2 :
名無しより愛をこめて:2006/03/21(火) 09:51:21 ID:7ejfekaw0
3 :
名無しより愛をこめて:2006/03/21(火) 09:53:28 ID:7ejfekaw0
裁鬼達は人知れず戦っている
裁鬼、その実力は鬼の中でも1,2を争うが、連戦に次ぐ連戦で
その実力を出し切れず、敗北を重ねつつある
今日もまた癒えない傷を庇いつつ
正義と平和のため、裁鬼達は戦う
○色んなな鬼のSSドシドシ募集中
○DA、クグツもおっけ!
「嫁はいっとった・・・おいしいところを総て頂き、その強さ鬼の如し」
最強最速の鬼が今、現れる。
主演:板尾創路
仮面ライダー頂鬼。
第一乃海苔巻「走る板尾」公開予定
>1
乙
>4
ちなみに幼女に手を出し鬼払いですか?
>1
おつかれです。
長編職人さん達はこちらに来るだろうから
また雑談や短編で前スレが埋まる流れかな。
前スレを埋めようと書き込んだけど容量オーバーで駄目だった。
向こうに書く予定だったけどちょっと書かせて。
最近は様々な職人さんが現れて、嬉しい限りですが、
まとめサイトの人が死ななければいいなと余計な心配してしまいます。ガンガレ!
設定吐くだけで申し訳ないんですが、最初のスレであった鬼払いの専門科桃太郎の話が
おもしろそうだったので、適当に考えてみました。
桃太郎とは? 吉野の暗部で鬼払いや裏切り者などの始末屋。また何らかの理由で一般人にも手を出す奴ら。
桃太郎→変身とか出来ないけど、鬼の力を奪う刀を所持。コードネームは桃○とか鬼○見たいな感じで。
雉→偵察、侵入、盗聴、盗撮など情報収集のプロ。
犬→桃太郎と共に戦闘に参加するサポート役。
猿→思いつかない。メカニックとか医療班かな?
こんなんは、どうだろ?
9 :
まとめサイト:2006/03/21(火) 13:40:53 ID:2RkBhOkv0
>>1 スレ立て乙です。
前スレは埋め立てるのではなく、次スレのURLを貼って住人の誘導が済むまで
残しておくようにして欲しいです。
新スレがどこかわからなくて困る人も居ると思うので、最初だけageておきます。
職人の方もなるべくなら容量いっぱいまで書き込まないで、470KB越えたあたりで
次スレが立つのを待って、続きを新スレへ投稿した方がスレ移行の面で良いのでは。
言うまでもないかも知れませんが、SSスレでは1レスの文字数が多いので
950レスより前にスレ容量オーバーになる可能性が高いです。
容量には気をつけて、400KB越えたあたりで、「400KB越えた」とかレスしておくといいかも。
いろいろ煩いこと言いましたが、コンゴトモヨロシク ノシ
>8
その設定、頂いていいですか?
頂鬼:本名(板尾創路)。年齢34歳(実年齢100歳を超える)。
”鬼”の名を冠するが鬼ではない、という特殊な存在。
元は吉野の暗部であり、鬼払いや裏切り者などの始末屋であった者達の末裔である。
世を忍ぶ仮の姿はタクシードライバー。
だが、始末屋として戦う時。白いコートを身に纏い、邪悪なる鬼を殲滅する。
また、強力な相手には「鬼の鎧」を使用し「頂鬼」を名乗り戦う場合もある。
モチーフはもちろん金ぴか騎士ですw
11 :
鋭鬼SSの中の人:2006/03/22(水) 02:22:08 ID:SZ7h1OGV0
自分のレスで前スレが容量オーバーになってたことに今気づきました
……申し訳ございません(それにしても、キッカリ収まったもんだ(苦笑
プラウザ使ってるとついバイト数を忘れてしまって、前にも同じ失敗を二度くらいしてたような……鍛え方が足りないですね、ハイ
12 :
名無しより愛をこめて:2006/03/22(水) 07:45:59 ID:5ATJH3kh0
>10
三つのものが合体してる…?w
>10
別に構いませんよ。ただ、○鬼にすると普通の鬼と判別が難しいかなと思います。
それと設定をもう少し固めた方がいい気もします。って色々と注文ばっかですみません。
桃太郎そのままではかっこ悪いので、吉備→鬼毘とかどうですかね?
コードネームは、雉なら○羽、犬なら○牙、猿なら○爪みたいなのは?
名前は鬼と違って、猿田、乾、烏丸とか。
14 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/03/22(水) 15:31:25 ID:1EEbbRkJ0
時は移って春休み某日。
辰洋は、友達2人と例の事件場所に向かった。
あの日以来、だれも来なかったのだろうか。
ニュースで見たときと全く変わっていない。
恐る恐る、3人は廃校があった場所へ足を踏み入れた。
地面はそこだけ焦げており、なんだか妙にジメジメして、そこらじゅうに白い
綿のような物体が散らばっている。
辰洋は地面が微妙に揺れている気がした。
友達に地面揺れてんじゃない?とは聞けなかったので、気のせいだと自分に言い聞かせた。
しかし、そうしているうちに、地鳴りがしだした。
「ちょっとココ危なくないか!?」「確かに。もう早く帰ろうぜ!」
3人はココを出ようと早足で自転車まで行こうとした。
辰洋が自転車に乗った瞬間、背後でカベをぶち破るような轟音がした。
途端に辰洋は禍々しい邪気を感じ、後ろを見ずに自転車で駆け出した。
15 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/03/22(水) 16:25:29 ID:1EEbbRkJ0
その時、目の前にバイクに乗った青年が現れた。
青年は目の前の巨大な闇を見据え、腰から金色の何かをとりだした。
・・・・・音叉のような形をしている。
「さっさとお前を清めて、次に行かせてもらうよ。」
青年はそう呟いたかと思うと、額で音叉を鳴らし、そのまま額にかざした。
キィーーーーンという高い音が、辰洋には心地よく聞こえた。
巨大な闇は立ち止まり、その気配に一瞬、恐怖が感じられた。
辰洋は根拠の無い安堵感に包まれ、はじめて後ろを振り返った。
そこには見たことも無い巨大な蜘蛛が青年を見つめていた。
青年の額に何かの紋章のようなものが浮かんだ。
と同時に、目を疑うようなことが起きた。
青年の足元から、火柱が一気に立ち昇った。
16 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/03/22(水) 20:28:20 ID:1EEbbRkJ0
青年は炎のなかで気合を高めていた。
その気が体内で最高密度まで高まった瞬間、咆哮をあげて火柱をかき消した。
そこには青年は居らず、異形の存在。鬼が居た。
頭には2本の角が生え、腰には三つ巴の円盤、赤とも金ともいえる棒を備えている。
鬼は、巨大な蜘蛛めがけて、棒を振り落とした。蜘蛛は一瞬ひるみ、その隙に鬼にひっくり返されて
しまった。
鬼は蜘蛛の腹に飛び乗り、円盤を押し込んだ。その円盤が次第に大きくなっていく。
「音撃打、火炎煉極!!」と叫んだかと思うと、棒で円盤を叩きはじめた。
周りの大気が奮え、とてつもないエネルギーを感じさせている。
鬼の打撃一つ一つが蜘蛛を弱らせていく。
17 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/03/22(水) 21:31:23 ID:1EEbbRkJ0
「テヤァッ!」
ダダン!という鼓動と同時に蜘蛛は爆発して塵となってしまった。
塵の向こうで鋭い光が煌いた。
そこには青年が深く呼吸している。だが身体は鬼のままだ。青年は辰洋に目を向けた。
「君、大丈夫?ケガとか無い?」
「は・・・はぁ・・・大丈夫ですけど。」
「そう、ならよかった。」
「あ、あの!おじ・・お兄さんはケガ無いんですか!?」
「大丈夫!大丈夫!鍛えてるんだから!」
「そう・・ですかぁ。」
青年は辰洋にこれから行くところがあるから、ついてこないかと聞かれた。
いつもなら用心深い辰洋だが、なぜかこの青年は信頼できた。
18 :
DA年中行事:2006/03/23(木) 17:09:31 ID:U6ROz+Dw0
いいかい?もう書き込んでもいいかい?
>>1さん、スレたて乙でした。ありがとうございます。
お米と味噌と自分の為に、ちょっと仕事を詰めてやっていたらば、すっかり桜の季節
じゃないっすか。いや、オレの住んでいるところは、まだまだ咲かないけども。
てなワケで、投下します。
三部作になる予定ですが、なんとか桜前線が日本列島を北上しきってしまう前に完
結させたいなぁ。
風舞鬼SSさん、もし続きを書き込もうとしていたら、割り込んじゃってごめんなさい。
どうした、どうした?
何泣いてるの?
ああ、そうか、今日はパパもママもいないから、寂しくなったんだな?
仕方が無いんだよ、パパもママもお仕事があるんだから。お前も一人でねんねでき
る、って約束したろぅ?ほらほら、ばあちゃんがそばにいるよ。顔拭いてあげよう
ねえ。せっかくの二枚目が台無しだ。
ああ、いいよ。ばあちゃんと一緒にねんねしようね。ああ、パパにもママにも内緒
にしてあげるよ。夜になって寂しくて泣いちゃったなんて言いつけないよ。ね?
うん?
お話してくれ?
そうだねぇ、魔化・・・・ムジナの話って、聞かせたっけ?
おお、そうか。聞いた事ないか。
昔々ね、ある島があったって。
そこに、ムジナっていう化け物がいたって。
熊より力が強くて、鼠よりすばしこくて、狐より上手に化けられて、狼より恐ろしくて、
人間と同じくらい知恵があったって。
でも、ひとりぼっちだったって。
寂しくて寂しくて、ムジナは泣いて暮したって。
ところが、その泣き声ときたら、牛をひと噛みで倒してしまうような狼も、都でさんざ
ん悪事を働いた悪人も、おしっこちびってしまうほどおっかない声だったから、誰も
ムジナには近付かなかったって。
泣き疲れて、とろとろと眠っていたら、誰かがムジナに話しかけてきたって。
「あんたはなんで毎日泣いているの?」って。
産まれてからずーっと、誰かに話しかけられた事なんて無かったから、ムジナはび
っくりして飛び起きたって。
そうしたら、まぁ、色の白い、目のクリクリとした、おかっぱ頭の可愛い女の子がちょ
こーんと自分の隣に座っていたって。
「あんた毎日泣いているけど、なんでそんなに毎日泣いているの?」って女の子が
聞くから、ムジナは「虫にも魚にも親や仲間がいるのに、俺だけひとりぼっちだ。
恨めしい恨めしい」って答えたって。
それ聞いて、女の子は鈴みたいにコロコロと笑ったって。「あんなに怖い声で恨め
しい恨めしいって泣いたら、誰もあんたと仲良くしようなんて思わないよ」って笑った
って。
女の子の笑い方があんまり可愛かったから、ムジナは逆に女の子に聞いたって。
「お前は、俺の事が怖くないのか?」
「うん、おっかなくないよ」そう言って、女の子は上手にくるっととんぼ切ったって。
そうしたらね、女の子は白黒ぶちの猫になったって。
「わたしはね、あんたと同じ化け物なんだよ。だから、あんたの事も怖く無いよ」
猫ってね、長く生きると、猫又っていう化け物になるんだよ。
えぇ?ミケかい?ミケはまだ10歳だもの。10歳ではまだまだ猫又になれないよ。
うん、ただのおばあちゃん猫だねえ。
猫又になるには、もっともっと長く生きないとね。
シッポが二股になって、夜中に手拭いかぶって踊ったり、人間の言葉をしゃべるよ
うになったら、そろそろ猫又だねえ。
おっかないかい?
大丈夫、大丈夫。猫又はおっかなくないよ。気をつけないといけないのは、化け猫。
ああ、人間みたいに大きくて、二本足で立って歩く猫に逢ったら、絶対近付かない
で、すぐに逃げるんだよ。
やっつける?
だめだめ、化け猫をやっつけられるのは、鬼だけだもの。お前は鬼じゃないだろう。
ああ、そうだよ、鬼はね、強いんだよ。人間より、化け猫より、強いんだよ。
鬼か?さぁてねぇ。どこにいるのかねぇ。でもきっとお前や、パパやママのそばに
いて、みんなを守ってくれているよ。ばあちゃんかい?ばあちゃんは、大丈夫。
おや、お前がばあちゃんを守ってくれるの?
そうかそうか。いい子だいい子だ。じゃあ、なんでも食べて、早く大きくならない
とな。いっぱい食べて、いっぱい体を動かすの。そうしたら、お前もいつか鬼みた
いに強くなれるかもしれないよ。
ああ、そうか。
ムジナと猫又の話をしていたんだっけ。
その後どうなったか?うん、ムジナとね、猫又は、仲良しになったって。一緒に化
け比べをしたり、山で遊んだりして、仲良くなったって。
ところが、猫又はいつも夕方にならないとやって来なかったって。それでね、ムジ
ナはある時「なんでお前は夕方にしか来ないんだ?」って聞いたって。
猫又は、峠の茶店で飼われていた猫だったって。
島の人に物を売り買いに来る商人、山の向こうの親戚に会いに行く旅人、みんなが
その茶店でひと休みしたって。ところが、茶店の主人夫婦には子がいなくて、歳を
とった体で、茶店をするのが大変だったんだねぇ。手伝ってくれる人がいないんだ
もの。その夫婦に可愛がられて、長生きできたから、猫又は人の姿に化けて、茶店
を一生懸命手伝ったって。踊りも上手で、声も良かったから、茶店にはますます客
が増えたって。だから、昼間は忙しくて、ムジナのところに遊びに来れなかったん
だねぇ。
ムジナは仲良しの猫又が、人間なんかの手伝いをしているのが不思議だったって。
「そんなに人間て、いいもんなのかな?」って思ったって。
あくる朝、まだ暗いうちから、ムジナは上手に若い男に化けて、猫又のいる茶店に
行ってみたって。
でも、猫又がどんなに人間を褒めていても、まだムジナは信じられなくて、木の陰
に隠れて、茶店の方を見ていたって。
人の良さそうなじいさまとばあさまが、お湯をわかしたり、お茶を淹れたり、うまそう
なだんごを作ったりして、若い娘に化けた猫又がそれをお客さんに運んでいたって。
三人が、本当の親子みたいに仲良く働いているのを見て、ムジナはうらやましくなっ
たって。
猫又はひとりぼっちじゃないんだなあ、ってうらやましかったって。
それとね、ムジナは一つ大事な事に気が付いたって。
ああ、猫又は昼間の間あんなに忙しく働いて、疲れていたんだろうに、俺が寂しい
寂しいと泣いてばかりいたから、わざわざ遊びに来てくれていたのか、って。
そう思ったらね、ムジナは涙がぽとぽと出てきたって。
そうしてね、ムジナは、猫又に黙って、姿を消したって。
自分がいれば、猫又は毎日無理してでも夕方にやって来てくれるだろう、そうした
ら、くたびれてしまって、猫又が大変だろう、そう思ったんだね。
いつもの場所にムジナがいないから、猫又は一生懸命ムジナを探したって。
でも、ムジナはどこにもいなかったって。
ムジナは、帰って来なかったって。
そうしてムジナは・・・・・・
おや?
寝たかい?
あはは・・・あれだけお話してくれお話してくれって言ってたのに、最後まで聞かない
で寝ちゃったんだね。
まぁいいか。ばあちゃんも眠くなってきたよ。
たくさん、ねんねするんだよ。そうして早く大きくなって、ばあちゃん守ってもらおうか
な。何しろお前は、死んだじいちゃんの名前から、一文字もらったんだもの。
強くて丈夫な男になってくれれば、ばあちゃんそれでいいや。
あはは、そんなの、まだまだ先か。それまでばあちゃん生きていられるかな。
・・・・生きていたいけどねぇ。こればっかりはどうにもならんし、どうにかするのも良く
ないからねぇ。
例え、その方法を、知っていても・・・・
はて、ばあちゃんも寝ようかね。
おやすみ、登己蔵。
=巻の一 完=
25 :
高鬼SS作者:2006/03/23(木) 20:17:22 ID:u3b1QeF10
>>1 新スレ乙です。
こちらも一本投下させていただきます。
「魅惑する〜」同様、別の作品とリンクさせてあります。
二度ほど実写映画化されているので板違いでもないでしょうし。
ただ、書き方も今までとは変えているので、
今回は先代モノではありませんがあえて「番外編」を付けさせてもらいます。
これ以上詳しい事は本編投下後に書かせていただきます。
それではどうぞ。
これはある考古学者のフィールド・ノートからの抜粋である。
1972年×月○日、曇り。
私は奈良へとやって来た。勿論、フィールドワークのためである。
今回この地を訪れたのには理由がある。以前、懇意にしているT大学の教授から面白い話を聞いていたからだ。
その教授が学生を連れてフィールドワークに出た際、数人の学生が森の中で異形の何かを目撃したというのである。
教授は信じていなかったが、その学生達があまりにも必死だったため覚えていたという。
(中略)
私は常々、妖怪とは我々人類とは異なった進化の系譜に位置する生命体なのではないかとの学説を提唱していた。それ故に学会からは異端視されているのだが……。
ただ、私の学説を裏付けるかのような怪現象や怪生物との遭遇を私自身多く体験している。
こちらへ来る前に同じく調査目的で寄った、東北の隠れキリシタンが住む村でもそういった体験をしてきたばかりだ。
(中略)
しかし、あのような現象は実際にその場で見た人物でないと理解出来るとは到底思えないし、あのような怪生物を捕獲して学会に提出するわけにもいくまい。
では何故私は性懲りも無くこのような眉唾物の話を調査しにやって来たのであろうか?
これは、おそらく性なのであろう。探求者としての飽くなき好奇心によるものなのであろう。
(後略)
×月△日、晴れ。
(前略)
準備を整え、森の中へと入る。
昨日とはうって変わって空は晴れ渡っている。
(中略)
森の奥深い所までやって来た。背の高い木々が立ち並び、生い茂る葉が私の頭上を覆っている。お蔭で日もあまり射し込んでこない。陰々とした空間が続く。
微かに物音が聞こえた。野生動物の類であろうか。
だが、この森に入ってから今まで、鳥一羽飛んでいる姿を見ていない。時たま風に吹かれて木々のざわめきが聞こえるくらい。後は完全な静寂だ。
それだけに、先程の物音がえらく場違いに思えてしょうがない。
(中略)
道無き道というわけではないので、進む事に問題は無い。問題があるとすればこの雰囲気だ。
何かがおかしい。
前へ前へと歩みを進める度に厭な予感が増してくる。虫の知らせという奴か。
今までの経験から、こういう時の私の予感は当たる。
どうやらT大の学生の話は本当だったらしい。
ここは間違いなく、彼岸と此岸を繋ぐ境目のようだ。
立ち止まって逡巡する。果たして、これ以上先へと進んでいいものかどうか……。
と、音が聞こえた。
さっきのような微かな物音ではない。何か大きなものがこちらへと向かってくるような、そんな音が。
数秒後、私は自分の目を疑った。
前方の木々を薙ぎ倒し、巨大な異形がその姿を現したのだ。
異形は、まさに巨大な壁の様に私の目の前に立っていた。大木にナメクジを組み合わせたかのような醜悪な姿をしている。
身の危険を感じた私は元来た道を一目散に逃げ出した。
異形は私の後を、轟音を立てながら追ってきた。あの時の恐怖は今思い出すだけでもぞっとする。
朦朧とする意識の中、どれだけの時間を、距離を走ったのだろうか?
異形は私の後ろをぴったりとついてきている。否、むしろ私との距離は少しずつ狭まってきていた。
覚悟を決めたその時、私の背後に、異形との間に割り込むかのように何者かが現れた。そして逃げ続ける私の背に向けてはっきりとこう言ったのだ。
そのまま走り続けろ、と。
私は走りながら少しだけ後方を振り返ってみた。あの雄々しき声の主が何者なのか見てみたかったのだ。
そこには。
一匹の鬼が立っていた。
前述の通り意識が朦朧としていたためよく覚えてはいないのだが、異形に対し向かい合ったその姿は、二本の角、革の褌と世間に流布する鬼のイメージとほぼ同じであった。
両の手には太鼓の撥のような物を握っていたように思える。
走っている間中ずっと、背後から音が聞こえてきた。形容するならば獣同士が戦うかのような音だ。
(中略)
私は命からがら森を出る事が出来た。
その後、異形と鬼がどうなったのかは分からない。だが一つだけ言えるのは、あの時鬼が現れなければ私は確実に死んでいたであろうという事だ。
×月□日、晴れ時々曇り。
翌日、私は現地の住人に対して調査を行った。昨日の出来事とこの地にある民間伝承との関連を調べるためだ。
残念ながら思わしい結果を得る事は出来なかった。ただ、鬼に関しての質問には村人、特に老人の反応がやけに不自然だったのが気に掛かる。
(中略)
その出会った人々の中に、コウキという人物がいた。不思議な雰囲気を醸し出している人だった。
彼は私の目を見るなり、私が今まで様々な目に遭ってきた事を看破してみせた(流石に具体的な内容までは当てられなかったが)。
仕事柄そういう人物は分かるのだと言う。
彼は私と少し話をしただけで立ち去っていった。今思えば会話をしたというよりも一方的にこちらが質問をされただけのような気がする。
後で村の住人に聞いてみたのだが、彼は山や河川の調査員をしているらしい。
という事は昨日の事についても何か知っていたのではないだろうか。彼の連絡先を聞いておかなかった事が悔やまれる。
(中略)
今回の奈良でのフィールドワークは、ある程度覚悟していたとはいえ、結局のところ今までと同じ結末を迎える事となった。
唯一違うのは、今回に限って結末を最後まで見届けられなかったというところぐらいか。
(中略)
今夜はゆっくりし、明日には東京へと戻るつもりだ。
三輪山の苧環伝説にも興味はあるし、いつかまたこの地に戻ってこよう。
(後略)
以上、ある考古学者のフィールド・ノートより。 了
30 :
高鬼SS作者:2006/03/23(木) 20:22:28 ID:u3b1QeF10
以下、チラシの裏的あとがき。
今回の話は、諸星大二郎の「妖怪ハンター」シリーズを参考にしています。
以前とある掲示板で行われていた響鬼絵祭。そこに投稿されていた一枚の絵に魅かれて以来、機会があれば書いてみたいとずっと思っていました。
その絵では主人公の稗田をヌリカベから助けていたのは響鬼さんでしたが、とりあえず高鬼に変更しています。
妖怪ハンターが1970年代から続いている作品だからこそ出来たと思っています。
あの世界観を文章で再現出来たかどうか正直自信はありませんし、いつものSSとも異なったどっちつかずの文章になったとは重々承知しています。
でもやってみたかった。
お付き合いありがとうございました。
31 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/03/24(金) 00:10:47 ID:e0F/mSjX0
DA年中行事さん、いえいえ、構いませんよ。ていうか、僕もしばらく物語の構成を確認してたんで。
それでは失礼して続きを。
辰洋は青年についていき、その途中で青年は「フブキ」と名乗り、鬼と猛士の存在。
魔化魍の存在。年齢と彼女いない暦までも話した。
バイクを走らせながら、いくらかの会話を楽しんでいるうちに、懐かしい感じの駄菓子屋についた。
「ここが猛士の九州支部だよ。」「・・・・へぇ・・」
フブキは駄菓子屋にはいり、奥の畳間に入っていった。「こっちこっち。」
と辰洋を手招きして呼んでいる。言われるままに辰洋は奥の部屋へと入っていった。
「佐久間のおっさーん!」そう叫ぶと、さらに奥から貫禄のある60代後半の男性が出てきた。
「やぁ、フブキ。・・・おや、その子は?」「さっきツチグモの現場にいた子です。」
「あ、こんにちわ。」「ツチグモに?そりゃ大変だったろう。」「え、ええ、まぁ・・・」
「ちょっと待ってな、今、被害届と飴とお茶もってきてやっから。」しばらくして、また佐久間さんがやってきた。
「はい。ここに、住所と名前、ツチグモが出てきた場所も書いてね。」
さらさらっと書き終え、飴とお茶をごちそうになった後、何気ないことから会話は盛り上がって行った。
一の巻き「風に舞ふ鬼」終わり。
七之章『巡る命』
2011年。
キョウキは、病院のベッドで目を覚ました。開け放たれた窓の外に、汚れ無き快晴が広がっている。
身体を起こすと、胸や腕の痛みも目覚める。鬼の治癒力で八割方は回復していたが、昨晩のダメージはキョウキの動きを鈍くした。
「おはよ。」
明日夢が病室の入り口に現われ、自動販売機で買ってきたお茶をキョウキに手渡す。
「ゴウキさんが居てくれたから良かったけど、大変だったよ、お前運ぶの。」
苦い顔で紙コップを傾けるキョウキは、改めて自分の未熟さを知った。
「……強かった。 強かったよ、裁鬼さん…… 俺は……」
笑顔を止めた明日夢は、黙って親友を見つめる。
「……俺は、まだヒビキさんにも…… お前にも、届かない。」
それは違うと、明日夢はキョウキの肩に手を置いた。
「お前はお前、ヒビキさんはヒビキさんだし、俺は、俺。 皆、変わらないよ。」
慰めるなと肩に置かれた手を払うキョウキの頬を、熱い涙が濡らす。
「……お前はヒビキさんの遣り方をする必要は、ないと思う。 ……俺も、俺なりの遣り方で『人救け』をしてるだけだよ。」
その言葉と共に、再び肩に置かれた手の温もりに、キョウキの涙は止まらなかった。
陽の当たらぬ、森の奥深くで、童子と姫が砕け散った。
「……どうも巧くいかないな。」
破壊光線を出し終えた掌を下ろし、洋館で実験を繰り返していた男が呟いた。
「焦り過ぎたわね。 全ての童子達に武者の力を与えたのに……」
畳んだ日傘を手に持つ女が、溜息を吐く。
「……」
身体を崩し掛けた男を、女は支えた。見つめる指先が、力無く、微かに震えている。
歩きだした男を支え続ける女は、何故自分達が魔化魍を改良しているのか、解らなくなり始めた。
それは、先程破壊した童子達が、何故鬼と戦うのか、理由を求めてきた事と、何ら変わり無い事に気付いたが、空虚な胸の内に封じ込めた。
寺田家に宿を借りながらも、すっかり朝寝坊をしてしまったコナユキは、パジャマのままで茶の間の襖を勢い良く開けた。
「あら、おはよう。 慌ててどうしたの?」
眼鏡を掛けて朝刊を読むさくらに、コナユキは座り込んで大声を出した。
「おっちゃんは!?」
「ソウキ君なら、コナユキちゃんがよく寝ているからって、2時間程前に出ていったわよ。」
尋常でない様子のコナユキに、さくらは眼鏡を外して訊ねた。
「……ウチの鬼弦があらへん! おっちゃん、お医者さんに、もう変身したらアカン言われてんのや!!」
1985年。
鍛練を終えたサカエとソンジは、春香が差し出すタオルで顔を拭いた。
「ありがとう、いつも助かるよ。」
笑顔を見せるソンジと違い、サカエはぶっきらぼうに呟いた。
「あんまり、無理するなよ。 ちゃんと身体の事、考えろ。」
梅雨が明けた山は、日陰でも汗を吹き出させる。春香が、テンキの許可を得て二人の修業を見学するのは、今日が10度目だった。
「心配してるんだよ、コイツ。」
「なっ、何言ってるんだ、俺はただ……」
「サッちゃんは優しいね。」
ソンジにからかわれ、顔を赤らめるサカエに笑顔を送る春香。
そんな三人を見ながら、テンキは目を細めて白い顎髭を触った。
「若いのぅ……」
高校が夏休みに入り、春香は朝の散歩―― 山登りにも、毎日付き合い始めた。
3日目。流石に身体のバランスを崩し掛けたが、すぐ前を歩いていたサカエがその腕を掴む。
「大丈夫か?」 「うん。 ありがとう。」
その様子を見ていたテンキは、珍しく近くの川で休憩を取った。
「ハルよ。 多少の無理には目を瞑るが、無茶は良くないのぅ。」
すいませんと頭を下げる春香と弟子を残し、テンキは先に頂上へ上っていった。
「ゴメンね。 私なら、もう大丈夫だから。」
「さっき師匠に言われただろ。 俺達は一緒に居るから、ゆっくり行けばいいんだよ。」
川の水を竹筒に掬っていたソンジが手を止め、サカエを呼んだ。
「……何か、聞こえないか?」
耳を澄ますと、サカエの聴覚も、流水の狭間に不規則な高音を確認した。
ソンジが、水面から頭を突き出していた、苔の生えた飛び石を伝い、対岸から雛鳥を手に抱かえて持ち帰ってきた。
「巣から落ちたみたいだけど、羽根が折れてるなぁ。」
「……戻してこいよ。 お前の事だ、手当てして面倒見るつもりだろ?」
小学生の頃、ソンジが拾った子猫に引っ掻かれた事を、サカエは忘れていなかった。
「……でも、可哀想。 ね、サッちゃん。 私が世話するのも、駄目かな?」
春香とは長く目を合わせられないサカエは、それなら別に…… と、背を向けた。
ソンジから春香の手に渡された雛鳥は、囀りを続けていた。
その日から毎日、夕方、鍛練が終わると、二人は春香の家へ雛鳥の様子を見に行くようになった。
テンキから借りた鳥籠の中、時折囀りを聞かせるが、まだ羽根の完治には時間を要する様だった。
春香とソンジは、水で軟らかくした飯粒を交互に与えるが、サカエはピンセットを手にしない。
「おいサカエ、お前も食わせてみろよ。」
「……やめとく。 ……何か、こんなに小さいとさ、餌のやり方でも、ちょっと間違うと死んじゃいそうで……」
飛べない雛鳥だが、それでも確かな生命を持っている。サカエは、喧嘩と鬼の修業しか経験が無い自らの両手で、小さな生命を壊してしまう事を恐れていた。
ある日の早朝、山から戻ってきたテンキ達は、春香の家が騒がしい事に気付いた。
「おい、救急車はまだか!?」
「誰か息子夫婦に連絡しろ!!」
テンキに続き、着替えを終えたサカエとソンジが、縁側から開け放たれた奥の間で見たものは、布団に寝かされていた祖母の枕元で、必死に声を掛けている春香だった。
「おばあちゃん! 目を覚ましてよ!! おばあちゃん!!」
テンキが村人を的確に指示する中、サカエとソンジはただ春香を見ているしかなかった。
盆が過ぎ、8月も終わりに近づいた。
オレンジ色の入道雲が広がる空へ、雛鳥は羽根を動かし、その身体を宙に浮かせ始めた。
「この調子なら、明日にでも巣へ帰せそうだな。」
ソンジは、春香の手から籠に戻る雛鳥を前に、スケッチブックを広げた。
サカエと春香は、次第に集中力を増すソンジの邪魔にならぬよう、夕焼けの川原に移動した。
「……もう、大丈夫なのか?」
祖母の葬式から3日後、サカエ達の前に姿を見せた春香は明るく振る舞ってはいたが、サカエには時折、出会った頃の哀しげな表情が蘇っていた様に感じられた。
「うん…… ありがとう。」
太陽が沈みゆく山々を覆う雲は、暫く薄桃色に輝いていた。煌めく水面にサカエが投げた小石は、流れを跳ねて対岸に落ちた。
「サッちゃん? ……あの雛、巣に帰っても、他の兄弟と仲良く出来るかな?」
「……鳥に、兄弟とか親子が解ってるのか、知らないけどさ。 大丈夫だろ、家族なんだし。」
「……ゴメン。」
サカエもソンジも、肉親の顔を見る事無く生きてきた。
「謝るなよ。 ……でもさ、家族って、そういうモンじゃないのか? どれだけ離れてても、長い間会ってなくても…… 自然に、笑えるんだろうな。」
「サッちゃん……」
日も沈み、藍色の空には一番星が輝いていた。
夕食へ呼びにきたテンキは、樹の蔭から二人を見守っていたが、山の方から漂ってきた邪気に反応すると、若い姿に変わった。
「……ったく。 自然を残しとくのも、考えモンかな。」
翌日。テンキは山から帰らず、さくらから山の異変を聞いたサカエとソンジは、春香と雛鳥を護る為、音撃弦『閻魔』と『釈迦』を無断で持ち出した。
「春香ちゃん。 魔化魍が居るかもしれないから、危なくなったら逃げるんだ。」
巣の場所まで最短距離を進む三人。その先頭を歩くソンジが、聴覚を緊張させながらゆっくりと山を登る。
「大丈夫だって。 俺達、童子や姫なら倒せるんだからな。」
時々背後を振り向きながら、春香を護るサカエが、和ませようと口調を軽くした。
籠の中の雛鳥は、木々の広がる景色に小さな眼を頻りに動かせ、囀りを続けた。
その頃、山頂付近で怪童子と妖姫が、黄金色の炎に焼かれて爆発していた。
「バケガニか…… 川の方だな。」
天鬼は、両手の炎を掻き消して水辺に向かった。
三人は川原に到着し、穏やかな流れを越え、対岸に鳥籠を置いた。
「ふぅ。 よかったな、まだ他の雛達も巣に居るよ。」
ソンジが釈迦をサカエに預け、巣のある樹に登り始めた。
「よかったね、家に帰れて。」
春香が雛鳥を籠から出した時、突然地響きが三人を襲った。
川上の木々が薙ぎ倒され、巨大な鋏が圧し折った木片が、三人に降り注いだ。
「バ、バケガニ!?」
ソンジが樹から飛び降り、サカエに近づいた。
「……童子や姫じゃねぇな。」
「……ああ。 春香、隠れてろ!!」
サカエとソンジは変身鬼弦を弾いて、バケガニに立ち向かった。
「危ないから、待ってようね。」
春香は、飛び掛けた雛鳥を手に抱き、木の影で二人を見守った。
「うぉりゃーっ!」
空中から閻魔を振り下ろしたサカエ変身体を、鋏の一撃で吹っ飛ばしたバケガニは、背後から釈迦を突き上げるソンジ変身体に、溶解液を噴射した。
「危ねぇっ!」
咄嗟に身体を翻したが、空中で無防備になったところに体当たりを喰らい、起き上がろうとしたサカエ変身体に重なった。
「強いな。 どうする!?」
「いくらデカくても、カニは蟹だ。 横から攻めるぞ!」
振り下ろされた鋏を左右に飛んで躱した二人は、真横から斬撃を浴びせようとしたが、今度はサカエに溶解液が、ソンジに鋏が襲い掛かった。
「埒があかねぇぞ!!」
「ああ、ヤバいな……」
再び同じ所に吹っ飛ばされた二人だが、逃げられる状況ではなかった。
サカエ変身体は、鳴き声が聞こえる鳥の巣と、背後の木に隠れている春香を見た後、ソンジ変身体に言った。
「……俺が囮になる。 お前の方が力が有るから、アイツを引っ繰り返してくれ!」
「俺もそれを考えてたが、あの懐に潜り込むのは簡単じゃないぞ。」
「だから俺が、アイツの的になるんだよ! ……鋏二つぐらい、何とかしてやる!」
「……解った。」
ソンジ変身体は、迫るバケガニを見ながら、釈迦を差し出した。
「鋏二つに閻魔だけじゃ、分が悪いだろ。」
頷き合った二人は、バケガニに走りだした。
飛び上がったサカエ変身体は、横に振り払われた鋏を両手の音撃弦で受け止める。ソンジ変身体がその下を駆け抜け、バケガニの腹に潜り込んだ。
もう一方の鋏に左腕ごと身体を挟まれたサカエ変身体だが、間接部の薄い膜に右手の釈迦を突き刺し、そのまま抉り、切り落とした。
「今だ!」
「うおおおっ!!」
巨大な鋏一つ分、重量を減らしたバケガニは、ソンジ変身体渾身の力に、腹を空に向けた。
戦いを見守っていた春香の手が、知らずの間に緩み、雛鳥が巣の方へ羽ばたいた。
「あっ!!」
解放されたサカエ変身体が、素早くソンジ変身体に釈迦を投げ渡す。
装備帯から、それぞれ地獄と極楽を取り外し、清めの音を掻き鳴らした。
必死に藻掻くバケガニの甲羅から吹き出る溶解液が、辺りに飛び散った。
「ダメ――っ!!」
数滴の白い飛沫が、傍を通り抜けようとした雛鳥の羽根を焦がし、小さな身体を墜落させた。
「おいっ!? 春香!!」
墜ちた雛鳥を手に背を向けた春香を、溶解液の飛沫が襲い、2滴がその背中に上着を貫通して付着した。
次の瞬間、爆発したバケガニが、駆け付けた天鬼の目に飛び込んだ。
「春香……」
焼け付く痛みも気にせず、春香は両手で包む雛鳥が動かなくなると、その亡骸を胸に抱いた。
「何で…… もうちょっとで…… 帰れたのに…… 後少しで…… 家族に戻れたのに……」
涙を流し続ける春香を黙って見つめているしかなかった天鬼とソンジだったが、サカエは歩を進め、春香の頭を撫でた。
「なぁ…… 大丈夫だって。 ちゃんと、家族の所に来れたんだからさ。」
それでも春香は、聞き取れぬ、か細い声を洩らしながら泣き続けた。
「泣くな春香! これから俺が、お前も、お前の周りの人も、お前が無くして悲しむ人も…… ええと、とにかく! 全部の生命を護るから!」
叫んだサカエに、春香は顔を上げた。
「……だから、な? 泣くなよ。」
もう一度、頭を撫でられた手を、変身した熱の為か、春香には、とても暖かく感じられた。
夏の終わりの山を吹き抜ける風が、バケガニの欠片を遠くまで舞い上がらせた。
2011年。
裁鬼は、魔化魍を見つけだせず、彷徨い続けていたが、川のせせらぎに足を停めた。
昨晩、邪魔者に止めを差し掛けた時に見た、熱い眼差しが、脳裏にこびり付いて消えない。
その目の持ち主は、魔化魍でも、邪魔者でもない筈だったが、裁鬼はかつて、それとよく似た双眼を、いつも見つめていた気がした。
「……やっぱり、此処に来たか。」
茂みから現われたのは、裁鬼にとって、邪魔者でしかない一人の『鬼』だった。
「……これ以上、ハルちゃんや、イチゲキ君達を悲しませるな。 帰るぞ。」
ソウキの言葉も聞こえぬ裁鬼は、装備帯から音撃双弦を手にし、低く唸った。
ソウキは首を横に振ったが、決意した様に左手首の変身鬼弦を弾いた。
臨戦態勢の裁鬼から、赤い炎が吹き上がり、拳を額にかざしたソウキからは、蒼と黒の炎が渦巻いて空に昇る。
裁鬼・修羅が音撃双弦を、送鬼・修羅が音撃棒を構える。
「サバキ…… 思い出せ!!」
サカエとソンジが、バケガニを倒した山中の川は、今、修羅と化した鬼同士の戦場になった。
七之章 『巡る命』 完
【次回予告】
1986年。
テンキに音撃管を習う二人は、鬼としての独り立ちが遠くない事を知らされる。
春、一人留守番をしていたサカエの所に、暫らく顔を会わせていなかった春香が訪れた。
2011年。
海外で暗躍していた男女が、洋館の男女の前に現われる。
関東の鬼達も同じ山に集結する中、裁鬼と送鬼の戦いが、決着しようとしていた。
八之章『有難う』
各職人さん乙です!
あの風舞鬼さん、申し訳ないんですが、できれば一気に投下してください。
ところで、風舞鬼(フブキ)と読めばいいんですよね?
40 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/03/24(金) 17:35:12 ID:e0F/mSjX0
>>あの風舞鬼さん、申し訳ないんですが、できれば一気に投下してください。
了解しました。本当にスイマセン。
とりあえず二の巻きが全部できたら、また一気に書き込ませてもらいます。
>>ところで、風舞鬼(フブキ)と読めばいいんですよね?
はい、そうですよ。
遅ればせながら
>>1さん、スレ立て乙です。
前に予告しておいたZANKIの人さまとのコラボSSが完成したので投下したいと思います。
今回のSSは蔵王丸に会うチョット前の1985年の先代ザンキさんを書いてみたのですが、
「裁鬼メインストーリー最終章 七之章」と年代設定が同じ事から
まことに勝手ながら、あの雛の事件の直後のソンジたちの話を軸にストーリーを展開させていただきました。
「裁鬼メインストーリー最終章 八之章」が1986年の話ということから「七之章」と「八之章」の間に
この話があっても差し支えは無いだろうと考えこのSSを投下しますが、
もし裁鬼職人さんが考えているストーリーの展開にこの話が番外編として加わることで
今後のストーリー展開に支障をきたすということであるならばこの話を完全になかったことにしていただいても構いません。
すみませんでした。
また、このSSはプロローグと本編の2部構成となっており非常に無駄に長いものとなっていますので、
長い文章が嫌いな方は、お手数である上に少し分かりにくいですがプロローグを読み飛ばして、
本編だけを読んでください。
SSの前に感想を
>風舞鬼SS様
年齢と一緒に彼女いない暦までも話す風舞鬼には好感が持てますw。
今後も楽しみにしていますので頑張ってください。
>DA様
ザンキさんじゃなくても「戸田山は可愛い」を連呼したくなるぐらい
幼いころの戸田山が愛くるしいのが良いです。
3部作の展開も気になるところですが、くれぐれも無理だけはせずに頑張ってください。
>高鬼SS様
こういう形での「響鬼」へのアプローチもありだと思うので、
別に気にすることは無いと思いますし、
私自身、むしろこういうタイプのSSも面白くて良いんじゃないかと思います。
>裁鬼SS様
裁鬼さんと送鬼さんの戦いは
遂に来るところまできたって感じですね。
1985年の話も今回のお話で具体的なところまで書かれた
裁鬼SS本編でも語られていた雛の話まできて
徐々に2011年の物語とのリンクも出てきましたし
あと3話でそれらがどうなっていくのか先が楽しみです。
それではどうぞ。
暗がりのアパートの1室に開かれたドアから光と一緒に、まず入ってきたのは、
老け顔だがどこか良い人そうな青年だった。彼が関東を守る鬼の1人サカキだ。
サカキは部屋の明かりをつけると、ベランダのカーテンを開けに部屋の奥のほうへと向かった。
そのあとに付いてアパートへ入って行く女の子はサカキの娘であり後に剛鬼の妻となる五月だ。
まだ8歳の五月のあどけない顔をからは、後の公私にわたって剛鬼をサポートするころの姿はまだ想像も出来ない。
カーテンを開けたサカキはTVの電源を入れた後、手に持ったビニールの袋から、
近くのスーパーで買って来た野菜や肉を冷蔵庫に入れ始める。
妻を亡くしたサカキはこのアパートで、男手一つで今まで五月を育ててきたため、
炊事、洗濯などの家事一般をこなしながらも今まで鬼の仕事を続けてきた。
そんな生活が続いていていたせいか、いつしかサカキの料理の腕は上がり、
鬼の仲間内でもサカキの料理の上手さは、ちょっとした評判になるほどのものになっていた。
そして、そんなサカキの作った昼食を食しその腕を見極めるために
(本当は財布の中身をスッカラカンにしてしまい、いきつけの店へ行ってツケにしてもらって昼食を
食べようと考えたものの、その店からも溜りに溜まった2年分のツケを払えと詰め寄られたため逃げ出して
仕方なく昼食をスーパーの試食で済まそうかと考え、スーパーへと向かったところ、
たまたまそこでサカキと出会ったので、昼食をごちそうになろうと考えただけの)
ナポリ一のグルメを自称するある人物もまた、このアパートへとやって来ていた。
「どうぞあがってくださいザンキさん。いまコーヒー用意しますんで」
サカキがそう言うと金髪の聖子ちゃんカットの白人男性がアパートの中へと入ってきた。
彼の名前はザンキ。鬼か?たぶん鬼だよ。
ザンキが入ってきてすぐに電話が鳴った。サカキはザンキに「すみません」と言うとすぐに受話器をとった。
「もしもし、滋春だけど佐治さん?」
「おお滋春。わざわざすまんね。ほんとはこっちからかけようと思ってたんだけど」
電話の相手は名古屋にいるサカキのいとこの滋春だった。
その内容は先日、自分の経営する建設関係の会社での仕事中に肺炎で倒れたサカキの叔父新八郎の容態のことだ。
サカキは過去に魔化魍に家族を殺されたものの1人だけ生き残ってしまった自分の心の支えとなり、
そして自分が関東へ行き、鬼になるということを快諾し、それを後押ししてくれた新八郎が倒れたのだから気が気でなかった。
そんなサカキを尻目に、やることが無く暇なザンキは部屋にあった新聞を開き、
「通信教育:庭木の手入れ」の新聞広告の「庭木の手入れをしているおじさん」のイラストの
おじさんのポーズが、ビートルズが1966年6月に来日したときのはっぴを着て飛行機のタラップを降りている
ジョン・レノンのポーズにそっくりであることの確認を行おうとした。これがザンキの日課である。
しかし、新聞を開いたところでザンキはその日課を3年半も続けてきた自分に疑問を抱いたため新聞を閉じ、
とりあえず五月と話すことにした。
「鼻毛の手入れを怠るとどうなるか、君は知っているか?」
ザンキの方から話しかけたが、その唐突で訳の分からない質問に五月は少し唖然となった。
「…おじさん、鼻毛の手入れなんかどうでも良いから一緒に遊ぼうよ」
「バカ野朗!おじさんとはなんだ。おにいさんと呼べ!おにいさんと!!ザンキおにいさんだ。分かったな!!」
ザンキが大声で怒鳴ると五月は泣きそうになりながらもそれを必死でこらえて「なにしてあそぼっか?」と
ザンキに言った。こういうところの芯の強さは剛鬼の妻となった今でもそう変わってはいない。
「佐治さん…。今、『鼻毛』とか『おにいさんと呼べ!』とか聞こえなかった?」
「あ…、あ、気のせいだよ。気のせい」
通話中のサカキはなんとかそれをはぐらかして滋春との会話を続けた。だがその眉間には少しシワが寄っている。
「今の子供はもっと体を使うべきだ!分かったか」
折り紙を取り出した五月を尻目に
そう言ってザンキは部屋の本棚にあった「たのもしい幼稚園 1982年 4がつごう」を取り、それをパラパラと捲りながら目を通した。
「あっ、ゴレンジャーだ。ゴレンジャーごっこでもしようか」
「違うよ、それゴーグルファイブ」
「ふん、俺にこの人たちがゴレンジャーかゴーグルなんとかかを見分けなければいけない義務でもあるのか?違うだろ?」
「そうだけど……」
泣きそうなのをこらえて必死でそう言う五月を無視してザンキは勝手にDAのロプロス、ロデム、小林を起動し、
その3匹巻き込んでゴレンジャーごっこを始める。はっきり言ってDAの電池の無駄遣い以外のなんでもない。
そうするザンキの顔にはいつの間に作ったのか、何故か「たのもしい幼稚園」のふろくの「ギャバンなりきりセット」のお面が付いていた。
「よし、五月がモモレンジャーだ分かったな」
一昔前のガキ大将のような言動のザンキ。昔のゴレンジャーごっこにおいてはこういう人が大抵アカレンジャーの役をやって
太った子は強制的にキレンジャーの役をやらされていたものだ。
「でも、私モモレンジャーなんて分かんないよ。チェンジフェニックスとかなら分かるけど」
「まあいい、俺がモモレンジャーのお手本を見せてやろう」
「でも、ザンキお兄さんって男……」
「モモレンジャーもチャンジなんとかも中の人は男だ。問題はない」
子供の夢を壊すことを平然と言ってのけるザンキ。ショックを受ける五月をよそに
ザンキはモモレンジャーの名乗りポーズをとり始める。
「モモレンジャッ!!さぁ、お前もやれ」
「…も、ももれんじゃ…」
「おい、ロデム!お前がそれじゃ五月に示しがつかんだろうが、腕はこうだ。
五月も、もっと腰を・・こう!そう、そうだ、腕の角度はこう!
駄目駄目、それじゃ『天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ悪を倒せと俺を呼ぶ』の人のポーズだ。はい!もう一回」
ザンキはロデムの腕を無理に動かし角度を調整すると、五月にも指導を開始した。
しかし、何故ザンキがス○ロンガーの台詞を知っていたのか?そんなこと俺が知るか。
「がうがうがうがうがう(訳:僕の間接の可動範囲を分かっててやってるのかな?この人)」
「きゅきゅーん、きゅっきゅっ(訳:俺は抜けさせてもらう。じゃあな)」
「もわもわもわもわもわ(訳:卑怯者!逃げんじゃねぇ!!)」
「…ももれんじゃー…」
「もっと声を大きく!!モモレンジャッ!!だ。小林!もわもわ言ってないでちゃんとモモレンジャッって言え!」
「もわもわもわもわもわ(訳:大体な、俺の性能でモモレンジャーなんて音が出せるわけが無い。分かんねぇかな?)」
「…ももれんじゃっ…」
「この馬鹿野朗が!ポーズはこうだ。ちゃんと見とけよ。モモレンジャッ!!だ」
「もわもわっもわもわもわ(訳:馬鹿ってのは、てめぇの事か)」
ザンキにDA語?が分からないのを良いことに日頃の不満をぶちまける小林。
対照的に五月は激しいザンキの駄目出しに圧倒される。
しかしながら、金髪の聖子ちゃんカットの白人男性がギャバンのお面をかぶりながらモモレンジャーの名乗りを
女の子と機械の動物たちに実演して指導する様は誰がどう見ても異様だ。
「今日、『佐治なら必ず心配して電話して来るから、お前が先に電話しとけ』って父さんが言ってたから掛けたんだ。
こっちとしても昨日の連絡だけじゃ不充分だとは思ってたんだけど」
「そうなんだ。叔父さんらしいな」
「…佐治さん…。今、『天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ悪を倒せと俺を呼ぶ』とか『モモレンジャッ!!』とか聞こえなかった?」
「アハハ、空耳に決まってるだろ。お前、叔父さんの世話で疲れてるんじゃないのか?」
通話中のサカキはなんとかそれをはぐらかして滋春との会話を続けた。
サカキは吹っ切れたように少し笑ったが、サカキの眉間には明らかに先ほどより多くのシワが寄っていた。
「ええい、男女共同参画が叫ばれる今ではモモレンジャーばっかやっとられんのだ。ジェンダーフリーだよ、ジェンダーフリー」
五月にはジェンダーフリーの意味が分からなかったが、モモレンジャーごっこやってるよりはましだと考えて何も言わなかった。
「バロムワンごっこだ。分かったか」
「バロムワンってなに?」
そんな五月の質問を無視してザンキは勝手にバロムワンごっこの説明を始める。
「バロムワンは子供2人が合体して変身するやつで、走ってって腕組んで、『バロムクロス!』ってやるの分かる?」
「わかんないよ」
「とにかく俺がお前の名前を呼んでお前のほうに走るから、お前も俺の名前を呼んで俺の方へ走って来い。そしたら2人の腕を組むの。行くぞ」
ザンキは五月の腕の高さに自分の腕の高さが来るように、すこし屈むと「五月!」と言って五月のほうへ走っていった。
その姿は奇妙という域を超えるほど異質だった。
「…ザンキ…」
五月も仕方なくザンキの元へと走る。
「ザンキおにいさんと呼べ!」
ザンキの腕が五月の腕へとかかろうとする。しかし、ザンキは片付けるのを忘れていた「たのもしい幼稚園」に足を引っ掛けバランスを崩す。
体制を崩し手前に倒れ掛かれるザンキはなんとか五月との正面衝突を避けようと外側へ前周り受身の姿勢で転がろうとする。
ザンキが勢いをつけて回転しようとすると、なんとかザンキは五月を回避することに成功した。
だが、転がったザンキの伸びた腕がさっきのモモレンジャーごっこから逃走し、辺りを浮遊していたDAのロプロスを直撃し、
さらにその奥のTVに向かって見事なラリアットを決める。
「今日は『とろけるドリア』を…プツ・・・…」
「3分クッキング」を映していた画面が以下いきなり真っ暗になる。TVのすぐ下ではザンキのラリアットの直撃を受けたロプロスが
子供に潰されたありさんのようにピクピク動いていた。
「あ…ああ、すいません、こういうのは斜め四十五度の角度の位置で再度叩くのがいいんですよね…」
ザンキが再度TVを叩くとTVは元に戻ったが、そんなザンキに恐怖した五月はついに泣いてしまう。
ザンキは五月をなだめるためギャバンのお面をおでこの上に上げて、五月にキスをしたが、
五月は泣き止むどころかさらに激しく泣いた。
「佐治さん…。今、泣き声聞こえなかった?」
「あ……、あ、ちょっと待っててね」
通話をしていたサカキは受話器の下の方を押さえてザンキに語りかけた。
「ザンキさん……すみませんが帰っていただけませんかね」
サカキはにこやかな顔でそう言ったが、眉間のシワの数は相当だ。明らかに無理をしている。
こんなんなら、怒鳴られて追い出されたほうがマシだと思うぐらいにザンキはサカキから恐怖を感じ、
サカキに謝るとアパートを後にした。
まっさらな紙にこの珍しいほどのド田舎の風景がだんだんと形を現していき一つの絵になっていく。
ソンジがそうやって絵を描いていくうちに、目の前の木に小鳥がとまる。
「………………」
ソンジのペンを動かす手が止まる。それから一呼吸置いてソンジが振り向いた。
「来いよ。居るんだろ?」
ソンジは5mほど後ろのほうにあるボロ小屋の横から自分を見つめる春香の視線を感じ取っていた。
「ごめん。邪魔しちゃ悪いかなって思って」
「学校は?」
「今日は休み」
「ふーん…」
ソンジは少しそっけない態度で言葉を発したが、その視線は目のやり場に困ったかのように一定せず、
辺りをキョロキョロ見回していた。
ボロ小屋から離れた春香はソンジの隣に体育座りすると、絵とその絵を描いているソンジとをじっと見つめる。
「おもしろい?」
「なにが?」
「俺が絵描いてるの見てて」
「おもしろいっていうか、邪魔ならあっち行くよ?」
なぜだか、始めて会ったときのようなぎこちない会話が続く。
「別にいい。ところでなんでここに?」
絵を描き続けながら春香の言葉に答えるソウキだったが絵に描かれる線が微妙にブレる。
だが、ソンジはそれをあたかも故意に引いた線であるかのようにペンで線を描き足してごまかした。
「休みって言ってたのに、テンキさんの家、留守だったからどうしたのかなって」
「サカエなら朝飯もって山奥に釣りに行ったまま帰って来てないぜ。穴場を見つけたんだと」
「そうなんだ…」
それだけ言って春香との会話が終わると、ソンジは吹っ切れたように絵を描くことに集中した。
絵の中の風景が大体の形が分かるぐらいのところから、ソンジは絵をもっと細かく描きこんで行く。
しかし、ソンジはその絵に木の上の小鳥を書き足そうとしなかった。
またそうするうちに時間がすぎたが、春香の方もそこからずっと動かずソンジの描く絵を見つめている。
夏の暖かな陽気が2人を包み、辺りで鳴くツクツクボウシの声が夏の終わりと新しい季節の到来を告げていた・・・・・が、
それをかき消すように農村に豪音を響き渡らせながら一台のバイクが2人へと近づいてきた。
「UUURRRRYYY!!」
奇声を上げながら走ってきたバイクがボロ小屋に突っ込み、そのボロ小屋を突き破ってソンジたちの2mほど手前で停車する。
元々古かったせいもあったがバイクが突き破ったボロ小屋は振り向いたソンジたちの目の前で音を立てて倒壊した。
「でめぇ、危ねぇじゃねえか!!」
さっきまでの様子とは対照的にソンジがバイクにむかって声を荒げた。
「すまん、ここから2mほど手前に停車する予定だったんだが」
バイクの男はそう言いながらヘルメットを脱いでバイクを降り、
何処で手に入れたのか、「突撃!隣の晩ごはん」と書かれた巨大なしゃもじを荷物の中から取り出し2人に近づいてきた。
何故だか、その男は顔に「宇宙刑事ギャバン」の紙製のお面を着けている上に、男のくせに聖子ちゃんカットという特異な髪形をしていた。
「何もんなんだ、てめぇ!!」
「どこからどう見たって、君たちのお家で昼飯をいただこうとしている善良な『桂米助』だろうが!!」
「米助は金髪じゃねえ!!それにそのお面はなんだ!!」
「そこの少年少女!おれはこんなにッ!こんなにすばらしい力を手に入れたぞ!ギャバンのお面からッ!!
『たのもしい幼稚園 1982年 4がつごう』のふろく『ギャバンなりきりセット』のお面から!!って状態に
米助がなってしまった可能性だってあるだろうが!!第一な、―――」
バイクから降りた変人は、ソンジとの言い合いの途中から一人語りに入った。
「……逃げるぞ」
「うん、でも良いの?」
「良いから、速く!」
「あっ、ちょ、ちょっと」
ソンジは春香の手を握ると崩れたボロ小屋の裏手の方から寺田家に向かい走った。
ボロ小屋の奥の方の茂みを抜けて、いかにも古そうなつり橋を渡った後、小さな洞窟へ入り
それを抜けると、ソンジと春香の目の前に竹林が見えた。ソンジと春香はその竹林をひたすらまっすぐ駆け抜ける。
そして、竹林を抜けると2人は寺田家に程近い田んぼ道に出た。危険な上に遠回りではあったが
あの変人に付けられる可能性を考えれば、帰り道(逃げ道)にこのルートを選んだソンジの判断は賢明だったと言えるかもしれない。
「ここで少し休もう。ここまで来れば大丈夫だと思う」
「そうね、それにしてもあの人一体…」
「少なくともあんな格好の人がまともな訳ないと思うぜ。これで良かったんだ」
田んぼ道の大きな石の上に腰かけてソンジは一休みし、その隣に春香も座った。
少し離れた先には寺田家が見える。
「どうしたの?最近元気無いよ」
春香がソンジを見る。
「お前はどうなんだ?……」
「私は、サッちゃんが『前も、お前の周りの人も、お前が無くして悲しむ人も全部の生命を護るから』って
言ってくれたから…そう言ってくれたから……もう大丈夫だよ」
「あの時、俺は何も出来なかった。何もしてやれなかった……」
「そんなこと無いよ!サッちゃんもソンジ君も雛を、あの子を一生懸命魔化魍から守ってくれたんだもん……それだけで良いよ」
「違う、そうじゃなくて……」
そんな2人を見つめるDAの小林。その存在に2人はまだ気付いてはいなかった。
「あ〜ら、二人揃ってこんなところでなにしてんのかしら?」
「さ、さくらさん」
目の前にいきなり現われたのはテンキの妻さくらだった。
「さくらさんも今帰ったところですか?」
さくらは、このド田舎から山を降りて麓のスーパーまで週に何度か買出しに通っている。今日もその買出しの日だった。
「そうなのよ。あっ、2人に1つお願いがあるんだけどいいかな?」
「なんですか?」
「昼飯を食わせてくれないかな」
「えっ」
「昼飯を食わせてくれないかって聞いてるんだ」
しだいに低くなる声を出しながら、さくらは耳の横の方に手をかけると自分の顔いや、
合成樹脂によって作られた変装セット
(よいこのみなさんへのわかりやすいかいせつ:ルパン三世が変装する時に使う『アレ』だよ。byザンキ)を
顔から捲り、宇宙刑事ギャバンのお面を着けた金髪の変人という正体を現した。
その変人に恐れをなして春香がソンジの後ろに隠れ、ソンジにしがみ付く。
「お、お前なんでここに!!」
ソンジの場合決してあの変人が怖いからという理由でこうなってしまった訳ではないと思われるが、その声は変に上ずっていた。
「そこの少年、俺の名前を言ってみろ」
「分かるわけないだろうが!」
「『桂米助』っていったろうが!!」
「米助じゃねぇ!!!」
「米助よ」
帰ってきた本物のさくらがそう言って会話に割って入った。
「OH〜、さくら姐さん。助かりました」
その変人がさくらにいきなり抱きつく。
「知り合い…なんですか?この男の人と」
「そうよ。…ね、ザンキくん」
そう言いながらさくらは買い物用のバッグにぶら下げたお札のようなものを見つめる。どうやら四字熟語が書いてあるようだ。
「グッチ雄三はこう言ってた……斬(散)切り頭を叩いてみれば、鬼(オニ)オンの収穫に間に合わなくなったので、
ダッシュで畑まで行ったけど、そんな俺の前に巨大なUFOが現われて、そのUFOを通りすがりの
ボブ=デービットソンさんが撃墜したら、そこにいたモグラのモグ太郎が……(中略)……ってなことで番組が打ち切りになったのは悲しいけど
『仮面ライダー』第91話での本郷猛は住居不法侵入罪に問われないのかって疑問に思ってたところ
あれは刑法37条1項に書いてある緊急避難の措置と認められるから合法ってことに今更気付いた男……俺の名は、ザンキ」
その訳の分からない名乗りをした変人がザンキという鬼であるという事実にソンジは打ちのめされた。
寺田家の茶の間には、ザンキのために用意された「東ハト キャラメルーコン」が3袋分ほど
容器の中に入れられたものが置かれていた。寺田家へ帰宅したソンジとさくら、
そして成り行きで入ってきた春香とザンキは茶の間で一服していた。TVからタモリの「明日も見てくれるかな?」という声が聞こえてくる。
春香と話すザンキを見たせいか、ソンジの体に虫唾が走る。春香はこの男を胡散臭いとは思わないのだろうか。
ソンジ自身以前にザンキの名を聞いたりその姿を少しだけ見たことはあったが、本当はこんな鬼だったなんて想像もしていなかった。
それどころか、このザンキという人物が本当に鬼なのかという疑問がソンジの頭の中に浮かんできたほどだ。
「ソンキくん、元気が無いようだが?」
間違えられた名前を訂正したい気持ちは山々だったが、ソンジはぐっとこらえてザンキの呼びかけに答えない。
「君に元気が無い理由。俺にはそれが分かる」
「何故……?なんで、あなたなんかに…」
寺田家に入ってから初めてソンジが口を開いた。
「『カレーパンとカレードーナツの違い』お前にはそれが分からないのか?」
「話を逸らさないで下さい」
「『カレーパンとカレードーナツの違い』……あくまで予想だがそれが君の悩みを解決するカギになるはずだ」
あくまでザンキは真面目にそう言ったようだったが、聖子ちゃんカットの変人にそんなことを言われても説得力は無い。
「君に分かりやすいように『世界名作劇場』のお話を使って解説してやろう。俺の話を聞いていれば分かるはずだ。
『運命の赤いゴム』の話を知っているか?」
「『運命の赤い糸』って『世界名作劇場』じゃないんじゃ……それに『赤いゴム』って…」
思わず突っ込んでしまうソンジ。だが、ザンキはそれを無視して勝手に話を始める。
「よ〜く聞いておけ。20年後には『RIDER ZANKI THE FIRST』って題名で多分映画化されてるはずだ。」
「神は言いました。 天の青空に光ありて、昼と夜とを分かち、
また印のため時のため陽のため歳のためになるべし。
神は言いました。 汝、天の青空にありて地を照らす光となるべし
そしてグッチ雄三はこうも言いました……
むかしむかし、本当は多分5年ぐらい前の
多分日本だと思われるあるところの病院にザルバトーレ・ザネッティ(仮名)という不治の病いや、本当はハワイ沖まで流されて
潜水病にかかってしまっただけの青年が入院していました。
ザルバトーレ青年は後に流行った『ゆーとぴあのゴムパッチン』の研究に熱心で、
『ゴムパッチンを両方の人が同時に放すとどうなるか』ということにとても興味を持っており
そのことを実験して確かめるためにゴムパッチンの相手をしてくれる奇特な人を病院内で探しまわることを
日課として病院ライフを満喫していました………」
「そんなことはどうでも良いですから早く続きを」
また突っ込んでしまうソンジ。
「そんな生活を続けるザルバトーレ青年は、院内に好きな女性がいました。
彼女は少し離れた病室の患者で、なぜだかいつも暗い様子をしていて、その顔には笑顔がありませんでした。
青年はそんな彼女を鬼の様に狼の様に猿の様に愛し、毎日夜になると彼女の部屋に忍び込んで病室の花瓶の花を交換していました」
「律儀で良いと思いますけど、部屋に不法侵入するのはやめたほうが良いと思いますよ。はい」
突っ込み続けるうちに、ソンジの突っ込みには具体性が加わってきていた。
「しかしある夜、彼女は青年の存在に気付いてしまいます」
「まぁ、どの道逮捕されそうですけどね。あなたなら」
「おい、言っておくがザルバトーレ青年と俺とは別人だ。よ〜く覚えておけ」
少しあせるザンキだったが、そのまま話を続けた。
「青年は変態と思われると思って部屋を飛び出しました。しかし結局彼女に捕まってしまい、
青年は自分は自主的に病院をお手伝いしてる人だから、あなたの世話もしているといってごまかして事なきを得ました。
青年は彼女と知り合いになることができたことを喜びましたが、彼女は彼を鬱陶しい存在としか思っていないようでした。
青年はその後は昼間も彼女の部屋へと通い、彼女に手作りのマフラーをあげたり、手作りのお弁当を持っていったりもしましたが
彼女はそのすべてをゴミ箱に投げ捨て、青年がプレゼントした彼の魂とも言える『赤いゴムパッチン用のゴム』をも
ゴミ箱に捨てて彼を受け入れようとはしませんでした」
「『赤いゴムパッチン用のゴム』なんて誰も貰ってくれませんよ。普通」
「そしてある日の夜、彼女の病室から爺さんと女の怒鳴り声が聞こえました。
青年はそれを心配して次の日彼女の病室へ向かいましたが、その病室には彼女の姿がありませんでした。
彼女は病院から抜け出したのです」
「多分あなたを鬱陶しいと思ったからなんじゃないんですか?」
「おい、もう一度言うがザルバトーレ青年と俺とは別人だ。よ〜く覚えておけ。
それからだ、1人病院の外へ逃げた彼女は公園の木陰で泣いていました。
そこに病院を抜けだしてやって来た青年は彼女に彼女が捨てたはずの『赤いゴムパッチン用のゴム』を持ってきて
『ゴムパッチン』に誘いました。彼女は最初は嫌がりましたが徐々に青年の熱意に押され青年と2人で『ゴムパッチン』を始めました。
そうしてるうちに彼女はしだいに笑顔になりました。そう、2人は『運命の赤いゴムパッチン』で繋がったのです」
「で、それが『カレーパンとカレードーナツの違い』にどう関係あるんですか?」
「まて、話はまだ終わってない。その後、元気になった彼女は自分が人妻だと告げ、
この病院で暗い様子だったのは自分が入院したのにも関わらず仕事ばかりしていた夫との
すれ違いが原因で、昨日の爺さんと女の怒鳴り声もやっと大きな仕事が終わって見舞いに来れた夫との
夫婦喧嘩だったと青年に打ち明けてくれたらしい。
彼女は『あなたのお陰で夫とやり直す勇気がわいてきた』と青年にお礼を言って、結局その少し後、
歳をとった夫と寄りを戻して退院したそうだとグッチ雄三から聞いた」
「でも、それじゃ結局あなたがしたことって……」
「無駄だったかもしれない。だけど俺はそれでもいいと思ったんだ。
青年は自分好きな彼女の『笑顔』を見ることが出来た。自分なりのやり方で。
青年はそれだけで十分だったんだと…俺は思った。」
「それが……」
「そう、つまり『カレーパンとカレードーナツの違い』が分かることだ」
「でもそれって論理がかなり飛躍してませんか?」
冷静に突っ込むソンジ。だがまたもやザンキはそれを無視して勝手に話を続ける。
「まだお前には分からないかもしれない。だが、少しは気分が楽になったろ。
あと、これは彼女が退院した時、青年は彼女にこれを渡したらしい。
青年の中国にいる友人の座右の銘が書かれた紙だ。これをお前たちにもやろう」
ソンジと春香はそれを受け取り、折り畳まれていた紙片を開き、書かれた文字を見た。
そこにはでかでかとこう書かれていた。
「欧 陽 菲 菲」
「という話だったんですが面白かったですかね?昔先輩に聞いたんですよ」
得意げに話すマタタキ。先ほどまでの「先代ザンキと修行時代のソウキ」の話は
オオクビ退治を終えて先代のマタタキの家で先代のマタタキの誕生日を祝うマタタキが、
誕生会の席で先代のマタタキとついでに連れてこられた剛に語ったマタタキが昔ソウキに聞いた昔話の一つだった。
「……で、『カレーパンとカレードーナツの違い』って一体なんだったんですか?……」
話を聞き続けたが、結局『カレーパンとカレードーナツの違い』がなにか分からなかった剛は
マタタキに疑問をぶつけた。
「あ゛〜。売ってる奴が『カレーパン』って言ったらカレーパンで、売ってる奴が『カレードーナツ』つったら
カレードーナツなんじぇねぇのか?坊主」
何故か酔った先代のマタタキがその質問に答える。
多分、結局のところそれが答えなんだろうと剛も考えたが
それが、先代のザンキという人の発言だと考えると訳が分からなくなった。
「止まれ!そこの不審人物!!」
「……………」
「あれっ、反応が無い。もしも〜し、もしも〜し」
「……………ん、ああ成美か……」
ある日の帰り道。剛はまた成美たちより速く帰り、
考え事をしていたところを成美に呼び止められた。
「また変なこと考えてたんでしょ?」
「……あ、ああ『カレーパンとカレードーナツの違い』について考えてた。じゃ、じゃあね……」
剛はまた自転車で近道を駆けていく。
「あ、やっぱ変人だったんだね。」
成美が呟いた。
次回予告
「今日からお前は俺の弟子だ」
「でかいな」
「食われてる……」
「……我が名は『謎の韓国人』」
次回「逃げる男」
『とろけるドリア』テラナツカシスwwww
60 :
高鬼SS作者:2006/03/26(日) 21:04:43 ID:ZFqKOTeD0
噂の吉野大会議の前フリみたいなもの投下していきます。
そういうわけで「邪眼開く時」に出した各地のオリジナル鬼をまた登場させたのですが、
「邪眼〜」の時に触れたように彼らの出番はその時のみの予定だったので、ちゃんとした設定がありませんでした。
……というわけで気付いたら全員パロディになってしまいました。
今回もなるべく笑って許してやって下さい。
ちなみに時代設定は1970年代です。あえて漠然とさせてます。あの人も出るし…。
毎年恒例吉野総本部大会議を明日に控えたその日、関西支部の面々は翌日の準備にてんてこ舞いだった。
参加人数が百は下らないので、準備にはスタッフは勿論の事、手の空いている鬼達も駆り出される。
コウキもあかねと一緒に翌日の準備――特に大会議の後の大宴会の準備を行っていた。
「早いもんだね、もう一年経っちゃったよ」
「ええ。つい昨日の事のようです」
このような発言をするのは我ながら爺臭いとは思うが、正直な感想なのだからしょうがない。
基本的に大会議もその後の大宴会も支部ごとに固まっているので、支部同士の交流は滅多に無い。
さらに会議と宴会の間には空き時間があるので、その間に温泉に入る者もおり、宴会時にはほとんど全員浴衣に着替えている。
つまり、余程目立つ外見の人物や自ら目立とうとする人物でもなければ、誰も他所の鬼の事など気にも留めないのである。
その「自ら目立とうとする人物」のために、これまた恒例となった宴会芸の時間が取られてある。
金屏風が張られた舞台に立ち、各人自慢の芸を順番に披露するのだ。司会者までおり、熱の入れ様が伺える。
「今年もバキさん、宴会芸をやるのでしょうかね」
「恒例だからねぇ、彼の『バケツ一杯の砂糖水一気飲み』は……」
バキのこの芸は、元々関西支部恒例「花見の会」の席上で余興として行われたものだ。
これが評判が良く毎年やるようになり、とうとう大宴会の席上でも披露するようになってしまったのである。
「コウキくんも何かやってみたらどう?歌でも歌うとかさぁ」
「それも悪くはないですねぇ。うむ、やってみようかな……」
彼らが準備に追われている丁度その頃、各支部の鬼達も続々と現地入りを果たしていた。
62 :
ZANKIの人:2006/03/26(日) 21:06:31 ID:P1ITZ6aT0
>>剛鬼SS様。
コラボ企画乙です。
最近、ZANKIとかやってる場合じゃなくなっているので投下は未定ですが、がんばりますね。
RECIPIも、もう一回やったほうがいいかなw
大阪南港。
その日到着したフェリーに乗っていたとんでもないものを見た人々は、一様に驚きの表情を見せた。
馬が乗っていたのである。しかも象並みの大きさの馬が。
その、逞しい体に漆黒の毛並みを持つ巨馬は一声高く嘶くと、背に乗せた人物の指示に従って港を闊歩し始めた。
「さあてと、早いとこ奈良に向かわなきゃな。なあ黒風」
愛馬・黒風に優しく語りかけるのは九州支部所属のヤミツキだった。
黒風は気性が非常に荒く、ヤミツキにしか懐かない事で有名な馬だ。
以前大会議の日に黒風を置いていった事があったのだが、厩舎で大暴れして九州支部のスタッフ数名を病院送りにしている。
以来、ヤミツキは大会議に行く時も黒風を連れて行くようにしている。
そのため毎年一人だけ海路で関西へと入り、吉野までは黒風に乗っていっているのだ。
尤も、ヤミツキにとっては魔化魍退治の際のパートナーである以上それぐらいの気性でなければ意味は無いのだが。
黒風とその背に乗ったヤミツキを港内の人間がじろじろと見る。中にはカメラを構える者もいた。
「おいお前等、あんまりじろじろ見ないほうがいいぞ。こいつは怒ると何するか分かんねえからな」
と、黒風が前足を大きく上げて嘶いた。周りにいた全ての人間が蜘蛛の子を散らしたかのように逃げ去っていく。
「そうそう、それでいいんだ。逃げずに向かってきた馬鹿の中には、踏まれて未だに蹄の跡が消えないでいる奴もいるぐらいだからな」
ヤミツキは半ば興奮しかかった黒風を落ち着かせると、港を後にした。
大阪、難波駅周辺。
若い女性を連れた一人の青年が、いかにもその筋の人物と道で肩をぶつけてしまった。
案の定絡まれてしまったのだが、青年は口から紫の霧を相手の顔面へと吹きかけると、女性を無理矢理引っ張って何食わぬ顔でその場から立ち去ってしまった。
後には、顔を押さえてのたうちまわる相手の男の姿があった。
「ちょっとドクハキさん!無闇に人前で鬼の力を使っちゃ駄目じゃないですか!」
北陸支部所属のドクハキに向かって、彼のサポーターである葛木弥子が血相を変えて言う。
「大丈夫ですよ。二、三日失明する程度ですから。たぶん」
「いや、たぶんって!大体そういう問題じゃないし」
さらっと言ってのけるドクハキ。
ドクハキに何を言っても無駄なのは分かっている。だが、それでも弥子は一縷の望みを抱いて彼に注意するのだ。
「ううう、他の皆さんはもう先に行っちゃったのに、何で……」
「あなたがお腹が空いたなんて言うから、私達だけ別行動しているのではないですか。自分が言った事も忘れるとは、あなたの頭は鳥並みですね」
否、それでは鳥に失礼か。そう申し訳なさそうに言うドクハキを見て、弥子は思った。
何故こんな奴が鬼なのかと。
初めて猛士の一員になった日、支部長は鬼とは強さと優しさを兼ね備えた誇り高き人々の事だと弥子に教えてくれた。
それなのに。
どうして自分はドクハキなんかのサポーターに回されてしまったのだろう。これはひょっとして職内虐めではないのか、そう弥子は思う時もある。
「……あの、ところでそろそろ聞いてもいいですか?どうして私を一緒に連れてきたんです?」
吉野の大会議には基本的に鬼しか参加出来ない筈なのに……。
「ああ、それは面白そうだからです」
「はい?」
「会議の後の宴会で芸を披露する輩が何人もいるのですが、どれも刺激が足りない」
だからあなたを連れてきたのです。そう言うとドクハキは懐から小瓶を取り出して見せた。
「とりあえずあなたには毒を飲んでもらって、その後三分以内に解毒剤を探してもらいます。最高のショーになりますよ」
(あの目は本気だ……)
弥子は観念してがくっと項垂れると、滝のように涙を流し始めた。
奈良県、橿原神宮前駅。
「ほらほら、コンペキさぁん。急がないと乗り遅れちゃいますよぉ!」
四国支部所属のウズマキが、同じく四国支部所属のコンペキに向かって手を振り呼び掛ける。
「ごめん、先に行ってて!」
土産物屋の前でコンペキがこちらに向かって声を上げる。
欠席する同僚のために土産を選んでいるのだ。色々とうるさい人なので選別にはいつも気を遣う。
ウズマキは仕方なく吉野行きの列車が出るホームに向かって歩き出した。コンペキを急かしたくせに、実際は発車までまだ間があった。
と、突然誰かとぶつかってしまった。衝撃で手持ち鞄が吹っ飛んでしまう。
だが。
「え!?あっ!あっ!」
体勢を崩したにも関わらずウズマキの体は倒れていないし、手放したはずの鞄も持ったままだ。
「あれェ〜……?おかしいな……。今ぶつかって転んだと思ったのに……?」
「よそ見しててすまなかったな……。ここの路線図を見ていたんでな」
ぶつかった相手が話しかけてくる。
ド ド ド ド ド
(で、でっけぇ〜っ。190以上はあるぞ)
その相手の男は、がっちりした肩幅にワイルドな風貌の大男だった。ただ、どう見ても着ているものは学生服にしか見えない。
ひょっとして年下なのだろうか、そうウズマキは思った。
「一つ尋ねたいんだが、吉野行きの列車は何番ホームからだったかな?」
「吉野?」
この人も吉野へ向かうのか。まさか同業者だったりして……。
「それならば4番ホームからですよ。まだ発車まで時間はあります」
大男は礼を言うとそのまま立ち去っていった。
しばらく呆然とその後姿を眺めていたウズマキの肩を誰かが叩いた。コンペキだ。
「どうしたの?ねえ、これどう思う?多々良さんへのお土産なんだけどさ」
「えっ?先輩へのお土産を選んでいたんじゃ……」
「キリサキさんには吉野にある老舗の和菓子屋さんで最高級の葛餅を買っていってあげるんだから。さ、行きましょ。みんなホームで待ってるわよ」
そう言うとコンペキはさっさと歩いていってしまった。ウズマキは慌てて彼女の後を追っていった。
これが彼と北海道支部所属のジョウキとの出会いだった。
ヤミツキ「おお、着いたぞ黒風!日が沈む前に辿り着けて良かった」
ドクハキ「さあ着きましたよ。まずは宿泊先に向かいましょう」
弥子「ううう、明日になんかならなきゃいいのに……」
ウズマキ「着いた!コンペキさぁん、早く早く!」
コンペキ「ちょっとウズマキくんったら!急かしちゃ駄目よ」
ジョウキ「やれやれ。明日のかったるい会議に備えて今日は早く寝るか……」
各地より続々と集結する鬼達。そして……。
ザンキ「OH〜!久し振りに吉野に来たぜ!まあ今夜はゆっくり休むとするかな」
コウキ(何だ?何か物凄く嫌な予感がする……)
役者は揃った。
(いつになるかは分からないが)「宴の始末」に続く。
真の黒髪を知らしめたい!! 少林寺拳法 コンペキだァ!!!
