これは
>>1乙ではなくて、わっちの自慢のしっぽじゃから勘違いをするでないぞ!
|\ |\
l lヽ`-‐ '´ ̄ `ヾゝヽ つ
シ~ /" `ヽ ヽ `、l つ
//, '///|! !‖ ヽハ 、_ヽ つ
〃 {_{\」」 L|l|/リ l │ |ヽ つ
____. レ!小l● ● 从 |、| )
く ノ::::::;;;;;;\. ヽ|l⊃ r‐‐v ⊂⊃ |ノハ´
 ̄ ̄フ;;;;;/ /⌒ヽ__|ヘ ヽ ノ j /⌒i !ヽ
/;;;;/ . \ /ヽ.| l>,、 __, イァ/ ///ハ
/;;;;∠___ /ヽ./| | ヽヾ、 /,{ヘ、__∧/ハ !
く:::::::::;'::::::;':::::::;'::::::7ヽ< } / l丶× / ヾ l l''ハ∨
>>1乙でござる。
そして、前スレの埋め用ネタの続きとかアリでござろうか?
ありでござる
関連スレが前のサーバーのままだったから張り直すわ
8 :
5:2011/06/18(土) 10:47:15.77 ID:VqSemI+j
>>6 了解致し申した。
しかし……前スレ、160くらいを「月下奇人」の方が占めて、
残りのSS・小ネタはほぼ全て拙者の書いたものと言う現状は憂うべきでは?
拙者も他の御方の作品が読みたいでござるよぅ〜〜!!(バタバタ)
投下します
Blue Liquid 4話 ルクの調整
前編 濾過装置
使わない原稿用紙の裏側に書き込まれた粗っぽい設計図。
「こんなものかな?」
設計図通りに組み上げられた木枠を眺め、カイは頭をかいた。赤い髪の毛を指で梳いて
から、首を傾げる。おおむね設計通りに出来ただろう。
寸胴鍋の上に底を抜いた桶が木枠で固定され、中に濾し布を留めた道具。いわゆる濾し
機だった。ワインなどを作る時に使うものを、素人拵えに再現したような構造。横には踏み
台が置かれていた。
「ご主人サマ……どうでしょうカ?」
目を移すと、ルクが濾し機を眺めていた。
身長は百六十センチくらいの少女である。全身が透明な青い液体でできていて、手や足
はうっすらと向こう側が透けて見える。背中の中程まで伸びた青緑色の髪と、女性特有の
凹凸のある身体。何を考えているのか読みにくい瞳は緑色だった。今は白いワンピースを
着て、木のサンダルを穿いている。
恩師から貰った半液体魔術生命体のお手伝い少女。
カイムは濾し機を軽く叩きながら、
「言われた通り作ってみたよ。そんな複雑なものじゃないから、苦労はしなかったけど。でも、
これで大丈夫かな?」
と、視線を泳がせる。
街外れの見張り台。元々は兵士の詰め所だったが、今は使われなくなり、色々あってサ
ジムが居着いている。そして、ここは風呂場だった。元々大人数で入る風呂であるため、一
人で使うにはさすがい広い。
ルクの横には脱衣所から持ってきたカゴが置かれている。
「ンー」
ルクがぺたぺたと濾し機を触っている。大きさや布の荒さを確かめているようだった。真
剣に観察しているようだが、表情に目立った変化は見られない。
この濾し器を作って欲しいと言ったのはルクである。大体の形状を聞き、サジムが材料を
買ってきて組み立てたのだ。
風呂場の窓から見える日の光。今日は雨期には珍しく晴れていた。風呂場は北東向きの
ため、直射日光は入ってこない。背の低い雑草と灌木、雲の多い空が見える。
「大丈夫デス。これで問題ありまセン」
濾し器を撫でながら、ルクが振り向いてきた。問題部分は無かったようである。
「本当に、こんなんで何とかなるのか? 濾すって……」
眉間にしわを寄せつつ、サジムはルクを見やった。
右手を持ち上げるルク。青いゼリーを手の形に固めたような右手である。手触りもゼリー
のようで、半透明で向こう側が透けていた。元々は治療用の魔術薬という話である。
一度瞬きをしてから、緑色の瞳で自分の手を見つめた。
「なにぶん、こんな身体ですカラ、人間と同じ食生活をしているト、不純物が溜まってしまう
んですよネ。最近、ちょっト手足が重くなっているノデ」
「全身を濾す、と」
サジムはそう続ける。
「はい」
頷くルク。
最近身体の調子がよくないと言ったのは、三日前だった。身体が濁っているとの事。どう
すればいいかを訊いたら、濾し器が欲しいと答えたので、その通りに材料を集め、濾し器を
作って今に至る。
「色々腑に落ちないんだけどな」
額を押え、サジムは呻いた。
スライム状の身体なので、普通の生き物とは違うのは分かる。かといって、ここまでお手
軽に身体の掃除ができるというのは納得がいかない。
「あまり難しく考えないで下さイ。そういうモノですかラ」
淡泊に言ってから、ルクはワンピースの裾に手を掛けた。
サジムに見られていることを気にする様子もなく服を脱ぐ。それを手早くたたみ、横のカゴ
に入れた。両足を通しているサンダルも脱ぐ。
「こうしてみても色気は無いな……」
声に出さずに、サジムは苦笑する。
半透明の青い身体で、胸に赤い核が浮かんでいた。胸の膨らみや、腰のくびれ、腰回り
などは人間の女性と変わらない。他人に見られる事を気にしていないためか、マネキンの
ような粗っぽさである。
一方で、魔術の補助を用いれば、色彩も含めて人間と変わらぬ姿を取る事も可能だ。服
なども身体を変形させて、本物のような見た目を作る事ができる。人前に出る時はサジム
の遠縁の親戚として振る舞っていた。
「ご主人サマ、ひとつお願いがありまス」
ルクが右手を持ち上げる。
「何だ?」
「これ、預かってて下さイ」
言うなり、右手を自分の胸に差し込んだ。文字通り、自分の手を自分の胸の奥へと差し
込む。半透明の青い皮膚をすり抜け、右手が胸の奥に浮かぶ赤い球体を掴んだ。
「え?」
サジムは眼を点にする。
固まるサジムを余所に、ルクは何事も無かったかのように右手を引き抜いた。
その手に赤い球体が握られている。野球ボールくらいの大きさの、ルクの核である。自身
の最も重要な部位を、あっさりと体外に取り出していた。
「お願いしまス」
「え……と」
差し出された核を、思わず両手で受け取る。
思考が追い付かない。
両手の平に乗せられた、赤い球体。手触りと見た目は堅めのゼリーである。赤い部分は
不透明で、奥がどうなっているのかは分からない。表面には厚さ五ミリほどの透明な膜が
作られていた。重さは見た目通りだろう。
ルクを見つめ、サジムは一言尋ねる。
「いいのか?」
「はイ」
首を縦に動かしてから、ルクは右手を持ち上げ、自分の身体を指差す。青い半液体でで
きた胸の奥。元々核が浮かんでいた場所を。
「こっちの身体よりハ、かなり頑丈にできていますノデ、落っことしたりしても大丈夫ですヨ。
多分、包丁トカでも傷付けるのは難しいデスし。でも、三十メートル以上離れると、魔力の
共振が消えてしまうのデ、濾し終わるまで近くにいて下さイ」
説明された内容を頭の中で繰り返し、サジムは要点を咀嚼した。
それなりに頑丈である。離れるとルクは動けなくなる。
身体から取り出しても直接的には影響が無いようだった。
「濾せないのか?」
「そうですネ。そこは複雑な部分ですカラ」
手を顎に当て、ルクは視線を持ち上げる。
身体全体を制御する中枢核。生物でいう脳にあたる部分。容易には破損したり壊れたり
しないように保護されているらしい。作り主であるフリアルの性格を考えるに、頑丈さは相
当なものだろう。逆を言えば他の部分のように融通が利かない。
「それで、僕に預ける、と」
サジムは核を右手に乗せ、左手の指でつつく。うにうにとした弾力があり、思いの外柔ら
かい。ルクの身体の弾力を強くしたような感じだった。
「ん……!」
ルクの声に動きを止める。
両手で身体を抱きしめながら、ルクが目を閉じている。
一拍置いてから眼を開け、サジムに視線を向けてきた。感情の映らない緑色の瞳。それ
でも、少し怒っているようだと分かる。
「敏感な部分でスから、あんまり弄り回さないで下さイ」
「ああ、ごめん……」
素直にサジムは謝った。
「それでハ、お願いしまス」
軽く一礼してから、ルクは踏み台に両足を乗せ、濾し器に身を乗り出す。人型だった上半
身が崩れ、青いゲル状の液体になって濾し器の桶に流れ込んでいった。腰や足も崩れな
がら、上半身に引っ張られるように桶へと収まった。
しばらく見ていると、濾し布から濾過された青い液体が落ちてくる。
サジムの手の中にある、ルクの核。
「やることないかも」
浴槽の縁に腰を下ろし、サジムは窓の外を眺めた。
以上です。
続きは週末くらい
目も濾せるの?
光を認識する部位が集まった器官なので
分解すれば濾せます
その発想は無かった
なんでも溶かすイメージがあるからなあ。続き期待
その気になれば後ろに目とかも可能なのかなw
というか人型を取る必然性すらない希ガス
設定次第だが
人間の姿になって近所の食堂でアルバイトしています
投下します
Blue Liquid 4話 ルクの調整
中編 好奇心と悪戯心
三十分くらい経っただろう。
濾し布には、砂のような粒が残っていた。
鍋には淡い青色の液体が溜まっている。ルクの核を左手に持ったまま、サジムは右手で
寸胴鍋の取っ手を掴み、手前に引っ張った。鈍い音を立ててタイルの上を滑り、鍋が濾し
器の下から引き出される。
「ルク、終わったか?」
鍋に溜まった青い液体に声を掛けた。
しかし返事は無い。
表面に手を触れてみると、微かな揺らぎを感じる。機能が停止してしまったわけではない
ようだ。かといって、意識があるわけでもない。
「寝てる?」
サジムは表面から手を離し、数歩後ろに下がった。
今の手触りは、ルクが眠っている時のものに似ている。人間とは全く違う生物なので、ど
ういう基準で起きたり眠ったりしているかは、サジムも知らない。
ともあれ、今は眠っているようだった。
「眠っているということ、は?」
左手に持ったルクの核を眺める。口元に浮かぶ、妖しい微笑。
赤い球体。硬いゼリーのような手触りで、本人曰く敏感、頑丈。
一度風呂場全体を眺めてから、サジムは核に指を触れさせた。くすぐるように、指先を動
かしてみる。ルク本人は弄り回すなと言っていた。しかし、やるなと言われるとやりたくなっ
てしまうのが人間の性である。
青い液面が揺れていた。揺らしてもいないのに表面が波打っている。
「んんン――!」
そして、跳ねた。
液体から頭と肩を構成し、ルクが鍋の縁に掴まった。いきなりで、全身を作ることはでき
ていない。右腕と肩と頭だけ。青緑色の髪の毛部分は、下の液体と繋がっている。作った
頭や腕も、造形が頼りない。
青い粘液が鍋の縁をゆっくりと垂れていた。
ルクが緑色の目でサジムを見つめる。
「ご主人サマ……? ナ、何してルんですカ?」
いつもの無表情とは少し違う、力の抜けた顔だった。呆けたように口を開けている。単純
に表情を構成する余力が無いのかもしれない。
「起きないから、起きるかなと思って」
言いながら指先で核を弄る。
「ああぅ……」
ルクは鍋の縁に寄りかかり、身体を震わせていた。
荒い呼吸をするように肩を上下させながら、緑色の瞳をどこへとなく泳がせる。肺は無い
ので呼吸は不要だが、無意識に行う人間的な動作らしい。溶けた身体が口端からよだれ
のように垂れていた。
うにうにと核の表面に指を這わせる。
「あッ」
ルクの身体が跳ねた。液面が波打ち、小さなしずくが床に落ちる。緑色の目が泳ぎ、身
体の動きがぎこちなくなっていた。そこが特に敏感な部分らしい。
サジムはその部分を重点的に指で責めていく。
「ふああッ! ソレ、それは敏感だっテ、んんぁっ!」
甘い声を上げながら、ルクは身体を仰け反らせた。両目を開き、天を仰ぐように顎を持ち
上げ、両腕を振り上げる。水音とともに、青い水滴が飛び散っていた。
「ご主人サマ……! あ……ぅ……」
一度身体を強張らせてから、糸が切れたかのように溶け落ちていく。身体を構成していら
れなくなったのだろう。腕と肩、胸。それらが青い液体となって鍋の中に溜まる。
液体の底の方から、小さな泡が浮かんできた。
「大丈夫か?」
核を弄るのを一時やめ、サジムは鍋を覗き込む。
液面から右手が伸び、鍋の縁を掴んだ。続いて頭が作られ、肩や胸が作られていく。お
腹の辺りまで身体を構成してから、ルクが睨んでくる。
「敏感……テ、言ったじゃないデスか。うゥ」
緑色の瞳をサジムに向け、口元を曲げていた。
サジムは右手で赤い髪の毛を払う。
「そう言われると、逆に弄ってみたくなるというか……」
「んッ。ふァ……」
指の動きに合わせて、ルクが肩をくねらせる。
鍋の縁を掴む手に力を込め、目を瞑る。染み込む刺激から逃れるように身体を捻ってい
るが、その動作は意味をなさないようだった。ルクの本体はサジムの手にあり、そこから発
せられる感覚はルク自身制御できないようである。
「んっ、ご主人サマ――ぁっ……」
だらしなく開いた口。
腕や肩、胸から身体が溶け落ちている。青い水飴のような体組織が、鍋の縁や風呂場の
床に音もなく流れ落ちていた。その姿は、形容しがたい淫猥さを作り出している。
ごくりと、サジムの喉が鳴った。
「うゥ……ん……」
ルクは一度目を閉じてから、その場に立ち上がった。
「そういウ……イタズラは――」
強い口調で言葉を吐き出す。
無理矢理下半身を固めて、ルクは人型になってみせた。口元を引き締め、目に気合いの
光を灯している。気合いだけで身体を固定化させたらしい。鍋に残った液体で腰や足を組
み上げ、鍋から外へ出た。
しかし、固形化は完全ではなく、足元が溶けていた。
核を弄るの手を止め、サジムは思わず見入る。
「……やめて、下さイ――! ん、んぁ」
言いながら、サジムへと近付く。
少なくとも近付こうとした。一歩前に足を踏み出し、右手を伸ばしてくる。手首から先が崩
れて、手の形をなしていない。足も脛から下が溶けている。
それ以上は動けないようだった。
サジムは核を手で撫でながら、率直に言う。
「でも、ルクが気持ちよさそうだし」
「ううー……」
目を逸らすルク。
否定してこないことを肯定と受け取り、サジムは再び核に指を触れる。ゼリーのような柔
らかさと滑らかな手触り。押すと形を変えながらも反発してくる弾力。
「あッ、ン――!」
ルクが甘い声とともに、その場に崩れた。両足を折り、床に腰を落とす。
形を保っていた足が溶け、緩い水溜まりのようになっていた。お腹から上は辛うじて形状
を保っているが、表面から青い液体が溶け落ちている。立ち上がることはおろか、満足に
移動もできないだろう。
「これは、どうかな?」
サジムは両手で核を持ち、その表面に舌を這わせた。触った感触と同じ、堅いゼリーの
ような舌触りほんのりと甘い味がした。
ほのかな嗜虐心に背筋が粟立つ。
「あっ、え……ふあぁ。ご主人サマッ!」
身体に掛かる刺激が変わったのか、ルクが目を向けてくる。何とか形を保っているだけ
の身体を必死に動かそうとしていた。しかし、思うように動かない。あちこちが意識と別に痙
攣するように動いている。
見た限り、指で触られるよりも舌で舐められる方が感度が上らしい。
「あ、舐め……って、はっ――ふぁ、はぅ」
右手を伸ばして、口を開くルク。出てくるのは気の抜けた悩ましげな声だけだった。焦点
の合っていない緑色の瞳。思考はほとんど止まっているだろう。その姿は、溶けかけの飴
細工を思わせる。
「んン……ッ!」
何度も意味の無い息を漏らしてから、ルクは何とか言葉を吐き出した。
「少し……あッ、手加減しテ――」
しかし、サジムは核の表面を舐め、さらに甘噛みを加える。
びくり、と。
ルクの身体が跳ねた。
ルクの核を両手で揉むように弄り、甘噛みと舌の動きを加える。
「あ……あァ――! ンんんッ、ふあアぁ……ぁ――!」
緑色の目を大きく見開き、サジムを凝視する。擦れた悲鳴とともに、その身体が数度大き
く痙攣した。もう思考は追い付いていないだろう。何度か身体を重ねているから分かる。そ
れは、ルクが絶頂を迎えた時の反応だった。
崩れるように溶けていくルク。身体を保っていた意識の糸が切れてしまったのだろう。手
も胴体も頭も青い液体に戻り、混じり合っていく。
床に広がった青い液体。
サジムは溶けたルクの傍らにしゃがみ込む。
「ちょっとやり過ぎたかな。大丈夫か、ルク?」
右手で液体の表面をつつく。
「!」
その瞬間、腕が伸びた。昆虫並の唐突さで伸びてきた青い手が、サジムが持っていた赤
い核を掴み取った。そのまま液体へと引っ込む。
腕は消えたが、核は消えずに液体の中を漂っていた。
それだけでは終わらない。
「おあ!」
不意に足を引っ張られ、サジムは床に腰を落とす。バランスを崩して軽く尻餅をついただ
けなので、痛みは無い。足元を見下ろすと、青い液体が両足を包み込んでいる。
ゆっくりと――
液体の表面から、人型が作られていく。
青緑色の髪の毛に緑色の瞳。青い液体を固めたような顔や肩や腕。胸には女性特有の
ふたつの膨らみが見える。滑らかな曲線を描き細くなっていくお腹。腰から下は、床に溜ま
った液体のままだった。
「ご主人サマ。今度はワタシの番ですヨネ?」
そう言いながら、ルクが口を笑みの形にしてみせる。
以上です
続きはそのうち
29 :
名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/27(月) 00:14:39.85 ID:rj4rLJLa
投下します
Blue Liquid 4話 ルクの調整
後編 反撃で逆転?
「おい……」
サジムは手を伸ばして、ルクの腕を掴んだ。
だが、表面に触れたまま、手が腕に呑み込まれていく。粘りけの強い液体に触れたようう
な手応えとともに、手がルクの腕をすり抜けた。
ぺたり、と。
ルクの手がサジムの胸に触れる。
「ご主人サマ、今度はワタシから攻めさせてもらいますヨ」
口の端を少し上げ、緑色の瞳でサジムを見つめる。
普段は機械的なルクだが、時々妙に人間的な仕草を見せることがあった。感情は人間よ
りも拙いらしいが、全く無いわけでもない。
サジムの胸に触れていた手が、溶けていた。
生ぬるい液体が、服の隙間から流れ込んでくる。水とは違う感触。水とは違うので服に水
分は染み込んでいないが、あまり気持ちのいいものではない。
溶けた下半身が、サジムの両足を包み込もうとしている。
全力で暴れれば抜け出せるだろう。ルクの身体はそこまで強くはない。しかし、サジムは
大人しくルクのする事を受け入れていた。
「僕を食べる気じゃないだろうな?」
ルクの腕に指を触れさせながら、一応訊く。
「そういうことはしまセンヨ」
顔を近づけながら、ルクは否定した。
「ものを消化するって、ご主人サマが考えてイルよりもずっと大変なんですヨ。皮膚を薄く溶
かすくらいはできても、それ以上は無理デス」
「へぇ」
頷きながら、サジムは左手の二指をルクの口に差し込んだ。
「あむ」
ルクが口を閉じる。
半透明の唇を通し、咥内にある指が見えていた。身体が半透明のため、ルクは口に入れ
たものが丸見えとなってしまう。そのため、サジムの見ているところでは食事をしようとしな
い。恥ずかしいのだろう。
舌が動き、指先を舐めている。
「ご主人サマの味がしまス」
表情から力を抜き、サジムの指に舌を絡めていた。指先に触れるルクの舌。生き物のよ
うにざらつきはなく、滑らかである。皮膚などと変わらない。惚けたようにサジムの指を舐め
るルクは、ひどく扇情的だった。
「ん……?」
ルクの下半身が、サジムの腰から下を包み込んでいる。ズボンの隙間などから足まで流
れ込んでくる、青い液体。じっとしているうちに、身体の半分くらいをルクに包まれてしまって
いる。
サジムはルクの口から指を抜いた。口元から指先まで伸びる、細い糸。
数秒それを見つめてから、ルクがサジムに目を戻す。
「どうですカ、ご主人サマ?」
ルクの身体が、ズボンの前を開いた。何をどのようにしているかは、よく分からない。サジ
ムの腰辺りを包み込んだまま、器用に体内を動かし、サジムのものを取り出してみせた。さ
きほどからルクの痴態を見せつけられ、既に全開である。
「ワタシだって、やれば色々とできるんデスヨ?」
「!」
背筋が粟立った。
青い液状の身体が動き、サジムのものを絡めるように刺激していく。手で触るのとはまる
で違う、上下左右に蠢く青い液体の壁。言いようのない、甘く熱い快感を作り出し、手足の
先まで行き渡っていく。
「これは――」
喉が渇き、胸が熱い。
「うぐ」
サジムは息を止めて、目を閉じた。ルクの身体の作り出す快感に抵抗も無く射精する。
青い液体の中に、白い液体が混じり、そのまま溶けて消えた。
手足の痺れに身体を支えきれず、サジムは仰向けに上体を倒す。
サジムの頬に手を触れ、訊いてくる。
「気持ちよかったデスカ?」
「かなり」
正直に答えた。見栄を張る理由も無い。
「じゃ、次は僕の番だね?」
「へ?」
ルクが首を傾げた。
サジムは右手を伸ばし、ルクの胸に触れた。水風船を思わせる、丸くたわわな膨らみ。そ
の表面に指先を這わせる。表面に薄い膜があるかのように、押した分だけ凹み、自在に形
を変えている。
「あゥ……」
ルクが瞬きをしながら、手の動きを凝視していた。
サジムは胸の先端の突起を指で摘む。
「あっ」
ルクが動きを止めた。
普段は丸いだけの胸なのだが、今回は律儀に乳首まで作っていた。胸の先端の突起と
その周囲の緩やかな膨らみ。それこねるように、サジムは指を動かす。
「ふあぁ、んんッ! あ……」
サジムの身体にもたれかり、ルクが声を震わせた。
手で力無くサジムの腕を掴むが、腕を退けるほどの力は無い。
「ご主人……サマ、それ、駄目。だめでスぅ、ぁあっ!」
サジムが指を動かし、胸を弄るたびに、ルクは切なげな息を漏らしている。人の形を保っ
ていた上半身も、徐々に崩れ始めた。身体を固定する余力が無くなっている。
サジムは手を胸に押し込んだ。
表面を突き抜け、体内へと侵入する。
「ああっ! それ、それハ……!」
ルクの体内を直接かき混ぜ刺激する行為。定型を持たない液体の身体だからこそ可能
な無茶だった。表面に触れるよりも、神経部位を直接触られるのは刺激が大きい。
「うぅぅ。はっ、おかしく、なりそうデス。ふあぁ……」
身体を震わせながら、焼けるような快楽に悶えるルク。
その身体が、一度固まった。
「デモ……! ワタシ、負けませン」
緑色の瞳に意志の輝きを灯す。
ルクの身体が、サジムの身体へと絡みついてきた。意志を持った液体が、上着の袖や裾
から、侵入してくる。身体を直接包み込むように。
「う……」
全身から送られる快感の信号に、サジムは喉を鳴らした。
ルクの身体が優しく肌を撫でる感触。形容しがたいくすぐったさが、全身から染み込むよ
うに神経へと、その痺れと熱を伝える。まるで身体が溶けていくような錯覚。
「んんっ、ご主人サマ、どうですカ?」
緑色の瞳を向けてくるルク。
「凄いな、ルク」
身体全体を愛撫する動きに、サジムのものを絡めるような動きも加わって、凄まじい快感
を作り出していた。気を抜いたら、そのまま気を失ってしまうかとも思うほど。
「なら、こっちも本気で……!」
脂汗を流しながら、サジムは両手をルクの胸に突っ込んだ。青い表面を突き抜け、体内
へと潜り込む両手。飛び散った飛沫が床に落ちる。
そして、胸の奥に浮かぶ赤い核を掴んだ。
「ひゃぅ!」
大袈裟なまでに震えるルク。
今まで触る事はなかったが、触っても大丈夫なことは、今日ルクから説明された。そして、
性的な意味でも弱点であることは、さきほどの反応が証明している。
サジムは両手を動かし、核を直接揉み始めた。
「ああ、ああっ。ごひゅジンサマ……それは、反則ッ! うんんんッ」
ルクは身体を仰け反らせた。
サジムの上に乗っかったまま、緑色の瞳を天井に向け、唇を震わせる。辛うじて形を残し
ている上半身を悶えさせ、湧き上がる快楽を受ける。両腕は肘から溶けて、残りの液体部
分と混じっていた。
「凄い……」
ルクの反応が新たな震動となり、サジムの身体へと還元されている。神経が溶けるかと
思うほどの強く、濃い快感のうねり。
「あ、それ、だめデス……。あぅぅ」
ルクの口元から、青い液体が涎のように垂れている。
サジムは右手を伸ばした。手がルクの背中を突き抜ける。手の平で背中を押えてから、
抱きしめるように、身体を引き寄せた。
さきほどから伝わってくるルクの快感に、サジムも限界だった。
「ルク、行くぞ……」
「はイ、ご主人サマ――来て、下さい……!」
小さくルクが呟いた。
「ッ!」
全身から染み込む快楽に、サジムは思い切り精を解き放っていた。痛みすら覚えるほど
の強烈な精通に、視界が一瞬白く染まる。神経から脳髄まで駆け抜ける電撃に、意識が焼
けるような錯覚を感じた。
「ご主人、サマ……」
両腕で抱きしめられたルクが、ゆっくりと息を吐き出す。
仰向けのサジムと、溶けた身体でサジムを包んでいるルク。形を保っているのは、胸から
上だけだった。溶けかけた両腕でサジムに抱きつき、サジムの両手に抱きしめられている。
絶頂の余韻に浸るように、どちらも動かず、声も出さない。
ふとルクが口を開いた。
「しばらク、このままで居させて下さイ……」
「気が済んだら、離れるんだぞ?」
ルクの頭を撫でながら、サジムが答える。
「はイ」
ルクは短く返事をした。
エピローグ
サジムは出掛けるルクを見送りに出ていた。
元見張り台の正面玄関。分厚い木の扉を開けた先に、石畳の階段が五段続いている。
その先は、石畳の歩道となっていて、正面の道へと続いていた。
「どうですカ?」
玄関ポーチに立ったルクが、くるりと一回転する。
その姿は人間の少女のものだった。背中中程まである赤い髪の毛と色白の肌、手足も
人間と変わらない。瞳は緑色のままだが、それを気にする者はいないだろう。白い上着に
と、青色のスカートという恰好で、首元に小さな黄色いネクタイを付けている。
「いつもながらよく出来てるよ」
サジムは腕組みをしながら、その造形に感心していた。
魔術の助けがあるとはいえ、人間と寸分変わらぬ姿を作っている。髪の毛のような形の
部分も、律儀に一本一本分けられた髪の毛へと擬態されていた。
「時間掛かるのが欠点ですケド」
普段の姿から人間の姿に擬態するには、一時間ほど掛かってしまう。その最中どのよう
な事をしているのかは、見せたくないらしい。
ルクは置いてあった時計に目を向けた。
「そろそろお仕事に行く時間デス」
「いつもすまんな」
サジムは苦笑を見せる。
行きつけの食堂兼酒場の木蓮亭。サジムの遠縁の親戚として、ルクは木蓮亭でアルバイ
トをしていた。家事全般は得意なので、評判はよいとの話だ。
「あと。カラサさんが、もう少し高いの頼めと言っていましタ」
木蓮亭の女将のカラサ。ルクを気に入っているおばさんである。最近、サジムが安いもの
ばかり注文していたのが気になっていたようだ。
「もうすぐ本売り出されるから、その時は飲むよ」
「そう言っておきマス」
サジムの言葉にルクが頷く。
それから、改めて一礼した。
「では、ご主人サマ。行ってきまス」
以上です
乙
なるほど人間に化けて仕事してるのか。
人間状態の彼女とえちする展開も面白そう。
外見こそ人と同じだけど、中身は人外魔境........
ここって、「人間以外」が対象だけど、ロボット系は「ロボ・アンドロイド」スレがあるから除外だよね。
オートマータはあちらとして、ホムンクルスとかゴーレム系はどっちなんだろ?
以前投下されてたけど、サキュバスとかアンデッド系も今は専門スレがあるんだよなぁ。
こまけえことはいいんだよ!
ファンタジック・オカルティックな人造人間はこちら
SFっぽさ、メカっぷりを強調するならあちら、かな
まぁ、いンだよ、こまけぇことは
スレタイに幽霊と書いてあるってことは元人間の神様とかもいいんですか?
神様大歓迎
影女って萌えるよね
>>44 ちょっと前に「とっぱら」というエロゲがあって、そのメインヒロインが影女だった。
確かに萌えた。世話焼き姉さん女房、イイ!
狐スキーの俺には九尾狐がよかった
以前、ムカデ女神とか家出した大神少女とか純愛系淫魔娘の話を書いたものです。
「奥様はマミー」というタイトルで、考古学者と3千年の時を超えて甦ったマミー(ミイラ)な女王の話を書こうかと思うのですが、
正直マミーと言いつつあまりアンデッドっぽくない(ほとんど生身。子供も産めるし)なのですが、アリでしょうか?
三千年越しのロマンス、上等。
さぁ早く投下準備に戻るんだ。
ここの住人的に掘骨砕三ってどう?
あの人の描く人外娘が可愛くてたまらん
>48
投下はアリだと思うが、マミーとしてアリかどうかはちょっと考えさせてくれ。
トイポクンオヤシでググると幸せになれる
「ひでぼんの書」を読んでこのスレに来たんだが、
続編があるらしいんだが探しても見つからない
分かる人教えてくれ
>>53 外伝のことか?
ラストダンサーとかスカーフェイス"G"のタイトルで保管庫にあるぞ
hosyu
#「奥様はマミー」がやや難航してるので小ネタ。
ケータイゲーの「聖戦ケルベロス」で、パウダー&スノウフェアリーたんが可愛過ぎてツラい。そして、どうしてスーパーレアやウルトラレアならともかく、レアのアイスフェアリーが出ないのか!?
……という、怒りを胸に妄想書き殴ってみますた。
『どうしようもないオレに天から妖精が舞い降りた』
先の大戦をくぐりぬけた我が国──いと賢く麗しき「妖精王」ルーウェリン女王の治めたもうこの国は、現在比較的穏やかな時を過ごしている。
国防の要たる軍人や兵隊もその例外ではなく、とくに俺が所属する辺境第17警備隊のような「閑職」の連中はこのところほとんど敵と戦うこともないため、周囲からめでたく「無駄飯食らい」「給料泥棒」の称号を進呈されていた。
もっとも、「警備隊」と言いつつ専任の軍人は隊長の俺だけで、あとは地元の若者数名が臨時雇いで隊員として詰め所でたむろしてるだけなんだが。
その隊員達も農繁期には大半が手伝いとして駆り出されるというのだから、いかにのんびりした土地柄かは推して知るべし……て言うか、マジで人手が足りない時は、その俺さえ農作業を手伝わされるし。
まぁ、へーたいさんが暇なのは世の中が平和な証拠だよな、ウン。
「二十代前半の身で、何枯れたコト言ってんスか、ケイン隊長」
事務仕事(つっても、本部への報告書がほとんどだが)を済ませ、デスクであったかい茶を飲みつつホッとひと息ついてる俺にツッコミを入れてきたのは、有象無象の臨時隊員の中では体格・気質ともに比較的兵士向きな青年クロウだ。
「そうは言ってもなぁ……こんな辺境(どいなか)じゃあ、よほどのことでもない限り、敵国との小競り合いとか領土侵犯とかは起きないし」
「地元民の前で「どいなか」言わんでください! それに警備隊の仕事相手は人間だけじゃないでしょう」
「はぐれモンスターの退治か? それも、この付近じゃあたいして厄介な奴はいないだろ。せいぜい傭兵崩れのワーウルフとか、迷って出たスケルトン、あるいはベビードラゴンくらいで」
「いや、それでも十分村人には脅威なんですから……」
58 :
どう妖(前編):2011/08/15(月) 14:44:48.28 ID:rcJuRGjk
確かに「警備隊」と名乗る以上、民間人の安全の確保も重要な任務だ。けどなぁ……。
「心配いするなって。俺みたく軍に数年勤めた挙句左遷されるようなヘッポコ兵士でも、その程度なら十分対処できるし。それに、お前さん達の腕前も、だいぶ上がって来ただろう?」
「はぁ、それは、まあ確かに……」
よそでは知らないが第17警備隊(ウチ)では、午前中は教練の時間に宛てている。
見張り当番を除く全員が、(一応本職である)俺の指導で各人の選んだ武器の稽古をすることになってるのだ。
ま、稽古は自由参加だし、得意としている槍以外の武器は、俺も以前所属していた傭兵隊の先輩連中にひととおり基礎を習った程度だから、教えられることはたかが知れてるんだが。
とは言え、天才がすなわち優れた教師になるとは限らない。逆に、俺程度のあまり天分のない人間の方が、努力して理解してるぶん、人に教えるのもそれなりに巧くいくらしい。
そもそも2年前に赴任した当初は隊員も3人しかおらず、武装と言えば玩具みたいな弓と山歩き用のナタ、それに護身用の短剣というていたらくだったのだから……。
隊員が7人に増えて全員王都の武器屋から仕入れた真っ当な武具で武装している(そして一通り戦いの基礎程度は飲み込んでる)現状とは雲泥の差だ。
「そりゃね、ケイン隊長には感謝してますよ。訓練もそうですし、ツテとコネでちゃんとした武器とかも揃えてくれましたし。
そもそもコレまで赴任してきた連中ときたら、あからさまに嫌々感まる出しで、村長に挨拶したらすぐ隣町にとって返し、ココへは月に2、3度顔出すくらいだったんスから」
「いや、そりゃ比較対象が間違ってるだろ」
非正規の「隊員」ならともかく、王都から給料もらってる軍人の隊長が現地に駐屯しなくてどーすんだよ。
「「こんな何もないヘンピな村に住めるか!」だそうっスよ?」
「都会モンはコレだから……。その点、俺も嫁さんも元は僻地の出身だからな」
田舎暮らしには慣れてる──と続けようとしたトコロで、クロウが強い口調で遮った。
59 :
どう妖(前編):2011/08/15(月) 14:45:20.69 ID:rcJuRGjk
「そこっス! 隊長は確かに「いい人」っスけど、ひとつだけどうにも納得がいかないコトがあるっスよ。
いくら元王国正規軍の兵士だからって、どこでどうやってあんな可愛い奥さんつかまえたんスか? そもそも、お月さん来てるかも怪しい年頃の娘さんを嫁にするなんてうらやま……もとい、犯罪スレスレっスよ、このロリコン魔人!!」
そこかよ!?
「ほっといてくれ! それと誤解があるようだから言っておくと、あの外見だから間違えても無理ないが、若く見えるだけで実際には俺より年上だぞ?」
「はァッ? ま、マジっスか??」
「うむ。ウチの嫁は妖精の血を引いているからな」
真面目な顔で大きく頷く。嘘は言ってないからな、嘘は。
「…………20歳過ぎてもあの外見ってことは、なんてこった、一生幼女(エターナルロリータ)ってことぢゃないですか! なんて羨まし……」
「やかましいわ!!」
スカポンタンな部下の頭にガツンとゲンコツを落として昏倒させる。
「ちゃーす、今戻りましたぁ……って、コレ、どしたんですか、たいちょー?」
我が隊随一の(と言っても、ひとりしかいないが)弓使いの少女エセルが、見回りから戻って来たようだ。
「ああ。あまりにアホなコトをほざくので折檻しておいた」
「そっかー、ま、クロウなら仕方ないですよね、バカだから」
同年代の幼馴染の少女に、それだけで納得されてしまうあたり、青年の人間性に憐憫を感じないでもないが、これも自業自得だろう。
「では、問題がないようなら、俺はコレで失礼するぞ」
「はーい、今日の当直はこのバカなんであとで起してよく言い聞かせておきまーす。あ、それと奥さんから伝言です。
「帰りにミロワールさんの店で、トウガラシとベーコン2切れ買って来て」
……だそうですよ〜」
子どものお使いかよ!? まぁ、いい。どの道、よろず屋は帰り道にあるしな。
60 :
どう妖(前編):2011/08/15(月) 14:45:40.41 ID:rcJuRGjk
「今帰ったぞ!」
我が家の扉を開けると、途端に美味しそうな夕飯の匂いが鼻をくすぐる。
「おかえんなさーい!」
エプロンで手を拭きながら台所から顔を出した小柄な銀髪の美少女(?)が、先程も話に出た俺の妻ゲルダだ。
「あ、唐辛子と豚燻製は、ちゃんと買って来てくれた?」
「ああ、買ってきたが……もしかして、今夜も鍋物か?」
「いいじゃない。冬場なんだし。あったかいし、鍋おいしーよ?」
「その点は同意するけど、お前、ホントに鍋好きなのな。雪妖精(スノウフェアリー)のクセして」
そう、部下に言った「妖精の血を引く」というのは決して嘘ではない。ただし、先祖に妖精がいたとかじゃなく、嫁さん本人が混じりッ気なしの100%ピュアフェアリーってだけだ。
「スノウフェアリーだからこそ、冬場に熱い物が食べられるんじゃない。夏場にあったかいものなんて食べたらヤケドじゃ済まないし」
なんでも、雪妖精の一族というのは冬に近づくほど「力」が増すらしく、真冬の今なら、弱点である火の中に飛び込んでも数十秒は耐えられる程らしい。
逆に夏場は陽射しの下に出ることさえ嫌がり、日陰で冷たい飲み物すすって一日中まったりしてるのだが、まぁコレは習性上仕方ないだろう。
周囲の村人には「北方の出身で暑さに弱い体質」と説明してある。まんざら嘘でもないしな。
「ま、いいか。お前の作る料理は何でもウマいしな」
「やん、もうっ、おだてても何も出ないわよ?」
などと、今でこそ自他ともに認めるイチャイチャらぶらぶ夫婦な俺達だが、出会った時、そして再会した時は、まさかこんな関係になるとは思ってもみなかったのだ……
---------------------------------
#つづく。前中後編予定で、Hは後編にて。キャラ偏愛気味でお目汚し失礼。
乙
待ってるよー
#雪妖精さんの話の続きです。
『どうしようもないオレに天から妖精が舞い降りた』
(中編)
「お久しぶり、また会えたわね」
初めて出会った(のちに「再会」だと判明するのだが)ときの「彼女」に、そんな事を言われて、俺は大いに戸惑った。
当時の俺は17歳になったばかりで、半人前からどうにか一人前へと格が上がりかけてる程度の腕前の傭兵だった。
ちょうど俺の属する傭兵隊が、国に正規の部隊として組み入れられようとしているところで、俺達隊員も、このまま正規兵として国に仕えるか除隊するか選べと言われて、丸一日思案していたところだ。
夜になっても今後の身の振り方を決めかね、宿の裏手にある雑木林で剣を振っていたところで、背後からいきなり声をかけられたのだ。
振り返った俺は、そこにいた人物──12、3歳くらいの少女の姿に不覚にも目を奪われた。
真っ先に目立つのは、光の加減によってほのかに蒼く光る綺麗な銀色の髪。頭頂部の両サイドで結んだ髪型(ツインテールとか言うんだっけ?)にしていてさえ、髪の先端が腰まで垂れてるのだから、解いたらきっとすごく長いんだろう。
肌の色は透けるように白く、体つきもその年齢を考慮してさえかなり華奢だったが、か弱げな印象は皆無で、人形の如く端正に整った美貌に、けれど人形とは正反対に感情豊かな表情を浮かべているのが非常にチャーミングだ。
アイスブルーの瞳に明るく元気な光が踊り……けれど、どこか儚い雰囲気も感じさせる、アンビバレンツな魅力を持った美少女。
──ロリコンのそしりを受けるのを覚悟で正直に言おう。「彼女」を目にした時、ハートを鷲掴みにされたような気分になった。
傭兵という職業柄、日常的に若い娘と接する機会に乏しいのは確かだが、それでも同僚だとか街のショップの売り子とかには、十代前半から後半にかけての女の子も多少いる。
けれど、ここまで俺の目を惹きつけて離さない少女は初めてだった。
「き、キミは……」
「あれ? もしかして前に会ったことを覚えてないのかしら。ふふ♪」
悪戯っぽい笑みを浮かべつつ、それでも「彼女」はどこか寂しそうに見えたから、俺は必死で少ない脳味噌をフル回転させた。
(そんなバカな! こんなに可愛い子を女っ気の乏しい俺が忘れるワケが……って、待て。言われてみれば、確かにどこか見覚えがあるような)
「! も、もしかして……3年前の?」
「あ、思い出してくれたんだ♪」
63 :
どう妖(中編):2011/08/17(水) 09:02:28.89 ID:GASMjYuj
そう、それは俺が実家の口減らしのために今の傭兵隊に入隊したばかりの、ほんのヒヨッコだった頃。
傭兵という荒くれ職業(しょうばい)をしてる割に、ウチの隊長は仲間や新入りを大事にする人で、入ったばかり俺も、隊の雑用させられながら先輩や時に隊長自身から様々な武器の扱いを教わることになった。
幼い頃から山を駆け回って猟師まがいの真似をしていたのと家の畑作業を手伝っていたおかげで、体力だけは人並み以上にあった俺は、あまり覚えはよくなかったものの、傭兵稼業で基本となる武器の扱いを少しずつ習得していった。
そして、「その子」と会ったのは、ちょうど明日初めての「実戦」に出るということで緊張感から珍しく眠れずに野営地の近くを散歩していた時だったと思う。
「あなた……私の姿が見えるの? 珍しいわね、粉雪の私が見えるなんて。
あ、でも、お触りはダメよ♪ ニンゲンは暖か過ぎるから、触れられると私はすぐに消えてしまうから」
思いがけない言葉に戸惑う俺に、その子は自分が雪妖精の子(パウダーフェアリー)であることを告げ、しばし言葉を交わした後、「雪が積もる頃にまた会いましょう」という約束を残して空へと消えて行ったのだ。
「て言うか、あの状況で「雪が積もる頃にまた」って言われたら、てっきりその冬の話だと思うだろーが!?」
「早とちりねぇ。私は「雪が積もる頃」としか言ってないわよ」
ぐぬぬ、屁理屈を。
──まぁ、話によるとフェアリーとかの妖精族は人間の10倍くらい寿命があるらしいから、自然とそういう時間感覚がルーズになるのかもしれんが。
「それにしても……へぇ、たった3年足らずで、あなた、随分と逞しくなったのね」
「へ?」
俺は思わず目をパチクリさせた。まさか、この気ままな妖精娘に褒められるとは……。
一瞬社交辞令というヤツかもしれないと思ったが、どうやら相手は本気で感心してるようだ。
(! ああ、そうか)
これもまた、人間と妖精の時間感覚の違いというヤツなんだろうな。
「……ま、俺も成長期だったからな。そんな時期に、兵隊として戦場で死に物狂いで剣とか槍とか振り回してたら、自然と身体も育つさ」
けれど、なぜかソレを認めるのが気が進まなかった俺は、話を別の方向へと誘導する。
「そういうお前さんは……あんまし変わらないな」
ワザと不躾な視線でジロジロ見てやる。
「な、なによ〜、レディを失礼な目で見ないで頂戴。それに、私だってキチンと女らしく成長してるんですからね!」
プンスカという擬音が聞こえてきそうな勢いで、妖精娘が憤慨している。
64 :
どう妖(中編):2011/08/17(水) 09:02:59.20 ID:GASMjYuj
「ふむ……言われてみれば」
確かに、3年前は真っ平らだった胸はいくぶん女らしい柔らかな曲線を描きだしているようだ。背丈も半フィート近く伸びた俺とは比較にならないが、それでも2インチはくらいは大きくなってるのか?
俺の視線に含まれる感情を敏感に感じ取ったのか、妖精娘は誇らしげにない胸をはる。
「私くらいの年でここまで育つスノウフェアリーは稀なんだからね」
「ヘイヘイ、承知しましただよ、お嬢様」
結局、その後、夜更けまでくだらない雑談をしてから俺達ふたりは別れた。
彼女と会話したことでフッきれたのか、俺は翌日隊長に「自分もこのまま国軍に参加する」という意志を伝えた。
──べ、別に、彼女に「たくましい」と褒められたことに気をよくしたからじゃないぞ? ホントなんだからな!
あの雪妖精の娘は、「今後は時々会いに来るからね〜」と言ってたけど、話半分のつもりで「ヘイヘイ」と聞き流してたんだが……。
「ヤッホー、ケイン、今夜も来たよ〜」
……時々どころか、ほとんど毎晩俺の部屋に遊びに来るんでやんの。
無論、俺としても、ちょいとロリ系だが目の保養向きの可愛い女の子と話すのは──たとえ相手に触られないとしても──心癒されるし、大歓迎ではあったが。
「触れられるわよ?」
……は?
「十分に寒くなったし、私も雪妖精として成長したからね。もちろん、私の方からもあなたに触れることができるの」
その白く華奢な手で、彼女はソッと俺の手をとった。
「どう? 私の手、冷たくて気持ちいいでしょ?」
「あ、ああ……」
無論、それもあったが、俺としてはこんな美人で好ましい娘と手を繋ぐなんて初めての体験だ。なにせ、先輩の誘いも断って娼館とかにも行ったことないし。相手が(人間換算で)13歳くらいとは言え、年下好きの俺にはむしろクリティカルヒットしてるし。
しかも、「絵に描いたパン」だと思ってた相手とこうして触れ合えるとなると、結構ヤバいんだが……その、主に俺の理性面で。
「えっと、雪妖精サン?」
「ゲルダ」
「へ?」
「私の名前。ゲルダよ、ケイン」
感謝してよね、妖精が人間に自分の名前を教えるなんて、めったにないことなんだから……そう言って微笑う妖精娘、いやゲルダは、もちろん俺の中でも特別な存在になりつつあった。
65 :
どう妖(中編):2011/08/17(水) 09:04:47.00 ID:GASMjYuj
──もっとも、ヘタレな俺は、結局それから2年間ゲルダとは「ただの仲のいいお友達」の関係でしかなく、2年後の年の暮れ、新年祭を目前にした夜に、ようやく抱擁とキスにまで至ることが出来たんだが。
「女を待たせ過ぎよ。この鈍感♪」
「す、スマン……」
ゲルダとは、一年のうちでも、晩秋から早春にかけての5ヵ月程度しか直接会えなかったが、それ以外の時期も、どういう手段を使ってか月に一度程度の割合で手紙を届けてくれたので、遠距離恋愛している恋人の気分だった。
それがまた俺のヘタレっぷりに拍車をかけ、カタツムリより遅々とした関係の進展だったが、それでも俺達はそれなりに幸せだったのだ。
──そう、あの運命の夜が来るまでは。
---------------------------------
#つづく。次回はH回。お約束な展開なんで、ありがち〜と笑われるかも。
#ゲルダの容姿は、「聖戦ケルベロス」でぐぐってwikiあたりから遠隔・Nの「スノウフェアリー」とか遠隔・Rの「アイスフェアリー」あたりの画像を見てみてください。
乙といわざるをえない
67 :
どう妖(後編):2011/08/21(日) 12:22:18.26 ID:IwDocceK
『どうしようもないオレに天から妖精が舞い降りた』
(後編)
もしかしたら、彼女には、何らかの予感があったのかもしれない。
「今日はあなたに贈り物を届けに来たの。これはあなたを守るためのもの……受け取って」
彼女との再会から3年、想いを通わせてからも、そろそろ1年近くが経つかという霜が立ったばかりの冬の初めに、ゲルダはいつもより厳粛な顔つきで、俺にひと振りの短剣をくれたのだ。
「おろ、なんだ、藪から棒に? こないだやった指輪のお返しのつもりなら気にするこたぁないぞ。アレ、祭りの露店で買ったモンだからそんなに高くはないし、それに、その……」
一瞬言い淀んで視線を宙に彷徨わせる。
「こ、恋人にアクセサリーのひとつ買ってやるくらいの甲斐性は、あるつもりだぞ。こう見えても、一応国軍の正規兵だから相応の給料は貰ってるんだし」
うひぃ〜、こっ恥ずかしいぜ!
「フフッ、う・そ、ね。あれ、本物のアクアマリンなんだから、安月給の兵隊さんには結構したはずよ。でも……ありがと♪」
(ぐわぁ、やっぱバレてるか。まぁ、俺としては、その、なんだ。婚約指輪代わりのつもりだったから、それなりにちゃんとしたモノ渡したかったんだよなぁ)
もちろん、ただの(ゲルダに言わせると「妖眼-グラムサイト-」とかいう特殊能力があるそうだけど)人間の男である俺と、雪妖精の彼女が正式に結ばれることは難しいだろうが、こういうのは心意気の問題だしな!
「でも、今回のコレは、お返しじゃなくてお祝い。昇進おめでとう、小隊長サン♪」
ゲルダの言うとおり、つい先日俺は、ウチの部隊──国軍第八戦士団のおける「小隊長」に任命された。
人間3000と、亜人や妖精、妖魔、竜など人間以外の団員2000あまりから成るウチの戦士団において、「小隊長」というのは20人程度の小隊を指揮する役割を果たす。
普通は、戦場の機微に通じた熟練兵か、国の士官学校を卒業した優秀な毛並みの士官候補生が就く役職で、正直、ベテランと言うには程遠い俺なんかがホイホイ引き受けていい代物じゃあないんだが……。
長引く「大戦」の影響か、人材不足は深刻らしい。俺みたいな凡人にまで指揮権が回ってくるくらいだからなぁ。
もっとも、「第八戦士団」は元々俺達が傭兵団だったころの人材を中核メンバーに構成された部隊だし、傭兵時代の隊長が士団長を務めているおかげで、それほど規律とか礼儀にうるさくないのが救いだ。
68 :
どう妖(後編):2011/08/21(日) 12:22:39.09 ID:IwDocceK
「とは言え、20歳そこそこの若僧が小隊長って言われてもなぁ」
「いいじゃない。ケインは天才じゃないかもしれないけど、任されたことは責任感をもってちゃんとこなす人だし、その点が評価されたんでしょ」
恋人の優しいお言葉が身に染みるねぇ。
「それはさておき、この短剣、結構な貴重品じゃないのか?」
俺の唯一の取り得とも言える「眼」には、半透明の蒼い刀身から立ち上る魔力がハッキリ見てとれる。
「大丈夫。それ、私が作ったの。私の「力」で凍気をしっかり固めておいたから、簡単に溶けるようなことはないわよ。そうね、冬が終わるまでは大丈夫だと思うわ」
「へぇ……」
言われてみれば、確かに刀身は金属でもガラス質でもない、まさに「溶けない氷」とでも言うべきモノで出来てるみたいだ。
「まぁ、俺の得物は長槍だし、ちょうどいいや。いざと言う時のセカンドウェポンとして大事に使わせてもらうよ」
「ええ、戦場に行く時は、肌身離さず持っていてね。もちろん武器としても使えるけど、どちらかと言うとお守りに近いモノだから。魔法──とくに、氷雪系の魔法は無効化し、火炎系の魔法もある程度弱めてくれるはずよ」
「おう、愛しのゲルダだと思って大切にさせてもらうぜ!」
「もうっ、ばか♪」
* * *
渡された時は、気休めというか精神的な絆のひとつとして受け止めていたんだが……まさか、それから半月もしないウチに、「お守り」のお世話になるとは思わなかった。
王都の東の国境付近で、ここ2、3年で最大規模の衝突が起こり、俺達第八戦士団も戦いに参加した。
数的劣勢を覆すべく夜陰に乗じて行われた奇襲自体は成功し、敵の本陣に大きなダメージを与えることは出来たんだが……敵もさるもの。土地勘のない俺達は、敵の執拗な追撃を受けて散り散りに自陣に逃げ帰るハメになった。
幸いにしてウチの小隊は、先導する俺の目が特殊なこともあって、罠や伏兵を見破りつつ、本陣近くまでは、ほぼ無傷で帰って来れたんだが……。
ひとりどうしてもしつこい魔術師がいやがった。
かなりの老齢のクセして、その身ごなしにはまったく隙がなく、ちょっとでも気を抜いたら黒焦げにさせられそうな剣呑な気配を放ってやがる。
傭兵時代からの俺の後輩で副官的な役割を担ってもらってるローランに隊を託し、俺は単身足止めのために残った。
69 :
どう妖(後編):2011/08/21(日) 12:22:58.03 ID:IwDocceK
──言っとくけど犠牲になるつもりとかは全然ないぞ?
ウチの隊は新人が多くて、対魔法戦ではまだほとんど役に立たん足手まといだから、さっさと退場してもらったまで。ローランなら、それなりに頼りになったんだろうが、撤退を指揮する人間もいるしなぁ。
そもそも、「炎は崇高」とか「人も獣も皆燃えれば灰」とか物騒なコト抜かすパイロマニアな爺ぃを、まともに相手する気はサラサラない。
森の地形を利用して、敵の攻撃魔法の直撃をかわしつつ翻弄。ゲルダにもらった氷の短剣も大いに役立ってくれた。
そして、魔力不足かスタミナ切れか、呪文詠唱が途切れた隙に槍を投げ付ける。とっさに相手は杖で防いだものの、その杖がポッキリ折れたため、一転俺に有利な状況となった。
え? 魔術師の杖を壊したらすでに俺の勝ちだろうって?
いや、熟練した魔術師は、杖の助けがなくても、威力と精度は大幅に落ちるが魔法のひとつふたつは使えんこともないらしい。
隊長からもゲルダからもそう聞いてた俺は、杖を切ってからも油断なく短剣を構えつつ緊張を緩めなかった。
警戒する俺の様子に「今は此処まで」と断念したのか、老魔術師は転移魔法(たぶん帰還呪文の札でも持ってたんだろう)で姿を消し、辺りに敵の気配が完全になくなったことを確認して、ようやく俺はひと息つけ……なかった。
なぜなら。
先程の炎術師-フレイムウィザード-との交戦の結果、辺りが半ば山火事みたいな状況になってたからだ。くそぅ、好き放題に燃やしやがって……。
おかげで、俺は脱出できる道を探して、炎の中を彷徨うハメになった。
炎術師の魔手から俺の身を守ってくれたゲルダの短剣は、ここでも役に立ってくれたが、それでもなんとか森を抜ける頃には、俺は全身のあちこちにヒドい火傷を負うハメになった。
(ここまでかぁ、残念無念……)
ガクリと膝をつき、最期を覚悟した俺の脳裏に過るのは、戦友でも故郷の村でもなく、見た目はまだ幼いが、それでも俺にとっては愛しい妖精娘の泣き顔だった。
「バカッ! そんな簡単にあきらめないでよ!!」
──いや、それは幻影ではなく本物だったらしい。
俺の危機を虫の知らせで感じ取ったのか、ゲルダが駆けつけてくれたのだ。
一瞬にしてその場に氷でできたテントのようなシェルターが造られ、俺はその中でゲルダの治療を受けることになったんだが……なにせ、火傷がひどい。
一応、手元にあった治療薬の類いは持って来てくれたんだが、全身の皮膚の半分近くが焼けただれているこの状況では焼け石に水だ。プリーストかせめてヒーラーのような腕のいい治療魔法の使い手でもいない限り絶望的だろう。
とりあえず、ゲルダの冷気魔法で患部に薄い氷の膜を貼って一時的にもたせているらしいが……妖精ならぬ人の身では、そのままだと逆に凍傷で遠からず死に至る。
「はは……いくら寿命が違うとは言え、あと2、30年はお前のそばにいられるつもりでいたんだがなぁ」
70 :
どう妖(後編):2011/08/21(日) 12:23:36.97 ID:IwDocceK
「馬鹿な事言わないで! 死なせるものですか!」
半泣き顔のゲルダは、目じりの涙を拭うと、キッと何かを決意したような顔になった。
「ねぇ、ケイン、私のこと、好き?」
何をこんな状況でとは思ったものの、身近に死神の足音が聞こえているせいか俺は素直に答えた。
「ああ、もちろん。人間も、そうでない者も含めて、俺の知ってるすべての女の子の中で、ゲルダが一番大好きだ」
「そ、そう……ありがと。じゃあ、私とけっこんしても後悔しないかしら?」
(は? 結婚!?)
熱に浮かされた俺の頭にも、その言葉は流石に十分なインパクトを与えたが、よく考えてみれば、全然問題はない。
「それでゲルダと一緒にいられるって言うなら、むしろ望むところだよ」
「もぅ……できればそういう嬉しい台詞はもっと違う状況で聞かせて頂戴」
はは、ソイツぁ無理だ。この切羽詰まった状況だからこそ、こんな気恥ずかしい言葉も照れなく言えるんだから。
「それじゃあ……ケイン、ひとつになりましょう」
そう告げると、ゲルダはその華奢な身体にまとった蒼いドレスをサラリと脱ぎ捨てた。
──って、待て待て! 確かに、結婚した男女が身体を重ねるのは至極当然の話だが、モノには順番というものがだなぁ……。
「し、仕方ないでしょ。妖精族に伝わるけっこんの儀式には男女の交わりが不可欠なんだから」
ゲルダによると、彼女と結婚することで俺にも疑似的に「雪妖精の眷属」という資格が生まれ、「冷凍系魔法で傷つかない」という特性ができるらしい。
また、雪妖精にとっては、ただの氷ですら傷ついた身体への治療薬の代わりになるので、その方面の効果も期待できるとのこと。
そ、そういうことなら……いただいちゃってもいーのかな?
薄絹のドレスを脱いだゲルダの裸身はとても綺麗だったが、それでも未成熟な印象は禁じえない。
普段の予想(というか妄想?)通りにペッタンコな……けれど、初めて会った頃から比べれば多少のふくらみを見せている胸。
そのささやかな変化は、今後に歳月をかければ、三国一の美女として知られるかのルーウェリン女王の如く、豊かな隆起へと成長してくれるのではという期待を抱かせてくれる。
「ちょっと! こういう時に他の女性のことを考えるのはマナー違反よ?」
おっと、こりゃ失礼。
仰向けになったままの俺は、俺にまたがるゲルダの胸にソッと手を伸ばし、やさしく揉みほぐす。
71 :
どう妖(後編):2011/08/21(日) 12:24:23.57 ID:IwDocceK
「んっ……」
ゲルダの鼻から、今まで聞いたことのないような喘ぎが漏れる。
(ちっちゃくても……女なんだなぁ)
頭では分かっていたつもりでいたことを目の前で改めて再確認して、俺はあり得ないくらいに興奮していた。
いや、もしかしたら「死」に瀕した身体が本能的に子孫を残そうと奮起しているのかもしれない。
「うそ……想像してたのより、ずっとおっきぃ…………」
ゲルダが息を飲む。男にとっては嬉しい台詞だが、俺のはせいぜい人並み。まぁ、妖精族とは体格が違うからな。
「それとゲルダ……「想像」、してたんだ?」
ニヤリと人の悪い笑みを浮かべて見せると、ゲルダは顔を赤くして目をそむけた。
「わ、悪いかしら? 私だって女ですもの。恋人の男性と……その、結ばれることを想像くらいするわよ!」
やや逆切れ気味にそう宣言すると、彼女は露わになった自分の股間(どうやら雪妖精は「はいてない」らしい)の蜜壺に手をあてがい、浅く指を差し込む。
幸か不幸か、彼女も結構興奮していたらしく、ヌチャヌチャと湿った音が狭いシェルター内に響く。
人間ならせいぜい13歳くらいにしか見えない無垢な美少女(しかも自分にとって「最愛」と呼ぶべき女性!)が、自らの上にまたがって自慰をしているという光景に、俺の股間のバスタードソード……は言い過ぎかショートソードは、さらなる膨張を遂げんとする。
けれど俺は懸命に自制するよう努めた。間違いなく、その儀式とやらで、俺の逸物はゲルダの未成熟な女性器を貫くことになるのだろう。そうなった時、おそらくは初めてであろう彼女の苦痛を少しでも和らげるためには、あまり大きく堅くし過ぎるのは考えものだ。
そんな俺の考えを読みとったのか、ゲルダは潤んだ目で微笑む。
「そんなの気にしなくていいのに。でも……ありがとう」
彼女は、そのまま一瞬腰を浮かし……俺の陽根の上へと腰を下ろす。
ニュルリという感触とともに、俺の亀頭部が柔らかいモノに包まれる感触があった。
「はぐっ……」
妄想してたのの何倍も気持ちいい感触に、こんな事態なのに頬が緩んでてしまう俺とは対照的に、目の前のゲルダの顔は苦悶の表情を浮かべている。
「お、おい、あまり無理するなよ?」
「心配して、くれるのね。でも、だいじょう、ぶ」
一瞬嬉しそうな表情になったゲルダだったが、自らの体重によって腰が落ち、俺の剛直がグググとその柔襞へと割り入っていくにつれて眉を寄せる。
「ひンッ……」
半ばゲルダの胎内に呑み込まれたイチモツの先端部が何かに行く手を阻まれているのがわかる。
(これって……アレだよなぁ)
女性の純潔の証。
長寿な妖精とは言え、生きて来た年月は自分とさして変わらず(それでも、2歳程年長ではあるが)、これが初恋だと聞いてはいたから、そうだろうとは思っていたが、いざ自分がそれを突き破るとなると、少なからず躊躇してしまう。
「っ……っっ、くっ……つ、つづけて、ケイン……変に長引かせるほうが……つらい、から」
72 :
どう妖(後編):2011/08/21(日) 12:24:45.59 ID:IwDocceK
けれど、目じりに涙を浮かべつつ懇願する愛しい恋人の懇願に男が逆らえるだろうか、いや、逆らえまい!(反語)
意を決して俺は、下から腰を突き上げる。
その瞬間、ブツッと彼女の膣内の何かを突き破る感触がして、彼女が息を飲んで絶叫を堪えるのがわかった。
騎乗位の姿勢の彼女の背に、これまで数回しか見せてもらったことのない、透明な水色の翅翼(はね)が六枚現れる。おそらく、ソレを気にしている余裕もなくなったのだろう。
世界中で一番愛しくて、大事にしたい相手を、よりによって自らの手で泣かせている。
なにものにも代え難く、神聖で純粋な女の子を、自分の欲棒が汚している。
そんな罪悪感と倒錯した興奮のせいで、いまにもイッてしまいそうだが、俺は懸命に耐えた。恋人が激痛を堪えて自分のために尽くしてくれていると言うのに、ココで醜態を晒すわけにはいかない!
と気負ってはみたものの、俺もついさっきまで正真正銘の童貞野郎だったのだ。限界が訪れたのもそう遠くはないだろう。
「げる、だ………ゲルダ、ゲルダぁ!」
彼女の名前を呼びながら、細心の注意を払って腰を動かすことしかできない。そもそも
「ひうン! ぐぅ……あぁっ……け、いん」
痛みに耐えつつ、それでも多少は慣れたのか、ゲルダの声に心なしか甘い響きが混ざり始めた頃、唐突に限界が訪れた。
「ゲルダ……すまん……出るッ」
「いい、わ……そのまま……」
彼女の言葉を聞くか否かというタイミングで、俺の肉棒が膨張し、そのまま子種を噴出する。
「あぁ……あつぅい……」
ドクンドクンと彼女の未成熟な胎内に精液を吐き出し続ける俺に、ゲルダが唇を重ねてきた。
その瞬間、スウッと意識が遠くなり……不甲斐ないことに俺は昏倒してしまった。
* * *
73 :
どう妖(後編):2011/08/21(日) 12:25:09.85 ID:IwDocceK
コトが一段落したあとで聞いたところ、俺が「結婚」だと思っていたのは、どうやら「結魂」の間違いだったらしい。
結婚も「二世の契り」なんて呼び方をすることもあるが、「結魂」はまさにその上を行く深い繋がり。なにせ、魂と魂の一部を結び付け、離れないようにするのだから。
その副作用によって、俺は彼女と文字通り「生命」を共有することとなった。
簡単に言うと、俺とゲルダの寿命が平均化されたのだ。800年近く生きるはずだった彼女は、その半分足らずしか生きられなくなってしまった。たとえて言うなら80歳まで生きる長寿の家系の人が「貴方は40歳くらいで死にます」と宣告されたようなモノだ。
「本当に良かったのか、ゲルダ?」
「いいのよ。私ね、ずっと思ってたの。もし私がニンゲンだったなら、あなたとずっと一緒にいられるのに、って。だから、全然後悔はしてない。
ケインこそ、いいの? そんなに長く生きてると、普通の人間として過ごすのは、きっと難しいわよ」
確かに、おとぎ話とかでも、不死や不老長寿を手に入れた人間は、発狂したり迫害されたり大概悲惨な末路をたどっている。けれど……。
「ああ、お前が共にいてくれるなら、大丈夫だ」
俺はひとりじゃない。この可愛らしく、ちょっと我がままでやきもち焼きだけど、誰よりも愛しい「妻」がそばにいてくれるなら、どんな時だって楽しく暮らせるに違いない。
「愛してるよ、ゲルダ」
「! うれしい……私もよ、ケイン」
そうして、俺達は改めて誓いのキスを交わしたのだった。
……と、ココで終われば綺麗なハッピーエンドなんだが。
「ほほぅ、人がわざわざ助けに来てやれば、ちゃっかり女とイチャついてるとは……なかなか隅におけんな、ケイン」
「げぇっ、士団長ぉ〜!?」
「小隊長ってロリコンだったんだ……」
「ち、違う、ちっちゃい子が好きなんじゃない! 好きになった娘がたまたまちっちゃかっただけだ!」
「も、もしかして、私、他の人にも見られてるの!? きゃあーーー!」
どうやら無事本陣にたどり着いたローランが、救援をよこしてくれた……のはいいとして、何故、アナスン戦士団長御大が来られるのでせう? ていうか、何だよ、このカオス!?
