非軍事系ガンアクション創作スレ

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62創る名無しに見る名無し:2009/07/17(金) 14:53:44 ID:7DGzSmXN
「今日からお前の得物はこれだ」
マネージャーからそう受け取ったのは、ヘックラー&コッホ製のUMPだった。
全体が樹脂で包まれたサブマシンガン、弾薬は.45ACPで、俺が以前使ってたMP5と同じか。

「なあ俺が好きな銃ってさ、カラシニコフとかM4とか、サブマシンガンだったらMP5とか、
そういうちょっと昔に使われた銃ってのが好きなんだ。あでもMP5は今でも最前線だけどさ」
「お前のMP5は修理中だ。店主が換えのバレルがないとぼやいていた。
そのUMPはスポンサーが臨時で提供してくださったんだぞ。製造元はMP5と同じだから品質も抜群だ」
30代くらいのなりをした白人の男が偉そうに言う。こいつは俺のスケジュール調整についてはよくやってくれていると思うが、
他の細かな美意識ってのには興味がないらしい。

「分かったよ。じゃあこれでCQBの訓練でもしてくるか。いや今はCQCって言うんだっけ?」
こう言ってからジェネレーションギャップという言葉が脳裏に浮かんできたのは、CQCだかBBQだかとは関係ない。
黎明期の銃という物は、鉄と木のみで形作られ、大戦後くらいから積極的に樹脂が使われ始めた。
こいつもそうだが、FNハスタールのファイブセブンのように全体が樹脂で覆われた銃が現れ始めて、
今の子ども達はこういう銃が好きなのかなって思ったら、ちょっと残念な気持ちになった。

また仕事の日がやってきた。
どうやら俺は女性にもてるらしい。外を歩けば、見知らぬ若い女がこっちを見る。
その後の行動で逆ナンに出る確率は……まあ分かんないけど、かなり多い方だ。
そりゃあ男としては嬉しいが、流石にそこまで見られたら、パソコンケースに忍ばせたUMPの事が気になってしまう。
依頼主はいつものように極秘……かと思いきやそうではなく、マネージャーの親戚からの依頼らしい。
中華系マフィアのボスであるラオという男を殺して欲しいのだと言う。
聞けば親戚の仇らしく、昔かなり酷い目に合わされたようだ。

〜らしい、とか〜ようだと続いているのは、マネージャーの口調がそうだからだ。
あいつが物事を断定的に話すことは珍しい。
「どうってことはない。マフィアといっても弱小組織だ。マカロフかサタデーナイトスペシャルしか持ってない」
「珍しく断言すんのかよ」
「弱小組織だと言っただろう。奴らはコネも金もないから情報屋を黙らせられないんだ。格安でベラベラと喋ってくれたぞ」
63創る名無しに見る名無し:2009/07/17(金) 14:55:17 ID:7DGzSmXN
チャイナタウンのとある飯店。ここがラオのアジトだ。ここの裏口から、俺が単身で突入する。
目指すは調理場から階段を上った先にある、オーナーのプライベートルーム。
ここの見取り図は頭に叩き込んである。想定する相手方の武器は拳銃くらいだろう。あとは包丁とか。
表向きはまっとうな食い物屋だから、機関銃や散弾銃を取り出すのは僅かに手間取るはずだ。
UMPのストックを伸ばし、初弾装填。

疲れた顔をした下っ端料理人がごみを捨てようとドアを開けた瞬間、俺は発砲した。
あえてサウンドサプレッサーは付けない。盛大にフルオートの発砲音で敵と客をビビらせる。
目についた奴から1人、2人、3人撃った。どうだ?まだ銃を取り出さないか?
雇われのセキュリティも、カンフーの達人も姿を現さない。ヘボめ!
あのムカツキマネージャー(の親戚)の仇がこんなザルいセキュリティの上でふんぞり返っているとはね。
おっと、こんな事を考えているうちにもう目的地だ。 ドアの前のガードマンをババン!バンバンバン!!
ドアをバタン!

ラオと呼ばれた男は、案の定革の椅子にふんぞり返って葉巻をふかしていた。
「ノックもせずに入るとは、なってないなミスタ……あー、なんと言えばいい?」
俺は名乗らない。もうそんなやりとりは飽きたんだ。照準を外さないまま、冷徹に引き金を絞る。

閉め切られた室内で、盛大に響き渡る破裂音とマズルフラッシュ。この光景を度々目にするが、思い出すのは決まって
千切られた綿菓子だ。フワフワとした綿菓子は最高に美味いがこっちは別物。もう誰も近付きたくない、
穴ぼこだらけの肉の塊が完成する。

「な、」
はずだったが、硝煙が薄れていくと、銃傷も何もないピンピンしたラオの姿がそこにあった。
「挙句に挨拶もなしに銃を乱射とはな。親の顔が見てみたい」
「どんなマジックを使ったんだ?ホログラフィか?」
「いいや立体映像なんかじゃあない。私は君の事を知っている。といっても名前は知らんがね。君は……君自身の事を知っているんだろう」
64創る名無しに見る名無し:2009/07/17(金) 14:56:12 ID:7DGzSmXN
「……!」
俺の背筋に戦慄が走ったのはどれくらいぶりだろう。

「私がバージョン6.1.5だ」
「嘘、だろ……?」
「いつになく冷静じゃないな。君がそんなに取り乱したのは、ケネディが暗殺された時以来じゃあないか。冷静になれ。
世代交代だよ。君はよく頑張ってくれた。これから君の役目は私が」
動揺でガタガタと震える俺にゆっくりと歩み寄るラオ。

