『娘。甲子園』
言うならば、甲子園の女子バージョン。
各都道府県から予選を勝ち抜いてきたところを代表校とし、
甲子園でその代表校が激突、その中から頂点を決定する。
また今年も想いをのせた白球を追い続ける彼女達が躍動し、汗を流し、涙した。
そして、ここに最後まで勝ち上がってきた2校が高みを目指して今激突する…。
決勝戦 上野学園(東京)-早大付属札幌高校(北海道)
どちらも優勝候補といわれ、順当に勝ち上がってきた強豪だ。
なかでも後藤真希・安倍なつみの両エースの対決はどこのメディアでも注目の対決と取り上げていた。
上野学園
エース後藤真希を擁す、昨年の優勝校。
天性の打撃センスもすばらしいが、本業の投球も直球とキレのあるスクリューボール、
そして何よりどんなピンチにも動揺しない強心臓が最大の武器である。
他にも、巧みなバッティングを魅せる福田明日香、
ここ最近で急成長を遂げているスラッガー辻希美も要注意人物である。
早大付属札幌高校
選手層がとてもあつい北海道一の強豪校。
エース安倍なつみは速球と高速スライダーを緻密な制球力で投げ分ける。
それをリードする捕手飯田圭織は鋭い洞察力の持ち主で打者の心理をすばやく読み取る。
他にも豪打を持つ石黒彩、業師あさみ、俊足里田まい、など豪華なメンバーが揃っている。
両チームスターティングオーダー
上野学園 早大付札幌高校
5福田明日香 1 里田 まい8
4前田 夕 2 あ さ み4
8永川 千尋 3 飯田 圭織2
2 辻 希美 4 安倍なつみ1
1後藤 真希 5 石黒 彩 5
3 橘 美雪 6 り ん ね3
9永野 栄子 7 紺野あさ美6
6佐伯 江美 8 竹内 真子7
7白滝麻須美 9 窪塚 千夏9
両チームスターティングオーダー
上野学園 早大付札幌高校
5福田明日香 1 里田 まい8
4前田 夕 2 あ さ み4
8永川 千尋 3 飯田 圭織2
2 辻 希美 4 安倍なつみ1
1後藤 真希 5 石黒 彩 5
3 橘 美雪 6 り ん ね3
9永野 栄子 7 紺野あさ美6
6佐伯 江美 8 竹内 真子7
7白滝麻須美 9 窪塚 千夏9
選手達が球場に入り、それぞれアップを始めた。
ランニング、キャッチボール、ノック…。
決戦の時は刻々と近づき、そしてその時は来た…。
「整列!」
審判の掛け声に選手は一斉にホームへと駆け出す。
全選手が緊張の色を隠せないといった表情をしている。
ただ一人を除いて。
安倍なつみ…彼女はひたすら後藤真希の顔を睨み続けていた。
その鋭い視線を逸らさず彼女はボソリと呟いた。
「ごっちん…この時をずっと待ってたよ」
それに気付いた後藤は安倍に軽く微笑んだ。
それは余裕の表れか、嘲りか、ただの作り笑いか…。
それは本人にしか分からない。
「礼!」
審判のその声に全選手が頭を下げ、「お願いします!」とはちきれんばかりの大きな声で応えた。
黙々とピッチング練習をする安倍、その視線はずっと後藤を睨んだままだった。
その後藤はというと…。
「zzz…」
眠っていた。
彼女はいつもこうだ。
なんでも、体力回復には寝るのが一番というのが本人の弁。
それはそうと、この安倍の様子を察した飯田はさっと安倍の元に駆け寄った。
「さ、今日も気楽に行こうぜ」
縦に小さく頷く安倍、しかしその目線の先にはまだ後藤がいた。
気になるながらも、ポジションに戻る飯田。
そして安倍はロージンを手に取り、ある時の出来事を思い出していた。
作者さん、小説開始乙です。
>>70 どうもありがとうございます
初心者ではありますが、よければ読んでやってください
73 :
72:03/08/30 22:41 ID:NwrGC7va
あれはそう…たしか1年ほど前だ。
一週間ほどの間、東京へ遠征にやってきた時。
私は日本一のエースとしてマウンドに立っていた。
あの時までは…。
3日目、私達は上野学園と対決した。
当然のように私はその試合に先発、遠征初日から続くノーヒットノーランの記録をさらに更新するべくマウンドに上がった。
しかし、そこにあいつが…後藤真希が立ちふさがった。
初球、自慢のスライダーをライトスタンドへ運ばれた。
決して甘い球ではなかった、ただ後藤が上手いこと打った、ただそれだけだった。
しかし、それから私はまるで別人のようになってしまった。
上野学園打線につかまり、4回投げて10安打8失点。
そこで私はマウンドを降ろされた。
初めての屈辱だった。
今まで登板したほとんどの試合を完投してきた私にとって最短KO。
一方の後藤は9回を無安打2死四球で完投し、早大付札幌を相手にノーヒットノーランをやってのけたのだ。
その試合以降、私はスランプに陥り、苦しい日々を送り続けた。
逆に後藤は、新たな日本一のエースとして娘。甲子園に君臨することになったのだ。
私の地位を奪い、そして運命を狂わせた張本人、後藤真希を私は許せなかった。
あの日から一体どれほどボールを投げたのだろうか?
ただ後藤を打ちのめしたい、それだけを心に秘めて私は投げ続けてきた。
ボールを汗と血に塗れるほどに…。
そして、時は来た。
今、後藤を倒し、あの時に失ったものを取り戻してみせる。
また日本一の座に返り咲いてやる。
安倍はロージンを投げ捨て、右手のボールを見つめた。
そして試合は審判のコールとサイレンが共鳴し、盛大な盛り上がりで始まった。
初回から安倍は飛ばした、巧打者福田に8球粘られるも、速球で空振り三振に斬ってとった。
オール速球だった。
以後の打者も、安倍の速球を捕らえられず、2・3番と三振に倒れた。
完璧といえる立ち上がりを見せた安倍だったが、その鋭い目線は相も変わらず後藤の方へと向けられていた。
さすがに気になった飯田は、ベンチに戻りつつ安倍に声をかけた。
「今日もいいキレしてるよ、なっち。この調子でどんどん攻めていこうぜ」
「そうだね」と安倍は返事するも、まるで耳にはいっていないようだった。
飯田も一年前の事は知っている。
その時に捕手をしていたのもこの飯田だったからだ。
飯田はこれより必要以上に声をかけないほうが良いと判断した。
ただ、飯田は気付いていた。
明らかにいつもの安倍じゃない。
球はキレてはいるが、これほど制球が荒れている安倍は見たことがなかった。
これが致命傷にならなければいいが、と飯田は心の中で静かに祈った。
「ごとーしゃん、じかんれすよ!」
「んぁ〜、もうそんな時間?」
辻にたたき起こされた後藤、この様子だとかなり眠りにはいっていたようだ。
あくびをかみ殺しながらマウンドに向かう後藤。
「んぁ〜、それじゃ今日も頑張って行きますか。」
この独特なペースも後藤ならではのものだ。
自分のペースで投球練習をしていく後藤。
そして審判のコールと共に、この決勝の舞台で後藤が静かに投球モーションに入った。
更新乙です。
流れるような投球フォーム。
後藤は自慢のスクリューボールで里田、あさみをあっさりと三振で仕留めた。
「きょーのごとーしゃんはぜっこーちょーなのれす。」
辻が言うように、今日の後藤は簡単には打ち崩せそうになかった。
下手をすればヒット一本打てるかどうかという位調子が良すぎる。
「(早いうちに捕らえておかないと後が苦しいな…。)」
飯田はそう思いながら打席に入った。
初球、外角低めのスクリューボール…飯田は狙っていた。
上手いこと捲き込み、ピッチャー返し。
が、それは後藤の真正面だった。
ピッチャーライナー。
この回は3者凡退であっさりとチェンジとなった。
安倍がゆっくりとマウンドに向かう。
そしてネクストバッターズサークルで待つ打者のことを思い出していた。
辻希美。
当時は7番を打っていた彼女、実は例の試合で安倍から3打数3安打と完璧に捕らえていた。
しかもその全てがホームラン。
それからも着実に力と技術を身につけ、今では4番に座っている。
審判が「プレイ」とコールしてから、辻の方から話しかけてきた。
「きょーもあべしゃんからいっぱいうたせてもらうのれす。」
「お前なんかに打たせる気はねぇよ、ちっこいの。」
安倍は軽く睨みをきかせながら言い放った。
安倍が振りかぶり、第一球を投げた。
真ん中高めの直球、まずは様子見だ。
辻は豪快にフルスイングした。
辻のバットは見事に空を斬った、がその後信じられない光景が。
飯田がボールをキャッチし損ねたのだ、あの堅守で有名な飯田がだ。
飯田はすぐに安倍の元に駆け寄った。
「あいつのスイング、信じられないよ。」
飯田は続ける。
「さっき、奴のスイングの風圧で球の軌道が少しだけ変わった。」
安倍にとっても信じられない話だ。
実際、安倍の速球は150km/h近くはある。
それの軌道が変わるということは尋常なスイングではない。
「おそらく、かすっただけでもスタンドに持ってかれるから、ここは慎重に行こう。」
そういって飯田は元の位置に戻っていった。
「なにをそーらんしてたんれすか?」
「後でおいしいパフェでも食べに行こうって話してたの。」
「ほんとれすか?つじもいきたいれす!」
冗談をマジメに受け止められ、呆然としていた飯田だが、
なんとか辻の尋問を振り切った。
そして腰を下ろして、安部にサインを出す。
インハイへの威嚇球。
サインに頷き、安倍は投げた。
『ドカッ!』
球場が一瞬静まり返った。
デッドボール…辻の左腕に安倍の速球が直撃した。
さすがの安倍も力んでしまったのであろう。
下手すりゃ折れただろう、ほとんどの人間がそう思っていた。
しかし、辻はテケテケと一塁へ歩き出そうとしていた。
「大丈夫か?」と飯田が聞くと、
「だいじょーぶれす、こーみえてののはがんじょーなのれす。」
辻はそう答えて、一塁へ歩き出した。
動揺を隠せない安倍、しかしそうも言ってられない。
ノーアウトのランナーに次の打者はあの後藤。
安倍は早くも大ピンチを迎えることになった。
更新乙です。
こんなとこで小説発見!
今からじっくり見させてもらいます
>>82>>83 どうもありがとうございます
よければ感想なんかを書いてやってください
安倍は一度ロージンを手に取り、気持ちを落ち着けた。
そう、やっとこの時がやってきたのだ。
後藤と対決するときが…。
ふーっと息をつき、ボールを右手にとった。
「のの〜、いくよ〜」
「ごとーしゃん、かえしてくらはい!」
後藤ののほほんとした呼びかけに、これまたのほほんと答える辻。
しかし、それまでずっと笑顔だった後藤も、打席に入ると真剣な表情に変化した。
セットポジションに入る安倍、自然と右手に力が入る。
「(ごっちん、あんたは私が倒す!)」
安倍が投球モーションに入る、と同時に辻はスタートを切った。
直球が後藤の胸元へ突き刺さる。
しかし、後藤は狙いすましたかの如くコンパクトにバットを振り抜いた。
痛烈な打球は一二塁間を破った。
右翼手がボールを捕球した時には、辻はすでに三塁に到達しようとしていた。
やられた、と飯田は思った。
後藤を意識するあまり、辻の存在を忘れていた。
そして、安倍が直球から入ってくることも完全に読まれてしまっていた。
ノーアウト一・三塁。
しかし、ここからの安倍は圧巻だった。
続く橘はスクイズを試みるも、速球に押されて捕邪飛(キャッチャーファールフライ)。
その後の永野・佐伯はスライダーで三振に斬ってとった。
2回裏、早大付札幌の攻撃は4番の安倍から。
静かに打席に入る安倍に、後藤から予想外の言葉が出てきた。
「今のなっつぁんに、私の球は打てないよ。」
安倍はおそらくこの時平常心ではいられなかったであろう。
いや、安倍でなくともこの言葉は大概の人間が不快に感じる発言のはずだ。
しかし、この勝負の結果はあまりにもあっけないものだった。
三球三振。
全て直球だったが、バットにかすらせることもできなかった。
この時、完璧に抑えた後藤の顔はなぜか少し不満げだった。
一体なぜそんな表情を見せたのか、そしてなぜあのような言葉を発したのか。
それは本人しか分からない。
しかし、それは安倍の怒りを増幅させるのには十分なものであった。
その後も早大付札幌打線は後藤を捉えることができず、2回裏は三者凡退。
一方の安倍もしっかり立ち直り、3回表は3者凡退に抑える。
3回裏は7番の紺野が四球を選ぶも、これを生かせずに結局0で終わった。
4回表、永川を二ゴロ(セカンドゴロ)に打ち取り、安倍は再び辻・後藤と対決する。
ブンブンと物凄い音を立てて素振りをする辻。
「いっぱつでかいのをかましてやるのれす」
そう言って、気合十分で打席に入った。
「(ここはこれで行くしかないか…。)」
そして、飯田から安倍にあのサインが出された。
そう、後藤との対決のために温存していたあの秘球を投げるサインが…。
作者さん、更新乙です。
私は娘。の野球小説は初めて読みます。
秘球楽しみ、続き期待してます。
89 :
亜依紺:03/09/03 01:25 ID:ymc39TIe
コテハンつけてみた(w
更新って一気にズバッとやってしまった方がいいのかな?
それとも定期的にコツコツやった方がいいのかな?
>>88 ありがとうございます。
おいらも小説書くの初めて、てか2ch自体最近知ったという奴です。(w
期待に添えるかわかりませんが、よかったら読んであげてください。
そのサインに頷く安倍。
安倍もさすがにこの辻には警戒しているようだ。
果たしてその秘球の正体とは?
それが今ベールを脱ごうとしている。
相変わらずのほほんと構えている辻。
安倍が振りかぶった。
しかし、球場の誰もが一瞬自分の目を疑った。
「アンダースロー!?」
ネクストバッターズサークルから見ていた後藤は思わず声を出した。
それまでの豪快なオーバースローから一転、
体を折りたたんだ感じから重心を低く保ちながらまるで地を這うようなアンダースロー。
右手は地面を抉り、そこから放たれたボールはソフトボールのライズボールの如く、
いや、それ以上にホップしてくる。
それだけなら辻はなんなく打てたかもしれない、それだけなら…。
「!?」
辻は驚きを隠せない。
高めのボール球と思いきや、ボールが突如揺れ、そして急降下。
「ストライ〜ク!」
「ぼーるが…きえたのれす…」
安倍の秘球を目の当たりにして唖然とする辻。
「トウモロコシと空と風。」
安倍はぼそりとそうつぶやいた。
>>89 更新乙です
小説と関係ないことだけど、ひとつ
そのコテハン使用者が狼の加護スレにもいるからマズイかもね・・・・
秘球、トウモロコシと空と風。
その正体はアンダースローから放たれるフォークボール。
低目から高めに外れる直球のような軌道を描き、そこから微妙な風の力を受けてボールが揺れる。
そして打者から見ると、そこから空に吸い込まれたかの如くボールが消えてしまうのである。
(とうもろこしは…なんとなくw)
二球目も同じ球。
辻は思い切りフルスイングするも全く捉えられない。
三球目、まるでさきほどのプレイバックを見てるかのような空振りだった。
三球三振、辻はとぼとぼとベンチへ帰っていく。
と、そこに後藤がそっと声をかける。
「落ち込まなくていいよ。」
「ごとーしゃん、すまないのれす。あのたまをかっとばしてやってくらはい。」
二度ほど小さく頷き、辻の頭をポンポンとたたく後藤。
そして後藤は打席へと向かっていった、辻の熱い視線を背に受けながら…。
93 :
加紺とう:03/09/03 02:15 ID:ymc39TIe
今日はこの辺で、また明日(早ければ昼)あたりにも更新します。
>>91 まじっすか!?
てことで変更。
てか、コテハンとか普段使わないから癖で「名無し募集中。。。」にしてしまう(w
94 :
加紺とう:03/09/03 23:16 ID:s7fQHENQ
安倍は少し嘲笑う感じで後藤に言った。
「お前にはこの球は打てない。いや、絶対に打たせはしない!」
しかし、後藤は打席からただ安倍を見つめるだけで特に反応しない。
安倍が投球モーションに入った。
先ほど辻に投げた時と全く同じアンダースローから繰り出される「トウモロコシと空と風」。
後藤は微動だにせず、その球を見送った。
ストライク。
そして、安倍の投じた二球目はまたしても「トウモロコシと空と風」。
後藤はバットを振り抜いた。
『カキーン!』
誰もが見た瞬間それとわかった。
高々と弧を描いた打球はライトスタンドへと入っていった。
ホームラン。
その時、安倍はマウンドに崩れ落ちた。
「なん…で…?」
後藤はゆっくりとベースを回る。
しかし、その表情はなぜか少々曇っていた。
後藤がホームベースを踏み、今、上野学園に貴重な貴重な先制点が入った。
95 :
加紺とう:03/09/03 23:35 ID:s7fQHENQ
後藤の一発は、安倍に文字通り大ダメージを与えた。
その後、安倍は橘にはストレートの四球。
しかし、永野はなんとか三飛(サードフライ)に打ち取った。
チームメイトがしきりに安倍に声をかけるが、完全に上の空状態だった。
4回裏、早大付札幌の先頭あさみは空振り三振に倒れた。
「(ここでなんとかしないと…。)」
今の安倍じゃ、いつ崩れてしまうかわからない。
立ち直らせるにはここで追いつかなければ…。
飯田はネクストの安倍を見ながらそう考えていた。
後藤が投じた初球は先ほど飯田を打ち取ったのと同じスクリューボール。
しかし、それを飯田は読んでいた。
今度はライト線へ鋭い当たりを飛ばし、二塁打。
見事同点のチャンスを演出した。
打席に入る安倍。
ここで一打出れば流れが変わったかもしれない。
しかし、あえなく三球三振。
全くといってタイミングが合わなかった。
続く石黒も中飛(センターフライ)と、この回も点をとることができなかった。
96 :
加紺とう:03/09/03 23:57 ID:s7fQHENQ
5回表は安倍がなんとか踏ん張り、三者凡退に抑えた。
その裏、一死(ワンアウト)から紺野がまたも四球を選んだが、後続が打てずやはり0。
後藤の壁はかなり高い。
6回表、安倍はなんとか二死(ツーアウト)までこぎつける。
そして恐怖の4・5番を迎える。
辻が打席に向かおうとした時、後藤が辻を呼んだ。
そして、そっと何かを耳打ちした。
「あんね、辻。ゴニョゴニョ…。」
「わかったのれす、こんどはがんばってくるのれす。」
「しっかりねぇ〜」
一体何をしたのだろう?
飯田は辻を見ながら考える。
「(とりあえず、辻に関しては「トウモロコシと空と風」でいけるだろう。)」
飯田はサインを出した。
安倍もそれに頷く。
そして安倍は投げた、あの秘球を。
『カン!』
辻が当てた?
幸いにも打ち上げた打球は遊飛(ショートフライ)だろう…と誰もが思っていた。
しかし、打球はぐんぐん伸びた。
そして打球を追っていたセンターの里田は、いつの間にかフェンスに到着していた。
無情にも打球はその里田の頭上を越えていった。
またしてもホームラン。
喜びの笑みを溢しながらベースを一周する辻。
対称的に安倍は今にも闘志が燃え尽きんとしていた。
そして、いつの間にかホームを踏んでいた辻は、ネクストの後藤とハイタッチを交わした。
97 :
加紺とう:03/09/04 00:13 ID:xwFNTaFJ
「のの〜、ちょっとおいで〜」
「なんれすか、ごとーしゃん?」
先ほどの後藤と辻の会話である。
「のの、「トウモロコシと空と風」の攻略法なんだけどね、『イメージ』して打ちな。」
「どーゆうことれすか?」
辻は首をかしげる。
「あの球、途中からボールが見えないっしょ?でも、ベンチから見る限り球の軌道は全く一緒なのよ。」
「きどー…れすか?」
辻はいまいち理解していないようだ。
「ん〜、簡単に言えば球の道筋ってこと。あんたもベンチからあの球見てたっしょ?
だからそれを頭ん中でイメージして思いっきりフルスイングしてごらん。多分打てるから。」
「そーれすか。のの、がんばるのれす。」
「おぉ〜、がんばれ!」
見えないなら、頭の中で具現化してしまう。
これが後藤の見出した「トウモロコシと空と風」の攻略法である。
しかし、辻の場合は異常な怪力でスタンドに運んだだけであって、常人ならただの凡打である。
この攻略法は後藤程の打撃センスがなければ完璧に捉えることなど不可能である。
しかし、そんなことができ、なおかつそれをこんな短時間で見出した後藤はまさしく『天才』に他ならないであろう。
98 :
加紺とう:03/09/04 00:26 ID:xwFNTaFJ
後藤が今日三度目の打席に入る。
「(直球も秘球も攻略されてしまった…一体何を投げよう?)」
飯田も安倍も同じ事を考えていた。
飯田はこれしかないと、まだ後藤には投げていないスライダーを要求した。
読まれているかもしれない、それでも飯田はスライダーを投げさせた。
しかし、飯田の予想は当たっていた。
内角に食い込むスライダーを完璧なバットコントロールで流し打ち。
強烈な打球がサードの横を抜いた。
またしても打たれた、飯田も安倍さえも諦めていた、ただ一人を除いて…。
次回は『あの人』が大活躍!