74 :
どう妖(後編):2011/08/21(日) 12:25:28.94 ID:IwDocceK
ともあれ、俺はそのまま本陣に帰還。ゲルダも俺と結婚した影響で普通の人間にも見えるようになってしまった(そして実体化を解く能力を失った)ので、同じく客分として本陣へ。
結局その戦いは俺達の国が勝利する形で幕を閉じ、比較的我が国に有利な形で10年間の休戦条約が結ばれることになった。
しばらく大きな戦いがないと踏んだ俺は、上層部に転属願いを出して、いまの職にありついた……ってワケだ。
辺境警備隊は、3〜4年で転任するから、俺達夫婦が歳食わなくても不審に思われないからな。
そういや、そろそろ此処も……。
「ケイン、王都から手紙が来てたわよー」
お、噂をすれば……どれどれ。「辺境警備隊隊長職ケイン・ニーゲン。以下の地への転任を命ずる。新しい赴任地、ルミクニガータ」……って、どこだ、ここ?」
「あ、それ、私の故郷ね」
は?
「北方の辺境で、人間はかなり少ないかな。代わりに私達雪妖精とか雪狼(フエンリル)が住む里が近くにあるの。ちょあうどいいから里帰りして来ようかしら」
実は、俺とゲルダは、当時の部隊のみんなの好意で王都で人間流儀の結婚式を挙げたんだが、彼女の実家──雪妖精の家族の方には、事後報告だけで、未だ直接顔を出したことがなかったりする。
ゲルダいわく、彼女は雪妖精の王族……に代々使える侍女の家柄で、母親が現女官長、いちばん上の姉も女王に仕えているという、結構な名門らしい。
そんな嫁の実家に、駆け落ち同然で一緒になった旦那(ほぼ無位無官)が顔を出すって……どーいう罰ゲームだよ!?
「まぁまぁ、ここは覚悟を決めて、「娘さんを僕が美味しくいただきました!」って頭さげるトコロだと思うよ?」
その文章はおかしいだろ!? つーか、そんな事言ったら氷漬けにされるぞ!!
-おわり-
────────────
以上。エロくなくてごめんなさい。やっぱり不調ですね。
ラブラブしかったのでヨロシ。GJっ
これはゾンビですか?
はい、俺の嫁です。
……というフレーズが唐突に浮かんだ。
お盆に魂だけじゃなく、体ごと帰ってきちゃうけなげなゾンビ嫁の話、
誰か書いてくれないかなぁ。
教会のカネが鳴り お茶の時間を知らせる午後
確かに死んだはずのあの男が帰ってきたぜ
村中が大騒ぎさ 犬もネコも腰抜かし
男は気にもせず 一直線に恋人の家へ
ラーララ ララ ラブ・ゾンビ ラブ・ゾンビ
ラーララ ララ ラブ・ゾンビ ラブ
「オレはもう一度、この腕で抱き締めるために
地獄から蘇ったぜ 何か文句があるかよ?」
「全然ないわ、あたしあなたに抱かれるために
生まれて来たんだから もうどうってことないわ」
死者と生ける者が 今、恋の下にひとつ
ラーララ ララ ラブ・ゾンビ ラブ・ゾンビ
ラーララ ララ ラブ・ゾンビ ラブ・ゾンビ
ラーララ ララ ラブ・ゾンビ ラブ・ゾンビ
ラーララ ララ ラブ・ゾンビ ラブ
「オレはもう一度 君の背中にくちづけるために
地獄からはいあがったぜ 何か問題あるかよ?」
「全然ないわ、あたしあなたを暖めるために
生まれて来たんだから まるでノープロブレムなの」
村の長老はいたく感動 ふたりを祝した
「今宵はみなよ 騒ごう、酒を酌み交わすのじゃ!」
人も死者も犬もネコも躍り明かしたぜ!
JASRACの方から来ました
ある漫画に出てきた八重歯の花の精に萌えた
やはり人外はいいな
美少女ゾンビなんだけど、生肉じゃなくて男の精で身体を維持……とかはアリかな?
ビジュアルイメージ的に、サキュバスかバンパイアっぽくなっちゃうけど。
「●●(←ヒロインの名前)を二度死なすわけにはいかねぇ!」
と、大義名分を得て毎日ハッスルする恋人とか(しかも絶倫。おかげで、ゾンビなのにお肌艶々)。
それはそれで幸せな日々という気がしないでもない。
あるいは牡丹灯篭みたいな幽霊娘だけど、恋人の精で実体(エクトプラズム)化、触るとちゃんと触感とか性感があるとか。
「ねぇ、ちょっと、マーくん頼まれてくんない?」
幼馴染であり、半年ほど前から一応恋人関係にもある同級生の奈美から頼まれたのは、俺達共通の友人、義雄の様子を見て来ること。
「アイツ、最近ちょっと変だと思わない?」
「いや、そりゃ、あんなコトがあったんだし、ヘンにもなるだろ」
「あんなコト」というのは……実は、十日程前に義雄の彼女の由梨が交通事故で亡くなったのだ。
酔っ払い運転のクルマに跳ね飛ばされてガードレールにブチ当たったのだと言う。
体自体は軽度の擦過傷で済んだが、問題は頭で、打ちどころが悪かったらしく、意識不明を経てその日の夜に帰らぬ人となった。
由梨の両親はもちろん、義雄の落ち込み具合もハンパじゃなかった。
(アイツ、由梨ちゃんにベタ惚れだったからなぁ)
元々由梨は奈美の中学時代からの親友で、気の強いが少々ガサツな由梨と、内気だが気配りのできる由梨は、非常によいコンビだった。
で、幼馴染ということで奈美と一緒にいる機会の多かった俺達ふたりも自然と由梨と面識ができ、そうこうしている内に、カタブツ眼鏡と綽名される義雄が、何をトチ狂ったのか屋上で由梨に告白。
彼女も恥ずかしがりながらコクンと頷き、それを受け入れたのだ。
(なんでそんなに詳しく知ってるかと言えば、奈美とふたりでコッソリ影から見守ってたから。ソコ、覗きとか言うな!)
で、微笑ましいでラブラブカップルを間近で見てるうちに、アテられた俺達も気が付いたらくっついてた……ってワケだ。
まぁ、それはさておき。
そんな熱愛中の彼女を喪った義雄の嘆きは尋常じゃなかった。彼女の親友だった奈美はもちろん、男の中では義雄の次に仲の良かった俺も少なからずショックは受けてたが、それも義雄の落ち込みの比じゃない。
俺たちは代わる代わる義雄を慰め、励まし、何とか由梨お葬式に連れ出したまではいいんだが……不思議なことに、霊柩車で火葬場に運ばれたお棺から由梨の遺体が消えていたのだ!
当然「すわ、死体泥棒か!?」と大騒ぎになった。フランケンシュタイン博士の犯行説だの、由梨キョンシー化説だの、色々噂されたが、現在も由梨の死体の行方は不明。
警察も懸命に捜査を進めているみたいなんだが……いまだ目立った進展はないらしい。
そんなこんなで、義雄のヤツもすっかりマイってる……と思いきや、由梨の葬式の翌々日には、ごく普通に登校して来やがったんだ。
アイツの由梨への傾倒ぶりを知ってる俺達は、流石に不審を覚えたんだが、義雄いわく「僕がちゃんと学校に通わないと、由梨に怒られるから」とのこと。
いかにも義理がたい義雄らしい言い草だし、同時にあの真面目な由梨なら、確かにそんなことを言って義雄を叱責しそうだ。
それに、確かに義雄はまだ本調子ではないらしく、あの秀才眼鏡のヤツが授業中にボーッと居眠りしたり、休み時間もなんだかダルそうにしている。放課後も、俺達の誘いに乗らず真っ直ぐ家に帰っちまうし。
まぁ、こればかりは時間が心の傷を癒してくれるのを待つしかないよなぁ、と俺は「理解ある友人」としてのスタンスを保っていたんだが、俺より短気な奈美の方が、どうやら焦れたらしい。
ま、そろそろ俺もアイツに喝入れてやろうかと思ってたし、ちょうどいいか。
と言うわけで、放課後、奈美と別れて義雄の部屋に俺は足運んだ。
言い忘れていたが、義雄は高校の近くのアパートにひとり暮らししてる。1年の頃に実家が隣りの市に引っ越して、通学が大変になったからだ。
ソレ(ひとり暮らし)もあって、「男の子ならではの気晴らし(本とかビデオとか)させてあげなさいよ」というのが、奈美の意向なのだろう。
男の欲求に理解がある女性というのは大変希少で喜ばしいことなんだろうが、現在進行形の恋人としては、もうちっと恥じらいというモノを持ってほしい気もする。これは、兄ふたり弟ひとりという家庭環境に起因するのかもしれんが。
外見に関しては、少なくとも顔は(彼氏の贔屓目抜きにしても)十分「美少女」の範疇に入るんだがなぁ──まぁ、胸はあんまりないけど。
「胸なんて飾りですよ! エロい男(ひと)にはソレがわからんのです!」とプンスカ怒る脳内彼女をなだめつつ、俺は義雄の部屋のブザーを鳴らした。
…………鳴らねぇ。壊れてんのか?
何気なくドアノブに手をかけたところ、あっさりドアが開いたまではよかったんだが……。
「あ゙っ……ま゙は ろ う ん゙!?」
「な、真人!? ……って、い、イタタタッ!」
神様(ゴッド)、玄関先で、親友(ツレ)が、死んだはずの彼女に口淫(フェラ)させてるのを目の当たりにした時、俺はどんな顔すればいいんでしょうか?
脳内で奈美が「笑えばいいと思うよ」とツッコむのを感じつつ、俺は茫然と立ち尽くすのだった。
#というワケで80ネタを文章化してみました。
●阿久津真人:語り手。一見不良っぽいが、実は情に厚い。ツッコミ&ボケ。
●中原奈美:真人の彼女で、他のふたりとも友人。気風のいい姐御肌で物怖じしないタイプ。ちょっぴり胸が薄いのを気にしている。
●天楼義雄:真人達の幼馴染。品行方正な優等生だが、真人いわく「ムッツリメガネ」。真人達とのつきあいのせいか、意外と融通はきく。
●富士野由梨:義雄の彼女で真人達の友人。真面目で内気だが、思い詰めると暴走するタイプ。かなりのきょにぅさん。
#ちなみに、名前の発想元は芸がないけど、「真女神転生」の主人公たち(主人公を女性にしちゃってますが)。あのゲームの某イベントを想起してます。
このスレも寿命か・・・
なんか似たような別スレできてるしな
どんなスレだ?
87は人外男×人間女なイメージがあるのな。
テンプレ的には逆も可能なんだろうけど。
>>87のスレはもともと人外男×人間女のスレとして立った筈。
以前書かれた幸運の条件のハッピーエンド版と、とある人魚の話の続きが読みたい。
絶望した!
PCの「プリンセスX」に絶望した!!
てぐす御前(クモ女)とかR-コマドリ(アンドロイド)が
攻略できないなんて、どんな嫌がらせだよ……。
そのふたり目当てで購入するつもりだった私の
ピュアな人外萌え心を返せよぅ!
こうなったら、御前っぽいクモ女タンとラブラブ
ちゅっちゅする話を、自分で書くしかないのか
ダークソウルで蜘蛛姫様の従者になれた
貢献度では廃人たちには叶わないけど、ちょっとでも姫様のために頑張るよ!
94 :
92:2011/10/05(水) 14:38:58.94 ID:cdSn2IKi
なぬ!
そんな御褒美があるとは……。
やはり「ダークソウル」、ヤらねばならぬようだな
ダクソの蜘蛛姫様かわいいけど、素直に萌えられないなぁ
主人公が姫様の姉ぶっ殺したのに、目が見えないから主人公のことを姉と勘違いして心配かけてくれたりするのは心が痛い
人間の欲望から産み出されたキマイラの女の子
研究所時代は逆らえば激しい陵辱・拷問
研究所から脱走し正体を隠し人間の女の子として暮らしていた時期はハンターに追われたり人身売買組織に捕まって調教されたり
そんなこんなで数千年後。現代にて大好きな人に出会って幸福な毎日
100近くまで来て、SSが実質2作というのはニンともカンとも……
一ノ葉
ルク
シロ
結構かぶってるスレもあるからのう
100 :
名無しさん@ピンキー:2011/10/18(火) 02:53:07.33 ID:VWdmc7BL
101 :
名無しさん@ピンキー:2011/10/30(日) 00:20:25.50 ID:D9L4zDyb
シーキューブは今期最高の九十九神アニメ
グロイけど
以前こちらに「聖戦ケルベロス」由来の雪妖精の話を投下した者ですが、
同じ作品をベースにした、キキーモラの話をこちらに投下しても
問題ないですかね?
キキーモラと言っても、拙作の場合は獣頭の幻獣ではなく、
某ぷよとかにも出ていた箒持ったたエターナルロリータの方で
むしろシルキーとかブラウニーに近い家つき妖精的なイメージ
なのですが……。当然、外見的な人外度も低め。
(ぶっちゃけ「聖戦」でのピュアメイディあたりのイメージ)
>103
カモーン
俺は待ってるぜ
カモーン
本屋で「人魚の愛しかた 愛されかた」って漫画を見つけてビビッときたので買ってみた。
コレは大変いい、人外少女との恋愛物
「瀬戸の花嫁」からギャグ成分抜いて、ほのぼのとラブを足したような内容なので
このスレの住人にはオススメかも
#久しぶりの投下なんで、少々文章がぎこちないですがご容赦を。
『つくしんぼ通信〜彼女はキキーモラ〜』
『えっと、今日から私がご主人様のお世話をさせていただくことになりました。頑張ってご奉仕しますね!』
そう言って目の前の女の子が、ホニャッとした表情で微笑む。
『えっと……こ、こちらこそよろしく。それと、「ご主人様」ってのは止めてくれないかなぁ』
貴族でも富裕な商人の出でもない、それどころか1年くらいまでは、爪に火を灯すような暮らしをしていた身としては、そういう呼ばれ方は正直非常に居心地が悪い。
『では、何とお呼びすれば? 「旦那様」ですか?』
ちょっと困ったような顔で尋ねてくる彼女に、確か何と答えたんだっけなぁ……。
……
…………
………………
「…ゃん、朝ですよ? そろそろ起きてくださーい! 坊ちゃん!!」
聞き慣れた声が自分を呼ぶ声に、布団の中に縮こまっていた青年はゆっくりと目を開ける。
「うぅっ、ねむい、さむい、あたまいたい……」
ブツクサ言いながらも、渋々身を起こすその上半身は裸だったが、その姿を目にしても彼を起こしに来た女性──と言うより「少女」と言う方が似合う年頃の銀髪の娘はまったく動じない。
「お酒に弱いくせに、あんなに酔っぱらうからですよ。朝食の用意は出来ておりますから、さっさと着替えて、ご飯が冷める前に召し上がってくださいね」
「なんでしたらお召替えも手伝いましょうか?」と聞かれた青年は、フルフルと首を横に振る。
実は以前茶目っけを起こして「じゃあ手伝ってもらおうかな」とやってもらったものの、相手は顔色ひとつ変えず、かえって自分の方が羞恥心に身悶えするハメになったのだ。
──バタン
優雅に一礼して主の寝室を出て行くエプロンドレス姿の少女をベッドの上からボヘ〜っと見送った青年は、扉が閉まると、まだ覚醒しきらない心身に喝を入れつつ、寝台から降りた。
「う〜、ったく。今日はたまの休みなんだから、朝寝坊くらいさせてくれてもいいのになぁ」
勤勉な(もしくは勤勉過ぎる)自らのメイドに愚痴をこぼす青年の姿は、意外に幼く見えた。その長身と浅黒く日焼けした肌、がっしりした体つきのせいでやや年かさに見えるが、存外先程のメイド少女と大差ない年頃なのかもしれない。
また、何だかんだ言いつつ、少女がせっかく作ってくれた朝食を無駄にせぬよう、手早く着替えるあたりが、彼の人の良さを物語っている。
麻の袖なし肌着の上に深い藍色に染められた丈夫なコットン製の胴着(ダブレット)と同色のキュロットパンツを着用し、黒灰色のソフトレザーブーツを履いたその姿は、盗賊か非番の兵士かといった趣きだ。実際、青年は後者に該当していた。
「おはよ〜」
先程のやりとりの際にも朝の挨拶を交わしていなかったことに思い至った彼が、そう言いながらダイニングに姿を見せると、メイド娘はニッコリと輝くような笑みを浮かべた。
「はいっ、おはようございます、坊ちゃん♪」
その爽やかで愛らしい表情に、不覚にも一瞬見惚れかけたのを誤魔化すように、青年は目を伏せてやや乱暴にテーブルにつく。
「ン、んっ! 今朝のメニューは……あれ、オートミールのお粥?」
「はい。二日酔いの坊ちゃんには胃に優しいものの方がよろしいかと思いまして。
──もしお嫌なら、すぐ作り直しますが」
と、そこでほんの少し上目遣いになって此方を窺う仕草は、正直「ズルい!」と思う青年。
(そんな表情されたら、文句なんて言えるわけないじゃないか!)
「……いや、確かにあんまり食欲はないから、コレで十分だよ」
とは言え、そのまま素直に認めるのはシャクだったので、一言付け足す。
「ピュティアの作る料理は何でも美味しいから問題ないだろうし、ね」
「な……!?」
思いがけない称賛の言葉を聞いて、耳まで赤面するメイド娘。
「──坊ちゃんも随分お人が悪くなられましたね」
平静を装ってはいるが、並みの人間よりいくぶん尖った耳朶がピクピク動いているので、感情の動きが丸分かりだ。
「なに、ピュティアの家事の技量の進歩具合には及ばないと思うよ」
「!!」
何食わぬ顔でお粥をスプーンでかき回しつつ、追い打ちをかける青年なのだった。
* * *
出会って数年経った今でこそ、傍から見て、のんきな若旦那とそれに仕えるよく出来たメイド然とした関係に落ち着いているふたりだが、初めて会った時は、お互いまさかこんな関係を構築するとは夢にも思っていなかった。
当時、青年──ジェイムズの方は、とある辺境の村の「警備隊」(というよりは自警団に近い組織)に所属して、都から来た隊長にビシバシしごかれていた16歳の少年だった。
流行り病で両親を無くし、オンボロ一軒家と猫の額ほどの土地しか親から受け継がなかったジェイムズは、畑仕事だけで食べていくのは厳しいため、なけなしの畑は隣家に貸出し、代わりに村に割り当てられた兵役を担当することで糊口を凌ぐことにしたのだ。
運がいいのか悪いのか、彼が警備隊に入ったその年から新任の隊長が赴任して来たのだが、その隊長が意外に職務熱心なタチで、警備のかたわらジェイムズ他数名の「なんちゃって兵隊」達を容赦なくビシバシ鍛え上げた。
まだ若い(おそらくは20代初めか?)隊長の訓練はなかなか巧みで、各人の個性に応じた武器の取り扱いをキチンと指導してくれた。
当初は「こんなド田舎でそんなに気負わなくても」とブツクサ言っていた隊員達も、戦いに関する技術が目に見えて向上し、以前は大きな街の冒険者や国の討伐隊に任せるしかなかったモンスターや野盗に自分達で対処できるとなると、評価やムードが一変する。
ジェームズの場合はとくにそれが顕著で、自分でも意外に思えるほど剣の力量が上達し、1年後には隊長から4本に1本は取れる程にまでなっていた(もっとも、隊長の本来の得物は槍で、長剣の扱いはほんのたしなみ程度だと後で知って愕然とするのだが)。
それは、夏が終わり、秋の訪れとともに森の木の葉が少しずつ色づき始めた季節。
警備隊の通常任務である村の周辺の見回りに出かけたジェームズは、何も異状がないことを確認して、そろそろ村に戻ろうとしたところ、村の入り口付近に倒れている少女を発見する。
「え? あ、あれ!?」
彼女は、年頃の娘としてはいささかはしたなく、両手両足をだらしなく投げだした姿勢で、道端にうつ伏せにぐんにゃりのびていた。コバルトブルーの半袖ワンピースを着て、陽光に煌めく銀色の長い髪をしたその姿は否応なく目立つはずなのだが……。
場所柄それなりの人通りはあるのに、奇妙なことに誰もその少女の存在を気にしていないようだった。
この村は格別よそ者に冷たいというわけでもないし、むしろどちらかと言うとお人好しが多いので、生きているにせよ死んでるにせよ、若い娘が行き倒れていたら誰かが即座に集会所にでも運び込みそうなものなのだが……。
「おーい、そこの君、生きてますかー?」
一応、「村の治安維持を守る」役目を背負う警備隊に所属している以上、見過ごすわけにもいかず、仕方なく近寄ってその安否を確かめると、少女はノロノロと顔を上げた。どうやら、まだ命はあるようだ。
「お……」
「お?」
「お腹、空いた、です……」
か細い声で一言言い残して、そのままガクリと意識を失うその姿に慌てるジェイムズ。
「お、おい、ちょっとォ!?」
こうなっては是非もない。
なるべくヘンな所に触らないよう注意しつつ、少女の身体を抱きかかえると、ジェイムズは急いで警備隊の詰め所へと向かったのだった。
運が良いことに、詰め所には少年が信頼する隊長が食後のお茶(ちょうど昼飯時だった)を飲みつつ、何がしかの書類に目を通していた。
「ん? どうした、ジェイムズ……って、変わったお客さん連れてるな。お前さんのコレか?」
いわゆる「お姫様抱っこ」の体勢で少女を運んで来た部下を、おもしろそうな表情で眺める隊長。
「ち、違いますよ! 村の入り口で倒れてたんです。どうも空腹で目が回ってるんじゃないかと思うんですけど……」
少女を詰所の長椅子にそっと横たえつつ、慌ててジェイムズは弁解する。
「なるほどな。ちょっと待ってろ。ウチに行って何か食べる物もらって来てやる。いや、女手がある方がいいかもしれんし、この際、ゲルダもいっしょに連れて来るかな。
お前さんは、ここでその子を見ていてやれ」
気軽に立ち上がった隊長は、詰所を出ると、すぐ裏手にある自宅の方へと早足で歩き出す。
程なく、隊長は蓋の隙間から湯気の漏れ出る鍋を手に、いくつかパンの入ったバスケットを提げた女性と共に戻って来た。
「どうだ、お嬢さんの様子は?」
「あ、いえ、特に変わりは……」
少女は意識を失ったままだが、緩やかに胸が上下しているので息があることは確かだ。
「ふむ……で、どうだ、ゲルダ? やっぱりその娘はアレか?」
鍋をテーブルに置いてから、傍らの蒼髪の女性の方に振り返る隊長。
「ええ、ケインの予想通りよ。その子は間違いなく妖精ね」
「ゲルダ」と呼ばれた若い女性──隊長の妻はトンデモないことを言いだした。
普通なら失笑するところだが、ジェイムズは、自分と大差ない年頃の美少女に見えるこの女性が、実は隊長よりふたつ年上の姉さん女房で、かつ優れた氷雪系魔法の使い手だと知っている。
同時に、モンスターや亜人などに関する知識が豊富なことも。
「へ!? 冗談……じゃないんですよね、ゲルダさん?」
とは言え、妖精に関する通俗的なイメージ(羽の生えた小人)と知識しか持っていないジェイムズは、思わず聞き返してしまう。
「もちろん。ジェイムズくんには、一見人間と変わりない姿に見えてるのかもしれないけど、そういう種族の妖精も少なくないわ。
その証拠に、キミが見つけるまで村の誰もこの子に気づかなかったんじゃない?」
確かに彼女の言う通りだった。
「だったら何で僕には……」
彼女が見えたのかと尋ねようとしたところで、隊長がその答えをくれた。
「ジェイムズ、お前さん、どうやら自分では気づいてなかったようだが、妖眼(グラムサイト)を持ってるみたいだな」
-つづく-
-----------------------------------------
#リハビリ込みで短めですが、とりあえずここまで。次回は、ピュティアと主人公の馴れ染め&イチャラブ、その次に待望のHシーンが入って完結する予定です。
続きwktk
おお、氷妖精のあのひとか。期待wktk
自分のIDが二ヶ月と八時間って・・・不吉なかほり
>>107 買ってみた
『瀬戸の花嫁』というよりも山名沢湖に須藤真澄的なファンタジー描かせたような感じだった
人外要素がやや薄く、オチにも若干の不満があるが、ほのぼのラブとしてはなかなかよかった
とらよ、上下巻両方に同じ特典カード入れるのはどうかと思うよ…
大神の恩返しの続編まあああああああだあああああああああああ
>116
なんかいろいろスマヌ。
とりあえず、「つくしんぼ」の続きを明日あたりにあげて、
そちらが終わったらセレブなマミーの話書いて、
その次くらいに時間が出来たら書こうかと。
あ、いや、美少女になった猫又♂の話の続きが先かも。
+ 。 * ワクワクテカテカ +
ツヤツヤ ∧_∧ +
+ _(u☆∀☆) ギトギトヌルヌル
⊂ (0゚ ∪ ∪。⊃ +
⊂ ゚̄ と_u _)__)゚  ̄⊃ + ワクワクキラキラ
⊂_。+ ゚+_⊃
⊂__⊃. + * + ワクテカ +
#今回、説明多めなので、長文嫌いな人は、とばしちゃってください。多分次回の後編を直接読んでも繋がると思います。
『つくしんぼ通信〜彼女はキキーモラ〜』(中編)
「やっぱ信じられないよなぁ……」
「妖精」を拾った日の午後、辺境警備隊に所属する少年ジェイムズは隊長の指令を受けて村の北側の森の見回りに出かけていた。
本来この時間の巡回は隊長の当番なのだが、例の妖精娘への対応その他で慌ただしかったので、ジェイムズが自ら申し出て担当を代わったのだ。
「百歩譲って、あの子が妖精だってのは、まぁいいよ。村の入り口で放置されてたことや、僕が抱きかかえてるのに誰も気にも留めなかったことから、納得できないでもないし」
手慣れた動作で森の木々のあいだを抜けながら、僅かに踏み固められた獣道を少年は周囲に気を配りつつゆっくりと歩く。
「でも、この僕にそんな特殊な能力があるって言われてもねぇ」
──ジェイムズ、お前さん、どうやら自分では気づいてなかったようだが、妖眼(グラムサイト)を持ってるみたいだな
ケイン隊長に言われた言葉が脳裏に甦る。
「妖眼」、あるいは「妖精眼」と呼ばれるそれは、数万人にひとりの割合で人が持つ異能のひとつだ。
その名の通り、普通の人間には不可視なはずの妖精や亡霊の類いが見えることに始まり、十全に使いこなせる人間ともなると魔力の痕跡や残留思念なども「視る」ことができ、戦闘その他でも何かと重宝する能力──らしい。
実は隊長自身も妖眼持ちで、かつて傭兵だった頃はいろいろとその力に助けられたのだと言う。
「とは言え、基本的には「見える」だけだからな。それ単体で出来ることは限られてる。活かすも殺すも自分次第ってワケだ」
「はぁ、なるほど……」
隊長の説明を何とか理解しようと努めるジェイムズだったが、その場にいたもうひとりの人物──隊長の妻であるゲルダがさらに説明を付け加える。
「グラムサイト自体の力はそんなところだけどね。妖眼持ちの人間は、えてして精霊同調率が高いのよ」
「精霊同調率、ですか?」
「簡単に言うと「魔力を持つ存在に干渉されやすく、自分も干渉しやすい」ってところかしら」
全然簡単ではなかった。
「戦いに関して言えば、要するに普通の人間や獣じゃない、魔物や幽霊の類いにも、お前さんの攻撃が素直に効くってこった」
言われてみれば、確かに思い当たるフシはあった。
ケイン隊長が赴任して以来何度か実施された討伐任務で遭遇した魔物に、武器扱いの技量が同程度のはずの同僚と比べて、彼の方が大きなダメージを与えていた気がする。
「ただし、同時にお前さんの気配も、そういう奴らに察知されやすいがな」
「それって、メリットよりデメリットの方が大きい気がするんですけど!?」
「まぁ、そう言うな。敵襲(それ)を視認するための妖眼じゃねぇか」
卵が先か鶏が先かの不毛な議論な気がした。
自分がそういう異能を持っているのは事実らしいから、これは仕方ない。それを踏まえたうえで、この力とどうつきあっていくかを考えるべきなのだろう。
(隊長が妖眼持ちの先輩として色々教えてくれるって言うのは幸いだったけど……)
もし、隊長やゲルダのようなそれに対する理解と知識がある人間がいなければ、自分は潰れてしまっていたかもしれない。それを考えれば、彼らがいる時に判明したのは、むしろ幸運だったと言えるだろう。
何事もなく巡回ルートを一周し、村の入り口に帰って来る頃には、ジェイムズもひとまず気持ちの整理がつき、落ち着きを取り戻していた。
(だいじょーぶ、たとえそんな力があったって、僕の毎日が変わるわけじゃないさ!)
彼は、そう思っていたのだが……。
「え……」
「あ……」
任務終了の報告しようと詰め所の扉を開けたところで、なぜかワンピースを脱いで半裸になっている行き倒れ娘と鉢合わせするハメになり、仮初の平常心なぞ吹き飛ぶハメになるのだった。
──陳腐な形容ながら、本当に雪のように白い肌をした背中。
──あまり大きくはないものの、確かに女性らしい曲線を描いている胸元。
──そして、視線をそのまま下げると……。
「ご、ごめんなさい、見てません!」
「バタンッ!」と凄い勢いで詰所のドアを閉めるジェイムズ。
「…………お、男の人に見られちゃいましたぁ! ふみゅ〜〜〜ん!!」
一拍遅れて、中から少女の泣き声が聞こえて来たのは、まぁ御愛嬌といったところか。
* * *
「まぁ、いつまでもウジウジしてても仕方なかろうよ、ラッキースケベ君」
あのあと、何事かと騒ぎを聞きつけた隊長夫妻が駆けつけてくれたおかげで、とりあえずその場は何とか無事に納まった。
「ら、らっきーすけべ、って……故意じゃないんです、事故なんですよ!」
「当たり前だ。いいか、ジェイムズ、男なら下心やスケベ心のひとつやふたつは持ってて当然だ。時には、覗きに走るのもよかろう。しかし、紳士たる者、それを発揮するにもTPOというヤツを考えてだな……」
ボカッ! 「なにバカなコト吹き込んでるのよ、ケイン」
いきなり隊長が頭を押さえてしゃがみ込んだかと思うと、背後に鬼(オーガ)のような形相をしたゲルダが、なぜか片手に棍棒程もある太く大きな氷柱を握って立っていた。
「い、今のは痛かったぞ、ゲルダ」
涙目になりながら立ち上がる隊長。
(もしかして、隊長、アレで殴られたの!?)
その細腕で軽々と氷のクラブを振り回すゲルダと言い、そんなもので後頭部を思い切りドツかれてもさしてダメージを受けた様子のないケイン隊長と言い、夫婦喧嘩(痴話げんか?)の過激さに、色んな意味で戦慄するジェイムズ。
「当たり前でしょ、痛いように叩いたんだから。それより、あの娘が落ち着いたから、入ってちょうだい。それとジェイムズくん、何をするべきか、わかってるわよね?」
蒼髪の女性の怒りの矛先が自分に向いたことで、ジェイムズは思わず跳び上がって直立不動の姿勢をとる
「は、はいッ! 誠心誠意、謝罪するであります!!」
「うん、よろしい。さ、入った入った」
……と、色んな意味で隊長夫妻の介入があったおかげで、ジェイムズと妖精娘の3度目の邂逅は──双方微妙な距離感を残しつつも──何とか無事に実現したのだ。
「私、家憑き妖精(キキーモラ)のピュティアって言います」
土埃に汚れたワンピースを、ゲルダから貸与された部屋着に着替えた少女は、自らのことをそう名乗った。
「へぇ、お嬢ちゃん、キキーモラだったのか。その格好からして、てっきりシルキーかと……いや、確かに着てた服はコットンだったな」
妻の影響でそれなりに妖精族に関する知識のあるケイン隊長は、ちょっと驚いているようだったが、生憎ジェイムズには「ききーもら? しるきー?」とチンプンカンプンだ。
「絹服娘(シルキー)って言うのはね、森妖(エルフ)と並んで……いえ、下手したらエルフ以上に人間に近い容姿をしている女系の妖精のことよ。絹製の服を好んで着て、しずしずと歩くところから付けられた名前ね。
大きなお屋敷にいつの間にか居着いて、周囲に気づかれることなく、何食わぬ顔で屋敷の使用人に混じって働いてることが多いの。
雇い主も「はて、あんなメイド雇ったかな?」と不審に思いつつも、真面目で家事万能だから「まぁ、いいか」と流してしまうケースが結構あるみたいね。
その有能さから、メイド長の後任に任命されて、何食わぬ顔でその屋敷の采配をふるってた……なんて笑い話みたいな事例もあるらしいわ」
ジェイムズのはてな顔を見かねたゲルダが説明してくれる。
「対してキキーモラも同じく家に住み着く妖精ね。シルキーと違うのは、さほど豪邸でなくてもいい代わりに必ず暖炉のある家を選ぶこと。それと、主に夜行性で、家事の中でもお掃除と機織りをしてくれるけど、それ以外は個人差が大きいってこと。
……こんな感じで良かったかしら、ピュティアちゃん?」
「あ、ハイ、そんな感じなのです」
コクコクと素直に首を振る様が、小動物のようで愛らしい。見ている3人は、ちょっと和んだ。
「ん? でも、それだったらなんで……」
疑問を口にしかけたところでふと気付いて、ジェイムズは立ち上がり、ピュティアに向かって深々と頭を下げる。
「さっきは、ごめん! その…わざとじゃないんだけど、女の子に恥ずかしい思いさせちゃって申し訳ないっ!」
唐突に謝罪されて目を白黒させるピュティア。
「えっと……も、もういいのです。偶発的な事故であることは了解しているのです」
先程の事を思い出したのか、ほんのり頬を赤らめアタフタしつつも、ピュティアは快く少年の謝罪を受け入れた。
「それより、あの、お名前を聞かせてもらえませんか? ケインさんとゲルダさんは先程簡単に名乗られたのですが、お兄さんの名前は、まだお聞きしていないのです」
「あ、うん。僕の名前はジェイムズ。そこのケイン隊長の部下で、この村で辺境警備隊に所属してるんだ。よろしく、ピュティアさん」
「こちらこそ、よろしくです、ジェイムズさん」
向かい合ってペコペコ頭を下げている、そんな初々しい少年少女(まぁ、ピュティアは妖精なので年齢不詳だが)のやりとりを、少し離れて見守っている隊長夫妻。
「アナスン隊長が、俺らのことよくからかってた気持ちがわかるなぁ」
「そうね、あの隊長さんもこんな気分だったのかしらね」
ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべてはいるものの、その目の光はどこか優しかった。
「それで、ジェイムズ、さっきは何を聞きかけてたんだ?」
隊長に促されて少年兵士は再度質問を口にした。
「あ、はい……えーと、ピュティアさん達キキーモラは夜行性なのに、なんで朝っぱらから外を歩いてたのかなと思ったんですけど」
「それは……うぅ、ちょっと言いにくいコトなのですけれどぉ……」
僅かに躊躇いつつ、チラと3人の顔を見回して、覚悟を決めたのか、妖精娘は自分の「事情」を話しだした。
結論から言うと、ピュティアが以前住んでいた家が、村人がこぞって移住したことで廃村になり、行くところがなくなったのが原因らしい。
キキーモラに限らず、そういう民家に憑くタイプの妖精がその住みかを無くすことは、頻繁にあることではないが無論起こりうる事態でもある。
そういう時、当然妖精たちは別の家に(大概はそこの住人に内緒で)「引っ越す」のだが……。
「なにしろ突然のことで、私もロクに準備もしてなくて、アテもないまま次のおうちを探していたのですけど……」
「この村まで辿りついてお腹が空いて倒れちゃったってワケね」
「はいです……」
シュンと俯くピュティアの頭を、ゲルダがよしよしと撫でてやっている様は、まるで姉妹のようだ(もっとも、見かけと実年齢が逆転している可能性も高いが)。
「ま、この辺りの村で、竈(かまど)はともかく暖炉があるような家は、少ないだろうしなぁ」
ケインの言う通りで、この地方の気候は熱くもなく寒くもなく、強いて言うならやや涼しめといったところだが、「暖炉を作る」と言う習慣自体にあまり馴染みがないのだ。
町のほうまで行けば、それなりに富裕な商人の家などに暖炉が設けられている可能性も少なくないのだが、一番近い町までも馬に乗って半日ちょっと掛かる距離だ。
「はぅ〜、そんなぁ……」
ガックリと肩を落とす妖精娘の様子を見て、ゲルダが夫の耳に何事かを囁く。
ケインの方も妻の言葉に「うんうん」と頷いているのを見て、なぜかジェイムズは微妙に背筋の毛が逆立つような感覚を覚えた。
(あ……なんかイヤなよかん……)
「よっし、ジェイムズ。お前さんの家、確かボロいけど暖炉あったよな? 独り暮らしで、恋人愛人その他もいないんだから、しばらく、このお嬢ちゃんを泊めてやれ」
「ちょ、なんでですかーーッ!?」
嫌な予感が的中したことに慌てるジェイムズだが、ケインは冷静に部下に反論する。
「嫁入り前の乙女の珠の肌見たことへの慰謝料代わりだ。ああ、もちろん、そのまま責任とってお嬢さんを嫁にするってのもアリだな」
「な……いや、そりゃ悪い事したとは思ってますけど……いくら何でも、見ず知らずの男の家に来るなんて、ピュティアさんも嫌ですよね?」
「ふぇ? いえ、ジェイムズさんいい人みたいですし、私は構いませんけど」
本人の意志を論拠にしようとしたジェイムズの目論見は、アッサリ裏切られる。
「──と言うか、あつかましいお願いですけれど、できればご厄介になれると、とてもありがたいのですよ〜」
警戒心がなさすぎと言うなかれ。そもそも彼女の姿は本来「人」には見えないので、キキーモラ的には、大家族だろうが男やもめだろうが斟酌する習慣がなかったのだ。
(外見的には)同世代の可愛らしい少女に、期待に輝くキラキラした目で見つめられると、女慣れしてないジェイムズとしては無下に断るのは難しい。
「いや、でも……そうだ! 隊長の家とかはどうなんですか? ゲルダさんもピュティアさんのこと気に入ってるみたいですし」
「ウチは肝心の暖炉がない。それにそもそも、俺自身が妖精憑きの身で、別の妖精を家に迎えるのは仁義に反するだろ」
苦し紛れの提案は、アッサリ一蹴された。
「え!? 隊長の家にも妖精がいるんですか?」
「?? ああ、そうか……お前にはまだ言ってなかったっけか」
チラと傍らに視線を向けると、委細心得たかのように彼の伴侶が進み出る。
「ウチの嫁さん──ゲルダも、雪妖精(スノウフェアリー)の出身なんだ」
ケインのその言葉とともに、ゲルダの背中に4枚の紫色をした半透明な翼が現れる。
「「うっそォーーーん!?」」
間抜けな驚きの言葉を異口同音に発してしまうジェイムズとピュティア。
「……いや、ジェイムズはともかく、お嬢ちゃんが驚くのはどうかと思うぞ?」
「気づいてなかったのか?」と呆れた目をするケインに、ピュティアは慌てて言い訳する。
「だ、だって、ゲルダさん、羽根しまってたら見かけはまるっきり人間なのですよ! こうして意識を集中させたら、確かに気配が少し人間と違うことはわかりますけど……」
「アハハ、ケインとケッコンしてるわたしは、確かにちょっと特殊だからねー」
羽根を緩やかに羽ばたかせて宙にふよふよ浮かびあがりながら、ゲルダは苦笑する。
「ま、そんなワケでお嬢ちゃんをウチで預かるわけにはいかねぇんだ。なに、心配するな。お嬢ちゃんもジェイムズの家で無駄飯食らいをするつもりはなかろう?」
「あ、はい、住ませていただくせめてものお礼に、お家のお掃除と繕い物はお任せください。あんまり得意ではないですけど、ご飯の用意も頑張るのですよ〜!」
次々に退路を断たれてしまったジェイムズは、もはや首を縦に振るしか道はなかった。
* * *
(で、あのあと、遅れて家に来たピュティアの挨拶がアレだったんだよな)
食後のお茶を飲みながら、往時──といってもほんの数年前の話だが──の回想から醒めたジェイムズは、クックッと喉の奥で笑いをかみ殺した。
「どうされたんですか、坊ちゃん? 人の顔見て笑うなんて、ちょっと失礼ですよ」
香茶をポットから注ぎ足しつつ、ピュティアがいぶかしげに問う。
「いや、昨夜は、僕らが初めて会った時のことを夢に見たんだ。それで、ちょっと懐かしくなって、ね」
なし崩し的にジェイムズの家にピュティアが下宿(彼としてはそういう感覚だった)することになった後、先に家に戻って同居人を受け入れる簡単な用意を彼がしていたところで、「トントン」と軽く入口のドアがノックされた。
「はーい、どなたですか?」
おそらくは彼女だと思いつつも、村のご近所さんが訪ねて来た可能性も皆無ではないので、そう問いかけながら、ドアを開ける。
ドア開けた向こうに立っていたのは、やはりピュティアだった。
ただし、その服装が先程までとは大幅に異なる。
朝見た半袖ワンピースの上からフリルで縁どられた白いエプロンを着け、髪を後ろで結ってポニーテイルにしたうえで、頭頂部を白いヘッドドレスで飾っている。
「え、えっと……今日から私がメイドとしてご主人様のお世話をさせていただくことになりました。頑張ってご奉仕しますね!」
「あれって、やっぱ隊長達の入れ知恵?」
「正確にはゲルダさんの、ですけどね」
ともあれ、そんな経緯で辺境警備隊に所属する一兵卒に過ぎない16歳の少年が、メイドさんと暮らすことになったわけだ。
-つづく-
-----------------------------------------
#私の悪い癖である"説明しないと気が済まない病"の症状が現れ気味な中編。あんまり萌えポイントが上手く書けなかったなぁ。
#主人公があのタイミングで着替えを目にしたのは、
1)主人公が見回りに出た直後に妖精娘覚醒、隊長達に勧められてガツガツ食事→2)食事が終わった途端再び眠りに→3)しばらくして再度目が醒め、隊長妻の提案で着替えることに→4)主人公帰還
という流れがあったため。詳しく書くとさらに文字数食うのではしょりました。
#例によって、次回、後編でHシーンが。エロエロ〜と言うほどではないかもしれませんが。
保守
「ヤンデレ幽霊」はベタすぎるか……。
もっとも私に書ける能力はありませんが……。
+ +
∧_∧ +
(0゚・∀・) ワクワクテカテカ
(0゚∪ ∪ +
と__)__) +
雪女の季節かー
投下します
Ice Spirit
前編 吹雪の山小屋
「おはよう。目が覚めたかしら?」
朦朧とした意識に、そんな声が聞こえてきた。
若い女の声である。ぼんやりと思い返してみても聞き覚えはない。
「あー。うー……」
ケルブ=レオムーは目蓋を開け、周囲を見る。
あまり広くはない小屋だった。剥き出しの木の床に壁。天井も木である。頑丈さを第一
にした無骨な作り。部屋の中央に囲炉裏があり、火が焚かれている。山小屋のようだ。古
びた窓からは灰色の風景が見えるが、まだ夜ではない。しかし、空気は冷たい。音を立て
て揺れるドア。外は吹雪のようだった。
ケルブは身体を起こし、
「ぅッ!」
左足に痛みが走り、手で押さえる。口元まで隠す分厚い毛皮のコートとズボンに登山帽
子。記憶が途切れる前は、冬の山を登っていたはずだ。
「足首捻ってるから、動かさない方がいいよ」
「どこだ、ここは? ボクは……確か……」
意識の霞を払うように頭を振ってから、ケルブは声の主に眼をやる。
そこにいたのは、若い女だった。人間の年齢では、二十代の前半くらいか。実年齢は分
からない。人の姿をしているが、人間ではなかった。
「山頂近くの避難小屋よ。かなり古い小屋だから、あちこちガタ来てるけど、他に連れてく
る場所も無かったから。文句は言わないでちょうだい」
棚から薪を取り出しながら、静かに言う。
身長は百六十センチほど。肌は青く、眼は水色、耳はやや細長く尖っている。紺色の髪
を背中まで伸ばし、赤いヘアバンドを頭に付けていた。表情は薄く、目付きは冷静で鋭い。
袖のない白い上着と、横にスリットのある紺色のロングスカート。手首や服には金色の帯
が飾られている。冬山には似つかわしくない薄着だった。
「氷精霊」
その姿を見つめ、ケルブは驚きとともに呟いた。
山に住むという氷の精霊。文献や絵では知っているが、本物を見るのは初めてだった。
人間に似ているが、身に纏う空気は確かに人外である。
「そう言うみたい」
氷精霊は囲炉裏の前にしゃがみ込み、持ってきた薪を火にくべた。赤い火が揺れ、部
屋の冷気を少し遠ざける。水色の瞳が火の色を映していた。
自分が置かれている状況と、意識が消える前の状況を思い出し、ケルブは尋ねる。
「君が助けてくれたのか?」
「ええ」
氷精霊は頷いた。静かな口調で、表情も変えず。
「ここに来る途中に見かけたわ。死なれても目覚めが悪いから連れてきた。軽い捻挫だ
けで大きなケガは無いし、治療もしたからすぐに動けるようになるでしょう」
水色の眼で、ケルブの左足を見る。
ケルブは山頂を目指して山道を歩いていた。標高は千五百メートルほどで、険しい山で
はない。それでやや油断してしまったのだろう。吹雪に遭い、この山小屋目指している最
中で記憶が途切れている。氷精霊の話から考えるに、脚を滑らせて頭を打って気を失っ
ていたようだ。その時に捻ったらしい左足首。微かに痛むが動かすのに不自由はしない。
回復魔術によって治療されていた。
この氷精霊に見つからなかったら、凍死していただろう。
「名前を聞いてもいいか?」
自分に手を向け、氷精霊は答えた。
「私はセッシ。あなたは?」
「ケルブ=レオムー。ニルナ魔術大学院の研究員だ」
ケルブは自己紹介をする。オンサ連合王国国立ニルナ魔術大学院。南に馬車で三日
ほど行った場所にある、国で最も大きな魔術学校だった。ケルブはそこの研究員である。
セッシは一度頷き、
「普通の名前ね。麓の人間が、何でこんな所にいるの?」
「魔術の実験で氷結晶石が必要になって。研究所の保管庫にも在庫無くて。こうして取り
に来たんだけど、吹雪に巻き込まれて……」
目を逸らしながら、ケルブは答えた。
物体を極低温まで急冷却する魔力の結晶。実験で必要になったが、他の大きな実験で
大量に使われたせいで、どこにも在庫が無い。色々相談した後、登山経験のあるケルブ
が採ってくることで一応の結論となった。
だが、その結果がこれである。
小さく笑うセッシ。窓の外に眼をやり、
「それは災難ね。うん。吹雪が止んだら氷結晶石がある場所まで案内してあげる」
「ありがとうございます」
素直に頭を下げる。
山頂に氷結晶石があるとは言われているが、場所は一定しないらしい。最初から数日
探し回る気だったが、その必要は無くなったようだ。
やや気まずい雰囲気を払うように、ケルブは訊いてみる。
「君は何でこんな所に向かってたの?」
少し気恥ずかしそうに、セッシは右手で頭を撫でる。
一度身体を折り曲げ、その場に立ち上がった。紺色のスカートが肌と擦れる微かな音
が聞こえる。靴下などは穿いていない素足だ。足音もなく窓辺に移動し、ガラスの向こう
の灰色を眺める。
「集落に帰る途中に吹雪に巻き込まれたのよ。寒いのは平気だけど、視界が利かないの
は困るわ。あなたのように脚滑らせたりしたら大変」
と、振り返ってくる。
時間は夕方だが、分厚い雲のせいで夜と変わらぬほどに暗い。山特有の強風と肌に染
み込む冷気。寒さは平気なようだが、視界が利かないのは苦しいようだ。
窓辺に佇むセッシを眺め、ケルブは鼻の頭を掻いた。
「こんな事訊くのも野暮だけど、そんな恰好でセッシは大丈夫なの?」
肩から腕が丸出しの上着。裾も短く、時々へそが見えている。スカートの左側には腰元
まで届くスリットがあり、歩くたびに太股まで見えていた。露出の高い、扇情的とも言える
服装。本人はそれを気にしているように見えない。
恥ずかしくはないかという意味で訊いたのだが。
セッシは単純に寒くないかと受け取ったようだ。
「私は氷精霊だから、この雪山の気温は快適よ。人間にはちょっと大変かも」
水色の瞳で自分の手を見つめる。きれいな青い肌だった。手足は細いように見えて、し
っかりと筋肉も付いている。山暮らしだから自然と鍛えられるのかもしれない。
ケルブは囲炉裏で燃える炎を目で示した。
「……暑くない?」
「大丈夫よ。真夏みたいな温度でも、溶けたりはしないから」
口元を小さく笑みの形にして、セッシが答えてくる。氷精霊は火で溶けたりすると聞いた
事があった。どうやらただの噂らしい。
「とりあえず、これからどうしようか? 吹雪はすぐに止まないだろうし」
ケルブの問いに、セッシは小屋の隅に置いてある荷物を見た。ケルブが背負っていた
登山用リュックである。登山に必要なものは持ってきたので、かなり大きい。
「お腹空いたから何か食べましょう。あなた食料持っているでしょう? あと、お酒も持って
いるみたいだから、それもちょうだい」
遠慮もなく言ってくる。
以上です
続きはそのうち
Dエイジ新連載は、美少女に血を提供する吸血鬼ラブコメ | ホビー | マイナビニュース
ttp://news.mynavi.jp/news/2011/12/09/078/ >同作は吸血鬼の美少女と、その吸血鬼に血を提供する契約を結んだ男子学生のラブコメディ。ある日ゾンビのような怪物に襲われた男子学生は、鬼龍院カヤと名乗る少女に助けられる。するとカヤは突然、「私のエサになってほしい」と驚きの要求を口にし……。
月詠か?羊のうたか?
投下します
Ice Spirit
中編 雪山の寒さ
がたがたとドアと窓が鳴っている。日が暮れてから吹雪は唐突に収まった。山の天気と
はそういうものである。だが、まだ風は止んでいない。
食事を終え、ケルブとセッシは小屋の中で大人しくしてた。
「暇ね」
セッシが水色の瞳を天井に向ける。床に腰を下ろしたまま両手を床に起き、両足を前に
伸ばしていた。スカートのスリットから左足が見えているが、気に留めていない。身体を少
し後ろに反らし、暇そうにしている。
囲炉裏の焚き火と、魔術の光明が部屋を照らしていた。
外は既に夜になっていた。時計を見ると、夜七時。
「……というか寒いよ」
焚き火に薪を放り込みながら、ケルブは呻いた。
焚き火が部屋の温度をいくらか上げているが、気休めにしかなっていない。冬の雪山、
それなりに高い標高。平地の真冬よりも寒いだろう。防寒服に、帽子、手袋を付けている
のだが、それでも冷気が身に染みる。
ケルブは近くに落ちていた酒瓶を拾い上げた。
「情熱の白」
四角い瓶に入った酒である。麓の特産品で、癖が無く非常に飲みやすい酒だ。元々山
岳救助で凍えている人に飲ませるもので、一時的に身体を温める効果がある。一般向け
に作ったものは、飲みやすい酒としてかなり遠くまで出回っているようだった。
残った酒を飲み干し、ケルブは一息つく。
半分以上セッシが飲んでしまったのだが。
「それは仕方ないわ」
焚き火を眺めながら、セッシが呟いた。
両足を引き寄せ、その場に立ち上がる。赤い灯りに照らされる青い肌。人ならざる者の
色合いだ。ほんの僅かに目蓋を下ろし、窓の外を見ていた。
「これからもっと寒くなるよ。夜になったから気温は下がるものだから。吹雪は止んだけど、
気温は明け方に向かって低くなるから」
朝方が一番冷え込む。それは平地でも山でも変わらない。
「平気そうだね、君は……」
ケルブの呟きに、セッシは髪の毛を手で撫でた。紺色の髪の毛。獣のたてがみのように
逆立つ毛を、赤いヘアバンドで留めている。
「氷精霊だから。普通の生き物みたいに"寒い"と感じることはないわ。一番真冬の朝方
はさすがに冷えると思うけど、それが苦痛と感じたことはないわね」
ケルブに目を向けてくる。少し口元を緩めんがら。
「それより、酔ってない?」
セッシは情熱の白を七割ほど飲んでしまった。携帯食料も普通に食べていたので、人
間の食べ物や飲み物も普通に摂取できるのだろう。酒を飲めば酔うだろう。見た目はさき
ほどと変わらないように見える。だが、動きや目線はどこか緩くなっていた。
「大丈夫よ」
小さく答えるセッシ。
窓辺に歩いていき、セッシは暗くなった外を見つめた。ガラスは強化処置の施されたも
ので風や跳んでくる木の枝などでは割れたりしない。
焚き火の炎を眺めながら、ケルブは吐息する。息が白い。
「朝まで大丈夫かな? 風邪引くくらいならともかく、凍死とかはさすがに困るよ。しもやけ
も大変って聞くし。治療系の魔術はあんまり得意じゃないし」
魔術。ケルブが主に習得している魔術は、もっぱら複雑な技術系である。
火を起こしたり灯りを作ったり傷を治療したり。そのような基本的なものは得意ではなか
った。身体を温める術を覚えてくればよかったと、今更後悔する。
「何か起こりそうな雰囲気ね」
セッシが振り向いてきた。青みがかった肌と氷のように澄んだ水色の瞳。身体の動きに
合わせてスカートが揺れる。緩やかな曲線を描く腕や脚の線。その姿は彫像のように禁
制が取れていて、妖艶だった。
「山に入った男がきれいな女性に連れて行かれ、その後氷漬けになって発見される。雪
山の怪談として聞いたことがあるわ」
「それを君が言うと洒落にならないよね?」
半眼でセッシを睨んでみる。
山に入り込み、魔物に魅入られ、その後凍死体として発見される。よくある冬山の怪談
だった。そして、セッシは山に住む氷精霊。怪談を実行できる氷精霊である。
笑えない冗談だった。
「人間を凍り漬けにして楽しむ猟奇的趣味は無いけど」
手の平を見つめながら、言ってくる。
その話はそれで終わりだった。
「もう少し薪くべるか」
寒さを退けるには、まず火である。幸い薪棚には乾燥した薪が大量に詰んであった。朝
方まで焚き火を大きくしていれば、ある程度寒さは防げるだろう。
床から立ち上がり、ケルブは薪棚に向かった。捻った足はセッシ治療魔術のおかげで、
完治している。もう動かすことに問題は無くなっていた。
棚から薪を抱えて、焚き火の横に詰んでいく。紐で縛った薪束が四つ。
一息ついて、ケルブは床に腰を下ろす。
ふと。
視線を上げると、すぐ傍らにセッシが佇んでいた。
一度その場に腰を下ろし、そっと右手をケルブの頬に触れさせた。不思議と冷たくはな
い。氷のような水色の瞳でケルブを見つめ、口を開く。
「こういう時は肌と肌で暖め合いましょう」
「……もう少し気の効いた冗談にしてくれ」
肩の力が抜けるのを自覚しながら、ケルブは呻いた。
しかし、セッシは淡い笑みを口元に浮かべてみせる。からかうような、楽しむような。
「別に冗談じゃないわよ?」
小首を傾げて一言。
ケルブの手を取り、手袋を脱がせる。手の平に直接触れる小屋の空気。
「やっぱり酔ってる?」
瞬きしながら、ケルブは横を見た。空っぽになった酒瓶。アルコールが強い割に飲みや
すい酒である。知らない者が飲むとつい量を間違えてしまうらしい。
「かもしれないわね」
ふっと唇に触れる柔らかな感触。セッシがケルブの唇に自分の唇を重ねていた。唇を
触れさせるだけの、ささやかな口付け。
唇を離し、優しく微笑むセッシ。
「こういうのを一目惚れって言うのかしらね? 女の子が積極的になっているんだから、あ
なたも本気になってくれないと寂しいわ」
「………」
以上です
続きはそのうち
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(0゚∪ ∪ +
と__)__) +
すんどめだと!?ふぅ・・・
AA作ってみた
、、 _
ミ ===ヽ+
彡 ィノ从〉〉 /i\ +
ノ∩li.゚ -゚ノl | Y. |
ノヽ./__〉つ ヽ,'/ +
〉.ニニl
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<_ /__/ 丶゙_ヽ
保守
期待保守
そういえば、随分前のクトゥルフ的なほしをみるひとの人は、もう来ないのかな。続き待ってるんだ
投下します
Ice Spirit
後編 山小屋の夜
ケルブは右腕を持ち上げた。
手の平でセッシの頬を撫でる。人間と違う青色の肌。色は違うものの、手触りは人間と
変わらない。柔らかくきめ細やかな肌だった。やはり冷たさは感じない。
「暖かい……」
小さく笑いながら、セッシが呟いた。
ケルブは両手をセッシの身体に回し、その身体を抱き寄せる。セッシも抵抗せずに、ケ
ルブの抱擁に身を任せていた。誰かを抱きしめるという安心感。胸の奥から熱が湧き上
がってくる。セッシも満足そうに力を抜いていた。
「ん?」
目の前にセッシの耳がある。細長く尖った三角耳。精霊や妖精などに多い形らしい。
ケルブは青い三角耳に舌先を触れさせた。
「ひゃ……」
セッシの喉から聞こえた、可愛らしい声。
普段の淡泊な声からは想像もできない声音だった。きつく目を閉じ、身体を竦めている。
もしかしたら耳はケルブが考える以上に敏感な部分かもしれない。
セッシの三角耳に唇と舌を這わせる。
「あっ、ふぁっ……」
悩ましげな声とともに、セッシが身体を縮めていた。
しかし、ケルブは構わず、耳を攻める。三角形の耳の縁に優しく舌を這わせ、軽く甘噛
みをする。元々耳は敏感な部分と聞いたことはあった。氷精霊もそれは同じなのだろう。
三角形の尖り耳を、味わうように舌と唇で愛撫していく。
「んっ……はぁ。これは、頭が溶ける……」
ケルブはセッシの耳から一度口を放した。
「力が入らない……」
苦笑いを見せるセッシ。耳攻めだけで力が抜けてしまったようだ。声や手が震えている
のが解る。本人が思っている以上に敏感だったのだろう。
「なら、やめるかい?」
「続けて――」
セッシの言葉に、ケルブは再び耳に舌を這わせた。
乱れた息が耳に届いている。
同時に右手を胸元に移した。上着を押し上げる膨らみ。それなりに大きい部類に入るだ
ろう。白い上着越しに手の平で曲線をなぞる。縁をなぞるように丁寧に。絹のような滑らか
な布の手触りと、丸い乳房の弾力。指の動きに微かに形を変えていた。
「んっ……」
セッシが唾を呑み込む音が聞こえる。
ケルブは尖った耳を甘噛みしながら、手を動かしていた。きれいな形の胸を撫で、指を
曲げてその形を変えていく。手の動きに合わせ、セッシは悩ましげに背筋を逸らしていた。
さらなる愛撫を求めるように。
焚き火の爆ぜる音が聞こえる。
「ふは……」
緩慢だが確実に、快感がセッシの身体に染み込んでいた。
ケルブは耳から口を放す。
がたがたと耳を叩く音。吹き抜ける風が山小屋の壁やドアを揺らしていた。隙間から流
れ込む空気が、時折笛のような音を奏でている。風はしばらく吹き続くだろう。もしかした
ら吹雪の時のように不意に止まるかもしれない。
「いやらしい顔ね……」
水色の瞳に微かな熱を灯しながら、セッシが笑った。仕組みは不明だが、頬が赤く染ま
っている。目元に薄く涙が浮かんでいた。
「それはお互いさまだろう?」
ケルブは口端を上げた。
右手を動かし、再びセッシの胸を手で撫で始める。丸く柔らかな乳房。指を押し込むと、
押し返してくる。セッシは抵抗することもなくケルブの動きを受け入れていた。
「んっ、はっ……」
指の動きに合わせて、セッシが身体を捻っている。
ケルブは左手をセッシの脇に差し込んだ。人差し指で脇から上着の縁まで、優しく触れ
る。何度も指を往復させながら。力を入れず、指先で輪郭をなぞるように。
「ふふっ……くすぐったい……」
目を閉じて囁くセッシ。
下着の類は付けていないようだった。上着が下着の機能も備えているのかもしれない。
起った乳首が、生地を押し上げている。
人差し指で生地越しに胸の突起を弄りながら、
「気持ちいい?」
「身体が熱い……」
何かを堪えるように自分の指を噛みながら、セッシは答えた。
ケルブは息を呑み込む。熱い。意識が焼けるような熱気だった。寒い小屋。しかし、身
体から湧き上がる灼熱が、冷気を押し退けている。
「こっちを……」
セッシの手がケルブの手を掴み、自分の太股に移した。
進められるままに、ケルブは右手でセッシの足を撫でる。青い皮膚と、引き締まった筋
肉。氷精霊というのに冷たさは感じない。生き物のような暖かさもないが。
心持ちマッサージするように、太股から膝、脛まで何度も手を往復させる。
左手は肩や背中、脇腹を撫でる。
「すごいわね。身体が溶けそう」
セッシが天井を見上げた。ケルブの作り出した魔術の光明が浮かんでいる。その下の
囲炉裏では炎が躍っていた。多めに薪をくべたので、火の勢いは強い。
太股を撫でる手を、足の付け根まで移す。
「こういう衣装は、氷精霊特有のものなのか?」
袖の無い白い上衣、横に深いスリットの入った紺色のスカート。金色の帯の装飾具。氷
精霊なので寒さはどうにでもなるのだろう。ただ、かなり扇情的でもあった。
「それなりに由緒正しい服装なのよ」
両腕を持ち上げるセッシ。
ケルブは太股から手を放し、両手でセッシを抱きしめた。お互いの身体に腕を回し、抱
きしめる。今までの灼熱とは違う、じんわりと心を温める熱。
無言のまま、唇を重ねる。
優しく唇を会わせ、お互いの舌を絡める。二匹の蛇が交わるように、濡れた音を立てな
がら、濃厚な口付けが続けられた。舌を絡めながら、唾液を交換するように
一分ほどだろう。
ケルブとセッシは口を放した。
「そろそろいいかしら?」
荒い呼吸を繰り返しながら、セッシはケルブの腰の上に跨った。両膝を床に付き、腰を
持ち上げている。スリットからスカートをめくると、秘部を覆う白い布が見えた。
三角形の白いショーツ。
まるでお漏らしでもしたかのように濡ていた。
「ああ」
ケルブもズボンの前を開け、自分のものを取り出す。息苦しいまでに、身体の奥が熱を
持っている。破裂しそうなほどに大きくそそり立っていた。
セッシは自分の唇を舐め、ショーツを横にずらした。
きれいな青い縦筋。その上には、紺色の毛が微かに生えていた。粘性を帯びた液体が、
静かにセッシの奥からしたたり落ちている。
ケルブは両手でセッシの腰を押さえた。
ショーツを横にずらしたまま、セッシが腰を下ろしていく。ケルブのものが青い秘裂に呑
み込まれていった。濡れた肉を掻き分けていくような感触に、背筋が粟立つ。
「う……」
「んっ、くぁ……」
セッシの喉からこぼれる甘い声。
背骨を駆け抜ける電流に、ケルブは肩を震わせる。神経を焼くような灼熱と、意識を凍
らせるような極寒。それらが快感となって脳裏に弾けていた。
セッシが腰を落とし、ケルブのものを全て呑み込む。
「熱い……」
擦れた声で、セッシが呟いた。陶酔するように目蓋を半分下ろしている。
両足を伸ばして座ったケルブの上に、セッシが跨っていた。いわゆる対面座位の姿勢
だった。溶けたような水色の瞳で、セッシが見つめてくる。
セッシの太股を触りながら、ケルブは笑った。
「まさか、このまま食べられるんじゃ?」
「そんな事はしないよ」
優しく微笑み、二人はお互いの指を絡ませ、唇を重ねた。舌を絡ませながら、相手の咥
内を味わうような口付けを続ける。
数秒ほどして、どちらとなく唇を放す。
「動くわ」
一言告げてから、セッシは身体を上下に動かし始めた。対面座位の体勢なので、あまり
激しくは動けない。それでも十分のようだった。
「んっ、あっ……!」
ケルブのものを咥えたまま、溢れる快感を味わう。
口元から流れる一筋の涎。身体の上下運動にあわせて紺色の髪の毛が跳ね、乳房が
上下に揺れていた。目の前で起こる氷精霊の痴態。
ケルブの快感も絶頂に向かって駆け上がっていく。
「あっ、気持ちいい……」
「なら、もっと」
小さく呟き、ケルブは空いた左手をセッシの胸に添えた。丸い膨らみを何度か撫でてか
ら、上着の生地を押し上げる突起を指で摘んだ。
「あっ」
セッシの動きが止まる。
ケルブのものを包むセッシの肉が引きつった。
さらに右手で身体を抱き寄せる。目の前に来たセッシの尖った耳に、ケルブは優しく噛
み付いた。三角形の細長い耳。唇で耳全体を咥えるように包む込み、形をなぞるように
舌を動かしていく。唾液を潤滑液として。
「あっ。耳は……だ……」
微かに唇が動いた。
意図しない方向からの快感が、セッシの意識を焼く。既に高められた身体だ。そこから
絶頂に達するのは容易だった。膝から力が抜け腰が落ち、ケルブのものがセッシの一番
奥を突き上げる。
「ふあ……っ……!」
セッシの喉から漏れる、甘い悲鳴。目を瞑り口をきつく閉じ、手足を強張らせながら。爆
発する衝撃に耐えるように、ケルブへと抱きついていた。
同時に、ケルブはセッシの奥へと精を解き放つ。脊髄から脳まで突き抜ける衝撃のよう
な快感だった。心臓の音が体内に響いている。
お互いに抱き合ったままの絶頂。
ふと顔を上げ、セッシが訊いてくる。
「どうかしら。身体は温かくなった?」
「だいぶね。暑いくらいだよ」
「なら、もう少し続けてみる?」
からかうような口調に。
「お言葉に甘えて」
ケルブはセッシの唇に自分の唇を合わせた。
エピローグ 下山
冷たい風が吹き抜ける山肌。空は快晴だった。
降り積もった雪の表面から、青白い結晶が大量に生えている。氷がそのまま生えている
ような光景だった。氷結晶石。物体を極低温まで急冷却する魔力の結晶。内部の冷気を
取り出さなければ、大きな氷にも見える。
「これだけあれば、大丈夫だ」
持ってきた布袋に氷結晶石を詰め、ケルブは口紐を縛った。平地の気温に晒しても溶
けたりはしないので持ち運びは楽である。生き物が素手で触ると、火傷のような症状を起
こすので取り扱いには注意が必要だ。
「それだけでいいのかしら?」
サンダルのような靴のまま立っているセッシ。靴下などは穿かず裸足である。
雪の上には薄い足跡が残っていた。人の体重で雪の上を歩けば足が沈む。人間ならば
ケルブのように雪靴が必要だが、セッシはそれもいらないらしい。
強風に髪の毛が激しく翻っている。
「大量に使うわけじゃないし」
捲れるスカートから目を逸らしながら、ケルブは袋をリュックに収めた。
ケルブの視線に気付き、スカートを押さえるセッシ。水色の瞳を下に向け、雪の上に落
ちている氷結晶石の一欠片を摘む。ケルブが取った時に落ちたもの。生物が直接触れ
るのは危険なのだが、精霊なので大丈夫なようだ。
「大量に持って行かれても困るけどね」
呟いてから、氷結晶石を口に入れた。
砂糖菓子のような乾いた音とともに噛み砕き、呑み込む。
ケルブは何も言わず、それを見つめた。焼けた炭をそのまま食べるような非常識。氷精
霊なので身体機構が人間とは根本的に違うのだろう。
吐息してから、リュックを背負う。
「帰るのね」
「目的のものは見つかったし。山にはあまり長居しない方がいい」
ケルブは青い空を見上げた。平地よりも高く澄み切った青空。雲ひとつない快晴だが、
いつ天気が変わるか解らない。
「それもそうね」
セッシは小さく笑った。
「それじゃ、またどこかで会いましょう」
以上です
∩
( ⌒) ∩_ _グッジョブ !!