「これから君の役目は私が引き受けよう。君はよく頑張ってくれた。これ以降のシナリオは出来て
いる。私が君を殺し、君の脳に私のデータを上書きする。その他のバージョンアップも同時に行い、
記憶も自我も私になる。この部屋にはスイッチの切れた私の死体だけが残る。
この身体は急場しのぎのものだから気にするな。テレビではこの架空のマフィア組織の内情が
暴露され、そして一般市民の記憶から近いうち消える。マネージャーの下には私が帰るんだ」

黒幕はあのマネージャーだったのか。
「ふざけるな」
「そう思うだろう。そこでマネージャーは君にチャンスを与えてくださった。君が持っている物は何だ?」
ふとUMPに視線を落とす。
「マシンガンは私も持っている」
ラオがデスクから取り出したのはMP5だった。
「とはいえさっき見てもらった通り、細胞の修復機能は私の方が上だが……、それが決定的な戦力差とはならんだろう」

俺がUMPのマガジンを交換した次の瞬間、重なり合う二つの銃撃音が響き渡った。
65創る名無しに見る名無し:2009/07/17(金) 14:57:02 ID:7DGzSmXN
「ただいま」
奴がこのオフィスに帰ってきた。とは言っても見た目は奴そのものだが、中身はどっちに変わっているかは分からない。
「おかえり。仕事はどうだった?」
「やったよ」

我ながら面白い会話だ。これだと奴の仕事なのか、ラオの仕事なのか判らない。
まあいい。ちょっとこの不思議空間を満喫しよう。奴が勝ったか、ニューバージョンのラオが勝ったかは
後回しだ。実は以前もこんな感じで中身が誰なのか知らないまま接していた事があったな。
あれはたしか200年前のバージョン3と、1300年前のバージョン2だった。

奴の手に下げられたパソコンケースの中は……。ほう、MP5が納められていた。いやあ面白い面白い。
そうだ、奴ももう疲れただろう。奴は特に仕事熱心だった。戦前から今までよく働いてくれていた。
これからは天国でゆっくりと羽を伸ばして―、

ガチャリ
何故だか、MP5の銃口は俺に向けられていた。
「何の真似だ?ラオ」美しい顔立ちをした少年は微笑んで、
「俺、MP5の方が好きだからさ」

おわり
66創る名無しに見る名無し:2009/07/25(土) 09:36:22 ID:62WCoOI9
サイバーパンクっぽいな。
67創る名無しに見る名無し:2009/08/15(土) 17:55:42 ID:OiO/eqXE
;
68創る名無しに見る名無し:2009/10/03(土) 21:53:12 ID:cpkH3hbr
保守
69創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 20:51:00 ID:RoTWCY3O
薄暗がりの倉庫の中、背後から殺気が忍び寄る。
それは俺の単純な勘違いのかもしれない。
だが、その囁きは今まで何度も俺の命を救ってきた。
臆病者ほど長く生き延びる。

かたん、と俺が背にしている貨物のむこうの床が軋みをあげた。
空気が粘性を帯びる。一瞬の判断が生死を分ける。
ごくりと唾を飲み込むことすらできない。
俺はなんとか資材の山を飛び越えた。思ったより相手の反応は鈍い。
容赦なく距離を詰め、そしてそいつの頭に短銃を突きつけた。
このタイミングでこの間合い、いつもの馴染みのものだ――ひとつを除いて
目標は思っていたよりずっと若い、というより幼かった。
突然の事態にあどけない目を動転させておずおずとこちらを見上げている。
――昔ついうっかり娘を怖がらせてしまったことを思い出した
少女はがたがたと両手を震わせる。少女の震えは、
ちっちゃな両手の隙間からプラスチックの玩具を覗かせるまで止まらなかった。
あれ?と不思議に思った瞬間――仕込みナイフだった
ナイフが俺の喉元に突き刺さり俺の体はステンレスの板の上を激しく転倒した。
刃先の毒が体中を駆けめぐる中、俺はある見当はずれなことを考えていた。
ああ、子供と話をするときには目線を合わせてあげないといけないんだっけ――
彼女は俺の拳銃を拾いあげ、躊躇なく心臓に二発そして頭に一発撃ち込んだ。
それ以上は俺の記憶にはない。徹頭徹尾プロの手際であることだけ確かだった。

……
私は既に動かなくなった男の左のポケットから、煙草を取り出し火をつける。
ヤニの臭いがつくから止めろとは言われているが、こうでもしないとやってられない。
この男はこの成長の止まった体に何を見たのであろうか?
いつもより深くふう――と煙を吐き出す。
次の任務は変態のクズがいい。何の感慨もリスペクトも必要としないのだから。

少女は、面倒くさそうに携帯を取り出し無感動に告げた。
「あ――こちらA256、こちらA256――任務完了」
容姿とは裏腹な、場末の酒場にしっくり来るようなそんな大人びた声である。
吐き出された煙が輪っかを描いていた。
70創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 21:59:02 ID:3t8VPb9h
ロリババァGJ!
71創る名無しに見る名無し:2009/10/20(火) 01:33:47 ID:J44aBxJf
好みの文体だ
72創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 20:50:23 ID:ZIP8siIs
俺は覚悟を決めると、梱包資材の束を思い切り蹴飛ばした。
壁に立て掛けてあったシートの束が次々に二人組にぶち当たる。
一人がうつ伏せに倒れ、もう一人がよろけて壁に手をついたのを見て、俺は
拳銃を引き抜いて歩み寄った。

