次は「閑古鳥」「魑魅魍魎」「般若」で。
5 :
かえっこ:2006/09/20(水) 23:26:34
【ネットショップ】
子供の頃から好きだった妖怪の類の本ばかりを扱うネット古本屋『魑魅魍魎(ちみもうりょう)』を開業し1年が経過した。
ネット古本屋で成功している人達の体験本を参考に始めては見たものの当初の計画はどこへ行ったのやら…
朝の日課、VAIOを起動させ、注文ゼロに落胆し着替えを済ませ1階へおりて行くと…そこには般若面そっくりの妻がいた。
店を始めるとき、猛反対だった妻を何とか説得し最新パソコンその他もろもろ購入、かなりの金額を使っているのだ。
すっかり冷めた朝食を「そのさえない顔では、今日も注文ゼロだったようね!」との妻の言葉をオカズにしてこれからの事をボーっと考えた。
「今日当たり先月の大口客の分の入金が有るからさぁ〜」と二本の角が生えてきそうな妻を落ち着かせ外へ逃亡。
ドトールから、ネット古本屋の先輩である中尾に電話し今の経営状態を相談し終えた後、最近出現したあるコピュータウィルスの話を聞く。
話をしている内にオレのVAIOちゃんが心配になり急いで帰宅。
が、すでに手遅れで、そこには、ネットショップ専用、閑古鳥(かんこどり)ウィルスが居座っていた。
名前の由来は、ウイルス感染したサイトは、すべての客が居なくなるという意味である。
何とか応急処置を済ませ、ウィルスを削除。
さあ、いよいよココからが重要で、祈る思いで銀行の口座を…そ〜〜っと…開いた。
閑古鳥(かんこどり)は別名、閑古鳥(カッコウ)のことでもある。
カッコウという鳥は他の鳥の巣に卵を産みつけ、先に生まれたカッコウのヒナは他の卵を巣の外に放り出し自分だけを育てさせ習性がある。
結果、ウィルスの卵を産み付けられたオレのサイトは、一年間稼いだ金がキレイに持ち去られていた。
1階では、見事に二本の角が生えた般若が待ちかまえていることだろう…
6 :
かえっこ:2006/09/20(水) 23:42:54
>>1乙です。
>>5 14行目一文字たりませんでした。
カッコウのヒナは他の卵を巣の外に放り出し自分だけを育てさせる習性がある。
で…15行越えてしまいました。ごめんなさい。
7 :
名無し物書き@推敲中?:2006/09/21(木) 01:20:35
おもんない。
8 :
名無し物書き@推敲中?:2006/09/21(木) 23:44:43
即死保守
次は「閑古鳥」「魑魅魍魎」「般若」かな。
誰か頼む
即死保守
12 :
名無し物書き@推敲中?:2006/09/25(月) 01:55:45
海に面する寂れた宿が俺達の住処である。
炭鉱が栄えた時代には、多くの人間が入れ替わり立ち代り泊まっていたが、
閑古鳥が鳴くこの船宿には、もう俺達しかいない。
あの頃はよかった。人間は俺達の姿を見て、般若のような形相で驚き腰を抜かしていく。
大漁大漁。商売は大繁盛。俺は、頼朝さんの時代の再来かと思ったね。
そういえば、この日本海の底にはなにやら貴重な資源があるのだそうな。
一人旅の女の鞄に入っていたかわら版に、そう記してあった。
さてさて人間達が再び集まってくる匂いがする。魑魅魍魎としての嗅覚がそう感じさせるのだ。
どこかでカッコウが鳴いた。
森は静かだった。風にそよぐ木々の枝が、青々とした葉をさざめかせるも
これに傾聴する者は確かにいない……いつの間にか閑古鳥さえも去って、
森は静かになった。
――どさり。
何かが地面に落ちる。物体が地面を打つ音はそれ自体大きくなかったけれど、
その波は森全体に響き渡るかと思うほど遠くへ流れていった。その"首"がそこに
在ると知らしめるべく、こだまもせずにだ。
俄かに木々が燃え盛る。何かが怒っていたとしか思えない。火の勢いは凄まじく、
瞬く間に静寂を飲み轟音に達する。燃え焦げた木々の中から次々と魑魅魍魎が
飛び出してきた。多くはそのもの蛇の変化だったり、古里の変化だったりしたが、
中には美しい女の姿のも、また一つは気弱な男の姿のもいた。
妖怪どもは尻に火を付けながら逃げ惑った。そして土から盛り上がるようにして
現れた般若を前にして、皆息をのんだ。
火事は三日三晩続いた。森の跡には一人の中年女性が無傷で倒れていたという。
次「アルコール」「ランプ」「運転」
14 :
名無し物書き@推敲中?:2006/09/25(月) 04:45:17
アルコールランプで車を運転しよう。そうしよう。ブーン。ブーン。キキー。
1km突破。なかなか速いぞ。
お姉さんが歩いていたのでなんぱでもするか。
おねえさん、お茶でものまない?
うん、いいわよ。
じゃあ乗って。
ブーン。
カーブを曲がってちょっといったら、いい景色の場所があるんです。
お姉さん、綺麗ですね。
あらそうかしら。
ちょっとキスでもしましょう。
うん、いいわよ。
次「いくら」「かつお」「ますお」
「このいくら、いくら?」
「三百万円です」
「古いですよ、そのネタ」
「しかしこのかつお、新鮮ですよ」
「そっちのネタじゃありません。…ともかく、このいくらはいくらですか」
「二百円です」
「寿司にしては高いですね」
「安くなってますお^^」
「似非VIPPERは帰れよ」
次「依存」「中毒」「俺」
ジャンクフード依存症になって十年、昼飯はカップラーメンばかり食べている。
ただ食うだけではない。砂糖や塩やみりん、挙句の果てにはタバスコやナムプラーなど、手近な
調味料を手当たり次第に入れて食う。これが美味くてやめられない。大学で生理学の教授をしている
俺がこんな食生活をしていると知ったら、学生達はさぞかし俺を笑うだろう。知ったことではないが。
その日も俺は、大学の生協でカップラーメンを買ってから研究室に行った。部屋には誰もいなかった。
俺は給湯室で湯を沸かし、カップに注いで部屋に戻った。ふと見ると、助教授の机の上に瓶がある。毒々
しい赤色をした結晶がいっぱいに詰まり「塩味の素」と手書きのラベルが貼られていた。
塩と味の素? あるいは味の素の塩味? 試供品か? 俺は迷った末、カップラーメンにそれを二、三
回ふりかけた。行儀良く三分待ち、ラーメンを食ってみた。恐ろしくまずい。中学生の時、腐ったプッチン
プリンを食って以来のまずさだ。舌を出して「ゲェ〜」と呻いていると助教授が入ってきて、目を見開いた。
「もしかして、それ食べたんですか?」
「ああ」答えると、助教授が悲鳴を上げた。何だ? 不思議に思ってビンを良く見ると、ラベルには「塩味
の毒」と書かれていた。心臓が痙攣を起こし、俺の視界が次第に暗くなった。
次「青空」「腹痛」「月曜日」
17 :
16:2006/09/25(月) 14:18:07
あ、お題の「中毒」を「毒」と読み違えた。
…吊ってきます
以下の流れは17さんに任せますので、シクヨロ
「アルコール」「ランプ」「運転」
今日ぼくは、学校の帰りにランプが落ちているのを見つけました。
アラジンのお話に出てくる魔法のランプみたいなやつです。
お話ではランプをこすると魔人が出てきてねがいごとをかなえてくれます。
ぼくは、このランプもこすったら魔人が出てくるかもしれないと思いました。
ぼくにはずっと前からやってみたいことがひとつありました。それは車を運転することです。
だから、魔人が出てきたら、ぼくにも車を運転させてくださいとたのもうと思ったのです。
それでぼくは、家に帰ったらさっそくランプをこすってみました。
でも、なにも出てきませんでした。
お兄ちゃんが、なにしてんの、と聞いたのでぼくは
「魔人が出てくると思ってランプをこすってみたけど、なにも出てこないんだ」
と言いました。お兄ちゃんは、魔人なんているわけないだろ、と笑いました。
ランプがよごれているからかもしれないと思って、お母さんが掃除に使っていた
アルコールを持ってきてみがいてみました。
でも、あんまりきれいにならなかったし、やっぱり魔人は出てきてくれませんでした。
だから今日はとても残念でした。あと、早く大人になって運転免許を取りたいと思いました。
「依存」「中毒」「俺」
引き出しの隅っこに押し込まれていた古ぼけたノートを見つけた俺は、ある一ページに目を留めた。
――あったな、そんなことが。
そういやあのランプどうしたかな。捨てた記憶もないから部屋のどこかにあるだろう。
押入の奥を探ってみる。……あった。古ぼけたランプ。
そうそう、このへんをこうやって何べんもこすってみたんだよな。でも結局何もなかった。
今だってどうせ、って、あれ?
ランプから煙が立ち昇ったかと思うと――数秒後、俺の眼前には、あの時想像した通りの魔人の姿があった。
「お前の願いを三つ叶えてやろう」
低い声が狭い部屋に響く。なんなんだこれは。夢か?この状況を楽しんでみるのもいいな。
「それじゃあ、まず酒とタバコをやめたいね」
自慢じゃないが俺はアルコール依存症かつニコチン中毒だ。なんとかしたいとは思っていた。
「そうか。あとひとつは?」
それで二つになるのかよ。まあいい。どうせ夢だ。あと一つ。金か、女か、それとも他に何かあるか。
「それから……それから、そうだな、運転免許を、取りたいね」
魔人は頷くと、思い出したように
「それはそうとお前、ワシがいつからランプの中にいるか知っているか?」
さあ?何故そんなことを聞く。
「教えてやろうか。お前がそのランプをこの部屋に持ってきた日からだ」
# お題は
>>16 ので
「青空」「腹痛」「月曜日」
目覚めたのは草原だった。夏草の匂いが鼻腔を刺す。青空を背景に丸顔の男がいる。彼は微笑み、言った。
「案ずるな。貴殿は空腹のために行き倒れとなったようだ。拙者の顔を食べよ」
顔を食えとはどういう意味だろう。ぼんやりした頭で考えていると、彼はその顔を僕の方へ差し出した。
「ささ、遠慮するでない」
戸惑いながらも、僕はその顔にかぶりついた。美味い顔だった。口の中に懐かしい甘味が広がり、次第に
意識がはっきりしてくる。そうだ、僕は自殺をするためにここへ来たのだ。友人宅に遊びに行くと家を出て、
死に場所を求めて山に入り、三日三晩彷徨い続けた。そして倒れたのだ。どうやら死に損ねたらしい。
その時、鋭い音が耳をかすめた。僕の顔のすぐ横に、鉄の矢が突き刺さった。丸い顔の男はやおら立ち上
がって叫んだ。「おのれ、バイキソ侍か!」
黒い皮膚を持ち頭から角が生えた男が、釜のような浮遊物体に乗って現われた。
「破非不屁法、ここで会ったが百年目。覚悟せよアソパソ侍」
「覚悟とは片腹痛い。返り討ちにして…むむむ、不覚。顔が欠けて力が出ぬ!」丸顔は地に膝をついた。
黒い男が高笑いをし、剣を振りかざした。遠くで「新しい顔でござる」という叫びが聞こえた。丸い物体
が飛来してきて、丸顔の顔に直撃した。顔は吹っ飛び、丸い物体がそこに収まった。それもまた、顔だった。
恐怖と混乱の中、僕は悲鳴を上げながら、転がるようにして山を駆け下りた。それが月曜日の出来事。
>>21のお題
「ホップ」「ステップ」「死刑」
誰もいないので、寸評を投下します
>>12 ・何も始まらず、何も終わらない。単なる独白だと、何も残らないのではないかと
・般若、魑魅魍魎の使い方に難アリ
>>13 ・閑古鳥=カッコウ。短いセンテンスで二つの呼び名は避けた方が吉。
状況を表す「閑古鳥」を使っていたのだとしても、混乱するので失敗気味かと
・「古里」=狐狸?
・「そのもの蛇の変化」=???
・ラストも消化不良気味。どこか一行を犠牲にしてでも、中年女性の伏線を張っておいた方が良かったかと。
>>14 >>15 スルーします
>>16 ・星新一風味?
・コンパクトにまとまっていますが、何かが足りない。それが何か分からない。思いついたらまた。
>>18 >>19 ・Wお題消化乙
・ラストの魔人の言葉がちょっと分かりづらかったですが、魔人が18で出てこなかったのは、
少年が免許取得年齢に達していなかったから? あるいは無垢な少年に魔力は必要ないから?
>>20 自分なのでスルー。誰か辛口コメントヨロ
最後に
>>1 さんへ
1行の文字数は何文字までか決めた方がイクナイ?
23 :
21:2006/09/26(火) 15:46:44
あ、失礼しました。 新参者なので。
遅番逝ってきます。明けたらまたきます。
>>20 まったくもって小説の体をなしていない。
設定もありきたりだし、文章も読ませるものではない。
読んでいて辛くなってくる。はっきりいって才能が無いのだと思う。
しかも文章は、自分は少しは書けるのだ、というのが匂っている。なまじうまくない文章である。
アンパンマンを古めかしたところで、ただそれだけじゃないか。いったいどこが面白い?
「ホップ」「ステップ」「死刑」
「出来なかったら死刑!」
言ったのと同時に後ろから頭を叩かれた。
「死刑なんて言っちゃいけません!」
怒っているのはお母さんだ。
「だって」
言うとまた頭を叩かれた。
「死ぬとか死刑とか言わない! 来年あなたも中学生なんだから
いい加減分別を付けなさい! お母さん恥ずかしいわ」
「うー、ごめんなさーい」
お母さんが去った後、一緒に遊んでいたチズちゃんがこっそり
私に言った。
「お母さん厳しいね」
「うん、痛いし」
「シンドラーごっこやめて、ハビエルごっこやろっか。幅跳び選手の」
「いいよ」
「ここ砂場ね。ホップ、ステップ、」
次「サーモンピンク」「ネオン」「海」
26 :
かえっこ:2006/09/26(火) 22:48:28
【揺れる想い】
私は、今、とても幸せだった。
なぜって…それは、長年、不倫関係だった彼がついに離婚を決断してくれたのだ。
3年前、新卒で今の会社へ入社しすぐにあの優しい彼と知り合った。
彼が用意してくれた新しいマンションで2人だけの生活が始まった。
彼に奥さんと子供が居る事など関係ない。
私たちは、幸せで、いつでも愛し合った。
そして、私は、お腹に彼の子を宿す。
それを彼に伝えた時の彼の笑顔が嬉しかった。
彼からの電話、携帯が鳴った。
「大事な話をしたい。横浜のいつもの所で19時、待ってるよ。」
「さあ、もう暗くなった。あの人の待つマンションへ帰ろう。」
「??おかしい!体が動かない。」
私の体は、ナゼかふわふわと宙に舞い上がり始めた。
「あれは!?何!」
ネオンの光が映り込む夜の海に人が浮いていた…
「私だ!あれは、私だった。」
息絶えて見苦しく膨れ上がった死体と飛び出したサーモンピンクの内臓がプカプカと漂っていた。
27 :
かえっこ:2006/09/26(火) 22:52:09
次、「デパート」「花束」「いわし雲」で…
秋の夕暮れ。
私は彼と別れ、帰っていく人たちを尻目に、デパートの屋上にいた。
『どうぶつらんど』と書かれた看板の下で、パンダや象や
ライオンの乗り物を見ていると、つい乗りたくなった。
千円札を両替し、愛嬌のあるライオンに跨り百円玉を入れた。
軽快な電子音を響かせながら、のろのろと動き始めた。
ああ、なにやってるんだろう……
私は、動かなくなったライオンに跨ったまま遠くを眺めた。
せっかく一緒に買い物に来たのに、欲しいのは花束なんて、わがままなことを言うんじゃなかった。
後悔先に立たず。私は、最後の百円まで乗ることに決めた。
視線の先にはまだらに浮かんだいわし雲が見えた。
まだら模様が、だんだんと、にじんで見えてきた。
次、「月」「オレンジ」「泥」
29 :
かえっこ:2006/09/27(水) 11:24:39
【終わりの朝】
私の体には、まだ、吸血鬼一族としてのプライドが残っているのだろうか。
さっき息を引き取ったばかりの人間から血を吸う時に感じる、この絶望に近い気持ちの揺らぎ…
最近は生きている人間に出会うことがなかなか出来なくなった。
致死性の強い感染症の中、わずかに生き残ったヨワヨワしい人間の血を吸い行き続ける私達。
さあ、夜明けも近い。
帰るとしよう。
美しい人間の妻と可愛い息子の待つ家へ。
人間との混血を繰り返した為、息子には吸血能力の発現は、まだ現れていない。
もう、私にも空を飛ぶ力もない。
昼間降った雨で出来た水たまりで泥だらけになった足元が私の気持ちを一層重くする。
もう人間の生きる時代は終わったのか。
吸血一族と人間、どちらが先に死に絶えるのか…
夜空には、世界の終わりを予言するような巨大に膨れ上がったオレンジ色の月が。
次、「忘れ物」「ペット」「悪夢」 で
30 :
白木の子:2006/09/28(木) 19:00:17
目の前に広がっている光景はつまり……悪夢だ。
教室の中は荒れに荒れている。
机や椅子がばっらんばらんに倒れ足の踏み場は無い。
生徒があちらこちらに突っ伏したりしている。病院行きもいるだろう。
黒板は前後とも引っかき傷の様な物で使い物にならなくなっている。
ガラスも2枚ほど割れている。
2分前は普通の教室だったのだ。僕が音楽室に忘れ物を取りに行って帰ってくるとこの有様。
ぽかーんとした。こちらに気付いた倒れている生徒が、
「……せ……先生の……ペットが……」
とだけ言い残し、頭を落とした。
……がるるるる。低い声でそいつは鳴いた。
は? がるる?
