裁鬼達は人知れず戦っている
裁鬼、その実力は鬼の中でも1,2を争うが、連戦に次ぐ連戦で
その実力を出し切れず、敗北を重ねつつある
今日もまた癒えない傷を庇いつつ
正義と平和のため、裁鬼達は戦う
○色んなな鬼のSSドシドシ募集中
○DA、クグツもおっけ!
4 :
風舞鬼SS作者:2006/05/05(金) 18:07:58 ID:mlZKNHbm0
新スレ立てありがとうございます。
それでは心置きなく投下させてもらいますね。(近日)
コソーリ一番乗りさせて貰いますよ
あと、送ればせながら
裁鬼SSお疲れ様です。
用語集ご苦労さまです(なんか読んでて感慨深かった。すっかり忘れてた事もあったしw
仮面ライダー鋭鬼 十四之巻 仮面ライダー吹雪鬼 弐 〜恋人たち〜 です
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
「武者童子に鎧姫ねぇ……」
立花勢地郎に渡された、その新しい童子と姫の詳細が書かれた書類を吹雪鬼は覗いた
「ま、実際に会ってみないと分かんないわね」
「持久力が無いって事ですか。吹雪鬼さんや威吹鬼みたいに管の鬼はいいですけど
僕みたいな弦の鬼や、太鼓の鬼は接近戦が主体だから、持久戦は難しいな……」
蛮鬼は腕を組みながら、実戦闘を頭の中でシュミレートしてるようだった
「そうそう、威吹鬼くんってばさ……お、珍しく威吹鬼くんって言えた
その威吹鬼くん、響鬼さんに壊された竜巻が修理から戻ってきた見たいで随分ご機嫌だったわね」
「そうそう、よっぽど嬉しいみたいだねぇ。それが仕事の情熱に結びついてるなら言うこと無いねぇ」
「そうね。いっちゃあ失礼だけど威吹鬼くんが熱心に取り組む趣味ってバイクしか思い浮かばないや
……宗家の人間として子供の時から厳しく躾けられてきたからね。本人は気にしてないみたいだけど」
と、まぁ本人が居ない所だと人の口は容易く進む進む……と
「こんにちわ〜」
と、風の鬼らしく颯爽と“たちばな”に入ってきたのは当の威吹鬼である
「……話は変わるけど、鋭鬼くん随分戻ってくるの遅いわね?」
「あ〜どうも気に入られたらしくて、吉野のほうからもう暫く滞在するようにって辞令が……」
「気に入られた?」
「……木暮さんに」
素早く話題を変えた二人に半ば呆れた蛮鬼だったが、今の話題もなかなか気になる話であった
「木暮さんって小暮耕之助さんですよね?本部の開発局の。鋭鬼さん、凄いなぁ……」
「知らないって……」
「幸せなことだよねぇ……」
木暮と面識がある吹雪鬼と勢地郎は遠い目をしていた
明かりの付いていない部屋に月の光が射した
青く陰る中、優美な曲線が俺に組み敷かれていた
「鋭鬼くん……」
いつもはその心の強さを感じさせる深黒の目が潤んでいる
澄んだ瞳に映った自分は、緊張しながらもいたわりを含んだ顔を見せていた
「吹雪鬼さん……」
情けない話だが、ツバをゴクリと飲み込んだ
「綺麗だ……」
言い訳のように言うと、吹雪鬼さんは頬を赤らめて答えた
「あ、あんまり見ないでよ……恥ずかしいなぁ、もう……」
「いつも散々見せつけてる癖に……」
形の良い柔房を、身体の割には大きな自分の手で揉み砕く
「ぁっ……馬鹿…強すぎ……んっ……」
「ご、ゴメン、吹雪鬼さん」
慌てて手を離すと、どうしたものか億劫になって沈黙が続いてしまう
「……もう、何してるのよ」
「え……いや……」
「いい歳して……さ……」
吹雪鬼さんは強引に俺の手を掴むと、自らの柔らかな果実に押しつけた
「男の子は少しぐらい強引な方がいいって、ばっちゃが言ってたよ?」
覗き込むような視線で自分を見上げた吹雪鬼さんの顔が可愛い。どうしようもなく可愛い
「ずっと……吹雪鬼さんとこうなりたかったから……だからちょっと信じられなくて
嬉しくて、それで吹雪鬼さんのこと大切にしたいってことも思ってるから……つい……」
俺がどもっていると、吹雪鬼さんのしなやかで細い手が俺の首に巻き付いてきた
「ん……もっと聞かせて……」
俺と吹雪鬼さんの距離が縮まっていく
「大好きだよ……吹雪鬼…さん…」
まだ呼び捨てに出来ない。っていうか、吹雪鬼ってコードネームだった
どうしよう?本名で呼んだ方がいいのかな?いや、いいんじゃないか?やっぱ
「私は鋭鬼君のこと、大好きじゃないよ……」
逡巡してる俺の耳元で、吹雪鬼さんが囁く
「え……」
胸の動悸が激しくなる。どういうことですか?吹雪鬼さん……
「あ・い・し・て・る」
それだけ囁くと、俺の耳朶を形の良い口で咥える
吹雪鬼さんの口内の粘膜の暖かさと、甘美な囁きが俺の思考を奪っていったのがわかった
「俺も……愛してる」
吹雪鬼さんの華奢な柳腰を力一杯抱きしめた
「キャッ……力強すぎる……折れちゃうよ」
「そんなヤワじゃないさ」
「それって何か失れ……んっ…」
吹雪鬼さんから奪った唇は冷たく甘かった。気持ちいい……
「んっ……むぁ……んちゅ……」
舌と舌が睦み合い、互いの唾液を啜り合う。ピリピリと全身が痺れてくる
「ふぁっ……ぁ…ん……」
歯茎に沿って丹念に舌を滑らせると、普段の吹雪鬼さんからは想像も出来ない嬌声がくぐもって聞こえた
乙女の恥じらいと快楽に惚けた混沌としたこの表情に、心を揺さぶられない男はいないだろう
だが、吹雪鬼さんのこの顔は俺だけのものなんだ。俺だけの……
血が充血していくのがわかる。吹雪鬼さんの事、メチャクチャにしてしまうかも知れない
ゴメン……そう先に謝ると、吹雪鬼さんは聖母のように微笑んで俺を受け止めてくれた
「吹雪鬼さん……」
「吹雪鬼さん……ムニャムニャ……」
「木暮さん、彼、大丈夫なんですか?」
査問会の後、専らアームドセイバーの試験運転に狩り出された鋭鬼は、この日もまたアームドセイバーに精気を吸い取られ倒れていた
「鍛え方が足りん」
「はぁ……」
白倉が曖昧な返事を返す
「まぁ、僕は休めてええんですけど。兄のトコの見習い達には悪いことしましたなぁ」
隣で座っていた荒鬼が、頬を掻いて笑う
「いや、全く。ウチの生徒は鋭鬼くんのこと気に入ったみたいですから。現役の鬼に指導を受けるのも彼等には貴重な経験ですし」
「兄さん?!」
研究実験室に入ってきたのは光厳寺光太郎だった
「久しいな」
「あまり……本部には顔を出しませんからね、私は」
木暮に挨拶をする光厳寺に、白倉は微妙な顔を、してはいけないと思いながらも作ってしまう
「こちらもお久しぶりです、白倉さん。ご活躍は聞いてますよ」
「あ、あぁ……」
「あぁ、そうそう。さっき途中で高寺さんにも会いましたよ。相変わらずですね、あの人は」
穏やかに話す光厳寺に、白倉は耐えきれなくなった
「俺は……高寺のように強くはないんだ。君と会ってると申し訳なくなる……失礼させて貰う」
それだけいうと、白倉は早足で実験室を後にした
「白倉さん……」
「意地の悪い奴だ」
「いつまでも避られたままではいけないでしょう?」
寂しそうに答える光厳寺に、弟である荒鬼は訪ねた
「兄さんは……吉野をさけてへんの?」
「……さぁ、な。私には私の生活があるからね」
「孔明は息災か?」
木暮が光厳寺の愛息子の名をあげると、光厳寺は顔をほころばせた
「えぇ……いつ、鬼になると言い出すか、私はヒヤヒヤしてますが」
「させたくないのか?」
「いえ……孔明が決めた事なら、親の私は助ける事しか出来ないでしょう。師匠を紹介してあげるとか」
その言葉に、荒鬼は沈黙する。それを光厳寺は察したか、付け加えた
「別に義父に遠慮してる訳でも、結果的に文室の家が荒鬼になってしまった事に後ろめたさがあるわけではないんですが」
「兄さん……」
「吹雪鬼の名も、もう文室のものでは無くなってしまったしなぁ……」
他人事の様に言う光厳寺に、荒鬼は胸が痛かった。
年長者である木暮は、流石に空気を読むと話題を変えた
「しかし、何の用かね?ちょっと赴いたという訳ではないだろう?」
「えぇ、実は愛弟子の頼みで……」
光厳寺は幸せな夢を見ている鋭鬼を指して笑った
「彼をそろそろ帰して欲しいかな……と」
「吹雪鬼が?」
と、本来自分が名乗るはずであった名前を荒鬼は口にした
「うん、まぁ頼まれたというか、察したというか……昔から、素直な子じゃなかったからね。ひねくれてる訳でもないんですが」
吹雪鬼を思い出す兄の顔は優しい……荒鬼はそう感じた
人は幸せな刻を思うと優しくなれるのだろう
「鋭鬼くんは……風花にとって大切な人みたいだな」
頬を緩ませて気絶している鋭鬼を横目に、光厳寺は微笑んだ
<仮面ライダー吹雪鬼 第二章>
小佐夜「光太郎、光厳寺光太郎!」
荒鬼「小佐夜!君は戦っちゃいけないんだ!」
小佐夜「記憶なんか…思い出なんか…消えてしまえ!」
君は「誰」と感じるのか?
吹雪鬼「アームドセイバー?」
鋭鬼「新装備」
葉垂「私は春木葉垂。昔の記憶が無いの」
吹雪鬼「また会えるね?」
光太郎「会えるよ」
木暮「鬼に戻る気にはなれないのか?」
朱鬼「あの変身した時の修羅道の感覚は怖い」
木暮「百士鬼と会うのが怖いんだろう」
小佐夜「吹雪鬼って名前、今でも好き?」
吹雪鬼「とっくに好きよ。自分の名前になっているんだもの」
小佐夜「そう……私も好き」
――サヨナラ
風花「師匠!」
戦士たちが求めたもの――
それは「愛」
人は皆、自分の存在を確かめるため、恋をする
<仮面ライダー吹雪鬼 弐 〜恋人たち〜>
それは、キスの記憶……
――朱鬼の破門から数ヶ月
「ん?」
荒鬼は庭先にヘビイチゴが実ってるを見つけた
うだるような暑さはようやく過ぎて、秋の訪れを感じさせる涼やかな風が流れ始める季節だった
もうすぐ仕舞いになる風鈴の音が耳に心地よく聞こえる
だからだろう
居間に入った荒鬼はフッと目尻を下げた
「………」
規則正しい寝息を立てながら、高校の制服を着たままの風花が畳の上でうつぶせで寝ていた
が、暫く様子を見るに荒鬼は顔を引き締めることにした
大体、無防備に(寝てるんだから仕方ないが)スカートの裾はめくれてるし、臍もまくれてさらけ出している
年頃の娘が、だ。しかも美人が、だ。まして寝顔がしどけない感じで、だ
いやはや、コレを微笑ましく見ているつもりでも、端から見たら変態に見えはしないかと荒鬼は焦ったのだ
「まったく……」
服を正そうにも、寝相が複雑で難しい。何か上からかけてやってもよいが、それだとこの季節は暑すぎる
どうしたものかと考えながら、今一度風花の顔を覗き込んだ
切れ長で長い眉、白磁の肌、曲線を描きながら整った顔立ち、そして艶やかな黒髪をしていた
その髪は畳に扇状に広がっている。長い髪だ
「もしかして……」
昔、風花が訪ねた事があった。「髪が短い方が動きやすいですよね?」と
その時は、まぁ風花の気持ちも考えてか必要ないと答えたが、あの時ついでにこうも言った気がする
「“俺は長い娘の方が好みだな”」
荒鬼は寝ている風花の髪を撫でて整えると、はて?と首を捻った
「言ったかな?」
と疑う根拠は、彼の妻である小佐夜がセミロングだからであるが
そうして止めていた荒鬼の手を、風花は掴んだ。無論、寝ているから無意識の偶然だが
爪は綺麗に切りそろえられてるが、綺麗な手をしている。そういえば昔は良く風花が魔化魍退治の時に弁当を作ってくれていた
いつから止めたのだろうと記憶を遡ると、忙しくて風花が作れないときに小佐夜が二人分を拵えた時以降、弁当は小佐夜が作っている
朝や夜の御飯も小佐夜が作るから、必然的に風花の手料理を食べる機会は無くなってしまった
どちらの料理も絶品であるが、まぁ京都奈良育ちの荒鬼としては、若干濃いめの味になる風花より小佐夜の料理が好きだ
逆に体力がいるときや疲れた時、それこそ魔化魍退治の時は風花の料理が食べたくなるが
「小佐夜に遠慮してる……なんて思うのは俺の自惚れか?」
荒鬼は風花が可愛い
この可愛いが弟子に対して、子供に対してなのか、冬木風花という女性に対してなのかは、最近境目が無くなってきていた
特に伊織が居なくなってからは
「俺はお義父さんの言うほど良い男ではないな」
妻を愛してない訳でない。彼女の複雑な心境も理解出来るし、そうすれば彼女の辛辣な一挙動も可愛くも思えるが
その解読が疲れる時がある。正確に言えば疲れてるときにそういうことをしたくない
その点、風花と居るときは心が安らいだ。相性というのもあるのだろう
「この娘は……俺と似ているかも知れない。それでいて真剣で屈託が無いから……ゴメンなぁ、小佐夜」
独り言のつもりで荒鬼は呟いた
ただ、それを聞いてしまった者がいた場合、それは独り言と言えるのか、知らない
吉野の本部では本部の構成員の他に、角や飛車の志望者達が切磋琢磨している
彼等の喧噪が届くか届かないかぐらいの地下の一室に珍しく来客があった。それも一日で二人も
「朱鬼……」
「大体、光厳寺と同じ事を言いに来たんだろ?」
独房の中で面会した朱鬼は木暮の差し出した言葉をはね除けるように不貞寝したままだ
「荒鬼も来たのか?」
「今の荒鬼は文室の婿養子さ」
「あぁ、そうだったな」
埒もない。が、逆にこのまま話してしまおうと木暮は思った
「二度目だからな。そのままでいい。聞いてくれ」
「………」
「鬼に戻る気にはなれないのか?」
木暮の低い声が反響したあと、独房には静寂が残った
「あれほど……」
「ノツゴを憎んでたのに?」
今度は木暮が静寂の生み手となった
「あの変身した時の修羅道の感覚は怖い」
木暮は朱鬼でもそういう感覚があるのかと、失礼とも思わずに朱鬼の前で(朱鬼はこちらを見てないが)驚いた
確かに、鬼になると言うことは、身体だけの問題ではない
心の奥底の隅で、鬼の自分が戦え、戦えと強制する感覚。生き急がせるような感覚
鬼になった者にしか判るまい
だが……
「百士鬼と会うのが怖いんだろう」
単刀直入に言った
今、目の前の朱鬼が疲れてるのは、数ヶ月前のノツゴとの戦いで多大な犠牲者を出したことでも
さらにその前に、弟子である財津原蔵王丸ごとノツゴに攻撃したことでもないと、木暮には判っていた
この女は、自らの修羅を否定したりはしない
木暮は復讐を是とは思わないが、生き甲斐を失った戦友を見てるのは辛かった
「あの時、何があった?お前は……鉄の意志を持つ女だ。それが……」
「何もないさ」
非道く投げやりな答えの後に、珍しくこの女は他人の事を気にしたようだった
「私が鬼に戻って喜ぶ奴がいるかい?アンタ達が骨を折って、嫌われたんじゃ割に合わないよ」
それがやはりらしくなくて、木暮は聞かなかったように独房を足早に去っていった
光厳寺邸の呼び鈴が鳴った。古い建物に見えるが、ちゃんと設備は付いてるものだ
荒鬼が出る前にドアが開く音がした。一瞬、小佐夜かと考えたが、呼び鈴を鳴らす必要は無いなと
荒鬼は結局、寝息を立てたままの風花をそのままにして玄関に向かおうとした
「久しぶりです、兄上」
「あぁ、お前だったか?」
弟ならば勝手に入ってくるのに遠慮はないし、我が家をよく知ってるだろう
「今、小佐夜は出かけてるんだ」
「玄関に靴がありましたけど?」
「え?」
帰ってきてたのだろうか?それならそうと「ただいま」の一言が欲しいところだが
「まだ上手くいってないんですか?」
小声で言う弟に荒鬼は笑った
「傍目にはそう見えるかもしれないけど、アレにはアレの付き合い方があってね、夫婦仲が悪いつもりはないよ」
弟の顔が笑った
二人は歳はそんなに離れてないのだが、一見すると荒鬼が弟に見える事もあるのは荒鬼が若く見えるせいもあるが
彼が子供の頃病弱で苦労したからだろう。それでも病気が完治してからは文室の人間として鬼の修行をしている
だからという訳ではないが、荒鬼は光厳寺の家の婿養子になるのを躊躇ったということがある
男兄弟は彼だけだから、自分が荒鬼になれば必然的に吹雪鬼を継がねばならないことになる
別に弟に鬼になるなとは言わないが、家とは関係ない所でのびのびとしていて欲しかったという思いが荒鬼にはある
「二人っきりの時ぐらい、敬語はやめないか?」
「ケジメのつもりで。鬼になるまでは自分はまだ半人前ですから」
「資質は悪くないさ。姉さんが……入院中で無ければ、鬼の儀を受けていてもおかしくない頃合いだ」
彼ら兄弟の姉である当代吹雪鬼は、朱鬼捕獲作戦の際に肺に傷を負って入院している
鬼への復帰は厳しいとの見方が強く、彼女の弟子で文室家の跡取りの弟は何やら宙ぶらりんな存在になっていた
「いえ、自分はまだまだ……」
「華は無いが、粘り強い戦い方が出来ると見ているが」
そこまで気に懸けてるなら、彼を弟子に取ってやればよいと思うものだが
荒鬼は自分でも過剰と思うほどに吹雪鬼との関わりを避けている節があった。婿養子の辛さだろうか?
今一つ、理由がある
この弟は風花が好きであろうと、荒鬼は察していたからだ
あまり似ていると言われない兄弟だが、よく似ていると荒鬼は苦笑していた
「光太郎」
そんなことを考えてる時に、後ろから小佐夜の声がしたものだから、荒鬼は息を呑んだ
「な、なんだい?」
「何を狼狽えてるのかしら?あら?」
狼狽えてるのかしら?の所で小佐夜は一瞬風花を見ていたのだが、それに気づける者は居なかった
小佐夜は弟の姿を認めると互いに挨拶を交わした後、藪から棒に切り出してきた
「ちょうど吹雪鬼さんのお見舞いに行こうとしていた所なの」
「姉さんの?」
それほど親しいというわけでも無かったはずだが
「いけない?」
「いや……俺が反対しても、納得できる反論が無い限り君は行くだろうし」
「ええ、そうよ」
傍目から見てコレではやはり上手くいってないように見えるだろうと、荒鬼は笑った
その笑いの意味がわからず、小佐夜が聞いてきたので閉口したが
何にせよ親戚同士が仲がよいのは悪いことではないので、荒鬼は快く小佐夜を送り出したのだった
思えば思慮足らずで、小佐夜の事を鑑みればもっと行動の裏を察し見るべきであったろう
けれどそれなりに長くと言える時間連れ添っている中で、
どうでもよいことは心の中で無視するという小佐夜への対応が荒鬼のなかでは出来ていた
「見舞いといえば……」
「ん?」
「姉さんの見舞いに白倉さんがよく来るんですよ。忙しいでしょうに」
さもありなん。白倉は姉に思いを寄せていたからと荒鬼は笑うが、弟は黙ったまま
「でも、決まって姉さんがリハビリで病室に居ないときや、寝ている時にですけど」
「朱鬼とノツゴの時の事、今だに引き摺っているのか」
降格された高倉が淡々と仕事をこなしつつ、休暇はどこぞへと消えてるのに対して
白倉はよほど律儀に出来ているらしい。もっとも白倉の仕事自体は前にも増してキレが良くなってるとの話だった
「ままならんな……誰も彼も」
それは自分自身を含んだ言葉だったか
「今日三度目の客だぞ」
呆れたように来客を狭い独房で迎えた朱鬼は、自分の半分も生きてない小僧を見据えた
「俺はもっと実のある情報を持ってきましたよ」
高寺は不敵に笑うと、手製らしい地図を朱鬼に投げつけた
「何だ?これは」
「百士鬼の理由です」
「!?」
朱鬼の目の色が変わる
「ノツゴの一件以来、暇が出来るようになったんで調べてみたんです。なぜ百士鬼が猛士を裏切ったのか」
朱鬼は思い出せずにはいられない。百士鬼との戦いを……
百士鬼捜索の網は関東まで伸びていた
百士鬼といえば「最速」で名を馳せていたし、予定捕獲地はかなり遠大に想定されたいた
だが、その緊張状態にも限りがある。その時に初めて抜け出せるチャンスがあるわけで、それまでは逆に内部に潜伏する
そんな考えを百士鬼が持っていたから、偶々美濃の県境にいた朱鬼と出くわしてしまった
「百士鬼……意味もなく鬼に手をかけるとは魔化魍にも劣る所行!」
「無意味に見えるか?……まぁ、無意味だったな。……百士鬼…黄金!!」
紺色の身体が黄金に変わった瞬間、朱鬼の視界から百士鬼が消えた
メリッ
横腹を剔られる衝撃。熱を帯びたように熱く、胃酸が口の中に逆流する
「知らないとは言わせないぞ?この状態の私は通常の三倍……」
百士鬼の回し正拳をかろうじて音撃弦『鬼太樂』で防ぐ
「鬼同士では音撃は通じんぞ?朱鬼」
「判っている……」
朱鬼がツバを飲み込むと、両者は再び拳を交えた
「あの戦いは三日三晩続いた。私の方が一撃に重みがあったが、百士鬼は速かった
ヒット&アウェイを繰り返されて、あのまま行けば私が死んでいた」
「仕舞いか?もう?ガッカリさせてくれる」
「ぬかせ……ハァ、ハァ」
百士鬼は疲労困憊の朱鬼に向かっていきなり背を向けた
「なんの……つもりだ?」
「別に振り向きザマにキックって訳じゃない。見ろよ。隙だらけだぞ?殺れ」
「意味がわからん」
「やれもしない奴に復讐ができるかよ」
百士鬼の言葉に朱鬼の目の色が変わる
「私は私の父の様に無意味に死にたいのさ……」
「何?」
「朱鬼、私たち鬼とは一体何だ?なぜ魔化魍と戦っている?何千年も繰り返して……終わらない?」
禅問答など無用だ。私は私の為に鬼として魔化魍と戦っている……朱鬼は確かにそう答えたと記憶している
「私達は一体なにをしてきたというのかね?魔化魍が現れては殺し、時には人を守れずに嘆いたのは誰だ?
鬼だ。鬼とは何だ?その姿、形、力、どれをとっても人ではない。ただ心だけが人のつもりでいる
いつになったら終わる?終わらないね。人間、鬼、魔化魍……螺旋地獄を現世で彷徨い続ける
少し似て、少し違うもの達が奏でる箱の中のアリア。たまに調和を乱してみたくなった」
「それは?」
「死ぬ間際の百士鬼の言葉だ」
良く覚えている……などという感情は高寺にない
この男は他人の言った言葉は正確に覚えるのが当然と思っているような男だからだ
「百士鬼には父親が居ました」
「先代の百士鬼ならよく知っている」
「魔化魍退治の際に殉職して遺体は残ってない……と公式にはされてます」
朱鬼の目がギョロリと高寺を覗いた
「そう、公式では……」
その日、朱鬼が独房から脱走した
狼狽している師を見るのは二回目だった
三回目に会ったとき、私を弟子に誘ったあの時以来だ
「小佐夜……」
師の妻である小佐夜さんは時間には規則をもった性格で、夕食を作る時間もズレた事は自分の記憶には一度もない
それが吹雪鬼さんのお見舞いに行って以降、帰ってきてなかった
お腹が減った孔明に離乳食を作って食べさせた後、
あやしてようやく寝付いてくれた事にホッとした今、
師の顔を、心を窺う余裕が出来たのは不幸だと思う
師に心配して貰える小佐夜さんが羨ましく、師を心配させる小佐夜さんが憎かった
師もお腹が空いてる筈だが、きっと私が作っても食べないだろう
いや、食べるか。食べなければ私が傷つくと思って
「師匠……」
「困った妻だ。ああゆうお嫁さんになってはいけないよ」
冗談で愚痴をこぼして笑う。挙動も落ち着いてあぐらを掻いている
けれど、師の態度がいつもの通りであればあるほど、その奥にある焦りが判ってしまう
「姉さんの所に行ったのは確かなんだが……」
そのことは吹雪鬼さんから伝えられたから間違いない
その後の小佐夜さんの足取りが全く途絶えていた
暫し沈黙が続いた
時計を見ると……これはまた立派な古時計だが、11時をまわっていた
そろそろ孔明が起き出してグズるかも知れない
それはそれでありがたい
そう考えていたら、案の定だったので立ち上がる師を抑えて私が立った
「スマンな。もう、夜も遅い。風花も寝たらどうだ?」
大きな師の肩が非道く寂しそうで小さく見えたから、思わず手を差し伸べてしまった
「風花?」
「あっ……」
そのまま抱きしめたくなる衝動を抑えて、肩に置いた手で師をほぐすように圧した
「そんなに気を張らなくても、小佐夜さんは帰ってきますよ。あの人は強い人だから」
「そうだな。小佐夜は強い……」
何故こんな慰め方をしてしまったのだろう
私の心の一片に悪い私が居るのだ。その悪い私は、目の前の男をもっともっと不安にさせ、自信を奪いたいのだ
「夫婦なのに、支え合ったことがあったろうか……」
「そんなこと……それだけが夫婦の形じゃありませんよ」
「ふっ、知ったような口を叩くものだ」
支え合ったこと……ある。私は知っている
師は自分の事は自分でしてしまうから、小佐夜さんは入る隙が無いのだ
前に師が風邪をこじらせたとき、私は師と日課の音撃武器やディスクアニマルの手入れをすることが出来なくて
いつもより遅くに手入れに言ったら、小佐夜さんがとても丹念に師の飛勇鶴や烈旋を簡易メンテしてたのを覚えている
あの人は鬼になりたくてなれなかった人だから……とても良く知ってるんだ
鬼の仕事や鬼の装備を
だけど、鬼じゃないから、猛士でもないから、ふれないように、さわらなようにしてたんだ
探索で遅く帰る日も、とっくに寝て待ってるケド、残された夕飯は醒めても美味しいような料理ばかりだし
あの人は「男に書斎があるのに女にないのは不公平」なんて言って自分の部屋を持ってるけど
決して師に部屋に入らせようとしないけど、あの部屋には小佐夜さんの無くなったお兄さんが使ってた音撃管や
幼かった頃の家族の写真や……師と並んで映ってる写真が沢山隠れてるをの私は知ってる
「女同士だから」といつもの凛と怜悧な顔を綻ばせて見せてくれた
あるいは私にそれを見せることで、私の師への思いを抑制しようとしたのかも知れない
「……風花?」
怪訝な顔で覗き込む師の姿があった
否、師はそういう顔を作ってるだけだ。私があと一押しすれば……
私があと一押しすれば……
「私…だったら……」
傾れ込んでくる
けれど、BGMが悪い
孔明の、この人の子供が泣いている
「……なんでもありません。そう、ですね。私も…もう…寝ます……」
これでいい
いいんだ
手に入れてしまえば、私の追っていた光では無くなってしまうから
でもきっと、手に入れた後は別の暖かさをくれる光だったろうけど
次の日、吹雪鬼さんから連絡があった
「変身音笛が無い」という内容だ。もっと言えば、小佐夜さんがお見舞いに来るまではあったのにという話だ
「本当に魔化魍の居場所を教えてくれるんですか?」
「先輩を信用しろ」
「でもこの方角は吉野の総本山でしょう?」
朱鬼は昔使われていた本部への(正確には本部から外部への緊急脱出ルートだが)道を歩いていた
小佐夜と一緒に
「こんな道知らなかった……」
「最近の若いのは危機管理がなってないな」
朱鬼が呆れながら整理されてない山道を、枝を折りながら進んでいく
「本当に変身出来るのか?」
「鍛えてましたから」
「そうだな……決意とは捨てきれないから決意というのだ」
珍しく笑うと、道を変える
「?」
「別に本部に行きたい訳ではないからな」
「それはそうでしょうケド」
いつもなら口答えしている小佐夜は黙って付いていった
「六連の鳥居?」
「そうだ」
「天国人間修羅畜生餓鬼地獄とでも?」
「さぁな……連なってる訳だから違うのかも知れんが」
六連の鳥居の先には厳重に札で九字の封印がされてあった洞窟の入り口がある
「この九字切り、縦の兵、者、陣、在は陰陽に長けた者でなくては解けん」
朱鬼は言いながら呪を解いていく
「だが、横は四柱家と宗家に対応している。その家の血の者でなくては……解けん」
「私は呪術の心得は……」
「私がサポートする。お前は切るだけでいい」
完全に封印を解いたわけではないが、何とか二人は入れるだけの空間にはなるだろう
どうやらこの封印は外部の侵入を防ぐというよりも
(この中の者を閉じこめるかのようだな……)
高寺から貰った地図を捨てると、朱鬼は小佐夜の腕を取った
その日、白倉は会いたくない男と会っていた
「朝早く悪いな……とか、そういう言葉はないのか?」
普段言わないような嫌味を言うのは、せいぜいコイツに嫌われようと思っているからだ
それが彼の――高寺の為にもなるだろうと白倉は考えていた
「早いほうがいいと思った」
と、珍しく自らの行動に言い訳をした高寺に、白倉は襟を正す
「どういう話だ?」
問う白倉に黙って封筒を差し出した高寺
白倉が開けると、膨大な資料の様だった
仕事柄速読を学んでいる白倉はザッと目を通したが、顔が凍り付いていくのが止められない
「高寺……コレは?」
「百士鬼の事を調べていたら、随分と面白いものが出てきた」
愕然とする白倉を笑うでもなく、高倉は淡々と続ける
「百士鬼の親――先代の百士鬼の遺体は“在る”。歴とした死体だが、あるものを封印するシステムの一媒体として存在している
百士鬼はどうしてか、そいつを知ってしまった。憶測だが、情報を漏らしたのは魔化魍を生み出す男女の二人組ではないかと考えている」
「クサナギ……」
「あぁ。“オロチ”という魔化魍を知ってるか?」
「古文書に出てくる奴か」
流石に本部の出世頭だけあって白倉も博識であった
「毒を以て毒を制すというやつだろう。オロチを封じる為にクサナギを使って妖気を相殺させた
今度はソレを封印するために大がかりな呪詛方円、鬼門、陣を組んだ。よりしろに殉職した鬼を楔代わりに使ってな」
「猛士の闇という訳か……だが、コレを知ってどうする?返り咲きの取引材料にでもするのか?」
「お前と一緒にするな」
白倉は少し憤慨した。が、高寺は気にも留めずに続けた
「コイツは弾劾の材料になる。俺が願うのは組織の改革だ。……だが、少々計算違いが起きた」
「何?」
「荒鬼の細君が吹雪鬼の変身音笛を持ち逃げしたそうだな?」
突飛な所に話が飛んだ
そのことならば、吹雪鬼を気に懸けている白倉が知らないはずもない
「……このことを俺は朱鬼に話した」
高寺のその一言で充分だった
「もし、光厳寺さんと朱鬼が出会ってしまったら……」
「朱鬼に話した後、資料を調べていく内に俺はある仮説を立てた。データベース……今のお前なら確認できるだろう?」
猛士でも許可の無いモノでは検索できないデータが存在している
「寄生型魔化魍の存在の可能性だ」
「高寺……」
「俺のミスだ」
荒鬼から小佐夜が吹雪鬼の変身音笛を持ち出したと聞いたとき、風花は慌てて小佐夜の部屋に駆け込んだ
本棚の二番目の本を全て引き抜くと、背面の板を引き抜いた
「……無い」
二重にして作ってあった空間に在るはずの小佐夜の兄の音撃管が無かった
「風花」
開けっ放しの襖の先に荒鬼が立っていた
「何で……小佐夜さん、魔化魍退治なんか……」
「俺にも判らん。まだ拘ってたのかもしれない。場所は判ってる。というより教えてくれた……高寺が」
荒鬼は手に鬼封力を持っていた
荒鬼愛用の盾で、他の鬼たちからは扱いにくいと評判だったが、荒鬼が使うとまるで別物のように役立った
そのことについて訪ねたことがある
荒鬼は朗らかに笑うと「きっと俺には守りたいものがあるから、守りたいって気持ちと盾が重なるんだろうな」と答えてくれた
「師匠!」
風花が慌ててディスクアニマルを取ってこようと駆け出そうとすると、荒鬼はそれを制して
「今回は危険だ。風花は来るな」
「いやです。私は荒鬼の弟子です!」
躊躇いもなく答えた。こういう打てば響く所は小佐夜と似ている。だから小佐夜も気に入ってるのかも知れないと荒鬼は思った
「駄目だ」
「ついていきます!」
「なら今日限りで破門だ!」
「……それでもいい!ついていく!」
無言が続いた
基本的に仲の良く、会話が絶えない師弟だったので、これほど長い沈黙は初めてだったかも知れない
「……お前が来ると、ややこしくなる」
「ぁ……」
その言葉のヒダの裏側まで、風花にはよく判った
「先延ばしにして……解決できるの?」
「今、決めるさ。いや、決めたさ」
離れていく!
風花はとっさに荒鬼の服を掴んだ
「……ずっと弟子でいたい。弟子でいさせて」
「風花、夢を忘れたか?」
「私の夢は貴方だったから!」
早咲きの金木犀の花の匂いが風に乗って届いてきた
瑞々しい力を持った夏が過ぎ、静かに成熟していく秋が訪れようとしていた
「……風花」
「……好き……」
風花のつぶやきに荒鬼は黙って首を振った。出来ればずっと聞きたくない言葉だったが
それは大人げない願いだから……ずっと覚悟していたのに
「初めて会った時、とっても気になった。落ち着きすぎてると思ったの。柔らかくて深かった
二回目に会ったとき、とても充実してるように見えたの。力強くて生き生きとしてた
三度目は優しさと逞しさの中に寂しさが見えた。孤独な寂しさじゃないけど、静かに蕭々とした切ない寂しさ
とても輝いてみえるのに、どうして?私なら…私ならっ!」
「ふ…う…か……」
「私、厭なこと言う!これから!でも、言わずにはいられない……!
私だったら小佐夜さんより貴方を幸せに出来る!約束する!だから……っ!!」
荒鬼は動かない
風花に手を差し伸べようともしない
「……重い…ね、私……」
「大事な重さだ。けど、俺は受け止めれない。女として……俺の隣に風花は居てはいけない
…………好きだったよ。小佐夜も愛してるが……俺は不倫な男だ。けど選ばねばならないなら……
俺はずっと文室の跡取りとして育てられて、それが嫌で逃げ出すほどには嫌いではなくて
自分が強くなっていくのが悪くは無かったから、このままでいいと思って生きてきた
俺の生き方全てがそうだ。今がいい。辛いこともあるけれど、納得できないこともあるけれど
絶望するほど酷くない。楽しいことだってある。幸福ではないけど幸せだ。それが大事だ。壊れて欲しくない
…………俺の勝手で風花を傷つけてしまったな。済まない」
申し訳なさと寂しさが同居した微笑で荒鬼は詫びた
その顔が風花をどうしようもなく掻き乱したのに
涕涙した風花を見るのに忍びなく、荒鬼はその場を去った
何て無責任な大人だろうと思いながら、心の重心は小佐夜の方に移っていった
木暮は今ほど己の身体の衰えを恨んだことは無かった
「ええい!私の現役の頃ならば魔化魍の一つや二つ……馬鹿者!未熟者が手を出すでない!」
突如として吉野の総本山に現れた魔化魍に、場は混乱していた
本部には呪詛的な守りは堅固であっても常駐戦力はなく、その場所柄非戦闘員が殆どだった
例外は鬼の候補生達だが、未熟な彼等が戦ったところで魔化魍の大軍になすすべもなくやられるのが目に見えていた
「これは……」
目の前の現象に木暮は判断が付かずにいる
「オロチ現象の簡易版、あるいは地域限定版とでも言うべきでしょうか……」
「白倉くんか!?オロチ現象だと?」
その名前とどういった類のものかは充分承知している。だがそう簡単に発生するものでは無いはずだ
「オロチを封じる龍脈の“臍”ともいう部分が全国にはあるんです。有名なところでは樹海とか
この総本山にも一つあって、オロチと同等の力を持って封印してある……シークレットですが」
白倉が説明をしながら避難を誘導している
「原因は大体わかった。だが誰が……」
「直接の……と限定するなら朱鬼さんです」
「……白倉くん、その場所は何所だ?」
二人の目の前にツチグモの大群、カシャやヤマビコまで現れた
「木暮さん?!無茶だ!」
「私とてかって鬼だった男。切り抜けるぐらいは生身でもやってみせよう!」
言いながら、研究室に置かれてあった変身音叉と、東北の友人から送られた小包を無造作に取った
万が一、追いつめられた時の切り札だった
「想像…以上……」
本山に駆けつけた荒鬼が見たのはアミキリとオオクビの群れだった
「光太郎」
聞き慣れた威厳のある声が荒鬼を呼び止めた
「義父さん?来ていたのですか?」
「私にも責任があることだからな……」
光厳寺のその言葉に荒鬼は項垂れるしかない
「弟子の娘は連れてこなかったのか?」
「えぇ…まぁ……」
「では私がサポートにまわろう」
久々に血が滾ってるのであろう義父に対して、今自らの成すことが明確に判っている荒鬼は冷静だった
「俺は振り返りません。付いて来れなくても文句は言わないでください」
「言うようになったな。流石俺の見込んだ男だ」
羽音を立てて接近するアミキリが三匹――目視するより速く身体が動く
「把ッ!」
陰陽環を右手に付けた光厳寺が式神をぶつけつつ、左手でディスクアニマルを展開する
「邪魔をするなっ!」
荒鬼も又、アミキリハサミを鬼封力でいなすと、変身音笛を吹いた
着地点にはオオクビが口を開けて待ちかまえている
「邪魔だって言っただろう!」
御納戸色の乱射を抜けると、そこには異形の姿――鬼が居た
「烈旋ッ!」
腰の音撃棒を構えると荒鬼は気を溜めた
「鬼棒術・討魔弾!」
烈旋を交差させると同時に衝撃波が巻き起こる
荒鬼の奉ずる属性は『白銀』。魔を清める『反射』の力
「シャアァァァ!!」
地中から現れたロクロクビがその鮫のような牙を荒鬼に向ける
「シッ!」
鬼封力を投げつけてロクロクビの視界を封じると、背に逆袈裟に背負った音撃弦『光魔』で首を落とす
「光太郎、右だ!」
「!!」
光厳寺の言葉に荒鬼は振り向くと、カシャの火玉が三連につらなって荒鬼に襲ってきた
「鬼闘術――氷雪刃・翔!」
氷の気を纏った踵落としを先頭のカシャに決めると、今度はその踵を起点にして跳躍する
「オレヲフミダイニシターーー!!」
「獣の叫びなど意味をなさんな!鬼闘術・無凍刃!」
二列目のカシャを手刀で叩きふせると、足にホールドした音撃射『飛勇鶴』を引き抜く
「ッ!!」
ゼロ距離で荒鬼の鬼石が三列目のカシャの脳漿をぶち撒けた
「……俺は…俺の今持てる力全てを使って小佐夜の元まで辿り着く」
腰に音撃棒『烈旋』、ディスクアニマル。背に音撃弦『光魔』、足に音撃射『飛勇鶴』、更に……
「ジュギャァァァァァァ!!」
残ったアミキリが一直線に荒鬼に向かって跳んでくる
「陰陽鬼術――鬼功砲!!」
荒鬼の崩掌から発せられた気がアミキリを剔り焼いた
「ギジュヴァァァァ……」
「光太郎……陰陽環を鬼の力で増幅してるのか……?」
「はい」
荒鬼は鬼封力を胸当てにすると、光厳寺の蔵に眠っていた法力で編んだマントを身に纏った
多少は防御力が上がるし、手が自由になるので攻撃の幅は広がる
「約束通り、俺は前に進みます……もうすぐ近辺の鬼達も集合するでしょうから、それまで頑張ってください」
「光太郎……それでは消耗が激しすぎる」
「なるべく早く終わらせるだけです」
荒鬼は笑った
申し訳なさと寂しさが同居した顔で
それから十数分――
「今度はバケネコの大群か……元々沢山いるからそんなに驚異には感じられないな。鬼棒術『烈旋剣』!」
バケネコが木々に隠れて目を光らせる中、
荒鬼は烈旋から光の刃を出すを手当たり次第に切り刻んでいった
返り血がマントを濡らす
「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
踏み込んだ右足が大地にめり込み、逆袈裟に切り裂いた剣の先が太陽に反射した
まだ、小佐夜の所までは遠い
大地が揺れた
「ノツゴが三匹……朱鬼さんが居たら喜びそうな光k……!!」
ノツゴが咥えていたのは、ここの鬼候補生の身体だった
「貴ッ…様アァァァァァァァァ!!!」
荒鬼は飛勇鶴を乱射しつつ、もう片方の手で鬼文を書いた
「鬼功砲!」
光の烈風が巻き起こり、ノツゴが宙に舞う
すかさず荒鬼は音撃鳴を取り付けると
「音撃射・鬼岩一閃!!」
ノツゴが拡散する
大量発生してはいるが、一匹一匹は弱体化してるようだった
「あるいは、封印がまだ完全に解かれてないからか」
小佐夜は無事であろうか
最悪の想像をしながら、今は進むしかない
間道を抜けると、六連ねの鳥居に出た
木暮も猛士務めは長いが、こんな所は知らなかった
「来る途中一度も魔化魍に会わなかった……」
「あの道自体が鬼道を計算に入れて出来てあるんです」
白倉は手の中の資料を確認すると先に進んだが、先にいた数人の人影を見て足を止める
「ほう、稲妻か」
「木暮さん!?何故ここに……白倉くん?君か?」
いつもの人見知りを感じさせない剣幕で和泉稲妻が、半ば封印が解かれた洞穴の前に立っていた
「正確には俺だ。しかし、宗家に四柱家が三人とは壮々たる面子だな」
「高寺……」
これまた間道を抜けて辿り着いた高寺に、稲妻を取り囲む四柱家の一人が声を発した
「今回の騒動の原因はお前か」
「原因?猛士という組織そのものでしょう?」
皮肉る高寺に、一番奥の四柱家が目をそらした。どうやら朱鬼とノツゴの件に絡んでいたらしい
「これから封印を解きます。下がってください」
「一人足りないぞ?」
「荒鬼の印はすでに解かれてます。……それに、この中に居るのは……」
稲妻の配慮で荒鬼抜きで事を解決するつもりらしい
「呼ばれなくても来たようですけどね」
そんな稲妻を嘲笑うかのような口ぶりで高寺が言う
稲妻は血の臭いを感じて首を振った
「荒鬼さん……」
「ハァ…ハァ……小佐夜は、そこの奥ですか?」
鬼気迫る……将にソレだろう
荒鬼に銀のツノはすでに片方が折れ、音撃弦・光魔は刃こぼれし、音撃棒・烈旋は一本しか持っていない
「荒鬼……お前、抜けてきたのか……」
「途中……何人か……見殺しにしてしまった……」
鬼の候補生達のことか
彼等は果敢にも魔化魍に立ち向かっていったようだ
「荒鬼さん……この先は来てはいけない。私と残りの四柱家に任せて下さい」
「中に小佐夜さんがいますよ」
「高寺ッ!」
荒鬼はゆっくりと、しっかりと進む
「夫が妻に会うのに理由がいるものか。誰かに許可がいるものか!例え宗家といえどっ!」
「荒鬼さんっ!」
「俺は盾だ……守りたい者があって初めて盾と言う!」
ボロボロの鬼封力を構え、荒鬼は叫んだ
聞いてるこちらが引き裂かれるような叫びだ
「荒鬼……」
それほど親しい訳ではないが、文室光太郎の幼い頃から知っている木暮は、その姿に驚嘆と哀愁を覚えた
鬼の亡骸達がその剣を取り囲むように幾重にも立っていた
水晶体で固定され、その鬼と鬼を結ぶように難解な印を切ってあった
朱鬼は、その非人道な光景に憤りを感じながらも、どこか醒めた目で見ていた
一方の小佐夜は信じられないといった驚きが先に来ていたようだった
その小佐夜が、太刀……いやその太刀に封じられてた魔化魍“クサナギ”に触れてしまって今の事態がある
おおよそ、ソレを促した朱鬼の想像を超えていた
「くっ……近づくこともままならないのか?!」
朱鬼の周りには薙ぎ倒された鬼達の亡骸が倒れていた
「オオォォォォォォ……」
低く呻くような女の声が洞窟内に響いた
小佐夜の……否、クサナギの鳴き声だ
とても不気味で、悲しそうな啼き声
荒鬼には悪いが殺す!などともう息巻く気にもなれない
朱鬼は自嘲気味に笑った。自らの力の衰えを感じずにはいられなかったのだ
クサナギが音撃射を構える
「チッ……早かったな。百士鬼、今会いに行くぞ」
朱鬼は目を閉じた
人は死ぬ間際に走馬燈を見ると言うが本当らしい
若い木暮や天鬼、仲間達が……楽しかった頃が思い出された
鬼石が発射される
「………ッ、?」
朱鬼は歯を食いしばったが何所にも痛みを感じない
「オォォオォォォ……」
クサナギが啼いた
その視線は朱鬼ではなかった
「小佐夜……」
朱鬼を鬼封力で庇った荒鬼の姿がソコにはあった
「今、助ける……」
「荒鬼…か?その姿は!?」
朱鬼の知ってる荒鬼は御納戸色に銀のラインを持つ鬼だった
しかし目の前の鬼は姿形は荒鬼(傷ついてはいたが)だが、全身が茜色に染まっていた
茜色と言うと、夕焼けのオレンジに近い色を思い浮かべるものも多いが
本当の茜色というのは濃赤色の艶やかな赤色をしている
「荒鬼・天(アマツ)……参る!」
音撃棒『烈旋』を構えると、目にもとまらぬ速さでクサナギに詰める荒鬼・天
だがクサナギも反応していたか、自らを封じていた太刀を引き抜くと、荒鬼・天と熾烈な鍔競り合いを演じる
「!?」
近距離で荒鬼・天は鬼封力を下から滑り込ませると、クサナギの顔に押しつけるようにして視界を奪った
「音撃打――金剛飛燕!」
「シッ!」
危うくクサナギは荒鬼・天を蹴り飛ばすと音撃打をかわした
「……見た目は吹雪鬼とそんなに変わらないんだな」
暢気にもクサナギをマジマジと見る荒鬼だが、それほど余裕があるようにも見えない
「だが、取り巻くように周りに浮かぶ羽衣……恐ろしい妖気だ」
「ォォオオォ!!」
察するやいなや、羽衣が伸びて荒鬼・天を襲う
「く……天(アマツ)音撃・八紘鳳凰の型!」
舞うように衣を打ち付けていくと、その場に音撃鼓の印が現れて粉砕される
「馬鹿な……荒鬼、お前は管の鬼だった筈!」
朱鬼が驚きを隠せないでいると、荒鬼・天はクサナギの攻撃に不覚をえて音撃棒を飛ばされた所だった
拾いに行かなくては……!
朱鬼が軋む身体を動かそうとすると、周囲に雷撃が走った
「!?」
「……荒鬼・雷(ミカヅチ)」
瑠璃色の荒鬼がそこにはいた。美しい青にどことなく鋭さが増していた
「どういうことだ……うっ?!」
めまいを感じる。身体が動かないのはダメージのせいだと思っていたが、このけだるさは違う
「変身を解いた方がいい」
「木暮!?どうしてここに」
ふらつく朱鬼を支えたのは木暮だった。隣には高寺の姿も見える
「東北の安東朝日が作った強制強化システムを荒鬼に取り込んである
私が外部装甲による強化を研究してたのとは逆に、鬼の身体そのものを強化形態に強引に持って行くシロモノだ」
「そんなものが……」
「羨ましいか?だがあれは欠陥品だ。だから吉野のほうで丁重に保管してくれと送ってきたものだった」
木暮が冷や汗をかく中、荒鬼は音撃管『飛勇鶴』に音撃鳴を取り付けると、横飛びざまに音撃射を発した
「鬼岩一閃!!」
吹き続けてる訳ではない、連射して息を吐いてる
その度に強力な竜巻の固まりがクサナギを吹きとばしていた
「オォォォ……」
「ハァ…ハァ……」
「オォォ!!」
衣で大地を剔ると、その岩片に隠れてクサナギが距離を詰めた
「……!」
剣を水平に構えて一気に荒鬼・雷を貫こうとしている
ココまで間合いを詰められると音撃射を吹いてる時間がない
「荒鬼……地(チギ)」
「!?」
一寸の間合いに入ってた荒鬼とクサナギを地下水の噴射が助ける
次の瞬間、常磐色――古来より志しと節義を顕す色の荒鬼が立っていた
「音撃弦『光魔』!」
大きく振りかぶると、臍の辺りまで力強く押し切る
「オォォ!?」
受けきれずに剣を手放すクサナギを荒鬼・地は体当たりで吹き飛ばした
「違うな…ハァ、ハァ……小佐夜の剣筋じゃない……アイツはもっと……ハァハァ…手強かった……」
子供の頃何度も手合わせをした。並の男でも持て余す小佐夜の剣を受け止めれたのは光太郎だけだったし
光太郎の剣を受け止めれたのも小佐夜だけだった
「圧倒している……だが、何故あれほど疲れてるんだ?」
「欠陥品だからだ。まともな場所なら一分も保たずに生命力を使い切る」
「では何故?!」
朱鬼の問いに木暮は黙ったので、代わりに高寺が答えることになった
「ここにはあるからです。外部から補給する内は本人の負担は少なくて済む」
「外部……」
転がっている鬼達の亡骸
「……成る程」
「朱鬼さんも鬼のままだと、荒鬼の“食事”にされますよ」
ここにはオロチとクサナギを封印するだけの力が存在しているということだ
「ゾッとする話だな……しかし、太鼓、管、弦、全ての強化形態を使えるとは……」
「あれは本人の資質だろうな……いい加減、若者達の時代というわけだ」
木暮は朱鬼を肩に抱えると、高寺を連れて外に出ようとした
「俺は残ります……ケジメです」
外では今一度だけ威吹鬼となった和泉稲妻の指揮下で集まってきた鬼達が闘っている筈だ
そっちに出る方が邪魔になるだろうとも高寺は思った
その時、荒鬼の咆吼が響いた
「天!雷!地!音撃打!射!斬!三連!」
「オオォ゛オォォォォ…゛ォ…!!」
「文室光太郎です」
新年の挨拶で光厳寺家に来た文室家の跡取りは小さな頭を深々と下げて挨拶をした
父の膝の上で座っていた私はソレを見て何故か張り合って、膝から降りて正座をしたのだった
父はその文室の嫡男をひどく気に入って、結局、彼の父親は息子を置いていくことになった
「ほう、もう手習いを始めてるのか?」
ほくほく顔で彼に尋ね、弓が最近面白いと聴くと、家に併設している道場に彼を連れて行ったのだった
「コレでは出来ません。無理に合わない弓を引いて肩を壊しては仕方ありません」
「ふぅむ……まぁ待て、ウチの子が昔使っていたのがあるはずだ」
父はやわら道場の物置をガサゴソと荒らすと、昔兄が使っていた弓を捜し出したのだった
「……では」
兄の弓を受け取ると、彼は兄のように弓を引き絞った。いや、兄より綺麗な姿勢だったかも知れない
けれども、私は心中穏やかでなかった
あの弓は私が貰い受ける筈だったのだ
的の真ん中とまではいかないが、全て当てて見せた彼から私は弓を奪って引いたのだが
私の小さな身体では真っ直ぐ飛ばすことすら適わなかった
彼は微笑んで、私の手を取ると「こうするんだよ」と上から被さって教えてくれた
それがとても悔しかった
そして彼が温かかった
「光…太郎……」
「小佐夜!?」
クサナギの中の鬼は顔の変身を解いた
確かに中には光厳寺小佐夜の顔があった
「小佐夜……心配させたな」
荒鬼は武器を下ろして小佐夜に触れようとした
「くっ……!」
「え……?」
真一文字に荒鬼の胸が裂けた
とっさに後ろに避けたから、傷は浅い
「小佐夜…?!」
泣いていた
「光太郎ォ!!」
剣を小佐夜は大きく振りかぶる
小柄な割に思い切りのよい、その振りは間違いなく小佐夜の振りだった
ある日、文室光太郎をえらく気に入った父は、二人で大江山へ登山に行こうと彼を誘った
聞きつけた私は、ゴネにゴネて一緒に連れて行って貰うことにしたのだ
父に付いてきた私を見て、光太郎は嫌がりもせずに、ともすれば光太郎ばかりに話しかける父の間に立ってくれた
私が何度目かの喉の渇きに耐えかねて水筒を開いたとき、水筒が空であったのに気づいた
意地っ張りだった私は、そのまま大丈夫と水筒を締めて歩き続けた
よく思い浮かべてみれば、前を歩く光太郎は一度も水筒を開けていなかった
平然としてる顔ではなく、口を大きく開け、汗も沢山かいていた
当たり前だ。私と三つも変わらない、小学生の子供が登山をして喉が渇かない筈がない
私も酷く乾いていた。もう飲み込むツバも無かったのだ
すると光太郎は歩きながら、おもむろに自分のリュックから水筒を取り出すと、中の麦茶を飲み始めた
「なんだ、もう限界か?」
父がそう笑ったので、なんとなく察しがついた
父も一度も水筒を開けていない
だから光太郎も開けなかった。そういうことか……ボンヤリ考えていると、水筒の蓋に入った水が私の前に差し出された
「小佐夜ちゃんも飲みなよ」
「私は自分のがちゃんとあるからいい……」
そう嘘をついたのだが、光太郎は否定もせず
「面倒だから。頂上についたら小佐夜ちゃんのを一杯もらうよ」
後になって思う
光太郎は全部知ってて、見計らってたのだと
どこまでも小癪で、そのくせ人の心をよくついてくる
「ゴメン……小佐夜。一緒に帰ろう?」
荒鬼は柔和な面持ちで小佐夜に問いかけた
「光太郎、光厳寺光太郎!」
「小佐夜!君の気持ちはわかっている!」
「来ないで!」
なまじ遠慮で手が出せない分、さっきよりも何倍も荒鬼に不利だった
小佐夜の羽衣に攻撃された荒鬼が岩壁に叩きつけられる
「う……済まない。俺の存在そのものが君を傷つけていた……それなのに!」
「あああぁぁぁぁぁ!!!」
小佐夜の跳び蹴りが更に荒鬼を岩の海に沈めた
「それなのに……俺はさらに君を傷つけるような事を……ガッ!」
荒鬼の身体にのしかかった小佐夜は、その華奢な腕で荒鬼の首を絞め始めた
じわりじわりと生やさしくでない。一気に、全力で力を込めていた
「かっ…は……小佐夜……」
「言えばいいじゃない……私に遠慮なんかしないで……」
荒鬼のマスクを小佐夜から落ちた涙が濡らす
「いつも…いつも……他人のことばかり、気にかけて……」
「俺は……そんなに、偽善者じゃない。俺が気にかけるのは、俺の大事な人の事だけだ……」
小佐夜が膝に力を入れる
「うっ……」
一点に重さを込められて、荒鬼の腹が軋んだ
「あなたが……居なければいいなんて……」
「小佐夜……」
荒鬼は小佐夜の言葉に黙って目を瞑った
小佐夜の為に自分は居てはいけなかったのだ。けれどもどうしようもない
人はそんなことを運命とでもいうのだろう
そして諦めるのだろう
だが、小佐夜は……
「そんなこと、思ったことない!」
「!?」
「私は……不器用だから……アナタにしか甘えられないのにッ!!」
私が高校卒業頃の話だ
父についていって鬼の仕事をするのは楽しかったし、別段大学にも行く必要性など感じてなかった
それについて両親も兄も何も言わなかったが、だからか、私が大学に行くと宣言すると驚いた顔をしてみせた
私がそう決めた理由はたった一つ
文室光太郎が大学に進学してたから
私は対抗心だけで文室光太郎の大学より一つ難しい大学を受験しようとしていた
高校生と言えば友達同士の内で恋愛の話が盛り上がる時期だが
私にはそんな浮ついた話など一つも無かった。私は客観的に見て、とても可愛げがある正確とは言い難いから
寧ろ男子とは敵ばかり作っていた気がする。だから女子校に入った時はいくぶんか楽だったが
その分、自立してるようにみられるのか、私を慕う女友達はそれなりにいた
それと同じぐらい嫌われてもいたけれど
まぁ、女子校だからこそ、異性の話は盛り上がったりするわけで、私は居もしない彼氏を疑われていた
大体、私と付き合いのある男性と言えば父と兄と光太郎ぐらいなもんだったから
私と光太郎の関係は非道く誤解を受けたものだった
私は多分、珍しく顔を真っ赤にして否定してたのではないかと、今思い起こすと感じる
光太郎は頼まれもしないのに私の家庭教師をかってでた
父は相変わらず光太郎を気に入っていて、しょっちゅう家に呼んだから
その度に私の勉強の面倒を見てくれた。断ろうにも理由が無いので私は受けるしかない
それで結局大学に落ちたときは光太郎の面目を潰すことが出来たなどと女々しい考えで逃げたものだ
が、そんな考えを口に出す筈もなく、だが性分として冷静かつ淡々に失敗を分析してたから周囲は扱いかねたらしい
ただ微笑ましく見てくれていたのは兄で、私の分析に相槌を飽きもせずにうってくれたのが光太郎だった
「困った顔をしながら、笑って私の相手をする人なんてアナタぐらいなんだから!」
「う…ぐ…」
酸素が届かなくなってきた荒鬼は思わず小佐夜を突き飛ばした
「あぅ!」
二人の間に距離が生まれる
「風花の……事……」
「好きなんでしょ?アナタは」
「お前の方を愛している」
小佐夜の羽衣が荒鬼の腕を締め付ける
「一番なんかなりたくない!」
小佐夜の手から衝撃波が飛ぶ
「うぐっ……!」
「ただ一人でいられないなら……いらない!」
「……孔明のこと忘れてないか〜。俺達の息子をさ〜」
「………」
――殴
「ォブッ!!」
「……乙女心は微妙だな」
「久々に喋ったと思ったらソレか、高寺!」
「久々?」
今、そこにある危機!ここに来て漫才に至る危機!
「いぃぃやぁぁぁぁぁ!!」
「く……」
小佐夜の剣戟を徒手空拳で相手するのに唯一技、白羽取りで向き合う荒鬼
筋肉が痙攣する。クサナギの力を得た小沙耶の力は並の鬼ではいなせまい
「アナタに愛されなくなったら、私には何も残らない……」
「だから、愛してるって……!」
「鬼になれなくて、光厳寺はもうアナタの名前で、私の居場所は……」
だから
だから証明しようとした
自分はいつでも鬼としてやっていけるのだと
一人で立つことが出来るのだと
「馬鹿野郎……じゃない、女!孔明はまだ一人じゃ立てないだろう!」
「アナタが支えればいいじゃない!」
「勝手に義兄さんの音撃管を持ち出して!義父さんや義母さんの気持ちはどうなる!」
「私はアナタほど周りに気を回しすぎる生き方をしていない!」
………そろそろ帰ろうかな
高寺は思い始めていた
昔の人は偉いものだ
「夫婦喧嘩は犬も食わない」
吾々、その通り
「アンタなんて嫌いだーー!!」
「子供の頃散々聞いてるんだよ!いいか小佐夜!本当に嫌いなものには無視・無関心になるもんなんだよ」
「自惚れるな!」
小佐夜の手刀が硬化して荒鬼の肩に突き刺さる
ザクロの様に赤い血と傷口が荒鬼の身体に刻まれた
「自惚れてる!こと、お前の事に関して言えば……」
「光太郎……」
「小佐夜が妻で……俺は他の誰より幸せ者だから、手放したくない。今を守っていきたい」
それでもやっぱり、光太郎の顔は少し申し訳なくて、寂しい顔をしていた
その心を埋めたくて、与えなければならないのに貰ってばかりで
そんなときに小佐夜の前には、風花の前で安らいでいる光太郎が居たから……
「あ゛ぁ゛ーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「――っ!?妖気が!!」
魔化魍クサナギは、太刀に封じられていた
今は太刀と小佐夜に跨って存在している状態だ
媒体として太刀より鬼の方がよいのは明白で、揺らぐ小佐夜の意思に呼応してるらしいと荒鬼は察した
なまじ、荒鬼を否定してたときの方が表面上は支配されてても、心が閉じこもってたから最悪の事態にはならなかったらしい
「光太郎、光厳寺光太郎!」
“光厳寺”と叫ぶ言葉に強い憎しみがあった
それは光太郎も理解していたつもりだった
「小佐夜!君は戦っちゃいけないんだ!」
それは単純に光太郎が望んだことでもあった
大切な人に傷ついて欲しくないのは当たり前の感情だから
「記憶なんか…思い出なんか…消えてしまえ!」
優しくしなければよかったとでもいうのか
光太郎は小佐夜と居るとき、いつも最善を捜して対応してきたつもりだった
それは最近疎かになってはいたけれども
「消えてしまえぇぇ!!」
大気中の水分が小佐夜に収縮され、巨大な氷柱が荒鬼を貫く
吹雪鬼の技だったが、いくら湿度の高い洞窟内とはいえ収縮率が段違いだった
出血で視界が霞む荒鬼を、無情にも小佐夜は蹴り倒す
瓦礫の中に埋まった荒鬼は呼吸すら辛そうだ
身体が動かない。絶望というならまさに今の事だろうと光太郎は思った
暗い天井を見ながら呟く
「……答えが見つからない」
何と言えば小佐夜を救い出せるだろう。最善が見つからなかった
いや……風花に惹かれてからずっとこうだったのだろう
「もどかしさでいつからか空回りしていた……」
自嘲気味に荒鬼は笑った
「違う!私が引き留めれなかっただけだ!」
「小佐夜?!」
自分でも何を言ってるか判らないのだろう。錯乱している
じゃなきゃ、氷塊をぶつけながら言う台詞じゃねぇ!
「違う誰かの所にいく君を責められる筈もない……なんとなく気づいていた、君の迷い……」
ほら、やっぱり錯乱してる。荒鬼の事「君」とか言ってるし
いや、断じて作者の趣味じゃないってば
「夢であるように何度も願ったよ……」
私らしくもない……そう、小佐夜は思いながら、光太郎に話せる筈もなく
このままスレ違って、もうどちらかが片方を手にかけるまで……いや、光太郎にそれが出来るはずがないか
私が、小佐夜が荒鬼にトドメを刺して、終わる
そう、諦めた時だった
「小佐夜さん!」
光太郎と小佐夜の間に、割り込んできた声があった
「風花?!お前、ややっこしくなるから来るなって……」
「師匠は黙ってて!私は小佐夜さんと話をしてるの!」
「……はい」
今まで見たことのない風花の剣幕に、思わず承諾してしまう荒鬼
「風花さん……」
「小佐夜さん、初めてあった時、私の事を気に入ったって云いましたよね
私も、小佐夜さんと初めて話して、小佐夜さんのこととっても気に入りましたよ」
「……だから何?」
風花は笑うと、ここに来るとき木暮に渡された変身音叉を弾き、飛んだ
「風花?お前……」
変身して荒鬼の隣に着地した風花変身体の手には吹雪鬼の音撃管『烈氷』があった
「師匠?小佐夜さんに対してストレスとか溜まってません?」
「はぁ?」
「ばっちゃが言ってた……ムカついた相手にゃ、一度ぐらい、ブン殴ってヨシ!」
風花は続ける
「それで修復不可能になるくらいなら離婚した方がマシ!そんで離婚したら師匠は私が貰うからね!小佐夜さん!」
明朗な声で高笑いする風花であったが、どこか鼻罹った声だった
「風n」
「アンタがしっかりケジメ付けないと妹も新しい恋が出来ないでしょうが!」
「……誰?」
腕を組んで仁王立ちする女性を荒鬼は知らない。いや、どこかで会った気がしないでもないが
バックルに音撃棒を突き刺してることから太鼓の鬼と言うことは判る
ってか、風花を“妹”って言ったことから、風花の姉だと判ったが、風花の姉が鬼だったなんて知らない
「奮鬼。昔、俺と朱鬼さんと、アンタが決めた鬼だ」
高寺が狐に抓まれた顔をしている荒鬼に説明する
「……なんで?」
「高寺に言われて吉野にやってきて、おろおろしてる文室の小坊主を見つけたから、
風花が寄宿してる光厳寺邸に案内させて……なんでこっちの街は判りにくい地形してるんだろうねぇ
ま、兎に角、付いてみたら妹がさめざめ泣いてて、聞いてた話と違った事になってたって訳」
まくしたてられはしたが、さっぱり判らない
「本部が封じるくらいヤバイものに触れるんだ。俺の動かせる知り合いの鬼に適当な理由をつけて集めておくのは間違ってない戦略だが?」
高寺が鼻を鳴らして説明した
「はは〜ん。私もようやく納得したわさ。なんか狡っ辛い小僧が居るって事か」
「俺は君より年上なんだが。ついでに文室さんも」
高寺が冷静に反論するが、奮鬼の基準は“雰囲気”なので、これほど合わない二人もいないだろう
いや、合わなすぎて違いに不干渉だから、これはこれでよいのだろうが
「師匠!やるんですか?やらないんですか?」
「…………やるさ」
「やれるものか!」
小佐夜は氷柱を兄の形見である音撃管に纏わせると一直線に荒鬼に飛びかかる
「光太郎ォォ!!」
「音撃射・凍衷華葬!」
風花の援護射撃が小佐夜の氷柱を砕く
「!?!」
「小佐夜さん……お兄さんの音撃管を大事な人を傷つける為に使わないで」
「風花……」
自分を見た小佐夜の目が一瞬正気になったように、風花は感じた
「小佐夜!」
「あ……」
周りの光景が急速に競り上がってく(実際は自分が自由落下してるだけだが)、その中でずっと変わらないで自分の前に居た
荒鬼が……光太郎が居た
「音撃ビンタ・愛情一発!!」
平手打ちを食らった小佐夜は、片膝をつきながら着地すると震える目で荒鬼を見上げた
「これでおあいこだな」
肩から血を流す荒鬼に、小佐夜は思わず手を触れた
ずっと握っていた剣を落として
「光太郎……」
「光厳寺小佐夜……俺は愛してる。一万年と二千年後も愛してる」
荒鬼は膝を折って小佐夜と同じ目線に立つと、もう決して離さないように抱きしめた
「……いいの?」
奮鬼はその光景を見ながら、失恋したばかりの妹に聞く
「いいに決まってるじゃない」
風花は笑った
風花は“かざはな”とも読む
雲一つ無い空にちらちらと降る雪――それが風花
またの名を天泣きともいう
時に名が体を表す等ということが、人の世にはよくある
「三番隊!中央よりイワヘビが来る!引き寄せて後、二番隊と交代!」
普段の人見知りなど無かったかのように、和泉稲妻は集まった鬼と、本部にいた候補生を指揮していた
「余り鬼道から離れるな!方陣の中で戦うんだ!」
音撃管『烈風』を放ちながら、稲妻は声が枯れるほど叫んでいる
「中部勢の気合いを見せてやれ!お前ら!」
「よっしゃぁぁぁ!!」
二十代目の歌舞鬼に率いられた(といっても彼の弟子含めて三人だが)中部支部の鬼達が遊撃軍として突貫する
「こちらが組織的に動き始めたおかげもあってか、押してるな」
「そうですね。それにさっきから魔化魍の増殖が止まったような気がします
兄上が上手くやったのではないでしょうか?」
光厳寺の言葉に文室が同意する
――グワシャッ!
「!!」
“クサナギ”を封印していた洞窟から、小佐夜を抱えた荒鬼、風花、奮鬼、高寺が姿を現した
「ふ……」
微笑む木暮に、荒鬼は親指を立てて見せた
「クサナギは元の場所に戻しておきました。朝日さんの装置で簡単な封印も」
「よし、後はまかせてください」
入れ替わりに稲妻が洞窟に消えていく
「何をボンヤリしているんですか!」
それを見送る荒鬼に、腕の中の小佐夜がピシャリと言う
「アナタは荒鬼でしょう?戦いなさい、魔化魍と!」
「小佐夜……ああ」
荒鬼は光厳寺に小佐夜を預けると、種族の違う魔化魍の混成軍に向かっていった
三種の音撃を使える荒鬼であれば対応出来る
「師匠……私も!」
戦力になるのは管ぐらいだろうと判っていても、風花は荒鬼に付いていこうとした
「風花さん」
そんな風花を引き留めたのは小佐夜だった
「コレを……アナタは管の鬼でしょう?」
――吹雪鬼の変身音笛
「でもコレは……」
風花は荒鬼の弟――次の吹雪鬼の顔を見た
「風花さんが使って下さい。兄上をサポートするのは……」
「貴方しかいないわ。私の代わりに。それを言いたくてココに来たんでしょ」
――そうだ
――私には夢がある
「はい!」
風花は変身音笛を強く握りしめて駆け出していった
「文室の家はどうなるんだ?あの娘を嫁に貰うのか?」
話を聞いていた光厳寺が見当違いの言葉を口にする
「な゛!何いってるんですか!なんで僕と風花さんが!!」
しどろみどろになって否定する文室だったが
「ん〜先に言っておくとさ、アンタはあの子のタイプじゃないよ。これっぽっちも」
「………」
奮鬼の残酷な宣言に言葉を失う
「ぼ、僕が人を好きになるのは自由じゃないですか……」
聞き取れないくらいの小さな声で文室は答えた
(何だ?)
