「フ……ブ……キサ…ン……」
流れるような黒い吹雪鬼の髪を、冷たい鋭鬼の手が這う
一本一本繕うように愛撫する
「やめて……鋭鬼くん……」
吹雪鬼の視界が鋭鬼で埋められていく
馬乗りにされて、吹雪鬼は逃げることも適わない
「やめ…て…」
吹雪鬼に出来るのは懇願だけだった
「負けたと思わない限り負けじゃない」と昔ばっちゃが言ってたけれど……今、吹雪鬼の心は挫けそうだった
鋭鬼の冷たい手が吹雪鬼の細い白磁の首に触れた
吹雪鬼を捜させたディスクアニマルが傷ついて戻ってきてから、鋭鬼は慌てた
転げ落ちるようにして谷を下ると、黄檗蟹が「ココダ!ココダヨ!」とでもいうように飛び跳ねていた
「吹雪鬼さっ……」
鋭鬼が遠くに認めた吹雪鬼は、その肌を白日に晒していた
「鋭鬼くん?」
「吹雪鬼さん……」
「負けちゃった……雪女が出てね、危うく氷り漬けでお持ち帰りされるところだったわよ」
吹雪鬼はフルフルと身体を震わせ、両手で自分自身を抱きしめていた
その後ろ姿に思わず駆け寄ろうとすると、吹雪鬼は制して
「ゴメンね、今ヒドイ顔してるから……」
「そんなの全然気にしないって!マスクをまっすぐ見せて安心させてくれよ」
「私が気にするの!」
吹雪鬼の叫び声は谷間に反響し、その後の静寂は、一層空気を張りつめさせた
「寒いし……さ。服とカイロと救急箱持ってきてくれないかな?」
「わ、わかった……」
吹雪鬼の背中はあちこちに擦り傷があった
黒く、艶やかで、長かった髪がボロボロだった
「す、すぐ持ってくるから。回路でカイロと救急箱を汲々と持ってくるよ!もちろん服も!」
「…………ありがとね」
「ぅ……」
「ちくしょーーーーーー!!」
鋭鬼は荷物を置いた場所まで戻ると、誰もいない森の中で叫んだ
そしてまるで頃合いを見計らったかのように携帯が鳴る
「…………不敵鬼……ちゃん?」
携帯に映る文字を見る。正直、出たくない気分だった
「…………はい、もしもし」
「…………繋がったってことは……魔化魍……倒した?」
オトロシがいた森は圏外だったため、携帯は置いていたのだ
「ま、まぁね。魔化魍なんてマ、カモみたいなもんさ!」
「……お姉ちゃんと代わって」
「……え゛……あ、ちょっと今居ないんだけど……」
「…………」
「…………」
電話だというのに、不敵鬼のあの無表情の視線が突き刺さるようだった
「……鋭鬼は……いつも下らないこと、言ってる」
「くだらないって、ヒドイな。俺的には面白い冗談なんだよ?」
「…………自分が笑ってないのに、人を笑わせれると思ってる」
鋭鬼は危うく携帯を落としそうになった
「……鋭鬼のこと……どーでもいいと思ってたけど……嫌いになった……」
「…………」
「吹雪鬼お姉ちゃんは……私の大好きなお姉ちゃんだよ……だから……」
「だから……?」
「……やっぱり……いい……」
だからの意味もやっぱりの意味も、鋭鬼にはわからなかった
「…………もう、切る」
「不敵鬼!……ちゃん……」
「……………笑ってる鋭鬼は…………今でも、少し…好き」
プッという機械音と供に、電話は切れた
「「たったいま〜」」
勢いよく“たちばな”のドアを開けた吹雪鬼と鋭鬼を迎えたのはお土産にたかる亡者どもであった
「ゲ?関東十一鬼勢揃いなわけ?」
「蛮鬼はきてね〜ぞ」
ノリの悪い奴だからなと元弟子を笑う裁鬼は、年甲斐もなく両手を出してお土産を受け取る準備をしている
それじゃあと、勝手に蛮鬼の分を取られないように一個は確実に確保して、吹雪鬼と鋭鬼は周りにお土産を配って回ったのだった
「そういや、お姉ちゃんは?」
「斗威鬼さんなら吹雪鬼さん達と入れ違いに帰りましたよ」
と、この中じゃ冷静なあきらが答えた。吹雪鬼からの電話で凍鬼が少々休暇を取ったと聞くやさっさと荷物を纏めてその日の内に帰ったそうだ
「なんだかんだで旦那とラブラブなんだな、あの人」
「剛鬼、お前もしっかり嫁さん捕まえとけよ」
「な、なんなんですか!みんなして……」
弾鬼と斬鬼が新婚の剛鬼を冷やかすと、ドッと笑いが広がった
吹雪鬼と鋭鬼はどことなくぎこちなくあったのだが、それについてはおおよそ鈍感な人間ばかりがココには集まっていた
「吹雪鬼ちゃん、音撃射、出来てるわよ」
「本当?みどりさん!」
「それから……途中で勇鬼くんに会わなかった?」
「ゲ……なんでアイツが……」
鋭鬼は弾鬼たちにもみくちゃにされ、吹雪鬼との進展を聞かれた
鋭鬼は顔を真っ赤にして頑なに首を振ったが、新年会の日には聞き出してやるからなと諦めた様子は彼等にはなかった
鋭鬼はどこかほっとして、心からではないにしろ笑った