廊下には、隣のクラスから出てきた猫とは言い難い猫科の動物が僕を睨んでいた。
その後僕は病院に送られたが、虎斑模様がやたら綺麗だったことが頭に引っ付いている。
先生はトラのほかにワニガメも買っているとこの前聞いた。
次は「下ネタ」「パイクスピーク」「犬」
31 :
名無し物書き@推敲中?:2006/09/28(木) 19:45:11
シーズンから外れていることもあって、パイクスピークの頂へ続くコグ鉄道の駅は閑散としていた。
「ちゃこー 早く来ないと置いていくぞ」
そう言って、周りの景色にただただ見惚れていた妹――千夜子に声をかける。
「あ、待ってよ、アツ兄〜〜」
千夜子が子犬のように駆け寄って来るのを確認し、俺は改札を通る。
駅では丁度山頂行きの列車が出ようとしているところだった。
赤い二両編成の小さな列車は少しの揺れと共に山頂へ向けて軽快なリズムで走り出す。
千夜子は窓から見える光景を物珍しそうに目をキラキラさせながら眺めていた。
「アツ兄、頂上についたら何をするの?」
「そうだなー こんな天気のいい日は青姦かなぁ」
「もうっ 下ネタばっかり。知らない。」
「ハハハ。今日は母さん達に会いに行くんだ」
「え? 本当??」
「ああ、もうずっと一緒にいられるよ・・・」
俺はそう言って、一昨年ここで亡くなった両親に思いをはせた。
次は「富士山」「湖」「猫」
hetakusosugi
33 :
名無し物書き@推敲中?:2006/09/28(木) 23:54:57
>31さん
よくまとまっていて素敵な文章(*^0^*)
居間を出て、ひんやりした階段をつま先で駆け上がる。部屋にはいるとさらにつんとした冷気が肌を刺した。
僕は急いでベッドの中にもぐりこみ、目を閉じてまぶたの裏に焼き付けた富士山をじっと見つめる。今年こそ、今年こそは。
幼稚園のころ、祖父が僕に話してくれた。
「一富士、二鷹、三なすびゆうてな、初夢で富士山の夢見られたらその一年はしあわせなことがいいぃっぱい起こるんじゃ。
わしは毎年富士の初夢見とるでぇ。」
祖父の話を聞いてから、毎年みながクリスマスを楽しみにする時期が訪れると僕のあたまは初夢のことでいっぱいになる。
「富士山のはつゆめください」そんな手紙をもらったサンタはどんな顔してこれを読んだだろう。
大好きな焼酎を片手にし、顔を上気させて豪快に笑っていたじいちゃん。それが、去年亡くなった。僕が、富士山の夢、見れてたら・・そしたら、じいちゃんは今も生きていただろうか・・・。
だから、今年は眠くなるまで必死に富士山の写真を眺めて、一人では涙がこぼれそうになるから、猫のベェと一緒に。写真のタイトルは『山中湖から見た富士』だった。
湖の表面をさざなみが滑っていく。日没の光が富士山を赤く染め、風景を温かく包んでいる。じいちゃん。
ベッドの上で眠りのヴェールが舞い降りてくるのを感じつつ僕はひとつの決心をした。
目が覚めたら、自転車に乗って富士山を見に行こう。
自転車は、今年のクリスマス、サンタさんからの贈り物。
次は「霧」「牧歌」「アルミホイル」
まぁまぁいい
35 :
33:2006/09/29(金) 00:25:44
私の文章について?(^^)
すごい嬉しい☆
読み返して結構わやだ〜;;と思って
酷評されるかと心配してました(^^;
霧の中から少女の悲鳴が聞こえる。
すっかり辺りは霧に覆われてしまった。
先ほどまで、私が日向ぼっこをしていた牧歌的な風景は消え失せ、
1m先の視界にも不自由する有様だ。
私は、焼きおにぎりを包んでいたアルミホイルを丸めて弁当箱に突っ込み、
そのままナップザックに収めると、その場で立ち上がった。
まだ午前中で陽は高い。幾許かの視界が得られる事を期待しての行動だ。
しかし私が得たものは、一面に広がる緑の草原と石造りの水車小屋ではなく、
霧の中から、か細く聞こえる少女の泣き声だった。
異様な寒気が全身を包み込んだ。外気温とは無関係に、体の中から、
本能から生ずる寒気。邪悪な存在を忌避する動物的な反応。
しかし、少女の声が聞こえる方に歩いていく、21世紀オカルトが迷信になった
現代に生きる私に、それ以外のどんな行動が取れただろう?
私は少女の声が聞こえる方に歩いていく。
少女の泣き声はどんどん高まり、やがて私は自分が悲鳴をあげている事に気づく。
# お題継続
38 :
名無し物書き@推敲中?:2006/09/29(金) 22:39:39
霧「茶色のくさいうんこ、うんこ、アナルから出るうんこ、うんこ、ぼくらが食べてるうんこ、うんこ、うんこ三兄弟、ぶりっ、ぶりっ、(全裸でうんこを出しつつそれを食べながら歌う)」
牧歌「一番でかいのは長男(霧)、長男、一番かたいのは次男(牧歌)、次男、一番くさいのは三男(アルミホイル)、三男、うんこ三兄弟、ぶりっ、ぶりっ、(全裸でうんこを出しつつそれを食べながら歌う)」
アルミホイル「一番形がいいのは長男(霧)、長男、一番色がいいのは次男(牧歌)、次男、一番味がいいのは三男(アルミホイル)、三男、うんこ三兄弟、ぶりっ、ぶりっ、(全裸でうんこを出しつつそれを食べながら歌う)」
霧「茶色のくさいうんこ、うんこ、アナルから出るうんこ、うんこ、ぼくらが食べてるうんこ、うんこ、うんこ三兄弟、ぶりっ、ぶりっ、(全裸でうんこを出しつつそれを食べながら歌う)」
牧歌「一番でかいのは長男(霧)、長男、一番かたいのは次男(牧歌)、次男、一番くさいのは三男(アルミホイル)、三男、うんこ三兄弟、ぶりっ、ぶりっ、(全裸でうんこを出しつつそれを食べながら歌う)」
アルミホイル「一番形がいいのは長男(霧)、長男、一番色がいいのは次男(牧歌)、次男、一番味がいいのは三男(アルミホイル)、三男、うんこ三兄弟、ぶりっ、ぶりっ、(全裸でうんこを出しつつそれを食べながら歌う)」
霧「茶色のくさいうんこ、うんこ、アナルから出るうんこ、うんこ、ぼくらが食べてるうんこ、うんこ、うんこ三兄弟、ぶりっ、ぶりっ、(全裸でうんこを出しつつそれを食べながら歌う)」
牧歌「一番でかいのは長男(霧)、長男、一番かたいのは次男(牧歌)、次男、一番くさいのは三男(アルミホイル)、三男、うんこ三兄弟、ぶりっ、ぶりっ、(全裸でうんこを出しつつそれを食べながら歌う)」
アルミホイル「一番形がいいのは長男(霧)、長男、一番色がいいのは次男(牧歌)、次男、一番味がいいのは三男(アルミホイル)、三男、うんこ三兄弟、ぶりっ、ぶりっ、(全裸でうんこを出しつつそれを食べながら歌う)」
全員「うんこ、うんこ、うんこ、うんこ、うんこ三兄弟、うんこ三兄弟、うんこ三兄弟、ぶりっぶりっ、(最後に全員大量の超臭いうんこを撒き散らす)」
次は「うんこ」「UNKO」「ウンコ」
39 :
名無し物書き@推敲中?:2006/09/29(金) 22:46:34
「うんこ、うんこ」と幼少時から馬鹿にされ呼び続けられた運子は
ウンコという劇場で「UNKO」という映画を観た。
感極まった運子は思わずお尻からぶりっといってしまい、うんこが漏れた。
次は「道」「酒」「夢」
道に酒びんが転がっている夢を見た
「ぷいぷいにゅー」「アンパンマン」「ひでぶっ」
41 :
名無し物書き@推敲中?:2006/09/29(金) 23:00:25
「抱くとぷいぷいにゅーってするのがいいの、このアンパンマンの抱き枕」
私の娘は上目づかいで私の目をみた。
「え、えと、い、いくらするのかなあ、そのぬいぐるみ」
「えーと、六万円ってかいてある」
私のふところがうずいた。
「ひでぶっ」
「あんあんやー」「必殺拳」「古い宿」
あーあ、だめだこりゃ
「くらえ、究極奥義あんあんやー!!」
古い宿の主は、客に向かって言った。
究極奥義あんあんやーとは、一瞬にして内部から破壊する必殺拳である。
「うんこくせっ」
客は耐えられなくなって逃げた。
古い宿の主は必殺拳の処理をするため厠へ駆け込んだ。
「ぷっくり」「にょる」「うひはー」
親友の優子と、二ヶ月ぶりに酒盛りをしようということになりバーへ赴いた。久しぶりに会った優子は、ストレスのせいでぷっくりと膨らんでいたお腹も引っ込み、晴れ晴れとした表情でスツールに腰掛けていた。
理由を聞いてみると、どうやら新しい即効性のある『にょるダイエット』を始めたそうだ。
優子が言うには、ダイエットが成功しただけでなく、長年付きまとっていた元彼も居なくなり、一石二鳥の効果があっただとか。
なるほど、と私は思った。ストレスの原因であった元彼の存在、それのせいで彼女は過食に走っていたのだ。元凶さえ断てば、過食も収まる。納得できるといえば納得できた。
でも、それだけの効果があるのに、世間で話題にもならないのはどういう事なのか、と少しの疑問も抱いた。
「玲香も試してみる? この薬は、ダイエット効果だけでなくストレス発散の効果もあるんだよ」
会社でのストレスをお酒に頼って発散していた私は、先日アルコール依存症と診断されて、多量のアルコールを口にする事が叶わなくなった。過食に走りそうな気持ちを抑えるのに四苦八苦していた所でこの薬だ、僅かな希望だろうと縋らない手はない。
意味深な笑みと共に差し出された丸薬は、琥珀色のよどみのない光を放っている。私はゴクリと唾を飲み込み、恐る恐るそれを口にした。
「うがー、にょるるるる、うひはー」途端に気分が高揚し、理性の箍が外れる。
薬を服用し、アルコールの助けを借りずトランス状態に陥った私達は、オヤジと化して夜の街を闊歩した。
これではどれだけ凄い効果があると言っても、利用者が増えず話題にも上らないわけだ……。
次は「高台」「宇宙船」「盆踊り」で。
「あの高台で待ってます」
彼女はそう告げ、にこりと微笑んだ。
白いワンピース、白い麦藁帽子、そして白い肌。
青く抜ける空を背景に、黒い日傘と艶やかな黒髪が目に残像を灼き付ける。
僕達が出会ったのは、鄙びた地元の町の盆踊りの日。
どことなく淋し気な佇まいは、騒然とした会場では逆に目を惹く。
余所者の彼女が好奇の目に晒されているのが何故か耐えられず、声を掛けた。
彼女はゆっくりと振り向き、そして僕は……恋に落ちた。
「来てくれてありがとう」
彼女はそう言い、にこりと微笑んだ。
背後にはアダムスキー型宇宙船。目の前には彼女の頭部から伸びた紫の触手。
それでもいい。マイルス・デイビスも言っていたじゃないか。"So what?"
「回帰線」「探偵」「血判」
46 :
トマト大好き:2006/09/30(土) 20:24:12
「回帰線の間」
もったいぶったタイトルをつけやがる。
主人公が熱帯のジャングルで道に迷い、恐竜に食われかかるわ金の魚の死骸を
見つけて黄金の鱗を持ち変えるわ、色々奮闘して、結局家に帰れましたという
オチで終わるつまらない小説だった。俺はため息をついてそいつを放った。机
の上を滑らせてゴミ箱にさようなら、だ。まぁでもつまらないといえば俺も似
たようなものかもしれない。親に恥だといわれながらも、探偵を始めて今年で
7年になる。恋人はできても結婚はできない。世の中からどう思われているか
なんて、親に言われなくとも十分承知だ。しかし生きていくためには仕方ないのだ。
俺の性格からして、普通に就職するなんて想像しただけで吐き気がする。「生きて」
いくためには、仕方ない・・・。
机に靴を履いたまま泥も落とさず足を乗せ、窓の縁でうろうろしている蟻の姿をぼうっ
とながめやっていた時、けたたましく電話が鳴った。「はい、こちら長沼探偵事務所で
す。」男の興奮した声が電話の向こうから響いてくる。「今すぐ相談に伺ってもいいで
すか?」今にも泣き出しそうな声だ。早口のせいで内容は分からなかったが私は答えた。
「どうぞ、お待ちしています。」30分ほどして男は来た。お茶を勧める余裕もない。
椅子に腰掛ける前からすがりつくように話を始める。「私、暴力団に脅されているんで
す。」「はぁ。」
47 :
つづき:2006/09/30(土) 20:25:21
私は知らなかったんですよ、彼女が暴力団の幹部の妻だったなんて。彼女はそんなこと一言も・・・。それで今日の朝彼女の夫がチンピラを連れて押しかけてきて、
散々殴られた後、慰謝料として600万払え、それが嫌なら小指をもらう。そう言われて、誓約書に無理やり血判を・・・。逃げてもすぐ暴力団の情報網を使って見つけ出すって、
もし逃げたら殺して海に沈めると言われてて、私、私、いったいどうしたらいいんでしょう?」
気の毒な話だ。しかし、私にどうしてほしいのかさっぱり要領を得ない。「それで、あなたは私にどうしてほしいのですか?」うつむいていた男は急に顔を上げた。その目が冗談だろうと言っている。
「あなたは弁護士さんでしょう?どうしたらいいのか教えてくださいよ!」・・・弁護士?私が?「すいませんが、私は探偵です。ここは探偵事務所ですよ。」驚愕の表情、男は物も言えないほどの衝撃を受けたようだった。
「探偵・・・法律事務所じゃないんですか・・・。」彼は打ちのめされたようにふらふらした足取りで、彼に残されたわずかな時間を無駄にできないと立ち上がり、ドアの向こうに消えていった。
私はしばらく眉間を押さえ座っていた。男が来る前の日常の延長線上に戻らなければ、今夜は酒を浴びることになるだろう。心を鎮める。
小さな深呼吸をひとつして、私は立ち上がった。そして、机の前をとおり、ゴミ箱からさっきの小説をつまみ上げ、もう一度最初の項をゆっくりと開いた。
48 :
名無し物書き@推敲中?:2006/09/30(土) 20:27:03
長くなってしまった;すいません;
次は「お好み焼き」「鳩」「かつら」
お願いします☆
49 :
トマト大好き:2006/09/30(土) 23:11:08
ここに書き込まれた小説の評価ってどこで見れるかご存知の方いらっしゃいますか(?_?*)
評価では必ずしも無いけど
>>1に簡素スレがあるよ
でもこれはもうだめかもわからんね
51 :
トマト大好き:2006/10/01(日) 15:52:16
>>50 回答ありがとうございます!
一応見てみたんですけど、第二十一ヶ条に投稿されたものについての
感想って載ってますか・・・??
