【軍事】ミリタリー系創作スレ【兵器】2

このエントリーをはてなブックマークに追加
105創る名無しに見る名無し:2010/02/09(火) 19:36:02 ID:lRQP2NKM
別スレで軍隊ファンタジーはここにするとええと言われたので投下します

お題は兵站
106創る名無しに見る名無し:2010/02/09(火) 19:37:01 ID:lRQP2NKM
 私の名前は勝彦と言う。
色々あって異世界へ飛ばされ、また色々あって、単行本三冊ぐらいの活躍をした後、
故あってお姫様の指南役になっている。
今は勉強の真っ最中だ。

「ところで、軍隊に必要なものって何だと思います?」

 講義の内容を忘れないよう紙に書いている姫に聞いた。

「魔法か?違うな、武器だ。
 軍隊は総力だからな、一人二人が魔法を使えたところでどうにもならん」

 姫と自分は基本タメ口である。
最低限の礼儀は払うが、堅苦しいのは嫌だと言うから。
一応、公的な場では尊敬や謙譲語を使うようにしてはいるが、面倒でならない。
今は勉強中なので少し言葉遣いを厳しくしている。

「食料です。腹が減っては戦争出来ません。
 生きるためには飯を食わなきゃいけません。食事を保障するのは基本です。
 ただ働きなんて裕福な暇人がやるものですから。千羽鶴でも折って自己満足してればいいんです。
 人なしに組織は成り立たちません。組織が崩れれば軍隊機能としては無力化されます」

 『想い出は いつも キレイだけど
  それだけじゃ おなかが すくわ』と黒板に盤書する。

「もちろん、食事だけ用意しても駄目ですけどね」
                          酒
『主は言われた。人はパンのみにて生きるにあらず、赤ワインも欲しいと』
黒板に続けてひんしゅくものの言葉を書いた。
此処は異世界だ、PTAや宗教も此処まで追ってくるまい。

「あくまで、食事が人を成り立たせるという意味であります。
 衣食足りて礼節を知るという言葉もありますから」
107創る名無しに見る名無し:2010/02/09(火) 19:37:41 ID:lRQP2NKM
『想い出は いつも キレイだけど
  それだけじゃ おなかが すくわ』
『本当は せつない夜なのに
  どうしてかしら? あの人の涙も思い出せないの』

「何故だ?武器なしには戦えないだろう?」

 姫様は不満そうだ。
美人なだけに眉を顰めた顔は余計迫力がある。
剣と魔法の世界に相応しいお姫様かもしれない。
将来凄い美女になると思うがまだ小さい。自分は犯罪者にはなりたくない。

「武器以前の問題です。人を成り立たせているのは飯です。
 飯や金が保障されなければ容易に集団は解散します。
 人は弱いのです。ですから群れます」

  ○○○○<命ばかりはお助けを

●●●●●●●<オイ!ジジイ!食料と水をよこせ!

「一人は二人に勝てません。
 一人の側がよっぽど強ければ勝てるでしょうが、そんな人は稀です。大抵負けます」

     ◎<下種どもが…

  ○○○○<あのお方は!

●●●●●●●<なんだぁ〜?!オメエは



   ◎   <あたたたたたた!
●●●●<ひぎぃ!あべし!ひでぶ!


     ◎<雑魚を始末しただけのこと
  ○○○○<ありがとうございます

*これは例外
108創る名無しに見る名無し:2010/02/09(火) 19:38:22 ID:lRQP2NKM
「そして互いの数が多ければ多いほど、稀な能力を持つ人間は平均の中に沈みます」

      ○<僕が一番上手くガンダムを使えれるんだ!
●●●●●●●<俺もいるぜ、お前だけになんかイイかっこさせるかよ、おまえだけじゃないんだぜ、コーホー


「三十人は五十人の相手に対して勝てません」

*○●は同じ強さとします

    戦場

○○○対●●● 引き分け
   対●●  勝利

 ●×2で黒側の勝利

「政治だろうが戦争だろうが同じ。戦いは数です」


 ●<戦いは数だよ兄者!
                               ご冥福をお祈りします。

「そして数を維持するために組織を保たなくてはいけません。
 組織が保てなくなる…つまりバラバラになって個々の数が少なくなると多い側に喰われます」

 ○○○○○○<○民党を支持する
●●●●●●●<民●党を支持する
      ◎<民●党支持が多いので当選ね

●●●●●●●○○○○○○
      ◎<以上13票がこの地域の得票数となります。

「しかしこの説明には穴が存在します。
 一人の人間は二人の人間に勝てませんが、互いの相対数が上下する可能性があります」

    戦場
      1戦目

 ○○対●  勝利
  ○対●  引き分け

   (戦力外)
    ●●●戦場に遅れてやって来る

 白側が1戦勝利
109創る名無しに見る名無し:2010/02/09(火) 19:39:04 ID:lRQP2NKM
「総力で勝っていても、距離の関係などで競り合いに出られなくなると関係は逆転します」

         2戦目

 ○○対●  勝利
  ○対   勝利

   (戦力外)
    ●●●戦場に遅れてやって来る

 白側が2戦勝利

 3戦目からは戦力が互角になる


「こうした事態をさせないためにも、連絡などを密にとらなければならず、組織の維持管理は大切なのです」

●<滅多に支持を出さない本部の仕事なんてやってられねー
○<お客様がおいでになりました
◎<・・・・・・・

「よって、戦いに勝つために、敵の力をいかにして分け自分達の力を集めるかに腐心します」

◎<お主も悪じゃのう、選挙の票は任せておけ
□<黄金色のお菓子
●<これからも越後屋をお願いいたします

「この努力を軍隊流にすると『手法』を戦略、作戦、戦法、戦術、戦技
『組織自体の運営』を兵站と呼ぶことになります。
 時代や国によって呼称に多少の違いがありますが、大体同じです」

 兵站の意味をどう捉えるか、諸説様々ある。
後方活動の総称、輸送全般、食糧の輸送、だが自分は兵站とは組織運営そのものと考えている。
組織の構造、権力争い、人事、広報、全て兵站の一部だと思う。

「戦略、作戦、戦法、戦術の違いはなんじゃ?」
「指定する範囲の大きさです。
 例えば私の世界で有名な鬼畜王と呼ばれる方の戦略ですと、

戦略:JAPAN中の美女とヤリたい
作戦:隣接する国の佐渡を落として謙信とヤろう
戦法:軍隊をおくって征服しよう
戦術:送る部隊の配置と順番は…

 となる訳です」
110創る名無しに見る名無し:2010/02/09(火) 19:39:45 ID:lRQP2NKM
「滅茶苦茶だな」

 姫は華やかに笑った。
美人は何をしても絵になる。

「世界平和なんてご大層なもの、本気で考えるなんてよっぽどの世間知らずか馬鹿者ですよ。
 えろくててんかとういつでも結果があればいいじゃないですか」

『日本の夜明けは近いぜよ』『地球を守れ!CO2削減!』なんて漠然とした奇麗事を話されるより、
『女を抱く!ガハハグッドだ!』『金が欲しいか貴様ら!ニューヨークへ行きたいか!』と言う
俗物の方がよっぽど好感が持てるのは気のせいだろうか?

