裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 肆乃巻

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1名無しより愛をこめて
「仮面ライダー響鬼」から発想を得た小説を発表するスレです。
舞台は古今東西。オリジナル鬼を絡めてもOKです。

【前スレ】
裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 参乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1146814533/l50


【まとめサイト】
http://olap.s54.xrea.com/hero_ss/index.html
http://www.geocities.jp/reef_sabaki/

【用語集】
http://www.iiyama-catv.ne.jp/~walachia/index.html
※用語集へはTOPの「響鬼」でたどり着けます


次スレは、950レスか容量470KBを越えた場合に、有志の方が
スレ立ての意思表明をしてから立ててください。

過去スレ、関連スレは>>2以降。
2漂泊の2ゲッター:2006/06/21(水) 21:49:35 ID:Qy9z0xmg0
俺としては疾風のごとく立った瞬間に2ゲットすることも容易い。
だがしかし、俺も大人だ。
貴様らにも「もしかしたら、俺でも2ゲットできちゃうかも〜?!」って期待を
させないと可哀相だしな。2ゲッターは1日にしてならず。
厳しいナローバンド時代は、そりゃ苦労も多かったさ。
>>4あたりに( ´,_ゝ`)プッ とも笑われたこともある。悔しかったなぁ
だがそれを乗り越え、心の傷を背負ってみんなが尊敬する「2ゲット」のレスができるわけだ。

しかし、俺はそんな素人には「2」は譲れない。なんせ俺の2ゲッター暦は13日になる。
ここまでの長文を書いても余裕でみんなの憧れ「2」はゲットできる。

2ゲット!
3名無しより愛をこめて:2006/06/21(水) 21:50:48 ID:D4yA+2920
【過去スレ】
1. 裁鬼さんが主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1131944389/l50(DAT落ち)
2. 裁鬼さんが主人公のストーリーを作るスレ その2
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1138029584/l50(DAT落ち)
3. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1139970054/l50(DAT落ち)
4. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 弐乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1142902175/l50(DAT落ち)


【関連スレ】
--仮面ライダー鋭鬼・支援スレ--
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1124581664/l50(DAT落ち)
弾鬼が主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1133844639/l50(DAT落ち)



4名無しより愛をこめて:2006/06/21(水) 21:52:41 ID:D4yA+2920
裁鬼達は人知れず戦っている

裁鬼、その実力は鬼の中でも1,2を争うが、連戦に次ぐ連戦で
その実力を出し切れず、敗北を重ねつつある

今日もまた癒えない傷を庇いつつ
正義と平和のため、裁鬼達は戦う

○色んなな鬼のSSドシドシ募集中
○DA、クグツもおっけ!
5名無しより愛をこめて:2006/06/21(水) 23:21:10 ID:+v9EvNmI0
保守もかねて。
1さん乙!

作品投下が無いと、落ちそうっす。
6名無しより愛をこめて:2006/06/21(水) 23:37:51 ID:ZsSQllM/0
>>1さん乙です。
今さっきまとめサイト見てびっくりした。仕事早っ!
7名無しより愛をこめて:2006/06/22(木) 15:08:36 ID:gJqXZU1dO
しかしこのスレも、裁鬼さんが主人公の〜時から数えて6スレ目か。
早いなぁ…
8高鬼SS作者:2006/06/22(木) 17:45:04 ID:ou58P/y40
まずは弾鬼SS様、乙です。
そう簡単に落ちるとは思えませんが、念のためさっき即興で書いた短編を一本投下します。
9仮面ライダー高鬼「或る日の関西支部」:2006/06/22(木) 17:45:48 ID:ou58P/y40
197×年、夏。
ドロタボウが現れた。
本来は田に湧く魔化魍なのだが、珍しく山中の泥沼に湧いた事で発見が遅れ、馬鹿みたいに大量に分裂しているという。
この日はコウキがシフトに入っていたのだが、一人では厳しい戦いになりそうなので他の鬼に救援を頼む事にした。
「……以上が現在既に作戦遂行中で動けない鬼よ」
あかねがコウキに説明する。
名前が挙がらなかったのはいつものメンバーだった。
「ではイブキに連絡をお願いします」
「それなんだけど彼、非番だから勢地郎くんと一緒に遊びに行って連絡が取れないのよ」
この当時は携帯電話が無いのだから仕方がない。
「ならばイッキをお願いします」
「彼、シフトの関係で連休になっちゃったから、それを利用してバイクで北海道まで旅行に行ったわよ」
そう言って一枚の絵葉書をコウキに見せるあかね。今朝北海道から届いたらしい。
「ドキならどうです?」
「どっかの山へ修行に行っちゃったらしいわよ。バキくんと一緒に」
こんな時に山篭りをしなくても、と自分勝手な事を思うコウキ。
「セイキはどうです?彼は一緒じゃないのでしょう?」
「セイキくん、今日お相撲の千秋楽だから、相撲好き仲間と集まって観戦してるらしいわ」
セイキの相撲好きをすっかり忘れていた。毎回千秋楽の日には休みを取り、大阪場所には絶対足を運ぶ程の相撲好きなのだ。
「ではニシキは?あいつなら……」
「それがね、ニシキくん、アイスクリームの食べ過ぎでお腹を壊しちゃったみたいなの」
あいつ、代々続く西鬼の名を継ぐからといって、少し調子に乗っていないか?あれ程食生活を改善するように言ってあったのに……。
いつの間にかコウキは警策を力一杯握りしめていた。
「残るはアカツキだけですか……」
「彼が素直に非番を返上して出撃してくれると思う?」
あかねの言う通りだ。
「そうだ、モチヅキ先生はどうです?お願いして一緒に出撃してもらいましょう」
「残念、モチヅキくんは夏風邪ひいてお休みしているわよ。医者の不養生だって笑いながら電話してきたわ」
笑い事じゃあないだろう。
結局コウキは単独で出撃し、その怒りを発散するかのように「紅」で大暴れをしてきたという。 了
10名無しより愛をこめて:2006/06/23(金) 20:07:46 ID:bVjtbATT0
念のため保守。
「肆」が四のことだなんて知らなかったよ。
11風舞鬼作者:2006/06/23(金) 21:21:17 ID:02Vh8y9K0
しばらく来てなかったら・・・・
いつの間にか新スレでつか・・・
肆の次は「伍」・・・その次は「陸」。
12仮面ライダー風舞鬼:2006/06/24(土) 02:53:45 ID:uqMjylfS0
一零七の巻「散華する楼鬼」後編

「師匠。信じられないかも知れませんが、ここに来るまでの間、サバキさんやランキさん達と集まった情報を検討した結果です。」
「・・・・・確かにお前の言う通りかもしれない・・・。十年前、気づけば俺はこの近くの海辺に流されていたところを発見されたのだからな・・・」
師匠の柔軟な返答にツラヌキは内心、驚いた。いつもの師匠は典型的な頑固親父だったからだ。
「そうか・・・だから十年間も行方が・・・・いや、しかし待て。いくら記憶喪失といっても、ちょっと不自然じゃないか?吉野が手当たり次第に捜索すれば、鬼の一人なんて簡単に見つかるだろう?」
とサバキが突っ込みを入れた。それに即座にランキが応じる。
「それは恐らく俺のせいもあるだろう。十年前のあの時、ロウキが一瞬にして消え去ったのを目撃したのは俺だけだから、吉野がロキを殉職扱いして丁重に処理したんだろう。」
「師匠・・・。あなたの本当の鬼としての名前は露鬼ではなく・・・・楼鬼です。」
「そうか・・・・・だが俺の記憶は埋まらない・・・・・。そこのお譲ちゃんが本当に俺の娘ならば・・・こうしては居られまい・・・!」
「ロウキ!?」
ロウキはスッと立ち上がると、ドカドカと宿を出て行った・・・・。
13仮面ライダー風舞鬼:2006/06/24(土) 02:54:17 ID:uqMjylfS0
「ここがまぁ、俺が十年前に流れ着いた海岸だ。とりあえず俺の記憶を辿って見よう・・・・」
ロウキはいろんな意味で島の子供たちから「変なオジサン」と言われていた。いきなり喜び、いきなり怒り出し、いきなり嘆いては、いきなり笑い出す。この上ない気まぐれを併せ持ち、趣味は宿の木の整備と足のつめを切ること。
そんなおかしくもやさしい人柄が子供たちに幅広い意味で変なオジサンと呼ばせているのかもしれない。
だからといってこの物語にその彼の「称号」が影響するわけでは決して無いのだが・・・・。
結局その日から一週間は何も収穫が無かった。あるときにはロウキの頭に清めの音を響かせたりもしたのだが。
そうこうしているうちに、山奥では魔化魍、マグワジが増殖していった・・・・。
14仮面ライダー風舞鬼:2006/06/24(土) 02:54:48 ID:uqMjylfS0
「皆さん、北の山で出たみたいです。」
「なにっ!?こんなときによくも・・・・」
「沖縄のはやっぱり独特なのかぁ?」
「ん・・・まぁそうですねぇ・・・本州と比べたら統一感なんて何も無いですし・・・」
「あ・・でも今の時期、そんなに強いのは居ないと思いますけど・・・・」
「あ、そうなの!?なんだぁ・・・このランキさまの腕の見せ所がないじゃんけぇ!(・・・・まぁ内心不安だったんだけどね)」
「じゃあ、みなさんお気をつけて!」
一行は遠足気分で向かった・・・・
一人は清く、一人は信念を背負い。
一人は記憶を求め、一人は雄雄しく。
一人はにこやかに・・・・・・・。



油断していた。

一零七の巻「散華する楼鬼」後編

最終編へ続く。
15高鬼SS作者:2006/06/25(日) 10:13:13 ID:JQBISFBS0
ちょっと時間があったのでSSを2本書いてみました。
一度に両方投下するのも何なので、まず一本投下し、もう一本は夜にでも投下します。

今から投下するものには魔化魍オオクビが出てきます。
書くに当たって用語集サイト様の所に掲載されていたものを参考にさせていただきました。
ただ、そこに掲載されていた文だけでは分からなかった箇所はこちらで創作しております。
それではどうぞ。
16仮面ライダー高鬼「鳴り響く三重奏」:2006/06/25(日) 10:15:05 ID:JQBISFBS0
コウキが四国支部のコンペキと再会したのは、中国支部に出向して間もなくの事だった。中国支部の表の顔である出雲蕎麦屋の店内で出会った時はお互いに再会を喜んだ。
「あの時お渡しした式王子はお役に立っていますか?」
笑顔でそう尋ねるコンペキ。昨年、関西にオンブオバケが現れた際、コンペキは本部を訪れている。
「うむ。あかねさんがあの後研究を重ねて、式神にも式王子同様の多様性を持たせたのがこれだ」
そう言って何枚かの色とりどりの紙を取り出し、音叉を鳴らすコウキ。
紙片はそれぞれ鷹、狼、猿、蟹、蛇の姿にひとりでに折られ、テーブルの上を動き回った。
コウキ曰く、この式神達は前々から試験的に制作・運用されていたが、式王子を研究した結果漸く完全なものとなったのだという。
「現在は関西支部の人間のみが使用しているが、近々全国に支給される予定らしい」
「すごいですね。これで魔化魍の探索もある程度楽になりそうですね」
新たな姿を与えられた式神達を見て、コンペキは微笑みながらそう答えた。
17仮面ライダー高鬼「鳴り響く三重奏」:2006/06/25(日) 10:16:22 ID:JQBISFBS0
1978年、睦月。
コウキ達中国支部への出向要員は、毎年元旦に執り行われる行事へと招かれた。
岡山県岡山市吉備津神社。
中国支部では、有名な鳴釜神事を正月に行い一年の吉凶を占うのである。
吉備津神社の境内にある御釜殿には、中国支部の全人員及び全出向要員が集まって神事の開始を今や遅しと待っていた。
その際、コウキの隣にコンペキが座り話し掛けてきた。
「コウキさん、明けましておめでとう御座います」
「やあ、おめでとう」
互いに近況報告を行う中、周囲にいる中国支部の鬼達がひそひそ話している声が耳に入った。
「あれが十匹殺しの……」
「馬鹿。二十匹だ。でも本当かなぁ……」
「本当だ。それと十でも二十でもない。三十匹だ」
後ろを振り返り、訂正するコウキ。若い鬼達は目を丸くして驚いている。
「あ〜、驚いた。急に振り返るんだから……。ところで隣に座っているのは……」
「ほら、四国支部の……」
「ああ、そうか。あの人が有名な『瀬戸内の戦女神』……」
未だ話を続ける中国支部の鬼達。コウキはコンペキに尋ねてみた。
「ウズマキが以前言っていた事は本当だったようだな。中国支部ではかなりの有名人じゃないか。『瀬戸内の戦女神』と呼ばれているのかね」
「正直初耳です。四国支部でそんな風に私を呼ぶ人なんて誰もいませんから……。コウキさんだって『疾風鋼の鬼』という通り名があるじゃないですか」
そっちの方が格好良いし羨ましいです。そう言うとコンペキは微笑んだ。
18仮面ライダー高鬼「鳴り響く三重奏」:2006/06/25(日) 10:17:42 ID:JQBISFBS0
神官が座に着き、祝詞を唱え始めた。いよいよ占いが始まったのである。
占いに使われる鉄釜の下には、吉備津彦命が退治した温羅(ウラ)という鬼の首が埋められており、鳴釜は温羅の鳴き声だとされている。
そんな伝承が残る儀式に、こんなにも沢山の鬼が参加しているというのも妙な話である。
釜が高く唸りを上げた。まさに地の底から響いてくるような音である。その音は、神官が祝詞を唱えている間ずっと続いていた。
儀式は滞りなく終了した。東曰く、あれは吉を表す音であり今年一年の幸福は約束されたという。
その後、殿内でそのまま新年会へと移行してしまった。流石にこれにはコウキも驚いてしまった。ただ、佐野曰くこれは毎度の事であり、神社側も承諾しているという。
料理の準備の最中、これまた中国支部の新年会では恒例となっている奉納舞が行われた。
舞を舞うのはレンキだ。巫女の装束に身を包んだレンキが、艶やかな舞を舞ってみせた。
「どうです、凄いでしょう?北陸支部へ出向中だった去年以外は毎年レンキさんが舞を披露してくれるんですよ」
コウキの傍で舞を眺めていた佐野がそう告げる。
中国支部の人間にとっては毎年見ている同じものに過ぎないわけだが、初めて見る出向要員の者達は、レンキの美しさも相まってすっかり見惚れていた。
19仮面ライダー高鬼「鳴り響く三重奏」:2006/06/25(日) 10:18:20 ID:JQBISFBS0
と、一人場違いにも大きな歓声を上げ、拍手をする者がいた。
「いいね、いいねぇ。お嬢さん、最高だよ」
見ると、なかなか体格の良い男が満面の笑みで拍手をしている。
「ちょっとヤミツキさん、静かにして下さいよ……」
「おいおいツマビキ。あんな素晴らしい舞を披露してくれているんだ。最大限の誠意で答えなきゃ」
「空気を読まずに大声を出すのが最大限の誠意ですか?」
ツマビキと呼ばれた若い鬼が困ったような顔を見せる。
しかしあの男は何者なのだろう。
「コウキさん、あの人、いつぞやかの大宴会で馬が暴れて出入禁止を喰らった人じゃないですか?確か九州支部の……」
これまたコウキの傍に居たウズマキがそう告げる。
ちなみに四国支部からは主に香川・徳島方面を担当している鬼のみが出向してきているため、主に高知を担当しているキリサキはこの場には居ない。
ヤミツキと呼ばれた男の姿を眺めながら、そういえばそんな事もあったなぁと思うコウキ。
何故かここ最近の大宴会に関しては記憶が曖昧な部分が多い。
と、突然ヤミツキが立ち上がりレンキの傍へと歩み寄ると、扇子を広げて一緒に舞い始めた。
「あらぁ〜、ええ舞いやなぁ」
「あなたには負けますよ。さあ、我こそはと思う者は一緒に舞おうぞ!」
そんな事を言われても、わざわざ出て行く者はヤミツキ以外誰もいなかった。
レンキと共に舞い続けるヤミツキ。これが大柄な体に似合わず意外と上手い。
はらはらしながら成り行きを見守っているツマビキ。
東は手を叩いて愉快そうに舞を眺めている。
この年の新年会は東曰く「例年以上にオモチロイ」ものになったのであった。
20仮面ライダー高鬼「鳴り響く三重奏」:2006/06/25(日) 10:19:49 ID:JQBISFBS0
同月。
コウキは人形峠での一件の報告の後、その場で催された宴会で酔い潰れ、中国支部に一泊した。
翌朝、コウキが二階の住居部分から一階の店内に降りてくると、開店前の店内に一人の女性がいるのが見えた。
コンペキだ。
自身の音撃管・臍淑女(ヴィーナス)の手入れをしている。
「おはよう」
コウキがそう挨拶すると、コンペキもコウキの方に向かい挨拶をした。
「ひょっとしてこれから出撃かね?」
「はい。オオクビが出たらしくって、私ともう一人でこれから退治に向かうんです」
オオクビ。卵を大量に産むため、早期発見と早めの駆除が必要とされる魔化魍である。
基本的に雨上がりに出るのだが、ここ数年は全国各地でイレギュラー的に魔化魍が発生しているため別段おかしな事ではない。
「そういえば君が本部に来てくれた時もオオクビを退治してもらったんだったな……」
あの日の事を思い出すコウキ。
「よし。あの時のお礼も兼ねて私も同行しよう」
「え!?よろしいんですか?」
当然だ。そう言うとコウキはバッグの中から音撃管・蒼穹を取り出した。
と、玄関の戸を開けて、一人の女性が入ってきた。
「あ、レンキさん。お待ちしていました」
「おはようさん。……あらぁ〜、コウキはんもおるやないの」
どうやらもう一人というのはレンキの事らしい。
「君も管が使えたのかね?」
「はいな。お師匠はんからは太鼓をなろうたけど、それとは別に管も勉強したんよ」
そう言うとレンキはにっこり微笑んだ。
21仮面ライダー高鬼「鳴り響く三重奏」:2006/06/25(日) 10:20:54 ID:JQBISFBS0
サポーターはいつもの通り八雲だった。急に同行する事になったコウキに初めは驚いていたが、直ぐに詳細な情報を教えてくれた。
八雲が運転する車内では、レンキが助手席に座り、コウキとコンペキが後部座席に座っていた。
「しかし大丈夫ですかコウキさん?昨日の今日だというのに……」
「心配は無用だ。この程度疲れの内には入らん。それに本部にもちゃんと連絡してある」
心配そうに尋ねる八雲にそう答えるコウキ。
一方、コンペキは引き続き音撃管の手入れをしている。
「君の音撃管、以前桂浜で見た音撃棒と比べてやけに新しいようだが……」
「ええ。『乙女』と『結晶』は代々伝わる物ですが、管と弦は私のために多々良さんが用意してくれた物なので比較的新しいんです」
にっこり微笑みながらそう答えるコンペキ。
やけに大人しいと思ったら、レンキも自身の音撃管・祭囃子を手入れしている最中だった。コウキも「蒼穹」を取り出し、手入れを始める。
そして数時間後、一行を乗せた車は現場の山中へと到着した。
22仮面ライダー高鬼「鳴り響く三重奏」:2006/06/25(日) 10:21:46 ID:JQBISFBS0
既にオオクビの出現場所の目星は付いているので、今日中に退治は可能だ。三人は式神を展開しながら目的地へと向かった。
そして。
「あれか……」
けたたましい羽音と共に、オオクビがその姿を現した。下半身が恐ろしいまでに膨らんでいる。
「今にも卵が産み落とされそうですね……」
「多少は産み落とされるのを覚悟の上でやるしかないな」
「ほな、はんなり行きまひょか」
三人は同時に音叉を鳴らした。そしてそれぞれ鬼の姿へと変身する。
「攻撃は私と紺碧鬼で行う。恋鬼は童子と姫を警戒していてくれ!」
「はいな!」
それぞれ「蒼穹」と「臍淑女」を構え、オオクビ目掛けて乱射しながら駆け寄っていく。
上昇して攻撃を躱すと、急降下し高鬼達に襲い掛かってくるオオクビ。それぞれ左右に避けて再度管を連射し攻撃する二人。
「くそ、早いな。弾が当たらん」
「上昇から降下へ移る瞬間に動きが止まります。その一瞬の隙を衝くしかありません」
と、別の場所から音撃管を乱射する音が聞こえてきた。恋鬼だ。おそらく童子と姫が出たのだろう。
「オオクビは私が引き受けた。君は恋鬼の援護に行ってやってくれ」
「分かりました!」
紺碧鬼を恋鬼の救援に向かわせると、高鬼は「蒼穹」を手にオオクビに向き直った。
23仮面ライダー高鬼「鳴り響く三重奏」:2006/06/25(日) 10:23:26 ID:JQBISFBS0
「祭囃子」を連射して怪童子、妖姫と戦いを繰り広げる恋鬼。しかしオオクビ同様この二体も動きが素早く、なかなか攻撃が当たらない。
と、いつの間にか妖姫の足元に伸びてきていた髪の毛が、物凄い勢いで妖姫の足元に絡みつき、その動きを封じた。
紺碧鬼の鬼闘術・舞踏髪だ。
「今です!」
「おおきに!ほな行きますえ!」
妖姫目掛けて「祭囃子」から圧縮空気弾を撃ち込む恋鬼。無数の弾を喰らった妖姫は血を噴き出し、そのまま爆発四散した。
「あとは童子ね」
髪を元に戻した紺碧鬼が「臍淑女」を構えながら言う。妖姫に気を取られている間に、怪童子はいつの間にか姿を眩ませていた。
「私の近くに」
恋鬼を自分の傍に来るように促すと、紺碧鬼は自らの髪を全方位に向かって広げ伸ばした。
木々の間を縦横に駆け巡り、髪の毛の網が周囲に張り巡らされた。
静かに相手の動きを探る紺碧鬼。と、一本の髪の毛に僅かながら振動が走った。
「あそこ!」
指を差す紺碧鬼。その場所目掛けて恋鬼が「祭囃子」を撃ち込んだ。それと同時に木陰から致命傷を負った怪童子が転がり出てくる。
「ほな、さいなら」
「祭囃子」の連射を受けて、怪童子は粉々に吹き飛んだ。
「はぁ〜、それにしてもえろう凄い髪やなぁ……」
「あの……また惚れたりしないで下さいね」
鬼面だからよく分からないが、紺碧鬼にはどうも恋鬼があの時同様とろんとした目でこちらを見つめているような気がして仕方がなかった。
24仮面ライダー高鬼「鳴り響く三重奏」:2006/06/25(日) 10:24:00 ID:JQBISFBS0
一方、高鬼はオオクビの動きをある程度見切り、その体に鬼石を撃ち込む事に成功していた。今のところ卵も産み落とされていない。
「行けるな」
音撃鳴・蒼天を「蒼穹」の先端に装着する高鬼。
と、オオクビが鞭のようにしなる針を伸ばして襲い掛かってきた。
だが。
激しい音と共に針が根本から吹き飛んだ。紺碧鬼と恋鬼の同時射撃が命中したのだ。さらに二人は、攻撃のため動きを止めていたオオクビに鬼石を撃ち込んでいく。
「二人とも、決めるぞ!」
「はいな!」
「任せて下さい!」
紺碧鬼が音撃鳴・女禍(ジョーカー)を、恋鬼が音撃鳴・風流をそれぞれの管に装着する。そして。
「音撃射・熱風乱流!」
「音撃射・刺激掃怪!」
「行きますえ!音撃射・千両花火!」
三人の放つ音撃がオオクビを包み込む。刹那、オオクビの巨体は空中で爆発四散し塵と化した。
「……終わりましたね」
「否、まだだ」
そう。まだ戦いは終わっていない。あのオオクビは卵を持っていた。という事は……。
次の瞬間、近くの木々の間から新たなオオクビが飛び出してきた。
「雄のオオクビ……」
「そういう事だ。行くぞ」
「紺碧鬼はん、おきばりやす」
そう言うと高鬼と共に音撃管片手にオオクビへと向かっていく恋鬼。紺碧鬼も負けじと後に続いた。
その後、三人が雄のオオクビを退治した事は言うまでもない。 了
25名無しより愛をこめて:2006/06/25(日) 14:09:07 ID:XItrjyWo0
前スレ読みなおしたけど用語集サイト様に一言。
鬼ストーリーの用語集については納得したけど
>なお響鬼用語集(上のほう)は放送や公式サイト、書籍や雑誌を情報源としていますので、
>公式設定と思っていただいていいはずです。
これは酷い。人の嗜好には口出しはしないけど
後期が嫌いでも木暮さんは好きだったり色々な人が居るんだし
主観による否定的な解釈が混じったあれを公式設定とみなせと?
私的な用語集だし直せとは言わないけど公式設定と記述するのは止めて欲しい。
26高鬼SS作者:2006/06/25(日) 23:07:51 ID:JQBISFBS0
お約束通りもう一本を投下します。
「宴の始末」や「惑わす小判」のように、今回は各支部の王が集まって会議をやります。
あんまりキャラが多いと動かすのも辛いので、五人しか出てきませんがw
そしていよいよ北陸支部長が出てきます。
あそこの支部は基本的にパロディキャラで固めてあるので、支部長も有名なマンガキャラのパロディです。
なお、伏線めいた会話が色々と出てきますが、書く予定のあるものもあれば未定のものもあるのであんまり期待しないで下さいw
ではどうそ。
27仮面ライダー高鬼番外編「集う王」:2006/06/25(日) 23:09:03 ID:JQBISFBS0
1977年末。
猛士総本部長・和泉一流の呼び掛けで各支部の「王」クラスが本部へと集結した……筈だった。
「東北支部、関東支部、東海支部、九州支部、沖縄支部が欠席……か」
報告を受けた一流がぼやく。
それもそうだろう。何せ二日前に思い付きで会議を開く旨を各支部に通達したのだから、都合が合わない者が殆どでもおかしくはない。
今回の会議の内容は、近年全国レベルで頻発する稀種の増加と、その裏で暗躍していると思われる謎の男女についてである。
おまけに昨年には関西支部で、今年には中国支部で八大天狗が復活を遂げているのだ。二度ある事は三度あるとも言うし、悠長にはしていられない。
……そんな大事な内容の会議を思い付きで開く一流も一流なのだが。
真っ先に会議室へとやって来たのは、四国支部長の小松辰彦だった。
「まだ開始時間じゃないですよ、小松の旦那」
「いえいえ、遅刻してくるよりはよっぽど良いでしょうから……」
一流に笑顔でそう答えると、小松は「四国支部長」と書かれたプレートの置かれた座席に座った。
次にやって来たのは行者姿の大柄で碧眼を持つ男だった。北海道支部長の十三代目トウキだ。
懐中時計を取り出すと、それを覗き込みながらトウキが喋りだす。
「少し早かったようですね」
「なに、もうすぐ始まる。早く席に着いていたまえ」
一流にそう言われたトウキは、一礼すると自分の座席に座った。
28仮面ライダー高鬼番外編「集う王」:2006/06/25(日) 23:10:09 ID:JQBISFBS0
開始時刻が過ぎても、これ以上誰もやって来なかった。
「……これはどういう事ですか?」
トウキにそう尋ねられ、一流は五つの支部が欠席している旨を伝えた。
「北陸支部と中国支部は来ると返事があったんだがなぁ……」
「中国支部の御大は時間には無頓着ですから……」
小松が苦笑しながら言う。
「北陸支部の大将が遅れているのも気になるな。まああの人も細かい事は気にしない主義だからなぁ……」
溜め息を吐く一流。
数十分後、豪快に入り口のドアを開けて中国支部長の東真一郎が入ってきた。
「いやぁ、遅くなりまして。実はね、出かける直前に急に大きい方をもよおしちゃって。最近便秘気味だったもんですから便所で暫く……」
「……そんな汚い話はいいですから、早く席に着いて下さいよ」
一流に促され、小松の隣の席に座る東。空席が目立つ会議室内を見渡すと、一流に疑問を投げ掛けた。
「こりゃ一体どういう事ですか?私を含めて四人しかいない!」
「その件に関してはいちいち説明するのが面倒臭いので、もう一人が到着したら説明しますよ」
「そうですか。だったらもっとゆっくりしてくれば良かった。佐野くんがあんまり早く早く言うもんだから、大好物のホットケーキも食べ掛けのまま来てしまった」
呆れ返って何も言えない一流。ずっと隣で苦笑している小松。トウキは目を瞑り黙したままだ。
29仮面ライダー高鬼番外編「集う王」:2006/06/25(日) 23:12:52 ID:JQBISFBS0
そして、最後の一人、北陸支部長が遂に到着した。
東以上に豪快な音を立ててドアが開く。
そこには、立派な髭を蓄えた、スキンヘッドに厳つい顔の、紋付袴姿の大男が立っていた。そして。
「儂が北陸支部支部長、鬼小島平八である!」
信じられないくらいの大声で自己紹介を行う鬼小島。その衝撃で机の上のプレートがびりびりと震えた。
鬼小島平八。北陸支部長。昔、素手で童子や姫と死闘を繰り広げたという本当か嘘か分からない逸話を持つ漢である。
本人曰く、戦国時代に上杉謙信に仕えた猛将・鬼小島弥太郎の子孫らしいのだが、弥太郎はその実在を疑われている人物だし、何より弥太郎の本名は「小島」なので誰も本気にはしていない。
「……鬼小島の大将、随分遅かったじゃないですか」
耳鳴りする耳を押さえながら一流が尋ねる。
「うむ。うちの『銀』が妙な薬を作ってスタッフ相手に人体実験を行っていたので、きつ〜く説教をしてきたところである」
そう言うと座席にどっかりと座り込む鬼小島。
漸く会議のメンバーが全員集まり、一流が欠席者について説明を始める。
「東海支部?……ああ、中部支部の事ですか」
東が納得したように頷く。
中部支部から独立して北陸支部が生まれた際、中部支部もその名称を東海支部に改めている。だが、皆使い慣れた昔の名称で今も呼んでいるのである。当の東海支部の人間でさえも。
30仮面ライダー高鬼番外編「集う王」:2006/06/25(日) 23:14:09 ID:JQBISFBS0
「関東支部の病欠というのは?」
小松が尋ねる。
「心労で胃を患ったそうです。あそこには問題児が二人もいますからね」
「ああ、確かシュキと……それからザンキ」
小松が納得したように頷く。
シュキとザンキ。二人とも総本部からスパイ疑惑を掛けられている鬼だ。それとは別に、普段から問題行動ばかり起こしている。
「ザンキという男ならうちに来た事があるぞ。尤も、儂はその間外出しておったから直接会ってはいないが」
鬼小島がそう言う。小松も頷いた。
「彼ならうちにも来ました。忘れもしませんよ。一人やけに意気投合して洋楽の話ばっかりしている者もおりましたが……」
ちなみにそれはキリサキの事である。
「あの白人男性でしょう?うちにも来ましたよ。案内役を任せたジョウキと何やら話していましたが、別段変わった事は……」
トウキもそう告げる。
「ああ、あの人ですか。それならうちにも来ました。でもすぐに帰りましたよ?うちの『銀』の太田くんが何やら怒鳴っていたのを覚えていますが」
東が語る。どうやら豊太郎は西独逸に滞在していた頃、ザンキと出会った事があるらしい。
(いずれは関東支部長職を別の人間が引き継ぐとして……任命された奴は大変だろうな)
そんな事を考える一流。しかし、後に自分の息子の親友を関東支部長に任命してしまうわけだから、そう考えると酷い話である。
31仮面ライダー高鬼番外編「集う王」:2006/06/25(日) 23:16:09 ID:JQBISFBS0
「まあ、あの胡散臭い白人は置いといて会議を始めましょう」
「もう一つよろしいですかな?九州支部の事ですが……」
小松が再び質問する。
「それは私も気になりました。何ですか、店がピンチだからというのは?」
同じくトウキが質問した。それに答える一流。
「九州支部は表の顔が花を取り扱っているというのは御存知でしょう?」
一同に向かって尋ねる一流。その場に居た全員が頷く。
「売り物の花を全部食われたらしいんですよ。九州支部に所属している鬼の飼っている馬に」
「それはひょっとしていつぞやかの大宴会で大暴れしたという馬ではありませんか?出席していた鬼が教えてくれました!」
興奮しながら東が尋ねる。無言で頷いて肯定する一流。
「その鬼――ヤミツキは九州支部の中でも一、二を争う腕らしいのですがね。しかし馬のせいで向こうも持て余し気味らしいですな」
何処かの支部に引き取ってもらえないかと言っていましたよ。そう言いながら鬼小島の顔を見る一流。他の三人もそれに倣った。
「何故儂の顔を見るのかね?」
「今更問題児が一人増えても構わないでしょう?」
そう言う一流に対し、反論する鬼小島。
「ふ、問題児か。だが儂の知るドクハキや代田は、実際には照れ屋で優しい心を持つ男達であるぞ」
彼等を知る人間(特に弥子)が聞いたら猛抗議するであろう台詞をさらっと吐く鬼小島。さらに。
「そう言う本部が引き取ってはどうかね?ついでにシュキかザンキのどちらかも引き取ってやれば関東支部長の心労も軽くなるというものであろう」
至極真っ当な意見で切り返す鬼小島。
「ふ、ふざけた事を言わんで下さい!何故うちが……」
「悪くないかもしれませんね。既に関西支部は秋田の天美家の跡取り息子を引き取っているではありませんか」
東北支部長も喜んでいましたよ、とトウキが告げる。
32仮面ライダー高鬼番外編「集う王」:2006/06/25(日) 23:16:41 ID:JQBISFBS0
「あれはだな、その……、兎に角駄目なものは駄目だ!」
そう怒鳴り返す一流。
「名家の子息は良くて、それ以外は駄目なのですか?」
東が一流に尋ねる。
「そんな事言うなら御大の所で引き取って下さいよ!大体、そちらの女鬼が大会議の度に色んな支部の鬼に惚れまくって大変なんですから!」
無言で頷くトウキ、鬼小島、小松。特に鬼小島のいる北陸支部は、噂のレンキがつい最近まで出向してきていたため他人事ではないのだ。
が。
「……良い女子であった」
ぼそりと呟く鬼小島。どうやら彼もレンキに惚れられ、しかも悪い気がしなかったらしい。
「それなんですが、九州支部長曰くうちへの出向要員にそのヤミツキくんを入れておいたんだそうです!今から会うのが楽しみですよ。是非とも噂の馬を見てみたい!」
まるで子どものように嬉しそうに話す東。
「四国支部長。あなたのいざなぎ流の術で何とか出来ませんかな?」
「そんな便利な事が出来たら、世界征服でもしていますよ」
鬼小島の提案を冗談交じりに受け流す小松。
「……あ〜、もういいや。会議を始めましょう……」
強引に話を進めようとする一流。
しかし、この後も会議はぐだぐだな展開が続き、最終的にはそのまま宴会になだれ込んでしまったという。 了
33仮面ライダー高鬼番外編「集う王」おまけ:2006/06/25(日) 23:17:57 ID:JQBISFBS0
用語解説
「うちの『銀』が――説教をしてきたところである」
 人体実験まがいの行為をしていた事が支部長にばれた代田が、ドーピングコンソメドラッグを使って自らの肉体を強化し逃走を図った事件。
 豪雪の中、鬼小島は逃げる代田を倶利伽羅峠まで追い掛けて捕まえたという。
 ちなみに鬼小島はドーピングも何もしていない生身のままであった。
 以来この出来事は「昭和版倶利伽羅峠の戦い」として十年以上もの間北陸支部で語り継がれるようになった。
34中四国支部鬼譚作者:2006/06/25(日) 23:33:53 ID:rI61T5qd0
遅くなりましたが新スレ乙です。

次の話がなかなか書き上げられないので、つなぎとして短編を一本書いてみました。
何を書こうかと考えたところ、以前にコナユキさんが可愛いって言ってくれた方がいたので、
コナユキさんの語りにしてみました。
今回は直接投下ということで、どうぞ。
35中四国支部鬼譚 番外之巻「生きる道」(1):2006/06/25(日) 23:34:28 ID:rI61T5qd0
 雪解けの季節を間近に控えて、肌に吹きつける風はまだ冷たい。
 今日も私は、新しくできたばかりの「後輩」に楽器を教える。
 早く上手くなってほしい。でも、教える私が焦っちゃいけない。
 慌てず急がず、歩調を合わせて。
 Au pas camarades, au pas au pas au pas…

     *     *     *

 私は、木庭梢(こば こずえ)。
 皆からは「もっと若いでしょ」と言われるけど、今年で二十七歳になる。
 三十路で中堅、三十代後半ともなれば相当のベテランと言われるこの世界において、私が「若さ」を武器にやっていける期間はもうそんなに長くない。
 透き通るような白い肌、つややかな緑の黒髪――と、人は私の外見をそんなふうに形容する。
 白雪姫みたい、という喩えを持ち出す人もいた。
 白雪姫といえば、雪のように白い肌、血のように赤い唇、黒檀のように黒い髪……だったかしら。
 名は体をあらわす、というけれど、奇しくも私がこの世界に入るとき与えられた名前は「粉雪」。
 まるで芸者さんの源氏名みたいで、自分でも結構気に入ってる。
 この名前で呼ばれることにも最初は違和感があったけど、この世界に入って六年、もうすっかり「粉雪」が板についてきた感じかな、なんて。
36中四国支部鬼譚 番外之巻「生きる道」(2):2006/06/25(日) 23:36:10 ID:rI61T5qd0
 小さい頃から、この世界の人たちは私の憧れだった。
 私の父は、この世界の人たちのために道具を作る技術者。だから子供の頃から、私の周りにはいつもこの世界の人たちがいた。
 普通の人にはできない特別な仕事をしている人たち。そんな人たちに私はずっと憧れていたし、彼らに慕われる父のことも凄いと思っていた。
 小学校の頃から父の手伝いを始めた私は、将来は父と同じ仕事に就くことになるんだろうと漠然と考えていた。
 ……小学校といえば、私が音楽に興味を持ち始めたのも、その頃だったのかな。
 この世界の仕事が音楽と関係しているのは幼い頃から知っていた。それを具体的に初めて見たのが小学校の頃。父が連れて行ってくれた演奏会でのことだった。
 吹奏楽の舞台と、和太鼓の舞台の二部構成だったのを覚えている。ステージの上には、見知った人の姿がいくつもあった。この世界の人たちや、その仲間たち。人それぞれに様々な楽器を操り、音楽を奏でる彼らの姿はとてもかっこよかった。
 演奏会は、本業の合間に皆で集まって開いているんだと父は言った。父自身は音楽をやる人ではなかったけれど、父はそれから毎回、演奏会が開かれるたびに私を連れて行ってくれた。
 私は音楽が大好きになった。父の仕事場にいくつも並んでいる楽器(に似たもの)を一日中眺めていても飽きることがなかった。
37中四国支部鬼譚 番外之巻「生きる道」(3):2006/06/25(日) 23:36:43 ID:rI61T5qd0
 中学校に上がって、私は迷うことなく吹奏楽部に入った。そこでは、父が作ったり直したりしている「楽器に似たもの」ではなく、まさしく本物の楽器を間近に見ることができた。
 体験入部の間にあらゆる楽器を体験してみて、私が選んだのはクラリネット。黒光りする木製の縦笛を銀色のキイが縦横無尽に取り巻く、美しい楽器。
 私は休みなく部活に没頭した。その一方で、父の仕事を手伝える時間はぐっと減ってしまった。あるとき、私がそのことを父に謝ると、父は「梢は梢の好きなことをやればいいじゃないか」と笑っていた。
 先輩、同級生、そして後輩。多くの仲間と一緒に音楽に打ち込む日々はとても楽しかった。
 中学の三年間は瞬く間に過ぎ、私は地元の高校に進学した。そこでも私は吹奏楽部に入って、またクラリネットを吹くことになった。
 あるとき、嬉しい出来事があった。例の演奏会のメンバーに私も入れてもらえることになったのだ。憧れだった人たちと初めて一緒にステージに上がったときの喜びは、今でも忘れられない。
 そこと部活との両立は難しかったけれど、大好きな音楽のことならいくらでも頑張れた。
 高校時代はかなりモテたのよ、と、意味はないけど付け加えておく。
38中四国支部鬼譚 番外之巻「生きる道」(4):2006/06/25(日) 23:37:17 ID:rI61T5qd0
 私がこの世界の人間になりたいと思い始めたのは、一体いつからだったのかな。
 この世界の人たちと一緒に音楽をやるようになって、この世界のことを前よりもよく知った私。
 ある日、楽器(に似たもの)の整備をする父を手伝っていたとき、私は思い切って父に告げた。
 あの世界をサポートする仕事に就くんじゃなくて、私自身があの世界に入ってみたいと。
 ダメだと言われると思ったけど、父は意外なほど快く許してくれた。
「梢は梢の好きなことをやればいい」

 そして、高校を卒業した私は、この世界の人のひとりに師事し、修行に身を投じた。
 二年と半年が過ぎた。二十一歳の秋、この世界で独り立ちするために必要なすべてを身に付けた私は、晴れて、この世界に身を置くことになった。
 そのとき、父は私の仕事道具として、クラリネット(に似たもの)を特別に作ってくれた。
 私に与えられた「粉雪」という名前に合わせて、父がそのクラリネットに付けた名前は「垂氷(たるひ)」。リードは「結晶」。それらを私に手渡して、父は「頑張れ、梢」と言ってくれた。
 私は嗚咽を抑え、やっとのことで「ありがとう、お父さん」と言葉を紡いだんだっけ。

 そういうわけで、「パパから貰ったクラリネット」が私の相棒。
39中四国支部鬼譚 番外之巻「生きる道」(5):2006/06/25(日) 23:37:48 ID:rI61T5qd0
 今から二年前、ふとした切っ掛けで私は「師匠」になった。
 弟子は、木下喜久子という女の子。二十歳だって言ってた。
 私は彼女にクラリネットを一から教えた。吹奏楽部を六年も続けたんだから、楽器を教えるのは慣れてるつもり。
 彼女ももともと相性が良かったんだろう、見る見るうちに上達してくれて私も嬉しかった。
 私は、部活の後輩に接するのと同じ要領で彼女に接した。彼女も私のことを先輩のように慕ってくれた。
 その一年後、私に二人目の「後輩」ができた。
 私のサポーターを務めることになった子で、名前を日野美咲といった。
 この世界の人間になるために私に師事した喜久子ちゃんと違って、美咲ちゃんには楽器を習得する義務なんてない。だけど彼女には、私と喜久子ちゃんが楽器を吹いてる姿が、楽しそうに見えて仕方なかったみたい。
 喜久子ちゃんも、後輩ができたことで張り切って、ぐんぐん腕を伸ばしていった。
 音楽だけじゃなく、この世界に入るための他の要素についても、喜久子ちゃんは覚えが良かった。
 いつか喜久子ちゃんが独り立ちするとき、名前をつけてあげるのは師匠の私の役目。喜久子ちゃんにはどんな名前が似合うだろう? 喜んでくれるかな? ――なんて、気は早かったけど、そんなことを考えるのが楽しくてならなかった。
40中四国支部鬼譚 番外之巻「生きる道」(6):2006/06/25(日) 23:38:23 ID:rI61T5qd0
 でも、半年前。
 私は喜久子ちゃんを本業の現場、いつ命を落としてもおかしくない危険な場に連れて行って、そこで、逝かせてしまった。
 正確には「行方不明」だけれど、現場で姿をくらますことが何を意味するか、この世界の人間なら誰もが知ってる。
 あの場で喜久子ちゃんを守ってあげられるのは私だけだったのに、私は何もできなかった。
 目の前が真っ暗になったのか、それとも真っ白になったのか、とにかく私は何日もの間、何も考えられなかった。
 同僚たちや父がしきりに私に何か言ってくれた気がするけど、それも何も覚えてない。何日経っても、私の心は空っぽのままだった。
 ある時のこと、私は泣き叫びながら「垂氷」を壁に叩きつけた。
 この仕事も、音楽も、何もかもやめてしまおうとして。
 だけど、歴々の技術者たちが何百年かけて培ってきた伝統の技と、最新の科学技術との集大成であるそれは、女の私が何をしたところで傷一つ付けられなかった。
 そして私は一つのことを悟った。

 私には、この仕事を続けることしか残されてないんだ。
 それが喜久子ちゃんのためだから。
 それから半年が経って、私は善道要平くんを弟子に迎えた。
 喜久子ちゃんや美咲ちゃんと同じように、彼も楽器に触れるのは初めて。
 善道くんには、どんなふうに教えていこうか。
 善道くんは、どんなふうに成長してくれるんだろう。

 彼は、もと自殺志願だったらしい。
 彼をこの世界に連れてきた、一回り年上の同僚がそう言っていた。
 あるとき、ふと善道くん本人に確かめると、彼は言った。
「それまでの俺って、悩みが無さ過ぎて。毎日が同じ繰り返しで」
「こんな人生なら無くても同じかな、って――」
「だけど今は違います。今は……」
「今は、ちゃんと悩みだってありますし」
 善道くんの今の悩みって、楽器を習い始めてから二週間も経つのに音の揺れが直せないことなんだって。
 それは日々の練習を重ねれば直るよ、善道くん。一緒に練習しよう。

 毎日、善道くんも美咲ちゃんも、楽器の練習をほんとに頑張ってる。
 私は二人に教えながら、いつも心の中で願う。
 もう誰も、いなくならないで。
 そしていつも、心の中で誓う。
 私が必ず、守るから。

     *     *     *

 神代の歴史を乗せて、風は出雲の里を吹き抜ける。
 冷たい風を全身に受けて、今日も私たちは修行に励む。
 過去、未来、そして何より今をしっかり踏みしめて。
 Au pas camarades, au pas au pas au pas…

(番外之巻 完)
42仮面ライダー風舞鬼:2006/06/26(月) 22:22:02 ID:JFzKmVSB0
一零八の巻「散華する楼鬼」最終編・T

九州支部・・・・・。
そこでは吉野からのとある報告による緊急会議・・・九尾復活に関わる話し合いがされていた。

「今日は残念ながら2名ほど沖縄へ出向いていて居ないが、九尾復活に関しての臨時会議・・・つまり早急に決をとって吉野に連絡しないといけないんだ。みんなよろしく頼むよ。」
「事務局長。そんな前振りはいいから、魔化魍が手につけられなくなる前に、さっさと済ませましょう。」
「ああ・・・言い忘れていたが、この会議・・・・。フブキ君・・・というよりフブキ君の弟子についてなんだよ。」
フブキは思わぬ展開に目が飛び出そうになった。
「辰洋が九尾に関することで何かしたんですか!?」
「いや・・・辰洋君に非はない・・・。実は昨日・・・吉野の占い師が予見をしてね・・・。いや、別に占いを信じているわけでもないが、その占い師は過去の出来事を百発百中で当ててるんだ・・・。」
「それで、どんな予見が・・・?」
「・・・・その予見は、吉野の伝承と全く同じだったらしい。その伝承記録が・・・これだ。」
そういうと田所事務局長は、パソコンからモニターに映像を映し出した。そこには古い紙にこう記されていた。
43仮面ライダー風舞鬼:2006/06/26(月) 22:22:38 ID:JFzKmVSB0
遥かなる時、九つの國にて、九つのバケギツネ降臨せしめる。
その者ら絶やさんと13の鬼、各國を巡り、清めたるが、鬼は敵わず。
その者らは天の力、頂くとのみ言ひ残し、神たる者の下に集結し、九尾となりけり。
鬼、再び清めんと、神たる域に足を運ぶが、届くこと敵わず。
神たる者、その御許より九尾を祓い、九尾、更なる力を求め、去りにける。
神たる者、幾年たつと再び現れる者を斬り伏せ、天ノ剣を手中に収めける。
そののち、玄冬ノ蝕にて常闇ノ皇は復活せしめるであろう。
これには神は成す術なく、國は滅び散るほかなし。
その神、天が下を照らす神。御隠れの身、辰を頭に持つ者なり。
44仮面ライダー風舞鬼:2006/06/26(月) 22:23:07 ID:JFzKmVSB0
「この伝承では、九尾復活にはその神サマとやらが深く関わりを持っているようだ・・・」
「最後の一文・・・・。気になりますねぇ。」
「辰というのは、意味としては二つある。一つは十二支の辰。そしてもう一つの意味は・・・・。」
「・・・・神の子・・・もしくはそれに準ずる程の位の高い者・・・。」
フブキは少し面食らった。何故にそこまで話がすすむ!?
「えぇーーー、事務局長。その伝承が現実となる可能性が高いことは認めます。過去にも100%で当ってますしね。ただ、どうしても腑に落ちないのが、キュウビの現状と辰洋の成長です。」
「つまり・・・・このキュウビがいつ現れてもおかしくないという時期に、辰洋くんが魔化魍に対抗できる筈が無い・・・と。」
「はい。」
「神サマ的な霊力を備えてるなら、どうにかなるでしょう!?」
ぶりっ子のレイキ(玲鬼:女性)が割って入った。その瞬間、他の10人の鬼が一斉に注射針の如き視線をレイキにぶつけた。
「・・・・・確かに、辰洋は異例的なスピードで成長を遂げています。炎の気の使い方もそれなりに優れていますし、なによりアイツが秘めている潜在能力は相当なものです。・・・ですが。」
フブキは少し間をおき、頭の中で言葉を整理した。
「それでもやはり大妖怪といわれるほどの相手に向かうのはいくらなんでも無茶すぎます!」
「キミの意見はきわめて正論だ。それには私も同意するよ。」
「だったら何故?」
「・・・・彼にしか出来ないことだからだよ。」
「・・・・・・・・・。」
「それにだ・・・キミは師匠なんだ。師匠なら・・・・彼を影で助けることも出来るだろう。それが我々。キミ。辰洋くんに負わせられた宿命かも知れないのだからね。」
「・・・・何があっても、アイツは護りますよ。」
「そうか・・・・。それじゃあ、今日はこれでお開きとしようか。吉野には・・・フブキ師弟をはじめ、九州の我々が九尾討伐を致すと伝えておくよ。」

最終編・T  終わり
45風舞鬼作者:2006/06/26(月) 23:35:36 ID:JFzKmVSB0
たった今、ぼくはこの作品を完全にパロディとします。
それを踏まえてですが、補足です。
九州13鬼+αとは・・・
1、風舞鬼(フブキ♂)
2、嘶鬼(イナナキ♂)
3、捌鬼(サバキ♂)
4、爛鬼(ランキ♂)
5、八裂鬼(ヤツザキ♂)
6、玲鬼(レイキ♀)
7、万鬼(バンキ♂)
8、流鬼(ルキ♀)
9、画鬼(カッキ♂)
10、十鬼 (ジッキ♂)
11、卯鬼(ウキ♀)
12、阿鬼(アキ♂)
13、吽鬼(ウンキ♂)
+α、貫鬼(ツラヌキ♂)・・・・・後の狼鬼(ロウキ♂)

ちなみにいわゆる古文書の伝承に出てきた、常闇ノ皇(とこやみのみすらぎ)。
思いっきり、ゲームの「大神」ネタですよw
ていうかもう、九尾復活自体を強引に大神ネタに引き上げちゃいましたしねw 
46仮面ライダー風舞鬼:2006/06/27(火) 23:08:29 ID:j4eT9E1V0
一零九の巻「散華する楼鬼」最終編・U

「辰洋。少し話がある。今から支部に来てくれるか?」
フブキは携帯で辰洋を支部に呼んだ。先日の会議でのことを伝えるとともに、二人だけで話すためだ。

「こんばんわ〜〜〜。」
「よっ。悪いね、こんな時間に。」
「いえいえ。それで、話っていうのは?」
「実は昨日さ・・・緊急会議があってね・・・。」
フブキは大まかな筋書きを伝えた。その話は辰洋にはとても信じがたい内容であったため、黙するほか無かった。
「俺も信じられないことは同じなんだ。だけど・・・もはやその占いと伝承が、今のこの九州の現状と一致してるんだから・・・。」
「それは・・・・本当にありえることなんですか?」
「・・・・こういう世界だ。魔化魍だって一般人から見れば単なる伝説上だけの代物だしな。・・・・・とにかく、事は一刻を争う。お前に覚悟はあるか?」
「・・・・・・。」
「無理も無い。なんだかんだ言ったって、17歳だ。覚悟しろといわれてもできなくて当たり前だろうな。」
辰洋は小さく頷いた。
「そろそろ俺・・・・“成り角”に戻んなくちゃいけないんだよねぇ。」
47仮面ライダー風舞鬼:2006/06/27(火) 23:14:09 ID:j4eT9E1V0
フブキは飄々とした態度でサラリと言うと、辰洋に背を向けた。
「そこで提案なんだけど・・・・・お前が弟子入りして半年を過ぎた。そろそろ本格的な修行をしようと思ってんだ。」
「・・・・うぇ!?」
「もしかして、今の“甘い修行”で精一杯か。情けないねぇ・・・・。」
フブキの本格的修行方法。これは他の師匠格の鬼の指導方針と比べ、かなりキツいもので、「五大修行」の一つに数えられている。
「でもな。それをやり遂げたとき・・・・お前の潜在能力なら、九尾とも渡り合える筈だ。」
「・・・・・・・・・・・・・どのくらいかかるんですか?」
「ざっと見て、あと一年は必要だろうな。」
「フブキさん・・・俺・・・。」
「いいか。これだけは忘れるな。お前の人生、誰に決められるもんでもない。お前が自分自身で決めることだ。ただ・・・・道はいろいろある。今晩だけじっくり考えろ。」
「・・・・・・・。」
「俺は明日、朝10時にここを出なくちゃいけない。それから吉野へ行って、宗家当主に拝謁・・・・その折に、例の占い師に会おうと思う。お前が鬼の道を本当に進もうとするとき・・・・それがお前の掛け替えの無い瞬間になる。」

一零九の巻 終わり
48名無しより愛をこめて:2006/06/30(金) 21:21:30 ID:UixFeH7J0
なんか動きが無いな・・・
49高鬼SS作者:2006/06/30(金) 21:28:16 ID:7y++dgfH0
一本投下します。

あのとんでもない話が初登場になってしまったソゲキさん。
ちょっと可哀そうなので、そんな彼の活躍する話を書いてみました。
それではどうぞ。
50仮面ライダー高鬼「狙い撃つ鬼」:2006/06/30(金) 21:29:33 ID:7y++dgfH0
北陸支部所属の管使い、狙撃鬼。
その名の通り長々距離からのピンポイント狙撃を得意とし、彼専用に本部で特注されたスナイパーライフル型音撃管・弧光を扱う。
だが、そういう経緯で制作された「弧光」は本部の開発局でしか修理・調整が出来ず、そのため彼は定期的に本部を訪れるようにしている。
1978年、皐月。
この日も彼は「弧光」を持って吉野にある総本部を訪れていた。
51仮面ライダー高鬼「狙い撃つ鬼」:2006/06/30(金) 21:30:43 ID:7y++dgfH0
研究室に入ると、当時の開発局長である南雲あかねが何やら頭を抱えていた。
そんな彼女に話し掛けるソゲキ。
「あの、北陸支部のソゲキですが……」
「ソゲキくん!?そっか、今日『弧光』の調整に来るんだったね!すっかり忘れてたよ!」
やけに嬉しそうに話すあかね。今一つ事情が呑み込めないソゲキがあかねに尋ねる。
「やけに嬉しそうですが、何か……?」
「嬉しいよぉ〜。『弧光』の調整は今すぐやるからさ、一つ頼まれてくれないかな?」
そう言うとあかねは事情を話し始めた。
「コウキくんって鬼を知ってるよね?『疾風鋼の鬼』の」
「ああ、いつぞやかの大宴会で死にかけていたあの人ですね」
あの時はうちの支部の者がご迷惑をお掛けしました、と頭を下げるソゲキ。
「う〜ん、間違ってはいないけど、ここは『三十匹殺しの』って言ってあげようよ。ほら頭を上げて」
あかね曰く、そのコウキが魔化魍に敗れ撤退を余儀無くされたという。
相手の魔化魍はオオムカデ。滋賀県の三上山に出たのだという。
「三上山……。ああ、昔俵藤太が大百足を退治したという伝説の残る場所ですね」
伝承では確か三上山を七巻き半する大百足だったと伝えられている筈だ。
「今回出てきたのはそこまで大きくはないんだけど、かなり成長していてね、とても手強いのよ」
オオムカデは頑強な表皮を持つため、基本的に弦の鬼が担当する。コウキは弦も使えるため退治に向かったのだが……。
「彼の音撃弦・五月雨はちょっと劣化が激しくてね、今回の戦いでとうとう使い物にならないくらい砕けちゃったのよ」
しかしそれでもオオムカデの体に傷を付ける事には成功したという。
「そこに音撃鼓を貼り付けて音撃を決めれば倒せるって、再度出撃しちゃったんだ、彼」
「何となく仰りたい事が分かりました。僕にコウキさんの援護に行ってほしいと?」
にっこり笑って頷くあかね。
「そうなのよ!オオムカデの弱点は眉間なの。そこを狙えば一瞬だけど動きを止める事が出来る。……頼めるかしら?」
「任せてください」
決めポーズを取って笑顔で応えるソゲキ。
「良かったぁ〜。じゃあ早速『弧光』の調整を進めるから待っててね」
そう言うとあかねは「弧光」を受け取り、作業を開始した。
52仮面ライダー高鬼「狙い撃つ鬼」:2006/06/30(金) 21:31:50 ID:7y++dgfH0
滋賀県三上山。
既に二十メートルを超えるまでに成長したオオムカデを相手に奮闘している高鬼。二度目という事もあってかオオムカデの攻撃を華麗に避けていく。
だが。
「来る!くっ!」
オオムカデが口から吹き出した酸が、さっきまで高鬼が立っていた地面を焦がした。オオムカデはこの酸を牙から獲物に注入し、その肉を溶かして食らうのだ。
回避した高鬼に向かって、無数の足を蠢かせて物凄い速さでオオムカデが体当たりを仕掛けてくる。
「破っ!」
跳躍と同時に、その背に向けて鬼棒術・小右衛門火を放つ高鬼。しかしオオムカデの硬い外殻に弾かれてしまう。
着地した高鬼に再び酸を吹きかけてくるオオムカデ。回避し損ね、腕に少量がかかってしまう。
「ぐっ!」
焼ける腕を押さえながら距離を取る高鬼。このままでは弱点の眉間を狙うどころか、音撃鼓を貼り付ける事も出来ない。
イブキあたりにでも援護を頼んでおけば良かった。そう後悔するも、今更どうしようもない。
目の前の獲物――即ち高鬼を食らうべく、オオムカデがじりじりと迫ってきた。

一方、ソゲキは現場を一望出来る、切り立った崖の上に陣取っていた。
その手にはあかねが急ピッチで調整を終えた「弧光」が握られている。
うつ伏せた状態で「弧光」を構え、スコープを覗くソゲキ。狙いはオオムカデの眉間だ。
しかしオオムカデは素早く動き回るのでなかなか照準が合わせられない。酸を吹きだす時に動きを止めるが、上手い具合にこちらに眉間を向けてくれない。戦っている高鬼も疲れてきているようだ。
一瞬のチャンスを待ち、微動だにせず「弧光」を構えるソゲキ。彼の額から汗が流れ落ちた。
万が一外せば、オオムカデはすぐさまこの崖を登り自分に襲い掛かってくるだろう。
だがソゲキには撃てば確実に仕留める自信があった。後はその瞬間を待つだけだ。
そして遂に、絶好の瞬間が訪れた。
酸を吹き出すべく動きを止めるオオムカデ。照準が眉間に定まる。
一瞬のうちに風向きや空気抵抗等による誤差を修正し、銃爪を引くソゲキ。
乾いた銃声と共に「弧光」から放たれた一発の鬼石が、他の箇所よりも薄いオオムカデの眉間の表皮を貫いた。
絶叫と共に動きを止めるオオムカデ。
「ちょろいもんだぜ。今だ!」
思わず大声で叫ぶソゲキ。
53仮面ライダー高鬼「狙い撃つ鬼」:2006/06/30(金) 21:32:55 ID:7y++dgfH0
高鬼は、突然オオムカデの眉間から血が噴き出した事に対し呆気に取られていた。
だが今がオオムカデに接近する絶好のチャンスだと理解すると。
「好機到来!」
すぐさまオオムカデの傍に駆け寄り、「五月雨」で傷を付けた箇所に音撃鼓・紅蓮を押し込むかのように貼り付ける。
そして。
「音撃打・刹那破砕!」
左腕に握った音撃棒・大明神に渾身の力を込め、強烈な一撃を叩き込む高鬼。
清めの音は波となってオオムカデの巨体を満たし、その体を土へと還した。
顔の変身を解き、一息吐くコウキ。
「ふぅ。しかし一体誰がオオムカデの眉間を……」
管による攻撃で鬼石を撃ち込まれたのではないかとコウキは考える。そうでなければあの巨体を片手の一撃だけで清める事は難しかったに違いない。
だが関西支部にあんな長々距離からの精密射撃を行える鬼が居ただろうか。何よりそんな芸当を可能にする音撃管があっただろうか。
コウキは周囲をぐるりと確認してみた。だが、もう既に誰の気配も感じられなかった。

研究室に戻ったコウキを、あかねと一緒に一人の青年が珈琲を飲みながら待っていた。
「お帰りなさい。コウキくんも珈琲飲む?」
にっこりと笑ってそう尋ねるあかね。
「ええ。……ところでそちらの彼は?」
「初めまして。北陸支部のソゲキと言います」
「実はね、私が頼んでコウキくんのサポートに行ってもらっていたんだ」
漸くコウキはオオムカデを狙撃した人物が誰であったのかを理解した。彼だったのだ。
それから暫くしてソゲキは北陸支部へと帰っていった。本部を立ち去るソゲキを見送りながらコウキがあかねに話し掛ける。
「全国には本当に色々な鬼がいるのですね」
「負けられないって思った?」
少し意地悪そうに尋ねるあかね。
「ええ。まだまだ私も精進が足りなかったようです」
満面の笑みを見せるコウキ。
その後、「五月雨」は修理される事なく処分された。以後、コウキは太鼓と管のみで戦ったという。 了
54風舞鬼さーくしゃ:2006/06/30(金) 23:30:07 ID:HPr2X/iv0
高鬼作者さん、乙です。
前回のソゲキくんは最後、ドクハキに脅されましたからねw
弧光を手にすると口調が変わるという設定もビックリです。

そして・・・・明日からはもう7月・・・
7月7日はぁぁああ・・・・・・・・・・・七夕!!
DA年中行事さん!密かに期待してます故!
55仮面ライダー風舞鬼:2006/07/01(土) 02:07:41 ID:C9mkARfG0
二零の巻「散華する楼鬼」最終編・V

―――沖縄。
魔化魍出現の報告を受けた一行は、北に位置する小規模な山脈の登山口まで来ていた。
「それじゃあ、今から探索を始めます。本来なら恭子はここで待っているべきだが、一人だと狙われやすくなるので一緒に来い。」
過去、何度かこの辺りに赴いたことのあるサバキが指揮をとる。実のところ、ツラヌキはもともと本島の人間で、このような離島の山の地理については、ほとんど知識が無いのだ。
「じゃあ、とりあえず持ってきたDAを起動しましょうか。」
そういうと一同はそれぞれのDA――もちろん赤茶獅子も――起動させた。そして、一行は山を登りだした。

「師匠。そういえば赤茶獅子は、吉野の技術者にはあまりいい評価は無かったらしいですね。」
「まあな。あれは性能はいいんだが、誰彼構わずに噛み付くからな・・・・。」
「俺も前に2回噛まれたよ・・・・。」
一行は40分ほど歩いた。鬼は別段、息が上がることはないが、恭子が少し疲れたということで水を探しにランキがいった。
「ランキさん・・・迷ったりしないですかね?」
「多分大丈夫だ。アイツは方向感覚だけはすごいから。」
「いえ、そうじゃなくて・・・・・この辺りには、季節を問わずに悪戯で人を迷わすのが多いと、沖縄の事務局長が言ってたので・・・。」
それを聞くと、サバキは血相を変えて全員の手を引っ張り、ランキを追いかけた。
56仮面ライダー風舞鬼:2006/07/01(土) 02:08:17 ID:C9mkARfG0

「おいおい!サバキさん、どうしちゃったの!?」
息を切らして駆けてきたサバキに、ランキは驚きつつも問いかけた。
「い・・・いや、なんでも・・・・。」
「まぁ、それは良いとして、ここは何処なんだろう?」
ランキが肩をすくめながら辺りを見渡した。周りは深い霧に覆われ、水の音がする。なにやら湖のようだ。
「ここは・・・もしや・・・。」
ロウキが心当たりがあるかのように流れ着いてからの記憶を少し辿って見た。思い出すのにそれほど時間はかからなかった。その場所は3年前、豚の魔化魍をたおしに来たときに迷い込んだ湖だった。
その時は幸運にもその湖が魔化魍の巣になっていたため、清めるのにさほど時間は取らなかった。
57仮面ライダー風舞鬼:2006/07/01(土) 02:09:40 ID:C9mkARfG0
「師匠。TDBで読みましたが、この環境は・・・」
「お前の睨むとおりだな。・・・・・醜い子豚がくるぞぉ!」
そうロウキが叫ぶと、巨木の枝から数十匹の瓜坊のような妖怪が現れた。
鬼たちは瞬時に音叉、鬼弦を鳴らし、鬼へと変化した。
そこには燻し銀に光る鬼、貫鬼。焔の気をまとい、名刀を携える捌鬼。
そのほかに2人。紺碧の体、真紅の隈取をもつ爛鬼。そして、瑠璃色の体に桜色と金のグラデーションがかった隈取。露鬼あらため、楼鬼。
それを木の影で見守る恭子。
結末は近かった・・・・・・。

二零の巻「散華する楼鬼」最終編・V
58名無しより愛をこめて:2006/07/01(土) 19:51:46 ID:0ZTcDEnO0
裁鬼さんの音撃管はトロンボーンだという事が判明
59名無しより愛をこめて:2006/07/01(土) 20:53:08 ID:YIdJ0dOf0
>>58
やっぱり色々あったほうが楽しいよね


すみません中四国支部さん、勝手にコナユキさんのせりふ使いますたw
60sage:2006/07/01(土) 22:47:08 ID:G2CgnW8g0
本物のトロンボーンとは形ちがうけどね

ていうかあれはS.I.C.オリジナルなんだから判明でもない気が…
6160:2006/07/01(土) 22:51:20 ID:G2CgnW8g0
すまんsage入れる場所まちがえたorz
62名無しより愛をこめて:2006/07/02(日) 17:18:44 ID:HHrpR4spO
このスレで一番文才があるのは誰だい
63名無しより愛をこめて:2006/07/02(日) 17:32:29 ID:O0zatuHr0
>>62
ここは一人一人が違う魅力を持つ、オンリーワンなスレです
64名無しより愛をこめて:2006/07/02(日) 18:25:06 ID:0T93vvF70
>>62
全員が最強さ
65ぬぁぬぁすぃ:2006/07/02(日) 18:31:21 ID:L5YRbyh70
>>62
みんなちがってみんないいんだよなぁ・・・。
まぁ、個人的に好きなのは裁鬼メインとDA年中行事。
それから高鬼番外編かな。
66名無しより愛をこめて:2006/07/03(月) 07:14:23 ID:TXrBLA9x0
自分の好みで言うなら、一番はZANKIかなあ。
まずキャラが面白いし、外国にも鬼に似た存在がいてそれぞれ活動しているという世界観がかなり気に入った。
次点は中四国か。
音楽スキーの俺としちゃこういう話は「待ってました」って感じだし、ちらほら見られる設定も引き出しが深そうで期待できる。
個人的にはメブキが「わっははは後輩後輩!」とか叫びながら大活躍する話が読みたい。
「我、鬼。故に我有り」も好きだ。戦時中に鬼や猛士がどうなったのか、そういう設定を読むだけで無性に楽しい。

気づいたと思うけど設定スキーです
67名無しより愛をこめて:2006/07/03(月) 18:59:21 ID:62K3TgMPO
>>62は口調からして淳ちゃん
68高鬼SS作者:2006/07/04(火) 00:56:33 ID:A4+YaV+j0
一本投下させていただきます。

前々からやろうと思っていたアカツキさんの話。
「集う王」で前フリを出せたので、ようやく書く事が出来ました。
なお、このアカツキさんと天美あきらの関係はまだ決めておりませんのでご了承下さい。
また、天美家に関するオリジナルの設定を作らせていただいたのでそちらもご了承下さい。
あと魔化魍はニクスイが出てきます。
弾鬼SSでは童子と姫や外見の設定は出てこなかったのでこちらで創作させていただきました。

それではどうぞ。
69仮面ライダー高鬼「秋田の鬼」:2006/07/04(火) 00:57:54 ID:A4+YaV+j0
1974年、師走下旬。
大晦日も押し迫ったある日、コウキはあかねにちょっとした旅行に誘われていた。
「秋田へですか?今から?この年末の慌しい時期に?」
「そうだよ。まあ半ば猛士の仕事でもあるんだけどね」
よく意味が分からない。そこの所を詳しく尋ねてみるコウキ。
「秋田の天美家って知ってる?」
「ええ。ここの光厳寺家や文室家のように代々続く名家ですよね」
しかしながら、その手段を問わない戦い方等から異端視され、東北支部でも持て余し気味だと専らの噂である。
「でね、本来なら鬼の資格を剥奪されてもおかしくない所なんだけど、名門の家筋という事で本部が面倒見る事になっちゃったのよね〜」
「という事は彼――アカツキは関西支部の所属に?」
「年明けと同時にね」
だがそれだけではあかねが秋田に向かう理由が分からない。
「実はね、前々から東北支部の技術体系には興味があってね。良い機会だから無理言って彼を迎えに行く役目を貰ったってわけ」
本当に嬉しそうにあかねが言う。
「で、コウキくんも暫くシフトがお休みだったのを思い出して、それで誘ってみたんだ。どう?」
確かに、東北支部の技術体系にはコウキも以前から興味を持っていた。悪い話ではない。
こうしてコウキとあかねは秋田へと旅立ったのである。
70仮面ライダー高鬼「秋田の鬼」:2006/07/04(火) 00:58:47 ID:A4+YaV+j0
東北支部は猛士の中でも独自の体系を持っており、吉野も一目置いている。
今回の上層部の判断も、東北支部に貸しを作っておきたいという気持ちがあっての事である。
さて、コウキとあかねの二人は秋田へと入り、早速噂のアカツキに会いに向かった。
天美家の屋敷内に通される二人。奥の間で暫く待っていると、一人の青年がやって来た。アカツキだ。
アカツキは二人を一瞥すると、ふてぶてしく一礼して座った。
「……アカツキです。よろしく」
「君。何かね、その態度は。それが初対面の人間に対する態度か?」
説教を始めるコウキ。しかし馬の耳に念仏状態のアカツキ。とりあえずあかねがコウキを落ち着かせる。
「こいつ……絶対に私達を舐めていますよ」
「落ち着いてコウキくん。これから一緒にやっていく仲間なんだから……」
あかねが言った仲間という言葉に反応するアカツキ。
「俺に仲間なんて要りませんよ。魔化魍を狩るぐらい一人でも出来ますからね。失礼します」
そう言うとアカツキはそのまま部屋から出ていってしまった。
「待て!勝手に退席して良いと思っているのか!」
「落ち着きなさい!どうせ今日は顔見せに来ただけだし」
「しかし……」
当然ながら納得のいかないコウキ。
「それにあの大口も実力に裏打ちされたものだからね。……さあ、今度は東北支部に挨拶に行きましょう。場所は青森の恐山よ」
こうして、コウキとあかねは天美家を後にした。
71仮面ライダー高鬼「秋田の鬼」:2006/07/04(火) 00:59:51 ID:A4+YaV+j0
東北支部長に挨拶を済ませた二人は、早速ここの研究室を見学しに行った。そこには「銀」見習いとしてコウキと同じくらいの歳の青年が働いていた。
歳が近いという事もあってか二人は意気投合し、コウキは色々と教えてもらい、貴重な経験をした。
アカツキを連れて戻るのは年明け後になった。何でも、毎年大晦日の晩に天美家の鬼が行う行事があるらしく、それを終えてからという事になったのだ。
それまでの間、二人は天美家に滞在する事となった。
そして大晦日。
この日も、コウキはあかねと一緒に各地を観光に行く予定だった。
「紅白までには帰ってきましょう。今年は二十五周年記念の年ですから」
コウキが嬉しそうに言う。
「コウキくんの好きな布施明も出るんだよね?」
「ええ。今年は『積木の部屋』を歌いますよ」
にこにこ笑うコウキ。
ちなみにコウキは後年キリサキに言ったように髪を染めた人物を快く思っていない筈なのだが、当時茶髪ロン毛だった布施明は何故かOKらしい。つくづくいい加減な人である。
さて、二人が出掛けようとした時、玄関で同じく外出しようとしているアカツキと鉢合わせた。見ると音撃管を持っている。
「……出たのかね、魔化魍が」
大晦日といえども出る時は出る。
「ええ、まあ」
それだけ答えるとさっさと自分のバイクに跨るアカツキ。そこにコウキが声を掛けた。
「私も行こう。君は今夜大事な用があるのだろう?二人なら簡単に終わらせる事が出来る筈だ」
「……勝手にして下さい」
そう言うとアカツキはそのままバイクで走り去ってしまった。コウキとあかねも借り物の車に乗って急いで彼の後を追った。
72仮面ライダー高鬼「秋田の鬼」:2006/07/04(火) 01:00:49 ID:A4+YaV+j0
出現したのはニクスイらしい。前々から秋田の猛士が追跡していた個体がとうとう動きを見せたのだという。
「彼、わざと魔化魍が動くまで放置していたんじゃないかな」
あかねが言う。
「その方が無駄にあちこち調査して回るよりも確実だからね」
もしそれが本当だとしたらとんでもない奴である。
三人は雪の積もった森の中にやって来た。あかねを残し、コウキとアカツキが森の奥へと入っていく。
式神を展開しながらニクスイの居場所を探る二人。と、突然。
「ホーホー」
梟の鳴き声が聞こえてきた。だが今はまだ昼過ぎである。明らかにおかしい。
アカツキが音撃管・水晶を構えた。
そして。
進行方向から身なりの良い女が出てきた。姫だ。
「気を付けて。おそらく童子が背後から回り込んできている筈」
アカツキがコウキにそう言って注意を促す。
姫に驚いて逃げようとする人を、背後に回り込んでいた童子が襲って殺すというのがニクスイの姫と童子の常套手段なのだ。
「ホーホー」
姫が喋った。さっきの梟の鳴き声は姫の声だったのだ。
「私はニクスイは初めてだが、こいつはそれしか喋らんのか。気味が悪いな」
「ホーホー」
背後からも声がした。童子だ。
アカツキが姫に向かって「水晶」を乱射した。それを木の陰に隠れて回避する姫。次に出てきた時は既に妖姫に変身していた。
それぞれ変身道具を使い鬼に変身するコウキとアカツキ。コウキの体は炎に、アカツキの体はまず水晶の欠片に覆われ、その後眩い光に包まれた。
同じく変身を遂げた怪童子と対峙する高鬼。そして暁鬼。
「さっきの変身……ひょっとして君は属性を二つ持っているのかね?」
高鬼が暁鬼に尋ねる。
鬼の中には稀に二つ以上の属性を併せ持つ鬼が存在する。そういう鬼達は得てして戦闘の柔軟性に長けている者が多い。彼の場合は水晶と光のようだ。
高鬼の問いには答えず、妖姫と戦い始める暁鬼。高鬼もまた、怪童子を相手に戦い始めた。
73仮面ライダー高鬼「秋田の鬼」:2006/07/04(火) 01:01:24 ID:A4+YaV+j0
高鬼の鬼爪が怪童子を貫くのと、暁鬼の銃撃が妖姫を蜂の巣にしたのはほぼ同時だった。爆発四散する怪童子と妖姫。
「残るはニクスイのみか……」
「ニクスイは触れるもの全てを自らの肉体に取り込む魔化魍です。ここは俺に任せて下さい」
「うむ……仕方ないか」
今回は自身の音撃管を持ってきていないため、大人しく暁鬼の言う通りにする高鬼。
そして。
「……来る」
木々の向こうからニクスイがのっそりと現れた。
醜悪な肉の塊のような姿をしている。ひょっとしたら昔駿府城に現れたという記録がある「肉人」という妖怪もこれの成長前の個体だったのかもしれない。
ニクスイに向けて「水晶」を乱射していく暁鬼。圧縮空気弾が当たった箇所の肉がぼろぼろと落ちていく。
それでも暁鬼の体をその巨腕で掴もうとするニクスイ。
暁鬼は鬼法術・水晶壁を展開し、その腕を止めた。あらゆる攻撃を防ぐという万能技である水晶壁を扱えるのは、水晶属性の鬼の中でも彼ぐらいである。
「成る程。あれが彼の自信の源か……」
その威力を目の当たりにし、納得する高鬼。
さらに暁鬼は、水晶壁を展開した状態で別の鬼法術を使った。
「鬼法術・閃光分身」
こちらは光属性の技だ。掛け声と共に現れた、光り輝く等身大の暁鬼の分身がニクスイ目掛けて突撃していく。
猛スピードで突撃した分身により、腹部に大穴を開けられて後ろに大きく倒れ込んでしまうニクスイ。
その隙にニクスイの体にありったけの鬼石を撃ち込むと、「水晶」に音撃鳴・燦然を取り付けて音撃射の体勢に入る暁鬼。
音撃射・雲散霧消の音色が響き渡り、森中を揺るがした。
そして、爆発。ニクスイの体は塵となり、爆風が地面の雪を舞い上げた。
雪煙の中、顔の変身を解除したアカツキが出てくる。そして一言高鬼に向かってこう言った。
「だから言ったでしょう?必要無いって……」
そう言うとそのまま元来た道を引き返していくアカツキ。
本当に生意気な奴だ。そう思う高鬼であった。
74仮面ライダー高鬼「秋田の鬼」:2006/07/04(火) 01:02:08 ID:A4+YaV+j0
その日の晩、コウキとあかねはアカツキと共に男鹿市へとやって来ていた。「手伝う気があるのなら最後まで手伝え」というアカツキの意向故である。
この場所で天美家が代々担当している行事が執り行われるのだ。それは……。
鬼に変身した状態で民家に乗り込んでいく暁鬼と高鬼。それを見て泣き叫ぶ子ども。
そう。天美家の行事とはなまはげの事だったのである。
天美家では代々、大晦日になると猛士と何らかの係わりを持つ民家になまはげとして訪れるのが恒例となっているのだ。
「怠け者はいないか〜!」
やけにのりのりでなまはげを演じる暁鬼。
にこにこと笑いながらなまはげ=暁鬼と高鬼を持て成し、酒を振る舞う主人。
(こいつ、毎年これをやっているのか。しかも明らかに楽しんでいるな)
そう思う高鬼。
あかねが記念にと写真を何枚も撮っている。
(根は悪い奴じゃないかもしれんな……)
翌日、アカツキはコウキ達と共に故郷の秋田を離れ、関西支部の所属となった。
彼の性格はコウキ達関西支部の鬼と一緒に過ごすうちに多少は丸くなったようだが、それでもずっと嫌われ者である事には違いなかった。 了
75元・ZANKIの人:2006/07/04(火) 17:15:41 ID:l05NaY4y0
そういえば、あかねさんって経歴とか不明だったよね?
番外編で「あかね伝」とか読んでみたい。
76DA年中行事:2006/07/05(水) 04:09:07 ID:7L6hy4Oz0
よ・・・
(キュイィィィン)予告ッ(モアッモアッ)

夏の陽射しを高い木々が遮っている林の中だというのに、暑くてたまらない。

「彦や・・・もう良い。ここで妾を、殿の元へ送ってくれぬか。彦の手にかかるなら、本望じゃ」

貴女を守りたいのだ。どうしても。

「おのれ・・・・謀ったかッ!」

『しかし、それでお前は幾度カラダを潰された?幾度カラダを溶かされた?』

店の外に吊るした風鈴がチリン、と鳴り、色紙の短冊で飾った笹はさやさやと涼しげに揺れていた。


番外『巡りあう獣』。えーっと、多分、6日の夜に投下します・・・できるかな・・・・・・・・ウウ(ケロッケロッ)

77名無しより愛をこめて:2006/07/05(水) 12:31:19 ID:ia9J1pLG0
蛮鬼の顔だけどうなってるかよくわからないからSICで作れん・・・!
他は全部作ったのにひどすぎるぜ
78名無しより愛をこめて:2006/07/05(水) 20:34:54 ID:L7g0E2T1O
余計なお節介だけど、まとめサイトさんへ
前スレの最後の方に何本か投下されてますぜ
79名無しより愛をこめて:2006/07/06(木) 01:23:01 ID:3dG/3zs50
中四国支部鬼譚 八之巻「芽吹く春」更新しました。
http://neetsha.com/inside/main.php?id=407
今回、完成までにやたらと時間がかかった……ふう……

>>66
ちょうど、今回から次回にかけて、メブキが活躍する話になります。
もっとも「後輩後輩」でなく「先輩先輩」と叫ぶ話になりました。
80DA年中行事:2006/07/06(木) 19:06:52 ID:Ggvs072A0
高鬼SSさん>
嬉々としてナマハゲをやるアカツキさんとコウキさんw
いやぁ、怖そうっす。
中四国SSさん>
更新乙です!いつも楽しみにさせてもらってます!

