85 :
創る名無しに見る名無し :2009/03/07(土) 21:56:19 ID:IKKJclTM
面白かったです。
乙といわざるをえない
結構よく作りこまれてる もしかして作者もあの辺りに行ったことがあるのか? 今はヨルダンルートは日本人では難しいから、 もし行った事があるとしたら拉致事件以前か直後?
88 :
30 :2009/03/09(月) 22:00:44 ID:p1BxSCxl
>>87 拉致事件ってヤオの方なのかガチの方なのか…
残念ながら中東には行ったこと無いです
街中とかの描写はYouTubeとかの動画サイトや、最近見た「ワールド・オブ・ライズ」って映画を参考にしました
(ハジムなんかモロにハニ・パシャのパクリですorz)
ネットでこういう情報が得られるのは有り難いことです
ただ知り合いにイラクに行った人が何人かいて、その話も少し参考にしたりとか…
自分が行くのが一番いいんですががね
本物は傭兵よりレジスタンスの方がまとも 傭兵は話すだけで、こいつはちょっと普通じゃないぞ、というのが分かる
一般人を拉致って生きたまま首をチョン切るレジスタンス(笑) 知的障害者や子供を騙して自爆テロさせるレジスタンス(笑) まぁ黒水社の連中もDQNが多いらしいけどね
バーカ、善悪なんて各々の見解だろ じゃあなんで俺がテロリストって言葉を使わないかって言ったら お前みたいな引き篭もりちゃんは知らないだろうが、 その言葉は彼らにとって禁句だからだよ。 そいつらの事をテロリスト、つまり悪者呼ばわりするって事は、 殆ど敵対意思を示したも同然だもんな。 まあ、実際彼らが絶対に間違っているかと言ったら、そんな事は誰にも言えないしね。 >まぁ黒水社の連中もDQNが多いらしいけどね 現実を知ろうともしないお前よりはマシだと思うけどな
まぁ、一番やりやすい占領方法は売国人と愛国人を争わせて 身内同士で潰し合いをさせること レジスタンスはイラク人、傭兵もイラク人 こうすれば愛国だ!売国だ!と勝手に殺しあって死んでくれる
なんで軍事関係のスレって決まって単発IDがわらわら出てきて場を荒らすのん
実社会で相手してもらえないからじゃない? だから反応があるとwktkしてまた書き込んじゃうんだよな 「スレ違い」で終了ということで…
と涙目の引き篭もりちゃん(遠回しにコメントしても誰かバレバレよん) 悔しかったら自分もやってみればいいのに・・・・・・ あ、ニートで金ないから無理か? まあ、経験のある人間の方がどうしても、 発言力があるのを分かっててやる俺も卑怯といえば卑怯だけどね。
<ここは創発、ROMに口なし> という訳で保守代わりのSS投下
97 :
少年兵 :2009/03/19(木) 19:10:32 ID:qDM4td9h
肺に開いた穴から空気の洩れる音が聞こえる。ご丁寧にどてっ腹にも風穴が開いている どう見てもローティーンのクソガキがカラシニコフを持ってオレを見下ろしていた。そいつでオレを撃ったのか? クソっ…こんなガキに殺られるとは、オレもヤキが回ったもんだ 今まで弾圧されてきた少数民族どもが、某大国の支援を受けて攻勢に回ったのが数日前。敗走を続ける雇い主の政府軍に愛想を尽かしたオレは、この戦闘を最後にこの国からおさらばする予定だった 胸には独裁者から掠め取ったダイヤに宝石、10万ドルの札束、脱出ルートに船を準備、完璧な計画だってのに…このクソガキのせいですべてパーだ クソガキがオレの眉間に銃口を突き付けた。とどめを刺そうってのか、いい心がけだ 見た目はガキでも立派な戦士ってわけだ 「…ま、てよクソガキ。煙草の…一本でもす、わせろや…」英語が通じるとは思えないが一応言ってみる すると感心したことにこのクソガキは英語がわかるらしい。短く「いいよ」と言って銃口を下げた 震える手で懐から煙草を取り出し火をつける。紫煙を胸一杯に吸い込むが血の味しかしねぇ クソが、恨むぞ神様。この世で吸う最期の一本だってのによぉ。そっちに行ったらぶん殴ってやる …無理か、どうせオレは地獄行きだ。殺しすぎたからな 待てよ、そう言えばあの日本人…外人部隊出身のサイトウが言ってたっけな。クモを助けた悪党が地獄から救い出されるって話… 救われたいとは思わねぇが、神様を一発ぶん殴ってやらないと気がすまねぇ オレにとっての蜘蛛の糸は…このクソガキか 「お、い、クソガ…キ。こい…つ、をやる。好…きに、つ、か、え…」オレは懐から宝石と現金入りの袋を取り出した 袋を受け取り中身を見たクソガキの表情は何も変わらない。中身の意味がわかってねぇんだろうな…まぁいい、どうせオレはもう使えねぇんだ クソ、眠くなってきた…視界が黒くなってきやがった なんて顔して俺を見るんだクソガキ、笑えよ、お前が殺したのは傭兵とはいえ政府軍の少佐だぞ?大殊勲じゃねぇか クソが、泣きそうな顔をしやがって… だからガキは嫌い…だ…
勝手にシリーズ化 「死に行く傭兵」シリーズ第4話です …需要があるかどうかはわからんけどねorz
99 :
創る名無しに見る名無し :2009/03/26(木) 23:24:07 ID:38fkjQ9H
保守age
100 :
創る名無しに見る名無し :2009/04/04(土) 06:39:07 ID:ct56MFH1
age
101 :
創る名無しに見る名無し :2009/05/04(月) 11:19:19 ID:bvG/htTs