やはりどこかで異郷になじめないのがあったのかも知れない
あるいは、そうやって少しでも笑っていなければ自分でもわからない何かに押しつぶされそうだったのかもしれない
ふと目があった吹雪鬼は、そのガーゼを頬に貼った顔を笑い返して見せたのだが、
果たして自分も同じように笑い返せたのかどうか、後から思いだそうとしても思い出せなかった
――3ヶ月後
「エイキくん、たおしちゃえーー!」
岩陰からのトモエの声援にヌリカベに跨る鋭鬼はグッと腕を突き上げると気合いを入れた
「いくぜぇ!音撃打!必殺必中!!」
緑勝の鬼石が煌々と光りを発し、鋭鬼の叩く軌跡を輝かせる
「うぉおぉおおおお!!!!!」
三ヶ月前よりも一撃一撃が力強く、ヌリカベの身体がパラパラと崩れていく
「おおぉぉぉお!!………おおぉ!!」
右の緑勝を止めると、左の音撃棒を天高く振り上げる
「破ッ!!」
左の音撃棒は右の音撃棒に向けて叩かれ、鬼石と鬼石がぶつかった瞬間、緑色の閃光がヌリカベを突き抜けた
「ギュワチョ゛ーーーーーーー!!!」
もはや原型をとどめる力を失ったヌリカベから鋭鬼は飛び去る。同時に爆発が地を揺らした
「やったぁ!」
「鋭鬼、勝利でええ気分だぜ!」
トモエとハイタッチをした鋭鬼は、そのままトモエを抱えると携帯で“たちばな”に連絡する
「ヌリカベと対峙して退治しましたぁ」
『ご苦労さま。鋭鬼くん凄いねぇ……ここ最近、ぐんぐん。このままだと剛鬼くんを追い抜くんじゃない?』
「はは…でも、追い抜くってことはそれだけ魔化魍が出るって事だからあんまりいいことじゃないですね
今日はこれでアガリでいいですよね?」
トモエを車の助手席に置くと、車の影で着替えながら鋭鬼は勢地郎に話した
この後はトモエを連れて吹雪鬼の大学まで行って、吹雪鬼を拾った後、遊ぶ予定だった
「あぁ……けれど、明後日のシフトに入れて良いかな?その分月末の方に一つ休みを作るから」
「明後日……響鬼さんに何か?」
その日はシフトには響鬼が入っていた筈と、鋭鬼は思い出した
「今、屋久島に言ってるんだよ」
「あぁ……いいですよ。あ、そうそう。今日森に入ったら蕗の薹がいっぱいで……もうすぐ春ですねぇ」
鋭鬼はジャンバーに袖を通したが、弱冠暑い気がした
「そうだねぇ……来期は魔化魍も少ないといいけど。平穏に暮らしたいもんだねぇ……」
「はい」
そう言って携帯を閉じた鋭鬼は今一度振り返った
よく見ると木々にはもう芽が春を待ちこがれるように散らばっている
「平穏に……ケド!」
一陣の風が吹いた
やっぱりまだ冷たい。ジャンバーのファスナーを閉めると鋭鬼は独自した
「例えいくら魔化魍が現れても……負けない」
「 九之巻 ウインとー 冬過ぎて 完 」
職人さん乙です!GJっす!
鋭鬼の雪女と戦う吹雪鬼さんせつないでつ。。。
ところで「ごんぼほるって」吹雪鬼さんが言ってたけど
職人さん津軽の方だったりされ(ry
756 :
狂鬼SS筆者:2006/02/06(月) 11:48:52 ID:FdJMb/nk0
どうも裁鬼の方でSS投下してるものです。
あっちとのバランス考えてこっちに移動しようかとか思ってますが、
職人一人でまわすのはきついかと思うんですが、
やっぱり、エイキ単体の方がいいかな?
757 :
SS中の人:2006/02/07(火) 07:19:09 ID:R5mGBe5T0
>>755 吹雪鬼さんは秋田美人として書いてます
秋田の方言は北部が津軽弁、東南部は南部弁が混じるそうです
(方言としてアクが弱いのは三津七湊の一つに数えられる土崎湊があり、秋田城介の官位に代表されるように昔から中央との結びつきが強いせいかも知れません)
>>756 別にこのスレをまわしているのは私ではありません(ここはSSスレでないので)
元々コッチで私がSSを展開してるのは、裁鬼主人公スレ(初代)で裁鬼以外のSSで展開するのはスレ違いかも?と思ったからですし
弾鬼SSも元々は弾鬼主人公スレで展開していたものですしね
ここでの私のスタンスは、鋭鬼さんについての雑談の一つの形としてSSを投下させて貰ってると思っています
が、裁鬼主人公スレ2が響鬼SSスレとなってる現在、私もアチラで展開するのがスジなのかも知れません
このスレに愛着があるので、コッチで続けたい気持ちもあるのですが……
758 :
狂鬼SS筆者:2006/02/07(火) 09:17:04 ID:yNpLtVnz0
>>757 なるほど。私が完全に履き違えてました。すみません。
SS職人さんはこっちでいいんじゃないですか?