/,. ノ i .,,E)
./ /" / /"
_n グッジョブ!! ./ /_、_ / ノ'
( l _、 _ / / ,_ノ` )/ /_、 _ グッジョブ!!
\ \ ( <_,` )( /( ,_ノ` ) n
ヽ___ ̄ ̄ ノ ヽ |  ̄ \ ( E)
/ / \ ヽフ / ヽ ヽ_//
最早、誰も覚えていないと思いますが、
http://red.ribbon.to/~eroparo/sslibrary/o/original67-21.html ←の続き
ピンポーン
「はーい」
「信幸かい? 私だよ」
「ああ、母さんか。いらっしゃい」
呼び鈴に応え、玄関の戸を開けると、そこには両手一杯に荷物を手にしたお袋の姿があった。
「ふ〜う、お邪魔します。はい、これお土産」
お袋は、俺に荷物を手渡し…というか押し付けながら、家に上がりこんできた。
「いらっしゃいませ、お義母さま」
「どうもどうも佳乃さん。このたびは、おめでとうございます。
ん〜、幸乃ちゃ〜ん、幸乃ちゃん、もうすぐお姉ちゃんになるんですよ〜」
と、部屋の中ではテーブルの上を付近で拭いていた佳乃が、ペコリとお辞儀をしていた。
お袋もまた、佳乃に向かってペコリと頭を下げながら、声を掛けたかと思うと、
椅子にちょこんと座っている幸乃を抱きかかえ、満面の笑みで頬ずりしながら話しかけていた。
……って、昨日の俺とまったく同じリアクションだな。
などと思っていると、どうやら佳乃も同じことを考えていたようで、俺とお袋を交互に見たかと思うと、
口元を手で押さえながら、俺のほうを見て声を出さずに笑い出していた。
俺は俺で、ただ立ち尽くしたまま、佳乃に向かって苦笑いするしかなかった。
「……お〜い、お袋〜」
「ん、どうしたんだい?」
荷物を置いた俺は、それからしばしの間、お袋が声を掛けてくるのをじっと待っていたが、
お袋はただひたすら幸乃とじゃれるのみで、こちらのほうを見向きもしない。
とうとう、痺れを切らした俺は、お袋に声を掛けた。
「何か、用があるんじゃなかったのか?」
「ああ、そうそう。さ、閉めて閉めて」
するとお袋は、途端に神妙な顔つきになったかと思うと、口と手で部屋の戸を閉めるように促してくる。
訝しげに思いながらも、俺は言われるがままに、部屋の戸を閉めるべく再び立ち上がった。
「で……やってきたのは、これなんだけどね……」
部屋の戸をすべて閉めたのを確認したお袋は、俺たちに今度はテーブルの前に座るように促しながら、
鞄の中から何冊もの通帳を取り出し、次々とテーブルの上に並べ始めた。
「……って。こ、これ何!?」
言われるままに、通帳の中身を確認した俺は次の瞬間、お袋に向かって叫んでいた。
――何せ、どの通帳にも、ほぼ限度額一杯の数字が入っていたから、だ。
「通帳」
「通帳は分かってるよ! この通帳に印字された数字は、いったいどこから現れたか聞いてるの!」
焦る俺を他所に、どこかピントの外れた答えをするお袋。その態度に、自然と声が大きくなってしまう。
「そこまで大きな声を出さなくても、ちゃんと聞こえますよ。ご近所迷惑でしょ。ね? 幸乃ちゃん」
軽く顔をしかめたかと思うと、首をかしげて幸乃に向かって声をかけるお袋。
……いったい誰が、声を大きくさせる原因を作ったと思っているんだ。
「で、お義母さま。この大金はいったい?」
呆れて声が出なくなった俺の代わりに、不安げに眉を顰める佳乃がお袋に問いかける。
佳乃も、人間の世界に住んで半年近く経つだけに、通帳に刻まれた数字の意味は、さすがにわかっていた。
「うん、暮れにお前たちがうちに遊びに来たとき、佳乃さんのご親戚の方たちもいらしたでしょう?
あのときに、髪の凄く綺麗な……そう、薫さんがどうしてもと言って、置いていかれたのですよ」
「えっ……薫姉、が……?」
意外な名を耳にして、佳乃が口をパクパクと金魚のようにうごめかす。
……呆気に取られていた俺も、多分佳乃と同じような表情をしていたのかもしれないが。
「ええ。これからは、そうそう会うことも出来ないだろうから、
幸乃ちゃんたちに何かあったときのために、預かっていておいてほしい、と現金でどさっと」
「そうなんだ」
「そうなんだ、じゃないですよ。三が日は銀行が開いていなかったし、いざ銀行に預けはしたものの、
気が気でないから、今度は通帳を肌身離さず持っていなきゃならなかったし……」
お袋の説明に相槌を打つと、今度はお袋が立て板に水の如く愚痴っぽく話し始める。
「そう……だったのですか。申し訳ありません、お義母さま」
「あ、いや。佳乃さんや薫さんたちを、責めてるわけじゃないよ。
気持ちは凄くありがたかったさ。……けれど、これをずっとあんな我が家に置いておくのは、ねえ」
だが、佳乃がしんみりとした表情で頭を下げると、お袋は慌てて首と手を振り、視線を再び通帳に移す。
「ふうむ」
「で、昨日二人目が出来たって聞いたから、これから物入りになるだろうし、
私がこうやって持っているより、お前たちに渡したほうがいいと思ってね」
「う〜ん……」
腕組みしながら考え込む俺に、お袋は首を軽く傾けながら、通帳を指し示す。
確かに、これから出費が増えるのは間違いないわけだから、それはそれで助かる。
しかしだからと言って、そう簡単に『はい、いただきます』と貰っていいものなのだろうか?
それ以前に、薫さんはこのお金をどうやって手に入れたというのだろうか?
「ばー、ばー」
「はいは〜い。幸乃ちゃ〜ん、ば〜ばですよ〜」
と、不意にお袋に抱かれた幸乃が、上半身を巡らせてお袋の顔を見上げる。
途端にお袋は相好を崩し、幸乃の手のひらを軽く握って上下にぶんぶんと動かし始めた。
お袋のその仕草から、『このお金のことはもう知らない』という態度が見て取れる。
さすがに言葉を失った俺は、隣の佳乃を仰ぎ見てみた。
だが佳乃もまた、何ともいえない表情で、テーブルの上の通帳をじっと見つめていた。
「ね、ねえ。佳乃……」
「は、はい……」
夜も更けたが、目が冴えて眠りにつけなかった俺は、隣で横になっている佳乃にそっと声を掛けた。
佳乃もまた、安眠状態とは言えなかったようで、あっさりと顔をこちらに向け、返事をしてきた。
「ちょっと……聞きたいことがあるんだけど……。前に、薫さんが人間の世界で暮らしていた、
って言っていたよね? その頃薫さん、いったい何をしていたの?」
「さ、さあ。詳しいことはわれも……。何せ、われが生まれたかどうか、の頃の出来事らしいので……」
「ふうん、そっか。そりゃあわかるわけない、か……え? あ、あのさ。薫さんって、いったい幾つなの?」
佳乃の言葉に一旦頷きかけた俺だったが、新たに芽生えた疑問に、
今度は思わず身を乗り出して、佳乃に尋ねていた。
目の前の佳乃が生まれたかどうかの頃に、物事を覚えられるくらい人間の世界で暮らしていた、
ということは薫さんは、大雑把に見ても佳乃の倍くらいの年齢に達しているはず。
……はずなのだが、薫さん本人を見ていると、どうしてもそんな年には見えない。
落ち着き払った振る舞いを割り引いても、せいぜい佳乃より少し年上かな? という印象しかなかった。
この前正月に会った時に見た、数々の表情を目にしてからは、尚更その印象が強くなっていた。
最初は、佳乃が『薫姉』と呼んでいたから、本当に姉妹なのかと思っていたくらいなのだ。
「そ、それが教えていただけないのです。『女性に年齢を聞くものではない』と。でも……」
「でも?」
「……でも、われが物心をついてから憶えているのはずうっと、今と同じお姿でいらしたような……」
「そ、そうか……」
薫さんに対しての第一の謎が、第二の謎に繰り下がって思わず首を捻ってしまう。
……というか、そもそもあの人の存在自体が謎だらけ、なのだが。
でもよく考えたら、ああ見えて薫さんだって人間ではないのだから、
何年もあの姿で留まっていても、おかしくは無いのかもしれない。
だがしかし、何日か滞在しただけだったが、あの村では普通の人間の村と同じように、
文字通りの老若男女が入り混じっていたはずだ。
そんな中で、一人だけ何年も若い頃の姿で留まってしまうとか、ありえるのだろうか?
昔、人魚の肉を食べたことがあるとか言われれば、信じてしまうかも。
……その前に人魚というものが、本当にいるのかどうかは知らないけれど。
と思ったが、天狗がこうして実在している以上、人魚だって実在しないとは言い切れない、か。
「でも……正直申し上げて、複雑な気分です」
「複雑?」
佳乃のつぶやきに、俺は妄想の世界から現実の世界へと戻ってきた。
言葉の意味が分からなかった俺は、軽く首をかしげて鸚鵡返しにつぶやき、佳乃の次の言葉を待った。
「はい……。実は、われは子どもの頃は、薫姉が苦手だったのです」
「へ? に、苦手?」
あまりに意外な言葉に、頭の中が空っぽになった俺は、ぽかんと口を開けるしかなかった。
佳乃は、そんな俺から目を逸らし、つぶやくようにゆっくりと語り始めた。
「………あなた様もご存知のとおり、われはあの村で、半ば厄介者として育ってきました。
村では、われを蔑む目で見る者や、あからさまに無視するような者ばかり、でした。
……ですが、薫姉だけは違っていました」
「……………」
「薫姉は何があっても、どんなことがあっても穏やかな笑みで、われと接していただいていたのです。
でも、その張りついたような笑顔が、子ども心に言い知れぬ不安を感じていたのを、今でも覚えています」
「そ、そうだったんだ……」
佳乃の告白に、俺は相槌をうちながら薫さんのことを思い出していた。
初めて出会ったのは、お芝居を演じてくれと頼まれて、絹代の家に行った時だった。
その後、佳乃のお腹に幸乃がいると知って、休日は出来るだけ山に通っていたのだが、
佳乃を診に来ていた薫さんとは、その時に何回か会っていた。
そう言われれば、薫さんってどんなときもずっと、あの笑みを浮かべていただけだった気がする。
この前の正月で、悪戯っぽく笑みを浮かべたりと、表情をコロコロ変える薫さんを目にして、
意外な一面を見た気がしたくらいだし。
……そういえば、酒を呑ませてえらい目にあったような気もしたが、それはこの際忘れておこう。
「でもそれも、子どもながらの幼稚な考え、だったのですけれども――」
今度は思い出の世界に入っていた俺を、再び佳乃の声が現実の世界へと引き戻す。
だが佳乃は、仰ぎ見る俺にかまう様子もなく、ただ言葉を続ける。
「幸乃ちゃんを授かったと、わかったときだって……」
「な、何かあったの?」
幸乃と聞いて心配に駆られた俺は、思わず佳乃の肩を軽く揺さぶりながら問いかけた。
佳乃が体調を崩したと思った絹代が、わざわざ薫さんを村から連れてきて診てもらって、
そこで初めて妊娠していたのを知った、とは聞いていたけれど……。
「は、はい。ただでさえ疎まれていたわれが、嫁入り前の身でありながら殿方と交わり子を身篭ったのです。
当然、薫姉からはお叱りの言葉があると思いましたが………」
「そうじゃなかったんだ」
「はい。それどころか薫姉は、今まで見せたこともないような、穏やかで優しい笑顔をわれに見せて、
『何も心配することはない、おまえは元気な子を産むことだけを考えなさい』と」
「そうか……本当に、佳乃と幸乃のことを大事に思っていてくれてたんだね」
「それだけではありません。あの時の、あのお芝居……薫姉には最初からお芝居だったと、
ばれてしまっていたそうです………っ」
「え? ど、どうしたの?」
そこまで言って、急に佳乃は言葉を詰まらせ、うつむいてしまう。
「え……い、いえその……、か、薫姉が仰るには、あ、あなた様を、村にお連れになった時、
わ、われが……その、あ、あなた様のことを、そ、そういう目で見ていた、と………」
「え、えっと……それって……」
軽く握った拳を口元に寄せ、上目遣いに俺を見やりながら、ポツポツとつぶやく佳乃。
思いもかけない佳乃の告白に、俺は頭の中が真っ白になった。
薫さんが佳乃のことをそう見ていた、ということは佳乃も実際に俺のことを…?
というか、俺たちのそもそも馴れ初めって……。
「もっとも、冗談交じりな顔で『佳乃も、なかなかやるものだ』と言われたときは、
何とお答えしていいか、わからなかったのも事実ですが」
「えーっと、そ、それは、その……よ、佳乃?」
軽く小首をかしげ、悪戯っぽく笑いながら語りかけてくる佳乃。
俺は初めて出会った時、というかその日の夜、衝動的に佳乃を押し倒してしまったことを思い出し、
しどろもどろになってしまったが、次の瞬間には戸惑い気味に声をあげていた。
佳乃が、不意にうつむいたかと思うと、肩を震わせ、涙を流しはじめたのだ。
……やっぱり、人間と一緒に暮らす羽目になったのを、後悔しているのか?
一瞬、そんな考えが頭をよぎったが、佳乃の口からは思いもかけない言葉がこぼれ出してきた。
「今にして思えば何故、われのことを子どもの頃からあんなに優しく見守っていただいて、
あんなに心配していただいてくれていた方を、あんな風に思っていたのでしょうか……」
「よ、佳乃」
うつむいたまま、言葉を続ける佳乃に声をかけながら、俺は昔を思い出していた。
……そういえば、俺も……母親には苦労を掛け通しだったしな……。
「われは……恩知らずな女です……こんな、こんな女が母親なんて……」
「佳乃」
「あ、あなた……」
しゃくりあげる佳乃の手をそっと取り、出来るだけ優しく語りかけた。
涙交じりの佳乃の顔を目にして、そんな状況じゃないにも関わらず胸が高鳴るのを覚え、
心を沈めるためにも、そっと深呼吸しながらゆっくりと語り始めた。
「えーっと……何て言うか、上手く言えないけれど、それは佳乃に限った話じゃ……ないんじゃないかな」
こう切り出すと、佳乃は寂しそうに小首を傾げる。そんな佳乃に構わず、言葉を続けた。
「俺だって、今でこそ俺なりに、お袋を大事にしようと思っているけれど、
子どもの頃は、そんなこと考えていやしなかったし、考えようともしなかったし、ね」
「あ、あなた…も?」
俺の言葉に、佳乃がさも意外そうな表情で、俺を見返す。
「ああ。いつか、俺の子どもの頃の話、したことあったよね?」
「…………は、はい」
「俺も……子どもの頃、親父がいないことで色々あった時、
口にこそしなかったけれど、もしかしたら、態度に表れていたのかもしれない。
それでもお袋は、何があっても真っ先に俺のことを考えていてくれていた。
だからこうして、今の俺がいることに感謝して俺なりに、……その、親孝行して過ごしているつもり、だ……」
「…………」
話している内に、胸からじわっとこみあげるものが出てきて、言葉が詰まってしまう。
佳乃はそんな俺の頬に、そっと手を添えながら、俺の次の言葉をじっと待っていた。
「でもお袋って、俺に孝行してもらうつもりで、俺を育てていたと思う?」
「まさか……お義母さまが、そんなことを考えるはずが………」
「うん。そして薫さんだって、恩がどうとかって考えずに、佳乃を見守っていたんだと思う」
「佳乃だって、そんなこと考えて、幸乃を育てているわけじゃないだろ?」
「はい……。で、でも……」
「うん、佳乃が言いたいこともわかるさ。俺はまだ、お袋がああして元気だし、
実際にしょっちゅう会えるから、佳乃とはまた、違ってくるけど」
「だけど、どうしたって、過去に戻ることなんて出来やしないんだし、これから自分に何が出来るかを考えれば、
幸乃と生まれてくるお腹の子を、大事に育てていけば、それも恩返しのひとつに、なるんじゃないの……かな?」
「あ、あなた……っ!」
俺の言葉に感極まったのか、佳乃が俺にしがみついてきた。
俺もまた、佳乃をひしと抱き寄せ、しばらく抱き合っていたが、やがてどちらからとも言わず、
抱きしめている腕を緩め、お互い顔を見つめ合い……そっと口づけを交わした。
「あなた……」
「佳乃……」
唇を離し、お互いの名を呼び合う。さらに、軽くチュッチュッと軽い口づけを何度も繰り返しながら、
俺は佳乃のネグリジェのボタンを外し始める。とろんとした目つきで、佳乃は俺の手元を見ている。
「あ……あんっ」
ネグリジェをはだけ、露わになった胸を軽く揉みしだくと、たちまち佳乃は艶っぽい声をあげながら、
上半身をよじらせ始める。
その隙に、俺はパジャマとシャツを脱ぎ捨て、上半身裸になり、再び佳乃を抱きしめた。
肌と肌が触れ合い、佳乃の温もりと胸の鼓動が直接伝わってくる。
「温かい……」
「あ、あなた…っ…」
思わず考えたことが口から漏れ出した。
佳乃は、そんなつぶやきに顔を赤く染めながら、唇を寄せてくる。
「…っ、んふ、んっ……っ! ……んっ!」
口づけしたまま、佳乃の下腹部へと手を伸ばすと、途端にくぐもった喘ぎ声を漏らし始める佳乃。
「うん…っ、ん…んふっ、んんっ!」
下着越しに、佳乃の割れ目をなで続けるだけで、佳乃はひたすら喘ぎ声を漏らし続ける。
――と、佳乃もまた、俺のパジャマのズボンへ手を潜り込ませてきた。
「……っ、ん、んんっ……」
「んっ、ん……んっ」
口元では、お互いの舌を味わいながら、手はお互いの下腹部をまさぐりあい、
その刺激に下半身をよじらせ、足を絡めあう。……も、もう我慢出来ないかも。
「……っ、あ、あなた……も、もう…」
「あ、ああ…」
不意に佳乃が口を離したかと思うと、潤んだ瞳で囁きかけてきた。
既に、佳乃の下着は割れ目から溢れる蜜で、糸を引きそうなくらいに湿っている。
一方で俺もまた、佳乃の手がもたらす優しい刺激に耐え切れず、下着の先端を濡らしていた。
「じゃあ…いくよ」
「は、はい……」
四つんばいの姿勢になった佳乃の割れ目に、そっとモノをあてがいながら声を掛ける。
佳乃は、枕を抱きかかえながら、こちらを振り返りつつ返事をしてきた――と。
「っ、あ、ああっ、あな、たっ……」
俺は、割れ目に沿って、モノを擦りつけながら、腰を動かし始めた。
期待した刺激と違うのか、戸惑い気味の喘ぎ声を漏らす佳乃。
「あっ、あは、ああんっ…」
腰を動かしながら、背後から佳乃の胸を揉みしだく。佳乃は枕をぎゅっと抱きしめ、身悶えしている。
「…あ、っあは…あ、あなた……っ も、もう…っ」
「ん? どうしたの?」
喘ぎ声を漏らしながら、俺のほうを振り返る佳乃。その顔はどことなく、不満げな気配を見せていた。
その理由が分かっているにも関わらず、俺は腰を動かしたまま、とぼけたように返事をする。
「あっ……、お、お願いっ…あんっ、お、おちんちんを…ああんっ…」
「え? おちんちんがどうし…あうっ!」
佳乃の喘ぎまじりの懇願する声を堪能していた俺だったが、不意にモノに刺激が走り、声をうわづらせる。
そう、佳乃は不意に俺のモノを握り締め、しごき始めたのだ。
「…っ、い…意地悪……しないで、くださいいっ……」
「わ、わかった…わかったから…ううっ」
涙目の佳乃がしごき続ける、モノから溢れる刺激に、腰の動きも止まってしまう。
「はい、あなた……」
俺の返事を耳にして、佳乃はモノから手を離した。
そのままそっと口元へ運びつつ、舌先で手のひらを舐めまわし、
俺の方を見ながら妖しく微笑むのを目にした瞬間、俺の中で何かが弾けた。
「ああっ、あんっ、あなたっ! あなたあっ!」
「よ、佳乃! 佳乃っ!」
俺は佳乃の腰を捕まえ、ひと息に割れ目にモノを潜り込ませた。
佳乃の中は、今までの愛撫で完全に濡れそぼっていたようで、難なくモノを飲み込んでいった。
同時に、二人の口からお互いを呼び合う声があふれ出す。
「あっ、あああっ! あんっ! ああっ!」
「っ、よ、佳乃っ!」
俺が腰を突き動かすたびに、ぐちゅ、ずちゅ、という音とともに二人で喘ぎ声を漏らし続ける。
「あなたっ、ああっ! あああっ! 信幸様っ! 信幸様っ!」
「よ、佳乃、佳乃っ! イ、イク…イク、っ! 佳乃っ!」
やがて、お互いの声を呼び合いながら、二人はほぼ同時に絶頂に達していた――
「……あ、あなた……」
「ん? 何?」
腕枕の佳乃が、俺を見上げながら声を掛けてくる。
「われが、幸乃ちゃんたちの母親であることを……応援してくれますか?」
「ああ、勿論さ。前も言ったろ? 佳乃は俺の大事な嫁さんで、幸乃たちは俺の大事な子どもなんだから。
佳乃も、俺が幸乃たちの父親であること、応援してくれるだろ?」
不安げな表情で尋ねてくる佳乃に、迷わず答えた。そう、迷うわけがないし、俺だって同じ気持ちだ。
「は、はい……あなた…っ あ、ありがとうございます…っ」
俺の返事に、満面の笑みで応える佳乃。やっぱり佳乃は憂い顔より、笑顔がお似合いだ。
……でも、エッチで主導権を握られると、なんだか悔しくなってきた。
そう思った俺は、大袈裟に肩をすくめながら、あきれたように佳乃に語りかける。
「しかし……母親になろうとならまいと、佳乃はやっぱりエッチ好きだよなあ」
こう言えば、佳乃は顔を真っ赤に染め上げ、しどろもどろな表情になるはずだ。
「ええ。大好きですよ」
「え?」
だが佳乃の口から出てきた、思いも寄らない言葉を耳にした途端、逆にこちらが固まってしまった。
「……だって、あなた様には、こんなに可愛がっていただける上に……」
ぽかんと口を開けたままの俺に、嬉しそうに体を摺り寄せながら、ちらりと隣の部屋を見る佳乃。
戸が閉まっているその向こう側では、お袋と幸乃が一緒に寝ているはずだ。
「おかげで、あんなに可愛い幸乃ちゃんまで授かったのですもの。
これでどうして、嫌いになんてなれますか?」
「え、えっと……」
どう答えていいかわからず、しどろもどろになってしまう。まさか、こんな返し方をされるとは、まさに想定外だった。
「これからも……ずっと、ずっと幸せにさせてくださいませ………っ」
言いながら、俺の首元にしがみついてくる佳乃。俺は、そっと佳乃に口づけをしながら思った。
――これからは、生活の主導権はすべて、佳乃に移ってしまうのか、な?
久々すぎて
>>166に「おしまい」入れるの忘れてたorz
自分のことを覚えている方、(いらっしゃれば)お久しぶりです。
他にも中断しているの…沢山ありますねえ。
おおお、まさか続きが来るとは思わなかった
リアルタイムでは知らないが保管庫で呼んでた
乙
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
生きてた…生きてたのかあんた!
おお、私がこのスレを頻繁に覗くようになったキッカケのおひとりがココに再臨しとる!
アイリスも・・・アイリスも帰ってくるのか!?
都市では開化を迎えたが、
農村はいまだ、その恩恵に浴していなかった頃。
猟師が、まだ生業として成り立っていた頃のことである。
左平次という若い猟師が、黒狐を追って冬山に入った。
この左平次という男は、彼の本来の名と、
新政府によって全ての臣民に附与された姓を持っていたが、
もっぱら屋号であるところの左平次を名乗り、
また、村の者達も、彼を左平次と呼んでいた。
僅かばかりの食料と、鉄炮を担いで狐を追った左平次であったが、
誘い込まれるように段々と山深くにへと分け入り、
とうとう、帰路さえ見失った。
挙句、雪まで吹き始め、左平次は途方に暮れた。
「畜生め。たばかりやがったか」
左平次は、びょうびょうと鳴き荒ぶ吹雪の中を、当て所もなく彷徨った。
もし、歩くのをやめれば、体温が下がって凍死するだろう。
歩き続けてでも、いつかは限界が訪れ、雪山に骸を晒すことになる。
だが、歩き続けていれば、もしかしたら帰路に戻れるかもしれない。
万に一つの可能性だが、あの黒狐にまた出会えるかもしれない。
そうすれば、たとえこのまま凍死するさだめであったとしても、
彼奴めに、一矢報いてやれる。
生のためとも、復讐のためとも、全く非合理で、利己的な、
思考というより、妄執と呼ぶべき情念が、
左平次を動かしていた。
すでに日は傾き、吹雪は一段と非情に吹き巻いた。
真っ暗だというのに、視界が白く閉ざされている。
息をするのも苦しい真っ白な闇を、左平次は慎重に歩き続けた。
その眼に、一瞬小さな光が見えた。
それは、すぐに吹雪の中に掻き消されたが、
見紛うことなき炎の灯だった。
距離は、さして遠くない。
左平次は、逸る心を抑えつつ、より慎重に光の見えた方向にへと歩を進めた。
近付くにつれ、段々と灯は明瞭になっていった。
左平次が見つけたのは、粗末な小屋だった。
とてもとても人が住めるものとは思えないような、
柱に薄い木の板を打ち付けて、入口に筵を垂らしただけの、
薪を積んでおくだけが用途のような、
そんな、吹けば飛ぶような小屋だった。
その小屋の中で爆ぜる焚き火が、揺れる筵の裾から覗いていたのだった。
左平次は天佑に感謝し、小屋に逃げ込んだ。
小屋の中に人はなく、炎ばかりが赤々と揺れていた。
左平次は小屋の中を見回し、あらためたが、人の居た形跡はない。
また狐が誑かそうと仕組んだ罠なのかもしれない。
しかし、雪山を、神経を張り詰めさせて歩いてきた左平次は、
もはや狐が出ようが狸が出ようが、知ったことではないというほどに、
ひどく疲れきっていた。
あちこちから隙間風が吹き込むが、雪に晒されないだけましだ。
左平次は、どっかと地べたに座り込んだ。
途端に、体が恐ろしく重く感じられた。
無理もないことだ。
一日中雪山を歩き回っていたのだ。
山道を歩くのは、相当に神経も体力も磨り減らす。
ましてや、雪が降り積もる冬山となれば、もはや山を知悉した者でも、
あまりに危険な行路である。
無人の小屋に灯る焚き火に、不審を覚えないではなかったが、
左平次は、それすら、もうどうでも良いとばかりに、
積み上げられた泥のように、ぐったりと項垂れてしまった。
小屋に火があり、自分には鉄炮がある。
その安心感に捕われてしまったのか、
左平次は、こくこくと舟を漕ぎだしてしまった。
その時である。
骨身まで凍えるような風が、小屋の中に吹き巻いたのは。
その風に睡魔を吹き払われた左平次は、
捲くれ上がった筵の向こうに、白く烟る闇を背にしたそれを、
確かに見た。
薄い襦袢一枚を纏った女が、小屋の入口に佇んでいた。
この吹雪の中、信じられないような格好で、
しかも、その身にただの一片の雪も、身に貼り付けていない。
この女は、人間ではない。
左平次がそう判断したのと、体が鉄炮を構えたのは、
ほぼ同時であった。
「眠ってはならない」
女は、風の泣くような声で呟いた。
「わしが寝るも寝ないも、わしが決めることじゃ。
化物め、さっさと失せやがれ」
だが女は、その言葉に全く興味がないかのように、
ゆっくりと滑るようにして、小屋の中に進んだ。
左平次は、引き鉄を引いた。
炸裂音と黒煙が同時に鉄炮から噴き出し、
筒内に込めてあった鉛弾が、
雪除けに張ってあった銃口の油紙を破り、
不可視の速度で女を撃ち抜いた。
にも関わらず、女は顔色を変えるどころか、
銃弾の命中した部分にさえ、傷一つ、煤の汚れ一つついていなかった。
左平次は、ここに至ってようやく恐怖というものを覚えた。
今から弾を込めなおしては遅すぎる。
しかも、この女には、鉄炮が効かない。
唯一の出口さえ封じられた状態で、
左平次は、恐慌に陥りそうになるのを何とかくいとどめ、
懐に忍ばせた匕首に手を伸ばした。
鉄炮は効かずとも、山神の護りを受けた護身刀ならば、
化物相手でも幾らかの威力は期待できよう。
ずるずると、重々しく立ち上がった左平次は、
匕首を構え女を睨みつけた。
不意に、また風が吹き込んだ。
左平次は怯んだ。
再び、左平次が女の姿を捉えた時、
女は、裸になっていた。
雪のように白い裸身に、黒く艶やかな髪が流れ、
鮮やかな対比を示し、ほの紅い唇が、雪中梅のように、
濡れて綻んでいた。
女は、左平次にしなだれかかるように飛びついた。
氷のように冷たい手に、手首をつかまれ、
左平次はなす術もなく押し倒された。
女は、左平次の体に覆いかぶさり、抱きついた。
左平次の体から、力が流れ落ちていく。
匕首が、虚しく掌から脱落した。
「てめえ、何者だ。狐か、狸か」
精一杯の虚勢を張って喚く左平次の唇を、
女は自らの唇で塞いだ。
左平次の口腔に、冷たくぬめる舌が滑り込み、
左平次の舌を絡みつき、弄んだ。
ひとしきり左平次の口腔を嘗め回すと、
女は、唇を離した。
細い、銀色の糸が引いた。
「わらわから、獣の臭いがするか」
左平次は、呆けたような面で、
漫然と頭を振った。
女が、薄く笑んだ。
「雪山で、眠ってはならない」
女は力なく垂れ伸びた左平次の手首を掴み、
自らの裸の乳房に誘った。
女の乳房は、左平次の掌にすっぽりと収まった。
まるで濡れた氷のように滑らかで、冷たい、
そして、氷ではありえない豊かな柔らかさがあった。
左平次の掌が、女の乳房を強く掴んだ。
掌の腹に、柔らかな突起が擦れる。
女が、鼻にかかったような吐息をついた。
女の手が、左平次の腰に伸びた。
するすると、左平次の衣を解いていく。
やがて、左平次の男根が姿を現した。
すでに隆々といきり立ち、聳えるそれに、
女は指を這わせた。
木枯らしを細く束ねたようなそれは、
ゆっくりと左平次の逸物をさすり、撫で上げた。
その冷たさに、凍えて縮むのではないかとも思われたが、
左平次の考えをよそに、
逸物は纏わりつく冷たさに打ち克たんとするかのように、
一層多くの血を集め、熱を帯びていった。
「うれしや。かくも猛きものは、久しく逢うておらぬ」
女は、左平次の手を払い、体を起した。
左平次の腰の上で膝立ちになる。
力の入らぬ体越しに、左平次はその様子を見下ろした。
細く、白く、染み一つない女の肢体の、
太腿の付け根、臍の更に下に、
髪と同じ闇夜を溶かし込んだような色の、薄い翳りがあり、
それは、その更に奥から滲み出てくる情念に、
濡れて艶めいていた。
女が、ゆっくりと腰を下ろす。
亀頭が濡れた女陰に触れる。
左平次は叫びそうになった。
そこもやはり、恐ろしく冷たかった。
身の縮むような思いとは裏腹に、左平次のそれは、
尚一層熱く、いきり立った。
「ああ」
女が、恍惚の表情で、左平次のものを腹中に収めていく。
幼子の腕ほどもある左平次のそれを、女は、
腰を揺すりつつ、ゆっくりと、根元までを飲み込んだ。
女の中は、やはり、雪を詰めたように冷たかった。
それとは裏腹に、左平次の剛直は、
煮えた血を詰めたかのように熱く猛り、
陽根の名に相応しく、赤々と奮い立った。
女が、左平次に覆いかぶさってきた。
女の腕が、左平次の首に巻きつく。
左平次も、女の体に腕を回し、抱きしめた。
冷たく、細い体だった。
つららを抱いているかのように、脆く、壊れそうだった。
女が、腰を使った。
左平次の亀頭が、女の、襞に覆われた肉壁を挫き、
奥底の、子宮を突き上げる度に、
女は、苦しげな、切なげな、悩ましげな吐息を漏らした。
眉間には皺がより、それが、能面のように、
作り物じみていた女の表情に生命を与え、
えもいわれぬ、淫蕩な美観を呈していた。
女は、苦悶するかのように喘ぎ、呻いた。
だが、その苦悶を産み出している腰の運動は、
なお激しく、止むことを知らなかった。
女は、左平次の耳元に唇を寄せた。
「わらわを」と、
息も絶え絶えな、甘い声が、左平次の鼓膜に染み込んでいく。
「今宵一晩、満足させることが出来たならば、
この山を下りるまでのお前の命は、保障しよう。
精々、気張ることだな」
左平次と女の接合部は、どろどろと、ぬるんだ粘液にまみれ、
女が腰を動かすたびに、なんとも淫靡で、嫌らしい音が溢れ出ていた。
かんかんと熱く奮える左平次の怒張に、
抉られ、蹂躙され、潤み爛れた女の内壁が、
溶け出しているかのようだった。
女の腰の律動が速くなる。
喘ぎが止まらなくなった。
女が、一際強く、腰を左平次に叩き付けた。
亀頭が、子宮を突き、女の臓腑を揺らし、官能を震え上がらせた。
女は悲鳴を上げることも出来ぬままに、背を仰け反らせた。
筋肉が収縮する、
柔壁が、左平次の剛直を凄まじい力で締め上げた。
左平次は、自身の内奥から噴き上がった激情を、
女の奥に向けてぶちまけた。
「ああ熱、い」
女は、うわ言のように繰り返した。
しばし、女は背を仰け反らせ、四肢を突っ張ったままでいたが、
やがて、崩れるようにして再び左平次に覆いかぶさった。
「命の炎、しかと啖うたぞ。
だが、これで終わりと思うなよ」
女は、左平次に囁いた。
その妖しい微笑に、左平次は凍りつくような美しさを覚えた。
そして、萎え縮んでいく心と裏腹に、
冷たく濡れた女の胎内で、また熱く膨らんでいく己の陽根に戸惑い、怯えた。
女が、凄惨に嗤った。
それは、雪のように冷たく、白く、美しい貌だった。
――――――――――
翌朝、村では左平次の捜索をはじめようとしていた。
ようやく雪はやみ、雲を透かして、
曙光が薄明るく、山々を浮彫りにした。
いざ、出発しようとしたとき、山から下りてくる者があった。
左平次であった。
村人達は、左平次の軽率を咎めもしたが、
また、その帰還を喜んだ。
そして、山中でどのように過ごしたのかを尋ねても、
左平次は、気の抜けたような、
意味のない言葉しか返さなかった。
それからしばらくの後、左平次は再び山に入ることなく、
疲れて、眠るように息してを引き取った。
その髪は、まるで雪のように真っ白になっていたという。
(了)
拙筆、お目汚し失礼しました。
興に沿うところが御座いましたら、またいつか。
おー雪女。
搾り取られるとは、ある意味男にとって本懐な最期かもしれん。
また何かイイ話が浮かんだら、再臨してくだされ。
「ああっ、あん、ああっ、ご、御主人サマ、御主人サマあっ!」
「ア、アイリス、アイリスっ!」
艶かしい声を上げながら、僕にしがみつくアイリス。
僕もまた彼女に覆いかぶさった姿勢で、叩きつけるように腰を動かしながら、
アイリス――僕の大事な大事な女神サマにして、最愛の妻――の名を叫び続ける。
「ごっ、御主人サマっ、御主人サマっ! も、もう…!」
「っ……、アイリス……ぼ、僕も…っ!」
目を潤ませたアイリスの声が段々、途切れ途切れになっていく。
それと同時に、僕のすぼまりに潜り込んでいる、彼女の尻尾が僕の中で激しくうごめく。
尻尾の動きに合わせて、痺れるような快感が全身を襲う。
僕は快感の波に飲まれながらも必死に腰を動かし、喘ぎ声を漏らし続ける。
「イ、イッちゃう、御主人サマ、御主人サマ、イッちゃううーっ!」
「ああっ、アイリスっ! …くっ!」
ほどなくして僕とアイリスは、ほぼ同時に絶頂に達していた。
「はあ…はあ、はあ……ア、アイリス……」
「御主人サマ……」
絶頂に達してから、二人の動きが激しいものからゆっくりと、それでも大きな動きへと変わった。
気を失ってしまいそうな快感に震え、肩で息をさせながらも、女神サマの名を呼び続ける。
そんな僕を、アイリスは慈愛に満ちた、優しい笑顔で見つめ返してくれていた。
やがて、絶頂の余韻をいつまでも味わうかのように動き続けていた、
僕の腰とアイリスの尻尾の動きが、どちらからともなくほぼ同時に止まった。
そのまま、アイリスの横になろうとして、腰を引いたその時。
「ア、アイリス?」
アイリスが両足を絡ませ、僕の下半身を押さえ込んでしまった。
突然のことに、驚きの声をあげる僕に対し、頬をほんのり赤く染めながら、悪戯っぽく微笑むアイリス。
「っ……んっ、んふ、んんっ……」
次の瞬間、アイリスは両腕を僕の後頭部へと回したかと思うと、僕の頭を抱き寄せくちびるを重ねてきた。
さらに、くちびるの隙間から柔らかい舌が潜り込んでくる。
僕は戸惑いながらも、アイリスの柔らかい舌に自らの舌を絡ませ始めていた――
「んふ、ん、んっ、んん、んふんっ……」
「っ、ん、んっ……んっ」
しばらくの間、貪るようにお互いの舌を絡め合わせ、甘い吐息を漏らし続けていた。
「んっ……ん?」
が、突然アイリスの舌の動きがピタリと止まった。
僕は不思議に思いながらも、同じように舌の動きを止め、くちびるを重ねたままアイリスを見つめた。
アイリスもまた、僕のほうを見つめ返している。と、その時――
ゴーン……ゴーン……
どこからともなく――多分、近所の神社だと思うけど――、かすかに除夜の鐘が聞こえてきた。
その音は、じっとしていなければ聞き取れないほど、か細く、儚かった。
――もしかしてアイリスは、これを僕に聞かせたかったの?――
そう思ったが、くちびるを塞がれているままでは、声に出して問うことは出来ない。
だが、アイリスの嬉しそうな表情を目にした時、言葉を交わさなくても答えがわかった。
――勿論だよ、御主人サマ――
その目は如実に、そう答えているように感じられたのだ。
除夜の鐘が鳴り止み、どちらからと言わず、交わしていたくちびるを離した。
長い長いくちづけを表すかのように、二人の口を結ぶ細長い糸が光る。
糸が消えた途端、まるでそれを待っていたかのように、二人の口から同時に言葉がこぼれた。
「あけましておめでとう、アイリス」
「あけましておめでとうございます、御主人サマ」
あまりにタイミングが揃っていたためか、二人の間に再び沈黙が訪れた。
しばしの沈黙の後――
「……っ、ぷっ、くくくっ」
「あは、あはははっ」
堪えきれなくなった二人の口から、ほぼ同時に笑い声が溢れていた――
「ねえ、御主人サマ……」
「なんだい、アイリス?」
笑い声が止んだ頃、アイリスが無邪気な笑顔で、僕に語りかけてきた。
「やっと……年を跨いだまま、一緒になれたね」
「ああ、そうだね…」
アイリスの言葉に、僕はゆっくりと頷く。
そうだよね、去年は当直があったから、一緒に新年を迎えることが出来なかったわけだし、
その分、今年は二人でゆっくりと……。
「えっ、ア、アイリス!?」
「そういえば……一年の計は元旦にあり、って言うんだよね…」
などと思っていると、不意にアイリスが体を入れ替え、僕の上に馬乗りになった。
混乱している僕を他所に、独り言とも僕に語りかけるとも言わず、つぶやくアイリス。
「まあ、そうだけど、それとこの状況と……」
「と言うことは、今年は今日シた回数だけ、御主人サマと毎日出来るってことなんだよね
早くしないと……元旦が終わっちゃう」
どういう関係があるの、と言おうとしたが、僕の返事を聞いているのかどうか、
平然とした顔で、そら恐ろしいことをつぶやくアイリス。その目は…やばい、いつもの目だ。
「そ、それは何……ん…んんっ」
何もかもが違う、と言おうとしたが、毎度のようにアイリスにくちびるを塞がれてしまい、
その言葉が口から出てくることは、無かった――
……それにしても、毎度こうなってしまうのは何故なんだろうか……。
おしまい
短い上に日付が若干ズレてますが、気にしないでください。
皆様、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
…と言えるほど、投下出来……ればいいなあ。
>>180 乙
アンデッドスレにも来てくれた人やね
大神の恩返しの続編まああああああああだああああああああああ
蒼い月の夜、会話の中に伏線らしきものが…
想像にお任せということなのか、それとも続きが予定されていた(いる)のか
憑き狐をシリーズ化して欲しい
ところで山神狐巫女はあれで完結なの?
前に○○キツネっていう狐の母娘のエロ小説置いてたHPがあったはずなんだが、
○○が思い出せないばかりにgoogle検索しても見つからない…orz
好きだったのだがなあ。
キツネツキだった。俺死んでしまえ。
獣耳娘と結婚したい
個人的には
・犬耳娘-忠誠心が高く、家庭的。メイドさんや護衛向き?
・猫耳娘-気まぐれでツンデレ。お嬢様ないし女王様w向き?
・兎耳娘-小心者で寂しがり屋。娘・妹として可愛がるか、完全にペット扱いか……
・鳥耳娘-フリーダムでおバカだが憎めないボケキャラ
・龍耳娘-外見に似合わず落ち着いたロリババァ、もしくは外見もグラマーなお姉様。師匠向き?
・ロボ耳娘-犬以上に従順だが、主次第で千変万化。秘書向き?
というイメージ。古えの「GAOGAO」シリーズとかよかったなぁ。
「ワイルドフォース」&「カナン」は、このスレの住人なら泣いて喜ぶと思う。
狐は…?
狐は…?
狐耳娘は、犬と猫の中間で、悪戯好きなんだけど意外と義理がたい感じ?ごんぎつねとかの影響かな。
狸耳娘は、のんびりしてちょいドジっ子(ただし、ドジっても「えへへ〜、やっちゃった」と慌てない)
馬耳娘はスポーティで男勝りだけど、女の子扱いされるのに弱い、とか。
鼠は…?
牛は…?
虎は…?
羊は…?
猿は…?
猪は…?
鳥でも種類によって変わりそうだ。
ワシやタカならクールかつ獰猛、フクロウなら夜型知性的、カラスなら逆に頭脳派、オウムやインコなら歌好き、ペンギンなら水泳以外ぶきっちょとか。
節分ネタ来ると思ってたのに
鬼娘とかさ
うおおおおおおおおおお狐耳娘さんをモフりたいいい
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゙ヽフ ィノノハリ〉
il ,i.゚ -゚ノi| しばし待て
リ/i| v 〉]ア
ノ ∪ l
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ノ,,;; ' しソ
ここって設定上、素性は人外でも、あまりに擬人化され過ぎてるのは無しかな?
いや、「幻獣ハンター」ってモバゲームに出て来るヒュドラさんがあまりに性的過ぎて
妄想を刺激してやまないモンで……。
ちなみに、正式名称は「九毒の蝕みヒュドラ」。
パッと見は、ちょっと大柄でエロい下着姿の大柄な美女(台詞からして多分S)。
ただし、髪の毛の量が尋常じゃなくて、しかもそれがうねうねと自在に動く。
(本性は無論、百の首持つ不死身の毒竜)
そのキャラをヒロインにした話、書いてみようかと思うんだが……多分、「本性」は
主人公の回想でチラっとしか出さない予定。
同じ「海」属性の「貝入り娘 蜃」(内気で優しい系)とか「海の魔女ダゴン」(ロリ悪女系)とか
「無形少女ショゴス」(お気楽脳天気娘)とかも、おもしろそうではあるんだけど。
文句を言うやつはいないだろう
書いて下さい
「人魚姫」って童話あるよな?
海に落ちて溺れた人間に男に、助けた人魚がひと目惚れして、美声と引き換えに人間の姿になって陸まで追い掛けてくるんだけど、最後は泡になっちまう悲しい恋のお話だ。
あるいは、ちょいとマニアックに実写版映画の「スプラッシュ!」なんてのもあったな。あっちは逆に、最後は人間の方が「漢」を見せて人魚娘と添い遂げるハッピーエンドだった。
国産だと「瀬戸の花嫁」なんてヒロインが人魚のアニメもやってたよな〜、俺も何回かしか観たことないけど。
話の流れは違えど、人魚な彼女達は皆、けなげで優しくて主人公に一途に惚れてる……ってぇ、共通点があったと思う。
そりゃね、俺もそんなの男の浪漫──て言うか都合のいい妄想だってこたぁ、分かってたさ。そもそも、人魚なんて空想上の生物だし、仮にいたとしても、そんなご都合主義的に「惚れた男に尽くします」的な展開が、そうそう転がってると思えないし。
「ん? マーメイドってちゃんといるわよ? 私も昔は眷属(じゅうしゃ)として何人か手元に置いてたし。うーん、真面目でいい娘達なんだけど、男に惚れっぽいのが玉に瑕なのよねー」
はぁ、さいですか。
「ところで、ダーリン……私、そろそろお腹空いたわ♪」
あー、はいはい、もうちょっとで出来るから、ちょいと待っとくれ。
俺は、雑念を払いつつ、フライパンの中味を揺すりながら炒めつつ、電子レンジの中の深皿もチェックする。
程なく、チン! とレンジの調理が終わり、うまい具合にフライパンの方も出来あがったところだ。
俺は、大皿にフライパンの中味(豚肉多めのホイコーロー)を手早く盛りつけ、レンジから出してきた牡蠣グラタンとともにトレイに載せて、炊きたてご飯の入った電子ジャーと一緒に、リビングのテーブルまで運ぶ。
「ふふっ、今夜も美味しそうね♪」
下着姿(本人は部屋着と主張)で居間のソファに寝そべってテレビ観ていた女性──先程俺の雑談(雑念?)に茶々入れたのも彼女だ──は、けだるげに、けれどどこまでも優美な仕草で身を起こす。
優美なのは、仕草だけじゃない。
おそらく170センチは下らない長身と、出るところは出て引っ込むところは引っ込んだメリハリの利いた体つき。
欧亜混血風のやや彫りが深めだが、一流彫刻家の傑作の如き整った美貌。同じく日本人離れした白くしっとりと滑らかな肌。
個人の好みの差はあれど、少なくとも日本人男性の99%が彼女を「美女」の範疇に含めるだろう。
そして、何より彼女を特徴付けるのは、その見事な藍色の髪だ。ほとんど膝近くまである長さもさることながら、その量も尋常でなく、キャバ嬢のアゲアゲヘアなんてメじゃないレベルのボリュームで彼女の背後でウネウネとうねっている。
いや、比喩じゃなく、本当に動いているんだけど。
「じゃあ、折角ダーリンの作ってくれた夕飯なんだから、冷めないうちにいただくわね」
食卓につくが早いか、めまぐるしいスピードで、彼女の前に置いた食事が消えていく。
テーブルマナー的には問題なく、むしろ箸の持ち方なんて下手したら俺より上品なくらいなのに、その食事量とスピードはハンパじゃなかった。
以前なら、それにアテられて何だか食欲減退してた俺だが、近頃は開き直って普通にしっかり食べられようになっていた(まぁ、食べないと「後」がツラいし)。
それどころか、彼女の食べっぷりを微笑ましく見つめながら、あの髪のリズミカルな動きからして、今日の夕食の味に満足してくれてるみたいだな……なんて観察する余裕すらある。
鉄面皮というわけではないが、普段からアルカイックな微笑を浮かべているせいで、イマイチ感情が読みにくい彼女だが、最近は犬の尻尾の如く髪の動きを見ればなんとなく彼女の機嫌がわかるようになってきた。
ははっ、人間てのは、つくづく環境に慣れる生き物なんだなぁ。
「そうね〜。ことさら口にしなくても妻(あるじ)の気分を察してくれるなんて、夫(しもべ)としていい傾向だと思うわ♪」
はいはい、そりゃよござんした。
ちなみに、フリガナも含めて「妻」とか「夫」と言うのは別段冗談じゃない。
つい先日、俺こと平凡なアラサー男・井出歩(いで・あゆむ)と目の前の美女・九頭見龍子(くずみ・りゅうこ)さんは、挙式と入籍を済ませた、まごうことなき夫婦なのだから。
もっとも、そこに至る過程は決して平坦なものではなかったし、さらに言うなら(薄々予想はついてるかもしれないが)、ウチの奥さんも決してタダ者じゃない。
……て言うか、そもそも「人」ですらないし。
正気を疑われるのを承知で白状するが、この女性(ひと)は竜──それも、日本や中国でポピュラーな龍神様とかじゃなくて、知る人ぞ知る(たぶんRPGとかのファンなら聞いたことがあるだろう)ヒュドラ──和名・九頭竜の変化(へんげ)した姿なのだから。
「うふふ、ホントは9つじゃなくて100近く首はあるんだけどね♪」
-つづく-
#というワケで、書き出してみたヒュドラ娘さんのお話。私にしては珍しく、甲斐甲斐しくもけなげでもないタイプの女性。スランプ気味なので少量で申し訳ない。後編でふたりの馴れ染め&夜の営みが入る予定で、そちらで本性の描写もあるでしょう。
+ +
∧_∧ +
(0゚・∀・) ワクワクテカテカ
(0゚∪ ∪ +
と__)__) +
このスレの住人が好きそうなエロゲー、「プリンセスX」(ヒロインが全員人外)のファンディスクが出てたので買ってしまった。
・ラミア母娘、良くも悪くも大暴れ
・逆にプロ子(ケンタウロス娘)は色々不憫
・てぐす(蜘蛛女)、かわいいよ、てぐす
・はっちゃけ42さん(ドラム缶型ロボ)
・そしてデレたR-コマドリ(ガイノイド)は俺の嫁!
以上。
何にせよいろいろ充電は出来たので、自分も執筆に戻ろう。
かみのゆっていう2月のエロゲがヒロインが人外らしいぞ
#やはり、前後篇では収まらなかった……。すみませぬ。
『九毒蝕む我が龍姫』(中編)
井出 歩。性別・♂。年齢・28歳(当時)。職業・自営業(古本屋)。
職業柄(と言うのは言い訳か)、社会生活に役立つ知識は乏しいクセに、下らない無駄知識だけはかなりの量貯め込んでいる、若干ビブリオマニア気味なアラサー独身男。
──3ヵ月前、俺が失踪した時の世間的な認識は、こんなモンだろう。
念のため断わっておくと、俺だって自分から好き好んで失踪したわけじゃない。
かと言って、某国なり某マフィアなりの陰謀に巻き込まれたとか、そういうカッコいい(?)理由じゃなく、単なる事故ってヤツだ。
そう、あれは店の整理とか棚卸とかが珍しくスムーズに終わった休業日の午後。俺はふと気まぐれを起こして、近く(と言っても自転車で15分程かかるけど)の海まで釣りに出かけてみたのだ。
趣味と言えるほど精通しているわけでもないが、学生時代に買ったマイロッドは一応健在だったし、たまには静かに海でも眺めつつ、水面に糸を垂れてみるのもいいかなぁ、くらいの気持ちだったのだ。
ところが。磯辺で釣り糸を垂れてるうちに、うつらうつらしちまったくらいはともかく、地震、それも結構震度の大きいのが来ても居眠りしたままで、ハッと気付けば高波に飲まれてるってのは、我ながらウッカリが過ぎるだろう。
日本人の平均程度には泳げる自信はあったが、波に飲まれた際にしこたま水を飲んじまったらしく、たちまち息苦しくなって、巧く身体も動かせず、正直もうダメかと思ってたんだが。
意識を喪う寸前に何やらふたつの蒼い光みたいなモノが見えて……。
左胸に焼けた火箸が突き刺さるような激痛に飛び起きたところ、俺は何やらクリスタルで出来た宮殿(?)みたいな場所に座り込んでいたんだ。
「あら、意外な反応。案外悪運が強いのね」
状況がつかめず茫然とする俺に、すぐ背後から笑みを含んだ柔らかな声がかけられる。
「!」
とっさに振り向いた俺の目の前にいたのは……。
俺の貧弱な語彙では「絶世の美女!!」としか表現しようのない人物だった。
よほどのロリコン・ツルペタ好きでもない限り、男なら思わず唾を飲んで見とれてしまうような見事な曲線を描く肢体。
この薄暗い闇の中にあっても、ほのかに光っているようにさえ見える白く滑らかな肌。
仏蘭西人形の優美さと京人形の繊細さを同時に兼ね備えたような美貌。
そして。
ぬばたまの如き黒髪──というには、僅かに青みがかったその髪は、身の丈より長く、それどころか遥か後方にまでうねうねと長く伸びている。
ギリシャ彫刻風のシンプルな白いドレスに身を包んでいるのが、また、女神かと思えるほどハマっている。
おそろしく魅力的だが、同時にどこかエキセントリックで畏怖すら感じさせる──そんな迫力ある雰囲気をまとった美人さんが、俺のすぐ背後に置かれた椅子(と言うか玉座?)に腰かけて、こちらを見て嫣然と微笑ったのだ。
正直に言うと、その時背筋を冷たいものが走ったね。
目の前の女性が見たままの存在じゃないと、本能的に覚ってたんだろうなぁ。
「──どちら様?」
それでも、あまり普段と変わらぬ平静な(彼女に言わせると「間抜けな」)声を出せたのは、我ながら称賛に値すると思う。
「ふーん。人に名前を聞くときは、まず自分から名乗るのが人間の礼儀だったと思うけど……まぁ、いいわ。どうせ、知ってるしね、イデ・アユム」
!
「えっと……どこかでお会いしたこと、ありましたっけ?」
恐る恐る俺がそう聞くと、なぜだか突然その女性はクスクス笑い始めたのだ。
「ウフフッ、おもしろい冗談ね。私と「以前」会ったか、なんて。もしかしてキミ、メトセラの末裔? それともマーメイドのレバーでも食べたの?」
メトセラ──確か、旧約聖書で1000年近い長寿を保ったとされる人物だっけ。それにマーメイドのレバーって、つまり「人魚の生肝」!?
どっちにせよ不老長寿に関わる単語ってことは……多分、この美人さんはやっぱり見かけどおりの年齢じゃない。多分とんでもなく長生きしてるってことか。
てことは、人間じゃない可能性も高いわけだ。
幸か不幸か学生時代の友人にソチラ方面を商売にしている人間がいる(そして実際、学生の頃にそういう事件にも巻き込まれた)から、数は少ないとは言え、妖怪とか妖精とかいった人外の存在が実在することは、俺も一応認識していた。
「ふふっ、せーかい。そうね。あんまり焦らすのもナンだから教えてあげるわ。私の正体は……コレよ!!」
一瞬──正確にはふた呼吸するほどの僅かな時間、俺達がいる部屋の床が透明になり、その下が透けて見える。
さらに、どこに光源があるのか常夜灯に照らされた程度の明度しかなかった部屋が、ほんの少しだけ明るくなった。とは言え、せいぜい停電時に懐中電灯を付けた程度の明るさだが。
しかし、それだけで十分だった。
俺達の足下──正確には床の下には、全長十メートルは下らないだろう、とぐろを巻いた大蛇が眠っていることはハッキリ見て取れたのだから。
しかも、ただの大蛇じゃない。
一瞬だったから正確な数は確認できなかったものの、蛇には複数──たぶん8本か9本の首があることも、俺にはわかってしまった。
「八岐大蛇……いや、九頭竜、か?」
思わず俺の口から漏れた言葉を、彼女が拾う。
「コチラでは、そう呼ばれることもあるわね。私はHydraって呼び方の方が好きだけど」
「ま、まじデスカ……」
驚きのあまり、思わず片言になってしまったのも無理はなかろう。
ヒュドラ、あるいはハイドラとも呼ばれるそれは、単なる妖怪変化の類いとは一線を画する存在だ。
逸話として有名なのは、ヘラクレスの難行と関連した「レルネーのヒュドラー」だろう。
伝承によればテュポーンとエキドナの子で、女神ヘラがかの英雄を抹殺すべく直々に育てた神話級の魔獣だ。善戦したものの、結局ヘラクレスには勝てなかったが、その死後、健闘を讃えて夜空のうみへび座になった……とされている。
「で、おそらにいるはずのうみへびさんが、なんでここに?」
先程の余韻で思わず"ひらがなしゃべり"になってしまったが、質問を返せただけでも御の字だと思っていただきたい。
「その前に誤解を解いておくけど、私は例の筋肉マッチョ坊やに焼き殺された「あの」個体本蛇(ほんにん)じゃないわよ」
その言葉から、推測できることは……。
「なるほど。ヒュドラってのは種族名なんですね」
「そ。頭の回転の速いコは、おねーさん好きよ」
からかうようにウィンクされるが、俺としては怒る気にもなれない。彼女の話が本当なら(そしてたぶん嘘はないと思う)、それこそメトセラか八百比丘尼でもない限り、千年単位の寿命を誇る相手に、子供扱いされても無理はないだろう。
「へぇ、おもしろい事考えるのね」
感心したような彼女は、つぃと「玉座」(実はさっき光の中で見ると大口を開けた蛇の顎そのものだった)から立ち上がると、俺のすぐ傍らに歩み寄ってくる。
人外の者への恐れ3分、美女にそばに来られたことによる照れが7分といった心持ちの俺は、それを紛らわせるために言葉を口にのぼらせた。
「えっと……ひとつ聞きたいんですが、もしかして、テレパシーか何かで俺の思考、読んでます?」
「うーん、キミの思っている超能力とはちょっと違うわ。ま、キミ本人にも関係あることだから教えたげるけど」
そう言うが早いか、彼女は俺の両肩に手を置き(ちなみに身長にほとんど差はなかった)、一瞬まじまじと俺の瞳を覗き込んだかと思うと……。
次の瞬間、俺は彼女に唇を奪われていたのだ!
「んんっ、んむっ!?」
驚いて半開きの唇の間に、彼女の長い舌が侵入し、俺の口の中に甘い香りが伝わってきた。それだけで、かぁっ、と頭に血が昇り、体温が上がるのを感じる。
そのあいだに、彼女の右手がスルリとシャツの胸元から滑り込み、左胸のあたりを優しく撫でさする。
たったそれだけのコトで、俺の息子はたちまち臨戦態勢に入ってしまっていた。
一応断わっておくと、これでも俺は全く女性経験がないわけじゃない。大学時代にふたりほど女の子とつきあった経験があるし、その内のひとり、ゼミの1学年先輩の女性と最後までヤッて童貞も捨てている。
生憎、先輩の卒業とともに疎遠になり、以来恋人のひとりもできたことはないが、そっち方面には元々割合淡白な方なので、特に性欲をもてあまして困った記憶もない。自慰の頻度など月に2、3回あるかないかだ。
ところが、そんな俺が如何に絶世傾国クラスの美人とは言え、初対面の女性にいきなりキスされ、それだけで股間がギンギンにいきりたっているのだ。
どう考えても、尋常な事態ではなかった。
「なん…で、こんなことを?」
それでも、俺は全自制心を振り絞って、彼女の肩をつかみ、乱暴にならない程度の力で引き剥がす。
「あら、びっくり。この状況でも情欲に抵抗できるなんて。キミ、意外に掘り出し物かもね」
言葉の内容ほど驚いた様子はなく彼女は俺の手を引いて、「玉座」に並んで座らせる。
「頭のいいキミだから分かると思うけど……ねぇ、その身体の疼き以外に変なことはないかしら?」
下半身の熱から意識を逸らしつつ俺はその問いかけの真意を探る。
「どういう、ことです?」
「ヒントをあげましょうか。私は「ヒュドラ」なのよ?」
いつもの半分も回らない頭を、それでもその言葉から、懸命に思考を連鎖させる。
(ヒュドラと言えば……九つないし百の首を持ち、斬られても死なない不死身で……あぁ、でも火には弱いんだっけ。それと……ヘラクレスの逸話だと、毒気にやられないように、口と鼻を布で覆いながらレルネーの沼に……)
カチリと思考のピースが嵌まる。
「え? なんで、俺、平然と生きてるんだ?」
そう、ヒュドラの吐く息や体液は、強い毒性があり、かの古代ギリシャの半神の英雄ですら耐えきれなかったほどのはずなのだ。
それなのに……霊感も魔力も(少なくとも学生時代に例の友人にみてもらった限りでは)ほぼ人並にしかなかったはずの俺が、なんで!?