荒鬼は音撃棒、管、弦を駆使して戦っていくのだが、身体に淀みのような
形容しがたいが、確かに合って、気しなければ気にならない程の微かな違和感を感じていた
「……音撃斬・閃光結晶!」
ヤマアラシの腹の裏の柔らかい肉に、『光魔』を突き刺し退治する
「……撥!」
爆発と同時に弦を引き抜く……確かにいつもの通りの動きだが、やはり気になる
荒鬼が注意を逸らしていたのをテングは見逃さなかった
流石は元人間の魔化魍だけに戦いの駆け引きが巧い
「ちぃ……」
ダメージを覚悟した荒鬼だったが、その脇を鬼石の弾丸が抜き去っていった
「!?」
「音撃射……」
吹雪鬼の姿をした風花が音撃鳴を音撃管『烈氷』にセットする
「凍衷華葬!」
「シュギャァ?!!」
新橋色の竜巻がテングの四肢を切り裂いた
「風花……」
「師匠の隣には居られなくても……背中を守るのは私でありたい!」
荒鬼の背に自らの背を密着させると、風花は飛翔するイッタンモメンに向かって弾丸を発した
「……ついてこれるかな?」
荒鬼は自信ありげに笑う
「いつか追い抜いて見せますよ」
風花も笑うと、鬼石を撃ったイッタンモメンに向かって音撃を開始する
「音撃射――凍衷華葬ォォ!!」
「ギャァァ!!」
「負けてられんな……音撃射……?!」
荒鬼の『飛勇鶴』が大地に落ちる
「師匠?!」
「なに、連戦が祟っただk……」
「オガカァァァァアアアァ!!」
ヨブコが大口を開けて荒鬼に迫る
「師匠!」
音撃射を撃ったばかりの風花は、動作が一歩遅れた
(間に合わな――)
「音撃奏・震天動地!」
「ぎゃぁ?!」
荒鬼を救った音撃は、今回の騒動の原因の人物のものだった
「ふん……勘違いするなよ。偶々だ。自分の失敗分の働きはするさ」
朱鬼は言い捨てると、また別の魔化魍を求めて走っていった
「素直でないな……」
木暮の言葉に、隣で指揮をする稲妻が笑う
魔化魍の数のだいぶ減ってきたようだった
「よし、一気に決めるぞ!」
「「「おう!!」」」
稲妻の掛け声で、集まった鬼達は一斉に音撃を構える
「音撃射・疾風一閃!」
「音撃打ッ!獅子雷綴ェ!!」
「音撃打ァ!業火ァァ絢ッ爛!!」
「音撃拍……軽佻訃爆!」
「音ッ撃ッ打ッ!金剛ォォォォイィィィィチ撃ィィ!!光になれぇぇぇぇぇぇ!」
「音撃奏…震天動地!」
「音撃斬!浄土送り!」
「音撃射、激河火靱」
「音撃射・風光鳴媚!」
「音撃打!!閃空烈破!!」
「音撃…斬!化粧蜻蛉斬り」
次々と放たれる音撃のオーケストラ
「私も……音撃射!凍衷華葬ーーー!!」
今や一人前の鬼となった風花の音撃を見ながら、荒鬼も『飛勇鶴』を構える
「これで終わりだ!音撃射、鬼岩一閃!!!!」
有言実行。残りの魔化魍を一層し、顔の変身を解いた荒鬼に、皆が駆け寄ってくる
「ご苦労様です」
「……今回の事は申し訳ない」
稲妻に頭を下げた荒鬼は、眼前に広がる石道に赤い点が在るのを見つけた
「?」
その点は大きくなってく
赤いのは血だからだった
大きくなるのはその血が増えて言っているからだった
「………」
荒鬼は自らの口を拭う
指先にベットリと血が付いていた
「師匠?」
後ろにいる風花は荒鬼の様子に気づかず、明るく話かけてくる
「……ん、何でもない」
「荒鬼さん……」
唯一、気づける位置にいた稲妻を制すると、風花に振り向かずに言った
「お前は一人前の鬼になった。……おめでとう、風花」
「え……?」
「いや、吹雪鬼と呼ぶべきだな」
荒鬼は振り向かない
「独り立ちだ。光厳寺の家には帰ってくるな」
「師匠……」
「もう、師匠じゃない」
荒鬼はゆっくりと小佐夜の方に歩いていった
離れていく荒鬼の背中に風花は――いや、吹雪鬼は叫んだ
「また会えるね?」
「会えるよ」
荒鬼は“何を当たり前のことを”といった感じで答えた
吹雪鬼もそう思ったのだが、何故か言葉に出して確認したかったのだ
「俺の背を守ってくれるんだろう?」
荒鬼は初めて振り抜くと、吹雪鬼に笑いかけた
いつか、自分もあの笑顔に負けない笑顔を出来る鬼になりたいと、吹雪鬼に思わせる笑顔で
懐かしい思い出が蘇るのは、その人が近づいてるからだろうか
東京の下町には京都や奈良の町並みにはない赴きがあると思いながら、彼女は『たちばな』の戸を叩いた
さて、その『たちばな』の店内では、何と無しにやることの無い吹雪鬼が団子をほおばっていた所
今まで連絡の一つもよこさなかった鋭鬼が電話をよこしたものだから、その身勝手さに腹を立てた吹雪鬼は
一回目と二回目は無視し、三度目にかかってきた電話を取って、久しぶりの会話をしていた
もし、一回や二回で鋭鬼が諦めていたら、どうするつもりだったのか判らない
あるいは吹雪鬼が出るまで鋭鬼は電話し続けるとでも予測してたのだろうか?当たってたけれども
「装甲声刃?」
「新装備」
鋭鬼はソレの実験に付き合わされてるらしい
「……大丈夫?身体に変なトコ無い?健康?」
と、吹雪鬼が不安にあるのは、実験レベルの新装備を仕様して身体に生涯癒えないダメージを負った人間を知っているからだ
「結構、健康だけど?血行もいいし」
「ならいいけど……」
綺麗な黒髪をクルクルと指に巻き付けながら、吹雪鬼は答える
と、その時、店裏の扉を叩く音がしたから、吹雪鬼は「はぁい」と扉を開けてやった
「……小佐夜さん?!」
意外中の意外な人物の訪問に、吹雪鬼は言葉を失ってしまう
鋭鬼が電話の向こうで何やら話していたが、
「ごめん、鋭鬼くん、切るね」
「え……ちょ……吹雪鬼さん?!……出番またこれだk」
「小佐夜さん……えっと……取りあえず奥に」
別に自分の家では無いのだが、そくささとそつなく小佐夜を案内してしまう吹雪鬼である
「武者童子が出たでしょう?本部の書庫に眠ってあった資料を持って行った方がいいって」
「師匠がですか?」
吹雪鬼の光厳寺光太郎への呼び方は直ってない。あるいは、自分が納得出来たときに初めて本名で呼ぶのかも知れない
「高寺さんが。関東支部の写本には載ってないからって。あと色々と本部からの諸連絡もかねて」
「高寺さんが?私、あの人あんまり好きじゃないなぁ……」
“七弾”の時、「ウェーバーの魔弾の射手のようだ」と吹雪鬼の射撃能力を讃えた彼だが
あのオペラの話の魔弾は六発目までは射手の望みの場所へ、七発目は悪魔の望む場所へ当たる話だった筈だ
滅多に、いや全く人を褒めない高寺が言外に含ませた意味があるように思えてならない
「私もよ。でも、なんだかんだで大した出世をしているみたいね。同じぐらい失脚してるけど」
そこまで言うと、小佐夜が笑った。吹雪鬼も茶菓子を出しながら釣られて笑う
「光太郎がね、吹雪鬼から鋭鬼を奪ったままで済まないなんて言ってましたよ」
「は?べ、別に鋭鬼くんは私の何かという訳でもないし、見当違いですよ、それは」
「久々に吹雪鬼の文字を見た。こんなに沢山……なんても言ってましたけど」
「だからぁ……」
と、頭を抱えて俯くのは、赤い顔を見られない為か
小佐夜は出されたお茶を上品に啜ると、朗らかに笑った
自分も随分と丸くなったものだと(周りは認めないが)、感傷に耽る
「コチラは相変わらずですよ。白倉さんにはいい加減、義姉さんに結婚を申し込んでもいいものですが」
あのクサナギの事件の後、身体に変調を感じた光厳寺光太郎は暫く鬼を続けていたが
身体に限界を感じると、荒鬼を弟に譲って酒呑院を立てた
珍しく高寺と白倉の二人が奔走して、その本部の許可を得たらしい
あの時多くの負傷者を出した事が光太郎には忘れられなかったらしい
本部も、候補生を二つの場所に別けた方が万一の時に全滅を避けられる……とは高寺の弁
荒鬼が光厳寺の血から離れた事に関しては、彼女の父親は何も言わなかった
娘夫婦の子である孔明にも、特に鬼としての修行を強いてるわけではない
聞けば「時代が変わった」とらしくもない言葉を返してくるかも知れないと小佐夜は思っている
「偶には遊びに来なさい。孔明も喜びますよ」
「大きくなったでしょう?」
「えぇ……知ってる?あの子の初恋の人は貴方だって」
「あら、随分ませてる。けんど、いい目てるわ」
小佐夜は吹雪鬼を、何か眩しいものを見る目で見た
きっと、なりたかった夢の形が吹雪鬼にダブって見えるのだろう
「吹雪鬼って名前、今でも好き?」
「とっくに好きよ。自分の名前になっているんだもの」
「そう……私も好き」
時は過ぐる。けれど季節は廻る
『たちばな』の店先に蛇苺の花が咲いていた
「もうすぐ、夏ね……」
――数日後
鬱陶しい人集りすら懐かしいと言うことがある
「帰ってきたーー!I'll be back!!ぶっ飛びなベイベー!!」
東京駅にグラサンかけた小男が一人……
「……迎えが誰も来ないって、さ」
旅行カバンをとぼとぼと引き摺りながら歩くは本編の 主 役 である鋭鬼である
「『たちばな』に帰ったら俺の机が無かったりして……」
いや、最初から専用の机なんて無いわけだが
「寒い……これから夏だけど、心が寒い……。グラサンもサマー(夏)になってない」
切符を買いながら、ブツブツと愚痴をこぼす鋭鬼
「あなたはもう 忘れたかしら.〜。赤い、てぬぐい、マフラーにして〜♪」
小さい!小さいよ、鋭鬼さん
当社比50%ぐらい小さいよ!
「ふたりで、行った、横丁の風r」
「きゃっ!」
「あっ!?」
下ばかり見て歩いていたからだろう。鋭鬼はぶつかってしまったようだ
「スミマセン…」
と頭を下げて、相手の顔を見たのだが……
(え?……吹雪鬼さん?)
「あ、いえ……何か?」
「何かって、吹雪鬼さんじゃ……あ、いや、人違いか」
よく見れば違うのだが、雰囲気がどことなく似てたので間違った
まぁ、吹雪鬼さんが実は迎えに着てくれることを期待してたからかも知れない
「私は春木葉垂(ハナ)。昔の記憶が無いの」
「え?」
「貴方は私を知ってるの?」
ショートの髪を揺らしながら、葉垂は小首を傾げた
その動作も、吹雪鬼に似ていた
「いいんですか?他の人とシフト変えて貰えばよかったじゃないですか?それが駄目なら、僕一人で充分ですよ……」
群馬の県境の山で魔化魍を退治し終わった蛮鬼は、ディスクアニマルやテントを片付けていた
「仕事と鋭鬼くん、どっちが大事だと思ってるのよ?」
「………鋭鬼さんでしょ?」
「私、ココにいるんだけど?」
吹雪鬼はちょうど食事時だったのもあって、手早くありものの野菜で野菜炒めを作ろうとしている
ちゃっかりキノコを採ってきてるあたり、明日人類が滅亡する危機が起こっても、この人だけは生きていけるだろう
「痛っ……!」
「吹雪鬼さん?!」
慌てて蛮鬼が吹雪鬼に駆け寄ると、吹雪鬼はどうやら指を切ったらしい
「大丈夫よ、カットバンどこだっk……」
――ちゅる
「へ?」
切った人差し指がくすぐったく、生暖かい
「ば、蛮鬼くん!?」
「唾液で舐めるのは、衛生学上それほど悪くはありません」
吹雪鬼の細い指を口に銜えた後、蛮鬼は冷静にそういった
「偶にはいいでしょう。吹雪鬼さんは、いっつも僕の事からかってるし」
「む〜〜」
ふくれっ面の吹雪鬼に、蛮鬼は呆れて
「気に入りませんか?」
「計算尽くってのがね、そうじゃないなら別にいいけど……」
絆創膏を救急箱の中から捜す吹雪鬼に、蛮鬼は訊ねる
「……鋭鬼さんならって事ですか」
「どういう意m……ん?!?!!」
救急箱が転がる
(蛮鬼……くん?)
――男の人に抱きすくめられるなんて何年ぶりだ……って、そうじゃない!!
吹雪鬼は目を白黒させながら、必死に今の状況を理解しようとしていた
――蛮鬼くんにキスされてる…………何で?
いや、もっと動揺するべきだろうか。でも、まぁ、いい大人がキスぐらいで。別に舌入れてきてる訳でもないし
蛮鬼が聞いたら泣いちゃうかも知れない事を吹雪鬼は考えながら、取りあえず蛮鬼が離してくれるまで待つ
「ん……」
「……僕と組んでるのに鋭鬼さんの事ばかり考えてる。強引なのがいいって言うんなら、やってみせる」
(いや、別に鋭鬼くんは強引って訳じゃ……)
困った顔をする吹雪鬼の気持ちなど知ることなく、蛮鬼は吹雪鬼とのキスを反芻していた
例えるなら、そう、甘酸っぱいママレードの味
鋭鬼はこの味を知ってるのだろうか?
―― 仮面ライダー鋭鬼 十四之巻 ――
「 仮面ライダー吹雪鬼 弐 〜恋人たち〜 完 」
お詫びと訂正
クサナギが封印されてたのが“剣(ツルギ)”だったり“太刀”だったりしています
修正忘れです。ゴメンなさい
(あの辺りで光厳寺光太郎が“荒鬼”と書かれてたり“光太郎”と書かれてるのは狙ってるやってることです)
・楽屋裏
鋭「……(読んでいる)……あ゛ーーー何やってるんだよ!蛮鬼ィィィ!」
蛮「裁鬼最終章では晴れて吹雪鬼さんと夫婦になってるからいいじゃないですか。これぐらいの役得」
鋭「ナンダッテーー!!」
雪「え゛!?私と鋭鬼くんが夫婦!?そそそそ、そんなこと在るわけないじゃない」
鋭「いやぁ、でもでも、ウチの話は裁鬼さんリスペクトから始まったわけで〜世界観も出来るだけ同じように〜」
なるとは限らないケドね
鋭「え、ちょっと……作者……」
雪「そ、そうよね〜」
ツンデレ気味だな、吹雪鬼
蛮「いや、大変素晴らしい事ですが」
蛮鬼……
蛮「そもそも何で僕がキ、キ、キスを吹雪鬼さんに……」
最近キッズステーションでママレードボーイがやってたから
三人「「「………」」」
そんだけ
番外編『仮面ライダー弾鬼』六之巻『高鳴る歌』(後)
千明のアパート/
散らかった部屋を一日かけて綺麗に片付けた部屋に。吾妻と千明が向かい合って話している。
吾妻は、千明が纏めた記事を一枚一枚丁寧に見ている。
読み終わり、満足げな表情で千明に笑いかけた。
「よかった。この記事今すぐにでもOKじゃないかな?」
「そうですか?有難うございます・・・でも」
千明は吾妻の手から記事を取り返すと、脇に置いてあった土鍋を机の上に置いた。
『?』な表情になる吾妻。
「ま、あんな事あった後だけど、編集長にはあたしの方から上手くフォロー入れてあげるからさ・・・」
事の次第を聞き、理解した吾妻が明るくそんな事を口にした。
社内の中でも、千明が体験した事を理解してやれるのは吾妻だけだろう。
だが、千明は何も言わずに・・・・手にした記事を見つめる。
その表情は何かを言おうとして・・言えず。そんな表情をしていた。
「千明?どうした?」
「実は・・・・決めた事があるんです・・・・今から言う事・・聞いてくれます?」
千明のアパートでの件から2週間程たったある日の事。もうすぐ9月になろうかと言う時期にその事件は起きた。
長野県の山中で、ドロタボウの童子と姫と対峙するダンキとショウキ。そして、ダンキと同じく太鼓使いのゴウキ。
ドロタボウの童子と姫は、相変わらずの態度でダンキ達を歓迎した。
「今日は本職が二人居るからね。どうせ来るなら渾身で来なよ!」
ショウキもこの夏の間に、太鼓の使い方を大分覚えた為か、いつになく強気である。
「さて、行こうか?お二人さん」
両手にはめていたグローブを脱ぎつつ、ダンキとショウキの間に立つゴウキが告げる。
「了〜解!行くぜっ!」
ダンキもそれに応え、腰から変身音叉を取り出す。
メガネのフレームに音叉を当て、音を響かせる。
そして、ゴウキも音叉を指に当て音を出す。
ショウキは音笛を取り出し息吹いた。
三種の音が流れ、額に翳す。
「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!てやぁぁぁっ!」
蒼い炎を纏い、鬼へと姿を変える剛鬼。
そして・・・・・・
「あれ・・・おっかしぃなぁ・・・・」
いつものように精神を集中させたのにも関わらず、額に鬼面が現れないダンキとショウキ。
『お・・・おい?』
一人先に変身した剛鬼は僅かに戸惑った様子で居る。
『あれ?鬼じゃないの〜?』
『おっかしいねぇ〜。鬼のニオイするのに〜?』
「ちょっと待った!タンマな!待て!いいな?」
童子と姫相手にタンマを要求するダンキ。そして根が幼い(?)ドロタボウの童子と姫は律儀に待っていたりする。
再び音を鳴らし、額に翳すも、鬼面のキの字すら出ては居ない。
『も〜い〜か〜い?』
「あぁ〜もう!ま〜だだよ〜!!!!」
イラつきながら音叉をカンカン!カンカン!鳴らしては額に押し付けるダンキ。見ればショウキも顔を真っ赤にしながら音笛に息を送り込んでいる。
だが、結果は同じで・・・・・・
「ど・・・どうしようダンキ君!変身できないよ・・・・・」
「だぁぁぁぁ!なんだってのさ!ゴウキ!!お前の音叉貸して!俺の故障してやがる!!」
『こ・・・故障だって?そんなバカな・・・・』
『も〜い〜か〜い?』
剛鬼の音叉を装備帯から取り外し、額に当てるダンキ。だが結果は何も変わらない。
「ど・・・・どうなってるワケ?」
『も〜い〜か〜い?』
「だぁぁ!もう!ウルサイよ!!」
先程からダンキにもういいかい?と告げてくる童子に、キレたダンキはついつい飛び蹴りを食らわしてしまう。だが、蹴りは童子に当たる直前に現れたドロタボウによって防がれた。
それを合図に・・・戦いの火蓋は落とされた。
既に分裂が始まっていた為か、現れたドロタボウは20体を超えていた。
「くっ!やっべぇ!!」
ドロタボウの攻撃をかわしながら、素早く拳打と蹴りを放つダンキ。だが、人間体では満足な威力を出す事が出来ない。そして、もしドロタボウの一撃を喰らえば、即死までとはいかなくても、大怪我は免れない。
ショウキも同様に、蟷螂拳のような構えでドロタボウの攻撃を流しつつ反撃の一打を叩き込んでいた。
『ダンキ!ショウキ!一旦ベースまで下がるんだ!ココは俺に任せろっ!』
手近なドロタボウを蹴り飛ばしながら剛鬼が言う。
「このままじゃ足手まといだな・・・スマン、ゴウキ!」
『あぁ!行け!』
飛び掛ってくるドロタボウを音撃棒・剛力で打ち落とし、その腹に音撃鼓・金剛を張り付ける。
『音撃打・爆裂乱打の型!』
その場から走り出す、ダンキとショウキの背後から剛鬼の音撃打の音が鳴り響いた。
ダンキとショウキの変身能力が無くなった。
何とかドロタボウを倒し終えたゴウキが『先の入院の件とかで、力が落ちた為に変身できなくなったんじゃ無いのか?』と推測し、二人に飯田さんの所での鍛えなおしを提案した。
「たしかに・・・ここの所色々あったもんねぇ・・・もしかしたら知らない内に力、弱ってたのかもしれないし・・・・」
「あぁ・・・そうかも・・・・それなりに鍛えてたつもりなんだけどなぁ・・・あぁ〜もう!どうも、この間の一件以来ツイてないような気がするぞ!」
がぁ〜!と火を吐かんばかりに激昂するダンキを宥めるのはゴウキ。
「まぁ、そう言うな。そういう時もあるさ、それよりも・・この件をおやっさんにどう説明するか・・・」
「・・・だよなぁ・・・安藤の事と俺等の入院・・・そして今度は鬼に成れなくなったなんて言えないよ。なんか・・最近迷惑ばっかかけてるよ俺・・はぁ〜・・・・」
がっくりとうな垂れるダンキ。ショウキも同様だ。ゴウキは立ち上がり、車のダッシュボードから携帯を取るとダンキに手渡した。
「しかし、黙っているわけにもいかんだろう?言いにくいなら、俺から事情を説明してもいいが・・・どうする?」
出来る事ならそうして貰いたいのも山々だろう。だが、少し悩んだ後、ダンキはゴウキの携帯を借りてたちばなへ電話をかけた。呼び出し音が数回鳴り・・・
『はい、たちばなです』
まだ幼さを残す少年の声が応答した。
「もしもし?ダンキですけど」
『あぁ、ダンキさん。お久しぶりです』
「お!その声は・・明日夢かぁ?」
安達明日夢。ヒビキさんの友達にして、『猛士』関東支部・たちばなのアルバイト・・・それが彼だ。
『はい。えっと、ヒビキさんですか?』
「いやいや、おやっさん・・おやっさん居る?」
『あの・・・・それがですね・・・・』
なにやら、声のトーンが幾分か落ちる明日夢。
『たちばなのおやっさんと、日菜佳さんがちょっとタチの悪い風邪を引いてしまって・・・今、寝込んでるんですよ・・・』
「え・・・・それ、ホント?」
『えぇ・・それで、いまやっと寝付いた所で・・・・今、ヒビキさんも居なくって、香須実さんはでよければ代わりますけど・・・』
「あ・・・いや、いいや。おやっさんと日菜佳ちゃんが起きたら、お大事にって伝えといて・・・バイト頑張ってな」
通話終了ボタンを押すダンキ。
いよいよまずい事になった。だが、考えてみれば・・・猶予が出来たともいえる。ダンキは内心そう考えながら、ゴウキに携帯を返した。
「おやっさんがどうしたって?」
「いや、なんか悪い風邪にかかって倒れたみたいなんだ。日菜佳ちゃんも一緒に・・・さすがに言えないよ」
三人して腕組みをして唸る。
おやっさんたちの病状が回復するまでに、変身能力を取り戻せればさほど問題が無い・・・はず。
だが、その間のダンキ・ショウキの担当すべきシフトの問題も有る。幸いにも明日明後日は休養期間になっている。
「よっし、とりあえず飯田さんのトコで集中的に鍛えなおしてみよう!もしかしたらそれでイケるかもしれないしな」
ダンキがヒザを叩いて発起する。
「そうだね。僕は、一旦師匠に電話して、なんか対処法が無いかどうか聞いてみる事にするよ」
「それもアリだな。俺も御師匠に聞いてみるとしようか・・・・」
ショウキとゴウキもそれに習って解決策を探そうとする。
「師匠か・・・・」
ダンキがボソリと口にする。
「・・・・そういえばダンキ。お前の師匠は・・たしか一般の生活に戻ったんだったな」
ゴウキが、思い出したように言う。
「あぁ・・・俺の独り立ちと同時だから・・・もう5年前か・・・」
「・・・連絡は取ってないのか?」
「・・・・タツキさんは鬼を辞めちゃったからなぁ・・・・家庭もあるわけだし・・・今更鬼の話を持ち込みたくなくてさ」
メガネのレンズをシャツの裾で拭きながら、笑って語る。
「・・・・そうか?まぁ、解らなくもないけど・・・・・偶には会ってみても良いんじゃないか?特に今の状況だ・・・鬼の師匠なんだから、何かしらのアドバイスをくれるんじゃないか?」
言葉に詰まるダンキ。そこへショウキも珍しくダンキに提案する。
「偶に会うってのも良いもんだよ?僕も二月に一度くらい食事に呼ばれたりするけど・・・・やっぱりまだまだなんだって思わされるし、ガンバロって気になるし」
「・・・・・そう・・・か?会って・・・みるかな?」」
鬼に成れない事が、ダンキの心を弱気にさせているのだろう?いつもならば反対するダンキも、今回は珍しくその気になっているようだった。
「しかし、どんな顔して会えばいいんだろうかねぇ・・・免許皆伝の直後に、がんばれよの一言でいなくなった人だからなぁ・・・」
「凄い人だよね〜。聞けば聞くほど」
「まぁ、御師匠やサバキさん・・・一世代前の鬼の方々は、良くも悪くもアクが強いもんだからなぁ」
たしかに・・と本人たちが聞いたら激昂しかねない事について、ハハハと笑う三人。
ひとしきり笑った後にゴウキが、唐突にこんな事を口走った。
「そういや・・・よ、お前さんの昔の話・・・聞いた事が無いんだが・・・良かったら聞かせてくれないか?何、ムリにとは言わんが」
「あ、僕も聞きたいかも・・・ダメかいダンキ君?」
その言葉に、真面目な表情になるダンキ。
ダンキは今まで過去を誰にも語ってはいない。
鬼になる切っ掛け、目的。ソレを知るのは師匠であるタツキだけである。
ダンキは空を見上げ・・・
あの日の事を思い返した。
ダンキ/段田大輔/にとって、最も大切であり・・・・最も弱かったあの日の事を・・・・・
――――約六年前。
夏。
城南大学からすぐ近くにある古いアパートの一室から、若い男性達の声が響いていた。
部屋は冷房が効き、快適な温度が保たれている。
だが部屋の中は、タバコの煙と酒類のニオイで充満しており、酒が飲めない人ならばその空気だけで酔っ払ってしまいそうな勢いである。
部屋の中には四人の若者が、プレステのコントローラーを握り、ゲームに熱中している。
「あぁ〜〜!もう!このキングボンビーいいかげんボンビーに戻れってのに!」
やたら大柄でメガネをかけた青年が、コントローラーを握りつぶさん勢いでテレビに怒鳴っていた。
「げぇ・・・桃太郎ランドが・・・・・折角買い占めた物件がぁぁぁぁぁ!」
「ハッハッハ、ざまぁねぇな大輔ぇ!」
未だテレビに呪詛の声を上げる青年。彼こそが、後に弾鬼と呼ばれる男である。
「まぁまぁ・・大輔さん抑えて抑えて!あぁ、タバコ切れちゃってますねぇ。自分買いに行きますけど、先輩達要るモンあります?」
大輔の横に座っていた、僅かに小柄な青年が灰皿にタバコを押し付けながら残る三人にリクエストを取る。
「俺もタバコ頼むわ。あとスパ王のミートソース味頼む!後払いね」
大輔が画面から目を離さずに言う。
「了解ッス!タバコ、ハイライトでしたよね?」
「俺、午後ティーね!ストレートのやつ。あと、生クリームたっぷりプリンをヨロ」
続いて、やや小太りな青年が、同様に画面から目を離さずに言う。
「相変わらず、甘い物に目が無いっすねトシハルさんは」
小太りな青年=トシハルは、『うるさいよ』と言いながら、やはり画面から目を離さずに、財布から取り出した五百円玉を投げやる。
「酒切れちゃってない?テケトーにビール頼むわ。あとブブカの新しいヤツ出てる筈だから、それも頼む」
最後に、真っ黒に日焼けした筋肉質な男が、これまた同様に画面から目を離さずに言う。
「うぇ、マジっすか!?リョウジさ〜ん、エロ本くらいは自分で買ってくださいよ〜」
「タワケ!ブブカはエロ本じゃねぇ!ヤバネタ情報誌だ!いいから、さっさと行ってこい!」
日焼け筋肉質=リョウジががなり立てる。
「了解っす〜!」
「あぁ、ツキト!お前の番俺がやっとくからな!心置きなく行ってこい!」
「お手柔らかにたのんますよ〜!大輔さん!」
言って、ツキトと呼ばれた青年が、部屋から飛び出していった。
何の変哲も無い、一夏の日常。それが、その時はまだそこにあった。
城南大学/
関東でもかなりの大きさを誇るキャンパスには、抗議の有無を問わず生徒でごった返していた。
そんな中、少し離れた位置にある広場から威勢の良い声と、重く響く太鼓の音が鳴り響いていた。
そこには、応援団の練習風景が・・・・中央に有る太鼓を叩いていたのは、大柄な眼鏡の男。大輔が、外見どおりワイルドな撥捌きを見せていた。
ひとしきり練習が終わった後、団長らしき、彫りの深い顔立ちの男が前へ出ると、大きな声で語り始めた。
「押忍!本日も練習ごくろう!さて、いよいよ明日から九州は宮崎にて、全国大学応援団、通称ゼンガクダンの合同合宿が行われる。去年まで参加した奴らなら、判っているだろうが、合宿といえど気は抜けない!南国でアバンチュールな感じを期待するな一年坊!」
その言葉に笑いが起きる。
「そんなすごいんですか?ゼンガクダンの合宿って?」
現在一年生のツキトが大輔に向い、小声で問い掛ける。
「ん?ま〜な。でも最初の一日だけさ。慣れりゃ観光行けるくらいにゃなるさ」
「宮崎っすよねぇ。俺初めてだなぁ・・・・南国美人に会ぇっかなぁ!!」
初めて宮崎に行く事になったツキトは、脳内に水着美女を浮かばせながらトリップする。
「でも、何で宮崎なんですかね?暑くないですか?」
「ばぁか!俺らは炎天下でも応援しなきゃならないんだ。南国での練習は、ソレを鍛える為だろ・・わかっとけ!!」
リョウジがツキトの後ろからゲンコと一緒に言い放つ。
「ほら、ジャイアンツの合宿も宮崎だし。結構、アスリートも合宿地として利用するみたいだし」
トシハルが振り返りツキトを見ながらそんなことを付け足した。
そこへ、団長が再び声を張り上げた。
「あと、残念な事だが俺、本郷は所用により今回の合宿には参加できない。だが、引率として懇意にしているアメフト部の城に行って貰えるように話はつけてある。一年坊!城の言う事をしっかりと聞く事。以上だ!解散!ッシタッ!」
熱く語った後に、本郷は解散を宣言し、ノッシノッシと去っていった。
団員たちは、その場から去る者、残って談笑する者に分かれていた。
大輔とツキト。それにトシハルとリョウジは談笑する側で、この後の行動について話し合っていた。
昨年、合宿を経験した三人は特にはしゃいでいる様子も無かったが、ツキトだけが矢鱈とテンション高めに「楽しみッスねぇ〜」と叫んでいた。
「あぁ〜もう!わかったから!」
「まぁまぁ、ツキトは今回が初なんだから・・・・そのうちわかるでしょ!辛さとかね」
「そうそう、トシハルなんか脱走寸前までイったしな・・クックック」
小声で話す三人。何も知らない後輩が後に知る運命を思い、笑いあう。
そして、ツキトもそれを身を持って知ることとなったのだった。
宮崎・ゼンガクダン合宿所/
宮崎市の中心部からやや離れた場所にある山間。そこに全国から集まった各大学の応援団に属する男達が集結し、声だし練習や、団旗の振り練習。太鼓の練習、はたまたスタミナをつける為の走りこみに精を出していた。
朝の11時に空港に着き、移動に1時間程。着いたら即座に練習開始。
この合宿を、別の意味で期待していたツキトは、練習開始3時間で脱水症状を起こし、大輔によってバケツの水をぶっ掛けられるハメになった。
意識を取り戻し、一息つくツキト。その目は既に死んだ魚のソレになっていた。
「何よツキト?だらしないじゃ〜ん。あの時の威勢は何処いったんだ?」
大輔が座り込み、横に撥を置いた。
「・・・・こ・・・・こんな・・ハズじゃ・・・・チアの女の子とか・・・・・居ないンすか?」
「居るわけないでしょ・・・応援団なんだからさ〜。何期待してたのさ?」
「いや、芽生える一夏の恋とかその辺なんですけどねぇ・・・その辺どうですか?」
後輩の能天気な期待に頭を抱える大輔。
かく言う大輔も、去年はツキトと寸分違わぬ期待を抱いていただけに、鏡を見せ付けられたようで気分がダウンしてしまっている。
だが、直ぐに立ち直り、ツキトの背を叩いて活を入れる。
「ま、とりあえず・・後少しで一日目終わるから。そしたら楽しい飲み会だぞ?騒げば元気も出るだろ?」
「・・・酒っすか。イイですねぇ!!コンパニオンとか来ますかね?」
何処までも女を所望するツキトに、大輔は撥で軽く額を小突きながらその場から離れた。
移動した先には、練習用とは言えかなりの大きさを誇る太鼓が聳えていた。
前に立ち、撥を用いて軽快に音を出す大輔。
太鼓との出会いは中学の時に見た、応援団の雄姿。高校に入ると直ぐに応援団に入部し、太鼓を任されるように必死に練習した。その甲斐あってか、高校・大学と太鼓を担当させて貰っている。
ドンドンドン!!
音を響かせる。それに合わせるかのように、声だし練習をしている連中の声を熱を帯び、一段と力強くなってゆく。
大輔の太鼓練習は、日が傾き空が茜色に染まるまで続いた。
練習後、大きなホールで夕食兼顔見世の飲み会が行われた。
随所で酒を飲み、宮崎の名物に舌鼓を打ち、騒ぎ立てる光景が広がっていた。
「城南大!段田大輔!一気いきます!」
ビール瓶をラッパのみする大輔に、各所から合いの手が広がる。
「今日〜も美味しく飲ッめるのは!あ、段田大輔のおッかげです!!ソレ!イッキ!イッキ!イッキ!」
同部内、他大学問わずに打ち出される拍手と合いの手に急かされるように、大輔がビンを空にする。各所から拍手が巻き起こり、もう一気と追い討ちが飛ぶ!
「押忍!頂きます!今日も美味しく飲めるのは〜!ゼンガクダンのおかげです〜!」
半ばやけくそ気味に、煽り文句を叫び、二本目のビンビールに口をつける大輔。
それに便乗してツキト、リョウジも一気飲みに参加する。
「いいぞ!城南トリオ!けしんかぎり(死にそうなほどに)飲め〜!」
「うぉぉぉっす!」
ツキトが煽りを受けて、その辺に置いてあったビンに手をかける。
「あ、バカ!それはビールじゃ・・・」
誰かの叫びも遅く・・・・ツキトが口にしたビンは『焼酎』のビンであり・・・・・
「グッハァァァ」
焼酎を飲みなれていないツキトは、盛大に焼酎を噴霧し昏倒してしまった。
「おい!ツキト!」
静観していたトシハルがツキトを引き起こし、肩を揺さぶる。だが、ツキトは唸り声を上げるだけだった。
また、大輔も連続の一気飲みで酔いが回ったのか、ふらつきながら風に当たってくると告げ、外へと出て行った。
「この辺は、幽霊が出るっちゃから用心せんといかんじ〜!」
出る間際、恐らく地元の大学生だろう青年が大輔の背中に向けてそんな言葉を発した。
外に出て、新鮮な空気を肺一杯に吸い込む。涼しい空気が肺の内部を駆け巡った。
「幽霊って、この科学な時代に出るわけ無いじゃん。ばっかばかしいなぁ・・もう」
さっきの話を思い出し、苦笑いしながら歩く大輔。しかし、飲酒後特有の吐き気に見舞われその場で立ち止まり辺りを見回す。
と、そこへ水の流れる音が大輔の耳に届いた。
周囲には他の音は無い。そんなに遠くまで移動したわけではないのに、合宿所の喧騒も耳には届かない。
だからだろうか?せせらぎ音が、大輔にははっきりと聞こえた。
川目掛けて走り出す大輔。
空には満月が。綺羅と輝く月のお陰で、視界は確保できている。暫く走ると、音の通りに、小川というには大きな川がさらさらと水を運んでいた。
砂利や小石が集まった川縁にたどり着くや否や、胃の中の物を全て川に吐瀉した。
「あ〜しんど。あぁ、もう!一気なんかするんじゃなかったよ・・もう!!」
座り込み口を拳で拭い・・・・何気なく横を見て・・・・・・・
「清流を汚すのはどうかと思うぞ?大丈夫か?」
人が居た。
短い黒髪を、緩い風に乗せつつ・・・じっと川の反対側の森を見つめている。
雲が月を隠したせいで光が遮られる。
その為、服装などがが良く見ない。
『この辺は、幽霊が出るっちゃから用心せんといかんじ!』
先程の言葉を思い出し・・・僅かに身を縮ませる。
「ん?何に脅えている?」
「・・・いや、別に」
声に出した瞬間、再び襲い掛かってきた嘔吐感に耐え切れず川に向って吐瀉する大輔。
その人は、動く事無く、大輔に声を掛ける。
「飲みすぎか?だらしが無いぞ?男が酒に飲まれてどうする?」
訳も知らずに、言い放った。その言葉にイラついた大輔はつい大声で言い返してしまった。
「お〜い!勝手言ってくれるじゃ〜ん!事情も知らないのに・・・ウッ!!!!」
お〜い!お〜い!と、周囲の森に声が木霊した。そして急に大声を出したせいだろう・・・・三度目の嘔吐感が襲ってきた。
『お〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!』
『お〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!』
と、周囲に大輔の声でないまったく別の・・・男女の声が木霊した。
「あ、他にも誰か居るのか?ウッ!!」
口を抑えて倒れこむ大輔と・・・・・・
「なんて間の悪い・・・・・」
初めて動き、大輔の横に移動した人がそんな言葉を口にした。
「・・・・女?」
「・・・悪いか?」
その人は女だというのが、ようやくわかった。ハスキーな声をしていた上、ぶっきらぼうな口調の為、男か女かわからなかったのだ。
そして、奥の森から二つの影が大輔の目の前に飛び込んできた。
『声だ!』
『声!声!』
『声を貰うよ?』
『貰うよ?貰うよ?』
きゃっきゃっと騒ぐ謎の男女。その男女が嬉しそうに大輔に近寄る。
「全く。こんな展開とは・・・・・メブキめ。追い込みに失敗したな・・・・」
そう言って大輔の襟を引っつかみ・・・・ブン・・と放り投げた。
宙を舞い、滑空し、柔らかな草の上に落ちる大輔。
「な・・何よ!今の・・・・」
60キロ以上の人間を女が!片手で投げ飛ばした!その事実を大輔は中々理解できなかった。
『美味しそうな声はどっちかな?』
謎の男が声を出す。だが、その声は女の声。
『それよりも・・・お前・・・鬼だね?』
謎の女が声を出す。だが、その声は男の声。
そして紡ぎだされた『鬼』という単語。
それをぶつけられた女ははっきりとした声で・・・・
「あぁ・・・鬼だよ」
言い返し、腰から携帯電話サイズの物を取り出した。それを自らの掌に当て・・・・音を出した。
キィイイイイイイイイイィイイン
清んだ音。
それは、この夜空の空気よりも清み・・・・
その音が、周囲に澄み渡ってゆく・・・・・・
未だ音を放ちつづけるソレを額に翳し・・・
女は、片足をダン!と地面に叩きつける。
刹那!周囲の大地から石錐が隆起し、女の姿を覆い隠した。
また、ソレを合図に、男女も姿を異質なモノへと変えた。衣服は首に巻き取られ、マフラーのように。
「と・・・特撮かよ・・・・」
大輔は、全く理解不能に陥っていた。
段田大輔。
19歳。もう直ぐ20歳の誕生日を迎える。
城南大学に在籍し、応援団の太鼓担当。
彼女無し。
至って普通の男が、今目の前で普通でない光景を見ている。
『ォォォォォォォォ』
もはや石像となった女から、平時よりもさらに低い声が漏れる。そして・・・
『破ッ!』
気合一閃の声と共に、石が砕け散り・・・・・
全身は、辺りの闇よりも暗い黒。
全身を覆う色は、碧の輝き。
額には単角が延びている。
『縄張りに邪魔したな。断鬼・・・推して参った。覚悟して臨め・・・・』
古風な言い回しで、男女に告げる女=断鬼。そして、大輔に目をやり・・・・
『早く逃げろ!早く!!』
告げるや否や、疾風の如く駆け出し謎の男女に飛び掛った。
大輔がその場から逃げ出したのは、謎の男女と断鬼と呼ばれる鬼が取っ組み合いを始めたのとほぼ同時だった。
番外編『仮面ライダー弾鬼』六之巻『呼び戻る声』(前) 終
『呼び戻る声』(中)予告
「わかってるとは思うが、お前が見た事は一切他言無用だ。もし、誰かに話せば・・・わかるな?」
「俺のせいだ!!俺が・・・・逃げなければ・・・・」
「お前の命・・・預かろう。死んで詫びるなどと・・・愚の骨頂だ」
「よくやった・・・お前には断鬼の名は似合わないが、読みを変えて・・弾鬼・・お前の新しい名だ」
73 :
弾鬼SSの筆者:2006/05/05(金) 23:20:26 ID:Y6JtVqSw0
剛鬼SS職人さん
スレ立て有難うございます。
そして、暫く休まれるとの事で・・・
いつか戻ってくるまで、角を長くして待っております!!
鋭鬼SS職人さん
今回も面白いです!
ついに蛮鬼君が、行動に出てしまいましたね・・・
一体どうなるやら・・・続き、楽しみッス!
そして、初っ端からミスってしまいました。
>>60の題名『高鳴る歌』(後)となっていますが、正しくは『呼び戻る声』(前)です。
打ち込むのがめんどくて、コピペしたのがまずかった・・・・orz
スレ立て乙です。一言感想。
>剛鬼SSさん
また書けそうなら書いてくださいね。待ってます。
>鋭鬼SSさん
最終話は"鬼の鼓動は愛"ですか?
>DAさん
ルリオオカミ切ない…。
>弾鬼SSさん
過去話良いです。どうも千明が仲間ユキエのイメージになります。
75 :
DA年中行事:2006/05/06(土) 11:57:49 ID:e+BqzwFu0
祝・新スレ!前スレにも書きましたが、剛鬼SSさんありがとうございました。
でも、また会える日を、待ってますから待ってますからっ!
そして、鋭鬼さんキターッ!!とっ、途中ドキドキしちゃいましたよっ!
さらに、弾鬼さんキターッ!!秘密のベールに包まれていた過去が!
・・・・前スレ、最後の最後にageちゃった・・・落ち着け、オレ。
76 :
風舞鬼SS作者:2006/05/06(土) 15:38:26 ID:u9qD47+G0
ハァ・・・なんか自分ですねぇー。
風舞鬼を本編、外伝と書いてもらってるくせに、「男たちの大和」に触発され続け、意を決して第二次大戦のなかでの鬼さんたちを描いてゆこうかと思います。
↓↓予告編ですーーー
77 :
「我、鬼。故に我有り。」 予告:2006/05/06(土) 15:55:33 ID:u9qD47+G0
「あ・・・赤紙。」
「これより・・我が陸軍第三特攻隊は・・・敵地への潜入、及び殲滅を行う。」
「何故、人を殺さなければならぬのですか!」
「目を覚ましたまえ、戸田山隊長・・・」
「我、鬼。故に我有り。」 予告
78 :
高鬼SS作者:2006/05/06(土) 21:23:15 ID:5ED2uRiL0
鋭鬼SS様、弾鬼SS様、年中行事様、ご苦労様です。
風舞鬼SSさん、大戦中の話、楽しみにしています。
以前「男達の世界」を書いた時、猛士の鬼と戦争について触れるべきか否か悩んだもので。
そういう意味では「寄り添う獣」で戦争のくだりが出た時は「やっておけば良かったかな」と思ったり。
では一本投下します。
山地乳とは、蝙蝠が劫を経て野衾となり、それがまた年を経て怪異の形となり、山に隠れ住むので山ちちという由である。(現代語訳)
「桃山人夜話」より
1974年、長月。
「チェストォォォォォォ!」
威勢の良い掛け声と共に、魔化魍ノブスマの体が文字通り真っ二つになった。
本来なら夏の魔化魍は太鼓による音撃でなければ分裂する筈なのだが、九州は阿蘇山のカルデラ付近で闇月鬼が戦っているノブスマは斬られた途端に塵へと変わってしまった。
これで三匹目である。
「……妙だな。おいお前等、これはどういう事だ?」
近くでノブスマとの戦いを傍観していた童子と姫に問いかける闇月鬼。だが答えが返ってくる事はなく、代わりに童子が跳びかかってきた。
「示現流、一の太刀……」
縦一文字に振り下ろされた音撃弦・風邪がノブスマ同様童子の体を真っ二つにしてその身を塵芥へと変えた。
その隙に回り込んで闇月鬼を襲おうとする姫。だが。
「グ オ オ オ オ オ!」
黒く巨大な塊が突進してきて姫を弾き飛ばす。闇月鬼の愛馬・黒風だ。
「ナイスフォローだ、黒風」
起き上がりかけた姫の胴体に、渾身の力で投げつけられた「風邪」の刃が突き刺さった。爆発。
「……しかし分からん。夏ももう終わるというのに何で夏の魔化魍が、しかも稀種がこんなに湧いて出てくるんだ?」
黒風に問いかける闇月鬼。しかし当然ながら黒風は何も答えず、ただ高く嘶くだけだった。
「ぎゃあああああ!毒覇鬼さぁん!早く助けて下さぁい!」
越後山脈では、北陸支部のサポーターである葛木弥子が宙を飛ぶノブスマに捕らえられていた。
そんな弥子の事を全く意に介さず、淡々と周囲のノブスマに鬼石を撃ち込んでいく毒覇鬼。
「うわああああ!牙が!牙が!刺さる刺さる!血を吸われるぅぅぅぅ!」
泣き叫ぶ弥子。毒覇鬼はさも面倒臭そうに弥子を捕らえたノブスマの翼を撃ち抜いた。
数メートルの高さからノブスマと共に落下する弥子。
「無事ですか?」
「ええ、何とか……」
「それは残念……」
そう呟くと音撃管・雑言に音撃鳴・罵詈を装着し、ノブスマ達に向かって構える毒覇鬼。音撃射・殺伐嵐が次々とノブスマを爆砕していく。
「終わりましたね毒覇鬼さん。でもこいつらって夏の魔化魍でしょう?どうして管の攻撃で倒せるんでしょう……」
「それよりもあなたにはまだやってもらう事があります。あちらの方々の足止めをしなさい」
そう言って毒覇鬼が指差す方向からは……。
眼窩から血を垂れ流した青白い顔の死者の群れが、緩慢な動作で二人のもとへ歩み寄ってきていた。
それを見た弥子は、死者達に負けないくらい顔が真っ青になった。
「うおおおおお!音撃斬・天威無法!過激にファイヤー!」
霧咲鬼の音撃がノブスマに炸裂、爆砕した。
高知県、四国支部に程近い山中。霧咲鬼は渦巻鬼の援護にやって来ていた。
「流石は先輩!これで三匹目でしたっけ?四匹目?」
「馬鹿野郎、本来こいつらはお前が撃ち落としたうえで倒さなきゃならねえんだろうが!しっかり狙いやがれ!」
そう言いながらも次の獲物目掛けて音撃弦・霧雨を片手に突撃する霧咲鬼。渦巻鬼も音撃管・潮騒で空中のノブスマを攻撃していく。
「音撃射・風光鳴媚!」
「音撃斬・天威無法!見やがれ!ブラックモアも真っ青なこのテクニック!」
両者の音撃が次々とノブスマを粉砕し、塵芥へと変えていく。
「ふぅ、終わりましたね先輩」
「ああ。けどよ、こいつら太鼓以外でも倒せるのか?確かにうちは太鼓使いが少ないからありがたい事ではあるんだが……」
「テングも夏の魔化魍に分類されているけれど、太鼓以外でも倒せるじゃないですか。こういう種類の魔化魍だったんでしょう?」
明るくそう言う渦巻鬼に対して、霧咲鬼は何処か釈然としないままでいた。
と、何者かの射るような視線を受けて、二人の鬼は慌てて背後を振り返った。
そこにはさっきまでの気配は無く、ただ漆黒の闇が口を開けているだけだった。
北海道、富良野盆地。
北海道支部の承鬼がノブスマの群れと死闘を繰り広げていた。
「……因縁ってやつかな。嘗てじじいが戦ったのと同じ魔化魍を倒さなくてはならないとはな」
承鬼の体に噛み付こうと近寄ってくるノブスマを、鉄拳が次々と粉砕していく。
だが。
(こいつら、やけに弱くないか……?)
数が多いだけで大して脅威とは思えない。それに……。
(じじいが言ってたノデッポウとかいう魔化魍もいねえ)
大体、このノブスマはつい先月京都に出たばかりの筈だ。仮にも稀種と呼ばれる魔化魍がこんなにも早く新たに出てくるものだろうか。
「鬼闘術・白金世界!」
超高速移動でノブスマの群れを翻弄し、鬼闘術・流星指刺で頭部を次々と吹っ飛ばしていく承鬼。
五秒が経過し、身体能力が元に戻る。それと同時に塵芥へと変わっていくノブスマの群れ。
(何だこれは。何故ただの攻撃で死ぬ?)
魔化魍が音撃以外の攻撃で清められる事など有り得ない。ではこれは一体……。
と、承鬼の目の前に杖を持った白い怪人が現れた。傀儡だ。
「てめえの仕業か。この魔化魍どもで何をするつもりだ?答えろ」
そう言って音撃管・星屑の銃口を傀儡に向ける承鬼。だが傀儡は承鬼の前からあっという間に姿を隠してしまった。
「やれやれ……。逃げられちまった。だがこれで一つはっきりしたぜ。今回の一件は明らかに作為的なものだという事がな……」
猛士総本部研究室。
今までに各支部から送られてきたノブスマに関する情報をあかねとコウキが整理していた。
「京都での一件からたった一月で、今度は日本中にノブスマが出るなんて……」
報告書に目を通しながらあかねが言う。
ノブスマは、北は北海道から南は九州沖縄まで、全国各地にほとんど同時期に出現した。これは明らかに異常である。
さらにおかしな点が幾つかある。まず、音撃以外の攻撃でもノブスマを倒せるという事。次に、彼等が人形として使う土葬された死体が無い場所にも出るという事。
他にも全身白尽くめの怪人を目撃したという報告例もあり、裏で何者かが動いている可能性が高くなってきた。
「コウキくん、どう思う?」
あかねの問いに対して、コウキは黙ったままだった。その沈黙を答えとして受け取ったあかねは話を続ける。
「私はね、何者かが全国の中から探していると思うの。おそらく魔化魍の生育に適した土壌を」
「では日本中にノブスマが現れた理由は、その場所を探すために何者かが手当たり次第に実験を行っているからだと?」
二人とも「何者か」という風に呼称してはいるが、それがあの謎の男女だという事は承知している。
「ですが、それでもノブスマが音撃以外で倒れる理由が分かりません」
「単純に失敗作だからなんじゃないかしら?」
今まで喋った事はあくまで私個人の推測だけどね、とあかねは言って珈琲を飲んだ。
仮にあかねの仮説が本当だった場合、連中はこれだけの数のノブスマを生み出して一体何をするつもりなのだろうか。
翌日になっても関西支部や吉野総本部内は慌しかった。
モチヅキら医療班は、ここ数日不眠不休で血清を製造し、各支部へ順次配送している。
当然ながら関西各地にもノブスマはその姿を現し、昨日からバキやイブキ等が出撃し、未だ帰ってきていない者もいる。
そしてコウキにも出撃命令が下された。
出発前、念のためにとモチヅキの手でワクチンの接種が行われた。その際モチヅキからある物が手渡された。
「これは僕が使っている式神。闇の中で光を放つようになっている。何かの役に立つかもしれないから渡しておくよ」
聞けば他の鬼達にもワクチン接種の際渡してあるという。コウキはありがたく式神を借りていった。
コウキが向かった場所は、京都と滋賀の境に近い山間部の村だった。事前に調べておいたのだが、この村には土葬の風習は無いという。
(という事はあの時のような目には遭わないで済むわけだ)
それでも、敵は死者だけでなく生者を操る事も出来る。正直言うとそちらの方が厄介なのだが……。
村の入り口で、コウキは地面に絵を描いて遊んでいる子ども達を見掛けた。
「君達、そろそろ日も暮れる。早く家に帰りなさい」
用心しながら声を掛けるコウキ。既にノブスマの操り人形になっている可能性も否定出来ないからだ。
コウキの方に振り向いた子供たちの顔は、普通の顔色だった。一人の男の子が話し掛けてくる。
「ねえおじちゃん、この村に何の用?」
「まあ色々とあってな……」
当然ながら納得のいかない顔をする男の子。
「母ちゃん達が言ってた。この近くに怖い獣が出たから外にはなるべく出歩くなって」
「ならそれを守れない君達は悪い子になるな。私が家まで送っていってあげよう」
だが子ども達はこちらを警戒したままだ。誘拐犯とでも思ったのだろうか?
「おじちゃん、悪い人?あの変な白い奴みたいに……」
その言葉に表情を変えるコウキ。
「白い奴だって!?何処で見たんだ、教えてくれ!」
急に声を荒らげたコウキに対し、怯えた顔を向ける子ども達。
「あ、いや、すまなかった。教えてくれないか、頼む」
精一杯の愛想笑いで子ども達に頼み込むコウキ。こんな姿、他の鬼達には見せられんな。コウキは単独で動いている事に改めて感謝した。
子ども達の話を纏めるとこうだ。
今朝から村では「近くに凶暴な獣が出る」という噂が飛び交い、夜には絶対に外に出歩かないようにとの役場からのお達しが各家庭に通達された。
いつも日が沈むまで遊んでいる子ども達も、日没までには戻って来いと親から釘を刺され、仕方なくいつもより早めに近くの森まで遊びに出掛けた。
そこで遭遇したと言うのである。白尽くめの怪人と。
形容し難い威圧感と恐怖で立ち竦んだままの子ども達の傍を、白尽くめの怪人は足早に過ぎ去っていったという。
結局子ども達は森で遊ぶのを止めて村に戻ったのだそうだ。
そして今、コウキはその森の中にいる。既に日は沈んだ。何処からノブスマが出てきてもおかしくない。
コウキは音撃棒・劫火から火柱を上げ、それを松明代わりに持って暗い森の中を進んでいった。
と、頭上から声が聞こえてきた。見上げると、近くの木の上にノブスマの童子と姫がいる。
「明かりを……消せ」「ついでにお前の命の灯もな……」
「破っ!」
そのまま樹上へと鬼棒術・小右衛門火を飛ばすコウキ。樹上から飛び降りてそれを躱す童子と姫。
だが、炎は上空で破裂し、童子と姫の頭上から矢の様に降り注いできた。その隙に変身音叉を鳴らし鬼の姿へと変わるコウキ。
まず姫の傍に接近すると、鬼闘術・鬼爪でその体を貫いた。爆発。
続いて童子に向かって強烈な回し蹴りをお見舞いする。吹っ飛ぶ童子に「小右衛門火」で追撃を仕掛ける高鬼。
命中と同時に、童子の体は爆発四散した。
「ノブスマは……一緒にいないか」
周囲を確認し終えると、高鬼は再び炎で周囲を照らしながら先へと進んでいった。
どれだけの時間、森の中を歩いただろうか。童子、姫との遭遇からこの近くに潜んでいると踏んだのだが、予想が外れたらしい。
式神を打って自分は村に戻ろう、そう思った時……。
進行方向から何かが近付いてくる気配がしてきた。
「劫火」を手に身構える高鬼。そして。
木々の向こうから、三メートル程の大きさの魔化魍が現れた。
「ノブスマ……なのか?」
そこに現れた魔化魍は、ノブスマと外見的に多く類似していた。だが細かい部分が違う。
何より大きさだ。普通夏の魔化魍というのは親も子も等身大である。三メートルもあればその個体は充分巨大であると言えよう。
「グルルルル……」
牙を剥き、威嚇しながら一歩一歩近付いてくる魔化魍。
(何かがおかしい。ここで今戦うのは得策ではない気がする……)
高鬼はモチヅキから託された式神を放った。鶴の形になって光を放ちながら魔化魍目掛けて飛んでいく式神。
魔化魍は悲鳴を上げながらその巨体を素早く翻し、森の奥へと逃げていった。
周囲に再び静寂が戻った。
大急ぎで村に戻ったコウキは、その村に住む「歩」の人の家から電話を掛けた。勿論相手はあかねである。
コウキから現れた魔化魍の詳細を聞いたあかねは、すぐに調べてこちらから連絡すると言った。
あかねからの連絡は思ったより早く届いた。ノブスマに関する記述があった頁を中心に調べて見つけたのだという。
「その魔化魍の名前はヤマチチ。ノブスマが変異したものよ」
では連中はそのヤマチチを生み出すためだけに日本中で土壌実験を行っていたというのだろうか。
「ヤマチチの出現例は本っ当に少なくて、ここ三百年の間に東北支部で一件、四国支部で一件確認されているだけなの」
「そこまでして生み出す価値があるのでしょうか?」
「ひょっとすると好奇心でやっているだけかもね。あなたも研究者の端くれなら分かるんじゃないかな?」
まあ確かに分からなくもないが、しかし……。
「ノブスマは蝙蝠寄りだったけれど、ヤマチチは鼬寄りの外見になるみたい。空は飛ばなくなるけれど、その代わり素早い動きが出来るようになるわ」
という事は、今はまだ変異の最中という事だろうか。
「私はこれから退治に行ってきます」
「うん。それが良いと思う。頑張ってね」
電話を終え、受話器を置くコウキ。挨拶をして家を出ようとすると、そこにこの家の主人が血相を変えてやって来た。
「た、大変です。そんな危険な獣がいるなら野放しには出来ないと、村の青年団が山狩りを……」
コウキに緊張が走った。
再び山中の森の中へ足を踏み入れたコウキが式神を打とうとしたその時、銃声が響いた。音がした場所へと駆けて行くとそこには……。
「……くっ!」
一人の男性の喉に噛み付いたヤマチチが、彼の全身の体液を啜っていた。
自らの腕に音叉を当て、鳴らし、額へと掲げたコウキの体が炎に包まれる。
「破っ!」
炎を払い、ヤマチチ目掛けて向かっていく高鬼。恐らく今の銃声を耳にして他の人達もこちらへと向かっているだろう。それまでに何とかしなければ。
全身の体液を失い、絞りカスとなった死体を投げつけてくるヤマチチ。それを受け止めて地面に置くと、「劫火」を握って跳びかかる高鬼。
ヤマチチは頭部への打撃を躱すと、鋭い爪で襲い掛かってきた。「劫火」で攻撃を受けながら足払いを仕掛ける高鬼。
命中。体勢を崩したヤマチチの胴体に音撃鼓・紅蓮を貼り付ける。
「好機到来!」
高鬼が「劫火」を振りかぶったその時。
「ぐあっ!」
なんとヤマチチはさっき吸った男性の血を、目潰しとして口から吹きつけてきたのである。そして高鬼の血も吸おうと噛み付いてくる。
高鬼はすぐさま鬼法術・焦熱地獄でヤマチチを攻撃。炎に体を焼かれたヤマチチは悲鳴を上げながら再び森の奥へと逃げていった。
「待て!今度は逃がさん!」
式神を複数展開しながら、高鬼はヤマチチの後を追った。
ヤマチチが逃げ込んだのは、そこそこ大きな洞窟だった。用心して中へと足を踏み入れる高鬼。
ヤマチチの体には今も「紅蓮」が貼り付いたままだ。そこへ目掛けて一撃を叩き込めば終わる。
高鬼が明かりとして使う炎に驚いて、無数の蝙蝠が飛び出してきた。
ノデッポウもいるのだろうか。否、天然のものならありえるが、今回のものは人為的に生み出されたものだ。可能性は低い。
少し広い場所に出た。と、上空からヤマチチが覆い被さってきた。
回避するも「劫火」を落としてしまう高鬼。鬼石から発していた火柱が消え、洞窟内を闇が包む。
慌ててモチヅキの式神を取り出し、音叉を使って起動させる。だが、その光目掛けてヤマチチが再び口から血を吹きかけてきた。血塗れになり地面に落ちる式神。
完全な闇の中、高鬼は相手の気配や微かな空気の流れだけを頼りに戦う事を強いられた。
闇の中での戦いは、明らかにヤマチチの方に分があった。前後左右から爪の一撃を受け、血を流し傷付いていく高鬼。
(そろそろだな……)
とどめを刺さんと、ヤマチチが口を開けて飛び掛ってきた。その瞬間。
高鬼が鬼法術・焦熱地獄を使用したのだ。攻撃のためではない。炎の明かりで目を眩ませるためだ。
効果は抜群だった。突然の光に目をやられるヤマチチ。悲鳴が洞窟内に反響する。
その明かりで落ちていた「劫火」の位置を確認した高鬼は、すぐさまそれを拾い上げるとヤマチチの胴体に貼り付けてある「紅蓮」目掛けて叩き込んだ。
「音撃打・炎舞灰燼!」
清めの音が洞窟内に反響する。そして。
物凄い絶叫と共にヤマチチの体は爆発四散し、塵となって周囲に降り注いだ。
「紅蓮」を装備帯に戻した高鬼は、再び「劫火」に火を灯すと油断なく身構えた。
「……出てきたらどうだ?」
高鬼の背後に白い傀儡が現れた。
「お前の主に伝えろ。実験は終了、次は無いとな」
相も変わらず無言のまま、白い傀儡は洞窟から立ち去っていった。
全国に出没したノブスマは各地の鬼によって全て退治された。
高鬼がヤマチチを倒して以来、再び何処かにノブスマが現れる事はなくなった。高鬼の警告を受け入れたのか、単に飽きただけなのか……。
関西支部では鬼達を労うためにちょっとした宴会が催された。各支部でも同じ様な催しが行われているはずだ。昔話の御世から鬼は酒宴が好きなのだから。
一方、例の男女はこの頃活動拠点を関西に置いていた。新たな実験のためである。彼等の次なる実験、神の複製がとりあえずの形を見せたのは翌年の事だった。 了
90 :
DA年中行事:2006/05/06(土) 22:21:50 ID:e+BqzwFu0
まとめサイトさん、仕事早ッ!いつもありがとうございます。
高鬼SSさん、乙です!
高鬼SSさんのオリジナル魔化魍が好きなのですよ。今回はヤマチチでしたか。
桃山人夜話、未読でしたが現代語訳が付随しているのを今度読んでみます。
何やら身なりのいいあの人たちが次回も暗躍しそうですね。楽しみッス!
風舞鬼SSさん、期待してます!
トモさんを使ってもらえるんでしょうか・・・ウレスィ〜
「寄り添う〜」を書いた時に、階級や呼称が面倒で随分迷いました。徴集されて
半年足らずで(一階級特進であったとしても)小隊長にしちゃいましたが。
戦争未亡人になってしまった姐さん方からお聞きした話で、「寄り添う〜」はな
んとか書きあげました。姐さん方に末永い健康と繁栄を。
このように、オレの場合身近に取材できる事象を絡ませてSSを書いています。
(なので、戦闘シーンがいつもアレですorz)
てな感じで、次回は梅雨の頃に。
皇城さんは、お忙しいのかのぅ。
吉野総本部研究室。
一人の中年男性が机に向かって何か作業をしている。開発局長の小暮耕之助だ。
と、突然振り向いた小暮が、カメラ目線で話し始めた。照明が落ち、小暮の周囲のみにスポットライトが当たる。
「皆さんこんばんは。小暮耕之助です。さて、今回は私が現役時代に体験した幾つかの話をオムニバス形式で御紹介しましょう」
そう言うと警策を取り出す小暮。
「本来なら墓場まで持っていこうと思っていたエピソードばかりだ。感謝こそされど、文句は一切受け付けん!静聴するように!」
そう言うと小暮はよく通る声で語り始めた。
第壱話「老犬と猿」
1970年、葉月。
「マシラとは珍しいものが出ましたね」
あかねの知らせにコウキは正直に答えた。
マシラ。地方によっては「猿神」や「狒々」の名で伝承されている魔化魍である。主に中部地方に出てくる魔化魍なので、関西地方に出てくるのは実に珍しい。
「うん。で、知っていると思うけど……」
「例の習わしですね」
猛士には昔から伝わる習わしがある。それはマシラが出た時限定で行われるものだ。
嘗て、長野県が信濃国と呼ばれていた頃にマシラが出た際、旅の六部と共にマシラを退治した悉平太郎という名の犬がいる。
この悉平太郎は以来猛士の一員となり、代々中部支部に所属してマシラ退治に同行するようになっている。
そしてマシラが他地域に出た際には、中部支部から悉平太郎を呼び寄せて一緒に退治に行くのが習わしとなっているのだ。
「中部支部に連絡を入れたら明日には着くらしいわよ」
「そうですか。ところで今の悉平太郎は幾つなのです?」
「え〜と確か……十五歳とか言っていたような気がするけど」
かなりの老犬である。
そんなのを連れていって足手纏いにならないのか?コウキは不安でしょうがなかった。
翌日、中部支部からトレーナーと一緒に何十代目かの悉平太郎がやって来た。見るからによぼよぼの柴犬である。
その姿を実際に目の当たりにして、コウキは益々不安になってしまった。
「ではお願いします」
トレーナーから悉平太郎を託されるコウキ。
「よし。では行くぞ」
だが悉平太郎は全く動こうとしない。ただじっと蹲っているだけだ。
「言う事を聞け、悉平太郎!これからマシラの出現地点に向かわねばならないのだぞ!」
どれだけ声を荒らげても悉平太郎は全く動こうとしない。
「あかねさん……」
堪らずあかねに助けを求めるコウキ。
「う〜ん、とりあえず私の車を貸すからそれで行ってきなよ」
「はあ……」
悉平太郎を担いで駐車場に向かうコウキ。と。
「!こ、これは!」
温かい液体がコウキの体を濡らしていく……。
「……小便漏らしたな」
あかねの車の中でなくて良かった……。とりあえずコウキはそんな事を考えた。
結局、いつ小便を漏らすか分からないのであかねの車で行く事は断念した。かと言ってバイクに悉平太郎を乗せていくのも無理がありそうな気がする。
トレーナーも交えて、この先どうするかコウキとあかねは相談を始めた。
「どうして世代交代をしないのですか?この歳なら子どもどころか孫もいるでしょう?」
「はあ。実は手違いでこいつの子どもは皆里子に出されてしまいまして……」
どういう手違いだよ。
と、そこへ二日前から出撃していたバキが戻ってきた。
「ただいま戻りました。早速ですみませんがあかねさん、こいつのメンテナンスをお願いします」
そう言って音撃棒・常勝と音撃鼓・無敗を渡すバキ。
「随分破損が激しいわね。音撃棒にもひびが入っているじゃない。確かヤマビコ退治に行っていたんだっけ?」
その割には音撃武器の破損が激しい。
「いやぁ、実は帰りに猿の魔化魍に遭遇しちゃって。放っておくわけにもいかないから戦ってきちゃいました」
笑顔でその時の仔細を話すバキ。
「あ〜、そういえばマシラの出現地点ってバキくんが向かった現場の帰り道だったよね……」
つまり何も知らないバキがついでに退治してきてしまったというのか。
絶句するコウキとトレーナー。
そんな一同の事は意に介さずといった感じで、悉平太郎が大きく欠伸をした。
以降、猛士内においてこの風習は廃止となり、悉平太郎も同年に天寿を全うしたという。
第弐話「心揺さぶる声」
1976年、皐月。
四国支部に出向中のコウキは、同僚のキリサキ、ウズマキと一緒にある魔化魍の探索に出ていた。
「そんなに厄介なのかね。そのワライオトコという魔化魍は」
キリサキに尋ねるコウキ。
ワライオトコというのは高知県限定の魔化魍である。他の都道府県にはケラケラオンナという女性の魔化魍が出るが、それの男性版という事だろうか。
「ああ。滅多に出ない魔化魍なんだがな、出たら出たで兎に角厄介なんだよ……」
と、どこからともなく笑い声が響いてきた。
「出やがったな!」
キリサキが憎々しげに言う。
笑い声は山々に反響し、まるで全方位を取り囲まれているかのような錯覚を覚えさせる。
「成る程、これは確かに厄介だな」
だんだん大きくなる笑い声に思わず耳を塞いでしまうコウキ。
「だろ?こいつが出たらさっさと見つけて始末するのが決まりなんだ」
河原にキャンプを設置して式王子を打つコウキ達。笑い声は未だに止む気配が無い。
「……ケラケラオンナは人里に出るから大して気にはならないが、山に同じ様な魔化魍が出るとここまで迷惑なのか」
だんだん耳鳴りが酷くなってきた。
「今までの記録を見た限りじゃ、意外と獲物のすぐ近くにいる筈なんだがなぁ……」
明らかにキリサキが苛々してきている。折りたたみ椅子に腰掛けているのだが、さっきから貧乏揺すりが一向に止まらない。
その後、何枚かの式王子が戻ってくるまで二人はずっと不機嫌なままだった。
当たりを見つけ、二人は早速現場へと向かった。もう二人の苛々は頂点に達しようとしていた。
行く先々に小鳥が落ちている。この凶悪な笑い声にやられたのだ。
「くそったれが!ああ、うるせえ!」
「黙れ!苛々しているのは私だって同じだ!」
「何だと、この野郎!」
わ は は は は は! わ は は は は は!
今の二人には、笑い声がまるで自分達を馬鹿にしているかの様に聞こえた。
「……よそう。私達がここで言い争っても意味が無い」
「……ああ、そうだな」
わ は は は は は! わ は は は は は!
「ああくそ!やっぱ俺駄目だわ!苛々するぅぅぅぅぅ!」
「落ち着けキリサキ!……よし、私が一つ面白い小噺をしよう」
キリサキを落ち着かせるためにコウキがそう提案する。キリサキも多少興味を持ったようだ。
「行くぞ。……隣の垣根に囲いが出来たってね。そりゃお前さん、違法建築だよ……」
途端に笑い声が止まった。
「……何だそりゃ。全然笑えねえぞ」
キリサキが冷めた口調で言う。
だがコウキが一番ショックだったのは、ワライオトコの声まで止まってしまった事であろう。
(魔化魍にまで……呆れられた?)
