【軍事】ミリタリー系創作スレ【兵器】3

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1創る名無しに見る名無し
古代ローマから近未来まで、軍事関連の創作スレッドです
トムクランシー的テクノスリラーから架空戦記、果ては漫画まで、
ミリタリー要素が入ってるなら何でもOK!

前々スレ【軍事】ミリタリー系創作スレ【兵器】
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220331328/l50
前スレ【軍事】ミリタリー系創作スレ【兵器】2
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1257136826/l50

関連スレ

自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた 第69章
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1280728791/l50

非軍事系ガンアクション創作スレ
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1230604510/l50

傭兵系SS創作所
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1228634990/l50

■○創作関連質問&相談スレ 59○■
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/army/1278569027/l50

中高一貫の防衛女子校設立 十五校目
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/army/1276214560/l50
2創る名無しに見る名無し:2010/08/02(月) 16:12:37 ID:wqtO09So
1スレ目のまとめです

http://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/118890
3創る名無しに見る名無し:2010/08/03(火) 16:22:24 ID:wTWNyNlt
避難所にもスレを立てることをおすすめします
http://jbbs.livedoor.jp/internet/3274/
4創る名無しに見る名無し:2010/08/03(火) 20:33:14 ID:p4REclej
この板は更地から再出発なのか?
なんと不親切な。
5創る名無しに見る名無し:2010/08/03(火) 22:54:58 ID:GlG9wQ/7
保守
6創る名無しに見る名無し:2010/08/12(木) 23:30:39 ID:be1/8jFm
あげ
7創る名無しに見る名無し:2010/08/12(木) 23:31:29 ID:TeyuY6Pb
即死回避
8創る名無しに見る名無し:2010/08/18(水) 01:24:57 ID:l+WjajLX
ほしゅ
9創る名無しに見る名無し:2010/08/20(金) 01:22:05 ID:/jvkjEWO
保守でであります!
10創る名無しに見る名無し:2010/08/21(土) 08:52:29 ID:1oR3ihNw
保守
11創る名無しに見る名無し:2010/08/29(日) 19:33:33 ID:5YB1pJzu
あげ
12創る名無しに見る名無し:2010/09/03(金) 23:03:40 ID:WS5btoWl
軍板の創作質問スレもあんまり役に立ってないなぁ。
閑古鳥鳴いてるし、出来る範囲でここで引き受けるか?
13創る名無しに見る名無し:2010/09/03(金) 23:50:43 ID:L8F/9NyP
いやいやいや、この前なんか香ばしい常備兵力500万太郎が来ましたよ。
14創る名無しに見る名無し:2010/09/04(土) 00:13:44 ID:RYlNYZmB
あれは吊し上げメインでやたら長かった割に後から穿り返して
役に立つようなネタあった様には思えんかったのよ。
時代の人口における動員率の限界が何パーとか、十何世紀の農業で小麦畑1ヘクタールで
何人養えるかとかさ、そう言う具体的な数値が出てきてくれるとこっちとしてもありがたかったんだが。
色々反面教師にはなったな。
15創る名無しに見る名無し:2010/09/16(木) 07:07:51 ID:SHZEv9Aj
保守
16創る名無しに見る名無し:2010/09/23(木) 07:35:17 ID:8mIlyMDh
保守
17創る名無しに見る名無し:2010/10/02(土) 09:08:16 ID:oPG2waHa
過疎化しているな
18創る名無しに見る名無し:2010/10/09(土) 12:39:14 ID:eRT17TYc
図書館戦争氏はどこに行った
19創る名無しに見る名無し:2010/10/10(日) 07:57:50 ID:hI+2tHQR
test
20創る名無しに見る名無し:2010/10/11(月) 00:27:01 ID:dFHsQgSK
他スレにて妄想モノ書いているんだが、アパッチの火力について質問させてくれ
(ウィキを見たが火力についてはいまいちピンとこない。軍事板を覗いたがド素人の俺には敷居が高すぎるw)

機関砲(30mmチェーンガン)について
戦車の装甲をぶち抜くくらいの威力がありそうなのだがド素人なので戦車の装甲が見当つかない
よく道路工事で敷かれている、重機が乗る鉄板ぐらいは楽勝でぶち抜けるものなのか?
普通乗用車を正面から撃ったらエンジンを破壊してそのまま車外まで貫通するくらいの威力があるのか?

アパッチロングボウのミリ波レーダー、ヘルファイアミサイルについて
砂漠、ヘリコプター高度約100m。攻撃対象は進行方向約2km先の象。攻撃オペレーターは象を目視確認出来ていない
上記条件でミリ派レーダーは象を捕捉することは出来るのか?
象を捕捉出来ないがヘルファイアミサイルにて攻撃するとする。その場合、指定場所に着弾した瞬間ミサイルは
爆発すると思うが、どのくらいの着弾位置(距離)ならば象に爆風によるダメージを与えることができるのか?

大雑把な設定の質問で申し訳ないが、どうぞよろしくお願いします
21創る名無しに見る名無し:2010/10/13(水) 02:25:58 ID:Q1LOquAK
>>20
最新兵器の詳しいデータは普通公開されない。
故にどうしても不正確なものになる。

M230 チェーンガン 多目的榴弾使用で垂直装甲ならRHA40〜50mm。
角度50度の時30mm程度と言われているが、距離ははっきりしない。500〜2500mの間らしいが不明。

RHAつまりはWW2時代の戦車の装甲なら何ミリという表記をする。
感覚的には3号戦車ならどこから撃っても貫通できるくらいの威力。

つまり自動車なら縦に二,三台並べても貫通できる。
例に出た鉄板なら七〇度以上のほぼ縦にしても楽勝で貫通する。
なにせ材料は『鉄板』で、『装甲板』ではないから。

ヘルファイアミサイルについては条件がおかしいので正答はない。
ミリ波レーダーは捕捉できるが生物なのでごく弱く規定の強度に達しないあるいは規定のパターンに合致しないため目標と識別できない可能性がある。
目視出来ていない状況下ではレーザー誘導のヘルファイアは誘導できない可能性が高い。
夜間、霧などの条件では誘導できる可能性はある。 構造物で遮られていれば他の誘導者が居れば誘導を引き継ぐことができる。
赤外線パターンは取れないのでこの方法での誘導は不可。

『対戦車』ミサイルなので生物などのソフトターゲットへの使用は想定外。
爆風は起きても十数m圏内で鼓膜を破る、口腔内に入って肺を破る以上のことは不明。

普通その距離ならチェーンガンで掃射するのが妥当。
2000m先でコンクリートの一般家屋内であれば普通に貫通できる。
22創る名無しに見る名無し:2010/10/13(水) 18:11:47 ID:3vsLnXUs
>>20はファンタジー世界で米軍が出てくる話でも書いているのかな?
普通の地球の陸上生物相手に攻撃ヘリはオーバーキルなスペックで使うこと考えられないし

ジュラシックパークの復活恐竜くらいしか思いつかんw
2320:2010/10/13(水) 23:15:13 ID:DjtOkaVN
>>21
わかりやすい説明でとても参考になった。ありがとう
しかし凄まじい威力だなチェーンガン。すこし侮っていたぜw

>>22
妄想というよりトンデモ系。まっとうなモノではありませんw
まぁ、書き手俺、読み手ほぼ俺だけwなので問題は無い
24創る名無しに見る名無し:2010/10/18(月) 06:58:27 ID:TXo2LR2n
>>21
今更だが、赤外線画像なら動物もロック出来るよ。
重要なのは背景との温度差。
爬虫類とか変温動物とかは、温度分解能の低いシーカーだとキツいかもだけど。
地面や空とは材質や大きさが違うから、完全に同じにはならない(要は作者の匙加減次第)。
25創る名無しに見る名無し:2010/10/19(火) 01:51:07 ID:knnUH+IU
>>24
理論上可能かどうかと運用上可能かは違う。

常識的に考えて現用兵器でない『象(戦象)』の赤外線パターンなど登録されていようはずもない。

1.目標を指定し
2.赤外線パターンを取り
3.ミサイルシステムに入力し
4.攻撃可能位置に遷移し
5.攻撃する

以上のことが初見で可能ならば即時攻撃可能。
そうでないならば当然段階を踏む必要があるので即時攻撃は無理。
26創る名無しに見る名無し:2010/10/19(火) 02:49:32 ID:3eLH69Xx
>>25
いやいや、対艦ミサイルみたいに陸上兵器の赤外線パターンなんぞ元から登録されてないから。
赤外線画像誘導ミサイルは、普通に下の手順を踏んでるよ。
27創る名無しに見る名無し:2010/10/20(水) 13:18:42 ID:L4Q+yn2G
なんか漫画トリコのグルメ界の食材集めに思えてきたw
28創る名無しに見る名無し:2010/10/21(木) 21:42:51 ID:nMF5Fl2c
ネットで調べて半端な回答書こうとしてまとめたら規制食らって書けなくなっちゃってたんだが、
この30mmって車抜けちゃうもんなのか?
分からんなりに調べてみたとこ榴弾しかないみたいようで、
半徹甲が精々なのか、まあ柔いのなら徹甲使ってもなーとか思ってたんだけど。
ミサイルは周辺被害考慮のAGM-114Mってのが一応あるみたいだけど、
ミサイル自体が硬い奴向け装備なんだろうなぁ。
ロケットの方はウィキペディアに危害半径が載ってたんだけどミサイルは駄目だった。 
29創る名無しに見る名無し:2010/10/26(火) 03:45:21 ID:C+c3hNp2
>>28
普通のライフル弾(NATO弾)でもエンジンブロック以外は貫通する。
12.7mm(キャリバー50)ならどの角度からでも普通乗用車を貫通できる。
20mmを超えると防弾車、軽装甲車あたりを貫通できる。
車載の35〜40mmクラスだと戦車以外は防御不能。
90mm以上のAPFSDSだと第三世代のMBT以外では防御不能。

航空機に載せているものだと多少性能が劣ることが多いから、
その分を差し引いても防弾装甲板を持たないものならば角度や内部空間がスペースドアーマー的な役割を果たしても抜ける。

30創る名無しに見る名無し:2010/11/06(土) 20:29:34 ID:7Z/HIW90
保守
31創る名無しに見る名無し:2010/11/14(日) 06:08:51 ID:sQwxSmDy
30年代の満州を舞台にした冒険小説とか書きたいなぁ。
指輪系というか、列強が狙う秘宝の破棄みたいなの。
川島芳子とか複葉機とか出したりして……
32創る名無しに見る名無し:2010/11/14(日) 16:46:08 ID:HT2JJxEE
書けばいいじゃないかwww
楽しそうじゃないか
33創る名無しに見る名無し:2010/11/14(日) 18:32:53 ID:DDoH4Hkq
>>31
日本人が出てくるインディージョーンズみたいなものか
34創る名無しに見る名無し:2010/11/14(日) 21:31:54 ID:NRlfxczS
軍閥とか列強の勢力争いとか
カンフーとか日本の武術とか熊のようなロシア人とかOSSの工作員とか(まだできてないか)
溥儀とかナチとか混ざってカオスな状態の満州を舞台にした冒険小説

うむ、胸が熱くなるね!
しかし書けと言われるとちと厳しいorz
35創る名無しに見る名無し:2010/11/15(月) 23:45:17 ID:Cko3MVjG
虹色のトロツキーみたいな奴か?
モーゼル出まくりだな。
36創る名無しに見る名無し:2010/11/23(火) 23:33:03 ID:lwMoKTzm
あげ
37創る名無しに見る名無し:2010/11/26(金) 00:42:27 ID:+DlRERh8
満洲の地方都市に亡命してきたある白系ロシア人
彼はロマノフ家に関わるというある秘密を握っているらしい
軍事機密?隠し財産?或いは…
満鉄調査部に所属するあなたはそのロシア人保護の密命を帯びて行動を開始する
時を同じくし、隠された謎を巡って様々な組織が動き出す!
その秘密を何としても抹殺したいソビエト共産党
ロシアに対する影響力を持ちたいドイツ第三帝国と大英帝国
ユダヤロビーのバックアップを受けたアメリカ合衆国
中国奥地で蠢動する有象無象の軍閥に、中国共産党までが興味を持ち始める
そして何より、この虚構の国の本当の権力者、関東軍―
帝政ロシアの遺産とは!?あなたは無事、使命を果たすことができるのか!?
この満州にひそめく策謀の上を、特急あじあが駆け抜ける!
38創る名無しに見る名無し:2010/11/27(土) 08:19:39 ID:1T2tjCYa
国民党だけ蚊帳の外かわいそうw
39創る名無しに見る名無し:2010/12/05(日) 11:44:30 ID:+4vPtLcV
保守
40創る名無しに見る名無し:2010/12/09(木) 03:07:18 ID:oR3WlW5M
リニア列車砲とかどうですか、
走りながら打ったら大陸とか半島とか北方とか届きそうな気が
41創る名無しに見る名無し:2010/12/09(木) 11:02:04 ID:+mFprjgS
安定しない状態でブチかましたら倒れそうだな
しかもリニアじゃ接地してないし
42創る名無しに見る名無し:2010/12/10(金) 14:25:50 ID:U0yxqUtS
>>40
列車砲にする意味わからん
据え置き型リニアガン(レールガン)か移動式ミサイル発射プラットホームなら判るが
43創る名無しに見る名無し:2010/12/10(金) 16:22:03 ID:6ok70M5m
核を無意味にする超ド級ミサイルってなに? だれかおしえて!
44創る名無しに見る名無し:2010/12/10(金) 18:47:13 ID:U0yxqUtS
>>43
遊星爆弾
45創る名無しに見る名無し:2010/12/12(日) 05:45:49 ID:slPXkKNL
ハヤブサ100機ぐらいで隕石ひっぱてこれないかな
46創る名無しに見る名無し:2010/12/12(日) 10:13:02 ID:EiefRlR+
エンジンの推力が絶望的だな
47創る名無しに見る名無し:2010/12/14(火) 04:53:53 ID:WbEvOzr1
核推進とかだめかな
48創る名無しに見る名無し:2010/12/14(火) 05:11:09 ID:WbEvOzr1
携帯の電波帯使って小型リモコン戦闘ヘリ
これを応用してミサイルで中継器設置した後、現地に大量に送る
充電は中継器の10m以内に入って充電とかSFになってきたw
49創る名無しに見る名無し:2010/12/14(火) 05:13:28 ID:WbEvOzr1
あ弾の補給できないw
50創る名無しに見る名無し:2010/12/14(火) 10:15:43 ID:kbBNKbKj
非現実的だな
それより米軍が投入したリモコン兵器のほうがいい
51創る名無しに見る名無し:2010/12/16(木) 14:36:54 ID:tlC7u2H1
核動力無人爆撃機とかどうだろう。

NB-36とか核動力ベア(バジャーだったっけか?)みたいな機体。
NB-36みたいに乗員保護を考えなくて良いから軽量化できるかも・・・・・・

プロジェクト・プルートの現代版みたいなヤツ。
52創る名無しに見る名無し:2010/12/18(土) 15:26:09 ID:XKEzRU51
>>51
巡航ミサイルと比べてのメリットは?
53創る名無しに見る名無し:2010/12/18(土) 16:15:29 ID:svLiBcJ3
つロマン
54創る名無しに見る名無し:2010/12/19(日) 01:51:07 ID:nwmbdg0l
>>52
敵領内に入れれば撃墜しようがしまいが大惨事確定
55創る名無しに見る名無し:2010/12/19(日) 08:50:34 ID:E5OTbW09
HtVをそのまま爆弾にちゃったらどうかな色んな軌道に何機ものけっといて。
56創る名無しに見る名無し:2010/12/19(日) 08:53:58 ID:E5OTbW09
落下途中に分裂して迎撃しにくくすれば
57創る名無しに見る名無し:2010/12/19(日) 11:56:11 ID:4dHcZpT+
既に似たようなのがあるんだなこれが
58創る名無しに見る名無し:2010/12/22(水) 02:14:22 ID:WAoGLAbP
宇宙にもう爆弾がまわってるんかーこわい
59創る名無しに見る名無し:2010/12/22(水) 12:04:42 ID:WAoGLAbP
日本にプルトニウムいっぱい余ってるからそれ燃料にしたらどうなの?
プラズマジェットエンジン。そのまま爆弾にもなるみたいな。
60創る名無しに見る名無し:2010/12/22(水) 12:15:06 ID:9aTRVcHw
そんな使い方ができるものか
第一爆弾にする濃度まで濃縮すると国際的にヤバイ
61創る名無しに見る名無し:2010/12/24(金) 18:43:23 ID:Zissd6Zb
>>59
またあの悲劇を再現するつもりか>バケツで臨界
62どいつ(九州):2010/12/25(土) 12:24:23 ID:IS/GW+ZH
プラモ買ってもうた
63創る名無しに見る名無し:2010/12/25(土) 21:22:58 ID:/P+WBFZF
シリアスすぎワロタw
64創る名無しに見る名無し:2010/12/26(日) 13:48:48 ID:KirIu+9E
61>
東海だっけ写真昔みた・・

核の次はやっぱり反物質爆弾なのかなー
65創る名無しに見る名無し:2010/12/26(日) 22:27:37 ID:ndaNRDcl
反物質を生成するコストがヤバイ
そもそも反物質を封じ込める物質がないから二重にヤバイ
66創る名無しに見る名無し:2010/12/26(日) 23:08:26 ID:pG8SlIZu
敵国を反物質爆発で打倒すべく・・・
まず手始めに敵首都を占領し、おもむろに現地で反物質を生成する
複数の大型加速器や、反物質をその場で閉じ込める「磁力瓶」を建設し、
首都に集まる電力をすべてそこへ注ぎ込み・・・

反物質の爆発が見たいからやってる、としか言いようのない状況に
67創る名無しに見る名無し:2010/12/27(月) 18:51:21 ID:6ND/Klgx
炸裂と同時に猛烈な放射線が発生してどうなるか見当もつかない……
68創る名無しに見る名無し:2010/12/28(火) 13:25:39 ID:ypBdiaPg
核の次は超磁力兵器だろ
「...地球は大地殻変動に襲われ、地軸はねじ曲がり、
5つの大陸は、ことごとく引き裂かれ、海に沈んでしまった...」(某アニメプロローグ
69創る名無しに見る名無し:2010/12/28(火) 15:51:19 ID:D/tI+20b
でも磁力でそこまでやろうと思ったら
地球全土をレンジでチンするなみの電磁波が生まれるだろうからなあ。
70創る名無しに見る名無し:2010/12/28(火) 17:30:13 ID:ypBdiaPg
>>69
なにも地上施設ですべての電力まかわなくても
地球の周りには既にそれだけの材料は満ち満ちてる
あとは梃の原理で...
71創る名無しに見る名無し:2010/12/31(金) 23:07:39 ID:KMXlPDDO
米軍ってマイクロ波衛星ってもう配備してるんですかね
72創る名無しに見る名無し:2011/01/01(土) 00:16:20 ID:leJVSUsX
兵器とは少し違うんですけど、植物とか動物から
色々工学的なアイディアとかありますよね。
蛾の触角をそのまま大きく金属で作れば高性能アンテナになりませんか?
73創る名無しに見る名無し:2011/01/01(土) 00:59:52 ID:NLqtTc9E
なりません
74創る名無しに見る名無し:2011/01/01(土) 13:29:16 ID:leJVSUsX
ですよね・・
デザインとか似てくると思うんですがどうですか
75創る名無しに見る名無し:2011/01/02(日) 09:02:17 ID:HuNzrGG3
>>74
蛾の触角はフェロモンをキャッチする為のものでオスメスではデザイン異なる
アンテナと言う事で電磁波関係に絞って話をすれば
分解能力は波長を短くすれば探査対象の形状を細かく見分けられるが
波長の短いものは大気中での減衰率も大きい
それを補うには受信側の感度上げるわけだが
点より線、線より面の要領でアンテナ構成するほうが効率良い
実際は大きい単体受信機より複数の小型受信機を離して設置が方向探知に向いている
76創る名無しに見る名無し:2011/01/03(月) 12:29:11 ID:7mh1/Cek
75>
レスありがとうございます
蛾の触角はフェロモンを探してるんですね、電位を感じるものだと思ってました
人のフェロモンを感じるようなセンサーがあれば
潜伏してる人間を見つけ出すような装置はできますか?
たとえば立て篭もった人間の正確な位置とか
77創る名無しに見る名無し:2011/01/04(火) 09:46:52 ID:fpawUU+X
臭いはその場に残りやすいので、「○○分くらい前までここにいた」と
いう情報はとても得やすいが、今どこにいるかという情報は得にくい
78創る名無しに見る名無し:2011/01/04(火) 20:05:09 ID:t81DxRkA
臭いを追尾していけばいいかもね
どこぞのSFだと壁の向こうが透視できる装備があったけど現実ではありえない
79創る名無しに見る名無し:2011/01/05(水) 02:37:41 ID:yEvWAmX0
つ犬
80創る名無しに見る名無し:2011/01/06(木) 11:05:16 ID:8gRaQwtr
ローテクの勝利か
81創る名無しに見る名無し:2011/01/07(金) 02:25:56 ID:A5P8z4EU
わんちゃんの能力を機械に置き換えるのとわんちゃんの脳をいじって兵器化
するんだったらコスパ的にどっちがいいのかな
82創る名無しに見る名無し:2011/01/07(金) 05:23:35 ID:BDh83yDZ
そんなことをしなくても普通に調教して軍用犬として運用すればよくないか?

臭気探知式接近警報機がベトナム戦争のときに投入されたけど、すぐにNLF側にばれて糞を塗り付けられたりして(常に警報)無効化された。
83創る名無しに見る名無し:2011/01/07(金) 15:07:59 ID:Y4ea8AJZ
ローテクやべぇw

当時最新式の熱誘導ミサイルを避けるのに、太陽に向かって飛んだら振り切れたというのがあったな
後に無効化されたが
84創る名無しに見る名無し:2011/01/23(日) 15:56:40 ID:P+SljQ76
あげ
85創る名無しに見る名無し:2011/01/25(火) 10:18:27 ID:ockE74Dy
戦闘機のエンジンの空気取り入れ口をサイド側とか後部の上側に取り付けて
高度が上がれば閉じてラムジェットに切り替わるそんなエンジンって
作れないのですか?
86創る名無しに見る名無し:2011/01/25(火) 12:08:02 ID:dVt/DtI7
切り替える必要性が分からない
87創る名無しに見る名無し:2011/01/25(火) 14:38:22 ID:ockE74Dy
2種類の燃料を使い分けるのと、低速軌道の燃費向上的なイメージで
88創る名無しに見る名無し:2011/01/25(火) 15:26:49 ID:3ctEtNq4
ということは片方の燃料を使ってる時は片方の燃料はお荷物?
マクロスのバルキリーみたいにブースターパック的な後付け装備のほうがいい
89創る名無しに見る名無し:2011/01/25(火) 22:57:57 ID:VwAnoWzI
あまり高速の戦闘機を作っても、運動性とか実用性と両立する事が難しくなるよ。
ラムジェットやスクラムジェットを使う必要があるのはスペースプレーンの類くらいじゃないかな。
ミサイルなら固体燃料の燃えた跡がラムジェットになる奴があるけど、これは人間が乗るものじゃないか。
90創る名無しに見る名無し:2011/01/31(月) 01:35:00 ID:G+NCuF4+
>>85
ジャンルは違うがかつて似たようなことを考えて失敗した例を上げておこう。

装輪、装軌両用の高速戦闘車両。
クリスティー戦車に代表される理論重視で現実を見ない機械群だ。

もっと近い時代のもので言うならSSTO(Single Stage To Orbit{orbiter})。
こっちは実現前に消えたけど。

結局、特化したほうが強くて、安くて、信頼できる。
極限に挑むものなら尚の事。
91創る名無しに見る名無し:2011/02/01(火) 23:59:17 ID:BWbd+v7k
ふむふむ色々詰め込みすぎるとF35みたいになっちゃいますね
ところで制空権ならぬ制宇宙権みたいなのってあるのかな
92創る名無しに見る名無し:2011/02/02(水) 01:23:49 ID:KYLThkep
マルチロールが中途半端なのはホジらないであげて;;

>制宇宙権
まだ人類宇宙の外でドンパチできるほど技術ないので無いんじゃあるまいか
制空権の概念が生まれたのも飛行機が空戦できるようになってからだったし
93創る名無しに見る名無し:2011/02/02(水) 16:31:49 ID:KOSeg4Wq
いちおう「ロシア宇宙軍」があるジャマイカw
94創る名無しに見る名無し:2011/02/05(土) 23:10:46 ID:Jh+q+EKJ
SSTOってポシャってたのか。残念。
95創る名無しに見る名無し:2011/02/10(木) 13:14:32 ID:OJNRqett
フェロモンを可視化できるような装置って作れるのかな
たとえばその粒子に反応して光るパルスを照射して、フィルタを通して可視化する感じで
残留フェロモンの量で何時間前に何人そこに居たとか、
どっちの方向に進んだなどの情報を集めるような
ってかフェロモンに反応する波長ってあるのかな、
96創る名無しに見る名無し:2011/02/10(木) 14:41:15 ID:igoa4BPs
つ犬
97創る名無しに見る名無し:2011/02/12(土) 20:37:29 ID:ps+RjNEp
>85

遅レスでスマン

 部分的なバイパス回路を開閉する、機体サイドについている
ということで、既に退役しているがSR-71がある。
燃料は共通。ラムもターボジェットも同時で動いている。

 で、ラムジェットを利用しても、実質的な問題として
・熱
・武装の使用
等の問題がでてくる。このあたりはSR-71とか、ウェポンベイを持っている
F-22なりの資料読めば役に立つんじゃないかな?
98創る名無しに見る名無し:2011/02/24(木) 18:42:18.75 ID:7+5SdNFE
97>レスありがとうございます
少し読んできました。耐熱素材や運用コストで色々難しいみたいですね。


99創る名無しに見る名無し:2011/02/24(木) 19:29:02.76 ID:/nFO1fDG
>>95
>フェロモンに反応する波長

もうどうやって突っ込んだら良いものやら。
とりあえず生物と物理勉強し直しなさい。高校レベルでいいから。
100創る名無しに見る名無し:2011/02/26(土) 00:41:34.66 ID:mqBNYm51
99>
勉強不足でごめんなさい><
残量からイメージ化できれば、人の動きが推測できそうだと思って
読み返すとはずかしくなってきました
ご指摘ありがとうございます
 
101創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 13:49:28.44 ID:Qh024RDP
ちょっと投下してみる。気が向いたら支援よろしく
102創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 13:50:16.36 ID:Qh024RDP

昨晩から降り続けていた雪は朝方になって降り止み、昼過ぎには雲の隙間から太陽が覗いていた。
草も、木も、川も、丘も、白いヴェールに包まれてしまい、その眩しさに誰もが目を薄める銀世界が広がっていた。
雪の白さに負けないほど白い息を吐き、じっと寒さに耐え、木の陰に隠れながら彼女は身構えていた。視線の先には馬にまたがった数人の男達。
栗毛色をした逞しい馬は、周りのあまりの白さの中で完全に浮いており、まるで手のひらにホクロがぽつんと出来たような違和感さえあった。
彼女は手に持っていた小銃を、木の幹に押しつけるように委託して構える。寒さと緊張で震える手では命中させる自身がなかった。
ゆっくりと引き金に手をかけると、鈍い破裂音と黒色火薬特有の白煙を上げて銃弾が飛び出した。男達のなかで一番身分の高い――おそらく将校の――
男の頭に狙い違わず銃弾は命中し、一瞬にしてその命を奪った。男がぐったりと落馬するのを確かめると
銃を放り投げて彼女はすぐさま逃走を開始した。散兵用に作られた、ライフリングが刻まれた貴重なライフル銃で
命の次に大事な品だが、担いで動く体力はおろか、弾丸すら残っていなかった。
その顔には達成感も、されども後悔や不安も浮かんではいなかった。愛嬌がないというわけではない。
寒さと疲労によって感情が薄れてしまったのだ。が、彼女だけというわけではなかった。
彼女が合流しようとしている人々の群れ――かつて大陸軍と呼ばれていた物の残骸、西へ西へとただ本能によってのみ進み続ける人々の列――
の至る所で、この無表情な人々を見ることが出来た。

「もはや戦争ではない……」

彼女のつぶやきは、雪を巻き上げながら吹きすさむ風の中へと消えていった。
103創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 13:51:02.83 ID:Qh024RDP

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1812年6月、大陸封鎖令に従わぬロシアを懲罰するため、ナポレオン率いるフランス帝国の大陸軍はポーランドのネマン川を渡った。
その規模は40万とも70万とも言われている。だがそのすべてがフランス人で構成されていたわけではない。
一説によると、63万の兵の内32万が外国人の兵で構成されており、精査すればフランス兵は3分の1をしめるに過ぎなかったという話もある。
また、合計20カ国近くの国々の兵士で構成されていたとする史家もおり、ともかく国際色豊かな遠征軍であったと言えるだろう。

彼女、シャルロッテもまた、この遠征軍の一角を占めるノルトファーレン軍の一人だった。もっとも、すべての国が自由意志でこの遠征に参加したわけではない。
ナポレオンによって「自由と平等」が与えられた、とされる国々は再編されその多くがフランスと同盟を結んだ。
同盟と言えば聞こえは良いがその実保護国ないし従属国であり、「お上」たるフランス皇帝の命には逆らえないのが実際のところだった。
とはいえ「封建制度をひっくり返し君たちを圧政から解放してやろう、土地も与えてやろう」というお題目を唱え、
のみならず実現してしまったナポレオンは、シャルロッテのような貧しい農民達にとっては気を悪くするどころか好感さえもてる人物だった。

とにもかくにも、ドイツ諸侯の一つでありライン同盟に加盟しているノルトファーレンは、おおむね政治的理由でもってナポレオンの元へ馳せ参じることを決定したのである。
その数1万。しかしそのうち正規の兵士は6千人を数えるのみであった。独立して間もない小国で国力も兵力もないのが原因である。
幸いだったのは、一連の革命によって手に入れた土地と自由を失いたくないという打算――他人には大抵の場合愛国心と表現される――を持ったり、
ナポレオンにある種の恩を感じた若者が義勇兵として集ったことだった。彼らはごく短期間の訓練のみを受け、正規兵の支援に付くことを命令された。
支援と言ってもそのほとんどが荷役や塹壕堀り、野営地の設営といった雑用であり、実際に撃ち合いをすることは無いとされた。
それを知ってか知らずか、彼ら義勇兵の中には立身出世や戦場での略奪による一攫千金を狙う者も少なからずいたが、ともかくやる気があればよしとして不問にされた。
そのためか、正規兵は遠征の理由を理解しているため士気が低いが、義勇兵は士気旺盛という逆転現象が発生してしまっていた。

シャルロッテもそうした義勇兵の一人だった。ただ彼女には世の中のあらゆる場所を見てみたいという冒険的な目的があった。
貧しい農村で一生を全うしなければならないことに嘆いていた彼女にとってこの度の義勇兵の募集は千載一遇のチャンスだった。
農村に一人、元役人だったという老人がいたのが助かった。19世紀初頭でもまだ貴重な、文字の読み書きや公文書作成といったスキルを持っていたからだ。
ロマンの分かるこの老人は快くシャルロッテに協力してくれた。一度書類を偽造してしまえば案外もろい物で、すんなり入隊までこぎ着けたのだが、ここまで来て
困ったことが起きた。入隊のその日に行われる身体検査である。花も恥じらう18歳。いくら医師とはいえ男の前で服を脱ぐのは無理という物だった。

あれよあれよという間に一騒動になってしまったのだが、言い訳を重ねている間に「愛国心に燃える戦乙女」であるということになってしまった。
部隊のマスコット兼伝令兵という、彼女にとってはいささか不満のある役目へと軟着陸できたのは幸運のおかげでもあったが、それ以上に深刻な時間不足・人材不足があった。
104創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 13:51:51.96 ID:Qh024RDP

さて、このごった煮軍団は5種類の女性がいた。一つ目はシャルロッテのように兵士として滑り込んだ者。二つ目は高級将校の婦人もしくは愛人として連れ添った者。
全体からすればこの二者は無視できるほど少ない。三つ目は従軍娼婦である。軍隊の後を馬車に乗りぞろぞろと付い来るのだ。無論取り締まりは行われたが、
この手の規則や制限が成功した試しはない。四つ目は酒保係の女達である。原則として「下士官または兵士の妻で品行方正な者」とされていたが、
どう見てもいかがわしい者や子連れの者さえいた。彼らは軍隊に雇い上げられ、洗濯や裁縫といった雑用や物品の販売を行った。
五つ目が酒保商人である。いくつもの馬車を連ねた彼女達――割合からすれば男性の方が多かったのだが――は兵士達にあらゆるサービスを提供した。
賭博場や酒場、飯屋に娼館、さらには兵士が略奪した品々の売買までやってのけた。
彼女達は銃弾の中を駆け回り商いをすることもあれば、敗走する軍と共に消え去ることもあった。

なんにせよ火ぶたは切って落とされた。遠征軍は実に7日をかけてネマン川を渡り、ロシアの広大な大地を進み始めたのだ。
105創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 13:53:00.75 ID:Qh024RDP
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大陸軍は川を越えた後、すぐさまロシア軍の包囲殲滅へと移行した。敵野戦軍を撃破し速戦即決を目指すのはナポレオンの十八番である。
しかしそのロシア軍は全く姿を見せず、ひたすら東へ東へと撤退を続けるのみであった。彼らは自らの手で家々や田畑、薪として使うための木々すら焼き払って行った。
典型的焦土戦術と言えよう。彼らに大陸軍に立ち向かうための戦力がなかったわけではない。遠征が始まった時点で、30〜40万ほどの兵士と
数万のコサック兵が戦闘準備を完了しており、9月までには90万を超える大軍となっていた。ロシア軍の行動の意図がどこにあったのかは今でも議論が分かれるが、
半分は初期の兵力不足のため、もう半分は「ナポレオン恐怖症」が引き起こしたのだ、と考えて差し支えないだろう。

ロシア軍は日に60キロという凄まじい速度で後退していった。大陸軍も強行軍でそれを追撃する。
ナポレオンは日頃「最も良い兵士とは歩く兵士である」と公言し、兵士達もまた「皇帝は我々の足でもって勝利を得た」と誇っていた。
機動力を用いて敵の思わぬところから攻撃を仕掛けるというのが彼らの基本戦術であった。されども、この大陸軍の中心を占めるのは20歳ほどの新兵であり、
経験も訓練も十分ではなかった。彼らの背嚢と小銃・弾薬は合計すれば30キロ近くの重さになり、また昼は暑く夜は冷え込むロシアの初夏が彼らの体力を奪っていった。
士気と装備に恵まれたフランス兵ですらこの有様であったから、嫌々付いてきた他国の兵士達、とりわけノルトファーレンの無気力な兵士達はひとたまりもなかった。
無理な行軍の結果、大陸軍は二日目にして5万人もの兵力を喪失したのである。

それは異様な、あまりにも異様な光景であった。路上のあちらこちらに強行軍・飢え・渇き・気候の犠牲となった死者や瀕死の者が横たわっていた。
落伍した者達のうち、ある者は追いつこうと必死で歩き、ある者は馬車の片隅へと乗せてくれるよう哀願した。
先頭の兵士は規律ある行軍を行っていたが、後方に目をやるにつれその規律は緩み、さらにその後方を食料や資材や弾薬を詰め込んだ馬車、
士官やその婦人を乗せた馬車が続き、さらにその後ろに酒保商人や兵士に追い立てられる家畜、荷車や牛車を引く徴発された農民たちが続いた。
隊列は長く伸び切り、まるで遊牧民のように乱れた姿であったとも言われている。

兵士達は4日分の食料のみを携行し残りを後方から受け取ることになっていたが、あまりにも速い進軍ペースに輸送力はまるで追いつけず、
先頭部隊との距離は引き離されるばかりであった。そのため至る所で飢餓が蔓延し、空腹になった兵士達は焦土作戦を辛くも逃れた農家を襲撃して回った。
それでもこの「先頭部隊」は真っ先に略奪にありつけるため、他の部隊よりも食糧事情が良かったとされる。後世の計算によれば、
20万の部隊が60日かけてモスクワへ行くためには兵士だけでも1万8千トンの食料が必要であり、それは輜重隊の全輸送力の倍であると言われている。
空腹だったのは兵士だけではない。馬に与えるまぐさもまた慢性的に不足していた。フランス軍に従う馬匹は25万頭。
馬は人間とは比べものにならないほど食べ、比べものにならないほど飲む。もちろんまぐさを運ぶ馬車が用意されたが、その馬車を引く馬にも食べさせねばならない。
ついには藁葺き屋根のワラを刻んで与えたのだが赤痢が発生してしまい、気候のせいもあり最初の100キロを進む間に5千頭の馬を失った。
6月29日夜、雪とあられが混じった嵐が吹き渡り多数の馬が倒れ、凍死者も発生した。絶望にとらわれた落伍者の中には銃をくわえ自殺を図る者もいた。
106創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 13:54:03.75 ID:Qh024RDP
意外な事にシャルロッテの健康状態は良好そのものだった。伝令兵という身分を生かし、本隊から離れて酒保商人にべったりとくっついて行くことで
温かい食事と毛布にありつくことが出来たからだ。

「それで、一体いつ支払ってもらえるのかな? シャルロッテ嬢?」
「姉様! そんな言い方をしてはシャルロッテさんが可哀想です!」

代償として金目の物一切をなくすどころか借金をこさえてしまったが、背に腹は代えられない。
これが悪徳商人なら肌着一枚残さずひん向かれてしまうところだった。たまたまノルトファーレンから来た酒保商人、シセとスティーネ姉妹に出会えたことが幸運だった。
姉のシセは20歳くらいだろうか、舐められないようにと男物の服装で身を固め、短く切りそろえた髪が特徴の凛々しい女性だ。
妹のスティーネはシャルロッテと同じか少し低いくらい。長い髪と病弱にも見える白い肌が特徴で、日に何回か手を合わせて祈っているのを見かける信仰深い少女だ。
姉と違い、彼女は慈悲的行動――要するにボランティア――でもって負傷者の手当を手伝っているらしい。金銭的見返りを求めないその行為は
今でこそ賛辞と共に迎えられるが、この時代ではそれほど価値のある行為ではなかった。それでも、そのひたむきさが彼女をより一層魅力的で神聖な存在にしていた。
2頭立ての小さな馬車に荷物を積み込み女だてらで戦場にやって来た彼女らは、夕食の準備をしているところに空腹の余りよだれを垂らしそうなシャルロッテと遭遇し、
黒パンとベーコン、干し魚を戻したスープに固チーズを振る舞った。のみならず綿の毛布まで手渡してやったのである。翌日代金を要求したところシャルロッテは顔面蒼白、
給料は遅配のせいでもらっていないと答えたところ、ならば身ぐるみ剥いでやろうかというシセの冗談交じりの猛口撃を受けた。
結局スティーネが場を取りなし、給料がもらえるまで姉妹の手伝いをすること、その間の食事は保証してやることが決まった。

小さな馬車の中にどうしてこれほど品々が詰まっているのかと言うくらい、シセはあらゆる商品を取りそろえていた。
思いつく限りの食材が用意してあったし、ワインやエールといったアルコール、さらには衣類や靴、クシやカミソリといった日用品までもが所狭しと並んでいた。
一体どこからどうやって仕入れたのか小銃やピストルまであった。なるほどこれが酒保商人の商人たるゆえんか、とシャルロッテは深く感心する。

さて「本隊から離れて」と言ったが、これには語弊がある。本隊――すなわちノルトファーレン軍は侵攻1週間を立たずして落伍者や脱走者が相次ぎ、
事実上瓦解していた。7月にはその戦力の半分を消耗していたし、隊列はガタガタで、小部隊があちらこちらに点在して気ままに進撃している状況だった。
だからシャルロッテがいくら「本隊」を探しても見つかることはなかったし、見つけても給料を積んだ馬車、分かりやすく言えば現金輸送車は強盗と化した義勇兵に襲われ
銅貨1枚残さず姿を消してしまっていた。
107創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 13:54:56.86 ID:Qh024RDP

ロシアの冬が厳しいのは有名だが、夏もまた厳しい。雨が降れば道路はたちまち泥で埋め尽くされ人も馬も足を取られる。
必死にもがけばもがくほどその足は泥をこね、後に続く者はその泥に難儀することになる。
馬車の車輪は小石が川に沈むよりもたやすく泥の中にのめり込み、脱出するためには男達に押してもらう必要があった。
商人姉妹の馬車も例外ではなく、シャルロッテもまた泥まみれになりながら馬車を押した。
それでもまだマシな方だ。馬で牽引している大砲は砲身の中まで泥まみれになりながら進んでいたし、
士官やその婦人が乗るような大型の馬車に至っては、進んでいるより止まっている時間の方が長いように見えた。
美しく仕上げられた装飾はあっというまに泥とホコリに埋まってしまった。

では日が差して泥が乾けば良いのかというとそうでもない。今度は砂埃や土埃が一斉に巻き上がり、あたかも霧のように人々をすっぽりと包み込んだ。
目や鼻、耳、爪の間と所かまわずこびりつく一方、痛々しいまでの直射日光が体力を奪っていく。誰も彼もがハンカチや外套で顔をすっぽりと包み、目だけを出すという
お化けのような格好で歩き続けた。渇きに苦しむ彼らは泥水であろうと構わず飲み干したし、井戸を見つければ我先にと争いや喧嘩を起こした。
こんな有様だったから、兵力は見る間に溶け去っていったし、元から遅れていた行軍はさらに遅れを来した。

行軍が特に遅れていたのは、ナポレオンの末弟ジェローム・ウェストファリア王率いるウェストファリア軍、ナポレオンの妻であるジョゼフィーヌの先夫の子
ウジェーヌ・ド・ボーアルネイタリア副王率いるイタリア軍、そしてノルトファーレン軍だった。この3軍を待つためにナポレオンはリトアニアの都市
ヴィルナで6月末から7月16日までの18日間もの間待機することを余儀なくされた。彼を苛立たせるには十分だっただろう。

一戦も交えていないのにもかかわらず遠征軍の兵力は坂を駆け下りるかのように減少し、残った兵士達の健康状態や士気も劣悪そのものだった。
国境から400kmの都市ヴィテブスクに到着するまでに兵力の5割を喪失し、水不足のせいで8千頭の馬――すべての軍馬の半分――がロシアの大地に飲み込まれていった。
速戦即決というナポレオンの戦略は不気味なきしみを上げ始めていた。
108創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 13:56:00.33 ID:Qh024RDP
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7月26日、遠征軍はヴィテブスクから20kmほど手前のオストロヴノでついにロシア軍を捕捉した。その頃にはようやくノルトファーレン軍主力に合流出来た
シャルロッテだったが、そこで見たのは不甲斐ないまでの消耗ぶりだった。正規兵は2500人、義勇兵は1000人にまで減ってしまっていたのである。
もはや君も戦わねばならない、ノルトファーレン歩兵大尉を示す軍服を着た将校からそう言われ、小銃と弾薬の入ったカバンを渡された。
彼女は戸惑う。――冒険旅行のつもりでついてきた遠征だ。まさか撃ち合いをやれとは。戦列の組み方や、各種陣形への移行といった戦闘訓練は
短期間でごく基本的なことをやっただけだし、射撃に至っては数えるほどしかした覚えがない。長く重いマスケットを握る手が震える。

あたりがガヤガヤと騒がしくなり、馬や兵士が行き交う。マスケット兵が横40列、縦3列の小部隊を組み、その小部隊が6つ横に並ぶ。
もはや正規兵も義勇兵も関係無しに部隊を編成せざるを得ないほど頭数が減っていたが、そのせいで陣形を組むのにいつもの倍の時間が掛かった。
その前方に少数の散兵が展開し、後方にはドラムやラッパを持つ軍楽手、側面には砲兵が構える。戦闘準備が完了した頃にはもう銃声がとどろいていた。
敵はどのくらいなのか、精鋭であるフランス軍は何をやっているのか、自分たちの出番はいつなのか。兵士達は全く知る術を持たなかったし、
それは指揮官とて同じだった。精々、馬に乗った偵察兵から状況を伝えられるとか、単眼鏡で様子を見るとか、その程度しか情報を得る手段がなかった。
電信や電話と言った手段が発明されるにはあと50年近くを待たねばならない。
幸運なことにノルトファーレン軍はちょうど丘の上に陣取る形になった。マスケット兵の戦列のうち、
右から2番目の小部隊にいたシャルロッテは眼下に広がる戦場を一望する。
兵士が一斉に銃を撃ち、騎兵が駆け抜け、野砲は轟音を上げて砲弾を撃ち出す。統制された砲兵隊はごく僅かな間を置いて次々と砲撃を開始する。
あたかも導火線の火花が走るように、あるいはキャンバスに筆で絵の具を塗るように、白煙が筋を描いて流れた。
視界は余り良くない。小銃や大砲から出る煙と、馬や兵士が巻き上げる土煙のせいで戦場一帯は霧が掛かったようになり、目をこらさなければよく見えない。
右手前、30mくらいに野砲の流れ弾が飛んできた。地面がえぐり返され猛烈な砂埃が立ち上る。誰もが身をかがめたが、
先ほどシャルロッテに銃を渡した歩兵大尉――無精髭を生やしヨレヨレな軍服に身を包んだ部隊指揮官――だけは全く驚いたり慌てたりする様子が無い。
それどころか他の指揮官と笑顔で談笑さえして見せた。彼らが少しでも困惑の様子を見せれば部隊はたちまち統制を失う。
部隊が前進すればその先頭に立ち、突撃に際しては自らが一番槍となる指揮官達は、驚いたりひるむことを許されない。指揮官に不可欠な能力であった。
戦場の喧噪に飲み込まれ、思考力の半分を失っていたシャルロッテは髭の指揮官をぼんやりと見つめる。これが人の上に立つ者が持たなければならぬ器か。
109創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 13:56:50.18 ID:Qh024RDP

無精髭の指揮官が馬に乗った伝令から一言二言伝えられると、他の指揮官になにやら指示を出してから、シャルロッテらの方に向き直り大声で叫ぶ。
その声は戦闘騒音を突き破るに十分な音量があった。

「全隊、休め!」

命令に従い、陣形を組んだ男達がどっかりと座り込む。休めの命令が出たという事は、自分たちが撃ち合いを演じる可能性がほぼ無くなったと考えて良い。
部隊から緊張がふっと抜ける。ある者は銃のチェックをし、またある者は帽子や衣服のほつれを糸と針で縫い直す。またある者は隣の者とおしゃべりを始めた。
シャルロッテも座ったものの、全く緊張感が解けない。顔がほてり背中に汗が流れるのが分かる。酷く喉が渇いていたが、水筒はとっくに空だった。

「大丈夫かい、お嬢ちゃん」

辺りに響く騒音の中から自分に向けられたであろうその音を聞き取り、シャルロッテはその声の主を捜した。
振り向いた先には齢50くらいだろうか、顔にいくつものシワとシミ、そしてもじゃもじゃしたあご髭を蓄えた老兵がいた。
ブリキ製の大きな水筒を差し出すと、シャルロッテに飲むよう促した。中身も匂いも確かめずに口を付ける。一口飲むと、むせるような香りと
喉が焼ける感触を覚えた。咳をしてむせ返る。中身を日にかざしてみれば、なんとワインではないか。

「はっは! 急いで飲むからだよ、お嬢ちゃん」

ゲラゲラと笑う老兵に水筒を突き返す。このヘルマンという老人は、シャルロッテが赤ん坊の頃から兵隊をやっている古参兵だという。
退役した後はのんびりと年金生活を送っていたが、祖国独立を機に昔取った杵柄を振るうことに決めたのだそうだ。
身の程話を聞いているうちに銃声が止んできた。ミュラ元帥の騎兵隊が追撃を行いロシア軍に打撃を与えた、と事の顛末を聞いたのは翌日のことだった。
結局、シャルロッテ、というよりノルトファーレン軍が右往左往している内に戦闘は終了してしまったのである。
110創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 13:58:04.88 ID:Qh024RDP
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7月28日夕刻、遠征軍はヴィテブスクの街へと入った。ロシア軍はスモレンスクへと後退する途中街へと通じる西ドヴィナ河にかかる橋を落とし、市内に火を放っていた。
住民も5分の4が避難してしまい、さながらゴーストタウンと化していた。傷病兵を教会や僧院へ収容し軍を編成する傍ら、物資の集積が始まる。
と同時に、兵士による略奪が始まった。彼らは手当たり次第に商店や家屋を襲撃し始め、食料、酒、衣類、貴金属といった品々を頂いてしまう。
下士官には彼らを止める責任があるのだが、略奪した品のうちいくらかを上前としてはねるという紳士協定を結んでいたので、むしろ兵たちをそそのかす立場だった。
それどころか、士官や将軍といった人々も空き家になった住宅を家財道具一式ごと「間借り」し、どこからか手に入れた絨毯や家具で部屋を
飾り、地下の酒蔵にあるウイスキーやブランデーの栓を開けていたりしているのだから、なにをか況んやである。
400kmに及ぶ行軍で疲れ果てた兵士達の目の前に宝の山が眠っているも同然の状況では、いくら略奪を禁止したところで効果は薄かった。

無論シャルロッテも蚊帳の外ではなかった。ヘルマン率いる数人のノルトファーレン兵に連れられ共に市街の探索に出かけたのである。
この老兵は銃の扱いだけではなく、略奪にも長けていた。何かありそうな家々へ入り込み、家捜しを行う。
もっとも、先に入城したフランス兵がめぼしい物はおおかた懐に入れてしまったので、街の外れまで行かなければならなかった。
若い兵士達はいかにも高級そうな毛皮や宝石がいくつもちりばめられた装飾品など、どちらかというと実用性より金銭的価値のある物を求めているようだった。
一方のヘルマンはひたすら酒を求めている。酒瓶は嵩張るものだが、彼は器用に背嚢に収めていた。
ではシャルロッテは? あまり気乗りしなかった。元々他人の物である。いくら戦争とはいえ勝手気ままに持って行くのは正直はばかられた。
すでに息が酒臭いヘルマンにそう言うと、彼は笑いながらこういうのだ。
俺たちは「廃品回収」をやっているだけだぜ、お嬢ちゃん。捨てられている物をもらってもバチは当たらんよ。

数軒向かいの建物では痛飲した兵士達がドンチャン騒ぎを始めており、テーブルの上には大量のパンや果物、獣肉が並んでいた。
馬に乗った士官が眉をひそめ、なにやら怒鳴りつけている。ヘルマン曰くこれも当たり前の光景だそうだ。
余り価値のなさそうな物ならよかろうと自分を納得させたシャルロッテが得た「戦利品」は以下のようになる。
取って付きの小さな鍋ひとつ、絹のハンカチ2枚、少々サイズが大きい革靴一足(今の靴はすでに履きつぶしてボロボロだった!)
革靴を手に入れられたのは有り難かった。行軍がどこまで続くか分かったものではない。足は大事にすべきだ。
味を占め少しずつ「大物」を狙い始めた矢先ノルトファーレン軍の士官に制止された。この士官は堅物中の堅物で、
腰に付けたサーベルで切られかねないと判断したシャルロッテは、酔いどれているヘルマンや兵士達を尻目にそそくさと退陣したのである。
111創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 14:00:34.64 ID:Qh024RDP
--------

街の広場では酒保商人や兵士達が各々のテントを張り、さながら遊牧民のキャンプのような様子だった。
商いや食事、賭け事にふける人々をかき分けシャルロッテは商人の姉妹を捜す。
少し薄暗くなり始めた頃ようやく馬車を見つけ、近寄ると姉のシセに声をかけられた。

「金目の物は見つかったかいお嬢。売り払ってくれるなら借金から棒引きしてあげるよ。」
「それはまた今度に。……あの、これを」

そう言って先ほど手に入れたばかりのハンカチを1枚差し出す。隅に小さな刺繍が施され、美しい光沢を放っている。

「ん? これを売りたいと?」
「いえ。個人的な贈り物です。その、色々とよくして貰っていますから」

ちょっと照れくさかったが、言うときは言うべきだ。特に感謝の言葉は。
シセは「それなら有り難く頂いておこう」とにっこり微笑み、丁寧に折りたたんでからポケットに入れた。