「一般的には、戦略が国の方針、作戦が軍全体の行動、戦法が軍単位の戦闘、戦術が個人の戦闘
 と呼ばれています。時と場合によるので話半分に覚えておいて下さい」
『手法』の説明はキリがないので後回しにして『組織自体の運営』を話します」

 戦術や戦法の話なんかしてると日が暮れる。
桶狭間やナポレオンについてなんて自分が喋るのをやめられそうにない。

「唐突ですが、100人の民兵と100人の近衛騎士団が同時に戦ったらどちらが勝つと思います?」
「当然、近衛騎士だ」
「どうしてそう思いますか?」
「練度や装備が違いすぎる」
「その通りです。対決する兵科や相性によっては、
 ある意味、戦う前から勝負は決まっていると言えるでしょう」

 砲兵は近くで戦うようには出来ていないし、斥候の目的は戦うことではない、監視だ。
ハリネズミのようにファランクス隊形をとった槍兵に突撃しようとする騎兵もいないだろう。
誰だって得て不得手がある。

「では強い騎士を近衛たらしめているものは何でしょう?」
「訓練や身分だ。食事も良いものを摂っているし、馬や弓、鎧がある」

 流石姫様、100点満点だ。
『強さ』を聞いて、装備や訓練だけでなく、食事や身分を含めて答えられるのはちょっといない。
いずれ賢い女王になると思う。

「そうした条件を揃える事こそ『組織自体の運営』であり、兵站であります」
「漠然としているな」

 そういうものだから仕方がない。
兵站はヘリや戦車を購入するのとは違って、
直接実感できるものではないから、ないがしろになる。
帝国陸軍なんて悪例の最たるものだ。
111創る名無しに見る名無し:2010/02/09(火) 19:40:27 ID:lRQP2NKM
「兵站とは軍隊の戦闘力を維持するための役割です。
 物資の補給や整備、休養などの諸々を含めた仕事で、
 主に情報管理、補給、整備に修理、調達、衛生、警備など保守管理全般を指します」
「戦争と余り関係ないのではないか?
 兵達の胃袋に消えてしまう食料に金を出すより、槍と鎧を買う方がまだ良いだろう」

 飯よりも正面装備を、ある意味では間違いではない。
正面装備の充実はハッタリとして使えるし、戦争していないのであれば張子の虎でも十分だ。
政治家的な視点。姫らしい答えである。
しかし戦争中となると答えは逆転して来る。

「では、戦争で実際に矢を放ち合い槍を向け合う時間と行軍に使う時間どちらが多いでしょうか」
「行軍が長い、数日間の戦闘のために数十日歩き続けることすらある。
 だからこそ弓槍を揃える必要があるのだ。効果の高い数日の為に装備を揃える方が費用効果が高い」

 だが彼女は根本的な間違いを犯している。
部隊の新設ばかり好んだヒトラーやスターリンと同じ愚。

「ですが、武器ばかり揃えすぎても適切に管理できなくなります。
 武器は現地に運ばれ、個々人に手が渡るまで配られ、実際に使われてこそ役に立つのです」
「ならば武器を扱える部隊を新設すればいいのでは?」
「武器だけ用意しても、集め、ひとつの所にそれなりの配置をさせる、彼らに使い方を教える、
 道具の為の道具を過不足なく用意する、混乱なく移動する手はずを整える。
 仕事の後、撤収する手はずを整える。残った機材をすべて引き上げる、出来ればゴミひとつなくしなくてはいけません。
 また武器と同じことが兵士にも考えられるのです。
                    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 大量の武器があっても兵士は増えません、使える技能を持った人物が居て初めて兵士たり得るのです」

 部隊を増やしても人は増えず、兵器は増えない。人材の数も変わらない。
補修部品がないまま造り続ける飛行機や、隊が定数を満たさないせいで師団が連隊級なんてことにもなりかねない。
確かに部隊を新設すれば使える人員は増えるだろう――――――書類上では。
実態は中身のスカスカな隊ばかりとなる。
名目上の部隊を増やすだけで兵力が増えた気になり精神の安定を図る。
現実から目を逸らしているだけだ。
 書類だけ弄って、名目だけの団体を作り現実から懸け離れる伝統は、
毛沢東の生産計画や年金流用問題として今に受け継がれている。
 徴兵だけで使える兵士が増えるのはファンタジーと脳内だけだ。

「温かい食事と士気の関係も馬鹿にしたもんじゃありません。
 数十日間冷や飯を食べさせられた場合を考えてみて下さい」

 阪神淡路大震災では地域ごとに立ち直りの速度が違い、食事に差が出た。
もし自分のところがカンパンで、隣の地区が温かいお握りと豚汁なら、どう思うだろうか?
自分なら絶対に文句を言う。命を掛けた仕事をしている兵隊ならなおさらだ。
数十日間、冷や飯を食べせ続けたら軍の士気はガタガタになる。
112創る名無しに見る名無し:2010/02/09(火) 19:41:12 ID:lRQP2NKM
「ふむ、そうだな。それでは次に必要なものは?人材か?」
「もちろん優秀な人材も大事ですが、もし戦闘が起こったとしてその場に人材が居合わせないと話になりません。
 戦場に遅れてやってくるなどもっての外です。そこで、

    戦場

 ○○対●  勝利
  ○対●  引き分け

   (戦力外)
    ●●●戦場に遅れてやって来る優秀でお馬鹿な人材、馬があれば間に合ったかも。

 ○×1で白側の勝利

    こうして、バラバラに撃破されることを各個撃破されると呼び。
    力を一箇所に纏める行為を戦力の集中と呼びます。

 足を揃えなくてはいけません。よって次に必要なものは馬車や船といった輸送機関になります」

「加えて、兵士達へ食事と武器、衣服や雑貨なども運ぶ必要がありますから、更に馬車は必要となります」
「どれぐらい必要なのだ?」
「1日戦闘行動などを行った際必要とされるエネルギー量は5000キロカロリー、平時の活動では3100キロカロリー、
 一般的な生活をしている場合では2300キロカロリー程が必要となります。
 ソ連軍は7000キロカロリーが必要と計算していましたが、あそこは過酷な環境なので
 実際そんなものかもしれません。時と場合によるということです」

 軍隊の戦闘糧食と言えばレーション。
ちなみにレーションを食べた感想で多いのは量が多すぎるといった類のことである。
これにはちゃんとした理由がある。
軍でもよっぽどの事がない限り、飯は皿で食べるものとされている。
昼食中に襲われるなんて襲撃された時点で負けだし、台所でちゃんと調理された飯の方が美味しい。
だからレーション、手軽な携帯食料が必要とされる状況は、戦闘時又はそれに順ずるものと考えられる。
戦闘時を想定した消費は5000キロカロリー、一般的な生活では2300キロカロリーからも判るように、
野山を60kgの背嚢を背負って這いずり回るのでない限り、そんなに腹は減らない。
だからレーションは残してもいいのだ。たくわんがなくなったのは残念でならない。

「きろかろりー?」
「熱量の数字です。精米済みの米1合、コップ一杯分のカロリーは………確か570です。
 なんとなくでいいからそんなものと思ってください」

 困ったな、どう説明したらいいんだ。カロリー計算なんて、俺は栄養士じゃない。
栄養士って食材や調理法ごとのカロリー値を覚えてるのか?
だとしたら凄いと思う。

「米だけ用意すればいい訳でもなかろう」
「偏った食事を続ければ病気になります。ビタミン不足による脚気なんかが有名ですね」
「かっけ?ビタミン?」
「脚気は足むくんで痺れる病気で、酷くなると死ぬらしいです。
 船乗りに多いとされた病気で、
 病院ではハンマーで膝を叩いて跳ね上がるかどうかで診断する方法がよくとられます。
 他には炭水化物、白米を食べ過ぎるとなるらしいですね。
 ビタミンは栄養素の一つで、糠漬けやすっぱいものにはいっています。
 他はビタミン不足になると、風邪の形が出来やすくなるそうです。
 ようは色々食べろってことです」