そして、なっちが息を吹き返す!?
話のテンポもスピード感があっておもしろいです
続き期待sage
101 :
加紺とう:03/09/05 02:50 ID:8CfzQwvf
紺野あさ美…
早大付札幌高校に入学、それと同時に野球部に入部。
彼女が監督に最初に言われた言葉…「ダメだな、こいつは」
入部早々、赤点の烙印を押された彼女は必死に練習を重ねた。
そして、今では遊撃手のレギュラーとして起用されるまでになった。
ただ、それでもまだまだ他のレギュラーに劣る点は多い。
まず失策。チームで最多の13個(15試合中)。
打撃に関してもまだまだ発展途上で打率、本塁打ともチームのレギュラーの中で下から3番目。
それでも、彼女には唯一誰にも負けないものがあった。
それは持ち前の頭脳、そして…ちょっとの勇気。
102 :
加紺とう:03/09/05 03:03 ID:8CfzQwvf
『バシッ!』
誰もが目を疑った。
後藤も、飯田も、安倍も、そして彼女自身も。
紺野の完璧なダイビングキャッチ。
位置的にはかなりサードより、普通ならこんなところを守っているわけがない位置だ。
しかし、紺野はそこにいた。
ちょっとの勇気が、彼女をそこに守らせていたのだ。
ベンチへの帰り際、紺野は他の選手から平手の応酬を受けた。
「ナイスプレー、紺野!ところで、なんであんなとこに守ってたの?」
飯田が興味深そうに尋ねてきた。
「飯田さんのサインを見て思ったんですよ。あのコースにスライダーなら、後藤さんは流してくるなって。
今までの後藤さんのスイングとかを見ててそう思ったんです。でも、安倍さんのコントロールがなければ…」
そう言いながら安倍の方を見つめる紺野。
しかし、次の瞬間、安倍の口からとんでもない言葉が飛び出した。
103 :
加紺とう:03/09/05 03:31 ID:8CfzQwvf
「なんで取ったのよ。」
ベンチにいた全員が呆然としていた。
「これは私とごっちんの勝負なの!あんたは邪魔をしないで!」
安倍はさらに紺野に対して罵声を浴びせる。
「大体何よ?いっつもエラーばっかやってるくせして、こういう時だけ一丁前にでしゃばってきて。
ちょっといいプレイしたからって調子に乗ってんじゃないわよ!」
「ちょっと、なっち!」
石黒が割ってはいるが、安倍はまったく止まらない。
紺野は目にうっすらと涙を浮かべている。
当然だ、投手を助けたのにその投手に好き放題言われているのだから。
「何度も言うけどね、これは私とごっちんの勝負なの!こんな試合の勝敗なんてどうでもいいの!
だから私の邪魔をしないで!」
飯田が声を発しようとしたその時、時間が止まった。
104 :
加紺とう:03/09/05 03:34 ID:8CfzQwvf
『パンッ!』
紺野の右手が、安倍の頬を引っ叩いた。
その紺野の頬には一筋の涙が伝っている。
「見損ないました。安倍さんはそんな気持ちでこの試合に臨んでいたんですか?
確かに私はエラーが多いです。グズだし、トロいし、みなさんに比べてダメダメです。
それでも、私はチームが勝つために精一杯努力してきました!」
安倍は叩かれた時から微動だにしない。
紺野は大粒の涙をこぼしながら続ける。
「私だけじゃないです。飯田さんも、石黒さんも、他のチームメイトも。
いや、後藤さんや他の娘。甲子園での優勝を目指した人、みんなそうです。
私達はそんな人達の気持ちの上に立って、今ここにいるんですよ?
どうでもいいなんて気持ちだったのなら、今の安倍さんにこの娘。甲子園のマウンドに立つ資格なんてありません!」
ベンチ内は静まり返る。
誰も何も言うことができない。
ただ時間だけが過ぎていく。
安倍が紺野の顔を見た。
そして、安倍が紺野の方に近づいていった。
105 :
加紺とう:03/09/05 03:49 ID:8CfzQwvf
安倍はぎゅっと紺野を抱きしめた。
安倍と密着した紺野は、安倍の頬から涙が伝っているのに気付いた。
「ごめんね、紺野…なっち、大切なこと忘れてた。これは私だけの試合じゃない。
皆で勝ち取らなきゃいけない試合なんだって。今まで気付かなくてごめんね。」
安倍も、紺野も、涙が止まらない。
「やっと目が覚めたかい?なっち。」
目を少し潤ませながら飯田が言う。
「うん、みんなごめんね。迷惑かけた!」
「そう思うんだったら、しっかり今までやられた分を取り返してくれよ。」
少しきつく当たる石黒、しかしその石黒も目を潤ませていた。
「まかせとけ!」
笑顔いっぱいのなっちスマイルで答えた。
もう心配要らない、いつものなっちに戻った。
早大付札幌ベンチは歓喜の表情で溢れていた。
106 :
加紺とう:03/09/05 03:57 ID:8CfzQwvf
この様子を後藤はマウンドからずっと見ていた。
様子が少しおかしいと感じた辻は後藤の下に駆けていった。
「ごとーしゃん、どうかしたのれすか?」
「いんや、なんでもないよ〜」
そう言うと後藤は辻の方を見た。
「のの。」
「なんれすか?」
やはり様子のおかしい後藤に辻は首を傾げる。
「こっからのなっつぁんは手強いよ〜」
そう言う後藤はなぜか、ちょこっとだけ嬉しそうだった。
自分を取り戻したなっち。
そして再び後藤との対決を迎える。
果たして勝負の行方は?
試合もついに後半戦へ突入する!
>>100 ありがとうございます&100ゲットおめ(w
今回はけっこうダラダラと書いたのでお気に召さないかも?
次からは元に戻りますのでご心配なく。
108 :
名無し募集中。。。:03/09/05 19:10 ID:dltBSg+Q
野球ネタとは新しいですね。すごく(・∀・)イイ!!
頑張って下さい。他の娘。メンはこれからでるのかな?
110 :
加紺とう:03/09/05 23:01 ID:8CfzQwvf
6回裏、早大付札幌は一番からの好打順だ。
1番、里田。
1-1(1ストライク1ボール)からの3球目、内角の直球。
里田はボールを思い切りたたきつけた。
打球はピッチャーの前で大きくワンバウンド。
後藤はジャンプするが届かない。
ショートが回り込み、素手でキャッチしてそのまま送球。
里田は快速を飛ばし、ヘルメットが脱げてしまうほどの勢いでヘッドスライディング。
タイミングは微妙だ。
審判の判定は…手が大きく横に開いた。
「セーフ!」
里田はベンチに力強くガッツポーズをしてみせた。
2番、あさみはしっかりと送りバントを決め、1死2塁とする。
3番、飯田は2-1(2ストライク1ボール)から粘るも、8球目の速球に負けて三飛(サードフライ)。
そして4番、安倍の打順が来た。
111 :
加紺とう:03/09/05 23:11 ID:8CfzQwvf
打席に入る前に一度大きく息を吐き、そして後藤に言った。
「ごめんね、ごっちん。」
後藤は笑顔で答える。
「待ってたよ、なっつぁん。」
この会話の意味を辻は理解していないようだった。
それでも、2人からビシビシと発せられている重圧(プレッシャー)は十分に感じることができた。
後藤はロージンを手に取り言った。
「ここからが本当の勝負だよ。」
安倍は静かに頷き、打席に入る。
ロージンを投げ捨て、セットポジションに入る後藤。
しばらく、2人の間に静寂の瞬間(とき)が流れた。
112 :
加紺とう:03/09/05 23:24 ID:8CfzQwvf
後藤が投げた。
外角いっぱいいっぱいのスクリューボール。
安倍のバットはその鋭い変化に完璧に反応した。
『カキーン!』
打球はピッチャー横に一直線。
それを後藤のグラブが反射的に取りにいった。
しかし、ボールは後藤のグラブをはじき、転々とセンターへ抜けていった。
後藤のグラブに当たって打球のスピードが弱まったおかげで、二塁走者の里田はゆうゆうホームへと還ることができた。
満面の笑みでベンチにピースを送る安倍。
もう今までの安倍なつみではない…そう、安倍は完全に復活したのだ。
続く石黒は初球を打ち上げ、遊飛(ショートフライ)。
2-1
この回、早大付札幌はついにあの後藤から1点をもぎ取った。
終盤戦、安倍と後藤、両エースの好投が続き、試合はまたも膠着状態へ。
均衡を破るのは上野学園か?それとも早大付札幌か?
>>109 ありがとうございます。
一応短編で終わらす予定なので、今のところは他メンは出ないと思います。
ただし、好評なら甲子園編(別バージョン)かプロ野球編なんかで続編でも書こうかと思ってるので、その時には出そうと思ってます。
とりあえず、まずはこれを頑張って完結させます。
なっち復活かぁ
展開が読めないんで先が楽しみ
115 :
加紺とう:03/09/06 22:25 ID:9eFcbZUM
試合は終盤戦に入ったが、両エースが意地を見せる。
7回、8回は両者とも相手打線を三者凡退に抑え込んだ。
9回表、3番、永川はスライダーに空振り三振。
そして今日安倍からホームランを放っている4番、辻が打席に入る。
7回からずっと膠着状態になっているとあって、辻はいつも以上に気合が入っている。
しかし、今の安倍に辻は太刀打ちできなかった。
オール直球の三球三振。
最初の方とは別人のようになった安倍に、辻は驚きを隠せなかった。
そして、再びあいつとの対決がやってきた。
3打数2安打1本塁打、しかも第三打席もアウトになったものの完璧に捉えていた。
5番、後藤。
しかし、安倍はその後藤を迎えてもまったく物怖じしない。
それどころか、なっちスマイルまで飛び出している。
後藤もそれに応えて笑みを溢す。
そして、打者後藤真希と投手安倍なつみの2人の対決の第4ラウンドが幕を開けた。
116 :
加紺とう:03/09/06 22:38 ID:9eFcbZUM
初球はど真ん中直球。
後藤はこれを空振りした、いや、させられた。
「(速い!やっぱり今までとは全然違う!)」
これが本当の安倍なつみ…後藤はそのすごさを目の当たりにして初めて痛感した。
と同時に、自分に眠っていた闘争心にも火が付き始めていた。
「(絶対に打ってやる!)」
いつになくバットを握る手に力が入る後藤。
二球目は外角低め直球、ドンピシャのタイミングだったが打球はバックネットへ。
「(ここは三球勝負で来る。そして投げるのは…。)」
後藤の予想は完璧だった。
安倍がアンダースローで投げる。
「トウモロコシと空と風」だ。
高めに浮いてきて、揺れて、そして消えた。
「(この軌道だ!)」
後藤はバットを振りにいった。
しかし、後藤は自分のバットがボールの上を通過するのが見えた。
空振り三振。
安倍は見事に後藤を抑え込んだ。
あれだけ打たれていた後藤を。
安倍は笑顔でベンチへと帰って行く。
しかし、次は早大付札幌の最後の攻撃。
これで点が取れなければ、早大付札幌の負けが決まってしまう。
難攻不落後藤城を早大付札幌打線は攻略することはできるのか?
ついにここで勝敗が決定する!?
(今日は疲れてるので更新はここまでです、すいません。)
>>114 ありがとうございます。
こっから先は自分もあまり考えてなかったので、おいらも楽しみにしてます。(w
果たしてどうなるのか…。
更新乙です
119 :
加紺とう:03/09/09 01:15 ID:rbP976Kh
この回は3番の飯田から。
後藤もクリーンアップからということで一段と気合が入る。
初球から5球続けて直球。
飯田は当てるのが精一杯だ。
「(ここにきてこれだけの球威、さすがごっちんだな。)」
そして6球目、飯田は釣り球の直球を振らされてしまった。
ふぅっと一息つく後藤。
その目線の先には安倍がいた。
今の後藤にとって最大の、そして最後の強敵であろう者が、打席に入った。
120 :
加紺とう:03/09/09 01:24 ID:rbP976Kh
……一体どれくらいの時間が過ぎただろうか?
後藤と安倍の意地と意地のぶつかり合い。
12球目、安倍の打球はまたしてもファール。
カウントは2-3(ツーストライクスリーボール)。
後藤はきわどいコースへとストライクを投げ続ける。
一方の安倍もかろうじてファールで粘る。
13…14…15…。
どちらも少し息が荒くなっている。
球場全体が固唾を飲んで、この勝負を見ていた。
そして22球目。
「ボール!」
その瞬間、しばらく時が止まった。
そして、ゆっくりと安倍が一塁へと歩き出した。
四球。
この極限の状態から同点のランナーがついに一塁に出た。
121 :
加紺とう:03/09/09 01:34 ID:rbP976Kh
後藤は未だに息が乱れたまま。
無理もない、一人の打者に22球も投げたのなんて、生まれて初めての経験だ。
そんな状態の中、後藤はセットポジションに入る。
打者は5番、石黒。
3打席とも抑えている、といえども豪打早大付札幌打線の5番、油断は禁物だ。
改めて息を整え、モーションに入る。
その途端…。
「!?」
安倍が走った!
これに少し動揺した後藤、投じた直球のコースが少し甘くなってしまった。
それを石黒は見逃さなかった。
『カキーン!』
打球は一二塁間を破り、右翼手が捕球。
安倍は悠々と三塁に到達した。
目には目を…。
2回表の攻撃をこの土壇場の場面で返されてしまった。
1死1・3塁。
後藤はここに来て、同点どころか、ついに逆転のランナーまで背負ってしまった。
122 :
加紺とう:03/09/09 01:41 ID:rbP976Kh
後藤はすかさず、自らタイムを取った。
辻をマウンドへと呼ぶ後藤。
「のの、次の向こうの作戦、わかるかい?」
「ここはいってんしょうぶ、れすね?」
「うん、後藤は絶対に打たせないから、ちゃんと捕ってね。」
「ののをだれらとおもってるんれすか?まかせてくらはい!」
そう言うと、辻はてけてけとホームへかえって行く。
そんな辻に少しだけ元気を分けてもらった、後藤はそんな気がして少し笑みがこぼれた。
123 :
加紺とう:03/09/09 01:54 ID:rbP976Kh
後藤は内外野に前進守備を指示した。
しかも、それもかなり前に出てきた。
少し強い打球なら楽々長打になってしまうであろう。
6番、りんねが打席に入る。
ここで早大付札幌は勝負に出た。
「初球スクイズ!」
りんねはバントの構え、安倍・石黒はすでにスタートを切っていた。
後藤の速球が唸りを上げ、りんねの胸元を襲っていく。
打球は捕手の真上に小フライが上がってしまった。
「(ゲッツーになってしまう!)」
この時、早大付札幌ベンチに最悪のシナリオが頭の中をよぎった。
124 :
加紺とう:03/09/09 01:57 ID:rbP976Kh
打球を捕球し三塁へ送球する辻、安倍も懸命に三塁へ戻る。
「(こんなところで、絶対に終われない!)」
安倍がヘッドスライディング、と同時に三塁手福田が体を伸ばしてボールを捕球した。
判定は…審判の両手が横に大きく開いた。
石黒もこの間に一塁へと戻り、何とか最悪の事態からは免れた。
2死1・3塁と場面は変わる。
互いにとってこれ以上ない極限の状況となり、ここで7番、紺野がゆっくりと打席へと向かっていく。
早大付札幌、最後の砦となった紺野。
彼女がここで勝負を決めてしまうのか?それとも?
126 :
名無し募集中。。。:03/09/09 20:06 ID:CKugSdX+
ほ
更新乙。続きが楽しみです。
128 :
加紺とう:03/09/10 01:20 ID:EJ7YTdXL
紺野は必死で考えた。
今までの後藤の投球から、この打席に投げるであろう球を分析し、割り出そうとした。
あのダイビングキャッチの時のように。
しかし、初球を見てそんな考えも吹き飛んでしまった。
155km/hの速球。
とてもじゃないが打てそうもない、いや、かすりさえもしそうにない球だ。
こんな球、予想できても打てるもんじゃない。
二球目も154km/hの速球が外角いっぱいに行く。
紺野はスイングこそするが、まったくタイミングが合わない。
129 :
加紺とう:03/09/10 01:25 ID:EJ7YTdXL
紺野は一度間合いを取った。
グリップにロージンをつけに、ネクストバッターズサークルに戻る。
そして、再び考えた。
「(ここに来てあんな球投げれるなんて…後藤さんのスタミナは無尽蔵なのかな。
予想では遊び球なしで次も同じ球でくる。
もしそうなら、おそらく打てない。
一か八か、あれしかないか…。)」
そして紺野は打席に向かう、と同時に安倍と石黒の方を見つめた。
何かを訴えるような目…その目の真意に二人は気付いた。
130 :
加紺とう:03/09/10 01:34 ID:EJ7YTdXL
「(これが最後のチャンス…失敗したら私は落ちこぼれのままだ。
いや、絶対に失敗はできない!)」
紺野も思わず力が入る。
後藤が投球モーションに入った、とその時、後藤の目に信じられない光景が目に入った。
石黒がスタートを切っている。
この場面で盗塁?
いや、三塁ランナーの安倍もスタートしている!
「(まさか!?)」
後藤は驚きを隠せない。
紺野はバントの構えをしている。
スリーバントセーフティースクイズ。
紺野の胸元を後藤の速球が襲う。
「(決めるっ!)」
131 :
加紺とう:03/09/10 01:39 ID:EJ7YTdXL
『カン!』
打球はコロコロと三塁線を転がっていく。
奇襲に一歩目を遅らせた後藤だが、すかさず打球を素手で捕球した。
が、三塁ランナーの安倍はすでにホームに到達しようとしていた。
後藤が一塁へ振り返ろうとした時…後藤は少しバランスを崩した。
しかし、すぐに持ち直して一塁へ送球した。
懸命に走る紺野。
「(お願い…間に合って!)」
そしてそのままの勢いでヘッドスライディング。
タイミングはほぼ同時だった。
紺野は一塁をタッチしながら倒れ、一塁手は体をいっぱい伸ばして送球を捕球していた。
審判が一塁の方へ駆け寄った。
132 :
加紺とう:03/09/10 01:50 ID:EJ7YTdXL
「セーフ!セーフ!」
一塁手の足がわずかばかりベースを離れていた。
この瞬間、早大付札幌ベンチは歓喜の声が上がった。
三塁ランナーだった安倍は、大げさなほどにキャーキャー騒ぎまくっている。
一塁ランナーだった石黒も、心の昂りを抑えられずに手を叩く。
しかし、このスクイズを決めた当人の紺野は、ゆっくりと起き上がり、土を払ってほっと安堵の息をついていた。
「(よかった…ホントによかった。)」
気付くと安倍が満面の笑みでベンチからピースサインを送っていた。
紺野も精一杯の笑顔で安倍にピースサインを返した。
133 :
加紺とう:03/09/10 02:00 ID:EJ7YTdXL
この光景を苦笑いで後藤は見ていた。
すると、辻が後藤の下に駆け寄ってきた。
「ごめんね、のの。私のせいで追いつかれちゃった。」
自分があの時バランスを崩していなければ…後悔の念でいっぱいの後藤は苦笑いで辻のそう言った。
「あやまんねーでくらはい。ごとーしゃんのせーじゃねーれすよ。」
予想外の言葉に後藤は一瞬ビックリした。
「ここまでこれたのはごとーしゃんのおかげなのれす。だれもことーしゃんをせめたりしねーれすよ。」
笑顔でそう話す辻。思わず涙が出そうになったが、後藤はぐっと堪えた。
「のの、おおきくなったね…。」
「ののもいつまでもこどもじゃねーのれす。」
「そっか…よし!まだ同点、こっからしまっていくよ!」
辻の頭をポンポンと叩きながら後藤はそう言った。
そう、まだ終わっていない。
これ以上点は取らせはしない。
後藤は気持ちを切り替え、そして再びマウンドに上がっていった。
134 :
加紺とう:03/09/10 02:08 ID:EJ7YTdXL
2死1・2塁。
逆転のピンチだった後藤だが、続く竹内を三球三振に抑えた。
2-2
勝負は延長戦へもつれ込むことになった。
遂に勝負は延長戦へ突入。
果たして勝利の女神はどちらに微笑むのか?