「まったく、商人冥利に尽きる話だ。出来の良い娘だなお嬢は」
「あの、それで、スティーネさんはどこに?」
「ふむ。負傷兵の手当を手伝いに教会へ行ったよ。あそこだ」

シセが指さす先には、辛くも放火の手を逃れた古びた教会があった。今は大陸軍の負傷兵で溢れかえっているはずだ。

「ありがとうございます、シセさん。ちょっと行ってきます」
「腰を抜かさないようにな」

シセの言葉の意味が掴めなかったが、それはともかくとしてスティーネの行動力には圧倒される。
1文の得にもならないと分かりきっているのに、それでも戦場へ着いていき、怪我をした者の手当をする。
信仰心とか隣人愛とかそういう行為を説明する理由はあるし、それはシャルロッテも分かっているのだが
あまりにも抽象的な概念であるがために、いまいちその実像を掴めない。
スティーネの内なる力強さにただただ圧倒されるばかりだった。

この時代、戦場での看護婦という概念はほとんどなく、またその評価も低い。「白衣の天使」が誕生するのは
おおよそ半世紀後、ロシアのクリミア半島においてかのナイチンゲールが活躍するのを待たねばならない。
112創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 14:01:22.63 ID:Qh024RDP
--------

教会に入るとすぐ、猛烈な異臭が鼻をついた。薄暗い教会の至る所に兵士が寝かされ、修道女たちがあちこち走り回っている。
手足を切断された兵士から、骨折しただけの兵士、そして中にはすでに事切れている兵士もいた。
突然、弊誌が傷みに絶叫する。人間の物とは思えない叫び声に全身の毛が逆立ち、冷や汗がたれた。
血まみれの兵士に囲まれるようにスティーネはいた。

「シャルロッテさん、どうしました?」

悲壮な表情を浮かべながらも、精一杯明るい声を出そうと努めているスティーネが痛々しかった。
手当の際に付着したのだろうか、衣服も身体も血まみれで、特に手は爪の中にまで血が入り込んでいた。
シャルロッテは周囲の状況に押され何も言えない。重傷者に囲まれたこの場所で、プレゼントがあるから受け取って、などとは言えるはずもない。

「何か、何か手伝えることはある?」
「手当はだいたい終わりました。あとはここのシスターたちに任せましょう」
「そう……」
「シャルロッテさん、顔色が悪いですよ。大丈夫ですか」

これが死臭というものか。教会に入ってからまだ5分とたっていないのに頭痛とめまいを覚え倒れそうになる。
ふらふらし今にも倒れそうな足取りをスティーネが寄り支えた。

「ここは空気が悪いですから。ちょっと外へ出ましょう」

教会の庭に出る。手入れが行き届いた小ぎれいな庭だった。

「人があんな風に死ぬなんて……」
「シャルロッテさん……」
「ずっと、ずっと見えない振りをしていたんだ。殺し合いはとんでもなく酷いことだぞ、って。
 でも、でも! あんなのって、無いよ」

うずくまり、嗚咽を押し殺しながらシャルロッテの独白は続く。

「人を殺す事って、どういう事なんだろう。人を殺して生き延びた先に、何があるんだろう」
「わかりません。でも、それを知るためにも生き抜かないといけないじゃないですか。
 生きることと死ぬこととどちらが辛いんだろうって、怪我をした人の手当をしながらずっと考えていたことなんです。
 死んだら何もかもおしまいじゃないですか! そんな簡単に……簡単に生きるのを止めるなんて」

らしくない大声をスティーネが出すのに驚くシャルロッテ。その一声で弾かれたように頭の回転が速くなってきた。
戦争哲学をスティーネに語ったところで問題解決になるわけではないし、今見たことが戦争の全てではない。
端的に言えば愚痴を吐いただけであり、そのことが酷く恥ずかしく思えてきた。

「なんか責め立ててるみたいでごめん」
「そんな。愚痴が言いたかったらいつでも来てください。聞きますから」
「ごめん。でもありがとう」

ほんの一瞬だけ先ほど見た兵士の死体を思い浮かべたシャルロッテは、額からつま先へと突き抜けるような痛みを感じ、
次にはその痛みが麻薬のように思考を麻痺させた。みるみるうちに表情が変わり、打って変わったように明るい声で言った。

「君に渡したい物があるんだ。ちょっと見てくれるかな」

声の調子がガラリと変わったことに、スティーネは驚きよりも恐怖が先にこみ上げた。
113創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 14:16:58.90 ID:Qh024RDP
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7月31日未明、フランス軍の偵察が小規模なロシア軍を発見した。
後退が追いつかず味方に取り残され、前進してくる遠征軍に「追い抜かれた」部隊らしい。
フランス軍をはじめとする遠征軍主力は再編中で混乱しており、小規模故に割と統制の行き届いていたノルトファーレン軍に白羽の矢が立った。
というよりも、ノルトファーレン軍が本来偵察を割り当てられていた場所に斥候を出していなかったために、ここまで近づいてようやく発見出来たのであり、
自分でまいた種を自分で刈らせる方便に過ぎなかった。とはいえ言われた以上やるしかない。直ちに命令が下され、慌ただしさが軍全体へと拡散していく。
シャルロッテは寝起きしていた商人姉妹のテントから出て、身なりを整えた。

「シャルロッテさん」

スティーネがおそるおそる呼びかける。

「死んだりしたら、死んじゃぁ、いけませんよ!」

じっと目を合わせた後ゆっくり頷く。覚悟は決まっている。

「行ってくる」
「はいっ」

そういって駆け出す背中をスティーネは寂しく見つめていた。
別のテントからシセが出てくる。

「どうだった?」
「可哀想に。シャルロッテさん、もう、人を殺せる目をしていたわ」
「そうか」

小さく返事をしてシセは馬車の中に入る。スティーネの手は絹のハンカチをあらん限りの力で握りしめ、
その指は白くなっていた。
114創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 14:18:04.41 ID:Qh024RDP
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兵士達は規則正しく隊列を組み、戦闘準備を完了した。太陽は東の空にやっと出てきたばかりではあるが、すでに気温は高く
それでいて乾燥しているがために、不快なことこの上なかった。唯一の利点は火薬が湿ることによる不発が押さえられるだろうと言うことだ。
ノルトファーレン軍は密集体型をとり兵力を集中させる。そう言えば聞こえは良いが、実際には第2陣第3陣を組むだけの兵力が最早どこにもなかっただけの話だ。
戦闘に参加しているのは3千人をやや下回るくらいの人数であり、最初の3分の1にまで減少していた。

あの無精髭の歩兵大尉が叫ぶ。

「総員着剣! ドラム鳴らせ。前進!」

戦場にはおおよそ不似合いな軽快な行進曲が流れ、そのリズムに合わせて前進する。遙か彼方にはロシア軍。
この距離では撃っても当たらないし、駆けだしたところでたどり着く前に息が切れる。集団を決まった速度で動かすための軍楽隊である。
じりじりと距離を詰めるのが非常にもどかしいが、どうすることも出来ない。駆け出すことも逃げ出すことも、シャルロッテには許されていない。
死の恐怖と真っ正面から向き合うことを余儀なくさせるこの戦列歩兵という戦術は、兵士達におおよそ非人間的忍耐を強制した。
しかし、伊達や酔狂でこんなことをしているのではない。

歩兵の友、唯一絶対の火器であるこのフリントロックマスケットは100m先の目標に命中させることも覚束ないのだ。
火力を発揮するには「敵の白目と黒目の区別がつくほど」接近してから撃つほか無い。
射程は短い、装填に時間がかかる、猛烈な煙を出す。数々の欠点はあれどそれでも数十〜数百人の一斉射撃は敵を撃破するだけの圧倒的火力を提供してくれる。
銃剣を用いた密集陣形は騎兵に突撃を躊躇させ、また白兵戦では2m近いリーチを持つ。恐怖心を和らげ火力を上げるために集団で行動する。
当時の技術的限界からすれば実にかなった手段だったのだ。

敵味方の砲兵が好き勝手に砲弾を飛ばすまっただ中を、ノルトファーレン軍、そしてシャルロッテは前進する。
敵方の榴弾が炸裂し猛烈な土煙を上げる。味方の砲弾が見当外れな所に着弾する。2発目は方向を修正したのか、より敵に近いところに落ちた。
砲撃だけで敵を撃退出来ない物だろうか。そう考えた矢先、また敵の野砲が火を噴いた。
ラウンドショットと呼ばれる球形の砲弾だ。中に小さな玉が入っているとか、爆薬が詰め込まれているなどと言うことはない。
純粋な鉄の玉だ。ほとんど角度を付けずに飛び出した鉄球は地面を幾度もバウンドし、微妙に方向を変えながらシャルロッテの方へ向かってくる。
この時代完全な球形を作ることは難しく、重心がずれていたり表面が崩れていたりする弾も珍しくないのだが、そのために変化球となり
兵士の恐怖を一層あおり立てた。まるで生き物のように軌道を変えた砲弾を、シャルロッテは無視しようと努めたが、身体はそれに逆らい身をかがめた。
砲弾は4列ほど右隣の兵士へ向けて飛び込み、彼らの生命と共に、腕や足、時には首をもぎ取りながら突き進んだ。我々の感覚で言えばボウリングと同じだ。
重い球でピンをなぎ倒す。ただし、ピンが生きている人間だという決定的な違いがある。一撃で十数人をなぎ倒した砲弾によって、統制のとれた隊列に阿鼻叫喚が生まれた。
115創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 14:19:00.69 ID:Qh024RDP

それでも指揮官の号令と行進曲が足を止めることを許さない。砲弾で倒れた兵士をチラリと見ながら、隙間を詰めるように新たな隊列が瞬時に組まれ、
何事もなかったかのように前進を続ける。倒れた兵士の中には重傷を負いながらもまだ息のある者がもちろんいたが、
彼らには戦闘があらかた片付くまで収容されるチャンスがない。目の前で人が死ぬ様を再び見せつけられたシャルロッテだったが、
彼女の中ではすでに何か決定的な、実に決定的な何かがプツリと切れてしまっていた。それはつまるところ人間としての品格とか、
ヒューマニズム、人間が人間であり動物とは異なると言うに足りる理由――人間性――であり、
仁愛や人情といった物であろう。理性によるコントロールで感情を抑え込む、というのとも異なる、まさに「喪失」であった。

じっと待っていたロシア兵が一斉に小銃による射撃を始める。ノルトファーレン軍が射撃位置に付くまでに戦意を喪失させ敗走させようという訳だ。
この距離ではそうそう当たる物ではないが、士気を削るとかラッキーヒットを望むというのなら十分な距離だった。
数列で行進している兵士の内、当然一番前の兵士が銃撃を受ける。運悪く銃弾を受け倒れても、すぐにその隙間を埋めるよう新たな兵士が前に出る。

彼らが人間でないのかといえばそれは否だ。けれども戦場という場に一度放り込まれれば、彼らは他人のことを気にするだけの精神的余裕を持たない。
撃った敵にも家族がいるかもしれないとか、撃たれたのは味方ではなく自分だったかもしれないとかいう「そうであったかもしれない世界」
を想像するのは戦闘が終わってからであるし、そもそもそう言う想像を行うことを無意識のうちに拒絶する者もいる。
人間の内面的な部分が「兵士化」されたといえば、分かりやすいだろうか。彼らは号令一つでその身を敵陣に投げ出すことすらいとわない、物言わぬ人々となっていた。
116創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 14:19:51.34 ID:Qh024RDP
--------

いつ終わるともしれぬ前進は終わり、全隊に停止の命令が出された。相手との距離は30mも無いだろうか。

「全隊構え!」

最前面の兵士が一斉に小銃を構える。その間にも絶え間なくロシア軍の銃弾が飛び交う。
ロシア軍が射撃後、次弾装填にかかる一瞬の隙を突いて号令が掛かる。
装填中に射撃されることは不意打ちにも等しい。

「リバース!」

数十丁、数百丁にもおよぶ小銃がほぼ同時に発射され、周囲には突然轟音と白煙が巻き起った。
ロシア兵がバタバタと倒れる姿を、シャルロッテは無表情で眺めていた。
両軍による壮絶な射撃戦が始まる。ひたすら相手の兵数と士気を削る恐ろしいチキンレースだった。
士気が崩壊し戦列が崩れれば、後に待っているのは敗走であるし、敗走は騎兵突撃と銃剣による白兵戦――決定的攻撃――を行うチャンスを敵に与えることを意味する。

シャルロッテの目の前に立つ兵士の頭がはじける。人形のように全身の力が抜け倒れ込む兵士を、
まるで邪魔な岩であるかのようにまたぎながら、とうとう最前面へと立つ。
1発目はすでに装填してある。重い小銃を構えて狙いを付ける。若いロシア兵だ、年は20そこそこだろう。
だが、そんな思考にもはや何の価値も意味も認められないことを彼女は知っていたし、だからこそ迷いもせず引き金を引いた。
破裂音がして銃弾が飛び出る。右肩に反動が掛かる。銃口と火皿から煙と火花が飛び散る。煙は視界をふさぎ、火花は彼女の右手を焼いた。
それでも顔色一つ変えずに次弾を装填する。撃鉄を半分だけ引き起こして固定。腰からかけたカバンから、
銃弾と火薬が紙にくるまれ1セットとなっているペーパーカートリッジを抜き取る。
口でその端を噛みちぎり、火皿に半分ほど火薬を流し込む。流し終えたと思った瞬間に、ブーンという虫の羽音のような音が聞こえた。
目の前を銃弾がかすめ飛んだのだ。あと十数センチずれていたら命はなかっただろう。恐怖で手から銃弾がこぼれ落ちる。
地面に落ちた弾丸をシャルロッテは不思議な様子で眺めた。
まるで理解出来ないとばかりに、ぼんやりと見つめる。1秒か、2秒もなかっただろう。頭では恐怖とか臆病とかいう物が
戦場の狂気によって押さえつけられているのに、身体にはまだ幾ばくかの本能が残っているらしい。
金縛りにも似た、頭と身体の感覚のズレが不思議でたまらなかった。
117創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 14:22:17.25 ID:Qh024RDP

その僅かな逡巡ののち再びカバンに手を突っ込み、中身の火薬を銃身に注ぎ、銃剣に気をつけながら銃弾を紙ごと押し込む。
ラムロッド(込め矢)を引き抜き、火薬と銃弾を隙間が出来ないように突き固める。ラムロッドを元に戻し、撃鉄を完全に引き上げる。
射撃準備は整った。が、立ちこめる白煙で視界が悪く、ろくに狙いが付けられない。とはいえ狙いを付けてみたところでまず当たる物ではない。
先ほどの若い兵士がどうなったかも分からないし、分かったところで何になる物でもない。
それに、何故腕が震えているのだろうか? 意図してそうしているわけでもない。腕が疲れたわけでもない。
頭と身体のギャップがもどかしい。大きく息を吸い込んで、止める。震えが止まった。
ロシア兵の着る派手な軍服を目印に撃ち込む。三度カバンから銃弾を取り出し装填動作を繰り返す。発射。
火皿には点火されたが銃弾が出ない。不発だ。新しいカートリッジを取り出し素早く火皿に火薬を注ぐ。銃弾はもう銃身に入っているので要らない。
半分ほど残った火薬と銃弾は迷わず投げ捨てた。発射。また不発。

忌々しく舌打ちし、さらに次の弾丸を取り出そうとしたところで号令が掛かる。

「チャージ!」

戦列を解いたノルトファーレン軍1個大隊約750人が一斉に突撃を始める。
ロシア軍は足並みが乱れ、一部の部隊は敗走を開始していた。銃剣を構えてシャルロッテも続く。
どこに潜んでいたのか、味方の騎兵が突然現れた。サーベルで武装した彼らは蜘蛛の子を散らすがごとく、
敗走する兵士をなで斬りにしていった。かろうじて踏みとどまっていた兵士に対して、シャルロッテは小銃を大上段に構えて飛びかかった。
ロシア兵は相手が女であることに一瞬驚いたようだったが、振りおろされた一撃を素早く小銃で防ぐと、彼女の腹に蹴りを入れた。
地面に尻餅をついて倒れ込むシャルロッテ。勝利を確信したロシア兵の顔は、しかし一瞬の後に苦痛にゆがんだ。
何者かが彼の脇腹に銃剣をめり込ませたのである。驚くことにヘルマンが助けてくれたらしい。
ヘルマンはそのままロシア兵に体当たりをかまし、倒れたところを胸に銃剣を突き刺してとどめを刺した。
シャルロッテの両肩に手をやり「お嬢、生きてるな! ワシに付いてこい!」とだけ彼は言った。
腹を蹴られたために胸が苦しく言葉が出なかった。何度もうなずいてから小銃を拾い立ち上がる。
今やロシア軍は完全に敗走を始めていた。逃げる兵士を追いかける。背中に銃剣を突き立てた。
肉が裂ける感触が銃身を通して手に伝わる。短い悲鳴と共にロシア兵は事切れた。銃剣を抜くとどす黒い血がべっとりと付いていた。
戦闘には明確な開始や終了の合図は無い。しかし周囲の様子からそれらを感じ取ることは出来た。
あとは騎兵が片を付けてくれるだろう……。
118創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 14:23:23.87 ID:Qh024RDP

あたりが急に静かになる。周囲には倒れた兵士や武器弾薬が何の関心も持たれずにうち捨てられていた。
興奮冷めやらぬ調子でまくしたてる者、茫然自失と立ちすくみブツブツとつぶやく者、勝利の快哉を叫ぶ者……。
端から見れば奇妙な人々に見えたかもしれない。けれど笑うことも泣くことも死んだ人間には出来ないのだ。
笑える者は幸福であり、叫べる者は幸福であった。
身体の節々が痛み出し、疲れがどっと押し寄せる。小銃を放り投げ座り込んだ。
日差しが強く汗が流れ落ちる。袖で顔をぬぐう。綺麗だった袖は汗と硝煙と返り血で酷く汚れてしまった。
近づいてきたヘルマンがポケットから小瓶を取り出し、シャルロッテに勧める。入っていた琥珀色の液体を全て飲み干す。
貫くような、それでいて心地のよいアルコールの感覚が喉を覆った。

「お嬢、初めて人を殺した感想は?」
「……意外とたいしたことなかった」
「これでワシとお嬢はホントの戦友だな」
「ありがとう」

ガハハ、というヘルマンの笑い声が何故か耳に残った。地面に大の字になりながら、
ギリギリの緊張感の後に来る生をつかみ取った快感と解放感に、シャルロッテは酔いしれていた。
それは劇薬にも似た危険な、しかしやみつきになる快感である。
119創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 15:00:49.31 ID:Qh024RDP
--------

この戦いでノルトファーレン軍はおよそ350人の損失と引き替えに800人ほどの被害をロシア軍に与え、
その半分ほどの捕虜を得た。戦力や装備を考慮に入れれば十分と言える戦果ではあったが、
ナポレオンに言わせれば子供の遊びに等しい指揮であり、それがためにノルトファーレン軍はこの地にとどまっての後方支援を命ぜられた。

8月12日、遠征軍はスモレンスクへ向けて行軍を開始した。
9月7日にはボロジノの戦いが起き、同じく14日にはモスクワへと入城を果たした。
しかしロシアの皇帝アレクサンドル1世は首を縦に振らない。講和は幾度も空振りに終わり、
打つ手が無くなった10月19日ついに遠征軍は撤退を開始した。
遠征軍を容赦なく飢えと寒さが襲い、大量の凍死者や餓死者が続出。食人すら行われたと伝えられている。
2ヶ月後にロシアから完全にたたき出された時、遠征軍の兵力は2万2千とも4万とも言われている。
僅か半年の間で40万以上もの人々がネマン河〜モスクワ間の大地にその命を吸われたことになる。
ノルトファーレンの公文書には「死傷者多数、生還者ごく僅か」とのみ記されているだけである。

精神的肉体的に「人間であること、人間であるさま」を蝕まれた兵士達は、果てなく広がるロシアの大地に何を見たのであろうか……。
120創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 15:01:43.46 ID:Qh024RDP
以上です。

おわびとお知らせ
・最初はモスクワまで行って帰らせるつもりでしたが筆力が足りずに断念しました
・前半が物語というより戦記物みたいなのはそのせいです
・意味不明なプロローグが付いているのもそのせいです
・書いてる途中でエリア88を読んだのでシャルロッテが中途半端に痛い子になりますた
121創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 15:19:45.06 ID:99YFl8SU
>>120
GJなんだぜ。
途中でアニメのテンプレみたいにウェットになりかけたかと思ったら
ぷっつんして、その後の乾きっぷり。
こういうのはいいな。
軍事に詳しくない通りすがりだが(だから、か?)面白かったよ。
122創る名無しに見る名無し:2011/03/03(木) 20:58:10.62 ID:aFrApCG6
>>120
これは無茶苦茶GJ
読みやすくて描写もしっかりしてて、とにかく面白かった!
この時代背景が好きなのもあるけど本当に続きが気になる。
続きは?続きはないの??
123創る名無しに見る名無し:2011/03/08(火) 17:32:27.11 ID:u6mrY+yU
120>
面白かったです、激戦が伝わってきました。
124創る名無しに見る名無し:2011/03/22(火) 20:27:24.10 ID:YFHhXM+C
保守
125創る名無しに見る名無し:2011/03/25(金) 03:04:02.57 ID:qQ/Qu2U9
質問なんだけど、ナイフは戦い自体には使われないもの?
全くこういった知識がないんだけどナイフの造形に惚れたので趣味小説で書きたい。
スレチだったらスマソ
126創る名無しに見る名無し:2011/03/25(金) 08:28:30.18 ID:26C1WUax
>>125
両者が出会い頭に遭遇→戦闘状態ならナイフ使用のバトルもあるだろうけど
それでも携帯火器使用可能ならそちらを使うのが普通
音を立てたくない理由とか有ったとしても
潜入者側が先に気付いたとかならともかく、防衛側にはそんな理由は無いし
127創る名無しに見る名無し:2011/03/25(金) 14:05:49.04 ID:95MXyV+z
跳弾が怖くて……つーのはリアルではあんまり無いか
128創る名無しに見る名無し:2011/03/26(土) 00:16:03.35 ID:bLTDEmop
>>126>>127
潜入やスパイ物書いてみようかと思う。
ありがとうございます
129名無しの青二才:2011/04/01(金) 19:16:27.00 ID:xtjqLpti
保守します。面白そうなんで・・・。
130創る名無しに見る名無し:2011/04/02(土) 09:42:15.74 ID:PnKPqp5X
>>128
期待しています
131創る名無しに見る名無し:2011/04/02(土) 21:01:26.85 ID:kID9Wasl
地下鉄の掘削に使う機会に爆弾つけて敵国の地下断層まで
何年もかけて安定したやわらかい地層で掘り進めて敵の国の地下に
爆弾仕込む兵器なんてどうかな
132創る名無しに見る名無し:2011/04/03(日) 00:21:52.74 ID:v7O3XVXd
そのトンネルを使って進軍すればいいじゃない
133創る名無しに見る名無し:2011/04/03(日) 17:22:15.13 ID:DFxmHsci
第一次大戦中の1917年6月、ベルギーのメシヌ近郊でイギリス軍が2年半前(!)からコツコツと掘っていた坑道に
450tとも455tとも600tとも言われている爆薬を設置し炸裂、ドイツ兵1万人を塹壕ごと木っ端みじんにしている。
その爆発の衝撃はダウニング街10番地やダブリンでも分かるほどだったと言われている。ホントかよ。

指揮した将軍曰く「(攻撃によって)歴史を作ることはないだろうが地形を変えることは間違いないだろう」。洒落てるね

しかしこの爆薬、全てが爆発したわけでなく不発の物が今も残っていて落雷で爆発したりしている
さらに悪い事に、その周辺には一般人が住んでいるという…
134創る名無しに見る名無し:2011/04/03(日) 22:09:40.47 ID:2/whDiEw
>>133
すごいブラックジョークだなw
135創る名無しに見る名無し:2011/04/13(水) 07:11:29.63 ID:s/LspzeF
保守
136創る名無しに見る名無し:2011/04/16(土) 12:15:25.32 ID:ioaj97YQ
図書館戦争読み返してた。すげー面白かったです。
図書館戦争の人待ってます。
137創る名無しに見る名無し:2011/04/18(月) 17:42:13.66 ID:HXiMPWSM
「戦史への神の介入に関する考察」講師:ミリ研副部長

モンスの天使、というエピソードを諸氏は御存知の事と思う。
第一次世界大戦の最中、ベルギーのモンスにおいて英軍と独軍の戦闘に介入し、
英軍の撤退を支援したという超自然的存在に関するエピソードだ。
天使、と表現されてはいるが、この時の両軍の兵士の目撃情報で一致しているのは
正体不明の発光体が上空に現れ、独軍の進路上に滞空したというその一点のみだ。
発光体が人の形をしていたという情報は、実は事件当時の証言には無い。
天使だの何だのの話は後にこの出来事が英国で大々的に祭り上げられた時の後付けの脚色に過ぎない。

次に、第二次大戦中に世界各地で目撃された『FOO FIGHTER(お化け戦闘機)』について話そう。
これも本会合に参加している諸氏ならば既知の事とは思うので、簡単に。
先の大戦中、地域や陣営を問わず世界中の空に出現し、兵器や戦場の周囲を飛行していた謎の物体。
これを指して『FOO FIGHTER』と呼んでいるわけだ。
形状に関してはオレンジ色の発光体であったり、雲を纏ったような不鮮明な菱形であったりとバラバラだ。
大きさに関してもB29と同規模という物もあれば、艦隊を覆うほどの大きな影を落としたというものもあるな。
現在に至るまでその正体も目的も一切分かっていない謎の存在だ。

冷戦中に起きたサンタクロース86号事件、この件も有名だろう。
1982年12月下旬、大西洋上空で米軍のスクランブル機に後方から接近し、そのまま追い越していった正体不明の飛翔体。
暖色系の光を放ちながら、鈴の音に似た高音を鳴り立てながら飛び去ったこの物体は今も正体が分かっていない。
この事件では同日にソビエト領内の複数の空軍基地でも計器上に超高速の飛行物体が観測され、複数の空軍基地からスクランブルがかけられた。
殆どの機が目標を視認する事さえ出来なかった中で、ウラル以東で飛翔体を捕捉したという通信を発した機は、年初に無人の状態で発見されたな。
機体はほぼ無傷で車輪も出さずに雪原に接地しており、パイロットは行方不明、操縦席付近は損傷も無く、風防は明けた形跡さえ無かったという。
これも謎の多い事件だった。

こうした不可解な事象は、現在でも世界中の軍事的緊張状態にある地域で度々目撃されている。
もしそこに何らかの超自然的存在の思惑があるとするならば、人間の歴史はその正体不明の存在によって
高頻度で干渉されてきたとは推測できないだろうか?

歴史の転換点には責任者や計画立案者、実行者などが不明な謎の多い大事件が結構ある。
著名な偉人の幾人かはこうした謎に絡んだ不可解な死を遂げたりもしてる。
時には万単位の兵士の命を左右する作戦や、民族の興亡に関わる戦略的・政治的判断までもがこうした謎の存在に決められていたりもする。
実は、我々が完全だと信じ込み、理性的判断と協議の上で決定されていると考えている諸々の情勢に絡む決定権は、超自然的存在に掌握されているのではないか!?

我々はこうした謎をオカルトの一言で括り一笑に付すのではなく、真剣に検証し対策をとるべきでは無かろうか?
かのアドルフ・ヒトラーに指図していたという「謎の声」だってそうだ、オカルトの一言で片付けて良いものではない!!
毛沢東の長征において、国民軍の伏撃を直前に警告したという不可視の老人、これだってそうだ。

我々の歩んできた歴史は、実はこうした不可解な存在に好き放題操られてきたのではないか!?
そう考えるとゾッとしないか、君!


戦車や戦闘機好きが集まるというミリ研を訪れた俺は、入部希望者向けの活動紹介の演説で意思を挫かれた。
他の見学連中も大体そんな感じだったらしいが、なんか女子が一人入部してた…マジかよ!?

この春の実話、そして多分スレチ。
保守を兼ねて。
138創る名無しに見る名無し:2011/04/19(火) 12:38:52.10 ID:0aiScwCW
押井節っぽい副部長だなぁw
139創る名無しに見る名無し:2011/04/19(火) 17:30:26.43 ID:V1XesADP
一瞬「ファンタジー世界に〜」スレの誤爆かと思った
140創る名無しに見る名無し:2011/04/22(金) 18:56:08.71 ID:/w9pQL7C
誰かセコムの傭兵ビジネスを妄想してみないか?
http://www.secom.co.jp/corporate/outline/world.html
↑これだけ海外進出してたらマジで可能だと思うのだが・・・
141創る名無しに見る名無し:2011/04/23(土) 03:08:29.02 ID:HRXmvvtZ
日本の警備員は、警棒を業務目的で「携帯」する権限がある以外、一般人と一緒なんです。
その警棒も、正当防衛の範囲内でしか使用できません、つまり戦闘については一般人と一緒。
セコムが格闘訓練に熱心なのは、それぐらいしか戦う手段がないから。

そんな企業が傭兵?なんの冗談ですか。
海外進出といっても全部オンラインセキュリティじゃないですか。そこから事情を察してほしいものです。
142創る名無しに見る名無し:2011/04/24(日) 11:02:42.95 ID:kXF4fW2j
民間軍事会社が日本に出来るとしたら
警察民営化か自衛隊民営化(!)が国会で議論されるくらいだろうな

私立探偵が警察OBとしても日本じゃ拳銃所有認められないようなもの
143創る名無しに見る名無し:2011/04/24(日) 13:57:02.54 ID:DcisqGnp
アメリカみたいに銃器所持が出来る国に子会社としてPMC作って日本人を送り込めば
「日本人と日本企業から成るPMC」は出来るかもしれない。どう転んでも道義面でのバッシングは避けられないだろうけど
144創る名無しに見る名無し:2011/04/24(日) 19:54:50.55 ID:kXF4fW2j
>>143
アメリカのような「自国民の武装権」認めてる国でも外国人にそれ認めるかな?
145創る名無しに見る名無し:2011/04/26(火) 17:03:22.23 ID:L1zpU5ub
ふとテレビの実験映像みて思ったんですが、ダイラタンシーとい現象がありますよね、
あの原理を応用した防弾素材って作れないものですか?
146創る名無しに見る名無し:2011/04/26(火) 17:29:13.18 ID:jj6XSix0
>>145
水平面以外でも水がこぼれない技術があれば可能かもしれない
147創る名無しに見る名無し:2011/04/29(金) 04:57:24.90 ID:lcEQpiAD
小さく小分けした袋の中に吸水ポリマーとセラミック粒子と金属粒子と水を
混ぜて磁力で対流させた状態でもその現象は起きますか?
148創る名無しに見る名無し:2011/04/29(金) 09:05:15.44 ID:syOqktET
磁力で対流させられない
作れてもコスパ悪すぎ
149創る名無しに見る名無し:2011/05/01(日) 15:30:40.47 ID:HHU5v2qY
ちょっと調べてみたらリキッドアーマーというのが在るみたいでした。
150創る名無しに見る名無し:2011/05/01(日) 23:34:54.89 ID:SDZPgQMP
いや、さすがは創作発表スレだ。
力のある書き手がいる。
ずごいね。
151創る名無しに見る名無し:2011/05/09(月) 05:58:52.55 ID:48TuxOsz
保守
152創る名無しに見る名無し:2011/05/09(月) 11:43:40.33 ID:mfzMxiut
Area51 in JAPAN 世界の車窓から 〜多摩川を跨ぐ謎の秘密要塞基地〜
http://www.youtube.com/watch?v=trcxsa7qhH8
153創る名無しに見る名無し:2011/05/18(水) 08:27:24.66 ID:G4aO0pIf
誰もいなくなった
154創る名無しに見る名無し:2011/05/24(火) 18:17:22.00 ID:MRBVfc/u
ほしゅ
155創る名無しに見る名無し:2011/05/24(火) 21:18:47.62 ID:B0NTBshW
156創る名無しに見る名無し:2011/05/24(火) 23:12:44.02 ID:H3MF3CB7
腹に激痛に走って、背中辺りがものすごく熱い。息も上がって、心泊数が跳ね上がる。
けど、背中の傷口からは、血が流れている感覚があった。とても不気味で気持ち悪い。
...もしも、ここで死んだら誰が悲しむ?両親か?仲間か?友達か?
みんなは年老いて、俺なんかの存在は忘れる。"死"なんてただの記憶の一部でしかないからだ。
"死にたくない"そんな感情が頭に何度も回り巡っている。
煙に曇った空の中で倒れた俺なんか目もくれず、銃声は木霊している。

1944年6月6日。俺は船に揺られて、上陸への準備をしていた。
トンプソンを握る左手は、汗でグッショリで、銃を落としそうになる。
隣の奴が、嘔吐物を吐いた。強烈な臭いにつられて、近くにいた奴が海に吐いた。
なんとも言えない沈黙が広がって、死に対する恐怖が混み上がる。
「開けたら、すぐに散開しろ、砲撃の餌食になるな!以上だクズども!」
157創る名無しに見る名無し:2011/05/25(水) 07:08:20.46 ID:l9stL80Y
「開けたら、すぐに散開しろ、砲撃の餌食になるな!以上だクズども!」
と叫んだ瞬間だった。突然、目の前の世界が一変してしまったのだ。
ノルマンディー海岸に怒涛のごとく押し寄せていた米軍海兵隊の猛者たち。
その彼らが身にまとう軍服が、いきなり可愛らしいセーラー服に変貌してしまったのだ。
初夏らしい夏服のセーラー服は、濃紺の襟にシルバーの三本ラインを縫いこんだ古風なデザイン。
涼しげな胸元には、鮮やかな紅のスカーフがたなびき、年頃の乙女たちの胸元を彩っている。
短めのプリーツスカートはノルマンディー海岸を吹きすさぶ風に煽られ、逞しき兵士たちの太ももが露になる。
そんな乙女チックな連合軍兵士たちが、突如ノルマンディー海岸一体に無数に現れたのだ。

「な、なんなんだこれは!」「一体これは何事だ!」
連合軍兵士たちは、風に煽られたプリーツスカートの裾を押さえながら、ついでに赤面して恥じらいながら口々に叫ぶ。
砲火が行き交い、方々で爆音がとどろく戦場の真っ只中で、彼らはいきなり乙女キャラに変貌させられていた。
彼らはピンク色の水玉模様やキティちゃんの描かれたトンプソンやM1カービンを担ぎながら、それでも海岸に向かう。
浅瀬を駆け抜け、駆け抜けるたびにスカートはめくれ上がり、純白のパンティーと毛むくじゃらの太ももが露になる。

俺はM!カービン(銃身はレモンイエローとピンク。ストック部分にパティ&ジミーのキャラ)を肩に据えた。
座礁した強襲揚陸艇の船体の陰から身を乗り出し、ドイツ軍の堡塁に狙いを定める。
先ほどからあの堡塁から放たれる榴散弾が、俺たちの中隊の上陸の妨げとなっているのだ。
堡塁から突き出た大砲から放たれる榴散弾は、中隊の集結ポイントに降り注ぎ、
スィートチョコの破片が当たり一面に散乱。海岸一体に実に香ばしい甘い匂いを振り撒いていやがるのだ。
しかも砲弾の中にはバニラソースが仕込まれているらしく、俺たちの顔にバニラクリームの飛沫が飛び散る。

「まだバレンタインまでは八ヶ月以上あるってのに気が早いな」
と俺は三等兵見習いのジミーに言い、ニヤリと笑った。
ジミーは俺たちの中隊の中では主にモンブランタイプの手榴弾作りに長けている気の良い坊やだ。
ハイスクールを卒業したばかりで海兵隊に入隊してきたジミーは、ことのほかセーラー服がよく似合う。
「そうっすね、デイブ二等兵。それにこのクリームは練りが足りませんよ」
ジミーはそう答えると、その辺の砂浜に落ちていたチョコの破片にバニラクリームをつけて、口に放り込んだ。
剛毅なやつだ、と俺は思った。それと海兵隊員がセーラー服を着ていることに違和感が無くなっている自分に気づいた。
なんてことだ、慣れというのは恐ろしいものだ。こんな死と隣り合わせの戦場に俺は馴染んでしまっている。
158創る名無しに見る名無し:2011/05/25(水) 07:09:33.27 ID:l9stL80Y
揚陸艇の船べりから慎重に身を乗り出し、俺はゆっくりと狙いを定める。狙う先は、あの大砲の根元のあたり。
大量のチョコを惜しげもなく打ち込んでくるドイツ軍。物資が不足気味というのはデマなのだろうか?
俺の数メートル横に、今度は巨大な何かが落下してきた――マドレーヌ砲だっ!という叫び声がする。
そして二秒ほど遅れて、天空を切り裂くような巨大な爆音が辺りに響き渡った。
マドレーヌ砲は、何と音速を超越して飛んでくるのだ。それで型崩れを起こさないのだからドイツの技術力は凄い。
俺は船べりから吹き飛ばされ、揚陸艇の船底に叩きつけられた。
それと同時にマドレーヌ特有の甘いバターの香りが、俺の鼻腔をくすぐる。実においしそうな匂いだ。
パリ占領以来、ドイツ軍はフランス菓子の数々を徴収し、戦場に投入している。
その噂は耳にしていたが、これほど美味しそうな洋菓子を目の前に撃ち込まれては、こちらもたまらない。

「大丈夫ですか?デイブ二等兵」
ジミーが俺の体を抱き起こしながら声を掛けてくる。俺はジミーの肩につかまらせてもらい、起き上がった。
ジミーはサッカーボールほどもある巨大なマドレーヌの破片を抱え、それをムシャムシャと食べている。
「海水が掛かってしょっぱいですけど、この塩っ気がむしろマドレーヌの甘味を引き立てますね」
俺は時折不思議に思う。このジミーはやたらお菓子を食べまくるのに一向に太る気配がない。
スイーツは別腹だっていうでしょ?と前にジミーは言っていたが、こいつの別腹はブラックホールなのだろうか?
俺は顔にべっちょりと付いたカスタードクリームを拭うと、再び船べりから体を乗り出す。
女子高生姿の海兵隊員は、やはりこのアハトアハトによるマドレーヌ攻撃で圧倒されていた。
巨大なマドレーヌの生地の下敷きになり、スイーツに押しつぶされそうになっている者。
マドレーヌの甘味に「ちくしょう!蜂蜜を隠し味に使うのは反則だ!」と泣き叫ぶ者。
勇猛果敢な海兵隊員たちは、今やメランコリーをこじらせて自室でさめざめと泣きながらオナニーに耽る女子高生のようだ。
もちろんなんのこっちゃわからんが、まあそんな女々しい海兵隊員(セーラー服姿)を想像してくれればいい。

それよりも第101空挺部隊は一体何をしているのだ?
やつらはこのマドレーヌ砲のある拠点へ奇襲攻撃を仕掛けたはずじゃなかったのか?
途中で駄菓子やでベビースターラーメンやフェリックスガムを買い食いでもしているのか?
とにかく今は目の前の堡塁のチョコレート砲を何とかせねばなるまい。
俺はリズムカルに響き渡るマドレーヌ砲の爆音をシャットアウトした。
今はあの堡塁、あそこだけを狙うのだ。あのチョコレート砲(バニラソース充填のとっても美味しいやつ)だけ。
ふと、堡塁の前の土嚢から、人影が見えた。ドイツ兵だ。
そして俺は、そのドイツ兵の姿をみて再び仰天してしまう。
彼は実に見事なメイド服を着用なさっていたのだ。
159創る名無しに見る名無し:2011/05/25(水) 07:23:34.10 ID:l9stL80Y
言い忘れたが、もちろん俺も可愛らしいセーラー服を着ている。
ついでに言っとくが、もちろんこれは俺の意思ではない。そんな趣味はない。断じてない。
だからなのだろうか、俺は思わず大声で笑ってしまった。
堡塁の中で戸惑いの表情を浮かべながらメイド服のスカートの裾を指でつまんでいるドイツ兵の姿を見て。
しかもよく観察すると、ベトンで固められた防御要塞の随所に、メイド服姿のドイツ兵たちが蠢いているのが見える。
ゲルマン民族特有のゴツい体を窮屈に包み込む可愛らしいメイドさんのお洋服。
手にはオーブンで焼きたてのクッキーやアップルパイを乗せたトレーを抱え、それを砲手たちに手渡す。
砲手たちはその美味しそうな焼き菓子を丁寧に型崩れしないよう、アハトアハトなどの砲に装填する。
その手際のよさに俺は関心してしまった。さすがナチスだな、メイドさんの鍛え方も伊達じゃない。
俺は脇に落ちていたマドレーヌの破片を口に放り込んだ。
ジミーの言ってた通り、海水の飛沫が掛かっているせいか塩っぽいが、それがよりまろやかな甘味を引き立ててる。
こんど中隊長殿に進言してみよう、アメリカ海兵隊のマドレーヌも隠し味に塩と蜂蜜を用いてみては?

俺は再びM1カービンを構えた。ちなみに俺は中隊の中で一番の腕を持つ狙撃手でもある。
決して狙撃向きではないこのM1カービンで、400メートル先の的にフルーツキャンディーの弾をワンホールショット。
どうだ参ったか。これが海兵魂というものだ。あの堡塁のドイツ兵を射抜くことなど、余裕だ。
160創る名無しに見る名無し:2011/05/25(水) 16:03:48.07 ID:sN3iUTJU
いきなり雰囲気が変わってワロタwww
戦場のシリアスさをコスプレで打ち消すなんて、カオススギwww
初めて投下したけど、面白く繋いでくれるならまた投下しよう。
161創る名無しに見る名無し:2011/05/25(水) 18:26:07.49 ID:hpMzPNaR
>>160
投下乙
162創る名無しに見る名無し:2011/05/25(水) 19:00:51.47 ID:zvZnwQtp
・・・この状況下においては...どうやって勝敗を判定するんだ

先に満腹して喰えなくなったほうが負け?
163創る名無しに見る名無し:2011/05/26(木) 06:33:39.77 ID:qOvrA/Bj
ズンッ! という衝撃音と共に、目の前のビルの窓ガラスが一斉に割れた。
一瞬ほど送れて、叩きつけるような爆風が道路をはさんだ此方のビルのテラスに突っ込んでくる。
俺は銃を手にしたまま床に放り出されリノリウムの床に叩きつけられた。
キーンという耳鳴りがするが、それ以外の音が殆ど聞こえない。
まるで周囲を分厚い防音壁で囲まれてしまったかのようだ。起き上がろうとするも、体のあちらこちらが痛む。
まるで水の中からの声のように、「立ち上がるな! 伏せろ!」と怒鳴る声。

視界前方に舞い上がった土煙が視界を遮る。その褐色の煙の中で幾つもの火花がちらついた。
同時にブンッ! ブンッ!といった感じの鈍い音を立てながら、俺の周囲を銃弾がよぎった。
奇跡というべきか、あれほどの衝撃の中で俺はライフルを手放さなかった。
俺は仰向けのまま、己の足の向こうに広がる煙幕へ向けてフルオートで連射した。
もちろん無茶苦茶に。これで当たればラッキーというものだ。
聴力が回復するに従って、周囲でバチバチと弾ける音がする。
同時にコンクリートの破片が降り注ぎ、顔や袖をチクチクと刺す。
恐怖に駆られた俺は仰向けのまま室内へと逃げ込もうとする。
このままじゃ的になってしまう。土煙が消えたら向こうから丸見えだ。
俺の鼻先から数センチのところを、弾丸が駆け抜けた。その弾丸は俺の背後で弾け、モルタルの壁を砕く。
全身にモルタルの破片が降り注ぎ、その幾つかが目に入る。
俺は目を覆い、尻込みするように積んである土嚢の裏に飛び込んだ。

「栗原! そこはダメだ、引け!」
薄まる煙の向こうから、そう命令する声が聞こえる。やはり足立小隊長だ。
足立隊長は片岡と二人で、階段の踊り場のところでうずくまっている。
足立隊長が指で階段の方を指す。そちらへ後退という意味だ。
そこまでの距離は8メートルくらいか?瓦礫だらけの足場の悪い床なうえに、一切障壁が存在しない。

チュンッ!という鋭い音とともに、俺の目の前の土嚢から土煙が上がった。
確実に俺は狙われている。俺は応射しようか、と思ったが、とてもそんな状況ではない。
片岡が物陰から顔を覗かせ、一気に銃弾を撃ち込んだ。途端にその片岡に向かって、向こうからの一斉射撃が始まる。
片岡は壁際に引っ込み、頭を抱えてうずくまる。足立が片岡を怒鳴りつけるのが見える。

ここでふと、俺は思った。匍匐前進でもどうせ丸見えだ。なら立って、一気に駆け抜けた方が早い。
どうせここに居たらいずれやられる。時間はもうない。
そう決断した俺は、恐怖を紛らわせるために何か叫び、土嚢の裏から飛び出した。

向こうで足立が両手で戻れ、と合図している姿が見えた。
また、うずくまっていた片岡が膝の間から顔を上げ、驚くような目で此方を見ている。
バシッ! チュンッ! という破裂音と共にモルタルの破片が大量に飛び散る。
俺は一歩目、二歩目と瓦礫の上を飛び上がり、飛び込むべき場所だけを見ていた。
スローモーションの中に居るような、まるで現実ではないような、そんな感じがした。
一歩目も二歩目も、もどかしいくらいに動きが遅い。まるで水の中でもがいているようだ。
靴底から礫状のものを踏み潰す感触が伝わる。その不安定さが俺を苛立たせた。
視界の僅か左で足立が俺に向かって何かを叫んでいる。
俺は一瞬、そちらに目線をやり、再び戻した。
164創る名無しに見る名無し:2011/05/26(木) 06:35:16.50 ID:qOvrA/Bj
左足で三歩目を踏み込んだ瞬間であった。
わき腹から背中にかけて、鈍器で殴られたような衝撃が走った。
同時に左足が地面を掴み損ね、大きく横に滑る。俺は何とかバランスをとろうとした、と思う。
だが、俺の体は投げ出されるように宙を舞った。あれ? と俺が思ったとき、右肩が激しく床を打った。
直ぐ後に、俺のこめかみの辺りが、床に衝突する。そのまま俺は床を滑った、と思う。
砂利のような瓦礫が、俺の肩や背中にめり込み激痛が走った。俺は顔を顰め、うなった。
おそらくこの間は、ほんの二秒ほどではなかったかと思う。
なのに、この時の情景は今でも鮮明に覚えている。そう、嫌になるほど克明に。
俺の体は壊れたおもちゃのように、床の上に投げ出された。
床の上で、これまた仰向けで停止したとき、俺の左肩から耳に掛けて衝撃が走った。
まるで物凄い熱い棒で叩かれたような、そんな感じだった。

まもなく、全てが元に戻った。再び飛び交う銃弾の衝撃音がブンブンと響く。
モルタルの壁がバラバラと崩れ落ち、俺に降りかかる。
いったい、何が起きたのだろう?こんな見通しの良すぎる場所で、俺は何で寝転がっているんだろう?
直ぐ後ろで、ガチャンというガラスの割れる音がした。そこはトイレで、その窓が割れたのだ。
その破片が、俺の上に落ちてきた。鋭い先端が俺の頬を軽く切り、ガラスの破片が口の中に入る。
とっさに俺は、破片を吐き出そうとした。そして俺は、自分の体を見た。

左足が潰れていた。左わき腹が十センチほど裂けて盛り上がり、血がべっとりと滲んでいた。
俺は動転し、左手でその傷口を押さえようとした。が、すでに左腕は、上腕の中ほどから失われていた。
肘よりも手前のところで引きちぎられたようになった左腕が、俺の目の前に現れた。
唖然としてそれを見ている俺の顔に、ぺちゃぺちゃと血が垂れてきた。
立ち上がらなきゃ、と俺はもがく。そこで気づいた。俺の腰から下が、全く動かないことに。

俺の視界が、徐々に暗くなっていった。おそらく失血して意識が薄れたのだろう。
もっともそんなことは、随分後になってから気づいたのだが。
薄れゆく意識の中、向かいのビルの屋上でベッドシーツが何枚も干してあるのが見えた。
ああ、こんな土煙の中で干したりしたら、また汚れちゃうだろな、と俺は思った。
誰かが、俺の体を抱きかかえた。俺はなすがままに、その誰かに体をゆだねた。
瓦礫の上を、俺は引きずられている。背中からガリガリと瓦礫をつぶす感触が伝わった。
俺はそこで意識を失った。
165創る名無しに見る名無し:2011/05/26(木) 06:36:55.66 ID:qOvrA/Bj
目覚めたのは、陸軍第12病院の集中治療室であった。
蛍光灯の青白い光が、俺の目の中に溶け込むように照り付けていた。
全くの無の世界から、ゆっくりと形作られるように目の光景が出現した。
とはいっても、それは淡いクリーム色をした天井でしかなかったが。
頭がぼやけている。何も考えられない。おそらくは数分ほど、俺はそのまま天井を見上げたままだったと思う。
俺の左脇に、幾つもの医療用の機器が並んでいるのに気づいたのは、さらに数分経過してからだった。
寝転がったまま、俺はゆっくりと視線を移した。
オシロスコープのモニターに、規則的に何かの波形が描かれている。
画面の隅に幾つかの数値データが表示され、何秒かごとにその数値が上下する。

俺はどこにいるのだ?目覚めて一番最初に、俺が意識して考えたことはそれだった。
それは目覚めからたっぷり十分以上掛かっていたと思う。
医療用機器から目線を外し、俺は再び天井を見上げた。映像は先ほどよりも鮮明だった。
蛍光灯の隅っこの方に、それを作ったメーカーのロゴらしきものが小さく見える。
何も思い出せない。いや、正確に言えば、何かを思い出そうとする努力が億劫だ。
濃い靄の中を漂っているような、全てがそんな曖昧な感じだ。
俺はそのミルクのような靄に沈み込むように、再び眠りについた。

次に目覚めたとき、俺は医師と看護婦数人に覗き込まれていた。
マスクを付け、銀縁の眼鏡を掛けた医師が、ガラス球のように無機質な目で俺を見下ろしている。
看護婦の一人が横を向き、手にした点滴用の袋をフックに釣っていた。
俺は数回ほど弱々しく瞬きをした。無性に眩しかった。
医師はそれを確認し、「目覚めましたね」と穏やかな口調で言う。
状況は全く分からない。こいつらは一体何しに来てるのだろうか?
俺は医師の目を見返したが、医師は直ぐに俺から視線を外した。
脇にある機器の方に向き直った医師は、看護婦に何かを告げる。

左腕が無い、と気づいたのはそのときだった。
形の良い看護婦の尻、その手前に、ぐるぐるに包帯の巻かれた俺の左腕があった。
肩より先、ほんの十センチほどで、俺の腕は途切れている。
それを見て俺は、おそらく驚いたと思う。
だが同時に、腕が失われているということを既に自分が知っていたということにも、何故か気づいた。
そう、俺は知っていたのだ。俺に一体、何が起こったのかを。
166創る名無しに見る名無し:2011/05/26(木) 06:38:27.19 ID:qOvrA/Bj
俺の肉体を貫いた弾丸は、合計三発。ちなみに一発目と二発目はほぼ同時だったという。
まず一発目が俺の左わき腹に侵入し、そのまま脊柱を砕いて貫通した。
これで俺は腰から下の感覚を、永遠に失うことになった。
二発目は俺の左足の大腿下部の、左膝に近いあたりに侵入した。
銃弾は大腿骨を破壊すると同時に砕け、大腿四頭筋および大腿二頭筋を目茶目茶に引き千切った。
医師は俺の左足を治癒不可能と判断し、恥骨より12センチの場所から左足切断手術を行った。
三発目は俺が倒れた後だった。倒れたとき、左肩から左耳に掛けて熱い棒で叩かれた感じがした、あの時だ。
その弾丸は俺の上腕の肘より上のところで、完全に左上腕骨を砕いた。
兆弾した弾丸は俺の耳の肉を僅かに剃り、さらにこめかみを掠めて飛び去ったという。
左腕は弾丸の衝撃で引きちぎれ、既にあの場で切り離されていた、という。
左半身全滅だな、と俺は思った。

もちろん、こんな状態になって冷静でいられるわけがない。
だが一度に多くのものを喪失したショックで、俺は感情を露わにする術を忘れてしまっていた。
医師が上記のことを告げているとき、俺はまるで他人事のようにそれを聞いていた。
自分に起こった現実として受け入れるには、あまりにも突飛過ぎたからだ。
俺の精神はまだ、自分がまだ五体満足であると意識したままなのだ。
だが現実の俺の肉体はもはやそうではない。そのギャップを、受容できていないのだ。
俺は泣き叫ぶんじゃないか、と思った。だがまだ、何も起こらなかった。
医師はおそらく鎮静剤やらモルヒネやらを投与しまくってるんだろう。
夢と現実の間の曖昧な場所で、俺の弛緩した意識がプワプワと漂っていた。無気力なままに。
167創る名無しに見る名無し:2011/05/26(木) 06:39:18.51 ID:qOvrA/Bj
陸軍に入隊したい、と俺が言ったとき、父は強く反対した。
実際の戦闘はそんな甘いもんじゃないんだぞ。
殺し合いの中に身を置くということは、自分にも死が降りかかってくることでもあるんだ。
二ヶ月ほど前に他界した父は俺を睨みつけ、そう諭した。
実は父にも従軍経験はある。PKO活動の際、ゲリラ武装蜂起の鎮圧のために、国連軍が派遣されたときだ。
もっとも父は戦闘員ではなく、配電技術を担当する技術下士官としてであったが。
ゲリラを放逐した後の治安維持活動が主任務であり、そこでインフラ整備にかかわっていた。
二度ほど現地ゲリラの襲撃され、あわや殉職するところであったという。
地味で目立たない、そんな父の従軍経験を俺は軽蔑していた、と思う。
勇敢さも格好良さもないようなそんな仕事を、果たして従軍といえるのだろうか、とすら思った。
それに引き換え、俺が希望するのは対テロ特殊部隊であり、都市型ゲリラ戦の精鋭だ。

過酷で激しい戦場の中で、俺は己の可能性を知りたかったのだ。いや、それは嘘だな。
単純に俺は、軍の精鋭部隊とかゲリラ戦とかの格好良いイメージに憧れていただけかもしれない。
強靭で勇敢な兵士というイメージに、自分の理想を重ね合わせていい気になっていただけの、ガキだったんだ。
元々運動能力の高かった俺は無事に合格し、さらに24ヶ月の訓練を受け、陸軍特殊部隊の兵になった。
そして初めての戦闘。そのたった一回の戦闘で、俺は今のこの状態になったわけだ。
168創る名無しに見る名無し:2011/05/26(木) 06:40:45.25 ID:qOvrA/Bj
中隊長の正岡少佐が俺の病室にやって来たのは、俺が意識を取り戻して一週間してからだった。
正岡によれば、俺は名誉除隊とともに第三等級勲章が送られるそうだ。
同時に俺は直ちに二階級特進の措置がとられ、下士官の二等軍曹に昇進するという。
そのため傷痍軍人保険医療費及び傷痍軍人年金は下士官に准ずることになった。
その後、正岡は弾けるように敬礼をし、それに俺は応じた。
退出寸前、正岡は俺の右手(俺の唯一の健常な部分)を握り、気を落とすな、と声を掛けた。
俺はハイ、アリガトウゴザイマスと答えた。
自分でションベンもクソもできないのに、気を落とさないで居られる人間などいるのだろうか?