立っている男が俺に気づいた時には、俺のサイトは奴の胸部を
捉えていた。引き金を二度引くと、男は胸を押さえながら蹲り、倒れ込んだ。
次の標的――もう一人の倒れた男――へと銃口を向けて、背筋に
恐怖が走る。男は早くも体を転がして、ジャケットの内から取り出した
拳銃で伏せ撃ちの構えを取っていた。
発砲は同時だった。
73創る名無しに見る名無し:2009/10/28(水) 16:22:29 ID:HRZmc6Vb
【画像あり】「同級生の女の子に頼んでみた」中学生ハメ撮りAVが流出 ★14
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1256707678/



648529052734374
74創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 20:38:41 ID:1q6OIsFO
75創る名無しに見る名無し:2009/12/13(日) 13:26:14 ID:Zgg+e6Q7
76創る名無しに見る名無し:2009/12/13(日) 17:30:03 ID:oA2sx9LY
77創る名無しに見る名無し:2009/12/13(日) 23:53:41 ID:C4cEXG/e
78創る名無しに見る名無し:2010/01/19(火) 06:19:15 ID:41u8S7Ha
保守
79アラスカンサーガ:2010/01/25(月) 22:55:11 ID:hShNC1Us
「雨‥‥止んだみたいだな」

 新田新一朗は山小屋の窓から外を眺めて呟いた。
 アラスカの森の中を散策するハメになって突然の悪天候に見回れ、ようやく目的地の山小屋に着き一晩を過ごした。中には薪と缶詰等の保存食が置いてある。巡回の森林ガイドやハンターが置いて行った物だ。
 新一朗はその中からイワシの缶詰を取り出し腹の足しにする。魚缶は低温下でも脂が固まりにくいので食べやすい。なにより、日本人である新一朗は魚が好物だった。
 もっとも、その缶詰は以前に新一朗自らがこの山小屋へ置いて行った物だった。

「出来れば食うんじゃなく補充の役回りで来たかったな‥‥‥」

 思わず愚痴をこぼしてしまう。それで現状が変わる訳でもない。こんな仕事を代わりにやってくれる変わり者もいない。

「シンイチロウ、本当に奴がここに来ると思うのかい?」

「ああ、必ず来るさ。必ず‥‥‥」

 相方のロバート・K・ウェザースプーンが
その巨体を揺らして話し掛けてきた。
 身長2メートル近い彼はその威圧的な体格に似合わず人懐っこい笑顔と人柄の持ち主で、クールで分析癖のある新一朗と真逆な人物だ。
 真逆の性格だからこそ、新一朗とはいいコンビとしてやっていけるのだろう。

「まったく‥‥金持ちのやる事は理解できんな。自分で目茶苦茶しておいて、出したクソは結局俺らが始末するんだ。格好付ける事すらまともに出来ないくせにな」

「シンイチロウ、そんな事言うもんじゃないよ。その金持ちがお客なんだ。彼らが来なかったら飢え死にするのは僕らさ」

「解ってるさ。でも気に入らない物は気に入らないんだよ」
80アラスカンサーガ:2010/01/25(月) 22:56:55 ID:hShNC1Us
 事の発端は二日前に遡る。
 ハンタークラブに駆け込んできた中年の男と、青い顔をしたその男の息子がしでかした事だった。

 彼らは休暇でアラスカへハンティングをしにきた親子だ。大自然の中でキャンプをはり、ヘラジカやヤマアラシをハントしていた。さぞかし楽しい時間だっただろう。
 己の腕を過信するまでは。

 彼らはヘラジカを狙いライフルを片手に森沿い散策をしていた。あいにくヘラジカとは遭遇しなかったものの、代わりにそれを遥かに越える大物と出くわしたのだ。

 グリズリーである。

 父親は100m以上も離れた場所から、息子にグリズリーを狙うようにすすめた。
 父親はハンティング経験者であり、グリズリーがどういう存在かを十分知っていた。だが、息子に大物を仕留めさせてやりたいという思いがはやり、息子も父親の期待に答えようと銃を構えた。
 己の矮小さと、己の相手の恐ろしさを知らぬままに、だ。

 息子は狙いをしぼり、引き金を引いた。グリズリーの急所はその巨体に似合わずとても小さい。前脚の間、わずか拳ひとつ程度の場所しかないのだ。
 放たれた弾丸は、急所ではなく前脚へ命中した。グリズリーは苦痛の叫びをあげ、彼らを一瞥すると森へと逃げて行った。
 その表情は遥か離れた彼ら親子にも解るほど、激しい怒りに満ちていた。
「必ず復讐する」
グリズリーはそう言ったように見えた。

そして、アラスカ最強の生物は、その上を行くアラスカでもっとも恐ろしい生物へと進化した。

『手負いの熊』

それは死に神の名前である。
81アラスカンサーガ:2010/01/25(月) 22:58:36 ID:hShNC1Us
 息子はその迫力に気圧されるしかなかった。ただ、自分の愚かさを噛み締めるしか出来なかった。
 だが、父親は違った。彼は知っていたのだ。こういう不測の事態に対処すべく存在する連中が居る事を。
 そして、彼らは他人の出したクソを決して拒む事が出来ない事も。



「まったく‥‥223でクマを狙う事自体信じられん。連中は小口径で大物を仕留める事がカッコイイとでも思ってるのか?ハイパワーライフルでも慎重にやるべき相手だってのに。」

「それは今のボク達にも言える事だけどね。ホントはショットガンじゃなくM60でも持って来たかったよ」

 新一朗とロバートは山小屋で件の親子を思い出していた。彼らは手負いの熊を新一朗らハンターガイドに押し付け、さっさと都会へ逃げて行った。

「アマチュアめ‥‥‥」

 新一朗は悪意を込めて言い放った。日本を離れてアラスカでハンターを始めて20年経つが、こういった連中は減る気配がない。
そのたびに命懸けの『掃除』をするハメになる。