大雨の被害や台風の影響があるようですが、SSの中では良い天気の七夕です。
81番外 「巡りあう獣」:2006/07/06(木) 19:08:24 ID:Ggvs072A0
夏の陽射しを高い木々が遮っている林の中だというのに、暑くてたまらない。
慣れぬ甲冑はただ重いばかりで、大して身を守ってくれない事は、一歩足を踏み出すたびに噴き出す己の血が証明している。
それに、その重みのせいで追手の迫る身にも拘らず、積もった落ち葉を踏む音はあまりに大きい。
「討ち取れ!彼の者は手負いぞ!」
「逃すな!首級を挙げよ!」
やあやあと、己を追う者たちの声が聞こえる。血に飢えた餓鬼さながらの追手どもの、臭い息まで嗅げるほどの近さだ。
背中の小さな重みが、ぎゅっと身を縮ませる気配を感じる。
彼等が追っているのは、この背中の少女だ。
歳は、十四。
この地方を統治する豪族の、まだ十六にも満たぬ若君の正妻であった。
幼い新妻と枕を共にする事も無く、若君は討ち死にした。城と呼ぶにはあまりに簡素な砦も燃え落ちた。もう誰も、彼女を守る者はいない。
彼女を背負って重い足を引き摺っている、自分以外は。
「御台(みだい)様、今しばらくご辛抱を。沢を渡れば、追手も諦めましょう」
荒い息で精一杯背中の少女を慰めるが、彼女は既に自分の死期を悟っていた。
「彦や・・・もう良い。ここで妾を、殿の元へ送ってくれぬか。彦の手にかかるなら、本望じゃ」
花の顔(かんばせ)と緑の黒髪はもはや血と泥と恐怖にまみれ、少女は生きながら既に死人のような有様である。鈴を転がすが如きと謳われた美声は途切れ、ただ苦しい息のみが背中を熱く湿らせる。
「お気の弱い事を申されますな。若殿は、御台様を逃すようにと彦にお頼み遊ばしました。彦はこの命に代えても・・・・・」
貴女を守りたいのだ。どうしても。
乳母の子として若君とは乳兄弟として育った。身分の違いを超えて、幼い時から本当の兄弟のように過ごしてきた。庭先で競って獲った木の実も、沢の仕掛けに入った蟹も、なんでも二人で分かち合った。
しかし、妻を分け合う事はできない。ましてや主君の妻に懸想したなど、あってはならぬ事。
彦は沢に向かって歩き続ける。たとえそこまで辿りつけても、生き延びる確証など、有りはしないのに。
82番外 「巡りあう獣」:2006/07/06(木) 19:11:50 ID:Ggvs072A0

「たはーっ!俺、パパになっちゃったっスよー!」
東京、柴又、『甘味処 たちばな』。
梅雨はまだ明けていないが、六月の下旬から、温度計は日増しにぐんぐんと赤い線を伸ばしている。
エアコンの効いた店内は涼しいのだが、どうにも暑苦しいのは、目の前で浮かれている年上の同僚のせいだろうか。
「あー、そりゃおめでとうございますー」バンキは卓の上に広げたノート類から目も上げず、生返事で答える。
「反応が薄いなーっ!パパなんスよ、パパ!俺がパパになったんスよ!」
「ですから、おめでとうございますと。これで八回目ですよ、トドロキさん」
「あれぇー?俺そんなに言ってたっスか?」
「一昨日電話で一回、昨夜スーパーでお逢いして二回、今日こちらに伺ってからさっきので五回。合計で、八回ですね」
「あ、そうっスか?スンマセ〜ン、つい嬉しくて」
年上の同僚―――トドロキは、ダハハハハと目尻を下げて笑う。音撃弦『烈雷』の継承者であり、さらに師が残した音撃真弦『烈斬』と併せ、二刀流で闘う関東きっての豪腕の持ち主・・・のはずなのだが。
「でも、これはまだ見せて無かったっスよね」そう言ってトドロキは、バンキが広げているノートの上に一枚の白黒写真を置いた。
一切れの黒いバームクーヘンに、ぼんやりとした白いソラマメのような物が・・・・・・
「トドロキさん、これって」
「俺の、ベイビーっス。記念すべきファーストショットなんスよ。可愛いでしょ、こんなに小さいんス!」
可愛いかどうかはおいといて(何しろまだぼんやりとしたソラマメにしか見えない)、生命の一番最初はやはり細胞なのだ、という事実を目の当たりにしてバンキは素直に衝撃と感動を覚える。
「スゲェ・・・なんか凄いですね、トドロキさん・・・頑張りましたね!」
「え?いや頑張ったと言うかむしろうっかり・・・」
「凄い!さすがです!うわぁ!人間って、うわぁ!これが、こうなるんですもんね!」
「いやあの、バンキさん、これがこうって指ささないで」
「母親の胎内で芽吹いた生命は、太古から現代に至るまでの生命の進化を辿って来るんですよ。小さな細胞に始まって、魚類、両生類、爬虫類、そして哺乳類へと出産までの十ヶ月で・・」
興奮したバンキは止まらない。半ばポカンとしているトドロキを置いてきぼりにして、バンキの一人講義はしばらく続いた。
83番外 「巡りあう獣」:2006/07/06(木) 19:14:14 ID:Ggvs072A0

狩り場の獣のように追い立てられ、射掛けられ、満身創痍で少年と少女は沢に辿りついた。もう、追手の姿がそこまで迫っている。見れば川原に、一人の漁師が舟のもやい綱を外している。
甲冑姿の若い侍は、藁にも縋る思いで漁師の元へ走る。「頼む!追われているのだ、舟を譲ってくれ」
おどろに乱れた髪で体中から血を滴らせ、背中に立派な錦を纏った少女を背負ったまだあどけない顔立ちの侍を見て、漁師は狡猾な計算をする。
「しかし、お前様にこの舟を譲ったら、俺はおまんまの食い上げだ。タダという訳には行かねェわさ」
遠慮の無い漁師の物言いに腹も立ったが、背に腹は変えられぬ。相手を刀で脅すには、まだ少年は素直過ぎた。
「ならば、これを」
少年は今自分が身に付けている物の中で、一番高直(こうじき)な物を、さもしい顔つきの漁師に差し出す。
錦繍の袋の色も鮮やかな守り刀。彼の家に代々伝わる宝刀である。
垢に汚れた手でそれをひったくるように受け取ると、漁師は早々に袋の口をこじあけ、鞘から刀身を抜き出す。守り刀は、夏の陽射しにぎらりと冷たく光った。
「舟は貰うぞ」
対価を支払い、若侍は漁師に背中を向けると、舟底に汚れた水の溜まった粗末な舟に大切な宝物を横たえる。
「彦や・・・・」苦しい息の下で、背中から離れた若い未亡人は、まるで幼子がするように若侍に手を伸ばす。
「これで、御台様をお助けできまする。どうぞお逃げくださりませ。彦もじきに・・・」
若者の疲弊した笑顔が、急に強張る。少女は一瞬、何が起きたのかわからなかった。ぐらり、と庇護者の身体が揺れて、思わぬ近さに漁師の野卑な笑い顔を見、漸く理解する。
「こんな刀一本よりも、その娘ッ子の首の方を高く買い取ってくれるんだろ」
「おのれ・・・・謀ったかッ!」
若者は、自分の脇腹を刺し貫く漁師の手を掴む。その思いもよらぬ力に、守り刀から漁師の手が離れた。
「許さぬ、許さぬぞ・・・・・」
脇腹に深々と刺さった守り刀を自らの手で引き抜くと、少年は生まれて初めて人を殺めた。
だが、手に残る嫌な感触に嫌悪を抱く間もなく、若い侍は追手によって射掛けられた矢に貫かれ、どうと地に倒れる。
「彦ぉーッ!」舟はゆっくりと岸を離れる。奇妙なヤマアラシのように総身に矢を受けた少年の報われぬ思いと、少女の叫び声を後に残して。
84番外 「巡りあう獣」:2006/07/06(木) 19:18:41 ID:Ggvs072A0

「ですからね、ってトドロキさん、聞いてます?」
「あ、はいっス。聞いてるっス」
トドロキはいつの間にか正座だ。押す側と引く側の立場が逆転していた。それにバンキが気付いたあたりで、表戸がガラリと開いた。
「こんにちわ〜」店内にひょろりと長い影が落ちる。イブキだ。「ああ、トドロキさん、おめでとうございます」
店内にトドロキの姿を見つけたイブキは、まず彼に声をかけた。さすがイブキ。卒が無い。そしてさわやかだ。トドロキの目尻が、改めてがくんと下がる。
「いやぁ〜、ありがとうございます。おめでとうございますなんて言われると照れちゃうなぁ〜」
だから、俺は八回も言ったってば。バンキは思わず眉を上げる。そんなバンキにイブキが、「ちょっと待ってて」と目で合図した。バンキが今日『たちばな』に来たのは、イブキと待ち合わせをしたからなのだ。
「あら、イブキさん」地下でデータをまとめていた日菜佳が、来客を知って階段を上がってきた。「お疲れ様です〜。すぐにお茶を淹れますゆえ、しばしお待ちくださいませ〜」
晴れやかな笑顔を見せて店の奥に行こうとする日菜佳を、「お茶なら俺が・・・」と言いながらトドロキが追う。
「で、イブキ君、どうだった?」二人がいなくなったところで、バンキが声を潜める。
「ええ、大方決まりました。第一案で行けそうです。バンキさんの方は?」イブキも真顔だ。
「うん。こっちも当初の予定通り。急な変更が無ければね」
「わかりました。じゃぁ、本決まりという事で、連絡を入れておきます」
密談が終わり、バンキとイブキはようやくリラックスした顔で卓を挟んで座る。
「大学の講義か何かのノートですか?」几帳面な文字がびっしりと書き込まれた数冊のノートを見て、イブキが尋ねる。
「ああ、これ?これはね、○○山で「歩」をしていた人がまとめたデータなんだって。俺も日菜佳ちゃんから二、三日前に教えてもらったばっかりなんだけど、魔化魍の発生を動植物の生態という視点から予測していて・・・・・」
と、再びバンキは雄弁になる。イブキはバンキをにこやかに見つめ、話の切れ間を待って提案する。
「バンキさんも実地調査してみたいんでしょ?行きましょう。お供しますよ、僕で良ければ」
店の外に吊るした風鈴がチリン、と鳴り、色紙の短冊で飾った笹はさやさやと涼しげに揺れていた。
85番外 「巡りあう獣」:2006/07/06(木) 19:20:30 ID:Ggvs072A0

櫂を乗せぬ舟は、ゆっくりと川を下る。
最早合戦の声も聞こえない。川のせせらぎと、風に鳴る笹の葉ずれの音だけが少女の耳に届いていた。絶え間なく舟底に染み出し、彼女の背中を濡らす川の水など、はなから気になどしていない。
自分の人生には生涯関わる事などあるまいと思っていた遠い都で起きた戦に、両親も兄弟も、夫も夫の家族も、皆命を奪われた。
――――なんと愚かな。
家族だけではない。華燭の宴に、笛や鼓で賑やかに唄い、踊ってくれた純朴な臣下たちも、物言わぬ屍となって夜半の煙に消えた。最期まで自分を守り通そうとした少年も、欲に駆られた亡八者に弑された。
――――なんと浅ましい。
怯える事と哀しむ事に倦んで、少女は己の身の内に業火のような怒りが湧き上がるのを感じていた。
夫とその側近たちは、敵の射掛けた火矢に燃え盛る砦と運命を共にし、残り少ない家臣たちに妻を逃せと遺言した。
――――たかが小娘一人の為に、どれほどの殿御が命を落としたと思(おぼ)すか。
怒りの矛先を向けるには、歳若い夫はあまりにも優しすぎた。少女の目尻から涙が一滴零れ、こめかみを濡らす。
――――人は、愚かじゃ。
少女は思い出す。血刀を振り回し、物に取り憑かれたように蛮声をあげ、敵味方入り乱れる侍たちの目を。僅かな報奨金の為に、嬉々として子供のような若侍に刃を突き立てた漁師の目を。
そして、いつも自分を遠くから見つめていた、少年の目を。
――――彦。
甘い痛みが、少女の胸を覆う。自分を見つめる視線に込められた彼の感情に、少女は最初の出逢いの時から気付いていた。
何故なら、自分も同じ気持ちだったから。
す、と舟が止まる。何者かが、流れる舟の行く手を遮った。
『なんだ、子供か』『細い骨だな』
男が女の声で囁き、女が男の声で呟く。人ではない彼等の背後には、巨大な妖(あやかし)が、鋭いハサミを振り上げて自分を待ち構えている。
少女が最期に口の中で唱えたのは、神仏の名でも命乞いの言葉でも無かった。
――――我が身よ魍魎と化して、久遠に仇なす者となれ!
呪詛。少女は捕食者をひたと見据えると、自ら流れの中に身を投じた。
86番外 「巡りあう獣」:2006/07/06(木) 19:36:30 ID:Ggvs072A0

「暑いな・・・イブキ君、ちゃっちゃと立てて、少し休もう」呼吸をするように自然な動きで、若い鬼二人は川原にターフで日陰を作る。正規の出動では無いから、テントまでは立てない。だが、二人ともそれぞれの音撃武器を車に積み込んでいる。
イレギュラーな魔化魍の出現が続いた去年の癖をまだ引き摺っている鬼は、この二人だけでは無いだろう。
バンキはごっそりと繁茂した対岸の藪を眺める。蔓状の茎が、背の高い夏草に絡みつき、締め上げている様に見える。実際、藪は全体に茶色く枯れかけていた。
「あれ、オキナツルクサモドキって言うんだ。ああ、枯れてる方じゃなくて巻きついてる方ね。あれ、根っこの無い寄生植物なんだよ」
根を持たず、既に群生している草や木に寄生し、蔓を巻きつけて伸びていく植物は多い。水分や養分を相手から吸い取って成長するのだから、寄生された方はだんだん弱って枯れる場合もある。
「こんな風に注意して見たこと無かったな。へぇ、あれって根っこが無いんだ」見回してみれば、対岸の藪だけでなく、こちら側にもあちこち巻きつき、スグリを小さくしたような実をびっしりとつけている。イブキは感心して、その固い紫色の蔓をひっぱってみた。
「うわ、結構しっかり絡み付いてる」イブキが軽く引っ張っただけで、蔓よりも寄生されていた宿主の茎が、ぶちぶちと千切れた。
「うん。オキナツルクサモドキ自体は、そう珍しい植物じゃないんだ。ただね、それが本来そんな風に実をつけるのは、九月以降なんだよ」
バンキは最近手帳がわりに携帯している小さなPCを開く。「先月この近くでトウキさんがツチグモを倒したんだよね・・・その頃にはまだ、このあたりには影も形も無かったみたいなんだ」
「バンキさん、もうあのノート全部入力したの?」
「いや、それはさすがに無理。でも、近いうちにデータベース化して研究したいと思ってるんだ」
ヒビキやダンキ、トドロキのように身体を鍛える事に重心を置く鬼もいれば、バンキのように学究肌の鬼もいる。それぞれが頼もしい、とイブキは思う。
「入力する時、イブキ君手伝ってくれる?」
「あ、それは・・・僕よりあきらの方が得意・・・かな?」あのきっちりと細かい字で記されたノートの量を思い出して、イブキは二の足を踏む。と、バンキの携帯がサバキからの着信を告げ、震えた。
87番外 「巡りあう獣」:2006/07/06(木) 19:38:03 ID:Ggvs072A0

一匹の獣が、川面を見つめていた。
機械のカラダは冴えた黄色に輝き、単純に挟むだけでなく回転させることによって更に機能を増す鋏を誇らしげに掲げている。
――――あそこに、いる。
憎むべき魔物が。そして、代え難いほど愛しい魂が。
『御台様・・・・・・』
黄蘗のオンシキガミは、この日だけ何百年も昔に命を喪い、自らの肉体を啄ばんだ小さな蟹の魂から、年若い侍の魂になる。
『お前、今年もやるのか?』
呟きに答えたのは、同じ黄蘗のカラダを持つ仲間では無く、翼を持つオンシキガミであった。
『御台様の魂が魔化魍となってこの日に蘇る限り、俺はあの方を清めねばならん』
見つめている川面に、小さな水泡が、ぶくり、と泡立つ。身を切られるよりも、もっと切なく、キハダガニは泡の行方を見守る。
『しかし、それでお前は幾度カラダを潰された?幾度カラダを溶かされた?』
鋭い刃の翼を畳み、爽やかな浅葱色のカラダを初夏の陽光に煌かせ、アサギワシは友に問う。毎年繰り返される問い。答えは知っていても、問わずにはいられなかった。
『幾度でも。あのお方の魂が安らぐ日まで』
泡が、さらに大きく浮かび上がり、川は地獄の釜のように沸き立って見える。背後で妖姫が爆散し、塵芥が舞う。拳にその力を増幅させるシキガミを纏った鬼が、弦を使うこと無く魔物の養い親を清めたのだ。
『わかった。行くぞ』
アサギワシは力強く地面を蹴ると、放たれた矢のように泡立つ川面に向かう。キハダガニは水中に身を投じ、魔物の姿を追う。
巨大な、蟹を。

妖姫に強烈な右ストレートを叩き込み、その名に背負った通り一撃で葬り去った銀色の四本角の鬼もまた、泡立つ川面を油断無く見据えていた。
「来るぞ、一撃鬼」
「はい・・・・ってサバキさん、今日は変身しないんですね」
「うん。着替え忘れた」
ごぼり、と音をたて、泡の中から大きすぎる鋏を振り翳したバケガニが姿を現した。
88番外 「巡りあう獣」:2006/07/06(木) 19:40:11 ID:Ggvs072A0

水の中では、キハダガニたちが一心にバケガニを攻撃していた。
固いコンクリートでさえ貫く鋏をドリルのように旋回させ、魔化魍の腹を、足を、背中を突き刺す。
『小虫どもめが、退けッ!』
頭上では刃の翼を持つオンシキガミにまとわりつかれ、水中ではチクチクと四方から攻め立てられ、バケガニは苛立っていた。
ギギギギギギギギギィィィィィィィ
古い木造の建築物が軋むような嫌な音をたて、バケガニはそれらを薙ぎ払い、押し潰し、酸で溶かす。
彼女の心は、夜の闇より尚暗い、怨嗟と呪詛の言葉に支配されている。
人を許すな喰らい尽くせ飲み込め咀嚼しろ全て溶かせ闇を闇を闇を闇を闇を・・・・・・・

「御台様」

ぐらり、と硬い殻に覆われた身体が揺れたのは、憎らしい鬼が耳障りな清い音を纏った拳を食らわせたからではない。
醜い鬼奴。その角をへし折って最期の血の一滴まで絞りつくしてやる。バケガニは拳に力を込め、次の打撃を仕掛けてくる四本角の鬼に、巨大な鋏を振り上げる。
「御台様、彦にごさいます!どうか、どうかその怒りをお静め下さい!」
彦・・・・懐かしい声は、どす黒い闇に包まれたバケガニの魂に、一筋の光明を投げかける。
彦。彦。彦。彦。
――――お前は、何故妾の邪魔をする!
「貴女様が人を痛めようとするなら、彦は何度でもお手向かいいたします」
――――何故じゃ、人の世のつまらぬ理のせいで命を落としたお前が、何故妾の前に立ちはだかる!
「畏れながら、それは間違っておられます。彦が命を落としたは、彦が愚かであったせい。貴女様が命を落とされたは・・・・・」
――――妾も、妾も愚かであったと申すか!
声の出ぬバケガニは、叫びをあげられない。涙を流せない。代わりに、白銀の蟹を纏った重い拳に打たれ、硬い甲羅にひびを入れられ、軋む。
そして、鬼とそのオンシキガミたちが目の前にいるのも忘れて、ギシギシと走り出した。
89番外 「巡りあう獣」:2006/07/06(木) 19:40:59 ID:Ggvs072A0

「え?バケガニを逃がした?」
久し振りに聞く師匠の声は、珍しく切羽詰っていた。連絡を受けたバンキも、そばにいたイブキも、思わず顔が強張る。
「いえ、大丈夫です。俺もイブキ君も準備はして来ていますから。ええ、わかりました」
電話を切ると、二人とも無言でターフを片付け、車に乗り込む。
「イチゲキさんは?」
「無事だ。突然バケガニが逃げ出したらしい。上流に向かうよ」
悪路をものともせずスムースに加速する4WD車のハンドルを握り、バンキの頭の中はめまぐるしく回転する。
この季節、この気温・湿度でバケガニが出るのは、もちろん珍しい事ではないが、少し違和感がある。
「イブキ君、今日って何日だっけ?」
「七日です、七月の。それが、どうかしたんですか?」
「いや、わからないんだけど・・・・何かひっかかるんだ・・・まぁいいや、帰ったら調べてみるよ」
平日のせいか、山道には対向車の姿は無い。疑問点はひとまず頭の隅に追いやって、バンキは運転と現れるであろう魔化魍に集中した。

バケガニは混乱していた。闇雲に鋏を振り回し、滅茶苦茶に川を上る。
数百年前――――人であった自分は、人を呪い、運命を憎み、自らを生贄として魍魎となった。
地上で唯一人間だけを喰らい、脅威として存在する醜い魔物に。
そして数多の命を殺めた。だが、そのたびに鬼が現れ、塵芥にされた。それでも、彼女の怒りは解けない。魂は外見同様、硬い甲殻に閉じ込められ、再び同じ魔化魍として蘇る。
数え切れないほど繰り返された、この営み。
不毛である事など、判りきっていた。しかし、全てを納得して天上に昇るには、もう遅すぎるのだ。既に魂は魔物に取り込まれている。許しも、転生も、叶わない。
彦、お前もそうなのか?わかっていて、尚も妾の前に現れるのか?
「はい。彦は、愚か者にございます」
夢か。いや、違う。そうだ、今年もこうして、彦と逢えた。
彦と、逢えた。
彦。
90番外 「巡りあう獣」:2006/07/06(木) 19:41:56 ID:Ggvs072A0

織様。
貴女様にお逢いしたい一心で、彦はこの世に留まりました。
仏徒であれば当然願う、成仏も来世も彦は望みませぬ。臣の道を外れ、主君の妻たる貴女様に心惹かれたその時から、彦には安寧な眠りなど、欲すべきではない身の上だったのでございましょう。
あの時、貴女様の身を一艘の小舟に託し、命を喪った後、朽ちた五体は小蟹に喰われ、彦の卑しい魂はその一匹と成り果てました。
そして恨みのあまり魍魎となられた貴女様に、潰されたのです。
織様。
彦は、貴女様にお逢いしたい一心で、鬼と共に魔化魍を追う者になりました。
貴女様の魂が永遠にこの世を彷徨われるというなら、彦も久遠に貴女様を追いましょう。貴女様の魂を清め続けましょう。幾千、幾億、彦は時間も捨てました。
ただ、貴女様に、お逢いしたい一心で――――

「バンキさん、あそこ!」
最初に見つけたのは、助手席にいたイブキだった。川原の砂利に車を乗り入れ、漸くバンキはブレーキを踏む。
車を飛び降り、二人はそれぞれ駆け出しながら、鬼笛を、鬼弦を鳴らす。
鬼へ!
二人の若い鬼たちは、何故か微動だにしないバケガニに向かって、攻撃を始めた。

ミシリ、ミシリ、と己の甲羅が軋む。さっきの鬼の一撃が、かなり堪えている。
もう、恐らく自分は長くは無い。
バケガニは、水の中に半身を浸したまま、やってくるであろう最期の刻をじっと待っていた。
「織様」
「彦か」
目の前に、色鮮やかな黄蘗の蟹が、小さな水音をたてて舞い降りた。上空で、浅葱の鷲が鳴き声をあげる。
「一年に一度、我等はこうして追う者と追われる者になって、ようやく出逢う事が叶うのじゃな」
そう呟くと、バケガニは、観念して眼を瞑った。
91番外 「巡りあう獣」:2006/07/06(木) 19:43:10 ID:Ggvs072A0

川はゆっくりと流れている。
目を開ければ夏の青い空に、雲がやわやわと白く、風に乗って飛んでいる。
ああ、自分は舟の上にいるのだ、とようやく気付く。
首をわずかにめぐらせると、まるで子供のようなあどけなさで眠っている見慣れた横顔が見えた。
――――彦。
遠くで名前を知らない小鳥が囀っている。それを夢の中で聞いているのか、少年は何事か口の中で呟いたようだ。
その寝言すら愛しくて、織はかすかに微笑み、再び目を閉じる。
――――これが儚い夢だと言うなら、それでも良い。暫しの間、妾も同じ夢を見よう。
粗末な舟は、浅い眠りと幼い夢を道連れに、固く固く手を握り合った若い恋人たちを乗せて、まどろむようにゆっくりと川下へと流れて行く。
流れ着く先は、恐らく仏徒たちが言うところの西方浄土ではない。
――――それでも、良い。
舟よ、人の道に外れた者たちを、何処か遠くへ運んでおくれ。平安な眠りも幸福な来世も、望みはしない。

ただ、ひととき


夢を見せておくれ
92番外 「巡りあう獣」:2006/07/06(木) 19:49:03 ID:Ggvs072A0

「で?お前たち後先も考えずに二人揃って変身したってのか?着替えも持たずに音撃武器だけ持って来てて、何がちゃんと準備してます、だ」
そう言いながら、サバキの背中が笑っている。イブキとバンキは、明らかにサイズの合わない服を着て、きまりが悪そうだ。
「もういいじゃないですか、サバキさん。そう言うサバキさんだって、着替え持って来てなかったじゃないですか」
イチゲキがにこにこと人数分のコーヒーを淹れる。
「ま、そうなんだけどさ。なぁ、バンキ、ところでそのオキナなんとか草と魔化魍の関連って、何かわかったのか?」
「いやぁ、まだ全然手付かずで・・・」と頭を掻いたところで、バンキはふとさっきの引っ掛かりを思い出す。
「サバキさん、この場所って、もしかして毎年同じ日にバケガニが出てませんか?」
「そうだったかな?でも、大体水辺に出る魔化魍だから、決まってくるだろう?」
バンキはPCを起動させ、BDB(バンキデータベース)の記録を見る。「あ、やっぱり。毎年七月七日になると、ここにバケガニが出てます」
そういう便利な道具があるなら何故俺に聞く、というサバキの突っ込みは、もうバンキの耳に届いていない。バンキの頭は、この奇妙な関連の謎を解き明かしたくて、めまぐるしく回転を始めている。
93番外 「巡りあう獣」:2006/07/06(木) 19:49:54 ID:Ggvs072A0
なんだかんだと楽しそうな師弟を笑顔で眺めながら、イチゲキはイブキに話しかけた。
「トドロキさんと日菜佳さんのお祝いの会、決まったんだって?」
「ええ。お店の予約も取れたし、人数もほぼ確定しました。本人たちにはまだ内緒にしてるんですけどね」
去年は鬼や鬼のまわりにいる人たちにとって、大変な一年だった。鬼として一人立ちした者、師匠を喪った者、そして、オロチの発生。
時は流れ、人も環境も移り変わっていく。しかし何処にいても命の危険は、常に鬼や鬼を取り巻く者たちにつきまとう。
楽しめる時は、存分に楽しむ。誰も口には出さないが、それは誰の心にもある。
「あれ?それ、どうしたんです?」ふと、イブキはテーブルの上にあるレモンイエローの破片に目を止める。「キハダ・・・ですか?」
「うん。随分やられちゃった。もうダメかもしれないんだけど、一応ね。みどりさんなら、なんとかしてくれるかもしれないと思ってさ」
DAの原型はとどめていない。みどりの手をもってしても、再生は不可能だろうと思う。だが、その無残な姿を見れば回収せずにいられない気持ちは、良くわかる。
「みんなに会うの、久し振りだなぁ」椅子の背もたれに身体を預け、キハダの破片で陽光を透かして見ながらイチゲキが呟く。その右手の甲には、数年前に受けた切開手術の痕が、まだ痛々しく残っている。
「どいつもこいつもお祭り好きだからな。幹事は苦労するぞ、バンキ」
「大丈夫ですよ、サバキさん。その為に、イブキ君にサポート頼んだんですから」
鬼たちは、笑う。その頭上で、静かに雲が流れていく。天上の恋人たちは今夜、鵲(かささぎ)の助けを借りずに年に一度の逢瀬を楽しめそうであった。

                         =完=
94DA年中行事:2006/07/06(木) 20:42:07 ID:Ggvs072A0
おろ、>83の真ん中で変な改行が。えー、お読みになる際には何事も無かったように
続けてお読みください。

なんだか先回に続いて今回もDAがあんまり出てきませんでした。
欲張ってあれこれ鬼さん出したら、誰が主役やらわからんように。おかしいなぁ、バンキ
さんメインで書くつもりが。てなワケで、バンキさんにはまた近々出ていただきます。

次回は、次回は・・・・やっぱりお正月に次ぐ年中行事と言えば、盂蘭盆会ですかね。
今度こそ、DAみっしり詰め合わせで!
95名無しより愛をこめて:2006/07/07(金) 06:10:32 ID:3kBlrE3N0
>>79
拝読しました。トキさんの引っ掛けに見事に引っかかりましたw
ところでTOP画像を見るに、これからピアノや鉄琴の鬼も出てくると解釈していいんでしょうか?
96名無しより愛をこめて:2006/07/08(土) 10:43:29 ID:CHf23JNnO
前スレ読んで
サバキさん、亡くなってなかったの!?
だったら、絶対に起きてくれるはず!
97名無しより愛をこめて:2006/07/08(土) 12:00:05 ID:Nn1sEBVU0
文面から察するに、時間軸が最終章以前の物語では?
98DA年中行事:2006/07/08(土) 12:41:23 ID:rhGaBznm0
>>96さんへ
「巡りあう獣」の話の事でしょうか?
だとしたら、2006年の7月7日のつもりで書いてます。
誤解を生んだようで申し訳ないです・・・・

いや、オレもサバキさんにはいつの日か目を醒まして欲しいと思っています。
99中四国作者:2006/07/08(土) 12:43:32 ID:LpvbIK/lO
>>95
そういうことになります。
それがどの名前かは…その時のお楽しみということで。
100DA年中行事:2006/07/08(土) 12:51:07 ID:rhGaBznm0
うっわ恥ずかしいオレ。バカ!オレのバカ!どんだけ目立ちたがりダよ!

・・・・今前スレ見て来ました・・・・・・あんまり恥ずかしいので、蘇りの森に逝ってきますorz
101高鬼SS作者:2006/07/08(土) 13:31:30 ID:g1ba2I1T0
前スレ>475
まさか裁鬼SSの続きを読めるとは…。
サバキさん……(つд`)
眠りから覚める日が来る事を俺も信じてます。

>>75
>そういえば、あかねさんって経歴とか不明だったよね?
あ〜……すいません、全く考えておりません。
あの、もしよろしかったら書いてみます?
ZANKIテイストのあかねさん過去話って結構読んでみたいかも…。
102名無しより愛をこめて:2006/07/08(土) 17:16:37 ID:XLlsRim70
>>99
つまり「サックス型音撃管」や「こと型音撃弦」の音撃戦士も登場するんですな。
貴公の作品を読んでいると「これこそ俺の見たかった音撃ライダー響鬼だ!」って感じがします。
本編では、ヒビキが太鼓の特訓をするシーンは何度かあっても、ペットやギターの練習シーンなんて全く描かれなかったし……
関東支部の鬼のてれびくん情報を見たときなんか「スタッフめ、肝心なとこで手を抜きやがって」なんて思ったクチですわ。
やはり音楽を主題の一つにするのなら色々な楽器を出して欲しいですからなあ。
そういう意味で貴公の作品にはかなり期待しております。
103弾鬼SSの筆者:2006/07/08(土) 19:37:36 ID:2fpqFW8I0
前スレ>475
裁鬼さん!御存命だったのですね〜〜!
いつの日か目覚める事を信じています!

>高鬼SS様
集う王にて九州支部を出していただき有難うございます。
しかも、ニクスイやツマビキまで・・感涙ですw
ニクスイのイメージは高鬼SSさんと同じなので全く問題ないです!

さて、現在弾鬼SSがアイディア不足の為、息抜きに九州支部の設定を考えていました。
実は九州支部は適当にでっち上げた代物だったので、特に考えていなかったのですが、集う王にて店の花を根こそぎ食べられたと言うのを読んだ時
しっかりと設定を考えてみたら・・・と思い立ちました。
気分転換と九州支部お目見えの為のSSを書いているのですが、高鬼SSさんの登場キャラ(高鬼・あかね・闇月鬼)を使わせてもらってもよろしいでしょうか?
104高鬼SS作者:2006/07/08(土) 19:59:20 ID:g1ba2I1T0
>>103
どうぞお使い下さい。
こちらも断りもなく設定やキャラを使わせていただいたので、問題はありません。
楽しみに待っています!
105仮面ライダー風舞鬼:2006/07/08(土) 23:20:02 ID:ImvC4Pb00
二零一の巻「散華する楼鬼」終結。

不思議な湖に迷い込んだ一行。
そこに現れた瓜坊。眼が血走っているところを見ると、明らかに味方ではないのだろう。
「みな、気をつけろ。成長し切っていないとはいえ、相手はあの『マグワジ』だからな・・・・。」
「マグワジ?こいつらの名前ですか?」
「そうだ。マグワジは本来、シーサーのモデルになった守り神だが、邪気にさらされて魔化魍になることがある。どこかに親がいるはずだ。」
そういうと楼鬼は5匹の瓜坊にむかって音撃弦を突き立て、斬撃を繰り出した。
瓜坊の肉に刃が通るたびに高い音色が鳴り響き、辺りには花が咲いていく。そうしてとうとう五匹目の瓜坊を浄化したとき、霧が若干晴れて、辺りが見えるようになってきた。
「やりましたね。師匠!」
「こりゃースゲエや!それが属性桜の通力かい?」
「・・・・まだだ。」
「・・・・・・え?」
「まだこの辺りに、数え切れないほど居る。」
106仮面ライダー風舞鬼:2006/07/08(土) 23:20:33 ID:ImvC4Pb00
楼鬼の察したとおり、先ほどの戦いで咲いた花は一瞬にして灰となり、新たにまた瓜坊が出てきた。その数はざっと見ても100は超えていた。
「な・・・何なんだよ、こいつら!」
「まぁ・・・・増殖タイプってことかな。早く仕舞いにしないと、取り返しが付かなくなる。いくぞ、爛鬼。」
「お・・応!!」
そういうと捌鬼は刀を抜き、爛鬼は音撃棒を手に取った。
「貫鬼・・・。行くぞ。」
「・・・はい。」
楼鬼と貫鬼は音撃弦に音撃震をとりつけ、一陣の風とともに駆けた。
恭子はただ、戦いに身を置いた男たちを見ていることしか出来なかった。

瓜坊は一斉に鬼たちに襲い掛かって来る。その大群をなぎ払い進もうとするが、どんどん瓜坊たちは沸いでて切りが無い。
捌鬼、貫鬼、爛鬼はなんとかそれでもやり遂せたが、普通なら鬼を引退している年齢の楼鬼には厳しかった。
楼鬼が20匹ほど瓜坊を倒したときだった。突然、前方から重い一撃が飛んできて、楼鬼は水辺まで吹っ飛ばされた。
「ッ!?」
「師匠!?」
107仮面ライダー風舞鬼:2006/07/08(土) 23:21:15 ID:ImvC4Pb00
貫鬼が振り向くと、師匠の前に二十七尺はあろうかという、とんでもなく大きな純白の猪が牙をむき出して、唸っていた。猪もこちらに気がつき振り向いたその形相は口から膿を流し、眼は赤く血走っていた。
貫鬼はその禍々しくもある威風に怯え、師匠を助けだそうと音撃弦の切っ先を猪に向けた。そして・・・
「貫鬼ィ!!やめろぉぉお!!」
楼鬼が止めたが、時既に遅し。貫鬼は半ばパニック状態で叫びながら猪に突進していった。
それに興奮した猪はその勇猛たる牙を貫鬼に向けた。貫鬼と猪が衝突した刹那。一つの体が弾けとんだ。
貫鬼は自分は死んだものかと思った。だが生きていた。猪と衝突する瞬間、貫鬼のからだは横に押し飛ばされ、その代わりに楼鬼が猪に弾かれたのだった。
貫鬼は息も絶え絶えとなった師匠に這いより、問いかけた。
「なぜ、身代わりのようなことを!?」
「・・・・貴様・・・未だ、吉野には正式に登録してなかったよな?」
「そうですけど、こんなときになんですか!?」
「お前・・・アレを清めろ。」
「・・・・え!?」
「お前が・・・一人で・・・アレを清められたら・・・本当の免許皆伝にしてやる。」
「・・・・・・。」
「俺も・・・もう長くは無い・・・・最期に・・・お前の姿を眼に焼き付けてから・・・散ることにした・・・。」
「・・・・。」
「勝手かもしれんが・・・・頼む・・・。」
108仮面ライダー風舞鬼:2006/07/08(土) 23:21:56 ID:ImvC4Pb00
「師匠。僕は師匠の為なら、何でもしますよ・・・だからここでもう少し待っていてください。」
楼鬼はそれを聞くと笑顔をみせ、音撃弦・十六夜(いざよい)と、音撃震・月呼(つくよみ)を差し出した。貫鬼はそれを無言で受け取ると、人間の顔に戻ったロウキに問うた。
「これは・・・?」
「それをお前にくれてやる。どちらにしろ、俺にはもう必要ない。さあ、早く行け。敵は待ってはくれない。」
「・・・・かならずやり遂げます。」
そう言い残すと貫鬼は純白の猪に斬りかかった。油断していた猪は驚き、先ほどよりも興奮した。その周りでは捌鬼と爛鬼が瓜坊に苦戦している。
貫鬼は十六夜を天に突き、古のまじないを唱えはじめた。日本語ではない。どこか遠い時代、遠い場所にあった文明の言葉だ。そのまじないを唱え終わると、貫鬼は大地に十六夜を突き刺し、大自然のエネルギーを借りた。
一連の動作が終わると、今度は十六夜が金色に光り輝き、空の暗雲が消え去った。すると満月が顔をだし、煌く月光が十六夜に集中し、貫鬼は月呼を装着。展開した。
十六夜の輝きは先ほどの比にならないくらいに増大し、みるみるうちに周囲の霧をすべて取り払い、その光によって瓜坊はみな浄化されていった。
猪の目は黒く爛々と輝き始め、純白の芳容はさらに毛並みを美しくさせていった。
貫鬼は、機は熟したりと猪に飛び乗り、背中に音撃形態となった十六夜を突き刺した。猪はかの如く猛り狂い、暴れまわったが貫鬼が振り落とされるようなことは無かった。
109仮面ライダー風舞鬼:2006/07/08(土) 23:26:42 ID:ImvC4Pb00
「大人しくしろぉぉおい!!」
貫鬼は少々ヤケになって猪の後頭部を思い切りぶん殴ってしまった。その時、一瞬だけ猪の動きが止まり、しめた!と思い、音撃弦を再び突き刺した。
「音撃斬!桜花散華!!」
貫鬼は弦を弾いた。暴れまわる猪の背中で、力の続く限り。そうして、とうとう猪の体から邪気が立ち昇り、湖の上で桜の花のごとく、散っていった・・・。
貫鬼が、泣く恭子に抱かれ朦朧としているロウキに寄り添うと、ロウキは静かに笑うと、声を絞り出して最期の言葉を口にした。
「お前に・・・『狼鬼』の名を・・・授ける。その音撃弦もな・・・。最期に良いものを見せてもらった・・・ありがとう。」
「師匠!師匠!!しっかりしてください!!未だ恭子には何もしてやれてないじゃないですか!!そんな状態で逝かないで下さいよ!!師匠ーーーー!!」
弟子の言葉を聴く余地もなく・・・せめてもと、ロウキはその法力であたり一面の木に花を咲かせ・・・・こと切れたのだった。


―――嗚呼 鬼よ 我は己の不甲斐なさを憂む わが御許が御隠れに給いし際に わが力も劣り果てたと言へども 我が邪気にさらされ 正気を失うような失態 断じて許されることにあらず
せめてもの償いに 千年(ちとせ)に渡りこの大和を護り続けた十二神のうち一神の この『亥神』。 そなたの御弟子にあらん限りの通力を 我が御許に戻るまで 貸し与へむ。

「散華する楼鬼」結。
110風舞鬼作者:2006/07/09(日) 01:34:27 ID:BersakfT0
補足ッ!
一行が遭遇した猪というのは、亥年の神さまだったわけです。
ただ、邪気にさらされ、正気を失い、魔化魍同然となっていたところを、
貫鬼あらため、狼鬼が清めて正気を取り戻したわけです。
ちなみに今後登場予定の神様を一人除いて先行紹介しときます。

子神=富を司る神
丑神=繁栄を司る神
寅神=雷を司る神
卯神=月、夜を司る神
辰神=天、海、大地を司る神
巳神=水、雨を司る神
午神=刻を司る神
未神=生活を司る神
申神=花を司る神
酉神=太陽、朝を司る神
戌神=炎を司る神
亥神=武運を司る神
111名無しより愛をこめて:2006/07/09(日) 13:24:55 ID:BI9q6aIwO
もはや響鬼とはまるで関係ない話だな
112風舞鬼作者:2006/07/09(日) 14:29:57 ID:BersakfT0
↑パロディですから。
113名無しより愛をこめて:2006/07/09(日) 17:41:18 ID:AwIVot2XO
ドリルちんちん
114裁弾鋭スレの74:2006/07/09(日) 21:48:18 ID:pW6gANDD0
前スレの、替え歌→ドクハキさん→藤岡弘、→裁鬼さん(つд`)
という終わり方はこのスレらしいバラエティがあって良かったです。各職人さん乙です。
思えばこのスレも「裁鬼さんが主人公のストーリーを作るスレ」から数え6スレ目。
ここまで続いたのはひとえに職人さん達のお陰です。
一読者として楽しみにしてますのでこれからも頑張ってください。

私事ですが裁弾鋭スレで企画してた戦国時代の裁鬼さんのSSの設定が
やっとまとまったので、モチベーションアップのためにも予告だけ投下します。
本編の投下時期は8月の始めを予定していますが、
今はまだプロットを書いてる段階なので少し遅れるかもしれません。
また設定は裁弾鋭スレの>>80から変えた部分もあるのでご了承ください。
115裁弾鋭スレの74:2006/07/09(日) 21:49:34 ID:pW6gANDD0
予告

鬼、それを目指す者
鬼、その力を失った者
鬼、それを受け入れた者
鬼、未だその道を求める者
鬼、そうであり続けなければならない者
鬼、そうであることを誇る者
鬼、それを継ぐ者
鬼、それを愛する者
それらをつなぐ鬼、裁鬼

響鬼達7人の戦鬼がオロチと戦っていたのと同じころ、
血狂魔党の本拠地、鬼岩城でもまた鬼たちは闘っていた。

仮面ライダー裁鬼とたぶん7人ぐらいの戦鬼(仮)
8月投下予定
116名無しより愛をこめて:2006/07/09(日) 22:25:36 ID:B9P5YlHH0
>>114
OK!待ってる!まだまだ現役だぜぇ!
117名無しより愛をこめて:2006/07/10(月) 00:14:42 ID:KBE1OE520
九之巻「守る命」更新しました。
http://neetsha.com/inside/main.php?id=407

>>102
次回はサックスの人が登場……の予定。
118中四国支部鬼譚 作者:2006/07/10(月) 00:15:36 ID:KBE1OE520
名前入れ忘れた……orz

また前のコナユキさんのみたいな短編を書いてみたいなあと思う今日この頃です。
119名無しより愛をこめて:2006/07/10(月) 02:45:12 ID:1fl5a3JX0
>>115
「たぶん」7人かいw
楽しみにしてます。
120高鬼SS作者:2006/07/11(火) 00:51:58 ID:frD1UMHh0
番外編を一本投下させていただきます。
先代の旅日記第二弾。今回は「集う王」と「或る日の関西支部」の伏線両方を解消すべく北海道へ行ってもらいました。
先代は出ますが今回は殆どバトルシーンです。そのため先代の目立った奇行は無いです。
あ、でも場所が場所なのでジョジョネタは出てきます。
あと、こちらでも「鬼投術」を使わせてもらいました。ご了承下さい。
それではどうぞ。
121仮面ライダー高鬼番外編「静止した時の中で」:2006/07/11(火) 00:55:17 ID:frD1UMHh0
197×年、夏。
シフトの関係で長期休暇を得られる事になった関西支部のイッキは、愛車のスズキ・GT750Kに乗り、本州を北上していた。
目的地は北海道。一度行ってみたかったのである。
70年代、各地で魔化魍の出現が頻発し、出撃と休みの間隔がまちまちなシフトが続いたため、今回の連休はまさに僥倖であった。
真夜中の東北道を北へ北へとひたすらに走り続けるイッキ。夏とはいえ北はまだまだ肌寒いし、何よりバイクのため体感温度は実際のものよりも低い。
午前四時、青森港に到着し函館行きのフェリーに乗る。船内で一睡し、午前八時過ぎに北海道へと上陸した。
「涼しいというよりちょっと肌寒いかな。京都とは大違いだ」
休みを利用して北海道中を回るつもりのイッキは、地図を眺めるとこの日の予定を再確認した。
と、イッキの腹の虫が大きな音を立てた。
食事をするか……。
新鮮な海産物を急に食べてみたくなったイッキは、そのまま朝市へと向かっていった。
122仮面ライダー高鬼番外編「静止した時の中で」:2006/07/11(火) 00:56:50 ID:frD1UMHh0
その頃、猛士北海道支部に一人の来訪者があった。
そしてその来訪者と向かい合って座っているのは、頭に白木綿の行者包を結んだ碧眼の男であった。
北海道支部長の十三代目トウキである。
「……もう一度確認するが、君は本当に関東支部の鬼なのかね?」
「だからそうだってさっきから何度も言ってるじゃねえか。関東支部一の弦使い、ザンキさんとはこの俺の事よ」
胡散臭そうにザンキを見るトウキ。
「関東支部一の弦使いはカザムキさんという人だと聞いているが……」
カザムキ(風向鬼)。本名は風見完全。真っ白い弦を操り魔化魍絡みの事件をズバッと解決する人呼んで関東一、否、日本一の弦使いである。
「あの人のは自称だから。一番は俺。兎に角、俺はちゃんとした本物の鬼だから。嘘だと思うなら本部の開発局長に確認を取ってくれ」
何故開発局長を指名するのかトウキには分からなかったが、いつまでも口論を続けるのも無意味に思えたので、このザンキという男を信用する事にした。
「分かった。君の言う事を信用しよう」
「そうそう。分かれば良いんだ」
満足そうに頷くザンキ。
と、一人の男がやって来た。学生服姿の大男である。
(げっ、あいつは)
内心ドキッとするザンキ。それもその筈、その男こそいつぞやかの大宴会で一人だけザンキの正体に気付いていた男、ジョウキだったからである。
当のジョウキはザンキの姿を一瞥すると、何事も無かったかのようにトウキにこれから出撃する旨を伝えた。
「なら丁度良い。ここに居る関東支部からのお客さんが、うちの支部の鬼が魔化魍退治をしている所を見学したいらしい。一緒に連れていってやってくれ」
再びザンキの姿を一瞥すると、ジョウキはその事を了承した。
(こいつ、北海道支部の人間だったのか。不味いなぁ、また何か言われるぞ)
気が気でないザンキであった。
123仮面ライダー高鬼番外編「静止した時の中で」:2006/07/11(火) 00:57:42 ID:frD1UMHh0
ジョウキとザンキは、サポーターが運転するジープに乗って現場へと向かった。
その「飛車」の名前は花京院。主にジョウキと行動を共にするサポーターでサングラスを着用している。趣味はプチトマト栽培。
「出現が予想される魔化魍はバケカラスです」
「バケカラス……」
花京院の説明に嫌な出来事を思い出すザンキ。再来日した際、ザンキはバケカラスに酷い目に遭わされている。
「……ただ、報告ではそれとは別の魔化魍が一緒に湧いている可能性があるらしい。どうする、ジョウキ?君の意見を聞こう」
「どうもこうもねえ。管とこの拳でやれる所までやるだけだぜ」
ここ数年、イレギュラー的に稀種が発生し、その他の魔化魍も活動を活発にしていると南雲あかねが言っていた事をザンキは思い出していた。
(ホント、大変な時期に来日しちまったな)
そんな事を思うザンキ。
と、隣に座っていたジョウキが煙草を吹かし始めた。
「おい、あんた未成年だろ?」
ザンキの忠告を無視し、煙で輪っかを作って吐き出すジョウキ。
「彼はとっくに成人していますよ、ザンキさん」
「えっ!?」
花京院の言葉に耳を疑うザンキ。では何故学生服を着ているのだ?
そんなザンキの疑問を察してか、ジョウキ自らが答えた。
「学生時代からずっと学ランに学帽が俺のスタイルだったんでな。私服だとどうもしっくりこねえから、卒業してからもずっと着続けてるんだ。まあ俺の戦闘服みたいなもんだな」
変な奴、と自分の事を棚に上げて心の中で思うザンキ。
現場の駒ケ岳に到着すると、ジョウキ達は式神を使って捜索を開始し、その日の活動を終えた。

翌日、函館で一泊していたイッキは、国道5号線を走り駒ケ岳付近の大沼国定公園へと向かっていた。
駒ケ岳には山の頂から馬の鳴き声が聞こえてくるという伝説があり、その名の由来として語られている。
さて、その国定公園の付近に到着したイッキだが、やけに立入禁止の札があちこちに立てられているのに気が付いた。何でも凶暴な熊が出たという。
「熊……ねぇ」
鬼としての勘が囁く。何かがこの周囲で起きていると。
既に北海道支部が動いている事は間違いない。しかし、自分でも何かの役には立つ筈だ。
イッキは立入禁止の立て札の奥へと、バイクと共に入っていった。
124仮面ライダー高鬼番外編「静止した時の中で」:2006/07/11(火) 00:58:57 ID:frD1UMHh0
林の中を進んでいくと、不意に開けた場所に出た。
バイクから降りヘルメットを外したイッキは、おもむろに懐から鉄扇子を取り出した。
そして。
振り向き様に童子の手刀を鉄扇子で受け止めるイッキ。
さらに鉄扇子で目を狙うも、童子はバク転で攻撃を躱しイッキとの距離を取る。
「やはり魔化魍か」
更に姫がイッキの背後に現れた。両者はじりじりと距離を詰めてくる。
変身音叉を取り出すイッキ。
「お前、鬼か」
「そうだよ」
返答するや否や、腕に当てて鳴らした音叉を額に掲げ変身するイッキ。落雷が周囲の地面を焦がし、童子と姫をその場から下がらせる。
「おおお!」
変身を終えた壱鬼は、まず目の前にいる童子に狙いを定めて突進していった。
慌てて怪童子に変身するも、その胸板に壱鬼の雷を纏った拳が炸裂し火花を散らす。
吹っ飛ぶ怪童子に背を向け、今度は同じく変身を終えた妖姫に向かっていく。
互いに接近して殴り合いを繰り広げる中、壱鬼が妖姫の腕を掴み取った。
「せいっ!」
一本背負いを決め、更にその腹に電撃を纏った鬼爪を突き刺す壱鬼。
激しく痙攣を起こしながら、妖姫の体は爆発した。
そこへ怪童子が跳び掛かってくる。その攻撃を受け流し、背後を取ると壱鬼は怪童子を掴んで空中に跳び上がった。
「鬼闘術・稲綱落とし!」
自身と怪童子の体を電撃で包むと、壱鬼は空中で怪童子の体をパイルドライバーの体勢に固め、そのまま大地に向かって落下した。
脳天を思いっきり大地に叩き付けられる怪童子。全身を駆け巡る電流が全て地面に流れ込むと同時に、怪童子の体は爆発四散した。
「さて、後は魔化魍だな」
しかしさっきの童子と姫は今まで見た事が無い姿をしていた。ひょっとしたら稀種だろうか。
と、何か大きなものが地面を這いずるような音が聞こえてきた。
そして。
「何だ、こいつは……」
壱鬼の目の前に、あまりにも巨大な魔化魍がその姿を現した。
125仮面ライダー高鬼番外編「静止した時の中で」:2006/07/11(火) 00:59:30 ID:frD1UMHh0
捜索を再開したジョウキ達は、バケカラスの怪童子と妖姫を発見し、これと戦っていた。
両腕を漆黒の羽に変えて上空を飛び回る怪童子と妖姫に向け、音撃管・星屑を乱射するジョウキ。
羽を撃ち抜かれ、まず怪童子が地面に墜落してきた。
その傍へ駆け寄り「星屑」を怪童子の胴体目掛けて連射する。怪童子は黒い羽根を巻き散らしながら爆発した。
その様子を空から眺めていた妖姫は、そのまま飛び去ってしまった。
「行こう!後を追えばバケカラスの所に辿り着く筈だ」
花京院が叫ぶ。
ジョウキ達三人は妖姫の後を追って林の中を駆けていった。

暫く進むと、三人の目の前にとんでもないものが現れた。
「ワ〜オ、何だこりゃ?」
ザンキが驚きの声を上げる。
そこには、巨大な脱け殻が落ちていたのだ。
「花京院、これが何か分かるか?」
ジョウキの問いに対し、脱け殻の傍へ近寄り調べてみる花京院。
「……聞いた事がある。魔化魍の中には捕食と脱皮を繰り返し底抜けに大きくなるものがいると……。確かノヅチと言ったか……」
という事は、これはノヅチの脱け殻なのだろうか。
「ノヅチ?何だそりゃ」
ザンキが花京院に尋ねる。
「何十年に一度出るか出ないかと言われている魔化魍です。記録では昔三十メートルを超えるものが出たらしいのですが、理論上は際限無く成長を続ける筈です」
「……厄介だな。じゃああれがその童子と姫か?」
「星屑」を構えながらジョウキが言う。
見ると、いつの間にか三人の目の前に童子と姫が立っていた。
126仮面ライダー高鬼番外編「静止した時の中で」:2006/07/11(火) 01:00:32 ID:frD1UMHh0
巨大な芋虫に似た姿の魔化魍――ノヅチを前に壱鬼はただただ呆然としていた。
と、ノヅチが頭部を壱鬼の方に向けてきた。刹那、壱鬼の立っている場所目掛けて突っ込んでくるノヅチ。
慌てて回避する壱鬼。見ると、さっきまで彼が立っていた場所は地面が丸ごと抉り取られていた。
ぞっとする壱鬼。
「くっ、この場合最適な方法は……」
とりあえず動き回り相手の疲れを誘う戦法を取る事にした壱鬼は、バイクに跨るとノヅチの目の前を走り回った。壱鬼を食らうべく頭部をせわしなく動かしまくるノヅチ。
暫くの間そんな事を続けて、漸くノヅチの動きが鈍くなってきたのを確認すると、壱鬼はバイクから降りて音撃鼓・万雷を装備帯から取り外した。
「うおおお!」
大きく振りかぶって、渾身の力で「万雷」をノヅチ目掛けて投げつける壱鬼。
「万雷」はノヅチの巨体に貼り付くと、その大きさに合わせて巨大化した。
「行くぞ!音撃打・電光石火!」
音撃棒・霹靂を構えた壱鬼の体に雷が落ちる。
雷を纏った壱鬼は猛スピードでノヅチへと向かって駆け出した。その体が青白く光り輝く雷の矢へと変わる。
半ば「万雷」に激突するかのように壱鬼は「霹靂」の一撃を叩き込んだ。電撃と共に清めの音がノヅチの巨体を駆け巡る。
これが彼の音撃打・電光石火の真の姿である。
のたうち回るノヅチ目掛けて、上空へと跳び上がった壱鬼が再び「霹靂」を叩き込む。更に三度、四度と繰り返し、とうとうノヅチの巨体は大地へと還った。
顔の変身を解除し一息吐こうとする壱鬼。と、そこへ新たな魔化魍が現れた。
「こいつは!」
バケカラスがその巨大な翼を羽ばたかせて現れたのである。
その背から妖姫が飛び降りてくる。着地し、壱鬼を一瞥すると静かに喋り出す妖姫。
「また、鬼か……」
更に。
「う!これは!」
禍々しい、射るような視線が壱鬼を捕えた。慌てて背後を振り向く壱鬼。
そこには、黒い傀儡が立っていた。
(全く、長期旅行に行く度に酷い目に遭ってる気がするな……)
心中でそうぼやきながら、壱鬼は「霹靂」を構え直した。
127仮面ライダー高鬼番外編「静止した時の中で」:2006/07/11(火) 01:02:24 ID:frD1UMHh0
波動を放ち攻撃を仕掛けてくる黒い傀儡。上空からはバケカラスと妖姫が襲い掛かってくる。この三体を相手にきりきり舞いの壱鬼。
(さっきの奴同様、スピードで攻めるか)
バイクに再度跨り、疾走する壱鬼。
妖姫が急降下し、突撃を仕掛けてきた。壱鬼をバイクから弾き飛ばすつもりだ。
「鬼闘術・雷鳥之舞!」
壱鬼の体をバイクごと電撃が包み込む。そのまま大きく跳躍し、妖姫を迎撃する壱鬼。
両者は正面から激突した。その瞬間爆発が起こり、その中から無傷の壱鬼がバイクに跨って飛び出してきた。
派手な音を立てて壱鬼を乗せたバイクは地面に着地し、そのまま体勢を立て直す。
さて、どうしてこのように扱ってもバイクが全く壊れないのか疑問に思う方もいる事だろう。
実はこのバイク、あかねが開発した鬼専用の戦闘バイクの試作品なのだ。外見こそ市販の物と同じだが耐久性が格段に上がっており、さっきの雷のように鬼の力を受けても簡単には壊れないのだ。
バケカラスが急降下し嘴を突き立ててきた。それを巧みな運転で回避し、黒い傀儡目掛けて再び雷鳥之舞を使用し突撃を仕掛ける壱鬼。
だが、黒い傀儡の放つ波動が猛スピードで疾走する壱鬼のバイクを押し止めた。
「くっ!動けない……」
動きの取れない壱鬼目掛けてバケカラスが上空から急降下してきた。
と、その時。
銃声が起こり、それと共にバケカラスが上空へと引き上げていく。
見るとそこにはノヅチの童子と姫を倒してきた承鬼と斬鬼、そして花京院の姿があった。
「なあ、あそこでバイクに乗ってるのもここの鬼か?」
「いえ、違います。何処の鬼だ?」
「だが魔化魍と戦っているんだ。なら味方だぜ」
黒い傀儡に「星屑」の銃口を向け、発射する承鬼。回避されるも、壱鬼の動きを封じていた波動を消す事には成功した。
128仮面ライダー高鬼番外編「静止した時の中で」:2006/07/11(火) 01:03:04 ID:frD1UMHh0
「助かりました!有難う!」
「おう!精進しろよ!わははは!」
自分が助けたわけでもないのに偉そうに答える斬鬼。と、そこへ。
「うおっ!」
背後から跳び掛かってきたノヅチの怪童子と妖姫に奇襲を受ける斬鬼。
「あいつら、さっき倒した筈!」
花京院が驚きの声を上げる。この場合可能性は一つ。つまり。
「まだ居るのか、あれが!」
怪童子と妖姫の姿を見て壱鬼が叫ぶ。
そして。
地面の中から、先程壱鬼が倒したものよりはやや小さいノヅチが現れた。
「やっぱり!まだ居たのか!」
「そこのあなた。『まだ居た』と言いましたね。既にこの魔化魍と戦闘しているのですか!?」
花京院の問い掛けに対し、先程既に自分が一匹仕留めている旨を告げる壱鬼。
「という事は……まだ一匹居るのか!?」
と、バケカラスの悲鳴が周囲に響き渡った。
見ると、新たに地下から現れたノヅチがバケカラスを半分以上飲み込んでいた。
「あれを管で相手にするのは骨が折れるな……。斬鬼。それとそこの鬼。ノヅチは任せたぜ。俺は……」
あいつを倒す。そう言うと承鬼は黒い傀儡に向き直った。
「任せたぜって言われても……、ああ鬱陶しい!」
怪童子と妖姫を相手に奮闘する斬鬼。と、怪童子の頬に何か翠緑玉色に輝く礫のような物が当たった。
当たった箇所が激しく爆発し、怪童子が悲鳴を上げる。
礫を飛ばしたのは花京院だった。見ると、同じ様な翠緑玉色の礫を幾つも指と指の間に挟み、ポーズを決めている。
「鬼投術・撥ね散る翠緑玉(エメラルドスプラッシュ)。鬼石の原石に呪を込めて投げつける技……。さあ、ここは僕に任せてあなたはノヅチを!」
「グラッチェ!じゃあここは任せたぜ!」
音撃弦・烈雷を手にノヅチに突っ込んでいく斬鬼。その後を追おうとする怪童子と妖姫に再度礫を飛ばして牽制する花京院。
「お前達の相手はこの僕だ。……さあ、お仕置きの時間だよベイビー」
129仮面ライダー高鬼番外編「静止した時の中で」:2006/07/11(火) 01:04:26 ID:frD1UMHh0
バケカラスを食い終えたノヅチは、あろう事かもう一体のノヅチを食おうと襲い掛かっていった。
始まるノヅチ同士の戦い。これは鬼達にとって絶好のチャンスである。
「万雷」を力一杯投げつける壱鬼。その脇を「烈雷」を抱えた斬鬼が駆け抜けていく。
「音撃打・電光石火ぁ!」
落雷。壱鬼の体が電撃に包まれ、再度彼の肉体を雷の矢に変える。
弾かれるように飛び出した壱鬼が、「霹靂」の打撃を「万雷」に叩き込んだ。
音撃を受けて弱ったノヅチにもう一体のノヅチが食らいつく。だがそのノヅチの背には既に刃を展開した「烈雷」を握った斬鬼が飛び乗っていた。
「烈雷」の刃を突き立て、音撃斬の体勢に入る斬鬼。
「音撃斬!雷神招来!」
奏でられるハードロックの音色がノヅチの巨体を駆け巡る。壱鬼もまた、縦横無尽に動き回りノヅチの巨体に電撃と清めの音を叩き込んでいく。
そして、二体のノヅチはほぼ同時に爆散し土へと還った。
「あ〜疲れた。今夜は新鮮な海産物を肴に一杯やりたいね」
「そんな事を言っている場合ですか。早くあの人達の加勢に行かなければ」
初対面の壱鬼にツッコミを入れられた斬鬼は、仕方なく承鬼の方へと戻っていった。

