ぴくりと指先が動いた。
わずかな、ほんのわずかな動き。
しかし、それは止まっていた時間を溶かす、きっかけになる動き。
そして、確かな生の証。
周囲は見る間に慌ただしくなった。
白衣を着た人々が行き交い、様々な器具が運ばれる。
聞き慣れない専門用語が、殺風景な部屋に木霊した。
ゆっくりとまぶたが持ち上がった。
久しぶり──2年ぶりに味わう光の刺激に、少女は小さく呻きまた目を閉じる。
周囲の喧噪がゆっくりと引いていった。
カツカツと、何かが近づいてくる音がする。
足音は、少女の横たわるベッドのそばで止まった。
「おはよう。長い長い眠りから、あなたはようやく目を覚ましたのよ」
低く囁く女の声が聞こえた。
光に少しづつ目を慣らしながら、少女は再び目を開こうとする。
焦点の定まらない視界。その中にぼんやりと傍らに立つ女の影が見える。
再びあの声が、少女の耳に届いた。
「グッドモーニング。そしてようこそ、新しい世界へ」
仮面ライダーのの
── 第43話「死と再生」
少女は大きく目を開いた。
小さなビジネスホテルの一室が、カーテンを通した太陽の光に浮かび上がる。
安っぽいベッドの上に起きあがり、少女はぶるぶると頭を振った。
ショートカットの髪が顔の横で揺れる。
定まる場所を待たない日々。そんな生活にももう慣れた。
幸い、お金には不自由していない。
もともと年齢に似合わないだけの蓄えはあったし、
昔から使っていたクレジットカードもそのまま使えている。
普通に生活する分には、たまに簡単なバイトをする程度で事足りた。
もっとも、バイトをしていたのはお金のためだけではなく、
無為な毎日を過ごすのに嫌気がさしたせいもあったのだが。
ぼうっとする頭を抱え、洗面所に向かう。
冷たい水で顔を洗うと、ようやく意識がはっきりしてきた。
タオルで水分を拭き取り、ふうと息をつく。
鏡の中の自分と目があった。
生まれたときから、ずっと見知った顔。
もともとどちらかといえば童顔だった。幼いときから顔はそんなに変わっていない。
そう、何も変わっていない。そう見える。
あの事件以来、ずっと眠り続けていた2年という歳月を経ても。
だから信じられない。
自分が、一度死んでしまったなどということは。
ホテルをチェックアウトして外に出た。
季節の変わり目の冷たい風が吹き付ける。
その風に逆らうように、少女は黙々と歩き続けた。
小柄な体をピンと反らせ、なんの目的も無く、ただまっすぐに前を向いて。
曲がり角を曲がろうとしたとき、少女の目の前に青いスポーツカーが止まった。
ウィーンとモーターの音がして、スモークの張られた窓が下がる。
現われた顔を見て、少女は一つため息をついた。
「あなたですか」
「あらあら、久しぶりに会ったのに相変わらずつれないタ・イ・ド。
う〜ん、もう、お姉さん、困っちゃぁ〜う」
車の中から現われたのは一人の女。
何となく、人を落ち着かない気持ちにさせる、ふざけた口調。
ふざけているのは口調だけではない。
女の着ているものは、まるで何かのコスプレのような格好だった。
光沢のある青と黒でデザインされた、近未来的なミニドレス。
その胸に付けられているのは、金属のプレートで作られたロゴ。
それは目の前のビルにある、ひときわ目立つ大きな看板に描かれたのと同じもの。
ここ数年でめざましい成長を見せ、一躍大企業となった会社。
『スマートブレイン』社のロゴだった。
「それにしても、あなたは本当にヒドい子だわ。
ずっと眠ったままだったあなたを世話してたのは、わたし達なのに、
ようやく目を覚ましたと思ったら、すぐ何も言わずに勝手に飛び出しちゃうなんて。
お姉さんとっても悲しいな。ぐっすん」
スマートブレインのスポークスウーマン──スマートレディは、
指先で目の下をこする泣き真似まで加えてそう言った。
「悪いけど、あなた達はなんだか信用できない。
だからもう、あたしのことは放っておいて」
冷たくそう言い放って立ち去ろうとする少女。
まだ若いと思われるのに、少女が身に纏うどこか老成した雰囲気。
それは生まれ持ったものか、あるいは彼女が経験した想像もつかない出来事のためか。
「そんなに慌てないでちょうだい。
今日はあなたにビッグなプレゼントを持ってきたんですから」
「プレゼント?」
「そう、とぉってもすてきなプレゼントよ」
「残念ながら、興味ないわ」
再び歩き出す少女の背中に、スマートレディはまた声をかけた。
「本当に良いプレゼントなのよ。きっと気に入ってくれると思うわ。
それに知りたいでしょ? ……自分の体のこと」
ぴたりと少女の足が止まった。
それを見て気を良くしたのか、スマートレディは思わせぶりに言葉を続ける。