 グリズリーは執念深い。怪我を負わされたらその相手を決して忘れないと言われ、必ず報復しに戻ると言われている。
 相手が見つからなければ、手当たり次第に襲うだけだ。相手と同じ生き物、人間を。

「それにしてもなんでこの山小屋なんだい?他にも奴が居そうな場所はあるだろう?」

 ロバートはまたも疑問を新一朗に投げかけた。

「奴は人間を探しているからさ。必ず人間を探している。奴らは馬鹿じゃない。人間がどんな所に居るか知っている。それに‥‥」

「それに?」

「他の生き物がいない。シカも鳥もクロクマも、他のグリズリーの気配も無い。みんな怯えてるんだ。奴に。だから必ず近くに居る。もしかしたらもう俺らは奴に見つかってるかもな」

新一朗は手にしたレッドホークのグリップを握りしめた。


‥‥‥後半へ続く。
82創る名無しに見る名無し:2010/01/25(月) 23:08:24 ID:r9D98j3x
熊と戦う話か
これは面白そう
83創る名無しに見る名無し:2010/01/27(水) 18:53:21 ID:eTpI5ucR
>>82
プレッシャーをかけるなw

うまく行けば今日明日にでも後半を投下する。
84アラスカンサーガ:2010/01/31(日) 16:24:20 ID:LRdGyhMW
後半投下。


ーーースタームルガー・レッドホーク44mag,

 新一朗の愛用しているマグナムリボルバー。使用する44マグナムは実用性のあるマグナム実包ではもっともパワーがある。
それ以上のパワーを誇るカートリッジは多数あるが、どれもコレクターアイテムに過ぎず実用には適さない。 アメリカではもっとも普及している弾薬でもある。
 発射する銃も頑丈なスタームルガー社に絞っていた。タフな作りはアラスカで使う分にはもっとも重要な要素である。より頑丈なブラックホークを使わないのは、シングルアクションより連射のきくダブルアクションにしたかったから。

 しかし、優秀な威力を誇るマグナムリボルバーも、ハンティング用実包のマグナムライフルに比べたらとるに足らない威力しかない。
 新一朗はそれでグリズリーに挑まなくてはならないのだ。



「ロブ、奴の臭いがしないか?」

「臭い?そんなもの全然解らないよ。犬じゃあるまいし」

「そういう意味じゃない。雰囲気で解らないかって聞いてんだよ。回りの空気で感じるんだ。ブルース・リーも言ってたろ?考えるより感じろってな」

「そういうのは東洋人特有の能力だろう?ボクはアイルランド系だ」

「近くに居る。捜しているぞ。俺達を。敵意を読まれたか?」」

 新一朗は神経を尖らせ、レッドホークの弾薬を確認し、戦闘モードへ心を切り替えた。


 新一朗の言う『臭い』はよく当たる。
 過去にもいろいろと的中させ、ロバートの娘に彼氏が出来た事すら言い当てた。
 それだけに、ロバートも警戒を強めた。確実に居るのだ。

ーーーーー死に神が近くに
85アラスカンサーガ:2010/01/31(日) 16:26:39 ID:LRdGyhMW
ーーーそれは探していた。

 一歩進む事に左脚に激痛が走る。ほんの数日前、あのひ弱な生き物によって傷付けられた脚。
 ひ弱な生き物はその小さな身体からは想像もつかぬ程攻撃力が強い。とても弱いのに。とても小さいのに。
 それは恐れていた。はるか太古の昔から、それとひ弱な生き物はこの地でしのぎを削っていた。遺伝子には、そのひ弱な生き物は自身にとって唯一にして最大の脅威だと刻まれている。
 だが、怒りと痛みがそれをひ弱な生き物へと向かわせていた。
 最大の脅威が攻撃をしてきた。緊急事態だ。戦わなければ、自身が死ぬ。
 廃除せねばならない。人間を。
 殺さなければならない。自らへの脅威を少しでも減らす為に。
 人間は敵である。遺伝子にはそう刻まれている。
 それは恐れ故に、人間を探していた。ただ、殺す為だけに。

 それは既に敵の臭いを捕らえていた。二匹、森の中へ侵入したのを確認した。
 おそらくその二匹は自分を殺すために来た。放っては置けない。殺されない為に、殺す。感じていた。人間が放つ殺気を。
 そしてついに、人間が居る場所を見つけた。木で組まれた山小屋を。そして、怒りに満ちた叫びを上げたーーー



「‥‥‥見つかった‥‥!」

 新一朗は声を殺して言った。窓からはまだその姿は見えない。しかし、叫び声はすぐそこで聞こえた。戦闘の合図だ。

「ワオ!ホントに来たね。この事もそのうち『アラスカの神話』に加えられるかもね」

「俺らが奴のエサにならなければな」

 新一朗とロバートは山小屋の入口から遠い奥へと下がった。
 熊の腕力ならば、木で作られた山小屋の簡素なドアなど紙切れ同然だ。少しでも距離をとって、優位な位置を取らなければならない。

 熊は、山小屋の回りをうろつき、中へ入るべく様子を伺う。殺気を放ちながら。
86アラスカンサーガ:2010/01/31(日) 16:27:42 ID:LRdGyhMW
 新一朗はドアに意識を集中していた。
 いずれ破られるであろうドアは、今は静寂を保っている。

