【響鬼】鬼ストーリー(仮)【SS】

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627仮面ライダー高鬼「鳴動する孤島」:2007/02/03(土) 20:03:34 ID:9NElUe930
話は遡る事少し前。イブキは残り六人の出撃メンバーと共に最後の打ち合わせをしていた。出撃直前まで他の任務に就く者が居るため、全員集まっての打ち合わせが出来るのはこれが最後だった。
「これが『人食い島』周辺の海図です」
机の上に海図を広げてイブキが説明を始める。
集まっているのは彼以外にセイキ、ドキ、バキ、ニシキ、アカツキ、イッキ、そして彼等のサポーター達である。本当はもっと大人数で行く予定だったのだが、諸々の都合で結局出撃する鬼はこの七人となってしまった。
「島の北側は岩礁のせいで上陸が出来ません。東側は絶壁となっていて同じく上陸は不可能です」
「西側と南側は?」
セイキが尋ねた。
「西側は海流の影響で渦潮が発生して危険との事です。だから島への上陸は南側からのみという事になる……」
海図を指差しながらイブキが答える。
「島に上陸し次第、まずは生け贄として連れて来られた人達を保護。その後ベースキャンプを設営して水棲魔化魍との戦いに備えます」
「しかし……生きているのか?最初に生け贄が島に渡ったのは数ヶ月前だと聞いているが……」
アカツキが疑問を口にした。どうやら他の面々も同じ事を考えていたらしい。
「勿論保護するというのは生きている事が前提です。ですから……」
「最悪な場合は覚悟しろって事だね」
「嫌な任務やなぁ……」
バキとニシキがそれぞれ答えた。
「まず僕達七人が島に上陸。魔化魍を殲滅した後、合図を送って勢ちゃん達に迎えの船を出してもらいます」
「じゃあ俺達はどうやって島に渡るんだ?」
「まさか泳いで行けと?」
セイキとニシキが尋ねる。それに対しイブキは。
「万が一襲撃を受けた場合を考慮すると、船に乗って団体で向かうのは得策ではないように思われます」
「それは分かりますが……」
イッキが早く先を言うようイブキを急かした。
「だから僕達は、万が一襲撃を受けても遣り過ごして島に上陸出来るよう小回りの利くものに乗って島に向かいます。既に手配は済ましてありますから」
628仮面ライダー高鬼「鳴動する孤島」:2007/02/03(土) 20:06:28 ID:9NElUe930
「成る程、これを使うわけか……」
当日、海岸に次々とメンバーが集まる中、イブキが言っていた「小回りの利くもの」を見てセイキが呟いた。
そこには、七台の水上バイクが用意されていた。だが問題が一つ。
「これは……免許が居るんじゃないのか?」
ドキがぼそりと呟く。
「ボート免許、有りますか?」
サポーターのまつがセイキとドキに尋ねるも、二人とも無言で首を横に振るだけだった。
「おいイブキ!俺達免許なんか無いぞ!良いのか!?」
離れた場所でサポーターの立花勢地郎と何やら打ち合わせをしていたイブキに向かって、セイキが呼びかけた。
「大丈夫です!既に根回しは完了していますから安心して運転して下さい!今勢ちゃんがマニュアルを持っていきますから目を通しておいて下さい!」
イブキがそう言うや否や、勢地郎が水上バイクの取説を持ってセイキ達の方へと向かってきた。
「根回しって何でしょう……」
「……知らん」
ドキが勢地郎から取説を受け取っている間、そんな事を話し合うセイキとまつ。
一方、ニシキはサポーターの石川昭一と一緒に、自身の音撃弦・剣心の塗装作業を行っていた。そこへイッキが歩み寄る。
「塗装作業ですか?」
「そう。昨日まで出撃しててさ、その時の戦いで塗装が剥げちゃったから」
そう言いながら「剣心」を自分のフェイバリットカラーであるオレンジ色に染めていくニシキ。
629仮面ライダー高鬼「鳴動する孤島」:2007/02/03(土) 20:09:21 ID:9NElUe930
「ニシキくん、『狂荒(きょうこう)』の方の塗装、バッチリ終わったぞ」
「馬鹿、ちゃんと『レイヴ』って言えよ!」
「あれ?ニシキさんの音撃震の名前は確か『戯言』だったんじゃ……」
イッキが尋ねる。確かニシキの音撃震は「戯言」と書いて「レイヴ」と読ませていた筈だ。
「ほら、これって元々引退した鬼が使ってたやつでしょ?」
そう。ニシキは代々伝わる音撃三角・烈節の使用を拒否し、弦の使用を望んだ。急に新しい物を用意する事も出来ず、結局引退した弦の鬼が使っていた物を引き継ぐ事になったのだ。
「前の人のカラーはなるべく消そうと思って。だから色も変えたし、弦の名前も『剣心』に変えたんだけど音撃震は名称変更届けがなかなか受理されなくってさ……」
つい最近漸く受理されたのだと言う。
前にこの音撃弦を使っていた鬼は、何らかの事情でまだ若いうちに引退し、そのため弦には以前使っていた人物の癖がそんなに付いていないのだとイッキは聞いている。確かその元の持ち主というのは噂では今北陸に居るとか……。
と、「陸震」に乗ったアカツキが海岸にやって来た。
「お早う御座います、アカツキさん」
挨拶をしながらアカツキに駆け寄るイブキ。アカツキは「陸震」から降りると勢地郎に向かって「何処かへ移動させておいてくれ」と鍵を放った。
「相変わらずゴテゴテしたバイクだな」
「陸震」の真っ赤な車体を眺めながらセイキが呟く。
この「陸震」は東北支部の「銀」がアカツキの注文を受けて作った装甲バイクだ。追加装甲による耐久性の上昇と、それに伴う機動力の低下を解消するため大馬力のエンジンが積まれてある。
「同じ改造車でもイッキさんのバイクの方が見た目もスマートですよね。それに比べてあれは原型が分からないし……」
「噂じゃ火器も積んであるらしいぞ。……いつか捕まるんじゃないのか?」
そんな事をひそひそと話すセイキとまつ。一方、石川は羨ましそうに「陸震」を眺めている。まだ乗りたいらしく、勢地郎に「俺に代わってくれ」と詰め寄りだした。
630仮面ライダー高鬼「鳴動する孤島」:2007/02/03(土) 20:10:17 ID:9NElUe930
その後、遅れていたバキが到着し、漸く出撃する事となった。
「結局コウキさんは帰ってこないのか……」
周囲を見回してバキがぼやいた。口煩い人ではあるが、その実力は折り紙付きだ。彼が居ると居ないとでは、これからの戦いの難易度も大きく変わるだろう。
「僕が断ったんです。あの人は今四国支部に必要とされていますから、帰ってきてもらうわけにはいきません」
その代わりこんな物を預かってきました、とイブキがあかねから渡された物を一同に見せた。
「何です、それ?」
イッキが尋ねる。それは四角い箱のようなものだった。ただ、レバーやつまみ、更には銃口のようなものまで付いている。
「口で説明するより実際に見てもらった方が早いですから……」
そう言うとイブキは近くの岩場に向かって箱を構えた。照準を合わせ、レバーを引く。
すると、物凄い勢いで銃口から鬼石の塊が飛び出し、岩を砕いた。鬼石は岩に減り込んだまましゅるしゅると音を立てて回転し、煙を上げている。
「……何だそりゃ」
「以前コウキさんが開発した物らしいです。名前は確か『カタストロフくんV世』とか……」
「カタストロフ(悲劇的な結末)……」
凄まじいネーミングセンスである。というか「V世」というのが気になる。まだあと二台あるというのか?
「何かの役に立つかもしれないからってあかねさんが……」
「役に立つのですか、それ?」
イッキの疑問も尤もだ。それに対してイブキは、あかねから聞いたのと同じ説明を始めた。
「鬼投術ってあるじゃないですか。それを参考にコウキさんがサポーターの護身用に開発したらしいんですけど……」
「けど?」
「反動が強すぎて、普通の人が使うと確実に肩が外れるんだそうです」
「駄目じゃねえか!」
セイキが呆れたように告げる。
「かと言ってコウキさん自身は管が使えますし、管の技術を習得していない鬼でも鬼法術や鬼棒術で遠距離戦はカバー出来ますし、つまるところ……」
無用の長物、と言うところか。
631仮面ライダー高鬼「鳴動する孤島」:2007/02/03(土) 20:11:58 ID:9NElUe930
「まあ折角ですし念のため持って行くとして、皆さん準備は良いですね?」
イブキは一同を見渡すと、次いで海の方へと視線を向けた。水平線上に、これから乗り込む島が浮かんでいるのがここからでもよく見える。
「じゃあ勢ちゃん、後の事は任せるよ」
「頑張ってきなよ、イブキくん」
火打ち石を鳴らす勢地郎。まつと石川もそれに倣った。
と、バキとドキが嫌な気配を感じ取った。その気配の出所に目をやると。
「あれは!」
海の中から、商人風の小奇麗な身なりをした童子と姫が現れたのだ。
「ヌラリヒョンか……」
「あれが湧いているという事は……」
「ああ。ウミボウズは確定だね」
ウミボウズは稀種魔化魍だ。従って童子と姫が現れる事は普通無い。
だが、物凄く低い確率でウミボウズの童子と姫が発生する事がある。しかも厄介な事にこの童子と姫は海だけでなく人里にまで出張ってくる。結果、猛士ではこの童子と姫をヌラリヒョンと呼んで魔化魍と同じ扱いにしている。
二体のヌラリヒョンがその姿を怪童子、妖姫へと変えていく。蛸のように大きな頭部を持った醜悪な姿だ。
「ぶっ潰す!」
変身鬼弦を鳴らしながらセイキが音撃弦を手に駆け出した。それにドキが続く。
「勢ちゃん達は下がって!」
「イブキさん、僕達も!」
残る五名も、一斉に各々の変身道具を鳴らした。
蛸の触腕と類似した外見の太い触手を複数伸ばし、怪童子が襲い掛かってきた。その攻撃に威吹鬼と壱鬼が近寄れないでいる中、弦を振るいながら聖鬼と西鬼が間合いを詰めていく。
「でえりゃああ!」
「黄金響」の刃が触手を切り裂いた。そして怪童子の腹部に「黄金響」を突き刺す。更にそのまま音撃震を装着し、音撃モードに入った。
「音撃斬・白い奇蹟!」
ピック状の爪を使い、弦を掻き鳴らす聖鬼。演奏が終わり、怪童子は塵芥と化した。
「聖鬼さん、初っ端から音撃斬だなんてノリノリじゃないですか!」
西鬼が傍に駆け寄ってきて言う。
「おうよ。前哨戦だし景気をつけなきゃな。さて、もう一匹は……」
見ると、妖姫の方も触手を使って刃鬼と暁鬼を攻撃していた。だがよく見ると怒鬼の姿が何処にも見当たらない。
632仮面ライダー高鬼「鳴動する孤島」:2007/02/03(土) 20:13:03 ID:9NElUe930
と、妖姫の足下に映る影の中から怒鬼が突然現れた。隙を衝かれた妖姫に襲い掛かる怒鬼。
「出たぞ、怒鬼の鬼法術・影隠れだ」
妖姫を殴りつけ、更に上空へと打ち上げると止めを刺すべく構えを取る怒鬼。
「鬼法術・闇飛礫」
怒鬼が手を翳すと同時に、妖姫の周囲から無数の黒い塊が現れてその全身に纏わりついた。闇に飲み込まれた妖姫の体が絶叫と共に爆発し、塵が降り注ぐ。
「怒鬼さんも今日はやけにテンション高いじゃないですか!それ結構体力を消耗する技だって聞いてますよ!?」
西鬼の呼び掛けに対し、怒鬼はただ黙って自分の決めポーズを返すだけだった。
「しかし妙だな。ウミボウズが湧いたにしては時期が違いすぎる……」
暁鬼の言う通り、本来ウミボウズは冬の終わりから梅雨時にかけて現れる魔化魍だ。今は七月、もう梅雨は明けている。
「イレギュラーか?しかしヌラリヒョンまで一緒に出てくるとなると、作為的な何かを感じずにはいられん……」
「しかもまるで見計らったかのようにここへ現れました。僕も暁鬼さんと同じ意見です」
壱鬼もまた、そう答えた。聖鬼達もやはり引っ掛かるようだ。
「皆さん、ここで考えていても始まりません。島へ行きましょう。途中、ウミボウズの襲撃に遭うかもしれません。各人気を付けて下さい」
威吹鬼の号令の下、全員が水上バイクに飛び乗り、島へと向かって全速力で発進していった。