保守age
保守
103 :
創る名無しに見る名無し :2009/07/04(土) 19:07:41 ID:qF4dLNhR
>>30 遅くなったが投入お疲れました
PMCネタ自体、あまり見かけないから新鮮でした
(防衛女子校で悪役として登場しているが)
臨場感あふれる作品を期待しています
あとイラクに知り合いが行ったと書いてありますが
身内に自衛隊関係者がいるのですか
まったくミリタリー知識が無いけどおもすろいなぁ・・・このスレ。 軍事知識を手に入れたら一個作ってみたい。
105 :
創る名無しに見る名無し :2009/08/13(木) 00:00:11 ID:OknBX4LD
保守あげ
106 :
創る名無しに見る名無し :2009/08/15(土) 15:28:00 ID:nhkbkinz
>>30 面白かった。
でも一言いうならば30前半で大佐は無い。
出来て少佐だよ。
でも、面白かったからおk
もっと知識入ったら面白いものが出来ると思う。
107 :
30 :2009/08/18(火) 22:23:17 ID:EMhLilnM
>>106 30前半というのはBJのこと?彼は大佐…1佐じゃないです
1佐なのは元空挺普通科群長の久山専務ですね
自分で考えた裏設定では、久山専務が群長だった時にBJが伝令を務めていた…という関係を考えています
とはいえそれがわからなかったのは自分の表現力不足ですねorz
とまぁ拙い表現力ですが、続編を書いてみました
お暇な人はまた読んでみてください
南国の容赦ない太陽が甲板を焼き、港の方からは香辛料の匂いが漂ってくる インド東海岸の港町に停泊するフェリーの上で、日本から来た大学生・小林幸江は小さなため息を吐き出した (けっきょく、ずっと一人だったなぁ…) どこまでも青い空とインド洋を見ながら、彼女はこの世界一周客船『ピース・シップ』の半年間にわたる旅を振り返っていた 彼女が『一味違った世界一周の旅』と銘打ったこの船に乗ろうと決めたのは、自身の大人しすぎる性格を少しでも変えたかったからだった 半年間で世界一周、同じ部屋に何人も泊まるような船旅であれば自分で自分が嫌いになるようなこの性格も改善できるかもしれない…決して安くはない参加費用を親に出してもらって、大学も休学してこの船に乗り込んだ しかし、世の中はそう甘くはなかった 最初は良くとも徐々に出来上がる船の中の派閥、企画されたツアーの所々に隠されたイデオロギー的な臭い、難民キャンプで飢えに苦しむ子供を見たその日の夕食でさえ残飯を出すような矛盾と、そんなことすら考えず毎晩のパーティーに興じる他の参加者たち そんな中で彼女はいつの間にか、幼稚園からずっと変わらない立場…すなわち"友達のいない目立たない地味な子"ポジションに甘んじることになっていった… 今まで一度も染めたことのない黒いおかっぱ頭、化粧っ気のない地味な顔、丸いメガネ、太っても痩せてもいない、そして出っ張ってもへこんでもいない体型、長袖のシャツにジーパンというこれまたどこにでもあるような服装 まるで"地味"という言葉を体現化したような自分の姿を見る者は誰もいない。みんな船を下りて異国での買い物に興じているからだ 一人で言葉の通じない港町を歩く度胸も無く、こうして船橋から海を見るしかない自分がイヤでたまらない…思考がどんどん沈んでいく が、誰かのどなり声が彼女を現実の世界に引き戻した 下を見ると上甲板でギリシャ人の船長と日本人が何やら言い争っている。どなり声をあげたのは日本人…この『ピース・シップ』の代表者でもある安岡という中年男性だ 「…な話は聞いてない!このツアーでそんなことが許されるわけないでしょう!」 通訳が安岡の言葉を船長に伝える。神経質そうな白い顔に細い体の安岡に比べて、船長はプロレスラーのような大男。ゆっくりうなずいて通訳に何やら言葉を伝えた 「船長は『船の安全を守るのは私の義務だ。それにこの話は、日本の旅行会社から来た話だ。苦情は日本に帰ってから言うべきだな』と…」 「私は反対だ!こんな話は…船長!」 安岡の抗議を無視して船長は港につながるボーディング・ブリッジの方に歩き始めた それと同時に上甲板に数名の集団が上がってきた。東洋人や黒人、一部には白人や女性もいる。大きな木の箱をいくつも甲板に積んで、先頭に立っていた東洋人が船長に歩み寄った 工場勤めのような作業服を着たタヌキみたいな中年男性が船長と握手を交わす中、異様な雰囲気を放つ一団は木箱を持って船内に入っていく 彼女はこの雰囲気をこの船旅で何度か感じたことがある。治安の悪い国での移動や大西洋上で臨検を受けた時に感じた雰囲気…戦闘を生業とする人たちの発する気配だ 一団を見つめる彼女、その視線を感じたように一人の男が視線を上げた。年のころは30代か、背の高い東洋人の鋭い一瞥に彼女は思わず身を隠した 「BJ.What's up?」後に続く声にBJと呼ばれたその男は、振り返って「Nothing,Don't worry」と返した 日本人が話す英語みたい…彼女はそう思った