実際には別行動中だったウズマキが発見して退治したからだったのだが、真相を知るまでコウキはずっと自己嫌悪状態だったという。
第参話「噂の真相」
1978年末。
京都を中心に口裂け女の噂が広まっていた。実際にその噂が日本中に広まるのは翌年の春以降であるが、京都では既に小中学生を恐怖のどん底に叩き落していた。
「たかだか子どもの噂話を何故わざわざ猛士で調査する必要があるのですか?」
コウキがあかねに疑問をぶつける。それに対しあかねはこう答えた。
「クチサケはれっきとした魔化魍だからよ」
これにはコウキも驚いた。そんな話は初耳である。
「徒然草って知ってるでしょ?吉田兼好の。あれにも京の都に口裂け女が出たって記述があるわ。他にも徳川時代の文献にもその名前が見られるしね」
猛士の間ではクチサケも稀種として扱われているという。
「そういう訳だから、手を抜かずに調査をしてきてね」
京都市内。
コウキはクチサケの調査に当たっていた。いつもは山や森、河川ばかりを行き来しているが、今回は街中である。クチサケは人里でしか発生しないのだ。
外見的な特徴として、名前の由来にもなっている耳元まで開いた大口を持っており、普段は何かで顔を隠しているという。
「しかし……だ。どうやって探せばいいのだ?」
まず街中なので式神は目立つから使えない。ディスクアニマルのような迷彩機能は所詮紙で出来た式神には付いていない。
そして街中には時期が時期だけにマスクを付けた人物がたくさんいる。
とりあえずコウキは噂の中で目撃談の多い通学路へと向かっていった。
数時間後、研究室のあかねの下へ一本の電話が掛かってきた。コウキからだ。
だが、その内容がとんでもなかった。
「どうしたのコウキくん。……えっ!?今警察!?」
何が起こったのかと言うと、通学路で張り込みをしていたコウキは警ら中の警官に職務質問を受けてしまったのである。
本当の事を言うわけにもいかず開き直ってやり過ごそうとしたコウキだったが、口裂け女の一件でぴりぴりしていた警官の怒りに触れ、公務執行妨害で署に連行されてしまったのだ。
それからさらに数時間後、コウキの身柄はあかねによって無事引き取られた。
こればかりは誤魔化す事も出来ず、コウキは始末書を書かされる羽目になってしまった。
ちなみに当のクチサケはイッキにより退治されたという。 了
98 :
高鬼SS作者:2006/05/07(日) 13:26:55 ID:k67bOUPL0
今回はタイトルに番外編を付けてもいいくらいの変則的な内容でした。
変身した鬼も魔化魍の姿も出なかったし。
最後まで読んでいただいた皆様に、小暮さんに代わってお礼申し上げます。
99 :
我、鬼。故に我有り。:2006/05/07(日) 16:24:42 ID:WVBYcqTh0
―序章―
1939年9月1日。
第二次世界大戦の開戦報道が日本中を駆け巡った。
戸田山登茂司は、それを知らせる朝刊をじっくりと眺めた。
「トヨちゃん、日本が大事になっとるよ。」
登茂司は台所で長ネギを切っている妻に若干大きめの声で話しかけた。
「ああ、そういえば昨日、事務局長の立花さんが盛んに話しよったねぇ・・・」
もうお気づきだろうか・・・この夫妻は現代、オロチを静めた鬼の一人、トドロキの祖父母である。
今年の6月に戸田山トヨは待望の子を身ごもり、一時、鬼の仕事をやめていた。
代わって夫の戸田山登茂司が、妻のいない分を埋めていた。
「もう、兵隊さんはいつでも出撃できるように準備しちょるらしいよ。」
「吉野から連絡があったんだが、どうやら戦争になっても猛士には徴収命令が来ないらしい。まずは安心してもいいだろう。」
たちばなの地下。集まった鬼や、猛士の関係者はホッと胸を撫で下ろした。もちろん、国内にいるからと言って、絶対安全というわけではないが側にいてやりたい人が明白な鬼たちには、うれしい報せであった。
「トヨちゃん!どうやら紙黄村からでなくて済むみたいだよ!」
登茂司は子供のように喜んだ。26歳の大人がこんなに純粋かつ、クソ真面目で良いのだろうか?まぁ、そこに私も惚れたんだけど。
「そう・・・安心した・・・」トヨは引っかかっていた杭が取れたように安堵し、明日からの魔化魍討伐への準備をした。
100 :
我、鬼。故に我有り。:2006/05/07(日) 17:40:24 ID:WVBYcqTh0
「じゃ、行ってきます!」登茂司は、森へむかって駆けていった。近頃、この付近では登山客の行方不明が多発していて、地元のお奉行も手を焼いており、裏で猛士に依頼が来たという。
「多分、こりゃバケガニだな。」空気の湿り気、地面の質感、川の流れから登茂司は魔化魍を予測した。とりあえず持ってきたカラクリ動物(DAのこと)、アカネタカ、キハダガニ、合計30枚を起動させ、麓に下りた。
「どうだった?」麓で待っていたトヨが聞いた。「多分、バケガニかな。一応カラクリを放っといたから、時期分かるよ。」そういうと登茂司は、腰から零番のアカネタカを起動させ、足に手紙をくくりつけ、さらにもう一度鬼弦を弾いた。
するとアカネタカはみるみる透明になり、たちばなに向かって飛んでいった。
「じゃ、ちょっと飯にするか!」「じゃあ、手伝ってよ!」
食事も終え、夫婦はカラクリを待っていた。
「なぁ、トヨちゃん。俺がもし戦争に行ったら・・・どうすんだい?」「そんなの決まってるでしょ?」「え・・何!?」「ずっとトモさんを待ってる。」「ハハハハ、帰ってくるときは幽霊かも知れんぞ?」「それでもいいわ。」
そんな会話のなか、アカネタカが戻ってきた。「お、当たりだ!」「いってらっしゃい。」トヨは火打石をとりだすと、カチッカチッと鳴らした。「じゃ、待っててね!」登茂司はそう言い残すと、足早に駆けていった。
101 :
我、鬼。故に我有り。:2006/05/07(日) 17:41:49 ID:WVBYcqTh0
「鬼か・・・」「邪魔をするな・・・鬼の分際で・・・」アカネタカに導かれて来たのは大きな川だった。童子と姫がこちらを見据え、殺気を送ってくる。
登茂司は鼻を鳴らし、鬼弦を弾いた。
凄まじい雷鳴と同時に現れたのは、金色の1本角と顔、深い緑の体表を持つ鬼。突鬼だった。
童子と姫は着物を首に巻きつかせ、怪童子、妖姫へと変化した。「しゃらくせぇ!」突鬼は襲い来る怪童子たちのハサミ上に進化した右腕を音撃弦・烈雷で叩き折ると、妖姫の腹部を切り裂いた。
妖姫は白い血を噴出し、苦しみながら断末魔の叫びをあげると爆発四散した。
102 :
我、鬼。故に我有り。:2006/05/07(日) 17:43:29 ID:WVBYcqTh0
突鬼は返り血で白く濁った身体をすばやく振り向かせ、怪童子の後ろに回りこんだ。それに気づいた怪童子は突鬼から離れ、戦略を立て直した。
突鬼は敵の様子を見て、いつ攻撃されてもいいように、烈雷を構えた。両者、一尺たりとも距離を縮めず、じっと堪えた。
そのとき、突鬼の背後で水飛沫が上がる音と、間接の軋む音がした。突鬼は思わず振り返ると、敵の思惑に気づいた。さっきまでにらめっこをしていた怪童子は囮にすぎなかったのだ。
本当の目的はバケガニが鬼を捕まえること。彼らは本能的にこういった戦法を知っていたのだ。
巨大なハサミに突鬼は挟まれ、まさに万事休す。怪童子がやってきて、鬼め、ざまぁみろと腹の立つことを言う。そうしている間にもギリギリと挟む力は増していった。
「チッ!もはやここまでか・・・。オイ!バケモノ!」怪童子がこちらを睨んだ。「なんか俺、どうでも良くなっちまった。煮るなり焼くなり、好きにしてくれぇ!」
突鬼のその言葉でバケガニの力がわずかに緩んだ。それを突鬼が見逃すはずが無かった。突鬼は体中から雷の気を放出し、その力でバケガニのハサミを粉砕した。
その隙に烈雷を取り戻すと、あっけに取られている怪童子を斬った。すぐにバケガニの元へと駆けて行き、8本の足をなぎ倒していった。
「とどめじゃあ!!」突鬼は烈雷をバケガニに突き刺し、雷轟をとりつけ、音撃をはじめた。「ウォォオ!音撃斬、雷電激震!!」エレキギターの凄まじい音が山脈を震わした。
バケガニは動きを止めた。ギィンギィーーン!!熱い鬼の魂が、日本全土を奮わせる。鬼石は赤々と輝き、バケガニはただただ、怯えることしかできなかった。
「あ、トモさんだ!」ジャジャジャジャジャジャジャジャジャン!ジャン!ジャン!ウ゛ィーン、ウ゛ィーーーーン!!ジャン!
次の瞬間、バケガニは轟音とともに塵と化し、麓では鬼の妻が笑顔で夕飯の支度をしていた。
我、鬼。故に我有り。 ―序章―
ちょっと時間があったので久しぶりにSSを書いて見ましたが、
まとめサイトさんを、主人公にした超番外編を作った為に投下を悩んでます。
まとめサイトさん、投下してもいいですかね?
まとめサイトさん
今回の誤植、修正していただき有難うございました。
お恥ずかしい・・・次は、気をつけますね!
用語集サイトさん
いつの間にか弾鬼SSの用語が大量に更新されていて、驚きました。
あんな、悪筆乱文の中から用語を引き抜いて頂き、感謝感激です!!
有難うございました!!!
先代ZANKIさん
お久しぶりです!!
また、ZANKIさんの書かれたお話が読めるかもしれない!
ワクテカしながら、その時をお待ちしております!!
105 :
我、鬼。故に我有り。:2006/05/10(水) 01:02:38 ID:iocq34+70
我、鬼。故に我有り。 第一章・T 「赴く稲妻」前編
日本軍は9月1日の開戦以降、列強国がヨーロッパで戦火を浴びている隙に、東南アジアや中国付近を中心に侵略を開始した。
そのため、庶民の家から長男以外の満20歳以上の男子が『赤紙』と呼ばれる徴収命令状で戦場に駆り出された。
猛士と呼ばれる、妖怪を退治する鬼をサポートする組織は裏で政府と繋がっており、「猛士に属する男女は戦場にも、
武器製鉄工場にも行かず日々、魔化魍討伐に徹せよ。」とのいわゆる『特令』が下された。この命令に猛士の人間は大なり小なり喜んだといえる。
しかしその一方で、一般人には「非国民」のレッテルを貼られることになった。
戸田山登茂司は、複雑な気分だった。人を守ることが鬼の役目・・・。かつてお婆ちゃんにそう言われたっけ。確か、猛士創成時期に現れた哀れな鬼の言葉。
俺は今、鬼の役目を果たしてはいないではないか。魔化魍は人の邪な気持ちが生み出したモノ。戦争もまた然り。俺は・・・一体・・・。
106 :
我、鬼。故に我有り。:2006/05/10(水) 01:03:20 ID:iocq34+70
「トモさん・・・どうした?」不意に入った言葉に登茂司は驚いた。「あ、ああ。その・・・なんだ。これでいいのかなって・・・思ってただけだよ。」
「戦争に行った若い衆の事。心配してるの?」妻は慈愛に満ちた顔で問いかける。「まぁ、それもあるけど・・・これが自分の成りたかった『鬼』なのかなって・・・さ。」
「トモさんの成りたかった・・・鬼?」「ああ。俺の成りたかった鬼。師匠のような・・・。」「師匠って・・・ザンキさんのこと?」
「うん。一番つよくて、一番優しくて、一番厳しくて・・・。」登茂司の表情が一瞬曇った。「人助けのためだったら、命も惜しまない・・・そういう鬼?」「うん。」
「トモさん・・・私、つい最近まで悲しかったことなんて無かった。泣くことなんて、赤ちゃんのときでしか無かった・・・でもね、トモさん。昨日私・・・泣いたんだよ。」
登茂司はその言葉の意味をしばらくして理解した・・・。まさか・・・トヨは、服の小物入れから、汚らしい紙切れを引っ張り出した。トヨちゃん・・・ごめん・・・。
「トモさん・・・これ・・・。」トヨの瞳は涙で溢れていた。登茂司に渡された紙切れ。それは紛れも無く、政府からの徴収命令状。赤紙だった。
「トヨちゃん・・・・。」登茂司は何と言えばいいか分からなかった。謝るのがいいのか、共に泣けばいいのかさえも分からなかった。トヨが震える唇で語りだした。
「トモさん・・・。貴方が鬼のあり方について疑問を持っているのならば、自分なりの鬼道を見つけてきなさい。貴方は一番優しくて強い人。そんな貴方が数多の同胞たちの死を黙って見ていられるはずも無い。
人を守るのが鬼の役目。戦場で沢山の人を守ることができるのは貴方だけ。命と引き換えにしてでも、人助けしてきなさい!」
登茂司は妻の言葉を深く噛み締めた。俺のなりたい鬼・・・ザンキさん・・・。俺は・・・。
――行け、トッキ。
ザンキ・・・さん!?妻、トヨの隣にいつの間にか、師匠が座っていた・・・。
――トッキ。俺はお前の犠牲になったことを、少しも悔いてはおらんぞ。むしろ、良かったと思っておるわい。・・・覚悟は・・・出来ているか?
「はい。ザンキさん。」
107 :
我、鬼。故に我有り。:2006/05/10(水) 01:04:59 ID:iocq34+70
――相変わらず、話が早いな。・・・トッキ。鬼のありかたは他人に決められるものではない。例えそれが政府であろうと、神とされる天皇陛下だろうとな。自分さがしはもう止めろ。
「!?」
――いまさら、貴様が己のあり方などを探したところで、見つかりはしない。何故ならお前は既に薄々気づいているはずだ。
「・・・・仰るとおりです。・・・ザンキさん。」
――ふん。ようやく気づいたか。馬鹿弟子め。・・・・ワシはもう逝くぞ。“むこう”は何かと厳しいんでな。
「ザンキさん・・・ありがとうございました・・・!」
登茂司に、冷たい風が吹いた。・・・・・頭を上げると、そこにはもう師匠の魂は居なかった。
我、鬼。故に我有り。 第一章・T 「赴く稲妻」前編
108 :
名無しより愛をこめて:2006/05/10(水) 03:19:17 ID:Dmf/N5pDO
仙鬼、素鬼、硬鬼、擂鬼、憚鬼、折鬼、檸鬼、豎鬼、狼鬼、雛鬼、錏鬼、廼鬼、牙鬼、號鬼、碼鬼、旒鬼、鑁鬼、飯炊鬼
−ZANKI外伝MATOME−
『まとめる鬼』
俺の名前は斉藤 真斗芽(さいとう まとめ)
入社3年目のごく普通のサラリーマンだ。
大きな仕事も任されるようになり、年金もキチンと払い、会社のパソコンにウィニーを入れるような事もしない優良サラリーマンだ。
もちろん、消費者金融に手を出す事もしないし、結婚を考えている彼女も居る。
早い話、勝ち組とは言わないが、ごく普通の日本人である。
だが、それは表の顔…。そう俺には人には言えない秘密がある。
俺は…まとめサイトの管理人だ…。
サラリーマンと、まとめサイト管理人の二束わらじの生活を続けて、もう何ヶ月が過ぎたのだろう…。
今日もいつものように鮨詰め状態の京浜急行の快速特急で通勤する。
ありえないような体制を保持しながら考える事はまとめサイトの事。
まとめサイト…通常2ちゃんねるはDAT落ちしたスレは見れない…。
見る方法はあるのだが、それは一般人には少々敷居の高い技術を要求される。
だが、見たい…そんな時に必要となるのがまとめサイトである。
DAT落ちしたスレ、または現行スレを編集してHPに乗せる。
なんて事の無い事…仮に俺じゃなくても誰でもできる作業だ。
だが、只、まとめれば良いものじゃない…
職人が全力で投下するSS…それ即ち、熱い魂…命の温もり。
冷凍保存もフリーズドライもしちゃいけない。
熱々のまま、読者にはお召し上がりいただきたい。
最高の状態でまとめ上げる事…それが俺の仕事…俺の使命である…。
いつものように品川駅に着くと、電車から吐き出されるように人が降り始める。
不況だろうと好景気だろうとサラリーマンに架せられるのはハードワーク。
いくら政治家や官僚が仕切ろうと、最前線で働くのは俺たち、いわば日本のゼクトルーパー。
ザビーゼクターには見向きもされないのだ。
だが、仕事の鬼達は今日も人知れず戦いに行くのである。
「ぐお!」ふと、誰かが俺の足を踏んだ。踏んだ相手も気付いたようで俺の方を向く。
なんと相手は綺麗なOLさんだった。「すみません!大丈夫ですか?」
これが茶髪の男子高校生なら音撃斬!閻魔裁き!ものであるが、
相手はか弱い女性、ZANKISMに乗っ取り紳士的に対応する。
「鍛えてますから!!」
それだけ言うと、俺はその場を立ち去った。
ちなみにこの時ヒールで踏まれた小指が骨折した事に気付くのは、これから数日後のことである。
溜まっていた書類と、新人の教育、見積書の作成などを華麗にこなし、午前の仕事を終えると、お昼休みになる。
俺はカップヌードルのカレーと、スープヌードルのカレーの二つの味を比べながら、
「味の違いがねーよ」と文句を言い会社のパソコンで特撮版を覗き、
新しいSSが投下されていないかをチェックする。
二日振りにみたスレには高鬼SSの新作が投下されていた。
−高鬼−
若かりし頃の小暮さんを主人公にしたストーリーである。
ストイックな小暮さんが主役なだけに、男を感じさせる作品である。
ZANKIに影響され、一時はギャグ路線に走るかと心配したが、きっちりと自分の路線を保つあたりが大人であり、男である。
70年代の話が多いことや、初代ライダーを知ってるあたり、おそらく30代〜40代ではないかと勝手に予想する…
時代背景にも詳しい、おそらく大学は社会系を卒業したのだろう…日曜日には幼稚園の子供と奥さんと一緒に近所の公園で遊んだ後にジャスコに行って、
子供にライダーのおもちゃをせがまれているのではなかろうか?
そんなお父さんも日曜日ぐらいは発泡酒のマグナムドライではなくアサヒスーパードライが飲みたいと奥さんにお願いしているのでは?
そんな人物像を勝手に想像するのも楽しみの一つであった。
一通りSSを読み終えて、カップ麺を捨てに行きつつ、給湯室でお茶を入れる。
二つのカップ麺は麺の内容量が違うだけ。と言うOL達の指摘にマジ凹みしながら、
俺は午後の仕事に備えた。
PM5:30 珍しく仕事が定例時間で終わった。
今日は金曜日、明日は休み。俺の中でこの後の予定が選択肢となり脳裏に浮かぶ
@ 会社の人間と飲みに行く。
A 彼女とお食事&お泊りデート。
B 自宅でビール飲みながら、まとめサイトをいじる。
@は給料日前だからやめておこう。そうなると必然的にAかBである。
とりえあず、彼女にメールを打ち、様子を確かめつつ、掲示板を除く事にした。
昼に見た時は高鬼SSだけであった。一つだけなら明日にでもできる。
彼女と遊んだ後にゆっくりと手直しも可能である。
俺は2ちゃんねるを検索して特撮へ遠回りしながら到着し、スレを確認すると、恐るべき事が起きていた。
なんとそこには鋭鬼SSと風舞鬼SSと弾鬼SSが同時に投下されていた。
「お、弾鬼ひさしぶりじゃん。」
弾鬼−
ザビーゼクターの真の資格者であるスーアクの伊藤さんが弾鬼役として出演した為か意外にファンが多い。
作者もその一人だと思われる。
ワイルドなダンキさんを書ける事や、九州の人らしい事から作者は九州男児のイメージがあるが、
人とは違う自分に憧れるもの。俺は敢えて、弾鬼SSの作者はオカマ説と唱えてみたい。
九州のとある繁華街の隅にあるオカマバー「男鬼(だんき)」
サラリーマンから大物政治家までが訪れるこのバーのママ、みずほ(源氏名)
みんなの良き相談役でもあり、繁華街のトラブルなどがあったら仲介役も勤め、
住民からの信頼も厚い。おすすめカクテルは「破砕細石」ウォッカベースなので強め。
しかし、こんな人が仕事が終わって響鬼見て、SSを書いて投下する姿は想像がつかない。
やはり普通の人だと思う。
しかし、量が多いな…。意味も無く格好をつけて言う。
だが、量が多いだけではない。長編の鋭鬼と弾鬼SSの間に風舞鬼SSが混ざっているのだ。
投下してる最中になにトラブったのか?いや、とにかく、かなり拾い上げるのが、やっかいだ…時間がかかるな…。
だが、困難だろうとSSが投下されれば、それを拾い上げるのが俺の使命。職人さんが自らの命を削りながら投下したSS…決して無駄にしてはいけない。
そう勝手に盛り上がっていると彼女からのメールが来た。
「いいよ。品川で待ち合わす?」
彼女の返事はOKであった。
先ほどの熱い決意は一先ず置いておき、今夜は彼女と遊んで明日まとめサイトをいじる事にした。
レスに書かれた職人と住人さんからの「まとめサイトさん、いつもありがとう。」の文字が
心に突き刺さったが、「すまない」と心で謝りながら、会社を出た。
品川駅で彼女を待つ。彼女はメガネを掛けた真鍋かをり似である。はっきり言って上玉だ。
服の上からでは気付きにくいが、かなり胸はある。一度「爆乳戦隊 アバレンジャー」とか言ってみたいが、
確実に軽蔑されるので俺の胸の中だけでこっそり思っておこう。
そんなメガネッ娘真鍋を待つ間に携帯でSSを読もうとすると、なんとスレにはDA年中行事が追加されそうになっていた。
DA年中行事
ちょっと長いですが、国民の休日で一本作りました。これから投下します。
また、増えるのか!だいたい国民の休日でってどんな内容だ?
いや、そもそも年中行事なのか?
DA年中行事−
他のSSとは一線を引き、DAに焦点を当てた作品である。
そのSSにはバトルがある訳ではないが、独特のテンポと優しさを感じる文章に魅了されたファンは多い。
雑談で「ビール」「仕事」などの発言があるから、おそらく社会人だろう。
猫を飼っているようなので、結構、寂しがり屋かもしれない。
特撮板にSSなんか投下してるから男だと思っているが、俺は最近、文章などから本当は女では?と思う事もある。
もちろん特ヲタの可能性も高いが…
しかし、仕事を終えて湯上りにTシャツ、短パン姿で長い髪をタオルで拭きながら、ビールをゴキュゴキュと飲み、
猫(毛並みの良い奴)を抱いてSSを読む女性の姿を勝手に想像すると、
女であってほしい!と思ってしまうのは悲しい男の性(SAGA)なのだろうか…。
そんな勝手な妄想をしていると、彼女からのメールが届いた。
「ごめん!友達と飲みに行くね!」
断りのメールに内心ムッとしながらも、まとめサイトが更新できるか…と思い、怒りを静める。
「わかった。楽しんできてね。」
器の大きい男っぷりを見せるメールを送り、帰宅することにした。
自宅に帰り、ネクタイを外しパソコンの電源を入れる。
起動するまでの間に、買って来たビールを開け、からあげくんを頬張る。
メールをチェックしたら、俺はスレに行ってSSをチェックした。
投下されたSSを一通り読み終えると、俺は部屋の電気を消し、
誰かに見られていないか部屋中を見渡し、まとめサイトの編集作業に入る。
電気を消して作業する意味はない。只単に格好良さそうだから。
黒い背景色のサイトは響鬼SSのイメージにぴったりくる。
決して手抜きではない。イメージカラーである。
最近は用語集サイトさんも現れてた為に心強い味方が増えた気持ちだ。
これが井上脚本ならば他のまとめサイトを倒しに来た第二のまとめサイターが登場するんだろうな。
最終的にはサイターバトル。
でも、ここは響鬼SSサイト。そんなバトルとは無縁である。
そうこうしていると彼女からメールが来た。
「友達が途中で帰っちゃった。これから会える?」
俺はまとめサイトの編集と彼女どっちを取るか悩んだ。
だが、まとめサイトの編集作業がある。
俺は突然ドタキャンして、今度は会いたいと言ってくる彼女が悪いと思い、会わない事を返信した。
数分後−彼女からの返信
「は?なんで?いいじゃん?会おうよ。」
引き下がらない彼女。しかし、まとめサイトの編集に完全に気持ちがいってる。
考えた挙句、俺は結局会わない事を返信する。
だが、すぐに彼女からの返信。
「いいから来い!」
半ば逆ギレ気味のメールに俺もキレた。
送信「ドタキャンして来いはねぇーだろ!」
返信「そりゃ、悪かったよ。悪かったから会ってあげるって言ってるの!」
送信「会ってあげる?何様のつもり?」
返信「あんたこそ、何様?」
そんな不毛な争いをする事、小一時間。
メールの内容はエスカレートし、お互いの恥部をさらけだす荒んだメールへとなり、
精神的にどん底に叩き落されている俺に止めのメールが送られてきた。
「死ね! 特ヲタ!」
次の日。まとめサイトの編集を泣きながら終えて、その後やけ酒を明け方まで飲んでいた為に昼頃に目を覚ました。
一晩たつと頭が冷静になっていた。
俺は昨日の事を謝ろうと彼女にメールを打ち、返信が来るまでスレでも見ようかとパソコンを立ち上げる。
だが、画面が現れるよりも早くメールの返信が来た。しかし、携帯の画面には見慣れないメール…。
−アドレスが見付かりません。−
おかしいなと思いつつも二度三度と送信して見る。しかし、メールは送信できない。
やべぇ!物凄くヤバイ予感がした。俺は慌てて彼女の携帯に電話を掛けたが、時すでに遅し…。
「お客様の掛けた番号はお客様のご都合により…」
…着信拒否だった。
全身の血の気が引いた俺は、共通の友人にメールをした。数分後、友人からメールが届く。
どうやら相当怒っているらしい。話によると夜中なの電話をして来て、
俺の恥ずかしい話を一通り喋りまくったようだ…それも一人ではなく数人に…。
「まあ…しばらくしたらほとぼりが冷めるよ…。」
電話越しに泣きじゃくる俺に、精一杯の優しさを込めた友人の言葉が胸に響く…。
結局、気持ちが落ち着いたのは夕方になった頃であった。
気分を変えようとネットに繋ぎ、いつものスレへ…。
昨日、何作か投下されていただけに、今日はSSの投下はなかった。
けれど、レスは少しあった。
>まとめサイトさん。誤植の修正ありがとう。いつもごくろうさんです。
>昨日、知ってこのスレ見ました。まとめサイトがあってホント助かりました。
>職人も偉いけど、まとめサイトさんも頑張るよなぁ。
何故か知らないが俺に対しての感謝のレスが…。
なんて事のない文章に俺の傷ついた心が癒される…。
「おまえら…大好き…」
まとめサイトも人知れずに戦っている……。
注)この物語はフィクションであり、登場する人物、団体名は架空のものです。
まあ、早い話。想像で適当に書いたからクレームとかつけないでと言うことです。
いや、ほんとに皆さんすみませんでした…。
119 :
DA年中行事:2006/05/10(水) 19:50:21 ID:ZsFANpuc0
ブハーッ!
仕事上がりのビール盛大に吹きましたよZANKIの人!
いや、あのね、2chのこのスレに限らず、色んな人が響鬼SSを
書いているとは思うけど、まとめサイトの中の人のSSまで作る
のは、ZANKIの人さんぐらいしかいないってw
いやいやいや、お望みならば風呂上りにTシャツで長髪をタオル
でまとめてSSを読みますけどもさ、短パンは冷えるから堪忍ww
そうか、俺はオカマだったのか・・・初めて気がつきましたわ!
明日から早速、オカマバー『男鬼』をオープンさせたいと思います!
オープンの際は招待状を送りますね!!
ッてオイ!w
いや、この予測のつかない内容こそ先代ZANKIさんの特徴ですね〜!
堪能させていただきました!!
121 :
高鬼SS作者:2006/05/11(木) 01:01:44 ID:rbL1KtOx0
大笑いしながら読ませていただきましたw
勿論ツッコミも入れつつ。
サイターバトルに禿藁!
性別が男性である事以外は全部ハズレですw
そうかぁ、俺って文章だけじゃ三十〜四十代の雰囲気を醸し出していたんだw
122 :
用語集サイト:2006/05/11(木) 14:34:12 ID:a++3cfCZ0
面白い!
こういうのを書けるZANKIの人さんはやっぱり先代みたいにひょうきんな人なんじゃないかと思いますね。
モロにパンツェッタ・ジローラモがジョルノの格好をしてるのしか想像できないけど…
こうやって俺のポジションを見ると、まとめサイトさんでは対応しきれない
飛行型魔化魍を担当する管の鬼(見習い)って感じ?
よーし、フィギュア王のバックナンバーも届いたことだし、がんばって更新するぞー!
……たちばなの全メニューとか。
俺は中四国支部を舞台にした話を書いて、VIP系列の発表所に上げてるんだけど、
このスレに持ってきてもいい?
用語集サイトとかで、色んな人が書いた話の登場人物や設定が一緒に並べてある雰囲気がすごくいいなと思ったので。
中四国地方あたりはまだ手付かずだよね?
124 :
我、鬼。故に我有り。:2006/05/11(木) 23:22:56 ID:nflh3cD/0
我、鬼。故に我有り。 第一章・T 「赴く稲妻」後編
前編は
>>105から。
125 :
我、鬼。故に我有り。:2006/05/11(木) 23:23:44 ID:nflh3cD/0
「ばぁちゃん・・・」登巳蔵は意識をハッキリと取り戻した祖母から、己の祖父のことを聞いていた。
「登巳蔵や・・・。ばぁちゃんはね、トモさんが戦争に行くことを止めなかったことに後悔はしてないよ。あの人が最期に真の鬼のあり方を 悟ったんだからね。」
口ではそうは言うが、ばぁちゃんの顔には涙が溢れていた。大切な人を失い、置いていかれた辛さは登巳蔵には経験が無いが、以前オトロシに踏み潰されたとき、日菜佳はどう思ってくれただろうか。
「あの人の最期を伝えてくれたのはね・・・おんなじ部隊に居た、財津原さんって人で、トモさんの弟子だった人だよ。」
126 :
我、鬼。故に我有り。:2006/05/11(木) 23:24:54 ID:nflh3cD/0
「ごめんください。」
玄関先からそんな声がしたね。郵便さんかと思って戸をあけたら、若い兵隊さんだった。戸田山さんのお宅はこちらですか。っていうから、はいって答えた。
「登茂司軍曹にお世話になった、財津原善嘉といいます。その・・・戸田山軍曹は・・・昭和16年、アジア第一戦線、特攻任務にてお亡くなりになられました・・・」
その報せはずいぶん前に別の兵隊さんが来たから知ってた。せっかく、遠いトコからわざわざ来られたんだからと思って、家に入れた。そしたらその男はトモさんのことを全部話してくれたよ。
「私は、三重の田舎の出身で、軍隊に収集されると、はじめ、登茂司軍曹と同じ第六分隊に配属されました。」
我、鬼。故に我有り。 第一章・T 「赴く稲妻」後編
127 :
用語集サイト:2006/05/12(金) 01:09:35 ID:PpgG13IL0
>>123 四国は(1970年代ですが)高鬼さんが行ってます。
中国地方はちらっと言及されたくらいでしょうか。
個人的にはこちらに投下されるのなら設定などを共通にしていただけると面白いと思います。
>>127 こちらの設定はすでに完成してるんですが、(ここの皆さんの作品でもすでに)鬼の名前とか結構かぶってますよねえ。
名前がかぶるのは良いんでしょうか?
こちらでは猛士の支部は、北海道支部、東北支部、関東支部、中部支部、関西支部、中四国支部、九州支部、その他(決まった支部に所属しない鬼)と分かれている設定です。
中四国支部の鬼はすべて設定が完成しています。現時点で手付かずなら中四国はこっちに任せてもらえるとありがたいです。
皆さんの設定・皆さんが構築された世界観と共存できるならそれでよし、
もしそれが難しいなら、皆さんの響鬼世界とはまた別の独立した作品として読んで頂ければ嬉しいなと。
作品はこちらです。
http://neetsha.com/inside/comment.php?id=407
>>128-129 まさかここで作者さんに出会えるとは。
いつも楽しく読ませてもらってますよ。
おっしゃるとおり、設定や世界観の食い違いがあるなら無理してここの他作品と共通にすることもないんでは。
もちろん、できるに越したことは無いですけどね。読む立場からしてもそのほうが楽しいですし。
このスレは皆で楽しむお祭りみたいなもんだと思ってるので、個人的には少しくらい食い違っても構わないんでは…と。
では他の皆さんの意見も聞いてみて考えます。
とりあえず現時点では、世界観を共用するかどうかは保留ということで。
>>123さん
SS読ませていただきました。
簡潔に言わせて頂くと、続きが凄く読んでみたいです!!
気にされている点ですが、名前の被り・世界観の共有ですが、ムリにあわせなくても良いと思います。
>>1に書いてあるように、仮面ライダー響鬼から発想を得た小説を発表するのがココの在り方ですからね!
とにかく自分は、このスレへの投下は大賛成です!!
なんかえらそうな語り口になってしまい、申し訳ありません。
133 :
高鬼SS作者:2006/05/12(金) 23:03:26 ID:BFrNIm6h0
>>128-129 どうも、中四国をこのスレで最初にやらせていただいた者です。
今さっきリンク先のSSを読み終わりました。
音楽や楽器の観点からのアプローチ、実に面白かったです!
こちらは主に妖怪の観点からやっているもので…。
このスレへの投稿ですが、僕は大丈夫だと思います。
中国支部、四国支部の設定は既にこちらでも固まっているのですが、
間に三十年の期間があるのでやろうと思えば(強引な後付けは必要でしょうが)世界観の共有も可能ですし、
皇城の守護鬼さんのように微妙に異なった世界観で連載されている方もおられますから。
…ちなみに早ければ日付変更ぐらいに投下出来るSS、以前書いた「時を越える音色」の続きです。
早い話が中国支部がまた出てきます。偶然って怖いな…。
石蕗(ツワブキ) 菊科 十月から十一月にかけて咲く 花言葉「困難に負けない」
1977年、霜月。
先月末に大山で起きた戦いの結果、中国支部は三分の二に当たる鬼を失ってしまった。
一月程度ではほとんどの者が退院出来る筈もなく、中国支部は極端な人材不足に陥ってしまったのだ。
特例として「と」に師匠の音撃武器を貸し出しグループ行動をさせてみたものの、完全に穴を埋められるわけもなく、各支部から期間限定で補充人員を取る事になった。
昨年、同じく鞍馬山の戦いで多くの鬼が負傷し、中国支部から人員の補充を受けていた関西支部もシフトを組み直し、数名を中国支部のシフトに組み込んだ。
その中にはコウキの名前もあった。
コウキは一人、非番を利用して中国支部の表の顔である出雲蕎麦屋へと一ヶ月振りに訪れていた。挨拶のためである。
「御免下さい」
暖簾を潜り、店内に足を入れる。「いらっしゃいませ!」と威勢の良い声が返ってきた。
既にお昼時は過ぎているためか、店内には客は誰もいなかった。カウンターの向こうで、さっき挨拶をした人物がコウキの顔に気付く。
「コウキさんじゃありませんか。覚えていますか?『金』の佐野です」
佐野は嬉しそうに奥に向かって声を掛ける。
「店長!ちょっと来て下さい。店長!」
何度か声を掛けると店の奥から一人の老人が現れた。支部長の東だ。
「どうしました?私は今、こぉんなに大きな大福を食べようとしていた真っ最中だったのですよ。おや、あなたは誰です?」
コウキの顔を見て首を傾げる東。
「やだなぁ店長、関西支部のコウキさんじゃあないですか。補充人員として来て下さったんですよ」
「今日はご挨拶だけですが……」
しかし東の方は全く理解していないようだ。
「補充人員?何です、それは?」
「やだなぁ店長、今うちの支部は戦える鬼がほとんどいないじゃないですか。だから人員の補充を本部に要請したでしょ?」
おお、と大袈裟に驚くと笑い出す東。
「そうでしたか!でもそりゃあんた、覚えていろというのが無理です!私は毎日の売り上げ計算で精一杯なんですから!わはははは!」
実に豪快な笑い方である。
カウンターから出てきた佐野がこっそりとコウキに耳打ちする。
「あの人はいつもああなんです。気にしないで下さい。直に慣れますから……」
四国支部といい、何故自分はいつもとんでもない所にばかり派遣されるのだ?コウキは真剣にそう思った。
そこへ一人の人物が暖簾を潜って入ってきた。
「いらっしゃい!……なんだ、ツワブキくんじゃないですか」
佐野がツワブキと呼んだ男は、二十歳そこそこの若い男性だった。雰囲気からどうも自分の同業者らしいと感じるコウキ。
「あれ、お客さん?」
「いや、こちらは関西支部から救援に来て下さったコウキさん。先月伯耆坊を倒した人だ」
「ああ、あの『疾風鋼の鬼』……」
そう言うとまじまじとコウキの全身を見やるツワブキ。
しかし直ぐにコウキの顔を見据えると、強い口調でこう言った。
「あなたは確かに凄いと思う。だけど、ここを守っているのは僕達だ!必要以上に介入しないで下さい」
「ツワブキくん!何て事を……」
佐野が注意をするも全く堪えた様子は無い。
「……この間の出撃の報告に来ました。お願いします」
「じゃあ私が奥で話を聞きましょう」
そう言うと東はツワブキを連れて店の奥へと引っ込んでいった。
「彼はこう……一人で全てを背負い込んでいる感じがしますね」
「お恥ずかしい。彼は元々責任感の強い人物でして。先輩が揃って入院して、何か思う所があったのでしょう……」
どうもすみませんでした、と頭を下げる佐野。コウキは黙って店の奥へと続く通路を眺めていた
数日後、コウキは出動する事になった。但しあのツワブキとコンビで、である。
彼の事をお願いします、そう佐野はコウキに頼み込んだ。
場所は鳥取県境港。海上にバケハマグリが出たらしい。
「バケハマグリの吐き出す蜃気楼が原因で船が転覆したのです。こりゃあんた大事ですよ。退治しなけりゃなりません」
東が苦渋の表情でそう告げる。
中国支部は支部長である東の方針で、人に直接的に危害を加えない魔化魍は放置する事にしている。人を襲わないバケハマグリも本来は対象外の魔化魍だ。
だが、被害者が出てしまった以上退治しなくてはならない。
「サポーターには八雲くんを付けます。駅前でツワブキくんと一緒に待っている筈ですから直ぐに行って下さい」
佐野に促され、コウキは店を後にした。
駅前で八雲達と合流し、彼の運転する車で境港へと向かう。車中では重い沈黙が延々と流れた。
目的地へと近付いた時、助手席に座っていたツワブキがおもむろに後部座席のコウキの方へと振り向き、話し掛けてきた。
「あなたはただ黙って見ていて下さい。魔化魍は僕が清めますから」
「そうはいかん。私もこちらに出向してきている以上、しっかりと働くつもりだ」
コウキの顔をじっと見ながらツワブキが続ける。
「先月の大山での戦い、僕は第三次討伐隊にいました。僕等が満身創痍でテングの群れと戦っていた時、あなた達は何をしていた!」
漸くコウキは理解した。彼は先月の戦いで自分達が囮にされたと思っているのだ。
「それは違う!結果的にそんな風に見えるようになってしまったが、私達は……」
「言い訳は無用だ!」
段々感情的になってくるツワブキ。
「よせツワブキ。コウキさんの言う通りだ」
八雲が嗜める。そのお蔭でツワブキも大人しくなったが、車中の空気は最悪のままだった。
境港に停泊してある猛士所有の船で海上に出る三人。運転は八雲が担当している。
水平線に巨大な楼閣が浮かび上がっている。蜃気楼だ。
「あれ程大きな蜃気楼を吐くとは、かなりの歳月を生きたバケハマグリだろうな」
コウキが感心したように言う。
バケハマグリはその名の通り長い歳月を生きた蛤が魔化魍に転じたものである。
勿論普通に生きて蛤が化けるわけがない。それまでに殆どの蛤が捕られるなり食われるなりするからだ。それ故に猛士も稀種に認定している。
時間をかけて船は蜃気楼の傍まで辿り着いた。この真下にバケハマグリがいるのだ。
音撃棒・大明神を握りしめ、変身した高鬼が海中へと飛び込む。だがツワブキは変身もせず船に残ったままだ。
バケハマグリが相手の時は必ず二人以上で行動し、誰かが魔化魍を海面に追いやる役割を担当する事になっているためである。
「勝負は魔化魍が海面に姿を現してから……」
高鬼が飛び込んだ後の海面を見ながら、ツワブキは懐からある物を取り出した。
海底を目指し潜水を続ける高鬼。春の水は未だ冷たい。
漸く海底が見えた。そしてそこには、直径十メートルはあろうかという巨大なバケハマグリがいた。
貝の魔化魍は固い殻を砕いてから本体に音撃を叩き込むのが定石となっている。つまりは持久戦だ。
(さてと、定石通りにやるとするか)
蜃気楼を吐き出すために少しだけ開いた貝殻の中に潜り込む。こうすると異物を排除するために水を吐き出し、反動で海面まで浮上するのである。
吐き出される海水の奔流に巻き込まれ外へと排出される高鬼。バケハマグリはそれに気付かず水を吐き出し浮上を続けた。
「……来る」
船上で待機していたツワブキが、蜃気楼が消えた事によりバケハマグリの浮上を察知する。
変身音叉を鳴らして額に翳し、仮面ライダー石蕗鬼へと変身。そして手にした野球ボール大の鉄球を握りしめた。
海面を大きく泡立ててバケハマグリが現れた。それに目掛けおもいっきり振りかぶって鉄球を投げつける石蕗鬼。
高速回転しながら飛んでいった鉄球は、バケハマグリの殻にめり込んでも回転を緩める事は無かった。
その直後、海底から高鬼が戻ってくる。火花を散らしながら回転を続ける鉄球を見て驚き八雲に尋ねる高鬼。
「あの鉄球は石蕗鬼くんの個人武器です。あのコントロールと強肩を見ても分かる通り、彼は学生時代野球部のエースだったんです」
成る程、元々素質のある人間が鬼の力で鉄球を投げつければあんな効果も期待出来るだろう。
後で知った話だが、学生時代に彼は魔化魍の事件に巻き込まれ足に大怪我を負ったらしい。
その一件で球界への夢を絶たれた彼は、その時自分を助けてくれた鬼に弟子入りし、猛士の一員になったという。
つまり彼にとって鬼とはアイデンティティそのものなのである。それは気負いもするだろう。
ちなみに鉄球は足に傷を持つツワブキのために、遠距離からも攻撃出来るよう支給されたのだという。
バケハマグリの固い殻にひびが入り、音を立てて砕けた。音撃棒を使うよりも早い時間で砕けた事に驚く高鬼。
跳躍し、殻の上に立つ石蕗鬼。後は割れた部分に音撃鼓を貼り付け清めるだけだ。
「見たか、この支部に余所者の助けなんかいらない!全部僕がやってやる!」
音撃鼓を貼り付けようとする石蕗鬼。だがその瞬間、割れた部分からバケハマグリが蜃気楼を吹き出してきた。
「うわっ!」
顔を背ける石蕗鬼。そんな彼の目の前に現れたのは……。
「こ、これは……」
一面に広がる銀世界。そう、ここは大山だ。目の前には傷付き倒れた仲間達の姿が、空には無数のテングの群れがいた。
(何でだ?どうしてあの日の出来事が目の前に……)
急降下しテングが襲い掛かってきた。
(そうか。僕はまだ大山にいるんだ……。今までのは寒さや疲れが見せた幻覚だったんだ……)
襲い来るテングの群れに向かって石蕗鬼は音撃棒を構えた。
「何をやっているんだ、彼は!?」
突然何も無い虚空に向かって音撃棒を振るいだした石蕗鬼を心配する高鬼。
「バケハマグリの蜃気楼を直接喰らって幻影の中に閉じ込められたのでしょう」
高鬼さん、助けてやって下さい!八雲に言われ、一旦船の上に上がりバケハマグリの上へと跳躍する高鬼。
蜃気楼は魔化魍本体を倒せば消える。音撃鼓・紅蓮を手に、石蕗鬼が殻を砕いた場所へと向かう高鬼。だが。
足場が急に揺れだした。バケハマグリが潜行を始めたのだ。
「いかんっ!このままでは!」
高鬼は石蕗鬼に向かって叫ぶ。
「石蕗鬼!聞こえているか!下方へ四十五度の角度で鉄球を投げろ!」
その位置に殻が砕けた部分がある。
「石蕗鬼!くっ!」
ますます揺れが酷くなり高鬼はしゃがみ込んでしまった。
幻影の中で一人踊らされ続ける石蕗鬼。そんな彼の耳に高鬼の声が聞こえた気がした。
(何だ今の声は?投げろって?)
目の前にテングの爪が迫る。だが石蕗鬼は声を信じ、言われた角度に向かって鉄球を投げた。
テングの爪が石蕗鬼を切り裂いた……かに見えた。
実際には殻の砕けた部分を通って鉄球がバケハマグリの本体を直撃していたのだ。その瞬間、石蕗鬼を取り巻いていた幻影が綺麗に消え去る。
「いいぞ石蕗鬼!後は任せろ!」
猛スピードで砕けた部分に駆け寄り、「紅蓮」を本体に貼り付ける高鬼。
「音撃打・炎舞灰燼!」
鳴り響く清めの音。演奏の終了と共にオオハマグリの巨体は文字通り海の藻屑と化した。
報告のため中国支部へ戻ると、案の定東達が蕎麦を用意して待っていた。酒も大福も用意されている。尤も、大福の殆どは東が食べたのだが。
席に座って蕎麦を食べている最中、結局帰りの車中でも一言も喋らなかったツワブキが漸くコウキに向かって喋った。
「……今日は助かりました」
「礼には及ばんよ。寧ろこちらこそ助けられた」
互いの目を見る。ほんの僅かの沈黙。そして笑い。
「今夜は飲もう。君は下戸じゃあないよな?」
「ええ。ですが今度は僕一人の力でやってみせますよ」
「上等だ。君ぐらいの歳はそれぐらいの方が良い」
そんな会話を交わすコウキとツワブキの姿を見て顔を見合わせる佐野と八雲。だが二人も揃って笑い出した。
「世の中楽しんだ者勝ちです!今夜はとことん楽しみましょう!」
東が大福片手にそう叫ぶ。
これからは出撃の度に宴会だな。そう思いながら飲むコウキ。実際、その考えは当たっていたのだった。 了
高鬼SSさん、この東支部局長はもしかして、大師匠様ですか?
呉智英さんにヨーグルトを差し出して「グフフ」と笑いながら襖を
閉めたという大師匠様ですかっww
144 :
高鬼SS作者:2006/05/13(土) 01:28:10 ID:dBaIVDKm0
>>143 あ、やっぱり分かりますか?そうですw
中国支部という事で支部のスタッフは中国地方に関係のある人物をモデルにしようと思って。
ちなみに東真一郎というのは大先生の昔のペンネームですw
あと「金」の佐野学は松江市出身の佐野史郎をイメージしています。
「飛車」の八雲礼二は昔コロコロで連載していた怪談マンガの主人公の名前(小泉八雲から拝借したらしい)です。
ツワブキは中国地方とは関係無いけれどガイキングの主人公のツワブキサンシローから。
145 :
DA年中行事:2006/05/13(土) 11:44:00 ID:W3ud4gXC0
>>143こと年中行事でしたw
大先生、ステキだ大先生。大先生原作が実写映画化されるニュースに一言「オモチロクしてね」。
>私は今、こぉんなに大きな大福を食べようとしていた真っ最中だったのですよ。
もう支部局長に萌え萌えwww
なるほど、高鬼SSさんはまず魔化魍ありき、なんですね。
そして
>>123さんは音撃武器や音楽。
作家さんそれぞれのアプローチが、みんな違っていておもしろいです。
なんというか、このスレは「日刊(もしくは週刊)鬼ストーリー」みたいです。更新されているたびにwktk。
作家さんが増えるのは嬉しいです。いろんな話が楽しめますから。
長編連載あり、短編連載あり、中編あり、読みきりあり。
万が一、SS作家さんたちが一同に会するような機会があったら、ZANKIの中の人が書いた
「まとめSS」を思い出して、お互いに「エエエエエェッ!?」って言い合うんだろうなぁw
皆さんご感想ありがとうございます。
お察しの通り、俺の作品では音楽という側面を中心に描いていきたいと思ってます。
皆さんのようにこのスレに直接書き込むのではなく、他所へのアップで更新するたびにお知らせにくる形になると思います。
宜しくお願いします
147 :
DA年中行事:2006/05/13(土) 12:58:37 ID:W3ud4gXC0
>>146 中四国SSさん、宜しくお願いします。楽しみにしています!
148 :
高鬼SS作者:2006/05/13(土) 13:59:50 ID:dBaIVDKm0
ぐおっ!読んでいて今気付いた!
十一月だって書いているのに>春の水は未だ冷たい。
すいません!ここの部分は無かった事に!
あるいは「十一月の海は冷たい」でお願いします!陳謝。
みんなコンセプトがあって偉いなぁ。ZANKIは適当にやってたしなw
一応、ZANKIだと人が考えない事、または思いついてもできないことをやってみたい。かな。
まあ、実際同じような事を考える人って沢山いるんだろうけど。
結果として二番煎じになったとしても、やってみる事の方が重要ではなかろうか?
と、まじめに言ってみましたw
また、変な事が思いついたらやってみますね。
150 :
風舞鬼SS作者:2006/05/13(土) 23:21:11 ID:QIkdKLQ10
中四国の設定は今のトコ風舞鬼ではないので、
僕からは別にいうことはないです。
うーん、コンセプトっていやぁ、
風舞鬼は「響鬼のオリ版。」
外伝は「師弟、DAと鬼の絆」
我鬼故我有は、「戦時中の鬼たち(主にトモさん)」
って感じですね。
151 :
まとめサイト:2006/05/14(日) 16:00:50 ID:qwdj8byJ0
ここまでの投稿分を収録しました。
>>109-118、元・ZANKIの人さん
心の中を読まれたのかと思いましたよ。
最近更新ペースが落ち気味なのは自覚してるので、変な汗が出てきちゃいました。
>>123,128-129
「新都社」はリンクフリーとのことなので、まとめサイトからリンクを張らせていただきました。
今夜の堂本兄弟の放送内容が
「生演奏ジローラモ鬼のパンツつよいぞ!」
とか書かれていて大笑いしたのだが。
>>152 もしかしてその文考えた奴ってここの(ROMってる)住人とか?!www
まとめサイトの人に提案だけど、中四国さんへのリンクは「ストーリー一覧」のところでいいんでない?
外部ですと一言書いておけばいいと思う。
>まとめサイトさん
更新の遅れを指摘してるSSじゃないですよw
ここの場合、同時に何作も連載があるわけだから、きっと大変だろうなと思って書いてみました。
本当は鋭鬼さんとか他の職人さんも書いてみたかったんですが都合で書けませんでした。
ネタが無いわけではないので、また、思いついたら書いてみます。
堂本兄弟のジローラモさんはなかなかおもしろかったけど、ネタになんなかったなぁ…
>>155 「魔化魍から救った美女にナマコを勧められてのけぞる先代」
ってのを一瞬想像しましたよ。
ナマコねw その日の夕食にナマコ食べてたんだよなw
基本、下ネタばっかだったんだよなぁ。
下ネタも嫌いな嫌いな方じゃないけど、ここの雰囲気じゃないからなぁ。
鬼のパンツも何故チョイスしたんだろう。イタリアならボラーレとかあるのに。
ジローラモがこのスレをROMってる説はどうだろう?
158 :
忠犬瑠璃公:2006/05/15(月) 20:37:54 ID:QotQrPW80
予告。
機械式のカラダになって、もう何年がたったことだろう・・・。
もはや、元の主の顔さえも思い出せない。
覚えているのは、毎日駅の前を通り過ぎる、人々、馬車。そして季節。
「・・・!・・・や!!しっかりしろ!」
目が覚めれば、このカラダだった。
鬼とかいう人助けを生業とした連中と共にオレは先生を待った。
先生・・・?オレはいま先生といったのか?
忠犬瑠璃公。近日公開。
159 :
用語集サイト:2006/05/16(火) 19:54:22 ID:muvlI7Ju0
いろいろと考えた結果、風舞鬼SS作者さんの作品は今までまとめた用語集とは
別に用語集を作ることにしました。
理由としては設定が異なること(公式設定と異なるものも)と時系列が異なることです。
なので無理に統合するよりも別に作ったほうがすっきりすると考えました。
もしかしたら虹鬼さんも統合するかもしれません。
いや、方針を決めただけでまだいつ作れるかはわかりませんけど……
―――話は変わって。
まだ用語集に追記してませんが、紙の音式神に「金色蛇」「銀朱大猿」「群青蟹」なるものがありました。
あと作中のデザイン画や図面にはP90っぽい音撃管や鬼石付きのバイオリンの弓、
すごく近代的な音撃棒やベルが5つある音撃管なんてのも。
ネタになるかなぁ?
160 :
風舞鬼作者:2006/05/16(火) 21:04:30 ID:0ow3dU2l0
僕は別に用語集を別にすることに相違ありません。
ていうか、風舞鬼の分まで用語集に入れて頂けること自体が驚きでしたから。
作中のデザインは、その作者さんにデザイン画をUPしてもらって
用語集サイトさまで公開したらいいんじゃないですか?
161 :
高鬼SS作者:2006/05/18(木) 02:00:05 ID:frxMkMFR0
そろそろまた先代ザンキさんを登場させてみたいなぁ。
でも毎回関西に持ってくるのもマンネリしそうだなぁ。
そういう訳で今回先代には北陸支部へ行ってもらいました。
コウキさんは名前すらも登場しません。まさに番外編。
ちなみにここでの北陸は新潟を含んだ広義での北陸になっております。
それではどうぞ。
…ちなみに毒吐く鬼が出る都合上、ブラックな会話もありますのでご了承下さい。
ザルバトーレ・ザネッティ。元欧州秘密組織DMC所属・ザルフ。
日本でのコードネームはザンキ。
日本での「鬼」の活動を極秘裏に調査するべく来日した彼は、身分を偽り関東支部の一員となってからも、色々と理由を付けて日本各地の支部を回っていた。
今回の話は、その際にザンキが記したレポートの内容から再構成している。
197×年、葉月。北陸支部。
「飛車」の葛木弥子は、彼女が担当する「角」、すなわち鬼のドクハキと一緒に関東支部から見学に来る人物の迎えに空港へ来ていた。
「一体どんな人が来るんでしょうね」
「少なくともあなた以下の人間が来る事はないでしょう」
と、東京発の便に搭乗していた乗客達がロビーに次々とやって来た。だが、殆どの乗客がまるで何か奇妙なものを見たかのような表情をしていた。
その様子を怪訝に見ていた弥子だったが、ロビーでその人物に会ってようやくその謎が解けた。乗客達は実際に奇妙なものを見ていたのだ。
「OH〜!北陸は寒いと聞いたから防寒着を着てきたのに、そんなに寒くないじゃないか!」
そこには、熊の毛皮を頭から被った人物が荷物片手に立っていた。
(有り得ないのが来たぁ〜!)
途端に眩暈に襲われる弥子。ドクハキはというと、何処か楽しそうだ。
熊の毛皮は、呆然と眺めている弥子に気付いて歩み寄ってきた。
「えっと……北陸支部の人?」
こいつだ。この変態が関東支部からの客人だ。
「はい、そうです。ようこそお越し下さいました」
ドクハキがにこやかに答える。
「ああ、それは良かった!俺、関東支部で弦の鬼をやっているザンキ。よろしく!」
「北陸支部所属、管使いのドクハキです。微妙なイントネーションからどうやら外国の方とお見受けしましたが」
「あ、分かる?伊太利亜のミラノ出身。しかし北陸は夏でも寒いって聞いたからこんなもん身に付けてきたけど、全く必要なかったね」
それ以前に何処からそんな物を調達してきたのだろう。
と、熊の毛皮を脱ぎながらザンキが弥子に向かって話し掛けてきた。
「そちらのディ・モールト美しいお嬢さん、あなたは?」
「え……美しい?」
外人男性に美しいと言われるとまんざらでもない。弥子は途端に良い気分になった。
「葛木弥子です。よろしくお願いします!」
「馬鹿と呼んであげて下さい」
笑顔でそう付け加えるドクハキ。
「OH〜、若く見えるけど君、高校生かな?」
「え?そ、そんな風に見えますか?もうとっくに成人式を迎えてるんだけどな……」
頬を赤らめて照れる弥子。
「さて、八ヶ月早いエイプリルフールはここまでにしておいて……」
「今までの発言、全部嘘!?」
さらっと言ってのけるザンキに目の玉が飛び出さんばかりに驚く弥子。
(同じだ……。この人、ドクハキさんと同じで人が困惑している姿を見るのが好きなタイプだ……)
絶望。その二文字が弥子の頭を過ぎる。
と、ロビーが騒がしいのに気付いたのであろう、警備員がこちらに向かって来るのが見える。
「駐車場に移動しましょうか。話の続きは車の中ででも……」
そう言うとドクハキは己の左肩から左手に至る部分のみを鬼の状態に変えると、そのまま弥子の頭を掴み、鬼の力でおもいっきり警備員目掛けて投げつけた。
「OH〜!面白い芸を持っているじゃないの」
「では行きましょう」
背後から聞こえる弥子の悲鳴と警備員の怒号に全く興味を示す事もなく、ドクハキとザンキはそのままロビーを後にした。
数十分後、散々絞られた弥子が戻ってきたのを確認すると、一向は車に乗って北陸支部へと向かった。
「酷いですよドクハキさん!……まあ、私を置いて先に帰らないでいてくれた事は感謝しますが」
「当然です。あなたがいなければ誰が車を運転するというのですか」
「……あ、そういう事ですか。はは……」
と、後部座席でくつろいでいたザンキが質問をしてきた。
「ねえ、ここってさ、どうして中部支部の管轄じゃなく北陸支部として独立してるの?」
「あ、それはですね……」
ドクハキが答えるわけがないので、運転していた弥子がその質問に答える。
「北陸四県は日本海側に面する影響で気候が他の地域と異なるから、出現する魔化魍も微妙に異なるんです」
元々はここも中部支部の担当区域だった。だが上記の理由により別個に活動した方が良いと判断され、北陸支部が誕生したのである。
「それにこの地域は行方不明者の数が他の地域より桁外れに多くて……。魔化魍絡みかどうか判断するのに時間がかかる分、活動に支障が出ますし……」
「どうしてそんなに行方不明者が多いの?」
「それは……」
答えに窮する弥子。
「だったら私が代わりに答えましょうか?」
助手席のドクハキが言う。
「や、やめて下さい!ドクハキさんが言うと絶対に放送禁止になりますから!……あの、そこは聞かないでもらえます?」
ザンキに尋ねる弥子。だが当のザンキはわくわくしながら弥子が説明するのを待っている。
「あ〜、その……、北の人達?それがまあ、その……」
「なんだ、北朝鮮か」
さらっと言ってのけるザンキ。慌ててハンドルを切り損ねる弥子。大笑いのドクハキ。
こんな調子で三人を乗せた車は、時には後続車にクラクションを鳴らされながらも進んでいった。
北陸支部に着いたのも束の間、ドクハキと弥子は魔化魍退治に出動する事となった。見学目的でザンキも同行する。
「何が出たの?」
相変わらず後部座席でふんぞり返っているザンキが尋ねた。
「どうやらミズチらしいです」
「ミズチ?まだ見た事は無いな」
ザンキに説明を続ける弥子。
「蛇に手足や羽をくっ付けたような姿をした魔化魍です。主に水辺に生息しているんですけど……」
その言い方から察するに、何処かまずい場所にでも出たのであろうか。
ザンキに尋ねられて弥子が答える。
「それが、どうも長岡まつりの会場に近い場所に出たらしいんですよね」
長岡まつりとは、明治時代に端を発する新潟の伝統的な花火大会の事である。今回ミズチが出現したのは信濃川の観覧場所に程近い所だという。
「普通はミズチって山中の池や川に湧くんですけど、街中を流れる川に出るなんて凄く珍しくって……」
「今日は前夜祭のみですから誰かに目撃されるリスクはそんなに高くはないですね」
ドクハキの言う通り、肝心の花火大会は翌日と明後日のみで、初日は前夜祭として灯篭流し等が行われる。
これがもし花火大会の当日だったら、昼にもイベントがあるので誰かに目撃される危険性が高くなっていたところだ。
車中でそんな会話を交わしているうちに、目的の場所、信濃川へと到着した。
現場に着くと、すぐさま式神を打とうとする弥子。しかし。
「それよりも確実に相手を誘き寄せる方法があるじゃないですか」
「あ、またですか……」
途端に諦め顔になる弥子。
数分後、川面に縛り上げられた状態でぷっかり浮いている弥子の姿があった。
「何であんな事するの?」
「彼女には毎回魔化魍を誘き寄せるための囮になってもらっているのです」
ザンキの問いに、にこやかに答えるドクハキ。
「へぇ〜。俺も弟子を取ったら試してみようかな。お〜い、馬鹿ちゃん!頑張れ〜!」
「本当に馬鹿って呼ばないで下さい〜!」
「もっと足を動かして暴れなさい。ただ浮かんでいるだけでは出てきませんよ!」
「出ない方が良い!うう、もう何十回も言ってるけど、普通に式神で探しましょうよぉ……」
と、水面に二つの頭が浮かび上がった。真っ直ぐに弥子を見ている。
出ましたね。そう呟くとドクハキは音撃管・雑言で狙撃を行った。だが水中に潜られ攻撃を躱されてしまう。
鬼笛を取り出し、臨戦態勢を取るドクハキ。
次の瞬間、水中からミズチの童子と姫が飛び出してきた。蛇のような冷たい目でドクハキとザンキを睨みつける童子と姫。
そして。
大きな泡を立てて水面からミズチが飛び出してきた!
体表を覆う鱗が水に濡れて虹色に光っている。
「OH〜!あれがミズチか。中国のオウリュウや豪州のユルングにそっくりだな!」
以前バチカン本部のデータベースで見た資料を思い出すザンキ。
「少なくともこの国の魔化魍の幾らかは大陸から渡ってきた種らしいですからね。そりゃ似るでしょう」
鬼笛を吹き、額に翳すドクハキ。紫の煙に包まれて毒覇鬼へと変身を遂げる。
「折角だ。童子と姫は俺が相手をするぜ」
そう言いながら腕の変身鬼弦を弾くザンキ。
「ふっ、ではお言葉に甘えて……」
童子と姫をザンキに任せると、毒覇鬼は「雑言」を乱射しながらミズチに向かって突っ込んでいった。
「とおっ!雷電脚」
斬鬼の鬼闘術を受けて怪童子が粉々に吹き飛ぶ。これで残るはミズチのみだ。
当のミズチはと言うと、口から何か霧の様なものを吹き出して毒覇鬼を攻撃していた。
「よっしゃ!加勢するぞ!」
「来てはいけない!これは蜃気楼です。浴びると幻影に取り込まれてしまいますよ」
バケハマグリ同様、ミズチは蜃気楼を吐く事が出来るのだ。
毒覇鬼は音撃鳴・罵詈を装着した「雑言」を口に当てておもいっきり息を吸い込むと吐き出した。
鬼法術・毒舌を管の力で増幅しているのだ。紫の霧がミズチの顔面を覆う。悲鳴を上げ苦しむミズチ。
「凄いな、その技」
「私の本気の『毒舌』をまともに喰らった生物は、失明し呼吸困難に陥り全身が麻痺します。植物なら瞬時に枯れます」
説明を聞いて「危険な奴だなぁ」と思う斬鬼。
体が大きい分毒の回りが遅いのか、空中でもがき続けるミズチ。そこにすかさず鬼石を撃ち込む毒覇鬼。
「最後の仕上げです。行きますよ」
毒覇鬼が放つ音撃射・殺伐嵐の重い音色が辺りに響き渡った。そして爆発。ミズチの巨体はきらきらと輝く塵へと変わった。
「やったな」
「ええ。それよりもあれを見て下さい。ミズチを倒した後にのみ起こる現象です」
そう言って空を指差す毒覇鬼。そこには……。
大きな虹が掛かっていた。
昔から世界中で虹は龍が転じたものだと言われてきた。成る程、それにはちゃんとこのような根拠があったのだ。
その夜、信濃川での灯篭流しは滞りなく行われた。河川敷でその光景を眺めるドクハキとザンキ。
「こいつは凄い!ディ・モールト美しい!実に幻想的だ!」
伊太利亜にある青の洞窟でもやってみたいとまで言い出すザンキ。
「これは元々は死者の魂を海に流す行事ですからね。中にはほら、人形なんかを一緒に乗せている人もいるでしょう?」
そう言って指差す毒覇鬼。
「日本の風習ってのは実に面白い!今度欧羅巴にいる友人のジェバンニにも教えてやろう。あいつの事だから一晩でこの風景を再現出来るだろうし」
「明日の花火大会も見に来ましょう。こちらも凄いですよ。二日で二万発もの花火を打ち上げるのですから」
そいつはディ・モールト楽しみだ!そう言うとザンキは愉快そうに大笑いした。
その頃、川の下流域では……。
「ううう……。ドクハキさぁん、放置プレイは止めて早く助けて下さぁい……」
色とりどりの灯篭に囲まれて、昼間からずっと忘れ去られたまま水面に浮かび続けている弥子が涙を流していた。 了
イメージソング
Albireo(弥子Ver.)
作曲 浅倉大介 歌 葛木弥子
浮かばれない 日々にくすぶりそう
とっとと楽にして そればかり祈ってる
無視したい それでも呼ばれてく
囚われて鬼に 下僕のような状態
息が止まる程 首絞められて
明日の傍には 拭いきれない 絶望アリ
消えない灼熱の華 輝き魅せておくれ
この世の果て 密かに放つ 想いに誘われよう
彷徨う未来に 望みはナシ?
消えない灼熱の華 輝き魅せておくれ
この世の果て 密かに放つ 瞬間を逃さないで
二人でひとつになって どこまで行けるんだろう
重なり合い 連なる心 永遠の光浴びせ
どうでもいい設定
ドクハキ(毒覇鬼)
嫌いな相手は徹底的に嬲り続ける。
好きな相手はとことん弄り続ける。
結果として誰も彼とはあまり係わりあいたくなくなる。
技
鬼法術・毒舌
最初は相手にやばい幻覚を見せるという属性も加える予定だった。初登場時に鬼幻術と表記されていたのはその名残。
でも無理が出てきそうなので無しにした。
鬼闘術・毒爪
猛毒が出る鬼爪。そのままにしておくと毒液が垂れてくる。
たまにこれで弥子を虐める。
部分変身
人間状態でも頭や腕だけ鬼の姿になれる。「毒舌」も使える。
たまにこれで弥子を虐める。
趣味・特技
暴言、場の空気を悪くする事
葛木弥子
「ドクハキには女性サポーターがいる」という設定だけで某ネウロのヒロインの属性を作者から与えられたキャラ。
自覚は無いが性癖はM。だから安心。(何が?)
昔、某国の工作員に拉致られそうになっていた所をドクハキに助けられ、そのまま猛士に入る。
最近失敗した事
ゼリービーンズと勘違いして宝石(時価数百万円相当)を食べた。
ジェバンニは絵も描けるんですかw
ジェバンニ
DMCのビショップ(猛士で言う銀のポジションらしい)
何事も一晩でやり遂げるのが得意。っていうか仕事。
DMCに語り継がれる主なジェバンニの武勇伝
一晩で異国の地のノートをそっくりに作る。
一晩でお城を建てる。
一晩で『最後の晩餐』を模写。
一晩で100kmマラソンを完走。
一晩で子供を作る。
一晩で三日間煮込んだカレーを作る。
一晩でとにかくなんでもやっちゃう。
って、先に使われちゃったジェバンニネタw
173 :
高鬼SS作者:2006/05/18(木) 20:22:56 ID:frxMkMFR0
>>171 絵どころかジオラマだって一晩で作っちゃいますw
>>172 >って、先に使われちゃったジェバンニネタw
ひょっとして新作投下予定があったりしますか!?