この熾烈な戦いの結末も、もうすぐそこまで来ている…。
136 :
加紺とう:03/09/11 03:03 ID:4mumzp9v
延長戦に入り、さらに試合は緊迫する。
10回、11回共に安倍、後藤がパーフェクトピッチング。
さらに12回、13回もランナー一人たりとも出ることはなかった。
しかし、さすがの両投手とも疲れが見え始め、試合は動く。
14回表の上野学園の攻撃。
先頭打者は打ち取られたものの、1番の福田が左前安(レフト前ヒット)で出塁した。
続く2番、前田はきっちりと送りバントで2死2塁とした。
3番の永川が粘って四球を選んで、そして、4番の辻。
安倍は初球、2球目とも、トウモロコシと空と風でストライクを取りにいった。
まったくタイミングが合わない辻。
だが次の瞬間、そんな辻に勝利の女神が舞い降りたのだ。
137 :
加紺とう:03/09/11 03:19 ID:4mumzp9v
「(ぼーるがみえるのれす!)」
安倍が3球目を投じた瞬間、球場の風が止み、空には一瞬うっすらと雲がかかった。
おかげで、トウモロコシと空と風の独特のブレがなくなり、さらに雲がかかったことによってボールを捉えることができた。
『カキーン!』
ボールがはちきれそうな打球音と同時に、強烈な打球が三遊間を襲った。
石黒が横に飛ぶが届かない。
しかし、その後ろで紺野がボールに喰らい付く。
『バシッ!』
誰もが捕球したと思ったその時、打球のあまりの威力に紺野のグラブが左手から弾き飛ばされた。
そして、ボールはそのまま転々とファールグラウンドの方へと転がっていった。
レフトが追いついた時には、二塁ランナーの福田は本塁のすぐ手前にいた。
3-2
ついに上野学園が勝ち越した。
辻が一塁から高々とガッツポーズをする。
本塁カバーにいっていた安倍は、苦笑いを浮かべる。
不運にも失点を許してしまった。
しかし、それでもまだ安倍は死んではいなかった。
138 :
加紺とう:03/09/11 03:38 ID:4mumzp9v
続く5番、後藤にも全球トウモロコシと空と風。
しかし、安倍は今度はまったく後藤のバットにかすらせなかった。
ベンチに戻ったとき、安倍は紺野が俯いているのに気付いた。
「紺野、どしたべさ?」
優しく声をかける安倍。
紺野は少しかすれた声で答えた。
「ごめんなさい、安倍さん。私のせいで点を取られてしまって…。」
そう言う紺野に石黒が喝を入れる。
「お前な、そんなこと言うのは負けてからにしろ!試合はまだ終わってないんだぞ!」
怒鳴るように言う石黒。
だが、これが石黒の優しさの表し方と知っている安倍は思わず笑みがこぼれた。
「そうそう、そう思うなら自分のバットで取り返しなよ。」
紺野の肩をポンポンと叩きながら飯田が言う。
「そうだべ。さ、元気出して!この回、あんたまで回すんだから気合入れていくべさ!」
「はい、ありがとうございます!」
先輩に励まされ、紺野が元気よく返事をした。
1点を追う形の14回裏早大付札幌の攻撃。
打席には3番飯田が向かう。
139 :
加紺とう:03/09/11 03:47 ID:4mumzp9v
後藤も意地を見せる。
飯田に対して速球、スクリューのコンビネーションで見事に三振に斬ってとった。
しかし、4番安倍には初球をレフト線に持っていかれた。
二塁打で1死2塁。
5番石黒は粘って四球を選び、1死1・2塁とする。
後藤も踏ん張る。
6番りんねは速球を詰まらせて二飛(セカンドフライ)に打ち取った。
あと一人。
そして、またしてもこの場面で紺野を打席に迎えることになった。
140 :
加紺とう:03/09/11 03:57 ID:4mumzp9v
今回は前のような小細工はできない。
そう、後藤真希を打たなければ負けてしまう。
そう思うと、否が応でも紺野を重度のプレッシャーが襲う。
意を決して打席に入ろうとした時。
「タイムお願いします!」
そういったのは二塁にいた安倍だった。
そして、その安倍が紺野の下に駆け寄ってくる。
「緊張する必要はないべ。紺野が後悔しないように、思いっきりいきな。」
それだけ言うと安倍はすぐ二塁へ帰って行った。
しかし、紺野の中では何かが吹っ切れたようだ。
顔が生き生きとしている。
心の中で闘志を燃やす、女、紺野あさ美の顔だ。
ベンチからも、スタンドからも大声援が飛ぶ。
それらを背に受け、紺野は遂に運命の打席へと向かう。
141 :
加紺とう:03/09/11 04:14 ID:4mumzp9v
この時、後藤と辻もマウンド上で集まっていた。
「ごとーしゃん、かたはだいじょーぶれすか?」
後藤は辻の言葉にまたしても少し驚く。
いつも半端でない練習量をこなしていた後藤は、一度肩を痛めたことがあった。
その時は1週間ほどの休養で直ったのだが、それ以後はある程度気を遣い、練習量も抑えていた。
しかし、今日はかれこれ200球ちかくは投げている。
ブルペンも含めれば300球は軽く超えている。
そんな後藤を気遣った辻の一言に後藤は笑顔で答える。
「だーいじょーぶ。私を誰だと思ってんの?」
「のののまねれすか?」
思わず吹き出す二人。
しかし、おかげで二人とも余計な力が抜けた。
「絶対勝とうね、のの。」
「はい!」
そうして二人はそれぞれの位置につく。
そして後藤は左腕を見つめながらつぶやいた。
「もうちょっとだけ、頑張ってね。」
後藤は顔を上げる。
そして、すでに打席に入っていた紺野と対峙した。
142 :
加紺とう:03/09/11 04:25 ID:4mumzp9v
スタンドからは大声援がこだまする。
しかし、二人にはこの声援はまったく聞こえていなかった。
完全な二人だけの勝負。
そして、それが今、幕を開けた。
初球、インハイ速球を見逃してボール。
二球目、外角スクリューを同じく見逃してストライク。
三球目、同じ球を見逃してボール。
四球目、外角速球を空振り。
カウント2-2(ツーストライクツーボール)
後藤は疲れているとはいえ、150km/h前後の速球を投げ込んでくる。
しかし、紺野の目は死んでいない。
そのつぶらな瞳は、ただただ後藤を見つめていた。
そして、五球目を投げた瞬間。
「うっ!」
速球が高めに外れた、と同時に後藤の様子が少しおかしい。
143 :
加紺とう:03/09/11 04:39 ID:4mumzp9v
左肩を押さえている。
もしやと思い、辻が駆け寄る。
「ごとーしゃん、だいじょーぶれすか?」
心配そうに声をかける辻。
周りのメンバーも、球場全体も、心配そうに後藤を見つめる。
「大丈夫、ちょっと痛んだだけだから。」
平静を装う後藤、しかし、その表情は明らかに苦痛に歪んでいた。
「本当に大丈夫なのかい?」
主審が後藤に続行可能か確認をとる。
「大丈夫です、心配おかけしました。」
そう言うと、主審は頷いて自分の位置に戻っていく。
周りのメンバーもそれぞれの守備位置へと帰っていく、辻を除いて。
「ごとーしゃん、もうやめてくらはい。これいじょーむりしねーれくらはい!」
まるで親におねだりする子供のように訴える辻。
しかし、そこに福田がやってきて辻に言った。
「辻、あんたもこいつの性格は知ってるだろ?一度言ったら聞かないよ、だろ?」
後藤は笑っている。
辻もそのことは十分知っている。
でも、このまま後藤に投げさせるなんて…そう思っていると、後藤が口を開いた。
144 :
加紺とう:03/09/11 04:46 ID:4mumzp9v
「のの、今更引けないよ。だって、あいつが待ってるから…。」
そう言って打席に目をやる。
紺野が立っている。
そして、やはり後藤をただただ見つめていた。
その真っ直ぐな目に、後藤は真っ向勝負をしたくなったのだ。
「ね、だからお願い!」
後藤がそういった途端に辻は振り返り、ホームへ歩き出した。
「うたれたらしょうちしねーれすよ!」
怒ってるだろうな、のの。
後藤は心の中で何度も言った、ありがとう、そしてごめんね。
145 :
加紺とう:03/09/11 04:54 ID:4mumzp9v
後藤はロージンに手をやる。
それだけでも左肩が悲鳴を上げる。
まともに投げられるかどうかもわからない、下手すれば自分のせいでチームが負けてしまうかもしれない。
それでも、後藤は確信していた。
一体どういう理由なのかはわからないけど。
でも、紺野との勝負が、おそらく自分に何かしらをもたらしてくれる事を。
ロージンを投げ捨て、ボールを手に取る。
そして、左腕を見つめながらつぶやいた。
「最後の一球、お願いだから力を貸して。」
そう言うと、後藤は静かにセットポジションに入った。
146 :
加紺とう:03/09/11 05:03 ID:4mumzp9v
後藤が投げた。
ど真ん中への153km/hの速球。
ボールが唸りを上げる。
紺野は心の中で願った。
「(打ちたい!)」
そして、思い切りフルスイングした。
『カキーン!』
打球は高々とバックスクリーンへと向かっていった。
あらかじめスタートを切っていた安倍と石黒はすでにホームインしてしまった。
センターもすでにフェンスにビッタリと張り付いている。
打球はまだ空の上。
誰もがこの打球の行方を固唾を飲んで見守っていた。
147 :
加紺とう:03/09/11 05:22 ID:4mumzp9v
『パシッ!』
打球はかろうじてセンターのグラブに収まった。
ゲームセット。
3-2
この瞬間、上野学園の連覇が決まった。
大喜びで後藤の下に駆けていく辻。
そして思いっきり後藤に抱きついた。
「やったれす、ごとーしゃん!ゆーしょーれす!」
「そーだね!やったね、のの!」
歓喜のあまり、二人の目からは涙がこぼれていた。
上野学園ナインも、ベンチも、スタンドの応援団も、それぞれが自らの喜びを表現していた。
泣く者、大笑いする者、叫びだす者、抱き合う者…。
148 :
加紺とう:03/09/11 05:22 ID:4mumzp9v
一方の早大付札幌は落胆の色が隠せない。
その中でも、ラストバッターとなってしまった紺野はグラウンドに泣き崩れていた。
そこに声をかけてきたのは、やはり安倍だった。
「紺野、立ちなよ。最後の挨拶行くよ。」
紺野をなだめようとする安倍。
「ごめ…ん…なさい、安倍さ…ん。私、最後ま…で…落ちこ…ぼ…れで…。」
泣きながらも必死に言葉を吐き出す紺野。
すると、ベンチからみんなが駆け寄ってきた。
「何言ってんのさ、紺野。あんだけ頑張ってたじゃん!」
「そうそう、あんたの活躍がなきゃここまで接戦になってないよ!」
「私なんてもっとダメダメだったもん、元気出して!」
「それに最後も惜しかったじゃん!」
「あそこまで打てたら大したものだよ!」
飯田さん、石黒さん、りんねさん、あさみさん、里田さん…みんな…。
「さ、最後の挨拶、元気よく行くよ!」
安倍が満面の笑みで呼びかける。
「オー!!!」
全員が声を揃えて答えた。
紺野にも、いつの間にか笑顔が戻っていた。
149 :
加紺とう:03/09/11 05:23 ID:4mumzp9v
一方の早大付札幌は落胆の色が隠せない。
その中でも、ラストバッターとなってしまった紺野はグラウンドに泣き崩れていた。
そこに声をかけてきたのは、やはり安倍だった。
「紺野、立ちなよ。最後の挨拶行くよ。」
紺野をなだめようとする安倍。
「ごめ…ん…なさい、安倍さ…ん。私、最後ま…で…落ちこ…ぼ…れで…。」
泣きながらも必死に言葉を吐き出す紺野。
すると、ベンチからみんなが駆け寄ってきた。
「何言ってんのさ、紺野。あんだけ頑張ってたじゃん!」
「そうそう、あんたの活躍がなきゃここまで接戦になってないよ!」
「私なんてもっとダメダメだったもん、元気出して!」
「それに最後も惜しかったじゃん!」
「あそこまで打てたら大したものだよ!」
飯田さん、石黒さん、りんねさん、あさみさん、里田さん…みんな…。
「さ、最後の挨拶、元気よく行くよ!」
安倍が満面の笑みで呼びかける。
「オー!!!」
全員が声を揃えて答えた。
紺野にも、いつの間にか笑顔が戻っていた。
150 :
加紺とう:03/09/11 05:30 ID:4mumzp9v
「礼!」
「ありがとうございましたー!」
両チームの選手が互いの健闘を讃え合う。
その時、安倍は後藤と向かい合っていた。
「ごっちん、来年は負けないから!」
「なっつぁん、来年もうちらが勝たせてもらうよ!」
そういうと二人は固い握手を交わした。
その後、勝利校の校歌を演奏。
そして表彰式が行われた。
優勝校 上野学園高校(東京)
準優勝校 早大付札幌高校(北海道)
そして、娘。甲子園は今年も幕を下ろしたのだった。
151 :
加紺とう:03/09/11 05:54 ID:4mumzp9v
一気に更新して一応終了です
あ〜、疲れた(w
ここまで読んでくれた皆さん、どうもありがとうございました
>>148-149は間違えて二重投稿してしまいました
最後の最後にミス…申し訳ありません
初めての小説、いかがだったでしょうか?
てか、見てる人いるのかな?(w
もしいたら感想や意見をお願いします
あ、もし気が向いたら番外編書こうかなと思ってます
それでは、また後日
更新乙&完結おめ
まず、面白かったです
なんだろうスポーツによくある勝負の流れとか二転三転する感じが上手く出てたと思う
話のテンポもいいし、読みやすかったです
欲を言えばサブキャラの背景・心情をもっと見たかったかな、ってとこです
(まあ中だるみするかも、っていう諸刃の刃ですけどwあくまで個人的な好みで)
番外編もし書けるようなら頑張ってください
153 :
加紺とう:03/09/13 03:23 ID:h5aCC1yl
番外編@
「今日の試合はめっちゃよかったわぁ〜、なぁ矢口ぃ〜」
「うわっ、だから何で抱きついてくんだよ!てか、裕ちゃんすごく酒臭いし!」
別にカップルがイチャついてるわけではない。
甘えた声を出しているのは、京都代表の平安高校キャプテンの中澤裕子。
娘。甲子園で最年長のビッグスラッガーである。
そして、抱きつかれているちっこい金髪少女は、神奈川代表の横浜高校のキャプテンの矢口真里。
背は小さいが、走好守に長けたオールラウンダーだ。
二人は一昨年の大会で知り合い、それ以来は大会があるごとに、こうして会って話す仲である。
どちらも緒戦で、それぞれ早大付札幌と上野学園に敗北した。
そして、この決勝戦を今までその目で見ていたのだ。
「ところで、ごっちん大丈夫かな?肩痛そうに抑えてたけど。」
「どうやろな、うちとしてもあんな投手打ってみたいからこんなとこで潰れてほしいないけどな。」
「裕ちゃんじゃ打てないって。」
154 :
加紺とう:03/09/13 03:23 ID:h5aCC1yl
二人が楽しそうにじゃれあう姿をうらやましそうに、一人の少女が口を開く。
「いいなぁ〜、二人とも仲よさそうで。柴ちゃん、私も甘えていい?」
石川梨華、横浜高校の矢口の後輩にあたる。
去年からエースとしてマウンドに立ち、今年は後藤とも投げあった。
「何言ってんのよ、そんな歳じゃないでしょ?」
柴田あゆみ、同じく横浜高校の矢口の後輩で、石川と同期だ。
打撃センスは矢口に匹敵する。
「わたち、まだ子供なんだもん♪」
「石川、おまえウザイよ!」
「何か石川がしゃべったらさ、めっちゃさめるわぁ〜」
矢口と中澤からダブルツッコミをもらって、なぜか石川は嬉しそうだ。
そこにまたもう一人の少女が口を割る。
「すいません、皆さん試合ちゃんと見てたんですか?」
彼女は新垣里沙、やはり同じく横浜高校で一番最年少である。
根っから正直者で真面目な彼女は、先輩たちのあまりの楽観さに少々呆れている。
155 :
加紺とう:03/09/13 03:26 ID:h5aCC1yl
そんな新垣に中澤が突っかかる。
「ところであの紺野って子、あんたと同期やろ?あの子すごいやん!
ごっちんの球、あそこまで持ってくなんて。あんた、あれに負けてたらあかんで。」
「な、私は負けませんよ!誰にも負けないくらい一生懸命頑張ってるんですから。」
新垣のその言葉に、矢口が反応した。
「新垣、頑張るのは誰も一緒。多分、あの子も誰にも負けないくらい頑張ってるよ。
それだけじゃあの子には勝てないよ。」
いつになく真剣な矢口に、新垣は言葉を失った。
「ま、そんな新垣があたしは大好きなんだけどね。これからも頑張りなよ!」
この矢口の言葉に新垣は笑顔を取り戻す、と同時に少し照れくさそうに俯く。
「さ、これから帰って早速練習するよ!」
「「「オー!」」」
矢口の呼びかけに元気よく返事をする後輩達。
その光景を見て中澤は少し嬉しくなった。
「じゃ、また来年会おうね、裕ちゃん!」
「あぁ、次は決勝で戦おうで!」
固い握手を交わした矢口と中澤。
そして、両者は来年もこの舞台へ来ることを誓い、それぞれの地へと帰っていった。
〜番外編@ 『約束』〜 完
おぉ、こんな所で小説発見!
ごまののコンビ萌え
作者さん乙
ここをお気に入りにしましたw
157 :
加紺とう:03/09/13 08:20 ID:h5aCC1yl
番外編A
「うっわ〜!めっちゃうまそうだべ〜、このたこ焼き!」
まるでディズニーランドをまわる子供のようにはしゃぎまくる安倍。
その後ろを飯田、石黒、紺野が追っていた。
「え、え、これ何?お好み焼き?トラ焼きだってさぁ〜!みんな、ここで食べるべさ!」
「ちょっと、なっちぃ〜、先々行かないでよ〜!」
とあるお好み焼き屋に入っていってしまった安倍を三人は急いで追いかけた。
「おじさ〜ん、これ四つ、おねが〜い!」
いかにも阪神一色といった店。
店内には阪神タイガースの選手の写真やファングッズが至る所に飾ってある。
BGMにはもちろん六甲おろしがかかっている。
そんな店内に安倍の陽気な声がこだまする。
4人はカウンターに座る。
目の前の鉄板で主人がお好み焼きを手馴れた手付きで焼いていく。
158 :
加紺とう:03/09/13 08:20 ID:h5aCC1yl
安倍はお好み焼きの完成をルンルン気分で待っていたが、紺野が先ほどから少し元気がないのに気が付いた。
「紺野、どしたべ?お腹でも痛いの?」
紺野は首をふるふると横に振る。
「もしかして、まだあのこと気にしてるのか?」
石黒がそう言うと、紺野は少し俯いた。
「お前な、まだそんなこと考えてるのか?終わったことグダグダ言ったって仕方ないだろ?」
石黒が少しきつくあたる、次の瞬間、紺野が口を開いた。
「違うんです…。」
俯いたまま、ボソッとそうつぶやいた。
飯田がやさしく紺野に尋ねる。
「どうしたの?何か言いたいことがあるなら言ってみな。」
すると、紺野は立ち上がり、安倍の方に頭を下げた。
「安倍さん、ごめんなさい!