思い人はコンペキだ!! 四国支部 ウズマキ!!!!
九州支部から漆黒の馬と上陸だ!! 示現流 ヤミツキ!!!
デカカァァァァァいッ説明不要!! 1m95!!! 水瓶座B型!!!
ジョウキだ!!!
史上最悪の弄りが今ベールを脱ぐ!! 北陸支部から ドクハキだ!!!
特に理由はないッ 悲惨な目に遭うのは当たりまえ!!
上層部にはないしょだ!!! ただのサポーター!
葛木弥子がきてくれた―――!!!
疾風鋼の鬼の超一流の歌唱だ!! 生で聴いてオドロキやがれッ
関西支部の雄!! マイク大好きコウキ!!!
傍迷惑な男が帰ってきたッ
どこへ行っていたンだッ トラブルメーカーッッ
俺達は君を待っていたッッッ先代ザンキの登場だ――――――――ッ
……ッッ どーやら四国支部のキリサキは墓参りに行っている様ですので、会議には登場しませんッッ
……すいません。バキネタやってみたかったんです。
>>67 なんか他にも色んな漫画ネタが含まれてますがw
番外編『仮面ライダー弾鬼』五之巻『高鳴る歌』(中)
意識を取り戻したダンキと、ダンキ同様に縛り付けられたショウキは男に連れられ、開けた場所へと連れられていた。
「ここで良いだろう。さて、改めて聞こう。お前達、今以上に強くなりたいか?」
男は桐で出来た箱を手にしている。
さて、ダンキは真面目に男の質問について考えた。
強くなりたいか?
それは当然。その為にも日々鍛錬に勤しんでいるのだ。
だが、この男に従ってからとて易々と強くなれるとは・・・・・・微塵にも思えなかった。
「そりゃぁ〜さ、なりたいよ。でも、どうすんのさ?」
「敬語を使えと、何度言えば解るのだお前は!」
警策が唸りダンキの尻を強かに打つ。
「いってぇ!・・っもぅ・・・一々叩かなくても口で言えば解るよ!」
「解っとらん!!」
額に青筋を浮かべて声を荒げる男。
これに関しては男の方が正しい。男は再び警策を振り上げた時、ショウキの声がそれを遮った。
「あの〜。強くなるって具体的にはどういった事をするんでしょう?」
「む?」
「あ、いや。一応僕達毎日鍛えてるんだけど、おじさんの言うとおりにしたら・・そんな簡単に強くなれるのかな?」
いつもの口調でショウキが男に淡々と告げた。男はダンキを打ち据えるべく振り上げた警策をおろし、ショウキの真前に立つと自信に満ちた表情で言った。
「なるほど。お前の言う事にも一理ある。だがな?鍛えても限界というのは自ずと現れるものだ。それを打ち破る物は、いつの時代もサポートする武具にあると私は思っている。どう思うかね?」
「確かに・・それもあると思う・・ます」
「よろしい。これが、お前の疑問の答えだ」
男は桐箱を地面に下ろすと、箱を開き中の物を取り出した。
男の手には一振りの剣が握られていた。
「これが私の開発した武器だ。これを使えばお前達はもっと強くなれる。何倍・・いや使いこなせれば十倍以上の効果が得られるだろう」
剣にしては矢鱈と装飾が拘っている。それ以上に剣としては機能し難い形状をしていた。
男は剣をショウキへと手渡した。
「念じなさい。強くなりたいと・・・お前の思いと日頃の鍛錬が重なり・・大宇宙に散らばる力とお前の力が融合すれば・・剣はきっと応えてくれるはずだ」
「・・・・・危ないオッサンだなぁ・・・大宇宙の力って・・・宗教かよ・・ぅあ痛ぁぁ!」
ダンキの呟きを確りと聞いていた男は警策を一撃叩き込み、ダンキを黙らせた。
「・・・・よし!やってみます」
ショウキは剣を握り締め、正眼の構えをとった。
「!!」
気合を込め、剣を振りかぶり・・・振り下ろした。
その瞬間、剣から物凄い波動が迸り、ショウキの体を駆け巡った。
だが、その凄まじい力に耐え切れなかったのか、ショウキは剣を手放してしまった。
「はぁ・・・はぁ・・・・す・・凄い・・パワーだ・・・」
ショウキは全身の力を吸い取られたかのように、疲弊していた。
「ふむ・・・いまいち効果の程が解らんな・・・・お前・・お前はどうなのだ?強くなりたくは無いか?」
お尻を抑えたままのダンキに男は再度問い掛けた。
ダンキは・・・・・
「なりたいさ・・・あんな思いは・・・二度とゴメンだ・・・」
「ふむ・・・何がしかの強い想いはあるようだな。ならば・・試してみろ。全力でだ」
地面に転がった剣を握り・・・・
「じゃ・・使わせてもらうよ?オッサ・・・・オジサン」
「・・・・まぁ、先程よりは丁寧な口調だな。使いこなせた暁には、その剣『装甲声刃』はお前の物だ・・・・見せてみろ。日頃の鍛えを」
ダンキは装甲声刃を高々と掲げ・・・・・
カラカサ戦で助けてやる事が出来なかった少女の事を。
間に合わず、誰も助けてやる事も出来ずに・・・・ただ自分の無力さを呪った事を。
謎の男と女に出会い・・・またも何も出来ず、手も足も出なかった事を。
振りつづける雨の中、ただ無力な自分のに対する怒りに涙した事を想い出し・・・・・
「装甲声刃!力を!俺に貸せぇぇ!」
振り下ろした。
迸る力の奔流はダンキの体内へと入り込み、内部からその膨大な力を持って暴れまわった。
「・・・・・・っ・・くぅぅぅぅぅぅ」
ガタガタと震える全身を押さえ込むかのように四肢に力を込める。だが、装甲声刃からの力は収まるどころか、より一層勢いを増して弾け回る。
「無茶だよ!ダンキ君!」
ショウキの声に耳を貸す事無く、ただ力に立ち向かい・・押さえ込もうとする。
刀身からはエネルギーの奔流が、黙視できるまでに高まり、バチバチとスパークする。そのスパークはダンキの体を這いずるかのように駆け巡り・・・
ボンッ!
小気味いい音を立てて、装甲声刃から煙が生じ・・・爆発した。
装甲声刃は爆発と共に宙へと舞い・・・剣を構えるポーズのまま衝撃によりばったりと仰向けに倒れるダンキ。
「うわわ!ダンキ君!!」
慌ててダンキに駆け寄るショウキ。ダンキは口から煙をコハッ!と吐いて目を開けた。
「あててててて・・あぁ〜もう!何で爆発するのさ!おいオッサン!どういう事だよ!」
だが、男は忽然と姿を消していた。
「あ・・・あれ?」
「い、いねぇ!」
周囲を見回して男を捜すも、その姿は見えず・・・・装甲声刃も見当たらなかった。だが、声が響いた。
『どうやら、お前達には使いこなせないようだな!まぁよい。今回の事は一切他言無用!!誰にも口外しない事だ!わかったな!』
「そ・・・そんな!」
「勝手言ってんじゃねぇ!ソレ失敗作じゃねぇのか!よくも実験台にしてくれたなぁ!」
『失敗作だと!無礼者が!』
「あいて!」
「ぅあいたぁ!」
まるで疾風のような一撃がダンキとショウキの尻を襲った。もはや、人間の域を越えている。
「ぼ・・・僕は何も言ってないのに・・・酷いよ!!」
「・・・・・くぅぅぅぉおのやろぉぉぉぉおぉ」
二度も気絶するほど尻を叩かれたダンキは今の一撃で怒り心頭・・・・文字通り鬼の形相で男を探した。
だが、今度こそ本当に姿を消したらしく・・・・声も響く事は無かった。
ベースキャンプ/
「ショウキ……あのヒトの事、どうしよう……?」
Tシャツを羽織ながらダンキはショウキに言った。
「……さあ?取り敢えず、僕達は明日から休みなんだし。言われた通り、おやっさんには黙っておこうよ」
ショウキも服を着替えながらそう返した。
二人して尻を擦る。ダンキもショウキも、普通の人の一年分・・・ダンキに至っては一生分程尻を叩かれた為・・・痛みは中々引かないでいた。
「それにしても・・・・あの剣、何だったのかな?」
「さあ・・・・?」
再び痛む尻を擦る二人。
「なんかさ・・・すげぇグッタリする・・・・ショウキは?」
「う〜ん。疲れとは違う・・なんか体が重いというか・・・・・」
撤収の準備をしながら、普段とは違う体に違和感を感じていた。
「あぁ〜もう!なんか自分の体が自分の体じゃ無いみたいだ!!」
普段ならすぐに済む撤収も、終わった頃にはいつもの倍以上の時間がたっていた。
「何とか片付いたね・・・・運転僕がするよ・・・・」
「悪い・・・途中からは俺が・・・・・あぁ・・もう!復帰第一戦目がこんなんなるなんて!」
運転席に座ったショウキは普段みたいにダンキを宥めることが出来ないほどに疲弊していた。
千明の家/
その部屋は薄暗く・・・・荒れに荒れていた。
彼女お気に入りの一反木綿を象って作られた、カーテンは引き裂かれ・・・・・
塗壁をイメージされた壁紙も引き剥がされ・・・・
から傘そっくりに作られた雨傘、日傘はバキバキにへし折られていた。
千明本人は・・・・暗闇に脅えながら、暗闇の中で蹲っていた。
目の下には隈が出来・・・・快活だったその表情にはかつての面影は無く・・・・
憔悴し・・・・
恐れ・・・・・
必死に現実から逃げようとしていた。
ドアの外には・・・・一人の男と一人の女性が立っている。
そこへ、男が走り寄って来た。
「ザンキさ〜ん!お疲れさまっス!」
関東の鬼が一人トドロキだった。ドアに寄りかかる男=ザンキはトドロキに手を上げ彼を迎えた。
「どうっスか?千明ちゃん?」
トドロキは手にしていた缶コーヒーをザンキとザンキに付き添っていた女性=みどりに手渡しながらそう尋ねた。
「相変わらず・・・というところだな。未だに部屋に入れてくれやしない」
蓋を開け、コーヒーを飲み込むザンキ。
例の件からずっと、関東の鬼やサポーターが交代で彼女を見張っている。
「随分と、鬼を嫌ってるみたいっスからねぇ・・・・ゴウキさんやサバキさんも同じようなこと言ってたっス!」
「嫌っているというより・・・・理解できなくなったんでしょうね・・・鬼や妖怪・・・魔化魍・・・・彼女の嗜好は聞いていたけど、自分の好きな物が牙をむいたようなもんですしね」
みどりがザンキとトドロキにそう言った。
「俺・・・好きだったモノが嫌いになった事とかないから解らないスけど・・・・やっぱりショックな事スよね」
「日菜佳ちゃんがお前を捨てて、イブキ辺りに鞍替えしたと思え・・・どうだ?」
「ザンキさんがトドロキ君を見限ってしまったとしたら?」
手近な例を上げてトドロキを試す二人。するとトドロキは地面にへたり込み・・・・・
「そ・・・そんな・・・ザンキさん・・・・お・・俺もっと頑張るッス!!」
「・・・・・・・お・・・おぅ・・頑張れ」
「というか、日菜佳ちゃんには何も無し?」
男女間の愛より師弟愛。ソレも結構だが、それでは日菜佳が浮かばれない。ザンキは心の中で日菜佳に詫びた。届いただろうか・・・・・
「コホン・・・彼女の場合・・目の前で人の死を見た事と・・・自分の手の中で人が一人亡くなった・・ということが今回の錯乱の引き金だろう・・・・」
「・・・・・あ」
一瞬トドロキが声を上げた。
彼もまた・・・戸田山登己蔵という名で修行に励んでいた時に、魔化魍ツチノコに老婆を殺された。その後・・・・彼女と同じように・・・自我不覚に陥り・・自分を攻めつづけた。
「死を見取るというのは・・・・存外に厳しい。俺たち鬼ならばそれにも耐えなければならない。だが、彼女は一般人だ・・・・・どうするべきか・・・・・だな」
冷静沈着にして、サバキやヒビキと共に関東の鬼の中心になっているザンキにも今回の事を打破する決定打を見つけられないでいた。
甘味所・たちばな/
車を運転していたダンキはショウキとに運転席を譲った。
「じゃなショウキ!とりあえず明日はゆっくり休もうや!」
「そうだね・・・ゴメンだけど報告よろしくね」
ショウキはそう告げると、車を発進させた。
暖簾をくぐり、店内へと入る。店内には残り物の団子を突付いているゴウキと妻の五月が居た。
「あ、ダンキ君お帰りなさい。ご苦労様でしたね」
五月がやんわりとダンキを労った。
「あれ、五月ちゃ〜ん!珍しいじゃん・・・それにゴウキも・・・ここで団子食べてるなんて」
ダンキは荷物を放り出して、机の上の団子を一本失敬した。
「偶にはなぁ。あれ?ショウキは?今日一緒だったよな?」
「あぁ、疲れてたから先に返した」
もぐもぐと団子を飲み込み、二本目に手を伸ばす。
「・・・まぁ、いいや。千明ちゃんの事なんだが・・・・」
「あぁ・・・なんか進展あったか?」
ゴウキは首を横に振った。
「毎日の見張りが関の山といったところだな。いやはや、現実に耐え切れない人間だって居る。世界は美しいだけじゃない、とは言ったもんだが、どうしたもんかな」
ギシ!と椅子をきしませてゴウキは腕を組んで考え込む。
「割り切る・・ってのは一般人には酷ってもんだよなぁ・・・・あぁ〜もう!なんか無い五月ちゃん?こう、元気付けるいい方法は!!」
三本目の団子を取りながら五月に尋ねるダンキ。五月は少し考え込むが、いい案が出ずにごめんなさいと頭を下げた。
目下、この件が関東支部の悩みどころであった。
まぁ、お前は先におやっさんに報告済ましてきな」
ゴウキに促され、三本目の串を咥えながらダンキは地下へと下りた。
地下にはおやっさんが、何枚かの紙とにらめっこしながらお茶を飲んでいた。
「お疲れっす!おやっさん」
「あぁ〜、ダンキ君。お疲れさん」
ダンキはおやっさんの前に座り込み、報告用のDAを手渡した。
「どうだった?復帰一戦目の具合は?」
おやっさんは紙をテーブルに置き、ディスクを受け取りながらダンキに尋ねた。ダンキはその紙を一枚拾い上げ、眺めながら「絶好調!いつでも連チャン入れちゃってよ」と、返した。
「それは頼もしいねぇ、でも新しいシフトは決まっちゃったから、また来月からという事でお願いするよ」
テーブルの上に散らばった紙は、全国の支部のシフト表だった。
おやっさんこと立花勢地郎は関東支部の責任者兼事務局長をも勤めている。話し合いなどで決まった事柄を元に、各地の鬼のシフトを決定するのはおやっさんの仕事でもあるのだ。
ダンキが手にしているのは、九州支部のシフト表で
『砕鬼』『穿鬼』『爪弾鬼』『突鬼』『比良鬼』『風舞鬼』『禍鬼』『芽吹鬼』『戦慄鬼』
と名前が書かれ、出動・休暇の丸印が記されていた。
全国で110名近くの鬼が居るのだが、そのソフトを決める重圧は一鬼であるダンキの想像のつかない域だろう。
「了解〜!頑張るよ〜!」
紙をテーブルに戻し、おやっさんに力強く言い放つダンキ。おやっさんはその言葉に力強く頷くと・・・・申し訳なさそうな表情で別の話に入った。
「疲れてるときに、こんな事を話題にはしたくないんだけれども・・・・安藤千明さんの事・・なんだけど」
「うん。俺もその事を話そうと思ってた・・・・おやっさん・・・・俺・・・・さ」
珍しく神妙な面持ちになるダンキ。
「俺、今からアイツに会いに行って来ようかと思ってるんだけど」
実のところ、カラカサの一件以来ダンキと千明は一度も会っていないのだ。それはダンキが入院していた事もあるのだが、やはり顔を合わせずらい・・と言うこともあったからだ。
「でも、大丈夫かい?何か考えでも?」
「今は・・何も。会って何を話せば・・なんて声を掛けてやればいいのかわからないけど・・・・でも、あいつをこんな事に巻き込んだのは、やっぱ俺なんだよね。
だから、皆にまかせっきりじゃ無くて・・・・俺じゃなきゃいけないと思うんだ・・・これって変かな?おやっさん?」
直情的で短期な男の偽りざる本音。それを不器用ながらに口にする思い。
おやっさんは軽く笑いながら・・・・・でも、親愛を込めて返した。
「いいや・・・そんな事は無いさ。でも、君たち鬼は・・本当に・・・不器用で・・でも暖かい心を持ってるんだねぇ・・」
それが、どれほどダンキに届いただろうか・・・・・ダンキは立ち上がり・・・
「じゃ、行って来るよ!おやっさん」
階段を勢い良く駆け上がっていった。
千明の家/
夜も更けてきたせいか、寒くはないが暑くもない・・・そんな気温になってきた。
未だ見張りを続けるザンキとトドロキ。みどりは夜になったため帰らせ、二人で見張りを続けていた。
「で、温泉の隣の広場に屋台が来てて」
「そういや、そうだったな。サバキのヤツ・・・機嫌が悪くて・・石割がえらく大変そうだったなぁ」
ただ黙して見張りをするのも耐え切れず、思い出話に華を咲かせる師弟。だが、感覚は確りと広げている。何かあった時すぐに動けるようにだ。
「しかも、『掬いの蔵王丸』なんて異名持ってたなんてビックリしたっスよ〜」
「まぁ、その事は・・・・・・・!!誰か来る!」
いち早く察知した何者かの気配にザンキは軽く身構えた。
念のために断っておくと、千明は誰かに狙われているわけではない。
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
掛け声と共に、一台のママチャリが物凄いスピードでアパートへ向って突っ込んできた。
「ダンキ!」
「ダンキさん!!」
「そこどけトドロキぃ!」
慌てて飛びのくトドロキ。そして今しがたトドロキが居た場所に急停車するママチャリ。
唖然とするザンキとトドロキ。ダンキはママチャリを横倒しにして停めると、ズンズンと千明の部屋に向っていった。
「おいダンキ・・・どうするつもりだ?」
ダンキの肩に手をやり静止するザンキ。
「離して下さいザンキさん」
「考えでもあるのか?」
「会ってから考えます」
「彼女はお前とは違う・・・繊細な部分だってある」
「でっけぇお世話です。離して下さい」
ザンキの静止を振りほどき、ドアの前に立つ。ゴンゴンとノックして中の千明に声をかける。
「久しぶりだな・・・・俺だよ。ダンキだ。安藤!ココ開けてくれ!」
「止めないか!」
ダンキを羽交い絞めにするようにして、止めるザンキ。だが、それにも構わず続けるダンキ。
「安藤ぉ!怖かったよな?辛かっただろう!俺も解る!初めて見た時は怖かった!」
「ちょ・・ダンキさん!落ち着いてくださいっス!」
扉から引き離そうとするトドロキ。だが、それでもダンキは微動だにしない。
「ましてや・・・あの娘は・・・・お前の手の中で最後を迎えちまった・・・・・でも、それはお前のせいじゃない!
えぇ・・と、あ、そうだ!あと、皆の事だけど、俺の事を避けるのは別に構わない!でも、他のヤツまで避けるのは止めてやってくれ!
俺はバカだし、考え無しだよ!でも他の皆は、本気でお前を心配してこうやって来てくれてる!だから、安心しろ!お前は普通の生活に戻れ!
そしていつもみたいに元気に生きろ!約束する!もう、関わらせない!お前は俺が、俺たちで護る!」
何が言いたいのか全くわからない、支離滅裂な叫びをありったけぶつけるダンキ。
「ダンキ!落ち着け・・何時だと思ってるんだ!」
ザンキがいよいよ本気で、ダンキを引き剥がしにかかる・・・・だが、古傷の膝と胸が痛み、その場に崩れ落ちた。
「ザンキさん!」
トドロキがザンキに駆け寄る。その結果ダンキは完全にフリーとなってしまった。
「信用できないか?俺たちが・・・・鬼だからか?」
鬼・・・その部分だけ・・・・・小声で言い・・・・千明に問い掛けた。
『信用できないか?俺たちが・・・・鬼だからか?』
真っ暗な部屋の中で・・・・・千明は、久しぶりに聞いたダンキの声を脅えながら聞いていた。
『鬼だからか?』
――――――違う。でも・・・そうなのかもしれない。
『何でさ?』
――――――だって・・・私はただの人間だから。
『・・・・そうか・・・そうだよな・・・』
――――――なんで、そんな消え入りそうな声で呟くの?
『今すぐとは言わない・・・必ず・・・元気になってくれ。皆心配している。お前は・・・・普通の生活に戻ってくれ』
暗闇の中、目を伏せる千明。
本当にこの声の主があのダンキなのか・・・・・
目を閉じれば今でも鮮明に思い出せる。
吊るされた木に登り自らを助け出した・・・・・蒼い鬼の姿を。
――――――あぁ・・・なんて神々しい。
夕日の中、素顔を晒し、笑いかけた、あの笑顔を。
そして、悲しみと怒りの中・・・・・同じ顔で・・違う顔に見えるほどの・・・・・・姿を。
――――――怖かった。だが、あれもまた弾鬼。
目を閉じてなお鮮明に思い出せる。
気が付けば・・・・座り込んでいたベッドから立ち上がっていた。
ずっと拒絶していた。今までいろいろな人が来てくれた。
ヒビキさん。イブキ君。ザンキさん。トドロキ君。ゴウキさん。バンキ君。フブキさん。エイキさん。トウキさん。サバキさん。石割さん。
いつも一緒に居る事が多かった。
ショウキ君。
必死に宥めてくれた。
ともえさん。敏樹君。五月さん。香須実ちゃん。日菜佳ちゃん。みどりさん。あきらちゃん。
『こんな事に巻き込んでゴメンな・・・・・許してくれ』
二度も助けて貰った。
命の恩人といっても過言で無い男からの謝罪。
「・・・許してって・・・・どうやって許せばいいのよ・・・」
暗がりの中・・ゆっくりと進む。
あの娘は私の手の中で最後を迎えた。哀しかった。でも、私は生きている。
そして、自分で解る。今の私は生きながら死んでいる。
『・・・・それと・・えぇと・・・あぁもう!言いたい事色々考えて来たのに!』
ドアが近づいてくる。
『あ!メシ美味かった!ショウキのヤツも喜んでた!』
あの娘も生きたかった筈だ。
なのに生きながら死んでいる自分は、冒涜してると思う。
ドアの前に立った。
多分・・・まだ鬼も魔化魍も怖い・・・・
カギに手をかける。
でも、多分・・・・私も彼に、彼らに言いたい事が・・・ある。だから・・・・・・・・少し躊躇ってカギを・・・開けた。
カシャンッッ!
番外編『仮面ライダー弾鬼』五之巻『高鳴る歌』(中) 終
>1
スレ立て乙です
一ヶ月近く放置した挙句、この程度の出来栄えで申し訳ございませんm(__)m
ココ暫くバタバタしてる中での作業だったので何かチグハグな感じもありますが、大目に見ていただけたらと思っております。
裁鬼SS様
裁鬼・修羅対送鬼・修羅。燃える展開です!続きがとても楽しみです!
剛鬼SS様
ギャバンやバロムワンネタ最高っす!
高鬼SS様
色々な作品と上手く関連付け、話を作れる才能素晴らしいです。少し分けてください(笑)
ZANKISS様
夢に出てきました、先代ザンキ!(笑)最早ココの顔ですね先代ザンキは!!
DA様
最後の場所で登己蔵少年とばぁちゃんだとわかった時、思わず膝を叩いてしまいました。GJです!!
風舞鬼SS様
九州在住の自分としては、九州支部!嬉しい限りです。続きが楽しみです。
あと、今回のSSで九州支部の鬼を9名書きましたが、完全に忘れて貰って結構です(笑)ただ記念に風舞鬼を勝手に入れてしまってすみませんm(__)m
待ってましたYO!弾鬼SS職人様! 相変わらずトーリーテリングが上手くてひきこまれてます さぁ、いよいよ千明嬢との問題がクライマックス!? これからの弾鬼と彼女の気になる! とにかく続きが楽しみです!!
82 :
高鬼SS作者:2006/03/27(月) 01:24:41 ID:yDD7Gsdj0
>>68 まあ、バキのトーナメント選手入場シーンのパロをやりたいばっかりに
わざわざ必要の無いおまけを書いちゃったって事です。
本編ではご指摘の通りジョジョとネウロのパロが炸裂しております。
あの馬ですか?
まあ名前は世紀末覇者の愛馬と傾奇者の愛馬の名前を組み合わせてますが、
乗ってる人が刀使いなのでどちらかと言えば後者寄りになるでしょうね。
流石に蹄の跡を付けられた人は忍者ではないと思いますがw
83 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/03/27(月) 16:17:28 ID:r+Fy8D9G0
二の巻き「嘶く鬼」
フブキと出会って数日が経った。辰洋にはあのときの出会いがまだ新鮮なまま心にある。
「このお店、君の学校に近いの!?へぇ〜そうなんだ!あ、だったらたまにおいでよ!僕も一年はここにお邪魔してるから。」
別れ際に放たれたフブキの言葉が脳裏をかすめる。辰洋だって行きたいとは思っていたが、受験生の本分は勉強。
いくら学校から近いといっても、その現状が辰洋を縛っていた。
ハァ・・・・・やっぱ、もう会えないのかなぁ・・・・仕方ない!もう勉強に力入れよ!
「コラそこ!何寝ぼけてる!」
「あ、はい!スイマセン!」
辰洋の額にチョークが飛んできた。
そのころ、例の駄菓子屋「さくま」に、一本の電話が入っていた。
「もしもし?佐久間さん?イナナキですけど。」
「おうイナナキか、どうした?」
「いや、それがですねぇー。さっきウブメを追ってたんですけど、逃げられちゃいまして(汗」
「童子と姫は?」
「そっちは倒しました。なにしろ奴ら、早いんで・・・だれか応援で来れる人いませんかね?」
「う〜ん・・・悪いけど、音撃管で近場には誰もいないしねー。なんとか一人で頑張ってくれる?」
「わかりました。じゃ、なんとか頑張ってみますね。」
「あ、そうだ、そういえばさっきね〜、君用の新しい音撃管が届いてたよ。」
「『斬風』、もう届いたんですか!?以外ですね。ハハハッ」
「ただいま〜!」
「あ、今フブキが帰ってきたから、そっちに届けさせるから、うん、そこらへんだと、高鍋のあたりで待ち合わせだ。」
「わかりました。じゃ、待っときます。」
フブキは音撃管、『斬風』を手にし、イナナキのまつ高鍋までバイクを走らせた。
84 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/03/27(月) 16:49:45 ID:r+Fy8D9G0
「おう、イナナキ。久しぶりだな。」
「フブキ!やっぱり帰ってたんだな。」
「まぁな。全国放浪ってのも結構きつくてな。骨休めに一年休暇もらってきた。」
「で、『斬風』は?」
「焦らなさんな。ちゃんと持ってきてるから。」
イナナキはフブキから木箱を受け取り、丁寧に開き始めた。
中にはライフルのような長い金管が入っていた。
「これが小暮さんの最新作・・・斬風・・・!!」
「何でざんふーって名前なの?音撃管の名前ってもっとこう・・・」
「清めの音を出したときに、爆発はせず、風が魔化魍を切裂いていくように、バラバラになっていくから・・・って聞いたけど。」
「ふぅ〜ん・・・」
「ま、とりあえず、ウブメを追うぞ。」
バイクに乗って移動した二人は山の中に行くと、とっさに殺気を感じ取った。
「来るな・・・」
「ああ、デカイぞ。」
バサァ!という羽音と同時に羽の生えた魚の化け物が大きな口をあけて飛び掛ってきた。
イナナキはすかさず、斬風から鬼石を繰り出し、ウブメに見事命中させた。
ウブメはひるんだが、天高く舞い上がり、2人に向かって牙をむいてきた。
「舐めるな!」とイナナキが叫ぶと、音笛を吹き鳴らし、4本角の緑の鬼、嘶鬼に変身した。
ドカドカドカ!!鬼石を連射し、ウブメを落とすと、ベルトから「鎌鼬」を取り出し、斬風に取り付けた。
ウブメが再度空に舞い上がり、今度は嘶鬼狙いでかかってきた。
「音撃射、鳴動斬波!」
そう叫んだ瞬間、斬風からとてつもなく大きな音が鳴った。
ウブメのなかに埋まっている鬼石はその音色に反応し、真紅に光りだした。
ウブメの羽は次第にボロボロになり、裂け、尻尾からだんだんと塵になってゆく。
仕舞いにはカマの部分まで来て、最後に聞こえたのはウブメの悲鳴とかすかな鬼石の破裂音。
それからは静かに塵が舞っていた。
「お前って奴ぁ、恐ろしいよ。」
「ハハハッ、それじゃ、帰ろうか!」
「ああ、今日の飯はサバ味噌だ!」
二の巻き「嘶く鬼」終わり。
85 :
DA年中行事:2006/03/28(火) 15:40:06 ID:SIoqKyXH0
ひゃっほう!なんだかいっぱい投下されてて嬉しいよう!
風舞鬼SSさん>
結局挟んじゃってゴメンナサイ。
二の巻きで、2号ライダー登場っすね!どう展開していくのか、楽しみです。
高鬼SSさん>
いやー、短期間でたくさん書けるってのは羨ましいです。オラぁ一ヶ月か二ヶ月に一本
書くのがやっとです。うんうん、「支度」とくりゃ「始末」ですわなw
剛鬼SSさん>
先代はね、走り出すんですよね。登場した瞬間、暴走しますよね。
「たのもしい幼稚園」w・・・でもギャバンなりきりセットは欲しい。ものすごい欲しい。
弾鬼SSさん>
待ってました!弾鬼さん弾けてるけど優しいよ弾鬼さん。千明ちゃんも心配だけど、何
だか扉が開きそうなので、ワクワクしてます。
86 :
DA年中行事:2006/03/28(火) 15:52:38 ID:SIoqKyXH0
(キュイィィィィン)調子こいて予告!(モワッモワッ)
キアカシシ。
小さなカラダの誇り高い獅子達は、皆黙したまま、花の季節を間近に控えた桜の巨木
に憩っていた。
今年も、桜の季節が来る。
そうだ、あの鬼と、初めて出会った季節が来る。
「禅達(ぜんたつ)にでも、相手をさせるか」
独り言を呟いて、再び団三郎は目を閉じる。この魔化魍は、年老いていた。
『その青き眼によって覗かれる暗夜もまた、青きものか』
魔化魍が、人を護る。
そんな逆説めいた事が、真実あるのだろうか。
キアカシシと「あの」鬼の出会い・・・・・・
一本の桜の木をめぐる、誇り高い獣と鬼の物語。「寄り添う獣」巻の二、相変わらずなん
の資料も持たぬまま、勢いにまかせて妄想中!近日投下!(ケロケロケロ)
>>32-38 常に淡々と投下乙です。毎回楽しませて頂いています。
こちらの話に慣れ親しんでしまったためか、本編を見ると
なぜこんなに裁鬼さんの出番が少ないのかと不思議に思えて。
また本スレでは不要論すら聞かれる明日夢と京介ですが、
二人とも必要なんだと感じられる冒頭のシーン、良かったです。
いずれ紙化して表紙は裁鬼さんグラビアにしたいと、個人的に。
>>86 愛すべき獣話、楽しみにしてます。
予告が出来る書き手さんは実力派なんですよね。
……と、他スレではウザがられる長文レスもこのスレじゃ目立たないやw
八之章『有難う』
2011年。
裁鬼と送鬼。修羅と成った二人の身体に生えた赭と蒼の角が縦横無尽に伸び、上空や水面で攻防を繰り返していた。
その中央、音撃双弦と音撃棒からほとばしる炎がぶつかり合う度に、地は揺れ、空は震えた。
裁鬼・修羅は、かつての洗練された足技すら忘れ、本能のままに武器を振り回す。大振りの斬撃は難なく躱せるように思えるが、送鬼は必死だった。
自我を失っている裁鬼と違い、肩や踵等、6本の角を同時に制御しなければならない送鬼・修羅にとって、魔化魍だけでなく鬼すらも滅ぼす修羅音撃の炎は、一太刀も浴びる事は許されなかった。
「裁鬼……」
飛び散った深紅と漆黒の炎は、地面の草や木の幹を焦がしながら揺らめいている。
送鬼最大の弱点は、変身に依る生命の削減でも、1時間15分という修羅の持続時間でもなかった。
敵を倒す為に戦い続ける裁鬼を相手に、『目醒めさせる』戦いは、心身の消耗を加速させていった。
山道を下る洋館の男女は、気配に気付いて足を止めた。振り返ったが、声は自分達の前方から聞こえてきた。
「こっちだ、こっち。」
スーツとドレスに身を包む男女が、ステッキとパラソルを持ったまま、無表情な顔を近づけてきた。
「ちゃんと与えてやった持ち場に居なくちゃ。」
「お仕置きして差し上げましょう。」
指一本動かさぬ二人から放たれた瘴気は、『洋館の』男女を吹き飛ばした。
「さぁ立ちなよ。 面白いモノを持ってきたからさ。」
起き上がる洋館の女は、身体に力が入らなくなっていた洋館の男を支えた。
「今から何百年も前の魔化魍だ。 復元するのに時間が掛かったよ。」
スーツの男がポケットから球体を取り出した。野球ボール程の黒い塊が地面に落ち、男はステッキで「えいっ。」と軽く突いた。
次の瞬間、洋館の男女の目の前には、顔の半分を赤と紫の仮面で隠した童子と姫、狐の面を被った等身大魔化魍の群が現われた。
「……コイツ等を日本に置いていこう。 上手く使うんだよ。」
1985年。
山の一角に有る竹林の中、身体を変身させたサカエとソンジは、四方八方から襲い掛かる竹の破片を、音撃管で撃ち落とし続けた。
「それまで。」
西の空から、夕刻を告げるオレンジの光が、繁る竹の葉を避けて地面に降り注いでいる。老人の姿をしたテンキが現われ、二人に音撃鳴を渡した。
「今日の仕上げは、1時間にしておこう。」
「……1時間、ですか?」
「……息、保つかなぁ?」
「早々とせぬか。 ……いつも通り、一息つく毎に15分追加じゃぞ。」
二人は音撃鳴を音撃管に取り付けると、変身鬼弦を弾き、深呼吸して清めの音を吹き鳴らした。
サカエ変身体とソンジ変身体が放つ音は重なり、絡まり、空の彼方で解けて消えていく。
晩秋から始まった管の鍛練も、二人は上々に熟せる様になっていた。
「うむ…… もう直に、巣立ちじゃろう。」
その日の鍛練も終わり、夜、ソンジはサカエに何度目かの問いを投げた。
「ハルちゃん、元気でやってるかな?」
「……さあな。」
サカエの返事もいつも通りだった。
雛鳥の一件からサカエと会わぬまま、春香が町に引っ越して2ヵ月が過ぎた。
あと数日で今年も終わるという日。
テンキに連れられて魔化魍討伐に同行した二人は、目的地に居たシュキの異様な気配に悪寒を覚えた。
「未熟な者など不要!! テンキ…… 私にとって、この戦いと釣り合うモノが皆無だと知っておきながら!!」
普段の冷静さを完全に失っているシュキのパンチは、呆気なく若い姿のテンキに掴み取られた。
「まあ、そう頭に血を上らせんな。 ウチの馬鹿弟子でも、囮ぐらいにゃ成るだろうからな。」
その言葉に反応したシュキの凍てついた眼差しに、二人は串刺しにされた様だった。
「……その言葉、二言は無いな?」
「ああ。 自分の身は自分だけで守れるように鍛えてやってるからな。」
冬の空から、白いものが舞い散る平原が振動する。
その揺れは一定ではなく、まるで移動する地震の様に4人を襲った。
足場が瞬く間に崩されて宙に投げ出された二人の鬼と二人の弟子は、咄嗟に変身鬼弦に指を掛けた。
「何だ…… コイツ……」
稀種魔化魍ノツゴの前に、サカエとソンジは威圧され、無意識の内に、テンキから渡されていた音撃管の引き金から指を離していた。
「よくぞ現われてくれた…… 今日こそ……」
朱鬼は歓喜に身を震わせながら印を結び、虚空から鬼撃弦『鬼太樂』を取り出した。
天鬼は一人ノツゴから距離を置き、岩場で両手の音撃弦を肩に担いで静観している。
ノツゴが毒針の尾を振りかざして地面に叩きつける。跳躍で直撃を免れたサカエとソンジだったが、ノツゴは未熟な二人に無数の針を飛ばした。
「サカエ! ソンジ! 撃ち落としてみろ!!」
天鬼が一喝するが、二人は空中で身を捻って避ける事に精一杯だった。
「何だよこの針!?」
「ヤマアラシより太くて…… 早い!!」
ノツゴが二人を攻撃している間、朱鬼は鬼太樂を奏で、光の矢を形成させた。
「そうだ…… もっと弄ばれろ! たとえ喰われても、私の音撃が確実に仕留めてくれる!!」
漸く音撃管で応戦に転じた二人だったが、分厚い甲羅状の皮膚は弾を無効にし、口から吐き出された糸に銃撃を遮られた。
「よぅし…… 良いぞ、良いぞ!!」
朱鬼が奏でる光の矢は大きさを増し続け、天鬼は黙って苦戦し続ける弟子達を見つめている。
やがて、ノツゴの糸がサカエの身体に巻き付いた。
「サカエ!!」
ソンジがサカエの身体に飛び掛かるが、ノツゴの口に近付きながら巻かれる糸が腕に絡み付き、二人は宙吊りになった。
「俺に構うな馬鹿野郎!!」
「放っとけるワケないだろ!? あきらめんな!!」
迫るノツゴの口に、二人は至近距離で音撃管を連発した。堪らず揺れる巨体。朱鬼がそれに反応した。
「今だ!」
ノツゴの口目がけて放たれた音撃奏『震天動地』は、サカエ達もろとも貫く勢いで、降り続ける雪を直線に飲み込んだ。
「えっ!? 朱鬼さん!?」
「うわぁぁぁっ!!」
次の瞬間、閻魔に払われた震天動地の矢は軌道を変え、雪空に光の粒となって消えた。天鬼は、直ぐ様釈迦でノツゴの糸を斬り裂いて二人を解放し、身体を魔化魍に向けたまま振り返った。
「あんだけ藻掻けりゃ上出来だ。 あとは見てろ。」
「っ! 邪魔をするな――っ!!」
朱鬼が叫ぶ中、天鬼は気を高め、身体から漆黒の炎を出現させる。
「天鬼――――っ!!」
身に纏った炎を掻き消し、凶々しい金色の角を全身に生やした天鬼・修羅は、ノツゴの鋏状の顎を音撃弦で斬り落とした。
「……究極音撃斬。」
呟いたその一言と同時に、左右の肩、手首、膝の角がノツゴの各部を貫きながら伸び、巨体を宙に持ち上げた。
「……『天地廻り』!!」
天鬼・修羅の前で、上下に並んで停止した6本の角が掻き鳴らされ、ノツゴの身体に修羅音撃が直接叩き込まれた。
ノツゴは瞬く間に粉砕されたが、その威力は魔化魍一体の破壊だけでは消費しきれず、空を覆う雲すら吹き飛ばす程の爆風が、地表を襲った。
朱鬼が吹っ飛ばされ、思わず身構えた二人だったが、天鬼がその身体を盾にして守ってくれた。
「貴様…… その力を弟子に見せる為に、私を騙したな!」
撤収の際、シュキはテンキに言い放った。
「悪いが、その通りだよ。 ……スマンな。」
晴れた昼下がりの空を見上げたテンキが微笑むが、シュキは凄まじい形相のまま、姿を消した。
帰りの車の中、サカエとソンジは無言だった。修羅の事、シュキの事、ノツゴの事等質問はあったが、初めて体験した『死』が過る戦いは、二人から思考を奪っていた。
そのまま新年を迎え、3ヵ月半が過ぎた。
テンキとさくらは、サカエを残してソンジを名古屋の知り合いに会わせに出掛けていった。
サカエは一人、課題の鍛練を終えると手持ち無沙汰になり、川に釣り糸を垂らしていた。風の肌寒さも弱まり、陽の温もりも増してきた。
「……春、か。」
そのまま夕暮れまで釣果を獲られず、寺田家に帰って風呂に入り、昼飯の残りを腹に入れると、縁側から月が見えた。
静かな山の夜だった。
庭の桜は早咲きで、既に八分程の花が開いており、時折夜風に揺らされ、花弁が一枚二枚と揺らめきながら地面に落ちる。
ソンジがここ数日、この場所で筆を動かし続ける理由が解った。遠くで足音が幾つか聞こえた気がしたが、サカエは桜と月に見惚れていた。
静かな山の夜だった。
寺田家の庭に、微かな足音が聞こえた。サカエが目をやると、碧い月の光に照らされた人影が一つ、佇んでいた。
「……」
「……」
まだ微かに寒い夜風の中、その影は浴衣を着ていた。
「……春香。」
「……元気にしてた? サッちゃん。」
夕方に祖母の家を訪れ、この間の引っ越しで回収しきれなかった幾つかのものを整理しに来ていると、春香は話した。
「この浴衣ね、お婆ちゃんが買ってくれたんだよ。 ……身体弱くて、お祭りとか、あまり行けなかったけど。」
微かに吹いていた風も止み、サカエの隣に腰掛けた春香は、変わらぬ笑顔を見せる。
「……身体、大丈夫なのか?」
サカエの問いに頷いた春香は、新たな引っ越しを告げた。
「……ちょっと、遠くに行くんだ。」
「そうか…… ま、元気でやれよ。」
流れゆく会話の中、春香は懐に忍ばせた封筒を出せずにいた。それをサカエに渡す事は、否応無しに二人の別れを告げてしまう。
やがてどちらともなく、桜と月を見つめるだけの時間が訪れた。奥の間の柱時計が、九つ、時を打った。
静かな、山の夜だった。
「さてと。 寝るかな。」
立ち上がって背伸びしたサカエは、襖を開けた。次に会えるのがいつかも解らぬまま、振り向く辛さに心を痛めながらも、笑顔を作った。
サカエがじゃあなと言いかけたが、春香は立ち上がってサカエに背を向けたまま、浴衣の帯を解いた。
「……お前、何やって――」
露になった春香の背中は月に照らされ、青白く思えたが、その中に二つ、暗黒の様な点があった。
「……春香、それ……」
バケガニの溶解液が付着した跡は、半年以上経った今も尚、春香の身体に残っていた。
ゆっくりと振り向く春香はサカエに歩み寄り、その胸に顔を埋める。サカエは震える身体にゆっくりと手を回して抱き締め、その細さ、その冷たさに驚いた。
「……」
春香の沈黙に答える言葉を、サカエは気付いていた。少し強く、それでも硝子細工を扱う様に春香を抱き締め、優しく囁いた。
「……心配するな。 離れてても、会えなくても…… お前は、俺が護る。 ……護らせてくれ。」
涙を流していた春香は顔を上げ、笑顔で頷いた。
つむじ風が庭を過ぎ去り、一時の間、無数の桜が月夜に舞っていた。
――静かな山の夜だった――
2011年。
「……解ったよ、コナユキちゃん。」
携帯を香須実に預けたイブキは烈風を手にし、ゴウキとバンキにソウキの事を告げた。
「……御師匠。」
「先程の地鳴り、直ぐ近くです。 まだ間に合いますよ、ゴウキさん。」
バンキにしては珍しく、確証を伴わぬ台詞だったが、サバキと共に無事でいて欲しいという願いの表れだった。
鬼達のベースに、雷神が到着する。
「お待たせっス!」
トドロキと日菜佳が、再会の挨拶もそこそこに、状況を聞いた。
「……ウチの旦那も呼べば良かったかしら。」
「東北も夏の魔化魍が現れてるから、エイキさんに無理言えませんよ。」
香須実に言われ、フブキは溜息を一つして、烈氷を持った。
「イチゲキさんが来たら、さっきのポイントだと伝えてくれ。」
頷く香須実と日菜佳は、火打石を取り出した。
1986年。
サカエが目を覚ますと春香の姿はなく、枕元に封筒が一つ置かれていた。
中を読むと、テンキ達への感謝の言葉、引っ越し先の住所、ソンジの雛鳥の絵への礼、そして、手術の事が書かれていた。
結びの言葉の最後に書き足された一文は、春香がここを去る前のものだと、サカエは気付いた。
『護られてばかりじゃなく、私も強くならなくちゃ。 ありがとう、サッちゃん』
精一杯の強がりと別れが込められた、春香の字は、涙で霞んだ。
5月、珍しく鍛練が休みの日。テンキは瓢箪を手に、サカエだけを連れて夕暮れの山に登った。
「……師匠。 ソンジはどうしたんです?」
「ああ。 アイツには、この前名古屋で話してある事だ。」
下の町が見渡せる岩場に腰掛けたテンキは、サカエを隣に来させた。
「……年をとると、昔話がしたくなっちまう。 ま、聞いてくれや。」
そう言って笑うと、テンキは夕日を見つめながら、語り始めた。
――古来より、魔化魍から人を守り続けてきた鬼。鬼に助けられた人々はやがて、山奥で修業を積み、鬼に変身する能力を得た。
また、鬼を支援する猛士を発足し、中には鬼に弟子入りする者も在た。
つまり、かつての『鬼』は、ヒトではない『鬼』だった。
明治の中頃、ある鬼とその弟子の人間が、荒れ狂う雪山で赤子を見つけた。
子を孕めど、育てる貯えが無ければ捨てられる。当然の事で、仕方無い事だった。
狼に食い荒らされた小さな屍の中、必死で泣き叫ぶ赤子を手にしたのは、『ヒト』に変化した鬼だった。
人を護る為、魔化魍を倒すだけの腕にこの生命は眩し過ぎたが、弟子に説得されて育てる事にした。
鬼の中には、護る生命を戦で散らす人間に絶望し、魔化魍の様に闇へ堕ちていった者達もいたが、この鬼は優しかった。
旅暮らしで乳飲み子を育てる事には手を焼いたが、赤子は鬼と鬼の弟子に愛され、成長していった。
鬼闘術を身に付け、魔化魍の事を識り、山野の生態を学び、猛士から変身鬼弦を授かった。
やがて育ての親であった鬼の2世紀を跨ぐ寿命が尽きると、弟子であった人間がその名と鬼の力を受け継いだ。
少年に成長した赤子は変身能力を14の時に会得したが、まだ魔化魍を倒せずにいた。
時代が移り、関東大震災。
瓦礫の中から被災者を助ける為に変身した鬼と少年の姿に、周囲の人々は恐れを抱き、殺そうとした。
少年は怒ったが、元人間の鬼は悲しみ、甘んじて人々に叩き据えられ、刃物で突き斬られ、その夜、自らの心臓を抉った。
そして少年は、鬼の能力と、『天鬼』の名を受け継ぎ、50年以上魔化魍と戦い続けた――
夕暮れの山々は、深い緑にオレンジを重ね、テンキの言葉を聞いていた。
「……純粋な『鬼』が、鬼を捨てる代わりに使える力が…… 『修羅』だ。」
サカエは、修羅を会得する為、純粋な鬼に成る為にはどうすればいいのかと訊ねた。
「……血だ。 『鬼の血』を飲んで、身体を鬼のモノに変える。 ……そうすると、俺やシュキみたいに、肉体を若くする高等呪術も使える様になる……」
だがな、と、テンキは続けた。
「鬼の寿命は、約250年もある。 永いぞ…… 笑顔より、泣き顔見る事の方が多い。 面白ぇ事なんか、辛い事の1割もねぇ。」
サカエは想像したが、具体的に理解出来る筈もなく、次のテンキの言葉を待った。
「ま、それでも楽しいから良いがな。」
明るく言い放つテンキに、サカエは訊いた。
「……楽しいんですか? 百何十年も生きるのって……」
立ち上がって土を払ったテンキは、夕日を見つめて言った。
「……死んでったヤツがいた。 だが、生まれてくるヤツもいる。 壊れるモンがありゃ、作られるモンがある。 無くした事の後に、見つけた事がある。 ……そんなのが、楽しいんだなぁ。」
テンキは、町を指差した。
「ココから見てる景色も変わってきたが、この山はこの山、あの町はあの町だって事は変わらねぇ。 世の中、栄枯だの、交代だのと言われても、結局は、生命が廻ってるだけだ。」
「……生命が、廻る……」
「ああ。 前に雛鳥を巣に帰せなくても、あの巣には、今年も雛鳥が生まれてる。 それも生命が廻るって事だ。」
テンキは、腰から瓢箪を手にして、栓を取った。
「喧嘩しても仲直りすりゃ良い。 別れても、また会いに行きゃ良い。 諦め掛けても、また始めりゃ良い。 ……そんなんで良いんだ、世の中は。」
サカエが見つめる瓢箪は傾き、黒い中身が足場の下、森に零れ墜ちていった。
「……だからこんな楽しい思いは、自分だけのモンにしときてぇ。」
空になった瓢箪の中身は、先代天鬼の『鬼の血』だった。
「お前達にゃ、修羅の使い方だけくれてやる。 だがそれは、自分だけの力がどれだけ有るのか、どれだけ強いのか、解ってからだ。」
瓢箪に栓をし直したテンキは、山を降り始めた。急いで後を追ったサカエは、大きな声で訊ねた。
「師匠! それは……」
振り返ったテンキが、歯を見せて笑う。
「取り敢えず、免許皆伝だ。 閻魔と地獄、管と棒をくれてやるから、やれるだけやってみろ。 ……それとな。」
テンキは懐から、折り畳んだ一枚の半紙を取出し、サカエに預けた。
「一人前になると、鬼の名前ってのが要るんだよ。 俺は一応隠居させて貰うが、お前達には別の名をやるからな。」
夕日に照らされた半紙には、テンキ直筆、サカエの鬼としての名が、記されていた。
「師匠…… ありがとうございました!」
『裁鬼』誕生の瞬間だった。
2011年。
トドロキ達から、一足遅れてベースに到着したイチゲキと春香は、待機していたフブキと立花姉妹から、サバキとソウキが戦っている事を知らされた。
「……でも、別のポイントで、変な魔化魍の声がするのよ。」
フブキから渡されたディスクを再生するイチゲキは、聞いた事が無い鳴き声に首を傾げた。
「……フブキさん、春香さんを頼みます。 僕は魔化魍の方へ。」
香須実が大丈夫かと訊いたが、イチゲキは装甲声刃を見せた。
裁鬼・修羅の腹を漆黒の炎が、送鬼・修羅の胸を深紅の炎が貫いた。足元の川に崩れ落ち、水飛沫を上げる二人の鬼。送鬼は修羅を解き、霞む視界を裁鬼に向けた。
「……裁、鬼。」
俯せのまま修羅を解かれ、動かない裁鬼の顔が、一瞬、変身を解いた。
「サバキ……!?」
瀕死の身体を起こし、顔の変身を解いたソウキは、動かぬままの裁鬼に近付き、その身体を起こした。
「起きろ、サバキ。 起き……」
咳き込んだソウキの口から、鮮血が裁鬼の顔に飛び散った。
「……ソン……ジ…………」
首を動かした裁鬼に、ソウキは頷いた。
「……ハルちゃんが待ってる。 ……帰る、ぞ……」 「ハル…… 帰る……」
「おい。 女房の名前、忘れて…… ねぇだろうな。 帰るぞ、サカエ。」
「ハル…… にょうぼ…… ハルカ……」
「そうだ、サカエ。」
裁鬼の身体を抱き起こし、肩を貸したソウキの口から、再び血が零れる。
「……ソンジ……」 「……どうした?」
「……ありが……とう……」
照れ笑いするソウキが、歩みだした足を止めた。
裁鬼とソウキを、狐の面をつけた、魔化魍の群が囲っていた。
八之章『有難う』 完
【次回予告】
サカエから裁鬼へ。時代は移り、出会いと別れが少年を成長させていった。
生きる道を見つけ、教わる事を教える様になり、戦い続け、戦いから身を引いた時、テンキの言葉を思い出す。
九之章/零之巻 『サバキ』
98 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/03/31(金) 18:37:37 ID:QOu4APNX0
三の巻き「宿命る運命(さだまるサダメ)」
2003年5月_____。
辰洋は校門の前である人を待っていた。
春休みの終わりに、3年生になって学校が落ち着いたら、フブキと魔化魍退治の現場に行く約束をしたのだ。待ち合わせ時刻は6時45分。あと2分だ。
フブキさん、時間にルーズだからなぁ・・・・あと10分は・・・
フブキは30分後に到着した。
「ゴメンゴメン、今日はちょっと道に迷っちゃってね。」
「またですかぁー?この前はたしか商店街の迷子センターにいましたよね?」
そう。フブキはとても方向音痴なのである。だが、それでも山道で迷ったことがないのは、本能の成せる技であろうか。
「んん・・・まぁ、はやく行こうか!」
辰洋はそれ以上責めるのは可哀想だなと思った。
99 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/03/31(金) 18:38:28 ID:QOu4APNX0
明日は土日。キャンプ状態で野宿しながら魔化魍を追うことになった。
地元の歩である沢上さんの情報だと、ヤマアラシかヨブコだろう。
辰洋は春休み何度かフブキと同行してアウトドア気分で探索をしたことがある。
佐久間のおやっさんが言うには、猛士でもない人間が鬼について飛車と同じ役目をするのは極めて珍しいことらしいが、
辰洋にとっては極自然なことだった。
今ではDAの扱いにも慣れ、アウトドア料理や山の歩き方も自然と身についた。
受験のストレスを晴らすには自然とのふれあいが一番いい。母はいつもそう言っていた。
DAに探索ポイントを入力し、地図に虫ピンを刺し終えると、フブキを呼んで起動してもらった。
辰洋はフブキにDAにも心があると学んでいるため、機械として見ないようにと心がけているが、実際は難しい。
フブキはいつもDAが戻ってくるまで、トレーニングをしている。鬼たちの間では当たり前だが、鍛えることの意味が全く理解できない辰洋はフブキを尊敬の目で見ていた。
ふと、辰洋にはあることが脳裏に浮かんだ。それは昔、母に「アンタ、将来の夢とかある?」と聞かれ、「別に〜、高校卒業したら、適当に工場でも行って稼ぐよ。」と即答したあの日だった。
いまの自分の夢はまさしくコレじゃないか?いまならハッキリとした答えがある。
今、僕は楽しい。こうやってDAを扱って、山に居て、フブキさんと鍛えてる。
これが自分の本当の夢なら、今、言うべきじゃないか?
よし、と肝を据わらせフブキに話す。
「フブキさん、ちょっといいですか?」
「ん、何?」
「僕を・・・猛士に入れてください!!」
辰洋の中で、全ての音が止まった_______
100 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/03/31(金) 19:08:06 ID:QOu4APNX0
「それはどういう意味?」「え・・・・???」「だから、何で入りたいの?」「それは、フブキさんと一緒に魔化魍を倒していきたいからです。」
「つまり、ボクの弟子になりたいと?」「はい。それ以外ありません。」「いつ決めた?」「たった今です。」「一人で決めたのか?」「はい。」
「・・・・・ダメだ。」「な・・何でですか!?」「小一時間、しかも独断で決めた人生。いいことにはならない。」「・・・・・・・・。」
「本気でやりたいなら・・・俺について来い。」
「・・・・!?」
「なんだその腑抜けた顔は!?」
「???」
「鬼になりたくないのか!?」
「いえ!なりたいです!」
「なってどうする!?」
「魔化魍を倒していきたいんです!」
「魔化魍を倒したからといってどうなる!?」
「一人でも多くの命を守ることができます!」
「守ったからといってお前に何かいいことはあるか!?傷付くだけだぞ!?」
「命を守っても、自分にいいことはありません!」
「・・・・」
「でも、守らなければ・・・・守れなかったら、悔いが一生残ります!」
「・・・・・」
「ボクは一生を人助けに捧げるつもりです!」
「・・・・・合格。」「・・・・え・・?」
「お前を弟子として認める。」「??????」
「なんだ、嫌なのか。」「あ、いえ、はい・・あ、ありがとうございます!」
「吉野のほうには俺から伝えておくから。」「は・・はい。」
「それから、今日から『辰』と呼ばせてもらう。」「はい!」
「明日から魔化魍探索だ。今日はもう寝ろ。」「じゃあ、明日から師匠ですか?」
「当たり前だろう。」「じゃ、今度から師匠と・・」
「フブキさんでいいよ!」
101 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/03/31(金) 19:36:17 ID:QOu4APNX0
三の巻「宿命る運命(さだまるサダメ)」
終わり
==========次回予告============
『辰』の名を背負った少年。『鬼』となりて万物をも背負う。
その背がまだ鍛え足りぬ頃は、師と共に邪を清めんと、山に向かう。
そこで少年が見た師の姿・・・・・・。
四の巻「紅蓮き翼」乞うご期待!