で、そこで使うつもりだったとか…。それは惜しい事をした…。
ドクハキさんって、私的には「アギト」の北條さんか、
「スパロボ大戦」のシュウ・シラカワ博士がイメージとして
脳裏に浮かびますw
しかし、弥子ちゃんマジ不憫w
>>174 私もドクハキさんの中の人のイメージが「アギト」の北條さんだww
そしてそんなドクハキさんに振り回される哀れなサポーターの弥子ちゃんの中の人は何故か同じく「アギト」の小沢姐…………(笑)
176 :
仮面ライダー契鬼 ◆acqkduEpzY :2006/05/19(金) 19:58:32 ID:mgwwqzcb0
仮面ライダー契鬼
プロローグ
2000年 関東地方 栃木県東北よりの小さな村
「どうしてです!?どうして父の事件を捜査してくれないんですか!?」
山間の小さな交番に、周囲の山々に木霊するほどの怒声が響く、
「祟りじゃよ、たたり。」
年老いた警官が、面倒臭そうに返す、
「祟り?」
赤く腫れた目とそれよりも赤く紅潮した顔の少年が、怪訝そうに聞き返した。
「そう、祟りじゃよ。」
「聞けばおめぇさんの家族、四人とも同じ死に方だそうじゃないか」
「それがどうしたって言うんですか?」
「俺が見つけたおめぇ父ちゃんは、素っ裸で殺生石に逆さまにうちつけられてた
玉藻前様の祟りとしか思えねぇ。
そんな事件みんな気味悪がって捜査したがらねぇんよ」
「気味が悪いから操作しないなんて…そんな。」
「わりぃけど他あたってくれや」
警官に外に追い出された少年は行き場のない怒りを壁に打ち付けることしか
できなかった。
「………糞!」
177 :
仮面ライダー契鬼 ◆acqkduEpzY :2006/05/19(金) 19:59:16 ID:mgwwqzcb0
こうして当時12歳の僕、見目敬介(けんもく けいすけ)は天涯孤独の身になった。
元々、父 母 兄 妹 そして僕の五人家族だった。仲も良かったし父の仕事も
うまく行って、ごく普通の幸せな家庭だったのに…
最初に妹がいなくなった。学校から帰る途中に忽然と消えたのだ。
妹を探していたら母が帰ってこなくなった。
兄は家でトイレに行ったきり出てこなかった。トイレには誰もいなかった
父は僕の目の前で消えた、僕は怖くて、走って、逃げて、
神社に隠れて夜を明かした。
警察は何もしてくれなかった。僕は生活保護を受けながら、事件の真相を
調べ続けた。
そして行き着いた『猛士』という組織と『鬼』の存在。
中学卒業と同時に僕は猛士に足を踏み入れた。
178 :
仮面ライダー契鬼 ◆acqkduEpzY :2006/05/19(金) 20:01:27 ID:mgwwqzcb0
2006年5月 東京 秋葉原 メイド喫茶eshikat 地下
18歳となった僕はようやく序の六段まで昇りつめた。
ただ一つ…問題は…
未だに明確な師匠がいないという危機的な状況
どうしてこんなことになってしまったのか…
次回予告
「練成!」
「師匠…著作権って知ってますか?」
「我が雁屋家に代々伝わりし芸術的ry」
次回
仮面ライダー契鬼一之巻 鋼の師匠
作者
お初にお目にかかります。今度からこのスレに
仮面ライダー契鬼を書かせていただききます。
更新が不安定になるかもしれませんが、皆さんどうか末永く
よろしくお願いします
とりあえず、sage進行にしましょうね。
>>179 うおあ!専ブラ使ってるのにsage忘れたorz
ちょっと吊ってきます
181 :
風舞鬼作者:2006/05/19(金) 22:17:45 ID:VP/Wt2dV0
よろしくお願いします。
ハガレンネタっぽいですね。しかも腕強・・・少尉だったっけ???
期待します。
182 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/05/20(土) 15:13:18 ID:oRwe+rp70
一零一の巻「惑う矛」
沖縄支部より急遽来日したツラヌキと名乗る鬼は、九州支部最年長。御歳38歳のサバキ(=捌鬼)と共に動くことになった。
「とりあえず・・・。お前とはこれから長い付き合いになるだろうから・・・。」
高速道路を紅い車が走る。助手席には初々しい顔つきの鬼。運転席にはサバキが乗っていた。
「まずはそうだな・・・お前の実力って奴を見せてもらおうか・・・。」
「でもサバキさん。沖縄の魔化魍と、こちらとでは随分違うと聞きましたが・・・。」
「ああ。確かにそうだ。俺も若い頃、沖縄に出向いたことがあってな。その時はミワナが多くて大変だった。とりあえずお前なりにこっちのバケモノとヤってみろ。どうしてもダメなときは俺が補ってやる。」
「ハイ・・・分かりました。」
ツラヌキの表情が不安を帯びたのをサバキが見抜けないはずが無かった。そのころ、森では童子と姫がまた一人、餌を獲った。
183 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/05/20(土) 15:14:01 ID:oRwe+rp70
「着いたぞ。起きろ。」
ツラヌキが起こされた場所は、何の変哲もない小さな町役場だった。
「行くぞ、身なりを整えろ。」
何がなんだか分からぬままサバキの後を付いていった。サバキは階段を昇ると会議室と書かれた部屋に入っていった。
ツラヌキが入るとサバキの隣に若い女性と、白髪のスーツを着た男性が居た。
「こちら。この町の歩をやってる六十字恭子と、町長の渡部さんだ。」
「これはこれは。猛士の方ですか。今回は何卒よろしくお願いします。」
渡部町長は深く一礼すると、内ポケットから茶封筒を取り出した。
「これはほんのお気持ちです。」
それを察したのか、サバキと恭子があわてて割って入った。
「いや、町長さん、こんなものは要りませんから・・・」
「しかし・・・」
「僕らはお金目的じゃないんですから。」
184 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/05/20(土) 15:15:27 ID:oRwe+rp70
町長がもたらした騒動が落ち着き、サバキ、ツラヌキ、恭子は行方不明者が多発しているという森へ出かけた。
「この森は古くから村を守ってきた天狗が住むという伝説が残ってます・・・ただその天狗と思しき遺体が先日、ランキさんにより発見されまして・・・吉野のほうで魂清の儀を執り行ったそうです。」
「そうか・・・恐らくその天狗がやられて、この辺りがバケモノに狙われやすくなったんだろ。」
「弦で倒せますかね?」
「さぁな・・・人の消えたポイントからしたらヤマアラシなんだが、水辺もないし・・・。念のために太鼓も持ってきたが、管の相手だとちょっと困るな。」
「イレギュラー・・・って奴ですか?」
「初めてか?こういう状況は。」
「ええ、まぁ・・・。」
185 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/05/20(土) 15:18:43 ID:oRwe+rp70
その日は山の開けた場所にベースをつくり、DAで探索することになった。
「ツラヌキ君って、もしかして鬼になったばかり?」
人懐っこい性格の恭子は年が近いだけあって、ツラヌキに興味津々だった。
「ああ、うん。今年の5月に。」
「なんで鬼に?」
「なんでって言われたら困るなぁ・・・何でだろう・・・中学を出る頃にはもう鬼になろうって決めてたから・・・。」
「私はねぇー。小さい頃、お父さんを殺されたの。お母さんは話してくれなかったけど、楼鬼っていう鬼だった。それを知ったのは・・・」
恭子は言葉を詰まらせ、刀の手入れをしているサバキを見つめた。
「・・・サバキさんに助けてもらってね。それから猛士に入って父さんのことをはじめて知った。」
「・・・・・・」
ツラヌキは自分の存在意義を見失っていたことに気づかされた。
一零一の巻「惑う矛」
186 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/05/21(日) 22:27:42 ID:PK4Qz9rL0
一零二の巻「開く蕾」
朝。サバキはDAが帰ってくるまでツラヌキと男同士で語ることにした。
恭子はまだ眠っているらしく、確認しようにも男が女の寝ているテントに入るのは流石に抵抗があり、折りたたみ式の机と椅子に座ってコーヒーを飲みながら話した。
「・・・そうか・・お前も両親を殺されてたか・・・。」
「はい・・・。そのとき助けてくれた鬼が、沖縄のサガキさんです。」
「ああ・・・あの黄色のか。」
「・・・・あの。」
「ん?」
「恭子さん・・・危ないところをサバキさんに助けてもらったて・・・。」
「あぁ・・・あのときか。いや・・・あのときの戦いはまだ俺の中で続いてるんだよ。」
「え・・・?」
187 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/05/21(日) 22:28:12 ID:PK4Qz9rL0
「楼鬼が死んで・・・その妻と子供は助かった。でもその後、またその家族は襲われた。そのとき偶然、俺が居合わせてたんだ。」
「それで・・・どうなったんですか?」
「俺の不注意で・・・恭子の母親と兄貴は殺された。・・・恭子は俺に感謝してくれているが、俺は恨まれてもおかしくない立場なんだよ。」
「でも・・・それはサバキさんが悪いわけじゃ・・・。」
「恭子から見れば、どっちが悪いじゃない。ただ・・・家族を帰してほしいんだ。だからあの時はさ・・・泣き付かれたよ。」
「そのあと・・・どうなったんです?」
「とりあえず、行くとこも無いから、俺の家に住ませた。高校までは面倒見て、卒業したら田舎に帰るって言い出して・・・。猛士に入って歩をするってさ。」
「サバキさん・・・。あの・・・。」
「何だ。言ってみろ。」
「今・・・分からないんです。自分が・・・。鬼になった理由ってものを忘れてしまったんです。」
「俺だって忘れちまったよ。」
「え!?」
188 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/05/21(日) 22:29:31 ID:PK4Qz9rL0
「あのな。大抵のやつは誰でもそうなんだ。なにかキッカケはあったが、なぜかみんな忘れちまうんだよ。
いいか?鬼になるってことは誰でも出来るもんじゃない。鍛錬を重ねて初めて一人前の鬼になれる。おまえだって経験したはずだろう。
つまりな。それくらいのことが成し遂げられるほどの気持ちはお前は持ってたんだ。そうじゃなきゃあ、鬼にはとてもなれない。
今のお前が漠然としているというなら、まずは自分を信じること。それが基本だ。目の前の壁に惑わされるな。常に自分を意識しろ。お前にはお前にしか守れないものがあるはずだ。」
ツラヌキが忘れかけていたこと。それは鬼としての自分ではなく、自分としての自分だった。鬼という器に自分を無理矢理入れているツラヌキに、サバキはそれを改めて悟らせたのだ。
「分かりました!これからは・・・鬼ではなく、自分として人助けしていきます!」
「ああ、真面目なのがお前のとりえだからな。頑張れよ。」
189 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/05/21(日) 22:30:39 ID:PK4Qz9rL0
そのとき、テントから恭子が寝癖をつけてやってきた。まだ眠りが足らないらしく、ほとんど目が開いていない。
「ふぁ〜〜〜〜・・・・アレ・・・サバキさん、魔化魍は???」
「まだに決まってるだろうが・・・。オイ、あのことバラすぞ。」
「ふぇ!?ちょ・・ちょっとぉ!お願いっ!ツラヌキ君の前でしょ!?」
「なんだお前、ご執心か?」
サバキのストレート球に微妙な空気が流れ、二人は紅葉の如く顔を赤らめていた。
一零二の巻「開く蕾」
響鬼を根底から覆す問題作を思いつきました。
まあ、短編だし、容量もまだあるんでパラレルワールドの話だと思ってください。
Another Hibiki-第一話「響かない鬼」
僕、安達明日無は柴又に住む中学3年生。ヒビキさん?誰ですか?
−東京 柴又−
タクシードライバーを職業とする郁子の帰宅は遅い。
それでも、不規則な勤務形態を強いられる仕事で定刻通りに帰宅できる事はかなり良い待遇である。
会社自体があまり無理な勤務を要求をしない事もあったが、女手ひとつで息子を育てている郁子を同情してか、
社員全体が郁子に協力的である事も大きい。
そんな皆の気遣いのお陰でもうすぐ高校生になる明日無は立派に成長していた。
「ただいま!」高校生の明日無が塾より帰宅した。
郁子は明日無が部屋着に着替えてる間に、食卓に晩御飯のおかずを並べる。
着替え終わった明日無が食卓に座ると茶碗にご飯をよそい、ちょっと遅い夕飯を食べ始める。
「明日無。週末なんだけど屋久島まで法事に行く?」そういえば、そんな事を言ってたなぁと明日無は思い出す。
しばらく考えて明日無は言った。
「うーん、ちょっと勉強がしたいかな。」
色々考えたが、明日無は今日の進路指導の事を思い出してしまい、今後の進路を少しゆっくり考えたかった。
「いいわよ。お母さん一人で行って来るから」
−そして週末−
母、郁子を見送り、明日無は勉強机に向かった。
進学については色々悩んだが、ブラスバンドが盛んだろうが、そうで無かろうが、結局の所 高校の部活。
その後、音大に進める訳でもなく、例え進んだとしても経済的にきつい事や、
音楽関係の仕事に就職できるはずもないので、偏差値の高い城南に進むことにした。
そもそもブラスバンド部ではドラムなんてない。良くてティンパニ。
仮に入部しても、先輩が先に居て、仕方なくホイッスルかなんかやらされてしまい、
挙句の果てに夏の合宿に参加できないなんて事になるかもしれない。
それだったら国立大学を狙いつつ、バンドでも組めばいいかなと思った。
ちなみに、この日ヒビキは屋久島に向かっていた事を明日無は知る由もなかった。
第二話「駆けらない勢地郎」
奥多摩でヒビキと香住実がヤマビコを退治に追われている頃。
明日無は城南高校合格に向けて、受験勉強に励んでいた。
城南一本に絞った明日無は、山カケなんて真似は危険だと判断し、あらゆる問題に対応できるように
広い範囲で問題を解けるようなオールラウンダーになれるように努力をしてた。
途中「いやー余裕で受かったよ」とか言ってくる塾の友達なども居たが、そんな発言は自分を優位に見せる為の策であり、
本当はかなりビビって居たのだろう。もし本当に余裕だったら、こいつは人生を舐めきって生きて行き、きっとどこかで自滅する。
そうならない為にも自分をより追い詰め、勉強しなくてはならない。
学校の帰り道。明日無はひとみに高校でも演劇を続けるか、チアリーディングをするか迷っている事を相談されるが、
「そんな心配は受かってから考えれば?」と一蹴。
その後、明日無はひとみと立ち寄った本屋の店先で、自転車にぶつかりそうになった子供を華麗に助け出した初老の男を見る。
「すごいおじさんだな」と思いつつも、人通りの多い商店街で自転車に乗る人間のマナーの悪さに腹を立てながら本屋で立ち読みをした。
今日発売のヤンマガを一通り読み終えた明日無はひとみと共にブラリと散歩をする。
途中、目に入った『たちばな』という甘味所を発見し二人で入る。
出迎えてくれたのは、さっき子供を助けたおじさんだった。
あ…さっきの…と、思いつつも特に口には出さず、きび団子をとあんみつを注文した。
二人で受験勉強や携帯の最新機種の話などしていると、店の扉が開き、若い二人の男女が入ってきた。
「ただいま戻りました。シュッ!」と謎のポーズを決める男性。
「お父さん、ただいま。」おじさんに帰宅した事を伝える女性。
二人は夫婦なのだろうか?そうするとさっきの男性は若旦那かな?
レジで支払いをしながら、男性は自分の母親好みだなと思い今度は母を連れてこようと考えながら明日無とひとみは店を後にした。
第三話「勝手に息吹く鬼」
今日は城南高校の合格発表日。明日無はひとみらと共に合格発表を見に行っていた。
合格掲示板の前では喜怒哀楽が渦巻き、明日無たちも自分達の番号を探す…。
結果はみんな合格だった。しかし、テストの手ごたえを感じていた明日無は
「良し」と小さくガッツポーズをし、すぐさま母に合格の連絡をした。
カツオとキコと別れた明日無とひとみは、ふたりで商店街を歩いていた。
「思い切ってシャンパンで祝杯をあげよう」と、冗談で言ってくるひとみ。
「そんな発言を高校関係者に聞かれたら、勘違いされて合格取り消しの可能性もあるだろう。
もっと言葉を選びなよ。」と冷静に返事する明日無。
だが、ちょっと引き気味のひとみの顔に気付き、機嫌を直そうと『たちばな』へと誘った。
「いらっしゃいませ」店に入ると明るく元気な声が店内に響いた。
店には以前見た女性の店員と、会話から察するとその妹らしき人が働いていた。
対照的な姉妹であったが、どちらも違った魅力を持っている姉妹だなと思う明日無。
どうすればあのおじさんから、このような子供が産まれるのか?
明日無は時々聞こえてくる「ヒビキさん…山…トレーニング」と言う単語を耳にして、
ああ、あの旦那さんはSASUKEにでも出場するんだなと勝手に思った。
その頃、柴又より少し離れた山ではイッタンモメンを追っていたイブキの元にあきらが合格の報告をしていた…。
第四話「なんか轟いてる鬼」
ザンキから烈雷を渡され、戸田山が色々と苦悩していた頃。
明日無はアルバイトを探しに街中を彷徨っていた。
部活には入らないのか?と母とひとみに聞かれた明日無であったが、部活動は金が掛かる上に、上下関係も厳しい。
例え先輩より実力があっても使ってもらえるはずもないし、仮に顧問の先生に大抜擢されても
嫉妬した先輩からの激しい苛めがあるに違いない。それに日曜日を初めとする全ての休みも奪われる。
もし野球部が甲子園に行こうものなら、きっと応援に駆り出され、炎天下の中、応援しまくらなければならない。
仮に野球部が優勝しても「応援ありがとうございました」で済まされるし、
顧問が熱血先生だったら「お前達の応援が小さかったから負けたんだ」と言われそうだ。
そうであれば、アルバイトをして今のうちから社会経験を積む方がいいだろう。
就職でも部活の部長をやっていた経歴よりもフロアマネージャーの経験がある方が、企業にとっても使いやすいはず。
そんな将来設計をしていた明日無の目に入ってきたのはいつも寄る甘味処『たちばな』のアルバイト募集の広告。
「アルバイト募集か…」よく行くお店だし、店員も客層も悪くない……。
しかし時給が書かれていない事に気付く、労働をする時に、はっきりとした額が明記されていないのは非常に危険である。
お金に汚いと言われるかもしれないが、永久雇用や年金制度が崩壊している現代において、マネーのIQ(M.I.Q)は非常に重要である。
ちょっと働いてみたかったが、明日無は近くの焼肉屋『牛核』でアルバイトをする事にした。
−だが、その初日−
はりきってアルバイトをしている明日無の『牛核』に給料をもらったばかりのダンキとショウキがやってきた。
二人は食べ放題コース1980円を注文すると、制限時間内に店内の全ての肉を食いつくしてしまい、お店は大赤字となった。
「明日もくるね!」そう言って去っていく男たちを見送ると、ビビッた店長は今日で店じまいをする事をバイト達に告げた。
明日無は一日分の給料4千円を貰うとアルバイト情報誌を買って帰宅した。
てな訳で、後半は後ほど。
てか、FireFox使ったら勝手にコテハンが…。
196 :
名無しより愛をこめて:2006/05/23(火) 11:36:38 ID:2VbRFqYJ0
なんかものすごくZANKIの人さんらしい暴走作ですね(いい意味で
GJっす
ところで「駆けらない勢地郎」ですけど「駆けぬ勢地郎」のほうがいいのでは?
197 :
196:2006/05/23(火) 11:37:55 ID:2VbRFqYJ0
すいません196です
「sage」を忘れてました…吊ってきます…orz
>196
そうっすね。まとめサイト様、「駆けぬ勢地郎」でお願いします。
まあ、タイトルと中身は全然関係ないんですけどねw
199 :
名無しより愛をこめて:2006/05/23(火) 12:19:32 ID:ofGKd5XEO
ブラスバンド普通にドラム使うんだが………
無粋ですね、失礼しました
>199
え!そうなの?
ウチの中学はドラムなんかないって断ってたのに…最近出来たとかじゃないっすよね?
あれ、でもスイングガールではドラムがあったな。
ウチの中学だけがおかしかったのか…orz
第五話「鍛えない夏」
ヒビキに太鼓を教わる事に疑問を持ち、トドロキがヒビキに衝突したり、
謎の白装束の男が現れていた頃。
明日無は『たちばな』でアルバイトをしていた。
とりあえず、話だけでも聞いてみたら時給も悪くないし、立花店長も優しそうだった。
香住実さんは優しいお姉さんと言った感じだったが、
ヒビキさんと言う人が居ながらイブキさんと言う人にも気があるようで、ドロドロにならなければいいなと思った。
日菜佳さんは明るく元気な人で、トドロキさんと言う恋人に夢中だ。
みんな良い人ばかりだが、どうもこのお店の人は妖怪が大好きみたいで、
しょっちゅう「ヌリカベが見つかった」とか「ドロタボウに気を付けて」とか言っている。
売り上げの殆どを妖怪探しの趣味に使ってしまってないか不安になる。
それに『たちばな』のお客さんは客単価が500円程とファーストフード並にあるが、
如何せん客の回転率が良くない。落ち着いた店の雰囲気は非常に良いのだが、
回転率に対しての客単価の悪さが今後の経営難に繋がらなければいいが……。
とりあえず、カキ氷のテイクアウトメニューを立花店長に発案しよう。
学校帰りの学生や、主婦などをターゲットにすれば薄利多売で回収できるだろう。
また、テイクアウトの場合。お店へのリピーターを産む効果もある。
我ながら良いアイデアだと明日無は思った。
ちなみにチアの夏合宿に行ってたひとみが帰ってきた。
ブラバンとの合同合宿だったらしく、話によると中学時代にブラバンにはドラムなんかない
と言って明日無の入部を断った草加先輩がドラムを担当してたらしい。
どうやら、ブラバンでのドラムのポジション争いは日本代表の黄金の中盤並らしく、
ライバルを蹴落とす為に嘘をついていたようだ。
明日無はちょっと腹が立ったが、そのお陰で今のように店舗経営のおもしろさを知る事になったのだから、
むしろ感謝すべきだろうと思った。
第六話「伝わってない絆」
響紅がバケネコに苦戦をし、イブキが街でみなりのいい男女を追っていた頃。
真っ黒に日焼けした明日無はテイクアウトメニューであるカキ氷紅を作る作業に追われていた。
店先にカキ氷の垂れ幕と、昔ながらのカキ氷機を置いての屋台販売は大当たりだった。
炎天下を歩いてきた人々は「氷」の文字に涼を感じ、昔ながらのカキ氷機に挟まれている
大きい氷に一時の夏の涼しさを求める。真夏の屋外は非常に暑かったが、削る際に飛び散
る氷が肌にあたると、暑さを忘れるくらいに冷たく、外での作業でも苦ではなかった。
日本の夏はこうでなくては。これに西瓜があれば最高だなと思っていると、以前、プール
で知り合った津村 努と言う同い年ぐらいの少年が西瓜を持ってやってきた。
「やあ。」「あ、君は」
努は滝沢みどりさんが来ていると知ると店内に入っていった。
そういえば、ここに来る人には必ず「君ってタケシ?」と良く聞かれる。
昔、タケシという名のそっくりさんでも働いていたのだろうか……。
その夜は花火大会があった。どこからとも無くひとみも現れて、
屋上で西瓜を食べながら、花火見物となった。香住実や日菜佳の浴衣姿も良かったが、
フブキの浴衣姿も非常に艶やかで素晴らしい。
ひとみには特に何も感じなかった。
第七話「輝かない少年」
ある日、明日無は前に本屋で万引きをしていたDQNの厨房に街中であった。
なんか万引きして捕まったのを自分のせいだと責められた。
某国並のイチャモンの付け方だが恐らくDQNに何を言っても無駄であろうと思い、
仕方なく殴られたが、きっちりと身元が分かるものをGETしていたし、たまたま通り掛かったひとみもその光景を見ていた。
ナイス証人!
とりあえず警察に届け、「殺すぞ」とかも言われていたので、その話も包み隠さず伝える明日無。
ちなみに警察は明日無がたちばなの仕込みの最中に包丁で切った傷を切りつけられた傷と勘違いしていた。
明日無は虚偽の報告をした訳じゃないからと思い特に何も言わなかった。
その数日後
−響鬼たちがツチグモと戦った日の夜のニュース−
「今日、都内の公立高校に通う16歳の少年を殺人容疑の疑いで緊急逮捕しました…」
にやりと笑う明日無。
第八話「鍛える予感は無い」
夏休みを終えてしばらくすると明日無は「たちばな」のバイトを辞めていた。
夏のテイクアウトメニューを成功させて、もっと新しい可能性を追求したい事や。
変な転校生がやたら弟子にしろと店にくるのがうざかったり、
ひとみにパネルシアターなるものを要求されるようになった事など、様々な要因からやめる事にした。
パネルシアターの子供の中に不治の病を持った少女と出会った明日無は、
幼いのに病と闘う少女の姿に胸を打たれ医者を目指す決意をするが、
経済的に医学部に通える余裕などない事に気付いたり、長年の医療業界の汚染、
また過熱気味の医療裁判の事など考えると現在の日本において親が病院でも持っていない限り、医者になるメリットは非常に少ないなと考え、違う道を模索することにした。
その頃ヒビキたちは突如発生したオロチ現象などに頭を悩ませていた……。
最終話「明日なき夢」
響鬼たちがオロチを静めて一年が過ぎた…。
色々考えたが、この国を抜本的に変えていくには、やはり政治家になるしかない。
と結論した明日無は東大合格の為に「ドラゴン桜」の勉強法を取り入れ、文Tを目指していた…。
最近は一年生の頃からあまり学校に登校してなかった天美という学生が学校に来るようになったが、
その代わりに桐矢と言う変な転校生が来なくなった。
だが、そんな事は明日無の学園生活には何の支障もなかった。
さらに十年後…。
イチゲキが自分の弟子に免許皆伝し引退を考えていた頃、明日無は市役所の戸籍課に勤めていた。
東大には合格したものの政治家になる為には親族などのバックボーンが無いと
非常に難しい事を東大在学時代に級友に散々聞かされた上に、
天下り先まで考えて人生設計をしている東大生に嫌気がさし官僚にはならず地方の公務員に落ち着いた。
周りからは勿体無いとか言われたが、幸せそうな二人から婚姻届を受け取る事や、
嬉しそうに出生届を提出するパパとママを見れる事が明日無にとっては幸せだった。
そういえば、ひとみの出産日は来月だな…。
明日無は自分が出生届けを提出できる日を、幸せそうに待ち望んでいた…。
普通に生きる事が一番の幸せなんだと実感する明日無だった。 完
と、言うわけで今回は明日夢がもし、屋久島に行ってなかったら…?
と言う作品を考えてみました。まあ、毎度のパロディ路線ですのであまり怒んないでね。
ちなみに199さんの指摘で少し文を付け足しました。199さんthx
チラシの裏ですが、最初から井上響鬼ってのも考えて見ました。
一話目でいきなり響鬼の音叉で変身してしまう明日夢。
宗家のプライドで常にナンバー1にこだわるイブキ。
強さこそ正義と考えるザンキと、そんなザンキとヒビキの間で揺れるトドロキとか。
でも、こんな響鬼は見たくねぇw
楽しませてもらいました。こういう話もなかなか味があっていいな。
209 :
高鬼SS作者:2006/05/23(火) 23:09:32 ID:5FXsHvqD0
>元・ZANKIの中の人
相変わらずのクオリティに感服しました。
>にやりと笑う明日無。
ヤベェ!こいつはヤバ過ぎるッw
で、これから投下するやつに関して。
先日、妖怪好きにはお馴染みの作家・京極夏彦が、
今年三月に奈良で行われたイベントにまつわるこんな話をしていました。
「(会場へと向かう吉野線の)列車の窓からは山しか見えない。
思わず怪しい老婆が歩いていたり、池から逆さまになった足が出ていたり、庄屋の家で殺人事件が起きたりするのを想像した」
まあうろ覚えですがこんな感じ。で、その話を聞いて「SSに使えないかなぁ」と思い、書いたのが今回のやつです。
無茶は承知です。
あと、食事中には読まない方が良いかもです。それではどうぞ。
1977年、卯月。
近鉄吉野線に乗って、橿原神宮前駅から吉野駅へと向かう途中の田園地帯。
車窓からは代わり映えのしない風景が流れていくのが見える。まあわざわざ見る人などそうそういないのだが。
途中、小さな池の傍を電車は通過する。その日も、車中の乗客は眠ったり本を読んだりして外の風景に目を向ける事は無かった。
だが、その日に限って外の風景は異常だった。
池からは。
逆さまになった状態で人の足が水面から突き出していた……。
猛士吉野総本部。
ロビーの椅子に腰掛け、コウキは閲覧用に置かれてある地方紙を読んでいた。
「大淀町で変死体発見」
そう書かれた見出しの後、結局のところ捜査の進展は全く無しという内容を無駄に飾って長くした文章が延々と続いていた。
この当時は地方でどんなに残虐・不可解な事件が起きようとも、全国紙に掲載されるような事は滅多に無く、従ってこの事件も普通に地方の一事件として処理される筈であった。
「あ、コウキくん。ここにいたのね?」
声の主はあかねだ。確かさっきまで外出していた筈である。いつの間に戻ってきていたのであろう。
新聞を読むのを止め、あかねの方に顔を向ける。
「悪いけど今すぐ出てもらえるかしら?」
どうやらまた魔化魍が何処かに出没したらしい。詳しい話をあかねから聞く。
その内容は実にタイムリーなものであった。現場はさっき新聞で読んでいた事件の現場、大淀町である。
しかも、その事件そのものが魔化魍の関与によるものらしいのだ。
「一般には非公開にされている情報なんだけど、池に頭から突っ込んでいた被害者は体中の水分を奪われて死んでいたそうよ」
あまりにも不可解な殺害方法故に、警察も頭を抱えているというのが真相のようだ。
「でね。殺されたのが吉良家っていう、昔大淀町が村だった頃からの名家の人間でね……」
それが一体どうしたというのだろう。
「実は事件の発覚する数日前から、怪しい風体の女が屋敷の周囲で目撃されていたらしいのよ」
「ひょっとして、その女とは姫ではないかと?」
魔化魍の中には特定の人間を標的として付け狙う種も確かに存在する。しかし……。
「そういう習性を持つのは、人を付け狙い易い大きさの夏の魔化魍だけなのではありませんか?」
今は四月である。
「でも条件が合えばごく稀に夏以外でも発生する事があるからね、別に不思議な事じゃないわ」
確かに、コウキもそんな事例を聞いた事がある。
「問題があるとしたら一つ。吉良さんの家には今も県警の捜査員が出入りをしているの」
魔化魍が吉良家の人間のみを狙っているとしても、周囲の人間に対して牙を剥かないとは限らない。最悪な場合、一晩で大量の犠牲者が出てしまう危険がある。
「幸い吉良家と親しい間柄の人間にうちの『歩』がいるから、吉良家周辺の調査を警察に怪しまれずに出来るよう既に手を回してもらってあるわ」
一通り説明を受けると、コウキはいつもの敬礼にも似たポーズを決めて立ち去ろうとした。だがその前に……。
「ところであかねさん、今まで何処に出掛けていたのです?」
滅多に外出する事のないあかねが暇を見つけて出掛けていったのである。気になっても仕方はないだろう。
「うん。映画を見に行っていたんだ。『悪魔の手毬歌』っていう金田一耕助のやつ。プログラムも買ってきたんだけど、後で見る?」
そう言うとあかねはにっこり微笑んだ。
古い大きな屋敷が、田園地帯のど真ん中にぽつんと建っていた。吉良家である。
正門の前にはパトカーが止まり、制服を着た警官が行き来している。屋敷の中に入るとき、コウキも警官に呼び止められたが、どうにか事情を告げ中へと入る事が出来た。
大広間には吉良家の人間全てと、幾人かの警察関係者が揃っていた。その中の強面の男――おそらく刑事であろう――がコウキを見て怪訝な顔をする。
「誰だ貴様は。ここは関係者以外立入禁止だぞ!」
「私の名前は小暮耕之助。探偵です」
探偵。それが吉良家で潜入調査を行うべくコウキに与えられた役割である。
「探偵だと!?そんな胡散臭い輩はいらん!出て行け!」
「待ってください刑事さん。その人は僕が呼んだのです」
怒鳴りつけてくる刑事を、恐らく吉良家の人間であろう、一人の青年がそう言って宥めた。
「知り合いに腕の確かな探偵がいると聞いて、呼んでもらったのです。ほら、今映画が上映中の金田一耕助、ああいう活躍が期待出来るのではないかと思って……」
その知り合いというのが、あかねの言っていた「歩」の人間であろう。
刑事は渋々ながら納得すると、コウキに向かって自己紹介を始めた。
「私は奈良県警の大沢だ。……こちらの若旦那がこう仰っている以上、あんたを邪険に追い払う事は出来なくなった。だが……」
我々の捜査の邪魔だけはするんじゃないぞ!そう言うと大沢は不服そうに立ち去っていった。
「すいません、小暮さん。事前に刑事さんにはお話ししておくつもりだったのですが……」
先程の青年が頭を下げる。
「僕の名前は大和と言います。吉良家の第十一代当主です。こちらが長兄の吉影兄さん。そして次兄の雷斗兄さんです」
大和と名乗った青年に紹介され、神経質そうな長兄と、人を見下したかのような印象を与える次兄が改めて自己紹介を始めた。
その後、何故三男の大和が家督を継いだのか等の説明が延々と行われるのだが、本編とは関係無いので割愛する。
「殺された上野介叔父さんは、けちで我が儘な人でしたが、僕等にとっては大事な肉親でした。どうか犯人を捕まえて下さい!」
コウキの手を握り、涙ながらに訴える大和。
その後も色々と話は続き、コウキが客間へと通された時にはもう日はすっかり沈んでいた。
午前二時過ぎ、屋敷内に悲鳴が響いた。半ば眠りについていたコウキも布団から飛び起き、悲鳴が起きた場所へと向かった。あれは吉影の声だ。
吉影の部屋の前には家人、そして泊まり込みで警護をしている大沢達が集まっていた。
「どうしました、吉影さん!」
大沢が蹲る吉影に向かって尋ねるも、当の吉影はがたがた震えているままだ。ただ、しきりに「天井に、天井に……」と呟いている。
コウキは吉影の部屋に入って天井を見てみた。明かりは点いていないが、微かに何か光る筋のようなものが付着しているのが確認出来る。
何かがこの屋敷内にいる。コウキは確信を持った。
翌日の朝は別段何も変わった事は起きなかった。ただ、吉影はあの後一睡も出来なかったらしく真っ青な顔をして食卓に着いていた。
「……ご馳走様」
吉影は覇気の無い声でそう言うと、朝食をほとんど口にせず席を立った。
「こりゃ兄さん、そのうちノイローゼになるぞ」
吉影が立ち去った後、雷斗がにやつきながらそう言う。その言い方が気に食わなかった大和が、雷斗に掴みかかった。
「雷斗兄さん!吉影兄さんが本気で参ってるっていうのに……」
「離せよ。お前だって内心は……」
堪らず仲裁に入るコウキ。それによって口論は収まったものの、雷斗はそのまま席を立ち、残った大和は悔しそうに涙を流した。
厭な空気が流れた。
警察は次に狙われる事があるとすれば吉影だろうと判断し、彼の警護を重点的に行うようになった。コウキも同じ考えだった。
だが、惨劇はその夜のうちに訪れた。
便所に入った吉影が中々出てこないのを不審に思い、警官が戸を壊して中に押し入ってみると、そこには……。
上野介と同じ様に、全身の水分を奪われた吉影が変わり果てた姿で倒れていた。
警察は完全に密室状態だった便所で行われた不可能犯罪の検証に頭を悩ませていた。ただ一人、それが魔化魍の仕業だと知るコウキだけが冷静にその場を眺めていた。
「小暮さん。随分落ち着いていますが、ひょっとして犯人の目処が立ったのですか?」
大和が尋ねてくる。それに対し適当に返事をして誤魔化すコウキ。
既に式神は打ってある。遅れは取ったが、これ以上の犠牲は絶対に阻止しなければならない。
その夜の食卓の空気は、実に重々しかった。
黙々と食事を続ける大和と雷斗。気まずい雰囲気ながらも、一緒になって食事を摂るコウキ。
と。
「うわわああ!」
サラダを食べていた雷斗が突然悲鳴を上げて椅子から転げ落ちた。慌てて兄の傍へと駆け寄る大和。
コウキは雷斗が食べていたサラダを見て絶句した。そのサラダの中には……。
生きたナメクジが数匹蠢いていた。
三日目の朝、周囲を見回っていたコウキは怪しい風体の男を目撃した。恐らくは童子だろう。
案の定、後を付けていたコウキの姿を確認すると、怪童子に変身して襲い掛かってきた。すぐさま変身し、迎え撃つ高鬼。
一対一の戦いでは明らかに怪童子の方が分が悪く、鬼爪の一撃を受け爆発四散してしまった。
「これで残るは姫と魔化魍のみか……」
あまり長く屋敷を離れるのも不味いだろう。コウキは持ってきていたバッグの中から着替えを取り出すと、近くの雑木林の中で急いで着替えて屋敷へと戻っていった。
昨夜のナメクジ混入の一件を考慮し、警察は今度は雷斗の警護を行うようになった。
しかし、相手は魔化魍である。対人用の警備をしても意味は無い。
事実、その日の夕方に雷斗は襲われている。尤も、今回は未遂に終わったのだが。
「天井に、天井に……」
最初、雷斗は亡くなった吉影と同じ事をずっと言い続けていた。ある程度落ち着いたところで事情聴取を始める大沢。コウキも無理を言って同席させてもらった。
「ナ、ナメクジ……。人間と同じくらいの大きさで毛むくじゃらのナメクジが天井を……」
「ナメクジだぁ!?」
あまりにも予想外の雷斗の発言に目を丸くする大沢。
なんでも、ナメクジが現れた直後に今度はたくさんの折り鶴が現れて、ナメクジに攻撃を仕掛け追い払ったという。コウキが打っておいた式神だ。
大沢は雷斗が未だ錯乱していると判断し聴取を切り上げたが、コウキはその後も詳しく話を聞き、あかねに連絡を入れた。
夕方、あかねからの電話が掛かってきた。何か分かったらしい。
「話を参考に幾つかの文献を当たってみたんだけど、おそらくケウケゲンじゃないかしら」
標的の家の中のじめじめした所に好んで住み着く種だという。
「夏の魔化魍だけど時期が時期だから分裂はしない筈よ。まあ弦や菅で攻撃するなら別だけど」
コウキはそのケウケゲンという魔化魍の事を知らないので、あかねから詳しい話を聞き、礼を言うと電話を切った。
その晩、風呂場で雷斗の溺死体が発見された。
屋敷内で立て続けに起きた殺人に、大沢は頭を抱えて悩んでいる。
一方コウキは、今回の件のみ被害者が全身の水分を吸い取られていない事に着目していた。
明らかにこれは人の手による殺人である。そしてこんな事が出来るのは、と言うより殺害する動機を持つのはこの中では大和のみであろう。
(理由はどうあれ見過ごす訳にはいかんな)
その後、コウキの発言によって大和が追い詰められ自白する展開となるが、これまた本編には関係ないので割愛する。
「いやぁ、流石は名探偵だ!ご協力感謝致します!」
最初会った時は随分と邪険にされたのに、今では名探偵である。都合の良いものだ。
「これから上野介と吉影殺しについても白状させてやりますよ」
「ま、待って下さい刑事さん!確かに僕は雷斗兄さんを殺した。だけど上野介叔父さんと吉影兄さんは殺していない!」
それはそうだろう。その二件は魔化魍の仕業なのだから。だがそんな事は言える筈もなく、結果大和に全ての罪を被ってもらう事になる。
「しかし最初に目撃された不審な女性ってのは何だったんでしょうなぁ。共犯者か?」
そう。童子は倒したが、まだ姫が残っている。そしてケウケゲンも。
と、その時、座敷に面した庭に音も無く一人の異様な風体の女性が現れた。
「な、何だこいつは!何処から来た!」
大沢が驚きの声を上げる。
女は――ケウケゲンの姫は鬼の存在を確認すると、そのまま塀を跳び越えて逃げていった。
そのあまりにも非現実的な光景に唖然とする一同。そんな中、コウキはこっそりと屋敷を抜け出し姫の後を追った。
童子と戦ったのと同じ場所で、高鬼は妖姫と戦闘を始めた。
口から黄金色の粘液を吹きつけてくる妖姫。それを回避し間合いを詰めていく高鬼。
高鬼の回し蹴りが妖姫の顔面に命中した。続けて腹部に鉄拳を叩き込む。
そして至近距離から止めの小右衛門火をお見舞いする高鬼。妖姫の体は爆発し塵へと変わった。
音撃棒・大明神を装備帯に戻すと、高鬼は吉良家の方角に向き直った。
まだケウケゲンがいる。
大和は逮捕され、そのまま連行されていった。名家での連続殺人で、しかも犯人が家人だったという事で、正門前には大勢の野次馬が集まっていた。
一方、屋敷内では密かに戻った高鬼がケウケゲンを探していた。
中庭に下りる高鬼。そこの小さな池の傍にある植え込みが微かに揺れた。
居る。
ししおどしが音を立てる。それを合図にしたかのように、ケウケゲンが植え込みの陰からぬっと現れた。
成る程。雷斗が言った通りその姿は毛虫のように全身に毛が生えたナメクジである。
ケウケゲンがずるずると地面を這って高鬼に近付いてくる。緩慢な動きのためか、逆に恐怖心を煽られる。上野介も吉影も雷斗もきっと恐ろしかった事だろう。
高鬼はまず小右衛門火を放って攻撃を仕掛けた。だが、体毛がある程度燃えると直ぐに鎮火してしまう。毛も瞬時に生え変わってしまった。
「まあ、どの道音撃以外では倒せんしな」
音撃鼓・紅蓮を装備帯から取り外し、ケウケゲンに駆け寄り貼り付ける高鬼。
(まだ外に人がいるからな。一撃で決めるぞ)
音撃打・刹那破砕を叩き込む高鬼。清めの音が屋敷中に轟いた。
爆発し、塵芥と化すケウケゲン。
顔の変身を解除し、一息吐くコウキ。
「な、何だ今の音は!」
大沢の声が聞こえてくる。続いて何人かの足音が。コウキは慌てて中庭を後にした。
「まあしばらく安静にする事。以上」
そう言うとモチヅキは立ち去っていった。
ケウケゲンを退治した翌日、コウキは本部の医務室のベッドの上で点滴を受けていた。その横であかねがしきりに「ごめんなさい」と謝っている。
あかねは肝心な事をコウキに伝え忘れていたのだ。
ケウケゲンはその体毛に無数の病原菌を保有しているのである。昔からケウケゲンの住み着いた家からは病人が出ると言われていたが、それはこういう事だったのだ。
おそらく接近した時に病原菌を吸い込んでしまったのだろう。猛士には昔からワクチンが保有されており、ケウケゲン退治に向かう者は皆それを接種する事が義務付けられていたのだ。
「警察の人がもう一度話を聞きたいって言ってきたけど、私の方から上手く言っておくから。だからしっかり養生してね」
結局、警察は雷斗以外の殺人は姫――あの謎の女の仕業として捜査を始めているらしい。
こうして、旧家を襲った連続殺人事件は一応幕を下ろしたのであった。 了
218 :
高鬼SS作者:2006/05/23(火) 23:26:15 ID:5FXsHvqD0
本当は前回のドクハキさんの時みたいに、おまけとして吉良三兄弟のプロフィールも投下しようかと思ったんですよ。
ただ、元ネタのファンの方(特に三男の)に怒られそうなので自粛します。
ちなみに、某所では「日本三大殺人鬼」と呼ばれる元ネタの三人、調べたら三人とも血液型がA型でした。まあそれがどうしたって話ですが。
最後に、このSSに登場する人物、団体名は全てフィクションです。
本当に大淀町に「吉良」さんがいたらごめんなさい!
P.S サラダにナメクジ混入はリアルで昨日体験した事ですw 伊藤潤二のマンガみたいでマジ気持ち悪かった…。
219 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/05/24(水) 00:30:07 ID:7O/UWtqg0
一零三の巻「浮き出る桜」
山中―。
ツラヌキ、サバキは赤茶獅子――シーサー型DA――に導かれ、山の中を歩いていた。
赤茶獅子のほうがスピードがあるため、サバキらが遅れをとると、いちいちそのふてぶてしい顔で睨みつけてくる。
「オイ、あいつ怖いな。」
「すいません。向こうの技術担当の方はリアル思考で。」
そういうツラヌキは開発担当、大暮功ノ助のことを思い出してしまった。
『吉野の開発部は萌え系のオタッキーか!!これでは魔化魍にバカにされる!!』
『いや・・・別にいいんじゃないですか?』
『いかん!断じてダメだ!これだから最近の鬼は腑抜けるんだ!・・・そうだ津原くん!キミの師匠にコレを渡しておいてくれたまえ!私が開発した最新型DAだ!
従来の瑠璃狼をはるかに上回る性能に加え、デザインも沖縄らしくシーサーに決定した!キバでの攻撃時には増幅器を装置しより強烈な・・・・』
(はぁ・・・説明ウゼェーーー・・・。にしてもコイツ、顔ふてぶてしい・・・)
「おいツラヌキ!コイツどうにかしろ!」
われに帰ったツラヌキの目に飛び込んできたものはDAに襲われる鬼だった。
220 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/05/24(水) 00:30:49 ID:7O/UWtqg0
数十分後。
ツラヌキとサバキの目の前には1組の男女がいた。
「どの奴らか分かるか?」
「いえ、全く。」
「鬼か・・・。」
「鬼の骨はさぞ美味かろう・・・。」
男女は表情を一変させ、まとっていた着物を首に巻きつかせると、皮膚を硬化させ右の腕をハサミ状にした。
「まずはお前一人でやってみろ。」
「・・・・はい!」
221 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/05/24(水) 00:31:36 ID:7O/UWtqg0
サバキは思った。・・・おかしい。この辺りに水辺はない。それに気温、湿度、気圧すべての面から見てもバケガニは発生しないはずだ・・・。
そう思案しているうちに、ツラヌキは手首に装着された変身鬼弦、狼咆を弾いた。鬼弦のレリーフは鬼ではなく、角の生えた狼をかたどっていた。
ツラヌキの額に狼のレリーフが浮かび、拳を地に打ち付けた。その拳がちょうど地を揺るがした瞬間、雷が迸り周囲の木はもちろん、怪童子たちも焼き付けた。
その雷の光の中でツラヌキの服は弾け、ゆっくり立ち上がったかと思うと一気に罵声をあげた。そこには燻し銀に黒のライン。額には金の狼。銀の一本角を持つ貫鬼が立っていた。
怪童子たちは、お返しとばかりに大きなハサミを振り回すが、貫鬼はヒラリ、ヒラリと華麗な身のこなしで避ける。その姿はまさに舞のようであった。
怪童子たちは戦法を替え挟み撃ちを図った。妖姫が人間をはるかに上回る跳躍力で貫鬼の後ろにまわり、息のあったコンビネーションで貫鬼を追い込んだ・・・かに見えた。
貫鬼は焦ることなく怪童子と妖姫の間をスルリとすり抜けてしまったのだ。怪童子と妖姫は互いを思い切り殴り飛ばしてしまった。当然、大きな隙ができてしまう。
「鬼闘幻術、楼狼破粋!!」
男女は貫鬼の舞台に引き込まれてしまった。先ほどまで山の何処だか分からない場所にいたのが、暗闇とスポットライトだけの空間になってしまったのだ。当然、サバキと貫鬼には現実の世界しか見えていない。いわゆる幻術という奴だ。
暗闇から音撃弦を携えた鬼が駆けてきた。男女はもはや混乱状態に陥っている。そんな敵を倒すのは貫鬼にとって空を仰ぐよりも簡単なことだった。
222 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/05/24(水) 00:32:38 ID:7O/UWtqg0
「・・・開花の段。」
貫鬼は凄まじい動きで男女を斬りつける。わざと浅い傷しかつけておらず、あえて致命傷は与えていない。だが少しづつ敵を弱らせていた。
「牙鱗の段。」
次第に斬撃は激しく、剣圧は重くなっていった。もはや童子たちに闘う力は残っていなかった。
「弩貫。」
最後、貫鬼は助走をつけ音撃弦、満月でこれを貫いた。その直後、爆風が二つ続いて発生し塵の舞う中、顔のみ変身解除したツラヌキにサバキが近寄ってきた。
「サバキさん、俺やりましたよ!」
223 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/05/24(水) 00:35:24 ID:7O/UWtqg0
嬉しそうなツラヌキを見たサバキは一瞬のみ安心し真顔に戻って疑問を投げかけた。
「お前の最後の鬼闘術・・・俺は見たことがあるぞ。・・・お前、師匠はなんと言ったか?」
「?・・・師匠は露鬼さんですが・・・」
「そうじゃない、本名だ。」
「えーーっと・・・六十字禄兵衛ですけど・・・・・・・あ゛っ!!」
「さっきやったお前の鬼闘術は、恭子の親父・・・楼鬼のものと全く同じだ。」
一零三の巻「浮き出る桜」
224 :
名無しより愛をこめて:2006/05/25(木) 23:36:47 ID:PGQSqEP30
225 :
高鬼SS作者:2006/05/26(金) 21:59:29 ID:el2FP1gO0
70年代関西支部のオリジナルキャラも随分増えたので、
一度彼等で「宴の始末」みたいな話を出来ないかと思い書いたのが今回の話です。
話の都合上、70年代当時の猛士総本部長、すなわち一文字の父親がとうとう出てきます。
伊織、稲妻、一文字、この誰とも異なる性格のキャラになってしまいました。
お祭りみたいなものですので、軽く読んでやって下さい。それではどうぞ。
1978年、如月。
和泉一流(いちる)。猛士総本部長であり、イブキ=和泉一文字の実父である。
まだ「と」だった頃から今日に至るまで様々な武勇伝を持つ漢である。
第二次大戦末期、各地の若い鬼が次々と徴兵されていくのを見て、
「宗家の者が前線に立たずして、何の宗家か!」
と叫び、単身南方戦線に向かおうとして止められた話などは今なお語り種である。
そんな彼も、組織の頂点に立つようになってからは気苦労が絶えなかった。
組織の体裁を成した以上、どうしても一枚岩ではなくなる。逆らう者、暴走する者が現れてくる。
今はまだましだ。だが息子の一文字が後を継いでから確実に何か問題が起きるだろう、彼は常にそう考えていた。
そんな一流だが、この日は朝からずっと悩んでいた。
猛士の行く末についてであろうか?否、違う。五十年に一度起こるある現象についてである。
総本部の「金」の調査によると、その現象は今回九割九分九厘の確率でここ関西で起こるという。
(ええい!考えるよりまず行動よ!)
そう自分に言い聞かせると、一流は総本部、関西支部の全人員に緊急召集命令を出した。
全人員が総本部内の講堂に集められた。本部長命令という事もあり、出撃中の鬼やサポーター、弟子以外は全て呼び出された。
壇上に一流が上がる。一部のスタッフ以外には滅多に姿を見せない本部長の登場に、講堂内に緊張が走った。
備え付けのマイクに向かい、おもむろに喋り始める一流。
「お前達、金持ちになりたいかぁぁ!」
あまりにも予想外の発言に場が混乱する。
そんな事は一向に構わず話を続ける一流。
なんでも、五十年に一度、日本の何処かで「金霊」と呼ばれる現象が起こるのだという。
具体的にどういうものかと言うと、原理は未だに不明だが、文字通りお金が空から降ってくるのだという。
五十年前には中国支部で目撃されたという。
昔から確認されているものの発生条件等が一切不明だった金霊であるが、ここ五十年の研究の結果、次の発生地域の特定が何とか可能になったのだという。
そして五十年目の今年、金霊は関西支部で起こる可能性が極めて高いというのだ。
「君達に集まってもらったのは他でもない!金霊で財を得、本部を潤すために全員一丸となって協力してもらいたいのだ!」
実に直球な発言である。
「金霊が起こると予想される場所は三ヶ所!ここにいる全員は三つのグループに分かれて金霊捜索に当たってほしい!」
講堂内にざわめきが起こる。
これはとんでもない事になったぞ、そうコウキは内心思った。
コウキとあかねは、一流自らが率いる捜索隊に組み込まれた。
彼等以外のメンバーはイブキ、アカツキ、バキ、イッキ、モチヅキ、ドキ、セイキ等鬼が多く、彼等のサポーター達もいた。
コウキはイブキにこっそりと尋ねる。
「そんなに本部は金欠なのかね?」
「と言うよりうちの実家、関西支部の経営の方がちょっと……」
一流は指導者としては高い資質を持っているが、経営者としては今一つらしい。
「あの、ここだけの話にしておいて下さいね……」
そう断ると、イブキは今回の一件の真相について話し始めた。
関西支部としても使われている和泉家の実家の旅館は、毎年収入が地味に下降しており、一流の妻、つまりイブキの母は常に頭を悩ませているのだという。
最愛の妻のために何か出来ないかと考えた一流は、一発逆転を狙って数ヶ月分の売り上げをあろう事か競馬に注ぎ込んだのだという。
「……すったのだな」
「……はい。涙ながらに僕にだけ話してくれました」
つまり自分自身の尻拭いのために猛士を使っているのである。もしこの事がばれたら、下手をすれば暴動が起こるだろう。
「イブキ、お前は将来そんな風にはなるなよ……」
コウキにそう言われて、イブキは力無く笑った。
途中休憩を挟みながらも、山中を行進する事数時間。常に山野を駆け巡っている鬼達ならまだしも、内勤の者達は疲労が色濃く顔に現れていた。
「あ、あたしもう駄目……」
あかねがへなへなと地面に座り込んだ。四十路を過ぎて、しかも常にデスクワークのあかねには無理もないだろう。
徐々にではあるが、参加者の中から不満の声を上げる者が出てきた。
トランシーバーで麓の連絡係と定時連絡を取っていた一流は、連絡を終えると一同に向き直り激を飛ばした。
「全員しっかりしろ!もし我々の隊が金霊に遭遇した場合は、この場にいる者全員に特別ボーナスを出すぞ!」
その言葉に途端に元気を取り戻す者もいるが、相変わらず不満そうな者もいる。
「父さん、また勝手に変な約束を……」
小さく呟き、イブキが額に手を当てた。
何度目かの定時連絡を終え、一流が報告を行う。
「他の二隊もまだ発見は出来ていないようだ。さあ行こう」
もうとっくに五十を過ぎているのに、実に元気な御仁である。
と、セイキのサポーターのまつが空を指差してこう言った。
「あの、何でしょうか、あれ……」
誰もがまつの指差す先を見る。そこには……。
光輝く巨大な円盤が浮かび、地上目掛けて何かを照射していた。
「金霊だ!」
一流が大声を上げる。
「見たか君達!私の言った通りだっただろう?さあ、行くぞ!私に続け!」
そう言うが早いか、金霊が何かを照射している地点に向かって駆け出していく一流。他の者達も慌てて本部長に続く。
本当にとんでもない御仁だ……。一流の姿を見て切にそう思うコウキであった。
金霊が照射する光は、とある洞窟に向かって降り注いでいた。
真っ先に洞窟の中に飛び込む一流。これまた慌てて後に続く一同。
「いいんですかね、何の用心もせず飛び込んじゃって……」
勢地郎が心配そうにあかねに尋ねる。だが当のあかねはほぼグロッキー気味だ。虚ろな目をしており、とても質問に答えられる状態ではない。
あかねに代わってバキが答えた。
「大丈夫なんじゃないかな。魔化魍の放つ殺気めいた気配は感じられないし。ねえ?」
そう言ってドキに笑いかける。ドキは無言で頷き同意を示した。
「バキさんやドキが言うなら間違いないな。俺達も行きましょうぜ、コウキさん」
そう言うとセイキも洞窟の中へと駆けていく。
セイキに向かって待って下さいと言いながらまつが後に続いていく。
コウキ達も仕方なく後に続いた。最後に、如何にも呆れたという感じのアカツキが洞窟の中へと入っていった。
既に先に洞窟内へ入っていたモチヅキが、コウキ達の姿を確認して話し掛けてきた。
「やあ、遅かったね。見てみなよ、あれ」
そう言ってモチヅキが指差す先を見て、コウキ達は息を呑んだ。
そこには、眩いばかりの大判小判が山積みになっていた。
「どう安く見積もっても国家予算並の金額だよ、これは」
そう説明するモチヅキの顔も何処か嬉しそうだ。
誰もがこの有り得ない光景を目の当たりにして、暫し立ち尽くしていた。そんな中、真っ先に動いたのは案の定この男だった。
「は、ははは……。金だ!やったぞ、これでうちは救われる!」
そう叫ぶと一流は大判小判の山に向かって飛び込んだ。飛び散る大判小判。
それを見て、洞窟内に歓声が起こる。そして他の者達も一斉に大判小判の山へと飛び込んでいった。
あまりにも大量の金は人心を狂わせる。人も、鬼も、皆金の亡者と化していた。
「こいつは凄いぜ!おい、退け!」
セイキがイッキを強引に押し退けて前に出る。それに抗議するイッキ。だがセイキは小判に夢中で一向に気に留めない。
怒ったイッキが強くセイキの肩を引っ張った。
「痛いじゃねえか!何するんだよ!」
セイキがイッキを突き飛ばす。それが全ての始まりだった。
まるでそれを合図にするかのように、あちらこちらで大判小判の奪い合いが起こったのである。主にスタッフやサポーター達の間でだが、中には「と」や鬼も混ざっていた。
「君達やめないか!ちゃんと特別ボーナスを出すと言っただろうが!」
一流が叫ぶも、誰も耳に入っていないようだ。叫び続ける一流であったがとうとう。
「何勝手に金くすねとるんじゃボケェ!しばくぞコラ!」
猛士総本部長にあるまじき暴言を吐きだしてしまう。
一方、きっかけとなったイッキとセイキの争いはますますエスカレートしていた。
鉄扇子を取り出すイッキ。
「お、武器を使うか。じゃあこっちも遠慮はいらないな!」
そう言うとセイキはわざわざ背負ってきていた音撃弦・黄金響を取り出して構える。全身金色で派手な「黄金響」も、山積みの大判小判の前では心なしか霞んで見える。
互いの武器で斬り結び始める二人。
「よさないか、この未熟者共が!鬼たる者が心を惑わされてどうする!」
「コウキさんの言う通りですよ!ドキさんからも何か言ってやって下さいよぉ」
まつに懇願されて、ドキが二人の元に歩み寄る。そして宥めようとするが……。
イッキの鉄扇子が勢い余ってドキの鼻に命中してしまう。鼻血を垂らしながら鼻を押さえるドキ。
「邪魔だ、どけぇ!」
今度はセイキの「黄金響」がドキの側頭部に命中した。衝撃で吹っ飛ばされるドキ。
「だ、大丈夫ですか!?」
まつが慌てて介抱に向かうも、ドキは自分からむくりと起き上がった。だが。
「ド、ドキさん……?」
ドキの目は、今までまつが見た事が無い程怒っていた。
ばらけた状態の七節棍を取り出すと、棍の形態に組み直して再び二人の元へと駆け寄る。
「はいィィィィィィィ!」
棍を構え、怪鳥音で威嚇するドキ。無口な彼がここまで声を張り上げるのも珍しい。結局、争いの参加者が増える羽目になってしまった。
イブキは父を止めようと必死だった。何せ一流は、近付く者全てをちぎっては投げちぎっては投げして暴れているのだから。
しかし、歳を取っているとは言え、武闘派で知られる父を一人で止められるとは思えない。
誰か手を貸してくれそうな人物はいないか、そう思って辺りを見回すイブキ。
と、近くで小判を手ににやついているバキの姿があった。彼に近寄り、手を貸してくれるよう頼むイブキ。
「放っておいた方が良いと思うよ?人の性なんてどうにもならないものだからさ」
軽く答えるバキ。
「そうはいかないでしょう?仮にも組織の頂点に立つ者があれでは……」
イブキとしては事情を知っているだけに、あそこまで取り乱す理由は分からなくもないが、それでも体面というものがある。
「それよりさ、この小判、今貰っちゃっても大丈夫だよね?これで梢江に何かプレゼントしようと思ってさ」
梢江というのはバキの彼女の名前である。
「バキさん、こんな時にのろけないで下さい」
「あ、ごめんごめん。イブキさんはまだ彼女がいなかったんだよね?でももう三十近いんだから、早く良い女性見つけた方がいいよ」
この一言にイブキの中で何かが切れた。
「バキさん……」
「あ、それとも内緒にしているだけで本当は既に付き合ってる人がいたりして」
無邪気な笑みでイブキを見るバキ。そこへイブキの鉄拳が炸裂した。
思わぬ一撃に文字通り目が点になるバキ。
イブキにとってこの話題は、勢地郎のような長い付き合いで且つ信用の置ける相手とでなければ話せない、まさに禁句なのである。そして怒ったイブキは手が付けられない。
「……あなたは踏み込んではならない領域に土足で上がり込んだ」
臨戦体勢を取るイブキ。いつもの冷静なイブキだったら、総合的な戦闘能力は猛士髄一のバキに喧嘩を売るなどという愚行はしなかったであろう。
「へぇ〜。まあ売られた喧嘩は買わなきゃね」
トーン、トーンとその場で軽く飛び跳ねるバキ。彼もまた臨戦体勢を取った証拠だ。
「今更ごめんなさいとは言うまいね?」
完全に戦闘状態に入ったバキが冷徹に言い放つ。
「ちょ、ちょっとイブキくん」
慌てて勢地郎が止めに入るも。
ガスッ!
イブキの裏拳が顔面に炸裂し、そのまま鼻血を噴き出して気を失ってしまう。
最早誰もこの二人を止める事は出来なかった。
「お前等ええ加減にせえよボケが!全員いてもうたろか、あ!?」
暴言もさる事ながら、物凄いペースで次々と群がる面々を薙ぎ倒していく一流。これにはコウキも危機感を覚えていた。
「このままでは不味いな……。あかねさんからも本部長に何か言ってやって下さいよ」
だが振り向くとそこにはあかねの姿は無く。
「コウキく〜ん、こっちこっち!」
その他大勢と一緒に大判小判の海で泳いでいた。
「これだけのお金があったら、開発局の研究予算も増えるわよ〜。最新鋭の設備だって導入出来るし」
そういえば以前宝探しに巻き込まれた時も、そんな事を言っていたような……。
「仕方がないね。本部長の御乱心は僕が止めてこよう」
そう言ってモチヅキが、大判小判の山の頂きで威嚇を続ける一流に向かって歩いていった。懐に大量の小判を詰め込んだ状態で。
モチヅキは音撃棒・残月を取り出すと、鬼棒術・渡り柄杓を放って一流達の目を眩ませた。
そしてすかさず一流に接近して腕を取り、何かを注射した。途端に倒れ込む一流。
「先生、何です?それ……」
「これかい?一種の精神安定剤だよ」
にこやかに答えるモチヅキ。
この人だけは敵に回したくないな、そう思うコウキであった。
ドキ、セイキと戦い続けていたイッキは、鉄扇子ではこれ以上の戦闘は不利だと判断し、音撃棒・霹靂を取り出して戦っていた。
「馬鹿者!鬼同士の私闘は禁じられているのだぞ。早く戦いを止めないか!」
コウキの怒声が洞窟内に響き渡るも、誰も止めようとしない。怒鳴るのに疲れたコウキは……。
彼等を放置してあかねと一緒に大判小判を拾い始めた。
真面目に振る舞っているのが馬鹿馬鹿しくなってきたのである。
大量の黄金は、時には強靭な精神を持つ鬼達をも虜にする。だが、当然ながら浅ましき者達には天罰が下るのであった。
バキと生身で格闘戦を行うという愚挙に出たイブキは、今更後には退けず、とうとう鬼笛を取り出して吹き鳴らした。
それが不味かった。
そこそこ広いとはいえ洞窟内である。変身の際巻き起こった暴風が、洞窟内の物を次々と巻き上げていったのである。勿論大判小判も。
悲鳴を上げ、必死で小判を掴もうとする面々。
だが。
今度はイッキが音叉を打ち鳴らしたのだ。彼の属性の雷が周囲にほとばしる。
金というのは電気伝導率が高い。空中に飛び散った大判小判は帯電し、風が止むと同時にそのまま人々の頭上に降り注いできたのである!
絶叫と共に次々と人が倒れていく。
次にセイキが鬼弦を鳴らした。眩い光が洞窟内に広がっていく。
大判小判がその光を受けて乱反射し、電撃にやられなかった者達の視覚を奪っていく。
そして最後にバキが変身したのだ。
彼の属性は熱。変身の際には大爆発が起こる。
爆発の熱量は洞窟内故に拡散せず、その場にいた全ての者を焼き払っただけでなく、洞窟の崩落をも促したのである!
数時間後、定時連絡が途絶えた事に不審を抱いた連絡係の報告で駆け付けたニシキやソウキ等のいる隊により、一流隊の面々は皆救出されたのであった。
ちなみに、一人だけ全くの無傷で救出された者がいる。
アカツキだ。
彼は一人だけ水晶の壁を作って電撃や爆発、崩れ落ちる天井等を全て防いでいたのである。しかも小判もちゃっかり拾えるだけ拾って。
当然ながら仲間内での彼に対する風当たりは滅茶苦茶強くなったのであった。
その後、中国支部に一時的に出向する事になったコウキは、五十年前にこの地に金霊が現れた件について支部長の東にそれとなく尋ねてみた。
すると、意外な答えが返ってきたのである。
「そりゃあんた私ですよ。馬鹿でっかいお金が空飛んでるのを見たのは」
「目撃していたのですか!?」
「それどころか大判小判をたくさん拾いました!あの時の興奮は今でも忘れられません!」
大袈裟な手振りも交えてそう喋ると、目の前のぼた餅をもがーっと食べまくる東。
五十年前、金霊の恩恵を授かっていたのは誰あろう東支部長だったのだ。
「尤も、殆んど戦争で失くしてしまったのですがね。戦争はいかんですよ。あれは腹が減るだけです。わっはっはっは……」
そう言って豪快に笑う東。それでも一生遊んで暮らせるだけの財は残ったのだという。この蕎麦屋も道楽みたいなものだと東はあっさり言ってのけた。
こういう人物には金の方から転がってくるのかと、ある意味納得するコウキであった。
少し時間は遡るが、金霊の一件があった日の翌日の晩、イブキと勢地郎は二人並んで土手に腰掛けていた。
「昨日は大変だったね、イブキくん……」
「うん。……怪我、大丈夫かい?」
昨日の洞窟内での裏拳について謝罪するイブキ。勢地郎は気にしてないよと笑いながら言った。
暖かい珈琲を飲みながらイブキが静かに語りだした。
「今回の一件でさ、近い将来僕も組織の長になる事に対して、ちょっと不安になってきちゃったんだよね……」
驚いてイブキの顔を見ようとする勢地郎。だが、星明りしかないこの場所では細かい表情までは窺う事が出来ない。
「でもさ、これは避けられない運命なわけだからさ……」
もう一度珈琲を一口飲み、話を続けるイブキ。
「『ミチビキ』。覚えてる?以前子どもにイブキの名を継がせた後、僕が名乗る名前は何が良いかなって話したのを」
その話は勢地郎も覚えていた。確か二年前だ。
「僕はミチビキと名乗る。猛士を、若い鬼達を導いていける、そんな男になるために敢えてこのコードネームを名乗るよ」
そう言うとイブキは照れ臭そうに笑顔を見せた。
それを見て勢地郎も笑いながらこう言った。
「その前に早く結婚して子どもを作らなきゃね、イブキくん!」
土手に二人の笑い声が木霊した。空にはオリオン座が輝いている。
その頃、イブキの実家では使い込みがばれた一流が妻にぶん殴られていた。
ちなみに金霊に関してであるが、コウキが現役を引退してからも研究は続けられた。
仮説として、ワニュウドウが炎の元素そのものから生まれているように、金霊も陰陽五行説における金の気が集まって生まれたのではないかというものが発表された。
金の気を集め過ぎて必要以上に肥大するのを防ぐべく、定期的に大判小判をばら撒いているのではないかともっともらしい事を言っている仮説だ。
何故金霊が存在するのか、その真相は誰も知らない。次に金霊が現れるのは2028年である。果たして次は何処に現れるのであろうか……。 了
金霊もまた、人の心を狂わす魔化魍なのかも知れない・・・・
238 :
高鬼SS作者:2006/05/27(土) 14:22:46 ID:OKyMA8JJ0
ちょっと表記がおかしい所に気付いたので訂正を。
>その後、中国支部に一時的に出向する事になったコウキは、
これを
>その後、まだ中国支部でのシフトを掛け持ちしていたコウキは、
に訂正します。どうもすみませんでした。
239 :
用語集サイト:2006/05/27(土) 18:30:01 ID:6ha8D/IT0
高鬼SS作者さんにしつもーん
読み方なんですが、確信が持てないのがいくつかあるので教えてください
音撃管・星屑(スターダスト?)
音撃鳴・十字軍(クルセイダース?)
音撃斬・熱斗破散(ネット破産?)
音撃射・殺伐嵐(サバラン?)
音撃射・波紋疾走(オーバードライブ?)
鬼闘術・白金世界(スタープラチナ・ザ・ワールド?)
鬼闘術・流星指刺(スターフィンガー?)