SSと言った形でエイキさんを支援している訳だし。
エイキファンの方々には大変失礼しました。
深く謝罪を申し上げます。
職人様いつもGJです!
>757>吹雪鬼さんは秋田美人
天美あきらも秋田出身ですから、二人そろって色白美人スねぇ〜w
>746>オトロシは小春日和の陽気に誘われて気持ちよく寝ているようだった
オトロシク眠っているオトロシを不意打ちでオトロシめるなんて、何てオトロシしい!!
いや、知性派キャラから脱皮しようとして
やり方判らず、とりあえず駄洒落言ってる蛮鬼じゃね?ww
762 :
755:2006/02/08(水) 19:00:06 ID:ZfSCDR/60
職人さんレスする遅れて申し訳ないです!
お答え頂き、ありがとうございます!
なるほど、秋田も津軽弁混じるって言いますものね。
職人さん詳しいですね、さすがっス⊥
引き続き愛を込めて応援してます〆
過疎ってるな。。。
裁鬼スレですごい事になってるしな。
オレは職人さんの味方だZ!
なんか弾鬼SSも向こうで叩かれてるし・・・
もっと職人さんの自由に書いて貰えんもんかなあ?
二次創作でオリジナルキャラを出す事については、よく
メアリ・スー ( Mary Sue )が問題にされるからね。(※「MarySue」でぐぐれば説明サイトがゴロゴロ出てくる)
でも職人さん達が、自己投影キャラマンセーの想いだけで書いてるとは思えないし、
それがあるとしても、結局は職人さん達の内部で片付けるべき問題。
自分で客観的に物語を見つめていれば、読み手がとやかく言うほどの事じゃないよね。
誤解しないでほしいが、「SSがうpされたら全肯定しなさい。批判は許さない」って事じゃないよ。
話そのものを吟味するのは大事だし。
実際にそのSSを楽しみにしてスレを見てる人だっているわけなんだし
職人さんには一部の叩きに負けずにこれからも自由に投下してほしい。
俺が知ってるSSスレなんて散々荒れまくって
職人がSS投下−→叩き
の繰り返しになっていい職人さんが次々にスレから離脱、新しく投
下する人もいなくなってスレが成立しなくなったことがあったから
ここや裁鬼スレにはそうなって欲しくない
長文スマソ
あの裁鬼SSの職人さんが最終章を引提げて帰ってきたよ。
鋭鬼さんよみうり出演決定おめでとう!鋭鬼さん!
>>770 情報ありがd
早起きして観に行けるよう、鋭気を養っておくよ。
ほ
最近のヒロインは萌え足らんが
774 :
名無しより愛をこめて:2006/02/19(日) 18:22:03 ID:JNKlk2HN0
職人さんグッド!!
鋭鬼と吹雪鬼姉さんとの関係に期待している俺はもう負け組みかな?
775 :
名無しより愛をこめて:2006/02/21(火) 20:50:24 ID:52sdFAv8O
なんか過疎ってきたな…。
職人様!降臨キボンヌ!!!!!!
漏れ今投売り装着変身で鋭鬼さん作ってるぜ!
ぬこ耳がうまく作れないんだ!
みんな元気出しなよ!
ところで鋭鬼SSの人は新しいSSスレが出来たの知ってるのかな。
呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーーン
ホントは一本の話だったケド、長くなってきたんで前後編にしていきます
「はい、資料。纏めておいたから」
「ありがと。助かるわ。今度何か奢るわね」
大学付属の図書館で、吹雪鬼は友人の春妹にCD−Rを渡した
「これでなんとか進級できそう」
「あ〜あいいわねホント」
「ひがまないでよ。フブキの出席日数が足りないのは自業自得でしょ?