島へと快調に向かっていく七人。鴎の鳴き声が聞こえる。実にのどかだ。
「どうやらウミボウズの襲撃は無かったようですね」
壱鬼が安心したように言う。事実、島まではもうあと少しの距離だ。
「ヌラリヒョンだけ湧いた?確かにそんな事もあるだろうけど、でも……」
刃鬼が一人ごちる。尤も、腑に落ちないでいるのは彼だけではなかったのだが。
633仮面ライダー高鬼「鳴動する孤島」:2007/02/03(土) 20:14:57 ID:9NElUe930
と。
「気をつけろ!大きな気配を感じるぞッ!」
「ウミボウズか!?」
刃鬼が叫んだ。その声に反応し聖鬼が周囲を見渡すも、波一つ立っていない海原が続くのみ。
「何処にも居ないじゃないか……」
「いいや居るッ!すぐ近くに居るぞ!」
全員周囲を見回すが何も変わったものは見られない。だが、壱鬼がふと自分達の真下に目をやると。
「居たぞ!下だ!」
「下だって!?」
全員が一斉に真下を見た。水面には、巨大な影が映っていた。
「でかっ!」
「浮上してくるぞ!避けろ!」
聖鬼が叫ぶ。その言葉通り影が急速に浮上してくる。まず巨大な背鰭が現れ、次いで鋭い目が水中から現れて鬼達を睨んだ。
「さ……鮫!?」
影の正体は、あまりにも巨大な鮫の魔化魍だった。(イメージ画像 ttp://image.blog.livedoor.jp/dqnplus/imgs/f/0/f09a0360.jpg
「そうか、これがイソナデか。主に西日本に現れると聞いていたが……」
暁鬼が感慨深げに呟く。
イソナデは鮫に似た姿の魔化魍だと記されているが、書物には尾鰭の部分しか描かれておらず、そのため全身を見た事のある者は殆どいない幻の魔化魍だ。
634仮面ライダー高鬼「鳴動する孤島」:2007/02/03(土) 20:15:59 ID:9NElUe930
イソナデが水面から跳びはねた。その巨体が宙を舞い、落下してくる。
「来るぞ!避けろ!」
間一髪で直撃は避けるも、分断されてしまう。
「刃鬼さん!聖鬼さん!怒鬼さん!」
「こっちは大丈夫だ!島で落ち合おう!」
威吹鬼の呼び掛けに刃鬼が答える。イソナデは再び潜行して飛び出す機会を窺っているようだ。
「どういう意味です!?」
「こいつは俺達が引きつけておくから、威吹鬼さん達は先に島へ!君達も異存は無いよな?」
刃鬼にそう言われて互いに顔を見合わせる怒鬼と聖鬼だったが……。
「是非もなし」
「ま、しょうがないか。威吹鬼さん達、俺達の事は気にせず先へ行ってくれ!」
「だそうだ。さあ早く!二撃目が来るぞッ!」
それでもまだ逡巡する威吹鬼を壱鬼が急かした。
「威吹鬼さん、今は島へ向かいましょう!」
島は目の前なのだ。ここで足止めを喰らっている暇はない。
「……分かった。刃鬼さん達も気を付けて!」
刃鬼達三人を後に残し、威吹鬼、暁鬼、西鬼、壱鬼の四人は全速力で島へと向かっていった。
635仮面ライダー高鬼「鳴動する孤島」:2007/02/03(土) 20:18:05 ID:9NElUe930
島へと上陸した四人は、当初の予定通り生け贄にされた人々の保護へと向かう事にした。
「大丈夫でしょうか、刃鬼さん達……」
壱鬼が心配そうに沖の方を振り向いて呟く。再度イソナデの巨体が跳びはねるのが見えた。
「彼等なら大丈夫だよ。生け贄にされた人達の捜索には僕と西鬼さんの二人で行く。壱鬼くんは暁鬼さんと一緒にここで待機していてくれ」
「そう大きな島じゃないし、二人でならすぐさ」
そう告げると、威吹鬼と西鬼はさっさと行ってしまった。残された壱鬼はとりあえず水上バイクから持ってきた荷物を降ろそうとして、ちらりと暁鬼の横顔を窺った。
(参ったなぁ……)
壱鬼は今日まで暁鬼とまともに会話した事が無かった。苦手なのだ、彼の纏っている雰囲気が。だから意図的に避けていた節がある。
(早く戻って来ないかなぁ……)
と、いきなり暁鬼が音撃管・水晶を構えた。壱鬼もまた、異常な気配を感じ取っていた。そして。
海中から物凄い勢いで巨大なうつぼが飛び出してきたのだ!だがその体は鰻にそっくりで、おまけに蛸や烏賊のような吸盤が付いている。
「うおうっ!」
うつぼは大きな口を開けて壱鬼に襲い掛かってきた。間一髪で回避する壱鬼。岩場に頭から突っ込んだうつぼに向かって暁鬼が鬼石を撃ち込む。
「こいつはアヤカシ。主に関東以北に出てくる魔化魍だ。昔東北支部でこれと戦ったという人から話を聞いた事がある」
「えっ、これがアヤカシ!?」
以前刃鬼は蛸だか烏賊の魔化魍と言っていた。確かに蛸の触腕に見えなくもないが、これはどう見てもうつぼ乃至鰻の化け物である。
636仮面ライダー高鬼「鳴動する孤島」:2007/02/03(土) 20:19:36 ID:9NElUe930
鬼石を撃ち込まれたアヤカシは、全身から油を撒き散らして暴れ狂っている。油に引火する可能性があるため、壱鬼は電撃技が使えない。
狙いを暁鬼に定め、丸呑みするべく襲い掛かるアヤカシ。それに向かって、体勢を整えた暁鬼が音撃射・雲散霧消を放った。
その音色に油を撒き散らしながら苦しみ悶えるアヤカシ。駄目押しに一際高く奏でられた音色が、アヤカシの頭部を文字通り雲散霧消させた。
「やりましたね!」
「いや、まだだ。今吹き飛んだのはアヤカシの一部でしかない。見ろ」
暁鬼の言う通り、アヤカシは頭部が吹き飛んでいるにも係わらず、そのままするすると海中へ引っ込んでいった。まだ生きているのだ。
「海中に潜って本体に直接音撃を叩き込まねばならない。行ってくる」
「え?ですが……」
壱鬼はやはり刃鬼からアヤカシは太鼓が担当する魔化魍だと聞いていた。その事を暁鬼に告げ、自分が行くと伝えるが。
「お前はアヤカシについて何を知っている?少なくとも俺の方が知識も経験もある」
「しかし暁鬼さん……」
「舐めるなよ、俺は向こうに居た頃は何でも一人でやってきたんだ。何でもな」
そう言うと壱鬼の制止を振り切り、暁鬼は海中へと飛び込んでいった。後には壱鬼だけが残された。