 脚気は昭和頃まで流行っていた病のひとつで、療法が確立された病としては新しい部類に入る。
米を主食にしていた当事は日本特有の風土病と考えられていた。
栄養素の不足に関する風土病は多い、昆布が薬として用いられていた時代があるのだ。
穀物、肉、野菜、果物をバランスよく取ることを目的とした
中国の医食同源思想は現代栄養学の先駆けといえるだろう。
113創る名無しに見る名無し:2010/02/09(火) 19:41:53 ID:lRQP2NKM
「ふむ」
「後、忘れられがちですが、物を運ぶために物が必要となります」
「馬と船か」
「馬を働かせるために飼葉と水も必要です」
「そうだな」
「大量の飼葉と水が必要です」
「そこらに生えてる草を食べさせれば良いだろう」
「そうも簡単にはいきません、少数ならいいですが軍が移動するとなると万人単位です。
 それらを運ぶため万単位の馬に食べさせたとしたら、周囲の草原は丸裸になるでしょう」

 A地点:維持可能コスト2
 ○○:戦力2
               C地点:2   D地点:3
 B地点:2         ●●      ●●●
 ○

            ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 つまり、ある程度の馬を維持し続けるためには分散して配置しなくてはいけない。
分散配置は各個撃破される原因の一つでもある。
無闇に分散させないため兵站が存在していると言い換えてもいい。

「森には草が沢山あるではないか」

 あんたはムッチーか。インパールですか。一足す一は日ごろの行いと根性で四十ですか。
馬は平地の生き物で、森で暮らすようには出来ていない。

「そりゃ、馬だって好き嫌いはしますよ。あなたもリンゴは食べるけど、雑草は食べませんよね。
 馬って生き物はデリケートなんです。箱に入れるだけでストレスで体調を崩すんですよ?
 船で運ぶのさえ一苦労です」
「ようは馬を産まれた場所以外で働かせる場合、苦労する訳か」
「同時に馬のための糧秣をまた運ばねばなりません。
 距離が開くほど輸送そのものに掛かる物資は必要となり、運べる物資は反比例して少なくなります」


       ○       C地点
   ↑   ↑   ↑
   ○   ○   ○   B地点
   ↑   ↑   ↑ 
  ○○○ ○○○ ○○○  A地点

*○は1つで3輸送力をもっているとする
 一区間で2輸送力を消費する

 Cに届く頃には27輸送力使用して3輸送力しか届かない
 これと同じことが経済にも言える、27億円の税金を使って3億円の経済効果しかないなどだ。
『エイベックス死ね説』『経団連死ね説』『税金の無駄遣い』『中抜き地獄』などの事例がある。
114創る名無しに見る名無し:2010/02/09(火) 19:42:34 ID:lRQP2NKM
「一説には馬が牽ける重量は馬自身が食べる飼い葉、水の七日分程度とされています。
 加えて、馬を操る人の食料も必要となります。
 強引な計算ですが、
 馬の牽ける重量-(馬の飲食量+荷主の飲食量)=現地に届く量
 と表すことが出来ます」

   C地点では3輸送力分の兵力しか展開できない。

       ○       C地点(現地へ届く物量3)
   ↑   ↑   ↑
   ○   ○   ○   B地点
   ↑   ↑   ↑ 
  ○○○ ○○○ ○○○  A地点


 ちなみにこれは、街周囲で取れる飼葉が足りなくなるほど大量に運用(千、万単位)した場合であり
自活できるならそれに越したことはない。
 重要なのは、馬を維持するコストが非常に掛かることだ。
馬は毎日人間の十倍飲み、十倍食べ、十倍働く。
自動車のように、ガソリンを入れればそれで終わりではないのだ。
・・・・・・・・・・・・・・
働かせずとも毎日食費が掛かる。

「そして、
 馬が牽ける最大重量は七日分程度>(馬の平均移動速度×稼働時間)×日数=距離
 の図式が成り立ちます。
 この距離が攻勢限界であり、
 馬が牽ける最大重量は七日分程度>(馬の平均移動速度×稼働時間)×日数=距離÷2(往復)
 が戦力を保持し続けられる(略奪などをせず立ち止まっていられる)補給限界となります」
「頭が痛くなってきた」
「現実にはもっと低くなるものと予想されます。
 荷の積み下ろし時間、休養、途中での損失、余裕、道路の幅と状況、
 大量に運用する場合の速度、荷物決済、品質保証期限、保存法の違いなどがあります。
 ですからより大量の馬が必要でしょう。
 またこれらの運用を最小にする計算も必要です」

 でもこうした計算は、実際やってから統計なりで修正しつつ判断するものなんだが。
知ってると知ってないでは天地の差がある。

「頭が破裂しそうだ」

 話してる自分もそう思う。

「武器を揃える前に兵士を戦場へ並べないと話にならない。
 兵站と戦闘力には密接な関わりがあると理解していただけたでしょうか?では今日の講義を終わります」

 そう、たとえ強力な兵器があったとしても使えなかったら意味がない。
マウス…紫電改…ドーラ…まともに戦場に辿り着かず、歴史に埋もれたぼくのかんがえた超兵器は枚挙に暇がない。

「以上で講義を終わります。
 次回は『質と量の関係』『量が重視される理由」
 『私の代わりは他に居るもの、たぶん3人目』になります」
115創る名無しに見る名無し:2010/02/09(火) 19:43:19 ID:lRQP2NKM
投下終了
116創る名無しに見る名無し:2010/02/09(火) 21:30:19 ID:Y7aPdVsE
異世界人の割にやたらこちら側の世界に詳しい先生(?)が怪しすぎてGJ!
117101 ◆zuRyISqyLk :2010/02/09(火) 23:58:24 ID:pXdgc6Fy
MW2の二次創作を投下を投下します。
MW1とMW2の間、141の初任務という設定です。とりあえず今回は出だしだけ。
やってない人はわかりにくいかもしれませんがご容赦を。

モダンウォーフェア 二次創作キャンペーン 『最初のページ』

 第1章


「ザカエフの忘れ形見だ」
 かつて超国家主義組織の首領イムラン・ザカエフの"左腕"と呼ばれた最有力の側近であった男。そして
今はそれを引き継ぎ組織のボスに納まっている男が、背後の巨大な武器を前にして雄弁に語る。
 イラク北方、砂漠の中の廃村に物々しい装備の民兵達が集まっていた。組織の主と大事な武器の取引を
するために。
 組織の主の背後には大型トラックが数台止まっている。それぞれのトラックの周りはアサルトライフルで
武装した警備兵が埋め尽くし、蟻のはい出る隙間もない。
 組織の主の名はウラジミール・R・マカロフ。ようやく若造と呼ばれる年代を脱し、裏の世界では今最も脂が
乗っている人物、と称されるほど彼の勢いはとどまるところを知らない。
 そのオッドアイの男の指示を受け、荷台の覆いが取り外された。
 搭載されていたのは改良型スカッドミサイル。
「かつてイラクには無かった、とされていた大量破壊兵器は、実は追及を受ける前にロシアに逃れていたのさ。
こうして戻ってくるのも皮肉なものだな」
 その弾頭は、一撃にして数千人を殺傷できる毒ガス、そして放射性物質を撒き散らし、広範囲の地域を
長期間にわたり居住不可能にするダーティ・ボム。
 砂色に煤けたターバンを頭に巻いた男が、現物を確認するためにトラックの周りをゆっくりと歩く。一通り
見終わってマカロフの面前に戻った彼は言った。
「我々の独立のために役立つのだから、この兵器も本望だろう」
「この武器はアメリカの圧力に屈しないために売るのだ。そのことを忘れてはいまいな」
「もちろんだ。もう我々は卑屈に縮こまってはいない。世界に高らかに宣言してやろう」
 ターバンの男は両手を広げて叫んだ。
「クルディスタンここにあり、とな!!」


