大型連休に投下期待
628 :
創る名無しに見る名無し:2009/09/23(水) 21:07:44 ID:3BsRsxqt
大型連休最終日にきて何も投下無しとはどういうことだ・・
前もこんな質問した気がするけど、オマイラが挫折してしまったssを教えてくれ
図書館、カンバック!
631 :
創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 20:40:03 ID:UERf0f0w
図書館age
r、ノVV^ー八
、^':::::::::::::::::::::::^vィ 、ヽ l / ,
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ニ く. と 館 -= ヽ、:.:::::::ヽ、._、 _,ノ/.:::::| | /|
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ニ る と ら =ニ | |:::::::::::::::::::::::::::::::::::.|'夂.:Y′ト、
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正化31年9月30日月曜日 2018時 神奈川県相模原市 下溝古山公園付近
「きたぞー!」
ドアの隙間から外を監視していた図書士が叫ぶ。
いい加減周囲から漂う血の匂いに飽きていた俺は、その希望の持てる内容の叫びで力を取り戻した。
「遠慮するな。残りの銃弾を全部叩き込んでやれ」
数十分前の小さな成功から一度も姿を見せない敵に飽き飽きしていた仲間たちは、喜んでその命令に従ってくれた。
穴だらけになった民家からこちらに向けて反撃を試みていた良化隊員たちに、無数の小銃弾が襲い掛かる。
いわゆる近代的な民家は、風雪には強くとも、自動小銃から放たれた軍用ライフル弾を押しとどめる効果などあるはずも無い。
絶叫、悲鳴、そういった心を和ませる音楽が聞こえてきた。
馬鹿どもが。
俺たちは弾が少ないから撃たなかっただけで、お前たちが陣地に使っている民家に発砲することに抵抗は無いのだ。
「撃て撃て!遠慮はいらんぞ!全弾くれてやれ!」
退路を塞いでいたトレーラーと民家の壁の間を、車体をこすりつつ軽装甲機動車がこちらに向けてやってくる。
自衛隊が正式配備している、角ばった装甲が目立つ素敵な乗用車だ。
それは、調子に乗って叫んでいる俺たちを盾にするようにして停車する。
「直ぐに発砲を止めろ!あそこは民家だぞ!」
誰だか知らないが、今更やってきた図書監が偉そうに命令をしてくる。
そのまま突っ立って命令していろ、直ぐに敵の銃弾がお前を黙らせてくれるからな。
「直ぐに弾を下さい!奴らをここで潰しておかないと、後々面倒です!」
恐らくは良化隊の非合法部隊。
それも荒事専門の精鋭部隊だろう。
そいつらをここで皆殺しにしておく事は、中長期的な視点から見てとても図書隊のためになる。
この種の作戦行動が益になる事は少ないと敵に知らしめる効果もある。
何よりも、それなりに統制の取れた軍事行動を実施できる敵の人間を一人でも減らすことができるという大きなメリットがある。
民家へ向かっての発砲はとても褒められたものではないが、そもそもが良化隊が陣地として使用しているのが悪い。
確かに良化隊にはメディアを使ってこちらを攻撃する能力があるが、ではどうして図書隊が民家をわざわざ攻撃したのかという点は説明が必要だ。
つまり、目の前の穴だらけの民家の中で民間人が何人死んでいようとも、俺たちはその責任を追及される可能性はきわめて低いのだ。
そのような利益しかない行動なのだが、目の前の彼にそれを説明している時間は無い。
それに、思考をめぐらせている間に、彼は流れ弾か跳弾で、物理的な意味で頭をやられてしまったらしい。
「指揮権を俺が引き継ぐ、全員直ちに目の前の民家を攻撃せよ!」
こういったしだいなので、俺たちはそれから三十分に渡って発砲を継続し続けた。
生存者が裏口から逃げたのか、それとも全滅したのかは知らないが、とにかく良化隊からの反撃がなくなるまで。
その後も続々とやってきたこちらの増援部隊に包囲され、俺たちは最寄の基地へと移動した。
途中で二回の遭遇戦闘があったが、いずれもこちらが盛大に銃弾をばら撒いての先制攻撃を行った事により、良化隊は執行の停止を宣言してきた。
つまり、我々は今回の戦闘に勝利したわけだ。
それは小さな勝利であり、偉大な一歩だった。
火力には火力で、もっと大きな火力にはより多くの火力で。
図書隊は、専守防衛を貫く反撃機能付き標的から、一つの軍事組織へと変貌を遂げたのだと全世界へ向けてメッセージを送ることが出来たのだ。
俺がやるべきことは、最悪でも最終的に利害関係者全てが等しく損害を受ける事であり、最良の場合では図書隊だけが勝てる状況を現場レベルで目指す事だ。
上の連中がその状況をいかにして作っていくかには大変興味があるが、それは俺の仕事ではない。
今回の件については査問会も特になく、良化隊に非がある事からマスコミを使っての攻撃も少なかった。
武蔵野基地前の『平和市民団体』はいつものことだから別にいいとして、俺の周囲は驚くほどに何もなかった。
上層部レベルでは何やら動きがあったと漏れ聞く。
その何やら、というものがどういった方向性のものだったかはわからないが、一つだけはっきりとしている事がある。
「図書隊は、本格的に戦争を行う事を決意したようだな」
「物騒な事を呟いているな、お前」
並べられた機関銃を前に、無感動に呟いた俺に対して、手塚が突っ込みを入れてくる。
あの輝かしい相模原武力衝突から一週間後、俺の目の前にあるのは5.56mm軽機関銃の群れである。
陸上自衛隊の普通科連隊が目にしたら、ボルト一つ残さずに持ち去ってしまうほどの素晴らしい光景だ。
その隣には、今まさにトラックから降ろされようとしている狙撃銃の群れがある。
今ゲートをくぐってきている大型トラックには、鉄条網や砲座が収められているらしい。
「機関銃に狙撃銃に鉄条網、おまけに銃弾に対しては無敵に等しい砲座。
男ならば、この光景に興奮してしまっても仕方がないだろう?」
俺の意見は、男ならばきっとわかってもらえるはずだ。
「こいつらを人間に向かって使用しないという前提だったらな」
対する手塚は乗り気ではない様子だ。
これだからイケメンは困る。
人間というものは、公共の福祉に不利益をもたらさない範囲で素直であるべきだ。
「兵器というものは人間を効率的に殺傷するための道具だろ。
それに、これらは非武装の民間人を虐殺するためのものじゃない。
全力で俺たちを殺しに向かってくる相手から、身を守るための道具だ。
それならば、強力なほど良いに決まってるじゃないか」
楽しげに答えた俺に、手塚はやや引き気味の表情を向けてくる。
失礼な奴だな。
「それに、年がら年中振り回すわけじゃない。
定期訓練以外は、防衛戦闘でしか持ち出さないだろう。
それほど心配する事は無いさ」
俺は曖昧な笑みを浮かべつつそう答えた。
「是非、そうであってほしいものだな」
ため息と共に返ってきた手塚の言葉は、残念な事に現実にはならなかった。
正化31年10月7日月曜日、メディア良化隊は図書隊の防衛力強化に対し、メディア良化法に基づく査察力向上を宣言した。
もはや双方は完全な陸軍歩兵部隊に他ならず、諸外国および国内の双方を支持する団体から、重武装化を非難するコメントが発せられた。
しかし、全面的な武力衝突を決意した二つの団体は、そのような周囲の雑音など既に無視する事としていた。
彼らにも我々にも、それを可能とするだけの法的根拠と発言力はあるのだ。
同年10月9日水曜日、図書隊は防衛部の大幅な増員を発表。