その日の夜、旅行参加者に集合がかけられた 食堂に集まった皆の前に登場したのは、船長、安岡、船長と握手していた中年タヌキ、そしてBJと呼ばれていた大きな東洋人だった 「このパシフィック号は『ピース・シップ』参加者の皆さんを乗せて本日夜に港を出港、ベトナムのダナンに向けて出発します。しかし皆さん知ってのとおり、これから通るマラッカ海峡は海賊が横行している危険な地域でもあります」 通訳の言葉に皆がざわめく。若者の多くはどうやら知らなかったらしい。船長は構わず続けた 「そこで日本の旅行企画会社の方で、台湾のTiger secrity社という民間の警備会社に警備を依頼しました。8人の優秀な警備員がこの船に乗って、ダナンまでみなさんの安全を保証してくれます」 そこで船長はマイクを中年タヌキに渡した 「ヤ、トモトモ、イルボン、ノ、ミナサン。ワタシ、ハ、きむト、イイマス」 片言の日本語が笑いを誘う。反応に満足したキムという男は英語で話し始めた 「ダナンまで今晩を含めて4日間の航海、我がTS社の社員たちが皆様の安全を保障します。大船に乗った気でいてください。私は先にダナンで待っていますが、航海中はここにいるBJが代表者となります。危ない状況になりましたら、彼の指示は絶対に守るようにしてください」 皆の視線がBJに刺さる 「ではみなさん、船旅を楽しんでください。私も船旅したいもんです。まぁ一人で行ったら間違いなく女房に殺されますが…」 そこまで言ったところでBJにマイクを奪われた 「TS社のBJといいます」 やはり日本語なまりの英語だ。幸江は(日本人かな?何で日本語で話さないんだろ?)と思った。思っただけで口に出す相手はいないが… 「海賊等の襲撃がない場合は普段通りの行動で結構、しかし海賊襲撃時は全員この食堂に集まるように。この船の船体は銃弾を通す可能性が高い」 短い髪に引き締まった顔、鋭い目つき、縦にも横にも大きいが、贅肉などは見当たらない。緑色のチョッキに黄土色のカーゴパンツ、話す言葉は短く、まるで軍人のようだ 「私の指示を守らなかった場合、命の保証はない。これは契約事項でもあります。以上」 そこまで言ってBJは、あっけにとられる皆を残して食堂を後にした。何やら言いたそうなキムも彼の後を追って食堂から出ていった
船長も出航準備に戻り、食堂内は『ピース・シップ』の関係者と参加者だけになった 一部の参加者が安岡に迫る 「どういうことですか!警備員って、ありゃ戦争屋じゃないか。あんなのに頼っていいのか!?」 「私たちは平和の大切さをずっと言ってきたじゃないですかぁ!平和憲法を守るのが私たちの務めでしょう?」 「アイツらに守られるくらいなら、ここで船を下りる!」 どうやら政治的理由でこの『ピース・シップ』に参加したホンモノの人たちらしい。しかし大部分の若者は不安や期待の入り混じった表情をしている 「あー…皆さん、ちょっと落ち着いて聞いてください!」 安岡が壇上に上がりマイクを握った 「平和を愛する皆さんの気持ちはよくわかります、私も反対です。しかし旅行会社の立場もあります。ここは一つ、彼らのためにも…」 「そうやって妥協するのか!?反動的だ!」 その声に顔をしかめる安岡 「…わかりました。彼ら警備員の『実力行使』は私が全力を持って阻止します。決して平和憲法に反する戦闘行為はさせません。これでどうでしょう?」 「…」 渋々といった感じだが、ホンモノの人たちはひとまず納得したようだ。そこで解散となった 船がゆっくりと港を離れる中、幸江は街の明かりを眺めていた 部屋に戻っても同室の3人と話すことも無く、消灯までの時間を船橋で過ごすのが日課となっていた とその時、後ろから女性の声で「Excuse me」と声をかけられた 振り向くと3人の警備員が立っていた。一人は声をかけた女性…きりっとした顔立ちの東洋系、年は彼女と同年代の20代前半に見える もう一人は東南アジア系、50代に近いであろう小男、そしてその手には見たことも無いような大きな銃があった そして、身長180センチの大男…BJだ 「あ、す、すみません…」と言いつつその場から離れる彼女、3人は何やら話をしつつ手すりに何かの部品を取り付けた 小男がその大きな銃を部品に取り付けた。会話は英語だか単語くらいは聞き取れる「Enemy is comming to this side…」やら「We can keep Fire line…」など、意味はわからなくとも物騒な会話だというのがわかる やがて満足したように3人は銃を持ってその場から立ち去ろうとした。まるで彼女のことなど目に入ってないかのようだ 「あの…待ってください」 何でそんな声をかけたのかわからない。足を止めた3人のうち、BJだけが振り返らなかった 「日本の方…ですよね?何で日本語を話さないんですか?」 男女二人の視線がBJに集中して、彼がゆっくり振り向き口を開いた 「What are you saying?I can't understand」 何やら言いたそうな表情を浮かべた彼女を残し、彼らはその場から立ち去っていった