怪童子の体に的確に指弾を撃ち込んでいく花京院。十数発の礫を喰らい、とうとう怪童子の体が砕け散った。
しかし残る妖姫の攻撃を受け、吹き飛ばされてしまう。衝撃で花京院の掛けていたサングラスが外れて宙を舞った。
「くっ……」
散らばった礫を拾い上げ、妖姫に向けて構える花京院。
と、次の瞬間。
けたたましい音を立てながら飛んできた二つの電球が妖姫にぶつかった。そのまま爆発する妖姫。壱鬼の鬼棒術・天火だ。
「大丈夫ですか!」
花京院の下へと駆け寄る壱鬼。
「少し腕を痛めたが、折れているわけではないようだ……」
壱鬼に支えられ、立ち上がる花京院。
「しかし君は一体何処の……。否、今はそんな事を言ってる場合ではないか」
「……さあ、行きましょう」
二人は承鬼と斬鬼の下へと向かっていった。
130仮面ライダー高鬼番外編「静止した時の中で」:2006/07/11(火) 01:06:08 ID:frD1UMHh0
黒い傀儡が放つ波動を避けながら銃撃を続ける承鬼。傀儡もまた、承鬼の攻撃を避けていく。一進一退の攻防が続いた。
(このままじゃ埒があかねえ。ならば)
鬼闘術・白金世界を使用する承鬼。その瞬間、傀儡の目の前から承鬼の姿が消え去った。五秒間だけ身体能力を高め、超高速で動いているのだ。
「覚悟しな」
自分以外に動くもののいない世界で承鬼が啖呵を切る。するとその横で。
「よっしゃあ!今日はディ・モールト調子が良いぜ!」
斬鬼が同じ様に動いているではないか。驚く承鬼。
斬鬼の拳の一撃を受けて、黒い傀儡の体が吹っ飛んだ。
「あんたも高速移動が出来たのか」
「見たか。名付けて斬鬼・幻狼!」
そう言うや否や、吹っ飛んでいく傀儡に追撃を仕掛けるべく駆けていく斬鬼。
(こともあろうに!この胡散臭いスパイが……『我が……止まった時の世界に……』入門してくるとは……!!)
大急ぎで斬鬼の後を追い、彼を追い抜いて傀儡に仕掛ける承鬼。
「おらっ!」
承鬼の一撃が黒い傀儡に炸裂した。
「おらおらおらおらおらおらおらおらおら……」
怒涛の連撃が傀儡を滅多打ちにする。
「鬼闘術・流星指刺!」
強烈な指突が傀儡の頭部を粉々に粉砕した。それと同時に灰と化し崩れる傀儡。この一連の出来事全て合わせて五秒。
終わった。
「……大人気ない奴」
斬鬼の言葉を無視して顔の変身を解除し、一息吐くジョウキ。ザンキもそれに倣い顔の変身を解いた。
「おーい!ジョウキー!」
壱鬼に支えられながら花京院がやって来る。
ジョウキとザンキは二人の方へ向かって歩いていった。
131仮面ライダー高鬼番外編「静止した時の中で」:2006/07/11(火) 01:06:41 ID:frD1UMHh0
その後、イッキは報告のためにジョウキ達と共に北海道支部へと向かい、色々と話を聞かれた。
一泊していけというトウキの好意に礼を述べ、イッキは再び気侭な一人旅に戻っていった。
それを見送りながら花京院がジョウキに言う。
「今回は関西支部の彼に助けられたな」
「ああ。……ところでザンキは?」
「ここの施設を見学させてくれと支部長に頼んでいたが……」
やれやれ。そう呟くとジョウキは北海道支部の建物内に入っていった。
(少しでもスパイ紛いの事をしたら……許しちゃおけねえぜ)
北海道支部は東北支部と並び独自の歴史と体系を持ち、総本部からも一目置かれている。下手に情報を漏洩させるわけにはいかない。
「トウキ、あの客人は?」
「地下の研究室だが……。どうしたジョウキ?怖い顔をして」
「何でもねえ。それよりあいつがここに滞在している間の面倒は俺に見させてくれ」
「それは構わんが……」
そう告げるとジョウキもまた地下への階段を下りていった。 TO BE CONTINUED…
132高鬼SS作者:2006/07/11(火) 01:14:16 ID:frD1UMHh0
TO BE CONTINUED…と〆てみたけれど、北陸支部のように翌日の話を書くかは未定です。
あと裁鬼SSに出てきた風見さんにもちょっと触れてみました。
時代的にやはりこの頃の鬼だろうと思ったので。
133名無しより愛をこめて:2006/07/11(火) 07:33:39 ID:imn8xoa10
サポーターの名が出た時、(キタァーーーーッ)と思いました。
承鬼さん、途中ディオになっとるがなw
134弾鬼SSの筆者:2006/07/11(火) 23:24:09 ID:wAP3yPGA0
先日書き込んだ、気分転換SSを投下します。
今回初めて、他のSS職人さんのキャラクターを動かしました。
雰囲気が出ているかどうか不安ですが、どうぞ暇つぶしにでも読んでやってください!
135弾鬼SSの筆者:2006/07/11(火) 23:24:47 ID:wAP3yPGA0
197x/5月某日。
いつものように研究室で機械いじりをしていた時の事。
「コウキ君いる?」
ドアを開けひょっこりやってきたのは、南雲あかねだった。手には珈琲と・・大きめの封筒をもっていた。
珈琲を手渡され、今週は暇かどうかを尋ねられた。
先週が出撃期間だった為、今週は休養期間に入っている。
「これといって予定は入っていませんが・・・何か用でも?」
珈琲を持ってあかねが現れた時は、何かしらの頼み事がある。それを理解した上で、コウキはそう問い掛けた。
あかねはコウキの予定が空いている事を聞くと、にっこり笑って・・・
「そう、じゃぁぶしつけで悪いんだけど、私と温泉旅行行かない?」
そんな事を言った。
「・・・・は?」
その言葉に、コウキの思考が止まった。
その様子が可笑しいのか、あかねはクスクス笑いながら手を振った。
「別に深い意味は無いのよ。はいコレ」
あかねは未だに硬直しているコウキに、手にしていた封筒を渡した。
硬直から解けたコウキが、渡された封筒の中身を確認する。そこには鹿児島・指宿砂蒸し温泉ツアーと書かれたパンフレットと、そのツアーの権利を証明する紙が入っていた。
「ちょっとした懸賞に応募してたんだけど、見事特等の旅行ツアー招待券を手に入れたのよ。元々友達と行くつもりだったんだけど、その娘、ちょっと都合がつかなくてね」
パンフレットの中身を確認しつつ、あかねの話を聞くコウキ。パンフレットの写真には、温泉宿の食事風景や、謳い文句でもある砂蒸し風呂の写真が載っていた。
「なるほど。それで私を?」
「うん。折角当たったのに私一人で行っても面白くないし、コウキ君にはいつもムリばっかりさせてるからね。これはそのお礼とでも思ってもらえれば・・・ダメかな?疲れを癒しに行かない?」
確かにココの所、緊急出動や予想外の魔化魍との戦いが続いている為か、疲れが中々取れない。それを癒すのに温泉はもってこいだし、なにより砂蒸し風呂と言うものに興味を引かれたコウキは・・
「わかりました。それならばお誘いを受けましょう」
「よかった!じゃ善は急げね。早速準備しなくっちゃ」
スキップしかねない様子で研究室を後にするあかねを見送りつつ、久々の骨休めを満喫しようと思うコウキだった。
136弾鬼SSの筆者:2006/07/11(火) 23:25:53 ID:wAP3yPGA0
九州・熊本・熊本空港/
二日後、無事到着したコウキとあかねは、手荷物を受け取り空港の外へと出た。
「あっついね〜」
空調が利いていた建物と違い、外はまだ5月だと言うのに茹だるような暑さだった。
パタパタと手団扇で風を送るあかね。
「そうですね・・さすが南国といったところですか。そういえば、九州支部の迎えとはどんな人物なのですか?」
この旅行が決まった後、折角だから九州支部に顔を出していこう、ということになり、その旨を九州支部に伝えたところ、九州支部の人間が空港まで迎えに来てくれるとの事だった。
「えっとね・・目印になりやすいヤツを送る・・だそうよ」
「目印ですか・・・・」
その言葉を聞き、辺りを見回すコウキとあかね。周囲にはサラリーマンや清掃業者などが数人いる程度・・・だが、その中に確かに目印になりそうな人物がいた。細身で矢鱈と長身な人物が停めた車の横に突っ立っていた。
「彼・・かな?」
「おそらく・・・他に目印になりそうな人物はいませんし・・・・いえ、どうやら彼で間違い無いですね」
そう言ってコウキはその青年の左腕の辺りを指差した。
その腕には変身鬼弦が巻かれている。
「そうね、間違いないわ」
その青年がコウキ達に気がついた。それを見てコウキは変身音叉を腰から取り出すと、青年に向けて翳した。
青年もそれを見て、同様に左手首の変身鬼弦を翳した。
鬼たちの間で行われる、確認の動作である。
それが済んだのを確認してから、あかねは荷物を手に持ちその青年へと近づいた。
「九州支部所属のツマビキと申します。コウキさん、南雲さん、長旅お疲れ様です」
青年=ツマビキは丁寧に頭を下げ、コウキとあかねを迎えた。
137弾鬼SSの筆者:2006/07/11(火) 23:27:04 ID:wAP3yPGA0
「コウキさんの噂は九州支部にまで轟いていますよ。魔化魍十匹殺しの・疾風鋼の鬼!って」
車を運転するツマビキが、まるで憧れの芸能人と対面しているかのようなはしゃぎ様でそう言った。
「・・・三十匹だ」
後部座席に座るコウキが、やや不機嫌そうにそう呟いた。その後小声で『何故正確な数が伝わってないのだ』と洩らした。それをしっかり耳にしたあかねがクスリと笑う。
「えぇ!そうなんですか!先輩からは十匹だと・・失礼しました」
後ろを振り向き、頭を下げるツマビキ。
「それはいいから、ちゃんと前を向いて運転してくれ。こちらの心臓に悪い」
「はっ!はい!スイマセン」
ズバッ!と前を向いてハンドルを握りながら謝罪するツマビキ。
そのやり取りが終わった後、あかねがツマビキに話し掛けた。
「さっきから思っていたんだけど、この車少しだけどお花の香りがするわね」
「そういえば・・・確かにそうですね」
あかねの言葉に、コウキが鼻を啜り香りを吸い込む。
「えぇ。ご存知かとは思いますが、九州支部の表の顔は花屋を営んでいまして」
猛士の支部は、世間からの隠れ蓑として別の稼業をしている。旅館、甘味所、饂飩所と実に多種多様だ。
「思いのほか花屋の方が上手く行っていまして・・・結婚式場やパーティ会場等の大型会場から、花の注文が来る事も少なくないんですよ。昨日も結婚式場から注文が来てまして、車内に残っている香りは、その時の配達の残り香でしょうね」
その言葉に感心した様子のコウキ。
関西支部が経営する旅館は年々売上が下降していっている。そんな中、右肩上がりの経営があるというのは組織にとっても救いである。
「さて、そろそろ到着しますよ。ようこそ九州支部へ!」
熊本市の中心部から僅かに外れた場所にある7階建てのビル。そこの1階に花茶屋『かいどう』はあった。
脇に車を止めてコウキ達を中へ案内するツマビキ。
店内は、実に色取り取りな花で飾られていた。
桔梗・杜若・擬宝珠・百合・・・エトセトラ。
冷蔵機能の着いたガラスケースに入れられ、鮮度の高いままの花が飾られていた。
「綺麗ね〜」
「えぇ、美しいです」
あかねが花瓶やガラスケースの中を覗きながら口にする。これには男であるコウキも素直にそれを認める。
138弾鬼SSの筆者:2006/07/11(火) 23:28:59 ID:wAP3yPGA0
「あら、これ竜胆?でも竜胆は秋よね」
「いや、私は・・・あまり花には詳しくないので」
薄蒼い花を目にしたあかねがコウキに尋ねるが、コウキには判る筈も無い。
「それは筆竜胆といいまして、春に咲く竜胆ですよ」
奥の戸口から、一人の中年男性が現れる。
「九州支部へようこそ、南雲さん。それにコウキ君。私が支部長の海道 始です」
「おじゃましてます。南雲あかねです」
「関西支部所属・コウキです」
海道に頭を垂れる二人を迎えると、花を置いているスペースから離れた場所にあるカウンターに移動して、席に着いた。
暫く世間話に華を咲かせていると、ツマビキがお盆を持って現れた。
お盆には人数分のコップと、ガラスで出来たポットを載せていた。ポットの中には華の蕾のような物が入っている。蓋を開け、ポットの中に湯を注ぐと・・・
「ほう!」
「わぁ!」
お湯の中で蕾が開き、見事な水中花となった。ほんのりと黄色に色付いた液体をそれぞれのカップに移し、コウキとあかねの前に進めた。
「どうぞ、お飲みになってください」
海道に進められ、口をつけるコウキとあかね。
口に入るとほんのりとした甘味が口内に広がった。
「これは、面白い。口で味を、目で花を楽しむというのですか。初めて飲みましたよ」
普段は珈琲派のコウキも、物珍しさも手伝ってか好評価だ。いよいよ癒しの旅らしくなってきた、と心の中で満足する。
「たしか茉莉花茶っていうのよね?噂には聞いていたけど凄いわね〜。まさに花屋って感じね」
「気に入っていただけたようで何より。それで、九州にはどれ位滞在するおつもりで?」
自分の分の茶を飲みつつ海道があかねに問い掛けた。
「今日の夜には鹿児島に入って、明日はゆっくりして、明後日帰る予定です。本当はもう少し観光とかしたいんですけど、長々と空けるわけにもいきませんので」
「なるほど。いや、関西支部も色々と多忙な様子で。ここの所多発している予想外の魔化魍が現れることや、各支部の人員不足の為の鬼の派遣など、気苦労が耐えませんな。いや、折角の骨休めに来ているのに仕事の話をしては意味がありませんな。失敬」
ハッハッハ!と笑い茶を啜る海道。
139弾鬼SSの筆者:2006/07/11(火) 23:29:55 ID:wAP3yPGA0
それから三十分ほど雑談をしていると、突如バイクの爆音が轟いた。無駄に回転数を上げ、空ぶかしをしながら近づいてくる。
「何事でしょう?」
コウキが軽く立ち上がり、様子を見ようとした。だが、それより早く海道が異変の答えを出した。
「あぁ、きっと”彼“でしょう」
「彼?九州支部の誰かですか?」
「いえ、実は関東支部から一名、九州支部を見学しに着ている鬼がいまして」
その言葉を聞いた途端、全身に物凄い悪寒が走った。
『なんだこの悪寒は。駄目だ・・考えては・・思い出してはいけないことだ・・・』
その言葉に顔は外を向いたまま・・腰を浮かしたままで固まったコウキの視界の中に・・
「COOL!COOL!COOL!COOL!COOL!COOL!COOL!COOL!」
大型のバイクにラジカセを括り付けて、意味不明な言葉を吐きながら暴走する男が入り込んでしまった。
「・・・ね・・ねぇ?もしかして・・・アレって・・・」
あかねも嫌な思い出が脳裏をよぎったのか、引きつった声でコウキに問い掛ける・・・
やがて・・・・
ドガシャァァァァ!
凄まじい轟音が轟き・・・・数秒後・・・
「OH〜!海道さ〜ん!配達終わりました〜!」
何故かラジカセを担ぎ、そのラジカセで配達終了を告げながら入ってくる男。
「お前は・・ザンキ!?」
遂に思い出してしまったコウキがその名を叫ぶ。
「あれ、二人とも何でここにいんの」
ラジカセを置きながらザンキが実にのほほんと問い掛ける。しかも本人の口からではなくラジカセから。
「どう?多分20年後くらいに漫画連載されそうなこのアイディアは!鬼の力で会話を予測・分析して吹き込んでおき、後は再生すると言うだけの画期的なアイディアは?」
「貴様!馬鹿にしているのか!自分の口で話さんか!」
「まぁまぁ、そう怒らないで、茶でも飲んで落ち着きなって!なんならミラノ仕込みのほろ苦いカプチーノをごちそうしてやろうか?」
やはりラジカセから流れるザンキの声。しかし、ラジカセと会話が成立してしまうこの現状はなにやら恐ろしい。
その態度に更に腹を立てるコウキだったが、これに似たやり取りを数度経験したせいか、深呼吸しながら対応を考えるコウキだった。
140弾鬼SSの筆者:2006/07/11(火) 23:31:40 ID:wAP3yPGA0
会話を予測しているとは言え、コウキはザンキと言葉を交わせば大抵怒鳴ってしまう事が多い。それを予測して取り繕いの言葉を入れてるとすれば、あえて何も話さないでいれば、吹き込んだ言葉が勝手に流れ出し会話は成立しない。
ならば、このままだんまりを決め込めば、ザンキ本人の口で喋らざるを得ない。そう考えたコウキは口を開かないでいると・・・
「何で黙るかな?折角南国で再会できたんだ、おしゃべりしようぜ?」
ソレすらも予測されるコウキ。頭がおかしくなりそうだった。もはやこの現状は不思議を通り越して恐怖でしかない。予測とか分析とかチャチな物ではない・・もっと恐ろしい物の片鱗を味わった気分だった。
「あぁ、あと三丁目の美容室さんが、明日菖蒲の花を届けてくれだって」
「おぉ、園田さんの所ですか。わかりました」
この様子に全く動じずに会話を成立させるザンキと海道。その様子にあかねが、
「変・・だと思わないんですか?この状況を?」
至極当然の質問をした。だが、海道は和やかな笑みと共に、
「なぁに。慣れましたよ。初日から凄い有様だったので、それに比べればまだ優しい方です」
「・・・ちなみに初日は・・・どんな?」
聞かないほうが心身の負担を軽くするのに、尋ねてしまったあかね。
「あ、それは自分が説明します。あの日、空港まで迎えに行ったんですが・・・・」
以下回想シーン。
『そろそろかな?あぁ〜!それにしても楽しみだなぁ!!”あの“音撃弦・烈雷を受け継ぐ鬼、斬鬼さん!一体どんな方なんだろうか・・・もしかしたら、烈雷に触らせて貰えるって事も・・あるかもしれないぞ!粗相の無いようにしなくっちゃな』
141弾鬼SSの筆者:2006/07/11(火) 23:33:29 ID:wAP3yPGA0
『OH〜!何てこった!(シュコー)九州は南国だと聞いていたからトイレで着替えたのに(シュコー)、そんなに暑くねぇ!(シュコー)どういうことだ!(シュコー)』
『な・・・・なんだ・・あの変態は・・・。何故・・空港で海パンに水泳帽・・・水中眼鏡にア・・・アクアラング!?右手にビート板、左手に浮き輪。
足に足鰭・・・スキューバがしたいのか、素潜りがしたいのか、その前に泳げないのか・・・・・・・本物だ・・・本物の変態だ!』
『ん?ひょっとしてアイツかな?(シュコー)』
『うわ!ち・・近づいてきた・・・やだなァ、関わりたくない・・・』
『あんたかい?(シュコー)九州支部のお迎えさんは?(シュコー)』
『は?・・・あ?』
『ビンゴ!だな。(シュコー)俺はザンキ、よろしくな(シュコー)』
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』
『あ、ゴメンこれ持って(シュコー)』
『え?コレって・・・音撃弦・・・・烈雷!?うぉっ!?漬物臭ぇ!?』
『あ(シュコー)、昨日まで漬物漬けとく石の代わりにしてたから臭うかも(シュコー)』
『そ・・・そんな、稀代の名音撃弦・烈雷を・・漬物石代わりに・・・・あ・・アンタ一体・・・ていうか、なんでアクアラングして喋れるんだ?』
『細かい事を気にするヤツだな(シュコー)もっと大らかに生きることを薦めるぜ?(シュコー)俺のように!(シュコー)そして、今一度名乗ろうか(シュコー)
俺の名は、天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ、魔化魍倒せと俺を呼んだが、手軽にスパゲティを食べれるインスタントを作って貰う為に日夜、日清食品に書面を送っていたが実は日本食研に送っていた事につい最近気が付き、
どうりでやたらと粗品サイズの焼肉のタレが家に送られてくるという謎が解けたから、タレを捌かす為、焼肉を食べるのに忙しくて、中々魔化魍退治が出来なかった男・・・・ザンキさ(シュコー)!ヨロシク!(シュコー)』
以上回想終り。
「ってな出会いでして」
もはや吹っ切れた様子でその時の様子を語るツマビキ。
ちなみに今、烈雷は押し花を作る為の重石に使われている。
「私たちの時より・・・激しいわね・・・」
142弾鬼SSの筆者:2006/07/11(火) 23:35:17 ID:wAP3yPGA0
「OH〜!あかねさ〜ん!あかねさんは激しい対面の方がお好きですか?
言ってくれれbブッッ・・・ガチャ・・・・・貴方と私のAコープ♪A〜コ〜プ〜♪今日の特売品!豚の細切れ100グラm・・・・
ガリガリ・・・・あ〜テステス・・・OH!しまった!テープが反転するタイミングを誤った!」
多分、反転しないだろうと思って吹き込んでいたのだろう。上手い事上書き出来なかったのか、どこぞのスーパーの店内歌と得売品の宣伝が微妙に残っている。
「貴様!まさかそのラヂオカセット・・盗んだ物では無いだろうな?」
コウキが額に青筋を浮かべてザンキに詰め寄る。
「まっさか!そんなワケ無いだろ。貰ったんだよ!そうそう、ここのコマァグレはディスカビル家のぼっちゃまをも唸らせる程の・・・」
「馬 鹿 者 ! !何がコマグレだ!!」
遂に堪忍袋の尾が切れたコウキが押し花の重石に使われていた烈雷を引っつかみ振り上げる。
この状況には流石の海道も慌てたのか、止めに入る。ツマビキはコウキを羽交い絞めにして動きを止めている。
このままでは死人が出てしまう・・・誰もがそう感じた・・・
しかし、事態はここで急変した。
奥の戸口から、おそらく九州支部の『金』であろう青年が現れ、大声で喚きだした。
「海道さん!大変!大変!鹿児島に行ってたヤミツキさんが、魔化魍と戦ったまま行方不明になったって連絡がありました!」
その言葉に場が静まり、コウキも烈雷をようやく下ろした。
「ふむ・・・ヤミツキ君からの最終連絡は何時でしたか?」
ヤミツキという鬼が行方不明になった。その瞬間、和やかだった海道の表情が一瞬で張り詰めたものになった。
「たしか、夕べの11時でした」
「と言う事は・・・結構経っていますね・・・ツマビキ」
「はい!」
「至急鹿児島に向ってください」
その言葉を受け、即座に奥の戸口へ消えるツマビキ。
そして、あかねとコウキに振り返る海道。
「申し訳ありません、身内の失態をお聞かせしてしまいました」
「彼一人で大丈夫なのですか?たしかヤミツキといえば・・」
143弾鬼SSの筆者:2006/07/11(火) 23:38:37 ID:wAP3yPGA0
コウキが必死にヤミツキについて思い出す。
「そうだ、馬に乗った奴でしたね。それにナンジャモンジャの木の時に、九州に現れたのを倒したのも・・」
「そう、彼です。たしかに、まだ独り立ちしたばかりのツマビキには荷が重いかもしれませんが・・・彼も鬼です。いま、即座に動けるのが彼しかいない以上、彼には動いてもらわねばなりません。鬼は人を助けるのが使命ですから」
その言葉に・・・
「いえ、動ける鬼は彼だけではありません。ここに”2人“いますよ」
コウキが自らと、未だにラジカセを担ぎながら押し花の出来具合を確認しているザンキを指差した。
「そんな!休暇中のキミを出撃させ、危険な目に遭わせる訳にはいきません。ザンキ君ならともかく」
さりげなく本音を洩らす海道。だがそれを聞いたコウキは
「海道さん。私も鬼です。鬼ならやる事は一つでしょう!」
立ち上がりザンキの首根っこをひっ捕まえる。
「あかねさん。申し訳ないのですが、宿には先に向ってください。私は終り次第、すぐに合流しますので」
その強い言葉に、あかねは信頼の篭った微笑で返した。そして海道も「申し訳ありません。ヤミツキとツマビキをお願いします」と頭を深く垂れた。
144弾鬼SSの筆者:2006/07/11(火) 23:39:17 ID:wAP3yPGA0
備を終えたツマビキが戸口から現れる。ツマビキはコウキとザンキがついて来る事を聞き、僅かに安堵の表情を見せた。
「場所はわかりますね?鹿児島県、池田湖付近です。今回は事態が事態なので、『烏』を使う事を許可します」
海道がツマビキに言う。
「烏・・とは?」
コウキの呟きに隣のザンキが何故か得意げに答える。今度は自らの声で・・だ。
「九州支部が備える、三つの移動手段の一つってトコだな。付いてきな!拝ませてやるぜ!」
「何故貴様が偉そうに話すのだ!えぇい!手をはなせ」
手を掴んで引っ張るザンキを振り払うコウキ。階段を上り、屋上へ。扉を開けたた先には・・・
「これは・・・」
そこには小型だが、黒く塗装されたヘリコプターが鎮座していた。
「九州支部の担当区域には、離島もありますからね。緊急の際にのみ使用する鬼輸送ヘリ『烏』です。さぁ、急いで・・・」
海道に急かされてヘリに乗り込む三人。三人も乗り込めば窮屈だがそんな事は言ってられなかった。
先程の青年が操縦席に乗り込む。ローターが回転し、ヘリはゆっくりと浮上をはじめた。
「コウキ君!ザンキ君!ツマビキ君!気をつけてね!」
あかねが両手でメガホンを作って叫ぶ。その姿にコウキは独自の敬礼で返した。
目的地は鹿児島県・池田湖・・・・ /後編へ続く

145弾鬼SSの筆者:2006/07/11(火) 23:42:59 ID:wAP3yPGA0
スイマセン書き忘れましたが、前後編です。

なんと言うか、書いてしまってから言うのもなんですが、やってしまったなぁって感じです。

先代も勢いで出してしまいましたが・・・難しい・・・
先代ZANKIさんはもちろん、高鬼SSさん、剛鬼SSさんのように動かせる事が出来るってのは凄いと感じさせられました。

後編では、何故九州支部がヘリとか持っているのか、ヤミツキの無事は、そしてコウキは砂蒸し温泉に入れるのか!の辺りを書いていきます。

146中四国支部鬼譚 作者:2006/07/13(木) 01:16:26 ID:EbyKPOks0
中四国支部鬼譚、更新しました。
十之巻「受け継ぐ歴史」ということで、以前言ったサックスの人が登場します。
http://neetsha.com/inside/main.php?id=407
今回はさしずめ事件編、次回は解決編ということで!って古いなオイw
147竜宮:2006/07/16(日) 00:23:08 ID:n98lG9ab0
 お久しぶりです。皆様あいかわらず個々の作風が深まり面白いです。
我輩の「夢十夜」で明日夢版を作りたいな、と思ったものの、行き詰って
何ヶ月も寝かしたままなので、とりあえずできてる分だけ投下させていただきます。
 無知なのでいろいろ思われることもあるかと思いますが、まあご容赦を。
148竜宮「明日夢十夜」第一夜:2006/07/16(日) 00:31:50 ID:n98lG9ab0
第一夜「明日(あす)なろ」
こんな夢を見た。
 打ち寄せる波を見つめながら、寄り添うように座ってくれるヒビキさん。
「僕は鬼にはなりません。」
何もかも受け入れてくれる、その笑顔に向かって勇気を出した。
「京都の和菓子屋に修行に行きます」
「へ!?」
「青丹よし奈良の都の築いた粋(すい)を受け継ぎ、千年京の都で練り上げられた
和菓子の伝統を修行しに行ってきます。陰陽道、地震、災害、火事、親父、
あまたの人の影の裏。笑顔の裏に押し隠し、一口大の味の妙。季節折々の花々に
歳時記。食べるのが恐ろしいような魔化魍の創作和菓子。鬼にはならずとも、
たちばなのお茶うけに出していただけるような五感をくすぐる僕の響きを……」
 後頭部に衝撃が走った。
目の前が白くなり、ヒビキさんの顔が止まって見えた。
『だめじゃないですか。繊細な年頃なんですから、ちゃんとフォローしてあげないと』
『イブキさん。ダークっす……」
 なにか懐かしい声が聞こえたような気がしたが気のせいかもしれない。
149竜宮「明日夢十夜」第一夜:2006/07/16(日) 00:36:52 ID:n98lG9ab0
             ★
 目が覚めると百年が過ぎていた。わけはなく、ヒビキさんがやさしい笑顔で
心配そうに覗き込んでくれていた。
「あれ、僕、なんだか変な夢を見たような?」
 赤い日が東から西へ、東から西へと落ちて行く―。
 見回しても、ヒビキさんと僕の二人しかいなかった。頭がズキズキ痛むような
気もしたが、ヒビキさんがアームドセイバーで魔化魍を倒した時に
吹き飛ばされて、仰向けに倒れたせいだろう。きっと。
「明日夢、これからは俺のそばで、お前らしく修行していけ」
お前が一人前になるまで護ってやるからな!!(何から?)
150竜宮「明日夢十夜」第一夜:2006/07/16(日) 00:38:28 ID:n98lG9ab0
 笑顔がそう語ってくれるような気がして、僕は頷いた。
「やっぱり高校生らしく、甲子園を目指します!」
そう言ったら、今度はどうなるのかな?
151竜宮「明日夢十夜」第二夜:2006/07/16(日) 00:43:56 ID:n98lG9ab0
 第二夜「背中」

こんな夢を見た。
 時計の音が鳴る。ふと目が覚めた。母はまだ帰ってきていない。
詰襟に手を伸ばす。
(これを着るのも最後だな)
 昨日帰るといっていた母はまだ帰っていない。遠距離の客で一昨夜から出かけている間に、
季節外れの大雪がさらに母のタクシーを足止めしたらしい。雪崩も起こったらしく、
少し心配したが元気な声で電話をもらい安心している。
 なんとなく眠る気にもなれず、インスタントコーヒーを入れてみた。
部屋を温め、湯気のたつコーヒーカップをぼんやりと握る。
(一人だと広いよな。なんか……)
 いつも当たり前の留守番が、さびしいような贅沢なような、
もどかしい気持ちになる。
152竜宮「明日夢十夜」第二夜:2006/07/16(日) 00:48:51 ID:n98lG9ab0
(ヒビキさん達はどうしてるのかな。もしかしたら今頃、
魔化魍を追いかけているかも……)
 待つことになれていたのに、彼らの背中を見てから、追いかけ、
追いつきたいと思うようになっていた。
 ガチャリと鍵を回す音がした。
「あれ、起きてたんだ!」
明日夢の母がぱたぱたと台所に飛び込んできた。
「うわあ、部屋あったかい。って、あんた中学の卒業式前なのに
寝ないでどうしたのよ。ごめんね。母さん、おみやげ買う暇無かったのよ。
いやあ、死ぬかと思っちゃったわよ」
153竜宮「明日夢十夜」第二夜:2006/07/16(日) 00:54:32 ID:n98lG9ab0
耳半分に母のにぎやかな喋りを聞きながら、やっと、ぽそりと言葉をはさんだ。
「お帰り」
「ただいま」
 にこりと笑うと、また母は喋りだした。
「母さんね。すっごい、かっこいい人達に会っちゃった。雪道でタクシーが
壊れちゃってね。どうしようかと思ったんだけど、助けてくれた人助けの人達が直してくれてね。
いやあ、ちょっとだけ、もう母さん、二度と明日夢に会えなくなるんじゃないかと、
思ったよ。鍛えてる人達って凄いもんだね」
「体冷えてるだろ。あったかいもの入れるね」
立ち上がった時、後ろから母が声をかけてきた。
「ありがと。明日夢。あのね……」
「なに?」
154竜宮「明日夢十夜」第二夜:2006/07/16(日) 00:58:03 ID:n98lG9ab0
「ううん。なんでもない」
「背中がちょっと父さんに似てきたかな……、なんてネ」
「なんだよ。それ」
笑い返しながら、コーヒーを入れにいった。
               ★

 晴れ渡った空。仲間達や先生達と記念の写真を撮り、別れ、中学の卒業式を終える。
ハンカチをぐしゅぐしゅにして泣く母。
「母さん。泣きすぎだよ」
「いいじゃない。感動してるんだから」

キコとカツオに背中を押され、持田が明日夢に声をかけてきた。
「アスムくん。あの……」
155竜宮「明日夢十夜」第二夜:2006/07/16(日) 01:03:07 ID:n98lG9ab0
真っ赤になった桜のように可憐な顔。
「あの……」
固唾をのむキコ、カツオ、そして明日夢母。
 明日夢が気恥ずかしそうに笑った。
「ありがとうな。持田」
持田が明日夢を見つめた。
「皆のおかげで俺、城南に合格できたんだ。キコ、カツオ、母さんもありがとう」
目を潤ませ頭を下げる明日夢の、あまりの空気読めなさに、思わず一同固まり、
告白のタイミングも見失い、それぞれの両親の呼びかけにぎこちなさげに別れあった。
「またな」
「高校で」
「……」
 取り残された少年と母は二人ともなんとなく微笑み交わした。そして名残惜しげに
後者から顔を背けると校門に向かって歩き出した。
156竜宮「明日夢十夜」第二夜:2006/07/16(日) 01:08:37 ID:n98lG9ab0
 少し寒い風が興奮した心に心地よい。
「あのね。前さ。鬼なんかいないって、決め付けちゃってごめんね」
「ああ、そんなことあったね。いいよ、そんなこと」
鈍い明日夢は、もちろん言葉以上に受け取りはしなかった。
 蕾ふくらむ桜の木々を眺めながら、郁子は眩しそうに息子の背中を見送った。
「母さん。早く行こうよ」
「何よ。少しぐらい余韻に浸らせなさいよ」
軽口をたたきながら、息子に追いつく。そして追い越した。
「そうだよね。まだしばらくは、抜かされないからね」
157竜宮「明日夢十夜」第三夜:2006/07/16(日) 01:15:07 ID:n98lG9ab0
第三夜「顧(かえり)みる」

こんな夢を見た。
 鬼となり背中に子供をおぶっていた。つぶらな瞳で見上げてきたが、どこか童子に似ている。
隙あらば清めようと思いつつ、背負ってみた。変身した自分の背中は硬く厚い。
だが子供の息は甘く、やわらかい餅のような頼りなさは、人のことしか思えず、
家までおぶってやらねばならない気にさせられた。森は暗く、足元は草が生い茂る。
いつもなら駆け抜ける距離が、子供をおどかさない様に長く間延びして感じられる。
 
158竜宮「明日夢十夜」第三夜:2006/07/16(日) 01:23:04 ID:n98lG9ab0
それは、もしかしたらとてものどかな時間だった。
 だが背の子供の爪はいつのまにか食い込むように自分を縛り、ぽとんと大粒の粘っこい液が落ちてきた。
生臭い液の垂れた元を見上げると、頭上には巨大な蜘蛛の魔化魍。
網から逃れようとしたが、子供の重みは増し、足がずぶずぶと地面にめり込む。
蜘蛛の魔化魍がするすると糸を伝い降り、牙をむいた。牙の向こう、口の奥深くに、
つぶらな瞳が見えた。
 頭上から巨大な芋虫のような魔化魍が突然降ってきた。蜘蛛の体の上に落ちると、
傾斜を滑り、手足の無い色あせた麻袋のような芋虫が体を震わせた。
「オ前ハ昔、私ヲ殺シタ」
金きるような声と共に、ぼたりと肩に子供の顔から瞳が落ちてきた。
二つの瞳は芋虫の体の側面に元からあったかのように収まった。
159竜宮「明日夢十夜」第三夜:2006/07/16(日) 01:26:03 ID:n98lG9ab0
つぶらな瞳等から歓喜のような金きり声をあげ、芋虫の目の無い顔が、顎(あぎと)を開き、
巨大な穴となり、鬼の頭に喰らいついた。逃れるすべはない。
(百目!!)
頭の中に知らないはずの名前が閃いた。今生では食いちぎられるのか。
 刹那、風が自分を覆う穴を吹き飛ばした。
160竜宮「明日夢十夜」第三夜:2006/07/16(日) 01:32:47 ID:n98lG9ab0
『われもお前を殺した鬼じゃった』
背負った子供が、しわがれた声で呟いた。
 風がうなり、背に乗せた芋虫ごと蜘蛛の体も破れ、破裂した。
笙(しょう)の笛を持つ赤銅色の鬼が、自分の肩から降り立った。
吹き分ける九つの音階からの清めの弾(たま)が、倒れ蠢く芋虫のつぶらな瞳等を潰してゆく。
十七本の竹の長さの違う組み合わせで創られた管楽器。翼を閉じた鳳凰のような優美な形をした
楽器は古錆びた鬼の両手にかかげられ、今の鬼には出せないほどの空を震わす音を放つ。
161竜宮「明日夢十夜」第三夜:2006/07/16(日) 01:38:09 ID:n98lG9ab0
 なおも暴れ狂う魔化魍は、瞳等の跡から、ごぼごぼと燃えたぎる油のような
溶液をこぼしだしていた。
 自分も鬼だ。やらねば、と思い、腰に携えた音激鼓を装着し、
清めの太鼓を打ち鳴らす。
だが、その間も吹き上がる溶液が音激鼓や音激棒に降りかかり、溶かしだす。
気力を振り絞り、一心不乱に叩き続けた。わずかに動かせる頭が動き、
目の無い顔がこちら目がけて溶液を吐きかけてきた。
162竜宮「明日夢十夜」第三夜:2006/07/16(日) 01:46:40 ID:n98lG9ab0
 赤銅色の鬼が自分をかばい、魔化魍の溶液を浴びた。笙を持つ手が溶かされ、
煙をあげる体が音激鼓の上に倒れた。
 ドーンという大音響とともに、芋虫の体が破れ、しばし、なよ竹のかぐや姫のごとく、
つぶらな瞳の赤子が見えた。
『知恵がつき、他の魔化魍を操って、鬼を喰らおうとしたのか』
赤銅色の鬼は赤子の上に溶けかけた腕をかざし、恨めしそうな瞳を閉じさせた。
「あなたは鬼だったんですか?」
『ああ、そうじゃ。われと相討ちになった童子と姫が残した子に、なぜか憐れをもよおし、
自分が誰かも分からなくなり、育ててしまったが、われが滅する時に、
この子も連れてゆくのが良いようじゃ』
 折れた三本角の赤銅色の鬼は、魔化魍も抱き、どーんという山おろしのような音と共に崩れ、
風に吹きすさぶ落ち葉のようにくるくると、しゃらしゃらと音を鳴らし破片となり、
残された鬼の目をくらまし、明るい光の中に消えていった。
163竜宮「明日夢十夜」第三夜:2006/07/16(日) 01:55:04 ID:n98lG9ab0
第四夜 「鵺(ぬえ)」

こんな夢を見た。
 また嫌いな臭いがした。ゆっくりと影の落ちる場所を進みながら、
鵺は崩れ落ちる男女を見つけた。鳥帽子に鎧装束の、今の人間達はめったにつけない
香の臭いをさせた者共。
見覚えがあった。
『人員整理だ』
 そう呟いてクグツと呼ばれた者達を倒していった奴らだ。
あの時と同じく土竜(もぐら)共が地面から出ようと蠢いているのが感じられた。
あの時は臭いの嫌悪感に、すぐにその場から立ち去ったものだ。
臆病な土竜達は彼が去るのを知ると、穴を広げ、クグツ達の体を地面に引き込んでいった。
 鵺は香に紛れた臭いを嗅いだ。
(ナンダ。人デハ無イノカ)
虎に似た顔を少しゆがめ、鵺は彼らの魂魄ならぬ妖気を吸い込んだ。
 長い歳月が彼を少しの食事で満足させられるように変えていた。
鳥帽子の鎧装束、焚き染められた香のかおりが昔誰かに倒された記憶を蘇らせる。
164竜宮「明日夢十夜」第三夜:2006/07/16(日) 02:01:48 ID:n98lG9ab0
平安と呼ばれていた頃、一度彼は人に殺された。源 頼政の鵺退治と騒がれた。
人が殺したと思い込んだだけだが。
 低い声で唸れば、臆病な土竜達は出てこない。体が崩れ塵の中に溶けた魂魄に似たものの
なごりを吸い込む。地をめぐり、天をめぐり、天地は玄(くら)く、黄(つち)の色。
滅び、再生し、なにかの手技(てわざ)など、その蒙昧たる闇と光に紛らわしてしまう。
 自分もいつかは闇に戻るのだろう。感覚が鈍り、体の再生もずいぶん遅くなった。
その時がきたら自分が食らったものも闇に還り、光に孵(かえ)るのかもしれない。
 鵺は低く唸ると、また薄闇の中に、ゆっくりと羽ばたいた。
165竜宮:2006/07/16(日) 02:13:43 ID:n98lG9ab0
 以上です。我輩ではなく吾輩の間違いでした(笑)。
昼ドラは1回しか見れませんでしたが。
五夜以降の投下は未定です。
 年中行事さんのように深すぎた愛の逢瀬は描けませんが、
ちょっとまた説話っぽいのがやれたらいいな、とか
中学生っぽいのがやれたらいいな、とか思うだけは思うのですが。
 でも皆様の連載は楽しく時々読んでます。
まとめサイト様も用語サイト様もいつもありがとうございます。
 それでは。
166竜宮:2006/07/16(日) 02:22:04 ID:n98lG9ab0
 読み返してみると誤字が(汗)
第二夜 155.後者→校舎
第三夜 157.人のことしか思えず→人の子としか思えず
 まだまだあるかもしれませんが(滝汗)
167竜宮:2006/07/16(日) 02:26:21 ID:n98lG9ab0
163.164は第四夜です。すいません。恥ずかしいなあ。
168名無しより愛をこめて:2006/07/16(日) 11:14:50 ID:kz8MoOjiO
竜宮さんお久しぶり!良いですねぇ、オムニバス。
コメディタッチあり、幻想的な綺談ありで楽しませていただきました。    続きが気になります。
ともあれ、GJ!でした。
169竜宮:2006/07/16(日) 22:03:05 ID:n98lG9ab0
ありがとうございます。
五夜以降も設定ばらばらで一夜完結の予定です。
遅くなると思いますが、またよろしくお願いします。
170“哀し身”の疾風  〜予告〜:2006/07/17(月) 13:55:49 ID:2OizlaPv0
昔々、神話の時代。

ある村に一匹の鼬が住みついていました。

その鼬は子供たちに可愛がられ、「三夜毘」と名づけられました。

三夜毘は年を負うごとに毛を白ませていき、遂には真っ白な鼬となりました。

けれども、その体は衰えることは無く、ずっとずっと村の子供たちの遊び相手になっていました。

しかし・・・・。

ある日の夕方。日の入りと共に、村の外れの高原から大地を揺るがすほどの雄叫びが聞こえてきました。

すると、空は見る見るうちに邪気に覆われ、暗雲が立ち込めたかと思うと村の草木は枯れ、動物たちも苦しみ始めました。

その暗闇の中で、三夜毘は邪気に立ち向かいました。村で一番高い物見やぐらに跳躍した三夜毘は天に向かって甲高い鳴き声をあげました。

すると、どうでしょう。先ほどまで立ち込めていた暗雲に猛烈な疾風が吹き、みるみるうちに暗雲は消え失せ、月明かりが煌々と三夜毘を照らします。

暗雲が消えた跡には何やら赤く光る十六つの眼が村を凝視しています。

それに気づいた村一番の剣の使い手、ムラクモは物見櫓に登って愛刀、無題を天に突きました。
171“哀し身”の疾風  〜予告〜:2006/07/17(月) 13:56:22 ID:2OizlaPv0
それに呼応するかのように、もう一つ吼えた三夜毘。すると月はますます輝き、ムラクモの剣は聖なる力を宿しました。

そしてムラクモは村に突如として現れた大妖怪の七つの首を斬りおとしました。

弱り果てた妖怪の八つめの首を斬り、止めをさそうとムラクモは剣を振り落としました。

すると妖怪の八つめの首は断末魔の叫びを上げて地に堕ちました。

ムラクモは妖怪の骸を村の神社に剣と共に封印し、二度とこの世に現れることがないようにしました。

以来、ムラクモは村の衆より「天のムラクモ」と呼ばれるようになり、三夜毘はムラクモの剣に計り知れぬ霊力をつけたことで「鎌鼬の三夜毘」とよばれることになったのです。

こうして一夜を過ぎた村は再び平和を取り戻しました。


その後、大変な一夜を過ごした名も無き村は後の世で魔化魍と呼ばれる妖怪を退治した三夜毘とムラクモをたたえ、その功績をこの伝説に残した。
この神話の時代にそういったことは日本各地で起こっていた。だがこの時期を舞台とする伝承に現れないのが「鬼」と呼ばれる異形な者たちの存在。
実はこの伝承で天のムラクモが斬った妖怪。いや、魔化魍は、鬼の存在なくして退治はおろか、封印さえできるものではなかった。
では何故封印できたか。それは一重に「三夜毘の存在」であったのだ。
そして時を経たいつかの時代。魔化魍の封印は解かれた。

“哀し身”の疾風   〜予告編〜
172“哀し身”の疾風 作者:2006/07/17(月) 14:00:18 ID:2OizlaPv0
大分ながーい予告編ですが、一ヶ所だけ補足をさせてもらいます。

三夜毘とかいて、「みやび」と読みます。
それだけです。ハイ
173“哀し身”の疾風 作者:2006/07/17(月) 14:02:29 ID:2OizlaPv0
あ、ちなみに本編投下は8月ごろかと。
174高鬼SS作者:2006/07/17(月) 15:07:57 ID:VivLaUFD0
一本投下します。
今回の話は、まあ最後のオチに尽きるというか…。
書き終わってから「別に関西支部でやらなくても四国や中国出向編でやっても良かったんじゃないのか?」と思ったり。
それではどうぞ。

>弾鬼SSの筆者様
他の方にコウキさんとあかねさんを動かしてもらうというのは読んでいて実に新鮮でした。
後編も期待しております!
しかしCOOLネタで来るとは…。昔ジャンプで読んでいたのが懐かしい。
最近になってあれの作者がテニプリの作者と同じだと気付きましたw
175仮面ライダー高鬼「夏の風物詩」:2006/07/17(月) 15:09:33 ID:VivLaUFD0
1977年、文月。
ダリが現れた。
ダリとは「ひだる神」とも呼ばれる魔化魍で、分類的には夏の魔化魍に当たる。
テング同様管や弦による攻撃での分裂は無いが、その代わり人に憑くという習性や他の魔化魍よりも小柄な姿のせいで発見が非常に困難な種である。
この日シフトに入っていたのはイブキだったのだが、彼はダリを担当するのは初めてという事で、あかねに相談を持ちかけていた。
「ダリは小さくて見つけ難いくせに大量に湧くからね。一人だと骨が折れるよ」
そうイブキに忠告するあかね。
「う〜ん、じゃあ誰かに救援を要請するしかないですね……」
「非番、待機中を含めて今手が空いているのはコウキくんにバキくん、アカツキくん、それにドキくんとセイキくんよ。あ、噂をすれば……」
研究室にコウキがやって来た。彼に事情を説明し、イブキの手助けを頼むあかね。
「ダリですか」
「そういえばコウキくんも初めてだったっけ?」
「いえ、四国に出向していた際に戦った事があります。あの時は最低でも三人で退治に向かいましたが……」
「つまり経験者という事ね。良かったじゃないイブキくん」
イブキに向かってにっこり微笑むあかね。
「まあ四国とは勝手が違うだろうし、やっぱりさっき挙げたメンバー全員に私から連絡を入れておくよ。イブキくん達は先に現場に向かってて」
そう言うとあかねは受話器を取った。
176仮面ライダー高鬼「夏の風物詩」:2006/07/17(月) 15:10:25 ID:VivLaUFD0
熊野山中。
キャンプを設営し、式神による調査を行っている最中のコウキ、イブキ、勢地郎の下へ続々と応援がやって来た。
まずサポーターのまつが運転する4WD車に乗ってセイキとドキがやって来た。次にアカツキが自分のバイクに乗ってやって来た。
「あとはバキさんだけですね」
「あの人は今日非番の筈だからな。あかねさんも連絡を取り辛いのかもしれん」
何せ魔化魍退治を終えた途端、連絡も無く山篭りをするような人である。
待つ事二時間強、漸くバキが到着した。なんとこの男、吉野からここまで走ってきたと言う。
「ごめん、遅くなっちゃった」
「……まあ待っている間、具体的な出現ポイントもある程度絞り込めましたし別に構いませんよ」
一枚の式神を手にイブキが言う。
「よし、行くぞ。皆はこの中で唯一ダリとの交戦経験がある私の指示に従ってもらう」
そう仕切るとさっさと先に行ってしまうコウキ。
「あの人はホント勝手だな。行こうぜ」
ドキを促し、セイキがコウキの後を追う。
「バキさん、僕等も行きましょう」
「ちょっと待って。今これを外している最中だからさ」
そう言いながら手足に付けていた重りを外すバキ。彼は、一つ5キロ以上はあろうかという重りを付けた状態でここまで走ってきたのである。
「……凄いですね。流石にそれは真似出来ませんよ」
「真似なんかする必要はないさ。俺は俺の、君は君の出来る事をすれば良いだけだよ」
そう言って笑い掛けるバキ。
イブキ、バキ、アカツキの三人は、火打ち石を鳴らす勢地郎とまつに見送られて現場へと向かっていった。
177仮面ライダー高鬼「夏の風物詩」:2006/07/17(月) 15:11:33 ID:VivLaUFD0
三人が現場に着いた頃には、既にコウキ達がさらなる絞り込みをしている最中だった。
「遅いぞ!ダリはこの近くに居る筈だ。君達も式神を打って探すのを手伝え」
コウキに言われるままに捜索を開始する三人。そんな中、ドキが何かを感じ取ったようだ。
「……来る」
バキもまた、魔化魍の気配を感じ取ったのか急に身構えた。
「一ヶ所に固まれ!跳びかかってくるぞ!」
コウキの号令に従い、全員が一ヶ所に集まる。
と、周囲の茂みから無数の何かが跳びだしてきた。それを各々の武器や素手で叩き落していく六人。
地面に落ちたのは、大きな蛭に似た姿の魔化魍だった。
「これがダリか……」
「童子と姫が来るぞ!」
コウキの言う通り、ダリの童子と姫がその姿を現した。
「鬼か。しかもこんなに沢山……」「そこまでして我らの邪魔をしたいか」
そう言うや否や男女の怪人は怪童子と妖姫に変身した。
「我々も行くぞ!」
六人はある程度距離を置くと、それぞれの変身道具を鳴らした。
178仮面ライダー高鬼「夏の風物詩」:2006/07/17(月) 15:12:07 ID:VivLaUFD0
地を這い跳びかかってくるダリを、一匹一匹管を使って撃ち落としていく威吹鬼と暁鬼。
聖鬼は数匹纏めて音撃弦・黄金響で串刺しにすると、その状態で音撃を流し清めていく。
「これは太鼓で一匹ずつ清めるのは手が掛かるな……」
小さなダリの体に音撃鼓・無敗を貼り付けながら刃鬼がぼやく。夏の魔化魍のくせに管や弦の方が清め易いというのは実に珍しいケースだ。
高鬼の鬼爪が怪童子の体を切り裂いた。爆発。怒鬼も既に妖姫を倒したようだ。
「ダリはまだ出てくるぞ!気を付けろ!」
そう言いながら音撃棒。大明神を手に駆けていく高鬼。
と、威吹鬼の下に一枚の式神が戻ってきた。だが何か様子が変だ。
「え?これって……」

聖鬼はダリが跳びだしてきた方向へとやって来た。
「何だ、もうお終いか?この俺様に恐れをなしたってか?むはははは!」
茂みを掻き分け進んでいくと、目の前に川が流れる場所に出た。
と、そこで聖鬼は……。
「……あれ?」
カッパと目が合った。
179仮面ライダー高鬼「夏の風物詩」:2006/07/17(月) 15:13:06 ID:VivLaUFD0
「何!?カッパだと?」
「はい。おそらく間違いないかと……」
威吹鬼の報告を受けた高鬼が唸る。
「むぅ……。分かった、私が行こう。怒鬼、君も来てくれ。……ん?聖鬼はどうした?」
見るといつの間にか聖鬼が居ない。
「まあいい。ここは任せた」
その場を威吹鬼達三人に任せ、高鬼と怒鬼は茂みの奥へと分け入っていった。
暫く進むと目の前に川が現れた。そこでは、二匹のカッパと聖鬼が既に交戦中だった。
「あ、高鬼さん!それに怒鬼!助かったぜ!」
「何故お前がカッパと戦っているのだ!」
「ついばったり出会ってしまったんですよ!弦じゃ倒せないからどうしようかと思っていたところです。助かったぁ……」
カッパが口から粘液玉を吐き出してくる。それを回避して接近戦を仕掛ける高鬼と怒鬼。
「念のために言っておくが、あれに当たるなよ」
高鬼が二人に告げる。
再び粘液玉を吐き出そうとするカッパ。回避行動を取ろうとするが、川の中から飛び出してきたカッパの童子と姫がその邪魔をしてくる。
「貴様等!ええい、この悪戯者めが!」
「黄金響」を構え、高鬼を助けに向かう聖鬼。しかし二匹のカッパが放つ粘液玉を避けきる事が出来ず、一発が腕に当たってしまう。
「あ!やべっ!当たった!」
聖鬼に代わり怒鬼が高鬼の加勢に向かう。七節棍を伸ばし、姫に狙いを定めて攻撃を仕掛ける。
と、そこへ。
「何!?」
川の中から三匹目のカッパが現れ、粘液玉を吐いてきたのだ。慌てて棍を使い弾く怒鬼。
一方、童子と姫の連携で動きを止められた高鬼は状況を打破するべく「紅」へと変身を始めた。
思いっきり足を踏み出し、気合いを込める高鬼。彼の体を紅蓮の炎が包む。
「破っ!」
掛け声と共に空気が爆発し、童子と姫の体を吹き飛ばした。そして現れる高鬼紅。
「貴様等、覚悟するんだな!」
だが、変身直後の隙を衝かれてとうとう粘液玉を腕に喰らってしまう。
「あっ!き、貴様等〜、許さんぞ!」
180仮面ライダー高鬼「夏の風物詩」:2006/07/17(月) 15:14:39 ID:VivLaUFD0
音撃射・雲散霧消を放ち、ダリを纏めて清め終えた暁鬼に向かって刃鬼は尋ねた。
「そういえば暁鬼さんはカッパの経験は?」
「いえ、俺は管の鬼なので基本的に夏の連中は……」
「そっか。じゃああの事も知らないのかな?高鬼さん達、無事だと良いけど……」
その言葉に首を傾げる暁鬼。この様子だとカッパ退治が嫌がられる理由も知らないようだ。
「来ます!」
威吹鬼の叫ぶ声がした。見ると、一際大きなダリが這い出してきていた。
「あれが親か……。じゃああれの相手は俺がするかな」
そう言うと刃鬼は音撃棒・常勝を手に親へと近付いていった。
一方カッパと戦闘中の高鬼紅達は、変身した怪童子と妖姫の撃退に成功していた。だが。
「くっ」
怒鬼もまた、一匹のカッパを退治した見返りに、そのカッパから粘液玉を受けてしまっていた。
残り二匹。
「天罰覿面の型!破っ!」
高鬼紅の音撃が二匹のカッパを粉砕した。紅を解除する高鬼。
「ふぅ。さて、これからが問題だぞ……」
そう言うと高鬼は、既に固まった腕の粘液玉をじっと眺めた。
181仮面ライダー高鬼「夏の風物詩」:2006/07/17(月) 15:15:17 ID:VivLaUFD0
「国士無双の型ァッッ!」
刃鬼の音撃がダリの親を退治した。残るダリも全て威吹鬼と暁鬼が退治している。
周囲の気配を探り、ダリが全滅した事を確認すると顔の変身を解除するバキ。イブキ達もそれに倣った。
と、そこへ同じく顔の変身を解除したコウキ達が戻ってきた。コウキは物凄く不機嫌そうな顔をしている。
「あの様子だとやられたみたいだね」
「そのようですね」
ひそひそと話し合うバキとイブキ。と。
「ナニヲヒソヒソ、ハナシテイルンダ!」
まるでヘリウムガスを吸ったかのような声を出すコウキ。
「な、何事ですか!?」
驚くアカツキにバキが笑いを堪えながら説明する。
「うん。カッパと戦うとたまにこんな声になって帰ってくる人がいるんだよ。だからカッパ退治は嫌がる人が多いのさ」
ある意味夏の風物詩だね、と言うバキ。
これまた声の変わったセイキがぼやく。
「アア、コンナコエジャ、マツニワラワレル……」
「セイキさんもやられたんですか!?」
驚くイブキにセイキが答える。
「オレダケジャネエヨ!ドキダッテ、ヤラレテルンダゼ。オイ、オマエモナニカシャベレ!」
「……」
「クソッ、コウイウトキニ、ムクチナヤツハ、トクダヨナ」
コウキもまたぼやきだした。
「アア、ワタシノ、ビセイガ……」
笑いを堪えきれず、肩を震わせるイブキ。
「キサマ!ナニガオカシイ!」
「しょ、正直その声だと威厳も何も無いですよ……ぷっ」
「イブキ、キサマッ!シリヲダセ!」
次の瞬間、熊野山中にイブキの悲鳴が響き渡った。 了
182“哀し身”の疾風 作者:2006/07/21(金) 19:23:23 ID:R/u7UQdy0
一之巻「凍てつく鬼。荒ぶる鬼。」

三夜毘の活躍から千年の時が経た頃――。
まだまだずっと昔の時代――。
その真実は伝説として――。
ある一家にのみ伝えられていた――。

――出雲の国
「これがヤマタノオロチを鎮めたという天群雲の剣か・・・。
はは・・・そんなものはただの作り話だ。この業物を抜いて、売り飛ばせば・・・。一生、遊んで暮らせるわ。」
そう言うとその影は剣を台座から抜き、祭壇から逃げ出した。

――七日後・・・吉野。
「これ、御客人じゃ。茶をお持ちいたせ。」
「いえ、結構でございます。私とて修行の身。なにかを頂くというようなことは・・・。」
「これが我が家伝来のおもてなしでございます。いかに愚民であろうとも最高の御茶で迎える。そうでありましょう、凍鬼さま。」
「・・・これはこれは反論の仕様がない。」
そこへ女中がやってきて、二人の間で挟まれたちゃぶ台に熱いお茶を置いた。
「これが、我が家の御茶でございます。冷めぬうちに飲まれた方が無難でしょう。」
「では・・・いただきます。」
そういうと凍鬼は茶を口に含み、ほろ苦くも爽やかな匂いが鼻腔を突くのを感じた。
「ほう・・・これは素晴らしいお茶でした・・・。淹れる人の心が染み渡っている・・・。」
「流石は念動を極めておられる凍鬼さまだ。その瞳に違いなき器・・・。参りました。」
「今日・・・。お呼びになられたのは、どういった御用で・・・?」
まさか茶を飲ませるためだけに呼んだのではあるまい。凍鬼はそう感じ、本題に切り出した。
183“哀し身”の疾風:2006/07/21(金) 19:24:37 ID:R/u7UQdy0
「お察しの通り、今日凍鬼さまをお呼びしたのは他でもない。凍鬼さま・・近頃、出雲の国で不穏な邪気が立ち込めているのはご存知でしょう。」
「あの話ですか・・・前にお邪魔になった寺の住職様も仰られておった・・・。」
「その邪気・・・どうやら調べによりますると、どうも代々我が家系に継がれる伝説に関わっているようなのです。」
「と・・・いいますと。」
「我が家はもともと、千年も前の出雲の国の出身だそうなのです。その出雲の伝説が、何故か我が家にのみ継がれている・・・おかしいとは思いませんか。」
「ふむ・・・。その伝説とはいかな物でしょうか。」
「昔々、神話の時代。ある村に一匹の鼬が住みついていました。
その鼬は子供たちに可愛がられ、「三夜毘」と名づけられました。
三夜毘は年を負うごとに毛を白ませていき、遂には真っ白な鼬となりました。
けれども、その体は衰えることは無く、ずっとずっと村の子供たちの遊び相手になっていました。
しかし・・・・。
ある日の夕方。日の入りと共に、村の外れの高原から大地を揺るがすほどの雄叫びが聞こえてきました。
すると、空は見る見るうちに邪気に覆われ、暗雲が立ち込めたかと思うと村の草木は枯れ、動物たちも苦しみ始めました。
その暗闇の中で、三夜毘は邪気に立ち向かいました。村で一番高い物見やぐらに跳躍した三夜毘は天に向かって甲高い鳴き声をあげました。
すると、どうでしょう。先ほどまで立ち込めていた暗雲に猛烈な疾風が吹き、みるみるうちに暗雲は消え失せ、月明かりが煌々と三夜毘を照らします。
暗雲が消えた跡には何やら赤く光る十六つの眼が村を凝視しています。
それに気づいた村一番の剣の使い手、ムラクモは物見櫓に登って愛刀、無題を天に突きました。
184“哀し身”の疾風:2006/07/21(金) 19:25:21 ID:R/u7UQdy0
それに呼応するかのように、もう一つ吼えた三夜毘。すると月はますます輝き、ムラクモの剣は聖なる力を宿しました。
そしてムラクモは村に突如として現れた大妖怪の七つの首を斬りおとしました。
弱り果てた妖怪の八つめの首を斬り、止めをさそうとムラクモは剣を振り落としました。
すると妖怪の八つめの首は断末魔の叫びを上げて地に堕ちました。
ムラクモは妖怪の骸を村の神社に剣と共に封印し、二度とこの世に現れることがないようにしました。
以来、ムラクモは村の衆より「天のムラクモ」と呼ばれるようになり、三夜毘はムラクモの剣に計り知れぬ霊力をつけたことで「鎌鼬の三夜毘」とよばれることになったのです。
こうして一夜を過ぎた村は再び平和を取り戻しました・・・・・。そんな伝説です。」
「何故・・・これだけで、あなた方に関わりがあると・・・?」
「邪気が出雲に溢れる3日前・・・。妖怪を封印していた“天群雲の剣”が無くなっていたそうです。」
「・・・なるほど。ようくわかった。その邪気の元凶を今一度、この私に封じてもらいたいと。」
「そういうことでございます・・・。本来ならこの私めが出向かうところですが、もう歳が歳ですので・・・しかし、凍鬼さまだけ行かせるわけには参りません。こちらでも若い鬼を行かせます。」
そういうと、その名を呼び、障子が開いた。
「はじめまして・・・荒鬼といいます。」
「こいつは・・・私のせがれです。生半可な鍛え方はさせていません。お役には立てましょう。」
「・・・私が・・・凍鬼だ。よろしく。」
「よろしく・・お願いします。」
185“哀し身”の疾風:2006/07/21(金) 19:26:16 ID:R/u7UQdy0
一之巻 終わり
186名無しより愛をこめて:2006/07/22(土) 15:33:09 ID:voVJyUnj0
イブキのSS書いてみようかと思います、今までイブキ関係でSSは出てないですかね?
187DMC短編:2006/07/23(日) 11:59:25 ID:cN8gLhLh0
単発的に一本投下します。

DMC短編 「Z・O・L・F」

バチカン市国、庶民外。
ある家の屋上で、洗濯物を干す男が居た。
彼の名は『マーキュリー・ラペン』。表向きではそう呼ばれている。
彼は朝の支度を終えると、バチカンの中心にある教会に向かった。仕事のためである。
彼の仕事は、どんな求人情報誌にも載ることはないだろう。その職業を知るものは、ごく限られた人間。
彼もまたそのうちの一人であった。
教会に入った彼は、神父や祈りを捧げに来た教徒に会釈をし、奥の部屋へ入っていった。

「やぁ、ヴァルフ。今日もお勤めかい。」
気のいい中年男性が声をかけてきた。
「ああ。でもあと2日で休みだ。」
ヴァルフ・・・その名で呼ばれ始めたのは6年前。師匠でもある父から受け継いだ名。
彼は男から『Wolf-Men Volf=Volcano』と記された名札を受け取ると、左胸につけた。
DMC=欧州、モンスター退治組織に属する彼の役職はWolf-Men.(=WM)
日本で言う「鬼」である。
つまり、実際にモンスターを発見、退治するのが仕事である。中には調査を命令されて海外へ出張するものもいる。
ヴァルフはモンスターの発生率が高く成っている地域はないかとDDB=DMCデータベースを見た。
この時期はあまりモンスターは発生しなくなる。発生したとしても雑魚か少数で、稀種は出ない。
例年通り、データベースに載っているのは、発生済みで、他のWMが退治に向かっているものや、発生確率が低い雑魚ばかりだった。
とりあえずヴァルフは(よせばいいのに)同期のザルフがむかっている「ゾンビ」を退治しに愛車・「RECKA」に跨った。
188DMC短編:2006/07/23(日) 12:00:12 ID:cN8gLhLh0
墓地。
なぜか来ているはずのザルフが居ない。
ヴァルフは殺気を感じ、変身の準備をしていた。
手首のリストバンドに備えられた音叉。
その音叉を鳴らすと火柱が立ち上り、ヴァルフは変身した。
それを合図とするかのように、墓場から次々とゾンビが飛び出してくる。
ヴァルフは猛士の音撃を参考に造られた音撃棒でそれをなぎ倒していく。
一体叩くごとに音撃棒は唸りをあげ、ゾンビの体を粉砕していった。
全てのゾンビを清め終えたとき。ヴァルフは腰を下ろして一息ついた。
だがその瞬間、地面から新たなゾンビが現れ、不意をつかれたヴァルフは口から吐く粘液を食らってしまった。
「何ッ!?」
カチンときたヴァルフはそのゾンビを素手で殴ると、墓場にドラム型の音撃鼓を4つ取り付け、音撃棒でたたき始めた。
ロック調のリズムを刻み、ヴァルフは大地を清めていった。
と、突然林が動き出した。するとそこからギターを片手にザルフが飛び出してきたではないか。
「っしゃあ!俺も弾くぜぇえ!」
ヴァルフのドラムにあわせてザルフがギターを弾く。そのギターの音からして、どうやらかなりノッているようだ。
「止めぇぇえーー!!」
墓場の石が爆発した。それがすべての合図だった。
189DMC短編:2006/07/23(日) 12:01:59 ID:cN8gLhLh0
「お前、どこに居たんだよ!?」
「そこだよ!」
「はぁ!?」
「林の中!」
「何で早く出てこなかったんだよ!」
「・・・・いや・・・その・・」
「なんで早くでなかった!?」
「いやまあ、その催しましてぇー。」
「・・・・・・あ?」
「いや、だからそこの林の中で、あwせrdftgyふじこ」
「・・・・・。」
「いやぁーでもスッキリしたぁー。」
「ザルフッ!ふざけるなっ!」
「キャーッ!ヴァルフたんコワイーー。」
「クソッ。お前と居たら疲れるっ!おれはもう本部に帰るから好きにしろっ。」
「好きにしま〜す。」

厳粛な組織であるDMCのメンバーも・・・
この男のおトボけにはついていけないのだった・・・。
もっとも・・・。
こういう時期だからこそだが・・・。

DMC短編「Z・O・L・F」 End
190元・ZANKIの人:2006/07/23(日) 15:36:05 ID:zy2jsgLw0
すげ、DMCでSSを書く人まで現れたw
191名無しより愛をこめて:2006/07/23(日) 17:02:02 ID:Y4XAgEJW0
>>190
zankiの人じゃなかったのかー!
192凱鬼メインストーリー:2006/07/23(日) 18:58:00 ID:cN8gLhLh0
予告ッ。

「カチドキさんっ!東通村でヤマビコが出たって!」
「えっ!?」

――鬼。

「ハァッ!!」
黒のボディに蒼の隈取――。

「ゴォォオ!!」
「このデカザルがぁ!!」
鍛え上げられた肉体――。

ドカァァア!
心――。

「音撃鼓!蒼炎鼓!!」
技――。

「幕炎連打の型ァ!」
――。

「ふぅっ!カチドキ、凱旋!」
「お疲れ様ですっ!珈琲ドゾ!」
「ありがと、美夏ちゃん。」
「やっぱりヤマビコはキツいですか?」
「うん・・・鬼になってれば大丈夫だけど、あの声がね・・・。慣れない。」
「東北のはなぜか強いですからね・・・。」
「うん。でもさ・・・それをやるのが俺たち鬼の仕事ですから。ネッ。シュ!」

凱鬼メインストーリー。投下日未定。
193高鬼SS作者:2006/07/23(日) 19:26:43 ID:1Qhg2T8i0
予定は無かったけどネタを思いついたので北海道編の続きを。
前回の引きは全く関係ありませんが…。
今回は魔化魍との戦闘シーンは全くありません。
最初は出す予定だったんですけど、ぐだぐだになりそうだったんで…。
ではどうぞ。

>ZANKIの人
おそらく投下は八月以降になりそうですが、豊太郎とエリスの話を書こうかと思っています。
で、舞台がヨーロッパになる以上DMCも関与してくるわけですが、ある程度自由にやらせてもらっても大丈夫でしょうか?
あと、向こうでの名称は
キング=王、クイーン=金、ビショップ=銀、ナイト=角(鬼)、ルーク=飛車、ポーン=歩、プロモーション=と
という解釈で大丈夫でしょうか?そこまで使うかは分かりませんが。
197×年、夏。
猛士北海道支部所属のサポーター、花京院。彼の趣味はプチトマト栽培であり、留守になりがちの自宅ではなく支部内で栽培を行っていた。
この日もプチトマトに水をやるべく、じょうろ片手にやって来たのだが……。
「……無い」
無くなっているのである。彼が手塩にかけて育てたプチトマトがプランターごと。
「この僕の……大事なプティトメィトゥが……一体誰が……」
花京院がプチトマトを大事に育てているという事は支部の人間なら誰もが知っている。故に勝手に持ち去る等という事は絶対に有り得ない。となると……。
(あの男か……)
犯人の目星を付けると、花京院は式神を打ってその男の探索を始めた。
支部内でくつろいでいたジョウキは、プチトマトのプランターを大切そうに抱えた花京院が傍らを通るのに気付き、声を掛けた。
「どうした花京院。プチトマトなんか持って」
「ああ、何でもないんだ。気にしないでくれ……」
何かおかしい。やけにそわそわしている。
「らしくないぜ花京院。それは大事な物なんだろ?うろうろ持ち歩いてていいのか?」
「あ、ああ。ちょっと場所を変えようかな〜って思ったんだ」
明らかにおかしい。彼はこの支部内で最も栽培に適した場所を選んでプランターを置いていたのだ。それなのにわざわざ場所を変えるだなんて……。
「……てめー本当に花京院か?」
「ドドドドド」と擬音が聞こえてきそうなくらいの威圧感を放ちながら椅子から立ち上がるジョウキ。
「な、何を馬鹿な事を……」
と、その時。
「見つけたぞ!」
突然の大声の主は花京院だった。
「花京院が……二人?」
「まさか支部内にまだ居たとはな。ジョウキ!そいつは偽者だ!」
後からやって来た花京院が、プランターを抱えた花京院を指差しながら叫ぶ。
「な、何を言うか!ジョウキ、あいつこそ偽者だ!」
負けじとプランターを抱えた花京院も言い返す。
やれやれ、と一言呟くとジョウキは二人の花京院に向かって質問を始めた。
「この間ミニキャロットを食ったよな。どうやって食ったか覚えてるか?」
「湯がいたり炒めたりして丸ごと頂いた!マヨネーズも掛けました」
自信満々に答える後からやって来た花京院。
「農家に行ったらまず何をしたい?」
「とりあえず盗んだトラクターで走り出す!行く先も分からぬまま!」
これまた自信満々に答える後からやって来た花京院。
「河川敷で栽培されている野菜に関して注意する事は?」
「河川敷のオッサンは普通に鍬を振り下ろしてくるから注意だ!」
勝った!そう言わんばかりにポーズを決める後からやって来た花京院。
「……後からやって来た方が本物の花京院だな。さて、そろそろ正体を見せてもらおうか」
「僕が手塩にかけて育てたプティトメィトゥを返せ!」
詰め寄る二人。すると、プランターを抱えた花京院が突然笑い出した。
「ふふふふふ……。くっくっくっくっく!よくぞ見破ったな明智くん!」
そう言うと偽の花京院はプランターを床に置き、自らの顔に手を掛けた。そして。
「これが俺の本体のハンサム顔だ」
自分の顔の生皮を――と言うか合成樹脂製のマスクをバリバリと剥がし、カツラを外す。中から現れたのは案の定ザンキだった。
「やれやれ……やっぱりてめーか……」
「おい!僕の大事なプティトメィトゥをどうするつもりだったんだ!」
「どうするもこうするも、食べるつもりだったに決まってるだろうが。ディ・モールト美味しそうだったからな」
悪びれもせずにそんな事を言い放つザンキ。
鬼石を取り出し、エメラルドスプラッシュの構えを取る花京院をジョウキが制止する。
「よしな。こんな奴に無駄弾を使うもんじゃねえ」
そこへ一人の男がやって来た。北海道支部長のトウキだ。
「どうした?」
「支部長、聞いて下さい。この男が僕に化けて僕のプティトメィトゥを……」
トウキに事情を説明する花京院。当のザンキは相変わらずへらへらしている。
「……全く、トマト一つぐらいで騒ぐんじゃない。心を広く持つ事だ」
「一つではなくプランターごとなのですが……」
「それよりトウキ、どうした?」
ジョウキの質問に対し、自分がこれから出撃する旨を伝えるトウキ。
「今手の空いている太鼓使いは私だけなのでな。久々に出撃する事になった」
「え、この支部は支部長自ら出撃するのか?」
無駄に大袈裟に驚いてみせるザンキ。それに対し花京院が説明をしてやる。
「トウキという名前からも分かる通り、支部長は現役の鬼でもあるんです」
「成る程、選手兼監督みたいなもんか」
自分なりの例えで納得するザンキ。
「何が出たのです?」
「どうやらコシュンプらしい。普通この時期には出ない筈だからイレギュラーという奴だろう」
コシュンプとは海豹の姿をした北海道限定の魔化魍である。本来は流氷が訪れる十二月から四月にかけてのみ現れる種である。
「悪いが花京院、サポーターを頼めるか?」
トウキの頼みを快く引き受ける花京院。そして二人はジョウキとザンキを残して出撃してしまった。
「……さてと、俺はこれから買い物に行くつもりだ。あんたにも一緒に来てもらうぜ」
「何だよ急に」
「てめーから目を離すと碌な事にならねえって分かったからな。嫌でも一緒に来てもらうぜ」
有無を言わせぬ口調で、そうザンキに告げるジョウキ。こうして二人は街へと繰り出していった。
「なあ、何処か観光名所に連れてってくれよ。あるいは何か祭りの会場とかさぁ」
黙々と歩き続けるジョウキの背後で、延々と言い続けるザンキ。初めは無視を決め込んでいたが、流石のジョウキもとうとう我慢の限界に達したようだ。
「やかましいッ!うっおとしいぜッ!!」
興奮のあまり「うっとおしい」を「うっおとしい」と発言してしまうジョウキ。
「え〜?だってさ、前に行った所じゃ色々と親切にしてくれたぜ?」
「余所は余所だぜ。大人しくしやがれ」
有名な札幌の時計台を見たかったのに、とぶつぶつ言いながら何かを食べているザンキ。
「おい、何を食べている?」
見ると、袋に入れた花京院のプチトマトを一つずつ手に取って食べているではないか。さっきのどさくさに紛れて持ってきていたのだ。
「……クダギツネって知ってるか?」
「何だそりゃ?北海道の名物か何かか?」
クダギツネ(管狐)とは、主に東北地方や信州の飯綱使いが使役する一種の使い魔のようなものである。
「……知らないならいい。後で後悔するのはてめーだからな」
意味深な台詞を告げるジョウキ。
と、前方からジョウキに負けないくらい体格の良い老人が歩いてくるのが見えた。こちらの姿を確認して手を振ってくる老人。
「誰だ、あの爺さん。手ぇ振ってるぜ」
「……面倒な奴に会っちまったな」
その老人こそジョウキの祖父、先代ジョウキだったりする。
二人の傍にやって来た先代ジョウキは、ジョウキからザンキの事を紹介されると自らも自己紹介を始めた。
「そうかそうか、ジョウキが世話になっておるようじゃのぅ。わしはこいつの祖父で先代のジョウキじゃ。ハッピーうれピーよろピくねーーーー」
「……逆だぜ。こっちが迷惑をかけられてる……」
ぼそりと呟くジョウキ。
「面白い爺さんだな!俺はザンキ。伊太利亜のミラノ出身だ。よろしくっ!」
「おおっ!君は伊太利亜出身なのかね!わしも若い頃伊太利亜に行った事があるぞ!」
途端に顔を輝かせる先代ジョウキ。それを見てやれやれといった表情のジョウキ。こうなると先代ジョウキの話は止まらない。
「伊太利亜だけじゃない。亜米利加にも瑞西(スイス)にも行ったぞ。埃及(エジプト)にだって行った。他にも世界各国を色々と回っているぞ!」
若い頃から今に至るまでの思い出話を延々と続ける先代ジョウキに、ザンキも流石に辟易してきたようだ。
「おい、じじい。もうそのぐらいにしておけ……」
堪らずジョウキが先代の話を止める。
「え〜!残念じゃなあ。これから飛行機が三回も墜落した話をしようと思っていたのに……」
「……周りの迷惑も考えやがれ」
ただ、当のザンキは多少なりとも飛行機の話に興味を持ったようだったが。
と、女性の悲鳴が聞こえた。それと同時に「ひったくりだ!」との声が聞こえてくる。見ると、バッグを抱えた男がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「どけ!じじい!」
叫びながら先代ジョウキに向かって突っ込んでくるひったくり犯。だが次の瞬間。
「よっと」
先代ジョウキは犯人の腕を捕らえると、あっという間に取り押さえてしまった。
「ワ〜オ、爺さんやるねぇ」
「若いの、相手が悪かったな。このまま警察に突き出してやるわい」
周りから拍手が巻き起こった。調子に乗って手を振り応える先代ジョウキ。何故か一緒になって手を振っているザンキ。
「やれやれ……。相変わらず目立ちたがり屋のじじいだぜ……」
外国人観光客から写真を撮られている祖父とザンキの姿を遠巻きに眺めながら、ジョウキは煙草を取り出して火を点けた。
先代ジョウキと別れた二人は買い物を終えると、そのまま支部に帰還した。トウキと花京院もその日のうちに魔化魍を退治して戻ってきた。
そして。
「ぼ……僕のプティトメィトゥが……」
そこには、全ての実をもぎ取られたプチトマトのプランターが置かれてあった。
「案の定ディ・モールト美味しかったよ」
にっこり笑いながらそう告げるザンキ。
「ウッ、クックックックックックッ」
と、当然花京院が奇妙な声で笑いだした。
「フッフッフッ、ホハハハフフフフヘハハハハフホホアハハハ」
「な、何だ!?どうしたんだよこいつ!」
「……やっぱりこうなったか。しかし……てめーの場合全然カワイソーとは思わん」
驚くザンキを冷ややかに見つめるジョウキ。
「ハハハハフフフ、フハハッ、クックックッヒヒヒヒヒケケケケケ、ノォホホノォホ、ヘラヘラヘラヘラ、アヘアヘアヘ」
ひとしきり笑うと、途端に真顔に戻った花京院はザンキに向かってこう言い放った。
「まさかこれを使ってお仕置きをする事になろうとは……」
そう言いながら懐から二本の竹筒を取り出す。先端に嵌った蓋を外すと、中からオコジョに似た細長い体の奇妙な生き物が出てきた。
「紹介しよう。右の奴の名前は『法皇』、左は『緑』だ。これはクダギツネと言って、飼育して使役する事の出来る魔化魍だ」
二匹のクダギツネはザンキの事をじっと睨みつけている。
「悪戯好きな奴らでね、そういうわけであまり使わないようにしているんだが……今回ばかりはこの花京院容赦せん!!」
行け!と号令を掛けると同時に、二匹のクダギツネは何とザンキの両耳の穴から体内に入り込んでしまった。
「うわっ!何だこいつら!俺の耳の中に!」
血相を変えて慌てふためくザンキ。それに対して冷酷にこう告げる花京院。
「僕の『法皇』と『緑』は引き千切ると狂い悶えるのだ、喜びでな!」
「あの……何をでしょうか……」
すっかり弱気になって花京院に尋ね返すザンキ。
「とりあえずあなたの視神経を」
「おい冗談だろ!?やめろぉ!やめてくれぇ!」
響き渡る絶叫。そんな二人のやりとりを静かに眺めるジョウキとトウキ。
「珍しいな、花京院がクダギツネを持ち出す程怒るなんて……」
「まあ自業自得だな……。じゃあトウキ、俺は行くぜ」
「いいのか?彼の面倒を見るんだろう?」
トウキの問いに対し、静かに笑いながら答えるジョウキ。
「暫く花京院に任せておいて大丈夫だろう。これで漸く羽を伸ばせるぜ」
「あるいは脳細胞をいじってあげましょうか!?」
「やめてくれぇぇぇぇぇ!」
喧騒を背に、ジョウキはそのまま立ち去っていった。
結局今回の旅は、ザンキにとって珍しくしっぺ返しを受けるものとなったのであった。 了
202名無しより愛をこめて:2006/07/23(日) 23:38:09 ID:D3RDpF1W0
はっもしや先代が失明したのはこれが原因Σ(待
203元・ZANKIの人:2006/07/24(月) 07:51:04 ID:Uegq3iZ30
自分の中ではキング=王、
クイーン=実際の現場で指示を出すコマンダー
と言った感じですね。同時に何人ものウルフを操るから多分、司令官がいるんじゃないかと。
まあ、任せますw

タダの設定厨なんですが、イギリスは独自の組織「ロイヤルなんちゃら」とか考えてました。
コウモリ型のDAが飛んできてベルトにセットするとヴァンパイアに変身するとか。
でも、イギリスはヴァンパイアでは無いんだよな……。

まあ、「響鬼」から大きくズレない程度によろしくお願いします。
コウキSS面白いです。
204元・ZANKIの人:2006/07/24(月) 08:14:07 ID:Uegq3iZ30
Royal Perfect Guardians=RPGでいいや。
205凱鬼メインストーリー:2006/07/24(月) 13:54:09 ID:ZR5pqLze0
一之巻 「凱く鬼」

2004年。1月某日。早朝。
青森県、恐山の麓にある居酒屋の従業員のロッカールーム。(にしては少し広い)
20代後半の青年がタオルで汗を拭い取っていた。
「ふぅ・・・ランニング終了ッ!」
そのときだった。
「カチドキさんっ!」
「おおっ!?どうしたの美夏ちゃん!?」
「東通村でヤマビコがでたって!」
「ええっ!?」
「早く行きましょう!」
「ちょ・・・まだ飯食ってない・・・。」
「車の中で食べてくださいっ!」
「そんなに慌てること無いじゃな〜い!こんな朝早くからヤマビコは動かないってぇ!」

午前6時、東通村。
「おい!バケモノが出たぞぉ!」
「女、子供から村の外に出せぇ!」
「年寄りもだ!」
バサッ。
「声を貰うよっ。」
「貰うよっ。」
ガッ!
「ウ・・ウァッ!・・。」
「父さんっ!」
206凱鬼メインストーリー:2006/07/24(月) 13:55:19 ID:ZR5pqLze0
車中。
「まだ現場に着かないの〜?」
「もう少しですからっ!」

午前7時半、東通村。
車からカチドキと美夏が降りた。
「そんな・・・。」
「・・・どうやら暴れたのは童子と姫みたいだな。」
「ヤマビコは・・・?」
「多分、森の中。」
そういうとカチドキと美夏は村へ入っていった。

「よしっ。とりあえずDAたちに探してもらいますか。」
「新型のリョクオオザル。使いますか?」
「どこが改良されたの?」
「音声以外で動画も録れるみたいですよ。」
「へぇ〜〜。じゃそれもヨロシク。」
「了解っ!」
そういうと美夏はDAに探索ポイントを入力し始めた。
「そういえば・・・カチドキさん、去年こっちに来たヒビキさんって覚えてますか?」
「あ゛〜〜あの人ね。替え歌が好きな人でしょ?なんか面白い人だったよなぁ・・・。」
「フフフフ・・・カチドキさんにちょっと似てましたよね〜。」
「えぇ!?全然似てないでしょ。ほら俺はさ、サングラスとかコートとか似合わないし。」
「いや・・・顔じゃなくて、雰囲気とか・・・しゃべり方とか・・・なんか似てるなぁって。支部長も言ってましたよ。」
「そうかなぁ・・・。でもあの人、何しに来たんだっけ?」
「確か、幼馴染に恐山の鬼石を採ってくるように言われたとかで。」
「あ〜成るほどね。」
「よいしょっと!そんじゃお願いしまーす。」
「はいはーい。」
カチドキは腰から音叉を取り出すと、箱に並べられたDAを起動させた。
「行ってらっしゃ〜い。」
207凱鬼メインストーリー:2006/07/24(月) 13:56:32 ID:ZR5pqLze0
―――森。
「大きくなったなぁ。」
「なったなぁ。」
谷で童子と姫がヤマビコを見ながら感心した声をだす。だがその声は男女で反転していた。
「もう少し大きくなったら・・・」
「今度はお前も里へ出な。」
オォォオオッ。

『モワッモワッ』
緑の獣はその光景を眼に焼き付け、主の下へ戻った。

午前9時。東通村
「カチドキさぁーん。ディスクが戻ってきましたよ〜。」
「はいは〜い。」
そういうとカチドキはテントから出た。
「よっしゃ。録画とやらを見せてもらおうか。」
指を鳴らし、DAを灰色の円盤に戻すと音叉ではさんで再生する。受信機の使い方が分からないカチドキは珈琲を淹れていた美夏に頼んだ。
「ほんとに機械音痴ですね。」
「機械はねぇ・・・扇風機以外使えなくてもいいの。」
「そんなことだからいつまで経ってもサポーターに頭が上がらないんじゃないですか?」
「・・・・仰るとおりです。」
「ホラ、できましたよ。」
「おっ!?」
208凱鬼メインストーリー:2006/07/24(月) 13:57:23 ID:ZR5pqLze0
カチドキが画面をみると、ヤマビコの童子と姫が映っていた。
そして次にヤマビコの足。腕。
「結構成長しちゃってるね・・・コイツ。」
「じゃあ、もう行きますか?」
「うん。早めに決着つけとかないと、明日になったら多分町に出てくると思うから。」
「行ってらっしゃい。」
「よし!それじゃDAくんに案内してもらおうかな。」
そういうとカチドキはさっきのリョクオオザルを起動させた。
「ヨロシク頼むよ!」
『モワッ!』
「行ってきます!」
そういうと鬼と獣は森へ消えていった。

『モワッモワッ!』
「ふぅ・・・結構奥まで来たな。」
『モワッ!』
急にリョクオオザルは停止した。
「どうした・・・?」
『モワッ!』
「鬼ッ!」
「鬼ッ!」
突然の声に気がつき、上をみると木の枝にヤマビコの童子と姫がカチドキを眺めていた。
「早速おでましか・・・。」
カチドキは腰のベルトから音叉を取った。それに反応したリョクオオザルが音叉を叩く。
高い音を鳴らす音叉を額にかざすと額には鬼面が浮かんだ。次の瞬間。
ボォオッ
カチドキの体から蒼い炎が立ち上った。服が次第に焼けていく。
「ハァッ!」
209凱鬼メインストーリー:2006/07/24(月) 14:00:05 ID:ZR5pqLze0
罵声と共に炎をかき消し現れたのは黒のボディに蒼の隈取。腰のバックルには音撃鼓を備えた鬼、凱鬼だった。
「行くぜぇーっ!!」
「キキィ!」
凱鬼は向かってくる怪童子に鬼爪を腹部に突き刺した。
「キキィーー!!」
バケモノの血飛沫が鬼の顔を白く濁らせる。しかしそれにも動じずに凱鬼は鬼爪を抜き、次に迫る妖姫と向かい合った。
しかし妖姫は既に凱鬼めがけて突進していた。
「おわっ!?」
凱鬼は後ろに倒されると妖姫に何度も殴打された。
「コイツッ!」
仰向けの体制のまま、凱鬼は口を開いた。それに若干衝撃を受けた妖姫に隙が出来る。
「ラァァア!」
凱鬼は口から蒼い炎を吐き、妖姫は顔を焼かれ、断末魔の叫びをあげて塵へ還った。
「はぁ・・・思い切ったことしやがる・・・。」
オォォオ!!
「・・・ん?」
凱鬼が見上げると、完全に成長しきったヤマビコが片方の足を持ち上げて凱鬼を見下ろしていた。
「・・・・やっば。」
ヤマビコの足が凱鬼めがけて落ちてきた。
「うわっ!」
凱鬼はなんとか避け切ることが出来た。しかしそれでも現状は変わらない。
「クッソー。こりゃあ谷におびき出すしかないな・・・。」
そう思いついた途端、凱鬼は駆け出した。後ろからは巨大なヤマビコが見た目によらないスピードで追ってくる。
追いつかれるのも時間の問題だった。

一之巻「凱く鬼」
210凱鬼メインストーリー作者:2006/07/25(火) 21:57:26 ID:NXkiwBvt0
暇なのでもう一本投下します。
211凱鬼メインストーリー:2006/07/25(火) 21:58:00 ID:NXkiwBvt0
二之巻「駆ける兄弟」

オォォオオ!!
「クソッ!ヤマビコってこんなに早かったか!?」
オオオオ!!
凱鬼の脳裏に東通村の地形図がよぎる。
「よし、あと3kmか・・・持ってくれよ、俺の脚!!」
そのときだった。
「おっとぉ!」
ズデン。とでも聞こえてきそうな具合に凱鬼は木の根に挟まれて前に倒れてしまう。
ウホッウホッホッホッホッホ。
「クソッたれがぁ!!笑ってんじゃねぇぞぉ!!」
拳を地面に打ちつけ、凱鬼がキレる。いや、それ以上に驚くべきことはヤマビコが某有名宇宙人のように笑ったことかもしれない。“笑う”という行為は高等動物の証拠である。
「ハァァアア!!」
ボシュゥゥウ!!
凱鬼は思い余り、足ごと木の根を焼き払った。
「あっ・・・つー・・・・。」
ウホッホッホッホッホッホッホー!!
「お前のせいだ、バカザル!!後で覚えてろよぉ!!」
そう怒鳴りつけると、凱鬼は再び走り出した。
212凱鬼メインストーリー:2006/07/25(火) 21:58:35 ID:NXkiwBvt0
東北支部の戸が音を立てて開いた。
「たっだいま〜。」
「あっおかえりなさい、イツキさん。・・・一真くん!」
「ただいま〜!」
「どうだった?シベリアは!」
「・・・・聞かないで・・・。」
「ああ、あきらちゃんコイツな。シベリアで熊に襲われて、トラウマになったんだぜ。」
「ちょっと、イツキさん!」
「ハハハハハハ!ほんっとにお前って面白いな!」
「もう、早くランニングしましょ!」
「おお、そうか。」
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
笑顔で見送る天美あきらにイツキと一真は同時にポーズをとって東北支部を出た。

「ふぅー・・・やっと追い詰めたぜ。覚悟しろぉ!」
凱鬼は蒼炎鼓を手に取り、谷底で身動きのとれなくなったヤマビコに音撃鼓を貼り付けた。
「っしゃ!じゃあ行くぜぇ!」

「よーい・・・」

「幕炎連打の型ァ!!」
ドドン!