もういちど探してみます(^0^)☆
――ポチョリ。
のれんの向こうで何かが落ちる。何が落ちたか見ずともわかる。
白くて緑が混じってて、およそ飲食店の前で見かけたら食欲の
失せる代物。鳩の糞。
いらっしゃいませ、と書かれたマットの水玉模様、過剰で不浄で
困ったもんだが……やつら、店の入り口ちょうど真上によく溜まり、
お腹空かせたお客を狙う。昨日はかつらが被害にあって、見事な
ハゲを披露して、真っ赤になって帰っていった。
お好み焼き屋「ハトヤ」は今日も暇だ。
確かに名前も相当悪い。店長店名変えましょう。言った勇者は
知ってるだけで二十人、辞めた敗者は知ってるだけで十九人。
――ピチャリ。
見ると頭を拭いている、一人のハゲが立っている。「店長、
おいたわしや」……なんて言ったら勇者じゃないか。
おっと、そろそろハゲが口を開くぞ。
次「マナ」「手首」「電動」
文章修行したほうがいい
「ボクはどうしようもないオトコでした。うまれてきてほんとにスマナイ」
諏訪ヒロキは、誰も読む者のいない遺書を足元に置いた。
今から自分を受け入れてくれる道頓堀に手を合わせると、
濁った水しぶきが唾を吐きかけるように顔に飛んできた。
ヒロキは欄干の上に立った。
手首を切れば成功率が上がると本に書いてあったが、そんな度胸はなかった。
そのまま半日の間誰かが止めてくれるのを待ったが、誰も止めなかった。
ようやくヒロキは道頓堀に身を躍らせた。
片思いだった初枝ちゃんの電動コケシに生まれ変わりたいと虚しく願いながら。
「坊主」「焼肉」「生臭」
「柔らかいお肉」
今日も極楽亭の店先には、長い行列ができていた。
食事を終えて出て来る人たちは皆、満足した幸せな表情をしている。
三人組の若い女性客がマスターに質問した。
「ホントこの店の焼肉料理は、最高!!美味しいですね。」
「そうそう!牛肉でもないし…食感は…豚に近いけど…やっぱり違う?」
「ねえ、教えてください!一体何の肉なんですか?」
坊主頭のスキンヘッドのマスターは、微笑むだけで、何度聞いても何も教えては、くれない…
「あしたも来ようね!」と三人の若い女の子達は、満足してお店を出る。
と、その中の一人の美しい女性をマスターが呼びとめた。
他の二人と離れている事を確認してからこう話した。
「君は、ウチの店の料理にとても興味を持っていたね。」
「君だけにウチ肉の秘密を教えてあげようか。」
18時、早めに閉店した店の奥に、案内され、若い女性が部屋に入る。
「ガチッ」
生臭いニオイの中、部屋の入り口がロックされ、マスターが微笑んで立っていた…
次の日も極楽亭の店先には、長い行列ができていた。
食事を終えて出て来る人たちは皆、満足した幸せな表情をしていた。
ありがちな展開 ありがちなオチ
「なぁなぁ、坊主ってのは不殺生戒とかで生臭を口にしちゃいけないんじゃなかったのか」
「………」
「タン塩、カルビ、特上ロースに生ビールってか。 うまそうじゃねえかコラ」
「………」
「お釈迦様ー、ここに焼肉を食いまくってる破戒僧がいますよー!」
「やかましい! 美味しく食われたんだからとっとと成仏せんかい!!」
次のお題が出ていなかったのでお題継続と判断しました。
次のお題「読書」「焼き芋」「夕焼け」
【ページの想い出】
「おーい!おまえら!早く帰らんとオカンに怒られるぞ!」と石焼き芋売りのおっちゃんがさけんでいる。
僕達は今日も、たけし、ゆういちの三人で時間の経つのも忘れ、いつもの空き地でクタクタになるまで遊びまわっていた。
気がつくと夕焼けも終り、辺りは暗くなりかけている。
そして僕らは大人になった。
でも、今も、僕ら3人の胸の中には、あの日見た、赤トンボが、いつまでもいつまでも、飛び続けている。
『あの日の赤トンボ』というタイトルの本を静かに閉じた川村さとみは、何とも言えない《懐かしさ》で涙を流していた。
昭和と言う大昔の時代で10才の男の子達の友情を描いた話題の本を読み終えた。
最近では、デジタル書籍に換わって、本物の紙に特殊なインクと特殊な活字印刷技術を使用した新しいタイプの読書スタイルがすっかり定着していた。
それは、その活字を読むだけで読者をかなりリアルな擬似体験的な物語の世界に引きこみ、深い感動を与える作用があった。
2055年生まれの都会暮らしの川村さとみは、女性だし、実際、空き地で遊んだ事も、空を飛ぶ赤トンボなんて見たこともないのだが。
※次のお題は継続で
あはははははははは、まるで僕は夕焼けの太陽の中にいるみたいだ。
隣に座っていたふとっちょの男はついさっきおじさんに連れ去られた。
「お嬢ちゃんかわいいから大きいのを上げるね」
なんて言いながら焼き芋売りのおじさんに。
彼があんまり火力を強くするものだからサウナなんて氷河期の暑さ、なんだか湿っているのは同じだけど火の中にいるみたいだ。いやここは本当に火の中だ。昨日食べた焼き芋に同情心が芽生える。こんなの熱くて我慢できやしない。
僕はいつも通り図書館で本を読んでただけなのに、なんで気づいたら焼き芋になってるんだろう。
いや僕がいつの間にか本を読んでたのか? うん? まあいいや。そんなのはどっちでもいい話だ。
とにかくここは熱い。熱い。熱い。熱い。出してくれ早く。じゃないと食べ頃になっちまう。
次、「ガラス」「テープレコーダー」「アンコール・ワット」
61 :
名無し物書き@推敲中?:2006/10/03(火) 17:31:48
あげ
クラスの頭の軽そうな子達が、キャイキャイいいながら回し読みしてた雑誌を買ってみたの。
占いとか全然興味ないし、おまじないなんて柄でもないし、神様なんて信じてない。
ほんとよ? もう子供じゃないんだもの。
でも明日は席替えの日だから…
くだらない事でも、何もしないよりはいいでしょ? 万が一って事もあるかもしれないし。
だから雑誌にあったとおりに、深夜の2時にコッソリ部屋を抜け出したの。
寒空に震えながらお月様を20分見つめて、テープレコーダーにあいつの名前を囁いた。
後は枕の下に入れて眠るだけ。
まったく馬鹿馬鹿しい、私はなにやってるんだろ。
そう思いながらも、胸が落ち着かなくってなかなか眠れない。
あぁ神様、もしもいるんだったら今回だけお願い聞いて…そして早いところ眠らせて…
朝起きたら、視界がぼやけて天井が回ってた。
力を振り絞り、学校の支度をしようとしていたら
「40度もあるのになに考えてるの!」ってお母さんに怒られた。
ちくしょう…やっぱり神様なんていない… いや、もともと信じてないけどさ。
風邪なんて引いたの何時以来?こんな大事な日にかぎって信じられない。
布団の中でちょっと涙ぐんだけど、病気で弱ってただけ。本気で泣いた訳じゃないよ。
休み明けの教室、私の隣にあいつが座ってた。
ねぇ信じられる!?こんな事ってある? また天井が回るかと思ったわよ。
ほんとは神様っているのかも…、疑ったりしてごめんね。
いやっ、たまたまよね、そう偶然よ。運も実力のうち!
でも、折角の幸運なのだから何とか生かさなきゃねっ
私は深呼吸してから力強く席に向かい、あいつの肩をドンと突いてやった。
「おっす、おはよっ」
「おぉ、おはよ…う?、なにお前そのアンコールワットみたいな髪型」
あいつは私の頭を指差してふきだした。
「う、うるせぇー レディーに失礼な事いうな!」
今日は早起きして、新しいセットに挑戦してみたのに…
まだ病み上がりの、ガラスのような私のハートが胸から滑り落ちてゆくのがわかった。
私は涙目をさとられないよう、抵抗しながらも馬鹿笑いするあいつの口を手で塞いでやろうとやっきになる。
ちくしょう…あぁ神様…もう帰りたい、はやく布団で泣かせてよ。
「雑誌」「神様」「布団」
【信じる者は掬われる】
バイトで疲れた川田にとって、いつもの楽しみである、コンビニでの、今日発売の雑誌の立ち読み。
店に入り、数冊を手に取り、パラパラと1冊づつチェックしていた。
…と…「んん!!か・み・さ・ま??」
そこには、『あなただけの神様発売!』と広告が目に止まった。
値段を見ると思っていた数字よりさほど高価では無く、何よりも面白そうだったので、さっそく帰ってネットで注文してみた。
届いた神様を箱から取り出すと取説には、『この神様は既存の宗教で存在し、崇拝されている種類の神様とは、まったく関係有りません』と記されていた。
「ふーん。まあいいや。どの団体にも属さないフリーの神様ってコトね!!」
で、真空パックされた袋を切ると、白い気体で形創られた人型の神様が微笑んで現れる。
29歳、独身、バイト生活で、ワンルームのアパート暮らし、彼女はいないし、友達もどちらかといえば少ない方の川田にとってこの神様は、良い話し相手になってくれた。
「神様!あんた!意外といいヤツじゃんか!!」
「川田君!キミもなかなか素直で見込みアル人間だよ!」って気さくな感じ…
1ヵ月後…
『これからの社会人にとって何より大切なのは心地よい睡眠』だよって神様に薦められて48万円の高機能布団セットがワンルームに敷かれていた。
※次のお題、「紛失届け」「砂場」「肩こり」
66 :
白木の子:2006/10/04(水) 21:14:28
「紛失届け」「砂場」「肩こり」
……あれ? ない。
おかしいな……、どこだっけ?
学生服に存在しているポケットは全て探した。
ない。
冷や汗はとどまることを知らないようだ。次から次へと噴出した液体は、瞬く間にカッターシャツを染めた。
「……どうした? 早くしてくれんか」
担任の大木は持病の肩こりをさすっている。
(鞄の中か!)
と直感したが、肝心の鞄が無い。どこへやった?
……あ、そうだ。思い出した。
「鞄忘れてきたんで取って来ます」
大木のぽかんとする顔をなるべく見ないようにして、鞄を忘れたと思われる砂場へダッシュ。
よりによって鞄を忘れるとは……。
がらがら、と大木のいる教室のドアを開け、僕はそれを差し出して言い放った。
「鞄無くしました。これ、紛失届けです」
67 :
白木の子:2006/10/04(水) 21:15:51
次は「万」「社」「翁」で
「万」「社」「翁」
忘年会の席。胸のすくような音と共に、僕の頬に激痛が走った。
酔った勢いで同じ社の先輩であるK女史に迫り、ものの見事に拒絶を意味する張り手を食らったのだ。
K女史は、入社以来見たこともないような鬼の形相だった。これが普段手取り足取り優しく仕事を教えてくれていた美人のK女史の本当の姿なのかと思うと、今までの酔いと思い上がりが一気に醒めていった。
事の起こりは、昨日の社でのやり取りだった。社で翁とまで呼ばれる窓際族代表のGさんから、K女史の今までの男性遍歴を聞かされたのが間違いだった。
K女史は毎年新入生の教育係を任されているというのだが、その中でも深い関係になった男達は、必ずと言っていいほど本社へ栄転になるという。
社の万事は任せろ、と豪語する古株の言葉は、出世の秘伝書を覗き見たような衝撃を僕に与えた。そしてそのターニングポイントは、忘年会と相場が決まっているそうなのだ。
忘年会で深い仲になった男たちは、公私共に女史から手ほどきを受け、翌年の人事異動で栄転していくという。
忘年会でのプロセスは分からなかったが、その伝説に自分も乗ってみたいと思ったのが運の尽きだった。
いたたまれない気持ちのまま忘年会をやり過ごし、お開きの声と共に早々に店を出た。
夜風に当たると幾分か気持ちはやわらいだが、明日からのK女史との関係を考えると、溜息を吐かずにはいられなかった。
「よかったら、一緒に帰らない?」後ろから声。
振り返ると、酔いの所為か薄っすらと頬を染めたK女史が、亜麻色の髪をかき上げながら佇んでいた。
次は「自暴自棄」「ハッタリ」「飛球」で。
その時僕は自暴自棄になっていた。
僕は失敗していた。
その時の僕の気持ちは世界の一番深いところにあったのだ。
それなのに世界は僕をあざ笑うかのように普段と何一つ変わっていなかった。
乱立する高層ビル。その周りを飛ぶ飛球船。
僕がこの世界から消えても変わらないことだろう。
懐にはお金がほとんど無い。
自分にハッタリをかましなが歩いてきた人生だがもう保たないようだ。
そう、ハッタリと自暴自棄これが自分の人生のキーワードだった。
あの飛球船を作ったのは僕だ。
僕は発明家だったのだ。
あの飛球船の構想は昔からあったものだ。
だけども細部まで設計する自信は僕には無かった。
それでも投資家と自分にハッタリを掛けて計画の実行まで漕ぎ着けた。
だけどそこでどうするべきか分からなくなった。
そこで僕は自暴自棄になった。ところが計画はどんどん進んで行った。
そして完成した。
僕は心底驚いた。
僕はただ部下達に適当な指示を与えていただけだったのだ。
そして翌日、僕は投資家達に呼び出された。
大金を渡され追い出されたのだ。そして自暴自棄になった。
その結果がこのザマだ。
きっと僕は明日も明後日も自暴自棄からハッタリに気分が変わるまでこの辺りをぶらぶらしつづけるだろう
その時僕は自暴自棄になっていた。
僕は失敗していた。
その時の僕の気持ちは世界の一番深いところにあったのだ。
それなのに世界は僕をあざ笑うかのように普段と何一つ変わっていなかった。
乱立する高層ビル。その周りを飛ぶ飛球船。
僕がこの世界から消えても変わらないことだろう。
懐にはお金がほとんど無い。
自分にハッタリをかましなが歩いてきた人生だがもう保たないようだ。
そう、ハッタリと自暴自棄これが自分の人生のキーワードだった。
あの飛球船を作ったのは僕だ。
僕は発明家だったのだ。
あの飛球船の構想は昔からあったものだ。
だけども細部まで設計する自信は僕には無かった。
それでも投資家と自分にハッタリを掛けて計画の実行まで漕ぎ着けた。
だけどそこでどうするべきか分からなくなった。
そこで僕は自暴自棄になった。ところが計画はどんどん進んで行った。
そして完成した。
僕は心底驚いた。
僕はただ部下達に適当な指示を与えていただけだったのだ。
そして翌日、僕は投資家達に呼び出された。
大金を渡され追い出されたのだ。そして自暴自棄になった。
その結果がこのザマだ。
僕はぶらぶらしつづけるだろう。明日も明後日も。
自暴自棄からハッタリに気分が変わるまで
次は「紺」「海」「機」です
もういい加減にしれ!下手糞すぎて段々腹が立ってきた。
でもちゃんと読むあなたが私は好きです
1 :名無し物書き@推敲中?:2006/09/20(水) 23:05:54
即興の魅力!
創造力と妄想を駆使して書きまくれ。
お約束
1: 前の投稿者が決めた3つの語(句)を全て使って文章を書く。
2: 小説・評論・雑文・通告・dj系、ジャンルは自由。官能系はしらけるので自粛。
3: 文章は5行以上15行以下を目安に。
4: 最後の行に次の投稿者のために3つの語(句)を示す。ただし、固有名詞は避けること。
5: お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。
6: 感想のいらない人は、本文もしくはメール欄にその旨を記入のこと。
いやそこじゃなくて誘導先は簡素だろ元来
もういいんじゃない感想スレ別にしなくても、感想スレ全然書き込みないしさ。
分ける意味ないよ。
わかりやすくていいじゃん。ココだけで…
『下手糞』てなんだよ。
勝手に造語つくるな馬鹿
へたくそ 4 0 【《下手》▼糞】
(名・形動)
〔「下手」を強め、けなしていう〕(技術などの)非常にまずい・こと(さま)。そのような人をもいう。
「―な字」「あの―め」
紺 海 機
野球部の練習試合があると言う事で、友人の野球部員に調子を聞いてみた。
「今度の試合見に行くぜ。どうよ?新入部員とか使えそうか?」
「まぁ、人数ぎりぎりだからな。唯一のピッチャーが引退したばかりだから新人でも
機会があれば使って行かないといけないんだけど……」
「なんだ?問題児だったりするのか?」
「ああ。大分な。他の部員とだいぶ毛色が違う」
「具体的にどんな奴なんだ?」
「ひとことで言うとだな、そう、濃紺――だな」
「ノーコンか。でも臨海合宿の後だろ試合は。猛練習するしかないな」
「練習じゃどうにもならないよ。本人のこだわりだからね」
「こだわり???」
そして試合の日。機転の利く人ならもうおわかりだろう。試合は中止された。
そう。話に上った濃紺のピッチャーのために。
「まさかそうくるとはな……」
「だから言ったろう奴は濃紺だと……うちの部は昔から赤なんだよ!」
試合当日マウンドに立ったピッチャーが履いていたものは……ブルマーだった。
もはや何も言うまい。いや、何も言ってくれるな。これで終わりだちくしょう。
「秋」「職」「ゲイ」
>>81 そんなに恥ずかしがるな、
今回だけは大目に見てやるよ
春が過ぎ、夏が来て、秋になった。
大学を卒業してから既に半年。ニートという新しい肩書きにも大分慣れた。
兄は新語に慣れないのかそれとも故意にか未だにプータローと揶揄しているが。
大学進学者さえ稀な過疎の村では、二流でも都会の大学に合格した者はちょっとした有名人になる。
合格発表の日には、縁遠い親戚や幼稚園の先生などから次々と電話がかかってきたことを覚えている。
そして常は酒を嗜まぬ父がビールを一本空け酩酊したことも、母が隠れて何度も涙を拭っていたことも。
そんな田舎だからこそ、手に職のない者は却って馬鹿にされる。不当とも言える程に。
兄は何も言わないが、物心がついてから20年近くも住んだ村のことだから厭でもよくわかる。
だから母には言えない。在学中父が他界してから、慣れないパートで懸命に仕送りしてくれた母には。
就職の夢が潰えた時に兄に頼み込み、中小企業にSEとして採用されたと口裏を合わせてもらった。
中学に入った頃気付いたゲイの性向を自身が隠し通していたこともあってか、彼は快く協力してくれた。
母は電話口では淡泊だったが、その日の夕飯は赤飯――陰膳二杯を添えた――だったと兄から聞いた。
その兄が今電話で母の末期癌を告げている。今日は求人情報も読めそうにないや。ごめんね、母さん。
「気配」「熟練」「被爆」
「気配」「熟練」「被爆」
しゃか、しゃか、しゃか。しゃか、しゃか、しゃか。
ああ、今日も来ているな。厨房から音が聞こえる。裏口ドアの鍵穴に差し込んだまま親指と人差し指で挟んだ
鍵をゆっくり左へとまわし戻した。
腕時計の針を確認すると深夜の三時をすこしまわったところだった。別に恐怖心はない。ただ彼が来ているとき
は店内の電灯がつかないのである。懐中電灯はどこにあったかな。頭の中で思い出す。ドアを細くあけると彼の
気配とともに悲しみが流れ出てくるような気がした。一瞬、やめておこうか。と、迷いがよぎる。身体に重く溜まっ
た疲れがそう思わせるのであった。空を見上げると満天の星が輝いている。夏の夜風が首筋を撫でた。いや、彼
に会おう。そう思い直しドアを大きく開く。
ステンレスのシンクが弱い懐中電灯の光を跳ね返す。左から右へと大きなシンクをみかん色の光輪が照らし、
続いていくつも並んだガス台を照らすのであった。居た。無心に中華鍋をふるう彼がいた。
しゃか、しゃか、しゃか。しゃか、しゃか、しゃか。
私も若い頃、重い中華鍋のなかに砂をいれさらに重くして握力を鍛えたものであった。時を刻むことを許されな
い彼を見ると、初心を思い起こすとともに熟練にはまだほど遠いことを痛感するのであった。被爆の記憶が残る
地に店を構えた私の戒めとしてコップに一杯の水をそっと供えてから店をあとにした。そういえば、明日は八月の
あの日であった。ここ数週間忙し過ぎて、人間らしく生きることを忘れていた。嫁さんの怒った顔が頭に浮かぶ。
明日、起きたらすぐに誕生日プレゼントを買いに行こう。生きている人間のほうがよっぽど怖いのであった。
「灯台」「デジタルカメラ」「さんま」
86 :
白木の子:2006/10/12(木) 20:07:18
秋刀魚を釣る。それが香代の夢だ。
「……今日は記念すべき50回目の釣行」
竿先にひっついている発光体を眺めて腕を組んだ。
特に何と言うわけでもないが、『秋刀魚を釣る』と言うばかばかしい計画にもう2年も付き合っている。
大体毎週土曜、仕事も無く何もすることが無いので困るわけではないが、長いこと竿先を見ているなあ、と最近思う。
灯台の明かりが遠くでくるくるしている。というか、夜は釣れんだろう。
「さあさ、今日こそは秋刀魚を釣るよ、諸君」
「釣れるといいな、何か」
そうだ、別に秋刀魚じゃなくてもいいのだ。まあでも、そういうと香代はふくれるので濁しておく。
……!