同年10月10日木曜日、メディア良化隊特別査察部隊は部隊数を倍増させる計画を発表。
同年10月17日木曜日、関東図書隊は図書特殊部隊の定数を倍増させ、装甲車両および輸送ヘリコプターの増加を決定。
同日にメディア良化隊特別査察部隊は緊急展開力の向上を理由にヘリコプターの配備を決定。
翌10月18日金曜日、法務省内にて図書隊とメディア良化隊の間で対空射撃を禁じる協定が結ばれる。
そして双方が一連の戦闘能力向上を宣言し終えたこの日、俺は図書隊機関銃運用課程の教官としての任務を与えられた。
もちろん自衛隊からの教官派遣は受けているが、図書隊は最終的に独力で全てを行うという目標がある。
外部からの助力は、いつ良化隊の妨害を受けて失われるかわからないからである。
正化31年10月21日水曜日21:32 関東図書隊武蔵野基地 大会議室
この日、関東図書隊の主だった人間は、非常召集をかけられこの部屋へ集められていた。
稲峰図書司令を頂点に、主だった部課長、実務担当者、内部的に所属が明らかになっている情報部員たち、そして何故か俺である。
「即応体制に入っている部隊は?」
上座に座る図書監が尋ねる。
彼は、この場において司会者としての役割を持たされている。
「図書特殊部隊一個中隊、防衛部選抜部隊二個中隊と装甲バス十台です。
参加部隊は既にご周知の通り、外出を禁じ、即時出動態勢にて待機中です」
一人の防衛部図書正が立ち上がり、片手のメモを見つつ報告する。
ありがたいことに、俺はその初動部隊に含まれている。
家族もおらず、自衛隊時代の友人たちは平日に会う事が困難である俺は構わないが、個人的な外出の予定を持っている連中には災難だったようだ。
「弾薬は四基数を今回の任務用に確保していますが、空輸にて最大で六基数分を搬入可能です。
これとは別に、巡回を装って二個小隊の戦力が一時間以内に駆けつけられるように周辺に待機しています。
施設の防衛が可能になった段階で、当面は彼らが施設の封鎖を行います」
約一個大隊。小銃弾を防ぐ装甲車両と輸送用のヘリコプター。
大変な戦力である。
「敵の戦力は?」
当然の質問である。
敵戦力の規模によって、こちらの行動も随分と変わってきてしまう。
「およそ一個大隊規模。ヘリボーンは協定で行えない事になっていますので、対処可能な範囲です」
一個大隊の軽装歩兵部隊。
こちらも同数で、しかも軽機関銃を多く配備している事を考えれば、十分対処可能な戦力である。
「敵の増援はありえるんだろうな?」
敵もどうやってかこちらの情報は入手しているだろう。
重装備は無しで、一個大隊が篭る建物を落とそうとするのであれば、当然ながらこちらよりも多い戦力が必要となる。
「短時間で大きな損害を受けた場合にはありえます。
現場に急行できる範囲には最大で二個大隊の戦力がいます。
苦戦した際には、これらが駆けつけてくる可能性は十分考えられると思います」
寄せ手三倍の法則か、それなりに真っ当な頭は持っているらしい。
だが、敵がよほど愚かでない限り、逐次投入ではなく一度に押し寄せてくるだろう。
戦術の原則とは、相手よりも多くの戦力で、相手に対応する時間を与えずに目標を達成する事である。
こちらの戦力を誘引する事が目的でもない限り、逐次投入はありえない。
「情報部からもよろしいでしょうか?」
ここで情報部のあの図書正が手を上げた。
誰もが彼の行動に注目している。
「無線傍受および信頼できる筋からの情報です。
先ほどのお話にありました今回の作戦に参加すると目される部隊すべてに外出待機が発令されています。
また、弾薬の搬入回数がここ半年間で見るとかなり増加しています。
以上の事から、彼らの初動はかなりの規模になる可能性は非常に高いと情報部では判断しております」
我が情報部はなかなかに仕事が出来るらしい。
せいぜいが末端の非合法工作員であるという程度の認識である俺は、他人事のように感心した。
もちろん玄人が引っ張る素人集団という認識を改めるほどには至っていない。
それは、今回の作戦も含む今後の実績で判断すべき事だ。
「敵装甲車両の対策は?」
当然の質問である。
火力向上が成されたとはいえ、それらはあくまでも5.56mm弾を使用するものである。
小銃弾を防ぐ事のできる車両を持ち出されれば意味はない。
「展開時に鉄骨を組み合わせたものを配置します。
敵が装甲ブルドーザーでも持ち出さない限りは確実に効果があります」
ごく一般的な対戦車障害物である。
三本のレールを用いて作られるそれは、人力では除去が困難な重量を持っている。
また、地面をしっかりと保持できる構造をしている事から、車で体当たりをした所で逆に車両が破損してしまう。
もちろん工兵車両を用いれば簡単に撤去が可能だが、それには十分な経験と支援体制が必要となる。
つまり、現在こちらが掴んでいる範囲の状況では、メディア良化隊は対戦車障害物を円滑に除去する事は不可能となる。
「鉄条網は?」
障害物をすり抜けて浸透を図る人間に対し、絶大な効果を持つ障害物の名前が挙がる。
既に各種の試験を潜り抜けた一品が納入されており、次回の作戦には持ち込まれる事が当然だと誰もが考えていた。
「既にトラックに積み込まれています。建物の全周に配置してもなお余る量です。
土嚢についても同様です」
図書隊の任務には防衛しかない事から、彼らは野戦築城についてはかなりの技術と蓄積を持っている。
今回は今までの積み重ねの集大成が大いに役立っているようだ。
「銃座は?」
俺の強い要望でようやく採用されたあの防弾銃座の事だ。
あれを使って安全かつ大量に銃弾をばら撒くことが出来るのであれば、これほど幸せな事は無いだろう。
もっとも、アレを使用することが出来るのは機関銃分隊の連中だけである。
一兵卒に過ぎない俺は、小銃分隊の事実上の下士官として行動するため触ることすら出来ない。
こんな事ならば、せめて幹部レンジャー過程を完了してそれなりの地位についてから退役しておけばよかったと今更ながら後悔する。
まあ、俺のような歪んだ人間の下につく下士官たちにはさぞかし不評となっただろうがな。
「ヘリで屋上へ運び込みます。
書籍の輸送にもヘリを使う予定ですので、展開時の最終便がそのまま書籍の積み込み完了まで待機することになります」
回答者たちの言葉に淀みは無い。
今回の作戦は、以前から幾度となく想定が繰り返されてきている。
施設内の見取り図も、周辺の地形状況も、現場への輸送ルートや飛行経路も、全てが入念に調査され、検討されてきた。
「敵の対空射撃には対応できるんだろうな?」
ヘリコプターを預かる航空班長が不安そうに尋ねる。
大隊規模の歩兵部隊が盛大に弾薬をばら撒く現場に最重要の貨物を運搬するために乗り込むのだ。
彼が自分の部下たちの事を心配したとしても誰もそれを嘲る事はできない。
「彼らが協定を遵守するという前提では大丈夫です」
不安そうな彼の質問に、法務部の幹部は冷たく回答する。
とはいえ、この場にいる人間たちには、上は稲峰司令から下は最下級の俺に至るまで、それ以上の答えを用意することはできない。
良化隊に電話をかけて「ヘリを撃たないですよね?」と質問したところで「協定を遵守するよう関係各部署に通達済みである」以外の回答が返ってくるはずがない。
「負傷者の搬送体制は?」
質問の声に、衛生課長が起立して報告する。
「周辺のヘリポートを持つ八つの病院へ分散して確保しました。
最大で150名の短期収容が可能です」
言葉にすると短いが、その内容は驚くべきものである。
緊急用のヘリポートを持つ大病院を八つも確保したのだ。
これはかなりの成果であるといえよう。
まあ、そうできるように図書隊は医学生向け優先図書貸出サービスや論文の買取、報酬付き講演会の実施を行っている。
衛生課長だけの成果ではなく、日ごろの金銭的な投資の結果であるとも言えるだろう。
