葉鍵板最萌トーナメントブロック準決勝Round126!!
「綾香さん、そこの突き当たりを右に曲がって少し行ったら保健室です」
「オッケー。あと、もうちょっとね」
葵に案内されながら、二人で昏睡中の姫川さんを抱えて保健室の近くまでやって来た。
言われた通りに廊下を曲がると、見知った顔がモップを押しながらこちらに向かってくるところだった。
「とぉりゃりゃ〜〜〜」
来栖川エレクトロニクスが開発中のメイドロボ、HM−12型の試作機、マルチだ。
第一次運用試験のデータ収集が良好だったので、再び学校での運用試験に入ったんだっけ。
「あら、マルチじゃない」
「あっ、綾香さんに松原さん。こんにちは」
「こんにちは、マルチさん。こんな時間までお掃除ですか?」
「はい。今日は奮発して、いつもより広めにお掃除してるんです」
楽しそうにマルチが答える。ほんとに掃除が好きなのね。
「あれ? この方は確か姫川さんですね。どこか具合でも悪いんですか?」
マルチは私たちが抱えている姫川さんを見て、心配そうに言う。
「大丈夫よ。ただ眠ってるだけだから。それより保健室のドアを開けてくれるかしら?」
「あ、はいっ。わかりましたっ」
マルチにドアを開けてもらって、姫川さんをベッドまで運び込む。
その際、隣のベッドに一人の女の子が寝ているのを見つけた。結構、美人だわ。
「う〜ん…、私、この人を見たことがあると思うんですけど…」
葵が隣のベッドの子を見ながら考え込んでいる。
「この方は浩之さんの隣の席の保科さんですよ。眼鏡を外されてますから、分かりにくいですが」
マルチがベッド脇のテーブルに置かれた眼鏡を指しながら説明する。
ふ〜ん、こんな美人が浩之の隣にねぇ…。一度浩之を問い詰めておいた方が良さそうね。
さてと、随分と寄り道しちゃったけど、浩之と姉さんのいるオカルト研に行かなくっちゃ。
なんとなく胸騒ぎがしたので、早々に保健室を出ることにした。
──続く──
「それじゃ、私と葵はオカルト研に行くから、マルチは掃除を頑張ってね」
「はいっ! 頑張りますっ!」
元気良く返事をすると、マルチは保健室から廊下に出た。
私と葵もマルチに続いて廊下に出ようとする。その瞬間──。
ドスッ! ドスッ! ドスッ!
目の前で、三本の弓矢がマルチの身体に刺さった。
「マ、マルチさんっ!?」
葵が青ざめた顔で叫ぶ。葵にとっては衝撃的な光景なんだろう。
でも、メイドロボが人間以上に頑丈だと知っている私は、それほど驚かなかった。
「誰っ!?」
保健室の中に身を隠しながら、少しだけ顔を出して、矢の飛んできた方を窺がう。
廊下の奥の方に、弓道の服装を着た金髪の少女が立っていた。
「けっけっけ。しくじったか……。少し早すぎたようデス」
金髪の少女は、見た目の美しさには不釣り合いな、品のない笑いを口にした。
「何のつもり!? 悪戯にしちゃ、度が過ぎてるんじゃない!?」
「昔の人は言いまシタ。一本では折れてしまう矢も、三本束ねれば折れまセーン」
……ダメだわ。話が通じない。完全に逝っちゃってるようね。
「あの人は宮内レミィさんという危険人物です。一応、藤田先輩の元クラスメイトだそうです」
私の後ろに隠れている葵が教えてくれた。まったくぅ…浩之の知り合いって変な人ばかりだわ。
そういえばマルチの方はどうなってるのかしら?
「マルチ!? 大丈夫なの!?」
「はわわわわっ!? 何か変ですぅ!」
何やらマルチが騒ぎ始めた。矢が刺さってはいるけど、動作は可能なようね。
「けっけっけ。ようやく効果が表れまシタネ」
宮内さんとやらが口の端をつり上げて、にたにたと笑った。
──続く──
「マルチ? どうしたの!?」
「……こんにちは。綾香さん」
マルチが急にかしこまった態度になった。
「どうしたの? いったい…」
「恩返しに来ました。ツルならぬ、マルチの御恩返しです」
「はぁ? …何、それ…?」
「いろいろとお世話になったお礼です」
この状況下でお礼と言われてもねぇ…。やっぱり、システムエラーなのかな?
「マルチ! セルフチェックモード作動! パスワード、"鶴来屋の皿を割ったのはお前だ"」
試しにOSの自己診断プロセスを起動するよう命令する。
「…綾香さん、よく、聞いてください。綾香さんがいま疑っている疑問は機能的異常の不具合です。
修復する方法は長瀬主任が知っています。主任に任せて下さい」
……ダメみたい。もともとドジなダメロボットが、輪をかけて使えなくなってるわ。
「けっけっけ。そのメイドロボに刺さってる矢は、ただの弓矢ではありまセン。アンテナなのデス」
いきなり、宮内さんが説明を始める。
「アンテナ?」
「そうデス。そのアンテナで超先生が放つ毒電波を受信することにより、リアルリアリティを
見に着けることが可能になりマス」
なるほど、そういうことか。またしても超先生の仕業だったのね。そうと分かれば戦うのみ!
「マルチ! 悪いけど盾になってもらうわよっ!」
廊下に飛び出してマルチの身体を掴むと、宮内さんの方にマルチを向ける。
ドスッ!
即座に一本の矢がマルチの身体に突き刺さった。
「あううぅ〜、い、痛いですぅ〜」
マルチの身体越しに、宮内さんが矢をつがえて、こちらに狙いを定めるのが見えた。
すぐに次の矢が来るっ!
──続く──
ビュンッ!
宮内さんが矢を放った。でも、矢は私たちから大きく逸れて、廊下の壁に当り、床に転がった。
さっきまでの正確な狙いが嘘のようだわ。
「あっ! そういえば思い出しました、綾香さん!」
唐突に葵が声を上げる。いったい何なの?
「宮内先輩は動いている物には百発百中ですが、止まっている物には狙いが定まらないそうです」
あらら…。そういうことなら、何もマルチを盾にしなくてもいいか。
試しに少し速めに横に移動してみた。すかさず宮内さんが矢をつがえて射る。
矢を放つ瞬間を見極めて動きを止めると、矢は移動方向の先をかすめて飛んで行った。
何だ、これなら簡単だわ。タイミングをつかんだ私は、矢をかわしつつ、宮内さんとの間合いを詰めた。
「ガッデェームッ!」
「残念ながらここまでのようね。これで終わりにさせてもらうわっ!」
宮内さんの目前に迫った私は、勢い良く身体を回転させると、後ろ回し蹴りを打ち込んだ。
バキィッ!!
「ぐはぁっ!」
宮内さんの身体は、宙に浮き上がった後、廊下の上を転がり、沈黙した。
これで第二の刺客も倒せたか。でも、この先もまだ油断は出来ないわね。
「さすがは綾香さん。お見事でした」
「あうう〜、お役に立てなくて、すみませんでした〜」
「そんなことないわよ、マルチ。盾として十分役に立ったわ」
「うう……、セリオさんならボディーガードプログラムで対処できるのに……」
「ところで、宮内先輩はどうしましょうか?」
葵が床にのびてる宮内さんを指差す。
「やっぱり、保健室に入れとくしかないんじゃない?」
面倒ながらも、三人で宮内さんを保健室に運び込んだ。
今日の保健室は大賑わいね。
──第三部・マルチ対レミィ編 完──