「ドン!」
イツキと一真は公園をめがけて走り出した。
213凱鬼メインストーリー:2006/07/25(火) 21:59:16 ID:NXkiwBvt0
「ハァ!」ドコドン!ドコドン!ドコドコドコドコドン!!
リズミカルな音響を奏で、ヤマビコの魂を清めていく。
「セェイ!」ドンドンドコドン!ドコドンドン!!
鍛えた中で身体に刻まれたリズムは、狂いのひとかけらも無い。
「タァ!」ドドン!!
刹那。耳が割れるような爆音と共に、ヤマビコは塵へと還った。
凱鬼が顔だけ変身を解除する。
「ふぃー・・・あいてっ!」
脚がヒリヒリする。火傷ばっかりは鬼の力でも治せない。
「いちちちちちち・・・」

公園についた一真は一足先に到着してベンチでくつろぐイツキの隣に座った。
「ふぃー・・・あたっ!」
「おいおい、どうした?」
「足・・・吊ったみたいです・・・。」
「全く・・・ほんとにお前は兄貴と生き写しだな。」
はははは。と笑うイツキの前には涙目でこらえる一真が居た。
214凱鬼メインストーリー:2006/07/25(火) 22:00:00 ID:NXkiwBvt0
「ふぅっ!カチドキ、凱旋!」
「お疲れ様ですっ!珈琲ドゾ!」
「ありがと、美夏ちゃん。」
「やっぱりヤマビコはキツいですか?」
「うん・・・鬼になってれば大丈夫だけど、あの声がね・・・。慣れない。」
「東北のはなぜか強いですからね・・・。」
「うん。でもさ・・・それをやるのが俺たち鬼の仕事ですから。ネッ。シュ!」
「あれ?その足、どうしたんですか?」
「ああ、これね。いや〜木の根に足が引っ掛かっちゃてさ。解こうと思ってもなかなか解けなくてね。危なくなったから思い切って足ごと焼いて解いた。」
「大丈夫なんですか?そんなことしちゃって。」
「うん。まぁ、ヒリヒリしたりするけどさ。このまえも一日で治ったし、大丈夫なんじゃないの?」
「そんないい加減な・・・。」
ガチャッ。ドサッ。バサッ。ドッ。バタッ・・・
「なにしてんですか?」
「俺、もう帰る。」
「え?」
「今日ね。シベリアから弟が戻って来るんだよ。イツキさんと一緒に。」
「弟さん・・・って・・・一真くん!?」
「そそ。じゃあね。バイバイ。」
ブロロロロン・・・
「あっ!ちょっと待ってくださ・・・い・・・。」
その時、サポーター・吉村美夏がみたもの・・・それは・・・。
「クソッ!このボロがぁ!さっさと動けぇ!廃車にするぞぉ!!」
「カチドキさんっ!私が運転しますから!!」
「だったら、とっとと乗れよぉ!」
215凱鬼メインストーリー:2006/07/25(火) 22:00:17 ID:NXkiwBvt0
東北支部。一真はあきらとTDBの整理をしていた。
「あきらちゃんさぁ・・・よくよく考えたら俺の方が結構年上だったんだね。」
「えっと・・・あっほんとだ!私が14で、一真君が17だし!」
「俺、高校いってないから今まで気付かなったよ。」
「一真くん、やっぱり高校行きたかったんじゃないの?」
「そりゃね。少しはさ・・・鬼なんかやらずに普通に生きていこうかって思ったさ。だけど、兄貴が頑張ってるの見て、俺もああいう男になりたいって思ったし。だから後悔はしてないよ。」
「じゃあ、私もサポーター目指して頑張るから!一真君が鬼になったときはサポートしてあげる!」
「どうもっ。」
「ただいま〜!!」
「カチドキさんじゃない!?」
「兄貴!!」
「お〜っ!一真、久しぶり!・・・お前、ちょっと見ない間にデカくなってないか?」
「当たり前だろ!」
「成長期だからな!」
「あれ?イツキさんは?」
「下で寝てます。」
「あ、そう。んじゃ、飯の支度しよっかな♪」
「美夏さん、なんで泣いてるんですか?」
「いや・・・なんでもない・・・グスッ。」
「泣くと皺が増えるって言いますよ。」
「うるさいっ、一真!」
「ひゃ〜〜っこわい〜。」
その日の東北支部は一人を除いて、笑いで溢れていた。

二之巻「駆ける兄弟」
216凱鬼メインストーリー作者:2006/07/25(火) 22:12:03 ID:NXkiwBvt0
ここでちょいと設定みたいなんを。
カチドキさんてのは日頃は優しいヒビキさんタイプですが、
キレると口調が変わって、「クソッ!」を連発します。
まぁ、ほぼキレるのは戦闘時ですけどね。

そのカチドキさんには弟の一真くんがいて、彼もまた鬼を目指す「と」の一人。
ちなみに師匠はイツキさん。鬼の名は厳鬼。弦の鬼です。

そして天美あきら。
この物語は2004年と、響鬼本編が始まる前の時代からスタートするので彼女はまだ東北支部にいて、7代目暁鬼と奥さんも現役です。
このころはまだ彼女の性格は明るい。という設定です。
217高鬼SS作者:2006/07/27(木) 21:40:00 ID:Puxtngk/0
一本投下させていただきます。
タイトルは確かに京極夏彦作品から取ってますが、内容はいつも通りです。
ただ、ほんのちょっとだけミステリっぽい展開にはなっていますが。
それではどうぞ。
218仮面ライダー高鬼「姑獲鳥の夏、魍魎の匣」:2006/07/27(木) 21:41:53 ID:Puxtngk/0
1975年、葉月下旬。
伝説ともなったコウキの「三十匹殺し」から暫くの時が経った。
新たに支給された音撃棒・大明神を少しでも早く使いこなせるようにするべく、コウキはいつも以上に鍛錬を積んでいた。
と言うのもこの「大明神」、最強の音撃棒を作ってやるというあかねの言葉通り、「聖域」に生えた霊木で作られているからである。
魔化魍はおろか鬼すらも寄せ付けない三輪山の霊木で作られた「大明神」は、屋久杉を使ったものよりも高い霊力を込めている反面、使用者にも負担を掛けるのだ。
そのため、耐性を得るには兎に角使い続けるしかないのである。これはあかねがコウキの腕を見込んだうえでの判断だったのであろう。
さて、そんなある日の事、イブキに付き合ってウブメ退治に出かけたコウキは案内してくれた地元の「歩」から奇妙な噂を聞いた。
死体が消失しているのだという。
確かに火葬場に運ぶまでは死体は存在していた。だが、火葬場から返ってきた遺体の骨は明らかに少なくなっているというのだ。
「野犬とかの可能性は無いのですか?」
「私達も初めはそう思ったのですが、火葬場の近辺にはそのような足跡は何も無くて……。ひょっとしてこれも魔化魍の仕業なのでしょうか……」
本当に困ったという感じで「歩」の男性がコウキに話す。
キャンプに戻ったコウキは、イブキにその話を聞かせた。イブキも興味を持ったようだ。
「死体消失……ですか」
「ウブメの件が片付いたら、とりあえず火葬場へ調査に行ってみようと思うのだが……」
イブキもそれに同意した。そこへ、戻ってきた式神を確認していた勢地郎がウブメの発見を報告してきた。
219仮面ライダー高鬼「姑獲鳥の夏、魍魎の匣」:2006/07/27(木) 21:42:52 ID:Puxtngk/0
小雨が降り続ける中、現場の湖へと向かう途中でイブキがコウキに尋ねてきた。
「コウキさんはその死体消失が魔化魍の仕業だとして、一体どんな魔化魍の仕業だと思いますか?」
「死体絡みの魔化魍で真っ先に思い浮かぶのはカシャだな」
「確かに、今は夏ですし可能性は否定出来ませんね」
カシャは活きた餌も食らうが、基本的には死体を好む。
しかし一つ問題がある、とコウキは言った。
「村人がおかしいと思い始めたのは今年の六月からだそうだ。夏の魔化魍が出てくるには少し時期が早すぎるな」
それを聞いて悩みだすイブキ。
「だから可能性として高いのは……モウリョウだな」
「モウリョウ……ですか」
話しているうちに二人は湖へと辿り着いていた。そして現れる童子と姫。
「ウブメはまだ水中に居るのか……」
「イブキ。童子と姫は私がやる。君はウブメに警戒していたまえ」
そう言うとコウキは傘を捨て、鳴らした音叉を額に翳し、その身を炎に包んだ。

童子と姫を倒した高鬼は、両手の「大明神」をまじまじと眺めた。
まだまだ馴染まない。もっと精進しなければ、そう思う高鬼。
遠くで威吹鬼の音撃射の音が鳴り響くのが聞こえた。あちらもそろそろで決着が着くようだ。
と。
「高鬼さん、危ない!」
威吹鬼の叫び声が聞こえた。見ると、鬼石を撃ち込まれ瀕死の状態のウブメがこちらに向かって突っ込んできていた。
「破っ!」
鬼棒術・小右衛門火をウブメの両の目に向けて放つ高鬼。怯んだところを威吹鬼が音撃射で止めを刺した。
舞い落ちる塵芥の中、高鬼が再び「大明神」を眺めながらぼやく。
「やはりまだ駄目だ……」
220仮面ライダー高鬼「姑獲鳥の夏、魍魎の匣」:2006/07/27(木) 21:43:41 ID:Puxtngk/0
魔化魍。
魍が魔に化けるという意味であり、魍とは山川木石に宿る精を意味している。
そしてモウリョウの漢字表記は魍魎。即ちモウリョウとは魔化魍の根源のようなものである。不定形にして捉えどころの無い、そういう曖昧な存在なのだ。
故にこのモウリョウ、発生した時は姿形を持たず、何かに取り憑いて成長する。好物は死体で特に心臓を好む。成長には童子と姫を必要としない稀種である。
猛士では魔化魍に成り損なった不完全な存在との認識が強く、こいつが出てくる事がその年の魔化魍発生傾向の指標になっていたりする。
さて、そんな妙なものが湧いた可能性があるという事で、ウブメを退治し終えたコウキとイブキは勢地郎を連れて村の火葬場へと向かっていた。
「もしモウリョウならば、過去の資料から推測するに何か動物の死体に取り憑いて行動をしている筈だが……」
コウキがそう言うも、あまりにも漠然としていてどうしようもない。
「ニシキさんに救援を頼みますか?関西ではモウリョウは主に代々の西鬼が担当していると聞きますし……」
勢地郎が提案する。
ちなみにモウリョウが虎を嫌うという伝承は、先程の勢地郎の発言通り、虎に似た姿をした代々の西鬼が主に戦っていた事が少なからず関係していると思われる。
「彼は既に別行動中だ。あかねさんが言っていた。我々だけで何とかするんだ」
三人は火葬場の焼却炉の前までやって来た。
黒光りする四角い鉄の匣だ。この中で死体が焼かれるのかと思うと、何とも言えない気分になる。
次に三人は火葬場の管理人の所へ行って話を伺ってみた。
「別に何もおかしな所はありませんな〜」
管理人の老人が間の抜けた声でそう答える。
「ですが、実際に焼き上がった死体が減っているという苦情が何件も来ているのでしょう?」
「気のせいじゃないですかね〜」
多少呆けているのであろうか、どうにも話が進展しない。
三人は仕方なくその場を後にした。
「どうします、コウキさん?」
「暫くこの村に滞在して調査をしてみるべきだと思う。『歩』の人の話だと今夜とある家で通夜が行われるらしい」
イブキの問いにそう答えるコウキ。こうして三人は出棺までの間この村に滞在し、モウリョウの捜索と情報収集を開始する事にした。
221仮面ライダー高鬼「姑獲鳥の夏、魍魎の匣」:2006/07/27(木) 21:44:41 ID:Puxtngk/0
コウキとイブキは手分けして村の周辺の水源を調査して回った。モウリョウは水辺に生息するからである。
一方勢地郎は村役場で六月からのこの村での死亡者の数を調べていた。
その夜、宿を借りている「歩」の家の居間で三人はそれぞれの調査結果を話し合った。
「私の方は全く駄目だった。どうやら君の方も同じ様だな」
「はい。水辺に居たのは普通の野生動物のみでした」
次に勢地郎が調査結果を話し始めた。
「六月から今日までだけで、死亡者の数は昨年のトータル数に匹敵していますね。中には『何であんな健康な人が?』というような人物の死亡も確認されています」
「モウリョウめ、運ばれてくる死体だけでは我慢出来なくなったな……」
だが肝心のモウリョウが何に取り憑いて活動しているのか分からない。
「やはり出棺の後、現場に出てくるのを抑える方が確実でしょうかね……」
「だがそれだと逃げられた時が問題だ。何としてでもモウリョウの今の姿を知っておかなくては……」
悩む三人。
モウリョウは水が無いと活動出来ない。しかし水辺にはそれらしいものは居なかった。そしてモウリョウは何か――主に死体に取り憑いて活動する……。
と、コウキの脳裏にある仮説が閃いた。その仮説を確かめるべく、勢地郎にある事を調べるように頼んだ。
「どうしたんですかコウキさん」
「イブキ。いつでも出られるように準備をしていろ。確認が取れ次第モウリョウ退治に向かう」
222仮面ライダー高鬼「姑獲鳥の夏、魍魎の匣」:2006/07/27(木) 21:45:38 ID:Puxtngk/0
草木も眠る丑三つ時。雨はもうとっくに止んでいた。火葬場では、近くを流れる小川から飛んできた沢山の蛍が雨上がりの夜空を彩っている。
そこへ怪しい影が現れた。がさごそと何か音を立てている。それに気付いた管理人の老人が、懐中電灯を片手に外へと出てきた。
「誰かおるのか〜?」
呼びかけるも返事は無い。と、何かが光の傍で動いた。慌てて懐中電灯をそちらに向けて照らす。そこには……。
「あんた、昼間の……」
そこに立っていたのはコウキだった。静かに口を開くコウキ。
「あなたが……モウリョウだったのですね」
沈黙が流れる。それを破るかのように再びコウキが喋りだした。
「モウリョウは死体に宿る。我々は過去の文献に書かれている通り、動物の死体に取り憑いているとばかり思っていた。だが、記録に無いだけで 人 間 の 死 体 に 取り憑いている可能性もあったわけだ」
この村の各家庭の水道料金を調べてみた。そう管理人に告げるコウキ。
「管理人さん、あなたの家の水道代が六月から異常に増えていたよ。モウリョウは水を必要とする。……さっきまで水浴びでもしていたんじゃないのかね?」
確かに、管理人の頭も服もびしょびしょに濡れていた。
「そこで今度は管理人について調べてみた。案の定、通院記録がこの村の診療所にあったよ。かなり重い病気だったそうだ。それだけにお前がぴんぴんしているのを見て医者も驚いていたようだな」
そう。この村の火葬場の管理人は既に死んでいて、そこをモウリョウに取り憑かれたというのがコウキの考えである。そしてそれは当たっていたようだ。
逃げるべく後ろを振り向いた管理人――モウリョウの前に、音撃管を構えたイブキが立ちはだかった。
「観念するんだな」
コウキは音叉を取り出して鳴らすと、額に翳した。炎に包まれ、その中から高鬼が姿を現す。
「……くくく……くくくくくく」
突然、低く不気味な声でモウリョウが笑い始めた。そして。
「来るぞ!イブキ、撃て!」
だが音撃管の圧縮空気弾が命中するよりも早く、モウリョウは姿を変えて攻撃を躱した。
その新たな姿は鬼にそっくりであった。
223仮面ライダー高鬼「姑獲鳥の夏、魍魎の匣」:2006/07/27(木) 21:46:40 ID:Puxtngk/0
モウリョウは記録と一緒に絵も残されている。その絵は例外無く鬼のような姿で描かれている。
鬼も魔化魍もある意味同じもの。その境界は曖昧だ。従って、魔化魍の元であるとされるモウリョウが鬼の姿に化しても不思議な事ではない。
赤黒い、多少小柄な鬼に似た姿をしたモウリョウは、口を開き高鬼目掛けて跳びかかってきた。噛み殺すつもりだ。
その攻撃を躱すと、高鬼は「大明神」を構えた。だが。
「シャアッ!」
モウリョウの鋭い爪の一撃が、高鬼の右手首を切り裂き、その衝撃で「大明神」を落としてしまう。
「くっ」
気合いを入れ、傷口を塞ぐ高鬼。そこへ再度モウリョウが爪を突き立てようとしてくる。
「高鬼さん!」
音撃管でモウリョウを牽制するイブキ。その隙に高鬼は気合いを込め、「紅」へと二段変身を遂げた。その際に起きた爆発でモウリョウの体が吹き飛ぶ。
「好機到来!」
「大明神」を拾い上げ、モウリョウに向かって駆け寄る高鬼紅。だが、振り下ろした「大明神」を口で受け止められてしまう。
「破っ!」
すかさずモウリョウの口中に小右衛門火を放つ高鬼紅。口の中で大爆発を起こし、モウリョウの体が大きく吹っ飛んだ。そこへ追撃を仕掛ける高鬼紅。
「天罰覿面の型!破っ!」
二本の「大明神」の一撃がモウリョウに炸裂し、その体を炎に包み込んだ。刹那、爆発。モウリョウの体は塵と化した。
「やりましたね」
イブキと、遠くから戦いを見守っていた勢地郎が高鬼紅の傍へとやって来る。顔の変身を解除し、それに応えるコウキ。
と、戦闘の間ずっと草むらに隠れていた蛍が再び周囲を飛び回り始めた。
柔らかい無数の光の粒がコウキ達の周囲を取り囲む。まるで、さっきまでの喧騒は真夏の夜の夢だったとでも言わんばかりに、蛍はただただ輝き続ける。
その幻想的な光景を、三人は暫くの間ずっと眺め続けていた。 了
224凱鬼メインストーリー作者:2006/07/28(金) 23:10:51 ID:gMfT2I0t0
三之巻「恐るる山、凍てぬ乙女」

2月、上旬。
東北支部の猛士の間に他支部から突然の来客があった。
「お茶、どうぞ。」
「あ、ありがとう。」
30代くらいの女性はあきらからお茶をもらうと愛想よく笑顔で返した。
2階から東北支部長の坂本仇(26歳)が降りてくる。
「いや〜お待たせしました。佐古さん久しぶりですね。」
「久しぶり、仇ちゃん。」
「懐かしいなぁ〜その呼び名は。大学のとき以来じゃないですか?」
「そうね。でもそれ以上にビックリよ。あなたがその若さで支部長なんて。」
「僕も正直、驚きなんですよ。一年前まではただの金だったのに。」
「才能が認められたんでしょ。坂本先生の後任に相応しいって。」
「そんな・・・僕なんかまだまだですよ。みんなに迷惑かけてばっかりだし。佐古さんは立派ですよね。
開発者として最善を尽くせるんですから。・・・・それで、今日は?」
「ああ、ゴメンゴメン。実は・・・。」
「はい・・・。」
「恐山・・・行きたいんだけど。」
「えぇ!?」
「ホラあそこ、鬼石の産地じゃない。自分で直接みて、選びたいの。だからさ・・・だれか空いてる人居ないかな?」
「ん〜・・・。今2人・・・腕の達つ人がいるんで、その人たちに頼んでみましょうか?」
「ありがとー!!宜しくたのむよ!!」
話が決まると、佐古はさっさと帰っていった。
225凱鬼メインストーリー:2006/07/28(金) 23:11:24 ID:gMfT2I0t0
「え〜!?」
「た・・・頼むよカチドキ君・・・。あの人は俺の恩師なんだ・・・。」
「別にいいけどぉ・・・。」
「本当!?ありがと!よろしく頼むよ!」
「はいはい・・・。」
「よし・・・とりあえず一人ゲット!次は・・・はぁ・・・あの人か・・・。」
そう呟くと、支部長はトボトボと東北支部を後にした。

3日後。恐山、猛士関係者用登山口。
「あ゛〜ついに来てしまったか・・・。」
登山着に身を包んだカチドキが後悔しているような口調でぼやく。
「ところで、今日もう一人鬼が来るんだろ?そいつは誰だ?もう30分も過ぎてるのに・・・。」
「あの人は・・・ちょっと変わってらっしゃいますから・・・。」
「支部長・・・誰が変わってるって?え?」
「ヒィッ!」
支部長と佐古、カチドキが振り返ると、眼をつむった60代の男が立っていた。
「ご・・・ごめんなさい!ジンキさん!」
「若さ故だろうが・・・口には気をつけなァ・・・。さぁ・・行こうか。」
「ちょっと待ってください。初めてお会いしますがもしかして貴方・・・盲目では?」
「そうだよ・・・。俺ァ、生まれッ付きのメクラ者さァ・・・。」
それっきり言うとジンキは朱塗りの杖を突きながら恐山を登っていった。
226凱鬼メインストーリー:2006/07/28(金) 23:11:59 ID:gMfT2I0t0
「ジンキさん!待ってください!」
「若いもんが・・・!だらしない!」
ジンキは物凄い速さで雪の積もる恐山を登っていく。本当に盲目なのかと疑ってしまう。
「ちょっと・・・・待って・・・。」
とうとう佐古の体力が尽きてしまった。それでも先へ進もうとするジンキを見かねた坂本支部長が詰め寄った。
「ジンキさん!佐古さんが回復するまで待ってあげてください。」
「・・・お前には分からねぇか。」
「何がですか・・・?」
「さっきから吹雪が少しづつだが強くなってきてる・・・。獲物をほしがってやがるのさァ。」
「・・・。」
「ユキオンナだよ。早くここを離れないと、下手したらそこの女も支部長も死ぬぜ。」
「支部長。ジンキさんの言うとおりだ。早くここを離れよう。佐古さんは俺が背負っていく。」
「仕方が無い・・・そうします。」

「鬼石ってどこにあるんだよ?」
「もうちょっと・・・地図で言うと・・・あと500mくらい?」
「あ〜もう帰りた〜い。」
「あ!ほら、あそこの光ってるところですよ!」
支部長が指を指すところには、鬼石の原石が煌々と輝いている。
「走れ!」
カチドキが叫ぶと、ジンキ以外は走り出した。
227凱鬼メインストーリー:2006/07/28(金) 23:12:59 ID:gMfT2I0t0
「ひぇ〜・・・鬼石の原石ってこういう物なのか〜。」
感心したように支部長が声をあげる。
「話には聞いていたけど、実物を見るのは私も始めてよ。」
そういうと佐古は荷物の中からハンマーと杭をとりだした。
「それじゃ・・・この辺りを・・・。」
ガキン!
凄まじい破裂音と同時に砕け散ったハンマーと鉄製の杭・・・。
「あちゃ・・・。」
「鬼石の原石はそんなんじゃあ、採れやしねぇよ。」
歩いてきたジンキがその様子を見て、呆れたように言う。
「アンタ・・・開発者のくせに、そんなことも知らなかったのかい。」
「ジンキさん・・・どうやれば採れるんですか?」
「昔っから言うだろ。目には目を。鬼石には鬼石だ。・・・離れてな。」
そういうとジンキは朱塗りの杖を持ち、閃光が走ったかと思うと、鬼石の原石がキレイにとられていた。
「まさか・・・それは!?」
ジンキが右手に持っていたのは、杖から抜かれた仕込み刀だった。僅かな光で紅に煌く刃が美しい。
「これァ、刀身が鬼石で出来ててよお・・・俺みたいなメクラには使い勝手がいいんだ・・・。」
そういうとジンキは刀身を元通りに収めた。
「さァ。とっとと帰ろうじゃねぇか。」
「まだ帰れません。この恐山でもっとも密度の高い鬼石を得るまでは・・・。」
「その一塊がイチバン質のいい鬼石だ・・・力の度合いが違う。メクラはそういうことにゃあ、敏感なんだよ・・・。」
それでも佐古は鬼石の解析を始める。
「・・・好きにしなァ。」

228凱鬼メインストーリー:2006/07/28(金) 23:13:31 ID:gMfT2I0t0
30分後、解析を終えた佐古はジンキに謝っていた。
「ほんとにもう、ジンキさんの事を信用しなくて・・・。」
「そのことはもういいさァ。それより早く引き上げねぇと・・・。」
「キャッ!?」
突然、猛烈な吹雪が吹き付ける。ユキオンナだ。
ジンキはその気配を感じると、刀を抜いた。
ザシュ!ガシュ!激しい斬撃音。
「チッ・・・。雪分身か。」
それが再び襲ってくる気配。前、後ろ、下・・・。
ザッ!ドスッ!バサァ!ドッ!!
吹雪は次第に弱まってきた。それと同時に去っていく邪気・・・。
「・・・おい。」
「・・・終わりましたか?」
「ああ・・・。だが、ユキオンナ自体は現れなかったなァ。現れたのは雪分身だァ。」
「そうでしたか・・・。」
「早くここを降りるぞ。俺たちはともかく・・・素人にはきついからなァ。」
「そうですね・・・。ユキオンナ退治はまた後日にしておきましょうか。」
「ああ。その時は・・・お前さんとも・・・組んでみたいなァ。」
「俺もですよ。」
229凱鬼メインストーリー:2006/07/28(金) 23:14:29 ID:gMfT2I0t0
結局その日は、鬼石の原石のみを採取し、ユキオンナ退治はまた後日ということになった。
その後、東北支部長・坂本仇は恐山に発生する稀種魔化魍に対しての警戒を強めることを吉野総本山会議で提案し、2007年度から「猛士関係者恐山登山免許」なるものが施行されることになった。

恐山某所。
雪女「どうでしたか、迷い込んだ子羊たちは・・・。」
分身Y「それが・・・道案内してやろうと思ったら、なんか勘違いされたみたいで・・・。」
雪女「そうですか・・・。こういう世の中では、我ら“陽”の魔化魍も・・・住みにくうなりましたの・・・。」
分身U「雪女さま!なんでも我らのような者たちと人間が共存しているという村を発見いたしました!」
雪女「なに!それは真か!」
分身K「ハイ!少々、暑そうではございますが、ワラシやカッパも住んでおります!」
雪女「それはよい!すぐに引越しの準備を致せ!」
分身Y、U、K、I「イェッサー!!」

三之巻「恐るる山、凍てぬ乙女」
230高鬼SS作者:2006/07/29(土) 01:19:32 ID:TRxSQ3Z50
前々から少しずつ書いていた番外編が漸く出来上がったので、とりあえず予告を。
本日29日は忙しくなりそうなので、30日に投下する予定です。
今まで以上に自由に書いたSSです。正直受け入れてもらえるか不安なところもあります。
ではどうぞ。

2007年、吉野。大会議当日。
ヒビキ「見てみたいよな、小暮さんの現役時代の姿」
トドロキ「そうっスね。何処かに写真でも残ってないっスかね?」

小暮「呪術的な道具らしいのだが、正直私にもよく分からん。聞いた話では時間移動が出来るらしいのだが……」
本部に置かれていた呪具の力で、ヒビキ、イブキ、トドロキの三人は混沌の1970年代へと飛ばされてしまう……。

ヒビキ「おい、あの先頭の人物、ひょっとして小暮さんじゃないのか?それに……」
イブキ「あれは……父さん!?」
トドロキ「あの眼鏡の人、ひょ、ひょっとしておやっさんっスか!?」

成り行きからヒビキ達はコウキ達と戦う事に……。
高鬼「その姿、私と同じ太鼓使いか。いいだろう、実力を見てやる」

仮面ライダー高鬼番外編「過去との遭遇」

トドロキ「うわ、あの外人さん、明らかに浮いてますよ。あの人も鬼なんスかね。ねえ、ヒビキさん」
ヒビキ「……少なくともお前に一番縁故がある人だぞ、トドロキ」
231斉藤 真斗芽:2006/07/29(土) 15:12:02 ID:s/QmQT7G0
ここまで追加しました。
私的な理由で更新が遅れ気味になりますが、気長にお付き合いください。
232凱鬼メインストーリー:2006/07/30(日) 14:55:01 ID:veZN7C3+0
3月中旬。秋田県、田沢湖。

天美の紋が刻まれた作務衣を羽織り、三つ巴の入った音撃管を丁寧に磨く男がいた。
「もうそろそろだな・・・。」
『ケロックワクワッ』
男は無言でセイジガエルを円盤にもどし、解析する。
「・・・・・・当りだ。」
「行くの?」
男の妻が問う。
「ああ、帰ってきたときには珈琲でも沸かしといて。」
「うん。分かった。待ってるね。」
「じゃあ、行ってきます!」
男は左手を宙でひらりと舞わすと、そういって湖に向かった。

トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・。
「はい。天美です。支部長?」
「天美さん?いつ戻ってらしたんですか?今朝あきらちゃんから『父さんがもどった』って聞くまで、知りませんでしたよぉ。報告ぐらいしてくださいよぉ。」
「ごめんなさい!一昨日帰ったんですけど、主人が支部に行きたがらなくって。」
「まぁ、いつものことだし別に良いですけど・・・とりあえず今日は支部まで来てって、アカツキさんにお伝えしてください。」
「分かりました。いま、イッタンモメンを追ってるんで、それが終わったらすぐに向かいます。」
「それじゃあ、よろしくお願いします。」
・・・ピッ。
「ああ・・・あきら、今頃どうしてるだろ。」
233凱鬼メインストーリー:2006/07/30(日) 14:56:34 ID:veZN7C3+0
田沢湖。アカツキは湖の淵でたたずんでいる。
「・・・襲わないな。・・・まだ成長途中ってわけか。」
スウゥゥ・・・タン。
「せこい奴らだ!」
そう叫ぶと、アカツキは身を翻し、後ろに回っていた怪童子に圧縮空気弾を浴びせる。
バババババババババ!!
「キェーーー!!」
バァアン!!
ドカッ!
「くっ・・・!」
「鬼の汁は、さぞかし美味いだろう・・・。」
アカツキは後ろから首を絞められた。それと同時に妖姫の足にも絡みつけられる。
「へっ・・・レデイに抱かれるとは嬉しいが・・・あいにく、既婚でね。」
ピィィィイッ!
アカツキは鳴り響く音笛を額にかざす。鬼面がでるとアカツキの体は熱風に包まれた。
「ギャァッ!」
妖姫の腕と足が引き裂かれ、燃えていく。
風が払われると、そこには金の隈取に赤のグラデーションが掛かった3本角の暁鬼がいた。
暁鬼は全神経を左手に集中すると、妖姫に熱風を帯びた手刀を喰らわせる。
「は・・・ぁ・・・子供よぉ。」
妖姫はそういうと地に伏し、静かに塵と化した。
「・・・・今日は出ないな。」
そういうと暁鬼は顔を戻し、妻の下へ帰った。
234凱鬼メインストーリー:2006/07/30(日) 14:58:48 ID:veZN7C3+0
「どうだった?」
「ダメだ。どうやら子供がまだ未発達らしい・・・暫くは出てこないさ。」
「さっき支部長から電話があって・・・今日は支部に来てくれって言ってたから、一度顔見せに行く?」
「あきらを迎えに行ってやらんとな。」
「・・・とにかく、行きましょうか。」
二人は東北支部へ向かった。

午後8時、田沢湖。
ピィィィィ!
「うわぁ!」
シュルシュルシュル・・・
「うっ・・・く・・・苦し・・・。」
ピィィィィ!!

「こんばんわ・・・あきらは?」
「天美さん。来てくれましたか。」
「えぇ。あれだけ言われちゃ、来ざるを得ませんよ。」
「で、これでよしと。・・・アカツキさん、イッタンモメンはどうなりました?」
「まだ成長途中みたいだな。もうすこし成長するまで、出てきてはくれん。」
「じゃあ、引き続きそちらもお願いします。えっと・・・音撃管のことですけどねぇ。」
「・・・。」
「今使ってるスペアはどうですか?」
「馴染まないに決まってるだろ。俺の音撃管は“曉明”だけだからな。」
「う〜ん・・・あの音撃管は構造が特殊ですからね・・・吉野の開発者も手をこまねいているようで。開発局長自ら修理しているようですよ。」
「開発局長・・・・あのオッサンか・・・懐かしいな・・・。」
「あれ?お知り合いですか?」
「親父が現役の頃に一緒にニクスイ退治した人だ。俺はその時ガキだったからな・・・。」

四之巻「日に尭し鬼」
235高鬼SS作者:2006/07/30(日) 23:57:32 ID:EtcXsbzm0
それでは約束通り投下させていただきます。
ヒビキ達とコウキ達の邂逅というのはずっと前から考えていました。
どうやって約30年の時間を越えて両者を会わせるか考えた結果、ある道具を出しました。
…ぶっちゃけゲゲゲの鬼太郎のインスパイヤです。
ヒビキ、イブキ、トドロキの三人の描写がちゃんと出来ていればいいのですが…。
荒唐無稽なお話ですが、それではどうぞ。

ちなみに、初めてこのスレにSSを投下してから早いもので半年が経ちました。
ここまで続けられたのも皆様のお蔭です。有難う御座います。
236仮面ライダー高鬼番外編「過去との遭遇」:2006/07/30(日) 23:59:14 ID:EtcXsbzm0
2007年、某日。
この日、吉野にある猛士総本部では毎年恒例の大会議が行われていた。
「じゃあ僕は父に挨拶をしてきます」
そう言うとイブキは立ち去っていった。
それを見送りながら、ヒビキは大宴会開始までの時間をどうやって過ごすか考えていた。
いつも通り温泉にでも行くか、そう思いながら廊下をぶらぶらと歩くヒビキ。
と、とある一室の前でうろうろしている人物が目についた。トドロキだ。
「よお、何やってるんだこんな所で」
「あ、ヒビキさん」
トドロキに事情を尋ねてみると、この部屋の中が気になってしょうがないのだという。扉には「保管庫」と書かれた板が下がっている。
「こういうのって好奇心を擽られるんスよね」
しかも扉には鍵が掛かっていないという。
「でもやっぱり勝手に入っちゃ不味いっスよね……」
「そりゃあそうでしょ」
しかしトドロキは頭では理解していても、未だ部屋の中が気になるようだ。
暫し考え込んだ後、ヒビキはトドロキにこう言った。
「よし、俺が後で一緒に謝ってやるから入ろう」
「えっ!?いいんですかヒビキさん」
「ああ。同じ怒られるなら一人より二人の方が気が楽だろ?」
それに……。少しはにかみながらヒビキはこう付け加えた。
「実を言うと俺も気になっていたんだよね、以前から」
237仮面ライダー高鬼番外編「過去との遭遇」:2006/07/31(月) 00:00:30 ID:EtcXsbzm0
室内には所狭しと棚が並べられ、そこに様々な標本や古い音撃武器、何に使うのかよく分からないような装置等が陳列されていた。
そして、それらの間を抜けて部屋の奥へ行くと、そこにはある物がどっかりと場所を占めてあった。
大きな石臼である。
「……何でこんな物があるんスかね?」
トドロキの疑問にヒビキも答える事が出来ない。
と、彼等の背後から怒声が響いてきた。
「こらっ!そこで何をしている!」
驚いて振り返る二人。そこには開発局長・小暮耕之助が仁王立ちしていた。
「こ、小暮さん……」
「お前はヒビキ!一緒にいるのは……トドロキか!ここは関係者以外立ち入り禁止なのだぞ!」
「す、すいませんっ!そんなの知らなかったもので……」
だったら鍵を掛けておけよとトドロキは思ったが、流石に口には出さないでおく。
小暮の説教が延々と続く中、ヒビキがおずおずと質問した。
「あの、小暮さん。一つよろしいでしょうか。あの馬鹿みたいにでかい石臼は一体何なんですか?ちょっと気になっちゃって……」
ああ、これか……。小暮は面倒臭そうに質問に答えた。
「呪術的な道具らしいのだが、正直私にもよく分からん。私が鬼をやっていた頃からここにあるという事は覚えているが……」
そう言って石臼を一瞥する小暮。
「聞いた話では時間移動が出来るらしいのだが、昔実際に調査した時には何も起こらなかったそうだ」
「時間移動」という単語をさらっと言ってのける小暮。明らかに信じてはいないようだが。
「さて、本題に戻ろう。お前達には罰を与える!尻を出しなさい!」
そう言うと小暮は一組の音撃棒を取り出した。
「あの……それは?」
「音撃棒・大明神。私が現役時代に使っていたものだ」
「け、警策はどうしたんですか!?」
「偶々昔を思い出して手入れをしていたんだ。まあ運が悪かったと思うのだな」
思いっきり「大明神」で素振りをする小暮。
直後、二人の絶叫が響き渡った。
238仮面ライダー高鬼番外編「過去との遭遇」:2006/07/31(月) 00:02:18 ID:EtcXsbzm0
「それは大変でしたね……」
尻を擦りながら事の転末を語るトドロキに相槌を打つイブキ。
「まあ確かに悪いのは俺達だ。でもさ、だからって音撃棒で叩くってどうよ?有り得なくない?」
同じく尻を擦りながらヒビキがぼやく。
「父から聞いた話なのですが、昔酔って音撃棒で同僚の尻を叩いて怪我させた事あるらしいですよ、小暮さん」
以来警策を併用しているらしいですけれど、とイブキが言う。
「洒落にならないっスよ、あれは!」
「しかしあの人、現役時代はどんな鬼だったんだろうな」
ヒビキが疑問を口にするが、イブキも詳しくは知らないと言う。
「やはり父から聞いた話ですが、父達が現役だった頃は各地に個性的な鬼がいて、小暮さんもその中の一人だったと……」
実に漠然としている。そんな表現だけでは当時の小暮を想像する事など出来ない。
「見てみたいよな、小暮さんの現役時代の姿」
「そうっスね。何処かに写真でも残ってないっスかね?」
暫し黙考する三人。と、突然トドロキが大声を出した。
「そうだ!さっきの石臼、あれ使えるんじゃないっスか?」
「石臼?あの時間移動が出来るとかいうやつ?」
どうやらトドロキは石臼を使って実際に過去へ見に行こうと考えているらしい。
「けどさ、調査しても何も起こらなかったって言ってただろ?」
興奮するトドロキを落ち着かせようとするヒビキ。
だがトドロキは実際にやってみなければ分からないと一歩も譲らない。
これにはとうとうヒビキも折れてしまった。
「……分かった、付き合うよ。悪いけどイブキ、お前も一緒に付き合ってくれ」
「え!?何故僕が……」
「どうやら小暮さんはお前が苦手みたいだからな、また見つかった時はフォローよろしくなっ!」
そう言ってイブキの肩を笑顔で叩くヒビキ。
完璧に巻き込まれたイブキは、ただただ苦笑するしかなかった。
239仮面ライダー高鬼番外編「過去との遭遇」:2006/07/31(月) 00:03:17 ID:2F4uMcbI0
イブキと共に再び保管庫を訪れたヒビキ達。幸い扉にはまだ鍵が掛かっていない。ひょっとしたら元から鍵なんか無いのかもしれない。
「ちゃんと元通りに閉めておけよ」
静かに扉を閉め、石臼へと向かう三人。
「さて、と。どうするんだトドロキ?」
実際に石臼を前にしてみたものの、時間移動の方法など分かる筈もない。
沈黙が流れる。
それを破ったのはまたしてもトドロキだった。
「石臼って事は回せばいいんじゃないっスかね、やっぱり?」
「そんな安直な……」
だがトドロキはお構いなしに石臼を回し始める。
「これ案外簡単に回るっスよ」
「おい、もうそのくらいにして……」
と、ふいに周囲の空間が歪んだような気がした。
「ヒビキさん、これ……」
「……ああ。おいトドロキ、もう回すのは止めるんだ!」
ヒビキに強い口調で注意され、回すのを止めるトドロキ。
だが時既に遅く、三人の周囲の空間がぐるぐると回り始め、そのまま意識が遠くなっていった……。
240仮面ライダー高鬼番外編「過去との遭遇」:2006/07/31(月) 00:04:18 ID:2F4uMcbI0
1970年代後半。
この日、小暮耕之助ことコウキはいつも通り研究室内に設けられた個室で機械いじりに没頭していた。
そこへ珈琲を持って当時の開発局長・南雲あかねがやって来る。
「精が出るわね、コウキくん。はい、差し入れ」
そう言って珈琲を差し出すあかね。
「お客さんよ。……ザンキくん」
その名を聞いてもコウキは直ぐには誰か思い出せなかった。
だが、とうとうあの忌むべき記憶が、忘却という名の濃霧に覆われた氷山の中から蘇ってきたのである。
瞬間、コウキは物凄く不愉快な表情になった。
さらに間髪入れず、当のザンキが個室内に乗り込んできたのである。
「よお!久し振りじゃん」
「……何しに来た?」
「何って、そりゃ音撃弦の定期メンテナンスに……」
「わざわざお前が来なくても郵送すればいいだろう。大体関東支部の『銀』はどうしたのかね?」
それに対して大袈裟な手振りを交えて答えるザンキ。
「だってあかねさんに頼んだ方が確実でしょ?腕も確かだし」
呆れて頭を押さえるコウキ。
「じゃあ私はちょっと保管庫の方へ寄る用事があるから。ザンキくん、ゆっくりしていってね」
「ついでに俺の分の珈琲とお菓子もお願いします」
なんと図々しい奴なのだろう。ゆっくりせずに早く帰れ!そうコウキは思った。

保管庫に入ったあかねは我が目を疑った。石臼の前に人が三人倒れていたのだ。三人共見掛けない顔をしている。
と、三人の男達がむくりと起き上がった。そのうちの一人と目が合う。
「あ……」
「……きゃああああああ!」
悲鳴を上げるあかね。
三人の男は大慌てで逃げ去っていった。
241仮面ライダー高鬼番外編「過去との遭遇」:2006/07/31(月) 00:06:11 ID:2F4uMcbI0
「侵入者、ですか?」
「そうよ!間違いないわ!」
コウキとザンキに今さっき自分が見た事を伝えるあかね。
「もし本当なら由々しき事態ですね」
そう言うとコウキはそのまま部屋を出て行こうとする。
「とりあえず私も探してきます」
「だったらイブキくんと勢地郎くんも今本部に来てるから、彼等にも協力してもらうといいよ」
「面白そうだな。よし、俺も手伝うぜ」
ザンキが本当に面白そうに言う。
「……足を引っ張るなよ」
そしてコウキはあかねにいつもの敬礼に似たポーズをすると、ザンキと共に出て行ってしまった。

「なんで逃げちゃったんスかね……」
「そりゃお前、相手が大声を出したからさ」
保管庫から逃げ出したヒビキ達は、本部の中を歩きながら話し合っていた。
「やっぱりさっきの人に謝りに行った方が良いっスよね?」
心配そうに尋ねるトドロキ。
「ええ。でも……さっきの人誰です?」
イブキが疑問を投げ掛ける。白衣を着ていたが、あんな人物が本部のスタッフにいただろうか?
ヒビキも知らないと答える。だが疑問はそれだけじゃない。
「何かさ、建物が妙なんだよな。さっきまでとちょっと違ってないか?」
そう言って辺りを見回すヒビキ。
「そういえば何か違うような……」
「ここの建物ってさ、確か90年代に建て替えていたよな」
ヒビキの言葉にイブキも頷く。
「という事は……」
「どうやら俺達、本当に過去へタイムスリップしたのかもな……」
と、誰かがこちらへ向かってくる足音が聞こえた。どうも一人ではないらしい。
「ここが本当に過去だとしたら色々と厄介だ。隠れよう」
ヒビキの提案で物陰に身を隠す三人。その直後現れた四人組の姿を見て、ヒビキ達は思わず大声を上げそうになってしまった。
242仮面ライダー高鬼番外編「過去との遭遇」:2006/07/31(月) 00:07:53 ID:2F4uMcbI0
「おい、あの先頭の人物、ひょっとして小暮さんじゃないのか?それに……」
「あれは……父さん!?」
「あの眼鏡の人、ひょ、ひょっとしておやっさんっスか!?」
三人が三人共我が目を疑った。小暮と勢地郎に関しては「ひょっとしたら」レベルだが、和泉一文字に関しては実子が言うのだから間違い無いだろう。
「どうやら過去に来たってのは確定のようだな」
四人組が何かを話しだした。よもや追い掛けている相手がこんな近くに潜んでいるとは思ってもいないため、その会話内容が充分聞き取れる大きさの声だ。
「しかし侵入者が三人組だという事しか分かっていないのでは、探しようがないのでは……」
おそらく勢地郎と思われる眼鏡の男が小暮らしき男に話し掛ける。
「まあそれらしい人物を見つけたら、問答無用で捕まえてしまえばいい。もし抵抗するようなら……」
そう言うと男は一組の音撃棒を取り出して見せた。
「ヒビキさん、あの音撃棒はひょっとして……」
「ああ、間違い無いな。あれは小暮さんだ」
一文字と思しき男が苦笑しながら口を開く。
「でもだからって怪我をさせちゃ駄目ですよ、コウキさん。なるべく穏便に……」
「甘いぞイブキ。こういうのはきっちりやらねば!」
「しかし……。勢ちゃんからも何か言ってやってよ」
イブキに話を振られて困惑する勢地郎。
どうやら一文字、勢地郎コンビも確定のようである。しかし疑問が一つ。
「……あの白人男性は誰なんでしょうか?」
イブキがヒビキに尋ねるが、ヒビキは沈黙したままである。まるで何か嫌な過去を思い出しているかのような……。
「うわ、あの外人さん、明らかに浮いてますよ。あの人も鬼なんスかね。ねえ、ヒビキさん」
「……少なくともお前に一番縁故がある人だぞ、トドロキ」
243仮面ライダー高鬼番外編「過去との遭遇」:2006/07/31(月) 00:08:55 ID:2F4uMcbI0
当の白人が思った以上に流暢な日本語で喋りだす。
「俺はコウキに賛成だな。徹底的にやってやろうぜ。俺も新技の練習台が欲しかったんだ」
「新技?どんなものだ、それは?」
コウキが尋ねる。
「組み合った相手の体を逆さにして持ち上げるんだよ。で、相手の頭を俺の肩に乗せて相手の両足を持つ」
「ふむふむ」
「その後跳び上がって尻から着地。衝撃で相手の背骨と首が折れ、股が裂ける。名付けてキンに……」
「却下だ!」
全部言い終える前に即否定するコウキ。
「何でだよ。別バリエーションもあるんだぜ。両足で相手の首を絞めるんだ。その名もアルティメット……」
「だから駄目だと言っているだろうが!皆まで言うな!時代が違うとかツッコミが来る!」
それでも諦めきれないらしく。
「残念だなぁ。合体技も考えていたのに。お前が相手をパイルドライバーの体勢に捕えて、空中で俺がさっきの技を掛けた状態でドッキングするんだ。」
「私を巻き込むな!大体その技、下になった二人が一番ダメージを喰らいそうじゃないか!」
だからお前が下な、と笑いながら白人が言う。
「なんなんスか、あの人」
苦笑しながらトドロキが言うも、ヒビキは頭を抱えて黙ったままだ。
「とりあえず今のうちにここから逃げましょう。このまま建物の中にいるのは不味いでしょうし」
イブキに促されてこっそりとその場から逃げ出す三人。
だがその時。
「誰だ!」
見つかってしまった!三人は全速力で本部の外へと駆けていった。
244仮面ライダー高鬼番外編「過去との遭遇」:2006/07/31(月) 00:10:33 ID:2F4uMcbI0
散々走り続けた三人は、川の近くで一息吐いていた。
とりあえず何故自分達が過去へ飛ばされてしまったのかについて話し合う。
「小暮さん、確かあの石臼は呪術的な道具だって言っていたよな」
ヒビキがトドロキに同意を求める。
「あれってさ、鬼が使う事で初めて効果を発揮するんじゃないかな。調査をしたのはきっと普通の人だろ?」
ヒビキの仮説はもっともだ。しかし、原理はそれでいいとして元の時代に帰る方法が分からない。
「ひょっとして、さっきと逆向きに石臼を回したら元に戻れるんじゃないでしょうか」
イブキの提案に、ヒビキも同意する。
「確かに、試してみる価値はあるな。おいトドロキ、お前、あの時どっちの方向に何回回したか覚えているか?」
ヒビキがトドロキに質問したその時である。
「ようやく見つけたぞ!」
コウキ達だ。とうとう見つかってしまった。
245仮面ライダー高鬼番外編「過去との遭遇」:2006/07/31(月) 00:12:02 ID:2F4uMcbI0
「ん?それは……。ひょっとしてお前達も鬼なのか?」
どうやらトドロキの腕に巻かれた変身鬼弦に気付いたらしい。丁度この時代に行われた大宴会の席上で惨事(珍事)が起こり、以来変身道具の携行が推奨になったとヒビキは聞いている。
「関西支部では見ない顔だな。所属と本部へ来た目的を言え!」
強い口調で問い詰めてくるコウキ。だが。
「あいつらがまともに話を聞くとは思えないな。実際に戦って実力を見せてやれば多少は素直になるかもしれんが」
そう言いながら白人が一歩前に出る。彼の腕にも変身鬼弦が巻かれていた。
「よせ!鬼同士の私闘が上にばれたら……」
「私闘?違うね。これは組み手だよ。青空の下でやる健全な特訓さ」
「成る程な。ものは言い様か……」
そう言うとコウキも懐から変身音叉を取り出す。
「ちょっとザンキさん!コウキさんまで……」
「相手は三人だ。イブキ、お前も参加してもらうぞ」
コウキに言われ、渋々変身鬼笛を取り出すイブキ。
一方ヒビキ側はと言うと……。
「ヒ、ヒビキさん!今さっきザンキさんって!」
トドロキが大慌てでヒビキに尋ねる。
「……ああ、そうだよ。あの人が先代ザンキさんだ」
ヒビキは彼の下で弦の特訓をした時の事が未だに忘れられない。本当にとんでもない人だった。
コウキ、イブキ、ザンキがそれぞれの道具を鳴らす。戦いは避けられないと気付き、ヒビキ、イブキ、トドロキもまた同じ様にそれぞれの道具を鳴らした。
両陣営共に炎が、風が、雷がそれぞれの体を包み、その身を鬼へと変えていった。
246仮面ライダー高鬼番外編「過去との遭遇」:2006/07/31(月) 00:13:44 ID:2F4uMcbI0
気合いと共に鬼に姿を変えた一同が対峙する。
「その姿、私と同じ太鼓使いか。いいだろう、実力を見てやる」
高鬼は狙いを響鬼に定めたようだ。
(あれが先代斬鬼さん……)
「お前、弦は?」
ぼぅっと斬鬼の姿を眺めていた轟鬼に斬鬼が話し掛ける。
「え!?あ、いや、その……今手元に無いっス!」
変身道具携行推奨とは言え、流石に武器までは宴会に持ってきていない。
「なんだ、お前もか。俺も今調整中で手元に無いんだ。じゃあ素手で行くぞ」
「は、はい!よろしくお願いしますっ!」
丁寧にもお辞儀をする轟鬼に、斬鬼は少し拍子抜けしてしまった。
伊織威吹鬼は一文字威吹鬼と対峙していた。どちらも音撃菅を持ってきていない。
「僕達も素手でやろうか。悪いけど手を抜くと怒られるから、本気で行くよ」
「は、はい!」
自分が物心付いた時から大きな存在であった父と手合わせをする。ついさっきまでは全く考えられなかった事態だ。しかも全盛期の父とである。伊織威吹鬼に緊張が走った。
この戦い、奇しくも実力を認め託した者と託された者、師匠の師と孫弟子、父と息子の戦いとなってしまったのである。
247仮面ライダー高鬼番外編「過去との遭遇」:2006/07/31(月) 00:16:45 ID:2F4uMcbI0
先に仕掛けたのは高鬼だった。拳撃と蹴りを駆使して響鬼に襲い掛かる。高鬼の回し蹴りを腕で防ぐ響鬼。
(想像以上に重い蹴りだな。これが混沌の70年代を戦った鬼の実力……)
さらに怒涛のラッシュを仕掛けてくる高鬼。堪らず間合いを取るべく後方に跳躍する響鬼。そして直ぐに装備帯から音撃棒・烈火を取って構える。
高鬼もまた、音撃棒・大明神を手にした。睨みあう二人。
「はぁぁぁぁぁ……はあっ!」
響鬼が「烈火」から鬼棒術・烈火弾を放った。しかも連続して。
烈火弾の雨霰の中を突撃してくる高鬼。間合いを詰めると「大明神」を思いっきり叩き付けてくる。それを「烈火」で受け止める響鬼。暫く鍔迫り合いをしていたが、互いに後方に下がって体勢を立て直す。
「やるな。だがこれはどうかな?」
そう言うと「大明神」の鬼石に炎を集中させる高鬼。
「鬼棒術・小右衛門火!」
二筋の炎が響鬼目掛けて突き進んでいく。体を屈めて炎を避ける響鬼。だが、炎は急に軌道を変えて上昇すると、空中で炸裂して火の雨を降らせた。
「うわあっ!」
身を焼かれる響鬼。
「響鬼さんっ!」
響鬼の悲鳴を耳にし、戦闘中だった轟鬼が振り返る。そこに隙が出来た。
斬鬼に腕を掴まれ、そのままぶんぶんと振り回される。
「ボラボラボラボラボラボラボラボラボラーレ・ヴィーア!(飛んで行きな)」
高速回転して勢いが付いたまま、投げ捨てられる轟鬼。そのまま猛スピードで頭から地面に激突してしまう。
248仮面ライダー高鬼番外編「過去との遭遇」:2006/07/31(月) 00:17:23 ID:2F4uMcbI0
構えを取る伊織威吹鬼。その姿を見て一文字威吹鬼が思わず声を上げる。
「君、その構えは……」
宗家の鬼が戦いの時に取る構えと全く同じだ。
(何者なんだ、彼は?)
「行きます」
そう言うと伊織威吹鬼が文字通り風の速さで接近してきた。
手刀、足刀のコンビネーションを紙一重でかわす一文字威吹鬼。
伊織威吹鬼の一瞬の隙を衝くと、思いっきり踏み込んで鳩尾に強烈な一撃を叩き込んだ。吹っ飛ぶ伊織威吹鬼。
「うう……」
鳩尾を押さえながら体を起こす伊織威吹鬼。
(流石は父さんだ。でも、まだ終わるわけにはいかない!)
立ち上がり、再び構える伊織威吹鬼。彼は今、この状況を楽しんでいた。
「行くよ、父さん」
小さく呟くと、伊織威吹鬼はまた一文字威吹鬼に向かっていった。
249仮面ライダー高鬼番外編「過去との遭遇」:2006/07/31(月) 00:19:04 ID:2F4uMcbI0
高鬼の「大明神」が的確に響鬼の頭部や腕、脇腹等を打ち据えていく。さらに側面に回り込み、尻を叩こうとする高鬼。だが。
「流石に一日に二度も叩かれるわけにはいかないんでね」
素早く身を躱す響鬼。
再び両者の間で鍔迫り合いが始まった。響鬼の「烈火」を「大明神」で受け止める高鬼。
だが、その瞬間に響鬼が鬼棒術・烈火剣を使用した。突然鬼石から伸びた炎の刃に一瞬虚を衝かれる高鬼。
「でやあっ!」
烈火剣を振り回し、高鬼の右の「大明神」を弾き飛ばす事に成功する。
実力伯仲の両者の勝敗を分けるとするならば、それは経験の差であろう。響鬼と高鬼とでは、鬼として戦った年月に数年分の差がある。
(よし、行けるな)
今のまま攻め続ければ勝利を掴めると確信した響鬼。既に十数年もの間魔化魍との戦いを繰り広げている彼の経験がそう教える。
「大明神」を片方失った高鬼は、相対する鬼の実力に内心舌を巻いていた。しかし彼も負けてはいられない。
強く片足を踏み出すと、気合いを込める。周囲の空間が熱で揺らめきだした。
「破っ!」
掛け声と共に空気が爆発し、高鬼紅がその姿を現した。
「へぇ、小暮さんも『紅』になれたんだ。じゃあ俺も……」
響鬼もまた、高鬼同様気合いを込める。そして。
「はあっ!」
火花を散らし、響鬼紅へと変身を遂げる。
「驚いたな。私と同じ『紅』形態になれるとは……」
「紅」と化した両者はじりじりと間合いを詰めていく。次の瞬間には互いの音撃棒で三度鍔迫り合いが繰り広げられた。
250仮面ライダー高鬼番外編「過去との遭遇」:2006/07/31(月) 00:20:22 ID:2F4uMcbI0
欧羅巴にいた頃から場数を踏んでいる斬鬼に対し、鬼になってまだ三年目の轟鬼は苦戦を強いられていた。
(強い!流石はザンキさんの師匠!)
斬鬼の雷を纏った拳が轟鬼の胸板に炸裂した。弾け飛ぶ火花。吹っ飛び地面を転がる轟鬼。
「よっしゃ、これでケリを着けてやる」
構えを取る斬鬼。対する轟鬼も構えを取った。
同時に走り出す斬鬼と轟鬼。跳躍。互いに雷を纏った跳び蹴りを行う。
「雷電脚!」
「雷墮蹴!」
二人の蹴りが空中で激突、互いの纏った雷が弾けて周囲に放電される。
放電された電撃は火花を散らしながら地面を焼いた。それだけでなく、戦闘中だった他の二組にも襲い掛かった。
「うわっ!」
「あ、危ない!」
電撃が直撃しそうになった伊織威吹鬼を、一文字威吹鬼が助ける。
「大丈夫かい?」
「あ、ありがとうございます」
父さん、と心中で付け加える伊織威吹鬼。
251仮面ライダー高鬼番外編「過去との遭遇」:2006/07/31(月) 00:21:34 ID:2F4uMcbI0
一方。
「うおっ!危ないなぁ、轟鬼!」
「すいません!」
「こら!足を引っ張るなとあれ程言った筈だぞ!」
「気にするな。ちゃんと避けてるじゃないか」
「そういう問題ではない!大体お前という奴は……」
戦闘そっちのけで口論を始める高鬼紅と斬鬼。それをぽかんと見つめる響鬼紅。
「……あ〜、逃げるなら今がチャンスだよな」
そう呟くと「紅」を解除して轟鬼に目配せをする響鬼。轟鬼も頷く。
「じゃあ僕達は行きます。お騒がせしました」
そう言って立ち去ろうとする伊織威吹鬼。見逃して下さい、父さん!と願いながら。
若かりし父は、得意のポーズを決めながら静かに言った。
「君は悪い人には見えない。ここで逃がしても大丈夫だと信じるよ。さあ行くんだ」
一礼し、響鬼達に向かって駆け出していく伊織威吹鬼。
その後ろ姿を見ながら、一文字威吹鬼はこんな事を思った。
(何故だろう。彼とは遠い未来にまた会えるような気がする……)
必死でその場から逃げ出す響鬼達。口論に気を取られていた高鬼紅がようやくその事に気付く。
「あっ!お前達待て!戻って来い!」
高鬼紅の叫びが吉野の山中に空しく響いた。
252仮面ライダー高鬼番外編「過去との遭遇」:2006/07/31(月) 00:23:51 ID:2F4uMcbI0
ヒビキ達は物陰に潜み、人目を忍び、時にはダンボールを被りながら再び保管庫へとやって来ていた。ヒビキの説を試し、自分達の時代へと帰るためだ。
「で、どうよトドロキ。どっちの方向に何回回したか覚えているか?」
ヒビキが尋ねる。
彼等の姿は顔こそ変身解除しているものの、体は鬼のままだ。それもそうだろう。着替えを持ってきていないのだから。
「え〜と、確か左に三回。否、四回だったかな……」
「しっかりして下さいよ、トドロキさん」
イブキに責められ、申し訳なさそうに俯くトドロキ。
「トドロキ。『左に四回回した』でいいんだな?」
ヒビキが石臼に手を掛ける。
「ですがヒビキさん、もしトドロキさんの記憶違いだとしたら……」
「その時はその時さ。また回せばいい」
そう言って「シュッ」といつものポーズを決めるヒビキ。
と、そこへ一人の人物がやって来た。思わず身構えるヒビキ達。
棚の奥、出入り口の扉の前にザンキが立っていた。
253仮面ライダー高鬼番外編「過去との遭遇」:2006/07/31(月) 00:25:15 ID:2F4uMcbI0
「ザンキさん……」
チャオ!と手を挙げて挨拶をすると、ずかずかと歩み寄ってくるザンキ。
「お前等もう帰るんだろ?」
そう尋ねてくるザンキ。
ひょっとしたらこの人は我々が未来から来た事を知っているのだろうか……。
「あ〜、大丈夫大丈夫。何も言わなくて結構」
そう言いながらポケットから四折りにした紙片を三枚取り出すザンキ。
「これ、賤別な。俺が調べた日本一縁起の良い四字熟語だ。……じゃあ俺は行くぜ」
三人に紙片を一枚ずつ渡し、背を向けるザンキ。
扉を出る直前、背を向けたままザンキはこう告げた。
「それとそこの弦使い。精進しろよ!筋は悪くないからな」
「は、はいっ!ありがとうございます!」
アリーヴェデルチ!そう言い残して扉から出ていくザンキ。
「不思議な人ですね……」
「ああ。実に不思議な人だった。何かこう、全てを見透かしているような、な」
イブキの率直な感想にこれまた率直な感想を返すヒビキ。
「さて。それじゃ帰るか。行くぞ!」
ヒビキは石臼を右に四回回した。
あの時と同じで周囲の空間が歪む。そして……。
254仮面ライダー高鬼番外編「過去との遭遇」:2006/07/31(月) 00:25:55 ID:2F4uMcbI0
気が付くと三人はまたしても床に倒れていた。体を起こし周囲を確認するも、今も昔も大して変わらぬ保管庫の中では今がいつの時代なのか判別する事は難しい。
と、扉が開いた。
「良かった、ここにいたんですね!もう宴会が始まりますよ」
イチゲキだ。どうやらヒビキ達を探しに来たらしい。
「という事は俺達……」
「元の時代に帰ってきたんだ……」
「やった!やりましたねヒビキさん!」
満面の笑顔で喜びあう三人。その姿を見て首を傾げるイチゲキ。
「どうしたんですか?それにその姿……何かあったんですか?」
不審がるイチゲキを「着替えたら直ぐに行く」と追いやり、再び喜びを分かち合う三人。
「そうだ。ザンキさんから貰った紙、何が書いてあるのか見てみましょうよ!」
トドロキの提案に賛成し、一斉に開けてみる三人。そこにはでかでかとこう書かれていた。
「ノ ッ ポ さ ん」
誰も何処から突っ込んでいいのか分からなかった。

着替えを調達し、宴会場へと向かう三人。今年の宴会芸や料理についての話題で盛り上がる。
「そういや小暮さんって自分達に会った事、覚えてないんスかね?」
トドロキがふと疑問を口にする。彼等は小暮がザンキ関連の記憶を全て封印している事を知らない。
そこへ、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
その声の主の姿を見た三人は驚き、直ぐ様身を隠す。その声の主とは……。
「お前なトドロキ、風呂で湯当たりして医務室に運ばれるなんて、鍛えが足りないぞ」
「すいませんヒビキさん!他の皆さんには内緒に。イブキさんもお願いします!」
「でも良かったですよ。こうして宴会に参加出来るまでに回復して」
「まあ頑丈な奴だからな」
笑いあうヒビキ達。それを物陰から眺めるヒビキ達。
「ヒビキさん、これって……」
「トドロキィ!やっぱり四回じゃなかったんじゃないか!」
「す、すいませんっ!」
結局、彼等が元の時代に戻るにはまだまだ時間がかかるのであった。 了
255名無しより愛をこめて:2006/07/31(月) 07:49:29 ID:ecNGaSwr0
偶然立ち寄ってふと読んでみましたが、「過去との遭遇」たいへんに面白かったです。
256名無しより愛をこめて:2006/08/01(火) 21:07:39 ID:KKLdumgpO
『過去との遭遇』本当に面白かったです。まさに響鬼テイストに溢れていました。
257名無しより愛をこめて:2006/08/02(水) 11:13:59 ID:MPJgzBtGO
まるでテレビスペシャル!
しかし先代ザンキさんは本当に得体が知れない
小暮さんにパンツェッタ・ジローラモを見せたら思い出さないかなぁ
258元・ZANKIの人:2006/08/04(金) 13:20:20 ID:1jHvpyYE0
暇だったので一本投下します。
まあ、勝手にコラボ企画って感じで…。
259元・ZANKIの人:2006/08/04(金) 13:22:10 ID:1jHvpyYE0
−ZANKI外伝AKUMU−
仮面ライダー斬鬼と128人の斬鬼

チャオ!と手を挙げて挨拶をすると、ずかずかと歩み寄ってくるザンキ。
「お前等もう帰るんだろ?」
そう尋ねてくるザンキ。
ひょっとしたらこの人は我々が未来から来た事を知っているのだろうか……。
「あ〜、大丈夫大丈夫。何も言わなくて結構」
そう言いながらポケットから四折りにした紙片を三枚取り出すザンキ。
「これ、賤別な。俺が調べた日本一縁起の良い四字熟語だ。……じゃあ俺は行くぜ」
三人に紙片を一枚ずつ渡し、背を向けるザンキ。
扉を出る直前、背を向けたままザンキはこう告げた。
「それとそこの弦使い。精進しろよ!筋は悪くないからな」
「は、はいっ!ありがとうございます!」
アリーヴェデルチ!そう言い残して扉から出ていくザンキ。

==============================

ザンキが部屋からでると、背中に不思議な感覚がはしる。
時空間がねじれ、響鬼たち一行が元の世界に帰っていったようだ。

やれやれ、本当に時空を超える石臼があったとはな……

ザンキは、かつてDMCにマルフ(本名 マーティー・マクフライ)という狼が居たのを思い出した。
確か、数年前……彼は時空を超えて移動する強化フォームを完成させた。
しかし、それはDMC内でも賛否両論となり混乱を招き、その力を悪用しようとする輩も現れた。
それに嫌気がさしたマルフはどの時空間にも属さない存在となり何処かへ消えた……。
「時空移動の方法は日本で知ったと言っていたが……まさかな」
マルフと石臼を結びつけるのは安易すぎる発想であるが、ザンキは石臼に興味を抱いた。
260元・ZANKIの人:2006/08/04(金) 13:22:53 ID:1jHvpyYE0
「そうだ!いいこと、思いついた!」
ザンキは突然、石臼を握り締め力いっぱいグリグリと回す。
石臼の回転に合わせるように空間もグリグリとねじれ始め、そして徐々に空間が元に戻った。
「おー!成功だ!」ザンキの移動した先にはもう一人のザンキが。
「なるほど、五分前の世界から来た俺だな」
二人のザンキはお互いに握手した。
「いやー、タイムスリップできるとはなぁ」驚く五分前のザンキ。
「俺も本当に来るとは思って無かったよ」この時間のザンキも驚いた。
物理学をひっくり返すような出来事ではあるがザンキにとってはどうでもいい。
調子に乗った二人は、今度は二人同時に石臼を回した。
同じように空間がねじれ、再び戻ると今度はザンキが二人待つ空間へと到着する。
「おー!また、成功だ!」さらに五分後の世界に来たようだ。
握手する五分後の世界のザンキと、更に五分後の世界に元々居たザンキ。
「おっし、次行こうぜ!」そう言って、更に五分後の世界の十分前から来たザンキは石臼を握る。
そして、今度は四人でグリグリと石臼を回し、五分後の四人がいる世界と移動し、
更に五分後の八人がいる世界へと移動する。
二人が四人、四人が八人、八人が十六人……
気付けば部屋には128人のザンキが溢れかえっていた。