竿が揺れた。断続的かつ不感覚。これは魚の動きだ。タイミングを見計らって竿をしゃくる。
乗った。
「おい、何か掛かった!デジカメ!」
「おお!」
なかなか引きが強い。もしや秋刀魚か、と期待してしまう。
所詮魚類だ、ぐいぐいと糸を巻くとそいつは海面に浮上。細長い。
釣り上げた魚体を、デジタルカメラに収める。
「……これ秋刀魚じゃないか?」
とうとうやったのかもしれない。白銀で細長の魚体、これは如何見ても……?
と、隣を見ると、香代が真剣に魚を見て一言、
「ダツだね」
おいしく食べた。
次は「希望」 「テロリスト」 「宮殿」
この国の全ては彼女が握ってる。
あの女の権力の前には、俺の抗いなど吹いて掃くような物だろう。
そんな事は重々承知している。だが抵抗を続ける限りそこに「希望」もあり続けるのだ。
だからテロリストである俺は、今日も戦いを挑む。
階段を降りれば、あとは彼女の宮殿までまっすぐだ。
優雅に動く影がすりガラス越しに踊っている、間違いないあの女だ。
情けないが、吐く息が震えているのが自分でもわかる。
俺は胸の前で十字を切ると、意を決して廊下へと這い出した。
後はもう無心だった。繰り返された訓練のままに自然と体が動くにまかせる。
素早く扉を開き、中へとすべり込む。完璧だった。完全に彼女の隙を突いていた。
その時、俺の耳には成功の足音すら聴こえ始めていたのだ。
だが、俺が足音の主と抱擁を交わすことは叶わなかった。
気の緩みなどなかったと信じたい。しかし俺は後ろに忍び寄るもう一人の気配に、直前まで気が付かなかったのだ。
手遅れながら振り返った俺の目に映ったのは、小さな少女だった。怪訝そうな目で俺をみつめている。
「お兄ちゃん何してるの?」
俺は作戦の失敗を悟り、天を仰いだ。
すまない部屋で待つ我が子猫たちよ…どうやらお前達にから揚げを持って帰ってやる事は出来なくなってしまったようだ。
テーブルの向こうでエプロンをした母が、ニヤニヤと笑っていた。
「抗い」「抱擁」「気配」
全てを失った若者は、自らの起源を求めて旅に出た。
川を泳いで、滝に出た。
かつて、自分の母が、最初に父と抱擁を交したという滝だ。
しかし、彼は心の中で呟いた。「ちがう…ここじゃない」
幼少期を視聴覚障害の中で過ごした彼には、気配で、それが解るのだ。
さらに山を上り、母が父と食事をしたという山頂に立った。
巨大な朝日が若者を照らす。「私は、ここで発生したのか?」
…真相に近づいた感はあったが、今ひとつだ。
湖に下りた若者は、かつて女学生時代の母が住んだ家に辿り着く。
「ここだ!」
直感した。ここが自分の起源だ、自分がこの世に発生した場所だと。
目前に、小さな古びたドアがある…心に、迷いも抗いもなかった。
ノブに手を伸ばしたその瞬間、背後の自転車から「声」が呼びかけた。
「あっ!」と仰天した。目前にルーツそのものが立っていた、気配で解る。
声は言った。「まいどあり、米屋です」
※眠くてよくわかんない、見逃して。
次のお題は:「ロケット」「イヤリング」「光子エンジン」でお願いしまふ。
89 :
名無し物書き@推敲中?:2006/10/14(土) 10:23:39
【ワープ技術】
有機的デザインで形創られた操縦席の計器からは絶えず警告サインが出されていた。
やはりそうだ。光子エンジンの出力は落ちてきている。
このままでは、人類初の外宇宙探査隊7名の乗った船はブラックホールの特異点に吸収され消滅する。
異星人の遺跡から発掘されたロケットを私たち人類が使いこなす事は出来ないのか…
徐々に前方の空間の歪みが大きくなってきていた。
「ねえ!たかしく〜ん。聞いてるの」
たかしはハッと目覚め、自分が表参道ヒルズにいる事を思い出した。
ああそうだった。
最近知り合った、ななかちゃんに何か欲しいものある?
って、この店に入り、指を指されたイヤリングの値段の丸のあまりの多さに異次元に飛んでしまっていたんだった。
「ねえ。な・な・か・ちゃん…この隣の小っちゃくてかわいらしいイヤリングにしない?」
これまで、天使のようだった、ななかちゃんの表情が別人のように変貌した。
別れぎわ目も合わせないで、ななかちゃんは、こう言って地下鉄入口へと消えていった…
「たかしくん!あれはね。イヤリングでは無くてピ・ア・スっていうのよ」
※お題は継続で・・・
2人乗りの星間探査船の流線型ボディの右脇を、青白い光が掠める。
小惑星帯で未知の生命体のものと思われる遺跡を見つけた俺は、転位ポイントだけ記録してさっさと
帰れば良かったものを、嬉しくてつい長居してしまったのだ。凶悪な宇宙海賊船に見つかってしまった
のは俺のミス。それにしてもこの出力の落ちかたは異常だ。まるでエネルギーを吸われているようだ。
「どうやら光量子と熱量を同時に吸収する線形の半連続場らしいわね。射程も熱レーザー並」
「ユリ!わかってるならどうにかしてくれよ!」
「知らなーい。あなたが浮かれてウロウロしてたのがいけないんでしょ」
コパイロットが欠伸をする。全く捕まったらこいつだって絶対無事じゃすまないというのに。
「頼む、お前の好きなナッツ・クロケットやるから!」
「一枚?」
彼女が横目でチラリとこっちを見る。ああ性格さえこんなじゃなきゃ可愛い女なんだが。
「わかったよ。二枚、いや食料庫にある分全部やるから!」
にっこり笑ったユリはイヤリングを引っ張ってケーブルを延ばし、コンソールに差し込んで目を閉じる。
途端に船の出力が上がり、海賊の船は瞬く間にレーダーから消え失せた。
光子エンジンは燃料貯蔵スペースも含めると小型化に限界があり、小型船の長期運行には向かないと
される中、搭乗者の魂の持つ膨大なエネルギーを物理的出力に変換する霊子エンジンが試験的に
搭載され始めている。俺の船もその一つなのだが、「霊」の精神状態に大きく左右されるこのエンジン、
完全に実用化するのは難しいんじゃないだろうか。ユリの顔と、残る長い帰路を思い、ため息を吐いた。
89氏のがすでにあったので、ロケットは変則的な使い方をしたにもかかわらず
長くなってしまいました。出題者さんごめんなさい。
次は「タオル」「獣」「波」
91 :
名無し物書き@推敲中?:2006/10/14(土) 20:18:09
風呂から出て、一緒に入っていたその獣の体を拭いてやる。
それは気持ちよさそうに目を細めていた。寿命は人間よりも長い、
遺伝子工学の末に産み出されたそれは、未開惑星での探査をする者には、
欠かす事の出来ない相棒だった。でも僕はそう言うタイプの人間じゃない、
・・・こいつは、知り合いの飼っていた奴だ。
発見されたその、新たな未開惑星には広大な氷河が広がり、植物はおろか、
そこは生物の棲める環境では無かった。知り合いはそこにこいつを連れて、
そして調査に出向いて、そして遭難した。絶望視されてから約二年後、
こいつだけが生き延びていて、回収された。それを僕が引き取ったのだ。
風呂から出ると、そこにあるタオルにそれはくるまった。ぼろぼろで、
それは既にタオルとは言えない。回収された時に共に有った物だ、知り合いの、
その名前が書いて有り、見つかった時には血糊が付いていた。幾ら極限状態でも、
彼らが耐えられるとしても。食料も無い場所で二年は持たない、彼は何かを食べていた。
やがてそれは、その場で眠り始めた。時々その寝顔が、何だか遭難した知り合いの、
それに見えてくる事がある。タオルと共に有った、白骨化した死体。腐った形跡はない、
白い骨と、血で汚れたタオルと、その獣だけがそこにいた。波の様に、何かがざわめき。
ただ、その獣は大事にしなければ成らないと、思った。彼をそれは、看取ったのだ。
お題「映画」「しらふ」「巨乳」
【たかしリターンズ】
惑星《エレストラル》は銀河帝国政府のお尋ね者エイリアンたちの溜まり場だった。
緑色の皮膚のエイリアン、外骨格の昆虫型エイリアン。そして巨乳の6つの乳房をぶら下げた女性エイリアン…
精神高揚作用を及ぼす違法香料が煙る酒場にダダ一人、しらふの銀河帝国捜査官GUEの私が入っていった。
居た!あいつだ!賞金1,000,000,000バラッチの賞金首のガレバシッ星系人。
「ねえ!たかしくん!!聞いてるの!!」
たかしはハッと目覚め、自分が《ホテルベルサイユ》にいる事を思い出した。
ああそうだった。
やっと機嫌を直してもらい、一緒に映画を見て、そして…奈々香ちゃんからの最高の言葉…「わたしを・あ・げ・る・」
って、このラブホテルに入り、お互いシャワーを浴びて…そして…
日本人標準形体よりかなり小さめの僕のアソコに視線が固定された時!
「あ…」
と、思わず落胆の表情から発せられた奈々香ちゃんの言葉を耳にしたとたん、異次元に飛んでしまっていたんだった。
「ねえ。な・な・か・ちゃん…あ・あの…小っちゃくてかわいらしいでしょう?☆★!」
これまで、天使のようだった、ななかちゃんの表情が別人のように変貌した。
結局、何も出来ないままで、別れぎわも目も合わせてくれない、奈々香ちゃんは、地下鉄入口へと静かに消えていった…
※続編書いてみた。下ネタでごめん
お題は、継続で…
彼女と下校する道沿いの、ボロい公民館のすぐ横に、ある怪しい建物ができた。
「精子・卵子バンクだってさ!やだねー」少年は彼女にグチる。
「世界が人口多数決になってから、少子化対策省が人口増やそうって」
「うん、知ってる」彼女は頷いた。「先月、お父様に言われて卵子提供してきたから…」
少年は驚愕した、余りのショックに棒立ちだ。 「あ、校舎に縦笛忘れた、またね!」
急いで駈け戻り、水色のドアを力任せに叩き、受付に駆け寄った。
「あの、あのですね。ある人の卵子なんですが、返してもらうとか、それとも」
「だめです、返せません。ランダム選択された精子を受精させ、それから…」
後は聞こえなかった、目の前が真っ暗だ。誰とも解らない無作為抽出の…そんな!
彼は自分に言い聞かせた。「落ち着くんだ、こうなったらやるべき事は一つしかない!」
承諾書にサインして中に進むと、「採取室」にはそれなりの映画が流れていた。
巨乳の女が月夜の湖に沐浴するシーンが、もう、あからさまに流れていた。
「昔、あれだけ見ちゃダメって言っといて」と、彼は椅子に座る「あーあ…勝手だよな」
こんな設備に少年はしらふで毎日通った。自分の確率を増やすには、これしかないから。
すまなそうに手を振る彼女に送られ、少年は今日もドアを叩く。大人の身勝手を呪いながらも。
※下ネタ便乗スマン;
次のお題は:「火星」「貝柱」「マロニエ」でお願いします。
少年時代に父親からもらったカメラを、俺は今でも大切にしている。
ドイツイハゲー社製一眼レフ。今では父の形見だ。
こうやって手に持っていると、広がった田園地帯や、
近所で遊ぶ友人達を撮っていた頃を思い出してくる。
高校に入った頃には、付き合っていた彼女を良く撮ったりしていた。
彼女は、いつも小首を傾げるお決まりのポーズで、爽やかな笑みを浮かべていた。
俺は、被写体だけにピントをあわせたその写真を、いつも身に着けていた。
「俺、絶対プロカメラマンで成功してみせるよ」
その頃の俺には、どんな困難でもやってのけるという熱意がみなぎっていた。
それからもう十年。現実は厳しく辛いものだった。
人脈というものがどの世界にも必要だということがわかった。
今の俺は、アルバイトで入ったポルノ映画の専属カメラマンとして働いている。
映画館の前に立てかける、宣伝写真を撮るのが仕事だ。
「今日は新人さんがくるから、きっちり撮ってくれよ」
女達があられもない姿で、レンズ越しにどれほど挑発しても、俺はいつもしらふだ。
「巨乳らしさを強調するように撮れよ。ほらもっと寄れ馬鹿」
背後から監督の怒号を聞きながら、俺は今日もシャッターを押す。
熱意?……そんなことは関係ない。
明日も、あさっても。俺はシャッターを押し、生活していくのだ。
「山」「村」「峠」
95 :
94:2006/10/15(日) 02:35:49
↑
これは、お題が「映画」「しらふ」「巨乳」の分でした。遅かったです。
次のお題は、93さんの
「火星」「貝柱」「マロニエ」です。スマソ
96 :
名無し物書き@推敲中?:2006/10/15(日) 11:20:16
「街並み」
火星の重力は地球の約3/5位しかない。そこに人類は半円形の巨大なドーム、
それを張って居住環境を確保した。ただ重力の低さは如何ともし難い、人々は、
やはり段々筋力が衰えて、虚弱に成っていた。僕の暮らすその都市も今は、
もうかつての1/10も人が居ない。殆どが病人だ、筋力低下かリハビリの為に、
僕らはここにいる・・・だから、ここには墓が多い。
街路樹として、マロニエの樹が植わっている。その通りを歩きながら不意に、
綺麗な女性が道を横切っていった。歩いて、じゃない、それは飛んで、ふわりと、
スカートをなびかせつつ。面白そうに彼女は着地して、そこで僕と視線が合った。
「この街の方?面白いね、ここ」歳は、僕と同じくらいだろうか。まだ少女の、
そんなあどけなさが残る。観光で来たと彼女は言っていた、そう言う人々も居る。
自分も、そこは話を合わせていた。観光で来ている、「病気です」とは言わず。
お昼時で、二人で近くの寿司屋に。ホタテの貝柱を彼女は頼んだ、美味しいと、数皿。
また少し話して、僕らは別れた。「さようなら」彼女は別れ際にそう言って、笑顔で、
また少し歩いて、跳ねて。そして何か嬉しそうに、やがて視界から消えていった。
・・・僕らに、未来は有るのだろうか?と、ふと考えた。自分達は、ここにいるのだ。
次のお題は「山」「村」「峠」 で。
なんじゃそりゃ
98 :
白木の子:2006/10/15(日) 21:19:17
「山」「村」「峠」
自転車にはまっている。俗に言うMTBという種類で、ゴツい車体にいぼいぼ
のタイヤで、主に山道を爆走する、という物だ。
始めようと思って始めたのではなく、中学からの同級生の誘いで一度大会に
出たことがあって、打ち上げのビールが異様に美味かったのが大きな理由かも
しれない。
それ以来毎年その大会に出ている。もう今年で3回目だ。
それがまたハードで、4人で交代しながら4時間、峠道の登りから始ま
るコースを4時間走りきる、というもの。
1年目はさすがに厳しかった。飛び入り参加だったのだが、中学以来
運動という運動をしたことが無かったため1週目の途中で吐き、それ以
降タオルの顔面にかけて倒れてしまっていた。
その反省をふまえちょくちょくと練習を重ねた結果、体重は5キロ落
ち、2回目の大会では3週回ることができた。
吐き気を催すことは皆無で、林道から覗く池や村を見て楽しむ余裕さ
え出てきた。
そして3回目、とうとう自転車は10万円の大台を突破。今年の目標
は4週走ること。
「おーい! 返ってきたぞ!」
さあ次は俺の番。一時の精神集中。
「行って来る!」
応援の声が後ろで響いていた。
次は「ジャスティス」「コーヒー」「善玉菌」で
99 :
名無し物書き@推敲中?:2006/10/15(日) 21:51:20
「ルーチンワーク」
朝のコーヒーを啜りながら、朝食。日曜の朝だ、新聞を読みTVを見ながら、
・・・息子は、TVに映るその子供向け特撮番組を見ていた。見ていて、
ちょっと面白いとは思えない。ご都合主義で馬鹿らしい、空想のそれだ。
だが子供は喜んで見ている、気楽で良い、ああ、明日からまた仕事だ。
「ジャスティスソードォ!」「うぎゃああ!」
敵の怪物がそれで倒される。息子はその剣の玩具を持っている。正義の剣、
それで世の中前に進むならどんなに。すると倒された筈の敵が復活して巨大化、
先週もそう言えば同じ展開だった気がする。ちょっと聞いてみた、飽きないのか?
「格好良くない?」そう言う息子に、妻が食後のデザートを手渡す。その、
胃の中の善玉菌を増やすと言う触れ込みのヨーグルトを頬張りつつ息子は、
また、TVに向いた。ちょっと解らなかった、ルーチンワークだ・・・彼らも。
やがて巨大化した敵は、出てきたロボの必殺技で倒される。次回も多分同じ事の、
その繰り返しだろう、ちょっと苦笑した。どの世界の大人も大変だ、仕事なのだ。
うーむもう一声か。ま次のお題「学者」「生花」「なた豆」
自分で陶酔しているだけの文章を垂れ流すな!!