この日から、リハビリテーションが始まった。
リハビリ施設は病院と併設されている。病院と同じく軍の付属施設である。
そこは俺と同じように体のあちこちを失った軍人たちが群れていた。
ここでは手一本や足の一本が無い、なんてのは可愛いほうだった。
全身の7割を火傷したやつとか、両腕を綺麗になくしたやつとか、さらに両足までなくしたやつとかもいた。
最近の武器は性能が向上しているなと思った。なにせ20mmの榴散弾がフルオートで撃てる時代だからな。
俺はその中に入り混じり、異様に腋臭がくさいインストラクターと共にリハビリを開始した。
障害者向けの社会復帰プログラムとして、最低限の生活ができるように身体機能を回復するためだ。

俺は一生涯、車椅子で移動することが決定している。
車椅子からベッドの移動は、絶対にマスターせねばならない能力なのだ。
実はこれがきつい。なにせ俺には左腕もないのだから。
残念ながら軍の傷痍軍人年金では専属の介護士を雇うことは無理だ。
さらに自分の排泄物の始末の訓練も行った。
脊椎損傷である以上、大便はゴム手袋をした指で直腸から掻き出さなければならないのだ。
もちろんペニスは勃起することはない。そんな感覚ももはやないのだ。
精巣が残っているから、子供を作ることは可能だそうだ。だがこんな俺と結婚しようとする女なんかいるか?

殺し合いの現場では、相手だけではなく、己にも死が降りかかってくる。
父はそう言っていたが、今の俺はそれが理解できる。
ちなみに父は戦場で、一度だけ人を殺していたという。
俺が特殊部隊の選抜プログラムを終え、入隊試験に最終合格を果たしたときにそれを父から告げられた。
二度目にゲリラに襲撃されたときで、サブマシンガンで応戦し相手のゲリラを斃した、という。
そのゲリラは、若い女性だった。そしてそのことが、父の生涯の重しとなった。
人を殺すことは、また同時に己を殺すことにもなる。
たといそれが身を守るためであったとしても、相手を殺したという事実は消えない。
俺の場合は、相手のゲリラを殺そうとし、そして誰も殺していない。
あれほどの戦闘だったにもかかわらず、相手のゲリラは軽傷者が一人いただけだったという。
つまり誰も死ななかった戦闘で、俺だけが左腕と左足をと半身の感覚を失い、廃兵になったのだ。
しかも俺にとっては初めての戦闘体験。特殊部隊の精鋭が聞いてあきれる。

戦争なんてそんなものだ。俺は何も成せず、何も成し遂げることなく、ただ壊れてしまった。
馬鹿げた憧れと、安っぽい英雄願望を抱いたまま、紙細工の人形のように。
その重しが、引きちぎれた肉体を持つ23歳の若者に、重く圧し掛かる。
169創る名無しに見る名無し:2011/05/26(木) 06:42:51.75 ID:qOvrA/Bj
週一度の検査通院とリハビリ施設での能力回復訓練。
俺は人生が続く限り、ずっとこれをやり続けることになる。
風の噂で、かつての同僚たちが、俺の判断ミスを嘲笑っていると聞いた。
混乱の中で気が動転し、無謀にも敵の銃口の前に飛び出して自ら的になった愚か者。
なるほど確かにそうかもしれない。それは事実でもある。

やつらもボロ雑巾みたいになっちまいやがれ。過激派連中のパイプ爆弾で内臓撒き散らして死ねば良い。
俺は心の中でそう祈った。そして心の中で泣いた。
俺の祈りは時に通じ、そして時に裏切られた。
かつての同僚たちの死亡記事や負傷の話を聞くと、俺はひそかにほくそ笑み、心の中でガッツポーズをとっていた。
自分が歪んでいってるのがわかる。そりゃね、それくらいわかる。
だからなんだってんだ? 何か問題あるのか?
ならお前らも、やる気まんまんのゲリラの銃口の前を無防備に走ってみろよ。
運がよければ俺みたいになれるぞ? どうだ?
殺し合いの現場ってのは、死ぬのは相手だけじゃないんだ。
自分の体を敵の弾丸が貫き、血肉が切り裂かれ、骨が砕かれるんだよ。
俺は俺の心がゆっくり死んでゆくのを感じる。
窓から夕日を眺めているときに、ケツの穴から自分のクソを指で掻き出しているときに。
死に切れなかった俺は、こんな惨めな煉獄の道を歩いてゆかねばならないのだ。

この煉獄の苦しみに耐えかねて、爆弾でも作ってどっかに送りつけてやろうか、なんて思ったりする。
なにせ訓練プログラムで作り方知っているんだから、
そんなことを想像してにやけてる俺もいる。それもまた今の俺の姿だ。

殺し合いの中に身を置くと、自分にもまた死が降りかかる。
父の言葉を、もう俺は十分に理解していると思う。そして父が自殺してしまった理由も。
死は時に、救いとなるのだ。そしてそれは俺にとっても。 (終わり)


>>162
お菓子やスイーツを投げつけあって、先に泣いたほうが負け。
170創る名無しに見る名無し:2011/05/26(木) 12:48:52.35 ID:JvnmdI3B
徹底的に重苦しく救いの無い展開にしておいて、最後の一行で162へのレスをつけるか(笑)。
うん、ハイセンス。
171創る名無しに見る名無し:2011/05/26(木) 18:51:07.83 ID:rBbj/DjA
>>163
投下乙

久しぶりに重苦しい話だ
作者は結構書き慣れている感じがする
172創る名無しに見る名無し:2011/05/27(金) 07:20:58.42 ID:S3Yy6RxK
エロスレの戦場都市に似たような奴があったwww
173創る名無しに見る名無し:2011/05/27(金) 19:41:19.39 ID:HndjVU4r
39 名前: 創る名無しに見る名無し 投稿日: 2009/11/29(日) 18:26:13 ID:p1o8wjYw

「あんたも変態だったけど、良い人だな!」
伍長は言った。その声は絶え絶えだ。
敵軍の放つ重砲の音が山間をこだまする。
時折、私達の傍らで砲弾が炸裂し、飛び散った榴散弾の破片が兵士や辺りに生える灌木を引き裂く。

「伍長、死ぬな、死ぬなよっ!」
私は彼を抱え、大声で励ます。伍長は死ぬ。それは明らかだ。それほど彼の受けた傷は深かった。
だが、こんなところで彼を死なすなんて、私には耐えがたかった。

突然、丘の向こうから小銃弾の放たれる音がした。
それと共に、けたたましい軍馬の嘶きが山間に響き渡った。敵軍の騎兵大隊だ。
同時に谷の向こうから、山麓の我らの砦に向けて機関砲が猛攻撃を開始される。
重量のかさむあの機関砲……敵がこの火器を運び上げるのに、今まで時間が掛かったのだろうか?

だが、それらが全て揃った今、もはや敵軍の優位は決定的なものとなった。
この騎兵大隊の突入の意図は見えている。敵軍は我々に対し止めを刺しに来たのだ。
先ほどまで敵軍の突撃を防いでいた砦が、次々と崩壊してゆく。
重砲と機関砲が叩き込まれ、土煙が上がる砦からは、戦友たちの悲鳴と怒号が響いてくる。
塹壕が吹き飛び、共に戦い抜いた戦友たちの肉体が引き千切られてゆく。

今日まで必死に支えてきた戦線が、今ここで遂に崩壊したのだ。
あれほどまで、あれほどまで耐えてきたにも関わらずにだ。
我らがここで耐え抜いてきた堡塁が、敵の圧倒的な火力の前にあっけなく吹き飛ばされてゆく。
私は弱りゆく伍長の体を抱きかかえながら、その光景を呆然と見ていた。全てが終わった、そう思った。

ほぼ同時に友軍部隊が退却を始めた。いや、もはやそれは敗走と言ってよい。
崩れ逝くわが軍の軍勢に対し、敵軍の騎兵部隊が文字通り殺到した。
騎兵砲が炸裂するたびに、逃げ惑う友軍兵士たちが吹き飛ぶのが見える。
それはもはや戦いではなく、一方的な虐殺であった。
今までこの戦線を共に維持してきた戦友たちが、そこで敵兵の銃火の前で次々と斃れてゆく。

「少尉。逃げてください。お、俺になんか構わずに。」
伍長は咳き込みながら、私に言った。
「しゃ、喋るな伍長! 俺たちは絶対に生きて帰るんだっ! 俺も、お前も、そしてみんなもっ!」
私そう叫びながらは伍長の手を握り返した。
大量に失血したせいなのだろうか、伍長の手はまるで死人のそれのように冷たい。
伍長は少し微笑むと、私の手を握り返した。握り返す伍長の握力は弱々しい。

ふと見ると、わが隊の先任大尉が騎馬に跨り、戦線から逃げ去る姿があった。
総崩れになったこの戦線に踏みとどまり、まだ必死に戦っている兵士たちがいるにも関わらずにだ。
退却命令も出さず、撤収のための指揮もとろうとしない。あの先任大尉は友軍兵士を見捨てて逃亡したのだ。
こんなクズのために、我々はここで血を流してきたのか。この伍長も!
伍長がこのような無茶な作戦に身を挺することになったのも、そもそもあの大尉の下らない思いつきなのだ。
伍長の性格や嗜好を知り、ならばとその作戦を私に命じたのも、あのクズのような先任大尉なのだ。
許せない!

「も、もういいですよ少尉。なかなか…悪くない人生でしたよ。」
伍長はそういうと、静かに目を閉じた。それが伍長の最後の言葉となった。
174創る名無しに見る名無し:2011/05/27(金) 19:43:02.88 ID:HndjVU4r
40 名前: 創る名無しに見る名無し 投稿日: 2009/11/29(日) 18:27:01 ID:p1o8wjYw

――数時間後、自軍の砦は完全に崩壊し、敵軍が乗り込んできた。
私は伍長の死体を抱きかかえながらその場にしゃがみこんでいた。
奇跡的にも、私は死んでいなかった。
吹き飛んだ土砂に汚れ、戦友たちの生き血を浴びながらも、私は生き残ってしまったのだ。
まわりには、戦友たちがいた。共に笑い、共に戦い、共に励ましあった若者達。
それが今、無残に引き裂かれた骸となって転がっている。
私の膝の上にも、伍長が眠っていた。
生きていたときと変わらぬ笑顔を浮かべながら、安らかに眠っている。
胸に穿たれた銃創さえなければ、彼は死人には見えなかっただろう。

敵兵たちが砦に乗り込んできた。既に我々中隊が全滅した、と思い込んでいるのだろうか。
警戒心が薄れた敵兵たちは、軽やかな足取りで、まるで散歩でもしているかのように我々の陣地を合歩している。
私はそうした彼らを呆けたような目で見つめていた。
全てが崩壊し、戦友たちや伍長の無益な死を目の当たりにし、私には現実的な感覚が失われてしまったようだ。
ただ、無限無窮の諦観が、私の心の中に満ちていた。

敵兵の一人が私に気づいたようだ。
新任少尉である私は、おそらく占領されたこの陣地で生き残っている唯一の士官であろう。
敵兵たちが群がり、私に立つように言う。異国の言葉であるが、彼らが何を言っているのかくらいは判る。
既に武器を手にしていない私に対し、明らかに警戒心は薄い。
彼らが士官である私に寄せる関心は、私の持っているであろうわが軍の機密情報であろう。
もっとも、任官僅か二年程度の少尉に、一体どれほどの情報価値があるかは疑問だが。
銃を向けられても、私は動かなかった。ただそこにしゃがみこんだまま虚空を見上げていた。
敵兵たちが何かを叫ぶ。だが私は動かなかった。
伍長の死体を抱いたまましゃがみ込んでいる私に、敵兵たちは異様な空気を察したのだろうか?
兵たちは私と伍長を囲み、銃を向けたまま何もしない。
引き金を引けば、私は戦友や伍長たちと同じくヴァルハラの地へ赴くことが出来るというのに。
もはや抜け殻となってしまったこの私に、まだ何かせねばならぬ使命でもあるというのだろうか?

しばらくすると、敵の将官たちがやって来た。
敵軍東部方面軍司令官及び方面軍の高級将校たちであった。
この砦の戦略的価値を彼らも知っていたのであろう、中将クラスを投入して、この地域の制圧に望んでいたのだ。
だとしたら我々は、少なくとも数個師団を相手に戦い抜いていたことになる。
たった一連隊の戦力で、我々は三ヶ月も戦い抜いていたのだ。
中将は豊かな白髭をたたえた、長身痩躯の哲学者のような容貌をしていた。
周囲に連なる参謀連中が並んでいた。軍司令部付き作戦参謀らしく、みな切れ者という感じだ。
数週間に渡って膠着したこの戦線に、火砲集中と騎兵による一気に撃滅する作戦を立案したのは、彼らであろう。
少なくとも敵は本気であったのだ、本気で我らに戦いを挑んできていたのだ。
何故だろう、それが私にとって少し嬉しかった。戦友たちの死も、僅かだが報われたのではないか、と思った。
奇妙な考えであることはわかっている。
だが本気で挑んできた相手と精一杯戦って死んだのだから、それは戦士として幸せなのではないか?
私は少し微笑んだ。そのまま声を出して笑い出した。
なぜか笑いが止まらなかった。伍長の冷たい骸を抱えたまま、私は狂ったように笑い出した。
175創る名無しに見る名無し:2011/05/27(金) 19:44:22.33 ID:HndjVU4r
41 名前: 創る名無しに見る名無し 投稿日: 2009/11/29(日) 18:27:47 ID:p1o8wjYw

敵参謀たちが、奇妙な目で私を見つめているのがわかる。
おそらく私を戦闘で気がふれてしまった経験未熟な若手士官と思ったのだろうか?
彼らのその表情には、どこか憐れみすら浮かんでいる。
そんな彼らの姿すらおかしかった。喩えようもなくおかしかった。

敵方面軍司令官の中将は、そんな私に無防備に歩み寄った。
数多くの戦友を目の前で失い精神の平衡を失ってしまった哀れな若者への憐憫なのだろうか?
敗軍の兵である私に対して、銃火を交えた相手に対する敬意でも表するつもりなのだろうか?
私はこの敵軍の将官を憎んでいるわけではない。
ここが戦場なのは百も承知なのだ。互いに殺しあう敵同士であることも。
この私もまた敵の兵士たちの生命と人生を奪ってきたのだから。
このような場で、このような私に、かくのごとく接するこの敵軍の指揮官は立派な軍人だと思う。
だが、まだ我々は白旗を揚げては居ないのだ。

そう、この砦はまだ、敵軍に降伏を表明したわけではないのだ。
私は、いや、正確には「我々」は、まだ負けていない。
先任大尉が卑怯にも逃亡してしまった今、ここの砦の最高指揮官は、この私なのだ。
この私が降伏しない限り、ここの戦闘は終わっていない。

「あんたも変態だったけど、良い人だな!」
伍長の声が聞こえた。あの言葉。伍長とこの私が、命がけで取り組んだ、特攻挺身作戦。
そうだ、私と伍長の戦いは、まだ終わっちゃいないんだっ!

敵軍中将が私の目の前でしゃがんだ。少し憂いを帯びた優しげな微笑みで、私に何かを語りかけようとする。
その瞬間、私は伍長の死体のズボンをずり下ろした。
何かを察した参謀達が、中将の肩に手を掛け、引き戻そうとする。
敵兵たちが、何かを叫びながら慌てて小銃を私に向ける。
その全ての動きがスローモーション映像の如く、私には見えた。

何事かを絶叫し、小銃を構える敵兵たち。
参謀たちに強引に引っ張られ、そのまま地べたに崩れる中将。
何かの命令を叫びながら、慌て取り乱す参謀たちの表情。
下半身丸出しになった伍長の死体を、うつ伏せにひっくり返す私。
その瞬間、数発の銃声が響いた。同時に、私は笑った。
体の方々に熱い衝撃が突き刺さった。不思議と苦痛はなかった。

「…あんたも変態だったけど、良い人だな!」
伍長の無邪気な笑顔。それがおそらく私の見た最後の記憶だ。
同時に、私は伍長の肛門にねじ込んでおいた爆弾の起爆ピンを引き抜いた。
伍長の肛門の中に突っ込んであった実に5キロもの強化爆薬が砦の中で炸裂した。

私と伍長は、この戦いに勝ったのだ。
176創る名無しに見る名無し:2011/05/27(金) 23:34:28.02 ID:MOLrBvik
酷いシモネタだと読むむきもあるだろうが……。
ヴァルハラの語が出て来る以上、設定はドイツ軍なんだろう。
それなら意外と王道一直線の直球勝負といえる。
ドイツ人のブラックジョーク、そのほとんどがウンコネタとケツネタだ。
177創る名無しに見る名無し:2011/05/28(土) 16:26:55.76 ID:cJCM4yje
「おれのけつをなめろ」てか
178創る名無しに見る名無し:2011/05/28(土) 17:01:23.02 ID:9FRBB/1X
>>177
>>「おれのけつをなめろ」てか
それはまだライトな部類。
ここには書けないようなハードなのがごろごろある。
179創る名無しに見る名無し:2011/05/28(土) 19:30:22.89 ID:8rYOhhT9
「軍曹!オットー二等兵のやつ、ホモでしたよ!」
「ほうオットーがホモなのか。で、なんで分かったんだ?」
「オットーのちんぽがウンコ味だったからです」
180創る名無しに見る名無し:2011/05/31(火) 06:17:43.24 ID:QAm/Rt43
>>163>>173なんだが、文章の感じや固有名詞についてのこだわりの無さとか見ると書いたのは同一人物っぽい。
世界観やクロニクルとか殆ど気にしてないところや、ストーリー構造とかもなんかも似てる。
ミリタリー系とかは兵器や武器について緻密に書くのが多いので、これはミリタリー物としてはかなり淡白かな。
戦闘描写などの描写はそこそこ。
181創る名無しに見る名無し:2011/06/10(金) 02:01:40.57 ID:7CwVdSUC
保守
182創る名無しに見る名無し:2011/06/12(日) 22:09:19.15 ID:AkbXaRnT
有事に備えて人知れず訓練に明け暮れる私のミリタリーな日常
Private Army   military training 1  
http://www.youtube.com/watch?v=YY1zzJ8ciFA
183創る名無しに見る名無し:2011/06/16(木) 00:47:30.96 ID:tOz07fs2
【文学部】都内女子大で「くの一」講座開設。忍法"乳時雨"を学ぶ受講者たち(画像有)
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1306046832/
184創る名無しに見る名無し:2011/06/16(木) 22:53:35.87 ID:MPefB0sH
ちょっと質問。
ネットで調べても出てこなかったんだが、ウィンチェスターらが製造したボルカニックライフルの弾の構造、知ってる方いますか?
軍事板行けばいいのかもしれないが、結局は創作発表板で使う可能性のある知識なもんで。
185創る名無しに見る名無し:2011/06/16(木) 23:20:34.33 ID:DaKeOWtq
ボルカニックって、椎の実型弾丸の内部をくり抜いて装薬と雷管が入れてあるやつだっけか。
ロケットボールと違いってあったっけ……
186創る名無しに見る名無し:2011/06/17(金) 01:23:19.60 ID:5IWIBhBq
さっぱりわからないな
俺なら軍版のこっちで聞くけどね
●初心者歓迎 スレ立てる前に此処で質問を 704
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/army/1307708849/l50
187創る名無しに見る名無し:2011/06/17(金) 07:17:52.13 ID:SNQeGTMO
>>184
ピストルならここに図があるんだけど、これじゃいかんよねぇ
ttp://www.shootingtips.com/newfiles/article/Vain%20Illusions%20of%20Inventors/Gyrojet%20&%20Rocket/Gyrojet%20&%20Rocket.html
188184:2011/06/17(金) 22:51:46.80 ID:iz8JsIy9
>>185、186、187
ありがとう。あなた方のレスでボルカニックライフルの性能に確信ができたよ。

連射性能と耐水性においてはボルカニックライフルが上。
しかし、空気抵抗が大きい割りに質量の小さい弾丸のため、おそらく有効射程は驚くほど短かったはず。
だから使い方としては、現代のサブマシンガンに近いような、近距離戦闘用火器ということになるんだろう。
投下作を見れば住人のレベルが判るから、軍板じゃなくここで聞いてみたんだが、正解だったと思う。

ありがとうございます。
189創る名無しに見る名無し:2011/06/17(金) 23:10:10.45 ID:v9pWPN/Q
行け行けドンドンでSS書いて、完成間近になって冷静になっちゃうことってあるよね?
「これってあんまり面白くなさそう…」とか考えちゃう

さて、どうするか
190創る名無しに見る名無し:2011/06/18(土) 00:09:36.62 ID:klO3FTfN
しばらく寝かせてから、見直す
191創る名無しに見る名無し:2011/06/18(土) 14:22:33.79 ID:ZFCU7IPy
寝かした記事を打ち粉ふって延ばしてたたんで
手ごろな感覚で切ってたっぷりの情感でゆがけば
いっちょあがり
192地獄のメイドコマンドー:2011/06/19(日) 21:32:54.90 ID:gOpCUsQw
アフリカ南西部のサバンナ地帯。
小さな農村を見下ろす痩せこけた潅木が生えた丘の上に、一台の装甲戦闘車両が停車していた。
緑がかった茶褐色に塗られたその車両は、第二次世界大戦中にビュイック社で製造されたM18ヘルキ
ャット戦車駆逐車で、車体にはバルジの戦いで活躍した第705タンクデストロイヤー部隊の所属であ
ることを表示するマーキングが施されている。
76ミリ砲一門と50口径機関銃一挺を装備し、大砲と機関銃用の実弾をたっぷりと積んだこの小柄で
敏捷な殺戮マシンは、ゲキド共和国にダイヤモンド鉱山を持つポーランド系アメリカ人デイヴ・ネトラ
レスキが個人で所有する車両である。
旧式兵器のコレクターでもあるネトラレスキは、旧ユーゴスラヴィアから密輸船で運び出したM18を
3年かけてレストアし、英国で毎年7月に行われるウォー&ピース・ショウにも欠かさず参加していた。
現在は三日前に起こった内乱で焼き討ちにあった館をメイド達とともに脱出し、陸路国境を目指しての
逃避行の途中であった。
もともと政情不安定なゲキド共和国において、少数民族でありながら国政における主要機関のポストを
独占し、賄賂取り放題、汚職やり放題で私腹を肥やすミク族に対し、人口比で圧倒的多数を占めながら
ろくな仕事も無く、スラム街にたむろして貧困にあえぐネル族が不満を爆発させるのはある意味歴史的
必然ともいえる。
ミク族と商売上の付き合いがあったというだけで暴徒の標的にされる側としてはたまったものではな
いが。
193地獄のメイドコマンドー:2011/06/19(日) 21:34:16.84 ID:gOpCUsQw
背の低い潅木の林の中に姿を隠した戦車駆逐車の砲塔の上では、銀髪を風に靡かせた小柄なメイド、イ
ローナ・ソララトフがミニスカートを気に留めずに胡坐をかき、優れたスナイパーの必須要件である偏
執狂的な集中力を発揮して、眼下の村を監視している。
外界との交渉を断ち切り、自己の世界に没入するその姿は、さながら狙撃銃を抱いたサルトルといった
風情だった。
ソララトフが携行する競技用弾を装填した旧ソ連製のドラグノフSVDからは、スコープの反射で位置
を暴露することを嫌ったソララトフ自身の手によって、標準装備のPSO−1照準眼鏡が取り外されて
いる。
スナイパーの神から鷹の目とスイス製の時計のように精密に動く両手を与えられたソララトフは、冬戦
争で「白い死神」の異名をとった往年の名スナイパーのように、アイアンサイトのみを用いて300メ
ートルを超える射程でヘッドショットを決める。
90年前に生まれていれば、スターリングラードからベルリンまでの間に500を超えるドイツ兵の頭
を撃ち抜いていただろう。
彫像のように動かなかったソララトフが顔をあげた。
「戻ってきた」
潅木の間を縫って、くすんだ金髪をポニーテイルに結い上げた大柄なメイドが音も無く姿を現した。
身長180センチ、メイド服の前を砲弾型に押し上げる胸の膨らみは95を優に超えているだろう。
30発入りの箱型弾倉を装着したMINI−14を小脇に抱え、背中にはなぜか“ニホントウ”を背負
っている。
メイドの名はキャロライン・メメタァ・ジョーンズ。
朝鮮戦争で日本に駐屯し、ニンジャ・マスターとなった祖父から根来流忍法の奥義を伝授された、東洋
の神秘と闇を体現した最後のメイドである。
194地獄のメイドコマンドー:2011/06/19(日) 21:35:12.10 ID:gOpCUsQw
「よし、どんな状況だ?」
一行の指揮を執るのは至極当たり前にネトラレスキだった。
靴クリームのセールスマンの息子から出発し、45歳にして武装メイド付きの豪邸を構えるほどの成功
を収めたあって、この状況でも取り乱すことなく積極的にリーダーシップを発揮している。
「よくない雰囲気ですね」
村を偵察してきたジョーンズの口から村は政府軍の戦車小隊が占拠しており、そのうえたまたま村に滞
在していたNPOの国際医療ティームが拘束されていることが報告された。
「それは不味いな、実に不味い」
発展途上国における軍隊、それも内戦状態に陥っているときの軍隊は、往々にしてブレーキの壊れた暴
力装置と化す。
「政府軍の連中、暴徒も一般人も見境い無いからなあ」
「強姦も心配です、スタッフの中には妙齢の女性も何人かいましたし」
ネトラレスキは腕を組み、難しい顔をしてううむと唸った。
「理不尽な暴力に晒される無力な村人、これを放置することは人道にもとるな!」
「ご主人の口から“人道”というセリフを聞くとは」
アンニュイな口調で突っ込みを入れるのは、ショルダー・ホルスターにモーゼル拳銃をぶち込み、右目
を眼帯で覆ったバイエルン娘、フレデリカ・バウアー。
「本当は妙齢の女性、という部分にこだわりがあるのでは?」
穏やかな笑顔で辛辣に論評するのがメイド服の腰にククリを吊り、艶やかな黒髪を首の後ろで束ねた東
南アジア系の美女、マニーシャ・アッチャーラ。
ネトラレスキは右手をあげた。
「君たち、それはよくないよ。よくない中流個人意識だよ!」
ビッと伸ばした人差し指で、居並ぶメイド達を指弾していく。
「その手の小ブル排外主義はナニワ節で乗り越えるしかないよ!」
「気分はもう戦争」
ボソリと呟くソララトフ。
第二次大戦の自走砲と武装メイドは、捕らわれの村人と医療ティームを救出するべく、行動を開始した。
195創る名無しに見る名無し:2011/06/20(月) 06:23:44.89 ID:5i7cesV+
ご主人さまはっちゃけてるなー
よし、次はメイド無双だ
196創る名無しに見る名無し:2011/06/20(月) 06:36:07.16 ID:d23dSfoh
>>192
投下乙
197創る名無しに見る名無し:2011/06/20(月) 15:52:42.01 ID:ejIiVGTR
>>192 投下没
198創る名無しに見る名無し:2011/06/26(日) 01:41:21.47 ID:EShLucDd
SS書いてたらこんな時間になっちまった保守

さーて、もう少し見直してから寝るか
199創る名無しに見る名無し:2011/06/26(日) 21:16:35.00 ID:OdZI4zJ8
クロスボウとカービン銃なら殺傷力はどっちの方が高いですか?
連射も威力も五分五分だと思います。
どうでしょうか?
200創る名無しに見る名無し:2011/06/26(日) 21:59:09.89 ID:EShLucDd
>>199
クロスボウだと動体視力のいい人ならよけられそうな気がしなくもない
距離にもよるけど
201創る名無しに見る名無し:2011/06/26(日) 22:00:34.61 ID:iINeX+hD
時間当たりの連射性能だけでもM1カービンやKar98kがクロウボウと同程度などとは
とても思えんわけだが
202創る名無しに見る名無し:2011/06/26(日) 22:02:39.95 ID:xinw6Ij1
>>203
カービン銃っていつの?
ドラグーンマスケットみたいなやつ?
203創る名無しに見る名無し:2011/06/26(日) 22:28:17.90 ID:iINeX+hD
念のためクロスボウについても条件を設定してくれ

連弩なんてキワモノもあるからな
204創る名無しに見る名無し:2011/06/26(日) 23:32:11.62 ID:P3T5IR+V
騎兵銃でも丸弾を飛ばすマスケット銃なら、クロスボウの方が威力は上。
理由は飛翔体の重量が違いすぎるから。
ただし、200氏が書かれたように、槍や剣の達人が相手だと弓や弩の矢は空中ではたき落とされる可能性が高い。
ある程度のレベルに達した剣術使いなら、一対一で弓と戦うのは別に怖くもなくともないそうな。
一方、どんなヘッポコ弾でも銃弾を弾き飛ばせる剣術使いというのは聞いたことが無いなぁ。

要は、お話のアレンジ次第ということなんじゃないの?
205創る名無しに見る名無し:2011/06/26(日) 23:36:57.21 ID:hm+h9zR4
クランク&ギア式で引く弩は銃弾並に手ごわいはず
手で引ける強さなら形状によらず似たり寄ったりだろうが……
ま、お話のアレンジしだいだな
206創る名無しに見る名無し:2011/06/27(月) 01:59:17.28 ID:ZxuDvwaj
M4カービンをクロスボウと比較するとはなんとおこがましい
207創る名無しに見る名無し:2011/06/27(月) 11:51:40.27 ID:IRjSTjoh
どんだけ最新のカービン出してくるんやw
さすがにM4カービンだとクロスボウ側が蜂の巣にされる結末しか
想像できんわ
208創る名無しに見る名無し:2011/06/27(月) 12:07:44.30 ID:a7mXk0MH
時速360キロとかで飛んでくる太矢をそう簡単に避けられるものなのかね?
209創る名無しに見る名無し:2011/06/27(月) 12:51:16.69 ID:/mdqM9t1
>>208
矢を見るというより攻撃した奴の構えから射線予想して反応じゃね?
視角外からの攻撃としたら気付く前に当たってる
210創る名無しに見る名無し:2011/06/27(月) 22:52:09.54 ID:8cvwMqhF
弓の方は射撃速度か威力かのどっちかでないか。
元込連発レベルからだったらカービン選ぶかなぁ俺は。
非力だし。
211創る名無しに見る名無し:2011/06/27(月) 23:19:47.92 ID:+Y0H/Ru3
>>208
むかし、漫画の「サスケ」にあったよね。
手裏剣をことごとく撃ち落とせる剣の達人が出て来る話。
最後に直径1メートルぐらいの「風車」っていう手裏剣が来て、当然撃ち落とせず倒されてしまう。
たしかに直径1メートルの十字手裏剣が飛んできたら、軌道が見えたって撃ち落とすのは不可能。
かわそうとしても小さな回避動作では回避しきれないわけで。
バカみたいと言えばその通りなんだけど、これがお話のアレンジの妙だと思うわけ。
絶対回避できない武器を使う敵の攻撃をどうやって回避するか?
あるいは100%回避されてしまう攻撃をどうやって敵に当てるか?
ここは軍板じゃないんだから、バカネタも含めて色々考えよう。
212創る名無しに見る名無し:2011/06/28(火) 19:34:03.06 ID:gG7iFsgY
(この話題が終わるまでSS投下は控えようかな…)
213創る名無しに見る名無し:2011/06/28(火) 20:16:22.48 ID:Y+AWUOKQ

いやいや気にせずどうぞる
創作のための議論であって、議論のための議論じゃない。
それが軍板と此処の違いなんだから。
214創る名無しに見る名無し:2011/06/28(火) 21:56:51.00 ID:gG7iFsgY
>>213
そう言っていただけるとありがたい
盛り上がってるところ、水を差すようなことにならんかなー…とね

では遠慮なく
215陣内商店業務日誌:1:2011/06/28(火) 21:59:04.49 ID:gG7iFsgY
東京都心の一角にその雑居ビルはあった
手元にあるメモとビルを見比べ「ここかな…」とスーツ姿の女性が呟いた
年のころは20代前半、ややウェーブのかかった髪を後ろでひとくくりにまとめている
顔も体格も人目を引くことのない、いたって平凡な女の子だ

「あのー…ここってこの住所で合ってます?」雑居ビルの一階にあるタバコ屋のお婆ちゃんにメモを見せる
「ん?…あぁ」おそらく80代は超えている店番のお婆ちゃんが老眼鏡を直しつつメモに目を落とす
「うん、ここじゃよ。お嬢さんは見かけない顔だねぇ」
「今日からここの会社でしばらくお世話になるんです。決算の手伝いなんですけどね」
「ほぉ…まぁ頑張りなしゃい」
ヒャッヒャと笑う老婆を後に、彼女はビルの入り口に向かった

5階建ての古びた典型的な雑居ビル、入口には入居している会社の名前が並んでいる
旅行代理店や警備会社の事務所などを尻目に、彼女はお目当ての会社名を見つけた
「3階かぁ…」
奥にあるエレベーターはボロボロであまり使いたくない、3階くらいなら…と彼女は細い階段を駆け上がった

年代物のドアに曇りガラスがはめ込んである。営業中のようだが中から物音が聞こえてこない
表札に書かれた会社名『陣内商店』の文字を確認し、彼女はドアをノックした
「はい?どうぞー」の声を聞いて「失礼します」とドアを開ける
やや広いフロアに整然と机が並ぶ、今まで何度も見た典型的な中小企業の事務所だ
とはいえその事務所の中にはほとんど人がいない。ただ一人『社長室』と書かれた奥のドアの前に机があり、そこに一人の女性が座っていた

「えーっと…どちら様?」
細い眼鏡にさらさらと流れる黒髪、細身のスーツを一部の隙もなく着こなした、いかにも『社長秘書』的な女性が彼女を訝しげに見る
「あの、『トータル・サービス』からやってきました秋山律子です。今日から一カ月ほどお世話になります」
「あぁ、派遣会社の経理の人…お待ちしてました」そういうと女性は微笑んで律子に歩み寄った
「私は陣内商店の総務係兼社長秘書、白峰サキです。よろしくお願いしますね」

「社長、例の派遣会社の人が来ましたよ」社長室のドアをノックしてサキが声をかける
そう言って彼女は社長室のドアをノックした
「ほら、ネクタイが緩んでます!」
「あぁ、すまんなぁサキ君」
ドアの向こうから信楽焼の狸…ではなく、タヌキにしか見えない初老の男性がのっそりと出てきた
216陣内商店業務日誌:2:2011/06/28(火) 22:01:29.64 ID:gG7iFsgY
「どーも、社長の陣内です。君が秋山さん?よろしくねぇ。ウチの業務はだいたい知ってるかな?」
禿げあがった頭、好々爺といった感じの赤ら顔、背は低くやや太鼓腹なその男性が『陣内商店』社長の陣内徹氏だ…というのは一応資料で確認している
「はい、東南アジアとロシア関係の雑貨取引をメインにしていると…」
「そうそう、で、君にはこの1カ月で決算期の書類作成をやってもらうけんね」
「わかりました、で、仕事は…」
「詳しい話はサキ君に聞いてね。ワシは細かい経理の話はよう知らんけんね」
「社長!そんな無責任な…まぁいいです、私のほうから説明をやっておきます」とため息をつく
「でもみんなへの紹介は社長のほうからしてくださいよ?」
「みんなが帰ってきたらね。しかし今日は誰もいないねぇ」
「今日はウラジオストクから荷物が来る関係でみんな忙しいって…昨日説明したじゃないですかっ!」
「あーそうじゃった、まぁよろしく頼むっタイ」
そう言いつつ社長は太鼓腹を叩きつつ部屋に戻った

「社長さんっていつもあんな感じなんですか?」
「そうよ、まったく…でも社長の人脈で仕事をしてるところもあるんだけどね」
「そういえばほかの社員さんは?」
「さっき言ったようにロシアから積み荷が…それと何人かは営業回りに出ているわ。そろそろ帰ってくるころ…」
と言った瞬間、「たっだいま〜」という大きな声とともに勢いよくドアが開かれ、ひと組の男女が入ってきた

「戻ってきたよ姉ちゃん。ありゃ、その人は?」
サキを姉ちゃんと呼ぶその女性はパンツルックのスーツ姿、浅く日に焼けて端正に引き締まった顔に勝気な表情が浮かんでいる
「アヤ、あなたはもうちょっとドアをやさしく開け閉めしなさいと何度言ったら…」
サキの言葉をさえぎるように男のほうが口を開いた
「白峰、そちらは?」がっしりした肩幅、短い髪、年は20代後半に見えるその男性は律子に鋭い一瞥をくれた
「あぁ、今日から経理の作業に来てくれた秋山律子さんよ」
そう言ってサキは律子に向き直った
「彼は営業の松崎さん、そしてこの子は同じく営業の…」
「白峰アヤですっ!よろしくね」言い終わる前にアヤは律子の手を取った
「あ、あのこちらこそ…『白峰』ってことは、お二人は姉妹?」
「そうよ、不本意ながらね」「あっ、ヒデぇなサキ姉」
まったく正反対な容姿ながら、それなりに仲は良いようだ
「確かアタシと同じ年だって聞いてるよ。ちょっと短いけどヨロシク!」
「あ、こちらこそよろしくお願い…」その言葉をさえぎるアヤ
「あー固い固い、同い年なんだからもっと気楽に行こうよ!アタシはアヤでいいよ、あんたのことは律っちゃんって呼んでもいい?」
「え、えぇ…」
「よっしゃ!ヨロシク律っちゃん!」そう言ってアヤは律子の肩を叩いた
力いっぱい叩かれた肩は痛いが、楽しい職場になりそうだな…と律子は少し微笑んだ
217陣内商店業務日誌:3:2011/06/28(火) 22:03:42.46 ID:gG7iFsgY
律子が陣内商店で働き始めて10日ほどが過ぎた
総勢で10名ほどの社員の小さな会社で、みんないい人なのでそれなりに楽しくやっていけている
ただどこの職場にも相性の悪い人というのはいるもので…

「だから、なんでこの経費が通らないのかと聞いてるんだ!」
「松崎さん、何度も言ってるでしょう!この紙じゃ領収書の代わりにならないんですよ!」
「仕事上、必要な資材を買ったんだ!経費として落とせるだろ!?」
「だーかーらー!こんな紙きれで税務署は納得しないんですって!だいたい数百円の買い物じゃないですか」
「数百円でも仕事で必要な物だと言ってるだろ!」
「だから税務署が納得するような領収書を持って来いって言ってんでしょーが!」
ヒートアップする二人の会話を周りがニヤニヤと見守っている

「まぁまぁお二人さん、カッカしなさんな」
そんな二人の間に割って入ったのは、しょぼくれたという表現が適切な中年男性だ。中途半端なハゲ頭が哀愁を誘う
「池永さん…」
「仲がいいのはわかったが、もう昼だしその辺にしておいたらどうかね?」
「「仲良くありませんっ!」」同じセリフを口にして思わず顔を見合わせる
「ほら、松崎くんも数百円の買い物で細かいことを言わない。次からは領収書を貰ってくるようにね」
「自分はっ!…まぁ、しかたありませんね…」
池永に言われて松崎も渋々といった感じで引き下がる
「律っちゃん〜昼飯食いに行こ!」タイミングを見計らったようにアヤが声をかけてきた
「あ、じゃあ…」「もちろん、私も行くわ」仲間に加わったのはサキだ
「それじゃ、ちょっと食事に行ってきま〜す」「はいよ、行ってらっしゃい」

近所のおしゃれなオープンカフェで軽い昼食を取る3人…とはいえ机に並んだ料理は4.5人分だ
「アヤちゃん、なんでそんなに食べても太らないの?」2人前のパスタを豪快に口に運ぶアヤを見て律子が呆れたように言った
「何だっけ?基礎ナンタラが高いとか昔言われたっけ」
「基礎代謝よ、アヤ。筋肉とかが多いとその分カロリーの消費が激しくなるから、食事を多く食べても太らなくなるのよ」
そういうサキの前にも1.5人前…大盛りになったパスタとバゲットが並んでいる
「私の場合は頭を使うから、かな?脳だってカロリー消費はかなりのものなの」

「しっかし律っちゃん、松崎さんと仲悪いね〜」空腹も一段落したのか、食べるペースを落としてアヤが律子に話しかけた
「別に仲違したいわけじゃ…向こうが、ねぇ?」
「松崎さんも悪い人ではないのよ。ちょっと堅物なだけなのよ」フォローを入れるのは食後の紅茶に口をつけるサキだ
「ちょっとですか〜?私も派遣社員やってもう1年以上になりますけど、あんなに頭の固い人は初めてです」
「まぁ真面目が行き過ぎちゃった感じはあるわね…」「あんな性格じゃ彼女もできないだろうなー」白峰姉妹の容赦ないツッコミが入る
「何というかですね…『自分は…』とか言っちゃうし、なんかあの人…軍人さんみたいですね」
218陣内商店業務日誌:4:2011/06/28(火) 22:05:44.64 ID:gG7iFsgY
ピタッ

アヤの口元でパスタを巻きつけたフォークが一瞬止まった
「ん?どうしたのアヤちゃん?」
「あ、いや別に…」アヤは少し視線をそらして、パスタを口に放り込んだ
「確かに体育会系の人ってあんな感じよね。きっと高校時代は野球部で寮生活とかやってたんじゃないかしら?」
そういうサキがちらりとアヤに視線を向けた。何やら目線だけで会話してるように見える
「…そうですね…」そう言いつつも少し違和感を感じる律子であった

会社の前まで来たところで男性社員の一団とバッタリ遭遇した
「池永さん、今からお食事ですか?」
「うん、ちょっとバタバタしててね…そうだサキさん。社長にお客さんが来てるよ」
「え、もう?来るのは昼からだって聞いてたけど…」
「早めに戻ってあげたほうがいいかもね」
「わかりました…秋山さん、アヤ、私は先に戻ってるわ」
そういうとサキはビルの階段を駆け上がっていった

「サキ姉、どしたの?」
「アヤ、商品サンプル持って帰るの忘れてただろ」と声をかけてきたのは松崎だ
「へ?あ…どこにありました?」
「昨日使った車両の中だよ。まったく…」
「ヘヘッ、すみません」ペロッと舌を出すアヤに何か言いたそうな松崎だったが、その瞬間律子と眼が合ってしまった
「…」「…」気まずい空気が流れる
「…回収しとけよ」と言い残すとそのまま男性社員たちの一団と合流して歩き去って行った

「いや、うっかりしてた…あれ?律っちゃんどしたの?」
「いや…」今の会話と男性社員たちの歩く姿に何か違和感が…でも何だろう?
少し考えたところで「律っちゃん、行くよ〜」と声を掛けられた
「あ、ちょっと待って…」駈け出した瞬間に些細な違和感はきれいさっぱり消え去っていった

事務所に戻ると社長室から顔を出したサキから声をかけられた
「秋山さん、ちょっとお茶を入れてもらえるかしら?」
「あ、はい。社長はいつもの梅こぶ茶と、あとはコーヒーでいいですか?」
「いえ、紅茶をいれてちょうだい。あと冷蔵庫にブルーベリージャムがあるから、それを小皿に入れてスプーンつけて持ってきてくれる?」
「ジャム?」
219陣内商店業務日誌:5:2011/06/28(火) 22:08:03.44 ID:gG7iFsgY
言われたとおりに梅こぶ茶と紅茶とジャムを持って社長室に入った
「お茶をお持ちしました…」室内には応接ソファに座った社長とサキ、そして二人の向かいには熊のような大柄の白人が座っていた
「ах、Вы новичок」「え、えっ?」聞いたこともないような言語で話しかけられて困惑する律子
40代くらいの口髭を生やした白人が笑いながら口を開いた
「シツレイ、新人サンかな?はじめマシテですね。ミハイル・カディロフと言いマス」
そう言ってカディロフは紅茶を受け取り、ジャムをその中に放り込んだ
「ロシアンティーよ」と言いつつ同じようにサキも紅茶の中にジャムを放り込んだ
「カディロフさんはロシアの貿易商で、ウチの取引相手の一つなの」
「こう見えて手が早いから気をつけたほうがよかよ〜」サキの紹介を陣内社長が引き継いだ
「手が…?ドウイウ意味?サキさん」
「ええっと…Не беспокойтесь.Существует не глубокий смысл」
「Все в порядке」
サキの見事なロシア語にあっけにとられる律子であった

それから数日後…契約期間も残り少なくなったある日の帰り道
「まいったなぁ…」灰色の空を見上げて、律子はそうつぶやいた
駅までの道の途中、急な雨に襲われビルの軒先で雨宿り中。夕立だからすぐ晴れるだろうという思惑は見事に外れ、彼女は1時間も軒先に立ち尽くしていた
傘は無い。今さらコンビニに駆け込んでビニール傘を買うのも気が引ける
しかし雨が止む気配もない
どうしたものか…と思案する彼女の眼の前に、黒塗りのベンツが停まった

「эй!」後部座席から口髭を生やした白人が声をかけてきた
「困ってマスカ?アキヤマさん」「ミスター・カディロフ…」傘をさして降りてきたのは、先日会ったロシア人貿易商であった
「困ってるヨーデスネ。エー…」言葉が出ないといった感じで視線が宙をさ迷った
『(英語)急な雨で動けなくなりました』一応、律子も英語は話せる。カディロフの瞳が嬉しそうに輝いた
『それは良かった。あなたを家まで送ることができますね』
どうやら車で送ってくれるらしい
(家まではともかく、近所まで送ってもらうのもありかな?)
ドライバーもいるし、会社の取引相手なら変なこともしないだろう。と考え
『それでは…お願いします』と彼女はベンツに乗りこんだ
220陣内商店業務日誌:6:2011/06/28(火) 22:10:22.22 ID:gG7iFsgY
『家はどちらですか?』
『近くの駅で降ろしてもらえれば…』最寄駅を伝えると、カディロフがドライバーに何やら指示を出す
目つきの悪いドライバーは無言で頷き車を発進させた
『今日は別の会社と取引でした。といってもジンナイさんに不利益になるような取引はしてませんよ?日ロ関係は最近冷え込んでますが…』
思ってたよりよくしゃべる。彼女の英語力はそれほど高くないので、難しいビジネス用語を使われると話についていけなくなる
『ところで、どんな商品を扱っているんですか?』無難なところに会話をまとめようと話しかけてみた
『おもに海産物を輸出して、日本製の機械製品を輸入してます』
『海産物…キャビアとかですか?』
『日本ではあまり需要が無いですね。我が社はカニがメインです。我が社のこと、ご存じない?』
『私は派遣社員ですので』
『派遣…mercenaryみたいなものですか』
聞きなれない単語だが、たぶん派遣社員的な意味なのだろう
『カニは好きですよ。ホッカイドー旅行に行った時は毎日食べてました』
『我が社のカニもなかなかのものですよ。本当なら日本では食べられないような国からも…』
そこまで言ってカディロフの表情が強張った
『どうかしました?』『いや、何でもない…』そう言ってカディロフは視線を窓の外に向けた

家の近くの駅に着いたとき、雨はすでに上がっていた
『ここまでで結構です。ありがとうございました』
『お気をつけて。До свидания』
黒塗りベンツを見送って、彼女は家に向かって歩き出した

その後ろに怪しげな白人がついてくることも気づかずに…

(日本では食べられないような国、ってなんだろ?)
さっきまでのカディロフとの会話を思い出す
(そんなに珍しい国ってあったかな…日本と国交のない国なんて無いよね?)
人気のない通りに差し掛かった
(…って一つあるじゃない!まさか…陣内商店ってそんなに危ない商売してるの?)
そこまで考えたその瞬間だった
すぐ横で急ブレーキの音がした
あまりのタイミングの良さに「きゃっ!」と叫び声を上げる
道路に視線を向けようとしたその瞬間だった

バチンという音と同時にわき腹に激痛を感じ、彼女はそのまま気を失っていった…
221陣内商店業務日誌:7:2011/06/28(火) 22:12:24.69 ID:gG7iFsgY
2時間後、陣内商店
すでに日は落ちて普段なら誰も残っていない事務所だが、今日は全社員が集まっている
しかしそこには中小企業に勤めるサラリーマンの姿は無い
同じ背広を着ていても、そこにいるのは全く別の種類の人々だった

事務所の扉が開き、陣内社長が入ってきた
「社長、揃いました」サキが短く報告する
「始めてくれ」そう言うとサキがうなずき、壁際に設置されたモニターの前に立った
「現状を報告します。本日1920頃、カディロフ氏のもとに一通の電話がありました
内容は『貴様の愛人を預かった』とのこと、電話相手はロシア語を使ったとのことです
彼は日本に愛人がいます。慌ててその愛人に連絡を取ったところ、すぐに安否が確認されました」

別の男性社員が席を立った
「1932、カディロフ氏から
『このような不審電話があったが、私の愛人は無事だ。今日、御社のアキヤマという派遣社員を車で送ったが、彼女が私の愛人と間違われたのではないか?』
という連絡がありました
私が彼女の携帯に連絡しましたが不通、家に電話をしましたが留守電に切り替わりました」