 砂漠の嵐

 1日目 10:18:35
 "ソープ" マクタビッシュ大尉
 タスクフォース141
 ティクリート イラク

 SASに入ったときから覚悟はしていたが、ロンドンからの緊急指令ってやつは相変わらずクソを始末
して来い、という話ばかりだ。世界にあふれるクソどもを始末するために設立された各国の特殊部隊。
例に漏れず、俺達も日々作業に勤しんでいる。
 世間にはSASを世界最高の特殊部隊と誉めそやす輩もいるそうだが何のことはない。ただ汚物の
処理が少しうまいだけの話だ。
 今回の『処理場』はイラク。ここに来る前に大尉のワッペンを頂戴したが、部下が増え子守りの手間が
増えるだけだ……プライスもそんなことを言っていた。
 ──あのガバメントは肌身離さず腰に差してある。
 たった数日間の思い出を頭の奥から捻り出そうとしたその時、葉巻をくわえた男が悠然と目の前に
歩いてきた。
 黒いベレー帽に白髪交じりの口ひげ。砂にまみれた辺鄙な基地に呼び出されて数時間、ようやく
新部隊の司令官のお出ましだ。
「これから君の部隊の指揮を執るシェパード大将だ。以後よろしく」
「SASのマクタビッシュです」
 部下の命を顧みない、非情な、だがやり手の将軍と噂の男だ。
「最近、世界の秩序を乱す無法者が跋扈しているのは君も知っての通りだ。奴らのテロの芽を確実に
迅速に摘んでいくために、デルタ、SAS等一線級の特殊部隊合同チーム『タスクフォース141』を結成
する。隊長はマクタビッシュ、君だ。プライスの教え子と聞いている…期待しているぞ」
118101 ◆zuRyISqyLk :2010/02/10(水) 00:00:40 ID:pXdgc6Fy
 どうやらプライスとは旧知の仲のこの司令官は、今回の任務について話し出した。
「早速で悪いが、初任務だ。イラクの北部にクルド人自治区があるのは知っているな。そこの主要政党が
合同して『クルディスタン独立連合』を結成し、ついに独立を宣言した」
「…トルコが黙っていませんね」
「トルコが動けばイランも動く。その動きはやがてシリアやイスラエルにも広がるだろう。また中東戦争を
させるわけにはいかん」
 しかしトルコ軍が動いたという話は聞かない。怪訝な顔をした俺を見透かすようにシェパードは続けた。
「トルコ軍は独立宣言後、即座に侵攻しようとしたのだ。我々米軍が説得に奔走し、何とか七日間だけ待って
もらえることになった」
「つまりその七日間でブッ潰してこい、と」
「そういうことだ…隊員を紹介しよう」
 葉巻をふかしながらシェパードは横にあるテントに歩いていった。
 後を付いて中に入ると、そこには各特殊部隊から隊員として呼ばれたのであろう、精悍な隊員が並んで
いた。
「コードネーム、ゴーストだ。よろしく、隊長」
 ゴーストと名乗り握手を求めてきたのは、ドクロ模様の目出し帽にサングラスという奇妙な風貌の男だった。
ぎょっとした俺の様子を見てシェパードは笑った。
「安心しろ。こういう形《なり》だが歴戦の戦士だ。副長として使ってくれ」
 141では皆コードネームで呼ばれる。ゴーストの他にもスケアクロウ、ペザント、オゾン、ジェイホーク、
ケーナイン、ウォーム、エクソン…追々五十人は集める、とシェパードは言った。俺のコードネームを呼ぶ
人間はもう一人もいなくなってしまったのが残念だが……いや、ニコライが残っていたか。
 一通り紹介が終わったところでシェパードは今回のターゲットを告げた。
「長年いがみ合っていたクルドの各政党を裏でまとめ上げた一人の男がいる。その名はハリド・アル=サイード。
奴はザカエフの側近マカロフから化学、放射能兵器一式を購入し、クルドの独立侵す者あれば天より裁き
来たる、などと嘯いている。奴の持つ大量破壊兵器の後ろ盾がなくなれば、クルディスタン独立連合も瓦解
するはずだ。奴を排除し、兵器を確保しろ」
119101 ◆zuRyISqyLk :2010/02/10(水) 00:05:51 ID:BPBBg/Nj
ゲームやってない人への解説

"ソープ" マクタビッシュ大尉  SASの精鋭。ザカエフが起こした核テロ事件の唯一の生き残りにして英雄。

ザカエフ              死の商人にしてソ連を信奉する超国家主義者。ソープに倒される。

ニコライ               SASの工作員。別名ヘリ屋さん。ヘリで作戦地域まで送り迎えを主に担当。
120101 ◆zuRyISqyLk :2010/02/10(水) 00:09:06 ID:BPBBg/Nj
プライス大尉               ソープが所属した部隊の元隊長。ザカエフ事件の最後にソープに未来を託して息絶えたと思われている。



とりあえず今回はここまで。
121創る名無しに見る名無し:2010/02/10(水) 10:36:15 ID:EOTCmUvT
>>120
投下乙!
codは4とMW2持ってるが、めちゃやりたくなってきたw
122創る名無しに見る名無し:2010/02/12(金) 12:19:35 ID:wYiHUfI2
まさかほんとにCoDの二次がくるとは思わんかったw
ソープが実はモヒカンなのも触れておけばなお良しw

続き待ってるよ〜
123創る名無しに見る名無し:2010/02/12(金) 22:59:43 ID:JOA8epx3
>>106-114
アフリカンギャンビットの解説を思い出した。
こうまとめて書いてくれると改めて勉強になる。

>>117-120
やってない人としてはこの後も展開に期待。
あと解説がありがと。
124創る名無しに見る名無し:2010/02/18(木) 19:45:47 ID:CbmnNBD4
図書館戦争のおっさんまだー?
125創る名無しに見る名無し:2010/02/22(月) 18:10:38 ID:cfIE1Md9
test
126創る名無しに見る名無し:2010/02/22(月) 20:57:31 ID:vqmZ9jQo
沈没しすぎなのでage
127創る名無しに見る名無し:2010/02/22(月) 20:58:20 ID:vqmZ9jQo
上がってなかった
128創る名無しに見る名無し:2010/03/06(土) 20:59:24 ID:V4W4Ltmy
図書館待ち
129101 ◆zuRyISqyLk :2010/03/07(日) 21:08:52 ID:sCRuDnAX
cod二次の続き投下です
130101 ◆zuRyISqyLk :2010/03/07(日) 21:11:31 ID:sCRuDnAX
 1日目 23:35:12
 "ソープ" マクタビッシュ大尉
 タスクフォース141
 アルビール県 イラク