101 :
名無し物書き@推敲中?:2006/10/15(日) 23:55:24
>>100 それなら自己陶酔(自己満足)で終わらない文章を見せてもらおう。
このお題で一本書きな。逃げんなよ。
102 :
名無し物書き@推敲中?:2006/10/16(月) 00:16:38
おまえに小説は無理だって
諦めて働け
バカ残飯(←ATOK標準単語登録済み)
【瞳の秘密】
「ああっ!!」目覚めると枕もとの時計は午前1時40分をさしていた。
また同じ夢を見た。
クラスのみんなからイジメを受けつづけて過ごした悪夢の日々。
夢に出てくるのは小学4年生の時のあの時!あの瞬間の夢…
密かに想いを寄せていた川村沙耶ちゃんが私に見せた『弱い者を哀れむまなざし』
あの日を境に私は人間関係が苦手になり苦悩の人生を歩み続けている。
その分、勉強は人並み以上にがんばり、進学、就職も希望通りに出来た。
夜が明けると朝一番の新幹線に乗り、名古屋で開催される次世代エネルギーを研究している学者が集まるシンポジウムに出なくてはならない。
だが、眠るのをあきらめてテレビのリモコンに手をのばし、チャンネルを流す。
関東ローカル局では最近めっきり見なくなっていた落ち目のタレントと通販会社の変な社長が なた豆茶 がブームになっていると笑顔たっぷりで繰り返していた。
いろんな効能を紹介し最後になんと薄毛にも効くと知り、50歳を越えてかなり淋しくなっている頭の私の気持ちを揺さぶってしまい、あわててチャンネルを変える。
その日のシンポジウムでは、私の専門分野である海洋温度差発電システムの最新技術について有益な発表が出来、充実した気持ちで控え室に戻った。
するとテーブルに一つの花束が届けられていて中村生花店と書かれた伝票と共にきれいな封筒に入った一通の短い手紙が添えられていた。
川村沙耶と名前が記されていて、震える手で封を切った。
手紙にはあの時のあの瞬間からの川村沙耶ちゃんの後悔の日々がつづられていた。
涙をおさえる事が出来ずにいる自分がそこには居た。
たとえこの手紙ですべてが変る事はないかもしれないが、心の奥底の何かには触れた。
この日の夜、午前1時40分を過ぎても寝息をたてて眠る私がいた。
※ちょっと長くなったスミマセン。(いちおう私、
>>100ではありません)
お題は継続デ…
まあまあいいけど、まだまだだな。
105 :
名無し物書き@推敲中?:2006/10/16(月) 07:24:52
「なた豆茶」
・・・気が付くと、僕は学者に成っていた。
大学に進学、何とは成しに農学部へと進路を取った。授業料を払いつつの作業、
畑の穀物他と格闘する日々。助手として、助教授として、そのうち月日は流れ、
何だか気付いたら教授になっていた。なた豆を見つつ、今日のデータを録る。
適性があった、らしい。本来の指向は生花だった。花屋をしていた人が居て、
気が付いたらその道を志ていた。大学には出なければ成らなかった、しかし、
今思うとつまらない夢だ。その店に自分の花を送るのだ、何だかそこにロマンを。
結局、僕は生花業者には成らず、そのまま研究室で今日もキーボードを叩いている。
地味な作物だ、なた豆に、どうも何かを見出したのか。ともかくそれの育成に没頭、
やがて様々な効能を発見し、特に特殊な製法で作る「なた豆茶」と言うのがブームに。
良くも悪くも変な意味で時の人に成って。それから教授になって、その前に妻を。
家に帰る。色とりどりの花々が並ぶ店先を通り奧に。若い頃の夢は結局成らなかった、
僕は今日もなた豆と共に過ごして、花に囲まれた我が家に帰る。棚の隅になた豆茶。
・・・手入れをしていた妻が出迎えてくれた。結婚してからも花屋を続けたいと、
彼女はだから今日も、花を売っている。店の棚の隅に、なた豆茶の袋が見えた。
お題継続なのであえて被らせてみたりw。
次のお題「川遊び」「セオリー」「鹿」w。
言い訳は要らない
小説を書けというのに。
【あいつと残した宝物】
三好貞行は《鹿注意!》の標識を見るといつもふるさとの北海道の標津町に戻ってきたことを実感する。
一昨日、小学校から高校までずっと一緒だったあいつ…あいつが死んだ。
小さいころからあいつは勉強も野球も女友達の数もいつも俺の2,3歩先を歩いていた。
そんな俺は高校を卒業して東京へ、ヤツは地元に残った。
10年ぶりに戻ったふるさとは、どこかよそよそしく冷たい。
葬儀が終わり帰路へ向う道…あいつの遺影の笑顔が思い出されハンドルを強く握り締めた。
ふと右のウィンドウに懐かしい風景が映る。
ハンドルを操作し、小学生の時の夏休み、あいつと毎日遊んだ小さな川に降りた。
多分、俺らが川遊びをした最後の世代だと思う。
すぐに《ドラゴンの大岩》は見つかった。
「ココだ!」あの頃、夢中になっていたファミコンのRPGゲーム上に出てくる大岩と重ね合わせ、この岩をそう名づけた。
あの時もあいつはセオリーも何も構わずゲームを強引にそして見事にクリアして行ったっけ!
俺には東京に戻ると無理をして始めざるを得なかった事業の資金繰りが待っている。
何を思ったか岩の前であいつと唱えていた呪文をそっと口ずさんでいる俺がいた。
『こめみ かほひ もひばじ げゆぞ ひまね けめほべ むずと ひむふ むいむま にるつ うべく うれしな へさま ねよひ ぬせぬね』
復活の呪文と共に、あいつと一生懸命生きていた子供の頃の気持ちが蘇ってきた。
俺はさけぶ。「おい!助けてくれるか!俺にとっておまえは勇者…だった」
これからは呪文を唱える度に俺の心にあいつが蘇って先を歩いてくれるのだろうか…
※また15行越えた。スミマセン
お題は「オーケストラ」「一枚のはがき」「腕時計」で…
無駄な描写が多すぎる、2点。
下手すぎ
111 :
白木の子:2006/10/16(月) 19:08:37
「オーケストラ」「一枚のはがき」「腕時計」
腕時計は既に3時を指している。下手をすれば間に合わないかもしれない。
単純に言うとデート。複雑に言うと彼女が送った懸賞が当たって、オーケス
トラ公演にペアご招待。
その彼女がまた珍しい人種で(本人に言うと激しく蹴られる)無類のクラシ
ック好きなのだ。
付き合いだす前からベートーベンやらチャイコフスキーやらを吹き込まれ、
挙句の果てにコンサート。寝ちゃうっちゅうねん。
俺が舟を漕いでいるときの彼女の得意技は、ハイヒールカカト指圧。痣がで
きた記憶がある。
間に合わないなんて事になれば、指圧どころかライダーキックをお見舞い
されるだろう。
さらには、持っていてくれればいいものを、1枚のはがき大のサイズの入
場券を俺に持たせ、当日キャンセルを不可能なものにしている。
とりあえず今から10km離れた辺りまで行かなければいけない。
といってもなんだかんだ言って、結局彼女の元に行ってしまうのが男の性
なのか、とアクセルを踏みながら思った。
次は「ダンボール」「加圧」「自爆スイッチ」にて
ふーん ってかんじだな。何の興趣もない。
寒い冬のある日僕たちのダンボールハウスを撤去しようとする前フリで市役所のオネエさんがやってきた。
「皆で輪姦するど。」リーダーの酔っちゃんがいう。流石前科持ち。誰が賛成反対するでもなしに
する方向になっていった。「サルが進化したのが男。女は鯨の末裔じゃ。」神話のような進化論を
松さんが目をひんむいて力説している。嫌がるオネエさんはダンボールの中に無理やり招待された。
「こうして下腹部を加圧しながらな。」松さんはもう最高潮だ。オネエさんもそろそろだ。
「吹けー!!鯨の遺伝子!!」その瞬間、ダンボールハウスは眩い閃光につつまれた・・・
ちゅどーん!!公園に爆風が吹き荒れる。酔っちゃン、松さんは瞬間に粉々になった。紅蓮の炎は全てを染めた。
僕は右腕を失いながらも生きながらえてしまった。
あれから生き残ったメンバーは事件の事を徹底的に調べた、
そして事の真相が明るみに出るにつれ信じられない事実が浮かび上がって来た。
なんとオネエさんは行政が送り込んだ最新鋭アンドロイドだったのだ!!
そしてなぜかあんな所に自爆スイッチが組み込まれていたのだったのだ!!
なんの為に?それはわからなかった!!
次のお題は「ネオン」「スイミング」「子豚」なのだ!!
114 :
名無し物書き@推敲中?:2006/10/17(火) 12:04:10
「異聞」
妖しいネオンが輝く夜の街、私はそこを歩いていた。
足下にプール、子豚が小粋にスイミング中だ。自分も服を脱ぐ、
すると子豚はプールから出て走り去っていった。山の茂みの中へ消える。
イノシシが覗いていた。私は薄く笑ったが特に抵抗もせず、
そこで飛び魚のように平泳ぎを始めた。素晴らしいと、フラッシュ。
惨憺たる有様のビーチサイドに立った私は、その怠惰な周囲を眺め呟いた。
「世界は上手く行っている」世の中はそれに大きく頷き、私は満足した。
お題「グランド」「バーチャー」「ジャスティーン」
それは何か?それは聞くな。
「ハゲワシ」
「ジャスティーン・グランド」それが彼女の名前だ。別名「バーチャー」。Vulture。
鳥だ、死肉を漁るハゲワシの事。その空で敵として彼女の別名を知らない奴は居ない。
出くわした奴が生き残った記録は今の所無い。狙われたらそれは死だ。執拗な追尾、
振りほどけないまま、じわじわと、遊んでいる訳じゃないのに、やがて死んでいく。
何機かが、編隊を組んで挑んだ事が有った。一機が落とされ、2機が死んで、結局、
3機目が長い逃走の末に羽根をもがれ墜ちた。スコアは3上がる、もう数えていない。
彼女は、エースパイロットは狙わない。徹底してザコを狙う。新兵、或いは下手くそ。
見た瞬間に解る、「そいつはもう死んでいるのだ」、なら、死肉を漁る鳥の出番だ。
女神だと、いう奴も居る。撃墜スコアは洒落にならない。戦場では頼りに成る味方だ。
勝つ為の、それは一番効率的な方法なのだと彼女は苦笑しつつ言う。ザコを片づける。
羽根をもがれた鳥はもう飛べないのと一緒なのだと。死神と言う蔑称をむしろ誇りに、
彼女は今日も、死肉を掃除するために、愛機と共に空を飛ぶ。
お題「自爆」「黄昏」「台本」
「世の中はなぁ……」
女は煙草に火を付け、旨そうに煙を吸い込み、そしてゆっくり吐き出した。
少年の頭に銃を突きつけたまま、気怠げに続ける。
「台本通りにゃ動かないようにできてんだよ、坊や」
無造作かつ確かな手つきで撃鉄を引き、欠伸を?み殺す。
蹲る影の震えなど知らぬ気に、乾いた金属の音が黄昏の街角に響いた。
少年はゆっくりと顔を上げ、睨め付ける視線に脅えながら声を絞り出す。
「見逃してはもらえませんか……?」
年齢―12歳と聞いていた―よりもしっかりした声に、女の眼がすっと細くなる。
「それが何を意味するかわかって言ってんのか?」
女の顔を見据えながらゆっくり頷く少年の顔に、最早脅えは感じられなかった。
銃声は一発。
小さい影はゆっくりと地に崩れ落ち、そのままどす黒く版図を拡げた。
「……馬鹿が。今日び自爆テロなんざ流行らねぇんだよ」
女は毒づきながら少年の瞼を閉じた。白く細い指で、優しいとさえ言える程そっと。
「官憲」「暗殺」「後悔」
117 :
116:2006/10/18(水) 05:05:24
5行目が文字化けしたかも。
?み殺す。→噛み殺す。
文章に少し臭みがあったけどいいねこれ。
119 :
名無し物書き@推敲中?:2006/10/18(水) 08:49:48
「間違い」
官憲の職務として、国家機密に当たる物を流出しようとする行為には、
断固として対応しなければ成らないし、今のご時世、その権限も私は、
国の方から与えられている。どんな相手だろうとそこにいる限りは敵だ、
排除する事に何の問題もない。目の前で息絶えた少女を一瞥して自分は、
部下に死体を片づけるように命じた。嫌な時代と言うべきだろうか、
こんな少女がスパイの真似毎をしなければ成らない。ふと思いだした。
「見のがして貰えませんか・・・?」
死ぬつもりで来ているのに、見つかればそれは死を意味する任務なのに。
土壇場でそんな事を言う奴がスパイとして役に立つ訳がなく。私はむしろ、
怒りにも似た思いで静かに引き金を引いた。愛らしい顔、はじけ飛ぶ脳症。
・・・ふと、気付いた。”そんな事を言う奴がスパイである訳がない”。
運ばれる死体に近づき、見る。ボロい衣服、ポケットにしまわれた紙幣、
部屋の中、荒らされた室内・・・ただ、機密文書のファイルは閉じたままだ。
柄にもなく、自分は少しの後悔と共に胸の前で十字を切った。可能性として有る、
この子は或いは、貧しい、ただの泥棒だったのかも知れなかった。金が有りそうな、
家の中を狙った。世の中はマニュアルに外れた事態も起こる物だ。
・・・それは物語には、成りそうもなかった。
お題「競争」「柿」「画板」
>>119 スマソ「暗殺」入れてなかったorz。
3と4行目の間に下記の文章いれちくり。
女性の暗殺者など有り触れている、最も警戒せねば成らない相手だ。
下手なんだよ。臭すぎ。
122 :
名無し物書き@推敲中?:2006/10/18(水) 19:47:01
批評しとらんで小説を書かんか。
123 :
名無し物書き@推敲中?:2006/10/19(木) 15:27:57
そもそも私は競争が嫌いだ。何かにおいて順列を決めるという事が無駄に思えて仕方がない。
例えば徒競走だ。私と誰かが50mを走り、私が勝ったとしよう。
その次に私が転倒して負け、その誰かが勝ったとしたら、その前の勝利はなかったことになるのか?
そんな些細なことで揺らぐ勝利になど何の価値がある?虚しいだけではないか。
私は校庭の芝生に座り、そんなことを考えていた。
目の前には画板に張られた画用紙、それには半分だけ色の付いた校庭の柿の木が描かれている。
あの葉の色はビリジアンかきみどりかで頭を悩ませていると、隣に座って同じ柿の木を書いている彼女が口を開いた。
「わたしが勝ったからおこってるんでしょ」
「おこってない」
「すりむいたひざ、だいじょうぶ?いたくない?」
「いたくないよ」
「いたいくせに。おまじないしてあげる」
そう言って、私の膝に柔らかい手のひらを当てておまじないを唱える彼女。
そしてベルが鳴り、道具をしまって私たちは小学校の一階にある3−Aの教室に戻る。
仲直りのしるしに手をつないで。
訂正しよう、競争もそう悪いものではないようだ。
お題「靴底」「トンネル」「洗剤」
124 :
名無し物書き@推敲中?:2006/10/19(木) 18:16:59
「暗い道の先」
「気持ち悪い・・・」と、連れがそう言った。二人で、
ふとハイキングに来た、その山の、そのトンネルに入って、
もう2時間は歩いている。軽い気持ちだった、長いトンネルだ、
出口には別世界が!と言うのがお約束だが、いい加減長すぎる。
靴底に、ふと奇妙な感触を覚えた。ぬめぬめとしている、異臭もする。
泥?少し違う感じ、何か・・・ブヨブヨとした肉の塊を践んでいる、
ぬらぬらとした感触、気持ちが悪くなった、空気も淀んできた。僕らは、
少し不味い所に踏み込んだと思った。何かが違う、しかし解るのは、今は、
前進するしか無いと言う事だった。
1時間ほど前に、落石が有って。それで少し気を失った、後の話だ。
彼女の友達と3人で山に、と言う誘い、本当は二人で来たかったが、
そのちょっと太った人に”偶然”見つかったらしい、一緒に行くと、
執拗にせがまれてともかく。気付いた時には、その彼女は居なかった。
「別に、置いていく訳じゃないよ・・・どこにいるの・・・?」
彼女が、ふと呟いた。周囲を見回すが人影は無い、言葉の意味を問う、
それもちょっと躊躇われた・・・その後で僕にもふと聞こえた、でも。
僕はそれで、彼女の手を持って走り出していた。後ろは振り返らなかった、
ぬかるんだ足場に幾度も転びそうに成りつつも、やがて出口が見えて。
・・・それから、僕は病室で目を醒ました。顔に少し包帯をしている彼女が、
嬉しそうにのぞき込んでいた。突然の落石で生き埋めに成って、僕らは。
洗剤で、僕は幾度も体を洗った。発見された時、僕らは血塗れだったらしい、
僕らの傷は大した事は無かったが、あの彼女は、何故か助からなかったらしい。
お題「木綿」「オーバーチュア」「事務」w
もう足を洗った方がいいよ。下手にもほどがある。
「すみません部長、ここの記入なんですが」
由美子は黒い帳簿の経費の部分を指差して言った。
「ああ、それがどうした」
部長は山田の呼びかけにオーバーチェアから乗り出すようにして振り返った。
「木綿の入荷に関しては、隣の事務室で計算するように言われたもので
削除してよろしいですか?」
と、由美子は少し高い声で尋ねた。
「あぁ、そうか。忘れていたよ。しょっちゅう記入方式が変わるからな。
本当に面倒くさい、非効率だ・・・・」
部長はまたブツブツと文句を垂れる。山田由美子は自分の席に戻って
机の引き出しからボールペンを取り出すと、木綿の経費に二本線を引いて消した。
ここは洋服会社の会計部。入荷や出荷などの経理を全て請け負っている。
由美子は入社して今年で八年目になる。一度の部署転換もなく同じ事務所で
八年も働いているのはこの会社では彼女だけである。
お題「ソーセージ」「ロンダリング」「UFO」
おもんない
128 :
名無し物書き@推敲中?:2006/10/20(金) 07:43:39
起承転結が無く主人公が非能動的で展開に矛盾がある。
129 :
名無し物書き@推敲中?:2006/10/20(金) 08:16:44
「ある依頼」
彼はその魚肉ソーセージとカップ麺「焼きそばUFO」を私の前に見せつつ、
「ロンダリングして下さい」と言った。何を言われているのか解らなかった。
畜生嫌な汗が出てきやがった!薄く笑うその彼を前に、自分はただ立ちすくんでいた。
「料理人の腕前見せます」と言う実例的講習会の企画。目の前に有る食材、
その中のどれでも2つ選んで、後はジャンルを伝えてくれればほぼなんでも作る。
そう言う触れ込みだった。所詮ジャガイモや豚肉に過ぎない、後は炒め物でも鍋でも。
食える物でさえ有れば有る程度何とでも成る物だ、これでも10年近く続けている。
・・・しかしその二つは目の前に見えなかった。と言うかこの怪しい雰囲気の青年が、
この狭い調理実習室のどこから紛れ込んだのかも解らない。「ロンダリングしてくれ」
何をどうすれば良いんだ!!と言いたくなったが、その雰囲気に異論は挟めなかった。
やがて教室が静まり返っていると、彼は不意にふっ・・・と笑いながらそれを下げた。
「やっぱり、先生もその程度ですか」彼は何故か勝ち誇った笑顔を見せて勝利者の、
恐らくはその雰囲気を纏いつつ、道を避ける人々の間を悠然と歩き教室を出ていった。
・・・暫くした後、救急車のサイレンが聞こえて、捕り物?らしき騒ぎが教室の外で。
「どうもお騒がせしました」と病院関係者らしき人が。教室は安堵の空気に包まれた。
お題「借金」「ギャンブル」「横道」
130 :
◆z/XyGHVvtM :2006/10/20(金) 12:33:32
『芋酒を想う』
亡き父の
書きし文など手にとつた夜は
昔に還りて芋酒
汗水を垂らし働く是れ人ぞ
十八の夜に
父は言いけり
横道に入ればいつか行き止まり
また人生に於いても然り
借金をギャンブルで作り
ギャンブルで返す
これぞ我が道程なり
「詩」「河原」「堤防」
【正直な夫婦】
18時15分、仕事を早く終えた木下加寿子は自宅のある桜ヶ丘駅より一駅手前の紅葉台駅で降りた。
駅前のにぎやかな商店街通りを人の流れにそってボーっと一人、歩く。
女好きで浮気を繰り返し、ギャンブル好きで借金も繰り返す、バカで能無しの夫の事を考えながら歩いていると、いつの間にか、見慣れた横道にそれて歩いている自分に気がつく。
18時10分、仕事を早く終えた木下伸幸は自宅のある桜ヶ丘駅より一駅手前の若木駅で降りた。
駅前のにぎやかな商店街通りを人の流れにそってボーっと一人、歩く。
男好きで浮気を繰り返し、ブランド物大好きで借金を繰り返す、バカで能無しの妻の事を考えながら歩いていると、いつの間にか、見慣れた横道にそれて歩いている自分に気がつく。
日付が変わった深夜2時、2台のタクシーが両方向から同時に近づき停車した。
「あれっ!一緒だったね!!」
と、二人は仲良くあいさつを交わす。
お互いの浮気相手のマンションで過ごした後の帰りだったのだが、何事もないように手をつないで自宅へ入っていった。
借金の請求書は、すべて裕福なお互いの両親の元へ届けられ無難に処理してくれる。
「けさらせら」夫婦は今日も脳天気に幸せに暮らしていました。
※お題は継続デ・・・
132 :
131:2006/10/20(金) 12:47:27
スミマセン先越されていました。↑は無しです!!