さらに別の男性社員がモニターの前に立った
「彼女の携帯電話の電波発信源をトレースしました。帰り道のこの地点で移動速度が大幅に増加しております」
モニターに地図が映し出される。右上に時刻の表示があり、時間が進むとともに地図上の赤い線がゆっくり動いていく
そして1854という表示になった瞬間、赤い線の動きが速くなり、住宅街から離れ始めた
「現場付近の各種監視カメラ、警視庁のNシステムおよび非公開の監視カメラ映像を入手・解析しました」
モニターが切り替わり、何の変哲もない白いバンが映し出された
「この車両と彼女の携帯の動きがリンクしました」
画質も角度も様々なバンの写真が何枚もポップアップされた
「車両は盗難車です。ドライバーの顔は現在解析中」

「結論は?」陣内社長が短く言った
「秋山律子さんはカディロフ氏の愛人と間違われて誘拐された、と見積もられます」感情のこもらない声でサキが答えた
222陣内商店業務日誌:8:2011/06/28(火) 22:14:48.39 ID:gG7iFsgY
「犯人の特定は?」
「カディロフ氏の商売敵であると想定し、入国記録をあたりました」
モニターに映し出された顔はハゲ頭の白人。凶悪そのものといった風貌だ
「アレクセイ・ザリコフ。ウラジオストクで絶賛売出し中のマフィア組織のボス
少なくとも3件の殺人、5件の爆破、13件の行方不明事件に関与が疑われているとのことです
公安部ではザリコフとその部下14名の入国を確認、連中と協力関係を結んでいると思われる暴力団の関連施設が都内に3か所確認されており、うち1か所と携帯の電波がリンクしました」
モニターが地図に変わりズームアップされる。港湾地区の倉庫群が映し出された
「携帯の電波は2012に発信を停止、最後に確認されたのがこの地区です」

その時、携帯の着信音が響き渡った。一人の社員が何やら話をする
「ドライバーの顔とザリコフの部下の顔が一致しました。犯人はこいつで間違いないかと」
「ふむ…」社長が背もたれに体重を預けると、椅子がギシギシと音を立てた

「さて、どうするかね?」社長が誰に尋ねるでもなく言った
「秋山さんは我が社の"仕事"を知りません。今回の誘拐もカディロフ氏の関連ですので、我が社が関与する必要はないと考えます」
「そりゃないよサキ姉!」「それは無いだろ白峰!」同時に叫んだのはアヤと松崎だ
「カディロフさんの仕事が原因なら、ウチだって原因の一つじゃん!」
「俺たちの仕事が原因で民間人が誘拐されたんだぞ!それを放っておけというのか!」
「そうは言うけどね…」サキが二人の顔を見渡す
「迂闊に動いて我が社が白日のもとに晒されるのは困るわ。彼女は秘密を知らないまま派遣の仕事を終えるのが一番望ましい…それは現状でも変わらないわ
今ならそれが可能。誘拐現場を警察に通報し、あとは彼らに任せる…私たちは帰ってきた彼女を慰めて終わり。これが理想よ」
「警察がヘマしたらどうすんだ!こいつらどう見ても人質も警察も構わず殺しそうだぞ」
「連中の武装はAKが数丁〜数十丁と見積もられています」誰かが言った
「それはそれで…彼女が死んだら秘密は闇に葬られるわね」サキの言葉が少し震えたが、ほとんどの者が気付かなかった
そして気付かなかった松崎が立ちあがった
「テメェふざけんな!国民を守るのが俺らの仕事だろうが!」

「座らんか!」陣内の一喝で場は静まった
223陣内商店業務日誌:9:2011/06/28(火) 22:16:52.99 ID:gG7iFsgY
しぶしぶといった感じで松崎が座る
「私だってこのような手段は…」サキが顔を伏せた
「ちょっと、いいですかね?」そっと手を挙げたのは、ずっと話を聞いていた池永だ
「このまま警察に介入されると、当然秋山さんは事情を聞かれますね?そうなると今後、我が社やカディロフ氏の仕事はひっじょ〜にやりにくくなるんではないかな〜と…
それって我が社の仕事的にあんまりよろしくないんじゃないですかねぇ?」
「しかし…彼女に知られずにこの件を収束させる手段はありません」
「別に知られてもいいんじゃないかなぁ?」
一同の顔に「?」が浮かぶ
「派遣社員一人が知ったところでどうしようもない、我が社の仕事ってそんなもんです。政治家だってマスコミだって、ウチの仕事には触れませんて
むしろ事情を知らない警察にちょっかい出される方が面倒くさいかな〜と思いますねぇ。圧力掛けるのも手間だし
だったらウチだけでなんとかしちゃう、ってのもアリではないですか?」
「彼女を我々の手で救出する、ということですか?」松崎が聞いた
「松崎君もその方が嬉しいでしょ?」
「…」
「社長、いかがでしょう?」
皆の視線が社長に集まった

「…"謀略は誠なり"とワシの師匠はよぅ言っとった」
そう言いながら社長は椅子から立ち上がり皆に背を向けた
「彼女を見捨てて"誠"を貫けるかのぅ?ワシはそうは思わん。ウチの仕事の不始末じゃ、ウチでケリつけるのが当然タイ」

振り向いた社長の目に迷いは無かった
「陣内商店、出動すっど」
その言葉に全員が立ち上がった
_____
224創る名無しに見る名無し:2011/06/28(火) 22:19:20.17 ID:gG7iFsgY
連投規制回避のためしばらくストップ
225陣内商店業務日誌:10:2011/06/28(火) 23:34:30.07 ID:gG7iFsgY
目覚めても暗い…ということは今いる場所が暗いのか
(そんなわけはないわよね。だって袋をかぶせられてるうえに腕も足も縛られてんだもの)
そんな状況の割に私はやけに冷静ね、と律子は思った

最後の記憶は車の急ブレーキの音、わき腹に走った激痛、後は気を失って覚えてない
(つまり誘拐されたということか…でも何で私?)
身代金を払えるほどの金もないし、誰かに恨みを買った記憶もない
もしかして体目当てか…とかうぬぼれるほど自分に自信もない
(まぁ考えても仕方ないか)無駄に考えるのは諦めて、取りあえず今の状況を把握することにした

視界はふさがれて臭いもわからない状況では、耳と感覚だけが頼りだ
床の感覚はコンクリート、船の汽笛や低い機械音が響いている…ということは海の近くの建物の中だろう
その時、機械音に混じって足音と話し声が聞こえてきた
鍵の音に続いて扉が大きな音を立てて開く。数名の足音が彼女に近づき…突然、頭にかぶせられた袋が取り除かれた

明るい光が急に視界に飛び込んできて、律子は思わず目を閉じた
「что ты!」
ロシア語で怒鳴られてうっすら目を開けると、くぼんだ眼窩の奥にある青い目がこちらを睨んでいた
「почему вы с ним!?Что вы для него」
スキンヘッドの中年白人男性、凶悪そのものといった顔だ。しかもかなり怒ってようで、頭の天辺まで真っ赤になっている
どうせロシア語はわからないので視線を外して周囲を見回した
倉庫の一室らしい広い部屋にロッカーやらシートやらの小物が転がっており、スキンヘッドの後ろにはこれまた凶悪そうな男たちが揃っている
とその時、急に襟首を掴まれてスキンヘッドが顔を近づけてきた
「ответьте мне…кто ты」ドスの利いた低い声、強い力で引っ張られて腰が浮きあがる
何か返答を求められているらしい…少し考えて律子は口を開いた
「えっと…あい、きゃんと、すぴーく…ろしあん」

一瞬沈黙が流れ、男が呆れたように襟首を掴んでいる手を離した
「いたっ!」尻もちをついて思わず声が出る。男が背を向けた瞬間にまた頭から袋をかぶせられた
そしてドアが閉まり鍵がかかる音が聞こえ、また機械音と汽笛だけしか聞こえなくなった
226陣内商店業務日誌:11:2011/06/28(火) 23:36:33.92 ID:gG7iFsgY
取りあえず今の状況は何となく理解できた
自分を誘拐したのはロシア人、今いる場所は港湾部の倉庫、そして理由はわからないけど、あの連中だとアッサリ殺されそうな感じが…
彼女は一人暮らしなので、明日の朝まで誰も誘拐されたことに気づかないかもしれない。誘拐犯がそれまで待ってくれるような連中にも見えなかった

(…自力で逃げよう)

そう決まれば後は動くだけだ
取りあえず手足を自由にしたい。さっき部屋を見回した時に、使えそうな物を見つけていた
足と肩を使ってその位置まで這って進む。少し動いて後ろ手で床を探ると…軽い痛みとともに目当ての物が手に入った
割れたガラスの破片で手足を縛っているガムテープを切り始める。手が自由になった時点で頭の袋をはぎ取った

改めて部屋を見回す。広い部屋にドアが一つ。窓は3mほどの高さにあって登るのは厳しそうだ
ドアの片隅に掃除ロッカーらしきもの、そしてビニールシートやコンクリートの破片が転がっている
室内に見張りはいない。部屋の外にいるのか、または見張りすらいないのか…

少し考えて、彼女は逃げる準備を始めた


ドアの外で見張りをしているイワンは退屈していた
せっかく日本に来たのに、観光スポットにも行ってないしスシもテンプラも食べてない
フェリーで新潟にやってきたら、提携している日本のヤクザに案内されてまっすぐこの東京の港までやってきた
それから数日間、ずっとここで荷物の見張り番だ
いい加減どっかに行きたいと思った矢先、今度はボスが日本の女の子をさらってきた
これでますますどこにも行けなくなってしまった…
何で日本人をさらってきたのかはわからない。今のところ手出し無用と言われているが、ボスがそんなに我慢するはずがない
その時に俺も…

とか考えていたその時、室内でガラスの割れる音がした
「!」読んでいた雑誌を放り投げ、ポケットから鍵を取り出した
鍵を開けてドアを開けようとするが、中で何かが引っ掛かっててドアが開かない
何度かドアに体当たりして、開いたところで拳銃を取り出し中に飛び込んだ
ドアを塞いでいた掃除ロッカーが横倒しになっており、室内に女の姿は無い
部屋の奥にある窓ガラスが割られて、細く巻かれたビニールシートが窓枠にロープのようにぶら下がっている

イワンは焦った
仕事をヘマした仲間を、ボスがデカいハンマーで文字通り「潰した」ことを思い出した
このままだと、次に「潰され」るのは自分だ…
「заложником ушел!」
大声で叫び仲間を呼び集めると、一目散に外に飛び出していった
227陣内商店業務日誌:12:2011/06/28(火) 23:39:17.55 ID:gG7iFsgY
数分待って辺りが静かになると、ドアをふさいでいた掃除ロッカーの扉が開いた
(うまいこと引っかかってくれたわ)律子は体に付いたくもの巣やほこりを払い、開けっぱなしのドアからそっと外をのぞきこんだ
コンテナや段ボールが山積みになっている大きな倉庫だ
ドアを出てどちらに行こうか…とその時、足音が聞こえて近くの隙間に身を隠した
二人組の男が目の前を走っていく。その手には何やら大きな銃を抱えていた
(何であんなの持ってんの?)そんな連中に誘拐されるような心当たり…を考えるのは後回し
彼女は息を殺して、走っていった二人と逆方向に向かって歩き始めた

倉庫の出口付近…大きなシャッターが開いており、外には投光器の光が輝いている
火のついたタバコやコーヒーが机の上に放置してある。さっきまで誰かがいたような気配はあるが、今はみんな出払っているようだ
そっと足を踏み出して出口まで近付く、もう少しで外に出られる…その瞬間だった
「ждать!」後ろからロシア語の怒声が聞こえた。振り向くと殺気だった男たちがこちらを指さして走ってくる
(ヤバイ、見つかった!)もうなりふり構っていられない。陸上部出身の足を生かして全力で逃げようと出口に向かった瞬間だった
目の前から例のハゲと手下が入ってきた

「эта сука…」前後を挟まれて動けなくなったところで、ハゲ頭が彼女の襟首を掴んでねじり上げた
(マズイ、何とかしないと…)しかし周りを見回したところで何もない
ハゲ頭が腰から拳銃を抜いて、彼女の頭に付きつけた。ゴリッという感覚がこめかみから伝わり、律子は思わず目を閉じた
その瞬間だった

「остановить」
聞き覚えのある女性の声が倉庫に響いた


投光器の明かりを背にすらりとした体型の影が浮かび上がる
「サキさん…?」
影になってて表情はわかりにくいが、そこに立っているのは間違いなく白峰サキだ
「…こんなことに巻き込んでしまってごめんなさいね」少しためらいがちな声
「今は何が何だかわからないと思うわ。でもあと少しだけ私たちを信じてくれる?」
律子も含めて全員がポカンとする中、一番早く我を取り戻したのはハゲ頭だ
「эй вы…」「говорить!」
サキの一喝で再び黙りこむ

サキの目が律子の顔をはっきりと捉えた
「私が合図したらしっかりと目をつぶって、30秒だけ動かないで。お願いね」
ハゲ頭が再び怒鳴る
「Свинья ублюдок!я убью этого!」
襟首がさらにねじ上げられ、拳銃が強く押し込まれたその瞬間、サキの右手が上がった
228陣内商店業務日誌:13:2011/06/28(火) 23:41:35.40 ID:gG7iFsgY
律子が目をつぶるのと同時に、轟音と閃光がロシア人たちを襲った

目をつぶっても瞼越しにはっきり分かる閃光と、平衡感覚さえ失うような轟音
思わず体が硬直したところで誰かに肩を抱かれた
筋肉質な腕、たくましい肩が目をつぶっててもわかる
そのまま床に押し倒され、彼女は思わず目を開いた

そこには獣のような二つの影が閃光と煙の中を縦横無尽に動き回っていた

最後の一人の顎に拳がめり込んだ。完全に白目をむいて昏倒したのを確認する
「クリア」池永の声が響いた
同じようにもう一つの影が、顔を押さえて悶絶するザリコフの後頭部に特殊警棒を叩きこんだ
「クリア!」白峰アヤの声に「ホントか?」と池永が近付いた
「ой…」気絶したと思われたザリコフがうめき声をあげて立ち上がろうとした…ところで池永の踵がザリコフのこめかみに命中した
「詰めが甘いな」
「ヘヘッ、すんません」
池永とアヤの姿は黒一色の戦闘服だ
「松崎君、もう大丈夫だよ」
池永に言われて、律子をしっかりと抱いていた松崎が腕の力を緩めた

「…松崎…さん?」意識がもうろうとする中、律子が目の前の男に声をかけた
相変わらずのしかめ面だが、その瞳に少し安心したような色が浮かんだ
「大丈夫か?怪我は?」
そう言われて体を探ってみる
「怪我は…してないみたいです」
「それはよかった」
そう言って松崎は立ち上がり、そのまま律子の手を取って彼女を立たせた
彼女を押し倒す時に頭をかばった反対の手が倍くらい腫れ上がっている。骨折ぐらいはしているだろう
「松崎さん…手が」
「問題ない」
そう言い放つ顔は今までとは別人に見えた

いつの間にかサキの隣に人影が増えている。サキよりも頭半分小さいタヌキの置物…ではなく陣内社長だ
「社長、制圧完了しました。警察への連絡も終了。10分以内に到着します」
「うむ、よかよ」
そう言って陣内社長は律子に近づいた

「巻き込んですまんかったの。もう少しだけワシらに付きあってくれんね?」
229陣内商店業務日誌:14:2011/06/28(火) 23:43:37.49 ID:gG7iFsgY
陣内商店の事務所
ソファに座る律子の正面には陣内社長がいる
社員の皆さんはその周りで座ったり立ったりして集まっていた
「さて、秋山さん…」そう語る陣内社長にはいつもの飄々とした表情は消えている
「何でこんなこつんなったか知りたかろうね?じゃっどん何から説明したものか…」
「ちょ、ちょっと待ってください」律子が顔の前で両手を振った
「あの、それって『秘密を知ったからには生かしておけねぇ』的なヤツじゃないですよね?」

社員一同が一瞬あっけにとられた
そして最初に社長が笑い、事務所内が笑いの渦に包まれた
「えー…そんな変なこと言ったかな…」不満顔の律子に「もしそうなら救出したりしないって!」とアヤが返した
「いやいや…まぁそう考えても仕方なかね。ウチはそういう組織やなかけん安心してね」
「そうですか…まぁたぶんそうじゃないかな、とは思ってましたけど」
社長が怪訝そうに眉をしかめた
「ほぅ、ではどのように思っちょったんか聞かせてくれんね?」
「多分ですけど、皆さん…警察とか自衛隊とかの人、じゃないです…か?」

最後は自信なさげに語尾が途切れ途切れになったが、それでも全員を少し動揺させるには十分だった
社員一同がざわざわと隣の者と話し始める

「なしてそう思ったん?」社長が聞いた
「話し方とか、歩き方とか…皆さん一緒に歩くときは、だいたい歩幅とか揃ってるんですよね?それに時間を言うとき『夜8時』とかじゃなくて『20時』とか使ったり…」
「そんなの民間でも使う人いるだろ!」ムキになって反論するのは松崎だ
「そりゃそうですけど、そんなにたくさんいませんよ?それに松崎さん、いつだったか『車』じゃなくて『車両』って言いましたよね?その時に違和感があったんです」
あ〜あ、というため息が漏れた
「松崎ェ…」「松崎君…」「松崎さん…」と残念そうな声が聞こえる
「マツ、わいはのぅ…」社長の呆れた声
「連隊長!しかし…」
「社長と呼ばんね」一言で切って捨てて社長は律子の方に顔を向けた

「ご明察じゃ、秋山さん。こん会社は防衛省情報本部・統合情報部の非公開情報収集機関の一つなんじゃ」
230陣内商店業務日誌:15:2011/06/28(火) 23:45:56.18 ID:gG7iFsgY
「防衛省…」
「そう、だからウチの社員はほとんどが自衛隊と警察からの出向組じゃ。まぁサキくんは外務省だし、アヤは短大卒だけど、その前に特殊な訓練機関を出とるんでね」
「えっと、池永さんも…」
「そうは見えないかなぁ?」と聞くのは本人だ
「池永さんはこう見えて陸自の格闘教官だったんだよ。朝霞の体育学校じゃ『地獄の河童』っていう二つ名が…」とアヤが説明した
「松崎さんもやっぱり?」
「あいはワシが連隊長やってた時の部下でな。自分の小隊員の不始末をかばって処分されそうなところを引っ張ったんじゃ」
「でも経理やりましたけど、書類上からは全然そんな傾向が無かったです」
「もちろん、ちゃんと貿易はやってるけんね。予算が無いで自分らで調達せにゃならんバイ」
「貿易を通じて現地情報を仕入れる、といった感じかな?主に極東ロシア・北朝鮮、それに東南アジアとの貿易を通じて情報を集めているわ」サキが説明を引き継ぐ
「カディロフ氏の持つ北朝鮮とのパイプは重要なの。まぁそのおかげであの人はいろんな連中に狙われているんだけどね
あなたを誘拐したのも彼を狙うロシアマフィアの一味なの」
「ついでに言うと、このビルの会社はすべて同じ雇い主じゃ」
「え…気付かなかった…」
「まぁ気付かれんように仕事をしとったわけだが、こうも簡単にバレるとは思わんかったバイ」
そう言って社長はその太鼓腹を叩いて笑った

「笑い事じゃないですよ社長」そう言って詰め寄るのは松崎だ
「ここまで話してどうするんですか?秘密の維持が困難に…」
「原因の半分は松崎さんのよーな」とアヤが突っ込む
「まま、ワシにも考えがあるんじゃ」そう言って社長が律子に向き直った

「ここまで話したからには、この秘密は墓まで持って行ってもらわんといかん。これはわかるね?」
「ハイ…」律子は小さくなって頷いた
「もっともこんな話をしたところで、大手マスコミは取り合わん。せいぜい『病院行け』って言われるぐらいじゃ。週刊誌あたりが取り上げるかもしれんけん、ウチには黙らせる手段もあっど」
「でもあなたが知ってはいけない秘密を知った、ある意味伝染病のキャリアみたいな扱いになるのも確かね」と言ったのはサキだ
「具体的には今後10年、公安の監視下に置かれることになるわね。海外旅行はできないし、電話とかも盗聴されるわ。そしてもし誰かに秘密を漏らしたら…」
「…漏らしたら…?」
「弁護士も検事もいない法廷で裁かれて、否も応もなく刑務所送り…になるわね」
「…」

黙り込んだ律子に社長が話しかけた
「そこでじゃ、第2の道があるけんど、どうすっかね?」
「第2の道?」

「秋山さん、ウチの社員にならんね?」
231陣内商店業務日誌:16:2011/06/28(火) 23:47:57.97 ID:gG7iFsgY
これには驚いた
律子だけではなく、そこにいた全員が驚いた

「社長!本気ですか?」真っ先に聞いてきたのは松崎だ
「彼女は何の訓練も受けていない素人ですよ!?」
「ワシらは全員、軍事訓練を受けとる。だから気をつけていても動きが不自然になって、今回みたいに素人にバレるんじゃ
同じような人間ばっかり集めちょったらいかん。視線が違う人間ちゅうもんを入れんと組織はダメになるったい
わいを入れたのもそういう理由があるんじゃぞ?情報畑にはいないガチガチの堅物が欲しかったけんね」
「しかし知力面や体力面の素養もはからずに…」
「彼女は元陸上部、5000m○○県4位の記録持ちじゃ。知力面も度胸も今回の件でようわかったじゃろ」
「上は納得するでしょうか?」サキが聞いた
「させる。それに実はおいの師匠が推薦しとるったい」

社長の師匠…と聞いて皆が納得するような顔をした
「あの人がねぇ」「それなら問題ないじゃない…」「あの人の推薦か…」と話し声が聞こえる
「どうじゃマツ、納得したか?」
「…あの人が言うなら…」渋々といった感じで頷いた

「どうじゃ?秋山さん。この仕事…正直きついが遣り甲斐だけは保障すっど」
「やりがい…ですか」
「決算期に派遣の人を雇うのも手間ですしね。書類の偽装も面倒だし…」とこれはサキだ
「ウチも業績は悪くないし、社員を増やすのもいいですねぇ」と池永
「う〜ん…」律子は少し考えた

(どうせ秘密を知ってしまった身なんだし…でも危ないのはなぁ…)
その時視界に入ったのは、少し悲しそうなアヤの目と松崎の相変わらずの仏頂面だ
「…給料はどれくらいですか?」
「親会社ベースだから悪くはないわ。昇給は年2回、賞与は5カ月分を基準といったところね…少なくとも今よりいいはずよ」
「そうですか」
そう答えてから一呼吸間をおいて、彼女は社長の目をじっと見据えた

「よろしくお願いします」
232陣内商店業務日誌:17:2011/06/28(火) 23:50:16.88 ID:gG7iFsgY
社長よりも誰よりも一番に反応したのはサキだった
「やったぁ!よろしくね〜」と叫びながら彼女の首に抱きついた
「決断早かね〜。一晩くらい考えるかと思うちょったけんどね」と社長が驚く
「我々の業界に必要な素養ですね。あの人が見立てただけあります」とサキも驚いたように言った
「そんな安請け合いして…後悔しても知らんぞ」
そう言う松崎に律子が立ち上がって言った

「ちゃんと考えてます、ご心配なく」
「何だと貴様!俺は心配して言っているのに…」
「普通の人は『貴様』なんて使いません!どこの軍人ですか。だから私みたいな素人にバレるんです!」
「な…」とはいえ言ってることは正しいので言葉に詰まる
「これからそういう『軍人』っぽいことしたらビシビシ指摘しますから!覚悟しててくださいね」
「な、なんだと!貴様に指摘されるいわれは無いっ!」
「ハイまた『貴様』なんて使った!せめて今の若者風に『テメェ』とか使いなさい!」
二人のやり取りに笑いが起こる
「こりゃ予想以上だわ」「いいねーもっと言っちゃってよ」「ほら、松崎君も素直になりなよー」

「…意外な拾いものかもしれんのぅ」
「そうですね」
二人のやり取りを見て、社長とサキが感心したように呟いた
233陣内商店業務日誌:18:2011/06/28(火) 23:52:47.58 ID:gG7iFsgY
数日後、陣内商店が入るビルの前
「あ、おはようございます」正社員となって初出勤の律子がタバコ屋の老婆に声をかけた
「あぁ、おはよ〜さん」相変わらず飄々とした感じは変わらない
(社長は「このビル全て同業者」とか言ってたけど、このお婆ちゃんはどうなんだろ?)疑問に思ったその時だった

「秋山さん、はよさめやもした」声をかけてきたのは陣内社長だ
「あ、おはようございます社長」挨拶を返す律子、その時老婆が社長に声をかけた
「陣内や、おはようさん。私が言うた通りになったのぉ」
「さすが師匠のお見立ては見事ですバイ」そう言って社長は笑った

「へ?師匠って…」律子がキョトンとした顔をする
「彼女がワシの師匠じゃ。ウチの業界では知らん人がおらん有名人じゃっど」
「…そうだったんですか…気付かなかった」
「彼女がおらなんだら北海道はソ連領になっちょったかもしれん、ちゅうくらいのお人じゃ」
「そりゃ大げさだよ陣内。わたしゃできることをやっただけ」
そう言って老婆は律子に向き直った

「私も元は昭南島の舞妓でね。贔屓にしてくれてた軍のお偉いさんに見染められてこの業界に入ったんじゃ」
「昭南島…シンガポールですか」
「あんたには素質がある。頭はいいし判断は早いし、何よりも度胸がある。いい業界人になれる、わたしが保障するよ」
「いや、いい業界人になるつもりは…ていうか『業界』って」
「まぁ頑張りんさい」そう言うと老婆は初めて会ったときと同じようにヒャッヒャと笑った

「なんだか凄い『業界』ですね…」階段を上がりながら律子が呟いた
「こういう話はいくらでも転がっちょるよ、ウチの『業界』はの」ハァハァと息を切らせながら陣内社長も階段を上る
「さっそく辞めたくなったかいのぅ?」その言葉に律子は足を止め振り向いた
「いえ、まだ始めてもいませんので」
そう言うと彼女は少し笑った
「そりゃ頼もしい」
階段を登り切った社長が彼女を追い越し、事務所のドアを押し開いた

「ウチの『業界』へようこそ」

〜終〜
234創る名無しに見る名無し:2011/06/28(火) 23:57:02.21 ID:gG7iFsgY
「民間企業に偽装した軍の諜報機関もの」というかなり限定された分野で書きたくなったので書いてみた
ネタ的には映画でも小説でもマンガでも出てるから目新しいもんじゃないけど…

陸軍中野学校のドキュメントもので、中野学校の生徒が民間人に偽装して旅館に泊まったら一発で軍人さんとバレた
というエピソードがあったそうです

過去スレを見直したら、SS書くのは2年弱ぶりだった…
というわけでお目汚し失礼しましたorz
235創る名無しに見る名無し:2011/06/29(水) 02:15:54.99 ID:1lVl5Kdj
投下乙
面白かったよ
「トータルサービス」が社長と縁が有るのかと思ったがそうでもなかった

タバコ屋のばっちゃが見込み有ると思ったのは
エレベーターじゃなく階段使用したからかな?
236創る名無しに見る名無し:2011/06/29(水) 05:50:54.36 ID:q8mWCTXL
>>234
お久しぶりです
これからもよろしく
社長に白峰姉妹となんか訳ありのメンバーばかりの怪しい会社
みんな自衛隊出身者かな
237236:2011/06/29(水) 06:18:37.90 ID:q8mWCTXL
上に答えが書いてあった
すみません

白峰妹の出た特殊訓練機関とは自衛隊の設立した教育機関かな
238創る名無しに見る名無し:2011/06/29(水) 07:52:53.63 ID:uuPiqm7u
>>234
「目新しいもんじゃない」と書かれてますが、ある種の安心感があって面白く読めました。
きっと書き慣れてる方なんでしょうね。
私もここに何か一本落してみるかな?
239創る名無しに見る名無し:2011/06/29(水) 21:00:54.58 ID:DAOiEY65
>>238
212氏はこのスレの1スレ目にフェアバーンによろしくという
SSを書いている
あと傭兵系SSスレにも作品を投下
軍事板の中高一貫の防衛女子校スレにも作品を投下していた
あと推測だが自衛隊板にあった中隊本部スレの
まいにちWACわくの作者ではないかと思う
240創る名無しに見る名無し:2011/06/29(水) 22:48:38.81 ID:uuPiqm7u
>>239
解説ありがとう。
なるほど、軍事系一筋で慣れてるわけだ。
下手な書き手だと、筋を追う以前に構文なんかでハラハライライラさせられるけど、この人の作にはそれが無い。
水準が高いから流して読んでいける。
それから面白いと思ったのは、それだけ軍事系一筋なのに軍オタ臭が無いこと。
軍事臭の無い女の子を中心に据えたからか?とも思ったが、もろ軍人たちにも軍オタ臭が無いんだよね。

このスレはミリタリーが要素として入っていれば、含有率に関わらずOK?
敵がゾンビやショッカーの怪人とか、怪物の類であってもセーフ??

241創る名無しに見る名無し:2011/06/30(木) 08:34:07.72 ID:pIakspVr
>>240
期待しています
あと212氏は自衛隊出身
軍事的知識に裏付けされているから安心して読める
ちなみに今回投下されたSSに登場した白峰姉妹は防女のSSにも登場している
242創る名無しに見る名無し:2011/06/30(木) 15:45:40.58 ID:aGIot9LP
乙乙。防女テイストが懐かしい。
243創る名無しに見る名無し:2011/06/30(木) 19:04:44.83 ID:zIjI8Rzy
>>240
F自衛隊スレがあるけど、どうだろ?
現役自衛隊員じゃなく退役した人とか外国での兵役経験者で
伝奇ぽい雰囲気のSSを予想しているけど
昭和ライダーじゃなくクウガ以後の平成ライダーなら(アンノウン等
書き様によってはギリギリセーフと思うが他の人の意見聞かないとな
244240:2011/06/30(木) 19:55:23.94 ID:qxavjVEA
>>243
「特撮板」「SF・ホラー・ファンタジー板」で書いてきたもんで、そっち系の話になり易い。
軍板・模型板住人でもあるんで、此処系の話を欠ける最低限の知識は持ってると思うが、なにぶん他の知識体系の方が多すぎる(笑)。
それに普通の軍事系を書くんなら、私が書く意味もないだろうなぁ……と。

245創る名無しに見る名無し:2011/07/01(金) 00:52:01.24 ID:orcoEpJI
>>244
街中で昼間に怪物暴れて警察や自衛隊はどうした〜、て展開でなければ
すねに傷持つ身で隠れて対決する形(「荒野に獣慟哭す」)みたいな主人公でも可
246創る名無しに見る名無し:2011/07/02(土) 06:19:04.01 ID:waoDVAHh
この国は自分が守る!
来るべく有事に備えて人知れずhardな訓練に明け暮れる(現在無職の)私のミリタリーな日常
Private Army   military training 1  
http://www.youtube.com/watch?v=YY1zzJ8ciFA
247創る名無しに見る名無し:2011/07/20(水) 05:32:47.25 ID:WdzfziMC
保守
248創る名無しに見る名無し:2011/07/28(木) 23:12:57.99 ID:MM/alFfN
駄文ようやく完成。
タイトルは「ツーツーツツーと」。
一度に投下すると連投禁止に確実に引っかかるので、三日程度に分けて投下します。
はたして「軍事ネタ」と言えるのかは、甚だしく疑問ではありますが……では。
249「ツーツーツツーと」:2011/07/28(木) 23:17:47.96 ID:MM/alFfN
蒸し暑い夜だった。
外の空気はそよとも動かない。
扇風機も温風しか寄こさないので、少しまえにコンセントを引っこ抜いてしまった。
サウナと化した部屋で、オレはラジオのチューナーを捻っていった。

「……サソリ」
「……彼が戻ってきました」
「さそり座に導かれ……」

NHK、民法、FM、AM、どこの局に合わせても、話題は同じだった。
ラジオが報じるのは「魔人の帰還」それ一色。
改めて耳を傾けるまでも無いのでラジオのボリュームを絞ると、オレは窓とカーテンを閉めた。
これからやる作業を間違っても外から覗かれるわけにはいかない。
オレはコンビニのレジ袋の中から、それを取り出した。
手順通りプラグを指で抑えながらブッシングを回し、プラグとリコイルスプリングを抜くと、スライドを退げてスライドストップも取り外す。
蛍光灯の下、レシーバーの咬合部が乾いた光を返してきた。
「……管理がよくないな。防錆油膜が切れかけてる」
呟いた直後、思わずオレは苦笑いしていた。
油膜がきれてる?無理も無い話だ。
こいつはもう何十年も「教材」扱いだったのだ。
M1911A1、通称ガバーメント。
今度のようなことがなければ、再び火を噴くことは永久になかっただろう。
オレは厚紙の小箱から「特製弾」を取り出すと弾倉に込めた。
一発、二発、三発……。
果たしてこの特製弾が効くのだろうか?
狼男に対する銀の弾丸のように。
効くはずだと、隊長は言ったんだが。
オレはパーツのコンディションを確かめ、旧式の自動拳銃を組立直すと、弾倉をグリップ内に叩きこんだ。
スライドはまだ引かない。
スライドを引くのは、例の信号を発信してからだ。
デスクの引き出しに拳銃を納めると、オレは再び窓辺に向かいカーテンを開いて、窓を開け放った。
見上げると、廃工場の屋根の上に、蠍座が巨大なS字を描いて横たわっていた。
サソリの支配するとき。
「彼」の季節。
背後のラジオからは、「魔人」再来のニュースが、まだ流れている。
オレがこの事件とかかわりをもったのは、ちょうど三日前からだった。



「ツーツーツツーと」
250「ツーツーツツーと」:2011/07/28(木) 23:31:18.27 ID:MM/alFfN
母の世話になっている特養老人ホームに顔を出し、衣類の洗濯その他諸々をこなしてからひと眠りして……夕方になってからオレはバイト先のコンビニへと出掛けて行った。
「ああ、来たか伊上くん。エライ騒ぎだぞ。例の怪人」
バイト先のコンビニに顔を出すなり、店長が届いたばかりの新聞を放ってよこした。
オレの家にはエアコンはもちろんのこと、パソコンもテレビもない。
さすがに携帯だけは持っているが、これは母のお世話になっているホームとの連絡用だ。
新聞もとるのを止めている。
理由は簡単。
金がないからだ。
母一人、子一人の母子家庭。
その母が50そこそこで痴呆を発症した時、来はどうなるのか判るだろうか?
母を介護するため、オレは奉職していた隊を辞めた。
雀の涙ほどの退職金と僅かばかりの蓄えを、母の治療費と入所費用に充てると、オレの自由になる金は殆ど無い。
この愛想のいい店長も、そのことは良く知っていた。知っていたから、売り物の新聞をこれまでもちょくちょくオレに横流ししてくれていたのだ。
「今度は例の人質事件の現場だってよ」
「人質事件?」
「なんだ伊上くん、そっちの事件も知らないのか。いいかい、事件が始まったのはね……」

 猟銃を手にした男が、警官も含む3人を射殺し1人に重傷を負わせた末、住人3人を人質に雑居ビルの最上階に立て篭もったのは、昨日の午後4時前後。
まずいことに突入路は一本だけで犯人を狙撃できる立地も無く、決め手を欠いたままの包囲が9時間にわたった。
時計が深夜を回って更に凶暴性を増す犯人に対し、ついに警察が犠牲者を覚悟の強硬突入を決意したころ……。
警察と報道がグルリを囲むビルから、突如一発の銃声!続いて凄まじい悲鳴が上がった。
ついに犯人は人質に手をかけたのか!?
銃声と悲鳴を合図に階段へと殺到する突入警官たちの頭上から、今度は銃声抜きで第二第三の悲鳴が立て続けに上がった。
一方、ビルを見上げる報道陣の中から声が上がった。
「……おい、あれは誰だ!?」
てんでにビルの屋上をさす指、指、指。
警官隊の駆け上がるビルの屋上に、その人影は立っていた。
立っていた。
女ではない。男の、それもかなり長身な男の影だ。
影の男は、警官隊のサーチライトに捉えられるより一瞬早く、ビルの縁から虚空へと飛んだ。
飛んだ先は、道二本とドブ川を挟んだ向こう側の工場の二階の屋根。
距離にしておよそ25メートル。
落差といい水平距離といい、普通の人間には不可能な距離だろう。
他方、突入班の警官たちは、おそろしい惨劇の場と出くわすこととなった。
天井と言わず、壁と言わず、赤インクを一面にぶちまけたような部屋。
飴のように銃身の曲がった猟銃。
そして、手足がバラバラになりかかった4つの死骸だった。
251「ツーツーツツーと」:2011/07/29(金) 00:07:30.67 ID:nBuY1KDv
「……犯人を殺すのは、まあ悪いっちゃあ悪いがよ。でも、なんで人質まで殺しちまうんだ?さっぱり判らんよ」
お手上げた、というよういうように両手を上げて、レジ奥に引っ込みかかった店主だったが、何か急に思い出したように戻って来ると伊上に言った。
「そうそう忘れてたよ。直木さんって、君の昔の隊長さんだろ?伊上くんいないかって尋ねてみえられたよ。30分ほど前だけど……」
「隊長がですか?!」
隊を辞めたあとも、オレは直木さんのことを隊長とお呼びし続けていた。
直木隊長。
母が壊れはじめる前の時間を象徴する懐かしい人。
オレが隊を辞めるときも、なにかれとなく心配し、母を介護しながらでも続けられる仕事を色々探してくれた人だ。
隊を辞めたあとも、オレは直木さんのことを隊長とお呼びし続けていた。
「良い人だね。あの人は。強くて優しい。男はああじゃなきゃなぁ」
「オレみたいに隊を辞めた者にまで気をかけてくださって、本当に有り難いことです」
オレばかりではない。
隊長の世話になった者は、左右の指では収まらないはずだ。
それに隊長がなにくれと気を配っていたのは隊の関係者ばかりではない。
滅多にない休みの日になると、とある老人介護施設を隊長は頻繁に訪れていた。
相手は、隊長の上官で7年前に事故死された珠一佐の知り合いという噂だった。
「今日だって伊上くんのお母さんのこと、随分気にかけてたみたいだったな」
「母がお世話になっている施設を見つけてくれたのも、実は……」
「へえ、直木さんの紹介だったんだ。そりゃあ、足向けちゃ寝られないな」
「もちろんです。ところで隊長はオレに何か用があったんでしょうか?」
「いや、特にそういうことは言ってなかったなぁ」
隊長の話をするとなんだか温かい気分になれる……このときもそうだった。
ひょっとすると、自動ドアが開いて今にも隊長が入って来るんじゃないか?
そんな期待を抱きかけたときだった。
胸ポケットで、携帯がメロディを奏でた。
(……まさか)
嫌の予感を覚えて携帯を開くと……電話は母が世話になっているホームからだった。
「……もしもし?」
『ああ、伊上亨さんですね?石の森老人ホームのものですが、実はお母様が……』
予感は的中していた。
母がホームを抜けだしたのだという。
「はい……判りました」
オレが電話を切ると、店長はいったん脱いだ制服にもう一度袖を通しかけたところだった。
「……店には僕が立つ。行っていいよ。またお母さんなんだろ?」
「本っ当に……すみません」
上半身を直角以上に倒して最敬礼すると、オレは店を飛び出していた。
「店の自転車使っていいぞ!」
店主の大声が追いかけてきた。
252「ツーツーツツーと」:2011/07/29(金) 00:12:53.45 ID:nBuY1KDv
母がホームを脱走するのはこれで4回目だった。
行く先は決まっている。
自分の家だ。
これまでの3回とも、母はかつてオレと暮らしていたアパートに向かう途上で保護されている。
今度もそうだろうと、ホームの職員は言っていたし、オレもそう考えていた。
ホームの人がホーム側から追いかけるかたちで、オレがかつての家の側から、表現は悪いが挟み撃ちするかたちで母を探すのだ。
オレは店長の好意で借りられた店の自転車に乗って、ホームに向かう道を走っていった。
四〜五分ほど前、ホームから連絡があった。
母が無事保護されたのだ。
ただし、母の行動はオレの予想とは違っていた。
母が向かったのは、やはり「家」だった。その点は正解だ。
ただし、その「家」は、オレと母が暮らしていた家ではなかった。
20年以上も前、オレと母と父とが三人で暮らしていた家だったのだ。
…明らかに、母の病状は進行している。
……チッ!
思わず舌打ちしてしまってから、そんな自分に情けない気持ちになる。
母を責めちゃあいけない。
病気なんだから、母が悪いんじゃないんだから。
そんなことは判っている。
でも、つい、思わず、……責めてしまう。
なんでオレだけこんな目に?と。
そして、そんな自分の不実さを恥じる、責める、叱咤する、怒る。
しかし……でも……けれども……
思考が答えの出ない堂々巡りをはじめかけたとき、オレは廃工場そばの、外灯も消えたままの裏路地に見覚えのある車が一台、止まっているのに気づいた。
白の旧々型カローラ。
直木隊長の車だ。
ナンバーは暗過ぎてよく見えないが、バンパーのへこみに見覚えがある。
間違いない!……でもなんでこんな所に?
オレは自転車を止めると、車の傍へと歩いて行った……。
車の助手席側と側溝の間に、顔を歪め胸を抑えた姿勢で、直木隊長が倒れていた。
253「ツーツーツツーと」:2011/07/29(金) 08:17:00.37 ID:nBuY1KDv
直木隊長は、付き添いで乗ったオレともに、救急車で最寄りの病院へと運ばれた。
医者の説明によると心臓発作だが幸い命に別条は無いとのことだった。
ただし、静かに普通の生活をするなら問題ないが、過激な運動や過労は勤めて避けるべしという指示が付されていた。

ライトブルーのカーテンの向こうで、微かにベッドが軋んだ。
つづいて「………ここは?」と言った声は、オレの知っているいつもの声じゃなかった。
パイプ椅子から直ちに立ち上がると、直立不動の姿勢をとってからオレはカーテを引き開けた。
「気付かれましたか?直木隊長。自分は伊上です。伊上亨であります」
「おお、伊上か、寄寓だな。実はオマエに会いたくなって昼間に……」
「店長から伺っております。……ところで失礼でありますが、あまり喋られない方が……」
「なんだ?伊上、オマエ何時から医者になったんだ?」
「いえ、自分はもちろん医者ではありませんが……」
直立不動のままそう答えると、力のない声で隊長は笑い出した。
「あいかわらずのクソ真面目だなオマエは。……ところで、此処は病院だろう?どうしてオレは此処にいるんだ?」
「たまたま通りがかりまして、隊長のお車に気がついたので行ってみますと……」
「…そうか、それでオマエが救急車を呼んでくれたんだな」
「はい、自分が救急車を呼ばせていただきました」
「ありがとう。礼を言わせてもらうよ」
「礼などそんな……」
ここまでは型通りのやりとりだったが……何時しか気がつくと、隊長とオレは黙り込んだままじっと睨めっこの形になっていた。
(……尋け、亨!聞くんだ!!)
オレの中で心の声が叱咤するが、どう切り出していいのか判らない。
(このままウヤムヤにするわけにはいかないんだ!勇気を出して尋け!!)
実は……オレがあの場所で見つけたのは隊長だけじゃなかったのだ。

隊長が心臓系の病気なのだろうということは、素人のオレにも容易に想像できた。
妙だったのは、隊長の倒れていた場所だった。
発作に襲われて車外に出たなら、車の運転席側に倒れているはずだ。でも隊長が倒れていたのは、反対の助手席側だった。
苦しい発作に襲われながら、なぜ隊長は車の反対側まで行ったのか?
助手席側には乾いた泥や雑草の生えた側溝があり、隊長の倒れていた辺りにはまだコンクリート製の蓋も残っている。
(……あるいは)
オレは蓋の下に手を突っ込んでクラフト紙の包みを取り出した。
元自衛隊員にとっては、包みを解いて中身を確かめる必要など無かった。
包み紙ごしの手触りと重量が、中身の正体をこれ以上ないほど明確に語っていたからだ。
254「ツーツーツツーと」:2011/07/29(金) 08:33:24.80 ID:nBuY1KDv
「あ……あの……隊長」
すると、それまで黙ったままじっとオレを見返していた隊長が突然笑い出した。
「おい。声が裏返っりかかってるぞ伊上。」
「は、はひぃ?」
指摘されたとたん、裏返りかかっていたオレの声は完全に裏返った。
「も、申ひ訳ありません」
みっともなくオロオロするオレの前で、隊長の顔は笑っていた。
だが、目だけは笑っていなかった
「その様子だと……どうやら見つけてしまっているようだな」
「………はい」
隊長の声が、一瞬で軍人としてのそれに変ったのを感じた。
「結局こうなるのか……仕方ない、説明してやろう」
青い顔を病室の白い枕に沈めて、直木隊長は語りはじめた。
「……オレと珠は、子供のころ共に、ある組織に所属していた……」
「珠と言われますと、亡くなられた珠一佐のことでしょうか!?」
そうだというように、隊長は僅かに顎を上下させた。
「珠は組織のリーダー格。オレは名も無い一般隊員だった。危険もあったが……楽しかったし、なにより充実していた」
胸の苦しさをしばし忘れたかのように、隊長はにっこり微笑んだ。
「だからオレと珠は、それまでと同じように人々の自由と平和を守ろうと、自衛官になったのだ」
人々の自由と平和を守る組織?危険もあるが充実?
(それって自衛隊のことか?でも少年自衛隊なんて聞いたことも……)
国旗掲揚や国歌の斉唱すら教職員組合が反対する現在、かつての少年戦車兵のような組織は存在しないのだが……。
しかし正直オレは、隊長の告白に違和感を覚える以上に、……感動していた。
自衛隊への奉職以前から、隊長は日本の平和を守るため活動していたというのだ。
「オレたちや会長、それから珠の姉さん、そしてなにより彼の活躍で、ある邪悪な秘密組織を壊滅へと追い込むことができた。サソリを紋章に掲げる恐怖の怪人軍団だ」
「…サソリ?」
直木隊長の懐古談とばかり思っていたところに、突然「いま」が割り込んで来た。
「そうだよ、あのサソリだ」
怪人軍団というのはSF的というか、子供だましのような話だが……。
ここ三年、夏になるたびこの街に現れる「魔人」は、超人的能力の持ち主ではなかったか?
「隊長、昨夜も現れた魔人というのは、ひょっとして隊長の言われる怪人軍団の生き残りなのでは?」
隊長は静かに顔を横にふった。
「それなら良かったんだ。それなら、珠もオレも苦しまずにすんだんだがな」
隊長の告白は、核心へと踏み込んでいった……。
255創る名無しに見る名無し:2011/07/29(金) 08:56:26.83 ID:akGPqpaN
支援射撃
256「ツーツーツツーと」:2011/07/29(金) 16:24:58.53 ID:nBuY1KDv
翌日オレは、ホームを尋ねたその足で、市立図書館へと向かった。
「魔人」とも「スコーピオン」とも呼ばれる男の能力を、新聞記事等からある程度具体的に探れないかと考えたからだ。
「魔人」の出現は3年前の7月。
帰宅途中のOLをひき逃げしたドライバーが、頭を文字通りに木端微塵にされた事件からだ。
以来、毎年夏が来るたび、超人的能力を駆使した犯罪が発生するようになり、強盗、強姦魔、放火犯、暴力団員から、果ては駐車違反や速度制限違反までが標的となり、画一的に死刑が執行された。
ともかく、完璧に人間離れした能力の持ち主だった。
自動車のドアをボディーからもぎ取り、猟銃の銃身を捻じ曲げるほどのパワー。
跳躍力は垂直方向に30メートル以上。
走力は、おそらく100メートルを2秒前後と考えられる。
さらに一昨日の事件では、至近距離からの散弾にも無傷で耐えたものと考えられた。
内心、さすがのオレも舌を巻いた。
(跳躍力でオレの二倍。走力ではざっと三倍か)
まさにバケモノだ。
一部の新聞が、半ば大真面目に「狼男」説を展開するのも無理はない。
この超人を、隊長に代わってこのオレが倒さねばならないのだ。
背筋がぞくぞくするのを感じたのは、効き過ぎのエアコンのせいだけじゃないだろう。
けれども、剥き出しの肌の寒さとは裏腹に、オレの胸では熱い種火が静かに揺れだしていた。
相応しい相手を得て、オレの体に流れる400年来続く殺人者の血が、古の狩り唄を歌い始めていたのだ。
 図書館から戻ると、大急ぎで母の衣類を洗濯して、お日様と追いかけっこで物干しにかけ、そして一睡もせず釣り具店経由でバイト先のコンビニへ。
親切な店主に改めて昨日の礼を言い、当たり障りのない範囲で隊長のことも話した。
そして深夜勤のシフトに突入。
時計が1時を回ると普段ならヒマになるのだが、今夜はここからが本番だった。
20Wの丸電球を五つに、各種洗剤。冷蔵庫からはガラス瓶入りの清涼飲料を選び出す。
そして単三電池2ダース。あとは……隊長が用意された分と合わせてなんとかなるだろう。
ちゃんと自分で金を払い、時間を開け、別々のレシートになるようレジを打つ。
つまらない小細工だが、仮に警察沙汰になって場合でも、恩ある店主を巻きこむわけにはいかない。そのための用心だ。
商品を適当な空ダンボールに詰めると、客がいないスキに借りっぱなしの「隊長のカローラ」を店前にもってきた。
後部トランクを開け、中の導線やフィルムケースの入った袋を脇に寄せ、ダンボール箱を積み込んだ。
今夜の時点でできる準備は、これで終わった。
ひと眠りしたいところだがそうもいかない。
それに明日は今日より忙しくなる。
……明日の夜は、もっともっと忙しくなるだろう。
257「ツーツーツツーと」:2011/07/29(金) 16:31:21.05 ID:nBuY1KDv
夜のショッピングの翌日、ホームを訪ねたあと、オレは隊長のカローラで市外に立つ巨大な廃屋に向かった。
地下一階、地上6階にもなる巨大な鉄筋コンクリート造の建物だった。
もとはバブル景気に沸いたころ、どこぞの成金が発注したものだったが、外壁工事前にバブルが破裂。発注者の成り金は破産し失意のうちに死亡。
その後はありがちな、遺族同士の財産争い、債権者の介入と騒動が続き、挙句の果ては止違法建築の疑いを理由に市までが参戦。
法律用語が飛び交う長い係争の果てに、弁護士だけが得をする形でマンションは塩漬けとされてしまった。
「お化けマンションとはよく言ったんだ……」
塀越しに見上げるそれは、うだるような真夏の日差しのなか、生い茂る雑木のただ中でまどろんでいるようだった。
この眠れるマンョンが、今夜、戦場になる。
朝のニュースが、魔人退治のため警視庁所属の特殊部隊の投入が決まったと報じていた。
警視庁のエリート部隊が、夏の魔人を倒すだろうと……。
……けれどもオレは知っている。
SATと魔人が正面衝突すれば、殺られるのは100%SATだ。
ビン・ラディンを仕留めた奴らだって、あの魔人と戦えば一方的に虐殺されるだけだろう。
SATの奴らを無駄死にさせないためにも……
それから、直木隊長の悪夢を終わらせるためにも……
(……今夜、オレが、魔人を、殺る)
決意とともにオレは、見上げる柵を飛び越えた。
258「ツーツーツツーと」:2011/07/29(金) 16:36:04.26 ID:nBuY1KDv
(…痛っ)
流れる汗が目に入った。
思わず手で払うと、指先から飛んだ汗は乾いたコンクリートに黒い斑点を打ち、あっという間に乾いて消えた。
額に巻いた汗どめなど、とっくに役立たなくなっている。
真夏の昼間、屋上の照り返しはまさに殺人的だった。
でも、暑いからといって此処だけ更地にておくわけにもいかない。
「やれやれ、さすがに……」
つい、愚痴をこぼしかけたときだった。
セミの声しか聞えなかったマンション敷地内に、突然子供の声が響き渡った。

「……遅れるなよっ!ナオキ!ミツル!」「了解!」「了解っ!」

(ナオキ!?)
驚いて見下ろすと、建物のグルリは3メートル前後の塀で囲まれているのだが、どこからか子供が入り込んでいた。
見上げれば、お日様はが知らぬ間に西の空に回っている。
学校の授業が終わり、子供たちが自由になる時間になっていたのだ。

