葉鍵板最萌トーナメントブロック準決勝Round128!!
「あ〜〜〜〜あああああああ♪ みんなキ印、ニューリーフ♪」
マルチがさっきからヤバげな歌を歌っている。
宮内さんを保健室のベッドに寝かせた後、私は葵とマルチを連れてオカルト研の部室へ向かっている。
もともとマルチを連れて行く気は無かったけど、彼女に刺さってる矢が変な電波を受信するらしい。
その発信源がオカルト研の方角らしいので、矢を抜かずに連れて行くことにした。
今、歌ってるのは、その電波によるものらしい。
「綾香さん、マルチさんは大丈夫なんでしょうか?」
「今のところは害は無いけど、もし危なくなったら、葵も遠慮せずにやっちゃっていいからね」
「はい…。でも、そうならないことを祈ります」
葵とそんな話をしながら廊下を歩いていると、またしても行く手に一人の少女が現れた。
「フッフッフ…。ここでぇ〜会ったがぁ百年目ぇ〜!」
ふう……。やれやれ、また新しいのが来たようね。いい加減にしてほしいわ。
「我こそはダーク長岡。超先生のライフワークの結晶よ」
「長岡さん、あなたも超先生の手先なの?」
「そうよ。来栖川綾香、あんたに恨みは無いけれど、超先生の命により消えてもらうわ」
そう言うと、長岡さんは拡声器を構えた。
『あー、あー、テステス。本日は晴天なり』
マイクパフォーマンスでも始める気かしら。
近くの教室から、数人の生徒が何事かと顔を出してきた。
『さあさあ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! 志保ちゃんニュースの時間だよ!』
志保ちゃんニュース? 何のニュースだろう。
『今日のスクープは、格闘技界の女王、来栖川綾香の秘密を暴露しちゃうよ!』
な!? なんですってえぇっ!?
──続く──
「ちょっとっ! 私の秘密って何なのよっ!?」
『フッフッフ…。あんたも知りたい? それはねぇ…、あんたの好きな人が誰かってことよ!』
私の好きな人!? まさか、それが浩之だって知ってるの!?
まずいわ…。ここには葵がいる。葵にそのことを知られたら、拳で語り合うことになりかねない。
いつかはそういう日が来るかもしれないけど、今はその時じゃない。
『ここにいる来栖川綾香の好きな人は──』
長岡さんが喋り始めた瞬間、私は猛ダッシュで飛び込んだ。
左手で拡声器を払い除けると、右アッパーを繰り出す。
でも、私は命中する寸前で、拳を止めた。
私が攻撃する間、長岡さんが覚悟を決めた表情でいたからだ。
まるで、攻撃されるのを待っているかのように。
「…どういうつもり? 長岡さん、今のあなたは死に場所を得た武人のような顔をしてる」
「さすがは格闘技のチャンプね。見破られるようじゃ、私の演技もまだまだかしら…」
「良かったら、理由を聞かせてくれる?」
私は拳を収めて訊ねた。
「……もう、嫌になったのよ。超先生に騙られることが……」
長岡さんは、気落ちした様子で語り始めた。
「私のことを分身と呼び、何かにつけて私になりきってコメントする。しかも最近は駄作しか作れない。
そのおかげで、私の評判までガタ落ちよっ! もう生きる望みも無くなったわ……」
普段は明るい長岡さんが、弱音を吐く。ここまで追いつめられてたとは……。
──続く──
「くじけちゃだめですよ、長岡先輩!」
「そうです! 志保さんがいま感じている感情は精神的疾患の一種です!」
葵とマルチが長岡さんに声を掛ける。
「原作者がダメでも、二次創作があるじゃないですか!」
「立て直し方は同人作家の皆さんが知っています。皆さんに任せましょう!」
……マルチ。あなたは黙ってる方が良くってよ。
「あの雛山先輩だって、PS版では新しいシナリオが得られたじゃないですか!」
「そうですよ! PC版じゃ、体でお礼を──」
「あ〜〜〜っ!!」
ドタッ!!
不意に私たちの後方で、叫び声と、人が転んだような音がした。
振り返ると、頭に触角の生えた女の子が、床に這いつくばっていた。
「痛たた…、また転んじゃった。あっ、バイト遅れちゃう! 急がなきゃ!」
女の子は起き上がると、駆け足で玄関のほうへ走っていった。
もしかして、ずっと見てたの?
「……そうね、まだ諦めちゃダメよね。大体、こんなの私らしくないわよね」
長岡さんが、自分に言い聞かせるように呟く。どうやら持ち直したみたい。
「よしっ! これからは超先生から離れた、真・志保ちゃんとして頑張るわ!」
長岡さんが元気一杯の笑顔を見せて言った。それにマルチが答える。
「その意気です。そもそも、この話だって、書いているのは超先生とは別の人ですよ。
もっとも、文才の方は、超先生とどっこいどっこい──」
ポカッ!
「あうっ!?」
あ、なんか手が勝手に…。葵と長岡さんも操られているように動き出した。
ポカッ! ポカッ! ポカッ! ポカッ! ポカッ! ポカッ! ポカッ!
「あうう〜〜〜! 皆さん、止めてください〜〜〜!」
──第四部・志保編 完──