狭い島の中を手分けしてあちらこちら捜索した威吹鬼と西鬼は、一度合流すると唯一残った場所――大きな岩山へとやって来ていた。
「刃鬼さん達、まだ戦ってるみたいですよ」
西鬼が海の方を見ながら威吹鬼に告げた。すると。
「あっ!威吹鬼さん、あれ!」
西鬼が指差す方を見ると、刃鬼達の戦っているすぐ傍にウミボウズが現れたのが確認出来た。
「あれは不味いですよ!かなりの大物だ!」
「今は人々の保護が最優先事項です。行きましょう……」
「それは分かりますけど……。何だかなぁ……」
西鬼は納得がいかないようだ。
岩山を黙々と登り続ける二人。海の方はあえて見ないようにしている。すると目の前に童子と姫が現れた。
「あれは何の童子と姫だ?」
童子と姫は二人の行く手を遮るかのように立っている。おそらく、通したくない何かがこの先にあるのだろう。
637仮面ライダー高鬼「鳴動する孤島」:2007/02/03(土) 20:20:45 ID:9NElUe930
すると、巨大な影が二人の頭上を横切った。慌てて上を向くとそこには。
「バケガラス……」
そこそこ大きなバケガラスが悠然と空を飛んでいた。更に、怪童子と妖姫に変身した二体が腕を変化させた翼で羽ばたきながら突撃してきた。
「くっ!」
狭い足場の上でその攻撃を躱すと、怪童子と妖姫に向かって音撃管・烈風を乱射する威吹鬼。西鬼もまた、「剣心」を構えて迎え撃つ体勢を整える。
「鬼法術・高気圧!」
巻き起こる上昇気流に捉えられた怪童子が岩肌に激突した。落ちてくる怪童子に駆け寄り、滅多斬りにする西鬼。そこへバケガラスが爪を使って襲い掛かってくる。
「この野郎!」
「剣心」を振るいバケガラスと戦う西鬼。一方威吹鬼も妖姫に確実に圧縮空気弾を撃ち込み、粉砕する事に成功していた。
「西鬼さん!そいつは僕が……」
だが威吹鬼が言い終わる前に、一瞬の隙を衝かれた西鬼がバケガラスの足に捕まってしまう。
「威吹鬼さん、ここは俺に任せて先へ!」
「しかし!」
「いいから!わざわざこいつらが都合良く出てきた以上、何かある筈!だから早く!」
暫くその場に立ち尽くしていた威吹鬼だったが、意を決して先へと駆けていった。その後ろ姿を見送りながら西鬼が呟く。
「後は頼みましたよ威吹鬼さん。さて、逆襲させてもらうで!鬼法術・夢幻之風!」
西鬼の周囲を様々な風が吹き荒れた。熱い風が身を焼き、凍てつく風が翼を凍らせていく。吹きすさぶ七色の風がバケガラスの全身を包み、弱らせた。思わず西鬼を放してしまうバケガラス。
「よっしゃ!」
だが既に足場は遠く、このままでは重力に従って落ちていくのみ。しかし西鬼はそれを承知の上で技を仕掛けたのだ。それは……。
「行くぞ、鳥野郎!」
何と西鬼が空を飛んでいるではないか!そう、彼は鬼法術の応用で突風を操り自らの体を宙に浮かせているのだ。関西支部所属の鬼の中で最も背が低く体重が軽い彼だからこそ出来る芸当だと言えよう。
バケガラスの背へと華麗に着地すると、刃を展開した「剣心」を突き刺す西鬼。バケガラスは一声高く鳴くと、海の方へと向かって飛んで行こうとする。
「これで終わりだっ!」
西鬼の奏でる音撃斬が、孤島の空に響いた。
638仮面ライダー高鬼「鳴動する孤島」:2007/02/03(土) 20:22:02 ID:9NElUe930
暁鬼が行ってしまった後、壱鬼は改めて荷物を降ろそうとしていた。だが。
「……本当に沢山出てくるんだな」
いつの間にかウシオニと、その童子と姫が現れて壱鬼を睨み付けていた。問答無用で童子と姫が変身し襲い掛かってくる。
「ウシオニか。やってみせる!」
音撃棒・霹靂を手に取ると、迎え撃つべく壱鬼は駆け出した。