102 :
DA年中行事:2006/03/31(金) 21:25:22 ID:19zNxLrB0
さて、すでに桜も散り始めたところもあるだろうし、急いで投下せねばと思っていた矢先に
裁鬼SSさん>
いよいよ、ですね。続きが気になる。でも、終わって欲しくない。裁鬼SSメインストーリー
を読んでいた頃の、あの緊張を思い出します。
風舞鬼SSさん>
おっ、弟子入りしましたね。風舞鬼さんの飄々とした感じが、なんともツボです。
>>87さん
ありがとうございます。
オレに限って言えば、予告するのは8割方書きあがったけど、結末がなかなか決まらない
時なんです。予告打って自分に鞭入れてます。
では、番外「寄り添う獣」巻の二、今回は前編を投下します。
長い話になってしまいましたが、お付き合いください。
巻の一は、>>19-
>>24 桜の木はその薄紅色の儚い花を咲かせる為に、春先になると木全体が淡紅色を帯びる。
村はずれの池のほとりにそそり立つ巨木も、まさしくその色を纏っていた。
花こそ咲いていないが、弱い月の光に照らされ、巨木は自分のまわりの景色までも淡紅色に染めている。まるで、桜色のため息を漏らしたかのように。
どれほどの年月、この巨木はその営みを続けてきたのだろうか。
春に数え切れぬほどの花を咲かせ、雨に風にその花弁を散らし、青々と葉を茂らせ、やがて葉の色を紅く染め、惜しげもなく寒風にその葉を落とし、降り
積もる雪に耐え、そして再び咲く花の色をその幹に枝に映す。
数百回・・・・いや、千回か。それ以上か。
樹木に数の概念は無い。無いからこそ、同じ営みを、営々と続けられる。
今、巨木はその枝に花よりも早く、黄赤の生き物を咲かせている。まるで大輪の花のように。
キアカシシ。
小さなカラダの誇り高い獅子達は、皆黙したまま、花の季節を間近に控えた桜の巨木に憩っていた。
今年も、桜の季節が来る。
そうだ、あの鬼と、初めて出会った季節が来る。
ムジナは、うららかな陽射しを浴びて、とろとろと眠っている。
激しい風に猛った波が、島に噛み付いてくるような厳しい冬を終え、季節は春になろうとしていた。
「団三郎、団三郎、またお前は寝ているのか」
懐かしい友の声が、ムジナの名を呼ぶ。島の百匹を越すムジナの総大将であり、人間ですら祠を祀るほどの神通力を持つ、魔化魍の名を。
「ああ、なんだかくたびれてな。俺も歳をとった。お前と化け比べをしていた頃が懐かしい」
「何を気弱な事を。国中にその名を轟かせた二つ岩の団三郎が、齢を二百も重ねぬうちに、弱音を吐くとは心外な。カシャやフナユウレイが聞いたら、手
を打って喜ぶだろうさ。今度こそ団三郎の皺首かっさばいて、金脈を吐き出すこの島を手に入れようとな」
「ハ、ハ・・・何、そんな事になれば、年寄りムジナなぞいなくとも、我が眷属が黙ってはおるまいて」
「お前という総大将がおらねば、始まらん。おい、客が来るぞ」
「・・・・客?」
「彼方を見やれ」
あの船だ・・・・そう言って、懐かしい気配は消えた。ムジナは大儀そうに細く目を開く。眼下には目も眩むような断崖絶壁。だがここは、あと三月もすれば
一面に萱草(かんぞう)の花が艶やかな景色を作る。老いたムジナは、かつて友と愛でたその景観を思い出しながら、空の色を写す穏やかな海を見る。
「・・・・ほう、珍しい客だな」
人の目には見えぬ波の彼方に、団三郎はその気配を確かに感じ取っていた。
「禅達(ぜんたつ)にでも、相手をさせるか」
独り言を呟いて、再び団三郎は目を閉じる。この魔化魍は、年老いていた。
「ようおいでなさいました。まずはこちらで・・・・」
若い、というよりまだ幼い見習い僧に案内されて、男は足を濯ぐと本堂の長く静謐な廊下を進む。
この男もまた、僧形であった。
身に纏った衣には、長く旅をした者特有の埃っぽさはあるものの、無駄の無い足の運び方や身のこなしに疲労の色は微塵も無かった。
見習い僧は彼の前に立ち、長い廊下を案内しながら、ちらりちらりと振り返っては客の顔を伺う。
客の瞳は、見事な碧眼であった。
生まれ付いての碧眼で、人々に好奇の目で見られる事には慣れていた彼であったが、見習い僧の遠慮がちにこちらを伺う様子が、いかにも本来の子供ら
しい好奇心の現れのようで、微笑ましいとさえ感じられた。
果たして、カチリ、と視線が合う。
「拙僧の顔に、何か?」
青い眼に微笑まれ、十二〜三の見習い僧は、慌てて顔を俯かせる。「い、いえ・・・・何もそのような・・・・・」
「何、遠慮する事は無い。問われてみよ。『その青き眼によって覗かれる暗夜もまた、青きものか』と」
冷たい汗をかく見習い僧が、声も出ずに恐縮していると、障子戸の内からふいに大きな笑い声がした。見習い僧が顔を上げずに一礼し、膝をついてその障
子を開ける。
痩身の初老の僧が、顔中を笑みにして、そこにいた。
「今日のところは、それでお許し願えぬか。斯様な田舎寺、訪ね来る客人すら珍しいゆえに」
そう言って、また笑う。師に助け舟を出された見習い僧はますます恐縮して、まるで廊下に告げるように平伏す。
「禅達様、凍鬼様をお連れいたしました」
「うむ。桜達(おうたつ)、凍鬼様にお茶をお持ちせよ。よいな、急げよ」
「は、はいッ」
桜達と呼ばれた少年は、凍鬼に一礼すると、ぱたぱたと廊下を走り去った。
「ああ、また走って・・・凍鬼様、弟子の非礼を許されよ。まだ子供ゆえ」
「拙僧こそ、桜達殿に意地の悪い事をいたしました。お許しを」
禅達の前に腰を下ろし、凍鬼も素直に頭を下げた。
「それにしても凍鬼様、今桜達にされた問いは、もしや」
禅達は笑みを崩さない。だから、凍鬼も笑む。口元だけで。
「左様。噂は聞いて居ります、禅達和尚。いや、大狢二つ岩の団三郎が四天王、東光寺の禅達狢」
凍鬼の青い眼が光を帯びる。紛う事無き、鬼の眼光。
室内は、沈黙する。
ただどこかの部屋に焚かれている、香だけが遠く香っていた。
「凍鬼様、確かに拙僧はムジナ。人の身ではなく、浅ましい化け物の眷属。ならば、どうなさるおつもりか。鬼である御身は、拙僧を調伏・・・いや、退治なさ
るか」
静かに、しかし通る声で、禅達は問う。
「魔化魍なれば、人と同じ世に生かしておくわけにはいかぬ。それが我等鬼に課せられた宿命」
低く、そしてはっきりと、凍鬼は答える。
廊下で、何かが壊れる音がした。
破れるほどの勢いで、障子戸が開けられ、小さな塊りが部屋の中に飛び込んできた。桜達である。
必死の形相で師を小さな背中に庇い、凍鬼に向かって低く唸る。僅かに開いた口元からは、人のものではない牙が覗いている。さらにその腰からは、人に
あってはならないものが、ぴりぴりと毛を逆立てた状態で生えている。
「愚か者ッ!!」
パン、と乾いた音がして、桜達の体が横側に吹き飛んだ。勢い余って襖に大きな穴を開け、ようやく桜達の体は畳の上に落ちた。
「お前ごときが敵う相手であるものか」
墨染めの衣の中に大きな手をしまいながら、禅達は言い放つ。暫らく目を回していた桜達であったが、じきに気が付くと、足元もよく定まらぬまま、再び禅達
を庇おうと凍鬼の前に進む。
「敵わぬまでも・・・敵わぬまでも、私は、禅達様をお守りせねばなりません」
口の端に血をつけ、目に一杯涙をためて、桜達は両手を広げて凍鬼を阻む。
「ほう・・・・」凍鬼は座ったまま、桜達を見る。「子ムジナが、親を守るか」
長く諸国を歩き、様々な魔化魍を倒してきたが、こんなふうに情を見せる魔物には出会ったことが無い。
「違う!」桜達が子供らしい高い声で異を唱える。「禅達様は親ではない。親は、人に殺された・・・・」後は言葉にならなかった。
「もうよい、桜達。下がりなさい」
「しかし、禅達様が」
「初手から退治する気であれば、もう私もお前も命はあるまいて。桜達、鬼を見くびるな。彼等は人であって、人でない」
厳しく言いながら、懐紙を取り出し、涙に汚れた桜達の顔を拭いてやる禅達の手は、優しい。
納得したのか、諦めたのか、桜達はもう一度ちらりと凍鬼の青い瞳に振り返ると、一礼して部屋を出た。
「あれはムジナと狸の間に産まれた子でしてな。親は、ほれ、凍鬼様もご覧になったでしょう、金山を。あそこで使うふいごにされる為、狩られたのですよ」
凍鬼は島に渡る船の中で船頭が語っていた、黄金を生み出す山の話を思い出した。
金の混じった鉱石を精錬する際、狸の皮で作られたふいごを用いるのだという。だから、この島には狸が多い。人が持ち込んだ獣が、自然に増えたのだ。
しかし、島の者はその動物を狸とは呼ばない。いや、正しくは、明確に区分する。通力を持ち、神格化され、信仰の対象にされているものは、二つ岩の団
三郎をはじめとするムジナ。彼等は島の者に害を為そうとする魔物から、災厄から、その通力を持って護っているのだという。
事実、この島にはムジナ以外の魔化魍が出ない。
魔化魍が、人を護る。
そんな逆説めいた事が、真実あるのだろうか。
奴等は人を餌にし、災厄を齎し、我等鬼によって清められねばならぬ存在のはずだ。
しかし、眼の前に座る僧形のムジナは、師によって禅達と名付けられるほどの熱心さで教義を学び、行を修め、問答すらする。
「拙僧を、我等眷属を、どうなさるおつもりか」にこやかに禅達狢が問う。「凍鬼様には凍鬼様の、いや、鬼の教義がございましょう。それに従い、我等を滅
しますかな」
凍鬼は、桜達とは別の見習い僧が新たに運んで来た茶を、一口含む。
「人にとって、害であれば滅しましょう。しかし、そうでなければ・・・・・」
迷いが、答えを鈍らせる。見逃すのか、魔化魍を。俺が。鬼の俺が。
障子越しに、小鳥の囀る声が聞こえた。
「答えは、出ませんかな。何、拙僧も答えを望んではおりませなんだ。打った手の右から音がでたか、左から音がでたか、その答えを求めるような愚問で
ございます。所詮は獣の浅知恵。何卒お許しを」
庭の小鳥が、賑やかにはばたいた。小さな足音が、玉砂利を踏んで近付いてくる。
「禅達様、禅達様」先刻の桜達よりも幼い声が、庭を駆けて廊下に上がった。名を呼ばれた初老の僧が、思わず苦笑いする。「行って参りました!お手紙
をお預かり・・」
元気良く障子戸を開けた手が、中に客の姿を認めてようやく躊躇する。
「これ、表から廻れと何度も申しておるに。また庭を走ったか、行儀の悪い」
十にも満たぬほどであろうか。頬を赤く上気させた見習い僧は、慌てて頭を下げる。
「お許しを!・・・あのう、あのう、あちらの和尚様からお手紙を・・・・」
大事に両手で持って来た書状を、禅達に差し出す。その衣のそでに、薄紅色の花弁がついていた。書状を受け取りながら、禅達もその花弁を見ていた。
「あの桜が、咲いたか」
叱られた事も忘れ、小さな見習い僧が顔を綻ばせる。「はい!それは見事でございました!」
「そうか、今年は少し早いようだな。うむ。桜達を呼んでおいで」
「はい、禅達様!お客様、失礼いたします!」
閉めた障子に映った影は、またしても駆け出していた。注意しかけて諦めた禅達が、嘆息しながら自らの禿頭をつるりと撫ぜる。その様子を見て、凍鬼は
思わず笑った。
「子供ゆえなのか、獣ゆえなのか、拙僧の教えが悪いのか・・・・」
「では、今の童も」
「桜達と同じ、半妖半獣。みな同じ日に、親を亡くしましてな。行き場を失い、同じ桜の木の根元で身を寄せ合って震えておりました。親とはぐれた獣が命を
失うは摂理。それを拾い、あまつさえ人に化けさせ、手元に置いた拙僧は、やはり摂理を撓めた破戒僧でございましょうな」
「親の加護を求め泣く童に、憐れの心を抱くは人として当たり前でございましょう」
言ってしまってから、凍鬼は己の言葉の矛盾に気付く。
「凍鬼様、拙僧はムジナ。貴方様が呼び表すところの、魔化魍でございます」
腰の音角が重い。身近すぎる魔化魍の気配に、反応しているのだ。魔化魍を前にして何も動こうとしない凍鬼を責めるように、鬼面を配したそれはびりび
りと震え続ける。
と、廊下と隔てる障子戸に、畏まった小さな影が映った。
「禅達様、桜達にございます。お呼びでございますか」
110 :
DA年中行事:2006/03/31(金) 21:58:12 ID:19zNxLrB0
(キュイィィィィィン)番外「寄り添う獣」巻の二 後編 予告(モワッモワッ)
「お前は、親をあやめた人を憎いとは思わぬのか」
「禅達様に、憎むなと教えられました。親をあやめたのも人。しかし、我々の命を救ったのもまた、人でございます」
その枝は縦横に伸び、それでもまだ伸ばし足りぬとでも言うように、たわわに花をつけている。そしてこの香り。
諸国を行脚し、鬼として闘う他はその全てを仏に捧げる生活を送って来た者の心すら惑わせる。
『咲いた花なら 散らねばならぬ 恨むまいぞえ 小夜嵐・・・・・・・・』
終わるのか、オレ!ちゃんと書けよ、オレ!現在オレの頭の中で、全力妄想中!!近日投下!(ケロケロケロ)
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1132016142/ >278 :名無しより愛をこめて :2006/03/31(金) 01:25:08 ID:SvJqByCM0
>本物が手に入らなかった代わりにDVD-BOXの解説本を手に入れたよ
>
>12枚に及ぶ特典ディスクに、仮面ライダー響鬼とボウケンジャーのコラボレーション
>「プロジェクトY」の完全新規映像が入っているそうだ
>ボウケンジャー全員が命を犠牲にして全てのプレシャスを並行宇宙の彼方に葬ってから5年後、
>猛士と日本ブレイク工業がサージェス財団の支援を受けて開発した巨大リバーシブルDA
>「音式神・絃」の起動テストに、正式に鬼になった桐矢とあきらがパイロットとして立ち会う話なんだが
>そこに新種の魔化魍が現れてえらい事になるらしい
>
>一線を退いた音撃軍団が全員終結(なぜか死んだはずの裁鬼や斬鬼や朱鬼まで)したり
>ゴーゴーマシンと音式神・絃が合体した「ダイボウゲン」が大暴れしたり
>はっきり言って滅茶苦茶な内容だそうだが、どうにかして見てみたい…
112 :
高鬼SS作者:2006/03/32(土) 02:22:16 ID:ax05wUkr0
職人の皆様、乙です。
こちらも一本投下を。
え〜、「宴の始末」ではございません。これはもうちょっと練らせて下さい。
今回は「それぞれの責任」に名前だけ出てきた聖鬼と怒鬼に関して書いてあります。
両者の設定の元ネタは某閣下と某忍者漫画の主人公です。
それではどうぞ。
1976年、霜月。
研究室内でコウキとあかねが会話している。二ヶ月前にテングとの戦いで負傷したセイキとドキについてだ。
「あの二人、揃って退院したらしいわね」
「ええ。しかもいきなり実践復帰らしいですね……」
で、今度は何の用事ですか?珈琲を飲みながらコウキがあかねに尋ねる。
あ、やっぱり分かる?そう言うとあかねは本題を切り出した。
「あの二人の実力は知っていると思うけど……、やっぱり心配だから付いていってあげてもらいたいのよ」
「それは別に構いませんが、あのコンビにそういう心配は不要なのではありませんか?」
それがね……。あかねは急に真剣な面持ちになるとこう言った。
「稀種が出たのよ。野田っていう『歩』の人が目撃したんだけどね、それが猛士のデータベースにもほとんど記録が残っていないのよ……」
コウキがセイキ達のキャンプに着いた時、二人の姿はそこになかった。代わりに、セイキのサポーターのまつが火をおこしながら待っていた。
「あ、コウキさん」
コウキの姿を確認すると頭を下げて礼をするまつ。
「セイキとドキは?」
「お二人ならこの近くへ水を汲みに。それよりもすみません。わざわざ応援に来ていただいて……」
そう言うとまつは再び頭を下げた。
しばらく二人は談笑してセイキとドキの帰りを待った。
雄弁なセイキと寡黙なドキ。正反対の性格を持つ両者だが、どうした事かやけに馬が合うらしく、ほとんど一緒に行動している。
「結局私って二人分のサポーターなんですよね」
そう言ってまつが笑う。コウキもまつが淹れてくれた珈琲を飲みながら笑った。
と、そこへセイキとドキの二人が戻ってきた。
「げ、コウキさん!」
「御挨拶だな、セイキ。私が来る事は知っていたのだろう?」
まあそうですけど……。そう言うとセイキは気まずそうに頭を掻いた。
その後、セイキとドキの二人を交えてミーティングが行われた。
「あかねさんが調べたところ、君達が探している魔化魍はワイラらしいな」
「ワイラ……ですか?」
まつが尋ねる。コウキはあかねから聞いてきた情報を彼等に話し始めた。
「名前と姿以外は全く記録に残っていないという、稀種の中の稀種だ」
「それって倒し方も何もかも不明って事ですか!?」
セイキの問いにコウキが無言で頷いた。
「君は弦を、ドキは太鼓を使える。私は三種類とも使えるから今回は管を持ってきた。状況に応じてどれが効果的か判断しよう」
と、その時、探索に出していた式神が戻ってきた。
式神がもたらした情報を頼りに、コウキ達三人の鬼は山奥へと分け入っていった。
「君達、体の方は大丈夫なんだろうね」
「そりゃ勿論!おいドキ、お前も何か言え!」
セイキが自分の後ろを歩くドキに向かって言う。それに対しドキは一言「ああ」と答えただけだった。
しばらく歩いていると、最後尾に付いていたドキが急に立ち止まった。
「……来る」
一言そう呟くと、ドキはあっという間に近くの木の上へと跳び上がり、そのまま見えなくなってしまった。
「彼の周囲の気配を読む力は健在のようだな」
「ええ。……ああ、聞こえてきましたよ」
耳をすましてみると、遠くから何かが戦う音が聞こえてきた。感じからしてドキが童子・姫と戦っているようだ。
コウキとセイキは音のする方へと駆けていった。
不意を突かれたワイラの童子と姫は、ドキ一人を相手に劣勢を強いられていた。
掴みかかろうとしてくる童子を軽くあしらうと、ドキは自分専用の武器としてあかねに作ってもらった七節棍で攻撃を仕掛ける。
体勢を整えた童子は、今度はドキの右側面を狙って襲ってきた。彼は右目を失っている。そこに死角があると童子は踏んだのだ。だが。
七節棍の一撃が童子を弾き飛ばした。
「自分の弱点は知っているし、そこを狙われる事も重々承知だ……」
今度は背後から妖姫が飛び掛ってきた。その気配をいち早く察知したドキは、七節棍の節を伸ばして迎え撃つ。
突然飛び出してきた先端を避ける事が出来ず、眉間に直撃を喰らい地面に倒れ込む妖姫。
今度は童子が怪童子に変身して向かってきた。人の姿では不利と見たドキは七節棍を地面に突き刺すと、変身音叉を取り出す。
と、そこへコウキとセイキがやって来た。
「よお、派手にやっているか?」
ドキはセイキの呼びかけには一言も答えず、一瞥するとすぐに音叉を近くの木に当てて額に翳した。
「けっ、愛想無い奴」
そう言うとセイキも肩に担いだ音撃弦・黄金響を地面に置き、腕に巻いた変身鬼弦を掻き鳴らした。
コウキも音叉を打ち鳴らして額に翳しながら、怪童子と妖姫に向かって走り出す。
闇が、光が、炎が周囲を包み、中から三人の鬼がその姿を現した。
飛び掛ってくる怪童子の腕を掴み、おもいっきり捻りあげる聖鬼。次の瞬間、骨の折れる音が辺りに響いた。
「むはははは!やっぱり本当の姿は調子が良いぜ!」
聖鬼はよく鬼の姿こそが自分の真の姿であり、人の姿は世を忍ぶ仮の姿だと言っている。事実、鬼に変身すると調子が良くなる傾向にあるようだ。
鬼爪を出した状態で怪童子を殴り続ける聖鬼。相手が抵抗出来ないまでに弱ったのを見計らうと、「黄金響」を腹部に突き刺す。
怪童子の体は爆発し、塵芥が宙に舞った。
一方、高鬼は妖姫の攻撃を巧みに躱すと「蒼穹」で牽制しながら拳撃を叩き込んだ。
一発、二発と命中するが、三発目は大きく空振りしてしまう。
妖姫が体を高速で回転させ、地に潜ったのだ。
慌てて近くの木に背を預け、「蒼穹」を構えて周囲に気を配る高鬼。
と、いきなり怒鬼が樹上に跳び上がった。そこで神経を研ぎ澄ます怒鬼。
「……そこか」
樹上から飛び降りた怒鬼は、ある一箇所目掛けて七節棍を突き刺した。刹那、悲鳴とともに妖姫が飛び出してくる。
節を伸ばした七節棍で妖姫の体を絡めとると、すぐさま音撃棒・無明を取り出し滅多打ちにする怒鬼。
「無明」の強烈な一撃が妖姫の脳天を砕き、爆発四散させた。
「さて、後はワイラだな……」
高鬼がそう呟くと同時に、地面が大きく揺れだした!
慌てて近くの木陰に隠れた三人の鬼の前に、地面の中から犀と牛と蝦蟇と昆虫を混ぜ合わせたような奇怪な姿をした茶色の怪物が現れた。
ワイラだ。口に何かを咥えている。
「あれは……もぐらか?」
聖鬼が呟く。どうやらそのようだ。ワイラは口に咥えたもぐらをそのままむしゃむしゃと食べ始めた。
「あの大きさだと食欲もかなりのものだろうな」
「里に行かせるわけにはいきませんね」
高鬼は装備帯の背に取り付けてあった「大明神」を取り出し、構えた。
「感じからして太鼓か弦で相手をするべきだろうな。私は援護に徹する。あれは君達がやれ」
そう言うと高鬼は鬼棒術・小右衛門火をワイラに向けて放った。ワイラ目掛けて炎の雨が降り注ぐ。
ワイラが怯んだ隙を突き、聖鬼と怒鬼がそれぞれ「黄金響」と「無明」を手に走り寄った。
まず聖鬼が音撃震・悪魔を装着して「黄金響」の刃を展開し、ワイラに斬りかかる。
聖鬼に気を取られたワイラの巨体に、音も無く忍び寄った怒鬼が音撃鼓・血風を貼り付けた。すぐさま「無明」を叩きつける怒鬼。
清めの音がワイラの巨体を隅々まで満たしていく。悲鳴を上げ、暴れるワイラ。
「すぐに楽にしてやる!ありがたく思え!」
そう言うと斬撃で生じた傷口に無理矢理「黄金響」を刺し込む聖鬼。
「音撃斬・白い奇蹟!」
二人の音撃が共鳴し、次の瞬間ワイラの巨体が爆発四散した。舞い落ちる塵の中を満足気に歩いてくる聖鬼と怒鬼。
「見たか高鬼さん!俺達の実力を!」
「ああ。やはり私が来るまでもなかったようだな」
と、そこへまつが血相を変えて走ってきた。何かあったらしい。
「た、大変です!麓に、魔化魍が!」
まつと共に麓へと下りてきた三人の鬼は、滅茶苦茶に破壊された家屋の残骸を幾つも目の当たりにした。
但し不幸中の幸いというべきか、住人は皆避難していたので犠牲者は誰もいないらしい。
村の中を歩き回る三人。と、聖鬼が地面に開いた大穴を発見した。
「これって、ワイラか……?」
「もう一体いたというのか……」
慌てて周囲を確認する高鬼。だがワイラの姿は何処にもない。
ワイラが腹を空かして麓に下りてきたのは間違いない。だが一体何処に姿を消したのだろうか。
「村の人々は何処に避難しているのかね?」
「え?あ、公民館です。確か村の入り口にあったはずです」
高鬼の問いに答えるまつ。
「そちらには私が行こう。君達は引き続きこの辺りを捜索していてくれ」
そう言うと高鬼は駆け出していった。
村の入り口には一際大きな建物が聳え立っていた。公民館だ。
そしてその近くの地面から、今まさに赤い体色のワイラが飛び出してきたところであった。
「くそっ、悪い予感が当たったか!」
「蒼穹」から空気弾を発射し、牽制しながらワイラに向かっていく高鬼。
振り向き、高鬼に向かって節足動物さながらの足を動かし向かってくるワイラ。
前足を大きく振りかぶって、ワイラが高鬼目掛けて爪を叩きつけてくる。回避する高鬼。さっきまで高鬼が立っていた場所には大きな穴が開けられていた。
次にワイラは、舌を伸ばして高鬼を捕らえようとしてきた。これも回避する高鬼。
回避と同時に「蒼穹」から鬼石を撃ち込むが、頑丈なワイラの体には上手く減り込まない。
(くっ、やはりここは音撃鼓でなければ……)
だが音撃鼓を入れたバッグは、キャンプに置いてきてしまっている。当然取りに帰る事も出来ない。
音撃管で何とか倒す方法を模索していたその時、式神が現れワイラの周りを飛び交った。
高鬼が背後を振り向くと、そこには怒鬼の姿があった。
「これを」
そう言って「血風」を高鬼に放る怒鬼。
「恩に着る!」
「血風」を受け取った高鬼はすぐさまそれをワイラの体に貼り付けると、技の体勢に入った。
「喰らえ!音撃打・刹那破砕!」
二本の「大明神」を貼り付けられた「血風」目掛けて叩き込む高鬼。清めの音がワイラの巨体に響き渡る。
と、次の瞬間、「黄金響」を構えた聖鬼がワイラの背に飛び降りてきた。すぐさま渾身の力で「黄金響」を突き刺す聖鬼。
「おおお!音撃斬・白い奇蹟!」
「黄金響」に装着された「悪魔」の弦を一心不乱に掻き鳴らす聖鬼。
両者の音撃を受け、とうとうワイラの体は爆発四散し塵芥へと変わった。
「血風」を回収し、怒鬼に放る高鬼。
「さて、撤収だな」
高鬼が静かにそう言った。
いつの間にか日は山々の向こうへと沈みかけていた。橙色の光が三人の鬼の姿を照らしだす。
もう十一月だ。日が沈むと寒い夜が来る。
顔の変身を解除したコウキは、同じく顔の変身を解いたセイキ、ドキ、そして成り行きを見守っていたまつを促すと元来た道を引き返していった。
空には星が輝きだしていた。明日もきっと良い天気になるだろう。 了
黄金響をすんなりエルドラドと読んでしまった俺がここに。
「白い奇蹟」でピンときた30代もここにいる。
123 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/03(月) 12:55:58 ID:4WYwvkxr0
四の巻「紅蓮き翼」
朝______
辰洋はけたたましい獣の鳴き声で目覚めた。
目を開いた瞬間、獣の牙が辰洋を襲った。
「わぁああ!!」
囲まれている。どうやら、寝相の悪いせいで、テントから出てしまったらしい。
「早く再生して。」
フブキが欠伸しながら言った。辰洋のまわりにはすでに探索し終えたDAたちが集まっている。
「よ〜し、お前ら、覚悟しろ〜。」パチッと指を鳴らし、DAたちを円盤型にした。
フブキの方に目をやると、鍋をかき回している。ありゃ?お玉の色が妙だ。
「フブキさん・・・それ・・・音撃棒じゃ・・・・」
フブキはあっと気づいたかのような青ざめた顔で音撃棒をとりだし、タオルで拭いて神に謝った。
「い、いや〜寝ぼけちゃってサァ・・・・朝は苦手で・・・」
「しっかりしてくださいよ〜師匠なんだから〜」
「ハハハハハ・・・」
大爆笑したあと、辰洋はDAの解析に取り掛かった。
「はずれか・・・・・」
8枚目のリョクオオザルを解析し始めた。
『ワレラ・・・・・餌ヲ・・サイ』
「フブキさん!あたりです!」「なに!?」
『う・・・うわぁ・・!!¥×♂#%♀・・・!!!』
「やられたな・・・・」
『ウマソウダナァ〜・・・ホイッ!』
『モウチョット大キクナッタラ・・・ワレラノ兄妹ニ会イニ行クゾ・・・』
「このDAのポイントは!?」
「河のあたりです!」
「ヤマビコか・・・・」
「もう行きますか?」
「とりあえず、バイクで移動。やつら、早いから今日は辰も現場について来い。」
「はい!」
フブキはバイクを走らせた___________。
124 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/03(月) 13:30:03 ID:4WYwvkxr0
「よし。じゃあ、行くぞ。」「はい」
フブキと辰洋は山に入っていった。
しばらくすると、広い場所に出た。台風でも通りすぎたように木が不自然に折れ曲がっている。
「オマエラ誰ダ!」「鬼ガ何シニ来タ!」
不意に発せられた声に、辰洋は木の上を見上げた。
妙な衣装の男女がこちらをラリっているような目で睨んできた。
「セヤァ!」フブキはいきなり音撃棒・炎翔から、烈火弾を繰り出した。
「ワァア!イキナリ何スンノ〜卑怯ダ!」「卑怯ダ!」
童子と姫がフブキに襲い掛かってきた。すかさず音叉を鳴らし、変身。
猛烈な火柱に、怪童子が燃えた。それでも妖姫は無事だった。
炎をかき消し現れたのは、3本角の赤鬼。
風舞鬼は、妖姫を蹴り飛ばすと、鬼爪で突き刺した。
妖姫は白い血を噴出し、その返り血で風舞鬼の顔も白く濁った。
妖姫、怪童子は共に爆発四散。のこったのはその残骸と未だ見ぬ魔物―――いや、子供か。
「とりあえず、今日はふもとにベースを作ろう。この分じゃ、明日まで魔化魍は動かないし。」
「はい。じゃあ、DAを起動させときます。」「うん、お願い。」
フブキは自らの肉体に違和感を感じた。
==========提供読みだよ!=============
仮面ライダー風舞鬼は、ベンダイ、ヘイセイノートと、
ご覧のスポンサーで、お送りします。(声・田代正志)
125 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/03(月) 14:20:20 ID:4WYwvkxr0
『WEBE GOODBYE TO ME! AROUND THE WORLD 新しいことに〜
AROUND THE WORLD フミダスチカラで〜
AROUND THE WORLD 世界は変わるさ〜 BUT DON'T RUN AWAY CAUSE IF IT'S NOT OK!・・・・ピッ!』
「もしもし?え?出るの遅いって?だって着うた聴いてたんだも〜ん。西遊記のAROUND THE WORLD だよ?
・・・・それで何のよう?フブキくんが私に直接かけてくるなんて、4年ぶりかしら?フブキくんが電話で私に
『お前が好きダッ!!』て言った以来じゃない?・・・・・・・・・・・あ、そう・・・
まぁ、それはフブキ君の師匠のそのまた師匠から受け継いでるんだし・・・・・
うん、それがいいと思うよ。・・・・・・うん、分かった。連絡しとくね。じゃあ、バイバイ。ピッ」
「誰に電話したんです?もしかして・・・彼女!?」「違う違う。幼馴染だよ。猛士の銀やってる。」
「で、何のようだったんですか?」「・・・・・・・・ん、それはまぁ・・・もうすぐ分かるさ・・・」
ピィーーー
「あ、タカだ。」
126 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/03(月) 14:20:53 ID:4WYwvkxr0
辰洋はタカのディスクを解析し始めた。
獣の唸り声と、地鳴りが録音されていた。
「フブキさん、あたりです!」
「分かった。じゃ、行こう、辰も来い。修行の一環だ。」
「???」
昨日の童子と姫が現れた場所についた2人は、そのまま奥に進んでいった。
進んでいくうちに、強烈な邪気が二人を襲う。
「フブキさん・・・近い・・・ですか?」
「あ・・ああ。かなり・・・デカイ邪気だな・・」
もう既に草木など一本も生えていない。フブキは足元に目をやった。
そのとき、はじめて気がついた―――――――。
127 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/03(月) 14:27:37 ID:4WYwvkxr0
邪気の中心は魔化魍ではなく―――――――――――フブキ自身のものだったのだ。
「辰・・・俺から離れろ・・・・」
「え??」
「ちょいと・・・今から儀式みたいなものが始まる。まぁ・・・・離れて見てろ・・・・」
「・・・・・・はい・・」
辰洋はただならぬ気配と強まる邪気を感じ、少しはなれた岩場に身を隠した。
フブキの身体が音叉なしで鬼と重なっている。フブキと風舞鬼の意識の中での戦いが始まったのだ。
フブキの頭のなかで、師匠のあの言葉が浮かんだ・・・・・
『ワシはあの日、鬼になって初めて鬼を拒んだ。鬼のもつ本来の邪気をな。』
まさにその通りだ。フブキは必死に鬼の邪気を拒んでいる。鬼の邪気を出そうとしている。
意識の中で、人間と鬼がぶつかった。
フブキは邪気を振り払おうとした。しかし、振り払おうとするたびに邪気は意識の中に入っていく。
『受け入れよ!』師匠の声・・・・
『お前は鬼だ!』師匠・・・
『鬼には邪気がつき物だ!』・・・・・・・。
フブキは力を抜いた。それを見届けたのか、邪気は身体を抜け、身体が軽くなった。
と、何かがフブキの意識に入ってきた。紅蓮い・・・羽・・・・
それが拡散して、身体に染み渡った。
辰洋は見た。仰向けに倒れたフブキ、いや、風舞鬼の背中に炎の翼が出来ているのを。
その翼は、燃え尽き、風舞鬼の顔が人間に戻った。
辰洋は、「さくま」に電話し、フブキが倒れていることを伝えた。
四の巻「紅蓮き翼」 終わり
巻の二前編は
>>103から。
春の陽射しは、うららかを通り越して、少し暑いほどだ。
桜達の白い粗衣が、陽射しを照り返して眩しい。凍鬼はその白い背中に案内され、新緑の匂い立つ小径を歩いていた。
部屋に呼ばれた桜達は、師から客人を近所の寺に案内するよう申し付かった。
「拙僧も後から参りますが、ちとこの用事を果たしませんとな」と、禅達は手にした手紙を一瞥する。「なに、すぐに済む用事ゆえ、一足先に参られよ。
旅慣れた凍鬼様のお目にかけても遜色のないものがございましてな。桜達、頼んだぞ」
くれぐれも失礼の無いように・・・・師はそう言って、微笑んだ。
半妖半獣の子ムジナと鬼。そんな奇妙な二人連れは、交わす言葉すら無く、黙々と進む。途中顔見知りの農夫と擦れ違い、双方穏やかに会釈を交わす。
農夫の方は、見知らぬ僧形の凍鬼の碧眼に、一瞬ぎょっとしたようだったが、連れが桜達であった為かすぐに凍鬼にも笑顔を見せた。禅達とその弟子た
ちは、随分と島民に信頼を寄せられているらしい。
「お前は、親をあやめた人を憎いとは思わぬのか」
農夫が遠ざかってから、凍鬼が聞く。
「禅達様に、憎むなと教えられました。親をあやめたのも人。しかし、我々の命を救ったのもまた、人でございます」そう言って立ち止まると、桜達は凍鬼の
方を向いてぺこりと頭を下げる。「先刻は、失礼を致しました。どうぞお許しを」
桜達は、真っ直ぐに凍鬼の眼を見上げる。黒目がちのつぶらな二つの瞳。凍鬼の腰にぶら下がっている音角は、未だに反応を続けているが、桜達はそれ
を知らない。
「お前たちは、禅達様に助けられたのではないのか」
「最初に私たちを見つけて救いの手を差し伸べて下さったのは、これからご案内するお寺の和尚様と寺男の五平さんです。お二人が我々を狩人に引き渡
せば、私たちの命は無かったでしょう。その後、禅達様にお引き合わせ下さったのです」
「では、島の者は禅達様やお前たちの正体を」
「狭い島でございます。知らぬ者はおりませんでしょう」
相手を魔物と知った上で、親しい知己のように挨拶を交わし、相手によっては尊敬の念を抱き、それを当然として受け入れている島。
「凍鬼様は、長く諸国を旅されたと伺いました。よその土地では、我々のような魔物は、恐れられているのでしょうか」
再び歩き出した小さな背中が問う。
「人を襲い、害悪を齎す魔物は、恐れられている」
「それを倒すのが、凍鬼様の・・・・鬼の勤め、なのでございますか」
「そうだ」
「ならば、凍鬼様や鬼は、さぞや人々に感謝されておられるのでしょうね」
「それは・・・・・」凍鬼は口ごもる。感謝?鬼に化身し、命懸けで人々を危難から救っても、所詮鬼は人ではない。まつろわぬ民。時には恐れられ、敵視され
る。それゆえに、自らが鬼であることを明らかにする事を嫌う者も多い。
しかし、それでも自分は、鬼である生き方を選んだ。
人心に仏の道を説き、鬼となって人を護り、内なる仏と対話する。
「見返りを求めたら、功徳は積めんよ」
不思議そうに振り返る桜達の目に映ったのは、雪氷を自在に操る厳しい鬼の凍鬼ではなく、悲しそうに笑う一人の雲水であった。
風に乗って、花の香りがする。
ふわりと、夢のように。
ひんやりとする鬱蒼とした杉木立の向こうに、艶やかに淡紅色の明かりが灯っているかに見えたのは、桜の大木が今を盛りと花を咲かせている姿であった。
「あの木は・・・・」思わず凍鬼も息を呑む。その枝は縦横に伸び、それでもまだ伸ばし足りぬとでも言うように、たわわに花をつけている。そしてこの香り。
諸国を行脚し、鬼として闘う他はその全てを仏に捧げる生活を送って来た者の心すら惑わせる。
「私どもは、御所桜と呼んでおります。なんでもその昔、この島に流されたやんごとなきお方がお手植えされた木だとか」
歩を進めると、一層香りが強く漂う。花が、香りが、凍鬼を包む。包み込む。
枝の下に立ち上を見上げれば、まるで花が空すらも覆い尽くそうとしているかのようだ。一面の桜花。凍鬼の瞳が、その花の色を映す。
「変わった桜でございましょう」いつ来たのか、禅達が凍鬼の隣に立っていた。「一本の枝に、一重と八重の桜が咲くのですよ」
ふいに凍鬼は目眩を覚え、その場に片膝を付く。
「大丈夫かぇ、男前の坊様」甘い匂いをさせ、凍鬼を助け起こしたのは婀娜な年増女。だが良く見れば、その後ろには立派な尻尾が生えている。
「止せ止せ、お杉!お前さんじゃ歯が立たん坊様っちゃ」
「仏罰が下ンぞ!」
賑やかな笑い声にあたりを見回せば、いつの間にか大勢の花見客がめいめい酒や折りを広げている。先刻まですぐ隣に立っていたはずの禅達の姿も、そこに
混じっていた。
「お黙りゃ、酒屋の!お前の減らず口こそ、この坊様に凍らせておもらいな!」
「ひゃあ、怖ぇ怖ぇ。坊様、お気をつけなせぇ」
一座がどっと沸く。年増女は構わず優しく凍鬼を座らせる。「あんな性悪ムジナの言う事なんて、お気になさンすな」
「そう言うお前もムジナであろう」
「あれ意地の悪い。ムジナだってなんだって、かまやしませんでしょう。何も取って喰う訳じゃなし」
女の言葉に、思わず凍鬼の青い眼が細くなる。
「ホホホ・・・そんな眼をなさンすな。折角の二枚目が台無しじゃわぇ」
女は凍鬼に流し目をくれながら歩み去る。
人々は益々賑やかだ。知らぬ間に数が増えている。
目眩ましか。
身構えようとする凍鬼の袂を、小さな手がためらいがちに引く。
はっとして振り返ると、幾人もの子供が凍鬼の形相に驚いて泣き出しそうな顔をしている。「お坊様、お話を聞かせておくれよぅ・・・・」
ムジナの子、半妖半獣の子、人の子・・・・子供ばかりではない。大人たちも人と人外が同じく桜の下で花を愛で、語らい、酒を酌み交わしている。
「・・・・・こんな事が・・・・」
呆然とする凍鬼の脇を、子供たちが駆けて行く。
と、風が起こった。
桜花が一層、強く香る。
「ここは、そういう島でございましてな」
低い、しわがれた老人の声が、耳元で囁く。もう、大抵の事には驚かない。目を閉じ、気を込めて、心経を口の中で唱える。再び目を開けると辺りは夜。花見の客は、誰もいなかった。
「さすがは凍鬼様。鬼に化身せず、人のままお戻りあそばしたか」
月の光の届かぬ暗がりから、獣の息遣いが聞こえる。音角が慄くように、震える。
「お前が大ムジナの頭目か」
「団三郎、などと呼ばれておりますがな」
「魔化魍のお前とその眷属が、人を襲わずあまつさえ助けていると聞いた。俺にはとても信じられぬ。ゆえにこの目で」
「しかとその鬼眼で隅々までご照覧いただけたかぇ」
月明かりの下に、お杉と呼ばれた女ムジナが現れる。
「お疑いは、晴れましたかな」
裕福な隠居然とした、品の良い老人がその隣に並ぶ。
「ワシらはこの島が好きなんだっちゃ」
お杉を茶化した赤ら顔の男が、大きな声で笑う。
「左様。ここ以外に我等拠り所無し」禅達が頭上の桜を仰ぎ見る。「ご覧なされませ、凍鬼様。一枝に一重と八重、違う種類の桜も咲きまする。ここは、そ
ういう島なのでございますよ」
四天王。二つ岩の団三郎には、四匹の優れた配下がいると聞く。寒武戸(さぶと)のお杉狢、湖鏡庵の財喜坊狢、おもやの源介狢、そして東光寺の禅達狢
である。
「その昔、この老いぼれには友がありましてな」四天王の頭目たる団三郎狢だけが、姿を現すことなく闇の中から語りかける。
「魔物の友もまた魔物。年経た猫が変化した、猫又でございました。我は島に流された罪人の、恨みつらみから産みだされた魔物。しかしあれは、猫又は、
人に長く飼われた、慈愛から変化した魔物。その友が、我に説いてくれましてな。人を恨むなと。人に尽くせと。人は護るに値する生き物だと。我は、人を信
じ申した。否、友を信じ申した。そして、今があるのでございますよ」
ビィィン・・・・
三味線の冴えた音が響く。
『咲いた花なら 散らねばならぬ 恨むまいぞえ 小夜嵐・・・・・・・・』
艶のある声が、三味線に合わせて唄う。
そして、一陣の風が吹く。
あたり一面の、景色を変えるほどの、桜吹雪。
「おカシラさまッ!」
「団三郎様!」
四匹の狢が、散る花びらを追う。一片でも逃すまいと手を広げる。だが、花びらは指の間をすり抜け、天高く舞い上がる。
『凍鬼様、凍鬼様、老いぼれ狢の最期の頼み、お聞き届け下され』無数の花びらが、凍鬼の顔をかすめる。『この島に、我が眷属が住まう事、何卒お見逃し
を・・・何卒、何卒・・・・・』
やがて最後の一片が、月の光の中に溶け、大きな獣の気配は消えた。
振り返ると、御所桜と呼ばれる匂い桜は、一枚も花びらを落してはいない。月に照らされ、桜花は一層妖しく咲き匂う。
「そうか・・・・」凍鬼は呟く。「団三郎狢め、最期に俺を化かしたか・・・・・・」
あの大ムジナは最期の刻を迎えるにあたり、魔化魍のように灰塵に帰さず、散る桜に変化した。それは見事に。雲水は、青い眼で月を仰ぎ、笑った。
「よかろう、団三郎。お前もお前の眷属も、魔化魍であって魔化魍ではない。そんなお前たちを、この俺が清める事など到底できぬよ」
結局、凍鬼は禅達の客として、一月ほどをその島で過ごした。
鬼では無く一人の雲水として、読経し、座禅を組み、庭を掃き清め、眠る。時には幼い修行僧や近隣の子供らにせがまれ、旅先で見聞きした事などを話して
聞かせる。そんな穏やかな日々を送った。
彼の側には、常に桜達がいた。
何を語る訳でもなく、何を教わる訳でもなく、桜達はただ凍鬼の側にいた。寺の古い蔵書を時の経つのも忘れて読み耽っていれば、すっと灯りを灯し、鍛えの
為に山林に入れば、どこからともなく冷たい飲み水などを入れた竹筒を持って現れる。だが、小さい子供たちに旅の話などを聞かせている時は、一番離れたところにいる。
二人の間に、会話は無い。それは、凍鬼が島を離れる日まで続いた。
「桜達を、連れて行ってやってはもらえませぬか」
禅達の申し出は、唐突だった。しかし、師の隣でちょこんと座っている桜達の顔は、真剣そのものである。
「いや、拙僧は・・・・・」凍鬼は躊躇った。自分はただの雲水ではない、鬼なのである。魔化魍と遭えば、それを滅し清めねばならない。そこには計り知れぬ危
険があり、自分一人の身を護る事さえ困難である。
それでも、と桜達は頭を下げる。
「お願いでございます、凍鬼様。私は、もっと人というものを知りとうございます。この島にいるだけではわかりません。団三郎様も、禅達様も、島の外を長く旅をなさり、やはり人は護るに値するものだという信念を持たれたのだと聞き及びました、だから」
だから、自分もこの目で確かめたい。人を、世間を、魔化魍を。
――――――――そして、鬼を。
桜達は、まっすぐに凍鬼の眼を見る。思いつめたその瞳に、迷いは無い。
一つ息をついて、凍鬼は答える。「辛い目に遭うぞ。それでも良いか」
「はい!構いませぬ!」
ここに滞在している間、一度も見せた事の無かった笑顔は、子供らしい輝きに満ちていた。
春の海は、穏やかに凪いでいた。波はことごとく煌き、さながら満天の星を昼の海に落したかのようである。
船は金山で産出された金をその船底にどっさりと積み、海原に漕ぎ出す瞬間を待っている。
「凍鬼様、桜達はきっと貴方様のお役に立ちましょう」船着場で禅達が囁く。「しかし、万が一、あれの心が魔に傾いたらば、その時は貴方様の手で」
そんな事を言われているとは気が付く由もなく、桜達は泣いてすがる半妖半獣の幼い修行僧たちをなだめている。その姿を微笑みながら見つめ、それでも凍鬼
は一つ大きく頷く。
「それが、拙僧の役目。鬼たる者の、使命なれば」
老いた魔化魍の体を散らせたような強い風が、凍鬼の背中を押す。
旅立ちの刻だ。
船は海原をすべるように漕ぎ出した。
禅達や寺の者たちが手を振る姿も、じきに小さくなる。桜達も船べりから身を乗り出して、一心に手を振り続けている。
「桜達、今ならまだ戻れるぞ」
「もっ、戻りません!」桜達は慌てて涙を拭い、ゆっくりと遠ざかる島に向き直った。「あ、凍鬼様、あれを」
見れば、一面の萱草が百合に似た花のつぼみを重たげに俯かせた断崖に、二つの影が寄り添ってこちらを見送っていた。
「あれは・・・・・・・」
「団三郎様と、おケイ様です」桜達は、小さな背を精一杯伸ばして、二つの影に向かって大きく手を振る。
「おケイ?」
ビィィィン・・・・・・・
あの夜聞いた、冴えた音。そうか、あれが団三郎狢が言っていた、猫又か。
白黒斑の大きな猫と、灰色と言うより既に白に近い毛皮を纏った大きなムジナ。二つの影は、今にも儚く消えてしまいそうだった。
「・・・・・二匹揃って成仏もせず、未来永劫この島を護ろうと言うのか・・・・・・」
船は、静かに沖へと向かう。船着場から見た時は大きく見えたこの船も、海原では拠り所無い小さな点にすぎない。だが、じきに陸が見えて来るはずだ。
生まれ故郷の島が見えなくなり、桜達もきっと肩を落しているだろうとその姿を探すと、小さな背中は船の舳先にいた。近付くと、険しい顔で沖の波間を見つめている。
「凍鬼様、何かがこの船に近付いて参ります」
桜達の指さす先に、黒い禍々しい霧のようなものが海面すれすれに渦巻いている。目の効く水夫(かこ)たちも、それに気が付き始めた。
「なんだ、ありゃ・・・・・」
「ゴメの群れにしちゃ、影がねぇ・・・・」
凍鬼は腰の音角を掴む。あれは海鳥の群れなどではない。魔化魍のフナユウレイだ。みるみる海面が丸く盛り上がりながら近付いて来る。
「皆、下がれ!」厳しい声で水夫たちに命じながら、凍鬼は音角を青い眼の前に翳す。「桜達、お前も下がっておれ!」
やがて季節外れの雪氷が激しい旋風を伴いながら凍鬼の体を包む。鬼へ!
「いいえ、凍鬼様、私は下がりません!」
桜達の黒目がちの瞳が、獣のそれになる。低い唸り声を漏らすその口は人外の鋭い牙を覗かせ、指先には鉤爪が生え揃った。
纏わる雪氷を断ち切り、白い鬼へと変化した凍鬼が見た桜達は、黄赤のたてがみを海風になびかせる一頭の獅子の姿になっていた。
オオォォォォォウ!!
獅子が迫り来る魔化魍に一声吼える。
「さぁ、凍鬼様、私の背中に!」
なるほど、禅達が言っていた『役に立つ』という言葉は、これの事だったのか。
眼の前の魔物に歯噛みし、猛る獅子の大きな背中に跨り、凍鬼は烈凍を構える。
「行くぞ、桜達!!」
「はいッ!」
獅子は再び大きく吼えると、背中に鬼を乗せたまま海原の魔物に向かって、放たれた矢のように跳躍した。
あれから、どれほど時が経ったのか――――――――。
機械のカラダのオンシキガミは、時の概念を捨てた。共に闘い、共に護った鬼を見送る事が、辛すぎたから。
村はずれの池のほとりにそそり立つ、桜の巨木の枝先に佇んでいた一匹のキアカシシが、ふと思い出す。
昔、ずっと昔、自分はこんな桜が薄紅色のぼんぼりを灯したように花を咲かせている姿を見上げていた。そんな記憶がある。
あれは、何と言う名の鬼であったか。あの時、自分の隣で、その瞳に桜花の色を映していた鬼は。
『咲いた花なら 散らねばならぬ 恨むまいぞえ 小夜嵐・・・・・・・・』
遠く、唄が聞こえる。ああ、この木も花をつけねばならない。キアカシシは身軽に枝を飛び移り、一番高い枝にまで登った。
他のキアカシシたちが、黙って自分を見上げている。
『眷属たちよ』高い枝のキアカシシが呼びかける。『いにしえの通力がまだ残っているのなら、この木に注げ』
シシたちが、枝を伝って巨木の幹に身を寄せる。この木が咲かせるはずの花弁の色をした靄が、ふわりと木を覆った。
きっと、明日ここに来る鬼も、あの時の鬼のように桜花を見上げてため息を漏らしてくれるだろう。
キアカシシたちは、弱い光の月に向かって、長く尾を引く鳴き声をあげ始めた。
=巻の二 完=
137 :
DA年中行事:2006/04/03(月) 22:34:37 ID:2TsQP7Cz0
長い話にお付き合いくださり、ありがとうございます。うう。改行失敗。ううう。無駄に見難くて申し訳ないッス。
補足ッ。
映画版の鬼さんに登場してもらいましたが、狢が跋扈していた時代とはズレがあります。スンマセンッ!知
らんぷりして時間を捻じ曲げました。はい。
今回のハナシに登場した「一枝に一重と八重の花をつける」桜の木は、現存します。現在は4代目だそうで、
開花期は例年4月下旬とか。
巻の二まで来たので、次回の巻の三で「寄り添う獣」はおしまいです。
もうちょっと、お付き合いください。
そして書いてしまってから気が付きました。映画版で「イワベニシシ」ってのがいたんじゃん・・・・orz
>>88-97 シュキさんを手玉に取るテンキさん禿イカス。テンキさんストーリーも面白そうですね。
そして、前々スレから待望のサバキさんラブシーンがっ!
今更ながら修羅の設定、「すごい」の一言。そして劇場版も絡んでくるとは。
続きを読みたくも、終わって欲しくないのです。
>>129-137 今日は枝垂山桜を堪能してきましたよ。
件の桜は見に行こうと思えば間に合うんですね。
桜を映す青い瞳もさることながら、少年がまあ思い切りツボりました……。
泉鏡花「天守物語」のような趣すら感じます。僥倖。
139 :
DA年中行事:2006/04/05(水) 01:03:56 ID:WX58NyKZ0
>>138 ありがとうございます!
あーもう、マルッと間に合います>桜。ついでに狢たちの祠の類も見てやって
おくんなさい。でも、禅達が住処にしていたお寺と、件の匂い桜が咲くお寺は、
実際にはちと離れております。そして旅のおみやには「離島戦隊」キャラメル
(おまけつき)を買ってやっておくんなさいw
そうかぁ・・・もうホントに枝垂桜とか咲いているんですよね・・・・ネジ巻いて巻
の三書かないと。
140 :
高鬼SS作者:2006/04/05(水) 02:47:22 ID:nV7o8Avg0
「宴の始末」、早ければ今夜(午後七時以降かな)にでも投下出来そうなんですが、やっちゃっていいですかね?
各職人さんのコラボ企画として元々話題に上がったものですし、それに関してもまだちゃんとした結論が出ていなかったような…。
とりあえず会議ではなくその後の宴会に比重を置いて書いたのですが。
>>139 ザクザクゴールドに悶絶w 金もいいけど、欲しいぞキャラメル!
トレッキングも出来そうだし、いいな〜。桜見に行きたいな〜。
狢信仰のある地とは知りませんでした。教えて頂いて感謝です。
>>140 おっ、「始末」投下ですか。wktkしながら待ってます。
143 :
高鬼SS作者:2006/04/05(水) 20:11:47 ID:nV7o8Avg0
では約束通り投下を。
吉野大会議をこれから書こうという職人様にとっては、今から投下するやつが指標になってしまうわけで…。
非常に畏れ多い事です。
前日譚の「宴の支度」は
>>61からどうぞ。
それでは長い話になりますが、よろしくお付き合いの程を…。
会議はいつも通り定刻に始まり定刻に終わった。余程の大惨事でも起きていない限り大した事が報告されるわけでもなく、従ってこの年の大会議は滞りなく終了する事が出来た。
そして参加者の興味はその後に行われる大宴会へと移っていった。
宴会の開始までに本部の施設を見学する者、他の支部の鬼と交流する者、吉野観光に向かう者、温泉に浸かりに行く者と様々である。
「コウキくんは何処にも行かないの?」
会議が終わって早々研究室に戻ってきたコウキにあかねが尋ねる。
「ええ。……と言うか何か嫌な予感がするんですよ。外に出るなという虫の知らせのようなものが……」
事実、コウキは会議中ずっと悪寒めいたものを感じていた。
……これが吉野を訪れていたザンキのせいだとはその時のコウキには知る由もなかったわけだが。
で、その時ザンキが何をしていたかと言うと……。
「ワ〜オ、こいつは凄い馬だぜ。こんなの欧羅巴でもお目にかかれねえ」
本部の駐車場の片隅に繋がれていたヤミツキの愛馬・黒風を見物していた。
その日のザンキは大会議に出席するという事もあってか、いつもの面妖な格好ではなかった。が、黒風を警戒させるには充分であった。
鼻息の荒くなる黒風。心なしか目つきまで鋭くなってきている。
そんな事を全く意に介さず、何処から取り出したのかねこじゃらしで黒風の鼻を擽って遊ぶザンキ。
そして。
「グ オ オ オ オ オ オ ッ!」
怒号を発しながら黒風が大暴れし始めた。繋いでいた綱をいとも容易く引き千切ると、ザンキ目掛けて突っ込んでくる。
「うおおお!こいつはディ・モールトやばいっ!」
周囲に駐車してあるバイクや車を踏みつけ破壊しながら、修羅と化した黒風は一目散に逃げるザンキを追っていった。
「コンペキさぁん、待って下さいよぉ」
コンペキとウズマキは温泉に浸かりに向かっていた。毎年二人は会議の後の時間を利用して温泉に浸かりに行く。
猛士が管理するここの温泉は混浴である。
勿論ウズマキも最初は下心があった。だが、何か変な事をしようものなら自分が再起不能にされる事も充分承知していた。だから彼は普通に温泉を楽しむ事にしている。
「早くしなさいよウズマキくぅん!」
温泉に行く前のコンペキは実に嬉しそうだ。彼女は無類の風呂好きでもある。放っておくと一晩中温泉に浸かっていたりするのだ。
温泉へとやって来た二人は、まず別々に脱衣所に入っていった。
(もうコンペキさん入っているかなぁ)
腰に手拭いを巻いたウズマキが引き戸を開けて中に入る。
ここの温泉は露天風呂だ。時間帯とその日の天候によっては満面の星空を眺めながら入浴する事が出来る。関西支部の者の中には、よくここで酒盛りをする者達もいる。
湯気の向こうに人影が見えた。コンペキさんだろうか、そう思いながら掛け湯をして温泉に入るウズマキ。
「ふぅ〜」
やはり温泉はいい。会議での疲れや眠気も全て吹き飛ぶ。
もう少しすると他にも人が来るだろう。今はコンペキとの二人きりの時間を楽しみたい、そうウズマキは思った。
と、人影がこちらに向かってきた。どうしたのだろう。
「コンペキさん、どうしたんですか?」
だが返事は無い。
ここでウズマキは漸く相手がコンペキでない事に気付いた。コンペキならば絶対に自分に何か話しかけてくるはずだからだ。では一体……。
「やあ、こんばんは!見たまえ、あの美しい夕日を!」
温泉に浸かっていたのは男性、しかも白人男性だった。おまけにどうしたわけか服を着たまま入浴している。
「……あの、何で服を着て入ってるんです?」
「うん、これはだね、まあ追われてて慌ててそこの生け垣を乗り越えたためと言うか……」
「あの生け垣を乗り越えたんですか?」
一体何に追われていたというのだろう。
と、何かドドドドドという轟音が響いてきた。真っ直ぐにこちらへと向かってくる。
「うおっ!撒いたと思ったのに追ってきやがったか!」
男が慌てて湯船から出ようとする。次の瞬間。
生け垣を跳び越えて巨大な黒い塊が湯船に着水した。お湯が派手な音を立てて溢れる。
それは信じられないくらい巨大な馬だった。鼻息荒く、白人男性を睨みつけている。
「ド ガ ア ア ア ア!」
咆哮し、男に突っ込む巨大馬。それは、毎日魔化魍との過酷な戦いを繰り広げているウズマキの目にも、あまりにも有り得ない光景として映った。
「ちょっとからかっただけじゃねえかよぉぉ!助けてくれぇぇぇ!」
巨大馬に噛みつかれそうになりながらも必死に逃げていく男。
男と馬は、男性脱衣所の中へと派手な音を立てながら入っていってしまった。
遠ざかる喧騒を耳にしながら、ウズマキは湯船の中で唖然としていた。自分は嘗てこれ程までに濃い一瞬を経験した事があっただろうか。
入れ違いにバスタオルを体に巻いたコンペキが入ってきた。
「ねえ、さっきまで騒がしかったけど何かあったの?」
小首を傾げながら尋ねてくるコンペキにウズマキはこう答えた。
「さあ、自分にも分かりません……」
葛木弥子は夕闇に包まれる吉野の町を、ただ呆然と眺めていた。
(もう少ししたら私は……殺される)
会議の間中、弥子はずっと吉野を観光していた。だが全然楽しくなかった。それもそうだろう。前日に「毒を飲ます」と宣告されているのだから。
……それでもちゃっかり温泉に浸かって、名物の葛菓子を食べているあたり流石であるが。
そろそろあんな恐ろしい事を平然と言った張本人、ドクハキが自分を迎えに来る頃だ。
(あ〜、逃げてぇ)
しかし右も左も分からぬ地で何処に逃げればいいというのだろう。
とぼとぼと歩いていく弥子。と、誰かが大声で言い合っている声が耳に入った。
何だろう、気になって声のする方へと向かう弥子。
そこは本部の駐車場だった。たくさんのバイクや車の残骸の中で、一人の体格の良い男が数人を相手に言い合っていた。
「全く、黒風の奴にも困ったものだ」
「落ち着き過ぎです!我々も目下の所捜索中でして……」
「だから俺にも探すのを手伝えって言うんだろ?無駄だよ。だって何に黒風が腹を立てたのかも分からないんだし」
当惑する相手側に対し男は、ヤミツキはさらに追い討ちを掛けるような事を言った。
「あいつはな、音撃が使えないから魔化魍は無理だが、童子や姫ぐらいなら倒す事が出来るんだ。それ程の馬をあんた達に捕らえられるかい?このままだと……」
死者が出るぞ、そう言い放つヤミツキ。
「わ、分かりました。大至急手の空いているスタッフ総動員で対処させていただきます!」
その現場を遠巻きに眺める弥子。と、突然背後から声を掛けられた。
「どうやら非常事態のようですね」
「わっ!ドクハキさん!?吃驚させないで下さいよ」
いつの間にか背後にドクハキが立っていた。
「逃げなかった事は褒めてあげます。でも毒は飲んでもらいますからね。さあ行きましょう。もう準備も整っている頃です」
そう言うとドクハキは弥子の頭をがっしりと掴むと引きずっていった。その手は鬼のものと化している。部分変身、それが彼の得意技だ。人間の姿で「毒舌」が使える理由でもある。
弥子は涙を流しながら、そのまま宴会場へと引っ張られていった。
とうとう大宴会の時間が訪れた。支部毎に固まって席に着く参加者達。
「お前、何で濡れてるんだ?」
テンキがびしょ濡れのザンキを見て、訝しげに尋ねる。
「いやぁ、ちょっと……」
「全く。お前はよぉ、ちょっと目を離すとすぐろくでもない事をして問題を起こす」
「はぁ、すいません」
「でもよぉ、俺の気のせいかもしれねえんだが、お前……」
たまにそういうキャラをわざと演じているように見えるんだよなぁ……、そうザンキの目をじっと見つめながら言うテンキ。
「ははは、やだなぁテンキさんったらぁ!そんな事して俺に何か得でもあるんですか?」
だがテンキは、そう答えるまでのほんの一秒にも満たない時間にザンキが見せた表情を見逃してはいなかった。
「あ、俺トイレに行ってきま〜す!」
そう言うとそそくさとその場から立ち去るザンキ。
「どうしたんです?テンキさん」
隣の席に着いていたバンキが不思議そうに尋ねる。
「いや、何でもねぇよ」
そう言いながらもテンキは去り行くザンキの後ろ姿をずっと眺めていた。
一方、コウキはイブキと一緒に座席に着いていた。ザンキの大声も周囲の喧騒に紛れて彼等の耳には届いていない。
「悪寒、ですか?」
「ああ。昨日から何故か悪寒がして仕方ないんだ」
「多分、あれですね……」
何か知っているのかね?そうイブキに詰め寄るコウキ。しかしイブキは適当にはぐらかすと他の所に行ってしまった。
(どうせ嫌でも思い出すんだから……)
胸中でそう思うイブキ。
コウキは毎年、大宴会の席でザンキに出会っている。しかし翌日には無理矢理その記憶を封印している。その繰り返しなのだ。
初めて出会ってからの事をずっと覚えている自分と、普段は完全に忘れていてその都度思い出しショックを受けるコウキ、どっちが幸せだろうとイブキは思う。
トイレから戻る途中でザンキは一人の大男と擦れ違った。何故か学生服を着ている。
一瞥してそのまま立ち去ろうとしたザンキだが、向こうから話しかけてきた。
「あんた、DMCの人間だな?」
その言葉に足を止めるザンキ。
「うちのじじいは海外にも顔が利くんでな。お蔭で俺の耳にも色々と噂が届くんだ……」
両者の間に緊張が走る。
「一つだけ言っておくぜ。スパイ紛いの事はいい加減もうやめておけ……」
「ははは、何を言ってるんだい?確かに俺は海外で組織に所属していたさ。でもだからってスパイとは……」
「海外のスパイの見分け方を発見した。それは……スパイは煙草の煙を少しでも吸うとだな……」
鼻の頭に血管が浮き出る。
そう言うジョウキの手にはいつの間にか火の着いた煙草が握られており、それがザンキの鼻の近くに掲げられていた。
「……ふふん、そんなブラフには乗らないよ」
「ああ、嘘だぜ。俺もこの程度に引っかかるような奴とは思っていなかったさ」
「……あんた未成年だろ?」
そう言うとジョウキの手から煙草を取り上げ、鼻歌を歌いながらザンキは立ち去っていった。
「さ〜あ、今年もやって参りました!恒例、宴会芸の時間だぁぁぁ!」
壇上でノリノリに司会するのは、今年の担当に選ばれたあかね。その姿を眺めながら、コウキは自分の出番を待っていた。
一時間ぐらい前、いきなりあかねに出てくれと頼まれたのだ。
「バキさんがまだ帰ってないのですか!?」
「そうなのよ。昨日彼シフトに入ってたでしょ?それで螳螂の魔化魍を退治しに行ったまま今日になっても帰ってこないのよ」
まあ彼の事だから全く心配はしてないんだけどね、そうあかねは付け加えた。
バキはよく魔化魍退治に行ったまま失踪する事がある。そんな事をしても許されるのは偏に彼の実力と人柄故なのだが。
「でね、彼の代わりに舞台に上がって一曲歌ってほしいのよ。頼めるかしら?」
それに対し、コウキは二つ返事で承諾した。予てから大勢の前で美声を披露したいと思っていたのである。
武者震いがする。こんな心地良い緊張感を味わうのは実に久し振りであった。
「さて、そろそろ行きましょうか」
そう言って弥子を促すドクハキ。その手には毒の入った小瓶が握られている。
「あの……、本気ですか?」
「大丈夫です。三分以内に解毒剤を飲めば後遺症も何も残りませんから。たぶん」
「いや、たぶんって!」
弥子の手を引っ張り立ち上がるドクハキ。と、トイレから戻ってきたばかりのザンキとぶつかってしまう。
「おっと、失礼」
「全く、何処に目を付けているんですか?……さあ行きますよ、弥子」
涙を流しながらザンキを見つめる弥子。しかしそんな弥子の様子に全く気付かないザンキ。
弥子を引っ張っていくドクハキだが、彼は全く気付いていなかった。ぶつかった拍子に毒薬の小瓶を落としてしまった事を。そしてそれをザンキが拾ってしまった事を……。
会場の熱気はヒートアップしていた。ほとんど全ての参加者が酒に酔っている。
関東支部のエイキが会場を沸かして壇上から下りていった。いよいよ次だ。
「関東支部の鋭鬼坊さんでした!皆さん拍手〜!さぁて次は……」
会場から「バキ」コールが起こる。毎年大会議に参加している者達は、どのタイミングでバキが出てくるか覚えているのだ。
「……え〜、ここで皆さんに残念なお知らせがあります。実はバキくん、今不在でして……」
会場から一斉にブーイングが起こる。
「その代わり別の人が芸を披露してくれます。同じく関西支部所属のコウキく〜ん!」
あかねに紹介され、マイク片手に壇上に上るコウキ。
だが、会場の反応は最悪だった。至る所から座布団やお銚子が飛んできた。そして巻き起こる「バキ」コール。
「お、お前達いい加減にしないか!」
マイクで怒鳴り返すコウキ。だがこれは逆効果だった。ますます野次が酷くなる。
誰かが一気飲みをしろ、と叫んだ。それに釣られて会場から「一気」コールが起こる。ここで言う「一気」とは「バケツ一杯の砂糖水一気飲み」の事である。
「ええい、黙れ!そんなに言うのならやってやろうじゃないか!」
言ってから内心「しまった!」とコウキは思った。
会場から拍手と歓声が起こる。こうなってしまった以上退くに退けない。
「じゃ、じゃあとりあえず準備があるからコウキくんには一度舞台裏に行ってもらいましょ〜」
心配そうにコウキの方を見るあかね。当のコウキは仕方なさそうに舞台裏へとはけていった。
「本当にやるんですか?」
バケツ一杯の砂糖水を用意しながら勢地郎がコウキに尋ねる。
「このままでは退くに退けんからな。やってみるさ」
そうは言ってみるものの、実際にバケツを目の前にすると決心が鈍ってしまう。
試しに一口飲んでみる。吐きそうなくらい甘い。
「こ、これをバキさんは毎年花見と大会議と二回もやっているのか……」
あの人には一生敵わない、本気でコウキはそう思った。
と、そこへ一人の男がやって来た。
「よお!久し振りじゃん!」
男の顔を見た瞬間、コウキは忘却の森の遥か奥に埋めてきたはずの忌まわしき記憶を全て思い出してしまった。
「あっ!お前はザンキ!」
(また驚いているよ、この人……)
毎年の事に呆れかえる勢地郎。
「お前バケツ一気やるんだって?折角だから陣中見舞いに来てやったんだけどさ」
「……帰れ。私の機嫌がまだましな内に出て行け」
「そう言うなよ。どうせ甘ったるくて飲めないから困ってるんだろ?」
図星である。
「どうせバレやしないからさ、中身をただの酒にでもしちゃいなよ」
「……それはそれでやばい気がするぞ」
それにコウキの性格上、そんな卑怯な事はしたくなかった。
「じゃあさ、水で薄めるとか……。それだと量が増えてまずいか。あ〜、ちょっと待ってろ」
そう言うと洋服のポケットを弄り始めるザンキ。
「あった!これぞ何でも美味しくなる『味の素の素』〜」
ザンキの手には小瓶が握られていた。
「何だ、そのドラ○もんの道具と同じ名前の薬品は」
「これはな、その名の通りあらゆる飲食物を美味しくさせる魔法の薬なんだ」
実に胡散臭い。
「大丈夫だって。俺の祖国を信じろ!伊太利亜の科学は世界一ィィィィ!」
そう言いながら小瓶の中の液体をバケツの中の砂糖水に垂らすザンキ。
「ちょっと、何を勝手に……」
慌てて止めようとする勢地郎を殴り飛ばすザンキ。
(嗚呼、時が見える……)
頭から床に激突し、そのまま動かなくなる勢地郎。
「さてと、これで大丈夫なはずだ。さあ行ってこい!会場で見ててやる」
「お前、今『はずだ』って言っただろ?」
詰め寄るコウキにバケツを手渡すと、ザンキは彼を無理矢理追いやった。
実に不愉快そうな表情のドクハキと、一転して美味しそうに料理に舌鼓を打つ弥子。ドクハキが毒の入った小瓶を何処かに落としてしまったのである。
「ねえドクハキさん、探さなくていいんですか?」
「……知りませんよ」
「でも間違えて誰かが口にしちゃったら……」
「そんな、あなたじゃあるまいにあんな怪しいものを口にする人なんているわけないじゃないですか」
その言葉に少し腹を立てる弥子。まあドクハキの暴言は今に始まった事じゃないのだが。
と、壇上にバケツを持ったコウキが現れた。巻き起こる歓声。
「うわぁ、あの人本当にやるつもりなんだ……」
はらはらしながら見守る弥子。それに対し興味なさげなドクハキ。
しかしコウキはなかなか飲もうとはしない。歓声が再びブーイングへと変わる。
と、壇上にザンキが上がってきた。
「何やってんだ!ほら、もうちょっと入れてやるから」
そう言って小瓶の中の液体を大量に注ぎこむザンキ。
それを見ていた弥子は絶句した。そのままドクハキの表情を窺う。
「ほう、どうやら滞りなくショーが見れそうですね」
惜しむらくは飲むのがあなたじゃない事ですかね、そう言うとドクハキは静かに微笑んだ。
バケツを目の前にして微動だにしないコウキ。ザンキが煽ったせいで会場中から「一気」コールが聞こえてくる。
呼吸を整え、精神を集中し、コウキは砂糖水を口中に一気に流し込んだ。
猛烈な吐き気に襲われるコウキ。やはりザンキが言っていたのはでまかせだったのか。だが今更止めるわけにはいかない。
壇上ではあかねが心配そうにコウキを見つめている。イブキも、セイキもドキも、関西支部の全ての鬼が固唾を呑んで見守っていた。
そして。
全てを飲み干し、バケツを勢いよく壇上に置くコウキ。今までで一番大きな歓声が上がった。それに手を挙げて応えるコウキ。
だが、次の瞬間。
「うっ!」
苦しい。砂糖水を一気飲みしたせいではない。呼吸が出来ない!
「や、やばいですよドクハキさん!早く解毒剤を渡してあげないと……」
「無理です」
「何で!」
「さっき気付いたのですが、解毒剤の方も落としてしまったんですよ。あなたも探すのを手伝いなさい」
会場がざわめき始めた。誰もがコウキの異変に気付いたのだ。
そんな中、一人だけマイペースに酒を飲んでいる者がいた。ヤミツキだ。
黒風の行方は全く掴めない。しかも黒風が壊したバイクや車は全て九州支部が弁償する事になってしまった。だが。
(まああれだ。旅行にトラブルは付き物だしな)
まだ同僚達にはその事を話していない。どうせすぐにばれる事だ。
ならば大好きな酒をとことん飲んでいよう、それがヤミツキの考えだった。
「おいザンキ。お前、あのバケツに何入れたんだい」
席に戻ってきたザンキにテンキが尋ねる。
「いや、その、『味の素の素』を……」
「何だそりゃ?お前、ちゃんと俺の目を見て言えよ」
「はいすいません!さっき拾った妙な液体です!」
呆れ果てるテンキ。
「おいシュキ。行って手当てしてやろうぜ。俺達の呪術なら何とかなるかもしれねえからな」
「断る。自業自得だろう」
つれないねぇ……、そう言うと席を立ち、舞台に向かっていこうとするテンキ。
と、その時。
廊下の方から喧騒が聞こえてきた。さらに何か大きなものが突っ込んでくるような轟音が……。
そして。
一頭の巨大な黒い馬が宴会場に乗り込んできた!
「げっ!あの馬は!」
馬の姿を見て血相を変えるザンキ。
「おお黒風!よく戻ってきたな!」
ヤミツキが喜びの声を上げる。しかし黒風は主の方には全く目もくれず、ただ何かを探していた。
「ウ ガ ア ア ア ア ア ア!」
怒号と共にザンキ目掛けて突撃する黒風。並べられていたお膳が全てぶち撒けられ、さらには数名の参加者も撥ね飛ばされる。
阿鼻叫喚の地獄絵図が展開された。
「これです!こういうのが見たかったんだ私は!」
狂喜乱舞するドクハキと、そんな彼を唖然と見つめる弥子。
と、何かが弥子の傍に転がってきた。拾いあげてみると、それは何かの液体が入った小瓶だった。
「ひょっとして解毒剤?」
三分が限度だったな、そう思うや否や弥子は瓶を手に壇上のコウキへと走っていった。
大暴れする黒風。止めようにも酒に酔ったうえに変身道具を置いてきている鬼達に成す術は無く、ただ逃げ惑うしかなかった。
諸悪の根源であるザンキに後ろ足で強烈な蹴りを叩き込むも、まだ暴れ足りない黒風は会場内を滅茶苦茶に蹂躙していく。
「黒風、そろそろ落ち着いたらどうだ?」
最早ヤミツキの声も耳に届かない。黒風は一人だけ学生服という浮いた格好の大男目掛けて突っ込んでいった。
「避けろ!危ないぞ!」
ヤミツキが叫ぶ。だがジョウキは平然と座ったままだ。
誰もが最悪の事態を想像したその時。
「鬼闘術・白金世界!」
瞬間、ジョウキを除く世界の全てが止まった。否、ジョウキが超高速で動いているのだ。彼は人の姿でも二秒間はこの技が使える。
素早く黒風の側面に回りこむとジョウキは。
「おらっ!」
渾身の一撃を叩き込んだ。
それと同時に能力が解除され、時が動き出す。
轟音と共に床に倒れ込む黒風。周りの誰もが、何が起こったのかすぐには理解出来ないでいた。
「……やれやれだぜ」
そう呟くとジョウキは再び席に着き、料理を食べ始めた。
「早くこれを!解毒剤です!」
コウキに駆け寄り小瓶を渡す弥子。藁にも縋る思いで渡された小瓶の中の液体を飲み干すコウキ。
だが。
「ぐおおおお!」
ますます苦しくなったコウキはその場でのたうち回る。
「え?え?どうして」
狼狽える弥子の背後にいつの間にかドクハキが立っていた。そして静かにこう告げる。
「そりゃそうですよ。だってそれ、毒の入った小瓶ですもの」
そう。さっき黒風に追われている時にザンキが落としたのだ。
顔面蒼白になる弥子。もっと蒼くなるコウキ。
嫌な沈黙が流れた。
「ふぅ〜、いいお湯だったね」
上気した顔をウズマキに向けて微笑むコンペキ。そう、彼女はさっきまでずっと温泉に入っていたのである。
「そ、そうですね……」
コンペキに付き合ってずっと一緒に入浴していたウズマキは完全に茹だっていた。
もう皆美味しい料理に舌鼓を打ち、宴会芸を見て笑っている事であろう。
「あら?どうしたのかしら」
やけに周囲が慌しい事に気付き、歩みを止めるコンペキ。
「とりあえず会場に急ぎましょう」
ウズマキに促され、コンペキも多少足早に宴会場へと急いだ。
そして宴会場に辿り着いた二人が見たものは……。
「……何があったの?」
滅茶苦茶に荒らされた室内。担架で運ばれる負傷者達。床に倒れて痙攣している巨躯の馬。壇上で蒼い顔をして泡を吹いているコウキ。
完全に蚊帳の外のコンペキとウズマキは、ただただ成り行きを見守るしかなかった。
結局、コウキはぎりぎりのタイミングで発見された解毒剤のお蔭で一命を取り留めた。並みの人間なら確実に死んでいたであろう。
一応各関係者のその後の顛末を書くとこうだ。
ヤミツキは当然ながら責任を追及され、多額の負債を九州支部に背負わせる事となってしまった。その時「だがそれもいい」と言ったとか言わなかったとか。
当の黒風はすぐに手当てを受け、面倒を見ていた獣医を病院送りにする程の回復を見せた。
ドクハキは全く責任を追及されず、代わりに弥子が全ての責任を負う形で始末書を書かされた。後に「一生分泣いた」と弥子は語ったという。
ジョウキはその後何食わぬ顔で温泉を堪能し、翌日北海道に帰っていった。
コンペキとウズマキも同じく、普通に四国へと帰っていった。キリサキへのお土産に最高級の葛餅を買って。
ザンキはテンキとシュキに散々絞られて、流石に反省したかに見えたが、翌日にはいつもの調子に戻っていたという。
ザンキに殴られて気を失っていた勢地郎は、翌日後片付けをしていた本部のスタッフに発見され、そのまま医務室行きとなった。
バキは翌日、笑顔で帰ってきた。
こうして、猛士史上最大の惨事(珍事)を引き起こしたこの年の大会議は幕を下ろしたのである。 了
157 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/05(水) 23:17:20 ID:iJ3BPFc80
五の巻「受け継ぐ翼」
フブキが目覚めたころは朝の8:00。某人気特撮番組が始まる頃だった。
「お目覚めかい?」「・・・・・・・あの・・・魔化魍は?」
「あぁ、ヤマビコならサバキ君が変わりに行ったよ。流石は、音撃刀を受け継いだだけのことはある。」
「サバキさんには、申し訳ないって伝えといてください。僕の・・・“アレ”のせいで・・・」
「いやいや、アレは、猛士が出来る以前から受け継いでるもんだから。・・・で、お師匠さんには?」
「はい。退院したら、吉野に行ってみます。」「そうか、それじゃあ、とりあえず、この件はよしと。」
「あの・・・・ちょっといいですか?」「ん、何?」
「下の売店で・・・こしあん饅頭買ってきてもらえますか?」「・・・・・・・・YES.」
突然の申し出に、周囲の空気は止まった。
おやっさんが、注文の品をフブキにとどけると、フブキは軽く会釈をし、スイマセンと言った。
「ところで・・・・」「・・・・?」
「辰洋君、進路が決まったらしいが・・・・」「・・・そう・・・らしいですね〜・・・ハハハハ・・・・」
「君、今何歳?」「24です。」「鬼になったのは何歳だっけ?」
「高校ですから・・・17か18です。」「たしか弟子入りしたのは・・・」
「中1の三学期ですね。」「全く・・・何というか・・・急ぎすぎじゃない?」
「いえ別に・・・自分の中では普通ですね。」のんきに餅を食べながら言う。
「天才肌というか、なんと言うか・・・」「その辺は祖父からです。」
「おじいちゃん、今確か・・・・吉野で銀やってる。」「そうらしいです。」
「で・・・その弟子であり、君の幼馴染があの可愛い恵理香ちゃんか。」「全然可愛くないですよ。」
「彼女なんだろ?」「・・・・・・・・」
158 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/05(水) 23:18:39 ID:iJ3BPFc80
一週間後・・・・・
フブキは吉野の総本山に居た。
「師匠!長のご無沙汰・・・加藤清成フブキ、ただいま参りました!」
加藤清成・・・フブキの本名。家柄が戦国大名、加藤清正の宗家であるため、鬼となっても本名は残さなければならない。
例外的に、イニシャルがKKと一致しているにも関わらず、関係の無い「ふ」の字をとっている。
実は弟子である辰洋もその一族なのだが、フブキはまだ明かさない。というより、いつか時がくるのを悟っているからだ。
フブキの目の前には50代と思われる男性が威厳と威圧感のある鋭い眼光でコチラを見ている。
「お前が来たということは・・・遂にアレがお前にも起こったか。」「はい!師匠の言っていたとおり・・・羽が見えました。」
「そうか・・・佐久間から、弟子を取ったと聞いたが。本当か。」「はい。まだ正式には弟子ではありませんが、既に修行は始めてます。」
「・・・まぁ、良かろう。・・・で、アレだがな。」「はい!」
「お前の場合、もう大丈夫だろう。見る限り、すべて取り払ったようだしな。」
「では・・・アレは使えると・・・。」「否、そういうことではない。何事も使いこなせなくては意味が無いことはお前も承知だな?」
「はい・・・それは修行で身に染みるほど感じましたから。」
「・・・とりあえず、身体の方は大丈夫そうだから、明日から魔化魍退治は出来るだろう。」
「はい・・・・」「弟子が心配してるだろう。一週間も連絡が無いのだからな。」
「・・・・・・。」「じゃあ、もう今日は帰れ。早いうちが良かろう。」
「・・・・・・はい。」
フブキは師に久々に会えたのにすぐに帰らなくてはならない悲しみを必死に抑え、間をでようと障子に手をかけた。
「身体と弟子は大事にしろ・・・。」フブキは振り向き、無言で師匠に答えた。
急に師匠が庭へ体をむけ、フブキに背を向けた。
「早く彼女もつくれ。」フブキは一気に赤面した―――――。
五の巻「受け継ぐ翼」終わり。
>157
このサバキさんは、裁鬼さん?