「おお、大成功だな!」「さすが、俺だ。考える事が違う。」
握手する十五分後の世界の五分前から来たザンキと、20分後の世界の10分前から来たザンキ。
ああ、ややこしい。
「あれ?」しかし、ここで17番目のザンキが気付いた。
「これってタイムパラドックスが起きないか…?」もっともな事を言う。
うーんと悩み始めるザンキたち。
しかし、43番目のザンキは言う。「えっと、パラレルワールドなんじゃん?」
もちろん意味なんか理解していないが、とりあえず、納得するザンキ達。
「まあ、解決ってことで。俺は喉が渇いたから厨房に行って来る」
59番目のザンキがそう言って部屋をでると、7番目のザンキは「俺も!」と言って後を追う。
それにつられて、9番、11番、93番と結局、全てのザンキが厨房に向かい始めた。
261元・ZANKIの人:2006/08/04(金) 13:24:20 ID:1jHvpyYE0
その頃、コウキは部屋へと帰ろうと一人廊下を歩いていた。
(ふう、あの侵入者は何者だったのだろうか……?)
先ほどの侵入者のことが気になるコウキ。
しかし、不思議と怪しんではいなく、むしろ楽しかった印象を受けていた。
(あの、一番年上の男。なかなか、見所があったな)
そんな事を思っていると、前方からなにやら走って来る男が……。
「よう!厨房はどこだっけ?」ザンキだった。
「ばか者!廊下を走るな!」
「まあ、いいじゃん」全然、悪気の無いザンキにあきれ果て静かに、厨房の方を指差すと、
ザンキは「サンキュ!」と言って、再び、走って行った。
「まったく!」それを見送り、腹を立てて再び歩いていると、なんと前方からまたザンキが!
「よう!厨房はどこだっけ?」
「さっき向こうだと言っただろうが!」
怒って指差す、コウキに「サンキュ!」と言って走っていく。
「やれやれ」なんて物覚えの悪い奴だ!
だが、コウキの前に三度ザンキが現れる。
「よう!厨房は……」
「馬鹿にしているのかぁぁぁ!!」
思わず大激怒するコウキ。だが、その後ろから大量のザンキ達が現れた!
「よう!厨房は……」「よう!厨房は……」「よう!厨房は……」

うあああああああ!断末魔の雄たけびを上げ逃げ出すコウキ。
その姿を見て、面白半分に追いかけ出す126人のザンキ。

「くるなっ!くるなっ!」だが、涙目で逃げるコウキの前に先ほどの二人のザンキが現れる。
「よう!お前もチェリオ飲むか?」
「おおおお!」もはや思考が停止しているコウキは、いきなり高鬼・紅へと変身し、ザンキに襲い掛かる。
無造作に音撃棒を振り回す高鬼に驚きつつも間一髪で交わし、二人のザンキは残りの126人のザンキと合流する。
「おお、組み手か!いいね。やろう!」
128人のザンキ達は一斉に鬼弦を掻き鳴らした。
だが、128人が一斉に変身した事で、128人分の雷が吉野総本山に落雷する。
一瞬、明るく光ったと思ったら次の瞬間、効いた事の無い爆発音が起き、総本山は跡形も無くふっとんだ!
262元・ZANKIの人:2006/08/04(金) 13:26:02 ID:1jHvpyYE0
しかし、その瞬間、ザンキ達以外の世界が止まった。
膠着した高鬼と、まさに吹き飛ぶ寸前の総本山の様子がジオラマのようになっていた。
「あれ?どうなってんだ?」不思議がるザンキ達の前に、金のモヒカン頭の銀色の狼が現れた。
「やっぱり、ザルフの仕業か……」モヒカンの狼はゆっくりとザンキに近づく。
「おお、お前、マルフか!久しぶり!」128人のザンキは声を揃えて言う。
マルフは、まったく悪びれた素振りの無いザンキにふぅっとため息をついた。

十分後……。
「ほぉ、つまりタイムパトロールってとこか……」ザンキ達は一斉に言う。
「そう、今回みたいに時空間を勝手に移動しないかとかを見張ってるの」
時空間を自在に移動できるマルフは、他にも時間移動して悪さをする連中が現れないように、
単身で見回っているようだが、詳しくは語らない。
「そういう訳で、総本山は直してやるから、全員の記憶を消させて貰うぞ」
「それは残念だ。こうしてお前と再び出会えたのに……」
そう寂しそうに笑うザンキ。
「まあ、自分の世界と時間を持てない者の宿命だよ……」
マルフも寂しそうに笑った。
「なあ、最後に二つだけ頼みを聞いてくれないか?」
「二つ?贅沢だな。まあ、話してみろ」
それを聞くとザンキは懐から紙切れを出した。
「一つはお前にこの紙を渡す事だ、縁起のいい四字熟語が書いてある。…餞別だ」
「……ありがとう」そう笑顔で言い、マルフは受け取った。
「で、もう一つは……」
263元・ZANKIの人:2006/08/04(金) 13:28:03 ID:1jHvpyYE0
数分後……。
「ぐぁ!」廊下で寝転がっていたコウキを踏んづけるザンキ。
「おお!全く気付かなかった!」「嘘をつけ!」絶対わざとだ。
しかし、何故こんなところで寝ていたのだろうか?
何かとてつもなくおそろしい体験をしたのは覚えている。しかし、思い出せない。
その横でチェリオをゴキュゴキュの飲むザンキ。
「なあ、お前なんかしたか?」「へ?なんもしてないぞ?」
確かこいつ絡みの事だったんだが…。

コンコンとドアを叩く音がした。
「はいはい、どなた?」
あかねは本を読む手を休め、ドアの方へと向かう。こんな時間に誰だろう?
どうせコウキかザンキだろうと思いロックを外しドアを開けると、あかねの前には軍服姿の男が立っていた。
一瞬、なんだか分からなかったが、見覚えのあるその姿を見ると、
あかねはその人物が誰であるかを思い出し、大粒の涙がボロボロとこぼれる。
「……どうして、あなたが…」
そういってあかねは泣きながら男に抱きついた……。

「…五分だけだぞ」
あかねが泣き崩れる姿を影からこっそり見届けるとマルフは、
誰にも見つからないように、廊下を移動し人の居ない物置に隠れた。
「男の方は死んでしまうから、記憶を消す必要はないか……」
もう一つの頼みが、他人の事とはザンキらしいと言えばザンキらしい…。
「そういえば」マルフはふと、さっき貰った紙を思い出した。
なにやら、縁起のいい四字熟語とか言っていたが、まあ、意味不明なんだろ…。
しかし、誰とも関わりを持たずに生きている自分にとっては、友からの嬉しい贈り物である。
すこし、ワクワクしながら紙を開くとそこにはこう書かれていた。

『木 村 カ エ ラ』

「四字じゃねぇ!!」
思わず、床に叩きつけるマルフであった。 END
264中四国支部鬼譚作者:2006/08/05(土) 00:02:58 ID:UVYp1deV0
ザンキの四字熟語ネタが毎回毎回最高ww

さて、遅くなりましたが「中四国支部鬼譚」十一之巻を更新しました。
http://neetsha.com/inside/main.php?id=407
265名無しより愛をこめて:2006/08/06(日) 01:12:41 ID:bOJP1Ecf0
>過去との遭遇
過去の鬼と現在の鬼の出逢い――そういう話を一度見てみたいと思っていたんです。
鬼同士の手合わせ戦闘、最高の臨場感でした。特に親子対決は燃えましたなあ……
いつか、この一件を踏まえた現代編を一本読んでみたい気がします。
……ノッポさんw

>仮面ライダー斬鬼と128人の斬鬼
今回は最初から最後までギャグ通しのようですが、最高に笑わせて貰いました。
128人のザンキさんが闊歩するさまを想像すると思わず吹いてしまいますなw
個人的には「二つだけ頼みを」も笑いのツボでした。勿論ラストの木村カエラもw

>花開く蒼
二体の魔化魍に対する、鬼たちの満身創痍の戦い、お見事でした。
鬼というのはまさに、いつ大怪我をしてもおかしくない危険の中に身を置く仕事なのだと実感させられました。
しかし今回……

   コ ナ ユ キ さ ん が 出 て こ な い じ ゃ な い で す か ! w

初登場以来、どの回にも必ず顔を出していたのに……
266新顔:2006/08/06(日) 19:00:23 ID:Z1hLKuG40
 どうも初めまして、未だに響鬼の事を引きずってる響鬼スレウォッチャーです
SSを書き始めようと思うのですが、取り合えずいきなりSS書き始めるのもア
レなのでご挨拶しておきます。
 かしこ
267「響鬼外伝〜プロローグ」:2006/08/06(日) 19:18:13 ID:Z1hLKuG40
 「俺についてきなよ」明日夢にそう言ってヒビキさんは笑った。
 …あそこにいるのは如何して俺じゃないんだろう…不知火の車内で
 京介は複雑な感情を抑えきれずに悶々としていた。
 …俺は鬼になることがあの人を超えることだと思っていた、でもあ
 の人は俺より明日夢を認めている…そんな感情が桐谷を悩ませる。
  俺は…本当にあの人の弟子にふさわしいんだろうか?
 そんな思いを抱きつつも季節は流れ、そろそろ夏になろうかという
 時だった。
 
「ところでヒビキ…京介君の具合は?」「大丈夫で後は思うんですが
ね…アイツ最近張り切りすぎてたからなぁ…」
 たちばなの休憩室では勢地郎とヒビキが寛いでいる、年が明ければ
前年のオロチ騒動が嘘のように魔化魎は出現サイクルが減少し、結果
ヒビキは例年より暇になっていたのだ。
 
268「響鬼外伝〜プロローグ」:2006/08/06(日) 19:40:54 ID:Z1hLKuG40
 もちろん他の鬼たちの配慮もある、あの響鬼に弟子ができたのだ、皆
期待もしているし、京介もいけ好かない性格を除けば十分に鬼の才能が
ある、だからこそ育成に励んでほしかったのだろう。
 しかし結果として京介は響鬼と別行動で(変身の許しは得ているが)
魔化魎と戦う羽目になった結果、京介は体調を崩して風邪を引いてしま
った…。
 「バケガニ二匹を倒したらイッタンモメンに襲われて…滝壺に落下し
たんだって?」
「音撃管のないときにイッタンモメンに挑んだ京介も悪いんですけどね
…才能もあるんだけれどどうもそういうところが…」
 最近師匠らしくなってきたな、勢地郎は顔を緩ませながら話す。
「そういえばヒビキ…京介君に他の鬼の修行を受けさせる件なんだが…
今年はどうしようか?」
「この前はイブキの所でしたからね…今度はサバキさんのところで…とか
?」
 他の音撃も覚えさせようというヒビキの配慮で京介は時々他の鬼の修行
も受けている、ヒビキも管は使えるが、餅は餅屋だ。
 「…実はそれで話があるんだが」
 勢地郎はごにょごにょとヒビキに耳打ちした
269「響鬼外伝〜プロローグ」:2006/08/06(日) 19:55:22 ID:Z1hLKuG40
 「おっす!京介、具合はどうだ?」
 ヒビキの電話で京介は飛び起きた、まだ少し風の余韻はあるが、戦
えない事はない「はい!魔化魎ですか、なら今すぐにでも…」
 あたふたと服を着ようとする京介が見えている、そう言わんばかりに
ヒビキは苦笑してこう言った。
 「ならいいんだけどさ…明日から三日ほど、他の鬼の修行を受けて欲
しいんだ…」「はい!頑張ります!」
 できればヒビキに教えてもらいたい京介だが、我侭はいっていられな
い…俺はヒビキさんを絶対に超えるんだから。
 「鬼は二人いるんだけど…あの二人は厳しいぞ〜、もしも耐え抜けた
ら俺より強い鬼になれるよ…何ならヒビキの名前をくれてやってもいい」
 「わかりました、絶対に三日間耐え抜いて見せます!」
 以外にまじめなヒビキの口調…京介は緊張しながらも電話を切った。
 (俺はあの人の望む弟子になって…あの人を超える!新しい響鬼として)
 京介は震える闘志を隠しきれずに武者震いをしていた。
270「響鬼外伝〜プロローグ」:2006/08/06(日) 20:12:14 ID:Z1hLKuG40
 朝7時、たちばなの入り口前で待っている京介にその男は言った。
「君が…京介君かな?」
 頭にはタオルを巻き、服装はタンクトップにジーンズ、顔はのっぺ
りとした大男が話しかける。
「はい、おはようございます。これから三日間、よろしくお願いします」
「おお、以外に素直だな…っと、俺の名前はフブキ、今日から三日間どう
ぞよろしくな…」
 そういうとフブキは車を取りにいく、といって駐車場に向かった。
 聞いたことがない鬼だ、引退した吹雪鬼とも違うが弟子なんだろうか?
 考え込む京介の背後でたちばなの戸が開く。
 「京介君、忘れ物だよ〜」そう言うとみどりが風呂敷包みを持ってきた
「とり合えず用意できるものはすべて入ってるから…くれぐれもオオムカ
デには気をつけてね…あと私フブキ君もミツキ君も気をつけたほうがいい
と思うんだよね…なんてったってあの二人は関東支部で最低の…」
「あの、みどりさん、それはどういう…」京介の言葉をさえぎるように車
のクラクションが響いた。
 背後には大きなバンが止まっている。
「あ、それじゃぁ頑張ってきてね!」そういうとみどりはたちばなに
戻ってしまった。
 一体どういうことだ?疑問しか浮かばない京介だった。
271DMC短編:2006/08/07(月) 13:37:55 ID:XxeHqewQ0
DMC短編「Zolf VS. Xlof -In,Christmas-」

19XX/12/23 クリスティーネ邸。

「おい、クスロフ。手伝ってやるって!」
「・・・・。」
「おいおい、シカトかよ?」
「・・・・迷惑なんだよ。」
「手伝ってもらうのがそんなに不愉快なのかい?」
「お前・・・分からないのか!?自分のやったことがどれだけ大変なことなのかを!」
「・・・・別にまだ何もやってないじゃん?」
「何もって・・・やってるじゃないか!クリスマスツリーのてっぺんに飾るお星様を!」
「あぁ・・・そのことだったのか・・・。スマナイ・・・実は俺は・・・夢遊病なんだ・・・。」
「・・・去年はなんて言ったっけ?」
「去年は・・・ホラ・・・。・・・・えーと・・・。その・・・ちょっと待て!今思い出す!・・・えーと・・・。」
「ホラ見ろ!やっぱり嘘だ!なんでお前は毎年、俺がいない間にお星様を粉々にするんだよ!?」
「だって・・・女の子なんだもん・・・。」


19XX/12/24 バチカン某所。

「今年も来たか・・・イヴが・・・。昨日は災難だったからな。」

『女の子にそんなこと言うもんじゃないわよっ!このっこのっ!クスロフのバカァ!!』
『おいザルフ!そのしゃべり方と内股は止めろ!気色悪い!!』
『バカバカァ!お星様をちょっと壊しちゃったくらいで憤怒する男なんてもうイヤ!』
『ちょっとくらいって・・・粉々になってるぞ?』
『だってだってぇ!!クスロフの家に来ると、勝手に狼になっちゃうんだもん!!』
『なんだってぇ!?』
『だって、クスロフのお家ったら、おまじないが掛かってるんだもん!』
272DMC短編:2006/08/07(月) 13:39:05 ID:XxeHqewQ0
真相はそんなことだったのか・・・
そう思うとクスロフは店の立ち並ぶ街角を通り、教会へ入っていった・・・。
「金のほうの星・・・。ありますか?」
「スマナイ・・・。今年はもう売り切れた。」
それを聞くとクスロフは別の教会に急いでいく。
「金の星・・・。」
「スマン。変な奴が来て、買い占めていきおった。」
クソ!どこのどいつだ全く!!
「金の・・・。」
「ゴメンね。さっき、金髪の人が買占めてったよ。」
なに!?ここもか!
「星・・・。」
「在庫切れだよ、兄ちゃん。」
・・・・・・もしかして
「いや〜今年はよく売れたんだよぉ〜。」
こんなことをする奴は・・・・。
「売り切れたよ。」
一人しかいない・・・・。
273DMC短編:2006/08/07(月) 13:39:38 ID:XxeHqewQ0
クスロフが自宅の扉に手をかける。
ガチャ!!バンッ!!
「ザルフゥゥウウ!!!」
「な・・・何だよ、そんな怖い顔して・・・。」
「バチカン中の星をぉぉお!!買い占めたのはぁぁあ!!キィ〜サァ〜マァ〜かぁぁああ!!!」
「ソダケド・・・ドシタ???」
「やぁっぱりぃ・・・キィサァマだったのかぁぁあい!!」
クスロフの体を光が包んだ直後!眩い狼がザルフに殴りかかろうとする!
「ちょ・・・ちょっと待ってよぉ!!」
「マテルカァァア・・・・・ア!?」
クスロフの目に飛び込んできたのは、きらびやかに飾られた天井の光だった。その光を発しているのは無数の金と銀の星々・・・。
「こ・・・これは・・・!?」
「へへっ。あれからちょっと反省してよぉ・・・。自分なりに飾ってみたんだ。」
「綺麗じゃないか・・・。でもお前・・・ウチに入ったら俺以外の狼は変身するんじゃ?」
「お前が家にかけたまじないなら、ジェバンニが一晩で取り除いてくれたさ。」
「なに!?」
「そこで、呪いを解いたついでに・・・俺はお前に最高のクリスマスプレゼントを用意した。楽しみにしていろ・・・・ヌフフフフフフ。」
クスロフはちょっぴり不安を抱いた。
274DMC短編:2006/08/07(月) 13:40:15 ID:XxeHqewQ0
19XX/12/25 クリスティーネ邸、玄関前。

「よし、お前ら、あいつが扉を開けたら、一斉に入るんだぞ。」
「了解したぜ、ザルフ。」
「よし・・・それじゃ・・・お〜い!クスロ〜フ!俺だ〜!」
「ハイハ〜イ! イマ、アケルカラ・・・。」
ガチャ・・・。
「メリークリスマス!!」
ドパァァア!!
水が溢れるような音を出してバチカン中のDMCがクリスティーネ邸に入り込む!
「お・・・おい、なんでみんながいるんだよ!?」
「だって、クスロフの家なんか来たことがないぜ!」
「それに、クリスマスパーティなんて年に一回だぜ!」
「ザルフがみんなを誘ったんだよ!」
「え・・・!?」
「いや・・・。ほらお前、いつも一人でクリスマスを過ごしてるだろぉ?クリスマスってのはいわば、無礼講の席だぜ!?年に一度くらい、皆でパァ〜っとしようや!」
「そっか・・・ありがとう、ザルフ・・・。」
「いいってことよ。友達だろ?」
「あぁ・・・友達だ。」
「よっし!それじゃあみんな!乾杯だ!・・・おい、ジェバンニ!お前が音頭をとれよ!」
「お・・おお。そ・・それじゃあ・・・カンパァイ!!」
「カンパーイ!!」
そうしてその年の忘年会は一次会から二次会へ・・・そして三次会で幕を下ろし・・・損ねた。
275DMC短編:2006/08/07(月) 13:42:22 ID:XxeHqewQ0

「おぉぃ、みんなぁ・・・今年はこれでぇ・・・ヒック!・・・終わりだがぁ・・・最後にぃ・・・ヒック!・・・俺からのぉ・・・餞別をうけとれぇ・・・ヒック!」
泥酔状態のザルフは三次会まで生き残った猛者たち(ジェバンニ含む)に紙片を渡すと、ヨロヨロと帰っていった。
どうせまたくだらないこと書いてんだろ・・・。

「“友 情” と は “友” の “心” が “青 臭 い” と 書 く」

「・・・・・・。」
次の日、ザルフの家は年末の花火と化した。
The End
276名無しより愛をこめて:2006/08/07(月) 18:50:46 ID:q2A9EjxM0
>クリスマスパーティなんて年に一回だぜ
笑ったwwww
毎回ギャグセンス抜群ですね
277元・ZANKIの人:2006/08/07(月) 19:49:36 ID:wa4eYHJa0
>276
俺書いてないよw
278DMC短編:2006/08/07(月) 20:49:45 ID:XxeHqewQ0
すんません、ZANKIの人とは全く別人です。

笑えてもらったなら嬉しい限りです。
いやホンマにw
279名無しより愛をこめて:2006/08/08(火) 09:05:03 ID:bYO/krqp0
21世紀初頭に起こった魔化魍の大量発生により、
裏の世界とされてきた怪物の存在が人口に膾炙した。
それと時を同じくして、魔化魍の発生率が激増。
魔化魍は山を、海を埋め尽くし、人里に溢れた。
もはや警察も自衛隊も政府も何の役にも立たない。
日本の社会は未曾有の恐怖に包まれた。
しかし、この国には『彼ら』がいたのだ――


   裁 鬼 ス レ 劇 場 版 


東北に凱鬼、九州に風舞鬼、日本各地で戦う音撃戦士!
ザルフ率いるDMCのウルフたちも日本に駆けつける!
新型音撃増幅剣を造り出し、自慢の声を響かせる高鬼!
チームワーク抜群の音撃合奏で戦う中四国支部の鬼たち!
関東では鋭鬼が、弾鬼が、剛鬼が、十一人の鬼が戦う!
そして、ついにあの男――裁鬼が戦場に繰り出した!

鬼たちは魔化魍から日本を開放し、希望の光を灯せるのか!?

     近 日 公 開 ! !(嘘)
280凱鬼メインストーリー作者:2006/08/08(火) 15:08:27 ID:G1SWvy450
>>279
おぉ!遂に来るか!
裁鬼スレ劇場版が!嬉しいねぇ、嬉しいよぉ。
そこでちょっと提案ですが、“スレ全体”での劇場版は
それぞれ作者さん同士でリレー小説みたいに繋げていったらいい出来になるのでは。
>>279さんが一個人で進めたいのなら、それはそれで良いんですがね。
ただ、リレー形式で綴っても面白いんじゃないのかなーって思っただけです。
281名無しより愛をこめて:2006/08/08(火) 15:13:55 ID:bYO/krqp0
思いつきで予告を書いてみただけで、実際執筆する気は無いですよw
作者さんたちのリレー小説はぜひ見てみたいです。
282凱鬼メインストーリー:2006/08/08(火) 17:22:00 ID:G1SWvy450
五之巻「吼える紅月」

3月某日、早朝。天美家。
「母さん、おはよ・・・。」
「あら、今日は早いわね。」
「うん。今日から朝練なんだってさ・・・。」
「そっかぁー、ブラバンはもうすぐ春のコンクールがあるからねぇー。」
「うん・・・。父さんは・・・?」
「ついさっき走りに行ったわ。音撃管が使いづらいスペアだから、自分を鍛えるしかないってね。」
「ふぅ〜ん・・・。」
「ほらほら、早く食べて部活行きなさい。次期主将!!」
「それいうのはやめてって言ってるでしょ〜。」
「ハイハイ。」
「いっただっきま〜っす。」

東北支部。
チリリリリリリン・・・チリリリリリリン・・・。
「はい。東北支部長、坂本です・・・。きょっ・・・局長!?」
「ええい、驚かんでもいい。いちいちリアクションが大きいんだよ、キミは!尻をだ・・・ゴホン!」
「だっ・・・大丈夫ですか・・・?」
「あぁ・・・だ・・・大丈夫だ。それよりな、“曉明”なんだが・・・。」
「・・・はい。」
「なんとか・・・修復にせいこうしたよ・・・。」
「ほっ・・・本当ですか!?」
283凱鬼メインストーリー:2006/08/08(火) 17:22:32 ID:G1SWvy450
再び天美家。
「ただいま〜・・・。」
「お帰りなさい、朝食できてるわよ。」
「あぁ・・・それじゃあ、ありがたく頂くか・・・。あきらは?」
「今日から部活なんですって。次期主将らしいわよ。」
「そっか・・・。アイツも人の上に立つようになったか・・・。」
「ま・・・私からしてみれば・・・。まだまだ優柔不断ね。」
「そんなことはないっ。あきらは真面目だよ。」
ドンドン!!
「あら、誰か来たのかしら・・・。」

「宅配か?」
玄関から戻ってきた妻の腕には80センチもあろうかという縦長の箱が抱かれていた。
「えぇ・・・吉野からね。さてさて中身は・・・・音撃管じゃない!」
「何!?」
「良かったわねー。やっと届いて。」
「・・・・おぉ!遂に舞い戻ったか!我が戦友よ!!」
そうさけぶとアカツキは曉明を箱から取り出す。
「前よりも一層、燻し銀のような光沢を放っているな。」
ブゥゥン・・・
「しかし、開発局長もよくぞこの大音撃管・曉明を修復できたもん・・・」
ブゥゥゥン・・・ブゥゥゥン・・・
「・・・・・・。」
「あ・・・あなた?」
ブゥゥゥン・・・。ピトッ。
「我が家を脅かすムシケラ風情がっ!!」
ダダダダダダダダ!!アカツキは怒号の叫びとともに、曉明の圧縮空気弾を機関銃の如く連発する。
「あ・・・あなた!か・・・壁が!!」
「・・・・あ゛。」
我に帰ったアカツキは曉明・・・否、アカツキによって粉砕された壁を目の当たりにするのは以下略。
284凱鬼メインストーリー:2006/08/08(火) 17:23:03 ID:G1SWvy450
翌日。田沢湖近辺。
「さてと・・・多分もう成長しきってる頃じゃないかな?」
「あなた、その音撃管で大丈夫なの?」
「・・・・・・多分。」
「成長しきってるならDAはいらないかしら。」
「あぁ、すぐに出てくるだろうからな。」
そういうとアカツキは妻を残して馴染まない音撃管を手に、湖へ向かった。

「よし。それじゃあ一丁、火花を散らすか。」
アカツキはそう呟くと背負っていた曉明を両手でもち、水面に意識を集中する。
数分過ぎた頃だろうか。水面に変化が訪れ、荒い波が立ち始めた。
「腹ぁ、空かしてるな・・・。」
そう静かに呟くと、曉明の銃身で荒波を追う。
狙いが定まると、アカツキは音笛を鳴らした。
アカツキの体は熱風で覆われ、服は次第に焼けていく。
アカツキは曉明の引き金を引いた。すると一発の巨大な超圧縮空気弾が水面の水を跳ね上げ、イッタンモメンの姿をあらわにした。
湖面から飛び出る魔化魍。熱風を払い除け、音撃管を構える鬼。
285凱鬼メインストーリー:2006/08/08(火) 17:25:37 ID:G1SWvy450
先手は暁鬼だった。再び超圧縮空気弾をイッタンモメンに浴びせると、機関銃の如き連射で鬼石を打ち込む。
しかしイッタンモメンもひるまず再度空へ舞い上がり、尾を伸ばして暁鬼を狙う。
曉明の大きさが仇となり、暁鬼はわき腹に傷を負ってしまった。
「ッソがぁ!!」
そう怒鳴ると暁鬼は腕から指先にかけて気を集中させる。
「・・・ォォォオオオオ!!・・・・ハァ!!」
暁鬼は一気に溜め込んだ気を解放させた。すると腕の先に熱風を帯び、イッタンモメンはそれに直撃してしまった。その熱風に反応した鬼石が数個爆発。イッタンモメンはその衝撃で堕ちていった。
「っしゃ!仕上げと行きますか。」
暁鬼は曉明を素早く変形すると、音撃鳴・天鳴門を装着し、深く息を吸う。
「スー・・・・・。音撃射、暁虎烈閃!」
パパァァアアアア・・・・・。
暁鬼は暁明を吹き鳴らす。それに苦しみだすイッタンモメン。
ピィィイ・・・!!
イッタンモメンは苦しみの中、飛び上がり長い尾を暁鬼に向けた。
ピィィイイイ!!
イッタンモメンの尾が暁鬼の目の前を突っ切り、鬼面に届いた丁度そのとき・・・。
・・・バァン!!
イッタンモメンは爆発四散した。顔だけ変身を解くと、アカツキは額のあたりに違和感を覚え、ふぅっと息を吐くと手元の音撃管を見つめた。
「・・・うん。まぁ、上々ってトコかな?」

その夜、家路についたアカツキは家の壁を粉砕したことで妻に相当絞られ、寝ずに修理をさせられたと言う。
「・・・・こんなんでどうっすか?」
「まだまだ!風が通ってるじゃない!」
「ったく・・・あのムシのお陰で・・・。」
「虫は無視っていっつも言ってるじゃない!!」
「・・・古いな。」
「うっさいなぁ!もう!」

五之巻「吼える紅月」
286中四国支部作者:2006/08/09(水) 11:55:14 ID:jUE8VRNM0
中四国支部鬼譚 12之巻「怒る海」が完成しました。

http://neetsha.com/inside/main.php?id=407&story=14

響鬼二次でこんな話書いてもいいのだろうか……
反則気味ですがお楽しみいただければ幸いです。
287高鬼SS作者:2006/08/09(水) 23:11:54 ID:rS1S5TSs0
「過去との遭遇」、初めは受け入れてもらえるか不安でしたが、それなりに好評だったようで一安心です。
今回は約束通り豊太郎とエリスの過去話を投下させていただきます。
ZANKIの中の人曰く、イギリスにはDMCとは異なる独自の組織があるという事なので
それを参考に色々自由に設定させていただきました。
あと先代が来日した理由も少し追加をさせていただきました。ご了承下さい。
まあ先代が出てくるので最後はいつも通りドタバタで終わりますが、どうかよろしくお付き合い下さい。
ちなみに分かる人は分かると思いますが、今回の話の下敷きは森鴎外の「舞姫」です。途中で全く関係なくなりますがw

>仮面ライダー斬鬼と128人の斬鬼
そうか、それで小暮さんは約三十年後に先代が大量に湧いてくる悪夢を見たのかw
288仮面ライダー高鬼番外編「白日の夢」:2006/08/09(水) 23:14:10 ID:rS1S5TSs0
これは先代ザンキことザルバトーレ・ザネッティが来日する暫く前の話である。

アフリカ大陸、エチオピア。
広大な湿原地帯で一匹のモンスター――日本で言う魔化魍が暴れていた。
名をカトブレパス。古代ローマの博物学者プリニウスの「博物誌」にもその存在が記載されている、河馬と水牛を掛け合わせたような巨体と長い首を持つ怪物だ。
口からは毒ガスを吐き、目からも神経系を麻痺させる毒液を飛ばす。睨み付けられた相手が石化するという伝承はここから来ている。
その巨体から繰り出されるパワーは日本の魔化魍の比ではなく、これを退治するとしたら最低でも三、四人の鬼が必要であろう。
だが、その巨体が動く事はもう二度と無い。強烈な音撃を叩き込まれ、轟音とともに地面に倒れ込んでしまったのだから。
大爆発を起こし消滅するカトブレパス。それを一人の「鬼」が眺めていた。黒を基調とした体色の筋骨隆々な鬼である。
鬼は、顔の変身を解除すると溜め息を吐きながらこう呟いた。
「……大陸の魔化魍ももう俺の相手じゃないな」
戦う事に対する飢えと渇きが彼を支配する。
(……亜細亜に戻るか。今もベトナム戦争の真っ最中だからな)
血と混沌が魔化魍を生む。戦場と化したベトナムの地にはさぞかし活きの良い魔化魍が湧いている事であろう。
そんな事を思い一人にやりと笑う。
その前に久々に欧羅巴に寄ってみるか。そんな事を考えながら、漆黒の鬼はその場を立ち去っていった。
289仮面ライダー高鬼番外編「白日の夢」:2006/08/09(水) 23:14:54 ID:rS1S5TSs0
太田豊太郎。東京大学卒。博士号を取得し、周囲から天才と褒め称えられながらも彼は、更なる研鑽を積むべく西独逸へと留学していた。
留学三年目のある日、彼は偶々立ち寄った場末の劇場で踊り子をしていたエリスという女性と出会い、一目で恋に落ちた。
エリスは、信じられないくらい美しい女性だった。ビスクドールのように真っ白い肌と端整な顔立ち。抜群のスタイル。光を浴びて煌くブロンドの髪……。天使という言葉が豊太郎の脳裏を過ぎった。
以来、幾度となく劇場に足を運び、とうとう彼女と話をする機会に恵まれた。そこで豊太郎はおもいきってデートの誘いをしてみたのである。
初めは、こんな日本人の戯言をまともに取り合ってくれる筈がないと半ば諦めていた。しかし、エリスは何と快く了承してくれたのである。
その日から豊太郎の薔薇色の日々が始まった。
以来、定期的に二人は逢瀬を重ねた。エリスの仕事が忙しいため、そんなに頻繁には会えなかったが、豊太郎にとってそれは些細な事だった。
(これってどう見ても傍から見たら恋人同士だよな……)
留学の目的を完璧に忘れて、恋の病に陥ってしまった豊太郎。
(夢じゃないかしら……。っていかんいかん!そんな縁起でもない!)
始まりがあれば必ず終わりも来る。そんな当たり前の事もすっかり忘れて舞い上がる豊太郎であった。
290仮面ライダー高鬼番外編「白日の夢」:2006/08/09(水) 23:16:20 ID:rS1S5TSs0
伊太利亜、DMC伊太利亜支部。
そこの研究室で何かの作業に没頭していた「ビショップ」のジェバンニの下へ、一人の男が訪ねてきた。
コードネームはザルフ。後のザンキことザルバトーレ・ザネッティである。
「チャオ!元気してる?」
「『オーガ』が現れたらしい」
ザンキの挨拶を軽く流してこちらから話題を振るジェバンニ。ザルフのペースに巻き込まれないようにするためである。
「オーガ」の名を聞き、ザルフの表情も変わった。
「何年振りだ……?」
「二年と百三十五日振りだ。噂ではアフリカに行っていたらしいのだが……」
戻ってきたんだな。そう呟くザルフ。
オーガ。数年前に突然欧羅巴に現れ、モンスターやDMCの狼達を相手に大暴れをした怪人である。
「ザルフ、どうやら君には少しでも早く日本に行ってもらわなければならないようだな」
ザルフが日本に向かう理由。それは統一部隊発足のための下調べ以外にももう一つあった。
オーガの姿が日本の鬼にそっくりだという指摘があったのだ。その真相を掴むためというのがもう一つの理由である。
「今のところ被害は?」
「それらしき人物の目撃例が仏蘭西と西独逸で数件。DMC側の被害はゼロだ」
だが、だからと言って安心するわけにはいかない。
291仮面ライダー高鬼番外編「白日の夢」:2006/08/09(水) 23:17:01 ID:rS1S5TSs0
「噂では英吉利(イギリス)と希臘(ギリシャ)の組織も動き始めるようだ」
「げっ、『RPG』と『ZEUS』がかよ!?」
DMCとは、嘗てフランク王国と呼ばれた仏蘭西、独逸、伊太利亜、阿蘭陀(オランダ)、白耳義(ベルギー)とその周辺の国家で活動する組織である。そのため英吉利、北欧、東欧諸国にはそれぞれ別の組織が存在する。
英吉利のRPGは英国王室直属の組織である。だが、その母体は十七世紀の秘密結社・薔薇十字団らしいと噂されており、その全容はDMCでも掴みきれていない。
また、それ故に魔術や錬金術に長けた者が多く所属している事でも有名である。
一方希臘周辺及びエーゲ海全域を担当するZEUSは、独自の技術によって開発された「聖衣」と呼ばれる鎧を纏った「聖闘士」と呼ばれる戦士達が所属しており、中でも「黄金」と称される階級の者の名は西欧にも轟いている。
「RPGの魔術師どもやZEUSの聖闘士なんかに俺達の縄張りを荒らされたくはないなぁ……」
本気で嫌そうな顔をしてぼやくザルフ。
「だから何としても我々でオーガの件を解決しなければならない。そのため、まずは西独逸支部の人間と情報交換を行う事になった」
「お前が行くのか?」
「何のためにお前をここに呼んだと思っているんだ。お前が行くんだよ」
ジェバンニにそう告げられ、目の玉が飛び出さんばかりに驚くザルフ。
「これは決定事項だ。理由が知りたいなら教えてやる。指定された日時に手が空いているのはお前だけだからだ。以上」
「お、俺もその日は家でカルボナーラを作ってパーティーを……」
「まだ日時を聞いてないくせにそんな事言うな。本当だとしてもずらせ。仕事が大事だ」
冷たく言い放つジェバンニに猛抗議するザルフ。
「ふざけんなよ!真面目に仕事する伊太利亜人なんているもんか!今すぐ相手に連絡して変えさせろ!」
「……今のはある意味問題発言だぞ。兎に角、独逸人は勤勉で真面目なんだ。お前が合わせろ」
「あ〜、畜生!なんてこったい!」
頭を抱えて嫌がるザルフ。そんなザルフにジェバンニは黙って書類の入った封筒を渡すのであった。
292仮面ライダー高鬼番外編「白日の夢」:2006/08/09(水) 23:18:09 ID:rS1S5TSs0
ある日、豊太郎にデートの誘いを受けたエリスは、暫く考え込んだ後おもむろに伊太利亜へ行ってみたいと提案した。
これには豊太郎も驚いた。いつもは全て豊太郎任せだったエリスが初めて意見を口にしたのだ。しかも行き先は外国。
「ええ〜、外国かい?手続きとか面倒だよ?」
「でも私、伊太利亜には前々から行ってみたかったの。ね、お願い、豊太郎さん」
エリスのその碧い瞳に見つめられてしまっては嫌とは言えない。ぎこちない笑みを浮かべながら了承する豊太郎。
「有難う!豊太郎さん大好き!」
豊太郎に抱きついてくるエリス。この積極的な態度がまた良い。
しかし、その伊太利亜行きが豊太郎の運命を大きく変える事になろうとは、彼自身夢にも思っていなかったのである……。

入国審査を終え、豊太郎とエリスは伊太利亜の地を訪れた。伯林(ベルリン)から遥々ここまでやって来たのだ。これは最早デートではなく旅行である。
(こ、これはひょっとしてゴールインが近いという事ではっ!)
胸中でそんな事を思い、一人盛り上がる豊太郎。
「どうしたの、豊太郎さん?」
顔を真っ赤にした豊太郎を心配そうに見つめてくるエリス。見つめられる度にますます顔が真っ赤になっていく豊太郎。
「豊太郎さん、まるでトマトみたいだよ?」
「ト、トマト?あ、そうだ!折角だから本場のスパゲッティを食べましょう!ナポリタン!」
しどろもどろな豊太郎を見てくすくすと笑うエリス。
その後、二人は伊太利亜の街並みを見て回った。広場を見つけ、道行く人に頼んでツーショットの写真を撮ってもらう二人。
この写真は一生の宝物にしよう、そう思う豊太郎であった。
「もうこんな時間……。楽しい時はあっという間に過ぎるのね」
エリスが腕時計を見ながら呟く。
「じゃあ何処かで一休みしませんか?あ、ちょっとあそこの人に聞いてきます」
そう言って駆けていく豊太郎。胸中で彼は、永遠にこの幸せな時が続けばいいのにと思っていた。この先に何が待っているのかも知らずに……。
293仮面ライダー高鬼番外編「白日の夢」:2006/08/09(水) 23:19:27 ID:rS1S5TSs0
夕暮れ時のオープンカフェに腰掛け、珈琲を啜りながらザルフは約束の時間が来るのを待っていた。
相手の指定した場所が伊太利亜国内で本当に良かったと思うザルフ。もし独逸まで来いと言われていたら、間違いなく彼はキレていただろう。
しかしザルフは肝心の相手について何一つ知らされていない。ジェバンニが言うには、西独逸支部でもかなり上級クラスの人間が来るらしい。
絶対に粗相の無いようにと、ジェバンニはおろか上司にまで釘を刺されているのだ。
と、嫌な気配が全身を包み込んだ。これはモンスターの気配である。
「……あ〜、くそっ!街中に湧きやがったか」
待ち合わせの時間まではまだある。
ザルフは支払いを済ませると、禍々しい気配を辿っていった。
294仮面ライダー高鬼番外編「白日の夢」:2006/08/09(水) 23:20:03 ID:rS1S5TSs0
人通りの少ない路地裏。そこに一匹のモンスターが蹲っていた。タランチュラだ。
南米に住む毒蜘蛛の名前の由来ともなった、伊太利亜のモンスター=魔化魍である。日本のツチグモとは異なり糸を吐く事はないが、鋭く尖った体毛と、神経系に作用する毒を武器とする。
噛まれて毒を受けた人間は意志とは裏腹に体が勝手に動いてしまい、周囲からはあたかも踊っているかのように見える。タランチュラの毒を受けた者は死ぬまで踊り狂うという伝承の由来である。
「タランチュラか……。参ったな、今日はベースを持ってきてないぜ」
元々戦闘のために出てきたわけではないのだから仕方がない。だが、このまま見過ごす訳にもいくまい。
狼へと変身しようとしたその時、突如として一人の大男が近くの建物の上から、ザルフとタランチュラの間に割って入る形で飛び降りてきた。
「な!?」
驚いて男が飛び降りてきた場所を見るザルフ。
(あの高さから生身で飛び降りて無事とは……)
全身黒尽くめの大男は、凄みの効いた低い声で喋った。
「タランチュラか……。ふん、伊太利亜での最初の獲物にしてはランクが低いが……仕方ないか」
そう言って懐から音叉を取り出す男。ザルフはまだ知らなかったが、これは日本で太鼓の鬼が変身に使う道具である。
男が、自らの腕に当てて鳴らした音叉を額に掲げると同時にその全身を漆黒の炎が包んだ。
「ぬおおおおおおッッ!」
気合いとともに炎を払う。その中から、やはり黒い体の怪人が姿を現した。
その姿に目を見張るザルフ。
「オーガ……」
それはまさに、過去に撮られた記録映像の中で見たオーガの姿そのものであった。
295仮面ライダー高鬼番外編「白日の夢」:2006/08/09(水) 23:21:17 ID:rS1S5TSs0
体毛を矢のように飛ばして攻撃してくるタランチュラ。それをオーガは最低限の動作で避けると、目にも留まらぬ速さで間合いを詰め、相手の懐に潜り込んだ。
「速いっ!」
スピード自慢のDMCの狼達がいとも簡単にやられた理由を、実際にオーガの戦いを目の当たりにして実感するザルフ。
筋肉の化け物のような巨体のくせに、何という速さなのであろう!
丸太のような太い腕から繰り出された拳撃が、たった一撃でタランチュラの巨体を引っ繰り返した。その体にすかさず音撃鼓・巨凶を貼り付けるオーガ。
さらに装備帯から音撃棒・魔獣を取り外し、音撃打の構えを取る。
「国士無双の型ァッッ!」
強烈な一撃から生まれた轟音が周囲に響き渡る。刹那、爆発が起きた。
この一連の出来事を、ザルフは食い入るように見つめていた。ただ、オーガがこちらに背を向けていたため、どうやってタランチュラを倒したのかは見る事が出来なかったが。
オーガがザルフの方へと振り向いた。本来、鬼の額に小さくあるだけの鬼面が、異様なまでに肥大している。
「獣臭いな。DMCの犬か」
「い、犬じゃねえ!俺は狼だ!」
「ふん、弱い犬ほどよく吠えるからな。まあいい。お前も喰ってやる。変身しな」
そう言ってザルフの傍に近寄るオーガ。
と。
「ん?……ほう、まだ居たのか。良かったな。俺の優先順位は先ず魔化魍だ。お前は見逃してやる」
「マカモー……?」
「そうか、こっちじゃモンスターなんて味気無い名称だったな」
そう言って路地から立ち去っていくオーガ。オーガが立ち去るまでザルフは一歩も動けず、ただただ冷汗をかくだけだった。
296仮面ライダー高鬼番外編「白日の夢」:2006/08/09(水) 23:22:20 ID:rS1S5TSs0
豊太郎とエリスは、もう一匹いたタランチュラの襲撃を受けていた。
突然の出来事にパニックになるも、エリスを守りたいという半ば本能のようなものに動かされた豊太郎は、彼女の手を引くと路地へと逃げていった。
壁面を這ってその後を追うタランチュラ。エリスの手を引き無我夢中で逃げる豊太郎。永遠にも感じられる鬼ごっこが続いた。
と、その時。突然黒い怪人が彼等とタランチュラの間に割り込む形で現れた。
オーガだ。
「な、何だこいつは……」
幾本もの刃状の突起があちらこちらから生えた、禍々しい漆黒の体は筋肉の鎧に覆われている。
天を衝くかの如き巨体。その頭頂には鋭い角が生えていた。
「お。鬼……?」
昔絵本で読んだ怖い鬼のイメージを思い出す豊太郎。しかし何故伊太利亜に鬼が……。
と、一人の白人男性が何か喚きながらこちらに駆け寄ってきた。ザルフだ。
「はあ、はあ、漸く追いついた!おい、そこのカップル!さっさと逃げろ!これからこの場所は地獄になるぞ!」
「豊太郎さん!」
エリスが叫ぶも、その声は豊太郎の耳には入らない。ただじっと目の前で展開される異形同士の殺し合いを眺めていた。
「おい、そこの東洋人!何やってんだ!……ええい、そこの美しいお嬢さん、あなただけでも」
「でも……」
躊躇うエリスを無理矢理抱えて走り去っていくザルフ。
「ああ、くそっ!今日は厄日だ!これも全て西独逸支部の馬鹿のせいだっ!」
「あの、もういいから降ろしてもらえませんか?」
困惑気味の表情を見せるエリスであった。
297仮面ライダー高鬼番外編「白日の夢」:2006/08/09(水) 23:22:57 ID:rS1S5TSs0
オーガとタランチュラの戦いは一方的だった。いとも容易く攻撃を躱すと、接近して腕力に任せぶん殴っていくオーガ。タランチュラの血が周囲に飛び散る。
これは……虐殺だ。そう豊太郎は思った。
全ての足を?ぎ取られ、頭を潰されたタランチュラの体に「巨凶」を貼り付けるオーガ。音撃打・国士無双がタランチュラの体を塵に変えた。
呆気にとられながらも、豊太郎は一部始終を眺めていた。
と、オーガがこちらに向き直った。その恐ろしい鬼の顔に付いた両の眼が豊太郎の姿を見据える。
「お前、日本人か?」
突然目の前の鬼が日本語を喋った事に度肝を抜かれる豊太郎。
「あ……あんたは一体……」
腹の底から声を絞り出し、漸くそれだけ言う事が出来た。
鬼は豊太郎の問いには答えず、ただじっと彼を眺めている。
「……腰を抜かしていたわけじゃないな。自分の意思で俺の戦いを見ていた。面白いじゃねえか……」
鬼は豊太郎に背を向けると、低い声でこう告げた。
「俺の事が気になるか?なら日本に戻って『猛士』という名の組織を当たってみろ」
それだけ言うと鬼は夕闇に包まれた路地裏の奥へと消えていってしまった。
暫し呆然と鬼が消えていった闇を眺め続けていた豊太郎だったが。
「そうだエリスは……!」
確かさっき突然やって来た白人が何処かへ避難させていたな。そう思い周囲を探してみる豊太郎。
エリスと白人男性は、オープンカフェに居た。だが。
やけに親しげに話しているのである。しかも白人男性がエリスの体をぺたぺた触り始めたではないか!
ガラガラガラと、豊太郎の中で何かが崩れる音がした。目の前が真っ暗になった。
「わああああああああああああああああ!」
一声絶叫すると、豊太郎は涙を流しながらその場から走り去っていった。
298仮面ライダー高鬼番外編「白日の夢」:2006/08/09(水) 23:23:43 ID:rS1S5TSs0
デイ・ドリーム・ビリーバー(挿入歌)
訳詞 ゼリー  作曲J・STEWART  歌 タイマーズ

もう今は 彼女はどこにもいない
朝はやく 目覚ましがなっても
そういつも 彼女とくらしてきたよ
ケンカしたり 仲直りしたり

ずっと夢を見て 安心してた
僕は デイ・ドリーム・ビリーバー そんで
彼女は クイーン

でも それは 遠い遠い思い出
日がくれて テーブルにすわっても
ああ 今は彼女 写真の中で
やさしい目で 僕に微笑む

ずっと夢を見て 幸せだったな
僕は デイ・ドリーム・ビリーバー そんで
彼女は クイーン

ずっと夢を見て いまもみてる
僕は デイ・ドリーム・ビリーバー そんで
彼女は クイーン

ずっと夢見させてくれてありがとう
僕は デイ・ドリーム・ビリーバー そんで
彼女が クイーン
299仮面ライダー高鬼番外編「白日の夢」:2006/08/09(水) 23:24:22 ID:rS1S5TSs0
さっきまでザルフが珈琲を飲んでいたオープンカフェに、二人は座っていた。
「……マジで?」
あまりにも突然の事に驚くザルフ。
「本当です。エリス・ワイゲルト。DMC西独逸支部所属の『クイーン』です。これが身分証です」
エリスは、さっきまで豊太郎と会話していた時とはうって変わって事務的な口調で話し出すと、財布の中から自身の身分証を取り出した。
「あ〜、その……さっきは馬鹿とか言っちゃってごめん。でもやっぱり信じられない……」
ザルフがそう思うのも無理は無いだろう。「クイーン」は現場で狼の指揮を執る役職だ。生半可な人間には勤まらない過酷な役職である。
「触ってみますか?」
そう言ってくるエリス。試しに彼女の腕を触ってみると……。
「うわ!凄い硬い!」
見かけによらず逞しい体のエリスに驚きを隠せないザルフ。ぺたぺたと彼女の体中を触りまくる。
「確かに触っても良いとは言いましたが、これ以上は止めていただけませんか?」
「や、これは失礼」
エリスはバッグの中から書類の入った封筒を取り出した。
「しかし、よりによって当のオーガに遭遇するだなんて……」
「俺なんかもうちょっとであの世行きに……」
と、突然「わああああああああああああああああ!」という絶叫が聞こえてきた。
「そういえば豊太郎さんの事をすっかり忘れていました……」
だが時既に遅く、豊太郎はもう遥か遠くへ走り去っていった後だった。
「あれ、彼氏?」
「ええ。ちょうどあなたと会う約束の日にデートに誘われたものですから、一緒に伊太利亜に……」
ほんの少し困ったような顔をしてエリスが答える。
「豊太郎さん、どうやら何か誤解をしているみたいですね……」
「追いかける?」
「いえ、任務が最優先ですから。では予定通り情報交換を……」
彼氏が大変な事になっているというのに冷静な態度を取り続けるエリスに驚きを隠せないザルフ。
「オーガがこの国に現れた以上、一刻の猶予もありませんから。違いますか?」
淡々とそう告げるとエリスはザルフの反応を窺った。
300仮面ライダー高鬼番外編「白日の夢」:2006/08/09(水) 23:25:06 ID:rS1S5TSs0
夜の街を黙々と歩き続ける黒尽くめの大男=オーガの前に、一組の男女が現れた。男の方はスーツにシルクハット、女の方はドレスという出で立ちだ。
男の方がオーガに向かって話し掛けた。
「やあ。いい加減そろそろ僕達の仲間になってくれないかな、バキ」
男女を睨め付けながらオーガが静かに答えた。
「今その名を名乗っているのは俺じゃねえ。今の俺の名はオーガだ」
「じゃあオーガ。君の力があれば僕等も色々と助かるんだよ。君のように騒乱を求める者にとって、悪い話じゃないと思うけどな……」
あくまでも無表情のまま男は話続ける。女はその横で冷たい微笑を覗かせるだけだ。
「馬鹿が。俺は誰にも縛られんぞ。何よりも貴様等魔化魍の下に付くなど、反吐が出るわッ!」
臨戦態勢を取るオーガ。
「ふん、朋輩の血を食らった外道の分際で……」
冷たく言い放つ女。
「はははははは!……俺は女相手だろうと容赦はせんぞ」
殺気を発し、今にも飛び掛からんばかりのオーガを男が制した。
「僕達も君とまともに戦う程愚かじゃない。残念だけど今回は諦めさせてもらうよ」
そう言ってその場から立ち去ろうとする男女。オーガもあえて攻撃を仕掛けるような真似はしなかった。
「あ、そうそう。一つ知らせておくよ。日本で動いている傀儡達が色々と面白い事をやっているみたいだよ。たまには帰ってみたら?」
それだけ告げると二人は闇の中に溶けるかのように消えていった。後にはオーガ一人が残った。
「ふん。今更国に帰るつもりは無い。俺の息子どもが何とかするだろう……」
そう呟くと、オーガもまた夜の闇の中へと消えていった。
301仮面ライダー高鬼番外編「白日の夢」:2006/08/09(水) 23:26:02 ID:rS1S5TSs0
勝手に早とちりをして傷心状態となった豊太郎は、留学という当初の目的も何処へやら、飛行機を予約すると翌日の便で早々に日本へと帰国してしまった。
ここまで取り乱すのは、彼が今まで恋愛というものを碌にした事がなく、エリスとの日々が人生初の大恋愛だったからである。
帰国後も彼はずっと彼女への想いを引き摺ったまま暮らしていた。そんな生活を一月近く続けた後、漸くこのままでは駄目だと気付き、気持ちを切り替える事を決意した。
そして豊太郎が真っ先にやった事、それは……。
――日本に戻って『猛士』という名の組織を当たってみろ
あの鬼に興味を持った豊太郎は、鬼が残していった言葉を信じ、あらゆるコネを駆使して「猛士」という組織について調べ始めた。
その結果、彼は鬼を知り魔化魍を知り、いつの間にか故郷・島根に本拠を置く猛士中国支部に「銀」として参加していた。
302仮面ライダー高鬼番外編「白日の夢」:2006/08/09(水) 23:27:23 ID:rS1S5TSs0
あれから幾星霜もの月日が経ったある日の事、豊太郎の所属する中国支部に、関東支部から客人が来る事になった。
「何でも聞いた話じゃ、物凄くユニークな人らしいです」
中国支部長の東真一郎が豊太郎と「金」の佐野学にそう告げる。
「伊太利亜から来た人らしいです。私も冒険旅行が好きで、伊太利亜には昔行った事があるから実に楽しみです。わっはっは」
そう言って豪快に笑う東。
一方豊太郎は、あの日の伊太利亜での出来事を思い出していた。最初で最後の大恋愛が終わった日、そして自分の人生を大きく変えたあの日の事を……。
(エリス……君は今、遠い異国の地で何をやっているんだい?)
あの、やけに軽そうな白人男性とよろしくやっているのだろうか。そう思うとふつふつと怒りが込み上げてくる。
そして、とうとう関東からの客人が出雲蕎麦屋の暖簾を潜ってやって来た。
「ピアチェーレ!関東支部所属の弦使い、ザンキだ!よろしく!」
その顔を見て豊太郎は凍りついた。あの日、自分が鬼と話している隙にエリスを奪い取った憎き白人男性、そいつが今目の前にいるのだから。
303仮面ライダー高鬼番外編「白日の夢」:2006/08/09(水) 23:28:02 ID:rS1S5TSs0
「豊太郎くん、どうしました?」
わなわなと体を震わせる豊太郎に声を掛ける佐野。しかし、彼の声は豊太郎の耳には入らない。
「……あんた、俺の事を覚えているか?」
静かに、だが殺気の篭った声で豊太郎がザンキに尋ねる。
「いや、別に」
あっさりと答えるザンキ。その態度に、豊太郎の怒りは頂点へと達した。
「この野郎!俺の大事なエリスを奪いやがって!絶対に許さねえ!こ、こ、殺してやる!」
そう言うや否や奥に引っ込んだ豊太郎は、日本刀と猟銃を手に戻ってきた。
「エリス?ひょっとして西独逸のエリス・ワイゲルトの事か?……あっ!あんたはあの時のエリスの彼氏!」
世界は広いようで狭い。まさかこんな所で伊太利亜時代の自分と接点のある人物に出会うとは。ザンキは驚愕した。
「どさくさに紛れてエリスを奪いやがって……。どうせ嫌がるエリスを無理矢理従わせたんだろう。鬼畜め!」
「待て待て、落ち着け!それはお前の勘違いだ。まあ確かにあの後何度かデートに誘ったりプレゼントを渡したりはしたが……」
「やっぱり!」
日本刀を振り翳しザンキに斬りかかる豊太郎。彼の目の色から本気である事を察したザンキは、慌てて店の外へと逃げ出していった。
「待て!」
「だから!それでもエリスはなびかなかったんだって!お前に悪いの一点張りでさ!」
日本刀を振るい、猟銃の銃口をザンキに向けたまま彼の後を追う豊太郎。それを楽しそうに眺めている東。
「よ、よろしいのですか!?あのままじゃ豊太郎くん、確実に警察に捕まりますよ!?」
慌てる佐野とは違い、東の方は至って落ち着いている。
「捕まったら捕まったで保釈金を積めば良い事です。いやぁ、しかし本当にユニークな人が来た。これで暫くは退屈しないで済みます」
「そういう問題ですか!」
そう言うと佐野は二人の後を追いかけて店を出ていった。その後姿を見送りながら、東は饅頭を実に美味しそうに頬張るのであった。

結局、豊太郎の逆鱗に触れたザンキは早々に中国支部から退散したのであった。 了
304高鬼SS作者:2006/08/09(水) 23:30:11 ID:rS1S5TSs0
投下していて気付いたけど、イタリア時代の先代を間違えてザンキと表記している箇所がある…。
まあいいかw
305中四国支部鬼譚 作者:2006/08/11(金) 17:08:15 ID:W82wMAHO0
先代が絡む話は毎回好きですよw

さて、今まで新都社のuploadシステムを使用して連載していましたが、これからは自サイトでやっていくことにしました。
http://www.geocities.jp/hibikigaiden/
これからもご愛顧下さい。
まとめサイト様には、お手数ですがリンクの張替えを宜しくお願いします。
306高鬼SS作者:2006/08/11(金) 21:10:20 ID:TfhLNHUP0
うわっ、今頃気付いた!
>>297の「全ての足を?ぎ取られ」の?は「も」が入ります。
すいませんでした。
307名無しより愛をこめて:2006/08/12(土) 09:05:12 ID:CmiHGhiM0
>>305
サイト開設おめでとうございます!
さっそく掲示板に書き込んできました。
308名無しより愛をこめて:2006/08/13(日) 17:35:11 ID:2dQhePI/0
ちょっと下がり気味なので上げておくよ
309名無しより愛をこめて:2006/08/13(日) 19:01:06 ID:q1GIndqmO
つーか裁鬼って、武志の幹部って聞いたが。
必殺技も、打、射、斬、全部使えるみたいだし。
310名無しより愛をこめて:2006/08/13(日) 20:58:32 ID:15wQFytoO
>>309
幹部って……
現場へ視察に行っては病院送りになるヒトの下で働きたくないなぁ。
311名無しより愛をこめて:2006/08/14(月) 00:41:38 ID:a483loxM0
>>309
古参だからだろ斬打射つかえるのは…
というかどこ情報だよ幹部って…
そして武志じゃなくて猛士な
312燃料投下してみる:2006/08/14(月) 18:45:17 ID:Uw2oeC3RO
『満ち欠ける約束』

真夏の日差しと蝉時雨が、高台に有る寺の裏まで降り注いでいる。
青年は菊の花と手桶を砂利の上に置き、ある墓石の前で膝を着いた。
手桶に張った井戸水から亀の子タワシを取り出し、丹念に墓石を磨くその背には、カバーに入れてある音撃弦が有った。
盆の昼下がり、墓地にはその青年だけしか居なかった。蝉時雨と墓石を磨く音だけが、繰り返されていった。
「よし…… 綺麗になった!」
線香に火を灯し、内ポケットから取り出したサントリーレッドのポケット瓶を開ける。
「……僕も呑めるようになったよ。 ……今日は、一緒に呑もう」
付属していたプラスチックのカップに瓶の中身を注いで墓石の前に置くと、青年は背中から音撃弦を外して掲げた。
「……乾杯、兄さん」
ポケット瓶を口に付け、ゆっくりと傾けようとした背中に、足音が近づいてきた。
「……ソウキさん」
振り向く青年に微笑むと、ソウキは手にしていた菊を墓に供え、静かに手を合わせながら言った。
「……魔化魍が出たらしい。 げんじろうへ行くぞ」
年明けのオロチが終わってからも、魔化魍の発生は増え続けていた。青年は頷き、立ち上がると残ったレッドを墓石に掛け、音撃弦を背負った。
「……約束は、また今度だね。 ……ミチヅキ兄さん」
ソウキとミカヅキが去った墓地には、誰にも聞こえない蝉時雨だけが響いていた。

313名無しより愛をこめて:2006/08/14(月) 20:28:21 ID:Mknlbb5/0
スレ違いなのを承知であえて書かせて下さい。
今日のフレンドパークのゲストが大沢親分の孫と細川茂樹さんでした。
で、来週のゲストがパンツェッタ・ジローラモさん。
今週がヒビキさんで、来週は先代ザンキさんだー!
と、勝手にテンションが上がってしまい、つい書き込んでしまいましたw
314DA年中行事:2006/08/14(月) 21:56:43 ID:ezxhsrV20
読み専でROMってて、うっかりもう14日でした。
お盆SSになっているのかどうか、自分でも良くわからなくなってきましたが、一本投下します。
なんだか長くなったので、今日はその前編です。
315番外 「集う獣」:2006/08/14(月) 21:59:09 ID:ezxhsrV20

蝉が頭の上でとりつかれたように鳴いている。
太陽は既に地面を焦がす勢いで、容赦なく照りつける。
暑い。
それだけなのだが、酷く不快だ。汗はだらだらと流れ落ち、身体の中は火を飲んだように火照る。

ドドン、ドンドンドンドン
ドドドン、ドンドド、ドコドコドコドコ・・・・・

父親譲りの立派な体躯の少年が、自分の倍近くもある大きな太鼓を叩く。力任せに。苛立ちを隠す事無く。
早朝の空気はびりびりと震えるが、聳え立つ林の木々がそれを吸い込んでいく。
年輪を刻んだ杉の陰で、奇妙なカラダの獣たちがその音を聞いている。本来ならその清い音の波紋を、何よりも愛してやまない獣たちなのだが。
「駄目だ駄目だ!!何やってるんだ!」
途端に、厳しい言葉が飛び、太鼓の音は止んでしまった。少年の父親である。
少年は遠慮なく「はっ」とため息をつき、唇をとがらせると、父親を恨みがましい目で睨む。
「ただ叩くだけだったら誰でもできるって言ったろう!」
父親は不貞腐れた様子の息子から目をそらさず、尚も厳しく言い放つ。夏休みが始まって、親子でこの社に鍛えに来てからというもの、毎日繰り返している言葉だ。
「だって・・・・」
「魔化魍に『だって』なんて言葉が通じるもんか!」
父親は、鬼。鬼に成って、地上で唯一人間を捕食する生き物、魔化魍と闘い、清める事を生業としている。
そして自分は、その鬼の息子として産まれたのだ。
316番外 「集う獣」:2006/08/14(月) 22:00:27 ID:ezxhsrV20
「一歩間違えれば死んじまうんだぞ。お前だけじゃない、たくさんの人が命を喪う結果になるんだ。練習だからって手を抜くヤツがあるか!」
そんな事、言われなくたってわかってる。少年は返事をするかわりに俯いて、唇を噛んだ。悔しさで、目の前がぼやける。
「もう一度最初からだ。ほら、泣いてるヒマがあるんなら、太鼓叩いてみろ」
中学に進学して数ヶ月がたち、やっと馴染み始めたクラスメートたちは、今頃みんな何をしているだろう。明け方までゲームをしたり、仲間同士でプールに行って泳いだり、エアコンの効いた部屋でぼんやりテレビを見ていたりするのだろうか。
それに引き換え、自分ときたら。
連日の鍛えで、身体のあちこちは鈍く痛み、朝の七時の段階で、自分の汗に溺れそうになっている。その匂いに寄って来るのか、薮蚊に刺された耳たぶの痛痒さも、少年の苛立ちを倍加させる。
「ぼやぼやするな!!」
なんで、自分だけ。
どうして親に叱られていなければならない?こんなに朝早くから。他の子はまだみんな眠ってる。何故自分だけが汗みずくになって、自分の部屋ではなく、こんな山奥の薮蚊だらけの神社で、太鼓を叩かなきゃいけないんだ。
練習用で鬼石の嵌められていない木製の撥が一本、少年の手から滑り落ちた。
乾いた音が、予想以上に大きく響く。
その音に顔を上げた少年は、今度は明確な意思を持って、もう片方の手に残った撥を、思い切り太鼓に投げ付けた。
ゴボン、と濁った音を立てただけで、キッと張られた皮は破れる事無く、投げ付けられた撥を軽々と少年に弾き返す。
咄嗟に傍にいた父親が、少年の顔目掛けて跳ね返る撥を、空中で掴み取った。鬼として鍛え上げた反射神経でなければできない早業なのだが、それすらも今の少年にとっては面白くない。
「撥は投げるもんじゃねえだろ。鬼に成るなら、叩いてみせろよ」
父親は、怒っている。神聖な太鼓に撥を投げ付けた自分に怒声を上げないのが、何よりの証拠だ。
「・・・・・・んだよ」
小さく、か細い声で、少年は呟く。そんな声の震えに気がつき、まだ父親に畏怖している自分を嫌悪する。
「誰が鬼に成るって言ったんだよ!勝手に決めてんじゃねえよ!!」
自分に、父親に、夏の鍛えに、魔化魍に、この暑さに、少年は全てに苛立ち、吐き捨てると全速力で駆け出した。
317番外 「集う獣」:2006/08/14(月) 22:02:48 ID:ezxhsrV20

八月も半ばにさしかかると、山奥の杉木立と言っても、なかなか涼を得られない。
太陽は3時間も前に上っているのだ。
人の背丈ほどにも生い茂った夏草からは、かすかに露を含んだ清涼な香りがするが、陽光に晒されるとたちまち濃い草いきれに変わっていく。
「あの太鼓の音は、酷いな・・・・」
「聞いているこちらまで苛々してくる」
人の耳には聞こえない声で、機械のカラダの獣たちがヒソヒソと会話している。
「何が足りないのだろう」
「他の鬼たちが叩く音とは少し違っていたな」
鬼と契約を交わしたオンシキガミたちは、鬼の奏でる清い音を何よりも愛する。生命の脈打つ肉体を維持する上で必要な営みを持たない彼らの、心の糧と言っても良い。
「まだ鬼に成らぬ『と』なのだから、仕方が無いではないか」
「ああ、見ろ!『と』が鬼に叱られて泣いているぞ」
「何もあんな風に叱らなくても良いのになぁ」
『と』の不出来な太鼓には心弾まぬものの、それでも皆鬼や鬼を取り巻く人々の事は気になって仕方がない。それが年端も行かぬうちに鬼の修行を始めた『と』であれば尚更だ。
「しかし、鬼とは厳しいものだ。いや、厳しくあらねばならぬ」
「そんな面倒な事を・・・・」
ゴボン、と嫌な音がして、獣たちは何事かと顔を見合わせる。
「・・・・なんという事を!あれではただの駄々っ子だ」
「まだほんの子鬼ではないか。駄々をこねたい時もあろうよ」
「お前、甘すぎだよ。例え子鬼でも、ちゃんと・・・あ、逃げた」
走り出した『と』を、数匹の獣たちがこっそりと追いはじめた。
318番外 「集う獣」:2006/08/14(月) 22:04:01 ID:ezxhsrV20

ドォォン、ドォォォォン

太鼓の音は、風向きで思いがけず遠くまで聞こえる。
父親に追われているようで、そしてどこまで行っても彼の大きな手からは逃れられぬような気がして、少年はさらに走る。
しかし。
少年はある事に気付き、ふと足を止める。
太鼓の音が聞こえてくる、という事は、父は息子である自分を、追って来てはいない。
どうせすぐ帰って来るだろう、くらいに思われているのだろうか。「お父さん、ごめんなさい」と泣きながら許しを請い足元に縋りつく息子を、父は想像しているのだろうか。
冗談じゃない!
俺はもう子供じゃない。親の持ち物じゃない。こみ上げてくる涙を、固く握り締めた拳で拭うと、少年は再び走り始めた。
畜生!畜生!畜生!
鬼である父と、そのサポートをしている母の間に産まれたから、俺は鬼に成らなきゃいけないのか?もっと他の人生を歩んではいけないのか?もっと、楽な。

ドンドコドコドコドコドコ、ドドドン、ドコドコドコドコドコドコドコ・・・・

父は太鼓の鬼ではない。だが、山間に響くこの音はどうだ。力強く、リズミカルで、清浄な音。
自分が産まれる前から、鬼として研鑽を積み、魔化魍との闘いに備え、厳しく鍛え上げた賜物だ。
自分ごときがどんなに頑張っても、父には敵いそうにも無い。いや、もともと自分には、鬼の才能など無いのだ。人を助ける?そんなの、別な人がやればいい。俺は無理だ。
濃い夏色の下生えを踏み分け、力の限り走り続ける少年が、足元に違和感を覚えたのはその時だった。
少年は、地面にぽっかりと口を開けた穴に、落ちて行った。
319番外 「集う獣」:2006/08/14(月) 22:04:59 ID:ezxhsrV20

いつの間に、俺は眠ってしまったのだろう?
最初に考えたのは、そんな事だった。12年生きてきて、多分初めての気絶である。
父親に反発して、撥を太鼓に投げ付け、捨て台詞を吐いて走り出し、穴に落ちた。そうか、だからこんなに周りが暗いのか・・・・いや、暗すぎる。真っ暗だ。
自分が落ちた穴は、どれほど深かったのだろう。天井を見上げても空は見えず、ただひんやりとした地面だけが自分の下にある。
少年は慌てて身を起こそうとして、背中の痛みにうめき声を上げた。
「ご無理をなさってはなりません!」
暗闇の中で、ふいに声が反響した。聞き覚えのない声は、少女のように幼く甲高いが、口調は歳を経た者特有の落ち着きがあった。
「誰?何処?」
上ずった声で、単語だけの質問をする少年の傍らで、小さな白い灯りがぼんやりと灯る。
「私は、シロ、と申します。貴方様のお傍に居ります。どうぞ、踏みつけたりなさいませんよう」
小さな白い灯りと見えたものが、ゆっくりとしなやかな姿を形作る。少年は悲鳴を飲み込んだ。
蛇が、喋っている!!
「大きなお怪我はなさっておられぬようにお見受け致しましたが、御身体はまだ痛みましょう。ゆるゆると、何卒ゆるゆると」
そうか、これは夢だ。俺はまだきっと穴の中でのびているんだ。だから夢に痛みがあるんだ。
白い蛇の言う通りに、少年はゆっくりと時間をかけて立ち上がると、暗闇の中で自分の体を点検した。夢なのに、念を入れて怪我の具合をチェックする自分が、なんだか可笑しかった。
「ここは暗うございます。も少し明るい所へ参りましょう。ご案内いたしますゆえ、こうお出でなされませ」
このシロと名乗る蛇の古めかしい口調は、『たちばな』の日菜佳に似ている。夢だもんな。気が楽になった少年は、蛇の白い体を灯り代わりに、暗闇の中を歩き始めた。
蛇が先を進み、その蛇を踏まないように注意深く歩いていると、自分のすぐ両脇からさわさわと乾いた音が聞こえてくる事に気が付いた。
「ねぇ、シロ」少年は足元の白い蛇に声をかけた。「この音は何?」
「まだ、闇に目が慣れておいででないのですね。見えぬ方が、ようございましょう。貴方様にとっては、あまり気持ちの良い眺めとは、思われませんでしょうから」
320番外 「集う獣」:2006/08/14(月) 22:06:57 ID:ezxhsrV20
白い蛇はそう答えると、「シャッ、シャッ」と鋭い音を出した。まわりのさわさわが、一層大きくなる。良くは見えないものの、両脇の壁が波打ったように感じられ、少年は総毛立った。
「どうぞお気になさらず。このシロめが、貴方様には一切手出しせぬよう、奴等に言い聞かせておりますゆえに」
少年は思い切り走り出したくなる衝動を必死に堪え、震える息を吐き出すに留める。ああ、だって俺は子供じゃないもの。
その間にも、白い蛇は短く威嚇の音を出し続ける。少年はうっかり壁に手を付いたりしないように、両腕を胸の前で組んだ。かなり、固く。
「寒いのですか?」いつの間に振り向いたのか、白い蛇が少年を気遣う。
「・・・・別に」
ただ、ムカデやゲジゲジがキモチワルイだけ。言いそびれた言葉が、嘘をついたような罪悪感を産む。夢の癖に!胸の内側のイライラは、少年を我儘にした。
「まだ明るい所に着かないのかよ」
「今少し、ご辛抱下さいまし。じきでございます。ほら、ご覧遊ばしませ」
ふぅっと、まわりが少しだけ明るくなり、例の気色の悪いさわさわという音が止む。
どうやら、自分は洞窟の中にいるらしい。薄気味の悪い岩盤の隙間を抜け、少し開けた所にでてきたようだ。だが、この灯りはどこから来ているのだろう。見上げても岩の天井があるばかりで、空は見えない。
「ようご辛抱なさいました。子供といえども、流石は鬼。弱音ひとつ吐かず、シロの後を付いて来て下さいました」
あやすような口ぶりに、少年はムッとして唇を尖らせる。蛇の癖に。俺の夢の癖に。
「俺は子供じゃねぇし、鬼でもねぇよ」
その言葉に、夢の中の蛇は、ほほほ、と笑う。「左様でございましたね。失礼を致しました。ささ、次の者が参りました。貴方様のご不興をかった蛇めは、ここで下がらせて戴きましょう」
見れば、いつから居たのか、目のくりくりした坊主頭の少年が、こちらを見上げている。小学校の中学年くらいにしか見えないのだが、賢しげな顔つきや時代錯誤な格好から『一休さん』を連想させた。
「シロ殿ご苦労。後は私が引き受けました」
少年の胸ほどしか背丈が無い『一休さん』は、シロにそう挨拶すると、子供らしい無邪気な笑顔でにこりと笑った。
「桜達と申します。貴方様のご案内役ができる事、身に余る光栄でございます」
321番外 「集う獣」:2006/08/14(月) 22:08:31 ID:ezxhsrV20

胸の奥をちりちりと焦げ付かせているのは、走り去った息子を追わなかった父親も同じだった。
『誰が鬼に成るって言ったんだよ!』
息子の言葉は小さな棘になり、動くたびに思うたびに、父親を責める。
恋人から妊娠を知らされた時、漸く鬼として一人立ちしたばかりの自分が家庭を持っていいのかどうか、迷う自分に降り注ぐ雨の冷たさ。妊娠を喜ばない様子の自分に見切りをつけ、「一人で産んで一人で育てるから!」と言い放った恋人の背中。
その顛末を知った、師匠の元サポーターから問答無用でローリングソバット混じりの説教を喰らった時の血の味。許しを請う自分に、恋人が無言で差し出した茹でたてのとうもろこしの甘い匂い。二人の結婚を祝ってくれた同僚たちの笑顔。
そして――――息子が生まれた日の、あの何にも代え難い歓喜と安堵。
初めて高い熱を出した日、初めて笑った日、初めて立った日、初めてパパと呼んだ日、初めて・・・・・・・・
初めて、鬼の自分を見せた日。
あの子は、泣きもせず、太陽のように笑って、額の角を柔らかく湿った小さな小さな手で、しっかりと握り締めた。俺は、あの時、お前を鬼にすると決めたんだ。
『勝手に決めてんじゃねえよ!!』
そうだ。そうだな。お前の言うとおりだ。俺はお前に、俺の生き方を押し付けていた。お前もう、中学生なんだもんな。
太鼓の音が、止まる。
清い音に合わせて太鼓の周りに踊りの円を作っていたオンシキガミたちが、不審そうにこちらを見ていた。
その向こうから、見覚えのある二つの人影が現れた。鍛えに入った親子を受け入れてくれている藤岡老人と、もう一人は、イブキだった。
「暑いのに、精が出るねぇ。朝メシ忘れたんかと思って、持って来たよぅ」
藤岡老人はそう言うと、イブキに持たせている大きな包みを指さした。
「藤岡さんの作った玉子焼き、絶品ですよ」
藤岡老人特製の、甘いダシ巻玉子を一足先に試食したイブキが、荷物持ちをかって出たのだろう。ずっしりと重そうな風呂敷包みを見て、自分もそうだが息子も朝食前だった事に気付いた。
「おや、あんたの弟子は何処に行ったんだね?」
あたりを見回して、藤岡が訊く。妻に先立たれ、一人暮らしの長い老人は、まだ中学生の息子を孫のように世話してくれている。気は重いが、さっきの顛末を語らなければならない。
322番外 「集う獣」:2006/08/14(月) 22:09:53 ID:ezxhsrV20
息子が太鼓の稽古に身を入れていなかった事、あまつさえ撥を太鼓に投げ付けた事、反抗的な捨てゼリフを残して何処かへ走って行ってしまった事。
一通り聞くと、老人の顔がみるみる厳しく引き締まった。
「で、あんたはなんでここにいるんだね?」
藤岡とは長いつきあいだが、こんな表情は初めて見た。
「あいつも、一人で頭冷やして考えた方がいいかと・・・・」
老人の変わり様に戸惑いながら答えると、大きな雷が落ちた。
「バカモノ!!」80に近い小さな身体のどこからこんな声が出るのか。耳がじりじりするようだ。老人は更に続ける。「山の怖さを知らんあんたじゃ無かろう!夏の里山なら遭難しないとでも思ったかッ!!」
「しかし、藤岡さん・・・・」
「鬼が『しかし』なんて言葉を使うもんじゃないッ!!」立場がさっきと逆転したな、と父親は叱られながら思う。「いいかね、太鼓の音が変わったのは俺もわかった。あれから1時間だぞ。ウチにも来とらん。どういう事かわかるかね?」
1時間。その言葉が、父親の胸に刺さる。
「今すぐ探しに行きなさい。そして、息子を連れて帰ってらっしゃい」
藤岡が、ようやく優しい言葉をかける。
「僕も手伝います。DAたちにも探してもらいましょう」イブキが音笛を取り出す。太鼓の周りで事の成り行きを見守っていたDAたちに、緊張が走る。
清い笛の音が響き、イブキの手から放たれたDAたちが獣の姿に展開し、林の奥へと消えて行く。さっきまで踊っていたDAたちも後を追った。
「さぁ、残りはあんただ。行きなさい、トウキさん」
バンッ、と背中を叩かれ、トウキは父親の顔になって息子の消えた方角に走り出した。
「弁当が無駄になったなぁ。一生懸命作ったのに」
あっという間に小さくなる背中を見送りながら、藤岡が呟いた。
「大丈夫ですよ。無駄になんかなりません。きっと、すぐに見つかりますから」
イブキもまた、トウキの背中を見ていた。正確には、少年だった頃に見た父親の背中の思い出を。それから、おもむろに携帯電話を取り出した。
323番外 「集う獣」:2006/08/14(月) 22:10:57 ID:ezxhsrV20

周りがぼんやりと明るく見えたのと同時に、足場は悪くなり、縦横に先の見えない穴が多くなった。この桜達という少年を見失ったら、永遠にこの薄気味の悪い洞窟内を彷徨う事になるだろう。
いや、これは夢だ。目が覚めればそれで良いだけの話じゃないか。
そう思いながらも、少年の目は自分の少し先を行く桜達の背中から離れようとしなかった。
「どうか私から離れたりなさいませんように。この辺りは入り組んでおります」
桜達は少年の心を読んだかのように、そう言った。自分の不安まで見透かされたようで、少年はどきりとする。
「ちゃんと道知ってるのかよ」
わざと悪ぶった言い方をするが、本当は不安で不安でたまらない。
「ええ。この辺りの事なら、知らぬ道はありません。特に、この洞窟の中は」
「なんで?」
「山河をくまなく調べる事が、我等の役目。貴方様方が望むなら、行かぬ所はありません」
あなたさまがた――――さっきの白蛇は、俺の事を『鬼』と呼んだ。夢だから当たり前か。でも、夢にしては妙にリアルだ。
「それにしても、今日という日に貴方様が此処においでになるとは。トウキ様なら、きっと御仏のお導きと仰るでしょう」
「父さんを知っているの?!」
「ああ、これは・・・・・」桜達は一瞬口を押え、それから笑った。「お許しを。私の師匠と、貴方様のお父上は名の音が同じでございました」
「知ってるんだね?なぁ、お前たち一体何なんだよ、なんで俺や父さんの事を知ってるんだよ」
桜達が、ふと足を止め、こちらを振り向く。「私どもは、貴方様方と常に共に在りたい、と願ったものたちでございます」ペコリ、と頭を一つ下げると、桜達は再び向き直り歩き始めた。
ある仮定が、少年の頭に浮かぶ。まさか。それなら、これはまさしく夢だ。しかし。
「でもさ、俺、お前たちの期待通りにはなれないよ・・・俺、父さんみたいに強くないし、才能無いしさ」
さっき会ったばかりの年下の少年に愚痴を言っていた。母親にも聞かせたことの無い弱音を。
「強さは生まれながらに持っている物ではありません。だから、師匠の元で鍛えるのでしょう、敏樹様」
324番外 「集う獣」:2006/08/14(月) 22:14:06 ID:ezxhsrV20
誰もが最初から強い訳じゃない。だから、鍛える。鍛えて、鬼に成る。そして人を護り続ける為に、もっと鍛える。
敏樹は父親が傷だらけで戻って来るのを、何度も見ている。でも、傷が癒えればまた出かけていく。
戻って来るのが、当たり前だと思っていた。強い鬼だから。魔化魍を倒すだけの力がある鬼だから。
そうじゃない。父は自分たちの元に戻って来る為に、あれだけ鍛えているのだ。魔化魍と闘う為に。人を護る為に。
「私はね、敏樹様」歩きながら桜達が言う。「貴方様が羨ましいのです。ご立派なお師匠様を父に持つ貴方様が。私には、父も母も居りません」
「・・・・死んだの?」
「はい。父の事は良くわかりません。母は罠にかかって皮を剥がれました」
「そんな、酷い」
「もう、随分昔の話になります。二親は居りませんが、心から尊敬できるお師匠様と巡り逢う事ができました」
「そのお師匠様も、鬼だったの?」
「はい!それは強く、厳しい鬼でございました。あのお方にお仕えした事で、私は久遠に鬼の傍にいようと心に決めたのです」
「鬼の、傍に?君は鬼にならないの?」
「敏樹様、私は」振り返る桜達の目が、炎の色でゆらめく。「人の身ではございません」
ぽん、と音がして薄い煙がたちこめ『一休さん』と見えた幼い顔が、犬に似た獣の顔に変わる。同時に尻からふさふさと毛の生えた尻尾がぶら下がった。
「うわ!」
思わずしりもちをついた敏樹に差し出された桜達の手は、獣の爪がついたそれではなく、すべすべした人の手だった。
「鬼に成れるのは人だけ。貴方様もきっと、良い鬼にお成りでしょう」
桜達の獣の顔が、にこりと笑う。差し出された手は、温かかった。
「私がご案内できるのは、ここまでです。次のものがあそこに待っております」
桜達が指さす先を見ると、白地に茶の斑が入った垂れ耳の大きな犬が、棒を咥えて千切れんばかりに尻尾を振っていた。

                                                                        番外「集う獣」後編へつづく
325弾鬼SSの筆者:2006/08/15(火) 00:44:31 ID:g+5A60lR0
ご無沙汰しています。
前回の投下から、長々と間が空いてしまいました。
コウキSSさんとのコラボSS(と、言っていいものかどうか)の後編が書き終わりましたので投下したいと思います。

コウキSS様
今回のSSを書いていて、色々と勉強になりました。各々の書き手の個性を表現しつつ、矛盾が無いように書く事の難しさ、
そしてそれをこなすコウキSS様の表現力には素晴らしいの一言です。
それと、今回のSSでヤミツキと黒風のその後を勝手では有りますが、書きました。
直接的な書き方ではないとは思いますが、コウキSSさんが今後ヤミツキ&黒風関係の作品を執筆される際に、影響が出るようでしたら
黒歴史並みに闇に葬ってくださると助かります。
それとは話が別ですが、ギリシャの聖闘士には翌日、軽く筋肉痛になるほど笑わせていただきました。

先代斬鬼SS様
先代斬鬼の扱いは・・・自分にはムリです(笑)
書いて判りました・・あれはひとりでに暴走するキャラの典型ですね!
私には制御不可能でした(笑)

中四国支部SS様
サイト開設おめでとうございます。
コナユキさんのファンとしてはコナユキさんの活躍がもっともっと読みたいと思っております!