岩山を登り続ける威吹鬼は、小さな洞穴を見つけた。背を屈めて中へと入ってみる威吹鬼。感じるのだ、穴の中から溢れてくる禍々しい気配を。
一歩、また一歩と奥へ進む毎に禍々しい気配は強くなってくる。いつでも「烈風」を撃てる体勢のまま慎重に進んでいく威吹鬼。
ふいに広い場所へと出た。よく耳を澄ますと水音が聞こえる。どうやらこの岩山は中が空洞になっていて、海へと繋がっているらしい。
「ん?」
見ると、何人かの人が地面に倒れている。生け贄にされた人々だろうか。傍へ駆け寄ろうとする威吹鬼。
と、今まで感じた事も無い程強烈且つ邪悪な気配を威吹鬼は感じ取った。気配は背後からする。だが振り返ろうにも体が言う事を聞かない。
「困るな、勝手に餌場に入ってきちゃ……」
声がした。男の声だ。
「……餌場だと?」
それだけを言い返すのがやっとだった。男の声が答える。
「そう、ここは餌場。我々の育てた大事な大事な子どもの餌場……」
子どもとは外に居る魔化魍達の事だろうか。
639仮面ライダー高鬼「鳴動する孤島」:2007/02/03(土) 20:22:58 ID:9NElUe930
「……出会いとは必ず何らかの意味を持っている。ここで君と我々が出会った事にも何らかの意味があるのかな?君はどう思う?」
一方的に男が喋り続ける。気配は明らかに二つ存在している。黙っているもう片方の動向が窺えない分、実に不気味だ。
「……君も、餌になるかい?」
「うわあああ!」
嫌がる体に鞭打ち、強引に後ろを振り返る威吹鬼。そこには和装の男女が立っていた。顔はいつも戦っている童子、姫と同じだ。だが、それ以外は何もかも明らかに違う。
「烈風」の銃口を二人に向けるも、腕が震えて照準が定まらない。そんな威吹鬼の姿を哀れみの篭った目で男女が見つめてくる。
その時、洞穴中に低く大きな唸り声が響いた。対峙する彼等のすぐ横にある大きな縦穴。その底から聞こえてくるのだ。次いで波立つ音が聞こえた。
「どうやら昼寝の時間が終わったらしい」
満足気に男が呟く。
「答えろ!ここには一体何が居るんだ!」
「実際に見てみると良いよ」
男がそう言うや否や、今まで全く言う事を聞かなかった威吹鬼の体が動くようになった。急いで穴を覗き込む威吹鬼。そこには。
「何だ、あの魔化魍は……」
見た事も無い巨大な魚型魔化魍が穴の底の狭い空間の中で蠢いていた。魔化魍が動く度に水面に波が起こる。
「あれはアクルだ。苦労したよ、ここまで育てるのに……」
アクルとは、記紀神話においてヤマトタケルが吉備穴海(現在の岡山平野南部)で退治したとされる大怪魚の事だ。
「何故こんな怪物を……」
威吹鬼が尋ねるも、男女は不気味な笑みを浮かべたまま何も話さなかった。
「もうここは狭くて耐えられないみたい……」
「ああ、そろそろ解き放ってやろう……」
「何だと!?貴様等!」
アクルの咆哮と共に、岩山が大きく揺れた。アクルが暴れているのだ。このままだと間違い無くこの空間は崩れてしまうだろう。
「君達鬼に止められるかな?」
そう言い残すと、和装の男女は静かに威吹鬼の前から立ち去っていった。
640仮面ライダー高鬼「鳴動する孤島」:2007/02/03(土) 20:24:37 ID:9NElUe930
「音撃打・電光石火!」
ウシオニの体に貼り付けられた音撃鼓・万雷に向かって、光の矢と化した壱鬼が半ばぶつかるようにして「霹靂」を叩き込んでいく。
縦横に動き回りウシオニに音撃と電撃を決めていく壱鬼。何度目かの打撃でとうとうウシオニの巨体は爆発四散した。
「ふぅ……」
「万雷」を装備帯に戻し、一息吐く。暁鬼は未だ戻ってこない。海上でも刃鬼達と魔化魍の戦いは未だ続けられているようだ。威吹鬼達が戻ってくる様子も無い。
とりあえず近くの岩に腰を下ろす壱鬼。今のところ海から新手が現れる様子は無い。
空を見仰ぐ。風に雲が流されていく。空だけ見れば、実に穏やかだ。実に……。
「ん?」
上空から何かが落ちてくる。よく見るとそれは人の形をしていた。
「西鬼さん!?」
そう、空から音撃弦を抱えて西鬼が落ちてきたのだ。西鬼は地面に向かって鬼法術・高気圧を放つと、落下速度を殺して無事着地する事に成功した……かに見えたが。
「ぐおっ!」
アヤカシが散々撒き散らしていった油に足を取られ、見事にすっ転んでしまったのだ。頭を擦りながら西鬼が起き上がる。
「あ痛たた……。おう、壱鬼。あれ、暁鬼さんは?」
「いや、その、あれ……?」
西鬼の姿と空とを交互に眺める壱鬼。何故彼が空から降ってきたのか理解出来ないようだ。
と、突然島が揺れた。見ると岩山が大きく震えている。
「何が起きてんだ……?」
壱鬼の傍に近寄り、一緒になって岩山を見上げながら西鬼が呟く。一人岩山に向かった威吹鬼の事が心配になってきた。
一際大きな揺れが起こった後、島は再び静かになった。
「何だったんでしょうね、今のは……」
「分かるわけないやろ。大体……」
西鬼の喋りが止まった。どうやら壱鬼の肩越しに何かを目撃したらしい。慌てて壱鬼が振り返ると、そこには。
巨大な魚が泳いでいた。
「何、あの魚……」
「魔化魍……ですよね?」
岩山の中に居たアクルが、外海へと出てきたのだ。アクルの大きな目が二人の姿を捉えるも、気にも留めず悠然と泳いでいこうとする。
「待てぇ!無視すな!」
「あれが人里近くにまで出ていったら大変な事になる……」
潜行を始めるアクル。このまま潜られてはどうする事も出来ない。
641仮面ライダー高鬼「鳴動する孤島」:2007/02/03(土) 20:26:24 ID:9NElUe930
「壱鬼!合体攻撃行くで!」
「はい!」
二人の鬼が同時に構えを取った。音を立てながら西鬼の周囲に空気が渦を巻いて集まっていく。壱鬼の握った拳からは電撃が迸った。
「唸れ旋風!」「轟け雷!」
「「双牙竜!!」」
二人の合体鬼法術により発生した雷を纏った竜巻が、今まさに海中に潜らんとしていたアクルの巨体を捉えた。
風と雷により動きを封じられたアクルが大声を上げる。
「あかん、あれだけでかいと動きを止めるだけで精一杯や!」
暁鬼達が戻ってくる様子は無い。かと言ってこのまま動きを抑え続けるのも限界だ。
とうとう二人の放った「双牙竜」の中からアクルが抜け出してしまう。余程腹が立ったのか、さっきまでとは違い壱鬼達の方へとその巨体を向けた。その反動で波が起こり、二人に襲い掛かる。
「うわっぷ!おい、大丈夫か!?」
「大丈夫です。それより第二波が!」
壱鬼の言う通り、アクルが再度波を起こした。心なしか先程よりも大きな波に見える。近くの岩に捕まり耐える二人。
「あいつ、俺達ごと島を水没させる気か!?」
一声吼えるとアグルは再び向きを変えた。どうやら気が済んだらしい。三度目の波を受けて西鬼の「剣心」が流されてしまった。
「あっ!俺の『剣心』が!塗装を終えたばっかりなのに!」
これで今アクルに音撃を決める事が出来るのは壱鬼だけとなってしまった。
一方、そんな苦戦する鬼達の姿を眺める影が二つ。例の男女だ。
「少し遊んでみようか……」
「お戯れを……」
女の方がくすくすと笑う。男が手を翳すと、海中から複数の何かが現れた。その姿を見て西鬼が驚きの声を上げる。
「は、半魚人!?」
二人の前に現れたのは、映画でもお馴染みの半魚人そっくりの姿をした魔化魍だった。この魔化魍の名前はウミニョウボウ。昔、島根県の漁村に現れたという記録が残っている。このウミニョウボウが童子と姫に率いられて大量に現れたのだ。
「夏のやつかよ。不味いな、俺太鼓なんて持ってきてないぞ……」
西鬼がぼやく。結果、アクルも含めて壱鬼一人で対処しなければならない。しかし数が数だけに壱鬼一人というのも無理がある。
じりじりと近寄ってくるウミニョウボウの群れ。西鬼も鬼爪を出して臨戦態勢を取る。
642仮面ライダー高鬼「鳴動する孤島」:2007/02/03(土) 20:28:41 ID:9NElUe930
と、おもむろに壱鬼が装備帯の「万雷」に手を掛けた。
「西鬼さん、ちょっと離れていて下さい」
そう言って西鬼を自分の傍から離れさせた壱鬼は、何と「万雷」を勢いよく回しはじめたのだ。それと同時に「万雷」の中に蓄えられていた電気エネルギーが解放され、壱鬼の体を包んでいく。
「お、お前……」
電撃に包まれて壱鬼の全身が発光する様子を呆然と眺める西鬼。その光の中から、白銀に輝く体躯に紫電を纏わせた彼の強化形態が現れた。
「鬼法術・地走り!」
高く掲げた右腕を、まるで突き刺すかのように地面に叩きつける壱鬼強化形態。その瞬間、先程の波で濡れた足場を高圧電流が走り、ウミニョウボウの群れと童子、姫を襲った。
刹那、「霹靂」を構えた壱鬼強化形態が高速で動き、ウミニョウボウの群れに打撃を叩き込んでいく。打撃を受けた箇所に音撃鼓を模った雷が出現し、次々と爆発四散していく魔化魍の群れ。
文字通り電光石火の速さで全ての魔化魍を清め終えた壱鬼強化形態は、再びアクルの方に目を向けた。アクルは再度潜行しようとしている。
「お前、成れたのか……」
西鬼が驚きを隠せないといった感じで壱鬼に向かって尋ねた。隠すつもりは無かったのですが……と申し訳なさそうに壱鬼強化形態が答える。
だが話している間にもアクルの潜行は続いていく。
「間に合うかは分かりませんが、一か八かやってみます!」
そう言ってアクルに向かっていこうとする壱鬼強化形態の脇を、何かが物凄い速さで飛んでいった。何事かと二人が「何か」の飛んでいった先を見ると、アクルが体から血を噴き出して苦しそうに呻き声を上げている。
643仮面ライダー高鬼「鳴動する孤島」:2007/02/03(土) 20:30:14 ID:9NElUe930
「何が起きたんだ……?」
「何か」が飛んできた方を見ると、そこには「カタストロフくんV世」を構えた威吹鬼と、彼を支える刃鬼、聖鬼、怒鬼の姿があった
「流石はコウキさんの作った品だ。最大出力だと鬼でも扱うのは難しいや……」
刃鬼達に支えられながら威吹鬼が呟く。
更に威吹鬼は二撃目を発射した。再びアクルの体から血が吹き出す。
「動きが止まった!今だ!」
そう叫んで壱鬼を促す威吹鬼。
「……行ってきます」
そう一言告げると、壱鬼強化形態は自らの体を紫の矢に変え、アクル目掛けて飛び出していった。
自分に向かってくる鬼の気配を敏感に感じ取り、アクルが今までで最大の大きさの津波を引き起こした。それをそのまま貫いてアクルに飛び掛かる壱鬼強化形態。
「ぬおっ!……げほげほ!」
波に攫われないように渾身の力で岩場にしがみつく西鬼。今回の波の勢いは凄まじく、多少離れた位置に居た威吹鬼達も呑み込まれてしまった。
「超電稲妻落としの型ぁぁぁぁ!」
紫の矢が、アクルの背に激突した。その瞬間、閃光が走り海面が蒼白く染まる。そして。
轟音と共にアクルの巨体が消し飛び、文字通り海の藻屑と化した。
波が引き、海草だの何だのが沢山打ち上げられた岩場で、威吹鬼以下五名の鬼達は事の成り行きを見守っていた。
「終わった……」
刃鬼がふぅ、と一息吐いてその場にしゃがみ込んだ。
「威吹鬼さん、生け贄にされた人達は?」
「助けた分は安全な場所に運んであるよ」
「つまり……助けられなかった人も居るんですね?」
西鬼にそう言われ、口篭る威吹鬼。あの時洞穴に乗り込んだ際助ける事が出来たのは僅か数名。残りは既に魔化魍の餌にされていたのだろう。
644仮面ライダー高鬼「鳴動する孤島」:2007/02/03(土) 20:31:28 ID:9NElUe930
「しかし驚いたな、壱鬼の奴が夏の強化形態になれるなんて……」
「あ、聖鬼さんも知らなかったんだ。俺も初めて見たよ」
壱鬼の強化形態について聖鬼と刃鬼が話し合う。しかし肝心の壱鬼は……。
「探しに行かなくちゃならんだろうな」
「そう言えば暁鬼さんもさっきから見当たらないんですよ。何処行ったんだろ……」
「俺ならここだ」
そう言いながら海中から暁鬼が出てきた。その手には流された「剣心」が握られている。
「あっ!俺の『剣心』!」
無言で「剣心」を西鬼に放り投げた暁鬼は、一同を見渡すと威吹鬼に向かって尋ねた。
「壱鬼はどうした?」
「それが……」
威吹鬼は暁鬼にさっきまでの出来事を説明した。流石の暁鬼も多少心配になったようだ。
その後、威吹鬼が船を出すよう勢地郎に合図を送ってから、六人で海に潜って壱鬼の捜索が行われた。
「おーい、そっちはどうだぁ!?」
「駄目です!」
既に日は沈みかけている。
「潮に流されちゃったとか?」
「くそっ!何処行っちまったんだ、あいつは!」
「!」
その時、怒鬼が何かに反応した。新手の魔化魍かと、その場に居た者に緊張が走る。
645仮面ライダー高鬼「鳴動する孤島」:2007/02/03(土) 20:32:07 ID:9NElUe930
「違う違う、魔化魍じゃない。この気配は……ほら!」
刃鬼が指を差す。その方向には、海を泳いでくるイッキの姿があった。
「イッキ!無事か!?」
「この野郎、心配させやがって!」
六人が一斉に彼の傍に近寄る。
「やったな、イッキ。でも驚いたよ、いつの間に強化形態に変身出来るようになったんだい?」
刃鬼の問いにイッキが答える。
「ほんのつい最近です。でもあの形態は強力な分、僕の体への負担も半端じゃなくって……精々一分持てば良い方なんです」
そう喋るイッキの声は弱々しく掠れている。どうやら予想以上に体への負担は大きいらしい。
「じゃあ頻繁に変身出来るわけじゃないのか……」
「……はい。何より、変身には『万雷』に蓄えてある莫大な量の電気エネルギーを必要としますから……。一度変身すると充電にかなりの時間が……」
まさに切り札という訳か。
「で、あの強化形態には名前はあるのか?コウキさんの『紅』みたいに」
刃鬼の問いにイッキは首を横に振った。
「じゃあさ、俺が名前を付けてやるよ。ええと、見た目からして『白銀』?でもありきたりだよな……」
悩み始める西鬼。他にも、纏っていた電撃の色から「紫電」という名前も挙がったが、やはりしっくり来ない。
「『鳴雷(なるかみ)』か『建雷(たけみかづち)』というのはどうかな?」
威吹鬼がそう提案した。どちらも記紀神話に登場する雷神の名前だ。
「語感を考慮したら『鳴雷』の方が良いかな。どうだい?」
「ああ、悪くないですね。『建雷』の方も何かに使えそうですね……」
にっこりと微笑むイッキ。
「よし、島まで戻ろう。刃鬼さん、イッキを連れていってもらえますか?」
「任せろ。さあ、俺の肩に……」
こうして七人は島へと戻り、その後迎えにやって来た船に乗って本土へと帰っていった。
646仮面ライダー高鬼「鳴動する孤島」:2007/02/03(土) 20:33:20 ID:9NElUe930
「以上が事の顛末です」
電話口でニシキがコウキに向かって告げた。
あの後、あかねは四国に居るコウキに事の顛末を告げるべく電話を掛けたのだが、そこへふらりと立ち寄ったニシキが電話を代わり、直接話し始めたのだ。
「いやぁ凄かったですよ、イッキの強化形態は。コウキさんにも見せてあげたかった」
「そんな事よりも私の『カタストロフくんV世』はどうした?」
「はい?」
予想だにしなかったコウキからの質問に、ニシキの喋りが止まる。
「今の話を聞いた限りでは、私の『カタストロフくんV世』のその後が分からないではないか。波に呑まれた後どうしたのかね?」
あの時「カタストロフくんV世」は威吹鬼が持っていた。しかしアクルが起こした津波に呑まれた後、彼の手に「カタストロフくんV世」は無かった。
「ええと……その……」
それからイッキの捜索のために海へと潜り、それが終わった後は島で船が着くまでの間生け贄にされていた人達の介抱をして、それで……。
「どうしたのかね?」
段々コウキの口調がきつくなってくる。
647仮面ライダー高鬼「鳴動する孤島」:2007/02/03(土) 20:34:11 ID:9NElUe930
「あの、その、あの後救出した人々はですね……」
「そんな事は聞いていない。あれは改良の余地有りという事で、そちらに帰ってから再調整をするつもりだったのだ。貴様それを……」
今頃「カタストロフくんV世」は海底に沈んでいる事だろう。果たしてそれを正直に言うべきか否か……。
「話は変わるが、私はこっちでも『銀』の方の好意で機械いじりをさせてもらっている。今お仕置きマシーン『カリギュラくん1号』を作っているところだ。正直に言いたまえ」
「カリギュラ……」
カリギュラとは帝政ローマ時代に残虐な公開処刑を行ったとされる第三代皇帝の名前である。それだけで、その発明がどんなに危険なのかが分かると言うものだ。
散々逡巡した挙句、ニシキは一方的に電話を切るという選択を選んでしまった。
「どうしたの?」
あかねが不思議そうにニシキに尋ねる。対するニシキは蒼ざめた顔で一言。
「……すいません。俺、これから旅に出ます」
「は?何言ってるの?」
「ほとぼりが冷めるまで海外にでも身を隠します!」
「ちょっと待ちなさい!海外ってあなた……」
「放して!あ〜今頃かんかんだぞ。俺はもう終わりだ!」
取り乱すニシキを必死で抑えつけるあかね。騒ぎを聞きつけ、スタッフが次々と集まってきてニシキを抑えつけた。
結局、総本部に戻ってきたコウキがニシキを罰したのかどうかは本人達以外誰も知らない。 了
648名無しより愛をこめて:2007/02/04(日) 05:26:37 ID:z7zJkfTb0
 コウキさん、お仕置きマシーン『カリギュラくん1号』って(笑)。
次回は先代ですか?!
見習いさん、成長して足りないところに気がついて、がんばれ。
今日の裁鬼さん、石割君の冷めた成長振りが(笑)
 童子&姫や敵側もいろいろで楽しいですね。
649裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/02/04(日) 17:32:06 ID:POwIC5o3O
――瞬過終闘 「二 滝澤みどり 《疼く記憶(きずあと)》」