それとも別のサバキさん?
160 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/06(木) 17:31:10 ID:j/kKgkmx0
別のです。漢字表記は「捌鬼」
161 :
DA年中行事:2006/04/08(土) 17:17:22 ID:wszLS0mr0
>高鬼SSさん
大乱闘、波乱の宴その始末、お疲れ様ですっ!
強い、強いよジョウキ。そして考える事が黒いよドクハキw
>風舞鬼SSさん
良い塩梅にお話が展開されていますな。羨ましいです。
次回も楽しみにしています。
そして、スレ違い覚悟で・・・・・・
ttp://www.o-kami.jp/ か、かみき村、オロチ、どうぶつ・・・・ヤバイ、萌えるw
162 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/08(土) 19:10:52 ID:VGfqHdcX0
>DA年中行事さん
絶対、大神ってカシャですよね。
163 :
DA年中行事:2006/04/08(土) 21:01:37 ID:wszLS0mr0
>>162 カシャだぁ・・・・でもかあいい・・・・・
デモムービー見て涙ぐんだのはナイショ。
どうぶつ、昔話、妖怪、じじばば・・・・うはぁ、ヤバイw
こりゃまいったなぁ・・・・・って、スレ違いスマソ
まとめサイトがサイト未検出でみれなくなってる………orz
漏れのトコだけかな………(T_T)
165 :
名無しより愛をこめて:2006/04/09(日) 23:01:56 ID:OZ7w8+9r0
いや、俺もだよ
何かあったかな?
そうかい?オレは見えるよ。上のリンクからも見れた。
168 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/09(日) 23:23:18 ID:FIkd7X/w0
俺は見れなかった・・・
従って、完成した弾鬼も貼れず・・・orz
私は
>>167さんと同じで大丈夫でした。
何かあったのでしょうか?
>風舞鬼SSさん
弾鬼さんついに完成ですか!!
お兄ちゃんの御手製プレゼントってのには
DAさんと同じくあこがれますね。
そういうことが出来るスキルも羨ましい限りです。
170 :
167:2006/04/10(月) 00:20:38 ID:gDJDHlLs0
あれ?また見れなくなったよ。なんかトラブルかな?
まぁすぐに復旧するでしょう。まとめサイトの人も、無理せぬように、マタリと。
某所で弾鬼さんキーホルダー見たよ。テラカワユス。
ホント、風舞鬼SSさんの弟くんがうらやまスィ。
某所で某まとめサイト閲覧者と名乗ったものだよ
俺はまとめサイト普通に見えるんだけどなぜだろうか?
172 :
まとめサイト:2006/04/10(月) 02:00:21 ID:QeYm7UTr0
皆さんのご指摘のとおり、サイトが見えたり見えなくなったりしてますね。
申し訳ありません。
サーバーを借りているxrea.comで、4/8(土)朝から障害が発生したそうです。
4/10(月)夜までに完全復旧を目標にしているとのことです。
スペースを借りてる身では出来ることは無いので、復旧まで待つしかないです。
173 :
DA年中行事:2006/04/10(月) 12:08:06 ID:BXSP5Gnk0
>>172 まとめさん、いつも乙です。
今さっきピョロっと見てみましたが、復旧したっぽいですね。
今日の夜には仕上がった弾鬼さんがうpされてるかな?
>借りてる身では
わかるわかるわかる。そうなんですよねぇ。そう長い時間のハナシでは
ないでしょうから、気長に待つしかないスよね。
174 :
164:2006/04/10(月) 12:56:31 ID:AsvybVLLO
漏れのトコは今でも繋がらない………orz
ノワァァァァァァァァン!!!
完成した弾鬼タソに会いたいよォォォ!!o(T□T)o
素晴らしい作品ばかりなので、俺の悪いくせが発動しかかっています。
作者の皆さん、用語集作っちゃっていいでしょうか?
一応、「響鬼 用語集」でぐぐると一ページ目に出てくるようなサイトがあるので、
そこに掲載したいなぁ、と思っているのですが。
メインは他のコンテンツですが、響鬼の用語集もありますので。
あと作るにあたって基本的な質問を……
裁鬼さん、鋭鬼さん、剛鬼さん、高鬼さん……と連載しているものは同じ世界と見做していいんですか?
176 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/10(月) 20:17:59 ID:4yiMSNRq0
あーーちなみにですが・・・
風舞鬼ワールドの世界観もTV本編・・・つまり裁鬼メインストーリーと同じです。
時代というか、年代に少々ズレがありますが。
177 :
仮面ライダー鋭鬼<十二之巻 THE CURE>:2006/04/10(月) 20:19:54 ID:zwkHoy0h0
自分の体温が上がったというのが自身でも感じられた
そのぐらい気分は高揚した
ほんの些細なことでこんなにも動悸が激しくなる
そんな甘酸っぱい感情が未だに残っていたということ自体、不思議だった
友人達が彼女の事を、自分との関係を聞いてきてるようだったが、耳に入れる余裕がなかった
「吹雪鬼さん……」
「よっ」
大学の入り口の前で待っていた吹雪鬼はいつものように白くパリッとしたブラウスにレザーのパンツで
彼女の愛車であるバイク――『白鷺』に跨っていた。時折強く吹く春一番が彼女の長い髪を揺らしていた
「ちょっと一緒に来てくれない?」
吹雪鬼は、嫌う人なんて居ないだろうと思える笑顔を向けて、サイドカーを指した
「あ、はい……今日は履修届をだすだけでしたし」
「これから暇って事だよね?もしかしたら結構長くなるかも知れないんだけど、いい?」
大歓迎だ。それほど長い時間吹雪鬼といられるなら
と、そんな邪な考えを恥じて出さないようにしながら蛮鬼は『白鷺』のサイドカーに乗った
「ホントは鋭鬼くんが居たら良かったんだけど……」
イの一番に出てきたのが他の男の名前だったから蛮鬼も少し平静を逸した
「僕は鋭鬼さんの代用って事ですか?」
「へ?いや、そうじゃなくってね……蛮鬼くんって子供好き?」
信号が青に変わる
『白鷺』は車体を右に逸らすと高速道路に向かう道に入っていった
「今回はちょっと手強い相手なのよ……」
その手強い相手も鋭鬼なら倒せると言うことか。自分では少々頼りないと。吹雪鬼にそう思われてるのか
蛮鬼は鋭鬼の人懐っこい顔と、それに似合わない荒っぽい戦い方を思い浮かべて歯ぎしりをしそうになった
が、表面上は平静に取り繕う
それこそ鋭鬼なら思った感情をそのまま外に出すのだろうが
「戸田山くんも候補だったんだけどね……」
「え?」
自分は鬼見習い以下だと言われたに等しく、更に言えば吹雪鬼に面と向かってというのが……辛い
「でも、戸田山くんってばわらしっぽいっていうより、わらしそのものって感じじゃない?」
「は、はぁ……」
「あ、“わらし”って子供って意味ね」
要領を掴めない蛮鬼の生返事を勘違いしたか、吹雪鬼は的はずれな解説を入れる
「下手するとアッチ側に回っちゃうかもしれないし」
「そこまで善悪の区別が付かない人では無いと思いますけど……」
「……何が正しくて何が間違ってるのか、難しいわね」
高速道路のインターを越えて、徐々に『白鷺』を加速させながら吹雪鬼は答えた
「伊織……威吹鬼くんもさ、あの性格だから向かないと思って。響鬼さんや裁鬼さんぐらいな大人だと逆に反発するだろうし」
「はぁ……」
なにやら訳がわからないが、一つだけ確かなのは消去法で自分が選ばれたらしいという……実に不名誉な事実だ
それならそれで、自分がやれる男だということを見せつけてやろうと切り替えることが……出来る性格ならどれほどよいか
蛮鬼は一つ溜息をつく
「なぁに?悩み事?」
それを聞き逃さずに、蛮鬼を悩ませている張本人が訪ねてきた
「……なんでもありません」
「ま、遠慮せずにお姉ーさんに相談してごらん?」
「……話せませんよ」
最期の蛮鬼のつぶやきはどうやら吹雪鬼には聞こえなかったようだ
吹雪鬼といえば、悩める青年・蛮鬼を感じながら、それはそれとして今ごろ鋭鬼は何をしてるだろうか等と考えていた
「ヘックシュッ!……ハ!?ちょっとタンマ!マンタ……は海の生き物!」
慌てる鋭鬼に壬生美岬の鋭いメンが脳天を直撃する
「痛!」
思わず頭を押さえて転げ回る鋭鬼にドッと笑いが起こった
当のメンを打った美岬は笑うより呆れて呟いた
「素面素篭手で結構っておっしゃったのはそっちですよ?」
「クシャミは生理現象じゃんかよ〜卑怯だぞ!俺の境遇は悲境だ」
「……戦いに於いて相手の隙を狙うのは常套手段ですし、隙がある方が悪いと思います」
「いや、クシャミは別だね!よく言うだろ?噂をされるとクシャミが出るって」
鋭鬼は小さな身体をピョンピョンと跳ばしながら反論した
そんなんで痛みが引けるのかどうか、甚だ疑問だが
「鋭鬼センセはよく噂に出るほど人気者ってことやな」
普段無口な名和がボソリと呟くと、二人の試合を見ていた他の生徒が又ドッと笑う
「当たり前だろ〜俺はドコだって人気者の鋭鬼さんだぜ?」
およそ剣道の礼など無視して竹刀を持った手をぐるんぐるん回す鋭鬼
「クシャミしたところ今しか見たことあらへんけどな」
「なんだ、全然不人気じゃん」
再び口を開いた名和に、信貴山が合いの手の茶々を入れたもんだから鋭鬼は真っ赤になって怒った
「お前ら〜もっと先輩を敬えよ!」
「……だったら私に勝って下さい。今ので一本づつです」
美岬は竹刀を下段に構える。現代剣道では見ない型だが、今やっているのは実戦剣道だった
そのくせ脛当てを付けてない足を鋭鬼が一度も狙ってないのが美岬には判っている
女だからと手を抜かれるのは癪だ。だから思いっきり後悔させてやろう
「勝負!」
光厳院の掛け声とともに美岬は鋭鬼に向かって大きく一歩を踏み出した
学校の裏山……まぁ、関東もちょっと走ればそんな光景のある学校だってそんなに珍しくはない
そんな裏山には小学生の悪ガキ共が秘密基地や隠れ家を造ったりするのも別に時代遅れでもない
「鴨川!」
山道からちょっと逸れたところにある洞窟の前で何やら緊張した面持ちで経っている男の子に
これまた男の子がやってきて「交代だ」と鴨川と呼ばれた男の子につげる
「それからコレ、ベーコン。冷蔵庫にあったやつ」
「圭ちゃん流石ぁ〜」
「スピーはやっぱり肉が好きみたいだし」
二人はパックのベーコンを大事そうに抱えながら洞窟の中に入っていった
「……どういう事です」
一部始終を子供達に見つからないように木の上から見ていた蛮鬼は隣の吹雪鬼に説明を求める
「魔化魍にも成体と幼体があるって知ってる?」
「え?」
「幼体は滅多にお目にかかれないわ。大抵は童子と姫が育ててすぐに成体になってしまうし
そもそも幼体ってどうやって生まれるのかも良く判っていない。動物のように親が子、あるいは卵を産むのか
それとも単細胞生物……アメーバとかのように分離するのか
あるいはそういった遺伝情報を継ぐという手段を取らずに、ある日突然沸いてくるのか……ね」
蛮鬼は頷いた。自分も魔化魍の生態には非常に興味があるし、それが判れば魔化魍退治の効率も上がるだろう
あるいは、退治などという手段を使う必要が無くなるかも知れないと、共存主義者な考えすら持っている
「……記録では三年前に響鬼さんがココでヤマアラシを退治してるわ」
「それが……あ!?」
吹雪鬼の話の先が見えない蛮鬼が促そうとした時だった
洞窟から二人の男の子に続いて、一匹の大型犬ほどの大きさの動物が出てきた
「ヤマアラシ!?」
「……の、幼体ね」
複雑な表情を作って吹雪鬼は見下ろす
「もう発見して一年以上も前から育ててるみたい。危険な動物って言ったって聞いてくれないし
参ったわ。完全に悪役よ。押しのけて通ろうとしたら噛みつかれるわ、髪を引っ張られるわ……
過去最大の強敵よ。私が来てからってあの子達毎日交代で見張っているのよ」
餅は餅屋、鍵は鍵屋というわけで、同じ男の子ならなんとか話し合いの折を付けれるのではないかと吹雪鬼は踏んだ訳だ」
「って、聞いてる?」
「か、かわいい……」
どうやら失敗だったようだ
吹雪鬼は頭を抱えた
「スピーーー♪」
ヤマアラシの幼体は聞いたことのない鳴き声を上げて男の子達に付いて走っていた
よっぽど慣れているのであろう。二人がボールを投げると喜んでボールを取りに走っていく
「ハッ…ハッ…ハッ…ハ…スピィ?」
追いかけたボールはすでに拾われていた
「スピ〜」
ヤマアラシ幼体はその人物に向かって跳びかかった
「あ!?コラ……」
「ハッ…ハッ…」
まだ鋭利でない背中の棘を絡ませて、その人物にじゃれあう
帰りが遅いと追いかけてきた男の子二人が現れると、彼等をその人物は叱った
「何やってるんだよ。スピーをこんな昼間から出して!」
「宇喜多くん……」
「でもさ、スピーだって外に出たいでしょ?ちゃんと太陽が昇ってる時間に」
圭ちゃんと呼ばれた子が宇喜多くんに対して抗議する
「近江、誰かに見つかったらどうするんだよ。あのお姉さんだってまた来るかもしれないだろ」
「また追い返せばいいじゃないか!」
「やめてよ!スピーだって怖がってるじゃないか!」
鴨川の言葉に二人は喧嘩を止める。窺うように二人を見上げるヤマアラシ幼体と視線が合ったからだ
「スピ〜……」
それはちょうど一昔前のチワワが見つめてくるようなCM……
「くっはぁ〜〜〜たまんねぇ〜〜〜」
「ちょっ……蛮鬼くん、そんなに身もだえてるとバランスg……きゃあっ!」
――ドテン!
まぁ擬音にするとこんな感じに木の上から落ちる大人が二人
「「「あ……」」」
まだ声変わりしていない男の子の声が見事にハモる
「お、お久しぶりね、ボク達……」
せいぜい猫なで声で挨拶するが、子供相手には通じない
「ま、またスピーを取り上げに来たんだな!」
子供達は近くにあった枝切れや……
「なんで子供がスタンガン持ってるんだ!」
蛮鬼が思わず叫ぶ
「こ、子供だからって力が無いと思ったら大間違いだぞ」
「う、宇喜多くん凄いや……」
チリチリと蒼い電撃がスタンガンに奔る
「私達がなにをしたってのよ〜」
泣き落としにかかる吹雪鬼
「俺達を怒らせた〜それで十分だ〜」
「突撃〜〜!!」
わらわらと子供達が走ってくる。わらわらといっても一人はスタンガン持ちだ
「蛮鬼くん、勇気ある撤退をするわよ!」
「イエッサー」
二人はサタコラサッサと逃げ出したとさ
“悪い奴”を追い払った三人と一匹は宇喜多が持ってきた牛乳で乾杯をしていた
「やったね!」
「でも安心できないぞ?今日の夜は僕がスピーを家に連れて行く」
宇喜多の提案に食ってかかったのは近江だった
「スピーを独り占めしようったってそうはいかないぜ」
そのスピーは一心不乱に皿の牛乳をペロペロと舐めている
「そうじゃなくて……客観的に見て、僕の家なら親にもばれないだろうし……」
「そ〜ですか!どうせ俺や鴨川の家は小さいですよ」
宇喜多の家は町でも有名なちょっとした資産家の家で、使ってない部屋もいくらかあった
宇喜多にそれを誇るつもりは無いのだろうが、その無意識さがなおさらムカツクと近江は思っている
「じゃ、多数決で決めよう。今夜はスピーを僕の家に泊まらせるのがいいと思う人」
宇喜多の呆れ混じりの声に、鴨川は手を挙げて賛成した
「あ〜鴨川、裏切った!」
「え、だって……宇喜多くんの言ってることは正しいよ」
「そう言うことだ。賛成二票で可決だな」
小難しい言葉で自分の意見を押し通そうとする宇喜多に、近江は諦めずに食い下がる
「まだだ!スピーが手上げてないぞ!四人中二人ならおケツにはならねー!」
「おケツじゃない。可決だ」
「とにかく認めない〜」
駄々をこねる近江をおろおろして宥める鴨川を見ながら、宇喜多は口を開いた
「僕の家にスピーをかくまうのに反対の人」
「はい!」
近江が勢いよく手を挙げる
スピーはそんな三人の痴話げんかなどをそっちのけで牛乳に夢中だった
口の周りの毛が白くなっている
「……賛成票二票、反対票一票、無投票一票、よって今日僕の家にスピーを連れて行く」
これ以上の反論は許さないとでも言うようにピシャリと宇喜多が言ったので、近江も言い返すことが出来なかった
「スピ〜」
三人が見つけたときから鳴き続ける、この鳴き声を名前にもらったヤマアラシの幼体は
判っているのか判っていないのか、宇喜多の言を後押しするように啼いた
子供から見ればありとあらゆるモノが大きく見える
けれどもそんなことは関係なく、自分の家の玄関は広いと宇喜多は感じている
広い玄関に少ない靴
「帰ったのか?」
綺麗に靴を揃えて自分の部屋に向かう彼を父親がリビングから声をかける
「何だそのカバンは?」
「あ、お店でみかけて……格好良かったから。ちゃんとお小遣いで買ってるし……」
スピーの入ったボストンバックを、なるべく軽そうにみせながら答える
「あまり計画性の無い買い物はするなよ。友達がよくないんじゃないのか?」
「父さん!友達の事は悪く言わないで下さい!」
「……そうだな。お前がしっかりと勉強もスポーツも生活も規律をもってしっかりやってくれれば文句は言わない
けれども、そうじゃなくなったときは罰するからな。そうじゃなきゃ亡くなった母さんに申し訳が……」
「自分の言葉で言って下さい。母さんが…じゃなくて」
それだけ言うと二回にある自分の部屋に走っていった
残された父親は溜息をついた
「あの年頃の子は難しいな……」
それ以上は考えようとせずに呼んでいた新聞に目を戻した
家が同じ方向の鴨川と近江はもう青が無くなった空の下を一緒に歩いていた
近江はアスファルトに引かれた白い線の上だけを歩いている
「駄目だなぁ……俺」
「どうしたの?」
「宇喜多と仲良しになりたいのにってコト」
「今でも充分仲良しでしょ」
よく喧嘩してる二人だが、それが一種のコミュニケーションであることは鴨川にも判る
「でもさ……素直になれないっていうか」
「圭ちゃんらしいよ」
鴨川は背が小さい
牛乳を飲んでるのだが、背が小さい
従って近江のコトを見上げる形になる
「あのさ、鴨川だから言うけど……」
星空をバックにした近江が思い詰めたように口を開いた
暗くなって表情は判らないけれど、でもそういう表情をしてると鴨川には判った
「俺、転校するかもしんない」
町唯一のビジネスホテルの一室で吹雪鬼はライフカードとにらめっこをしていた
カードに書かれてる文字は『強奪』『説得』『色仕掛け』『詐欺』『盗む』
そしてカードを投げ出す――諦めるという選択肢もある
(どーする私!?どーする?!)
シャワーを浴びた後の濡れた髪を梳かしながら、吹雪鬼は考えていた
(っていうか、こういうギャグパートは鋭鬼くんの分野でしょう!)
「……染まってきたのかしら?染められちゃったのかしら?」
とまぁ、そんなどーでもよい、いやよくないんだが、とにかく考えてゴロリとベットに横になった
「あの……吹雪鬼さん……」
そんな吹雪鬼に、<吹雪鬼が入った後のバスルームでシャワーを浴びてちょっと変態チックにドキドキな>蛮鬼が声をかけた
「なんだ、この失礼な<>で強調された説明文は」
「はぁ?何の話?」
「あ、えぇっと……そのですね、若い男女が同じ部屋で一晩は如何かと……」
至極まっとうな意見を述べる蛮鬼
けれども
「だって二部屋借りるのはお金が勿体ないし」
「経費で降りるんじゃないんですか……」
「降りないわよ。コレ、私の自費よ」
え?っと驚いた顔を見せる蛮鬼に吹雪鬼は続ける
「一応おやっさんには言ってあるけど、本部のデータベース上では私達は待機中で東京に居るわよ」
吹雪鬼はしなやかな身体を伸ばす。下着を着けてないのでモロに身体のラインが出てる
勘弁していただきたいものだと蛮鬼は視線を逸らした
「あのヤマアラシ、蛮鬼くんが子供達を説得しできなかった場合、無理矢理にでも……」
「吹雪鬼さん……」
「多く見積もっても三年が過ぎてる。もう人が食べれるだけに成長してる可能性は大よ」
だから……と吹雪鬼は続けた
「殺すわ。殺した方がいい……」
「猛士で保護することは……可能性があるといっても、実際に人を食べた訳じゃない」
「狼が犬になる?ライオンが猫になるの?」
吹雪鬼は普段着ないパジャマをパタパタさせながら冷たく蛮鬼を突き放した
「……魔化魍の幼体なんて珍しいでしょ?」
「え?それはそうですけど……」
「そんな珍しいものが“保護”されるとどうなると思ってる?狭い檻の中に閉じこめられて
毎日毎日鎖に繋がれながら、身を削られ、血を絞られ、傷つけられて、モルモットとして生涯を終えるわ」
言葉も無い蛮鬼に自嘲気味に吹雪鬼は笑う
「それが猛士――組織と言うモノよ」
「猛士は……元々、鬼の活動をサポートするために作られた組織でしょう!」
「そんな感じのこと言うと思ったな。蛮鬼くん、根は熱血少年だから」
ベットの上で転がって仰向けになった吹雪鬼は枕に顔を沈めた
「僕は子供じゃありません……」
ではどう見て貰いたかったのか?と問われれば判らない。大人として見て欲しかったのか、男として見て欲しかったのか
蛮鬼は濡れた髪を乱雑にバスタオルで拭きながら、論理的に説明出来ない自分に苛立ちを覚えた
その日の朝、町にパトカーと救急車のサイレンが響いた
吹雪鬼達の止まっているホテルからそう遠くはない距離
もっとも、常人ならば聞こえる筈のない距離だったが
朝食をコンビニで買って、二人はサイレンの方向――人だかりが出来ている宇喜多邸へ走った
「この家って……」
「何があったんですか?」
野次馬の一人に吹雪鬼は聞くと、まぁこんな時の人間というのは普段考えられないくらい饒舌になるもので……
夜中、この家の主である宇喜多新之介が何者かに襲われ右足を失ったという
新之介がいたのは二回の部屋であり、本人の目撃談からおそらく人間ではなく獣と言うことで
これは保健所の仕事と警察官の半分は撤収を始めているという
「狼は狼、ライオンはライオン……」
蛮鬼は言い返す言葉もなく、宇喜多邸に向かった
こっそり忍び込んで中で視聴聴取を受けてるだろう子供の方の宇喜多にヤマアラシを何所にやったかを聞かねばなるまい
「私はあの洞窟に向かうわ。習性で戻ってるかもしれないし」
「わかりました」
「見つけたら……判ってるわね?もう説得とか言ってられないわ」
怜悧な吹雪鬼のまなざしを、蛮鬼は真っ直ぐ受け止め同意した
――居た
全力で走りながら、息一つ切れていない吹雪鬼が目にしたのは“二人と一匹”だった
「ヤマアラシを渡しなさい」
「絶対嫌だ!」
近江の返答に鴨川も大きく頭を上下に振って同意を示す
意思は硬い。子供ながらに敬意を表したいどころだ
否、そう思ったからこそ前回は退いた。穏便に、出来るだけ彼等に傷ついて欲しくなかったのだ
「宇喜多くんのお父さんが襲われた事件は知ってる?襲ったのはそこの……」
「スピーがそんなことするもんか!」
滅多に声を荒げることのない鴨川ですら、そう言って家から持ってきたのであろう、バットを吹雪鬼に向けた
「スピーのことは……忘れなさい」
「友達を忘れることなんて出来ない!」
「じゃあ忘れなくてもいいから、諦めなさい!!」
“大人”の強い口調に子供達は一瞬ひるむ
その時だった、思わぬ闖入者がこの寸劇に上がったのは
それに気づいたのはスピーだった
「スピーー!スピー!」
初めは鴨川の袖を引っ張ってるだけだったが、しまいにはその幼い牙を剥きだしにして威嚇を始めた
だがそれが自分に向けられてないコトに違和感を覚えた吹雪鬼は、次に自分の注意力不足に舌打ちした
「迷子の迷子の魔化魍さん〜〜♪あなたのお家はどこですか〜♪」
「どこですか〜♪」
ボロを纏った顔色の悪い男と女。童子と姫
「迎えに着たのかしら?」
吹雪鬼が変身音笛を吹くのと童子と姫が異形に姿を変えたのは同時だった
「逃げなさい!」
唖然とする子供達に命令する吹雪鬼に姫が覆い被さってくる
「くっ……」
腕を大きく回して振り払ったが、次の瞬間姫の顔が間近に迫っていた
「あぅ?!」
姫の頭突きに一瞬視界が回転する。もっとも姫も同じだったらしく、すぐには攻撃してこなかった
「名前〜を聞いても判らない〜♪」
一方で童子が子供達に迫っていた。彼等は金縛りにあったように動けない
唯一、スピーだけが童子に向かって吼え続けていた
「鳴〜いてばかりいる〜……」
「トゥァ!!」
「ブッ……」
顔面を蹴りつけられた童子が派手にブッ飛ぶ
「吹雪鬼さんが逃げろって言ったろ!早く行け!」
腕に抱えた宇喜多を降ろしながら、すでに変身してある蛮鬼は子供達を追い立てるように言った
「蛮鬼君も!」
「え?」
「付いていてあげて!童子と姫は私が足止めするから!……判ってるわね?」
吹雪鬼の最期の一言は蛮鬼に鬼であることを強要した
隙をみてヤマアラシ幼体を……殺す
「判りました」
逃げる子供達の最後列を蛮鬼が付いていくのを確認すると、吹雪鬼は姫の隙を逃さずに潜り抜け
彼等を追いかけようとする童子にしがみついた
当然、姫に対しては背中が無防備になる
「シャア!」
ヤマアラシと同じ針による攻撃が、吹雪鬼の身体に突き刺さった
「卑怯ね……!!」
童子を突き放しながら、吹雪鬼は何かを上空に投げた
「「??」」
思わずそれを目で追う童子と姫に吹雪鬼の音撃管『烈氷・改』の弾丸炸裂する
「ギャア!?」
「卑怯だなんて思わないでよ?戦いで隙を見せる方が悪いんだから」
落ちてきた朝食(予定)のサンドイッチをキャッチしながら、吹雪鬼は笑った
「居なくなっちゃたんだ……スピーが……鴨川くんと近江には連絡はとったんだけど」
「一緒に連れて行って!」
「そしたら止める!だってスピーは友達だから!僕達三人の大事な友達だから!」
(考えるな……)
自らの前を走る少年達の背中を見ながら、蛮鬼は自分に言い聞かせた
「あぁ!」
近江が足を止め声を上げる
「木が倒れて道をふさいでいる?どうして?」
蛮鬼が木の折れた部分を見ると、無理矢理引き裂いたような後があった
「別のルートを捜さなきゃ」
「スピー!スピー!」
「スピー?あ、待って!」
スピーが山道を逸れる。慌てて追いかける子供達を蛮鬼は更に追いかける
鬼の跳躍力や怪力を持ってすればココを突破できたものを……と舌打ちをしながら
「スピーー!」
スピーが案内したのは天然のトンネルだった
木の根と枝が風化した土に取り残され、隙間を苔によって埋められたトンネル
僅かにその先から光が見えることからトンネルと判る
スピーは三人を案内するといの一番に飛び込んでいった
後に残された子供達は一瞬たじろかないでもなかったが、スピーを一人にしておくわけにもいかず、続く
「狭いぞ……」
一番あとから来た蛮鬼は思わず呟いた
子供が通るには充分だが、蛮鬼が通るには屈んで行かねばなるまい
「僕が足止めをやれば良かった」
と愚痴っては見たが、そうすると吹雪鬼に厭な役をやらせる事になる訳で、それはそれで蛮鬼の男気が許さない
光が余り射さないのであろう。湿った土に手をついて子供達とヤマアラシ幼体を追いかけてトンネルに入った頃
獣の叫びと子供の、あれは確か鴨川とか言った子の悲鳴が聞こえたのだった
「う、うわぁああぁあぁぁ!!!」
「シュギャアァァァァ!!」
トンネルを出た鴨川に鋭い爪を向けたのはヤマアラシの幼体だった
全身の針を逆立て、口腔から粘つく唾液を滴らせている
「フシュゥゥゥゥゥ……」
「え?え……?」
頭から流れる血を抑えながら、鴨川はその異常な状況に顔が引きつった
身体が動かない
「シャアッ!」
ヤマアラシの幼体が再び襲いかかる
その前足の白い毛は血で赤が斑に染まっていた
「鴨川ッ!」
彼のすぐ後ろに付いていた近江が、鴨川を抱きかかえるようにトンネルから飛び出す
間一髪
これほど場を形容するに相応しい言葉は無かった
「何が起きてる!?」
宇喜多を押しのけるようにしてトンネルを出た蛮鬼は、どうやら後手にまわりすぎて最悪の事態になったと理解した
同時に子供達への苛立ちも現れないでもない
「解ったか?スピーがお前のお父さんや友達を傷つけた張本人だ」
蛮鬼は音撃弦『刀弦響』を構える
「魔化魍は……危険だ!全て……殺す」
敵意を向ける蛮鬼にヤマアラシ幼体も低く吼え、威嚇を開始する
「違う……」
「何?」
声をかけたのは鴨川だった。近江が自身の服を破って頭の傷に当てている
「そうだ、スピーはこんな事しない!判るもん!友達だから!」
「友達だからって全部相手の事が判るものか!現実を直視出来ないのは嫌いだ!」
近江の反論を蛮鬼は素気なく否定する
「あれはスピーじゃない!」
宇喜多までそんなことを言う。それも仕方ないのかも知れない
そう思いたいことというのはある。だが、逃げてばかりで済むほど
「生きるっていうのは甘くないだろう……」
一瞬父と母の事を思い浮かべながら、『刀弦響』を大上段に構えて蛮鬼は跳んだ
「南無三ッ!」
「ギャシャ!」
ヤマアラシの幼体から針が飛ぶ
もう針を飛ばせるのかと驚きながら、だが成体ほどの威力を無いと見え、突き刺さるを構わずに切り裂いた
「くっ外した……?いや、ワザと腕を切らせた……?」
魔化魍の血で血まみれになった『刀弦響』を大地から引き抜く
「しまった!逃げろ!」
振り返った蛮鬼には、ヤマアラシ幼体が大きく口を開け、子供達を丸呑みにしようとする姿があった
「ッ!」
思わず目を瞑る蛮鬼
「スピィィィーーー!!」
「!!」
子供達を救ったのはもう一体のヤマアラシの幼体だった
脇腹から血を流している
「キシャアァアァァ!!」
食事を邪魔されたヤマアラシ幼体がスピーの顔に爪をかける
「スピィ?!」
脇腹の傷とよく似た傷がスピーの頭に出来た
「本当に……違ったのか……」
迂闊だった。子供を一回に一匹しか産まないのは人間ぐらいなもんだ
蛮鬼は呆然として立ちすくんでいた
「スピーィ!」
傷ついたスピーに駆け寄ろうとした子供達にヤマアラシ幼体が立ちふさがる
「シャアァ!」
「ピィィ!!」
子供達に飛びかかろうとしたヤマアラシ幼体の足に噛みついたのはスピーだった
「逃げなさい!」
「ギャッ!」
女の声と一緒に投げ込まれた固まりはヤマアラシ幼体の頭部にぶつかり、転げ回される
「ギィシャア!」
怒り狂ったヤマアラシ幼体はその物体を踏みつぶした
「あらあら、自分を育ててくれた者に対しての感謝が無いんじゃない?」
「吹雪鬼さん!」
姫の死体を蹴り飛ばしながら、吹雪鬼は子供達の前に飛び降りる
「聞こえなかったの?逃げなさい。足手纏いなんだから!」
「スピーを置いていけるもん……」
「スピーが守りたいのはアンタ達なのに、そんなことも判らないの!それで友達な訳!!」
厳しい表情(といっても仮面で見えないが)で子供達を一喝する吹雪鬼
「一緒にいるだけが友達じゃないって……ばっちゃがいってたわよ」
一転して優しく言うと三人の肩に手を置いて「ゴメンね」と笑った
「スピーを……助けてね」
「ちゃんと帰して!」
「約束だよ!」
それだけ言うと、三人は踵を返し、振り返らずに走っていった
「……素敵じゃない。私も子供欲しくなっちゃったわよ」
「ええ゛!?」
どこをどうしたらそんな結論に行き着くのか、蛮鬼には理解できない
もっとも、理解できないからこの人が好きなのだが
「さぁ、大人がしっかり約束を果たすところを子供に見せてやらなきゃね!」
「はい、吹雪鬼さん!」
酒呑院の裏山でキノコ狩りをしている鋭鬼は、隣の光厳院にぼやいた
「思うんですけど……俺って主役ですよね?」
抜いたキノコの土をフッと息で払う
「あ、それ嗤い茸ですよ」
「あ、そうっすか……」
「採ったキノコに同じのないか、確認しておいてください。実はもう一匹居た!っていうのパターンですから」
悪かったな、引き出しが少なくて
「ん?鋭鬼さん、何か言いました?」
「へ?いや何も」
事の終わりをただ待つことしか出来なかった子供達はひたすらスピーの帰りを待っていた
そして帰ってきたスピーは……吹雪鬼に抱えられて虫の息というのにピッタシだった
「そ、そんな……」
一番気丈な宇喜多が一番ショックを受けていた
「嘘つき!約束破ったな!!」
近江は泣きながら蛮鬼をその両手で叩き続けた
「治るんでしょ?スピーは……」
鴨川の問いに蛮鬼は俯きながら答える
「外傷が酷い……腹に傷を受けたまま動いたせいで。それに頭部から……血が流れ過ぎた……ゴメン」
子供相手に深々と頭を下げる蛮鬼の頭を吹雪鬼はペシっと叩く
「な〜〜に謝ってんのよ」
「ふ、吹雪鬼さん?」
非常識な……と思った蛮鬼の前で、吹雪鬼は音撃管『烈氷』に音撃鳴を取り付けた
「な、何を……ま、まさか!!」
安楽死でもさせようというのかと止めにかかる蛮鬼をデコピンで吹雪鬼はいなしながら、音撃管をの口を直接スピーに当てる
「静かにしてなさい。これ、得意じゃないんだから……」
言うと吹雪鬼は深く息を吐いた
「音撃“逆”射!凍衷華葬……」
通常の音撃射のように息を“吐く”のではなく“吸っている”
同時にスピーの身体から傷が瞬く間に減っていった。血色も良くなっている
まぁ、獣医ではないので本当にそうなのかどうかは判らないが
「吹雪鬼さん……」
「スピーーー!!」
吹雪鬼に触れようとした蛮鬼より先にスピーが元気に跳ね上がる
「立った!スピーが立った!わ〜〜い!!」
「スピーー!」
三人の子供達は口々に「ありがとう」と俺の言葉を発しながらスピーと抱き合っていた
「友達はこの世で最も貴重なプレシャスだって、ばっちゃが言ってたわよ。大事にしなさい」
吹雪鬼は笑うと蛮鬼を促すとこの場を後にした
「あんな技があったんですね……」
少し興奮したように話す蛮鬼に対して、吹雪鬼は振り向かずに言った
「忘れて頂戴。使いたがる人が増えると困るから」
「使いたがるって……?」
「この技を使ってる師匠は、三回ぐらいしか見たことが無いわ。難しい技だから、中途半端な修練で使っちゃ駄目なの
私も、みっちり教えられたけど、よっぽどの事がない限り使うなって師匠に言われてたわ」
吹雪鬼は自分の荷物を『白鷺』のサイドカーの方に降ろした
「吹雪鬼…さん?」
怪訝に思っている蛮鬼に『白鷺』の鍵が投げ渡される
「え?」
鍵と吹雪鬼を交互に見ていた蛮鬼の目の前で、吹雪鬼は倒れ込むようにサイドカーに座った
「吹雪鬼さん!?」
息が荒い
「はぁ…はぁ…あの…技は…ね……はぁ、相手の傷を引き受ける技なのよ……」
青い顔で脇腹を押さえる吹雪鬼は続けて言った
「う、運転…お願いね……」
「でも……」
「何?」
「僕、二輪免許持ってません……」
――沈黙
「タ、タクシ〜〜……」
吹雪鬼の情けない声が響いた
ちなみにタクシー代は蛮鬼持ちであった
「 十二之巻 THE CURE 完 」
199 :
高鬼SS作者:2006/04/10(月) 21:58:08 ID:0qmwU5FW0
一本投下します。
作中に京都の大文字についての描写がありますが、
実物を生で見た事が無いので全部ネットで得た情報のみで書いております。何か間違いがあったらスミマセン…。
あとTV本編でカシャと合成されて出てきたワニュウドウ。
あんな火の車になって走る魔化魍の生物モチーフなんて思いつかなかったので独自の解釈でやっております。
それではどうぞ。
>>175 少なくともこちらは同じ世界のつもりで書いております。
あんなパロディキャラ達の出てくる馬鹿騒ぎ話と同じ時間軸かと思うと、ちょっと他の作者様方に申し訳ない気もしますが…。
1977年、葉月。
「ワニュウドウですか?」
研究室であかねから魔化魍の情報を得たコウキは、相手がワニュウドウだと分かると如実に嫌そうな顔を見せた。
ワニュウドウは古くからその存在が確認されている魔化魍である。
魔化魍は基本的に実在する生物に近い姿をしている。だが、ワニュウドウは炎の元素そのものが化けた存在である。そのため生物には不可能な動きで襲い掛かってくる。これが実に厄介なのだ。
「ぼやかないの。これも太鼓使いの宿命だと思ってやってきなさい」
珈琲を飲みながら諭すように言うあかね。
「……分かりました。場所は京都でしたよね」
「そう、京都の如意ヶ岳。……あれ?ちょっと待って」
そう言うと何かを調べ始めるあかね。
「やっぱり!丁度今夜だよ、大文字焼きがあるのは!」
嬉しそうに話すあかね。
そう、本日八月十六日は京都四大行事の一つ、大文字が行われる日である。
「よし決めた!私も一緒に京都に行くよ!」
「えっ!?ここを留守にして大丈夫なのですか?」
大丈夫大丈夫、そう言うとおもむろに何処かへ電話を掛け始めるあかね。
「京都の地理には不慣れだから、イッキくんに案内を頼むね。彼、確か今日非番だったからさ」
イッキも大変だな、と心の中で思うコウキであった。
コウキとあかねは、京都駅の前でイッキと合流した。彼は京都出身であり、案内にはうってつけの人物だと言える。
「お久し振り、イッキくん!最近会ってなかったけど元気してた?」
「ええ、僕は元気ですよ。今度研究室の方に太鼓のメンテナンスに伺いますよ。コウキさんもお久し振りです」
そう言って握手を求めてくるイッキ。礼儀正しい彼の事はコウキも気に入っている。同じ太鼓使いという事もあってか、イッキが新米の頃少し面倒を見てやっていた事もあった。
「すまないなイッキ。休みの日に呼び出してしまって……」
「いえいえ、コウキさんが謝られる事はありませんよ。それに僕も暇を持て余していた事ですし……」
嫌な顔一つせず笑顔で答えるイッキ。
「では私はワニュウドウ退治に行ってきます。イッキ、あかねさんをよろしく頼むぞ」
「お任せ下さい」
互いに敬礼に似たポーズを交わすと、コウキは如意ヶ岳へと向かっていった。
「五山送り火は夜の八時からです」
京都市内を観光がてら、今夜の行事について説明するイッキ。
「ああ、そっか。こっちじゃ大文字焼きとは言わないんだよね」
「それは京都では禁句ですよ。大文字焼きという言葉は京都市民には良いイメージがありませんから」
「ごめんね、勉強不足で」
頭を下げるあかねに笑いながら答えるイッキ。
「いえいえ、頭を上げて下さい。……それよりもコウキさん、ワニュウドウが相手ですか?」
途端に真剣な顔で尋ねてくるイッキ。
「そうよ。しかも出たのは如意ヶ岳」
「午後八時までにケリが着くといいんですがね……」
そうね、とあかねは頷いた。果たしてコウキはあの強敵相手にどれ程時間を費やすのであろうか……。
ワニュウドウの怪童子と妖姫を高鬼が倒した時には、もう既に日は沈みかけていた。
(くそ、捜索に時間がかかった。場所が場所だし早めに決着を着けなければ)
伝統ある祭りである。魔化魍が出るからと中止にするわけにはいかない。
(何処だ。何処にいる)
童子と姫がいた以上、この近くにいる筈である。
と、視界の端に明かりが過ぎった。
(そこか!)
慌てて明かりの見えた場所に向かう高鬼。
そこには、文字通り炎で出来た車輪が、ワニュウドウがいた。
「もうまもなく、京都市内の照明が落とされます」
あかねに向かってそう説明するイッキ。
「うわぁ、楽しみだな。私ね、長く関西にいるけど、この送り火を生でみるのは初めてなんだ」
年甲斐も無く嬉しそうにはしゃぐあかね。それを見て微笑むイッキ。
「……しかしコウキさん、大丈夫ですかね」
「うん。魔化魍を倒したらこっちに来るって言ってたけど……」
当然ながら周囲にコウキの姿は無い。まだワニュウドウを倒せないでいるのだ。
と、その時イッキが如意ヶ岳の方を指差してあかねに言った。
「あ!あれを見て下さい!分かりますか?ほら、あそこ」
「どれどれ?あっ!」
一瞬だが、如意ヶ岳に火が灯った。当然ながら送り火のものではない。つまりワニュウドウの火という事になる。
(コウキくん……)
あかねは胸中でコウキの無事を祈った。
あと少しすれば午後八時になるだろう。それまでに退治しなければ。そう高鬼は焦っていた。
しかし、木々の間をトリッキーに動き回るワニュウドウを捕捉するのは至難の業だった。
さらに高鬼にはもう一つどうしようもない事態があった。彼の属性である。炎を纏った技は、炎そのものであるワニュウドウには全く通用しないのだ。
ワニュウドウが高鬼の前方に姿を見せる。炎の輪の中心に、人の顔のような模様が浮かび上がった。まるで高鬼を嘲笑うかの様に。
(接近して輪の中心に、今顔が浮かび上がっている部分に「紅蓮」を貼り付ければ……)
しかしそこまで行くのが難しいのである。
ワニュウドウが勢いよく高鬼目掛けて転がってきた。回避するも、ワニュウドウはすぐさま軌道を変えて高鬼の方に突っ込んでくる。
とうとう胸に直撃を喰らってしまった。肉の焦げる嫌な音と臭いがした。
「くっ!」
火傷自体は鬼の治癒力をもってすれば簡単に治る。問題は攻撃を受ける事による体力の低下だ。こればかりはどうしようもない。
ワニュウドウが一際勢いよく燃え上がって突っ込んできた。跳躍して樹上に上がり回避する高鬼。しかしワニュウドウも地面を蹴り樹上へと跳び上がってきた。
再び直撃を受け、身を焼かれながら地面に落下する高鬼。
「くっ……炎使いがこれでは世話ないな」
またしても木々の間へと姿を隠すワニュウドウ。高鬼は全身の感覚を研ぎ澄まし、必死でワニュウドウの動きを探った。
「如意ヶ岳に有名な大文字が浮かび上がります。松ヶ崎には妙と法の一文字が、西賀茂には船の形が、大北山には……」
指で指し示しながら説明を続けるイッキ。しかしそれを聞くあかねは何処かそわそわしている。
「心配ですか、コウキさんの事」
「うん、まあね」
少しの沈黙の後、イッキは意を決したようにこう言った。
「やはり僕も行ってコウキさんを援護してきます。申し訳ありませんが見物は一人でお願いします」
「ううん、大丈夫。彼を信じましょう。だって彼は三十匹の魔化魍を一人で倒した鬼だよ?」
「……信頼していらっしゃるんですね、コウキさんの事を」
ここの鬼の中で一番付き合いが長いからね、そう言ってあかねは笑った。
「ふふ……分かりました。僕もあの人の事を信じてみます。しかし暑いですね。大丈夫ですか?」
そう言って扇子を取り出し扇ぎ始めるイッキ。
彼が持っているのはあかねが以前作ってやった特注の鉄扇子だ。勿論戦闘にも使用出来る。
「うん、ちょっと暑いかな。悪いけどそれで少し扇いでくれる?」
言われるままにあかねを扇いでやるイッキ。と。
「あ、そろそろですね」
周囲が暗くなった。そして、まず如意ヶ岳に大きな篝火が焚かれ始めた。
ワニュウドウと死闘を繰り広げる高鬼。しかし全く捕らえる事が出来ないでいた。
(くっ、これでもう少し大きかったらまだ捕捉し易かったものを……)
と、高鬼の脳裏にある出来事が浮かび上がった。この山でワニュウドウと相対したばかりの時の事である。
その時高鬼は牽制目的で鬼棒術・小右衛門火を放った。ところが、火はワニュウドウの体に取り込まれ、それと共に体が大きくなったように見えたのである。
(あれが目の錯覚でなければ……)
賭けてみる価値はあるかもしれない。
ワニュウドウが再び跳びかかってきた。それと同時に鬼法術・焦熱地獄を使用する高鬼。
「私の炎をくれてやる!」
全身から炎を噴き出し叫ぶ高鬼。
「これは元々精霊、つまり死者の霊をあの世へ送り届ける目的で執り行われているんです」
あかねに説明を続けるイッキ。と、見物客の間からどよめきが起こった。
何事かと山を見るイッキ。そこには……。
予想通りだった。
高鬼の炎を受けて、ワニュウドウの体がどんどん大きくなっていく。
「これだけ大きくなれば小回りも利かなくなるな!」
精神を集中して、全身に力を込める高鬼。
「破っ!」
炎を吹き飛ばし、中から「紅」へと変身した高鬼が姿を現す。
高鬼紅のただならぬ気配に、逃亡を図るワニュウドウ。
「逃がさん!」
逃げるワニュウドウにぴったりとくっ付いて走る高鬼紅。
「でかくなった分スピードが落ちたんじゃないのか?」
さらにワニュウドウの前へと出た高鬼は、その輪の中心に「紅蓮」を貼り付けた。
「行くぞ!天罰覿面の型!破っ!」
二本の「大明神」を、貼り付けた「紅蓮」に叩き込む高鬼紅。ワニュウドウの体を清めの音が駆け巡る。
そして。
轟音と共にワニュウドウの体は弾け飛び、火の粉となってちらちらと降ってきた。
「紅」を解き、さらに顔の変身も解除するコウキ。
「ふぅ……焦熱地獄と『紅』を連続でやると、予想以上に体力を消耗してしまったな」
コウキがあかね達の下へやって来た時には、既に終了時間の午後九時をまわっていた。
「お疲れ様、コウキくん」
そう言って冷たい飲み物をコウキに手渡すあかね。
「お疲れ様です、コウキさん」
「ああ。君もあかねさんの面倒を見てくれて有難う」
「……でね、コウキくん。ちょっと言い難い事なんだけど……」
そう言いながら一枚の写真を取り出すあかね。あかねが持参したポラロイドカメラで写したものだ。
「とりあえずこれを見て」
見るとイッキも苦笑いをしている。一体何が写っているというのだろう。
「あ!」
写真を見たコウキは我が目を疑った。そこには如意ヶ岳に焚かれた大文字が写っている。だがその文字の真下に……。
「、」が付いていたのである。場所はそう、コウキがワニュウドウと戦っていた所だ。
「あ、あの時の炎か……」
「、」が付いたお蔭で「大」の字が「太」になっていたのである。
「大騒ぎだったよ、コウキくん」
あかねもまた、苦笑しながらそう告げる。
汗ばむ熱気の中、コウキは写真をただただ凝視し続けるのであった。 了
太文字焼きw
犬じゃなくてよかった?
208 :
まとめサイト:2006/04/11(火) 13:03:57 ID:Tm+tWMwK0
鬼。それは厳しい修行の果てに大自然が持つ変化の力を得た人の総称。
鬼。それは魔化魍と呼ばれる悪しき存在から人々を守る為、自分の命をも顧みず戦い続ける者達。
この物語は、そんな鬼の1人『虹鬼』の戦いの記録である。
響鬼非公式外伝―仮面ライダー虹鬼と7人の戦鬼―
一之巻…虹司る鬼
「ほう、では君はアームドセイバーに原因があると…そう言いたいのかね?」
秘密組織『猛士』本部の一角、研究開発室のデスクで室長の小暮耕之助は、目の前に立つ女性にそう問いかけた。
「はい、今回の関西、四国、九州の各支部における鬼の集団変身不能化現象は、各方面のデータから92.36%の確率で小暮先生の開発されたアームドセイバーに原因があると考えられます」
小暮の射抜くような視線にも萎縮する事無く、堂々とした態度で返答する女性は水無月美沙。猛士九州支部に所属する『銀』である。
彼女は今、ある命令を受け、同行者1名と共に吉野へと乗り込んできていた。
「提出された報告書によると、アームドセイバーの発する波動が鬼の力に干渉し、変身能力を一時的に奪うとあるが、どうも信用できんね」
「信用できない…と仰いますと?」
「そのままの意味だ。最近の鬼は鍛えが足りん連中ばかりだからな。自分の非力をアームドセイバーのせいにしているんだよ!」
苛立ち紛れに発せられた小暮の言葉。それが引き金となった。
「欠陥品ば作っておいて責任転嫁すっなんて…アンタそいでん男ね?」
突然、美沙の口調が変わった。流暢な標準語から長崎弁に変化し、音量も一気に跳ね上がる。
「な、なんだと!?」
「聞こえんかったとね? 欠陥品ば作っておいて責任転嫁すっなんて…アンタそいでん男ね? って言うたったい!」
突然の方言に一瞬虚を突かれた小暮だが、すぐに意味を理解し、顔を真っ赤にして反論を開始した。
「貴様、私の最高傑作であるアームドセイバーを欠陥品呼ばわりしたばかりか…目上の人間に対してその言葉遣いは何だ!」
「目上の人間やろうと関係なか! 欠陥品ば正直に欠陥品って言うてなんが悪かとね? こがんガラクタのせいで、九州支部の皆が迷惑しよるかと思うたら頭に来る!」
怒声と方言が飛び交う異様な口喧嘩の光景に呆然となる周囲の職員達。そんな中―
「コウキさん、止めなくて…大丈夫ですか?」
「大丈夫でしょ、今のところ口喧嘩だし…それに…」
「それに?」
「君、あの中に飛び込んで喧嘩の仲裁できる勇気ある?」
「ありません…コウキさんは?」
「ある訳無いじゃん」
部屋の隅で茶を飲んでいた1人の男だけは事態を静観していた。
男の名はコウキ。美沙の同行者にして、九州支部に所属する鬼である。
次の日、コウキと美沙は和歌山県の某山中でベースキャンプを設営。魔化魍探索を行っていた。
「しかし、ピンチヒッターで魔化魍探索するなんて…関西支部の被害も相当酷いみたいだねぇ……D−5外れ」
探索から帰ってきたディスクアニマル『茜鷹』をチェックしつつ、そんな事を呟くコウキ。
「あの欠陥品のせいで、関西支部は半数近い鬼が変身不能になったからね…動ける鬼総動員しても追いつかないんだって」
美沙も帰ってきたディスクを収納しつつ、相槌を打つ。
「ま、九州や四国も同じ状態だからね…正直、俺と美沙がこっちに来れたのは奇跡みたいなもんだよ。レンキやハバタキ、ジンキには飯でも奢ってやらないと…F−2外れ」
「四国はウズマキさんとカイキさんの2人で頑張っているらしいよ…過労で倒れなきゃいいけど…」
「支部長は四国との連名で抗議文を送る予定だってさ………当たりだ」
「場所は?」
「地図によると…C−2だから……東に2kmってところか」
場所を確認するとコウキは愛車である『黄龍』へと走り、中から愛用している音撃武器の1つ『音撃弦・迅雷』を取り出す。
「気をつけてね。九州の山とは色々違うだろうから」
「百も承知。じゃあ、いってきます!」
「いってらっしゃい!」
決めポーズであるサムズアップを決めて走り出すコウキを、美沙は火打ち石で切り火をして見送った。
「ここか…」
茜鷹の先導で山道を進んでいたコウキは、目的地と考えられる河の上流へと辿り着いていた。
「案内ご苦労さん、助かったぜ」
先導の役目を終え、頭上で旋回している茜鷹に礼を言うコウキ。茜鷹も嬉しそうに声を上げる。
そして、コウキが周囲を探索しようと歩き出したその時―
「現れたな、鬼め」
「我らの行く手を阻みに来たか…」
1組の男女がコウキの前に立ち塞がった。魔化魍を育成する役目を帯びた存在、童子と姫だ。
「我らの子は腹を減らしている…」
「里へ降りる前に、鬼の骨を食わせるとしよう」
そう言い終えるが早いか、それぞれ怪童子と妖姫に姿を変える童子と姫。
それを見たコウキも―
「その姿…予想通りバケガニだな」
そう呟きながら手にしていた迅雷のカバーを外し、地面に突き刺す。そして、飛びかかってきた怪童子と妖姫を避けながら、紫色の変身音叉『音角』を取り出し、近くの岩で鳴らすと―
「いくぜ!」
音角を額に当てた。
リィィィィィン!
涼やかな音が響くと同時にコウキの全身を7色の光が包む。
飛びかかった怪童子と妖姫が光の防壁に弾き飛ばされ、再度立ち上がった時にはコウキの変身は完了していた。炎、風、雷などの力を合わせ持った『虹』の力を司る鬼。その名も虹鬼!
変身を終えた虹鬼は、地面に刺した迅雷をそのままに―
「いくぜ!」
気合と共に走りだした。
振り下ろされるハサミを左手で受け止め、間髪入れず右フックで根元から打ち砕く。更にその勢いを利用してのバックハンドブローで怪童子を吹き飛ばす。
続けて突進してきた妖姫も矢継ぎ早に繰り出されるハサミ攻撃をかわしつつ、左の連打を叩き込んで小刻みにダメージを与えた後、回し蹴りでこちらも吹き飛ばす。
フラフラと立ち上がる2体のダメージが相当なものである事を確認した虹鬼は、バックステップで距離を取ると―
「はぁぁぁぁっ…」
今までとは違う構えを取り、気合を込め始めた。瞬く間に虹鬼の四肢が風を纏っていく。
「鬼闘術! 旋風刃!!」
次の瞬間、風を纏い威力を格段に増した虹鬼の手刀が怪童子を、足刀が妖姫を切り裂いた。
一瞬の間を置き、爆発。土と枯葉へと還っていく怪童子達。
「あとはバケガニか…」
地面に刺した迅雷を抜き、周囲を油断なく見回す虹鬼。
沈黙が周囲を支配する。
3分がたち、5分がたとうとした頃、痺れを切らしたかのように虹鬼の背後からバケガニが出現した。
ハサミの一撃が虹鬼を襲う。
「っとぉ!」
斧形態の迅雷で、そのハサミを受け止める虹鬼。
「ぬぅぅおりゃぁぁぁっ!!」
渾身の力でハサミを押し返し、一旦距離を取る。そして、装備帯に装着していた3枚のディスクを取り出し―
「頼んだぜ!」
音角で軽く叩き、バケガニへ投げつけた。3枚のディスクは瞬時に『茜鷹』『瑠璃狼』『緑大猿』へと変わり、バケガニへと向かっていく。
3体の攻撃に気を取られ、バケガニの注意が一瞬虹鬼から逸れる。
「はぁぁぁぁっ…」
そしてこの好機を逃す虹鬼ではない。再度、迅雷を地面へと突き刺し、気合を込める。そして左手に風、右手に雷を纏い虹鬼が叫んだ。
「鬼法術! 風爪雷牙!!」
縦一文字に振るわれた左手から放たれる無数のカマイタチが、バケガニの巨体に幾筋もの傷を付け、突き出された右手から放たれる雷光が左のハサミを焼き砕く。
思わぬダメージを受け、苦悶の叫びを上げるバケガニ。だが、虹鬼の攻撃はまだ終わらない。
「どぅおりゃぁぁぁっ!!」
渾身の力を込め、迅雷をブーメランのように投げ、足3本を一気に切り落とす。
バランスを失った巨体に一気に接近し、残る右のハサミを掴むと―
「せぇりゃぁぁぁっ!」
力任せに捻じ切り、そのまま投げ捨てる。
武器と足の半分を失い、半死半生状態のバケガニの腹に蹴りを叩き込み、仰向けにひっくり返すとそこに迅雷を突き刺し捻じ込んだ。
「とどめだ!」
手早く、装備帯から音撃震『遠雷』を取り外し、迅雷にセットする。
「音撃斬! 神雷烈破!! おぉぉらいくぜぇ!!」
刃が展開し、ギターモードへと姿を変えた迅雷をかき鳴らす度、清めの音がバケガニの体へ響いていく。
そして、演奏終了と同時に、バケガニの体は木っ端微塵に吹き飛んだ。
216 :
名無しより愛をこめて:2006/04/11(火) 14:30:30 ID:qwlEsat3O
援護age
翌日。
コウキと美沙は九州支部へと帰還していた。
「吉野から連絡をもらったよ。あの愚兄にキッチリ言ってくれたようだね。ありがとう、美沙君」
報告書の提出を済ませ、技術開発室へと戻ってきた美沙を出迎えたのは、この部屋の主である小暮耕次郎。
全国でも5本の指に入る優秀な『銀』であり、あの小暮耕之助の弟である。
「あの小暮さんと五分に渡り合う美沙の勇姿、師匠にも見せたかったですよ」
そして、7年前まで先代『虹鬼』として活躍しており、コウキの師匠を務めていた。
「今回の件で、あの愚兄も少しは考えを改めればいいのだが…その為に美沙君とコウキには吉野へ行ってもらったんだから」
「あー…考えを改める可能性は低いかと…」
「何故かね?」
「…関東支部に行っちゃったんです」
「え?」
「いや、俺達がバケガニ退治から戻ったら『関東支部の連中で試してくる』という伝言を受け取りまして…その…行っちゃったそうです…関東支部に」
「なんと言うことだ…」
美沙、そしてコウキの言葉に顔を青ざめる耕次郎。
「また、被害者が出るのか…」
「一応、私の方から関東支部の滝澤さんに、連絡は入れておきました…」
「賢明な判断だよ……何事もおきなければ良いが…」
耕次郎の呟きは美沙とコウキの思いでもあった。
その後、小暮耕之助とアームドセイバーが関東支部にひと騒動を巻き起こし、紆余曲折の末、アームド響鬼が誕生する事となる。
一之巻了
>>177 鋭鬼さんのは、十三之巻ってことでよろしいのでしょうか?
219 :
弾鬼SS筆者:2006/04/12(水) 12:23:21 ID:2UPxktA+O
虹鬼SSさん
投稿乙です!美沙さんの長崎弁がヒットしました!九州支部のお話も期待してます!
用語集サイトさん
実は弾鬼SSを書くさいに幾度か利用させて貰ってます!用語集大賛成なんで、期待してまってます!
鋭鬼SSさん
蛮鬼は意外と可愛いものに弱い!爆笑させてもらいました
220 :
名無しより愛をこめて:2006/04/12(水) 13:18:09 ID:olTFs/wJO
虹鬼SS氏
投稿乙
木暮兄弟の仲がなぜ悪いのか知りたい
>>175 一応裁鬼SSスレから派生したSSなので同じ世界のつもりです
他のSSに登場する鬼やキャラを出す時は出来るだけ統合性を出せるように努力しています
>>218 はい。十三之巻でした。失敗失敗
次が十四之巻です(仮面ライダー吹雪鬼 弐 〜恋人達〜 になるかな?予定では
「逃げろ、裁鬼!!」
数十体の狐の面に向かいながら変身鬼弦を弾いたソウキは、残り僅かな生命力を燃やし、再び漆黒の炎を纏った。
音撃棒から放たれた火柱が魔化魍を吹き飛ばし、裁鬼の逃げ道を作る。
「……お前は、充分戦ったよ。 もう…… 戦わなくていい。」
無数に飛び掛かってくる魔化魍の壁が、送鬼・修羅の姿を裁鬼の視界から奪った。
「行け ……サカエ!!」
叫び声が、混乱する思考に命令する。裁鬼は何度もバランスを崩しながらも、川原を背に、愛する人の許へ向かった。
「……」
洋館の男女が、力無く倒れた。
「……あ、エサの時間か。 すっかり忘れてたよ。」
スーツの男の声が銃撃音にかき消され、洋館の男女は砕け散った。
「あらら。」
感情に動きの無い眼差しで男女の破片が散ってゆく様子を眺めていた男に、烈風を構えたイブキが叫んだ。
「いつまで…… 生命を玩具にし続ける気だ!!」
イブキとトドロキの前に、紫の仮面を着けた姫が立ち塞がり、スーツとドレスの男女は、いつの間にか漂っていた靄の中に姿を消した。。
「逃がすか!!」
トドロキが雷を、イブキが風を纏った。青と黄の炎を消し、剛鬼と蛮鬼もまた、魔化魍軍団との戦闘を開始していた。
正体不明の魔化魍の居場所に向かったイチゲキは、岩に囲まれた広場を覆う靄の中、地面に球体を転がす男女を発見した。
「何をしている!?」
変身鬼弦を構えたイチゲキに、スーツの男が無表情で教えた。
「……動いてもらおうと思ってね。 丁度、鬼達も来てくれたし。」
謎の球体が鈍く光り、岩壁に一筋、紫色の光線を放った。地鳴りに続いて、岩を崩し、巨大な竜の姿をした魔化魍がイチゲキに火球を吐き出す。
「魔化魍オロチ。 一匹で、オロチ現象ぐらいの事はやってくれるらしいんだ。」
「所詮は人間。 どこまで保つでしょう。」
姿を消す男女。イチゲキは弾いた鬼弦を額にかざしながら、装甲声刃に叫ぶ。
「一撃鬼、装甲――!」
赤い炎に包まれたイチゲキを、数十体のディスクアニマルが覆ってゆく。
「何が相手だろうと…… 俺は負けない! 俺は裁鬼さんの弟子だ!!」
銀色に輝く装甲一撃鬼は、火球を装甲声刃で振り払った。
九之章/零之巻『サバキ』
――――。
まるで他人の身体を動かしている様だった。否。長い間、他人に預けていた身体をいきなり返され、その動かし方を忘れていた。
傷だらけの身体を必死で動かしながら、裁鬼は思う。
誰が俺の身体に居た?
誰が俺をこの身体に戻した?
誰が、俺を待っている?
何が…… 待っている?
『俺』は……誰だ?