凱鬼メインストーリーSS様
明るい、あきらというのは読んでいてとても新鮮でした!
続きを楽しみにしています!

326高鬼コラボSS後編:2006/08/15(火) 00:46:17 ID:g+5A60lR0
周囲の雲が猛スピードで後方へ流れていく。
ヘリの座席に座るコウキは、ある疑問を口にした。
「一体、九州支部のこの設備といい、支部の建物といい、どこからこのような費用が出ているのだ・・・」
確かに、この設備の豊富さは異常とも言える。先程のザンキの言葉からすると、コレと同様の移動設備があと二つはあるはずだ。コウキの疑問に、操縦席の青年が口を開いた。
「それは・・ですね、海道さんの個人所有物だからですよ」
「何!?個人所有だと?」
「はい。要点だけ掻い摘んでお話しますと・・・」
青年の口から九州支部の謎が明かされ始めた。
第二次世界大戦が終戦した日本は焼け野原と化していた。
現支部長、海道 始は奇跡的に無事だった家族と共に、貧困の中を暮らし生き延びた。
海道家は明治維新後から続く工場の経営者であり、始自身はそれなりに裕福な家庭で生まれ育った。それだけに、この貧しい生活は彼にとって生きた地獄の日々だった。
そんな中、始の父である序太郎は、焼け野原となった地を這いずり回り、鉄屑やレンガ、果ては日本軍試射場後を掘り返し、銃弾などを拾い集め、それを売り払い金に変える日々を過ごしていた。
元工場経営者という自尊心をかなぐり捨て、ただ家族をやしなう為に泥にまみれる日々。
それを両の眦に焼き付けて育った始は、まだ幼かった弟を引き連れ、父と同じく鉄屑を拾い集める日々に追われた。
事態はここで好転する。
様々な地から拾い集め、相当な数になっていたスクラップ類が、それまでとは破格の値段で買取をされた。理由は朝鮮戦争である。
米軍は、戦争を遂行する為の物資をアメリカ本土から取り寄せるよりも、日本で調達する方が速く・安上がりであると考えた。モノを作るには素材となる物が多く必要だ。破格の値段で買い取られたのもそう言った理由からだ。
それによって生まれ出でた物、それがいわゆる所の『戦争成金』と言うやつである。
多額の金を手にした序太郎は次の行動が早く、手にした金を元手に工場を開設、米軍が望むものを作り上げ、収める。元工場を経営しただけあって、下地が出来上がれば後は早かった。
工場を拡大・人員雇用の増加。それに伴う生産・売上の増加。
苦しい貧困の時を乗り越え、海道家は再び過去の栄光を取り戻した。
327高鬼コラボSS後編:2006/08/15(火) 00:47:38 ID:g+5A60lR0
それから時は流れ、父・序太郎の死去を境に、始が会社を継ぎ、不動産業務や衣類製造等、会社を更に大きく発展させていった。
当時の始にとって父の死は哀しいと言う言葉では表しきれなかったが、それを乗り越えて、恩返しとばかりに会社を拡大させていった。
今までの人生は順風満帆とは言いがたいが、これまでの不幸を裏返すかのように幸せな事が続いた。
結婚・第一子の誕生。弟達の成人。第二子の誕生。弟の結婚。
少年時代がウソのように光り輝く人生の中・・・・またしても闇が・・突如降りかかった。
弟家族達とのキャンプ旅行。そこで悲劇が起きた。
テントを張った場所から離れた小川で、次弟の続と釣りをしていた時・・・キャンプ地が炎に包まれた。それを目撃し、キャンプ地に戻った時・・・愛しい家族は・・・家族親戚達は、全身を焼かれ生き絶えていた。
悲しみの慟哭が木霊する中、その事態を引き起こした張本人が現れる。魔化魍・カシャだった。
目の前で焼き殺される弟。次は我が身と脅えた時に、何者にか助けられた。
意識が混濁していた為か、姿などハッキリと覚えてはいなかったが、
『音撃打!逢魔ヶ刻の型!』と言う叫びと、それに伴って起きた爆発はハッキリと覚えていられた。
意識を取り戻した後、自分を助けた『鬼』という存在と、『猛士』という組織について説明された。
流転の人生。
始は猛士に属する事になった。役割は『歩』でも『金』でも『飛車』でも無く『銀』。幼い頃からガラクタを弄り、時には工場で機械を操作し、製品を作っていた事もあり手先は器用だったからである。
その一方で、工場経営も平行して行い、その売上の一部を『猛士』の活動資金に回した。
自分のような犠牲者を出したくは無い。その一身の想いを現実の物とするべく、あらゆる面で猛士に協力し、九州支部長を任されるほどになった。その頃になると、工場は猛士の事を知り、信頼の置ける者に任せ、自身は猛士九州支部長として全身全霊を尽くす事となった。
始が所持していた、土地・ビルをそっくりそのまま九州支部として活用し、彼の趣味でもあったヘリや船舶は、緊急時に使用する移動手段として活用する。
それが・・・九州支部であると、青年は説明した。
「なるほど・・・それでこのような」
コウキは、先程まで顔を合わせていた始の過去を知り溜息をついた。
328高鬼コラボSS後編:2006/08/15(火) 00:49:17 ID:g+5A60lR0
鹿児島県・池田湖/
湖の辺にある小さなみやげ物屋へ足を運ぶツマビキとコウキとザンキ。
『歩』である年老いた老婆と面会し、ヤミツキがここに着てからの動向を聞いた。
「なるほど。じゃ、夜中に退治に向かって・・・それから戻ってないんですね?」
「えぇえぇ。おかしいな〜と思ちょってねぇ、試しに外に出て見たら、わっせか大きな飛沫があがっちょって・・・その後長〜い尾が見えたから・・・・ありゃ〜イッタンモメンじゃねぇだろうか?」
礼を言って老婆と別れ、雑木林の付近に場所を移し、今聞いた事を整理した。
「イッタンモメンなら管の鬼が担当だろ。なんでヤミツキが行ったんだい?」
ザンキが奇妙なストレッチ運動をしながらツマビキに向かって言った。
「確かバケガニが出るということでヤミツキさんが担当することになったんです。予想が外れてしまったみたいですね」
ツマビキが生えている竹から笹を毟り取り、船を折りはじめる。
「しかし、イッタンモメンとなると管が必要になる。こうと判っていれば、支部から予備の音撃管を借りてくれば良かった」
「支部に管の予備は・・・『烈空』しか有りませんよ」
「むぅ・・『烈空』か」
その名にさすがのコウキも難色を示す。
『音撃吹道・烈空』かつてこの地にオロチと呼ばれる巨大魔化魍が現れた時に、それを打ち倒した7鬼の内、1人が使っていた音撃武器で、『烈』の名を与えられた数少ない音撃武器である。
ちなみにザンキが持っている『音撃弦・烈雷』もその中の一つである。弦使いのツマビキが触ってみたい素振りを見せたのも、これが原因である。
「あれ、羽撃鬼さんが引退されて以来、誰も扱えない代物なんですから。次の担い手は・・多分新しい羽撃鬼の名を継いだ人くらいじゃないですかね?もっとも・・・ここ30年くらい、それ程の鬼は現れてないみたいですけど」
折り終わった笹舟に、荷物の中から取り出した式神を起動させる。紙で出来たサルがひょいと笹舟に飛び乗る。
「とにかく、我々で何とかするしかない・・作戦でも練るとするか」
「そうですね・・・そういえば、コウキさんかザンキさん。どちらか遠距離攻撃って出来ます?」
笹船を手に湖面へと移動するツマビキ。それを追うコウキとザンキ。
329高鬼コラボSS後編:2006/08/15(火) 00:51:40 ID:g+5A60lR0
「俺は出来ねぇな」
「私は出来るぞ」
「じゃ、こういう作戦はどうですか?自分、落雷を起こす技があるんですけど、自分にしか降って来ないんですよ。そこでコウキさんの技でイッタンモメンの動きを止めて、その隙に自分がイッタンモメンの真下にもぐり込み、落雷を起こす。
時間は掛かりますけど、これで確実に削いでいけば・・・」
「叩けるかもしれないな」
ツマビキは笹舟を湖面に浮かべ、そっと押してやった。ゆっくりと進んでゆく笹舟。
「コウキさんは、イッタンモメンを相手にされた事ってありますか?」
「二度・・いや、三度だな。いずれも音撃管を用いてでの戦いだったが」
笹舟に乗ったサルが、湖面に浮いていた木の枝をオール代わりにして、湖の中心へと船を進めてゆく。それを見届けて、今度は別の式神を起動させる。
折鶴となった式神はカサカサと音を立てて空へと飛んでゆく。
「どうします?やっぱり今からでも烈空を持ってきてもらいます?自分じゃムリですけど、もしかしたらコウキさんかザンキさんなら、扱えるかもしれませんし!」
次々と式神を起動させ、空に放ってゆくツマビキが、コウキに提案する・・だが、
「だが、実際にヤミツキは魔化魍と戦っていたのだろう?成長前ならばそれも手だろうが、成体になっている以上、そんな悠長な手も使ってはいられん」
コウキも懐から、式神を取り出すと、起動させて放り投げた。
「捜索優先だ!それと・・ヤミツキの捜索もだな」
空に舞った折鶴が二手に分かれて飛んで行った。

式神を放ってから2時間ほどした時、湖面に変化がおきた。
渦巻く湖面。
それとほぼ同時に、数匹の式神が戻って来た。
「あれは!」
「やはり湖に潜んでいたか!」
コウキとツマビキが立ち上がり湖面を睨みつける。そして・・・・
『キィィィィィィィィィィィィィィィィィィ』
渦巻く湖面から姿を現したのは、紛れも無く『魔化魍・イッタンモメン』。
だが・・・
「あ・・れは・・・・」
ツマビキが驚愕の声を出す。
「妙な・・・イッタンモメンは・・・あんな巨大では無いはずだ・・・・」
330高鬼コラボSS後編:2006/08/15(火) 00:53:10 ID:g+5A60lR0
「アマノハゴロモです・・・・」
その言葉にコウキがツマビキに向き直る。
「アマノハゴロモだと?そんな魔化魍は聞いた事が無いぞ!」
「九州支部だけの俗称です・・・。本来は、イッタンモメンの変異体としか伝わっていないはずです」
改めてその姿を見る。
大きく広い翼は本来一対。だが、アマノハゴロモといわれたソレには、更に一対の翼が生えており、尾の長さなど、通常の三倍位以上の長さがある。
その体色は透き通る白。その巨体が天を目指して駆けてゆく。
その姿はなるほど・・・アマノハゴロモと呼ぶに相応しい。
一反の木綿が、空を目指し、天の羽衣となって浮遊する。
「ただでさえ厄介な相手が、さらに変異体だったとはな・・・」
「そもそも、イッタンモメンは古来より鹿児島に出没したという伝承があります。それだけに、変異体も発生しやすいと・・・」
コウキが腰から変身音叉を取り出し、湖面へ向かう。
「長丁場になりそうですね・・・・うぅ・・・き、緊張してお腹が痛くなってきた・・・・」
「気合を入れんか!そんな事では死ぬぞ!」
「は・・はいぃ・・」
ツマビキも緊張の為に痛む腹を押えつつ、脇に置いていたベース型の『音撃弦・弦爪』を手にコウキに続く。
「よし、オジサンも頑張っちゃうぞ!」
ザンキはこの張り詰めた緊張の中、いつものテンションで二人の後に続いた。
立ち止まり・・・音を鳴らす。
二弦一叉の音が響き、コウキ・ザンキ・ツマビキの額に鬼面を浮かばせる。

コウキは赤い炎を身に纏い―――

ザンキは黄金に輝く雷を纏い―――

ツマビキは赤雷を纏い―――

それぞれが鬼へと代わってゆく。
331高鬼コラボSS後編:2006/08/15(火) 00:53:55 ID:g+5A60lR0
アマノハゴロモが、鬼たちに気がついたのか、遥か天空から急降下してくる。
『破っ!』
高鬼が腕を振るい、纏った炎を拭き散らす。飛ばされた炎が蛍火となって消えた。
『ふんっ!』
斬鬼も腕を振り払い、纏った雷を振り払う。振った腕を伝って残った雷がバチチ・・と鳴く。
『う〜りゃぁ!』
爪弾鬼は拳を宙に向けてつき立てて、雷を振り払った。残された雷が天へと昇る。
高鬼は早速『音撃棒・大明神』を装備帯から抜くと、両の足を確りと踏みつけて気合を込めた。
『むんっ!ふ・・・ぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!』
鬼石の先端が一瞬揺らめき・・・そして鬼石を中心に、焔が出現した。
『――鬼棒術・小右衛門火――』
高鬼は勢いよく振りかぶり・・・・
『破っ!!』
火の玉を打ち飛ばした。
だが、その小右衛門火はアマノハゴロモに難なくかわされてしまったが・・・
『ふんっ!』
大明神を握った高鬼が、更に気合を込めると・・・火の玉は爆散し、火の雨となってアマノハゴロモの背に降りかかった。
『いやっは〜!ストライク!凄いねその技』
斬鬼が手を叩いて叫ぶ。
『無駄口を叩くな!次・・行くぞ!』
高鬼が再び、気合を入れて小右衛門火を放つ。それを見て斬鬼も・・・
『よっしゃ!やってみるか』
言って、右手を腰に当て気合を込めた。
鬼闘術・雷電脚のように電撃を足でなく、拳に集中させ・・・
『ふんっ!・・・ってうわぁ!なんか出たァ!?』
気合の声と共に拳を振ると、拳から集中した電撃が玉となって射出され、アマノハゴロモ目掛けて飛来した。
これには、マネをしようとした斬鬼本人が一番驚き、隣で唖然としている爪弾鬼に『見た?見た?なんか出たよな?』と言っていた。
『えぇい!斬鬼!その妙なことが出来るのなら、さっさと手伝え!奴を陸地におびき寄せない事には、作戦を実行する事も出来んのだぞ!』
『ハイハイ!じゃ、やりますか・・・即興鬼法術・雷電砲!』
今度は確りと狙いをつけて、打ち出す斬鬼。
斬鬼の放った雷電砲(仮)で進路を塞ぎ、小右衛門火で足止めをする。それを幾度か続けた結果、アマノハゴロモがを陸地におびき寄せる事に成功した。
332高鬼コラボSS後編:2006/08/15(火) 00:54:58 ID:g+5A60lR0
陸地まで後数メートルの位置までアマノハゴロモが移動したとき、今まで静観していた爪弾鬼が走り出し、水辺に飛び込んだ。太ももまでを水に浸からせて、両手を胸の前で組み、気合を込める。
『破っ!』
『うりゃ!』
高鬼と斬鬼の技が飛来し、アマノハゴロモの動きを止める。
『今だ!爪弾鬼!!』
高鬼の呼びかけと共に、爪弾鬼が組んだ両手を天に突き上げる。
『――鬼法術・迎雷――』
刹那、蒼明な空から稲光が爪弾鬼目掛けて飛来する。だが、爪弾鬼と天の間には、アマノハゴロモが浮遊している・・・・結果・・・
『ピギイイヰヰイヰィ!』
波打つアマノハゴロモの悲鳴が、周囲に轟く。
『まだまだ行くぜぇ!』
斬鬼が、雷電砲を放ち、高鬼も小右衛門火を放つ。今度は足止めではなく、直撃を狙う。
未だに水気の残るアマノハゴロモの皮膚に直撃し、焦げ目を作り上げる。
これには堪らず距離を離すアマノハゴロモ。
『むぅ・・距離を取ったか・・・以外に知恵があるようだな・・・』
高鬼が、臨戦態勢を崩さぬままアマノハゴロモを睨みつける。
『あんだけ離されちゃ、この手には乗ってこないだろうな・・・どうするよ?』
斬鬼が烈雷を肩に担ぎ、腰を捻りながら呑気に言う。
だが、意外な事にアマノハゴロモは距離を取った後・・・物凄い勢いで地面目掛けて突っ込んできた。
『うわっ!』
水面にいた爪弾鬼が特攻の際の衝撃波を受けて吹き飛ばされる。
『くっ!』
地面スレスレを滑空し、高鬼と斬鬼目掛けて突っ込んでくるアマノハゴロモ。すり抜ける際の衝撃波で吹き飛ばされる高鬼。
だが・・・斬鬼の姿が無い。
高鬼が辺りを見回し、アマノハゴロモに目を移すと、アマノハゴロモの背に斬鬼がへばりついていた。
『アイツ・・あの一瞬で飛び乗ったのか!』
高鬼が、その判断力に驚く。
『コレなら音撃斬でイケるぜ!行くぜ、音撃斬・雷神招来!』
烈雷を杭のように突き刺し、寝そべった態勢から音撃斬を放つ斬鬼。
このままイケるかと思った矢先、飛行していたアマノハゴロモが急停止した。その結果、しがみついて斬鬼は前方へ吹っ飛ばされる形になり・・・
333高鬼コラボSS後編:2006/08/15(火) 00:55:44 ID:g+5A60lR0
『あ〜〜〜〜』
間延びした声で弧を描きつつ遥か先の岩場に飛んでいく斬鬼。姿が見えなくなって数秒後・・ゴツンッ!と、いう痛そうな音がかすかに聞こえたような気がした。
『・・・役立たずめ・・・』
『高鬼さん・・それ言いすぎです・・・』
湖面から移動してきた爪弾鬼が、弦爪を構えながら高鬼に突っ込みを入れる。
アマノハゴロモは距離を再び取り、急加速してきた。高鬼・爪弾鬼に接近し、急旋回と共に、イッタンモメンよりも長い尾を振り回し、大地を削った。
『グッ!』
『ウァ!』
長い尾は、加速・旋回の運動パワーと、その長くしなやかな尾本来の質量を合わせた威力を持って、地面ごと高鬼と爪弾鬼を塵のように吹き飛ばした。
舞い散る土砂に半身を埋められてしまう爪弾鬼。
高鬼は、空中で何とか態勢を立て直し、着地と同時に小右衛門火を放つ。
だが、火球が打ち出されたときには、アマノハゴロモは悠々と天に上っており、届く事は無かった。
『これは・・想像以上に厄介だ・・・』
まるで龍の様に大空を飛行し、尾で攻撃を仕掛けるアマノハゴロモ。
『っ・・くそ・・・』
爪弾鬼が弦爪を構え、先ほどの斬鬼と同じようにアマノハゴロモがすり抜ける際に、飛びつこうとしたが、やはり衝撃波に吹き飛ばされてしまう。
地面を転がり、崩れ落ちる爪弾鬼。弦爪を杖のようにして立ち上がろうと力を込めた時・・・
『・・う・あ・・』
爪弾鬼の眼前には、まるで鷹の足に酷似したアマノハゴロモの足が迫っていた。
弦爪で切り払おうにも、杖代わりにしている上、態勢も不安定・・・・遂に掴まれそうになった瞬間、横合いからの衝撃を受けて、爪弾鬼は吹き飛ばされた。
『高鬼さんッ!』
アマノハゴロモの足に掴まれそうになった瞬間、高鬼は体当たりで爪弾鬼を逃がそうとした。だが、運悪く高鬼自身がその足に捕まってしまい、高鬼は空高く連れ去られてしまった。
高鬼の腕周りよりも太い足の指が身を締め付け、額の角よりも鋭い爪が皮膚を抉る。
高鬼は何とか逃れようと力を込めるが、益々締め付けが強まる一方だった。
『ぐっ・・・』
猛スピードで天に向かい飛行するアマノハゴロモ。風圧で身が切り裂かれそうな中・・・・
334高鬼コラボSS後編:2006/08/15(火) 00:56:57 ID:g+5A60lR0
『――鬼法術・焦熱地獄――』
全身に力を込め・・・体から炎を噴出す高鬼。足を焼かれ、これには堪らず足を離すアマノハゴロモ。
締め付けからは開放されたが、50m近い空中に投げ出されてしまった。
眼下に広がる風景が、湖だったならばダメージは僅かで済むが、残念な事にアスファルトで舗装された道路が広がっていた。
『こ・・高鬼さん!くそっ!』
爪弾鬼が落下してくる高鬼を受け止めるべくその場から走り出すが、距離が思った以上に離れていた為に、間に合うかどうか・・という所だった。
足に力を込め、腕を振り、意地でも間に合わせる・・とばかりに疾駆する爪弾鬼。だが、その横を一陣の風が走りぬけた。
『ッ・・アレは!』
強く張った四肢に、風に靡く鬣は柳のように・・・
「ド ガ ア ア ア ア ア ア 」
『黒風!と、言う事は・・』
爪弾鬼はつい立ち止まってしまい、その周辺を探る。
『ようよう!待たせたな爪弾鬼!』
爪弾鬼の後方から、鬼に変身した闇月鬼が駆けてきた。
黒風は、爪弾鬼を凌駕する程の速さで駆け、ある一点で宙に跳ねた。そして・・・空中で高鬼を背に乗せ、アスファルトの地面に皹入れ、粉々にするほどの轟音とともに地面に着地した。
濛々と上がる粉塵の中、黒風は両前足を高々と宙に上げ、嘶いた。
『こいつは・・闇月鬼の馬か!』
黒風の背に乗った高鬼が、鬣を撫ぜながら乗者の名を呼ぶ。
次の瞬間、物凄い速度で闇月鬼の傍まで駆け出し、闇月鬼の目の前で停止する。
『ようし、よし!俺の言いつけ通り高鬼を助けたな!よくやったぞぉ黒風!』
「ガ ア ア」
闇月鬼に鬣と顔を撫ぜて貰い、身を震わす黒風。
『無事だったか、闇月鬼!今まで何処に居たのだ!』
黒風の背から下りて、闇月鬼に詰め寄る高鬼。
『がなりなさんな!アイツに吹き飛ばされちまって・・・妙な式神に起こされるまで気を失っていたってワケよ。いやぁ、面目無い・・なぁ?黒風?』
「グ オ オ !」
再び嘶く黒風を撫ぜ、
『だが、戻ってきたからにはキッチリとしめさせて貰うさ』
335高鬼コラボSS後編:2006/08/15(火) 00:58:43 ID:g+5A60lR0
闇月鬼は黒風に跨り、音撃弦・風邪を構え、未だ天空を泳ぐアマノハゴロモを睨みつけた。
それに倣い、音撃弦・弦爪を構え、闇月鬼の横に付く爪弾鬼。
『心配しましたよ・・ホントに・・・無事でよかったですよ・・・』
『ん?ハッ八ッハァ!お前に心配されるとは、俺もヤキが回ったもんだ』
ゴゥ!と音を立てて、アマノハゴロモが特攻してくる。
『さて・・一度ならず二度も同じ手はくらわん!その翼――――』
黒風が地を蹴り、その場から走り出す。
手綱を左手で操り、右手に握った風邪を風に靡かせアマノハゴロモに向かい特攻する。
それを見て、高鬼が小右衛門火を打ち出す。
火球は大きく弧を描き、闇月鬼を追い越し・・・アマノハゴロモの目の前を通過する瞬間に弾け、花火のように爆砕した。
驚き、空中で静止するアマノハゴロモ。そこへ・・・

『――――貰い受ける!』
地を蹴り、宙へ飛ぶ黒風と闇月鬼。

その姿は正に人馬一体。

だが、未だ遠く・・・届くには、あと僅か・・・

『えぇいっ!』

だが、黒風の背に立ち・・・その背を蹴って更に飛ぶ闇月鬼。

両手で風邪を握り、右の翼の一つに接近する。

『ィィィィエッ!チェストォ!』
気合一閃!翼は切り裂かれ、アマノハゴロモが大きく態勢を崩し、地面へ激突する。
地面に降り立つ瞬間に、黒風が追いつき、その背に闇月鬼を向かえる。
336高鬼コラボSS後編:2006/08/15(火) 01:00:48 ID:g+5A60lR0
『ようし!いいぞ黒風!もう一度だ!』
「グ オ オ オ !」
だが、アマノハゴロモも負けてはいない。三枚の翼を使い何とか宙へ浮かび上がろうとする。
『行くぞ爪弾鬼!奴を再び宙へ戻らせたら厄介だ!』
『はい!』
高鬼の言葉と同時に地を駆け、その身体に弦爪を突き刺す。高鬼も音撃鼓・紅蓮を張り付ける。
だが、アマノハゴロモはその身を震わせて高鬼と爪弾鬼を弾き飛ばす。
特に高鬼は翼で強かに打ち飛ばされ、アマノハゴロモからかなり離れてしまった。
アマノハゴロモの身体に弦爪と紅蓮が残ったまま、少しづつ浮いてゆく体。
『くそっ!何てタフな奴なんだ!』
倒れた爪弾鬼が、身を起こしながら毒づく。そして、走り出し、再びアマノハゴロモに接近すると、長い尾を抱え地に戻るように引きだした。
『ぐおぉぉぉぉ!飛ばせてなるものかあぁぁぁぁぁ!高鬼さん!闇月鬼さん!は・・早くッ!』
『応っ!』
『行け!黒風っ!』
爪弾鬼の叫びを受けて走り出す高鬼と闇月鬼。
先ほど、緊張で腹が痛いなどひ弱な事を言っていたわりに中々どうして・・・だが、少しずつ高度を増してゆくアマノハゴロモ。
その時、必死に走る高鬼の耳に落雷の音が響いた。
見ると爪弾鬼が、自らに雷を落としている。
先ほどの鬼法術・迎雷を使い、意地でも飛ばせまいと踏ん張っている。突き刺さった弦爪にも雷が伝わり、アマノハゴロモの内部を痺れさせる。
『もう・・いっぱぁぁつ!』
再び落雷を起こし、その身に受ける爪弾鬼。だが、いかに雷の気を持つ爪弾鬼でも、これ以上の落雷は危険だった。
そして・・三度轟く雷音。しかも三回連続で響き渡った。
だが、目の前には落雷は一発も起きていない。
高鬼や闇月鬼だけでなく、爪弾鬼自身も不思議に思うなか・・・
『ギィィィィヰヰィヰィィィ』
見えない斬撃が起こり、アマノハゴロモの翼が新たに一枚斬り飛ばされた。
337高鬼コラボSS後編:2006/08/15(火) 01:01:59 ID:g+5A60lR0
『もうちょい踏ん張っててな!』
『斬鬼さん?』
突如耳元に熱い吐息と共に紡がれるのは、先ほど虚空へ飛ばされた筈の斬鬼。
だが、そこに斬鬼の姿は無い。
残った翼を振り、斬鬼の襲撃に備えるアマノハゴロモ。それを見て
『へぇ、俺が見えてるのか?』
烈雷を構え、翼では無く、身体を切り刻んでゆく斬鬼。
常人には知覚はおろか、そこで何かが動いている事すら判らず、鬼ですらも、何が起きているか判らない程の・・動きでアマノハゴロモを圧倒する斬鬼。

ここに居る誰が知ろうか・・

彼は、ザルフという狼である事を。

ここに居る誰が理解できようか・・・

己の姿を消し、通常の3倍、いやそれ以上の速さで動き、相手からすれば時が止まったかのように動くその力を。

その姿はまるで幻のように・・・

その姿はまるで狼のように・・・

夢と現を渡るかのようなその力。

故に―――

―――――その名を、『斬鬼・幻狼』

鬼であり、狼である斬鬼の、誰にも見る事の出来ない姿。
その力を持って、今挑むは、アマノハゴロモ。
338高鬼コラボSS後編:2006/08/15(火) 01:08:03 ID:g+5A60lR0
『頂きっ!』
そして再び斬り飛ばされる翼。上がる悲鳴が呪いの声となって斬鬼の耳に届く。
『見えてるだけか・・・フフ、見えている事が逆に恐怖だろう?』
不気味に笑い最後の翼を切り裂く斬鬼。
最後の翼が切り裂かれたとき、高鬼と闇月鬼がアマノハゴロモにたどり着き、再度音撃の体勢に入る。
『好機到来!』
そして、今まさに音撃打に入ろうと大明神を振り上げた瞬間、斬鬼が幻狼を解き姿をあらわし、高鬼と闇月鬼、爪弾鬼に向かって声を張り上げる。
『さ、ちゃっちゃとラスト決めようぜ!コレが終わったら、美味しい食事と温泉が待ってるからな!』
その言葉を受けながら、それぞれ音撃の体勢に入る4鬼。
『全く、今まで何処に!それに、貴様旅館に付いてくる気か!?』
『さぁさぁ行くよ!皆さん!』
『質問に答えんか!!えぇい!とりあえず後回し、この機を逃すわけにはいかん!』
突き刺さる、音撃弦・烈雷、風邪、弦爪。それには既に音撃震・雷轟、中毒、飛雷がセットされている。
『行くぞ!音撃斬・刺身が食べたい!』
『音撃斬・熱斗破散!!』
『音撃斬・天尊降臨!』
掻き鳴らされる弦楽三重奏。それに重なるように、高鬼の大明神が打ち鳴らされ・・・
『音撃打・炎舞灰燼!!』
凄まじい打撃音が鳴り響いた。
アマノハゴロモの表面に皹が入り・・・爆砕した。
苦戦したワリに呆気ない幕引きだが、それもその筈。
新米の爪弾鬼は別としても、高鬼・斬鬼・闇月鬼の実力は各支部でもトップクラスである。
その三鬼の音撃を同時に受けて無事な魔化魍など、およそ存在するはずも無い。
濛々と飛び散る芥の中姿を現す4鬼。
知るがいい魔化魍よ。
人を捕食する、人の天敵であるのが魔化魍ならば・・・彼らは魔化魍の天敵。清めの音で無に帰す。
その名は―――

『 仮面ライダー
 高き鬼神の化身――――』
339高鬼コラボSS後編:2006/08/15(火) 01:10:18 ID:g+5A60lR0
「おつかれさま〜!さ、まずは軽く温泉に浸かってくるといいわ・・・って、ザンキ君達もいっしょ?」
旅館に着いた時には、辺りは真っ暗になっていた。だが、あかねは食事も取らずにコウキの到着を待っていてくれた。
「すみません、遅くなりました。なぜか、この3人もついて来る事になってしまいましたが・・・」
アマノハゴロモを倒した事を報告した際に、海道がヤミツキ・ツマビキ・ザンキも旅館に泊まって疲れを癒すように言った。その為、コウキの後ろには三人が立っていたりする。
「なるほど、海道さんの計らいなら、何も言わないわ。皆で温泉を満喫しましょう!」
理由を聞いたあかねは、快く三人の参加を承諾した。
とりあえず温泉に入り、新鮮な海の幸と地酒を味わい、再び温泉に浸かる事になった。
湯船に浮かべた盆の上には徳利とお猪口がのせられている。
酔っ払ったザンキはツマビキを相手に、女風呂を覗く段取りを説明していた。
そして、コウキとヤミツキは盆を挟んで飲み交わしていた。
話は尽きる事無かった。
「ヤミツキ・・・私は・・馬に乗ったのは初めてではないが・・・・初めて思ったぞ・・・・・馬とは・・いいものだな」
酔いが回っているのか、若干とろん・・とした口調でそんな事を述べて、お猪口を煽った。
「そうか・・、そう言ってくれるのは嬉しいな。だが、アンタだって馬に乗ってるじゃぁないか。鉄の馬にな」
空になったコウキのお猪口に、酒を注ぎながらそんな事を言う。
「鉄の馬?」
そう言われて考え込むコウキだったが、ヤミツキの言わんとする鉄の馬がオートバイのことと判り、コウキは軽く笑った。
「なるほど・・鉄の馬か。それならば、確かに乗っているが・・・魂が無いさ」
今度はコウキがヤミツキに酒を注ぐ。
「そうでもないさ」
二人の会話に割り込んだのは、先ほどまでツマビキと話し込んでいたザンキだった
340高鬼コラボSS後編:2006/08/15(火) 01:11:29 ID:g+5A60lR0
二人の会話に割り込んだのは、先ほどまでツマビキと話し込んでいたザンキだった。
「どういうことだ?」
「日本には・・・大事に扱ったものには魂が宿るって言うじゃないか・・・たしか『漬物の神』だったか?」
「それを言うなら九十九の神(付喪神)だ。それにしても、どうした?えらくまともな事を言うじゃないか・・・」
ザンキが口にした言葉に、本気で驚きながらコウキが言う。
九十九の神(付喪神)というのは、大事に使用した物に憑き恩返しとばかりに幸せを齎すという・・神のことである。
また、大事に使用せず・・モノを粗末に扱ったモノに取り付き、禍を齎す神であるとされている。
ザンキが言いたいのは恐らく前者の九十九の神(付喪神)の事であろう。
後にザンキは愛弟子となる少年に語る。
『鬼は一人で戦ってるんじゃねぇんだ。人や道具が鬼に力を貸してくれる』
『女と道具は大切に扱えば答えてくれる。だから、ビスの一本まで大事にしろ』
『古きを知り、新しきを知ると言う言葉のように…大切に…扱うからこそ…その価値を…価値を知る事ができるんだ』
コウキからすれば、外国人であるザンキに教えられた気分だった。気分だったのだが・・・・
「フ・・・忘れてくれ。酒に酔って・・・ガラにも無い事を言っちまった俺を・・・」
と、素晴らしくニヒルに決めたザンキのセリフだが・・・・

多分。

いや、恐らくコウキはこの事を忘れてしまうだろう・・・・・・・

彼はザンキが関わる事柄の全てを記憶の奥底に深く深く封印し忘れてしまう為・・・・・

だから、頼まれなくてもコウキはこの事を忘れてしまう。

もしこの場にイブキか勢地郎が居たら噴出してしまうだろう・・・・・。

「なるほど・・魂か・・・」
ヤミツキが酒を煽りながら、その言葉を口にする。
「俺もいずれは引退する時が来る。その時は・・・・黒風を・・・いや、俺と黒風の魂を継承してくれる奴が居れば・・・良いんだがな・・・・」
その言葉を呟き・・・・酒を煽るヤミツキにコウキは無言で徳利を近づけ酒を注いでやった・・・・・
341高鬼コラボSS後編:2006/08/15(火) 01:12:11 ID:g+5A60lR0
――――翌日

コウキとあかね。そして成り行きで付いて来たザンキ、ヤミツキ、ツマビキも一緒という形では在るが・・・本来の目的である砂蒸しを満喫する事が出来た。
途中、ザンキが砂の熱さに耐え切れず、砂をかけてくれる人に向かい『魔化魍・スナカケババア』と口走ってしまい、顔面まで砂を掛けられ、軽く火傷してしまったが、それも良い土産話になるだろう。
昨日の魔化魍退治の疲れを癒し、九州支部に戻る5人。
別れの時が近づいてきた。
店先には多数の女性客が詰め寄っていた。今日は日曜日。休日の中においても花茶屋・かいどうは大盛況だった。
「え〜!うそ〜!バッキさんが居ない〜!」
「バクキさんも、センキ君も居ない〜ショック〜!」
「いいじゃない、コンジキさんだけでも〜」
きゃあきゃあと飛び交う黄色い声の中、コンジキと呼ばれた青年が客に向かって怒鳴る。
「騒々しいぞ雑種ども!周りの雑種どもに迷惑であろう!買わないなら早々に消えろ!」
客に対する言葉にしてはあまりにも暴言だが、それもまたココでは名物と化している。そんな状況を見てコウキとあかねは九州支部に来て何度目になるかも判らない・・・開口した様子でその場を眺めるのだった。
長である海道はそんな様子を見て笑う。
彼は、そんなやり取りが出来るこの日常を『平和』と言う。それは『平和』でない世界を知るが故の一言。『平和』出ない世界を知るからこそ、この日常を『平和』と言う。
そして、彼らはその平和を守る為に魔化魍と戦うだろう。
これからも・・ずっと・・・・
海道が『王』の座を退いても・・・彼を継ぐものが現れ・・・その魂を継承するだろう。
そして次の世代を育て、次の世代がそれを継ぐだろう・・・・
今までも・・そしてこれからも・・・・

そしてコウキも・・・・九州を離れる飛行機の中でそれを想う。
明日からは又魔化魍との戦いの日々だ。
「せっかくの旅行もとんだ騒ぎだったわね」
「ええ・・ですが、いい骨休めにもなったと思います。また明日から頑張りますよ」
その言葉を聞いてあかねも『お互いね』といってファイトを燃やす。
飛行機は雲を突き抜け・・・蒼天を飛ぶ・・・・
342高鬼コラボSS後編:2006/08/15(火) 01:13:41 ID:g+5A60lR0
―――追記/
ザンキは九州支部の滞在を終え、関東支部に戻るはずだったのだが、乗るべき飛行機を間違え沖縄へ向かってしまった。
わざとかどうかは定かではないが、恐らく沖縄支部でも何か起きるに違いない・・・・・・・・・

――――2005/9/18
九州支部の猛士の間から1人の青年が音撃弦を携えて飛び出した。
魔化魍退治の命を受けて、今から向かうためだ。
彼はガレージに向かい、一台の大型バイクに跨った。
かれは一度だけタンクの辺りを撫ぜると・・・・
「よろしくな・・・・黒風・・・」
と述べてバイクを発進させた。
大型バイク『黒風』
1970年代に九州支部に在籍していた鬼『闇月鬼』の愛馬の名前を引くマシンであり、九州支部に在籍する弦の鬼が好んで使用する大型バイクだ。
かつてヤミツキが星空が綺羅と輝く湯船で望んだ魂はこのような形で継承されている。
馬の嘶きのような排気音は、街の雑沓に紛れ込むようにして・・消えた。    了
343弾鬼SSの筆者:2006/08/15(火) 01:22:19 ID:g+5A60lR0
投下しながら思ったことが一つあるのですが、やりすぎたかなぁ・・と思ったりします。

弾鬼SSは、実際にTVにも出てきた鬼のSSなので制限もあるのですが、
今回のコラボSSはそう言った制限が少なかった為、気分転換に書いたのですが
多々やりすぎな部分もあったかもしれません。

滞り気味だった弾鬼SSも終りが近いので、綺麗に完結できるように頑張りたいと思います。

年中行事SS様
いつもほんわかとしたお話が素敵です!後編も楽しみにしています。

纏めサイト様
いつもいつも有難うございます。
今回のSSはもしかしたら量がいつもより多く、大変かもしれませんが、無理をされない程度に頑張ってください。

用語集サイト様
用語集の追加、いつもいつもご苦労様です。
そして・・用語集サイト様・・TYPE-MOON作品もお好きですよね・・・
コンジキさんについては大目にみて頂ければいいな〜とか・・思ったりします(汗)
344凱鬼メインストーリー作者:2006/08/19(土) 02:10:17 ID:5ALlXbso0
>>325
今回はそのあきらが大活躍(?)します。
かなり盛り込んでしまって、一話なのに2話分くらいのボリュームがありますが、読んでやってください。
先に言って起きます、今回は“恋愛”ですからっ!それも純粋なっ!
格闘シーンは少ししかないですからねっ!っていうかカチドキが今回はでませんよっ!
345凱鬼メインストーリー:2006/08/19(土) 02:11:44 ID:5ALlXbso0
六之巻「愛しき風」

2004年4月。
とある公立中学校では始業式が行われていた。
「二年生は三年生に進級しましたね。三年は学校のリーダーです。後輩を引っ張っていき、部活動に受験勉強と大忙しですが・・・。」
そんな始業式も終え、あきらは午後からの入学式も済ました。

東北支部地下。トレーニングルームのようなそれには、二人の男が竹刀を片手に向き合っていた。
「一真・・・おまえもそろそろ肉体的、精神的に鍛える時期になったな。」
「はいっ!」
「今までにも何度か実践を想定してやってきたが、今まで以上に厳しくやる。抜かるなよ。」
「はいっ!」
よし。とイツキがいうと一真は剣道の道着と防具を身につけ、竹刀を床に置き、歯を食い縛る。
バシッ!
イツキの振るった竹刀が一真の脳天を痺れさせ、すかさず脇腹を叩く。
こういった動作を小一時間続け、その間に一真が体を動かすことも許されない。
武道はまず身を守ることから。そのためにある程度の衝撃に耐えられるだけの体を作る。
一真の握りこぶしと額には汗が滲んでいた。

中学校。始業式、入学式を終えた生徒は各々の部活に汗を流し、グラウンドには野球部の意味不明な声が飛び交う。
だがそんな罵声が飛び交う中でも、耳をすませばブラスバンドの音色が聞こえてくるのはいかにもといった雰囲気だった。
その音色の元。音楽室では部員たちが集まって顧問や部長が来るまでの間、コンクールに演奏する「輝」の練習をしていた。彼ら―主に男子部員―は、エレキ調の節に入ると、音を大きくさせ、そのなかでも数人は自前のギターで必死に弦をかき鳴らすのだった。
演奏も終わり、一息つくと、顧問と部長であるあきらが入ってきた。
顧問は満足そうに頷くと、譜面を開いてあきらに号令をするよう促した。
「お願いしますっ!!」と部員全員が挨拶をすると、顧問は口を開いた。
「いよいよ、春のコンクールが来週まで迫ってきた。もうこの期に及んでうるさく言う気は毛頭ない。今の自分に必要なことを自分でやっていけ、わかったな?」
「はい!」
「天美、5時から一回集めて、合わせろ。」
「は・・・はい。」
346凱鬼メインストーリー:2006/08/19(土) 02:13:02 ID:5ALlXbso0
「面!!」
バシッ!竹刀が一真の頭を叩いた。くらっとよろめいて体制を立て直すと、再び二本の竹刀は絡み合い、突き放し、軽く払われては再び面を食らう。
「受けるんじゃない、受け流すんだ!」
そう言われたところで一真にはなかなか感覚が掴めない。
なかなか掴めないので竹刀をイツキに振るうしか手は無かった。
「めーん!」
「・・・・仕方ないか。」
そうイツキが呟くと、イツキは一真の竹刀を己の竹刀で軽く受け止め、流した。
一真はギョッとして隙ができてしまい、今度は胴を思いっきりとられてしまう。
「くっそ・・・!」
今度はイツキの胴を狙うが、ひらりと宙返りされて後ろに回られ、振り向くと眼前に竹刀が突きつけられ、イツキは白眼を剥いていた。
「ヒィッ!?」
「分かったろう。お前は単純過ぎるんだ。」

「じゃあみんな、合わせるよ。」
あきらが部員に呼びかけると、それぞれポジションに着き、顧問は指揮棒を手にして準備が整った。顧問が指揮棒を上に上げ、部員にアイコンタクトを図る。そして、指揮棒は振られた。
それを合図に木琴が前奏をはじめ、金管楽器とドラムは腹積もりをした。そして――。

「今日はこれまで。」
「え・・もう良いんですか?」
「ああ、今日は俺も夕方から忙しくなるからな。」
「もしかして、魔化魍ですか?それなら俺も・・・。」
「いや、そうじゃない。昔の友達と会う約束をな。お前は天美のガキでも迎えに行ってやれっ。」
「あ・・・はい。じゃあ、先に上がらせてもらいますよ?」
「あぁ。」
一真が上に上っていくのを見送ってイツキはコートから一枚の古い写真を取り出した。
「眞澄・・・。お前が逝ってからも、愛す若者は変わらないぞ・・・。」
写真には若き日のイツキと肩を並べる女性が写っていた。
イツキは用意していた花と線香を手に、外へ出て行った。
347凱鬼メインストーリー:2006/08/19(土) 02:14:18 ID:5ALlXbso0
「輝」の演奏は終わり、後片付けを済ませ、部員たちはさっさと帰っていった。
あきらもカバンを取って学校を出ようとした。しかしその脚は止まった。背後で自分を呼ぶ声を聞いたから。
振り向くと同じクラスの男子生徒が少しばかり顔を赤らめていた。
「なに・・・?」
「あのさ・・・前から言おうと思ってたんだけど・・・俺さ。」
「???」
「天美のこと・・・俗に言うと、好きなんだよね。」
「え・・・えぇ!?」
「それで・・・良かったら、付き合ってもらいたい。」
「・・・・・・・・あり得ない」
「え・・・。」
「私が誰かと付き合うなんて考えたことない・・・・帰る。」
あきらはちょっとしたパニックになって校門を飛び出し、学校を出てから直ぐの曲がり角を曲がった。
ドン!
「あ・・・痛っ。」
「あれ、あきらちゃん?」
「か・・ずまくん?」
「ちょっ!なんで泣いてんの?」
そう言い終わるが早いか、あきらは一真に抱きついた。
「泣いてちゃ身体が冷える・・・。とりあえず歩こう?」
あきらは小さく頷くと、泣きながら一真の腕にしがみついて歩き出した。
348凱鬼メインストーリー:2006/08/19(土) 02:15:20 ID:5ALlXbso0
「学校でなにかあった?」歩きながら一真が聞いてみた。
「・・・・うん。」
「泣くほどつらいこと・・・?」
「・・・つらいわけじゃない。ただ・・・ちょっとショックで。」
「・・・・・俺でいいなら・・・・話してくれる?」
「・・・・男子に好きだって・・・付き合ってくれって。でもそんなこと一度だって考えたこともないし・・・なんて言って良いか分からなくて・・・それで学校飛び出してきちゃった。」
「そっか・・・。」あきらが近くのベンチに座り込んで、すすり泣き始めた。
隣に一真も腰を下ろして、気の利くような言葉を頭で探していたが、どれもたいして元気付くようなものはなく、その場を沈黙というなのザルバトーレが支配した。
「でもね・・・。」あきらが泣くのを止めて話し出した。
「私にはちゃんと好きな人、居るんだぁ・・・。」
身長の関係でどうしてもあきらを見下ろしてしまう一真は、不覚にもあきらその人の谷間を凝視してしまった。悲しい習性ではあるが、仕方あるまい。筆者なら釘付けになっていたことだろう。
あわてて一真は見なかったことにして視線を空に切り替える。
「一真くん、聞いてるの?」
「ん・・あぁ。ちゃんと聞いてるよ。空を眺めながらね、空をっ。」
「空じゃなくてさぁ・・・たまにはちゃんと私の顔も見てよ。」
そこまで言われては仕方なく、一真はあきらを見つめた。自分の顔を見ろという割りに、あきらは一真を見ようとはせず、アスファルトを何気なく見ていた。
「私、あの子になんて言おう・・・。別に好きでも無いし・・・。」
「今日のことは謝って、付き合う話は断っちゃえ。」この男、なんてハッキリ言いやがるんだ。
「でもそれじゃあ、その子とはずっと顔を合わせられないよ・・・。」
「顔を合わせたくないなら話さなければいいし、友達で居たいならそんなことどうでもいい。」
「え?」
一真はすっかり暗くなってしまった周りに初めて気がつき、月に向かって手を伸ばした。
「兄貴が言ってた・・・。友という字は、又一人。増えることはあっても減ることは無い。」
決まった!一真はそう確信して、あきらに顔を向けた。
349凱鬼メインストーリー:2006/08/19(土) 02:17:38 ID:5ALlXbso0
思いもよらなかった。あきらの柔らかい唇が、一真のそれに触れた。頭が真っ白になり、状況判断に苦しんだ。
途端に我に帰ると、一真はあきらの身体を自分から引き剥がした。
「あきらちゃ・・・どういうつもり!?」
「やっぱり・・・いけなかった?」
「いけなかったって・・・心臓止まりそうだよ!」
「今の、ファーストキッス。」
「!?」
「だから、もう暗いし家まで送ってって。」
「ん・・・うん。」

一真は戸惑いながらもあきらを天美家まで送っていき、玄関前で別れる間際。
「今日はありがと。おかげで明日学校行ける。」
「うん・・・。そりゃ良かった・・・。」
「それとね・・・もう、ちゃん付けで呼ばないで。いつまでも子供じゃないんだし。」
一真はしばらく考えて、照れくさそうに言った。
「・・・じゃあまた明日な。“あきら”っ。」
「バイバイ。」
あきらに聞こえない距離まで来ると、一真は自分の唇に手を当て、心が弾むのを感じた。

「ただいまー。」
あきらが家に入ると同時に、アカツキが怒鳴っている声が一真には丸聴こえだった。
「・・・・・やっぱ、まずかったよなぁ。」
そう呟くと一真は、今度アカツキと顔を合わせたときのための言い訳を考え始めた。

六之巻「愛しき風」
350凱鬼メインストーリー作者:2006/08/19(土) 02:24:05 ID:5ALlXbso0
ちょいと分け分からん文章があったので補足を致します。

>>348
中盤であきらの胸元から視線をはずし、空を眺め、後半で暗くなったことに初めて気がついていますが、
これはあきらのそれに緊張して空が黒か青かなんてことを考える余裕は無かったんです。
そりゃそうだ・・・。あきらのそれをリアルで見るなんてそんなことあったら(以下自主規制)
351凱鬼メインストーリー作者:2006/08/19(土) 07:11:38 ID:5ALlXbso0
ちょっといつもより早起きしたのでカキコ。

秋山奈々さんのCDというか曲・・・
めぐりめぐってサンプルのプロモーション映像みたいなのを拝見しましたが、
以外に声は低いんですね。秋山さんは。響鬼劇中ではそこまで低いイメージはなかったのに。
不思議なことに清楚なタイプの美人は全般的に声が低いみたいですね。
しっかし、今読み返せば六之巻はヤバイかも・・・。あきらファンには反感を買ってしまうような・・・。
まぁ、私もあきらファンですけどね。
352凱鬼メインストーリー作者:2006/08/19(土) 19:44:38 ID:5ALlXbso0
本日、2話目の投下をいたします。
物語はだんだんと夏へ移行して、白熱をしていくことを予定。
それでは七之巻、どうぞ!
353凱鬼メインストーリー作者:2006/08/19(土) 19:48:46 ID:5ALlXbso0
七之巻「鍛える男衆」

5月某祝日。東北支部の猛士の間にはカチドキをはじめ、イツキ、アカツキ、一真、あきらと支部長が会議を始めていた。
大きなテーブルの上には、東北支部の去年の6月下旬から9月上旬にかけての魔化魍の発生率をまとめた資料が置かれている。
実はこれは昨日、あきらと一真、支部長が取捨選択して5枚程度にまとめ上げたもので、山積みの資料をそこまでするのには一夜がけで寝ずに作業をするほか無かった。
しかし12時を回ると、流石に若い者は寝てしまい、実質的には支部長が一人でやり通したのと同じだった。支部長の仕事の速さには実はこんな逸話がある。
支部長がまだ小さかった頃、その才能の片鱗に感動したザンキと名乗る伊太利亜出身の鬼が、
「こいつはディモールト。ジェバンニに相応しいぜ。」などと呟き、幼い支部長の着ていたTシャツの襟首を掴んで、拉致ろうとしたらしい。
幸い、その場に居たやたらと堅苦しい人物が「ええい、貴様は黙っていろ」と叫び、その伊太利亜人のケツを棒状の物体で幾度も打ったまでは支部長本人も覚えている。
しかしそれが割合親しい小暮耕乃助開発局長その人だとは知る由も無い。小暮自身、その伊太利亜人の鬼のことを忘れているのだから。
もしも再び、その記憶の片鱗が蘇ることになるとすればまだまだ先のお話であろう。
354凱鬼メインストーリー作者:2006/08/19(土) 19:51:25 ID:5ALlXbso0
「コホン・・・それでは本題に入るとしましょう。今日お三方に集まってもらったのはもう既にご承知のことと思います。」
「夏にむけて・・・だな?」アカツキがいつもよりわざと格好つけた喋り方で聞く。
他ならぬ一人娘の前だからでもあるし、普段は照れくさくて会議に出たがらないから緊張しているのも事実。以外にシャイな一面を持っているのだ。
それでも今回出席したのは“一真とケリを着ける為”である。彼にとって、夏の魔化魍よりも心配なのは娘に悪いムシがつかないかということだ。
そんな父の性分を理解していながらも先月のことをスッパリ話したあきらは、よほど自分の見込んだ男に自身があるのだろう。
そのためかあきらは会議中、一真が自分の父親と目が合ってしまったときに小さく悲鳴を上げたことは知らなかった。
「その通りです。アカツキさん。この資料は見ての通り、去年度と一昨年のデータの比較とグラフです。東北支部には、あなた方しか夏の魔化魍を“確実に”清められる人は居ませんから。」
「うん・・・。一昨年と去年じゃ、去年の方が下がってはいるみたいだけど、まだ今年は分かんないからねぇ。とりあえず、もしもって時のために、早めに鍛えときましょうか。」
カチドキがもっともらしいことを発言し、残り数名も賛同したのでこの会議は30分もしないうちに終了した。一人、支部長だけは徹夜の働きが報われずに肩を落として自室に入っていった。
「あーあ・・・支部長、昨日俺たちが寝た後も徹夜してまとめたのに・・・兄貴が即答しちゃったから・・・。」そういって、一真は兄を白い目で見た。
「・・・・・悪いことしちゃったかなぁ。まぁ別にいっか。」
「いや、まぁいっかって・・・。」
「一真、山に行くぞ。」イツキが一真を軽く小突いて外に出し、車の中へ引きづりこんだ。
355凱鬼メインストーリー作者:2006/08/19(土) 19:52:57 ID:5ALlXbso0
「イツキさんっ!もうちょっと手加減してくださいよぉ。魔化魍ですか?」
「イツキ!待て!!」丁度、車のエンジンが掛かったときだったか。アカツキが呼び止めた。
「なんか用?」
「いや、お前には用は無い。用があるのは風巻の方だ。」アカツキは一真を指し、降ろすように目配せした。
「あ・・・アカツキさん、僕に何か?」
「ちょっとお前、こっち来い。」一真はアカツキに手を引かれ、半泣きの状態で支部長の部屋に入れられた。部屋では支部長がテレビで「桃太郎侍」を視聴していた。
急な客に驚いた支部長は何事かと思ったが、一真の泣きそうな顔と、アカツキの風格漂う顔つきでことの大筋は察知した。それでも依然、桃太郎侍を見ている支部長だが、視界の隅にそっと男二人を入れていた。そして遂にアカツキは口を開いた。
「お前、この前ウチのあきらになんかしたろう。」
「い・・・いえ、別にそんな変なことは・・・。」
「ほう。お前は、年端の行かない女子との接吻が変な行為ではない。と?」
「いえ・・・そんな・・・というより、アカツキさんはどこまでその時のことを知ってるんですか?」
「恐らく・・・・全てだろうな。」
「えー・・・・。」
「あきらから聞いた話じゃ、、あきらの方からお前に唇を押し付けたみたいだがそれは本当か?」
「は・・・はい。まぁ・・・。」
「そう・・・か。」
「ア・・・アカツキさん???」
356凱鬼メインストーリー作者:2006/08/19(土) 19:53:40 ID:5ALlXbso0
「全く、子供ってのは早いもんだ・・・生まれたかと思ったらあっという間に小学校。少し目を離しただけで新しいことを始めて・・・。気づいてみりゃあ、いい男前を見つけて、接吻までも交わしてらぁ・・・。」
「アカツキさん?」
「よしっ!あきらはてめえにくれてやる!」
「え?」
「俺も男だ。そしてお前は俺の娘が見込んだ男だ。いつだって嫁にくれてやらぁ!」
「あの・・・それはとても嬉しいんですが・・・僕はまだ17歳ですし。結婚を前提とするなら20〜25を考えた方が。それにあきらもまだ14ですよ?」
「そんなこと、分かりきっていることだ!俺は結婚しろとかそんなことを言ったんじゃない!お前らを認めてやると言ってるんだ。」
「あ・・・・なんだ・・・そういうことですか・・・。」
「お前のような鬼にもなってないガキにウチのあきらをやるわけが無いだろう。」
「あの、なんか最初と言ってることが矛盾しているような気がしますが?」
「知らん。とりあえず俺はもう帰る。支部長、邪魔したな。」
「いえいえ。お二人を見てると面白かったですよ。またやってください。」
「支・・・支部長!」
「冗談だよ、一真君。それより良かったね。認めていただいて。」
「ええ。まぁ・・・。」
「それよりさぁ、君たち、どんなことしちゃったの?まさか○○○や△△△とか?」
「ちっ・・・違いますよぉ!あきらの方からその・・・口を。」
「なるほどぉ!キスかぁー!ベタだなぁ、あきらちゃんも!」
「いや、もう先月のことですからね!?あきらには言わないであげてくださいよ!」
「カチドキ君には?」
「絶対ダメッ!!」
357凱鬼メインストーリー作者:2006/08/19(土) 19:54:16 ID:5ALlXbso0
「イツキさん!」
「おう、一真。アカツキの話は終わったか?」
「えぇ、まぁ。」
「アイツ、娘のことにだけは神経質なんだ。大目に見てやってくれ。」
「いえ、そんな。」
「イツキさん!一真くん!!」東北支部の裏口からあきらが顔を出してきた。
「イツキさん、私も行きます。」
「いいのか?親父さんに言わなくても?」
「お父さん、行っても良いって。ただし危険なことは絶対するなって。」
そう言いきったとき、アカツキもひょっこり出てきた。
「イツキ、こいつにも手伝わせてやってくれ。飯くらいは炊けるからな。」
「・・・そういうことなら、乗せてやっても構わんが。」
「よし、決まりだ。じゃ、あきらを頼んだぞ。」
アカツキの最後の一言は、イツキにというより、一真に向けて放たれたように感じた。
イツキ一行は山へ。カチドキとアカツキは森の中の神社へ向かった。
358凱鬼メインストーリー作者:2006/08/19(土) 19:55:59 ID:5ALlXbso0
山中。
「93・・・94・・・95・・・・。」
「251!・・・252!・・・253!・・・一真、遅いぞ!」
「はい!スイマンセン!」
DAを放ったイツキと一真は例の如く、筋トレで汗を流していた。その傍らで涼しい顔をして見つめるあきら。年頃の女の子が汗だくの男供を眺めて、なにが楽しいのであろうか。
強いて言うなれば、恋は盲目である。
「300回終わったら、次はスクワット100回!」
ひぇ〜。っとあきらが笑いながら言ってみせる。少しばかり一真も勘に触ったが、そんなことで口を開いていてはイツキにぶん殴られるのを予想して、あえて言わないでおこうと思った。

とある神社。ここでは夏が近くなると東北支部の鬼が身体を鍛えにやってくる。
恐山も鍛錬場となるが、あれは鬼の技を磨くためであって、生身の体を鍛えるのには向いていない。そこで猛士の金が管理しているこの神社を生身の鍛錬のために使用しているのだ。
カチドキとアカツキは境内に荷物を置いて中庭に出ると、互いに向き合った。
「それじゃアカツキさん。お願いします。」
「あぁ。」
一枚の花びらが枝を離れた。それを合図にカチドキとアカツキは脱兎の如く駆け出して激しく組み合う。
アカツキがカチドキの型を軸に腹を押し出し、天美家特有の背負い投げを見せた。
「やりますね!」
カチドキは体制を建て直し、跳んだ。アカツキの後ろをとったのだ。
「なに!?」
「もらい!」
カチドキがアカツキの背中を思い切り打った。
アカツキは3メートルほど飛ばされ、木に体を打ちつけた。
「やってくれたなぁ。」
それでも何事も無かったかのように即座に立ち上がる。一体どういう鍛え方をしたのか分からない。
二人は同時に地を蹴って、右手を相手の顔面に突き出した。
「・・・・クロスカウンター!?」
二人はそのまま燃え尽き、真っ白になった。

七之巻「鍛える男衆」
359名無しより愛をこめて:2006/08/26(土) 17:20:51 ID:991OJZVD0
保守あげ
360凱鬼メインストーリー:2006/08/26(土) 19:48:04 ID:hC2plUju0
八之巻「吹き荒れる獣」

五月某日。
会議が早々に終わった後、イツキと一真はあきらを連れ、魔化魍を追っていた。
「・・・・外れです。」
そう言ってディスクをケースに収める一真。筋トレに集中しているイツキを退屈そうな目で見ていたあきらは、ふとあることを思い出し、一真に駆け寄った。
「・・・ねぇ。」
「ん・・・なに?」
「今度の土曜にさ。ブラスバンドのコンクールがあるんだけど、来てくれない?」
「んんん・・・魔化魍が出なかったらね。」
「それには及ばん。」筋トレの手を止め、イツキが突然口を挟む。
「え?どういうことですか?」
「土曜は俺一人でやる。一真は来なくてもいい。」
「・・・ホントにいいんですか?」
「あぁ。それにな・・・」
イツキは一真の耳元でボソッと言ってやった。
「あきらはお前に見ててもらいたいんだよ・・・。」
「ちょっと、何こそこそ喋ってんですか?」
「いや・・・別に。なんでもないんだ。」
「ほんとですか?」
「あぁ、な。」
「えぇ。」あきらは絶対なにかあると思いつつも、聞かないでおくことにした。
361凱鬼メインストーリー:2006/08/26(土) 19:49:31 ID:hC2plUju0
『ケロッケロッ』
草むらからセイジガエルが飛び出してきた。青磁色の愛くるしいDAは瞳を一真に向けると、ジャンプして灰色の円盤に戻った。
「よっと!」
一真は手首にはめた鬼弦で録音された情報を再生すると、しばらくの機械音の後に木々をなぎ払うような轟音と牛のような鳴き声が聞こえてきた。
「イツキさん!」
「あぁ、行ってくる!」音撃弦を手に掴みながらそう言うと、イツキは走って森の奥へと入っていった。
「いってらっしゃい!」
一真とあきらは声をそろえて見送り、元担ぎの火打石を鳴らした。

イツキが歩を進めて森を分け入っていくと、次第に開けた場所へやってきた。
その辺りの木々はみなへし折られ、まるで小さな嵐でも過ぎた跡のようだった。
「こいつは明らかに魔化魍だな・・・。」
イツキが暫く観察していると、辺りに小さな邪気が立ち込めてきた。
顔を見上げたイツキは何度も見てきた顔の男女を確認すると、音撃弦の黒いカバーを外して緋色の刀身をその男女に見せ付けた。
「よう、お二人さん。元気にしてたか?・・・・・ヤマアラシだな?」
「鬼が。」
「殺してしまえ。」
言うが早いか童子と姫は、怪童子と妖姫へ変化していく。
「何だよ、もっとゆっくり喋らないのかよ・・・。」
しぶしぶ。という表現が合うのだろうか。少なくともそんな表情でイツキは鬼弦を鳴らし、額にかざした。
鬼の面がイツキの額に浮かぶ。怪童子がイツキに襲い掛かった。
怪童子の拳がイツキの腹部に直撃した。ニヤリと笑みを浮かべるイツキ。
イツキの体に青の稲妻が落ちる。途端に叫びをあげる怪童子に、目を覆う妖姫。
凄まじい光が徐々に消え去ったあと、既に怪童子は塵へと還っていた。
362凱鬼メインストーリー:2006/08/26(土) 19:51:51 ID:hC2plUju0
「あー・・・痛ぇな、畜生・・・。」
そう言いながら腹をなでる灰色の隈取をした鬼。厳鬼。
「あとはお姫さんか。つっても、そんな見てくれじゃホントにバケモンだな。」
その言葉を理解してか、妖姫は口から針を飛ばしてきた。
「おっとぉ!!危ない危ない!」厳鬼は素早く音撃弦・雷帝丸で針をなぎ払う。
「次は俺からだ!」
厳鬼は雷帝丸を地に突き刺し電光石火の勢いで妖姫をなぎ倒して、すかさず口を塞ぎ針を出せなくすると右拳から鬼爪を出した。
妖魔の鮮血に顔から胸にかけてを白く濁らせた厳鬼は、刹那の爆風に身を投じた。
しかしその後も彼は油断を許されなかった。
モォォオオ!
「チッ。こんな都合よく出るか普通?」
牛のような鳴き声がして木々の間から丸太ほどもある大きな針が何本も飛んでくる。
厳鬼は急いで雷帝丸を手に取り、巨大な針を蹴散らしていく。
「いい加減にしやがれぇっ!!」
気を右腕に集中した厳鬼は向かってくる一本の針に思い切り拳を打った。
するとその針が雷を伴って勢いよく木の影に隠れていたヤマアラシに向かって飛び出した。
すると牛のような叫び声が轟き、針の雨は止んだ。
「ったく・・・手こずらせやがって。」
モォォオオ!
363凱鬼メインストーリー:2006/08/26(土) 19:52:31 ID:hC2plUju0
鳴き声と同時に鞭のように長いヤマアラシの尻尾が厳鬼めがけて伸びてくる。
「うわっ!」
バシッ!という音をたて、それは厳鬼の手から雷帝丸を引き剥がした。
「いってぇなぁ、おい。」
ズシンという足音とベキベキと木々をなぎ倒して進む音。
木の陰から姿を現したヤマアラシは牛の頭、背中に針という奇妙な出で立ちをしていた。
モォォオオ!!
ヤマアラシは長い尾を巧みに動かし、厳鬼を絡めとろうとする。
「尻尾が邪魔だな・・・。」
そう呟いた厳鬼は、雷の気を身体から放出すると尻尾を退け、転がり落ちた雷帝丸を掴んだ。
「っしゃあ!」
厳鬼はヤマアラシめがけて走った。長い尻尾がうっとおしい。
雷帝丸の緋色の刃が閃くたびにヤマアラシの尾は斬られ、辺りに肉魁が跳ねたかと思うと、たちまち木の葉へと散っていく。
背中の針も全て使い果たし、尾を失って巨体のバランスを取れなくなったヤマアラシはとうとう前のめりに倒れた。
「そりゃあ!」
グサッ!
音撃弦の先端を突き刺すと、白い血が噴出してくる。厳鬼は音撃震・雷迅を雷帝丸にセットした。
「音撃斬!雷雲爆震!!」
ヘヴィーな音響が木霊する。ヤマアラシの体に清めの音が響き、魂を清めて行く。
「オラァ!!」
厳鬼が最後に大きく弾くと、ヤマアラシは爆発した。
364凱鬼メインストーリー:2006/08/26(土) 19:53:30 ID:hC2plUju0
ベースキャンプ
あきらと一真は鬼の雄叫びを耳にした。
「イツキさん、やったみたいね。」
「うん。」
一真は帰りが近いことを悟り、荷物を片付け始めた。
「イツキさんって奥さんとか居るの?」
「さぁ・・・そういうことはあまり口に出さない人だし。」
「ふぅーん・・・。」
「少なくとも、子供は居ないでしょ。」
そう言ってディスクケースを車の荷台に乗せる。
「私も手伝う。」
「あ、それじゃ、テーブルを・・・。」
たたんで。そう言おうとしたときに、顔のみ変身解除したイツキが現れた。
「はぁー・・・終わった終わったぁ。」
お疲れ様です。と言って冷えたお茶を出す一真。
「お前、ちゃんと筋トレしてたか?」
ドキッと痛いところを突かれた一真はあきらに目配せで助け舟を求めた。
「やってませんでしたぁー!」
そういって笑うあきら。ちょっとショックを受ける一真。
イツキの拳が一真の脳天を震わした。

八之巻「吹き荒れる獣」
365次回予告:2006/08/26(土) 20:01:57 ID:hC2plUju0
「アカツキさん!無茶ですよぉ!」
「これが如何な手段も問わぬ天美の・・・“善”の気質だ。」

