葉鍵板最萌トーナメントブロック準決勝Round122!!

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760Go! Tyo! Heart!! RR 第6話 ◆AYAkA082
 ここは……どこ……? 私は、倒れているの……? なぜ倒れたの……?
 いや、眠っていたのか……。でも妙なことに気が付いた。
 身体の自由がきかない。目が覚めてからずっとだ。
「ねえ、岡田〜、何で私たち保健室にいるの〜?」
「私に訊かないでよ。気が付いたら、私と松本で寝ている吉井を連れてきてたんじゃない」
「そうだけどぉ〜、そもそも私たち、>>759に書かれてるようなこと、したっけ〜?」
「知らないわよっ! 私にも何が何だかサッパリだわ…」
 すぐ傍で会話が聞こえる。二人とも私の友人である、岡田と松本だ。
 瞼すら開けることができないため見れないが、声で分かる。私は保健室で寝ているらしい。
「それにしても、吉井はよく眠ってるね〜。しばらく起きそうにないね〜」
「そうだね。まあ、あと一時間くらい経っても起きなかったら、叩き起こすまでよ」
 …今、確かに感じた。私たち以外の者の気配。右に5メートル、部屋の入口のドアの外。
 動いている……。なにをしているのか。そういう"命令"があったのか。新しい実験なのか?
 奴がドアのノブに手をかけた。ほどなくドアは完全に開かれ、奴は部屋の中に入ってきた。
「きゃあっ!?」
 松本が金切り声を上げた。奴に気付いたらしい。
「うわあっ!? あ、あんた、ほ…保科っ!?」
 続いて岡田が奴の名前を叫ぶ。保科さんなら知っている。私たちのクラスの委員長だ。
「保科…あんた、ホントに保科なのっ!? 一体、何があったっていうのっ!?」
「いやあっ! こ、来ないでえっ!」
 岡田も松本も怯えながら叫んでいる。今にも泣き出してしまいそうだ。
 どういうこと? 状況がつかめない。これは実験ではないのか?
「…………」
 保科さんは無言のまま、こちらに近付いてくる。わかった。これは実験ではない!
 私はベッドから飛び起きて、保科さんの前に立ちはだかった。なぜ動けたのかは分からない。
「保科さん……私たちを襲うとは、それも命令か?」
「よ・し・い……」

──続く──
761Go! Tyo! Heart!! RR 第7話 ◆AYAkA082 :02/02/07 03:10 ID:6dUHX3wa
 私は保科さんの前に立ちはだかった。そこまでは良かった。
 でも、保科さんの顔を見るなり、私の戦意は木っ端微塵に打ち砕かれた。
 同時に岡田と松本が怯えたわけも理解した。
「ほ、保科さんっ!? その頭はっ!? その頭はぁぁぁっ!?」
 保科さんの頭には白い大きなヘアバンドが付けられていた。
 そのヘアバンドにより、前髪は全てオールバックで押さえ込まれていた。
 そして顔の上半分には、光線反射率の高そうな額が広大な面積を誇示していた。
「……凸?」
 他に言うべき言葉は見つからなかった。
「そ、そんなん言われても、どないしたらええんや…」
「!!」
 今の保科さんのセリフ…、間違いない。
 超先生が編み出したと言われるリアルリアリティの呪術。
 その呪術の中でも最強を誇る二つの呪文。
 百円呪文『そ、そんなこと言われても』と、無料呪文『どうすればいいんだ…』のコンボだ。
 しかも関西弁バージョン。恐るべし…。私の中の仙命樹が危険だと告げている。
「岡田! 松本! 二人とも逃げて!」
 ベッドの脇にうずくまっている二人に声をかけた。でも…。
「でこ〜、でこ〜、でこ〜」
「うあ〜ん! うあ〜ん! うあ〜ん!」
 松本は放心状態で凸を連呼し、岡田はひたすら『美浜ちよ泣き』するだけだった。
 無理もない。常人ではリアルリアリティに耐えられるはずもない。
 血中に仙命樹が宿っていなければ、私の精神も破壊されていただろう。
 やはり私が保科さんと戦うより他は無さそうだ。
 気合を入れて保科さんと対峙すると、仙命樹の活動が一段と活発になった。

──続く──
762Go! Tyo! Heart!! RR 第8話 ◆AYAkA082 :02/02/07 03:10 ID:6dUHX3wa
「行くわよっ! 保科さん!」
 保科さんの持っていたカバンをひったくり、中からノートとペンを取り出す。
 この手だけは使いたくなかったけど、この際仕方がない。
 ノートのページを捲ると、白紙部分にすばやく落書きする。
 仙命樹の働きにより、常人の10倍の速度でペンを走らせる。
 あの大庭詠美ですら、今の私には勝てないだろう。
『お笑い芸人は、吉本興業に(・∀・)カエレ!!』
『凸、逝ってよし!』
『ターソーガーレーヒャクエーン!!』
 ネットで仕入れたあらゆる悪口雑言を書きなぐり、保科さんにノートを見せつけた。
「これで、どうよっ?」
「そんなん書かれても、私は泣いたりせえへんで」
 む、あまり効果が無いようだ。煽り、荒らしに対する耐性を身に付けたというところか。
「それより、あんたも結構おかしな人間やな。五段階評価で言うたら、どれくらいなんや?」
 突然、奇妙なことを訊いてくる。要するに、自己採点しろということか。
「五点…かな」
 内容の無い質問にマジレスする必要は無い。目一杯、色を付けて答えてやった。
「仲良うしてくれへん?」
 む、和解を求められてしまった。争うつもりはないと言うのか。仕方がない。
「いいわ。また藤田君に怒られるのもイヤだし、お互い争うのは止めにしましょう」
「ほな、仲直りの印に握手や」
 笑顔を見せる保科さんから握手を求められた。私もゆっくりと右手を差し出す。
 でも、このまま握手をしても大丈夫なのだろうか?

──続く──
763Go! Tyo! Heart!! RR 第9話 ◆AYAkA082 :02/02/07 03:10 ID:6dUHX3wa
 私の手が触れようとした瞬間、保科さんの手は鋭い手刀となって突き上げられた。
 その手刀は、私の喉を一気に貫こうとする。
 だが、最後まで警戒を怠らなかった私は、マトリックスの如きスウェーバックで攻撃をかわした。
 かわすついでに、差し出していた右手を使って、保科さんのヘアバンドをかっさらう。
 押さえ込まれていた前髪がバネのように跳ね上がり、保科さんの額を覆う。
 髪型が戻った保科さんは、そのまま気を失い、倒れ込んだ。
 僅か一秒ほどで、勝負は決まった。
「よ、吉井ぃ〜! あんたスゴイよぉ〜!」
「何の取柄も無い奴だと思ってたけど、見直したよ〜」
 岡田と松本が正気に戻ったらしい。でも、まだ立ち上がることはできないようだ。
「私の憶測が単なる憶測でなければ、保科さんはもう大丈夫だと思うよ」
 手の中にあるヘアバンドを見つめながら、私は言った。
「ホントにぃ〜?」
「もう、こんな怖いことは起きないよね?」
「うん、多分ね……」
 不安そうな二人に答えた後、ヘアバンドをハサミで切り刻み、ゴミ箱に捨てた。
 ヘアバンドを使って保科さんを操っていたのは、おそらく超先生。
 私の血に仙命樹を植え付け、強化兵として利用しようとした張本人だ。
 どうやら本格的に動き出したみたい。こちらとしては望むところよ。
 いつかは復讐を果たすべき相手に向けて、私は力の限り叫んだ。

「私の血は何者だー!?」

──第二部・吉井対智子編 完──