あまり綺麗なやり方ではないかもしれないが、負傷する可能性がある現場からすれば、このようなやり方には大いに賛同できる。
「野辺山氏の病状は?」
再び情報部の図書監が起立する。
「最新の情報によると、既に危篤状態であるとのことです。
恐らく、今週末までは持たないだろうと専属医師から聞いております」
今回の作戦目標である財団法人情報歴史資料館。
理事長である野辺山宗八氏が管理するこの施設には、メディア良化法制定から現在に至るまでの報道記録が収められている。
現在では海外に出向いて収集しない限りは民間人では知ることの情報の山である。
これらの情報資料は財団法人の財産となっており、大抵の事に自由が通るメディア良化隊とはいえども、さすがに自侭に振舞う事はできない。
戦うことよりも後世に伝える事を第一としていたのか、晩年の野辺山氏はそれらの資料を大々的に持ち出すこともなかったため、今までのところお目こぼしを受けていた。
しかしながら、80歳を超える高齢である彼が亡くなれば、当然のことながら良化隊は全てを闇に葬るための行動を開始するに決まっている。
そういった次第のため、彼らはここに集まっている。
「野辺山さんは良き友人でした。
彼の持つ資料の一切は、私にゆだねて頂く事が決定してはいますが、良化隊はそれをなんとしても阻止しようと行動してくるはずです。
既に一部部隊は現地入りのための行動を開始してはいますが、皆さん、よろしくお願いしますよ」
基本的には沈黙を貫いている稲峰司令が珍しく自身の考えを伝えてきた。
彼の持つ今回の作戦についての意気込みが伝わってくる。
「小田原の件とは別になりますが、気になる情報があります。
重要度と緊急性、どちらも高いものです」
だが、図書正の話はまだ終わっていなかったようだ。
再び口を開き、誰もが注目する。
「詳細があいまいな情報ですが、稲峰司令に対する誘拐計画があるというものです。
規模、目的、日時などの情報がないため、現在のところ詳細を調査中となっております」
これまた嫌な情報だ。
これだけの会議でわざわざ報告していると言うことは、少なくとも信頼性は高い情報なのだろう。
稲峰司令や要人警護課長が表情を変えていないところを見ると、事前にある程度の根回しはしていたのだろう。
むしろそうなると、詳細も既に掴んでいるが、内部からの漏洩を見込んで釘を刺す事が目的なのかもしれない。
あるいは、既に見込みは出来ていて、流出経路を確認する事で今後偽情報を流す際の実験をしているのかもしれないな。
まったく、世の中が裏表のない素直で純粋な人間ばかりだったらこんな事でいちいち悩む必要はないのだが。
「詳細が不明とはいえ、無視できる内容ではないな。
稲峰司令、身辺にはくれぐれもお気をつけ下さい」
司会役の図書監が畏まった様子で自重を促す。
「気をつけましょう。
なに、この足です、気ままに一人で飲みに行ったりはしませんよ」
笑えないジョークを彼が発し、それに一同が曖昧な笑いで答えたところで会議はお開きとなった。
翌10月22日の午前五時三十二分、野辺山宗八氏は享年八十四歳でこの世を去った。
彼の訃報を非常呼集のサイレンで知らされた俺は、内心で冥福を祈りつつ、ロッカールームに向けて全力疾走を開始した。
本日はここまで
軍板時代と違って一投稿あたりの行数が多いと、投下間隔がどうしても長くなってしまい申し訳ないです
>>639 GJ!です
ついに小田原ですか、また激しい戦闘になりそうな…
軍事板でもSSを書いてたんだ、どこのスレですか?
F世界か防女か…他にもあったかな?
>>640殿
F自スレです
別のスレに同じコテハンは良くないと前に聞いたことがあるので、
向こうでは同じトリップですが物語は唐突にというコテハンで投下してます
今はあのスレもこの板に移動してきているのでよろしければどうぞ
>>641 F自スレですか。私は防女スレ住人でした
最近はずっとこっちに居座ったままですが
F自スレは私が軍板住人になった頃にはもう伝統あるスレになっちゃってたから、そっちには何も投下したことがない…
スレも長く続き過ぎると新規参入が難しくなりますorz
>>642殿
新しく投下しようって人から見ると、長く続いているスレってやっぱり投下しづらいんですか?
F自スレは長い事投下しているんですけど、気がつくと最近新しい人がいなくて寂しいんです
住民の皆さんは優しいですし、気が向いたら是非投下していってください
>>643 昔投下された作品と被ってるとか、シリーズ通して登場している人物とかの扱いが難しかったりですかね
F自スレの話も脳内に一つだけアイデアがあったりしますが、どーもスレの雰囲気と違う感じが…
今はここに投下用の話を書いてる最中です
なかなか筆が進みませんがorz
>>644殿
お話の印象からして被ると言っても被っている部分があるという状態でしょうし、
登場人物についてもオリキャラではなく二次創作に対してのお話ではないかと勝手に考えております
もしそうなのであれば大丈夫だと思いますよ
私個人の勝手な意見ですけど、F自にしろこのスレにしろ、投下いただけたら嬉しいですし、連載いただけたら幸せです
>>639 乙でした。
原作では誘拐が先でしたっけね?
しかし警察よりも重武装ですなwまあ比例して強化はしてるでしょうが‥‥。
装甲バス、軽装甲機動車、機関銃ときたら。
次は、ミニガン砲塔搭載のブルトーザー改造戦車とか73式が来そうですねw
この調子では、いずれ徹甲弾の使用やキャリパー導入しそうな予感も。
そうなると、自衛隊系の装甲車以外は防護力に不安が出ますね。
民間とか他国の装甲性能は大体が一発こっきりの
最大防護性能で作られてるそうですから。
装甲バスのイメージは警察の特型警備車でいいですか?
図書館氏乙です
とうとう完全な戦争に移行しましたか
もう内戦一歩手前ですね
というか笠原とかはこの状況に耐えられるんだろうか
図書館隊は正義の味方とかいう幻想は完全に吹き飛んでしまいましたね
どこまで状況がエスカレートしていくのかというか主人公がエスカレートされていくのか楽しみです
あとF自スレの物語は唐突にも楽しみしてます
防女スレから遊びに来ました
>>641氏や
>>642氏の言うとおり防女スレも新人がSSを投入しにくくなっています
原因はSSを投入しても設定と違うなど文句を言う人間が出てくるからです
そのおかげで555氏や212氏(ここの642氏かな)がいなくなってしまいました
どこのスレもそういうものかもしれない
そういう私も創作系のスレッドを見ることが多くなっている
>>647 「戦争を決意した時点で、どちらも正義を持ち、悪でもある」
そうでなきゃ人を的に銃弾なんて叩き込めない
我々の地球とはほんの少しだけ異なる歴史を辿った地球のお話
首相閣下におかれましては、我が国ならびに同盟諸国軍が被っております人的被害につい
ては、すでに関係諸機関よりの詳細な報告によりご承知おきのことと存じます。言うまで
もなく本職は祖国と女王陛下に忠節を尽くすものであり、今次大戦における我が陣営の最
終的勝利については微塵も疑い無きところではありますが、昨今の戦死傷者数の統計を精
査するに慄然とせざるを得ないこともまた事実であります。ことに深刻なのが航空兵の損
失で、海峡方面は比較的穏やかではあるものの、中東および極東戦域での損失は無視でき
ないレベルにあり、敵占領下の欧州大陸に侵攻する爆撃機軍団の損耗率に至っては、極め
て憂慮すべき状態にあると申し上げざるを得ません。去る1940年の春、閣下が下院で
発言されました歴史的演説の通り、キリスト教文明の存続が我が国の奮闘に係っている以
上、敵に更なる重圧を加え、我が方の勝利をより確実なものとするためには、あらゆる手
段を用いるべきであり、敢て伝統的、道徳的観念に由来する諸々の制約を、一時的に撤廃