私、あの時安倍さんをぶったのに、そのまま何も言わずに…
いつか謝ろうと思ってたんですけど…ホントにごめんなさい。」
「なんだ、そのことか。気にしなくていいべ、あれはなっちが…。」
間髪入れず、紺野が話す。
「私、あれからずっと心の底で後悔してたんです。
別にあんな形じゃなくても、安倍さんにわかってもらう方法はあったんじゃないかって。
それに、先輩に対してぶつなんて、普通にありえないことです。
そう考えたら、安倍さん、あんな事をした私の事を実は憎んでるんじゃないかって思えて…。」
少し間が空く。
3人は、紺野が今まで抱いていた不安の大きさを、いつも口数の少ない紺野が多弁なのからも十分に感じ取ることができた。
そして、安倍が口を開いた。
159 :
加紺とう:03/09/13 08:21 ID:h5aCC1yl
「実はなっち、高校に入って初めて叩かれたんだ。
後輩は勿論、先輩や同級生も、あのあやっぺにも叩かれた事はなかった。」
「ちょっと、私は口は悪いけどね、暴力なんて誰にも振るわないわよ。
ホントに、失礼しちゃうわ。」
笑みを浮かべながら弁明する石黒。
しかし、次の瞬間、紺野は衝撃の事実を耳にする。
「あのね、実はなっちね、小さい頃イジメ受けてたんだ。」
急に安倍がこんな事を話し出したことに、紺野は驚きを隠せない。
安倍はそのまま話を続ける。
「その時、殴られたりしたこともあった。とても怖かった。もうこんな事されたくないって。
こんな思いをするのなら、いっその事死んでしまいたいって何度も思った。それ以来、なっちは暴力恐怖症になったの。
手を振り上げられただけでも、怖くて泣いちゃうぐらいに。
人と話してても、いきなり殴られるんじゃないかって、ずっとビクビクしてた。
それでも、最近はだいぶましになってたの。」
石黒も、飯田も、紺野も、真剣な表情でこの話を聞く。
しかし、話す安倍の表情はなぜか笑顔のままだ。
160 :
加紺とう:03/09/13 08:22 ID:h5aCC1yl
「正直、紺野に叩かれた時はどうなるかと思った。
また、あの恐怖が蘇ってきちゃうんじゃないかって。
でもあの瞬間、自分でも信じられないくらいとても不思議な気持ちになったの。
なんかね、嬉しかった。あれだけ、自分の事を想いながら叩かれたのが初めてだったから。」
気が付くと、安倍の頬にはうっすらと一筋の涙が浮かんでいた。
「だからね、紺野。私はむしろ感謝してる。
人を想うことが大切なことなんだって気付かせてくれたから…。
だから、もうなっちが紺野を憎んでるなんて思わないで、ね?」
「…はい。」
紺野は顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、声を振り絞った。
飯田と石黒は必死で涙を堪えている。
「ごめんね、みんな。こんなしんみりさせちゃって。
ご主人もごめんね、こんな店の中で泣いちゃって。」
涙を拭いながら笑顔で安倍がそう言うと、主人はそっと微笑んでくれた。
気を遣ってか、完成したお好み焼きが知らぬ間にすでにみんなの前に置かれていた。
「それじゃ、いただきま〜す!」
安倍が元気よくそう言うと、残りの三人もそれに続いた。
あれだけ元気のなかった紺野も、気付けば5枚目をすでに平らげていた。
安倍は3枚目、飯田・石黒は2枚目を食べ終えたところで箸を置いた。
お勘定をしようと席を立つと、主人が「今日はおっちゃんがおごったる」と言ってくれた。
4人は無理矢理払おうとしたが、断固として受け取らないので、半額だけ支払うということで手を打った。
4人は軽くお辞儀をして、その店をあとにした。
「あ、お母さんとか妹にお土産買わなきゃ!」
安倍がまた、先陣切って走り出した。
「あ、私も一緒に行きます!」
紺野がすぐ後を走って追いかける。
飯田・石黒は相変わらずゆっくりと二人の後を歩く。
この後もしばらく、4人のにぎやかな甲子園周辺の観光は続くのであった。
番外編A〜絆の芽生え〜 完
161 :
加紺とう:03/09/13 09:01 ID:h5aCC1yl
番外編B
ここは病院の一室。
そこのベッドにいるのは、あの後藤真希だ。
あの一戦の後、医師に診察してもらったところ、一ヶ月は絶対安静と言われた。
全治には半年はかかるだろうとのことらしい。
「んぁ〜、明日香じゃん、いたの?」
「ちょっと、起きて一言目がそれ?さっきまで話してていきなり寝だしたくせに…。」
福田が呆れ顔で言う。
「んぁ〜、そうだっけ?」
後藤は完全に寝ぼけていた。
さっきまではいなかったのだが、いつの間にか福田の隣に座っていた辻が、そんな後藤に構わず話しかける。
162 :
加紺とう:03/09/13 09:01 ID:h5aCC1yl
「ごとーしゃん、そんなけがさっさとなおすのれす!」
「のの、無茶言わないでよぉ〜」
「むちゃじゃねぇーのれす、ごとーしゃんもきあいがたらねーのれす!」
二人の会話を楽しそうに福田は見守る。
「ところで明日香、チームの方はどう?」
一転して真面目な表情で福田に尋ねる後藤。
「別に変わってないよ。てか、あんた今までキャプテンのくせにあんま指示とかしてなかったじゃん。」
福田はあっさりと流すように答える。
「そだったね…ごめんね、明日香。迷惑かけて。」
申し訳なさそうに福田を見つめる後藤。
その表情は見ていてとても眩しい。
「ま、今に始まったことじゃないからね。それと…。」
福田はベッドの下に手を伸ばす。
「こいつは預かっていくよ。」
163 :
加紺とう:03/09/13 09:02 ID:h5aCC1yl
「あっ!」
そういって福田が手にしていたのは鉄アレイだった。
「あんた、『安静に』って言葉理解してんの?まったく…。」
やはり呆れ顔の福田。
「だって、体動かさないと鈍っちゃうじゃん。てか、なんでわかったのさ?」
なぜ鉄アレイを隠しているのがバレたのか、後藤は気になって仕方なかった。
そして、福田の口から出たのは…。
「そりゃわかるよ…。(あんたは私にそっくりだから。)」
微笑みながらそう言うと、福田は病室の扉へ歩き出した。
「もうかえるのれすか?」
「あぁ、私達も帰って練習しないとな。『誰かさんに負けないように。』」
辻の問いかけに、福田は後藤を横目で見ながら答えた。
後藤は理解してないようだったが、辻はなんとなくわかったらしい。
椅子からぴょんと飛び上がり、駆け足で福田の後ろについて行く。
そして、部屋を出る時、辻が振り返って後藤に言った。
「ごとーしゃん、はやくなおしてののにやきゅーおしえてくらはいね!」
「おぉ、任しとけぇ〜」
右手をプラプラさせながら後藤は答えた。
二人が病室を出て行ったのを見送った後藤。
「さ、一眠りしたし…もうちょっと頑張りますか。」
そう言うと、後藤は福田が探りを入れたのと逆方向のベッドの下から鉄アレイを取り出した。
後藤真希の自分との闘いはまだまだ終わりそうにない。
番外編B〜後藤真希の闘い〜 完
164 :
加紺とう:03/09/13 09:24 ID:h5aCC1yl
>>152 ありがとうございます。
番外編書いてみましたが、なんかダラダラと話が延びただけの様な…。
特にA、考えるうちにどんどん膨らんでしまいました。(汗)
面倒だったら適当に読み流してください。
>>156 ありがとうございます。
確かにごまののは書いてて癒されます(w
でも、一応これで完結という罠。
続編希望されるなら書きますが…。
てことで、前にも言った通りプロ野球編か甲子園編(第一試合から)で続編書こうかと思ってます。
できればどっちがいいか意見を下さい。
別ジャンル希望される方がいましたらそれでもOKです。
よろしくお願いします。
あ〜、あいぼん書きてぇ〜!(w
165 :
◆JiTixx1yQg :03/09/13 11:25 ID:aTcUqgh4
「紺野先生をここでやってしまおう」
「矢口ANNをまったり語るスレ」
「MUSIX!を語るスレ」
「ハロプロ総合議論スレ」
「なぜゴリスレは削除されないのか?」
「番組スレは立てるの禁止!」
「6期メンバー大決定!!!」
「【なっち】安倍なつみ、娘。卒業」
「ハロプロハンマープライス」
俺が立てたスレ全部がお気に入り(好きな内容だから立てたので
当たり前かも・・・
ハロモニ感想、メロンに告白等等、繋いだ長寿スレは省く)
甲子園編(第一試合から)
に一票。
欲を言えば甲子園→プロと見てみたいw
とりあえず甲子園に1票
やっぱり甲子園編。
プロ野球板にある「初芝マンセー」
甲子園編でよろ。
甲子園編希望といいたいとこですが、今の形だと、南北海道・西?東京・神奈川以外は
苦しいですよね
甲子園に出場できるような高校は地方から優秀な選手を掻き集めてる場合がほとんど。
他府県出身者が多くても不自然ではないでしょう。
というわけで甲子園編に一票。
173 :
加紺とう:03/09/15 00:53 ID:YH56dCIW
皆さん、たくさんの投票ありがとうございます。
甲子園編で続編を書こうと思います。
ところで
>>172さんのを見て思ったんですが、
・ハロプロメンだけで構成されたチーム
・それぞれの出身者+数合わせメンバーのチーム
のどちらがいいですか?
個人的には甲子園に囚われてるわけでなく、トーナメントの「負けられないという緊迫感」が書ければいいので、出身にこだわる必要はあまりないんですよね…。
それぞれの長所・短所は
前者…オールスターみたくメンバーが豪華になるが、チーム数がかなり減ってしまう(おそらく4チームが限界)
後者…色んな対戦が見れるが、数合わせメンバーがかなり多い(加護・高橋などは一人なので、それ以外のメンバーが数合わせメンになる)
こんなところだと思います。
お手数かけてすいませんが意見を聞かせてください。
各メンバーの個性を
出して欲しいので
後者希望になるのかな。
前回も補完人物(←メチャクチャな表現だなw要はハロプロじゃない人)
出てたから後者希望で
でも多すぎても作者さんが困るだろうからチーム数は10くらいでいいかも
176 :
加紺とう:03/09/21 04:55 ID:onfz0tHM
お待たせしました。
そろそろ娘。甲子園2を始めたいと思います。
前もって言っておきますが、前のように細かい描写はできないと思います。
それと、キャラによってかなり出番が少ない人もいますがご了承ください。
(希望のキャラがいれば番外編を書くかもですので、あれば言ってください。)
では、よろしければ最後までお付き合いください。
177 :
加紺とう:03/09/21 05:16 ID:onfz0tHM
娘。甲子園2
1.運命の出会い
プルルル…プルルル…プルルル…
布団の中にうずくまったまま、辻が携帯に手を伸ばす。
「ふぁい、もしもし…。」
「のの、もしかしてあんた、まだ寝てたの?」
電話の向こうの声は後藤だった。
その声はえらく驚いたようで、若干早口になっていた。
「あんた、もうすぐ抽選が始まるから早く来な!」
辻は慌てて時計に目をやる。
時計の針はもうすぐ11時を指そうとしていた。
急いで制服を着替え、身支度を2分で済ませた。
民宿の玄関を飛び出し、かばんから大好物の焼きそばパンを取り出して、走りながらそれをほおばる。
「はぁ…はぁ…ちこくするのれす!」
娘。甲子園の組み合わせ抽選会は11時半からで、民宿から会場まではどんなに急いでも20分はかかる。
辻は持てる力を振り絞り、全力疾走で会場に向かった。
「どうせなら、もっとはやくおこしてくれなのれす!」
愚痴りながら走っていたら、角から飛び出してきた人とぶつかってしまった。
両者とも思いっきり尻餅をつき、痛そうにお尻を押さえていた。
「なんだ、このちっちゃい奴は?」
これが両者がシンクロしたかのように、同時に最初に口にした言葉だった。
そして、相手の方が続けて話してきた。
「ちょっと慌てとったから、ぶつかってしもてすまんかったな。
うちは娘。甲子園の奈良代表で、智辯学園の加護亜依ゆうねん。」
178 :
加紺とう:03/09/21 05:26 ID:onfz0tHM
「つぃののみなのれす。
ののはとーきょーだいひょうのうえのがくえんなのれす。」
背格好がまったくそっくりな二人。
お互い初めて会ったのに、そんな気が全くしなかった。
「あんたも娘。甲子園の出場者か。
しかもあの王者の上野学園って、あんた見かけによらずすごいんやなぁ。」
お団子頭の関西弁少女、加護亜依は流暢に話しかける。
辻は誉められて嬉しかったのか、少し俯きながら顔を赤らめた。
が、二人は次の瞬間、同時に大事な事を思い出した。
「あ、抽選会が始まっちゃう!」
二人は大急ぎで会場に向かった。
とばした甲斐あって、かろうじて時間には間に合った。
二人はそこで再会の約束を交わし、それぞれの席へと向かう。
そして、各校の今年の命運を懸けた抽選会が始まった。
179 :
加紺とう:03/09/21 05:28 ID:onfz0tHM
今日はここまでです。
しばらくこのペースが続きそうですが、どうかマターリお待ちください。
更新乙。なかなかよいね
乙!マターリ待つよ。
182 :
加紺とう:03/09/22 01:59 ID:cHJmtEUf
2.対戦組み合わせ大決定!
「これより、娘。甲子園の対戦組み合わせ抽選会を行いたいと思います。」
司会者が台本を見つめながら、話し始めた。
各校の選手達は皆、緊張の色を隠せない。
「それではまず、昨年の優勝校である東京代表の上野学園から壇上に上がってくじを引いてください。」
後藤が立ち上がる。
後藤の姿を見て、各校の選手があちらこちらでざわざわとざわめいている。
当の後藤は、堂々とした姿勢で壇上に上り、くじの入った箱に左手を伸ばした。
そして、ゆっくりとその左手を引き出した。
「3番です。」
後藤は皆に番号を見せながら言った。
くじを係の人に渡し、そのまま自分の席へと戻っていった。
後藤は席に着くと、隣に座っていた辻と小声で雑談を始めたようだった。
183 :
加紺とう:03/09/22 02:00 ID:cHJmtEUf
「次、昨年の準優勝校、北海道代表の早大付札幌高校。」
「はい!」
司会者の呼びかけに元気よく返事を返したのは安倍だった。
隣で飯田がささやく。
「いいくじ引いてきてよ!」
「なっちにま〜かせるべさ!」
安倍は自信満々に飯田に言ってのけた。
一歩一歩ゆっくり足を運んでいく安倍は、自分の鼓動が徐々に加速しているのを感じていた。
そして壇上に上がり、右手を箱の中へと入れた。
「(この瞬間、何度やっても緊張するべさ…。)」
安倍が右手を引き抜いた。
「13番です。」
上野学園とは隣のブロック、互いに勝ち進めば準決勝でぶつかることになる。
安倍は胸を撫で下ろしながら、自分の席へと戻っていった。
その後はランダムに各校がくじを引いた。
どんどん抽選は進み、喜ぶ者、叫ぶ者、肩を落とす者など、反応はみんなそれぞれだった。
184 :
加紺とう:03/09/22 02:01 ID:cHJmtEUf
そんな中、辻が気にしていたあの人がくじを引く番になった。
「次、奈良代表の智辯学園。」
「へい!」
加護が勢いよく椅子から立ち、足早に壇上へと上がっていった。
「(できればはやくあたりてーのれす。)」
辻が心の中でそう祈っていた。
「よっしゃ、1番やで!」
自慢げにくじをみんなに見せびらかす。
1番という響きが好きだったようで、とてもご機嫌で自分の席へと戻っていった。
そしてもう一人、ご機嫌になっている少女がいた。
「(あっちが一回勝てばあたれるのれす!)」
辻は瞳の奥をメラメラと燃え滾らせていた。
その様子を見ていた後藤は訳がわからず、昨日辻に上げた賞味期限切れのチョコレートを思い出していた。
そんなことも知らず、辻はただひたすら加護の方を見つめていた。
185 :
加紺とう:03/09/22 02:03 ID:cHJmtEUf
そして、無事全ての高校の抽選が終わった。
結果は以下の通りとなった。
Aブロック
奈良__
福井 |
|_
東京__.| |
* |
|
滋賀__ |_
山形 |_| |
| .|
千葉__.| .|
* .|
.|
福島__ ..|
* | ..|
|_ ..|
群馬__.| |_|
石川 |
|
山口__ |
* |_|
|
熊本__.|
香川
186 :
加紺とう:03/09/22 02:04 ID:cHJmtEUf
Bブロック
北海道_
* |
|_
鳥取__.| |
徳島 |
|
高知__ |_
静岡 |_| |
| .|
三重__.| .|
* .|
.|
岩手__ ..|
長野 | ..|
|_ ..|
青森__.| |_|
* |
|
福岡__ |
* |_|
|
秋田__.|
島根
187 :
加紺とう:03/09/22 02:05 ID:cHJmtEUf
Cブロック
神奈川_
* |
|_
宮城__.| |
* |
|
新潟__ |_
* |_| |
| .|
栃木__.| .|
大分 .|
.|
岐阜__ ..|
愛媛 | ..|
|_ ..|
京都__.| |_|
* |
|
大阪__ |
* |_|
|
香川 _.|
和歌山
188 :
加紺とう:03/09/22 02:10 ID:cHJmtEUf
Dブロック
鹿児島_
山梨 |
|_
埼玉__.| |
* |
|_
愛知__ | |
* |_| |
| .|
岡山__.| .|
富山 .|
.|
沖縄__ ..|
* | ..|
|_ ..|
広島__.| |_|
茨城 |
|
兵庫__ |
* |_|
|
長崎__.|
佐賀
189 :
加紺とう:03/09/22 02:15 ID:cHJmtEUf
また今年も、娘。甲子園の頂点を目指して全校が死力を尽して闘いを繰り広げる。
果たしてどんなドラマが、どんな友情が、どんな結末が待っているのか。
誰にも予測のつかない激闘が、今ここで幕が下ろされようとしている…。
190 :
加紺とう:03/09/22 02:16 ID:cHJmtEUf
今日はこんなもんで。
平日は学校があるので、あまり更新はできないと思っててください。
(できるだけ頑張ります。)
191 :
加紺とう:03/09/23 21:24 ID:s3xOH7c9
3.娘。甲子園開幕
数日後、甲子園前に娘。甲子園参加校が集まっている。
もうすぐ開会式が始まるのだ。
東京上野学園の後藤、北海道早大付札幌の安倍、などなどまさにオールスターともいえるメンツだ。
この中に他校同士で知り合いというのもかなり多いようで、あちらこちらで雑談が飛び交っている。
192 :
加紺とう:03/09/23 21:25 ID:s3xOH7c9
「よっすぃ〜、今年はどうなの?」
「こっちはそれほど強豪ってのがいないから、いいとこまでいけると思うよ。梨華ちゃんは?」
「どうだろう、中澤さんのいる京都平安とも当たるから。でも、私がいるから大丈夫だよ♪」
「梨華ちゃんてホントにポジティブだね…。」
埼玉代表浦和学院の吉澤ひとみと、神奈川代表横浜高校の石川梨華。
埼玉一のスラッガーと神奈川一のエースの二人は、練習試合で対戦して以来ちょくちょくメールをしたりしている仲だ。
実はこの二人、練習試合以外で直接対決というのはまだない。
大概は、共に上野学園か早大付札幌の前に敗れ去ってしまっていたからだ。
だが、今回はどちらも決勝まではその二校とは当たらない。
初めて直接対決を迎える可能性が極めて高いのだ。
その日が来ることが待ち遠しい。
二人にとっては、娘。甲子園優勝と同じくらい夢にまで見た対決なのだ。
「じゃ梨華ちゃん、準決勝で会おうよ!」
「そうだね、よっすぃ〜!」
そういって二人は自分のチームの元へと帰っていった。
193 :
加紺とう:03/09/23 21:26 ID:s3xOH7c9
名勝負はこの二人の対決だけではない。
東京上野の後藤と北海道札幌の安倍のリベンジ対決。
東京上野の後藤と千葉東海大の保田・市井の幼馴染対決。
神奈川横浜の矢口と京都平安の中澤の親友対決。
実現するかはわからないが、数え切れない程の名勝負がこの先待っていることだろう。
そんな中、それぞれが様々な想いを胸に抱き、ついに開会式が始まった。
威風堂々な入場行進に始まり、着々とプログラムがこなされていく。
そして、福岡柳川の田中れいなによる選手宣誓が行われた。
「宣誓!我々選手一同は娘。精神に則り、この娘。甲子園の高みを目指して、一試合一試合、誰一人とて悔いのない試合をすることを誓います!2003年7月22日、娘。甲子園福岡代表柳川高校、田中れいな!」
初出場とは思えない見事な宣誓に、観衆は大きな拍手でそれを讃えた。