自我と共に蘇った記憶が、裁鬼に自らの過去を語り始めた――
テンキからサバキの名を貰った後、暫くは鬼となる手続きや免許の取得に追われた。
数年間世間から離れていたサバキの世話をしてくれたのは、登山家として世界各国を飛び回っていたテンキの息子だった。
ソンジはソウキの名で中部支部に配属され、別れの夜、二人は初めて酒を呑んだ。
鬼の先輩達に可愛がられ、同じ弦使いのサカキやバンキと鍛練を行なった。
一人で生きる事に落ち着いてきた頃、怪我をした時の為に紹介された間島医院で、春香と再会した。
春風が吹く丘の上、一年振りの会話に、サバキは時の早さを知る。バケガニの溶解液は、彼女から母となる未来を奪っていた。その告白に、サバキはこう返した。
「二人だけでも、『家族』に成れるだろ。 もう、独りにしない。 ……俺の、家族になってくれ。」
数ヵ月後のある夜、サバキのサポーターをしていた春香は、到着した魔化魍の現場に入る事をサカキから制された。
先輩の鬼達に山奥でサバキが見たものは、先程退治されたカシャの群に焼かれた小さな町と、そこに住んでいた人々の黒い亡骸だった。
煙と異臭が漂う中、遺憾と憤怒に震えていたサバキは、瓦礫の下から聞こえる泣き声を耳にした。
探索ベースで帰りを待っていた春香に、戻ったサバキは腕に抱いた男の子を預けた。
二人はアパートにその子を連れて帰り、サバキは数年ぶりに児童施設へ電話をした。
焼け残っていた家の表札から『和馬』という名前が判り、三人は、和馬の家族達の墓参りに出掛けた。
サバキは、墓前で考えた。身寄りの無い自分は、世間に迷ったまま、テンキに救われていなければどうなっていたのか。
これから先、この子が『普通』の幸せを手にする為に、自分も何か、出来ることが有るはずだ。
アパートへの帰り道、急に降り出した雨を避け、三人は公園の休憩所に入った。
先客の買い物帰りらしき老婆が、軽く会釈する。サバキに抱かれ、春香に顔の雨粒を拭かれたハンカチの感触に笑う和馬を見て、老婆は目を細めた。
「仲の良い親子ですね。」
思わず顔を見合わせるサバキと春香に再び微笑み、通り雨が上がると老婆は去っていった。
サバキは、大切な事を教えられた。他人が寄り添って夫婦になるのなら、自分達の子供でなくとも、育てれば親子になれるのではないか。
本当の親子でなくとも、本物の愛情が有れば――
次の年、サバキは久しぶりに釣りに出掛けた。小春日和りの川原には、妻の春香、息子の和馬の笑顔があった。
サバキは和馬だけでなく、家族を失い、遠縁の親戚からの引き取りを待つだけのった幼い子供達を育てるようになった。小さなアパートには、毎日笑い声が聞こえた。
そして、初めて一人で魔化魍の討伐に出掛けた。
山間の川に釣り糸を垂らす男性は、この土地の『歩』をしており、元『角』、鬼をしていた。
サバキは同じ趣味を持つこの男から、戦う事を妻に反対され、生まれたばかりの息子とも十年以上会っていない事を聞かされた。
鬼を引退した今ならと、サバキは再会するように説得する。しかし男は、何を今更と言い、煙草を吹かした。
既に自分は死んだと元妻に伝えており、俺は人を幸せに出来るような人間じゃないと、虚ろな眼差しで釣り糸を見つめるだけだった。
その夜、男はバケガニの童子に殺された。サバキは、薪拾いにベースを離れ、閻魔が無かったにも拘らず、鬼弦を弾き、怒りに任せて怪人を撃破したが、バケガニを前にしたところで記憶が途切れた。
万が一の時の為、待機していたサカキに救けられたサバキはその翌日、傷も癒えぬ身体のまま、テンキの家に向かったが、2年振りの再会第一声は「馬鹿野郎」だった。
生命の重さが未だ判らないのかと殴られたが、近況を報告すると、テンキは修羅を教えてくれた。
翌日。サバキは満身創痍のまま、おやっさん達の制止を振り切り、雨が降る中、隠れていたバケガニを倒した。
修羅と顔の変身を解いたサバキは、犠牲者から無理矢理持たされていた煙草に火を点けた。敗北と失態、取り返せぬ生命を忘れない様に。
そして、釣り竿を捨てた。
テンキの家に礼を言いに行ったが蛻の殻で、書き置きの代わりに、息子の為に用意していた筈の、家の権利書が置かれていた。
テンキの息子に連絡すると海外に住居を持っていた為、使ってくれと言われた。
建てられて間もないその家は広く、4人の子供達を育てていたサバキは、胸の中で感謝した。
鬼の世代交替が始まった。
不屈を教えてくれたバンキが引退し、たちばなに現われた日高仁志という少年が、一年と僅かで鬼に成った。
サバキより5歳若く、まだ少年の面影を残していたイブキ、エイキが魔化魍に殺され、鬼達が守れたのは、10歳の子供一人だけだった。
その子供、亮太はサバキに引き取られ、先代エイキに育てられていた少年がエイキを名乗り、イブキの代わりの管使い、トウキが独り立ちした。
弦使いを目指す財津原という青年と、関東一の座を目指す様に誓い合った。
目まぐるしく、時代は変わっていく。世話に成った者が消え、次代の者達が現われる。
サバキはテンキと出会って10年が過ぎた事に、師の言葉を思い返す様になった。
ある年、ノツゴが現われた。
シュキと、彼女に呪術を師事していた財津原―― ザンキが出動したが、サバキが病院に駆け付けると、重態となったザンキが治療を受けていた。
ノツゴを逃がしたシュキがサバキを呼び、ザンキ毎魔化魍を倒そうとした事を聞くと、サバキはシュキを殴り捨て、サカキ、ヒビキと共にノツゴを退治しに向かった。
若造に殴られたシュキは怒りを露にしたが、おやっさんに咎められ、鬼弦を没収、追放された。
サカキが深手を負いながらも、ノツゴを倒したサバキの胸を、シュキを暴走させた、復讐への虚しさだけが過ぎ去っていった。
夏、サバキは亮太と篤志にせがまれ、数年ぶりに釣りへ出掛けた。
記憶に残る小春日和りの時より、守る笑顔は増えていた。
「最近、落ち着いてきたわね。」
サポーターを辞め、育児に専念していた春香が、魔化魍退治に出掛けるサバキに言った。
ノツゴの件ではなく、人間として……
俺もオジサンだなと心の中で笑い、サバキは小さな町を見渡せる山に着いた。風に運ばれた線香の香りが、誰かの墓参りを告げていた。
3年前から導入されたディスクアニマルを展開し、岩場の蔭の草むらに寝そべる。
テンキから鬼として育てられ、サカキ達を手本とし、いつの間にか、ヒビキ達若い鬼の先導役を果たす様になっていた。次にすべき事は……
日差しが眠気を誘い、サバキの答えを『とりあえず』中断させていた。
…………
岩場の上から、少年が降ってきた。
記憶を巡っていた裁鬼の前に、狐の面が無数に現われた。
威吹鬼と轟鬼が、紫の仮面をした妖姫に音撃を浴びせる。剛鬼と蛮鬼は魔化魍軍団を蹴散らし、送鬼の許へ急いでいた。
「鬼神覚声!」
装甲一撃鬼の声が山頂に響き、音撃の刄が魔化魍オロチに放たれた。しかしオロチは僅かに怯んだだけで、その身体は傷一つ無かった。
「まさか……」
吐き出される火球を避けながら、装甲一撃鬼はある魔化魍を思い出していた。
6年前のヨブコ。あらゆる音撃を無効にする音波を、この魔化魍も備えているのではないか。
装甲一撃鬼は、背中から彼専用の小型音撃弦、『烈光』を右手にし、その小さな鬼石を砕き、握り込んだ。
オロチに向かって行き、強固な皮膚に烈光を突き刺す。装甲声刃を構えたが、尾に振り払われて岩壁に叩きつけられ、火球を浴びる。
「まだまだぁっ!!」
銀色の装甲を纏う身体が、再び火球に呑み込まれたが、それでも拳を握り締め、勢いを加速させて突き進む。
大半の装甲が焼け落ちたが、一撃鬼は突き刺した烈光の箇所に辿り着き、引き抜いて右拳を魔化魍の傷口に埋める。
「鬼神覚声!!」
左手に構えた装甲声刃から、オロチの体内に握り込んだままの鬼石の破片へ、一撃鬼は清めの音を増幅する音波を発した。
零距離音撃には、巨体を覆う無効音波も無意味だった。声の続く限り鬼神覚声を放つ一撃鬼を、オロチの爆発が吹き飛ばした。
送鬼・修羅は、肩や肘の角で魔化魍軍団を牽制しながら、音撃鼓を自らの腹部にセットした。
「……サカエ、諦めるなよ。」
『人は修羅に非ず 鬼は人に非ず 修羅は鬼に非ず 然れど 人は鬼成り』
テンキの教えを思いながら、双鬼は頭上に構えた音撃棒を、その腹に振り下ろした。
自爆技・『昇天舞』の黒い炎は、消滅してゆく送鬼を中心としてドーム状に広がり、魔化魍軍団を呑み込んでいった。
「キリが無いわね!」
ついにベースにまで現われた魔化魍を倒し続ける吹雪鬼は、立花姉妹が操作するディスク達の援護を受けながらも、苦戦を強いられていた。
魔化魍の鎌が、日菜佳と春香を襲った。咄嗟に日菜佳は春香の肩を抱いて緊急回避するが、バランスを崩して二人は転んだ。
「危ない!」
吹雪鬼が二人に迫る魔化魍に、氷弾を撃ち込む。
「春香さん、大丈夫ですか!?」
「ええ、私なら何とも無いわ。」
春香のシャツの右肩が破られ、露出した素肌に赤い線が入っていた。
吹雪鬼にも疲れが見え始めた時、魔化魍の壁を突き破り、切り裂いて駆け付けた二つの影が、春香達を守った。
「お待たせ、吹雪鬼さん!」
「ゴメン、迷っちゃって…… さあ、暴れるよ!!」
カッパを倒し終えたばかりの弾鬼と勝鬼は、おやっさんに、急遽裁鬼の捜索に合流して貰いたいと頼まれていた。
弾鬼と勝鬼に殱滅されていく魔化魍軍団だが、赤い仮面を着けた童子が現われ、更に50体近くの狐の面を引き連れた。
「何だコイツ!?」
「弾鬼君…… まだ、行ける?」
「当ー然!! あの赤いヤツは任せろ! 吹雪鬼さん、香須実ちゃん達逃がしてね!」
勝鬼と吹雪鬼が弾幕で魔化魍軍団を足止めした後、弾鬼が童子に飛び掛かり、吹雪鬼が香須実達を雷神に乗せた。
「行っきますよー!」
日菜佳が運転する雷神を攻撃しようとした数体が、氷弾に撃ち砕かれた。
「アンタ達の相手はこっちよ!」
遠くで仲間達が戦っていた。
しかしそれは距離として10キロも離れていない。
裁鬼は魔化魍と戦っている。しかし先程送鬼に刺された傷や今までの疲労、記憶で濁った意識では、まともに戦えるはずはなかった。
それでも、音撃双弦は魔化魍を次々と斬り伏せていき、再び裁鬼は一人、歩き始めた。
『誰』が『俺』の身体に居る? 誰が俺の身体を操っている!?
それは違った。現に、裁鬼が立ち止まろうと思えば足は止まり、歩こうと思えば動き出す。裁鬼以外が裁鬼の身体を動かす時は、戦闘だけだった。
戦闘だけ…… それは『誰』よりも近い存在、裁鬼自身の『無意識』の様だった。
「……そうか。」
そして、裁鬼は思い出した。 5年前の出来事を――
イチゲキのサポーターとして、サバキは引退した後も、時折鬼弦を弾いていた。
そんな状況も終わろうとしていた2007年の1月、彩子がイチゲキのサポーターをしたいとサバキに頼んできた。
サバキは承諾し、漸く正式な引退を迎えた。
趣味の釣りと夫婦での旅行。時折、吉野へ次代の鬼と成る若手達を、トレーナーとして指導する日々が続いた。
亮太に子供が出来た。出産予定日の2日前、亮太の妻が救急車で運ばれた。難産だと聞いたサバキは、昼間から神社への階段を行き来した。
様子を見に来たイチゲキも参加し、無事生まれた事を彩子が知らせたのは、夜中の2時だった。
ガラス越しに見た孫は亮太に似ており、サバキは生涯初めて、神に感謝した。
数ヵ月後、孫の栄二が佐伯家に泊まる日、サバキは亮太と共に栄二を風呂に入れた。
落ち着いて髪を洗い、湯が目に入らぬ様、ゆっくり流してやると、気持ち良いのか、真ん丸い顔を笑わせる。
サバキが育てた生命が、新たな生命を紡ぎ、育んでいく。鬼として、自分が守り続けてきたかった幸せを、真に実感出来た。
更に、イチゲキが、彩子にプロポーズした。やや畏まって報告するイチゲキの背中を叩いて笑い、頭を下げた。
生命は、廻っていく。
テンキ程生きた訳ではない。テンキ程生死を見てきた訳ではない。
それでも、サバキは廻っていく生命が持つ、幸せを感じていた。
ある日。珍しく春香の手伝いと、夕食の材料を切っていたサバキは、反射的に左手の人参を落とした。
人差し指の先端から、血が流れている。薬箱を取る春香に、大袈裟だよと、指を口にくわえて戻すサバキは、一瞬目を疑った。
傷が無い。その時は不思議に思うだけだったが、『予兆』は既に進行していた。
身体を休めようとするが、何か芯が熱く、疼く感じがした。眠りに入ると、いつからか見る夢全てが、鬼の姿で魔化魍と戦うものだけになっていった。
しかも、それらの夢の中で、裁鬼は戦わず、攻撃を受け続けるだけだった。カッパに、コダマに、バケネコに……
それでも、裁鬼は魔化魍を倒す気持ちになれなかった。この夢で、裁鬼の姿で魔化魍を倒す事が、サバキにとって、とても重要で、大切なモノを失ってしまう予感がした。
一人で間島医院を訪れたサバキに、老医は重い表情のまま、僅かな沈黙を消して説明した。
サバキの身体は、人間でなくなりつつある。原因は、修羅だった。
通常ならば、『鬼』を殺す『修羅』を、『鬼』として生きる心情で発動し続けた為に、『人間』から『鬼』を奪い、消え去る筈の『修羅』が、サバキと裁鬼の境界線を無くそうとしていた。
『修羅』は、武者童子や、ヤマアラシに倒された時に変化を始めていた。あの戦いから、裁鬼は意識を失っても、鬼の身体のままだった。
紛れもなく、サバキと裁鬼との仕切りが無くなりつつある事の証だった。
対策を考えると老医は言い、サバキには人であろうとする気持ちを持ち続ける様にと念を押した。しかしその数日後。
間島医師は、83年の天寿を全うし、望みは断たれた。
それから数ヵ月、サバキは耐えた。鬼の姿に成るだけならば良いが、日毎に魔化魍を倒す事への欲望が強まり、自らの意識を保てる可能性は無かった。
2011年、5月。イチゲキは、彩子が、新しい生命を宿した事を告げた。
その日の夜、サバキはベッドを抜け、隣で眠る春香に、済まないと呟いた。廊下を歩きながら、サバキは思う。
もうすぐ、この身体ともお別れか……
リビングでアルバムを広げ、1ページ1ページを、微笑みながら瞳に焼き付けた。
この思い出で、俺は生きていける…… 例えサバキが消えても、裁鬼の中で、俺はこの笑顔を思い続ける……
自室のクローゼットから、音撃双弦と装備帯を取り出すと、サバキは闇夜に消えた。
そうだ。俺は、戻れない。
記憶を辿る事を終えた裁鬼は、この3ヵ月の記憶が無い事を知り、進むべき道に背を向けた。
既に、この身体は鬼のものと成り、幸せと笑顔に触れる事は許されない。
「…………」
それでも拓かれた山道に佇む裁鬼の聴覚が、エンジンの音を捉えた。
日菜佳が、フロントガラスに広がる木々に一つの影を見つけ、ブレーキを踏んだ。香須実もその姿を見つけ、姉妹は声を揃えた。
「さ、裁鬼さん!!」
その言葉に後部座席から、春香が降り、続いて運転席と助手席のドアが開いた。
「……」
「……」
裁鬼と春香。二人を照らす太陽が、流れる雲に覆われ、夏の日差しが薄暗い影に消えていった――
九之章/零之巻『サバキ』 完
230 :
最終章予告:2006/04/13(木) 02:12:49 ID:JrLu5gMhO
次第に濃くなっていく雲の影の中、沈黙を続ける裁鬼と春香だったが、やがて春香が足を一歩、前にした。
裁鬼は、左に見える藪の動きに、そちらを向く。
「……裁鬼さん!」
装甲を失った一撃鬼が、裁鬼と春香の中間に立った。
「……」
今度の沈黙は短かった。音撃双弦を手にした裁鬼は、一撃鬼に襲い掛かった。
「裁鬼さん…… 元に戻って下さい!!」
閻魔と烈光が、激しく鍔迫り合った。見つめる春香の顔に、降り始めた雨の最初の一滴が弾けた。
完結之章/斃之巻『佐伯栄』
お久しぶりです。
突然ですが、ZANKIとかやってる場合じゃなくなったので、いきなり最終話を書かせて貰います。
まあ、ほっといても先代は大暴れすると思いますから、このままフェードアウトもいいんですが、
数少ない読者さんに失礼だと思い、一応、年表と最終話だけ投下します。
1986年
財津原少年(12) ザンキと出会う。
1987年
岩井川弟子入り。しかし、途中で家族と復縁しザンキの元を去る。
1988年
裕香先輩渡米。蔵王丸(14)、初の失恋。
1989年
ザンキにスパイ疑惑が浮上、吉野の暗部に狙われるもテンキに助けにより、
容疑は晴らされるが、上層部に何らかの圧力もかかったらしい。
1990年
蔵王丸、高校入学。この年にヒビキと出会う。また、この年初めて変身する。
ちなみに初めて倒した魔化魍はノツゴで、この事により、後に朱鬼が彼の先生になる事を志願する。
1991年
烈雷などの音撃武器がザンキから蔵王丸に渡される。
しかし、斬鬼の名前は譲られていない。新しい音撃武器が欲しかったので、武器を譲ったらしい。
ちなみにベース型の音撃弦はザンキが独自のルートで入手したものらしく、
あかね以外に調整をさせてはいないらしい。
1992年
ザンキがヒビキに音撃弦を教えるも大喧嘩をする。しかし、蔵王丸がヒビキを諭す。
「ザンキさんは、お前に音撃弦を教えたいんじゃない。音撃弦を使う人間の事を理解させたいんだ…(略)…お互いを知り、
理解する事で互いの音撃を共鳴させ、最高の音撃を創りだす事ができる…(略)」みたいな事を言ったらしい。
1993年
ザンキが蔵王丸を庇い、オトロシに踏まれる。変身する事ができなくなる。
蔵王丸が制止するも、超人的なリハビリを行い、わずか一年で復帰。
しかし、この時には、すでに視力が激しく低下し、
相手に体を密着させて戦う事しかできなくなっていた。
蔵王丸を含め、猛士のメンバーはこれに気付いていない。
1994年
蔵王丸が始めてザンキの異変に気付く。盲目になっただけでなく、
鬼と狼が共存する体になり、精神的にも肉体的にも崩壊しかかっていた。
しかし、長瀞のヨロイツチグモに苦戦する蔵王丸を助け、
「音撃双斬 雷電大激震」でヨロイツチグモを粉砕し、「斬鬼」の名を蔵王丸に譲ると、
先代・斬鬼は肉体を残さずに、この世を去った。この時、先代・斬鬼は返魂の術を行っていたが、
その魂を肉体に戻るようにはせず、まだ魂の入っていないルリオオカミに宿るようにした。
オオカミはあかねが極秘で回収し、斬鬼の魂が適合するように調整を行い、
十数年後に滝沢みどりを介して現・斬鬼の元に渡された。ちなみに先代の魂が宿っている事はあかね以外知らない。
また、元はルリオオカミのディスクが金色に輝いている原因もわかっていない。
1995年
先代・斬鬼が修行途中で死亡した為、急遽、新しい師匠を探す、
そこで朱鬼がザンキの先生として名乗り出る。ザンキは、ことある毎に平手打ちを食らっていたが、
母親の様なやさしさを持ち合わせる朱鬼を次第に先生と慕うようになった。
だが、魔化魍に対しては冷酷なまでの戦い方をする朱鬼のやり方には首を傾げる一面もあった。
1996年
はっきりとした年日は記録には残っていないが、
朱鬼がノツゴを倒す為に斬鬼を犠牲にする事件が起きる。
この事により朱鬼は破門され鬼祓いとなった。被害者であったザンキはこの事実を否定したが、
過去にも同じ事件を起こしていた為、朱鬼は除籍され、猛士でも朱鬼の名は禁句となり、
ザンキの師匠は先代・斬鬼しかいないと言う事になった。
これに反発したザンキは、吉野の上層部に直接掛け合い、人事部の一人に怪我を負わせ、三ヶ月の謹慎処分になった。
噂ではあるが、朱鬼の父親は中国で”龍”をやっていたと言う話があり、
朱鬼にはスパイ疑惑が掛けられていた事。また、謎の夫妻とも交流があった事など、朱鬼にはあらゆる疑惑があったようだ。
1997年
この年初めて鬼として正式に認められる。しかし、過去の実績などから新人として扱われず、
いきなり中堅として扱われる。この年初めて弟子も取るが、魔化魍に襲われ戦死する。
数年後 「神鬼村」で戸田山と知り合う事になる。
とりあえず、設定みたいな年表を投下しました。
最終話は結構長くなったので、まとまったら投下します。
236 :
虹鬼SS作者:2006/04/13(木) 17:39:33 ID:a8i706Do0
>>弾鬼SS筆者氏
>投稿乙です!美沙さんの長崎弁がヒットしました!
美沙の方言は、自分が使っているのをそのまま使っているので、少なくとも偽長崎弁にはなっていないと思います。
>九州支部のお話も期待してます!
この話は、TV版響鬼で小暮氏がアームドセイバーを作り出してから、洋館の男女が立花勢地朗に「オロチに備えて鬼を集めろ」と告げるまでの間に起きたある事件を書いていく予定です。
そのため舞台は九州以外の場所になると思います。
裁鬼メインストーリー最終章さんと被ってしまいましたが、敵は魔化魍オロチと(まだ秘密)をメインにしています。
>>220さん
>木暮兄弟の仲がなぜ悪いのか知りたい
できればこれはSSの中で書いていきたいですが、あえて説明するならば両者の技術者としての信念の違いです。
・小暮耕之助の場合
技術者というよりは芸術家に近い。妥協は一切せず、とにかく自分が納得できる物を作る。
その結果、アームドセイバーのように『性能が高すぎて、誰も使いこなせない』物ができる事もよくある。
しかも、自分の腕と完成したアイテムに絶対の自信がある為―
『このアイテムに欠陥などない!使いこなせないのは、おまえらの実力不足だ!弛んでいる!!』
という思考によく陥る。
・小暮耕次郎の場合
『アイテムは万人に使いこなせて始めてその価値を発揮する』という思考の持ち主。
その為、誰でも使いこなせる範囲内で最高の仕事をする。
『究極のアイテム』を1つ作るよりも『かなり高性能のアイテム』を10個作ることに全力を注ぐ。
このように両者の信念は真逆といってもいいので、仲が悪いんです
237 :
用語集サイト:2006/04/13(木) 20:21:19 ID:vnIc8kf70
裁鬼メインストーリー(本編)の用語集の素ができました。
特に掲載拒否の声がないようなので、このまままとめサイトさんの順番の通りに書き加え
公開しても大丈夫な分量になったら公開します。
なお魔化魍異聞録や皇城の守護鬼などの設定が異なると思われるものは含めません。
角をなが〜くしながら公開お待ちしておりますw
>>裁鬼SS作者様
ケータイでの投稿という事で妙に親近感を持てますw
『サバキ』から『裁鬼』になりつつある『佐伯栄』…俺が期待していた『響鬼ワールド』がこの作品にある気がします。
前スレからのファンとしては、終わりが近いのが勿体ない…音撃等のアイデアも素晴らしく、設定の拾い方も絶妙。
これはプロの仕事ですよ。
裁鬼のみに止まらず、これからも頑張って下さい。
期待しております。
240 :
DA年中行事:2006/04/14(金) 23:25:46 ID:7rFTbLZD0
おおお、またいっぱい投下されてる!ウレスイ!
まとめサイトさん、乙です。祝復旧。
用語集サイトさん、楽しみにしています。
>鋭鬼SSさん
俺主役なのになぁ、のエイキさんカワユスw
こういう動物と少年の友情物語にはめっぽう弱いのですよ。
会話がうまいなぁ・・・・・うらやましいです。
>高鬼SSさん
火対炎の対決!戦闘シーンにメラメラ来ました。
オチのつけ方もさすがです。「太」とは!
>虹鬼SSさん
実はライダーSSスレに連載されてる頃からROMってました。
いつこちらにおいでになるかと、お待ちしていましたよ。
次回を楽しみにしています。
>裁鬼SSさん
とうとうソウキさんが・・・・
もう終わってしまうの?終わってしまうの?
続きが気になるけど、終わって欲しくないです。
>ZANKIの人さん
コ、コガネタンの隠された秘密・・・・・・
そうだったのかーっ!!
最終話・・・なんだか寂しいなぁ。すげー気になるけど、終わって
欲しくないです。ワガママ病です。
番外編『仮面ライダー弾鬼』五之巻『高鳴る歌』(後)
千明の部屋/
荒れ散った部屋を適当に片し、床に座り込むダンキ。千明はベッドの上に座り込んでいる。小さなテーブルにはコーヒーカップが2つ置かれている。
微かな湯気が天井を伝い部屋中に流れてゆく。
沈黙する二人。
話したいことは多々ある筈なのに・・・何故か口が開かない。
溝は・・・未だ埋まりきっては居ないのだ。
「あの・・さ」
ダンキが口をようやく開く。
「ホント・・なんていうのか・・ゴメンな。こんな事に巻き込んじまって・・・・」
ガバ!と、音を立てて頭を下げるダンキ。
だが、返事は無い。ダンキは、無反応の千明を見るべく顔を上げようとした。
「そのままで・・・・聞いてもらえるかな?」
だが、顔を上げる寸前に、千明によって止められた。
言われた通り、頭を下げたまま耳を傾けるダンキ。
「・・・・・まず、私の方こそ・・・・・ごめんなさい」
搾り出すようなか細い声での謝罪。
「怖くなったの・・・・ダンキ君とショウキ君見てから。変身した後の姿何度も見てたけど・・・・あの時の二人の姿・・・・いつもと違って見えた・・・・・額の鬼が大きく見えたの」
額の鬼とは、変身の際に現れる鬼面の事だろう。そしてそれが大きく見えたという事は・・・・・・。
「あの時は・・・・怒りで一杯だったからな。大きく見えたのはそのせいだと・・・・思う」
ダンキは、随分前に師匠である断鬼から聞いた話を思い出した。
『いいかダイスケ。一つ教えておく。鬼と成った以上・・・怒りの感情のみで変身はするなよ。ましてや、鬼面が肥大しだしたらそれこそ事だ。一時的なものならば、良いとしても・・・・
常時肥大しだしたら・・・・鬼としては終りだ。朱鬼。名前くらいは教えたか?
あの人は復讐心で戦った結果・・・顔の殆どを鬼面で埋めるほど肥大化してしまっている。ダイスケ、心を鍛えろ。技を鍛えろ。体を鍛えろ。いいな・・・・ダイスケ』
ぜんぜん心が鍛えられてないな。ダンキは自分でそう思ってしまった。
「そう・・・。でも、何でかな・・・・ダンキ君達が怖くなったら・・・・魔化魍は勿論なんだけど・・・・・好きだった妖怪とかまでもが恐ろしくなっちゃって・・・・・」
好意の反転。好意の度合いが大きければ大きいほど・・・・・反転した感情は染まりやすい。
「・・・・・あの娘も・・・・私の手の中で・・・どんどん冷たくなっていって・・・・」
「・・・あぁ。人の死を看取ったのは・・・・初めてだったんだろう?」
頭を戻しながら、静かに尋ねるダンキ。
黙って頷く千明。
「俺も・・・初めは恐かった。恐ろしさで、弔ってやる事も・・・何も出来なかった・・」
「ダンキ君も・・・?」
「あぁ・・・。しかもそいつは・・・・・・・・・・俺のダチだった」
友人の死を目の前で。
ダンキは過去を人に語らない。理由は全くもって不明。鬼になった理由。
それを知るのは引退した師匠の断鬼だけだという。相棒のショウキですら、その訳を知らないのだ。
「俺は・・よ。ソイツの事を助けてやりたかったけど・・何も出来なかった。それどころか、その場から逃げ出した。
それに、ソイツだけじゃない、下半身ダメにしたダチも居る。五体満足だったのは俺と・・2コ下の後輩だけだった」
誰にでも辛い過去はある。出来るならば語りたくないようなモノも。
「・・・でも、ダンキ君はそこから這い上がって・・・鬼になって・・・人助けをしてるんだよね・・・・・。私には・・・・・・・出来ないよ・・・・」
布団を握り締め・・・・震える声で言う千明。
出来うる事なら、逃げ出したい過去と現実。それに万人が立ち向かい、乗り越える事は・・・あるいは可能かもしれないが、時間が必要だろう。
だからこそ、ダンキは迷いなく言い返した。
「あったりまえだろ〜!お前は俺じゃないんだから!同じ目にあった奴の真似してどうすんだよ!立ち直りたいならさ、自分自身で立ち直らなきゃ!」
「え?」
「いや、さ。ついこの間、ヒビキさんに似たような事言われたんだわ。今の安藤とはちょっと事情が違うけど。俺は俺!安藤は安藤なんだよ。鬼とかそんなんじゃなくて」
ダンキが言うのは、つい先日の病院での出来事。
『自分だけの鍛えをやらなきゃな』
追いかける事と、模倣する事は似通っていて違う。
もし千明が、ダンキと同じ境遇を感じ、立ち直り・・・人助けをする。ダンキとしてはそんな選択肢は選んで欲しくない。
「さっきも言ったけどさ、お前は全てを忘れて・・・今までの生活に戻んな。多分それが・・一番だよ」
ダンキは極力優しい声で・・千明にそう告げた。
「でも・・・・でも・・・私は・・・・」
千明は肩を震わせて、何かを言おうとして・・言えないでいた。
「私は・・・・・」
―先程まで息をし、言葉を紡ぎ、動き、熱を持ち、笑い、泣き、怒り、悲しみ、喜び、これほど無いまでに『生きて』いた少女が、自らの腕の中で冷たくなる感触を―
「私は・・・・あの娘の・・こと」
―終いには、熱を失った事で、自分の体温が上がりすぎたのでは・・・と錯覚するまでに・・・冷たい体を―
「忘れるなんて・・・出来ない・・・・」
遂に涙が・・・千明の頬を濡らした。
顔をクシャクシャに歪め・・・涙を拭う事無く・・・。
「あ・・・・えぇ・・っ・・と」
そして、突然の涙に慌てるダンキ。手をワタワタと振り、何とか宥めようとする。
「・・・」
ダンキは泣きじゃくる千明を前に・・・正直途方にくれていた・・・・・
「あぁ〜おい!な、泣くな・・・ほら涙拭いて・・・」
ティッシュの箱を千明に押しやるも、嗚咽を洩らし、涙を流す千明にはどうしようもない。
『えぇっと・・・どうすんだよ!こういうときは!』
何かやさしい言葉でも・・・と考えたが、パニクってるダンキに優しい言葉は何一つ浮かび上がらなかった。
当ても無く、キョロキョロと周囲を見回すも打破するようなヒントは無い。
だが・・・・ダンキの眼が玄関口へ向った時・・・・
入り口のドアが僅かに開き・・・ザンキとトドロキが中を覗き込んでいた。
恐らくダンキ一人では心配だったからだろうが、ダンキとしては面白くない。
だが、そんなダンキをよそにザンキはグワッ!と手を広げまわすジェスチャーをする。
「・・・・は?」
『今だ!抱きしめろ!』とでも言いたげに、ハグのジェスチャーを繰り返すザンキ。ついでに、そんな師匠をみて驚いているトドロキ。
だが、根が単純なダンキは・・・・
「や・・やるしかないわけ?・・・・あぁ〜もう・・・」
真に受けて・・・・真剣な表情で悩みこんでいる・・・・・
「師匠も言ってたっけ・・・泣いてる女にハンカチも胸も貸せない男は最低だって・・・・」
ちなみにザンキと目が会ってから、ココまで約2秒程である。
ゆっくりと千明の前に進み、千明の肩に手を優しく置く。
その肩は嗚咽と、未だに残る恐怖から・・・震えていた。
「あ〜・・・その、なんだ・・・・もう、泣くなって」
ダンキと話せるようになったとは言え、その根底にある恐怖は拭いきれてはいない。
ヘタな事(ザンキ提案ハグ)をして、さらに恐怖を爆発させてしまっては意味が無い。
千明自身・・精一杯勇気を振り絞って・・今の場を設けてくれたのだ。それを無駄には出来ない。
だが、ダンキの掌を肩に感じた千明は、
「私・・・・あの娘の事・・・・助けてあげたかったよ・・・・わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
言って・・・ボロボロと・・・・本格的に号泣した。
その言葉に偽りは無く・・・・・・・・
そして、どうしようもなかった自分・・・・・・・
恐怖を感じた弾鬼と勝鬼・・・そして、魔化魍・妖怪・・・・・
自暴自棄になった身で・・・・
暗い部屋で・・・一人脅え・・悩んでいたのだろう・・・・・
「・・・・・ッ!」
ダンキは、千明の細い体を強引に引き寄せ、顔を胸に埋めさせた。
「お前の・・・その気持ちは・・・」
あの娘への救いへとなるだろうか・・・・・
散った命は戻る事は無い。
ダンキの性格は実に直情で解りやすい。
散った命を見たならば、その分を生き、その他の命を護る。それが、弾鬼としての鬼であり、鬼として根源でもある。
「俺が・・・・」
拒絶されると思ったが、千明は逃げる事も無く、ダンキの胸で泣きじゃくりつづけた。
その体のなんと細い事か。なんとか弱い事か。
力を入れれば、折れてしまいそうな・・・・・
「俺達が・・・・継ぐ。だから・・・・・」
「お前は・・・・・・」
―これでいいんだよな・・・・。
「元の生活に」
―躊躇うってことは、何だかんだで・・・一緒にいて楽しかったんだよなぁ。
「戻って・・・・・」
―あぁ〜もう!カッコワリィ・・・
「生きろ!」
それが、ダンキに出来る、優しさの形だった。
千明のアパート前/
「・・・・・よう。上手くいったか」
千明を宥め、寝かしつけてから・・・・ダンキが物凄く疲れた表情で部屋から出てきた。
「・・・・あぁ〜!もう!慣れない事はするもんじゃないよ!つっかれたぁ〜!」
小声で怒鳴るダンキにザンキは笑いかけた。
「千明ちゃんは・・・」
「寝ました。ここんとこまともに寝てなかったみたいで・・・・」
寝ては、あの日を夢に見て、魘され起きる。そんな事を繰り返していた千明は、実に久しぶりな安眠に着いたのである。
「けどさぁ、ザンキさん!あんなアドバイス無茶苦茶だよ!もっとマシなのはなかったワケ?」
抱きしめろ!と、突飛な事を提案する。少なくとも今までに見てきたザンキがそんな事を言うとはとても思えなかった。
だが、噂によれば、ザンキの師匠・・先代ザンキは良くも悪くも情熱的な人物だと聞いたことがあった。
ならば、師弟として学んでいた時代に何らかの影響を受け、今の今まで暖めていただけかもしれない。
ダンキは先代ザンキの事はよく知らないが、どんな人物か顔を見てみたいと思った。
「まぁ、そう言うな。それで、今後はどうなる?」
ダンキの思考を遮って、普段どおりの声でザンキがダンキに言った。
「安藤は、暫く体を休めてから、おやっさんの所に挨拶に行くってさ。そしたら、今回の件はお終いかな」
どこか、さびしげな声。ザンキはそれに気がつき、
「そうか・・・・寂しくなるな」
「・・・そうっすね。サポーター・・・してもらってたようなモンですからね。ハハッ!また、前に戻っただけっすよ」
カラ元気・・・のようにも見えるダンキ。
「出会いがあれば〜別れもあるさ〜」
そこへ奇妙な替え歌が。次いで足音が・・・・
「さ・さ・さ・さ・さささささささささようなら〜!」
「その変な歌は・・・ヒビキさん?」
トレーニングスタイルで、電灯の陰から現れたのはヒビキだった。
「お前・・・・」
「お疲れ、ザンキさん!ダンキ!と・・・・あれ?トドは?」
例のポーズをとりながら、ダンキの前に移動してきたヒビキは、周囲を見渡して随伴していたトドロキを探す。
「あいつは休んでるよ。ここんとこ出ずっぱりで、ムリしてエイキの穴埋めしたもんでな、無理やり休ませたよ」
先日、エイキがツチグモにやられた際につけられた傷を癒す為に、休んでいる。その穴埋めの為に現在最新人のトドロキが名乗りをあげ、戦っていたのだ。
「頑張り屋さんだねぇ」
「ヒビキさん・・それ、オッサンの発言じゃん」
アパート前の道路でワイワイ騒ぐヒビキとダンキ。
「で、お前・・・・ワザワザ、ジョギングコース変えてまでココに着たのか?」
ザンキがヒビキに言う。
「おやっさんから話し聞いてね。ダンキが頑張ってるって・・・」
「それで、ここまで?ヒビキさんも案外暇人してるねぇ」
ヒビキの発言にダンキが茶化す。それを微笑ましげに見るザンキ。
と、そこへ更に数組の足音が。風に乗って話し声が流れ着く。
「ほら、やっぱり居た。僕の言った通りだったろ?イブキ君」
「ホントだ」
「でも、イブキさん、バンキさん・・・ダンキさん外に出てきてますよ」
「あれ?ホントだ。バンキ君の予想も、ここまでは予想できなかったみたいだね」
連なって現れたのは、イブキと弟子のあきら。そしてバンキの三人だった。
これで、アパートの前には引退したザンキを含め6人もの鬼が揃っていることになる。
「イブキ!バンキ!それにあきらまで!お前ら、何してんのさ?」
新たに現れた三人に流石に驚くダンキ。ちなみに三人ともやはりトレーニングウェアを身に纏っている。
「いえ、月が綺麗なので月見がてらのジョギングですよ」
バンキがダンキの問いに答えるが・・・・空に月は見えない、生憎の曇天だった。とってつけたウソに最早突っ込む気も起きないダンキ。
結局のところ、皆、千明が心配なのだった。
鬼や魔化魍に関わる人間は、序盤、千明と同じ症状になりやすい。人を襲う物と戦う以上、犠牲者ゼロという結果はまずありえない。
むろん、ゼロを目指し鬼たちは戦っているが・・・・・先の事件のように・・・及ばず、犠牲者を出してしまう。
鬼として戦っている誰もが経験する・・・・・
鬼と行動を共にする誰もが経験する・・・・・
バンキやイブキのような若い鬼ですら経験しているからこそ・・・・千明の様子を伺いに来たのだ。間柄はそこまで親しくは無い。それぞれ取材を受けた程度だ。
「そうですか、ダンキさんが・・・・」
「あぁ、上手く宥めてくれたみたいでな」
ザンキから先程の顛末を聞かされ、安心するバンキ・イブキ・あきら。
「でも・・・・これからどうなるんでしょう・・・」
バンキがふと、重い表情でそんな事を口にした。
「ん?何よ?安藤の事か?だから言ったでしょ〜?俺が」
「いえ、安藤さんはダンキさんが上手く収めてくれましたが・・・・・気がかりなのは魔化魍です。
大型の魔化魍の出現数低下と夏の魔化魍の出現数の上昇・・・及び出現ポイントの都市部への接近状況・・・・良くない気がします」
バンキがジャージのポケットから手帳を取り出し、ここ一ヶ月の魔化魍出現ポイントと魔化魍名が書かれているページを開き、ダンキへと手渡した。
その手帳を受け取り目を通すダンキ。そこにはびっしりと情報が書かれていた。手帳を眺める事30秒・・・・
「あぁ〜もう!頭痛てぇ・・・・お前こんなん毎回記録つけてる訳?そのうちハゲるぞ?」
「どういう意味ですか!!・・・・コホン。で・・どう思います?ダンキさんはこの状況を」
「あ〜のさ〜・・・お前一人なら、そりゃ慌てなきゃいけないだろうけどさぁ・・・・」
ダンキはぐるりと皆を見渡してニヤリと笑い・・・・
「魔化魍と戦ってるのは一人じゃないでしょ!俺達なら・・・、どんな奴らが来ても、もう負けやしね〜よ!!なぁ?ヒビキさん?」
「お!いい事言うじゃんダンキ!いいかバンキ、いつどんな時、どんな場所に魔化魍が現れても負けないように俺達は」
「「「鍛えてます!」」」
ヒビキのセリフを遮ってダンキ・イブキ・そしてあきらまでもがヒビキお得意のセリフを横取りし、最後にザンキが「だろ?ヒビキ」と付け加えた。
決めのセリフを取られたヒビキは、
「ちょっと〜!ソコは俺のトコでしょ?なんだよあきらまで〜」
と、笑いながら・・・そんな事を言った。
「すみません。実は言ってみたかったんです」
あきらも少し照れながらヒビキに頭を下げた。その、やり取りを見てワッ!と笑う皆。
夜もふける中・・・ダンキ達は未だアパートの前で雑談に耽っていた。
千明の部屋/
―いつもの夢は・・・・あの娘が出てきて・・・何も出来ない私を、何も言わず黙して攻め立てた。
―そのうち・・魔化魍が現れ・・・あの娘を再度手にかけ・・・・
―最後には弾鬼君と勝鬼君が出てきた。
―二人は獣のような咆哮と共にその場で魔化魍を叩きのめし・・・・・・・全てを終わらせた後・・・ゆっくりと私に近づき・・・・
―いつもなら・・・・そこで恐怖のあまり目が覚め・・・再びあの日の幻に脅える・・・そんな夢と・・・日々を繰り返していた。
―でも、今日は・・・・・最後の部分が違った。
―私に近づきながら・・・・顔の変身を解き・・・・・
―ダンキ君とショウキ君はゆっくりと手を差し伸べていた。
―掴もうとしても・・・二人ともその場から動かずに、手を差し伸べるだけ。
―あと、一歩・・・近づいてくれたら・・手が掴めるのに・・・・・
―その場から必死に手を伸ばしても・・・・僅かに届かなかった。あと・・・一歩・・・・
ゆっくりと目をあける千明。
目に映ったのは、見慣れた天井。ゆっくりと体を起こし・・・・時計を見る。ダンキが部屋を出てから1時間程経ったばかりであった。
「・・・・物凄く・・寝たような気がするんだけど・・ね」
水を飲みたくなり・・・台所へ移動した。蛇口から直接水を飲み、口を拭った。
改めて部屋を見回すと・・・・荒れ果てていた。
片付けなきゃ・・・と、そんな事を考えた時・・・・引きちぎられたカーテンの隙間から、人影が見えた。
「魔化魍・・・・・童子とか言うヤツ?」
不安が不安を呼び込み・・・悪い想像をしてしまう千明。
だが、人影は一つではなく多数見えた。
その場からゆっくりと移動し、窓から人影を観察する。
「・・・・・・・・・なんで・・・まだ・・・・」
ソコから見えた人影は、紛れもなく・・・・・先程まで自分を支えてくれた鬼・・・ダンキだった。
見れば・・・
「ヒビキさん。イブキ君。ザンキさん。バンキ君。あきらちゃんまで・・・」
ある質問をした事を思い出す。
「貴方にとって人助けとは?」
言葉の表現は違えど・・・・彼らの答えは、誰一人として違う事無く・・・胸を張って答えてくれた。
何も知らない、かつての私なら・・・・笑顔の仮面を被り、感激したふりをしながら・・・・淡々と文章に仕立て上げただろう。
でも・・・・鬼を知り・・・魔化魍を知った後の私は・・・・それを素直に凄いと受け止める事が出来た。
その時の内容は、記事にまとめて・・・・いつでも本に載せることが出来るようにしてある。
だが、あれ以来会社にも連絡を入れていない。
私は・・・妖怪やミステリー、オカルトが大好きだ。それを自認していたからこそ・・・・ダンキ君とショウキ君との活動は・・・・・
―それは、夢見た日々の現実化だった。
でも、それを・・・私の弱さから決壊させてしまった。
「・・・ごめんなさい・・・・・・ゴメンね・・ダンキ君・・ショウキ君・・・・・」
ガラリ・・と、音を立てて扉を開ける。
千明のアパート前/
その音に、ダンキ達はアパートの方を向いた。そろそろ帰ろうか・・としていた矢先の出来事。
見ると、アパートの一室の窓が開け放たれ、一人の女性が立っていた。
「安藤!」
寝たはずの千明が、僅か一時間で起きるとは誰も思っておらず・・・・皆唖然としていた。
「ダンキ君!!ヒビキさん!ザンキさん!イブキ君!バンキ君!あきらちゃん!」
大きな声で、はっきりと名を呼ぶ千明。
「有難う!本当にゴメンね!!時間かかるかもしれないけど!必ず・・・必ず元気に戻ってみる・・戻ってみせるね!」
その言葉に、破顔一笑するダンキ達。
彼女の心の扉に巣くった闇は払われ、扉は開かれた。
それは、何の事は無い。
溜め込んだ想いを吐き出し、弱さを露呈し、それを受け止める人達が居る。ただ、それだけの事だった。人を救うのは人なのだった。
「元気になったら、たちばなに行くね!又そのときに!」
一度は堕ちた心も・・・浮かび上がり・・・・後は羽撃くのみ。
「あぁ!待ってるぜ!!」
ダンキの言葉に、ヒビキ、イブキ、ザンキ、バンキが各々のポーズを送る。それを受けて・・・・千明も・・・敬礼を返した。
曇天の空を裂いて月が現れ、隙間から光を溢れんばかりに照らした。それはまるで立ち直る道を歩み始めた千明へを祝福するかのように。その光を浴びて・・・・
「じゃーね!皆!オヤスミッ!」
姿を消した千明。
最後の言葉が周囲に木霊した。
それはまるで・・・高鳴る歌のように。
番外編『仮面ライダー弾鬼』五之巻『高鳴る歌』(後) 終
またもや前回から間が空いてしまいましたm(__)m
本来なら、この話でダンキ&ショウキの変身能力復活まで書こうと思ったのですが、延びに延びた結果
六話にまわるという、ポカをやらかしてしまいました。
・・・文章構成って難しいなぁ・・他のSS職人さんってすごいなぁ・・と、思い知らされております。
>>裁鬼SS職人さん
関東の鬼の戦闘シーン・・・燃えます!そして送鬼さんが・・・・
ますます続きが気になります!
>>先代ザンキSS職人さん
コガネオオカミの設定・・・泣けます。
天衣無縫な先代ザンキが大好きでしたが、蔵王丸を思う師としての先代ザンキ・・・かっこよすぎます!!
>>虹鬼SS職人さん
九州以外の舞台になるとの事ですが、どちらにせよ楽しみにしております!!
>>230 > 完結之章/斃之巻『佐伯栄』
サバキさん……。・゚・(ノД`)・゚・。
やられ慣れとか言われているサバキさんの、「気絶しても変身解除しない訳」に
素晴らしい解釈が。それにしても「修羅」の設定、よくできていますよね。
そして、テンキさんもソウキさんも自爆。
もしやサバキさんも……?!
終わらないでと思いつつこんなにwktk
ああもう、このストーリーで撮り直して欲しい。
「音撃射! 疾風怒濤!!」
虹鬼の構えた音撃管『風花』から、イッタンモメンへ清めの音が吹き鳴らされる。
清めの音は撃ち込まれた鬼石によって増幅され、イッタンモメンの全身に響いていく。
そして、演奏終了と同時に、イッタンモメンは木っ端微塵に吹き飛んだ。
響鬼非公式外伝―仮面ライダー虹鬼と7人の戦鬼―
二之巻…集う戦鬼
「うーん…いい匂い」
イッタンモメンの撃破から暫く後、変身を解き、着替えを済ませたコウキは、遅い昼食を取ろうとしていた。
今日のメニューは、山菜と茸がタップリ入った特製うどん。食材はうどんと調味料以外全て現地調達だ。
「猛士特製のレトルトメニューも美味いけど、こうやって現地調達で作るのまた格別なんだよね…さて、いただきます」
キチンと食前の合掌を済ませ、うどんを啜ろうとしたその時―
♪少年よ 旅立つのなら 晴れた日に胸を張って♪
コウキの携帯が着信を知らせた。着メロから判断して猛士九州支部からだ。
「…イッタンモメン撃破はもう伝えたよな……」
微かに疑問を感じながらも電話に出るコウキ。
「はい、コウキです…あ、事務局長」
電話の主は猛士九州支部事務局長である田所清造だった。
『突然すまんな。実は今、吉野のほうから連絡が来てね』
「吉野からですか? またどうして…」
『詳しい事は私にもわからん、だが…おまえとハバタキに、本部長の方から第一級の特別召集命令が下されている』
「第一級!?」
田所の口から出た『第一級の特別召集命令』という言葉に反応するコウキ。その表情は先程までとは違い、緊張感に満ちている。
『ああ、そう言うわけで、可能な限り早く帰ってきてくれ』
「わかりました。大急ぎで撤収作業に入りますので…6時前にはそっちに着くと」
『そうか、じゃあ気をつけて』
会話を終え、電話を切るコウキ。そのまま大急ぎでうどんを胃に収めるのだった。
翌日の朝。
コウキ、そして同僚であるハバタキは、徹夜でそれぞれの愛車を駆り、吉野の猛士総本部へと到着していた。
職員に案内され、施設の奥へと進んでいく。
「コウキさん、俺達…何で呼ばれたんでしょうね?」
「わからん。だが、第一級の特別召集命令が出たって事からして、ただ事じゃないな」
第一級特別召集命令。それは吉野の猛士本部長のみが発令可能である最上級命令で、この命令を下された鬼は如何なる状況下であろうとも、早急に吉野へと向かわなければならない。
それ故に発令には厳しい条件が設定されており、そう簡単に発令することは出来ない。
逆を言えば、この命令が下されたという事は最悪、日本という国の存亡に関わるほどの事態であるという事である。
そうこうしている内に2人は目的地である本部長室の前へと辿り着いた。一呼吸おいてからドアをノックする。
「猛士九州支部所属、コウキ」
「同じくハバタキ」
「第一級の特別召集命令により参上しました」
「入りたまえ」
「「失礼します」」
2人が入室するとそこには、総勢10名の男女が2人を待ち構えていた。
「コウキ君にハバタキ君。九州から、遠路はるばるご苦労だった」
総本部長・和泉一文字の声に迎えられ、席に着くコウキとハバタキ。
「さて、全員揃った所で…君達の中には初対面の者もいる事だし。まずは自己紹介からはじめよう」
一文字のそんな言葉に応えるように、右隅に座っていた碧眼の青年が静かに口を開いた。
「では自分から…北海道支部所属、第15代トウキであります」
「同じく北海道支部所属の飛車、村上恵です」
「次はワイやな。関西支部所属、第15代ニシキや。以後よろしゅう」
「中部支部所属、第15代キラメキです。お見知りおきを」
「九州支部所属、第15代ハバタキです。若輩者ですが、よろしくお願いします」
「四国支部所属、カイキだ」
「……東北支部所属、ランキ…よろしく」
「同じく東北支部所属の『と』、仙道芹菜です」
「中国支部所属のショウキです」
「最後は俺か、九州支部所属、コウキだ。これからよろしく」
全員の自己紹介が終わった所で、一文字が再び口を開いた。
「今回、君達集まってもらったのは言うまでもない…吉野の夢見が予言を下したのだ」
「夢見が…予言を?」
「夢見っちゅうたら、予知夢を見る事で災いを知らせるあの夢見ですか?」
「そう、その夢見だ」
「それで、その予言とは?」
コウキの問いに一文字は一旦言葉を切り、静かに語りだした。
「邪なる大蛇現る時、深緑の輝き振るう悲しき戦鬼蘇る 8つの希望、光となりてこれを討たん」
「…邪なる大蛇、深緑の輝き振るう悲しき戦鬼……」
伊勢之介の言葉を静かに反復するハバタキ。そして―
「予言、そして集められた8人の鬼のうち4人は…
「君も同じ結論に至ったようだな、キラメキ君」
「ええ、最悪の結論ですが……本部長…深緑の輝き振るう悲しき戦鬼とは俺達、正しくは俺達の祖先に関わりがある…鬼ですね」
「夢見の見た夢が100%真実だとすればな…」
「やっぱりな…ワイら4人全員が揃っとるから、予感はしとったんや」
ニシキの言葉にハバタキ、トウキ、キラメキが頷く。
「恐らく敵は…猛士創設期に我々4人の祖先を含む7人の鬼が力を合わせ撃退した巨大魔化魍オロチと…」
「人に絶望し、悪の道に走った鬼…歌舞鬼」
吉野でのやり取りと時同じ頃。奈良市の某所では―
「な、なんなんだよ…お前は…」
1人の中年男が、謎の青年の手によりその生涯を終えようとしていた。
「お、俺が一体…何したって、みぎゃ!」
男が言葉を紡ぎ終える前に、青年の蹴りが男の顔面を襲った。鼻を潰され、痛みにのた打ち回る男。
「親の勤めを果たさずに、子どもを傷つけるような奴は、生きてちゃいけねえよなぁ…いけねえよ」
そう言いながら青年は、男の首根っこを掴むとそのまま片手で持ち上げた。
「ぐ、がふっ…く、苦しい……は、はなじてぐれ…」
息も絶え絶えに許しを請う男。だが―
「じゃあ、お前は娘が泣いて許しを請えば、殴るのをやめたのか? やめてねえよなぁ…自業自得って奴だ」
青年は冷たくそう言い放ち、更に力を込める。
「あ、がぁ…」
絞り出すように苦悶の声を上げる男。その光景を1人の少女が見つめていた。
薄汚れた服装、体のあちこちに出来た痣。父親から長期にわたり虐待を受けていた少女は、感情を表に出さないまま父親が死へと向かう姿を見つめていた。
「と、父さんが…父さんが悪かった。だ、だから、お前からも助けてくれるように…言ってくれ」
「都合の良い事言ってるが…どうする少女?」
「………」
「手を下すのは俺だ…だが、こいつを殺すのはお前の意思だ」
「………」
「…こいつを………殺すか?」
静かに、だがはっきりとした響きで少女に問う青年。そして―
「………」
その問いに少女は無言ながら、その首を縦に振った。
ゴギィ!
その瞬間、鈍い音が響き、首の骨をへし折られた男は永遠の眠りへとついた。
そして、青年と少女もそのまま何処かへと姿を消した。
「なあ、お前の名前は?」
「………」
「名前だよ、名前。あるんだろ?」
「……裕美」
「裕美か、俺は……本当の名前なんてとっくの昔に捨てちまったが…まあ、カブキとでも呼んでくれ」
そんな会話を残して…
弐之巻了
261 :
名無しより愛をこめて:2006/04/15(土) 18:46:19 ID:59NF9DEoO
>>虹鬼SS作者さん
新作乙です。
トウキ、キラメキ、ハバタキ、ニシキの子孫に蘇った(?)カブキが出てきて驚きました。
続きを期待してます。
1977年、神在月。
中国支部は非常事態に見舞われていた。
鳥取県大山。日本四名山にも数えられるこの中国地方最高峰の山において、事件は起きた。
大山伯耆坊。日本八大天狗の一角であるこのテングが、長い眠りより目覚めたのである。
昨年九月、同じく関西で鞍馬山僧正坊が蘇り、関西全域に甚大な被害をもたらした。その悪夢がそっくりそのまま中国支部に起こったのである。
島根県出雲市、出雲大社のお膝元にある中国支部。表向きは出雲蕎麦屋を営んでいるが、今日は暖簾が下ろされている。
その店内で、支部長の東真一郎は苦虫を噛み潰したような表情で座席に腰掛けていた。
そこへ、奥の扉を開けて「金」の佐野学が駆け込んでくる。
「店長!大山へと向かった第二次討伐隊が全滅したとの報告が入りました!」
血相を変えて報告する佐野。それを不機嫌な表情で聞く東。
「わざわざ悪い話を知らせに来る必要はありません!それに今はちゃんと支部長と呼びなさい。……で、討伐隊はどうなりました?」
「は!各自に付いているサポーターや弟子が病院に搬送したそうです。幸い誰も命に別状は無いようです」
そうですか……。そう呟くと東は目の前に置かれてあった、既にぬるくなったお茶を飲んだ。
「……関西支部からの救援はまだ来ないのですか?」
「迎えに行った八雲くんからの連絡はまだありません」
東はまず、昔から交流のある四国支部へと救援を要請していた。しかし四国支部は救援に割ける人員が誰もおらず、そのため東は次に関西支部へと救援を要請したのだ。
そろそろ第三次討伐隊からの定時連絡が来る頃です。そう言って佐野は東に頭を下げると、再び奥へと引っ込んでいった。
その後ろ姿を見送ると、東は再びしかめっ面のままお茶を飲み、一緒に置かれていた大福を一個頬張った。
その数時間前、吉野本部の研究室に中国支部へと救援に向かうメンバーが集められていた。
コウキ、イブキ、セイキ、ドキ、そして彼等のサポーターの勢地郎とまつの六人だ。
「あなた達に渡すものがあるの」
そう言うとあかねは三つの桐箱を取り出した。そのうちの一つにコウキは見覚えがあった。
三つの桐箱の中から出てきたのは、左右一対の太鼓、横笛、琵琶であった。
「まずこれは『火焔太鼓』ね。コウキくんとイブキくんは覚えているでしょ?」
昨年の鞍馬山での戦いでコウキとイブキが使用したものだ。
「で、こっちの笛が『葉二(はふたつ)』。琵琶の方が『玄象(げんじょう)』。あなた達も聞いた事があるんじゃないかしら」
「これがあの『葉二』ですか?」
イブキが尋ねる。
「火焔太鼓」が全ての音撃鼓の中で最も古く最も名器だとするならば、「葉二」は音撃管の、「玄象」は音撃弦の中で最も古く最も名器とされる一品である。
「葉二」は元々朱雀門に住み着いていた鬼が持っていた物だ。ある夜、笛の名手である浄蔵聖人が奏でる笛の音に惚れ込んだ鬼が彼に譲った物だという。
「玄象」の方は元々宮中にあったものを羅生門に住み着いていた鬼が盗んだ物だという。それを楽聖・源博雅が取り返したとされる。
「この三つを纏めて使用許可取るのに、それはそれは苦労したんだから」
そう言いながら右の「火焔太鼓」をコウキに、左の「火焔太鼓」をドキに、「葉二」をイブキに、「玄象」をセイキに渡すあかね。
「ちょ、ちょっと待ってくれよあかねさん!俺、琵琶なんて弾いた事ないぜ!?」
慌ててあかねに抗議するセイキ。
「大丈夫大丈夫!使い方を書いた紙はおまつちゃんに渡しておくから、車の中で読んでおいて」
そう言ってまつに微笑みかけるあかね。
「では行ってきます」
それぞれが得意の決めポーズをして研究室から立ち去っていく。そんな中、あかねは勢地郎を呼び止めてこう告げた。
「念のために『鬼の鎧』も使用許可を取り付けてあるから、途中で寄って回収していってくれないかしら?」
一行が岡山に入り指定された場所に着くと、そこには一人の青年が待っていた。
「初めまして。中国支部で『飛車』をやっている八雲礼二といいます。早速で申し訳ありませんが、皆さんには直ぐに大山へと向かっていただきます」
自己紹介もそこそこに、コウキ達に向かってそう告げる八雲。
道中、八雲はコウキに対してこう質問した。
「あの、救援はこれだけなのですか?」
「……すまない。今関西支部で手が空いている鬼は我々四人だけなんだ」
昨年九月、荒れ狂う台風の中で僧正坊の眷属たるテングの群れと戦い、たくさんの鬼が負傷した。その後暫くの間、関西支部は中国支部や中部支部から出向してきた鬼達に助けられている。それなのに。
(これでは恩を仇で返すようなものだな)
だがコウキ達は伝説の音撃武器を持ってきている。これの強さは僧正坊の時に証明済みだ。
「だが大丈夫だ。私達を信じてくれ」
そう言葉を掛けるコウキ。
「……はい。噂の『疾風鋼の鬼』にそう言ってもらえると少しは気が楽になります」
「私の事を知っているのかね?」
「ええ。一日に二十体の巨大魔化魍を倒したんですよね?」
「……三十体だ」
四国の連中といい、何故こうも間違えるのだろう。コウキは如実に嫌な顔をし、八雲を困らせた。
大山に辿り着いたコウキ達は、そこで改めて八雲から説明を受けた。
「今、第三次討伐隊が裏側から攻めています。報告では伯耆坊は第一次、第二次討伐隊との交戦で手傷を負っているとの事です」
眷属のテング達の殆どは第三次討伐隊の方へと注意が向いているらしい。コウキ達は手薄になったこちら側から登山する事になる。
時間が無い。
コウキ達はその場で鬼の姿に変身すると、雪山を登っていった。火打ち石を打ち鳴らし、彼等を送り出す勢地郎、まつ、八雲。
「どうしたんです?勢地郎さん?」
まつが勢地郎に尋ねた。どことなく落ち着きが無いように見える。
「ああ、何でもありませんよ」
そう言いながらも勢地郎は、あかねに託された「鬼の鎧」の事が気になって仕方がなかった。
雪山を登る四人の鬼。そんな中、高鬼が聖鬼と怒鬼に向かって話し掛けた。
「君達、大丈夫なのかね?」
この二人は去年の僧正坊の一件で仲良く怪我を負い入院している。そんな事もあってか心配なのだ。
「むははは!大丈夫ですって!テングどもにしっかりと御礼参りしてやりますよ!」
そう言って自らの胸を叩く聖鬼。後に続く怒鬼も静かに頷いた。
と。
「……来る」
怒鬼の言葉に、それぞれの音撃武器を構え身構える一行。
空から、羽の生えたテング達が急降下し襲い掛かってきた。その場で格闘戦を始める鬼達。
「ここは任せて先へ進んで下さい」
七節棍でテングを捌きながら、怒鬼が他の三人に向かって言う。
「しかし……」
「威吹鬼、ここは彼の言う通りにしよう」
「怒鬼!絶対にやられるんじゃねえぞ!」
怒鬼を残し先へと進んでいく高鬼達。その後を追おうとするテングを、節を伸ばした七節棍で絡め捕る怒鬼。
「行かせはしない」
空いた片方の手で音撃棒・無明を握り、他のテング達を威嚇する怒鬼。
(後は任せた……)
空は急に曇りだしてきた。道中、車内で聞いた天気予報では山間部には降雪の惧れがあると言っていたが、どうやら当たったようだ。
山頂に辿り着いた頃には、ちらちらと雪が降り始めていた。幸い、視界不良に陥る程酷くはなかったが。
周囲を見回す高鬼達。伯耆坊の姿は何処にも見当たらない。
「くそっ!怒鬼がいれば気配を察知出来るのによぉ!」
「ぼやくな。神経を研ぎ澄ませろ。相手はあの僧正坊と同格の相手なのだからな」
だが、伯耆坊の姿は一向に見当たらない。
「確か手傷を負っているんですよね」
威吹鬼が高鬼に確認する。
「ああ。まずいぞ、このままでは奴に回復する時間を与えてしまう」
雪の中、紙製の式神を放つのは得策とは言えない。頼りになるのは己の五感だけだ。
と、誰かの叫び声が聞こえた気がした。だがよく耳を澄ませてみると、確かに人の、子どもの叫びが聞こえる。
高鬼達は声のする方へ向かっていった。
高鬼達は、テングに襲われている少年を助けた。「火焔太鼓」を貼り付けられ、「大明神」の一撃を受けて爆発四散するテング達。
泣いたままの少年に優しく声を掛ける威吹鬼。
だが。
「待てよ。何でこんな所に子どもがいるんだ?しかも一人で」
聖鬼が訝しげに少年を見ながら疑問を口にする。
「スキー客が迷子になったんじゃないんですか?」
確かに威吹鬼の言う通り、少年の格好はスキー客のそれだ。
「でもよ、この山は今中国支部が封鎖しているんじゃないのか?」
「聖鬼の言う通りだ。怪し過ぎる」
聖鬼と高鬼の両方に言われ、威吹鬼もだんだん少年の事が不審に思えてきた。と、その時。
「ふふふふ……ふははははは!」
少年が突然大声で笑い始めた。
「威吹鬼!そいつから離れろ!」
だが時既に遅く、少年の体はみるみるうちに漆黒の異形へと姿を変え、その巨大な手で威吹鬼の体を掴みあげた!
真っ白な雪山。その頂に突如としてその姿を現した漆黒の異形。威吹鬼を手にした異形――伯耆坊は、低く嗄れた声で高鬼達に向かって話し掛けてきた。
「まだこの地には鬼がおったか」
「残念だったな!俺達はお前を倒しにわざわざ関西から来てやったんだ!」
聖鬼が叫び返す。
「威吹鬼を放せ、と言っても素直に聞くとは思えんな」
そう言って「大明神」を構える高鬼。
「この鬼は我が食らって、傷を癒すのに使ってやる」
「させるかよ!」
そう言うが早いか「玄象」を構える聖鬼。撥を手に、その弦を掻き鳴らす!
奏でられた清めの波動はそのまま物理的な力へと変わり、矢と化して伯耆坊へと向かっていく。関東支部の朱鬼が使う音撃弦・鬼太樂と同じ原理だ。
音撃の矢は伯耆坊の顔面へと直撃し、それに怯んだ伯耆坊は威吹鬼を放してしまう。空中で体勢を整え、雪の上に着地すると慌てて高鬼の傍に駆け寄る威吹鬼。
「すみません高鬼さん!」
「説教は後だ。今は何としてでも奴を倒すぞ!」
「はい!」
「葉二」を構える威吹鬼。
だが、雪と共に上空からかなりの数のテングが降下してきた。
「行け、我が眷属共よ。奴等を八つ裂きにせよ!」
伯耆坊の号令と共に、一斉に襲い掛かってくるテングの群れ。
それに対し、高鬼達もそれぞれの武器を手に立ち向かっていった。
「火焔太鼓」を使い、次々とテングを倒していく怒鬼。だが数で攻めてくる相手に対し、とうとう虚を衝かれてしまう。
雪の上に倒れ込む怒鬼。七節棍はばらばらに引き千切られ、「無明」も片方を圧し折られてしまっている。
それぞれの手に「火焔太鼓」と「無明」を握りしめ、立ち上がる怒鬼。
(残りあと……二体)
たった二体だが、相手はテングである。ここまで孤軍奮闘する事が出来ただけでも奇跡と言えよう。
じりじりと迫ってくる二体のテング。その鋭い爪で怒鬼の喉笛を掻き切ろうとしたその時……。
日本刀による一撃が、怒鬼に気を取られて無防備だった二体のテングの背中を横一文字に斬り裂いた。
テングの羽根が舞い散る中、怒鬼は奇妙な意匠の甲冑に身を包んだ人物を目の当たりにした。
「大丈夫ですか、怒鬼さん!」
甲冑の人物が話し掛けてくる。その声に怒鬼は聞き覚えがあった。
「その声、威吹鬼のサポーターの……」
「はい!立花勢地郎です!」
謎の人物の正体は勢地郎だった。威吹鬼達の事が気になり、託された「鬼の鎧」を身に着けて駆けつけてきたのだ。
「そうか、それが『鬼の鎧』か。しかしそれは……」
「大丈夫、威吹鬼くんに付き合って一緒に鍛えてますから」
「鬼の鎧」は装着者に鬼とほぼ同等の力を与える反面、それなりの鍛錬を積んだ者しか扱う事は出来ないのだ。
と、背中を斬られた二体のテングが起き上がってきた。再び刀で斬りつける勢地郎。
重なって倒れこんだテングに急いで「火焔太鼓」を貼り付けた怒鬼は、「無明」による渾身の一撃を叩き込んだ。清められ、爆発四散し塵芥へと変わる二体のテング。
「威吹鬼くん達が心配です!急ぎましょう!」
勢地郎に促され、怒鬼は彼と共に山を登っていった。
テングの群れと死闘を繰り広げる高鬼、威吹鬼、聖鬼。成り行きを静かに見守っていた伯耆坊だが、一声吼えると近くにいた聖鬼に襲い掛かってきた。
回避するも、新雪に足を取られて素早く動く事が出来ない。爪の一撃が聖鬼の背中を掠めていった。噴き出した鮮血が地面の雪を染めていく。
「聖鬼!大丈夫か!」
高鬼の声に手を挙げて応える聖鬼。しかし、そんな聖鬼を容赦なくテング達が甚振っていく。
「聖鬼さん!」
威吹鬼が「葉二」から吹き矢の要領で鬼石を聖鬼の周囲のテング達に撃ち込んでいく。そのまま「葉二」を吹き鳴らす威吹鬼。清めの音が、複数のテングを纏めて爆砕していく。
と、伯耆坊が翼を羽ばたかせて突風を巻き起こした。その風に吹き飛ばされる鬼達。
「くっ、手負いとは言えやはり手強い!」
雪に埋もれた体を起こし、伯耆坊を睨め付ける高鬼。期待はしていなかったが、今回は「火焔太鼓」に眠る前鬼も力を貸してはくれないようだ。
「ふふふ……、お前達を倒した暁には、眷属達を引き連れて相模へ向かうとしよう。彼の地の支配権は相模坊から我に移ったままであるからな……」
「私達が……そう易々と行かせると思うなよっ!」
睨み合う三人の鬼とテング達。だが、その均衡はいとも容易く破られた。
テングの群れの中に、上空から怒鬼が飛び込んできたのだ。すかさず「火焔太鼓」を貼り付け、テング達を次々と爆砕していく怒鬼。
さらに、謎の甲冑の人物が日本刀を振り回しながらテングの群れに突撃してきた。
「あ、あれは『鬼の鎧』?一体誰が……」
「威吹鬼くん、無事かい!?」
「その声は、勢ちゃん!?」
突然の闖入者に多少なりとも狼狽する伯耆坊。そこに隙が出来た。
「うおお!行くぜ、音撃斬!」
聖鬼が「玄象」を掻き鳴らす。音撃の矢が、テングの群れを粉砕し、そのまま伯耆坊に直撃した。
「おのれ、鬼ごときが……」
喋るために開いた口の中に鬼石を撃ち込む威吹鬼。そして「葉二」を奏で始める。粉雪が降りしきる山の頂で、美しい音色が響き渡った。
「ぐおおおおお!」
その音を掻き消すかのように悲鳴を上げる伯耆坊。体内の鬼石が清めの波動を増幅し、伯耆坊の全身を駆け巡っているのだ。
そして。
「行くぞ伯耆坊!これで最後だ!」
跳びかかった高鬼が伯耆坊の体に「火焔太鼓」を貼り付けた。それへ目掛けて二本の「大明神」を振り下ろす高鬼。
「音撃打・炎舞灰燼!」
古より伝わる三つの楽器が、悠久の時を越え、未だ変わらぬその音色を雪山に響かせた。
刹那、絶叫と共に伯耆坊の体が爆発四散した。爆発の際に発生した波動が、周囲にいたテング達を呑み込み、同じく塵芥に変えていく。
終わった……。
高鬼、威吹鬼、聖鬼の三人は、緊張の糸が切れたのかその場にへなへなと頽れてしまった。
コウキ達は八雲に連れられて中国支部へとやって来た。今回の一件に関する報告のためでもあるのだが、コウキ達のために美味しい出雲蕎麦を用意して待っているというのだ。
店内に入ると、良い匂いがコウキ達の鼻腔を擽った。
「いらっしゃい」
カウンターの向こうから、一人の老人が人懐こい笑顔を見せてコウキ達を迎え入れた。支部長の東だ。
「今夜はどんどん食べて下さい。食事と睡眠は全人類にとっての基本行為です」
笑顔でそう言いながらぱんぱんと手を叩く東。
「はい店長!ちゃんと出来てますよ!」
厨房から蕎麦を載せたお盆を持って笑顔の佐野が現れた。
「手前味噌ですが、うちの蕎麦は最高ですよ」
八雲もまた、笑顔でそう告げる。
「さあどんどん食べて下さい。酒もあります。甘いものもありますよ。疲れた時は甘いものが一番です!」
そう言いながらカウンターから自分の分の蕎麦を持って出てくる東。
その夜、店内はちょっとした宴会場になってしまった。翌日、すっかり酔い潰れて寝坊してしまったコウキ達は帰還が遅れてしまい、その事で散々絞られてしまうのであった。 了
272 :
高鬼SS作者:2006/04/16(日) 10:57:46 ID:QAS37LGB0
以前「火焔太鼓」を出した際、じゃあ管と弦にもそういうのはあるだろうなと思い、
それをメインにした話をやってみようと思って書いたのが今回のSSです。
先にアイテムありきで書いたもので、あんまり内容を捻れなかったのが心残りですが。
何せ途中でフォローを入れてる通り、大山伯耆坊は本来は相模に住んでいる天狗だし…。
皆様の暇潰し程度にでもなっていればと思っております。
273 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/16(日) 11:37:31 ID:jBTshkNa0
六の巻「集う鬼」
九州支部。
宮崎県の一角にあるこのちいさな老舗駄菓子屋に、九州男児ならぬ九州鬼童が18人集まっていた。
九州支部では、基本的に一人一県ずつの担当で活動するが、沖縄は例外。沖縄は古来より特有の魔化魍が出現し、諸島から成っているため、沖縄担当は
九人も居るわけだ。
そういう中で九州の鬼には近況報告が義務付けられている。フブキの場合、2年に一度帰郷したときがそのときであり、元九州支部の仲間が帰ったということで、18人全員が一箇所に集まるときでもある。
「・・・・・・と、言うわけで、代々受け継ぐあの鬼闘術にむけての体質変化が起こっているところです!」
「とうとうお前も師匠から受け継ぐときがきたとか。早いもんね、ついこの間まで見習いだったとに。」
「ホント、お前の師匠には世話になっちょるとぞ。今度あうことがあったら、ヨロシク伝えちょってくれぇや。」
「はいはーい!注目!!」
奥から九州事務局長、田所清造と佐久間が出てきた。
集まった鬼達は一斉に声のした方へ目を向ける。一時の沈黙のあと、口を開いたのは田所だった。
「今日、みんなに集まってもらったのは、いうまでもなく、フブキくんの無事な帰省を祝うため。
それともう一つ・・・・先日、吉野の方から特令が下された。」
274 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/16(日) 11:38:01 ID:jBTshkNa0
鬼たちは何事かと九州男児独特の面持ちで田所を見ている。
「実は・・・九州古来から伝わる伝承なのだが・・・薩摩、大隈、日向、肥後、筑後、豊後、肥前、筑前、豊前と、琉球を除いた九つの大地で生まれし魔物はある環境が整うと一箇所に終結し、
九つの尾をもつ邪なる獣・・・九尾狐になりて、総ての生類を滅さんと蠢く。というものがある。過去、6回もその兆候があった。今回の兆候は、先日フブキくんの追ったヤマビコだ。清めたのはサバキだったか。
ヤマビコには珍しい尻尾があったそうじゃないか。DAに録音された童子と姫の会話もそれらしきことだ。」
室内には重々しい空気が漂っていた。九尾狐といえば強力な妖怪として有名だ。
「おそらく・・・」田所が口を開いた。
「そろそろ、魔化魍が大量に発生する頃だろう。このことが例の・・・・男女と関わっているかは不明だが・・・
いままでの奴らの傾向からいって、支配しきれないほど強力なものは邪魔らしい。こちらが有利になるよう、仕向けてくるはずだ。
どんな手かは分からんがな。」
「シフト表は見合わせですか!?」
「無論、そのつもりだ。沖縄の数名はこちらに移るかもしれないから、心しておいてくれ。」
「吉野には私から連絡をとる。何か資料があるかもしれんからな。」
六の巻「集う鬼」 終わり
275 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/16(日) 20:30:19 ID:jBTshkNa0
え〜と・・・ちょっとココで解説ですが・・・
>九州のヤマビコ
尻尾が珍しいと述べておりますが、僕の住むあたりではヤマビコはニホンザルが人間より一尺ばかり大きなり、人語を話すようになったものとされています。
だから九州産ヤマビコは基本的に尻尾なしという設定にしてあります。
>例の男女
いわずと知れたあの夫妻(?)です。
同一人物というわけではなく、同じようなのが全国各地に居ると解釈しております。
服装は中世日本の貴族風です。
>虹鬼SSさま
風舞鬼ストーリーに多かれ少なかれ、虹鬼を出してもよろしいでしょうか?