いや、元ネタだらけなのはよくわかってますが、それだけに気になって仕方ないんです
暇なときに気が向いたら教えてください
240 :
高鬼SS作者:2006/05/27(土) 19:11:51 ID:OKyMA8JJ0
>>239 もう全部そのまま漢字を読んじゃっていいです。
上から順に「ほしくず」「じゅうじぐん」「ねっとはさん」「さつばつあらし」
「はもんしっそう」「はっきんせかい」「りゅうせいしし」です。
確かに「装甲声刃」と書いて「アームドセイバー」と読ませる例もあるけれど、
流石にジョウキさんのは
>>239のように読ませるとあからさま過ぎですからw
>>224 遅くなりましたが読ませて頂きました。
今回も楽器・音楽関連が読み応えあって素晴らしいです!これからも頑張ってください。
242 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/05/27(土) 22:33:16 ID:+AqjnV9R0
一零四の巻「散華する楼鬼」 前編
ツラヌキの師匠、露鬼は死んだはずの恭子の父、楼鬼だった。
そう確信したサバキ、ツラヌキは待機していたフブキに急遽交代し、恭子を連れて駄菓子屋さくまへ赴いた。
「佐久間さん、事務局長は?」
「下で恵理香ちゃんたちと例の蒼いヤツを分析してるよ。もう5日も出てこないんだよ。」
心配そうな顔で佐久間は応えた。サバキはそうですかと言ってお辞儀すると足早に下に向かった。
「田所、少し話がある。」
「なんだ。手短に言えよ。」
「14年前の楼鬼の件だがな・・・・どうも筋書きが違うようだ。」
「なに?どういうことだ。」
「ツラヌキの師匠の本名・・・六十字禄兵衛だとよ。楼鬼も同じ名だったような気がするんだが?」
「・・・奴の遺体は見つかっていない。生存の可能性はあるな。沖縄へ行くのか?」
「ああ。恭子の家族を守れなかった罪滅ぼしにもなるしな。」
そう言い残すとサバキは上へと上がっていった。上ではツラヌキと恭子が待っていた。
243 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/05/27(土) 22:34:18 ID:+AqjnV9R0
「恭子・・・。お前の親父さん・・・生きてるかも知れないぞ。」
「え!?」
「俺とツラヌキは沖縄へ行く・・・。お前も来るか?」
サバキは恭子に手を伸ばした。父親の存在を確かめるに沖縄へ行くかどうかは恭子の自由。
だが自分の親の安否を自分で確かめようとしない者のためにサバキは行くつもりは無かった。
サバキが動く時・・・・。それは恭子の心が決したときだけだった。
「サバキさん・・・私、14年間も会ってない父親に会いに行くのは正直怖い。」
「・・・。」
「でもそれじゃ何も変わらない気がする。一度父さんに会ってみたい。怖いけど・・・会って、ちゃんと話してもらいたい。」
「・・・。」
「私・・・行く。」
恭子はサバキの手をつかんだ。その傍らで見ていたツラヌキが口を開いた
「サバキさん・・・尻に・・・。」
次の瞬間・・・シーサー型DAに噛まれた鬼の悲鳴がこだました。
244 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/05/27(土) 22:34:51 ID:+AqjnV9R0
山中。
フブキは辰洋と共に初体験バケガニの捜索活動をしていた。
「あ゛〜〜TDBに目ぇ通しときゃ良かったかな〜。」
「ちょ・・・フブキさんバケガニは初めてなんでしょ!?大丈夫なんですか!?」
「まぁ・・・何とかなるでしょ!・・・・多分。」
「その多分っていうの止めて下さいよ〜・・・不安になるでしょ〜?」
「えっと・・目には目をっていうから蟹には蟹を・・・キハダガニでいっかな。」
「・・・聞いてない・・・。」
どうやらこちらは弟子と師匠のメリハリがなくなってきているようである。
とりあえずキハダガニとルリオオカミ、リョクオオザルを起動させたフブキは炎天下の中、辰洋を地獄の修行メニューで鍛えることにした。
245 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/05/27(土) 23:03:45 ID:+AqjnV9R0
「ホラホラホラホラァ!!遅いんだよチミはさぁ!!」
地獄の修行メニューその@・・・。足場の悪い岩場で全力疾走。だが手抜きをされないように師匠がうしろからバイクやオフロードカーを走らせ、
脚力はもちろん、「火事場の馬鹿力」をいつでも発揮できるようにするという、フブキの師匠のそのまた師匠から受け継いでいる伝統的修行法だ。
「ホラホラホラァ!!まだまだこんなもんじゃねぇぞぉ!!」
地獄の修行メニューそのA・・・。師匠が狭窄で弟子の腹部を叩く。痛みに対して打たれづよく成ると共に、腹筋の力も鍛え上げられるこれまた伝統的修行法。だがそれを見たものは虐待や虐めと見間違えても無理は無かろう。
「ホラホラホラァ!!好きなだけ飲むがいい!!」
地獄の修行メニューそのB・・・。そこの深い湖や滝壺に突き落とす。弟子が休憩したいなど、弱みを吐いたときに行う。鬼ともなれば泳がなければならないときや敵に突き落とされることもある。
そのため泳ぎを会得する。水分補給を兼ねたフブキ代々の以下略。
「よーーし。ここでDA君らも戻ってきたところで、休憩を兼ねて再生してもらおうか。
地獄の修行メニューそのC・・・。半分のDAがもどってきたところで休憩をかねての再生を行う。
フブキと辰洋のすごし方とはこんな物であったのだ。
一零四の巻「散華する楼鬼」 前編
246 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/05/28(日) 04:57:11 ID:3XArz6Ej0
一零五の巻「散華する楼鬼」中編・T
鹿児島から沖縄へと向かう漁船上でサバキ、ツラヌキ、恭子。そしてむかし楼鬼と親しいランキが集まっていた。
「すまんなランキ。わざわざ忙しいのに付いてきてもらって。」
「いや、楼鬼が生きてるとあっては俺も行かないわけにはいくまい。それに熊本は弟子2人に任せてある。未熟者だがまず心配はいらんだろう。」
「ランキさん・・・お父さんとはどういう関係なんですか?」
「昔っから世話焼いてる。それだけだ。ベッピンさんを嫁にもらっても、子供が2人出来ても世話焼きなのだけは変わらなかった。だが・・・その反面世話好きでもあったな。」
ランキが目を細めて記憶を辿った。・・・・そういえば奴は・・・俺より先に音撃鼓を習得しやがったな・・・。だが弦ばかりを使いおって・・・。
ランキは楼鬼とは兄弟弟子にあたる。同時に炉鬼に弟子入りし、音撃鼓、音撃管、音撃弦を習得。楼鬼、爛鬼という名をもらい、独り立ちを果たした。
その後はどちらも好調のまま魔化魍討伐に尽くし、お互いで組むこともあった。あの日までは・・・・。
ランキの中で記憶がめぐった。
247 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/05/28(日) 04:58:22 ID:3XArz6Ej0
『爛鬼!家族を頼む!!』
『おい!!どうするつもりだ!!』
『俺は夫として親として・・・男として何もしてやれなかった・・・。最後に命をかけてでも守ってみせる。あとはヨロシク。な。シュ!』
楼鬼は額のところで敬礼ポーズを決めると魔化魍の口の中に入っていった。
『楼鬼ィ!!お前・・・!!そんなんじゃカッコ良すぎるだろぉ・・・!!勝ち逃げするんじゃねぇ・・・!』
『音撃斬!満開・・・!!』
刹那・・・魔化魍は爆発四散し、湖に映えた太陽がその塵を輝かせていた。そこには置いていかれた一人の鬼と散った桜が舞っているだけだった。
248 :
仮面ライダー風舞鬼:2006/05/28(日) 04:59:34 ID:3XArz6Ej0
ランキはっと我に帰った。
「ちょっと疲れが溜まってるようだ・・・少し寝させてもらうよ・・・。」
そう言うとランキは寝室へと入っていった。
このとき彼らは気づいていなかったであろうが無理は無い。
沖縄の地でワグマジの大群が発生していた・・・。
一零五の巻「散華する楼鬼」 中編・T
249 :
名無しより愛をこめて:2006/05/31(水) 07:22:59 ID:G3DxddZ80
活気がないから上げてみるよ
じゃあ、適当な話でも投下するよ。
2006年5月−
「たちばな」の二階でテレビを見るバンキ。
テレビでは日本代表のメンバーが発表されていた……。
淡々とメンバーの名前を呼び上げるヂーコ監督。
「タマーダ、ヤナギサーワ、タカハラ…」
やはり順当なメンバーだな。今回のサプライズはなさそうだ…。
そうバンキが思っていると意外な名前が。
「オーグロ、…ダンキ」
「えええええええ!」バンキの絶叫は柴又中に響き渡った。
その後の記者会見−
テレビ画面に映るヂーコ監督。
「久保とどっちか迷ったがパフォーマンスの良いダンキを選んだ。
久保は素晴らしい選手だが最高の状態ではない。ドイツではダンキに期待したい…
ただ、問題点があるとすれば、彼がサッカーを知っているかどうかだ。」
なら選ぶなよ!突っ込むバンキ。
テレビは切り替わり涙を流している久保の映像が…。
「今まで一緒にやってきたメンバーには頑張ってもらいたい」
ピッチに立てなくても日本代表に変わりはない。誰もが久保をそう思っていた…。
そしてテレビが切り替わり、画面に映るダンキ。後ろではショウキが照れくさそうにピースしている。
「あ?サッカー?知ってるよ。得意なポジション?ブランチだよ!自由って意味だろ?」
ブランチは十時のオヤツだろう!ボランチだ!それに自由はリベロだろ!
そもそもFWで召集されたんじゃないのか?!
そんなツッコミをしているとバンキの携帯にヂーコから直々に電話が掛かって来た。
なんか知らんがバンキはダンキにサッカーを教える事になった…。
そしてワールドカップ第一戦オーストラリア戦。
背番号02(鬼)を背負いドイツのピッチに立つダンキ…。
僅か数日でサッカーのルールを理解させ他の国に知られていない秘密兵器としてダンキは完成されていた。
持ち前の身体能力があればロナウド以上の怪物になるかもしれない…。
そんな期待を寄せるバンキはテレビの前で試合開始のホイッスルを待っていた…。
そして、ピッチに主審のホイッスルが鳴り響くと日本のワールドカップは始まった。
試合は一進一退の攻防でお互いに最高のパフォーマンスを発揮し名勝負となった…。
そして前半33分、日本のコーナーキック。
サントスの蹴ったボールは弧を描きダンキの元へ……。
ここだ!
高く跳躍し、渾身の力を額に込めたたき付ける。
ガギィ!という鈍い音と共にゴールへと吸い込まれる……柳沢。
え!?柳沢!?
なんとボールと間違えて叩きつけたのは柳沢の頭だった。
ボールは転々とサイドラインに逃げていく…。
選手と観客の見つめる先はゴールに引っかかっている血まみれの柳沢…。
「あ、あは、あはははは」ダンキはただ笑うしかなかった……。
結局、ダンキは味方を傷つけて、退場という前代未聞の処分を受けた。
日本もこの事件によりリーグ突破は出来なかった…。
それから数日後、バンキの元に一枚の新聞記事が。
「ダンキ!ハッスル参戦!!相手はインリン様!」
ちょっと見たい。
不覚にもそう思ったバンキだった…。
日本代表頑張れ!
予想スタメン
弾鬼 轟鬼
蛮鬼
鋭鬼 威吹鬼
響鬼 闘鬼
斬鬼 勝鬼 裁鬼
剛鬼
斬鬼さんが統率する最終ラインは強そうだが、右サイドの裁鬼さんが…。
ズレてるし…orz
255 :
高鬼SS作者:2006/05/31(水) 19:09:50 ID:pMX/bJWx0
ではこちらも適当な話を一つ投下します。
途中、野中英次ばりに「ふざけんなよ」と思われる箇所が出てくるかと思われますが、広い心でお願いします。
>元・ZANKIの人
色んな意味で勢いがあるなぁ、この話w
少年マガジンが代表選手の特集を組んだらその選手はトラブルに見舞われるというジンクスがありますが、
日本代表(と言うか宮本)には頑張ってもらいたいものです。
1978年、睦月。
正月七日も過ぎ、人々の生活も普段通りに戻った頃。
中国支部。
出雲蕎麦屋の店内では、店長兼支部長の東真一郎が「金」の佐野学と一緒に頭を抱えていた。
「その調査結果に間違いは無いんですか?」
東が何度目かの確認を佐野に行う。
「間違いありません。残念ながら……」
申し訳なさそうに答える佐野。
と、店内に入ってくる者があった。現在、中国支部のシフトを掛け持ちしているコウキだ。
コウキは店内の空気が微妙なのを察知すると、何事か尋ねた。
「君にこれから出てもらう所について店長と話していたんですけれどね……」
佐野が苦笑を浮かべながら話し始める。
「まあ結論から言うとツチグモが出たのですが……」
ツチグモならば関西にだって出るし、戦った事だってある。それの何処が不味いのだろうか。
「いやね、出た場所が問題なんですよ……」
佐野に代わって今度は東が話し始める。
「鳥取県と岡山県との境に人形峠というところがあります。これは伯耆民談記という本にある記述ですが、そこには昔、牛のように大きな蜘蛛が隠れ棲んでいたというのです」
その蜘蛛は旅人を襲っては食らっていたが、ある旅の者が作った女性の人形を生きた人間だと勘違いし、出てきた所を退治されたという。
「つまり、その人形峠にツチグモが出たと?」
「そうなんです。ただ、出てきた所が不味い」
再び佐野が話し始める。
「この人形峠は、昭和三十年代からウラン鉱山として採掘が行われていまして、当然ながら採掘用の坑道も幾つか残っています」
コウキは、段々相手の言いたい事が分かってきた。つまりツチグモの確認された場所というのは……。
「ツチグモはその坑道内を住処にしているようなんですよ。しかも、我々独自の調べでは通常の一万倍もあるラドン濃度の場所に……」
それの何が不味いかと言うと、早い話がそんな所に入ったら常人は高確率で被曝してしまうという事である。
「そんな所を住処にするとは、魔化魍はやはり生物であって生物でないのですね……」
佐野が感慨深げにそう言う。
「正直言って、たとえ鬼でもそんな所に入って無事で済むとは思えないのですが……」
コウキがそう答える。
鬼も魔化魍に近い存在とは言え、あくまでその本質は人である。そのような場所に入った場合、被曝する可能性は否定出来ない。
「だから困っているのです。ツチヅモは現段階では成長途中の筈です。つまり叩くなら今しか無いという訳です」
しかしその住処に入り込むには大きなリスクを伴う。
結局、コウキも交えて三人で悩み続ける事となった。
まず、童子と姫を倒し、餌を与えられなくなって腹を空かせたツチグモが出てくるのを待ち構えてはどうかという案が出た。
また、式神を大量に打って坑道内のツチグモを追い出すという案も出てきた。
だがどれも確実にツチグモが坑道内から出てくる保障は無い。
確実に外に誘き出す方法が必要なのだ。
思案の結果、コウキは一度総本部のあかねに相談してみる事にした。電話を借りて、研究室へと連絡する。
「もしもし」
あかねだ。コウキは早速今の状況について簡単に報告した。
「成る程ね。迂闊に入り込めない場所にいる魔化魍を確実に誘き出す方法か……」
しばし考え込んでいたあかねは、おもむろにこう提案した。
「伝承にある方法を使ってみたらどうかしら?つまり人形を使って外へと誘き出すの」
「人形ですか?」
「ただの人形じゃないわ。動く事が出来る物を使うの」
それはつまりロボットという事だろうか?しかしアシモフや星新一の小説に出てくるような物が今の技術で造れるというのであろうか?
「そりゃ鉄腕アトムみたいなのは造れないわよ。リモコンで動く……そう、鉄人28号を簡単にしたようなやつを造って使用するの。悪くないでしょ?」
そしてあかねは今すぐ戻って来いと伝えた。
「私やここのスタッフだけじゃ時間が掛かるから、あなたの手も借りたいの。あの言霊マイクを二時間で作ったあなたの腕が必要なのよ」
そう言われると断るわけにはいかない。コウキは東に事情を話すと、大急ぎで吉野へと戻っていった。
コウキが研究室に入った時には、既にあかねが幾つかの図面を引き終えていた。
「早かったじゃない。まさに中国大返しね」
羽柴秀吉が明智光秀を討つべく中国地方から信じられない早さで戻ってきた故事に因んで、そう表現するあかね。
「これがロボットの設計図ですか?」
「そう。さあ、早速造るわよ。もう制作準備は出来てるからね」
そう言うとコウキに白衣を手渡すあかね。
そして二人は図面を手にロボットの製作に取り掛かった。
ロボットは調整やテスト等も含めて、三日以内に完成した。
「我ながら良い仕事したなぁ〜」
満足気に自分達の発明を眺めるあかね。
そして、運搬用のトラックに同乗してコウキは再び中国支部へと向かった。
開発中、ツチグモの童子と姫はツワブキが倒したとの報告が佐野から寄せられていた。残るは問題のツチグモだけである。
直接現場へ向かうと連絡を入れてあったので、コウキを乗せたトラックは雪の積もる山道を通り、峠の入り口へと辿り着いた。
入り口にはサポーターの八雲礼二と、ロボットのサポートとして「銀」の太田豊太郎が待っていた。
ここから先は車が通る事は出来ないので、ロボットを連れて三人で歩いていく事になる。
「お待ちしていました、コウキさん」
早速ロボットを見せてほしいと懇願する豊太郎。コウキはトラックの荷台からリモコンを使ってロボットを降ろした。
そのロボットは、実に精巧に出来ていた。
「これは凄い……」
「まるで生きているかのようだ……」
伝承の通り、そのロボットは若い女性の姿をしていた。そして本当に生きているかのように見えた。
二人の感想を聞いて実に満足そうなコウキ。だが。
「強いて言えば、その……」
「下半身……ですかねぇ」
そう。このロボット、腰から下がキャタピラになっているのである。これでは上半身がどんなに精巧でも意味が無いような気がする。
「無茶を言うな!例え本部の技術を持ってしても、二足歩行のロボットがそう簡単に造れるわけがないだろう!太田くん、君なら分かるだろう?」
「ええ、そりゃあ分かりますよ。僕も数年間独逸に留学していましたが、向こうでもそこまでの技術はありませんでしたから……」
「ですが、これで誘き寄せられるのでしょうか……」
八雲が心配そうに言う。いくら魔化魍でも、下半身がこんな形状では人でないと看破されるのではないだろうか。
「大丈夫だ。私達本部の人間の腕を信じろ!」
そう言うとコウキはロボットを連れてさっさと歩いていってしまった。
ツチグモが巣くう坑道の傍へとやって来た三人は、まずロボットのバッテリーを交換し、続いて内蔵してあるカメラの映像を見るためのモニターの設置を行った。
「うむ、カメラの具合はばっちりだな」
ロボットの視点からの映像がモニターに映るのを確認したコウキは、リモコンを使い、ロボットを坑道へと向かわせていった。
「そういえばあのロボット、何て名前なんです?」
「名前か……。そういえば全然考えていなかったな」
八雲の問いにそう答えるコウキ。ずっとロボットと呼ぶのも不便な気がする。
「女性型ですし、女性の名前を付けてみてはどうでしょう。例えば……エリスなんてどうです?独逸留学時代に知り合った女性の名前ですが」
豊太郎が提案する。別に拒否する理由も無いので、ロボットは便宜上「エリス」というコードネームで呼ぶように決まった。
「エリスか……。だったら今回の作戦名は『オペレーション舞姫』というのはどうでしょうか」
今度は八雲がそう提案した。おそらく森鴎外の小説から取ったのであろう。
「君達、ひょっとして遊んでないかね?」
コウキが二人を睨み付ける。尤も、支部長からしてあれなのだから仕方が無いのであろうが……。
真っ暗な坑道の中を、内蔵してあるライトで照らしながら進んでいくエリス。
豊太郎がスピーカーのスイッチを入れた。エリスの集音マイクが拾った周囲の音をこれで確認するが、キャタピラの音ぐらいしか聞こえてこない。
「何も見えないし何も聞こえませんね」
豊太郎が呟く。
「だがここに居るのは確実なのだろう?だったら根気よく探すまでだ」
とは言うものの、バッテリーの残量の問題もあるし、長時間の探索は出来ない。
「どうするんです。ここの坑道は長いですよ」
「うぅむ……。幾らなんでもこれ以上奥に引っ込んでいるとは思えないのだが……」
誰もが諦めかけたその時、ライトの中に影が映った。食い入るようにモニターを凝視する三人。
坑道の幅一杯に広がる巨体が、モニターの中に映りこんできた。ツチグモだ。
「見てください。明らかに威嚇していますよ。唸り声が聞こえる」
「よし。どうやらエリスに興味を持ったようだな」
すぐさまエリスを元来た方向へと猛スピードで後退させるコウキ。ツチグモは八本の足をしゃかしゃかと動かして後を追ってきた。
「うわっ、追ってくる!エリスの視点で見ているから物凄く怖い!」
豊太郎が悲鳴にも似た声を上げる。
と、ツチグモが何かガスのようなものを吹き付けてきた。
「何だこれは?ツチグモが糸以外の物を出すなんて聞いた事が無いぞ」
次にツチグモは従来通り糸を吐いてきた。
「糸が来ます!でも勿論対策は用意してあるんですよね?」
「当然だ」
しかし糸は見事にエリスに絡み付いてしまう。それを強引に引っ張るエリス。ぶちぶちと派手な音を立てて糸は引き千切られた。
「……力任せですか」
それは対策と呼ぶのであろうか。
「コウキさん、バッテリーは大丈夫なんですか?」
「今のフルパワーでかなりやばくなった筈だ!くそ、もうちょっと!」
所詮三日で拵えたロボットである。ここまでやれただけでも上出来と言うべきだろう。だがそれでは意味が無い。
坑道内を爆走するエリス。それを追うツチグモ。そして。
「見えた!肉眼でもエリスが確認出来ますよ!」
八雲が坑道の入り口を指差す。確かに、そこにはエリスの、そしてツチグモの姿があった。と、次の瞬間。
おもいっきり突っ込んできたツチグモが、エリスを弾き飛ばした。渾身の体当たりを受けて宙を舞うエリス。
碧い瞳のエリス(挿入歌)
作詞 松井五郎 作曲 玉置浩二 歌 安全地帯
なくした夢は 碧い海の色
あなたにそっと うちあけたい
ひとりきりを 忘れるように
どんなに悲しいことも わたしに伝えて
あなたの瞳のエリス みつめかえして
数秒後、エリスは音を立てて地面に激突し、スクラップと化した。
「うおおおお!エリスが、エリスがぁぁぁぁ!」
絶叫する豊太郎。
「……独逸に居た頃、何かあったのかね?」
あまりにも取り乱す豊太郎に疑問を投げかけるコウキ。
坑道の中からツチグモがのっそりと這い出てきた。さっきまで暗い坑道内に居たため、太陽の光に目が眩んだようだ。
「好機到来だな」
音叉を鳴らして変身すると、高鬼は音撃棒・大明神を手に突撃していった。
高鬼の姿を確認すると、先程同様ガスを吹き付けてくるツチグモ。跳躍して回避する高鬼。
「またか。一体このガスは何だ?」
「もしや……」
慌てて八雲が、豊太郎の持ってきていた鞄の中からある装置を取り出し、スイッチを入れる。途端に装置はけたたましく鳴り響きだした。
「やっぱり!不味いです高鬼さん!そいつが吐いているガスには放射性物質が含まれています!」
「何だと!?」
慌てて距離を取る高鬼。
そう。このツチグモ、坑道内に居る時にそこにあったウラン残土を食べていたのだ。
何故そのような事をしたか理由は不明だが、お蔭で放射性物質を含んだガスを精製して内部に溜められるようになったのである。
「物凄い放射線数値だ。浴びたら確実に被曝しますよ!」
「くそっ!一難去ってまた一難か!」
普通に爆砕するのとは異なり、音撃は魔化魍を清めて大地に還す技だ。ツチグモの体内に取り込まれた放射能も一緒になって清められる。しかし。
(迂闊には近寄れなくなったぞ。さあどうする?)
可能性として、背中を向かせるのが一番の方法であろう。ガスは口からしか吹く事が出来ないと仮定しての話だが。
と、その時である。
大破したかに思えたエリスが再び動き出したのだ。そしてツチグモの注意を惹き始める。
見ると、豊太郎がリモコンを手にエリスを操縦していた。
ツチグモがエリスに向かって糸を吹き掛けた。丁度高鬼に背を向ける形になっている。
「今です、高鬼さん!」
豊太郎が叫ぶや否や、ツチグモの背に飛び乗った高鬼が、音撃鼓・紅蓮を貼り付けた。
「音撃打・炎舞灰燼!」
清めの音が、雪の積もる山中に木霊する。そして、爆発。ツチグモは塵となり、風に舞って消えていった。
壊れたエリスを回収し、三人は帰途に着いた。
エリスを載せたトラックを先に本部へ帰したコウキは、報告のため八雲の車に乗って中国支部へと向かった。
「しかし驚きました。まさかツチグモがあんな能力を身に付けているだなんて……」
未だに信じられないといった口調で八雲が言う。
後部座席に座っていたコウキは、助手席の豊太郎に話し掛けた。
「なあ、そろそろ話してくれないか?君とエリスという女性との間に何があったのかね?」
「それは僕も聞きたいなぁ。あそこまで取り乱す以上、何も無かったなんて言わせないですよ?」
同じく八雲が詰め寄る。それに対して豊太郎はただ一言。
「悪いけど、そればっかりは墓場まで持っていくつもりなんで……」
そう言うと窓を開けて煙草を吹かし始めた。
その日の晩も、案の定東の用意した酒と料理で宴会となるのであった。 了
挿入歌の所で、むせたw
266 :
風舞鬼、トモさん、瑠璃公の作者:2006/05/31(水) 22:40:57 ID:SbebfHdh0
>ZANKIさん
ワールドカップネタですか!
なかなか面白かったです。
後半戦、裁鬼ポジションは交代で石割・・(裁殴
かなり前にチラッと予告した瑠璃公ですが、全力で妄想中ですよ〜!
トモさんの方はちょいと詰まってます・・・・DA年中行事さんの設定とは
多少異なるかも知れないす。
267 :
DA年中行事:2006/05/31(水) 23:11:55 ID:qEksITmY0
・・・この時間に帰宅して「うわ、今日早いじゃーん」とか思う自分がイヤな最近のオレです。
おひさしぶりです。
新作が投下されていて嬉しいかぎりです。じっくり読んでないんで感想書けなくてゴメン遊ばし。
梅雨入っちゃうよ梅雨。次回は梅雨が明ける前に、短編で。オリジナル鬼だけの話になりそう
です。
そうか、瑠璃公は風舞鬼SSさんだったのか。楽しみに待ってますよ。トモさんの話も気長に
待ってますので、ご自分のリズムでマタリと書いてください。
明日、朝6時集合などと言われて現実逃避中です。DC版も近所のコンビニに届いてるってぇ
のにまったくもっていつ鑑賞できることやら。うふふふふあははははorz
皆さん盛り上がってますねー。
俺のとこはまだ次の話が完成しないので、繋ぎとして「中四国支部歌」を投下。
猛士中四国支部の歌
歌/猛士中四国支部音劇隊
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出雲の里を吹き抜ける 歴史の風よ 連綿と
はるか過去から受け継いだ 我らの音を乗せてゆけ
森を 谷を 川を 海を この目の届く限りまで
父よ 母よ 友よ 鬼よ 力をあわせて救おうか
島根の山を照らし出す 歴史の光 燦然と
現在(いま)のこの世も変わりなく 我らの技を磨くため
岡山 鳥取 広島 山口 呼ぶ声あれば何処へでも
香川 愛媛 徳島 高知 力をあわせて助けよう
神のふるさと 大社(おおやしろ) 歴史を秘めて 煌々と
未来に繋ぐその使命 我らの道は鬼の道
鼓(つづみ)を、管を、弦を、鳴らせ 清めの音で魔を祓う
里の平和 人の命 力をあわせて守ろうか
用語集サイトに「ジェバンニ」が追加されていた為に思わず一時間で作りました。
−ZANKI外伝JEVANNI−
鬼の鎧を破壊され、トドロキの鬼弦を奪って逃走した後の朱鬼…。
「運良く、鬼弦を奪えたから良かったが何故DA如きに鬼の鎧が破壊された…」
「鬼の鎧ならここに有りますよ。」突然背後から声がした。慌てて振り向く朱鬼。
そこには鬼の鎧とよくわからない外国人四人がいた。
「はじめまして朱鬼。私の名前はニヤと言います」
白い服を着た少年が髪の毛を弄りながら言う。
「もう十年以上も前ですか…ザルフ…いえ、先代ザンキがこの世を去ってから
日本のアカネ ナグモから我々に連絡が来ました」
ニヤは服の中から少し黄ばんだ封筒を取り出し朱鬼に見せる。
「ザルフがこの世をさった最大の原因はマカモーに襲われた事でした。
ですが、何故そうなってしまったのでしょうか?」
ニヤの言葉に反応する朱鬼。
「記録では弟子であるザオ−マル ザイトゥハーラを守ったとなっていますが、
普段のザルフなら二人とも無傷で助かっていたはずです。なぜザルフは重症を追ってしまったのか…」
レスターと呼ばれている男はアタッシュケースから数枚のレントゲン写真を取り出す。
「これはザルフのものですが、胸に大きな傷跡があります。これは重症を追う直前のものです。
こんな状態ではさすがのザルフも思うように動けません。」
朱鬼は不適な笑いを浮かべてニヤたちを睨む。
「私がやったとでもいいたいのか?」
「いいえ、この傷はマカモーによって出来たものではありません。鬼が関わったとしか考えられません。
ですが、今となっては証拠などありません。まあ、アカネ ナグモは犯人を決め付けていましたが…」
ニヤも不気味な笑みを浮かべて朱鬼を見る。
「それから数年間、アカネ ナグモが犯人だと思っていた人物を調査しました。
そして、私たちは証拠を集め、犯人を特定しました」
再びもう一枚の紙切れを取り出す。
「丁度、その頃でした。私たちの調査協力をしてくれていたアカネ ナグモから情報が入りました。
その犯人が鬼の鎧を狙おうとしていると…」
「事前に罠を仕掛けて捕獲する事も考えました。しかし、あなたはあらゆる呪術に長けている。
罠などすぐに気付きそのまま消えてしまうでしょう。そこで私たちはあえて鬼の鎧を盗ませて泳がす事にしました。
鬼の鎧を手に入れたのならば、きっと大きな行動にでるはずです。そうなれば、発見する事はそんなに困難な事ではなくなります。
けれど、その為には鬼の鎧をにせものと摩り替える必要がありました。霊力の宿った鎧です。簡単に複製などはできません。
ですが、少しの間だけ本物と同じ能力を有する物であれば急造の物でも誤魔化せると考えました。かなり困難な作業でしたが、
複製から交換までジェバンニが一晩でやってくれました。やれるかどうか不安でしたがジェバンニはできると言ってくれました。
ジェバンニのお陰です」
朱鬼の顔は怒りと屈辱に満ちていた。
「なるほど、だからサバキを倒す事ができたのだな…」
冷静に答えるが明らかに悔しさが滲みでている。
「申し訳ありませんが、サバキさんには捨て駒になってもらいました。ですが、
そのお陰であなたは鬼の鎧をにせものだと疑おうともしなくなり、さらに大胆に行動しました。
その為、私達はこうやってあなたを見つけることができたのです。」
懐から証拠になる写真を取り出すニヤ。
「我々が本気になれば、鬼の一人など簡単に消せます。ですが、それでは私たちは納得しません。
ザルフと弟子が味わった、心と体の苦しみを味あわさないと気がすみません。」
そういうとニヤは証拠の写真をライターで燃やした。
「なので証拠を突きつけ、法で裁く真似もしません。私たちはあなたに制裁を加える人物を決め、
その者が動くように仕向けました。裁きはその者に下してもらいます。」
それだけ言うとニヤたちは煙幕をたき、煙と共に消えていった…。
−数時間後−
再び変身をしてノツゴを倒した斬鬼は、死にいく朱鬼の願いを受け摘んだ花で朱鬼に死に化粧をする。
その様子を遠くから見つめるニヤたち。
「アキラ アマミが現れた為に計画は大分ずれましたね」
「ハル…アキラ アマミやイブキが現れた事だけでは、ザンキに止めを刺させる計画には支障はなかったはずです」
「それでは何故計画が狂ったんですか?」
髪を弄くりながらニヤは言う。
「それは私のミスです。ザオ−マル ザイトゥハーラを過小評価してました。彼は例え悪だとしても、
人の命を奪う愚かな事をするような人物ではなかった……常に冷静で正しい選択をする事ができる男でした。
まあ、あのザルフの弟子であれば当然の事だったのかもしれません…」
朱鬼を花で埋めるとザンキはその場から立ち去った。それを待っていたかのように朱鬼の手足は見る見る内に老いてゆく……
「今思えば、仇を討とうなどというのは単なる私のエゴでした…。人の命だけでなく心まで救う…
ザルフの口癖でしたね。そんな事を忘れてしまうなんてまだまだトレーニングが足りません。
二代目Zを名乗るのはまだ先のようですね…。」
だが、ニヤは同じザルバトーレの魂を継いだものが、師のように温かい男であったこを嬉しく思っていた。
ザンキ・ザルフ・Z。いつの日か三人が一同にそうような事があってもいいかもしれない…そう期待を抱くニヤであった。
「ところでレスター指揮官。この後のギロッポンでの打ち上げのお店は取れましたか?」
「それが…私の携帯はどうやら海外で使えないみたいで、まだ何処も取れてません。」
ガン!5メートルほど蹴り飛ばされるレスターであった。
と、まあ、完全にパクリなんでw
DAが破壊できた鎧に裁鬼は負けたのかと言う意見がありましたが、
ジェバンニがすり替えた偽物ならば納得はいくのでは?(いかねぇよなぁ…)
時代的に合わないですが、おそらくジェバンニという名も襲名制なのではないでしょうか?
ところでJEVANNI?JEBANNI?どっち?
274 :
風舞鬼、トモさん、瑠璃公の作者:2006/06/02(金) 00:08:02 ID:ZKd/26fH0
一零六の巻「散華する楼鬼」中編・U
ツラヌキたちは沖縄に着いた。
港から2kmほど離れた宿、「宿屋めんそーれー」の前で止まった。
「ここが、沖縄支部・・・師匠の住んでいるところです。」
「お父さん・・・この中に・・・。」
「まだそう決まったわけじゃあ無い。焦るな。」
「・・・だが沖縄の露鬼とこちらの楼鬼の顔写真を比べたところほぼ同一人物だろう。・・・訳ありかもしれん。冷静に対応しろ。」
サバキの発言にランキが意見したところで一行は建物に入っていった。
そこには数人の板前。主と女将と思しき人物が立っていた。
「どうも、ツラヌキです。」
「おお!ツラヌキ君か!まっとったよっ!九州の皆さんもどうぞこちらへ!」
275 :
風舞鬼、トモさん、瑠璃公の作者:2006/06/02(金) 00:08:42 ID:ZKd/26fH0
主の壇三郎が一行を上へと招いた。この宿は3階立てで出来ており、屋根は橙色の瓦にツノを生やしたシーサー。周囲には砂塵を防ぐための防砂林が密生しており、いかにも沖縄の建物といった感じだった。
その最上階の一番奥の部屋に招かれた一行は戸を開けてみた。そこには短い髪。額には深い皺が数本。青い浴衣。そして鍛え上げられた両の腕を足の爪切りに費やしている男がいた。それはまさしく恭子の父、楼鬼だった。
「ロキくん。御客人だよ。」
主がそう話しかけると男はあわてて爪切りを小物入れに収め、正座をした。
「久しぶりだな・・・・ロウキ。十年ぶりだと思うんだが・・・。」
サバキは部屋の入り口からそう男に語りかけ、値踏みをするような眼で睨んだ。
「ロウキ?人違いではないですか?私はあなた方とは初対面のはずですが・・・。」
その発言に今度はランキが割って入った。
「おい!ふざけるのも大概にしろ!いったい十年間、何処で何やってたんだ!」
「ランキ、もういい・・・。ツラヌキ・・・」
276 :
風舞鬼、トモさん、瑠璃公の作者:2006/06/02(金) 00:09:51 ID:ZKd/26fH0
影で隠れていたツラヌキが出てきた。ロキと名乗る男はその姿を認めると、目を光らせた。
「ツラヌキじゃないか!おまえ、九州に行ってたんだろう?一体どうしてここにいる?」
「師匠・・・この方たちは、昔師匠とともに魔化魍を倒してきた仲間です。そしてこの女の子は・・・師匠の娘さんです。師匠は記憶喪失になっていると、吉野の医療関係者から判子が押されました。」
「・・・・何だと?・・・・・俺が?」
一零六の巻「散華する楼鬼」中編・U
277 :
風舞鬼、トモさん、瑠璃公の作者:2006/06/02(金) 12:00:45 ID:ZKd/26fH0
やべw
名前変えるの忘れてましたwwww
>まとめサイトさん
一応・・・わかってるとは思いますが、このレスは作品外ですよ〜(^^;)
>>268 その歌なんか俺的かっこよさのツボにきた
279 :
高鬼SS作者:2006/06/03(土) 22:45:54 ID:MPiWZyBF0
初めてこのスレに投下した「気高い歌」。
今回の話はあの四十匹の巨大魔化魍が現れた時、コウキ以外の鬼が何をしていたのかを書いています。
まあたまにはこういうのも有りかな、と。
それではどうぞ。
1975年、夏。
この日、関西支部では古の鬼により封印されていた四十匹もの巨大魔化魍が一斉に蘇り、関西支部の精鋭を相手に大暴れをしていた。
結局そのうちの三十匹が高鬼の繰り出す言霊によって清められたのだが、関西支部の精鋭が集まってたった十匹しか倒せなかったというのは少しおかしくないだろうか?
勿論全員がこの事態に出撃出来たわけではない。既に別の地域で任務遂行中だった鬼だっているのだ。
だが、二人程私的な都合でこの戦いに参加していなかった者がいる。この二人がいればもう少し戦いも楽だったであろう。
バキとイッキである。
では、あの時二人は何処にいたのであろうか。実は。
……ハワイだったりする。
遡る事数ヶ月前。1975年四月に行われた恒例の「花見の会」。
この年は酔ったコウキのせいで途中でお開きになったのだが、その席上で行われたビンゴ大会でバキが優勝し、景品であるハワイペア旅行を手に入れたのである。
そして出発当日。伊丹空港のロビーには大きなトランクを持ったバキとイッキの姿があった。
本来、バキは恋人の梢江と一緒に旅行に行く予定だった。だが梢江の方が突然の都合で旅行に行けなくなってしまい、チケットを無駄にするわけにもいかず、急遽イッキが誘われたのである。
「……何で男二人でハワイに行かなくちゃならないんでしょうかね」
ロビーにいるのは、殆どが家族連れや恋人同士である。
「だってビンゴ大会の時、凄くハワイ旅行を欲しがってただろ?」
それを覚えていたから、バキはわざわざイッキを誘ったのだ。
「あれは僕も彼女と一緒に行きたかったからですよ」
「でも文句を言う割に顔は嬉しそうだけど?」
「それはそうですよ。僕達のような仕事をしていると、そうそう海外になんて行けませんからね」
時間になり、搭乗手続きを済ませて機内へと向かう二人。
この時二人は、念のために持って来ていた音叉と音撃武器が役に立つ時が来るとは夢にも思っていなかった。
ホノルル国際空港へと降り立った二人の鬼。だが、今にも泳ぎに行きそうなぐらい元気なバキとは異なり、イッキはかなり辛そうである。
「……機内じゃ羨ましいくらいぐっすり寝ていましたね、バキさん」
「一睡もしなかったのか?」
「はい……。最近夜のシフトが多かったせいか、夜中の二時過ぎにならないと眠くならなくて……」
時差の影響で日本が午前二時の時、ハワイは午前七時である。イッキがさあ一眠りしようとした瞬間、窓の外から朝の光が思いっきり射し込んできたのだ。
結局、一睡もしないままイッキはハワイの地に降り立ったのである。
「悪いけどそれは自業自得だね。どうする?ホテルのチェックインまでまだ時間があるけど」
「……大丈夫です。当初の予定通りレンタカーを借りて観光に行きましょう。少し車中で寝させてもらいますが……」
とりあえず二人は空港の近くでレンタカーを借り、島内の観光に向かった。
バキの借りたキャデラックは、真珠湾、ワイキキ水族館、ホノルル動物園と回っていった。二人とも空港で貰ったレイを掛け、アロハシャツを着ている。
これらの場所では、二人とも童心に返って心行くまで楽しんだ。
そして今二人はアラモアナ・ショッピングセンターで買い物を楽しんでいる最中である。
「キャデラックの後部座席の寝心地はどうだった?」
「あ〜、やっぱり高級車だなぁと思いましたね」
二人とも自分や関西支部の同僚達への土産を次々と買っていっている。
「ブランド品の免税店へは明日行こう。梢江に御土産を頼まれているからさ」
「バキさんもですか。僕もなんですよ。彼女に沢山買ってくるよう言われちゃって……」
まあお互い頑張ろう、そう言うとバキは笑い出した。イッキも一緒になって笑った。
その夜はハワイアンショーを満喫し、美味しい食事に舌鼓を打って就寝した。
翌日、二人は朝早くから観光に出かけた。
強風で有名なヌアヌ・パリ展望台を見物し。
「うわっ、凄い風だな。あ、見なよ、あそこのおじさんのカツラが風で飛んでいったぞ!」
「バキさん、駄目ですよ!指を指したりしちゃ……」
ダイアモンド・ヘッドに登り。
「絶景だな、頂上からの眺めは。ワイキキが一望出来る」
「そういえばベンチャーズの曲にありましたね、ダイアモンド・ヘッドって」
カメハメハ大王像を見学した。
「これが有名な、え〜っと……ハメハメハ大王だっけ?」
「カメハメハ大王ですよ……。何です、その妙に卑猥な名前は。勝手に創造しないで下さいよ」
まあ翌年のNHKの「みんなのうた」で本当にそんな名前の曲が世に出るわけだが……。
そして午後から待望のワイキキビーチでのマリンスポーツである。
遠浅の海を心行くまで泳ぎ続けるバキ。
「余程沖の方まで行かないと、足が着いちゃうな」
サーフィンに挑戦してみるイッキ。
「やっぱりハワイに来た以上これでしょう!サーフィンUSA!」
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
「バキさん、そろそろ行きましょう。早く免税店に行かないと……」
サーフボードを抱えたイッキが、バキに呼びかける。だがバキは遥か遠くの水平線をただずっと眺めていた。
「どうしました?」
「君は何も感じないのか?もっと鍛錬を積んだ方が良いと思うよ」
視線を水平線の彼方に向けたまま、バキはそう言った。
「どういう事です?」
「……今夜にでも何とかした方が良いな。行こう。船を借りに行かなくちゃ」
そう言うと海から上がっていくバキ。慌てて彼の後を追うイッキ。
「説明して下さい。いきなり船だなんて……」
「……このビーチに近付いて来ているのが分かる。おそらくこっちの魔化魍だよ」
そう言ってバキは再び水平線上を見やった。
何とか船を調達する事に成功した二人は、夜中にホテルを抜け出して海へと急いだ。
そして船に乗り込み、沖へと向かっていく。
「音叉や武器を持ってきていて正解でしたね」
「ああ。油断はするなよ。海外の魔化魍は日本のもの以上に気が荒く、大きな個体が多いらしい。……昔親父がそんな事を言ってた」
「先代バキさん……、『地上最強の生物』の異名を取る伝説の鬼ですね」
軽く頷くバキ。だがそれ以上の事は決して語らなかった。イッキもまた、それ以上話を振る事は無かった。
風も無い穏やかな海だ。空には月が輝いている。しかし彼等は、その静寂とは対極に位置する荒ぶる存在と戦うべく船を進めている。
「しかしバキさん。僕達が勝手に動いて大丈夫なのでしょうか?聞いた話では海外にも猛士のような組織があると……」
下手に自分達が動いて、万が一国際問題にまで発展するような事になったらどうするのか、イッキはそれだけが不安で仕方なかった。
「うん。まあそれは後で考えよう。だってさ、俺達は戦士だろ?目の前に敵が現れたんだ。戦うなと言う方が無理じゃないか」
そう言ってにっこり笑うバキ。
そして船は、嫌になるくらい邪悪な気配が漂う海域へと遂に踏み込んだ。
船の破損を防ぐべく、まずイッキが海面へと跳び込み音叉を鳴らした。彼の周囲に雷が降り注ぐ。
次にバキが音叉を鳴らして海面に跳び込んだ。変身時に発生する大量の熱で水蒸気が立ち込める。
二人の鬼は、それぞれ刃鬼、壱鬼へと変身を終えた。
「刃鬼さん……」
「もう近くまで来ているぞ。油断するな」
立ち泳ぎをしながら刃鬼は、音撃棒・常勝を取り出して構えた。壱鬼も同じく音撃棒・霹靂を取り出す。
「二人揃って海の中にいるよりは、一人船に戻った方が良い。頼めるかい?」
「分かりました」
刃鬼に言われた通り、船へと戻る壱鬼。
一瞬のような、それでいて永劫のような静寂の時間が流れた。と、その時。
「来たッッ!明かりをッッ!」
刃鬼に言われて、慌てて壱鬼が船に積み込んでおいたライトを使い海面を照らす。
そこには、二十メートルはあろうかという巨大な烏賊の影が浮かび上がっていた。
「い、烏賊ですか?」
「まあ日本にもアヤカシっていう烏賊の魔化魍がいるからね。……あれ?蛸だったっけ?帰ったらあかねさんにでも聞いておこう」
アヤカシは太鼓の鬼が担当する魔化魍である。そのアヤカシに似ているという事は、この烏賊の化け物にも太鼓が効くのであろう。二人は、自分達が太鼓使いである事に感謝した。
突然、烏賊が急速浮上して襲い掛かってきた。十本の腕を伸ばして攻撃してくる。
「刃鬼さん!鬼棒術・天火!」
二本の「霹靂」の鬼石に、電球が発生する。二つの電球はばちばちとけたたましい音を立てながら、烏賊の腕目掛けて高速で飛んでいった。
天火が命中した二本の腕が海中へと引っ込んだ。だがまだ八本も残っている。
そのうちの一本が刃鬼に襲い掛かってきた。
「鬼闘術・爆熱掌ッッ!」
触腕を右手で掴む刃鬼。高熱を帯びた右手によって掴まれた箇所が、じゅっと音を立てて焼ける。
さらに手に力を込め、触腕を握り潰す刃鬼。驚異的な握力だ。
全ての腕が海中に引っ込んだ。潜って本体に攻撃を仕掛けようとする刃鬼。だが烏賊は墨を吐き、自らの姿を隠してしまう。
「逃げる気か?壱鬼くん、海中に電撃を流せェッッ!」
「いいんですか!?」
「俺は大丈夫!鍛えてるからさ!」
言われるままに海中に「霹靂」を突っ込み、電撃を流し込む壱鬼。
激しい光が海面を包み込む。そして。
海面に泡を立て、巨大な烏賊がとうとうその全容を現した。
その巨体にすかさず接近し、音撃鼓・無敗を貼り付ける刃鬼。
「刃鬼さん!大丈夫ですか!?」
電撃の事もあるが、何より踏み込むための足場が無い海上で太鼓を叩けるのだろうか。
「大丈夫!それより君も音撃鼓をッッ!」
既に刃鬼は音撃打の体勢に入っている。壱鬼も船の上から烏賊の体の上へと飛び乗り、音撃鼓・万雷を貼り付けようとする。
「うわっ、ぬるぬるする!」
これでは踏ん張る事が出来ない。まだ刃鬼のように海中に飛び込んで仕掛けた方が良いかもしれない。そう判断した壱鬼は、刃鬼が「無敗」を貼り付けた箇所の裏側に飛び降りた。
烏賊の体に貼り付いた「万雷」が、相手の大きさに合わせて巨大化する。
そして。
「準備は良いか、壱鬼くん!国士無双の型ァッッ!うおおおおおおッッ!」
「行きます!音撃打・電光石火!」
両者の音撃が烏賊の巨体を包んでいく。腕を動かし、暴れ狂う巨大烏賊。
その一撃が壱鬼を弾き飛ばした。
「まだまだぁ!」
慌てて元の場所に戻り、音撃打の続きを行う壱鬼。
水中での音撃という事もあって、思うように叩く手に力を入れる事が出来ず、二人は何度も弾き飛ばされながら十数分も音撃鼓を叩き続けた。
「そろそろ倒れやがれェェェェェェェッ!」
刃鬼が絶叫と共に一撃を叩き込む。それと同時に巨大烏賊の体は爆発四散し、海の藻屑と消えた。
「終わったぁ……」
精根尽き果てた二人はそのまま仰向けになり、海面にぷかぁ〜っと浮かんだ。
空では月が、最初見た時と多少位置は変わっているものの、相変わらず優しい光を放ち続けていた。
翌日の飛行機で二人はハワイを後にし、帰国後そのまま吉野総本部を訪れた。
「こんにちは〜。あかねさん、いますか?」
真っ黒に焼けたバキとイッキが揃って研究室へとやって来る。土産を渡すためだ。そこには案の定コウキがいた。だが、どうもかなり不機嫌なようである。
コウキはバキとイッキの顔を見ると、途端に烈火の如く怒り出した。
「二人とも今まで何処に行っていたのだ!」
「え?いや、ハワイに……。ちゃんと休暇届けは出していましたけど……」
「何故こんな大事な時にハワイなんぞに行っていたのだ!恥を知れ!」
一体何をそんなに怒っているのだろうか?
と、そこへあかねがやって来た。
「あ、あかねさん。これ御土産です。マカデミアナッツチョコ」
「私の話を聞け!」
本当にコウキが怒っている理由が分からない。イッキがあかねにその理由を聞いた事で、二人は初めて自分達の留守中に起きた出来事を知った。
「折れちゃったんだ、コウキさんの『劫火』……」
「バキさん!それにイッキ!君達二人がいてくれたら私はここまで苦労する事が無かったんだ。そこをちゃんと理解しているのか!?」
「でも結果的に全部退治したんでしょ?大型魔化魍の一日での撃墜記録も大幅に更新したみたいだし……。ねえ、イッキくん」
「そうですよ。結果オーライなのではありませんか?」
だが何を言ってもコウキの方は聞く耳持たずといった感じだ。
「大体、それってただの言い掛かりでしょ?俺達がこの日にハワイに行くって事はコウキさんだって知っていたじゃないですか」
このバキの一言がコウキを完全に怒らせた。
「馬鹿者!バキさんが相手だし穏便に済まそうかと思ったが、もう我慢の限界だ!二人とも尻を出せ!」
そう言うと机の上に置いてあった警策を取り上げるコウキ。
結局、コウキの理不尽な怒りによって二人は帰国早々酷い目に遭ったのであった。
余談だが、二人がハワイで退治した烏賊の魔化魍は現地ではカナロアと呼ばれるものであった。
ハワイ・ポリネシア地域では昔から邪神として伝承に語り継がれてきた種であり、船を襲撃したり津波を起こしたりする凶暴な魔化魍である。
そしてもう一つ。
バキとイッキはカナロアの一件ですっかり免税店に行くのを忘れていたのである。
バキの方は許してもらえたらしいのだが、ブランド品を大量に注文されていたイッキの方は全く許してもらえず、それがきっかけでとうとう別れてしまったのだという。
別れの際、イッキはコウキにやられて痛んでいた尻を思いっきり彼女に蹴られてしまったらしい。しかも街中で。
悶絶しながらも必死で彼女を呼び止めようとするイッキ。その姿を哀れそうな目で見る通行人。
色々な意味で高い旅行になってしまった。涙ながらにそう思うイッキであった。 了
挿入歌「俺が立花勢地郎だ!」
歌 下條アトム
誰が何といっても俺は
俺は勢地郎 立花勢地郎だ
仮面ライダー 裁鬼ライダー
猛関東支部の支部長だ
裁鬼設定上はものすごい奴
裁鬼あいつはムテキ(ある意味)な奴さ
そしてこいつは弱いんだ
290 :
名無しより愛をこめて:2006/06/06(火) 19:32:34 ID:QS2APaTV0
>>289 おお。今回もクオリティ高いですなあ。「白狼!」にしびれますたw
お久しぶりです。
暫くこれない間に、SSが多数投下されていて読みごたえがありました。
さて、自分が書かせてもらっている弾鬼SSですが、ココ暫くリアルの方で立てこんでいた為に投下できなかったのですが
ようやくSSに取り掛かることが出来ましたので、近日中にでも投下させて頂きます。
ただ、予告した内容より少ないので、呼び戻る声(中)は2回に分けての投下となると思います。
ご了承ください。
元・ザンキSSさん
相変わらずの角度のSSでした。お腹一杯ですw
そして・・ダンキとショウキに大笑いしましたw
高鬼SSさん
挿入歌のシーン、スローモーションで宙を舞い、地面でスクラップになるシーンが頭の中に。
エリスと豊太郎君の間には一体何が?w
中国支部SSさん
音楽と言う方面からのアプローチがとても素晴らしく、そしてコナユキが可愛すぎますw
弾鬼SSさん
楽しみに待ってますよ。
293 :
作者より:2006/06/07(水) 22:45:50 ID:rBpRch320
<作者より>
どうも皆さん、いろいろ書かせてもらっている者です。
あえてどの作品を書いているかは伏せますが、時期に分かることとなりましょう。
今回は「劇場版仮面ライダー響鬼と七人の戦鬼」に出てきたご当地ライダー5人(歌舞鬼、凍鬼、西鬼、羽撃鬼、煌鬼)を題材に物語を綴っていきたいと思います。
ほとんどが僕自身の「この鬼はこうであってほしい。」という願いが投影されており、劇場版とは一味違った
「もう一つの劇場版」を一人ひとりのキャラクターごとに付けていきたいと思います。
それではまずは「大泥棒のニシキ」から投下したいと思います!
NISHIKI.
7人の仲間と共に大蛇を清め、村人たちから感謝の視線を受けた大泥棒の背中は牢獄の柵に向いていた。
「チクショー!!ワイは久々に良いことしたのに・・・・なんでこんなトコにおらにゃあかんのやーー!!」
そう・・・彼は夜中忍び込んだ呉服店で物色中に店の当主に見つかってしまい、不覚にも御用となったのだ。
前々から悪事を働き、斬首刑の最中で逃げ出してしまっていたニシキは、奉行所の判決も無しに即、斬首が言い渡された。
「クッソ!!こうなったら絶対に抜け出してやるからな!!」
ニシキは飯を持ってきた役人に悪態をつくと、むしゃむしゃとわずかな穀物、味噌汁と大豆の煮物を食べた。
「チッ!大泥棒はもっと丁重にあつかえ!」
「お兄ちゃん・・・もしかしてあのニシキ?」
ニシキの向かいの牢に入れられた、みすぼらしい格好の少年がニシキに問いかけた。
「ああ!ワイは天下一の大泥棒、泣く子も黙るニシキさまや!!」
「じゃあ、なんでこんなところにいるの?」
・・・・耳が痛いなぁ・・・。
「そ・・・そんなこと、どうでもええやろう!お前はなんでここにおるんや!?」
「ウチんとこの母ちゃん、病気で寝込んでるんだ。お医者様に診てもらったけど、ある薬がいるらしいんだ。でもウチにはそんな金はない。だから、薬屋に忍び込んでその薬を盗もうとした。だけど、帰る途中で・・・」
少年の頬に一筋の涙が垂れた。
「母ちゃん、そんなに具合悪いんか?」
「うん。お医者様が言ってたけど・・・もう一月も持たないだろうって・・・・」
ニシキは少年を哀れに思った。帰る途中で捕まったのなら、母親はきっと心配しているに違いない・・・。ニシキは覚悟を決めた。鬼としての役目が、ニシキの心を目覚めさせ始めたのだ。
「よしっ!ワイがなんとかしちゃろう!大丈夫!この大泥棒に任せておけ!」
そういうとニシキは眠りに着いた。
夜。巡回に来た役人の足音でニシキは目を覚ました。
ニシキは大泥棒の勘を働かせ、かねての作戦を決行することにした。
「なぁ、兄ちゃん。この大泥棒がどねいして今まで捕まらずにおったか・・・聞きたくないか?」
ニシキは役人に話しかけた。役人は腰をおろすとニシキの耳もとで囁いた。
「アンタはもうすぐ首を刎ねられて死ぬ。大泥棒の自伝なんざ、そうそう聞けるもんでもない。話の種に聞いておこうか。」
「あんちゃん、話が早いなぁ〜。よっしゃ、ワイが今まで捕まらずにおれたんはな・・・コイツのお陰や。」
そういうとニシキは音叉をとりだし、鬼へ変化した。
「お・・鬼ィ!?」
驚いた役人を見向きもせず、牢をぶち壊したニシキは役人の股間に拳を喰らわせ、鍵を奪い取ると寝ている少年を牢から出した。
人間体に戻ったニシキは役人をニシキの入っていた牢に入れると、鍵をして閉じ込め、さっさと寝ている少年をおぶって逃走した。
「ん??あのお役人、どっかで見たな・・・・」
「うそ〜〜ん。・・・こんなことあり?」
その役人は前にもニシキに股間を殴られていた。
296 :
DA年中行事:2006/06/09(金) 19:32:06 ID:bstXLyoW0
劇場版SSさん、メ欄の「mage」てw
よーやくDC版DVDを見られそうなので、それと合わせて楽しみにしていますよ。
あわわわわ、梅雨入りしちゃった。てなワケで近日投下します。
どうにも雨で気が滅入りがちなもので、薄ら暗いSSになりそうなヨカーン!
297 :
劇場版の人:2006/06/09(金) 20:40:01 ID:OQqvejmL0
>>DA年中行事さん
僕の作品はほとんど後日談の方向です。
故に僕自身の文がよければそれなりに楽しんでもらえると思います。
今の方向ではおそらく
歌舞鬼=????
凍鬼、煌鬼=DC版見て思いついたお話。
羽撃鬼=恋愛モノ♪
西鬼=あることに目覚める。
という風にしていこうと思います。ご期待ください!
それではNISHIKI.の続きを!
前のレス
>>294
298 :
劇場版の人:2006/06/09(金) 20:40:45 ID:OQqvejmL0
ニシキは少年をおぶって駆けていた。
少年は目を覚まし、しばらく状況が飲み込めずにいたが、だんだん分かってきたようだ。
「ニシキ!?・・・・もしかして逃げ出したの!?」
「お前、誰に向かってそんな口きいとんのや!今からな、お前を家に送っていく。せやけど、道が分からん。暗くてもお前なら分かるやろ。」
「お前って言うな!俺には立派な名前がある!」
少年はムカっとしてニシキの背中で跳ねた。だがニシキはその脚を鈍らすことも無く廻らせていた。
「ほぉお!聞いておこうか、その立派な名を!!」
「十崎、陣麒!」
「そりゃあ確かにすげぇ名前だな。似合ってないことこの上ない!」
次の瞬間、ニシキの後頭部に陣麒の拳が鈍い音を立てて命中した。
早朝。なんとか昨晩のうちに陣麒の家についたニシキは朝飯をたっぷり母親に食わすため、一人川へと山へと歩いた。
「そういやぁ、ヒビキが言っちょったな。山魚は臭いけど山菜とあわせて食うと、体に良いって・・・」
そんなことを呟きながら、ニシキは山へと向かった。朝早いだけあって、霧が辺りを制していた。
ニシキは道を見失わないように気をつけながら、水の音がする方向へ進んでいった。少しあるくと、湖があった。
299 :
劇場版の人:2006/06/09(金) 20:42:24 ID:OQqvejmL0
ニシキはその水辺に腰を下ろすと、イブキの治める城下町でくすねた釣竿と籠を引っ張り出した。そのあと地面に手を突っ込むと、ミミズを捕まえ、釣り針に突き刺した。
「ゴメンな。これも生きるためなんや。」
そう手をあわせるとニシキは湖に糸を垂らした。カラクリ動物を起動させて暇つぶしをしようとしたが、その間も無く、竿は震えた。
「おっ!早くも来たか・・・!」
バシャァ!姿を現したのは少し大きめのナマズとドジョウがかかっていた。
「ヨッシャ!とりあえず、2人の分はこれでいいか。」
その後、ニシキは山菜や薬草を採って陣麒とその母の待つ家にもどった。
「どうや!これだけあればとりあえず今日は食えるでえ!」
そういうとニシキは得意の包丁さばきで朝飯を作った。
「母上にはちょっと多いかもしれへんが、魚もある。粥もある。山菜も摘んできた。少しづつでええから食ってくれ!」
「あの・・・本当になんていったらいいか・・・ありがとうございます・・・。」
母親はやつれた顔でニシキに礼を言った。ニシキはなんだか照れ臭い思いだった。
「まぁ・・・ええってことよ!それに・・・俺にはまだやらなきゃならんことがある。礼はそれまで待ってくれ。」
ニシキは密かにあることを決意していた。
ニシキは母親の看病をしていた。陣麒は日中はほとんど働きに出ていて、戻ってくるのはいつも昼と夜。
「・・・こんなことを聞くもんでもあらへんが、夫は・・・陣麒の父親はどないした?」
「・・・・三年前に、流行病に倒れました・・・。そのとき陣麒の姉、麟華も・・・。」
「なるほどな。道理で歳の割りにしっかりしとるわけやな。それじゃあ、母方はご主人と娘が亡くなったあと、女手一つでアイツを育てたわけか。」
「はい・・・。でも近頃は・・・私の方があの子に養ってもろうとるようなもんです・・・。」
「ハハハ・・・そうやな。せやから、母方には早う、元気になって貰わんとな。」
そう高らかに元気付けると、ふとニシキは母親の右手が気になった。この家に来たときからその右手が開いたところを一度も見たことが無かった。
もしやと思い、やせ細った右腕を手にとって右手を開くように促した。
母親は右手をすこしづつ開いて見せた。するとそこには大蛇の村でみたのと同じような黒い文字が刻まれていた。
「・・・・・『邪』か・・・。」
右手に刻まれた邪の文字は、生贄の印だった・・・。
「こんなところにも・・・・・魔化魍が・・・。」
次の瞬間、手のひらの邪の字が一気に赤く染まった。すると母親は咳が激しくなり、うつ伏せになると嘔吐した。
「そんな・・・!おい!大丈夫か!?おい!しっかりせぇや!」
「ニシキ!!どうしたんだよ母さん!!」
「陣麒!コイツは薬じゃ治らん!この病を治せるのは・・・・鬼だけだ・・・!!」
「鬼ィ!?」
「いいか陣麒、良く聞け!!俺は鬼や!母ちゃんを治せるのも俺だけや!今から俺は病の原因を清めてくさかい、それまでここでじっとしとれ!分かったか!?」
「本当に・・・本当に鬼なの?ニシキが・・・・・・鬼ぃ??」
「ああ。必ず戻ってくる。必ずお前の母ちゃん、助けたるわ。」
「うん・・・わかった・・・!」
「じゃあな、ちょっとまっとれよ!!」
ニシキはそういうとボロ家を飛び出、カラクリ動物アカネタカを起動させた。
茜い翼が虎を乗せ、山へ向かって飛んでいった。
301 :
高鬼SS作者:2006/06/10(土) 01:12:39 ID:3+4NZc0V0
とりあえず一本出来たのでワールドカップ中継見ながら投下。
キャラ付けのため京都弁を喋る新キャラが出てきます。
一応調べながら書いたのですが、もし怪しい箇所があったらスマソ。
>用語集サイト様
高鬼SSは馬鹿みたいに鬼や魔化魍の数が多いですから大変だと思われます。更新、楽しみにしております。
吉良三兄弟の解説は笑いましたw いっそ彼等三人の前日譚を書いてみようかなと思ったりw
ドクハキの解説を読んで、作者のくせに「何て酷い奴なんだ」と思いましたw
ところで「魔化魍」のオオクビの解説の一番下の文章、ひょっとしてウブメのものなのでは?
>まとめサイト様
高鬼SSの「舞い踊る人形」と「南海の死闘」が直接飛べないのですが…。
あとよく見たら「吉良家の一族」の投下日が23日ではなく13日になっているので修正をお願いします。
1977年、師走初旬。
中国支部の表の顔である出雲蕎麦屋の店内で、コウキとツワブキはテーブルを挟み、向かい合って座っていた。
ツワブキは蕎麦を食べ、コウキは雑誌を読んでいる。支部長兼店長の東真一郎は暇そうにカウンターで頬杖をついている。
と、そこへ「金」の佐野学が慌ててやって来た。
「て、店長!レンキさんが帰ってくるそうです!」
その言葉に、蕎麦を食べ終えたばかりのツワブキの顔色が変わる。
「レンキ姐さんが帰ってくるんですか?」
「そうです。今さっき彼女から連絡があって、もう間もなくこちらに着くと……」
佐野の答えに、慌てて席を立つとそのまま店を出て行こうとするツワブキ。
「ご馳走様!お代はツケでお願いします!じゃあコウキさん、僕はもう行きますから!どうかお気をつけて!」
ツワブキは決めポーズを取ると、まるで逃げるように駆け出していった。
一方東はというと。
「そうですか。あの娘が帰ってきますか。これで暫くは退屈しないで済みます」
そう言ってにこにこと笑う東。
「店長ったら……。今はコウキさんみたいに関西、四国、九州支部から応援に来てくださっている方々が沢山いるんですよ?何か騒動が起きる前に手を打たなきゃ……」
「あの、今ひとつ事情が飲み込めないのですが……」
コウキが二人に向かって尋ねる。ツワブキが帰り際に言った「気をつけて」の意味も理解出来ない。
そう言われて、漸く佐野が説明を始めてくれた。
「カブキさんっていう名前の鬼は御存知ですか?」
「ええ。確かうちのニシキの先祖と一緒に戦国時代に活躍した鬼だったかと……」
「カブキの名も代々続いているわけです。今は何処の支部に配属されているのかちょっと覚えていませんが……。その名を襲名出来るのは一人だけですが、弟子は何人でも取れるわけです。彼女は先代カブキの弟子なのです」
佐野がそこまで話した時、入り口の戸が開けられ、一人の女性が入ってきた。着物に袴という出で立ちの、大和撫子然とした美人である。
「レ、レンキさん!早かったですね」
この女性がレンキなのか。コウキは彼女の姿をじっと見つめた。
四国支部のコンペキは凛とした美しさを湛えていたが、今目の前にいる彼女の場合は、柔らかい美しさとでも言うのか、そんな印象を受ける。
「佐野はん、お久し振りどす。店長はんもお元気そうで何よりやわぁ。あら、そちらの方は?」
「関西支部所属のコウキです。それは京ことばですよね?」
「そうどす。うち、昔は京都に住んでましたんよ」
「私の知り合いにも京都出身の奴がいます。ですが、今の私のように場合によっては他地域へ出向する事もありますから、基本的に標準語で喋るのが慣例なのでは……」
そういう命令が出ているわけではないのだが、基本的に各支部の鬼は標準語で話す。方言が出るのは酒に酔った時や家族・友人と話す時、激昂した時ぐらいである。
「コウキさん、彼女はね、それで一年間北陸支部へ出向していたんですよ。さっきまでね」
「あちらの方達は、えろう親切にしてくれはりましたわ。これ、御土産どす」
そう言って手に提げていた袋を佐野に渡すレンキ。
「ほほう、向こうの銘菓ですか。佐野くん、お茶を頼みます」
御土産を開けてみて、甘いもの好きの東が喜びの声を上げる。
その後、佐野が淹れてきたお茶を飲みながら、四人で話し込んだ。
「向こうではぎょうさんええ体験をしてきましたわぁ。色んな鬼さんにもおうてきたし」
楽しそうに北陸支部での土産話に花を咲かせるレンキ。
コウキはこっそり佐野に耳打ちしてみた。
「一体彼女の何処に気をつけろと言うのです?」
「すぐに分かりますよ。ほら」
そう言って目配せする佐野。レンキの方に視線を向けると、彼女は喋りながらもじっとコウキの方を見つめていた。とろんとした目線で。
「あの、何か物凄く変な目で見られているのですが……」
「彼女はね、惚れっぽいんですよ。少しでも気に入った相手にはとことん惚れ込む。しつこいくらいにね。私も太田くんも、八雲くん達サポーターも、ツワブキくん達鬼も、皆一度は彼女に追い掛け回されているんですよ……」
佐野が申し訳なさそうにコウキにそう告げる。
「ええ男やわぁ……」
そんなレンキの呟きがコウキの耳に入った。
数日後、岡山へ出撃するコウキを、何故か八雲と一緒になってレンキが待っていた。
「すみませんコウキさん。彼女がどうしても一緒に出撃したいと言い張って……」
「嬉しいわぁ。コウキはんと一緒に魔化魍退治に行けるやなんて」
「……まだ私は連れて行くとは一言も言っていないのだが」
「こうなってしまった以上あなたの意思は関係ありません。諦めて下さい」
八雲が本当に申し訳なさそうにそう告げた。おそらく彼も以前このような目に遭っているのだろう。
嬉々として車の後部座席に乗り込むレンキ。仕方なくコウキは車の助手席に乗り込んだ。
魔化魍の出現地点は、岡山県北部の貧しい寒村がある山岳地帯である。
佐野が現地の「歩」から得た情報と、自分で調べあげた気象条件等から推測して、現れたのはノヅチではないかと思われている。
「それがほんまやったら、えろう厄介なのが出よったなぁ」
レンキの言う通り、ノヅチは実に厄介な魔化魍なのだ。
ノヅチは人間だけでなく、あらゆる生物を食らい、最終的には三十メートル以上もの個体に成長するという。残された文献によると、ノヅチによって村の二つ三つが一晩で壊滅した事もあるらしい。
そんな強大な魔化魍故に何十年に一回出るか出ないかとされている。それがここ中国支部で湧いてしまったのである。
だが。
「気をつけて下さい。佐野さんの報告では、どうもノヅチ以外の魔化魍も同時に湧いている可能性があるようですから……」
八雲が心配そうに言う。
「何かあったら『歩』の人と一緒に村人の避難誘導を頼むぞ」
コウキに言われ、「はい」と頷く八雲。
火打ち石を鳴らす八雲に送り出され、二人は山奥へと入っていった。
二人が山に入って暫くすると、雪が降り始めてきた。
「急ごう。早くベースを設営しなければ……」
と、突然レンキが番傘を差し掛けてきた。
「お入りやす」
こうして二人は相々傘のまま歩いていった。
「……一ついいかね」
「何でっしゃろ」
微笑みかけてくるレンキ。
「私なんかの何処が良いのかね?」
「そうどすなぁ。強いて言えば声でっしゃろか」
コウキのその声を聴く度に痺れてしまうのだという。自慢の声を褒められて、コウキの方も悪い気はしなかった。
その後、適当な場所を見つけ二人で仮設キャンプを設置し、式神を放った。幸い、雪は式神の運用に支障の無い程度の強さである。
二時間ぐらい経った頃、何枚かの式神が戻ってきた。
「ノヅチの居場所は不明だが、童子と姫の所在は掴めたようだな」
「ほな、行きましょか」
そう言うとレンキは、相変わらず和装のままなのにさっさと式神の導く方へ行ってしまった。
雪の積もる山中を歩く事十数分。目の前に童子と姫が現れた。鬼が二人も現れた事を知り、あっという間に怪童子、妖姫に変身する。だがその姿は。
「む、これはヤマビコの童子と姫か」
「ノヅチ以外の魔化魍は、ヤマビコやったんどすなぁ」
変身と同時に近くの木の上に登っていってしまう怪童子と妖姫。樹上から仕掛けてくるつもりだ。
「ここはうち一人でも充分どす。コウキはんは見てておくれやす」
そう言うと変身音叉を取り出し、近くの木に当てて額に翳すレンキ。それと同時に上から怪童子と妖姫が襲い掛かってきた。
その瞬間、レンキの体から火柱が吹き上がった。避ける事も出来ずその身を焼かれる怪童子と妖姫。
炎の中から鬼面の戦士が現れた。名を、仮面ライダー恋鬼。
「命短し人よ恋せよ。人呼んで女傾向、恋鬼とはうちの事どすえ」
名乗りを上げ、見得を切る恋鬼。
怪童子と妖姫が同時に飛び掛ってきた。それを躱すと、恋鬼は撫子色の鬼石が付いた音撃棒を構えた。音撃棒・鯔背(いなせ)だ。
「行きますえ!」
目にも留まらぬ早さで「鯔背」による連続突きを妖姫にお見舞いする恋鬼。止めと言わんばかりに、側頭部に上段回し蹴りを叩き込んだ。
その姿に、思わずコウキも感嘆の声を漏らす。
「鯔背」から炎が噴き出し刃と化した。鬼棒術・恋火剣だ。
「はいっ!」
掛け声と共に思いっきり前に踏み出し、恋火剣で妖姫の喉を貫く恋鬼。激しく血を噴き出しながら妖姫は地面に倒れ、そのまま枯葉へと変わった。
と、一瞬の隙を衝き怪童子が恋火剣を奪い取ってしまった。怪童子の手の中で刃は消滅し、元の「鯔背」へと戻ってしまう。
「あらぁ、手癖の悪いお猿さんやなぁ。お仕置きや。しばき倒したろ」
「鯔背」を手にした怪童子が跳びかかってくる。恋鬼は全く慌てる事も無く、地面に置いておいた番傘を拾い上げると、怪童子の眼前でそれを広げた。
突然視界を傘で塞がれ、攻撃の時機を見失う怪童子。その隙を衝き。
「ギッ!」
もう一本の「鯔背」から出した恋火剣で怪童子の腹部を貫く恋鬼。
怪童子が「鯔背」を手から落としたのを確認すると、駄目押しに口から鬼法術・鬼火を吹き出して焼き払ってしまった。
焼け崩れる怪童子の傍から「鯔背」を拾い上げた恋鬼は、成り行きを見守っていたコウキに向かってこう告げた。
「な?うち一人で大丈夫やったやろ?」
それに対しコウキは一言。
「着物のまま変身して良かったのかね?それなりに高そうだったが……」
「うち、実家が呉服屋なんよ。コウキはんも一着どうどす?」
そう言うと顔の変身を解除したレンキは笑顔を見せた。
その日は結局ノヅチもヤマビコも見つからず、そのまま夜になり、就寝する事となった。雪はもう止んでいる。
「ほな、寝まひょか」
「私は起きて火の番をしていよう。君一人で寝るといい」
「いけずやわぁ。うちと一緒がそないに嫌なん?」
「そういう訳ではない。だが誰かが起きていないといけないのも事実だ」
すると、珈琲を入れたカップを手に、レンキがコウキの横に座ってきた。
「ほんならうちも今夜は徹夜や」
「何を馬鹿な……。君は変身して戦っているのだぞ。大人しく寝なさい」
だがコウキの言う事を素直に聞く筈も無く、レンキはぴったりと寄り添っている。
(参ったな……)
コウキは頭をくしゃくしゃと掻いた。
明け方、結局途中で眠ってしまったレンキが目を覚ますのを待つと、コウキは僅かながらも仮眠を取った。
目が覚めた頃には、既に昨日放っておいた式神が全て戻ってきており、それをレンキが確認していた。
「コウキはん、当たりどすえ」
レンキが嬉しそうに一枚の式神を手にしてみせた。
二人が現場に駆けつけた時、そこでは目を見張るような光景が展開されていた。
七メートルはあろうかというヤマビコを、それより一回りも巨大なノヅチが食らっていたのである。ノヅチはあらゆる生物を食べて成長する。同じ魔化魍とて例外ではないのだ。
二人の目の前に、ノヅチの童子と姫が姿を現した。見る見るうちに怪童子と妖姫に姿を変えていく。コウキとレンキも互いに音叉を鳴らして変身した。
「童子と姫は頼めるか?」
「任せておくれやす」
恋鬼に怪童子と妖姫を任せ、高鬼はノヅチの傍へと近付いていった。
(ここまででかくなっているとは!)