「シンイチロウ、あとで毛皮は貰うよ」

「いくらでも持って行け。俺の家じゃ余ってる。肉は山分けだ」

 二人はまだ会話する余裕があった。熊の毛皮や肉は貴重だ。

「今回のはデカイ奴かな?だとしたら高い値がつくね」

 人間二匹の声は外の熊にも聞こえているだろう。だが、彼らはお互い逃げる気はない。


 やがて、山小屋の回りを探っていた熊の動きが限定的になった。山小屋の『急所』を見つけたようだ。そして、ついにドアの静寂が破られた。



 それは地獄蓋が開いたとも思えるほどだった。激しい怒りが込められた叫びと同時に、山小屋のドアは亀裂とともに不自然に変形した。
 亀裂の奥からは黒い陰がこちらを覗いている。新一朗はそれと目が合った気がした。
 しばらくは動きが止まる。そして、次の一撃はドアを完全に破壊した。

 それはついに現れた。
 体長は目算で250cm。体重は600kg程だろうか。前脚には真新しい銃そう。間違いなくあの親子がとり逃がしたグリズリーだ。
 その目は怒りと恐れに満ちていた。何の迷いもなく、新一朗に殺気を向けていた。
 アラスカでもっとも恐ろしい死に神が、今、目の前に居る。

 新一朗と熊は一瞬の気合わせを行い、お互いを改めて敵として認識した。
 そして、破られたドアの破片が地面にすべて落ちる前に、新一朗とロバートは引き金を引いた。

 新一朗のレッドホークがマズルフラッシュと共に轟音を轟かせる。ロバートのレミントンが12ゲージシェルを吐き出す。
 照準は曖昧だった。至近距離から、とにかく大量の火力を一瞬で浴びせ、一気にカタを付ける。死に神相手の接近戦では、それしか戦力差を埋める方法はない。失敗すればその爪と牙でバラバラにされるだろう。

 新一朗は6発の44マグナムを撃ち、硝煙の向こうを見つめた。
87アラスカンサーガ:2010/01/31(日) 16:29:27 ID:LRdGyhMW
 うっすらとその巨体が見える。それは弾丸に倒れたか、それとも反撃すべく身を屈めてるのか‥‥‥

 新一朗は二丁目のレッドホークを取り出し、熊を見つめている。まだ殺気を消す訳には行かない。もし反撃を許せば、たとえ銃を持つ人間でも太刀打ちは出来ない。
 硝煙の向こう、そこに居るのはより怒りをました熊かも知れない。



 ほんの一瞬だっただろう。しかし新一朗には十数分に感じられた。
 新一朗が時間の感覚を取り戻したのは、不意に横から肩を掴まれた時だった。


「シンイチロウ、終ったみたいだよ」





 あれから数日がたった。
 倒されたのは体長260cmのオスのグリズリーだった。無事に倒された事を例の親子へ電話で伝えたが、もはや彼らには興味がないのか素っ気ない反応だった。

「コイツらはまたやるな。次は俺が熊の代わりに殺してやる」

 新一朗はまた親子に悪態を付く。ハンターをしていて、一番ハントしたい生き物はこういったクズ共だ。

 今日はまたあの山小屋へ向かっている。壊れたドアの修理と食料の補給のためだ。

 誰もいないこの場所はとても穏やかだ。動物達の気配を感じる。あの時は逃げていた連中はここへ帰ってきた。 もう死に神は居ない。

「ロブの野郎‥‥いつの間にこんなに食ってやがったんだ?」

 山小屋の中は空き缶が散乱していた。新一朗が知らぬ間に缶詰に手当たり次第に手をだしていたらしい。
 あの巨体を維持するにはそれくらい食べなければならないようだ。

 作業はすぐに片付いた。元通りになった山小屋は戦いの後を感じさせない。
 新一朗は山小屋を見上げ、踵を返し帰路に付く。過ぎ去った後はまた自然の中へ溶け込んでいくだろう。
88アラスカンサーガ:2010/01/31(日) 16:30:23 ID:LRdGyhMW
 新一朗らガイドの事務所では他のハンターが集まっていた。
 ベテランの新一朗はその中で中心的な存在であり、今回の事も若い連中の格好の話題になっていた。
 新一朗は皆に称賛され、或は冷やかされながら談笑を交わす。ほんのわずかな休息だ。

 おそらく、今回の事件も、『アラスカの神話』のひとつとなるだろう。
 遥か昔から続く、熊と人の戦いの物語。それは現在も、そして未来もずっと‥‥


「シンイチロウ、お客さんが着てるよ。ロビーで待たせてるから早く行って上げてくれ。」

 不意に、マネージャーが事務所でくつろぐ新一朗に言った。
「ああ。今行くよ。」

 面倒臭そうに腰を上げ、ロビーへ向かう。ロビーでは初老の男性が立っていた。
 背中にはウインチェスターと思われるケースを背負っている。

「新一朗です。私に何かご用でも?」

「実は‥‥‥クマを撃ち損じてしまったんです」
89創る名無しに見る名無し:2010/01/31(日) 16:31:08 ID:LRdGyhMW
投下終了。
90創る名無しに見る名無し:2010/01/31(日) 20:56:35 ID:kVEQRnTQ
おつおつ
91アラスカンサーガ:2010/02/12(金) 18:21:57 ID:Dk23ktpj
 荒野に銃声が響く。その音は幾重にも反射し、ただっ広い大地に拡がっていく。
 川を流れる流木は小さな破片を撒き散らしながら流れて行き、やがて視界から消えてゆく。 新田新一朗は6発の弾丸を流木へ撃ち、再びレッドホークへ弾丸を装填する。そしてまた足元の川へ拾った流木を流し、それを撃つ。