することも必要と愚考致します。故に本職は婦人航空兵採用枠の拡大と実戦部隊への編入
を強く進言するものであります。
戦時内閣特別顧問 W・P・リンデマン
月曜の朝
英国海軍航空隊予備義勇兵シャーロット・ホームズ少尉の操縦するグラマン・マートレッ
ト艦上戦闘機FN142号機は、北海上空1,000フィートを時速150マイルで飛ん
でいた。
9気筒の星型空冷エンジンが奏でるピストンとプロペラの交響曲を響かせて飛行する米国
製単座戦闘機の翼下では、第三次援ソ高速輸送船団FR77が、グリーンランドとスカン
ジナビア半島の間に広がる北極圏の海を、ムルマンスク目指して進んでいる。
船団を構成する全18隻の内訳は、近代的な大型貨物船が15隻、1万6千トン級タンカ
ー3隻。
これらの船が船腹一杯に積み込んだ積荷−戦車と飛行機、そして航空燃料−は東部戦線の
全局面を変えるに足ると言われている。
これに巡洋艦2隻、駆逐艦5隻、フリゲート艦、掃海艇、コルベット艦各1隻、そしてホ
ームズの所属する英国海軍航空隊第666戦闘飛行中隊を搭載した、9千トンの商船改造
空母グラップラー、計11隻から成る英国海軍第14護送戦隊が随伴していた。
『ハロー<シュガーのS>、こちらストロングマン』
無線電話を通してグラップラーの空中戦闘管制官アダムズ大尉が呼びかけてきた。
<シュガーのS>はシャーロットの、ストロングマンはグラップラーの呼び出し符号だ。
「こちら<シュガーのS>、感度良好どうぞ」
『レーダーに不明機1、方位0−2−0、30マイル接近中』
連合国と枢軸国、どちらの飛行場からもこれだけ距離のある北極圏の洋上で、この方向か
ら接近する航空機は、トロンハイムに基地を置くKG−40のコンドル以外に有り得ない。
フォッケウルフFw200コンドルは、ルフトハンザ航空の26人乗り商業輸送機として
作られた4発機で、長距離哨戒機として就役したFw200Cは2千200マイルを越す
航続距離を持っている。
軍用機としては武装が弱く、機体強度も戦闘機動を行うにはやや脆弱ではあるものの、長
大な航続距離を活かして北海上空を哨戒し、Uボートを誘導するだけでなく、自らも爆撃
を加えてくるコンドルは、連合国船団にとってまさしく疫病神と言えた。
だが今回、FR77には空母グラップラーが加わっている。
イラストリアスやフューリアスといった艦隊型空母に比べれば玩具のようなものではある
が、これまで陸上機の援護が受けられないエア・カヴァーの空白海域で、Uボートと独空
軍機に好き勝手されてきた援ソ船団に、待望の上空直援機が付いたのだ。
マートレットを上昇させながら、シャーロットの目と手は敏捷に動いた。
反射式照準器のスイッチを入れる。
スロットルとミクスチャーとプロペラピッチを調節する。
高度計、対気速度計、ブースト計、コンパス、潤滑油圧力計をチェックする。
機銃を装填―マートレットの翼内に装備されたブローニング機関銃の装弾は、フレキシブ
ルケーブルを介し、シートの左右に並んだレバーを使って手動で行われる―する。
補助翼と昇降舵のトリムタブを調整する。
機銃の試射を行うと、6挺の50口径機関銃が咆哮し、斉射の反動で3.4トンのグラマ
ン戦闘機が震動する。
FAAの標準迷彩を施された戦闘機から放たれた曳光弾が、鉛色の雲が垂れ込める北極圏
の空にオレンジ色の軌跡を描いた。
『目標直進、交差方位。速度変わらず』
「了解ストロングマン」
ヘッドフォンを通じてアダムズの落ち着いた声が聞こえる。
グラップラーのレーダーに誘導されたマートレットは、兎の巣穴を急襲するバセットハウ
ンドのように雲の中に突っ込んだ。
FN142号機が雲の上に出ると同時に、シャーロットの目の前に、コンドルの巨大な機
影が迫ってきた。
距離は500ヤードもない。
まさか北海上空で単発戦闘機出くわすとは思ってもいなかったコンドルの操縦士は、予想
外の事態に一瞬の思考停止状態に陥り、急降下して雲に飛び込むための2秒間を空費する
というミスを犯した。
一方、時速500マイルの相対速度でコンドルに対進するシャーロットには、攻撃を躊躇
する理由は何もなかった。
種っぽい何かが虹色の閃光とともに弾け(イメージ映像)、感覚が鋭く研ぎ澄まされ、思考
が冴え渡る。
急接近するコンドルが空中に静止しているかのようだった。
機械的と言えるほど無感動に操縦桿に取り付けられたトリガーボタンを押し込むと、照準
器一杯に膨れ上がった4発機の機首に、毎秒60発を超える銃弾が撃ち込まれる。
正面衝突の直前、上げ舵をとってコンドルの背中を掠めたマートレットの操縦席から、ド
イツ機の風防ガラスが粉々に砕け散るのを認めたシャーリーは、そのまま上昇旋回に入っ
て後上方からの降下攻撃に移ろうとしたが、コンドルは急激に機首を下げると、あっとい
う間に海面に突入してしまった。
『目標の撃墜を確認、よくやった』
「PEACE OF CAKE(朝メシ前さ)」
FN142号機が船団上空でヴィクトリーロールを打つと、期せずして汽笛の大合唱が起
こった。
「お嬢さん方もなかなかやりますな」
「今のところは、だ」
第14護送戦隊旗艦H・M・Sユリシーズの艦橋で、一部始終を見ていたヴァレリー艦長
が双眼鏡から目を離して微笑むと、戦隊司令のティンドル提督がむっつりと答えた。
船団護衛もの北。しかもFR77。
"史実"より空母少なめだけどしっかり飛ばしてるからいいや。
この機体が格好良く飛んでいるところは初めて見た気がするw
……ところで、艦載機にロッ(ry
> リンデマン
UPロケットはハズレだと理解してくれてると良いけど。
正化31年10月22日水曜日05:35 関東図書隊武蔵野基地 ロッカールーム
「おい、出動だぞ」
ロッカールームまであとわずかとなり、必死に息を整えていた俺は平然を装いつつ手塚に答えた。
しかしいかんな、たかだか200メートル程度で息がここまで乱れるようでは生きてはいけない。
この戦闘が終わったら、しばらくは自主訓練に励むとするか。
「いよいよだな」
手塚と共に廊下へと進む。
出動命令が出ているだけあり、基地内は騒然としている。
実戦前のこの独特の雰囲気はたまらない。
指揮官も一兵卒も関係なく、前線も後方も区別なく、一致団結して事に当たろうとする一体感を感じられる。
「狙撃班は出るのか?」
「当たり前だろう、全員出動だよ。
いざと言うときは文字通りの意味で援護射撃をするから安心してくれ」
思わず手塚の顔を見る。
こいつにしては面白い冗談を言ったものだ。
「背中は任せたぜ」
笑顔で答えつつ、更衣室のドアに手をかける。
「なあ、今回の作戦、大規模になるんだろう?」
手塚が声をかけてきたのはその瞬間だった。
何時になく不安そうな声である。
「それは間違いないよ。
楽しみだな」
俺の口から思わず本音が漏れてしまったとしても無理はないだろう。
大隊規模での陸兵のぶつかり合いだ。
こちらには機関銃がたっぷり、防御陣地や障害物も山のようにある。
さぞかし愉快な戦闘となるだろう。
「おはよう諸君」
ヘリの前に整列した俺たちの前で、玄田隊長が訓示を垂れている。
一個大隊を投入する大作戦である、いつもと違う出だしとなるのも無理はない。
「諸君らはこれより、間違いなく今年最大の作戦に参加する事になる。
日本国の、古き良き時代から今に至る歴史を葬らんとする敵を打ち倒す作戦だ。
我々は主義も、信条も違う。
しかし、我々は同じ日本国民であり、図書隊員である。
日本国の文化と言論の自由を護るため、戦い抜いてきた」
玄田隊長はここで言葉を切り、俺たち一人ひとりの目を見てきた。
まったく、勇ましい上に有能で、演説の才能まで持っているとはな。
アンタはどこまで凄い人間なんだ。
「今日この日、我々は重要な局面において、結集する。
日本国の歴史を保護する。