「怪人来たぞ!」「発信!発信!発信!」「よし!変身だ!!」

小学校低学年ぐらいの子供が三人、雑草が生い茂り廃材の転がる中、駆け回っていた。
先頭を行くリーダー格らしい少年が何かキラリと光るものを掲げると、ナオキ・ミツルと呼ばれた少年たちも同じ物を掲げかえした。

「通信!通信!」「通信!」「ツーツーツツー……」

(直木隊長も、あんなふうだったんだろうか?)
7年前に亡くなられた珠一佐と、直木隊長と、それから……。
オレはポケットから、直木隊長から預かったバッジを取り出した。
赤い円の中に、Vの字に区切られた白。
クリアパーツの緑の目が、夏の日差しに煌めいていた。
259創る名無しに見る名無し:2011/07/29(金) 17:14:52.73 ID:akGPqpaN
支援

400年続く系譜か、ファンタジーな気もするが気にしないw
260「ツーツーツツーと」:2011/07/29(金) 19:11:11.04 ID:nBuY1KDv
その日の……いや正確には0時を回っていたから、翌日未明と言うべきか?
オレは深夜のお化けマンションへと引き返した。
赤錆びの縦線が走り、落書きと立ち入り禁止の張り紙だらけの塀も、月明かりの下では昼間とは違った表情を見せている。
柵の向こうに生い茂る雑木。
そしてさらにその向こうに聳え立つ「お化けマンション」。
それら総てを、空からサソリ座が見下ろしている。
(魔人出現の道具立ては揃ったか)
隊長から預かったバッジを握りしめ、オレはひとっ飛びに塀を飛び越えた。
マンションの敷地内に降り立った時には、オレの服装は隊員時代の野戦服に一変していた。
……トラディショナルな装束は、コンクリートの迷宮には似合わない。
オレはマンションの外壁を僅かな亀裂や凹凸を足がかりにして屋上まで駆け上った。
念のため、敷地内にアベックなどが紛れ込んでいないことを確認すると、左脇の下に吊るしたホルスターから拳銃を抜き出した。
最初は手製のサプレッサーでも付けようか?と思ったが、結局考えた末に止めておいた。
銃身下降式の拳銃にサプレッサーを装着すると作動不良の原因になり得る。
ただでさえ特殊なハンドロードの弾を撃つ上、更に作動不良の原因を背負い込むわけにはいかない。
それに、銃声が聞えたとき、状況は最終局面に達しているはずだった。
拳銃以外は、先祖伝来の自前武器。
強力な鉄線の先端に拳銃弾サイズの重りのついた「鋼鞭」。
大きめのドングリサイズの鉄菱「兜割」。
闇夜に溶けるよう刃を黒染めした刃を黒くした「苦内」。
そして最後に秘密兵器。釣り具店で購入したフロロカーボン製の釣り糸。
これと、あとはオレの体術だけで、魔人に対抗するのだ。
最後の仕上げに拳銃のスライドを引いて初弾が確かに薬室に送り込まれるのを目視確認すると、オレはもう一度夜空を見上げた。
満天の星空から巨大なサソリが、地を這う人の子を見下ろしている。
「これがオマエの復讐なのか?……でもオレはオマエのために戦うんじゃない。直木隊長のため、珠一佐のため、彼らに代わって戦うんだ」
そしてオレは、隊長のバッジをサソリに突き付け送信した。
ツーツーツツー、ツーツーツツーと………。
261「ツーツーツツーと」:2011/07/29(金) 19:14:05.17 ID:nBuY1KDv
……………
………
 通信は届かなかったのか?
それとも彼は、もう通信の意味すら判らなくなってしまったのだろうか?
そんなことを考え始めたころ……唐突に魔人はやって来た。
(……ん!?)
ドライヤーかと思うほどの熱風が、微かなエンジン音を運んできた。
(…来たか)
マンションの下層階にはセンサー代わりのトラップが仕掛けてある。
だから、魔人が何処からこのお化けマンションに侵入して来ても判るはずだ……。
と、そのときだった。
オレの立つマンション屋上よりもさらに高く、強風に舞う凧のように何者かが飛び上がった。
月に浮かんだ影。
グンと反った胸。
翼のように伸びた両腕の白い手袋。
ピンと伸びた赤いブーツのつま先は左右ピタリと揃っている。
「この高さまでひとっ飛びだと!?」
空を飛ぶか?と思えるほどの滞空時間を経て、「魔人」はこのお化けマンション屋上にヒラリと舞い降りた。
およそ30メートルの距離を挟んで、オレは「魔人」と向き合っていた。
赤い仮面に緑の複眼。腰に輝く二つの風車……。
直木隊長の言ったとおりの姿だ。
間違いない。
「魔人」の正体は、かつて少年時代の珠一佐や直木隊長とともに人知れず悪と戦った「彼」だったのだ。
(珠一佐、直木隊長、あなたがたに代わってこのオレが、この悪夢を終わらせます)
珠一佐に、直木隊長に、そしてこれから命を賭けて戦う相手に心の中で手を合わし、そして………腹の底から絞り出す声でオレは叫んだ。
「誘いに乗ってやって来たな……今夜の相手は、このオレだ!」
262「ツーツーツツーと」:2011/07/29(金) 19:19:49.79 ID:nBuY1KDv
宣戦の音声とともにオレは飛び上がった!
「彼」もオレを追ってジャンプする。
数メートルの高度でオレと彼が交差し、黒い苦内と白い手刀が交錯した。
着地した時点では双方ともにダメージは無い。
(これならどうだ!)
振返りざまオレは、左指先の弾きで続けざまに兜割を放った!
しかし「彼」は、ヴィン!という独特の唸り上げて飛ぶ鉄菱めがけて飛びこんだ!
(正面突破か!)
飛び込みながら膝を抱え、二三度車輪のように回転すると、「彼」とオレとの距離は一瞬でゼロに。
同時に、「彼」の白手袋が拳を固め、弓弦を引くように退いた!
(もらってたまるか!)
オレは、手首の僅かなスナップで、魔人の拳の軌道上に鋼鞭を旋回させた。
ビィーーン!という高音質の金属音とともに魔人の右拳が僅かに左にそれる。
軌道上に旋回させた鋼鞭で、「彼」の手首を絡め取ったのだ。
白手袋に絡みついた鋼の糸に、オレは渾身の力をこめた。
高速で振るえば、人間の手足はおろか胴体でさえゼラチンのように切り裂く鋼鞭。
首に巻きつけ絞りあげれば、相手の体は瞬時に二つに分断される。
…が、その鋼線が食い込んでいるはずなのに、「彼」の手首はびくともしない。
絞り上げた右拳の向こうで、左の手刀が振りかぶる!
(……やばいっ!)
咄嗟にオレは、体重をかけ魔人を前に引きつけると、素早く相手の膝がしらに体重をかけた蹴りを合わせた。
いわゆる「関節蹴り」だ。
膝が伸びた状態でパーフェクトに決まれば、相手の膝は完全にスクラップになるのだが、「彼」の膝は鉄骨のようにびくともしない。
しかし、これは承知の上だ。
足が鋼鉄の膝に受け止められた瞬間、オレは手首を返して瞬時に鋼鞭を解くと、魔人の膝を足場にして後ろに飛んだ。
魔人の手刀が、トンボをきったオレの顔の前で間一髪空を切る。
足から着地する余裕は無いので、呼吸を止め、顎を引いて背中から落ちた。
お追い撃ちかける「彼」の蹴りもかわすと、逆にオレは「彼」の軸足をカニ挟みで刈り倒す。
体を離して立ち上がるのは、オレが一瞬だけ早い。
遅れて立った「彼」の周囲を、空気を切り裂くヒュンヒュンという甲高い音で囲んだ。
肉眼では捉らえられない高速の刃。
鋼鞭本来の使い方だ。
右から袈裟がけに一撃目!続いて反対の左から水平・逆袈裟がけの順で二撃目!三撃目!
しかし「彼」はその悉くを見切り回避する!
(……かかったな)
……大上段からの四撃目を放つと同時に、オレは狙い澄ました影の一手をも放った。
ウィーーーーーーーーン……ガチッ!!
不快なモーター音の直後、ウィンチが噛んだときのような音がして、「彼」の腰で光を放ちつ回っていた二つの風車が止まると同時に、「彼」の動きもガクンと止まった。
263「ツーツーツツーと」:2011/07/29(金) 19:23:58.81 ID:nBuY1KDv
これまで放った兜割、それから鋼鞭も、ワザと盛大に風切り音を上げるように使ったのだ。
「彼」の耳に風を切る音を印象的づけておき、真の一撃は音無しで放つ。
無意識に音に反応するようになっていた相手は、音無しの一撃・影の一手に引っかかる。
忍術の基本中の基本だ。
風車潰しに使ったのは、隊で習った古くからある「戦車潰し」の応用だ。
釣り具店で買っておいたイシダイ釣り用のワイヤー釣り糸を、音無しの一撃として「彼」のベルトの風車に巻き込ませた。
力とワザ、二つの風車を止めて「彼」の機動力を封じない限り、弾速の遅い45ACPを「彼」に命中させることはできない。
総てはそのチャンスを作るための戦いだったのだ……。
オレは、ホルスターから拳銃を抜きだした。
この距離とオレの腕ならおよそ外れるはずもない。
命中さえすれば、「彼」自身が作り、珠一佐、直木隊長、オレと渡って来た特製弾が、きっちり仕事をしてくれるだろう……。
オレはサムセイフティを外し、「彼」の赤い仮面をポイントした。
「彼」の動きは見違えるほど悪くなっている。
もういままでのような回避はできない。
「……さよならです、ライダー……」
オレは呼吸を止めると静かに引き金を……。
しかしそのとき……「彼」の額のランプが真っ赤に輝いたかと思うと、バチンと音を立てて二つの風車が再び回りだした!
(…つ、釣り糸が切られた!)
「彼」の力とワザが蘇る!
「くそっ!」
しかし慌てて放った銃弾は「彼」の頭をかすめて飛び、次の瞬間「彼」の手刀がオレの手から拳銃を弾き飛ばした!
(しまった!)
264「ツーツーツツーと」:2011/07/29(金) 22:03:31.98 ID:nBuY1KDv
空を飛ぶ拳銃の行方を追おうとした視界の端で、白手袋の拳が唸った!
体ごとオレは弾け飛び、顔からコンクリートにぶち当たった。
激痛に意識が遠退きかけるが、同時に目は機械的に飛ばされた拳銃の行方を捉えていた。
ごつい拳銃は「彼」の後方、屋上の崩れかかった縁から銃口を虚空に突き出し転がっている。
(なんとかあれを……)
両手をつき立ち上がろうとするところに、今度はキックが来た!
(よけきれないか!)
呼気を吐き切り腹筋を固めた直後、腹に赤いブーツがめり込んだ。
二つ折になってオレが吹っ飛んだ先は、拳銃のあるのとは反対側の縁。
苦痛に歪んだ視界の中、拳銃が遠く小さくなる……。
(あれを……取り戻すには……)
血の塊をどっと吐きだしてオレがよろよろ立ち上がると、オレを蹴り飛ばしたその場から高々と「彼」がジャンプした。
直木隊長に警告された必殺のキックが来る!
「スクリューキック!」
「彼」が叫び、オレの体は5階の屋上を縁を超えて虚空に弾け飛んだ。
お化けマンション、「彼」、麓の森、サソリ座……
オレの視界が目まぐるしく入れ替わって……
視界にお化けマンションが戻った瞬間、オレは起死回生狙いの一手を放った。
(……鋼鞭!)
オレの手を離れ一直線に飛んだ分銅が、お化けマンションのコンクリート壁に突き刺さった!
放物線を描いていたコースが円運動に変化!遠ざかっていたはずのお化けマンションが逆にぐんぐん迫ってくる!
お化けマンションの壁を力一杯に蹴りを返すと、逆の円弧を描いてオレは屋上へと飛び上がった!
サソリ座、麓の森……そしてオレは一気に「彼」をも飛び越えた。
鞭を手放し、コンクリートの屋上を転がって拳銃のある反対側の縁に!
拳銃を引っ掴んで振返ったとき、100メートル2秒の速度で「彼」は既にオレの目の前に!
白い拳が唸り、オレも引き金を引いた!
265「ツーツーツツーと」:2011/07/29(金) 22:06:02.47 ID:nBuY1KDv
「その戦闘服は陸自だね……シゲルやナオキの友達かい?」
「はい…」
彼は……「彼」ではなくなってオレの足元に倒れていた。
オレよりも「彼」の方が一瞬速かったはずなのに……。
辺りの暗さにハッとして夜空を仰ぐと……夜空からサソリ座が消えていた。
あの瞬間、雲がサソリ座を覆い隠したのだ。
「…ありがとう。俺を止めてくれて」
「止めたなんてそんな……アナタを止めたのは、アナタ自身じゃないですか」
サソリ座の呪縛から解放された一瞬、「彼」は総てを理解し、オレに倒される道を選んだのだ。
彼の笑みは、とてもとても安らかだった。
「何時ぐらいからだろう……夜空に大きくサソリ座がかかると、心の中で何かがざわめくようになったんだ。戦えと、悪を許すな、戦え!叩きつぶせと……。
俺の中で、何かが壊れはじめていたんだよ」
改造された彼の肉体は事実上不死身。
しかし、人の脳には寿命があった。
脳の老いを悟った彼は、万一暴走した自分を止めるためにこの特製弾を作り、旧友の珠一佐に託したのだ。
「……サソリ座が天に昇るたび……怖かったよ」
そのときオレの耳に、3年まえの母の叫びが蘇った。

『判らなかったの!判らなかったのよ亨!何年も通ってる道のはずなのに。母さん、自分の家に帰る道が判らなかったの!』

自分の回り総てがグルグル回り出し、オレはガックリ両膝をついた。
「これ以外の解決方法は無かったんですか、風見さん!実は…実はオレの母さんも……」
いい年をして、オレは流れだした涙を止めることができなかった。
「オレの母さんも……母さんも……」
すると……オレの顔にそっと手を触れて彼は言った。
「これは俺の場合の解決だ。キミのじゃない」
理由は判らないけれど……心のつかえが急に降りたような気がした。
「さあ、君ももう行った方がいい。バタン弾のエネルギー放出効果で、間もなく俺は爆発する」
彼に促され、オレは立ちあがった。
背を向けたオレにくれた、彼の最後の言葉は……
「お母さんを大切にしてあげるんだ」
……だった。
266「ツーツーツツーと」:2011/07/29(金) 22:10:08.25 ID:nBuY1KDv
翌朝の新聞は、三面記事扱いで「お化けマンションの謎の崩壊」を報じていた。
隊で覚えた「特殊技能」のひとつ。
オレが昼間のうちに仕掛けた爆薬は、期待通りの効果を発揮してくれたようだ。
日用品の組み合わせでデッチ上げた程度のシロモノだが、違法建築の上に雨ざらしのまま
20年以上も放置されていた建物を破壊するには充分だったのだ。
直木隊長の希望どおり、魔人の正体は確かに闇へと葬った。
天にサソリ座が戻って来ても、もう魔人が現れることはない。
サソリの呪いは消え、隊長の苦しみももう終ったのだ。
……いま母の入所するホームへと続く坂道に立ち、彼の最後の言葉を噛みしめている。

「お母さんを大切にしてあげるんだ」

一夜限りの出会いに過ぎないのに、何故だか彼のことが無性に懐かしい。
オレは、隊長の形見となったあのバッジで信号を送ってみた。
ツーツーツツーと、怪人来たぞと……。
応える者も無く、信号はセミしぐれの中に溶けていった。


「ツーツーツツーと」

お し ま い
267創る名無しに見る名無し:2011/07/29(金) 22:16:36.87 ID:nBuY1KDv
登場人物のうち主人公が元自衛官で、他に1人が現役自衛官というだけの駄文でもうしわけない。
先日テレビを見ていたら、仮面ライダーV3/風見志郎役の宮内洋氏が出てられました。
ずいぶん年をとられたな……というのが感想。
まあ時間がたったんだからしょうがない。
……というわけで、テーマは「ヒーローの老い」。
対戦相手の「伊上亨」は、伊上勝(昭和の仮面ライダーシリーズのメイン脚本家)+平山亨(仮面ライダーシリーズや仮面の忍者赤影のプロデューサー)の合成です。
他は「珠一佐」=珠シゲル(仮面ライダーV3に登場する少年仮面ライダー隊員)と「直木隊長」=ナオキ(仮面ライダーに登場するライダー隊員)。
「お化けマンション」は、以前鶴川にあった同名の建物がモデルです。
本当はお化けマンョンでブービートラップ戦を展開するくだりもあったんですが、ピントがボケるのでボツにしました。
結局、登場人物のうち主人公が元自衛官で、他に1人が現役自衛官というだけの駄文になってしまい、スレ汚しもうしわけなかった。
では……
268創る名無しに見る名無し:2011/07/29(金) 23:24:01.44 ID:vIistvDG
おおーなんか感動した!
269創る名無しに見る名無し:2011/07/30(土) 00:46:22.17 ID:2JoJsk4x
投下乙
仮面ライダースピリッツ風ティストの作品として面白かったです
270創る名無しに見る名無し:2011/07/30(土) 18:23:53.50 ID:dyyn9ajM
おつおつ
271図書館戦争@monogatarihatoutotuni:2011/08/02(火) 01:06:36.61 ID:9xuZqlOl
ちょっと前回投下分を覚えていないんですが、どなたか最後の一行を教えて頂けないでしょうか?
272図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/02(火) 01:07:34.99 ID:9xuZqlOl
コテ間違えた…
新しいコテつけます
273創る名無しに見る名無し:2011/08/02(火) 23:25:21.98 ID:n4byWjnM
>>272
おぉー
図書館戦争氏の御帰還!これで勝つる!

前々スレ673が最後のようです
小田原編ですな
----------
誰に命令されずとも小隊図書士長が怒鳴り、軍隊的な意味で直属の部下である図書士たちが発砲を再開する。
 そして限界を超えた横転車両の爆発炎上をもって、この場は更なる興奮の渦へと叩き込まれる。
 ここまでくると、敵は意地でも突入しなければ士気に関わるし、こちらはもとより敵の突入すら許す事のできない立場だ。
 さあ、楽しくなってくるぞ。
----------
274図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/03(水) 00:48:04.83 ID:neSaU/a8
正化31年10月22日水曜日10:17 神奈川県小田原市 財団法人情報歴史資料館屋上 臨時指揮所

「正門前左翼陣地後退完了!」

 戦闘開始から十八分。
 状況はどちらの優位ともいえない状況となっていた。
 確かに図書隊正門前防御陣地のうち、左翼方向については戦力の大半を失い予備陣地へと撤退している。

「撃て撃て!弾幕を止めるな!敵の侵入を阻止しろ!」

 しかし、機関銃を複数装備している図書隊の防衛戦力はかなりのものである。
 大破炎上している車両の周囲には、煙に隠れて浸透突破を図ろうとした良化隊員たちの死体や負傷者で溢れている。
 彼らはなんとかして装甲バスの陰までは到達できたが、そこから先には一切進むことが出来ていない。
 5.56mm小銃弾にとって、拳銃弾程度の防御手段しか取られていない装甲バスは、遮蔽物としては余りにも脆弱な存在に過ぎなかったのだ。
 かつての攻防戦にて良化隊員が取った振る舞いは、確実に彼らの自業自得によって劣勢の原因となっていた。
 防御側の図書隊員たちとしては、緊急を要する重症者の救命活動を阻害したからといって、それに何か問題があるかが分からない。
 何故ならば、かつてのメディア良化隊の手で、この種の非常事態においては、人命、特に敵の人命など価値がないと教えられてしまったからだ。

「右翼陣地への支援を絶やすな!機関銃班!気合を入れろ!」

 機関銃手からすれば言われるまでも無い。
 この日この時のために訓練を積んだ機関銃班は、軍用ライフル弾を防ぐ事の出来ない位置に居る全ての敵兵を殺傷するためにここにいる。
 彼らは安全な場所から圧倒的な武力を振るうという立場ゆえに、大変に安定した思考で効率的な殺戮を続けた。

「ヘリ第一便は間もなく到着します!」

 通信機にしがみ付いていた図書士が報告する。
 遂に誰もが待ち望んでいた航空輸送便が報告を入れてきた。
 それは友軍を運んでおり、負傷者を搬送する事が可能で、守らなければならない書籍を運搬することが出来る。
 そして、対空射撃を禁じるルールによって安全運行を保障されている。

「受け入れ準備急げ!」
「負傷者搬送準備!」

 ヘリコプター接近に伴い屋上を管理する本部管理小隊が活気付く。
 彼らは指揮能力の維持という重要な任務を与えられているがゆえに、目の前の激戦に物理的な意味で参加する事を許されていない。
 だからこそ、自分たちが参加できるこの時に気合を入れないわけにはいかないのだ。
275図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/03(水) 00:49:16.93 ID:neSaU/a8
「報告!本館右翼側に良化隊の別働隊多数!」

 嫌な報告が飛び込んでくる。
 この地域一帯は、既に戦闘地域として日本国憲法および刑法、民事訴訟法などの法律の対象外におかれている。
 私有地だろうが国有地だろうが、何の関係も無い。
 だからこそ、メディア良化隊の一同は、何の遠慮も無く私有地および国有地を突破して迂回包囲を試みている。
 木陰に身を潜め、装甲車両の中で縮こまり、小さな物陰に数人で飛び込む。
 大変に地味な姿だが、その結果は大きい。
 迂回に成功した彼らは、一斉射撃によって陣地に潜む図書隊右翼陣地へ甚大な損害を与えることが出来た。

「正門前右翼陣地に敵の攻撃が集中しています!」

 それはとても良くない状況だった。
 情報歴史資料館内には今だ二個中隊以上の図書隊員たちがいたが、彼らは直ぐに友軍の危機に駆けつけられるわけではない。
 彼らにはまず部署の防衛が最優先命令として与えられており、敵よりも兵力的に劣勢であるという現実が足かせとして機能している。
 屋外が不利な状況で大量の兵力が動かせない事からも分かるように、正門前陣地は始めから時間稼ぎの手段として考えられており、それを前提として防御計画は練られていた。

「正門前陣地は放棄しろ!施設外から隊員を引き上げるぞ」

 玄田の命令は、ある意味当然のものであった。
 彼は大変に情に厚く、部下を大切にする人間である。
 しかし、彼は関東図書隊という準軍事組織において前線指揮官という任に当たっており、優れた実績を残す図書特殊部隊という特殊部隊指揮官であった。
 日本的な表現では冷酷と言えるほど、冷静な人間でもあったのだ。

「撤退を支援する!手が空いている者は銃撃を手伝え!」

 彼に出来る部下を想う表現は、これが限界だった。
 もちろん彼は部下を大切に想い、出来る限りの厚遇を試みる情に厚い人間である。
 しかしながら、例えば会社を首になるわけにはいかないサラリーマンが、愛娘の卒業式よりも顧客とのゴルフを優先しなければならないように、彼には『出来る限り』の限度がある。
276図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/03(水) 00:56:20.39 ID:neSaU/a8
「後退する部隊を支援する!図書特殊部隊前へ!」

 もちろん、その命令を聞いた俺に遠慮する必要は無い。
 将校には将校の、下士官には下士官の、兵卒には兵卒の立場とやっていい事がある。
 俺は所謂一兵卒。
 自分に与えられた職責と立場に許される範囲内で、好きにやってやろう。

「前進!友軍を救え!」

 俺は、下士官未満、一兵卒以上という立場だ。
 この一言で、誰かがついてきてくれればそれで十分だ。
 ウチの小隊長殿は先ほど重傷を負って後送されているから、普通科経験者らしい陸士長、いや図書士長殿の命令だけ聞けばいい。
 
「どうしますか?」

 いつの間にか俺の隣に来ていた図書士長は、不用意に身を晒さないようにしつつ小声で尋ねてくる。
 図書隊での階級は俺より上なのに、随分と低姿勢だな。

「貴方の誘導で降下していたものです。海外の件も聞いています。
 ご命令を」

 やれやれ、有名人はこれだから困るな。

「後退を支援するぞ」

 窓の向こうから聞こえる戦場音楽に注意を払う。
 撤退命令は出されているが、敵の攻撃がその遂行を邪魔している。
 十字砲火に近い攻撃を受けている表の友軍たちは、長くは持たないだろう。

「まずは軽機で側面の敵を叩かせる。
 あそこは生垣や木の葉程度しか障害物が無い。
 その間はこっちで正面を押さえるぞ。通信!」

 小隊内通信では上申は出来ない。
 自由に周波数を変更できる通信士を呼びつける。

「本部を呼び出せ。図書士長殿が名案を思いつかれたそうだ」

 面倒ごとは上官に任せ、俺は応戦を続行した。
 何故上の連中が思いつかなかったのかはわからないが、願わくばこの作戦を採用してくれればありがたいのだが。

「通りました。部下たちに作戦を伝えます」

 意外に話せるじゃないか。
 あとは俺たちが正面の圧力をどれだけ受け止められるかだな。
277図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/03(水) 00:57:33.33 ID:neSaU/a8
「一分後だ!表の連中を一人残らず助けるぞ!」

 俺が考えている間にも、図書士長の冴えた作戦案は全員に説明されていく。
 さて、ここからが最初の山場だ。
 交戦中の友軍はおよそ二個小隊ほど。
 傷つき、疲れ果てた彼らを館内へ撤退させなければならない。

 取り残された友軍救出のため、図書隊は全力で殺傷を開始した。
 それは当然だが良化隊の全力での反撃を誘引し、この図書館を巡る攻防戦は最初の沸点を迎えることになる。
 
「てっ敵の激しい反撃にあっています!狙撃で支援してくれ!」

 満足な遮蔽物も無い位置で軽機関銃の集中砲火を浴びている良化隊員たちは哀れだった。
 木の幹に姿を隠した通信士が怯えた声で勝手に救援要請をしても誰も責める者はいない。
 彼の周囲に展開していたはずの同僚たちは、既にその大半が重傷を負って動けなくなっているからだ。

「反撃しろ!何をやっている!応戦するんだ!」

 装甲車両の陰からこの場を監督している課長が叫んでいるようだが、それに従える者はいない。
 彼らは何しろ身を隠すので忙しい。

「撃ちまくれ!図書特殊部隊!総員前進にー移れ!」

 俺の号令で最前線にいた全ての隊員が行動に移る。
 先頭を防弾盾を構えた人間に任せ、自動小銃を装備した人々が後ろに続く。
 彼らは隙間から動く全てに発砲し、結果として少なからぬメディア良化隊員を殺傷した。

「負傷者確保!」

 順調な前進を続ける一人が叫ぶ。
 小銃弾によって重傷を負い、身動きの取れなかった隊員が、仲間たちの手によって担ぎ上げられる。

「反撃来るぞ!応戦!」

 敵の反応を見越した誰かが叫び、より一層防御射撃が強まる。
 この場にいる図書隊員たちにとって、交戦法規やその他の決まりごとなどは何の価値もないものだった。
 仲間を助けるため、作戦目標を達成するため、良化隊を殲滅するため、それぞれの目的のために、とにかく引き金を絞り続けていた。
278図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/03(水) 00:58:15.46 ID:neSaU/a8

正化31年10月22日水曜日10:17 神奈川県小田原市 財団法人情報歴史資料館屋上 臨時指揮所

 メディア良化隊にとって不利な歴史的資料が数多く保管される情報歴史資料館に対する攻撃は、一つの沸点に達しようとしていた。
 政府与党および良化隊に不利な情報の消去が目的である敵軍に対し、資料館を守る関東図書隊は、全力で日本国の一つの時代を保全しようとしている。
 双方の銃弾を用いた応酬は激化の一途を辿り、多くの死者を出しつつも、施設への突入を目的とした攻防戦が継続されている。
 僅かな数量ながらも装甲車を用いる敵軍に対し、軽機関銃を多数持ち込んだ図書隊の作戦は見事に成功し、敵に多大な犠牲を強いつつ、防衛線の維持に成功していた。

「撃ちまくれ!次のヘリで追加の弾薬が送られてくる!
 弾幕を絶やすな!奴らを一歩たりとも近づけるんじゃない!」

 屋上機関銃座では、この場を預かる図書監が声を張り上げている。
 彼らは眼下に広がる戦場を、自軍の優位に押しとどめるための切り札だ。
 弾薬は減る一方だが、手を緩めるわけにはいかない。

「いてぇ!」

 後退中の一人の図書隊員が負傷する。
 地面に倒れ、銃を手放し足を押さえている。

「負傷者一名!防弾盾持ってこい!」

 放っておけば確実に死亡するであろう友軍を見捨てる理由は無い。
 
「援護射撃!」

 資料館内の各所から銃火が放たれる。
 予算規模も人員の面からも良化隊に劣る図書隊は、一人の負傷者も見捨てることは許されない。
 すぐさま分隊規模の隊員たちが、防弾盾を手に駆け寄り、数人が負傷した彼を担ぎ上げる。

「足が!俺の脚が!」

 負傷した隊員は、仲間達に囲まれつつも安堵する事を許されない。
 本来であれば攻撃されるはずの無い負傷者である彼は、地面に倒れた後も数発の銃弾を浴びていた。
 半長靴は撃ち砕かれ、肉が傷口からはみ出している。

「奴ら負傷者を撃ちやがった!撃ち返せ!殺せ!」

 それを見た図書隊員たちは口々に叫んだ。
 怒りは無線を通じて全体へ浸透し、結果として激烈な反撃を誘発した。
 その受け皿となったのは、正門前に陣取った、赤十字の旗を立てたメディア良化隊神奈川県方面支部医療班である。

「撃て撃て撃て撃て!!!」

 その旗は明らかに視界に入っていたが、機関銃座の隊員たちは意図的にそれを無視した。
 彼らは良化隊が図書隊の衛生班に容赦なく攻撃を加えていたことを知っていたし、先ほどから身動きの取れない負傷者までを攻撃対象に入れた事を聞いていた。
 それならば、あそこにいるのは動きの遅い、攻撃能力の少ない敵でしかない。
 機関銃から見れば、それは良い的である。

「殺せ!殺せ!」

 すっかり戦場の狂気に犯されている図書監は、とても嬉しそうに部下たちに命じ続けた。
279図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/03(水) 00:59:19.95 ID:neSaU/a8
正化31年10月22日水曜日10:19 神奈川県小田原市 財団法人情報歴史資料館 正面玄関陣地

「負傷者確保!屋上へ搬送急げ!」

 激痛のあまり泣き喚いている図書隊員を抱えた衛生班が上階へ向けて駆け去っていく。
 小田原情報歴史資料館を巡る攻防戦は、相変わらず沸点の真っ只中にあった。
 頭上から鳴り続ける軽機関銃の咆哮。
 全周で断続的に響き続けている自動小銃の発砲音。
 号令、悲鳴、絶叫、装甲車両が炎上している音。
 戦争らしくなってきたな。
 荒々しい足音に目線を向けると、屋外に気をつけながら血まみれの防衛隊員たちがこちらへ向かってくる。

「報告します!第三分隊長殿は殉職、自分たちは第二分隊の指揮下に入るよう指示されました。
 自分たちの持ち場は予備隊の第四小隊が確保しています」

 やれやれ、幹部級にも徐々に死傷者が増え始めたな。
 この戦闘が終わったら、俺も昇進かもしれない。

「士長殿?」
「適当に持ち場に付け、敵の圧力が落ちてきた。仕掛けてくるぞ」

 窓だったそこから見える最前線は、新たな局面が訪れたことを知らせていた。

「おいおい、そりゃあ反則じゃないか」

 そこには車列横隊があった。
 75式ドーザ。
 陸上自衛隊の装甲ブルドーザーである。
 当たり前であるが、小銃弾など通すわけもない。

「車両障害の撤去と考えれば当然ですね」

 冷静な口調で傍らの士長が呟く。
 さすがにあれをそのまま建物にぶつけては来ないだろうが、アレらを盾に突っ込まれてくれば厄介なことになる。

「士長殿、意見具申申し上げます」

 敵軍に視線を向けたまま、俺は上官にして事実上の部下に命令を伝える。

「余力があるうちに一階を放棄するべきです。
 外の友軍は収容済みですし、付近の部隊と連携を取り付つつ階上へ移動するべきです」

 敵が装甲ドーザまで投入してくるのであれば、小火器しか持たない自分たちに出来ることはもう無い。
 一階部分の破壊は甘受し、二階以降の防御を固めるしかやるべきことはないのだ。
 もちろん階段しか侵入路がない上階であれば、敵軍を食い止めることは随分と容易になることはいうまでもない。
 今までとは異なる連射音が聞こえる。
 どうやらメディア良化隊も軽機関銃を導入してきたらしい。
280図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/03(水) 01:00:41.92 ID:neSaU/a8
「これ以上一階部分を固守すると退避もできなくなります!
 士長殿、ご決断を」

 一度外壁まで取り付かれてしまえば、内部への侵入防止でこちらは手一杯となる。
 後ろに下がろうにも、それをするための余裕すら無くなってしまうからだ。

「本部へ連絡。敵軍の抵抗激しく我々は多数の負傷者を回収しつつ一階部分を放棄する。
 私の名前で送らせろ」

 まったく、さすがは下士官である。
 責任は自分だけで受け止めるつもりらしい。

「ありがたくあります。
 前線指揮を継続します!」

 勢いよく敬礼し、直ぐに戦闘に戻る。
 彼のような本物の軍人が味方してくれる以上、俺は出来る限りのことをしなければならない。
 それが下っ端の任務であり、特権だ。

「第三班から後退!士長殿がご決断された!
 我々は一階部分を放棄するぞ!」

 俺の叫びに全員が素直に従った。
 図書隊において、自衛官上がりは優遇されている。
 それは本物の軍事教練を受け、人によっては非公式な実戦に参加している者がいることを隊員たちが知っているからである。
 
「三班後退!仲間の援護を利用しろ!」

 開口部から機関銃を連射していた第三班が素早く持ち場を放棄して下がり始める。
 残る戦闘班たちはその隙間を埋めるように後先無い防御射撃を実施して援護する。
 俺が自衛官だったときにこいつらが隣にいれば、もっと楽に仕事ができたな。
 外壁の残骸に乗り上げたドーザから降りた非武装の操縦士を射殺しつつそんな事を思った。

<<第二班南側を放棄、南西階段に後退完了!>>
<<第一班はこれより二階への移動を開始する>>
<<本部より各隊、非常階段への警戒を怠るなよ>>

 次々に命令と報告がやり取りされる。
 関東図書隊はその名に恥じない見事な拠点防衛を実現していた。
 
281図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/03(水) 01:01:31.84 ID:neSaU/a8
<<至急至急、裏門守備第二小隊より本部。
 施設後方の良化法支持団体が接近しつつあります。指示を下さい>>

 厄介なことになってきたらしいな。
 連中は市民団体の格好をしたテロリストだ。
 大半は異なるのだろうが、一部は確実に武装したテロリストに違いない。

<<こちら本部。
 空砲による威嚇以外は許可できない。
 施設内への侵入は何としても阻止せよ。
 消火用放水設備やスタングレネードの使用は許可する>>

 そんな紳士的な手段で阻止出来ればいいのだがな。

「報告!敵部隊は小隊規模以上で一階部分に侵入!
 武田図書士殉職!」

 階段部分から盛大な着弾の音が聞こえてくる。
 連中は遠慮なしに弾丸を撃ち込んできているらしい。

「おい、ロッカーとか机持ってこい。
 連中が入ってこないように投げ込んでやる」

 既に図書士長殿はこの部隊の全権を俺に委任してくれた。
 ついでに経歴なども簡単に説明してくれたおかげで、少なくともこの分隊については異論はないようだ。

「よーし、家具をジャンジャンもってこい!階段を埋めてやるぞ!」

 すぐさま復唱が成され、最低限の要員を残して全員が家具を集めに駆けていく。
 取り敢えず近くにある事務机から階段に投げ込まれていく。
 
「いいぞ!もっと持ってこい!」

 次々と家具が階段に投げ込まれていく。
 既に普通に上がってくることは不可能になっており、このままならば一個分隊もいれば階段室の防御は容易である。

「やったな」

 余裕すぎる現状に、俺は思わず禁句を口にしてしまった。
 古来より伝わる金言によると、敵を侮り味方の能力見誤ることは敗北を意味する。
 俺も同じことをしてしまったようだ。

<<こちら第二小隊!施設後方の市民団体は投石を開始!
 いや、これは?退避!>>

 無線越しに切迫した報告が入り、直後に施設は揺れた。
 極めて残念なことに、これは比喩的な表現ではなく、物理的な現象を示していた。
282図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/03(水) 01:02:27.98 ID:neSaU/a8
正化31年10月22日水曜日10:21 神奈川県小田原市 財団法人情報歴史資料館 施設裏陣地

「よし、図書隊の度肝を抜いてやるぞ」

 図書隊武装解除民主化武闘平和市民委員会のメンバーたちは、平和市民解放戦線を名乗る人物から受け取った青く塗られた筒を手に取った。
 それらは、提供者からはスタングレネードか発煙弾だと説明されている。
 これをダンボールに詰め、カバンに入れ、手荷物の中に隠し、彼らは持ち込んでいた。
 手にとったメンバーは合計で23人と結構な人数である。
 投石に混じって全員が振りかぶり、全力で図書隊の陣地に投げつける。
 投げやすい構造をしているだけあり、その大半がイメージ通りの軌道を描いて図書隊員たちの隊列付近へと着地させることができた。

「みんな!直接見るなよ!」

 メンバーたちは閃光に備えて目を閉じた。
 その選択は、ある意味で正解だったかもしれない。
 十数人の人間が四肢を粉砕され、内臓をぶちまけ、超高温の炎で焼かれる瞬間を目にするというのは、普通の人間には衝撃的すぎる映像だからだ。
 そう、彼らが投げつけたのは、爆竹の親玉のような下らないものではない。
 正規軍で採用されている、MK3A2手榴弾と、AN-M14/TH3焼夷手榴弾だった。
 前者は破片ではなく爆薬の炸裂による衝撃波での人員の殺傷を目的としており、後者は強力な燃焼効果を持つ物質で目標を炎上させることを目的にしている。
 それらが起こした現象を簡潔に説明すると、前者は複数の図書隊員を外傷性ショック死で即死させ、さらに複数の図書隊員に致命傷を負わせ、後者は施設一階を炎上させた。
 もちろん、炎上したのは施設だけではない。

「お、おい、これなんだよ」

 最初に投げつけた男は、唖然としつつも呟くことができた。
 彼が投げつけたのは、事前の説明によると煙を出すだけの発煙弾のはずだった。
 だが、炸裂した瞬間にそれが嘘だということがわかった。
 興奮のあまり眼を閉じることを忘れた彼は、全てを見てしまったのだ。
 
「退避!退避!」
「消火器もってこい!」

 衝撃や爆発音に驚いた人々が目を開けると、先程まで盾を構えた図書隊員たちが立っていたそこは、すっかり変わってしまっていた。
 粉砕された人体の残骸。
 燃え盛りつつ走りまわる人間。
 炎上する建物。
 そして、身動きすら出来ないほどの重傷を負った図書隊員たち。
 密集隊形で投石に耐えていたところに投げ込まれた無数の手榴弾は、設計者が満足できるだけの大きな戦果を上げていた。

「委員長、こ、これって」

 大学八回生の副委員長が怯えた様子で声をかける。
 自分たちは確かに権力に対する無制限武装闘争を決意はしていた。
 だが、このような問答無用の殺人を行う決意など持ってはいなかった。

「う、オゲェエェ」

 初めて闘争に参加した女子大生が嘔吐している声が聞こえる。
 権力と戦う革命闘士としては、まだ自覚が不足していたようだ。
 人数を揃えるためにとにかくかき集めた関係で、ここには初心者が大勢いる。
 まあ、そのような事情はどうでもいいとして、図書隊員たちからすればこれは十分正当防衛射撃を行う理由であった。
 あえて述べるまでもないが、彼らは今回の戦闘の最初から今にいたるまで、様々な悪意に晒されていた。
 その中で少なからぬ仲間を殺されており、さらには卑劣極まりないテロ攻撃まで実施されている。
 人間は、このような状況に置かれると非常に凶暴化する可能性がある。
 武器があり、視界の中に憎むべき敵がいた場合、その凶暴性は容易に発揮される可能性がある。
283図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/03(水) 01:03:28.37 ID:neSaU/a8
「正当防衛射撃!」

 死体が転がる中、誰かが叫んだ。

「反撃しろ!」

 生き残った誰もが叫んだ。

「皆殺しにしろ!!」

 後者の命令に生き残れた図書隊員たちは盾を捨てて一斉に銃を構える。
 こうして、後の画像解析で193人いたとされる武装テロ集団に対する一斉射撃が開始されることになった。
 放たれた弾丸は621発。
 図書隊の戦闘能力向上は暫定的ながら行われており、この場に残った戦闘可能な生存者の大半が機関拳銃もしくは自動小銃を装備していた効果が発揮されている。
 最前列の人々は一撃で撃ち倒され、さらに人体を貫通した小銃弾が後列の人々に致命傷を負わせる。
 この段階で、まだ人々は逃げようとはしていなかった。
 立て続けに発生する常識を超えた自体に、脳が行動を許可しなかったのだ。
 その間に戦果は着々と拡張されていく。
 全ての図書隊員がそれまで一発も撃たれていなかった弾倉を射耗したころ、まだ生きていた集団の一人がようやく行動を開始できた。

「逃げろ!!!」

 些か遅きに失したその号令は、それでも残る人々に行動の自由を与えることに成功した。

「早く逃げろ!」「殺されるぞ!」「誰か助けてぇ!」

 大学生が、主婦が、サラリーマンが、政治活動家が、慌てて好きな方向へ逃げ出そうとする。
 だが、完全に激昂している図書隊員たちにとって、それらは単なる射撃目標に過ぎない。
 いや、その表現は不適切だ。
 彼らにとって、それらの人々は撃ち倒されなければならない敵だ。
 一切の手心は不要であり、むしろ皆殺しにしなければ、死んでいった仲間たちに顔向けが出来ない。
 
<<裏門何をやっている!報告しろ!>>

 奇跡的に生き残っている無線機から状況の報告を求める通信が入る。
 だが、即死している小隊長はもとより、通信士の周囲にいた全員が死亡もしくは戦闘不能になっている。

「左!外壁付近に生きてる奴がいるぞ!」
「裏門から逃がすな!あそこにいる奴も敵だ!」
「弾丸をタップリと喰らわせてやれ!第三班前進しろ!」

 簡単に表現すると、裏門守備隊は敵の攻撃で統制を失っていた。
 彼らは上層部の指揮を受けずに独自の判断で反撃し、持てる火力の全力を発揮していた。
 敵よりも多い火力での防衛戦闘は、自分たちの命を長引かせるための一番の方法である。
 
「リロード!」

 一人の図書士が叫ぶ。
 彼らは集団戦闘の方法を十分に学んでいる。
 それぞれが自分の担当箇所を正しく認識し、相互支援によってそれを維持することが重要だと理解しているのだ。
 叫んだ彼の位置をカバーするために、別の隊員が引き金を振り絞る。
 防御戦闘においては、どれだけ素早く敵に多くの火力を叩き込み、それを維持することが必要であるかを学んでいたのである。
 結果として出現したのは、この世の地獄に近いものだった。
 燃え盛る遺体の間から射撃を続行する図書隊員たち。
 彼らが筒先を向ける先には、潰走する『平和市民団体』の姿がある。
 女、子供、老人など、日常生活においては敵意を向けることすら禁忌とされる人々だ。
 だが、今の図書隊員たちにとってそれらは異なる価値を持っている。
 つまり『憎むべきテロリスト』であり『撃ち倒されなければならない敵軍』だ。
284図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/03(水) 01:04:39.18 ID:neSaU/a8
>>273殿、ありがとうございました。
本日はここまで、次回は来週。
285創る名無しに見る名無し:2011/08/03(水) 23:29:31.17 ID:t3ADXkaK
>>284
おぉー
相変わらず死にまくってますな

本家図書館戦争は映画化されるそうですが
できればこっちを映画化希望(ぇ
286創る名無しに見る名無し:2011/08/04(木) 01:24:01.85 ID:QkotPeUK
投下乙
待たされた時間を裏切らぬ鉄の暴風に痺れました
287創る名無しに見る名無し:2011/08/04(木) 02:38:28.51 ID:4ssvYQCV

凄い久しぶりだが相変わらずの作風で安心しました
投下は二、三年ぶりぐらいかな?
なんとなくこのスレチェックしたら投下されててびっくりしました
288創る名無しに見る名無し:2011/08/05(金) 12:19:43.16 ID:ew6SyrYR
そういえば原作組は今何やってるんだろうなあ
男組はともかく笠原とかアニメのラストとか目じゃない地獄っぷりにまいってそうだ
289創る名無しに見る名無し:2011/08/05(金) 18:28:02.25 ID:H14FTAGq
ここって、現実の世界を舞台にした話を書くスレなんでしょうか?軍事が絡んでいれば、自分で背景を
創作しても良いのかな。
290創る名無しに見る名無し:2011/08/05(金) 19:39:54.98 ID:fdYtQHkA
>>289
問題ないと思う
そういう作品もあったような?
291図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/11(木) 00:46:00.92 ID:uVFKvArC
正化31年10月22日水曜日11:19 神奈川県小田原市 財団法人情報歴史資料館 二階談話室

「三人きたぞ!」

 敵味方の銃弾が飛び交う中、一階ホールへ降りるための階段前に積まれた陣地へと飛び込む。
 一階部分に突入してきた良化隊は、テロリストを射殺し続けていた裏門守備隊を敷地外壁まで追い払ってしまった。
 結果として施設一階は完全に制圧されてしまい、現在の我々は各階段や非常口で食い止めようと必死になっている。
 
<<本部より各員、検閲終了時刻まであと11分!>>

 残り時間は僅かだ。
 最早まとまった人数を突入させ、こちらを制圧し、検閲対象図書を持ち出すような時間は残されていない。
 今の良化隊にできることは、我々に一人でも多くの損害を出させることぐらいだろう。

「援護します!」

 別の分隊員が隣に駆け込み、小銃で階下に向けて制圧射撃を開始する。
 遠慮なしのフルオート射撃である。

「頭出すな!撃たれるぞ!」

 直ぐに別の隊員が駆け寄り、今度は反対側で射撃を行う。
 全く、今直ぐ中東に派遣しても恥ずかしくない精鋭ばかりだな。

「通信!聞こえるか!」

 負けじと俺も頭を出し、階下の良化隊員たちに向けて射撃を開始する。
 身動きの取れない重症者が数名、這いずって逃げようとする負傷者が五名ほど、反撃してくる奴が一人。

<<感度良好、増援ですね?>>

 流石は最前線で通信士をしているだけある。
 全体の流れをよく見ているじゃないか。

「そうだ!あと機関銃持ってこい!」

 軽傷者の背中に三発、あれでもう助からないだろう。
 隣の奴には、おっと、彼は健常者から死体へクラスチェンジだ。

「何としてもあと十分を支えるぞ!」

 そこまで叫んだところで階下に動きを感じる。
 慌てて伏せるが、警告の叫びを上げる間もなく銃弾が殺到し、勇ましい両隣の隊員は二人とも殉職する。

「誰か手伝え!スタングレネード!」

 とんでもないことだ、このまま制圧射撃で頭を抑えられては建物中央部分を突破されてしまう。

「投擲!これで自分は終わりです」

 閃光手榴弾を投擲しつつ、殺到する銃弾を土嚢で辛うじて受け止めている図書士が叫ぶ。
 文句の付けようのない見事な仕事だ。
 警告の叫び、やや時間をおいて閃光、轟音。
 直接の殺傷能力はないにしても、一時的に敵の抵抗を奪うことが出来るこの装備は非常に便利だ。
292図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/11(木) 00:50:52.97 ID:uVFKvArC
「くたばれ!」

 小銃を構えつつ土嚢から身を乗り出して狙いをつける。
 階下には数名の医療班と援護のつもりだったらしい連中。
 おっと、閃光で俺も目が焼かれてしまったらしい。
 敵がどこにいるか分からないので、何を撃ってしまってもこれは事故だ。

「やめろ!撃つな!負傷者だ!」

 人間の言葉らしいものも聞こえた気がするが、耳鳴りが激しい俺には届かない。
 引き金を振り絞り、一人、二人、確認殺害戦果三名。
 直ぐに増援らしい人影が屋外から流れこんでくる。

「おい伏せろ!」

 今度の警告はうまくいき、俺は貴重な同僚をこれ以上失う危機からは逃れられた。
 俺も含めて三人が素早く土嚢の影に伏せ、直後に銃弾が反対側に突き刺さる鈍い音が連続する。
 実践を経験した図書隊員を失う訳にはいかない。
 声を掛け合い目指せ無事故職場だ。

「リロード!」

 一人が叫ぶ。
 弾倉の脱着を行う彼の手際は文句の付けようのないものだ。

「死ねぇ!」

 弾幕が収まった事を確認し、もう一人が援護の射撃を行う。
 一切の躊躇がない、明らかに殺傷を避けようとしない射撃。
 うん、頼もしいね。

<<こちら第三班、左から援護する>>

 別の班が入口に向かって左手の廊下から登場し、階下に向かって制圧射撃と閃光手榴弾の投擲を実施する。
 こちらに正対する形で展開していた敵はひとたまりもない。
 物陰に隠れられたと思ったら、無防備な真横から銃撃を受けたのだから仕方が無いといえばそうだ。
 一瞬で数名が遮蔽物から殴り飛ばされたかのように飛び出し、そのまま動かない。
 数名が何とか抵抗しようと銃身を向け直すが、俺の同僚たちを傷つけさせてなるものか。

「こっちだ!」

 注意を引きつけるようにして僅かな弾倉の残りすべてを叩き込み、全力で土嚢の影へと戻る。
 再び俺めがけて銃弾が殺到し、そして階下から爆発音が聞こえる。
 もういい加減、冗談抜きで耳が使い物にならなくなってきたな。

<<こちら第四班、西側非常階段は今だ健在。
 現在溶接を継続中>>

 鋼鉄の扉というものは実に使い勝手が良い。
 火災の時には炎を遮断してくれるし、敵襲時にはバリケードとして作用してくれる。
 おまけに、溶接が完了すれば容易には突破できない強固な防壁としても機能するというおまけ付きだ。
 消防法に感謝だ。
293図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/11(木) 00:53:16.85 ID:uVFKvArC
「あああああ、腕がァあ俺の腕がァアああ!!!」
「負傷者を救助、撃つな!医療班なんだぞ!クソが!退避!」
「たひゅ、たふけ、いき、できな」
「人でなしどもめ!本のために人を殺すのか!」

 階下からは良化隊員たちの怨嗟の声が聞こえてくる。
 もっと苦しめ。もっと死ね。
 まだまだ、俺の両親や仲間たちの流した血には足りないんだ。

「目が、目がみえない!おれの目がみえない!誰か!畜生!畜生!あ」

 至近距離で閃光を観てしまったらしい一人が喚き散らしながらのたうち回っている。
 だが安心して欲しい、もう目の痛みを感じることはないぞ。
 耳障りな敵を黙らせてから振り向いた俺は、駆け寄ってくる機関銃班の頼もしい姿を目にした。
 アレがあれば、もっとたくさん殺せる。
 もっとたくさん守れる。

「直ぐに展開!敵はいくらでもいるぞ!」

 貴重な火力として本日の激戦区ばかりを味わっている彼らは、心の底からの同意を示す歪んだ笑顔で返してくれた。
 
<<本部より各員、第二便到着、増援二個分隊が合流した。
 弾薬が少ない部隊は申告せよ>>

 先ほど聞こえたヘリの音は気のせいではなかったようだ。
 次々とあちこちに突き刺さる銃弾のおかげでどうにも集中できないな。

「入ってきたぞ!弾幕絶やすな!」

 一斉になだれ込もうとしてきた良化隊員たちに次々と銃弾が襲いかかる。
 彼らも当然ながら反撃は行っているが、狭い入口に対して広い室内から一斉に撃ち込まれるこちらの物量に屈してしまう。