その後、そのまま全てのプログラムが無事に終了した。
194 :
加紺とう:03/09/23 21:28 ID:s3xOH7c9
開会式終了後すぐ、第一試合が始まろうとしていた。
福井代表福井商業vs奈良代表智辯学園。
福井商業は、本格派右腕の高橋愛を擁す守り主体のチーム。
一方の智辯学園は、これまた本格派右腕の加護亜依を擁す機動力でかき回すチームということで、
かなりの投手戦になるだろうと予想されている。
この試合が開幕試合ということもあって、バックネット裏には各校の選手達がぞろぞろと座っていた。
もちろん、あの人も…。
「かごあい…どんなせんしゅなんれしょー?」
「のの、あの子の知り合い?」
辻がぼやくのを見て、後藤が加護の方を指差しながら辻に尋ねる。
「このまえ、ちゅーせんかいのときにあったのれす。」
そう、アレが運命の出会いだったと辻はあの時の一部始終を思い出す。
「ふ〜ん、それで仲良くなったんだ。」
後藤が納得した様子でそう言った時、辻が間髪入れずに口を開いた。
195 :
加紺とう:03/09/23 21:32 ID:s3xOH7c9
「らいばるなのれす。」
後藤もビックリしていたが、これには辻自身も驚いていた。
別にライバルだと相手が言ってきた訳でもなければ、自分もそんな風に意識していたわけでもなかった。
ただ、口から勝手にこの言葉が出てきたのだ。
だが、辻はあの出会った瞬間から加護に対して確実に何かを感じていた。
それが負けたくないという気持ち、『闘争心』であることに辻はこの時初めて気付かされた。
おそらくそういう風になる運命だったのだ、と辻は自分に言い聞かせた。
二人がグラウンドへ目を移すと、もうすぐ試合が始まろうとしていた。
マウンドには加護亜依が立っていた。
そして審判のコールと同時にサイレンが鳴る。
今、娘。甲子園の新たな幕が上がった。
196 :
加紺とう:03/09/23 21:34 ID:s3xOH7c9
今日はここまでです
次からはおそらく試合中心になると思います
推しが早々に負けてしまっても文句は言わないで下さいね(w
198 :
197:03/09/24 11:37 ID:6QkYhGK8
>作者さん
ごめんなさい、総合スレに書くつもりが誤爆してしまいました。
本当に申し訳ないです。
199 :
:03/09/25 07:12 ID:7VB3rY2b
ほ
200 :
加紺とう:03/09/26 03:09 ID:b7XQMq+g
4.二人のai
小さい体に似合わず、ダイナミックな投球フォーム。
体を目いっぱい使い、加護は第一球を投げた。
『ドカッ!』
ボールは打者の左腕を直撃した。
死球(デッドボール)だ。
「うちとしたことが…ちょっと力んでしもうたわ。
ほんま、ごめんな〜!」
帽子を取り、軽く頭を下げながら加護は言った。
打者の方も、右手を少しだけ横に振り、大丈夫であることをアピールした。
何はともあれ、いきなり無死一塁となった。
2番打者はきっちりとバントで送り、一死二塁と早速先制のチャンスを迎えた。
しかし、ここから加護も踏ん張る。
3番は直球にタイミングが合わず、空振り三振。
4番の高橋愛は同じく速球に詰まらされて一飛(ファーストフライ)。
最初はヒヤッとさせられたが、加護はなんとか0で抑えた。
201 :
加紺とう:03/09/26 03:10 ID:b7XQMq+g
1回裏の攻撃。
一番打者の加護が打席に入る。
「さ〜、今日も一発ぶちかましたるでぇ〜!」
意気揚々と加護がそう言うと、高橋が尋ねる。
「あんた、投手で一番ってえらい珍しいやよ。何でなん?」
加護は自慢げに答えてみせる。
「うちは一番がいっちゃん好きやねん!」
変わってるなと思いながらも、高橋は投球フォームへと入った。
バレエで培ったしなやかな投球フォームの『演舞投法』は、
まるでマウンド上でバレリーナが舞っているように見えることからこう名付けられた。
直球が加護の膝元へ走ってゆく。
しかし、加護もドンピシャのタイミングでスイング。
打球はバックネットへと飛んでいった。
「これぐらいやったら打ちごろやでぇ〜。」
加護が挑発するように言う。
202 :
加紺とう:03/09/26 03:11 ID:b7XQMq+g
すると、高橋も負けずに言って来た。
「でも、次の球は絶対打てんやよ〜。」
そして第二球を投じる。
先ほどと同じ膝元の球に、加護が打ちにいく。
すると、球が急に高めにホップしてきた。
加護のバットは空を切る。
「これがあたしの必殺『ホッピー』やよ〜。」
今度は高橋が自慢げに加護に言ってのける。
『ホッピー』、一般にはジャイロボールと言われる球で、
この空気抵抗を利用してホップしてくる球を捉えるのは至難の業である。
加護は、続く『ホッピー』にもバットが空を切り三振に倒れた。
後続も簡単に打ち取られ、スリーアウトチェンジとなった。
この後も完全な投手戦が続く。
加護は最初の死球以降は安定し、力のある速球で福井商業打線をノーヒットで抑え込む。
一方の高橋も『ホッピー』を織り交ぜ、こちらも智辯打線をノーヒットで抑える。
そして試合は両者ノーヒットのまま、延長戦へと入っていった。
203 :
加紺とう:03/09/26 03:12 ID:b7XQMq+g
10回表、二死から4番高橋が加護の速球を捕らえて右中間二塁打とチャンスを作る。
しかし、後続が抑えられて結局0に終わった。
10回裏、先頭の1番加護は、『ホッピー』で攻められ、ツーストライクと追い込まれた。
高橋が投じた三球目も『ホッピー』、ここで加護が勝負に出た。
セーフティーバント。
打球は三塁線を転がっていく。
虚を衝かれたためにスタートが出遅れ、間に合わないと判断した三塁手はそのまま打球が切れるのを待った。
が、打球は見事ライン上でピタリと止まった。
無死一塁、智辯にとって初めてのランナーが出る。
続く2番・3番と連続して送りバントを決める。
二死三塁、一打サヨナラの場面である。
打席に4番打者が入り、セットポジションになる。
その時、高橋はあることに気付く。
「(三塁走者のリードが大きい…。)」
加護がリードをかなり大きく取っていた。
高橋は打者への気を散らすための囮だと判断し、目だけで牽制し、そのまま投球モーションに入った。
この時、高橋は予想外の光景を目にする。
204 :
加紺とう:03/09/26 03:20 ID:b7XQMq+g
なんと、同時に加護がスタートを切っていたのだ。
打者は動く気配がない。
明らかに本盗(ホームスチール)である。
本来なら楽々アウトだっただろう。
しかし、高橋が投じたのは『ホッピー』だった。
そう、高目へとホップしていく『ホッピー』だと、捕手が捕球してからタッチするまでが若干遅れてしまう。
そこを狙い、加護は限界までリードを取り、ギリギリのタイミングでスタートを切っていた。
加護がトップスピードからそのままヘッドスライディングで飛び込む。
捕手は球を捕球してすぐさま加護をタッチしにいった。
加護の手は捕手の真下にあった。
智辯学園のサヨナラ勝利である。
誰もがその目を疑った。
まさか本盗で勝負が決まろうとは…。
しかし、誰もが唖然とする中で、整列する時には、高橋は意外と平然としていた。
「あんた、すごかったわぁ〜!またどっかで戦おうな!」
加護も少し息を切らせながら答える。
「あんたのあの球もたいしたもんやったで!次会った時には絶対打ったるで!」
そして二人は固い握手を交わした。
勝利校の校歌の後の応援団への挨拶で、笑顔で高橋が言った言葉、「絶対また来るやよ〜!」に、
福井商業応援団ではその後しばらく高橋コールが止まなかった。
こうして、息の詰まった娘。甲子園開幕試合は幕を閉じた。
205 :
加紺とう:03/09/26 03:21 ID:b7XQMq+g
加護が球場から出て来ると、目の前には一人の少女が立っていた。
「あいちゃん、おつかれさまなのれす。」
いきなりの辻の登場に少々ビックリした加護だったが、すぐさま答えた。
「おおきに、試合見てくれたんやろ?次は希美ちゃんのとことやなぁ。」
「のののことはののとよんでくらはい。」
『希美ちゃん』と呼ばれたのがちょっとくすぐったかったらしい。
辻が少し顔を赤らめて言う。
「そうか、それやったらうちもあいぼんでええで。」
少し二人の間に沈黙ができる。
辻がその空気を切り裂く。
「あいぼん、ののたちはらいばるなのれす!だから、つぎのしあいはぜってーまけねーのれす!」
その言葉を聞いて嬉しかったのか、加護はニヤニヤしながら答える。
「ののがライバルか…ええで。相手にとって不足なしや!次の試合もうちは全力で行くでぇ!」
そういって加護は右手を前にずいっと差し出した。
辻も右手を差し出す。
そして、二人は固い握手を交わした。
その後、二人は一言二言だけ話してその場は別れた。
来たるべき闘いの日が来るその日まで…。
206 :
加紺とう:03/09/26 03:24 ID:b7XQMq+g
今日はここまでです
しばらく不定期更新が続きそう…
207 :
加紺とう:03/09/26 03:26 ID:b7XQMq+g
更新乙です
今回は加護に軍配ですか
次の試合も楽しみにしてます
保全
210 :
加紺とう:03/09/27 21:10 ID:q06h9P+e
5.土佐の星vs静岡のヒロイン
この日のその後の試合はそれぞれ、
近江(滋賀)3-1酒田南(山形)
桐生第一(群馬)2-3遊学館(石川)
という結果に終わり、これで初日は終了した。
二日目の注目の試合は、第三試合。
高知の明徳義塾と静岡の浜松商業の好投手対決だ。
明徳の前田有紀、独特のフォームから繰り出されるスライダー『キリギリス』は、軌道自体はカーブに近いがスピードがスライダーくらいでかなり打ちづらい。
浜松商の斉藤みうな、速球は130km/h前後だが、カーブ・シンカー・シュート・チェンジアップなどと球種がとても豊富だ。
211 :
加紺とう:03/09/27 21:11 ID:q06h9P+e
試合は両投手が好投し、投手戦。
ヒットこそ出るものの、どちらも得点は許さなかった。
しかし、8回表の明徳の攻撃で試合は動く。
無死から4番の前田有紀が右中間二塁打で出塁。
5番がバントで送って一死三塁とした。
そして、打順は6番。
ワンストライクワンボールからの三球目、ここで明徳はスクイズを敢行した。
これが見事に成功し、明徳が1点を先制した。
浜松商も最終回に二死から一・二塁と粘りを見せたが、最後は前田が踏ん張ってそのまま明徳が逃げ切った。
212 :
加紺とう:03/09/27 21:12 ID:q06h9P+e
この日のその他の試合はそれぞれ、
九州学院(熊本)4-9尽誠学園(香川)
八頭(鳥取)0-2鳴門工(徳島)
水沢(岩手)4-1長野商(長野)
という結果。
その後の試合は三日目が、
秋田商(秋田)5-6隠岐(島根)
宇都宮工(栃木)3-0大分商(大分)
中京(岐阜)2-7今治西(愛媛)
日南学園(宮崎)6-11智辯和歌山(和歌山)
四日目が、
樟南(鹿児島)5-0日本航空(山梨)
倉敷商(岡山)1-0高岡商(富山)
広陵(広島)1-0常総学院(茨城)
長崎日大(長崎)7-1佐賀商(佐賀)
という風になった。
これで1回戦は全て終了した。
2回戦からは、優勝候補の上野学園や早大付札幌をはじめ、強豪校がぞくぞくと顔を出す。
ここからは更なる激戦が予想される。
213 :
加紺とう:03/09/27 21:14 ID:q06h9P+e
今日のところはここまでです。
おそらく一番難しいところを通過しました。(笑)
これからはもう少し骨のある内容になると思われます。
もしかしたら更新ももうちょっとペースアップできるかもです。
それと訂正。
トーナメント表で
>>185と
>>187に香川が二つありますが、
>>187の方は宮崎に脳内変換してください。
宮崎県民の皆様、すいませんでした。
214 :
加紺とう:03/09/27 21:21 ID:q06h9P+e
>>208 今回はどちらもキャラが把握できなかったので、ちょっと内容が薄くなってしまいました。
次は頑張りますのでこれからもよろしくです。
>>209 保全乙です。
215 :
:03/09/29 23:55 ID:/Q6TCHBG
てすと
216 :
:03/09/29 23:59 ID:/Q6TCHBG
てす
217 :
加紺とう:03/09/30 01:49 ID:WtnEIk3O
6.モノマネ
大会5日目の朝、後藤が目を覚ました。
眠け眼をこすっていたら、辻の姿が見当たらないのに気付いた。
「(いつもなら時間ぎりぎりまで寝てるのに…。)」
そう思っていたら、外から物音が聞こえた。
後藤は耳を澄ます。
『ブンッ!ブンッ!』
その音の正体が素振りの音だと気付き、廊下の窓から音のする方向を覗いてみる。
辻だった。
どうやら辻は興奮して目が覚めてしまったらしい。
素振りの力の入れ具合から、どれだけ今日の対戦に気合が入っているかが十分伝わってきた。
その様子に笑みを溢しながら、後藤は身支度のために部屋に戻った。
218 :
加紺とう:03/09/30 01:50 ID:WtnEIk3O
今日も甲子園は大観衆に包まれている。
その中で智辯と上野、2つのチームが対決の時を迎えようとしていた。
先攻は智辯、1番の加護が打席に向かう。
「今日も全力で暴れさせてもらうでぇ〜!」
笑顔満開で、これまた楽しそうに言う加護。
こちらも辻に負けず、気合十分といった感じだ。
そして加護が打席に入り、プレイボールの合図のサイレンが甲子園に鳴り響いた。
後藤は大きく振りかぶり、第一球を投げた。
「!?」
後藤の背筋に寒気が走る。
後藤の投じたど真ん中直球は見事にストライクだった。
「あちゃ〜、絶好球を見逃してもうたがな!」
やってしまったと右手で頭を押さえながら悔しそうに加護は言う。
後藤はというと、何かの違和感を感じていた。
「(加護のあの全てを飲み込むような目…アレは一体?)」
後藤が投げた時に見せた加護の目、それが後藤には気になった。
何かを狙っているのだろうか?
そう判断した後藤は、先頭打者であるはずの加護に全力投球を見せた。
219 :
加紺とう:03/09/30 01:51 ID:WtnEIk3O
直球、カーブ、スクリュー、シュートと持ち球を全て織り交ぜて打ち取りにいく。
一方の加護もかろうじてファールで粘る、例の目をしながら。
そして十二球目、インハイ直球に加護のバットは空を切った。
「あかん!やられたわぁ〜!」
悔しそうにベンチへと戻っていく加護。
しかし、後藤はまだあの加護の目のことを気にしていた。
「(何だったんだろう…あの嫌な感じは?)」
背筋に走った寒気は一体何だったのか?
この時の後藤には、あれが加護の本当の力だということは知る由もなかった。
その裏の上野の攻撃、打席にはなんと辻が向かっていた。
「お、ののも一番が好きなんか?」
「そうじゃねーのれす、ごとーしゃんのしじなのれす。」
加護が嬉しそうに聞くと、辻も嬉しそうに答えた。
前回の智辯の試合を見た後藤は、加護は尻上がりに調子を上げるタイプだと見た。
だから、辻で先制パンチを食らわして一気に潰す。
そのために辻を1番に起用したのだ。
「きょーはあいぼんをぼこんぼこんにやっつけてやるのれす!」
「言ってくれるな、のの。うちも負けへんでぇ!」
辻はバットをブンブン振り回し、加護は肩をぐるぐると回す。
両者ともやる気満々だ。
220 :
加紺とう:03/09/30 01:52 ID:WtnEIk3O
加護がワインドアップで第一球を投げる。
内角の直球を辻はフルスイングした。
『カキーン!』
打球は猛烈な勢いでレフトスタンドへのびていった、が惜しくも左へと切れていった。
しかし、飛距離だけ見れば完璧な場外弾だ。
「なんちゅーパワーやねん、のののやつ。」
鼻の頭をかきながら照れくさそうな辻。
しかし、加護は動じるどころかさらに気合が入る。
「(後藤はんまでは温存するつもりやったけど…こうなったら全力でいったるで!)」
再び投球モーションに入った加護。
しかし、先ほどとはフォームが違う。
それでも、このしなやかなフォームはどこかで見たことがある気がする…。
このかすかな疑心は、ボールが捕手のミットに収まった瞬間に確信へと変わった。
加護の投じた直球を辻が先ほどと同様に打ちにいった。
しかし、ボールは急激にホップし、辻のバットの上を通過した。
福田が思わず声を上げた。
「あれは…福井商業の高橋の『演舞投法』?」
すこし間を空けて加護が答える。
「そう、そしてこれがあたしの必殺『ホッピー』やよ〜、な〜んてね!」
加護はニコニコしながら福井弁っぽく言ってみせた。
そう、これが加護の力の完全模倣、いわゆる『モノマネ』である。
思いもよらぬモノを目の当たりにして、この時辻はただただ呆然とするしかなかった。
221 :
加紺とう:03/09/30 01:54 ID:WtnEIk3O
今日はここまでです
意外とペースが上がらない…
乙です
いいペースだと思いますよ
よいしょと
224 :
:03/09/30 21:21 ID:YDkjegN7
225 :
加紺とう:03/10/01 03:14 ID:2B/hGQl9
7.モノマネ〜後藤ver.〜
その後、加護は上野打線を完全に抑え込む。
辻は結局そのまま空振り三振。
2番亀井絵里は捕邪飛(キャッチャーファールフライ)、3番福田明日香は投飛(ピッチャーフライ)に打ち取った。
両投手が好投し、2・3回と両者ともノーヒットに抑え込む。
しかし、続く4回表に試合が動く。
1番の加護からだが、前回の打席は右打席に入っていたはずが、なぜか今回は左打席に入る。
スイッチヒッター?
だとしても、なぜわざわざ不利と言われる左で打つのか?
上野サイドは困惑の表情を隠せない。
しかも加護は、前回の打席とは全く違った構えをしている。
しかし、これまたどこかで見たことがある構えだった。
そう、それは紛れもなく今投げている後藤の構えだったのだ。
226 :
加紺とう:03/10/01 03:14 ID:2B/hGQl9
ニコニコと後藤を見つめる加護。
それがわずかながら後藤にプレッシャーをかける。
ただの見かけ倒しなのか?
それでも、全力で抑えるしかない。
そう割り切った後藤は投げた。
内角への152km/hの速球。
加護がリズムをとっているが、その様子はまるで後藤そのものだ。
加護が打ちにいく。
上手く腕をたたみ、腰を鋭く回転させ、ボールを捌く。
『カキーン!』
打球は一二塁間を破り、右前安打。
この試合で初めてのランナーが出た。
227 :
加紺とう:03/10/01 03:18 ID:2B/hGQl9
今日は少ないですがここまでです
シナリオは大方決まってるのになかなか書けない…
更新乙 試合が動きだしましたね
229 :
加紺とう:03/10/02 22:34 ID:OGZegq/8
8.奇襲
ここで後藤の頭によぎったのは、対福井商戦で見せた加護の足だ。
無警戒なら確実に三塁まで奪われてしまう。
後藤はセットポジションに入る。
二度ほど速い牽制球を投げる、が加護はゆうゆうと塁へ戻っている。
再びセットポジションに入り、目で何度か牽制をして、後藤は投球モーションに入ろうとした。
その時、加護がスタートを切った。
一方の打者はというと、バントの構えをしている。
『コンッ!』
打球はピッチャー横へと転がっていった。
後藤はボールを捕球し、すぐさま二塁を見る。
加護はすでに二塁に到達していた。
後藤は体を切りかえ、一塁へゆっくりとボールを送った。
230 :
加紺とう:03/10/02 22:37 ID:OGZegq/8
その時だった。
加護が狙っていたかの如く、三塁へ向かって猛然と走り出した。
慌てた一塁手がすかさず三塁へ送球する。
しかし、間一髪セーフ。
後藤は一死三塁のピンチを迎えた。
ここで後藤は一旦間を取り、辻をマウンドへ呼んだ。
「のの、わかってるよね?」
「へい、すくいずがきそうになったらすぐにうぇすと、れすね?」
「そう、本盗もあり得るから配球は外中心でお願いね。」
「わかったのれす。」
手短に打ち合わせを終え、辻は元の場所へと戻っていく。
打順は3番、内野ゴロ・犠牲フライでも1点の場面だ。
上野学園は内外野前進守備を取る。
そして、後藤がセットポジションに入った。
231 :
加紺とう:03/10/02 22:38 ID:OGZegq/8
すると、後藤と辻があることに気付く。
加護のリードがあまりに大きい。
おそらく本来より2・3歩は大きく取っている。
本盗を狙っているのか?