高鬼の目の前で、ノヅチがヤマビコを食べ終えた。心なしか、その分また大きくなった気がする。
芋虫に似たその巨体を、高鬼の方に向けるノヅチ。前面に付いた巨大な口を開けて高鬼目掛けて突っ込んできた。
「うおおっ!」
間一髪で回避するも、さっきまで高鬼が立っていた場所は地面がそっくり抉り取られていた。
「まさに化け物だな」
こんな奴を人里に出すわけにはいかない。音撃棒・大明神を構える高鬼。
「破っ!」
鬼棒術・小右衛門火で仕掛けるも、今一つ効果が無いように見える。再びノヅチが襲い掛かってきた。それを躱す高鬼。
(持久戦に持ち込むか……)
相手の攻撃を躱し続け、疲れた所を音撃で一気に決める事にした高鬼は、ちょこまかと動きながらノヅチの攻撃を次々と避けていく。
暫くそうやっているうちに、明らかにノヅチの動きが鈍くなってきていた。
疲れてきている。好機到来だ。
だが、ノヅチは高鬼ではなく、未だ戦闘中の恋鬼に狙いを定めてきた。
「恋鬼、危ない!」
「え?……きゃっ!」
跳躍し、ノヅチの攻撃を躱す恋鬼。その攻撃に巻き込まれ、怪童子と妖姫が食われてしまう。
「恋鬼!同時に仕掛けるぞ!」
「はいな!」
それぞれノヅチの巨体に飛び乗ると、高鬼は音撃鼓・紅蓮を、恋鬼は音撃鼓・神楽舞を貼り付けた。そして。
「喰らえ!音撃打・炎舞灰燼!」
「行きますえ!音撃打・花恋吹雪(はなこいふぶき)!」
両者の鳴らす清めの音が、雪の積もる山中に木霊した。そして、爆発。ノヅチの巨体は大量の枯葉となり大地へ舞い落ちた。
と、まるで時機を計っていたかのように空から雪が降ってきた。
「戻ろう。急いでベースを片付けて麓まで下りるんだ」
顔の変身を解除した二人は、その場を後にした。
中国支部へと戻ると、店内ではテーブルを挟んで東と長い黒髪の女性が話し込んでいた。
四国支部のコンペキだ。
彼女もコウキ同様、中国支部への出向要員として定期的にここを訪れているのである。
「お帰りなさい、コウキさん」
笑顔でコウキ達を迎え入れるコンペキ。
と。
「あらぁ〜。ええ笑顔してはりますなぁ」
レンキがあの時と同じ、とろんとした目でコンペキを見つめている。
「うち、レンキ言います。よろしゅう」
「あ、私は四国支部のコンペキです。よろしく……」
唐突にコンペキの隣の席に座るレンキ。
「お疲れ様です。もうレンキさんに付き纏われる事はありませんよ」
いつの間にかコウキの隣に立っていた佐野がそう告げる。
「あの、どういう事なのです?」
「言いましたよね?レンキさんは少しでも気に入った相手にはとことん惚れ込むって。今のレンキさんはコンペキさんにお熱なわけです」
「え?しかし……」
「あの人が惚れる対象に年齢や性別は関係無いんですよ。思い込んだらそれ一筋。うちの支部の人間全てが一度は彼女に惚れられ、振り回されているんです……」
そう言う佐野の表情から、彼も以前レンキに振り回されて酷い目に遭ったであろう事が見てとれる。
「コウキさんは良い方ですよ。まだ具体的な迷惑は被っていないでしょう?この支部の人間は皆何がしか彼女絡みで酷い目に遭っているんですから……」
今度は八雲が溜め息混じりにそう言った。
ぴったりと寄り添ってくるレンキに困惑気味のコンペキ。そんなコンペキの表情を見て、手を叩きながら愉快そうに東が笑っている。
「幸いコンペキさんもここに常駐しているわけではないですから、早ければ次に来る時には別な人に鞍替えしているでしょう」
コンペキに哀れみの視線を向けながら佐野が言う。
結局、レンキは中国支部に出向している鬼達全てに一通り惚れては、何らかの形で迷惑を掛けたのであった。 了
前とすこし離れましたが投下しますね。
>>298 ニシキは空から山を見下ろした。邪気はそれほどでもないが、わずかに遠くから感じていた。しかしどうも、いつもとは違った感じだった。
しばらくして異端な邪気が発生している山に着いた。決して強い邪気ではない。だがやはりどこか感じが違った。
「なんなんや・・・この空気は・・・」
ニシキは違和感を感じながら山を進んでいった。しばらく歩くと、背中に視線を感じた。
「誰や!?」
「・・・・・・・・」
背の高い草むらがザワザワと揺らぎだした。ニシキは音叉を構え、相手の様子を伺ったが、草むらの中にいるものには邪気が感じられなかった。
「誰や・・・出て来い・・・」
「お前は何者か・・・」
「ワイはな・・・この山の中にいるバケモノを清めにきたんや。ある親子のためにな。」
「鬼・・・か・・・。」
そういうと草むらの中からそいつは出てきた。そいつは山伏のような身なりをして、右の腰にはちいさな扇。左の腰には刀が備えられていた。
「お前は・・・・。」
「俺は天狗じゃ。」
その天狗はライテンと名乗り、自分も魔化魍を倒しに来たと言った。
ライテンはこの辺りの山を500年前から代々護ってきた天狗の一族だった。
「もはや時代は移り、いまや戦国の世。人間の邪な感情が集まったり、時には我らのような外の世界とは関わらない天狗に憑いたりして魔化魍は生まれる。」
「ワイは・・・他の鬼から時々アンタらのような天狗のことを耳にする。天狗は鬼と違って、清めたりはしないと聞いたんやが。」
「それは思い違いだ。たしかに結果論で見れば我らは自然の循環を元に戻すだけだが、その途中である程度は清めなければならない。それにもいろんな形があるが、手法としては貴様らとはさして変わらない。」
「いろんな形やて?」
「鬼は楽器を使って清めるだろう。だが我らの場合、各々の剣、鏡、勾玉に魔を清める力が、もともと備わってある。」
「三種の神器っちゅう奴やな。強力なものには都牟刈太刀(ツムガリノタチ)、真経津鏡(マフツノカガミ)、足玉(タルタマ)やったか・・・?」
「貴様・・・鬼とはそこまで他部族に干渉したがるものなのか・・・。」
「ああ。人によってはな。」
「まぁ良い。本来ならばそこまで知られていては亡き者にするのが掟だが、所詮この辺りで天狗は我のみ。鬼のひとり見逃したところでどうと言うことは無い・・・。それに・・・お出ましのようだからな。」
ライテンは腰の扇を手に取った。ニシキも音叉を構える。それと同時に、轟音を立てて巨大なツチグモ・・・否、ジョロウグモが姿を現した。
「・・・イケニエ・・・・・マダカ・・・。」
「喋るんかい!?」
「ああ、全くお喋りな魔化魍だ。腹の立つことこの上ない。」
ライテンは扇を開き、空を仰いだ。するとあたりに旋風が巻き起こり、ライテンの体は風に隠れた。ニシキは鬼へ変化すると、烈節を手に取り、眼前の魔化魍と対峙した。
ライテンを取り巻く風に雷の気が生じた。その気は次第に強まり、最高潮に達し―――――。
次の瞬間、そこには大矛を持った、額に金色の天狗の面。顔の両サイドに鬼の角に相当すると思われる突起。バックルには扇の文様が刻まれた手のひらに収まる円盤。背中には折りたたまれた翼をもつ金色の天狗。雷天がいた。
その容姿はあまりにも鬼と酷似していたため、西鬼は唖然とした。
312 :
用語集サイト:2006/06/11(日) 00:01:11 ID:tmL2o3Ng0
用語のストックを改めて見たら音撃関係が大量にある……
>>高鬼SS作者さん
あれは最初の二行以外は作中に出てきた魔化魍図鑑に書いてあったままです。
かわいい姫ちゃんがいろいろやったおかげであんな伝承になったのだと思います。
それにほら、ヤマビコの伝承にもヨブコがちょっと混じってましたし。
>用語集サイト様
そういえば拙作の内容は用語集に加えていただけるんでしょうか?
世界観の共有が難しいなら構わないんですが……
314 :
DA年中行事:2006/06/12(月) 00:56:05 ID:VLVRj92c0
これから投下します。またもや長いハナシになりました・・・・・
(あらあら暦の上の「入梅」は11日だったじゃんねぇ。こりゃうっかりしとったわ。
つうか、そもそも梅雨は年中行事なのか?歳時記なんじゃないのか?)
てなワケで、本日はその前編です。
絹糸のように細い雨が、視界と体力を奪って行くのをぼんやりと感じていた。
冷たい、雨。
地面に倒れた自分の上で密集して咲く、白い小さな花の名前を、獣は知らない。
この雨で、花は木についたまま腐っていくのだろうか。そんな事を考えた。
自分の眼の前で倒れた鬼も、息をしなくなった。
大好きな鬼だった。優しくて力強く、いつも活力に溢れ、真面目な鬼だった。彼以
上に自分たち獣を気遣ってくれる鬼はいなかった。彼の為に働ける事は、誇りであ
り、名誉だった。しかし。
オレハ、マモレナカッタ―――――
彼を、大好きな鬼を、自分は護れなかった。
彼を喪いたくはなかったのに。
彼だけは喪いたくなかったのに。
女が泣いている。
もう二度と再び彼女を抱きしめる事の無い、愛しい鬼の手を握り締め、女は声を出
さずに涙を流し続ける。降りやまぬ雨に、服も髪もずぶ濡れなのに。
自分が護れなかったのは、鬼だけでは無い。この女の幸福も、護れなかった。
それを思うと、獣の胸は耐え難い喪失感につぶれそうだった。
そして獣は、ゆっくりと、目を瞑った。
「で、みどりちゃん、コレ、直るかねぇ」
このごろの蒸し暑さに、例年よりも少し早めに夏メニュー「かき氷 紅」を加えるべ
きか否かを悩む柴又の団子屋『たちばな』の地下で、滝澤みどりは珍しい客の珍
しい相談を受けていた。
「うーん・・・・・・」みどりはさすがに難しい顔をした。目の前に出されたのは、古い型
のDA。自分が開発に加わった、初期型のDAなのだが、損傷がひどい。原形を留
めていない、と言っても過言ではないほどだ。
「やっぱり、無理かね」客はそう言うと、いびつに壊れたリョクオオザルを指先でそっ
と撫でる。「うん、いや、いいのさ。今頃こんなガラクタ持って来た私が悪い
んだから」
明るい声の調子とは裏腹に、彼女がさっきこの壊れたオンシキガミを撫でる指先が
慈愛に満ちていた事に、みどりは気付いていた。
「待って、尾賀さん」思わずみどりは客を――『歩』で小学校教師の尾賀を、呼び止
める。「なんとかしてみるわ」
ついそう口走ってしまった浅はかな舌を、みどりは自分で上顎に縫いつけてしまい
たくなった。そんなみどりの悔恨を知る由も無い尾賀の顔に、みるみる笑みが広が
る。後になってから、やっぱりだめだった、なんて言えそうも無いわね。みどりは心
の中で、そっとため息をもらす。
「いや、あのね、急がないから。全っ然急がないから。みどりちゃんのヒマな時にち
くちく直してくれれば、それで充分だからね」
そういうワケにもいかないじゃない。みどりは尾賀のあまりにも無防備な笑顔を見て、
自分も釣られて微笑んでいた。
三週間ほど前、関東の山間の小さな小学校で、小規模な爆発事故があった。
中庭の地下に溜まった少量のメタンガスが、「何らかの要因」で爆発し、校舎の一
部を破損させたのだが、幸いな事にその日はゴールデンウィーク中で学校は休み。
怪我人は無く、地方紙に数行書かれた程度の事故だった。
だが、その学校に自分の子供を通わせている保護者にとっては、紛れも無く大事件
である。
学校と自治体は、互いに責任を擦り付け合った。
話し合いは平行線をたどり、保護者の不安とイライラは頂点に達する。
誰が責任を取るのだ。
誰か責任を取れ。
そこで、学校と自治体は生贄を捧げる事で合意する。
中庭で飼われていたウサギの世話をする為に登校していた児童五名が、危うく事故
に巻き込まれるところだった。
休日に登校する児童たちを、監督するはずだった教諭は何をしていたのだ。
何、遅刻してその場に居合わせなかっただと?
担当教諭は誰だ。
児童を危険に晒して、遅刻した教諭は誰だ。
監督責任を果たさなかった教諭は?その名は?
―――――尾賀元子。
猛士の「歩」であり、小学校教師として十五年のキャリアを積み、児童たちに「オガ
チン」の愛称で親しまれている独身の女教師はある日上司に呼ばれ、文字通り生贄
として、学校を去るように命じられた。
正式な辞令が下される前に、とりあえず謹慎を命じられて、やむなく学校を休んで
から、一週間が経とうとしていた。
尾賀は、自分一人の殺風景な部屋を見回す。
教師になって十五年。家の敷地のすぐ真裏に、山を控えた古い一軒家に住んできた。
何度か転勤もあった。片道二時間半かけて通わなければならない職場もあった。
それでも彼女はこの家から引っ越さなかった。
理由はいくつかある。猛士の一員として山のデータを取る為に、この古い貸家ほど
恵まれた物件は、他に見当たらなかった。家屋の古さと利便性の悪さで、家賃が格
段に安い、という事も見逃せない。
それに、と彼女は流れ落ちる水滴が不規則な紋様を描く窓ガラス越しに、雨にうっ
すらと白く煙る山を見上げる。
この家なら、いつでもこの山を見守っていられる。
四十年近く生きてきた人生の中で、唯一愛した男は、この山で命を落とした。
だって、俺は鬼だから。
恐ろしいほどストイックに身体を鍛え、鬼に変化し、地上で唯一人間を捕食する魔
化魍から命懸けで人を護り、しかし誰からも賞賛の声を浴びる事の無い鬼という生
き方。大怪我を負って病院のベッドに身を横たえる恋人に、元子は一度だけ「何故?」
と訊いた。何故そこまでして、あなたが人を護らなければならないの、と。
すると彼は、元子が「まるで満腹の大型犬のようだ」と形容したいつも通りの笑顔を
浮かべてこう答えた。
「だって、俺は鬼だから」
そう。彼は鬼だった。だから、死んだ。死んでしまった。
「肝臓とすい臓、さらに肺にも転移が拡がっています。残念ながら、もう、手の施
しようがありません」
そう告げる医師の声は、水中で聞く音声のように不明瞭だった。そんな現実を突き
つけられた自分が、一体どんな反応を示したのか、元子は覚えていない。
彼と初めて出会ったのは、元子がまだ高校生の頃だった。
元子の両親は、新潟と山形の県境にある山の登山口で、小さな食堂を営みながら、
猛士の「歩」として務めを果たしていた。
ある日、その食堂に大柄な青年がやって来て、うっとりするほど旺盛な食欲で次々
と丼を空にし、照れくさそうに笑って自分は関東の「角」だ、と鬼の名を名乗った。
数年後。元子は東京の大学に進学し、魔化魍退治に赴く彼のクルマのハンドルを
握っていた。普通の女子大生が夢見るようなデートなど、した事は無い。それでも、
楽しかった。幸せだった。
ほぼ毎日、彼の大きな背中を見送り、そして無事に帰ってくる姿を待つ。
世間一般で言うところの二枚目でない事は、わかっていた。いつも笑顔の形に細め
られた目、ぼさぼさの髪。口下手で、不器用で、でも、心底おいしそうに物を食べる
男だった。
魔化魍との闘いで傷つき、担ぎ込まれた病院で偶然発覚した恋人の病。
病巣はすでに、網の目のように恋人の身体を蝕んでいた。
恋人が入院してからの事は、夢の中の出来事のようにぼんやりと霞んでいる。それ
までの数年間、彼と交わした他愛の無い会話の類は、どんな些細な事も思い出せる
のに。
入院中で覚えているのは、トイレで隠れて泣いていた事くらいだ。
そのリョクオオザルは、自分の鬼の体調がおかしい事に、気が付いていた。
そしてそれを、鬼自身が自覚している事も。
「大丈夫、大丈夫だから」
魔化魍を清め終わると、顔の変身も解かずにその場に倒れ込んでしまう事が、幾度
もあった。その度に、駆け寄るオンシキガミたちに、彼はいつもの笑顔を見せる。
あれは―――――あの日は、雨が降っていた。
山の中ではなく、病院のベッドで眠っていた鬼が、突然起き上がり音笛を吹いた。
―――――行けッ!
リョクオオザルは弾かれたように窓ガラスを破り、裏手の林を目指す。
鬼に命じられた通り、魔化魍と闘う為に。
すぐに、仲間たちが彼に合流する。彼等の背中を、懐かしい、清い風が、押す。
鬼が来る。あの鬼が。
鬼を護れ鬼を護れ鬼を護れ鬼を護れぇッ!
カエングモが火玉を噴き出しながら、剣のような八本の足を繰り出す。怪童子・妖姫
もすでに戦闘体勢で、待ち構えている。
圧倒的な劣勢。
まだ紙のカラダから移行していない仲間たちはどんどんその身を焼かれ、切り裂か
れていく。
そして、強靭な精神力だけで立ち向かう鬼も。
怪童子と妖姫を、風を纏った鋭い鬼闘術で爆散させた時は、既に立っているだけで
奇跡だった。それでも鬼は、怯む事無く巨大な魔化魍と対峙する。
血を吐きながら、血を流しながら、命を削りながら。
『たちばな』地下の研究室は、淹れたてのコーヒーの香りで満ちていた。
いつも食べかけの菓子の包み紙や、研究資料、その他雑多なもので今にも表層雪崩
を起こしそうになっている机の上が今日はキチンと整理され、部屋の主であるみどり自
身、いつもとは少し違う表情でコーヒーカップの底を見つめている。
「どうしちゃったの、みどりちゃん」
思わずトウキも、身構えずにはいられない。
実はね、とみどりは二人の間にある机の上に、一枚のディスクを置いた。
「おっ、懐かしいなぁ。これ、リョクオオザルの初号機だろ?まだあったんだ」
トウキは自分がまだ「と」として修行していた頃のDAを手に取った。現行のものより、
厚みと重みがある。
「誰の物か、わかる?」
「なになになに?クイズ?そんな事言われてもさ、DAだけで持ち主が誰かなんて・・・」
言いかけて、トウキの指先がディスクに残る生々しい傷跡に触れる。
瞬時に、彼は理解する。
「まさか」
「ええ、間違いないと思うの」
「誰がこれを?」
「当時の彼のサポーターよ」
「尾賀先輩が」トウキは分厚い手の平で、懐かしいDAを挟み込む。思い出を、温めるよ
うに。「闘鬼さん・・・・・」
トウキは、自分を鬼として育ててくれた師匠の名を、呟いた。
「腕立て百回終わりましたッ!元子さんッ!」
「私をファーストネームで呼ぶなんざ、百年早い!とりあえずご飯だッ!」
「はいッ!・・・でも、これ、全部ですか?」
「当たり前だっ!立派な鬼になるには、まず、きちんと食事だ!」
「もこ、怖いって」
「怖くない怖くない!さぁ、食べよう、少年ッ!」
「ハイッ!も・・・尾賀先輩!」
DAは眠っている。
大好きな鬼と過ごした短い時間を反芻しながら。
もしかすると、人間はそれを夢と言うのかもしれない。
オンシキガミになった獣は、戦いが嫌いだった。できれば毎日、唄ったり踊ったり
して毎日を過ごしたかった。
もともとは、人に飼われて芸を見せる事を生業にしていた猿だった。
しかし、飼い主ごと魔化魍に襲われ、命を落とした。
鬼について行ったのは、一人になるのが恐ろしかったから。
「おいで」と差し出された手が、温かかったから。
だから、オンシキガミになった。
誰かのそばにいたかったから闘い、優しい掌に慰められたかったから走った。
でも、あの鬼は死んだ。
冷たい雨に打たれながら鬼と一緒に目を瞑ったオンシキガミは、もう二度と、目を
開けるつもりは無かった。もう、二度と。
323 :
DA年中行事:2006/06/12(月) 01:19:12 ID:VLVRj92c0
(モアッモアッ)予告ッ(キュイィィィンッ)
―――いつまでも いつまでも 側にいると 言ってた・・・・・
―――あなたは嘘つきだね 私を置き去りに
雨は、降り止む気配を見せない。梢を濡らし、葉を滴らせ、花を腐していく・・・・・
失意の中、眠り続ける獣は、果たして再び目を覚ますのか?
後編は、2〜3日後に!(ケロケロケロ)
324 :
高鬼SS作者:2006/06/12(月) 02:07:16 ID:l6A8HhEl0
>DA年中行事様
新作、待ってました。後編もwktkしながら待ってます!
>用語集サイト様
更新お疲れ様です。
ところで「その他」の項目の「金霊」。
細かい事を言うようですが、あれは「かねだま」なので「紙黄村」の前に移動させといて下さい。
さて、以前投下した北陸支部の話がそこそこ評判が良かった気がするので、調子に乗って翌日の話を今書いています。
現在、新しい鬼の武器のネーミング等を煮詰めている最中ですので、投下にはもう少し時間が掛かるかと思われます。
そういう訳で今回は予告編のみ投下という形にしたいのですが、わざわざそんな事をする理由として、
「あまりにもとんでもない内容なので先にこういうものだと理解してもらう」ためというのがあります。
おそらく今までで一番ふざけた内容です。むしろ叩いて下さい。
では予告をどうぞ。
「――これがドーピングコンソメドラッグの原液だ!」
「それはね……僕は狙撃の島からやって来た王様だからだよ」
「拙僧が当寺の五代目住職・十四松です」
「そのキレイな顔をフッ飛ばしてやる!!」
「SATSUGAIせよ!」 「臓物をぶち撒けろ!」
次回、仮面ライダー高鬼番外編「瞬間、照準、重ねて」あんまり期待しないで下さい…。
音撃武器なんかレイプしてやるぜー
>>高鬼ss作者様
相変わらずパロの塊だw
楽しみに待ってますw
327 :
DA年中行事:2006/06/12(月) 21:10:05 ID:9Z5zbmTi0
>>324 高鬼SSさん・・・
ちょ、まっ、アサルトライフル肩に担いだクラウザー様っすかww
やばい、楽しみで眠れないッ!!
番外編『仮面ライダー弾鬼』六之巻『呼び戻る声』(中):壱
「鬼をみたぁ!?」
朝一発目から上がる威勢のいい声。リョウジは歯を磨きながら、大声でそんなことを言った。
「・・・・・鬼ねぇ」
トシハルも、洗顔を済ませながら、明らかに疑いの眼差しで大輔を見た。
「大輔さん。俺、大輔さんのそういう夢見がちなトコ、嫌いじゃ無いですけど・・・ソレはどうでしょう?」
ツキトはまだ酒が抜けきっていない様子で、フラつきながら意見した。
「どうも信じてないみたいだな・・・」
大輔もまた、洗顔歯磨きをしながら、三者三様の反応にがっかりした。
予想していなかったワケではないが、こうして面と向って疑いの眼差しをかけられると言うのは中々に面白くないものである。
「だいたい、鬼がなんでこんな所にいる訳?普通そういうのは、山奥とかが相場でしょ?ここ、それなりに人がいるところだからなぁ・・・・」
「トシハルの言う通りだぁな。大輔・・お前飲み過ぎて幻覚見たんだろ?そうに決まってるよ!」
「まぁ、もし仮に・・百歩譲って、本当に見たとしても・・・こうして生きてるわけなんですから。
こう・・・貴重な経験したなぁ〜程度に片付けた方がいいと思うんですけどねぇ。その辺どうですか?」
「お前らね・・・・あぁ〜もう!俺が冗談言う奴かどうかぐらいわかるでしょ〜?」
大輔の怒りの一喝!だが、三人はソレを笑ってかわした。
「まぁまぁ、で・・・仮に俺らがソレを信じたとして、ど〜すんだ?」
「あ・・・いや、それは・・さ・・・」
何も考えていなかったのが表情に出ている大輔。
大輔自身、昨日のことは夢だったんじゃ?と、思うようにもなってきたが・・・
やはり、昨日のは紛れも無い真実であると信じたい・・・大輔は、真実を解ってもらえない事にイラつき始めた。
「なんすか!?そのあとの事考えてなかったんすか?さっすが大輔さん!」
「うるさいよ!お前は!」
ツキトの腕を掴み、関節を捻り上げる。ギブギブ、と声を上げるツキトを指差して笑うリョウジとトシハル。
「何で年下のお前にソコまで言われなきゃならないんだよ!!」
「アタタタ!!ギブギブ!ヤバイッス!折れちまいますって!!」
さらに捻りを加え、ツキトを追い詰めていた大輔。だが、ソコへ
「段田君だよね?城南の」
と、突然背後から声をかけられた。振り向いた先には、ガタイの良い青年が。
たしか、昨日の宴会の時に名乗っていたはず・・・大輔は頭の中で名前を必死に手繰り寄せた。
「確か、長野大の・・・遠野君だよね?」
トシハルが横から名前を言う。
「うん。えっと、多分、段田君の事だと思うんだけど、この施設の入り口の所にお客さんだよ」
「は!?俺に?てゆうか、多分って?」
「いや、はっきりと段田君を呼んで来いって言う風には言われて無くてね。見た目と特徴を言われて、一番近いのが段田君だったからさ」
なんともアバウトな話である。
当の大輔は、ツキトを開放しつつ
「誰だよ?まったく」
など、呟きながらその場から客人であろう人物の待つ場所へと移動した。
ゼンガクダン・宿舎・正門/
正門前には、一人の男と一人の女が立っていた。
二人とも、色違いではあるが、同じ柄のTシャツを身に付けている。
ペアルックかよ。大輔は内心で笑いながら、その男女の顔を見た。
「ほう、やっと来たか」
「あぁ!アンタは!」
男の方にはまるで見覚えが無いが、女の方は見覚えがあった。先程までツキト達に説明していた、鬼に変身した女だった。
「その反応からして、タツキさんの事、シッカリバッチリ覚えてるみたいですねぇ」
「の、ようだな。面倒くさい事になった」
男がのんびりとした口調でそんな事を口にすれば、女=タツキも心底面倒くさそうにそんな事を言った。
「昨日のあの酔っ払い様だ、忘れていれば手間もかからないんだがな。意外に物覚えが良かったみたいだ・・・」
「元はといえば、易々と人前で変身するタツキさんのせいだと思うんですけど」
「黙れ・・メブキ。そもそも、お前が奴らの追い込みに失敗するからこんな事になっている。責任感じてないようだな?」
大輔を呼びつけておきながら、内輪揉めに突入するタツキと男=メブキ。
これには、突然の再会で動転している大輔も面白くない。
「おい!アンタら人呼びつけておいて、それは無いんじゃないの?てゆうか、用事はなんなのさ?」
大輔のもっともな一言に、ようやく用件をを思い出した二人は、一呼吸置いて・・・いきなり本題に突入した。
「お前、昨日の事は誰にも話してないだろうな?」
「へ?」
前置き無しに、直球。
呆気にとられた大輔は、間抜けな声で聞き返すしかなかった。
「わかってるとは思うが、お前が見た事は一切他言無用だ。もし、誰かに話せば・・・わかるな?」
「あ・・・スンマセン。もう話しちゃった。三人ほど・・・・」
ドスの利いた声で、言った事にバカ正直に真実を話す大輔。
タツキもメブキもその言葉にしばし動きを止め・・・・・
「短い人生だったな青年。せめて名前だけは聞いておいてやろう」
「あっはっは・・・ひィ〜・・・・こりゃいいや」
本気で口封じに移ろうとするタツキと、大輔の返答に爆笑するメブキ。大輔はその光景に、からかわれてるのかと本気でキレかけた。
だが、その様子を笑いから立ち直ったメブキが宥め、大輔に昨夜の事と今後の事を解りやすく、丁寧に説明してくれた。
「つまり、あんた等はその?何?魔化魍ってのを倒すために日夜戦っているワケね」
「そう。キミの場合、今回は非常に運が悪かった・・・と言う事になるね。本当なら昨日キミが見た童子と姫は僕が別の場所に追い込む手筈だったんだけど、僕の力が及ばなかったばかりに、キミに見なくてもいいものを見せてしまった。・・・・・申し訳ありません」
丁寧に頭を下げるメブキ。
「・・じゃ、俺は今日見たり聞いたりした事を誰にも言わなければいいんだよね?」
「そうだ。岩のよう黙っていろ」
大輔の問いに、とても偉そうな態度で言い放つタツキ。
「・・・・解ったよ。そうすりゃ俺は口封じに殺されなくて済む訳ね?」
「甚だ不安ではあるが・・そういうことだ」
「僕達はこれから山に入って魔化魍退治を続けるから・・・出来るだけ山には入らないようにして欲しいんだけど・・・出来る?」
その質問にYES!と答えられなかった。
この後の練習には山での走りこみが組まれている。事情を知っている大輔ならばムリにでもサボる事が出来るが、事情を知らない他の人間を説得するのは困難であり、まず間違いなく成功するとは思えなかった。
「仕方あるまい。おい、お前の名は?」
「俺?段田大輔・・・てゆうか、すっごいエラそうだよねアンタさ」
「では、ダイスケ。調査によれば、魔化魍は山の西側に居る可能性が大きい。お前は何としても西側に行かないように誘導しろ・・・どうだ、これも難しそうか?」
「無視かよ・・・・ん〜そうねぇ・・・・」
大輔は、全力で知恵を絞り・・・・結果、極力寄せないようにする事を約束した。
「すまないな、大輔君。巻き込まれたはずのキミに無茶をさせてしまって」
メブキが再度頭を下げる。
「いや、俺・・知っちまったからなぁ。知っちまったモンの責任ていうのかな?コレぐらいは・・協力するさ」
「感謝するよ・・・大輔君」
「頼むぞ、ダイスケ」
そう言ってタツキとメブキはその場から去っていった。
山中・北側/
大輔の知恵を集中させた案は、用具倉庫からくすねて来たロープと『立ち入り禁止』と書かれた板で作ったバリケードで、西側への移動を事前に阻止するという案だった。
そして意外にも、この案は効果が有り、見事西側への移動を阻止する事が出来た。
山の入り口から登山ルートは西側と北側への二つ。大輔たちは、正直に北へと登っていったのである。
多くの青年達が、一心不乱に走り込みを続ける中、大輔だけが心ここにあらずといった感じで走っていた。
『あの、タツキって人とメブキって人・・・今ごろ魔化魍とか言うバケモノと戦ってるのかな・・・・てゆうか、俺もよく信じるよね・・実際・・・』
メブキから受けた説明を全て信じていた。昨日自身が遭遇した出来事から、疑う余地が無かったからである。
「しっかし・・朝からジョギングなんて・・・・もうヘトヘトっすよぉ〜」
ツキトがだらしの無い声を上げて、駆け足から早歩きに。早歩きから歩きへ。歩きから立ち止まり、地面に倒れこんだ。
今の今まで誰も失速していなかった為、ツキトの脱落によりジョギングが僅かにではあるが止まってしまった。
「あぁ、気にしないでください!一人ヘバったんで、少し休ませてから後追いしますんで〜!!」
トシハルが先頭に向い大声で言う。先頭集団は了解!と大声で返し、その場から走り去っていった。
その場に残される大輔とツキト、トシハルとリョウジ。ツキトは全身で息をしながらグッタリしている。
「しかし、ひ弱だなぁ?オメ〜はよ」
リョウジが腰から下げていたペットボトルのキャップを捻り開け、ツキトに手渡した。
「飲んどけ」
「・・・・・・・・・・・・・スンマセン」
まるで砂漠を三日三晩歩いた果ての水のような飲み方をするツキト。山の中とは言え、日も昇りだした為か日差しはかなりきつくなっている。
「ゼェ・・・・ゼェ・・・・」
「ヤバクねぇ?脱水症状一歩手前って感じだな」
「とりあえず、もう少し木陰がある所に行こう。小川でもあれば良いんだけどなぁ」
トシハルのその言葉に、大輔は昨日タツキと遭遇した場所を思い出した。
山より下の位置に、宿舎はある。という事は、川は山から下って来ているはずだ。大輔はその事を皆に話した。
その結果、山を下りながら小川を探す事にした。
山を下りる途中に、背後から何かの気配を感じた。
登山客が降りてきたと思った大輔は、身動きの取れないものを連れている為、道を譲ろうとして後ろを振り返り・・・・そのまま動きを止めた。
「んぁ?どうした大輔?」
リョウジも大輔と同様に後ろを振り返った。
そこには・・・・・・
目の部分に歌舞伎役者のような隈取模様が描かれている不思議な男女が。
「大輔?知り合・・」
「逃げるぞっ!」
リョウジの問いかけが終わるより早く、リョウジの手を掴み、ツキトを背負っているトシハルの手を掴み、その場から駆け出した。
『なんで・・・あいつ等はタツキさんとメブキさんが倒したんじゃないのかよっ!!くそっ!』
男女=ヤマビコの童子と姫はニヤ・・と口を歪め、ゆっくりと歩きながら大輔たちを追いかけ始めた。
『音撃射!深緑萌芽!』
サックスの形をした音撃管・木洩日から、勢いよく清めの音が発射される。
生み出された音がヤマビコの体内に埋め込まれた鬼石を介して、ヤマビコの中をかき回す。
だが――
ヤマビコの柔軟な筋肉が、鬼石を力づくで押し返し始めた。その結果、芽吹鬼の音撃は完全にヤマビコを清めるには至らず・・・
『キシャァァァ』
ズ!と音を立てて地に倒れ伏すヤマビコ。爆砕せずに倒れこんだという事は、未だ清めきれていないという事である。
『しまった!浅かったか!』
再び鬼石を打ち込むべく、音撃形態にしてある木洩日から、音撃鳴・木枯を取り外し、銃撃形態に組替える。
マウスポースを外し、本体を僅かに可変させると、その姿はフリントロックタイプの銃へと姿を変えた。
だが、鬼石を打ち込む寸前・・・ヤマビコはその大きな手を振るい、攻撃をうち止めた。
『しまった!』
芽吹鬼の手から離れる音撃管・木洩日。地に転がった木洩日に手を伸ばした瞬間、その横を一陣の碧風が疾駆した。
『見ておれん!下がっていろ』
『断鬼さん!』
跳躍し、ヤマビコの腹部に飛び乗る断鬼。
右手を宙に伸ばし、気合を込める。
『――鬼法術・偽象鼓――』
右手に輝く碧の光が・・・
『破ァッ!』
拳と共にヤマビコの腹部に叩きつけられた。
そして、一瞬で光は広がり巨大な光の鼓へとその在り方を変えた。
背中に手を回し、音撃棒・礫石を手に収めると、勢いよく太鼓目掛けて叩きつけた。
ドォン!という音が響く度に、ヤマビコの口から苦悶の叫び声が上がる。
『終いだ!音撃打・断骸絶碧の型ァ!』
両手の撥を打ち鳴らし、同時に叩きつけられる。その打撃音を最後に、ヤマビコの姿は爆発四散し・・ここに清められた。
飛び散る塵芥の中、断鬼がゆっくりと立ち上がり、芽吹鬼を見た。
芽吹鬼は、地に転がった木洩日を拾い上げ礼を述べる。
『まったく、未だ未熟なものだな芽吹鬼よ。宗家から「吹」の名を与えられた名家の嫡男がこの様では、いずれ芽吹鬼の名を返還せねばならなくなるぞ・・・』
芽吹鬼は、自らの角を擦りながらスイマセンと、呑気に謝った。
『まぁ、瑪瑙家は名家と言っても光厳寺家の遠〜い分家ですし、まぁ・・それでも芽吹鬼の名を欲する人は多いですからね・・・あながち笑い話に出来ないのがなんとも・・』
『呑気な・・・いっそ呑鬼とでも改名したらどうだ?瑪瑙の家もツマラン継承者騒ぎから開放されて、いっそ楽かもしれん・・・』
断鬼の話の途中だが、芽吹鬼はソレを手で制し、空を見上げた。
ワサッ・・ワサッ。
笹で折られた鶴が空を旋回している。
「アレは・・大輔君に付かせていた折鶴・・・・」
芽吹鬼が顔の変身を解きながら、掌に載せる。
「妙な・・・勝手に戻るような命は出していない」
断鬼も、顔の変身を解き折鶴を見つめる。だが、折られた鶴は芽吹鬼の手から離れ、再び空へと羽撃いた。
「まさか・・ダイスケの身に・・・」
「でも、この山にはもう魔化魍は居ないはずです。童子も姫も断鬼さんが倒したんですよね?」
鶴の跡を追うべく芽吹鬼がその場から走り出した。
「当然だ。童子には鬼ヅメを連続で突き刺して、音撃棒で福利叩きにして爆砕させたし・・・姫は岩の下敷きにして磨り潰した後、岩ごと粉砕してやった。あれで生きていられるはずが無い」
後を追うように小走りになる断鬼。
「・・・・あ、いや・・・ソコまでしたのですか・・・・ですが、ソコまでして生きているはずが無い・・」
木々を飛び交い、鶴を追うこと数分。断鬼は、そこで信じられないモノを見た。
『芽吹鬼っ!』
未だソレに気が付いていない芽吹鬼を思いっきり蹴飛ばす断鬼。今しがた芽吹鬼が居た空間を巨大な手が通り抜けた。
全くの無防備で断鬼のケリを喰らい、地面に叩きつけられる芽吹鬼。頭を振り、いまの状況を慌てて確認する。
『あ・・あれは・・・』
『スマン。加減ができなんだ。しかし、どういうことだ・・・なぜ“ココにもヤマビコが居る!?”』
体色が先程のヤマビコとは違うと言えども、目の前に居るのは魔化魍ヤマビコであった。
『そうか、あの鶴は・・・この事を・・・と言う事は大輔君が!!』
『行け芽吹鬼!ダイスケの安全を確保しろ!』
音撃棒・礫石を抜き放ち、構える断鬼。芽吹鬼は跳躍し木々を渡るようにその場から離れた。
『チッ・・・芭仁め、こんな事は聞いていない。芭紗もだ・・・職務怠慢ではないのか・・・・・愚痴っても仕方ない。行くぞッ!』
断鬼は跳躍し、周囲の木々を足場として使いヤマビコと対峙した。
大輔は必死に走りながら、後ろを振り返った。
目線の先には、ゆっくりと歩くヤマビコの怪童子と妖姫が・・・・
「・・・何なんだよアレはッ!」
リョウジが大輔の隣でがなりたてる。トシハルはツキトを背負っている為、二人から遅れがちだ。
「だがら言ったじゃん!昨日鬼を見たって!そん時に居たバケモノだよ!」
手前に転がっていた竹を蹴り飛ばし、道を作りながら大輔が叫ぶ。
無我夢中で走り、童子と姫から逃れようとするが・・・・
「大輔っ!おかしい!道が登りになっている!!このままじゃ町に下りられない!」
トシハルがその事にいち早く気が付くが、道は一本道で直ぐ後ろには童子と姫が迫っている。
「そんなこと言ったって、今は逃げるしかないだろ〜が!」
立ち止まる事無く、走りつづける3人。
「トシハルさん・・・俺もう平気ですから・・下ろしてください・・」
ツキトがトシハルに訴えるが、トシハルは願いを聞き入れず・・・さらに走る力を上げ、速度を上げた。
「病人は・・黙ってろって」
登りの道が、なだらかになり・・・・僅かにだが開けた場所へと出た。
そして・・・・
その目の前には・・・・
山猿を何倍にも大きくした・・・・
在りえない・・・・存在が座していた。
グワ!と巨大な腕を振るい、ツキトとトシハル目掛けて振り下ろす。
トシハルは、ソレをかわそうと地面を蹴ろうとし・・・・・
「うわあああああああああああああああああああああ!!」
ツキトは、トシハルの背中を突き飛ばすようにして離れ、地面を転がった。バランスを崩し、地面に倒れこむトシハルに重なるようにして・・・
ズンッ!!!
舞い上がる土煙・・・・・
それが晴れた先には・・・夥しい量の赤と・・・・その中に混じる白が・・・・ヤマビコの手の下から現れた。
「・・・・・・・・トシ?おい・・・・トシハルッ!」
リョウジが全身を震わせて、その名を呼ぶ。
だが、ヤマビコはそんなリョウジすらも標的にし・・・・
その大きな手でリョウジの体を掴み・・・その腕に力を込めた。
バキリ
イヤな音・・・その直ぐ後に響くリョウジの絶叫。ヤマビコが掴んだ部分はリョウジの下半身辺りであった為か、即死では無かった。
「なんなんだよ・・・・これは・・・・」
大輔の口から・・・呟きがこぼれる。
トシハルは・・・何処に?
足は自然にヤマビコから離れようと、逃げ出す用意をする。
地面には、ツキトが倒れたまま・・・・
ヤマビコの手にはリョウジが捕まれたまま・・・・
ヤマビコの眼が大輔を睨みつける。次はお前だ!と言わんばかりの眼光で・・・・
ヤマビコは開いた手を伸ばし、大輔を掴み取ろうとする。
逃げたいはずの足が動かない・・・・手はゆっくりと確実に迫ってくる。
すり足のように、足を動かして逃げようとし・・・・・
『何処へ行くのかな?』
背後には追いついてきた童子と姫が・・・・・喉元目掛けて手を回してきた。
『声!貰うよ』
もらうよ!
貰うよ!
モラウヨ!
頭の中に童子と姫の、子供のような・・・無邪気な声がグルグルと回る。
そしてその手が、喉仏に触れるかいなや・・・・
『鬼法術・疾枝失至ィ!』
その声が響き、大輔を囲んでいた童子と姫目掛け、地中から木の枝のようなモノが生え出てきた。
枝は童子と姫を絡めとると同時に、大輔を守護する檻となった。
大輔の前に、茶褐色の肌に、目も覚めるようなエメラルドグリーンの隈取を持つ鬼が現れた。
『こんな山の中にヤマビコの成体が3体も・・・・』
芽吹鬼が地面に拳を突き立てる。先刻と同様、疾る枝が童子と姫を貫いた。そして命を失うに至る・・・
爆発が周囲を払い・・後には巨躯を揺らし、そびえるヤマビコ。そしてその手には未だリョウジが捕まったまま・・・・
『炉火純青にまで鍛えた技・・・受けてみろ!』
その場から走るや否や手を払い、小風を生み出す。その小風が周囲の木に届き葉を散らす。
『鬼法術・散葉刃葉』
その声に応じ、木の葉が鋭利な刃物と化す。その刃が集中的に脚部へと吹き荒れた。足の腱を悉く切り裂き、ヤマビコの体制を崩させる。
『今だっ!』
地面に直撃する寸前、芽吹鬼はヤマビコに近づき、巨大な手を足同様に切り裂いてリョウジを救出した。
「う・・・うう・・・あぁ・・あ」
呻き声を上げるリョウジだが、どうやら命に別状は無い・・・・だが。
足が酷い有様になっていた。これでは・・・もう・・・・・・・。
リョウジを抱え大輔の傍へ移動すると、枝の檻を開放し大輔を自由にさせる。
『・・・彼を・・』
『・・・・・・・』
大輔が無言でリョウジを抱きかかえる。
リョウジの足を見た途端・・・大輔の意識が途切れだした。あまりの出来事に・・意識が耐えられなくなり、脳が体を護る為に意識を断ち切るところだった。
目の前が真っ暗になる直前、大輔の上を飛び越えて断鬼がその場に現れた。
だが、何も考える事が出来ず・・・意識は遂に闇に落ちた。
辺りには一面、花で覆われている。
大きなガラスで覆われた冷蔵庫の中には、花が入れられている。その横には広めのスペースがあり、ちょっとした喫茶店になっている。
「花・・屋?」
接客中なのだろう。エプロンをつけた女性がお客に花を渡している。
「有難うございました・・・・あら、起きたんだ」
振り返り大輔の姿を見て女性が声を上げる。
「具合は?平気?元気?」
「はぁ・・てゆうか、ここ何処?あんた誰さ?」
「ん?あぁ、ここはねぇ熊本だよ。そんで、猛士の九州支部・・・その名も『花茶屋・かいどう』よ。鬼と猛士の事はタツキさんから聞いてるよね?私はクダキって言うの。よろしくね、段田大輔君」
明るく話す女性=クダキ。
クダキは大輔をカウンターへ座らせると、何故大輔がここへ運ばれたかを説明してくれた。
「キミが気絶した後、ヤマビコがさらに出現したの。全部で5体。それを倒し終えた後に、軽症だったキミとツキト君はココに運ばれたの。理由は解るわよね?本来、部外者に猛士や魔化魍の事を知られる訳にはいかないンだけど
・・・困った事にタツキさんが話しちゃったでしょ?キミとツキト君・・・あとリョウジ君?の今後を決定しないといけないし・・それで、ココに連れてきたの」
リョウジの名を出されて、初めて思い出した。
「そういえば、リョウジは!トシハルは!!どうなったんだよ!!!」
クダキの肩を掴み揺さぶりながら尋ねた。
「おぉぉおおお!落ち着いて・・今から説明するから・・・。リョウジ君は今病院に居るわ。状態だけど、下半身を完全に潰されていた為に・・・・下半身に障害が残っているわ。残酷なようだけど・・・彼、もう二度と自分の足で歩く事は出来ないわ」
「そん・・な」
「次にトシハル君だけど。・・・・・・・・・・ん・・と・・・」
言いにくそうに・・言葉を探すクダキ。その反応で鈍い大輔でも、悟ってしまった。そもそもあれだけ大きな手で押しつぶされたら・・・・・
「死・・・・・んだ・・・」
「えぇ・・・・・残念だけど・・・・」
その言葉に・・・・
「そんな言葉で済まさないでくれよ!!死んだんだぞ!!あんたらにとっては犠牲者1人程度にしか思ってないのかよ・・・」
憤怒の表情でさらに詰め寄る大輔。
「ご・・ごめんなさい。そんなつもりじゃ・・・・」
力が抜け、椅子に雪崩れるように座る大輔。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
沈黙が流れる中、扉が開きツキトが現れた。
今の話を聞いていたのだろう。瞳には涙が浮かんでいる。
「俺のせいだ!!俺が・・・・逃げなければ・・・・」
ぺたり・・と崩れ、自身を責めるツキト。
もし、あの時・・ツキトがおとなしくトシハルに背負われていれば、二人とも助かったかどうかは解らない。もしかしたら二人とも命を落としていたかもしれない。
それでも、ツキトは自分自身が殺したようなものだと・・責めつづける。
周囲は花で飾られていても、この空間には意味を成さなかった。大輔とツキトは今や自分を責めつづけることしか出来ていなかった。
「ただ今、戻りました」
表から大きな声と共に、初老の男がタツキを連れて現れた。
「支部長・・お疲れ様です。葬の儀・・・いかがでした?」
「うん。吉野から葬鬼が来て、送ってくれたよ・・・さて・・と段田大輔君ですね?猛士九州支部長の馬場芭仁です」
ゆっくりと頭を下げ、迷いの無い声で・・挨拶し・・・
「今回の件・・情報収集を万全に行わず、安易な指示で退治に向わせた為、貴方と御学友を危険な目にあわせてしまい、さらに命を奪ってしまいました。どんなに償っても、償いきれるものではありません・・・・・・」
一支部長が、膝と掌額を地面に押し付けて謝罪した。
安易な指示・・・・
万全でない情報収集・・・・
つまり、手抜きでも有り・・・・・一連の行動がマンネリ化した為の事故だった訳である。
「ッ!」
地面に伏せている芭仁を引っつかみ、顔面に拳を叩きつける大輔。
吹き飛ぶ・・・・・・事無く、僅かに後ずさっただけであった。
「うああああああああ!」
連続で腹を顔を殴りつける大輔。だが、いずれも吹き飛ぶ事は無く、僅かに体が動く程度である。
やがて、拳を横合いから止める者が居た。
「ダイスケ・・そのくらいにしておけ・・お前の拳が・・・砕けるぞ・・・」
タツキが大輔の拳を掌で包んだ。
「芭仁は老いても元・鬼だ・・お前の拳では自身を痛めるだけだ」
だが、それでも大輔はタツキの手を振り解き、芭仁を殴りつづける。
「コイツの・・コイツの指示ミスでこんな事になったんだろうがぁ!だったら俺は・・・コイツを・・・」
「私を殴りつづける事で・・キミの心が癒されるならば・・グッ・・・幾らでも殴りなさい・・」
一見異様な風景が5分も続いた。大輔の拳がついに砕け・・・ようやく殴る事を止めた。芭仁の顔はいたる所が赤く腫れ、血がにじんでいた。
「俺は・・どうやったら、トシハルとリョウジに償える・・・・」
大輔が血が吹き出ている拳を握り締めながら・・・芭仁とタツキ、クダキに問い掛けた。
「君が償いをする事は無い。君には何の責任も・・」
「俺は!あの山にヤマビコが居る事も!危険だって事も知っていた!本気で止めていれば・・・笑って信じないようだったら、殴り倒してでもあの山に行くことを阻止できたはずだ
・・・俺にも責任・・あるんだよ・・・・・どうすればいい?死んで償うしか・・・・・思いつかねぇよ・・・」
その言葉に、タツキの表情が曇った。
あからさまに不機嫌な顔で、大輔の顔を真正面から見据えて
「死で償う?そんな気も、勇気も無いヤツが軽々しく死などと口にするものではない」
強い口調で言い放った。
だが、大輔はそれを上回るほどの強さで言い返した。
「あるさ!!それで許されるのなら!」
もはや錯乱状態に近い大輔。それを皆が見つめて数分。
「まったく。この単純真っ直ぐ馬鹿は・・・・本気か?本気で死ぬつもりも、勇気もあると言うのだな?」
タツキが重い声で大輔の意思を再確認した。
「お前は死を持って償うのだな?」
「・・・・・それで・・・・・・許されるなら」
「ならば・・・・」
そこで一呼吸置いて・・・・・・タツキは大輔の目をしっかりと見た。
「お前の命・・・預かろう。死んで詫びるなどと・・・愚の骨頂だ」
ハッキリと言い放つタツキに・・・大輔は唖然とした表情で見つめる事しか出来なかった。
「死以外にも償う術はある・・・・・」
「ホントかよ・・・・・どんな方法だよ?教えてくれよ!なぁ?」
タツキにすがるようにしてその方法を問う大輔。
「鬼になれ。鬼になって・・・友人の敵を討つのではなく、友人のような被害者を出さないように・・・・・お前が強くなれ」
その言葉に、大輔だけでなく芭仁とクダキ。ツキトまでもが息を呑む。
だが、周囲の様子などお構いなしにタツキは続けた。
「お前の目は確かに死を受け入れる覚悟はあった・・・と見えた。それほどの覚悟があるのなら・・・・死ぬほど鍛えて・・・強くなれ。いいかダイスケ・・心を鍛えろ。技を鍛えろ。体を鍛えろ。何者にも負けぬよう・・・鍛えろ」
死を迎える覚悟を持って、生きろ・・・・。タツキの言わんとする事はつまりはそういう事だった。
「俺が・・・鬼に・・・・・」
「そうだ・・死のうとしたのだろう?償おうという覚悟はあるのだろう?ならば・・・大丈夫なはずだ・・・・」
ゆっくりと伸ばされる手・・・・・・。
「来るか?共に・・鬼の道へ?」
それを掴むか否は大輔次第・・・・・・
そして・・・・大輔の選んだ道は・・・・・・
番外編『仮面ライダー弾鬼』六之巻『呼び戻る声』(中):壱 終
(中):弐へ続く
二回に分けての中篇その壱を投下しました。
今回のこの話、実はかなり悩んだ部分でもあり、一番恐い回でもあります。
ここのスレだけに留まらず、響鬼ファンの中に弾鬼さんのファンの方が沢山いらっしゃると思います。
そんな方たちも考える『弾鬼の鬼としての原点』は十人十色と思います。
自分の思った・考えた・妄想した弾鬼さんの過去はこんな感じだったのですが、
こんなのを形にして投稿してもいいのか・・と恐いです。
中篇の弐も手を着けていますので、コレもまた近いうちに投下しようと思います。
悪筆乱文ですが、読んでいただけたら幸いです。
DA年中行事様
『鬼を護れ鬼を護れ鬼を護れ鬼を護れぇッ!』
うぅ・・・あのカワイイ外見の緑大猿の燃え滾る闘志がかっこよすぎです。
そして元子さん・・・カワイイですw
用語集サイト様
更新ご苦労様です&有難うございます。
SSを書く際に、とても、すっごく役立っています。感謝感謝です!
今回ので色々用語が増えてしまいましたが、読みが特殊なものだけでもルビ振っておきますw
深緑萌芽(シンリョクホウガ)
偽象鼓(ギショウツヅミ)
断骸絶碧の型(ダンガイゼッペキ)
疾枝失至(シッシシッシ)
散葉刃葉(サンヨウジンバ)
・・・なんちゅう読みじゃw
芽吹鬼君は四字熟語がお好きなようです・・・捏造熟語ですがw
>>338から
>>339の間に入るべき文章が抜けてましたorz
次に目が覚めた時は病院のベッド・・・ではなく・・・・
「ここは・・・何処だ?」
和風な部屋に布団が敷かれ、そこに寝かされていた。横を見ると、ツキトも同様に寝かされていた。
だが、そこにリョウジとトシハルの姿は無かった。
布団を跳ね除け立ち上がり、扉を開けた。
廊下の先から、声が聞こえた。大輔はその声がする方へと歩き、ドアを開けた。
まとめサイト様
もし余力があれば、
>>338から
>>339にこの文章を叩き込んでくださいますでしょうか?
よろしくお願いしますm(__)m
「どうした、鬼。腰を抜かしたか?」
「だっ・・・誰が腰抜けや!ぜんっぜんビビッとらへんわ!」
フンッと雷天は鼻を鳴らすと、右手の大矛を女郎蜘蛛にむかって振った。
すると大矛から稲妻のような光が出て爆音を鳴らし女郎蜘蛛に直撃した。しかし女郎蜘蛛はビクともせずにそこに佇んでいた。
「なんだ・・・まだ初期段階かよ・・・。」
雷天はそう呟くと脚の筋肉を躍動させ、跳んだ。木と木の間を縫うように進み、女郎蜘蛛の背中へ飛び乗った。
「おい!ワイにもやらせぇや!」
負けじと西鬼も割って入ろうとした。・・・が、女郎蜘蛛の巨大な白い肢に軽く跳ね飛ばされてしまった。
「っつーーーーーーー・・・・アンの野郎!!」
西鬼はこの土地に慣れていない。その分、魔化魍や雷天に比べてハンデは大きい。西鬼はどうしようもない無力感に襲われた。
「オオォォオオ!!・・・・トリャ!」
雷天は大矛を女郎蜘蛛の背中に突き刺した。すると女郎蜘蛛は急所を突かれたか、ドサァア!という音ともに長い肢を広げ、ヘタレ込んだ。
「鬼よ。お前の目的はコイツを清めに来たんだろう。ならば今しか機会はないぞ。この大矛「雷雲」は、徐々に邪気を無にしていく。聞くところによれば、生贄を助けるには必ず音撃が必要なんだろう。天狗の技は音撃ではないぞ。さあ、早くしろ。」
「誰がお前みたいな奴のお情けで・・・!!」
「お前は分かっているはずだ・・・生贄となった母親がもうそう長くは無いことを。幸い、この女郎蜘蛛はまだそんなに成長しきってはいないから、今ならまだ後遺症も無くて済むだろうよ。」
西鬼は少し複雑だった。あの親子の幸せと、自分のプライド。大泥棒はこのとき初めて悟った・・・。
「世の中の奴はよく背に腹はかえられないとかいうけどな・・・俺は違うで。俺は俺のみを・・・俺自身の誇りを優先する。従って・・・・お前の誘い、乗ったるわ。自分を捨てでも他人を守り通す。それが鬼としての・・・俺の誇りや。」
「偉そうなことを・・・。」
西鬼はバックルの音撃鼓を取り出し女郎蜘蛛めがけて、投げつけた。すると女郎蜘蛛に貼り付いた音撃鼓は巨大化し、準備は整った。
「音撃響、偉羅射威!!」
三角形に結んだ烈節を西鬼は音叉で激しく叩いた。その高い音色が響き渡り、音撃鼓がその清めの音を増幅して魔化魍に衝撃を与えた。
「キェェエエ!・・・・・鬼がぁ・・・お前ぇ・・・よくもぉ・・この私をぉ・・・・」
「黙れぇ!魔化魍がぁ!!ワイの友達のお袋さん苦しめといて、何を抜かしとんじゃワレェェエエ!!」
最後、烈節をもとの形状にもどした西鬼は、そのまま烈節で音撃鼓を力のかぎり叩いた。
刹那・・・。女郎蜘蛛は断末魔の叫びをあげ、爆発四散した・・・・・。
ボロ小屋・・・。
陣麒の母親が目を覚ました。
「母さん!!大丈夫!?」
「ああ。なんとなーく肩の力が抜けて、楽になったみたいだ・・・。」
母親の手のひらは先ほどまでとは違い、少しの汗が残っているだけで、文字の痕跡は一つも無かった・・・。
「ニシキさんが・・・妖怪を退治してくれたのかねぇ・・・」
そのとき、茜色の鳥が小屋の中に入ってきた。足には手紙がくくりつけてあり黄色い袋を引っ掛けていた。
「この鳥は・・・ニシキさんの・・・。」
陣麒は手紙をほどき、そこに記されたお世辞にも上手とはいえない文字を読んで見た。
よう、少年。ワイはやれるだけのことはやったつもりや。
多分、お袋さんは元気になっとると思う。
それでも元気になっとらんかったら、鳥に持たせた袋の中身を売って、薬でも買っとれ。
今の俺が分けてやれるだけの物は残らず入れておいた。ホントはもっと大事なものがあるんやけどな。グフフフ。
まぁ、もしそれが見たくて、俺の傍に居てもらえるんなら、お袋さんを安心させた上で、俺を追いかけるが良い。
これから数年間は俺は奈良の吉野におるからな。じゃな。また会えると期待しちょるけぇ!
「ニシキさん・・・。」
陣麒は返事を書いて鳥に持たせようと思ったが、既に鳥は飛び去ってそのあとには宝が入っているであろう袋とニシキが忘れていった釣竿だけが残っていた。
「母さん・・・俺、ニシキさんの傍に・・・。」
山中・・・
「お前も照れ屋だな・・・。」
「うるさい。ワイかてなぁ・・・弟子のことくらい考えとるんや。」
「弟子が可哀想だろう・・・・大泥棒の師匠を持つと・・・。」
「もう・・・盗みにはいい加減飽きてきたわ。これからは・・・・・そうやなぁ・・・『強きから盗み、弱きに与える』。・・・そういうのってカッコよくないか?」
「結局はやはり盗みか・・・。」
「それがワイのええ所や!ハハハハハハ!!ギガワロスww ってか!!ハハハハ!」
NISHIKI 完。
NISHIKI 収録後・・・・楽屋。
ニシキ「オイ、なんで最初、つかまっとるんや俺。」
それはあなたが劇場版エンディングで捕まってたからでしょう。
ニシキ「・・・・・・・でもなんでガキをおぶらなくちゃ・・・」
あれ、あなたリハーサルのとき、「ウチの陣麒はぁ・・・かわいい・・・かわいい・・・あ゛〜〜〜」って言ってませんでしたっけ?
ニシキ「・・・・・・・・・・・作者しねよ。」
塚地○雅「なんでまた・・・チ○コ殴られなくちゃいけなかったのよぉ・・・。」
単にウケ狙いですよw
塚地○雅「・・・・・・・・・・作者しねよ。」
ライテン「まぁ俺は満足だったがなぁ・・・。」
ニシキ「それは貴様が良い役回りやったからやろ!」
ライテンクンには他の鬼のSSにも出てもらいますからねぇ・・・丁重に扱わないと、ストライキ起こされちゃ堪りませんから。友情出演だし。
キャスト一同「ナニィィイイイイイ!?」
351 :
劇場版のひと:2006/06/14(水) 01:50:37 ID:qpwGtSgx0
弾鬼SSが投下されたので、スレが完全に違いますが言わせてください。
やはりドイツにはダンキを召集すべきだった……
俺は弾鬼らしいエピソードだと思いますよ。弐も楽しみに待ってます。
ちなみにチラシの裏ですが、先代・斬鬼が狼になったきっかけもこんな感じの話の予定でした。
先代の場合は家族って設定でしたけど。イタリアがんばれ。
353 :
斉藤 真斗芽:2006/06/14(水) 12:53:30 ID:A77XbgoB0
まとめサイト更新しました。
旅から帰ったら腹を壊してしまい、更新遅れました。すみません。
>>301 高鬼SS作者様
ご指摘の点を修正しました。ご迷惑をおかけしました。
>>345 弾鬼SS作者様
追加しておきました。
>>351 劇場版のひと様
名前欄で区別がつくし、スレを読みながらコピペしてるんで大丈夫です。
お気遣いありがとうございます。
354 :
中四国作者:2006/06/14(水) 14:32:37 ID:qDlBmX6YO
>>353 まとめサイト様にお願いがあるのですが、
今、拙作は外部リンクという形で張られていますが、できたらストーリー一覧の所にそのリンクを置いて欲しいです。
355 :
高鬼SS作者:2006/06/14(水) 17:08:49 ID:swJZh1M70
想定外の出来事があります。
「SATSUGAIせよ!」に喰い付いている人がやけに多いですw
念のために言っておきますが、新キャラはクラウザーさんがモデルではありません。
ただでさえ「先代ザンキ×ドクハキ×パロディ=カオス」という方程式が成り立っているのに、
クラウザーさんまで出てきたら収拾がつきません。
やるとしたらセイキさんかキリサキさん辺りに属性を付加します。
銃も元ネタと違い、スナイパーライフルのつもりです。
次回はちゃんと普通のSSを投下しますので、今回ばかりは大目に見て下さい。
なお、この作品はフィクションです。もし長岡まつりの会場近くに本当に寺があってもSSとは何ら関係ありません。
「恋する鬼」で一箇所訂正があります。
>人呼んで女傾向 傾向→傾奇
「かぶき」を「かたむき」と表記しては意味が大きく異なってしまいます。
最近こんなミスが多い事に対して、少し自己嫌悪になっておりますorz
197×年、葉月。北陸支部。
ミズチとの戦いから一夜明けた北陸支部地下の研究室。
台の上に横になったドクハキは投薬の真っ最中だった。
毒を操る鬼は、自身の体にも毒による負担が掛かる。そのため定期的に検査と投薬を行わないと取り返しのつかない事になってしまうのだ。全国的に毒属性の鬼が減少傾向にある理由でもある。
横になったまま宙をぼんやりと見つめるドクハキに、ここの「銀」である代田政影が話し掛ける。
「お疲れさん。もう間もなくで終了だ」
「……そうですか」
言うが早いかドクハキは立ち上がると点滴を引き千切り、パックの中に残った薬を直に飲み干した。
「無茶苦茶な奴だな」
「今日の昼は弥子とあの外人に付き合ってプールに行く約束をしているんです。夜は長岡まつりの花火にも行きますしね」
昨日の夜あんなに泳いだのにプールに行こうとする弥子はある意味逞しいと思う。それ故にドクハキも全力で弄る事が出来るのだが。
「それと点滴を途中で切り上げるのと、何の関係がある?」
ドクハキは無言で地下室の入り口を示した。と、誰かが勢いよくドアを開けて入ってくる。
「よお!あんまり遅いから迎えに来てやったぞ!」
ザンキだ。既に水泳帽と水中眼鏡とシュノーケルを付けている。
「お待たせしました。では行きましょうか」
そう言って部屋から出て行こうとするドクハキ。だが、肝心のザンキが研究室に興味を持ってしまったらしく、中々出ていこうとしない。
「凄いな、薬品や器具が大量にある。……あんたがここの責任者?」
「そうだ。私の名は代田政影。人は私の事を『科学に魂を売った男』と呼ぶ!」
自己紹介をするも、当のザンキは机の上にどんと置かれている何かの液体が入ったケースを興味深げに眺めている。
「これ何?」
「失敬な奴だな。私が折角自己紹介をしているというのに……」
ぶつぶつ言いながらも、ザンキに説明してやる代田。
「数えきれない食材と薬物を精密なバランスで配合し特殊な味付けを施して煮込むこと七日七晩で作り上げた究極にして至高の食べられる薬品、これがドーピングコンソメドラッグの原液だ!」
息継ぎもせず、さらっと言ってのける代田。
ちなみにさっきドクハキが打っていた点滴は、これを数十倍に薄めたものである。
「そういえばそれ、薄めずに直に人体に入れた場合は……どうなるんでしたっけ?」
「個人差もあるだろうが、三日三晩生死の境をさ迷うね」
物騒な事をさらっと言ってのける代田。
「しかし!薄めて用量をきちんと守り使用すれば!体力回復・毒の中和・受験勉強のお夜食と、あらゆる方面で大活躍が期待出来るのだ!」
自分の発明の自慢に熱くなり過ぎ、つい力が入ってしまう代田。思いっきり机をゴシカァンと叩いた振動で、壁に掛けてあった「千年帝国」と書かれた掛け軸ががたっと傾いた。
「あんた面白いな!気に入ったぜ。俺と一緒に伊太利亜へ行かないか?ゴートゥDMC」
「あなたこそプールに行かなくていいんですか?」
ドクハキにそう言われて慌てて駆け出していくザンキ。
「そうだったそうだった!じゃあ俺は先に行くぜ!早く来いよ!」
ザンキは勢いよくドアを閉めて出ていった。
「……嵐のような奴だったな。ところでドクハキ、良い機会だから聞いておこう。君はどうして定期検診の事を、私を含むごく数名以外には隠すんだ?」
ザンキに続きドアを出ようとしていたドクハキは、振り返ると嘲笑を浮かべながらこう答えた。
「獲物に自分が手負いである事を明かす狩人なんていませんよ」
プールでは水着に着替えたザンキとドクハキが、弥子が来るのを待っていた。
「ごめんなさい!遅くなっちゃって」
ワンピースの水着に着替えを終えた弥子がやって来る。
「ほぅ……」
「これはこれは……」
揃って弥子の水着姿を眺める二人。
「な、何ですか二人して……。ひょっとして私の体に見惚れちゃったとか?」
「値札が付いてるね」
「ええ。しかもバーゲン品みたいですね」
慌てて自分の水着を見る弥子。確かにそこには大安売りの値札が付いたままだった。
「ぎゃ〜!恥ずかしい!全っ然気付かなかったぁ!」
逃げるように更衣室へ戻っていく弥子。それを見送る二人。
「普通気付くよな、あれ」
「肝心な所で詰めが甘い、それが彼女です。見ていて飽きないでしょう?」
弥子が戻ってくるまでの間、二人っきりで話し込んだ。口の悪い者同士、殺伐とした話題になるかと思われたが、そんなに酷い話は飛び出さなかった。
が。
「ところで君、馬鹿ちゃんには定期検診の事を教えてないでしょ?」
馬鹿ちゃんとは弥子の事である。
「何故それを?……ああ、関東支部にも毒使いがいるのですね」
「いないよ。さっきあの部屋に入った時、点滴台を見て気付いた。そして君の腕にある針の痕もね」
この男、意外と抜け目無い……。ドクハキはそう思い、内心警戒した。
「やっぱあれか?馬鹿ちゃんに知られると、点滴打ってて無防備な時に仕返しされると思っているんだろ?」
「……まあ弱みを知られる事は不利益しか生みませんからね」
そう言ってザンキの目をじっと見つめるドクハキ。
「何だよ、怖い目で見るなって!大丈夫、馬鹿ちゃんには内緒にしとくからさ」
君を敵に回したくはないからね。そう言ってザンキは笑った。
心ゆくまで泳ぎを楽しんだ一同は、頃合を見計らって長岡まつりの会場へと向かった。
周辺には様々な露店が並び、浴衣姿の人々が闊歩している。三人も浴衣に着替えていた。
「うう、酷いですよドクハキさん。もうちょっとで死ぬところでしたよ……」
「大丈夫です。死なないように加減してやっていましたから」
プールで弥子は、ドクハキの戯れによって何度も泳いでいる最中に鬼の力で足を引っ張られ、溺れかけているのだ。
「もうちょっとで三途の川を泳ぐところでしたよ……。水を飲んで溺れるのってどんなに苦しいか知ってますか?」
「あなたは終わった事をいつまでも引っ張りすぎです」
弥子の抗議を「終わった事」の一言で一蹴するドクハキ。まさに外道!!!!