「止めろ!撃つな!」

 何か聞こえた気もするが、きっと気のせいだろう。
 だって、目の前の良化隊員たちはもうみんな死んでしまっているじゃないか。

「直ぐに次が来るぞ!」

 奴らはいくら殺しても湧いて出てくるからな。
 全く弾薬費がいくらになるのか心配になってくるよ。

<<こちら二階会議室!敵はハシゴを用いて窓から侵入してくる!
 おい!構わないから蹴倒してやれ!>>

 銃声混じりの通信が入る。
 やれやれ、機動隊じゃないんだからそんな入り方はやめてくれよ。

「ガス弾が来るぞ、防護マスクを持っていないものは直ちに屋上まで戻れ。
 確か第二便で持ってきていたはずだ」

 機関銃手から装備を受け取り、部下たちを下げる。
 これでガス弾が来なかったらいい恥さらしなのだが、たぶん来るんだろうな。
 事前に回されて来る敵情要約にはそう記載されていたのだから間違いない。
 しかしながら、こちらの分析能力を知られるのが好ましくないのはわかるが、情報部関連部員だけではなく、全員に知らせるべきじゃないのか?
294図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/11(木) 00:59:13.85 ID:uVFKvArC
「やっと見つけたぞ」

 そんな事を思いつつ防護マスクの装着を確認したところで、聞き慣れた声をかけられた。

「ああ、これは堂上図書正殿、ご無事でしたか」

 軽機関銃を装填する。
 鈍い金属音が鳴り、堂上の隣にいた笠原が嫌そうな表情を浮かべる。
 民間人に近いメンタリティを持つ彼女にとっては、俺は相当に禍々しく見えることだろう。

「なんとかな。そちらも元気そうで何よりだが」

 そう答えつつ、彼の目線は俺の防護マスクと軽機関銃を行ったり来たりしているようだ。
 彼ほどの人物であれば、このクソ忙しい状況で余計ないちゃもんを付けてくることはないと信じたいのだが。

「アンタ、勝手にマシンガンを拾ってきて、そんなに人殺しがしたいか!」

 なるほど、彼が口を出さなくても、こいつがいたか。
 それにしても小娘め、機材の名前ぐらい正しく覚えろ。

「ちょっと失礼!」

 いきなり怒り狂いだした笠原を無視し、俺は軽機関銃の引き金を絞った。
 偵察のつもりなのか数名で突入してきた連中におもてなしを行う。
 どうやら歓迎したいのは俺だけではなかったようで、正面玄関を射界に収める左右の陣地からも銃弾のシャワーが浴びせかけられる。
 おやおや、勇敢な彼らが即死したのは喜ばしいことだとして、必死に這いずっていた負傷者たちまで殉職してしまったようだな。

「おい通信、増援をもう少し呼んでくれ。
 たぶんここに一斉に仕掛けてくるぞ」

 突然の連射に驚いている堂上たちを無視し、俺は近くにいる通信士に命じる。
 ガスを使うにしても使わないにしても、危険性は大きいが一斉に大勢を突入させられるこの正面玄関を突破口にするはずだ。
 そんな事を思っていると、二階右側の陣地にも軽機関銃が到着しているのが見える。
 護衛は一個小銃班か。
 よしよし、これで火力は安心だな。

「いきなり撃つな!それにあの人達は!」

 一体なんなんだろうこの女は。
 ここがどこで、今なにをしているのかを知らないのか?
 戦闘中とは思えない態度に思わず俺が激高しかけた瞬間、何かが煙を引きながら飛び込んできた。
 防護マスクを既に被っておいて正解だったな。
 
「状況ガス!ガス!ガス!防護マスク着装!無いものは下がれ!」

 おいおい、確かにガス弾使用の有無については書面では取り交わしていないが、一応紳士協定で使わないことにしているじゃないか。
 それに、そんなものを使ったところでここは屋内射撃場なんだぞ。
 大歓迎してやる。
295図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/11(木) 01:02:07.52 ID:uVFKvArC
「三曹殿」

 あの図書士長が声をかけてくる。
 彼も当然ながら防毒面の準備はできていたようだ。

「もう三曹じゃないぞ。それでなんだ?」

 予め命じておいた図書士たちが運んできた会議用長机を持ち上げ、階段に向けて投げつける。
 にぎやかな音を立てて次々と長机達が階段を転げ落ちていく。
 着色された催涙ガスが立ち込め、ガスマスクで視界が狭まり、さらに防御射撃を浴びながら、この階段を登り切れたらご褒美に至近距離から撃ってやろう。
 ガスが充満するまであと二十秒ほどだろうか。
 セオリー通りすぎる動きからして、ストップウォッチで図りながら突入してくるはずだ。
 この手の突入方法をやったことがない良化隊員たちは、それ以外やり方を知らないからな。

「ご指示をお願いします」

 どうやら訂正するつもりはないらしい。
 
<<至急至急、本部より各員。
 良化隊はガス弾を使用した模様。防護マスクを持っていないものは直ちに屋上まで退避。
 手薄になる部署は報告せよ!>>

 通信機の向こうからは混乱した様子が伝わってくる。
 敵を欺くにはまず味方からというのは有名な言葉だが、それで準備もなしに催涙ガスを吸わされる連中はたまらんだろう。

「全員防護マスク着装を再確認。
 何か動いたら遠慮はいらんから撃て」

 次々と催涙ガスが充満していく中、戦闘準備が進んでいく。
 防護マスクを持っていない者たちは咳き込みつつ廊下へと下がっていき、逆に準備のいい連中が続々と流れこんでくる。
 今後はこれも標準装備になるんだろうが、重いから毎回持っていくのは嫌なんだよな。

「笠原っ!いいから被れ!」

 いきなりの怒号に思わず振り向くと、長身の体を折って座り込んでいる笠原に堂上が防護マスクを無理やり被せていた。
 どうやら彼女は持ってきていなかったようだ。
 確かに彼女は女性通信士として前線には出さない予定だったはずだし、当然といえば当然か。

「そん、な。教官、こそ」

 激しく咳き込みつつそんな事を言っているが、いいから黙っていろ。
 というか、さすがは特殊部隊の教官殿だ。
 自分の防護マスクを部下に与えつつ、引きずって退避しようとする余力を残していらっしゃる。

「すまん、まか、せる」

 人間である以上、刺激物の影響はあるようだが、それでも言葉を発せるとはな。
 感心している俺の鼓膜を、玄田隊長の声が叩く。

<<玄田より全隊員へ。
 あと5分で検閲時間は終了する。
 何としても生き延びろよ。以上だ>>

 気がつけばもうそんな時間になっていたようだ。
 ガスが急速に広がっていく中、敵の攻撃は怖いほどに静かになっている。
 まもなく、突入なのだろうな。
 さあ、ラストスパートだ。
296図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/11(木) 01:04:43.68 ID:uVFKvArC
本日はここまで
次回はできれば来週に。
297創る名無しに見る名無し:2011/08/11(木) 13:27:14.07 ID:UWurJYS+
投下乙
盆明けには新仏が...南無南無
298創る名無しに見る名無し:2011/08/11(木) 15:42:36.97 ID:eKQugo0N
投下乙

怖えわ面白いわ、このスレはレベル高いなあ
299創る名無しに見る名無し:2011/08/11(木) 17:06:46.06 ID:7mCk36HT
乙です!
意外と原作組が元気?
笠原あたりは吐くか泣くかしてるかと思ってたけど
300創る名無しに見る名無し:2011/08/11(木) 18:36:10.24 ID:WH6dj/k0
乙です
図書隊はすごい勢いで経験積んでんなw
こいつらレンジャーとかとも渡り合えるんじゃね
そして笠原はもう転職を考えたほうがいいな
さすがにここまで危険度の高い職場だと過保護じゃなくても親が心配するのは当たり前だわw
301創る名無しに見る名無し:2011/08/11(木) 20:11:50.32 ID:UWurJYS+
>>300
図書隊はあくまで防御
テロリストに対しては容赦ないけどな
レンジャーとの交戦は政府が自衛隊に出動命令出さない限り無いだろ
302創る名無しに見る名無し:2011/08/12(金) 00:28:22.72 ID:+S560JX5
>>301
いや…単に能力的なこと言ってるのに
現実的に交戦する可能性がないとか
何ずれたこと言ってるんだ

もっともこれ以上派手にやらかすと自衛隊の出番もありそうな気がするが
303創る名無しに見る名無し:2011/08/12(金) 15:14:38.93 ID:4EcX/Rsp
>>302
能力的な例えするなら「〜に匹敵する」または「〜相当な戦闘力」
前者だと潜在的な敵扱いになるから
仮にも「書物の守護者」なら言葉の選択は慎重に

元ねたの「図書館戦争」が発表された時は「政権交代」なんてフィクションの時代だったんだよな(遠い目
304創る名無しに見る名無し:2011/08/13(土) 14:51:50.24 ID:wRIzwBeL
お、おう・・・せやな
305図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/18(木) 23:39:48.10 ID:ZbGZJ3LO
正化31年10月22日水曜日11:26 神奈川県小田原市 財団法人情報歴史資料館 一階正面玄関前

 情報歴史資料館を廻る攻防戦は、遂に最後を迎えようとしていた。
 大量に打ち込んだ催涙ガスの煙を利用しつつ正面玄関前の階段下に集合する良化隊員たち。
 彼らの手には自動小銃や防弾盾が握られており、煙に乗じて一斉に突入を図るつもりである。

「課長、突入準備完了しました。
 あと二十秒で時間になります」

 ストップウォッチを持っていた課長補佐が声をかける。
 作戦終了まであと僅かとなったこの時、正面玄関前では三十六名の隊員が突入準備を整えていた。
 全員が一人でも多くの図書隊員を道ずれにするため、隠しようの無い殺意を持ち、戦意は負けかけているが故に極めて高かった。

「うん、あと4分と少し、みんな申し訳ないけど、付き合ってもらうよ」

 メディア良化隊神奈川支部小田原支所特務機関強制査察課長という肩書きを持つ彼は、部下たちに語りかけていた。
 そのような事をしている時間が無いことは重々承知しているのだが、それでもこうする必要性を感じたからだ。
 何しろ、これから向かうのは機関銃陣地である。
 そこに、気休め程度の役にしか立たない防弾盾を構えて突撃しなければならないのだ。

「今回の作戦ではこちらがあまりにもやられすぎている。
 こんなことは言いたくないけど、傾いた天秤は正さないといけない。
 一人でも多くの敵を倒し、一人でも多く生きて帰るんだ」

 多くの犠牲が出ることは、残念ながら確定された未来である。
 それでも、いや、むしろだからこそ、彼らはガス弾まで投入して突撃しなければならない。
 叩かれっ放しでは、法務省と文部科学省の間で行われるパワーゲームに確実に悪影響が出てくる。
 それに、現時点で判明している死者数だけでも、首都圏のメディア良化隊は大幅な戦力不足に悩まされることが決定している。
 当面の活動のためにも、今後のためにも、ここでの突入は行われなければならないのだ。

「正直なところ気は進まないけど、これも俸給の内だからね。
 それじゃあ、そろそろ行こうか」

 彼はそこまで言うと正面へと向き直り、指揮棒を振り上げた。

「総員、突入!」

 彼の号令とともに、突入支援にまわされた二個小隊が一斉に支援射撃を開始する。
 三丁の軽機関銃が正面玄関内部に向けて制圧射撃を開始し、さらに89式小銃やMP5から放たれた銃弾が窓という窓に立て続けに撃ち込まれる。
 優先的に弾幕を叩き込まれたために壊滅状態に陥っていた狙撃班たちも、この時ばかりは勇気を出して支援射撃に参加している。

「第一班盾構え!前進!突撃!突撃!」

 班長や主任たちが声を張り上げ、二枚重ねにした防弾盾を構えた隊員たちが階段を一気に駆け上がる。
 ガス弾使用前に撮影された映像により、正面玄関に入って直ぐの場所には障害物は無いはずだ。
 武器としては全員がMP5もしくは拳銃と軽装だが、半円を書くようにして陣を作り、待ち伏せに備えるというのが彼らの仕事だ。
 そのために、盾の使用に影響がある武器を持つことはできない。

「第一班に遅れるな!第二班腰を上げろ!突入!」

 自動小銃を構えた彼らは、戦果拡張が仕事だ。
 防弾チョッキを着込もうとも意味を成さない小銃弾を叩き込むことのできる彼らは、敵の人員を殺傷するという作戦目標に必要不可欠な存在である。
 盾を振り上げて前進する第一班たちが玄関前の階段を上りきろうとするところで、支援の発煙弾がさらに撃ち込まれる。
 今回の作戦のために急遽徴用された警視庁機動隊からの出向ということもあり、彼らの狙いは正確無比だ。
306図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/18(木) 23:40:31.16 ID:ZbGZJ3LO
「足を止めるな!展開急げよ!」

 この時、メディア良化隊特殊査察課員の一人である飯豊という名の彼は、仲間たちとともに最前列の第一班に所属していた。
 煙があふれ出る正面玄関の向こうは、濃い霧に覆われているようなものだ。
 視界は全く無いといっても過言ではない。
 
「行くぞぉぉ!!!突撃!!」

 防護マスクを着用しているために苦しい呼吸を何とか耐え、仲間たちとともに正面玄関へと続く階段を駆け上がる。
 彼の左右には良化特務機関訓練学校以来の同期たちの姿がある。
 誰もが今までの激戦に耐え抜き、そして今日という異常な一日も生き延びることができている精鋭だ。
 非力な書店や出版社虐めしかできない一般隊員とは違うという意識が、今日は特にプラスに影響しているようだった。

「飯豊!遅れるなよ!」

 傍らを進む仲根が声をかけてくる。
 低俗なタブロイド紙の記者をやっている父親への反発心から良化隊に入った彼は、今日は一段をやる気に満ちている。

「お前こそな!野田!お前もだよ!」

 自分の左隣を走る同期生に会話を繋げる。
 雄たけびを上げていてこちらの声は聞こえていないようだが、そこからは豊富な戦意しか感じられない。
 あるいは恐怖心を押し殺すために気合を入れ続けているだけかもしれないが、彼の射撃能力は光るものがあり、隣にいてさえくれれば安心して戦える。
 研修期間中に実家の書店に査察に入ったときには随分と荒れていたが、時間が全てを解決し、今では優秀なメディア良化隊員だ。
 
「報告!飯豊ほか二名突入します!」

 胸元のマイクに怒鳴ると同時に破壊された自動ドアを抜ける。
 先ほど追加の発煙弾が撃ちこまれたため、屋内は催涙ガスが充満していて何も見えない。
 とにかく感覚で進み、盾を床に叩き付けるようにして構える。

「報告!敵の抵抗なし!展開完了!」
<<報告!吉田ほか二名突入に成功!展開も完了!>>
<<ほっ報告!和田ほか二名、展開完了しましたっ!>>

 通信機からは作戦が順調に成功していることを示す仲間たちの報告が聞こえてくる。
 思わず頬が緩む。

「なあおい、順調じゃないか」

 隣にいるはずの仲根に声をかける。
 停電しているのか警報音すらならないため、エントランスホールは自分たちが立てる物音以外何も聞こえない。
 後ろからは後続の第二班が立てる賑やかな足音と雄たけびが連鎖して聞こえてくる。

「図書隊の連中、たまらず下がったのかな?」

 仲根から押し殺した声が返ってくる。
 煙と防護マスク越しに見ても分かるほどに緊張しているらしい。

「どうだろうな、どうにも敵の動きが大人し過ぎると思うんだよ」

 反対側の野田からは後ろ向きな意見が聞こえてくる。
 だが、俺としても奴の意見に同意だ。
 これ以上の消耗を避けるためにも、下がれるだけ下がって時間切れを待つという作戦は決して間違っていない。
 そのはずなのだが、今までの猛烈な反撃を見ていると、どうしても連中がそんな策を取るとは思えないのだ。 
307図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/18(木) 23:41:48.50 ID:ZbGZJ3LO
<<本部より第一班、第二班が突入した、警戒せよ>>

 やっと来たか。
 一分も経っていないはずなんだが、随分と待たされたような気がするな。

「頭上に警戒!進むぞ!道空けろ!」

 危険を冒して振り向くと、ガスを切り裂くようにして第二班が続々と突入してきていた。
 室内にガスが立ち込めている関係で後光が差しているかのような背景からのその姿は、幻想的ですらあるな。

「突入!道を開けろ!」

 自動小銃を構えたまま第二班は突入を継続する。
 二階や左右の通路に銃を向けて警戒しつつ、後ろから続く隊員たちが階段のある方向へ向けて突き進んでいく。
 訓練にあたったSATや自衛官達が見ても満足感しか覚えないだろうその姿は、非常に頼もしい。
 
「警戒しろよ!」

 前衛に続けて突入に成功した主任が叫ぶ。
 彼と共に入ってきた良化隊員は小銃を頭上に向けてはいるが、立ち込める催涙ガスのせいで視界不良というより視界ゼロである。

「ガスが濃い!頭上に注意!」

 口調こそ厳しいが、どこか虚しさが漂っている。
 第二班は口頭ながら無制限の殺傷行為を許可されており、さらにありったけの弾薬を持たされている。
 だが、決死の覚悟で突入してみれば、抵抗はなく、それどころか敵の姿さえ見えない。
 おまけに味方のガス弾のおかげで何も見えないので奥へ進むこともままならない。
 こんな状況じゃあ俺たちも活躍のしようがないんだが。

「油断するなよ!」

 互いに声を掛け合いつつ、盾を構えたままゆっくりと歩みをすすめる。
 その後ろから第二班も付いてくるが、視界不良が邪魔をして足元を確かめつつという締まらない姿だ。
 左右の同僚と隙間を開けないように気をつけつつ、前進を続ける。
 一歩、また一歩、さらに一歩。
 敵の抵抗はない。
 うまくすれば抵抗皆無で正面玄関制圧ぐらいは出来るかもしれないな。
 俺がそんな事を思ったところで、盾に固い何かが幾つも投げつけられた。

「す、スタングレネード!」

 仲根の上ずった警告が聞こえる。
 それに答える余裕もなく、俺の視界は閃光に包まれた。
308図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/18(木) 23:42:35.22 ID:ZbGZJ3LO
正化31年10月22日水曜日11:28 神奈川県小田原市 財団法人情報歴史資料館 一階正面玄関

「スタングレネード炸裂の数秒後に一斉射撃、一人も生きて返すなよ」

 眼下の一階部分からは、良化隊員たちの立てる不用意な騒音が響いてきている。
 外部監視班からの情報では全部で一個小隊ほど、今入ってきているのは二個分隊と少しだけのようだ。
 もう少し引きこんでからのほうが理想的ではあったのだが、時間がない。
 とても残念なのだが、ここまでだな。

「用意」

 隊内無線に向かって囁く。
 機関銃が静かに階下を向き、小銃手たちが攻撃準備に入り、閃光発音筒を持った俺を含めた六名が投擲の準備をする。

「投擲」

 掛け声など出さず、全員が無言で階下へ向けて投げつける。
 すぐさま床に伏せ、目を閉じて耳を塞ぐ。
 一秒、二秒、三秒、閃光、轟音。
 目を閉じていても感じる強い光と、耳を塞いでいても鼓膜を叩く轟音が聞こえる。
 だが、それを苦しむという贅沢はあとだ。
 小銃を構え、階下へ向ける。

「全員撃て!」

 傍らの機銃手が返事もなしに銃撃を開始する。
 周囲に伏せていた隊員たちが、一斉に立ち上がって発砲を始める。

<<第二機銃座撃ち方始め>>

 向かって左側から煙越しにも分かる銃火が見える。
 護衛の隊員たちも撃ちまくっているようだな。
 
<<第三機銃座撃ち方始め。スタングレネード残り三発>>

 ありがたい事に、右側の陣地にはまだ残りがあるらしい。
 残り時間は一分と少しだから、次回に取っておこう。

「敵襲!待ち伏せだ!」

 階下からはうめき声に混じってそんな警告の叫びが上がる。
 遅すぎるんだよ素人どもめ。
309図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/18(木) 23:43:17.99 ID:ZbGZJ3LO
「応戦しろ!」

 ようやく反撃し始めたか。
 まあ、煙の中でスタングレネード六発の不意打ちを受けたにしては非常に早い立ち直りだ。
 評価を素人から雑魚に格上げしてやる。
 声が聞こえた方に向けてフルオートの一連射を叩き込む。

「畜生!どこにギャ」

 よし命中。
 喚き声が聞こえないところを見ると、一撃で致命傷を負わせるか気絶させたのだろう。

「頭を上げるな!頭上げるな!ふせr」

 指揮官らしい命令が聞こえたが、直後に途絶えたところを見るとこちらの銃弾が命中したのだろう。
 
「主任!頭部に被弾!後送するぞ!」

 銃声に混じってそんな言葉が聞こえてくる。
 敵指揮官一名射殺。
 こんなものではすまさんぞ。
 煙で視界を遮られつつも、素早く弾倉交換を行う。

「盾を上げろ!早く防ぐんだ!後退!」

 さすがに視界が悪すぎるだけあり、これだけの火力を集中させても直ぐには全滅させられないようだな。
 次回はいい加減に破片手榴弾ぐらいは使わせて欲しいものだ。

「いた、痛い、ちくしょう、いた」

 とはいえ、一個小銃小隊に軽機関銃が三基、それが大きいとはいえわずか一室に集められているのだから、いつまでも当たらないわけがない。
 順調に階下の人々を殺傷できているらしく、金属製の盾が転がる音や、逃げようとしてもみ合う人々の罵声が聞こえる。

「やめろ!撃つな!降伏する!」
「撃つな!撃つな!畜生!撃つな!」

 必死に逃げ惑いつつ戦意が無くなったことをアピールしているようだが、無駄だったな。
 両手を上げて動きを止めたところで一瞬で蜂の巣になっているようだ。
 そもそも、いくら叫ぼうともこちらは銃声で聞こえない。
 おまけにこちらは戦意と殺意が旺盛で、今後の情勢を見据えて一人でも多くの良化隊員を殺害しなければならない。
 止めに、一人でも戦意を喪失した者を射殺した以上、仮に気がついた人間がいたとしても、処罰を逃れるためには目撃者を抹殺しなければならない。
 大変申し訳ないが、良化隊の皆様にはご了承いただく他あるまい。
310図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/18(木) 23:44:43.58 ID:ZbGZJ3LO
正化31年10月22日水曜日11:29:30 神奈川県小田原市 財団法人情報歴史資料館 一階正面玄関前

「課長」

 土嚢に身を隠し、必死に状況を掴もうとしている私のところに、課長代理が現れた。
 先程から盛大に流れ弾が飛び込んでくるおかげで、彼はほとんど地面に伏せているような状況だ。

「なんだ?時間か?」

 わかってはいるが、思わず尋ねてしまう。
 査察に関する時間は非常に厳密に管理されており、出来る限り一秒単位のズレすら出さないようにしている。
 それは、事前に申請された時間こそが日本国と戦場という2つの世界を切り替えるための絶対的な存在だからである。

「あと二十六秒です。信号弾の準備をお願いします」

 課長代理の言葉は非常に落ち着いたものであり、またゆっくりとしたものであったが、私は腰に下げた信号拳銃を手にとった。
 私の他に二人、課長級の人間が信号弾を打ち上げる。
 また、それと同時に図書隊の人間も同様に三人が同じ手順を実行する。
 これとは別に双方の拡声器が戦闘終了を知らせるブザーを鳴らすことになっており、これでも発砲をやめなければ、それは処罰の対象となる。
 以前はブザーだけだったらしいが、戦闘の激化が人間の注意力を大きく奪うことから、今回から急遽信号弾による合図も加えられることになったそうだ。
 とにかく、私の部下たちがこれ以上傷つかないのであればそれでいい。
 私は仰向けになると、信号拳銃を大空へと向けた。

「残り五秒、四秒」

 課長代理の冷静な声が残り時間を告げていく。
 部下たちが突入した正面玄関からは、未だに銃声が鳴り続けている。
 誰も後退してこないところを見ると、まず間違えなく全滅か、良くて釘付けになって身動きがとれない状況のはずだ。
 早く、早く終わってくれ。

「二秒、一秒、今」

 課長補佐の言葉と共に、私は信号弾を発射した。
 反動と共に煙を引きつつ信号弾が飛び出し、大空へ向けて飛んでいく。
 視界の端には双方が打ち上げた信号弾が同様に敷地内のどこにいても見えるように飛翔中である。

<<査察終了、査察終了、撃ち方やめ>>

 無線、拡声器、放送設備の全てから大音量で戦闘中止を命じる言葉が発せられ、さらにブザーが鳴る。
 やっと終わった。
 同じ日本人の、それも公務員同士が税金を使って殺しあうなどという愚行の、本日の部が終了してくれた。
 
「課長」

 呆けたように空を眺めていた私を叱るように、課長代理が囁く。
 そうだった、まだ何も終わっていなかった。

「全員武器を格納しろ!直ちに負傷者の収容!救急車までの道を開けろ!」

 照れを隠すように私は声を張り上げ、まだ生き残っていた周囲の部下たちに命令を下し始めた。
 先ほどとは方向性がまるで違うが、これも時間との勝負だ。
 できるかぎりの成果を出さなくてはならないな。
311図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/18(木) 23:46:01.31 ID:ZbGZJ3LO
正化31年10月22日水曜日11:35 神奈川県小田原市 財団法人情報歴史資料館屋上 臨時指揮所

「注意!ヘリが離陸します!下がって!頭を下げて!」

 屋上の片隅にあるヘリポート付近で、本部管理小隊の図書士長が声を張り上げている。
 緊急搬送が必要な負傷者の数は未だに多数おり、救急車や図書隊の車両を総動員しても全く不足しているのだ。
 昇降の整理により稼がれる時間がたった一秒であっても、今は大切だ。

「玄田隊長」

 作業の様子を眺めていた玄田のところに、本部管理小隊長が報告に来る。

「おう、なんだ?」

 どうせ碌でも無い報告であることは理解しているが、彼の立場がそれを聞かないという選択を許さない。
 
「現時点で確認されている殉職者と、緊急搬送が必要な重症者の数です」

 手渡されたリストは長い。
 今回は過激化するばかりの昨今の警備の中でも特筆すべき激戦であり、かなりの死人が出ることは覚悟していた。
 しかし、実際に百人を超える死傷者を見せつけられると、さすがの玄田も力が抜けてしまうことを止められない。
 良化隊に与えた損害はこんなものではないだろうが、それはそれである。

「確かに今回の警備で守られたものは、それだけの価値はあるのかもしれん。
 だが、だがな」

 彼が内心で渦巻く何かを吐き出しそうに鳴った途端、傍らの小隊長が叱りつけるように小声で話しかける。

「失礼ですが玄田隊長、それ以上はいけませんよ。
 彼らはなんのために死んでいったんですか」

 処罰を覚悟しているに違いない鋭さを持ったその言葉は、被害の大きさに麻痺しかけていた玄田の意識に強烈な一撃を加えた。
 そうだ、俺たち図書隊はなんのために武装し、なんのために死ぬのか。

「我々の目的は、日本国の自由と民主主義の保全ですよ。
 今さら何を言っているんですか?」

 凍りついたようになった二人に、背広姿の男が歩み寄る。
 一切の権限を持たず、ただ観戦のためだけにこの指揮所に立っていた男。
 情報部の責任者としての権限を持ち、ヤマダ、スズキ、サトウといったありふれた名前で呼ばれる彼は、愉快そうな笑みを浮かべて続けた。

「自称治安維持を担当する警察、国防の任につく自衛隊、そして我々。
 警察は随分と頼りないですが、とにかくこの国の自由と民主主義を護ることが出来るのはこの組織だけです。
 犯罪者、敵国、メディア良化隊、こういった手合いを撃滅することこそが我らの存在意義であり、期待されるべき働きじゃないですか」

 何か恐ろしいものを見るような視線を周囲から浴びせられているにもかかわらず、彼は笑みを崩さなかった。

「これで流れが変わるでしょう。
 良化隊の連中も、我々と殴り合えばどうなるかを少しは理解できたはず。
 今後の展開に乞うご期待といったところですが、失礼」

 そこまで言い放ち、彼はイヤホンから聞こえてくるらしい無線にいきなり集中し始めた。
 まともに相手をしたくない周囲の人々が本来の作業に戻ろうとした瞬間、彼はまたもや口を開いた。
312図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/18(木) 23:47:21.56 ID:ZbGZJ3LO
「なんだと!?」

 それは文字では表現できないほどに切迫した、悲鳴にも似た響きの声音だった。
 再び視線が集中するが、彼は先程までのキャラクターを完全に捨て去り、ありのままの態度で何者かの報告に聞き入っている。

「護衛は?全滅だと!?それに、爆破ってお前、あの会場が全て、なのか?」

 先ほどとは全く異なる意味で異常な様子に、玄田は声をかけるタイミングを失っていた。
 いつまでも止まっている訳にはいかない人々は作業を再開するが、それでもチラチラと様子を伺っている。

「何があった?聞かせてもらえるんだろうな?」

 それほど時間が経過したわけではないが、ようやく落ち着いた様子の彼に玄田は話しかけることに成功した。
 声をかけられた方は、引きつった笑みを浮かべつつ、極めて平坦な口調で情報を伝えた。

「野辺山宗八氏の葬儀会場が襲撃された」

 それは、極めて重大な情報である。
 この情報歴史資料館の持ち主であった野辺山氏の葬儀には、メディア良化法に反対する立場の人々が多く参列していた。
 当然ながら、その中には社会的に高い立場の人々もいる。
 例えば、関東図書基地司令にして特等図書監である稲嶺和市氏である。

「それは、稲嶺司令はご無事なのか!?」

 話を盗み聞きしていたらしい他の隊員たちも駆け寄ってくる。
 本来であれば叱責に値する行動なのだが、そもそも玄田自身あまりのことに我を見失ってしまっていた。

「わからん」

 対する彼は、周囲の様子で逆に落ち着かなければと思ったのか、口調は先程より若干冷静さを取り戻している。

「護衛は全員射殺されていた。
 おまけに葬儀会場が大規模に爆破され、周囲一帯は阿鼻叫喚の地獄絵図らしい」

 状況は最悪を超えていた。
 葬儀には、稲嶺司令だけが参加していたわけではない。
 通常業務に差し障りのない範囲で複数の図書隊幹部が参列しており、それ以外の参列者たちも潜在的な図書隊派の人々だ。
 こんな事を言っては不謹慎極まりないが、大打撃である。

「既に県警は緊急配備を敷いたそうだ。
 現在周辺の県警に働きかけて全ての県境を封鎖すべく手配中とのことらしい。
 周囲の消防は全て出動らしいので、恐らくは大規模な火災も発生しているはず」

 通常の火災とは異なり、建造物に対する爆破テロで大規模な火災まで発生したということは、恐らく内部の人間は絶望的である。
 参列者は数百人の規模のはずだが、恐らく生存者は数十人いれば御の字といったところだろう。

「犯行声明は出ているのか?」

 当然の質問である。
 まだ具体的なところは見えていないが、話を聞いただけでも相当の大規模テロである。
 今日の戦闘でも片鱗は見えていたが、良化法に賛同する団体は、本格的なテロリストとしての道を歩むことを決定したようだ。
 そうであるからには、暴力によって自己の意見を主張するための何らかの声明がなくてはならない。

「今のところはまだだが、必ず声明が出されるはずだ。
 私は基地に戻る。ここの撤収を急いでくれ」

 そこまで言い放つと、情報部の男は足早に階下へと消えていった。
313図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2011/08/18(木) 23:51:08.34 ID:ZbGZJ3LO
本日はここまで。
続きはまた来週。
314創る名無しに見る名無し:2011/08/19(金) 00:21:27.61 ID:VlZZCJqa
乙です
とうとう良化隊もなりふり構わず本気を出してきたか・・・
これはマジで内戦になるかもしれんね
315創る名無しに見る名無し:2011/08/19(金) 06:22:36.77 ID:uulywFwa
図書館内戦…
だと図書隊の内紛みたいに聞こえるな
316創る名無しに見る名無し:2011/08/19(金) 20:12:51.37 ID:dWAnOc8x
投下乙
今までの時間制限下の合戦が
時間制限無しデスマッチになるのか
317創る名無しに見る名無し:2011/08/20(土) 03:13:46.18 ID:5H4iQ1UL
笠原は司令の護衛についてなくてよかったなほんと
ここまでくると本気で自衛隊介入してきそうだな
318創る名無しに見る名無し:2011/08/20(土) 13:12:24.89 ID:/9BMVSmM
自衛隊は戦場に投入はしても事件の捜査や犯人逮捕は警察の仕事だからな

皆殺しにしてもかまわないなら自衛隊が最適だが
319創る名無しに見る名無し:2011/09/05(月) 07:43:28.60 ID:SuCyGPsj
保守
320創る名無しに見る名無し:2011/09/08(木) 01:54:10.07 ID:9r+H2VF/
ほしゅ
321創る名無しに見る名無し:2011/09/22(木) 21:28:19.18 ID:UQoAry4X
保守
322創る名無しに見る名無し:2011/09/22(木) 21:50:50.30 ID:ZqZX5sJs
サバイバルマンガを発見した。
ttp://non.gazo-ch.net/thread/34/533508/#TOP533508
323創る名無しに見る名無し:2011/09/24(土) 11:21:29.46 ID:wEGbVMsB
カウンターストライクの奴を投下してもいいですか?
324創る名無しに見る名無し:2011/09/25(日) 01:23:27.40 ID:afnwIug/
おkおk
325創る名無しに見る名無し:2011/10/05(水) 18:31:58.07 ID:dHSLayPS
【オンラインゲームはネクソン!】

パソコンのマウスをクリックすると銃弾が発射されて最悪の場合、敵が死ぬ。

テロリストと特殊部隊が殺しあうゲーム。その名はCSO。
殺すと、その分はクレが貰えてさらにレベルもあがる。
戦うスタンスは様々。
マグスナでキルを稼ぐクソ野郎、マシンガンで芋るクズ、チートを使う変態。
またクランというチームを作り、なれ合いをするバカもいるようだ。
俺の名前は、「まーくんEX」。階級は大尉2。
実生活では、高校の講師をしている平井真幸って言う男。
主に、非課金武器のガリル先生でキルを稼ぐ突入型だ。
最近はゾンサバでボンバーマンになり楽しんでいる。

「新MAP現実」

現実?
なんだそりゃ?
しかも最大人数40?

クリックする。
だが、そこにあったものは待機室ではなく真っ青な画面だった。

ブルースクリーン?
何が起きてる?

突如、記憶が吹き飛ぶ。
体はかなしばりにあったみたいに動かない。
目を瞑ると、自分の心臓の鼓動のみが聞こえる。

腹が裂けそうに痛い。
死ぬ?
死ぬのか?
あーあ、嫌だな…。
バーカ。死にたくねぇよ…。

魂を引き込まれるような感覚とともに意識が無くなった。
326創る名無しに見る名無し:2011/10/05(水) 22:22:56.79 ID:dHSLayPS
【CT 20人】
波平
あーちゃんカンガルー
俺様☆キタ〜
佐々木智也
まーくんEX
弁は死ね
キラービット
araki
ジョゼフ
チョン×テセ
I LOVE おっπ
ハルカカナタ
King
TAKASHI
こんにちわ根岸
JaCKerL
◎アンチ運営◎
伝説の右FW
マツバラマコト
GANTZ
327創る名無しに見る名無し:2011/10/08(土) 17:47:16.70 ID:V5NzvLhH
目の前に現れたのは、ネオンが光るオフィス街。
空は夜なのに対して、あたりは不気味に明るい。
そして、足の裏からは、コンクリートの感触が伝わる。
ここは現実。
実際にチームデスマッチを体験するというステージ。
両手に握られているのは、『IMI GaliI ARM』。俗に言う『ガリル』。
装弾数35発。保持可能弾数90発。
威力はそれなりだが、反動しにくくて軽い。
他のメンバーも状況を把握できていないらしく、罵倒している。

「どないなっとんねん。俺は帰るで。」 
「おいおい、ふざけんじゃねぇぞ!!!」
「実銃…?」

パン

辺りは血液で染まる。
太った少年が、額から血を流して力無く倒れた。

『キラービット→GANTZ』

人が死んだ。
眼鏡をかけた青年のサブマシンガンから煙が出ている。
本当に実銃。
遅れて、悲鳴が上がる。

「あっああぁ…ぁぁあああああああああああぁぁぁっ!!!!!」
「銃口っ向けんじゃねぇ!!!」
「落ち着け!!!殺し合う前に同士討ちになるぞ!!!」
「…とりあえず…単独行動は控えよう…。」

ガリルを下ろす。
どうやら、本当に殺し合いになるようだ。
328創る名無しに見る名無し:2011/10/08(土) 18:25:14.73 ID:V5NzvLhH
心臓が抉り出そうに痛い。
何が何だかわからず、思考が止まっている。

「まず、どう動くか?」
「この厨房がリーダーぶるつもりか?」
「では、状況を把握できている奴がこの中にいるか?」

金髪の男がそう言うと小柄な少年は黙る。
確かに、誰も理解できない。
いきなり実銃を渡されて、暴発で人が死んだ。
そして怖い。

その時だった。

ボン、という音とともにリーダーぶった男が撃たれる。
ガリルを持つ手が震えた。
頼れるリーダーが撃たれる。
どこから撃った?
ボーと立ちすくむ俺を小柄な少年が引っ張る。

「狙撃みたいだな…しかも上手く脳みそに当てている。」

小柄な少年が倒れる。
胸に的確に一発の銃弾を受け、膝から崩れ落ちた。
近くで銃声が鳴る。
マグスナを構えた大男が遮蔽物に隠れた敵を撃つ。

「俺に続くんや!!!止まったら殺されるで!!!」

関西弁の男が走る。
何人か続いたが、数人は撃たれて倒れた。
背後では、何人かのスナイパーが狙撃している。

「これじゃ、保たねぇぞ!!!全滅するっ。」

死ぬ?
撃たれる?

直後、近くにあったアスファルトが破裂し俺は気絶した。
329創る名無しに見る名無し:2011/10/08(土) 18:40:21.91 ID:V5NzvLhH
・追記

『BOT JIM→佐々木智也』
『BOT JIM→ジョゼフ』
『俺様☆キタ〜→BOT JIM』
『BOT BEN→araki』
『BOT NICK→King』
『BOT NICK→ハルカカナタ』
330創る名無しに見る名無し:2011/10/24(月) 14:45:42.57 ID:Mp2Fu08l
ほしゅ
331創る名無しに見る名無し:2011/11/05(土) 21:10:24.43 ID:hLAqB+wi
kaso
332創る名無しに見る名無し:2011/11/11(金) 19:15:09.17 ID:qcjQ4uy3
保守
333創る名無しに見る名無し:2011/11/11(金) 21:20:02.95 ID:sDNCsXXI
機械化歩兵分隊の話書きたいなあ
IFV面白そう
334創る名無しに見る名無し:2011/11/19(土) 21:35:55.06 ID:af4Wxk+f
>>333
装甲車に乗ってたらATMで全滅とか悲しすぎるぜ
335創る名無しに見る名無し:2011/11/19(土) 22:09:07.75 ID:e6CRY+42
それはどんな車両でも艦艇でも航空機でも一緒w
336666squadron:2011/11/24(木) 21:40:13.68 ID:1+nissG1
水曜日

全艦艇で警報が鳴り響いていた。
緊急総員配置のベルのかんだかい音に、唸りをあげて飛来する砲弾の飛翔音と、腹に響く着弾音が重なる。
厚く垂れ込めた雲のした、各自が出し得る最大速力で遁走を図る援ソ船団FR77を追撃する灰色の艦影があった。
船団撃滅に執念を燃やすドイツ軍は、じつにゲルマン的な勤勉さで潜水艦、航空機と手をかえ品をかえての攻撃の後に、つ
いに堂々たる主演女優−8インチ砲8門と21インチ魚雷発射管12門を持つ重巡洋艦−が満を持しての登場とあいなっ
たのであった。
慌しく発艦準備が進められる護衛空母の鼻先では、荒ぶる北海の波頭を切り裂いて戦隊旗艦ユリシーズとその忠実な盟友で
ある “おいぼれ”スターリングが、羊の群れと襲撃者の間に割り込もうと全速で回頭している。
「なんということだ!なんということだ!」
ユリシーズの艦橋では、ティンドル提督が足を踏み鳴らし、特大の癇癪を爆発させていた。
大英帝国海軍きっての高性能レーダーを有するユリシーズが、敵の水上艦艇に砲戦距離までの接近を許すなぞあってはなら
ないことである。
だがいかに卓抜した性能を誇るマシンいえど所詮は不完全な人間の手に成るものであり、電気的、あるいは人的要素に起因
するトラブル、または天候その他の悪条件によって、所定の性能を発揮できないという事態はいつだって起こりうるのであ
った。
そしてジャイルズじいさんの血圧をさらに押し上げているのが、決死の戦いに挑む女王陛下の巡洋艦二隻を差し置いて、ヒ
ッパー級の集中砲火を浴びるという栄誉にあずかっているのが旧植民地製の安物空母、我らがグラップラーだという事実で
あった。
ヒッパー級としては火力で劣る軽巡洋艦二隻よりは航空戦力運用艦である空母のほうが優先度度の高い目標であろうし、艦
首を風に正対させるため船団から飛び出していたグラップラーが一番狙い易かったというのもある。
そのグラップラーの主機械室では機関長が、回転計式速力指示器が19ノットにあがっていくのをほとんど疑惑の目で見守
っていた。
それはこの商船改造空母の“理論上”の最高速度ということになってはいたが、“下り坂”でもなければとても出せる速度
ではないというのが全乗組員の統一見解なのだ。
艦橋では艦長が、ヒッパー級の着弾を追いかけるのに大忙しだった。
砲弾は同じ場所に落ちないというジンクスに従い、艦の前方に水柱が立つたびにその方向に舵を切るよう指示を出しながら、
艦長は機関室を呼び出した。
「全速か!」
「はい」
「敵艦は接近中だ、煙は気にするな」
「煙幕バーナー許可願います」
「許可する」
煙幕を吐きながら逃げ惑うグラップラーの左右に、いかにもドイツ的な几帳面さで等間隔に水柱が林立する−初弾からばっ
ちりと夾差されていながら奇跡的に直撃弾はなかった−なか、ずんぐりとしたグラマン戦闘機が山火事に追われるヒヨドリ
のように慌てふためいて飛び立っていく。
337666squadron:2011/11/24(木) 21:41:01.77 ID:1+nissG1
666飛行中隊のパイロットは、このときばかりは日ごろの戦闘序列などクソくらえとばかりに早いもの勝ちで飛行機に駆
け寄り、発進準備できたものから順次飛び立っていった。
最初に発艦したのはエリザベス・G・ハットン中尉が搭乗する<クイーンのQ>だった。
シャーロット・ホームズ少尉の<グースのG>、エイプリル・ダーレス少尉の<アップルのA>が後に続く。
飛行隊長のエメット・ブラウン大尉が操縦する<ハニーのH>は4番手だった。
大尉は上昇して先行した3機を先導するポジションにつくと、無線で母艦を呼び出し指示を求める。
即座に簡潔かつ明瞭な指令が返ってきた。
『ただちに攻撃にかかれ!』
レイチェル・ウエストウッド少尉がエレベーターで上がってきた<ジンジャーのJ>に乗り込むと、機付き整備長が両手を
振りながら駆け寄ってきた。
「待ってくれ、この機には燃料がないんだ!すぐ給油するからもう少し待ってくれ!」
燃料計はほとんどゼロを指している。
このまま離艦しては5分も飛べないだろう。
またヒッパー級の斉射砲弾が唸りをあげて頭上を通過し、至近弾の爆圧が9千トンのジープ空母を揺るがした。
レイチェルはにっこり笑うと車輪止めを外すよう合図した。
エンジン全開で飛び出した<ジンジャーのJ>は車輪が甲板を離れると同時に鋭い旋回を打ち、敵艦めがけてまっしぐらに
飛んでいった。
以後、バーモンジー出身の勇敢な婦人航空兵を見たものはいない。
2時50分、グラップラーの飛行甲板から最後の一機が飛び立った。
4機のマートレットからなるブラウン大尉の攻撃隊は、ヒッパー級の艦首を12時として、2時の方角から高度600フィ
ートで接近していた。
緊急発進したマートレットの左右の主翼下には、“こんなこともあろうかと”ヒッチコック技術軍曹のチームがありあわせ
の材料を使い、艦の工作室で作製した即席の爆弾架が装着され、それぞれ一発ずつの100ポンド爆弾が吊り下げられてい
る。
進撃するマートレットのコックピットから、ヒッパー級の艦首近くにひときわ大きな水柱があがるのが見えた。
『ありゃなんなら?』
ハットン中尉のグラスゴー訛りが無線機から流れる。
それは666中隊最初の犠牲者、ジェニファー・ペイジ少尉の<ヴァージンのV>が海面に突っ込んだ証しだった。
ドイツ軍艦が現れたとき、戦闘空中哨戒についていたペイジ少尉はいちはやく襲撃行動を開始していたのだが、向こう見ず
なまでに接近して掃射攻撃を繰り返す艦上戦闘機は、ついに37ミリ砲弾の直撃を受けたのである。
ボート甲板に配された連装機関砲の射撃手が放った榴弾は、舷側を掠めるようにして飛び抜けるグラマンのコックピット直
前の胴体に突き刺さり、潤滑油タンクの中で爆発した。
風防ガラスの前に開いた大穴から炎と煙を吹き出し、マートレットは石のように落下し、あっという間に海面下に姿を消し
てしまったのだった。
『よし、やっつけるわよ!』
ブラウン大尉は攻撃を命じた。
338666squadron:2011/11/24(木) 21:41:48.58 ID:1+nissG1
4機の戦闘機は対空砲火を分散させるために編隊を解き、大空に散開した。
そしてそれぞれ別々の方角から時間差をつけ、盛んに対空砲火を撃ち上げる1万トンのドイツ巡洋艦めがけて、45度の降
下角度で突っ込んでいく。
エメットは機銃の発射ボタンを押しながら操縦桿をほとんど動かさず、軽く方向舵ペダルを踏んで機体を横滑りさせた。
6挺のブローニング機関銃が吐き出すオレンジ色の曳光弾が、ヒッパー級の甲板を舐めていく。
強力な50口径弾は探照灯を撃ち砕き、20ミリ機関砲の俯仰ハンドルを破壊し、水兵の体を引き裂いて血と臓物がごちゃ
混ぜになったズタ袋に変えた。
機関銃の発砲炎で主翼の前縁を真っ赤に輝かせながら、戦闘機は怒り狂ったクマバチの群れように飛び回った。
それがだれの投下した爆弾か、正確なところは誰にもわからない。
そのときヒッパー級の頭上には10機を越すマートレットが在空していて、ひっきりなしに爆撃と機銃掃射を繰り返してい
たのだ。
確実にいえるのは誰かが投下した爆弾がドイツ巡洋艦の煙突に飛び込み、煙路の中で炸裂したということだ。
大きく破孔の生じた煙路から、重油を燃焼させることで生じる真っ黒な排気ガスがボイラー室に押し寄せた。
ドイツ海軍の鉄の規律をもってしても、急速にボイラー室に充満する有毒な煙の中で配置に留まり続けることは不可能だっ
た。
ボイラー室は放棄され、ドイツ巡洋艦はゆっくりと速度を落とし、遂に行き足を止めた。
ユリシーズの艦橋では興奮した“農夫”ジャイルズが肉薄しての魚雷攻撃を叫んでいたが、吼え狂う戦隊司令はキャリント
ンに優しく羽交い絞めにされ、艦長は180度回頭して船団に復帰するコースをとるよう命じた。
目的地はまだ遠くであり、行く手に次の障害が待ち受けていることは確実である以上、手負いの猛獣に止めを刺すためにこ
ちらが大怪我をするリスクを犯すわけにはいかぬのである。
グラップラーには攻撃を終えた艦載機が続々と帰投していた。
ただし出撃した機体より戻ってきた機体は2機少ない。
ペイジ少尉の<ヴァージンのV>、そしてウエストウッド少尉の<ジンジャーのJ>が未帰還となった。
樽のような胴体から降着装置を引き出したマートレットが次々と着艦コースに入るなか、アリシア・ミッチェルマン少尉が
エンジン不調を連絡してきた。
アリシアが機乗する<デキシィのD>はエンジンに機関砲弾を受け、シリンダーの一つが吹き飛んでいた。
サイクロンエンジンは大打撃に屈することなくいまだ回転を続けていたが、油温計はとっくに振り切れ、クランクケースの
中で破片が跳ね回るガラガラという音がコックピットに響き渡っていた。
故障機が甲板を塞ぐことを避けるため、艦長は不時着水を命じた。
<ジンジャーのJ>が駆逐艦サイラスの艦尾を横切り、着水体勢を取ったところで戦闘機の機首が爆発した。
超低空を飛んでいたグラマンは右に傾いて翼端で海面を叩き、毬のように跳ねあがってくるくると回転しながら海に突っ込
んだ。
双眼鏡を構えたオー艦長の視界には、開け放たれたコックピットの中でハーネスを締めたままぐったりと突っ伏した搭乗員
の姿がはっきりと映っていた。
サイラスの救命ボートが海面に降りるよりもはやく、国立劇場でオフィーリアを演じることが夢だった20歳のパイロット
を乗せた戦闘機は、北海の波間に沈んでいった。

ttp://002.shanbara.jp/jisakue/view/b_4.jpg
339創る名無しに見る名無し:2011/11/26(土) 18:02:27.18 ID:ac8tnuoL
>>336-338
続航に深く感謝感激する。

ポケ戦やら親玉さんらでなくて中途半端でお腹の弱いヒッパーで良かった。
死亡フラグもう一本折ったんだから、後はDoCか巡洋艦戦隊か知らないけど、
間接護衛隊に任せるんだ爺さんw

この話読み始めてからマートレット好きになったけど、
対空火力が疎かとは言え主力艦に立ち向かうと流石に。
ご冥福をお祈りします。
340創る名無しに見る名無し:2011/12/09(金) 13:23:49.01 ID:NZIBBCrz
保守
341 忍法帖【Lv=4,xxxP】 :2011/12/25(日) 05:36:38.90 ID:gGKZl122
保守代わりにてす
342図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2012/01/04(水) 20:18:03.55 ID:90LQZJkP
正化31年10月22日水曜日21:10 関東図書隊武蔵野基地 車両置場

<<本部より通達、第二中隊は直ちに戦闘準備。
 別命あるまで待機せよ。なお、実包装填を許可する>>

 屋外に置かれたスピーカーが命令を伝える。
 全ての照明を点灯させた敷地内は、夜間にもかかわらず真昼のように明るい。

「第一小隊集合!番号!」

 完全武装の図書隊員たちが自分の番号を読み上げ、装具の点検を開始する。
 稲嶺司令の拉致を受け、全国の図書隊は臨戦態勢に突入した。
 彼らは警察などという組織の力を借りずに、自力で全ての問題を解決するつもりでいたのだ。

<<安全衛生委員は弾薬庫前に集合、直ちに分配に入れ>>

 彼らは自分たちに与えられた全ての法的権限と判例を曲解の限りを尽くして利用するつもりだった。
 稲嶺司令が拉致され続けている状況を、図書隊に対する武力攻撃であると判断し、彼がいる地域を確認次第、そこを刑法などの法律の対象外に置くと宣言したのだ。
 一度それが決定されれば、あとは場所を特定することだけが重要となる。

「警部補、これはまずいんじゃないですかね?」

 図書隊の説得のために派遣された警察官たちは、完全に場の空気に飲まれていた。
 彼らの周囲にいるのは只の公務員ではない。
 法律によって人間への発砲を許可され、そしてその経験を豊富に持っている人々なのだ。

「まずいといってもなぁ、そもそもが警備を買って出ておいて、まんまと攻撃を許しちゃったのはこっちだからねぇ」

 まるでやる気のない警部補は、この場の責任者でありながら問題を解決しようという意欲が皆無だった。
 未だかつて図書館の立場に立って何かができた試しのない警察が、今更出てきて任せろと言って何になるというのだ。
 信用が皆無というどころではない、こうして敷地内を通してくれるだけでも有り難いというものだ。