 これが新一朗が普段から行っているトレーニングだ。止まった的ではなく動き続ける標的を、それも遠ざかって行く的を撃つ
 また銃声が響き、流木は砕ける。

 アメリカでもっとも銃が必要な地域はテキサスでもニューヨークでも無い。ここアラスカだ。いざとなったら自らの力でもって野生での生存を強いられる地域はここしかない。
 現実的で日常的なアイテムとして、ライフルやショットガンが置いてある。マグナムハンドガンはその中で、目標を撃つというより轟音を出す機械といった意味あいが強い。
 例えばクマと出くわしたら、たとえライフルを持っていたとて容易には倒せない。轟音を出すマグナムなら、驚かせて敵を追っ払うのに適しているのだ。

 これだけ銃が浸透していながらも、人が銃で撃たれる事件は都市部より格段に少ない。クマの出ない都市で銃を持つ事は、つまりは人を撃つ事を前提としている。
 人の天敵は人なのだ。そういう視点で見れば、物に溢れインフラの整った快適な都市部は、この大自然のアラスカよりも『危険』と言える。

 新一朗のレッドホークはまたも弾切れだ。
 弾丸は一発漏らさず流木にめり込む。コンバットシューティングは出来ないが、単純に動く的を撃つなら新一朗はシールズにもスワットにも負けないだろう。

 辺りは暗くなり始めた。新一朗はレッドホークから空のカートリッジを取り出し、後ろにある自分のテントへ向かう。
 キャンプファイアの炎は辺りを照らし、新一朗の影が地面に伸びる。

 テントの中で新一朗はレッドホークの弾槽を外し、バレルを真鍮のブラシで磨く。相棒はだいぶくたびれている。そろそろ引退か。もっとも新しく買ったとしてもまた同じ銃を買うだろうが。
 新一朗はレッドホークのメンテナンスを終えると、5発の弾丸を込める。暴発を防ぐ為、撃鉄に当たる部分は空にする。

 新一朗はそれを枕元に置き、寝袋に包まれた。
92創る名無しに見る名無し:2010/02/13(土) 07:58:42 ID:N6MBGoBp
(゚д゚≡゚Д゚)
俺しかこのスレ居ない‥‥‥?
93創る名無しに見る名無し:2010/02/13(土) 13:39:54 ID:TmnFzfcm
俺が居る
94創る名無しに見る名無し:2010/02/14(日) 15:28:07 ID:0fytrccD
俺もいる
95創る名無しに見る名無し:2010/02/14(日) 16:57:00 ID:+eesVcOv
ロブ
「シンイチロウ、どうして投下が無いんだい?」

新一朗
「さぁな。都会と違って人口が少ないんだろ」
ロブ
「それも寂しい物があるよね」

新一朗
「喚くなよ。あくせくしても仕方ないさ。この若木みたいに自然にまかせとけばやがては森林が生まれるように、いずれはこのスレも投下で溢れるさ」

ロブ
「でも自然に消えた森林だっていっぱいあるよね」

新一朗
「言うなよ‥‥‥」
96創る名無しに見る名無し:2010/02/16(火) 18:26:11 ID:NVdUPWkJ
test
97創る名無しに見る名無し:2010/02/17(水) 19:24:03 ID:y8h1c34C
>>95
不覚にもワロタ
98創る名無しに見る名無し:2010/02/18(木) 17:59:37 ID:M/jzV6XK
>>97
ロブ:「シンイチロウ!人だ!人が居たよ!」
新一朗:「逃がすな!50口径持ってこい!」
99Where Eagles Dare:2010/02/18(木) 21:41:31 ID:MvSvuxxw
鉛色の雲が山々の頂に重苦しくのしかかった曇天のオーストリア・アルプスに、明朗なヨ
ーデルは似合わない。
ましてやレーダー探知を避けるため、氷河が抉り取ったギザギザの谷間に張り付くように
飛行する冬季迷彩を施されたユンカース52型機がお題とくれば、これはもう金管をバリ
バリ鳴らしたロン・グッドウィンのドラマティックなスコアしかない。
最大八百三十馬力を発揮する三基のBMWエンジンの、三組のプロペラと27個のピスト
ンが奏でる腹に響く爆音が、暗くて寒くてあまり快適とはいえない客室内に木魂していた。
第一○一降下猟兵侍女中隊“スクリーミング・クックロビン”を束ねるキャサリン・スミ
ス大尉(ハウスキーパー)は、アルミニウムの外板を通して機内に染み込んでくる大サン・
ベルナール峠上空一万フィートの寒気を少しでも防ごうと、MP40をコピーしたスペイ
ン製の短機関銃の放熱カヴァーに覆われた銃身を掴んで脇にどけ、メイド服の上に着込ん
だカモフラージュアノラックの襟を両手で掻き合わせると、自らが選抜したメイド達に目を遣った。
薄いキャンバス地のマットレスを敷いた向かい合わせの座席に座り、正面を向いたスミス
の目の前には、右腕と頼むクリス・シェイファー中尉(パーラーメイド)がいつもと変ら
ぬ仏頂面で、長身を折り畳む様にして蹲っていた。
防寒着の上からでもはっきりと分かる豊かな胸の膨らみの不自然に突き出した左側面は、
ショルダーホルスターに収まったでかい.44口径弾を発射するマグナム拳銃の銃把によ
るものだ。
極端に動きの少ない普段の態度は温室のワニにも引けをとらないシェイファーだが、その
右腕が稲妻の速さで翻り、優美な六インチ半の銃身を備えた銀色に輝くリヴォルバーが魔
法のように現れたとき、必ず誰かが血しぶきとともに吹き飛ぶか、装甲リムジンかスクー
ルバス、あるいはメキシコ人の荒くれ者を詰め込んだ武装列車が火達磨になって横転することになる。
その隣りでは、3.5倍率のPUスコープを装着したトカレフSVTを膝の間に挟んだイ
ングリット・パワーズ軍曹(ナースメイド)がトレードマークの(1980年に精神病患
者に射殺されたミュージシャンの名が冠された)丸メガネをずり下げ、見事な鼻提灯を披露しながらぐっすりと寝込んでいる。
強度の近視でありながら風を読む才能と精密かつ滑らかに動く指先を備えたパワーズは、
自らが調整した旧ソヴィエト製の半自動小銃を用いて四秒間に十発を撃ち、六百ヤード離
れた直径五インチの円内に全弾を集めることができた。
部下の様子を把握し終えたスミスが現在位置を確認するため操縦席に足を踏み入れた丁度
そのとき、風防ガラスが粉々に砕け、肌を突き刺す冷気とともに、オレンジ色の曳光弾が
飛び込んできた。
100創る名無しに見る名無し:2010/02/19(金) 06:19:39 ID:7e9tVSH+
ふと思ったが、FPSは非軍事になるのか?
101創る名無しに見る名無し:2010/03/06(土) 22:36:44 ID:nBuQMQYq
そりゃジャンルじゃなくてシステムの問題だろ。
102創る名無しに見る名無し:2010/03/11(木) 07:44:07 ID:Ccnx/Lzn
test
103創る名無しに見る名無し:2010/06/01(火) 06:29:14 ID:lpERAKsA
浮上
104創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 21:10:35 ID:3qpTfkWG
 かちり、と鍵穴の中でまわった鍵の音でリュウは目覚めた。
 続いて、耳を澄ますまでもなく、ドアが開く音、続いて数人の、おそらくは男の足音が聞こえる。
 ――3人、4人かな?
 闇の中でリュウは数えた。