前も後ろも右も左も海ばかり。インド洋のまぶしい日差しがサングラス越しに目に突き刺さる。肩にぶら下がるM4カービンがうっとうしい 「暑い…いや、熱いな…」船橋の最上段後方で船の航跡を眺めつつ、BJは英語でそうつぶやいた 「老体には堪えるよ。こういう厳しい環境での仕事はもう止めたいところだな」双眼鏡を覗きつつ答えたのは、昨夜BJと一緒にいた小男だ 「極寒のフォークランドから軍隊生活が始まった時点で、こういう運命だったんじゃないか?マイスター」 小男…マイスターと呼ばれた男は少しだけ顔をしかめた 「現役の終わりは蒸し暑い夏の香港だった。君の説には一理あるな」元イギリス陸軍グルカ連隊所属の下士官だった彼は、見事なキングス・イングリッシュでつぶやいた 「まぁ今回の仕事は環境以外は大した敵にはならないさ、休憩時間にはエアコンの効いた部屋で休めばいい」 「その油断が命取りになる、指揮官がそれではいかんな」 「余裕見せてるんだよ。大事だろ?油断はしてないさ…だからこそKORD重機関銃も用意したし、最悪の手段でPanzerfaust3も持ってきた」 「PF3か…使わない方がいいな。値段も高いし調達も難しい。キムがまた泣くぞ」 「いいよ、あの野郎は泣かせておいて。こんな仕事に放り込みやがって…『同じ日本人だからやりやすい』だと?こいつらオレたちの敵じゃねーか。元KCIAなのに何でこんなに迂闊なんだ」 「彼は技術屋だったからな。それより敵とは穏やかではないね。社会主義者だとは聞いてはいるが」 「甘いよマイスター…こいつらの上層部はJRA(日本赤軍)とも繋がりがある本物のテロリストだぜ?あの”安岡”という男…反政府デモで暴動を起こして逮捕されている前科があるくらいだ」 「ふむ…船内にも敵がいると考えた方が無難かな?」 「それくらい考えた方がいいかもな。オレが日本人だとわかったら、理由を付けて裁判に引っ張り出される可能性もある。困ったもんだ」 「だから昨晩、日本語で答えなかったのか」 「あの女も反政府主義者の可能性があるからな。油断禁物だ」 その時、彼らの後ろに一人の女性が現れた 「マイスター、交代に…BJ、何でここに?」 「一応は指揮官だからな。勤務体制の不備がないか、最初の段階で確認しないといけないんだよ。ユファ」 「そうですか」とそっけない返事。昨夕、BJたちと一緒に船内を回った女性…ユファはマイスターから双眼鏡を受け取った 「申し送り事項、特になし。何の兆候も確認できなかった。よろしいかね?」 「わかりました。ゆっくり休んでください」韓国陸軍特殊戦司令部出身の彼女は、少しなまりの残る英語で短く答えた 「君は我が社に入って初の仕事だな。気負うことはない、訓練通りのことをすればいい」マイスターが軽く彼女の肩を叩く 「後は頼むぞ、ユファ」BJの言葉に少し頷き、小さな背中を見せて海の方に向きなおった
通常の警戒態勢は船橋後方に1名、レーダー等がある前方の操舵室に1名でそれぞれ2時間交代 海賊と思われる船舶が接近してきたら、8人全員がそれぞれの戦闘配置に張り付く 戦闘配置は操舵室にBJとユファが指揮官として残り、船橋左右に2名とロシア製KORD12.7mm重機関銃を配置。船橋の最上段には全周を攻撃可能な狙撃手が張り付き、後方にはマイスターが監視兼予備指揮官として配置される、 「まぁ基本はインドネシアかタイの軍か沿岸警備隊に救助要請だけどね」操舵室に向かいつつBJが口を開いた 「妥当なところだな。相手の数や行動に応じて左右の重機関銃は移動させればいいだろう」 「RPGの射程に入る前に威嚇射撃すれば、そう深追いはしないとは思うんだが…むしろ心配なのは乗客の方だ」 「船室中央に集めればそう簡単にダメージは受けないさ。心配なら窓際に何か立て掛けるかね?」 「違う違うそうじゃない、そんなことは心配してない…オレが心配してるのは、連中の"妨害"だよ」 「妨害?まさか…襲撃を受けてそんなことをする人間がいるものか。パニック状態になれば別だが」 BJは足を止めてマイスターの顔を見下ろした。苦笑とも怒りともつかないような表情を浮かべている 「甘いよマイスター…見た目は東洋人でも、やっぱりあんたはイギリス人だ。日本の"平和主義"を知らなさすぎる」 「…?」 「『戦争のことを考えると戦争になる。平和と唱えれば平和になる』『侵略されても話し合えば大丈夫』などと本気で言ってる連中だ。危なくなっても誰かが助けてくれると本気で信じてるんだよ」 「…まさか、それは子供じゃないか」 「そう、子供さ。もし海賊の襲撃から彼らを守っても『話し合いはできた』『武器を使って人を殺した』と騒ぐだろうな。襲撃の間、自分たちは安全なところから高みの見物を続けてね」 「日本の教育水準は高いレベルだと聞いたが…そんな人間が生まれるような教育なのか?」 「教師がそういう組織の一員であるケースが多いんだよ」 「ふむ…そういう状況に嫌気がさして、君は軍を辞めたんだったな」 「…あぁ、奴らは何故か声だけは大きい。日本のメディアはああいった連中の声だけを取り上げる。そういう連中に嫌気がさして…いや、ああいう連中ばかりがのさばる国が嫌になったんだ」 BJの表情が暗いものになった。耳が赤く染まり、拳は白くなるほど握られている。その様子を見てマイスターがBJの腕を軽く叩いた 「その話はまた聞かせてもらおう、今は仕事のことだけを考えようじゃないか。我々はプロだ、相手がどうあれ…そうだろう?」 その言葉にBJは顔をあげた。鼻息を一つ吐きだし肩をすくめる 「そうだな、プロらしくクールにやるか。1300から戦闘予行をやろう。全員を艦橋に集めてくれ」 「了解した、小隊長」 そう言って二人は顔を見合せニヤリと笑った
さるさん回避でしばらく休憩