念のため、後藤はクイックモーションで投げる。
しかし、加護は全く走る気配を見せない。
辻がボールを捕球して横目で加護が慌てて塁に戻ろうとするのを見る。
刺せる、そう判断した辻はすぐさまボールを三塁へと送った。
が、その時だった。
加護が本塁へ向かって突っ込んで来たのだ。
三塁手の福田は慌ててボールを本塁へと返す。
若干送球が横に逸れてタイミングはかなり微妙だ。
辻がタッチしに行く。
しかし、加護はそのタッチを上手く掻い潜り、ヘッドスライディングで本塁に触れた。
土煙が舞う中、主審の手が大きく横に開いた。
あっという間の出来事に、観衆も、上野ナインもただ呆然としている。
加護はベンチへと戻り、笑顔でチームメイトとハイタッチを交わす。
膠着状態だった試合の中、智辯の想像を絶する奇襲攻撃に上野はなす術もなく先制点を許してしまったのだった。
232 :
加紺とう:03/10/02 22:40 ID:OGZegq/8
今日はここまでです
更新少ないなぁ(汗)
泣き言は言うな
泣いてすむなら(ry
あいぼんさんかっけー 上野がどう反撃するか期待してます
235 :
加紺とう:03/10/04 03:19 ID:HGp+4mBv
9.天才、加護亜依
その後、後藤は気持ちを切り替えて後続を完璧に抑えた。
対する加護も、4回裏の1番の辻から3番の福田までを連続三振とさらに調子を上げてきた。
これ以上点はやれないと気合が入る後藤。
5回表はしっかりと三人で打ち取った。
5回裏、後藤からの打順。
加護がベンチからマウンドへ駆け足でやってくる。
が、誰もがその目を疑っただろう。
加護が右手にグラブをはめている。
言うまでもないが、右利きの加護が右手にグラブをはめるということはまずありえない。
「一体何のつもり?」
後藤が少し睨みをきかせながら加護に言う。
「見ての通りや、左手で投げるんやで。
ちょっと飛ばし過ぎて右で投げるんが疲れてもうてん。」
あっけらかんと加護は答える。
「おい、嘗めるのもいい加減にしろよ!」
福田がベンチから怒号を上げる。
当然だろう、利き腕と逆の手で投げるなんて前代未聞だ。
しかも相手は昨年の王者上野学園、しかも打者は4番の後藤だ。
いくら抑えているとはいえ、これは調子に乗りすぎだ。
おそらく誰もがそう思っただろう。
236 :
加紺とう:03/10/04 03:20 ID:HGp+4mBv
しかし、加護は不敵な笑みを浮かべながらこう言ってのけた。
「そう言うんなら、打ったらええやん。打てるもんならな…。」
この自信は一体どこからやってくるのだろうか?
その答えがわかる時がもうすぐやってくる…。
後藤と加護が対峙する。
加護がゆっくりと投球モーションに入る。
そしてその時、またしても誰もがその目を疑った。
146km/hの速球が後藤の胸元を抉る。
が、驚いたのはそれだけではなかった。
「あの豪快なフォーム…間違いない、あれは後藤のだ。」
そう、福田が言った通り、加護はまたしても後藤のモノマネをやってのけたのだ。
しかも利き腕と逆の手で…。
加護が二球目を投げる。
外角低めの速球を真後ろにファール。
確かに左対左は不利と言われているが、後藤は大して苦にしない。
むしろ、右の時より速球の威力が落ちて打ちやすくなった。
加護が三球目を投げる。
ど真ん中に来たボールを後藤は打ちに行く。
237 :
加紺とう:03/10/04 03:20 ID:HGp+4mBv
「えっ!?」
後藤は困惑の色を隠せない。
速球だと思っていた球は急激に後藤の足元へと深く沈んでいき、バットは見事に空を切ったのだ。
そう、加護が投じたのは紛れもなく後藤の決め球のスクリュー…変化も、キレも、その球は後藤と遜色なかった。
この時、後藤は理解した。
あの時の加護の目…それはモノマネするために、ずっと後藤を見続けていたのだ。
加護のずば抜けた恐るべき力、洞察力。
加護は相手のフォーム、体のバランス、クセ、全てを見抜き、そしてそれを天武の才にて完璧に再現してしまうのだ。
上野サイドは今、加護亜依という天才の存在をここではじめて思い知らされた。
238 :
加紺とう:03/10/04 03:23 ID:HGp+4mBv
今日はここまでです
思いっきり泣いたので、今回からはもう少し気張っていきます
239 :
加紺とう:03/10/06 02:45 ID:QDF9MvLi
10.Short Complex
「うちのこと、ちっさい言うな!」
とあるリトルリーグ(娘。甲子園より一つ下の年齢層のリーグ)に一人の少女が所属していた。
その少女の名は、加護亜依。
彼女はグラウンドで一番高い場所、マウンドに立つことをずっと夢見ていた。
それだけを目標にいくつもの厳しい練習をこなしてきた。
しかし、彼女の夢はある一言で一気に打ち砕かれた。
「小さい。」
これが、加護を投手として起用しない理由として監督が言った言葉だった。
なんでちっさいのがあかんねん?
将来的にのびる可能性が低いやて?
だからってうちより力のない木偶の坊を投手にすんのか?
「ふざけんなや!!!」
その頃から加護は小さいことに次第にコンプレックスを感じ始めるようになった。
チームメイトはみなチビ扱いし、投手になりたいと言えば揃ってみんなで馬鹿にした。
自分が密かに投手になるための練習をしようとしても誰も付き合ったりしてくれなかった。
たった一人、壁に向かってただボールを投げ続ける。
誰にも見られることもなく、ただひたすらに…。
240 :
加紺とう:03/10/06 02:46 ID:QDF9MvLi
そんな日が何日も続き、加護は改めて考えた。
「うちが投手やって認められるにはどうしたらええんやろ?」
球はそこそこ速い。
変化球のキレもそれなりにいいし、コントロールも悪くはない。
しかし、どれもずば抜けているわけでもなく、普通より若干いいという程度だった。
「やっぱずば抜けたもんが必要なんかな?
誰にも真似できんようなすごいことが…。」
その時、加護の頭がひらめいた。
「そうか、うちはモノマネやったら誰にも負けへん!
これやこれや、うちに必要なもんはこれやったんや!」
確かに加護はクラスでは先生や友達のモノマネをやらせれば右に出るものはいなかった。
ただし、野球では勝手が違う。
形は真似できようとも中身まではそうはいかない。
普通ならば…。
241 :
加紺とう:03/10/06 02:47 ID:QDF9MvLi
それから数日後、加護は当時のチームのエースに対決を挑んだ。
「うちが勝ったらエースの座をうちに譲ってもらうで!
負けたらうちはこの部をやめたる!」
この大胆な加護の決意の裏には絶対な自信があった、負けるはずがないという絶大な自信が…。
勝負の内容は、互いに5球ずつ投げ、より打ったほうが勝ちというルール。
まずは加護が打つ番。
加護は5球中2本の安打を放った。
次はエースが打つ番。
そこで加護は実力の差を見せ付ける。
エースとまったく同じフォーム、まったく同じボールを投げてみせる。
しかし、加護はそれだけでは止まらない。
その後はまったく同じフォームで徐々にそれ以上の球を放ってみせたのだ。
ただ真似するだけでなく、それを自分流に昇華させていく。
これが加護の「モノマネ」の真のすごさなのだ。
エースは結局1安打も打つことが出来ず、エースの座を加護に譲ることになった。
242 :
加紺とう:03/10/06 02:50 ID:QDF9MvLi
これ以降、加護はこのチームのエースを張り続けた。
それからも加護はモノマネを磨き続け、次第に目も肥えてきた。
最初は真似るのに何週間もかかったこともあったが、今では一イニングも見れば大概はできるようにまでなった。
小さいというコンプレックスを克服し、精神的に一回りも二回りも大きくなった加護。
その加護が今、その時に編み出した「モノマネ」で、娘。甲子園の王者に牙を剥いているのだ。
後藤を打ち取り、加護はベンチに手でサインを送る。
すると、ベンチから控え選手が加護の右利き用のグラブを届けにやってきた。
「さ、打者一人でも休ませてもろたし、こっからまた飛ばさせてもらうで!」
グラブを付け替え、加護は上野サイドに向かって吼える。
そして、今度は右手で、またしても後藤のフォームで投げ込む。
しかし、球威はさっきの左の時とは桁違いだ。
上野は後続も抑えられ、またしても3者凡退でこの回を終える。
上野学園に、徐々にだが確実に一点の重みがのしかかってくる。
243 :
加紺とう:03/10/06 02:52 ID:QDF9MvLi
今日はここまでです
上野対智辯はあと2回くらいで終わりかな?
最近少ないスポーツ物 期待してます&あと2回でこの対決が終わるのが惜しいw
245 :
加紺とう:03/10/07 01:35 ID:V7uWdc57
11.元祖天才・後藤真希
試合は6回表に入る。
後藤も加護に負けじと力のある速球で打者を攻める。
二死走者なし、そして再び加護が打席に入る。
と、後藤が間合いを取り、辻をマウンドへと呼んだ。
「ごとーしゃん、どーしたんれすか?」
「のの、『アレ』使うよ。」
この瞬間、辻が目を見開く。
「ほんとーにいいのれすか?」
辻が心配そうに後藤に聞く。
しかし、後藤の答えには迷いはなかった。
「本当はなっつぁんとの対決まで取っておきたかったけどね。
ここで負けちゃったら意味ないじゃん。」
その言葉を聞いて、辻は意を決したように頷き、守備位置へと戻っていった。
246 :
加紺とう:03/10/07 01:36 ID:V7uWdc57
「うちを抑える方法思いついたか?」
楽しそうに辻に話しかける加護。
しかし、辻は真剣な表情で加護に言った。
「このたまだけは、ぜってーにうてねーのれすよ。」
その表情に加護はごくりと唾を飲んだ。
一体どんな球を投げるつもりなんや?
それでもうちは絶対に見切ったる、ただ勝つために!
そして加護の顔に笑顔が戻り、そのまま打席に入る。
今度は右打席、しかしそのフォームは先ほどと同じ後藤のフォームだ。
後藤はゆっくりと振りかぶり、ボールを投げた。
いたって普通の速球、それがベース付近にきて微妙に変化する。
見逃しストライク。
しかし、加護の様子が少しおかしい。
目を皿にして呆然と立ち尽くしている。
「ボールが…消えた?」
驚きの中、加護がボソッと口にした言葉だった。
247 :
加紺とう:03/10/07 01:37 ID:V7uWdc57
二球目も、三球目もまったく同じ球。
しかし、加護は全く手を出す気配もなく見逃し三振を喫した。
加護は未だに信じられないといった表情をしながらつぶやく。
「今のは…一体何やったんや?」
すると後藤は加護に答えるように言った。
「魔球『なんなんだぁ』。」
誰もが意味を理解しかねるだろう、このネーミング。
しかし、読んで字の如く、打者が何が起こったのか理解できないような球、それが後藤の魔球『なんなんだぁ』なのであった。
248 :
加紺とう:03/10/07 01:41 ID:V7uWdc57
人は二つの目の焦点を合わせる事で、物の大きさ、形、距離、速さなどを認識する。
野球でも当然、打者は目の焦点を合わせてボールを捉えている。
しかし、人の目には視界に入らないところもある。
盲点である。
実は後藤の魔球はこれをついているのだ。
打者が目でボールを追うが、そこで急にボールが変化して見えない部分、盲点へボールが入っていく。
打者は何が起こったのかわからず、ただ見送るしかないわけである。
しかし、これも後藤の正確無比の制球力と盲点を見極める洞察力があっての代物である。
ここは元祖天才の後藤真希が意地を見せ、そして試合は6回裏へと進んでいく。
249 :
加紺とう:03/10/07 01:42 ID:V7uWdc57
今日はここまでです
ところでここもn日とかあるんだろうけど、今のところはどうなんだろう?
更新乙です
n日は11月24日あたりでしょうか
251 :
加紺とう:03/10/09 01:10 ID:YmbV1QhI
12.投手戦
「もしかして、去年の大会をずっと見てて、それをまねてるんじゃないんでしょうか?」
6回裏の攻撃中、亀井がボソリとつぶやいた。
しかし、後藤は即座に答える。
「いや、そんなことはないよ。」
なぜなのか理解に苦しむ亀井に、福田が続いて説明する。
「亀井は知らないかもしれないけど、後藤は去年の大会で肩を壊したんだ。
今では完治しているが、肩の負担を減らすために当時のフォームよりも若干スリークォーターぎみになっている。
でも、加護はその腕の角度も今の後藤を完全に真似ている。」
「つまり、今見て真似ていると…。」
「そういうことになるな。いずれにしろ、恐ろしいやつだよ。」
福田の説明に納得した亀井、そしてちょうど6回の攻撃が三者凡退で終了した。
252 :
加紺とう:03/10/09 01:11 ID:YmbV1QhI
7回表、後藤は巧みな変化球攻めで打者三人を五球で打ち取った。
7回裏、先頭打者の辻が打席に入る。
ここに来て、加護のリズムが少し狂う。
二球続けてのボール。
加護は、なぜか自分の右手が少しだけ震えていることに気がついた。
もしや、辻を恐れているのか?
確かに力はあるが、いままで抑えてきたんだからそんなこともないだろう…。
しかし、結局加護は辻をストレートの四球で歩かせてしまった。
加護にとっては、この試合はじめてのランナーである。
だからといって、簡単に動揺する加護ではなかった。
続く亀井、福田を連続三振。
後藤も右飛(ライトフライ)に打ち取り、あっさりとこの回を乗り切った。
その後は両者ともランナーを許さない。
そして、試合はついに9回の攻防に入る。
253 :
加紺とう:03/10/09 01:12 ID:YmbV1QhI
9回表、二死となって加護の打席。
後藤は例によって魔球『なんなんだぁ』を投げ込む。
必死に見切ろうとする加護だが、結局見極めることができず、ここも三振に倒れた。
「一体、あの球はどないなっとんのや…。」
生まれて初めて真似できない球を見せられて、困惑の色が隠せない。
しかし、加護は気持ちを切り替える。
次の回を抑えれば勝利、しかもこのままノーヒットならばノーヒットノーランだ。
本来なら緊張して力んでしまう場面だが、加護はこれを気持ちの高ぶりに上手いこと変換する。
そして最終回のマウンドへと歩を進めた。
254 :
加紺とう:03/10/09 01:13 ID:YmbV1QhI
今日は少ないですがここまでです
次回上野対智辯最終章になる予定です
255 :
加紺とう:03/10/11 02:04 ID:5gKed/Ow
13.誰よりも後藤真希を知る者
9回裏、加護はあっさりとツーアウトをとる。
まさか、あの上野学園が初戦にノーヒットノーランで負ける?
誰もが予想だにせぬ結末に少しずつ、しかしながら確実に近づき、球場全体が異様な空気を醸し出す。
そんな中、1番の辻が打席に向かった。
「のの、あんたで最後やな。」
加護は右手でロージンを弄びながら辻に話しかける。
「ののじゃ、おわらせねーれすよ。」
辻は静かにそう言うと、ゆっくりと右打席に入った。
ロージンを投げ捨てる加護。
その右手は先ほど辻の打席と同様に微かに震えていた。
一体なんでやねん…。
もう一度辻を見た時、その理由がわかった。
威圧感。
体をビリビリとしびれさせるような空気が辻から発せられていた。
加護はその威風堂々とした辻の姿に少し圧倒されていた。
256 :
加紺とう:03/10/11 02:05 ID:5gKed/Ow
だが、このまま怖気づく加護ではない。
むしろ、震えの正体がわかって吹っ切れた。
「のの、あんたの尊敬する人の球で終わらせたる!」
そう叫ぶと加護は投球モーションに入る。
小さな体に似合わぬダイナミックなフォームでボールが放たれた。
ボールは辻の足元へと沈んでいく。
スクリューボールだ。
辻は腰を開き、ボールを思いっきり叩きつけた。
『カキーーーン!!!』
ボールがはちきれんばかりの音を上げ、サードの真上へと飛んでいく。
サードは思いっきりジャンプしグラブを伸ばすが、ボールをかすめただけ。
257 :
加紺とう:03/10/11 02:07 ID:5gKed/Ow
打球はそのままぐんぐん伸びていく。
そして、そのまま弾丸ライナーでレフトスタンドまでもを越えていった。
その様子を呆然と見ていた加護。
まったく今の状況を理解できていないようだ。
辻はゆっくりとグラウンドを一周し始める。
そして、辻は加護に静かに言った。
「あいぼん、ののはいままで、だれよりもたくさんごとーしゃんのたまをみてきたのれすよ。」
辻の起死回生の場外弾が飛び出し、ようやく上野学園は勝負をふりだしへと戻した。
258 :
加紺とう:03/10/11 02:11 ID:5gKed/Ow
14.一球入魂
辻に打たれたショックからか、ここから加護はまったく別人になったかのようにリズムを崩す。
続く亀井には中前安(センター前ヒット)、福田には右前安(ライト前ヒット)。
亀井は三塁へ行き、ノーヒットノーランから一気に二死一・三塁とサヨナラのピンチとなった。
続く打者、後藤が打席へ向かう。
すると、加護が突然大声で叫びだした。
「ポッポーーー!!!」
誰もが目を点にしてこの様子を見ていたが、当の加護はリラックスできたのか、
先ほどの険しい表情は消え、笑顔が戻っていた。
どうやら気持ちを切り替えるために叫んだらしい。
すると、今度はボールを握った右手を後藤の方に突き出す。
259 :
加紺とう:03/10/11 02:13 ID:5gKed/Ow
「後藤はん、うちは逃げも隠れもせえへん。
全部ストライクの速球で勝負すんで!
そして、あんたに勝つ!!!」
あの後藤に予告投球なんて…やけくそか?
誰もがそう思う中、後藤は微かに微笑んでいた。
加護がセットポジションから投球モーションに入る。
今まで見たことのないフォーム。
おそらく、これが加護本来のフォームなんだろう…。
小さな体を目いっぱい使い、ボールを投げる。
ど真ん中の速球、後藤は迷わずバットを振った。
『ガキン!』
鈍い音を残し、ボールはふらふらっと三塁ファールグラウンドへ。
三塁手が追う、が打球は風に乗り、かろうじてスタンドへと入っていった。
260 :
加紺とう:03/10/11 02:17 ID:5gKed/Ow
重い…。
全身のバネを使った加護のボールに、後藤の手は少し痺れていた。
「(これは骨が折れるな…。)」
二球目・三球目とファールが続く。
四球目、見逃せばボールという球を後藤は打ちにいった。
またしてもファール。
「(なるほど、予告投球のお返しですか…。)」
福田は心の中で呟く。
福田はランナーでありながらも、この二人の熱い勝負に完全に見惚れていた。
八球目、後藤の打球はまたしてもファール。
ところがその後、後藤の手からバットが一塁ベンチ方向へと飛んでいった。
一塁ベンチに謝りながら、慌ててバットを拾いに行く後藤。
加護の速球のあまりの重さに、後藤の握力がかなり落ちていたのだ。
タイムをとり、一度ベンチへと戻る後藤。
「ごめん、のの。サラシ巻いてくれる?」
そう言うと、辻が奥の後藤のかばんからサラシを取り出し、後藤の手に巻き始めた。
そして、手際よく巻き終え、辻が言った。
「かならず、うってきてくらはいよ!」
「おぉ、任しとけぇ〜。」
そうは言うものの、現状はかなり厳しい。
バットに手をかけるが、思ったように力が入らない。
「(次で打てなきゃ終わりかな…。)」
261 :
加紺とう:03/10/11 02:27 ID:5gKed/Ow
一方、その頃加護も右手を見つめながら同じような事を考えていた。
「(そろそろこの腕も限界か…次で打ちとれな負けやな。)」
後藤は打席に入り、加護はセットポジションにつく。
どちらも満身創痍、互いに次の一球に全ての力を込めた。
『カキン!』
叩きつけた打球は加護の足元の右を襲う。
グラブでは届かない、そう判断した加護は咄嗟に足を伸ばした。
しかし、僅かに届かなかった。
打球はそのまま中前安(センター前ヒット)となり、三塁走者の亀井が還ってゲームセットとなった。
智辯学園(奈良) 1-2x 上野学園(東京)
王者上野学園が見事なサヨナラ勝ちで3回戦へと駒を進めた。
挨拶の時、加護は後藤の前に立った。
「後藤はん、ほんますごかったですわぁ〜!