人々に、友人に、そして家族に自由を取り戻すために。
今すぐには何も変わらないかもしれん。
だが、我々の勝利は必ずや後世の人々の記憶に残るだろう」
再び沈黙。
ヘリコプターのエンジン音が、遠くを次々と出動するトラックの轟音が、俺たちの耳に届く。
さすがにいつもとは作戦の規模が違うだけはある。
ここまで念の入った出動は、PKF時代以来無いな。
「すまんがみんなの命を俺にくれ」
あの時、第十八次アフガニスタンPKF、三十八回目のパトロールでも、俺は同じ言葉を言われた。
そのときにはついつい大声で「レンジャー」と叫んでしまったが、ここではそう叫ぶわけにもいかない。
奇襲を受けたときの小隊員で生き残ったのは俺だけだったが、こうして再び出撃しようとしていると、アフガンの戦友たちが帰ってきてくれたような気持ちになるな。
「先発は第一小隊、直ちにヘリで現場へ乗り込め。
第二から第四小隊は出動態勢で待機、車両部隊は最大速度で現場を目指せ。
臨時編成図書第501大隊出動する、目標は小笠原。往くぞ諸君!」
かくして、のちに日本の一長い水曜日と呼ばれる一日が始まった。
正化31年10月22日水曜日07:10 神奈川県小田原市 財団法人情報歴史資料館
エンジンとプロペラが奏でる轟音が、レシーバー越しにも鼓膜を叩く。
現在の俺たちは、輸送ヘリコプターに詰め込まれて出動中である。
既に眼下には情報歴史資料館のヘリポートが視界一杯に広がっている。
どんどん落ちていくエンジン音、そして衝撃。
「降りろ!GOGOGO!」
堂上図書正が声を張り上げ、俺たちは遂に戦場へと降り立った。
他の隊員たちも続々と降り立ち、何人かは軽機関銃や弾薬箱も運び出す。
「第二小隊降下急げ!集合を待たずに正門封鎖に参加せよ!」
小隊陸曹ならぬ小隊図書士長の号令で図書士たちが駆けていく。
俺たちを降ろしたUH-60Jは旋回し、増援部隊を運ぶためにできる限りの高速飛行で飛び去っていく。
それを暢気に見送る暇もなく、俺の所属する第一小隊は屋上階段を抜けて階下へと駆け下りる。
「防火扉を閉めるぞ!」
<<屋上第一機関銃座展開開始>>
「弾薬箱を下ろすぞ、ゆっくりだ、よし、三階西階段抵抗拠点設置完了」
<<屋上狙撃班は全員配置につきました>>
通りすがりに作業中の隊員たちが、あるいは無線経由で、次々と報告が入る。
すばらしい。
到着から五分と経たずに戦闘準備が次々と完成している。
普通科、つまり陸軍歩兵部隊とはこうでなければならない。
もちろん今の俺の肩書きは図書特殊部隊である事は承知している。
しかし、陸上自衛隊が非公式にはジャパニーズアーミーと呼ばれる事と一緒で、看板を変えた所で実情に違いはない。
<<繰り返す、第一小隊は一階正面の防御を担当、第二小隊の展開を援護せよ>>
いわゆる本部小隊から通信が入る。
散々ブリーフィングでやった内容だ、この期に及んで再度説明されるまでもない。
ようやく到着した正面玄関前で、俺は内心でそう呟きつつも小銃の装填を確認する。
<<こちら小田原301、正門前に車両部隊先遣隊の到着を確認、これより開門します>>
前進配備されていた現地の図書隊からの報告が入る。
車両部隊の連中、ヘリコプターに負けてはいられないと随分かっ飛ばしてきたようだ。
「先遣隊だとまずは人員だったか?」
隣の図書士が尋ねてくる。
「そうだよ、人員、弾薬、そして障害物。
その順番でやってくるはずだ、妨害がなければな」
自分の記憶を確認しつつ回答する。
今回の作戦では、まず最低限の装備を持った人員を空陸から送り込み、それから弾薬と障害物を運び込む事になっている。
メディア良化隊の執行日時はいまだ送られてきていないが、テロリストを使って先制攻撃を仕掛けてくる危険性があるためだ。
これは被害妄想ではなく、情報部の潜入工作班による裏づけが取られている確度の高い情報である。
拳銃、ライフル、そしてもちろん弾薬。
刀剣や爆発物が提供されているという情報もある。
確認中となっている稲峰司令誘拐に使用される可能性もあるにはあるが、まずはこの図書館に使用されると考えた方が良い。
何しろ、自力で消火不可能なレベルまで建物に火をつけてしまえば彼らの勝ちなのだ。
こちらが反撃しづらい民間人を偽装したテロ攻撃ならば、銃火器や爆発物の効果は倍増する。
「第二中隊かけあーし!」
あれこれと考えている間に、車両部隊先遣隊から降車した連中が展開していく。
ヘリコプターに比べると若干の積載力の余裕がある彼らは、必要最低限以下ながらも大盾と土嚢を持っている。
速やかに事前に定めた位置へ移動し、植え込みを刈り、わずかな土嚢を置き、即席の塹壕を作り始める。
コンクリート製の外壁に守られた我々とは違い、彼らは遮蔽物を自分で設ける必要がある。
本格的な塹壕陣地は後続の車両部隊が運ぶ物資と施設部隊が建設する。
しかし、それまでの間に戦闘が発生しないという保証がない限り、彼らはその時にできるだけの防護処置をしなければならない。
よほど死にたい者以外、戦場においては遮蔽物の確保を第一とする。
それは犯罪組織であろうと、警察であろうと、軍隊であろうと
「第二中隊も到着したか」
後ろからかけられた声に振り向くと、玄田隊長の巨体があった。
「敬礼!」
「別にいい」
慌てて敬礼を命じる現地守備隊の図書士長に苦笑しつつ答礼し、玄田隊長は窓の外を見る。
展開していく第二中隊。
分隊単位で設けられていく仮設陣地。
それらの中心部分、正門から正面玄関に通じる道をふさぐように、鈍く光る灰色の守護者たちがいた。
車体に装甲板を貼り付け、窓に関してはガラスは諦め防護板をはめ込むことにより、防壁として利用できるようになった装甲バスである。
本格的な実戦は今回が初めてだが、フル装備の小銃小隊が手持ちの弾薬全てを叩き込むという実弾試験はパスしている。
使用する弾薬に違いはないのだから、実戦でもそれなりには役立つだろう。
「後続の部隊の到着はまだか」
「えっと、交通事故による渋滞に巻き込まれているようです。到着予定時刻は0815の見込との事です」
無線機を背負った伝令が報告する。
年若い女性の声に思わず注目すると、久々に見る笠原だった。
さすがに装備を纏うその姿は図書隊防衛員そのものだったが、女性が武装する姿はどうしても好きになれない。
女性とは、戦場以外の職場でこそ活躍するべきだ。
ああ、この場合の戦場とは、もちろん言葉どおりでの意味の場所だけを指す。
人間味溢れるフェミニストたちから見れば唾棄すべき邪悪な男女差別主義者である俺は、内心でそのような事を思いつつ、挨拶程度の意味合いしか持たない軽い敬礼をする。
過去の経緯からすれば当然と言うべきなのだろう、笠原は嫌な奴が視界に入ってきたという表情を浮かべて答礼しなかった。
まあ、いい。
女性に好かれない事には慣れている。
<<ストーカーワン、ストーカースリー>>
苦笑を浮かべていると、耳にはめたレシーバーのチャンネルが自動的に切り替った。
情報部用の非常通信だ。
「トイレに行ってきます」
小隊図書士長に報告しつつ廊下に出る。
「ストーカースリー受信」
廊下をゆっくりと歩きつつ、小声で会話可能になった事を伝える。
無線の向こうからは男女のどちらともわからない声が現在の我々が想定すべき状況を伝えてくる。
<<想定Q号、状況スノーマン>>
「ストーカースリー、想定Q号、状況スノーマン、了解」
ロクでもない事になってきたな。
図書隊の創設期には、多くの退役自衛官が警備員として参加したとされている。
その噂はある程度は本当らしく、用語や通信符丁はかつて自衛隊で使用されていたものが多い。
想定Q号とは大規模不正規戦が想定されているという事、状況スノーマンとは警戒態勢発令に備えよという意味だ。
やれやれ、今回は通常の戦闘も従来にはない大規模な戦闘になると思われるのに、不正規戦まで大規模にやられては困る。