「OH〜!日本のお祭り屋台ってのはディ・モールト良いねぇ!俺も関東支部に配属になってからはよく下町の祭りに顔を出しているんだぜ」
特撮ヒーローのお面を買って上機嫌のザンキが言う。
弥子はとりあえず神田祭で神輿を担ぐ法被姿のザンキを想像してみた。
想像の中のザンキは、暴走して勝手に神輿の順路を外れ、担ぎ手全員を巻き込んで神田川にダイブしてしまった。BGMは勿論「神田川」。どうしてもそんな姿しか思い浮かばない。
「……あっ!焼きそばだ!やっぱりお祭りの屋台と言ったらこれですよね!私、買ってきます!」
そう言うと嬉々として焼きそばを買いに行く弥子。弥子はとりあえず三人分の焼きそばを買ってきて、うち二つをドクハキとザンキに渡した。
「いただきま〜す!熱っ!やっぱり出来たては熱くて食べ難いや」
「だったら私がフーフーしてあげましょう」
「……絶対にお断りです」
明らかに鬼法術・毒舌を吹きかける気満々のドクハキに釘を刺す弥子。
そんなこんなで三人は射的の屋台の前にやって来た。
「おっ、射的か!あんた管の鬼だろ。やってみせてくれよ!」
「でも何でしょう。やけに人だかりが出来ていますね」
確かに弥子の言う通り、屋台の前には沢山の子ども達が集まっていた。皆、銃を構えた一人の青年を食い入るように見ている。
青年は慣れた手つきでコルクを詰めると、銃を構え照準を合わし、景品を撃ち落とした。子ども達の間に歓声が起こる。
もう勘弁してよ〜、と屋台の親父が言いながら景品を手渡す。青年はその景品を近くにいた子どもにあげた。喜ぶ子ども。見ると、周りの子どもの殆どが景品を手にしている。
「凄いや!ねえお兄ちゃん、どうしてそんなに射撃が上手いの!?」
「うん?それはね……僕は狙撃の島からやって来た王様だからだよ」
そう言って子どもに微笑みかける青年。
「あっ!ソゲキさんじゃないですか!」
弥子が青年に声を掛ける。その声に振り返る青年。青年はドクハキと弥子の姿を確認すると、手を挙げて挨拶した。
「あれ、そちらの方は?」
ソゲキと呼ばれた青年はザンキに気付き、そう尋ねた。
「こちらはザンキさん。関東支部からうちの見学に来たんです」
弥子に紹介され、挨拶するザンキ。
「ピアチェーレ(はじめまして)!ミキャモ ザンキ(私はザンキと言います)!あ、日本語でOKだから」
「北陸支部所属、管使いのソゲキです。はじめまして」
「そりゃそうでしょ。その名前で太鼓や弦使いだったら、そりゃ詐欺だ!」
そう言いながら握手を交わす二人。
何でも、ソゲキはこの近くにある寺に出た魔化魍を退治しに来たらしい。そろそろ指定された時間なのでもう行くと言う。
「折角です。面白そうですし、彼の戦いの見学に行きましょう」
「いいねぇ!俺も見てみたいぜ!」
ドクハキの提案に賛成するザンキ。
「じゃあ一緒に行きましょうか」
嫌な顔一つせず快諾するソゲキ。しかし弥子だけは物凄く不安そうな表情をしていた。
(何か嫌な予感がする……)
四人は祭りの会場を後にした。
寺に四人が辿り着くと、本堂の中から住職が迎えに現れた。
「お待ちしておりました。拙僧が当寺の五代目住職・十四松です」
合掌しながらにこやかに四人を迎え入れる住職。
「うおっまぶしっ」
住職の禿頭を見て大袈裟に叫び目頭を押さえるザンキ。その態度に冷汗ものの弥子。ドクハキ一人だけの時よりも心労が酷くなってきている。
四人は本堂の中に招き入れられ、事の仔細を聞かされた。
それによると、いつも一定の時間になると怪しげな男女が現れて墓をあばき死体を奪っていくのだという。
「ひょっとしてまたノブスマですかね?」
ドクハキに耳打ちする弥子。しかしドクハキはその意見を即座に却下した。
「あなたは本当に馬鹿ですね。イレギュラー的な前回と違い、ここに土葬の風習は無い。だったらこれは別物です。死体や墓場に纏わる魔化魍と言えばカシャとモウリョウ……」
「それにオンモラキですかね」
横に座っていたソゲキが口を挟む。
「先代住職がそちらと親交があった事を思い出して、連絡を差し上げた次第です。どうか魔化魍とやらを退治してもらえませんか?」
住職が頭を下げる。
「頭を上げて下さい。大丈夫です。魔化魍は僕達にお任せ下さい」
ソゲキがそう答えた。
と。
「あれ?そういえばザンキさんは?」
弥子が周囲を見回す。さっきまで隣に座っていた筈なのに。
見るとザンキは、本堂に安置されていた木彫りの仏像をぺたぺたと触っていた。
「こりゃ古い物だな。こんな所にケースにも入れず置いといて大丈夫なのか?」
「ちょ、ザンキさん!そう思うのならぺたぺた触らないで下さい!」
「ああ、それは木喰上人が彫ったと伝えられるありがたい仏像……」
弥子と住職が同時に声を上げる。しかし次の瞬間。
「あ」
仏像の首が根本からぽっきりと折れてしまった。
本堂を沈黙が流れた。
花火の音が遠くから聞こえてくる。この寺の近くには高い建物は何も無いので、ここからでも花火は見物が可能だ。
「OH〜!やっぱ日本の夏は花火だな。でもどうせならちゃんと河川敷で見たかったけどな」
木像を壊した事について全く悪びれもせず、のほほんとそんな事を言うザンキ。
一方、ドクハキはソゲキと何やら話していた。
「管使いのあなたが来たという事は、ここに出るのはオンモラキでほぼ間違い無いという事ですか?」
「ええ。おそらく」
「そうですか。オンモラキが……。ふふふ……」
と、二人は同時に足を止め、近くの墓石の陰に隠れた。慌てて弥子とザンキもそれに倣う。
ソゲキが持ち歩いていた大きなケースから音撃管を取り出し、組み立て始めた。明らかにドクハキや他の管使いのそれとは異なった外見をしている。
「あれはソゲキさん用に吉野で特注してもらった音撃管・弧光です。他の管と違いライフルタイプなんですよ」
弥子がザンキに説明する。
「出ましたね。どちらか分かりますか?」
「ええ。あれは姫ですね」
暗視スコープを覘きながらソゲキが答える。墓石に「弧光」を乗せて固定し、照準を定める。
「そのキレイな顔をフッ飛ばしてやる!!」
銃爪を引くと同時に姫の頭が吹き飛んだ。銃声は上がり続ける花火の音に紛れて殆ど聞こえなかった。そのまま土塊へと変わる姫。
「相変わらず良い腕ですね。……さて、残るは童子とオンモラキですか」
と、姫が墓を漁っていた現場の近くから、何者かが駆け出していった。慌ててソゲキが「弧光」を構える。
「童子です。後を追いましょう。きっとそこにオンモラキが居ます」
スコープを覗きながらソゲキがそう告げた。
「なあ。あいつら何で墓を荒らしていたんだ?」
露店で買ったお面の紐を指先に引っ掛けて、暇そうにくるくる回しながらそう問うザンキ。
「あの行動こそがオンモラキである証拠なんですよ。カシャやモウリョウは死体を食らう。それに対しオンモラキは死体に溜まった邪気を食らう」
だから骨でも構わないんです。そう説明するドクハキ。
「邪気?ああ、あれか。仙人が霞を食べるのと一緒か」
自分なりに解釈して納得するザンキ。
「邪気は溜まってイツマデになる等、放っておくと碌な事になりません。関西支部にはその流れを絶つための葬の儀を執り行う鬼がいるぐらいですし」
そう捕捉するソゲキ。それでも関西にはイツマデが湧く事があるし、ザンキが初来日した時にも――直接見てはいないが関西にイツマデが出ている。
「それにしても暗いなぁ……。誰か明かりを持っていませんか?」
弥子が他の三人に尋ねる。
「そんなに暗いですか?」
「そりゃ鍛えてる鬼の皆さんと違って、私はただの人間ですから」
ふむ、と唸るとドクハキはソゲキやザンキにライターかマッチを持っていないか尋ねた。だが誰も持っていない。
「残念。弥子の頭を松明代わりにしようと思ったのに……」
「髪の毛燃やす気満々!?」
目を見開いて絶叫する弥子。苦笑するソゲキ。
「全く……。あっ、あそこに明かりが見えますよ」
そう言って弥子が指差す方向には、成る程、二つの真っ赤な明かりが灯っていた。だが。
「だからあなたは馬鹿なのです。よく見なさい。あれはただの明かりではありません」
弥子の頭をぺしぺし叩きながら前方の明かりを凝視するドクハキ。ソゲキも「弧光」を立射に構える。
甲高い鳴き声と羽ばたきの音が聞こえた。闇の中から怪童子が姿を現す。それと共に、爛々と赤く輝く目を持った、漆黒の鶴の姿をした魔化魍が現れた。オンモラキだ。
「私は戦えますが、どうします?」
「ではお言葉に甘えて。童子をお願いします、ドクハキさん」
ドクハキが鬼笛を吹き鳴らす。紫の煙が彼の体を包み込んだ。煙を払い、毒覇鬼に変身すると同時に駆け出す。背後からソゲキが「弧光」を撃った。
オンモラキが翼を羽ばたかせ空へと飛び上がる。それと同時に口から陰火を吐き攻撃してくるオンモラキ。ソゲキは墓石の陰に隠れると、自分の鬼笛を取り出し、吹き鳴らした。
霧がソゲキの周囲を包み込む。そしてその中から鬼が、仮面ライダー狙撃鬼が姿を現した。
一方、毒覇鬼は怪童子と接近戦を繰り広げていた。元々今日は非番なので、着替えは念のために持ってきていても音撃管までは持ってきていない。だが格闘技においても毒覇鬼は強かった。
オンモラキ同様、口から青白い陰火を吹き出してくる怪童子。その攻撃を側転して避けると、墓石を蹴って怪童子の頭上に跳び上がった。
空中で一回転し、そのまま怪童子の頭頂部に踵落としを叩き込む毒覇鬼。そして体勢を崩した怪童子の胸に、毒爪を突き刺す。
更に駄目押しで毒舌を至近距離から怪童子の顔面に吹き付けた。泡を吐いて卒倒した怪童子は、そのまま土塊と化した。
「終わりましたよ。そちらはどうです?」
鬼法術・霧隠で自らの姿を隠すと、オンモラキの翼に向けて確実に「弧光」の超圧縮空気弾を撃ち込んでいく狙撃鬼。翼は穴だらけになり、近くの卒塔婆の上に墜落してしまう。
「キョエエエエエエエ!」
絶叫するオンモラキ。すかさず鬼石を一発ずつ確実に頭部や心臓部にぶち込んでいく。
オンモラキが動けない程弱ったのを確認すると、狙撃鬼は「弧光」を一旦ばらして、再度組み直し始めた。そして装備帯から音撃鳴・魔弾を取り外し、姿を変えた「弧光」に装着する。
「弧光」はバセットホルンの形に姿を変えた。それを口に当て、清めの音の演奏を開始する狙撃鬼。
音撃射・疾風衝動が鳴り響き、オンモラキを土塊へと変えた。
「ブラボー!おお……ブラボー!!なかなかやるじゃん!」
拍手で狙撃鬼の腕を称えるザンキ。
「いえ、まだ成長途中だったのが幸いしただけですよ」
顔の変身を解除したソゲキが、爽やかに笑いながらそう答えた。
「花火、終わっちゃいましたね……」
弥子が残念そうに言う。
「でもさ、明日もあるんだろ?なら明日も来ようぜ!」
ザンキが笑顔でそう言う。弥子もその意見には賛成だった。明日こそは仕事を忘れて河川敷で純粋に花火を眺めるのだ。
「では僕は住職に報告してきます。皆さんは先に行って下さい」
そう言って立ち去ろうとするソゲキ。しかしドクハキはそのつもりは無いようだ。
「最後まで付き合いますよ。ふふふ……」
弥子は、こちらに来る前に感じた嫌な予感が再び湧き上がってくるのを感じて身震いした。
十四松住職に会い、魔化魍を倒した旨を告げる。満面の笑みを浮かべ感謝の言葉を述べる住職。だが。
「住職。あなた、あの魔化魍がどうして発生するかお分かりですか?」
嫌な笑みを浮かべながらそう尋ねるドクハキ。慌ててソゲキが止めようとする。
「ドクハキさん、それを言っちゃ……」
「君は黙っていなさい。住職、あのオンモラキという魔化魍は成仏出来なかった死者の魂が化けるものだと言われています。事実、あれが湧く寺は生臭坊主が多いと聞きます」
「……何が言いたいのですかな?」
段々住職の笑顔が引きつってきた。
「あなた、碌に死者の供養をしていないでしょう?この寺も先代住職の時と比べてやけに羽振りが良くなったと聞きます。おそらく金儲けにご執心なのではないですか?」
本人を前にしてずけずけと言ってのけるドクハキ。狼狽するソゲキ。顔面蒼白の弥子。面白そうに成り行きを見守るザンキ。
「それに、普通この時間は夜のお勤めがあるのではありませんか?それなのにあなたは何もしていなかった。生臭坊主を続ける以上、またこんな事が起こると覚悟しておいた方が良いですよ」
住職は俯いたまま黙って聞いている。だが。
「フーーンフ フーーン フーーン フーーン……」
急に鼻歌を歌いだす住職。このメロディは亜米利加の国歌だ。
「……すいまセーン……ミーはウソついてまーした……。日本食とかヘドが出るほど嫌いデース……。ミーの好きな国ではみんな……ハンバーガーとバーベキューしか食べませーん……」
突然口調ががらりと変わる住職。
「和服……こんなスカスカした布キレいりまセーン……。ミーの好きな国では夜寝る時は……裸にGパンって決まってマース……」
いきなり着ていた袈裟を素手でびりびりと引き裂く住職。その下から、言葉通り裸にGパン姿の筋骨隆々な肉体が現れる。
「この紙と木だらけの建築も気が滅入りマース……。自然と共存?クソくらえでーす……。ミーの好きな国ではホームランが打ちたかったら薬物とコルクバット使いマース」
邪悪な表情で住職はドクハキ達を睨みつけてくる。
「ほぅ、これは凄い」
ドクハキが感心したように言う。まるで緊張感が無い。ザンキも実に嬉しそうだ。
「つまりあなたは大の亜米利加かぶれという事でしょうか?」
「オゥ、イエース。ミーは亜米利加大好きでーす。この寺の裏の駐車場にはマイキャデラックが停めてありマース。冷蔵庫の中はバドワイザーだらけでーす。近いうちにこの寺と墓場は潰して貸しビル建てマース……」
何故そんな奴が僧侶になったのだろう。弥子は訳が分からなかった。
「でも日本のコトワザでひとつだけ好きなのありマース……。『鳴かぬなら殺しちまえホトトギス』。ミーの真意を知った以上、ユー達には死んでもらいマース」
どうしてそんな方向に話が飛ぶのか、理解に苦しむ。
「ふっ、この私を殺そうとは……」
左腕を部分変身させるドクハキ。と、彼の前にザンキが歩み出てきた。何故か弥子の手を引いて。
「こいつは俺に任せろ」
そう言うと住職に向かって語り始めるザンキ。
「俺は伊太利亜人だが日本が好きだ。そうでなきゃわざわざ言葉を覚えてこんな東洋の小さな島国に来ねえ。この国には『ワサビ』っていう素晴らしいものがある」
それはひょっとして「侘び・寂び」の事を言っているのだろうか。しかしザンキの事だから本当に山葵の事を言っているのかもしれないが。
一陣の風が吹き、ザンキの浴衣の裾を軽く舞い上げた。
「それなのに日本人であるあんたがそんな事でどうする?俺がこの国の本当の素晴らしさを教えてやる」
言い終わると同時に、ザンキは弥子に何かを注射した。
「痛っ!」
「じゃあ後は任せるわ」
「ちょ、ちょっとザンキさん!俺が教えてやるとか言っておきながら何で私が……。それにさっき何を注射したんですか?」
「ん?これ?地下の研究室で代田って人が作ってたドーピング何ちゃらって薬。とりあえず水で薄めておいたから死にはしないと思うけど」
それを聞いてドクハキが驚きの声を上げる。
「持ってきていたのですか?」
あの時、確かにザンキはドーピングコンソメドラッグの原液を興味深げに眺めていた。だが、くすねるような素振りは全く見せていなかった筈だ。
改めてザンキの事を抜け目無い奴と思い警戒するドクハキ。
その時、弥子の体に変化が起こった。上半身の筋肉が盛り上がり、服を弾き飛ばしたのだ。
「ぎえええええええええ!」
弥子の絶叫が夜の境内に響く。
「よし、馬鹿ちゃん行け!SATSUGAIせよ!」
何故かエアギターを弾きながらノリノリで弥子に命令するザンキ。
「そそそ、そんな事言ったってぇ〜」
胸を両手で隠し、涙目でザンキを見る弥子。住職はと言うと、シャドーボクシングをやりながら体を温めている。パンチで空を切る凄まじい音が響いた。
と、近くに落ちていた手頃な大きさの石を拾ったドクハキが一歩前に出て弥子に向かいこう告げた。
「弥子……殺れ」
冷酷な笑みを浮かべ、鬼のものと化した左手を掲げ、掴んだ石を粉々に握り潰しながら。
「頑張れ馬鹿ちゃん!臓物をぶち撒けろ!」
とうとう歯でギターを弾く真似まで始めて煽りまくるザンキ。
「カモ〜ン」
完全に臨戦態勢を取り、手招きする住職。
絶句しつつ成り行きを眺めるソゲキ。
「来ないならこちらから行きマース。ホアアーッ!!」
先に住職が動いた。怪鳥音を上げながら突撃してくる。
これの何処が日本の素晴らしさだっ!弥子は大粒の涙を流しながら住職に飛び掛かっていった。
翌日の長岡まつり最終日を堪能し、ザンキは東京へと帰っていった。
弥子は用法を間違えた薬の副作用で高熱を出し、倒れた。勿論花火を見る事は出来なかった。
十四松住職は弥子との戦いに敗れ、そのまま入院した。寺はやっぱり潰すらしい。
ソゲキはドクハキに「童子を倒してやった借りを返せ」と言われ、今回の一件の口止めを要求された。
ドクハキはこっそり弥子の下宿の合鍵を作り、彼女に内緒で引越し業者を呼ぶという地味(?)な嫌がらせを実行に移していた。
代田はドーピングコンソメドラッグの改良を続けている。
作者はこんなものを書いて投下した事に対する一抹の不安と後悔を覚えていた。
そして。
DMC伊太利亜支部。そこの「ビショップ」でありザンキの友人でもあるジェバンニ宛に、日本から小包が届いた。
差出人はザルバトーレ・ザネッティ、即ちザンキである。
中身はスープだった。「温めて食べてね」とザンキ直筆の手紙が入っている。
伊太利亜人故の大雑把さのためか、何一つ疑う事無くジェバンニはそのスープを温め、支部の人間全員に振る舞った。
それから数日間、伊太利亜支部は活動不能状態に陥ったという。 了
本当にどうでもいい設定
ソゲキ(狙撃鬼)
良識人。人当たりも良く、ドクハキとは真逆の性格。弥子にも優しい。
でもたまに銃を構えていると口が悪くなる。
別に鼻は長くない。
好きな漫画はゴルゴ13。 尊敬する人物もゴルゴ13。
特技は針の穴も撃ち抜く狙撃。 苦手な事は針の穴に糸を通す事。
代田政影(しろたまさかげ)
北陸支部「銀」。しかし薬物の精製にしか興味が無い。
そのため音撃武器等の修理・製作・調整は中部支部や本部に丸投げしている。
好きな女性の体の部位は耳。 好きな海産物は蛸。
趣味はカメラ撮影。
五代目住職・十四松(ごだいめじゅうしょく・じゅうしまつ)
「闘うお坊さん」「血塗られた袈裟」「あの日のメロディ」等の異名を持つ。
片手にマルボロ、心に星条旗、唇にバドワイザー、背中に般若の彫り物を〜。
亜米利加万歳!安保賛成!お蔭で安保闘争の時は大変だった。
同じ顔をした兄弟があと五人いる……らしい。
ドーピングコンソメドラッグ
代田の自信作。
用法を間違えるとパルプンテな事になる。
数十倍に薄めたものを、よく温めてからご飯に掛けてお召し上がり下さい。
NISHIKIに続いて、次はHABATAKI。
文字通り、羽撃鬼さんのSSを土日に投下予定です。
それでは少々あらすじを。
大蛇を退治し、無事に博多へと帰省したハバタキ。
待っていたのは笑顔で迎える妻、浜谷おつきと、1歳の誕生日を迎える息子、浜谷春一。
だが、彼を・・・家族を待っていたのはある意味、大蛇退治よりも壮絶な闘いだった・・・。
HABATAKI. 6月18日投下!!・・・・・予定。
372 :
高鬼SS作者:2006/06/17(土) 01:00:17 ID:yYdQdG7K0
>用語集サイト様
いつもすいません、お手数かけてしまって。
>山下奉文
出身地違ってましたか!
書く時にはウィキを参考にしていたのですが、そこにはそう書いていたような…。
後で再確認してみます。
>味の素の素
あれ、毒の小瓶でいいんです。解毒剤ではありません。
黒風に蹴られた先代ザンキが落とした味の素の素(毒)を、弥子が拾ってコウキに飲ませたんです。
分かり難かったようですいません。
ちなみに前回の番外編投下時に約束した普通のSS、早ければ日曜には投下出来そうです。
思いついたらぱっと書く主義なので。ホントすいません。
以降は既存キャラの掘り下げ的な話が続くと思いますので、どうか一つよろしくお願いします。
373 :
用語集サイト:2006/06/17(土) 01:32:33 ID:/PfNzRuX0
ああ、弥子ちゃんが飲ませたのも先代ザンキが入れたのも両方とも毒でしたか!
っていうか毒を残しとくなんてまた悪さしようとしてたんですか、先代は
今日はもう眠くて……なので早ければ日曜日くらいには修正しておきます
作者直々に間違いの指摘をしていただくととっても助かります
ではおやすみなさい
374 :
DA年中行事:2006/06/17(土) 02:07:49 ID:E1tOekG30
長い・・・長いよ、オレ。
と、言う事でこれから番外「眠る獣」後編を投下します。
前編は
>>315から。
山道は三日間降り続いている雨のせいで、すっかりぬかるんでいた。
尾賀は慣れた道とは言え、一歩一歩をしっかりと踏みしめる。そうでもしないと、
足元をすくわれそうだった。
多分、今転んだら、立ち上がるまで時間がかかるだろう。
尾賀の視界がぼやけているのは、この小糠雨のせいばかりではない。
家から出る前にテレビから聞こえてきた唄が、尾賀の頭の中で何度も繰り返される。
―――いつまでも いつまでも 側にいると 言ってた・・・・・
慌ててテレビのスイッチを切ったが、尾賀は歌詞の続きを知っている。
―――あなたは嘘つきだね 私を置き去りに
病院のベッドで寝ていたはずの闘鬼がこの山で命を落とし、もう十年以上が経った。
なのに、未だに泥濘の上に横たわる、残酷なほど痩せ衰えた恋人の亡骸を見つけて
しまった瞬間だけが、切り取られた写真のように尾賀の記憶に蘇る。
こんな雨の日は、尚更だ。
あんな身体で、どうして鬼になれたのか。何故、闘わなければならなかったのか。
そう、答えなら知っている。それは彼本人が口にしていた。
「だって、俺は鬼だから」少し困ったような、はにかんだような、あの笑顔。「心配かけ
て、ごめんな、もこ」
元子だから、もこ。そんな照れくさい渾名をつけたのは、彼だ。
「もこは小学校の先生になるんだろ?おっかない先生になりそうだなぁ」
「先生は給食のおかわり何杯までできるの?生徒の分まで食べちゃだめだよ」
「サポーターの仕事、無理するなよ。俺ならほら、頼りになる弟子がいるから大丈夫」
―――あなたは嘘つきだね 私を置き去りに
元子が教師という職に就き、「飛車」としての活動が難しくなった頃、闘鬼の「と」が
運転免許を取得した。そして、闘鬼の体内では静かに病が進行していた。
「闘鬼さんは気付いていたんだ。でも、絶対に尾賀先輩には教えるな、って」
カップに注いだコーヒーは、もうぬるくなり始めていた。
「先代の闘鬼さんの話は、私も少しだけ聞いていたわ。まだ若くて体力があったか
らこそ、癌の進行も早かった・・・・」
それに、鬼だったから。みどりはその言葉を、ぬるいコーヒーと一緒に飲み込む。
「あんまり早かったから、まだ引退もしていなかった。だから、病室には鬼笛もDA
も音撃管も・・・そのまま・・・・」
そして、魔化魍の気配を察知した闘鬼は、本能で立ち上がった。もう、自力で呼吸
する事すら難しかったのに。
「すごい鬼だったのね」
「すごい鬼だったよ。俺なんか、とても太刀打ちできないくらいの」
その彼に師事し、名前を継いだトウキが、手にした古いDAに目を落す。
「闘鬼さんがカエングモと相打ちになって、尾賀先輩は「飛車」を辞めた。小学校の
先生をしながら「歩」をやっている、とは聞いていたけど・・・そうか、ずっとこれを持
っていたんだ・・・あれから、ずっと」
「尾賀さん、今の学校を辞めるらしいわ。正確には、辞めさせられるらしいの」
「辞めさせられるって、どうして!?」
みどりは、一月前小学校の中庭に出現したイッタンモメンとその顛末を説明した。
「そんなの、尾賀先輩の責任でもなんでもねぇじゃねぇか!」
「その通りなのよね。でも、地下にいたのは魔化魍でメタンガスの爆発じゃありませ
んでした、なんて言える?」
小学校の中庭の池の地下には、もう一つ池があった。過去の地震でできた地層のず
れに、地下水が溜まってできた「水溜り」のようなものだ。それに気付かず、建築業者
は図面通りにコンクリート製の人工池を、その真上に作ってしまった。
数十年の時間をかけて、自然は小さな悪戯を仕掛ける。
童子・姫に養育されない単独の魔化魍の誕生を許し、地上の人工池との間に僅かな
隙間を開ける。更に時が経ち、季節が変わり、魔化魍は育ち、自ら餌を求めて地上に
姿を現した。
私の人生は、何だったのか―――――
尾賀は降り止まぬ雨を落す天を仰ぎ、嘆息する。
「歩」の家に産まれ、鬼と恋をし、魔化魍に恋人を殺され、今また、魔化魍に生涯を賭
けた職を奪われようとしている。
否、そうじゃない。
職を追われるのは、自分の責任だ。遅刻したせいで、子供たちを危難に逢わせた。
あの時、ルリオオカミや勝鬼が居合わせなかったら、と思うと心底ぞっとする。
「ダメな先生だったな・・・・」
楢、ブナ、山桜、紅葉。山の木々は黙したまま尾賀の呟きを吸い込む。
闘鬼を喪った尾賀の心を救ってくれたのは、魔化魍も鬼も知らない子供たちとの生活
だった。尾賀は、教師という仕事に没頭する事で、自分の心の奥底に深く穿たれた穴
を埋めた。埋める事ができた、と思っていた。
十五年の教師生活で、受け持った子供たちを全員覚えている事は、尾賀のささやかな
自慢だった。
どんな問題を抱えた子供たちも、みんな可愛かった。愛しかった。
なのに、自分は、その子供たちを危難に逢わせた。
「このDAは直ったのか?」
ついきつい口調になってしまう自分を、トウキは冷めたコーヒーを飲み下す事で戒
める。苦い後味を残して、黒い液体は喉を下りた。
「ええ、外側はね」トウキの苛立ちに気付かぬふりをして、みどりは答える。「でも、
起動しないのよ。弟子のあなたの鬼笛なら反応するかと思って」
鬼笛の波動を幾度浴びせても、DAは身じろぎ一つしなかった。容が空になってい
る―――魂が離れている訳ではない。
みどりもまた、苛立っていた。
熱で溶け、あるいは砕けていたパーツは、みどりが吉野の本部に所属していた頃の
伝を辿って手に入れた。調整にも不備は無かったはずだ。でも、DAは眠っている。
眠り続けている。
「わかった」トウキは短く答え、腰の鬼笛を手に取り、唇に当てる。
力強く、清い笛の音が、地下の研究室に響く。
修理中のDAたちが反応し、オンシキガミとして鬼と交わした約束を果たそうとする
中、やはりトウキの手の中のリョクオオザルは、銀色のディスクのまま頑なに眠っ
ている。
「お役に立たないようで」パチン、と指を鳴らし他のDAたちを静かにさせると、トウキ
は肩を竦めた。
「ダメかぁ〜」みどりは大きく息を吐く。「トウキさんだったらなんとかなるかと思った
んだけどなぁ」
「ずびばぜんねぇ!不肖の弟子なもんで!」
「あっ、ゴメン。そういう意味じゃなくて・・・」
「いいよ、冗談だよ」少し寂しげにトウキは笑い、「一緒に尾賀先輩に叱られに行こう
か」と続けた。もちろん、みどりに異存は無かった。
尾賀元子は、教え子たちには絶対に聞かれたくない言葉で悪態を吐き、とうとうその
場に膝をついた。
雨は無慈悲に降り続いている。
声を出さずに涙を流すのが、今の尾賀にできる精一杯の強がりだった。
どんなに足掻いても、時間を元に戻す事はできない。
あの日、自分が魔化魍の出現についてちゃんと予測できていれば、時間通りに学校
に着いていれば、子供たちの傍にいてやれば。さらに遡れるなら、もっと早く闘鬼の
体調の変化に気が付いていれば、片時も彼の傍から離れずにいれば。
いっそ、鬼や魔化魍など、知らずに人生を送る事ができたならば。
それでも自分は、今この山に魔化魍出現の兆候を探りに来ている。
涙を零しながら、頭の片隅で雨具越しに伝わる気温を数値に直している。
そして、驚くほど冷静に、背後の禍々しい気配を察知していた。
『ヒトよ、我が子の餌に・・・』
『餌に・・・・』
童子と姫。尾賀は泥の中に指を突き入れ、掴めるだけの小石を掴むと、短い「呪」を
口の中で唱える。
「イヤだねッ!」
怒りに眦を朱に染め、尾賀は憎むべき捕食者の眷属に、礫を放つ。小石は空中で風
を纏い、過たず童子と姫を撃ち、耳障りな悲鳴を上げさせる。
――――鬼投術、鬼弾。
本来は飛んでくる攻撃を避ける練習の為の技であり、鬼石でできた鬼円という硬貨に
似た武器を用いる。それを尾賀は、「呪」をかける事によってただの小石でやってのけ
た。彼女にその技を教えたのは、この山で命を落とした闘鬼である。
『おのれ・・・』
『許さぬ・・・』
「呪」をかけられた小石に肉を焼かれ、異形の育て親が浮かべた表情は、憤怒であ
る。たちまちその身は、醜い怪童子と妖姫に変わる。
尾賀は小石を握り締める手に力を込め、挫けそうになる心を励ます。
「呵ッ!」
裂帛の気合と共に放った礫が、怪童子と妖姫の身を焦がした。だが、魔物は一歩も
退かない。
『効かぬ』
『効かぬな』
魔物の口が横に裂け、邪悪な笑みを作った。
「尾賀先輩!」
「尾賀さん!」
トウキとみどりが漸く辿りついた尾賀の家は、無人だった。彼女の携帯電話にかけ
てみると、家の中から派手な着信音が聞こえてきた。
「ケータイ忘れてんじゃん、尾賀先輩。まったくもう相変わらず・・・・」
その時、トウキの腰のホルダーに収まっていた物言わぬディスクが、はっきりと動
いた。いや、動いたどころの話ではない。皮製のホルダーを引き千切る勢いで跳ね
たのだ。慌ててホルダーのフックを外すと、古いDAは鬼笛の力を借りる事無く展開
し、緑色の弾丸のように山道を駆け上がっていく。
「みどりちゃん、ここにいてくれ!」
トウキは何か言おうとするみどりをその場に残し、クルマに飛び乗るとアクセルを踏
み込んだ。
諦めるな、目を閉じるな。
しかし、尾賀は自分の膝が小刻みに震えるのを、どうしても止める事ができない。
手の中の小石は、あと僅かだ。新たに石を拾う隙は無い。
尾賀は最後の小石を躊躇無く口の中に入れ、獲物を絡めとる糸を吐き出そうとして
いる怪童子と妖姫の口元を狙う。
「呪」を唱える術者の唾液は、小石に清い炎と風を纏わせ、人外の者の口を焼いた。
『ギィィィィィィィィッ!!』
苦痛に喘ぎ、怒りが頂点に達した二匹の魔物は、それぞれ腕を鋭い刃に変える。
そして―――――
ぐるるるるるるるぅぅぅぉぉぉぉおおおおおおッ!!!
地響きと共に、あり得ぬ素早さで巨大な魔化魍が姿を現した。
ツチグモだ。
尾賀は、巨大な捕食者を前に、脱力しそうだった。
どう考えても、自分に勝ち目など、無い。彼等の前では、ヒトはやはりただの餌に過
ぎないのか。
『元子ッ!』
黒鉄の身体に、茄子紺の隈取、額には白銀の二本角。
――――闘鬼。
『諦めるな、目を閉じるな、元子!』
自分が眠りについた日と同じような、冷たい雨に打たれながら獣は疾走する。
これもまた、夢なのだろうか。
だが、びりびりと全身をつねり上げられているかのような焦燥感と、遠くない距離か
ら発せられる重苦しいほどの邪悪な気配は、間違いなく現実のものだ。
今度こそ、俺は護る。
リョクオオザルは降りしきる雨をものともせず、ひたすらに駆けた。
その耳に、怪童子と妖姫の悲鳴が聞こえる。
近い。
生い茂る藪草を踏み分け、跳ぶように獣は駆ける。
『元子ッ!』
鬼の声。懐かしい、あの鬼の声。
そして、リョクオオザルは見る。巨大なツチグモに襲われようとしている、彼女を。
『諦めるな、目を閉じるな、元子!』
リョクオオザルは、愛しい名を機械のカラダの奥底で噛み締める。
大好きな鬼と共に在った日々、一日に幾度も聞いた名前。
リョクオオザルはひときわ高く跳躍し、繰り出す前脚に渾身の力を込めた。
弾かれようと、砕かれようと、構うものか。
小さな機械のカラダは、再び魔化魍に傷つけられてゆく。それでも獣は、巨大な魔化
魍に挑み続ける。
自分だけでは、魔化魍を倒せない事はわかっていた。
後方の元子から、ツチグモの目を逸らす事。それが今自分に課せられた使命なのだ。
尾賀の目の前で、闘鬼がツチグモと闘っている。
雨が、視界を滲ませる。
闘鬼。
その名に、闘いの字を負うには、あまりに優しく愛しい鬼。
違う。
今そこで闘っているのは、彼ではない。彼は死んだ。私が愛した鬼は死んだのだ。
雨が一層強く、尾賀の雨具のフードを打つ。
尾賀は、フードを取り去る。冷たい雨が、直に彼女の髪と顔を濡らし、首筋に垂れた。
その冷たさに、尾賀は一つ息を吐くと、しっかりと自らの足に力を込める。
怪童子と妖姫が、刃に変えた両腕で自分に襲いかかって来た。
尾賀は身体を低くし攻撃をかわすと、口の中に残る不快な砂利に「呪」をかけ、至近
距離から魔物に吹き付けた。同時に、足元の石を拾う。
「ヒトを舐めんなッ!」
脇腹から嫌な匂いのする煙を上げ、堪らず怪童子と妖姫がよろめく。泥の上を転げ
て間合いを取った尾賀は、バランスを崩した魔物に向かって礫を放った。
「尾賀先輩!」
ザッ、と風が鳴り、雨に濡れて重くなった尾賀の髪を揺らす。
かつての少年は、すっかりベテランの鬼となって、尾賀の前に雄々しい姿を現した。
彼の手に握られた音撃管が、小気味良い発射音をたて、怪童子と妖姫を爆散させる。
「下がってください!」背中に尾賀を庇ったはずの闘鬼は、ペシッと頭を張られた。
「私を庇おうなんざ、百年早いッ!」振り返ると、尾賀が泣き笑いの表情を浮かべて立
っていた。
さらに、一週間後――――
引越し荷物を詰めたダンボール箱に囲まれて、尾賀は眠っていた。
雨にやられたせいか、鬼弾で気力を使ったせいか、熱が下がらない。
昼に飲んだ風邪薬が効いて、尾賀はとろとろと眠りに落ちていた。その枕元には、
銀色のディスクが一枚。
鬼笛の力を借りずに展開したDAは、自分が仕えた鬼と同じ名を持つ闘鬼がツチグ
モを清めると、再びディスクの形に戻り、沈黙した。
久し振りに晴れた今日、開け放たれた窓から入る風は、からりとしている。
尾賀は、眠っている。
ふいに枕元のディスクが動いた事など、知る由も無い。
鬼の影が、優しい眼差しで、眠る尾賀を見つめていた。
銀色のディスクが一瞬緑色に輝き、小さな猿の影を形作る。
『鬼よ、俺を連れて行かないのか?』小さな猿は尋ねる。
『お前は地上に残って、彼女を護れ。彼女の人生の続く限り』
『それは、新しい契約なのか?』
『そうだ。獣の魂よ、銀盤に宿って尾賀元子を護れ。鬼の名に於いて命ずる』
鬼の指先が、虚空に文字を綴る。その軌跡が光の粒になり、弱い雨のように小さな
猿の影に降り注いだ。
『お前がそう命じるのなら』
猿は契約を受け入れ、鬼が綴った「呪」を浴びると、再び銀色のディスクに戻った。
それを見届け、黒鉄に茄子紺の隈取を配した鬼の顔が、困ったようなはにかんだよ
うなヒトの笑顔になる。
『じゃあな、もこ』
そして、部屋の中に風が渡り、穏やかな尾賀の寝息の他は全てが沈黙した。
「オガチン、先生辞めるんだろ?」
だらだらした坂道を登る子供たちの額に、汗が光っていた。陽射しは既に、夏のそ
れだ。シゲっちの独り言のような呟きに、マコだけがハンカチで汗を押えながら答
える。「辞めるっていうか、クビになったのよ」
「ねぇ、それ、ボクたちのせい?ボクたちのせいなの?」
キチンと被った帽子の下で、ジョウの顔がたちまち曇る。
「んなワケねーじゃん」どこから抜いてきたのか、まだ穂の出ていないスカンポを振
り回すケンちゃんは、言葉の調子と裏腹に少し元気が無い。「ジョウ、そんな事オガ
チンに言うなよ。かわいそうだから」
子供たちなりに、何故尾賀が学期途中で学校を去るのか、情報は耳にしている。親
の反応は、冷淡だった。「教師が遅刻するなんて」「そんな無責任な教師に、子供を
まかせられない」・・・・確かに、尾賀はあの日、子供たちが学校の中庭で魔化魍に
遭遇した日、集合時間に遅れた。しかしその程度の事で、一緒にいるとなんだか楽
しくて、教師らしくないオガチンが学校を去らなければならないのか、納得できない。
他の先生が学校を離れる時に催されるお決まりの行事も、オガチンには無いのだ。
このまま黙って学校を去らざるを得ないオガチンに、お別れの挨拶をする為に、子
供たちは坂道を登っていた。
「フシンシャリョウ発見、フシンシャリョウ発見!」
シンゴが素っ頓狂な声を上げる。この季節からもう真っ黒に日焼けした彼が指さす
方向には、なるほど見た事の無い4WD車が一台。停まっているのは、オガチンの
家の敷地だ。
「オガチンの彼氏かな?」
「なワケねーじゃん!」
勝手に解釈して、意味も無く不安になった子供たちは、オガチンの家に向かって走
り出した。
子供たちに不審人物と思われているなど露ほども思わず、トウキはみどりと一緒に
尾賀の家の前に立っていた。
「尾賀先輩、また山に行ってんのかな」
呼び鈴を何度か押したが、誰も応答しない。しかし、その呼び鈴の電池が二ヶ月前
から切れている事を、二人は知らない。
「電話してみれば?」みどりが言う。
「ええっ、俺が!?昼寝してたらどうすんだよ、半殺しにされるって。みどりちゃん電
話してよ。この通り!」トウキがあまりにも真に迫った表情で自分を拝むものだから、
みどりはついおかしくなって笑ってしまった。
「ちょっとぉ、やめてよ。第一、明日吉野に行く尾賀さんに挨拶しなきゃ、って言った
のはトウキさんでしょ。なんで今からそんなに怖がっているのよ」
「そりゃそうだけどさ、怖いものは怖いんだって」
大柄な身体を精一杯縮めて、トウキは尚もみどりを拝む。どんな魔化魍にも物怖じ
せず、我が子を弟子にし鬼の在り方と父親の背中の両方を見せている、いつもの彼
からは、想像できない姿だ。尾賀の前では、いつまでも修行時代と同じ、十代の少年
になってしまうのかもしれない。
尾賀は、数日前に学校に辞職願いを提出した。
吉野にある猛士の本部で、魔化魍の出現予測に関する研究をする部署で、働く決意
をしたのだ。ここのところ尾賀と毎日電話でやりとりしているみどりは、そんな尾賀の
決意を後押しした。
「私の人生、なんだったのかねぇ」自嘲気味に言った尾賀の声を思い出しながら、み
どりはこちらに駆け寄って来る子供たちと、携帯電話を握ったまま逡巡しているトウ
キを見比べ、そんなに悪い事ばっかりじゃないじゃない、と胸の内で呟いた。
雨の匂いは、既に遠い。一人の女の門出を祝うように、太陽は惜しみなく地上に光
を撒いていた。
=完=
387 :
DA年中行事:2006/06/17(土) 02:38:49 ID:E1tOekG30
長いやら、ぐるぐる行ったり来たりするやら、暗いやらなお話に最後までお付き合い
下さり、ありがとうございました。しかもたいしてDA出て来ないし。
以前「キョウキ」君のSSに出てきた「鬼投術」を使わせてもらいました。作家さん、勝
手に改変しながら使っちゃってごめんなさい。
なんか今回も謝ってばっかりッス。申し訳ない。
次回は七夕の頃に・・・・ちゃんとDAが出てくる話で・・・・
>>375-387 鬼を取り巻く人々の人生模様って感じで面白かったです。
人知れず闘っている名も無き人がたくさんいるって雰囲気がしました。
389 :
用語集サイト:2006/06/17(土) 21:24:26 ID:/PfNzRuX0
>中四国支部鬼譚さん
返答が遅くなってすみません
いまのところあなたの作品の用語集の作成は予定しておりません
なぜなら設定が大きく異なることと、このスレに投下される作品だけでも膨大な用語があることです
新しく作ると約束した風舞鬼さんの用語集もまだ作成開始の目処すら立っていない有様でして……
390 :
名無しより愛をこめて:2006/06/18(日) 12:38:43 ID:PCtM7XChO
中四国氏は、望まれるなら自分で用語集を編纂して、別枠としてリンク貼ればよいのでは
>>389-390 まあそれもいいんじゃないかとは思うけど、でも皆、考えてみてくれよ。
そもそも設定・世界観の統一ってのはこのスレの第一目的じゃないでしょ。
色んな作者さんが思い思いの作品を投稿されて、それでワイワイやろうってスレなんだから。
作者さん同士で設定を共有するという行為は、言ってみればおまけでしょ。
なのにスレ全体としての行動が、設定の共有ありきで進むのってなんかおかしくない?
ここで俺が純粋に思うのは「でも、言うほど設定ずれてなくね?」ってのと、
「投稿形式の違いから、『中四国支部鬼譚』だけ妙に仲間はずれ扱いされてね?」という二点。
俺はどの作品も等しく好きだから、スレの中で扱いに区別があって欲しくないなあ。
作者さんご本人はどう思ってるんでしょう。
大蛇を鎮め、無事博多に帰り着いたハバタキこと、浜谷春正その人は今日も妻と子供を養うため桑を奮い、種をまき、雑草をむしりとっていた。
そして一日の仕事が終わると決まって子供の健やかな寝顔を静かに妻と見守るのだった。
そんな幸せは意外な形で崩された。
「春正さ〜ん!!村がてぇへんなことになっちょるたい!!」
ハバタキ・・・・否、春正のもとに近くの村に住む木兆助(キチョウスケ)・・・通称、桃ノ助がやってきた。
「そんげ慌てて、どうしたい!?」
「い・・いいから、早く来てくれ!」
木兆助は春正が鬼であることを知っていた。正確に言えば、二人は同じ師匠の下でともに修行をした兄弟弟子といってもいい。
だが木兆助は事故で自分の妹を殺めてしまい、そのときに音叉は破壊した。もう二度とそのようなことが起こらぬように・・・。
その戒めとして音叉の鬼面の部分だけは肌身離さず持っていた。
「うちの村に魔化魍が出てきてよう。俺は知ってのとおり、師匠からいただいた草薙の剣しか、やつらに対抗できる術はねえ。お前しか頼みがねえんだ。」
「しかし・・・俺とて・・。」
春正は戸惑った・・・また鬼になっても良いものか・・・。
目の前にいる木兆助は相当困っている顔つきだった。ここから村までそれほど離れていない。駆けっていけば自分たちならすぐだろう。
「よし・・・なんとかしてみよう。」
「本当か!?じゃあ、すぐに行こう!」
春正は音撃吹道・烈空を手にし、村に急いだ。
村に着くと、鶏小屋の前で面妖な男女が一人の若い娘を襲っていた。
「まてぇ!」
「・・・・鬼・・か?」
「貴様らの相手は・・・俺だ!」
そういうと春正は音叉をならし、額にかざした・・・・
「ハバタキ!!」
春正の足元から光が吹き出た。まるで鳥の羽が宙に浮かぶようだった。
「トゥ!」
掛け声とともに光を破って登場したのは、茶色と金のコントラストが美しい鬼。
「羽撃鬼!草薙の剣だ!!」
木兆助はそういって師匠の剣を羽撃鬼に投げ渡した。
羽撃鬼はそれを受け取ると、怪童子に斬りかかった。
不覚にも油断していた怪童子は頭を真っ二つにされ、爆発した。いつのまにか妖姫は向かいの建物の屋根に飛び乗り、逃げ出そうとしていた。
「ハァッ!」
羽撃鬼は背中から金色の羽を伸ばし、妖姫を追った。獲物を探す鷹のように宙を舞いながら辺りを見回していると、木にしがみついている妖姫をみつけた。
そのまま急降下し、羽撃鬼は草薙の剣を振り落とした・・・・。
「終わったぞ。」
ハバタキは村にもどると大衆に紛れていた木兆助に告げた。
妖姫を倒した後、すぐにイッタンモメンが現れ、そのまま空中で音撃奏、旋風一閃をお見舞いしたのだ。
「なにぃ!?もうおわったのか!?長年鬼を止めていたから、もう少しかかると思ってたのになぁ・・・」
「いや・・・実はサァ・・・今でも毎日鍛えてますから・・・。」
その後はその村で軽くもてなされ、妻と子供が待ってますから。といい残し、ハバタキは村を去った・・・。
395 :
劇場版のひと:2006/06/18(日) 21:43:40 ID:2H+zSlv80
とりあえず今日はココまでです(ほんとにすいません!)
とりあえず前編っちゅうことで・・・・
それと補足ですが・・・
木兆助の村とハバタキさんの家とは、およそ2キロ弱程はなれてます。
これを木兆助とハバタキさんは大体2分あれば到着します。
草薙の剣とはゆわゆる、破魔のツルギっちゅう所ですね。
今のところ影の薄いみどりs・・・じゃなくて奥さんですが、中〜後編で出番がまわってきますよ〜〜。
>>391 設定資料の人もまとめの人にも、俺らがどーのこーの言う筋合いは無いわな。
彼らも好きでやってるだけ、何の拘束も強制もないんだからその辺は先方の意志を優先するのが筋じゃね?
まとめサイトです。
「中四国支部鬼譚」の作者さん的にはコピペして、まとめサイトにページを作っ
てもOKなんですか?
新都社は2ch派生サイトかもしれないけど独立したサイトなので、そこからコピペ
して持ってくるのはNGだと思えたので、リンクという形で処理しましたが、スレ
に投稿された作品と同じ様に扱っていいのであればそうします。
今思えば、最初に作者さんに確認してみればよかったです。
あと、私が「中四国支部鬼譚」をリンク集に記載したのは仲間ハズレにするつも
りではなくて、単純に外部のサイトへのリンクになるからです。
私の判断だけでは至らない所もあると思うし、作者さんの要望には出来る限り沿う
つもりですので、注文があったら言ってください。
・まとめサイトについて
現在の形で俺は満足してます。ありがとうございます。
・設定について
俺の場合、設定や世界観は「響鬼」本編に準拠しようと決めて書いているので、
本編から大きく外れたり食い違ったりするような書き方はしていないつもりです。
・用語集について
用語集への追加が難しいことは納得しました。
・「仲間はずれ」について
俺はそんなこと思ってやしませんけど、「設定が大きく異なるので(それを理由に用語集へは追加できない)」と言われてしまうと
なんだかなー、って感じはしてるんです、正直。
設定が異なるといえば、俺の作品が「中四国支部」を舞台とする一方、用語集の「猛士」の欄には
>北海道支部、東北支部、北陸支部、関東支部、東海支部、関西支部、四国支部、中国支部、九州支部、沖縄支部、その他の支部
とあります。こういうところを指して「ほら、用語集と設定が違うじゃない」ってことなんでしょうけど、
でも、用語集に載ってるのも公式設定じゃないんですよね。これ。
お互い、公式に語られていない部分をファンが補足してるっていう形なわけじゃないですか。
公式と食い違っているならともかく、ここで書かれているオリ設定で「中四国支部」が存在しないからといって、
『あなたの作品は設定が違うから入れませんよ』とやられるのは正直あまり良い気持ちはしないです。
というか、開き直りみたいな物言いで悪いんですけど、こういうのって色んな設定が混然一体になるからこそ良いんじゃないですか。
参加する作者全員で設定の統一を図ったり、かぶりを防止したりすると、それはもう自由な創作ではなくて共同制作になってしまう、と。
で、実際、現時点で用語集に書かれてる内容にも、多少のかぶりとか食い違いはあるわけでしょう。
ユキオンナが二種類いたり、コウキという鬼が複数いたりするのは良くて、中四国支部が存在するのはダメ、と言われると、
仲間はずれとは言わないまでも「俺の作品って一体何なんだろうな」って気にはなります。
ということで、用語集も「用語がたくさんありすぎてとても手が回らない」という理由には納得できますが、
「設定が違うからダメ」ってのはすんなり納得しづらいものがあります。
・最後に、毎度毎度執筆遅くてすみません。
399 :
まとめサイト:2006/06/19(月) 23:05:33 ID:Lvjeoit20
用語集はwikiでも立てて、有志で編集してみますか?
wikiは使ったこと無いけど、立てることならやったことあるんで、できると思います。
401 :
用語集サイト:2006/06/20(火) 01:34:30 ID:dDg/8sIH0
とても長いですが、これが自分の本心です。
自分がやったこと(あるいはやらなかったこと)が作者様の創作意欲を殺ぐ原因となるのは
本意ではありませんし、非常に心苦しいことです。
某作者さんから頂いたメッセージとは真逆になってしまいますが、用語集の作成を伴わなければ書く気が失せる、
用語集の作成は用語集サイトを運営している以上義務であると言われればそれまでです。
自分も人並みに職があり、食べて寝る必要がありますし他にやりたいこともあります。
なので必然的にその合間に作業をすることになりますし、その場合には申し訳ありませんが現状維持が精一杯なのです。
世界観の違いですが、開設するに当たり作者様がたに質問をしました。
その際に裁鬼ストーリーから派生した作品である、同じ世界を使っているとの回答を頂いたので、
裁鬼ストーリーを基本にして現在の用語集を制作しました。
最近は時間の問題のほかに風舞鬼作者様や中四国支部作者様が仰っていた、独自の世界観を構築しているとの言葉に
甘えている部分もありました。
思い返すとこの時は傲慢になっていたのだと思います。自分の力不足を作者様に責任転嫁してしまいました。
この場をお借りして謝罪させていただきます。
作者様や読者様がたに不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございませんでした。
しかしながら時間が足りないのは事実でして、中四国支部作者様と風舞鬼作者様には失礼ながら
用語集の早急な制作はほぼ不可能に近いのです。
また中四国支部作者様の言葉を返すようですが、同じ世界観を共有している作品であれば多少の齟齬があっても
それは作者が別人であることで看過できます。
しかしもとから違う世界観の作品の用語を混ぜるとそれこそわけが分からなくなってしまいます。
だからこそそれぞれ別に用語集を作りたいのですが、先の理由でそれはできません。
両立が不可能なら片方だけでもしっかりと作りたいのです。
無論どちらが優れているなどという理由ではなく、先に作ってそれなりの量があったので現行のものを優先させているだけです。
DA年中行事様、狂鬼様、皇城の守護鬼様など多くの作者様の作品も同様の理由で制作が滞り、ご迷惑をお掛けしています。
402 :
用語集サイト:2006/06/20(火) 01:35:03 ID:dDg/8sIH0
サイトで書いたことの繰り返しになりますが、俺の作成した用語集が絶対のものであるはずがありません。
作者様たちの『公認』ではなく『容認』のもとで作っているものに過ぎませんので、
自分に用語集にある設定を使うか使わないかをとやかく言う資格はありません。
あくまでメインはSSであり、用語集はおまけに過ぎませんので、邪魔なおまけは無くした方がいいのかも知れません。
しかしながら用語集を容認してくださっている方々もいらっしゃいますし、自分もこのような変則的な形でですが
参加させていただいていることを誇りに思っていますので、許されるならば力不足ながら続けていきたいと思っています。
どうかご理解いただきたく存じます。
なお響鬼用語集(上のほう)は放送や公式サイト、書籍や雑誌を情報源としていますので、
公式設定と思っていただいていいはずです。
最後に。
すべての作者様、これからもすばらしい作品を期待しております。俺なんて気にせずにガンガン投下してください。
まとめサイト様、いつもお世話になっています。気軽に作品が読めて大変ありがたいです。
中四国支部作者様、お陰で目が覚めました。ありがとうございました!
>>401 >だからこそそれぞれ別に用語集を作りたいのですが、先の理由でそれはできません。
つ【委託】
あなた一人が抱え込むことはない。
>中四国支部さん
例に挙げた猛士はオリ設定じゃなくて公式ですよ。
竹書房のパーフェクトアーカイブの本に書いてあります。
それと俺が感じるのは、中四国支部さんの「おまけ」の解釈がちょっとずれてるんじゃないかということ。
普通はおそらく「あったらちょっと嬉しい」くらいですけど、
中四国支部さんはビックリマンチョコやビッグワンガムみたいに思ってるんじゃないかと。
チョコが食べたい(作品を読んでほしい)よりもシール(用語集)がほしいんじゃないかと思えてしまうんです。
それがいけないわけじゃありませんが、この場合には必ずしも
チョコとシールはセットじゃないことに配慮するのも大人ってものじゃないでしょうか。
見当はずれで中四国支部さんに不快な思いをさせてしまったのならごめんなさい。
番外編『仮面ライダー弾鬼』六之巻『呼び戻る声』(中):弐
大輔のアパート/
部屋の中はダンボールが幾つか置かれており、それ以外のモノは何も無い。
あの事件から1ヶ月。
大輔は関東に戻って直ぐ、実家の両親に電話を掛けた。
大学を辞めて、やりたい事を見つけた・・・と。
その言葉に大輔の父親は・・なかなか了解を出してはくれなかったが、二時間ほどの問答の末にようやく了解してくれた。
母親は、ため息交じりではあったが、どこか嬉しそうな部分も感じ取れた。自立・・・とでも感じたのだろう。
NPO団体『TAKESHI』という会社?に就職?する事となった・・と聞けば、自立とも聞こえるだろう。
あの後、大輔はタツキの誘いを受けた。
当初は支度を済ませた後、九州へ戻って修行を開始するハズだったのだが、引越しの荷造りをしている最中に『猛士・九州支部』の馬場芭紗と言う人物から電話があった。
なんでも、東海支部に所属している太鼓の鬼が重症を負い、太鼓の鬼が不足したらしく、同じ太鼓の鬼であるタツキがその穴埋めの為に東海支部へ移動しなければならない・・と言う事だった。
九州支部の支部長である馬場芭仁の弟だと言う芭紗さんは、自分たちの責任で大輔を巻き込んだ。
故に自分たちが精一杯フォローして大輔を鬼として育てようとした矢先に、部署移動になってしまい、申し訳ない。と心底済まなそうに詫びを述べ、その後適当な雑談の後、電話を切った。
改めて部屋を見回して見る大輔。
かつてテレビが置いてあった場所を見る。
深夜にワイワイ騒ぎながらゲームをしたり、バラエティ番組を見たり、リョウジが持ってきた裏ビデオ(結果ニセモノ)鑑賞会など様々な思い出がその場に刻まれていた。
リョウジ・・加納 亮二。
口が悪く、今時の若者像をそのまま映し出したような性格で・・元気が有り余る男だった。
トシハル・・瀬戸 敏晴。
応援団メンバーの中では珍しく気弱そうなイメージだが、後輩思いの男だった。
かたや、下半身不随。
かたや・・・・・・その命を散らした。
大輔は・・・トシハルの葬式の時・・悲しみに満ちた両親の表情を見て・・・焼香を上げてやる事が出来ずに引き返した。
鬼になる決意をしても、心のどこかで・・・・恐がっていたのだと思う。
トシハルの両親は・・トシハルの死の真実を告げられているのかどうかは不明だ。
だが、両親が大輔の事を見て『この人殺し!』とでも言ってきそうな事が・・とても恐かったのだろう。
「あぁ・・・もう。卑怯だよな・・俺・・・」
部屋に寂しげな言葉が木霊する。
弔ってやる事が出来ない・・・臆病で卑怯な心。鬼と成れば・・・・いや、鬼となる過程で・・・その臆病で卑怯な心は消え去ってくれるのか?
その前に本当に鬼になれるのか・・・・・。
そんな事を考えていたら・・いつの間にか意識は落ちて、眠りについていた。
城南大学/
「それでは、確かに受理しました」
「ども、世話になりました」
学務課の人に封筒包みを渡し、学務課を後にする。
キャンパスには大勢の人がいる。
ココの人間は魔化魍の事など知る由も無く、平和を・学生生活を満喫している顔だった。
「こないだまでは、俺もそっち側だったんだよなぁ・・・」
頭を掻きつつ、校舎や学生達を見つめる。
リュックを背負い、学生達が行き来する中を通る。
家に帰って、アパートを引き上げる為に家主立会いの検査をしなくてはならない。それが終わったら、猛士・東海支部へ行かなければならない。
小走りになる大輔に、突如後ろから声がかかった。
「ちょっと段田君!?ドコ行く気?」
「あ?」
見ると、ミニスカートにキャミソール姿の女がズンズンと歩み寄ってくる。
「また!ゼミをサボる気?志度教授もいい加減怒ってるわよ!」
「あぁ・・ソレね。俺もうココの学生じゃないからさ」
女は『?』マークを浮かべたような表情で大輔を見る。
「辞めるの?大学?」
「辞めたの・・大学を!じゃ、俺忙しいからさ、志度ちゃんにはその事言っといてくれよ。じゃな吾妻」
女=吾妻 里美は悠々と去っていく大輔の後姿を呆然と見送る事しか出来なかった。
―――――秋になった。
東海支部所属・断鬼の弟子として行動してから早2ヶ月目。
基礎肉体作りから始まり、精神論を叩き込まれ、組み手で毎日ボコボコにされる日々が続いていた。
肉体作りと組み手はまだよかった。だが、大輔は精神の修行に戸惑っていた。
「わからんかダイスケ?」
小さなホワイトボードにマジックで理論を書き込むも、ダイスケは微塵も理解できていない。
「ぜんぜん解んないよ!言ってる事も、書いてる事も!」
むぅ・・とばかりに呆れ顔になり腕を組むタツキ。
本当に鬼になれるのかという不安は大輔だけでなく、タツキにまで伝染しつつあった。
―――――冬になった。
魔化魍・ニクスイの豪腕が周囲の岩肌を削る。
断鬼はその一撃を回避して音撃棒・礫石の片方を地面に叩きつけ、大小さまざまな石を空中に浮き上がらせる。浮き上がった石が地面に向って落下する瞬間、断鬼の手にあるもう片方の音撃棒・礫石を思いっきり、浮いた石目掛けて振り下ろした。
浮いた石はそこで地面に落ちず、ニクスイ目掛けて飛び交った。
巨体に対し、こぶし大から、頭ほどの大きさの石程度では致命傷は与えられない。
魔化魍・ニクスイは、人間や動物の肉を喰って/取り込んで/巨体を象る。
故に肉を殺ぎ落とせば力は弱まるのだが、うかつに接近して体を触れられてはすぐさまニクスイの一部となってしまう。故に本来は管の鬼の担当なのだが、運悪く出払っている為に、足止めとして断鬼が派遣された訳である。
『しかし、これはキツい・・・』
何しろ一撃すら受けるワケには行かない上に、こちらの音撃は最接近型。このままでは断鬼のスタミナが切れた瞬間・・・・
『だが!』
幾度目かの攻撃を回避すると、断鬼は音撃棒を地面に突き刺した。
『破ァァァ!闘ッ!』
気合を入れて突き刺した音撃棒を引き抜く。すると音撃棒の先端には美しいまでに磨かれたような・・黒曜石の輝きを持つ刀身が生え出ていた。その姿はまるで太古の石器!
―――鬼棒術・黒石剣―――
『これは利くぞ?何しろ人類最古の刃物だ・・』
ニクスイは豪腕を振るい、断鬼を掴もうとするが・・・
『名は断鬼!断つ者として・・・剣を取った・・・・故に!』
二本の音撃棒から出た剣が翻り・・・ニクスイの腕を斬り飛ばす。腕は吹き飛び、地に落ちると解けるようにして消え去った。
『無欠磐石!』
ニクスイは断たれた腕を治すべく全身を流動させて手を再生させる。だが、手を治した分だけ全身は縮む。
そんな師匠の戦いを見て大輔は思う。
「しっかし、これで倒しちゃったら管の鬼の立場ってないよなぁ・・・・しかもスゲェノリノリだし」
断鬼は戦闘中気合が入ると饒舌になり易いということが、ここ数ヶ月の付き合いで判明した。
当の断鬼は何かを口走りながら、ニクスイをバラバラに切り断ってゆく。
ニクスイの体は既に元と比べ半分ほどになっている。だが断鬼の剣も欠けてきたのだろう、遂に一刀両断できずにニクスイの体で止まってしまった。
『しまった!』
「やべぇ!」
大輔は腰のホルダーからDAを三枚とも取り出し、まだ真新しい変身音叉で起動させると、
「うおりゃぁぁぁ!行ってこい!お前らぁ!」
円盤投げのように体を回転させながら、全力で投げ飛ばした。
投げられた茜鷹三枚は、風を切り裂いて飛来し、今まさに断鬼を掴み取ろうとするニクスイの眼を目掛けて変形した。
変形した茜鷹の鋭い嘴と、カッターのような羽が、ニクスイの眼を切り裂き抉る。
眼を抑えて悶絶するニクスイに、決定的な隙が生まれた。
装備帯から音撃鼓・硯石を取り外し、ニクスイに投げつける。ニクスイに張り付いた音撃鼓・硯石は展開し、碧の光を放つ鼓となり・・・・
『音撃打!塵骸間響の型!』
音撃棒を迎え入れる。
始めは力強く!次第に早く!連続で!叩き込まれる音撃に対し、ニクスイは必死に断鬼目掛けて手を伸ばす。だが、断鬼に手がたどり着くより早く・・
『破ッ!』
最後の一打が叩き込まれ・・・ニクスイの体を塵へと変えた。
断鬼は宙から降って来る音撃鼓をキャッチして、岩場に隠れていた大輔に手を振る。
「はは・・倒しちゃったよ・・・・スゲぇ・・・」
唖然としながら断鬼の元へ近寄り、声を掛ける。
「お疲れ様っした」
「あぁ、ダイスケ。ナイスフォローだったぞ」
その言葉に、照れ笑いで返す大輔。
修行の成果は・・確実に出ている。大輔だけでなく、タツキもそう感じ取っていた。
―――――春になった。
東海支部のある鬼が魔化魍退治に向ったまま、消息を絶った。
タツキと大輔も日々捜索したが、遂に見つかる事は無かった。
支部長の下した決定は。魔化魍との相打ちと言う事になった。
悲しみに暮れる東海支部の面々の中、タツキが静かに口を開いた。
「いいかダイスケ。鬼となった以上こういう事もありえる・・・・強い力は・・他人を助けることが出来るが、その前に自分自身を助ける事が出来ないと・・・その他の人々を救うことは出来ない」
「わかるよ・・・タツキさん」
「共に・・・鍛えなおしだな・・・・明日から、訓練を強化・追加する。倒れずについて来い」
はい。と、力なく答えて・・・・目を伏せた。
―――――夏になった。
変身音叉を握る手が震えている。
目の前のタツキは腕を組み、眼で促す。
『行け!』
ゆっくりと手で音叉を弾く。
キィィン!と音が響き渡り・・・・・音叉を額に翳す。
頭の中でタツキの言葉を思い返す。
『音を耳で聞くのではない。脳で感じ取るんだ。脳で感じ取ったらその音の波を全身に染み渡らせるんだ』
だが・・どうやってもそんな風には出来ない。
音が消えた。
タツキがヒントを与える。
「ダイスケ。お前の場合、頭を空っぽにしてやった方がよさそうだな」
「空っぽにして?・・・了解!」
再び音叉を弾き、言われた通りに、何も考えずに・・・
「!!」
音が脳に刺さるような・・・・いや脳と言う水面に、音と言う雫が零れ落ち・・・・波紋となって全身を巡る・・・・
「今の・・・さっきと違う感じだったよ!」
音を感じ取れた大輔が嬉しそうにタツキに言う。タツキは満足げにうんうん・・と頷くと、さらにヒントを与えた。
「そうか。全身に音が広がったのを感じ取れたようだな。ならば、全身に音が広がった感覚を理解できたなら、脳からつま先まで音がたどり着いた時・・・鬼になると言う事を意識しろ。イメージするんだ。鬼になった自分を・・・いいな」
「おう!」
三度音叉を弾き、額に翳す。
音が・・・・
脳に届く・・・・
それは波紋となって・・・・
全身へ流れ込む・・・・
音が・・・文字通り全身へ届く感覚を大輔は感じ取った。
『変われぇっ!』
イメージ。鬼のイメージ・・・。あの時の・・断鬼の様に!
額が・・・・熱い・・・
頭蓋骨がせり上がるかのような感覚・・・。
「鬼面が浮かんだか!ダイスケ!地を蹴るんだ!鬼となる意志を持って!」
タツキの声にも熱が篭る。
大輔は、言われると同時に右足を地面に叩きつけた。
刹那!目の前に石錐が隆起する!
「ダイスケ!常に!常に鬼へと変身する意志を保て!」
石錐が破砕し、大輔の全身に岩が吸着してゆく。
『鬼に!変わるんだ!俺だってココまで鍛えたんだ!出来るはずだ!いや、出来る!鬼に!鬼に!』
全身の筋肉が隆起し、皮膚が鋼のように硬質化する。
鬼面から角が延び・・・全身に信じられないほどの力が漲る。
今なら、全身に張り付いた石を吹き飛ばせるような力が!