お題は
>>130さんの「詩」「河原」「堤防」でお願い致します!!
133 :
名無し物書き@推敲中?:2006/10/20(金) 13:28:02
「座る詩人」
堤防を降りて、自分はその河原に立った。水の流れを見ながら溜息。
座るのにちょうど良い岩が有る、運の良さはまだ自分に向いているな、
・・・そうは思いつつも、押し流れる時間を眼前の川に見る、止まらない。
「ああ、あいつは賭博師としては下だな。大勝ちを狙いすぎるんだよ」
ふと小耳に挟んだ陰口が、何故か今思い出された。当たりまくった頃があった、
あの頃の、或いは忠告だったのかも知れなかったが、自分は無視していた、
それが出来る状況だった。運の良さは今、ここに椅子が有る、それでも解る、
しかしもっと大きな何かがズレてしまった・・・そんな気が、ふとした。
ビルを2つ、会社を9つ。時の人としてそこにいた、女に不自由することも無く、
連日銀座を豪遊した、当時は良い時代だった。何でも当たる場所に、自分はそこに座り、
負ける事が無かった訳じゃないが、要するに倍掛けを続けた。”続ける奴が勝つ”方程式。
連続して11回も外すなんて、あり得ない事だ・・・それが起こった。全て失って更に今、
3桁を越える億の負債を抱えて。でもまだ挽回出来ると思った、先日、父親が死ぬまでは。
堤防の向こうにはダムが有る、暫くぼんやりしていると、放流を告げる音が聞こえた。
自分は或いは、まだ運がいいのかも知れないと、思った。
お題「映画」「鮎」「小石」
以前見た国営放送で、動物の寿命は心臓の鼓動回数で決定すると言っていたな。確か2億回か2万回だったはずだ。2億回と2万回ではおおきな差があるが、それはどうでもよい。兎に角、回数制限があるのだ。
鮎などの小さな体の動物は1〜2年で、象のような巨体であれば70年の寿命なのだそうだ。
まあ、そんなことはどうでもよい。映画の話だ。今日観た映画はつまらなかった。金を払って無駄な時間を過ごしてしまった。
こんなことなら溜まっている小説でも読んでいたほうが良かったと後悔していた。おれの貴重な鼓動を返せと言いたい。なんでこんな糞な映画がロングセラーなのか? 信じられない。
駅の改札に向かっていると、スレンダーな色白で髪の長い女性とすれ違った。甘い香がして思わず振り返ってしまった。俺の視線を感じたのか振り返り、ほんの一瞬視線が交わった。
その女性はすぐに街のほうに颯爽と歩いていってしまったが、俺はなんとなくその場に留まり、人波に消えてしまった女性を捜した。俺の余分に高まった鼓動を返せと……いや、ありがとうと言いたい。
お題は継続で
どこに小石があるんだ。すみません。上のは無視してください。
涙で完全にふやけてしまった瞼に、外はとても眩しすぎた。
声を殺して泣きすぎたせいで、喉の奥もチリチリと疼く。
物語の余韻に溺れたまま、私はおぼつかない足をなんとか動かしていた。
隣の悟は、映画が終わってから一度も私に話しかけないでいてくれる。
まるで気配を消すようにして、静かに私に合わせて歩いている。
悟はこんな時、私をそっとしておいてくれるのだ。普段気が利かない彼だけれど、こんな時の気遣いは優しい。
「アユの人生」 話題ベストセラー小説の映画化だった。
誰もが羨むような容姿と声を持った、女子高生のアユ。だが彼女が持てたのはそれだけ。
互いに不倫状態の両親の目に、アユの姿が映る事はなかった。親友だと思っていた仲間達には手ひどく裏切られ、すがり付くように心を許した男には小石のように蹴飛ばされてしまう。
アユは生きていくために、その華奢な体を汚してゆく。
心は汚さないようにと足掻く彼女に、波のように迫りくる仕打ちの数々。
アユの一人震えるシーンを思い出しながら、再び私の目に熱い物が込み上げて来たその時、突然ポケットで携帯が震えた。
メールの着信を伝える画面、差出人の名は「悟」だった。
ん?
彼は素知らぬ顔をしている。悟のくせに味な真似をするじゃんか… 私はなんだか悔しい思いをしながら本文を開いた。
そこにはたった一行 「鮎、可哀相だったな」
…
私の体から一気に力が抜けていった。
鮎って、魚じゃないんだよ!! もう〜台無しだよこの男は…
隣を大袈裟に睨みつけてやると、悟は慌てて目を泳がせた。
私はそれを観て吹き出してしまう。同時に押しつぶれていた私の胸に、休日の澄んだ空気が吹き込んで来るのがわかった。
私は悟の無防備なわき腹に、渾身のチョップを食らわせてやった。
「余韻」「大袈裟」「無防備」
【プロレスラー我島!!】
今は何といってもK1だのプライドだの…総合格闘技が人気の時代だ。
俺が所属する大帝都プロレスは、観客席は、マバラ…今やテレビ中継もなし!
だが俺はプロレスこそ最強の格闘技だと思うし何よりも俺はプロレスが好きだ!!
デビューして1年を過ぎた俺は、大帝都プロレスの次世代の頭を取れる逸材と期待をかけられて日々厳しいトレーニングを続けていた。
今日の対戦相手は俺より30センチも長身のアメリカから来たストロングスタイルの強敵で、無防備を装ってジリジリと迫ってきていた。
グレートブッシュが得意技のハリケーンドライバーを仕掛けてきた。
俺は少し大袈裟にひっくり返って見せ観客を沸かせた。
試合が始まり30分が過ぎ、40歳を越えたおじいちゃんのヤツは息を切らし始めた。
そろそろフィニッシュの決め技で終わりにしてあげよう!
俺は余韻を持たせ優雅に、固め技をかけようとし、大きくブッシュをかかえあげたその時、ヤツがヨロメキ、俺のトランクスに手をかけた!!
!!予想もしないアクシデント!!
川口市民体育館の観客から一斉にどよめきが起こる。
「いったい!何が起こったんだ!!」俺は動揺していた。
静まりかえったリング上にはトランクスが脱げ足元までずり下がったまま下半身を丸出しにしている俺が立っていた。
1ヵ月後、リング場にモザイク我島というリングネームの俺が!!
メインイベントの試合終盤、セコンドから合図、対戦相手のマッスル相田も「よし!」という掛け声と共に私のトランクスに手をかける!
「ああ!!今日も出た!!出したぞ!!モザイク我島の×××!!」アナウンサーの声がコダマする。
すっかり色物レスラーと化した大帝都プロレス一の人気者の俺だった。
※次のお題 「懐中電灯」「始発電車」「アレルギー」で!!
会社の飲み会で酔いつぶれた私は新宿駅のホームで始発電車を待っていた。
滑り込んでくる電車に乗り込み、ぐったりとした体を電車のシートに預け目を閉じる。
しばらくして、ドン、という何かが落ちる音がしたので薄く目を開ける。
それなりに混んでいる車内で、みんなが一斉にそちらに目を向けていた。
小さなダンボールを抱えていた男が、それを落としてしまったようだ。
潰れたダンボールからは何かの液体がこぼれだしている。
やっちまったな、と思いながらも後始末を手伝う気も起こらなく、
そのまま目を閉じ、気が付けばもう自分の降りる駅に着いていた。
家に帰り着き、シャワーを浴びようと裸になると、体に赤い点がびっしりと浮いている。
またアレルギーが出たか。酒を飲むといつも出るんだよな。
憂鬱な気分で頭をかくと、爪が頭皮にめり込む異様な感触と共に前髪がごっそりと抜け落ちた。
手のひら一杯の髪の毛。髪の毛の根元には私の頭の皮と赤い血がこびりついている。
ひゅう、と呼気が漏れ、手を振り髪の毛を払う。恐る恐る頭に手を伸ばす。
ねちゃり、という感触。ひっ、という声が漏れる。
鏡に駆け寄り自分の姿を見る。半分無くなってしまった髪の毛のあった場所には血の色をした肉。
顔は真っ赤に腫れ上がり、体には白い膿交じりの2cmほどのぶつぶつとしたできものが無数にできていた。
できものに触ると猛烈な痛みと共に膿が飛び散る。その後には猛烈な痒み。
掻き毟る、抵抗も無しに肉に爪がめり込む、剥がれ落ちる皮膚。
腫れ上がった顔から皮がたれ落ちる。爪で引っかくとめり込む流れる血痛い痒い気持ちいい
動くとこすれる皮膚はがれるいたい動く痛いきもちいいかゆいいたいにくはがれるいたいかゆい。
カーテンを閉め切った部屋で懐中電灯を握り締め、私は1時間ごとに鏡をのぞく。
白い骨がのぞく、まぶたも鼻も唇もただれ落ちた顔を見て悲鳴を上げて鏡から離れる。
壊れてしまった自分の体に恐怖と奇妙な快感を抱え、今日も私は生きている。
「海賊」「雷」「空き箱」
140 :
名無し物書き@推敲中?:2006/10/22(日) 08:50:08
「海賊」「雷」「空き箱」
酒瓶の空き箱を逆さまにして座る。それだけでも立派なイスになる。
座ってタバコに火をつけても吸う力が残っていない。
とても疲れている。朝から嫌いな上司に怒られたからか?それとも同期のあいつが急に死んでしまったからか?いや、そんなことではない。僕にこの仕事は向いていない。
朝から晩までと同じ様な顔をした奴らと一緒に仕事をする。時にはこいつらと酒を飲み、酔った勢いで女を抱く。付き合いというのも苦手だし、僕自信、社交性のある男ではないと自覚している。
ここで仕事を始めた理由は明解。周りの奴らと一緒でやりたいことがなかっただけ。だからここで仕事をしている。
5年ここにいる。同期は少なくなったが部下は増えた。愚痴を言える仲間が減ってきた。
僕の仕事に終わりはない。
雨、嵐、雷、雪…どんな天候だろうと船は進める。
もう海賊なんて辞めたいな。
「草」「ベルト」「マーガリン」
141 :
白木の子 ◆q/.rlDgH2c :2006/10/22(日) 18:59:04
「草」「ベルト」「マーガリン」
こだわり、というのはそれはまあ他人からすれば何でも無いことであるが、
自身にとっては決して譲ることなんかできないのだ、と最近痛感した。
中学校からの同級生に久しぶりに会う機会があった。
家の近所の居酒屋に行き、若かりし頃の思い出や近況報告など懐かしい時間
に浸った後のこと。
そいつはそこへは自転車で来ていた。一般的な”ままちゃり”だが、その自
転車が当時私が見慣れていなかった機構だったので少し気になった。なので質
問したのだ。
「これってチェーンじゃなくてこのなんか黒いので走るんか?」
2分後、その発言を少し後悔した。
「ああ、これな。これアルベルトっつってさ、ベルト駆動なんよ、ベルト駆動。
何が良いってさあ、漕ぐの軽いわ音静かだわでさ、良いとこ取りなんよ。で、
さらにこのライト――」
タイヤが汚れるので、雑草や土の路面は走らないこと、ハンドルの角度には
黄金のポジションが存在すること、潤滑剤には液体より固形の、具体的にはマ
ーガリンが一番適していることなど、散々無駄な知識を教わった。
そしてとうとう言ってしまったのだ。
「……そんなこだわらんでも良いとは思うぞ、俺は」
直ぐに返答は返ってきた。
「自転車に50万もかけてる奴が言うと説得力無いな」
何を言うか、私にしてみれば当然の結果だ。
次は「試験」「不活性ガス」「深海」
142 :
リンコン:2006/10/22(日) 20:02:02
新型の深海探査船の試験運転で国際海洋生態研究チームの一員である日本の研究員として
僕等「ハエブサ」クルーは新型船「らんちゅう」に乗り込みインド洋沖5000メートルの
海溝に来た。順調に航海を進めていると探知機が不活性ガスを検出した。近くの
海底に休火山があるのだが、そこから噴出しているようだ。急いでガスの成分を抽出して
解析した。解析班の海老沢陽子が大声をだす。「こんな反応は見た事がないわ。これは何かしら。」
解析を続けた僕等は到底信じられない結論に辿りついた。
「このガスは。生きている。生体反応を示している。間違いなくコイツは気体生物だ。」
遠隔自動操作アームからそのガスを50ミリリットル程採集した。とんでもない新発見になるぞ。
探査マザーシップ「しーしゃも」に着きガスを試験管に移そうとすると採集袋からヒソヒソ声がした。
「ヒヒヒ。しめしめ上手くいった。周りは空気がいっぱいだ。隙をみて一瞬で気化してこの星をのっとるぞ。」
気体生物は僕等日本チームに捕まったのが運のツキだった。空気を読むのが得意なのだ。
次は「スカンク」「パジャマ」「斑点」
おもんないって
あなたは、唐尻お化け(からしりおばけ)というものを知ってるだろうか
唐尻お化けとは、江戸時代の遊郭に現れたと言う伝説のお化けで、
女郎達にいたずらをしては、消えていくというものだったそうな。
いたずらの内容と言えば、屁をこくこと。
けれど、スカンクのような刺激臭を持った屁をこかれ、すぐに消えられては、女郎達も困ったに相違ない。
せっかく金回りの良い、上流武士と一夜を過ごすはずが、皆一斉に退散してしまったからだ。
そんな、『おもしろ妖怪百科辞典』をベッドの中で読みながら、
俺は、背を向けて寝ているパジャマ姿の彼女の背中にぴったりと引っ付いてみた。
「ちょっとやっとこうべ」
耳元に声をかけながら、彼女のズボンをおもむろに脱がせば、おケツに真っ赤な斑点が見えた。
便秘気味といっていた彼女の言葉を思い出していると。「もぅ、寝るの」そういわれる始末。さらに。
「これでもくらえ」
もちろん屁をこかれ、俺は退散したわけだが、
屁の威力はいつの時代でも有効だなあと認識した次第で。ご報告まで。
「スカンク」「パジャマ」「斑点」
先日隣町で市民祭りが行われた。行く気などさらさら無かったのだが、前日
友人に誘われなあなあしている内に行くことになってしまったのだ。
厳密に言えば僕はそこの市民ではないし、あまり乗り気では無かったのだが、
いざ終わってみると、去年家でPCを弄っていたことを後悔するほど堪能した。
役場のだだっぴろい駐車場を貸し切って、ステージやらやぐらが特設され、そ
こを埋め尽くすように人が溢れかえっている。
それらを囲むようにして屋台の列が並んでいるのだが、そこですごい物を見た。
その名も「ジンギスカンクレープ」。
いったいなんだこれは、と。最近はスープカレーなど2つの料理をミックスさ
せた物が流行っているようだが、とうとうこんな領域まで達していたのか。
屋台を覗くと、想像通りの光景が繰り広げられていた。
右半分でクレープ生地を焼き、左半分で羊肉を焼く。
人間の好奇心とは恐ろしいもので、結果が見えていても手を出してしまう。
僕は友人のとめるのも聞かず、屋台の主人に400円を渡していた。
店主から例のブツを受け取る。ナルホドジンギスカンクレープ。
クレープの焼き跡の斑点が、視覚的には中のジンギスカンと見事な調和を
叶えている。
見た目に騙された僕は、勢いに任せそれに齧り付いた。
例えるならば、パジャマを着て、バイクに乗り、葬式に行くようなものだ。
ま、要するに、
「うっわ、まず……」
300円分くらいは燃えるゴミの袋の中に投げた。
次は「危険物」「エレキ」「中心」で
友人の登志男は男前だ。男の俺から見ても惚れ惚れする。しかし登志男には変わった趣味がある。フェチと言ってもいいだろう。そのせいでクラスの女子からは避けられていた。
弁当の御飯の真ん中には必ず梅干が一つ。パン食なら中心にへそのあるアンパンしか食べない。
好きな国旗は日の丸。まあ、日本人なのだからこれは良いとして、手の甲にいつも貼っているあれ、あれはよろしくない。まん丸な粘着テープの中心に、これまたまん丸な磁石。そう、エレキバンだ。
爺さんなんかが体中に貼りまくっているのはよく見かけるが、高校生が、しかもいちばん眼に付くであろう手の甲にエレキバンを貼るのはいかがなものか。
それでも本人は至って真面目らしく、ミサンガやブレスレットと同じさ、とのたまっている。クラスではそんな彼のことを危険物、と呼んでいるのだが、彼は別段気にしている様子もない。