「正確にはちょっと違うけど、キミはね、私の眷属になったのよ」
-つづく-
#と言うわけでHは次回持ち越し。事情説明の後、姐さん、主人公を食っちまいます(性的な意味で)。
#余談ですが、元々「幻獣ハンター」のカード「九毒の蝕みヒュドラ」にインスパイアされたSSなのですが、世界観的には私の他の作品(夫婦神善哉・おればかなど)と共通する「神魔の存在が公認され、ごく少数だが「MH」と呼ばれる専門家が存在する世界」をベースにしてます。
(て言うか、歩の学生時代の友人とはズバリ青月のこと)
本体が人間の体と分離してるの?
奇異太郎少年になりたい…
人間以外ってどの程度までなん?
見た目人っぽくても悪魔だの、雪女だの設定してればオーケー?
保管庫見た限りじゃ良さそうだが念のため
だと思う
人外の特徴を活かした話なら萌えが増す、というだけで、特徴が無ければダメということはないはず。
ttp://red.ribbon.to/~eroparo/sslibrary/o/original13a-9.html の続き。
「そ〜れっ」
部屋に戻り、敷いてあった布団の上にダイブしたかと思うと、ぱっと起き上がり、
両足の裏をくっつけて、あぐらみたいな姿勢になった千奈美が口を開いた。
「でも雪枝さん、絶対おかしいよ〜!」
「まあまあ、千奈美ちゃん」
雪枝さんはポットから急須にお湯を注ぎながら、千奈美を宥めようとしている。
「だって〜。雪枝さん、聞いたことない〜? 九尾の狐の伝説〜」
「う〜ん……確かに、聞いたことはありますけど、あくまでも伝説、ですからね」
浴衣の袖をまくりながら口を尖らせる千奈美と、急須の蓋を閉めて軽く揺すったまま、小首を傾げる雪枝さん。
…って、九尾の狐の伝説?
「でも〜」
「それに…千奈美ちゃんも見たでしょ? 久弥くんの尻尾」
「そ、そうだけどさ〜」
尚も何か言いたそうにする千奈美に、雪枝さんは湯飲みにお茶を注ぎながら答える。
肯定の言葉を漏らしつつも、千奈美は不服そうに頬っぺたをぷくりと膨らませながら、右側の髪をまとめ始めた。
「な、何のことなの?」
さっきまでの二人の会話についていけなかった僕は、会話が途切れたのを見計らって、
雪枝さんから湯飲みを受け取りながら、やっと口を挟んだ。
「知らない――」
僕の質問に、「のお!?」と「のですか?」と口調と語尾は違ったものの、同時に口を開く二人。
千奈美は目をぱっちり見開き、心底驚いたような顔を見せ、雪枝さんはぽかんと口を開けている。
「う、うん」
……そう驚かれても、知らないものは知らないわけで、お茶を飲みながら、そう頷くしかなかった。
「そっかあ……じゃあ、教えてあげる。昔聞いた話なんだけどお、九尾の狐って女の人しかいないんだよ」
「へ? で、でも久弥くんは……」
「だ・か・ら、わたしがさっきから、おかしいって言ってるんじゃない」
右側の髪をまとめ終え、今度は左側の髪をまとめ始めながらの千奈美の説明に、思わず疑問が口を突いた。
そんな僕を見て、再び口を尖らせる千奈美。
「まあ、私もそういう話を聞いたことはあるんですが、本当かどうか、確かめた人もいないわけですし…」
「ふうん……」
冷静に答える雪枝さん。
軽く、眠くなってきたので、湯飲みをテーブルに置いて、ごろりと横になる。
「でっもさあ」
髪をまとめ終え、いわゆるツインテールの髪型になった千奈美が不意に口を開く。
つられて千奈美のほうを見た僕は、思わずお茶を吹き出しかけてしまった。
あぐらを、かいたような、姿勢のため、千奈美の白い脚が、ほとんど丸見えに、なっている。
まではいいとして、付け根にあるはずの、真っ白い布が……無かった、のだ。
いつから、穿いてなかったんだ? もしかして、さっき風呂上がったときから、ずっとそのまま……?
「久弥くん、あのまんま帰してよかったのお? ふあ〜あ……、お仕置きしていたのに、さあ」
一人、混乱している…僕を他所に、……千奈美は、大きなあくびをしながら、喋り続ける。
「まあまあ、千奈美ちゃん。そう言わなくても……あ、あれ? ち、千奈美ちゃ……」
……雪枝さんが、千奈美を……なだめ、ようとして、いたかと、思うと、怪訝そうな、声を出し
――僕の意識は、不意にそこで途切れていた――
「………ん?」
「あ、おはようございます、亮太さん」
目が覚めた僕を見て、雪枝さんがにっこりと微笑みながら声をかけてきた。
その隣には、布団の中ですうすうと寝息を立てている千奈美がいる。
「ああ、おはよう……って、あ、あれ?」
言いながら体を起こそうとするが、腕を動かすことが出来ずに首を傾げた。
「……っと、えっ、ちょっと、これどういうこと!?」
寝起きということもあり、一瞬何が起きたのか分からなかったが、
腕を動かせない理由が、後ろ手に縛られていることに気づいた僕は、思わず叫んでいた。
「ああ、それですか……。ちょっとお仕置きを、と思いまして」
「え? お、お仕置きって…?」
心当たりがまったくない僕は、雪枝さんの言葉に混乱してしまう。
「ええ……。私たちというものがいるのに、さっき会ったばかりの旅館の女将さんと、
簡単にいやらしい関係になってしまう、いやらしい亮太さんに、ね」
「え? だ、だってあれは…」
雪枝さんは笑みこそ浮かべてはいるが、目が全然笑っていない。凄く怖いです。
……というか、葉子さんは妖力が必要だから、その源である僕の精を得るためにエッチしたって、
さっき聞いていたよね?
頭の中が混乱している中、後ろ手に縛られている僕は、雪枝さんによって簡単に仰向けに寝っ転がされた。
丁度、腰の辺りで後ろ手に縛られているため、自然と腰を突き上げる体勢になってしまう。
「さて…と」
「あう…っ、ゆ、雪枝さ…っ」
雪枝さんは軽く舌なめずりをしたかと思うと、その細い指で僕のモノを軽く握り締め、優しくしごき始める。
そんな優しい刺激に耐えられるはずもなく、僕は思わず声を漏らしてしまう。
「ふふっ……亮太さん、すっかり逞しくなりました、ね」
あっさりと勃ちあがった僕のモノを見て、雪枝さんは背筋がぞっとするほど、妖しい笑みを浮かべる。
「では、私も……」
雪枝さんは、ゆっくりと立ち上がったかと思うと、僕を見下ろしながら自らの帯を解く。
さらに雪枝さんは、浴衣の胸元に手を掛け、そっと浴衣をはだけさせた。
昼間のおかげで、健康的に焼けた黒い肌と、水着に覆われていた白い肌がコントラストを描いている。
まるで、真っ白いビキニを着ているような錯覚を覚えてしまう。
「……ふふっ……亮太さん……」
「あ、ゆ、雪枝さん…っ」
まるで、何かの芸術品のような雪枝さんの美しさに見蕩れていた僕だったが、不意に喘ぎ声が漏れ出す。
浴衣をはだけさせた姿勢のまま、雪枝さんは軽く右足を上げたかと思うと、
爪先を僕のモノと袋の間――蟻の門渡り、だっけ?――に、擦りつけてきたのだ。
「は、あうっ……」
指先で門渡りとモノの付け根を撫で回しながら、親指の付け根の部分で袋を軽く揉み上げる雪枝さん。
「あっ、ああっ……」
つつっと指先をモノに沿って這わせ、やがて爪先がカリ首部分に当たり……ピタリと動きが止まった。
「え…ゆ、雪枝、さん…?」
「……どうしましたか、亮太さん?」
刺激が中断されたことによって、自分でも意識しないうちに、怪訝そうな声が漏れてしまう。
雪枝さんは、そんな僕を見て小首を傾げながら、静かな笑みを僕に返してくる。
「え、あ……そ、その…」
「何ですか、亮太さん。男なんですから、はっきりと仰ってくださいませ」
口ごもる僕に、諭すように語り掛ける雪枝さん。その表情はあくまでも穏やかだ。
「その……も、もっと、シテ……」
「え? 亮太さん、何をもっとシテ欲しいんですか?」
顔がかあっと熱くなる感覚を覚えながら、雪枝さんに懇願するが、雪枝さんは嬉しそうに聞き返してきた。
「ち、ちんちんを…僕のちんちんを、もっと気持ちよくさせてくださいっ」
「まあ亮太さん、こんなことをシテ欲しいなんて、何ていやらしい人なんでしょう」
「あっ、ああっ…、あっ」
言いながら、雪枝さんは爪先を、カリ首部分に潜り込むように擦りつけてきた。
あまりの刺激に、思わず腰がよじらせてしまうが、雪枝さんの足は的確に僕のモノを擦り続ける。
「ああっ、あ……?」
しばしの間、雪枝さんの足先からもたらされる刺激に身を委ねていたが、不意にその刺激が途絶えた。
雪枝さんの足が、僕のモノからぱっと離れたかと思うと、雪枝さんは僕に背を向けて、
部屋の隅に置いてあった荷物まで、歩いていってしまったのだ。
「え、あ…ゆ、雪枝さん……?」
思わず腰をもぞもぞとよじらせながら、ゴソゴソ荷物を探る雪枝さんに話しかける。
雪枝さんは、しゃがんだ姿勢のまま、ゆっくりと顔だけをこちらに向けたかと思うと、微笑みかけてきた。
その、ぞっとするような笑みを目にして、思わず身震いしてしまう僕。
「うふふ……。これはお仕置きなんですから、まだガマンしてくださいね……」
と、雪枝さんは笑みを浮かべたまま、僕のほうへと戻ってきた。
その手には、何故か雪枝さんが昼間穿いていた、黄色いビキニのボトムスがある。
……お仕置き? 一体、何をする気……?
「よい……しょっと」
僕の両足を閉じ合わせ、その上にしゃがみ込む雪枝さん。
その目の前には、痛いぐらいに膨れ上がっているモノが、ピクピク震えている。
「あ、ああっ、ゆ、雪枝さん……」
雪枝さんの左手が、僕のモノを軽く握り締める。ただそれだけで、僕は絶頂に達しようとしてしまう。
そんな快感に抗えるはずもなく、思わず腰を突き上げた、次の瞬間――
「な、ゆ、雪枝さんっ!?」
不意に、雪枝さんは右手に持っていた、ビキニを僕のモノに括りつけてしまったのだ。
予想だにしていなかった出来事と、モノから伝わる痛みに、思わず悲鳴をあげてしまう。
「……言ったでしょう。これは、お仕置きです、って」
「お、お仕置きって……」
「そう……私たち以外の女の人とも、あっさり関係を持ってしまう、ふしだらなこの子に、ね」
「そ、そんな……あうっ」
僕の問いかけに、雪枝さんは軽く首を傾けながら、軽く拗ねたような表情を見せる。
思わず抗議の声をあげようとするが、不意にモノの先端から痛みが走り、再び悲鳴が漏れ出す。
雪枝さんが、僕のモノを軽く指で弾いてきたのだ。
「口答えは、許しませんよ?」
モノから伝わる痛みに、涙目になる僕を見下ろし、妖しい笑みを浮かべる雪枝さん。
そんな雪枝さんに、抗う気力も無くなった僕は、無言で頷くしかなかった。
「そう……本来の亮太さんは、素直で優しい方ですから、ね……ん、んんっ」
「あ、ううっ……」
言いながら、雪枝さんは自らの下腹部を僕のモノに擦りつけてきた。その口から、艶かしい声がこぼれる。
一方の僕は、モノからもたらされる、痛みとも快感ともとれる刺激に、体を捩じらせることしか出来なかった。
「ああっ…亮太さんの……固い…」
「ゆ…、雪枝さん……」
腰を上下させながら、うっとりとした声をあげる雪枝さん。
モノの先端から漏れ出す汁と、雪枝さんの下腹部から溢れる蜜が混ざり合い、僕のモノに絡みつく。
「あんっ…亮太さん……亮太、さん……」
「うく…ゆ、雪枝さ、んっ……」
雪枝さんはうわ言のように、僕の名を呼びながら腰を揺さぶり続ける。
その目は焦点が合わず、とろんとしている。
普段の僕なら、あっさりと絶頂に達していると思われるのだが、
モノの根元をしっかりと縛られているため、達せそうで達せない。
「ああんっ、あは…ああっ、ああっ、りょ、亮太さんっ……亮太さんっ…」
「ゆ、雪枝さん…っ、雪枝さんっ!」
やがて、雪枝さんの腰の動きが少しずつ激しさを増してきた。
にちゃにちゃと湿ったともに、僕のモノにも快感の波が押し寄せてくる。
「あ、ああっ! ゆっ、雪枝さんっ! 雪枝さんっっ!」
不意に、全身を痺れるような快感が襲い掛かり、堪えきれずに声をあげてしまう。
それとともに、僕のモノからは精がいつものように、勢いよく吹き出……ることはなく、
じわじわと滲み出すように溢れ、モノをつたって下腹部を白く染め上げていった。
「ああ…亮太さん……凄い……」
僕のモノから精を迸らせるやいなや、雪枝さんは腰の動きを緩め、うっとりとした表情で僕を見下ろす。
さらに、下腹部に溜まった僕の精を指で絡めとったかと思うと、そっと唇へと運んだ。
「………っ、んふ…美味し……」
「あの……雪枝、さん……」
指に絡みついた僕の精を舌先で舐めとりながら、妖しく笑みを浮かべる雪枝さん。
いつもの絶頂とは違う、じわじわ続く快感の波に震えながら、雪枝さんに声をかける。
そろそろ、解いて――そう言おうとした次の瞬間、雪枝さんはゆっくりと腰を浮かせた。
「さて、と……お仕置きは終わり、ですね……」
「ゆ、雪枝さ…」
腰を浮かせたまま、僕のモノを優しく握り締めながらつぶやく雪枝さん。
――ああ、やっと自由の身になれる――そう思った次の瞬間。
「あっ、ああっ!」
再びモノに襲い掛かる刺激――そう、雪枝さんは自らの割れ目の中へと、僕のモノを潜り込ませたのだ。
「ああっ、ゆ、雪枝さ…っ!」
「ああんっ、りょ、亮太さんっ!」
予想だにしなかった不意の刺激に、一瞬意識が飛びそうになってしまう。
雪枝さんは、そんな僕に構わず、僕の上に跨ったまま、上半身ごと激しく動く。
動いた弾みで、雪枝さんの豊かな胸がぷるんぷるんと激しく揺れる。
「あんっ、りょ、亮太さんっ、亮太さんっ!」
いつもなら、迷わず雪枝さんの胸へと手を伸ばすはずだが、後ろ手に縛られている状態では、
それもままならない。せいぜい、雪枝さんの動きに合わせて、身じろぎ程度に腰を動かす程度だ。
「りょ、亮太さん、亮太さんっ!」
「く…っ、ゆ、雪枝…さん……」
自らの胸を揉みしだき、上半身を仰け反らせつつ、艶かしい喘ぎ声を出し続ける雪枝さん。
僕はと言えば、一度精を迸らせて敏感になっているモノに、更なる刺激を加えられ、ビクビク震えていた。
「ああっ、は、ああっ!?」
「ゆ、雪枝さんっ!?」
不意に、雪枝さんがそれまでの喘ぎ声とは違った悲鳴をあげるとともに、動きがピタリと止まった。
それと同時に、雪枝さんの中がキュッと締まり、僕のモノに痛いくらいの刺激が送られる。
「あっ、ああ、あっ」
雪枝さんの後ろから伸びた小さな手が、雪枝さんの胸を鷲掴みにしているのが見える。
「雪枝さん、気持ちいいんでしょ? わたしも手伝ってあげる」
「ああっ、ち、千奈美ちゃ…ああんっ!」
小さな手の持ち主は――当たり前かもしれないが――横になっていたはずの千奈美だった。
雪枝さんは、驚愕の表情で後ろを仰ぎ見るが、千奈美が嬉しそうな笑みを浮かべながら、
その胸を揉みしだき始めると、悲鳴交じりの喘ぎ声とともに、全身をビクビクと震わせる。
「ああ、ああんっ、ああっ! あ、あんっ!」
「くう、ううっ、ち、千奈美…っ」
千奈美の手の動きに合わせるかのように、雪枝さんの中に入っているモノの締め付けが変わる。
身動きが取れない僕は、ただひたすらその刺激に翻弄され、くぐもった悲鳴をあげることしか出来なかった。
「ん〜。こっちのほうが、気持ちいいんだっけ?」
「ち、千奈美ちゃ、そ、そこ、そこはあっ!!」
千奈美の片方の手が、雪枝さんの下腹部へと向かう。
途端に、雪枝さんは甲高い悲鳴をあげながら、上半身を仰け反らせる。
「えっと…。ここ? ここかな?」
「ふあっ! ああっ、ああああっ!!」
小首を傾げながら、雪枝さんの下腹部を擦っていた千奈美の指が、雪枝さんの肉芽を軽く擦った。
「あ、ここだ。ここがいいんだよね?」
「ち、ちな…も、もう、もう…だ、だめ、だめええっ!!」
雪枝さんの反応を見て、千奈美は雪枝さんの肉芽を摘みあげた。
一方の雪枝さんは、返事を返す余裕もなく、叫び声をあげたかと思うと糸の切れた操り人形のように、
ゆっくりと千奈美のほうへと、上半身をもたれかかせていった。
「え? ……あれ? 雪枝さん? ……おーい」
もたれかかってきた雪枝さんを受け止め、千奈美が怪訝そうな声をあげる。
どうやら、雪枝さんは完全に気を失っているようだった。
「もう……しっかたないなあ。んっ…しょっと……」
言いながら、千奈美は雪枝さんの脇の下に手をとおし、ゆっくりと雪枝さんを横に寝かせた。
と同時に、雪枝さんと繋がったままの状態の僕も、横向きの姿勢になってしまう。
「……おにいちゃん、何してるの?」
雪枝さんが普通に息をしているのを確認した千奈美は、半ば呆れ顔で僕を見下ろす。
千奈美の角度から見た僕は、横を向いたまま後ろ手に腰を突き出し、雪枝さんと繋がったままだった。
おまけに、モノには雪枝さんの水着が巻きついている。
……確かに、傍から見たらかなり間抜けな、情けない姿勢かもしれない。
「あ。そ、その……千奈美、ほ、ほどいてくれない?」
「いいけどさあ。女の人の水着とかに手を出す男の人って普通、変態って言うんじゃな〜い?」
千奈美はため息とともに、モノに巻きついている水着を外し、僕の目の前でぶら下げながらつぶやく。
「い、いや……そっちじゃなくて、こっち」
「へ? ……おにいちゃん、もしかして本当に、変態の趣味があったの?」
身じろぎしながら背中を示すと、ようやく千奈美は、僕が今どういう姿勢になっているのかを理解してくれた。
と同時に眉をひそめ、水着を再び僕のモノに括りつけながら、僕に問いかける。
「な…そ、そんなわけないだろう! っていうか、せっかく解いたのに、何でまた括りつけるのさ!?」
「ん〜。よく見ると、結構可愛いかな、って気がしてきて」
僕の抗議の声を軽く聞き流し、モノの先端を人差し指で突っつきながら答える千奈美。
その目はまさに、悪戯のネタを見つけた時のそれだった。
「可愛くない! というか、こっちを解いてよ!」
「でもさ……誰に何で、縛られちゃってるの?」
千奈美の目に嫌な予感を感じながらも、モノの先端から伝わる優しい刺激を必死に堪え、再び頼み込む。
そんな僕を軽くあしらうかのように、千奈美は頬っぺたを軽くポリポリ引っ掻きながら、質問を投げかけてきた。
「そ、それは雪枝さんが、僕が眠っている間に……お仕置きだ、って」
「お仕置き? 何の?」
今度は、ツインテールを交互に下へ引っ張り、その勢いで首を左右に動かしながら、さらに問いかけてくる。
「ぼ、僕も訳がわからないよ。ただ、雪枝さんが言うには、葉子さんと一緒にいたからだって……」
「あ〜そうだ〜。おにいちゃん、わたしたちがいるってのに、さっき会ったばかりの葉子さんと、
お風呂場でエッチなことしていたんだもんね〜。ずるいなあ雪枝さん、一人でお仕置き始めちゃって〜」
目を覚ましてから、雪枝さんに言われたことを思い出し、千奈美に答えると、
何かに納得したように、千奈美は右手の拳で左手をポンと叩いた。
「うっ……。で、でも、もう十分反省しているからさ、これ解いてよ」
「えー? ……どうしよっかなあ?」
僕が再び懇願すると、千奈美は腕組みしながら小首を傾げだした。
…もっとも言葉とは裏腹に、その表情は心底嬉しそうに、口元には笑みまで浮かべているのだが。
「そ、そんなこと言わないで、さ」
「うーん……雪枝さんのお仕置きだったんでしょ? わたしが解いたら、わたしが怒られるし〜」
僕の再度のお願いに、千奈美は腕組みしたまま反対側に首を傾げたかと思うと、
アメリカ人のように大げさに両手を広げ、肩をすくませる。
…確かに、雪枝さんが怒ると怖いのは、僕はついさっき、千奈美は昼間、お互い身を以って知りました。
「それに、わたしがまだ、おにいちゃんにお仕置きしてないんだも〜ん」
僕が千奈美の言葉に、心の中で同意していた次の瞬間、
千奈美は片方の頬っぺたを膨らませ、人差し指をピシリと僕に突きつけながら言った。
>219-228で続きます。…いつ終わらせるんだ一体。
>187
…プロットが飛んでしまってますので、
雪が融けた北海道へ取材旅行に行ってから練り直しますorz
>>229 おお、続きがきてた。乙です。
久弥くんの事情が気になる。
そして、自分も投下させていただきます。
『九毒蝕む我が龍姫』(後編)
「正確にはちょっと違うけど、キミはね、私の眷属になったのよ」
けんぞく……って、いわゆる神族魔族の部下と言うか下僕というか使い魔というか……。
「フフッ、まぁそんな感じね──本来なら」
本来なら?
「キミね、私が拾った時、完全に溺れて呼吸も止まってたのよ」
うわぁ……聞きたくなかった、そんな台詞。
「とりあえず、足から逆さに吊るして水は吐かせたんだけど」
こんな風に──と言って、その長い髪の一房を触手状にして俺の足首を掴み、ゆらゆら揺らすヒュドラさん。
「わー、わかったから止めてくださいッ!」
慌てて床に下ろしてもらう。
「で、とりあえず肺から水を吐き出して、いったん自発呼吸もし始めたんだけど、それでも鼓動とか徐々に弱くなってきたから……」
きたから?
「生きてるうちに現代の人間社会の情報もらっとこうと思って、こう胸にプスッとね」
右手の人差し指をピンと立てると、彼女の真紅の爪が3センチほどの長さに伸びる。
……って、もしかしてさっきの激痛は、それが俺の心臓に刺さった痛みかぁ!?
「うん、正解。でも、おかげで私の爪が刺さったショックがマッサージの、爪の先から出る弱い毒がちょうど強心剤の代わりになって、目が覚めたんだから、WIN-WINじゃない」
私も望みの情報は得られたしね、としれっとした顔でのたまうヒュドラ嬢。
そうか。道理で神話時代から生きてる幻獣にしては、えらく言葉使いや知識が今風だと思ったんだ。
「で、それが何で眷属なんて話になるんです?」
「爪を抜いたあとの傷を塞ぐのに、私のウロコを一枚埋め込んだから♪」
慌てて、左胸を手で探るが、微かな傷痕が残っている以外の痕跡は確認できなかった。
「もう、体内に吸収されちゃったみたいよ。たぶん、よっぽど相性が良かったね」
ちなみに、キミが感じた激痛は、爪じゃなくてその時のものだと思うわよ……とヒュドラさんは、楽しそうに補足説明する。この人(いや、人間じゃないけど)、絶対Sだ。
「えーと、おおよその事情はわかりました」
体内に本人の鱗を埋め込まれているから、それを中継点にして思考がダダ漏れなんだろう。
呪術的にも、他者の血や体液を飲む、身体の一部を取り込むという行為は、霊的な繋がりを作るための手っ取り早い手段みたいだし。
逆に眷属だからこそ、主の毒も効果がない、ってことか。
「まぁ、そうなんだけど……キミさぁ、私のこと、どう思う?」
つ、艶っぽい流し目投げるのは勘弁してください。
こちとら、さっきから体内の欲望が不自然にいきり立ってて自制するのに苦労してるんですから。
「ねぇ、私、そんなに魅力ないかしら」
ちょ、タンマ、背中にふたつのやわらかい塊りが当たってる当たってますって!
「ふふっ、こんな時は女はこう言うのよね、「当ててんのよ♪」」
──Fuoooooooooooo!!!
ついに臨界点を突破して「どうにでもなれ!」と抱きしめ押し倒……そうとしたところで、髪の毛で動きを止められる。ぐぬぬ、これがおあずけプレイと言うヤツか。
「ほらね。主を自分の意志で害(レイプ)することができる眷属なんて聞いたことないわ。そもそもキミ、私に絶対服従だとか私の言葉が絶対だとか、思ってないでしょ」
そりゃあ、まぁ、結果的とは言え、助けてもらったことには恩義は感じてるし、貴女みたいな美人さんの頼みなら、極力聞いてあげたいとは思うけど、「絶対服従」はさすがにない。
「つまり、私とキミとの間には、現在霊的なつながりだけがある状態なの。これはこれで悪くないんだけど、ちょっと落ち着かないのよね。だから……」
玉座から立ちあがった彼女は、白い古風なドレスをスルリと脱ぎ捨てる。
そのまま、俺の服も(髪の毛触手が)手際良く脱がせ、俺達は生まれたままの姿で(彼女の場合は本体がアレだから言葉の綾だ)向かい合った。
「単刀直入に言うわ。セックスしましょ♪
この世のものとも思えない快楽の内にキミの心を蕩けさせて、本物の眷属にするわ。いい加減、ひとりで海底(ココ)に籠っているのも飽きたしね。
でも、もし万が一キミが私を十分満足させてくれたら──そうね、私の旦那様にしてあ・げ・る♪」
「あー、つまりどう転んでも、貴女から逃げられないことは確定なんですね」
「ふふっ、そうよ。安珍清姫の逸話じゃないけど、ヘビは一途なんだから♪」
「執念深いの間違いじゃないスかー!」
もっとも、実のところ俺も口で言うほど嫌がってるワケじゃない。
正直、化身したヒュドラさんの容姿は、かなり俺の好みのド真ん中に近いし、さっきから言葉を交わした限りでは、性格も(ナチュラルにワガママでマイペースなところも含め)案外好感を持てると感じていたからだ。
かくして、俺と彼女のふたりの関係における今後の主導権をかけた、一大「性戦」が開始されることとなったのだ!
* * *
ファーストヒットコンボ! ……というわけでもないのだが、せめて主導権を握ろうと自分から彼女に口づけした俺は、舌を絡ませて口の中を蹂躙されるというディープキスで迎撃される。
「ん…くちゅ……んむ…ふぅッ…んっ…」
一応童貞じゃないとは言え、女性とシた経験なんて10年近く前に何度かあっただけ。経験不足にもほどがあるが、仮に俺が人並み程度の性体験を持っていたとしても、彼女とのキスでは遅れをとったに違いない。
はっきり言って、メチャクチャ気持ち良い……キスがこんなに気持ち良いものだとは、正直思わなかった。たぶん、大蛇の化身である彼女の舌が(先こそふたつに割れてないものの)常人の域を通り越して長く、また器用であることも関係しているのだろう。
とは言え、一方的に蹂躙されているのもシャクだ。
「んんッ……!…」
今度は俺の方からも舌を絡ませていく。
彼女の口の中に舌を入れ、さっき彼女にされたように彼女の口の中を舐め回す。
彼女の唾液は──本来毒であるとは信じられない程──甘く、爽やかな香りがした。
俺達は、しばらくの間そうして舌を絡ませ合っていた。
どこぞのナイスガイの台詞じゃないが、心は熱く、頭は冷静に、そして両手は優しく彼女の身体を抱きしめる。それだけで、不思議と満たされていくような感じがする。
「ん……ふうっ………ねぇ、キミ、本当に経験少ないの? 私……こんな気持ちのいいキスしたの、初めてよ。もっとも、私とキスした人自体そう多くはないけど」
唇を離して訝しげに、しかし頬を紅く染めて言う彼女。
どうやら俺に出来る精一杯口撃(キス)はかなりの成果を挙げたようだが──ああ、そうか。そもそも、彼女の本性を考えれば、その生きた年数に比べてキスした相手が極端に少なくとも不思議はない。
しかし──いかにも経験豊富そうな妖艶な美女にこんな表情をされると、ギャップ萌えと言うか、すんごく可愛く感じてしまう。
「本当ですよ。そもそも嘘ついても仕方ないし」
疑似的に霊的な繋がりがあるから、思考や感情はだだ漏れなはずでしょ? と聞き返す。
「あはっ、冗談よ──(そうね。キミは私の旦那様になるんだもの。むしろ心強いわ)」
後にして考えると、その時から既に彼女は俺を本物の眷属に変えるつもりはなかったのだろう。
もっともその時の俺は、目の前の美女の相手でいっぱいいっぱいで、気付かなかったわけだが。
「フフッ、さ、もっとイイコト、し・ま・しょ」
楽しそうな彼女に、俺はそのまま押し倒されてしまう。彼女はトロンと潤んだ目付きで俺を見下ろしている。
「この体勢は……俺が不利過ぎませんか?」
久々なので、勝手がつかめず、先手を取られてしまった。
「だいじょうぶ。キミは私にその身を委ねてくれればそれでいーの」
悪戯っぽく笑うと、俺の肉棒を掌で弄ぶ彼女。合意の上とはいえ、何だか逆レイプをされているみたいだ。
「それがイイんじゃない。ねぇ、燃えない?」
いや、そういう嗜好は俺にはないんで……ない、はずだよな?
「そう言う割には、ずいぶんと元気じゃない、ココ」
彼女の言う通り、我が分身は既にカチコチの合体準備完了状態だ。まぁ、これからスることを思えば、無理もない話だが。
「あ、あんまりガン見しないでくれます? それほど大きさに自信があるわけでもないんで」
「フフフ……そういう風に恥じらう様子を見るのが、またソソるんじゃない。主(つま)の特権でしょ」
なんか完全に手玉に取られているような気がする。
「とは言え、私もすっかご無沙汰で、割と我慢きかなくなってるのよねー」
彼女の裸身が俺の上にまたがる。
下から見上げる形で一番目を引いたのは、やはり胸だろう。
D、いやEカップは確実なのに、垂れもせずに形は良好。まさに「たわわ」と言う形容が似合う極上の果実が目の前で揺れているのだ。これで奮い立たないワケがない。
「喜んでもらえたようで嬉しいわ。じゃあ、早々に私の中にお迎えするわ、下僕(だんな)様♪」
彼女は俺の腰の上に跨ると、ゆっくりと腰を下ろしてくる。先端が彼女の膣口に触れたとき、思わず声を上げそうになるのを懸命に堪える。
「ふふっ、よく堪えたわね。そう、殿方は喘ぐものじゃなくて喘がせるもの…よッ!」
からかうようにそう言うと、彼女はさらに腰を下ろし、俺の肉棒が彼女の膣内へと咥え込まれていく。
──ずぶずぶずぶッ
完全に腰を落とした彼女。
「……ッ!」
「あ…あぁぁ……わ、かる……?」
歯を食い縛って堪える(苦痛じゃなく快楽のあまり声が出そうなのだ)俺の耳元で、囁く彼女。しかし、その声も先程までと異なり、隠しきれない悦楽が滲んでいた
「あなたの…モノが……私の中に……入って…いる…の…が……」
言われなくてもわかっている。
肌はややひんやりしている彼女だが、その彼女の膣内はとても温かく潤っている。その心身をほぐす温泉のような温かな場所に、俺の肉棒が全て包まれているのだ。
正直なところ、油断すると一瞬で達しそうになるほどヤバい。
「私が……まずは動くから…あなたは、じっと、してて」
俺の状態がわかっているみたいで、彼女がそう気遣ってくれる。
「あ、はぁッ…あふッ…あぁッッッ!」
彼女は腰を上下させて、俺の肉棒をしごいていく度にじゅぶ、じゅぶと水音が耳に届いてくる。
その音も途方もなくエロかったが、それ以上に下半身の感覚は脅威だ。
こんなに気持ちが良いなんて、予想外もいい所。ヌルヌルした膣壁と擦れ合うたびに射精感が込み上げてきて、それを必死で我慢するので手一杯だ。
こういうのを名器と言うのかもしれない。
「クッ…すみません…」
「な、な、に?」
「そんなに、モたない、かも」
男として、この上なく情けない台詞だ。
けれど彼女は俺を蔑んだりしなかった。
「無理もないわ……我慢、しなくて、いいわよ」
むしろ、そう言って励ましてくれる。
正直、その言葉に甘えたいのは山々だったが、それでもこれから長い付き合いになるだろう伴侶(パートナー)に無様な真似は見せたくなくて、懸命に堪えて、彼女の腰の動きに合わせ力を振り絞って下から突き上げる。
「ああぁぁ……ッ!」
その突き上げに背を仰け反らせて喘ぐ彼女。
眷属とか下僕とかはどうでもいい。ただ、目の前の愛しい女性に、一方的に快楽を与えられるのではなく、俺も彼女に快楽を与えてあげたい。
彼女の喘ぎを聴いて、いつしか俺はそんなことを考えるようになっていた。
「あッ、あッ、あぅッ、んんッ、」
「くぅ、さすがにッ、俺も、もう…ッ」
俺の肉棒を優しく包み込んでくれている彼女の膣を、もっととことんまで味わい尽くしたい。そう考えているのに、未熟な身体の方に限界が来ているのでどうすることもできない。
「な、中に、そのまま出してぇ!」
そう言って彼女が腰を下ろして来たと同時に、俺は腰を思いっ切り突き上げる。
──ビュクッ ビュクッ!
間一髪彼女と同時にイった俺は、彼女の子宮の中にしこたま熱い白濁液を注ぎ込んでいた。
「あ…あぁぁ…ああぁぁっ…! …なかに…私の胎内(なか)に、あなたの……熱いモノが…入ってきてるぅ……」
──ビュク ビュク ビュクッ……
しばらくの後、ようやく俺の射精が収まったことを確認した彼女は、繋がったままの俺の上に倒れ込んできた。
身長差はほぼないので、俺の顔のすぐ横に彼女の美貌が見える。加えて視界に映る、地に着くほどの長い藍色の髪。
艶やかなその髪に、触れてみたくて、俺はそっと手を伸ばす。
彼女は一瞬ピクリと身を震わせたものの、それ以上は動かず、俺はそのまま彼女の髪に触れて、そのまま梳くように撫でていた。
あれほどウネウネ動いていたのに、指を擦り抜けていく髪の感触は細く滑らかで、とても触り心地がいい。
「……どうしたの?」
「ん? ああ、綺麗な髪だなぁ、って」
俺の馬鹿正直な答えに、彼女は呆れたような慈しむような視線を返した。
「ねぇ、キミ、私の本性が何かわかってるんでしょう? それでも、綺麗だって言うの?」
確かに、彼女の正体はヒュドラで、今の姿は擬態してるだけで、多分この髪も実際にはメドゥーサの髪の如く無数の蛇の首なのかもしれない。
それでも、綺麗だと──触れてみたいと──愛しいと思ったこの想いに嘘はない。
「……呆れた」
そう言いつつも、彼女の表情はどこか嬉しそうだった。
「で、この勝負、俺の勝ちでいいんですか?」
「あ、そう言えばそんなコトもしてたわね」
さては途中から忘れてたな?
「んーーー、ま、いいでしょう。とりあえず、この一戦はあなたの勝ちよ、旦那様」
ありゃ、案外素直に認めたな。
──ん? 「この一戦」?
「そ。さぁ、夜はまだまだ長いわよぉーー!!」
ちょ、待った、そもそも海底(ココ)に夜も昼もないだろうが!?
「ええ、だから好きなだけ睦み合えるわね、ダーリン♪」
ひぃええええーーー!
──その後、媚薬兼霊力補給の効果のある彼女の唾液(いわく「毒も薄めれば薬となる」んだそうな)で何度となく「復活」させられつつ、俺達は、ほぼ3日3晩交わり続けることになった。
おかげで、俺──俺達が地上に戻った時には、すでに津波から一週間近くの時が立ち、俺の生存はほぼ絶望しされていたことを付けくわえておく。
「うん、まぁ、若気の至りよね♪(テヘペロ)」
齢ン千歳の、どの口がそんな台詞言う気ですか、マイハニー。
-エピローグへ-
#すみません、エピローグは明日あたりにでも……。
乙!
結局、何だかんだで一応俺を「旦那様」と認めてもらったんで、ふたりで地上で暮らすことに。
実は、海底での隠棲生活に飽き飽きしていた彼女が、こうなるように手を抜いたんじゃあ……と気づいたが、俺としても、何にもない海底よりは住み慣れた地上で暮らす方が断然いいので追求する気は毛頭ない。
ただ、そのために彼女の化身(じつは目の前の人型は「9本の大首のひとつを核に魔力で実体化した存在」だった)を本体から一時的に「切り離す」必要があったり。これまでは眠る本体と化身は長〜い髪の毛でつながっていたのだ。
──え? エヴァンゲ●オン? ……せめて「子供たちは夜の住人」の由美と道麻って言ってあげて(我ながらたとえがマイナー過ぎか)。
ともあれ、3日3晩ブッ続けの交わりは、その儀式魔法で使う魔力蓄積のためだって言ってたけど……ありゃ、絶対後付けの言い訳だな、うん。
で、いざその儀式をしたら、とても(魂的に)痛かったらしく、涙目になってクスンと凹む彼女の様子がとても愛らしくて、ついつい押し倒してしまったあたり、いい加減俺もほだされてるよなぁ(1戦終わったら即逆襲されたけど)。
諸々のコトが終わったのち、彼女の魔力で大きなシャボン玉みたいな空気の塊りを作り、それに入って俺たちは地上に出た。
俺のポケットには小銭入れしか入ってなかったし、彼女は言わずもがなだが、上陸した場所は幸い俺の家の隣りの県だったから、電車で帰ること自体は比較的容易だった。
ただ、「ふたりで」家に戻ってから、もちろんひと悶着もふた悶着もあったともさ。
とりあえず、俺は津波で流された後、彼女に拾われて保護されてたが、一時的に記憶を失っていたということにしておく。
で、この一週間あまりの間に「彼女の献身的な看護」(笑)を受けた俺と彼女の間に愛が芽生え、さらに俺の記憶も戻ったので、ふたりで結婚してここに住むため戻って来た……と、周囲には説明した。
ちなみに、今俺が住んでる家は、仕事場(古本屋)を兼ねた、商店街の端っこにある一軒家だ。
元は爺さんが経営してたこの店に、務めて2年目の会社がつぶれた俺がそのまま居候兼店員として転がり込み、一昨年、爺さんが亡くなるとともに引き継いだ形になっている。
色々手を入れてるはいるが、かなり古いし、新婚の新居として見ると少々オンボロ気味なのは否めない。
彼女が難色を示したなら住居だけでも新築マンションにでも引っ越そうかと考えていたのだが、意外なことに我が奥様は、この古き良き昭和の香り漂う和洋折衷住宅がいたくお気に召したらしい。
「たとえ古くとも大切に使われていたものには魂(プシュケ)が宿るものなのよ、ダーリン」
神話の時代から生きる蛇姫様の言うことだけに不思議と説得力があるなぁ。
無論、俺としても伴侶に異論がなければ馴染みこの家を離れる理由はない。
かくして、俺達は正式に籍を入れる前からこの家で同棲生活を営むこととあいなった。
周囲の反応は様々だった。
ウチ両親に関しては、いきなり嫁を連れて来た割には、案外簡単に受け入れてくれた。
まぁ、俺もそろそろいい歳だし、龍子さん(ふたりで決めた偽名)はパッと見には「いいところのお嬢さん」っぽく見えるからな──ただし、「清楚可憐」じゃなくて「絢爛豪華でタカビー」系の。
実際、海底の棲み家からごっそり貴金属とか宝石の類を持ち出して来たから、ひと財産どころか百財産くらいあるけど。
現代日本の知識や社会常識その他についても、俺からコピーしたんだから、おおよそは心配ないだろうし。
(と、この時では思ってたんだが、後日「机上の知識」と実体験にもとづくそれとでは大きな差異があることに否応なく気付かされた。トホホ……)
紹介した友人たちからは、色々やっかまれもしたが、祝福してくれた──ただ、あとで霊能者してる友人には「あの女性の正体知ってるのか?」って聞かれたんで、曖昧に笑っておいた。
「……そうか。お前がいいなら、別に他人がとやかく言うことじゃないよな。いろいろ頑張れ──蛇性の淫なんて言葉もあるし」
「雨月物語」、だっけ? まぁ、俺は最初から彼女の本性は承知の上だし、その辺については問題ないんだが。まぁ、とりあえず寺詣りはやめとこう。「淫」の字の部分については……はは、これも「夫の義務」と割り切ることにしたよ。
ともあれ、そいつのツテでマイハニーの日本戸籍を作ってもらい、晴れて「ギリシャ系帰化人を母に持つ日本人・九頭見龍子」さんが社会的にも認知され、その半月後に華燭の宴とあいなった。
いやぁ、まさか、この俺に純白のタキシードなんてものを着る機会があるとは夢にも思ってなかったよ。
「ダーリン、ここは普通、新婦のウェディングドレス姿を褒めるところじゃないかしら?」
祭壇への道を腕組んで歩きながら、龍子さんが小声で呆れたように囁く。
普通は花嫁の父が祭壇前までエスコートして新郎に引き渡すんだろうけど、彼女が天涯孤独(と言うことになっている)なので、変則的にこういう進行にしてもらった。
──言わせんなよ恥ずかしい。
純白……ではなく、ほんの僅かにピンクがかった薄い桜色の上品なエンパイアラインの婚礼衣装に身を包んだ彼女は、冗談抜きで女神のように美しかった。
「フフッ、あ・り・が・と」
彼女限定のサトラレ状態なので、俺の本音はダダ漏れなワケだが、まぁ、その辺は文字通り「言わぬが花」いうヤツだろう。
さすがに神前での誓いっては白々しい気もしたんで、形式としては人前式ってことになるかな。
立会人(これは、例の霊能者な友人とその嫁さんが務めてくれた)の前で、二世を誓う俺達……もっとも、凡人な俺はともかく、我が奥方殿が来世を迎える頃には、人類の方が滅んでいるかもしれんが。
ともあれ、その出自とは裏腹に、呆れるほど美人であるという点を除けば龍子さんも、ごく当たり前の「幸せ一杯の花嫁」に見える。
実際、あとから聞いたところ「まさか私が人間の男の元に嫁ぐ日が来るなんてね〜」と、酔狂に面白がってはいたらしいし、ま、結果オーライだろう。
新婚旅行は1週間かけて国内の主要都市5ヵ所を梯子した。下手に風光明媚な場所より、現代文明の粋を凝らした都市の方にマイハニーは興味を示したからだ。
旅先では色々な厄介事──ホンっトにてんこ盛りなトラブルに遭遇もしたが、それもまぁ済んでみればいい笑い話だ。
そして、現在、俺は相変わらず古本屋の店主を務めてると同時に、主夫として我が家の切り盛りもしている。
彼女の名誉のために言っておくと、(驚いた事に)龍子さんも家事を分担しようと申し出てはくれたのだ。もっとも、これは俺の身を慮ってと言うより、好奇心でやってみたいという要素の方が強かったみたいだが。
そして、このテのありがちなお約束みたく家事の技量が壊滅的というワケでもなかった。少なくともひとり暮らしを始めた当初の俺よりは、よほど筋も良かった。
ただ……ちょっとでも気を抜くと、すぐに手の代わりに髪の毛の触手(?)を使っちまうんだよ(しかもその方が器用だし……)!
そんな光景、万が一他人に目撃されたらエラいことになる。
──と言うわけで、現在も独身の頃同様、俺が炊事・洗濯・掃除をこなしているというワケだ。
じゃあ、ウチの奥方殿は何にもしてないNEETなのかと言えば……うーん、違うと思う、一応。
まず、店を開けてない朝晩はともかく、俺が昼飯を作っているあいだは、店番してくれてる。好奇心と知識欲旺盛な我が妻は、本を読むのがお気に入りのようで、店番しながら片っ端からウチの売り物を読み漁っているのだ。
そのぶん、客への応対は比較的ぞんざいだけど、元々近所の学生と常連さんしか来ないような店だし、特に問題にもなってない。
そして、意外なことにパソコン、とくにインターネットにもハマった彼女は、最近デイトレードで結構な額(それこそ、ウチの店のつつましい収入と同じくらいの金額)を稼いでいる。
──巳(ヘビ)は金運の象徴とか言うけど、それと関係あるのだろーか? それとも、齢ン千年の智恵の勝利?
「あぁ、株取引(あんなの)なんて、運気の流れを読めば簡単よ」
オカルトでした!
ともかく、今現在の俺は、美人で(機嫌さえ損ねなければ)陽気で明るい嫁さんをもらって、至極幸せな新婚生活を満喫していると思う。
「ねぇ、ダーリ〜ン、お腹が膨れたら、私のもうひとつも欲求、満たして欲しいな♪」
食事のあと、妻にこんなに潤んだ瞳を向けられたら、たとえ相手が蛇姫様でなくとも、男なら後には引けないと言うモノだ。
「にゅふふ……月がとっても蒼いから今夜は寝かさないわよ〜」
──ただひとつ、夜の営みのあまり寝不足気味なのだけは何とかしてほしいと切に願う今日このごろではあるが。
-おわり-
#エピローグがややグダグダになってしまい申し訳ありません。
#とりあえず、ヒュドラさんとその夫君の話はいったん終了。
#もっとも、彼女の姉や妹がやって来たり、夫君の友人が嫉妬のあまり、「畜生、俺も!」と海に出かけてヘンなモノ拾って来たりする話も考えてはいますが。
姉妹丼ktkr
ヒュドラの姉や妹……ギリシア神話的に考えて…なんだ?
ネメアの獅子とかラードーンとか……もしや、相方の蟹か?ww
243 :
187:2012/03/15(木) 10:05:36.20 ID:tzU9PfCh
>229
返答感謝いたします。
それと各キャラクターのイメージを教えていただければ幸いのですが……。
先代大魔王の妻(勇者の母親でもある女性)の娘にして勇者と魔王の血を引く
とんでもハーフな為に、物心ついた頃から人間・魔族から命を狙われ続けたハーフデーモンの少女
そんな自分を受け入れてくれた現代の勇者パーティーのヘタレ魔法使い(ダイの大冒険の初期ポップみたいな感じ)のヘタレなりに努力する姿に惹かれ
後に何万年後の未来でも魔術の歴史を塗り替えた稀代の天才大魔導士夫婦として語り継がれる事になる
2人の出会いの物語でもある
本編マダー
ソーシャルゲー原作のSSをいくつか書いた者です。
「ソーシャルゲーは絶対やらん!」と決意されてる方(ある意味気持ちはわかる)でなければ、ここの住人にとって「神撃のバハムート」「幻獣ハンター」あたりは、かなりよい妄想刺激物(ねんりょう)ですよ〜。
萌えに特化した人なら、「女神フロンティア」「乙女転生グリモア伝」あたりでもイケるかも。
無論、裏を返せばあくまで「妄想を喚起する元」でしかない、という見方もできますが……。
ほす
大昔、アウターゾーンという漫画で、似たような話がありましたな。
まあ使い果たされたネタなんでしょうけれども。
大神の恩返しの続編まだああああああああああああああああ
>>250 せっかくのご要望なので、連休中に、「大神」関連の短編をひとつ落とします。
本来の流れスッ飛ばして、「大神の恩返し」の1年後の話とかになっちゃいますけど……
つーか、覚えててくれた人いたんだ!
+ +
∧_∧ +
(0゚・∀・) ワクワクテカテカ
(0゚∪ ∪ +
と__)__) +
ところでこのスレ住民のお勧め人外エロゲ教えてください
とっぱらはやった
比較的新しめだと「俺の彼女はヒトでなし」
→魔女の幼馴染、学級委員長の人狼娘、吸血鬼の後輩、転入生のアンドロイド、
そして空気(正確には気に関する何かの化身)の先輩……と、盛りだくさん。
学園コミカル系ながら、トゥルールートではややシリアスな話にも。
また、バッドエンドのない昨今の大半のヌルゲーと異なり、好感度を稼ぎ損ねると
(もしくはフラグ立て損ねると)ヒロインのルートに入ってても容赦なく結末がバッド風味に。
その分、人と他種族の差異とかをキチンとテーマにしてて好感がもてた。
ちょっと古いので「ドラクリウス」
→吸血鬼物。「吸血奇譚ムーンタイズ」の名前でPS2化もされた作品。
メインヒロインの大半(という全員)が吸血鬼。サブヒロインがライカンスロープ。
(PS2版は一応人間のヒロインもいるけど)。人と吸血鬼の関係の描写もさることながら
「母にして姉にして妹、そして恋人」たるベルチェが完璧メイド過ぎて生きるのがツラい。
ボケ犬メイドなゼノさんも、また別の味わいがあってよろしい。
さらにレトロな域なら「真瑠璃色の雪」と「恋姫」は鉄板。ただし、今は手に入らないかも。
──以上、個人的好みによる推薦でした。
>>253 アトラクナクア:伝奇もの
神樹の館:伝奇もの
機械仕掛けのイヴ:SF
Vanadisの魔物娘シリーズ
瑠璃色の雪も一応該当するか?
『大神の恩返し・特別編 「恋犬曜日?」』
築10年・軽骨モルタル作りのアパートの一室に、睦み合う男女の熱い喘ぎと息使いが満ちていた。
「──穂浪(ほなみ)、そろそろ、入れるぞ?」
いつもどこか皮肉げな目をした少年の、今ばかりは真剣な視線を受けて、少女はニッコリほほ笑む。
「はい、工人(かねひと)兄様の御望みのままに」
穂浪と呼ばれた少女は、腰を軽く浮かせると、「兄様」と呼んだ少年が挿入しやすいように角度を調節する。少年──工人も巧みに下半身を動かし、いきり立った肉棒の先端部を穂浪の膣口に押し付ける。
それだけで、このふたりがこれまでに幾度となく交わってきたことが推察できた。
──ぬぷりっ!
「はぅうんっ!!」
工人が腰を沈めると同時に、穂浪の口から艶っぽい喘ぎが溢れる。
「ッ……」
工人の方も、自らの分身を通じて感じる、抱きしめた少女の熱く潤った襞の感触に、思わず漏れかけた呻きをかみ殺した。
すでに両手両足では数えるのに足りないくらいの回数交わったふたりだが、何度挿入しても、その度に新鮮な──と同時にどこか懐かしさも感じる満ち足りた快楽に、工人は驚かされる。
「はぁ、ふぅ、んんっ……!」
それは穂浪の方も同様のようで、待ち焦がれていた恋人の男根の挿入にすっかり魅入られているようだ。秘裂に深々と埋められた工人の息子が胎内を満たす感触に、汗に濡れ光る黒髪を振り乱して悶える。
名家の御令嬢めいた雰囲気さえ感じられる普段の淑やかな素振りは、うっとりと口を半開きにして腰を懸命に振るその動作からは、欠片も見いだせなかった。
そんな穂浪の反応を優しさと愛しさと欲情が等分に混ざり合った視線で見つめながら、工人はグイグイと穂浪の身体を突き上げる。
彼の欲棒が少女の膣を奥まで貫くたびに、ぬちょぬちょと湿った音が漏れ聞こえてくる。
「はぅっ…くふぅ……に、にぃ…さま、気持ちよい、です、か?」
「ああ、勿論、だ。何度ヤッても、穂浪の膣内(なか)は、最高だ、な!」
途切れ途切れの言葉が、その熱中ぶりを示している。
それでも多少は余裕ができたのか、工人は目の前でたゆたゆと揺れている穂浪の乳房に両手を伸ばし、やや乱暴に揉みしだく。
「きゃうんッ! や、やめてたもれ……そ、そのように、強く握られては……わ、吾れの乳が壊れてしまぅぅ!」
強い刺激を与えられて、どうやら少女は取り繕ったしゃべり方ができなくなったようだ。
「とか言いつつ、穂浪は、こう強めに握られるのが好きなんだよな?」
痛みと快感が半々に混ざり合う、絶妙な力加減で豊かな乳房を刺激され、穂浪は声にならない悲鳴を上げていた。
いや、それを悲鳴と呼ぶのは正しくないかもしれない。なぜなら、先程まで以上に少女の瞳は快楽に潤み、その膣の締めつけと愛液の分泌はさらに増していたのだから。
そんな恋人の様子に気を良くした工人がさらに腰の動きを強く激しくしていくことで、並はずれた体力を持つはずの穂浪の目から僅かに残った理性の色が消え、ガクガクと腰を揺さぶり快楽を貪るだけの牝へと変貌していく。
「はぁ……はぁ……お、お前様ぁ、も、もぅ、穂浪は、穂浪はぁ……!」
「おぅ、わかった。今、ラストスパートかけてイカせてやるからな」
工人が抽送の速度を調節して、同時に達せるよう加減する。
熱い吐息と喘ぎ、そしてぬちゃぬちゃと湿った擦過音が響くなか、ほどなくふたりは同時に絶頂へと達した。
「あ、あ、あぁぁぁ……キャウぅぅぅぅぅンッッッッ!」
穂浪の感極まった嬌声を聞きながら、工人は熱い白濁を愛しい少女の胎内へと注ぎ込むのだった。
* * *
早朝──と呼ぶには少し遅い、五月のとある日曜の午前8時過ぎ。
高校三年生の少年、楼蘭工人は、簡単な朝食の支度を一通り整えて、同居人を起こしに行く。
「おーい、穂浪ぃ、朝だぞー」
そう呼び掛けつつも、これで相手が起きるとは期待してないようで、ノックもせずに(まぁ、ふすまの和室なのでノックしずらいというのもあるが)と寝室に踏み込む。
畳の上に敷かれた布団の中には、予想通りいまだ白河夜船を漕いでいた。
「ほら、穂浪、そろそろ起きろよ。朝飯できてんぞ」
「…………工人兄様が、おはようの「チュウ」をしてくだされば、起きますわ」
眠そうな──と言うか本当に眠いのだろう。明け方まで頑張ったし──少女の声に、やれやれと肩をすくめた工人は、そっと布団をめくると、何かを期待するような表情で目をつぶっている同居人にして恋人でもある少女の上に屈み込むと……。
──パスンッ!
「はうっ!?」
……斜め45度の絶妙な角度で、少女・穂浪の額にチョップを食らわせた。
「な、何をなさいますの!」
痛みはそれほどでもなかったのだが、予想外の衝撃に思わずピョコンと頭頂部近くから三角形の犬耳を飛び出させつつ、穂浪は抗議する。
「朝っぱらから色ボケた事いってんじゃねーよ。さっさと起きないと朝飯が冷めるだろーうが」
呆れたようなジト目になって穂浪を見下ろす工人。目の前の少女は、彼にとって大切な恋人ではあるが、同時にその日常生活を見守り時に厳しく指導すべき妹分でもあるのだ。
ずぼらに見えて、案外律儀な少年は、少女の父親から託された役目をないがしろにする気はなかった。
「はぅ〜、おかしいですわ。恋人のあんな可愛らしいおねだりを聞いた殿方であれば、紳士的に優しくキスしてくださるか、あるいはケダモノになって押し倒してくださるかの二択だと、珠希さんにお聞きしましたのに」
穂浪の口からこぼれた聞き覚えのある名前に、表情を変えないままゲッソリする工人。
(昨晩、何やら電話で長話していたと思ったら、あの猫娘の入れ知恵か……いや、本人は素で実体験を話しただけなんだろうが)
自分と同じく、微妙に一般常識に欠ける人外娘を恋人にしている顔見知りの少年に、こっそり同情と共感の念を禁じえない。
(廉太郎くん……強く、生きろよ)
「──馬鹿なこと言ってないでさっさと着替えれ」
「はぁい」
ようやく布団を出た穂浪がネグリジェのボタンを外し始めたのを確認してから、工人は居間にとって返した。
そして、数分後。
「(はぐはぐ……)ふぅ、やっぱり工人兄様が作られた朝餉は美味しいですわね」
先程までの痴態(ただし、性的ではなくおバカという意味で)が嘘のような、ピシッとした制服姿の穂浪が、優雅な仕草で工人が作った朝食を口にしていた。
「褒めてくれるのは嬉しいけど、単なるトーストとベーコンエッグだぜ?」
「何を仰いますか。トーストの焼き加減も、ベーコンのカリカリ具合も、この卵の半熟加減も絶品ですわ!」
そこまで力説されると、さすがに面映ゆい。工人は話題を変えることにした。
「それにしても、穂浪のしゃべり方も、すっかりその「お姉様口調」が板についたな」
数年前に両親を亡くし、親代わりの姉も先年嫁いだため、ひとり暮らしをしていた工人のもとに、とある事情で大神を自称するこの狼娘・穂浪が転がり込んで来たのが、ちょうど一年ほど前の話だ。
それから、よんどころない事情で穂浪とともに暮らすことになり、山の隠れ里育ちで物知らずな(一応基礎知識はとある方法で充填したが穴だらけだった)穂浪のフォローに、当初は奔走したものだった。
しかしながら、さすがに半年ほど経つと、このお騒がせ狼娘も「普通の女子高生としての生活」に慣れ、それほど大きな騒動を起こすことはなくなった。むしろ、部活などでは(その外面の良さも影響して)「頼りになる先輩」として尊敬の目で見られる機会も増えてくる。
その頃からだろうか、ふたりの関係が「単なる同居人」から「気になる異性同士」に変化していったのは。
もっとも、最終的に一線を越えたのは、今年の3月某日──いわゆるホワイトデーだった。
しかも、告白した(正確には、バレンタインの穂浪からの告白に工人が応えた)その日のうちにファーストキス、さらにその夜、風呂・同衾・初体験の3ヒットコンボを決めたので、恋人として過ごした時間はまだ3ヵ月にも満たないのだが。
「そうですわね。学校や知り合いの前ではずっとこちらの話し方ですから、すっかり慣れてしまいしまたわ」
現れた当初の穂浪は時代劇の侍めいた口調(しかも男声)で話していたのだが、人として学校に行くのにそれでは怪しまれるということで、仮想ペルソナとして某ゲームのお姉様タイプのキャラを参考にしたのだ。
最初の頃はそれも学校にいる時だけだったが、いつの間にか彼女の素性を知る工人とふたりきりの時も、そのしゃべり方をするようになっていた。
「工人兄様は、この話し方はお嫌いですか?」
「いや、そんな事はない。基本的には今のお前さんには似合ってるし……」
いったん言葉を切ってニヤリと笑う。
「──それに、ベッドで乱れる時だけは、お前さん、ときどき地が出てるからな」
「! もぅっ! 恥ずかしいことおっしゃらないでください」
羞恥に赤くなった表情を隠すように穂浪が食事に専念し、しばしの間、心地よい沈黙が食卓に落ちる。
「御馳走さまでした」
やがて、朝食を品よく平らげ、両掌を合わせる穂浪に、一足早く食べ終っていた工人が「はいよ、お粗末さま」と声をかける。
「今日は、バスケ部の練習試合があるんだろ。時間は大丈夫か?」
「ええ、午前10時に相手校の校門前に集合ですから」
今日の試合相手は星河丘ですから、それほど時間もかかりませんわ、とニッコリ微笑む穂浪。
「星河丘って……そうか、今日の相手は珠希ちゃん達か。それで、昨日あんなに色々話してたんだな」
人の身に姿を変じているとは言え、大神──いわゆる人狼族の末裔である穂浪の運動能力は卓越している。本来の半分程度に抑えていてさえ、「超高校級のアスリート」として某学園にスカウトされてもおかしくないレベルなのだ。
しかし、そんな穂浪が、これまで二度だけ遅れをとったことがある。
そのうちのひとつが、今年のインターハイ優勝チームで、もうひとつが今日向かう星河丘学園のバスケットボール部だ。
あちらにも猫又娘という思わぬ助っ人がいたことで、昨年の練習試合では予想外の敗北を喫することになったのだ。
淑やかに見えて意外に負けず嫌いな(もっとも、工人は彼女の地の性格を知ってるので意外でも何でもなかったが)穂浪は、相当悔しかったらしく、それまでサボりがちだったバスケ部の練習に、以来真面目に出るようになったくらいだ。
「今日こそリベンジを果たしてみせますわ!」
静かに闘志を燃やす穂浪を暖かい目で見つめながら、工人は忠告(アドバイス)する。
「それはそうと……まだ、犬耳出たまんまだぞ」
「犬ぢゃなくて狼ですッ!」
-おわり-
#ほのぼのイチャイチャが書きたかった。やまなしおちなしいみなしになって、今はちょっと後悔をしている。
/j^i
./ ;!
/ /__,,..
/ `(_t_,__〕
/ '(_t_,__〕 GoodJob!!!
/ {_i_,__〕
/ ノ {_i__〉
/ _,..-'"
/
Gj
保守
#保守代わりにだいぶ前に予告した、「セレブなマミー美女」の話。私のSSの例に違わず、前置きその他が長めですが、「それでもいいや」と言う方のみ、読んでやってください。
『奥様はマミー』前編
星河丘学園中等部に通う14歳の少女、田川ククルは生粋の「お嬢様」である。
田川家自体は、北関東のごくありふれた地主の家柄だが、彼女の父は世界的に著名な考古学者であり、母は日本でも有数のアパレルメーカーを経営している。
自宅は、23区外とは言えその郊外にあるとは思えぬ規模の大豪邸で、陳腐な言い方だが、幼い頃から「蝶よ花よ」と育てられた経歴を持つ。
周囲の環境ばかりではない。
ククル自身も、学年TOP10に食い込む学業成績を維持し、かつ小学生の頃からジュニアテニス界期待の星と嘱望されているという文武両道ぶり。
容姿も母譲りの端麗さで、とくにその歳に似合わぬ発達した胸部と、いつも穏やかな笑顔を絶やさぬ美貌は、同じクラスのみならず同学年、いや1年生や3年生の男子にもファンが多い。
普通ここまで恵まれていると、本人の性格が歪んだり傲慢だったりするものだが、両親の教育方針のおかげか、むしろ今時の女子中学生にしては珍しいほど、純真で優しい「いい子」なのだ。
ラノベかエロゲなら間違いなく正ヒロインを張っているだろう美少女だが、ククルも人の子、実はひとつだけ悩み──というか気がかりな事柄があった。
「そう言えば、おばさまって凄く若く見えるけど、幾つなんだっけ?」
放課後の帰路、電車の中で親友の武内ちはやに聞かれて、ピクッと背筋を震わせるククル。
小学生時代からの友人であるちはやは、田川邸に何度も遊びに来たことがあるので、ククルの母シャミーとも親しい。それ故に出た疑問だったのだろうが……。
「──じつは、おはずかしながら、わたくしも母の年齢を知らなくて……」
子供の頃から何度か尋ねたとはあるのだが、母からはサラリとかわされ、父も笑って教えてくれなかったのだ。
けれど。
その日の夕食で、久々にその疑問をククルが口にしたところ、両親は顔を見合せて、頷きあった。
「そうだな。ククルもだいぶ大きくなったことだし……」
「そろそろ冷静に受け止めてくれるかしら」
母の年齢を聞いただけなのに、何やらただ事でない雰囲気である。
「えーっと……」
そこまで重い話なら、わたくし遠慮します──と言いかけたククルだったが、すでに父は語る体制に入ってしまっていた。
「そう、あれは今から18年前。私が、とある私立大学のしがない准教授だった時の話だ……」
* * *
これは……どういうことなのだろう?