<滝澤。話があるんだ‥‥>いつかの自分。どこだったか、忘れた場所。声をかけられたのは――
<滝澤。話があるんだ‥‥>彼女は、黙ってついていった。
知りたかった事。知らなかった事。結局判らなかった事――
<滝澤。話があるんだ‥‥ 仁志の、事で‥‥>
彼女が知った事は、痛みと知りたくなかった思い。
夕暮れだったのを、覚えている。秋の暮れだったのを、覚えている。『誰』だったかは、覚えている。
<ねぇ‥‥? 聞かせて。 日高くんの事‥‥>
<‥‥>
<‥‥お願い! 日高くん、今どこで何をしているの!?>
<‥‥>
<‥‥どうしたの?>
気付いたのは、『彼』の険しい表情と、流れる風の冷たさ。気付かなかったのは、歪んだ思いと悪意。
<‥‥なぜ、黙っているの?>
<‥‥知らないんだよ‥‥‥‥>
<‥‥えっ?>
押し倒された身体が、床が、押さえ付けられた手が、痛かった。
<‥‥何も知ってるワケ、ないだろう? 急に飛び出してったアイツなんか‥‥ いつも俯いて、下ばかり見てたアイツのコトなんか、俺が知ってるはずないさ!>
その時に知った。『彼』の、日高仁志への感情を。
その時に理解した。騙されたという事を。
その時に刻まれた。決して消える事のない、心と体の傷痕を――
『彼』はいつもの仮面(態度)を投げ捨て、ずっと見てきた彼女を、彼女の身体を貪った。
捻曲がった悲願が純粋な願いを壊すまでの時間は、彼女にとって一瞬で終わり、永遠の枷となった。
一人、天井を見つめていた。それは夜空だったかもしれない。
床に残ったのは、小さな血痕。それは地面だった様な気もする。
彼女は抵抗したのか覚えていない。頬を殴られた気がしたが、顔には涙の跡しかなかった気もする。
《日高‥‥ くん‥‥》
何故かは解らない。だが彼女‥‥ 滝澤みどりが、そう呟いた事だけは確かだった‥‥
650裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/02/04(日) 17:35:47 ID:POwIC5o3O
マンションの自室。ベッドから起き上がり、冷蔵庫から取り出した牛乳をコップに注ぐ。
テーブルに置いてあったチョコの缶から中身を一粒口に入れ、カーテンを開けてベランダに出た。
「‥‥休み明けに、サイアクな目覚ましだなぁ」
背伸びで気怠さと悪夢を吹き飛ばして顔を洗いにいこうとする滝澤みどりは、鳴り響く電話に振り向いた。

「大変だ! ダンキさんがやられた!! ショウキさんも‥‥」
電話はショウキのサポーター・志村忍武からだった。
「落ち着いて、志村くん! 今どこ!? 何があったの!?」
志村はその名前からも解るように、鬼達に協力してきた忍者の子孫であり、些細な事では動揺を見せぬ、寡黙な青年だった。
その志村がひどく慌てふためき、言葉の順序を考える余裕すらなく情報を伝えようと話し続けている。

ダンキが、突然現われた黒い集団と謎の『影』に、魔化魍討伐を終えて帰り支度をしていたところを襲撃された。
陣中見舞いに来ていたショウキも弾鬼の援護に変身し、二人は集団の半数を倒したが、突如現われた白い『影』が、大砲の様な武器で二人を攻撃。
弾鬼は崖から落ちて川の流れに消え、勝鬼も瀕死だという。
「ただヤツ等、俺には攻撃してこなかったんです!」
志村は傍にいた弾鬼が銃撃を受ける直前、近くの樹の枝に飛び乗り緊急回避した。
姿を見られたはずだが、『影』も集団も志村には銃を向ける事もなく、勝鬼を攻撃した後は倒れている戦闘員を回収し、ジープで去っていったという。
みどりは、猛士医療部と通じ『銀』が常駐している病院を志村に連絡すると、一度受話器を置き、すぐに『甘味処 たちばな』に連絡した。

開店前の掃除も終え、立花勢地郎は読み終えた朝刊を居間に置いた。
増えた白髪と皺の原因、老いと深刻な鬼不足に溜息をつきながらも、仕込みを終えて店の奥から出てきたイブキと顔を合わせ、笑顔を作る。
「トウキ君とダンキ、連絡あったかな?」
「いえ、まだですね。 今日はバンキさんが大学で講義だそうですから、弦はデンキに任せるようにします」
651裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/02/04(日) 17:46:45 ID:POwIC5o3O
頷く勢地郎は、頭を掻いて湯呑みを手にする。猛士の関東支部長を辞したとはいえ、事務局長として鬼の育成に取り組もうとするも、肝心の人材がいない。
ショウキのサポーター・志村や、各地の『歩』達の子供にもそれとなく頼んでいるが、志村はあくまでも自分は『飛車』だといい、『歩』達の反応も芳しくない。
「ま、今は目の前のコトを、一つ一つ片していこうか」
営業時間を迎え、二人は店に戻ろうとする。
2015年現在、各地で日夜戦う音撃戦士鬼は、僅か96人。
約10年前、オロチ決戦の際に集結した鬼達の大半も引退し、関東十一鬼と称された勇者も殆どが『人』に戻った。
現在の関東支部に所属する鬼は、7名。弾鬼、勝鬼、威吹鬼、蛮鬼らベテランに加えて、二代目となる闘鬼、トドロキの弟子・電鬼。そして、今尚戦い続ける、一撃鬼。

みどりからの電話が、彼等の永く、激しい戦いの幕を開けた。

続く
652名無しより愛をこめて:2007/02/04(日) 18:33:14 ID:lNRkbgD1O
保守
653見習いメインストーリー:2007/02/06(火) 00:11:46 ID:hcz4mUTX0
前回は>>614から