ま、ウチの大学なら一浪二浪はザラにいるから、そんなに気にしなくても大丈夫よ」
「優しい言葉の一つもない訳?」
吹雪鬼は荷物を鞄まとめながらぼやいた
「矜持が高そうに見えたから、慰めたら逆に気分を害するんじゃなくて?」
留学生で中国の良いところのお嬢様である春妹はホホホと口に手を当てて笑った
吹雪鬼は首を竦めていると、春妹はさらに
「……もうすぐ受験の季節ね」
関東では滅多に雪も積もらないせいか、窓の先の木は寒そうに枝を晒している
「春妹はバイトで塾の講師してったけ?やっぱり大変?」
「そりゃそうよ。実入りは良いけど、割に合わないわ。そういえばこの前も相談受けたの」
「慕われてるじゃない」
「それがね、その女の子、勉強のことじゃなくて……お友達が最近受験勉強に身が入らないみたいで、ボ〜っと屋久島の写真を眺めてたりするんです……
なんて言う訳よ。そのお友達ってのは男の子な訳。一緒の受験校よ。いいわね〜青い春って。貴方もその子をボ〜っと眺めてるじゃないっての」
吹雪鬼は春妹に合わせながら、妹の事を思った。不敵鬼も今年中学を卒業するが、その後はどうするのだろうと
「ま、人は人、自分は自分よ」
「そんな言い方、受験でナーバスになってる子に言えると思う?」
「ご苦労様」
吹雪鬼は笑うと、図書館を後にした
今日は鬼としてシフトが入ってる日だが、連絡が入ってないところをみると魔化魍は発生してないようだった
「ま、何にもないのが一番ね」
吹雪鬼は一人呟くと、駐車場に向かった
コレといってこれからの予定がないのは少し困るが
そういえば日菜佳が「昨日お得意様から注文があってぇ…お団子180箱を明日までに作らなきゃならないんですよ〜」と嘆いてたのを思い出す
手伝いに行こうかと、この手先の器用な娘は愛車であるバイク「白鷺」に跨った
冬であっても針葉樹はその青々とした葉を付けたまま、連々と並び立っている
「戸田山さん、遮蔽物が多い林の中じゃ無理だ。広い場所に抜けよう」
その中を二人の異形が駆け抜けた
「そうッスね!流石ッス石割さん」
戸田山変身体と石割変身体……二人の鬼半人前が光の当たらない堅く湿った地面を蹴った
「石割くんってば、元ボクサーなだけあって走りのフォームが綺麗ね…………狙、い、や、す、いv」
二人を捉える木上の影は、銃口をを石割の軌道予測線上に向けるとタイミングを合わせて引き金を引いた
「あう!?」
石割の足に激痛が走る
「石割さん!」
「隠れて!」
心配してかけよる戸田山の首を掴んで、石割は木の陰に身を寄せた
「い、石割さん……」
「落ち着いて。平静を失っていいことなんて何一つ無いんだ」
裁鬼と共に数々の修羅場をくぐり抜けた石割の言は、実力を認めた人には兎角素直な戸田山には重たい
石割は鬼の力で足の傷を癒すと、銃弾の先を睨んだ
「僕たちはどっちも接近戦のパワータイプだから相性が悪いね。けれど二対一のアドバンテージだって充分にある」
「そうッスね」
訳知り顔で相槌をうつ戸田山だが、その後の打開策を考えている顔ではない
その時
――バキッ
「!!」
「……って、枝が落ちただけか。びっくりするなぁ〜もう!」
「違うよ。コレ。打ち落とされたんだ」
石割は落ちた枝の断面を戸田山に見せた
「…………兎に角、ここにとどまるのは不味い。行こう」
石割は立ち上がるが、先程足に受けた傷のせいでよろめいた
「あ!」
戸田山をすかさず石割を支えると、開いた左手で手持ちのディスクアニマルを展開させた
「目眩ましになるよう、目一杯騒いで!」
叫ぶと、戸田山は石割を担いで木の上に跳躍した
木々を忍者のように飛び移り、葉の中に少しでも隠れようとした苦肉の策だった
「……戸田山くん、左利きだっけ?」
「いえ、右利きッス。けど昔左利きに憧れた頃があって……」
「そっか……」
話してる二人の後ろで、ディスクアニマルの悲鳴が聞こえた
「ごめんねぇ……」
ディスクアニマルを打ち落とした後、狙いを二人に付ける
鬼の力で強化された視力はスコープいらずで遙か遠くの二人の姿を正確に狙える
「先に石割君から……」
手強い方を先に倒す。乱戦とは逆の定石である
「!!……二手に分かれた?戸田山くんは見捨てるような子じゃないし、石割くんに策あり……なのかな?」
それでも石割から狙いを外さない
引き金を冷徹に引こうとしたその時
ドォォォンという音が連続して響いた
「何!?……って、森林伐採!!?!」
「環境破壊ごめんなさいッスぅ!!」
戸田山は木を切り倒しながら、銃弾の向かってきた方向に一直線に走る
一方で石割は身を隠し、ルートを切り返しながら迫っていた
「あれだけ派手なのって明らかに囮……って、石割君のこと見失ったじゃない!」
狙撃手は歯ぎしりしながら、仕方なく先に戸田山に銃を向ける
「それだけ派手にやれば狙いづらいとか思ってる?甘い甘い!塩と間違えて砂糖を振った西瓜よりも甘いわよ!」
――ダン!ダン!ダン!ダン!!
「うあぁ!?」
両足両手に銃弾が突き刺さる
戸田山は身を跳ねて、地面に突っ伏した
「ワザと致命傷にはしないわ。石割くんをあぶりださなきゃ……ね!!」
視界に石割の姿が入る。動揺して行動を焦ったのが目に見えて判った
「……結構近づかせた!!」
軽い後悔を言外に含ませながら、引き金を引く
「うおおおぉぉぉ!!」
だが、石割は渾身のストレートを大地に炸裂させることによって、土の防壁をつくってみせた
「やるじゃない、半人前」
言いながら、腰のディスクアニマルを投げると変身音笛を吹く
瞬く間に数羽の浅葱鷲が石割に向かって跳んでいく
「痛いけど……我慢してね」
石割の上空にたどり着いた浅葱鷲に向かって再び変身音笛を吹く
ディスクアニマルがディスクに戻る瞬間に引き金を引く
――カンッ!カンッ!