「カチドキ、お前はもう分かってるんだろ。あきらの宿命が・・・。」

「一真には・・・教えないで居てください。」

「彼には時が来たらあきらが世話になるかもな・・・。」

九之巻「見据える月光」乞うご期待!
366名無しより愛をこめて:2006/08/27(日) 00:42:17 ID:zd7IBVdh0
佐川聡、19歳。
今年、やっと独立してサイキを襲名した中部支部期待の新人(自称)だ。
そんなサイキに関東支部からおよびがかかった。
「トドロキがサポートについてくれるらしい。若い奴どうしでよかったな。」
先代サイキ 現在サイキのサポート担当の父佐川幸男がパソコンのメールを読みながら言った。
「え?おやじがサポートについてくれるんじゃないの。」
「あ、ああ。今度は俺は留守番だ・・・いや、吉野の意向でな。」
変だぞ親父目が泳いでる、サイキは嘘の付けない男=父を見た。
「財津原さんもついてくれるそうだし、いいなあ〜〜」
何だか良く分からないけれど、巧く丸め込まれてサイキは大荷物を抱えて上京した。
車が使えればよかったのだが、鬼の修行に夢中で免許がなかった。
いくつも列車の乗り換えに失敗し、「たちばな」に辿り着いた時サイキはヨレヨレになっていた。
サイキとしては、シャワーを浴びてさっぱりしたかった。
なのに店のすみに座っていた財津原とトドロキがサイキの顔をみたとたんたちあがった。
「サイキ、まちかねた。早速行くぞ。」
さすが鬼と元鬼であった。   続く



367サイキ参上2:2006/08/27(日) 14:20:02 ID:RwZwm5GF0
「おかしいぞ。おかしいぞ。」
サイキの落ち着かなさは、車で移動中も続いた。
車で出発後、早々に財津原が運転席で言い放ったのだ。
「きょうは、俺は車の運転に徹するからあとは頼んだぞ。
トドロキ。」
「えー。じゃ、本当何ですか。俺がサイキクンのサポートって。」
トドロキが口からあわを飛ばしながら叫んでいる。
「鬼のトドロキさんに、サポートして貰うなんて、悪いです。」
サイキも恐る恐る口を挟んだ。
「俺まだ、鬼になったばかりで・・・」
「トドロキとサイキくんが、今度のまかもーを倒す。これは吉野の意向なんだ。
もうつべこべいうな。」
それっきり、財津原は黙ってしまった。

日暮前に出現場所についたら、ベースとして現地に公民館が用意されていた。
これはかなり異例だ。
おまけに、自治会長さんが出迎えにでていた。
そして財津原が、村人に
「私は、今度は運転手なんです。」
といいながら、避難地域を指示している。
気が付いたら、とっぷりと日はくれていて、サイキはトドロキと村の空き地に
鬼の姿でまかも―を待ち伏せしていた。
  続く

366  サイキ参上1  でおねがいします。
初投稿にて間違えました。
368名無しより愛をこめて:2006/08/28(月) 12:36:41 ID:g7ZTn0yTO
最近人少ないね〜。鋭鬼SSの続きが気になるところだが、引退されちゃったんだろうか?
369凱鬼メイン作者:2006/08/28(月) 20:10:46 ID:88kzxzig0
先代関係のSSもまた読みたくなってきたなぁ。
370DA年中行事:2006/08/28(月) 23:11:18 ID:jTamFWdR0
ようやく後半を書き上げました。もう既にお盆SSじゃないじゃん。
えー、またしても長い話です。最後まで読んで戴ければ幸いです。
では。
371番外 「集う獣」:2006/08/28(月) 23:13:11 ID:jTamFWdR0
前編は、>315より。

「遅いぞ遅いぞ!待ちくたびれた!」当然のように、犬も喋る。
「ごめん・・・・」蛇が喋り、人と思っていた顔が獣に変わる事にいつの間にか慣れて、敏樹は犬に謝る。
「この棒投げてくれたら許す。思い切り遠くまで投げてくれよ。オレ上手に取って来るぜ。な?な?」
大きな犬は、湿った鼻面を敏樹の手の平にこすりつけ、咥えている棒を握らせようとする。
「残念ながら、そうゆっくりもできませんよ。耳の良いあなたにも、あの音が聞こえているでしょう?」
桜達が、優しく犬を諭す。犬は少し首を傾げ、敏樹には聞こえない音を聞き取ると、しょうがないなぁ、と残念そうに呟いた。
「後を頼みましたよ」桜達は、敏樹と犬に丁寧に頭を下げると、闇の中に吸い込まれるように消えた。
「おう、まかせとけ!オレ、案内も上手なんだ。敏樹、行こう!」
頭をぐっと上げると、柔らかに波打つ毛皮の下の筋肉を躍動させ、大きな犬はぴったりと敏樹の脇に付いて歩き出した。
「敏樹、お前トウキとケンカしたんだってな」
「え?ケンカって言うか・・・」敏樹は口ごもる。大して向き合いもせず、逃げて来ただけなのに。
「すげぇな!」犬は聞いていないようだ。「人間ってあんまり自分よりカラダの大きい相手とケンカしないんだろ?怖くなかったのか」
怖い。怖いに決まっている。だから、父に逆らったり口答えした事なんて、無かった。
でも、今朝のあの時だけは。
「父さん、怒ってるんだろうな」
敏樹は父親に叩き付けた言葉を思い出し、弱虫な自分に傷ついた。父が怒るより悲しんでいたらと思うと、胸が痛んだ。
「なんだよ、敏樹、泣いてるのかよ」大きな犬が、動きを止める。「泣くなよォ、オレ、泣かれたらどうしていいかわかんねぇんだよォ」
クフン、と鼻を鳴らし、犬は敏樹を見上げる。敏樹は、両腕で頭を抱えると、声を上げて泣き始めた。
「なぁ、泣くなってば。この棒お前にやるから、泣き止んでくれよォ」
みっともない、と思っても涙は止まらなかった。小さな子供のように泣きじゃくり、その場にうずくまってしまった敏樹の脇で、犬も途方に暮れていた。
372番外 「集う獣」:2006/08/28(月) 23:15:01 ID:jTamFWdR0

太陽が高くなるにつれて、気温は無慈悲にじりじりと上がっていた。
神主不在の神社には駐車場が無く、一番近い藤岡の家の前に数台のクルマが停まっている。
「わかった、じゃぁ僕とダンキ君は川沿いを探すよ」地図をなぞりながら、ショウキが頷く。ダンキはもう駆け出していた。「ダンキ君、クルマで行った方が早いってば!」
「DAは戻って来てるッスか?」そう声をかけたのはトドロキだ。まだ戻らない、とイブキが返事をすると迷わず自分のDAも残らず起動させる。「多いほうがいいッスよね?」
イブキと藤岡に鬼のサインを投げると、俺は神社の北方向に行くッス!と言ってトドロキも駆け出した。
「トドロキさんが北なら、僕は西からまわって麓まで行ってみるよ。オートキャンプ場があるし、もしかするとそっちで保護されているかもしれない」
バンキもクルマに乗り込んだ。オートキャンプ場の管理人なら知り合いがいるから、と村役場の職員であり藤岡から『と』の仕事を学んでいる田上もバンキの後を追う。
比較的近くにいた鬼たちを呼んだのだが、こんなに早くみんな集まってくるとは思わなかった。イブキは藤岡と顔を見合わせる。「僕も、行って来ます」
「あんたも、気をつけなさいよ」藤岡が気遣わしげにイブキを見る。「何かあったら、すぐ連絡するから」
鬼たちを見送り、一人家に残った藤岡は、盆飾りの整った仏壇に手を合わせた。
「ばあさん、子供たちが今日あんたに会いに来ないからって、ヘソ曲げないで、子鬼を守ってやってくれよぅ」
線香の煙が、ふわりと藤岡を包む。亡妻の遺影が、一瞬にこりと微笑んだ事を、藤岡は知らない。
蝉が再び賑やかに鳴きだした。今日は一段と、暑くなりそうだ。
373番外 「集う獣」:2006/08/28(月) 23:16:44 ID:jTamFWdR0

膝を抱えてしゃくりあげていると、その腕に犬があごを乗せてきた。
「泣かれるとさ、こっちもぎゅうっと、胸が苦しくなるんだぜ?」温かい舌が、ぺろり、と敏樹の涙を舐める。「人間て、悲しくても悔しくても嬉しくても涙が出るんだってな」
オレたち獣は、涙を流せないけどな、と犬は言って、もう一度鼻を切なげに鳴らした。
「ほら、あそこ。見えるか、敏樹?」
犬の心地よい重さが腕から消え、敏樹はふと顔を上げる。右手の岩の窪みに、何か小さな獣がいるようだ。だが、その場所はここから遠くて、光が朧に影と重なっている。
敏樹は涙を拭い、目を凝らした。
「何か・・・・寝てる?」
一瞬赤ん坊かとも思ったが、よく見ればその身体は毛皮に覆われ、顔も人間のそれではない。猿だろうか。それも、まだ身体が大きくなりきっていない、若い猿だ。
確かめようと2〜3歩歩き出した敏樹の前を、犬が立ちふさがった。
「寝かせておいてやってくれよ。あいつはさ、あんまり悲しい事があって、眠ってる事を選んだんだ」
獣は涙を流せないから。と、犬は言う。悲しくて、切なくて、辛すぎて、あの猿は眠る。夢の中に身を置く事を選ぶほどの悲しさ。
俺はどうだろう。
俺は――――――まだ、歩ける。
行こう、と敏樹は言った。「道を教えてよ。後で、この棒を投げてあげるからさ」
「本当か?本当か?」犬がわさわさと尻尾を振る。「よし、行こう!走って行こう!オレ、走るのも上手い!!」
犬は駆け出す。敏樹もその後を追った。先を走る犬は、時々振り返って上体を下げ、じれったそうに前肢で地面を叩く。敏樹が近付くと、サッと身をかわし、また走る。
そんな追いかけっこを、どれくらい続けたろう。どこからか、音が聞こえてきた。
太鼓だろうか?いや、太鼓にしては音が軽い。
カッ、カッ、カッ、トコトントントン、カカッカ、トコトントン・・・・・・
聞いていると、心が浮き立つようだ。なんて軽やかなリズム。犬と敏樹は跳ねるように音のする方向へ走った。
374番外 「集う獣」:2006/08/28(月) 23:18:31 ID:jTamFWdR0
まわりが段々明るくなっていく。太鼓に、笛の音が混じり、ざわざわと人のざわめく声が聞こえてきた。
「着いたぞ着いたぞ!おーい、みんな、敏樹を連れてきたぞ!!」
犬は賑やかに吠えながら、緩やかなカーブを曲がる。敏樹もその後を追い、眩い光の中に入った。
あまりの眩しさに目を閉じた敏樹だったが、その手を誰かに握られ、そっと目を開けた。
「敏樹、大丈夫か?」
後で棒を投げてやる、と約束した犬の声に間違いないのだが、今自分の前に立っているのは、犬の面を被り、白地に紺の絣の浴衣を着た、大柄な青年だった。
「びっくりしたか?でも、オレだよ。いっぱい走ったから、棒はまた今度投げてくれればいいや」
辺りを見回すと、みな思い思いの面を被った人々でいっぱいだった。どういう明かりなのか、天井が高く広々とした洞窟をくまなく照らしている。
中央にはやぐらが組まれ、樽を伏せたような変わった形の太鼓があり、鉦や笛もいた。踊り手も囃し手も、皆獣の面を被っている。

カッカッ、ピーヒャラチン カカッカッ、ピーヒャラチン
ピーヒャラヒャラルラ、カカッカッ、ピーヒャラチン

盆踊りだ。面を被った人々は笑いさざめき、やぐらの周りに踊りの輪を作っている。
「来たか」
「子鬼だ」
「子鬼が来たぞ」
「待っていたぞ」
幾人かが敏樹に気付き、手招きをする。さあ、おいで。一緒に踊ろう。
「みんなお前を待っていたんだ。行こう!」犬の面を被った『犬』は、敏樹の手を引いて踊りの輪へと入って行った。
375番外 「集う獣」:2006/08/28(月) 23:19:26 ID:jTamFWdR0

随分走った気がする。だが、依然として息子の姿を見つけられない。
周りに目を配り、人の足が踏んだ草の形跡を辿ろうとするが、それは容易な事ではなかった。
トウキの鍛えた足でも、平坦ではない林の中は、走りにくい。いくら幼い頃から自分の元でトレーニングを積んだとはいえ、まだ12歳でしか無い息子が、そう遠くまで行ったとは思えない。
何処へ行った、何処まで行った?
焦る気持ちが、トウキを走らせる。少し前にイブキから連絡があり、近くにいた鬼たちも探索に加わったと聞いた。ショウキ、ダンキ、トドロキ、バンキ、それにイブキ。自分を含めて6人の鬼と、DAたちを動員させている。
走りながら腕の時計に目をやる。10時42分。何故誰も敏樹を見つけられない?何故連絡一つ来ない?それほど高い山でも、広い林でもないのに。
―――――広い林でもないのに
おかしい。何かがトウキの胸にひっかかる。自分は何時間走っている?この山には10代の頃から頻繁に来ている。地形も把握しているつもりだ。それなのに。
トウキは立ち止まった。
蝉時雨も、野鳥の声も、虫の音もしない。
一つ深く息をすると、腰を落とし、身構える。

ざああああぁぁぁ

風が渡った。頭の上で、杉の梢が鳴る。
『そっちにはいないよ』
『こっちにもいないよ』
男の姿が女の声で、女の姿が男の声で、トウキに語り掛けてきた。
背の高い童子と髪の長い姫が、自分達の周りにだけ薄ら暗い影を纏って、トウキを嗤っていた。
トウキは腰の音笛に手を伸ばす。だが。
376番外 「集う獣」:2006/08/28(月) 23:20:20 ID:jTamFWdR0
『そこには無いよ』
『ここにも無いよ』
音笛が無い。DAのホルダーも、さっきまでイブキと話をしていた携帯電話も無い。落としたのか?いや、そんな筈は・・・・・
『どうだ、鬼よ。我が子を見失う気持ちは』
『我等の無念がわかるか』
冷ややかに、童子と姫が問う。生身の人間でしかないトウキに攻撃も仕掛けず、魔物の養い親たちは腹立たしいほど冷静だ。
『返して欲しいか、子鬼を』
『返して欲しかろう、子鬼を』
『取引をしよう』
『取引をしよう』
トウキは迷う心を断ち切るように、一気に間合いを詰めて、渾身の蹴りを放つ。
『無駄だよ』
『無駄だ』
童子と姫は暗い影ごと霧消して、トウキの足はむなしく空を斬る。
「何処だ!敏樹を何処にやった!!」トウキは吼えた。「返せ!敏樹を返せッ!!」
自分の声が、見慣れたはずの見知らぬ林の中にこだまし、消える。
『命をくれ』
『鬼の命を』
地の底から響くように、天上から降りかかるように、邪な声がトウキを包む。さもなくば、お前の大事な息子の血で、我が子を失くした悲しみを購ってもらう、と。
「・・・・・やる」トウキはがっくりと膝をついた。「俺の命ならくれてやる!いくらでも持って行け!」
頼む。息子だけは、返してくれ。
377番外 「集う獣」:2006/08/28(月) 23:21:00 ID:jTamFWdR0

緑、臙脂、藍、橙、灰色、レモン色・・・・
浴衣っていろんな色があるもんだな、と敏樹は見よう見まねで知らない踊りになんとかついていきながら思う。
浴衣の人々は、皆、獣の面を被っている。『犬』、『鳥』、『猿』、『蛇』、『獅子』、『蟹』、『蛙』。女も居れば男も居る。子供も、年寄りも居る。
顔をすっぽり覆う張子の面のせいで、その表情までは見分けられないが、全員が軽やかなお囃子にうきうきと浮かれているのはわかる。
踊りの輪から外れ、何やら楽しそうに談笑しているものたちも多い。そんな彼らも、輪の中に敏樹を見つけると、手を振ったり、声をかけに来る。
「大きくなったな、子鬼」
「トウキは元気か」
「よくまぁご立派にお成りで」
みんなお前の事が気になって仕方がないんだよ、と隣の『犬』が言う。「だって大事な鬼の子だもんな」
『蛇』の面を被って、こちらに手を振るおかっぱの女の子は、シロだろうか。『獅子』の面を被った男と手を繋いでいた桜達らしい少年は、敏樹を見ると、パッと繋いでいた手を離してお辞儀をする。
と、踊る人々の間に小さなざわめきと笑い声が起こる。なんだろうとそちらを見て、敏樹は驚いた。
金の浴衣に金と黒の市松の半幅帯、そして顔には金色の狼の面。これで頭がマゲだったら、サンバのステップを踏みそうな大男が、のしのしとこちらにまっすぐやって来る。
「お前、敏樹か?敏樹だな?おおお、敏樹敏樹!!」
派手な衣装と面のせいで、金色オオカミ男はさらに大きく見える。その彼が、敏樹の背中と言わず肩と言わず、ばしばしと叩く。
「よせよせ、敏樹が痛がってる」『犬』に指摘されて、ようやく金色オオカミ男は敏樹の身体から手を離した。
「あ〜、ごめんごめん。ついつい力が入っちゃった。テヘ☆」
ぼりぼりと頭を掻く男の指先を見て、髪も金色だった事に気付いた。
「とぉ〜しきぃ〜、お前本当に大きくなったなぁぁ〜〜〜」金色オオカミ男は、軽々と敏樹の身体を持ち上げた。小さな子供にする、“たかいたかい”のように。
突然の出来事に、敏樹は声も出ない。少し前まで小学生だったとはいえ、敏樹だって鬼の元で修行してきた。不測の事態に備え、身体は動くはずだ。だが、今はなす術もなく金色オオカミ男に“たかいたかい”をされている。
「ちょ、ちょっと、ちょっとちょっと!!」
378番外 「集う獣」:2006/08/28(月) 23:24:40 ID:jTamFWdR0
わたわたと身体を動かす。助けを求めようと『犬』のいた方を見るが、もう『犬』は踊りの輪に紛れて何処かへ行ってしまっていた。
「幾つになったんだっけ?」春先に165pを超えた敏樹の身体を頭上に抱え上げたまま、金色の面がキラキラと輝く。
「じゅ、十二。再来月で、十三・・・・って、あんた、誰ですか?」
「そうか、十二か!」誰何の部分は聞いていないらしい。「十二か・・・十二・・・鬼の修行をするにはいい歳だ」
敏樹はようやく足の裏に地面を感じた。改めて『狼』を見上げる。大きい。馬鹿馬鹿しい金色の衣装も面も、似合っているように思えてくるから不思議だ。
それでも、決して威圧的ではない『狼』に、敏樹は素直に言った。「でも、俺、鬼になるかどうかまだ決めてないです」
獣の面を被った踊りの輪が、止まる。陽気なお囃子も聞こえなくなった。皆が、黙って敏樹を見つめる。
静寂を破ったのは、『狼』の笑い声だった。
「ニャハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」場違いな高笑いが、洞窟の中で反響する。『狼』は、愉快で愉快で堪らないと言うようにひとしきり笑い、笑い疲れると敏樹の肩をポンと叩くとこう言った。
「それで、いいのだ!」堂々と胸を反らし、『狼』は言う。「だってまだ十二でしかないじゃん。今から将来決めてどうすんの?迷えばいいじゃん。フラフラ上等、ビバ優柔不断!」
「でも・・・・」
「たくさん迷えよ。たくさん迷って、いっぱい泣いて、うんと笑えばいい」
『狼』がすっと横を向く。面の中で、『狼』は何かを思い出して、泣いているようにも、笑っているようにも見えた。
「敏樹、太鼓叩こう!」またしても唐突に、『狼』は言う。「今日は魂が戻る日じゃないか!!」
そう言われて、敏樹は今日が何の日だったかを思い出す。八月十三日。盂蘭盆会、なんて言葉は知らなくても、どんな日かはわかる。
『狼』に半ば強引に腕を引っ張られる形で、敏樹は踊りの輪の中心、櫓の上に立つ。

ガガガン ゴボン ガン ゴボボン

滅茶苦茶な叩き方だったが、『狼』の叩く樽砧は踊り手たちの笑いを誘い、敏樹もまた、笑顔になった。
379番外 「集う獣」:2006/08/28(月) 23:26:14 ID:jTamFWdR0

『愚かだな・・・・・・』
『愚かだ・・・・・・』
人ならぬ物の怪の声に、トウキは目を開ける。
『だからこそ、鬼なのか』
『だからこそ、敵わぬのか』
童子と姫に見えていた暗い影が、陽炎のようにゆらゆらと揺れる。口惜しそうに、しかし、晴れ晴れと。
『お前があの時、否と答えれば』
『我等はお前の魂を取り込もうと考えていた』

ガガガン ゴボン ガン ゴボボン

調子外れな音が聞こえる。太鼓より軽く、それでいて澄んだ清い音。童子と姫にも聞こえていたのだろうか。二つの揺れる影が、少しだけ笑ったような気がした。
『子鬼はお前たちの眷属のもとにいる』
『音を辿れ。子鬼は無事だ』
暗いと見えていた影が、明るくなっていく。それはやがて影を消し、朧な人の形の光になった。
『次に逢う時は』
『容赦はせぬ』
そういい残し、光は消えた。涼しい風が、トウキの額を伝う汗を乾かす。
「ああ、俺も容赦なんかしねぇよ」
今日は祖霊が地上に戻る日。童子と姫の魂であっても、許される日なのかもしれない。だが、考えるのは後だ。
今は、この音を追おう。
380番外 「集う獣」:2006/08/28(月) 23:27:21 ID:jTamFWdR0

獣の皮を張った太鼓より簡単だろうとタカを括って叩き始めた樽だったが、なかなかどうして難しい。がむしゃらに叩いても良い音は出ないし、かと言って手加減すれば響かない。
面を被った囃し手たちが、焦るな焦るな、と笛や鉦で調子をとる。隣で好き勝手に叩いている『狼』はあてにならない。
が、調子外れの滅茶苦茶に叩いているようで、『狼』の出す音は軽やかで、楽しい。
これだけたくさんの踊り手や囃し手がいるのに、顔を晒しているのは敏樹一人だ。不気味と言えば、少し不気味かもしれない。
「ねぇ」敏樹が声をかけると、『狼』の金色の面がこちらを向く。「なんでみんなお面を被っているの?」
ニャハハハハハハハハハ、と『狼』は器用に樽を叩きながら笑った。金色の髪が、本物のたてがみのように光る。
「なんだ知らないのか、敏樹。ボンダンスはもともと面を被って踊るんだ。あちら側とこちら側の魂が、混ざって踊っていてもわからないように」
『狼』の長い指が、被っている金の面に触れる。金色の髪がゆらりと揺れ、面に隠されていた部分が、


「敏樹ッ!!」


力強く、温かな手が、敏樹の肩を掴んだ。
「・・・・・・父さん?」
どうやら自分は、瞬きをしたようだ。すぐ目の前に、父の見慣れた顔がある。
「怪我は?お前、大丈夫か?」
蝉が頭上で鳴いている。背の高い杉の木立のそのまた上に、雲一つ無い真っ青な空が拡がっている。
自分を抱き起こしている父の腰に、ホルダーに収まったDAたちが見える。そして、鈍い光を放つ音笛も。
敏樹は妙に嬉しくなって、心配そうに覗き込むトウキに、ごめんなさいより先にこう言った。
「ただいま、父さん」
381番外 「集う獣」:2006/08/28(月) 23:29:03 ID:jTamFWdR0

ひぐらしのどこか物悲しい鳴き声を聞きながら、夜になると蝉はどこで眠るのか、とぼんやり敏樹は考えていた。
父には、結局あまり怒られなかった。藤岡はただにこにこと山盛りのおにぎりを差し出した。イブキは去り際に「いつでも相談に乗るよ」と囁いた。ショウキとダンキの二人組とは「来年は俺たちと鍛えようぜ!」と約束した。
トドロキは「無事で何よりッス!」と何度も繰り返し、バンキは「学校の宿題ならいつでも手伝うから」と言ってくれた。
藤岡の家の、タイル貼りの古い風呂場からは、暮れかかる夕日を浴びて燃えるような色に染まった山が一望できる。
「疲れたぁ・・・・・」
昔話の挿絵みたいな景色を眺めて、浴槽に肩まで浸かっている敏樹はあくびを一つした。
「それはこっちのセリフだよ・・・・」
洗い場で髪を洗っていたトウキも、つられてあくびをする。
「父さん、あのさ」
「何?」
「怒ってる?」
「怒ってる怒ってる。カンカンっすよ、超カンカン。手ェ使わなくてもシャンプー泡立つくらいカンカン」
「マジメに」
「マジメに、ねぇ」トウキは洗面器で湯をすくうと、ざぶりと頭から被った。「怒ってない、って言ったら嘘だな。でも、まぁ、なんだな・・・」
言葉尻を濁したまま、トウキは湯を浴びる。髪からシャンプーが消えると、湯船の中で答えを待っている敏樹に指を振って、チェンジ、と告げる。二人入ろうと思えば入れる大きさなのだが、湯が溢れてしまう。敏樹は渋々立ち上がり、湯船を譲る。
「お前も毛が生えた、っつぅ事だよな」ぼそりと漏らすトウキの言葉に、絞ったタオルで身体を拭き始めていた敏樹は、思わず前を隠した。
「ちょ、何だよ急に」
「だって生えてんじゃん。あー、あれだ、ともえには黙っておくから。うん。本人知りたがってるけど」
両親揃ってまったくもう、と磨りガラスの戸を開け、湯気を伴いながら風呂を出た敏樹は、バスタオルで遊んでいるDAたちを見る。
「よぅ。お前たちも、お面被って踊ってたのか?」
382番外 「集う獣」:2006/08/28(月) 23:31:09 ID:jTamFWdR0
風呂から上がると、敏樹にはよく冷えたスイカが、トウキにはよく冷えたビールと茹でたての枝豆が振舞われた。
「晩飯は、精進料理だよぅ。あんたたち若い人には申し訳ないけど、お盆だからねぇ。悪いけど、付き合ってもらうよぅ」
藤岡のいつも通りののんびりした調子が、今日の敏樹には心地良かった。はーい、と返事をして、まだ明るさの残る庭に出る。数匹のDAがその後を追った。
DAたちは、はしゃいでいる。くるくると旋回を繰り返すアカネタカに手を伸ばすと、オンシキガミはその指先を甘く噛んで、またツーっと昇っていく。
「DAにバカにされてるようじゃ、まだまだだな」振り返ると、トウキが笑っていた。その足元で、リョクオオザルがとんぼ返りをしている。
「父さん、あのさ」
「何だよ」
「俺、鬼の修行続けるから」父に向かって言うのが気恥ずかしくて、敏樹は左足にじゃれるニビイロヘビを腕に巻きつかせながら呟く。
「そっか」短く返事をすると、トウキは息子に背を向けた。「おい、蚊が出るから家に入るぞ」
赤く染まった空が、ぼんやりと藍色をにじませ、家に入ろうとする父の白いTシャツの背中をいつもより広く見せる。敏樹は、その背中を見つめながら、声をかけた。
「でも、将来鬼に成れるかどうかは、わからないよ。それでも、いいかな」
父の足が、一瞬止まる。ほんの、一瞬。
「いいよ」振り向かず、父の背中が答える。「でも、お前が修行を続けるからには、俺も手は抜かねぇよ。そのつもりでな」
「わかった」
パチン、と指を鳴らしてニビイロヘビを円盤の形に戻すと、敏樹は父の白い背中に向かって放った。
銀色の円盤は過たず真っ直ぐに、トウキの背骨に向かう。
しかし、僅かに上体を捻っただけで、トウキは左手の人差し指と中指でそれを受け止めた。
「コンニャロ。俺を狙うなんざ100万年早いっての」
トウキはニヤリと笑うと、家の中に入って行った。
台所からは、根菜を煮る甘辛い匂いが漂ってくる。その匂いがどんと腹に響いて、敏樹も父の後に続いた。
ひぐらしの声に、コオロギの声が混じる。季節は少しだけ涼しい風を伴って、ゆっくりと秋に向かっているようだった。

                              =完=
383DA年中行事:2006/08/28(月) 23:46:16 ID:jTamFWdR0
お盆に間に合わず、ああせめて夏休みSSくらいにはなるように、とツラツラ書いていたら、あらまぁびっくり無駄に長いわぁ。
九月はSSを書く時間がとれない予定(予定通りに仕事が入れば・・入ってくれ仕事!)なので、次回は十月頃に。
十月・・・・・十月・・・・・・・・・・・・・なんかありましたっけ?あ、十五夜か。

高鬼SSさん、弾鬼SSさん、ZANKIの人さん、凱鬼SSさん、中四国支部さん、新人さん
もう皆さん凄いです。俺も皆さんのように燃える展開を書きたいです。九月はちょっと勉強します。

斉藤真斗芽さん、用語集さん
月並みですが、いつもありがとうございます。今後とも宜しくお願いします。
384高鬼SS作者:2006/08/29(火) 00:31:39 ID:5FsT3KY80
一本出来上がったので投下させていただきます。
隠れ里に行ったりタイムスリップしたりと自由にやってきましたが、今回も物凄く自由にやっています。
自由にやり過ぎて理不尽な点が出てきているやもしれませんが、なるべく気にせず読んでやって下さい。
また長い話ですがどうぞ最後までお付き合い下さい。

>弾鬼SS様
前にも書きましたが他の作者さんに自分のキャラを動かしてもらうのは実に新鮮でした。
ヤミツキと黒風の件も問題無いです。素晴らしい作品をありがとうございました!

>DA年中行事様
DAに宿った魂が順番に出てきているという時点で、黄金狼が出てくる事には気付いておくべきだったw
385仮面ライダー高鬼「黄泉からの帰還」:2006/08/29(火) 00:33:07 ID:5FsT3KY80
1978年、弥生。
島根県石見銀山遺跡に程近い山中。そこに一人の黒尽くめの怪人が現れた。
傀儡だ。
彼は、この地に呪が施されているのを確認すると、手に持った金色の杖を地面に突き刺して何かを注入した。
次の瞬間、地響きと共に地底から二匹の巨大な魔化魍が現れた。
斉明天皇の時代(655年〜661年)にこの地に封印されたと伝承の残る魔化魍・ツツガムシが悠久の時を超えて蘇ったのである。
その姿は同名のダニとは異なり、フナムシと蠍を掛け合わせたような外見をしている。体色は赤黒く、硬い鱗が全身をびっしりと覆っている。
このツツガムシの復活が全ての始まりであった……。

一匹のツツガムシが派手な音を立てて爆発した。爆発で舞い上げられた土塊の中から音撃弦・五月雨を抱えた高鬼が現れた。
この日、中国支部のシフトに入っていたコウキとコンペキは、ツツガムシ退治のため山中へと訪れていたのだ。
ツツガムシはノツゴやオオムカデと同じく頑強な体を持つので、弦で体表を砕いてから音撃を決める必要がある。そのため二人は弦を持って出撃していた。
「やりましたね、高鬼さん」
「油断するな。まだもう一匹いる!」
と、もう一匹のツツガムシが紺碧鬼の背後の地中から突然現れて襲い掛かってきた。鋭い牙の攻撃を回避し、音撃弦・戦乙女(ヴァルキリー)を構えると、先程の戦闘で傷を付けた箇所に突き立てるべく跳びかかる紺碧鬼。だがそれが不味かった。
蛇腹状の尻尾が物凄い勢いで伸び、滞空中のため体勢を変える事の出来ない紺碧鬼の腹部にその毒針を突き刺したのである。
悲鳴を上げ、「戦乙女」を落とす紺碧鬼。彼女を尾に突き刺したまま、ツツガムシが高鬼の方へと向き直った。
「貴様!音撃斬・豪火剣乱!破っ!」
掛け声と共に「五月雨」から紅蓮の炎が吹き上がった。紺碧鬼が刺さっているため尻尾の毒針を使う事の出来ないツツガムシを滅多斬りにしていく高鬼。
そしてその体に、炎を纏った「五月雨」を深々と突き刺して弦を掻き鳴らす。
爆発。
舞い散る塵芥の中で顔の変身を解除したコウキは、慌てて紺碧鬼の下へと駆け寄った。
彼女は全身の変身が解除された状態で地面に倒れていた。腹部から夥しい量の血を流しながら……。
386仮面ライダー高鬼「黄泉からの帰還」:2006/08/29(火) 00:35:05 ID:5FsT3KY80
中国支部。
この地で猛士の鬼を長年診てきた医者も、コンペキの状態を見てさじを投げた。
処置を受けて腹部の傷は無事縫合された。だが、ツツガムシの猛毒は彼女の全身を蝕み、最早手が付けられない状態になっていたのである。
まだ辛うじて彼女の心臓は鼓動を打っている。だが、早ければ十数分後にでもその鼓動は止まるだろう。
出雲蕎麦屋の奥の間では、布団に横たわるコンペキを囲むようにコウキ、支部長の東真一郎、「銀」の太田豊太郎、そして彼女の同僚であるウズマキが座っていた。
ウズマキはついさっきまで魔化魍を追って鳥取の山中に居たのだが、一報を受けると後の事を他の鬼に託して大急ぎでここにやって来たのである。
「先輩に何て言えばいいんだ……」
暗く沈んだ声でウズマキが呟く。確かに、もしこの事を四国にいるキリサキが知ったら間違いなく彼は悲しむであろう。
「……私の責任だ。私が一緒に居ながら彼女を救ってやれなかった……」
コウキもまた、自分を責めるようにそう呟いた。
まるでお通夜のような雰囲気だった。
そこへ、本部への連絡を終えた「金」の佐野学がやって来て報告を始めた。
「残念ながら本部にもツツガムシの毒に効く血清は無いそうです。ただ、北陸支部の『銀』が薬物生成のエキスパートだからサンプルを送れば短期間で作れるのではないかと……」
「その『銀』の人が血清を作るのに必要な時間は?」
豊太郎が尋ねる。
「輸送等の時間を含めて、早くても二日は掛かると……」
あと十数分の命なのだ。聞くまでも無い事である。再び沈黙が座を包んだ。
387仮面ライダー高鬼「黄泉からの帰還」:2006/08/29(火) 00:36:34 ID:5FsT3KY80
と、今まで黙っていた東がおもむろに口を開いた。
「血清の製作は頼んでおいて下さい。……コウキくん、ウズマキくん。コンペキくんを救える方法が一つだけあります」
その言葉に、佐野が驚きの声を上げる。
「ま、まさか!て、店長……否、支部長。あれを使うおつもりで?」
佐野は明らかに狼狽していた。東がこくりと頷くと、佐野はますます取り乱してしまった。
「ば、馬鹿な……。本気であれを使うおつもりなのですか!?もし本部にばれたら、最悪な場合この支部の存続に関わりますよ!」
「あの、一体何の話をしているのですか……?」
コウキに尋ねられた東が答える。
「『反魂の術』を使うのです」
鬼達が使う呪術の中には「返魂の術」というものがある。これは術者が死後に魂を自身の肉体に返して一定期間だけ蘇るというものだが、猛士内では禁忌の術とされている。
生命に関する呪術は、それだけで危険なものとされているのだ。
中でも、猛士内において最も危険視されているのが「反魂の術」である。
388仮面ライダー高鬼「黄泉からの帰還」:2006/08/29(火) 00:37:13 ID:5FsT3KY80
反魂の術。呪術によって死した人間を黄泉還らせるという禁断の呪法である。その威力は凄まじく、骨からでも死者の蘇生が可能だ。
「撰集抄」という平安時代の書物には、高野山で修行中の西行法師がこの呪術を使い死者を蘇らせたと記されている。東はこの術を用いてコンペキを蘇らせるつもりのようだ。
「西行の反魂の術は失敗に終わりました。おそらく骨からの蘇生だったのが原因でしょう。この呪術は死体が新しい程、術の成功率が高くなると思われます」
説明は理解出来た。だが。
「何故そのような禁じられた呪術を?」
コウキもまた、佐野同様疑問に思っていたため東に尋ねてみた。それに対し東はにっこりと微笑みながら答えた。
「彼女は四国支部から預かっている大事な人材です。今回の一件で長年築きあげてきた四国支部との信頼関係が失われるぐらいなら、喜んで禁忌の法を使います。それに……彼女は美しい!」
「は?」
「こんなに美しい女性を失うのは人類にとって大きな損失です!違いますか!?」
本気なのかどうなのか分からない東の発言にとりあえず相槌を打っておくコウキ。有無を言わせぬ勢いが東にはある。
「……本当に、本当にコンペキさんを蘇らせる事が出来るんですか?」
ウズマキが東に向かって静かに尋ねた。
「だったら……だったら是非お願いします!コンペキさんを……自分と先輩にとって大事な人を是非助けて下さい。お願いします」
涙を流しながらそう懇願するウズマキ。
東は「大丈夫です」と優しく答えた。佐野も諦めたようだ。そしてコウキも、これから行われる一切の出来事を黙認するつもりでいた。半分は友のため、半分は純粋な好奇心のために……。
389仮面ライダー高鬼「黄泉からの帰還」:2006/08/29(火) 00:39:13 ID:5FsT3KY80
「では佐野くん。早速呪術に長けた鬼を連れてきて下さい。確か一人いましたよね?」
そう告げる東に対し、佐野が困ったように言う。
「あの……彼はまだ入院していますよ」
そう。中国支部の鬼は、その三分の二が昨年の大山での戦いで病院送りになっているのだ。だからコウキやコンペキ達が中国支部に手助けに来ているのである。
「あ、そうでしたか。いかんなあ……」
途端に困った顔をしてみせる東。どうやらその事をすっかり失念していたようだ。コウキもまた不安になってしまった。
と、ウズマキがおずおずと発言した。
「あの、うちにも呪術が使える人が一人おります。自分やコンペキさんと一緒にこちらに出向してきている人です。名前はサカズキさんと言うんですが……」
「サカズキ?そうか、あの人も確か呪術が使えたんだったな!」
コウキは四国支部に出向していた際にサカズキと一緒に出撃した事が一度だけあった。二年前の1976年、夏の事だ。
その日、四国支部長の小松辰彦は待機中のコウキに出撃するよう連絡を寄越してきた。どうやら弦使いが一人同行するらしい。
それを聞いて、コウキは最初キリサキかと思ったのだがどうやら違うらしい。
「サカズキくんという鬼です。ほら、この間の太鼓祭りの打ち上げの席でキリサキくんと飲み比べをやっていた……」
「ああ……」
それなら覚えている。四国支部恒例の太鼓祭りを終えた日の晩、宴会の席でキリサキは一人の鬼と飲み比べをやっている。
自他共に認める酒豪である筈のキリサキが酔い潰れてもなお、平気な顔をして酒を浴びるように飲み続けていた相手の鬼、それが確かサカズキという名前だった。
390仮面ライダー高鬼「黄泉からの帰還」:2006/08/29(火) 00:40:43 ID:5FsT3KY80
サカズキ(盃鬼)。四国支部所属の九人の鬼の中では最年長であり、師匠から教わったという呪術を扱う事が出来る。そう聞いていた。
小松との通話を終えた後、念のためサカズキがどういう人物なのかを知るべくキリサキに電話を掛けてみた。開口一番キリサキはコウキにこう言った。
「そりゃお前、あの人は規格外だよ。何もかもな」
実際に会ってみれば分かる、それだけ言うとキリサキは一方的に電話を切ってしまった。
そして。
現場に到着したコウキは、道端のベンチに腰掛けて真っ昼間からワンカップ酒をぐびぐびと飲んでいる男を目撃した。
無造作に伸ばした髪を後ろで束ね、無精髭を生やした三十代後半ぐらいの男である。間違いない、サカズキだ。
彼の足元には空になった酒のカップが十個近く転がっていた。おそらく全部飲んだのだろう。それでいて全く顔が赤くなっていない。
391仮面ライダー高鬼「黄泉からの帰還」:2006/08/29(火) 00:41:59 ID:5FsT3KY80
サカズキはコウキに気付くと酒を飲むのを止め、立ち上がって近寄ってきた。
「ようコウキくん。久し振り」
呂律もしっかりしている。あれだけ飲んでいるのに全く酔っている素振りを見せない。
「お久し振りです。……昼間から酒を飲んでいるのですか?」
相手が年上なので、なるべく穏便な口調でそう尋ねるコウキ。対するサカズキは豪快に笑いながらこう答えた。
「これかい?どうも俺は常に酒を飲まないと調子が出ないんでね。まあ気にせんでくれ」
それだけ聞くとただのアルコール依存症だが、しかし彼の場合それとは異なるようだ。
「……大丈夫なのですか?」
「心配しなさんなって。こう見えても俺はこの支部のナンバー2なんだぜ?確かにギターテクに関してはキリサキの奴が上だが、魔化魍の撃破数はコンペキに次ぐ成績なんだからな」
そう言って再び酒を呷るサカズキ。まさにウワバミである。
そういえば、この間の太鼓祭りの際に出現したオオナマズを退治したのもサカズキだったとキリサキが言っていた気がする。どうやら実力は確かなようだ。
その後、食料品を買出しに行っていた彼のサポーターが戻ってくると、車の後部座席に音撃弦を載せて自身は助手席に座った。酔っていないとはいえ、流石に飲酒運転はやらないらしい。
人材不足の激しい四国支部唯一の「飛車」は、半ば彼専属のサポーターと化しているようだった。
こうしてコウキはサカズキと行動を共にしたのである。それから二年。
「……確かにあの人は魔化魍捜索の際に、呪術で式王子を使役していたな」
「でしょ?御幣を媒体とせず、直接式王子を打てるのはあの人ぐらいのものですよ」
二人の会話を聞いて、東の表情が途端に明るくなった。
「ではそのサカズキくんという人にお願いしましょう!これで反魂の術の儀式は執り行えます!」
392仮面ライダー高鬼「黄泉からの帰還」:2006/08/29(火) 00:43:17 ID:5FsT3KY80
北陸支部から血清が届くまでの間、コンペキの亡骸は冷凍保存された。その間ずっとウズマキはその傍に付いていたという。
血清は予定よりも半日早く届けられた。早速コンペキの亡骸に注射し、体内に残った毒素を消し去る事に成功した。流石は代田である。後は反魂の術を行うだけだ。
東達はコンペキの亡骸と共に、島根県八束郡東出雲町にある揖屋神社へとやって来ていた。ここは嘗て黄泉比良坂、すなわちあの世への入り口があったとされる場所である。反魂の術を行うのにこれ程うってつけの場所は無いだろう。
そして、サカズキがやって来た。物言わぬコンペキの姿を一瞥すると、おもむろに彼女の亡骸の傍らへと座り込んだ。
「有り得んな……。コンペキが死んだ事もそうだが、それを蘇らせようとしている事もな」
静かにそう呟くと酒を一口飲むサカズキ。今日はカップではなく、一升瓶を持ってきている。
「……お願いします」
そう言って佐野が巻物をサカズキに手渡した。どうやらこれに反魂の術のやり方が書かれているらしい。
豊太郎が香を焚き始めた。
「これは『反魂香』。死者の魂を現世に呼び戻す力があります。術の手助けになるかと思って……」
漢王朝の武帝が、亡き妻の魂を呼び戻したとされる呪具である。こんなものまで用意出来るとは、ここの支部は一筋縄ではいかないようだ。
サカズキが巻物に書かれた呪文を詠み始めた。固唾を呑んで見守る一同。
393仮面ライダー高鬼「黄泉からの帰還」:2006/08/29(火) 00:44:41 ID:5FsT3KY80
詠唱を開始して一時間は経過しただろうか。一向にコンペキが蘇る気配は見られない。
「……本当に大丈夫なんですか?」
心配になったウズマキが佐野に尋ねるも、佐野の方も自信なさげだ。
「確かに、もう復活していてもいい頃なのですが……」
延々と呪文を唱え続けていたサカズキが酒を一口飲み、東に向かってこう告げた。
「コンペキの奴、あの世とこの世の境で何かあって戻ってこれないんじゃないか?例えばヨモツヘグイとか……」
ヨモツヘグイとは、あの世の食べ物を口にする事である。それは完全にあの世の人間と化してしまう事を意味する。
「何せ反魂香まで焚いているんだからな。ここまでやって戻ってこないのはおかしい」
「そんな、コンペキさんがまさか……」
しかしサカズキの言う事も尤もだ。彼女の肉体にも、施されている術にも落ち度は無い。となると彼女の魂の方に問題がある事になる。
「……サカズキさん、手を抜いてないですよね?」
ウズマキのこの発言に怒りをあらわにするサカズキ。
「今何て言った?おいウズマキ、確かにどんな理由があろうと死者を蘇らせるなんて行為は許されるもんじゃない。だがな、そんな綺麗事を言って拒否する程俺は仲間に対して淡白じゃねえ!」
身につまされる思いでその言葉を聞く佐野と豊太郎。東は案の定聞いているのかいないのか分からない表情をしている。
394仮面ライダー高鬼「黄泉からの帰還」:2006/08/29(火) 00:47:54 ID:5FsT3KY80
「……兎に角、戻ってこない魂を呼び戻すというのなら……直接迎えに行ってやるしかないな」
とんでもない事を口にするサカズキ。
「連れ戻しに行く……。典型的なオルフェウス型神話ですね」
相槌を打つコウキ。
オルフェウス型神話とは、ギリシャ神話のオルフェウスの話に由来している。オルフェウスとは、亡き妻を連れ戻すために冥界へと赴いた吟遊詩人の名前である。
「この巻物、よく見たら反魂の術以外にも記述があるんだよな。その中にほら」
そう言って巻物を広げてみせるサカズキ。そこには、術を掛けた相手を仮死状態にする方法が記されていた。
「これを使って直接黄泉比良坂まで彼女の魂を迎えに行けと?」
ご名答!そう言うとサカズキは再び酒を一口飲んで、話を続けた。
「とは言え、黄泉比良坂なんてのはまさに未知の領域だ。当然鬼の誰かが行くべきだろうが、最悪ミイラ取りがミイラになる可能性もある」
黙って顔を見合わせるコウキとウズマキ。今回の件は極秘に行われているため、どうしても術者であるサカズキ以外の鬼、すなわちこの二人のどちらかが行く事になる。
「……自分が行きます」
ウズマキが静かにそう告げた。
「いや、君には悪いが私が行こう。前にも言ったが、あの場に居て救えなかった私にも責任がある」
「コウキさん……」
ウズマキを制し、自ら志願するコウキ。
「……そうですよね。自分なんかよりコウキさんみたいな実力も経験もある人の方が安心して任せられますもんね……」
悔しそうな表情でそう呟くウズマキ。これであの世へ向かう鬼は決まった。
そして。
「……準備は良いか?」
コンペキの横に仰向けに寝たコウキに向かってサカズキが尋ねる。
「御棺に六文銭を一緒に入れる風習があった事からも分かるように、身に着けた物はあの世まで持っていける筈です。おそらくコンペキさんも音叉等は身に着けたままだと思われます」
そう言って何かの入ったビニール袋を差し出す佐野。
「さっき大慌てで買ってきました。何かの役に立つ筈です」
ありがとうと一言言って、その袋を受け取るコウキ。
「じゃあやるぞ」
サカズキが呪文を唱え始めた。徐々にコウキの意識が遠くなっていく。
「頼みましたよ、コウキさん」
ウズマキの囁くような声が耳に入ったと同時に、コウキの意識は完全に切り離された。
395仮面ライダー高鬼「黄泉からの帰還」:2006/08/29(火) 00:48:46 ID:5FsT3KY80
そこは、どこまでも闇が続いていた。そしてその闇の中に、コウキは一人ぽつんと立っていた。
どうやらここが黄泉比良坂のようだ。古事記での描写同様、黄泉の国とは常闇の国であるらしい。
自分の持ち物を確認するコウキ。音叉はある。音撃棒も、佐野に渡されたビニール袋もちゃんと手元にある。
コウキは音撃棒・大明神を一本取り出すと、鬼石に火を灯した。それを掲げて慎重に先へと進んでいく。
どれだけの距離を進んだのだろう。延々と闇だけが続く。ここには時間の概念は存在しない。
と、明かりが見えた。どうやら松明が灯されているようだ。さらに誰かが戦っている音も聞こえてくる。走り出し、その音の聞こえてくる方へと向かうコウキ。そこでは……。
「あれは……紺碧鬼か」
変身した紺碧鬼が何か沢山の相手と戦っていた。
「はっ!」
掛け声と共に強烈な蹴りを前方の敵に叩き込む紺碧鬼。と、隙を衝かれて腕を掴まれてしまう。だが、抜き技を用いて逆に攻撃を仕掛ける紺碧鬼。
しかし相手の数はあまりにも多く、いつから戦っているのかは不明だが紺碧鬼も明らかに疲れている。
槍を構えた敵が紺碧鬼に向かって突撃してきた。と。
「破っ!」
飛んできた炎が紺碧鬼に向かう敵の体を焼き払った。そして変身を終えた高鬼が現れる。
「高鬼さん!?」
「話は後だ!蹴散らすぞ!」
互いに背を合わせると、二人の鬼は向かってくる敵を相手に構えを取った。
396仮面ライダー高鬼「黄泉からの帰還」:2006/08/29(火) 00:49:21 ID:5FsT3KY80
かなりの数を倒した筈だが、敵の数は一向に減る様子が無かった。
「くっ、こいつらは一体何者なんだ!?」
「おそらくヨモツイクサ。黄泉の国の兵隊達です」
高鬼の問いに紺碧鬼が答える。
「きりが無いな。逃げるぞ!」
「はいっ!」
高鬼が鬼棒術・小右衛門火を放ち、突破口を開いた。そこへ向かって一目散に駆けていく高鬼と紺碧鬼。だがその背後から無数のヨモツイクサが追いかけてくる。
「何か奴等の追撃を逃れる術は無いか!?何か……」
「高鬼さん、その袋は?」
高鬼が後生大事に持っているビニール袋を指差して、紺碧鬼が尋ねる。
何かの役に立つ筈です、という佐野の言葉が脳裏を過ぎる。袋の中の物を取り出してみる高鬼。中に入っていたのは……。
「これは……桃か!?」
中に入っていたのは幾つかの桃だった。桃には魔を祓う力があるとされており、古事記でも黄泉の国を訪れた伊邪那岐命が桃の実を投げて難を逃れている。
「成る程な……。よし!」
追いかけてくるヨモツイクサの大群に向かって桃を投げる高鬼。桃はヨモツイクサの群れに当たると眩い光を放って爆発した。
「今だ!全速力で走るぞ!」
桃を背後に向かって放り投げながら、高鬼と紺碧鬼は全速力で駆けていった。
397仮面ライダー高鬼「黄泉からの帰還」:2006/08/29(火) 00:50:40 ID:5FsT3KY80
二人は再び明かりの無い場所へとやって来ていた。ヨモツイクサが追いかけてこない事を確認すると顔の変身を解除して一息吐く。
「……でもコウキさん、どうしてここへ?」
「大明神」の明かりに照らされながら質問するコンペキに、コウキが今までの事情を掻い摘んで説明する。
「私の方も君が今まで何をやっていたのか聞きたいな」
そう言われて説明を始めるコンペキ。どうやら彼女は、自分が死んでからの事を殆ど覚えていないらしい。気が付くとさっきの場所に立っていたという。そこを暫く進んでいると、ヨモツイクサの大群に襲われたのだという。
「……まあこれで邪魔者は居なくなったわけだ。さあ戻ろう」
「ですが……何処へ向かえばいいのです?」
周囲は闇である。難しい顔をして考えこむコウキ。
ひょっとしたらあの松明がずらっと並んでいた道を歩いていかなければならなかったのだろうか?しかし今戻れば再びヨモツイクサと遭遇する事になる。
「……とりあえす進んでみよう」
そう言うとさっさと先へ進んで行くコウキ。その後を付いていくコンペキ。
398仮面ライダー高鬼「黄泉からの帰還」:2006/08/29(火) 00:51:10 ID:5FsT3KY80
静寂が支配する常闇の中を二人は永遠にも似た時間歩いていった。常人ならば精神に異常をきたしていたかもしれない。鍛錬により精神を鍛えていた賜物である。
と、明かりの中に何かが映った。大きな井戸だ。
「井戸?」
不審に思い、近付いてみるコンペキ。と、中から何者かが現れた。上半身は全裸の女性だが、下半身は芋虫のような姿をしている。女性が静かに口を開いた。
「私の名はキクリヒメ。あなた達は?」
キクリヒメ(菊理媛)。日本書紀において、黄泉比良坂を逃げる伊邪那岐命の前に現れて助言を与えたとされる女神だ。
「キクリヒメ……。助かったぞ!確か日本書紀ではキクリヒメは黄泉の国の入り口にいたとされている。出口は近いぞ!」
喜びながらコンペキの顔を見るコウキ。コンペキもその言葉を聞いて笑顔を見せた。
「……出口。そう、あなた達は現世に戻るのね……。なら、一つだけ忠告があるわ」
キクリヒメの言葉に耳を傾けるコウキとコンペキ。彼女の言葉を聞いて伊邪那岐命も黄泉から生還しているのだ。
「この井戸から先は現世へと繋がっている……。でも振り向いては駄目。何が起ころうと、絶対に振り向いてはいけない。振り向くと地の底へ引きずりこまれてしまう……」
それだけを告げるとキクリヒメは井戸の底へと消えていってしまった。
「振り向いてはいけない……?」
二人は暫くの間、井戸の先に広がる闇をただじっと眺めていた。
399仮面ライダー高鬼「黄泉からの帰還」:2006/08/29(火) 00:52:11 ID:5FsT3KY80
あの世から戻る時、後ろを振り返ってはいけない。前述のオルフェウス型神話でも、主人公がその決まりを破って大切なものを失うというオチになっている。
意を決し、二人はキクリヒメの井戸から先へと進んでいった。無言のまま歩き続ける二人。暗くてよく分からないが、どうやら上り坂を進んでいるようだ。
と、突然生暖かい風が吹いてきた。「大明神」の火が揺れる。とは言え、普通の火ではないので風で消えたりはしないのだが。
「……何か来るな」
「……はい」
背後から禍々しい気配が漂ってきた。今まで戦ってきたどの魔化魍とも異なる気配だ。
声が聞こえてきた。自分を呼ぶ声だ。しかもこの声は……。
「……聞こえてくるか?」
「はい。私を呼ぶ小松支部長の声が……」
「私にはあかねさん……総本部の開発局長の声が聞こえている」
どうやらそれぞれにとって所縁の有る人物の声が聞こえるらしい。コウキの耳にはあかねの声が聞こえてきたが、次にはキリサキの声になった。
「くそっ!私の知り合いの声を使って誑かそうとは……」
「急ぎましょう」
早足になる二人。どんなに急いでいても走るわけにはいかない。「大明神」の炎でも足元までは照らしきれていない。万が一何かに足を取られて転びでもしたら、どんな事態になるか分からない。
声はイブキやイッキ、ツワブキ、東、八雲等次々とコウキの知る人々のものへと変わっていった。そしてあの手この手で振り返るように囁きかけてくる。
コウキはビニール袋に残っていた最後の桃を背後へ放り投げた。声は少しの間止まったが、再び囁きかけてきた。
その際声は、コウキの両親や鬼になったばかりの頃に世話になった人のものになっていた。彼の思い出を汚すかのような酷い言葉が響いてくる。
(冷静になれ!このままでは相手の思う壺だ!)
全く反応を示さないコウキに対しとうとう声が止まる。だが次の瞬間、今度はコウキにとって全く聞き覚えの無い声が聞こえてきた。
「よお!久し振りじゃん」
誰だこの声は?
400仮面ライダー高鬼「黄泉からの帰還」:2006/08/29(火) 00:52:51 ID:5FsT3KY80
初めは気にしないでいたのだが、聞いているうちにふつふつと怒りが込み上げてくる。そして忘れていた何かをだんだん思い出してきた。
「OH〜!ひょっとして美人とデート中か?焼けるねぇ」
「……そんなんじゃない!」
とうとう声に反応してしまうコウキ。
「よし!俺がお前に女の愛し方を教えてやろう!一子相伝の、文字通り鬼のように女を愛する術だ!」
「そんなものいらん!」
「あっ!あれは何だ!鳥だ、飛行機だ、否スーパーマンだ!」
「こんな所にいるわけがないだろう!」
「ねえムーミン、こっち向いて」
「誰がムーミンだ!」
いらいらが酷くなるコウキと、心配そうに彼を横目で見るコンペキ。
「お前さぁ、ちょっとは後ろ向けよ。さもないとティータイムの時、お茶の代わりに小便飲ませるぞ。伊太利亜のマフィアの間では有名な儀式なんだ」
「ええい!黙れ、この馬鹿者が!」
振り向きそうになるコウキをコンペキが慌てて止める。我に返り、冷や汗を流すコウキ。
と、前方に小さな光が見えてきた。おそらく出口であろう。
「……行くぞ」
だが。
「コウキさん!」
「何っ!」
二人の前に突然魔化魍・ツツガムシが二匹現れたのだ。
401仮面ライダー高鬼「黄泉からの帰還」:2006/08/29(火) 00:53:35 ID:5FsT3KY80
二匹のツツガムシを前にして、歩みを止めるコウキとコンペキ。
「……この二匹も霊体なのでしょうか?」
「分からん。だがやるしかないだろう」
両者は大急ぎで顔を再び変身させると、構えを取った。だが紺碧鬼は戦死した時に「戦乙女」を手にしていなかったので武器を持っていない。
「……先に行け。あとは真っ直ぐ進むだけだ。明かりはいらないだろう」
「ですが!」
「行け!君が現世に戻らない事には話にならん!」
気合いを込めて「紅」に変身する高鬼。だがまだ春先でそのための鍛錬を始めていなかったため、両腕しか「紅」になっていない。
「これでやるしかないな……」
と、何かが耳に聞こえてきた。この声は。
「サカズキさん!?」
紺碧鬼が叫ぶ。確かにこれはサカズキの、反魂の術を詠唱する声だ。
さらに何かの煙が漂ってきた。
「これは……反魂香の煙か!」
煙に触れると同時に、二人の体は物凄い力で出口の方へと引っ張られていった。
「きゃっ!」
「大丈夫だ!このまま行くぞ!」
そのまま二人は光の中へと入っていく。そして……。
402仮面ライダー高鬼「黄泉からの帰還」:2006/08/29(火) 00:54:05 ID:5FsT3KY80
目が覚めると、そこは揖屋神社であった。コウキの顔を心配そうに東と佐野と豊太郎が覗き込んでいる。
「良かった!成功だ!成功しましたよ店長!」
歓声を上げる佐野。豊太郎も嬉しそうにコウキの手を握ってくる。
「コンペキさん!良かった、良かった……」
隣からウズマキの泣き声が聞こえてくる。コンペキもまた、目を覚ましたのだ。
「そろそろ頃合かと思って、再度儀式を始めたんです。いやぁ良かった!」
そう説明する豊太郎。東もにこにこ笑っている。
「どうやら伊邪那岐は無事伊邪那美を連れ戻せたようだな」
そう言ってサカズキが美味そうに酒を一口飲んだ。そして黄泉の国での出来事について尋ねてくる。だが。
「……すまない。実は覚えてないんだ。術を受けて意識が遠くなるまでは覚えているのだが……」
まだ軽く靄がかかったような状態の頭を押さえながら、申し訳なさそうにそう告げるコウキ。これは別に先代ザンキとは関係無い。コンペキもツツガムシにやられた時までしか記憶が無いと言う。
「あの世なんてものは、みだりに口にするものじゃないです。だから別に知らなくても良いのです。どうせいつかは誰もが行くのですから」
そう言って「わっはっは」と笑う東。まるで、自分がそんな自然の摂理を曲げて反魂の術を行うように指示をした事をすっかり忘れているかのようだ。……と言うか本当に忘れているのかもしれない。
「さて、あとは黄泉の国の穢れを落とすために禊をしなくちゃな」
コウキとコンペキに向かってサカズキが笑いながらそう告げた。
結局この件はその場に居た者達全員が墓場まで持っていく事となった。
「……でも未だに信じられません。私が一回死んで蘇っただなんて……」
そうコウキに向かって呟くコンペキ。それに対しコウキは。
「……悪い夢だったと思う事だな。早く忘れた方が良い」
こうして、彼等の長かった日々は終わった。明日からはまた新たな事件が彼等を待ち受けている事だろう。
反魂の術。この禁断の術が使用されたという記録は猛士内には全く残っていない。しかし、あれから三十年近く経った今でも、何処かで誰かが無許可で行っているのではないか、あの時のように、と小暮耕之助は偶に思うのであった。 了
403瑠璃公さくしゃ:2006/08/29(火) 16:38:00 ID:osTashQr0
やっと書き上げたのでいまから投下します。
といっても、大した文面でもなく、飽きるような話ですが、お付き合いいただけたらと思います。

まぁ、そのうち誰かリメイクしてみてください。
404DA短編 瑠璃公:2006/08/29(火) 16:39:30 ID:osTashQr0
PM 09:26 渋谷駅
瑠璃色のオンシキガミがアスファルトを駆けて、男の足元に戻ってきた。
「・・・今日もこなかったか。」
『スマナイナ。』
「いいや、いいって事よ。」
そう呟くと、ゴウキは指を鳴らして、オンシキガミを回収した。

翌日。甘味処たちばな。
「こんちわー。おやっさん居る?」
戸を開けて中に入ったゴウキは店の手伝いをしていたヒビキにたずねた。
「よう、ゴウキ。おやっさんなら奥に居るよ。」
「ども。」そう言ってゴウキは地下へ降りた。

「おやっさん。ども!」
「お〜ゴウキくんじゃないか〜。丁度いいところに来てくれたね〜。まぁ、そこに座ってよ。」
「ナ、ナンディスカ?」
「いいから、いいから。」勢地朗はそういうと書棚から一冊の書籍をとりだした。
「それは・・・?」
「これね。3世紀ほど前の魔化魍の記録。」
「はぁ・・・。」
「でね、今、ちょーっと厄介なのが出てるんだよね。コイツなんだけど。」
「・・・エキビョウ!?」
「そう。病を流行らせては人間の魂を喰らう魔化魍なんだけどね〜。どの道、ほっとけば大変なことになるし・・・。」
「それを俺に?」
「いや、君だけにさせる気はないよ。既にザンキがいってるし、なんならヒビキを連れてってもいいから。」
「わかりました!それじゃすぐに行きます!」
そう言うとゴウキはヒビキを強制連行してエキビョウの出現場所へ向かった。


 魂
405DA短編 瑠璃公:2006/08/29(火) 16:41:20 ID:osTashQr0
曇り空の下。海岸で二つの閃光が交じりあう。
「くっ・・・!」
ザンキは体制を立て直し、目の前の魔化魍を睨み付けた。
幾つもの刀や矢が刺さった黒革威しの鎧が宙に浮き、その体からは凄まじいほどの怨念が溢れ出していた。
「チッ・・・ここはひとまず逃げるしかないな・・・。」
そう呟いたザンキはあたり一面に雷の気を放出して、エキビョウのまえから雲隠れした。
だがその光景を一部始終眺めていた男女がいた。
「おもしろいことになりそうだな・・・。」
「どんなこと?」
「・・・奴は人の怨念の結晶。300年ほど見てなかったが・・・ハハッ、300年分の怨念を溜め込んでやがる。」
「ふーん・・・おもしろそうじゃない。」

「ザンキさぁん!」
「おう、お前らか。・・・どうした?」
「いや、それがですねぇ。エキビョウが出たってんで、ゴウキに拉致されて来ちゃいました。」
「で・・・見つかりました?」
「あぁ。さっき一戦交えたんだがな。かなりの強敵だ・・・。」
「そんなに?」
「体は、夏の魔化魍ほどだがな・・・。刀を何本も振り回してきやがるし、何より動きが速い。一瞬だ。」
「ん・・・まぁ、どうにかしましょ!ね!」
ヒビキがザンキとゴウキの肩を叩いて励ました。するとゴウキのディスクホルダーから、瑠璃狼が勝手に飛び出て、海岸まで走っていった。
「あ・・・!」
「ディスクが勝手に!?」
『グルルルルルル・・・。』
オンシキガミは、海岸に向かって唸りをあげた。
「おい!どうしたっていうんだ、急に。」
『ウゥゥ・・・・ウォォォォオン!』
天に向けてオンシキガミは一吼えした。
「お前・・・。」
いきなり地面がゆれ始めた。かと思うと途端に止み、暗雲が空を埋め尽くした。
406DA短編 瑠璃公:2006/08/29(火) 16:43:39 ID:osTashQr0
「こ・・・これは!?」
ヒビキとザンキが椅子から飛び出て、海岸沿いに向かう。そのとき、空から刀が飛んできた。
「あ・・・あれがエキビョウですか!?」
「あぁ。抜かるなよ・・・!」
ヒビキとザンキは鬼へ変化した。
ゴウキもそれに続いて音叉を取る。瑠璃狼がゴウキに語りかけてきた。
『鬼ヨ・・・。我ガ主ハ、アソコニ居ル。物ノ怪ニ犯サレテイル。』
「え・・・!?」
『アノ人ハ今、安息モ与エラレヌ地獄ノ業火ニ焼カレ、苦シンデイル。』
瑠璃狼はそこまで言い、ゴウキを見上げ、付け加えた。
『鬼ヨ。我ガ主ヲ地獄カラ出シテヤッテハクレマイカ。頼ム。』
ゴウキにはこのオンシキガミの瞳に、魂を見ているようで仕方なかった。
彼の生前の姿がその瞳に映っているようで。
「当たり前だ。人を魔化魍から救うのが“鬼”だ・・・。例え今は亡き者でも。」
『スマナイ。』
「いいってことよ!」
そう言ってゴウキは音叉を叩き、瑠璃の隈取を持つ鬼へ変化した。
『鬼ヨ。俺ノチカラモ使ッテクレ。』
瑠璃狼はそう言うと体を光らせ、その光は剛鬼を包んだ。
光が収まると、剛鬼の体に装甲が纏わりついていた。
「な・・・なんだ!?」
『コレナラ、奴ノ速サニモ着イテイケル。ダガ、俺ノ通力デハ小一時間保ノガ精一杯ダ。早メニ決着ヲツケテクレ。』
「・・・よし。」
407DA短編 瑠璃公:2006/08/29(火) 16:45:10 ID:osTashQr0
剛鬼はエキビョウを睨んだ。エキビョウの刀が斬鬼の二の腕をかすめ、魔物は高速移動を始めた。
響鬼や斬鬼の動きが止まった。剛鬼はエキビョウの振るう無数の刀を避け、懐にもぐりこむ。
音撃棒で鎧を叩きつけ、倒れたエキビョウを持ち上げて響鬼の烈火剣の刃に向けて放り投げた。
見事に炎の刃に串刺しになったエキビョウはビクともせず、再び高速移動に戻った。
「行くぞ、瑠璃狼。」
『俺、本当ハ“はち”ッテンダ。』
「そっか・・・じゃあ、ハチ。行くぞ。」
再び走り出した剛鬼はエキビョウの鎧に音撃棒を叩きつけ、刀を弾く。
「オラァァア!!」
炎の気を纏った音撃棒の懇親の一撃がエキビョウの鎧を砕いた。その瞬間に溜まっていた怨念が一気に爆発する。
「うおっ!?」
『今ダ、奴ヲヤルニハ今シカナイ!』
「ハァ!」
剛鬼が音撃鼓をエキビョウにつけると、再び大気が動き出し、響鬼たちも動きを取り戻した。
「あ・・・あれっ!?」
「剛鬼!?」
「響鬼さん!斬鬼さん!手伝ってください!」
「お、応!」
響鬼が音撃鼓をエキビョウに貼り付け、斬鬼は烈雷に雷轟を取り付け、展開した。
「爆裂強打の型ァ!」
「音撃斬、雷電激震!!」
「音撃打!金剛黒金の型ァ!!」
それぞれの音撃が、エキビョウに溜まった怨念を浄化していった。
408DA短編 瑠璃公:2006/08/29(火) 16:46:13 ID:osTashQr0
PM 09:05 渋谷駅。
ゴウキとオンシキガミは、渋谷駅の改札口で人を待っていた。
「今日は・・・来るかもな。」
『アァ。』
暫くすると、渋谷駅の線路が照らされ始めた。
渋谷駅に汽車が停まった。ゴウキは朧気に汽車をみつめ、あぁ来たか。と思った。
汽車から一人の男性が降りてきた。その男は真っ直ぐに改札口へ歩いて、切符を入れようとしたが、切符の大きさが合わず、そのまますり抜けて、こちらへ歩いてくる。
「やぁ、ハチ。随分待たせてすまなかったね。」
その男はオンシキガミに向かって声をかけると、ゴウキの顔を見つめた。
「ゴウキくん。長いことハチが世話になった。ありがとう。」
「あなたが・・・コイツの・・・?」
そうゴウキが問いかけると、男は悲しげな顔をして、再び喋りだした。
「いいや。もはや私にはハチの飼い主である資格はない・・・。」
『ソンナコトハ・・・アリマセン。先生。』
「先生・・・?まさかあなたは・・・。」
「ふふふ・・・察しがいいね、ゴウキくん。そう。僕は昔、農学部の教授をしていた上野だよ。」
『先生・・・ヤット帰ッテキテクレタンデスネ。』
「あぁ・・・。でもまた、行かなきゃいけない。ずっと遠い所へ・・・。」
『俺モ、ツイテイキマス。』
上野博士の魂はゴウキの眼を見て、ハチに諭した。
「いいかい、ハチ。君にはまだやるべきことがあるんじゃないのかい?」
『・・・。』
「君は人の命を守れる力を持っている。私のような魂だけの者でも、君は彼と共に救ってくれたじゃないか。」
そう言い終わると、上野博士は駅のプラットホームを見た。
409DA短編 瑠璃公:2006/08/29(火) 16:47:53 ID:osTashQr0
「どうやら、もう行かなきゃならないようだ・・・。」
線路が再び照らされていく。音もなく、汽車が現れた。
上野博士がゴウキによろしくね。と言ってプラットホームに向かう。
『先生!』
ハチが上野博士を追った。博士の足が止まって、振り返る。
「・・・待て。」
それにハチは反応し、博士はそれっきり言うと、再び脚を動かした。
「君の務めが終わったら、私の居るところへ来なさい。今度は私が君を待つ番だよ。」
そうハチに言い聞かせ、上野博士は汽車に乗った。
汽車は静かに天へむかって走っていく。
『ゴウキ・・・。』
「・・・・なんだ?」
『マタ・・・世話ニナルゾ。』
「・・・いいってことよ!」
そういうとゴウキは指をならしてオンシキガミを回収した。

―End―
410瑠璃公さくしゃ:2006/08/29(火) 16:50:50 ID:osTashQr0
どうだったでしょうか?
文面がめちゃめちゃで読み取りづらかったのではと思います。
この話のモチーフは言うまでもなく、忠犬ハチ公と上野博士です。
まぁ、そのうちだれかリメイクしてくれることを願います。
411鋭鬼SSの中の人:2006/08/30(水) 00:30:55 ID:A7m6ufKp0
>>368
え〜執筆する時間が作れなくて……つい、旬な方のゼクターを書きたくなるもの人情……
ここは他に職人さんが多いのでツイツイ後回しにしてました。反省
2、3話くらい構想は準備してるのでその内……いや、来月中には必ず
412凱鬼メイン作者:2006/08/30(水) 01:51:57 ID:k2G+0/W10
気づけばあと40KBでスレ移転か・・・。
413名無しより愛をこめて:2006/08/30(水) 02:05:02 ID:LnJ2G3yt0
よくわからんけど中国支部と四国支部が後に統合されて中四国支部になるの?
小暮さん現役時代にはまだ中国支部と四国支部に分かれてるんだから、中四国支部の歴史って案外浅いのか?
414名無しより愛をこめて:2006/08/30(水) 09:40:52 ID:SixvjPkT0
>>413
どんなに話がおもしろくても公式設定じゃないからなぁ
様々な事情で統合されたり分離したりを繰り返しているってのはどうだ?
>>411
鋭鬼SSさん、楽しみに待ってますよ
415名無しより愛をこめて:2006/08/30(水) 17:16:57 ID:W5/rzd+DO
平行世界とか
ゆでだからとか
敏樹だからとか
そういうたぐいの言葉で設定の矛盾など越えてゆけるから〜♪


ところで鋭鬼SSさんの言ってるゼクターってカブトのゼクターだよね?
416名無しより愛をこめて:2006/08/30(水) 19:11:34 ID:1o2TdTrW0
もともと設定の違う作品なのはわかってますが、それでも頑張って繋げてみました。


三十年前:高鬼、旧四国支部に出向。この翌年から数年間、関西支部と旧中国支部をかけもちする。

二十五年前:中国地方にヤタガラス出現。旧中国支部所属の先代幸鬼と先代蒼鬼、これを倒す。

二十数年前:高鬼、現役引退。それと前後して、旧中国支部と旧四国支部が統合され中四国支部に。
(おそらく人員不足に悩む旧四国支部を、旧中国支部が半ば吸収する形で統合したものと思われる。
 そのため、旧中国支部の本拠地であった出雲市がそのまま中四国支部の本拠地になっているのだろう)

二十年前:斗鬼、鬼となる。

十年前:関東支部では、音撃管はすべてトランペット型、音撃弦はすべてギター型に統一される。
(明文化されたのが十年前というだけで、実際にはもっと前から色々な支部で統一は進んでいたと思われる。
 その一方で、音楽活動を誇りとする中四国支部では統一のとの字も無し)

数年前:何らかの理由で中四国支部が解体され、再び中国支部と四国支部に分かれる。

2006年上旬:木暮耕之助、新四国支部長となった城之崎恭二と再会する。

2006年下旬:やはり色々と不都合があったのか、中国支部と四国支部が再度統合されて中四国支部に戻る。

ある年の冬:善道要平と冴峰沙弥が中四国支部に入門し、修行開始。


各作品で書かれていることを全部組み込んだつもりですが、見落としがあるかもしれません。
「○○が××だからここがおかしいぞ」的な指摘がありましたらどうぞ。
417名無しより愛をこめて:2006/08/30(水) 19:15:15 ID:1o2TdTrW0
あー、一箇所間違いが・・・
両支部が再度統合されるのは2006年下旬である必要はないですね。
その下の「ある年の冬」よりも以前であればいつでも。
418名無しより愛をこめて:2006/08/30(水) 22:18:27 ID:SNu3aHn6O
中四国支部は昔から中四国支部だけど、支部の中で中国支所と四国支所に分かれていた時期がある、というのはどうか。
正式名は支部じゃなくて支所だけど、慣例的に中国支部、四国支部と呼ばれていた、とか。

すごかがスレみたいになってきたなww
419名無しより愛をこめて:2006/08/31(木) 00:46:22 ID:TfrooeU/O
賛成です。
420名無しより愛をこめて:2006/08/31(木) 00:57:06 ID:R+Qxmvp/0
>>416

二十数年前:東真一郎と谷重道、新設中四国支部長の座を巡って蕎麦vs鮨の料理対決
421元・ZANKIの人:2006/08/31(木) 10:03:24 ID:UH0FbrTN0
>416
うまいですね。では、私からも少し。

響鬼っぽい設定
基本的には二つは別支部であるが、瀬戸内に発生する魔化網(たぶん独特な奴)
を両方向から囲むように守っている為に、いつのまにか総称して呼ぶようになった。

現実でありそうな設定
慢性的な資金難に陥っている四国支部を吸収したり、独立させている説。
また、関東、関西、九州、東北などの権力のある支部に対抗する為に合併する説。
支部長が同じ人なので統一しちゃってる説。

個人的には瀬戸内の魔化網説がいいかも、鬼ヶ島も確か瀬戸内だし(正解?)
考えてみれば瀬戸内は出雲と同じぐらいネタの宝庫なのかもしれない。
422名無しより愛をこめて:2006/08/31(木) 12:37:23 ID:SyX4am8YO
演奏会はいつ頃からあるのか?という問題も。
少なくともコナユキさんの幼少時代にはすでに演奏会が定着している。
423名無しより愛をこめて:2006/08/31(木) 12:46:54 ID:R+Qxmvp/0
そうだ、むしろ演奏会の存在を逆手にとって・・・
昔から中国支部・四国支部は合同で定期演奏会を開いていたが、
二つの支部にまたがって大人数が揃うわけだから、集まりの段取りが毎回毎回大変。
そこである時「もうめんどいから俺らとあんたらと合わせて一つの支部にしちゃわね?」と。
かくして中四国支部の誕生だ。
424名無しより愛をこめて:2006/08/31(木) 20:23:01 ID:1JbiVw5+0
先代ザンキさんの名ゼリフを再翻訳してみた。

DA vs ZANKIにて・・・。

「何ッ!?殺さないであげて、だと?俺がそんなケダモノじみた事をするような男だと思っているのかこのケダモノめ!!」
↓再翻訳
何という津。 Isはそれに獲物をするというわけではなくて、When Iは私がそのようなKedamono a Cotをするので、それが思うか、このKedamonoである男性です。
425名無しより愛をこめて:2006/09/02(土) 10:33:15 ID:roGo3QuDO
少なくとも公式では中国支部と四国支部は別物だね
中四国支部さんも独自の世界観でやっていると言ってたし
ていうか公式にある「その他の支部」が気になるなぁ
沖鳥島支部とかあるのか?
釣りで食糧を確保しながら島の下にひたすら突撃する魔化魍を倒す黄金伝説な鬼なんか
426名無しより愛をこめて:2006/09/02(土) 12:44:54 ID:4WlE2ITn0
竹書房のあの本にちらっと載ってるアレは公式設定ではないでしょう。
まあどの道、公式設定があろうと無かろうと、作者さんが「独自の世界観で」と言っている以上は
外野が無理して繋げる必要もないんですかね。
考えるのは楽しいけど・・・
427sage:2006/09/02(土) 13:04:09 ID:G6lSkp/V0

49之巻 「裁く裁鬼」

裁鬼「てめぇ等、まかもーを裁くのは誰だー!? それはこの裁鬼様だァ!!」


まるで〜 透明ィになったぁみたい♪


明日夢「僕は鬼にはなり(たくあり)ません!」


そんな風にィ 感じてたのかいぃぃぃ♪
                                完!