三十五之巻「現る黒幕」

 それは、一瞬の迷いだった。
 大洋の左手には、こちらから向かって右へと破壊光線を放とうとする、鎧装束の姫がいた。
 そして、右手の少し離れたところには──姫が掌を向けた先に──みどりと香須実の姿があった。
 姫に向かってもみどりたちに向かっていっても、どちらにしろ破壊光線の進路に入ることになる。
 ならば──せめて姫に一太刀浴びせて死ぬか、それともみどりたちの盾なり囮なりになって死ぬか。
 どちらにしても死ぬなら──大洋は、みどりたちを「護る」方を選んだ。
「うおおお!!」
 叫びつつ、大洋はみどりたちの前に割って入った。姫の掌が破壊光線を発そうと光を帯びる。
 その光に呑み込まれ、大洋の瞳も輪郭も光の中に消えていき──
『──どぉうりゃァァァ!』
 近くの木の上から黒い影が跳躍し、正面から姫を蹴り飛ばした。
 装備帯の背面に音撃棒を装着した一本角の「鬼」が、大洋たちに背を向けて立っていた。
『うわぁ、本物の鬼が来たぁ』
 童子が慌てて言った。
『やっと鬼が現れたか。ニセモノ相手で物足りなかったところだ。一体なんだ、その弱い奴は』
 姫の言葉を聞いて、大洋は歯噛みしながら言った。
「ち、違う……おれは──おれだって──」
『鬼だよ』
 姫に、蒼い隈取りの入った無貌を向けて弾鬼は言った。
『今の、コイツの人を護ろうとした行動はな』
 みどりと香須実の背後では車が一台炎上し続け、そこにいる者たちを真昼のように照らしていた。
「ダンキくん……グッドタイミング」
654見習いメインストーリー:2007/02/06(火) 00:12:51 ID:hcz4mUTX0
 香須実がかけた言葉に、弾鬼は振り返らずに応えた。
「コイツが呼びに来たんだ」
 と言って、自分の肩を指差した。よく見ると、そこに赤いライオン型のディスクアニマル・岩紅獅子
が乗っていた。弾鬼がそれを捕まえて後ろ手に投げると、岩紅獅子は大洋の足下までやってきた。
 みどりがにっこりとして大洋に言った。
「大洋くん。君が助けを呼んだんだよ」
「え?」
「最初にスーパータイプたちが現れた時に、鬼弦でディスクを起動したでしょ? この岩紅獅子には、
あらかじめ助けを呼ぶような設定をしておいたから、あの時に近くの鬼を探しに出てたのよ。前に消炭
鴉が助けを呼んで君たちを救ったことがあったから、その話を参考にしてプログラミングしておいたの」
『さすがみどりちゃん』
 言いながら、弾鬼は背中から音撃棒を取り出して両手で構え持った。
『こっから先は俺に任せてくれ』

『ハアッ!』
 気合いと共に、装甲響鬼は装甲声刃から放たれた衝撃波を遠方の黒クグツに向けて放った。
 鍛えた者ほど邪気の影響を受けやすいことは周知の事実で、装甲響鬼は常に距離を取ってクグツを
掃討する戦法をとっていた。直撃を喰らった黒い影が爆砕して舞い散る。
『おーい見習い、もういいぞ』
 隠れていた純友が樹々の中から出て来て言った。
「今ので七体目の黒クグツですけど……白クグツを三体倒していますから、これで合わせて一〇体です。
日菜佳さんの推測では、全部で一〇体ということだったので……これでもう終わりだと思いますけど」
 幸いにも、女の白クグツは現れなかった。クグツたちに対する装甲響鬼の戦闘力は圧倒的なもので、
あの多美と同じ顔をしたクグツと出会ってしまったら、倒されてしまうことは確実だった。
655見習いメインストーリー:2007/02/06(火) 00:14:07 ID:hcz4mUTX0
『いや、推測はあくまでも推測だ。俺も早く魔化魍退治に加わりたいが、もう少し探索を続けよう』
 装甲響鬼に言われ、これ以上ディスクに反応しないでほしいと思いながら、純友は暗い森の中を歩き続けた。
 ──森が途切れ、川のそばに出た時、またもディスクが反応した。
「来、来ました、また」
 ディスクの反応に従い、純友は装甲響鬼と共に川沿いに歩き続けた。月明かりに照らされ、川面が
闇の中で輝いていた。その川を挟んで対岸に、これも月明かりに照らされた白装束姿があった。
(橘さん……?)
 純友はすぐに、川向こうに脚を閉じて立つ白クグツが、神戸で遭遇した者と同一人物であることがわかった。
『まだいたか』
 装甲響鬼が装甲声刃を眼前に垂直に構え、気合いを込め始めた。
「ちょっ……待っ──」
 純友が言いかけたその時、対岸の白クグツの後ろから、童子と姫に良く似た和装の男女が現れた。
同時に純友の持つディスクが今までになく激しく震動した。そして、装甲響鬼の構えがわずかに揺らいだ。
「響鬼さん!?」
『この距離なのに、凄い邪気だ。──あいつらはたぶん──スサ・タチバナ』
 純友は、遠目にも何か異様な雰囲気を醸し出している、和服姿の身なりのいい男女を見た。
 装甲響鬼は、体勢を立て直し、和装の男女──「凄・橘」に向き直って気合いを込めた。
『でやあァーッ!』
 水平に振り出した装甲声刃から放たれた衝撃波が、対岸の「凄・橘」を急襲した。和装の男が、
前に突き出した手を中心にして空中に光の壁を張り出すと、これまでクグツ達を滅殺してきた装甲
声刃の力がその壁に阻まれ、轟音と光が「凄・橘」の手前で拡散した。
656見習いメインストーリー:2007/02/06(火) 00:15:14 ID:hcz4mUTX0
『まさか、鬼どもにこうも確実にクグツの居場所を探れる力があるとは思わなかったな』
 和装の男が言った。──随分前に、純友はその声をどこかで聞いているような気がした。
『おまえはもういらない子なんだよ。──さあ、おとなしく始末されろ』
 和装の女の声には従わず、白装束の小柄な姿はその場から離れ、森の奥へと飛び込んでいった。
『待て』
 彼らが白クグツを追おうとした隙を突いて、再び装甲響鬼が音撃増幅剣から衝撃波を放った。
和装の男がそれを辛くも光の壁で避ける。
『よそ見はイケナイぜ』
 装甲響鬼は人差し指を立てて左右に振って言った。
『小癪な!』
 和装の女が輝きを帯びた掌を純友たちのいる対岸に向け、破壊光線を放ってきた。
『うおッ!』
 瞬時に純友を抱え持った装甲響鬼は、そこから跳躍して女の攻撃を避けた。
 光は直前まで純友たちがいた場所に炸裂し、その川岸の地形を大きくえぐって変えていた。
『──行くぞ。今は、鬼よりあのクグツだ』
 女を促し、和装の男は白クグツが消えていった森の中へ向っていった。
 装甲響鬼に連れられ、大木の陰についた時、純友は、ディスクの反応が停止していることに気づいた。
 純友の報告を聞き、装甲響鬼は念のため再び川岸に出て充分に周囲の様子を窺った。先刻までそこに
あった邪気も、すっかり消え去っていた。
『見習い、クグツの探索はここまでだ。一旦ベースキャンプまで戻るぞ』
 二人は夜の山道を、大洋たちの待つキャンプ地に向けて歩き出した。

三十五之巻「現る黒幕」了
657見習いメインストーリー:2007/02/06(火) 00:17:33 ID:hcz4mUTX0
次回予告

「あれ……なんだろ。急に力が抜けちまって……」
「大丈夫だから。今は、休ませてあげて」
「アイツは今、揺れている。魔化魍を憎む戦い方と、魔化魍から人を護る戦い方の間でな」
「鬼であるってことは、鬼であっちゃいけないってことなんだって」

見習いメインストーリー 三十六之巻「呼ばれる名前」
658裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/02/06(火) 21:25:53 ID:WSGIfPDcO
――瞬過終闘 「三 立花勢地郎 《剥がされる秘密(いつわり)》」

「それで、ショウキの様子はどうなんだい?」
「まだ詳しい事は‥‥ ダンキ君も探さなきゃいけないし、他の人達にも連絡しなきゃ」
みどりから志村の報告を聞かされた勢地郎は、事の全容を掴むべく必死だった。
先ず、ダンキとショウキが襲撃された。相手は、黒い装備の戦闘集団。しかし、彼等は『飛車』の志村は襲わない。
戦闘の結果、二人は敗北。ダンキは行方不明、ショウキは重体。その結果に直接作用した、謎の『影』。
志村の話では、『風を纏』って『変身』したらしい。まるで―― 『鬼』の様に。
「皆には、わたしが伝えます。‥‥みどりは取り敢えず、こっちに来てくれるかな」
電話を一度切り、勢地郎はダンキの捜索を頼むべく、ある男の番号を登録してあった短縮ボタンを押した。

「‥‥解りました。すぐに向かいます」
受話器を置いた男が振り向くと、妻がかつての装備を用意していた。
変身音叉『音鋼』、音撃鼓『金剛』、音撃棒『剛力』、そして、小型音撃弦『釈迦』。
「いってらっしゃい‥‥ 気をつけて‥‥」
男は頷いた。既にダンキ達が倒された以上、丸腰での出動は自殺行為だった。
『鬼』を退き、2年半。だが、彼、ゴウキの瞳はあの頃と同じ輝きをしていた。

ゴウキにダンキを任せた勢地郎は、次いでバンキ、デンキ、イチゲキにも連絡して緊急召集を発令した。
トウキに連絡しようとしたが繋がらず、仕方なく実家にいた母親―― 先代トウキの妻に、魔化魍討伐後すぐにたちばなに来てほしいと言付けを頼んだ。
最後に吉野へ報告を済ませると、既に正午近く。店の入り口には臨時休業の貼り紙が風に揺れていた。
659裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/02/06(火) 21:27:23 ID:WSGIfPDcO
「吉野は、何といってるんです?」
イブキも服を着替え、いつでも出撃出来るよう身構えている。
「いや‥‥ 何も言えない、判らないそうだ‥‥ まさか、『鬼』を攻撃する者達がいるとはね‥‥」
『鬼』は、常に歴史と繁栄の裏に存在した。教科書や記録に遺らぬ、裏の戦いとして。
『鬼』は、皆人々の為に存在した。生命を、未来を守る為、魔化魍と戦い続けてきた。
入り口が開き、みどりとバンキが同時に到着した。
「みどりさんから、話の大筋は聞きました」
「本部は、なんて言ってるの?」
みどりの問いに、勢地郎は先程イブキに応えた内容を繰り返した。
「‥‥そう。 こっちもまだ、断言は出来ないんだけど‥‥ 敵の武器、たぶん、ただの弾丸じゃないと思うの」
その時、電話が鳴った。ある『歩』の老人からで、魔化魍が出た山の山頂付近に、先代トウキの亡骸を見つけたという。
「‥‥」
その時、店の入り口が開かれた。