 この辺は街灯でそこら一面照らされている先進国とは違い、日が沈めば闇に全てが溶ける。
その闇に紛れ、俺達は小さな村の一軒家を目指している。日暮れ時から発生した砂嵐も手伝い、
視界は数メートルもない。
 隣にはゴーストがただ一人。総勢二人の潜入任務だ。
 クルド組織も合同したとはいえ、完全な一枚岩ではないらしい。CIAの分断工作が功を奏し、
穏健派の一人から大量破壊兵器の配備に関する資料がある、との情報を手に入れた。
 奴らは小さな村の住民を根こそぎ追い出し、そこに民兵と兵器を多数集め来たる戦いの前線
基地として使っているという。血も涙もない話だ。
 その一角に資料を置いた家がある。俺達に残された時間は七日だけ…情報の真贋を確かめて
いる余裕はない。行ってみて無かったらその時だ。まあその場合、情報元のジジイはひどい目に
あわせてやるがね。
 俺達の装備は夜間作戦用のスーツに布で巻いた近代改修型M14。布で巻くのは砂対策だ。
こいつも繊細だ、とは言えないくらい頑丈な銃だが、AK47の無神経っぷりには負ける。荒れた
土地に巣を作りやすいテロリストが好む理由だ。
 ちらほらと砂に埋もれかけた草が生える荒野を足早に駆ける俺達の目の前に、木の柵で囲まれた
村がうっすらと現れた。
 その入り口にはAK47を構えた歩哨が二名。
「この砂嵐だ、こっちなんて見えちゃいない。やるぞゴースト、俺は右だ」
 頷いてM14を構えるゴースト。
 物陰から腰を沈めサーマルスコープを覗き、レティクルの中心に敵のこめかみを捉える。
「…ワン、トゥー、スリー」
 パスッという乾いた音と同時に二人の脳は撃ち抜かれた。
「行くぞ」
 別の見回りが来る前に目標の屋内まで侵入しなければ面倒なことになる。俺達は早足で村の
中へ進入した。
 村の入り口すぐには二階建ての家屋があった。ここは兵士の詰め所代わりに使われているのか
頻繁に兵士が出入りする。その入り口に煙草を吸いながら談笑している兵士が三人。当然こちらに
気付いてはいない。
「こいつらはやりすごすぞ」
 道を挟んで向かい側の、壊れかけた石塀の影をかがんで進む。目的の家まではあと五十
メートルといったところか。
 一面砂で目印も何も見えやしないが、地図は頭の中に叩き込んである。村の一番の高台に
ある朽ちかけたトタン張りの家。そこに目当てのものが眠っているはずだ。
「大きな通りにはさすがに見張りが付いているな。こんな辺鄙な場所に夜通しの見張りなんて
必要ないだろうに」
 とゴーストが愚痴る。こいつらに一度でも発見されて仲間に通報されると、この村にたむろってる
民兵全員を相手することになる。許されるのは俺達が一方的に、静かにこっそり殺す、それだけだ。
 家屋の陰をそろそろと進んでいると、目の前にぼろぼろのガラス窓が現れた。カーテンが無い
せいか、灯りがダダ漏れだ。
 時折、兵士のはしゃぐ声が聞こえてくる。どうやら中ではカードゲームなんかに興じているらしい。
「ゴースト、伏せろよ…匍匐前進だ」
 しゃがんで通るには窓が低い。奴らに気取られないよう、右、左と手を伸ばして進む。
「(動くな、ゴースト!)」
 シャッフルに失敗してカードを飛び散らせてしまった兵士の一人が、窓の近くに駆け寄ってきた。
「砂に削られてガラスがやばいぜ。見ろよ、この傷」
 兵士が砂粒にこすられて擦り傷だらけのガラスを指差し、ぶらぶらとこちらに近付いてくる。
窓際まで近付かれて下を向かれたら万事休す…来るなよ……………来るな…!
 部屋の奥のテーブルでゲーム再開を待つ兵士が急かすように言った。
「いいからさっさと席に戻れ! 次は勝つからな!」
 カードを拾った兵士はばたばたと席に戻っていった。何とか命を拾ったようだ…。
 窓際を抜けても気の休まる間もなく次の敵だ。丁度家の陰から通りを横切ろうとしたとき、
ゴーストが言った。
「トラックが来るぞ、マクタビッシュ」
131101 ◆zuRyISqyLk :2010/03/07(日) 21:14:11 ID:sCRuDnAX
 ライトを付けた自動車が砂嵐の向こうから角を曲がってこちらへ向かってくるのが見えた。そっと
物陰に隠れ、トラックのライトが目の前を通過し、過ぎ去っていくのを確認する。
 トラックの荷台には銃を構えた民兵が七、八人といったところ。見張りの交代要員か何かは知らないが、
彼らはやがて入り口の死体を見つけるはずだ。急がなくてはならない。
 隙を見て村の通りを横切ろうとしたとき。
 角から突然、見回りの敵兵が姿を現した。
「──!! てッ…」
 ゴーストは大声で仲間を呼ぼうとした兵士の口をふさぎ、すかさず物陰に引き込んだ。足をかけて
相手を倒し、膝で敵の腹を抑えつけてナイフを抜き、胸に一閃。わずか二、三秒の間に滑らかな動作で
口を封じた。
「うまいもんだ。歴戦の戦士というのも伊達じゃなさそうだな」
「おだてたって何も出やしないぞ…それより、気付かれたか?」
 通りの様子を窺ってみたが、仲間が飛び出してくる気配はない。ミッションは継続のようだ。
「よし、行こう」
 今度こそ周りに敵がいないのを確認して、通りを横断する。目的の家まではもうすぐだ。
 急坂になっている道路を駆け上がり、村の奥まった高台に到達した。ここに目的の家があるはずだ。
 しおれた草がぽつぽつ生えている坂の脇から慎重に顔を出して家の前の様子を窺う。
 ………なんてこった。似たような家が二軒並んで建っている。こいつらのどちらかが目的の家で
あることは明らかなんだが……手前に屋根が突き出した玄関の作りも、くたびれて剥がれかけた
トタンも、まるっきり同じ。もっと精度のいい情報をよこせってんだ、情報部のクソッタレめ!
 判断できる違いがあるとすれば、家の前に歩哨が付いているかいないか──左の家にだけ二人、
右に警備はいない。
「どっちだと思う、ゴースト」
「常識的には警備の厚い方に大事なものがある……が、イラクの常識は違うかもしれん」
 俺もその常識を信じたいが、ここで家を間違った日には時間のロスが致命的な事態を引き起こす
かもしれない。かといって、中を確かめる手段がない以上、ここで悠長に待っている時間もない。
「仕方ないな。歩哨をやるぞ。さっきと同じ、俺は右だ。タイミングはお前に任せる」
 再びライフルを構え、スコープを覗き彼の合図を待つ。
 サプレッサー特有の機械音が響き、ゴーストの弾丸が歩哨のこめかみを射抜く。一瞬遅れて俺の
弾丸ももう一人の頭を吹き飛ばした。
「急げ!」
 全速力で玄関口まで駆け抜けた俺はすぐに扉に鍵がかかっているかを確認した。
 ドアノブを音が出ないように静かに捻り、引く。扉は何の抵抗も見せず俺の軍門に下った……という
ことは、中に人がいる可能性がとても高いということだ。まだ気を抜くことはできない。
 ゴーストと共に素早く屋内に侵入し、扉を閉める。目的の書類は二階の書斎だ。
 家の構造も事前に聞いたターゲットと同じ。突き当たりの階段までは廊下が一直線に続いているが、
そこまでには居間と食堂を抜けなければならない。さて、どの程度の敵がいるやら…。
 足音を消し、廊下の右手にある居間をそろりと覗く。菓子や果物が乗ったテーブルを中心に、ソファが
二つ。向かい正面にテレビ。そしてだらしなくテレビを見ながらテーブルの上の菓子を頬張る敵三人。
その向こう、居間と一続きになっている台所には…どうやら敵の気配はない。
 気の早いゴーストはもうハンドガン、USP.45を構えている。当然これもサプレッサー付きだ。
「全員ヘッドショットで決めるぞ。貫通弾に注意しろよ…ガラスや陶器が壊れるとでかい音を出す」
 砂嵐の音も助けているせいか、彼らが背後の俺たちに気付く様子はない。
 小気味のいいハンドガンの動作音と同時に、彼らは頭から血を吹いて突っ伏した。次の瞬間、ガシャンと
テーブルの食器が大きな音を立てた。しまった───
 敵兵の頭が崩れ落ちるときにテーブルに当たり、大きく揺らしてしまったのだ。幸い、食器が床に落ちて
砕けるほどではなかったものの、この音は二階にも聞こえただろう。
 俺たちは急いで居間と台所を駆け抜け、階段の陰に潜んだ。
「おそらく最初は様子見に一人で降りてくるはずだ。そいつは無音でやる。あとのは仕方ない、力技で
ねじ伏せるしかないな」
 予想通り、一人の兵士が一階にいたであろう仲間の名前を呼びながら降りてきた。安心しきっている
のか、武器も何もない丸腰の状態でだ。その彼が階段を降り、居間の惨状を見て驚愕したその時。
 背後から口を押さえ、喉にナイフを突き立てる。数回びくんびくんと震えた後、あっさりと彼は事切れた。
132101 ◆zuRyISqyLk :2010/03/07(日) 21:17:43 ID:sCRuDnAX
「残りの奴らが出てくるタイミングでフラッシュバンだ」
「OK」
 様子を見にいった仲間も戻ってこないので、さすがに敵も騒ぎ始める。アサルトライフルを手に
取り、連れ立って階段を下りようとした。
 廊下に数人が揃ったところで、ボン、という強烈な音と共に閃光が炸裂し、彼らの視覚聴覚は全て
奪われた。とにかく闇雲に弾を撃ってまぐれ当たりを狙おうとした敵兵だったが、その前に拳銃弾が
正確無比に敵の首や胸をとらえる。ほんの数秒でばたばたと敵の躯が重なった。
 静まった二階の廊下をゴーストが壁の陰から顔を出し確認する。
「クリア」
「二階の部屋は書斎も入れて三つ。一つずつクリアリングする」
 一つ目の部屋は階段から向かって左の小部屋。ここは敵が出てきてドアの開いている部屋だから
可能性は低いが、一応見ておかなければならない。先に進んだときに後ろからバン、てのは御免
だからな。
 ハンドガンを構えながら慎重に室内を見渡す。椅子と机が一つずつ、あとは小さなタンス…人が
隠れそうな物陰はない。
「OK、クリアだ」
 二つ目、向かって右側の部屋もドアは開いている。ゴーストが静かにドアを開き、中に入ろうとした。
「引けっ、ゴースト!」
 AK47の連射が俺達を襲い、そのうちの一つはピュン、と銃弾が頭の近くをかすめる音もした。
ゴーストは後ろにバランスを崩しながらもすぐに二つ目のフラッシュバンを投げる。
 部屋の外で再び破裂音がするのを待った後、俺達は部屋に突入した。
 フラッシュバンを食らったときに闇雲に銃を乱射するのは皆一緒。当たるものではないとわかっては
いてもやってしまうものだ。彼もまた頭部に銃弾を受け絶命した。
「ここもクリアだ。あとは書斎か」