今からうちの師匠って呼ばせてもらいますわ。」
満面の笑みでそんなこと言われちゃ断れないじゃん、後藤はそう思った。
それくらい加護は眩しい笑顔を見せる。
そして、辻の方に向きかえる。
「のの、今回はやられてもうたけど、次は絶対に負けへんで!」
「かえりうちにしてやるのれす!」
そして二人は固い握手を交わした。
最後の最後まで涙を見せなかった加護だったが、次の日には目を真っ赤にするくらい宿舎で泣き続けたそうな。
262 :
加紺とう:03/10/11 02:28 ID:5gKed/Ow
今日はここまでです
諸事情で2回分更新しました
当たればホームランのののたんカッケー
あいぼんのポッポーにニヤリ。
264 :
加紺とう:03/10/13 23:52 ID:bkXCx4NY
15.帰って来た古豪、早大付札幌
プルルル…プルルル…
宿舎で休む後藤に電話がかかってきた。
ピッ
「もしもし?」
「おっす、後藤。元気にしてた?」
「お〜、圭ちゃん。元気に決まってんじゃん!そういう圭ちゃんは?」
「聞くまでもないでしょ?」
電話の主は保田圭だった。
彼女も千葉代表東海大浦安の正捕手として娘。甲子園に出場している。
265 :
加紺とう:03/10/13 23:52 ID:bkXCx4NY
「今日の試合、どうだったの?」
「あんた見てないの?当然勝ったわよ!」
東海大は上野の次に試合を行った。
結果は7-1で滋賀代表の近江を破り、難なく3回戦へと勝ち進んだ。
そう、この東海大こそが次の上野の次の対戦相手なのだ。
「いちーちゃんはどうしてる?」
「紗耶香のやつなら今ランニングに出てるよ。
あいつ、絶好調よ。投げては1失点完投14奪三振、打っても5の4で4打点だったからね。
ま、残りの3点も私が取ったんだけどね。」
「じゃ、次の試合の分も打っちゃったんだねぇ〜。」
「あんた、言ってくれるわね!」
こうして二人の談笑はしばらくの間続いた。
「お、紗耶香が呼んでるから切るね。次の試合、お互い頑張ろうぜ!」
「うん、絶対負けないよ。」
電話を切った後藤の顔は、保田の久々の声を聞いて少し嬉しかったようだ。
実は後藤、保田、市井はリトルリーグ時代に同じチームにいた。
小さい頃からよくキャッチボールなんかもしたりしていた。
その保田、市井と次は対戦する。
後藤の心は自然と熱く燃え上がっていた。
266 :
加紺とう:03/10/13 23:54 ID:bkXCx4NY
翌日、早大付札幌が鳴門工との第一試合を行っていた。
今年の早大付は新戦力、藤本美貴を加入させている。
彼女はリトルリーグ時代から大活躍しており、野球の本場メジャーリーグも少しだけ経験したという実力者だ。
地方大会では安倍、藤本の二枚看板で他校を全く寄せ付けなかった。
今日の試合も完全に主導権を握っている。
先発は藤本、初回を3者連続三振と完璧な立ち上がりを見せる。
打線は初回の安倍のツーラン、2回の石黒のソロ、3回の藤本のスリーランなどで5回を終えて8-0と大差をつけてリードしていた。
その後も紺野、飯田のソロなどで加点し、投げては藤本が19奪三振完封、結果は11-0と早大不が鳴門工を完全に圧倒した。
この様子を偵察していた各校の選手達は口を揃えて言った。
最強の古豪、早大付札幌の完全復活だ、と。
267 :
加紺とう:03/10/14 00:08 ID:vmadY8H6
今日はここまでです。
今度から未公開分の試合結果はここで書きます。(無理矢理ねじ込むのが大変なので…)
5日目第三・四試合以降の結果
日大東北(福島)1-4遊学館(石川)
岩国(山口)3-0尽誠学園(香川)
>244
まだまだ名勝負はあると思うのでそちらをお楽しみにしてください
>250
ありがとうございます
それまでに書き終えられたらいいんだけど…(多分無理)
>263
ぽっぽーは突然の思いつきで入れてみました
知ってる人がいてよかったです
重さん、ちゃんと勝ちあがってますな。
ほ?
270 :
加紺とう:03/10/20 01:24 ID:j6/R5E+0
16.負けられへんのや!
「よっしゃー!」
大会6日目第二試合、一人の女が燃えに燃えていた。
三重代表の四日市工業高校所属、平家みちよ。
彼女は娘。甲子園が開幕して以来、第一線でずっとプレーを続けていた。
しかし、彼女は今年で自分の野球道にピリオドを打つことを心に決めていた。
最近では思った通りのプレーが出来ず、自分の力が出し切れなくなってきたと判断したからだ。
それだけに、今大会にかける彼女の思いは誰よりも熱かった。
対明徳義塾戦。
四日市工の平家と明徳の前田の両先発は7回までを0封で抑えていた。
両者の気迫が、白熱した試合展開を演出する。
271 :
加紺とう:03/10/20 01:25 ID:j6/R5E+0
しかし、8回に試合は動いた。
裏の四日市工の攻撃、疲れの見え始めた前田を捉えて9番打者からの三連打で2点を勝ち越す。
明徳も唯では倒れない。
9回表に平家が四球でランナーを許し、1死1塁の場面。
4番の前田が甘く入ったスライダーを打ち、乾坤一擲の同点ツーランがレフトスタンドに突き刺さった。
9回裏、先頭打者は4番の平家。
平家は初球から積極的に打ちに行き、カウントは早くもツーストライクと追い込まれた。
前田が投げた。
伝家の宝刀、スライダーだ。
バランスを崩す平家、だが、この時には彼女の熱い気持ちがバットに乗り移っていた。
『カキーン!』
当てただけだが、確実に芯で捉えた打球はぐんぐん伸びていった。
そして気持ちがのった打球は、そのままライトスタンドへと消えていった。
劇的なサヨナラ弾に歓喜した平家は大声で叫んだ。
「うちは負けられへんのや!」
こうして気持ちで勝利を掴んだ四日市工が、3回戦へと駒を進めた。
272 :
加紺とう:03/10/20 01:26 ID:j6/R5E+0
17.新時代の申し子
第三試合、マウンドに上がっていたのは柳川高校の一人のルーキー、田中れいなだ。
新人とは思えないマウンド度胸を見せる彼女は、8回まで終わってパーフェクトに抑えていた。
安打は愚か、出塁すら許さなかった。
彼女はリトルリーグ時代から全日本選抜に選ばれる程の実力者だった。
それでも彼女は練習を怠ることはなかった。
当時から140km/h前半あった速球も、今では150km/hを楽々越えるほどに成長した。
キレのある速球に隠岐打線は17奪三振とまったく手も足も出なかった。
9回表、柳川は田中自らの適時打で1点を勝ち越した。
運命の9回裏、先頭の7番打者は初球を打ち上げて左飛(レフトフライ)。
続く8番も三球三振に打ち取り、2死までやってきた。
あと一人。
273 :
加紺とう:03/10/20 01:30 ID:j6/R5E+0
「あと一人、絶対に抑えちゃるけんね。」
最後の9番打者が打席に入る。
球場全体を異様な空気が包み込んでいた。
田中が投げる。
初球を打った。
ワンバウンドして高く跳ね上がった打球が三塁の方へ飛んでいく。
三塁手は捕球してすぐさま一塁へと送球した。
微妙なタイミング、誰もが塁審の判定を固唾を飲んで見守る。
その判定は…。
「セーフ!」
この判定を聞いた時、誰もがため息を漏らした。
しかし、田中は以外にも落ち着いていた。
後続を今日19つ目の三振で抑え、見事試合に勝利した。
大記録を逃すも、田中はまた狙えばいいといった感じで試合後も淡々としていた。
大器の片鱗を感じさせた田中の好投で、柳川が隠岐相手に見事な完封勝利を収めた。
274 :
加紺とう:03/10/20 01:34 ID:j6/R5E+0
久々の更新はここまでです。
不定期更新ですいませんです。
ついでに>272は第四試合です、重ね重ねすいません。
6日目第三試合
水沢11-8光星学院(青森)
275 :
agu:03/10/22 15:35 ID:9Paf+Ai6
更新乙です
だいぶ出揃ってきたね
277 :
名無し:03/10/25 15:22 ID:4nYd0HyC
ほぜん
278 :
加紺とう:03/10/26 01:56 ID:neYvZnyD
18.強打、横浜高校
大会7日目の第一試合。
グラウンドには甲高い声が響き渡っていた。
「キャハハハ、今日も絶好調!」
横浜高校の切り込み隊長、矢口真里だ。
5回に早くも第三打席が回ってきて、見事にレフトスタンドにソロアーチを叩き込んだ。
5-0と早くもワンサイドぎみの展開だ。
さらに矢口は過去二打席もそれぞれ単打で出塁し、いずれも盗塁を決めている。
本人も言う通り、今日の調子はまさしく絶好調だ。
後続も当たっている。
2番の新垣は2打席1打数1安打1犠打1打点。
3番の柴田は2打数2安打1本塁打3打点と、これまで上位打線だけで全打点を叩き出していた。
そんな上位打線の中、一人だけ空回りしている人がいた。
279 :
加紺とう:03/10/26 01:58 ID:neYvZnyD
「ハッピー!」
4番の石川だ。
新垣・柴田の連続安打で無死二・三塁のチャンスに回ってきた第三打席も空振り三振。
第一打席から一球たりともバットにかすらせる事すらできずにいた。
「あ〜あ、今日はなんか調子悪いなぁ。雨降ってちょっとブルー。」
「石川!お前打つ気とかあんのかよ!」
一人妙なテンションで愚痴っている石川に、矢口が大声で怒号を上げる。
「お前、4番の重要性ってのわかってないだろ?」
「わかってますよ〜、ただまりっぺが私の分まで打っちゃうからさ。」
「まりっぺ言うな!」
横浜ベンチはいつもこんな感じでにぎやかだ。
それが横浜のいい雰囲気を保つ秘訣にもなっているのだ。
5回は結局1点で終わったもの、その後も1〜3番で着実に点を重ねた。
一方の仙台育英も村田めぐみの2本のソロ本塁打を放って一矢報いるが、反撃もそこまでだった。
結果は9-2と横浜が圧勝した。
石川はこの日、投げては2失点の完投勝利だったが、打撃では5打数無安打の4三振に終わった。
石川がその本領を発揮する日は、もうしばらく先になりそうだ。
280 :
加紺とう:03/10/26 02:11 ID:neYvZnyD
今日はここまでです
しばらく(最近ずっとそうですが)レポート作成のため更新をストップします
見てくれてる方、すいません
レポートが一段落着いたら頑張って更新していきます
>268
しげさん、まだキャラ掴めてないんですよねぇ
どうしようかな(笑)
>276
しばらくストップですが、気長にお待ちいただけたらと思います
>277
保全どうもです
レポートがんがれ〜 待ってるよ
村さん見せ場無し_| ̄|○
\ヽ ぶ り ん こ 保 全 隊 見 参 や で! //
\ヽ 極悪なのれす! //
, -ー- 、 , -ー- 、
∋0.ノハヾ.0∈ @.ノノハヾ.@
( ▼D▼) ( ▼д▼)
("O┬O ("O┬O
(( ())`J())-)) キコキコ ())`J())-)) キコキコ
∋oノハヽo∈
(*´D`)
( O┬O
〜 ◎-ヽJ┴◎ キコキコ
HOZEN
286 :
名無し募集中。。。:03/11/04 01:24 ID:hvq2pSCr
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
| モーヲタは包茎!!!! |
| モーヲタは童貞!!!! |
| モーヲタは悪臭!!!! |
| モーヲタは汚物!!!! |
| モーヲタは粘着!!!! |
| モーヲタは必死!!!! |
|_________|
二二 ∧ ∧ ||
≡≡(,, ゚Д゚)⊃ キモイ...
三三〜(, /
| ) )
∪
287 :
名無し:03/11/04 03:03 ID:MBvkO+EQ
@ノハ@
( ‘д‘) <保全やで〜
( O┬つ
≡ ◎-ヽJ┴◎ キコキコ
保
290 :
加紺とう:03/11/09 13:38 ID:RO39FaUN
19.新たな力
大会は順調に試合を消化している。
大会9日目、第一試合は昨年優勝校の上野学園が千葉の東海大浦安と相対する。
実は上野の後藤、浦安の保田・市井は幼い頃は近所に住んでいた。
よくキャッチボールをしたりなんかもした。
しかし、リトルリーグに入って2年ほどで後藤は東京の方へと越してきたのだ。
それでも年に何度かはあって遊び程度ながらも、一緒に野球を楽しんだりしていた。
それ故、相手の弱点をどちらも知り尽くしているのだ。
後藤と保田・市井のどちらが相手を上回るかが勝負の鍵を握っているだろうと言われていた。
291 :
加紺とう:03/11/09 13:39 ID:RO39FaUN
そして試合は始まった。
上野は後藤、浦安は市井が先発した。
先攻の上野、しかし初回は保田・市井のバッテリーに三者凡退に抑えられた。
その裏の後藤も負けてはいない。
初回は2奪三振でこちらも三者凡退と完璧な立ち上がりを見せた。
そして、2回に注目の対決が実現する。
2回表、4番の後藤が打席に立つ。
「きっと圭ちゃん達は、後藤の弱点のインハイを中心に攻めてくるはず…」
自分の弱点を完全に知り尽くす二人が相手、となれば当然弱点を徹底的に攻めてくるだろう。
そう思った後藤は、インハイに山を張った。
そして市井が第一球を投げた。
292 :
加紺とう:03/11/09 13:40 ID:RO39FaUN
「うそ、ど真ん中!?」
予想外の球に後藤は思わず手を出したが、鈍い打球音を残し、結果三飛(サードフライ)に終わった。
後藤は完全にこのバッテリーに裏をかかれた形になった。
保田はマスクの中でニヤリとうっすら笑っていた。
この後も市井は快投を続け、2回も三者凡退に抑えた。
その裏の攻撃、今度は4番の保田と5番の市井が後藤を打つ番だ。
まずは保田、後藤は徹底的に内角を直球で攻め立てた。
カウント2−1からの6球目、アウトハイの吊り球に思わず保田は手を出してしまった。
この時、電光掲示板には154km/hが表示されていた。
293 :
加紺とう:03/11/09 13:42 ID:RO39FaUN
「前よりも格段に速くなってるわね。」
保田は苦笑いしながら呟いた。
続く市井にも後藤は直球勝負を挑んだ。
今度は内外と揺さぶり、最後はインローの際どい直球で見逃し三振に仕留めた。
白熱の投手戦を繰り広げる中、試合が動いたのは4回の表だった。
依然上野打線をノーヒットに抑え込んでいた市井を最初に打ったのは、後藤ではなく意外にも2番の亀井だった。
市井の得意球、縦に落ちるカーブを狙い打ちし、センター前へとはじき返した。
そして3番の辻が続く。
カウント1−2からの4球目、カーブが若干甘めに入ってしまう。
それを辻は見逃さなかった。
豪快に掬い上げ、ボールは瞬く間にレフトスタンドへと消えていった。
辻のツーランで上野が2-0と先制した。
しかし、市井は気持ちをしっかりと切り替え、後続をきっちりと抑え込んだ。
当然、後藤には細心の注意を払っていた。
バッテリーはこの後も後藤は完全に抑え込んでいた。
294 :
加紺とう:03/11/09 13:43 ID:RO39FaUN
それでも、あの二人だけは抑えきれなかった。
6回表の亀井の第3打席目、2−2から粘ってライト線へ二塁打を放ち、続く辻が初球をセンター前へはじき返して貴重な1点を追加した。
9回表の第四打席目には亀井が右中間を深々と破り、俊足を活かしての三塁打。
辻がきっちりとレフトへ大きな犠飛を打ち、ダメ押しの4点目を叩き出した。
一方の後藤は、後半に来てもまったく球威が衰えなかった。
8回に唯一の失投を市井にライトスタンドへ運ばれて1点を返されたものの、まさにエースらしい力投を見せた。
試合後、保田はこう言っていた。
「ごっちんにばかり意識が集中しすぎてました。
あまりマークしてなかったあの二人にまんまと打たれてしまったのが敗因ですね。」
後藤の背中をいつも見ている新時代の申し子達が、この夏により逞しく成長を遂げつつあった。
295 :
加紺とう:03/11/09 13:53 ID:RO39FaUN
お待たせしました、やっとレポートが一区切りしたので復活です。
いろいろ実験的に書き方を変えてる(っぽい)ですが、準決勝あたりにはきっちり決めたいと思います。
ところで、オーダーって書いた方がいいでしょうか?
>281
お待たせしました、期待に応えられるかわかりませんが頑張ります。
>282
残念ながらメロンはキャラを把握できてないものですので…すいません。
>283-285・288-289
保全どうもでした。ぶりんこ保全隊かわいい…w
296 :
加紺とう:03/11/09 14:12 ID:RO39FaUN
その他の試合結果
7日目(2回戦)
横浜(神奈川)9-2仙台育英(宮城)
新潟明訓(新潟)8-5宇都宮工(栃木)
今治西(愛媛)6-12平安(京都)
PL学園(大阪)12-10智辯和歌山(和歌山)
8日目(2回戦)
樟南(鹿児島)4-8浦和学院(埼玉)
愛工大名電(愛知)3-4倉敷工(岡山)
宜野座(沖縄)3-1広陵(広島)
東洋大姫路(兵庫)1-0長崎日大(長崎)
言い忘れましたが、準々決勝あたりまではかなり端折りそうです。
推しがいる方には先に謝っておきます、すいません。
更新レポート乙。
オーダーは準決勝からでいいと思いますよ。
っていうかこの辺からは必然的にいるのか……
298 :
加紺とう:03/11/12 00:39 ID:wbX+TcjN
20.LAST RUN
第三試合は早大付と四日市工が対決した。
世間では早大付が圧勝だろうとの予想が圧倒的だった。
しかし、意外にも試合は緊迫した投手戦が続いていた。
早大付先発の安倍は中盤まで四日市工打線をノーヒット。
一方の四日市工先発の平家も毎回ランナーを許しながらも意地を見せ、無失点で切り抜ける。
緊迫が続いたまま試合は後半に入り、7回表の四日市工の攻撃を迎えた。
安倍は先頭打者に初安打を許してしまう。
ここからリズムが崩れたのか、犠打と四球で一死一・二塁とこの試合で初めてのピンチを迎えた。
299 :
加紺とう:03/11/12 00:41 ID:wbX+TcjN
続く打者は4番の平家。
この時、平家は観衆の大声援が全く聞こえなくなるくらい集中していた。
この試合を最後にはしたくない、その想いがとても強かったからだ。
安倍が投じた直球を平家は振りぬいた。
打球は中堅手と右翼手の間を鋭く破り、打った平家は二塁へ。
ランナー二人が返り、2点適時打で四日市工がほしかった先制点をもぎ取った。
その裏の早大付の攻撃。
徐々に疲れが見え始めた平家を早大付打線が捉え始めた。
先頭打者の里田が三塁前へのセーフティーバントで見事に内野安打を決める。
続く紺野が送り、3番の藤本はレフトへの流し打ちでチャンスを一・三塁と広げた。
300 :
加紺とう:03/11/12 00:42 ID:wbX+TcjN
そして4番の安倍が打席に入る。
平家はすかさず少し間をとった。
なんとなくわかった。
ここが勝負を決める場面になるということが。
一息つき、セットポジションに入る。
平家はもう一度集中力を高め、ボールを投じた。
『カキーン!!!』
振り返らずとも十分わかった。
完璧に真芯で捉えた当たりは、弾丸ライナーでライトスタンドへと突き刺さった。
301 :
加紺とう:03/11/12 00:43 ID:wbX+TcjN
逆転のスリーラン。
この瞬間、平家は集中力が完全に途切れてしまった。
その後も連打を浴び、平家の後を受けた投手も一度火の付いてしまった早大付を抑え込む事は出来なかった。
結局この回は8点を取るビッグイニングとなり、そのまま勝負は決した。
最後の挨拶、安倍が平家に熱い抱擁を交わした。
そして一言。
「お疲れ様、それとありがとうね。」
その時、平家の頬には一筋の線が眩しいほどに光っていた。
球場全体から沸き起こる平家コールに包まれながら、最後の試合を終えた平家が今ベンチの奥へと姿を消していった。
302 :
加紺とう:03/11/12 00:49 ID:wbX+TcjN
今日はここまでです。
準決勝あたりから以降はほぼシナリオが出来てるけど、問題はそれまでのつなぎという罠。
>297
それでは準決勝からオーダー書きますね。
その他の結果
遊学館0-1岩国
早大付札幌8-2四日市工
更新乙です。
準決勝からは壮大なドラマが待ってるのか……
楽しみにしてますよ。
304 :
加紺とう:03/11/15 11:14 ID:cdlOZg3q
21.MAKOTOの力
大会10日目、今日で娘。甲子園ベスト8が出揃うことになる。
そんな中、第一試合は優勝候補の一角の神奈川代表の横浜、対するは新潟代表の新潟明訓である。
この新潟明訓の中でも、今大会のダークホースと言われているのがエースの小川麻琴だ。
彼女の実力は確かだ。
速球にも力があり、変化球も切れ味は十分だ。
戦い様によっては後藤や安倍と同等、いや、それ以上の力を持っている。
しかし、彼女には唯一とも言える欠点があった。
制球力、いわゆるコントロールだ。
しかも、精神的に崩れてのコントロールミスが目立って多かった。
今大会もエラーがらみや微妙な判定からリズムを崩し、四球でズルズルと失点してしまった試合が何度かあった。
この精神力の弱さが、彼女の力をもうひとつ発揮できないでいる要因になっていた。
実は彼女、入部当初は強気がウリの投手だった。
しかし、当時はなかなか結果がついて来ず、次第に今の感じへとなっていったのだ。
305 :
加紺とう:03/11/15 11:14 ID:cdlOZg3q
そんな彼女を支えていたのが女房役の捕手、斉藤瞳だ。
時には優しく、時には厳しく、しかしどんな時でも小川に声をかけ続けてきた。
打っても4番の彼女は、まさにチームの柱とも言える存在だ。
その彼女が試合開始直前、小川に声をかけた。
「まこっちゃん、今日はノーサインでいくよ。」
へっ?と思わず声に出してしまった小川。
最初は斉藤が何を言ってるのか理解できずにいたようだ。
お構いなしに斉藤が続ける。
「今日の相手の横浜は、きっと一筋縄じゃいかないと思う。
おそらく私も打つ方でいっぱいいっぱいになるだろうから、今日のリードはまこっちゃんに任せるよ。」
半分口を開いたままだった小川だったが、ここでようやく言葉を発した。
「そ、そんなの無理ですよ!今までだって斉藤さんのリードで勝てたようなもので…。」
「フフッ」
何かを思い出したかのように斉藤が笑い出した。
そして小川が喋るのを遮るように、そのまま言葉を続けた。
306 :
加紺とう:03/11/15 11:16 ID:cdlOZg3q
「まこっちゃん、今まで私の要求通りのコースに投げたことがあった?