なぜ危険物なのか。通学路の途中のトンネル前に、スプレーで書かれた落書きがある。それを毎下校時にじっとりと見つめている姿が危ないらしいのだ。女性器を模した落……否、これ以上は言うまい。行数も残り少ないからな。
そんな登志男に、女子高の彼女が出来たらしいのだ。そんな筈はない、あの変態に限って。思った俺は後をつけた。そして現在、公園だ。
信じたくないが、目の前のベンチには登志男と肩を並べ、セミロングの艶やかな黒髪の少女が座っている。
ベンチの後ろの植え込みから監視。認めたくないが、プロポーションは抜群だ。顔は……見えねえ。もう少しだけ前に。焦った俺は、足元の溝に気がついていなかった。がくんと膝が折れた。
刹那、俺はガサガサと木の茂みを揺らし、ベンチの後ろへ転がり出た。びくっと肩を震わせ、二人が視線をめぐらせる。
振り返った彼女の顔は、見事に中心に寄っていた。
次は「ミラクル」「大理石」「転職」で
ラジオから流れてくる軽快な曲も相まって、俺達の興奮と緊張は否が応にも高まっている。
何せ毎年のべ数万人の動員数を誇るロック・ジャムに初参加なのだ。最近の大きなイベントには
必ずというほど頻用されているあの球形浮遊ドームの中心に、たとえ一時でも立てるなんて。
「危険物積載車両はここで出よ」の標識を通り過ぎ、ドームへ向かう出口まであと少しというところで
ひどい渋滞になっていた。事故か何かだろうか、と考えながらじりじりと小型トレーラーを進めていくと、
理由が分かった。どうやら警察が検問をやっているらしい。5つの伸縮可能アームをつけた機動センサーが、
五角形の探知スクリーンを作り出し、渋滞の列をゆっくりと探知していく。俺達が載せているのは当然
楽器と着替え、そんなものだけだから、のんびり構えていると、突然銃器を持ち強化盾を構えた警官達に
取り囲まれた。あのスクリーンがエレキギターとドラムの間でぴたりと止まっている。トレーラー内部を
詳細に調べられた結果、なんと換えたばかりのスネアドラムの膜が強力な爆発物であることが判明した。
それから二時間強、俺達はこってりと取り調べを受け、全く身に覚えがないことを再三説明し、ようやく無罪放免となった。
潔白とはいえ汗びっしょりになった俺に、バイザーをつけた警官が労いと共にコールドティッシュを
手渡してくれた。ありがたく二枚引き抜いたところでギュッと手首を掴まれる。
「おっと、すまんね。箱の外からは二度もチェックしてたんだがなあ」
取り上げられた二枚目のティッシュは何やら銀色の箱に吸い込まれ、中で小さく爆音がしたのだった。
結局今年も観客席からの参加となったのだが、ステージであのドラムを目一杯叩いた時のことを想像して、
俺達は初めて、警察に心から感謝した。
間に合わず。お題は
>>146のでお願いします。
屈辱と侮蔑すら感じさせる度重なる上司の叱責に耐えかねて、僕は転職を決意した。
僕ほどの俊才の持ち主ならば、この転職時代のご時世、引く手数多であることは間違いない。
あの上司はそうだ、僕の溢れる才能に嫉妬することで自我を保っていたのだろう。
お昼休み、社内のエントランスロビーに設けられた大理石の休憩スペースに腰を降ろし、
僕は人材斡旋会社の資料を読んでいた。ひんやりとした大理石が気持ち良い。
その時、落ち着いた気分を害するように、かの上司がこちらに近づいてきた。
その手には「ミラクルハッピー」という今売れ筋のドリンクが2本握られている。
何を見ているんだ、とまたもや蔑むような視線を注ぎながら上司が言うが早いか、
僕は咄嗟に隠そうとした資料を思わず落としてしまった。
上司はその資料に一瞥を加えると、一言「どちらがいい」と僕に告げ、
ドリンクの側面を僕に見せるように腕を差し出した。
「あなたのラッキーワードは"忍耐"です」「あなたのラッキーワードは"新生活"です」
それぞれに記された文面を眺めたのち、上司の顔を見上げると無表情なまま。
一方より少しだけ前に差し出された"忍耐"の缶は、上司の握力で少しだけ凹んでいた。
次は「メモ帳」「帽子」「言い訳」で
おしい
【その時、歴史は動いた】
「おう!!斉藤君久しぶりだね。君に紹介してもらった例の装置!!調子いいよ!!」
朝一番目の取引先にあいさつを終え、次の会社へ向おうとして通りを歩いていた時、後ろから肩をたたかれ呼び止められた。
私は業務用の印刷機械を製造販売している(株)さざなみ工業の営業マン。
「はい!おはようございます!お世話になってます!!」(※やばっ!誰!コイツ!思いだせん!!)
作り笑いの中、私は頭の中の顧客名簿一覧を高速検索させていた。
「おい!どうした!元気ないじゃないか。この間、問合せした件、どうなった??」
どうも今日は朝からの雨で俺の中のスーパーコンピューターの動きが鈍い。
半年前、大規模の印刷設備導入でお世話になった藪川印刷所の課長とまでは、出ているのだが…課長の個人的項目の記憶のメモ帳を探る。
「はあぁぁ…はい!!」(※えーっと。この課長はとにかくなれなれしいヤツ。こちらもテンション上げて…か)
よし名前は出てこないがまずは、体育会系のノリで!!(※ナンだったっけ!!この課長には最重要項目があったんだが???)
「なに言ってんですか!!私はいつも元気いっぱいですよ!!」と思いっきり課長の両肩を2度たたき笑顔いっぱいで話しかけた。
で、次に課長のボケたセリフに連続技で突っ込みの頭を叩きにかかる!!
その時!!
課長の最重要項目の記憶が蘇ったが、すでに遅く私の右手は課長に見事な突っ込みをお見舞いしていた後だった。
青山通りの人通り激しい歩道でカツラの取れた姿で立ち尽くす藪川印刷所(株)課長、藪川富蔵がいた。
「は・い…ぼ・う・し…帽子が落ちました…」
異様な雰囲気の中、訳のわからない言い訳をしている私がいた。
お題は継続でおねがいします…
よりによってこんな所で……。僕は自分の不幸を呪った。
隣の席には今、長い間遠くから見詰める事しか出来なかった人――浅川優が座っている。
教習所の講話室は満席だった。遅れてきた彼女が僕の隣席へ座ったのは、偶然ではなく必然だ。席は僕の隣しか空いていなかった。だから僕は荷物を退け、彼女に席を勧めた。
喜ぶべき事だ。願っても恐らく叶う事はないだろうし、引っ込み思案な僕が彼女の隣へ座る事も出来はしない。
僕は帽子を目深に被り、赤らむ耳を隠すように肘をついた。彼女のほのかな香りが鼻腔をくすぐる。
「帽子、脱いだ方がいいですよ」彼女が屈託のない笑みで僕に言った。
脱げるものならとっくに脱いでいる、と思ったが、彼女にそんな事を言えるはずもない。
僕は小さな声でうん、とだけ答えた。知られたくない事は誰にでもあるのだ。
「この授業の教官、うるさいので有名ですから。黒皮のメモ帳に名前を書かれたら、確実に実技で落とされますよ」
有名な話だ。気に入らない生徒が居ればメモ帳に名前を残し、当てつけのように落第点を付ける。イヤミとあだ名されるくらい姑息なやつだ。
「そこ、何を喋ってる。男、なぜ帽子を被ってるんだ。脱げ」教官が指を向けてくる。早速目を付けられた。なんと言い訳しようか。彼女の前ではどうあっても帽子を脱げない理由があるんだ。察してくれ。僕は心の中で叫んだ。
「脱げというのが分からんのか」ポケットに入れたメモ帳に手を掛け、威圧的な視線を注いでくる。
冗談じゃない。すでに何度か単位を落としているのに、これ以上免許にかけるお金なんてありはしない。
僕は仕方なく帽子を脱いだ。
「あ、高山さんじゃないですか。なんで勝手に病院を出たんですか。心配してたんですよ?」彼女の頓狂な声が響く。
彼女は先月まで入院していた病院の看護士だ。そして僕の憧れのマドンナ“だった”。退院を待たずして逃げたのだ。
君に彼氏がいたから、とは流石に言えなかった。こちらの言い訳の方が大変そうだ――
次は「ハロウィン」「半額」「筆跡」で
いまいち
MiniSDカード 256MB
乾電池(アルカリ)単4×4
豚コマ500g
黒缶2個
マヨネーズ
おでん(大根、つくね、ソーセージ巻き、はんぺん)
お菓子(適当に)
麦藁帽子(わたしに似合うのね!)
俺は上に書かれたメモ帳の一枚を拾った。推測するに、彼女が彼氏に頼んだ買い物リストなのだろう。
メモを伏せすべて思い出せるか試してみるか。ミニSDカード、黒缶、麦藁帽子、おでん(大根、ちくわぶ、牛筋)、電池……こんなもんかな? 意外と憶えていないものだな。彼氏はどんな言い訳をするのだろう。
大のレバーを引き、メモ帳も一緒に流してしまった。
コンビニのトイレを出ると、二十代半ばとおぼしいパンクロッカーがあるはずもないメモを探して床をきょろきょろと探している。
俺はレジにいる店員に声を掛ける。
「大根とつくね、ソーセージ巻きとはんぺんを一個ずつください」
南国に旅行にいき、彼女がいて、ハンバーグを作ってもらい、猫がいる羨ましい奴には優しくできない俺がいる。
お題は継続で
うほっミスった。
>>152 次は「ハロウィン」「半額」「筆跡」です。
【大好きな彼】
電子マネー機能付きの携帯をかざして料金を支払うと「書は人なり」と書かれた機械が作動し相性占いが開始された。
3Dのユーモラスな占い師が現れ、私と和幸くんはお互いの名前をタブレット機能の画面に手書き入力する。
鑑定中と表示され、派手なライトアップ表示の後、結果が表示され私と和幸くんの恋愛相性は抜群と判定された。
たかがゲーセンにある、お遊びの筆跡鑑定占いマシンだがこれだけ良い結果だと嬉しいものだ。
「すごいね!わたし達!!」「おう!このまま俺たちさぁあ!!結婚しちゃうか」
って二人して大騒ぎをしながら腕を組んでお台場のデートコースを歩いて行く。
「ほーんと今日は楽しいネ」と話し、最近出来た屋内テーマパークに向う。
和幸くんは私より30センチは背が高くアメフトを学生時代やっていたのでガッシリしていてホント頼もしい。
そのくせ、いつも温和でやさしく、なんと言ってもあのクリクリッとした眼がカワイイの!!
今度も「ぴピッ」と電子マネー携帯で入口のチェック装置が作動し支払う。
横にいた遊園地の人間のお姉さんが「はい!お一人様、半額に割引させていただきます!!」と!!
「えっ!今日は何なの?レディスデーか何か??」
お姉さんが示した先にはこんな看板が出されていた。
ハッピー! ハロウィン 2006≪仮装して来館した大人・学生は半額!≫とあった。
和幸くんが仮装している人間だと判断されたようだ…
そりゃあ和幸くんは、ユニークな顔、ちょっとお腹出ていて、ちょっと心配な髪の毛、服装のセンスも時々信じられない格好してるけど…
「もおっ!!半額にしなくてもいいじゃないの!!」
↑また長くなってしまいました。
次のお題は「無料」「予想外」「フラダンス」で…
いまいち
新任女教師の天然 萌――アマシカ モエ。間違ってもテンネン モエなどと読んではいけない――先生は熱血教師だ。以前は天然ボケと冷やかす輩も居たが、少なくとも今現在うちのクラスで、先生を馬鹿にする者は存在しないだろう。
ベビーフェイスにつるんとした額。何時もほんのりと上気したような薄桃色の頬は、萌えと表現するに相応しいかもしれない。がしかし、ひとたびこれと目標を定めたら、頑として譲らない鉄の意志を持っている。
今回のチャリティーの出し物をフラダンスと決めたのも萌先生だ。男女一緒にフラダンス、と聞いて反対した者もあったが、その意見が聞き入れられる事はなかった。
さっそく練習開始。関節を柔らかくするため、柔軟体操。前屈。背屈。先生の指導は厳しかった。
俺たち帰宅部の鈍りきった体にも、容赦なくハードな体操を要求する。
柔軟ばかり繰り返して意味はあるのか、早く踊りをさせろ、と不満が出たが、ダンスに必要な基礎体力を身に着けるのだ、と突っぱねた。いくら入場無料とは言っても、客はそれなりのものを要求してくる。先生なりの哲学があるのだ。
予想外の熱血振りに、天然と馬鹿にしていた奴等も何時しか先生の魅力の虜になっていった。
そして今日、遂に俺たちの努力が認められた。先生が、今から踊りの稽古をする、と告げたのだ。俺たちは手を取り合って喜んだ。練習をサボりかけた奴も居たが、首に縄を掛けてでも引っ張ってきた。その甲斐あって認められたのだ。
特別にダンスの道具を作ったから、先生はそう言って器具庫へ消えていった。腰の回転を強化する道具か? 否、先生の事だ、もっと凄い物に違いない。俺たちはドキドキとしてそれを待った。
先生は器具の入った箱を俺たちの前へ持ってきて、てきぱきと組み立てた。
「本番はこれに火をつけるから」先生は真剣な顔で言った。棒高跳びの器具を改良した物。どう見てもこれは……
あの、それってフラダンスじゃなくてリンボーなんですが……。誰も口にすることは出来なかった。
毎回オーバーですみません。
お題は継続で。
謝るぐらいならオーバーしないようにまとめる努力を。
【おばちゃん先生】
フラダンスをやろう。帰宅途中私はやっと何かをやろうと決意した。
今まで何か習い事をやろうと思っていたが、人見知り故になかなか行動できなかった。
近所にたまたまフラダンス教室があったので、早速そこへ出向いた。
教室はビルの簡素な一室で、先生はひどく怖そうな顔つきのおばちゃんだったし、更なる上は肝心の生徒もいなかった。
何というか想像とは全く違っていたが、今週の日曜から週一で通うことになった。
日曜日の夜。おばちゃん先生は無愛想に私を出迎え、無言のうちにレッスンは始まった。
レッスンを始めてから私は気づいた。私は踊りのセンスが絶望的にないらしい。
踊れば踊るほどおばちゃん、いや先生の顔が更に怖くみえた。戦々恐々、踊りながら身から変な汗が出た。
一応今日のレッスンは終了した。恐る恐る今日のレッスン料を払おうとしたその時、先生は予想外な言葉を吐いた。
「あんた、下手だねぇ。ほんと下手だ。もうタダにしてやるよ」
そう言いながら、彼女は不自然だが真の暖かみを以て不器用に微笑んだ。
その彼女の微笑みを見たとたん、私は今までの緊張から解放された。私は一瞬で彼女を好きになった。
今ではおばちゃん先生は私にとって良き先生でもあり、最も愛する友でもある。
162 :
161:2006/10/25(水) 02:39:49
次のお題は「選択」「スーパー」「外国人」で
いまいち 自分で上手いと思ってるだろ?
「選択」「スーパー」「外国人」
家の近くに大型スーパーができた。俺は週に二度、仕事帰りにここに来る。
買い物カゴを手に取り、次に来る時までに必要な物を考えながらいつもの経路を辿る。いつも通りに進むと必ずあの人を見る。今日はキッチン用品の陳列棚にいだ。
あの人は何人だろうか?まあどこの国でもいい。とにかく外国人であることには間違いない。買い物カゴを持つ手の方に大きめのハンドバックに深く被るハットが特徴。後は日本人が持つことのできない白い肌。俺は彼女を見る度に彼女に対する興味が積み重なっていく。
俺は知っている。彼女は万引きの常習犯である。店員は知っているのだろうか?まあそれはどうでもいい。彼女は手際良くしゃもじをバックに入れる。声を掛けるか否か。正しい選択としては声を掛け、万引きを引き留めるべきだろう。
でも今日も俺は声を掛けられなかった。人としても、男としても。
彼女はカゴの中に入っている品物の会計を済ませ、スーパーを出る。彼女を見る度に彼女に対する興味が積み重なっていく。
「ちょっと、お客さん」
おっと、俺が声を掛けられてしまった。同業者に気を取られるとろくなことがないな。
「花瓶」「小指」「サランラップ」
おもんないな
君は小指を立てる癖がある。意識してかしないでかは分からないけれど。
ほら、そのサランラップを持つ右手。ねっ?