428凱鬼メインストーリー:2006/09/03(日) 15:35:30 ID:Qz8S5raJ0
九之巻「見据える月光」

日の光が木々の間から降り注ぐ。その光の中で汗を流す男が二人、大太鼓を前に腕を挙げた。
「いきますよ、アカツキさん!」
「応!」
ドドン!森の中で音は鼓動した。
ドン! ドン!二人の心臓に得体の知れない空気が入ってくる。
ドンドン!!二人は腕を振り上げた。
一気に山中に響き渡るリズムはディスクたちに魂を呼び戻させる。
鬼の体から汗が噴き出た。その飛沫は顔と腕を伝って大地に染みこむ。
辺りではディスク達が踊り、歓声が湧く。
『アレハ、天美ノ鬼カ。』
『ソウダ、奴ノ倅ダ。』
『アノ鬼ハ、我ラヲ救ッタ鬼ジャナイカ。』
『青鬼マデ居ルゾ。』
『夏ガ近イノダナ。』
『オイ、二人トモ腕ヲ下ロシタゾ。』
429凱鬼メインストーリー:2006/09/03(日) 15:36:20 ID:Qz8S5raJ0
「ふぅー・・・・。」
「もう少しって所か・・・。」
「そうみたいですね。」
ふとアカツキが後ろを振り向いた。その目線には勝手に展開されたディスクがこちらをジッーと見つめていた。
『オ・・・オイ、鬼ガコッチヲ見テイルゾ。』
『サ・・・流石ニ勝手ニ飛ビ出スノハ、拙カッタカ。』
『ド・・・ドウスル・・・?』
『ドウスルッテ・・・十五夜ジャナイカラ、鬼ノチカラデシカ、モドレンゾ。』
その時、パチッと指を鳴らす音がした。カチドキだ。
「すいません、アカツキさん。俺が太鼓叩くと、ディスクが勝手に飛び出ちゃうみたいなんですよ・・・。」
「・・・なんだ、その特異体質!?」
カチドキはヘヘヘヘ・・・と笑いつつ、飛び出してきた50枚近くのディスクの整理を始めた。
「全く仕方ない奴だな。」とアカツキも手伝おうとした時、携帯の着信音が彼の手を止めた。
「・・・誰だ?」
携帯のディスプレイには、「東北支部」と表示されている。アカツキは舌打ちして、電話に出た。
「アカツキだが。」
「坂本です。アカツキさん、確か今は神社にカチドキくんと居ますよね?」
「そうだが。なにかあったのか?」
「今、その近辺に住んでる小沢さんから連絡がありまして・・・魔化魍が出たんじゃないか・・・って。」
「その情報を詳しく頼む。」
「4日前から二人ほど行方不明になってて、その消失場所が普通ではありえないと・・・。」
「それは何処だ?」
430凱鬼メインストーリー:2006/09/03(日) 15:40:27 ID:Qz8S5raJ0
「市民プール?」
カチドキが車を走らせながら聞き返す。
「あぁ。そこで4日前は34の人妻。一昨日には19の学生が殺られた。二人とも営業時間を過ぎても更衣室から出てこないからそこの管理人が開けた時には既に居なかったらしい。」
「それだけで魔化魍だと?」
「いや・・・そうでもないみたいだ・・・。」
アカツキがFAXで送られたデータに目を通しながら呟いた。
「被害者が入っていた更衣室には、大人でも入れるほどの穴が空いていたらしい。」
「・・・なるほどね。」
カチドキは車をさらに加速させた。

青森県地下水脈―――。
「どこだ!?」
「暁鬼さん、こっちには居ませんでした!」
音撃棒・烈凱を手に水飛沫をあげながら走ってくる凱鬼。
「こっちはたった今、見失った・・・畜生。」
斯く言う暁鬼も凱鬼同様に夏用の音撃鼓・天空鼓と音撃棒・烈光を装備していた。
「まさかヌレグモが出るとは予想外でしたね・・・。」
「あぁ、念のためにと太鼓を持ってきておいて良かった。最初はオオナマズかと思っていたがな。」
俺もですよと鬼の顔の下で苦笑する凱鬼。二人は猛士が調査した地下水脈の地図を見ながら奥へ進んでいった。
「まぁ、夏の魔化魍じゃないだけありがたかったな。」
「今の状態じゃ“紅蓮”には成れませんもんね。」
「“竜胆”もだろ。あと・・・イツキの“黒金”もか。」
「竜胆は無理ですけど・・・黒金の方は実はもう出来てたりして。」
「さぁ?どうだかな。」
「ま、とにかく早く片付けないと。」
「あぁ。」
431凱鬼メインストーリー:2006/09/03(日) 15:40:56 ID:Qz8S5raJ0
シャァァアア!!
ヌレグモの口から粘性のある糸が発射された。
「くそっ!」
炎の気を烈凱に集中させ蒼い烈火剣、烈凱剣を出現させた凱鬼は糸をなぎ払う。
暁鬼はヌレグモの死角に潜り込んで音撃棒を叩きつけた。
ギシャア!
ヌレグモの胴が揺れ、黒光りする肢が暁鬼を叩きつけた。
「暁鬼さん!」
「俺は大丈夫だ!それより凱鬼、俺に策がある。」
そういうと暁鬼はその作戦を凱鬼に伝えた。
「暁鬼さん、無茶ですよぉ!」
「これが如何な手段も問わぬ天美の・・・“善”の気質だ。」
「・・・分かりました。」
そう呆れたように言うと凱鬼は地下水脈を走り出した。
それを確認した暁鬼も逆方向に走り出す。
「おい、バケモノ!こっちだこっち!」
暁鬼はヌレグモに吼え立て、目的の場所へ走っていった。

「ホラホラ、どうしたぁ!?」
ヌレグモを挑発しながら地下水脈をバシャバシャと水飛沫をあげて走る。
濡れた岩肌に時折脚を取られるが、そんなことはどうでもよかった。
シャァァア!!
ヌレグモが糸を吐き出し、暁鬼を絡めとった。長い前肢で糸を手繰り寄せる。
「クソがぁぁあ!」
暁鬼は精神を額の鬼面に集中した。すると鬼面が光を放ち、辺りが煌々と照らされる。
普段暗いところで過ごしているヌレグモは視力を失った。
「ハァァアア!!!」
暁鬼はさらに気合を高めた。体がさらに輝きを増し、糸がブチブチと切れていく。
光が止んだ先には、全身に腕に炎を帯びた暁鬼がいた。
「チッ・・・やはりまだだな。」
そう呟くと再びヌレグモの注意を引き、走り出した。
ヌレグモは視力は失ったものの、触覚の機能が働いているのだ。
432凱鬼メインストーリー:2006/09/03(日) 15:41:51 ID:Qz8S5raJ0
地下水脈の道はだんだんと広がっていき、遂には運動場くらいの広さがある場所へ出た。
暁鬼は時折後ろを振り返ってはちゃんとヌレグモが追いてきているか確認しながら広場の真ん中に立った。
ヌレグモが勢い良く広場へ入ってくる。その瞬間を暁鬼は逃さなかった。
「鬼法術、光明錠縛!」
両の手で印を結ぶ暁鬼の鬼面からまたもや光が放たれ、ヌレグモは押しつぶされたかと思うと、そのまま身動きが出来なくなった。
「凱鬼!今だ!!」
そう叫ぶと、広場の真上から青い音撃鼓が落下してきた。
音撃鼓はヌレグモの背中にくっつくと、一気に膨れ上がる。
凱鬼の雄叫びが広場に木霊した。上を見上げた暁鬼はフッと鼻で笑う。
凱鬼は蒼炎鼓にむかって落下しながら烈凱を振り上げた。
「天来天誅の型ァ!!」
ドドン!!
次の瞬間、ヌレグモは木の葉や土くれへと還った。
顔だけ変身解除したカチドキがアカツキの後ろを見て問いかけた。
「あれ・・・?暁鬼さん・・・あれは・・・?」
「ん・・・?」
暁鬼も顔だけ変身を解いて振り向く。
「こ・・・これは・・・。」
433凱鬼メインストーリー:2006/09/03(日) 15:43:16 ID:Qz8S5raJ0
広場の先には青い光の筋が煌々と輝いていた。
「アカツキさん・・・何か知ってるんですか?」
「これはまさしく・・・天美の“魔封陣”・・・。」
「それってまさか・・・。」
「カチドキ・・・お前にはもう分かっているだろ。あきらの宿命が・・・。」
「宿命・・・?」
「あぁ、お前が12のときに俺の家で見てしまった書物があるだろう。あれだ。」
アカツキの説明にピンと来たのか、カチドキは冷や汗を流した。
「まさか・・・これがその封印だと?」
「あぁ。そうだ。・・・だがあきらは今のところ大丈夫さ・・・。」
そう言ってアカツキは地下水脈を出口へと歩き出した。
「それは・・・一体どういうことですか?」
「恐山が護る限りは・・・大丈夫ってことだ。」
「一真には・・・教えないで居てください。」
「さぁ・・・どうかな・・・。」
「・・・?」
「彼には時が来たらあきらが世話になるかもな・・・。どの道、教えなくても知る運命なのかも知れん。」
アカツキはそれきり言うと、地下水脈を後にした。
天美の魔封陣と呼ばれるそれは地下水脈の中で、光を絶やすことは無かった。
434次回予告:2006/09/03(日) 15:48:03 ID:Qz8S5raJ0
「緊急事態!ちょっと協力して!」

「じゃ、頑張ろうね!」

「春季吹奏楽コンクール金賞は・・・・」

十之巻「共に鳴る音」乞うご期待!
435高鬼SS作者:2006/09/04(月) 19:59:29 ID:jUe+S2j50
とりあえず一本投下させていただきます。
シチュエーションを優先したので、今回も舞台は中国支部です。
あと、少しクトゥルー神話について言及している箇所があります。
説明不足な点等もあるかと思われますが、詳しい人、怒らないで読んでやって下さいw
それではどうぞ。
436仮面ライダー高鬼「水の神の社を越えて」:2006/09/04(月) 20:00:44 ID:jUe+S2j50
1978年、卯月。
大山での一件から半年が経ち、負傷した鬼達の中からも現場へ復帰してくる者が増えてきた。
コウキ達の出向もそろそろでお仕舞いになると思われたある日の事である。
その日、中国支部の表の顔である出雲蕎麦屋の店内で「金」の佐野学が一冊の本を読んでいた。丁度報告のために支部を訪れていたコウキが、何を読んでいるのかと佐野に尋ねると。
「ご存知ありませんか?これはクトゥルー神話と呼ばれる一連の小説体系の本ですよ」
クトゥルー神話とは米国の作家、H・P・ラヴクラフトの創作した一連の怪奇小説に影響を受けたA・ダーレスら同僚や後輩の作家達が、彼の創造した設定やキャラを自作に取り込み体系化した作品群を指す。
1921年にラヴクラフトが「無名都市」を執筆してから今日に至るまで、世界中で様々な作家達が執筆し発展させている。日本でも小説だけでなく映像作品(ウルトラマンティガ等)やゲーム作品(女神異聞録ペルソナ等)に影響を与えている。
「実は私、クトゥルー神話が大好きでして。彼此二十年近く嵌まっているんですよ……」
そう言って読んでいた本をコウキに見せながら、滔々とクトゥルー神話について語りだす佐野。それを聞きながら本を捲っていたコウキは、とある頁に描かれてあった挿絵に目を留めた。
「これは……?」
「ああ、これですか。こいつはクトゥルーと言いまして、古代の地球を支配した旧支配者です。海底都市ルルイエで眠りについているんですがね……」
延々と話し続ける佐野。その本には、蛸のような頭部に無数の触腕を生やし、鱗に覆われた体に巨大な鉤爪の生えた手足、そして細長い翼を持った異形の怪物が描かれていた。
と、店の扉を開けて客がやって来た。慌てて椅子から立ち上がり接客を始める佐野。とりあえずこの日はそれで終わった。だが数日後、再び中国支部を訪れたコウキは我が目を疑う事となった。
437仮面ライダー高鬼「水の神の社を越えて」:2006/09/04(月) 20:01:41 ID:jUe+S2j50
時間帯はもう夜である。こちらで一泊していたコウキは急遽出撃要請を受け、何事かと思いながらやって来た。
「……支部長は?」
「奥の方で八雲くんと連絡中です。説明は私の方からさせていただきます」
そう言うと佐野は本題に入った。
「広島県佐伯郡宮島町の厳島に魔化魍が出たんです。ただ、『歩』の人の話だとどうも見た事の無い新手の魔化魍らしい。それでハナミズキくん、ユキツバキくん、ツワブキくんの三人に行ってもらったのですがね……」
「……どれも植物の名前ですね。ひょっとしてこの支部は鬼の名前をそれで統一しているとか?」
「え?ああ、言われてみればそういうコードネームの人が多いような……。でも偶然ですよ」
花水木、雪椿、石蕗ともに植物の名前である。レンキのみ違うように思われるが、彼女は技名に「花」という文字が入っているので強引に加える事が出来る。
「話を戻しますよ。で、事前に『歩』の人が現地で撮った写真が式神を使って送られてきたんですがね……」
これを見た時私は腰を抜かしかけましたよ。そう言って佐野はコウキに一枚の写真を渡した。
「!これは……」
日が沈む頃に撮影されたため、逆光でシルエットになっているが、その姿は紛れも無く数日前に佐野が見せてくれた本に描かれていたクトゥルーの姿そのものであった。
「実際に交戦したらしいのですが苦戦しているようでしてね。救援を送ろうにも、今手が空いているのはコウキさんだけなのです。行っていただけますね」
「それは勿論ですが、しかし……」
こんな姿の魔化魍をコウキは今まで一度も見た事が無かった。と言うか、あの本の挿絵と全く同じ姿の魔化魍が出てくるなど俄かには信じられない。
「では早速行きましょう!ここから広島までは遠いですし、途中で船にも乗らなければならない。手の空いているサポーターは誰もいないので私がお送りします!」
興奮しながらそう告げる佐野。クトゥルーをこの目で確認したいという願望丸出しである。
こうして二人は物凄い速さで島根から広島へと向かったのであった。
438仮面ライダー高鬼「水の神の社を越えて」:2006/09/04(月) 20:02:59 ID:jUe+S2j50
広島県厳島。後に世界遺産に登録される厳島神社で有名な所である。厳島は、この時点で既に国の文化財として特別史跡及び特別名勝に指定されていた。
その海上で中国支部所有の船に乗って、花水鬼、雪椿鬼、石蕗鬼が作戦を立てていた。相手は現在海中に潜ったまま何時間も動きを見せていない。
「ではタクティクスBで行くわよ。二人とも大丈夫?」
「任せてくれよ」
「はい、やれます!」
花水鬼が立案した作戦に雪椿鬼と石蕗鬼が同意を示す。
花水鬼は管を、雪椿鬼は弦を、石蕗鬼は音撃棒を構えた。そして暗く静かな海をじっと見ている。
正直石蕗鬼は不安で仕方が無かった。一つはこの中で自分が最も経験が浅く、そのため他の二人の足を引っ張る事になるのではないかという不安。ただでさえ石蕗鬼は脚に古傷を抱えているのだ。
そしてもう一つ。それは二人の先輩が退院して間もない体だという事だ。事実、二人の動きがまだまだ鈍っているのは先程の戦闘で目に見えて分かった。入院前のそれとは明らかに違う。
タクティクスBは三位一体の連携が重要な作戦だ。さっきは「はい、やれます!」と威勢良く答えたものの、果たして上手くいくのであろうか……。
先程の戦闘で既にタクティクスAは破られている。雪椿鬼の氷の技で敵を周囲の海ごと凍らし、集中攻撃を仕掛けるという作戦だったのだが、力任せに破られてしまっているのだ。
「……来たわね」
海面がごぼごぼと泡立ち、波が起こる。奴が出てくる。周囲の空気が張り詰めた。
そして。
醜悪な姿をした怪物が、クトゥルーが現れたのだ。
「作戦開始!船を出して!」
「了解!」
花水鬼の号令とともに雪椿鬼が船を発進させる。音撃管から圧縮空気弾を連射し、クトゥルーが自分達を追ってくるように仕向ける花水鬼。
439仮面ライダー高鬼「水の神の社を越えて」:2006/09/04(月) 20:04:15 ID:jUe+S2j50
「しかし、いくら深夜とは言えあんな巨体を島の近くまで誘き寄せるのは……」
「大丈夫よ石蕗鬼くん。作戦が成功して音撃を決める事が出来れば、そんなに時間は掛からないわ」
連射しながら冷静に答える花水鬼。
船を追ってクトゥルーは厳島の近くにまでやって来た。そこには、猛士保有の大小様々な船がロープで互いに繋がれた状態で漂っていた。
「行くわよ、タクティクスB!」
号令と同時に三人の鬼は三方へと跳び、それぞれ別々の船の上に着地した。
頭部の触腕を伸ばし、三人を絡めとろうとするクトゥルー。船から船へと跳び回り、それを回避する三人。
花水鬼が音撃管を、石蕗鬼が鉄球を用いて牽制を行う。逃げてばかりの三人に対し苛立ちを覚えたのか、荒れ狂うクトゥルー。波が立ち船が揺れるも、互いに繋がれているため転覆する事は無い。
「鬼法術・乳海撹拌!」
花水鬼が海中に片手を突っ込み、多少力を加減して鬼法術を使用した。途端に大きな渦がクトゥルーを中心に発生し、その周囲に三人が乗った物を含む全ての船が集まってくる。
さらに。
「雪椿鬼くん!」
「俺様の美技に酔いな。鬼法術・氷之世界」
絶妙の力加減で放たれた鬼法術により、雪椿鬼の周囲から海が凍り始め、船をクトゥルーの体に固定していく。
「策は成った!」
あとは最後の仕掛けを発動させ、相手が怯んだ隙にその体に飛びつき音撃を決めるだけだ。花水鬼が何かのリモコンを取り出した。だが。
突然海中から飛び出してきた触腕が三人の体を捕え、締め上げたのだ。
「なっ!頭に生えてるやつだけじゃなかったのか!」
「迂闊だった……。これしきの事も予測出来なかっただなんて……」
「花水鬼さん!雪椿鬼さん!……うああああ!」
三人の体は強く締め上げられ、悲鳴が夜の海に響いた。
440仮面ライダー高鬼「水の神の社を越えて」:2006/09/04(月) 20:06:00 ID:jUe+S2j50
船に乗り換えて宮島港へとやって来たコウキと佐野は、そこで待機して支部と連絡を取っていた「飛車」の八雲礼二と合流し詳細を聞いた。
「三人は沖の方へ出ています。船を一隻用意してあるのでそれを使って下さい」
「では行きましょうコウキさん。船は私が操縦します」
八雲に案内され、船が停泊してある場所まで向かう佐野。コウキは音叉を鳴らし鬼へと変身すると二人の後に続いた。
出航しようとした刹那、遠くから悲鳴が聞こえてきた。
「石蕗鬼くん達の声だ!」
「佐野さん、早く船を!」
高鬼に言われ、佐野が慌てて船を発進させる。一直線に沖へと走っていく船。暫く進むとクトゥルーの姿が見えてきた。
「あの三人は触腕に捕まっているのか!」
「しかし佐野さん、クトゥルーの周りにある沢山の船は一体……?」
高鬼の疑問に佐野が溜息を吐きながら答える。
「タクティクスBを使ったのか……。全く、幾らうちの支部が金持ちだからって無駄に使うなとあれ程……」
ぶつぶつ言いながら説明を始める佐野。
タクティクスBというのは、複数の鬼が敵を撹乱し注意を逸らすと同時にトラップでその動きを封じ、怯んだところに音撃を決めるというものらしい。状況に応じて使用するトラップは異なるらしいが、金が掛かる事に変わりはないという。
441仮面ライダー高鬼「水の神の社を越えて」:2006/09/04(月) 20:06:35 ID:jUe+S2j50
「実行中に逆に動きを封じられちゃったみたいですね……。あ!来ます!」
クトゥルーの触腕がこちらへ向かって伸びてきた。鬼棒術・小右衛門火を放ち迎撃する高鬼。触腕は炎によってやけにあっさりと粉砕された。
「?やけに脆いな」
「高鬼さん、お願いします!」
跳躍し、近くの船へと跳び移る高鬼。そのままクトゥルーへと接近していく。
「高鬼さん!海中からの攻撃に注意して!」
石蕗鬼が叫ぶ。それとほぼ同時に海中からも触腕が出てきて高鬼の体を締め付ける。
「ああ……」
「鬼法術・焦熱地獄!」
高鬼の全身から炎が噴き出し、彼を掴んでいた触腕を焼き払った。消し炭となり海へ落ちていく触腕。
「……おかしいな。何であんなに簡単に燃えるんだ?」
その様子を目の当たりにし、疑問に思う佐野。本で読んだクトゥルーと外見は全く同じだが、炎で簡単に焼き払われるなんて邪神にしてはあまりにも脆すぎる。やはりあれはクトゥルーではないのか、それとも……。
高鬼がクトゥルーの体に張り付く事に成功した。音撃鼓・紅蓮を貼り付け音撃打の体勢に入る。
「音撃打・炎舞灰燼!」
清めの音が響き渡る。だが。
「何っ!?」
全く効いていないのだ。頭部の触腕を用いて高鬼を弾き飛ばそうとするクトゥルー。
高鬼は、駄目元でクトゥルーの顔面に向かって小右衛門火を放った。すると、どうしたわけかやけに効いているではないか。顔面を押さえ、体の周りに船をくっつけたまま逃げていくクトゥルー。
「うわ、そっちは!」
クトゥルーが逃げていく方向には厳島神社の大鳥居が立っている。佐野は慌てて船を動かし、その後を追っていった。
442仮面ライダー高鬼「水の神の社を越えて」:2006/09/04(月) 20:07:26 ID:jUe+S2j50
石蕗鬼達が最初にクトゥルーと交戦してからどれだけの時間が経ったであろうか。時間はもう午前五時をとっくに過ぎている。そろそろで日の出の時刻だ。
すぐ近くに大鳥居が見える。これ以上クトゥルーを進ませるわけにはいかない。
「なあ……ひょっとしてこいつ、火が弱点とか?」
触腕に捕らえられたままの雪椿鬼のその言葉に、花水鬼が手に持ったリモコンを見る。
「……やってみる価値はあるわね」
しかし触腕に捕まっているため、リモコンのスイッチを押す事が出来ない。花水鬼が高鬼に向かって叫ぶ。
「これのスイッチを!」
花水鬼がリモコンを手から離した。ありったけの力で跳躍し、それを受け取った高鬼は再びクトゥルーの体に張り付くと。
「これを押すんだな!」
スイッチを力任せに押した。
その瞬間、凍り付いてクトゥルーの体にくっついていた全ての船に積まれていた火薬が一斉に爆発した。目も冴えるような真っ赤な炎が、あっという間にクトゥルーの全身を包み込んでいく。
「おい!こりゃ一体どういう事だ!?」
「知らないわよ!でも生物がこんな紙みたいに簡単に燃えるだなんて……」
「花水鬼さん!雪椿鬼さん!早く脱出を!」
彼等を捕らえていた触腕も既に紅蓮の炎に包まれている。
「三人とも!こっちへ跳べ!」
見ると高鬼は既に大鳥居の上に避難していた。
崩れ落ちていくクトゥルーの体を蹴って、三人の鬼が跳躍する。
朝日が昇った。朝焼けに包まれた中、クトゥルーの巨体がどす黒い煙を吐きながら灰と化して海に落ちていく。
オレンジ色の光に染めあげられながら、大鳥居の上に立つ四人の鬼はその光景を静かに眺めていた。
一方、佐野も船の上からその光景を眺めていた。
「ふう……。しかしさっきの爆発音、色々と根回しが必要だぞ……」
事後処理の事を考えながらも、佐野もまた鬼達と同じ疑問を抱いていた。あれは一体何だったのか、と。
何か手掛かりでも残ってはいないか、そう思い全焼したクトゥルーの立っていた場所に接近してみる佐野。
そこには、一冊の本がぷかりと浮かんでいた。
443仮面ライダー高鬼「水の神の社を越えて」:2006/09/04(月) 20:08:33 ID:jUe+S2j50
その後、コウキは佐野に一冊の本を見せられた。あの時佐野が読んでいたクトゥルー神話の本だ。だが。
「どうしたのです?濡れてふやけているじゃあないですか」
「これは私の物ではありませんよ」
そう言って自分の本を取り出してみせる佐野。
「これはあのクトゥルーのような怪物が燃えた後の場所に浮かんでいたものです」
「あの怪物の?……そういえばあれは一体何だったのです?焼け死んだという事は魔化魍ではないという事になりますが……」
しかしあんな怪物が自然界に存在するとは思えない。
「それなんですがね、ちょっとこの頁を見て下さい」
佐野が捲って見せた頁は、あの時コウキが見たクトゥルーの絵が載っている頁だった。しかしこのふやけた本には……。
「え!?」
「ね?絶対何か関係があると思うのですが……」
その頁にはあるべき筈のものが、クトゥルーの挿絵が無くなっていたのである。そして本来クトゥルーが描かれていた箇所には、クトゥルーの形の焦げ跡が付いているだけだった。
444仮面ライダー高鬼「水の神の社を越えて」:2006/09/04(月) 20:09:39 ID:jUe+S2j50
コウキは総本部に戻ると、真っ先にこの不思議な話をあかねに話した。
「う〜ん、いずれ中国支部から詳しい報告書が届くだろうけど、現段階で言えるのは……」
あかねは机の上を漁ると、一冊の古い資料を拾い上げた。それの頁を捲りながらこう答える。
「『画霊』ってやつなんじゃないかな。ほら、これ。ここの所の記述」
そう言って指で差しながらコウキに資料を見せる。
「絵から抜け出てくるのですか……?」
「そう。魂を込めた絵は、絵から抜け出て動き回ると書かれているわね」
だから火に弱かったのか。
「しかし……」
コウキの言いたい事を察してか、あかねが話を続ける。
「確かに、こんな事長い猛士の歴史の中でも滅多に報告されていないわ。ところがね……」
今度は机の上から何かの報告書を取って説明を始めるあかね。
「実はここ数ヶ月の間に関東支部、中部支部、北陸支部、九州支部で一件ずつ似たような事例が報告されているのよ。でね、中には傀儡が一緒に目撃されているケースもあるんだ。ほら」
そう言ってあかねは報告書の該当箇所を指し示した。
「……という事はあれですか?また、あの連中の……」
「実験でしょうね。面白半分の」
心中で「ふざけやがって」と毒吐くコウキ。
と、内線が掛かってきた。受話器を取り、二言三言話すあかね。通話を終えると、あかねはコウキに向かって出撃するよう伝えた。
「今手が空いているのはあなただけみたいなのよ。やれる?」
「ええ。……で、何が出たのです?」
「それが……どうも見た事の無い新手の魔化魍らしいのよ」
物凄く厭な予感がする。既に五つの支部で起きているのだ。否定は出来ない。
「……とりあえず行ってみます」
そして、現場に到着したコウキが目撃したのは、真っ白い体に大きな唇、頭に毛が三本生えた某お化けの姿であった。 了
もう出る事は無いかもしれないけれど、一応新キャラの紹介
ハナミズキ(花水鬼)
 水を操る管使いの女戦士。
 肉体よりも頭脳を駆使して戦う策士タイプ。情報収集とその分析が得意。むしろ趣味。
 派手なトラップを好む。計算通りにいかないと狼狽するという分かり易い性格でもある。
 鬼法術・乳海撹拌は本来水中の敵を渦に巻き込んでずたずたにする技。

ユキツバキ(雪椿鬼)
 氷を操る弦使いの戦士。
 跡部の台詞を言わせたが跡部のパロディキャラではない。
 鬼法術・氷之世界は本来自分の周囲に氷柱を生やして敵を貫く技。
 実力はあるが楽天家でお調子者。そのせいか大山でも真っ先にテングにやられた。
 以下、当時の一部始終。
 雪「大丈夫だって。テングなんかにやられはしないさ。何せ俺は無敵……」
 テング「ガアアアアアアア!」
 雪「む、無敵なのにやられたぁぁぁぁぁ!」
 そのまま病院へ。

次回は先代がとうとう四国へ上陸する話の予定です。
446名無しより愛をこめて:2006/09/05(火) 10:21:32 ID:YTf4ToVv0
…某斬魔大聖のページモンスターですか?
このクトゥルーが描いてあった本ってなんだろう
あとラストのQちゃんワロスw
447名無しより愛をこめて:2006/09/06(水) 23:29:34 ID:NmLetDif0
ちょうど今週買った本にクトゥルーが載ってた

つ PHP文庫 「世界の神々が分かる本」 
448名無しより愛をこめて:2006/09/07(木) 23:29:02 ID:uBhxPpw9O
今、威吹鬼をメインにしたストーリーを構想しています。TVシリーズ最終回以降を描きたいと思っています。
449仮面ライダー高鬼番外編「狼達への鎮魂歌」:2006/09/09(土) 23:28:30 ID:9LdK5iGd0
197×年、夏。
その日、四国支部所属のキリサキとウズマキの二人は、関東支部からやって来るという客人を迎えるために高知空港を訪れていた。
ロビーでその客人を待っている間、二人は他愛も無い話をしていたのだが、いつしか話題は以前ここを訪れていたコウキについてになった。
「でも本当に凄かったですよね、初めて会った時の先輩とコウキさん。まさに一触即発で……。それがあんなに仲良くなるなんて未だに信じられませんよ」
「ん……。まあ何つーか、あいつとは最終的にグルーヴが合ったんだな」
「余所者には冷たい先輩があんなに楽しそうにしていたんですからね!」
「まあ閉塞的な村の出身だからな」
故郷の村が魔化魍に襲われた時の事を思い出したのか、少ししんみりした口調になるキリサキ。
「これから来る人とも仲良くしてあげて下さいよ?」
と、東京発の便に搭乗していた乗客達がロビーに次々とやって来た。だが、殆どの乗客がまるで何か奇妙なものを見たかのような表情をしていた。
その様子を怪訝に見ていたキリサキ達だったが、ロビーでその人物に会ってようやくその謎が解けた。乗客達は実際に奇妙なものを見ていたのだ。
「OH〜!南国土佐というくらいだからハワイみたいな気候かと思ったけど、東京と変わらない湿気だらけの気候じゃないか!」
そこには、実に悪趣味な柄のアロハシャツを着てサングラスを掛け、何故か首にレイを掛けた人物が荷物片手に立っていた。
絶句するキリサキとウズマキ。
450仮面ライダー高鬼番外編「狼達への鎮魂歌」:2006/09/09(土) 23:30:55 ID:9LdK5iGd0
アロハ野郎は、キリサキが腕に巻いている鬼弦を目聡く見つけると歩み寄ってきた。
「えっと……四国支部の人?」
こいつだ。この奇人が関東支部からの客人だ。
「……違うぜ」
「……あ、えっと、そうです。自分達が四国支部からの使いの者です」
キリサキの否定の言葉を打ち消すかのように、ウズマキが必要以上に大きな声で挨拶をする。
「ああ、それは良かった!俺、関東支部で弦の鬼をやっているザンキ。よろしく!」
自己紹介をするアロハ野郎に、ウズマキも自己紹介を行う。
「自分は四国支部で管の鬼をやっているウズマキと言います。で、こちらが……」
「……キリサキだ」
物凄く不機嫌そうに名を告げるキリサキ。明らかに目の前の鬼を、ザンキを毛嫌いしている。
「ちょっと先輩!初対面の方に、しかも外人さん相手に失礼ですよ!」
注意するウズマキに言葉の代わりに鉄拳で答えるキリサキ。腹を押さえて呻き声を上げるウズマキを一瞥すると、キリサキはザンキに喰って掛かった。
「おいてめえ!その格好、舐めてんのか?あ?」
「馬鹿言うなよ。いい女なら兎も角、お前なんか舐めたら汚い」
「ふざけんじゃねえっ!」
二人とも格好が格好だけに、傍から見ればチンピラ同士の喧嘩にしか見えないだろう。案の定、警備員がこちらに向かって来るのが見えた。
「やべえ!ずらかるぞ!」
「言われなくてもスタコラサッサだぜぇ」
大慌てで蹲ったままのウズマキを肩に担ぐと、二人は一目散に逃げていった。
451仮面ライダー高鬼番外編「狼達への鎮魂歌」:2006/09/09(土) 23:32:19 ID:9LdK5iGd0
客人を迎えるためという事もあってか、二人は車で空港に来ていた。ザンキを後部座席に乗せ、ウズマキがハンドルを握りキリサキが助手席に座る。
車中、無駄に明るく大きな声で喋るザンキとそれにいちいち相槌を打つウズマキに苛々を募らせるキリサキ。
「ねえ、何で助手席の奴はさっきから不機嫌なの?」
「すみません。根は悪い人じゃないんです。許してやって下さい」
この会話にますます機嫌が悪くなっていく。
「くそっ、コウキの時よりタチが悪いぜ」
この独り言をザンキが耳聡く聞きつけた。
「コウキ?ひょっとして関西支部のコウキか?あの頑固者で融通の利かない……」
急に盟友の名前を口に出されて仰天するキリサキ。
「知ってるのか!?そうだよ、お節介で自己中で自信過剰で大口を叩くあのコウキだよ!」
「何だかんだで子どもっぽい、あの理不尽なコウキだな!」
共通の知人の悪口を肴に、いきなり話が弾みだすキリサキとザンキ。
その頃……。
「ぶぇ〜っくしゅ!」
吉野総本部の研究室でいつものように機械いじりをしていたコウキは、盛大なくしゃみをしていた。
(誰かが私の噂話でもしているのか……?)
その予感は当たっていたわけだが、まさかその相手が自分の盟友と自分の記憶の中の汚点的人物の二人だとは夢にも思うまい。
三人が乗った車は、当初の険悪な雰囲気は何処へやら、和気藹々とした状態で物部村にある四国支部へと辿り着いた。
452仮面ライダー高鬼番外編「狼達への鎮魂歌」:2006/09/09(土) 23:34:12 ID:9LdK5iGd0
四国支部として運用されている支部長の自宅に通されるザンキ。
「大きくて古い屋敷だな。そういや何でここは店を開いてないんだ?関西支部は旅館だったし、他も……」
「ああ、それは村ぐるみで猛士をサポートしてくれているからですよ。だから店を開いてカモフラージュをする必要が無いんです」
ウズマキが説明する。非常時には村の人間が協力してくれるので人材不足ながらも今までやってくる事が出来たのだ。ただ、資金不足まではどうする事も出来なかったのだが……。
三人は支部長の小松辰彦の下へとやって来た。相変わらずにこにこと穏やかな笑みを湛えながら、小松がザンキに自己紹介を始める。
「遠路遥々ようこそ。私が支部長の小松です」
その後、コウキに話したのと同じ四国支部についての説明をザンキに話して聞かせる小松。一通り説明を終えると、何か質問は無いかと尋ねた。
「はーい、質問!親父さんは陰陽師らしいですけど、葉っぱを飛ばして蛙を殺したり出来るんですか?」
親父とは小松の愛称である。
「それは安倍晴明の話ですね。よくご存知で」
ザンキの不躾な質問にも小松は笑顔で答えた。
「確かに、いざなぎ流にも人を呪い殺す術があります。ですがそういったものは他人に見せてはいけない決まりなのです。そうしないと最悪な場合、呪いが逆流してしまう……」
そう言ってやんわりと断る小松。ザンキは実に残念そうだ。
「では私の話はこれで終わりにします。どうかゆっくりしていって下さい」
ザンキにそう告げると退室する小松。後にはキリサキ、ウズマキ、ザンキの三人が残った。
「おい、お前。弦の鬼なんだろ?セッションしようぜ」
「いいけど俺、別に仕事で来たわけじゃないから弦を持ってきてないぞ」
キリサキの提案にそう答えるザンキ。だがキリサキは。
「ちょっと待ってろ。研究室から弦を持ってくる。おいウズマキ!酒持ってこい、酒」
「え!?昼間から酒を!?だって今日は確か……」
「うるせえ!三分以内に持ってこないと酷い目に遭わすぞ!」
そう言うと部屋から出て行くキリサキ。ウズマキも渋々台所へと向かう。
453仮面ライダー高鬼番外編「狼達への鎮魂歌」:2006/09/09(土) 23:35:50 ID:9LdK5iGd0
三分以内に二人とも戻ってきた。ウズマキの手にはビールケースが、キリサキの手には一本の音撃弦が握られていた。
「丁度こいつがあったからな。これで弾いてくれ」
「先輩、それってサカズキさんの『風雲児』じゃ……」
ウズマキの言う通り、それはサカズキが調整のため多々良に渡していた音撃弦・風雲児だった。音撃震も既に装着済みである。
そんな事はお構いなしに「風雲児」をザンキに渡すと、自身は音撃弦・宵闇をケースから出して手にする。
「じゃあまずは俺が弾くぜ」
そう言うとチューニングを終えた「宵闇」を弾きだすキリサキ。最初という事でまずは軽くディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」を演奏する。
「おっ、『スモーク・オン・ザ・ウォーター』か。いいねぇ」
「あの、イントロだけで分かるんですか……?」
ウズマキの問いに、睨みつけながら答えるキリサキとザンキ。
「当たり前じゃねえか。ロック好きとしては常識だぜ。なあ」
「その通り!この特徴的なリフは『スモーク・オン・ザ・ウォーター』以外に有り得ない!」
最初出会った時が嘘みたいに意気投合する二人。
その後ザンキが演奏したのだが、そのギターテクに目を見張るキリサキ。
「凄いじゃねえか!今すぐにでもプロデビュー出来るぜ!」
「当然よ!俺に影響を受けたギタリストは欧羅巴中にいるぜ!」
アルコールも程よく回ってきた二人は、次に互いの技術を競い合いだした。まずキリサキが右腕をぐるぐる回すウィンドミル奏法を披露した。
「おっ、ピート・タウンゼントだな」
ピート・タウンゼントはザ・フーのギタリストで、ライブ中にギターを破壊する事で有名である。その荒々しさは少なからずキリサキの戦い方に影響を与えていると思われる。
次はザンキの番だ。「風雲児」をなんと歯で弾き始めるザンキ。
「それはジミヘンのパフォーマンスじゃねえか!ならこっちは……」
ライトハンド奏法を織り交ぜながらクイーンの楽曲を演奏するキリサキ。
盛り上がり続ける中、一人ウズマキだけが蚊帳の外であった。
454仮面ライダー高鬼番外編「狼達への鎮魂歌」:2006/09/09(土) 23:38:08 ID:9LdK5iGd0
セッションと言っておきながら、互いに一曲ずつ弾いては交代を繰り返していた二人。
キリサキはキャロルの「ファンキー・モンキー・ベイビー」を演奏したのだが。
「何それ。日本のバンドの曲?」
「知らないのか?日本の伝説のバンドの曲よ。俺は和製バンドも大好きなんでな」
「ふ〜ん。節操無いね」
この何気ない一言がキリサキのハートに火を点けた。
「……今何て言った?」
「だから、海外のハードロックだけじゃなく日本製のも聴くなんて、結局ロックと銘打っていれば何でもいいのかなぁ……って」
明らかにさっきの発言よりも悪くなっている。酔いも手伝ってか、とうとうキリサキが吼えた。
ただ、延々と自分とロックについて語ったりするわけではない。行動で示すのだ。勢いよく部屋を飛び出していくキリサキ。戻ってきた彼の手には、ガソリンがたっぷり入ったポリタンクと幾つかの花火が握られていた。
それを見て、すぐにキリサキが何をしようとしているのか理解したウズマキが慌てて止めに入る。
「やめて下さい、先輩!自分が今何をしようとしているのか分かっていますか!?」
「うるせえ!今の俺は酔ってるんだ!何をするか分からねえぞ!」
「俺は酒が強いって常日頃から言っているくせに!」
「黙れ!ファーック!」
ふとザンキの方に目をやると、既に何処かへ消えた後だった。急に厭な予感がしてくるウズマキ。
455仮面ライダー高鬼番外編「狼達への鎮魂歌」:2006/09/09(土) 23:39:02 ID:9LdK5iGd0
と。
ドグシャァァァン!
轟音と共に壁をぶち抜いてオート三輪が飛び込んできた。運転席にはザンキが座っている。
「どうだ!これが俺のロックだ!」
それがロックの一言で許されるのなら、繁華街での酔っ払い同士の喧嘩だってみんなロックだ。
「畜生!火ぃ点けてやるっ!燃え〜!」
ますます興奮するキリサキ。ウズマキの手には負えなくなってきた。
と、「銀」の多々良勝彦が血相変えて飛び込んできた。
「な、何をやっているんですか、あなた達は!」
惨状を目の当たりにして絶句する多々良。
「な、何という事を……。大体キリサキくんとウズマキくんはこれから出撃でしょうが!それなのに真昼間から酒を飲んで……」
「じ、自分は飲んでいません!」
ウズマキの弁解も耳に入らず、怒鳴り続ける多々良。
「今すぐ出ていきなさい!ここは僕が何とかしておきますから!」
「は、はいっ!」
そう言うや否やキリサキを連れてザンキが開けた穴から外へと飛び出していくウズマキ。ザンキもオート三輪から降りると、逃げるように後へ続いた。
一人残った多々良は、手の施しようが無いくらい滅茶苦茶の室内を見て深い溜め息を漏らした。小松は日課の散歩に出ているため暫くは戻ってこないだろう。しかし戻ってくるまでに全て片付け終えるのは不可能であろう。
(支部長、これを見てもまだキリサキくんを将来の支部長に推薦するつもりなのだろうか……)
そんな事を考えながら多々良はぼりぼりと頭を掻いた。
456仮面ライダー高鬼番外編「狼達への鎮魂歌」:2006/09/09(土) 23:40:08 ID:9LdK5iGd0
ウズマキが運転する車中で、キリサキとザンキはずっと口論を続けていた。堪らずウズマキが注意する。
「もういい加減にして下さいよ!これから魔化魍退治に向かうんですから。……何でザンキさんが一緒にくっついてきちゃったのかは分かりませんが」
そう言われて渋々口論を止め、音撃棒・酩酊を取り出すと手入れを始めるキリサキ。
「太鼓って事は夏の魔化魍か?」
ザンキの問いにウズマキが答える。
「そうです。カジガババアが出たらしいので」
「カジガババア?」
ザンキの疑問に、今度はキリサキが答えた。
「狼の魔化魍の事だ」
「狼……」
途端に嫌な顔をするザンキ。それはそうだろう。何せ彼や彼の欧羅巴での仲間達は皆、狼に変身出来るのだから。
カジガババア(鍛冶ヶ婆)とは。
高知県室戸市佐喜浜町に伝わる話である。鍛冶屋の老母を食い殺した狼が老母に化けて昼間は普通に振舞い、夜には正体を現して旅人を襲っていたという話だ。
「でな、それ以来狼の魔化魍はカジガババアって呼ぶようになったんだ。……おい、やけに汗が出てるぞ。大丈夫か?」
「あ〜、大丈夫だ。心配するな」
そう言ってハンカチで冷や汗を拭うザンキ。
ウズマキに命じてエアコンを強くさせるキリサキ。冷たい風がザンキの顔に当たる。
そうこうしているうちに三人が乗った車は、伝承の残る室戸の地へとやって来た。
457仮面ライダー高鬼番外編「狼達への鎮魂歌」:2006/09/09(土) 23:41:34 ID:9LdK5iGd0
草木も眠る丑三つ時。テントの中では心地よい寝息を立ててウズマキが眠っている。
そして外では、キリサキとザンキが珈琲を飲みながら火の番をしていた。何もやる事が無いキリサキは「宵闇」を爪弾き始めた。
「……ステアウェイ・トゥ・ヘブンか。上手いじゃないか。ジミー・ペイジにも負けてないぜ」
邦題は「天国への階段」。レッド・ツェッペリンが1971年に発表した、ロック史上最高の名曲として誉れ高い一曲である。
「ありがとよ。初来日公演にも行ったんだぜ」
そのまま昼間の続きと言わんばかりに、ロックの話で盛り上がる二人。
「ロックってのは社会思想や体制への反抗なんだよな。俺達みたいな裏社会の人間にとって一番相応しい楽曲なんじゃないかなと俺は思うな」
空を見上げながら、ぼそっと呟くキリサキ。夜空には綺麗な満月が輝いている。
「……まあな。でもさ、俺達が戦う理由は人を守るためだろ?そんな凄い事をやっている人間が反社会だの反体制だのを口に出すってのもどうかと思うぞ」
「……難しいなぁ。ロックも、人生も」
こんな妙な話を始めたのも、山中という特異なシチュエーションのせいだろう。うん、きっとそうだ。そういう事にしておこう。
ザンキが、どさくさに紛れて持ち出してきていたサカズキの「風雲児」を弾き始める。
「お前も弾けよ。今度こそセッションしようぜ」
曲はさっきキリサキが弾いていた「天国への階段」だ。
二人の弦の音と歌声が深夜の山中に鳴り響く。と、カサコソと音を立てて、茂みの中から人の形をした一枚の式王子が戻ってきた。
458仮面ライダー高鬼番外編「狼達への鎮魂歌」:2006/09/09(土) 23:42:59 ID:9LdK5iGd0
「ウズマキくん。私……」
「コ、コンペキさん……」
いい雰囲気の二人。徐々に二人の顔が近付いていく。そして互いの唇が重なろうとした瞬間……。
「おいウズマキ!とっとと起きやがれ!」
テントの中に乗り込んできたキリサキの強烈な蹴りが、眠っていたウズマキの頭部に直撃し、彼を夢から引き戻した。
「せ、先輩!?何て酷い事を……」
「いいから準備しろ。魔化魍の居場所が分かった」
カジガババアは夜行性の魔化魍だ。だから彼等は寝ずの番をして式王子の帰還を待っていたのである。
明かりを手に、真夜中の山道を三人が行く。道中でキリサキはザンキに音撃鼓と音撃棒を渡した。鬼の弟子が使う練習用の物だ。
「えっと、これを手渡されたという事は……」
「当然お前にも戦ってもらう。夏の魔化魍ぐらい戦った事あるだろ?」
「……マジでか?」
物凄く嫌そうな表情をするザンキ。
459仮面ライダー高鬼番外編「狼達への鎮魂歌」:2006/09/09(土) 23:43:42 ID:9LdK5iGd0
「……でも先輩、本当に自分達だけで大丈夫なんですか?コンペキさんかサカズキさんのどちらかに来てもらうべきだったのでは……」
カジガババアの連携は夏の魔化魍達の中でもトップクラスだ。分裂の度合いによっては苦戦を強いられる事は明白である。
「馬鹿野郎。何から何まであの二人に助けてもらうわけにはいかないだろうが。それに二人とも今手が空いてないんだろ?」
そこへザンキが疑問をぶつけた。
「確か昼間の説明じゃその二人は香川方面の担当って言ってたよな?それなのに呼べばわざわざ高知にまで来てくれるのか?」
その質問に対しウズマキが答えた。
「確かに自分は徳島、先輩は高知のように担当が決まっています。でも高知県に関しては四国支部所属の九人の鬼全員が担当でもあるんです」
四国支部で二番目に魔化魍の出現率が多いのは瀬戸内海である。八十八箇所霊場の結界の加護を受けていない小豆島や淡路島等があるが、ここは四国支部のナンバー1であるコンペキとナンバー2のサカズキが担当しているためか被害はかなり少ない。
そして一番が高知県なのだ。と言うのも、以前コウキが聞いた話の通り四国山脈は魔化魍が大量に湧くのだが……。
「高知県は全体の八割が山間部なんです。山のすぐ隣に居住地がある場所なんて珍しくも無い。おまけに黒潮の流れに乗って水棲魔化魍もやって来る。到底二、三人程度じゃカバーしきれないんです」
結界があってこれなのだ。もし無かったらと思うとぞっとする……、そうウズマキは告げた。
と、複数の遠吠えが聞こえてきた。カジガババアだ。
「出たな……。二人とも、変身だ!」
弦と笛が同時に鳴らされ、三人を鬼の姿へと変えた。
460仮面ライダー高鬼番外編「狼達への鎮魂歌」:2006/09/09(土) 23:44:46 ID:9LdK5iGd0
「どうりゃああああああ!」
カジガババアの顔面に音撃鼓・酔鯨を貼り付け、「酩酊」で滅多打ちにする霧咲鬼。コウキに鍛えられたせいか、叩く姿も随分と様になっている。
爆散するカジガババア。くるくると回転しながら戻ってきた「酔鯨」を受け止めると、周囲に檄を飛ばす。
「数が少ないからって油断するな!夜間の、しかも山中での戦いは向こうに分があるんだからな!」
「はい、先輩!」
渦巻鬼もまた、音撃鼓・黒潮を貼り付けたカジガババアに音撃棒・波浪による打撃をお見舞いしていた。
一方、斬鬼も練習用の音撃鼓で戦っていたのだが……。
(こいつら予想以上にDMCの狼に似てるぞ……。なんか気が滅入るなぁ……)
「そろそろ親が来るぞ!抜かるなよ!」
二匹目のカジガババアを清め終えた霧咲鬼が叫ぶ。
と、真っ白い毛並みのカジガババアが突然飛び出してきて斬鬼を押し倒した。カジガババアの親だ。
「先輩、斬鬼さんが!」
「うるせえ!分かってる!」
斬鬼の喉に噛み付こうとする親のカジガババア。針のように尖った白い毛が月光を浴びて輝いている。
(くそっ!狼が狼にやられるなんて洒落にならねえぞ!)
斬鬼は渾身の力で親のカジガババアを蹴り飛ばした。受身を取ると再び斬鬼に組み付こうとするカジガババア。だが既に斬鬼も体勢を立て直していた。
「うおりゃああ!」
鬼闘術・雷電脚が親のカジガババアを蹴り上げる。そこへ。
「行くぞ渦巻鬼!」
掛け声と共に霧咲鬼と渦巻鬼が同時に跳び蹴りを叩き込んだ。親のカジガババアは、上手い具合に残っていた子のカジガババアの上に覆い被さるように落下した。
好機とばかりにカジガババアの体にそれぞれの音撃鼓を貼り付ける三人。六本の音撃棒が山中に清めの音を響かせる。
そして。
「トドメだ!狼野郎ども!」
親も子も纏めて爆発四散し、塵と化した。顔の変身を解除し、一息吐くキリサキ。
「ふぅ……。こいつらが里に下りる前に倒せて良かったぜ」
「全くです。それ程増えてなかったのが幸いしましたね」
同じく顔の変身を解除したウズマキが同意を示す。
461仮面ライダー高鬼番外編「狼達への鎮魂歌」:2006/09/09(土) 23:45:30 ID:9LdK5iGd0
「……ん?ザンキはどうした?」
「あれ、そういえば……」
いつの間にかザンキは姿を眩ましていた。一体何処へ行ったのだろうか。
「さっきまで一緒に居たのに……。おーい、ザンキさーん」
と、弦の音色が響いてきた。見ると、「風雲児」を弾きながらザンキがこちらへと向かって来ている。その曲は……。
「こいつは……『天国への扉』か」
原題「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」。ボブ・ディランが1973年に発表した楽曲である。ザンキはこれを鎮魂歌の代わりに弾いていたのだ。
以前、開発局長の南雲あかねが「鬼も魔化魍も根は同じ」みたいな事を言っていた。全くもってその通りだ。この曲は、哀れな狼達を追悼するために奏でられている。勿論、彼のこの行為の理由をキリサキもウズマキも知らない。
演奏を終えたザンキが顔を上げる。そしてキリサキの顔を見ると、にやっと笑った。
「何やってんだよ、馬〜鹿」
悪態を吐きながらも、キリサキもまた笑みを浮かべた。
と。
「よくも子ども達を……」「鬼め……」
カジガババアの童子と姫が、残ったカジガババアを引き連れて現れたのだ。
「あ、そういや童子と姫を倒してなかったっけか」
「子どももまだ居たんですね。……夜明けまでには片付くかな」
再び顔を鬼のものにし、臨戦態勢を取る霧咲鬼と渦巻鬼。一方ザンキはと言うと……。
「まだ居たのかよ……」
また「天国への扉」を弾くか?いくら何でも怪しまれるだろ。……そんな事を考えていた。
462仮面ライダー高鬼番外編「狼達への鎮魂歌」:2006/09/09(土) 23:47:26 ID:9LdK5iGd0
数日後、とうとうザンキが関東支部へ戻る日がやってきた。
空港のロビーで別れを告げるザンキ。あの日と同じで、彼の目の前にはキリサキとウズマキが立っていた。
「じゃあ元気でやれよ。支部長達によろしくな」
「ザンキさんもお元気で。また遊びに来て下さいね。ほら、先輩も……」
ウズマキに促されてキリサキも別れの挨拶を交わす。
「ん、じゃあな。もしコウキの奴に会う事があったらよろしく言っといてくれ」
そう言って拳を突き出すキリサキ。その行為の意味を理解したザンキは、自分の拳をキリサキの拳に軽く当てた。
「時間だ。じゃあ行くぜ。……それとこれ、俺からの餞別な。また俺達が会えるように祈りを込めて書いたんだ」
そう言って四つ折にした紙片をキリサキに渡すザンキ。
「恥ずかしいから俺が発ってから見てくれ」
わざとらしくサングラスを掛けてザンキは言った。
東京行きの便が離陸するのを見送り、帰路へと着く二人。車中はザンキの話題で持ちきりだった。
「……とんでもない人でしたね。でも先輩が一番ザンキさんと意気投合していましたね」
「どうも俺は変わり者を惹きつける性質らしい」
「先輩も充分変わり者ですもんね」
「あん?何だと、この野郎〜」
そう言って運転中のウズマキの首を絞めるキリサキ。
「ちょっと先輩!危ないですって!ギブギブ!」
笑いながら手を離すと、キリサキは別れ際にザンキから渡された紙片を取り出した。そろそろ開けてみようと言うのだ。
「そうですね。でも先輩だけそんなもの貰えて羨ましいな……」
「ははは、そりゃあいつと俺は共にギターを弾いた仲だからな!」
嬉しそうに紙片を開き、中に書かれた文字に目を通すキリサキ。だが、彼の表情が一変して強張った。
「……先輩?」
「……今すぐ空港に戻せ」
言っている意味が分からず聞き返すウズマキ。それに対しキリサキは声を荒げて再度告げた。
「引き返せっつってんだろ!あの糞野郎……ぶん殴ってやる!」
その紙片にはでかでかとこう書かれていた。
「こ れ を 見 た ら 三 日 以 内 に 死 ね」
その後、マジでザンキを追ってキリサキが関東支部に乗り込んでいったのは言うまでもない。 了
463名無しより愛をこめて:2006/09/10(日) 18:03:59 ID:+RpaaoJv0
470KB超えましたね・・・。
464名無しより愛をこめて:2006/09/10(日) 22:51:45 ID:LbIrrBy60
高鬼、凱鬼バッカかよ・・・まあ楽しんでるけどよ
弾鬼、鋭鬼はどうなった?
待ってますよ!

465名無しより愛をこめて:2006/09/11(月) 14:14:22 ID:aI2HmfD30
もうちょっとソフトな言い方を心がけよう
466弾鬼SSの筆者:2006/09/11(月) 22:15:06 ID:27qZ6+EP0
>>464
申し訳ありません〜〜!
現在必死こいて書いております!
書いては、修正・削除を何度も繰り返しているもので、なかなか投稿出来ずにいます。
早ければ今週中に投稿できると思いますので、今しばらくお待ちいただけると幸いです。

467名無しより愛をこめて:2006/09/11(月) 23:24:38 ID:Sg+eS2eC0
>>466
待ってますよ〜。
468DA年中行事:2006/09/12(火) 01:46:15 ID:zq4qSau60
>>466
弾鬼SSさん、みょーんとツノを長くして待ってますよ〜。
高鬼SSさん、凱鬼SSさん、ペース速くて羨ましい限りです。

「天国への階段」、「ノッキン・オン・ヘブンス・ドア」、そしてP・タウンゼント・・・
うひゃぁ、好物だらけw
469名無しより愛をこめて:2006/09/12(火) 04:26:24 ID:wg5r47tx0
斉藤 真斗芽さん、忙しいのかな?
体壊したりしてなきゃいいんですが・・・。
470名無しより愛をこめて:2006/09/12(火) 17:12:28 ID:0JOk6xTGO
このスレの物語が、OVAになる……夢を見たよ。

強い裁鬼さん、新しい鬼の一撃鬼さん。無敵の天鬼さんに、カツコエェ送鬼さん。
熱血短気な弾鬼さんにノホホンマッスルな勝鬼さん。
妖艶な吹雪鬼さんにメロメロ鋭鬼さん。
厳格な高鬼さんと、破天荒な先代斬鬼さん。
可愛いDA達が動き回る映像!

こんな夢を見るくらいここのSSが好きなんだな〜と実感させられたよ。

あぁ〜見たい!
この気持ち俺だけじゃ無いはずだよな?みんなもだよな?
471名無しより愛をこめて:2006/09/12(火) 21:17:27 ID:CM09L3JlO
つっこまないもん(`ε´)
472凱鬼メインストーリー:2006/09/12(火) 21:35:31 ID:wg5r47tx0
十之巻「共に鳴る音」

翌週土曜日。
秋田県のブラスバンドのコンクールに早めに着いた一真は、コンクールの演奏順を記したパンフレットを眺め、あきら達の学校が午後の部の最後から3番目であることを確認した。
「・・・・・・まだまだ時間があるな。」
そう呟くと一真は荷物を席において会場を出ようとした。
「ッ!?」
首がしまって呼吸が出来ない。
振り向くと、あきらが切羽詰った顔をして一真の襟首を引っ張っていた。
「緊急事態!ちょっと協力して!」そう言ってあきらは一真を控え室へ連行した。
そこでは20人程度の部員と顧問が座っていた。一真には何がなんだかさっぱり分からない。
「先生!臨時部員、連れてきました!」
「天美、その人は?」
「幼馴染の風巻一真です。ギターなら充分弾けます!」
「ちょっと、どういうこと!?しかも呼び捨て・・・。」
「ギターの部員が事故で今日は来られないの。で、規定人数に足りなくて困ってたのよ。」
「それで俺を?」
「そ。やってくれるよねぇ?」あきらの目が潤潤しはじめた。頼むからそんな目で見ないでくれ顔を合わせられないだろう.
「べ・・別に良いけど、楽譜によっては弾けないかもしれないぞ?」
「頼む!一生のお願いだ、やってくれ!」顧問が楽譜を手に頭を下げた。
「・・・・分かりました・・・・やれるところまでやってみましょう。」
室内に歓声がどっと沸く。一真は楽譜を受け取ると即座に練習を始めた。
473凱鬼メインストーリー:2006/09/12(火) 21:36:07 ID:wg5r47tx0
「ここがこうで・・・次にAmか・・・」
「どう?出来そう?」
「とりあえずエレキ調だけでよかった〜って感じかな・・・。」
「苦戦気味ですか・・・。」
「まぁ、そんなとこ。・・・でもさぁ、やるって言ったからにはやらなきゃ。」
「そうだよね。」
顧問があきらを呼んだ。開会式がはじまるのだ。
「じゃ、また。」
一真はうなずくと、視線を譜面に戻した。

開会式が終わったあきらは足早に控え室の扉を開くと、途端にギターの音色が大音量で響いて頭がぐらぐらしてきた。
あきらに気づいた一真が手を止める。
「あ、もう開会式終わった?」
「う・・・・うん・・・。」
「今、最初の6小節くらいできるようになったよ。」
「は・・・早いねぇ・・・。」
「まぁ、イツキさんにかなり叩き込まれてたからさぁ。ある程度はできないと。」
「時間には間に合いそう?」
「ん〜・・・合わせを含めてギリギリかな・・・。」
あきらが頷いたそのとき、控え室に多数の部員が入ってきて、何人かが一真の周囲に集まってきた。
「風巻さんて歳いくつですか?」
「え・・・17だけど。」
「17!?・・・ってことはどこの高校ですか?」
「いや、高校は行ってない。・・・まぁ、就職・・・かな。」
「何の仕事???」
「まぁ・・・・レスキュー隊って言えばいいのかな・・・。」
「おぉ〜・・・!」
「あ・・・でもみんなはちゃんと高校行けよ!な!」
「はいはい!お喋りしてないで楽器の調整!」
「は〜い・・。」
474凱鬼メインストーリー:2006/09/12(火) 21:37:16 ID:wg5r47tx0
東北支部。カチドキが支部長にヌレグモの件を話しているとき、戸がガラッと音を立てて開いた。
「こ〜んに〜ちは。」
「おや、美夏さんじゃないですか。どうだった?吉野は。」
「う〜ん・・・。温泉は気持ちよかったんだけどねぇ・・・・。」
「開発局長でしょう。」
「そうそう。小暮耕之助さんだっけ?ほんっとに堅苦しくてね。」
「あの人はもともと、あぁいう人ですから。本人に悪気はないんですよ。」
「そうなんだろうけどさぁ。」
「で、なんと仰っていましたか?」
「なんか研究室に一人で篭って、『言霊マイクの理論を応用すれば可能な筈なんだ!!』って大声で叫んでましたよ。他の研究員の方の話なんてまるで聞いちゃいないし。」
「相変わらずですね・・・小暮さんも・・・。」
「あ、そうそう。」
何かを思い出した様子で美夏は言った。
「佐古さんって開発局の方から手紙を預かってました。」
そう言って美夏は白い封筒を渡すと階段を登っていった。
それを見計らってか、さきほどまで声をかけずにいたカチドキが支部長に話しかける。
「佐古さんって・・・恐山に行ったときの?」
「うん。なんだろ・・・。」
475凱鬼メインストーリー:2006/09/12(火) 21:38:39 ID:wg5r47tx0
支部長が封筒を切ってとりだした紙を広げると、馬鹿丁寧な字体が並べられていた。
『よっ仇ちゃん!この手紙を読んでるということは、あの娘はちゃんと届けてくれたのね。
それはひとまず安心。で、このまえ採取した鬼石だけど、やっと新しい音撃武器の理論が浮かんだの。
早く完成させて届けてあげたいところだけど、どうにも局長の技術が必要でね。
いま局長が開発してる“装甲声刃”が完成したら局長にも手伝ってもらうように頼んでみるわ。
どんな武器かは・・・もちろん秘密♪』
「あの鬼石ってそういうことだったのか・・・。」
「何を作る気なんでしょうね。」
「それよりこの“装甲声刃”ってなんだ?そっちの方が気になってしょうがない。」
「確かに・・・。」
支部長がそうぼやくと、封筒から新たにまた紙片が床に落ちた。
「なんだコレ・・・?」
「こ、これは・・・!」
その紙には先ほどとは打って変わって雑な字体でこう書かれていた。
『東北の鬼ども、装甲声刃が完成すれば最初に試運転をさせてやろう。嬉しく思え!』
支部長は頭が凍りついた。
476凱鬼メインストーリー:2006/09/12(火) 21:40:00 ID:wg5r47tx0
一真は呼ばれて演奏のための舞台に向かった。ついに来たのだ。本番が。
調子はどうです。と顧問に問われ、反射的に「バッチリです。」と答えてしまったことに後悔しながら、黒とシルバーのツートンカラーが美しいエレキギターを手にして一真は舞台へ上がった。
あきらはクラリネットを手にして譜面を開き、腰掛けていた。舞台慣れしているのがひと目で分かる。
それに引き換え、後ろの方で緊張気味に楽器を手にしている集団は1年生だろうか。
まだ小学生らしい面影が微かだが残っているように思えた。
アナウンスが流れ、準備が万端した。
顧問の指揮棒が宙を舞い、木琴の三重奏が会場に響き渡る。
ポォン!と跳ねるような音がしたかと思うと、太鼓が弾み、微かにトランペットが交えていた。
和と洋の調べが繊細で威勢のある音を織り成し、和音となって会場に響く。
続く主旋律金管楽器の曲調ではトランペッターが威勢よく吹き鳴らし、あきらたちクラリネットと太鼓がそれを支えていた。
次には一真を筆頭とした3人のギターが弦をかき鳴らし、ネックを上下させてヘヴィな音響で観客の心を一蹴した。
最後に太鼓、管、弦全ての楽器がそれぞれの響きで繊細な音響を奏でていた。

「一真・・・今はどんな感じですか?」
カチドキがイツキに聞いた。
「あぁ、いい感じだ。もう1年と半年になるし・・・そろそろ変身させてみるかな。」
「よろしくお願いします。」
「気にせんでもいい。俺もなかなか楽しいしな。まぁ、でも・・・奴も年頃だしな。多少は自由にやらせて構わんだろ。」
「だから今日は・・・?」
「あぁ。・・・人助けなんて、いろんな形で出来るからな。偶には外に放りだすのもいい。」
そんな他愛のない会話を交わすのが、東北支部での暇の持て余し方の1つだった。
とはいえ、支部長自身は自室で時代劇を視聴する方が性に合っていたのだが。
477凱鬼メインストーリー:2006/09/12(火) 21:40:37 ID:wg5r47tx0
「発表します!今年度春季吹奏楽コンクール金賞は・・・・」
一真は固唾を呑んで司会者の唇を睨んだ。
暫しの沈黙。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「北城中学校、ブラスバンド部。“輝”です!」
「よっしゃー・・・!!」
北城中の座席から歓声と拳が突き出される。一真もその輪に入っていくと、他の生徒が待ってましたとばかりに一真を胴上げした。
「うおっ!?」
慣れない縦ゆれで体を浮かされながらも、一真の顔、あきらの顔、全員の顔が輝いていた。

BGM:「少年よ」
478次回予告:2006/09/12(火) 21:41:48 ID:wg5r47tx0
クルルルル・・・・

「ガタロウか。」

「一真、お前もだ。」

「厳鬼・黒金!!」

十一之巻「啼りひびく河」
479名無しより愛をこめて:2006/09/12(火) 23:03:12 ID:q6+3Tsjk0
うはwwww弾鬼さんSS来るのかwwwww
480竜宮:2006/09/14(木) 13:11:06 ID:bqnuobnO0
 凱鬼メインストーリー様。ブラスバンド部「輝」!!おおっ。なんだか涙が出そうです。
「明日夢十夜」のどの話かで演奏ネタ使いたいなと思っていたものの
ぜんぜん楽器が分からないので、もし良かったらこのあきら中学時代の演奏設定とか描写とか
つかわさせていただいていいですか?
 ショートで夢オチなんで、たいしたことはできないと思いますが。
書きかけの分まで全部データーなくしちゃったんで、後半6話は次スレだいぶ後に
なると思います。
 470さん、私もこのスレのOVA見たいです。
特典映像では魔化魍や童子・姫達とくつろぐ鬼や猛士達のメイキング映像付でどうでしょう?
もちろんお茶やお菓子のお運びはDA達にお願いして。
481凱鬼メイン作者:2006/09/14(木) 18:58:25 ID:LR98GCLc0
>>竜宮さん
実は僕もあんまり楽器は知らなかったんです。
あきらがクラリネット奏者というのは秋山奈々さんがクラリネットをされているから。
実際に輝でクラリネット使ってるかなんて皆目見当もつきませんし、エレキギターだって、“ベースと普通”しか知りませんからw
要はでっち上げで自分の聴覚をたよりにどの楽器を使ってるかを載せてみただけです。
気に入っていただけたなら幸いです。どうぞお好きに使っちゃってください。
482竜宮:2006/09/15(金) 02:07:57 ID:vbcvBXe+0
ありがとうございます。まあお目汚し程度のものしか書けないんで
忘れかけた頃に読み飛ばしていただければ幸いです。
 凱鬼メイン様も皆様もぼちぼち寒くなってきましたので
お体に気をつけて素敵な世界を読ませてください。
483名無しより愛をこめて:2006/09/17(日) 09:06:03 ID:SfdjaJVD0
「輝」を演奏するのはこの世界でのセオリーなのかなw
中四国支部の合奏練習も輝だったよねw
484名無しより愛をこめて:2006/09/20(水) 02:03:03 ID:3BQV++bP0
現在485kb。よろりと次スレ立てた方がよさそうだねぇ。
昼間にでもチャレンジしてみていいかい?
490くらいまで待ってた方がいいかい?
485名無しより愛をこめて:2006/09/20(水) 09:15:58 ID:DL7LZBGxO
>>484
おねがいします〜!次で5スレ目か!早いな〜!
486484:2006/09/20(水) 18:16:12 ID:GRJywATC0
スレ立て、チャレンジしてみるっす!
487484:2006/09/20(水) 18:25:41 ID:GRJywATC0
・・・・すんません、裁鬼さん、俺じゃ立てられなかったっス

他の『サポーター』の方にお任せするッス・・・・・
488名無しより愛をこめて:2006/09/20(水) 19:00:54 ID:oAnrumVS0
俺にも立てれん・・・。
ということで私から一つサポート。
「肆」の次は「伍」ですよ〜。
489名無しより愛をこめて:2006/09/20(水) 22:59:01 ID:Qix7bBXV0
立てたよ

裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 伍乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1158760703/
490名無しより愛をこめて:2006/09/20(水) 23:45:50 ID:GRJywATC0
>>489
ありがとう!そして乙!!
作家さん方、スレ住人のみなさん、また宜しくです!
491斉藤 真斗芽:2006/09/21(木) 01:47:47 ID:+/pMlJT80
ここまで収録しました。

久しぶりの更新をしたら新スレ立ってますね。
ずっと仕事モードだったので、いざ更新しようとしたらやり方を忘れていて、キーボードの前で暫し放心状態でした。
なので、おかしなところがあったら指摘してください。

>> 瑠璃公さくしゃさん
こういう短い話も好きです。
ベタだし(失礼!)このスレでも使い古されたパターンかも知れないけど、忠犬(忠DA?)話に弱いんだよな。
あと、カタカナでしゃべる獣に弱いので、わかってても涙腺が緩んでしまう。
492プチ埋めさん。:2006/09/24(日) 10:53:58 ID:jRlEbBcj0
(ED)
弾鬼「鋭鬼さん!俺に構わずヤッてくれっ!!」

鋭鬼「おぅ!!」

       音撃打『生物撲殺』の型ぁ!!!


                         どォォぉぉんッ

♪まるで〜〜
斬鬼「ヘックシッ!」

弾鬼「これじゃ済まないって言ってんだよ」

洋館夫人「大人しくしてれば良いのに」

響鬼「何にでも真っ向から飛び出していく、

                だから名を」



          第伍乃巻『翻る尻』
494想像してみました:2006/09/27(水) 17:18:46 ID:Iu5ll4dkO
最終回以降の姫や童子は、以前の怪童子や妖姫、クグツを使用しているのではないかと思われます。スーパー童子・姫(ダッサい名前ですよね)は戦闘能力が高い反面、自我や知性が高過ぎました。そのため、自らの存在意義に悩んだり、最後には主に逆らう様にまでなりました。
そのことから多少知性が低くても、扱い易い前のタイプをバージョンアップしていく(鎧童子の時の様な)のに戻しているのではないかと考えています。
495追伸:2006/09/27(水) 17:24:03 ID:Iu5ll4dkO
身なりのいい男女って、西洋から来た貴族風の男女のクグツになるのでしょうか。
496名無しより愛をこめて:2006/09/27(水) 17:29:45 ID:2slNVnyJ0
その西洋男女も別の何者かのクグツなのかもしれませんね。
497名無しより愛をこめて:2006/09/27(水) 18:35:44 ID:In85ojJTO
今日も一仕事終え打ち上げにいった裁鬼一行
仕事のあとのビールはやっぱり最高
居酒屋からでてバイクでかえる裁鬼
警官に呼び止められる裁鬼 
焦る裁鬼
変身する裁鬼
逃げる裁鬼→追う警察
そんな飲酒運転問題を世にとう物語
498『威吹鬼伝 序章』
私があの人に出会ったのは、14歳の時だ。
両親を失った私は、親戚だという家に預けられることになった。
生まれ育った町を離れて、遠いところに行くのは不安だったが、中学生の私には他に選択は無かった。
預けられた和泉家は全国の猛士をまとめている古くからの名門で、代々鬼を輩出しているところだった。
格式ばった家なのかと思っていたが、のんびりとした空気が漂っていて拍子抜けしてしまった。
家族は皆優しい人達で、私を新しい家族の様に受け入れてくれたのだ。
和泉家に来てから一月が経った頃、私はずっと考えていたことをご当主に伝えた。
「鬼になって父の跡を継ぎたい」
よくは聞かされてなかったが、和泉家と同じく私の家も代々鬼を輩出してきた。
私が鬼にならなかったら、父の代でそれまで受け継がれてきたものが絶えてしまう、それが理由だった。
鬼になるのは自由意思で、必ずしも決まりではない。
ご当主もご夫人もそう言って止めてくれたが、私の決意は変わらなかった。
吉野で試験を兼ねた基礎訓練が終わった頃、私に師匠がつけられることになった。
その人は和泉家の三男で、大学生になったばかりと聞いた。
しかし高校生の頃から一人立ちした鬼として、既に数々の魔化魍を始末してきたらしい。
「やあ、きみがあきらさん?」
そこに現れたのはひどく愛嬌のある青年だった。
「あっあの、イブキさん…ですか?」
「うん、今日からよろしく頼むよ、楽しくやっていこう」
それがイブキさんとの出会いだった。