まこっちゃんは気付いてないかもしれないけど、今、まこっちゃんが新潟明訓のマウンドにいるのは紛れもなくまこっちゃんの力だからだよ。」
「私の力…ですか?」
「そう、自分に自信を持っていこうよ。まこっちゃんにはそれだけの力を持ってるんだからさ。」
斉藤のその言葉に、小川の中の何かが反応した。
試合が始まり、小川は思いっきり力強い速球を、鋭い変化球をどんどん投げ込んだ。
横浜打線も今までと明らかに違う小川の投球に戸惑い、なかなか捉えられずにいた。
一方の新潟明訓は、3回表に一死三塁から小川のスクイズで先制、6回には斉藤のツーランでさらに2点を追加した。
しかし、横浜打線も黙ってはいない。
6回裏に矢口のソロ本塁打で1点を返す。
そして9回裏、横浜が土壇場から矢口・新垣がヒットを連ねて無死一・二塁とチャンスを作った。
打席に入るのは3番の柴田。
小川・斉藤のバッテリーは敬遠も考えた。
次打者が今大会まだノーヒットの石川だからだ。
しかし、二人は勝負を選んだ。
打ててなくても横浜の4番に変わりはない、それに何よりここで逃げたくないというある種のプライドがあった。
307 :
加紺とう:03/11/15 11:17 ID:cdlOZg3q
一方の柴田は、ネクストバッターズサークルに目をやる。
石川がニコニコと手を振っていた。
しかし、今日の調子では厳しいだろうというのはわかっていた。
そして、無死とはいえ、ここは自分で決めにいかなければならないと判断した。
小川がセットポジションからボールを投じる。
初球は外のスライダーを見逃し、ストライク。
その後、直球を内・外と二球外してボール。
カウントは2ストライク1ボールとなった。
そして4球目、小川が内角へ直球でストライクを取りにいった。
柴田は待っていた、長打になりやすい内角の球を。
腰を鋭く回転させ、腕を上手くたたんでボールを捌いた。
文字通りの弾丸ライナーの打球はライトのポールを直撃した。
サヨナラ3ラン、柴田が吼えながらベースを一周する。
そんな中、斉藤は小川の元へと歩いていった。
しかし、今までとは違う、何か自信を取り戻したような小川の姿がそこにはあった。
「斉藤さん、すいません。最後に打たれちゃいました。」
「いや、アレを打たれちゃ仕方ないよ。お疲れ様。」
「はい、来年こそは絶対に勝ちましょうね!」
小川の口から、そのような積極的な言葉が出るとは思っていなかった斉藤は素直に嬉しかった。
敗れはしたが、来年につながる敗戦だ、と斉藤は思った。
結果は3−4のサヨナラ勝利で、横浜が5校目のベスト8進出を決めた。
308 :
加紺とう:03/11/15 11:25 ID:cdlOZg3q
今日はここまでです。
>307に間違いハケーン。
×2ストライク1ボール
○1ストライク2ボール
です。すいませんでした。思ったより長かったなぁ、マコ編。
>303
自分の中では壮大ではありますが…期待に応えられるかどうか…w
その他の試合結果
9日目
4.水沢0-2柳川
10日目
1.新潟明訓3-4x横浜
更新乙。
徐々に絞られてきましたね。
次の試合では梨華ちゃんの華麗なバッティングがみれるのか……
310 :
加紺とう:03/11/19 23:56 ID:jliyWG3h
22.目標
第二試合は強打を誇る関西の二校、平安とPL学園だ。
試合は両校の4番、中澤と稲葉が中心の乱打戦で展開された。
7回表を終わって中澤が4打数3本塁打5打点、稲葉が4打数3本塁打7打点、得点は5-7という状況だった。
しかし、その裏に平安は中澤が3ランを放ってなんとか逆転に成功した。
ところが、PLも8回表に2死満塁で稲葉という逆転の絶好のチャンスを迎えた。
ここで平安ベンチが動く。
捕手の中澤がマウンドへと上がったのだ。
勝負は初球だった。
ど真ん中の直球だったが、稲葉が打ち損じたのか、詰まらせてレフトフライに倒れてしまった。
この結果が勝負を分け、試合は8-7で平安がそのまま逃げ切った。
第三試合はこれまた強打の浦和学院が、第四試合は東洋大姫路がそれぞれ勝利し、これでベスト8が全て出揃った。
311 :
加紺とう:03/11/19 23:56 ID:jliyWG3h
試合を終えた、浦和学院の吉澤が宿舎へと帰ってきた。
すると…。
パ〜パ〜パラパパ〜パ〜♪
突然、携帯の着信音が鳴った。
吉澤は慌てて携帯を手に取った。
「もしもし?」
「よっすぃ〜、今日勝ったんだよね?おめでと〜!」
「なんだ梨華ちゃんか…。」
電話の主は横浜高校の石川だった。
夜中だというのに…一体何の用なんだろうか?
312 :
加紺とう:03/11/19 23:58 ID:jliyWG3h
「もう、なんだって何よ!せっかく電話してあげたのに、ひどいなぁ〜!」
「ごめんごめん。てか、こんな時間にどうかしたの?」
「明日、勝ったらいよいよ対戦だよね。」
そういえばそうだった、このままいけば横浜とは準決勝でぶつかる。
あと一つ勝てば、ひとつの目標にしていた石川との直接対決が実現するかもしれないのだ。
「そうだよねぇ、でも梨華ちゃんのとこは勝てるの?」
「当ったり前じゃん!相手は中澤さんのいる平安だから骨が折れるだろうけど、絶対に勝つよ。そういうよっすぃ〜の方こそどうなの?」
「どうだろ?東洋大姫路は投手がいいみたいだからね。でも、どんな投手でも打ち崩してみせるよ。」
「さっすがよっすぃ〜、かっこいい!」
「なんだそりゃ?ま、いいや。じゃ、準決勝で会おうね。」
「うん、それじゃ。チャオ〜♪」
吉澤は電話を切り、そして軽く一息ついた。
明日からは準々決勝、もっと気を引き締めなくっちゃ…。
そう自分に言い聞かせ、吉澤は床についた。
明日の試合が想像を絶したものになろうとは、この時の吉澤には知りえなかった。
313 :
加紺とう:03/11/20 00:05 ID:JuXE26I4
今日はここまでです。
次回(ちゃんといえばさらに次?)からもうちょっと深くなると思います。
>309
梨華ちゃん…空回りが多いからなぁw
10日目
2.平安8-7PL学園
3.浦和学院7-1倉敷工
4.宜野座0-1東洋大姫路
おもしろい展開になってきたね
ワクワクしながら待ってます
315 :
加紺とう:03/11/21 22:07 ID:GTisqz6h
23.衝撃
大会11日目、準々決勝。
安倍はスコアボードに目をやる。
その時、自らの目を疑った。
そこにはなんとも信じがたい光景があった。
いや、安倍だけではないだろう。
球場全体に、日本中に衝撃が走ったに違いない。
しかし、それは紛れもなく現実に他ならなかった…。
316 :
加紺とう:03/11/21 22:10 ID:GTisqz6h
安倍をはじめ、早大付ナインは第二試合に福岡代表の柳川と対決することになっていた。
柳川のエース、田中れいながこれまでの試合を全て4安打以内で完封しているということで、入念にアップを行っていた。
そろそろ試合も終わるかなと思った頃、球場が湧き上がった。
おそらく勝負が決まったのだろう。
しかし、この後早大付ナインは衝撃の事実を目の当たりにする。
球場から聞こえて来る勝利校の校歌。
しかし、それは明らかに上野のものとは違っていた。
上野ナインと早大付ナインがベンチですれ違う。
安倍は、泣き崩れる辻と亀井を福田が懸命に宥めている姿が目に入った。
その瞬間、後藤が球場に呑み込まれてしまいそうな位の小さな声で呟き、安倍の横を通り過ぎていった。
317 :
加紺とう:03/11/21 22:12 ID:GTisqz6h
「なっつぁん、ごめん。負けちゃったよ…。」
すぐさま振り返る安倍。
しかし、小さく小刻みに震える後藤の背中を見た時、何も声をかけることが出来なかった。
安倍はスコアボードに目をやる。
そこには信じがたい光景があった。
上野学園、サヨナラ負け。
しかも、あの上野がこともあろうにノーヒットノーランをされていたのだ。
対戦相手は山口代表の岩国高校。
正直な話、ここまで勝ち残ってるのが不思議なくらい、大して名前を知られていなかった高校だ。
今度はふと相手のオーダーに目をやる。
1番、投手、道重さゆみ。
やはり聞いたことのない名前だ。
その時、相手ベンチに岩国の背番号1が目に入った。
何かを言ったようだった。
聞こえはしなかったものの、その口の動きはこんな感じだった。
「今日の私も、やっぱりかわいかった…。」
なぜ、この投手から後藤や辻らがヒット一本すら打てずに破れたのか。
安倍は気になって仕方がなかった。
安倍だけではない。
他の選手も上野が敗れたことに衝撃を隠せずにいた。
318 :
加紺とう:03/11/21 22:13 ID:GTisqz6h
早大付ナインは試合が始まってもこの衝撃を払いきれずにいた。
明らかにいつもよりも精彩を欠いている。
6回を終えて、打線は田中に11奪三振を喫し無安打。
守っても、藤本・飯田・大谷がそれぞれ1エラーずつ。
投げる安倍もなんとか無失点で凌いではいたものの、毎回ランナーを背負うという苦しいピッチングが続いていた。
ひょんなことで完全に柳川へと流れを持っていかれてしまいそうな展開だった。
観客も上野に続いて早大付もまた敗れてしまうのではないかと微かながらざわめき出していた。
しかし、石黒がこの悪い流れを断ち切る。
8回表、藤本が田中に今日13個目となる三振に倒れ、二死となって6番の石黒が打席に向かう。
何とかここで流れを変えなきゃ…。
ここが勝負どころと読んだ石黒。
そこである行動に出た。
319 :
加紺とう:03/11/21 22:14 ID:GTisqz6h
「えっ!?」
投手の田中が驚きのあまり、思わず声を出してしまった。
あの長距離砲の石黒がバットを二握りも余して持っているのだ。
ヒット狙いに切り替えたのか?
真意を掴めないままの田中だったが、そのまま力で押し切る事にした。
初球、ど真ん中の速球を見逃しストライク。
二球目・三球目はそれぞれインハイ・アウトローに速球を外してボール。
四球目は内角への速球をファール。
その後も田中の投げる球投げる球を石黒がファールで粘る。
そうしている間に田中は十八球目を投じた。
そして石黒はまたしてもファールで逃げた。
田中はその時、自分が肩で息をし始めているのに気付いた。
320 :
加紺とう:03/11/21 22:18 ID:GTisqz6h
しまった!これが石黒さんの狙いやったと!
今まで順調に投げていた田中のペースが突如乱れ始めていた。
そしてこの瞬間を石黒は見逃さなかった。
十九球目、田中が速球でストライクを取りにきた。
この時、田中は石黒がバットをグリップエンドまで目一杯に持っていたことに気付く。
しかし、時すでに遅し。
石黒が打った打球はライナーでレフトスタンドへと消えていった。
この先制弾が早大付ナインの目を覚まさせた。
この後も点にはならなかったものの安打を2本放って、元気のなかった早大付打線がついに田中を捉えはじめた。
投げては安倍が秘球『トウモロコシと空と風(以後『TSW』)』がやっと冴えはじめて、その後はまったく危なげないピッチングを見せた。
一時はどうなるかと思われたが、このまま早大付が1-0で逃げ切り、見事準決勝へと駒を進めた。
一方、惜しくも敗れ去った田中は球場を去るときポツリとこう呟いた。
「さゆ、あたしん代わりにうちらの約束ば叶えっとよ。」
果たして田中のいう約束とは…?
そしてさゆ(道重さゆみ)の実力とは…?
全ては準決勝の第一試合に明らかになる。
321 :
加紺とう:03/11/21 22:27 ID:GTisqz6h
今日はここまでです。
思ったよかれいなが書けなかった…。
そろそろn日だった気がするからペース上げないと…。
>314
そう言ってもらえると嬉しいです。
期待に副えるよう頑張ります。
試合結果
11日目
1.上野学園0-1x岩国
2.早大付札幌1-0柳川
322 :
加紺とう:03/11/23 15:47 ID:R8vlq3yK
24.爆発、石川梨華
白熱した試合が続く準々決勝、次のカードはチーム打率3割5分を誇る横浜と平均得点9点の平安の対決だ。
両校の先発は、横浜が石川、平安が中澤。
中澤の先発に球場がどよめいた。
ここまで中澤はワンポイント、もしくはリリーフでの登板しかなかった。
しかし、防御率は0.00と完璧なリリーフをしている。
その訳は中澤独特の投法にあった。
まるで砲丸投げのような豪快なフォームから繰り出される球は、例えるなら鉛のような重さがあった。
現にこの中澤の球を完璧に打ち返した人間は過去に数えるほどしかいなかった。
だが、その一方でこの投法には副作用的なものもあった。
323 :
加紺とう:03/11/23 15:48 ID:R8vlq3yK
それはかなり豪快な投法であるがゆえに、普通の投法とは比べものにならないくらいに腕力を消耗してしまうのだ。
それ故、回を追うごとに疲労が溜まり、そうなれば自然と球に力もなくなり、しかもそれが打撃にも影響してくる。
中澤が得点源でもある平安にとって、中澤が打てなくなってしまうのは死活問題だ。
なので、先発での起用がまったくといっていいほどなかった。
では、今回先発になったのかというと、それは中澤の希望だったからだ。
一度火が付けば手に負えない横浜打線を私がいけるとこまで抑えてみせる、ということだった。
324 :
加紺とう:03/11/23 15:49 ID:R8vlq3yK
試合が始まる。
先攻の平安がいきなり石川に襲い掛かる。
2死2塁から4番の中澤、カウントを取りにきた変化球を上手く流し打った。
打球は伸びていき、ライトスタンドへ。
いきなり2点を先制した。
一方の横浜はというと、中澤の球にまったくといっていいほど歯が立たない。
1番の矢口は詰まらされてセカンドフライ。
2番の新垣は同じく詰まってファーストファールフライ。
3番の柴田はぼてぼてのピッチャーゴロに打ち取られた。
いずれも初球だった。
この後も、平安が2点を追加、対する横浜がノーヒットのまま回は進んだ。
8回表に中澤のソロで1点を追加したその裏、横浜は4番の未だに今大会ノーヒットの石川からの攻撃。
さすがに中澤も疲れが見え始めていたが、まだひとりのランナーすら許していなかった。
このまま完封するかとも思われた。
325 :
加紺とう:03/11/23 15:53 ID:R8vlq3yK
が、次の瞬間、球場全体が青ざめる。
石川への初球がすっぽ抜けた。
そして中澤の投じた直球が石川の顔面へと一直線に向かっていった。
誰もがこれは危ない!と目を瞑った瞬間…。
凄まじい打球音が球場に木霊した。
球場全体が静寂に包まれ、ひとり、またひとりと目を恐る恐る開く。
そこにはスイングを終えた石川の姿だけが残っていた。
ボールはいずこへ?
そう思った瞬間、ボールが何かにぶつかる音が響いた。
誰もがそこに目をやる。
場所はバックスクリーン、そこにはボールが転々と跳ねていた。
審判が慌てて手を回した。
326 :
加紺とう:03/11/23 15:57 ID:R8vlq3yK
「やったぁ〜!ハッピィ〜!!!」
石川はピョンピョンと飛び跳ねながらベースを一周した。
中澤はただ呆然としていた。
なぜあの球を打てたのか?
しかも、今大会ノーヒットの石川が…。
その答えが石川とハイタッチを交わす、矢口の口からこぼれた。
「やっと出たねぇ、石川の悪球打ちが!」
この石川の一発が横浜打線爆発の起爆剤となった。
この後、気落ちした中澤を攻め立て、マウンドから引き摺り下ろす。
止まらない横浜打線は2番手投手も攻め続けて、矢口、柴田のタイムリーで1点差に、そして石川が今日2本目となる満塁弾を放って一気に試合をひっくり返した。
これで勝負は決まった。
このまま横浜が逃げ切り、結果8-5で準決勝へと勝ち進んだ。
まんまとやられたよ、と少々呆れ顔の中澤。
しかし、その表情からは十分満足した試合だったことが伺えた。
そしてこの後、準決勝へと進むことのできる最後の一校が決まる。
327 :
加紺とう:03/11/23 16:01 ID:R8vlq3yK
一応ここまでです。
もしかしたら夜にもういっちょ更新するかも…。
試合結果
11日目
3.横浜8-5平安
更新乙です。
まさかの展開があったり楽しませてもらってます。
っていうか梨華ちゃん爆発やっとキタ━━━( ^▽^)━━━!!!
329 :
加紺とう:03/11/24 00:40 ID:4ruIuXFL
25.負けられない…
横浜ナインは試合後、偵察も兼ねて第四試合を見ることにした。
ダウンを終え、ナインは観客席へと向かった。
時間的にはちょうど0-0で4回が始まった頃、球場は騒然としていた。
そこでナインが見たものは…。
浦和学院の吉澤が打席で右足を押さえて倒れている姿だった。
どうやら死球を受けたようだ。
マウンドを少し降りたところで相手投手は必死に謝っている。
が、石川は次の瞬間を見逃さなかった。
相手投手が振り返り際、うっすらと笑みを溢していたことを…。
回は投手戦のまま進み、再び吉澤の打順となる。
相手投手は執拗に内角を攻める。
吉澤も何とか打ちに行くが、右足が痛むのか、なかなか捉えきれない。
そして…。
330 :
加紺とう:03/11/24 00:41 ID:4ruIuXFL
速球が再び吉澤の右足を襲った。
当たったのはさっきとまったく同じ場所。
石川も思わず声を上げた。
「よっすぃ〜〜〜!!!」
今度は相手投手は表情一つ変えていない。
誰の目にも明らかに故意とわかった。
そして、吉澤の第四打席。
またしても吉澤は右足を狙われた。
何とか交わそうとするも、打ちにいっているために逃げ切れなかった。
吉澤は見るからに立つことすら困難な状況だった。
それでも吉澤は最後までグラウンドに立ち続けた。
しかし、無情にも9回裏、本塁打を打たれてサヨナラ負けとなってしまった。
331 :
加紺とう:03/11/24 00:42 ID:4ruIuXFL
試合後、石川はすぐさま吉澤の下へと向かった。
すると、右足を引きずって歩く吉澤の痛々しい姿を見つけた。
「よっすぃ〜、大丈夫!?」
「あ、梨華ちゃん…足なら大丈夫だよ。でもごめんね、負けちゃった…。」
石川を気遣うように吉澤は言葉を返した。
が、その表情は明らかに苦痛でゆがんでいるように見えた。
「それより梨華ちゃん、次の相手は気を付けなよ…。あいつの球はマジでやばいから…。」
「よっすぃ〜、どういうこと?」
死球を平気でやってくるということだろう、と思っていた。
しかし、どうやら吉澤が言いたいのは別のことのようだ。
332 :
加紺とう:03/11/24 00:44 ID:4ruIuXFL
「あいつのシュート、ありえないから…。」
「シュート?もしかして剃刀シュートとか投げるの?」
「剃刀なんてもんじゃないよ、あれは例えるなら…チェーンソー…。」
「チェーンソー?」
想像こそつかないが、とにかくえげつないのだろう…。
石川は吉澤の肩を支えながら、迎えの車まで送っていった。
そして石川は復讐を誓う。
「よっすぃ〜、私が敵を討ってあげるから…。」
その相手は松浦亜弥。
次の試合は絶対に負けられない…。
よっすぃーのためにも、私自身のためにも…。
石川は密かに決意を固めるのであった。
これでベスト4が出揃った。
山口・岩国、北海道・早大付、神奈川・横浜、兵庫・東洋大姫路。
それぞれの様々な想いが交錯する中、この中から決勝へと進む二校が明日決まる。
333 :
加紺とう:
今日はここまでです。
次回はシゲさん、どんな闘いを見せてくれるのだろう…と楽しみにしている作者w
>328
騎馬戦で梨華ちゃんがキレたそうで(あな真里より)、こっちでもキレさせてみようかな?と思ったりw
試合結果
11日目
4.浦和学院0-1x東洋大姫路