 複数の足音がベッドの足元で止まり、かちり、という3つの音。
 消音器の抑えた低い銃声と、丸めた毛布が撃ち抜かれるが続く。
 ドアの閉まる音。続いて部屋の赤色灯に灯りが灯された。
 一人がベッド右に移動。リュウはベッド下からそいつの足首を掴んだ。
 そいつの足首を、ベッド下に引きずり込みつつ、転がり出る。
「おわ!」
 そいつはベッド脇の小さなテーブルに背中から倒れこむ。
 手から消音器をつけたワルサーがこぼれ落ちた。
「どうした?」
 足元のどちらかが言い終わると同時に、リュウの手に移ったワルサーが、咳き込むような音を二つ立てる。
 9ミリの弾丸は、誤たずベッド足側に立った二人の胸の真ん中を撃ち抜いた。
 すかさず膝で床から跳ね起きる。ドアの近くに居た4人目が、ベルトの腹から
大きなリボルバーを引き抜くところだった。
 ワルサーを2連射。銃を握った手の甲と腹に撃ちこむ。
 4人目も声も発せずその場にくずおれた。三人のうめき声が合唱する。
 振り向いて、テーブルの上に大の字になっている、ワルサーの持ち主に銃口を向けた。
 そいつはテーブルの上でゆっくりと上体を起こし、両の掌をリュウに向けていた。
「皆まだ生きているはずだよ。ちょっと重いが、医者のところまで連れて行ってやるんだね」
 リュウは口元だけで笑って、両手を上げた男に言った。

 9ミリのワルサーが2丁、.38のワルサーと、.45のS&Wのリボルバーが1丁ずつ、
それぞれの弾倉に残ったそれぞれの弾丸と3つの消音器が、リュウの手元に残った。
「いきなりこれか。銃砲店を開けばやっていけそうじゃないか」
 リュウは左の眉だけを上げてひとりごちた。
105創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 22:50:19 ID:Gxa5Ooma
久しぶりに投下来たな
リュウはなんで襲われたんだ?
106創る名無しに見る名無し:2010/06/30(水) 20:10:08 ID:tG5v8HNQ
あげ
107創る名無しに見る名無し:2010/07/02(金) 00:28:07 ID:gEL8KePa
「ほうほう、そんで?姿形もわからねえお宝とやらは拝めたのかい?」
 蛍光灯に照らされた白い壁の応接室で、へらへらと笑いながらジョウは言って、
テーブルの上の大きなガラスの灰皿へ右手に持った葉巻の灰を落とした。
 茶色の本革のソファの背により一層、ゆったりと体重をもたせかける。

 リュウにお目こぼしをもらったワルサーの持ち主は、直立不動のまま、
黙ってジョウを睨みつけた。親の仇を見る目付きだった。

「ビビって手出しもできなかったアンタには何も言う資格は無いわ」
 ジョウの向かいに座ったヨーコが煙草のように細い葉巻を片手に言った。
 ヨーコの背後に立った、黒いスーツの上からも膨大な筋肉が想像できる
クルーカットに顎鬚の大男が、金メッキのガスライターでヨーコの葉巻に火を着ける。

 ジョウはにやにやと笑い続けながら口を開いた。
「ニシのお嬢さん、誘惑するのはやめてくれ。俺は弱い相手にゃ滅法強いんだぜ?」
 ヨーコの背後の大男が、懐に右手を突っ込むのと、かんしゃく玉が破裂するような
乾いた音が二つするのと、大男が左回りに回って膝まづくのが、ほぼ同時だった。
「言わんこっちゃねえ」
 笑みの消えた顔で言ったジョウの右手で.32口径の小さなコルトが、左手で葉巻が紫煙を上げていた。
 元ワルサーの持ち主の眼が、救いを求めるようにヨーコを見た。
 ヨーコは挑むように、ジョウのコルトを睨みつけていた。