「そこで止まりなさい」

 高圧的な言葉が投げかけられた時、警部補は一つの時代の終わりを痛感した。
 日本国では、最早今までの常識は通用しなくなったようだ。

「先ほど稲嶺司令の場所が判明しました。
 既に部隊が急行中であり、警察の協力は必要なくなりました。
 お引き取りください」

 武装した図書隊員の一団は、存在感だけで今すぐ消え去れと声高に主張していた。
 彼らの顔に浮かんでいるのは、明確な敵意。

「失礼だろう君!我々は警視庁から派遣されたんだぞ!」

 同行していた巡査部長が喚く。
 彼の言う事はもっともである。
 だが、ここは関東図書隊の基地であり、警察権力の及ぶ場所ではない。

「既に当該地域は法令に基づき特別対応地域に指定された。
 これ以上警察の協力は必要ない。
 我々は既に作戦行動中のため、速やかに退去しなさい」

 警察官たちが行動しやすくなるように、周囲の図書隊員たちは自動小銃を構える。
 その効果は直ちに発揮され、警察官たちは足取りも軽やかに退去を始める。
 そんな彼らを追い越すようにして、ステンシルで図書隊の隊章を施された軽装甲機動車の縦隊が追い越していった。
343図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2012/01/04(水) 20:24:24.43 ID:90LQZJkP
正化31年10月22日水曜日21:17 東京都千代田区霞が関1-1-1 日本国法務省 地下二階 メディア良化隊総務部第三管理室

 法務省の中にその部屋はあった。
 表向きの組織図や案内板には決して名前の載る事のない部署であり、当然ながら後ろ暗い仕事をしている。
 図書隊情報部も存在を知りながら一握りの人間にしか情報を伝えていない彼らは、抗争を激化させないという任務に付いているのだ。
 この部署には警視庁公安部、防衛省情報本部、図書隊情報部からの連絡官が常駐し、この抗争を内戦へと発展させないための涙ぐましい努力を行なっていた。
 つまり、諸外国の諜報機関や国際テロ組織、国家に反旗を翻しそうな思想家や過激な市民団体を図書館をめぐる問題から排除するという仕事だ。
 だが、この部署は今、崩壊の危機に瀕していた。

「管理官、防諜回線三番に関東図書隊総務部のヤマダさんからお電話です」

 私物をまとめだした図書隊情報部員を手すきの全員が必死に呼び止め、あちこちからかかってくる電話に残りの全員で応答する中、その報告は入った。
 室内が静まり返り、全員がこの部屋の事実上の責任者であるスズキ管理官を見る。
 この種の特殊な任務に関わる都合上、この部屋の全員が仮の名前で呼び合っている。
 そのため、彼らの名刺や名簿上の表記は全てカタカナの苗字のみとなっており、互いの正体を探ることは紳士協定で禁じられていた。
 あくまで建前上の協定であり、彼らは独自の方法でお互いに全員の個人情報を本人よりも詳しく知っているのだが。

「わかった」

 全員の視線が集中する中、管理官は受話器を取った。
 彼のみならず、電話の相手もこの室内の全員も、今から交わされる会話は内容次第では日本国の歴史に関係してくることを了解している。
 全ての電話は会議が始まるので後ほど折り返すの一言で切られ、通常回線用の交換器の電源が切られる。

「もしもし、スズキだが。
 ああ、状況は理解している」

 彼の声音は鋼鉄のように固く、そして僅かも揺るぎなかった。
 しかし、それは自身の正当性の確信からではなく、長い実務経験と職業意識のみを拠り所とするものだった。

「いや、決してそのようなことはない。
 そうだ、これはバランスを崩すものという認識は我々も持っている、そうだ、今回の件はあくまでも偶発的なものだ。
 適切な処理はもちろん約束する。
 それも可及的速やかに、だ」

 電話の相手は相当にヒートアップしているらしい。
 本来であれば交渉ごとではタブーとされる行為であるが、世の中にはそれを一つの手段として行う輩はたくさん存在する。
 例えば立場の弱いものにこちらの要望を無理やり受け入れさせたり、何と思われても構わないので今後は交渉を永遠にしたくない時に、感情的になることは有効な手段となる。

「いや、独自の判断での報復は我々の看過できることではない。
 居場所や正体を掴んでいるのであればまずは我々に伝えて、そうだ、それを行うのであれば図書隊は我々の敵に、いや、だから、このまま終わらせるつもりは我々にもない。
 何度も言わせるな、マフィアじゃあるまいし、血の報復などということはやめてくれ。
 忘れないでくれ、我々は味方だなどというつもりはないが、図書隊だけを一方的に不利な立場に追いやるつもりは無い」

 説得は難航しているらしい。
 血の報復を主張する図書隊に対し、それだけはやめてくれとメディア良化隊が訴えるのは滑稽に見える風景だが、互いに武装組織である以上は当然のやりとりだ。
344図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2012/01/04(水) 20:28:53.82 ID:90LQZJkP
「それはわかる。
 確かに我々ではそちらに賛同する議員や活動家を用意することはできないが、それはこちら側への圧力でなんとでも出来る。
 ああ、いや、国会の議席調整は私の権限では約束はできんが、世論誘導は確約しよう」

 その言葉に私物整理を行なっていた図書隊連絡員は鼻を鳴らす。
 この種の任務に従事する以上、子どもじみた正義感は彼も捨ててはいるが、それでもなお、管理官の発した言葉は民主主義国家としてありえないものだった。
 確かに今の日本国は、メディア良化法の名の元に独裁国家にまさるとも劣らない情報検閲体制が整えられている。
 外国からの情報流入も、国内からの情報発信も、国内への報道も、出版も、放送も、インターネットでさえも、高度な管理下にある。
 メディア良化法に従わないものはマスコミも個人出版者も、それどころかインターネット上の一ユーザーも街頭演説者でさえも、見つけ出され、武装したメディア良化隊員によって排除される。
 さすがに粛清や洗脳、強制収容こそないが、自由な意思が法律と武装組織によって統制されているという面では何の変わりもない。
 その統制側に席を置く管理官が世論誘導を確約するのであれば、まあ、ある程度の援護はしてくれるのだろう。
 しかしそれは、殺害された政治家や著名人や活動家たちの代替となる程の規模であるはずがなく、そして永続するという保証もなかった。
 この時、図書隊に属する全員が、均衡状態の維持という言葉に何の価値も見いだせなくなりかけていた。
 日本国始まって以来といっても過言ではない凶悪なテロを目の当たりにし、良化隊は明確な敵であり、警察はその役目を果たさず、自分たちは自分たちでしか守ることができないという被害妄想に近い感情を抱いていた。
 第三者の視点としてみれば極端に過ぎるという意見もあるかもしれないが、当事者の立場で考えれば、周到に準備されたに違いないこのテロ活動が実現しているという時点で、疑いようのない事実に見える。
 葬儀会場は国内外の注目が集まり、国会議員を筆頭に政財界の著名な人物が集い、テロ活動を行うにはうってつけの場所だったのだ。
 確かに警察による警備が敷かれてはいたが、蓋を開けてみれば参列者の大半が死亡または行方不明。
 図書隊の最高責任者は誘拐され、挙句の果てにそのまま逃げられ、結局図書隊が自力で発見するという始末。
 これは何か、図書隊の勢力を削ぐ目的か、あるいは図書隊以外で何らかの合意が交わされた結果に違いないと思ったとしても無理はない。

「そうだ、何なら今回のテロに対してサクラしかいない特別報道番組も放送させよう。
 ああ、こちらでわかっている過激派の処理は約束する。
 そうだ、もちろん稲嶺司令殿の救出作戦も邪魔しない。
 こればかりは好きにやってくれ、できれば一人ぐらいは捕虜を取ってくれると嬉しいが、現場の状況に任せる。
 顔さえわかれば死体もそれなりに語ってくれるからな」

 室内の全員が息を飲んでやり取りを見守っている間に、会話は和解に向けて進んでいた。
 今回の誘拐事件の解決に対するフリーハンドの承認と、少なくとも当面の全面支援。
 図書隊が求めているのはそれだった。
 決して無視できない武力を持った組織の日本国に対する撤回不可能な不審。
 これだけは絶対に回避しなければならないものだった。
 管理官もそうだが、メディア良化隊上層部にとって、統制不可能な内戦状態に陥る事は、先進国として絶対に回避しなければならないものである。
 そして、それと同時に、良化隊が絶対の権限を握り、後の世の独裁体制の礎になることも同様に避けねばならぬことだった。
 客観的に見れば今もそうなのだが、それでも上層部の一部の人々はそう考えていた。
345図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2012/01/04(水) 20:35:32.46 ID:90LQZJkP

正化31年10月22日水曜日21:26 東京都日野市上空

 休む間もなく再出動を命じられた俺は、完全武装の隊員たちと共に出動中だった。
 作戦目標は稲嶺司令の身柄確保。
 経験を重視し、元自衛官ばかりで構成されたこの部隊は、法律及び組織の全面バックアップと、高い戦意で補強されている。

「あの、失礼ですが三曹殿ですよね?」

 ぼんやりと天井を眺めていた俺に声がかけられる。
 見ると、記憶に顔が残っている年配の図書士だった。

「おお、カンボジアで一緒だったな」

 見覚えがあるどころではない。
 彼は自衛隊在籍時代に、共に砲煙弾雨の中を駆け抜けた戦友だった。
 悪夢の第十三次カンボジアPKO、国際テロ組織との戦いで部隊の半数が死傷した最後のPKO。
 どこから持ってきたのかは分からないが東製の装甲車両まで持ちだしてきた相手に対し、限られた重火器のみを拠り所にする自衛隊は惨敗した。
 それでも全滅しなかったのは特筆に値するべきことではあるが、とにかくこの派遣部隊には多大な犠牲者が発生し、目の前の図書士も俺も、重症で米軍基地に後送されている。

「除隊後にお会い出来なかったというのに、まさか戦場で再開できるとは。
 お互い、難儀な人生を送っているようですね」

 確か、彼は野次馬たちに逃げこもうとしたゲリラへ無差別発砲をした責任を問われて諭旨免職処分となっていたはずだ。
 なんとか図書隊に拾ってもらうことは出来たようだな。
 生きた人間を殺傷した経験を持つ仲間がいることは非常に心強い。
 まあ、図書隊防衛部にいて対人戦闘経験が無い奴というのはほとんどいないが。

「また宜しく頼む。
 それにしても、よりにもよって日野とはね。
 我々も舐められたものだ」

 稲嶺司令の発信機が伝えてきた場所は、東京都日野市郊外。
 そこにある廃倉庫だった。
 図書隊は直ちに周辺地域を関東図書隊物流センターとして購入する事を決定した。
 地権者のもとに一個小隊を派遣し、その場で購入契約を完了。
 直後に関東図書隊の所有予定地に武装集団を発見したとして、各種法令に基づいて戦闘地域指定を宣言した。
 もちろんメディア良化隊および警視庁からは抗議が殺到したが、図書隊法務部はその内容について検討の上、明朝の回答を約束して電話を切った。
 戦闘地域指定は、図書隊、メディア良化隊双方が一方的に宣言できるものとして法律に定められている。
 しかしながら、実際には多方面に渡る影響が予測されるために、予備戦闘地域とされる図書館以外は事前の協議が必要とされている。
 一方的な宣言というものは、図書隊が創設されて以来初めての事であった。
346図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2012/01/04(水) 20:39:49.45 ID:90LQZJkP
「降下地点まであと五分!装具点検!」

 本部と通信を取り合っている図書監が怒鳴る。
 その言葉に全員が自動小銃の装填と安全装置を確認し、スタングレネードの個数を確認し直す。
 今回の任務は人質救出のため、軽機関銃は持ち込まれてはいない。
 屋内戦闘が予想されるため、89式小銃よりは9mm機関拳銃の方が良かったかもしれない。
 だが、敵がボディーアーマーを装着している可能性を考え、確実に戦闘能力を奪える攻撃力が重視されていた。
 それならそれで折り曲げ銃床型が欲しかったが、使用経験がないものも多いため見送られてしまっている。
 この戦闘が終わったら、全員に使用経験を持たせないといけないな。

「こんな勝手をして、法務省は黙っているのでしょうか?」

 隣の図書士長は未だに不安らしい。
 そういう事は上が考えればいいことだ。

「実弾携行して市街地上空を夜間飛行しているんだぞ。
 根回しは全部終わってるだろうさ。
 心配しないで、稲嶺司令以外全部撃ち殺せばおしまいだよ」

 窓から地上を見る。
 先発した車両部隊の上空をそろそろ通過するはずだが、彼らの姿は見えるだろうか。
 どんどん疎らになっていく住宅の灯火。
 道路がそこにあることを示す街灯の連なり。
 停車しているらしい車両のヘッドライトの煌き。

「なんじゃありゃあ」

 下を見た俺は、友軍を発見した。
 炎上する車両、見間違えようのない曳光弾の煌き、無数の銃火。

「おい!下の連中襲撃されてるぞ!」

 俺の叫びに応えるように、機体底部を何かが叩く音が鳴り始めた。

「なんだ!?何の音だ!?」

 窓の直ぐ側を曳光弾が次々に通過していく。

「航空灯を消すんだ!基地へ緊急連絡!」

 機内は一気に慌ただしくなる。
 相変わらず機体底部からは着弾を示す鈍い衝突音が連鎖していた。

「全員掴まれ!高度を上げるぞ!」

 コクピットに近い方から警告の叫びが上がり、エンジン音が一気に轟音の度合いを高める。
 眼下の戦場では、敵のものらしい車両が爆発したらしく、オレンジ色の閃光が発生していた。
347図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2012/01/04(水) 20:45:35.78 ID:90LQZJkP
正化31年10月22日水曜日同時刻 東京都日野市郊外

「左!制圧しろ!」

 前方の敵バリケードに向けて制圧射撃を行なっていた軽機関銃が、目標を民家に立て篭もった敵部隊へと目標を変える。
 窓が砕け、壁が穴だらけになり、住人か敵兵の悲鳴が漏れ出す。
 さらに、道を塞ぐようにして横倒しになっていた乗用車が爆発する。
 だが、もはや図書隊員たちに遠慮をする余裕はなくなっていた。
 奇襲により撃破された先頭車両は、装甲がない高機動車だったために完全に破壊されており、漏れ出した軽油に引火して激しく燃え上がっている。
 その炎は周辺の民家へと延焼しようとしており、この戦闘が続けば稲嶺司令救出に支障が出てしまう。
 また、敵は市街地全てを利用して攻撃を仕掛けてきており、路上に釘付けになっている彼らは、このままでは皆殺しにされてしまうのだ。

「これ以上はまずいです、我々も民家を盾に移動しましょう」

 殺到する銃弾を掻い潜って次席指揮官の元へとたどり着いた図書士長が進言する。
 先頭車両にいた人員は全員が殉職しているため、この部隊は指揮権を継承した三等図書監が苦労して指揮していた。

「よし、直ぐに移動する。
 車両はこの場に放棄、武器弾薬と無線だけはきっちり持ち出すか壊すかしておけよ」

 彼は元自衛官ではないが、図書隊において幾度と無く実践を経験し、さらには情報部の非公然活動員も務めている。
 そのため、一般隊員とは異なる思考回路を持っていた。

「報告!上空に味方らしきヘリコプター!」

 隊員からの報告に、二人は空を見上げる。
 地上から伸びる曳光弾の煌き。
 航空灯を消しているために位置の把握が難しいはずの友軍ヘリが、微かに底部を点滅させて現在位置を知らせている。
 そんなはずがない。
 UH-60は軍用機である。
 自分の位置を暴露するような機能が付いているはずがないのだ。
 
「あいつら、上に向けて撃ってやがるのか」

 図書監は表情を歪めた。
 空に向けて撃てば、弾丸は驚くほど遠くへと飛んでいく。
 そして、斜めに放たれた銃弾は、殺傷能力を持ったまま地上に落下するのだ。
 それ以前の問題として、対空射撃は禁止されている。
 撃墜された機体が市街地に落ちれば大変なことになるからだ。
 それを覚悟で対空射撃を行なっているということは、今戦っている相手はマトモな連中ではない。

「おい、何人かで適当な民家に入って電話を借りろ。
 ただちに増援部隊を呼び寄せるんだ。
 非常事態故に民間資産の強制徴用については俺が責任を取るから早くな」

 この作戦は人質奪還のための奇襲のはずだったが、もはやどうこう言っている場合ではない。
 事は既に市街地戦闘に発展しているのだ。
 速やかに出来る限りの増援をかき集め、敵を倒さねばならない。
 増速して飛び去っていく友軍機を見送りつつ、彼は部下たちの指揮に戻った。
348図書館戦争 ◆f1t8rvbeF8mh :2012/01/04(水) 20:50:17.88 ID:90LQZJkP
本日はここまで
349創る名無しに見る名無し:2012/01/04(水) 22:02:54.35 ID:1Krj0u1C
新年最初の乙
もう内戦以外の何者でもないw
もはや良化隊でもコントロールしきれていない連中が暴れてるのか
350創る名無しに見る名無し:2012/01/05(木) 20:06:04.74 ID:bumhtGpV
>>348
351創る名無しに見る名無し:2012/01/06(金) 18:27:11.59 ID:eGQ5hiTP
この作品のせいで図書館シリーズ全部読んだ
予想以上にストロベリっててびっくりw

352創る名無しに見る名無し:2012/01/12(木) 23:03:35.42 ID:kxQJ6WFS
>>348
乙です。次が楽しみです
353創る名無しに見る名無し:2012/02/06(月) 06:52:31.78 ID:uzCT1/Js
保守
354創る名無しに見る名無し:2012/02/14(火) 14:08:25.31 ID:Bf5/KDGS
バレンタイン保守w
355創る名無しに見る名無し:2012/02/17(金) 11:19:52.49 ID:kjgK0Rld
こんな空母考えてみた 
箱型で中が空洞装置になっていて
戦闘機は空洞の中を滞空する形で出撃、着艦
空母自体はホバーのように水面をきすいしながら進む
空洞から出る風圧で船体を浮かしながら進む
メリット船速が早い
デメリット空洞の中に滞空するため着艦が難しい

356創る名無しに見る名無し:2012/02/17(金) 15:00:10.74 ID:jJwzMlhf
>>355
たぶん「風洞実験装置」から思いついたんだろうけど
物理の作用・反作用を考えたらどんだけ無茶かわかるかと
357創る名無しに見る名無し:2012/02/17(金) 16:25:44.84 ID:kjgK0Rld
>>356
そうそう水面に浮かぶ筒型のジェット空母
船より飛行機に近いかも
358創る名無しに見る名無し:2012/02/17(金) 22:15:33.28 ID:jJwzMlhf
>>357
いっそのこと空中基地にしたらw?
http://livedoor.blogimg.jp/godzitoraman/imgs/f/c/fc451ba0.jpg
359創る名無しに見る名無し:2012/02/22(水) 14:26:30.57 ID:Q5EbLxdr
358>>古いイラストですねー

無人機専用の弾丸考えてみたよ
6mmぐらいの反応炸薬弾
火薬の周りに0.3mmのタングステンワイヤーを巻きつけてその外側に
1mmぐらいの厚さの銅を覆う
小さなゴルフボールみたいな形
信管には圧電素子を使って着弾で爆発させる
(信管にスイッチが内臓してありバレル内でONになるようにする)
ガスで発射する
メリット弾丸を大量に搭載できる、対人に効果あり
デメリット弾が高い、
イメージ的には金属製のBB弾が破裂して溶けた銅が
ワイヤーを伝って指向性をもって破裂する
指向性を持たすためにワイヤーの巻き方を単一性にする
360創る名無しに見る名無し:2012/02/23(木) 18:49:50.13 ID:OU05VN9n
>>359
すごいね!!
どうやったら思い付くんだw
最近ミリタリーにハマりだして絵描いたりしてるけど、専門書的なん欲しくなってきた!
しかし武器かんがえたり戦法かんがえたりする人ってホントすごい。
361創る名無しに見る名無し:2012/02/24(金) 16:38:34.96 ID:OG735yx0
記憶を頼りにどこまで描けるかやってみた。
色々間違ってたけど、せっかくなんで…
http://imefix.info/20120224/631256/
http://imefix.info/20120224/631257/
362創る名無しに見る名無し:2012/03/03(土) 04:47:20.06 ID:XnYtQKDZ
右肩に押し当てているのに、なぜ左手でトリガーグリップをムリクリに握るんだね?
363創る名無しに見る名無し:2012/03/03(土) 09:30:06.24 ID:YSz22IjK
そう、そうなんだorz
後でスナイパーライフルで画像検索して気付いたんだ…
もっと勉強して出直してくるわorz
364創る名無しに見る名無し:2012/03/09(金) 07:27:24.45 ID:7AwkT9BJ
RPG−7でも、そのミスを犯す人がいるらしい。気をつけて、ファイトォ。
365創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 16:58:38.35 ID:XtgLkMRM
保守
366創る名無しに見る名無し:2012/04/17(火) 06:25:31.92 ID:aWANkHzj
保守
367創る名無しに見る名無し:2012/05/10(木) 15:15:56.59 ID:pBD8++A9
図書館氏を待つために保守
368創る名無しに見る名無し:2012/05/31(木) 10:29:44.72 ID:cvaAtHTm

保守
369創る名無しに見る名無し:2012/07/01(日) 18:53:58.72 ID:NxoHOjPY
保守
370創る名無しに見る名無し:2012/07/23(月) 20:52:01.23 ID:M/99aAJP
ほっす
371創る名無しに見る名無し:2012/08/10(金) 18:30:01.30 ID:PWDiHh6u
保守
372創る名無しに見る名無し:2012/08/12(日) 21:32:07.65 ID:SDgjA8vH
超能力者VS連合国軍隊の戦争とかどうかな?
もちろん、主人公はただの自衛官でね
373創る名無しに見る名無し:2012/08/12(日) 21:32:43.32 ID:SDgjA8vH
超能力者VS連合国軍隊の戦争とかどうかな?
もちろん、主人公はただの自衛官でね
374創る名無しに見る名無し:2012/09/06(木) 22:15:36.14 ID:DBkzhNSw
保守
375創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 19:24:42.90 ID:PW9stUle
保守
376創る名無しに見る名無し:2012/11/16(金) 14:32:17.53 ID:6Cuwspw1
保守
377創る名無しに見る名無し:2012/12/06(木) 19:16:46.93 ID:mWi6O7gv
経団連がPMCの集合体と言う側面を持ち
実質的に国を牛耳ってる近未来日本とか。
378創る名無しに見る名無し:2012/12/08(土) 22:11:36.71 ID:dks0DSZZ
>>377
面白そう
379創る名無しに見る名無し:2012/12/19(水) 21:13:46.13 ID:q0mmZH//
メガコーポか・・・TORG思い出すな
380創る名無しに見る名無し:2012/12/20(木) 22:50:38.23 ID:TkH+XWK9
ぜひとも列車砲を。ドーラを超える列車砲を
381創る名無しに見る名無し:2013/01/13(日) 09:17:35.87 ID:NTk+RU6Y
保守
382創る名無しに見る名無し:2013/02/24(日) 21:29:36.45 ID:DWE6EDEq
保守
383創る名無しに見る名無し:2013/03/28(木) 12:39:44.65 ID:hKHPoRJs
保守
384VERTIGO ◆IyF6/.3l6Y :2013/03/28(木) 19:43:06.97 ID:rD6Jgkz5
2ちゃん経由で同人誌にした作品を投下。
設定とか文章とか、かなりゆるい感じです。

「VERTIGO」
1945年8月、太平洋戦争終結後、ソ連軍は占守(しむしゅ)島に上陸した。
兵力と物量に勝るソ連軍は激戦の末に北海道を占領し、アメリカは青森でこれを迎え撃った。
膠着と混迷の末、日本は分断と戦争の時代を迎える。
米ソの対立に、津軽海峡は最も緊迫した海域と化し、幾度の衝突が波濤を血に染めた。
時代は過ぎ、兵器は進化を遂げ、ソヴィエトはロシアになり、科学は発展する。
そして21世紀半ば、IPS細胞の活用と機械工学の発展により、人類は遂に人工の体を完成させるまでに至った。
しかし、津軽海峡に残る国境線は依然として、第二次世界大戦後から変わらずにいる。

INTRODUCTION PHASE:CRASH

佐久 一存(さく かずまさ)  海兵隊曹長
「オリオン61、ディクレア・エマージェンシー!」
(オリオン61、緊急事態を宣言する)
風の音だけが、ごうごうとガラスの向こうを滑っていく。
ぐるりと座席を包む青空から降り注ぐのは、夏の昼の日差し。
ヘルメットのバイザーを降ろしてもなお、佐久は眩しさを感じて目を細めた。
トビウオに似た、二人乗りの小さなT(タンゴ)‐4(フォー)練習機は、今本当にトビウオと同じ状態で飛んでいる。
「アイ・セイ・アゲイン、フレームアウト!」
くぐもった荒い息遣いの中に、教官の緊迫した音声が響く。
航空機のエンジン停止を意味するその言葉が、まるで嘘のように素通りしていく。
推進力を失った機体は、グライダー状態で空を滑り落ちていた。
甲高いエンジン音の消えた、異様な無音の中で、佐久の脇の下を流れる汗。
後部座席の教官、黒部大尉が、必死で機体の安定を保とうと闘っている。
385VERTIGO ◆IyF6/.3l6Y :2013/03/28(木) 19:48:50.35 ID:rD6Jgkz5
主翼、尾翼、垂直尾翼のそれぞれ後部にある舵を動かせば、例えグライダー状態でもある程度の操縦は効く。
机上の教育で教わったそれを、佐久はまさに体感していた。
通常の操縦時よりもやや遅れた反応の、ゆるやかな旋回。
それとともに、高度3000フィート(900メートル)から見下ろした地平線が斜めに変化する。
――里山の合間、田園がキラキラと陽光に輝いて美しい。
見上げると、空の鮮やかな青に、すっと刷いたような美しい雲。
指先の血管は痺れるように熱くて冷たいのに、そんな事を感じている自分が不思議だ。
こぉ、こぉ、と、きつく口元を覆う酸素マスクから漏れる呼吸音を聞きながら、佐久はそんな事を考えた。
「アキタタワー、オリオン61、ナウ、オーバー・ユゼ。リクエスト・エマージェンシー・ランディング」
(秋田管制塔へオリオン61、現在湯瀬上空。緊急着陸を要求する)
「オリオン61、エマージェンシー・ランディング・アプルーヴド」
(オリオン61、緊急着陸を許可します)
海軍秋田基地の管制官の、掠れてはいるが少なくともパニックではない声がノイズ混じりに飛び込んでくる。
ガタガタと伝わるのは、風に吹かれた機体の振動。
「2700!・・・2600フィート!」
高度を示す計器は刻々と、その数字を減らしていく。
山の肌はその分だけ、近づいてくる。飛び去っていく木々の葉。
心の底の透明な冷たさで、その景色を見送る。
何も感じていないのか、全ての感情が許容量を振り切っているだけなのか。
どちらなのかも分からないまま、佐久はただ周囲の風景を、見つめ続ける。
近づいてくる航空機はいないか。下から上昇してくる航空機はいないか。
機影を探す。
地上に落ちる、自分の機の影が、山を舐める。
2500・・・2000フィート・・・
意味もなく握った操縦桿は、今も手袋越しに無情な沈黙を続けるだけだ。
風が吹いている。
386VERTIGO ◆IyF6/.3l6Y :2013/03/28(木) 19:54:01.67 ID:rD6Jgkz5
翼がガタガタと音を立てた。一瞬、感じた異常な振動に、ぞわっと神経が逆立つ。
振動が一気に機体全部を揺さぶる。
――その時、不意に強烈な力が機体を翻した。
持ち上げられた片翼が、機体を傾ける。エンジンの止まった機体には強すぎる乱気流に、重力が左側に偏った。
重力の変化に、体を固定するハーネスが食い込む。
新幹線の轟音にも似た、風の強い音が機体全てを飲み込む。
「クソッ」
妙にはっきりと、黒部の罵る声が聞こえた。
天と地が混ざり合うような感覚が、視界を揺さぶる。
翼がぎしぎしときしむ。コックピットいっぱいに、垂直になった地平線が広がる。
それもただの一瞬で、瞬きをする前に天地は逆転した。
地面が天にある。空が足の下にある。
肺が詰まって、喉で呼吸が止まる。
頭に浮かんだのは、たった一つの言葉だった。
――もうだめかもしれない。
目に見えない乱気流は、飛行機を容易く吹き飛ばす。
足許が抜けるような感覚を、全身で感じる。
コックピット中に鳴り響く、対地接近警報のアラームを聞いた気がした。

PULL UP PULL UP

無意味な人工音声が上昇を指示していた。
コントロールを失った機体は、風に翻弄されながら一気に高度を失っていく。
「佐久!ベイルアウト準備!!」
怒鳴り声が聞こえる。
緊急脱出を命じる教官の声。
内臓がふわふわと浮くような感覚がこみ上げてくる。妙に世界が眩しい。
――生きている。まだ、生きている。
強く感じたのは、残り少ない命のリミットが、すぐそこにあるということ。
ゆっくりと機体が回転して、また斜めの地平線がせりあがってきた。機体が水平になる瞬間を狙わなければ、ベイルアウトは成功しない。
まだだ・・・まだ・・・
佐久自身なのか、それとも教官の声なのか、機体が水平になる瞬間をじりじりと待つ。
コックピットがふわふわと水平に近づく。目の前には、避けられない山。
山肌に突き刺さるように迫っていく機首。佐久の名前を叫ぶ教官。
凄まじい重力で、腕を押さえつけられているようだ。
佐久は、渾身の力をこめて、緊急脱出のレバーに手を伸ばした。
387VERTIGO ◆IyF6/.3l6Y :2013/03/28(木) 20:00:04.99 ID:rD6Jgkz5

谷川 誓(せい) 空軍伍長
血溜まりの表面に、比重の異なるオイルが粒になって浮かんでいる。
幾粒も、幾万粒も、揺れながら血の流れに乗っている。
その中に混じり、焦げた小さな薬莢や、細かな金属片が浮遊していた。
遅すぎたヘリコプターの羽音が、その血と油の海を共振に粟立てる。
血液をかき集めたいのは山々だが、今はそんなことをしている場合ではなかった。
オイルは、谷川伍長の抉れた皮膚の下から止めどなく流れ落ちている。それに目をくれることもなく、全体重を両腕に落とした。
膝をつき、垂直の方向へ掌を押し込む。掌のしたの肉体の質量が、その度に体重を拒む。
激しい呼吸に乾いた喉の奥から、その肉体の名前を呼んだ。
アンモニア臭い、硝煙に濁った夜陰に呼ぶ声が消える度、呼気が白く立ち昇る。
床に横たわった身体の、肋骨の合間のまさに心臓の直上、重ねた掌の一点へと重力を加える。
血に赤く濡れてはいるが、元々は同じく灰色の迷彩服を着ているその長躯の、筋肉の感触が掌を押し返す。
その度に、谷川伍長の露出した人工筋肉の破れ目からオイルが飛ぶ。
左肱を掠った小銃弾は皮膚と人工筋肉を抉り、その奥に隠れていた強化プラスチック骨格とオイルのチューブまでもを破損させていた。
そこからまた、混ざり合った血液とオイルが流れる。
灰色の迷彩服は濃い赤と、黒ずみに染まり、左腕全体が痺れて遠かった。
それでも、心臓を目掛けて圧を加え続ける。
伸ばした腕に体重が掛かる度、神経が金槌で殴られたような痛みが走る。呻き声の漏れる唇に、汗の苦い味が何度も流れ込んだ。
戻ってくる。野戦衛生の教範通りに処置すれば、戻ってこない筈がない。
その確信だけが、心臓マッサージを続けさせる。
窓の外から差し込む強力なヘリコプターのサーチライトが、廊下一面に散らばるコンクリとガラスの細片を光らせる。
一瞬廊下を舐めたストロボの陰影に落ちるのは、溶けたガラスのような穴だらけのヘルメット、そしてオイルと、大きな血溜まり。
床についた膝から、迷彩服が血液を吸い上げてあっという間にグチャグチャになる。
体重をかける度、血溜まりに波紋が広がった。
命をつなぐ。
それだけを念じながら、呼吸の止まった肉体に体重をかける。
一瞬廊下を舐めたストロボの陰影に落ちるのは、溶けたガラスのような穴だらけのヘルメット、そしてオイル。
388VERTIGO ◆IyF6/.3l6Y :2013/03/28(木) 20:04:03.04 ID:rD6Jgkz5
大きな血溜まりについた膝から、迷彩服が血液を吸い上げてあっという間にグチャグチャになる。
体重をかける度、血溜まりに波紋が広がった。
命をつなぐ。
それだけを念じながら、呼吸の止まった肉体に体重をかける。
煩わしい髪の毛が顔に落ちるのも、滝のように噴き出す脂汗にも構うことはなかった。
心臓マッサージは、確かに心臓を充分にポンプさせていた。
目の前の身体の、幾つも上半身を貫通した穴からは加圧の度に血液が湧いていたし、青白く黄ばんだ唇の合間には血の泡が浮かんでいた。
だから、止める訳にはいかない。今止めれば、本当に死んでしまう。
あらぬ方向を見た榛色の瞳は白濁を始めたが、それでも優しさと厳しさを備えたその顔立ちは変わらない。
白髪交じりの短髪。地上より数倍の重力に太くなった首。
数十年の鍛錬の結晶した肉体。そこに無二の魂を呼び戻す。
血液が温度を失っていき、痙攣していたブーツの爪先が動きを止めてから時間が経った。
流れ出した血液に比例するように、顔からは体温の色が失せ、まるで黄ばんだ蝋人形のようだ。
その冷えきった唇に、口をつけて息を吹き込む。額を抑えて押し上げた顎には、筋肉の硬直の兆しが見られた。
顎に当てた指先に脈を感じないのは、きっと痺れのせいだった。
また心臓の直上に、掌を重ねる。ふと気付くと、呼気と汗とが蒸発して白く自身を包んでいた。
目の前の肉体が失っていく体温が、自身を伝って蒸散していくような錯覚を視る。
腕を這い上がる金属質な苦痛が、現実を醜く歪めた。
脈の中を毒が流れているような痛みに、動くたびに呻き声が漏れる。
自身の肉体の限界と、目の前の冷たい肉体が軋む音が憎く、叫び声を挙げた。
もう止めろ。そう叫ぶのは、誰なのだろう。
気が付けば、目の前に人影があった。味方の迷彩服を着ているが、そんなことはどうでもいい。
その人影が、衛生兵以上の救護のスペシャリストである救難員のワッペンをしていても、止めろという声には従えなかった。
「何やってるんだ!」
どうして、救難員がそんな歪んだ表情をしているのか理解できなかった。まだ、助けられる。死ぬはずがない。
「手伝って下さい」
かすれた声でそう請うと、救難員が一瞬硬直する。
389VERTIGO ◆IyF6/.3l6Y :2013/03/28(木) 20:08:24.12 ID:rD6Jgkz5
確認するように屈んで脈をとった救難員は、息を吐いてから言い聞かせるように告げた。
「もう諦めろ」
「今ならまだ」
腕をつかんだ救難員を跳ね除ける。
怒気を孕んだ口調で、救難員が叫ぶ。
「あんたまで死ぬぞ!」
「あんた『まで』?誰も死なない!」
制止に構わず、また体重をかけた。オイルが滴って、ふたりの肉体に黒を広げていく。
到着した二人目の救難員に気づいたのは、パンパンに鍛えられた腕で羽交い締めにされてからだった。
そのまま引きずり離されて、また叫び声を挙げる。
この世のものとは思えない、獣の咆哮だった。強烈な叫びに、肺が収縮して鼓膜が痛む。
暴れる溺者にそうするように、救難員はチョーク・スリーパーを掛け始める。
そして、救難員は谷川伍長の耳元で叱咤した。

「もう死んでるんだ!!」

認めるわけにはいかなかった。
彼の命が終わるとともに、また自分の生も終わるのだと思った。
肱の内側で首を締められて、視界が赤く染まっていく。それを払うように、力任せに腕を振り回し続けた。
視界が狭まっていき、思考が遠くなる。

お願い、少佐を助けて。

その言葉が、どこまで救難員に聞こえていたのかは分からない。

盲目の闇に、滲んだ涙が落ちた。



生きよ堕ちよ、
その正当な手順の外に、真に人間を救い得る
便利な近道が有り得るだろうか。
――坂口安吾 『堕落論』


「VERTIGO」



今日はここまで。
390創る名無しに見る名無し:2013/03/28(木) 20:34:05.27 ID:rD6Jgkz5
あ、書き忘れてたけど少しSFです。あと微妙にグロ注意
391VERTIGO ◆IyF6/.3l6Y :2013/03/28(木) 23:10:02.45 ID:rD6Jgkz5
あげてしまいすみません。読み返すと結構短かったので、追加で投下していきます。
1ST-PHASE:BOGGY

それは、まるで見知らぬ南洋の祭祀のようだった。
腰周りには水筒や弾薬ポーチをいくつも携え、身の丈の半分はある小銃を手に走る男たち。
一歩一歩駆ける度にヘルメットをカチャカチャと鳴らし、蓑のように草を纏っている。
肌にじわりと暖かい日差しと、のどかな昼の時間に突如現れた異様。
罵られているのにピクリともせず、殉教者のような無表情でひたすら苦痛の道に耐え続ける。
くすんだ緑の迷彩服は元の色が分からないほど泥に覆われ、動く度に土が剥がれた。
顔料を練りこんだ油脂で黒く塗られた顔からは、次々と吹き出る汗が濁って落ちる。
頬骨が出るほど痩せこけ、瞳だけが油を塗ったようにぎらぎらと光る。その濁りきった黒い色は、もはや何も映さない。
迷彩服を汗で湿らせた彼らが、臭気を残しながら去っていくのを黙って見送った。
残滓を除けば彼らが幻に見えるほど、平穏な昼休みが戻ってくる。
遠くからかすかに響くのは「柵」の外側を走るトラックの音。近くを走る幹線道路にひっきりなしに行き交っているのだ。
突き当りの向こう、鉄柵のあちら側には、普通の日常が構築されている。
そして「こちら側」にあるのは、軍隊として再構築された世界。
関東に配置された海兵隊および陸軍の、輸送の要として設置された「朝霞飛行場」を擁する和光基地の、これが毎日だ。
埼玉と東京外縁に跨る、広大な基地。様々な庁舎が設置され、指揮の要衝となっている。
大学かと見まごうほどの建造物が並ぶ様は、小さな建物が犇く外側とは一線を画していた。
広い車道の両脇には銀杏や桜などが並び、道行く軍人たちに陰を恵んでいる。
ひとり道を歩く谷川軍曹――谷川 誓(せい)は、若葉の眩しさに目を細めた。
正装である制服姿の者、戦闘服姿の者、昼休みにはいろんな人種が道を歩く。
外界と隔絶された世界の中で、彼らは彼らの日常を作っていた。
誓は道を歩き続ける。ブリーフケースを片手に、時々「佐官」と呼ばれる高級幹部に敬礼をしながら、道を歩く。
道行く人が時々誓に目を留める。
海兵隊と陸軍の基地で、空軍の迷彩服を着ているものは多いとはいえないからだ。
それも一瞬で、すぐに忘れ去ってしまうのだが。
しばらく歩くと、基地内でありながら柵に囲まれた場所にぶつかる。和光基地内には、さらに警備の厳重な区画がある。
392VERTIGO ◆IyF6/.3l6Y :2013/03/28(木) 23:12:46.73 ID:rD6Jgkz5
箱庭ともいえるその一角は分厚く高いコンクリート・ブロックで囲まれ、中の様子を窺い知ることはできない。
複数箇所の出入り口を通過するには身分証明書と専用のパスの提示が必要で、実弾を装填した銃を持つ兵士が常時そこを警備していた。
それだけではなく、ジャーマン・シェパードを携えた兵士が常に塀沿いを巡回している。
ただ一箇所開放されたゲートは航空機用の出入り口で、飛行場に直結している。
ここには扉はないが、常時複数台の監視カメラが周囲を睥睨していた。ーー基本的に安全を保証されることが前提の基地の中で、である。
1機が数十億と言われる戦闘機の格納庫でさえ、区画を囲うものはないのに、だ。
通常、武器・弾薬庫やレーダー施設などを除き基本的にブロックのない軍の基地において、この場所は誓にさえ威圧的な印象を与えた。
ずっと塀沿いに歩きながら、3人、2人と連なる海兵隊員とすれ違う。
紺色をベースに、引き裂いた跡のように黒と濃紺を重ねた迷彩服。
軍隊の中で飛び抜けて気の荒いと言われる彼らを流し見ながら歩く。まだ幼さが感じられる兵卒から飄々とした下士官まで、面立ちは様々だ。
それでも、彼らは一様に海兵隊員の顔をしている。まるで、共通の遺伝を継いでいるかのように。
その彼らに、空軍の自分はどう見えているのだろう。
誓の着る、灰色の濃淡をピクセル状に重ねた迷彩服は、春の日射しに白っぽく浮かびあがる。
関東一円を覆う高気圧が、基地内に暖かい春風を呼ぶ。濃い草緑に揺れる沢山のタンポポに、誓は目を細めた。
規則正しく碁盤に設計された基地と、真っ直ぐに整備された道、白い建造物。その合間の草地だけが、軍隊らしくない自然の造形を保っている。
道端の草地は、殺伐とした基地内に小さく季節を運んでくる。昼休みの気だるさに浸りながら、誓はその傍を歩いた。
その先に、コンクリート・ブロックの切れ目に設置されたセキュリティ・ゲートが見えてくる。
民間人の見学はもちろん、議員でさえ理由なしには入れない場所。
ーー飛行開発実験団、略称ADEXg。
和光基地に設置された、陸海空軍を統べる統合軍直轄の部隊。
厚い機密の壁に阻まれたその場所で、次世代の高度な技術は生まれる。
胸ポケットには、誓がそこに勤務する一員であることを証明するパスが入っていた。
ゲートに近づくと、兵士のヘルメットの庇の下の目がこちらを捉える。
393VERTIGO ◆IyF6/.3l6Y :2013/03/28(木) 23:15:23.94 ID:rD6Jgkz5
ぼーっと周囲を見渡すかのような彼らの瞳は、それでいて絶えず異常を探るレーダーだった。
肉眼のX線ゲートが、それとなく誓の爪先から顔までを通過するのを探知する。
車両の突破を防ぐために、いつでもそこには巨大な棘を備えた移動式の障害物が設置されていた。
「どうも」
一等兵に軽く目礼をすると、パスと身分証明書を提示する。胸に縫い付けられたネームに視線が走った。
氏名階級、そして顔写真を確認した兵士がもう一度誓の顔を見た。
顎に目立つ黒子がある。小鼻が赤く、黒目がちな、まだ十代らしさを残す顔。
「お疲れ様です」
おざなりな敬礼をした兵士に、おざなりな敬礼を返すと、誓はゲートを通過する。
そして、壁ひとつを隔てて守られている世界に足を踏み入れた。
ここに来てから数日が経ったが、未だにこの風景には慣れない。
3階程度の、飾り気も全くない白塗りの建造物が続く風景は軍隊的であると言えるだろう。
だが、合間に存在するコンクリート壁の建造物はそれらを軽く凌駕するほどに大きく、窓もないその様は周囲を圧迫するようだった。
高さは5階にも届くだろうか。正方形に近く、備えられたシャッターは閉ざされている。
灰色のコンクリは筋状に黒ずみ、廃虚を思わせる。似たような施設がそこかしこに点在していた。
新型戦車や航空電子機器の実験を行っているのだというが、当事者でない限りどこになにがあるのかは把握できない。
箱庭のなかに漂う独特の閉鎖感と非現実感は、悪趣味なシュルレアリスムの絵画に入ったような感覚を呼び覚ます。
道を歩きながら、海軍の少佐とすれ違う。彼は白衣の技術者と連れ立っていた。
向かいには軍事企業のロゴが入ったツナギを着た技師。だらしない格好の科学者は大学からの出向だろうか。
高級な指揮官と、彼らを気にするでもない技師や科学者の混在する風景は、一種独特の空気を作り出していた。
塀の外と内で変わらないのは、風とタンポポだけだ。
そのまま飛行場に向かって歩み続けると、航空機セクションになる。
飛行場エリアに走る道に沿って、かまぼこ状の格納庫がいくつも連なるのが特徴的だった。
アリーナひとつ分はある格納庫は日射しに光り、カーブした屋根から立ち昇る熱が空気を歪めている。
その上空で風に乗るカラスが、塀や格納庫に歪められた風の動きを忠実にトレスしていた。
風洞実験だ。誓は小さく呟く。
394創る名無しに見る名無し:2013/03/28(木) 23:15:55.31 ID:NHzEvrp+
紫煙
395VERTIGO ◆IyF6/.3l6Y :2013/03/28(木) 23:17:49.04 ID:rD6Jgkz5
ちょうど道路の中央を飛行場に向け、牽引車に曳航された偵察ヘリコプターが向かう。
川魚のような、丸みを帯びてすらりとしたフォルムはOHー1だ。川崎重工が開発し、陸軍で運用されている現在も尚改修が行われている。
ブラックの陸軍塗装を施されてはいるが、機体はすんなりとした優しげな印象を与えた。
それを見送り、誓は周囲と同じく無個性な建造物に入る。
今時軍隊にしかないリノリウムの床が、よく磨かれて廊下の景色を映していた。
ふと、誓はそこに珍しく漂う土と汗の臭いを感じ取った。湿った土の塊がぽろぽろとそこかしこに落ちている。
生の土の臭いと、薄まってもムッと湿り気を残す汗の臭いが混じり、見えない軌跡を残していた。
それを追いかけると、階段を上がり、廊下の中程に行き当たる。パイロットの更衣室だ。
入り口には、表面に乾いた泥と湿った泥がこびりついたナイロンのバッグが置かれている。膨らみが大きいのはヘルメットバッグだからだ。
数枚のワッペンが貼られ、それはNATO軍の多国籍訓練参加や大規模演習参加などの持ち主の戦歴を示していたが、それも今は泥にまみれている。
時計を見れば、まだ10分ほど時間があった。掃除用具入れから箒を取り出し、誓はとりあえず廊下を掃き始める。
この部隊に出向して数日、誓が関わったパイロットは彦根という名の中尉のみだ。鞄に貼り付けられたワッペンには、「K.SAK」という刺繍がされている。
誓のセクションにはふたりのパイロットがいると聞いていた。恐らくはこの鞄の持ち主なのだろう。
見たことのないワッペンに、つい箒を持つ手を止めて見入ってしまう。
弾痕の穿たれたトランプがあしらわれたワッペンには、周囲に「13th NATO Joint Aviation Training ALASKA:AH-64D JOKER FORMATION」と記されている。
洒落たデザインのものや、アラビア語が記されたもの、ヨーロッパの国々の名前が入っているものなど、ヘルメットバッグはワッペンに異国を旅した記憶を留めていた。「いいなぁ」
ぽそりと呟きが漏れた。こんな狭い塀の中にいながらも、パイロットには空を自在に越えてゆける力がある。
もちろん、それは揚力と重力、推進力と抵抗力の物理法則の合成にすぎないのだが、誓には人類本来の絶対不可能を打ち破る果てなき夢のシンボルに思われた。
396VERTIGO ◆IyF6/.3l6Y :2013/03/28(木) 23:25:50.34 ID:rD6Jgkz5
空へ憧れた人間にとって、飛行は単なる事象を超え、まるで力強い魔法のように映る。ベルヌーイの定理を初めとするいくつもの物理現象を結晶して、空に奇跡は起こるのだ。
土の塊をちりとりに集めながら、誓は窓の外を見た。滑走路に接近し、ギリギリに降下をするオン・ショート・ファイナルのCー2輸送機が建物の向こうに消えていく。
後に残る甲高いタービン音。巨鯨のように丸みを帯びた機体のCー2輸送機は、和光を本拠地に活動しているため日中はひっきりなしに飛んでいる。
その合間を縫うように、人員輸送ヘリコプターが離着陸を繰り返していた。
ついぼーっとしそうになるのに気付き、誓は掃除を再開した。
ちりとりに集めた土をゴミ箱に捨てていると、階段を登る足音に気付く。
ゴツンゴツンと響く重い足音は、丈夫で靴底の厚いコンバット・ブーツの響きだ。
その音がする方を向くと、ちょうど階段を上がってきた男と目が合った。
ここ数日ですっかり記憶した栗毛の短髪。よく日に焼けた肌に、くしゃっと笑うとできる目尻の皺。
「おー、誓ちゃん!もうあいつと会った?」
彦根中尉だった。
海兵隊所属のパイロットで、誓はもう既に世話になっている。
「この鞄の方ですか?」
問い返すと、そうそう、と調子良く返事がくる。
何だよあいつ、と舌打ちした彦根が更衣室を覗き込むが、そこにも「あいつ」は居ないようだった。
格納庫かな、と呟いた彦根が誓に苦笑を投げかける。
「ちょっとクセのある奴だけど、まぁあんまり気にしないでいいから」
はぁ、とあいまいに相槌を打った誓に、彦根はまた笑う。
窓から差し込んでくる光が、その笑顔を明るく照らした。それが、彼自身の温かみをも感じさせる。
敵にとっては地獄の使者と言われる戦闘ヘリコプターのパイロットにはまるで見えない。
じゃー格納庫行きますか、と指示する彦根に誓は従った。
訓練から帰還したパイロットについていろいろと喋る彦根に相槌を打ちながら、階段を下る。
そして格納庫に入った途端、誓は異変に気づいた。
おおよそバレーコート4面はある格納庫が、狭く感じる。昨日までここにあったのは、戦闘ヘリコプター1機だけであった。
それが今日は、2機に増えている。同じ紺色の迷彩の、同じ機種。

――美しいものだけが空を飛べる。

そう言ったのは誰だっただろう。機体を見ながら、ふと思う。
確かに、21世紀も20年を終えた今、空を飾るのは美しい翼たちだった。
397VERTIGO ◆IyF6/.3l6Y :2013/03/28(木) 23:28:30.91 ID:rD6Jgkz5
スマートに、美しく航空機たちは進化していく。1マイルでも長く、そして安全に。
軍用機でさえ、それは例外ではなかった。
機体の前に立った誓は、黙ったまま機体を見ていた。
格納庫の中で整備を受けるそれは、圧倒的な存在感と迫力を纏っていた。
それは王者の風格とも言えるものだ。