「!!」
――カン!
「ぐわっ!?」
弾がディスクに跳ね返り、石割の背を打ち抜いた
ディスクの状態ならば強度が上がるので、こういうことも可能だ
「よし!……もう一人!」
掛け声と共に振り返る。木の枝に寝そべっていた先から、見上げた空に戸田山の陰が映る
「それで後ろをとったつもりだった?」
戸田山の構えた彼の師の斬鬼の音撃弦『烈雷』が振り下ろされる
だが、音撃管の銃身で受け止める
力比べなら分が悪いが、格闘術なら十二分に上回ってる自信があった
「まだッス!石割さんの考えた奥の手……!!」
戸田山が繰り出したのは裁鬼の音撃弦『閻魔』だった
「ゲ……二刀流」
「吹雪鬼さん、覚悟!!」
鉄と鉄がぶつかり合う音がする
「ぐぐぐ………」
「吹雪鬼さん、悪あがきは止めてください。せっかくの新調した烈氷が斬れちゃうッス」
音撃射『烈氷・改』は戸田山の怪力と二本の音撃弦の圧力で今にも押しつぶされそうだった
「…………問題」
「は?」
「はたしてこの枝に私と戸田山くんの体重+戸田山くんの怪力を受け止める耐久性があるでしょうか?」
ミシミシと二人が戦う枝が引き裂かれ……
バキ!
「う…うわぁぁぁ!?」
投げ出される戸田山とは対照的に吹雪鬼は宙で姿勢を制御し、幹を蹴り上げて加速を付ける
狙うは戸田山変身体。吹雪鬼の渾身の蹴りが衝突する
鋭鬼は着替えのセーターに袖を通すと、その静電気に辟易した
三月に入ったが、近ごろは冴え返りが厳しい
緩んでいたスニーカーの紐を結びながら、戸田山の話に相打ちをうつ
「自分もまだまだ修行が足りないッスね」
「吹雪鬼さんにそこまで善戦出来たなら全然そんなこと無いよ」
戸田山が語るのは、関東に帰ってきたばかりの頃、烈氷の改良の試射に戸田山が名乗りをあげた頃の話だ
「半人前二人なら一人前くらいにはなれるんじゃねーか」とその場にいた弾鬼が発破をかけて、石割と戸田山が吹雪鬼と模擬戦をした訳だ
まぁ、結構前の話であるが、戸田山と二人きりになる機会など滅多にないので話には事欠かない
「まだ戻ってこないの?」
鋭鬼は戸田山にディスクアニマルの事を訪ねた
近辺に魔化魍が出たという報告を受けたときに、鋭鬼は一人で充分と判断を下し、大学のある吹雪鬼に連絡を入れなかった
その時、偶々“たちばな”に来ていた斬鬼戸田山師弟に「良い機会だから」と戸田山を借りたというか、押しつけられたというか……
魔化魍自体は鋭鬼の目算通り、鋭鬼一人で問題なく片付けた訳だが、どこを彷徨ってるのか、探索に放ったディスクアニマルが帰ってこない
春に向けて日が長くなってきたとはいえ、このままでは夕暮れを迎えそうだった
「仕方ない、ディスクの回収は結城さんに頼むとしよう。戻ろうか」
「あ、はい」
結城というのは、この先の町に住んでいる『歩』の名前である
眼前に水の玉がしとしとと増えていった
「雨っこ降るってさ……ついてないんじゃない」
苦々しげに、バイクを走らせる吹雪鬼は独自した
まぁ、スグ止むだろうと思いながらクラッチを回す
(私を除け者にするだけの実力がどこにあって!!)