「勘弁してほしいな、本当に」
トイレに入りつつ、俺は心の底からの呟きを漏らした。
小便器の前に立ち、排泄行為を開始する。
今回の作戦の中で、どのようにして想定Q号に対応するべきか。
大変に困難な問題である。
「まあそう気にするな」
俺の呟きは、いつの間にか隣に現れた堂上図書正に聞かれていたらしい。
廊下での通信中は周囲の気配に気を配っていたので、最後の呟きしか聞かれていないはずだ。
「お疲れ様です。すいません、妙な事を呟いてしまいまして」
大規模な戦闘を前に参っているというシナリオで行こう。
俺は殺人狂だという誤解は既に解けているので、それで何とかなるはずだ。
「それも気にするな。笠原は精神的に未熟な面がある。
ああいう態度を露骨に取ってしまうのは社会人としてマズいことだが、それは俺から言っておく。
お前はあまり気にせずに任務に励め」
どうやら、堂上図書正は先ほどのやり取りを見て俺の後を追ってきたらしい。
なるほど、ぎこちない関係の改善を図ろうとする俺と、それを拒絶した笠原。
俺はすぐさまトイレに向かい、小便をしながら勘弁してほしいと弱音を吐く。というわけか。
意外に違和感のないストーリーだな。
「ありがたくあります。
任務に精進します」
手がふさがっているために軽く目礼し、俺は排泄行為を継続した。
施設課(これは今の自衛隊でも同じ名前だ)が到着したのは、それから十五分後の事だった。
対戦車障害物を積んだ大型トラックはここへ向かう途中で追突され、現在は警察の現場検証中らしい。
遅延の原因となった事故渋滞といい、確実に何かが起きているな。
そんな事を考えつつ土嚢運搬を手伝っていると、耳元のレシーバーがまた勝手にチャンネルを変えた。
仕方のないことではあるが、これが戦闘中に起きたらと考えると恐ろしいな。
<<ストーカーワン、ストーカースリー>>
静かに同僚たちから距離を置き、安全と思われる位置まで退避する。
おや、あれは玄田隊長とお供の堂上笠原ペアか。
とりあえずこちらの口の動きを読まれないように、あさっての方向を見ておくか。
「ストーカースリー受信」
<<想定Q号、状況レモンジュース>>
なんということだ。
状況レモンジュースとは、警戒態勢発令、交戦に備えよという意味である。
これは非常に困った話である。
俺は最悪の場合ばれても構わないが、基本的には身分を隠して行動するという区分の情報部員である。
今の所、確認できている範囲では周囲の同僚たちにはばれてはいない。
現状の図書特殊部隊および防衛部には、出動状態での一般待機しか命じられていない。
一般待機。
この言葉には公務員的な意味での厄介さが潜んでいる。
一般待機状態の図書隊員は、上官の命令がない場合には別命あるまで文字通りの待機となる。
しかし、目の前で何かが起こった場合、図書防衛のために自主的に行動する事が求められる。
基本的にはその行動自体が問題視される事はない。
「ストーカースリー、想定Q号、状況レモンジュース、了解」
小声で答えつつ、俺は一般待機における問題点についてを思い出す。
一般待機は、何かあった場合に個々の隊員の自主性を認めている反面、責任の上層部への追及をなくしてしまう。
それはあくまでも現場の暴走です、となるわけだ。
つまり、俺のような人間にとっては、とても都合がよく、その代わりに後が怖い命令なのだ。
「ストーカースリー、勇敢なれ。ストーカーワン通信終了」
勇敢なれ、か。
それを言われたら、動かなくては空挺レンジャーの徽章が泣く。
今の俺は自衛官ではないが、制服を脱いだら別人になるわけではない。
いざという時は、覚悟しないといけないな。
今の職場は割りと気に入っていたのだが。
「残念だったな」
仲間たちを見つつ呟く。
何事も悲観して考えてしまうようなクセは持っていなかったと思ったが、自分の見込み違いだったか。
「図書隊の若き英雄が随分と縁起でもない事を言っているわね」
いきなり後ろからかけられた声に、思わず銃を構えて振り返ってしまう。
「ちょっと!」
そこに立っていたのは私服姿の女性だった。
年齢は俺よりも上のようだ。
慌ててこちらに突き出された両手にはペンとメモ帳。
首からはカメラを提げ、腕には報道の腕章をつけている。
もう一つ付けられている腕章には『週刊新世相』の社名が記載されている。
「失礼しました!お怪我はありませんか?」
考え事をしていたとはいえ、とんでもない事をしてしまった。
他のマスコミ連中ならばまだしも、週刊新世相は我々の事を好意的に報じてくれる数少ない国内報道機関のひとつだ。
脳裏に残る記憶を何とかかき集めた結果によると、目の前の女性は折口という人物のはずである。
玄田隊長と個人的に親密な関係に近い状況にあるという非公式情報もあったはずだ。
「びっくりしたじゃない!気をつけてよね」
快活な口調で彼女はそう言うと、こちらに向けてペンとメモ帳を構えた。
「関東図書隊、そのエリート部隊である図書特殊部隊。
今回は、その中でも異色の経験を持つ新人特殊部隊員の取材、というのが目的よ」
彼女は聞いてもいないのに自分の目的を告げてきた。
まあ、おかげでこちらから質問する手間が省けたのでありがたいが。
「もしよければ、今から少し取材させてもらってもいいかしら?
ああ、もちろん作戦行動中に邪魔にならない範囲で取材を行う許可は貰っているわよ」
後ろを見ると、他の仲間たちは別の部隊に交代して休憩に入っているようだ。
小隊図書士長がジェスチャーで構わんという風に手を振る。
「では休憩時間のようなので、手短にですがお受けいたします」
諦めたように呟き、俺は取材を受ける事になった。
いくら図書隊に好意的な相手とはいえ、俺はマスコミ関係者と話をする事が大嫌いなんだがな。
「前歴は陸上自衛隊のレンジャー部隊だったとか?」
早速インタビューが始まったらしい。
俺の前歴をある程度把握しているようだな。
「正しくは第一空挺団の降下誘導小隊です」
一応訂正しておく。
もちろんこの程度のことは理解しているうえであえて聞いているのだろうが。
「それはどんな部隊なのかしら?」
無知なフリをして意表を突くつもりなのだろうか。
それとも、本当にその手のことに疎いのだろうか。
どちらでもいいか、言葉に気をつけないと現役の連中に迷惑がかかってしまうな。
「本隊の降下を支援するための部隊ですよ。
詳しい任務内容は自分ではなく本省の広報にお尋ねされたほうがよろしいかと」
我ながら百点満点の回答だろう。
これ以上詳しい表現はあえて省くのが大人の受け答えというものだ。
空挺団の全員がそうなのかは知らないが、少なくとも俺を含めて人様にいえない事をしていた連中は確かに存在していたからな。
「その部隊にいて、海外へ派遣されたわけよね?」
よく調べていらっしゃる。
まさかとは思うが、こっちが本題なのだろうか?
帰国からしばらくはこういった手合いが多くて難儀したが、どうして人間というのは何でも知りたがるのだろうか。
図書隊に属している俺が言う事ではないが、世の中には知ってはいけない事、知る必要がないことと言うものが確実に存在するんだが。
「過去の自分の任務については、退役後も機密保持の観点からお話できません。
申し訳ありません」
別に話すつもりはないのだが、とりあえず詫びておく。
役人的な言い回しはどうも不親切な印象を与えかねない言葉になるので困るな。
「そう、それじゃ仕方ないわね。
休日は何をしているのかしら?」
厄介な話かと思ったが、いきなり普通のインタビューに変わってきたな。
まあそれはそれでありがたいのだが、調子が狂うな。
「自主訓練を主に行っています。
あとは消耗品を買出しに行ったり、後輩の面倒を見るときもありますね」
自分で言っておいてなんだが、随分と空しい日々を送っているな。
振り返ってみると、俺には友人がいないのか?