「で、アンタはどうしたいの?ちゃんと言ってみなさいよ」
 左肩に2発、.32口径を喰らった大男が部屋から連れ出され、二人きりになってから、
ヨーコはジョウに聞いた。
「さあね。ああいう手合いにゃあ、ヘタな計画を立ててもしょうがねえ。せいぜい仲良くなってみるさ」
 ジョウは犬歯を剥きだして、表情だけで大きく笑った。
108創る名無しに見る名無し:2010/07/25(日) 04:58:59 ID:5jiH5p9X
ここは深夜のとあるコンビニエンススストア。
「さてドーナツと、あとタバコも買った事だし、フリーウェイに乗るとするか」
「ああ」

俺と同僚のジョセフは、つかの間の休暇を楽しんでいた。
「おいカール、お前一緒に遊ぶガールフレンドもいないのかよ」
「そういうあんたは嫁さん優先じゃないのか?ジョセフ」
「あいつとはもう冷めきっちまってるよ」
そういうただの他愛もない話をしていると、後ろから声が聞こえた。それも少女の。

「ねえ、おじさんとおにいさん」
ただの、本当にただの少女。白人でむしろ可愛いくらいだ。もしやこれは逆ナンという奴ではないだろうか。
丁度ガールフレンドもいない時期だ。多感な歳である俺の本能がそう思わせた。
「なんだい?」俺が返事をすると、
「私達ね、今ゲームをしているの。人 探 し ゲ ー ム 。でも嬉しい。私が一番乗りだわ」
「?何を言って―」突然、
バン
109創る名無しに見る名無し:2010/07/25(日) 04:59:39 ID:5jiH5p9X
耳に刺さる様な大きな破裂音。それとほぼ同時に、右耳をピュンという音が掠めた。
暗い中で少女の手元に目をやると、そこには銀色のオートマチックハンドガンが握られていた。
「何をする!?」俺は声を荒げた。こちとら警官だ。非番だけどな。
俺は腰に挿したグロックを取り出す。一方のジョゼフも長年の経歴がそう教えたのか、
タバコを投げ捨て脇のホルスターに手を入れていた。
俺はグロックを少女に向けたまま、マニュアル通りの言葉を叫んだ。
「警察だ!今直ぐに銃を捨てて手を床に―」マグナムを抜き出したジョセフと共に叫ぶが、
バンバン!!

手の施しようがないみたいだ。次のマニュアルに移ろう。今後の人的被害を考慮した上での、射殺だ!
バンバン!俺もジョセフも車の陰に回り込み、グロック17のダブルタップで応戦する。しかしどうだろう、
彼女の胸に被弾したらしく出血はしているが、倒れる気配がない。
「ジョセフ!そういえば某社の新製品、戦闘用人型ロボットの実用化って」
「いやそんなまさか、あれの発売は再来年のはずだ!」
ジョセフは何故そんな事に詳しいのだろう。仕事柄だろうか。いやそんな事はさておき、
「カール、逃げるぞ!無線で本部に応援を呼べ!」
ジョセフ自慢のマグナムが効かない。これは大事だとジョセフも気付いたのだろう。
110創る名無しに見る名無し:2010/07/25(日) 05:00:38 ID:5jiH5p9X
「こちらB-1からセントラル。武装した謎の人間が銃を乱射している!ああ謎だ!銃が効かないまるでターミネーターだ!SWATでも軍隊でもなんでも良いから寄越してくれ!」
颯爽と車に乗り込み、ジョセフが自慢のハンドル捌きで道路へと出る。
追っ手は……来ている!あの少女だ。車のスピードに脚で追従しているところから、人間でない事は確かだった。
バンバンバン!!俺はガラス越しに発砲を続ける。
「おいカール!俺の愛車が―」「そんな場合かジョセフ!」
少女は走りながら発砲しているせいか、弾筋が非常にぶれているのがありがたかった。
しかしそれはこっちも同じだ。グロック自慢の装弾数17発も底を尽こうとしている。マガジンチェンジ。
突如、目の前のガラスが大きく割れる。少女の腕がガラス越しに俺の胸倉を掴んだ。
「ジョセフ!あんたのハンドル捌きはどうなってるんだ!!」「そんな事言ってもこっちのスピードは限界だ!」

少女のとんでもない力で俺の顔が銃口に吸い寄せられる。ならばとこちらもゼロ距離で発砲。やった、少女の片目を撃った。その衝撃か、少女の手が俺から離れる。
「セントラルからB-1へ。待たせたな。ご希望のスワットを連れて来たぞ」
「遅いっつーの!敵は女だ。間違って俺らを撃つなよ」
前方の上空には一機のヘリ。そこから次々と隊員達が降下を始める。俺達の車両はその脇に滑り込んだ。
改めて、落ち着いて少女の身体を見てみる。銃傷によって露出した銀色の骨格、真っ赤なカメラのような眼。弾切れになったハンドガンを捨て、それでも尚こちらに突進してくる様は、まさにターミネーターだった。
「全員構え、撃て!」隊長の命令に倣ってMP5を発砲する隊員達。その猛火を受け、少女は完全に機能を停止した。
もうこれで俺達のお役は御免だ。
111創る名無しに見る名無し
「えー今回の事件に関しまして、我が社のテストタイプロボットの暴走により、約二名の被害者を出したという事は誠に遺憾であり、
今後このような事のなきよう最善の注意を払っていく所存であります。尚この被害者の方への補償ですが……」

某社の社長の会見では、もう聞き飽きたような台詞が並べられていた。俺はあれから外出を控え、自宅に閉じこもっていた。もうバカンスもドーナツも御免だ。
ピンポーン。玄関のチャイムが鳴る、恐らく注文したピザ屋だろう。俺は玄関へと向かうが、俺は一つ気になっている事があった。
『私達ね、今ゲームをしているの。人 探 し ゲ ー ム 。でも嬉しい。私が一番乗りだわ』

おわり