『うぅぅぅおぉぉぉぉぉぉらぁぁぁああああッ!!』
全身に力を込めて、腕を振るう。
視界は・・クリアに。目の前には師であるタツキが。
自らの手を見る。黒い肌に・・スカイブルーの前腕。
目の前をもう一度見る。
タツキは非常に満足そうに笑みを浮かべている。
見ると周囲には、祝福するかのように茜鷹や瑠璃狼、緑大猿が踊るように、空を駆け・地を疾駆し・宙へ跳ねている。
一匹の瑠璃狼が大輔の方へと飛び乗って一声吼える。
『タツキさん!俺!出来たよ!』
「あぁ・・立派だ・・・」
だが、これからだぞ。タツキは口に出さずに・・・まるで自らにも言い聞かすように・・・・頭の中で呟いた。
『まぁ今は・・・はしゃがせておくか』
大輔は鬼の姿のまま、瑠璃狼達DAとはしゃいでいる。宙を跳ね!空に向けて拳を突き上げる!緑大猿が大輔と同じように手を宙に突き上げる。
そして・・・
『あ・・・あれ?』
大輔は盛大にぶっ倒れた。
肉体の変身だけでなく、顔の変身には精神力と体力を消費する。
初めて鬼になった身体ではしゃぎ回っては・・・
「あ・・・・・・れ・・・・・・・・ぇ・・・・・・」
目の前が暗く・・まぶたが重くなった大輔は・・・そのまま力尽き、あお向けのまま・・・変身を解き・・・・・・意識を失った。
服は石と共に吹き飛んでしまった為、大輔は全裸で倒れている。
タツキは、ヤレヤレ・・といった表情で、全裸でぶっ倒れた大輔を見て・・・・
「・・・・・・・ほう?いいモノ持ってる・・・・あぁ・・いやそうじゃなくて・・・・ええと・・」
どうしよう?そんな感じでタツキは近くを飛んでいた茜鷹を指に留まらせた。それに伴い、気を利かせたのか、一匹の緑大猿が両手を広げて大輔の股間を隠した。
―――――秋になった。
非番の日。大輔はタツキから休みを与えられた。あの事件から、一年と数ヶ月が経った。
リョウジは今都内にある、猛士と繋がりのある病院に入院している。
今までも見舞いには行っていたが、春頃位からは中々行けないでいた為・・・じつに久しぶりの対面となった。
リョウジは相変わらず車椅子での生活を余儀なくされている。
本来ならば退院しても良い頃合なのだが、出来うる限り下半身の治療を受けさせよう・・・という猛士の願いから、リョウジは未だ入院生活を送っているのである。
「お前聞いた?ツキトのヤツの事」
「いや・・」
「アイツな・・大学にもロクに顔出してないらしい。それどころか・・・家から一歩も外に出てないらしいぜ」
「引き篭もり・・ってやつ?」
大輔はそう言って・・・仕方ないよな・・・と呟いた。
あれだけの出来事に遭遇し、しかもその原因が自分に有ると、責めつづけていれば・・・・・・
ひとしきり語った後、又来るわ・・と告げて、席を立ったとき・・・・背中に声を掛けられた。
「大輔。お前今・・何してんの?」
「・・・・働いてるよ」
「・・・ふ〜ん」
「何よ?なんか言いたい事あるワケ?」
「ある。お前さ・・・・・鬼になったか・・あるいは鬼になろうとしてるだろ?」
大輔は、今鬼を目指している事を誰にも話していない。
「どうして・・・・そう思う?」
「・・・何度も九州のメブキさんが俺ントコに見舞いに来るんだけど・・・・なんか、メブキさんと同じ感じがするようになった。
勿論お前は以前のお前と同じだよ・・・・メブキさんとは違う。でも、雰囲気っていうか・・・背中の感じが・・・メブキさんとか、他の鬼の人と似てるような気がする・・・・微かにだけど・・」
大輔はその言葉に振り返り・・・呟くように・・・・
「そっか・・・そう見えるか・・・・」
その言葉を・・リョウジは肯定と受け取った。
リョウジはベッド脇の引出しから、何かを取り出し大輔へと投げた。
「リハビリで作ったんだ。守りにでもしてくれや」
受け止めて、ソレを見る。
革で編まれた紐の先にトンボ玉のような物と、鈴が付けられている。
チリン・・・チリン・・・・
鈴の音を聞きながら・・・・
「あぁ・・ありがとよ。じゃな・・・」
「頑張れよ・・未来の鬼さんよ・・・」
病室を後にした。
数日後・・・ある森の中で、ヌリカベの童子・姫と対峙するタツキと大輔の姿があった。
音叉を鳴らし、その身を鬼へと変える。
石を振り払い・・・顕現する鬼。
大輔変身体の装備帯には、光を反射する鈴の輝きが揺れていた。
『行くぜ・・・リョウジ!!守ってくれよ?』
チリン・・・チリン・・・・
―――――冬になった。
変わらぬ日々が続く。
寝食を惜しんで鍛えを続ける。
冷え込む空気も・・・・大輔とタツキの熱意には意味が無かった。
―――――春になった。
『心』を鍛え―――
『技』を鍛え―――
『体』を鍛え―――
太鼓の練習が日々続く。
響く音はただの音でなく。
妖の浄化すら可能な清めの音。
強く強く・・
雄々しく・・
響くその音・・・。
―――――夏になった。
魔化魍には、二種類のタイプがいることを学んだ。
クグツと呼ばれるモノから生み出されるタイプと、自然発生するタイプが。
あの時、大輔が気を失った後・・・総勢5匹のヤマビコが出現したのは、クグツによる何らかの実験だったという事だ。
敵を知り・・・己を知ることが、百戦錬磨の戦士となる。
この頃になると大輔は、識を覚えさせられていた。
体技に比べて覚えは悪かったが・・・・
―――――秋になった。
木曽山脈付近に魔化魍が出現する兆候あり。
地元の歩からの連絡にタツキと大輔が急行した。
ベースキャンプを構え、DAを放ち、2日後・・・茜鷹の一匹が魔化魍の声を捕らえてきた。
「当たりだ!・・・・これは・・・・」
「ヤマビコだな。声からしてある程度育っている・・・急ぐぞ」
タツキが音叉を弾き、茜鷹を宙へ飛ばす。
その後を追い、山道を進む。
周囲の木々が、まるでブルドーザーが通った後のように荒らされている。
そして・・・・・
『鬼!』
『鬼!鬼!』
突如上空から、童子と姫が強襲してきた。
だが・・・
「破!」
「おらぁ!」
それに慌てる事も無く、タツキは脚撃で。大輔は拳打で、それぞれ童子と姫を打ち飛ばす。
地を滑るように態勢を立て直し、タツキと大輔を威嚇する童子と姫。
それに音叉を手に構える大輔を見てタツキが言う。
「ダイスケ・・・卒業試験だ・・・・・・お前が清めろ」
「えぇっ!お・・俺一人で?」
その言葉に狼狽する大輔。だが、そんな大輔をよそにタツキはその場から数歩下がる。
「慌てるな。いつもの通り・・・教えた事を実践すればいい・・・・行け!」
その言葉に・・・意を決して音叉を弾く大輔。
額に鬼面が浮かび・・・・・
その身を鬼へと変える・・・・
初めは鬼になれるものかと・・・・本気で思った事もあった。
だが、大輔は文句を言いながらも真面目に鍛錬を行った。
その集大成が・・・この一戦に・・・・
『うおりゃぁぁぁぁぁ!』
手を払い、石を吹き飛ばす。
右手をカシャッと振り、変身直後の様子を確かめる。
『いっくぜぇぇぇぇ!』
地を蹴り、童子と姫に肉薄する。
両手を広げて突進し、童子と姫の首を掴んだままその場を駆ける。
『ァアアアアア!』
一人で戦う事への不安からか、いつもに増して声を荒げて戦う大輔。
そんな大輔を、タツキは腕組みをして見守る。組んだ腕に指が食い込むほど力強く握っていた。まるで・・・もし大輔が傷つけば、勢いよく駆け出しそうな自分を抑えるかのように。
取っ組み合いから、真っ当な2対1の攻防戦が繰り広げられる中・・・大輔はタツキの戦い方を必死に思い返す。
タツキは滅多に取っ組み合いをしないスタイルだ。周囲のあらゆる物を足場とし、多次元的な戦い方をする。
『っく・・・そぉ!守ったら負ける・・攻めろ!』
自分に言い聞かせるかのように、呟き・・・その場から跳躍する。目指すは前方に生えている木。その木の枝に手をかけ、逆上がりのように身体を回転させて枝に飛び乗る。
『・・・・ッ・・・・・フ・・・ウウ・・・』
呼吸を整え・・・・
『オリャア!』
枝を蹴り、童子目掛けて飛びつく。着地し、沈み込む身体。そして反動で跳ね上がる力を使い膝蹴りを腹部に叩き込む。
くの字に身体を折り曲げる童子に、素早く拳打を叩き込む。一撃!二撃!三撃!軽く飛び上がり、脳天目掛けて組んだ両手を振り下ろす。後頭部に直撃し、崩れ落ちる童子。
だが、童子の真後ろから姫が飛び掛ってくるのを確認すると、崩れ落ちる童子の背中を踏み台に、再び宙へ舞う大輔。
手近な木に飛び移り、再び跳ねるように地面へ飛来する。
今度は反動を利用したオーバーヘッド気味の蹴りを叩き込み、姫を吹き飛ばす。
周囲の木々を有効利用し、弾けるボールのように宙と大地を行き来する。
大輔は10秒と大地には降り立っていない。
身軽な身体をフルに使い、徹底した空中殺法で童子と姫を追い詰めてゆく。
殴る。
蹴る。
投げる。
あらゆる方法で童子と姫を攻撃する。
『ウゥゥゥオォラァァァァァァァ!』
枝に飛び乗り、枝の撓りと反動を利用して更に高く飛ぶ。
込める力は全て右足へ・・・・
空中前転し、一気に降下する。その姿はさながら、蒼い閃光!目にも留まらぬ速さで飛来し、童子の身体をガードした腕ごとぶち抜く。埋まった足を抜く為に、開いた左足を更に叩き込み後方へ宙転する。
大輔の着地と同時に、童子の身体が爆砕した。
『やった!』
だが、姫がまだ残っている。
姫は童子を倒された為か、怯みがちだった。
『フッ!ハッ!』
間合いを詰め、右と左のワンツーを叩き込み体制を崩させると、渾身の右を叩き込む。
『ゲェ・・』
胸板を強かに打たれ吹き飛ぶ姫。だが・・・
『まだまだぁ!』
宙に翻ったマフラーを引っつかみ引き戻すと、
『ウォラァ!オラオラオラァ!』
空いた右手を機関銃のように叩き込み、
『トドメ!』
手の甲から鬼爪を生み出し、首元に突き刺した。
『キィィィィィィィィィィィィィィィ』
白い血を吹き散らし、金切り声を上げながらの絶命・・・爆砕する姫。
『よっしゃ!やったぜ!』
完勝した大輔は、喜び勇んでタツキの元へ戻ろうとする。だが・・・・
背後の木々を倒しながら、魔化魍ヤマビコが姿を見せた。
「馬鹿者!気を抜くな!!」
だが、タツキの言葉が大輔に届くよりも早く、ヤマビコとの戦闘が開始していた。
『さっきの声は、ヤマビコを呼んだのかよっ!』
もぐら叩きのように、両手で大輔を潰しにかかるヤマビコに対し、大輔は持ち前の身軽さでその悉くをかわしていた。
跳躍し、距離をとってヤマビコの姿を見る。
――――この魔化魍が始まりだった。
このヤマビコは、あの時のヤマビコとは違う。
だが・・・・
魔化魍ヤマビコによって・・・・・リョウジとトシハルは・・・・ツキトは・・・・・大輔は・・・・
運命を狂わされた。
『う・・・・・おぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁあああああああ!』
前屈みになり、拳で地面を殴りつけてからその場を駆ける。
叩き潰そうと両手を振り上げるヤマビコに、大輔は身体こと強烈にぶつかりバランスを崩させた。
ズン・・・と、轟音を立てて地に倒れこむヤマビコ。
そこへ、大地に拳をつき立てて、石錐を生み出す。その石錐は、ヤマビコの両手両足を貫き穿つ。
「―――まるでガリバー旅行記の、ガリバーだな」
タツキは呟きと共に音叉を取り出し、額に翳した。
纏った石を吹き飛ばして、断鬼が現れる。断鬼は、そこから動く事も無く装備帯から音撃鼓と音撃棒を取り外し・・・・
『ダイスケ!受け取れ!』
その両方を投げ飛ばした。
弧を描き大輔の元へ・・・・大輔は跳躍し空中で音撃棒と音撃鼓を受け取ると、そのままヤマビコの腹に飛び乗り、音撃鼓を叩きつけた。
輝きながら展開する音撃鼓・硯石。
両の手に確りと握りこむのは音撃棒・礫石。
『ウゥ・・・アァァァァァァァァァ!』
雄叫びを上げて音撃棒を叩き込む大輔。
『音撃打ァ!拍手割砕の型ァ!』
断鬼の使う音撃打の名を叫びながら、一心不乱に音撃棒を叩きつける大輔。断鬼の型を真似ていても、叩き方がまるで違う。ただ・・叩きつけるだけの・・・・・音撃打。
だが、その力強さが・・・心地良い・・・音が・・・広がる。
強く・・・雄々しく・・・それでいて清らかに・・・・
『いい・・・音だ・・・・・・・・ダイスケ』
『これで!ラストォ!う・・・おりゃぁぁあああああ!』
両の音撃棒を同時に叩きつける・・・・。
最早動かないヤマビコの身体が膨張し・・・・爆砕した。
周囲に散らばる塵芥が、風に運ばれ散らばっていく。
そんな中・・・・大輔は顔の変身を解き・・・・
断鬼も、大輔の傍に寄りながら顔の変身を解除した。
大輔の額には玉のような汗が光っている。
厳つい風貌には似合わない眼鏡がずれて、鼻の頭に乗っかっている。
ス・・・と手を伸ばして眼鏡の位置を治してやる断鬼。
「よく・・・・頑張った・・・・」
「・・・タツキさん・・俺・・・・鬼として戦えてた?」
「あぁ・・・。お前は・・・鬼だよ。本当に・・・・・」
タツキは・・・心底嬉しそうに微笑み、大輔の方に手をやって・・・
「よくやった・・・お前には断鬼の名は似合わないが、読みを変えて・・弾鬼・・お前の新しい名だ」
「・・・・弾鬼?」
「そうだ・・弾鬼・・・弾ける鬼だ。・・・・・期待してるぞ・・ダイスケ・・・」
弾鬼と呼ばずに・・・・親愛を込めてダイスケと呼んだ。
「さて・・・着替えるか」
大輔から音撃棒と音撃鼓を受け取り、それぞれ着替える為にその場を離れる二人。
姿が完全に見えなくなる直前に・・・
「ダイスケ・・あぁ・・いや、ダンキ」
「なんすか?」
「頑張れよ・・・」
「まっかせてよ!タツキさん!タツキさんこそ、今まで有難うございました」
礼儀正しく頭を下げる大輔。
顔を上げた時、タツキは茂みの中へ姿を消していた。
――――冬になった。
大輔は鬼として弾鬼の名を襲名し、そのまま関東に移動となった。
あの後・・タツキは姿を現さなかった。
何処かへと消えたのだ。
東海支部長に電話をすると、驚くべき返事が返ってきた。
「元々・・・引退するつもりだった?ワケは・・・まさか病気だったとか・・?」
なんでも、タツキはダンキが一人前になった時に引退する旨を、支部長に伝えていたらしい。
『ワケを聞いたら、なんでもな・・・・普通の女の子に戻ります・・とか言って手に持ってた変身音叉を床に置いたんだよ・・・どこぞのアイドルの真似だな・・・ハッハッハ。
まぁ、アイツも長いこと鬼をやってたって九州のバシャが言っていたしな。区切りとしては良かったんだよ』
ゴン・・・。
緑の公衆電話に額をぶつけるダンキ。
「あ・・・・あの人は・・・・ホンットに・・・」
ため息混じりに・・・・
そして・・・
「感動とか無いのかなぁ!!支部長?フツ〜はさ!弟子が一人前になったら、朝まで飲み明かすとか、これからは同志だとかさぁ!あるじゃんそういうヤツが!」
笑いながら・・・・ブチギレるダンキ。
「なのに、頑張れよ!の一言が門出を祝う一言なんてさぁ・・・あぁ〜〜〜〜もう!!」
電話ボックスの中で大声を上げるダンキ。
それでも、あの人らしい・・・と思える辺り、いつかひょっこり会えるような予感をダンキは持っていた。
長い・・長い沈黙の中・・・ダンキは昔を思い返していた。
ショウキとゴウキは、ダンキの過去話を聞けるかどうかで、眼を輝かせていた。
「わりィ・・・また今度な」
その言葉にがっかりした表情のショウキとゴウキ。
「おいおい、ここまで引っ張ってそれかよ・・・」
「恥ずかしいんだよ・・・昔の話はさ・・・・」
「そうか?俺は楽しい思い出が多いからなぁ・・・幾らでも話してやれるぞ?」
胸を張ってダンキに言うゴウキ。
「じゃ、ゴウキ君の昔話、聞いてみたいなぁ!ダメかい?」
ショウキが矛先をゴウキに変える。
「ん?いいぜ、じゃ俺がお師匠と初めて会った時の話なんだが、ある山に行った時に斜面を転げ落ちたんだよ。そしてそこに居たんだよ、ソウキさんが・・・」
ゴウキは昔を思い出し、懐かしくなった為か身振り手振りを交えつつ過去の話をしはじめた。
番外編『仮面ライダー弾鬼』六之巻『呼び戻る声』(中):弐 終
二回に分けての中篇でしたが、何とか投下できました。
本当は、5話で変身能力が戻る予定だったのですが、延びに延びてここまで来てしまいました。
まとめサイト様
前回の抜け落ちた点の補修、有難うございました。お礼が遅くなって申し訳ありません。
先代ZANKI様
自分も、ダンキを招集するべきだったと思いますw
更なる保険として器用な石割君も招集・・というか、全員入れ替え希望ですよw
ヂーコ監督と11人の戦鬼!w
用語集サイトさま
今回も更新ご苦労様です&有難うございます。
色々とご苦悩されるとは思いますが、どうぞご自分のお体だけはお大事に。
DA年中行事様
今回も良い話を読ませていただきました。
元子さんの苦悩・・・その苦悩があったからこそ・・最後の泣き笑いとあのセリフがあるのでしょう。
423 :
高鬼SS作者:2006/06/20(火) 23:49:22 ID:YbwWRg4e0
早ければ日曜には、と言っておきながら遅れてすいません。
約束通り、前回とは異なる真面目なお話を一本投下させていただきます。
その中で「山中異界」について語る部分がありますが、そんなに詳しくないうえに
例に挙げているものも細かく言えば「山中異界」とは異なるものが含まれているのでご了承下さい。
それではどうぞ。
1973年、葉月。
テングが現れたとの報告を受けて、ドキとセイキがサポーターのまつを伴って出撃してから十日以上が過ぎた。
その間彼等からの連絡は何一つ無く、流石に何かあったのではないかと上層部も判断。急遽捜索隊を出す事にした。
捜索隊と言っても大規模なものを編成出来るわけもなく、その日非番の鬼を数名現地に向かわせるだけに止まった。
その中にはコウキも含まれていた。
研究室。
出発前にコウキはあかねと現場である山について話し合っていた。その山は昔から麓の住人に忌み嫌われていたのだという。
「神隠し……ですか?」
「そう。あの山には昔から神隠し伝説があってね。実際、記録に残っているだけでもかなりの数の人が山中で行方不明になっているの」
古い記録に目を通しながらあかねが言う。
「でもまさか鬼が二人も行方不明になるなんてね。そんなの初めてだわ」
「まあ彼等なら大丈夫だとは思いますが……」
そうは言うもののコウキも内心不安だった。
「気を付けてねコウキくん。間違いなくあの山には何かある筈だから……」
「心配無用です。ちゃんと三人を連れて無事帰還してみせますよ」
コウキはそう言うとにっこりと笑った。それに釣られてあかねも笑みを見せた。
その日の天気は曇っていて、風も吹いていた。
コウキを含めた捜索隊のメンバーは、それぞれ別れて三人の捜索を開始した。
山中を行進すること一時間。歩き続けるコウキの下へ、打っておいた式神が次々と戻ってくる。どうやら発見は出来なかったようだ。
広い山の中、三人は一体何処にいるのだろう?既に麓へ下りている可能性は無いだろうか。否、それだったら「歩」の人達が発見している筈だ。
と、最後に戻ってきた一枚が、コウキの手には戻らず空中を旋回し続けている。そしてコウキを誘うかのように再び飛んでいってしまった。
見つけたのだろうか?
コウキは式神の後を追っていった。
式神を追うコウキの前に現れたのはテングだった。幸い一体のみである。
外見は頻繁に現れる嘴を持った個体、所謂「木の葉天狗」や「烏天狗」と呼ばれるものではなく、それより上級とされる長い鼻を持った個体だった。
「『大天狗』タイプか。厄介だな……」
テングがじりじりと迫ってくる。コウキはいつも携行している着替えや武器の入ったバッグを下ろすと、変身音叉を鳴らして額に掲げ、自らの身を紅蓮の炎に包み高鬼へと変身した。
テングが仕掛けてきた体当たりをまともに喰らって吹き飛ばされてしまう高鬼。体勢を立て直そうとするも、倒れたコウキの体に馬乗りになって首を絞めようとしてくる。
そこへ式神が飛んできてテングの顔の周りを旋回し始めた。式神に気を取られたテングに隙が出来る。
「好機到来!」
テングを蹴り飛ばし、立ち上がる高鬼。すぐさま音撃棒・劫火を構える。
「破っ!」
鬼棒術・小右衛門火を放つも、軽く躱されてしまう。そのままテングは木々の奥へと逃げていってしまった。
「この山のテングが『大天狗』タイプだったとはな……」
各地に眠っているとされる八大天狗の力を色濃く受け継いでいる種類である。だからと言ってセイキとドキの二人がやられるとも思えなかった。
(とりあえず後を追うか……)
高鬼はテングが逃げていった方へと用心しながら進んでいった。
暫く進むと滝が見えてきた。滝壷に勢いよく流れ込むその音に、先の戦いで熱くなった体も心なしか涼しくなってくる。
(こっちへ来たのは間違いない筈だが、何処へ消えたのだ?)
周囲を見回すもテングの姿はおろか気配すらも感じられない。
コウキは顔の変身を解除すると、滝壷に湛えられている澄んだ水を掬って飲み、喉を潤した。
と、式神がコウキの頭上で再び旋回を始めた。そしてそのまま滝の裏側へと飛んでいく。
ひょっとしてセイキ達を見つけたのだろうか。コウキはバッグを手に慌てて後を追った。
滝の裏側には、それ程大きくはない洞窟が口を開けていた。奥から風が吹いてくる。つまり裏に抜けているという事だ。
この向こう側にいるのだろうか?コウキは式神に導かれるままに、用心しながらも洞窟の奥へと進んでいった。
洞窟を抜けると、そこは文字通り別世界だった。
さっきまで曇天だった筈の空が、ここでは雲一つ無い晴天になっている。風も凪いでいるし、気候も暑くも寒くもなく丁度良い具合だ。
至る所に綺麗な花が咲き、果物がたわわに実った木々が生え、その枝に止まった小鳥の美しい囀りが聞こえる。
コウキは一本の木に近寄り、その実をもいでみた。明らかにこの付近に群生する筈の無い植物である。
直ぐ近くを小川が穏やかに流れているのを発見したコウキは、川沿いに進んでいってみる事にした。暫く歩くと人家らしきものがぽつぽつと見えだしてきた。
人が居る。そう思った矢先、コウキの周囲を取り巻くもの達が現れた。テングである。
「テングだと!?しかもこんなに大勢!くっ!」
慌てて音叉を手にし、再度顔面の変身を行おうとするコウキ。と、そこへ声が響いた。
「待って下さい!その人は敵ではありません!」
聞き覚えのある声が聞こえてきた方へと視線を向けるコウキ。そこには、行方不明になっていたまつの姿があった。
テングの群れから解放されたコウキは、服を着替えた後、まつと共に道を歩いていた。今彼女達が滞在している場所に案内してくれるという。
コウキはまつにここ数日の事について尋ねてみた。
「テングを追っていたら滝のある場所に出て、その裏にあった洞窟を抜けたらこの場所に出たんです」
コウキと同じだ。
急に立ち止まるとまつはコウキに頭を下げた。
「ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした!サポーターである私まで一緒になってこんな所に来てしまって……」
「頭を上げたまえ。……しかし分からん。何故君達はこんなにも長くここに滞在しているのかね?」
確かにここは気候も良いし、自然も美しい。滞在したくなる理由も分かる。しかし十日以上も無断で滞在して良い訳がない。
「……いずれコウキさんにも分かりますよ」
まつは一言そう言うだけだった。そのまま二人は再び歩きだす。
「それにここは何処なんだ?この山にこんな場所があるなんて初耳だぞ。それにさっきのテング達も……」
「ドキさんが、多分ここは隠れ里ではないかと言っていました」
隠れ里。山中異界の概念としてよく語られる伝承である。
これに類似した概念は世界中に存在し、有名なところでは中国の桃源郷、チベットのシャンバラ、中央アジアのシャングリラ、南米のエル・ドラド等が挙げられる。
また、島国である日本では海上異界の概念も存在し、常世の国と呼ばれている。沖縄ではニライカナイと呼ばれる。
「隠れ里……。まさかそんなものが……。否、魔化魍が存在する世界に『まさか』は通用しないか……」
改めて周囲を見回してみるコウキ。実に穏やかだ。社会の喧騒が嘘みたいである。
「……君達以外にも誰か人は居るのかね?」
「はい。それこそ子どもからお年寄りまで幅広く」
コウキは出発前にあかねから聞いた神隠しの話を思い出していた。おそらく、ここの住人こそ神隠しに遭った人々であろう。
「待てよ?ではあのテング達は……」
テングは人が転じた魔化魍だとされる。
「……どうやら江戸時代にここへ迷い込んだ人達の成れの果てらしいです。……あっ、見えました。あれです」
まつが一軒の小屋を指差した。
小屋には誰も居なかった。まつと二人で誰かが戻ってくるまで待つ事にした。
暫くして、手に沢山の野菜や果物を抱えたドキが帰ってきた。コウキの姿を目にしても、表情一つ動かさない。おそらく予めコウキの気配に気付いていたのだろう。
「セイキはどうした?」
コウキの問いに、ドキの代わりにまつが答えた。
「おそらく湖へ魚釣りに行っているんじゃないかと……」
「そうか。ならそこへ案内してくれ」
そう言うとコウキは立ち上がった。
案内された湖はとても大きく、そして素晴らしい景観だった。岸辺で子ども達がわいわい遊んでいる。
沢山の小島が湖面に突きだしており、それを渡って向こう岸まで行けるようになっている。セイキは湖の真ん中にある小島に腰掛け、釣糸を垂らしていた。
コウキ達は小島を渡り、セイキの傍へと近付いていく。
「セイキ。私だ、コウキだ」
話し掛けると、セイキはおもむろに振り向いた。その顔に覇気は無く、目もまるで死んだ魚のようだ。
「あ、コウキさん……」
気の抜けた声で返事をするセイキ。
「……一体何があったのだ?」
コウキの問い掛けに答える事なく、再び釣糸の先を見つめだすセイキ。
「ここへ来てからセイキさん、あんな風になってしまって……」
まつが心配そうに言う。
以来、今日までずっとこの調子なのだという。
「各地の伝承に登場する異界が富や幸福を運んでくると言われている通り、ここには大量の陽の気が溜っています」
ドキが静かに説明を始めた。
「元々荒ぶる鬼だったセイキは我々三人の中で一番陽の気の影響を受けてしまったようなのです」
コウキはもう一度セイキを見た。相変わらず静かに釣糸を見つめている。
コウキは彼に近寄ると襟首を掴んで引き上げた。
「しゃきっとしないか!私が活を入れてやる!尻を出せ!」
だがセイキは無反応のまま、視点の定まらない目でコウキを見つめている。
「……もういい。今のお前は叩く価値も無い。好きにしろ」
そう言ってセイキを突き放すと、コウキはその場から立ち去っていった。
とりあえず仲間達に三人を発見した旨を伝えるべく、コウキは元来た道を戻っていった。
だが。
「……馬鹿な」
潜ってきた筈の洞窟が跡形も無くなっていたのである。
付近一帯を探してみたが、洞窟の姿は何処にも無かった。
途方に暮れるコウキの傍に、まつとドキが後を追ってやって来た。
「さっき話したのはこういう意味だったんです。出て行こうにも出て行けないんですよ……」
その晩、コウキは三人の小屋で寝泊まりしながらも脱出策を考えていた。だが何一つ思い付かないまま時間が流れていった。
と、隣で寝ていたドキが話し掛けてきた。
「暫くここに滞在して分かった事があります」
静かに耳を傾けるコウキ。
「定期的に外へ出るテングがいます。その際彼等はどうやらここの主から許可を貰っているらしい……」
「ヌシだと?」
「その主に交渉すれば、あるいは……」
「しかしそれならば何故君達はそうしなかったのだ?」
コウキが当然の疑問を口にする。
「……そういう存在がいるらしい事は分かったのですが、居場所までは掴めていないのです。ここ暫くずっと探していたのですが……」
申し訳なさそうにそう告げるドキ。
「分かった。明日は私も探してみよう。しかし問題はセイキだな……」
「ええ。今のまま彼を我々の世界に帰す訳にはいきません」
同じく隣で眠っているセイキを一瞥するドキ。
会話はそこで終わり、再び静寂が夜の闇を支配した。コウキはそのまま眠りへと落ちていった。
翌日、コウキはドキと共に隠れ里の主を探し始めた。だが、式神をも導入して徹底的に探したものの、何も手掛かりは見つからなかった。
そうこうしているうちに日が暮れ、夜が訪れた。
「明日は東の方角を探してみるつもりだ。ドキ、君は引き続き西の方角を探してくれ」
「私も手伝います」
まつが声を上げた。
こうして、翌日は三人で捜索する事になった。
コウキがここに来てから三日目の朝、コウキは昨日話した通り東の方角を重点的に探し始めた。
と、一体のテングが歩いていくのが見えた。こっそりとその後を尾行していくコウキ。
テングは、入り口に大きな石造りの鳥居が立てられた洞窟の中へと入っていってしまった。
入り口の傍で耳を澄ますコウキ。中から低い唸り声が響いてきた。明らかにテングの声とは違う。
見つけた。
コウキは直ぐ様式神を打ってドキ達に知らせた。
コウキの知らせを受けたドキとまつは、隠れ里に住む住人を手分けして洞窟のあった場所へと集めだした。
「ここに住む者全員で脱出するんだ。誰かが主を見つけたら式神で他の二人に連絡する。連絡を受けた者は住人全員を入り口のあった場所に集める」
昨夜コウキが提案した事である。
流石にテングと化した者達は集められなかったが、それ以外の住人は何とか全員集める事に成功した。
まつがセイキを連れてやって来た。相変わらず生気の抜けた顔をしている。
「コウキさんは大丈夫でしょうか……」
まつが心配そうに尋ねるも、ドキには何とも答えようがない。
ドキも加勢に行きたいのはやまやまだが、この中で戦えるのは自分だけである。万が一何かが起こった時のために、ここから離れるわけにはいかなかった。
テングが洞窟から立ち去ったのを見計らって、コウキは洞窟の中へと入っていった。「劫火」に炎を灯し、一歩一歩慎重に進んでいく。
禍々しい風が吹きつけてくる。
洞窟の奥で、コウキはとんでもないものを目撃した。
巨大な猪が蹲っていたのである。その体色はどす黒く、爛々と光る大きな目を持ち、口からは鋭い牙が覗いていた。
「これが……主」
主が一声吼えた。空気がびりびりと震える。
「くっ!主よ、聞こえていますか!私達をこの隠れ里から出していただきたい!」
だが主は再び一声啼くと、コウキ目掛けて突撃してきた。
咄嗟に音叉を鳴らし変身する。鬼に変わったと同時に、主の体当たりによって高鬼の体は洞窟の入り口まで弾き飛ばされた。
腑抜けになったセイキを、まつは必死で説得していた。
「いつものセイキさんに戻って下さい!いつもの賑やかで根拠の無い自信に溢れて、それでいて頼り甲斐のあるセイキさんに戻って下さい!」
まつの必死の訴えも何処吹く風、セイキはずっと明後日の方向を向いたままだ。
ドキがおもむろにセイキの傍へと歩いていった。その瞬間。
まつがセイキの頬を思いっきり平手打ちしたのだ。驚くドキ。周囲にいた人々も何事かとまつ達の方を見ている。
平手を喰らったセイキも、きょとんとした顔でまつの顔を眺めている。
まつは、感情の赴くままに訴え続けた。
「あなたは、鬼じゃないんですか!?セイキさんがどんな理由で鬼になったのか詳しい事は私には分かりません。ですが、鬼というのは人を救うものでしょう!?」
まつの顔を眺め続けるセイキ。微かに無反応だった彼の瞳が「鬼」という単語に反応し動いた。
「今コウキさんがここの主に会いに行っています!でもコウキさんだけじゃ……。行って下さい!そしてコウキさんと私達を救って下さい!お願いします!」
最後の方の言葉は、もう言葉にはなっていなかった。まつ自身も自分が何を喋っているのか正直あまり理解出来ていなかった。ただ、思いの丈をぶつけるだけだった。
洞窟の中から主がその姿を白日の下へと現した。その恐ろしい相貌を高鬼に向け、睨みつけてくる。
「くっ、話を聞いてくれ……」
だが、主は再度高鬼に突進を仕掛けてきた。今度はぎりぎりのタイミングで回避に成功する高鬼。
(戦うしかないのか?)
二本の「劫火」を構える高鬼。と、主が口から霧のようなものを吐き出してきた。それに触れると同時に、地面に生えた植物が瞬時に枯れていく。
「まさか瘴気か!?」
慌てて間合いを取る高鬼。そのまま遠距離から鬼棒術・小右衛門火を放ち攻撃する。だが、命中しても主は全く効いた素振りを見せない。
「……厄介だぞ、これは」
高鬼は長期戦を覚悟した。
セイキは思った。何故自分は鬼になったのだろうと。
思い出す。あの日の出来事を。日常を非日常へと変えたあの日の出来事を。
甘言に踊らされ、人の言うがままに生きてきたあの日々。本当の自分を見失っていたあの時。
それ故に人を、社会を信じられなくなっていたあの頃の自分。
そして辿り着いた答え。「鬼」の中に見出した本当の自分。
俺は……俺は……。
セイキの瞳が完全に生気を取り戻すのを、まつとドキは目撃した。
「まつ……俺の『黄金響』はあるか?」
その一言にまつが笑顔を見せる。
「セイキさん……」
「『黄金響』ならここだ」
そう言ってドキがセイキに音撃弦を渡す。
「行ってくるぜ。こんなうわべだけの理想郷、俺がぶっ壊してきてやる!」
確固たる自分を取り戻したセイキの顔には、今まで以上に強さが溢れ出ていた。
式神を飛ばし、その後を追って駆けて行くセイキ。その姿を見送りながらドキがまつに向かって言う。
「君が彼をぶつとは思わなかった」
「本当はドキさんがするつもりだったんでしょう?偶には私にもそういう役回りを背負わせて下さいよ」
そう言うとまつはドキに向かって微笑んだ。
主と死闘を繰り広げる高鬼。しかし瘴気のせいで迂闊に接近戦に持ち込めないし、遠距離からの攻撃も効いている様子がない。まさに八方塞がりである。
そこへ。
「うおおりゃああああああ!」
威勢の良い掛け声と共に、主の真上から聖鬼が飛び降りてきた。それと同時に刃を展開した「黄金響」を突き刺す。
「聖鬼!立ち直ったのだな!」
「当然ですよ!やい、猪野郎!俺様を腑抜けにしてくれた礼をたっぷりしてやるぜ!」
そのまま音撃斬の体勢に入る聖鬼。
「待て、倒すな!戦闘はあくまで交渉をこちらの優位に進めるための……」
だが聖鬼は聞く耳を持たない。
「喰らえ!音撃斬・白い奇蹟!」
音撃震・悪魔を掻き鳴らす聖鬼。清めの音が主の体を駆け巡っていく。
しかし主は苦し紛れに思いっきり暴れまくり、それによって聖鬼は「黄金響」を主の体に突き刺したまま振り落とされてしまう。
聖鬼の下へ駆け寄る高鬼。
「大丈夫か!?」
「へへへ、まだちょっと体が上手く言う事を聞かねえや……」
陽の気に侵され、ついさっきまでまるで死人のようだった聖鬼だけに、完全にいつもの調子に戻ったわけではないようだ。
「黄金響」を背中に刺したまま、瘴気を吐き出し暴れ狂う主。最早話し合いに応じる事は不可能のようだ。
「馬鹿者が。倒してしまっては永久にここを出られなくなるかもしれんのだぞ」
「大丈夫ですよ。あれはここの主なんでしょう?だったら、あいつを倒せばここと外界とを隔てている結界も消えるってもんですよ!」
あっさりと言ってのける聖鬼。
「その無根拠な言動……、どうやら精神の方は完全に本調子のようだな」
「まあね。……一気にケリを付けましょう。俺があいつの動きを止めます」
そう言うと聖鬼は両の拳を掲げた。その先端に光が集中していく。
「そりゃ!」
鬼法術・蓑火を両拳から放つ聖鬼。蓑火は主の体に命中すると、途端に全身を眩い光で包み込み、その視界を奪った。
突然の出来事に混乱し、悲鳴を上げて暴れ狂う主。近くの大木に頭から突っ込み、折れた大木が主の上に圧し掛かってきた。
「動きを止めた!今だ!」
すかさず主に駆け寄る高鬼と聖鬼。高鬼は音撃鼓・紅蓮を貼り付け、聖鬼は背中に刺さったままの「黄金響」を再び手にする。
「音撃打・炎舞灰燼!」
「光の聖鬼の復活劇だ、とくと見やがれ!音撃斬・白い奇蹟!」
両者の音撃が主の体を駆け巡っていく。巨大な魔物は、断末魔の悲鳴を上げると爆発四散した。
コウキとセイキの帰りを待つドキ達の目の前に、突如として洞窟が現れた。それと同時に隠れ里中を揺るがす大きな地震が発生する。
悲鳴を上げ、その場に伏せる人々。木々が倒れ、地面が割れ、川の水が氾濫を始める。その様子はまさに世界の終わりを表していた。
「早く洞窟を通って外へ逃げて下さい!」
まつが大声を上げて人々に指示する。我先にと洞窟の中へ入っていく人々。
「一体何が起きているんですか!?セイキさん達は?」
「君も早く逃げろ」
「嫌です!セイキさん達の帰りを待つつもりでしょう?私も……」
「あの人達を放っておくつもりか?行け」
そう言われ、自分がサポーターである事を再認識するまつ。
「す、すみませんでした。私、あの人達と一緒に先に行きます」
ドキに二人の事を託し、まつは洞窟へと向かっていった。
洞窟の外では、全く地震など起きていなかった。やはりあの地震は隠れ里の中のみのようだ。そしてそれは隠れ里の消滅を意味する。
洞窟自体も微かに震えていたのだが、とうとう震えは完全に収まってしまった。おそらく、隠れ里が消滅したのだ。
三人は無事なのだろうか。まつは気が気ではなかった。
と、洞窟の奥から……・
ドキ、そして顔だけ変身を解除したコウキとセイキが出てきたのである。涙を浮かべ彼等の生還を喜ぶまつ。
洞窟は三人が中に飛び込むと同時に落盤で入り口が塞がれてしまったという。これでもう誰も隠れ里へ立ち入る事は出来なくなった。
しかし、彼等と一緒に脱出した隠れ里の住人、即ち神隠しの被害者達は一様に浮かない顔をしていた。さっきまでのセイキ同様覇気が無い。
一人の老人が、全員を代表してコウキ達に訴えた。
「何故……何故私達を里から出したのです?」
暗く沈んだ目で、無事を喜び合う四人に向かって告げる。
「私達は争いも何も無いあの里で、ただ平穏に暮らしていただけなのに……。何故こんな事をしたのです?今更故郷に帰って一体何をしろと?」
人々の中には涙を流している者さえもいた。
コウキ達は何も答える事が出来ず、ただ黙って恨み辛みを聞くだけだった。
その後、彼等は無事下山し、人々は皆保護された。
その際、コウキはこちらの世界では既に十日以上も経過していた事を聞かされて驚いた。
「浦島太郎の話なんかでも分かる通り、異界と外界とでは時間の流れが異なるみたいだからね……」
報告を聞いたあかねの言葉である。
この事実は新たな悲劇を生んだ。
住人の中でも最年長の人間となると、明治時代に隠れ里に迷い込んでいたらしい。
当然ながら身内は誰もおらず、また、当時と明らかに異なる外界の社会に順応する事が出来ずに失意の日々を送っているそうだ。
他の者達も似たり寄ったりだという。
コウキ達は結果として多くの人間を不幸な目に遭わせてしまった。これは紛れも無い事実だ。
ちなみに、これもあかねの談であるが、隠れ里の主の正体は陰の気そのものが具現化した存在だったのではないかと考えられている。
ドキが語ったように、異界からは富や幸福がやって来る。それと同時に時には災厄もやって来るのである。
陽の気で満たされた隠れ里は、陰の気で形作られた主が存在する事によってバランスが取られていたのであろう。だから主が消えた事により崩壊したのだ。こう考えると全て納得がいく。
これ以降、山にはテングが湧く事は無かった。当然ながら神隠しに遇う人間も現れなくなった。
山中異界。それはどの山にでも存在している可能性がある。
あなたも山に登る時は気を付けるといい。異界への入り口は、何気ない場所にぽっかりと開いて来訪者を待っている筈だから……。 了
437 :
DA年中行事:2006/06/21(水) 00:52:18 ID:qvKxG3F20
弾鬼SSさん
おおう、燃える展開です!
弾ける鬼の誕生秘話、そしてそれを言い淀むダンキさん。すごくダンキさんらしいです。GJ!
高鬼SSさん
マヨイガですか・・・むーん、さすが!
どうも高鬼SSさんの書く物語が丁度自分が読んでいる本とクロスする傾向が強くて、一つ一つがツボです。
そして斉藤真斗芽さんと用語集さん。
いつもありがとうございます。お二人にどれだけ助けられていることか。
お二人がそれぞれ編集・編纂されているサイトも、オレは一つの作品だと思っています。
今後とも、それぞれのリズム、それぞれのアプローチで。ご無理をなさらないように。
相変わらず、みんなうまいなぁって感じですね。
俺もたまには真面目な話書いて見ようかな。
魔化魍異聞録とか、なげっぱなしだけどw
てなわけで、DANKI in WCネタを再び投下します。
2006年−7月
ワールドカップを残念な結果で終えた日本代表
過ぎてしまった事とは言え、やはり悔しさの残る日本国民は未だに
選手の選出や監督の起用法などについて喧々諤々の論争を繰り広げていた。
その頃、日本サッカー協会では−
「さて、次の監督だが…ベンケルにもオスムにも断られてしまった……」
「あの結果では仕方ないだろう……ストイコピクシーや、リティバルスキーもやらないだろう」
引き受けてくれる代表監督がいない……しかし、世界を相手にして戦うには日本人監督ではやや力不足である。
そんな状況のなか河渕キャプテンがある決断を下す。
「アイツしかいないな……」キャプテンに一同の視線が集中する。
「まさか……」固唾を呑む一同
そしてキャプテンは静かな声でその名を言った。
「……ダンキだ」
大学の研究室でネットを見ていたバンキ。
「そういえば、今日は新監督が発表されるんだよな」
スポーツニュースを見るバンキ。しかし、見た瞬間に雄たけびと共に桂三枝ばりのずっこけを披露した。
「ど、どうしたんですか馬場さん!」
「いやいやいや、なななな、なんでもないいいいい。」
明らかに動揺しているバンキ。しかし、それも仕方ない。
何故ならトップ一面にダンキの姿と後ろの方で照れくさそうにピースするショウキの姿があったのだ。
「あ?監督?いいよ。監督なら選手を傷つけないし、何しろ俺は知性派だからね。
誰を招集するかって?海外で活躍する人は全員集めるよ」
こいつはサッカー協会とどんな関係なんだ?訳が分からないバンキ。
だが、そんなバンキの元に一本の電話が来る。
結局バンキも日本代表のスタッフ(ダンキのお守り)として呼ばれた……。
そして迎えるニュージーランドとの練習試合。
直前まで代表の発表が無く、サポーター達は国立競技場で初めてメンバーを知らされる事になった。一体誰が?
中田と中村は招集されるのか?いや、次世代のツーリオや平山田か?
だが、そのいずれでもないメンバーがオーロラビジョンに現れると、日本中がダンキマジックに驚かされた。
「FW イチロー! マリナーズ ナンバー51」
「えええええ!!!」
あまりの出来事にどこからツッコめばいいのか分からないサポーター達。
だが、そんなのお構いなしにダンキマジックは更に続く。
サイドバックに短距離の為末を、ボランチにはQちゃん事、高橋尚子。
センターバックには室伏と武蔵。FWには更に亀田興機を。
「ダンキさん!違う意味で凄いメンバーじゃないですか!」驚くバンキ。
「まあここからは順当なメンバーだけどな」不適な笑みを浮かべるダンキ。
中田とか?と、まともな選手を思い浮かべるバンキ。しかし微妙に裏切られた。
「ナインティナイン!ペナルティ!」
あ、なるほど。と意外とリアクションの薄いサポーター。
この面子ならむしろまともな方だ。
そして、最後のメンバーは……。
「チェ・ホンマン!」
会場がザワザワと騒ぎ出す。おもわずツッコむ。
「えっと…日本代表ですよね……」
「ちっちゃいことは気にすんなよ」
全然ちっちゃくないんだが……。
そしてキックオフ。
すでに殆どの日本人がヤケクソ気味に「テーハミング!!」と応援していた。
だが、試合が始まると直ぐにその秘められた実力に驚かされる。
やべっちからボールを受けると誰も追いつけないようなスピードで上がっていく為末。
持ち前の運動神経と動体視力の良さで、どんなクロスでも対処するイチロー。
反則ギリギリ、むしろ反則でチャンスをつくる亀田。そして審判。
ゴール前で競り負けない室伏と武蔵。
怖がって相手が近づく事すらできないチェ・ホンマン。
豊富な運動量で仕事をするQちゃん。
地味にうまいナイナイとペナルティ。
結局試合は5−0と日本の圧勝となり、ダイキ初采配は成功に終わった。
「いや!ダンキさん凄いですよ!」興奮気味のバンキ。
「まあ、脳ある鷹はなんとやらだよ!」
「だけど、ダンキさんが監督の免許を持っていたってのは意外でしたよ」
「は?免許?持ってないよ」
「え”」
(注)サッカーの監督は監督免許が必要です。
それから数日後、サッカー協会は無難な代表監督を選出した。
協会はNZとの一戦は只のイベントと発表した為にダンキ監督の勝利は幻となった。
さらに数日後、研究室で日経新聞を読むバンキ。
「ダンキファンド設立。」
あの人は一体どこまでいってしまうのか。
と、思いつつもダンキファンドの株を取り合えず購入しておくバンキ。
僕メインの話はいつになったらできるんだろうと思いつつ今日も研究に励むのであった。
FIN
470KB越えてるのでスレ立てしてきます。
立てられなかったのでテンプレ置いてゆきます。
タイトル、
裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 肆乃巻
446 :
テンプレ1:2006/06/21(水) 21:24:34 ID:+v9EvNmI0
447 :
テンプレ2:2006/06/21(水) 21:25:13 ID:+v9EvNmI0
449 :
448:2006/06/21(水) 21:41:14 ID:ZsSQllM/0
・・・あかんかったorz どなたか、頼みます!
ありがとう!
おお!弾鬼SSさんありがとう!乙です!
弾鬼SSさん乙です!
そして六の巻中篇にひとしきり燃えました。
触発されてSICの弾鬼さんをヤフオクで探す日々です。
>>453 ご感想有難うございます。
自分もヤフオクで探してますが、影も形も無いんですよねぇ・・・
裁鬼・弾鬼・鋭鬼セットも予約してるんですが、待ちきれないw
後期OPの、11鬼シーンを再現できるのはいつの頃やら・・・
456 :
DA年中行事:2006/06/26(月) 23:29:20 ID:CXmVfQu40
まだ20kbくらいあるねぇ。仕事も一段落してるうちに、なんかコネタ
考えます・・・・あ、でももうじき七夕か。
では小ネタを……夏も近いのでこんな感じで……。
=裁鬼さん音頭= 曲は一般的な盆踊り風で
石割くん 彩子ちゃん 裁鬼さん音頭で ウェーーイ ウェーーイ
今日も魔化魍退治だよ 閻魔を担いで森の中
童子と姫は倒したけれど ふいをつかれてボコボコに
は〜 オトロシ バケガニ ヤマアラシ (ヨイヨイ)
バケネコ ノツゴに イッタンモメン (ハァ ドッコイ)
「音撃斬!閻魔裁き!」「裁鬼さん!極楽忘れてます!」
エイキくん フブキさん 裁鬼さん音頭で ウェーーイ ウェーーイ
夏の魔化魍退治だよ 太鼓もできるよ芸達者
だけど河童が多すぎる ふいをつかれて水の中
は〜 オトロシ バケガニ ヤマアラシ (ヨイヨイ)
バケネコ ノツゴに イッタンモメン (ハァ ドッコイ)
「オンドゥルの音頭ディスカ?」「エイキくん……あんまり面白くないわよ」
小暮さん ダンキさん 裁鬼さん音頭で ウェーーイ ウェーーイ
音撃双弦もらったよ 連敗記録を止めてやる
だけど相手の魔化魍は 音撃効かないヨブコだよ(そりゃないよ)
は〜 オトロシ バケガニ ヤマアラシ (ヨイヨイ)
バケネコ ノツゴに イッタンモメン (ハァ ドッコイ)
「ええい!腕の振りが甘い!尻を出しなさい!」「なんで俺が叩かれるわけ?!」
は〜 オトロシ バケガニ ヤマアラシ (ヨイヨイ)
バケネコ ノツゴに イッタンモメン (ハァ ドッコイ)
裁鬼さん音頭で ウェーーイ ウェーーイ 裁鬼さん音頭で ウェーーイ ウェーーイ
「ちなみに振り付けはジェバンニが一晩で考えました」
ちなみに太鼓の鬼が太鼓を叩き 裁鬼さんが歌い
その周りを全作品の出演者 DA 魔化網が囲って踊ってるイメージで
是非、ご近所の夏祭りに採用してください。
460 :
高鬼SS作者:2006/06/30(金) 21:23:10 ID:7y++dgfH0
埋め用小ネタ 「ドクハキさん」
もしドクハキさんと弥子が2006年現在現役だったら
音楽番組を視聴中のドクハキさんと弥子
ドクハキさん(以下毒)「何ですか、この歌詞も薄っぺらでノリだけの頭悪い曲は?否、これを曲と呼ぶのはあまりにも失礼か……」
弥子(以下馬鹿)「そうですか?私は良いと思うけどな。何もかも忘れて馬鹿になれそうな感じが……」
毒「あなたは既に充分馬鹿ですから、これ以上馬鹿になれませんよ」
馬鹿「……」
毒「大体、こんなの世間を知らない小・中学生しか買いませんよ。否、小・中学生だから買うのかな?」
馬鹿「ドクハキさん、もうその辺に……」
毒「しかしこんな適当に何かしているだけの曲が売れるなんて……。もっと他の良い楽曲をプロモーションしてやれば良いものを……。そうだ!」
馬鹿「……何でしょう?私、物凄く嫌な予感がします」
毒「あんなのが売れるのなら私達もインディーズでデビューしましょう!」
馬鹿「また唐突な……。でも歌手ってのも良いかもな。当然私がボーカルですよね?」
毒「違います。私がトランペットを吹いている横でTNT火薬を使った脱出マジックをやってもらいます。勿論タネも仕掛けもありませんがね」
馬鹿「……色々ツッコミたい所がありますがとりあえず一つ。歌手ちゃうやん!」
毒「……何故関西弁?」
終わり。
え?ドクハキさんが聞いていたのは何かって?あ〜……多分この世界のみの曲なんじゃないでしょうかね?
あと本スレの方にもSS投下しておきます。
461 :
高鬼SS作者:2006/06/30(金) 22:02:06 ID:7y++dgfH0
ついでだからもう一つ 「ドクハキさん 第二話」
音楽番組を視聴後、その曲の通販でのカスタマーレビューを検索中のドクハキさんと馬鹿
馬鹿「あ、出ましたよ。……うわっ酷い!星一つばかり!」
毒「ほう。ネットにはまだまだ良識人もいるようですね」
馬鹿「でも、この歌手だからって理由だけで叩いている人もいるみたいですよ?」
毒「しかしちゃんとした理由も述べず持ち上げている輩もいますよ。見てみなさい、この顔文字とか使った頭悪そうな文章……」
馬鹿「うわっ……。これは流石にちょっと……」
毒「自分の馬鹿さ加減を全世界に配信しているという事に気付いていないのでしょうね。その点あなたは実に素晴らしい」
馬鹿「はい?何ですか、突然褒めだしたりして……」
毒「だってそうでしょう?あなたの馬鹿さ加減は北陸のみにとどまっているのですから」
馬鹿「……」
毒「そういう意味ではあなたのお守りをしている私はなんと良い人なのでしょうか!きっと死んだら天国に行けます」
馬鹿「本当に天国に逝かせてやろうか……」
毒「はい?何か言いましたか?」
馬鹿「ちょっと代田さんにドーピングコンソメドラッグ貰ってきます……」
毒「それは良い……。さあ、宴の始まりですよ!」
以下の展開は自主規制。
終わり。
…念のため言っておきますが、これはお遊びですから。高鬼SS本編とは全く関係ありませんから。
462 :
高鬼SS作者:2006/06/30(金) 22:14:00 ID:7y++dgfH0
折角だ、もう一本書いちゃえ! 「ドクハキさん 第三話」
苺「弥子、弥子」
馬鹿「何ですかドクハキさん。犬猫を呼ぶみたいに呼ばないで下さい」
苺「犬猫と同じに扱ってもらえているだけ感謝しなさい。ところで何か気付きませんか?」
馬鹿「……さあ?」
苺「何も気付きませんか?本当に?」
馬鹿「何なんですか、教えて下さいよぉ!」
苺「本っ当に馬鹿ですね、あなたは!さっきから私の名前が「毒」ではなく「苺」と表記されていたのに気付かなかったんですか!?」
馬鹿「い……いちご?」
苺「ふははははは!あなたが本当に馬鹿だという事が証明されましたよ!今度から大馬鹿と読んであげます!ふははははは!」
大馬鹿「うう〜。……って本当に大馬鹿って表記になってるし!」
苺「そこは気付きましたか。馬鹿レベルとしては下の中というところですかね」
大馬鹿「そんな、スマブレの社長じゃないんですから……」
終わり。
…あの、気付かなかった人、別に馬鹿にしていませんよ。馬鹿にしているのは作者ではなくドクハキさんですから。
463 :
用語集サイト:2006/06/30(金) 22:36:12 ID:6KEXhBPK0
苺て。
長身痩躯でものすごい毒々しい青年が某雛苺の格好してるのを想像しちゃったじゃないですか!
いや……うん、これはこれで。
現役じゃなくともどっかで毒を吐いてるんでしょうね、ドクハキさん。
現役じゃなくともどっかで毒を浴びてるんでしょうね、馬鹿ちゃん。
464 :
高鬼SS作者:2006/07/06(木) 02:35:45 ID:4oFr2YQx0
埋め用小ネタ 「ドクハキさん 第四話」
何故か神奈川県川崎市金山神社の「かなまら祭り」を見学にやって来たドクハキさんと馬鹿
馬鹿「でも珍しいですね。ドクハキさんが旅行に誘ってくれるなんて。しかも二人っきりで……」
毒「二人っきりなら誰にも邪魔はされませんからね」
馬鹿(え?ひょっとしてドクハキさん私の事を……。キャッ)
毒「ほら、神輿が来ましたよ」
馬鹿「どれですか?……え?あ、あれが神輿……?ちょっと待って下さいよ……」
毒「弥子。屋台で飴細工を買ってきましたよ。さあ、食べなさい」
馬鹿「ちょ!こ、この形は流石にやばいんじゃ……」
毒「どうしました?あなたの為に大量に買ってきたのですよ?さあ遠慮せずぺろぺろ舐めなさい!ふはははは!」
馬鹿(こ、この鬼畜!……って本当にこの人鬼だったな)
終わり。
弥子が何を見たのかは下記のサイト参照
ttp://www.tanteifile.com/tamashii/scoop_2006/04/06_01/index.html …すいません!もうこんなネタはやりませんから見逃して下さい!
465 :
高鬼SS作者:2006/07/06(木) 03:27:38 ID:4oFr2YQx0
お目汚しすいません。気を取りなおして 「ドクハキさん 第五話」
何故かスペインのトマト祭り(潰れたトマトを数万人で投げ合う祭り)にやって来たドクハキさんと馬鹿
馬鹿「ああ、トマトが!トマトが勿体無いの〜!」
毒「だったら投げつけられる全てのトマトをあなたが食べなさい」
馬鹿「ああ……こんなに沢山のトマトがあったらどれだけナポリタンを食べられるだろう……」
毒「ふはははは!三個か!?トマト三個欲しいのか?三個……イヤしんぼめ!!」
馬鹿「ちょ!そのトマト潰れてない!痛っ!うおおう、うおっ」
毒「では鬼の力で投げましょう。空気抵抗で潰れるでしょうからね。行くぞ弥子、また三個行くぞ!」
馬鹿「ちょっと待って!そんな力で投げたら潰れてても当たると痛い!ぎゃあああああ!」
毒「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄WRYYYYYYYYYYYYYYY無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァアアアアア」
馬鹿「ヤッダーバァアァァァァアアアアア!」
結論・トマトは祭り以外では投げたら駄目だよ
終わり。
ネウロスレにもカキコしたけど、茶碗が当たったもんで嬉しくてつい。
でもジョジョネタなのはご愛嬌w
では、こっちもどうでもいいネタ投下します。
−馬場氏の悪夢−
「おはようございます」「おはよう馬場くん」
研究室に入ってきた御前崎教授にバンキは挨拶をした。
「実は馬場君に紹介したい人が居るんだ」入るなり御前崎教授はそんな事をいう。
「以前、君の『妖怪と古代生物の類似点』の論文を見て、興味をもったらしい」
「それはうれしい話ですね」バンキはコーヒーを教授に渡すと、テーブルに座る。
そういえば、そんな論文書いたっけ?ちょっと覚えていなかった。
「で、その先生もそういった世界では有名でね。ぜひ、一緒に調査がしたいという事らしい」「そうですか、私は構いませんよ」
「そう言うと思って、実はもう呼んでいるんだよね」教授は中に入るように言った。
入ってきたのは眉毛の濃いおっさんだった。
「どうも、馬場です」「探検大学の藤岡です」二人は挨拶をする。
「藤岡教授は生物物理化学的数学系易学風心理学的見解における総合科学研究において、
ドイツ文学風ロシアンチック社会学系量子栄養学に基く家庭で出来る
簡単おいしいインド人もビックリ健康法を推奨した第一人者なんだよ」
舌を噛みそうなジャンルだがそんなのあったか?疑問に思った。
「すみません、存じませんでした」つまり健康法を推奨してるのか?
「ほうほう、博学な馬場くんでも知らない分野だったんだな」
「まあ、正式な学会として認めてもらってないからな。ハッハッハ」
まあ、認めんだろうな…。
「お近づきの印に私の本をサイン入りで上げよう」
藤岡教授は自分の本を取り出し、サインをするとそれをバンキに渡す。
『ドンマイ!超常現象! 藤岡 弘、著』
「どっかで聞いた事あるような…」「ははは、上田教授とは知り合いでね」
「え!あれはテレビの…」
「ははは、まあ、局も一緒だし、関係者がスレ見ているとは思えないしな」
「まあ、そうですけど…。それに、この”弘、”の句読点って一体」
「それはね、まだ、私は完結していないって事なんだよ」
(注)どうやら実話みたいです。
「そもそも人生とはねぇ…冒険なんだよ」藤岡教授は語りだす。
「あの、すみません。話が進まないんで…」バンキはストーリーの進行を気にした。
「ああ、そうだった。実は未知なる古代生物が発見されてね、その調査に君が行くんだ」
「あ、決定してるんですね」「今回は長編SSだからな急がねば」
「長いのか短いのかわからないっすね」
いつも以上に適当に書いてるな。バンキは思った。
「まあいいですが、どこの国ですか?」「ああ、高尾山だよ」
「へ?東京の?」「そうだ、あそこに伝説の野人エトゥーを探しに行くんだ」
高尾山なら普通、天狗じゃないか?しかもエトゥーってなんて適当なんだ。
「まあ、番外編だから気にするな」「わあ!心を読まないでください!」
という訳でバンキと教授は高尾山に向かった。
−(注)これからはナレーションが変わります。−
約束の時間までに少しあったので、バンキは駅で貰った割引券でとろろそばを食べていた。
腹が減っては戦はできぬ。冒険の備えはばっちりだ!
「ごちそうさま」「毎度!」冬そばを堪能したバンキはまだ少し時間があるので
もう一軒かと思った。が、しかし!
「なっ!」お店を出るとそこには、まるでレスキュー隊のような格好をしている藤岡教授と一行がいた!
「おお!馬場くん!」「な!?教授なんですかその格好は!?」バンキは度肝を抜かれた!
「はは、いつ危険が迫るかわからないからね」
隊長は富士山に登山する人よりも重装備で現れていたのだ!
「我々といっしょなら、どんな敵も怖くないぞ」「敵って誰ですか?」
「獰猛なライオン」「高尾山ですよ」
「キングコング」「存在しません」
「サーベルタイガー」「氷河期に絶滅しました」
「ヒル」「微妙ですね」
バンキのテンションをよそに隊員たちのテンションは絶頂に達していた!
「よし、みんな行くぞ!」「はい!」
設置されているロープウェイを無視して隊員たちは山道を登っていく。
ここは未開の道、どんな危険が起きるとも限らない。
隊長は自分の危機センサーを研ぎ澄ますのであった。
「なんだあれは!」すると目の前から巨大な丸太が転がってきた。
とっさに松田が体を張って守る。
松田の強靭な肉体と反射神経が隊員の安全を守ったのだ。
「さすがだな。松田!」「いや、ジャンプすればいいんじゃないですか?」
隊員は丸太を道端に避けた。しかし、気がつくとあたりにはサソリがいた。
「嘘!?高尾山だぞ!」目の前の異常な光景にバンキは驚きを隠せない。
「わあ!」「待て!動くんじゃないぞ。」隊長は携帯していたサバイバルナイフで
サソリをどかそうとする!刺されれば、猛毒が体に周り、死に至るのだ!
「よおし、よくがんばったな。」隊長の命を懸けた救出は成功した。
「やった!さすがです!」喜ぶ隊員。
「それっ!それっ!」その後ろでサソリを踏み潰すバンキ。
結局、サソリの殆どはバンキが片付けた。
しばらく行くと、ちょっとした休憩場が見えた。
「おお、こんなところに原住民が…」「いや只の都民ですよ」
隊長は村の原住民との接触を試みた。相手はどんな人種か分からない。
隊員に緊張が走る。しかし、それより先にバンキが原住民に接触する。
「ばあちゃん、みたらし団子ね」「へい、150円でございますぅ」
バンキの勇気ある行動で探検隊と原住民は打ち解けた。
「おばちゃん、エトゥーって知ってる?」「ああ、江藤さんならこの先だよ」
原住民の有力情報により、士気の上がる隊員たち。
山登りで疲れた体にも新たな活力が湧き上がる。
なぜなら我々は新しい歴史の1ページを開こうとしているからだ!
既に息のあがっている隊長を先頭に更に奥へと進む。
「なんだこれは!」隊長は地面に転がっている物質を発見した。
「あ、おにぎりが捨ててある、マナーの悪い奴だな」バンキは拾って捨てようとした。
「まて!」隊長はバンキを制止した。そして持ってきたマイクロスコープで謎の物質を調べる。
マイクロスコープならどんな小さな物質も逃さないのだ。
「おお!これは!」物体を調べる隊長が見たものとは!
「これは…、梅干か?」「マイクロスコープ必要ないですね。」
「エトゥーにはライスボウルを作る文化があるのか…」「なぜに英語?」
野人エトゥーは我々の想像をはるかに凌ぐ知能を持っているのだろうか?
しかし、危険な部族かもしれない。ここから先は真の勇気が試されるのである。
「コレイジョウハススメナイヨ!」だが、現地のガイドであるチョナンがこれより先に進むことを拒んだ。
これから先は聖なる土地、神々の世界を汚してはいけないのだ。
「あれ?こんな奴いましたっけ?」「何をいってるんだ、最初からいたぞ。」
「高尾山に登る時からですか?」「いや、研究室から」「そこからかよ!」
なんて適当に書いているのだろうか!?バンキには怒りに似た感情が沸き起こった。
「大体こんなストーリー、ダンキさんかエイキさんでやるべきじゃないのか?」
「いや、あっちは他の職人さんがやってるからな」
「大して、ストーリ練ってないし。そもそも僕が出る理由がわかりません!」
「まあまあ、せっかくのピンネタだろ喜びなさい。」
「どうせなら、もっとかっこいいのがいいですよ」
「まあまあ、大蛇と戦ったり、野人を捕獲したり見せ場はあるはずだ」
「どっちも高尾山にはいません!」
高尾山に対し誤解を招くのでは?高尾山からのクレームと
あまりに適当なストーリーを心配しながらバンキたちは奥へと進む。
「あ!あぶない!」高尾山の天狗が探検隊に襲い掛かってきた。
「童子たちが居ないな、天然物か…」
(注)ここからはBGMは探検隊ではなく、響鬼に変わってると思ってください。
バンキは刀弦響を突き刺し、とりあえず変身した。
「変身まで適当に扱われたが、まあいい。いくぞ!」「ギャアア!」
バンキと天狗は戦い始める。
「まてぃ!」しかし、隊長が制止する。蛮鬼と天狗はすっころんだ。
「ここはプロに任せろ」「え、僕はプロですよ」
隊長の腰にはベルトが巻かれていた。「ええ!まさか!」
「ライダー…へんしん!とうっ!」
隊長は、鬼にどこか似てなくもないかもしれないマフラーを巻いた戦士になった。
(注)ここからは響鬼ではなく初代ライダーにBGMを変えてください。
「さあこい!」そう言うとどこからか、「ヒー!」と叫ぶ黒い集団が現れた。
「お前の仲間か!?」蛮鬼は天狗を指差す、しかし、天狗は両手と顔を振り否定する。
「オレ、コイツラナンカシラネェヨ!?」
蛮鬼と天狗は顔を見合わせる。なんじゃこりゃ!?
目の前の光景が理解できない蛮鬼と天狗。
「どうすんだこれ?これ以上適当にやると話がまとまんないぞ!」
そんなことはお構い無しに隊長は戦う、いつの間にか文章も教授ではなく隊長になっている。
「く、強いな!」苦戦する隊長はボスもいないのにパワーアップするようだ。
「まさか装甲藤岡!」「イヤ、アマリニモフザケスギダロウ!」
はあ!!!なんと隊長は巨大化し、銀のボディーに赤いラインの入った体に変身した。
「ウルト○マンンンンンッ!」蛮鬼と天狗は驚いた!
「ジュア!」隊長はいつの間にか現れた怪獣と戦っていた。
(注)ここからはライダーでなく…(ry
「もうやめるんだ作者!これ以上はまとめきれない!話が終われない!」
「ココハ2チャンダゾ!ナニイワレルカワカランゾ!」必死に作者を説得する。
隊長がスペシ○ム光線を放つとその衝撃波で蛮鬼は飛ばされた。
「しまった!」蛮鬼はなぜか突然現れた谷底にまっさかさまに落ちる。
「うああああ!」
そこで目が覚めた。バンキは酷い寝汗を掻いていた。
チッチッチと時計の音だけが静かに響く……。
「…夢オチかよ!!!」バンキは叫んだ。
不思議な事にバンキ意外にも何人かの突っ込みと罵声が聞こえたような気がした。
「酷い夢だったなぁ」すっかりゲンナリしたままバンキは研究室に登校した。
ガチャリと音が鳴り、御前崎教授が入ってきた。
「おはようございます。」
「おはよう馬場くん。」
「実は馬場君に紹介したい人が居るんだ。」
入るなり御前崎教授はそんな事をいう。
「え!まさか藤岡教授ですか!?」「誰なんだい、その人は?」バンキはほっとした。
「いや、いえ、なんでも、で、どなたなんですか?」
「ああ、川口 浩 名誉教授と言ってね…。」
なぜかわからなかったがバンキは嫌な予感がした。
「川口先生は社会経済学的土壌管理民族学系世界風俗学………」
悪夢はまだ続くようだった。 END
『五日後』
夏の日差しが、微かに弱まりかけていた午後。間島医院の入り口を出たイチゲキとバンキは、正門へと続く桜の樹の影に入った。
「彩子ちゃん、少し落ち着いてきましたね」
「うん。 明日夢君もいてくれてるし、こっちは一安心かな」
大学へ行くというバンキと別れると、イチゲキは空を見上げた。あの日から、空は一日も曇っていない。
駐輪場の隅で、イチゲキは2日前に吉野から届いたばかりの、真新しいバイクに乗った。
凱火と同型のものだが、ワインレッドのボディと、三種の音撃武器を収納できる大型のサイドバッグが装備されている点が異なっている。
『裁火』を走らせ、イチゲキは自宅へ戻った。
営業を再開したたちばなに、天美あきらが訪ねてきた。明日夢から今回の事を聞かされたが、すぐに休みを取れなかった事を詫びた。無論、おやっさんは笑顔で首を横に振る。
「私の方こそ、近々、君にお世話になるかもしれないから…… 先に、謝っておこうかな?」
そんな冗談に、愛息子の疾風を寝かしつけた香須実が、頬を膨らませた。
「ちょっと父さん。まさか老人ホームへ逃げるんじゃないでしょうね? いくら今回の事で、義父さんから関東は今まで以上に警戒を厳しくしろって言われたからって……」
とぼけて頭を掻くおやっさんとあきらは、顔を見合わせて笑った。
「じゃあ、あきら君。早速で悪いけど……」
春香は受話器を置くと、台所に立ち、ゴウキから届けられた紅茶を淹れた。葉のブレンド方法を遺さなかったソウキの味を再現するには、まだまだ試行錯誤しなければならない。
「……さて、と。あきらちゃんに会うのも、久しぶりね」
「……」
「また、いつか…… そうね、春になったら…… あの場所に、行きましょう」
「……」
「イチゲキ君と彩子、二人の子供と…… 亮太達も、鬼のみんなも。」
「……」
「そんなに大勢じゃ、もうお花見の宴会になっちゃうわね」
「……」
寝室に入った春香の笑顔に応えるように、寝息が一定のリズムで繰り返される。眠り続けるサバキが、微かに笑ったような気がした。
夏が終わりを告げても、物悲しい秋、凍えそうな冬が待っている。
春は、まだ遠い―― 終
>前スレ472より
さて、石割が裁鬼から押し付け…受け継いだものとは!?
@折れたてホヤホヤの閻魔
A小型音撃弦ウクレレ・退