いや、そんなはずはない。
しかしながら、戦友は今の隊も含めているが、完全にプライベートの付き合いというものがないな。
やれやれ、今から心配する事ではないが、寂しい老後になりそうだ。
「現在のあなたの任務は?」
表情にはもちろん出していないが、俺の内心の感傷を無視して更なる質問が飛んでくる。
ダメもとで聞いているのかもしれないが、どうしてこうも答えられないことを聞いてくるのだろう。
「図書特殊部隊の一員として、小田原図書館防衛の任務に当たっています。
詳細につきましてはお話できません」
このあたりは別に答える必要はないだろう。
相手だって理解しているに違いない。
「それもそうね、ところで恋人はいるの?」
どうしてこうも質問の性質が変化するのだ。
最初は俺の自衛隊時代の話で、次は休日の過ごし方。
その後は現在の任務内容ときたものだ。
「プライベートについてはお話できません。
が、特別にお教えすると、残念ながらおりません」
特に隠すような話ではない。
まともな友人すら少ないというのに、彼女などいるはずがない。
「特別ついでに好みの女性像を教えてもらえるかしら?」
完全にプライベートの質問になってきたな。
まあその方がありがたい。
「それは機密事項です。申し訳ありませんがお話できませんね」
茶目っ気たっぷりに言った所で、交代の時間が来たようだ。
せめてタバコの一本でも吸いたかったのだが、残念だ。
「やれやれ、休憩はおしまいのようです。
申し訳ありませんが、任務に戻らせて頂きます」
敬礼し、仲間たちの方へと足を進める。
平和な時間はこれでおしまいだろうな。
さて、今回も頑張るか。
本日はここまで
乙!
ちゃめっけたっぷりのところで噴いたw
乙
久しぶりに笠原を見たような気がする
果たして原作組に活躍の機会はあるのか
乙!
しかし小牧が空気だな…
さては彼女とラブラブ中か
漫画版に出てきたという話だし
投下乙
一瞬、海を越えて遠くに行くものだと思ってしまった>小笠原
正化31年10月22日水曜日09:57 神奈川県小田原市 財団法人情報歴史資料館
「いよいよだな」
安全のために全てのガラスを撤去した開口部から前方を睨みつつ、俺は静かに呟いた。
ここ情報歴史資料館は、合衆国海兵隊工兵大隊も認めるしかないほどの完璧な防御陣地となっていた。
小火器のみのメディア良化隊執行部隊ならば、相当の犠牲を払わない限りはここを突破することは不可能だ。
「うまくすれば外周陣地だけで食い止められるかもしれないな」
隣で小銃を抱えた同僚が声をかけてくる。
それはさすがに希望的観測と言うものだろう。
結局こちらの対戦車障害物設置班は到着できなかった。
現場検証後に多重事故に巻き込まれ、今も二度目の現場検証中らしい。
恐らく、敵は装甲車両を先頭に突撃してくるだろう。
<<こちらは指揮所、玄田だ>>
とりあえず何か気の効いた言葉を返そうとした俺は、レシーバーから飛び込んできた隊長の言葉に口を閉じた。
どうやら全隊員向けにもう一度演説をするつもりらしい。
<<良化隊の通告してきた執行開始時刻まであと二分、残念ながら車止めとは届かなかったが、それでも我々には十分な遮蔽物と武器がある。
ヘリコプターによる資料輸送完了まで、なんとしても持ちこたえてくれ。
良化隊の攻撃は苛烈なものとなるだろう。
しかし、ここは耐えねばならん。
全員で生きて帰るぞ。以上だ>>
思っていたよりも穏やかな内容だな。
全員で生きて帰ろうか。
「生きて帰るぞ」
そのフレーズが気に入った俺は、隣の同僚に笑顔で言った。
彼もその言葉はお気に召したらしい。
恐怖と緊張で歪んだ表情を若干緩め、もちろんだと返してくれた。
ただいまの時刻は午前九時五十九分。
遂に正門の向こうに良化隊の執行部隊が見えてきた。
先頭は警察から徴収したらしい銃器対策警備車のようだ。
角ばった装甲が特徴的な、全面防弾の装甲車両である。
「やべぇな」
手元に対戦車ロケット砲があればあの程度の車両は紙屑のように吹き飛ばしてやれるのだが、今の俺には非力な軍用突撃銃しかない。
集中砲火で何とか運転手を殺傷できればいいのだが、相手も当然その程度の準備は整えているだろうな。
奴ら、こっちが対戦車障害物と機関銃の組み合わせを手に入れたと知って、出来る限りの防御力を整えたな。
しかし、警察車両に包囲されつつ銃を手に篭城していると、テロリストになった気持ちになる。
こちらも法に基づき武装し、抵抗する権限を与えられた公務員のはずなんだがな。
まったく、この国は一体どうなってしまったんだ。
<<ストーカーワンより全ストーカー、緊急、想定Q号、状況アップルジャック、アップルジャック>>
背筋が凍る通信が入ったのは、俺が内心でぼやいたその瞬間だった。
状況アップルジャックとは、交戦状態を意味する。
視界の中で、いくつかの木が閃光を発する。
事前にわかっていたならば、排除を含む適切な処置を行いやがれってんだ。
おかげで現場が苦労する。
「伏せろ!」
そこまで考えたところで、俺の脳は命令した。
一人でも多くの同僚を救い、敵軍に反撃せよ。
咄嗟に同僚の腕を掴んで同様に地面へと引きずり込みつつ、仲間たちへと叫ぶ。
銃声、柔らかい何かが砕ける音。
絶叫、悲鳴、苦痛の呻き声、警告の叫び。
間に合わなかったか。
「こちらはメディア良化隊である、今の銃撃は何か!?