同じ九州支部なので、できるだけシンクロさせたいと思うので。
>>仮面ライダー風舞鬼作者さん
>風舞鬼ストーリーに多かれ少なかれ、虹鬼を出してもよろしいでしょうか?
>同じ九州支部なので、できるだけシンクロさせたいと思うので。
私の拙いSSのキャラでよろしければ、いくらでも使ってください。
ただ、私のSSと完全に同じ世界にしてしまうと、そちらの展開に後々影響が出るかもしれません。
ですので、仮面ライダー虹鬼の世界と仮面ライダー風舞鬼の世界は―
『同一の時間軸を持ったパラレルワールド』
と、言う事でよろしいでしょうか?
277 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/16(日) 21:18:25 ID:jBTshkNa0
許可ありがとうございます!
おそらく毎回出てくるようなメインキャラにはならないかと思います。
ちょこちょこと、たま〜に会話に出てきたり、人間体で勝鬼的な登場をするぐらいだと思います。
一応、参考までに虹鬼のスペックを投稿します。
あくまでも虹鬼SSの世界での物ですが、何らかのお役に立てれば、幸いです。
仮面ライダー虹鬼
変身者:コウキ
本名:古場康介(コバコウスケ)
性別:男
年齢:28歳
身の丈:7尺3寸(約2m22cm)
目方 :41貫(約156kg)
猛士九州支部に所属する音撃戦士。
音撃棒をメインに使用するが、音撃管や音撃弦の扱いにも長けており、あらゆるタイプの魔化魍に対応できる万能タイプの戦士である。
その名のとおり、炎や氷等全部で7つの力を併せ持った『虹』の力を属性として持ち、風と雷、炎と氷のように異なる2つの力を同時に使う事が出来る。
ただし、それぞれの力を完璧に使いこなせると言うわけではない(威吹鬼や轟鬼がそれぞれの力を100使えるとするならば、虹鬼は65〜70程度しか使えない)。
また、上層部には『1つの力を極めるのが鬼の正しい道』という風潮が強く、師匠である先代も含め、その存在は異端視されている。
しかし、複数の力を合わせ持つ事で、常識に縛られない新しい戦い方を次々と生み出す虹鬼を新時代の先駆者と呼ぶ声も少なくない。
変身アイテム
変身音叉『音角(オンカク)』
:コウキが使用する紫色の変身音叉。
額に当てて起動することで、コウキの変身能力を誘発する特殊音波を出す。
また、ディスクアニマルの起動や集音した音の再生にも用いられる。
音撃武器
音撃棒『篝火(カガリビ)』:先端に赤い鬼石が輝くオーソドックスな音撃棒。正式には右が篝火・阿、左が篝火・吽と呼ばれる。
音撃鼓『焔鼓(ホムラツヅミ)』:響鬼の音撃鼓『火炎鼓』によく似た音撃鼓。
音撃弦『迅雷(ジンライ)』:音撃真弦『烈斬』のデータを参考に九州支部で作られた音撃弦。普段は両刃の斧として使用。
音撃震『遠雷(エンライ)』:音撃弦『迅雷』をギターモードに変形させる音撃震。
音撃管『風花(カザハナ)』:音撃管『烈風』とほぼ同じ形状の音撃管。機能も烈風と同じ。
音撃鳴『風道(カザミチ)』:音撃管『風花』をトランペットモードに変形させる音撃鳴。
使用ディスクアニマル
アカネタカ、アサギワシ、ルリオオカミ、キアカシシ、リョクオオザル、キハダガニ
必殺技
音撃打・爆熱天焼の型
音撃射・疾風怒濤
音撃斬・神雷烈破
※この他、鬼爪を装備している他、鬼闘術&鬼法術は炎、風、水、氷、雷、大地の類なら殆ど使用可能(ただし威力や射程などは劣る)。
また、風と炎、氷と雷のように異なる2種類の力を同時に使って攻撃を繰り出せる(虹鬼SSの一之巻で使った『鬼法術・風爪雷牙』はその力の一片)。
よく言えば、汎用性が高い。悪く言えば器用貧乏。それが虹鬼です。
古来より、鬼は「邪」なる存在から人を護る存在として共生してきた・・・
しかし、それは鬼の「光」の部分でしかなく。
それが鬼と人との歴史の全てではない。
人の心に「光」と「闇」が共存するように・・・
鬼にも「光」と「闇」が、在る。
人を救う「道」を歩く鬼。
そして、その道を踏み外し「心」を捨て「闇」に足を踏み入れた鬼。
人々は「闇」に魅入られた鬼、そして人を恐れた。
そして、その闇を狩る為に人は「光」の太刀を持つ存在を崇め奉った。
その祖先が「鬼ヶ島伝説」の桃太郎その人であると云われている・・・
音撃戦士外伝 「狗神」
−光あるところに、闇在り−
281 :
竜宮:2006/04/17(月) 08:09:57 ID:FRjG4WRf0
皆様どんどん世界が広がって深まっていって爽快ですね。
用語集サイト様もすごく助かります。楽しみにしています。
まとめサイト様いつも読みやすくしてくださってありがとうございます。
ZANKIの人様、最終話予告!?、年表見ただけで泣きそうです。
魔化魍異聞録もすごく好きなので、また余裕ができましたら
また単発の話も読ませてください。
どのSSもユーモアと優しさがあって、最近読みにこれませんでしたが、
来ると自分も元気をもらってます。
どの設定にもあまりからまない単発SSを月末か来月までに
投下できたらいいな、と思ってます。
活動記録 最終話
蔵王丸(松田賢二)がこの世から去り、数ヶ月の時間が過ぎた。
色の無い世界で一人倒れている蔵王丸。魂だけになった斬鬼は成仏できず、現世と黄泉の狭間の世界にいた。
しかし、力尽きた蔵王丸を一喝する存在が現れる。
「寝てんじゃねぇよ!」ガン!十年振り位に5メートルほど飛ばされる蔵王丸。
「誰だ!…!?」殴られた頬を押さえる蔵王丸の目に映ったのは、怪しげな外国人。
「随分見ないうちに、おっさんになったな…」
最後に見取った時と何一つ変わらない先代・ザンキ(ジローラモ・パンツェッタ)がそこにいた。
だが、久しぶりの再会を懐かしむことなく先代・ザンキは蔵王丸に言う。
「今、現世ではオロチを沈める為にお前の弟子達が戦っている。
善戦はしているが、あれじゃ時間の問題で鬼達が負ける。」
肉体を持つ前の魔化魍も倒さなければ、いずれ増える量と倒す量のバランスが崩れるて負ける事と、
その魂だけの魔化魍を倒せるのは自分達のように返魂の術を使い、成仏できない鬼だけである事を説明するザンキ。
「戦わない理由がありますか?」悩む事など一切無く答える蔵王丸。
そう答えるのを待っていたかのように蔵王丸の左腕に音枷が、足元には烈斬が現世の時と同じ輝きを放ち現れた。
「大切に使えば答えてくれる…教えたはずだろ?」
驚く蔵王丸にニヤリと笑って言うと、ザンキは自分の狼の様な鬼弦をかき鳴らす。
すると、ザンキは緑の隈取の鬼ではなく、金色の狼男へと変身する。
「背中に乗れ、全力で走るぞ…」
蔵王丸がザンキの背中に乗るとザンキは雄たけびを上げ大地を駆け出した。
二人が儀式の舞台に着いた時には、すでに70以上の鬼達と数え切れない程の魔化魍が激しくぶつかり合っていた。
蔵王丸の目に真っ先に映ったのは、河童に襲われている轟鬼。
「轟鬼!」とっさに轟鬼の元に向かおうとする蔵王丸。しかし、ザンキはこれを制止する。
「現世の魔化魍は現世の奴らにしか倒せない…大丈夫だ、あいつらを信じろ。」
蔵王丸は鬼達を信じ、そして自分が今すべき事を成そうとした。
そしてザンキは成体だが半透明の魔化魍達を指差し言う。
「あいつらが体を手に入れる前に叩け」「しかし、二人だけでこの数は…」
だが、二人の後ろには同じように返魂の術を使い、成仏できない多くの鬼達が立っている。
オロチの話を知ったザンキは、今日の為に日本中から鬼を集めていたのだ。
「…鬼か?」二人の前に現れる白装束の童子と姫。
ザンキはベース型音撃弦「ミカエル」を構え、蔵王丸は烈斬を構えると二人は一瞬にして童子と姫を一閃する。
「…鬼だよ」
「…狼さ…。」
それを合図に70以上の魂だけの鬼達と二百は越す魔化魍達のもう一つの戦いが始まった。
魂だけの鬼達の活躍で現世に現れる魔化魍をかなり抑えることができた。
だが、無尽蔵に生まれてくる魔化魍に、鬼達は次第に体力を消耗し始め、徐々に劣勢を強いられ始めていく。
ザンキや蔵王丸も例外ではない。一人で五体は倒せる実力はあっても、魔化魍は幾らでも増えていく。
次第に四体…三体…と一度に倒す数は減って行き、最後には一体を倒すのがやっとになり、
気がつけば一体を複数で倒さなければならない状態になっていた。
だが、響鬼が叩きつける円柱は少しずつだが沈み始めている。
今、ここで現世に送る魔化魍を増やすことはできない。
「一気に決めるぞ…。」
ザンキの背中に蔵王丸は乗り、右手に烈斬を構え左手にミカエルを構える。
そして二人は魔化魍の群れの一番後ろにいる通常のノツゴの三倍はあるアバレノツゴに視線を向けた。
「最後はあれをやって終わりにしよう…」「終わりってのは戦いをですよね?」
蔵王丸とザンキは少し笑い、二人は魔化魍の群れへと突っ込んだ。
それと時を同じくして、その姿を見下ろすかのように上空には二機のヘリが現れた。
「行きますよ。小暮さん!」鬼石をウブメに打ち込み音撃の準備をする吹雪鬼。
「…う、うむ。」なぜだ、ここからアイツの気配がする…。
そんなはずはない。言い聞かせ小暮は響鬼達の前に現れた。
「待たせたな諸君!!」
果敢に群れに飛び込み切りかかるザンキと蔵王丸。
無謀かと思われた作戦だったが、現世と魂だけの鬼の総勢100を軽く越す音撃は
共鳴、増大し魔化魍の力を半減させていた為、二人は魔化魍の群れを抜ける事ができた。
ザンキはアバレノツゴの遥か頭上へジャンプし、空中で二人は分解すると、
音撃弦でアバレノツゴの右を蔵王丸が、左をザンキが重力を利用して深く斬りつける。
「いくぞ!蔵王丸!」「これで終わりにしましょう!」
二人は素早く弦を突き刺し、音撃の準備に入った。
清める石版を前では、装甲響鬼が装甲声刃を構える。
「鬼神覚声! はあぁぁぁ………!!」
裁鬼と同様に、威吹鬼達も石版の周囲の魔化魍に音撃を放った。
「音撃双斬!」「雷電大激震!」
ザンキと蔵王丸もほぼ同時に音撃を放つ。
「せいやぁっ!!」響鬼の声と共に、激しい衝撃波が大地と空を走った。
魂だけの魔化魍たちは次々と砕け散り、鬼達もその衝撃波に飛ばされそうになる。
だが、それはすべてのものに戦いが終わったことを知らせる鐘の音でもあった…。
「やはり装甲声刃は完璧だ!」
満足そうな小暮の横で、誰にも気付かれず側に立つザンキ。
「なんだ…また…悪寒が…。」
気付かれない事をいい事に、小暮の耳や背筋に甘い吐息を吹きかけるザンキ。
「今日は疲れたんだな…。」そそくさとヘリに引き上げる小暮。
「…最後に一緒に戦えて良かったぜ…。」ザンキは立ち去る小暮の背中に言った。
「…私もだ…」小暮は自分でも良くわからなかったが誰もいないのにそう答えた。
「ザンキさん見てくれていましたか…俺、やりましたよ!」
天に向かって、そう叫んだ轟鬼の横に立つ蔵王丸。
「へぇ…お前を慕う奴もいるんだな…。」
小暮に別れをつげたザンキが蔵王丸の側にやってきた。
「貴方を慕う奴もいるんです…不思議な事ではないでしょう。」
新たに烈雷を受け継ぐ者の姿を、師達は嬉しそうに見守る。
「いい弟子を持ったな…。」「俺は…あなたに教わった事を教えただけです。」
すると突然、轟鬼は二人の方を振り向き、烈雷をかき鳴らし始める。
「なんだこれは?」「これがこいつの自分流なんですよ。」
蔵王丸は軽く笑うと、自分も烈斬を構えてかき鳴らす。
「…うし、とりあえずやっとくか。」二人に続くように、ザンキもミカエルをかき鳴らし始める。
ほんの数分の事であったが、師弟三代のセッションは誰にも聞かれる事なく、
只、二人の記憶にのみ残り終焉する。それと同時に飛び交う轟鬼の挨拶。
「ありがとうございました!」
見えているはずは無いが深々と頭を下げるとヒビキ達の方へと駆け出した。
「…一応、終わりましたが、このままなんですかね?」
「その様だな。地獄にも天国にも見放されたようだな…。」
しばし灰色の空を見上げていると二人の前に白い蛇が現れた。
「あなたが金色の狼ですね?私の国を助けてください…」
白い蛇はザンキに助けを求めに来たようだった。
「やれやれ、もっと働けと言う事か…」
「先代でも必要としてくれる者がいるって事ですよ。」
ガン!5メートル程、飛ばされる蔵王丸であった。
−あとがき−
いきなりの終了で申し訳ありませんでした。
最終話すらじっくり書く暇も無い為、活動記録風にまとめようかと思いましたが、
結局、誰目線でもない良くわからない文章になってしまい、ただ、反省するのみです。
内容的にはベタな展開ですが、やはり、あの場に斬鬼もいた方がおもしろいと思いました。
まあ、三代セッションをやってみたかっただけなんですがw
最後はなんか続きそうな雰囲気にしましたが、多分やりません。
なので、やってみたい方はどうぞご自由に…楽しみにしてますw
続きに限らず、先代の話や、蔵王丸君の話などを書く二代目ZANKIの人が現れるのもいいですね。
では、最後に。
>裁鬼SSさん
書いてみると貴方が凄い事を改めて実感させられました。
>弾鬼SSさん・鋭鬼SSさん
どちらも現鬼を題材にしてるのに世界観を崩さず独自の世界を広げているのは凄いです。
弾鬼と千明、鋭鬼と吹雪鬼の関係が今後どうなるか楽しみです。
>高鬼SSさん・DA年中さん
コラボ企画面白かったです。また高鬼SSさんの方には度々先代がお邪魔しました。また出してくださいね。
DAのコガネの設定を言ってしまったので、なんか考えてください。
>剛鬼SSさん
結局、コラボできなくてすみません。ゴムパッチンの話とカレーパンで少し考えたんですが、
完成には至りませんでした。剛鬼の成長を楽しみにしてます。
>竜宮さん
異聞録も中途半端になってすみません。あのあとの話は最初に書いた簡易版からそうはズレないので、
よかったら竜宮さんどうぞ。お話も楽しみにしてます。
>新職人さん
あとよろしく。
こんな適当なSSを楽しみにして頂いた皆さん。本当にありがとうございました。
今度からは読み専として楽しみにスレを見学しますね。
288 :
高鬼SS作者:2006/04/17(月) 13:46:15 ID:yMFmfUKM0
>ZANKIの中の人
今まで御苦労様でした!
さりげない一言がきっかけで実現したコラボ企画、こちらも楽しかったです。
先代はいずれまた出したいと思っています。
しかし、ようやく格好良く戦っている先代を見れたと思ったら次には小暮さんをからかったり…w
つくづく味のあるキャラだと思いました。
>ベース型音撃弦「ミカエル」
アルフィーの高見沢が持ってる天使の羽根が生えたギターを真っ先に連想したのは俺だけだろうか。
>高鬼SSさま
読み専門とか言っていきなりレスしてすみません。
ミカエルは近いうちにまとめサイトに投下します。
デザインは高見沢風も考えたんですが、ちょっと違いますね。
では先代をよろしくw
まとめサイトにベースを投下しました。
天使というか悪魔っぽいデザインです。
291 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/17(月) 20:48:36 ID:VsULIt7k0
七の巻「溢れる慙愧」
2003年7月中旬。
イナナキは先日、愛車のバイクをイッタンモメンに破壊されたため、サポーターである土居大助の車で移動していた。
田所事務局長の話を聞いた昨日の今日。ある程度の警戒はしていたつもりだったが、足りなかったようだ。
まだ午後3時過ぎだというのに、すでに6体もの飛翔系魔化魍、ウブメやイッタンモメン、オオクビなどを清めた。
それでもイナナキの担当する大分県全域に放ったアカネタカ、アサギワシはまだ250枚も残っている。
今のところは5〜6枚に一つあたりのペースだ。もちろん、猛士データベース的に危険区域を優先して周っているが、安全圏に魔化魍が発生していることは少なくない。
「やっぱり・・・大量発生するんでしょうか?」
「そうだろうな・・・ていうか、既にこういうのを大量発生っていうんじゃないの?」
「あ・・たしかにそうッスね。」
「ま、とりあえず頑張ってみるよ。みんなも頑張ってんだし。俺だけサボる訳にはいかねぇよ。」
「コウキさんって・・・いましたよね?」
「ん、あぁ・・・虹司る鬼ね。」
「凄いですよねぇ〜・・・いろんな技が出せるなんて・・・イナナキさんも少しは見習って見たらどうですか?」
「んん〜・・・俺はさ、ホラ、一つのことをひたすら磨くっていうタイプだから。一応、弦も使えるけど、管一筋だしね。」
292 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/17(月) 20:49:34 ID:VsULIt7k0
ドシャン!!会話を断ち切った重々しい金属が凹んだような音・・・
それに続き、バラバラっと落ちてきたDAの残骸・・・
急いでイナナキは音笛をとりだし、へしゃげた車を降りた。空をみると、無数のウブメやイッタンモメンなどの魔化魍が空を埋め尽くし、車の上には大きな蒼い石のようなものが落ちていた。
遅れて車をおりた大助は、その蒼い物体をみると、好奇心だけでその物体に触れようとした。途端にイナナキは上から強烈な殺気を感じ取った。
「よせ!大助!!」大助はイナナキの声に驚き、一瞬身を引いたが、時既に遅し。上空から無数の魔化魍が2人めがけて襲ってきた。とっさにイナナキは大助をかばい、なんとか回避したが、未だ魔化魍からは殺気が感じられる。
「大助・・・まだまだ修行が足りないな・・・帰れたら・・・立ち食い蕎麦食おうな。」
「スイマセン!自分の不注意のせいで・・・。」
大助は・・・自分のせいでこうなったことを悔いた。
「いいんだよ。お前の命と比べたら・・・俺の左目なんぞ、安いもんだ。この経験を・・・お前が鬼になったときに生かせ。」
「はい・・・!スイマセンでした!!」
イナナキの左目は・・・・・喰われた。
七の巻「溢れる慙愧」
293 :
竜宮:2006/04/18(火) 04:53:43 ID:LeY+iSzi0
ZANKIの人様
完結編、一言一言が心にしみました。
魔化魍異聞録は、おれなんかまだまだっス、なんで、
なにか思いつくことがあったら設定をお借りするかもしれませんぐらいに。
どの職人様も舞台にされた土地や発想の凄さで、すごいなあ、
と読まさせていただいていますが、
先代ZANKI様は皆に愛と笑いをふりまいてくれましたね。
とりあえず
ZANKI完結に捧げる歌
(原曲 「あこがれ」作詞・作曲 さだまさし)
あこがれていたよ ずっと前から
けれども今日まで わざと気づかなかった
あなたが去りゆき 頬に涙して
気がつくなんて 鬼だよね 俺は
もう時は戻らず
もう二度とあえない
だから せめて せめて まごころをこめて
さよなら さよなら
いつまでも涙のままで
あこがれてゆくよ ずっとこれからも
心の弦を ひとり かき鳴らしながら
<ツッコミ>
(って思ってたら、なんで金色の狼男になってるんですか!?)
今 ふたりの時は
すべて 伝説に変る
だから 攻めて 攻めて まごころをこめて
いつまでも どこまでも 二人はZANKIとZANKI
294 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/18(火) 21:14:13 ID:FYiNhmgV0
虹鬼SSさまが虹鬼スペック投下してくださったので僕も風舞鬼&嘶鬼スペック投下したいと思います。
風舞鬼プロフィール
本名:加藤清成 Kiyonari Kato
初登場:一の巻「風に舞ふ鬼」
出身地:熊本
配属:吉野直轄部隊、「成り角」
九州帰郷時は、宮崎周辺区
音撃武器:音撃棒、翔炎。 音撃鼓、爆烈鼓。
??????(これはまだ明かせません。物語が進むうちにでてくるのでお楽しみに)
年齢:24歳
中学生に進学し、学校行事の林間学校なるもので魔化魍に遭遇。
危ないところを師匠の先代風舞鬼に助けられ、猛士と深い関係をもつ。
中3の進路決定の時期に入ると、鬼を志して弟子入り。
2年半の修行を経て、師匠が大きな傷を負い、そのためもあって「17代目風舞鬼」襲名。
その後は、メキメキと力を伸ばし、猛士総本山直轄部隊、「成り角」に就任。
全国をまわりながら、魔化魍を清めていく。2年に一度は元居た九州に帰り、安らぎを得ながらもやはり魔化魍退治に明け暮れる。
295 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/18(火) 21:23:29 ID:FYiNhmgV0
嘶鬼プロフィール
本名:五十嵐五十六 Isoroku Igarasi
初登場:二の巻「嘶く鬼」
出身地:大分
配属:九州支部 大分県
音撃武器:音撃管、斬風 音撃鳴、鎌鼬
年齢:24歳
フブキとは高校からの友人。高校のときに弟子入りして、22歳に鬼になったばかりの新米。
だが何故か既に弟子が居て、その弟子は超がつくほど真面目。しかしイナナキ本人は付き人程度に思っている。
2004年7月中旬に魔化魍にやられ、左目を失明。
296 :
高鬼SS作者:2006/04/19(水) 00:04:35 ID:31gb6XS70
>>287 >DAのコガネの設定を言ってしまったので、なんか考えてください。
やってみました。今夜(夜八時前後)には投下出来そうです。
とりあえず予告を。
1994年、冬。
「俺はね、もう駄目なんですよ。あかねさん」
「何を言ってるの!あなたらしくないわよ?」
「見てろ蔵王丸!これが俺の最後の戦いだ!」
その日、一人の男が残った者に後を託し、逝った……。
仮面ライダー高鬼番外編「時の徒花」
ZANKI SSさん
「…鬼だよ」
「…狼さ…。」
クハァ・・・痺れました!憧れます!
連載お疲れ様でした。自分のSSも、こんな風な感動が残せるように頑張りたいと思っております!!
高鬼SSさん
「見てろ蔵王丸!これが俺の最後の戦いだ!」
死期を悟っての戦い。斬鬼の名を持つものは、とことんまで弟子想いで、背中でモノを語る!今から楽しみです!!
最近、妄想が広がりすぎ!
鬼ワールドがアジア全土を席巻しつつあるんだな!
弾鬼をトニー・ジャーで鋭鬼がチャウ・シン・チーとか
裁鬼&一撃鬼師弟はジャッキー・チェン&ジェット・リーとか
いかん、いかん、・・・響鬼は終わったんだ!
斬鬼はドニー・イェンがいいな
南雲あかね。元猛士総本部開発局長。
長年に渡り関西支部、ひいては日本中の鬼達の武器や変身道具の制作、修理、調整を行ってきた彼女も寄る年波には勝てず引退した。
彼女の後を継いだのは、嘗てコウキという名で活躍した小暮耕之助という男だった。
鬼だった頃からあかねに技術を師事し、その天賦の才をもって満場一致で新たな開発局長へと就任した。
引退したあかねは開発局顧問として以降も猛士での活動を認められたが、実際に彼女が本部を訪れる事はほとんど無くなった。
元々好奇心の塊のような人物だったあかねは、今までの生活の鬱憤を晴らすかのように日本中、あるいは世界中を旅して回った。
本部の研究室を訪れるのは旅行のお土産を小暮に渡すため、そしてある人物に定期的に調整を頼まれた品物を預かるためだけだった。
1994年、冬。その日も、あかねはその人物から送られた品物を受け取るべく吉野総本部を訪れた。
「お久し振りです、あかねさん。例の荷物なら届いていますよ」
あかねを迎え入れた小暮がそう告げる。
あかねは机の上に置かれた小包を見ると、中から一本の音撃弦を取り出した。
実に奇妙な形状の音撃弦だった。以前、小暮はそれについて詳細を尋ねた事があったが、あかねは笑って誤魔化すだけだった。
「じゃあ少し個室を借りるね」
そう言ってその場を去ろうとするあかねを小暮は呼び止めた。
「その音撃弦の調整なら私がやりますよ。それともあかねさんでなければならない理由でもあるのですか?」
前々から疑問に思っていた事を小暮はとうとう口に出した。だがあかねは笑いながら、
「御免ね。これだけは私が面倒を見るって持ち主と約束しているの」
「誰なのです、その持ち主というのは。消印を見る限り関東の誰かの物みたいですが」
「それは知らない方がいいわよ、小暮くん。じゃあね」
そう言って個室へと入っていってしまった。
個室で一人黙々と作業を続けながら、あかねはこの「ミカエル」と名付けられた音撃弦の持ち主、ザンキの事を思い出していた。
出会いは最悪な形であった。愛車を廃車にされ、爆発事故にも巻き込まれた。小暮などは彼と出会った記憶そのものを封印している。それ程の人物だ。
しかし彼は吉野へ来る度にあかねを訪ね、慕ってくれた。悪い気はしなかった。
これを託してくれたのも信頼されている証拠だろう。
「これには欧羅巴の組織の技術がふんだんに使われています。それ故に秘密を漏らさない人物にしか託す事は出来ません」
最初に「ミカエル」を託された時、ザンキはあかねに向かってそう言った。
そうだ、折角だから調整が終わったら直接東京へ届けに行こう。あかねはザンキの驚く顔を見るのが楽しみでしょうがなかった。
三日後、あかねは「ミカエル」を持参して東京を訪れた。
葛飾区柴又、甘味処たちばな。猛士関東支部である。
あかねが店内に入ると、旨い具合に入り口の真向かいの座席にザンキが腰を掛けていた。
「ザンキくん、お久し振り」
「OH〜、その声はあかねさん!?」
そう言うとザンキは立ち上がり、被っていたボルサリーノを取って頭を下げた。
「どうしたんです、急に?」
「ザンキくんに調整を頼まれていた『ミカエル』を持ってきたのよ。驚かそうと思ってね」
「ディ・モールト驚きましたとも。まあ座って下さい。あっ、何かお茶菓子持ってきますね」
お茶を飲み、きび団子を食べながら、二人は思い出話に花を咲かせた。思えば、二人きりでこんなにも話し合ったのは初めてではないだろうか。
あかねは自分や吉野、そして小暮の近況を話した。ザンキもたちばなの面々や弟子の蔵王丸について話した。
「来年の『花見の会』に遊びにおいでよ。吉野の桜、まだ見た事無かったんじゃないかしら?」
「ああ、いいですねぇ。日本の四季は美しい。そしてこの国の春を代表する桜もディ・モールト美しい。是非行きたいものです」
そう言って微笑むザンキ。
「……さてと、俺はこれで失礼しますよ。馬鹿弟子の面倒を見に行ってやらなきゃ。あの、まだこっちには滞在するんですよね?」
あかねがそうだと答えると、ザンキは「良かった」と笑顔で言った。
そして席を立ち上がると、あかねに一礼して店を出て行ってしまった。
と、入れ替わりに奥の方から関東支部長兼事務局長の立花勢地郎がやって来た。
「あかねさんじゃないですか!お久し振りです。そうか、ザンキさんがお茶菓子を取りにきたのはそういう事だったんですね」
「お久し振り、勢地郎くん。娘さん達は元気みたいね。ザンキくんから聞いたわ」
「いやぁ、ははは。下の子なんて元気だけが取り得みたいなものですから……。ところでその、今日はお一人で?」
「うん、そうだけど」
それを聞いて勢地郎は胸を撫で下ろした。
「良かったぁ……。もしかしたら小暮さんも来てるんじゃないかと思って……。うちの娘達は皆あの人の事が苦手ですから」
まあ私もですけどね、そう言って勢地郎は笑った。あかねも一緒になって笑った。
勢地郎とも会話が弾んだ。そんな中、あかねはさっきから疑問に思っていた事を彼に尋ねた。
「ねえ勢地郎くん、ザンキくんについてなんだけどさ……」
「何かまた粗相でもしましたか?」
「ううん。あのね、彼、ひょっとして目が見えなくなっているんじゃないかなって思ってさ……」
あかねが戸を開けて入ってきた時、ザンキはこちらを向いて座っていたのだ。それなのに彼は「その声は」と言った。見えていなかったとしか思えない。
それを聞いて、勢地郎は驚いた。
「そんな馬鹿な。あの人は我々に対してそんな素振りを見せた事は一度もなかったんですよ。それなのに……」
どうやら勢地郎は気付いていなかったらしい。否、彼の台詞からするに関東支部の誰も気付いていなかったのだろう。
それ程までに隠し通してきた彼が、こんな些細なミスをするなんて……。
あかねは、ひょっとしてわざと自分にだけ分かるようにそんな事を言ったのではないかと思った。
その夜、あかねが宿泊しているホテルにザンキが訪れた。
暫くは昼間の会話の続きをしていたが、とうとうあかねは話を切り出した。
「ザンキくん、あなた……目が見えないんじゃないの?」
暫しの沈黙の後、ザンキはいつも通りの軽い調子で答えた。
「ははは、やっぱりばれちゃいましたか」
「私以外でこの事を知っているのは?」
「うちの馬鹿弟子は気付いているみたいですよ。初めは俺の戦い方が変わっているのを不審に思うだけだったみたいですけどね」
と、あかねがある事に気付いた。ザンキの手の甲にあってはならないものが見えたのだ。
「あなた、それは!」
慌てて彼の腕を掴み、甲を凝視するあかね。
彼の体には、禁忌とされる呪法、「返魂の術」を施した証がくっきりと浮かび上がっていた。
「何て事を……」
ザンキは哀しげな笑みを浮かべながらこう告げた。
「俺はね、もう駄目なんですよ。あかねさん」
「何を言ってるの!あなたらしくないわよ?」
俺はね……。そう切り出したザンキは自分の肉体に起こっている異変について静かに話し始めた。
「俺は欧羅巴に居た頃、狼をやっていました。そしてこの国に来てから鬼にもなった……。俺の中には鬼と狼、二つの荒ぶる魂が潜んでいるんですよ」
去年の負傷以来、二つもの魂を制御出来なくなった。そうザンキは語った。
「でもだからって……。ねえ、今すぐ吉野に来ない?本部の医療技術ならもしかすると……」
だがザンキはそれには答えず、懐から一枚のディスクアニマルを取り出した。
「こいつには魂が入っていません。器のまんまです。俺が死んだら、こいつに宿るようにするつもりです」
「宿るって……あなた式神になるつもり?何の為に?」
「あいつを、俺のたった一人の馬鹿弟子をずっと傍で守るために……」
ザンキの目には、有無を言わせぬものがあった。
「あかねさん、鬼も狼もどれだけ人の為に頑張っても決してそれが評価される事は無い」
でもね……。ザンキは遠い目をしながら語り続ける。
「弟子という形で実を結ぶ事が出来る。俺の技術を、意思を、何もかもをというわけにはいかないけれど、それでも想いを継ぐ者を次代に残す事が出来る……」
宿ったら調整をお願いします。そう言うとザンキはディスクアニマルを置いて立ち上がった。
「俺、もう行きます。明日は埼玉の長瀞町って所に蔵王丸と一緒に行くんで」
「待って、ザンキくん!」
呼び止めるあかね。振り返るザンキ。彼の顔は……。
「ひっ!」
軽い驚きの声を上げるあかね。ザンキの顔は狼と人が混ざった異形の風貌に変化していた。
慌てて顔を手で隠すと、ザンキは急いで部屋から出て行ってしまった。
翌日、冬にしてはやけに暖かいこの日、あかねはレンタカーを走らせていた。目的地は勿論長瀞である。
厭な予感がしてしょうがなかったのだ。
(ザンキくん……)
現地へ着いたあかねは、持参したディスクアニマルで二人の居場所を探ると、そこへ向かっていった。
遠くからザンキの叫ぶ声が聞こえる。
「見てろ蔵王丸!これが俺の最後の戦いだ!」
早まっちゃ駄目、ザンキくん!あかねは声のする方へと急いだ。
蔵王丸変身体が落とした「烈雷」を拾い上げると、斬鬼は「ミカエル」と共に二刀でヨロイツチグモへと斬りかかった。
「ミカエル」のランスモードで牽制しながら「烈雷」で攻撃を仕掛ける斬鬼。
「行くぜ!」
「ミカエル」本体に付いてあるスイッチを押す斬鬼。すると、「ミカエル」の全体を覆う特殊装甲がパージされ、中から「ミカエル」の真の姿が現れた。
「うおおおおお!」
絶叫と共に、斬鬼は再びヨロイツチグモに斬りかかっていった。
時間はもう黄昏時に入っていた。
現場が一望出来る小高い丘の上で、あかねは満身創痍のまま技を繰り出す斬鬼を目の当たりにした。
「音撃双斬・雷電大激震!」
二本の音撃弦を深く突き刺し、その両方を同時に奏でる斬鬼。
爆発四散するヨロイツチグモ。
舞い散る塵の中、斬鬼は音を立てて倒れた。慌てて師の下へ駆け寄り抱き起こす蔵王丸変身体。
「斬鬼さんしっかりして下さい!斬鬼さん!」
「おい蔵王丸……」
咄嗟に身構える蔵王丸変身体。またいつもの様に殴られると思ったのだ。だが、斬鬼は静かにこう告げた。
「いいこと思いついた。お前、俺の名前を継いで斬鬼になれ」
「えーっ!?どういう事ですか?」
「男は度胸!貰えるもんは何でも貰ってみるのさ。きっといい気分だぜ。ほら遠慮しないで受け取ってくれよ」
斬鬼はそう言うと顔の変身を解除し、同じく解除した蔵王丸に微笑みかけた。それは、今まで蔵王丸が見た事がない程優しく、哀しい笑顔だった。
「……はい。財津原蔵王丸、本日より斬鬼を襲名させていただきます」
蔵王丸はまだ色々とザンキから教わりたい事があった。だが、それはもう叶わない事だと一瞬のうちに理解し、素直に彼の名を引き継いだ。
「ああ、次は手続きだな。それは悪いが勢ちゃんに言って自分でやってくれ……」
徐々にザンキの声が弱々しくなっていく。そんな師の姿を蔵王丸は見ていられなかった。
「いい夕日じゃねえか……。こんな綺麗なものを見て逝けるなんてな……」
「!見えるのですか?」
ザンキの目は完全に失明している筈なのに……。
「美しいな……」
「はい、とても美しゅうございます!」
「何だよ、急に堅苦しい言い方しやがって……」
その瞬間、ザンキの体はがくっとなり、そのまま動かなくなった。
「ザンキさん?……ザンキさん?ザンキさん……!ザンキさぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
ザンキは、夕闇の中静かにその波乱に満ちた生涯を終えた。亡骸を抱え、泣き続ける蔵王丸。
ザンキの亡骸もまた、蔵王丸の腕の中で霞のように消え去った。「返魂の術」を行った者への代償である。完全なる消滅……。
その様子をずっと丘の上から眺めていたあかねも、静かに涙を流し続けていた。
と、風に乗ってはらりと一枚の花弁があかねの頬に触れた。その花弁を手にとって見たあかねは驚いた。……桜の花弁だったのである。
見ると、周囲の桜の木に花が咲いている。いくら今日が冬にしては暖かいとは言え、こんなにも桜の木が狂い咲きをするとは……。
「来年の『花見の会』に遊びにおいでよ」
あの時たちばなであかねはそう言った。という事は……。
「これってザンキくんの仕業?……まさかね」
あかねは日が完全に沈むまで、冬に咲いた徒花を眺め続けていた。
翌日、あかねは東京土産を持って吉野総本部の研究室へと訪れた。そこではいつも通り小暮が何か作業をしていた。
「ああ、あかねさん。どうしたんです?」
「うん、実は今朝東京から帰ってきたばかりなの。はい、これお土産ね」
皆で食べて。そう言ってたちばなのきび団子を渡すあかね。
「関東支部に行かれていたのですか?ひょっとしてあの音撃弦の持ち主に会いに?」
「うん、まあね」
「それよりもあかねさん。実は今新しい研究に取り組んでいるんです。鬼の耐久力を上げるための装甲を作れないかと思いましてね」
それを聞いてあかねはピンときた。
「ねえ、それ、ディスクアニマルを鎧のように装着する事って出来ないかな」
「ディスクアニマルを、ですか?流石はあかねさん、私にはそんな発想はありませんでしたよ!」
早速その方向で検討してみます!そう言うと何か図面を引き始める小暮。
「じゃあ折角だから後で役に立ちそうな資料を渡すね」
あかねは「ミカエル」に使われていた装甲パージの機能に関するデータを渡すつもりでいた。
(御免ねザンキくん、約束破る事になっちゃって。でも、この研究が完成したらあなたの望みが叶うんだよ。だから許してね)
あの時ザンキは「俺のたった一人の馬鹿弟子をずっと傍で守るために……」と言った。小暮の研究が成功すれば、それが文字通り実現するのだ。
少し機材を貰って帰るね。そう言うとあかねは近くの机を漁り始めた。
「どうしたのです?何か作業をするのであれば、いつも通り個室を使えば……」
「ううん。こればかりは家で一人でゆっくりとやりたいんだ。多分、私の最後の仕事になるだろうから……」
そう言ってあかねは一枚のディスクアニマルを取り出して見せた。それを見た小暮は、何故か悪寒がしてしょうがなかった。
最低限の機材と設備でじっくりと時間を掛けて調整を行った為、完成までに幾つもの春を迎えてしまった。
作業中、不思議な事が起こった。瑠璃狼のディスクだった筈なのに、起動時の色が黄金色になったのだ。
「ザンキくんったら、式神になっても自己主張が強いんだから」
その姿を見て微笑むあかね。
小暮の研究がある程度形を成し始めた際、あかねはこの狼のディスクで試作品を作るよう提案した。
そして2005年。実に十一年もの歳月を経てディスクは蔵王丸へと、ザンキへと渡された。
2006年初頭、日本中がオロチ現象で混迷を極める中、あかねは独り静かに暮らしていた。
もう七十を過ぎたあかねは嘗てのように各地を旅する回数も減り、庭の木々や花を眺めて四季を感じ、静かに日々を送っていた。
時刻はとっくにお昼を過ぎていた。昼食も終え、やる事も無くぼうっとテレビ番組を眺めているあかね。
と、テレビにある人物の顔が映った。
「あら?」
その男性は、髪の色を除けば先代ザンキと瓜二つであった。確かジローラモという名前のタレントだ。
「ふふふ……」
あかねは何だか嬉しくなった。
十一年前にザンキが去り、蔵王丸も昨年末に命を落としたと聞いた。この二人の意思は次代を担う者にきちんと受け継がれている筈だ。
彼女は彼等との愉快な日々を思い出すべく静かに目を閉じた。
庭に一本だけ生えた桜の木が、風で枝を揺らす。
冬来たりなば春遠からじ。きっと今年も綺麗な桜が咲くことだろう……。 了
311 :
高鬼SS作者:2006/04/19(水) 20:17:43 ID:hYwDRqU+0
あとがきのようなもの
基本的にまじめな話ばっかり書いていた中、先代をコラボ企画で登場させた事で高鬼SSは話の幅が広がり、ますます自由に遊べるようになりました。
そういう意味では本当に感謝しています。
先代の幕引きを書く。これが僕に出来る最高の恩返しだと勝手に思っています。
なるべく矛盾が生じないよう気をつけて書いたつもりですが、ひょっとしたら何かミスがあるかも…。その場合はスミマセン。
最後に、改めてZANKIの中の人、お疲れ様でした。先代にはいずれまたこちらで馬鹿騒ぎをやってもらうつもりです。
312 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/19(水) 22:02:43 ID:UIzN4b2F0
八の巻「失せぬ左眼」
イナナキは音笛を勢いよく吹き鳴らし、額にかざした。
嘶
鬼
「セヤァ!」 声と同時に、取り巻いていた草吹雪と魔物をなぎ払い、嘶鬼は上空に向かって鬼石を打ち込んだ。後ろでは大助がすすり泣いている。
「何してる!?早くさくまに連絡しろ!これしきのことで止まるんじゃない!」
「は・・・はいっ」
大助は泣きたい気持ちを抑え込み、携帯からさくまに電話した。
「あっ、田所さん!?いま、大量の魔化魍に囲まれてて・・・嘶鬼さんが大変なんです!すぐに近場の人よこして頂けませんか!?」
―――さくま
「分かった、いまからすぐにフブキとサバキを向かわせる。もう少し頑張っててくれ!」
「事務局長、いま、奴は危ないんですか!?」
「ああ、大量の魔化魍に囲まれてるらしい。サバキに連絡をとるから、お前は先に行け!」
フブキは一目散に駆け出した。
魔
謀
313 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/19(水) 22:03:19 ID:UIzN4b2F0
凄まじい銃撃音が鳴り響く。いくら吉野の科学力といえども、鬼石にも限りがある。
特に音撃管、斬風はトリガーマガジン式なので連射性能こそ良いものの、バイクにつめることが出来る弾数は少ない。
もうすぐ、鬼石が尽きようとしていた。
「クソッ!仕方ない。一か八かだ!!」
嘶鬼は賭けに出た。かなり危ない賭けだ。失敗すれば、嘶鬼や大助は死んだも同然。
斬風はその名の通り、音撃形態では爆発させることなく清めるのが最大の特徴。
それと同じで銃身をスライドさせ、銃撃形態から連射形態になることが出来る。連射形態ではガトリングのように鬼石を猛スピードで連射することが可能となり、威力も増す。
また、装備している鬼石は高度に洗練されているので小柄で貧弱なものならそれだけで清めることが出来る。
ただし、嘶鬼は連射形態を一度も試していなかったので、どのくらいの威力かは細かく把握できていない。つまり、いまのこの状況はまさに「絶対絶命」。一筋の希望に身をゆだねるイタチなのだ。
314 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/19(水) 22:04:13 ID:UIzN4b2F0
嘶鬼はすばやく斬風をスライドさせた。
っと・・・見えぬはずの左側に一筋の光。
その光はだんだんと輝きを増し、右側の視界に入ってきた。ある空のなかで光はとまり、左側の暗い視界でその光を中心に魔化魍が一掃されている。まるで・・・目の前で爆発が起きたかのように。
嘶鬼は本能的に直感した。あの光のところを清めれば、大助を助けられる・・・と。
嘶鬼はあるだけのマガジンを胸の装飾物にとりつけ、上空を埋め尽くす魔物どもに鬼石を食らわした。
「くたばれぇーー!化け物ーー!!」
マガジンの鬼石がつきては替え、尽きては替えを6回ほど繰り返し、全ての鬼石を打ち終わった。
上空をうめ尽くす魔物の小柄な類が一掃されている・・・だが、まだ多くのイッタンモメンが残っている。
「っそぉーーー!!」
嘶鬼はまたさらに斬風をスライドさせ、清める準備にとりかかる。
さっき見えた光のポイントを狙い、一気に肺に空気を押し込んだ。
「音撃射、斬爆!!」
心地よく、厳しく、そして何より・・・強さの音色が響き渡った。
斬
爆
八の巻「失せぬ左眼」
315 :
298:2006/04/19(水) 23:04:22 ID:97eFiqg50
>>299 ナイス!そのキャスティング
裁鬼さんがジャッキーならあいかたのソウキさんはユン・ピョウかサモ・ハン・キンポーだけど
漏れはあえてサモ・ハンで持っていって、
テンキさんが呪術で若返りしたときをユン・ピョウにさせるのもありかと思う・・・
>>高鬼SSさま
ありがとうございました。
あかねが直接会いに来るって発想はしなかったなぁ。
ちなみにこっちが考えててバージョンだと、ザンキがあかねの元に空のDAを貰いに来て、
あかねが不審に思うって感じでしたね。
ザンキと蔵王丸の最後はこんな感じ。
「…なんで、俺なんかの為に戦ってくれるんですか…」
「…弟子の為に戦わない理由があるのか…」
「いままで…ありがとう…ございました!」大粒の涙を流す蔵王丸。
「馬鹿野郎!泣くんじゃねぇ!」
フルスイングで殴ろうとするが、蔵王丸を殴る直前に消滅。
ただ僅かな風だけが蔵王丸の頬にやさしく当たった…。
数日後、吉野のあかねの元にコガネオオカミがやってくる。
それを見たあかねは全てを直感的に理解して泣き崩れた…。
でもこっちのバージョンは暗いんで、高鬼さんの話の方が明るい感じで良いですね。
ちなみに、この後改めて『踊る獣』を読むと更に切なくて良いですな。
多分、ザンキだった記憶とかはDAに対して、容量が大きすぎてしまい
主を守るという気持ちだけが残ったんでしょうね。あとのせサクサク設定ですけど。
まあ、きっとDA年中さんがその辺を書いてくれるんじゃないですか?
と、プレッシャーを与えておきましょうw
板違い失礼!
バンダイSICシリーズに裁鬼さん鋭鬼さん弾鬼さんが仲間入り!リミテッド発売決定だってさ!
リペすれば送鬼さんや天鬼さん一撃鬼さんにも会えるぞ!
感激のあまりの暴走カキコ失礼!
送&天&一撃鬼さんのこのスレでの姿形と色は、どういう感じなんですか?
319 :
DA年中行事:2006/04/20(木) 23:06:27 ID:2GxRFfge0
>>316 ∧
( ゚д゚)
_(__つ/ ̄D ̄/ >その辺りを書いてくれるんじゃないですか?
\/ A /
 ̄ ̄ ̄
c ∧ っ
c c( ゚д゚ )っっ
_(__つ/ ̄D ̄/_
\/ A /
 ̄ ̄ ̄
>318
たしか、天鬼さんが金色で送鬼さんが青色。一撃鬼さんが銀色だったはず。
姿形は裁鬼さんと同じ。
テンキだけはまとめサイトに乗せた事あるよ。
たぶんあんな感じじゃないかな?
焼き直しでいいなら三鬼は簡単に書ける。
322 :
名無しより愛をこめて:2006/04/21(金) 12:55:59 ID:AiYuCCSTO
はじめまして、毎度楽しく見せて頂いています。
僕は上京して生活がまだまだ安定せず苦しいのですが、このスレを見て頑張っています。
鬼のように自分に負けない生き方をしたいと思います。
作者のみなさんありがとうございました。
はじめに。
半年も続いた「裁鬼さんの話」、ようやく終わりました(ゼクトルーパーの話はどこへやら……)。
これも一重に、裁鬼さんがメチャクチャいじり易いキャラだったお陰です。
まとめサイト管理人様、ありがとうございました。
他の作者様、頑張って下さい。
始めるのは大変。続けるのはもっと大変。終わらせるのは…… まあ、人それぞれ。
最後に、祝!S.I.C化。バンザイ。 田舎モンですが、何としても手に入れたいものです。
……で。 今手元に転がってる、顔に赤い角付けて身体クランベリーレッドパールに塗って、肩の辺りから脇腹に弦巻き付けた、轟鬼の手足待ちのS.I.C響鬼。
どないしょう……
裁鬼。
笑顔が咲き誇る未来を信じ、人々の幸せを護り続けた戦士。
幾度も傷を重ね、何度も倒れながらも、裁鬼は戦い続けた。
彼は今、笑っているだろうか――
3ヵ月前。
真夜中。装備帯と音撃双弦を手に姿を消したサバキは、人気の無い山道に両膝と掌を着いた。
身体の疼き、手足の震え、思考の衰えが急激に早まり、サバキの身体から『サバキ』を掻き消そうとする。
いつの間にか生まれ、増え続ける戦いへの欲望を抑え続けるサバキの背に、星空を隠す雷雲が豪雨を叩きつけた。
俯き、歯を食い縛るサバキの顔を、水溜まりが映す。自由を奪われてゆく中、それでもサバキは、家族の笑顔を思い続けた。
無情に赤い炎を纏った身体は鬼のものと成り、水溜まりに浮かぶサバキの顔に、生え始めた角がまるで筋の様に走る。
闇夜の山に獣の様な絶叫が響いたが、落雷はそれを誰かに伝える事を許さない。。
思い続けた春香やイチゲキ達の顔が、闇に覆われていった。
稲光に刹那、闇が白く剥かれる。水溜まりに赤い角を一瞬照らした鬼は、倒すべき魔化魍を求めて彷徨い始めた――
サバキ行方不明から3日後。
亡くなった間島医師の息子と滝澤みどりが、佐伯家のリビングに、サバキのカルテやたちばなに在った修羅に関する書物を広げていた。
「これだけじゃ、まだハッキリした事は言えないんだけど…… サバキさんは今、鬼の本能に操られてると思うの。」
鬼の本能、修羅。それは、『オニ』が『鬼』に成る以前の形態。
古来より語り継がれる悪鬼の伝承は、人の心を持たなかった時代の鬼、この『修羅』に拠るものだった。
通常、修羅の力は、ヒトが変身した鬼には完全に使い熟せない。魔化魍と酷似したその性質は、鬼の体内で清めの音を相殺してしまう。
唯一の例外は、5年前のオロチ現象でテンキが見せた、反魂の術で全能力の限界解除をする―― 即ち、生命を失った状態での使用だけだった。
みどりの説明を受けたイチゲキ達は、サバキを元に戻す方法を訊いた。
しかし、気絶させても身体か鬼のままである事は確認されており、間島医師の息子が提案した、除鬼の手術も望みは薄い。
鬼払いに用いられる外科手術だが、反鬼石を埋め込み体内の清めの音を消滅させる為、サバキを完全に修羅へと変えてしまう恐れがある。
「吉野の医療チームと話し合って、必ずサバキさんを戻す方法を見つけてくるから。」
立ち上がったみどりは、礼を言う春香を見つめる。
修羅は、サバキの精神によってその性質を変化させた。ならば、その修羅を消去するのもまた、精神的な事ではないだろうか。
そこに希望が残されていると直感したみどりは、春香に訊ねた。
「春香さん…… サバキさんに今、一番、掛けてあげたい言葉は何ですか?」
春香は、暫くの沈黙の後、ゆっくりと唇を動かしながら、半ば無理矢理に微笑んだ。
「……――」
裁鬼メインストーリー 〜未来への裁断〜 完結之章
振り出した雨の中、オロチの童子と激しい攻防を繰り返す弾鬼に、魔化魍軍団を退治し終えた勝鬼と吹雪鬼が加勢した。
鬼石を撃ち込まれ、暴風一気と凍衷華葬を浴びながらも、童子は弾鬼の首を掴み、大木の幹に何度も叩きつける。
「うおおおっ!!」
鬼爪を童子の腹部に突き刺した弾鬼は脱出すると、宙返りして樹の幹を蹴り、急降下しながら御影盤を投げつけた。
「粉骨砕身の型ぁっ!!」
童子は右手で御影盤を払い除けたが、着地した弾鬼は体勢を低くし、伸び上がる反動と共に風圧掌底を童子の腹に叩きつけた。
練られた気で形成された音撃鼓が、打撃を受けた部分で青く輝き、二本の音撃棒が清めの音を浴びせた。
童子の破片が舞う中、弾鬼は勝鬼達に言った。
「よっしゃ! 日菜佳ちゃん達を追うぞ!」
剛鬼と蛮鬼は、先程の地鳴りの発生地に辿り着いた。
山の中腹に流れる小川は、雨粒の波紋の中、爆風で圧し折られた木々と粉砕された岩石を、澄みきった流れで洗っていた。
「……威吹鬼、轟鬼。」
中心部に立っていた二人は、剛鬼に焼け焦げた音撃棒のグリップを渡す。
「……御師匠。」
裁鬼のものらしき『形見』は見当たらない。
立ち尽くす4人の処へ、探索ベース付近を巡回していた茜鷹が舞い降り、遂に裁鬼を見つけた一撃鬼達の声を告げた。威吹鬼が、音笛を装備帯に戻しながら呟いた。
「……裁鬼さん。」
「行きましょう、剛鬼さん! 送鬼さんの分も、俺達が頑張るっス!!」
師匠を失った気持ちを痛感出来る轟鬼が、敢えて剛鬼を急させた。
「僕達にも、出来る事がある筈です。 行きましょう。」
蛮鬼に頷いた剛鬼は、グリップを強く握り締めた。
夏の空を覆う黒雲が、鍔迫り合いを続ける裁鬼と一撃鬼、見守る立花姉妹、佇む春香を濡らしていた。
山には風もなく、雨の白い筋は真直ぐに地面へ落ちてゆく。
均衡を崩したのは、裁鬼の前蹴りだった。腹から背中へ貫かれる様な衝撃を受け、吹っ飛んだ一撃鬼に、裁鬼は左拳から灼熱弾を発射する。
片膝を着いたままの一撃鬼は装甲声刃から防御音波を発してそれを掻き消すが、裁鬼は既に紅蓮の炎を纏い、両肩の角を一撃鬼の喉元目がけ、高速で伸ばしてきた。
「一撃鬼、装甲!!」
赤く燃え上がる身体に装着されるディスク達は、強固な鎧と成り、角を弾く。
「……」
歩み寄る裁鬼・修羅。立ち上がる装甲一撃鬼。黒い身体に赧い角を持つかつての師は、銀色の鎧に一点、赤いゴーグル状の双眼の中で、閻魔と釈迦から炎を吹き上げた。
「……鬼神、覚声!!」
躊躇いと焦燥に、装甲一撃鬼の声が濁る。
――裁鬼さんの中に宿る『修羅』に、全ての力を使い切らせる…… それが、サバキさんを元に戻す、たった一つの方法――
半月前に聞いた電話越しのみどりの声は、一撃鬼の耳にこびり付いている。裁鬼ではなく、『修羅』を倒す。サバキの身体を動かしている、『修羅』を……
裁鬼・修羅が、頭上に構えた音撃双弦の火柱を縦に振り下ろし、装甲一撃鬼が、左脇から右肩へ、装甲声刃の光の刄を斜めに振り上げた。
ぶつかり合った修羅音撃と増幅音撃が放つ衝撃に、周囲の雨粒は放射状に弾け飛ぶ。
「春香さん! 危ないですっ!!」
香須実が動こうとしない春香の手を引くが、二人の妻、義母である彼女は視線を動かさないまま、ごめんなさいと呟いた。
「多分、大丈夫。 あの人と一撃鬼君、絶対に『人』を傷付けたりしないから。 ……サバキが目覚めたら、直ぐ傍に居たいの。」
激しい衝撃が、あたりの木々を揺らす。黙って戦いを見つめていた日菜佳が、ある事に気付き、春香と香須実に駆け寄った。
「姉上、姉上! ちょっと……」
「なに? どうしたの?」
「……裁鬼さんの炎、『赤』でしょ!?」
「見たら解るじゃない! それが何なの!!」
「い、いえね…… 前に見たディスクの映像だと、裁鬼さん、『黒』いんですよ! 修羅の炎は! 『赤』は、通常の裁鬼さんの炎の色なんです!!」
「……」
その時、炎と光の刄が互いの威力に耐え切れず、爆散した。後方に吹き飛ぶ裁鬼・修羅と装甲一撃鬼だが、すぐに立ち上がり、閻魔と烈光を構えて走りだす。
渾身の斬撃は再びぶつかり合ったが、二人の武器を砕け散らせた。
裁鬼・修羅は右手首の角を伸ばして左手に釈迦を構え、装甲一撃鬼も失った右の烈光の代わりに装甲声刃を持つ。
二刀流同士の戦いが始まった時、威吹鬼達、弾鬼達が辿り着いた。
「裁鬼さん、やめてくれ!!」
剛鬼が、裁鬼・修羅の身体に掴み掛かった。しかし縦横無尽に伸びる修羅の角は、容赦なく剛鬼の身体を切り刻む。
それでも剛鬼は、裁鬼の身体を取り押さえようと離さない。
「剛鬼さん! 離れて下さい!!」
一撃鬼が、剛鬼に叫ぶ。
「……離せるか!! 御師匠は、最後まで裁鬼さんを助けようとしたんだ! 俺がその決意を継がなくて、どうする!?」
堪らず加勢した弾鬼だったが、先程の激戦で体力のほとんどを使い切っていた。それでも裁鬼の身体を離さない。
「……ウオオオアアアッッッ!!」
雄叫びと共に突如燃え上がった裁鬼・修羅の身体から、赤い炎が周囲にほとばしった。
「危ないっ!!」
――――
「……威吹鬼君!」 「旦那様!!」
「……大丈夫か!?」 「怪我は、無いっスね!?」
香須実と日菜佳を守った威吹鬼と轟鬼の背中は焼け焦げ、煙を発していた。春香の防壁と成った勝鬼と吹雪鬼も同様で、剛鬼と弾鬼、二人を遠ざけようとした勝鬼は、胸の金属が焦げていた。
鬼達が素顔に戻ってゆく中、裁鬼は修羅を、一撃鬼は装甲を解いたまま、武器を離さぬ両手を腰まで下ろし、無言で対峙していた。
「……い、一撃鬼…………」
一瞬、誰が発したのか解らなかったその一言は、顔の変身を解いていく、裁鬼のものだった。
全員が、一斉に視線をサバキの素顔へ重ねた。
キョウキはベッドで上体を起こしながら、泣き続けている空を見つめていた。
明日夢はたちばなに向かっており、勝手に抜け出そうとしたが、身体は未だ痛みを発し続けている。
窓に附く水玉は、ゆっくりと垂れながら他の玉と合流し、儚く流れていく。
「よっ!」
入り口に立っていたヒビキが、得意のポーズをした後、ベッドの傍に置いてあった丸椅子に腰掛けた。
「久しぶりだな。 ……よく、頑張った。」
半年振りの再会は、キョウキの中で最悪のものだった。自分の力量も測れず、裁鬼に倒され、明日夢に助けられて、ヒビキに慰められる。
「……」
掛け布団の上で、拳が震えていた。顔が熱くなってきた。
「どうした? 何、黙ってんの。」
軽く見える笑顔だが、ヒビキの眼差しは、常に本気、全力で生きている人だと解らせる程、真直ぐだった。「……すいません。」
俯くキョウキは、そう一言、捻り出すのが精一杯だった。
「泣くな。 お前は本気で、全力で裁鬼さんに戦いを挑んだんだろ?」
涙を流し、震える唇と喉は使い物にならず、キョウキは小さく頷いた。
「昔、俺が挑んで勝てなかったんだからさ。 当たり前だよ。 ……それに、お前はちゃんと、俺の『鬼』を繋いでくれてるじゃないか。」
キョウキは、ぼやける視線をヒビキに向けた。
「さっき聞いただろ? ……いつも全力で、いつでも本気で。 色々有ったけどさ、お前はちゃんと成長して、強くなってるんだから。」
ヒビキに褒められたのは、何時以来だったか。キョウキの涙は止まり、袖で拭うと、はっきりとヒビキの笑顔が見えた。
「でもまあ、裁鬼さんに勝つ事は、イチゲキしか出来ないだろうし、イチゲキがするしかないんだろう。 特に、今回みたいな状況じゃな。裁鬼さんの『鬼』を繋いでるのは、イチゲキなんだから。」
ヒビキは再び、鬼という言葉を発した。
「……だからって、お前が戦っちゃいけないって事でも、ないんだ。 お前は間違っちゃいない。 間違いを気にする事、自分で挑戦した事を悔やむのは、今は未だ、気にする事はないさ。」
ヒビキが、立ち上がってドアに向かい、振り向いて言った。
「安心したよ。 俺の『鬼』を、ちゃんと繋いでくれてて。 それに、お前自身の『鬼』が重なって、お前はまだまだ強くなっていく。 ……じゃあな。」
「ヒビキさん!」
ドアを開けた背中に、キョウキは訊いた。
「……この半年、どこに行ってたんですか? これから、何をしに行くんですか!?」
振り向いたヒビキは、笑顔で得意のポーズをした。
「……人助けです!」
その言葉で、キョウキは久しぶりに笑った。
「さ、サバキさん……」
記憶と全く変わらない微笑みが、素顔に戻ったイチゲキの瞳で輝く。
「……ありがと、な。 皆も…… すまん。」
辺りを見回しながら、サバキはゴウキに歩み寄ると、左手の釈迦を渡そうとした。
「……皆と、ソウキの御蔭だ。 元はアイツのモンだったからな…… お前から、返してやってくれ。」
だが、ゴウキの沈黙と、その手に握られている焦げたグリップに、サバキは釈迦を地面に落とした。
「……そうか。」
ゆっくりとイチゲキに近づくサバキは、その目を真直ぐに見つめながら、微笑みを崩さず、静かに言った。
「俺を…… 殺せ。」
雨に打たれる皆の笑顔が、一瞬で暗闇に落ちた。
「……何、言ってるんです?」
イチゲキの両手から、烈光と装甲声刃が零れ落ちる。しかしサバキは笑いながら、右手の鬼爪を伸ばし、自らの心臓に突き刺した。
「サバキさん!?」
引き抜かれた爪の先には、赤い炎が小さく揺らめき、一滴の血も出ていない胸の穴は、忽ち塞がっていった。
「……俺は、ずっとお前達の事を思っていた。 身体が自由にならなくても、魔化魍を倒す事しか考えられなくても……」
サバキの顔に、薄らと4対の筋が浮かび上がり始めた。
「……心の、一番深いところで、俺は『ヒト』を捨てなかった。 だから気は、『鬼』のままなんだ…… これじゃ、『修羅』の身体には効かない。」
首を横に振るイチゲキは、涙を溢れさせながら叫んだ。
「元に戻ったじゃないですか! サバキさんはもう、サバキさんに戻れたじゃないですか!?」
その言葉を否定する様に、サバキの顔は人の形を失っていく。
「いや、『今』だけだ。 ……これ以上、『修羅』を誤魔化せない。 俺はもうすぐ…… 消える――」
筋が盛り上がって赤くなり、顔全体が黒く染まり、額に鬼面が形成された。
「修羅の力で、生き長らえてこれたんだ…… 贅沢言えないさ。」
哀しげな笑みをイチゲキに送りながら、サバキは言った。
「彩子、元気か? ……孫の名前ぐらい、決めたかったけどな。」
ダンキとショウキに顔を向ける。
「相変わらず良いコンビだな。」
バンキに、親父さんは達者かと訊き、フブキには、あまり旦那を尻に敷くなよと冗談を飛ばす。
「……イブキ、トドロキ。」
立花姉妹と並ぶ二人に、今はお前達の時代だと笑う。
「……ソウキには、ちゃんとあの世で詫びるから。」
ゴウキは何かを言い掛けたが、グリップを握る手で地面を叩くだけだった。他の皆も誰一人として、サバキの言葉に頷く事が出来なかった。
サバキの顔は、裁鬼のものに変わった。雨に濡れる赤い角から滴る水滴が、静かに輪郭をなぞっていく。
その目は…… 春香を見つめていた。
「……子供達は、相変わらずか?」
春香は一歩進み、しっかりと頷いた。雨と涙が流れる顔を見た裁鬼は、ゆっくりと頷き返す。
「春香。 ……ごめん――」
言い掛けた裁鬼の身体が、突然燃え始めた。
「サバキさん!!」
駆け寄ったイチゲキを回し蹴りで払い飛ばすと、裁鬼は自らの両腕を抱き、身体を震わせながら言った。
「イチゲキ…… 俺を殺せ! 『修羅』はもう…… 『裁鬼』はもう…… 魔化魍だ。」
「さ…… 裁鬼、さん……」
裁鬼は、気合いを込めて炎を掻き消そうとするが、勢いを止まらせるだけに終わった。それでも、僅かに残る自我で、イチゲキに最後の言葉を残す。
「……頼む、裁ち切ってくれ。 俺の…… 俺の、生命を―― 俺一人の意志じゃ、無理なんだ。 ……最後の、サポートを……してくれ…… い、し……わ、り……」
雄叫びが、身体を一層燃え上がらせる。その赤い炎は、瞬く間に色を濃くし、紫掛かった黒炎から更に濃さを増し、漆黒に揺らめいた。
「裁鬼さ――ん!!」
泣き叫ぶイチゲキの声は、もうサバキに届かない。もうサバキは在ない。
裁鬼の身体は修羅と成り、目の前の鬼に対し、身構えて低く唸った。
「……」
「イチゲキ君!!」
春香の声が、俯きかけたイチゲキの顔を上げた。
「……お願い、イチゲキ君。 サバキを……」
誰よりも、何よりも…… サバキを護りたかった春香は、サバキの魂が、イチゲキによる、『裁き』を願う事を解った。
その気持ちを悟ったイチゲキは、悩みを振り切り、『鬼』として修羅に成った裁鬼を裁く事だけが、今の自分に出来る事だと、右の拳を握り締め、ゆっくりと歩き始めた。
『鬼』として、『サポーター』として、いつも隣で見ていたサバキへの思いが拳を緩めかけたが、それでも『鬼』である気持ちが、決意を促す。
左手の鬼弦を弾いて額にかざすと、両手に烈光と装甲声刃を持ち、裁鬼・修羅へ、赤い炎を纏いながら走りだした。
ダンキ達は何も言わない。
一人一人がイチゲキの決意と春香の気持ちを思い、ただ見守る事が、この場に居る『鬼』の仲間として出来る事だと、悟っていた。
しかし、変身を完了しても尚、赤く燃え続ける一撃鬼の身体に反応したバンキが、皆に叫んだ。
「皆さん! ディスクを一撃鬼さんに!!」
裁鬼の身体を動かす修羅と戦い始めた一撃鬼を包む炎は、バンキが投げた3枚の戦闘用ディスクを鎧に変化させ、装着した。
「おお!」 「受け取れ!!」
合計21枚のディスクで、三度装甲一撃鬼と成り、修羅が繰り出す、鞭の様な角の波状攻撃を、烈光で切り裂いていった。
密着状態にまで近づいた装甲一撃鬼は、烈光を持つ左手を、全力で修羅の肩口に振り下ろした。
修羅はすぐに再生した右手首の角を硬化させて振り上げた。
修羅の修羅音撃と一撃鬼の思いは、互いの刄を破片にして飛び散らせる。
サバキが在なくなった修羅は、狂暴に左足を繰り出し、反応した装甲一撃鬼の右足とぶつかり合う。
一撃鬼の脚の鎧と、修羅の膝の角が砕けるが、修羅は右肩の角を伸ばし、一撃鬼の左肩を貫いた。
痛みを凌駕していた一撃鬼はその角を左手で握り潰すと、肘打ちを顔面に叩きつけ、装甲声刃で左肩の角を切り払った。
修羅は顔の鬼面から生えた5本目の角を一撃鬼の左手首に巻き付けて鎧を細切れにするが、一撃鬼は構わず左拳を修羅の顔面に放ち、引き際に巻き付いた角を引きちぎった。
両者の間に、僅かな隙間が出来た。
修羅の口が開き、黒い鬼火がほとばしり、間一髪、腰を落として躱した一撃鬼の角を焦がす。
更に一撃鬼の胴体を鷲掴みにしながら、掌から黒い灼熱弾を発し、一撃鬼を吹き飛ばそうとする。衝撃に踏み止まった一撃鬼は、装甲声刃を構えた。
「鬼神――」
だが、再生した右手首の角に拡声部を破壊され、続け様に放たれた灼熱弾が胸に直撃し、吹っ飛ばされた。
「一撃鬼!」 「一撃鬼さん!!」
立ち上がる一撃鬼だが、胴体の鎧は焼け落ち、手足も血に塗れている。頭の角は3本が焦げ、装甲声刃も破壊された。
修羅は、血の代わりに傷口から黒い炎を吹き上げていたがすぐに治まり、傷口も自然と塞がっていく。
再生した角を伸ばしながら襲い掛かる修羅は、一撃鬼を、刺し、斬り、突き崩す。
それでも一撃鬼は倒れない。修羅に抗い続けたサバキならば、この程度で倒れる訳がなかった。
振りかぶった装甲声刃を修羅の腹に突き刺し、その身体を蹴って飛び上がると、急降下しながら、見上げる修羅の顔面に、右拳を打ち込んだ。
地面に埋まる程の威力に、修羅は大の字に伏した。身体の角が無くなり、通常の裁鬼の姿に戻る。
一撃鬼の右拳、腕、肩の鎧が、先程までのダメージと、パンチの衝撃に罅割れた。
「……さ、サバキさん。」
降り注ぐ雨は、動かぬ修羅の身体から発する熱で蒸発し、辺りは水蒸気で煙る。右腕を押さえながら見下ろしていた一撃鬼に、突然起き上がった修羅が掴み掛かった。
指を開いた手を振り回し、一撃鬼の肉を抉る。たじろいだ肩に噛み付いたが、その直後、修羅の動きが鈍った。
ついに顔の変身を解かれたイチゲキの前で、頭を押さえたかと思うと胸を掻き毟り、俯せに倒れて藻掻き続けた。
修羅の異常に手が出せずにいたイチゲキだが、やがて修羅は沈黙すると、暫くして、ゆっくりと立ち上がった。
「……」
修羅は、右の親指で自らの心臓を指した。
石割、ここを狙え――
修羅は両手を広げた。
イチゲキには解った。
これが、裁鬼のサポートをする『鬼』としての自分への、サバキからの最後の『サポート』だと。
イチゲキは残った全ての気力を、右拳に込めた。赤く燃え上がりながら放たれた右ストレートに、装備帯から鎧蟹が装着された。
刹那、裁鬼の顔が、ゆっくりと頷いたように見えた。
たちばなでは、明日夢がイブキの息子、疾風をあやしながら、コナユキを慰めていた。
「『鬼』じゃない、俺が言うのも変だろうけど…… ソウキさんの気持ち、解るんだ。」
テーブルに俯いていたコナユキだが、明日夢の言葉に真っ赤な目を釣り上げた。
「なんで解るん!? ほんまに明日夢さん、鬼とちゃうやん! ウチでも解らん、おっちゃんの気持ち、アンタなんかに解らへん!!」
泣きだした疾風を明日夢から預かり、背負うおやっさんが言った。
「……明日夢君は、キョウキの…… 兄弟弟子だったんだ。」
はっとしたコナユキは、明日夢を見つめる。
3年前、キョウキは単純に力だけを求め、洋館の男女に誘われるがまま、闇にその身を堕とした。
ヒビキ達はキョウキを倒せず、逆に鬼の血を得た魔化魍達に、多くの鬼達が深手を負った。
その中、密かに身体を鍛えていた明日夢が、闇に囚われていたキョウキに変身して立ち向かい、勝敗とは関係無く、キョウキに『真の強さ』を教え、光に連れ戻した。
当時、高校生の身で鬼の活動を制されていたコナユキも、その事件については知らされていた。
「……明日夢さん、すいません。」
頭を下げるコナユキに、明日夢は優しく言った。
「……あの時は、ただ夢中だっただけだよ。 一秒でも早く、キョウキを元に戻したかったから。 ……兄弟みたいなソウキさんとサバキさんなら、どっちがどう成っても、自分が助けるんだって……思うよ。」
店の外、臨時休業の貼り紙を濡らしていた雨が、止み始めていた。
サバキ。
笑顔が咲き誇る未来を信じ、人々の幸せを護り続けた戦士。
幾度も傷を重ね、何度も倒れながらも、サバキは戦い続けた。
彼は今、笑っているだろうか――
ダンキとショウキが、泣いていた。バンキが俯き、ゴウキが佇んでいた。フブキが空を見上げ、イブキとトドロキの胸で、香須実と日菜佳が泣いていた。
立ち尽くすイチゲキの右拳から、小雨に流される赤い血が、一滴一滴、静かに零れていた。
――雨が、上がった――
雲が開け、午後の日差しが、鬼達を照らした。
その中央、春香の膝では、素顔に戻った裁鬼が、安らかな微笑みを、空に向けていた。
その笑顔は、もう雨に濡れる事はない。
サバキの頬を、ゆっくりと撫でながら、春香は優しく、そっと…… 呟いた。
……おかえり、サッちゃん――
裁鬼メインストーリー 〜未来への裁断〜 斃之巻『佐伯栄』 了
道の途中で倒れて 起き上がらないんだろ
起こしてくれる手のひら ずっと待ってるんだろ
目を閉じて黙って ホントは分かってるのに
自分がやらなくても なんて自分のコトなのに
一人で立ってみな 歩きだしてみな
最初は面倒臭いけど
景色が自分の視点で変わるんだ
始まらないまま終わってしまった あのストーリーを
もう一度書き始めたなら あの頃と違うエンディングになる
彩る前に色褪せてしまった 心のキャンバスに
もう一度笑顔を描こう 今の自分の色で
みんな自分のコトで 精一杯なのさ
色もカタチも違う 道をそれぞれ歩いてる
それより自分が他の 道と重なっていたときには
倒れかかってるヒトに 肩を貸せるヒトになろう
大事なモノを無くし 今過ぎた道に落ちてたら
取りに戻っていいんだよ 振り返っちゃ駄目だと誰が決めた?