勝手に自分を外した鋭鬼に恨み言を思いながら、それでも許可を勢地郎が出したということは妥当な目算なのだろうが
“たちばな”で鋭鬼が吹雪鬼に連絡せずに一人で魔化魍退治に行ったと聞いた吹雪鬼は憤慨し
宥める勢地郎や日菜佳を振り切って、わざわざ文句を言うためだけに高速道路に乗っている
「コンビ……解消するつもりなのかしら……」
ふと、そんなことを思う
実際、今年に入ってからは鋭鬼と組む機会が段々減ってる様な気がする
蛮鬼や威吹鬼と組む機会の方が多いくらいだ
別段疑問には思っていなかった。私生活でも鋭鬼は自分を避けてるようには思えなかったし
偶々なのだろうと、思っていたのだが……
「……って、解消するなら解消するで別に構わないんだけどさ」
半分強がりが混じってる気がしてならない……口に出してから吹雪鬼は思った
雨は止むどころか、益々激しく降り始めていた
「えっと……戸田山…さん……」
自分も大概、チビの大食いだが、戸田山の食欲には鋭鬼も驚いた
「はい?何ッスか?……あ、おかわりお願いしますッス!!」
いや、それ以上にこの遠慮の無さ……
とはいえ、二人に夕ご飯を振る舞っている『歩』の結城アサは気の良いお婆さんで
パクパクと御飯を口に運ぶ戸田山をニコニコしながら見てるわけだから、それほど気にしなくても良いのかもしれない
甘え上手というのは一つの大事な才能だと、師も言っていた気がする
「鋭鬼さんもおかわりどうかね?」
「あ、いただきます……」
「やっぱり男の子がいると良いねぇ……息子は海外で仕事をしてるから滅多に帰ってこんのよ」
20を越えた二人に“男の子”はどうかとも思うが、彼女から見ればそうなのであろう
鋭鬼は苦笑するが、その顔の意味が戸田山にはわからず、きょとんとしている
「雨が随分強くなってきたねぇ……途中で山道に入るだろ?大丈夫かえ?」
「気をつけます」
「何なら泊まっていってもいいんだよ。広い……とまでは言わないけど、二人で暮らすには持て余してるからねぇ」
白米を盛られた茶碗を鋭鬼が受け取ったとき、雨音に紛れて玄関が開く音がした
「ただいま〜」
「あれ?お客さんなの?ばあちゃん」
トタトタと無遠慮に入ってきたのは、それこそ本当に若い青年と少女だった
「孫の康秀と奈々です」
「あ、どうも!戸田山登己蔵です!」
弾かれたように挨拶を返す戸田山に、鋭鬼は少し好意を持った
この人は全速力で真っ直ぐで誠実なのだと、それは長所でも短所でもあるが、自分の周りに今までいないタイプだった
「鋭鬼です」
と鋭鬼もまた自己紹介をすると、二人はそれをうけて
「奈々です」
「康秀です……鋭鬼って、もしかして猛士の方ですか?」
康秀は訪ねながら、奈々の手を取って居間に入った
彼女を座らせると、開いていたカーテンを閉めて、台所から茶碗を持ってきた
「鬼の方とあうのは二回目だよ。俺が子供の頃にね、一回……あ、ばあちゃん、飯食ってていいだろ?」
康秀は奈々の隣に座りながら、二人の分の御飯をよそった
「はい、奈々。味噌汁は奈々から見て右に置いておくから。おかずは唐揚げな」
一々丁寧に教える康秀に、鋭鬼は違和感を憶えた。それを察したか、アサは語った
「奈々は先天的に視力が弱くてねぇ」
今では殆ど目が見えないらしい。母親は離別していて、父親は先述したように海外で仕事をしている。この家にアサと二人暮らしだ
「それは……」
「そうなんです。目が見えないと困ることが多くて……」
口をつぐんだ鋭鬼に向かって、奈々は至って軽く流した
虹彩が動かない奈々の瞳は映す光を全て寂然とさせた趣にさせている
しかし、穏やかであったが張りがある声と顔はおおよそ枷など感じさせていなかった
振り返ると戸田山は目に涙を浮かべてる
そんな戸田山に鋭鬼は眉間に皺を寄せた
成る程、人のために本気で涙を流せるその資質は好ましいものかも知れない
けれどもこの場合、本人が気にしてないのだから……よしんば心の奥で気にしていたとしても
会ったばかりの自分達に入り込める余地などないのだから
(人の心の中に踏み込むには、それ相応の資格がいる……ってばっちゃが言ってた!って吹雪鬼さんなら言うのかな?)
お茶を飲み干した鋭鬼に、「おかわりはどうです?」と向けてきた康秀は続けて言った
「鬼のこと、話してくださいよ。興味があるんだ。それに、随分と雨が酷くなってきたみたいだ。泊まった方がいいかもしれない」
――猛士総本部・吉野
「関東じゃ大雨らしいですよ」
第一実験室と札が書かれた部屋に、如何にもやり手で働き盛りといった程の男が入ってくる
「……白倉くんか」
実験室の主である小暮耕之助が眉間に皺を寄せながら呟く。視線は目の前の強化ガラスの向こう――魔化魍と鬼の戦いである
戦闘実験用に捕獲された魔化魍は、呪詛を施された鎖に繋がれ、又この部屋自体にも結界が貼られてる為、行動や破壊力が制限される
「グェッゲェ……!」
対するは御納戸色の体に銀のラインを持つ荒鬼(コウキ)と、朱色の体に金のラインを持つ大旋鬼(ダイセンキ)である