「教えてあげるわ。
あなたの身に何が起こったのか。
あなたは……何に変わってしまったのか。
全部教えてあげる」
少女は黙って踵を返した。
つかつかと車に歩み寄り、無言のまま助手席に乗り込む。
バタンとドアが閉まると、スマートレディの頬に妖しい笑みが浮かんだ。
「……良い子ね。
それじゃ出発しましょう。
あなたの、新しい世界へ」
低いエンジン音をあげて車が走り出す。
その先がどこへ向かっているのか、そして自分の運命がどう変わっていくのか。
少女にはまだ分かるはずも無かった。
豪奢な部屋。
吹き抜けの広いリビングはフローリング。
中央には革張りの柔らかそうなソファー。
メゾネットタイプの二階には、ベッドまで置いてある。
スマートレディは、部屋の真ん中で両手を広げ、くるりと回った。
「これがあなたへのプレゼント。
今日からここに住んで良いのよ」
「ここに?」
「そう、すてきな部屋でしょ。
この部屋だけじゃないわ。
オルフェノクとして生きれば、あなたには素晴らしい未来が待っています。
手に入らないものは何も無い。望めば何でもかなってしまう、そんな世界。
あぁ〜ん、ス・テ・キ。さあ、私と一緒に──」
「お断りします」
少女はきっぱりとした口調でそう言った。
「さっきも言ったけど、あたしはあなた達を信用してない。
だからこんなもの受け取るわけにはいかないわ」
「ウフフ、そう言うと思ったわ。
でもぉ、心配しないでいいんですよ。これはわたしからあなたへの個人的なプレゼント。
だから、仲間になるならないは関係ないの。
自由に使ってかまわないのよ」
501 :
悪の系譜:03/09/23 22:52 ID:2xuYNa61
エイドクガー
エイと毒蛾の合成改造人間。ゼティマライダーを指揮して希美を襲い、亜依に
対する疑念を植えつける作戦を担当した。催眠ガスと自己催眠能力が特技の
ようだが本編では使用しなかった。最後はライダーダブルキックに倒れる。
ゼティマライダー
選抜された女戦闘員に亜依と希美の遺伝子を掛け合わせて作られた改造人間
で、全部で13人存在し、そのすべてが二人の遺伝子を持つため亜依と希美どちらにも
なりすますことが出来る。弱点はゲルダム団の戦闘員同様に3時間毎にゲルパー液を
服用しないと死んでしまうことだが、これは後の強化改造によって克服された。
つま先の仕込みナイフや光線銃、はたまたフィンガーロケットや溶解液をも繰り出した
が、最後はダブルライダーの合体技「ライダー車輪」によって全滅した。
502 :
悪の系譜:03/09/23 22:52 ID:2xuYNa61
>>ハンペン氏
割り込み失礼!まさかリアルタイムで更新が入るとは・・・。
スマートレディの笑顔を、少女は訝しげに見つめた。
「まあいいわ。それよりも早く答えて。
わたしに何が起こったのか。
オルフェノクとはいったい何なのか」
「あなたはオルフェノクとして覚醒しました。
死を経験することで」
「死を……」
「そう、あなたは一度命を落としたの。あの事件の時にね。
それからあなたは眠り続けた。ずっと、ずぅっと。
そして蘇ったのです。オルフェノクとして」
「……いったいオルフェノクって何なの?
どうしてあたしが……」
「オルフェノクとは人間を超えた存在。
素晴らしい力を持った新しい生命。
新しい進化の形。
でもぉ、残念ながらあなたはまだ、オルフェノクとして完全に適応できていませぇん。
えーん、かわいそう。
早く、立派なオルフェノクになってくださいね。他の人たちのように」
「他の人? あたしの他にもこんな力を持った人が?」
「もちろん、皆さん自分の力を楽しんでいますよ」
いろんな話を聞いて混乱したのか、少女は軽くうつむいて目を伏せた。
「それで、あなた達はいったい何なの?
あたしに何をさせようとしてるの?」
「それは俺が説明しよう」
声とともに部屋にもう一人の人物が入ってきた。
三十代半ばに見える、黒のスーツをぴしりと着こなした男。
「誰?」
「こちらは戸田さん。あなたの教育係よ」
「教育係?」
「そう、あなたを立派なオルフェノクにするためのね」
「それじゃ、この人も……。
待って。あたしは、あなた達に協力するって決めた訳じゃない」
「あなたはもう、普通の生活を送ることはできない。
選択肢は他に無いのよ」
「でも……それでも……」
「とにかく、話ぐらいは聞いてちょうだい。
結論を出すのはそれからで良いでしょう?
戸田さん、後はお任せしますね」
スマートレディは戸田と呼ばれた男の肩に手を置く。
その手を振り払うように前に出た男は、少女に声をかけた。
「外に……出ようか」