航海が始まって3日目…危険地帯であるマラッカ海峡を何事も無く突破し、シンガポール沖を通過したパシフィック号 後はマレーシア沖を北上してベトナムまで一直線の航路に入った 監視を終えてクーラーの効いた部屋で午睡をむさぼるBJ、しかし… <不審な船が3隻、後方から接近中だ!無線に応答なし>睡眠時間は枕元に置いてある無線機によって破られた 「了解、総員警戒配置!」飛び起きると同時にBJは無線機とM4カービンを持って部屋を飛び出した 操舵室に入ると、すでにユファが待機していた 「状況は?」 「右舷、最上段は配置完了。左舷もすぐに配置完了します」短く答える 軽くうなずいてBJは船長に話しかけた 「船長、相手の状況は?」 「3隻、レーダー上ではいずれも漁船サイズ。後方から接近中、あと5分もしないうちに追い付いてくる」 軍の経験はないらしいが、さすがに海の男らしく冷静だ 「マレーシアとタイの当局に通報は?」 「救難信号が妨害されているらしい。衛星電話でタイ海軍に救援を要請したが、近くに軍艦はいないということだ」 「妨害…同じ周波数帯で強力な電波を出しているんだろうな。最近の海賊はすごいね…客の様子はどうです?」 「『ピース・シップ』の連中が食堂に集めている」 「まぁそっちは連中に任せましょう。取りあえず相手に停船信号と国際信号旗で合図しましょうか」 「必要があるのかね?」 「実績を作っておかないと『ピース・シップ』の連中が後でうるさいですよ」 船長もこの集団の異常性は(船腹に大きく『PEACE SHIP』と書かれた時から)知っているらしく、唸り声をあげて小さくうなずいた 「わかった、できるだけやってみよう」 <こちら後方、配置についた>マイスターから無線が入った。全員の配置完了だ 「マイスター、相手は見えるか?」BJが無線機に話しかけた <…見えた。全長20mくらいの青い漁船が1隻、10m弱の白い小型船が2隻…うち1隻にはリールアンテナが張ってある> 「総員、じ後、青い漁船を目標1、白のアンテナありを目標2、アンテナなしを目標3と呼称する」 <目標1が速度を増した。右舷方向から接近> 「了解…右舷MG、警告射撃じゅ」バタン!と大きな音を立てて操舵室の扉が開かれた。思わずBJとユファが銃を構える 肩で息をしつつ操舵室に駆け込んできたのは『ピース・シップ』代表の安岡とその通訳だ 「何をしようとしているんだ?射撃なんかするな!」通訳の表現も過激だが、安岡の日本語はもっと過激だ。もっともその意味がわかるのはBJしかいない 「しかし撃たなければ海賊に蹂躙されることになるが」船長の声はあくまでも冷静だ 「射撃なんかしたら海賊に死者が出るかもしれないじゃないか!我々は平和のために全世界を回っているんだぞ!」 安岡は船長とBJの顔を交互に睨みつける 「いいか!射撃なんかするな!絶対だ!」 船の上で船長に命令するという愚行に他の船員の顔色が変った <目標3が左舷方向から接近、船首に機関銃を確認> マイスターの声が響いた。BJは少し考え、無線機を手に取った 「総員、射撃待て」隣に控えるユファ、そして無線越しに皆が息をのむ気配が伝わった
「Mr安岡、ではあなたが彼らの説得をしてみてはいかがですか?」できるだけ丁寧な英語を使い、BJが安岡に話しかけた ([日本語]おい、なんて言ってるんだ?)通訳に尋ねる安岡 (あなたが説得してみては…と言ってます) 安岡の顔色が変わった (な、そ…そんなことができるわけないだろ!危ないじゃないか!!) 「平和のためなら命をかけるぐらいのことはできる…そうですよね?」通訳が何か言う前にBJが先手を取った その言葉を伝えられて安岡が詰まった 「名高い平和運動家は幾度となくその身を危険にさらしてきました。キング牧師、ガンジー、今でもスーチー女史は軍事政権との戦いを続けています。命をかけてね」 通訳がその言葉を伝え終わるのと同時に、またもBJが先手を取った 「あなたが説得を終えるまで手出しはしません。ただしこちらが武装してることを教えないように。我々は彼らに見つからない位置で待機していますので。もっとも…」 そこでBJは微笑んだ 「銃で脅しをかけるような説得はしませんよね?あなた方は平和主義者ですものね」 ハンドマイクを片手に安岡と通訳は甲板まで下りていった。おそらく海賊の主力であろう目標1は船の右舷30mまで近づいている <こちら右舷、これ以上近づかれると撃てなくなるぞ> 「了解…ユファ、MINIMIを持って右舷甲板に行け」傍らにいたユファを呼び寄せる 小さくうなずいて操舵室を出ようとするユファにBJは声をかけた 「あ、ちょっと待て。下に行ったら…」細かい指示を耳打ちすると、彼女は置いてあったカバンを持って操舵室を飛び出していった 「ストおップ、シップ、オーア、アイ、ショット、ユぅー!」海賊の親玉らしき男がメガホンでがなりたててきた 甲板の上には小銃(毎度おなじみAK-47)を持った男が5〜6人立っている (…みなさーん!私たちは世界に平和の理念を伝えるために…)及び腰ながら手すりを掴み説得を試みる安岡、海賊たちは顔を見合せて何やら困惑している 「船長、とりあえずこのまま直進で…合図したら左に曲がってください。目標1と距離を取って右舷の機関銃で攻撃します」 「向こうの方が小回りが効きそうだが…」 「ユファを右舷甲板に派遣してます。近づいても彼女が機関銃で追い払ってくれます。連中にはまだ我々の武装は気付かれていないようですし…」 「あの説得がうまくいくと思うかね?」 「無理ですね、賭けてもいいです。乗りますか?」 「…勝負にならんだろうな」 そう言うとBJと船長は顔を見合せ一瞬ニヤリと笑い、次の指示を出し始めた BJが無線で各部署に指示を出す 「右舷、目標1の後部エンジン、左舷、目標3、最上段、目標2の操縦席を狙え。可能ならアンテナを撃て。できるか?」 <なめるなよヤポンスキー、目標までの距離400、楽勝だ> 最上段の狙撃手はTS社では珍しい白人、ロシア出身の元軍人だ 揺れる船上で風を考慮しつつアンテナを狙うのはかなり難しいハズだが、できると言ってるのだからそれを信じることにした 「ユファ、そのまま待機。合図しだいで目標1をハチの巣にしろ」 <了解>