 二階の一番奥にある書斎のドアノブに静かに手をかけ、回す。次の瞬間、勢いよくドアを引き、銃を
構え俺達は突入した。
 部屋の中は静穏だった。俺達がたてた埃以外には動くものなど何もない。一通り隠れる場所が
ないか確かめてクリアリングは終了した。
「OK、制圧した。書類を探そう」
 情報ではアタッシュケースの中に入っているとの話だったが……この部屋にそれらしきものは
見当たらない。
「アタッシュケースはないか? ゴースト」
「無いな。無防備なあちらの家か」
「これだから中東は嫌なんだ。いい加減すぎる……何分ロスした」
「三、四分てとこだな」
 もう一分の猶予すらない。俺達は急いで家を出た。
 吹きすさぶ砂嵐の勢いは急速に弱まっていた。相変わらず闇が辺りを覆ってはいたが、ライトの光が
より遠くまで通るようになっている。帰りも嵐に紛れて、と思っていたが、これではとてももたないだろう。
 幸いなことに敵兵はまだ死体を発見していないようだ。静かなうちにこちらの家に侵入できればそれに
越したことはない。
「チッ、やっぱりこっちはロック済みか。どうする、マクタビッシュ」
 目的の家にはお約束通り鍵がかかっていた。一応マスターキー(ドア破壊用のショットガン)もあるが、
できれば使わずに済ませたいものだ。嵐が弱まってきた以上、音も遠くまで響くだろう。敵兵がわんさか
駆けつけてきたら書類探しどころじゃない。
「そこに倒れてる奴が鍵を持ってないか調べてみてくれ」
 まだ暖かい敵兵の死体の懐をまさぐる。ズボンのポケットにはタバコだけ。ベストのポケットの中は
どうだ……何やらジャラジャラしたものが……あった。キーホルダーだ。これで駄目ならしょうがない、
破壊しよう。
「そら、宝箱のキーだ」
 投げ渡した鍵の束をゴーストは手早く試していく。数個目でクルリと回った鍵を見つけると、彼は人差し指と
親指で円を作ってみせた。どうやら鍵が合ったようだ。
 俺達は素早く侵入してドアを閉め、屋内の気配を窺った。人がいる気配はしない。
 一応各部屋を見回ってみたがどの部屋も無人だった。おそらく倉庫か何かに使われているのだろう。
 さて目当ての書類を捜そうか、としたとき、突然甲高いサイレンの音が鳴り響いた。そろそろ死体の
見つかる頃合だとは思っていたが、もう少し待ってくれても──と、考えるだけ時間の無駄か。
敵には敵の都合がある。ここに兵士が押しかけてくるのも時間の問題だ。
133101 ◆zuRyISqyLk :2010/03/07(日) 21:20:48 ID:sCRuDnAX
「急げ、書斎だ! アタッシュケースを探せ!」
 俺達は階段を駆け上がり書斎に飛び込んだ。携帯ライトに照らされて埃がもうもうと漂う中、棚や
物陰などを隈なく見回す。
 程なくして他の荷物の下敷きになっていたアタッシュケースを見つけた。念のため、中身を確認して
みる…アラビア語はよくわからんが、イラク近辺の地図が書かれた書類が何枚かある。十中八九これ
だろう。
 ゴーストにケースを渡し、急いで懐の無線機のスイッチを入れる。
「マクタビッシュだ。A地点には帰れない。C地点に至急ヘリをよこしてくれ」
「了解、五分で到着する」
「五分だと!? 遅すぎる、三分で来い!」
「努力する」
「クソッ!」
 無線を切るとゴーストがちょうどアタッシュケースを背中に固定したところだった。
「ヘリが遅れるのか? 下手すると二人で着陸地点を守る羽目になるな」
「何十人追ってくるかもしれないのに冗談じゃねえ! ……とはいえ、他の地点まで逃げ切るのは
無理か。お前も初任務でこんな仕事に当たるとはついてないな」
「いつもこんなもんだ。そのたびに生き残ってきた………今日死ぬかもしれんがね」
「OK、いい度胸だ。陰の窓から降りよう。ビーコンのスイッチを入れるのを忘れるなよ」
 村の高台に建つこの家の裏側はしなびた雑草が生える急坂になっている。この下り坂の向こう側に
小さな丘があり、その向こうの平地がヘリの着陸できるC地点だ。
 俺は書斎の窓を開け、下を見下ろした。吹き上げてくる風にはもう砂は少ない。視界もクリアだ。
「鍵が開いてるぞ! ここだ!」
 玄関からは兵士の声とたくさんのブーツが床を激しく踏み鳴らす音が聞こえてきた。俺は窓から身を
乗り出し、跳んだ。ゴーストもすぐ後に続く。
 着地の衝撃を膝で殺し、そのまま尻で坂を滑り降りる。
「いたぞ! 家の裏手に回れ!」
 窓から俺達を発見した敵兵の弾丸が肩口や腰の近くをかすめていき、ヒヤリとする。こいつがベテラン
だったらここでゲームオーバーのところだ。
 坂を下り切ると振り向きざまにハンドガンを連射しながら丘を登る。もちろんこれは当たりゃしない。
敵の足を少し止めればそれでいい。
「ゴースト、急げ!」
 裏手に回った敵兵の攻撃も始まり、飛び交う銃弾の量も増えてきた。早く丘の向こうに入らなければ
命はない。
 ガツン、と鈍い音がしてゴーストがよろめいた。倒れかけるゴーストの手を引っ張り、丘の頂まで
強引に引き上げる。倒れこみ、転がりながら何とか敵の死角に入った。
 すぐにゴーストの体を確認する。体の前面に出血は…ない。傷は背後か、と背中を確認すると
背負ったアタッシュケースがへこんでいる。他に出血した部位もないようだ。
「ラッキーだな、ゴースト。アタッシュケースで跳弾したようだ。体は動くか?」
「少し痺れるが、何てことはない。それよりすぐ迎撃だ。奴ら、追ってくるぞ」
 俺はM14に持ち替え、すぐにフラッシュバンを放り投げた。数秒後、巨大な爆音と閃光が闇夜を
照らし出す。
「撃て!」
 丘を上ろうとしていた五、六人の兵士が顔を押さえながら立ち往生しているところをすかさず俺達は
撃ち抜いた。下に動く敵がいなくなったのを確認した後、坂の向こうも狙撃しようとしたが、さすがに
効果が切れたのか撃ち返しが始まったので物陰に隠れる。
 こちらにフラッシュバンがあるのを知って慎重になったのか、敵はあまり下りてこなくなった。しかし
とにかく敵の銃撃が止まない。物量にまかせてめったやたらに銃弾の雨を降らせてくる。これでは
うかつに顔も出せない。
「マクタビッシュ、ヘリはまだか!」
「あと三分もある。気の遠くなるような長い時間だな」
 気の遠くなるような数分間といえば………俺はかつてプライスから聞いた話を思い出していた。
 プライスがかつて上官マクミランと武器密売中のザカエフを狙撃しに、チェルノブイリに赴いたときの
ことだ。プライスは九百メートル先のビルから対物ライフルでザカエフの野郎の脳漿をブチまけて
やろうとした。しかし左腕は奪ったものの暗殺には失敗し、這々の体で二人は逃げることになった。
途中で負傷したマクミランを抱えたプライスは、ヘリの着陸予定地点までたどり着いたものの、迎えの
ヘリはまだ遥か空の先。廃遊園地のど真ん中で数十人の追っ手を相手に迎撃戦を行ったのだ。
その数分間はまさに絶望的な長さだった、と語っていた。
134101 ◆zuRyISqyLk :2010/03/07(日) 21:22:51 ID:sCRuDnAX
 時が過ぎ、部下の俺も同じような目に合うとはこれも因業ってやつか。
 弾雨の勢いが落ちる瞬間を見計らって、顔を出し坂の下の様子を覗く。いつの間にかまたわらわらと
集まってきてやがる。こいつらを登らせたら一巻の終わりだ。
「これが最後のフラッシュバンだ」
 伏せたまま丘の下に転がすように放り投げたフラッシュバンが再び敵の動きを止めてくれる。俺達は
身を乗り出し、動きの止まった敵を数人片付けた。
 が、敵もそうそう同じやられ方はしない。今度は適当に当たりをつけて、グレネードを撃ち込んできた。
今のところは見当違いの方向に飛んでいるが、このままだといずれ吹っ飛ばされる。
「ゴースト、グレネードの射手を撃てるか?」
「やってみよう」
 銃弾が風を切る音がそこかしこで聞こえる。丘の頂からわずかに顔を出したゴーストがグレネード
ランチャーの発砲煙をスコープで見た瞬間に、その場へ寸分違わずライフル弾を撃ち込む。射手は
倒れ、グレネードの雨は一時止んだ。
「チッ、砂が噛みやがった」
 ゴーストが舌打ちをしてM14を放り投げた。
 ツイてないときはとことんツイてないもんだ。このタイミングで動作不良なんて、俺達の神様の嫌がらせか
アッラーの思し召しかは知らないが、やってくれる。
「こいつで最後まで悪あがきするしかないな」
 と、ゴーストはUSPを構え強がってみせたが、アサルトライフルなら至近距離の数十メートルもハンドガン
では大遠距離、ましてや闇夜だ。谷を越えた向こうの敵は狙えない。
「俺が向こうの敵を撃つ。お前は下に降りてきた敵を撃て」
 相変わらず弾丸の雨は降り続けている。時々止む瞬間に合わせて発砲炎の位置を狙い撃つが、
相手の増援は増え続けているようだ。減った気がしない。
 砲弾のような風切音の後、すぐ脇でグレネードが炸裂した。あたらしいグレネードの射手も到着した
ようだ。間もなくこの丘を敵兵が登ってくるだろう。
「クソッ! ヘリさえ来れば!」
「………間に合ったようだぜ。耳をすませてみろ」
 俺が空を見上げると、闇の彼方から敵のそれを遥かに越える圧倒的な弾の雨が降り、兵士どもを
残らずなぎ倒していく。ペイブロウのミニガン掃射だ。
「これぞ恵みの雨、ってやつだな」
 ゴーストはそう言っておどけてみせた──のかどうかは表情がさっぱりなので不明だがともかく、彼は
着陸地点に向けて走り出した。俺も背後を警戒しながら後に続く。
 ヘリの後部ハッチが開き、護衛の兵士が銃を構えて飛び出てくる。よろよろと飛び込んだ俺達をかばい
ながら護衛が合図した。
 ヘリはその巨体をあっという間に高空に持ち上げた。疲れた俺達の目の前で、彼方にぽつぽつと輝く街の
輝きが流れていった。
135101 ◆zuRyISqyLk :2010/03/07(日) 21:26:11 ID:sCRuDnAX
これで第一章の1面「砂漠の嵐」は終了です。
次回は第一章の2面「トイ・ボックス」
codのお約束で特殊部隊と米軍部隊の主人公が交互に入れ替わるので
次は米陸軍部隊のお話です。
136創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 22:57:35 ID:bCe95aZs
おお、期待
137創る名無しに見る名無し:2010/03/08(月) 06:15:17 ID:61Lwa+pO
投下乙!