もっとも、大旋鬼は万が一の時のフォローに入ってるだけであり、この戦闘の主役は荒鬼……いや、もっと言えば彼の持つ“アームドセイバー”であった
「魔化魍の鎖を外しなさい!」
監視する木暮の命令を研究員達は実行する
「許可を取ってるんですか?」
「おりるはずが無いだろう」
「またそんなこと……本部長に迷惑かけて」
呆れと諦めの混じった声を出す白倉に、木暮は憮然と言い放つ
「動かない的にしか効果がない物を実戦に出せるか」
「……貴方のそういう所は好きですが」
魔化魍を拘束する鎖が外れる。同時に結界の力も弱められたようだった
「……来るで!」
「よし!音撃増幅剣・装甲声刃……開放!!」
荒鬼の叫びと共にアームドセイバーの刀身に光が走る
怒り狂った魔化魍が唾液を撒き散らし、ツメで壁を引き裂きながら、荒鬼に向かって走ってくる
「音撃刃・鬼神覚声!!……デェイヤアァァァ!!」
閃光が奔る
白倉の視界に映ったのは身体の半分までを切り裂かれた魔化魍の姿だった
「……ほう」
感嘆の念を込めて呟くが、木暮は首を振る
「駄目だ。計算では一撃必殺の威力を持っている筈なんだ」
「まぁ、研究段階なのですから……」
と、白倉が慰めようとしたとき、彼等の目前の強化ガラスが震えた
「ぐぅ……」
叩きつけられた荒鬼に、断末魔の咆吼をあげながら突進する魔化魍が迫っていた
「荒鬼、実験は終了だ。魔化魍は退治していい」
「了解」
荒鬼はすかさず腰の音撃管『飛勇鶴』を抜くと、魔化魍に向けて鬼石を打ち込んだ
「ぎゃう?!」
魔化魍が一瞬怯むと同時に、音撃射の準備を整える
「音撃射……鬼岩一閃!!」
山葵の旋風が巨大なかまいたちとなって魔化魍に炸裂する
本来ならこれで終わりだった……しかし
「ぐ……がぁぁぁ!!」
「何!?……うっ?!」
荒鬼は身体に強烈な疲労感を感じた。ともすれば変身を解きかねない程のものだ
だが、そんな事情などお構いなしに魔化魍は荒鬼に大爪を振りかぶる
「くっ……」
魔化魍の一撃を弾いたのは『鬼封力』と呼ばれる盾であった
十年ほど前に僅かながら配備された木暮が開発したこの盾は、
扱いにくいと評判で(大体、太鼓と弦は両手で持つのだから、盾を持てる手が無い訳で)
ただ先代の荒鬼が名人と呼べるまでに扱ったものだから、現役の荒鬼も装備してる代物だった
「……駄目や、身体が、動かん」
「音撃弦・旋風六角!!」
倒れ込む荒鬼に再び向かう魔化魍に対し、大旋鬼は距離を詰めると一気に音撃斬に持ち込んだ
「突撃大回転!!」
肉片になって散る魔化魍は長い苦痛からようやく解放された……
慌てて荒鬼を収容するスタッフを横目に、浩然としたままの木暮に白倉はいう
「このままでは、次の定例会議でアームドセイバーの開発打ち切りが確定しますよ」
木暮は白倉を見ないまま、返事をする
「そういう声が出てるのか?」
「私が出しました。成果が出てない以上、覚悟してください」
白倉が木暮に並ぶと、大旋鬼に抱えられた荒鬼がやってきた
「大丈夫か?」
「鍛え方が足らへんな……まだまだ兄に……あ、いや、先代の荒鬼に及ばないっちゅう事ですわな」
苦笑しながら、荒鬼は笑う
「そういう人を選ぶ武器では困るのですが」
口にしてから、少々毒がありすぎたと思った白倉は話題を逸らした
「関東では大雨だそうですよ。確か、先代の荒鬼さんのお弟子さんが関東に居たと?」
「そら有名ですよ。ボクは知りまへんが、叔父さんが吹雪鬼さんにフラれた話は語り草になっとりますから」
甥である大旋鬼の言葉に、荒鬼は何とも言い難い表情をする
荒鬼の家系は代々近畿の鬼を務めてきた家系だった
「あぁ、『堪忍な♪』の一言で玉砕されたアレか」
興味がなさそうに木暮が言った。大体、荒鬼と吹雪鬼は歳が十も離れてる。それを告白などと……
そう思いながら、あの件でこっぴどくフラれた荒鬼の話が瞬く間に広まったせいで、
多くの第二第三の荒鬼が告白に尻込みするようになったという裏話を聞いたことを思い出した
案外、吹雪鬼もその効果を期待してフったのかも知れない
「女は怖いな……」
何気なく呟いた木暮だったが、白倉に聞かれたらしく、その後女性遍歴をよってたかって聞かれたものだから、
最後には伝家の宝刀・警策を(半ば逆ギレ気味に)お見舞いさせたのであった
熱い湯が身体を火照らせていく
濡れた髪を掻き上げた鋭鬼は、鏡に映った自分を睨んだ
いくつかの傷跡が残っている。弱さの証しだと鋭鬼は思った
「ぷっは!広いお風呂ッスね〜」
「戸田山さん……銭湯で先頭きって泳ぐタイプだろ?」
「へ?」
暗に批判してるのだが、戸田山は気づかずにタオルで風船を作ってる
まぁ、それは鋭鬼もよくやるんだが……
結城家の一番風呂を頂いた鋭鬼と戸田山は、仕事の汗を流していた
「しっかし鋭鬼さんの戦い方、あれ、拳法って言うンスか!?」
「最近ね、取り入れてるんだ。師匠が残したのを我流で……」
「す、凄いッス!」
顔の洗顔料を洗い落としながら、鋭鬼は笑った
「普通の格闘術は人型相手だから、魔化魍相手の拳法ならそれなりに工夫が必要なんだ……」
「ソレ、教えて欲しいッス!今度組み合って欲しいッス!