AH−64D、通称ロングボウ・アパッチ。

テクノロジーの粋を集めて開発された、現在の主力の戦闘ヘリコプターだ。
ヘリコプターというものの基本構造自体はどんなに進化しても同じではある。
本体を吊り下げるように生えるのは、機体上部のメイン・ローターと呼ばれる回転翼。
軸から生える数枚のブレード(羽根)が回転し、揚力を生み出す。
そして、尾部に据えられているのは、テール・ローター。
もう一つの回転翼だが、こちらはテール先端に設置され、上部のメイン・ローターよりもかなり小さい。
取り付け方向も垂直に向かっている。
メイン・ローターの回転によって機体が回るのを、反対側から力を加えることにより防ぎ、機首の向きを制御する。
多くのヘリコプターと変わらない原理で飛ぶが、誓の目の前にあるのはまるで違った生き物に見えた。
進化し、多様化したヘリの中でも、この機体は一つの頂点に立っている。
巨躯でありながら、削ぎに削がれた機体。
シャチのように、引き締まったごついフォルム。左右にはアビオニクス・ベイと呼ばれる庇のような出っ張りがあり、逞しい印象を更に強くする。
胴体の両脇から伸びた長方形の翼にはミサイルポッドなどが吊られており、その精緻な歯牙を誇っていた。
多面体の細長い胴体に据えられたコックピットには、本来前後に並べて席が設計されていた。
が、この機体には一人分の座席しかない。
胴体の下には、タイヤの付いた脚。前部のふたつの脚の間には機関銃が提げられている。
反対に、胴体の上には回転翼の軸であるローター。そこから伸びる四枚のブレード。
ローターの上部に据えられているのは、鏡餅と渾名される、本体より数倍高価なレーダー。
その渾名の通り、潰れた円形をしている。
長方形のエンジンは、背中の両側に据えられて、まるで鍛え上げられた水泳選手の背筋のようだ。
「きれい」
谷川軍曹は、ただただその正面から機体に見入った。
全ての一部一部が、個体の機能のために結晶化している。
完全な逞しさ。そして容赦のない容貌。
強いものは美しい。強いからこそ、美しい。
398VERTIGO ◆IyF6/.3l6Y :2013/03/28(木) 23:31:18.48 ID:rD6Jgkz5
それを守るように、機体のあちこちに整備員が取り付いていた。
彼らは一心不乱にそれぞれの持ち場を守っている。
オレンジ色のプラスティックのヘルメットを被った整備員たちは、どれも全国の整備部隊から選抜された生え抜きと聞いている。
この機体は、特別なのだ。
本来アメリカで開発・製造されたアパッチであるが、現在は日本国内の数社がライセンス生産をしている。
そのうちの一社が、実験的にある機体を作った。
全国に2機しかない、試験機。それが目の前の機体だった。
気を着けて見れば、迷彩服を着た整備員に、白衣の人間や、灰色のつなぎを着た整備員が混じっている。
この基地の中に敷地を持つ、持内(もてない)重工の社員たちだ。
アビオニクス(航空機器)の軍納入トップシェアを誇る持内重工の、軍の下の研究所だった。
ADEXgの刺繍が入った帽子を目深に被りなおした誓は、大きく息を吸い込んだ。
飛行開発実験団、Air Development and Experience Groupの略称、ADEXg(エイデックス)。
陸軍、海軍、空軍、そして統合軍。
現在のアメリカ領日本には、四つの軍隊が存在している。
統合軍隷下に航空機の審査、実験や開発を行う航空部があり、飛行開発実験団はその一部だ。
誓は空軍の軍曹として、畑違いのここへ出向してきたのだ。
どくん、と心音が高まった。頬に赤味が差したのを感じる。
不安が胸を刺すような感じと、心が膨らんでいく感じを同時に得る。
うまくやっていけるだろうか。今まで前例のない実験。
今になって、違う色の戦闘服を着ている自分がやけに気になる。
空軍のグレーの迷彩服が、統合軍航空部の紺色の迷彩の中で妙に浮いているような気がしてしまう。
邪魔にならないように遠巻きにしている誓は、ふとこちらを見る若い男性に気付いた。
無遠慮に、誓が腕に貼ったパッチを見ている。その視線は、友好的とは言えない気がした。
首には少尉の階級章。よく見ると、胸にパイロットの証であるウィング・マークもある。
とっさに「お疲れ様です」と敬礼すると、遂にこちらを真っ直ぐに見据えた。
「あんたか、入間から来た空軍の軍曹は」「はい」
答えた誓に、眉根を寄せる男。痩躯の長身だ。それに面長で、全体的に無骨な印象を与える。
訓練から戻ったばかりだからだろう、うっすらと無精髭を浮かべ、疲労のせいか削げた頬が一段と目立つ。
399VERTIGO ◆IyF6/.3l6Y :2013/03/28(木) 23:36:03.21 ID:rD6Jgkz5
毛穴に詰まった泥や汚れが、顔色を一層暗くさせた。近づくと、煙と汗の混じった臭いがする。
それでも、どことなく中東的な趣のある顔立ちに、すっと通った鼻筋は人目を引く。
削ぎ落としたようにシャープな顔立ちが、内側から緊張感と精悍さを漂わせる。
切れ長の瞳が、海外派兵に従事したことを証明する誓のパッチを舐めた。
なんとなく緊張感が漂う。あまり快くは思われていないようだった。それはきっと、誓の容姿にも起因するのだろう。
155cmの身長に、童顔を絵に描いたような顔立ち。結った黒髪と、眉で揃えた前髪が、それを強調する。
頼りなさを感じるのは無理もないが、内心反発を覚える。
それに、いつもそうされるように、男の視線が一度胸で止まった。そこだけはすくすくと成長してしまった、盛り上がった胸。
思いっきり男の顔を見てやると、男が目をそらす。
沈黙が流れた。
そこに、敢えて空気を読まないと思われる彦根の声が割り込む。
「・・・佐久、ちゃんと挨拶くらいしろよ」
男の名は佐久といった。
ようやくどうも、と気のない返事をした佐久に、彦根は困り顔をする。
俺たち、みんな同じ鉄屑じゃねぇかよ、と諭す彦根を映す佐久の瞳が、わずかに赤く光った。
瞼をゆっくりと開けた佐久の目を、誓は真っ直ぐに見た。深い憂いの刻まれた目許。そして、誓を見るこげ茶色の瞳。
なぜ佐久が特別に、少尉としては異例のテスト・パイロットを務めているのか。それはその答えだった。

佐久の瞳孔は、爛々とした赤い輝きを放っている。

高性能な赤外線レンズの装着された人工電子眼が、その眼窩には装着されていた。
軍用の生体工学手術を受けた――つまりサイボーグ化されたその身体、その眼、拡張された脳。
特別な機体のために用意された、特別なパイロット。
表に出れば、間違いなく非人道的として糾弾されるであろうことは想像に難くない。――パイロットと脳神経直結の機体。
それにより、ヘリのセンサーで得た全ての情報を、自身の感覚であるかのように処理することが可能となる。
視界から得た情報を、脳で判断するタイムラグがそこにはない。
ここに鎮座するアパッチはそのための機体だった。
20世紀末に誕生した原型、ロングボウ・アパッチと形は変わらないが、その中身はほとんど別物といってよい。
そして、そのパイロットもまた、通常の人間とは中身が異なる。
400VERTIGO ◆IyF6/.3l6Y :2013/03/29(金) 00:00:39.32 ID:rD6Jgkz5
それが佐久であり、また彼のために用意された誓も「純粋な」人間ではなかった。
サングラスを掛けた佐久がそっぽを向く。
誓もようやく、目線を機体に移す。
誓の任務は「フリオペ」として、擬似的に強化されたデータリンク状態を再現することだった。
フリオペ、フライトオペレーターの略であるそれは正式には機上指揮員と呼ばれている。
誓が乗り組むE787という機体は、電子の目と、戦場を覆う通信能力を保持している。
その機から、地上の兵士やヘリ、そして戦闘機に指示を与える役割を担うのがフリオペだ。
通常の人間と中身が異なる。それは、彦根、佐久、誓、誰しもが同じだった。
そうでなければ、そもそもこの場所には来ない。今は限られた場所以外に、居場所はない。
軍用のサイボーグは脳や神経の拡張による負担のため、その身体改造手術の後も一定のダメージを蓄積し続ける。
――寿命はおおよそ60年前後。しかも、細部にわたる体のメンテナンスを受けなければ、生きていくことができない。
莫大な金と、手間のかかる身体。つまりは、軍の庇護下にない限り、生きてはいけない。

それが、軍用サイボーグの宿命だった。



本日の投下は今度こそ完了です。紫煙ありがとうございました。
規制にひっかかってしまい申し訳ない。
401蒼空を衝け:2013/03/29(金) 00:54:20.22 ID:OQSVeuCY
榊原技術中尉は、透き通る樣な蒼空に向けて竹鑓を突き立てた。

本日の評価試驗は、現在極祕裏に開發中の竹鑓兵噐『BAMBOOLANCE-X』の
早期導入を目的とした「XB計畫」の一環であり、花粉浮遊環境下に於ゐても
將兵が正確に運用可腦か否かを評価する過酷な実驗であつた。

正式に導入された曉には、遥か高高度を飛行する敵國の戰略爆撃機を
地上から無慈悲に繰り出す竹鑓の突きで撃墜する亊が出來るであらう。

榊原技術中尉は、手にした得物の感触を確かめる樣に齷り締め、
體を捩る眼の痒みと滲む泪、抑えきれぬ嚔に流れる洟に耐えながら
今や遲しと敵機の來襲を待ち受けた。

「早く來ひ。今度こそ成功せねば…」
402創る名無しに見る名無し:2013/03/30(土) 08:40:31.02 ID:PF/nzzV3
>>401
続きあるならくれ
403技術開發本蔀:2013/03/30(土) 14:54:40.93 ID:YamEaEu1
>>402
了解デアリマス。近日中ニ續篇ヲウp致シマセウ。有難ウ御坐ヒマシタ。
404創る名無しに見る名無し:2013/05/02(木) 12:31:52.53 ID:CocB/qus
保守
405創る名無しに見る名無し:2013/06/19(水) 11:09:41.71 ID:FQ+D25s1
保守
406創る名無しに見る名無し:2013/06/20(木) 20:11:11.78 ID:RxP5jRjQ
保守
407創る名無しに見る名無し:2013/08/08(木) NY:AN:NY.AN ID:I+7qDk7f
保守
青空町耳嚢 第10/21話
【見えない戦車】

 A町でたてつづけにおこる怪奇現象。
 その被害をこうむることにかけては、同町内に基地をもつ防衛隊も例外ではなかった。
 いや、むしろ、猪突猛進で常に最前線にたとうとするT長官のせいで、率先して被害にあうこともしばしば……

 ある日、防衛隊に出動要請がくだった。
 A町でまたまた大規模な怪奇現象が発生したのだという。
「戦車隊、出動!」
 長官の号令で兵舎から駆け出した我々は、おもわずそこに立ち尽くした。
 武器庫がない。
 格納庫もない。
 司令塔さえも見当たらない。
 我々の目の前には、更地しかなかった。
 舗装された大地に、ただヘリポートの目印や複雑な滑走路がしるされてあるばかりだ。
 驚いてふりかえると、いましがた出てきたばかりの兵舎まで消えているではないか。

「戦車は!?」
 と、誰かが叫んだ。みなで戦車の格納庫へ急ぐ。
「たしかここらへんのはずですが」
 ときょろきょろ走っていた兵士が急になにかにぶつかったかのようによろめいた。
 つづいてやってきたもう一人も見えない壁にあたったかのようにはねかえってしりもちをついた。
 ここに至ってようやく、我々は気づいた。
 ないのではない。
 あるのに見えないのだ。
 目星をつけてぱんぱんと叩けば、たしかに格納庫のシャッターの手ごたえがする。
 だが、見えない。
 どこからか、長官の声がした。
「何をしておる、シャッターをあけんか!」
 はい、と係の者が手探りでボタンを探し出した。
 がたたたた、と音をたててシャッターがあく。見えてはいないが。
 そして、というか、当然、というか、なかに並んでいるはずの90式戦車も、一台たりとも目視できない。
「なにをぼやぼやしておる! 各自担当の戦車に乗り込むのじゃ」
 また、長官の声がした。
 はっ、と威勢よく答えたものの、実際にはおそるおそる手探りで戦車をさぐりあてていく隊員たち。
 だが、ひとたび担当の戦車をさぐりあてれば、あとはさすがに体がおぼえているのか、百戦錬磨(で負け続け)の兵士達はすんなりと乗り込めた。
 だが、なんという異様な光景だろう。
 いかめしい面構えの迷彩服の兵士達が、空気椅子どころではなく、あっちに3名、こっちに3名とかたまって宙に浮いて、見えない計器類を睨みながら、コンディションを確認しているのだから。
 私は副官として、自分の担当の戦車の前で、皆が配置につくのを見守っていた。
「異常はないか?」と形式的にたずねれば、
「計器、音や気配からして異常なし!」と兵達が戦車の中からこちらに向かって敬礼する。
「よし!」……ありありと目の前に広がっている異常には、あえて触れないことにした。

 こうして全員が配置についた。だが、長官の姿がまだ見えない。
「全員、出動準備完了いたしました」私は宙にむかって叫んだ。
「よし、では出動じゃ!」
 すぐ隣で、長官の威勢のいい号令がした。
 横を向く。誰も見えない。だが、革靴が戦車のボディーにこすれる音が聞こえた。
「まさか……長官……」
「うむ。なぜか知らんが、わしも透明になってしまった。だが案ずるな、健康には問題ない! さあ、我らも戦車に乗り込むぞ」
 目には見えないが、たしかに、いつもどおりの元気な長官がそこにいた。

 がちゃがちゃ、と見えない長官が見えない何かを動かす音がして、車体が震えだす。
「さあ、出撃じゃ! 一刻もはやく問題を解決して、戦車やわしの体を再び見えるようにするのだ!」
 おう、というときの声とともに、あっちやこっちの空気椅子3人組も小刻みに震えながら動き出す。

 無茶な長官に、負け続けの軍隊。だが、我ら防衛隊の士気は高い。


【終】
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【8/27】創作発表板五周年【50レス祭り】
詳細は↓の317あたりをごらんください。
【雑談】 スレを立てるまでもない相談・雑談スレ34
ttp://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1361029197/
410創る名無しに見る名無し:2013/08/28(水) NY:AN:NY.AN ID:OaIpykqL
投下乙
411創る名無しに見る名無し:2013/10/01(火) 04:44:00.28 ID:dvEbjtNG
保守
412創る名無しに見る名無し:2013/10/01(火) 21:55:42.55 ID:Ge+tiAqb
【政治】安倍首相、消費税8%正式表明★8






http://uni.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1380631743/
413創る名無しに見る名無し:2013/10/30(水) 11:19:29.77 ID:JgERPI0t
保守
414創る名無しに見る名無し:2013/11/26(火) 15:30:47.35 ID:57gWkz5q
hoshu
415ゴルゴ13 原作脚本:2013/12/01(日) 22:40:57.47 ID:1MQuegAW
 本日天気晴朗ナレドモ南支那海 波高シ
1                            

□東京━日本 
湾岸に林立するビル群
○立ち並んだビルの前を《ゆりかもめ》が通過していく。そのなかの一棟がズームアップして、
「(声のみ)日本が立ち上がらなければ、西欧列強の植民地支配は五十年、いや百年永らえたかもしれない。日本がその構図を打ち破ったのだ。僕はその事を誇りに思っています。」
○室内
背中を向けて脚を組みソファに掛けている男(日本人・ゴルゴのように見える)の前に立った少年が熱弁をふるう。後ろには椅子に掛けた(老、壮、青)の三人の男たち。
少年「けれど、現在の日本の有様はなんですか 。。算盤勘定しか頭にない、卑屈で野卑で猥雑な商人国家日本。まったくなんという為体でしょうか。こんな情けない腑抜けの日本は本当の日本じゃない。」
男〔日〕「……。」
少年「現代の日本には、辞書の中にのみ存在して、現実には照応する対象が見つけられない言葉が三つあります。毅然と凛然と端然です。」
男〔日〕「……。」
少年「毅然とした日本人、凛然とした日本人、端然とした日本人は、あの戦争で悉く亡くなってしまった。そうして出来上がったのが、このどうしようもない戦後日本という訳です。」
男〔日〕「日本人自身が望んだ結果だろう。」
少年「もしそうだとしたら、それは間違っていた。もしそうだとしたら、大本に立ち返って、誤りは匡すべきです。然る後、日本は、日本と日本人の誇りを取り戻すのです。取り戻さなければなりません。」
男〔日〕「力抜けよ坊や。聴いてるこちとらの肩のほうが凝ってきちまったぜ。」
○男〔日〕の正面姿 
かるく笑いながら、片手を反対側の肩に持っていって揉んでいる。(シュガー、日光、伝九郎のイメージ)
少年「(むっとしている)」
男〔日〕「(少年の後ろに座っている男たちに)子供をだしに使うのは気に入らねえな。」
少年「子供じゃないっ。」
男〔日〕「子供はみんなそう言うのさ。」
少年「無礼だ。取り消してください。」
老人「(少年の肩に手を置いて)まあ、待ちなさい。(男〔日〕に)失礼した。これは私の孫で、親の、いや、爺の欲目だが良く出来た子でね。ついせがまれるままに連れてきてしまった。改めて私から説明をするので、ぜひ聞いてもらいたい。」
416ゴルゴ13 原作脚本:2013/12/01(日) 23:19:03.31 ID:1MQuegAW
2

□バンコック─タイ
○ホテルの外観(夕景)
隣接して立ち並ぶビルが、背後に沈む太陽のためシルエットになっている。
○ホテルの一室
男(白人・欧州人?)と二人の(壮・若の東洋人)の男が向かい合って立っている。
年嵩の男「(応接セットの片方のソファを指し示して)まあ、座ろうじゃないか。」
男[欧]「遠慮なく掛けてくれ。私はこのままでいい。」
年嵩「少々話しにくいが、いいだろう、座らせてもらうよ。(腰を下ろしてタバコを咥える)」
横に立っていた若い男がポケットに手を入れる。
男[欧]「(上着の脇からさっと拳銃を抜き出して)そういう動きは無しだ。」
年若「いや、ライターを…。」
男〔欧〕「紛らわしい動作はできるだけ避けてもらいたいな。トラブルの元だ。」
年嵩「これは申し訳ない。タバコは吸ってもいいんだろうね?」
男〔欧〕「(拳銃をショルダーホルスターに収めながら)煙は嫌いなのだ。他人の趣味嗜好をとやかく言いたくはないのだが、この話の間は控えてもらえるとありがたい。」
年嵩「分かった。言う通りにしよう。(タバコをケースに戻す)」
○ホテルの外観(薄暮)
薄暗くなった空。ビルの窓々の灯りと街路を走る車のヘッドライトが鮮明になる。
○室内
年嵩「彼等は漁業基地だと言い張っている。ぬけぬけと平気な顔で嘘を言う、厚顔無恥とは彼等のための言葉だ。大国としての品格、風格が、あれほど備わっていない国も珍しい。
まったく以って、シーヌの倣岸不遜の言動、身勝手極まる振る舞いには我慢がならん。チュオンサ諸島は我々のものだ。」
男〔欧〕「チュオンサ諸島、ふむ、スプラトリー諸島をそう呼ぶということは…。あんたたちはヴェトナム人か。それで、私に何をしろというのかね。」
年嵩「証拠が欲しい。特に画像、音声、その他利用できるものは何でも。」
男〔欧〕「それを会談の際に突きつけようというわけか。」
年嵩「我々が直接使うことはない。もし、そうすれば正面からぶつかることになる。それは避けたい。」
男〔欧〕「察するところ、出所不明のリーク情報としてメディアに流すといったところかな?」」
年嵩「それは…。」
男〔欧〕「どうやらビンゴのようだ。そのためにフリーの私を雇う必要があった。そういう理解でいいのだろうね?」
年嵩「……。」
男〔欧〕「こういう商売をしていると、つまらぬゴタゴタに巻き込まれることも多くてね。自分の仕事の輪郭は掴んでおきたい。度を越した詮索をするつもりはないのだ。」
年嵩「それで返事はどうなのか、聞いてもいいかね?」
男〔欧〕「依頼の概要は分かった、引き受けよう。」
年嵩「ありがたい。よろしく頼む。」
417ゴルゴ13 原作脚本:2013/12/01(日) 23:33:25.79 ID:1MQuegAW
3

□東京
○ありふれた感じの中規模マンション
○(マンションの)室内
 (無音で)男〔日〕と若い女(薫子)の絡む場面。
○薫子シャワーを浴びている。
○ベッドに仰向けの男〔日〕
上掛けから出ている裸の上半身。両腕を頭の後ろに回している。
○男〔日〕(回想)─冒頭の場面の続き
▽老人「旧新南群島、現在のスプラトリー諸島だが…。」
▽男〔日〕「南沙諸島のことかい?」
▽老人「それは支那の呼び名だ。我々はそうは言わんのだ。」
▽男〔日〕「そうかい、ま、好きにするさ。しかし、あんたたちの立ち位置を表す簡潔な自己紹介だな 。」
▽老人「何のことかね?」
▽男〔日〕「いや、気にせず話を進めてくれ。」
○(マンションの)室内
薫子、バスタオルを身に巻いてドレッサーに向かいながら、
薫子「ねえ、この間の話だけど…。」
男〔日〕「…。(気が付かない)」
薫子、フンっと鼻を鳴らしてドレッサーに掛け、化粧にとりかかる。
○男〔日〕(回想)
▽男〔日〕「民間のあんたたちが、なぜそこまでする? やりすぎじゃねえのか。」
▽老人「無論、国がやるのがベストだ。我々もそれを望んでいる。しかし、さっき孫が言ったように、戦後の日本は…。特に現今の政府は最悪だ。政権与党ひっくるめて、皆が皆第五列だなどとは想像を絶する。」
▽男〔日〕「よく似た爺さんと孫だ。隔世遺伝だな。」
▽老人「何か言ったかね?」
▽男〔日〕「空耳だろう。政権交代、それこそ日本人自らが選挙によって得た結果じゃねえか。『こんなはずじゃなかった』なんて、いまさら泣き言はよすんだな。」
▽老人「泣き言を並べる者たちは、次の機会にも同じように行動し、同じように蹉跌するだろう。そして同じように嘆くのだ。」
▽男〔日〕「(軽く眉を吊り上げて)ほう。で、あんたたちは違うと言うんだな?」
▽老人「(微笑して)まさに、あの選挙結果は我々の期待を裏切るものだった。加うるにその後の経過は…、酷いものだ。想定の範囲をはるかに超えておった。だが、我々は泣きも嘆きもしない。
かわりに、例えばこうしてあなたに仕事を依頼することを選ぶのだよ。」
▽男〔日〕「こいつは御見逸れしたな。頼りにならない国に代わって、隣近所のゴロツキどもに、正義を行使するってわけかい。ご立派だが、軍が一番嫌うのは、頭に血が上ったハネっかえりの民間人の暴走だ」
▽老人「それは我々のことかね。聞き捨てならんな。それに現在の日本には国軍など存在しとらんし。」
▽男〔日〕「気持ちは分かるんだがな。そういう言い方が、あんたがたと反対の立場の連中と同程度に、自衛隊を傷つけ貶めていることに、いい加減気づいてもらいたいもんだぜ。」
▽少年「(男〔日〕を睨むように見つめていた硬い表情が、少し緩んでいる)」
418ゴルゴ13 原作脚本:2013/12/01(日) 23:52:07.07 ID:1MQuegAW
4

○ビルの外観
逆方向の《ゆりかもめ》が通過していく。
○男〔日〕(回想)
▽男〔日〕「で、俺は奴等のシッポを掴まえてくりゃいいんだな?」
▽老人「そうだ。本当は痛棒を喰らわせてやりたいくらいだ。しかし、あなた一人にそこまでは頼めない。出来れば私も同行したいのだが。」
▽男〔日〕「おいおい、悪いがはっきり言わせてもらうぜ。年寄りの冷や水だ。止めておくことだな。」
▽老人「口の悪い男だと紹介者が言っていたが、その通りのようだ。」
○(マンションの)室内
薫子、髪を梳く手を止め、上体をずらして鏡に映る男〔日〕を見る。ベッドの上で相変わらず物思いに耽っている男〔日〕。
薫子「……。」
○男〔日〕(回想)
テーブルの上にボストンバッグが載っている。
▽老人「(名刺を取り出して)話がまとまったところで、遅ればせながら名乗らせてもらう。栗原と申す者だ。宜しく。」
男〔日〕「そうか、俺たちはシェールガスの取引をしたんだっけな。」
▽老人「何を言っておるのだ?」
▽男〔日〕「名刺を交換しての商談なんてのは、俺の守備範囲外なんだがね。」
▽老人「お互い初対面なのだ。名乗りあうのが礼儀というものだと思うが。」
▽男〔日〕「礼儀と来たか。そう言われちゃあ、氏育ちのいい俺としては、シカトするわけにもいかねえな。(出窓に置かれた盆栽風の鉢植えを見て)あれはミカン…いや、橘か。俺の名は橘…三十郎。おっつけ四十郎だけどな。」
▽老人「君はいつでも、その調子なのかね。」
▽橘「こいつばかりは持ったが病でなおらねえ。見逃してくれ。(老人の手にした名刺に目をやりながら)そいつを俺がポケットにでも入れたまま、例えば事故に会ったとしよう。で、それを誰が見るか分かりゃしねえ。
その誰かがやばい誰かだったら、間違いなく、あんたを訪ねて来るだろうな。」
▽老人「(ハッとする)」
▽少年「(同じくハッとした顔)」
▽橘「この世界は紳士揃いだ。きっと恭しく丁重な態度で、プロトコルに則って質問してくれるだろうぜ。」
▽老人「(名刺を仕舞いながら)迂闊だった。お気遣い痛み入る。」
▽少年「(尊敬するような目つきになっている)」
▽橘「老婆心ながら言わせてもらうが、あんたたちは広報というか、そういった分野でガンバッたほうがいいんじゃないのか。…それでは、依頼金は(ボストンバッグを左手で持ち上げると)確かに受け取った。領収書はいらないだろうね。」
老人「……。」
橘「(少年に向かって)栗原少尉。」
少年「?」
橘「日本の行く末が、全くのお先真っ暗というわけでもないと分かって嬉しいぜ。同志栗原少尉。(敬礼する)」
少年「(ぱっと顔が輝いて、立ち上がると)はいっ。(敬礼)」
419ゴルゴ13 原作脚本:2013/12/02(月) 00:05:58.45 ID:xT+Jh+DC
5

○(マンションの)室内
薫子「(服を身に着けながら)人の話を全然聞いていないんだから。」
橘「聞いてるって。だからさ、パリのどこがいいんだよ。なにが花の都だ、パリなんて犬の糞だらけじゃねえか。ランボーが糞っパリって言ったのも、もっともだ。」
薫子「そういう意味で言ったのじゃないでしょ。って、あら、真面目なレスしちゃった。やっぱりフランスが嫌いなのね。」
橘「こうやって日仏ミックスのおまえと仲良くしてんだ。そんなわけねえだろ。」
薫子「ミックスって…。犬猫じゃあるまいし。」
橘「差別はいけねえよ。俺なんか犬猫から人間まで平等に扱うからな。人間の男は…置いといて…。女は完全に無差別だ。」
薫子「さっき、PM2・5女がどうとか言ってなかった?」
橘「そいつらは偽装表示女だからな。原産地表示が確かなら、オールウェルカムだ。三色旗万歳!」
薫子「それで、あちらこちらで女を食い散らかしてるわけね。」
橘「人聞きの悪い言い方しねえでくれ。それを言うなら博愛主義と呼んでもらいてえな。」
薫子「知ってた? それをフランス語に翻訳して、もう一度日本語に訳し直すと、女誑しのスケベオヤジってなるのよ。」
橘「そいつは辞書が安物か、フランス野郎がクズばかりってことだろ。」
薫子「そのフランス野郎のほとんどは、あなたには言われたくないって思うでしょうね。」
橘「俺はフランス大好きだよ。サバ?と尋かれてツナ!と返すのを控えるぐらいにはな。」
薫子、完全に無視して衣服を整えている。
橘「ああ、わかったよ。けどな、俺は病気なんだ。オヤジギャグを言えねえと死んじまうんだよ。ちったぁ病人に優しくしようって気にはならねえのかい?」
身繕いを終えた薫子、ドアに向かう。ドアに手をかけながら振り向いて、
薫子「ぜーんぜん。それに、あなたのはオヤジギャグだなんてとんでもない。それを超えてるわ。」
橘「超えてる? えへへ、そうかい。」
薫子「ええ。名づけるとすれば、そう、ニュートリノギャグね。」
橘「なんだそりゃ。」
薫子「何者の反応も引き起こさず、地球の裏側へと擦り抜けていってしまうから…
よ。Au revoire(さよなら)。」
さっとドアを引き開けて出て行く。
橘「このっ。」
投げつけた枕がバタンと閉まったドアに当たって落ちる。
橘「くそっ、口の減らねえ小娘め。しかし、ニュートリノギャグか。うめえこと言いやがるな。」
420ゴルゴ13 原作脚本:2013/12/02(月) 00:33:23.52 ID:xT+Jh+DC
6

□プエルト・プリンセサ─パラワン─フィリピン
○土産物屋
店内に入ってくる橘。店主と話をし、後について奥に消える。
○店の奥
店主が拳銃をテーブルに並べる。橘、その一丁を取り上げ、暫く操作して感触を確かめると、金を払い、実包その他と共に持参のバッグに収めて店の表に向かう。そこへ男[欧]が入ってくる。互いに鋭い一瞥を交わすものの、さりげなくすれ違う二人。
○人気のない海岸
橘が拳銃の試射をしている。その様子を離れた所の樹の陰から双眼鏡で観ている男[欧]。
橘が標的を変えて振り返った時、一瞬チカッと太陽を反射する光が眼を射る。
橘「……。」
○(私設)飛行場
草が其処彼処に生えた滑走路。カマボコ形の屋根の所々を応急修理で塞いだ痕のある格納庫と、掘っ立て小屋のような建物の脇に立ったポールに、尻の千切れた吹流しがはためく。
○滑走路
終端まで来て回頭しているセスナ。クラクションの音と共に、オンボロのピックアップトラックが走ってくる。窓から首を突き出した橘が、
橘「おーい、待ってくれー。」
車が機体のすぐそばで止まり、ショルダーバッグを鷲掴みにした橘が下りてくる。乗せてきた若者が、
若者「(操縦士に)ヘイ、ジョージ、もう一人お客さんだ。今晩の飯が、ハンバーグから本物のステーキにランクアップできるぞ。よかったな。」
ジョージ「ふざけるな。俺はいつでもモノホンのステーキしか食わねえよ。」
若者「へへへ、そうかい。とにかく今日は商売繁盛だ。気をつけて行ってきてくれ。(車で走り去る)」
橘、乗り込む。既に乗っていた男[欧]、無表情。
○機内
ジョージ「まったくヘラヘラと口数の多い野郎だ。さあ、お客さん、ベルトを締めてくれ。出発だ。」
○飛行場を見下ろす丘に二人の男(エージェント風・中国人?)。一人は双眼鏡を眼に当て、橘たちの乗ったセスナが滑走し離陸上昇するのを、監視している様子で見送る。
421ゴルゴ13 原作脚本:2013/12/02(月) 01:01:18.71 ID:xT+Jh+DC
7

○飛行するセスナ
○セスナ機内
橘「(明るく)やあ、押しかけてすまない。さっきのにいさんに遊覧の希望を言ったら、ちょうどそこへ行くのが今出るところだって言うんだ。ついてるよ。」
男〔欧〕「つきというのは呼び寄せるものだ。それが出来る人間は限られているが。君はきっとその限られた人間の一人なのだろうな。」
橘「(明るいまま)随分婉曲且つ直截にものを言う男だな。気に入ったぜ。(バッグからズームレンズを装着した一眼レフカメラを取り出す)」
男〔欧〕「君は日本人のようだね? 日本人にとってカメラというのは、我々と聖書の関係みたいなもののようだ。」
橘「(にっこり笑って)聖書たぁ又ずいぶん大袈裟な例えだな。それにあんたは、タテヨコナナメどっからどう眺めても、日曜に教会へ行くタイプにゃあ見えないぜ。」
男[欧]「……。」
橘「( 笑みを絶やさず )以前、イギリスに行った時のことだ。奨められたゴルフを断った俺に、宿屋のジジイが言ったね。『ゴルフをやらない日本人がいるはずがない。』カチンときた俺はこう言ってやった。
『いいかい、爺さん、耳の穴かっぽじってよく聞け。俺はメガネを掛けてねえし出っ歯でもねえ。首からカメラをぶら下げちゃいねえしゴルフもやらねえんだ。この国じゃ、おまえさんの認証を受けねえと日本人じゃなくなるのかい。』ってね。ま、俺も若かったんだな。」
男〔欧〕「気を悪くせんでくれ。そんなつもりで言ったわけではないのだ。しかし、それはだいぶ、我々の抱く日本人のイメージからは外れた対応に見えるな。」
橘「気にするなってことよ。そうだ、もうひとつ思い出した。飯を食った後、味はどうだったと訊かれたんで、『大変結構。イギリス人が大抵のことに驚かず、酷い境遇にも決してへこたれない理由が分かった。』と答えておいた。
ついでに『イギリスの牛や馬は何を喰ってるのか教えてくれ。』とも付け加えておいたよ。」
男[欧]「私は今、自分が宿屋の主でなくてよかったと思ったよ。もっとも、そんな仕事を私がすることはないだろうが。」
橘「そうだな。とてもじゃないが、お互い堅気の仕事が勤まるってえ柄じゃなさそうだ。」
男[欧]「……。」
橘「なあ、ひとつ提案があるんだがな。」
男[欧]「うん?」
橘「この空中遊泳が終わったら、一杯やらねえか。もうちょい腹を割って話をしようじゃねえか。」
男[欧]「言っている意味が分かりかねるが。」
橘「ここまできておとぼけは無しだ。」
ジョージ「お客さん、そろそろ島ですぜ。」
橘「おっと、メシの種のお仕事をしなくちゃな。」
男[欧]「建物のある島の東側を通過してくれ。(ボストンバッグからやはりズームレンズ付き一眼レフカメラを取り出す)」
橘「なんでえ、あんたも持ってきてるんじゃねえか。他人のことをよく言うぜ。(カメラを構える)」
○島の上空を通り過ぎるセスナ
○機内
橘「!」、男[欧]「!」、盛んにカメラのシャッターを切る二人。
男[欧]「(操縦士に)よし、今のコースを引き返すのだ。ただし、もっと高度を下げてくれないか。」
ジョージ「ほい了解。しかし、面白いな。午前乗せた客も同じこと言ってたよ。」
男〔欧〕「午前の客?」
橘「そいつも、この島の遊覧をチャーターしたのか?」
ジョージ「そうだよ。あんたたちと同じ飛び方オーダーしたな。もっともカメラを持っちゃいなかったが。」
橘と男〔欧〕、顔を見合わせる。
○セスナ
旋回して島の上空に戻ってくる。
○機内
再びシャッターを切る二人。
橘「間違いないな。」
男〔欧〕「ああ、カモフラージュしているが、単なる漁業基地でないことは確かだ。 (カメラをバッグに収めるとジョージに)さっきの午前乗せた客のことだが、どんな男だったか、教えてもらえるかね。」
ジョージ「そうさな。彼はいいガタイをしてた。アスリート、それも格闘技系じゃねえかと俺は見たけどね。(橘に)あんたに似た感じだったな。」
男〔欧〕「……。」
橘「日本人みたいだったのか?」
ジョージ「そう見えたな。ただ、すげえ鋭い顔と目つきだった。それに無口で、ひと言ふた言しか喋らねえ。とにかく迫力があって、ちょっとブルッちまったよ。」
橘「どうせ俺は、顔も口も緩んでるよ。悪かったな。」
男〔欧〕「あの男だな…。」
橘「心当たりがあるのか?」
男〔欧〕「うむ、一度実物をこの目で見て確かめたい、と思っている男のようだ。」
橘〔確かめたいって、何をだ?」
男〔欧〕「噂。その噂通りの男かどうかをな。」
422ゴルゴ13 原作脚本:2013/12/02(月) 01:14:55.52 ID:xT+Jh+DC
8

○海沿いの道路
片側が殆ど垂直の山肌、他方が海へ落ち込む崖になっている道路を、ガタガタと走る、ボロボロのスポーツタイプの車。
○車内
男[欧]「便乗させてもらってすまないな。」
橘「いいってことよ。飛行機のこともあるし、お互い様だ。」
○後方にランドクルーザーが現れる。
○車内
橘「しかし、何だこの車は。飛行場のあのくそ野郎め、足元見やがって。こんな野晒しにしていたガラクタで、千ドルもボルとはな。いい根性してるじゃねえか。捨てるのにそれだけこっちが貰いてえよ。これじゃシボレーコルベットの名が泣くぜ。」
男〔欧〕「ひょっとすると、ルート66が現役の頃、アメリカ本土を走っていたのかもしれんな。」
橘「それじゃ俺たちは、トッドとバズかい。」
○後方のランクル
急速に接近してくる。凶暴な感じのフロントガードを取り付けている。
○車内
男〔欧〕「後に車が近づいてきてるぞ。」
橘「分かってる。追い越せと合図してるんだが。面白半分にこっちを煽ってやがるのかな。」
リアウインドウいっぱいに、ランクルのフロントガードが拡がると、ガツンと衝撃が襲う。
橘「(ハンドルを取られる。必死にカウンターを当てて、車首を立て直す)くそっ。野郎、ふざけやがって。」
○ランクル
一旦離れたかとみると、急激に加速して迫ってくる。
○車内
男〔欧〕「(脇から拳銃を取りだす)」
○道路の酷い凹凸で、車が激しくバウンドする。
○車内
男〔欧〕「(拳銃を足元に取り落とす)むっ。(ダッシュボードに片手をついて振り返り)本気でぶつける気だ。スピードを上げろ。」
橘「これでMAXだ。」
○ライフルの照準鏡
円形の視野にランクルの後部。
○コルベットの車内
男〔欧〕「来るぞ。」
橘「南無三。」
激しく金属がぶつかり噛み合う音がした瞬間、
○照準鏡の円形視野
視野内のランクルの後部タイヤを照準線が捉えている。発射音。
○ランクル
ガクンと震え、コルベットと離れる。山肌に接触しながら削っていき、そのまま山に抱きつくように食い込んで停まる。
○コルベット車内
橘「ふー。野郎、バーストしやがったか。つきを呼び寄せたのは俺か、それともあんたか?」
男〔欧〕「(足元から拳銃を拾い上げ、脇のホルスターに収めながら)どちらでもないな。銃声が聞こえたろう?」
橘「衝突とバーストの音しか聞こえなかったぜ。どういうことだ?」
男〔欧〕「午前中にセスナをチャーターした男、あの男がランドクルーザーのタイヤを狙撃したのだ。こんな射撃が出来るのは、今、パラワンには二人しかいないはずだ。」
橘「もう一人はあんたってことかい。あんたも結構言うねえ。しかし、狙撃だったとして、それならもうちょい早めに願いたかったな。こっちはすんでのところでお陀仏だったんだぜ。」
男〔欧〕「理由は、今君が言ったではないか。衝突の音に紛らせて、狙撃を悟られたくなかったんだろうな。」
橘「ほう、で、やつはなぜ俺たちを助けたんだい?」
男〔欧〕「それは分からん。…ところで先ほどの君の提案だが、答えはOKだ。」
橘「へ? なんだっけ。」
男〔欧〕「一杯やろうと言ったではないか。」
橘「おう、そうか。それじゃ俺のホテルのバーはどうだ。」
男〔欧〕「よかろう。今日収集した資料を処理してから、ということになるが。」
橘「そうだな。俺もそうする。報告できるものはその都度片付けとかないとな。ビジネスマンの心得の第一だ。」
○後部がひしゃげ、折れ曲がった金属片がタイヤを掻きむしるコルベットが、悲鳴のような異音を発しながらガタガタと走り去る。
423ゴルゴ13 原作脚本:2013/12/02(月) 01:32:31.49 ID:xT+Jh+DC
9

○ホテルの外観
○室内
橘、カメラとUSBメモリをノートPCに接続して操作している。次にスティック状のボイスレコーダーに何か吹き込み、終わると、メモリとレコーダーを小さな箱に入れ梱包する。荷札に記入して貼り付けているところにノックの音。
橘「(緊張した様子で拳銃を手にすると、ドアの脇に身を寄せて)誰だ?」
声「栗原です。」
橘「!(ドアを開けて、素早く左右を見回す)」
(依頼者の孫の)少年が立っている。
橘「(招じ入れてドアを閉める)どうやってきたんだ。フロントからは何も言ってきてねえぞ。」
栗原「僕もこのホテルにチェックインしているんです。」
橘「それで爺さんたちは何処だ。」
栗原「東京です。祖父や父、兄は何も知りません。僕ひとりでやってきました。」
橘「呆れたガキだ。これを(拳銃を示して)見てみろ。どういう意味か分かるか。こいつを手にしてなきゃ、うっかりドアも開けられねえってのが、俺の今の状況だ。」
栗原「それならなおさらです。僕にも手伝わせてください。」
橘「馬鹿野郎。ディズニーランドのショー見に行くんじゃねえんだぞ。帰れ。」
栗原「帰りません。僕も覚悟してここに来たんです。」
橘「(柔かい表情で)ほう、そうですか。そりゃ、勇ましいことで。(急に鬼のような形相になって)てめえ、これ以上ぐだぐだぬかすと本気で張ったおすぞ。」
栗原「構いません、殴ってください。(キッと目を見開いて、真っ直ぐ橘を見つめる)」
橘「(ホーッと息を吐くと同時に両肩が落ちる)あのなあ、栗原さんよ。俺にもそんな時期があったから、おまえさんの気持ちはよく分かるつもりだ。その年頃で一旦思い込んだら、誰の言うことも聞きゃしねえ。」
栗原「……。」
橘「だから今から俺が喋るのは、只の独り言だ。聞きたくなきゃそっぽを向いてくれてていい。(ベッドに腰を下ろすと、脇に拳銃を置いて)ま、とりあえずそこの椅子に座れよ。コーヒー飲むか?」
栗原「いえ、コーヒーは結構です。失礼します。(椅子に掛けて)僕は橘さんのようになりたいんです。」
橘「なんだと? こっちへ来てからなんか悪いもんでも食ったのか?」
○ホテルの外観
男〔欧〕が入っていく。
○橘の室内
橘「あんたに今死んでもらっちゃ困るんだ、栗原君。日本のために働くのが何よりも最優先の君の任務だろう、違うか? いいか、問題は日本という家の土台も心柱も、白蟻が巣くって食い荒らし放題なことだ。
寸木支え難し大廈の倒るるを。しかし、ここで諦めるわけにはいかねえ。諦めたらその時こそ本当に日本は終りだ。」
栗原「(頷く)」
橘「その流れを押しとどめ押し返せるか、そこが本当の正念場だ。そこが本当の戦場なんだぜ。そこから逃げるのか、栗原少尉。」
栗原「!(ぱっと立ち上がり姿勢を正す)」
橘「命令。栗原少尉は直ちに原隊に復帰し当初定められたる任務を遂行すべし。以上。」
栗原「復唱っ。栗原少尉は直ちに原隊に復帰し当初定められたる任務を遂行すべし。命令受領っ。(敬礼)」
橘「よし。(答礼して)休め。いいか、頼んだぜ。あと十年が勝負だ。いや、五年だろうな。今のままじゃ日本の体力は十年も保たん。日本の未来がどうなるかは、君の、君たちの肩に掛かってるんだ。勿論、俺たちも応分の仕事はするさ。応分の…な。」
424ゴルゴ13 原作脚本:2013/12/02(月) 01:44:37.95 ID:xT+Jh+DC
10

○ホテルの一室
騒動師リンドンが時間を気にして腕時計を見ている。
リンドン(回想)
▽ロサンゼルス─USA━郊外の廃屋
▽いかにもなアメ車が道路を外れ、土埃を巻き上げながらメインの建物の裏手の、小屋の前で停まる。車から降りたリンドン、大扉の脇の小ドアを開けて入っていく。
▽物陰から声がかかる。
▽声「リンドンだな?」
▽リンドン「(ビクッとして振り向く)やあ、ゴルゴ、暫くだな。あんたは変わらねえな、いろんな意味で。俺はご覧のとおりいささか草臥れちまったがな。おっと、そいつは見かけだけの話だ。腕は錆びつかせちゃいねえぜ。」
▽ゴルゴ「無駄話はいい、こっちへ来てくれ。」
▽リンドン「(近寄りながら)参ったね、物言いも相変わらずだ。」
▽ゴルゴ「(窓際の古机の上に置いた一枚の紙を示す)これを見てもらおうか。」
▽リンドン「((紙面を手に取って)なんだいこりゃ。」
▽ゴルゴ「見ての通り島の地図だ。形状と注記を頭に叩き込んでくれ。」
▽リンドン「ああ、そうか。ちょっと待ってくれ。(紙面をじっと睨んでいる)よしと。それで、遣り方に注文はあるのかい?」
▽ゴルゴ「それは委せる。だからわざわざあんたに頼むんだ。」
▽リンドン「嬉しいことを言ってくれるぜ。掛りの上限は?」
▽ゴルゴ「俺に必要なのは、あんたが考えた最上のプランだ。カネのことは気にしなくていい。言っておくが、俺が仕事の内容を事前にこれだけ明かすのは、あんたが初めてだ。」
▽リンドン「なんだか、ケツの穴がキュッと絞まるような台詞を聞かせてくれるじゃねえか。ずいぶんと久しぶりだぜ、こんなに血が騒ぐのは。よーし、このリンドンに委せてくれ。」
▽ゴルゴ「……。(リンドンから受け取った紙にライターで火を点ける)」
○ホテルの一室
リンドンが再び時計を見る。
425ゴルゴ13 原作脚本:2013/12/03(火) 23:07:20.42 ID:onZolVYZ
11

○ホテルの外観
(飛行場から尾行したのとは別の中国人風の)二人の男が、正面入り口を入っていく。
○ホテルのバー・カウンター
橘と男〔欧〕がスツールに並んで掛けている。
男[欧]「自衛隊のレンジャー、それも空挺レンジャーの出身か。」
橘「こいつは驚いた。なかなか詳しいじゃねえか。だが惜しいな、ちょいと外れだ。正確には、落ちこぼれの元レンジャーだがな。そういうあんたは、どこの特殊部隊の出なんだい、なんて訊く気はねえよ。」
男[欧]「ほう。」
橘「そうに決まってるからな。お互い、人生裏街道を行く身だ。過去なんてその意味じゃ似たり寄ったりだろうさ。それより現在只今を楽しまなくちゃな。全世界の女が俺を待ってることだし。」
男[欧]「ううむ、君は典型的な日本人のタイプからは、相当外れているのではないか。別に日本人を良く知っているわけではないが。」
橘「ま、俺が三船敏郎じゃないってのは、あんたがジョン・ウェインじゃないのと同じくらい確かだろうな。」
男[欧]「面白い男だな、君は。」
○バーの入り口
二人の(中国人風の)男が入って来る。奥へ行き隅の席に着く。
○バー・カウンター
橘が喋り、男[欧]が時々苦笑しながら聞いている。
橘「支那にも昔は、韓信なんていう感心な奴もいたんだがな。」
「支那にゃあ Revolution はなかったんだよ。易姓革命、つまり王朝交代を繰り返してきただけだ。要するに、秦の始皇帝が生き返って、マルクス主義の用語で喋りだしたのが毛沢東ってことさ。」
「マオタイ酒に三国志と水滸伝、それに人民の血をたっぷり加えて、文化大革命というシェイクをすれば、ブラッディ・マオの出来上がりというわけだ。」
男[欧]「……。」
橘「アンナはいい女だが、どうも男を見る目に問題があるようだ。」
「浮気相手の色男ってのがウロンスキー。この野郎がまた胡乱なやつで…。」
「レーヴィンなんてなぁデクノボーの田吾作だろ。女が惚れるわけがねえ。」
男[欧]「……。」
橘「百聞は一見に如かずってのは本当だ。日本では化石というのは地べたの下に埋まってると教わったんだが、イギリスじゃ山高帽にフロックコート、それにステッキを持って化石が街を歩いてる。」
橘「ド・ゴールの鼻がもう少し低かったら、世界の歴史は変わったろう。実際、あの鼻をおっぺしょってやったら胸の痞えがおりる、なんて思ってた奴が、英米にはゴマンといたことだろうよ。
俺としちゃ、フランス人全員の鼻に、鉋を掛けてやりたいと思ってるがな。」
男[欧]「(苦笑いしながらグラスを傾ける)」
橘「俺は甥っこに同情しちまうね。だっておじさんが、泣く子も黙るあのベートーヴェンだぜ。『こいつの養育は俺に委せろ。』なんて張り切っちまって、箸の上げ下ろしにまで嘴を突っ込まれたんじゃあ堪ったもんじゃねえ。
ま、ドイツやオーストリアにゃ箸はねえけどさ。」
「ダメ男の甥っこが追い詰められ、便所の火事で、頭に一発ぶちこみたくなるのも無理はねえやな。」
男[欧]「そろそろ、私のプロファイリングの結果を訊いてもいい頃だと思うのだが。」
橘「分かってたのかい。」
男[欧]「無論だ。」
橘「いやあ、あんたが喋らねえもんだから、あんたが何処の産か当てる一人脳内ゲームを、暇つぶしにやってただけだ。」
男〔欧〕「それで結論は?」
橘「もちろん支那の訳がない。泥臭いロシアも違う。気取った物言いはイギリスか、乙に澄ましてるとこはフランスか、そこら辺もいまいちピンとこねえ。」
男[欧]「つまりどうなのだ、結論は。」
橘「そうさなぁ、さしづめ八木節の櫓ってとこだな。」
男[欧]「ヤギブシ? なんのことだね。」
橘「三角野郎が音頭とる八木節の櫓、要するに四角四面ってことよ。ドイツじゃねえかと思ってるんだがな。融通が利かねえ、一本気、はたまた愚直っていうか。おっと、貶してるんじゃねえぜ。
言っとくけどな、愚直てえのは男に対する最高の褒め言葉だと、俺は思ってるんだ。世の中、小器用に立ち回る小利口な小才子ばかりだからな。」
男[欧]「それが私のプロファイルか。それだけなのかね。」
橘「めっきり、はっきり、これっきり。これきりこれきりもうこれきりですよーってか。」
男[欧]「どうも君の発言には、時々理解不能なフレーズが混在するようだ。」
橘「それそれ、そこだよ。サラッと流すってことができねえだろ、あんたは。」
426ゴルゴ13 原作脚本:2013/12/04(水) 23:03:23.53 ID:DlsItGJh
12

○ホテルの一室
ゴルゴが、リンドンと向き合っている。
ゴルゴ「準備状況を聞こうか。」
リンドン「おいきた、こうだ。(白紙を取り出し、テーブルの上に置いて書き込み始める)あんたの想定に合わせて二通りの手を用意した。(書き終わって上体を起こす)これでどうだい?」
ゴルゴ「うむ、(一瞥すると洗面所に向かいながら)カネは不足しなかったか?」
リンドン「追加してもらったからな。十分だ。」
ゴルゴ、洗面所で紙を燃やして流す。
ゴルゴ「(ドアに向かいながら)変更があれば連絡する。」
リンドン「……。」
ゴルゴ「(ドアを開けつつ)リンドン。」
リンドン「ん?」
ゴルゴ「(半身に振り返り)あんたに頼んだ甲斐があった。」
そのまま部屋を出て行き、ドアが閉まる。
リンドン「(満足そうな笑み)」
○バー・カウンター
橘「日本人は耐える我慢する。相手が道理に外れた無理難題を言えば言うほど、こちらに理があるにもかかわらず抗弁せず、どこまでも身を低くして耐える。
それがボディランゲージなんだよ。それが友好を求めている、あるいは謝罪している、という意思表示なんだ。」
男[欧]「その忍耐は無限に続くのかね?」
橘「いや。」
男[欧]「では、どこまで?」
橘「自身を制御できなくなるまで。そして…ドカン、爆発する。『我々は、不当な非難、理不尽な言いがかりにここまで黙って耐えた。この我々の誠意、全き善意を理解しない相手は極悪非道、人間ではなく悪鬼羅刹の類である。
もう我慢できん。我らが怒りを思い知らせてくれる。神々も照覧あれ。』ということになる。」
男[欧]「そうなる前に言ってくれなくては、相手も分からないだろうに。」
橘「ウィンストン・チャーチルも、確かそんなことを言ってたな。」
男[欧]「傍から見れば、そう言うしかないと思うがね。」
橘「厄介なのは、日本人自身に、爆発するその臨界点が分からないということなんだな。」
男[欧]「要するに、きみの日本人論のエッセンスを一言で言うとどうなるのだ。」
橘「要するに…、一言でか…。うむ、要するに、日本人は窮極のアマチュアだ。本質的にプロになれないのさ。当然、俺もその一人だ。」
男[欧]「意外だな。君からそんな謙虚な言葉を聞けるとは。」
橘「俺は多くの美点を持った男だが、謙譲の美徳だけは持ち合わせちゃいねえ。こいつは冷静かつ客観的な自己認識ってやつだな。」
427創る名無しに見る名無し:2014/01/24(金) 18:29:50.52 ID:uu68yG8A
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428創る名無しに見る名無し:2014/03/05(水) 19:55:30.06 ID:NRQrloBM
打海文三の「応化戦争記シリーズ」をみんなで読もう!
429創る名無しに見る名無し:2014/05/08(木) 18:41:05.92 ID:/ubDFya0
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430創る名無しに見る名無し:2014/07/02(水) 10:41:05.99 ID:tESVku+s
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431創る名無しに見る名無し:2014/09/02(火) 20:10:19.13 ID:8IxMJoCy
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432創る名無しに見る名無し
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