「この件に関して、総理の意見を聞かせて頂きたい!」
今日も国会では、政治家達が先の見えぬトンネルを堀り進む為だけに、答弁と論議に唾を飛ばしていた。
与党の部下達に推され、渋々マイクの前に立つ総理。マイクと総理の間に現われた『二人』に気付いたのは、先程問題の文章を復唱しただけの大臣だった。
「な‥‥ 何だ!? 君た」
その首が瞬時に身体から離され、転がり落ちる。
「ちは―― カッ‥‥」
『二人』は黒いスーツとドレスに身を包み、ステッキと折り畳んだパラソルを持ち、邪とも純とも言えぬ眼差しを、総理大臣に向けていた。
『男女』の身なりは、他の人間よりも歴史ある議事堂に馴染んでるように見えたが、目の前の総理は凍結し、議員達は自分の存在を示すようにざわめきと絶叫を繰り返していた。
床に転がる大臣の首は、瞬時に切断面を焼き固められ血の一滴も零れていない。
その首を『女』が静かに抱き抱え、『男』が耳をつまんで受け取り、総理の前に置いた。
「‥‥飽きちゃった」
その一言と、軽く首の額を突いた人差し指に、大臣の頭は握り締められた水風船の如く、破裂して周囲に赤いシャワーを撒き散らせた。
身体の芯棒を抜かれた様に崩れ、尻餅を着いた総理大臣は静かに失禁し、『二人』はマイクを自分達に向け、微笑しながら『宣言』した。。
「‥‥もう、要らないよ。 鬼なんて――」

続く
660裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/02/06(火) 21:35:32 ID:WSGIfPDcO
【今日の裁鬼さん】

(後期OP視聴中)
『く〜りっ返〜すぅ 響き♪』

裁鬼「‥‥あれ? 今俺映ってなかった?」
石割「気のせいですよ」
(巻き戻し)
裁鬼「‥‥」
石割「‥‥」
裁鬼「やっぱり俺映ってないじゃねぇか! アレお前だろ! そういや俺収録呼ばれてねぇよ!!」
石割「だから気のせいですって!」
裁鬼「ウソつけ! 右から4番目あきらかに『人』じゃねぇか! この野郎!」
石割「いつもやられてばかりのアンタが悪いんだ!」

○石割 1R 00分03秒 裁鬼●

今日の裁鬼さん 第ニ回終わり つづく
661別冊用語集”管理”人:2007/02/06(火) 21:36:45 ID:VQk4yw920
今までに無かったタイプの物語ですね・・・これはwktk
197×年、夏、高知。
「時間だ。じゃあ行くぜ。……それとこれ、俺からの餞別な。また俺達が会えるように祈りを込めて書いたんだ」
そう言って四つ折にした紙片をキリサキに渡すザンキ。
「恥ずかしいから俺が発ってから見てくれ」
そう念を押すと、ザンキは飛行機で東京へと帰っていった。

「……で、キリサキさんは?」
四国支部。
ウズマキと会話しているのは彼同様管を習得しているリョウキ(リョウはシティーハンターの主人公と同じ字)だ。驚異的な空間認識能力を持ち、曲撃ちを得意とする若手のホープである。
但し、野心家の性格が災いしてキリサキとは馬が合わないでいるようだが。
「……行っちゃったよ、東京へ。飛行機代だけでもう財布もすっからかんだろうに……」
「そんなに酷い事が書かれていたんですか?あの外人がくれたっていう紙に」
リョウキが苦々しく言う。彼は、カジガババア退治の翌日、丁度開催中だった高知名物よさこい祭りにザンキを案内するようキリサキに言われて、彼の面倒を見ているのだ。
話は当日に遡る。
キリサキは、一人で特訓をしている筈のリョウキに会うべく、山中を分け入っていた。
銃声が聞こえてきた。
「やってるな……」
そう呟き、音のする方へと進むキリサキ。
少し広い場所では、リョウキが切り株の上に立ててあった空き缶の的に向かって自身の音撃管を構えていた。三つ並んでいた缶は、既に二つ倒れている。
と、リョウキが明後日の方向に向けて鬼石を発射した。鬼石は木の幹に絶妙の角度で当たると跳ね返され、その跳弾が見事に缶を貫いた。
「よう、相変わらずお遊戯に精が出るな」
そう言いながらリョウキに近付いていくキリサキ。
対するリョウキは、自分の技術をお遊戯呼ばわりされて明らかに苛ついている。
「お遊戯は酷いですよ。俺はね、四国支部なんて狭いところで燻る男じゃない。いずれ猛士ナンバーワンの管使いになる男なんですから!」
「だったらまず演奏の練習をしろ。何だかんだで最後に物を言うのは音撃だ。お前の演奏はまだまだ稚拙じゃねえか」
「それは分かっていますが、でも……」
何か言い返そうとするリョウキを制して、キリサキが続ける。
「戦闘技術でもお前より遥かに優れた奴は幾らでも居るぜ。お前も大会議に出て、噂ぐらいは聞いてきてるだろうが」
四国支部一素行が悪いキリサキに説教されているという事実に、悔しさのあまり体を震わせるリョウキ。
「何だっけ、確か北陸には凄腕のスナイパーが居るんだろ?あと二丁拳銃を巧みに操るって鬼は、お前以上の空間認識能力があるそうじゃねえか」
自分は大会議に出席していないくせに、やけに詳しくキリサキが語る。コンペキ辺りから聞いているのか。
「宗家の鬼も、東北の名門の鬼も、みんな管使いじゃねえか。喧嘩売る相手が悪すぎるぜ、お前。あと、関東支部には何をやらせても日本一の鬼が居るとか……」
でもな――そう言いながらリョウキの事をじっと見つめるキリサキ。
「まだ鬼になって二年目だっけ?今年で三年目か?その割にはお前、良くやっているんじゃねえのか?親父がそう言ってたぜ」
その発言もまた、リョウキを不快にさせた。支部長がやけにキリサキを目に掛けている事が前々から気に喰わなかったのだ。
「……何の用です?」
自分の内心がキリサキにばれないように、注意深くそう告げるリョウキ。
「あ〜、実はそれなんだが一つ頼まれてくれねえかな。俺もウズマキも昨日のカジガババアとの戦いで疲れててさ……」
「出撃任務ですか?」
「いや、接待」
「接待?」
不思議そうにそう尋ね返すリョウキ。接待とはどういう事だ?
「よく分かりませんが……何故俺なんです?他の人は?今日は確かコンペキさんが非番だったでしょ?」
「コンペキは少林寺拳法の会合とかで多度津まで行ってて不在なんだよ。だからお前しか残ってないんだ。頼む、やってくれ。つーかやれ!」
最後の「やれ」は最早お願いではなく命令である。しかも物凄くドスの効いた声でそう告げている。
「……何をです?」
渋々といった感じでリョウキが尋ねる。
「お前も聞いてるだろ?関東支部から来た客人。あれを高知市内まで連れて行ってよさこい見せてやってくんねえかな」
と、キリサキの背後から一人の白人男性が満面の笑みを浮かべながら現れた。
「チャオ〜!俺はよさこいとやらが見たいぞ!俺がここに来た時に開催されているなんて、俺に見てくれと言っているようなもんだ。さあ早く連れてってくれ!」
ザンキだ。彼だけは嘘みたいに元気一杯である。
その瞬間、リョウキの思考が一時停止した。彼は性格上、大宴会の席では余所の支部の有力な鬼の観察をしたり噂を集めたりしているのだが……。
(こ、こいつは……毎回大なり小なりの騒動を起こしているイカレた外人野郎じゃないか!)
昨日、支部の壁がオート三輪でぶっ壊されたと聞いた時から嫌な予感はしていた。それが現実に今自分の目の前にあるとは……。
リョウキは逃げ出したい衝動に駆られた。体中に悪寒が走る。おそらく、この場にキリサキが居なかったら確実に泣いていただろう。
(い、嫌だ。助けて、母さん……)
がたがたと震えるリョウキ。しかし鈍感なのか何なのかは分からないが、キリサキもザンキも気に留めた様子は全く無い。
「じゃあ頼んだぜ」
そう言うとキリサキは欠伸をしながら立ち去ってしまった。
「ち、ちがっ!まだ承諾してな……」
目の前にザンキが立ち塞がった。
「おい早くしろよ。俺は気が短いんだ」
これから逃れられるのなら、彼は迷わず鬼である事を捨てただろう。それ程嫌なのだ。生理的に嫌なのだ。
直後、山中にいい歳した大人の泣き声が木霊した。
「……ざまあ見やがれ」
キリサキに対して、ぼそりと呪詛の言葉を吐くリョウキ。
「どうしたの?」
「いや、何でも……」
「そう言えばリョウキくんも苦労したでしょ、ザンキさんのお世話。ごめんね、あの時自分が動けなくって……」
申し訳なさそうにそう言うウズマキを睨みつけながら。
「……苦労なんてもんじゃないですよ。あの人、最初は大人しくアイスクリン舐めながら見物してたんですがね、見ているうちに興奮してきちゃったのかいきなり参加するとか言い出しちゃって……」
彼等はとある高校の校門前で見物していたのだが、駄々を捏ね続けたザンキはその高校の時計台に無断で登り、「躍らせてくれるまで下りない!」と言い出したのだ。
余談だがその高校は、後年スタジオジブリが制作したアニメ「海がきこえる」に出てくる学校のモデルになっている。
「……それで帯屋町筋チームの代表に頭下げに行って、何とか飛び入り参加させてもらったんですよ。この俺が他人に頭を……」
ぶつぶつと怨み言を言い続けるリョウキ。
結局、ザンキが暴走しないように見張るため、リョウキも法被と鳴子を借りて参加したと言う。当然踊りの練習なんかしていないため、散々だったそうだ。
「それでもあの外人は喜んでましたけどね。でも俺は……あんな無様な踊りを……沢山の観光客に……もし母さんに見られたら……」
またもやぶつぶつと言い始めるリョウキ。その姿を見て、ひょっとしてこいつ根暗じゃないのか?とウズマキは思った。
「で、結局ザンキさんは何も問題を起こさなかったんだね?」
「ええ、まあ。変な事は言ってましたがね。詰め所で会った広末って二十代前半ぐらいの人に、『もし君に女の子が生まれたら芸能人になりそうだね』って……」
相変わらずザンキの言動は意味不明である。
「でも先輩、東京まで行ってどうするつもりなんだろう……。あの人の事だから機内で頭を冷やして――なんて事は無いだろうし……」
止められなかった(止めたら殴られた)自分自身を恨みながら、ウズマキは許可無く勝手に東京まで行ってしまったキリサキの身を案じていた。