率直に言って私は混乱していた。あるいは傍目には落ち着き払って見えたかもしれないが、それは単に私が動揺が顔に出にくいタチだからに過ぎない。
「よし、落ち着こう。まずは状況を整理しよう」
私の名前は、田川孝司。東京近郊のとある私立大学で准教授として教鞭をとっている者だ。
専門は考古学、中でも古代メソポタミア文明に関してであり、職掌柄フィールドワーク(この場合、俗に言う発掘作業も指す)に従事することも多い。
教授方の中には、土埃に塗れて遺跡を掘り返すことを好まない潔癖(私に言わせればズボラ)なタイプもいるが、幸い私はそういう現場での作業を苦にならない。
今回も、とある文献から少々眉唾気味ながら画期的な情報を得た私は、単身渡航し、文献に記されていたと思しき場所へ予備調査のつもりで足を運んでいた……はずだ。
* * *
「ちょ、ちょっと待って下さい、お父様!」
本格的に回想の語りに入りかけた父親を、ククルは慌てて止めた。
「ん? 何かね、ククル?」
気勢を削がれつつも、相手が愛娘だからか、田川氏は声を荒げたりはしなかった。
「あ、あのぅ……水を差すようで恐縮なのですが、その……」
──と、父の背後で母が掲げている手書きのフリップボードを指差すククル。
「お母様が描かれたその絵の人物は、もしかして、若き日のお父様……なのでしょうか?」
一流アパレルメーカーのオーナーであり、自らも少なからず自社製品のデザインにいろいろ口出しをしているだけあって、シャミーはなかなか絵が達者だ。
多少デフォルメが効いているが、それでも有名人の似顔絵など描かせると、下手な漫画家よりよほどわかりやすく特徴を掴んだラクガキを仕上げる。
その彼女が描いた、「若き日の夫」の姿は──。
「ぜんっぜん、今とイメージが違うのですけれど」
シェミー画の「田川准教授」は、和製インディ・ジョーンズと言うか、探偵ドラマの主役を演じる40歳前の柴田恭兵と言うか……「知性はありつつも、思索より行動を重んじるチョイ悪オヤジ」風のフェドーラ帽をかぶったタフガイそのものだ。
半白の髪をきれいに撫でつけ、パイプを片手に常に穏やかな目付きと口調で家族や友人知人と会話する目の前のダンディな知識人とは、どうしても重ならない。
「はは、まぁ、私も当時はまだまだ若かったということだ──と言っても、そろそろ30代半ばに差しかかってはいたのだがね」
「当時の孝司さんはすごくカッコ良かったのよ〜。無論、今も別の方向性で素敵だけど」
「ありがとう。シャミーも当時から変わらず綺麗だよ。いや、むしろ当時以上に魅力的と言うべきかな」
「もぅっ、孝司さんったら〜」
マンガなら「イチャイチャ」という擬音が特大の書き文字で表現されそうな惚気っぷりだが、生まれてから16年間この万年ラブラブ夫婦のスキンシップを目の当たりにし続けてきたククルは、今更これくらいでは動じない。
「えぇっと、それでお父様は、当時どちらへ予備調査に赴かれたのですか?」
「おお、すまんすまん。話を戻そうか」
* * *
昨夜は、調査のあと疑わしいポイントに目星をつけ、そのまま屋外に張ったテントで眠ったはずだが……。
「ここは、どこだ?」
人間、あまりに意表をついた環境に置かれると、存外芸のない言葉しか出て来ないものだと、痛感させられる。
なぜなら、眠りについたシュラフとは似ても似つかない大きくて豪奢なベッド(言うまでもなく見覚えはない)に埋もれるように横たわっていたのだから。
ベッドのクッションも布団の肌触りも極上で、このまま惰眠を貪りたい衝動に駆られる。
特に、人肌程度に暖かく柔らかなすべすべした枕の不思議な感触がまた最高で、一体どんな素材を使用しているのか製作元を問い詰めたくなる代物だ。
──コロン
「あン♪」
(んん!?)
枕の上で寝がえりをうった瞬間、間近から聞こえてきた女性の声(悲鳴というか嬌声に近い響きがあった)のおかげで、幸いにして二度寝せずに済んだ。
──と言うか、今のは何だ?
薄々その答えはわかってはいたのだが、それでも「いや馬鹿な、そんなはずがない」と言う思いから、私は自らの推論を否定……。
「あら、お目覚めになられまして?」
……しようとしてできなかった。
なぜなら、横になったまま私が見上げた視線のすぐ先には、ニッコリと微笑む褐色の肌の美女の貌があったからだ。
* * *
「えーと、それってつまり、お父様は膝枕をされていたというコトですか?」
「うむ、まさにその通り」
「で、流れからして膝枕していた方がお母様?」
「(ぽっ)♪」
はにかむ母の様子は、とても14歳の娘がいるとは思えないほど可愛らしいが……。
ククルは、あえて苦言を呈することを決意する。
「あの、無礼を承知でおふたりに言いたいことがあるのですが……」
「構わぬよ。言ってみなさい、何かな?」
愛娘の少し緊張したような表情を見ながら、田川教授は内心苦笑する。
(まぁ、いきなりこんな荒唐無稽な話を信じろという方が無理か)
長年、考古学者なんて職業(しょうばい)をやってきて、その調査先で妻を筆頭に幾多の怪異と遭遇した経験のある彼は、この世界の"常識"が以外に脆いものであることを知っているが、14歳という分別がつき始める年頃の少女に、話だけで理解しろと言うのは酷だろう。
──いや、世間的には「厨二病」なんて言葉もあるらしいが、親のひいき目を抜きにしても、娘にそれに罹患(かかっ)ているとは思い難い。
しかし、ククルの言葉は教授の予想の斜め上をいった。
「その……おふたりは、その時初対面だったんですよね? なのに、いきなり見知らぬ殿方に膝枕というのは少々段階を飛ばし過ぎだと思います、お母様!」
「あらあら」
「ソッチか!?」
──どうやら、我が子は間違いなく天然無敵な妻似らしい。
どこで覚えたのか「テヘペロ」と可愛らしく舌を出している妻に、詰め寄っている娘を見ながら、田川教授は心底脱力するのだった。
-つづく-
#とりあえず書き出しはココまで。田川夫人の正体は……まぁ、名前からお察しください。かなり強引な設定ですが。
乙
おつです
イイジャナーイ天然マミーな奥さん
なるほど、マミーなだけに子持ちか。
> 生まれてから16年間
14歳なのでは?
「神撃のバハムート」に出て来た、スライム・エレナが妄想かき立て過ぎる!
飼育してくれる人に懐いて進化し、人型(それも亡妻を模した姿)になるとか俺得。
SSにする際の問題は、このスレの「ブルーリキッド」のルクさんと、ややカブり気味なところか。
保守も兼ねて投下します。続きは未定。
満月の夜のことだった。かつてヨーロッパと呼ばれていた地域に佇む古城、ウェステンブルグ。寝静まったその城の中で蠢く一つの影があった。
絨毯の敷かれた廊下を足音を立てずに進むその男の目つきは鋭く、碧い。気配を消して歩いていた男はある部屋の前で立ち止まると、もう一度周囲を見回してからその中に滑り込んだ。
部屋の中は廊下よりも一層豪華な造りだった。各所に置かれた家具や調度品は、素人目に見ても高級なものだとわかる。その間をかすかに漂うのは薔薇の香だろうか。
入っただけで圧倒されそうなその部屋を男は横切り、窓際に置かれたベッドに近づく。そこには白いシーツに包まれた金髪の少女が横たわっていた。
月明かりに照らされたその姿は、規則正しい寝息と、僅かに上下する胸がなければ作り物としか思えない。それぐらい美しく、現実離れした少女だった。
その隣では銀髪の少女が寝息を立てていた。金髪の少女よりも更に幼く、金髪の少女の腕を枕にして眠っている。こちらもまた、男の目を惹きつける魅力をその体に備えている。
そんな二人の美少女が純白のシーツ一枚に包まって眠る様子には絵画のような美しさが会ったが、ベッドの前に立つ男は顔色一つ変えることなく彼女たちを見下ろしていた。
男が懐に手を伸ばす。コートの裏から出てきたのは、この上品な部屋には似つかわしくない、あまりにも無骨な拳銃だった。何のためらいもなく銃口を少女の頭に向け、引き金を引く。
パン、パン、と乾いた音が二発響く。その音がもたらした結果を見て、男は目を見開いた。
引き金を引く瞬間までそこで眠っていた少女の姿が無い。放たれた銃弾は、無人のベッドと枕を穿って、羽毛を宙に巻き上げただけだった。
「夜這いにしては、ずいぶん無粋ね」
驚く男の背中に声がかかる。考える間もなく、彼はその場から横っ跳びで逃げる。一瞬前まで彼が呆然と立っていた場所を、赤い光が貫いていた。放たれた光がバルコニーのガラスを破り夜空へ消える。
彼がその光の元を視線で辿れば、そこには先程までベッドで眠っていたはずの少女たちが並んで立っていた。金髪の少女は不敵な笑みを浮かべて、銀髪の少女は無表情。どちらも一糸まとわぬ裸体を男の前に晒している。
それに向かって男は引き金を引く。銃口は寸分の狂いもなく少女を捉えている。にもかかわらず、少女には傷一つつかない。銃弾は全て、彼女に当たる直前の空中で止まっていた。
銃が効かないと分かった男は、向きを変えて一目散にバルコニーに向かって走り出した。さっき割れた窓ガラスを破って、手すりを飛び越え夜闇へと飛び出した。
「逃げ出すには早いんじゃないの?」
飛び出したはずだった。目の前には、首に突き付けられたレイピア。立っているのは、ガラスの破片が散らばったバルコニー。たった今飛び降りたはずのバルコニーに、彼は『着地』していた。
「さて、クエスチョンタイムといきましょうか。まずあなた、何者?」
レイピア持つ金髪の少女が問う。首に冷たい感触を覚えながらも、男は口を開かない。
「まあ、答えてくれるとは思ってないわ。あなたが私の命を狙う人間の暗殺者ってことは、言わなくてもはっきりしているから」
チラリと少女は男の右手に握られた拳銃を見る。魔法がかかっている様子もない、ごく普通のオートマチック拳銃だ。
「私を殺して得のある人間の組織といったら……『赤い盾』か『隠れ12人使徒』の手の者かしら? 『クナイ』の人間には見えないしね」
男の表情には何の変化も無い。いくつかの組織の名前を挙げてカマをかけてみたが、どうも外れのようだ。
「全く。『白軍』がようやく降伏したっていうのに、今度はどこのバカが仕掛けてきたのかしら」
憂鬱そうに少女が呟く。その手が持つレイピアの先に、僅かな感触が走った。驚いて男の顔を見てみれば、ほんの僅かだが驚愕の色が浮かんでいる。
「……あなた、もしかして」
少女が問いかける前に、男が一歩前に踏み出した。当然、突きつけられた剣先が彼の喉を抉る。しかし彼は気にせず、むしろ自分の喉を押し込むように前に出た。剣と肉が触れ合った隙間から血が流れ出す。間もなく、男の体がぐらりと傾いで、紅いカーペットの上に倒れた。
青い影が目蓋の裏を通り過ぎた。心の奥底に食い込むその陰に驚いて、彼は飛び起きようとする。
しかし目蓋は開いても、四肢はぴくりとも動かなかった。神経が通っていないというわけではない。いくら力を込めても、腕の周りをコンクリートで固められたように動かせないのだ。
唯一動く首を使って辺りを見渡すと、そこは倒れる前とは違う、タンスと書き物机が置かれただけの殺風景な部屋だった。明かりとりの窓は小さく、そのせいかどこかじめじめした印象を受ける。
そこまで確かめてから、男は天井を見上げて深いため息をついた。包帯が巻かれているらしい喉がかすかに痛む。あの時、自分の主人がいなくなったことを知って、彼は即座に死を選んだ。
魔王の娘が嘘をついているようには見えなかったし、何より彼女の持っていた剣が、かつて主人の部屋で見たものと同じだったのを思い出したからだ。
しかし自分は生きている。どうやらあの魔王の娘は、自分にまだ聞きたいことがあるようだ。そのうち始まるであろう尋問を想像して憂鬱な気分になっていると、部屋のドアが開いた。
入ってきたのは、さっきまで彼が対峙していた魔王の娘ではない。その隣にいた銀髪の少女だった。今は流石に裸ではなく、黄色いローブを身に纏っている。
「あ、起きてた」
目を覚ました彼を見て、開口一番彼女が言ったのはそれだった。ベッドの前までとことこ歩いてきた彼女は、彼の顔をじーっと覗き込む。青い双眸に見つめられる彼は、表情一つ崩さない。
「喋れる?」
「……わからん」
と声を出してみて、初めて喋れることがわかった。喉を貫かれたはずなのだが、声帯は傷ついていないらしい。
「いや、喋れるようだ」
「そう。私はナコト、あなたは?」
ナコトの問いかけに対して男は答えない。質問に答えるつもりはない、そんな態度だった。
「……なら、さっそく身体検査を始めます」
言うが早いか、ナコトはアイルのポケットに手を突っ込んだ。鍵、手帳、ガムと次々に物が取り出される。
そして財布を見つけると、その中身もベッドの上に並べた。入っているのは、『白軍』の領地で使われている紙幣に銀貨と銅貨が数枚。それと手製のお守りだった。
「む」
ナコト見るとお守りには小さく文字が刺繍がされていた。
「アイル・ブリーデッド……それがあなたの名前?」
アイルと呼ばれた男は目を反らして答えない。多分、本当なのだろう。この手の暗殺者は偽名を使うのがセオリーだが、誰かの手作りのお守りにまで偽名を使う人間は聞いたことがない。
それ以上ポケットには何も入っていないとわかると、今度はコートを脱がせにかかった。アイル自身ではピクリとも動かせなかった四肢を、彼女はいともたやすく持ち上げてコートを器用に脱がしていく。
「お、ドラゴン革で裏打ちしてある。リッチだねえ」
炎も水も通さないドラゴンの革で仕上げられたコートを手にとって、ナコトが感慨深げに呟く。その視線がアイルの体に戻った時、一瞬だけ動きが止まった。
「おおぅ……」
コートの下の彼の体は武器で覆われていた。大振りのナイフ、拳銃とそのマガジン、手榴弾、ワイヤー、その他色々。これだけの重武装でありながら、魔力が込められている物は一品も無い。
「知らない魔力がこの城に入ったら感知するように結界を張ってあるのだけど……」
アイルの武器を一品一品丹念に調べ上げながら、ナコトが呟く。魔法を一切使わない侵入者が来ることは、考えもしなかったらしい。
ふむふむ、と呟きながら、ナコトが今度はアイルのシャツに手をかけた。
「おい、ちょっと待て」
「どうしたの?」
アイルが制止の声をあげるが、当のナコトは不思議そうに首を傾げている。
「脱がす必要はないだろう」
「身体検査だから。刺青とかが貴方の手掛かりになるかもしれないし」
「……むぅ」
そう言ってナコトはシャツを脱がせるのを再開する。アイルは唸るが、手足が動かないので脱がされるのを黙って受け入れるしかなかった。
ぴったりした黒いシャツを脱がせると、傷も刺青もついていない肌が現れた。鍛えているためやや筋肉質ではあるが、その肌は意外にも白さを保っている。
「きれい……」
などと呟きながらナコトは肌を撫でている。その様子をアイルは冷ややかに見つめていた。
「なあに、その目?」
視線に気付いたナコトが彼の肌に爪を立てる。血が出るほど深く爪を突き立てられても、やはり彼は眉一つ動かさない。痛みには慣れているのか、それとも訓練されているのか、いずれにせよ生半可な拷問は通用しなさそうだ。
はぁ、とため息をつくとナコトはアイルのベルトに手をかけた。
「なっ……お、おい!」
流石にこれにはアイルも顔色を変えるが、ナコトはもはや耳を貸さずに慣れた手つきでズボンと下着をまとめて脱がせた。足にも異常はないが、ナコトはもはやそんなことはどうでもいいといった具合で露出したアイルの肉棒を見つめていた。
「ほー……これは、中々……」
感慨深げに呟きながら、萎えた肉棒をそっと手に取り上下にしごき始める。アイルはビクッと腰を浮かせるが、抵抗することも逃げることもできない。そうこうしているうちに、刺激に反応したアイルの肉棒が硬くなり始めた。
「あ、おっきくなってきた」
その様子を見て、くす、と笑うナコトの様子は年端もいかない少女には似つかわしくない妖艶なものだった。アイルの背中にぞくりと走った悪寒を感じ取ったのか、もう一度笑ったナコトが今度は隆起した肉棒に舌を這わせ始める。
ぬめぬめとした感触が肉棒の付け根から先端まで這い上がり、鈴口をちろちろとくすぐる。その快感にアイルは歯を食いしばるが、肉棒の方はますます大きくなって脈動し始めた。
「ぷはっ……どう? こんな小さな女の子にフェラチオされるのは、新感覚でしょ?」
意地を張っているアイルを挑発するように、ナコトは彼の眼を見つめる。
「身動きがとれなくて、こんな小さな女の子の手でしごかれて、口で舐められて、それでびゅーびゅー精液だしちゃうの。ロリコンの変態以外の何者でも無いわね」
唾液を絡ませた肉棒を手の平で上下に擦りながら、卑猥な言葉でまくしたてる。責めの倒錯に興奮しているのか、彼女の頬はほんのりと赤みを帯びていた。
「ふふ、いいんだよ。頑張らないで、情けなく射精しちゃって」
そう囁いて、とうとうナコトはアイルの肉棒を口に含んだ。喉の奥まで使って、アイルの肉棒を根元まで咥えこむ。幼い容姿に似合わぬテクニックに、アイルは呻き声を漏らす。
「う、ぐ……う?」
快感を堪える彼の耳に、フェラチオとは違う水音が聞こえた。よく見ると、ナコトの左腕は彼女のローブの下に伸ばされ、そこからクチュクチュといやらしい音がしている。倒錯のあまり、自分で自分を貪るほど興奮してしまったか。
「はむ……んふふ」
そんな熱っぽい彼女と視線が合った時、彼女は嬉しそうに目を細めると、ずずずっと勢いよく肉棒を吸い込んだ。
「うぁ……ッ!」
耐え切れる快感ではなかった。腰の奥からせり上がった快感が、精液となって彼女の口内に放出される。
「ん、んぅっ!? ……くひゅ、んぐ、んぐ」
喉に直接精液を叩きつけられて目を見開いて驚くナコトだったが、それでも肉棒から口を離そうとはしない。許容量ギリギリの精液を、喉を鳴らして丹念に飲み込んでいく。
そうした口の蠢動が、肉棒に快感を与えて更に精液を出すように促していく。
やがてアイルの射精が収まると、ちゅっと尿道に残った精液を吸いとって、ようやくナコトは口を離した。
「ぷは……ごちそうさま。一杯出しちゃったね、ヘンタイさん」
あれだけの量を残らず飲み込んだのか、ナコトの口の中には精液は一滴も残っていない。媚薬のように体を熱くする精液に充てられて、うっとりとした目で彼女はアイルを見つめる。
だが、返ってきたのは殺意しか感じられない視線だった。いいように弄ばれてプライドを酷く傷つけられたアイルは、両手が動けばナコトの首を絞めかねない、そんな形相だった。
「ふーん。へー。ほー。そーゆー目、するんだ。ふーん……」
並の人間どころが魔族でも怯みかねない視線を受けても、ナコトは平然としている。しかし先程までの熱に浮かされた表情は消え、どこか冷めた、それでいて残酷な顔をしていた。
ナコトがのそのそとアイルの体を這い上がる。重みが彼の体に加わるが、見た目相応に軽い。胸の上に両手をついて顔を覗きこまれても、鍛えている彼には苦にもならなかった。
「身体検査は終わったから一緒に楽しもうと思ったけど……ちょっとおイタしちゃおうかな?」
ペロッと唇を撫でたナコトが微笑み、未だ硬いアイルの肉棒に手を伸ばす。丁度彼女の来ているローブの記事の下に肉棒が隠れてしまっているため、アイルから自分の肉棒に何が起きているかは分からない。
だが、男ならこれから何をされるかぐらいは、期待と共に簡単に想像することはできた。
「んっ……あ、はいっ、た、あっ」
口とは違う、ぬるっとした柔らかい何かに肉棒が包まれる。ローブの中に隠れていても、膣内の中に自分のモノが入っていることは分かる。ぐちゅ、ぎちゅ、と熱のこもった音が布の下から聞こえてくる。
それでもアイルはナコトのことを睨みつける。その視線に愉悦に浸った笑みで返すと、ナコトは一度、たった一度だけ腰を上げて。
「が―――うあっ!?」
腰を下ろした瞬間、アイルの意識が飛びかけた。同時に衝撃ともいえる快感を受けて、肉棒が精液を噴き上げ、ナコトの膣内に飲み込まれていく。ナコトもまた、その一回のはずのストロークで異常なまでに汗をかき、息を乱していた。
明らかに異常だ。テクニックがどうとかそういう問題ではない。意識を引き戻しつつこの狂った状況を分析しようとするアイルに、ナコトはにやりと微笑みかけた。
「んっ……知りたい? 私の秘密……」
返答をする間もなくナコトがアイルの胸板に舌を這わせる。たっぷり唾液を絡ませた舌が白い肌の上を這い、離れた場所から銀色の橋を伸ばしてぷつりと―――。
「……と、こんな感じに物の時間を止めることができます」
切れなかった。伸びきった唾液は、既にナコトの舌から離れているにも関わらず塔のようにその場に直立したままだった。ナコトが液体のはずの唾液の塔とトントンと叩くが、その通りの軽い音が返ってくるだけで崩れる様子はない。
時間を操る魔法。時の流れを早め、遅め、止め、動かし、あらゆる物理法則の頂点に立つその現象を、目の前の少女はまるで息をするかのように操っている。
時渡り。一度だけ耳にしたことのある希少な魔族の名前を、アイルは今ここで痛烈に思い出していた。
「ところで、今の一言で全てを察する物分かりのいいアイル君に問題です」
ナコトがそう呟いた瞬間、唾液の塔が散った。
「このように、時が動き出すと、止まっていた間の衝撃とか感触が全部一度に作用します」
未だにアイルの肉棒を包んだままのナコトの秘所がキュッと締まる。それに嫌な予感を覚えたアイルは声を上げようとした。
「おい、まさか……」
「じゃ、私がイクまで貴方の時を止めたら、どうなっちゃうでしょうか?」
次の瞬間、またあの狂気じみた快感がアイルの脳を貫いた。あまりに強すぎる快感に、もはや自分が射精していることも理解できていない。その余波が収まらぬうちに、またナコトが腰を上げた。射精の快感に上書きされて、もう一回分の絶頂が上乗せされる。
「あ……ぐあ……」
呻き声を上げることしかできないアイル。その様子を見て、ナコトは満足げに笑いながら絶頂の余韻に浸っていた。
「いい顔……もっともっと、楽しみましょ? 時間ならいくらでもあるんだから」
「ぐ、ああっ!」
一瞬の間に、再び絶頂が訪れる。いよいよナコトは自制が効かなくなってきたのか、腰を動かす間隔も短くなってくる。押し寄せる快楽の波に遂に耐え切れなくなり、揺れる銀髪を最後に、アイルは意識を手放した。
その頃、あの赤いじゅうたんの部屋のベッドの上には、この城の主である金髪の少女が一人で座っていた。暗殺者の様子を見に行ってくる、と言ってから数時間。ナコトが戻ってくる気配は無い。
「……そんなに男の方がいいのか、ナコトよ……うむむ」
腕組みして考え込む彼女は、一人寂しく満月の夜を過ごすのであった。
・以上です。お付き合い頂き、ありがとうございました。
亀ですが時間停止の使い方の発想が素晴らしいと思いました…エロい
「お前んち犬飼ってる?なんかケモノ臭いよね」
って好きな男の子から言われてショックな人狼少女が可愛くてたまらない
そこを慰める俺
>>281 しょんべんちびりそうなくらいおっかない目で睨まれる
今「神撃のバハムート」でやってるイベント・ゴブリン大決戦に出て来る女ゴブリンがめっさかわええ! 「ブルフォレ」のゴブリナとか覚えてる人いるんだろーか。
「人間の女はいいなぁ、カッコいい男が周囲にいて。それに比べてアタシの周りには……」
と雑魚ゴブたちを見て溜め息をつつくゴブリンメイジちゃんも、ちょいビッチ可愛い!
お盆の間に一本書いてみようかなぁ。
※ケモ耳少女とのお話です。なかなかエロくならないかも知れません。
※多分、途中で分岐するマルチエンディングストーリーの予定です。
※では、まず「第一話」です。
第一話 幼馴染と栗色の髪の乙女
冬とは言え、晴れ渡った空と降り注ぐ陽光のおかげで
あまり寒さを感じない気持ちの良い朝の事だった。
「いってきまーす」
と、いつものように家を出た朝。境内で見かけたケモノの影。
ウチは古い神社で…家の周りは小なりといえど、木々が密生した森になっている。
その木々の間を金色の影が横切ったのだ。
「…ネコ、かな?」
木陰を飛び退っていくその影を見極める事は出来なかったけど。
金色に輝く毛並みが、なんだか瞼に焼きついて。
「おはよっキツネくん!」
「おーヒトミ、おはよ。さっきさぁ…」
幼馴染と朝の挨拶を交わす時もついその事を持ちだしてみたり。
すると。
「あたしの見たのと同じ、かなぁ」
「え?見た?」
それは昨日の夕方の事。
ウチの神社を…というより、俺の部屋をじっと覗きこむ獣を見たそうだ。
赤みがかった金色の、影。
「あんまりじっとしてるもんだから、何だろうと思って…タヌキ…だったかなぁ」
子供のころは、このあたりでもキツネやイタチ、
タヌキなんかを見かけたもんだが、近頃はめっきりだ。
地方都市の小さな街とはいえ、開発の手はどんどん進んでいる。
住処を追われて野生動物が減っているのは世界的に同じ。
タヌキの暗い茶色の毛、夕陽に照らされれば金色に輝く事だろう。
「…で、ヒトミ。なんで俺の部屋の前になんていた訳?」
ヒトミ、俺の幼馴染でいつも長い棒を持ち歩いてる。
あの中身は弓道の弓。袴姿のヒトミはとても凛々しい。
ソレをぶんぶん振り回しながら…って危ないだろ、コラ。
「そそそそ、それは!あの!お、お使い!お使いのついで!」
「声かけてくれればいいのに。俺、ヒマしてたから」
「そそそ、そうね!今度からそうする!」
今度?
ヒトミんチは俺んチの神社の氏子だから…
お使い、というか家同士の用事もそれなりにあるもんなんだろう、な。
「そ、そんな事より!もうすぐ…誕生日、だよね?」
「俺?ああ、そう言えば…」
次の誕生日。
俺はどうやら父親から重大な話とやらを聞かされるらしい。
内容はまだヒミツだそうだが、我が家の家系に関わる話らしい。
らしいばっかでなんだが…どうせ大したこっちゃないだろう。
「た、誕生日プレゼント、なんてしてもいいかなぁ?」
「いいよ、プレゼントなんて。もっと有意義に使えよ」
「え?」
「カレシと遊びにいくとかさ」
「彼氏なんていないよ!知ってるでしょ!?」
「そ、そっか…いないのか」
妙に力の入った宣言に気押される俺。
「そ、そうよ…」
「勿体無いな、ヒトミ、可愛いのに」
「あう…か、可愛い?」
うん。
それは俺の素直な感想で、実感。
特に弓道着姿のヒトミにはファンも付いてて、
ヒトミ目当ての入部希望者も多いそうだ。
「…弓道着効果だよ、あんなの」
と、ヒトミは謙遜するが、言いよる男たちを振りまくってるヒトミ。
その事に俺は安心感を覚えたりもしなくもないような気が、しないでもない。
「ま、まぁとにかく。俺にそんな気を使うなよ」
「じゃあ…お金のかからないプレゼントなら受け取ってくれる?」
「なんだ肩たたき券とかか?」
「…子供からお父さんへのプレゼント?」
「俺、よく使ったぞ、その手。んで逆に小遣いせしめたりして」
なんてたわいない会話をしながらも。
俺は視線を感じていた。誰かに見られてる。
後ろだ。後ろにいる。
ヒトミと会話を続けながら…振り向く!
…誰もいない。
いや、金色の影が見えたような。件のキツネかタヌキか?
「…どうしたの?」
「いや、なんでも…」
誰かの気配は消えていない。
一体、俺を監視してるのはどこのどいつだ?
※ ※ ※
その日、一日中。
俺は視線を感じ続けていた。見られてる。
自意識過剰?いや、そんな事はない。確かに気配を感じる。
どこかの深層の令嬢にでも見染められたのだろうか?
だといいなぁなんて愚にもつかない妄想が浮かぶ。
果たして。
その妄想は当たらずとも遠からず…だった。
※ ※ ※
家に帰ってきても。
やはりあの誰かに見られている感じは続いていた。
…視線を感じる。後ろだ!
「そこ!」
「きゃっ!」
御神木の陰に…まさか、本当に女の子が、いた。
「びっくりしたぁ、いきなり振り返るんですもの」
「い、いや…ごめん」
俺はそれ以上の言葉が出なかった。
なんとなれば。
そのコはむちゃくちゃ可愛かったのだ!
まさに俺のストライクゾーンど真ん中。
栗色の髪は夕日を浴びて金色に輝き、
桜色の頬は上気して、俺を見つめる瞳はうるうるとうるんで…
ままま、まさか、ホントにこのコがずっと俺を見てた?
「あ、あの…」
「はい?」
その笑顔!やばい!やばすぎる!
俺がおろおろしてると、彼女の方から話しかけてきた。
「私、ずっと貴方を見てました」
「はいっ!?」
ままま、まじかまじか!?マジなのか!?
朝から感じる視線は、ホントにこのコのものだったのか?
「よろしければ…私と」
「よ…!」
その後の言葉がなんと続くはずだったのか。
俺は喰い気味に答えを返そうとした…その時。
「ちょっと待ったーーーーーーーーーーーーーー!」
「きゃっ!?」
「えっ!?」
突如割って入ってきたのは…怒りを目に宿した、これまた美少女…
と言っても過言ではあるまい。我が幼馴染、ヒトミだった。
「あな、あな、あなた!?一体誰?」
「…あなたごときに邪魔をされるいわれはありませんわ」
「むきーーーっ!キツネくんは!」
「この方は!」
『私のモノよっ!!』
ステレオで、そんな事を言われた経験があるか?
俺も初体験だ。
どうやら俺は、この美少女二人に取り合いされてる。
…というかヒトミって…俺の事?
いきなりの修羅場!しかもどっちも超可愛い!
「あ、あの君たちの気持ちはよく解った」
「わ、解ってない!解るはずないでしょっ!?」
「引っこんでてくださいませ!」
いや、俺、当事者じゃないの?
「あ、あの、その…えーっと」
俺の事など完全放置。取っ組み合いをはじめた二人の美少女。
こうなると男なんて無力なものだ。ホンキの女たちの迫力と来たら。
そんな事してたら玉のお肌に傷が付きますよー?
「なによ、このドロボウネコ!」
「ネコ!?ネコじゃありませんわ!失礼です!」
「じゃあなんだってのよ!この耳!」
…耳?
「あ…!?」
「なんだって、のよ…この、耳、は…」
固まるヒトミと俺。
栗色の髪の乙女の頭部に見えるのは、確かに、ケモノの耳。
あ、あれ?
尻尾も見えるような気がするが…って何あれ何あれ何あれ!?
「そ、それ…」
と、ハッと我にかえった様子の栗色の髪の乙女。
頭を押さえて、
「き、今日はこの辺にしておいてあげます!」
呆気に取られる俺たちを尻目に逃走態勢。
「つ、月夜の晩ばかりではありません事よ!」
と、捨て台詞を吐いて走り去る栗色の髪の乙女。
後に残されたのは荒い息を吐くヒトミと、茫然自失の俺。
「えっと…ヒトミ、さん?」
俺の呼びかけにヒトミがハッと我に帰る。
そんで、俺の顔を見て…
「〒◆∀§ΓΘηУсゥ☆!!!!!」
その顔が真っ赤に染まる。
「お前って…その…」
「き…!」
「え?」
「キツネくんのバカーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
ぱぁぁぁぁんっ!!
と、小気味良い音が響いた。
その音の源は、ヒトミの掌と俺の頬。
「ってぇー…」
「ばかばかばかばか!もぉ知らないっ!!」
「ばか」の他にもここには到底書けないような罵詈雑言と共にヒトミは走り去った。
…いったい俺が何したって言うんだよ。
※ ※ ※
その夜。
自分の部屋で横になっていると、思い起こされるのは昼間の出来事。
瞼を閉じればそこに浮かぶは、栗色の髪の乙女。
まさに俺の脳内から飛び出してきたかのような、
俺の理想を体現したような、その姿。
目を開けても、そこにいるかのように鮮明に思い出せる。
手を伸ばせば触れられそうな…
…
むにゅ?
「やん(ハート)」
「…」
「積極的な殿方は…ステキです(ぽっ)」
「うわ!うわわわわ!?ご、ごめん!!」
って、いるし!ここに!って、どっから入った!?
しかも、俺、むむむむ胸!胸触った!?
「構いませんわ…そうそう、ご挨拶がまだでしたわ。こんばんわ」
「こ、こんばんわ」
俺はこの展開についていけず、普通に挨拶をかわしていた。
いや、そんな事よりも、
目の前には栗色の髪の美少女。
月光を受けて金色に輝く髪、後光を背負ったようなその姿から、目が離せない。
「キツネ様…」
桜色の唇が動く。俺は呪縛にかかったように動けない。
これは夢か?幻か?いや、確かに彼女はそこにいる。
「あのコより私の方が良いでしょう?」
あの、コ?ヒトミの、事か。
「あのとき、貴方と目が合って…解りましたわ」
「貴方も私の事を…(ポッ)」
あの時。ヒトミが乱入してきたあの時。
俺は確かに、今、目の前にいる栗色の髪の乙女に視線を向けた。
あの場で俺の心を、視線を、全てを占めていたのは…
「それに…いまも貴方は私を求めてくださった…(さらにぽっ)」
いや、それは、その、事故というかなんというか!
「キツネ様」
俺を見据える真剣な目。
「お慕い申し上げております」
不意に言われたその言葉。
その意味が頭に浸透するより前に、俺は彼女を胸に抱いていた。
ふわりと、まるで重さのないような動きで、
彼女は俺の胸の中に移動していた。
「あ、あの、き、きみは…」
「君は、一体、誰、なんだ?」
俺に惚れてる?どこであった?どこから現れた?
様々な疑問が脳裏をよぎる。
でも、腕の中の温もりに心奪われ、俺はまともに声を発する事が出来ない。
「ああ…この時を、どれほど心待ちにしていた事か…」
うっとりとした表情、感極まったような吐息。
濡れた唇が近づいてくる。熱い吐息が、俺を包みこむ。
「ああ…」
そして、そして…!
「こらーーーーーーーーーーーー!!」
「ヒトミ!?」
「きゃっ!」
どーーん!!って!
俺は突然、乱入してきたヒトミに思いっきり突き飛ばされた。
「なななな何をしとるか、このお!」
顔真っ赤のヒトミ。
「ていうか、どこから入った!?俺の部屋のドアには鍵が…」
「その窓が全開じゃ意味ないでしょ!」
道理で寒い訳だ。って…
「窓から入ったのかよ…って、彼女も!?」
振り返ると、俺と同時にヒトミに突き飛ばされた栗色の髪の乙女は
どうやらお尻を打ったらしく、顔をしかめながらお尻をさすっている。
「あたたたた…先刻と同じパターンですわね…進歩の無い方!」
その仕草も…非常に愛らしい訳で。
かたや、般若の形相となったヒトミが迫る。
「なにおーっ!」
「こんな時間に殿方の部屋を訪れるなんて…ハレンチですわ」
「ははは、ハレンチ!?」
「お前が言うか!このーーーーー!」
「痛い痛い痛い!耳、痛いですわ!」
…耳?
そう栗色の髪からはニョッキリと耳が…
「え…ええええええええええええええええええ!?」
やっぱり見間違いじゃない!ケモ耳、生えてるー!?
人間じゃない、のか?
「それ…本物?」
「はい…私の本当の耳、です」
「あんた、一体何者?」
「貴方に答える必要なんてありませんわ(ぷいっ)」
「むきーーーー!」
「ヒトミ、どうどう」
「あ、あんたねぇ!」
「教えてよ、君は一体…何者?」
「キツネ様が仰るなら…私は…」
「何よ、ずいぶん態度が違うじゃない!」
「どうどう」
「私は、この森に棲むタヌキでございます」
「タヌキ?」
栗色の髪の乙女の、俺を好きだという美少女の、
その正体が、タヌキ?
「私はずっと以前から、それは私がただのタヌキであった頃から
キツネ様をお慕い申し上げてきたのです」
「その想いが募って募って募って募って…募りきった挙句、
晴れてヒトの姿を得る事が出来るようになったのでございます」
「ホントに…タヌキなの?」
「元、です。今はこれこの通り、麗しき乙女ですわ」
「自分でゆーな」
鋭く、ヒトミが突っ込む。
麗しき乙女、という言に間違いは無い。ケモ耳ついてるけど。
しかし、それはそれで、ある種の人々には堪らん魅力になるのかも知れない。
それにしても、タヌキ…タヌキかぁ…
こんなに可愛いのになぁ…
と、思わずまじまじとその顔を見ていると。
「デレデレしすぎっ!」
「痛い痛い痛いっ!」
ヒトミに耳を引っ張られた。
「で、なんで?なんでキツネくんな訳?
かっこいい男の子なんて他にいくらでもいるでしょ!」
「…何気に失礼じゃないのか、それは」
もちろん頭に血が上ったヒトミが、俺の抗議など受け入れるはずもない。
「しかし、ま、それは俺も聞きたい所だし…なんで、俺?」
「それは…かっこよかったから、ですわ」
「は?」
「一目惚れ、ですわ…もぉ!乙女になんて事を言わせるんですかっ」
乙女ってタヌキ、だろ?
いやいや、確かにケモ耳が生えてる以外は俺の理想そのものとも言える容姿の美少女ではあるのだが。
真っ赤に頬を染めた自称・タヌキのケモ耳美少女は、その耳を何度も押さえつけている。
「うーんうーん…も、戻りませんわ…キツネ様の前でこんなの、恥ずかしい…」
それ耳、だろ?
見られると恥ずかしいものなのか?
「今宵はこれでお暇いたします。ごきげんよう」
そう言って窓から出ていこうとする、自称・タヌキ。
「あ、そうそう、キツネ様」
「は、はい?」
「…」
「な、なに?」
「…」
「あの…」
「…好き(ぽっ)」
「は、はい!?」
「きゃっ(ハート)」
と、窓の外へ消えた。
野生の獣を思わせる敏捷さ。いや、野生の獣、だそうなんだけどさ。
後に残されたのは毒気を抜かれた俺とヒトミ。
「…帰る」
「そ、そうだな」
「キツネくん…」
「…な、なんだよ。まさかお前も、あのコと同じこと言う?」
回想はじめ。
「好き(ぽっ)」
はい、回想終わり
一瞬で、ヒトミの顔が朱に染まる。
「あ、あたしは!き、キツネくんなんかどうでもいい!」
それはそれは、とても力強く宣言。
「どゆ事?」
「あたしがキツネくんを好きになる訳ないでしょ!?」
「じゃあなんであの…タヌキとやりあう必要がある訳?」
「あ、あの子がタヌキだからよっ!そうよ!
お、幼馴染がヒトの道を外れるのを黙ってみてる訳にはいかないでしょっ!?
そ、そうよ、それだけなんだから!」
「…訳解らん」
「解らなくていいわよ!キツネくんのバカッ!」
と言う訳で。
二人の美少女…というか、一人と一匹?は、
嵐のように現れて、嵐のように去って行った。
まったく、なんて日だろう。
※ ※ ※
「おはようございます!キツネ様」
はい、「なんて日だろう」どころか、そんな日は翌日も続くわけで。
翌朝、家を出た俺を待ちかまえていた…タヌキさん…とでも呼ぶべきか、
何度見ても、どこから見ても、普通の人間というか、普通以上の美少女。
ぴょこんと突き出たケモ耳以外は、という注釈付きで。
「あ、これ…まだ戻らないんです…くすん」
今度、帽子でもプレゼントしようかなんてつい思ってしまう。
…騙されるな!こいつはタヌキ!ウチの森に住み着いてるタヌキ!
って、森に居る時は、
俺の前に姿を見せてる時以外は元の姿に戻ってたりするんだろうか。
…なんか、聞いちゃいけない気がするな。
というか、あまり知りたくないような。
「様は止めてくれよ様は…その、タヌキ、さん」
「じゃあ…キツネ、くん?あのオサナナジミと同じ呼び方なのは気にいりませんけれど
でも…キツネ、くん…きゃっ。なんだか距離が縮まったような気がしますわ」
と、擦りよってくるタヌキさん。
「はい、そこまで~離れた離れた」
「よ、よぉヒトミ」
「まったく朝っぱらから、欲情まみれな顔しちゃって」
「お、俺が?いつ?」
「鼻の下!」
ビシッ!と指を突き付けられて、思わず肩をすくめてしまう。
いつからそんな強いコになった?ヒトミ。
「あら、キツネくんさえよろしければ、私はいつでも…(ぽっ)」
「い、いつ、でも!?」
「顔赤らめるな!タヌキのくせに!そこ!鼻の下!」
お、俺はタヌキになど欲情しないタヌキになど欲情しない
タヌキになど…!
というか。
「そもそも人間とタヌキって…その、関係、できるのか?」
素朴な疑問。
ヒトミの顔が朱に染まる。タヌキさんはにっこりほほ笑んだりして。
「あ、あ、あ、あんたね!言うに事かいてなんて事を!」
「あ、いや、その…!」
これじゃ欲情まみれとか言われても否定できない、かも。
「心配ご無用ですわ」
と、あっけらかんとタヌキさん。
「見ればわかりますでしょ?私、人間になれるんですから、逆もまた真なり、ですわ」
「…えーっと。その理屈、通ってるのか?」
「問題ありませんってば。なんでしたら、今から試してみます?」
「ば、ば、ばば、ば!」
「ヒ、ヒトミさん?」
「バカ言うんじゃないわよ!キツネくん!行くわよ!学校!」
俺の腕を引っ張り、強引に歩き出すヒトミ。
「まぁ!腕なんか取って!私のキツネくんに何をするんですか!」
「やかましい!このエロダヌキが!誰がいつあんたのものになったって!?」
「エロ!?花も恥じらう乙女になんて事を仰るんですか!」
「エロいでしょーが!なにが今から試してみます?よっ!」
「しょうがないじゃありませんか、発情期なんだから!」
「は、はつ…こ、このエロダヌキーーーーーーーーっ!」
※注:タヌキの交尾期は2~4月頃だそーです。
寄ると触るとこの二人、衝突せずにはいられないらしい。
いい加減、温厚な俺でもただじゃおきませんよ?
「いい加減にしろ!」
俺の怒号にピクリと反応、二人の動きが止まる。
「寄ると触るとケンカばっかりしやがって!
俺に惚れてるっつーんならお前たちだけで自己完結するな!」
そうだよ。俺が一番の、事態の当事者だろ?
彼女らがケンカする意味なんて無い。
俺が…
あれ?俺が、どちらかを選べば、ケリがつく…のか?
思わず二人の顔を見比べてしまう。
「誰の…」
ヒトミの低い声。
ヒトミの低い声。
「誰のせいだと思ってるのよーーーーーーーーーーーーっ!」
「うわあ!ごめんなさい!ってやっぱり、俺ぇ!?」
「キツネくんは悪くありませんわ!悪いのは私たちの邪魔をするこの女です!」
「あんたが出てこなきゃ丸く収まるのよっ!」
「じゃあ私が悪いって言うんですか!キツネくんがとてもステキで
私が懸想せざるを得ないのも私のせいだとでも仰るんですか!」
…ついにタヌキさんまでキレた。
「そんな事知らないわよ!キツネくんがカッコイイとか言うんならキツネくんのせいでしょ!!」
いや、ちょっと待て。なんかおかしい。
「そうです!キツネくんがカッコ良すぎるのが悪いんですわ!」
「ほら!やっぱりキツネくんが悪いんじゃない!そうよ!その通りよ!」
「あ、あの?お二人さん?」
『キツネくん!』
また、ステレオ。
『私とこのコの!』
「どちらが好きなんですか!?」
「どっちが好きなの!?」
いや、もう。
「か。」
「か?」
「勘弁してくれー!!」
遁走。いや、戦略的撤退。後退にあらず!
「ちょ、ま…待ちなさい!こらーーーーーーーーーーー!」
「キツネくん!?お待ちになってーーーーーーーーーー!」
※ ※ ※
俺は走った。走りに走って…教室に逃げ込んだ。
タヌキには、ここまでは追って来る事はできまい。
頼むぜ、学園関係者の皆さん、不審者は排除してくれよ。
ようやく落ち着いた俺の傍に立つ影。
「キツネくん」
「よ、よぉヒトミ」
タヌキは排除できても、ここに入る正当な権利を持つヒトミまでは無理か。
「後で、その、話を…」
「う、うん…」
タヌキの前ではあんなに言いたい放題なのに。
タヌキがいないと、途端に歯切れが悪くなるヒトミ。
ヒトミの話…もちろん、その内容は想像に難くないんだけど。
いきなりどちらか選べって言われても、な…
一方はタヌキだし、また一方はこれまで真剣に異性として見た事は無い幼馴染で。
それに考えてみたら、ヒトミのヤツなんて、
俺に気があるような事をいったかと思えば、即座に否定したりするし。
タヌキに張り合ってるだけなんじゃないかって邪推してしまうのも仕方なかろう。
などとつらつら考えていると、始業のチャイムがなり、担任が現れ…
そして、担任は突然こう言い放った。
「突然ですが、転校生を紹介します」
はい、突然すぎます、センセイ。
しかも担任自身も何やら納得のいっていない表情。
「先生もさっき聞かされたばかりなので…えっと、お入りなさい」
そう呼ばれて、教室に入ってきたのは。
栗色の髪の、乙女…って、何?どういう事!?
思わずヒトミの方を見やる。
何がどうなってるんだ?
私の方が聞きたいわよ!
…目と目で通じあってしまった。
「名前は…えっと、自己紹介してください」
職務放棄か、担任。
「田貫と申します。以後、お見知りおきを」
どうやら、ケモ耳を引っこませる事には成功したらしい。
突如現れた美少女に、教室中の男どもが敏感に反応する。
どよめきが教室を震わせる。しかし、タヌキさん、それにまったく動じず…
「皆様にこの場をお借りして申し上げておきたい事がございます」
「は、はい、どうぞ」
こら担任、いいのかそれで。
「それでは、失礼して…」
タヌキさん、深呼吸。一体何を言うつもりか。
教室中の注目を一身に浴びて、タヌキさんは口を開く。
そして…
「私は、キツネくんをお慕いしております」
はぁ!?言う?ここで、それを!
一斉にどよめき立つ教室。視線が、今度は俺に集中する。
まさに針のむしろ。
「どなた様も手を出すんじゃありません事よ?」
にっこり笑って言うには不穏すぎます、タヌキさんー!
俺は頭を抱える。他にどうしろってんだ?
ヒトミの方なんか見れるか。
ちらと目をあげると、教壇では呆気に取られた担任の横で、
栗色の髪の乙女がニッコリとほほ笑んでいた。
…やっぱり可愛い。
タヌキなのに。すごく非常識なのに!
一体これからどうなる?どうする?俺!
第一話、了。
続きはまた後日。すいません、そのうちエロくなります。
タヌキ娘とは珍しい
いいぞもっとやれ
主人公の家系は狐と何か関係があるだろうことは読めるが、狐耳も出てくるのか狐なのに狸とは何事だ展開になるのか…
※「キツネくんとタヌキさん」第一話は
>>285-297です。
※ケモ耳少女達のお話です。なかなかエロくならないかも知れません。
※途中で分岐するマルチエンディングストーリーの予定です。
※では、「第二話」です。
>>299 良かった、帰れと言われるかとドキドキしてたりしてw
第二話 悩めるキツネくんと迷子の仔猫ちゃん
爽やかな朝。
肌を切るような鋭い冷たさは鳴りを潜め、
木々が芽吹き始める季節ももうすぐだ。
我が家の境内の、朝露に濡れた木々を抜け、
一般道に降り立つと、そこにはすでに彼女がいた。
「お、おはようございま、ふ、ふわわぁああ」
先日、俺のクラスに転入してきた栗色の髪の乙女。
一見可憐な女性だが…その正体はタヌキだと言う。
挨拶が途中でアクビに変わり、目尻に涙を滲ませたりして。
そんな様も非常に愛らしいと言うか微笑ましいと言うか。
「いきなりアクビかよ?」
「私、夜行性ですから…朝は弱いんです」
「うん、せめて夜型、くらいにしておこーね
仮にもヒトの姿をしてるんだから」
えいくそっ、タヌキなのに。タヌキのくせに。
なんでそんなに可愛いんだよ。
「えへへ。そうですわね、気をつけます」
…その笑顔に思わず頬が熱くなる。可愛い。
タヌキのくせにタヌキのくせにタヌキのくせに!
て、待てよ?
「てゆーか、そう言えばどうやって入学したんだ?」
戸籍とか無いだろうに。だって、タヌキだし。
「簡単でしたわよ?」
タヌキなのに?
「学園の理事長が私の伯父にあたる方だったので…」
「へーそうなのか…って、理事長もタヌキ!?」
「もうタヌキの住処もほとんどありませんのよ
生き延びていくために人里に下りた仲間はたくさんいるそうです」
しんみり呟くタヌキさん。
人里に下りるて…人間になりすましてるのか!?
メン・イン・ブラックみたいだなー
宇宙人が人間にバケて社会に紛れ込んでるっていう…
「今は私、伯父さまのお宅に御厄介になっていますの。
せっかくこのようなたおやかな乙女になれたのに
いつまでも野生児じみた森での生活は続けられませんもの」
「自分でたおやかゆーな」
「あ、ヒトミ」
幼馴染のヒトミが、不機嫌な顔で現れた。
弓道部所属の幽霊部員、ヒトミが手にする長い棒は当然、弓。
どんと地面に突き立てて、仁王立ち。
「おはようございます、ヒトミさん」
「…おはよ。つーか、近い近い。はい、離れた離れた」
ぶすりとヒトミが呟く。
さっきからタヌキさんは俺にぴったりくっついてる。
それを指摘したのだろうが、タヌキさん、スルー。柳に風と受け流し。
「キツネくんの傍から離れるのは少し寂しいですけれど…
朝も弱い私ですけれど…こうして朝のご挨拶が出来るのもいいものですわ」
「こらっ!擦りよるな!」
とまぁ、お馴染みになったようなこの光景。
俺を中心に丁々発止のやりとりを交わす二人の美少女。
それはもちろん、登校後も続くわけで。
「ヒトミさん、席、変わって頂けません?」
「寄るな触るな、キツネくんの隣は私なのっ」
「理不尽ですわぁ、愛し合う二人の間に3つもの机という障壁…
って、無粋じゃありませんこと?この机たちときたら」
「そこ!机に当たるな机に!てゆーかいつから両想いに!?」
「あら?お気づきになりませんでした?それはもう出会った時から…」
「むきーーーー!勝手に決めるなーー!」
クラスの連中はその様子を遠巻きに見ている。
突如現れた美少女転校生の関心を一身に受ける俺を
男どもは羨ましげに、女生徒たちは不審げに。
不審?そう、俺なんかがこんな美少女の気をひいているのが不思議でならないのだ。
「きっと何か弱みを握られてるんだわ」
「ひどい男…あんな可愛いコになんて事を」
「え?じゃあヒトミも?ヒトミもヤツの毒牙に?」
「決まってるわ、そうに決まってるわ」
「きっと口に出すのも汚らわしいあんな事やこんな事を…!」
ひどいのはどっちだよぉ。
…もちろん、解ってはいるよ。
俺が、ハッキリすればいいだけなんだって事は。
俺が二人に対して何か「ひどい事」をしてるとすれば、そこん所。
二人の気持ちに対して、明確な返事をしていない事。
え?二股かけちゃえ?
それはいかん、二股はいかん。
俺はどちらかの女の子を、俺に想いを寄せてくれる二人の女の子を、
どちらかを選ばねばならない。断腸の想いで!
しかし方や俺の理想を具現化したかの容姿ながら正体は化けタヌキ、
方やこれまでろくに異性として意識していなかった幼馴染。
…決定打にかけるんだわ、これが。
優柔不断と言わば言え。でもな、向こうが本気だって言うなら。
こっちだって本気にならなきゃ、なれなきゃ失礼ってもんだろう?
俺だって、そういう事をちゃんと考えてはいるんだが。
ちゃんと考える時間を、彼女らが与えてくれないのも事実なんだよぉ。
例えば、ある日の夜も…
「はぁ…」
真ん丸な月を見上げて思わずため息。
脳裏に浮かぶはケモ耳の生えた栗色の髪の乙女の姿と、ふくれっ面の幼馴染。
どっちもそりゃ可愛いけれど。
ストレートなタヌキさんの求愛に、ちょっとヒレくれたヒトミの愛情表現に
ちゃんと応えるのが男としての俺のケジメだと解ってはいるけれど。
「俺、どうしたらいいのかなぁ…」
独り言をつぶやきながら、窓を明け放つ。
吹き込む冷気が、よどんだ室内の空気とともに
堂々巡りする思考もすっきりさせてくれる事を期待して。
が、窓から飛び込んできたのは、冷気だけじゃなかった。
飛び込んできたのは月光を浴びて、金色に輝く毛並み。
それは体長数十cmの獣…有体に言って、タヌキだった。
「わっと!ま、まさか!?」
振り向くと、そこにいたのはタヌキ…ではなく、一糸まとわぬ姿のタヌキさん!?
「ちょ…!な、なんだよその恰好はーーーーー!!」
「ごめんなさい、私ったらはしたない所を…
でも、ヒトのままだとキツネくんは招き入れてくださらないだろうと思って…」
ちょこんと生えたケモ耳。むき出しのお尻から尻尾も生えてますってば!
完全にヒト形態になれていないのは、さっきまでタヌキ形態だったせい!?
「でも、キツネくんに会いたくて…ついついあんな姿に…恥ずかしいですわ」
「そうじゃなくて!服!服、着てっ!」
タヌキの姿になった事を恥ずかしがるんじゃなくて、
いまこの時の自分の姿を恥ずかしがってくださいタヌキさん!
「あら?きゃっ(ハート)キツネくんのエッチ」
「いや、言うに事欠いてそれはあんまりでしょー!?」
タヌキさん、一応、恥じらいのポーズ。
胸の前で腕をくんだりしてくれてるので上半身は、まだいい。
で、でもですね、むき出しの下半身に、その栗色の茂みが、
ていうか、やっぱり下も上と同じ色なんですね!?
って、俺、激しく動揺。そりゃそうでしょ!
俺、女の子の裸、ナマで見るの初めてだよっ!?
「そんなに見られたら…恥ずかしいですわ」
たとえ、さっきまでタヌキだったとはいえ!ケモ耳&尻尾生えてるとは言え!
その裸体は眩しくて眩しくて…理性が、もたない!
「でも…キツネくんなら…いいえ、キツネくんでなきゃ、私…」
ドギマギする俺をうっとり見つめるタヌキさん、
「キツネ、くん…」
「タ、タヌキ、さん…!」
まずいって!その眼は…!そんな眼で見られたら、俺…俺!
ああ、理性が、吹きと
「この不届きモノがーーーーーーーっ!!」
びそうになる俺をかろうじて繋ぎとめたのは、
ドアを蹴破らんとする勢いで飛び込んできたヒトミの一喝だった。
「ヒ、ヒトミ!?な、なんで!?」
「タヌキがこっちに向かうのを見かけたのよ!
気になってきてみたら案の定…!こんな夜更けに!
女の子を!あ、あ、あ、あまつさえ、こ、こ、ここんな恰好に1?」
え?俺?
「やん(ハート)」
こら、そこ!「やん(ハート)」、じゃない!
「違う!誤解だ!お、俺が脱がせたわけじゃない…っ!」
「キツネくんったら…」
はい?
「強引なんですもの…で、でも…そんな所もステキですわっ…!」
頬をあからめて呟くタヌキさん。確信犯!確信犯だ、こいつ!!
「キ~ツ~ネ~くん~!?」
地獄の底から響くようなヒトミの声。
こうなったら俺に出来ることなどあるだろうか?いや、無い。
「無体を!女の子に無理やりなんて!恥を知りなさい!」
「ヒ、ヒトミさん!?ちょっと待ってーーー!」
「ああ、キツネくん、私はいつでも構いませんのよ
こんな無理やりにされなくても、一言言ってくだされば、
私はいつでも貴方を受け入れる準備がありますのに…」
「ち、違うだろ!?俺がいつタヌキさんに無理やりなんて…」
「問答無用!そこに直れっ!」
「ヒ、ヒトミさん!?眼が、眼が血走ってますけど!?」
「くすっ」
「タヌキさん!?笑ってないで誤解を解いてっ!」
「そうか!そこのエロタヌキが自分で脱いだのね!?
色仕掛けでキツネくんを落とそうなんて!浅ましい!」
あ、心が通じた。さすが我が幼馴染。
「浅ましいですって!?エロタヌキですって?心外ですわ!
私のキツネくんへの思慕をそのような下種な表現で愚弄するなんて!」
「うるさい!キツネくんもキツネくんよ!隙を見せるからつけこまれるのよ!?
鼻の下のばしちゃってさ!これタヌキなんだからね!解ってるの!?」
「いや、その…解ってはいるんだけど」
「解った上で、私に欲情して下さったんですものね…キツネくん(ハート)」
「そ、そういう言い方をするなーーーっ!」
………
……
…な?
毎日こんな調子なのに、「どっちが好き?」「どっちに応える?」
なんて難問に、落ち着いて答えを出すのは難しいと思わないか?
頼むから、俺にゆっくり考える時間をくれ。
※ ※ ※
という事である日の昼休み。
俺はタヌキさんとヒトミの包囲網から逃れて、身を隠していた。
時、まさに昼休み。
「どうしたもんかねぇ…」
最近、口癖になってないか?この自問。
ていうか、どっちを受け入れるつもりなんだろう?
タヌキか幼馴染か…って、そもそも悩む必要のある問題か?
だって一方はタヌキだぞ?
いや、タヌキとは言え、ヒトとしての礼を尽くして(?)
俺に告白してきたんだ、ちゃんと考えなきゃ。
思考は堂々巡りを繰り返す。結局、問題なのは…
「俺、どっちが好きなんだろう」
そこに尽きるんだよな。
「はぁ…」
ずちゅーっとパックの牛乳をすすりながら、思わずため息。
すると、自己嫌悪に陥りそうな俺を慰めてくれるヤツがいたんだ。
「ん?」
「にゃー」
足元に擦りよるふわっふわした毛玉。
「…ネコ?仔猫?」
野良猫のようだった。
小さくて、何者かの庇護がなければ到底生きていけなさそうな。
「…腹、減ってるのか?」
…人間用の成分調整乳でも大丈夫かな?
念のため、水道水で少し薄めた牛乳を掌に乗せて差し出す。
仔猫はうまそうにペロペロと舐め始めた。
「くすぐったいぞ、こら」
と言いつつ、頬がにやけるのを止められない。
「…キツネくんってホント動物にモテるのねぇ」
「イヤミ?ねぇ、それイヤミ?」
いつからいたんだろう。
ヒトミが俺の背後から声をかけてきた。
「ノラ?こんな所に迷い込んでくるなんて、ね」
ヒトミが指を伸ばし、仔猫の首筋をなでる。
優しい顔。
「こら。あんた、どっから来たの?ん?」
…最近、般若みたいな所しか見てなかったからな。
元々、こういう優しい笑顔が似合うコだと思う、ヒトミって。
俺の掌からさんざ牛乳をせしめて腹がくちくなったのか、
仔猫はヒトミの指をひょいとかいくぐり、走り出した。
「あ、おい」
「何よ、愛想無いのね」
「ま、仕方ない。車にひかれたりするなよー」
「理解できないわよ、そんなの。でも…」
「キツネくんは、いつも優しいね」
どき。
そのヒトミの笑顔の方が優しい、というか、可愛い。
ヒトミは俺の隣に腰掛け、持っていたパックの野菜ジュースを飲みだしたりして。
仔猫のおかげでなんだかいい雰囲気になったような。
その空気に、俺はつい調子にのってしまう。
「でさぁ、ヒトミはいつから俺が好きな訳?」
「ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
「わ、気をつけろよ、濡れる濡れる」
野菜ジュースはシミになりかねない。
「わ、わわわわわ、私がいつキツネくんを好きだって言った!?」
「い、言ったじゃんか、タヌキと張り合って…」
「いいいいい、言ってない!聞き間違い!私は、別に、その…」
眼が泳いでる。あからさまに動揺しやがって。
「わ、解った、悪かった、俺が悪かった」
うん、デリカシーに欠ける事は認める。でもさーヒトミも悪いと思わない?
勢いで我を忘れた時だけ素直になるなんてさー。
すまん、ネコよ。
せっかくお前が作ってくれたいい雰囲気、ぶち壊しちゃったよ。
※ ※ ※
そして、また、何の決断も出来ないまま朝が来る。
「キツネくん!おは…は…ふあああああ」
「だから夜更かしは止めろって」
「夜行性…じゃない、夜型なんですもの、私」
…タヌキさんは答えてくれるかな。
俺のどこがいいのか、いつからそんな風に想ってくれてるのかって。
ところが。
「教えたげません(にっこり)」
「あ、そ、そう…」
「だって」
と、拗ねた口ぶりのタヌキさん。
「あんな運命的な出会いをしておきながら
忘れるなんて…ヒドいですわ、キツネくん」
運命的出会い?タヌキと?タヌキと出会った覚えはないがなぁ…
「思い出してください。私との運命の出会い…私はあの時から、ずっと」
「ずっとキツネくんを、お慕いし続けているのですから…」
遠い目。初めて見る表情。
なんだろう、寂しげなんだけど、優しい。
失われた想い出を振り返る時、ヒトはこういう眼をするのかな。
…いや、タヌキだったっけ。
最近、よく忘れるんだよ、その事実。
タヌキ時代の事を根掘り葉掘り聞かれたくないという乙女心だろうか?
彼女は頑として、俺との「運命の出会い」の詳細を教えてくれようとはしなかった。
「うんめいのであい、うんめいのであいねぇ…」
※ ※ ※
「なぁ、一体どんな出会いだったんだろうな?お前、どう思う?」
「にゃー」
昼休みの校舎裏。
俺はまたあの仔猫に出会った。
「餌付けしちゃった…かな?」
ヒトミじゃないが、つくづく俺は動物にモテるらしい。
って、タヌキさんにも失礼だな、うん。
仔猫がなつくのと、恋愛感情を持って接してくれてるのを一緒にしちゃ、な。
「まーたこんな所で黄昏ちゃって」
「あらあら、まぁまぁ」
と、そこに現れたのはタヌキさんに、ヒトミ。
俺の一時の安らぎ、呆気なく崩壊。
「俺だって一人になりたい時があんの」
「キツネくんキツネくん、このコ、キツネくんの飼い猫なんですか?」
…タヌキがネコに興味をしめすとはね。
ん?そう言えばタヌキって確か雑食…
【タヌキ】
体重3〜6kg。昆虫類と果実を中心に、ムカデやミミズなどの小動物、甲殻類、魚類、両生類、
爬虫類、鳥類、ネズミなどの小型哺乳類などいろいろなものを食べる雑食性の中型獣。
…さすがにネコまでは食べないか。いや、こんな小さな仔猫なら…も、もしかして!
「だ、だめだぞ!食べちゃ!」
「まぁ!乙女に対して何を仰るんですの?」
「そうだよ、それは無いわよキツネくん…乙女かどうかは別にして」
あれ?なんで共同戦線?
いつの間にそんなに仲良くなったの、あんたたち。
子はかすがい…じゃねぇ、仔猫はかすがいって事?
まぁこんな小さな、いたいけな動物を前にして
いがみあってる場合じゃないだろってのは解るけど。
「このコ、この前よりなんか痩せてない?」
「そう、かな?んー言われてみれば…」
「まぁ…ひもじい思いをされてるんですか?」
…話しかけてるし。まさか、ネコ科の言葉、解るのか?
「解りませんわ。それに私、もうニンゲンですもの」
ぷくっとふくれるその様が犯罪的に可愛いんですけど、どうしましょう?
「ね、このコ…ウチで飼ってあげちゃダメかな」
と、ヒトミ。
そう言えば、ヒトミは小動物というか、小さい動物が好きだったな。
ハムスターとかリスを飼ってた覚えはあるけど、ネコは未経験じゃないかな。
「でも…うん、いいんじゃないか」
「うん…ねぇ、あんた、ウチくる?」
「にゃー」
「まぁ、うん、ですって」
「だから、解るのかよって」
「ニュアンスですわ、ニュアンス」
…なにはともあれ、仔猫はヒトミが飼う事になった。
「よかったな、お前。これで食いっぱぐれないぞ」
俺は仔猫を抱き上げて高々と持ち上げた。
仔猫は解ってるんだか解ってないんだか、「にゃー」と一声鳴いた。
その様子を、タヌキさんとヒトミが優しい眼で見ていた。
※ ※ ※
珍しく。本当に珍しく。いや、初めての事じゃないだろうか。
俺を挟んでタヌキさんとヒトミがいるって言うのに、
口論や取っ組み合いが始まらないなんて。まさに仔猫はかすがい…!