咲かないまま枯れてしまった 花の種残ってたら
もう一度水をあげてみよう あの頃の夢もきっと花開く
言い出せないまま別れてしまった 「好きです」の一言も
今度出会えたら言えるよね キミが好きでしたって
出来なかったコトが出来る 言えなかったコトを言える
僕は確かに僕なんだけど 前に少しずつ進めているんだ
あの時叶えられなかった夢 今は懐かしく悲しく
それでも楽しく思い出す そんな感じでも悪くはない
終わりが見えない僕の道 だから思い出を拾っていこう
役に立つモノが少なくても 歩くこの道の記念品
僕だけの記念品…
ザンキさん(先代含む)に続いてサバキさんまで
散華なさったんですね・・・
主人公の鬼が二人も・・・
お孫さんの名前は・・・栄の一字を受けつくんでしょうか・・・
感動でテンパってる自分が居る・・・
著作権はどこにあるの?ソコに連絡つけたいよ!
天国の石ノ森先生も裁鬼ストーリーは褒めると思う・・・
やっと変身解除して休めるんだ、サバキさん。
安らかに……(つд`)
なにげに明日夢がスゴイ事になってたり(ゆくゆくは事務局長?)、
キョウキがやらかしてくれちゃってたり、
立花姉妹が揃って姓が変わっていたり。いいなあ。
何より、「サバキさんが何故あれだけ打たれ強いのか?」という謎に
(ネタではなく)これだけカッコイイ答えを出したっていうのがもう。
最高のストーリーですよ。
338 :
高鬼SS作者:2006/04/22(土) 18:29:00 ID:le8HiUDz0
長い間お疲れ様でした。
サバキさんの最期、しっかりと見届けさせていただきました。
思えば、このスレにSSを書き込むようになったのも裁鬼SSを読んで感銘を受けたからです。
自分にも何か書けないか、と。
この場を借りて御礼を言わせていただきます。
339 :
DA年中行事:2006/04/22(土) 19:30:17 ID:/sbRC92d0
裁鬼さん、今までありがとうございました。
SSを携帯で書き綴ってくれた職人さん、あなたがこのスレをここまで伸ばしてくれました。
お疲れ様でした。でも、またいつか、別な作品でお目にかかる事を楽しみにしています。
さて、裁鬼最終章の後でドキドキしますが、オレも投下します。
巻の二は、
>>103から
ん?
なんだ?どうした、登巳蔵。写真?ああ、仏壇の上のあれかね。
あれはね、お前のじいちゃんだよ。このばあちゃんの連れ合い。旦那さん。
あはは、そうだな。ばあちゃんこんなに年寄りだけど、じいちゃんは若いね。
だって若い時に死んじゃったんだもん。
うん、そうだよ。二十七歳で死んじゃった。
あのねぇ、仙台のおじちゃんがまだ三歳。お前のパパは、まだばあちゃんのお腹の
中にいたんだよ。
ばあちゃんかい?ばあちゃんは幾つだったかなぁ。二十三歳だったかな?
あははは、そりゃそうだよ。ばあちゃんだって若い頃はあったんだよ。生まれた時か
らこんな白髪のばあちゃんだったんじゃないんだよ。
ええ?抱っこかい?
仕方ないなぁ。ほら、どっこいしょ。おやおや、登巳蔵、また重くなったねぇ。
じいちゃん見るの?
ほい。どうだ?良く見えるかい?じいちゃん、カッコいいだろぅ。ああ、お前と同じくら
い二枚目だったよ。
変な服着てる?そうだね、変な服だね。じいちゃん、この服が一番似合わない。
これはね、軍服って言うの。兵隊さんが着るんだよ。
うん、そうだよ。
じいちゃんはね、戦争に行ったの。
戦争に行って、死んじゃったの。
登巳蔵・・・・トドロキは、祖母を背負って紙黄村の砂利道を歩いていた。
途中まで車椅子に乗せて来たのだが、舗装されていない道では却って車椅子の祖母が辛そうだった。
だが、祖母は何も言わない。
その瞳は何も写していないかのように、ぼんやりと見開かれたままだ。
祖母の容態が思わしくない事は、少し前に聞いていた。年末に風邪をこじらせてから、急に。熱も下がり、肺炎の症状もおさまったのだが、寝込んでしまったのがいけなかったらしい。
もう、お歳がお歳ですからね。病院を退院する時に、医師はそう言ったそうだ。つまり、覚悟しろ、と。
確かにそうかもしれない。だが。
祖母はかつて鬼であったのだ。トキメキと呼ばれ、人間に害意を持たない魔化魍が穏やかに暮らす紙黄村を護って来た鬼だったのだ。
その祖母が、今では相手の顔も見分けられず、一日の殆どをとろとろとした眠りの中で過ごし、生活の全般を人の助け無しでは生きていけない状態になってしまった。
陽射しは暖かいが、紙黄村を抜ける風は、まだ冷たい。
背中に負った祖母の身体は綿のように軽く、トドロキはその儚い軽さに涙が出そうになるのを、必死に堪えた。
「鬼が来るぞ」
「鬼を送るぞ」
水辺でセイジガエルが鳴く。
「古い鬼だ」
「古い鬼だな」
枝の上でアカネタカが囁く。
「花はまだか」
「まだ咲かぬか」
根本でルリオオカミが急かす。
『今、咲くよ』
悪いねぇ、登巳蔵。おんぶなんかしてもらっちゃってさ。
なんだか変なもんだねぇ。ついこの前までお前の事をおんぶしてあげてたのに。
いつの間にか、あべこべになっちゃったね。あはは。ばあちゃんも歳とるわけだ。
ばあちゃん、重くないかい?
ああ、お前怪我はもういいの?オトロシのヤツに、ぎゅうぎゅう踏まれたって聞い
て、ばあちゃん生きた心地がしなかったよ・・・・・・
おや、お前、誰と一緒にいるんだい?
お前と、もう一人・・・・・気のせいかねぇ。ああ、気のせいか。
それにしてもオトロシのヤツめ、あの世でばあちゃんがぎゅうぎゅう踏んづけてやる。
「ねえ、ばあちゃん」
答えが来ない事はわかっていたが、トドロキは背中の祖母に語りかけた。
「俺が子供の頃にさ、ばあちゃん、村はずれの池のところの桜の木に、大事な物を埋めたって、教えてくれたよね。すごくすごく大事なものだから、桜の木に守ってもらうんだ、って」
頭の上の梢で、小鳥が囀りながら飛び立つ。つがいなのか、ケンカなのか、二羽の薄緑色の小鳥は羽ばたきながら賑やかに囀る。
「・・・・それはいったい、なんだったの?」
そう言えば、お前には桜の木に守ってもらってるもの、何だか教えていなかったね。
あそこにはね、トモさんを埋めたの。
トモさん・・・・・登茂司さん。お前の、じいちゃんだよ。
私のね、大好きな鬼。
大事な鬼。
戦争で、死んじゃった。
戦死した人はね、神様になるんだって。だから、ばあちゃんとは同じ墓に入られない
んだって。
冗談じゃないよね、勝手に召集しといてさ。お国の為に、なんてさ。死して護国の鬼
となれ、だってさ。
トモさんは最初ッから鬼だったってのにさ。
強くて、優しい、鬼だったのにさ。
枝の一番高い所に陣取ったキアカシシが吠える。
「いにしえの桜よ、花を咲かせる時が来たぞ!」
数え切れぬ程の年輪を刻んだ桜の巨木が、僅かに震える。天に向かって尚もその枝を伸ばすかのように、未だ伸ばしきれぬ身の上を恨むように、身悶えさせる。
『今、咲くよ』
そして巨木は、花の色と同じ淡紅色のため息を漏らした。ため息は靄となり、巨木を覆う。あたりの景色を包む。包み込む。
オンシキガミたちは、人には聞こえぬ声を感じ取って、空を仰ぐ。
彼等のカラダが、桜花の色を映し、きらきらと輝いた。
トモさんはね、とても優しい人だったの。
背が高くてね、二枚目でね、力持ちでね、世話好きでね。
あの桜の木の下で、色んな話をしたもんだよ。ほら、昔はさ、デートする場所なんて
なかったからね。あの桜の木の下で、デートしたの。
トモさんを見送ったのも、あの桜の木の下だった。
花がきれいでさ。ああ、春だったんだね。
トモさんたらさ、まるで隣村の手伝いにでも行くみたいに「じゃぁ」って、手を振っ
たの。一週間もしたら、帰ってくるみたいに、手を振って、行ったの。
ところがさ。
夏になって戦争が終わっても、トモさん帰って来なかった。
かわりに、ぼろぼろの軍服着たひげもじゃの、ガリガリに痩せた兵隊さんが、小さい
箱持って、家に来たの。
戸田山小隊長殿は、南方の戦線において、名誉の戦死を遂げられました、って。
人が死ぬのに、名誉も何もないよ。
寂しいばっかりだよ。
塹壕に取り残された部下を助けに、トモさん、たった一人で走って行ったって。
背中に一人おぶって、腕に二人抱えて、走って帰って来たって。
そうして助けた三人を、仲間が隠れてる森の中に放り投げて、誰も残っていない塹壕
の方に、また走って行ったんだって。
囮になったんだね。バカだね。いい人すぎるのも、考えもんだね。
小さい箱の中には、石が一つ入ってた。
遺骨の代わりだって。
バカにしてるよ。
あんまりじゃないか。
もうじき戦争は終わる、猛士は本土を護らなければならない、だから鬼は戦地に出さ
ない、鬼に赤紙は来ない、なんて聞いていたのにさ。
春に出征して、その年の夏に戦死したなんてね。
戦地に於いて、小隊長殿は鬼神のごとき働きぶりで、って、トモさんは鬼だったんだ
もの。神様になんてならなくていいのに。ただの鬼で良かったのに。
家に来た兵隊さんが、帰り際にトモさんの音角を置いて行ってくれてね。
「弾除けのお守りだから」って、塹壕に走って行く前に預けたんだって。
バカだよねぇ。そんな大事なお守りなら、自分で持っていれば良かったのに。
鬼に変身していれば、死ななかったかもしれないのに。
でも、トモさんってそういう人だったの。自分よりも、人を大事にする人だったの。
だから、私も大好きだったの。
大好きだったの。
キィィィィン
キィィィィン
桜の木の根元から、そのずっと地下から、澄んだ音が聞こえる。
オンシキガミたちのココロが、ざわざわと波立つ。
花が咲いた。淡紅色の花が山をなす。さっきまで見えていた青空も覆い尽くすほどの勢いで、桜花は咲く。そして、密やかに香る。
枝の一番高い所にいるキアカシシは、花を下に見下ろしながら、何がこんなに自分のココロをざわめかせるのか、考えていた。桜花か、それを咲かせた自分の中の通力か、それとも、この木の下から聞こえる澄んだ音か。
『半月近くも花の時期を早めるとは、なんとも悪戯者の狢だな』
ふと、聞き覚えのない声がキアカシシに話しかける。
鬼?
いや、しかし。
確かに、声の主が纏っている気配は鬼独特のものだ。人とも違う、魔物とも違う、己を律し鍛え上げた者が持つ張り詰めた気配。そして、清い音。
だが、声の主は自分と同じ、高い枝の上にいる。見れば、背景の青空に溶け込みそうな薄い影が、微笑みながらこちらを見ている。
鬼の影だ。
「お前は誰だ。何故我を狢と呼ぶ」
キアカシシは、オンシキガミの声で尋ねる。その声が聞こえているのか、聞こえていないのか、鬼の影はただ黙って微笑んでいるだけだ。
トドロキは眼の前の光景に、文字通り息を呑んで立ち尽くしていた。
村はずれの小さなため池。子供の頃、祖母の背中に負われて見た時は、随分と大きく見えたし、池の中央にまで枝の影を落していた桜の木のせいでなんだか恐ろしげな印象を持っていたのだが。
春の陽光に満開の桜の花が音も無くはらはらと花びらを落しているこの姿は、どこか例えようも無く神々しく見えた。
「さくら」の「さ」は山の神の意。
「くら」は座すところの意。
ゆえに桜とは山の神の座するところ。
自分に桜の名の由縁を教えてくれたのは、誰であったか。それは・・・・・・・
「トドロキ君?」
雲ひとつ無い青空と、舞い落ちる桜の花びら。
「日菜佳さん」
まるで何年もその名を呼んでいなかったかのように、彼女の名前はトドロキの中で甘く響いた。
それにしても、見事な桜だこと。今年も花をつけてくれたんだねぇ。おや、小さい
あの子たちが手伝ってくれたのかい?
お前も随分頑張ったねぇ。
六十年前、私はお前の根本に、トモさんの魂を埋めた。
だって、遺骨の代わりのあの小石でさえ、私とは違うお墓に入れなきゃならないって
言うんだもの。私や子供たちと引き離しておいて、それでも足りずに死んでからも一
緒にいられないなんて、あんまりじゃないか。
だからせめて音角は、あの人の鬼の魂は、私の側に居て欲しかったの。
ごめんね、トモさん。
『いいんだよ、トヨちゃん』
「なんで日菜佳さんが、ここに?」
自分の問い掛けに、日菜佳の表情がうっすらと曇る事にも気付かないくらい、トドロキは驚いていた。
「だって、トドロキ君ずっと休みもとらないでシフトめいっぱい入れて、毎日毎日出動して・・・・・」
確かにもう三ヶ月以上休みらしい休みをとっていない。皆が心配している事も、わかっていた。わかっていたからこそ、休まなかった。自分はどうしても、強い鬼にならなければならない。今以上、もっと、もっと。
身体を動かしていないと、気が狂いそうだった。だから、魔化魍を斬る。散らす。清める。
どうしようもない喪失感と、拭いきれない罪の意識。
一人きりで乗る「雷電」の広さが、トドロキには重い。しかし、それを誰かに打ち明ける訳にはいかなかった。
俺は、鬼だから。
「私、ここに来ちゃ、ご迷惑でしたか?」
強い、鬼だから。
「そんな事!・・・・・無いッス・・・・迷惑だなんて・・・・・・」
強くならなければ、いけないから。
『何故、こんな悪戯をしたんだ?』
穏やかに、鬼の影が問う。キアカシシは、切なくなるほどの懐かしさを感じながら、影を見上げる。
「鬼を、送る為に・・・・役目を終え、遠く安寧の地へ旅立つ鬼を、見送る為に・・・・」
『それで、桜か。なるほど、お前はもともと、桜の字を持つ名前で呼ばれていたんだな』
桜の字を持つ名前。
キアカシシは記憶の糸を辿る。だが、その糸はあまりに細く、悲しいほど細くて・・・・・キアカシシは桜花に目を落す。
我は幾度この花びらが散るのを見た?幾十?幾百?何人の鬼を見送った?
『良い花だろう?俺はこの桜の木が好きだ。生きていた時も、今も。大事な人と見上げた桜だからな』
キィィィィン
キィィィィン
澄んだ音叉の音が、鬼の声と重なる。
「お前は、この木を護っているんだな」
キアカシシは鬼の影に問いかける。だが、振り返った先に、もう鬼の影は無かった。
一陣の風に舞うあえかな桜花のように、鬼の影は背景の青空に溶けていた。
おや、風がでてきたねぇ。
折角あの子たちが咲かせてくれた桜が、散ってしまうわね。
トモさん。
あらまぁ、貴方は若いままの姿で。相変わらず二枚目だこと。
ずるいじゃない。私はこんなにおばあちゃんなのに。
うふふ、イヤねぇ。「変わらないよ」なんて。
そんな嬉しいこと言われたら、私あなたについて行っちゃうわよ、今度こそ。
だって、六十年も置いてきぼりだったんだもの。
祖母を車椅子に座らせ、その肉の落ちた膝の上に毛布をかけながら、トドロキも日菜佳も無言のままでいた。
「・・・・どうしてですか?」そう呟いた日菜佳の声は、消え入りそうなほどか細かった。「なんでトドロキ君は、何でも一人で背負い込んでしまうんですか?」
静かに責めるその声に驚いたトドロキは、改めて傍らの日菜佳を見る。いつも明るくて、溢れるほど元気な、トドロキが惹かれた彼女はそこにはいない。悲しく沈んだ顔で、俯く日菜佳。トドロキには、どんな罵声を浴びせられるより辛い。
「そんな事無いッスよ、日菜佳さん。・・・・・俺、別に何も・・・・・・」
「嘘。トドロキ君、あれからずっと・・・・・」そう言いかけて、目を伏せる。「・・・・さんがいなくなってから、ずっと一人で無理しているじゃないですか」
言い出せない名前は、風に乗って宙を舞う。あの時、トドロキの目の前から自分に命を分けてくれた人を連れて行ってしまった風と良く似た風が吹く。頭上の桜が、惜しげもなく花びらを散らせる。ひらひらと、はらはらと。
「そんなトドロキ君を見ているのが、辛いんです。私、そんなに頼りないですか?私じゃ、だめなんですか?」
日菜佳の姿が、ちらちらと揺れる。その溌剌とした輪郭が、滲んでいく。まるで、轟鬼が今まで倒してきた魔化魍のように、憎むべきそれらが臨終の刻を迎えた瞬間のように、質量を伴わないものに変わっていく・・・・・・
「日菜佳さん!」
俺は彼女まで喪ってしまうのか?焦燥に駆られて、トドロキは手を伸ばす。だがその間にも、日菜佳の姿は変貌を遂げる。陽光に栗色に輝く髪が、悲しげに顰められた眉が、桃色の頬が、トドロキの名前を呟く唇が、桜色の花びらに変わっていく。
必死に手を伸ばし、その細い肩を抱きしめようとするが、自分の指先が触れた先からはらはらと花びらが散る。彼女が少しづつ消えていく。
「・・・・・・日菜佳ッ!」
強く抱きしめた瞬間、トドロキの手の中で日菜佳を形作っていた花びらが、一斉に風に舞った。
あたり一面の、景色を変えるほどの、桜吹雪。
トドロキは、散る花びらを追う。一片でも逃すまいと手を広げる。だが、花びらは指の間をすり抜け、天高く舞い上がる。
「あああああああああああああああっ!!」
『咲いた花なら 散らねばならぬ 恨むまいぞえ 小夜嵐・・・・・・・』
「トドロキ、起きろッ!」
「・・・・え?・・・・あ・・・・はいッス!」
キィィィィン
キィィィィン
どこか遠くで、音叉の澄んだ、清い音がする。
青い、瞳。
「桜達よ、どうやら私はそう長くは無い」
「何を仰います、凍鬼様。お気の弱い事を」
「長く仕えてくれたな。苦労をかけた。私が滅した後、お前は生まれ故郷に帰って、団三郎や禅達殿のようにあの島を護るか?」
「いいえ、私は鬼の傍に居とうございます。ずっと、人を護りとうございます」
「そう、か・・・・・お前はいつも、苦難を選ぶのだな」
「凍鬼様こそ」
「ハハ・・・・そうか・・・・」
「どうぞ、お休みくださいませ。ご無理をなさってはなりません」
「桜達、私の骸(むくろ)はその桜の木の根元にでも埋めてくれ。仰々しい墓石の類は不要。戒名も、法要もいらぬ、いらぬよ」
「お止めください。貴方様は少しお疲れになられただけです」
「何、良いのだ・・・桜達・・・・鬼はな、人でもあるのだ・・・・命には限りがある・・・・だからこそ、命が、愛しい・・・・」
「凍・・・・・凍鬼様?・・・・・・凍鬼様ッ!」
『咲いた花なら 散らねばならぬ 恨むまいぞえ 小夜嵐・・・・・』
キィィィィン
キィィィィン
トドロキは、一度びくりと体を震わせて、飛び起きた。
「あああっ・・・・・・」
夢か。
なんて夢だ。
トドロキは額に滲んだ汗を拭い、そして、手の平に淡紅色の花びらを見つける。そうか、俺は紙黄村の村はずれのため池に・・・・・そこまで思い出して、トドロキは慌てて立ち上がった。
祖母は!?一人では生きていくこともままならない祖母をほったらかしにして、自分はうたた寝をしてしまったのか。
祖母は、かつて時滅鬼と呼ばれた鬼、戸田山とよは、静かに車椅子に腰掛け、見事に花をつけた桜の巨木を見上げていた。
その膝の上には、いつの間に展開したのかリョクオオザルとコガネオオカミがいる。お守をしていてくれたのだろうか。オンシキガミたちは、駆け寄ってきたトドロキを見て、「さぁ褒めろ」と言わんばかりにそれぞれが胸を張る。
「ばあちゃん、ごめん!寒くなかった?喉渇いてない?大丈夫?」
反応が無いのはわかっていたが、祖母の蝋のような手をさする。祖母は、桜の花を見上げたまま、大きく息をついた。
ばあちゃんは、何を夢見ているのだろう。
それが幸せな夢ならいい。
俺が見たような、悪夢で無ければ、それでいい。
トドロキは、祖母の膝の上の毛布を直してやり、表情の読めない顔を見つめた。
「俺、なんか無理してた・・・・・バカみたいだな、俺。人助けをするのが鬼なのに、ただ自分を痛めつける事しか考えてなかった。俺、ちゃんと教わったはずなのに。ザンキさんから、鬼の生き方、ちゃんと教わったはずなのに・・・・・」
優しい子でしょう。
この子は、登巳蔵って名前をつけたの。
そうよ、トモさん。貴方の名前から一文字もらったの。そうしたら、不思議ね。
鬼になったの。
ええ、貴方に良く似た、優しい鬼。
ねぇ、トモさん。
私、もう少しこの子の傍にいようかしら。もう少し、生きてみようかしら。
ごめんね、トモさん。さっきはついて行く、なんて言ったのに。
トモさん、ごめんね。
『いいんだよ、トヨちゃん。待つのはお互い、慣れっこだもの』
祖母の顔が晴れやかに微笑んだ。
トドロキが・・・・登巳蔵がうんと幼い頃から見慣れていた、優しい笑顔を浮かべて、今まで微動だにしなかった手を挙げ、虚空に向かって僅かにその手を振った。まるで、誰かに別れを告げるように。
「ばあちゃん?・・・・」
ゆっくりと、祖母の顔が登巳蔵の方を向く。皺が刻まれ、少し関節の曲がった指が、登巳蔵の頬を撫でる。
「・・・・う・・・とみぞう・・・・今日は、休み・・・かい・・・」
かすれ、途切れがちな声だが、祖母ははっきりと自分の名前を呼んだ。
「ばあちゃん、俺の事がわかるの?」
「孫を・・・・忘れる・・ばあちゃんが、いるかい?」
少しづつ、声がしっかりしてくる。長く動かしていなかった顔の筋肉が、笑顔を思い出す。とよは、確かに登巳蔵の顔を見て微笑み、問い掛けに答えた。
「ばあちゃん!」
「大きななりをして、なんだい、甘えん坊だねぇ・・・ザンキさんに、笑われるよ。ねぇ?」
成人し、鬼として働く孫の頭を、とよは優しく撫でる。その目が、自分の背後に向けられている事を、登巳蔵は知らない。コガネオオカミだけが、「お前も俺を褒めろ」と、とよと同じ方向を見ていた。
優しい風が吹く。
桜は、静かに花びらを散らす。
「登巳蔵、泣き顔を見られたくなかったら、早く涙を拭きなさい。さあ、早く」
「えっ?」
「トっ、ドっ、ロっ、キっ、殿ぉ〜!」
桜の木の向こう側から、快活で生命力に溢れた、愛しさの塊が現れた。
トドロキは立ち上がる。
零れ落ちる涙なんて構うものか。弱さがあるのは、自分が人だから。強い鬼になるには、弱さを持つ心も大事にしなければならないから。その弱さもひっくるめて、彼女に受け止めてもらいたい。
そんなふうに考えてしまうのは、やっぱりわがまま病ッスか、ザンキさん?
『本当にバカだな、トドロキの奴は』
『お前さんが、そう育てたんだろうがよ』
『バカな生徒を持つと、苦労する』
『おい、弟子自慢はそれぐらいにして、花見の続きだ』
『この桜を咲かせたのは拙僧の弟子でのぅ』
『でもこの木を守ってきたのは、俺の嫁さんです』
あらあら、そちらはそちらで、楽しそうだこと。
テンキさんに、シュキさんに、エイキさんに・・・・まぁ、私の知らない古い鬼たちまで。
みんなこの桜に、集まっていらしたのねぇ。
そのうち、私もまぜてもらうことになると思うけど、今はもう少し、こちら側からお花見
をさせてもらおうかねぇ。
はぁ、お腹がすいた。
生きていくって事は、お腹がすくことなのねぇ。あはは・・・・
でも、もうちょっと、ガマンしようか。
今声をかけるのは、お邪魔だもんね。
じゃあ、寝たフリでもしていようかねぇ。
膝の上のあんたたちも、邪魔しちゃだめだよ。よしよし、わかったね?
さて、明日ッからリハビリしようか。本当言うと、ちょっと面倒だけどね。
なぁに、私だって昔は、シュキさんと関東一の美鬼の座を争ったトキメキさんだよ。
あの術を使わなくても、ひ孫の顔を見るまでの命を永らえる事くらい、簡単さね。
鍛えていましたから。なんてね。ハハハ・・・・
でも、それは明日ッからにしよう。
今日のところは、ひとまずおやすみ。
どこかの山の、少しだけ開けたところに、その村はひっそりとある。
人に害をなさず、それ故に魔化魍からも疎まれ、生きる場所を見失った魔化魍たちが身を寄せ合って暮らす村。
かつては神来る村と呼ばれたその村の、外れに位置するため池に、桜の巨木はそそり立つ。
花は咲き、景色を春に替え、季節は巡る。
その昔、鬼として人を護り、人ゆえに命を落した人外の守護者たちが、今は儚い影に身を変えて桜花の元に集い、互いを労う。
桜の木に、皆が寄り添う。
人も、鬼も、獣も、そして影たちも。
無数の年輪を刻んだ自分に、時間の観念は意味を持たない、と桜の巨木は思う。
しかし、だからこそ、それに縛られている命は愛しい。
皆、我に添え。我に添い、友に、愛しい者に添え。
巨木は澄んだ音を地下に聞きながら、そっと身を揺すり、花びらを散らした。
散る花を惜しむな。また来る春に、きっと再び咲かそう。
人にも鬼にも獣にも悟られることなく、巨木は淡紅色のため息を漏らした。
=巻の三 完=
356 :
竜宮:2006/04/22(土) 21:03:45 ID:KAjG20IE0
明日夢がそうなってくれてたらいいな、と思っていたことまで
さりげなく盛り込んでくださってありがとうございます。
劇場版の設定まで取り入れ、それを見事に昇華させて見事です。
裁鬼SS様と鋭鬼SS様のまかれた種から職人様達のすてきな活躍も読め、
職人様同士のコラボはこれからも読める世界観が根付いたと思います。
でも読む幸せを味わいながらも最終章が終わってしまったのがせつないです。
高鬼さんがトラップ一家をひきいて歌うDVDが発売されるそうですので
ネットで見つけた「すべての山に登れ」歌詞引用で感謝のかわりに。
すべての山に登り、流れをわたり、虹を追って夢を見つけなさい。
あなたの愛を託せる夢を。あなたの人生を託せる夢を。
(『サウンド・オブ・ミュージック』より)
357 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/22(土) 22:20:19 ID:BwTSTDyB0
九の巻「蒼き邪」
嘶鬼は斬風を吹き鳴らした。
大助という友を守るため。自らの誓いを曲げぬため。そして、鬼として生きるため。
嘶鬼は斬風を吹き鳴らす。
清めの音は光の位置でとまり、爆発した。
全ての魔物を清めるように。全ての生命を守るように。馬の嘶きのように。
イナナキはあの日のことを思い出していた。
2年前・・・鬼になって初めての魔化魍退治。子供のようにワクワクして獣道を分け入る。
DAが魔化魍らしきものの音を録音し、知らせに来た。
早速そのポイントに出かけると、家族連れの観光客がキャンプを楽しんでいた。
マニュアルどおり、ここは今、危険ですから。と促し、追い出す。
辺りを散策していると、大きな湖。大きな樫の木。木の上には怪しげな一組の男女。
すかさず音笛をふき、変化。音撃管、羅旋を巧みに操り、男女双方とも撃破。
湖面からは激しい水しぶきと同時に、ウブメ。いきなりの出現に若手ゆえの驚き。一瞬の隙。
ウブメは不気味な表情を作り、おぞましい程の笑い声をあげると、嘶鬼を無視し背後へ。
聞こえるのは、おぞましき笑い声。夫を喰われパニックに陥る母子の叫び。冷たい風の音。
イナナキはそれから変わった。いつもは明るく振舞っているが、内心では決意と悔やみが交差していた。
もう二度と自分の非力のせいで、ひとを死なせたくは無い。いかなる場合でも、自分が盾となり、矛となろうと。
その決意が亡き左眼を蘇らせ、大助を救った。唯一、蒼の石を残して。
九の巻「蒼き邪」
358 :
用語集サイト:2006/04/23(日) 00:35:27 ID:ahS/NP+c0
すみません、自作の歌舞鬼モノSSを加筆していたもので用語集の作成が遅れています。
サイトにも載せたのですが、現在裁鬼メインと鋭鬼メイン八之巻まで拾いました。
鋭鬼メインを拾い終えたら公開する予定です。
なお歌舞鬼SSにはいくつかここで発表された作品の設定を使わせていただきました。
しかも勝手に本名まで作る始末。
職人さんたちがもしご覧になっても、どうかお目こぼしを……
なんかね、もう年中行事さんの作品目当てで
投薬受けつつ耐えてます。・・・次は端午の節句ぐらいでしょうか?
子供を守るDAタン達の出現が見たいです。
360 :
DA年中行事:2006/04/23(日) 02:26:45 ID:ttJWqKOh0
うわ。「雷神」じゃんねぇ。オレときたら、もう。
いいから資料をちゃんと調べてから書けよ、オレ。本当に申し訳ないッス。
次回は、ハイ、端午の節句あたりに。
>>359さん(過分なお言葉、多謝!)やZANKIの人からの「宿題」をヒントに、ハイ。
終わる物語もあれば、新たに始まる物語もあります。
職人さん方のSSや、寄せられた感想にヒントを頂く事も、オレの場合多々
あります。今後とも皆様宜しくお願いします。
とりあえず、SIC買わなくちゃ・・・・・ひゃっほう!
>>360 大作お疲れ様でした。
壮大な時の中の鬼と人と獣の物語、良かったです。
トドロキのばあちゃんの語り口泣けました。
ばあちゃん美姫ならぬ美鬼だったのか……
しばらく前某紙夕刊に連載されてた桜にまつわる記事を読み、
「桜は神に近い魔物かも」という印象を持っていたのですが、
ラストシーンなどまさにそんな感じで身震いが。
「願わくば 桜の下にて」ですね。
職人さん みんな買うのか SIC
やっぱり書き間違えてた。
「花の下にて」じゃないかorz字余りだっつーの。
無駄レス失礼しました。
「夢見の予知によると、オロチはこの吉野からそう離れていない場所に潜んでいる可能性が高い」
「文献によると、オロチは50mもの巨体。身を隠せるような場所はそう多くない筈やで」
「オロチ探索の準備は8割がた出来ている。今日のところはゆっくりと英気を養い、明日からオロチ探索を開始して欲しい」
一文字のその言葉で会議は終了し、鬼達はそれぞれ退室を開始した。
響鬼非公式外伝―仮面ライダー虹鬼と7人の戦鬼―
参之巻…和む鬼達
猛士本部の表の顔である老舗旅館『和泉屋』。
その別館を滞在中の仮住まいとして与えられたコウキ達は、それぞれの部屋に荷物を運んだ後、その中の1室に集合していた。
「この中の何人かは、共闘をした事があったり、顔見知りでしょうけど、互いを全く知らない者達もいます。茶でも飲みながら、色々と話しませんか?」
そんなコウキの提案に全員が賛成した為だ。
すぐさま、お茶と茶菓子が用意され、穏やかな雰囲気で談笑が始まる。
それぞれの音撃武器や能力の事から始まった談笑はやがて、ランキの弟子である16歳の少女、仙道芹菜の話題へと移っていった。
「そう言えば、仙道さんは『と』だって言っていたけど…」
「はい、ランキ先生の指導の下、修行を続けています」
「芹菜ちゃんは優秀だよ、童子や姫の相手なら安心して任せられるくらい」
「はぁ…その若さで、大したもんやなぁ」
「いえ、先生の指導の賜物です」
「私は大した事してないよ。芹菜ちゃんの才能と努力、それだけだよ。このペースで行けば、1年以内に閃鬼の名前を継ぐ事が出来るね」
「閃鬼!?」
ランキが口にした『閃鬼』という言葉に反応するトウキ。一瞬の思考の後、芹菜の方を向き、再度口を開く。
「芹菜殿。不躾な質問だが、お父上はもしや…」
「はい、私の父は3年前まで、第12代閃鬼の名で、東北を守護していました」
「やはりそうか…仙道の名を聞いた時に気付くべきだった……」
「トウキはん、芹菜ちゃんのお父上を知ってはるんですか?」
ニシキのそんな問いにトウキは頷き―
「自分がまだ鬼になりたての頃…津軽海峡に現れたフナユウレイを北海道側と本州側から挟撃し、退治する事になってな。その時に共闘した事がある」
と、語り始めた。
「まだ、鬼として駆け出しだった自分は別として、フナユウレイ退治に参戦した鬼は全員、歴戦の猛者と呼ぶに相応しい方ばかりだったが、その中でも閃鬼殿は別格だった」
「たしか…『100体斬りの閃鬼』の異名をお持ちなんですよね。音撃武器の他に、陽の気を放つ霊刀を愛用されていて、その昔発見が遅れたせいで増えに増えたバケネコ100体を、それを使ってたった1人で斬り捨てたとか」
ここで、キラメキがトウキに同調するように口を開く。
「フナユウレイとの戦いの時も、霊刀のたった一振りで、ボートへ群がる水人形の全てを吹き飛ばしておられた。あの閃光の如き太刀筋は、今でも鮮明に覚えている」
「芹菜ちゃんはその技の事、なにか知っているかい?」
「…恐らく、鬼刃術極・星薙だと思います。鬼の力と気、そして―」
そこまで言うと芹菜は、素早く印を結んで、何もない空間から一振りの日本刀を取り出すと―
「初代閃鬼より代々受け継がれているこの、霊刀『桔梗』が放つ陽の気が合わさる事で繰り出される、究極の抜刀術です」
と、言葉を続けた。
「これがその霊刀『桔梗』ですか…凄いですね」
「ああ、鞘に収めた状態でも物凄い気が伝わってくる…」
その場にいた全員が霊刀『桔梗』に注目し、口々に感想を口にする。その時―
“そう褒められると照れちまうな”
そんな声が響いた。『桔梗』から発せられたのだ。
「桔梗、突然喋るな。皆さんが驚くだろう」
突然喋りだした自分の刀を窘める芹菜。
「こりゃおどろいたわぁ…付喪神っちゅうやつか…」
「それって、たしか…100年以上使われ続けた物に心が宿る事で生まれる陽の魔化魍で、一部のカッパやテング、それにザシキワラシのように人間と共存している種ですよね」
「ああ、しかもこの場合、初代閃鬼殿から代々受け継がれているわけだから―」
“まあ、300年ちょっとくらいは、魔化魍とやりあってるな”
「だそうだ。経験という点から見れば桔梗殿は、俺達の大先輩という事になる。礼を持って接するべきだな」
「なるほど。桔梗殿、よろしくお願いします!」
“うむ、苦しゅうない”
「桔梗、調子に乗るな!」
芹菜の怒声が部屋に響き渡った。
それから暫く後、ランキは1人周囲の散策に出かけていた。気の向くままに歩き、近くの竹薮へと入っていく。
そして、竹薮の中心へと進んだその時―
「っ!」
ランキ目掛けて何かが飛んできた。20cmほどに切られた竹だ。
「はっ!」
咄嗟に手刀でそれを打ち落とすランキ。すると様々な方向から竹が飛んでくる。
「そんな物!」
談笑中に見せた少々天然気味の雰囲気とは180度違う、凛とした気迫の中、手刀と蹴りを駆使して、全方位から飛んでくる竹を次々と打ち落とすランキ。
数十個もの竹を打ち落とすと、一瞬の間を置いて新たな物体が背後からランキへ飛んできた。
すぐさま方向を変え、迎撃体勢を取るランキだったが―
「これは!」
飛んできた物の正体を知った途端、すぐさま構えを変え、それが地面に落ちる寸前にキャッチした。
「危なかった…」
手の中の物体=絹ごし豆腐が無事な事にホッとするランキ。すると―
「未熟者!」
そんな声と共に背中へ何か硬い、棒のような物が突きつけられた。
「?」
ランキが何事かと振り返ると―
「全ての竹を打ち落とした所までは良かったが、豆腐に気を取られ、動きを止めるとは何事か!」
何故か右腕を三角巾で吊るし、左手で警策を手にした小暮耕之助の姿があった。
「戦いの中で動きを止めるとは、自殺行為以外の何者でもない。そんな事も解らずによく鬼を名乗っているものだ!」
何時にも増して不機嫌な口調でランキを責める小暮。すると―
「豆腐…」
いつもの天然気味な状態に戻ったランキが静かに口を開いた。
「豆腐が何だというのかね!」
「こんな事に豆腐を使っちゃいけない。食べ物を粗末にするのは、人としてやっちゃいけない事…」
「ん、ぐ…」
至極当然ともいえるランキの言葉に言葉を一瞬詰まらせる小暮。だが―
「そ、そんな事を言って誤魔化すんじゃない!えぇい、尻を出しなさい尻を!」
それを誤魔化すように顔を真っ赤にして喚いた。
「……ここで?」
「そうだ!」
「…こんな所で……小暮さんは…変態さん?」
「違ぁぁぁぁぁうっ!!」
予想もしていなかったランキの言葉に益々顔を赤くする小暮。そのまま数歩前に進むが―
「のわっ!」
動揺していたのか、ランキが打ち落とした竹の1つに躓き、よろめいてしまう。そして、バランスを取ろうと咄嗟に伸ばした手が―
ムニッ
Dカップはあるランキの豊かな胸、その膨らみの片方を鷲掴みにしてしまった。
「………」
「………」
数秒間の嫌な沈黙。そして―
「いやぁぁぁぁぁぁっ!!」
ランキの悲鳴が周囲に響き渡った。
「あ、嫌、待て、これは事故だ! アクシデントだ!」
いくら鬼の1人とはいえ、若い女性の胸を鷲掴みにしてしまい、更には悲鳴を上げられたことに動揺する小暮。必死に状態を取り繕うとするが―
「………」
ランキから漂う殺気にも似た怒りは、収まるどころか益々強くなっていく。直後―
「はぁぁぁぁぁっ…」
唸り声のような声と共に、不可視の力がランキへと集まり―
「吹き飛べ! この変態!!」
まるで巨人が放つ鉄拳のような不可視の一撃が小暮を襲った。
「ぐほぁ!」
不可視の一撃を回避出来る筈もなく、直撃を受け10m近く吹き飛ばされる小暮。
『女性はニトログリセリンのようなものだ。扱いは常に慎重かつ丁寧に』
薄れ行く意識の中、小暮は昔同僚だったある鬼に言われた言葉を思い出していた。だが、不思議な事にその鬼が誰であったのかは思い出せなかった。
同じ頃、男性陣は『和泉屋』自慢の露天風呂に浸かりながら、談笑を続けていた。
「そう言えば、コウキ君の師匠である先代虹鬼殿は、小暮さんとは―」
「はい、御兄弟です。犬猿の仲で、顔を会わせれば必ず殴り合いの喧嘩になるって言ってましたけど」
「そう言えば…小暮はんがこの前、右腕を骨折してはったけど…」
「…アームドセイバーの件で、師匠が九州と四国連名の抗議文持ってここに乗り込んだ時に…やりあったせいです」
「うわぁ…あの小暮さんの腕を折るなんて、さすがは九州最強と謳われていただけの事はありますね」
「ハハハ…師匠もアバラを3本砕かれてましたけどね」
そんな事を話しながら、ゆったりと温泉を楽しむコウキ達。
まさか話題に上っている小暮が、とんでもない悲劇に襲われていようとは想像もしていなかった。
参之巻了
>>裁鬼SS作者さん
長きに渡る連載、お疲れさまでした。
サバキさん、どうか安らかに…(合掌)
私が虹鬼のSSを書こうと思い立ったのも、裁鬼SSで裁鬼さんの活躍を見た事がきっかけでした。
今まで、ありがとうございました
>>裁鬼SS作者さん
まずは連載、お疲れ様でした。
数ヶ月前に偶然見つけたスレ、そして今多くの書き手さんたちがいるのは、紛れも無く
貴方のおかげです。
二度目の終り、待っていたような、来て欲しくないような複雑な思いでしたが・・・
最後の最後まで心が震えるお話でした。
裁鬼さんと送鬼さんのご冥福をお祈りします!!
そして、裁鬼さん・鋭鬼さん・弾鬼さんのSIC化決定!ィィィヤッタァァ!!
買いますとも!夢は後期OPの勢揃いポーズなんで!!
虹鬼SS作者さん
よもや、あの小暮さんを圧倒できるのが先代以外にいようとは!!
うぅ、ますます続きが楽しみです!!
DA年中行事さん
季節にふさわしい、お話でした。
トドロキのおじいちゃん・・・トドロキの根っこの部分は、このおじいちゃん譲りなんだなぁ
と思ったりしました!!
372 :
竜宮:2006/04/24(月) 01:25:56 ID:n69y7DVG0
なんか辛くって感想だけ出して確認してなかったら、
DA年中行事さんの完結編が(|0|)!!
以前桜好きに、桜の根は弱くて、人が埋められるなんて思っちゃだめだよ、
と言われたことがあるので、このお話はそういう面でもとても和みました。
まあソメイヨシノが弱いだけで吉野の桜はまた違うでしょうが。
皆、寄り添いあってる暖かさと強さがよかったです。
終わるお話。始まるお話。今は少しエイキを養っておられるお話。
いろいろありますが、人を助け、自分を鍛えてゆく笑いあり、涙ありの
気持ちの良いお話が多くて、皆さん凄いなあと思います。
そして読みやすい形で保存しておいてくださるまとめサイトさん、
絵や作品を投下される方、
高鬼さんというか、あかねさんと先代のコラボもかっこよかったです。
なんだかプロジェクトXのテーマソングが聞こえてくるような。
風舞鬼さんの九尾の狐もわくわくです。
九州は熊本城ちょこっと見たことしかないですが、なんか凄いなあ、
戦さ人の城だなあと思ったことがあります。あそこらへんはキリシタン大名
その他海外への玄関口だし、歴史もいろいろあるので、
地元の方が掘り下げるといろいろ鬼伝説もできそうですね。
でも童子と姫が中世風貴族で良かったです。
南蛮人風かぼちゃズボンの童子姫はちょっと見たくないです。
(勝手に妄想するな、ってもんですが。あ、でも琉球王朝風は見たいなあ)
ZANKIの人様だったら、日本の妖姫、九尾の狐をすべて受け入れて
嫁にかっさらうような鬼も読めたかなあ?と思ったり。
藤田マンガつながりで、心の底から笑える美少女風白面様も見てみたいなあ、
やっぱ違うかなあと思ったり。
「狗神」さんもまださわりの部分ですが、桃太郎伝説がどういうふうに展開してゆくか
興味しんしんです。子供の頃、熊とたわむれる金太郎が実は強い武将だったと知った時の
なんともいえない衝撃感を思い出しました。
虹鬼さんの和泉旅館でも和みっぷりも楽しいなあ。
先代もですが、小暮さんも皆に愛されてますね。でもきっと何があっても
美声は保たれることでしょう。鬼の重要文化財ですからね。
弾鬼さんもさらなる展開楽しみにしています。
遅レスですみませんが、裁鬼職人さんお疲れ様です。
自分も含め、書き手も読み手も皆が貴方の作品に感動し刺激されました。
真・響鬼とか、後半だけ変えた作品を他が考えている中、(これはこれで好きなんですが)
全てを受け入れて作品を作ったのは本当に凄いと思います。
で、一つ謝りたいんですが、バンキの片腕を失った話をあのように茶化してすみませんでした。
豪快なバンキなら、人を守る為にそれぐらいやるだろうと言う話のつもりなんですが…。
と、やってから言うような事ではないですね。本当にすみませんでした。
私は今後、まとめサイトで絵でも投下しようかなと思ってますが、
短編とか思いついたら裁鬼SSも投下してくださいね。
再び、連カキですみませんが。
高鬼さんと剛鬼さんを書いてみたいんですが、高鬼さんってどんな感じなんですか?
ベースを適当に教えてください。
375 :
名無しより愛をこめて:2006/04/24(月) 15:02:32 ID:EJXYV4340
裁鬼作者様乙。
−鳥取県 大山−
かつてよりこの山には巨大な霊力を持った「天狗」が住むと言われてきた
その力で、時に人を癒し、時には人に正しき道を諭したという・・・
−天から見上げてもう100年か・・・人も随分と変わったものだな−
この霊山、大山の頂から下界を見る一人の男。
彼こそ、伝説に謳われる天を司る鬼・・・・だろうか。
376 :
天を往く者:2006/04/24(月) 15:13:43 ID:EJXYV4340
−東北 奥羽山脈−
空は晴、そして緑が囀る森の中。歩く一人の男の姿。
名前は宗形三十朗。26歳と若くして助教授の座にまで上り詰めたエリート中の
エリートである・・・彼がここに来たきっかけ。
それは
「近年稀に見る怪奇事件 ”森に消えた人々の怪”」を解き明かす為であった。
森を掻き分けながら、宗形は笑う。
「何が、神隠しだ。馬鹿馬鹿しい・・・だいたい、ただの遭難者ってこともあるだろうが。」
森を掻き分けていく宗形の背中で小鳥が囀る。
ただの小鳥であるのに、大げさに声を上げ、叫ぶ宗形。
「・・・うるさい。」
後ろでガイド役の少女が小言を挟む。
歳はまだ十代半ばだろうか、芙実と名乗った少女は一人では怖くて
実は森に入ることすらできない宗形のお目付け役とでも言うべき存在である。
なんでもこういう「不思議な事件」では彼女のような「霊力」とやらを持った人間がいる方がいいらしい。
だが、宗形はそんな言葉など最初から信じてはいない。そんなものはくだらない、と。
「ふっ、ふはははは。大丈夫だよ、君。私は未来のノーベル物理学者だ。
どんなトリックでも、かかって来い!!な、なはははは。」
「チャック・・・開いてる。」
宗形が木の枝で引っ掛け開いた社会の窓が彼の言葉の空虚さを現すようで
虚しい。
377 :
天を往く者:2006/04/24(月) 15:21:31 ID:EJXYV4340
空はもう暗く、既に夕刻に差し掛かっているようだ。
宗形は考えた。「そうだ、もう夜になるし、怖いから帰ろう。だが、怖いというと
私の面子にかかわる。そうだ!!ここは・・・」
「なぁ、君。っていうか、YOU!!今日はもう遅い。君の親御さんも
心配しているだろう。どうだ?帰らない・・・」
芙実は宗形の声を無視し、先ほどからじっと森の奥を睨み付けている。
まるで見えない「何者か」と対峙しているように・・・
「YOU、何・・なにかいるのか?いや、いないだろう。気にせいだ、うん。
か、帰ろう・・・ってHEY!!YOUぅぅぅ!!!」
芙実は宗形の声を無視し、森へ向かっていく。
「・・・誰、そこにいるの。」
暗闇に向かい、声を放つ芙実。
「・・・お前こそ、誰だ?」
378 :
天を往く者:2006/04/24(月) 15:27:38 ID:EJXYV4340
森の奥から聞こえた声。
そして闇の中から現れたのは端正な顔立ちの青年の姿・・・だが、芙実は
まだ警戒の面持ちを変えない。
宗形でさえ、小さな彼女の体から殺気とも思えるものを感じるほどに、だ。
「・・・魔化網?違う・・・誰?」
「違うな・・・俺は、鬼。天を往く、指して云うなら天狗だ。」
宗形はこの男の言葉が理解できない。
天狗?鬼?どう観ても彼は人間である。
「変な奴・・・」「変な奴だ・・・」
芙実も宗形も同時に声を合わせ男に返す言葉はそれしかなかった。
だが、男は平然と、いや憮然と余裕の笑みで返す。
「変なのはお前達だ。」
不意に、宗形の後ろで何かが蠢いた・・・そう、巨大な蜘蛛が蠢いた。
379 :
天を往く者:2006/04/24(月) 15:41:40 ID:EJXYV4340
宗形は一瞬の出来事に、そして信じられない光景に・・・気絶した。
「ツチグモ・・・」
芙実の予測は当たった。東北支部のデータから頼りにここで人を食っている
化け物の正体を予め知っていたのだ。
彼女はまだ幼くして”鬼”として人を救う戦士として、戦っているのである。
「・・・倒す」
芙実が音枷を引き変身しようとした瞬間、蜘蛛の前に立つあの男の姿が完全に広がっていた。
変な奴だが、一般人を見殺しにするわけにはいかない・・・
「・・・危ない!!下がってて。」
380 :
天を往く者:2006/04/24(月) 15:42:16 ID:EJXYV4340
だが、青年は余裕の笑みで天を指差す。
その手には・・・”鬼”である証である芙実と同じ、「音枷」がある。
「云った筈だ・・・俺は鬼。天を司る最強の、鬼だと。」
芙実はこの男が鬼であることはわかった・・・だが、東北支部にこんな男は
所属してはいない。いわば「部外者」である。
「・・・危ない、死にたくなかったら邪魔はしないで。」
芙実の言葉にも、男は尚・・笑みで返す。
「心配するな・・・一番強いのは俺だからな。」
天から、紅き雷が舞い降り男の体を包み込んだ。
芙実は確かに、その雷から現れた戦士の姿を見た。
神々しくもある、紅き天狗の様な”鬼”の姿を。
−第一話 天を往く者 完−
381 :
天を往く者:2006/04/24(月) 15:44:19 ID:EJXYV4340
鋭鬼さんストーリーに出てきた不敵鬼を使わせていただきました(作者さんすいません&感謝)
主人公はまぁ、あるキャラのパロディです。
粗が多い内容ですが、がんばりますんでよろしく。
382 :
天を往く者:2006/04/24(月) 15:55:33 ID:EJXYV4340
天を往く者 設定
主人公
無敵鬼(むてき) 年齢 21歳(外見上での推測)
大胆不敵、唯我独尊な青年。
自らを「天を往く者」と名乗り、まるで神であるかのように振舞う。
鬼として、魔化網と戦う力を持ちその力は完璧とも云うべき強さを持つ(故に
”無敵”鬼なのかどうかは不明)。
鬼として最強に近い力を持ちながらどの猛士支部にも属しておらず、結果、魔化網とも
猛士所属の鬼達とも対立する事に・・・
基本冷静で、キザな性格に見えるが根は熱く心優しい人物である。
宗形三十朗 年齢 26歳
若くして東北大学の助教授を務める天才科学者。
本人曰く「未来のノーベル賞受賞者大本命」とのこと。
オカルト的な事や考え方を根本から否定しながらも、本音では怪奇現象を
恐れている。幼少の頃、座敷童子に出会い川で溺れた現場で命を助けられた
過去を持つが本人は忘れている様子。
383 :
高鬼SS作者:2006/04/24(月) 20:21:20 ID:/iBqSCnJ0
>>374 うわあ、有難う御座います!
正直言うと、高鬼は性格こそ違えど1970年代の関西の響鬼というイメージでやっていたもので…。
流石にあのまんまじゃ不味いですよね。
ただ、あの人の性格からこういった外見的差異は想像がつきます。
・響鬼の角は斜めに向かって生えているけれど、高鬼は多分太くて長い角が天に向かって真っ直ぐに生えています。
・性格上、体色は曖昧ではなくはっきりとここは青!ここは黒!ここは赤!となっているはずです。
・自己主張が強い人なので体の何処かにSICの響鬼よろしくワンポイントみたいなのが入っているかも。
・音撃鼓・紅蓮も音撃棒・劫火もベースは赤です。強化型の「大明神」は赤より濃い紅赤色です。
…こんなもんでよろしいでしょうか?
>383
そんなに喜ばれるとプレッシャーが…w
まあ、期待せず気長に待っててください。仕事の合間で作りますから。
イメージは大体同じだったので、それっぽいものが出来ると思います。
>382
もろあの教授ですねw 主人公もアレだしw
ちなみに日本だと26ぐらいで助教授はありえないんですよ。
博士課程をしながら助手ってのはよくあるんですけど、教授系になると
30歳以上とかの年齢制限があるんです。多分、理系・文系関係なく。
だから、特別講師とか海外の大学で博士を取得したとかの設定がいるかも知れませんね。
て、余計なお世話ですみません…。
天狗と鬼は同じだと言う説もあるらしいので、ちょっと楽しみです。
385 :
予告!風舞鬼外伝 「超える絆」:2006/04/26(水) 21:17:32 ID:7AnP+TLR0
風舞鬼外伝、「超える絆」予告
ある日、少年は道を踏み外した
「こんな世界、なくなればいいんだ」
不良グループにからまれて――――。
味気の無い生活。
毎日毎日・・・・万引きにあけくれ・・・警察からは逃げ続ける日々。
不良グループと共に動き・・・とうとう隣校の生徒に手をだした――――。
「あなたは・・・一体・・・」
「鬼だよ。」
少年が見たもの。それは厳しい鍛錬を積み重ねた鬼と、あたたかい師匠、「火に舞う鬼」だった――――。
仮面ライダー風舞鬼外伝
「超える絆」
近日投下!!
386 :
高鬼SS作者:2006/04/27(木) 01:15:57 ID:MFVi7NlN0
一つ話が出来たんですけど、容量はまだ大丈夫かな…?
ちょっと長い話になったんで。
また新キャラが出てきます。今回は既存のキャラや人物のパロディではありません。
設定面で強いて言うなら、バキに出てくる鎬紅葉かな?
では行きます。長い分粗も多いでしょうがよろしくお付き合いの程を…。
1974年、葉月。
京都。
ここ数日の間、とある小さな村の周辺で行方不明者が大量に発生した。警察も捜査を進めるが手掛かりは何一つ掴めないでいた。
猛士関西支部所属のイッキは、魔化魍出現の確認こそ行われていないものの、独自の判断で周辺地域の調査に当たっていた。
そして。
(やはり魔化魍が関与していたか……)
村外れの森でイッキは童子と姫を相手に戦っていた。
相手の攻撃を鉄扇子を用いて巧みに捌き、反撃を仕掛けていくイッキ。
このままでは不利とみた童子と姫は、怪童子と妖姫に変身してイッキに襲い掛かってきた。体術を駆使してその攻撃を躱すイッキ。
(しかしこいつら、見た事もないタイプの童子と姫だ。まさか稀種か?)
1970年代、混沌とした時代を反映するかのように各地で稀種と呼ばれる魔化魍が出現していた。昨年末にも各地に同時に稀種が現れ、各支部の鬼を苦しめている。
怪童子の手刀を鉄扇子で受け止めるイッキ。そして空いた手で変身音叉を取り出す。
と、その時。
周囲の木々の間からたくさんの人々が現れた。ただ、彼等の様子は明らかに普通ではない。
「こ、この人達は一体……」
人々の群れは、戦闘中のイッキに向かってじりじりと歩み寄ってきた……。
イッキからの緊急連絡が関西支部に届いた。魔化魍との戦闘で負傷し動けないという。
関西支部は彼の代役としてコウキを京都に派遣する事を決定した。
吉野総本部研究室。
「全くあいつは。サポーターも付けずに独断で動くからこんな事になるのだ」
絶対に説教してやらねばな。そう呟きながら音撃棒・劫火の鬼石を磨くコウキ。
そろそろ出発しようとコウキが席を立ち上がった時、あかねが室内に入ってきた。
「ああ、あかねさん。私はこれから出発します」
「うん、その事なんだけどイッキくんの怪我がどの程度か分からないから、モチヅキくんも同行する事になったから」
「先生も一緒に行くのですか?」
モチヅキ。ここ総本部の医務室を預かっている医者である。その名からも分かる通り彼もまた鬼だ。
既に引退しているのだが、最悪な場合は前線に赴き鬼の治療行為に当たる必要があるため、変身道具や武器は未だに携帯している。
「だからモチヅキくんの車で行くといいよ。彼、もう駐車場で待っている筈だから」
「分かりました。では行ってきます」
敬礼にも似た独自の決めポーズをして、コウキは研究室を後にした。
駐車場では既に準備を終えたモチヅキが待っていた。コウキの姿を確認し、手を振るモチヅキ。
「お待たせしました、先生」
「なぁに、僕も今来たところだよ」
そう言って笑うモチヅキ。
彼はまだ四十路には達していない筈だが、それでも三十代後半の年齢である。しかし日頃の鍛錬を怠っておらず、それ故に二十代の頃の肉体を維持している。その姿勢にコウキは正直憧れを抱いていた。
二人はモチヅキの車に乗って、一路京都へと急いだ。
京都某所。
イッキは森の番をしている『歩』の人の小屋で保護を受けているそうだ。コウキ達は一旦村に入って車を駐車すると、そこへ向かって歩いていった。
モチヅキは医療道具等を入れた大きなリュックを背負っているが、息一つ切れていない。
念のため式神を打って周囲を警戒しながら進み続け、二人は目的の小屋へと辿り着いた。
ログハウスのようなものをイメージしていたコウキだったが、実際のそれは古い日本建築だった。
日は既に傾いており、森の木々を紅く染めていた。
さっきまで辺りに響き渡っていた蝉時雨がぱったりと止んだ。
と、扉が開いて中から小柄で顔色の悪い老婆が現れた。
「そろそろ来る頃だと思ってお待ちしておりました。『歩』の桐敷と申します」
そう言って頭を下げる老婆。
「あなたがここの……?」
「はい。元々番人の仕事は亡くなった主人がやっておりました。今は私が『歩』の仕事共々やっております……」
さあこちらへ。そう言うと二人を小屋の中へと招き入れる桐敷老。
それなりに広い室内の片隅に敷かれた布団の上に、横たわるイッキの姿があった。
その傍に近寄り、早速診察を始めるモチヅキ。
「……血圧が低下している。輸血が必要だな」
そう言ってリュックの中からイッキのカルテ、血液の入ったパック、点滴器具を取り出すモチヅキ。
「先生、大丈夫なのですか?」
不安げに尋ねるコウキ。関西支部に連絡が入ってから数時間が経過している。今更輸血してどうにかなるものなのだろうか。
「大丈夫。大したものだよ、彼は」
その言葉を聞いて多少なりとも安心したコウキは、後をモチヅキに任せると調査のため村に戻っていった。
村は静まり返っていた。桐敷老の話によると、行方不明者が続出して以来、村を離れる者が増えてしまったのだという。
それでも僅かばかりの住人が残っている筈だが、家屋からは生活の気配が全く感じられなかった。
黄昏時のせいもあってか、まるで廃村のように見える。
村の駐在所の前を通る。やはりここももぬけの殻だった。警らにでも行っているのであろうか。
コウキは歩き続けて墓地へとやって来た。
この村は未だに土葬の風習があるのだという。ただ、村の経済的な理由から墓石は建てられておらず、卒塔婆が立てられているのみだ。
お蔭で今にも土の下から死者が這い出てきそうな印象を受ける。
あまり気持ちのいいものではないな。
そう思い、コウキは墓地を足早に立ち去っていった。
小屋へと戻ると、輸血中のイッキの傍でモチヅキが何かをカルテに書き込んでいた。コウキが戻ってきた事に気付き、声を掛けるモチヅキ。
「やあ、何か手掛かりでも見つかったかい?」
「何も収穫はありませんでした。ところで桐敷さんは?」
「あのお婆さんなら夕食の準備をしに行ったよ」
そう言って奥の障子を指差すモチヅキ。
「ところでコウキくん。実はこっちの方に気になる事が見つかってね」
コウキへ傍に来るよう手招きをするモチヅキ。
モチヅキはコウキに、イッキの首筋に出来ている不審な二つの傷跡を見せた。何か鋭いもので刺したような傷跡だ。
「どう思うね?」
「……分かりません。ただ、ブラム・ストーカーの小説に出てきた怪物の被害者にも同じような傷跡があったと描写されていましたよね……」
ご名答!そう言うとモチヅキはさっきまで書いていたカルテの内容を見せた。
「守秘義務というのがあるから、僕が君にこれを見せた事は内密にね。で、ここの隅に書いてあるんだけど……」
確かに、カルテの隅にメモ書きがしてあった。内容は何かの検査結果のようだ。
「唾液……ですか?」
「そう。彼のこの傷口から唾液が検出された。設備が整っていないから詳しくは分からないけれどね」
という事はこの傷跡は何者かに噛み付かれた痕だと言うのか?
「血圧が低下していた事からも、さっき君が言った通り、何者かに血液を吸われた可能性があるね」
コウキは数年間鬼として戦っているが、人の生き血を啜る魔化魍など今まで遭った事が無かった。やはり稀種であろうか。
「本部にはさっき僕が連絡しておいたから。何か分かり次第、向こうから連絡が来る」
それと……。
途端に真剣な面持ちになったモチヅキがコウキの耳元で囁く。
「この家のお婆さん、注意した方がいいよ。この村の住人もね」
モチヅキの忠告に従い、コウキは桐敷老の一挙手一投足に細心の注意を払うように努めた。
出された食事には毒物のようなものは何も混入されていなかった。風呂にも変わった様子は何も無かった。
コウキとモチヅキは、イッキの隣に布団を敷き蚊帳を吊って眠る事にした。
草木も眠る丑三つ時。
眠りは突如として破られた。黒電話がけたたましい音を立てて鳴り響いたのだ。
こんな時間に誰だろう。時計を見て時間を確認したコウキは、眠い目を擦りながら受話器を取った。
「……はい」
「もしもし?コウキくん?」
電話の声の主はあかねだった。という事は何か分かったのだろうか。
「吸血鬼なんてものが日本にいるか分からなかったんで散々資料を当たってみたし、各地の支部にも念のため連絡を入れてみたの。そしたら……」
該当する事例が過去にあったという。
「北海道支部にジョウキくんって人がいるんだけどね、そのお祖父さんの先代ジョウキさんが吸血鬼と戦っていたのよ」
そしてその話を参考に資料を当たってみたら、それらしき記録が見つかったという。
「魔化魍の名前はノブスマ。鼬と蝙蝠を混ぜ合わせたような外見らしいわね」
「弱点は分からないのですか?」
「典型的な夜行性で、光を極端に嫌うらしいわ。先代ジョウキさんは光属性だから労せずして倒せたみたい」
「という事は私よりモチヅキ先生の方が適任というわけですね」
モチヅキの属性は光である。
そうなるわね、と答えるあかね。
「助かりました。明日の朝一番で周辺を捜索し、寝込みに奇襲を掛けようと思います」
「うん。ところでさ、イッキくんを介抱してくれた人って誰なの?モチヅキくんとの電話じゃ聞きそびれちゃったから、ずっと気になっていたんだけど……」
「亡くなられた桐敷さんの奥さんですよ」
「え?桐敷さんってどういう事?」
明らかにあかねは狼狽している。
「だって奥さんもつい最近亡くなったって聞いたよ?君達が森の小屋にいるってのは夕方の電話で私も知っていたけどさ……」
コウキに緊張が走る。
「どうした?」
コウキの電話口でのやりとりに目を覚ましたモチヅキが話に割り込んでくる。
と。
「後ろだ!」
モチヅキが叫ぶ。
コウキの背後では、音も無く襖を開けて現れた桐敷老が出刃包丁を握りしめ、今まさにコウキ目掛けて振り下ろさんとしていた。
鬼特有の危機感知能力と身体能力をもって、コウキは刹那の差で振り下ろされた出刃包丁を避ける事が出来た。
「言ったろコウキくん。あのお婆さんには気をつけろって」
そう言いながらコウキの傍に近寄り臨戦態勢を取るモチヅキ。
モチヅキが懐から取り出した一枚の式神が、光を放ちながら舞い上がった。その光に室内が満たされていく。
光に照らし出された桐敷老の顔は、光の加減もあるのだろうが気が遠くなるくらい真っ白で、眼窩からは血を垂れ流していた。
「さっきあかねさんから聞いたのですが、あのお婆さんは既に故人だそうです」
「つまり偽者か、あるいは死者が蘇ったかだな……」
再び出刃包丁を振り翳し襲い掛かってくる桐敷老。その脚力は老人のそれとは明らかに一線を画していた。
縦に振り下ろされた一撃を躱すと、老婆の腕を取り捻りあげるモチヅキ。落とした出刃包丁を足で部屋の隅に蹴ると、首筋に手刀を叩き込んだ。音を立てて倒れる桐敷老。
「あの、やり過ぎなのでは……?」
「僕は医者だよ?人体がどの程度で壊れるのかぐらい、ちゃんと把握しているさ」
そう言って倒れた老婆の脈を取るモチヅキ。
「……止まっているね。ただ、さっき触れた時から体温は冷たかった。これはやっぱり死体が動いていると解釈した方がよさそうだね」
その時、外がにわかに騒がしくなった。たくさんの人の気配がする。だが、本当に人なのかと思える程の異様な気配だ。
そして次の瞬間。
「煙!?」
「まさか火を点けられた!?逃げるぞ、コウキくん!」
慌ててイッキを背負い、リュックを手に持つモチヅキ。
外の状況が分からないため、コウキは万が一に備えて変身音叉を鳴らし高鬼へとその身を変える。
「私が先行します!後に続いて下さい!」
そう言うと高鬼は勢いよく飛び出していった。
燃え上がる小屋。炎と黒煙の中から飛び出した高鬼は、異様な集団を目の当たりにした。
先程の桐敷老と同じ、白面に血涙の男女が何十人も小屋を取り囲んでいたのである。
声にならない声を上げ、手に手に包丁だの鍬だの凶器となるものを持ってこちらを見ている。……本当に見えているのかは分からないが。
イッキを背負って炎上する小屋から脱出してきたモチヅキも、その異様な集団に驚きの声を上げた。
「強行突破しかありませんね。モチヅキ先生、しっかり付いてきて下さいよ」
そう言うと一ヶ所に向かって突っ込んでいく高鬼。
投げつけられた石やら包丁やらを「劫火」で払い除けながら突き進んでいく。モチヅキも後に続いた。
研究室では、通話の最中に突然電話に出なくなったコウキの事をあかねが心配していた。
と、電話が鳴った。コウキからの連絡と思い、慌てて受話器を取るあかね。
電話の相手は、予想に反して北海道支部のジョウキからだった。
「あ、ジョウキくん?どうしたの?……え?伝えそびれた事?ノブスマについて?……うん、うん。……えっ!?」
これは大変だ。一刻も早くコウキ達に知らせなければ。しかしあかねには彼等と連絡を取る手段が無い。
(コウキくん……)
あかねはただ、コウキ達の無事を祈る事しか出来なかった。
村の中へと逃げ込んだ高鬼達は、後から誰も追ってこない事を確認すると漸く走るのを止めて一息吐いた。
と、道の向こうから一つの人影が近付いてくる。身構える高鬼達。
月明かりに照らされたその姿は、制服を来た警官だった。おそらくあの駐在所の者だろう。
ただ、警官の顔はあの群衆と同じ真っ白で、目から血を流してこそいなかったが、その視点は虚ろに彷徨っていた。
不意に警官がホルスターの拳銃に手を掛けた。どうやらこちらを撃つつもりのようだ。
それよりも一瞬早く高鬼が当て身を喰らわせ、警官を倒す。その傍に駆け寄るモチヅキ。
モチヅキは先程の桐敷老を診た時のように警官の脈を取る。そして高鬼にこう告げた。
「この人は生きているね。さっきのお婆さんと違って脈がある。……どうやら呼吸もしているようだ」
「という事は、つまり……」
「どうやら敵は死者と生者の両方を操る事が出来るらしい」
そう言ってモチヅキは警官の首筋を高鬼に見せた。そこには、イッキのものと同じ二つの噛み傷が出来ていた。
「最悪の場合、彼も僕達に牙を剥いて襲い掛かってくるだろうね」
地面に降ろしてあるイッキの体を一瞥しながら淡々と告げるモチヅキ。
「先生、どうすればいいのですか!?」
「……血清が必要かもしれない。魔化魍相手にそんな医学の常識が通用するかは分からないが」
と、何処からともなく歌が聞こえてきた。
「鬼さんこぉちら〜」「手ぇの鳴ぁる方へ〜」
「童子と姫か」
声は、夕方に高鬼が訪れた墓地の方から聞こえてくる。
高鬼、そしてイッキを背負い直したモチヅキは墓地へと向かって街灯も無い村の道を駆けていった。
墓地に辿り着いた高鬼達は、幾つかの墓が荒らされている事に気付いた。
否、荒らされていると言うよりは土中から何かが起き上がってきたという感じだ。……間違いなくその何かとは死体であろう。
闇の中から童子と姫が姿を現した。
「この村の近辺での行方不明事件は全てお前達の仕業なんだな」
高鬼の問いにも童子と姫は答えない。ただ月明かりの中、薄ら笑いを浮かべているだけだ。
「いちいち聞くまでもないよ高鬼くん。こいつらが人を襲って操っているのは事実だろう」
再びイッキを地面に降ろしたモチヅキがそう告げる。彼の手には変身音叉が握られていた。
と、次の瞬間。
まだ荒らされた形跡の無かった場所から、次々と死体が起き上がってきた。皆真っ白い顔で目から血を流している。
それと同時に今まで黙っていた童子と姫が口を開いた。
「人の血は死者を黄泉路より返すだけだが器は虚のままだ」
そう言って死者達を指差す姫。
「だが鬼の血は違う。魂を宿らせ、より我等にとって使い易い人形を作る事が出来る」
それは桐敷老の事だろうか。という事は……。
「全ては罠だったのか。私達を誘き寄せるための!」
冷たく笑いながら高鬼を見る童子と姫。
「お前達の血も頂こう。人形達が増える程、我が子の餌となる人間をより多く誘き寄せる事が出来る」
「回りくどい事を!」
「劫火」を手に今にも跳びかからんばかりの高鬼。そこへ、背後から小屋を襲撃した死者の群れがやって来る。よく見るとその数はさっきよりも増えていた。
「生者も混ざっているね。きっと行方不明者……と言うより、この村の住人全てと言ったところか」
その中にはさっきの警官も混ざっていた。銃口をこちらに向け、発砲する。
真っ直ぐに飛んできた弾丸を、モチヅキは信じられない動体視力をもって音叉で弾いた。そしてそのまま共鳴する音叉を額に翳す。
モチヅキの体が光に包まれた。堪らず目を逸らす童子、姫、死者達。
「僕がこの姿に変わるのは本当に久し振りだよ。悪いけど、闘争本能を抑えられそうにない……」
光の中から、鬼と化したモチヅキが姿を現す。仮面ライダー望月鬼だ。
「久々に……暴れちゃうよぉ?」
望月鬼が放った光に目を眩ませている隙に、まず高鬼が童子に攻撃を仕掛けた。
怪童子に変身していなかった童子は、いとも容易く口中に手を突っ込まれてその牙を一本引き抜かれてしまう。悲鳴を上げる童子。
「先生、これを!」
引き抜いたばかりで血が滴る牙を望月鬼へと放り投げる高鬼。
「よし!これで血清を作る材料が出来た。有難う高鬼くん」
童子は口を押さえながら高鬼に掴みかかってくるも、鬼闘術・鬼爪の一撃を受けて爆発四散してしまう。
一方、緩慢な動きで死者と生者の混成部隊が望月鬼目掛けて向かってくる。
「仕方が無い。少し診てあげよう」
そう言うと列の先頭にいる人物に向かって行き、その胸に強烈な掌底を浴びせた。鬼の力で打ち込まれた掌底の一撃に、数名を巻き込み吹っ飛んでいく。
一方高鬼は残る姫に鬼爪を突き刺していた。爆発の瞬間、にやりと笑って高鬼の顔を見る姫。そしてそのまま塵へと変わっていく。
「残るはノブスマか……」
「気を付けろよ、高鬼くん。奴等が居たという事は魔化魍もこの墓場の直ぐ近くに潜んでいる筈だからね」
死者を軽くあしらいながら望月鬼が忠告する。
と、遠くから無数の何かがこちらに向かって飛んでくる音や鳴き声が聞こえた。
「来たな……」
まず無数の蝙蝠が飛来し、高鬼達の眼前を羽ばたいていった。そして……。
ノブスマがその姿を現した。
「こいつがノブスマか……」
夏の魔化魍と同じでそんなに大きくはない。高鬼達と同じくらいの大きさだ。
「望月鬼先生!こいつの弱点は光です!」
「成る程ね。分かった、任せろ」
そう言うと望月鬼は音撃棒・残月を高く掲げた。鬼石に蒼く淡い光が集中していく。
「鬼棒術・渡り柄杓」
鬼石から放たれた蒼い光の玉は、ノブスマの傍に近寄りその周囲を旋回すると、突然弾けた。
蒼い光が周囲を包み込む。その光に目をやられ、ノブスマが地面に落ちてきた。
「今だ!今なら音撃鼓でも倒せる!」
望月鬼が叫ぶや否や、「紅蓮」を手にした高鬼がノブスマに跳びかかった。
「紅蓮」を貼り付け、二本の「劫火」を交互に、リズミカルに叩きつける。
「音撃打・炎舞灰燼!」
爆発四散するノブスマ。
「おおい、こっちも片付いたよ」
見ると、あれだけの数を既に望月鬼は全員倒していた。
「簡単な戦いだったね。まあ僕はこれから彼等を元に戻す血清を作らなくちゃならないんだけど……」
本部から機材と人手を呼ぶかな。そう言いながら墓地を後にしようとする望月鬼。
だが、彼の背後から襲い掛かってくる者がいた。イッキだ。彼の場合、顔色こそ普通だがやはり視点の定まらない目をしている。
「目が覚めたか!くっ!」
羽交い絞めをしてくるイッキを、鬼の力をもって振り解く望月鬼。
「先生!」
「大丈夫だ。どうやらこの状態だと知能が低下するらしい。鬼への変身を行わないのが何よりの証拠だ」
しかし一般人や死体ならまだしも、変身出来ないとは言え相手は鬼である。手加減していてはこちらが不利になる虞がある。
「しょうがないな……。まあ少しばかり怪我しても僕が治してやるから、恨むなよ」
と、その時、上空から新たなノブスマが現れた。
「まだ居たのか!」
「ひょっとすると夏の魔化魍よろしく、分裂するタイプかもな」
鉄扇子で力任せに殴り掛かってくるイッキを捌きながら、望月鬼が言う。
「では親がこの辺に……」
「奴が飛んできた方角へ急げ!ここは僕が抑える!」
「残月」で鉄扇子を受け止めながら叫ぶ望月鬼。
望月鬼は光属性の鬼だ。やられる事は無いだろう。意を決した高鬼は墓地を駆け抜けていった。
その姿を眺めながら呟く望月鬼。
「全く。等身大魔化魍が一匹、操られた鬼が一人、そして……」
いつの間にか望月鬼とイッキの周囲を死者達の群れが取り囲んでいた。
「これ以上増援が来ない事を祈るよ」
死者達が一斉に襲い掛かってきた。
村外れに、大きな木造の学校が建っていた。否、かつて学校だったものと言った方が正しいだろう。その建物は既に廃墟となり、所々崩れかけていた。
二階の割れた窓硝子から蝙蝠の大群が飛び出していった。
高鬼は慎重に中へと入っていく。「劫火」の鬼石から火柱を上げ、それで周囲を照らした。
まるで松明を片手に洞窟探検をしているようだな、そんな風に高鬼は思った。まさか二年後に本当に洞窟探検をする事になるとは夢にも思っていないわけだが。
ぎしぎしと廊下を軋ませながら歩いていく高鬼。と、突然教室の中から窓を突き破って一匹のノブスマが躍りかかってきた。
「親か!?否、違う」
牙と爪を振るい高鬼に襲い掛かってくるノブスマ。揉み合っている最中、高鬼が鬼爪でノブスマのこめかみを貫いた。
悲鳴を上げるノブスマの胴体に「紅蓮」を貼り付け、「劫火」を叩き込む。
爆発。
(親は……上か?)