何気にお約束満載でニヨニヨして読んでる
138創る名無しに見る名無し:2010/03/08(月) 23:38:38 ID:OCK310MQ
おっ、CoDの人だ 乙!
139創る名無しに見る名無し:2010/04/08(木) 20:07:52 ID:hyx3xryJ
保守
140創る名無しに見る名無し:2010/04/14(水) 04:26:35 ID:8yBDFdzf
俺は待ち続ける図書館氏を
141創る名無しに見る名無し:2010/05/06(木) 12:21:12 ID:S0hu2wur
ほっしゅ、ほっしゅ
142創る名無しに見る名無し:2010/05/18(火) 23:15:58 ID:/q4ueypw
ホッシュホッシュ巡洋艦
143創る名無しに見る名無し:2010/05/22(土) 14:45:35 ID:+06Najgx
第14護衛空母戦隊の続きはもうないのかしら・・・
144創る名無しに見る名無し:2010/05/26(水) 18:26:11 ID:H1N8m5zQ
図書館氏はどこにいったのだろう
145創る名無しに見る名無し:2010/05/26(水) 21:47:36 ID:KCxSF6MK
メディア良化隊に連行されたんじゃね?
146創る名無しに見る名無し:2010/05/30(日) 10:39:43 ID:+ohvIe/G
前スレのSSをまとめてみました
需要があるかどうかは分かりませんが、よかったらどうぞ