俺はまだ名も無いこの仔猫に感謝の念を送った。
その時。
「にゃー」
「あ、こ、こら…!」
仔猫が突然、ヒトミの腕を飛び出した。
ここまでずっと抱いて来たんだけど、ネコには窮屈だったのかもしれない。
飛び出したネコは、車道のど真ん中に鎮座、そして。
「ちょっと、そこは危ないですわよ?」
「キツネくん!車が…!」
交差点を曲がって、車が…向かってくる!
車道の信号は、赤。なのに、車は止まらない。
「ばかやろ…!」
俺は無意識の内に飛び出していた。
「キツネくん!」
ヒトミの悲鳴が聞こえた。でも、止まらない。
前は助けられなかった。無力な子供だった。でも、今なら…!
…前?なんだっけ?
キキーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!
「いやーーーーーーーーーーーーっ!」
間一髪。
俺は仔猫を抱いたまま、道端に座り込んでいた。
腰が、抜けていた。
車は急ブレーキで停止したものの、さっさと逃げ出した。
お前も冷や汗かいたろ?これに懲りてちょっとは安全運転を心掛けろよな。
「キツネくん!キツネくん!良かった!良かったよぉおお!」
俺に縋りつき大声で泣くヒトミ。
ごめんな、驚かせて。心配かけて。
その様子を少し離れた所でタヌキさんは。
瞳を潤ませて立ち尽くしていた。
おいおい、また耳、耳出てるってば。
こう、感情を揺さぶられると出ちゃうみたいだな、あのケモ耳。
ん?待てよ。
あれ?この光景は…
あ。
※ ※ ※
ウチの神社の森にいまより多くの多くの動物が棲んでいた頃。
俺は小さな子供だった。
神社の森の、近くの道。
その目の前の道を2匹のタヌキが横切っていた。
車が走ってくる。飛び出そうとした。助けなきゃ。
でも間に合わない。飛び出そうとした俺は、躓いて転んで。
1匹のタヌキは跳ね飛ばされ、もう1匹は難を逃れた。
俺は跳ね飛ばされたタヌキに駆け寄った。血を流しぐったりしたタヌキ。
その身体からどんどん温もりが失われていく。
ごめんな、間に合わなくて。
俺はもう息をしていないタヌキを抱き上げた。
俺の腕にすがりつき、泣く小さな女の子。
少し離れた所から、俺たちの様子を窺うもう1匹のタヌキ。
この光景って…まさかあの時のタヌキが…?
俺は傍らに立つタヌキさんを見上げた。
「思い出して…くださったんですね?」
眼を潤ませて、タヌキさんが言う。それは低く優しい声。
いつもの能天気なまでに明るいタヌキさんの声とはまるで違った。
「貴方は車に惹かれたタヌキを、血にまみれたタヌキを抱き上げ
ご自宅に連れ帰り、お父様に供養をお願いしてくれた…
助けられなかった、ごめんよ、ってわんわん泣きながら。
あのタヌキは、私の母です。身を呈して私をかばってくれた、優しいお母さん。
やっと、あの時のお礼が言えます。母を看取ってくださってありがとう。
母のために泣いてくださって、ありがとう。母を手厚く葬ってくださって、
本当に、本当にありがとうございました」
タヌキさんが頭を深々と下げる。
再び顔をあげた時、瞳からは一筋の涙が零れていた。
「私は、あの時から、ずっとキツネくんを…お慕い申し上げているのです」
そして。
あの時一緒にいた女の子って…ヒトミ?
俺は腕にすがりつきしゃくりあげる幼馴染に視線を向ける。
「そう、だよっ…!キツネ、くんって、昔っから、ちっとも、変わらないんだから…!」
しゃくりあげながら、ヒトミは必死で言葉を紡ぐ。
「む、むちゃばっかりして!わ、私に、心配ばっか、かけて!」
ヒトミの口から、堰を切ったように言葉が溢れだす。
「私は怖かった。血まみれのタヌキが。汚いとさえ思った
でもキツネくんは。服が汚れるのも構わず血まみれのタヌキを抱き上げて。
敵わないと思った。あんな事がなんの意識もせず、躊躇も無く、
当り前のことだって思えるキツネくんが、すごいと思った。
私だって可愛い動物は好きだったけど、でも、それだけ。
子供だったから?ううん、それだけじゃないと思う。
…キツネくんはすごいよ」
そして、俺を見据え。真剣な声で。
「あたしは、あの時からずっと、キツネくんを見てた」
「ヒトミ」
「キツネくん、私、キツネくんが好き」
正面切って、初めて。俺を見据えて、ヒトミが言った。
…たった、それだけのことで?
俺、大した事してないよ。
子供の俺には、何も出来なかった。
誰も助けられなかった。それが悔しくて泣いていただけ。
俺、そんな大した人間じゃないよ。
でもそんな俺を、二人は「好きだ」って言ってくれる。
うん、俺は、俺も。
二人が好きだ。二人とも好きだ。
俺の事、あんな風に言ってくれる二人が好きだ。
少しは自分がマシな人間だと思えるから。救われるから。
でも。
『二人とも』なんて言ったら、烈火のごとく怒るんだろーなぁ。
「ヒトミさん、やっと素直になりましたね」
「うっさい、余計なお世話よ…ぐしっ」
「私たち、同じ事件が切っ掛けでキツネくんを好きになっていたんですわね」
「…なんか釈然としないけど、そういう事のようね」
同じ事件を切っ掛けに、一人の男を奪い合う関係になった二人。
ライバルでありながら同志。お互いを認め合い、そこには友情が…!
「だからって!解りあえたりはしませんわよ!?
貴方と私は恋のライバル!永遠の平行線!決して交差する事はありませんわ!」
「の、望む所よ!タヌキなんかと解りあえなくたって結構よ」
「まぁヒドイ!人種差別ですわ!動物虐待ですわ!」
「ひ、人聞きの悪い事ゆーな!」
…友情が、生まれたりはしなかった。
でもその光景が、今までみたいにイヤじゃなかった。
いましばらくは、このままでいよう。この賑やかな感じも悪くない。
ずるいって?うん、そう思うよ。
だから言ったろ?俺なんて、大した事ないんだよ。
だから、せめて、二人の想いに応えられる俺にならなくちゃ。
でなきゃ、ちゃんと眼を見て「君が好きだ」なんて言えないよ。
ごめんな。
もう少し、俺に時間をくれよ。
「あ、ネコ…!」
今の事態にびびったのか、ネコは俺の腕から逃げ出して…
そのまま走り去ってしまった。
「怖い思い、させちゃったかな…ごめんね」
ヒトミが呟く。
「また、会えますわ、きっと」
タヌキさんが呟く。
「そうだな。…またな」
と、俺は仔猫が走り去った方向に向けて言った。
※ ※ ※
それから、数日後。
「キツネくん、おふぁ…ああああ」
「いい加減、昼型に修正効かないの?」
「色々勉強する事も多いんですわ」
「ああ、期末テスト近いもんな」
「いいえ、人間の性愛に関する勉強ですわ」
「せ、せいあいって…その…!?」
「どうすればキツネくんを悦ばせて差し上げられるか…日々勉学に勤しんでるんです!」
「あ、あんたね!それ以上エロ知識増やしてどうするの!?」
「なぜですの!?ヒトミさんは、もう学ぶ必要もないくらいお詳しいんですか!?」
「わわわわわ、わた!わたしは、そゆ事はべべべ、勉強する事じゃなくて!
その、相手とのし、自然な関係の中で培うものだと思う次第で…!」
タヌキさんの野生的な求愛行動を華麗にかわしつつ、
ヒトミのツンデレっぷりにも耐性が出来てきた、その頃。
「あら?あの子」
「まぁ、愛らしい」
「でも…なんて恰好してるの」
俺たちの前に突如現れた、一人の女の子。俺たちより少し年下だろう。リンゴみたいな赤い頬、
悪戯っぽい笑みを浮かべた口元、ほわほわのくせっ毛。一言で言って、とても可愛い。
可愛いのだが、なぜかきている服はゴミ捨て場から調達してきたようなボロキレだった。
これは放っておけない。それにしても、見かけない子だ。
神社の跡取りとして、ご近所の皆さん、氏子の皆さんの情報はあらかたインプット済みなのだが。
しかし。見かけない訳だ。その理由はすぐに判明した。
「にゃ!」
「…にゃ?」
「にゃにゃにゃー!」
ぴょこん、頭から飛び出たケモ耳。って、また!?
「君は、一体…!?」
「にゃーーーーん♪」
「ま、まさか…あの…」
この前の仔猫!?
俺の腕にすがりついてくる仔猫ちゃん。
そして、あろうことか、ぽっと頬を染める。
その様子に、案の定二人がキレた。
「むきーーーーっ!な、なによこのコ!?」
「は、離れなさい!このマセガキ!」
「なんて言葉づかいよあんた、人間社会に毒されすぎじゃないの?
純朴な天然素材が持ち味じゃなかったの、あんた?」
「よ、余計なお世話ですわ!ああ、いま、ヒトミさんの気持ちが
少しだけ解りましたわ…新参者がキツネくんに馴れ馴れしくするのって…
すごくすごくすごく…すっごくムカツキますわ!」
「あーちょっとは解りあえたかもねぇって!イヤ、そうじゃなくて!
キツネくん!?あんたもちょっとは嫌がったらどうなの!?」
「いやぁこんな可愛い子をじゃけんにはできないだろー?」
「鼻の下!」
「んにゃーーー(ハート)」
第二話、了。
すいませんすいません、中々エロくなりません。
元々エロゲ用シナリオとして書きはじめたものなので
最後の方に集約されてくる予定です。
よろしければ最後までお付き合いください…
さて何人出てくるのかw
※「キツネくんとタヌキさん」ケモ耳少女達のお話です。
※第一話は
>>285-297、第二話は
>>301-312です。
※途中で分岐するマルチエンディングストーリーの予定です。
※では、「第三話」です。
>>314 もう一人くらいかなぁ…
第三話 キツネくん絶体絶命!?
俺の腕にすがりついている、ボロキレのような服をまとうネコ耳の美少女。
「んにゃあん♪」
どうも、耐性ができてしまったらしい。
眼の前の美少女の正体があの仔猫であるらしいという事実を、
俺はあっさり現実のものとして受け入れてしまったのだ。
「これではヒトミさんのお宅で飼う訳にはいきませんわねぇ」
俺から元・仔猫の美少女を引きはがしながらタヌキさんがため息をつく。
「そ、そうは言っても…この姿じゃ野良猫としても生活出来ないぞ」
「ですわねぇ。貴方、ネコに戻れます?」
どうやらタヌキさん自身は、任意でヒト形態とタヌキ形態を切り替えられるらしい。
当然、眼の前の元・仔猫にもその技を期待したのだが…
「にゃー」
タヌキさんの質問に、元・仔猫の美少女は首を振った。横に。
「はぁ」
全員でタメ息をつく。
「言葉は理解しているようだけど…」
ヒトミが困ったように呟く。
「仕方ありませんわ」
「タヌキさん?」
「私に考えがあります」
※ ※ ※
という訳で。
タヌキさんに連れられ、俺とヒトミ、そして仔猫ちゃんがやってきたのはある一軒家。
表札に記された名前は「田貫」。
そう、ここは我らが理事長にして、タヌキさんの伯父さん宅。
タヌキさんは仔猫ちゃんを自分ともども伯父さんに面倒見てもらおうというのだ。
タヌキとは言え、自分の通う学園の理事長に会うということで少し緊張。
しかし…
「伯父さま!」
「おお、彼がキツネくんかね?初めまして理事長の田貫です」
「ぷっ!」
俺とヒトミはタヌキ理事長を見るなり吹き出してしまった。
「ん?どうしたね?」
「い、いえ、なんでも…はじめまして、理事長先生…く…くく」
「私の顔に何かついているかな?」
いや、別に。きっと事情を聞かされてる俺たちだけです、あなたを見て笑うのは。
タヌキ…タヌキ、なんだよな、この人。
こんなにタヌキ親父って形容がハマる人が本当にタヌキ!
くそ、これで笑うなって無理だぞ。
しかし容姿はともかく、タヌキ理事長は話の解る人だった。
仔猫ちゃんの面倒を見てくれる事になったのだ。
彼女が「自分の居場所」を見つけられるまで、という条件で。
「人間社会で生きていくためには色々と必要なものがある。
一番必要なものが何か解るかね?」
「そうですね…お金?」
首を横に振るタヌキ理事長。
「じゃあ…戸籍?とか」
またも首を横に振るタヌキ理事長。
「一番必要なのは、自分の居場所だ」
「自分の居場所…?」
「そうとも。私たちは元タヌキだ。つまりそれは、本来この人間社会には居場所が無いという事を意味する」
「住むための家って事ですか?」
「いいや、自分がそこにいていいという自信や自負、
いるべき理由、いなければならないという理由、だよ」
よく解らない。難しい事を言うな、この人。タヌキなのに。
「それは地位や立場かもしれない。あるいは自分を必要としてくれる伴侶かもしれない。
仕事かもしれないし、使命かもしれない。これは君たち人間も、無縁ではいられない命題だよ」
生きていく理由、社会での立ち位置、か。
なんか人生相談か就職相談みたいになってきた。
そういう重苦しい話は御免なので、俺は傍らの仔猫ちゃんに救いを求めてみる。
「とにかく、良かったな、仔猫ちゃん」
「にゃー♪」
「伯父さま、ありがとうございます」
「ところで…そのコには名前が無いのかね?」
「まぁノラでしたし、本人も喋れないようだし…」
と、そこでタヌキ理事長、はたと思いついたように。
「そう言えば、お前も名前が必要だな」
「名前?伯父さまと同じ田貫ではいけませんの?」
「それは名字…ファミリーネームだ。
人間にはそれぞれ固有の名が必要なんだよ」
「なまえ、私だけの名前…」
「どうかなキツネくん、この娘たちにいい名前はないかね?」
俺にタヌキさんや仔猫ちゃんの名前をつけろっていうんですか、タヌキ理事長。
「キツネくんが…私に名前を?」
すんごく期待に満ちた眼で俺を見るタヌキさん。キラキラ光る、期待に満ちた瞳。
いや、そんなに期待されても…俺にネーミングセンスなんて期待するなよ。
えーっとタヌキ、タヌキ、タヌキと言えば…
「みどり…とか?」
「え?」
「うわー安直」
ヒトミには俺の思考回路がバレてるらしい。さすが幼馴染み。
「でも、いい名前じゃなーい?似合ってるわよ(くすくす)」
「そう思います?思います?思います?キツネくん!
さっそく名前で呼んでくださいませ!ハイ!せーの…」
「い、いや、その…それは…」
「あ、あんたなんかタヌキで充分だー!」
「いまさら取り消しは効きませんわよ?
ヒトミさんばかり名前で呼ばれるのはズルいですわ!
私もキツネくんから名前で呼ばれたーーーーいっ!」
そ、そのうちね。
「ところで…」
ん?
「名付け親ともなれば親も同然、親も同然と言う事は家族も同然
家族も同然と言う事は、私とキツネくんはもはや恋人以上の関係…きゃっ(ハート)」
「こらこらこらー!なんでそうなるのよ!?」
「あら?悔しいんですの?なんでしたらヒトミさんもキツネくんに名前を付けていただいたら?」
「ペットじゃあるまいし!お断りよ!」
「いやだヒトミさんたら、私がキツネくんのペット…ペット…きゃっ(ハート)
「ま、待て待て待て!な、何を想像した!?」
「ですからぁ…ご主人様とペットと言う関係と言えば…
ご主人様はペットの身体を好きにしていいのですよね?」
「どこでそんな歪んだ知識を手に入れたんだお前はーーーっ!」
「あら?私はいつでもよろしいのですよと申し上げ…」
「わーわーわー!余計なことを言うなーーーーーっ!」
「わっはっは。青春だねぇ」
呑気すぎますタヌキ理事長!
「で、彼女の方はどうするね?」
と、仔猫ちゃんへの名付けを促すタヌキ理事長。
「んんんにゃー!にゃー!にゃー!にゃー!」
「わ、解った解った、そんなに慌てるなよ」
「まぁキツネくん、彼女が何を言ってるか解るんですの?」
「ニュアンスだ、ニュアンス。えーっと…」
ネコか、ネコなんだよな…えーっとネコと言えば…やっぱ「タマ」だよな。
「タマミ…とか?」
「うわ、どこの二世帯家族の飼い猫?」
「うるさいぞヒトミ、元ネタばらすな」
「んにゃにゃにゃにゃ!にゃーーーーー(ハート)」
うん、喜んでる喜んでる。これは間違いない。
俺に擦りよって頬ずりしそうな勢いだ。
こんなに喜ばれて悪い気はしないね。
「よし、ではこれで決まった。さぁ君たちは登校しなさい。
学生の本分は勉強だ。自分の居場所を見つけるためにも、ね」
※ ※ ※
仔猫ちゃんを託し、俺たちはタヌキ理事長宅を辞した。
自分たちの居場所を見つけるために、俺たちは学園に向かう。
俺の右側はタヌキさん、左側はヒトミ。
いつの間にか、彼女らはそこを自身の居場所と決めたようだった。
「ねぇキツネくん、あのコもやっぱり、キツネくんの事…」
「…小さいくせに私のキツネくんに色目を使うなんて」
「そこ、勝手に自分の物にするんじゃない」
「でも、私の敵ではありませんけれど。
どう考えても私のような健気な乙女の方がキツネくんに相応しい」
「妄想入らんで人の話を聞かんか、このエロタヌキー!」
やっぱり、そうなのか?
あのコは、俺の事…?頭痛の種がまた増えた。
いや、その、想いを寄せられる事が迷惑だなんて事はないんだけど。
そして、学園では。さらなる頭痛の種が生まれようとしていた。
※ ※ ※
放課後。
朝と同じく、左右を二人の美少女に挟まれて教室を出る俺。
ああ、教室中から殺気と嫉妬と不審に満ちた視線を感じるぅ
って、まぁだいぶ慣れたけど、ね。
これまで実力行使に出たヤツはいなかった。
だから、俺は油断していた。
教室を出た俺たちは、俺たちはむさくるしい男の集団に取り囲まれた。
「我々はー!タヌキさん親衛隊であーる!」
「そして我々は!ヒトミさんファンクラブのものだ!」
「…はい?」
「我々はこのたび話し合いの結果、利害の一致を見た!
ここに一致団結し、タヌキさんとヒトミさんを守る会を結成するにいたった!
その目的は…木常!貴様から麗しの乙女たちを救い出す事だ!」
「な、なんだなんだ!?」
「お前さえいなければ、丸く収まるのだ!」
俺がいなければお前らが彼女らの関心を得られるって?
短絡すぎるだろ、それは!しかし、事態は最悪だ。
「お、俺をどうしようってんだ!?亡き者にでもするつもりか!」
「暴力に訴えるなど、下種の所業!愚の骨頂!」
とりあえず命の危険はなさそうだ。
「じゃ、じゃあどうしようってんだよ?」
「知れた事…!お前の真実の姿を白日の元にさらす!
そうすれば必然、タヌキさんとヒトミさんはお前に愛想をつかすはずだ!」
「はい?」
「そうだ!何をどう誤解したのか、二人はお前をいい男だと勘違いしている!
そんなはずがあろうか?否!断じて否!!
我々はご近所の皆さんに入念なリサーチを行った!そして探り出したのだ!
過去から現在に至るまで、貴様がこれまでに犯した罪の数々を!恥ずかしい秘密のあれやこれやをな!」
「ちょ、ちょっと待て!!プ、プライバシーの侵害だ!」
清廉潔白なら問題は無い。しかし、そんな人間がいるか?
誰だってほじくられるのがイヤな過去のひとつやふたつあるもんだ。
おれは聖人君子じゃない。断固阻止しなければ!
ところが。
「えっと、よく解りませんけれど…
皆さんについていけば、私の知らない昔のキツネくんのお話を
聞かせていただけると言う事でしょうか?」
「ちょ、タヌキさん!?」
「そうとも!キミの知らない木常という男の真の姿を教えてあげよう!」
「まぁ!ぜひ!ぜひお聞かせいただきたいですわ!」
タヌキさん、目がらんらんと輝いてるんですけどーーー!
「ヒトミさん!参りましょう、一緒に昔のキツネくんのお話、伺いましょう!」
「あんたも悪趣味ねぇ、それに男ばっかに取り囲まれるのってちょっと…」
「あん、もう!いいからいいから♪」
「ちょ、離してよ!」
「タ、タヌキさん!ヒトミ!?」
「おっと!お前はついてくるんじゃない!」
ヒトミのファンクラブとか名乗った連中だ。手に手に弓を持っている。弓道部員だ。
「こ、こら!弓を人に向けるな!」
暴力には訴えないんじゃなかったのか!?
「キ、キツネくん!」
ヒトミの心配げな声が響く。
「大丈夫大丈夫、危害は加えませんよ、先輩!」
と呼びかける声は弓道部の後輩か?
男子弓道部はヒトミでもってるってホントだったんだなぁー
「ちょ…!タヌキさん!キツネくんが…」
「え?」
振り返ろうとしたタヌキさん、しかしその前に視界を遮られる。
大きな布を持った守る会会員たちが、俺と彼女らの前に立ちはだかったのだ。
体育館あたりから持ち出したのか?ビロードのカーテンだ。
そして、その向こうから。
「きゃ!ど、どこ触ってんのよ!」
「ヒトミさん!?お待ちなさい!あ、あなたたち…!」
「お、おいこら!何やってるんだ!タヌキさん!ヒトミ!」
何が守る会、だ!彼女らに危害を加えたら…許さない!
しかし俺の前には弓を構えた男たち。なんてこった。
学園内でこんな危険な事態に陥るなんて。
騒がしいながらも平和な学園生活はどこ行った!?
まだ下校中の生徒たちもちらほらいる。
しかしこの異常事態を遠巻きに見守るばかり。
助けは期待できそうにない。
進退きわまった。その時。
「おにーちゃーん!」
俺には妹はいないぞ!?
振り返るとそこにいたのは、仔猫ちゃん。
「ど、どうしてここに…って喋れるの!?」
「タヌキのおじちゃんととっくんしたのー!おにいちゃんとお話したくて頑張ったんだよぉ!褒めて褒めて!」
と、首っ玉にかじりついてくるネコ耳美少女。って、耳!耳!
「き、きさま!」
と、なんだか知らないがその光景が弓道部の連中の逆鱗に触れたらしい。
「にゃっ!」
弓道部員の剣幕に、仔猫ちゃんが怯えてる。俺の影に隠れ、おずおずと連中の様子を覗いている。
「俺たち弓道部のアイドルを手籠めにしただけでなく!そんなカ、カ、カ、カワイイネコ耳少女まで毒牙にかけるとは!」
ネコ耳はスルーなの?ねぇ気にならないの!?ネコ耳だよネコ耳!?
「いや、手籠めて!毒牙て!俺まだ何もしてないぞ!」
「まだ、だと!?これからするつもりだったのか!?」
「いや、それは、その」
完全に否定できないのがツライ所だ。そりゃ、俺だって、健康的な男の子な訳で。
今は誰の気持ちに答えるかふんぎりがつかないから手出ししてないだけであって。
そこんとこに決着がつけば、それはその、あんな事やこんな事をしたいなーなんて…
と、そんな気持ちが顔に出たのか
「ゆ、ゆるさん!」
弓道部員の闘志に火をつけてしまった。逆上した恋する男ほど手に負えないものはない。
矢を番え直す男たち。待て待て待て!本気で撃つ気!?
って、このままでは俺にかじりついたままの仔猫ちゃんにも危険が…!
と、そこへ。
「ふーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
って、威嚇!?ネコの威嚇!?
「あいつら、おにいちゃんの敵?ねぇ敵?敵?敵?」
「いや、敵っていうか、まぁ、そう、かな?」
「ふーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「毛が!毛が逆立ってる!?」
「おにいちゃんを…」
「えと、仔猫…タマミちゃん?」
「おにいちゃんを、いじめるなーーーーーーーっ!」
まさに豹変。そうだ、彼女はネコだったっけ。
鋭い爪が、弓道部員たちに襲いかかる。不意を突かれた男たちは。
「ぎゃっ!」
「あたしの!」
「うぎゃ!」
「大好きな!」
「ひーっ!」
「おにいちゃんをいじめるやつは!」
「ひぎゃ!」
「ぜったい!ゆるさないんだからっ!」
うわ、引っ掻き傷がみみずばれに。痛そう。いや、俺に弓を向けた連中だ。当然の報い。
「おにいちゃんは!あたしがまもるんだからっ!」
地面に突っ伏した男たち。仁王立ちの仔猫ちゃん。
しかし、今の騒動の間にタヌキさんとヒトミは守る会の連中に連れ去られたようだ。
「おにいちゃん!ぜんぶやっつけたよっ!」
「あ、ああ…その、なんだ…ありがとう。すごいな、仔…タマミちゃん」
「わーい!わーい!おにいちゃんに褒められた!褒められちゃった!」
さっきまでの激しい怒りはどこ吹く風。天使の笑顔で俺に擦りよるタマミちゃん。
その笑顔にどきっとしちゃうのは、俺が正常な男の子である以上、いた仕方ないのだ。
「そ、そうだ…タヌキさん!ヒトミ!」
タヌキさんとヒトミが危ない!もし二人に何も危害が無かったとしても俺のプライバシーの危機!
「や、やつら、どこへ行った!?」
早く捜さなきゃ。しかし。
「ふぇ…ふにゃぁあ!ふにゃああああん!ああああん!」
「うえっ!?な、なんで!?」
さっきまで笑顔だったのに!?ネコ耳美少女はちょっぴり情緒不安定!?
「ど、どうしたんだよ、いきなり」
「だってぇだってぇ…こわかったもん。こわかったんだもんっ!」
…そうか。そりゃ、そうだ。今は人間の姿だから忘れちゃうけど、
あんな小さい仔猫が人間に立ち向かうとなれば、並大抵じゃない勇気が必要だったに違いない。
「ごめん、それから…ありがとう」
俺は泣きじゃくるタマミちゃんをそっと抱きしめた。
なんにも出来なかった俺に、出来る事なんてその程度。
俺のために頑張ってくれたんだ。少しだけ待っててくれよ、タヌキさん、ヒトミ。
「えぐっえぐっえぐっ…!」
そんなに泣くなよ。もう大丈夫だから。っていうか、君のおかげで、大丈夫だから。
「ふぇ…っ!ひっくひっくひっく…!」
肩をさする。頭を撫でる。あ、ネコ耳、暖かいな。
「ひぇ…ひぇ…っく、ひぐっ…うぇっうぇっうぇっ…!」
抱きしめる腕に力を込める。少しでも安心させてあげられるように。
「うぇ…うぇえええん!うえええええん!」
そろそろ、落ち着いてくれない…かなぁ?
「うぇえ…うぇえ…ひっくひっく…ぐすぐすぐすっ…!」
タ、タヌキさん…ヒトミ…大丈夫かなぁ。
「ぐすっ…………ふぇえぇええぇえ…ん!ふぇ!ふぇええ!!」
あー、その…そろそろ…
「タヌキさん…ヒトミ…!」
「何よ?」
「あらあらまぁまぁ!」
あ、あれ?二人とも…
「お、お帰り」
「はい、ただいま戻りました」
「って呑気に挨拶するなー!」
「ふにゃ?」
「あ、あの…二人とも、無事だった、の?」
「変なトコ触るやつがいたからひっぱたいてやったわ」
GJだ、ヒトミ。
二人の様子から、特に危ない目にあったとかは無かっただろう事が解る。
俺はほっと胸をなでおろした。って事は残る懸念は…ごくり。
「そ、そう…それで?話は聞いたの、かなー?」
「聞いてやったわよ。キツネくんの昔話」
「そ、それで、その、どうでした?」
「別にぃ。あのね、私はキツネくんの、何?」
ちょっとどきっ。えっと、恋人、とかじゃない、よね?
「えっと、幼馴染…かな?」
「その通り。だからね、今更って話ばっかりだったわよ」
「そ、そう…」
昔からずっと一緒に育った幼馴染。俺の事なんて、親よりよく知ってるんだ。
では問題はタヌキさんの方だ…って
「はぁ…」
な、なに?その夢見るような瞳は!?
「キツネくんの昔のお話…楽しかったなぁ…」
「は、はい?」
「キツネくんは、昔からキツネくんだったんですわねぇ…(うっとり)」
「あ、あの?タヌキさん?」
「この子、途中からずっとこの調子なのよ」
と、ヒトミが呆れたようにぼやく。
「おねしょの話とか、肝試しの件とか、ウサギのネタとか」
「う、うわ!い、言わないで!それ!だめ!全部だめ!」
「まーどの話を聞いても揺るぎないわ、このコ。幻滅どころか『キツネくん可愛いっ!!』ですって」
「だって!だってだってだって!可愛いと思いません?おねしょして濡らしたシーツを隠そうとして森で…」
「わーわーわー!!!やめてやめてーーーー!」
「とまぁ、万事この調子だったからね。連中も調子狂っちゃったみたい」
と、そこでくすりと笑うヒトミ。お、おかしくなんかないぞ!ゆ、許すまじ、守る会のヤツバラ!!
「にゃーー!あたしも聞きたい聞きたい!おにいちゃんのお話、聞きたい!!」
「って、タマミちゃん!?いつのまにそんな流暢に!?」
「彼女、人間社会で暮らすノラネコだったんですから、元々言葉は理解出来たんですわ
人間の声帯の使い方がよく解らなかっただけで」
…理屈は通っているよな、うん。
「あたしのおにいちゃんの!昔のおはなし!聞きたい聞きたい聞きたいー!」
「あたしの!?っていうか、いつまで抱き合ってるのよ!」
「はっ!そ、そうですわ!私のキツネくんに何をするんですか!」
「あんたのでも無ーーーーい!キツネくんは!わ、わた…し、の…(ぼっ)」
「ひにゃっ!おにいちゃんはあたしのーーー!!」
「あら?真っ赤ですわよ?ヒトミさん」
「真っ赤だー!真っ赤!真っ赤!真っ赤っか!」
「う、うるさいうるさいうるさーーーーーいっ!」
「おにーちゃーんだぁいすきぃ!」
「こらーひっつくなー!!」
「んべーーーーーーーーーっだ!」
えーっと。雨降って地固まる?ちょっと違うか。元の黙阿弥?これも違うか。
とにかく。世はなべて事もなし。
第3話、了。
乙っ!
※「キツネくんとタヌキさん」ケモ耳少女達のお話、全6話構成の予定です。
※第一話は
>>285-297、第二話は
>>301-312、第三話は
>>316-324 ※次の第四話以降、分岐するマルチエンディングストーリーです。
※では、「第四話」です。よろしくお願いします m(_ _)m
第四話 仔猫ちゃん、気を付けて
「ふいー」
湯上りの濡れた髪をタオルでごしごし擦りながら、
俺は自分の部屋へ向かい廊下を歩いていた。
ドアに手をかけた所で、動きを止める。
「…いる!」
俺はある気配を察知した。部屋の中に、いる。
ドアの影に身を隠しながら、そっとノブを回す。
こちらの気配は完璧に殺している。
中に潜む者が気付くことは無いはずだ。
…並の人間ならば。
「おにーーーーーーーーちゃーーーーーん!」
「うわっ!?こ、こここ、こらっ!!」
相手は(元)獣。ひそやかな気配にも敏感だ。
いきなり飛びつかれた俺はそのまま廊下に転がった。
「もう!タマミちゃんたら…ダメじゃありませんか!」
「タ、タヌキさんまで!
いい加減、こんな時間に俺の部屋に忍び込むのは止めてよっ!」
これじゃ よ、よ、よ…夜這みたいじゃないか、とは言えず。
「ごめんなさい、おにいちゃん、私止めたんだけどぉ」
「え?わ、私?あなたが連れて行けって…!」
「ごめんねおにいちゃん、ぐすっ…」
「あ、ああ…も、もういいよ。タヌキさん、もう止めてくれよな!?」
「(ぷぅ…!)」
「仔猫ちゃんは理事長の家で一緒に暮らしてる…姉妹みたいなもんだろ?
タヌキさんがお姉ちゃんなんだからさ、ちゃんと面倒みてあげなきゃ」
「(ぷくぅ…!!)」
「タマミちゃんも、もう泣かないで、な?」
「ぐすぐす…ありがと、おにいちゃん」
「ち、違うんですキツネくん…!あー!ほら?見て!見てください!
いま、このコったら舌出しましたわよ!?」
「とにかく!二人とも、もう俺の部屋に窓から忍び込むの禁止!」
「そんなぁ…」
「うん解った!ごめんね、おにいちゃん」
解ってくれたのかと、思いきや
「今度はドアから入るね!」
「いや、それはその…」
にこにこと穢れの無い瞳で俺を見上げるタマミちゃんに
それ以上強くは言えず。
「その…せめて不意打ちは止めて、ね?」
不法侵入を止めてくれるというだけで良しとしよう…
「で?こんな時間に俺の部屋で何してたわけ?」
「おべんきょー!」
「お勉強?何の?」
「このご本でーーー!」
「※◆∀§ΓΘηУсゥ☆!!!!!」
お、おおお、お、お、おれのエロ本ーーーー!?
「いいいい、い、いけません!こんな本読んじゃ!!」
「だってぇ、みどりちゃんがぁ」
みどりちゃん?って、ああ、タヌキさんの事か。
「わた!私は止めたんですよ!?」
「っていうか、タヌキさんも、見た?」
「あ、はい。私もその書物で色々とお勉強を…」
うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!
「で、出てけー!出てけ出てけ出てけーーーー!」
「キ、キツネくん?どうなさったんですか!?」
「えーもー帰るの?おにいちゃんと遊びたーーい」
「だ、だめだめだめーもう止めてー!!」
ぶんぶんと手を振る俺。縋りついてくるタマミちゃん。
動揺していた俺はタマミちゃんの体重を支えきれず…
「おわっと!?」
「にゃっ!?」
脚をすべらせスッテンコロリン
「あたたた…タマミちゃん、大丈…ぶーーーーーー!?」
「にゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
うわ!うわうわうわ!
可愛い下着がこんにちわ!って花柄か!可愛いぞ!
いや、そうじゃなくて!見ちゃダメだろ、俺!!
どうやら転倒の際、藁をもすがりたい俺の手のヤロウは
タマミちゃんのスカートをつかんでしまったらしく!
「い…」
「い!?」
「いやーーーーーーーーーーーーーー!!」
「うわ!ご、ごめん!ごめんごめんごめん!!!」
な、泣かせちゃった!ど、どうしよう!?
って、エロ本見るのは平気なのに、自分がHな目に会うのはダメなの!?
「まぁ!キツネくん!なんて事なさるんですか!」
「じ、事故だ事故!わざとじゃない!」
「そんなに見たいなら私が見せて差し上げますのに!」
「まてー!論点がズレてる!」
「うえー!うえー!おに、おにいちゃんに見られたー!
は、恥ずかしいよぉ!!!!」
「ごごご、ごめんて!ごめんってば!(オロオロ)」
「こらーーー!何を騒いどるかーーーーー!」
「ヒ、ヒトミ!?ややこしくなるから出てくるなーーーーーー!」
と、まぁ。
こうして俺の、喧騒に満ちた夜は更けていくのだった。
※ ※ ※
季節はもうすっかり春。
ぽかぽか陽気と官能的な風が、新しい出会いを予感させる。
「キツネくーーーん!」
「にゃーーーーーー!」
「こら!?あんたたち、抜け駆けすなー!」
あ、いや…もう出会いはしばらくいいや。
さりげに擦りより、自然な動作で俺の左腕を取るタヌキさん。
バッ!と勢いよく俺の右腕に飛びつくタマミちゃん。
ギャンギャンとわめきながらその周囲をぐるぐる回るヒトミ。
…こいつら、昨夜の反省はまったく見られないな。
「はぁ…」
と、タメ息をついたその時。
「いーい?一緒よ?一緒に言うんだからね!」
「そんなに念を押さなくても解ってますわよ」
「せーーーーーーーーーのっ!」
『キツネくん!お誕生日、おめでとう!!』
「あ…」
なぁ、第1話で俺が言った事、覚えてるか?
今日は俺の誕生日。
我が木常神社にまつわる秘密が、今夜、親父から明かされるんだ。
まー大したこっちゃないだろう。
眼の前のケモ耳少女たちという現実に比べれば、な。
とにかく。
普段は俺を取りあってケンケンガクガクの面々が、こうして
俺のために一時的とはいえ休戦の上、祝福してくれた。
…どうやらヒトミが音頭を取ってくれたみたいだけど。
となれば、やるべき事はひとつ。
「なんていうか、その…サンキュ」
「わーいわーい♪おにいちゃんに喜んでもらっちゃった!」
「すっかり懐かれてるわねぇ?お、に、い、ちゃ、ん~?」
「いや、その、えっと、ごめんなさい」
「にゃふふん♪」
「あ、こら、てめぇなんだその勝ち誇ったような笑みは!?」
「ヒ、ヒトミさん!?ガラが悪すぎませんかー!?」
「ちょっと!くっつき過ぎじゃありません事!?う、うらやま…」
「にゃふふふ♪」
「なんですの!?その挑戦的な笑みは!!」
と、タマミちゃんを引き離すタヌキさん。その隙に、と。
「ヒトミ、あのさ」
「…な、なに?」
「さんきゅ、な」
「な、なによ…ベ、別にお礼なんて、その」
あ、赤くなった。
「ヒトミがとりなしてくれたんだろ?あの二人
だから、ありがと。嬉しいよ」
「…いつもお騒がせしてるから、ね。
誕生日くらい素直にお祝いしてあげなきゃって」
とても久しぶりにヒトミと普通の会話をしてる気がする。
一方、ケモ耳美少女たちはと言うと…
「大体解ってるんですの?人を好きになるってどういう事か!」
「解ってるよー!べんきょーしてるもん!」
タヌキVS仔猫。
その戦いの行方に暗雲が立ち込めていた!
「そ、そのお勉強の事は言わなくていいんじゃないかなー!?」
「おにいちゃんのベッドの下にあったご本でちゃんと…!」
「わー!?わー!わー!!」
「ど、どうしたの、キツネくん?」
「だからあれは私の参考書だって言ってるじゃありませんか!」
「ち、違う!断じて違ーーーーう!」
「本?参考書?一体なんの話?」
「キツネくんが大切に保管されてる書物の事ですわ!
裸の女の方の写真が一杯載ってて…」
「わー!わー!わー!」
止めてー!許してー!!
「…キツネくん?」
ヒトミの目が怖いよー!!
「やっぱり…お、男の子だもん…ね?そ、そういうの興味ある、よね…」
「ヒ、ヒトミさん?」
「だから!持ってるのはしょうがないけど管理はちゃんとしなさいっ!」
ご無体な!窓から空き巣ばりに不法侵入してくる
タヌキとネコから隠し通せるわけありません!
とまぁ十年一日の如し。変わり映えのしない騒がしい登校風景。
…タマミちゃんが加わってさらに騒々しさをましてはいるが。
※ ※ ※
「あうぅ…着いちゃった」
「ごめんな、授業終わったらまた会えるから、な?」
「うん!ここで待ってるね!じゅぎょー終わったら遊ぼうね!」
「まったくキツネくんはタマミちゃんに甘いんだから…」
「そうですわ!今日の放課後は私とデートする予定だったじゃありませんか」
「はぁ!?なによそれ!き、聞いてないわよキツネくん!」
「お、おれも聞いてない!初耳だ!濡れ衣だ!」
「…だったらいいな♪と思っただけですわ。あ、そうだ!
明日はお休みですし、明日デートしましょう!」
「だから勝手に決めるなー!!!!」
と、その様子を見ていたタマミちゃんは。
「…いいなぁ」
「え?」
「みんな一緒でいいな…あたしは…」
言い掛けて、彼女は身をひるがえす。
「ちょ、ちょっと!タマミちゃん!?」
※ ※ ※
「気になる?タマミちゃんの事」
「うん…なんか寂しそうだったしさ」
「もともと野良猫だもんねぇ…でも、タヌキ理事長は優しいし…
タヌキさんともなんか姉妹みたいにうまくやってるみたいだし…
別にひとりぼっちな訳じゃないわ」
「そうだな」
なんてしみじみやってると。
「えー困りますごめんなさいお返しします申し訳ありません」
廊下からタヌキさんの声。なんだ?謝りまくってるぞ?
「どうしたの?タヌキさん…なにそれ?」
両手一杯に山のような手紙を抱えてるタヌキさん。
「どうしても受け取ってくれって言われまして…お断りしたんですけど」
「それ全部ラブレター?すごいわねぇ」
「皆さんのお気持ちは嬉しいのですが…私にはキツネくんという伴侶が」
「待てコラ、誰が伴侶だと?」
「ヒトミさん?そんな言葉遣いしてるとファンが減りますよ?」
「減ってもいいわよそんなもん、キツネくんがいてくれれば…」
「え?」
「あう…!!わ、わわわ、わた、わたたたたた!」
動揺しすぎだっての。
二人の気持ちはとても嬉しい。でも、俺は…
俺はまだ、答えを出す事が出来ないでいる。
※ ※ ※
そして放課後。
校舎を出た俺たちはむさくるしい男の集団に取り囲まれた。
…って、デジャブ?
「我々はー!タヌキさん親衛隊であーる!」
「そして我々は!ヒトミさんファンクラブのものだ!」
「そ、そして、タマミちゃんを愛でる者たちの同盟、略してTMDだ!」
なんか増えてるしー!
そう、いまや学園内は群雄割拠の状況を呈していた。
タヌキさん派とヒトミ派に加えタマミちゃん派まで現れたようだ。
彼らの共通の敵は、彼らのアイドルたちの意中の人たる…この、俺。
暗黙の了解により、授業中に手出しをしてくる奴はいない。
しかし、放課後ともなれば、俺を狙う連中が現れ出した。
俺がいなければ、彼女らがお前らになびくってか?
そんな訳ないじゃん。いや、それは俺の驕りとかじゃなくてさ。
好きな相手が何者かに危害を加えられたら、その何者かは怒りの対象だろ?
しかし、頭に血が上った連中にはこんな簡単な理屈が通じない。
中には業を煮やして直接彼女たちにアプローチをかけようとする積極派もいる。
タヌキさんが受け取っていた山のようなラブレターはそういう連中からのものだ。
さらに俺への説得や懐柔を試みる穏健派もいるようだが、少数派閥だ。
「タヌキさん親衛隊」を名乗る連中は、実に雑多な集団だ。
各学年が満遍なく、おまけに良く見ると女の子も混じってる。
タヌキさんの可愛さは年齢や性別の垣根も超えるらしい。
「ヒトミさんファンクラブ」を名乗る連中は、主に弓道部員だ。
元々が男子弓道部自体がヒトミのファンクラブ的要素が強いらしいのだ。
ヒトミ目当てで入部してくるヤツが後を絶たないらしい。
そして新参の「タマミちゃんを愛でる者たちの同盟、略してTMD」は。
…ちょっと待て。その「タマミちゃんLOVE」と書かれた鉢巻きは何だ?
ピンク色のおそろいのハッピ、背中には大きなハートマーク、
その中にはにかんだ笑顔のタマミちゃんの写真…っていつ撮ったんだよ?盗撮か!?
「…と、タマミちゃんは?仔猫ちゃんは何処!?」
「ここにいるわけないだろ?彼女はここの生徒じゃない」
「な、なに!?ではこんな所に用は無い!」
男たちのうち、ピンクハッピの面々が俺たちを放置、学外に去って行った。
「あいつら、何をするつもりだ?」
「仔猫ちゃんを捜しにいったんじゃない?」
「大丈夫、かな?」
「そうね、あいつらに何か悪さが出来るとは思わないけど…」
一方、じりじりと包囲を狭めてくる「守る会」の連中。
その光景に、俺はイヤな汗が背中を滴り落ちて行くのを感じていた。
第4話、了。
※ ※ ※
※長々とすみません、この先は3つのルートに分岐します。
※仔猫(タマミ)ちゃんルート、タヌキさんルート、ヒトミさんルートの3つです。
※選択肢は3つ!
>ピンクハッピの連中、TMDを追わなきゃ!
>相手の出方をみなければ…まずは話し合いだ。
>先手必勝…逃げる!
>>334 あ、ありがとうございます。
では、タマミちゃんルートいかせていただきます。
「キツネくんとタヌキさん」第五話(タマミちゃんルート)
※「キツネくんとタヌキさん」ケモ耳少女達のお話です。
※途中で分岐するマルチエンディング方式で書いております。
※タマミちゃんルート最終回となる第五話をお送りします。
※第一話
>>285-297、第二話
>>301-312、第三話
>>316-324、第四話は
>>328-333 ※本章は
>>333からの続きとなります。
第五話 キツネくんと仔猫ちゃん
タヌキさん親衛隊とヒトミさんを守る会の包囲網の中。
俺の心を占めていたのは。
『みんな一緒でいいな…あたしは…』
仔猫ちゃん、タマミ。
彼女今朝の別れ際のその言葉が耳を離れない。
きっと、一人で寂しいんだな。
俺に縋りついて笑う彼女。
俺の胸にしがみついて泣く彼女。
寂しげな笑みを浮かべる彼女。
そのコロコロと猫の目のように変わる表情は、俺を飽きさせない。
彼女に慕われて悪い気はしない。ネコなんだけど。多分、年下?なんだけど。
でも。
放っておけないじゃないか、あんな…あんな脆い所、見せられちゃ。
気になって、仕方ないよ。
あんな小さな仔猫だったのに。俺なんかのために人間になっちゃって。
これからどうするんだよ?俺、ずっと守ってなんてやれないよ。
いや…
そもそも俺に、何が出来るっていうんだ?
彼女のために、何か出来ることがあるのか?
『ごめんな、授業終わったらまた会えるから、な?』
『うん!ここで待ってるね!じゅぎょー終わったら遊ぼうね!』
そうだ。タマミちゃんはここで待ってると言った。なのに…
周囲を見回す。タマミちゃんの姿は見えない。
もしかしたら、何かあったのかもしれない。
おまけに彼女を追っていったらしい、TMDの連中の事もある。
「タマミちゃん…!」
しかし俺たちは完全に包囲されている。この包囲網をどうやって突破するか?
「ヒトミさん?」
「はぁ…しょうがないわね」
え?何?
「またキツネくんの昔のお話、聞かせていただけます?」
と、タヌキさんが連中の方に一歩を踏み出す。
「え?あの、タヌキさん?」
「キツネくん!私、皆さんのお話しを伺ってきますわ。また明日お会いしましょう。御機嫌よう」
「今日は部活でるわ、私。さ、行きましょ。私がいれば、キツネくんに用は無いんでしょ?」
ヒトミまで…そうか。
俺がタマミちゃんの事を気にしてる事、二人とも解ってて…
…ありがとう。
俺は歩き去る二人に頭を下げて、走り出した。
「はぁ。柄じゃないわーこんなの」
「うふふ。きっと、帰ってきてくれますわ。だって、キツネくんはなんだかんだ言っても私の事を…きゃっ」
「何よその自信!?どっから湧いてくるのよ!根拠は?ねぇ根拠!!」
「あら?ヒトミさんは自信ないんですか?」
「う…あ、あるわよ!根拠は…これまで一緒にいた時間!キツネくんが帰ってくるのは私の所!調子に乗らないでよね!」
「くす…キツネくんは…優しいから。小さな女の子を放っておけないだけ。そうですわよね?ヒトミさん」
「ふん!キツネくんの事はあんたなんかより私の方がよく知ってるの!でも…
その優しさが人を傷つけることもあるって…事。キツネくんは気付いてるのかな…」
「ヒトミさん。でも、私は…いいえ、私たちは」
「…」
「そういうキツネくんだから、お慕いしてるんですわ。そうでしょう?」
「…うん」
※ ※ ※
俺はタマミちゃんを捜して走りだした。
しかし心当たりがあるわけじゃない。
何しろ、彼女とは出会ってほんの数日。
「どこだ…?どこにいる!?」
そう、彼女は待ってると言ったんだ。なのに。
不安が募る。イヤな想像がどんどん広がって止まらない。
考えろ考えろ考えろ!
彼女は元・野良猫。猫の行動範囲はそんなに広くないはずだ。
一般的に猫の行動半径は30〜400m程度と言われている。
どんなに行動範囲の広い猫でも1km圏内が限界だそうだ。
迷子になった猫を捜す場合は、家を中心に内側から外側に向かって
周りを回るように探せば良いのだそうだ。
「よし…!」
俺は脳裏に地図を描いて…走り出した。
※ ※ ※
そして。
ちょうど学校から1km圏内ぎりぎりの公園。
周囲を林に囲まれて、人目につきにくい閑静な場所。
そこに彼女はいた。
数人の男に囲まれている。ピンクのハッピの連中…TMDだ。
「あ、おにいちゃんだー!」
「タ、タマミちゃん!さ、探したよ〜!」
俺はもう息も絶え絶え。
「キ、キツネ!何しに来た!」
「お、俺たちは何もしてないぞ!?」
「は?」
状況が読めないぞ。
「…いいよ、ハッピのおにいちゃんたちと遊んでも」
「え?さっきまであんなにイヤがって…」
「黙ってて!」
「タ、タマミちゃん?」
「キツネおにいちゃんはあたしと遊んでくれないからこの人たちと遊ぶの。
キツネおにいちゃんにはお姉ちゃんたちがいるんだから、いいでしょ?」
「いや、あの…あれぇ?」
俺、独り相撲?
彼女には俺しかいない!なんて思いこんでたのは驕り?
なんか力が抜けちゃったよ。
でもま、無事ならそれでいいんだ。
…いいのか?
…いいんだよ!
なんか寂しいような、切ないような気がするけど気のせい!
「そ、そっか…えと、その…それならいいんだけど」
「え?おにいちゃん…!」
「待ってるって言ってたのにいないから、さ…心配したんだけど…
事故とかにあってたらと思うと、その…さ」
「あはは、道路に飛び出して引かれそうになった事あるじゃん?だから…さ」
「…」
「んーと、その、あまり遅くなるなよ?理事長やタヌキさんが心配するからな」
と、踵を返そうとしたその時。
「おにいちゃん!いいの!?あたしこの人たちと×××しちゃうよ!?」
こ、こら!?うら若き乙女がなんて言葉を口に!
エロ本か!?俺のエロ本が彼女の情操教育の弊害!?
「え…い、いいの?ホントに?」
「ごくり…!い、いきなり乱交?」
「タ、タマミちゃん…!」
「こ、こらー!ダ、ダメ!ダメです!そんな事許しません!めっ!!」
「こ、こども扱いしないで!※※や★★も…○○もできるんだから!
ちゃんとおべんきょーしたもん!」
「いや、その…だ、だからって…!」
あうあう。動揺する俺に向かって、TMDの連中が言い放つ。
「キツネ!お前は彼女の何なんだ!?」
「そうだ!彼女の自由意思を奪う権利はお前には無い!」
そりゃそうだけど!正論だけど!
俺は…別に彼女の恋人でも家族でも無いけど!
「い、いこう?タマミちゃん!(ゴクリ)」
「あ、あんなヤツ放っておいてさ(ハァハァ)」
と。タマミちゃんの肩に男の手が置かれる。
その瞬間、ビクリと彼女の身体が震える。
「あ…」
イヤがってる。絶対。
なのになんで?なんであんな事言うんだ?本心から、その、
×××や※※や★★や○○をしようと思ってる訳じゃないのに?
「ちょ…ちょっと、やだ…」
「タ、タマミちゃん…!」
昂奮した男の一人がまたしてもタマミちゃんに手を伸ばす。
「…やっ!」
避けようとしたタマミちゃん。
男の手が一瞬空をさ迷い、しかし再び彼女を捕えようとして…
ぐっ。
「あーーー!こ、こら!!」
男の手がタマミちゃんの胸をがっしりと捕まえていた。
「い、いやーーーーーーーー!」
タマミちゃんの顔が真っ赤に染まり、脚が、がくがくと震えてる。
さらにその大きな眼から、大粒の涙がこぼれる。
「やだやだやだやだやだーーーーーーーーーーーーーーっ!」
「タマミちゃん!?」
「離して離して離してーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
大きな悲鳴にびびった男の手が離れる。
俺は何も考えずに駆け寄り、タマミちゃんの手を取った。
「タマミちゃん…!」
「お、おにいちゃん…!おにいちゃぁああん!」
わんわんと泣きじゃくるタマミちゃん。
TMDの連中もおろおろするばかり。
「タ、タマミちゃん…その…」
「消えろよ」
自分の物とも思えない低い声だった。
「彼女の言葉は本心じゃなかった。お前たちと遊んだりなんかしないよ」
…連中が悪い訳じゃない。
彼女の言葉に…惑わされただけ。
解ってる。連中に非は無い。
でも。
たとえ故意では無かったとしても、連中は彼女を泣かせた。
それだけで、俺が怒りを向ける理由としては充分だ。
自分が、抑えられそうにない。
だから。
「だから…とっとと消えてくれ!」
※ ※ ※
…俺の胸に縋りつき、まだ泣きじゃくるタマミちゃん。
その頭を俺は飽く事なく撫で続けていた。
「お、おにいちゃん…ぐし…ぐしっ…」
「ちょっとは落ち着いたか?」
「…まだ。頭、もっと撫でて」
うわ。その上目遣いは、卑怯。
「お、おう。お安い御用だ」
俺が頭をなでてやると、彼女は目を細めて…今にも「ごろにゃん」とか言い出しそう。
「なぁ…なんであんな事言ったんだ?」
連中と×××だの※※だのや★★だの○○だの…!
「だって」
「だって?」
「おにいちゃんが何もしてくれないから」
「は、はい?」
「おにいちゃんがしてくれないから、
あの人たちにしてもらおうと思ったの」
「な、なにそれ!?」
「おにいちゃん…して?」
「こ、こらーーーーーーーーーー!」
出来るか!というか、彼女の方こそ!
男の手が肩に触れただけでカチコチに固まるくせに。
ちょっと胸を触られただけであんな悲鳴をあげるのに。
昨夜だって…下着見られただけで泣きだしちゃうのに。
出来るわけないじゃないか!?
「だって、おにいちゃんがあの人たちを追い払っちゃったんだから」
「だから…責任とって?」
なんだ、この…「したいだけ」みたいな発言。
俺は彼女の表情を観察する。
真っ赤だ。小刻みに震えてるのが解る。
明らかに無理、してる。
「…嘘、だろ?」
ぴくりとネコ耳が震える。ほら、やっぱり。
「そんなしたいだけ、みたいな…そんな言葉、嘘だろ?」
「なんでそんな事言うんだよ?危なっかしくて見てられないよ」
「なんでそんなウソつくんだよ…」
答えない。答えてくれない。
「そんな嘘つくコは…キライだ」
「…え?」
やっと反応があった。
「嘘つきはキライだよ、だから、嘘は止めてくれよ」
「う…」
「う?」
「う、嘘じゃないもん!嘘じゃ…ないも!」
「タ、タマミちゃん?」
やばい、また泣く!
「嘘じゃないもーーーーーーーーーーーーーーーーー」
ああ…泣かせちゃった。TMDの連中の事、言えないね。
「だ、だって…あいつらと×××とか、する気なかったろ?
嘘だったろ?だから、その…!」
「だ、だって…だってだってぇ!」
しゃくりあげながら。でも一生懸命に。
「お、おに、おにいいちゃんに…おにいちゃんにしてほしいのは嘘じゃないも!」
うわお、大胆発言。
「あ、ああ言ったら、おにいちゃん止めてくれるかなって…!
あ、あたし、子供じゃないも!
おにいちゃん、あたしの事見てくれないも!お姉ちゃんたちに叶わないも!
だから、だから、焼餅なんだも!おにいちゃんに焼餅焼いてほしいも!」
ああ、支離滅裂。何を言ってるんだか解らないぞ!?
「ずっと…ずっと、一人だったんだもん!一人ぼっち、だったん、だも!
だから、解んない…解んないんだも!どうしていいか、解んないんだも!
おにいちゃんだけなのに!あたしはおにいちゃんだけなのに!」
それ以上は言葉にならない。また大粒の涙を流しながら…
って、俺、彼女を泣かせてばかりいるような気がする。
「…そ、そうか」
でも、大体、解った。
「もう止めろよ、そんな強がりは」
「え?」
「俺の気を引こうとして…でもどうしたらいいか解らなくて…
考えた末、あいつらとするなんて言って嫉妬させようとした?」
「…」
「そういう事だろ?」
「…」
「無理するなよ…というか、無茶するな。心配しちゃうから」
しばし無言。
「…ご」
「ご?」
「ごめんなさいいいいいい!お、おにいちゃぁああん!」
あちゃ。
結局、また…またまた泣かせちゃったよ。
「あたし、おにいちゃんが好き。大好き
おにいちゃんはあたしに名前をくれた。
怖い時、悲しい時はずっと頭をなでなでしてくれた
ひとりぼっちだったあたしを見つけてくれたから、
だから、おにいちゃんが好き」
そうか。彼女は野良猫で、一人ぼっちで。だから。
一人ぼっちは、寂しいもんな。
「ねぇ、おにいちゃん
おにいちゃんも、あたしの事、好きでしょ?」
そのはにかんだ笑みが、俺の心をわしづかみにする。
「そりゃ…もちろん、き、嫌いじゃないよ」
「嫌いじゃないって事は好きって事だよね?」
「そ、そうなる…かな?」
「やったー!そーしそーあいだっ!わーいわーい!」
子供っぽい喜び方、微笑ましい。思わず俺の頬も綻んでしまう。
妹がいたらこんな気分なんだろうな…と、
「おにいちゃん…」
「えと…タ、タマミちゃん?その手をどけてくれない…かな?」
「いやだ」
いやだ、じゃなくて!
その、手が…お、俺の股間に当たってるんですけどー!
「おにいちゃん…」
きゃーーーーーーーー!
そんな潤んだ瞳で見つめながら股間を撫でさすっちゃだめー!!
「い、いいいい、いけません!」
「にゃん!」
思わず突き放す。
け、決してこのままじゃ俺の身体が
反応してしまいそうだったからじゃないぞ!?
「ぶー!」
「いや、そこで膨れられても…」
と、そこでタマミちゃん、一転いたずらっぽい表情を浮かべ…
「あ、タマミちゃん!?」
走りだした。公園の林の中へ姿を消してしまう。
せっかく見つけたのにここで見失ってたまるか。
俺は後を追った。
※ ※ ※
林の中。見通しが悪い。俺は段々不安になる。俺はずっと彼女を捜していた。
やっと見つけたと思ったのに、気まぐれな猫はすぐに俺の手をすり抜けていく。
彼女が猫だったときからそうだったんだ。
いつの間にか傍にいる。でもきまぐれで飛び出していって、
見つけた時は車に引かれそうになってたり、男に取り囲まれてたりして。
心配で目が離せない。いつも傍に、目の届くところに置いておきたい。
守ってやりたい、見守っていたい、妹みたいな…女の子。
どこにも行くな。傍にいろ。
「タマミちゃん…!」
…見つけた。木の陰からつきだした、ネコ耳。
もう、逃がさない。
「捕まえた!」
「おにいちゃん…」
「たたたたた、タマミちゃん!?」
…て、なんて恰好してるんだよ!?
木陰で…胸元をはだけ、スカートたくしあげてる。
そんな姿のタマミちゃんを、俺は後ろから抱きしめてしまった。
「あの人たちとするって言ったのは嘘だけど、
おにいちゃんとしたいのは嘘じゃないもん!
ね…おにいちゃん…ほら、見て…!」
そう言うと彼女は自身の指先をそっと下着に沿わせる。
「な!ななななな何を!?」
「お、おなにーって言うんでしょ?好きな人の事を想って…するんだよ?」
「い、い、いけません!そんな事…こんな所で…!」
「やだ、止めないも…んんっ…!」
真っ赤になって、涙目で、震えながら。
彼女は俺に見せつけるように自分自身を撫でさする。
「ふぁ…ん…んくぅ…!」
その声がどんどん艶を帯びてくる。小さな身体に似つかわしくない、声。
俺はその様子に魅入られ、視界が彼女で一杯になって。
眼を逸らせない。逸らす事が出来ない。
「お、おにいちゃん!そ、そんなに見ちゃ…は、恥ずかしいよぉ」
びくっ!と、思わず硬直する俺。
「ご、ごめ…そ、その…」
とと、喉が。いつの間にか喉がカラカラに乾いてて。
俺は思わず生唾を飲み込む。彼女にも、その音が届いたかもしれない。
「はず、はずかしいなら、やめ…やめれば…!」
「い、いやぁ!や、やめないも!!み、見て欲しいんだもっ!」
「い、いま見るなって言ったじゃないか!」
「ち、ちがうも!は、恥ずかしいけど見て欲しいのっ!」
なんでそんな無理するんだよ!?
「お、おにいちゃ、どきどき、する?あたしのお、おなにみて、こうふん、する?」
切れ切れの息でそんな事言われて…昂奮しないわけ、ない。
「お、おにいちゃんの事を思って…してると…どんどん変な気持になってきちゃうの
胸の奥がきゅんきゅんして、ほわわって暖かくなって…それでそれで…それでね…」
「おっぱいの先っぽがちくちくして、硬くなって…
おまたの所がぬるぬるしてきて…そ、それで…それで…」
「は、恥ずかしくて恥ずかしくて恥ずかしくて…すごく恥ずかしくて」
「で、でも…」
「んはっ…んにゃぅ!!」
「でも…気持ち、いいの…!気持ちよくて、恥ずかしいのに、止まらないのぉ!」
と、タマミちゃんの手が下着の中に。
裾からな、なにか、流れてるんですけど!?
うわ。うわうわうわ!!
「おにいちゃ…おに、いちゃ…んっ!んにゃっ!んひゃぅ…っ!!」
どんどん。どんどん指の動きが速くなっていく。
上下に擦りあげるだけでなく…時折、下着に隠れた指がくいっと盛り上がる。
その動きに合わせて、彼女の小さな身体がびくん!と跳ねあがる。
「ふわわっ…!あふぅ!んん!ひゃう…!にゃぁ…!うにゃぅ…!」
俺はその痴態から目が離せない。
「おにいちゃ…んはぁあ!あ、あたし、あたし…んくぅ…!にゃ!にゃ!にゃ………!」
「タ、タマミ…!」
「んはぅ…っ!ん、にゃぁあああああああああああ!!」
ひときわ高い嬌声と共に彼女の身体が痙攣する。
後ろから抱きすくめる形になっている俺に、いや…その…
勃起したナニにその痙攣が刺激を与え…理性が吹き飛びそう…!
「ふぁ…っ…はぁあああ…お、おに、ちゃ…」
タマミちゃんの手が、彼女を抱きしめたままの俺の股間に伸びる。
「う、うあ…!」
「硬くなってる…すごぉい…」
あ、あんなの見せられたんだから…しょうがないだろ!
「こんな、お、おっきぃの…?」
彼女の目に一瞬浮かぶ、恐怖。しかし、
「が、がんばるも!いっぱいおべんきょーしたから!」
「む、無理するなって!」
「…だめ?」
小首をかしげて上目遣いで!ネコ耳ぴくぴくしてるし!
反則!それは反則だよぉ!
可愛い。可愛すぎる!
「お、おれ…おれは…!」
ど、どうしようどうしようどうしよう…!
し、しちゃっていいのか?いいのか、俺!?
い、いや…ここまでさせて…ここまでされて…応えないなんて男じゃないっ!
覚悟を決めろ!キツネ!
上目遣いに俺を見るタマミちゃんから、眼が離せない。
どきどきする。止められない。いや理性は「止めろ」と言っている。
このコは元・ネコだ。出会ってまだほんの数日じゃないか。
でも。
だから、なんだ。
タヌキ理事長の言葉が思い出される。
※ ※ ※
「一番必要なのは、自分の居場所だ」
「自分の居場所…?」
「自分がそこにいていいという自信や自負、
いるべき理由、いなければならないという理由、だよ」
「それは地位や立場かもしれない。あるいは自分を必要としてくれる伴侶かもしれない。
仕事かもしれないし、使命かもしれない。これは君たち人間も、無縁ではいられない命題だよ」
※ ※ ※
一番大切なのは「居場所」
俺は、彼女の居場所になれるのか?いや、可能かどうかは問題じゃない。なりたいんだ。俺は。
守りたい。守ってやりたい。
彼女は元・ネコなのに。出会って数日なのに。
でも、俺は彼女の居場所になりたい。
この時のその想いは、本物だった。
俺は彼女に回した手にぐっと力を込めた。
「おにいちゃん…?」
「お、俺…俺…」
多分、俺の鼻息はかなり荒かったろう。
彼女を守ってやりたいと思う、それは嘘じゃない。
でも同時に、彼女を…めちゃくちゃにしたい衝動にも駆られていた。
…そうだ、俺は激しく昂奮してた。
もう、止まらない。
「にゃっ!?」
俺は彼女を押し倒した。って言っても、そっと、だぞ?