(…あなたたちにも家族がいるでしょう?その家族がもし戦火に見舞われたら…頼むから聞いてくれ!私たちは平和を望んでいるだけなんだ!…) 「ディース、イぃーズ、ラぁスト、ノぉティス、ストォっプ、シぃっプ!オーア、ウィぃ、キぃル、ゆー、おール!」 海賊たちの顔に苛立ちの色が見えるようになってきた <こちら右舷…目標1の連中、銃に弾込め始めたぞ> 「こちらでも確認した。いつでも撃てるようにしとけ」 戦闘の緊張感がじわじわと湧いてくる、恐怖と興奮と歓喜の入り混じった感覚だ。BJは無意識につばを飲み込んだ <こちら後方、目標3の船上にRPG確認> 「!…了解、左舷、射撃準備」 <いつでも撃てる、ていうか撃たせろ!> 「待て、相手の動向をよく見ろよ。たぶん前に回り込んで操舵室を狙ってくるハズ…」 その時、乾いた銃声が響いた 聞きなれたAK-47の発射音、目標1の甲板に乗っている海賊の一人が安岡と通訳を狙ったらしい 操舵室から甲板を見下ろすと、二人が腰を抜かして倒れていた。見たところ外傷はない…安岡の股間が濡れているのを除けば、だが 這うように甲板の中央付近まで逃げ込んだ二人、安岡が操舵室に向かって叫んだ 「た…助けてくれー!!!」 思わずBJの顔に笑みが浮かび、同時に無線機を掴んだ 「総員、射撃開始!」 ほぼ同時に左右両方からKORD重機関銃の発射音が鳴り響いた 12.7mm弾の腹に響く重たい発射音、6発連射が数回繰り返される <左舷、命中!目標3は停止、沈みかけてる><最上段、目標2のアンテナを破壊。右舷後方に離脱中> 「了解、右舷は…」操舵室から目標1が見える。船体後部に曳光弾が吸い込まれていき、数瞬の間をおいてエンジンルームから煙が上がった <こちら右舷!目標1、エンジンから出火。しかし動きは止まらず…クソっ!死角に入り込まれた> 「わかった。ユファ、目標1を撃て」 <了解>同時に響く軽い連射音、ユファの持つMINIMIが死角に入り込んだ目標1を捉えた 「妨害電波がストップしました!これで救援を呼べます」船員の一人が叫んだ。どうやら目標2が妨害電波の発信源だったようだ 「船長、救援依頼を…オレは右舷に降りて目標を確認します」 そう言ってBJは操舵室を飛び出し、右舷甲板へと降りていった 柵から少し身を乗り出し、ユファが船体に近づいた海賊たちを狙っている 「ユファ、状況は?」 近づいてくるBJを横目で一瞥し、ユファは顎で目標1を指した 「見てのとおりです。降伏しました」 覗き込むと目標1の乗員は銃を捨てて両手を上げている。何人かは血を流して倒れているようだ エンジンはまだ生きているらしく、前進を続けるパシフィック号と並走している。しかし徐々に速度は遅くなってきているようだ BJが叫んだ 「エンジンを止めろ!エンジンだ!」何人か船内に入りエンジンを止めたらしく、目標1はその場に停止した 「最上段、目標1を監視。また近づくようだったら報告しろ」BJの無線の声に右舷が答えた <こちら右舷、とどめは刺さないのか?> 「いらん、沿岸警備隊に連絡済みだ。弾もタダではないからな」 無線機越しに笑い声が伝わってきた 「現警戒態勢を30分間維持、じ後の指示はおって達する」
「戻りますか?」ユファの声はいつも通り短く冷静だ。しかし顔が少し赤らんでる 「あぁ、そうだな…」そこまで言ったとき、後ろから近づく気配に気づいた 振り返るとそこに立っていたのは安岡とその通訳だった 『[日本語]なぜ撃った!』 怒りで顔が真っ赤になっている。通訳が慌てて英語に翻訳する 「撃たなければ撃たれていたからです。そうなればこの船の人間は皆殺しになったかもしれません」 『貴様らのやったことは戦争行為だ!平和を守ることがこの船に与えられた使命なのに、それを貴様らは…』 「あなたも助けを求めたじゃないですか。その声に応じたまでです」 『誰も戦争をしろとは言ってない!貴様らみたいな無法者がこの世界に戦争をばらまいているんだ!』 「ではあなたが殺されるのを黙ってみていればよかった?」 『そんなわけないだろう!貴様らはこの船を守るのが仕事なんだから、体を張ってオレたちを守ればいいんだよ!その程度しか価値のない戦争屋風情がガタガタぬかすな!』 「海賊の説得もできない平和主義者は、我々より価値がありませんね」 『…きさまぁ!』 安岡の手がBJの襟首をつかんだ BJの反応は早かった 掴まれた瞬間、襟首をつかむ手を取って手首を捻る と同時に左手で安岡の首を掴んで壁に叩きつけた BJの巨体が左手一本にのしかかり、安岡がつぶれた蛙のようなうめき声をあげた 開いた右手でホルスターからスチェッキンを抜いて、BJは安岡の眉間に銃口をめり込ませた 『…調子乗んなやオッサン』 思いもかけず聞こえてきた日本語…大阪弁に安岡は動揺した 『ヘーワヘーワと囀っとる割には、なんもできてへんやないかい。その口は飾りモンか?いらんかったらこの場でエグってもええんやぞ?』 