協定違反だぞ!こちらはこれより強制執行に入る!」
開口部の向こうから、良化隊指揮官の怒号が飛び込んでくる。
白々しい事を言いやがって。
あまりの怒りに表情が歪んでいく事を自覚しつつ、俺は耳から飛び込んでくる情報を聞き取った。
<<今の攻撃は良化隊では無いが敵のものらしい。
良化隊が突っ込んでくるぞ!迎撃しろ!総員反撃せよ!>>
玄田隊長の怒りに満ちた叫び声が耳に入り、そして屋上から聞き間違えようの無い軽機関銃の一斉射撃音が轟きだした。
開口部の向こうから連鎖した絶叫が聞こえてくる。
こちとら安全な砲座から軽機関銃を一斉射撃しているのだ。
いかに車両に身を隠そうとも、屋上から一斉射撃を受ければ命中弾が出ないはずが無い。
ざまあみやがれ。
一人残らず殺してやる。
「反撃だ!全員反撃しろ!」
小隊図書士長が声を張り上げる。
大慌てで身を隠した俺たちは、再び大慌てでそれぞれの持ち場へと戻った。
もちろん敵に対して反撃する事に抵抗などあるはずも無い。
「反撃せよ!」
「反撃!撃ち方始め!」
「ぶっ殺してやれ!」
「見える奴から撃て!反撃開始!」
「木だ!木を狙え!」
あちこちから反撃開始を告げる命令が聞こえ始め、この図書館に集結した全部隊が猛反撃を開始した。
その中には当然俺も入っている。
開口部から半眼だけを出し、目に付いた動く影めがけて発砲。
当たったかどうかはわからないが、少なくとも嫌がらせにはなるはずだ。
とにかく一人でも多くのメディア良化隊員を負傷させ、奴らに手間をかけさせてやらなければならない。
正化31年10月22日水曜日10:00 神奈川県小田原市 財団法人情報歴史資料館屋上 臨時指揮所
「そうだ!木を丸裸にしてやれ!」
大声で機関銃班を指揮する部下を見つつ、玄田は最初の被害報告を聞いていた。
「戦闘開始直前の奇襲で随分とやられました。
使用された武器は恐らく自動小銃と狙撃銃です。
報告はまとまりきっていませんが、現時点の情報では一名が殉職、三名が緊急搬送が必要とされる重傷で、他十八名が軽傷を負いました。
重傷者を除く負傷者は戦闘続行可能です」
奇襲の効果は意外に大きかった。
緊張が張り詰める直前を狙った一斉射撃。
それは一人の命を奪い、少なからぬ隊員に傷を負わせ、さらには全隊員の反撃を極めて慎重なものとさせていた。
先ほどから景気良く撃ちまくっている軽機関銃たちは、本来ならば全てが良化隊執行部隊を撃っている筈だった。
しかし、どこにいるか分からない敵への牽制射撃に半数が持っていかれてしまった。
「負傷者の後送準備を急がせろ、狙撃班は良化隊主力だけを狙わせろ。
まずは正門で出来るだけの時間を稼がせるんだ」
冷静に命令を下している彼の目は、奇妙な光景を捉えていた。
正門を正面から睨む形で設置された防犯カメラからの映像である。
閉じられた正門の向こう、展開している良化隊の陣形がおかしい。
道路の中央を開け、左右に展開している。
「なんだ、あれは」
彼が思わず声を漏らしてしまった瞬間、猛スピードで正門へ向けて突撃する装甲車両が登場した。
他の車両と同じく銃器対策警備車なのだが、その車体正面には、ブルドーザーのようなブレードが飛び出している。
それは速度を更に増しつつ良化隊の中央を駆け抜け、一切の減速無しで正門へと激突する。
指揮所まで届く轟音が轟き、左右から中央へと閉じるタイプの正門は、装甲車両ごと敷地内へと飛び込んだ。
「あの車を止めろ!」
いささか遅きに失した感はあるが、それでもこの異常事態で命令を下す事ができたのはさすがと言える。
この時、玄田の頭の中には千葉ニュータウン図書館防衛戦の被害報告書が映し出されていた。
バリケードごと突破された正面玄関、その中心で鉄くずになっている全焼した車両。
良化隊はそれを再現しようとしているのだ。
もちろん、燃やすつもりまでは無いだろうが。
正門から正面玄関までは150mほどある。
その途中には装甲バスが車列を作っており、更に陣地もいくつかある。
「止めろ!」
玄田の命令を聞いた機関銃班が直ぐに目標を変える。
引き金を引いたままのため、そのまま銃弾の嵐が周囲へとばら撒かれるが誰も気にしない。
この種の攻防戦では、銃弾が到達する恐れのある範囲全てに強制的な避難命令が下されるからだ。
物品の損害など、法律と金銭でいくらでも処理できる。
モニター越しにもはっきりとわかるほどに銃弾が殺到している装甲車を見つつ、玄田は阻止が不可能である事を素早く悟った。
火花を盛大に散らしてはいるが、外見でわかるほどの損害は無い。
このままでは正面玄関は。
彼がそこまで思ったとき、主に人為的な原因から発生した車両事故が発生した。
事故の発生原因は、実戦を経験した装甲車両の運転兵ならば誰もが納得する内容である。
戦場において、戦車を筆頭に装甲を持った車両は敵の攻撃を受けやすい。
それは、突破を中心とする攻撃的な任務に使われやすく、さらに装甲を持っている事から敵の攻撃が予測される場所に投入されるからでもある。
だが、一番の原因はなんと言っても目立つ事。
角ばった、塹壕よりも高い位置にある、脅威度の高い敵性の物体。
人間は、それを目にすれば当然攻撃する。
砲も、ミサイルも、ロケットも、小銃弾や手榴弾、それしかなければ拳銃弾でも。
特に混戦時においては効果が明らかに無いものであってもとにかく敵を倒そうと投げつけられる。
結果として、装甲車両の中にいる人々は、装甲を貫くかもしれない、あるいは全く効果が無いとしても自分を殺そうとする明確な殺意に晒される。
世界中の兵士が冷酷非情な殺戮マシーンでないように、装甲車両の運転兵であっても、仮に彼が正しい知識を持っていたとしても、そのストレスに耐え切れるとは限らない。
装甲車両を操っていたメディア良化隊員もそうだった。
彼は自分の乗っている車両が自動小銃の弾丸を弾くと教えられていたが、実際に装甲が絶え間ない着弾音を鳴り響かせるという現実に耐えられなかった。
正門を突き破り、視界一杯に装甲バスが広がった時点で、彼は生存本能の命じるままにハンドルを大きく左へと切った。
突破後は車両の間を突けばさらに先へと進めると散々ブリーフィングで説明されていたにも関わらずだ。
結果として、彼と同乗する十二名のメディア良化隊員たちは、重大事故の後に生きたまま火葬されるという悪夢に晒された。
「良化隊が突っ込んでくるぞ!撃て!」
横転した車両の救出のために前進を開始した良化隊員たちは、情け容赦の無い銃弾の嵐に晒された。
当然彼らは応戦する。
既に情報歴史資料館を取り囲むメディア良化隊とそこへ立て篭もる図書隊員たちは全力で撃ち合いを続けており、その動きは誰も止めることが出来ないものとなっていた。
敵も味方も無く、ただひたすらに視界に入る全てを撃ちまくる。
「止めろ!撃つな!」
救出隊を阻止しようと銃撃を繰り返す図書隊に対し、メガホンを持った良化隊の管理職が慌てて静止しようとする。
だが、同僚たちが生きたまま火葬されようとしているとはいえ、彼の動作は余りにも無防備すぎた。
「あの上半身出している奴を撃て!」
それは後知恵で考えればとんでもない事だが、銃弾が飛び交う戦場では当然の心理だった。
すぐさま銃弾が殺到し、同僚たちを助けようとした勇敢なメディア良化隊神奈川支部小田原支所第四特務執行課長の頭部が吹き飛ぶ。
「課長!?応戦しろ!」
脳髄を地面に向けて撒き散らす上司の姿を見た部下たちは、当然のように弔い合戦を始める。
当たり前の事だが、目の前の惨劇に激昂する彼らには、数十メートル先で今にも死のうとしている同僚たちのことは頭から消えている。
「あついいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!」
本来であればすべての人々が銃撃を止め、救出活動に参加したくなる絶叫が響き渡る。
だが、怒号と命令と銃撃音がやり取りされる戦場においては、その絶叫は余りにも小さすぎた。
「おい!車が燃えているぞ!撃ち方やめ!撃ち方やめ!」
比較的にだが安全な位置から状況を見ている図書隊のとある小隊長が慌てて発砲を止める。
ある程度統制が取れている彼の小隊はそれで発砲を止めるが、弔い合戦に燃える良化隊にはそのような事情は関係が無い。
抵抗が弱まった箇所を完全に制圧しようと銃撃が殺到し、不用意に身を晒していた一人の隊員が銃弾を受けて室内へと弾き飛ばされる。
「西田!?畜生!あいつらぶっ殺してやる!」
小隊長の配慮は真逆の方向へと作用した。
命令に従って攻撃を控えた結果として、同僚の死傷に繋がったという現実は、武器を手にした図書隊員たちの理性のタガを外すのに十分な威力を持っていた。
「応戦しろ!一人残らずたたき出せ!」
誰に命令されずとも小隊図書士長が怒鳴り、軍隊的な意味で直属の部下である図書士たちが発砲を再開する。
そして限界を超えた横転車両の爆発炎上をもって、この場は更なる興奮の渦へと叩き込まれる。
ここまでくると、敵は意地でも突入しなければ士気に関わるし、こちらはもとより敵の突入すら許す事のできない立場だ。
さあ、楽しくなってくるぞ。
凄く短いですが本日はここまで
次回はいよいよ攻防戦の本番です
>>666殿
ジョークが苦手な自分としてはとてもありがたい感想であります
>>667殿
>>668殿
今回は原作組も大活躍しますのでご期待ください
>>669殿
思いっきり誤記でした
申し訳ありません
乙です
なんという狂乱っぷり
重火器がないことが逆に状況を泥沼化させてるような
小火器しかないのに装甲車とかはありとか酷い話だよなw
高速更新お疲れ様です
狂乱の銃撃戦の次に何が起こるかw