地面は芝生…というには雑草が多く混じっているけど、おかげでそこそこの柔らかさ。
「おに、ちゃん…?」
「…するよ?」
俺の言葉に、彼女ははっと息を飲み、沈黙。
俺は、しかし返事を待つ事はしなかった。
これまでにすでに彼女の決意は痛いほど伝わってきていた。
俺としたい、という彼女の言葉に嘘は無いと信じてる。
だから、余計な事は言わない。
「あ…!」
下着を脱がせると…うすい茂みが現れた。
沈みかけた太陽が投げかけるほのかな光が反射、キラキラと輝く。
そう、彼女の茂みはすでにぐっしょりと濡れていた。
「こんなに、溢れさせてたんだ…」
つい、言葉が口を突いて出る。その、感動、して。
俺を想って、自分で慰めて、それであんなに感じて、こんなに溢れさせて。
その事実が俺を感動させた。
「すごく、綺麗だ…」
「は、はずかしいよぉ…!」
感動のあまり、俺は見境を失っていたらしい。
「ひにゃっ!?お、おに、おにいちゃ…!!」
仔猫ちゃんの乳首に吸いつき、指を股間に沿わせた。
「ひゃぁああ!うわ!うわ!うわ!うわーーーー!」
ひどく恥ずかしいのだろう。顔を真っ赤にして、手足がジタバタと暴れる。
でも今更俺も止められない。
彼女が欲しい。抱きたい。俺の物にしたい。
すでに勃起した乳首を軽く吸う。
「ひゃん!」
彼女の身体が、俺の身体の下で跳ねる。
俺が与えた刺激に感じてる、その事が嬉しく、そして昂奮、する。
「ひぁ!お、おっぱい…ジンジン、するぅ…!ふあ!あ!」
舌先で転がし、ついばむように吸い、時折潰すように。
様々な刺激を与えるたびに、嬌声をあげるネコ耳の少女。
「あぅ!…にゃ!んん!ひぁ!ひゃん!…んあっ!」
ピクピクと震えるネコ耳が愛らしく、俺はもっと彼女を感じさせたくなる。
股間に添えた指を…そっと割れ目に食い込ませる。
「ひあああああああ!?お、おにおにいちゃ…だ、だめぇ!」
「どうして…?ここ、気持ちいいんだろ?」
「だ、だってだってだって!は、はずかし…はずかしいもーーー!」
必死に抵抗し恥ずかしがる彼女を…
もっと恥ずかしい目にあわせたくなっちゃう。
嗜虐心を煽る、とでも言うか。俺って結構S?
「ほら、気持ちいい証拠に…こんなに濡れてる」
「んん!そ、それは、だって…!」
「気持ちいいんだろ?」
「…うー!!」
「うー?」
「ば、ばかばかばかぁ!お、おにいちゃんのいじわるー!!」
「なんで?教えてくれないと解らないよ」
「あうあう…!でもでも…!んは!はぁあ!あ!あ!」
「…気持ち、いい?」
「おに、ちゃ…んはあああ!き、きもち、いいよぉ!!」
「いいコだ…!」
「うああああ!は、はずかしーーーーーーーーーーーー!!」
もっと、もっと。
もっともっと気持ちよくさせて、感じさせて、恥ずかしがらせたい。
「さっき、自分でどこ触ってた?どこ触ると、気持ちいい?」
「そ、そんな、そんな事…!」
下着の上から見た彼女のオナニー中の指の動き。
あれを頭に思い描いて…再現。
「こう?」
「あひっ……!んは!は!あ!」
「こう、かな?」
「んあああ!あ!ひや!ひやら!」
「え?イヤなの?」
「い、イヤじゃないもーーー!」
うわぁ!楽しい、可愛い、嬉しい、可愛い!
さらに彼女のオナニーを思い出す。
くいくいと盛り上がる下着、くるくる回すような指の動き。
そうか、あの時弄ってたのは…
俺は彼女の秘所をかき分けるように指を動かし…見つけた。
包皮に隠された陰核。きっと、彼女の一番、好きな場所。
あくまでソフトに、そっと触れる。
「!!あひぃいいいいいいいいいいいっ!」
ひときわ高い嬌声、びくびくと激しく身体が痙攣する。
強すぎた?
「あ…あ…あ…かはっ!おに、ちゃ、ひあっ!らめ…!そこ、ら、め…!」
痙攣する身体を抑え込むように、彼女は必死で声を絞り出す。
「ここ、イヤなの?気持ちよくない?」
「ちが、きも、ち、い…あ!んはあああ!あ!らめぇえ!らめらめらめぇぇ!」
彼女の指の動きを再現するように、捏ね、回し、潰し。
「いつもこんな風にしてたんだろ?」
「ひぁ…やらやら…!そんな事、いっちゃ、やらぁ!」
「俺を想って、こんな風に、してた?」
「ふあああああ!」
「俺の指でしてもらうとこ、想像してた?」
「ひぁ!ひぁ!ひぁああああ!」
「ちゃんと答えないと…」
すっと指を引く。
「ふあ…あ?ふえぇえ!?」
「教えてくれないと、止めちゃうよ?」
「だ、だめぇ!やめちゃだめぇ!!」
俺はニッコリとほほ笑み、彼女に答えを促す。サイテーだな、俺。鬼畜。
「お、おに、おにいちゃんにぃ…おにいちゃんの指でしてもらうの想像してた…けど
ほ、本物のおにいちゃんの指の方が…いっぱいいっぱいいっぱい…いっぱい気持ちいいのぉ!!」
恥ずかしい事言わされて、昂奮が高まっちゃったみたいだな。
「だ、だから!やめちゃ、メッなの!も、もっと!もっと、してほしいも!」
「う、うん…!」
はい、俺も、ね。彼女の痴態に昂奮が止まらない。寸止めして苛めて楽しんでる場合じゃ無くなり始めていた。
「ここ?これが、いいの?」
「ふああああ!そ、そこぉ!そこ、きもち、いいよぉ!!」
止まらない、止められない。無我夢中で彼女の感じる場所を責め続ける。
「ふあ!あ!や…はげし、はげし、よぉ!んは!あ!あ!」
「い、イキそう…イクの?」
「イク…イクって…ふあ!し、しってるも!き、きもちよくなって…!
イク…イクの…イッちゃう、よぉ!!」
「いいよ…イッて…!」
「ひぁああぁ!あ!あ!あ!おに、ちゃ…!あ、あたし!イク!
イクの!おにいちゃんのゆびで、イッちゃ…んにゃあああ!
あ…!んはぁああぁああぁぁぁああああああああああ…っ!!」
イカせちゃった。指で、クリトリス責めて。
放心し、荒い息を吐く彼女にそっと囁く。
「…気持ち、よかった?」
「んにゃーーー!!お、おにいちゃんのばかぁ!
は、はずかしいよぉおおおおおおおおおぉ」
「…もっと」
「はにゃ?」
「もっと、恥ずかしい事、しよう、するよ?」
硬直。でも次の瞬間。
「う、うん…」
真っ赤な顔のままコクリと頷いてくれた。
…しかし、いざとなると。
「お、おっきい…すごく…」
俺のモノを見て、再び硬直。
いきりたったソレは、初めての彼女にとって凶器にしか見えないのかもしれない。
「お、おにいちゃ…」
「…怖い?」
「う、うん…」
でも、そこで止めようとは言えなかった。
いまさら我慢なんて出来る訳が無い。
俺は彼女の恐怖と緊張を和らげようと知恵を絞る。
こんな時、どうすればいい?
「おにいちゃん…」
「な、なに?」
「ぎゅうって、して?」
「ぎゅっ?」
「お、おにいちゃんに、ぎゅってしてもらったら…
そ、それで頭なでなでしてもらったら、あたし…」
「こ、怖いの無くなるから…おにいちゃんに好き好きってしてもらったら
怖くないから、何も怖くなくなるから、だから…」
ああ。
なんて可愛い事を言ってくれるんだろう、このコは。
俺にあげたくて、でも怖くて。でもあげたくて。
無理してるのかもしれない。いまだって震えてる。
でも、その気持ちを汲んで、信じてあげなきゃ。
俺は彼女をぎゅっと抱きしめ、そして、耳元に口づける。
ほわほわのネコ毛が鼻にあたってくすぐったい。
そして呟く、女の子の心をほぐす魔法の言葉。
「…好きだ」
「!!お、おに、ちゃ…」
「一番、好きだ。愛してる」
「ふあ…ほ、ほんと?ほんとに、ほんと?」
「大好きだよ、タマミ…!」
「お、おにいちゃ…!?」
またボロボロと涙が零れる。ホントに泣き虫なんだから。
そして。
「んあ…っ!?」
「んくぅううう!!」
彼女は俺の腰を掴むと自ら引き寄せ、その小さなアソコで俺をすっぽり包み込んだ。
「ちょ、いきなり…む、無理するなって…!」
「だ、だいじょ、ぶ、だもっ!」
涙がぼろぼろ零れる。
俺、彼女を泣かせてばっかりだ。
「か、かな!悲しいんじゃないよ!う、嬉しくて!
お、女の子は!嬉しくても!嬉しくても泣いちゃうんだも!」
「い、痛くない…か?」
「痛くないもー!うれ、う…嬉しいんだもーーー!」
「嘘つき…」
「嘘じゃ、ないもーーーーーーーーーーーーっ!」
なんて健気な。
痛くない訳ないじゃないか。破瓜の血が、俺を伝って零れてくる。
その量は決して多くはなさそうだったけど、でも。
「んくぅ…い、いっぱい。あたしの、なか、おにいちゃんで、いっぱい、だよぉ…!」
こら。
震える声でそんな事言われたら。
「…う、動く、ぞ?」
「あ…あぅ…んあ!!」
俺は堪え切れず、腰を使いだした。彼女の痛みを斟酌する余裕などなかった。
「くっ…うあ…うあああ!」
な、なんて…なんて、気持ちいいんだ!?
全体を包み込み、締めつけてくる。
すごい。すごいすごいすごいすごい…!
これが、女の子の、中…!
「おにいちゃん…!おにいちゃんおにいちゃんおにいちゃん…!」
俺は夢中で、とにかく自分の快楽を貪ることしか頭になかった。
その俺に、彼女は必死で訴えかけていた。
「き、気持ちいい?おにいちゃん…!あ、あたしの、中、気持ちいい?」
「あ、ああ!気持ちいいよ…!おれ、おれ…!」
「よか、よかた…!おにいちゃ、もと、きもちよく、なて…!」
うわぁ。うわぁうわぁうわぁ!やばいやばいやばい。
うっとりした表情で!真っ赤に頬染めて!そんな事言われたら…
可愛い、可愛すぎる!俺、もう…萌え死にそう!!
「ねぇ、名前、呼んで。おねがい。
おにいちゃんがつけてくれた、あたしの名前…!」
「タマミ…!」
「ああ、おにいちゃん…!おにいちゃんおにいちゃんおにいちゃん…!」
俺はあまりの気持ちよさに彼女の痛みを忘れていた。
しかし、俺に名前を呼ばれ嬉しそうな表情を浮かべる彼女の様子を見て、少し冷静さを取り戻す。
時折、彼女の表情が歪む。
それが痛みのためか、快楽のためか、俺には判断がつかない。
少しでも気持ちよくさせてあげなきゃ。幸せな気持ちにしてあげなきゃ。
俺に処女を捧げた事を、後悔しないようにさせてあげなきゃ。
「…タマミ、見てごらん?」
俺は彼女の頭を支え、視線を…二人が繋がってる場所に向けさせる。
「ふえ!?」
「繋がってるよ、タマミのアソコと、俺のが…ひとつになってる」
「ひあ!そ、そんな事言っちゃ、らめ!は、はずかしい、からっ!」
「恥ずかしくなんかないよ…ほら、しっかり咥えこんで離してくれないんだ」
「んくぅうう!ひや!ひやらぁああ!は、はずかし、はずかしいよぉ!」
「くっ…し、締まる…」
恥ずかしがる度に彼女の中はきゅんきゅんと収縮し、俺を締め付ける。
想った通り、恥ずかしいという感情は、彼女の性感のスパイスになるようだ。
「恥ずかしいのに、こんなに締めつけて…!い、いやらしいなタマミは…!」
「ひぅ…!そ、そんな事ないもっ!あ、あたし、いやらしいコじゃ…んふぅ…!」
俺は彼女のクリトリスに指を伸ばす。
「ひあっ!?あ!そ、そこ…!!」
「…そこ、何?」
「んはっ…!んにゃはぅ!!き、きもち、い…うあーーーー!
はずかしいはずかしいはずかしいよぉ!!」
「い、いやらしいオ○ンコで俺を咥えこんで…おまけにクリ○リス弄られて
感じるなんて…や、やっぱりタマミはいやらしいな…」
「やらやらやらーーーーーーーーーーーーおにいちゃんのいじわるぅ!!」
「くっ…!」
…言葉責めは諸刃の剣。
彼女が恥ずかしがり感じるたびに、柔らかな膣肉が俺をぎゅんぎゅんと締めつける。
限界が近い。
「お、俺…もう…!!」
「イ、イク?イクの?おにいちゃん、イッちゃうの?」
顔は真っ赤だけど、覚えたての言葉で必死に俺に問いかける。
これも俺を気持ちよくさせようという作戦だろうか?
「あ、ああ…!イク…お、おれ…おれ!」
「おに、ちゃ…!あた、あたしも…!!」
抽送を続けるだけでなく、クリ○リスへの刺激も休まず続けている。
それが功を奏したのか…彼女は初めてだけどかなり気持ちよくなれてるようだ。
「ひあぁう!きもち、よく、て!へ、へんに、なっちゃ…う!
ふみゅぅうう!んひゃぅう!!ひぅ…っ!んあああああああ!」
いやいやをするように顔が左右に振られる。
髪を振り乱し、ネコ耳が跳ねまわる。
クリ○リスへの執拗な刺激が、破瓜の痛みを凌駕して、
ネコ耳の少女をよがり狂わせている。
そして彼女にその痴態を取らせているのが、俺自身である事に、俺は喜びを感じる。
「おに、ちゃ…!いっしょに…!一緒に!」
「あ、ああ…!」
激しく突き上げ、同時にクリ○リスを捏ねまわす。
「ひああ!あ!あ!あ…!おにいちゃん…!
おにいちゃんおにいちゃんおにいちゃんおにいちゃん…!」
「も、イク…イク、ぞ…!」
「うん!うんうんうん…!」
「んにゃ…っ!ふわあああぁあああぁぁぁああああ…っ!!」
「く…ぅ…うあああ!!」
「ふぁ…い、いっぱい…いっぱい出たぁ…」
寸前でなけなしの理性が働いたものの、我慢しきれず放出。
彼女の全身を白濁液が覆っていた…俺は彼女を、汚した。
その事実は俺の征服欲、独占欲を満足させていた。
彼女を自分の物にしたという、達成感。
「おに、ちゃ…すきぃ…すきすきすき…だいすきぃ…!」
夢見心地、とでも言おうか。
汗ばんだ身体をぐったりと俺に預け、うっとりとした表情で放心。
俺への想いを囁き続けるタマミ。
とても幸せそうだ。
もちろん、俺も。とても…とても満ち足りた気分だった。
※ ※ ※
…すっかり日は傾き、山の端にかかっている。
着衣の乱れを直し、俺たちは公園を後にする。
寄り添った二つの影が長く伸びる。
二人とも一言も口をきかない。
いつも饒舌な彼女も、じっと押し黙っている。
顔を真っ赤に染めたまま、俺から視線を逸らして。
…こんな時、男の方から何か言うべきなんだろうか。
経験値が低すぎて解らない…って情けない!
くそ、彼女を守ると、彼女の居場所になると誓ったのに。
仔猫ちゃんの真っ直ぐな想いに俺はどう答えればいいんだろう。
『おにいちゃんは私が守るんだから!』
『おにいちゃんが好き』
『おにいちゃん…!』
「あ、そうか」
思わず言葉が口を突いて出た。
傍らでタマミ(のネコ耳)がぴくりと反応する。
簡単な事じゃないか。彼女と同じように、真っ直ぐに、答えればいいんだ。
難しく考える必要はない。心のままに、熱い想いのままに。
「タマミ」
「…」
目をそらしたまま、やっぱり返事は無い。
でも、聞いてくれてる。ネコ耳がピクピク動いて、俺の言葉を待っている。
ああ、可愛いな、このネコ耳。俺は素直にそう思う。だから。
「改めて…ちゃんと言う。言いたいんだ」
「…」
「俺は」
「君が好きだ。タマミが、大好きだ」
ゆっくりと逸らされ続けてきた視線が、俺の方に向き直る。
なんだか呆気にとられたような表情で、
「…お」
「お?」
「おにいちゃーーーーーーん!」
がばと抱きついてくるタマミ。俺はしっかり抱きしめる。
「わ、わたしも!おにいちゃんが!好き!大好き!好き好き好き!
ずっとずっとずーーーっと!だいだいだいだいだいだいだーーーい好き!!」
この真っ直ぐな想いを、俺は彼女の身体ごと抱きしめて…
長く、深い、口づけを交わす。
「ふはぁ…」
唇が離れて、タマミはうっとりとタメ息をつく。
まさに夢見心地。幸せに酩酊してるみたいな蕩けた表情。
その表情が公園での痴態を思い起こさせて…
さっきしたばかりなのに、またしたくなる。
「俺も、ずっと、好きだよ」
「うん…うん…うん!」
「キツネ…くん?」
「…おねえちゃん」
そこに現れた、タヌキさんとヒトミ。
と、
「あ、あの…あれ?今の、あれ!?な、何ですの?あれあれあれれーーー!?」
タヌキさんがパニックを起こし、
「どういう…事、なの…?」
ヒトミが俺たちにきつい眼を向ける。
「お、おねぇちゃん…」
太陽は山の影に隠れ、辺りは徐々に闇に溶けていく。
長く延びていた影が消え、俺たちはほのかな残光の中立ちつくす。
それはわずかな、ほんのわずかな時間だったけれど、
この時はまるで永遠かのように感じられた。
第5話・前篇、了。
すみません、ひとまずここまで。
タマミちゃん編は、もう少しだけ続きますm(_ _)m
胸糞悪い
読んでてイライラした
胸触られたあたりでギブアップ
文句も飛んでくるだろうけど頑張ってくれ
最近なんかのコミック雑誌で人外娘のハーレム漫画が連載されたね
コミックリュウのモン娘か?
全部のルートみたい。
続きまだー
*投下します。濡れ場は5レス目辺りから。
「失礼いたします」
ノックの音が聞こえる。ベッドで横になっていたアイルは、その音で目を覚ました。一拍置いて、服を持ったメイドが入ってくる。
彼女が持っていたのは、アイルが最初にこの城に来た時着ていたコートとシャツ、そしてズボンだった。今彼が来ているのは、彼女が古いシーツをツギハギして作った即席のローブだ。
「申し訳ありません。この城に殿方がお泊りになる備えがなかったので」
ジャスミンと名乗ったメイドは三日前にそう言った。そう、三日前だ。アイルが城に忍び込み、捕らえられてからそれだけの時間が経っている。
ナコトの身体検査、もとい行為の最中に気を失ったアイルが目を覚ますと、彼女は既に部屋から消えていた。その後すぐに殺されるものだと思っていたが、どういうわけだか彼は今の今まで生かされている。
部屋の中から出ることはできないものの、食事は三食でるし、退屈しのぎの本も用意してくれる。忍び込んだ暗殺者を閉じ込めるにしては破格の待遇だった。
「それでは、お着替えが済みましたらまたお呼び下さい。本日はお嬢様がお待ちでございます」
丁寧にお辞儀をして部屋を出ていくジャスミン。一人取り残されたアイルは、この環境に疑問を持ちながらも大人しく元の服に着替えることにした。
窓の外から強烈な日差しが差し込む。その光に当たらない少し奥まった場所に、豪華なドレスを身に纏った金髪の少女が座っている。
彼女の向かいではローブを着た銀髪の少女が同じように座って足をぶらつかせていた。三日前にアイルを襲った、ナコトその人だ。
「暑いわねえ」
「そだねー」
窓の外の風景はゆっくりであるが少しずつ流れ、二人のいる空間は時折揺れる。ここは馬車の中。ある場所に向かって、四頭のサイボーグ馬が彼女たちを運んでいる。
かぽかぽと、サイボーグ馬が街道を往く音だけが響く。二人の間は妙に口数が少ない。少女が遠慮しがちに目を伏せて、ナコトがそれを見つめる。そんな調子だった。
「なんか、聞きたいことでも?」
「うん? うーん……」
我慢できなくなったナコトが話を切り出すが、少女は視線を反らしてもじもじしているだけだ。普段は威厳満点な魔王の娘だがナコトの前でだけ見せる可愛らしい姿だが、今のナコトは真剣だ。
「でもナコト、どうせ何を聞きたいか分かってるんでしょう?」
「分かってる。でも私は、あなたの口から聞きたい」
「ううん……」
長い間ためらったあと、ようやく少女は口を開いた。
「どうしてあの男を生かしておきたいの?」
顔をしかめる少女をナコトはじっと見つめる。彼女は真意を未だ少女に明かしていなかった。
魔王の娘であり、一国の主でもある彼女を狙ってきた暗殺者などその場で縊り殺すか、あるいは見せしめのために手の込んだ拷問をした後に磔にして晒すのが当然だ。
それをナコトは助けた。それに今、解放するチャンスまで与えている。どうしてナコトがたかが人間の男にそこまでこだわるのか、少女には分からない。
「今は言えない。だけど」
スッと立ち上がったナコトが少女の頭を柔らかく抱きしめる。少女は目を瞑ってナコトが頭を撫でるのを受け入れた。
「ミナが一番だから。大丈夫、それは信じていいよ」
「……うん」
子供をあやすように、ナコトがぽふぽふと少女の頭を撫でる。それだけで、少女の不安に揺れていた心は静まった。
ガコン。
「おろ?」
同時に、馬車の揺れも止まった。
立っていたナコトが急ブレーキでつんのめり、馬車の壁に強かに顔をぶつける。
「だ、大丈夫?」
「おう……おおう……」
鼻柱を押さえるナコトの背中を、今度は少女のほうが心配そうに撫でるのだった。
「降りて下さい。到着しました」
鍵が外れる音が聞こえ、馬車のドアが開かれた。ドアの外でジャスミンがスーツケースを持って立っている。
アイルが馬車から降りて辺りを見渡すと、すぐそばにドーム型の野球場があった。
数十年前まで続いていた人間、魔族、邪神入り乱れての大戦。それが始まる以前に建てられたものらしく、外壁には生々しい破壊と修繕の後が残っている。
未だ崩れぬ旧世界の遺物を見上げ、アイルは誰にも聞こえないように小さく、しかし深いため息をついた。
「こちらへ」
ジャスミンがそう言って建物の中に入っていく。アイルもその後を追う。辺りには数名の見張りがおり、自由に動くことはできなさそうだ。
進んだ先は三塁ベンチに続く入り口だった。そのままグラウンドに入るのかと思いきや、ジャスミンはそこで立ち止まり、アイルの方に向き直る。
「準備をお願い致します」
そう言ってジャスミンは今まで持っていたスーツケースを開く。その中身を見て、アイルは思わず目を疑った。
オートマチック拳銃、手榴弾、ナイフ、大型リボルバー拳銃、折り畳み式のショートボウ、ワイヤー、その他様々な武器とそれらを身につけるためのベルト。
彼が城に忍び込む時に身につけていた装備全てが、そこに揃っていた。
「……どういうことだ?」
思わずジャスミンに問いかける。
「主武装が分からないので、全て用意しました」
「そうじゃない。どうして今になってこいつらを俺に返すんだ」
「わかりません。私は命令されただけですので」
ジャスミンの口調は平坦なものだ。その真意は分からない。警戒しつつゆっくりとスーツケースの中に手を伸ばす。拳銃を握っても、何かが起きる様子は無い。
もたもた装備を整えながら、アイルは思案する。どうしてここで武器を返す? 処刑するなら意味のないことだ。戦わせる? 何と?
いっそここで逃げ出すべきか。さりげなく後方を窺う。見張りの気配は無い。ここに来るまでの道は覚えた。目の前のメイドを撃ち、全速力で出口まで駆け抜けて、馬車のサイボーグ馬を奪うまでにかかる時間は。
そこまで考えて止めた。逃げたところで帰るべき主人は失っている。それなら何も考えずに相手の言う通りにするだけだ。
主がいなければ、自分に生きている価値は無い。それがアイルの、今まで生きてきた中で唯一の自己定義だった。
「では、こちらにどうぞ」
アイルが装備を終えると、ジャスミンは最後のドアを開いた。強烈な照明の光が飛びこんで来てアイルは思わず目を細める。
そこは荒れ果てたグラウンドであった。在りし日は手入れされていたであろう天然芝は無残に踏みにじられ、赤茶色の土がむき出しになっているところもある。
その荒地へアイルは三塁ベンチから上がっていく。客席のほとんどは閑散としており、一部は破壊されたり焼け焦げたりもしている。にもかかわらず、その一角に座る集団がいる。
その中心にいるのは他でもない、数日前にアイルが命を狙った少女だ。宝石が散りばめられた白い豪華なドレスを身に纏って、ライトスタンドの特等席に座っている。
その少女がマイクを握って喋り始めた。
「久しぶりね、『白軍』の暗殺者」
増幅された声が球場内に響く。驚いたことに、この球場の施設はまだ生きているらしい。外観はボロボロだったが中は無事だったのか、それとも誰かがわざわざ直したのか。
「魔王の娘にしてウェステンブルグ領を治める私の命を狙うなんて、恐れ知らずもいいところね。その罪、万死をもってしても許し難いわ」
スピーカーから増幅された声が響く。その声はどこまでも尊大でわざとらしい、これから起こるイベントを楽しみにしている支配者の声だった。
「だけど、寝室にまで忍びこんだのはお前が初めてよ。その技量を見込んで、一つチャンスを与えてあげる」
言い終わると、レフトスタンドのフェンスの一部が開いた。その中から一台の車がゆっくりやってくる。
「そいつと戦って勝ったなら、お前の罪は問わないことにするわ。尤も……勝てる見込みは万に一つもあり得ないでしょうけど」
どうせ人間には勝ち目のない相手だろう。そもそも、アイルには勝つ、というよりこれから先生きのこる気も無い。『白軍』が滅びて彼の主もいなくなった以上、自分が生きている意味が無いからだ。
「まあ、精々頑張りなさい。……ああ、それと」
マイクの電源を切ろうとした少女が、思い出したように付け加えた。
「『白軍』は先日確かに降伏したけど、そこの王女はまだ捕まってないから。一応、教えておいてあげる」
「……これでいいの? ナコト」
マイクの電源を切ったミナは、それまでの尊大な口調から一転、不安そうな少女の声で隣にいたナコトに聞いた。
「もちろん、バッチグー。百点満点の演技でした」
「いや、そりゃ演技は頑張ったけど……そうじゃなくて」
親指を立てて褒めてくるナコトに対し、ミナは相変わらず浮かない顔だ。
「あの死にたがりが、本当にこんなのでやる気になるの?」
ミナは三日前の晩の事をはっきりと覚えていた。突き付けたレイピアの切っ先にためらうことなく突き進んできたあの男が、生き残るチャンスを与えたところでそれを手に入れようとするかどうか。
むしろ喜んで一刀の下に斬り捨てられることを選んでしまうのではないか、そう考えている。
「大丈夫。ミナの話をちゃんと聞いてれば、しばらくは持ちこたえる」
しかしナコトはハッキリと答えた。彼女の根拠のない自信はどこから来るのか、それはミナにも分からない。ただ、こういう時の彼女の自信が外れることは無いことも、長い付き合いの中で知っていた。
「それならいい、けどさ」
それでも不安の種は尽きない。ミナはグラウンドに立つ二人の影を見下ろした。
「あんなこと言っちゃったけど、勝てると思う?」
「……うーん」
今度はナコトも、唸るばかりだった。
そんなスタンド席の二人の会話は露知らず、アイルは車から降り立った人物と相対していた。
「へえ、アンタがお嬢に夜這いかけた男かい?」
現れたのは、黒髪のポニーテールが印象的な女戦士だった。得物は2mはあろうかという大剣。そんな化物じみた武器を肩に担いで平然としている彼女は、当然人間ではない。
爬虫類を思わせる黒い瞳と口元から覗く牙。すらりと伸びる赤い鱗に覆われた尻尾。そして背中から生えた一対の翼。
「竜人か」
竜人、あるいはドラコニアンとも呼ばれる、魔族の中でも上位に入る力を持った種族だ。人間が一人で正面から戦って勝てる存在ではない。
「んー、なかなかイケメンじゃない。おまけにまだ若いときた。でもドラゴン革のコートってのは、ちょっと悪趣味かな。減点1」
その証拠に、竜人はこれから戦闘が始まるというのに全く緊張していない。軽口を叩く余裕があるぐらいだ。
アイルは何も言わずに、ただ竜人を睨みつけている。相手に会話をする気が無いことが分かると、竜人は大げさなため息をついた。
「さっさと済ませろってことね……はいはい。
んじゃ、改めまして。ウェステンブルグの突撃隊長、マニャーナここにあり! いざ、尋常に勝負!」
高らかに名乗りを上げると、マニャーナと名乗った竜人は大剣を構えてアイルに向かって駆け出した。
その時既に、アイルは銃を抜いて彼女の額に狙いを定め終わっていた。
無情な銃声がスタジアムの中に響く。放たれた弾丸は、マニャーナの額を確かに捉えた。
だが。
「ッ……なんのぉ!」
弾丸はマニャーナを殺すことなく、それどころが傷を付けることさえできない。一瞬で間合いを詰めたマニャーナが大剣を振り降ろす。それをアイルは余裕を持って避けた。
衝撃でグラウンドの土が撒き上げられる。ドラゴン革のコートは刃には強いが衝撃までは防いでくれない。大剣の一撃を受ければ、アイルの体など簡単に潰れてしまうだろう。
距離を取りつつアイルは引き金を引く。銃弾はマニャーナに当たるが、どれも弾かれる。予想通りか。アイルは心中で歯噛みした。
人間と同じサイズとはいえ相手は竜の一族。38口径の弾丸では力不足。そうなれば、オートマチック拳銃は役立たずだ。
「そら、もう一丁!」
横薙ぎに振るわれた大剣を潜り抜け、アイルは懐から大振りのナイフを取り出し右手で握る。今、アイルが持つ武器でマニャーナにダメージを与えられそうな武器は一つだけだ。
かがんだ姿勢から立ち上がり、その勢いでマニャーナの首を狙う。マニャーナは上体を捻らせてそれを避ける。続けてアイルはナイフを振るうが、マニャーナはそれを細かい動きで避け続ける。
懐に飛び込めれば、と考えたが相手の技量の方が上だった。焦って動きの乱れたアイルを、マニャーナが蹴りつける。
「甘い!」
アイルの体が車にはねられたかのように吹き飛ぶ。外野の辺りに転がったアイルはすぐさま立ち上がるが、ダメージは抜けない。その隙を逃すまいと、再びマニャーナが突っ込んでくる。
左手の拳銃をマニャーナに向けて撃ちまくる。効かないことは分かっている。蹴りの衝撃が抜けるまでの時間稼ぎだ。レフトスタンドの方に下がりながら引き金を引く。
しかし、マニャーナは体に弾丸を受けつつもものともせずに突っ込んでくる。そして再び、アイルの体が大剣の間合いに入った。
「チョロチョロするなあ!」
さっきよりも鋭い一閃が、アイルのすぐ横をかすめる。紙一重で攻撃を避けたアイルはナイフを突き出すが、切っ先は胸元の鎧に阻まれた。
逆に回し蹴りがアイルに襲い掛かる。咄嗟にバックステップして回避、したはずが左肩に衝撃を受けて再び吹き飛ばされた。マニャーナの尻尾が、蹴りの後を追ってアイルの肩を打っていた。
地面を無様に転がりつつも何とか立ち上がる。三度突撃してくると思われたマニャーナだったが、今度は動かない。それが逆に、アイルに嫌な予感を感じさせた。
次の瞬間、アイルの視界が業炎に覆われた。
「あつ、あつつっ!」
「火事だー」
マニャーナの吐いた炎のブレスの余波は、レフトスタンドの観客席まで届いていた。火の粉が降りかかって思わずミナは席から立ち上がる。ナコトはどこからか取り出したうちわで熱をあおぎ返そうとしていた。
「ちょっとマニャーナ! ブレス禁止だって言ったでしょ!?」
フェンス際まで駆け降りたミナが、身を乗り出してマニャーナを怒鳴りつけた。
「いやー、ごめん。銃がうっとおしくてつい」
「つい、じゃないわよ!」
フェンスの下はまるで火球の魔法が炸裂したかのような焦熱地獄になっていた。いや、まるでというのは間違いだ。実際そうなのだから。
竜の代名詞であるブレスは、もちろん竜人も吐くことができる。マニャーナのようなレッドドラゴンの場合、ブレスは炎となって敵を焼き尽くす。
「でも本気になったら手加減なんて……ッ!?」
言い訳をしようとしたマニャーナに、炎の中から突然飛び出した影が飛びかかった。完全に不意を突かれたマニャーナは仰向けになって地面に倒される。
ナイフを振り降ろそうとする腕を、マニャーナが掴んで受けとめる。彼女に覆い被さっているのは、ほとんど無傷のアイルだった。
あの一瞬で、咄嗟にアイルはコートで身を隠した。大剣の衝撃は防ぎきれないコートだが、竜のブレスなら間違いなく防げる。その材料はブレスを吐くドラゴンの革なのだから。
その一瞬の優位によって掴んだチャンスを、アイルは最大限に生かそうとしていた。力と体重を込めたナイフの切っ先が徐々にマニャーナの顔に迫る。10cm、5cm、刺さる、その寸前で止まった。
「……それが限界みたいね」
片手一本でアイルのナイフを受けとめているマニャーナの表情は涼しいものだった。人と竜の圧倒的な力の差を示すように。
マニャーナが空いていた手でアイルの顔を殴りつける。一発でマウントポジションから引き剥がされるアイルだったが、腕をしっかり握られていて吹き飛ばない。
地面に倒れるアイルに、今度はマニャーナが馬乗りで圧し掛かった。
「さーて、そろそろ終わらせちゃおうか?」
ニヤリと笑みを浮かべたマニャーナが勝ち誇った笑みを浮かべる。それが、彼女が見せた一瞬の隙だった。
ナイフを持っていない方のアイルの腕が、さっきの拳銃とは違う銀色の銃を握っていた。オートマチック拳銃よりも無骨で巨大で強力な、50口径のリボルバー。
それが至近距離でマニャーナの顔に向けられた。マニャーナもその危険性に直感で気付き、避ける。だが、次の瞬間彼女はそれを後悔することになった。
「お嬢!」
彼女の丁度真後ろには、フェンスから身を乗り出して戦いの様子を見守るミナがいた。振り返って叫ぶが間に合わない。
銃声。いや、大口径のマグナム弾の発射音は、砲声と言ったほうが正しいか。空気を切る音がマニャーナの耳元を掠めていった。
「任務完了」
無表情で呟くその顔に、マニャーナは思わず拳を振り降ろしていた。
気が付いたら体を起こしていた。不思議そうにアイルが辺りを見渡すと、そこはグラウンドではなく誰かの部屋の中だ。あまり片付いておらず、床には空の酒瓶が転がっている。
「あ、起きた?」
下の方から声がしたかと思うと、ベッドの縁からぬっとマニャーナが顔を出した。酒を飲んでいたのか、顔が赤くなっている。
さっきまで身につけていたはずの大剣や鎧は無く、代わりにランニングシャツとジーンズというラフな格好になっていた。
「ここは?」
「あたしの部屋」
「俺はどうなったんだ?」
「あんた一発でトンじゃったから、試合終了。とりあえずあたしが預かってるわ」
自分の体を見れば、服も武装もはぎ取られ包帯とズボンだけになっていた。
「……あの魔王の娘は、どうなった」
意を決して聞いてみると、マニャーナの目が剣呑な光を帯びた。あの距離なら外すことはない。当たっていれば、アイルの目的は達成されたことになる。
マニャーナがポケットに手を突っ込み、何かを取り出した。アイルには一目でそれが何であるか分かった。あの時彼が撃ち出した、大型の弾丸だ。
血も付いていなければ変形もしていない。まるで空中で止まったかのようなその弾丸を見て、アイルは全てを悟った。
「まー、うん。あんたにお嬢はやれないよ」
「やはりか……」
不意を突けば、ナコトが気付く前に撃てば当たると思ったが駄目だったらしい。命がけでチャンスを作ったのが無駄に終わって、アイルはがっくりと肩を落とした。
「ま、そう気を落とさずに。一杯どう?」
マニャーナが酒の入ったグラスを勧めてくる。少しためらったが、アイルはそれを受け取ると一気に飲み干した。
「おおー、いい飲みっぷり! 顔も戦いぶりもいいし、酒にも強いとはますます気に入ったよ」
「ウォッカか」
「ああ。『白軍』の奴ら、こういう強い酒ばっかり溜めこんでてね。暫くはアルコールに困らないよ」
アイルからの返事は無い。マニャーナは、しまった、といった顔をした。目の前にいる人間は、その『白軍』の暗殺者ではないか。
「あー……ごめん。余計なこといっちゃった」
「気にするな。囚人の身分で贅沢は言わん」
「……もう一杯、どう?」
「貰おう」
アイルがコップを差し出すと、マニャーナが手にしていた酒瓶を傾け中身を注ぐ。今度は一気に飲み干さず、軽く煽る程度に済ませる。立て続けに二杯の一気飲みは、辛い。
「んもう、いい男がそんなチビチビ飲まないのー」
不満そうにマニャーナがぼやき、瓶にから直接ウオッカを口に含む。その飲みっぷりに呆れていると、急にマニャーナが体を近づけてきた。
「――ッ!?」
なんだ、と言おうとしたアイルの口はマニャーナの唇で塞がれていた。開きかけた歯の間から、舌と熱いウオッカが入り込んでくる。
「んふ……ちゅっ、ふ……」
貪るようなマニャーナのキスは続く。飲み込まざるを得なかったウオッカには、甘い唾液の味が混じっていた。二人の口の中が空になると、マニャーナは唇を放した。
「はーっ、はーっ……ふふっ、舌が動いてなかったよ。見た目に寄らず、案外こーゆーのは奥手だったり?」
「お前、何を……お、おいっ」
しどろもどろになっているアイルの声は聞かず、マニャーナはアイルのズボンを手早く脱がせて肉棒を取り出してしごき始める。
「こっちは戦場帰りで溜まってるの。あんたも起きたんだし、もう我慢できないのよ」
そう言ってマニャーナは肉棒を一口で咥え込んだ。途端に腰が浮くような快感がアイルに襲い掛かる。しかし太ももをマニャーナにがっちりと捕まえられて身動きが取れない。
じゅぽじゅぽと、よだれを絡めた卑猥な音が部屋の中に響く。マニャーナが頭を上下させて肉棒を舐める度に、黒いポニーテールと赤いシッポがゆらゆらと揺れた。
「ふぁ……まだ大きくなってる……」
一度口から肉棒を放したマニャーナが、もどかしそうにランニングシャツを脱ぎ捨てる。露わになった豊かな乳房を持ち上げると、その谷間に肉棒を挟み込んだ。
肉棒全体が柔らかい圧力をかけられるが、ぬるぬるした唾液のお陰で苦しくはない。むしろ今まで味わったことのないような快感が肉棒を通してアイルに伝わっていた。
「う、ぐ……」
「感じてる? 胸の間でビクビクしてるよ」
胸が上下にゆっくり動き始める。沈み込むような乳房が肉棒をすっぽりと包みこむ感触が心地よい。さっきのフェラチオの余韻もあり、アイルはあっという間に登り詰める。
「いいよ、一杯出して」
おどけた調子で、谷間から顔を覗かせた亀頭に長い舌を這わせるマニャーナ。その僅かな刺激がトドメとなった。
「くっ、うあっ!」
呻き声が一際大きくなると同時に、尿道を通って精液が吐き出される。
「あはっ……出た出た」
咥えこもうと口をつけようとしていたマニャーナの顔に、肉棒を挟んだままの胸に精液が降り注ぐ。口元に垂れた白濁液がぺろりと舐め取られる。
その間にも射精は続く。酒のせいか普段よりも長い。ようやく収まった頃には、精液が胸の谷間からこぼれていた。
「濃いのが一杯でたわねぇ……ナカに出されたら、お腹裂けちゃうかも」
恍惚と呟きながら、マニャーナがジーンズを脱ぎ捨てる。当然のように、下着も脱ぎ捨てる。
「おい、まだ続けるのか……?」
「当たり前でしょ? 私はまだ楽しんでないんだし。それに……」
マニャーナがそっと肉棒に手を這わせる。あれだけの精液を吐き出したにもかかわらず、アイルのソレはまだ硬さを保っていた。
「あなただってまだ、出し足りないんでしょう?」
ぐむ、とアイルは言葉に詰まる。文句を言いたいところだが、モノをいきり立たせては何を言っても説得力が無い。
そうこうしているうちに、マニャーナが後背位の姿勢で誘うように秘所を見せつける。赤い尻尾が、翼が、括った髪がゆらゆらと揺れる向こうで彼女は笑っていた。
「ほら、ボーっとしてないで、私を燃え上がらせてよ」
ごくり、と生唾を飲み込む。その音が嫌に大きくアイルの頭の中に響いた。覆い被さるようにマニャーナの腰を掴み、秘所に肉棒をあてがう。
先程のパイズリで興奮していたのか、濡れそぼっているマニャーナの秘所はすんなりとアイルの肉棒を飲み込んだ。
「く、うぁっ……はいったぁ……」
マニャーナの膣内は締め付けが強く、気を抜けば精液ごともぎ取られてしまいそうだった。歯を食いしばってそれを耐える。
「あはっ、久しぶりにおちんちんでナカ、埋められちゃってる……!」
マニャーナが歓喜の声をあげる。それに合わせてきゅうっと柔肉が肉棒を咥え込んだ。
荒い呼吸をするだけの二人。しばらくの後、ようやく落ち着いたアイルが囁いた。
「動くぞ」
「うん、来て――ひゃあうっ!?」
一息に腰を引いて、最奥まで打ち付ける。挿入の余韻に浸っていたマニャーナは、激しいストロークに目を見開く。
「そんな、あんっ、いきなりはげしっ、んんっ!」
「急かしたのは、そっちが先だろうが……!」
戦場から帰ってきて久しぶりのセックスでいきなり激しくされ、マニャーナは少なからず戸惑っていた。しかし秘所の方は激しい快楽に素直に答え、アイルの肉棒に絡みつく。
それに答えるように、アイルのストロークも一層早く、深くなっていく。その勢いがダイレクトに伝わる後背位は、確実にマニャーナの脳髄を焼いていた。
「あっ、あ、ああー! もうダメ、それイッちゃってるからぁ!」
早くもマニャーナは達してしまうが、さっき一度イかされたアイルの腰は止まらない。頂点に達しようと自分勝手に柔肉の中を掻き分ける。
「ひゃひっ!? あ、あ、あん!」
もはや絶叫か嬌声か、声にならない叫び声をあげて、マニャーナは快楽に押し潰される。絶頂の、更に高みに押し上げられそうになって、彼女の尻尾が無意識のうちにアイルの体に巻き付いた。
「ぐっ――お、おい!?」
「あうっ、ふぇ、おあっ……んううっ!」
一瞬、息が詰まる。呼びかけても意味のある言葉は帰ってこない。ただ膣内の柔肉だけが、もっと、もっととアイルの肉棒を奥へと引き込む。
それに釣られるようにアイルの腰が動く。悲しいことに体を尻尾で締め付けられても腰を止めることができないのは男のサガだろうか。
「んあっ、ひいっ、すごいのがぁ、あっ」
「う……このまま、膣内に……!」
射精感がせり上がってくると共に、マニャーナの膣内もビクビクと痙攣し始めた。絶頂まで近いと分かったアイルはラストスパートをかける。
一瞬、外に出そうとも考えたが、尻尾の締め付けが一層強まってそれはできないと思い知らされた。
ほとんど覆い被さるように、腰を、体全体を密着させる。無意識のうちにアイルは彼女の翼の付け根あたりに舌を這わせた。
「あ、ひっ――あああああっ!?」
その瞬間、マニャーナは達した。ほとんど同時に精液が膣内にどくどくと流し込まれる。マニャーナの体が跳ね上がって、背骨を弓なりに反らせる。
アイルはその背中を見ながら、骨を折らんとする勢いで体に食い込む尻尾を耐えていた。先端が首を絞めて、少し気が遠くなる。
そろそろ落ちるか、といったところで締め付けが緩んだ。翼の向こうのマニャーナの頭から、ぜえぜえと荒い息遣いが聞こえてくる。だが尻尾はアイルを放さない。
「おい、そろそろ放してくれ」
そう言っても答えは返ってこない。まさか失神したか、と思ったが、ワンテンポ遅れて声があった。
「……やだ」
「え」
尻尾を絡みつけて、肉棒を咥え込んだまま器用に仰向けになるマニャーナ。
「こんなスゴいの、まだ終わらせないわよ」
露わになった彼女の顔は、絶頂の余韻に浸りながらもまだ肉欲を求めていた。
「いや、これ以上は流石に……ぐっ!?」
逃げようとするが、尻尾がアイルを放さない。尻尾に操られて強引にストロークが再開される。
「ほらほら。自分で動かないと、いつまで経っても満足しないわよ?」
黒い目を細めながら、マニャーナはまだまだ続く宴を想像して舌舐めずりした。
「……それで、あの男は寝込んでいると」
「いやー、ごめんごめん。戦場帰りで、しかも久しぶりに男とヤったから加減が効かなくってさー」
次の日。呼び出してもやってこないアイルについてミナが問い質したところ、マニャーナから帰ってきた答えはそのようなものだった。
あけすけと昨晩の情事を語るマニャーナにミナは呆れ、ナコトはじとっーとした目を向けている。
「っていうか巻き付きでアバラが折れてるのに、それでも続けるってあの男も大概ね……」
「あ、いや。折れた後は私が上になって搾り取ったから。もちろん同意なしで」
「全部お前のせいじゃない!」
「引くわー。最悪だこの竜人」
ミナに怒られても、ナコトに引かれても、マニャーナに反省の色は全く無い。彼女の笑顔は、憎たらしいまでに晴れやかだった。
「で、結局どーすんのあの男? お嬢がいらないっていうんなら、あたしが貰っちゃうけど」
「やめなさい。ミイラにする気? ……しばらくこの城に留めるわ」
「へえ、男嫌いのお嬢にしては珍しい」
マニャーナの声は心底驚いていた。何しろこのウェステンブルク城には男が一人もいないのだ。
「……奴にしかできない仕事があるからね。それまでは精々、希望を持って働いてもらうよ」
冷たく言い放つミナの目は、傍らに置かれたレイピアに注がれていた。あの時アイルの喉を抉った、銀のレイピアだった。
*以上です。総レス数を数え間違えてしまいました。正しくは7レスです。申し訳ありませんでした。
r'ニニニ二二二ニニニ、ヽ
| | .@ | | ト、____, へ
rー┤| |├、 ヽ }
| | | Π | | | ≡三ーーーーァ /
l l l lニ コ .| | | ≡ / /
| l l |_| | | | ≡三 ./ /
l__l_l______|_|__| っ .≡ / /
| / ,イ,へ 丶、 ヘ ≡三./ / ノ|
| ,' / // \| \ ト、 ヽ ', つ ≡{ 丶ーーーー' }
!j./l / ` ヽト、ヽ } ゝ、_______丿
. | | .!/.! ○ ○ l l |ヽ,' ⊃
l | | .l/////////////! | !.|
.| ! | ト、 ,-ー¬ .ィ| .| l こ、これは乙じゃなくてバギクロスなんだから
| l ! l l` r --.' <j ,' | | 変な勘違いしないでよね!
| .l ', l |ャ-ミ≡彳ァトイ ,'! !
.| | ヽ| | l r´ )/ハy / | ',
>>354 怒涛の投下の後ダンマリだと…
355が気に障ったかな
気にしないで続きカモーン
俺も待ってる
タヌキさんルートを読むまで家では全裸だぜ
まぁ、5話まで書いたんだ
ひょっこり戻ってくるさ
「キツネくんとタヌキさん」第五話(タマミちゃんルート)
※「キツネくんとタヌキさん」ケモ耳少女達のお話です。
※途中で分岐するマルチエンディング方式で書いております。
※タマミちゃんルート最終回となる第五話の後篇をお送りします。
※第一話
>>285-297、第二話
>>301-312、第三話
>>316-324、
※第四話は
>>328-333、第五話・前篇は
>>336-353 では、第五話・後篇です。タマミちゃん編はこれにて完結です。
よろしくお願いしますm(_ _)m
第5話 キツネくんと仔猫ちゃん(後篇)
「キツネ、くん…」
「嘘…嘘、ですわよね?」
タヌキさんの笑顔がひきつってる。
俺をずっと想ってくれた、その想いが募って人間になったタヌキさん。
「説明、して…くれないの?」
険しい目つきのヒトミ。
ずっと…ずっと俺の傍にいてくれた、
俺の事、好きだって言ってくれた大切な幼馴染。
二人からしたら、俺の行為は…きっと、裏切り以外の何者でもない。
なんて言うべきだろう。いや、俺に言える事なんて無い。
その時。
「おにいちゃんをいじめないで!」
俺の前に、小さな身体で立ちはだかるタマミ。
「おにいちゃんは悪くない!おにいちゃんは…!」
「タマミ…!」
俺はタマミの肩に手を伸ばす。震えてる。
目にうっすらと涙を浮かべてる。
俺はもう彼女を泣かさないと誓った。ぐっと指先に力を込める。
振り返ったタマミと目が合う。俺は彼女への想いを込めて、頷いた。
震えが止まった。
「タヌキさん、ヒトミ」
俺は二人に向かう。
何の事は無い。タマミを守る、だって?
俺の方が、彼女から勇気をもらってるじゃないか。
「俺は…」
「いやです」
「タヌキさん?」
「聞きたく…聞きたくありません!」
タヌキさんは…ひきつった笑顔のまま、涙を流している。まさに滂沱。
「タヌキさん…!」
踵を返し、走り出す。
「タヌキさん!待って!俺…俺は!」
「キツネくん。私は逃げない。ちゃんと聞かせて」
「俺、俺は…」
ひとりぼっちだった彼女を見つけた。
ひとりぼっちは寂しい、だから、俺は彼女の「居場所」になる。
そう誓ったんだ。
「それ、愛情?それとも、同情?」
「…え?」
「ホントに彼女の事、好きなの?
キツネくんの話し方だと、単なる同情にしか聞こえない」
「…!そんな事!」
「何よ!彼女の寂しさにつけこんだだけなんじゃないの?
キ、キスなんかもさせてくれるしね!だ、だから…!」
「ヒトミ…!?」
…すごく可愛かった。気持ちよかった。
またしたい。すぐにでも。何度でも。
…俺、俺は。
彼女の寂しさにつけこんで、自分の欲望を満たした、だけ…?
「や、やめてよー!ヒトミおねえちゃん!おにいちゃんは…!」
俺の前に立ちはだかるタマミ。
しかし、その事が…恐らくはヒトミの神経を逆なでする。
「黙っててよ!この泥棒猫!」
「…ひっ!」
「何よ!いきなり割り込んできて!そんなチビのくせになに?
どんな色仕掛けでキツネくんを誘惑した訳!?」
「や、やめろ!ヒトミ!」
俺の悲鳴にも似た叫びに、びくっと身体を震わせるヒトミ。
「俺の事ならなんと罵ってくれてもいい…!だけど!
彼女に…タマミに、ひどい事言うなよ…言わないで、くれ」
「あ…私…」
唇をかみしめるヒトミ。
「私、な、なに言って…こんな事、言うつもりじゃ…!
キツネくんやタマミちゃんを責めたって…
なんにも…なんにもならないのに…!」
「ヒトミ…!」
「キツネくんだけじゃなく、自分まで傷つけるだけなのに…!
私、なんだって、こんな事…!!」
さっきのタヌキさんと同様、ヒトミも涙をこぼす。
「強がってみたけど、やっぱり、ショックみたい
あは…!タヌキさんの事、バカに出来ないや…」
やっぱりさっきのタヌキさん同様、踵を返し、走り去る。
俺には、ヒトミの言動を責める資格は無い。
俺が全ての元凶。
もっと早く彼女たちの想いに答えを返していれば。
後悔先に立たず、覆水盆に返らず。
「おにいちゃん…」
「あ?ああ…」
「あ、あたしのせい?」
「え?」
「あ、あたしのせいで、おねえちゃんたち、泣いちゃったの?
あたしのせいで、おねえちゃんたち、怒っちゃったの?」
「ち、違うよ!タマミのせいじゃない!あるもんか!」
「…嘘」
「…!」
「おにいちゃん、嘘ついてる…あ、あたし、解るもーー!」
そう叫ぶと、俺の胸に飛び込んで。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさいーーーーー!
でも!でもでもでも!あたしおにいちゃんが好きなんだも!」
「…タマミ!」
「お、おねえちゃんたちが泣いても!怒っちゃっても!
あたし、おにいちゃんを好きじゃなくなれないもの!」
だ、だから!だからだからだから!
お、おねえちゃんたちの事!好きだけど!でも!でも…!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
「もういい!もう、いいんだ…君は悪くない!悪くなんかない…!」
そして、彼女は健気な決意を口にする。
「あたし…もうタヌキおじちゃんのお家に帰れない」
「え?」
「おねえちゃんに、会えないも…」
会わす顔がない、ってヤツか。
ぐずっ…と、鼻をすするタマミ。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔。でも、汚いなんて思えない。
その様子が痛々しくて、守ってやりたくて。
だから、俺に出来る事と言えば。
「じゃあ…俺といればいい」
「…え?」
「家を、出るんだろ?俺も一緒だ」
「お、おにいちゃ…?」
俺はせいぜい悪戯っぽい笑顔を心がけて、言った。
「駆け落ちって、知ってるか?」
※ ※ ※
「うわーうわーうわーーーーーー!
すごいすごいすごい!これが海?海?」
というわけで。
俺たちは海の見える街に「駆け落ち」した。
タマミが感じたように、俺もタヌキさんやヒトミに合わせる顔がない…って意識も少し働いたりして。
とにかく、タマミの傍にいるにはこうするしか無かったって事情もある。
彼女は頑として田貫理事長の家に戻ろうとしなかったのだから。
この先どうなるか、どうすべきか解らないけど。
多分、すこし頭を冷やす必要があるんじゃないかとも思って。
「おにいちゃん!」
「え?」
「とりゃー!」
「わぷっ!?しょっぺ!」
あー頭から海水かぶっちゃったよ。
頭冷やすって、そういう事じゃなくて!
「あはは!あははははは!」
「や、やったな、このー!!」
「キャーキャーキャー!にゃーー!」
昨夜の思い詰めた表情は鳴りを潜め、いまは笑顔のタマミ。
とりあえず、俺にはそれが嬉しい。
考えなきゃいけない事はたくさんあるけど。
今は、彼女と一緒にいる。それだけで、ひとまずは。
※ ※ ※
夜はまだ冷える。
野宿も考えたけれど、今日のところは宿を取る事にした。
この先どうするか解らないから出費は控えたかったけれど。
知らない土地で迎える夜。
見なれない天井は、不安を駆り立てるものだ。
テーブルではさっきまで湯気を立てていた食事がすっかり冷え切っている。
決してまずい訳じゃ無かった。でも、俺も彼女も、半分も食べられなかった。
『し、慕ってくれるからって!寂しさにつけこんで!
キスなんかもさせてくれるしね!だ、だから…!』
ヒトミの言葉が、突き刺さる。
…あの時、俺は単に状況に流されていただけじゃなかったか?
彼女のオナニーを見て、昂奮して、したくてしたくて堪らなくなって…
彼女の居場所になるなんてただの言い訳に過ぎなくて。
彼女を抱くための口実が欲しかっただけなのかも、しれない…。
そんなイヤな考えが頭から離れない。
怖がる彼女に「好きだ」なんて囁いて、彼女を夢見心地にさせて、処女を奪った。
昂奮して我慢できなかったから。したかったから。
俺が、したかったから?
そうだ。
確かに、あの時、俺は彼女が欲しかった。
タマミが感じたように、俺もタヌキさんやヒトミに合わせる顔がない…って意識も少し働いたりして。
とにかく、タマミの傍にいるにはこうするしか無かったって事情もある。
彼女は頑として田貫理事長の家に戻ろうとしなかったのだから。
この先どうなるか、どうすべきか解らないけど。
多分、すこし頭を冷やす必要があるんじゃないかとも思って。
「おにいちゃん!」
「え?」
「とりゃー!」
「わぷっ!?しょっぺ!」
あー頭から海水かぶっちゃったよ。
頭冷やすって、そういう事じゃなくて!
「あはは!あははははは!」
「や、やったな、このー!!」
「キャーキャーキャー!にゃーー!」
昨夜の思い詰めた表情は鳴りを潜め、いまは笑顔のタマミ。
とりあえず、俺にはそれが嬉しい。
考えなきゃいけない事はたくさんあるけど。
今は、彼女と一緒にいる。それだけで、ひとまずは。
※ ※ ※
夜はまだ冷える。
野宿も考えたけれど、今日のところは宿を取る事にした。
この先どうするか解らないから出費は控えたかったけれど。
知らない土地で迎える夜。
見なれない天井は、不安を駆り立てるものだ。
テーブルではさっきまで湯気を立てていた食事がすっかり冷え切っている。
決してまずい訳じゃ無かった。でも、俺も彼女も、半分も食べられなかった。
『し、慕ってくれるからって!寂しさにつけこんで!
キスなんかもさせてくれるしね!だ、だから…!』
ヒトミの言葉が、突き刺さる。
…あの時、俺は単に状況に流されていただけじゃなかったか?
彼女のオナニーを見て、昂奮して、したくてしたくて堪らなくなって…
彼女の居場所になるなんてただの言い訳に過ぎなくて。
彼女を抱くための口実が欲しかっただけなのかも、しれない…。
そんなイヤな考えが頭から離れない。
怖がる彼女に「好きだ」なんて囁いて、彼女を夢見心地にさせて、処女を奪った。
昂奮して我慢できなかったから。したかったから。
俺が、したかったから?
そうだ。
確かに、あの時、俺は彼女が欲しかった。
「おにいちゃん!おにいちゃん!…おにい、ちゃん?」
「あ、ご、ごめん」
そわそわと落ち着かない様子のタマミ。
「ねぇ、おにいちゃん…元気ないみたい」
「そ、そんな事ないぞ!」
「しっぱいした!って、思ってる?」
「え…」
俺の不安、俺の葛藤は彼女にも伝わっている。
でも、俺は俺の胸の奥の闇を、うまく彼女に伝える自信がない。
自分の気持ちに真っ直ぐな彼女に、
自分を信じられずにいる俺の気持ちを、どう説明すればいいのか。
「俺はあの時…タマミが欲しかった。やらしい事、したかった…」
「にゃにゃ!?」
あたふた。そんな形容がぴったり来る感じでタマミが慌てる。
「したかっただけ、なんじゃないかって
その…欲望に負けたっていうか…」
ああ、ちっともうまく言えない。
煩悶する俺を、彼女は首をかしげて不思議そうに見ている。
「…それがいけない事なの?」
え?
「おにいちゃん、私の事…好き?」
「あ、ああ、もちろん!」
「好きだからしたかった、してくれたんでしょ?」
欲情してた。彼女の痴態を見て、昂奮した。だから。
「あたしも、おにいちゃんが好きだからしてほしかった
してくれて…うれしかったの」
そう言うと頬を染めて、彼女が寄り添う。
その身体が熱を持っているのが解る。
身体の奥で、想いが、燃えているから。
「おにいちゃんがしたいこと、いっぱいしていいんだよ?
だって、おにいちゃんが気持ちいいとあたしも気持ちいいんだもん。
胸のところがほわほわってあったかくなって、しあわせな気持ちになるの。
ね?それが好きって事でしょ?あたし、間違ってる?」
顔を真っ赤に染めて。しどろもどろで。
でも、真っ直ぐな気持ちを彼女は吐露している。してくれている。
そうか。
俺は彼女の居場所になると、誓った。
でもそれだけじゃない。
彼女は俺の居場所になってもくれるんだ。
「タマミ…!」
「にゃひっ!?」
俺は彼女を抱きしめる。力いっぱい。想いを込めて。
そして口づけを…
「…とと」
「んみゃ!?」
がらがらがっしゃーーーん!
…しようとして、バランスを崩した俺たちはテーブルをひっくり返し、
タマミは食事の残り物を頭からかぶる羽目になった。
「う、うぇええ…気持ち悪いよぉ」
「…タマミ」
「な、なに?」
「風呂、入るか?一緒に」
「うみゃみゃ!?」
「だ、だめ…?」
真っ赤になってうつむくタマミ。
「お、おにいちゃ…あたしと一緒に…入りたい?」
「う、うん…いや!タマミがいやならいいんだ!」
「い、いやじゃないもーーーーーーーーーーー!」
頭にお椀を乗せたまま、彼女は必死の叫びをあげる。
「あ、あたしは…あたしはおにいちゃんのものだもーーーー!!」
うわ。うわうわうわ。その宣言に、激しく感動。
「だ、だから!おにいちゃんがしたい事をしていいんだもん!」
おにいちゃんがしてほしいこと、いっぱいしてあげたいんだもん!」
俺はあの時、欲情してた。したくてしたくて、仕方なかった。
だって。
俺は彼女が大好きだから。だから。
好きだから…したいんだ。好きだから、するんだ。
気持ちを確かめ合うために。胸の奥の熱を、さらに燃え上がらせるために。
※ ※ ※
「うにゃぁ!や、やっぱり、恥ずかしい…
こ、こんな明るいところで…ぜ、ぜんぶ見えてるし…」
部屋についてた個室露天風呂。
月光が降り注ぎ、湯面を輝かせる。
立ちこめる暖かな湯気の中、タマミの裸体が浮かび上がる。
上気した頬、潤んだ瞳、震える唇。
ほわほわのくせ毛、ぴょこぴょこ動く猫耳。
控え目な胸のふくらみ。細い腕、華奢な腰。
しなやかな脚の間に息づく茂み…柔らかな恥毛、
全てが、愛おしい。
「い、いやじゃ、ないも…
おにいちゃんがみ、見たいなら…い、いっぱい…見て欲しいも…!」
「…いいコだ」
「!?な、なにするの!?」
俺はそのまま、じっと彼女の顔を見詰めたまま…彼女の股間に口づけた。
「ふ…ふぁああああああああああ!ダ、ダメダメダメ…ダメーーーー!!」
小刻みなキスを繰り返す。そのリズムに合わせて、タマミの身体が震える。
「や、やらぁ!そ、そんなとこ、汚…」
「そうだよ…だから、綺麗にしなくちゃ」
「ひゃぅ!?」
「ぬるぬる、全部、綺麗に舐めとってあげる」
「…ひやぁああん!は、はずかしいよぉ!!」
「大丈夫…」
舌を突き出し、入口をこじ開ける。
「!!はぅ…っ!んはぁあぁあああ!」
「恥ずかしがってる余裕なんか…すぐ無くなるから」
ゆっくりと舌先を侵入させる。俺の唾液と彼女の愛液が混じり合う。
「あ…んは!はぅ…!!ひあ!お、おに…ちゃ…!あ、あ、あ!」
「おかしいな…どんどん…どんどんぬるぬるが溢れてくる」
「い、いやぁ!だ、だってだって…!」
「これじゃいくら舐めとっても…きりがないぞ?」
「だってだってだって…んひゃぅ!」
「だって?」
「だって…だって…き…」
「き?」
「気持ちいいんだもーーーーーーーーー!!」
良かった。感じてる。もっと感じさせたい。
このまま、イカせたい。
指を添えタマミの好きな所…そう、クリトリスの皮を剥く。
そして剥き出しになった陰核に…そっと舌を這わせる。
「!!!!!!!」
ビクビク!っと激しく身体を痙攣させるタマミ。
身体の隅々まで快感の電流が放たれたのか、猫耳が大きく震える。
のけぞり、大きく口を開け、息を吐くが声にならない。
核を慈しむように含み、アメをしゃぶるように刺激を加えた。
「あ…うぁ…ぁぁぁぁ…はぁ!!!!!」
「…ひもひ、ひい?」
「ひぅ…あ!あ!あ!うぁあああ!」
クリトリスにしゃぶりつきながら質問するが、答える余裕はないようだ。
「おに、ちゃ…!あ!ひぁ!そんな、くちゅくちゅしちゃ…!はぅ…ん!!」
俺は無我夢中で、溢れる蜜を味わい続けた。
「んん!んは!は…ん!き、きも、ち、いいい!おに、ちゃ!あ!あ!あ!」
俺はあえて、わざと喉を鳴らして、タマミの愛液を飲み続ける。
「ひやっ!ひやらぁ!そ、そんな…お、音、立て…ないで!」
「だって…(ゴクゴク)どんどん(ングング)溢れて
(ンン…ゴクリ)くる(ングング)から…」
「ひあ!あぅ!うひぁ!だ、だって…!んあ…っ!あ!あ!ああ!」
そうこうしてるうちにタマミは限界を迎えつつあった。
カクカクと身体中を小刻みな痙攣が襲う。
「イキそうなの?イキたい?」
「イ、 イク…!イッちゃう…!も、もう…!」
「じゃあちゃんとお願いして?でないと止めちゃうからね」
「ひぅ!だ、だめ!や、やめ、ない、で!やめちゃ、だめぇ!!