『…き…貴様、日本じ…グェっ』喉を絞める手に力が入る 『日本人や、それが何や?間違っても同朋とか思うなや。オレはオノレらみたいな9条教の信徒やないんぞ』 『こ…こんなことをして…タダで済むと思うなっ…!』 『ほ〜う、どんな目に遭うんや?』 『う、訴えてやる…さ、殺人罪でも何でも…法廷に引っ張り出して…メディアを動員して、さ…晒しものにしてやる…!』 『最初から勝つ気がないっちゅうのがオノレららしいわ』 BJの手が離れ、安岡はその場に崩れ落ちて激しくせき込んだ 『本名もわからん人間相手に何をどう訴えるんか、ごっつ興味あるわ。テロリスト対策で使こてる偽名がこんな風に役立つとはなぁ…まぁお前らもテロリストみたいなもんやけどな、そうやろ中核派?』 『…な、何で知って…』 『調べりゃすぐわかるわ。まぁ万が一訴えられるってなったらやな…ユファ!』 通訳の首筋にナイフを突きつけていたユファが顔を向けた 『あの子がオノレの失禁シーンをばっちり撮っとるわ。なんならユーチューブでも使こて世界発信したろか?"ヘタレ中核派にオムツをプレゼントしよう"とかってタイトルはどないや?』 『な…!』よろよろと立ちあがりユファを睨みつける安岡、しかし彼女は動じない 『今さら晒しモンになろうがオレはどうでもいいんじゃ、日本で仕事しとるワケやないしな。アンタのメンツと引き換え、どうや?』 歯ぎしりの音が聞こえてきそうなほど二人を睨みつける安岡、やがて忌々しそうに振り返り、船室に向かって歩き去った
星の光と船の薄明かりが夜の海をほのかに照らす。船橋の後方でユファが最後の監視についている 「様子はどうだ?」後方から声を掛けてきたのはBJだ 「特に異常ありません」 「ま、そう何度も襲われる事はないだろうな。だいたい海賊は貨物船を狙うことの方が多いから…差し入れだ」 BJの手にはよく冷えたコーラ缶が2本、軽く頭を下げて1本を受け取りプルトップを引き抜く 夜とはいえ東南アジアの夏は暑い。冷たい炭酸の刺激が心地よく感じられ、ユファは思わず大きなため息を一つ吐きだした 「だいぶリラックスはできているようだな」 「あ…」 「いいさ、気を張りっぱなしだとミスが出る。昼間の緊張を引っ張ってそうで心配したんだが、大丈夫なようだな」 「…」 「常に戦争の危機に直面している韓国軍…しかも特殊部隊の訓練が厳しいことは知っている。しかしさすがに人に向けて銃を撃ったことはないだろう?初の実戦の感想は?」 「…特に何も」 「そうか?そうは見えなかったがな。戦闘中はともかく、後からいろいろと出てくるもんだ…自分で気づいてないかもしれなけど、その手のケガとかな」 ユファが驚いたように自分の手を見た。左手首に何かで引っ掻いたような傷ができている 「興奮していたからケガしてることに気がつかない場合も多いのさ。ほれ、手を出せ」 BJが腰のメディカルポーチから消毒液とガーゼを取り出した。やさしく手を握り傷口を消毒、ガーゼを貼り終えるとテーピングを巻きつけた 「…コマプスムニダ」少し顔を伏せてユファがつぶやいた。耳が少し赤くなっている 「ん?どういう意味だ」 少しの間をおいてユファが答えようとした瞬間、船室出入り口のドアが音を立てた ほぼ同時に腰の拳銃を抜いてドアに向ける二人 自分に向けられている銃口に気づいて身をすくめたのは、出港時に一人で海を眺めいていた少女だった
ドアを開けて船橋に出たとたんに銃を突き付けられ、幸江は思わず小さな叫び声をあげた そこにいたのはBJと呼ばれていた警備員の人と、彼と一緒に船内を回っていた女の警備員だ 幸江が敵ではないことに気づいた二人は、そのまま銃を腰のホルスターにしまいこんだ。そしてBJが口を開いた 「What are you doing?Here is dangerass.Go back to your room.」わかりやすいようにゆっくりとした英語で話す。しかし… 「あの…あなたは日本人ですよね?昼に…安岡さんと話しているのを聞きました。その、大阪弁を…」 BJが驚いたように目を見開いた。そして何か言いたそうな傍らの女性を手で制した 「…聞いとったんか。食堂に避難せいって言われんかったんか?」 「私だけいつも一人で、取り残されちゃって…」 ふん、と不機嫌そうに鼻息を一つ吐きだす 「まぁええわ。ほれ、まだ危ない海域におるんやから、さっさと部屋に戻って寝とけや」 「その…私が部屋にいると、同室の人が嫌がるので…」 「なんやそれ?つまらんのぅ…地球をほぼ一周しといて何しとんねん?半年くらいあったハズやろ?」 一番突かれたくないところを突かれて、幸江は思わず胸を手で押さえた 「わ、私は昔からずっとこんなんで…そんな自分を変えたかったのに、結局変わらなかった…」 BJの口が歪む。あざけ笑うような表情が浮かんだ 「泣き言なんか聞きたないわ。泣いて喚いて世界が変わるんやったら、この船の連中も存在価値があるんやろな」 幸江は思わず顔をあげた。構わずBJが続ける 「この船に乗っていろんな国を見てきたんやろ?その上で『泣き言だけで世界が変わる』とか思えるんか?」 「い、いえ、そんなことは…」 ぶんぶんと首を振る 「まぁどうでもええわ。君がどうなろうと、日本がどうなろうと知ったこっちゃないでな」 冷たい物言いと眼の奥に光る憎しみとも悲しみとも取れる色 幸江は前から聞きたかったことを尋ねた 「なんでこんな仕事をしてるんですか?」 「何でそんなことを聞くんや?