……鬼同士で戦ったら、誰が一番なんすかねー?自分、斬鬼さんと吹雪鬼さんしかやりあった事ないんで分かんないッスケド」
鋭鬼はタオルで顔を拭くと、厳しい口調で戸田山を嗜めた
「鬼同士が戦うなんて下らないよ。誰が一番とかも決める必要の無いことだ
鬼は魔化魍を倒して命を守れれば良いんだ……その為に強く、自らを鍛えるんだ」
「あ……」
「でも、負けたくないっていう気持ちは良いことだよ。俺も、吹雪鬼さんよりは強いって思いたいから」
フッと儚げに笑った鋭鬼に風呂桶が飛んできた
「おげ!?」
「誰が私より強いですってぇ〜!言ってくれるじゃない!!随分と鼻が伸びたようで!!」
ガラッと風呂の扉を開けて入ってきたのは……
「ふ、吹雪鬼さん!?」
「う、わあぁーー!!」
戸田山は顔を半分湯船につける。彼はソレで良いが、浴槽に浸かってない鋭鬼はタオルで陰の棒を隠すのがやっとだ
「まったくさぁ!なんで雨っこ降るかなーびしょびしょじゃないのよーー」
「ふ、吹雪鬼さん……な、なんでココに……」
「ベタベタ気持ち悪い!私もお風呂入る!!」
「わあぁぁぁ!!脱いじゃ駄目ーーー」
素肌に張り付いたシャツをたくしあげる吹雪鬼に慌てて駆け寄る鋭鬼だったが……
――ニギッ
「ハウッ!?!」
「ふっふっふ……捕〜ま〜え〜た〜」
地獄と天国を同時に味わう鋭鬼。吹雪鬼の細くしなやかな指に力が入る
「あふっ!?」
「え、鋭鬼さん!?」
「あ〜ら、立派な“がも”だこと?」
額に青筋を浮かべる吹雪鬼、顔をゆでだこのように真っ赤にする戸田山、めくりめく官能の世界鋭鬼
(死ぬ……あ、でも死んでも良い……世紀末 潰されるのを 精気待つ 鋭鬼辞世の句)
精神のK点を超えようとしている鋭鬼に、吹雪鬼は力を緩めていった
「何で私に言わないで出動したの?昔言ったよね、自信過剰は駄目だって。
私達は命を賭けて、命を守ってるんだよ?慎重に慎重を重ねる位が当たり前なんだよ?」
「そんなつもり……無い。おやっさんも大丈夫だって判断したし……あうっ!」
「……そうね。本当のところ言うとね、鋭気くんが私を置いていった事に単純に怒ってるの!」
――ムギュゥ!
「ハホッ!?」
「私のことが頼りない?どうでもいい?それとも嫌い?」
「なんでそういう話に……」
「なるでしょう!!馬鹿ッ!!」
その瞬間、鋭鬼は川の向こうで手を振っている先々代と先代の鋭鬼が見えた
「母さん?うん、今日はおばあちゃん家に泊まっていくから……」
同じ町に住む母に電話をかけた康秀に、奈々はニコニコと笑って抱きついた
「久しぶりに康秀ちゃんとお泊まりだ!」
「はいはい、布団しくから放してな、奈々」
何せ今日は客人が多いから……と勝手知ったる祖母の家を歩き回る
今で体を縮めて呻っている鋭鬼を同情に近い感情で見つめながら
その鋭鬼の隣では戸田山がその大きな体を振るわせて「オンナコワイオンナコワイ」とぶつぶつと呟いている
その元凶たる方の鼻歌が風呂場から聞こえてくるが……あまり歌が上手だとは思わなかった
音程うんぬんより、歌い手がひどく不安定な声だった
その理由を、彼等の関係を知らない康秀に判りはしない
「雨……止みそうにないな……」
長く続いた雨の後は何処までも透明な青空が、それこそ目の見えない奈々にも感じれるような青空が訪れればいいのに……と康秀は思った
「 十之巻 ゚∀゚)ノ金メダル! ◎ヽ ゚∀゚)ノ金メダル!! (前編) 完 」
>>777 いいですね〜
俺も鋭鬼さん作ろうかな?そんでコマ撮りアニメーションにでもしようかしら
>>778 裁鬼主人公スレの次スレの事ですか?
今頃になってゴメン!でも職人さんGJ!
コ、コマ撮りアニメーション・・・・うはぁ、ステキすぎる。
796 :
777:
まさかあの書き込みに職人さんのレスが付くとはw
ぬこ耳の次はネジ穴埋めに苦労してる漏れが来ましたよ。
「がも」って久しぶりに聞いたwwww(津軽人)
アニメーションできたらうpして下さいね♪
職人さん工作もするんだ、芸達者w
後編も楽しみにしてまつよ♪