ttp://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/118890

さぁ俺もSSの続きを書くかな
いつになったら完成するんだ…orz
147創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 00:31:34 ID:KFMpBTQK
>>146
まとめ作成乙
早速保存しました

SS投下を期待しています
148創る名無しに見る名無し:2010/06/02(水) 19:06:09 ID:1HzwAMnc
149創る名無しに見る名無し:2010/06/24(木) 19:53:12 ID:+EZVxgwd
ほっしゅ
150創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 07:07:30 ID:JItknzA5
あげ
151666SQUADRON:2010/07/16(金) 20:13:51 ID:ZlyL/HSr
火曜日(三)
KG26の襲撃を撃退した直後から、天候は急速に悪化した。
護衛空母ディフェンダーではこれ以上天候が悪化すると離着艦作業が不可能になると判断され、666飛行
中隊の収容作業が始まった。
時間が経つにつれ風と波はますます強まり、空中に留まっていた最後の一機、エメット・ブラウン中尉の操
縦する“ベイカーのB”に着艦の順番がまわって来たときには、荒波に翻弄される飛行甲板の縦揺れの上下
差は60フィート以上、横揺れの振り幅は左右各20度に達しようとしていた。
そして“ベイカーのB”は不自然に右に傾いた姿勢で残り少ない燃料を消費しながら、木の葉のように揺れ
る母艦の周囲を旋回し続けている。
ドイツ爆撃機隊との空戦では多数の機体が被弾していたが、「グラマン鉄工所」の異名を取る頑丈な機体と
要所要所に配置された防弾鋼板、そして自動防漏式燃料タンクが7,92ミリの旋回機銃の打撃を完璧に防
ぎ、大破した機体は一機もなかった。
だが右翼端に被弾した“ベイカーのB”だけは、補助翼のヒンジが破片を噛み込んで舵面が上向きに固定さ
れたまま動かなくなってしまっていた。
“ベイカーのB”を操るのは、母艦乗組員の間で密かに「揉みしだきたい女ナンバーワン」に挙げられてい
るエメット・ブラウン中尉だった。
小柄で無口で下手をするとティーンエイジャーと間違えられる童顔で、そのうえ巨乳のエメットは1940
年の秋、英国に到着した最初のG−36A(F4F−3の輸出型)をテストした練達の戦闘機乗りだった。
ファーンボロで行われた比較評価試験ではスロットル操作と無線機がフランス仕様のままのグラマン戦闘
機を飛ばし、無敵颯爽たる救国の戦闘機スピットファイアを鮮やかに打ち負かしたものだったが、そのブラ
ウン中尉の技量をもってしても、執拗に右にロールしようとする戦闘機を真っ直ぐ飛ばし続けるのは容易な
ことではなかった。
海況は最悪、飛行機は傷付いている。
“ベイカーのB”を無事着艦させることは誰の目にも不可能なことと見えた。
だが護衛空母ディフェンダーの艦長であり、全英おっぱいバレー普及委員会理事長でもあるジョン・ポー
ル・ジョースター卿は、「弱い考え」にとことん反逆する男だった。
「逆に考えるんだ、飛行機が真っ直ぐの姿勢を保てないのなら艦を傾ければいいんだ」
艦長は若本則夫の吹き替えのような威厳に満ちた声で言った。
「なっなんだって―――――っ!?!」
普通はそうなる。
だがディフェンダー乗組員の反応は−
「クール!」
彼らは揃いもそろって、常識人が「駄目だ」「無理だ」と言うときに限ってやる気を出すヘソ曲がりだった。
152666SQUADRON:2010/07/16(金) 20:14:47 ID:ZlyL/HSr
「“ベイカーのB”、今から二十秒後に本艦の艦尾につくコースを取れ」
ブラウン中尉が無線連絡を了解したことを確認したジョースター艦長は、自ら舵輪を握り艦橋に仁王立ちす
ると艦の周囲を素早く見回し、左舷側から大波が迫ってくるのを見て取ると取り舵を一杯に切りながら伝声
管に向って怒鳴った。
「左舷半側速!右舷全速!」
二軸推進のうちの片方のスクリューの回転を下げ、もう片方を加速させることによって九千トンの商船改造
空母は駆逐艦のように鋭く回転し、蒼い壁を切り裂きながら大波の風下側を駆け上がった。
そして波の奈落の上の空中に一瞬静止し、今度は巨大な波のきりたった絶壁を、猛烈な勢いで落下していっ
た。
「今だ!」
艦長の指示は無線器にかじりついた通信士によって即座に“ベイカーのB”に伝えられた。
いまや空母ディフェンダーは波と波の間に出来た谷間に放り込まれ、40度も傾きながら谷底にむかって落
下している。
その飛行甲板の傾斜は、やはり大きく右側に傾いて飛行するマートレット戦闘機の操縦席からの視点では、
ほとんど水平に見えた。
過去数回の戦闘航海でFw200哨戒機六機を撃墜し、「コンドルキラー」の異名を持つエメットは神技と
も言える腕の冴えを見せ、強風の吹きつけるなか飛行甲板に向かって降下するマートレット艦上戦闘機の降
下速度と、波の谷間に沈降する艦の勢いを見極め、両者の速度差が限りなくゼロに近づく完璧なタイミング
で着艦を決めた。
樽のような胴体からハの字型に突き出した主脚が飛行甲板に叩き付けられ、ぐっと沈み込んだ機体が油圧緩
衝装置の働きで跳ね上がろうとするが、艦体が再び波に持ち上げられ、下向きにかかったGが“ベイカーの
B”をがっちりと押え付ける。
間髪をいれずキャットウォークに待機していた決死隊が飛び出し、カウボーイよろしく手にしたワイヤーを
戦闘機に投げかけて雁字搦めに固定した。
コクピットを出たエメットは艦が揺れた拍子に主翼から転げ落ちそうになった。
空中では山猫のように敏捷なエメットは、飛行機を降りると毛躓かずに道路の段差を跨ぐことも出来ないの
だった。
素早く駆け寄った軍旗護衛曹長がエメットを救った。
腰に命綱を結んだ軍旗護衛曹長は獲物を襲撃する灰色熊のような勢いで突進し、バランスを崩して飛行甲板
にダイブするようなかたちで放り出されたエメットの身体をお姫様抱っこに受け止める。
そして耳まで真っ赤にしたエメットが、恥ずかしさのあまり自慢のカイゼル髭を引っ張るのも気にせず柔ら
かくていい匂いのする撃墜王を艦内に収容するのだった。

ttp://002.shanbara.jp/jisakue/view/a.jpg
153創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 20:32:21 ID:aDT3C5Z8
来てた。
FR77のさらなる航進を喜びたい。
次の主敵は難しいが。

曹長は、深夜に飛行甲板を散歩しないように。
154創る名無しに見る名無し
曹長(そうちょう)160−212年
曹操の従兄弟