二階へと上がる階段を求めて、高鬼は再び廃校の廊下を進んでいった。
光を駆使してイッキと死人の群れを牽制し、望月鬼はノブスマに向かっていく。
先程と同じ様に鬼棒術・渡り柄杓で目を眩ませた後、その傍へ接近する望月鬼。
「念のため君の牙も貰おうか」
そう言うと「残月」の一撃でノブスマの顔面を強打し、その牙を砕く望月鬼。
血に染まった牙を回収した望月鬼は、先程の童子の牙同様ビニール袋に入れてリュックに仕舞い込んだ。
「さてと、じゃあ楽にしてあげるよ」
音撃鼓・満月をノブスマの胴体に貼り付け、「残月」を構える望月鬼。
「音撃打・月下夜想。はぁぁぁぁぁ……」
二本の「残月」を「満月」に交互に打ち付けていく。一撃毎に蒼い光の波動が発生し、辺りを一瞬だけ照らし出す。
止めと言わんばかりに二本同時に「残月」が叩き込まれた。それと同時に爆発四散し塵芥へと変わるノブスマ。
「残月」をくるくると手の中で回しながらイッキ達に向き直る望月鬼。
「悪いけど君達は暫くの間拘束させてもらうよ」
と、上空から羽ばたきの音が聞こえた。見上げると、いつの間にか三体のノブスマが望月鬼を見下ろしていた。
「今夜は患者がいっぱいだな。まあ、夜は長いし気長に相手をするか……」
二階へと上る階段を見つけた高鬼は、慎重に一段一段上っていった。
階段を上りきると、右手には廊下が伸びており、左手の突き当たりには教室が一つあった。入り口に掲げられたプレートには「音楽室」と書かれてある。
……厭な気配が漂ってくる。
高鬼は戸を開けて中へと踏み込んだ。
真っ暗な室内で何かが蠢いている気配がする。炎で室内を照らす高鬼。そこには……。
巨大な熊に似た魔化魍が蹲っていた。
「何だ、こいつは……」
明らかにノブスマではない。謎の魔化魍は面倒臭そうに高鬼を一瞥すると、口から蝙蝠を吹き出してきた。
「まさか蝙蝠はこいつの仕業か!?」
飛んでくる蝙蝠の群れを「劫火」で叩き落としていく高鬼。叩き落とせなかった何匹かが高鬼の体に噛みついてくる。
「私の血を吸おうとしているのか!?」
慌てて払い落とす高鬼。
いわゆる吸血蝙蝠という種は日本には存在しない。ではこの蝙蝠達は何なのだろうか。
(あの魔化魍の分身か?)
そこまで考えて高鬼は一つの仮説を思い付いた。あの魔化魍は蝙蝠を使って血を集め、それを食らって生きているのではないかと。
「横着な奴め」
高鬼は魔化魍の顔面目掛けて鬼棒術・小右衛門火を直撃させた。さらに間髪入れず「紅蓮」を手に接近する。
と、今まで蹲ったままだった魔化魍が急に立ち上がった。
前足を上げ、一声咆吼し威嚇してくる。その音量に窓硝子がびりびりと震えた。
刹那。
魔化魍は前足を高鬼目掛けて勢いよく振り下ろしてきた。咄嗟に躱すと同時に魔化魍の懐に飛び込む高鬼。そのまま「紅蓮」を貼り付ける。
「喰らえ!音撃打・炎舞灰燼!」
二本の「劫火」で魔化魍の体に貼り付けた「紅蓮」を乱打する高鬼。
魔化魍は体を前のめりに倒してきた。このまま高鬼を押し潰すつもりだ。
そして。
轟音が響き渡った。古い木造校舎が衝撃で揺れる。
そこには、舞い散る塵芥の中佇む高鬼の姿があった。
魔化魍の消滅と同時に、先程まで室内を所狭しと飛び回っていた蝙蝠の群れも塵となり辺りを漂っている。
高鬼が一息吐いたその時、床を突き破って何者かが現れた。
ノブスマだ。体色が微妙に異なって見える。おそらく親だろう。
予期せぬ場所からの襲撃に不意を衝かれた高鬼はそのまま体を掴まれ、窓から外へと転落してしまう。
押さえつけられていた為受け身を取れず、背中を強打してしまう高鬼。さらにそのままの体勢で牙を突き立ててくるノブスマ。
「鬼法術・焦熱地獄!」
高鬼の全身から燃え盛る炎が噴き出した。その身を焼かれ、慌てて高鬼から離れるノブスマ。空へ逃れようとするも翼を焼かれ飛ぶ事が出来ない。
「好機到来!」
ノブスマの体に「紅蓮」を貼り付ける高鬼。そして「劫火」を思いっきり振りかぶる。
「音撃打・炎舞灰燼!」
清めの音が夜の闇の中を響き渡る。そして……。
爆発。
改めて一息吐いた高鬼は、すぐさま踵を返すと墓地へと向かって駆けていった。
「やあ高鬼くん。どうやらそっちも終わったようだね」
墓地では、既に顔の変身を解除したモチヅキが地面に腰を下ろして暇そうにしていた。死者達はまとめて縄で縛られて放置されている。当然イッキもだ。
「じゃあ村に戻って何処かの家で電話を借りよう。彼等を本部に運ぶよりここに機材を持ってきて血清を作った方がいい」
そう言うとモチヅキはにっこりと笑ってみせた。空には丸い月がぽっかりと浮かんで異形のモノ達を照らしていた。
後日、モチヅキと本部のスタッフは村から戻ってきた。同じく手伝いに出かけていたあかねがコウキに報告する。
完成した血清によってイッキを含む生者達は元へと戻り、全員そのまま緊急入院の措置が取られた。暫くは検査漬けの毎日が続くだろう。
死者は元の物言わぬ死体へと戻り、再び埋葬された。
「ノブスマの報告例が近年減ってきているのは、土葬の風習が減ってきているせいだろうね」とあかねが言った。
ではこの国から土葬の風習が完全に無くなったらノブスマという魔化魍は滅んでしまうのだろうか。
「妖怪は、魔化魍はある意味人と共にあるわけだから、違った形でまた出てくるんじゃないかな?」
コウキの疑問に対しあかねが答える。
「もう一つ質問しても構いませんか?」
コウキは、あの時廃校の中で遭遇した熊の魔化魍について訪ねた。
ああ、あれね。そう笑いながら答えるあかね。
「名前はノデッポウ。あの後ジョウキくんからまた連絡があったんだけど、ノブスマはノデッポウとセットで出てくる事があるらしいのよ」
一緒に出てくるという事は何か共存関係が出来ているという事だろうか。
「本当に魔化魍の世界は奥が深いわ。そう思わないかしら、コウキくん?」
珈琲を飲みながらあかねが尋ねる。コウキは黙ってそれに頷くだけだった。 了
405 :
DA年中行事:2006/04/27(木) 13:25:28 ID:df36AA9z0
おおっ、高鬼SSさん・・・・・・小野不由美ッスか?
ホラーテイスト、良いですねぇ。共存関係の魔化魍というのも、今後また出てくるのでしょうか。
ワクワクです。
職人さんがたの力作が、もう毎日毎日楽しみで。現在448kb。オレのこの前の投下分でおよそ
30kb。まだまだ投下できますよ。
>高鬼SSさん
とりあえず高鬼の原案ができたんで、まとめサイトに出しました。
ご意見、希望等お願いします。
407 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/28(金) 23:56:03 ID:0i+8/3it0
一零の巻「貫く鬼」
九州支部。
地下では吉野から派遣された銀・・・フブキの祖父、加藤清明と幼馴染の恵理香がいた。
「すみませんね。わざわざ吉野から来ていただいて。」
佐久間が清明に語りかける。
「いやいや、元はこの辺に住んでたんだ。里帰りしたようなもんですよ。ところで孫は?」
「フブキ君なら、イナナキの見舞いに行きましたよ。・・・どうやら、左眼をやられたらしくて・・・」
その言葉に恵理香が反応する。
「そうなんですか!?じゃあ早く行ってやらなきゃ!イナナキは泣き虫だから!おじさん、私行ってくる!」
言い終わるが早いか恵理香は真っ先に、さくまを出た。
「相変わらず、元気だね〜。いい弟子じゃないですか」
「ホントに元気すぎて・・・年寄りにはかなわん。」
本沢外科病院。
「イナナキ君、大丈夫!?」
恵理香が病室に入ってきた。
「恵理香ちゃん!?なんでここに!?」
「おう、恵理香。分析は終わったのか?」
フブキが問う。
「イナナキ君が魔化魍にやられたって聞いて、飛んできたのよ」
「吉野にいたんじゃなかったの?」
「分析は?」
フブキが問う。
「ちょっと所用でね。こっちに来てたの。」
「だから分析は?」
「おじさんも一緒?」
「分析・・・・」
408 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/28(金) 23:56:45 ID:0i+8/3it0
九州支部。
田所は沖縄へ連絡を取っていた。
「頼みがあるんですが・・・・そちらから一人、若いのをよこして貰えませんか。」
「ああ、いいですよ。丁度、シフトから外れて休みに入った奴がいる。そいつをよこしましょう。」
「ありがとうございます。何せ・・・既に一つ・・・『蒼』が見つかりましたから・・・」
「そうですか・・・こちらはいつでも対応できますんで、要望があれば構わず言ってくださいね。」
「わかりました。ありがとうございます。それじゃ、一人おねがいします。」
病院。
フブキは無視だかなんだか分からない仕打ちからなんとか逃れていた。
「恵理香ちゃん、コイツ弟子とったんだぜ!」
「へぇ〜、意外とできるんだ〜」
「いや、その・・・ハイ・・・まぁ、なかなかいい雰囲気な奴だから・・・見所あるなって・・・」
「フブキ君はなんでか知らないけど、昔っから人を見る目はあったからね〜。ホラ、二人とも覚えてる?高校の時の転入生。」
「あ〜あいつか。俺はあんまり関わりは無かったけど、確か麻薬やってたんだろ?」
「そうそう、実はそれね。転入した時からフブキ君はもう気づいてたんだよ。」
「え?あいつが麻薬始めたのって、転入してきてから6ヵ月後だろ?なんで分かったんだよ」
「・・・いや、目をみたらそんな雰囲気がしてたから・・・ああ、コイツヤベェなって。」
「ま、フブキくん、昔っからそうだったからね。以外に悟りを開いてたって言うか。」
そんな会話をしているうちに、阿蘇山で異変は起きた。
二
尾
409 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/28(金) 23:57:30 ID:0i+8/3it0
フブキの携帯が鳴った。
「もしもし?事務局長!?」
「フブキ!阿蘇山で巨大な魔化魍がでた。周辺住民が危ない。早く行け!」
「いや、でも熊本担当はサバキさんじゃ・・・」
「サバキ一人じゃ無理なんだよ!沖縄から一人、来てもらってるから早く行け!」
携帯は切れ、フブキは病院を抜けた。
阿蘇山の麓。
巨大なヤマアラシが夜の闇に溶け込み、蠢いていた。
そこに一筋の青い稲妻。燻し銀の鬼。手には真新しい音撃剣。
「オラァアアア!」
鬼はヤマアラシに斬りかかった。その戦法は独特なものがある。遠い南の島で洗練されてきた伝統的なスタイルだ。
だが、魔化魍はひるまない。通常ならば、既に音撃の段に入っている頃だ。それほどこの魔物は巨大なのだ。
だが、鬼は負けなかった。音撃への執着があったからだ。敵の体力などは無視し、音撃へと取り掛かる。
そこに二つの火柱。二人の鬼が駆けつけた。風舞鬼と、捌鬼だ。
「オーイ!沖縄から来た奴はお前か!?」
捌鬼が大声で問いかける。魔物に乗った鬼から応答の声がした。
「行きましょう、捌鬼さん。」
「ああ。」
410 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/04/29(土) 00:11:52 ID:qfH16n5Q0
風舞鬼は魔物の腹に向かって音撃鼓を投げつけ、慣れぬ強化体となった。
闇夜のなかで背中の翼が光り輝く。
「オイ!お前は下で音撃を放て!」
風舞鬼は魔物の出す針をよけながら、沖縄から来た鬼に命令した。
「ラジャ!」
勢いよく魔物の頭から飛び降りると、沖縄の鬼は足に音撃剣を突き刺し、音撃震を装着した。
風舞鬼もそれに合わせて、音撃棒を取り出し、魔物の腹部に狙いをつける。捌鬼は腰の刀を抜く。
「音撃斬!雷槍電震!!」
「音撃打、火炎煉極!」
「音撃斬、一響魔断!」
それぞれの音撃が、巨大なヤマアラシに降り注ぎ、爆発四散した。
「お前、名前は?」
顔だけ変身解除したフブキが沖縄の鬼に問う。
「はじめまして。田所さんから例の九尾の件で応援として呼ばれてきました。ツラヌキといいます。」
「ヨロシク。」捌鬼とフブキが手を伸ばす。捌鬼は変身したままだったので表情は読み取れないが、明らかに微笑んでいた。
「こちらこそ。」お互いに堅い握手を交わした。
一零の巻「貫く鬼」
411 :
用語集サイト:2006/04/29(土) 00:15:28 ID:fUrSQD+L0
鋭鬼ストーリー十二之巻まで拾い終わった……
ZANKI年表とすり合わせて年代をあぶり出しているのですが、風花が高校に入学して「数年」という
記述が微妙におかしいことや白倉と高寺の出世スピードが速すぎることが判明しました。
けど問題ありませんよね?
鋭鬼ストーリーを拾い終えたら公開しますので、そのときはツッコミよろしくお願いします。
公開後、徐々に増やしていくつもりです。
412 :
風舞鬼外伝「超える絆」:2006/04/29(土) 03:59:44 ID:qfH16n5Q0
風舞鬼外伝「超える絆」第一幕
とある中学校。その生徒の中にこの物語の主人公は居た。
清成は学校から帰るとき、いつも商店街を通っていた。その商店街は小さい頃から慣れ親しんだ店と人がいつも笑顔で待っていた。
悪夢はその商店街で起こった。ある日の学校帰り、清成は所用でクラスの友達の家に行かなければならなかった。
そのため、いつもは通らない道を通っていた。その道は噂では毎夜の如く、3年生の不良がたむろって居るらしく、清成は少し警戒しつつ駆け抜けていた。
無事、友達の家にたどり着き、用事を済ませて来た道を戻ろうとしたとき、頭に激痛が走った。
413 :
風舞鬼外伝「超える絆」:2006/04/29(土) 04:00:10 ID:qfH16n5Q0
清成が目を覚ましたところは、どこかの廃屋だった。霞がかったような視界に、5,6人の男が見えた。
意識がハッキリしておらず、自分に何を話しているのか初めは理解できなかったが、どうやら自分はカツアゲにあっているらしいとようやく状況判断できた。
「コイツ、聞いてんのか!?」
「オイ、財布もってるか調べろ。」
不良のリーダー的人物が、下々に命令する。清成はまだ朦朧としていて、上手く身体に力が入らない。
「コイツ、何ももってやしませんよ。」
「チッ、ならもういい。適当にボコって、河に流しとけ。」
清成は身の危険を感じ取り、飛んでくるであろう打撃に備えた。だが、打撃は飛んでこない。不良のリーダーは廃屋から出て行き、5人ほどその場に残った。
そろそろ来るかと思ったが、まだ殴りも蹴りもしてこない。これはおかしい。一体、自分をどうする気だ?
414 :
風舞鬼外伝「超える絆」:2006/04/29(土) 04:02:12 ID:qfH16n5Q0
結局、その日は何もされず、気がつけばもう朝で自分の部屋にいた。日曜日だったので、朝の人気特撮番組を暇ツブシに見て、部活に行った。
部活では一年生ということもあって、弓道の矢取り(球拾いのようなもので、放たれた矢を取りに行く)ばかりやっていた。
清成はもともと運動神経は良く、野球部からのアプローチは凄まじかったが、精神を集中する日本古来の伝統的武術に心を打たれ、弓道部に入った。
先輩はみんな人柄も良く、成績もトップクラスの人たちばかりで、勉強にもいい刺激があった。なんでも弓道は日常生活がそのまま技術に投影されるのであるからして、
熟練者は、射技を見ればその人の生活リズム、食事、頭の善し悪しまで分かるという。
その部活中、こんな話を聞いた。一年生は毎年、林間学校でのいわば課外授業がある。その授業のあるキャンプ場ではいつも一人の男性がキャンプしているという。
変人との噂も流れたが、実際にその人と会話した先輩の評価はいいものばかりだった。
風舞鬼外伝「超える絆」第一幕 終
415 :
風舞鬼SS作者:2006/04/30(日) 16:05:58 ID:uTeVc5N80
なぜか最近まとめサイトさまの動きが無いように思いますが、どうされたのでしょうか・・・
>415
まとめサイトさんは善意無償でされてるし、SSが投稿されても更新しなきゃならない義務があるわけでもないし、いろいろご多忙かもしれない。
更新再開されるまでじっくり待ってみようよ!
417 :
用語集サイト:2006/05/01(月) 00:21:49 ID:Xth211ht0
418 :
まとめサイト:2006/05/01(月) 07:38:09 ID:bjG6Ktua0
お待たせしてすみません。
投稿分まで更新しました。
最低でも週1で更新をしてゆくつもりですので、気長に待っててください。
>>417 <アーマーゾォーン>…吹きましたw
用語集サイトへ直接リンクしてもいいのでしょうか?
個人サイトのようなのでちょっと迷います。
現在456KBなので、そろそろ移行準備でしょうか。
即落ち防止もかねて新作は新スレの方がいいのかも。
テンプレ置いておきますので、修正などありましたらよろしくお願いします。
419 :
テンプレ:2006/05/01(月) 07:38:46 ID:bjG6Ktua0
420 :
テンプレ:2006/05/01(月) 07:39:12 ID:bjG6Ktua0
421 :
テンプレ:2006/05/01(月) 07:39:31 ID:bjG6Ktua0
裁鬼達は人知れず戦っている
裁鬼、その実力は鬼の中でも1,2を争うが、連戦に次ぐ連戦で
その実力を出し切れず、敗北を重ねつつある
今日もまた癒えない傷を庇いつつ
正義と平和のため、裁鬼達は戦う
○色んなな鬼のSSドシドシ募集中
○DA、クグツもおっけ!
まとめサイトさん、用語集さん乙です。
なんかオリジナルヒーロースレがここを叩こうとしてた。
勝手に批評されてもなぁ…。
内輪ウケを狙ってるとか言われてたけど、そう言うスレだし…。
とりあえず現れてもスルーですか?
スレのことはスレ内で完結すべきであって、他のスレに持ち込むべきではないと思います。
わざわざ他のスレのことに触れて、向こうからの注意を引き寄せる(あるいはこちらから覗きに
いく人を増やす)必要はないと思います。
被害を受けてないのに被害者意識で他スレに対して批判的、敵対的になるのはやめませんか。
スレそれぞれに楽しみ方を見出して住人が付くんですから、お互いに尊重したいです。
批評したい人がそういうスレで行なうなら、止めようが無いでしょう。
あと、批評=嵐ではないと思います。
さっきはあげてしまってすみませんでした。
別にどう言われても気にする必要はないんじゃない?
スレは公のものだから批評されるのはしょうがないけど、
これって音楽とか特撮と一緒で一つの価値観で結論付けられるものじゃないでしょ。
なに言われようが、俺は単に好きだから見るだけだ。
だから職人さんは気にしないで欲しいな。
ほっときなよ。
それより最近、皇城SSさん見ないな…。
久しぶりに新作が読みたい。
426 :
用語集サイト:2006/05/01(月) 17:37:49 ID:dJBQQZEu0
>>418 リンクは用語集ページへ直接ではなく、できればトップページにお願いします。
なんだか横入りみたいな感じがして好きではないんです。
(『響鬼→鬼ストーリー用語集』という感じで誘導すればわかりやすいかと)
さーて、次はどの鬼さんを餌食にしようかな?
用語集サイトさんGJ!!
贅沢言うと出演作品とかあるといいかも。
428 :
風舞鬼SS作者:2006/05/01(月) 22:36:08 ID:q4RWl9Qi0
用語集サイトさま、お疲れ様です。
まとめサイトさま、何だか急かしたみたいですいません。
今度からは気長に待つとします。
あ〜〜なんだかそろそろ470KBに達しちゃいそうですな。
429 :
風舞鬼外伝「超える絆」:2006/05/01(月) 23:16:41 ID:q4RWl9Qi0
風舞鬼外伝「超える絆」第二幕
林間学校当日。
清成は集合時刻より7分ほど早く、学校のシンボルでもある「鬼天狗の大桜」の前に着いた。
なんでもこの鬼天狗桜は、樹齢1000年もある霊木で、清成の通う学校はこの桜を中心とし、江戸時代に「寺子屋」として設立されたらしい。
清成は未だ時間があると見て、普段はなかなか触れることすら許されない鬼天狗桜に触れようと、周りに気をつけながらゆっくりと桜に手を伸ばした。
手が温かい木の幹に触れた。桜は予想に反して柔らかかった。その時――――足元に何かがやってきた。視線を足元に落とすと、なにやら緑色の小さな物体が騒いでいた。
――何だコレ?
おもむろにヒョイと拾ってみた。硬い。どうやら機械のようだ。その機械はゴリラのような造形をしており、変な鳴き声を発し、さらには小柄なくせに異常に力が強い。
――最新式のロボットか?
「ホントに・・・困った奴だ。」声のした方向に目を向けると、30代かと思われる、なかなか顔つきの整った青年がこちらを向いている。青年は右手の指をパチッと鳴らした。
すると、さっきまで清成の手の中で騒いでいたゴリラがたちまち円盤型になり、青年の手のひらに舞い戻った。
「・・・それ、何ですか?」清成は初対面にも関わらず、聞いて見た。
430 :
風舞鬼外伝「超える絆」:2006/05/01(月) 23:18:13 ID:q4RWl9Qi0
「ん?これは・・・盗撮機・・・かな?」
――うわ・・・変人じゃないの?・・・でも、あれ可愛いなぁ・・・
清成がそう思った瞬間、青年の腰からさっきのゴリラがピョンと出てきた。
「あ・・・!またコイツ勝手に出やがって・・・」ゴリラは清成の身体をよじ登って、肩にちょこんと座った。
――え?ちょ・・・なに?
「君、気に入られたねぇ〜。あ・・・良かったら、そいつあげよっか?」青年は満面の笑顔で清成に問いかけた。
「あ・・ハイ!下さい!!」清成はこの可愛い将来も運命を共にする相棒を、「ダイゴロー」と名づけた。
清成に「ダイゴロー」を与えた青年は、今回の林間学校で3日間行動を共にする特別案内人だった。
風舞鬼外伝「超える絆」第二幕 終
431 :
DA年中行事:2006/05/03(水) 17:03:51 ID:rSxPy1AW0
おお、470kbまであと少しだ・・・・でも30kbあればなんとかなるかな・・・・
(キュイィィィィン)よ・・・・予告ッ!(モアッモアッ)
DA(ディスクアニマル)はオンシキガミとして、鬼といくつかの約束を交わしている。人を護る事、鬼を護る事、魔化魍を追う事、鬼の命令無く人を傷つけぬ事、そして
――――鬼を知らぬ人間に姿を見せぬ事。
(見つかっちゃったよなぁ・・・・・・・なんか囲まれちゃってるし・・・・・・)
「NASAなんじゃねぇ?」
「ごめんね、みんな・・・・・痛かったよね・・・・すぐみどりさんに直してもらうからね・・・・・」
遠くに今時珍しい鯉のぼりが、歌の通り家族揃って五月の風に腹をたっぷりと膨らませ、悠然と泳いでいる姿が見える。
まとめサイトさんに「乙!乙!」と手を合わせ、用語集サイトさんを早速利用させてもらい、風舞鬼SSさんの「ダイゴロー」に萌え萌えしながら全力で妄想中!
明日・明後日投下予定・・・・なんだけど、残り容量を見計らいながら投下します。
先に次スレ立てておいた方がよくない?
433 :
風舞鬼SS作者 :2006/05/04(木) 17:25:22 ID:cUsARI9i0
そうですね。
んじゃ、僕の方から先にスレ立てしときます。
434 :
DA年中行事:2006/05/04(木) 18:34:05 ID:tYRsUbCb0
申し訳ないッス>スレ立て
自分で立てようかと思っていたんですが、ホスト規制でスレを立てられないので・・・・
何卒宜しくお願いします。
新しくスレが立つなら、安心してこちらで残りの容量を埋められます・・・・
と、言うわけで、今夜投下します。
435 :
風舞鬼SS作者:2006/05/04(木) 20:36:41 ID:cUsARI9i0
なんかアレです・・・
自分もホスト規制っぽいですね。
でも今はGWで別のPC使ってるんで、
帰ってきてからまたチャレンジします。
多分間に合うかと。
436 :
DA年中行事:2006/05/04(木) 23:27:54 ID:tYRsUbCb0
GW真っ只中、スレの容量も残り僅かなのに、スレの皆さんのご好意に甘えて
投下します。
本日はその前編です。またしても長いハナシになりますが、お付き合い下さい。
後編は、もしかすると新スレになるのか・・・読みにくくて申し訳ないです。
そのルリオオカミは、窮地に立たされていた。
前方からも、後方からも、相手は手に手に獲物を持って、輪を狭めて来る。
「逃がすなよ・・・・・」
「わかってる・・・・・」
困った。完全に囲まれ、退路を断たれた。相手は複数。しかも、全員子供だ。
「ねぇ、こいつ噛まない?噛まない?」
「わかんねぇよ、そんなの」
なるほど、この子供達は、自分を恐れているのか。だからみんな竹箒やらちりとりやらを武器に見立てて武装しているのか。
オンシキガミは人を護る為に鬼に使役されているので、命令されない限り、人を傷つける事はできない。相手が子供なら尚の事だ。
ルリオオカミは、致し方なく子供たちに向かって、体勢を低くして唸り声をあげてみた。
途端に、一番年下らしい子供が「ひゃあっ!」と悲鳴をあげる。
「ねぇ、今唸ったよ!ボクの方見て唸ったよ!」泣きそうな顔で、隣にいる年嵩の子供の袖を引く。
「黙ってろよ、ジョウ!いっつもビビってるからシッコじょーって呼ばれんだぞ」
「シッコじょーって言うな!」
不名誉な渾名を言われて、ジョウは本格的に泣きそうになっている。
だが、泣きたいのはルリオオカミも同じだ。
DA(ディスクアニマル)はオンシキガミとして、鬼といくつかの約束を交わしている。人を護る事、鬼を護る事、魔化魍を追う事、鬼の命令無く人を傷つけぬ事、そして
――――鬼を知らぬ人間に姿を見せぬ事
(見つかっちゃったよなぁ・・・・・・・なんか囲まれちゃってるし・・・・・・)
ここで、無理に退路を拓いて万が一この子供たちに怪我をさせてしまったら。かと言って、ここでこの子供たちの虜囚となり、自分の存在が、ひいては鬼や猛士の存在が白日の下に曝されたら・・・・・
(まずいよなぁ。かなり、まずい事になるよなぁ)
DAはDAなりに、気を使っているのである。
そして、運の無いルリオオカミが頭を悩ませている間にも、包囲の輪はじりじりと狭まっていた。
五月に入ってまだ一週間も経っていないが、雲一つ無く晴れ上がると陽射しが暑い。
陽射しに照らされた木々の若い緑が、油に濡れたようにギラギラと輝く。
濃く立ち昇る緑の香りには振り向きもせず、ルリオオカミの一群は獲物が残した匂いを追う。ただ、まっすぐに。彼等に獣のカラダが残っていたら、鼻面に皺を寄せ、手負いの獲物が残した匂いに興奮し、激しく吠えたてながら追尾していただろう。
しかし、彼等は機械のカラダに獣の魂を込めた、オンシキガミ。鬼を導き、文字通り風を切って疾走する。
追い詰めろ、追い詰めろ、追い詰めろ!
一緒に駆ける鬼も、速度を緩めない。鍛えた足は、人の倍以上のスピードで、道の無い林の中を駆ける。
獲物の背中が、木々の間から垣間見える。
追跡者たちは、速度をあげた。そしてとうとう、一匹のルリオオカミが、鋭い牙で獲物の踵に喰らい付く。
魔化魍を止めろ!地面に釘付けろ!
踵に喰らい付いたルリオオカミは、己の顎が砕けるほどの力を込めて、獲物の前進を阻む。次の一匹が跳躍し、魔物の腱をギリギリと音を立てて噛む。さらにもう一匹も。ルリオオカミたちは、巨大な魔化魍の足を止めようと牙を剥く。
「ギィィィッ!」
魔化魍は耳障りな悲鳴を上げ、足首や踵にぶら下がるルリオオカミたちを振り払い、踏みつけ、蹴り上げる。何匹かのルリオオカミが、衝撃に耐えられず破片になった。しかし、足を砕かれ、胴を半分に割られても、オオカミたちは何度でも立ち上がる。牙を剥く。跳躍する。
殺セ殺セ殺セ、魔化魍ヲ仕留メロ・・・・魔化・・・魔・・・・・・・
意識が薄れ、焦点のぼやけたルリオオカミのセンサーが、音撃管の発射音を捉える。もう目の役割を果たすカメラが破壊されて姿を捉える事は出来なくなったが、確かに見えるようだ。
抜けるような青空を背景に、返り血で白く汚れた紫の鬼が雄々しく音撃管を構えた姿が。魔物の身体には打ち込まれた鬼石が赤々と輝き、吹き鳴らされる清めの音を待っている。
・・・・サァ、今ダ・・・・人ニ仇ナス・・・・魔化魍ヲ・・・・・清メ・・・・・・・・・
音撃射、暴風一気!!
空の青と木々の緑が美しいコントラストを描く山奥で、清めの音が響く。カラダの八十パーセント以上を損傷したルリオオカミは満足して、いつもより深い眠りに、堕ちた。
五月の大型連休。人間たちは、黄金週間と呼ぶらしい。寝て過ごす者、旅に出る者、長い物語を読む者、普段は別れて暮らす家族と共に過ごす者・・・・・・普段と変わらぬ生活を送る者も少なくは無いようだが。
魔化魍を追い、鬼にプログラムされた座標ポイントに向かう途中だったルリオオカミは、人気の無い学校の校庭を突っ切ろう、と思ったのだ。いつもなら、こんなに開けている場所を通り抜ける危険は冒さない。
だが、センサーが拾った魔化魍の痕跡は近いものだったし、急がねばならなかったのだ。
今日が、この建物を使用する人間にとって休日である事など、オンシキガミのルリオオカミにはわからない。さらに、飼育係なんていうものがあって、数人の児童が中庭で飼われているウサギの世話をしに登校していた、なんて事は、わかるはずもない。
もう一つ言えば、休日に登校するという日常には無いカリキュラムに興奮した子供が、中庭に落ちていたボールで遊び始める事など、なんで予測できるだろう。
付け加えれば、リーダー格のシゲっちが蹴ったボールが、勢い余って校庭を疾走していたルリオオカミにクリーンヒットする事など、誰が予想できただろう。
(でも、多分怒られるよなぁ・・・・・・)
白くてフサフサした物静かな動物たちの小屋に閉じ込められて、ルリオオカミは頭を抱えた。
子供たちは、材木と金網でできたウサギ小屋の前から動こうとしない。まばたきすら忘れて、じっと精巧な青い動物を見つめている。
「リモコンで動いてんのかなぁ?」
「でもさぁ、アンテナとか無いよね」
「内臓式なんだよ、きっと」
「あんまりロボっぽい動きじゃないじゃん」
「NASAなんじゃねぇ?」
「なんだよ『NASAなんじゃねぇ?』って。シンゴNASAの意味知ってんのかよ」
「じゃあ、ケンちゃんは知ってんの?」
「ったりめぇじゃん、アメリカのなんかだよ」
他の子供たちが、ケンちゃんの答えを聞いて、そうだそうだ、さぁすがケンちゃん!と頷く。・・・・・・ルリオオカミは、頭を抱えて座り込みたいような気分だった。
管の鬼が得意としないヤマビコを清めた勝鬼は、大きく息をつくと顔の変身を解除した。「ふう。やっぱり弾鬼君を呼ぶべきだったかなぁ」
童子・姫、そして彼等に育てられた魔化魍を一人で倒した勝鬼だったが、表情は晴れない。
その理由は、予想以上に時間がかかった事。そして、そのせいで共に魔化魍を追った小さな仲間の数を、随分減らしてしまった事。
勝鬼は、足元に散らばった仲間の破片を、丁寧に拾って回った。「ごめんね、みんな・・・・・痛かったよね・・・・すぐみどりさんに直してもらうからね・・・・・」
ショウキに呼び出しがかかったのは、昨夜の事である。
「ヤマビコかイッタンモメンの、どっちが出るかはわかんないんだね?」
「申し訳ありませぬ、ショウキさん〜」電話の向こうで、日菜佳はひたすら恐縮していた。「例年通りの気温ならヤマビコなのですが、何しろ今年は山沿いが大雪で、気温が上がらなかったのですよぉ〜」
そんな事は、日菜佳の責任ではない。彼女はTDB(猛士データベース)と近辺の『歩』の情報、そして今年の気温や降雪データから、兆候のある魔化魍を割り出し、さらに最悪の状況まで予想した上で、ショウキに連絡をとったのだ。
「太鼓の誰かとコンビを組んで頂くのがベストなのですが・・・・・」
ヒビキはまったくの逆方向でツチグモを追跡しているし、エイキは休暇で北海道の愛しい愛しいフブキの元に行ってしまったし(ああ羨ましい!)、ダンキは・・・・・・・・ダンキは。
「大丈夫大丈夫。ダンキ君の助けが必要になったら、僕から連絡するから」
イッタンモメンが出る可能性が有るなら、自分が行った方が良いだろう。ヤマビコが出たとしても、自分一人で何とかする。何とかできる、と思ったのだ。いつまでもダンキに頼ってばかりもいられない。
「そうですかぁ?では申し訳有りませんが、宜しくお願い致しますぅ。あ、でも、決して無理はなさいませんように」
「うん、大丈夫だよ、ありがとう」ショウキは日菜佳の気遣いが嬉しかった。「そうだ、日菜佳ちゃん、婚約おめでとう!」
日菜佳は恋愛対象やそういう類のものではなかったが、それでも、トドロキとの結婚が決まった、と聞かされると不思議なものだが少し寂しかった。妹がいたら、多分こんなふうに感じるのかもしれない。
「ねえ、ホントに先生呼んで来なくていいの?」
ピンクのゴム紐で、キチンと髪を結った女の子が、至極真っ当な事を言った。おお、それがいい。そうしてくれ、是非。みんなでパッと先生を呼んでくる間に、オレはスタコラ逃げるから。ルリオオカミは祈ってみる。
「バカ、大人なんて呼んで来たら、持って行かれるに決まってんだろ」
シゲっちが、あっさりと却下した。だが、その却下の仕方に問題があった。
「バカって言わないでよ、大バカ!」
反論したくなる気持ちはわかるが、論点はそこじゃない。先生を呼びに行くでもなんでもいいから、オレに逃亡のチャンスをくれ。
「おっかね〜、オトコオンナが怒った」
「オトコオンナ、マジ凶暴!」
ケンちゃんとシンゴが囃し始める。しかし、女の子は「バカは相手にしてられない」とばかりに、冷静にシゲっちに意見する。
「私たちのものじゃないんだから、持ち主が探してるはずよ。このままこんなところに隠しておいたら、私たち泥棒って事になるじゃないの、大バカ」
女の子って、賢いもんだなぁ、とルリオオカミは思う。後ろで囃したり、泥棒という言葉に反応して半ベソになっている男の子とは、随分精神的な発育に違いがある。さすがだ。
などと感心しているルリオオカミは、ふいに背後から生温かい息を感じて飛び上がる。好奇心旺盛なウサギが、匂いを嗅ぎに来たのだ。反射的にルリオオカミは、吠え声を上げた。
とたんに小屋の中のウサギたちがパニックに襲われる。彼らは本能的に、この小さな機械の中の魂の匂いを、嗅ぎ取ったのかも知れない。
ウサギたちの恐怖心が、それを見守っていた子供たちにも伝染する。
「うわっ、こいつ吠えた」
「凶暴なんじゃね?」
「ウサギと同じ小屋の中に入れておくとマズイって」
「ウサギ食べられたりしない?食べられたりしない?」
「ロボがウサギ食うわけねぇじゃん、シッコじょー」
「シッコじょーって言うな!」
喧々囂々となる子供たち。「あーもう!わかった!」シゲっちが、ウサギ小屋の簡素な鍵を外す。ルリオオカミは、この機会を待っていた。
ベースまで戻った勝鬼は、着替えを済ませ、『たちばな』に連絡を入れる。電話に出た香須実に、童子・姫、そしてヤマビコが出た事、それらを清めた事を告げる。
「専門外だったのに、お疲れ様です」
「いやいや、なんのなんの。うーん、でも、ルリたちが随分やられちゃって・・・・」
言いながらショウキは、ボックスの中のルリオオカミの数を数える。ちゃんとディスクに戻っているものが、四匹。あとは破損が酷い。だが、それにしても・・・・・・
「あれ?」
「どうかしましたか、ショウキさん」
「ああ、あのね、ルリが一匹足りないみたい・・・・・」
「戻ってきてないんですか?」
「うん・・・・おかしいな、もうみんな戻ってきてる時間なのに」
「じゃあ、地元の『歩』の人に、回収をお願いしておきましょうか」
「いや、僕が回収してから戻ります」
「でも、お疲れじゃないですか?」
香須実の言うとおり、今の戦闘で紙の様に疲れている。だが、戻ってきていないオンシキガミが気にかかる。ショウキは香須実に自分が回収に行く事を重ねて告げ、電話を切った。
マップを調べると行方不明のルリオオカミを放った座標は、すぐにわかった。手早くベースを片付け、念の為腰に装備しているアカネを起動させ、ショウキは専用車のハンドルを握る。
「野良ルリオオカミじゃ、可哀想だもんね」
ショウキは、そういう鬼なのだ。
三方を鉄筋三階建ての校舎に囲まれた中庭に、子供たちのわぁっと言う声が反響する。
シゲっちが掛け金式の鍵を外した瞬間、ルリオオカミは並外れた跳躍力で金網の扉を押し開け、尻餅をついたシゲっちの体を易々と跳び越えて脱出を図ったのだ。
青い機械仕掛けの獣と、恐慌に陥って小屋の外に飛び出したウサギの両方を追うはめになった子供たちが、甲高い声を上げる。
あまりの興奮にシゲっちは尻餅をついた痛みも忘れてゲラゲラと笑い出し、全速力でルリオオカミを追いかけるケンちゃんとシンゴにもその笑いがうつる。
一方、笑い転げる三人とは、正反対の二人がいる。ジョウは逃げ出したウサギのすばしこさに泣きそうだし、オトコオンナと揶揄されたマコは、ウサギを追いながら最悪の状況にイライラしている。
一方ルリオオカミは必死だ。無節操な記念植樹の植え込みや、無計画な花壇、ドロドロした緑色の藻に覆われた池、誰だか判らないブロンズ像などに行く手を阻まれる。
下手な所に逃げ込めば、子供が転んで怪我をするかもしれないし、かと言って易々と二度目の捕獲を許すわけにもいかない。
そしてもう一つ、困った事が起きていた。
(いかんッ!・・・・・たっ、楽しいッ!・・・・・・・)
ルリオオカミ自身が、子供たちに追われているこの状況を、だんだん楽しみ始めていたのである。追いかけっこと子供の笑い声に、酔ったようだ。ルリオオカミの性能からすれば、この小学生たちを振り切り、中庭を抜けてグランドの外に出る事など容易い。
だが、いつの間にかルリオオカミは、自分を捕まえようとする子供の手を待っている。ギリギリまで逃げずに、さっと差し出される手をかわして、ひょいと逃げる。追っ手が遅れれば、つい上肢を低くし、後肢を高く上げて相手が来るのを待ち構えてしまう。
イヌ科の動物がする、典型的な『遊びの誘い』のポーズだ。
(ああもう!何やってんだよ、オレはよう!)
と、ルリオオカミのセンサーに、嫌な反応があった。
ドクン・・・・・・
おかしな心音。ルリオオカミは思わず急停止し、ボウフラだって湧くのに勇気が要りそうな池を覗き込む。
・・・・・・・・・・・・ドクン
まだ遠いが、人間を捕食する唯一の、あの禍々しい生き物の気配がする。中庭には、五人の子供・・・・・と、数羽のウサギ。
彼等を護れるのは、自分しかいない。
444 :
DA年中行事:2006/05/04(木) 23:59:41 ID:tYRsUbCb0
・・・・と、言ったところで、残りは明日。後半に続きます。
DA年中行事さん!待っておりました〜!!
瑠璃狼がカワイイ〜〜!!
(いかんッ!・・・・・たっ、楽しいッ!・・・・・・・)
これにノックアウトされました。
今回のゲストは勝鬼さんですね!
「ごめんね、みんな・・・・・痛かったよね・・・・すぐみどりさんに直してもらうからね・・・・・」
このセリフがとても優しく響きました。
それにしても、弾鬼さんは何をしてるんでしょうね?(笑)
風舞鬼SSさん
本編も、番外編も、ミニ裁鬼さんも楽しみにしております!!
用語集サイト様
公開おめでとうございます。やはり、以前からご利用させて頂いているサイトでした。
今回も、早速利用させて頂いています。有難うございます。
さて、自分の弾鬼SSですが投下準備は出来ているのですが、現スレの容量が心配です。
新スレも立ててみようと挑んだのですが、何故かのホスト規制・・・・orz
他力本願で申し訳ないですが、新スレの設立と同時に投稿したいと思いつつ、予告なんぞ投げ込んでゆきます。
七之巻 ―予告―
「実は・・・・決めた事があるんです・・・・今から言う事・・聞いてくれます?」
「・・・だよなぁ・・・安藤の事と俺等の入院・・・そして今度は鬼に成れなくなったなんて言えないよ。なんか・・最近迷惑ばっかかけてるよ俺・・はぁ〜・・・・」
「そういや・・・よ、お前さんの昔の話・・・聞いた事が無いんだが・・・良かったら聞かせてくれないか?何、ムリにとは言わんが」
「今日〜も美味しく飲ッめるのは!あ、段田大輔のおッかげです!!ソレ!イッキ!イッキ!イッキ!」
「全く。こんな展開とは・・・・・メブキめ。追い込みに失敗したな・・・・」
『縄張りに邪魔したな。断鬼・・・推して参った。覚悟して臨め・・・・』
七之巻『呼び戻る音』
いつも読ませていただいてる者ですが、少しでも恩返ししたく
新スレ立てられるようでしたら、やってみます。
次スレは
裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ【参乃巻】
でいいですか?
テンプレ参考に、用語集のとこだけ変えます。
>446
よろしくな。シュッ
448 :
446:2006/05/05(金) 14:46:53 ID:8RmfyBX00
ホスト規制でした。誰か願います…
新スレが立ちました。
裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 参乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1146814533/l50 スレタイが長すぎて規制にあったので【】の部分は無くしました。
>>446さんすいませんでした。
また私事ではありますが最近いろいろと忙しくなりSSに回せる時間が
少なくなってしまったためしばらくロム専になりたいと思っています。
剛鬼のストーリーに関しては一応先まで大体の展開は決まっているので
しばらくして落ち着いたらまた再開しようと考えています。
ワガママ病ですいません。
最後に、裁鬼職人さんZANKIの人さん今まで本当におつかれ様でした。
鋭鬼職人さん、高鬼職人さん、虹鬼職人さん、風舞鬼職人さん、
弾鬼職人さん、DA年中行事さん、皇城職人さん、竜宮さん
これからは一読者としてですが、職人さんたちの作品の投下を楽しみに待ってます。
これからも頑張ってください。
近く投下されるであろうDA年中行事さんと弾鬼職人さんの作品にワクテカしつつ、
いつまた書き手として皆さんの前に現われることが出来るかは分かりませんが、皆さんさようなら。
そしていままで小生の拙い駄文を読んでいただいて本当にありがとうございました。
451 :
高鬼SS作者:2006/05/05(金) 19:51:49 ID:ezPiaX0F0
>剛鬼SSの中の人
スレ立て乙です。そして今までお疲れ様です。
いずれ来たる再開の日を心からお待ちしております。
用語集サイト様も公開開始された事ですので、いい機会だから二つほど訂正を…。
「気高い歌」より
「音撃斬・豪火絢爛!」→「音撃斬・豪火剣乱!」
そのまま変換して出しちゃったという…。
コウキが弦でトドメを刺す機会が以降全く無かったので訂正のタイミングが掴めませんでした。
「霧裂く鬼」より
犬神刑部→隠神刑部
やっぱりそのまま変換して出しちゃったもので。
同じく狸の話だった「響き交わす鼓」の時点で気付いていればよかったのですが…。
どうもすいませんでした。
452 :
竜宮:2006/05/05(金) 20:26:47 ID:1bVO0oQk0
剛鬼SS様お疲れ様です。ありがとうございました。
少し休まれて、また続きを描いていってください。
再開後の成長やソウキさん達との人間関係が楽しみです。
年中行事さん、DAも可愛いですが、後編でも鬼達が大活躍しそうですね。
こちらは6月までに小話一つ投下できたらいいな、程度です。
453 :
DA年中行事:2006/05/05(金) 21:20:33 ID:D6leh2zU0
まずは、スレ立てに果敢に挑戦して下さった風舞鬼SSさん、
>>446さんに感謝を。
ありがとうございました。オレもホスト規制でした。うう。
そして、スレ立てて下さった剛鬼SSさん、本当にありがとうございました。
一旦お休みされるとか。鋭気を養って、また新作を読める時が来る事を、楽しみに
角を長くしてお待ちしています。
安心して、こちらに後編を投下できます。では、後ほど。
前編は
>>437から
「いやぁ、悪いね!」
そう言いながら、まったく悪びれた様子も無く、尾賀はショウキのクルマに乗り込んだ。
行方不明のルリオオカミを追って、自分が放った座標ポイントに向かう途中、緩やかな下りの坂道に差し掛かったところで、ショウキはこの地域の『歩』で、小学校の教師をしている尾賀の後姿を見つけ、声をかけたのだ。
「助かった助かった!実はすでに遅刻しててさぁ。どうしようかと思っていたのよ!」尾賀は、教師らしい太い声で教師らしからぬ事を堂々と言って笑う。
「まいったわ。昨夜ついつい夜中まで録画しておいた昼ドラ見ててさ。目が覚めたらこの時間だもの。びっくりだよ」
「でも尾賀さん、今日は祝日でしょう。学校もお休みなんじゃないですか?」
遠くに今時珍しい鯉のぼりが、歌の通り家族揃って五月の風に腹をたっぷりと膨らませ、悠然と泳いでいる姿が見える。
「小学校にはさ、飼育係ってのがあるのよ。動物の世話に休日は無いの。教育にもね。鬼も教師も魔化魍も、休日関係ないでしょ」
そう言うと、尾賀はガハハ、と豪快に笑う。彼女は、トウキの先輩のはずだ。以前、忘年会で例によって誰よりも食べて飲んで上機嫌だったトウキが、「これっぽっち、尾賀先輩の半分もいってねぇ」と言っていた事を思い出す。
体重は大柄なトウキの半分ほどに見えるが、胃袋と肝臓の許容量は彼以上のものなのだろう。
自分にとって日菜佳が妹のような存在である事と同じように、トウキにとって尾賀は姉のような存在なのだろうか。
「カーッ、まいったなぁ!昼ドラつまみに飲み過ぎたよ!酒臭かったらゴメンね、ショウキ君!」
・・・・・・・・兄かもしれない。
「で、ショウキ君はどうしたの?あのおもしろい喋り方する女の子から電話はもらっていたんだけど、出たの?魔化魍」
色々と突っ込みや修正を入れたかったが、とりあえずショウキは、ヤマアラシを倒した事、探索に出したルリオオカミが一匹戻ってきていない事などを手短かに説明した。
一通りその説明を聞いて、尾賀はルリオオカミを放った座標ポイントを尋ね、ショウキの答えを聞くとふむふむと頷く。
「もしかするとショウキ君のオンシキガミは、ウチの小学校のあたりにいるかもね」
ルリオオカミはグランド目指して走る。子供たちを、なるべくあの中庭から引き離したい。
「あっ!中庭から出るぞ、アイツ!」
「追っかけろ!」
シンゴとケンちゃんが、自分の後をすぐに追いかけてグランドに出てきた。その二人に少し遅れて、シゲっちが中庭から出ようとすると、紅一点のマコちゃんが、鋭く彼を呼び止めた。
「シゲっち、ウサギ捕まえるの手伝ってよね!アンタのせいなんだから!」
うん、正論。鍵を開けたのはシゲっち。ウサギを逃がした責任はあるよね。でも今は逃げて!いいから、そこから逃げて!
ルリオオカミは取って返し、八羽目のウサギを小屋に入れたばかりのマコちゃんの元へと急ぐ。
「あと一匹・・・・え?何?」マコちゃんは足元で吠え声を上げている青い獣に気がつく。「なんなの?なんで私に吠えるのよ」
だからね、別にマコちゃんの事がどうこうじゃなくてさ、早く逃げて欲しいの!早く早く!!ルリオオカミは口のきけない自分が歯がゆい。次にカラダを替える時は、是非話す機能を付けて欲しいと思う。
そんな未来の話は置いておくことにして、今はこの子供たちを逃がさなければならない。ルリオオカミは、マコちゃんに向かって牙を剥く。少し気が強そうだけれど、色白の可愛い顔立ちが強張っていくのを、悲しい気持ちで見上げる。
「コラ!お前吠えんなよ!」
振り返ると、竹箒を構えたシゲっちがいた。さっきまで、あんなに楽しく追いかけっこができたのに・・・・・ルリオオカミは尻尾を下げてしまいそうになる気持ちをこらえて、マコちゃんを庇うシゲっちにも吠え立てる。
「やめろって!」とうとうシゲっちが、ルリオオカミ目掛けて竹箒を振り下ろした。
(ゴメン、シゲっち!)
ルリオオカミは振り下ろされる竹箒の柄を、ジャンプして噛み折った。
バキン!
想像以上に大きな音がして、遠巻きに見ていた最年少のジョウが怯えて泣き出した。
「マコ、ジョウ連れて逃げろ」
「でも・・・・・」
「いいから、オレがコイツの気を惹いておくから、早く!」
マコちゃんは一つ頷くと、泣いているジョウの元へ向かう。ジョウは、ルリオオカミから見て池の向こう、グランドから一番遠い所にいる。ルリオオカミはマコちゃんを追い越し、池を回りこんでジョウの近くへと急ぐ。
「怖いよぉ・・・・怖いよぉ・・・・」泣きじゃくるジョウに、ルリオオカミは狂ったように吠え立てた。その間にも、不吉な心音は近付いてくる。
「ジョウ、いつまでも泣いてないの!」ようやくたどり着いたマコちゃんは、厳しい顔でそう言うと、ジョウの手をとってグランドを目指して走り出した。
(もう、二度と遊んでもらえないな)
二人を吠えながら追いかけるルリオオカミのすぐ脇に、折れた竹箒がドン、と落ちてきた。
「弱い者いじめすんな!」
(シゲっち・・・・・・)
心底気落ちして、ルリオオカミは折れた竹箒と、本気で怒った顔をしているシゲっちを見比べる。クゥン、と鼻を鳴らしそうになる。切なかった。
しかし、その感情は、してはいけない油断を呼んだ。
ゴボォォォォォォォッ!
ありえない、いや、あってはいけない音。脆いコンクリートがガラガラと派手に砕け、一瞬の後に池の濁った水が中庭に溢れ出し、ルリオオカミがこの世で唯一憎み、許せぬ魔物が現れる。
イッタンモメンだ。
童子・姫はいない。そのせいか、身体は幼体としても小さめだ。
「ピィィィィィィィィィィィィッ!!」
しかし、邪悪な翼を羽ばたかせ、動く物を貪欲に探すその姿は、紛れも無く魔物のそれだ。
ウォォォン!!
ルリオオカミは精一杯跳び上がって、吠え立てる。少しでも魔物の注意をこちらにひきつけ、子供たちを逃がさなければ。たとえ、小さな自分一匹しかいなくとも、彼等を護らなければならない。
鬼と、そう約束したから。
それが自分の、使命だから。
『魔化魍から、人を護れ』
ああ、護るとも!
ぬるりとした魚類の身体をくねらせながら、鳥類の翼で羽ばたく魔物が、ちらりとこちらを見る。
イッタンモメンは一度高く上昇すると、風を伴って急降下する。その先には、一羽のウサギ。マコちゃんにもジョウにも捕まらず逃げていた無害な生き物に、魔物は狙いをつけた。
「だめーっ!」
息を飲んだまま動けなかった子供たちの中で、ただ一人叫び声を上げたのは、さっきまで怯えて泣いていたジョウだ。大好物である人間の、しかも子供の声を聞いて、イッタンモメンは空中で角度を変える。
ルリオオカミは、イッタンモメンの身体が低空を泳ぎ始めた瞬間を見逃さず、地面を蹴る。
魔化魍を止めろ!地面に釘付けろ!
狙いは過たず、ルリオオカミの牙はイッタンモメンの翼の付け根に喰らい付く。
「ピギィィ!!」突然の痛みに、魔物は叫び声を上げ、バランスをくずした。その隙をついて、シゲっちがマコちゃんとジョウをグランドに連れ出す。
ルリオオカミは逃げる子供たちの後姿を見送って、ますます顎の力を強める。せめてこの翼を喰い千切る事ができれば・・・・・しかし、魔物と一匹のオンシキガミとでは、身体の大きさが圧倒的に違う。
イッタンモメンは邪魔な小虫を振り払うように、翼を激しく動かし、さらに鉄筋の校舎にぶつける。
何枚かのガラスがサッシごと粉々に砕け、ルリオオカミもその衝撃で後肢を一本もぎとられた。ここで振り落とされては、二度とこの空を飛ぶ魔物に向かってジャンプできないだろう。
(諦めるもんかッ!)
ギリギリと音を立てて腱を噛むと、イッタンモメンは一層激しく翼をコンクリートに打ちつける。もうルリオオカミのカラダの半分以上が、瑠璃色の輝きを失っている。
キュイィィィィィィィン!
空中に、キラリと鮮やかな茜色が翻った。アカネタカ・・・・なのか?破片になりつつあるオンシキガミは、仲間の声を頼もしい思いで聞く。勝鬼が近い。その確信が、ルリオオカミに力を与えてくれる。
(勝鬼・・・・ゴメン・・・・オレ、みんなに見つかっちゃった・・・・子供たち・・・・みんな怯えてる・・・・・・・・)
ルリオオカミは、わずかな風を感じた。鬼の発する清い音が聞こえる。視覚はもう、機能していなかった。聴覚も途絶えがちだ。衝撃も感じない。
ただ、優しい温もりを感じていた。
(ゴメン・・・・・・)
「ごめんな」
誰かが泣いている。低く、慟哭の声を漏らしている。濃く立ち込める、血の匂い。優しかった柔らかな温もりが、今は冷たく血を流している。
「この犬がやりやがったんだ!」
「なんて事だ・・・・猟犬が・・・・・・」
「子供の喉笛を食い千切るなんて・・・・」
何故?何故?何故?どうしてみんなオレを打つの?何故オレの坊ちゃんは血を流して動かないの?
「狂犬だ!」
「狂犬だ!」
「皆、そこを退け!俺が撃つ!」
冷たい銃口がこちらを向いている。オレのご主人が、オレを狙っている。嘘だろう?だってその銃は、獲物を狙う時だけに使うんだろう?オレの仕事はご主人に獲物の居場所を教える事だもの。ご主人がオレを撃つのかい?
ドン!
―――――静寂。
『気の毒に。あらぬ疑いを受けて、口の利けぬお前は命を取られたのか』
あんた、誰だい?なぁ、オレの坊ちゃんはどうなったんだい?
『あの子は魔化魍に声を食われたのだ。だが、誰もその現場を見ていなかったから、側にいたお前に疑いがかかったのだろう』
声を食われたって?なぁ、わかんねぇよ。坊ちゃんに会いたい、オレは上手に坊ちゃんの投げた棒を拾って来たんだ。坊ちゃんはどこだい?
『俺と一緒に来るか?坊ちゃんの敵を討ちたいか?』
あんたと一緒に行けば、坊ちゃんとまた会えるのかい?坊ちゃんとまた遊べるのかい?
『もう誰の事も坊ちゃんのような目に遭わせたくなかったら、俺と一緒においで。どのみちお前は、坊ちゃんのいる天国には行けないよ』
何故?何故?何故?
『だってお前は、坊ちゃんを護れなかったんだもの』
「おっ、起動した」
清い笛の音の余韻を心地よく感じながら、ルリオオカミは長い眠りから覚めた。調子を確かめるように、頭やカラダをブルブルと震わせるのは、魂が持っている思い出のせいだろうか。
あれから一週間ほど経った日曜日の夕方、『たちばな』の店の奥の和室。ショウキがにこにこと笑っている。ルリオオカミは訳もなく嬉しくて、ショウキの差し出した手を下からくぐって、鼻の先でつんつんと突いてみせる。
「何ですかこれ?頭を撫でろって事ですかねぇ?」日菜佳が不思議そうにルリオオカミを見ている。
「なんだかオオカミって言うより、犬っぽいわねぇ」破損したDAの最後の一匹を修理し終えたみどりが、お茶を飲みながら嬉しそうに言う。
「え?他のルリはしないの?俺のだけ?」
「うん。ここまで懐こいコは、ショウキ君のだけよ。やっぱりDAって持ち主に似るのかなあ?」
そういうもんですかねぇ、不思議ですねぇ、と続けながら、ルリオオカミの頭を撫でる日菜佳の左手には、婚約指輪が控えめに輝いていた。
「こんにちわー!」店の方で大きな声がする。尾賀だ。「あの、ほら、青いシキガミ、直ったぁ?!」
他に客がいないからいいものの、相変わらず周りをヒヤヒヤさせる発言だ。和室の三人は、思わずお茶を噴き出しそうになりながら店に急ぐ。
「おお!ショウキ君!丁度良かったよ!」尾賀はショウキの腕を力強く叩く。やはりこの人は、姉さんと言うより、兄さんだ。
「いや、あの、尾賀さん、どうなさったんですか?」
「今日は日曜日だよ、ショウキ君!学校は休みだ!」
「え?教育に休日は無いんじゃなかったんですか?」
「先生だってたまには昼酒呑みたい日があるさ!オンとオフ、仕事と休養、メリとハリだよ、ショウキ君!!」一週間前とは全く違う事をはきはきと答えると、尾賀はガハハと笑った。
とりあえず突っ込みは後回しにして、面食らっている日菜佳とみどりに、尾賀を紹介する。日菜佳とは連絡を取り合っている尾賀だが、メールや電話ばかりで面識は無かったらしい。
女たちはすぐに打ち解け、お茶や団子を真ん中に置いて、和やかに話し始める。
尾賀によると、小ぶりのイッタンモメンが壊した校舎のガラスなどの被害は、中庭の地下に溜まった微量な天然ガスが、何かの原因で爆発した、という事になったらしい。
自治体の杜撰な学校管理や、責任問題などについて、保護者と学校と議会は大揉めに揉めている、との事だ。そりゃ無理もないわな、とショウキは思う。
だが、そのうち校舎が直されたりして日常を取り戻していくうちに、皆の興味も薄れていくだろう。誰も直接的な被害には、遭わなかったのだから。
「生徒さんたちの様子は如何ですかぁ?怖い目に遭ったから、随分ショックを受けたんじゃないですかねぇ」
「いや、私も気になってさ、五人に直接聞いてみたんだよ。ところが、あの子たち魔化魍も鬼の勝鬼君も清めも見たはずなのに、何にも言わないんだよね」
「確か、一番小さい子は一年生でしたよね?強いショックで、記憶を封じ込めたって事は無いのかしら?」
「それはないみたいだな」そう言うと尾賀は、小さな紙袋を出した。「ねぇ、これ、ショウキ君に渡したかったんだ」ショウキが開けてみると、何やら細かいものがばらばらと出てきた。
「わぁ、可愛い!」みどりと日菜佳はそれらの品々を手にとって、歓声を上げる。「これ、みんな手作りみたいですけど・・・・」
「そう。飼育係五名による手作り。今朝ウサギの世話が終わった後に、みんなから頼まれてさ。渡して欲しいって」
「え?俺に?うわぁ、嬉しいなぁ・・・・・」
「あっ、違うんだよ。ゴメンねショウキ君。あんたの、オンシキガミに渡してくれってさ。なんだっけ、あの犬みたいなの」
「ルリオオカミ?」
「そう、それ!他には何にも言わないんだけどさ。言っちゃダメって事、あの子たちなりに理解してるみたいなんだ。なんか、いじらしいやね・・・・」
ショウキは丸めた紙を広げてみた。五人の子供と、ウサギと、青い犬らしい物が、大胆な構図で描いてある。そして、『ありがとう』の文字。カードはもう少し緻密な絵で、躍動感溢れるルリオオカミと『かっこいい』の文字。
千羽には程遠いが、折鶴を糸で連ねたものもある。ぶら下げてある短冊には『早く良くなってね』のメッセージ入り。
銀紙のメダルはルリオオカミの首に丁度良くかかるように短いヒモがついているし、ビーズでできたピンクのハートは、可愛い水色のリボンで結べるようになっている。
不覚にも、ショウキはちょっと、泣きそうになった。
「いい子たちだろぉぉぉ!泣けてくるほどいい子たちなんだよぉぉぉぉ!」
ウルっときたが、尾賀に先に泣かれてしまい、ショウキはタイミングを逸してしまった。みどりと日菜佳もそうらしい。
と、そこに、ひょっこりとルリオオカミが姿を現した。テーブルに乗って、子供たちからのプレゼントの匂いを嗅いでいる。
「良かったなぁ。これ、全部お前あてなんだよ」ショウキはメダルやリボンをルリオオカミの首にかけてやる。ルリオオカミは、どうだ、似合ってるだろう?とショウキだけでなく、日菜佳やみどりにも見せて歩く。
「あれ?喜んでるみたいですよぅ」
「ホントだ。きっと誰からの贈り物か、このコはちゃんとわかってるのね」
「さすがだ!さすが猛士の叡知!」尾賀は涙を拭うと立ち上がった。「さっ、みんな!呑みに行くよっ!今日は先生気分いいからおごっちゃう!」
「きゃー、ステキですぅ!先生!」
「お供しますぅ、先生!」
「いやちょっと・・・・」ショウキも慌てて立ち上がるが、奥の席にいたせいで、テーブルやら椅子やらがひっかかってすんなりと立ち上がれない。
「ちょっと、呑みにって、まだ昼間だし。ねぇ、日菜佳ちゃんお店どうするの?みどりさんまで、ちょ、ちょっと!」
ガタガタガッタン、と派手な音を立てて、ショウキは椅子と一緒に転ぶ。
「あ痛たた・・・・・」そのショウキの肩に、ルリオオカミがよじ登る。首に、ビーズのハートと銀紙のメダルを誇らしげにぶら下げて。
ルリオオカミは、オンシキガミになる前の記憶を、ひとかけらも覚えていない。思い出せないものは、仕方がないのだ。今、この心優しい鬼と共にいる。それだけで、充分だった。
またいつか、あのシゲっちやマコちゃんたちと、追いかけっこが出来る日が来るだろうか。
もし、その日が来たら、とルリオオカミは夢想する。
(棒っきれをうんと遠くに投げて欲しいな。どんなに遠くに投げたって、オレは上手に取って来て見せるんだけどな)
季節はゆっくりと、初夏にむかっていた。
=完=
463 :
DA年中行事:2006/05/05(金) 22:57:59 ID:D6leh2zU0
ひゃー、497kb。しんがり、もらっちゃいました。みなさん、ごめんなさい。
端午の節句、なので、『ショウキ』さんですよ。
ダンキさんはきっと、休みをとって鍛えに入っていたのかもしれません。
もしくは、千明ちゃんとデートか?どうなんでしょう。
裁鬼メインストーリーが最終回を迎えたり、新しいSS作家さんたちと出会えたり、
用語集サイトを立ち上げて下さった方がいたりと、弐乃巻も楽しくワクテカと過ごせ
ました。
参乃巻でもみなさん、宜しくお願い致します。
Good job!
465 :
DA年中行事:2006/05/06(土) 11:47:42 ID:e+BqzwFu0
オレは絵が描けないので、コピペのAAで。某ネタスレに投下したものなんだけども。
つ【寄り添う獣 巻の三】
;;; :::: ... ::::: ::;;;:::.....
;;;; ,,, 、、 ,i' :;;::.,,: 丶;;:;;:
ヾヾ ゞ ```
ゞゝ;;;ヾ :::,r' ` ` i、;;;ヽ;;; ヾ;;;
i;;;::::′~^ ` ` ;;; ″~ ~
ii;;::iヽ / ` ゞ:,,,:: ヾ 〃::;:
iii;::i ` ` ii;;;;::: :: ` `
iii;;::i ` ` ` iii;;;;::: ::
iiiii;;::i ` ` iii;;;;::: ::
iii.,ii;;:i, (r−リ) ∧ iii;;;;::: :::
iiiii゚i;;:i り*゚∀゚) (ミ轟シ*) ` iiiii;;; :::::
iiiiiii;;::i (つ且) (旦⊂ ) ||iiii;;;;::::
iiiiiii;;::::ヽ;;,,';;"'';;";;""~"`"`;.";;""'"~"`~"'';;,,, /iiiiii;;;;o;;;
iiiiiii;;::;';;" 幸せッス! `;;/i:ii iii;;;;;::::
ご愛読、感謝です!
500KBまであと2KBすれすれ!
このスレのラストは、
年齢的にカレーのような加齢臭の漂う裁鬼さんが
華麗に決めてほしい。
467 :
最後かな?:2006/05/07(日) 09:43:27 ID:Qx7nnjIt0
/ / / / / /
__,____
/. /// |ヽヽ\ / / 俺はまだ…戦ってるよ…。
^^^^^^^|^^^^^^
. / / \||/ / / //
( ミ裁シ) ∧
/ /⌒ ,つ⌒ヽ) // / /
(___ ( __)
"''"" "'゛''` '゛ ゛゜' ''' '' ''' ゜` ゛
hh
「音撃斬!閻魔さば…
バキッ
「あ」
俺でラストなら裁鬼さんは不滅
「俺は…もう…ダメだ…」
「裁鬼さんっ!!」
「…石割ぃ…おまえに これを…受け取ってほしい」
「!…これは……」