君の人生には何の関係も無いやろ?」 「…同じ日本人なのに、こんな危ない仕事をして…しかも周りは外人ばっかり。どうしてそんなに強く生きられるのか…教えてほしいんです。私はこんなに弱い人間だから…」 少し考えるBJ、そして口を開いた 「オレは人生を楽しんでるだけや、身につけた特技を使こてな。最高のスリルと少し高めの給料、別に強く生きてるワケやない…君は違うんか?」 「私は…人生が楽しくありません。なんで生きてるのかも…」 「贅沢やな」BJが幸江を睨みつけた 「その気になれば日本は何でもできる国や。世界を見てきてそんなことも気づいてへんのか?」 「…それは…」 「生きる理由を見つけることくらい出来るやろ。もし見つからへんのやったら人のために生きたらええんや」 「人の…?」 「どうせ生きる理由のない人生やったら、せめて誰かを支えるために生きたらええんや…とオレは思ってた」 「それが人のため…」 「残念ながらオレは『守るべき人』たちを信用できんようになった。だからこの商売やっとるんやけどな」 そこで女性警備員の咳払いが聞こえた。苦笑いして少し頷くBJ 「さぁさっさと船内に入っとけ。ラウンジにでもおったらええやろ?」 「あ、ありがとうございます…あの、名前を聞いても?」 「本名は教えられん。みんなからはBJと呼ばれとるけどな。Big Japaneseの略なんやと」 「…わかりました、さよなら、BJさん」 ぺこりと頭を下げて、幸江は船内に入っていった
翌朝、船はベトナムの港町ダナンに到着した TS社の警備員たちは到着と同時に船を下りて、今は姿も形も見えない 海賊の襲撃があったことは説明されたが、交戦があったことは言われなかった 代表者の安岡が「船体に書かれてある"PEACE SHIP"の文字を見て彼らは撤収した」と皆に説明、銃声が聞こえたがそれはただの威嚇射撃だったということになった 避難に遅れて戦闘の一部始終を見ていた幸江だが、BJたちのことも考え黙っていることにした 本当のことを語らない『ピース・シップ』関係者への不信感はあったが… ダナンではベトナム各地に残された対人地雷の被害を研修することになっていた 案内された施設には火薬を抜いた対人地雷の実物が展示されており、『ピース・シップ』のメンバーが地雷に関する説明を行った 「この地雷はベトナム戦争の時に米軍が埋めていった地雷です。連中は国際条約を無視して対人地雷を埋めた記録を残さなかったため…」 相も変らぬ米軍批判、そして手や足を吹き飛ばされた被害者の子供たちとの対面となった "可哀想"と繰り返す参加者たち。しかし心からそう思っているかどうかはわからない。ケータイを取り出し、記念撮影に興じてる彼らを見て幸江の心は落ち着かなかった その時、船上で聞いたBJの言葉が頭に浮かんだ (どうせ生きる理由のない人生やったら、せめて誰かを支えるために生きたらええんや) 生きる理由…ふと視線を下げると、義足をつけた子供が彼女を見上げていた どこか悲しげな表情、気がついたら彼女はひざまづいてその子供をしっかりと抱いていた 彼女が"誰かのために生きる"ことを決意した瞬間だった 30年後に彼女が地雷除去の功績でノーベル平和賞を受賞することになるが、それはまた別の話である 〜完〜
122 :
創る名無しに見る名無し :2009/08/27(木) 00:05:28 ID:bi/SePur
面白かったw あ、俺30で一佐は無いだろって書いた奴だけど、それはあの空挺群長のことねw
123 :
創る名無しに見る名無し :2009/08/28(金) 20:30:18 ID:DIZgxIOo
>>108 投下お疲れ様
左翼の欺瞞性と日本人の平和ボケ
核心をついています
あと話が変わりますが30氏は
ミリタリー創作スレのフェアバーンによろしくや
中高一貫の防衛女子校シリーズの212氏に
作風が似ている感じがする
もしや同一人物だろうか
124 :
30 :2009/09/09(水) 23:02:50 ID:ub41s5Z6
>>123 まぁ書き方とかでわかりますよね
その通りです
SS書き歴もだいぶ長くなったなぁ…
125 :
創る名無しに見る名無し :2009/10/04(日) 14:39:56 ID:4LZR89N8
>>124 やっぱりそうでしたか
防女のSSは結構好きで読んでました
127 :
創る名無しに見る名無し :2009/10/28(水) 16:10:51 ID:NwZJQk3W
128 :
創る名無しに見る名無し :2009/12/20(日) 03:54:31 ID:2jvydHrs
30氏はどこに消えたのだろう
129 :
創る名無しに見る名無し :2010/01/08(金) 00:54:35 ID:d6D1TbP9
アク禁なげーな保守
130 :
創る名無しに見る名無し :2010/02/24(水) 18:34:13 ID:zCE4QN6J
30氏カムバック希望
131 :
創る名無しに見る名無し :2010/04/12(月) 22:21:30 ID:POEuppxE
保守age
132 :
創る名無しに見る名無し :2010/05/23(日) 19:33:00 ID:/4+OmDWG
グリーンゾーン面白かったage
保守
134 :
創る名無しに見る名無し :
2010/07/23(金) 17:51:57 ID:U0hG9apE 保守あげ