東京編に続く
667名無しより愛をこめて:2007/02/06(火) 23:56:19 ID:msaEl9fP0
次スレ立ててきますね。
668名無しより愛をこめて:2007/02/07(水) 00:03:33 ID:xSPXRrq70
次スレ立ててきました。

【響鬼】鬼ストーリー 弐之巻【SS】
http://tv9.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1170773906/
669名無しより愛をこめて:2007/02/07(水) 00:23:20 ID:ULy7/cTM0
>>668
乙!ありがとうね。
670見習いメインストーリー:2007/02/09(金) 01:31:26 ID:d6EajzA+0
前回は>>653から

三十六之巻「呼ばれる名前」

 腕が自由に効かぬ仲間と一緒では分が悪いと悟った鎧装束の姫は、童子を連れて弾鬼たちの
前から逃げ去っていった。燃え続ける車のそばで、残った一同は息をついた。
 その時、それまで立っていた大洋が、その場で膝を崩して前のめりに倒れた。
「大洋くん!」
 みどりが叫んで駆け寄った。
 上体を抱え起こすと、大洋は薄く目を開いた。
「あれ……なんだろ。急に力が抜けちまって……」
 香須実がやってきて、しばらく様子を見てから言った。
「安心して一気に緊張の糸が切れたのね。ところどころ怪我してるけど、命に別状はないと思う」
 そこに、純友を連れた装甲響鬼がやってきた。
『おう、ダンキ』
 装甲響鬼に声をかけられ、弾鬼は振り返って言った。
『ああ、ヒビキさん。お疲れです』
『ベースキャンプに誰もいなかったから、どうしようかと思ったぜ。
で、こっちの方が明るいから来てみたら……あ〜あ、サバキさんの車が……』
「童子と姫の『スーパータイプ』が現れたの」
 みどりが事の成り行きの説明を始めた。
 純友は、地面に仰向けに寝かされて香須実に介抱を受けている大洋に気づいて駆け寄った。
「大洋ッ!」
 香須実は、人差し指を口の前にあてて小さく言った。
「大丈夫だから。今は、休ませてあげて」
 顔の変身を解除したダンキが、大洋の様子を見にやってきた。
671見習いメインストーリー:2007/02/09(金) 01:34:00 ID:d6EajzA+0
 大洋が、それに気づいて、目を薄く開いたまま言った。
「ダンキ……さん……?」
「今は、ゆっくり休め」
 ダンキは微笑しながら言った。
「今日は、おまえの中の『鬼』を見せてもらったぜ。よくやったな──大洋」
 ダンキが、初めて──「見習い」ではなく、「大洋」と名前で呼んでくれた。
「へへ……」
 小さく笑ってから、大洋は目を閉じて意識を失った。
 ダンキは、立ち上がると音叉を額の前で構え、再び無貌に蒼い隈取りの鬼の顔となった。
『行きましょう、ヒビキさん』
『おう。クグツはあらかた片付けたから、これから俺も魔化魍退治に合流する。
見習いはここに置いていくから、頼んだぜ。みどり、香須実』
 言うと、装甲響鬼は弾鬼と共に山道へと駆け入っていった。
 純友は、みどりたちと協力して意識を失った大洋をベースキャンプまで運んでいった。

 赤城山中の魔化魍をすべて退治し終えて鬼たちが全員ベースキャンプに戻ってきたのは、
深夜の二時をまわる頃だった。
 姫の破壊光線により車を失ったサバキとそのサポーターの石割は、ザンキとトドロキの乗る
車に同乗し、都内に向けて出発した。運転は石割がつとめることになった。
 ヒビキとイブキ、エイキは、今回の長時間の戦闘の消耗を考慮して、香須実が運転する
エイキの車に乗って帰っていった。
672見習いメインストーリー:2007/02/09(金) 01:35:07 ID:d6EajzA+0
 そして、まだ目の覚めない大洋と共に、純友はみどりの運転する車の後部座席に乗り込み、
山を後にした。
「みどりちゃーん、俺が運転するって」
 助手席に乗るダンキが、運転席に座るみどりに言った。
「ダーメ。今日みたいな長時間の戦いの後に、車の運転ってのは危ないでしょ?
事故があってからじゃ遅いのよ。始末書通り越して、即、本部への出頭になるかもよ」
「……それはカンベン」
 と言って、ダンキはおとなしくなった。
 車が走り出してしばらくしてから、純友はみどりたちに訊いた。
「あの、今日、天美さんがいなかったみたいなんですけど、別の現場だったんですか」
 ベースキャンプの片付けの最中、そこにイブキの弟子である天美あきらの姿は無かった。
「ああ、それな。心の問題とかで、今日は休みだとよ」
 ダンキが振り返って答えた。
「アイツは今、揺れている。魔化魍を憎む戦い方と、魔化魍から人を護る戦い方の間でな」
 夜の関越道を、四人を乗せた車は南下していった。
「俺たち猛士は、人を護るための集団だ。だから、猛士のもとで戦う鬼ってのは、人を護る
戦い方が必要だ。──二か月前、明日夢にからんできた奴を相手に喧嘩をしていた大洋は、
憎む戦い方をしていやがった。今のあきらも、そっち側に行っちまいそうで危ねえんだ」
「前に、ヒビキ君が言ってたんだけどね」
 車の運転を続けながら、みどりが言った。
「鬼であるってことは、鬼であっちゃいけないってことなんだって。──わかる? 純友くん」
「え?──え?」
673見習いメインストーリー:2007/02/09(金) 01:36:47 ID:d6EajzA+0
「今、ダンキ君が言っていたのがその答え。魔化魍を憎む戦い方をしていたら、人ではなく、鬼になって
しまう。鬼であるってことは、鬼であっちゃいけない。つまり、人を護る戦い方をしなさいってことなの」
「人を護る戦い方……」
「今日のそいつの戦い方が、一番わかり易かったぜ」
 ダンキは、純友の隣で、毛布をかけられて眠っている大洋を指差して言った。
「俺が岩紅獅子に連れられてその場に駆けつけた時、一瞬、こいつが迷っているのがわかった。
敵に突っ込んでいくか、みどりちゃんたちを助けに行くか、迷ってたんだな、たぶん。
──で、こいつは、助けに行くほうを……人を護る戦い方のほうを、選んだんだ」
 肩越しにニカッと笑顔を見せて、ダンキは言った。
「しばらく見ねえうちに成長してたんだな、こいつも」
 純友は、後部座席からおずおずとダンキに言った。
「あのっ、あのっ、ぼくもそのう、ちょっとは成長したとは思うんですけど──
ほ、ほら、消炭鴉でクグツの居場所探ったりとかして、今回は結構お役にたてたかな……と」
「何が言いたいんだ? 見習い」
「いやその、ぼくも名前で呼んでもらいたいな〜、とか……」
「へ?」
「さっき、現場で大洋のこと、『見習い』じゃなくて名前で呼んでたから……」
「オマエはもうちょっと鍛えてからな」
「いいなぁ、大洋ばっかり……どうせぼくは……」
 夜の関越道を走る車の中で、純友はしくしくと泣き出した。「そんなことで泣くんじゃねえ!」
というダンキの怒鳴り声も、「私が呼んであげるから、泣かないで〜」というみどりの困ったような
声も純友の耳には入らず、泣き声が道路に尾を引いていった。

三十六之巻「呼ばれる名前」了

見習いメインストーリー 三之章「天」完
674見習いメインストーリー:2007/02/09(金) 01:38:08 ID:d6EajzA+0
次回予告

 いつまでも一緒に、歩いていけると思っていた。
 隣にいることが、あたりまえになっていた。
 別れの時が、すぐそこまで来ていることにも気づかずに。
 でも大丈夫、遠く離れても二人はいつまでも友達だから──

見習いメインストーリー 最終章「血」
675名無しより愛をこめて:2007/02/09(金) 09:53:25 ID:iRW/vbmP0
地味にがんばってる見習いさん乙!
676名無しより愛をこめて
「S.I.C. SUPER COLLECTION VOL.2」買いマシタ。
ホビージャパン立読み程度だったから、ワタシ的には見所がヽ(゜∀゜)ノイパーイ

名前だけ出て、アトはな〜んも設定の無かった吹雪鬼に対する解釈が、
管の女性鬼っていう点で鋭鬼SSと一致していてナンだかウレシイワァ(n‘∀‘)η

まとめサイトのお絵描き掲示板で作者さんが描かれていた絵を参考にして、
コラとか作ったこともアリマシタけど(コレ→ ttp://www.vipper.org/vip439962.jpg.html
S.I.C.の作例を見てちょっとはヨッキューフマンがかいしょーされたかなってカンジ。
ワタシのコラ、カラーリングがSSの描写と違ってると思いますが、お許しくだちい。