イ、 イキたいの!イキたいよぉ!イ、イカせて…!!!」
カクカクと腰を振り立てながら哀願を繰り返す。
「お願い、イカせて!イク!イッちゃ……!」
俺はこれが仕上げ…とばかりに、陰核を甘噛みし吸い上げた。
「んはぁああああああああああああああああああああああ…っ!」
激しい痙攣とともに、タマミのアソコから液体噴出。
「うわっぷ!?」
「あ、あ、あ…で、でちゃ…な、なにこれぇえ!?ふぁ…あああああ!?」
ぷしゃぁあああ…と、まるでシャワーみたい。
「こ、これ…お、おし…こ!?や、やだ…!やだやだやだぁ…!」
それはとても薄味で無色透明で…どうみてもおしっこじゃなかった。
「どうも違うみたいだ」
「ふ、ふぇ?」
「女の子はいっぱい感じると…こうなるんだよ」
「!!わ、わかった…しおふきだ!」
「あ、そ、そうだ…ね」
この耳年増め。
「いっぱい…いっぱい感じて、いっぱいイッちゃったんだね…
い、いやらしいな…タマミは」
「おに、ちゃ…!いやらしいコ、きらい?」
「いや…そんな事、ないぞ…!」
「じゃ、じゃあ…あたし、いやらしいコになって、いい?
もっといやらしいコに、なって、いいの?」
うわああ!うわ、うわ、うわ!
媚びるようなその笑顔。堪らない…!
「い、いいとも…!もっと、もっとやーらしくなれっ!」
「うん…っ!」
※ ※ ※
「き、来て…!おにいちゃんの…おっきいオチン●ン、
タマミの、タマミのオ●ンコに、頂戴…!」
うるんだ瞳で、上気した頬で、うなだれた猫耳で。
自ら指を沿え、開いたオマ●コで、俺を誘うタマミ。
…は、鼻血出そう。
「あ、ああ…いま…すぐ…!」
もう焦らしたり意地悪する余裕なんて、俺にも無かった。
突き入れたい。いますぐ、大好きなタマミの中に。
「い、いくよ…」
「は…ぅ…!んはぁああ!!」
俺はその小さなタマミ自身に、肉棒の先端をあてがう。
と、不意に俺は恐ろしくなった。
そこはとても小さく繊細で。いっぱい涎を垂らしてはいるけれど。
改めて思う。彼女はやっぱり、かなり無理をしていたんじゃないか?
しかし同時に、俺の中には早く、早くと、急き立てる獣がいた。
タマミを犯したい、早く彼女の小さくて狭い中を味わいたい、と。
傷つけたくない、むちゃくちゃに犯したい。
壊したくない、でも壊したい。
二律背反するふたつの感情に、俺の動きが止まる。
しかしその躊躇いを感じ取ったかのように、猫耳がぴくりと震え、俺の方に向けられる。
「おに、ちゃ…おねがい…」
「タマミ…」
「大丈夫、だから…おにいちゃんの…頂戴?タマミの中に…入れてほしいの」
荒い息をつきながら、情欲に目を潤ませながら、タマミが乞う。
その様に、俺の理性は脆くも決壊。そうだ、彼女が望んでるんだ…
「ん…っ!ひぁあああああ…!」
狭い膣を肉棒で広げられて、タマミは悲鳴にも似た声を上げた。
「く…し、締まる…!」
タマミの膣内は…とても狭くてキツい。
ただ入れただけで、すでに俺は腰が砕けそうだ。
…未成熟な肉体を征服する喜びに、躊躇など、あっけなく消し飛んでいた。
「い、いく…ぞ…動く、よ…!」
「うん…い、いいよ…来て…来て来て来て…!
タマミの中、いっぱいに…いっぱいにして…!」
期待にはずんだ声。そうだ、彼女も求めてる。俺を、求めてくれている。
「ひぅ…っ!あ!ん…くは…は、はげし…ひぁ!」
身体ごと突き上げ、揺さぶる。タマミはただただ嬌声を上げるばかりだった。
「は、はぅ…あ!こ、こわれちゃ…う!おにいちゃ、の…はげしく、て!
んはぁああぁ!あ!す、ご…く、て!は!あ!あ!あ!」
「すご、いよ…くっ…締めつけて、くる…!」
「ひぅ…!ひゃぅ…んん!だ、だって…だってぇ!あ!あ!あ!」
「それに…どんどん溢れてくる…!ほら…!音、聞こえる?」
「んはぁ…!き、きこえ、る…えっちな音…すごいぃ…!」
激しい突き上げに、膣内から掻き出された愛液が
じゅぶじゅぶ、ぐじゅぐじゅと音を立てて泡立つ。
タマミの幼い性器が、身体が、俺の突き上げに応え、悦びの声をあげている。
その事が俺を感動させ、昂奮させる。タマミが感じてくれている事が、嬉しい。
でも、俺だけが気持ちよくちゃいけない。彼女も気持ちよくさせてやらなきゃ。
「…あ、ひぅ!お、おに、ちゃ…!んはぁあ!あ!あ!」
指先でタマミの陰核を責める。つまみあげ、捏ねまわす。
強烈な刺激を加えられタマミはどんどん高まっていく。
「ら、らめぇ!お、おに、おに、ちゃ…!も、もう…!」
タマミの艶を帯びたよがり声、快感にだらしなく蕩けた表情、
かぐわしい香りの汗が吹き出し、月光をあびて輝く裸体。
「タマミ…!お、おれも…俺も…い、イク…!」
「うん…ちょうだい!おに、ちゃ、の…せーし…!
いっぱい…ちょうだいちょうだいちょうだい…!」
「くっ…うううう!」
「あ…ひぁあああ!
おにいちゃぁあああ…ああああああああああああ!!」
絶頂により、これまで以上の収縮をみせるタマミの中。
それはとんでもない快楽で、俺を強烈に締め付け、責め立てた。
俺は、こらえきれずにタマミの中に射精した。
「くぅ…あ、あ、あぁああ…!」
どくどくと注ぎこむ、その鼓動に合わせるかのようにタマミの中が収縮し
俺の精液を根こそぎ絞り取っていく。その快感たるや…この世の物とも思えなかった。
「…ふにゃぁ…出、出てる・・・タマミのオマ●コに、
おにいちゃんの精子、いっぱい、いっぱいだよぉ…」
絶頂の余韻にうなされながらタマミが呟く。
「タマミ…」
「お、おにいちゃ…気持ち、良かった?」
「あ、ああ…最高だ」
「はにゃぁ…!良かった」
こんな小さな身体で、俺の全てを受け止めてくれる。
その健気さ、その愛情、その献身。
俺はそっと、可愛い猫耳と髪をなでる。
「タマミ…可愛い」
「は、はにゃ!?」
「感じてるタマミ、タマミのイク所、すっげー可愛い
俺、すっげー感動して、すっげー昂奮、した…」
俺の素直な気持ち。いまの気持ち。
タマミは頬を真っ赤に染めて、絶頂の余韻に身体を震わせて。
「は、恥ずかしいけど…すごく恥ずかしいけど…
でも、すっごい幸せだも…」
「…俺もだ」
「えへ、えへへ…」
俺はもうブレない、揺るがない。
彼女への想いを、彼女の想いを、改めて確信したから。
俺はタマミが大好きなんだ。
※ ※ ※
翌日。俺たちの前に姿を現したのは。
「タヌキさん!ヒトミ!?」
「いい所ねぇ」
「まぁまぁ!海?これが海ですか?すごーい!」
あ、タマミと同じリアクション。
俺たちを追ってきたのか?
「ちゃんとケリを付けなきゃね」
ヒトミがそういい、タヌキさんが力強く頷いた。
そうだ。俺は、彼女たちの想いに、答えを出さなきゃいけない。
深く深呼吸をする。タマミの手を握りしめると、握り返してくれた。
胸の奥に炎が灯る。熱い、熱い炎。その熱が俺の力になる。
「タヌキさん、俺を好きになってくれてありがとう。
ヒトミ、ずっとそばにいてくれてありがとう」
返事は無い。二人は静かに、俺の言葉を聞いている。
とぎれとぎれに言葉を紡ぐ。言葉の間は、潮騒が繋いでくれた。
「二人の気持ちに答えを出すのが遅くなってごめん。
二人の想いに答えられなくてごめん。でも、それには理由があったんだ」
タマミが顔をあげる。俺の顔を見る。
「それは…タマミに出会うため」
俺は彼女に目で答える。
「俺はタマミに出会った。そのために生まれてきた。
今は、そう思える。そう信じられるんだ」
再び深呼吸。俺の心を、気持ちを、皆に伝えなきゃいけない。
「俺は彼女の、タマミの居場所になる。そして、彼女が俺の居場所だ」
潮騒が聞こえる。誰も言葉を発しない。タヌキさんの目から、ポロリと涙が零れる。
「…好きなんですね、彼女が」
「ああ」
「誰かを心から好きになる気持ち、私…よく、よ〜く解るつもりです」
タヌキさんの言葉が俺の胸を刺す。この痛みも受け止めなきゃいけない。
…彼女の痛みに比べればささやかな痛みのはずだ。
と、大きく息を吐く音が聞こえた。ヒトミ。ヒトミの目も潤んでる。
鼻をすすりあげたりもして、でも、その表情は晴れやかで。
「…よし、許す!」
タヌキさんは遠くを見て目を閉じ、そして優しい、優しい笑みを浮かべて。
その目から零れる涙をぬぐおうともせず。
「良かったですね、タマミちゃん」
きっぱりと、言い切った。
その言葉が、泣き虫のタマミの涙腺を刺激する。
「おねえちゃ…ぐすっ…あ、ありがとーーー!!」
海からの風が、一陣。少女達の髪を嬲る。俺はタマミの頭を撫で続けていた。
ぴくぴくと動くネコ耳の暖かさを感じながら。
いつまでも、いつまでも。
………
……
…
「ところで、キツネくん」
「…ん?」
「2号って知ってます?」
「…はい?」
「うふっ」
タヌキさんはようやく流れる涙を振り払い、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「私、キツネくんの2号さんに立候補します!いっぱいサービスしますわ!」
サ、サービス?サービスって何!?
まさか、あんな事やこんな事!?
「お、おにいちゃん!鼻の下っ!」
「ちょ、あ、あんた何言ってるの!?」
「あ、ヒトミさんは3号さんですね」
「ま、待て待て!!なんで私があんたより格下!?」
ちょ、ちょっと待てー!
「ダメー!おにいちゃんはあたしの!あたしのだもーーーー!」
「まぁ!生意気ですわ!お姉ちゃんに逆らう気ですの!?」
「い、いくらお姉ちゃんでもダメなものはダメーーーーー!」
えっと。まぁなんだ、その。
「おにいちゃんはっ!」
「わっと!?」
「誰にも渡さないもーーーーー!!」
「こ、こら!私たちの前でそういう事する?ねぇ!」
「3号の言うとおりですわ!こっちにもおすそ分けしなさい!」
「誰が3号か!おすそ分けて!日本語おかしいし!」
なんでみんな笑顔なの!?そんな楽しそうなの!?
「おにいちゃん!大好きーーーーーーーーー!!」
「お、俺だって!!」
俺も。
俺もタマミが大好きだ。
きっと、ずっと、ずーーーーっと。
<仔猫ちゃんルート、おしまい>
思ったより長くなってしまいました。ごめんなさい。
もしお許しいただけるなら引き続きタヌキさん編と
ヒトミさん編も投下させていただきたいと思います。
…ヒトミさん編の絡みは人間同士って事になるからスレ違い、なのかな?
>>355 よろしければどの辺が気にいらなかったか教えて頂けませんか?
今後の参考にしたいので。
はよはよ
>>387 叩かれたからって煽るなよ。耐性ないな
あと聞くまでもなくスレ違いだろ
390 :
387:2012/08/30(木) 21:59:00.80 ID:bMdMNNw1
>>389 煽りのつもりはなかったんですが
そう感じられたのなら申し訳ありません。
ヒトミさんルートは書き終えたんだけど
タヌキさんルートはまだしばらくかかりそう。
書き終えたらまた来させていただきます。
狐娘さんとモフモフする話マダー
キキーモラさんの話待ってるんだけど…
393 :
キキーモラの人:2012/09/05(水) 23:33:38.64 ID:/NvA8CJP
>392
すみません、早ければこの週末あたりに何とか……まぁ、あと1回で完結するかは微妙ですが。
(
>>333からの続きです)
第五話 キツネくんの秘密と木常神社の過去と未来
じりじりと包囲を狭めてくる「守る会」の連中。
一体何をしようというのか?連中の意図が読めない。
「まあ待て。まずは…話し合いと行こうじゃないか。一体、何が目的だ?」
「もしかして…またキツネくんのお話しを聞かせていただけるんですか?」
そうだ。連中は以前、俺の過去の恥ずかしい話をネタに、
タヌキさんの俺に対する興味を削ごうと画策したんだっけ。
「キツネくん!今度は一緒にお話しを伺いましょ?ね?いいでしょ?ねーねーねー」
そんなに目をキラキラさせないでー!
「俺たちが用があるのは木常です!」
「キツネくんにお話し?」
「そう、キミから手を引くよう、話を付けるんです。
木常!お前の望むとおり話し合いだ!」
って、指ポキポキ鳴らしながら言っても説得力無いですー!
「キツネくんが私から手を引く…?そんな事、ありえませんわ!」
言い切られちゃったよ。ヒトミが睨んでるしー!
「でも、もし。万が一。数百兆分の一の確率でそんな事になったとしても、私の気持ちは変わりませんから!キツネくんをお慕いする事を止めるなんて100%ありませんから!」
またしてもきっぱりと言い切られた。
…俺はそんな彼女の気持ちに応えられるのか?彼女はタヌキだぞ。でも、でも…
「あ、これお返ししますね」
呆気に取られた親衛隊員たちに山のような手紙を押し付けるタヌキさん。
「行きましょう!キツネくん!」
「あ!ちょ、ちょっと待って!」
未練がましく追いすがろうとする親衛隊を歯牙にもかけず、
タヌキさんは俺の腕を取り歩き出した。
「あそこまで言い切るかしら、ホントに…ふん!負けるもんか!」
「ヒ、ヒトミさん?」
「たまには部活でよっと。弓ひいてれば憂さも晴れるかもしれないし」
「ヒ、ヒトミさん!ご一緒します!」
「別にあんたたちのために行くんじゃないからね!勘違いしないよーに!」
※ ※ ※
俺はタヌキさんに導かれるまま歩き…そのうち通学路を外れ、住宅街を抜け…
「ど、どこまで行くの?」
「い・い・と・こ・ろ、ですわ(ハート)」
辿り着いたのは、俺たちの街が見渡せる小高い丘の上だった。
傾き始めた太陽が優しい光を投げかける。
その光を受けて、金色に輝くタヌキさんの髪。
「綺麗ですね」
「う、うん」
「私、景色を見てそんな風に思えるようになれて嬉しいんです。
キツネくんとお話ししたり、ヒトミさんと言いあったり、
学校に通ったり、学食でお食事したり、こうして景色を見たり、
そんな色々な事が出来るのがとても嬉しい、楽しい、幸せなんです」
とても満ち足りた表情で、そんな事を言うタヌキさんの横顔を。
俺はかける言葉もなく見ていることしかできなかった。
彼女が人間になって、ここにいる事。
それが彼女にとって幸せな事だっていうのはとても喜ばしい事で。
でも。
「後はキツネくんが、私の気持ちに答えてくだされば…
私、もう何も思い残すことはありません…」
え?
なにそれ。
思い残す事ないって…なんか…死期が近いみたいな言い方じゃないか。
「タ、タヌキさん…!」
「はい?」
振り返ったその表情。
…心なしか、やつれてるような。
もしかして、いや、しなくても。
タヌキが人間になるのって、実はすごく身体に負担が掛るんじゃないのか?
実は彼女には、あまり時間が残されていない、なんて事が…?
俺はこれまで考えた事もなかった。
いつの間にか、彼女がいる事が当たり前になっていた。
だから、答えを先延ばしにしてきた。タヌキさんへの答え、ヒトミへの答えを。
名前を呼んだきり、押し黙った俺を、不思議そうに見ているタヌキさん。
何か言わなきゃ。でも、何を言えばいい?
俺はまだ答えを出していないのに。
俺は口を開き、言葉を紡ごうとした。
しかし、その俺の表情を見て、彼女は。
「いいんです」
「…え?」
「キツネくんが迷ってる事、真剣に考えてくださってる事、私、ちゃんと解ってますから」
「…タヌキさん?」
「急かすつもりなんてありません。いつか、答えを出してくださると信じてますから」
「…」
「その時まで、私の気持ちは変わりません。
それだけを改めてお伝えしておきたかっただけですわ」
…俺にそれ以上、何かを問う資格があったか?
彼女の想いに、強い強い想いに、俺はどう答えるべきなのか。
まだ答えは出そうにない。
※ ※ ※
日も落ちて、俺たちは帰路についた。
朝、タヌキさんが言ったようになんとなくデートっぽい時間を過ごし、
帰ってきた俺たちを待ちうけていたのは。
「お帰り」
「あ!おにいちゃんやっと帰って来た―!」
もちろん、ヒトミと仔猫ちゃん。
「仔猫ちゃん、どこ行ってたの?」
「お友達と遊んでた!みんな、離してくれないんだもーん」
という彼女の周りには野良猫がわらわら。
「な、なるほど」
「で?デートはどうだった〜?」
…なんだか言葉に棘があるような気がします、ヒトミさん!
「ええ!それはもう!うふふ!」
「にゃ!?なにそれなにそれ!?デートって何!?」
「えへへ…うふふ…きゃっ(ハート)」
「こ、こら!?な、何があった!」
「な!何もしてません!信じて!]
「やだ…うふふふふふふふ…」
「アレは!?あのタヌキの舞いあがりっぷりをどう説明する!?」
「タ、タヌキさん!止めてー!!」
と、その時だった。
ざわ…と、鎮守の森の木々が鳴った。そして。
「あら、賑やかな事ね」
風が止んだ時、そこに立っていたのは、赤い袴の巫女服。
「あ…」
流れるような濡れ色のロングヘアー、
巫女服の胸元を押し上げる圧倒的なボリューム感、
切れ長の眼は怪しい色香を湛え、
ぽってりとした唇は満開の薔薇のよう。
どこか妖艶な雰囲気をまとったその人は。
独善と傲慢をも感じさせる高貴さをも併せ持っていた。
タヌキさんが太陽なら、彼女は月光だった。
ヒトミが春の風なら、彼女は秋の黄昏だった。
とにかく、なんというか、それは怪しい魅力を持った絶世の美女。
タヌキさんやヒトミとはまた違う魅力を持った…艶やかな花。
「は、鼻の下!」
いや、まぁ、その。
「あはん、お帰り。お父様がお待ちかねよ」
おとうさま?うちの神社の関係者か?いや確かに巫女服来てるけど…会った事無いぞ?
「だ、誰よあんた!?」
それは本能が為せる技だっただろうか?
この妖艶な美女を敵と認識したのか、例によって喰ってかかるヒトミ。
そしてタヌキさんは。
「あ…あ…」
…怯え、てる?
タヌキさんだけじゃなく、仔猫ちゃんも。
ケモ耳の美少女二人は、この女性に何かただならぬものを感じているようだった。
「この人…この人は…」
「お、おねえちゃん…!」
なんだ?眼の前の美女に、何がある?
「さ、行くわよ」
彼女らの事など歯牙にもかけず、巫女服の美女が言い放つ。
ツカツカと俺に歩み寄り、腕を取った。
「ちょっとキツネくんに何を…!」
「…」
巫女服の美女の視線が、ヒトミにちらと向けられる。
刹那。
「きゃっ!?」
「ヒトミさん!」
激しい風。つむじ風が、前触れもなくヒトミを吹き飛ばす。
「ヒ、ヒトミ!…うわっ!?」
閃光、そして衝撃。
………
「キツネくん!き、消えちゃった…!?」
「今のは…今のは…」
「おねえちゃん…あれは…あのヒトは…!」
「ちょ…何なのよ?何か知ってるの?ねぇ!」
「し、知りません!でも…でも…!」
「とにかく!どこに消えたのか、捜さなきゃ…!」
………
閃光と衝撃。そして。
「…親父?」
いつの間にか、俺の前に親父がいた。
「さて、お前にこの木常神社の成り立ちについて話す時が来たな」
今日は俺の誕生日。前々から言われていた。
木常神社に関する秘密をその日、俺は知る事になる、と。
もったいぶった口調で親父は話し始めた。
「そもそも我が木常神社の起源について教えよう…
木常神社を興したのは、実は人間では無い。狐だ」
「は?」
えーっと。その。
「…それは確かに秘密にしておいた方がいいよなぁ」
「あ、お前!?冗談だと思ってるだろ!?信じてないな!?」
いや、あっさり信じてるよ?
何しろ人間になれるタヌキとネコを知ってるし。
「んと、つまり…木常神社の、キツネ家のご先祖様は本物の狐って事?
つまり俺はキツネの血を引いている、と?」
脳裏にタヌキさんの顔が浮かぶ。
そうか、キツネと人間のカップルがOKならタヌキとだってOKだな。
ん?キツネの血を引いた人間とタヌキ…か。すげー混血だな。
…などと考えていると。
「いや、ご先祖様は普通の人間だ」
木常神社の始祖…つまり俺のご先祖様は、ただの人間。
しかし、その人間に、この地に神社を建立する指示を与え、
自身を祀らせたのが「お狐様」…神通力を持つ狐だったのだという。
なんだ。よくある神話・伝説の類じゃないか。
狐を祭る神社は国内にいくつもある。狐は神格化されている。
神話的な伝説・伝承がこの神社にあったっておかしくはない。
「とにかく!お狐様が神通力を我がご先祖様に与えてくださり、
ご先祖様はその力を使って近隣の人々に施しを与え、
木常神社は後利益のある神社として名を知られる事になった。
お狐様の力添えがあったればこそ、
我が木常神社は繁栄と存続を約束されたのだ」
…その割には現在ずいぶん寂れているように見えますが?
「でもその…お狐様?とやらはなんでご先祖様に協力してくれた訳?
自分を祀らせる事が目的?それとも他になんか見返りが…」
「そこだ」
「…どこ?」
「これまで黙っていたが、お前には許嫁がいる」
「はいーーー!?」
許嫁?それってつまり結婚を前提にしたお付き合い!?
俺の知らない所で俺のお嫁さんが決まってるの?ねぇ!
「いまの話が…狐がうちの神社の成立に関わってたって話が
なんでいきなり俺の結婚話に繋がる訳!?」
「いま自分で言ったろう、見返りだ」
は?
「お狐様には一人娘がいた。そしてその一人娘が一人前になる頃、
我が木常神社の跡取りに娶らせよ、というのがご先祖様に力を与える条件だった」
親父は一枚の紙を取り出した。墨で何事か記されている。
「そして先日、その娘が適齢期を迎えたという連絡があった」
「え?え?狐からお手紙?なにそれ…で、タイミング的に俺?
俺が娶るの!?娶らなきゃならないって事!?」
「そういう事になるなぁ」
えっと、ウチの神社が出来たのって何百年前だっけ!?
その頃すでにいた一人娘が適齢期っていったいそのコ、今いくつ!?
「さ、参考までに伺いますけど…どんなコ?」
「いや、まだ会って無いんだ。狐の一族のお姫様で…
なんでも尻尾が九本あるとか」
「って妖怪?それって妖怪じゃないの!?ねぇお父様!?」
なるほど、妖怪変化なら何百年も生きててもおかしくないねって…!!
もしかして…!
振り向くとそこには。
「うふ」
あのゴージャスな美女。
「ま、まさか…君が…君が!?」
「あはん?」
艶然とほほ笑む美女。その頭からキツネの耳が生え…
背後には1、2、3…9本の尻尾!!
「改めて…よろしくね、キツネくん。
私の事は…そうね『ヒメ』とでも呼んでもらおうかしら?」
艶然とほほ笑む巫女服の美女。
俺の許嫁だと言う彼女は…ケモ耳と9本の尻尾を持つ、九尾の狐。
「まぁそんなわけだ。後は若い者同士で話し合ってくれ」
お父様!?若い者ったって、彼女、妖怪ですよ!?
齢1000年を超える九尾の狐ですよ!?
そそくさと部屋を出ていく親父。
あの野郎、厄介事を俺に押し付けたな!?
「キツネくん」
…ゾクリ、と背筋を何かが這い上がる感覚。
なんだろうこの感覚。恐怖?違う、そうじゃない。
艶を含んだ彼女の…ヒメの声は…
「突然だから混乱するのは解るけどね、喜びなさいな
こんな高貴な美女を娶れるのよ?嬉しいでしょ?ん?」
目をきゅっと細め、唇を笑いの形にゆがめて、俺に迫るヒメ。
鼓動が速くなる。その声、その表情、彼女が俺に与える影響。これは…
俺はその何かを振り払おうとかぶりを振った。
気を取り直して、狐の姫に相対する。
「いや、その、ていうか、あなた妖怪ですよね!?」
「あら?化け狸や化け猫と付き合ってる貴方がそんなに驚くとは思わなかったわ」
そうか、タヌキさんや仔猫ちゃんも広義では妖怪みたいなもんか。
でもあんなに可愛いしなー…って、そういう問題じゃなくて!
「ま、いいわ。気になるならしまっておくから」
ケモ耳と9本の尻尾がすっと消える。
完璧なコントロール。ほとんど猫耳出しっぱなしの仔猫ちゃんや
動揺すると狸耳が出ちゃうタヌキさんとは、格が違う…?
その時。
バン!と襖があけ放たれて…
「キ、キツネくん!見つけた!」
ヒトミが飛び込んできた。
「あら、お嬢さん。よくここが解ったわね」
「今おじ様とすれ違ってね、吐かせたのよ」
さすがヒトミ。
いや「おじ様に聞いた」じゃなくて「吐かせた」って言葉遣いが。
「で?何をしに来たのかしら?」
「あ、あなたが突然現れてキツネくんを連れ去ったから!捜してたんでしょうが!
タヌキさんも仔猫ちゃんも怯えてるし…あなた一体何者!?」
「…無礼な小娘め」
空気が変わる。
「立ち去れ!下郎が!」
「きゃっ!?」
強風。いや、爆発的な勢いの…空気の塊、爆風がヒトミに叩きつけられた。
「ヒ、ヒトミ!?」
ヒトミはふすまを突き破り、廊下に転がった。
「ヒ、ヒトミさん!」
廊下の向こうで、タヌキさんが立ちすくむ。
「下賤の輩が我に触れる事能わず!」
「な、何するんだ!」
「ふん、怪我はあるまい。そんな事より…」
妖艶な笑み。再び俺の背筋を不思議な感覚が駆けあがる。
「あはん(ハート)」
俺を見るその瞳。そこにあるのは…情欲?
「行きましょ?ダーリン」
「ちょ…!!」
またしても衝撃、閃光。
※ ※ ※
こ、ここどこー!?
それは豪奢なベッドだった。
俺はキツネ耳と9本の尻尾を持つ巫女服の美女に組み敷かれていた。
「キミを見てたら…昂奮してきちゃった」
「は、はいーーーーーー!?」
「ねぇねぇ、私たち夫婦になるんだからぁ…いいよね?ね?ね?」
「な、なんかさっきまでと雰囲気違いますけど!?
そ、それに、いいいいいい、いいよねって何が!?ねぇ何が!?」
「んもう!解ってる、く、せ、に(ハート)」
「そりゃ解りますけどまずいですってばーーーーー!!」
って何?俺ってケモ耳の呪いでもかかってんの!?
ご先祖様のバカー!ハゲー!オタンコナスー!!
「くすん…私、魅力、無い?」
そ、そういう訳じゃありません!!
言い訳!なんか言い訳考えろ、俺!
「お、お。俺は…!!」
「おお、俺には!す、すすす、好きな子がいるんですぅう!!
だ…だから、ダメーーー!!」
「私という許嫁がありながら!?」
知らなかったもんーーー!俺に許嫁がいるなんて!
「その女は!狐族の長たるこの九尾よりいい女だと言うのか!?」
うわ、豹変。さすがの貫禄です、お姫様。
突如、一陣の風。
俺の身体はその風に吹きあげられ宙に舞う。
「うわ!?うわわわわ!?」
気がつけば空の上。上空からウチが…木常神社の敷地が見える。
その参道に、3人の少女の影。
「タヌキさん…ヒトミ!仔猫ちゃん…!」
俺の傍らにはヒメが浮かび、地表を鋭い目で睨みつけている。
「どれだ?あのちっこいのか?あの垂れ目狸か?それともあの人間か?
ふん、どいつもこいつも…私の魅力の脚元にもおよばぬわ!」
力強い宣言と共に急降下。まさにフリーフォール状態。
「ちょ…うわーーーーーーーーーーー!?」
「キツネくん!?」
地表スレスレで急減速。ふわりと地面に舞い降りる俺とヒメ。
…地に足がつくって、いいもんだな。
ヒメは眼前の3人の少女を睥睨する。
タヌキさんは怯えつつもその視線を真っ向から見据える。
ヒトミは腕組みをしてヒメをにらみ返している。
…脚が震えているように見えるが。
仔猫ちゃんは二人の後ろに隠れおずおずとこちらを見ている。
「ふん…お主らも引くつもりはない…か」
「当然、ですわ」
タヌキさんが震える声で、でもきっぱりと言い切る。
その横でヒトミが頷いて見せる。
「お主らに試練を与えよう。愛の力で乗り越えてみせい!」
…なに、それ?
「さすれば、我もキツネくんから身を引こう。正々堂々たる勝負じゃ!」
気迫のこもった先刻と共に、ヒメの頭部から狐耳が生え、さらに9本の尻尾がのたうつ。
「九尾の狐…!?や、やはり…タダモノじゃなかったんですわね…!」
ヒメが尋常ならざる存在である事を最初から察知していたらしいタヌキさん、
ようやくヒメの正体を知り、合点がいったようだ。
「九尾…て!よ、妖怪じゃないのよー!?な、なにされるの!?試練て何ー!?」
「た、確かに…わ、私などとは…力が違う…!まぁ可憐さでは負けてませんけど(うふ)」
「ほざくな!下郎が!」
ヒメの一喝。びくりと後じさるタヌキさんたち。
ああ、すっかり怯えてるよ。仔猫ちゃんなんて今にも泣きだしそう。
「ご、ごめん!」
思わず割り込むように声が出た。黙っていられなかった。
ヒメがタヌキさんやヒトミに敵意を剥き出しにするのは…
どうやら俺の不用意な一言のせいらしいんだから。
「ごめん、俺のせいだ!
俺が、その、好きな子がいるなんてって言っちゃったから…」
ぴくり。
と、ヒメの剣幕に怯えを隠せずにいた、タヌキさんとヒトミの様子が一変した。
そして。
彼女が俺を見る。俺も彼女を見る。目と目が合った。
第五話、了。
次の第6話で最終回(タヌキさんルート)の予定です。
よろしければいましばらくお付き合いください。
ワッフル
407 :
キキーモラの人:2012/09/09(日) 20:08:52.59 ID:mtYFXiVx
#キツネくんの話の人、乙です。いよいよ終盤戦ですね!
#そして私の方も、週末を約束していたブツを投下します。もっとも、リハビリを兼ねて再開で、Hシーン直前までしかたどりつけず。
#さらに今回は、本人達より隊長達がでばり過ぎかも。
『つくしんぼ通信〜彼女はキキーモラ〜』(後編1)
辺境警備隊に所属するジェイムズの家で、キキーモラのピュティアがメイドとして住み込みで働くようになって、およそ半年の時が流れた。
キキーモラの少女は、当初は自分でも認めていたとおり、掃除と裁縫を除く家事はあまり巧くなかった──というか、むしろ下手な部類に入った。
しかし、その生真面目な性格から、日々精進を繰り返すことと主婦業ン年のゲルダに教わることで少しずつ上達していき、数ヵ月経つ頃には、家事全般を預かる者として遜色ない技量に成長することができた。
家主であるジェイムズも、文句も言わず(いや、不味い料理は「不味い」と正直に告げたが)、彼女が家事を行う様子を寛大に見守り、今では安心してすっかり家の中のことを任せきりにしている。
その彼自身も真面目な性格が幸いしてか、ケイン隊長に剣技その他の稽古を熱心につけてもらった成果が上がり、警備隊の中でもメキメキ腕前を上げていた。
もともと、ケインが隊長として着任した地方の警備隊は、彼のシゴキと指揮のおかげでそれまでとは段違いに強くなるのが常だったが、その例に照らし合わせても、ジェイムズの伸びっぷりは頭2つ、3つ飛びぬけている。
(たぶん、無意識に妖精眼を使いこなしてるんだろうなぁ)
打ち込んでくるジェイムズの剣を、木剣でいなしつつ、そんなコトを考えるケイン。
「っおりゃあっ!」
気合いとともに放たれた神速の縦切りを半身をズラしただけでかわし、そのまま軽く足払いをかけるケイン。
たまらず、ジェイムズはすっ転び、手から武器を落としてしまった。
「ほい、チェックメイト。最後の唐竹割り以外はなかなかよかったぞ」
「あっつつ……うーん、イケると思ったんですけどねぇ」
「阿呆。決めの攻撃の時に大声あげたら、「今から行きます!」って相手に教えてるようなモンだろうが。それに剣筋が素直なのはいいが、素直過ぎて逆に読みやすい」
反省点を指摘しつつも、ケインはジェイムズの動きそのものには舌を巻いていた。身体を無理なく自然に動かすことで最高の力を引き出す、というのは言うのは簡単だが実際に実現するとなると、かなり難しいのだ。
「まぁ、初級基本編は卒業して、これからは中級応用編にお前さんも進まないといけないってことだ」
師匠っぽくエラそうにアドバイスするケインだが、彼の言う「中級編」に進めた者は、これまでに指導した100人近い教え子の中でもわずか数人なのだから、それだけでもジェイムズの優秀さはわかるというものだ。
408 :
キキーモラの人:2012/09/09(日) 20:09:19.91 ID:mtYFXiVx
「で、そっちはいいとして、あの子達の仲の進展具合はどうなのよ?」
顔全体に「ワクワク」という擬音を貼り付けたような表情で、夕食の席で妻のゲルダに問われ、ケインは苦笑する。
「ヲイヲイ。そのテの噂話に詳しいのは主婦の特権だろうが。むしろ俺の方が聞きたいぞ」
「まー、そりゃ、そーなんだけどねー」
苦虫を半匹くらい噛みかけたような微妙な顔つきになるゲルダ。
「微笑ましいというか、カマトトってゆーか……」
ひとつ屋根の下に、互いにそれなりに好感を抱いている男女ふたりが数ヵ月共に暮らしていれば、いわゆる「男女の仲」になっても別段おかしくはない。
なのだが……最初の出会いが出会いだったせいか、ジェイムズとピュティアは、半年経った今も、非常に遠慮勝ちな距離を保っていた。
無論、一緒に暮らしている以上、「着替え中にドアを開けて慌てて謝罪」、「ベッドに起こしに来たら、男の生理現象がニョッキリ」、「水仕事で濡れた服が透けてドッキリ」といったハプニングはあるにはあったが、そこから先に進まないのだ。
初心で微笑ましいと言えないコトもないが……。
「すみません、ご主人さま、お疲れのところを買い物につきあっていただきまして」
「なんの、力仕事は男の領分さ。それに、ピュティアさんにはいつも家のコトをやってもらってるから、たまには恩返ししないと」
隊商(キャラバン)によって村の広場で開かれている市場に、ふたりは連れ立って来ていた。
辺境にほど近い村ではあるが、それでも半年に一度くらいのペースで、このような十数人単位の小規模な隊商が訪れ、この辺りでは手に入らない物品を購入する機会があるのだ。
警備隊は安月給だが一応固定の現金が支払われる上、ここ数年はジェイムズが人に貸している畑も豊作でそれなりの地代が入っているので、慎ましい暮らしながらそれなりに蓄えはできている。
「そんな! 私こそ、お世話になりっぱなしで……」
紙袋を抱えたまま、申し訳なさそうに頭を下げかけたピュティアが、"路面の一部が濡れていた"せいか、つるりと足を滑らせる。
「あっ!」
「おっと!」
素早く手にした荷物を置き、彼女の身体を抱きとめるジェイムズ。さすがに慌てていたせいか、力の加減ができず、彼女の身体を自らの腕の中にすっぽり抱きかかえるような姿勢になっていたが……。
「よしよし、そこでブチュッといきなさい、ブチュッと!」
「いや、デバガメみたいなコトはやめようぜ、ゲルダ」
物陰から、部下にして弟子でもある少年達の様子を、隊長夫妻がうかがっている。
「ああっ、何でそこで手を離すのよ! ピュティも、もっと積極的に!」
「無責任に煽るなって。そもそも、あそこに氷張ったのお前の仕業だろ。アイツが助けるのが間に合ったからいいものの、転んで頭でも打ったら危ないじゃないか」
「妖精──それも"地"に属するキキーモラが、転んで頭ブツケたくらいでどうにかなるモンですか! あ〜、もぅじれったいわねぇ」
(お前は、知り合いにやたらと見合い話を斡旋するオバちゃんか)
溜め息をつきながら、そんな感想を抱いたものの、さすがに口には出せない。
女性に年齢を感じさせる単語、とくに「オバちゃん」なんて言葉は禁句なのだ。さすがに夫婦生活が長い(とある事情から、このふたり、見かけの倍は生きてるのだ)ので、そのくらいは彼も理解している。
「あの年頃の少年少女って言ったら、逢う度にキスだの抱擁だのを繰り返して、そこから先の一線をいかに越えるか、互いに色々模索してるモンでしょーが!」
「いや、まぁ、確かにそれはそうだけどな」
妻のエキサイトっぷりを「どうどう」とケインはなだめる。
「ま、あのふたりは、なまじ一緒に暮らしているぶん、「家族」って気持ちが強いのかもな。こういうコトは自然に任せるのが一番いいと思うんだが」
「そりゃね、わたしだって、あのふたりが人間同士、あるいは妖精同士なら、こんなに気を揉まないわよ。でも……」
妻の言いたいことは、ケインにもわかった。
おそらく、ふたりの姿に、在りし日の自分達の不器用な恋愛を重ねているのだろう。
「はぁ……仕方ない。ちょうどいい機会だから、ちょいと爆弾投下してみるか」
王都から届いたある手紙の文面を思い出して、ケインは久々にかつての上司の手を借りることを決意するのだった。
* * *
土を踏み固められた10ヤード四方くらいの小さな広場──警備隊の訓練場で、ジェイムズは、久々に隊長のケインとの「真剣勝負」を取り組んでいた。
これは文字通り、木製などの練習用ではなく、本物の武器で打ち合う形式の試合を指す。無論、殺し合いではなく寸止めするルールだが、普通の練習に比べて格段に危険性は高い。
もっとも、警備隊付き修道女のシビラとケインの妻ゲルダも立ち会っているので、仮に負傷しても魔法ですぐに癒すことは可能だが。
「どうした? 来ないのか?」
しかも、ケインに至っては、本来の得物である長槍を手にしているという気合いの入りようだ。
最近では、彼から3本に1本程度はとれるようになったとは言え、それらはすべて剣対剣での話だ。ただでさえ、剣対槍では後者が有利だと言うのに、一体隊長は何を考えているのだろう?
そう思いつつ、ジェイムズもここは引く気はない。
「本当に隊長から3本中1本でも取れたら、給料上げてくれるんでしょうね?」
──まぁ、そういうコトだ。
「うむ。男に二言は無い。ま……」
ニヤリと笑った次の瞬間、あり得ない踏み込みの早さでケインの槍が、正眼に構えたジェイムズの剣を下から叩いて、少年の腕ごと大きく上に跳ねあげていた。
「流石に槍を手にした状態でヒヨッコに負ける気はないがね──コレでまずは1本だ」
完全に無防備になった少年の頬を、冷たい槍の穂先がピタピタと撫でる。
「くっ……!」
温厚とは言えジェイムズも、警備隊所属の兵士である以上、武人のハシクレ……という自負がある。遅まきながら、少年らしい負けん気に火が点いたようだ。
すぐさま跳び退って再び剣を構える。
その姿からは、先程までは感じられなかった殺気にも似た気合いが立ち昇っているのがわかった。
そこからのジェイムズの動きは目を見張るようだった。
上段からの打ちおろし、左から右の横薙ぎに続いて右斜めに袈裟掛け、その真逆に下からの切り上げ、さらには連続の三段突き……と剣術の教科書に載せたいくらい見事な動きで、ケインを防戦一方に追い詰める。
──いや、そう思えたのだが。
「前に教えただろ。理に適った動きは強力だけど、その分読みやすいって」
わずか半呼吸の隙を突かれて(いや、おそらくは最初からそれを狙っていたのだ)、あっさり逆転される。
「ふむ……見込み違いか。どうやら、まだ応用編をものにできていなかったかな?」
クルリと回した槍で、トントンと自分の肩を叩いている隊長を見て、少年兵は唇を噛んだ。
最初から敵わないだろうことは正直理解していた。
けれど、このまま一矢も報いないで終わるのは、目をかけてくれた隊長本人に対しても、自分自身のなけなしのプライドに対しても──そして、こっそりゲルダさんの背後から見学しているピュティアへの見栄の面からも、我慢ならない。
彼女の心配そうな姿を目にした瞬間、脳内のどこかでがカチリと何かがズレたような気がした。
スーッと深呼吸をすると、パチリと剣を腰の鞘に納める。
「ん、どうした? 降参か?」
「はは、まさか……僕なりに奇策を弄してみようかと思いまして」
そのまま左手で鞘ごと腰から外し、右手を剣の柄にかける。
相応の知識がある者が見れば、それは東方の剣技で言う「居合」の型と似ていることがわかったろう。無論、ケインにもその知識はある。
「ほぅ……おもしろい。だが、付け焼刃でそれができるかな?」
ニィと男臭い笑みを口元に浮かべたケインが、それでも先程よりも慎重に槍を構える。
できるはずがないとは思う反面、この若者ならやらかしてくれるんじゃないか、と期待する部分があった。
「勝負ッ!」
鋭い呼気とともに裂ぱくの気合いをもってそのまま踏み込むジェイムズと、それを迎え撃つケイン。
そこにいる誰もが、その姿を予想したが……。
「……え?」
少年は、踏み込みかけた姿勢のまま、強引に足を止めていた。
優れた武人は、相手の次の動きを自然と予測し、それに対応し、凌駕するべく動く。
ケインも当然、その「優れた武人」の範疇に入る存在だ。まして、彼もまた「妖精眼(グラムサイト)」持ちであり、人の気の流れなど手に取るようにわかる。
しかし、この場合、それが裏目に出た。
いや、正確には少年が足を止めようとした瞬間それを察知し、すぐさまソレに対応しようとしたのだが……。
槍の間合いの半歩外から放たれたジェイムズの「居合」もどきが、予想外の結果をもたらしたのだ。
居合とは、刀を鞘で滑らせることによって本来の抜刀速度以上のスピードで放たれる抜き打ちの斬撃だ。西方の剣技しか知らない者からすれば、特に初見だと魔法か手品のように見えるが、原理的には神速の抜刀術、それに尽きる。
とは言え、確かに長剣や大剣の大ぶりな動きに慣れた者からすれば、そのスピードは脅威だ。
しかし、ケインは本物の東方剣士と撃ち合った経験もあり、その速度への対応も十分に可能だと自負していたのだが……。
Q.片刃で緩く剃りのあるカタナでも難しい居合を、両刃で肉厚の長剣で実行できるものか?
A.無理。
そう、ジェイムズは、神速の抜刀術を仕掛けようとしていたのではない。
そう見せかけて、そのまま剣を振り抜き、鞘を飛ばして来たのだ。思わずそれを槍で弾いて隙ができたケインの懐に入り込む。
剣に対する槍の優位の7割は、その間合いの広さにある。強引に近づくことで、その差を少年は埋めようとしたのだ。
その試みは半ば成功したかに思えたが……。
「ふぅ〜、あっぶねぇ」
咄嗟に槍から利き手を離したケインが抜いた短剣で、ジェイムズの渾身の一撃は受け止められていた。
「くうっ! これでも届きませんか」
「生憎、これでも前大戦経験者でね。生き汚いのが身上だからな。とは言え、70点ってところか。ギリギリ合格だな。
──辺境第23警備隊隊員、ジェイムズ・ウォレス!」
「は、はいっ!」
姿勢を正したジェイムズに、ケインは思いがけない言葉を告げた。
「貴殿を王国軍第八戦士団の正隊員推薦する──来月から、いっぺん王都まで行って来い」
「……へ?」
-つづく-
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#まぁ、ありきたりですが、じれったい恋人未満をくっつけるには、別離を演出するのが早道ってコトで。
ワッフルワッフル
「キツネくんとタヌキさん」第六話・前篇を投下させていただきます。
11レスあります。本当に長々と申し訳ないです…
第6話 キツネくんとタヌキさん
目が合った途端、彼女の愛らしいケモ耳がぴょこんと立ち上がる。
「キツネくん…」
ヒメに対して怯え、震えていた表情が一変する。
頬を紅潮させ、優しい頬笑みを浮かべる。
「好きなコがいる」苦し紛れに言い放った言い訳。
でもそう言い放った時、脳裏に浮かんでいたのは…彼女の顔。
頭で考えたんじゃない。それは心で感じた、俺の本心。
優柔不断な俺は、あんな切っ掛けでも無ければ、
自分の気持ちに気付く事もできなかったんだ。
頭部のケモ耳が、ピクピクと動く。その様が愛らしく思える。
そう、彼女はタヌキだ。
彼女が怯え恐れる九尾の狐…ヒメ。
しかし彼女も同様…ヒトならざる者なのだ。
俺は、目を逸らす。逸らしてしまった。
「…あ」
落胆の…声。見なくてもその表情の変化は解る。
その時。
「ま、まてまてまてーーーー!」
「ヒ、ヒトミ!?」
ヒメの前に立ちはだかり、睨みつける。
「試練ですって?何をさせようって言うの?
何をすれば…あんたはキツネくんから手を引くの?」
「…お前が試練を受けて立つと?」
「いけない!?私は…キツネくんが」
一瞬の躊躇。しかし。
「キツネくんが好き。一番、好き」
「ヒトミ…!?」
「キツネくんも、きっと…きっと私を!」
ヒメがにやりと笑う。
「ほぅ…キツネくんの想い人が自分だと、言い切れる自信が?」
「…ええ」
…この期に及んで。
俺は何をしている?俺がすべきは。俺が言うべきは。
俺が好きなのは、誰なのか。
いま、はっきり言うべきなんじゃないか?
なのに、俺は…俺ってヤツは。臆病者の、卑怯者だ。
俺は、一番好きなコに、好きだって言うのが…怖いんだ。
だって、彼女は。
ヒトじゃ、ない。
「で?何をさせようって言うの?」
「あはん♪そうねぇ…愛し合う二人の絆を見せて欲しい所ね」
先程までの威圧感溢れる「狐の女王」の姿は成りを潜め、
俺を誘惑する時の悪戯っぽい、でも艶のある目つきと態度。
「きずな…?どうやって…?」
「そうねぇ私の目の前で…Hするとか」
はぁ?
「で、出来るかー!!」
ふざけてる!このメギツネ、ふざけてやがる!?
そんな事出来るわけないだろ、人前で、その…するなんて!
「や、やってやろうじゃないの!」
こらこらこらーーーーーーーーーーーーーー!!
「ヒ、ヒトミ!?」
「あはん?出来るの?今すぐ?私はいつでもいいわよ〜」
ぐっと詰まるヒトミ。無理するなっての!
しかしヒトミは。
「あ、あすの夜!!待ってなさい!」
「え、ちょ、あの…!!」
目が据わってるーーー!?
俺は心臓が爆発しそうで言葉が出ない。
ヒトミと、その、する?ヒメの、目の前で?
なにその露出羞恥プレイ!?その、刺激が強すぎて眩暈がしますーーー!
ヒトミはヒメを、そして俺を睨みつけ、踵を返す。
「あ、明日の夜だからね!忘れないでよ!」
と、捨て台詞を残し走り去った。
「やだーあのコ、本気?あはん、面白いモノが見れそうねぇ〜
他人のする所見るのなんては・じ・め・て♪」
ちょっと、ヒメさん!?あなたの性癖ってどんだけ懐が深いんですか!?
「ヒ、ヒトミさん…キツネ、くん…」
事の展開についていけないのか、タヌキさん、オロオロ。
「明日の夜が楽しみね♪じゃ、おやすみ〜」
ざざっ…!
「うわっぷ!?」
またも風が吹き荒れ、ヒメはその風と共に姿を消した。
「キツネくん…わ、私…」
「おねえちゃん…?」
タヌキさんが、俺を見ている。頭部にはケモ耳。
傍らには仔猫ちゃん。こちらも頭部にケモ耳。
「キツネくんは…やっぱり…ヒトミさんが…」
「タヌキさん…」
「私じゃ…やっぱり…ダメ…ですか…」
今の俺には…返す言葉が無い。
ついさっき、目を逸らしてしまったから。
タヌキさんの…耳から。
彼女は人間じゃない。とても可愛いのに。
…俺は彼女が、好きなのに。
でも。
「あ!おねえちゃん!」
踵を返し走り去るタヌキさん。仔猫ちゃんが後を追う。
俺は一人取り残され…誰を追う事も出来なかった。
※ ※ ※
長い長い夜がようやく終わって。
翌日。今日は祝日。
しかし俺は、朝から何をする気も起きないでいた。
日が高く昇っても何をするでもなく過ごしていると…
ヒトミが訪ねてきた。
「ヒトミ…」
「ん、入っていい?」
「あ、ああ…」
部屋に入ってきたヒトミはしかし無言で。
張りつめた空気。
その空気に耐えきれず、俺は、
言うべき言葉も見つからないまま言葉を発していく。
「あ、あの…」
「…」
「本気じゃ、ない、よな?」
「…」
「なんていうか、その…えと…」
再び、沈黙。しかし。
「ヒ、ヒトミ…!」
「キツネくん」
意を決したように、ヒトミが口を開く。
「夜まで待ってたら…あいつが来ちゃうから」
「え?」
あいつって、ヒメの事か。
「ちょ、ヒ、ヒトミ!?」
い、いきなり!ヒトミは立ちあがり、その…!
きていた服を脱ぎ出した!
「ま、まて!ヒトミ…!あ、あいつの…
ヒメの口車に乗せられちゃダメだぞ!?」
「違うわ、別に…あいつにしろって言われたからじゃない」
「…え?」
「キツネくん」
にっこりほほ笑んで。
「…誕生日おめでとう。一日遅れたけど、私からのプレゼント、受け取って」
「プレゼント?」
「うん」
…って、ま、まままま、まさか!?
あのベタな台詞を!?
「プレゼントは…私」
うわーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
すっかり服を脱ぎ捨てたヒトミが俺に抱きついて来た。
腕の中に、生まれたままの姿のヒトミがいる。
「ヒ、ヒヒヒヒヒ、ヒトミ、さん!?」
「私を…あげる」
「いや、その、あの」
しどろもどろ。事の展開についていけない。
「あいつに言われたからじゃない。見せるつもりもない。
でも、私は…キツネくんが好きだから。だから、
たとえ…キツネくんの心が誰に向いてても」
「…え?」
「キツネくんが…タヌキさんの事、好きなの、解ってる。
解っちゃったもん。でも、だから」
ヒトミの身体が…震えてる。その目から、涙が零れる。
「こんな事しても無駄かもしれない。でも。でもでもでも…!お願い…私を…見てよ…!」
「お、おれ…おれは…!」
ドキドキしてる。昂奮してる。
このままヒトミを…抱いてしまいたいと思う。
その欲望を否定できない。でも。
「ダ…ダメだって!」
「キツネくん…!」
それはもう、とんでもない自制心が必要だった。
ヒトミは可愛い、魅力的だ。おまけに…その、裸で迫られて。
ああ、正直に言おう。むちゃくちゃ昂奮してる。
ああ、勃起してるとも!むちゃくちゃしたいよ、やりたいよ!
バカだと思う。むちゃくちゃしたいくせに。やせ我慢して。
だらだら汗かいて、勃起させて我慢汁たらしてるくせに!
「か、かっこつけるつもりはないけど、でも!」
でも!でも…!!
「やっぱりダメだよ…俺、いまの気持ちのまま、ヒトミを抱くなんて出来ないんだ」
「キツネ、くん…?」
「ごめん、ヒトミ。こんな事させて…ごめん。俺は…俺はタヌ…」
「言うなーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
ぱあああああん!!と、激しく頬を張り倒された。
「…ってー…」
「解ってるよ!解ってたよ!」
「ヒ、ヒトミ…」
「言われなくたって…知ってるよぉ…」
ぼろぼろと涙をこぼして。子供みたいに泣きじゃくるヒトミ。
「キツネくんのバカーーーーーーーーーーーーーー!!」
※ ※ ※
ヒトミは泣きじゃくりながら服を着て、部屋を出て行った。
その間、二度と、俺の顔を見る事は無かった。
俺もヒトミにかける言葉を持たない。持てなかった。
「なかなか面白い見世物だったわねぇ」
「!!」
窓辺に、巫女服の美女。ヒメ。
「いつの間に…」
「あはん、彼女が来る前からいたわよ?」
…気配を消し、姿を消す事なんて朝飯前って事か。
「悪趣味だな」
「必死の思いでやってきた女の子を
あんな風に振っちゃう貴方のが悪趣味(ハート)」
「…それだってお前のせいじゃないか!」
「違うと思うけどなー」
「な、なに?」
ヒメがひらりと、まるで重力を感じさせない動きで舞い、俺の脇に立つ。
「女の子が涙を見せるのは、全部、男が悪いの」
「い、一方的すぎるだろ!?」
「ううん、女の子を泣かしたら、全部、男が悪いの」
…なんなんだ、こいつは。
俺を誘惑し、ヒトミを扇動し、男を非難する。
「ま、それはともかく」
「くあ…!」
「んふ♪こんなにしておきながら、よく我慢できたわねぇ?」
こ、股間を撫でさすりながら舌舐めずりするなー!
「ほらぁ昨日の続き、しよ?してあげる」
「だ、だめだってばーーーーーーーーー!」
再び、理性を総動員。自分で自分をほめてやりたい。
しなだれかかるヒメを突き放す。
「やん」
立て続けの誘惑に、俺は耐えきった。
「…そんなにあのタヌキが良いわけ?」
「…え?」
「女の子にあそこまでさせておきながら拒み、
私程の美女を拒む程…あのタヌキがいいの?」
「お、おれは…」
「ふん!もう時間なんて無いのに」
「…え?」
時間が、無い。
それとても不吉な予感を呼び起こさせた。
「…どういう、事だ?」
「タヌキが、ケモノが人の姿になる。
それにどれくらいのエネルギーが必要だと思うの?」
…そんな事、考えたことも無かった。
「長くないのよ、あのタヌキ」
なにその設定!?聞いてないよ、伏線も無かったし!
「…あ!」
『後はキツネくんが、私の気持ちに答えてくだされば』
『私、もう何も思い残すことはありません…』
あの時の言葉…思い残す事がないって…死期が近いみたいな言い方。
「長くないって…どういう事だ!ま、まさか…い、いのちが!?」
「さぁ?直接聞けばいいじゃない。フン!」
「ヒ、ヒメ!待って!」
「私を振った男に教えてなんかやらないわよ!べーーーーっだ!」
…子供か!似合わないぞ、そういうの!
とにかく思わせぶりな捨て台詞だけを残して、ヒメは消えた。
残された俺の脳裏には、ヒメの言葉がぐるぐると飛びまわる。
時間なんて無いのに時間なんて無いのに時間なんて無いのに
時間なんて無いのに時間なんて無いのに時間なんて無いのに…
どういう事だ?
タヌキさんは…どうなるっていうんだ?
※ ※ ※
俺は思わず飛び出していた。
目指すは田貫家…タヌキ理事長の、タヌキさんの、家。
「タヌキさん!」
「キツネ、く…ふああああ!」
き、緊張感の無いあくび。
「ね、眠いの?」
「あ、あのその…昨夜は寝付けなかったもので…」
…そうか、それも俺のせいだったな。
「あ…」
「ちょ…!」
突然、タヌキさんがふらつく。俺は慌てて支える。
「ご、ごめんなさい、えへへ」
「い、いや…」
ほんとうに、ただの寝不足なのか?それとも…
「タヌキさん…あの…」
ヒメの残した言葉…時間が無いって言葉の意味。
その事についてタヌキさんに尋ねようとした、その時。
「にゃー」
足元に擦りよる一匹の仔猫。
こんな時に…って、あ、あれ?
この猫…も、もしかして!?
「こ、仔猫ちゃん!?どうして…猫の姿に?」
「んにゃー」
悲しげな泣き声。この声、この姿。
間違いない!この仔猫は…!!
タヌキさんも気付いたらしい。顔面蒼白で仔猫を見つめる。
「今朝から姿が見えないと思ったら…!も、戻れないんですか?」
これか?これなのか?ヒメが言っていた「時間が無い」という言葉の真意。
時が来れば…仔猫ちゃんが…タヌキさんは…元の姿に戻ってしまう!?
力の…限界。そういう事、なのか…!?
そして、仔猫ちゃんの様子を見てタヌキさんは動揺している。
と言う事は、彼女自身も気付いてない。
いつか、時が来れば。元の姿に戻ってしまう事を…?
いや、待て。じゃあ理事長はどうなんだ?
タヌキさんの伯父にあたる、元タヌキ。
学園の理事長という職につくにはそれ相応の時間が必要だったはずだ。
あの人もいつか時が来れば狸に戻るのか?それとも…
元の姿に戻らずにすむ方法があるのか?
「タ、タヌキさん!伯父さんは…理事長は!?」
「え?あ、あの…お仕事で…しばらく家をあけると…ご出張だそうですわ」
くそ、こんなときに…!
どうする?その時は突然来るのか?
それとも…今度タヌキになったら戻れなくなるとか、
変身できる回数に制限があったりするのか?
ルールが、法則が解らない!
「タヌキさん…最近、タヌキの姿になった?」
「も、もうなりませんわ!私、人間ですのよ?(ぷぅ!)」
といいつつ耳が飛び出す。
「あ、あら?おかしいですわね?えいっえいっ」
戻らない…戻せない、のか?
「こ、困りましたわね…」
もし…もしも。
このままタヌキさんが…元の狸に戻っちゃうとしたら。
俺に何が出来る?俺は…何をすればいい?
「…ちょっと待ってて!」
俺は辺りを見回し、帽子屋を発見。
タヌキさんに似合いそうなのをひとつ。
タヌキさんの元に戻ってそれを差し出す。すると。
「まぁ…」
「ど、どうしたの!?」
「う、嬉しいんですわ…キツネくんからの…初めてのプレゼントですもの」
んと、投げ売りで千円しなかったんだけど。
「そういう問題じゃありません!」
なんで怒られるんだよぉ
「えへ…えへへ…えへへ…」
帽子をかぶり、にやけるタヌキさん。
まぁ…なんというか、そんなに喜んでもらえて嬉しいよ。
ケモ耳は帽子にすっぽり包まれ、外からは見えなくなった。
タヌキに戻ってしまうかもしれないタヌキさんに
俺が出来る事なんて…この程度の事なのかもしれない。
でも。
後悔したくないから。今出来る事をしよう。
「…行こう」
「ど、どこへですか?」
「タヌキさんの行きたい所。行ってみたい所。
昨日、言ってたじゃないか、デート、しよう」
「ま、まあ…」
タヌキさんが驚いてる。ちょっと、唐突だったかもな。
「で、でも…あ、あの…ヒトミ、さんは…そ、それにあの、仔猫ちゃんも…九尾が…」
「…いいんだ」
残酷かも知れない。でも。
「今は…ヒトミの事も、仔猫ちゃんの事も…ヒメの事も、全部、どうでもいい」
「キ、キツネくん…?」
「俺は今、タヌキさんとデートしたいんだ」
タヌキさんの頬が真っ赤に染まる。
「…ホントですか?」
「ほんとほんと!」
精いっぱい、明るく。内心の不安を気取られないように。
「じゃ、じゃあ!」
「ほい?」
「私!うみが見たいです!」
「海…まだ寒いよ?」
「でも、私見た事ないんですもの!」
少し離れた塀の上で。
「にゃー」
小さな仔猫がひと声鳴いて、さっと身をひるがえした。
あっという間にその姿を見つけ出す事はできなくなった。
※ ※ ※
という訳で、海。
「まぁまぁまぁ!これ全部水ですの?すごいすごいすごーーーい!」
海からの風に飛ばされないように、帽子を押さえて波打ち際ではしゃぐタヌキさん。
あの耳さえなければ、ホントにただの…ただの可愛い女の子。
俺の理想を体現したかの容姿で、俺に好意を寄せてくれている。
これ以上、何を望む事がある?彼女の気持ちに答えない理由なんてあるか?
…彼女は人間じゃない。だけど。
「キツネくん!えいっ!」
「うわぷっ!?」
楽しそうに笑いながら、タヌキさんが波打ち際でジャンプ。
飛び散った塩水のしぶきが俺を襲う。
「あはは!水しぶきくらいでそんなに慌てなくてもいいじゃありませんかー」
「いや、ただの水じゃなくて…しょっぱいんだぞ!?」
「え?しょっぱい?」
しゃがんで、海水を指先に付けて、その指をぺろりと。
「んひゃっ!?な、なんですのこれ…お塩、効き過ぎですわ!?」
…料理じゃないんだから。
「ぷっ」
「あー!お笑いになりましたね!?えいっ!えいっ!」
「うわ!?だ、だから!しょっぱいってば!」
タヌキさんが盛大に海水をこちらに飛ばしてくる。
「こ、この!お返しだ!」
「きゃっ!?」
「こら!逃げるなー!」
まだ夏の遠い季節。
人気の無い海岸で。逃げるタヌキさんを追う。
これまで追い掛けられてきたから、追うのは新鮮な気がするな。
そう。タヌキさんはずっと俺を追いかけてきてくれた。
タヌキの姿を捨てて人間になってまで、俺の傍にいようとしてくれた。
だから、今度は。
俺が彼女を追いかける。俺が彼女を捕まえる。
なんて物思いにふけっていた隙をつかれた。
「…とぉ!」
「うわっ!?」
逃げていたタヌキさん突然、反転。
俺に飛びかかってきた。バランスを崩して転倒。
「わぷっ!?」
砂にまみれて海岸を転がる。
「タ、タヌキさん!?」
「あはは!つーかまえたっ!」
にこにこと笑うタヌキさん。頭から帽子が落ちていた。
ケモ耳がぴょこぴょこと動いている。
彼女はタヌキだ。人間じゃない。
だけど。
俺はようやく自分の心に正直になれる気がした。
俺は。
俺は、彼女が大好きなんだ。
※ ※ ※
彼女とすごす時間はいつだって輝きに溢れていた。
彼女の笑顔は俺を幸せにしてくれる。
ちょっと常識はずれな所だって(元タヌキだから仕方ない)
彼女のチャームポイントのひとつだ。
俺は西日さす浜辺をゆっくりと歩いていた。
後ろからタヌキさんが付いてきてくれている。
俺は立ち止まり、振り向かず、話し始めた。
「タヌキさん」
返事は無い。
「今日は…とても楽しかった」
俺は、ようやく、素直に俺の気持ちを口にする事ができた。
「いや、タヌキさんが俺の前に現れてくれてから…
毎日がすごく楽しかった。君と一緒にいる時は…いつも」
迷いはもう、無い。
「俺は。俺はタヌキさんが…!」
振り向いた。そこにいるはずだったのに。
「…え?」
タヌキさんがいない。
いたはずの場所…そこには、タヌキさんの服が、服だけが落ちていた。
「タヌキ、さん…?」
俺の呼びかけに応えるかのように、落ちていた服がもぞもぞと動く。
そして、そこからひょっこりと愛くるしい顔を見せたのは。
一匹のタヌキ。
茶色い毛皮を身にまとった、ただの狸。
その毛が、夕陽を浴びて金色に輝いているのを俺は呆然と見ていた。
(後篇に続く)
次の後篇で終わります。ご容赦のほどm(_ _)m
おふたかたともぐじょーぶー!
まー厳密に言ったらヒトミたん人間だけど
ヒト同士の絡みでは前スレで投下された「月下奇人」の例もあるし、
(※人間ヒロインが"マミー"にえっちないたずらされたりしつつ
最終的に人間な彼氏とえちする展開。(注:ホラーゲーム二次創作らしい)
ヒロインが超能力を持っていたりと人外ぽい?面はあるが)
そのつまり、この際まとめて投下しちゃっていいんじゃないかと。
そうか!ヒロインの中で1人だけ人間だから ヒト ミなのか!
初体験で手枷目隠しプレイ ハァハァ