買い物籠を通した左手だってそう。握り締めたお財布の影から小指が覗いてる。
まさか気がついてなかった? 意外そうな顔、と理解していいのかな、それ。そんな顔をされても困るんだけど。笑顔はもっとやわらかく。だめだめ、まだ口元が引きつっているよ。君らしくないなあ。
僕は気が付いていたよ、その癖。ずっと前から。だってほら、君のことを……
昨日このスーパーで買った花はどうしたの。あの淡い桜の花びらの絵が入った花瓶に生けたのかな。でも窓際には飾ってなかったよね、今回は。
君のセンスは最高なんだから、花瓶は外からでも見えるように置いてくれるかな。大丈夫、自信を持って。
あ、ちょっと待って。そんなに早足で歩かれるとついて行けないよ。今日はいつものコロッケ買わなくていいの?
あははっ。携帯電話を持ってる手、また小指が立ってる。無理に下げなくていいよ。眉間にシワが寄ってる。
ねえ、さっきの電話の相手は誰? 今度は誰を呼んでるの。大きな声を出すから、皆振り返ってるじゃないか。
あの小走りに向かってくる男、まさか君……まだあの男に頼っていたのか。
「須藤 佳、またお前か。もう彼女に近寄っちゃいかんと言っただろう。言い訳は署で聞いてやる。さあ来い」
次は「アーケード」「詐欺」「難破船」で
一人の男が六階建ての古いマンション、二階の一室に忍び込もうとしていた。
彼はその食卓に大金の詰まったサイフなど大事な物が置いてあることを知っている。
計画は大胆だった。周りの地理でいうと、隣のマンションの三階廊下から
その部屋のベランダへ飛び移れるようになっている。彼は実行した。
二メートルほど空を飛び、ベランダに辿り着く。大窓はガラス製でなく、
サランラップ製だった。花瓶らしき陶器の破片がそこらに四散している。
侵入は楽だが、奥さんが如何に乱暴であるかを思い知って彼は唾を飲んだ。
薄い膜を小指の爪で突き破り、十月の寒風と共に部屋へと進入する。
「何だお前は!」
彼の侵入に気づいた大男が洗面所から現れ、侵入者をたちまち捕らえた。
縛り上げられると、彼は観念してサイフを取りに来ただけだったと白状する。
「どうしたの?」
奥さんがゆっくりと寝室から現れ、そして次のように叫んだ。
「あ、あなた!?」
泥棒であり大のうっかり者でもある夫は、じっと妻を睨んでいた。
先越された。お題は
>>166で。
ここは神戸の境港。終戦でいろいろあったが街も落ち着きを見せて来た。
「ここにみんなが安心して商売できるようなおっきなアーケード建てちゃりますよ」
山形のおっさんはやる気だ、港湾の警備の仕事を始めて5年になる、腕は立つし数字に強いし面倒見がいい、今はもうすっかり街の顔だ。
「おーい、難破船がいるぞ」
港の沖合いに難破船が紛れ込んできた。港の荒くれ達はそろって救助に出かけた。
「おうい。大丈夫かい」
「だみだぁ。」
ようし、まっとれよ、と救助に向かうとしたその時、山形の親分が叫んだ。
「待て!みんな騙されるな!こいつは難破船詐欺だ!!」
「難破船詐欺!山形の親分それはなんでさ?」
「しらんのか!馬鹿モン!難破船を装った新手の詐欺だ!こいつに騙されると貨物は取られ、船はやられ」
難破船の乗組員は泣き喚いたが難破船ごと秘密裏に処理された。
「この事は絶対に他言するな」
難破船詐欺を海に沈めたのはタブーになった。
それ以来山形の親分に逆らう者はいなくなり、街に立派なアーケードが出来た。
【儲け話】
私は最近《マジノギ》と言うオンラインRPGゲームに夢中だ。
学校から帰ってすぐにPCを起動させゲームへ入り込む。
女の私が使っているキャラは、もちろん男性で、ガッシリとした体格のイケメン海の男。
サナントヨという小さな港町で小船を所有して漁師をしている。
難破船だ!!と誰かが叫んでいるのが聞こえてきた。
《難破船イベント》が発動したようだ。
私は、漁師仲間をかき集め船に乗り込み難破船へ向かう。
危険な操作だがうまくいけば船底にある大量の金銀宝石が手に入る。
今、私も含めて10人が船に向かっているので山分けしてもかなりの額になる。
難破船に取り付き潜水服のアイテムを装備し荒波の中、船内へ!!
その時、「近づいてはダメ!!」と強引に会話に割り込んでくるヤツがいた。
この初めて表示される見慣れないコメント形式はいったい誰??
麦わら帽子の海賊霊が湧き出てきて私たち10人は、闇の霧に呑み込まれ連れ去られる。
そういえば、昨日からこの《マジノギ》はゲーセンのアーケードバージョンの《マジノギ》とも接続されたんだった。
ゲーセンバージョンだけに現われるこの詐欺トラップ、私たちはこれまでゲーム内で稼いでいた全財産を失い、呆然としていた。
170 :
名無し物書き@推敲中?:2006/10/26(木) 21:35:15
>神戸の境港。
……貴方、港湾関係者か?
鳥取県境港を神戸扱いするのは税関だけだ。
↑
>>169 感想スレの>211さんのコメントを参考にしてさっそく書いてみました。
次のお題は「スクランブル交差点」「お気に入り」「敬語」デ…
お気に入りの映画のワンシーンに、スクランブル交差点へ彼女の手を引いて行き、その中心で愛を叫び結ばれる、という物がある。このシーンは何度見ても涙が出る。
いつか僕も、この映画のような恋をしてみたい。そう思い続けて二年、ついにその日が来た。
彼女はお嬢様学校に通う女学生だ。親のしつけも厳しいらしく、いつもよそよそしいほどの敬語で喋る。
そんなお堅くて天然箱入り娘の彼女と、やっと今日恋人同士になれそうなのだ。
電車の中で彼女の手を握り、駅へ着いても手は離さなかった。駅の改札を抜け、予定通りスクランブル交差点の中心まで行き、足を止める。いよいよ本番だと思うと、喉が渇いた。
「どうしたんですか? こんな所で止まったりしたら危ないですよ」
彼女は不思議そうな顔で僕を見上げた。今日告白されるだろう事は彼女も薄々気が付いていただろう。けれど、まさかこんな場所で告白されるとは予測できない筈だ。ドラマチックな告白。僕の思い描いていた通りだ。
「君が好きだ。俺と付き合って欲しい」突然の告白に彼女は、よろしくお願いします、とだけ応え俯いた。
「付き合う事になったんだし、そろそろ敬語はやめてくれないかな」
僕は常々思っていた事を口にした。恋人になったなら、僕が安らげる場所になってやりたい、と思っていたし、一緒の時はせめて敬語ではなく普通に話して欲しかった。せっかく恋人に成れたのだ、彼女を僕の色に染めてみたい気もする。
「分かりました、圭吾さん。じゃあ、圭吾はやめますね。御手洗さん、とお呼びしたらよろしいでしょうか?」
忘れていた。彼女は天然のお嬢様だった。
お題は継続でお願いします。
「スクランブル交差点」「お気に入り」「敬語」
車両と歩行者が別々に動く交差点で、信号待ちをしていた。隣には会社勤めのカップル。手をつないで笑っている。とても幸せそうだ、と思った。
僕がホームレスになったのは二カ月前。理由はつまらない事だから無い事にしている。何かと弱気な僕にもホームレスはできる。
隣の家のタクさんはホームレスになって初めて出来た友達だけど、未だに敬語だ。それをタクさんはいつも怒るふりをする。直す直すと言って直せないのが僕だ。僕が敬語を直さないのを良い事にタクさんはこのやりとりを楽しみにしている。
ホームレスだって何もしなければ餓死してしまう。一人前のホームレスにしてくれたのはタクさんだった。暇な時はいつも僕の話し相手になってくれたし、風邪をひいた時は看病してくれた。そして、ふと泣きたい時は隣にいてくれた。
「心配するな、マイフレンド。泣きたい時は泣けよ、マイフレンド。」
タクさんはワインが好きだ。今日はタクさんの誕生日。いつもの恩返しにとタクさんのお気に入りの赤ワインを買った。
隣のカップルはまだ手をつないで笑っている。僕の手には480円の赤ワイン。僕だって幸せそうに見えるだろう。
スクランブル交差点、行く先々皆違い、幸せも人それぞれまた違う。
お題は継続で。。
「スクランブル交差点」「お気に入り」「敬語」
特に、彼等は渋谷がお気に入りってわけじゃない。
田舎なもんで、娯楽はテレビで、渋谷が何度もブラウン管に写ってたというだけだ。
でもまあなんとなく、社員旅行は「東京観光」で渋谷、という事に決まった。
「とりあえず、いちまるく、行くべ」と、駅前のスクランブル交差点を行く。
信号が、青に変わる。
異変はその時起こった!
「足が勝手に動く…!?」「足が、ノロノロとしか、動かん!」
それに、なんでみんな、一斉に足を踏み出してしまうのだろう。
社長が珍しく敬語で「『めまぐるしく変わる現代の価値観の中で、我々は』…く、口が勝手に!?」
条件反射。
何度も刷り込まれたTV番組のパターンが、彼等の行動を支配していた。
田舎に見られない巨大なスクランブル交差点が、起動スイッチになるとは。
「また、青になっただ…」「わ、足がまたゆっくり!?」「意外と疲れますねー」
「せめて、早送り映像になる前に、あのボロデパートに逃れ…」
群集もハチ公も、誰も助けてはくれない。そんな状況でも、専務は無言でひたすら歩いていた。
夜になれば、深夜にさえなれば「未成年少女の都会の落とし穴」のパターンになると期待して。
※なんか勝手に書いた
次のお題は:「しいたけ」「下天」「猿の惑星」でお願いします。
「ええか、天界には、幾重にも層があってな。
本来、下天というのは天界の中での一番下の層のことをいう。
当然、その下天での一日が、人間界での五十年に相当しておってな…」
にこやかに話す和尚の話を聞きながら、一休は退屈になってきたのであくびをした。
「こりゃー。渇!」
ごつごつした長さ1メートルほどの警策(けいさく)で肩を叩かれた一休は、一気に泣き出してしまった。
「えーん。母上に会いたいよぉ。母上の作る、あの美味しい、しいたけご飯が食べたいよぉ。それは
めにも美しくて、香りだけではなくて、ビタミンもミネラルも豊富な
んだ。僕のような子供の成長には、なくてはならない成分がたっぷり入ってるんだよぉ。わーん」
なつかしい八百屋のCMが終わり、俺は『猿の惑星』の再放送を見ているわけだが、
さて、あなたは、こう思ってるのではないだろうか。「なんだ、三語を入れてるだけじゃないかと」
いっそそうならば、ヒントを出そう。それは……
「縦書き」「今回だけ」「許して」
てだ し書度し々 たドと
くけとまいPか起と縦を僕た
だににったCもこき書叩はま
さしかてもが、っのきい簡に
いまく、のフほてバとて単は
。す、非がリんいラはいな縦
のこ常、|のるン難る気書
でんに水ズ5。スし。持き
、な気のし分 等い ちで
どこ分泡、ほ のも でも
うとがに半ど 問の キ良
かは重な分前 題で |い
許今いっほ、 が、 ボか
し回。てど一 多見 |、
お題は継続で尾長いします
「縦書き」「今回だけ」「許して」
縦書きの便箋に筆を走らせる。彼女への思いを全て詰め込んだ手紙は、読み返してみると中々の出来だった。
書き上げたラブレターを鞄に収め、俺は昼前に家を出た。目指すは彼女が受付嬢をしているオフィスビル。
きっと彼女は、この手紙を見て驚くだろう。歩きながら色々な事を考え、妄想に浸る。正午にビル前に着いた。
今まで何度も商談に訪れたが、今日ほど緊張した事はない。一つ深呼吸をし、俺は玄関の階段を登った。
回転ドアを押し、中へ入る。下調べの通り、二人居る受付嬢の一人は昼食に立っていた。
だ、駄目だ勇気が。入り口で一瞬戸惑った。しかし昨日で商談は終わり、もうここを訪れる事はない。行くしかない。
けれど思いとは裏腹に、足は動かない。彼女は俺に好意的だ。今回だけは確信がある。呪文のように言い聞かせる。
許婚がいるという噂も耳にしたが、せめて俺の思いを伝えたい。選ぶのは彼女だ。可能性はゼロじゃない。
しんと静まり返ったロビーは、人影もまばらだった。ゆっくりと彼女の方へ向かう。彼女が顔を上げた。
ていうか、彼女がこっちを見ている。しかし何か様子がおかしい。顔ではなく俺の股間を見ているような。
良家の子女であるはずの彼女が、俺の股間に釘漬けになっていた。受付嬢は淫乱と聞くが、彼女もそうなのか?
いや、何かの勘違いだ。俺は思い直した。理想の彼女が淫乱な訳はない。変な妄想をした俺を許してくれ。
よろしくお願いします、と言葉を添えて俺は、ラブレターを挟んだファイルを彼女の前に差し出した。
ねっとりとした視線は、まだ下半身に向けられていた。彼女が口を開き「あの、社会の窓が……」見てたのはそれか。
無理がありました。面白くないです。(涙
縦書き、今回だけ、許して
次のお題は「虹」「約束」「暗雲」
「こんかいだけはどうしても我慢できないの、ごめんなさい」
のこされたテーブルの上のメモ用紙。その鋭い縦書きの文字からは、温度を感じられなかった。
さんざん今までも振り回してきたが、今回ばかりは許しては貰えないだろう。終わりの予感がした。
「ごめんなさい」 その小さな文字の歪みが、妻の本気を伝えている。
であった頃可憐な少女だった妻に、俺は約束したはずだった。
かならず最後までお前を守ると。俺は何処かで守るべきものを取り違えてしまったのだろうか。
けいたいが鳴っている、まるで決断を迫っているようだ。にぶい俺にも瞬時に解かった。電話が妻からではなく、俺を狂わせたあの天使からの物だろうと。
「温度」「予感」「天使」
1分半の差で被りました。
お題は後の方の「温度」「予感」「天使」でお願いします。
181 :
名無し物書き@推敲中?:2006/10/29(日) 18:27:32
後かよ!!
俺はいつも通り15分遅刻した。
彼女は待ち合わせの公園のベンチにちょこんと座っていた。
秋晴れで空気はひんやりとさえていて清々しい。
後ろから見る彼女のつややかな髪に天使の輪があらわれている。
俺はどんな言い訳をしようかしばし考え、こう切りだした。
「ごめん! ここに来る途中で自転車のチェーンが外れちゃって、遅れたんだけど、待った?」
ベンチに座っている彼女が振り返った。彼女じゃない。人違いだ。
「あー、すみません。間違えました」
「待ち合わせしていました?」
「はい、ここで待ち合わせしていたんですが……」
俺は辺りを見回して彼女がまだ公園に来ていないと確認した。珍しいこともあるもんだ。彼女はいつも俺が来るのを待っているのに。
「15分も遅れたから帰っちゃったかな? ちょっと電話してみます」
「あのー私も待ち合わせしているんですけど、1時間も待たされちゃっているんです。私とお茶でもしません?」
俺はこの突然の申し出に戸惑ってしまった。まあ彼女には悪いが、ちょっとぐらいお茶するのも悪くない。俺は二つ返事で答えた。
「彼女には悪いけど、おねえさんの方が美人だし、俺でよければ付き合いますよ」
こう言った瞬間に公衆トイレから彼女が出てきた。いままでの会話を聞いていた様子だ。俺の温度は一気に下がった。
あらわれかけた虹が暗雲によって掻き消えてゆく様が俺の脳裏に描かれている。
「いや……あの……三人でお茶でもしようか? あははは」
俺は未来を予知してしまったのである。左の頬の衝撃に耐えねばなるまい。
次のお題は「虹」「約束」「暗雲」で
すまん。予知を予感にしてください。OTL
虹、永遠に辿り着けない場所。
だけど私は追いつづける。それが亡き母との約束、だから。
約束、母と交わした破る事を許されない物。
絶対に虹の根元へ行く、それが約束。
今、私は気象学を学んでいる。ちょっとでも虹に近づくため。でも虹には永遠に近づけない。
それは母と約束を交わした時には既に分かっていたことだった。それはもしかして母に対する裏切りだったのかもしれない。
母の口癖は「いつか虹の真下に行くの」だった。
母、彼女は天然馬鹿だった。私はそんな母を恨んでいた。
そして…母は死んだ。最後まで母はあの口癖を呟き続けた。
まるでそれが暗雲の中にあった彼女の人生の最後の光であるかのように。
今、私は母との約束を実現させようと生きている。それが母への弔いだから。
私はいつまでも夢、永遠に辿り着けない虹を追いつづける。
次は「光」「群生」「管理」です
【灯火】
太陽系第三惑星チキュウの衛星軌道上の宇宙船に私は居る。
銀河帝国連盟に属するラデット星系人の私は忙しそうに4本の腕と24本の指を使ってレポート作成中だった。
こんな辺境星域を受け持たされて、もう、かなりの時間が経つ。
銀河帝国の一員への昇格が見込まれる準知性生命体の監視、管理が私の職務。
監視センサーがヒト生命の国家単位での不協感情を感知し警告を放ちはじめた。
「またもや悪性群生特質が出始めたようだ」
「なぜか、この動物達は一定の数に達すると自ら争いを始める?」
「こんな調子では、まだまだヒトが銀河帝国連盟に加われるようになるにはかなりの年月がかかる事だろう…」
「あっ!」
夜の陸地に小さなきれいな光がいくつか輝いた。
この瞬間、何百万ものヒトの命の灯も消えた。
お題は継続デ
ビジネスマン気取りだかなんだかしらないが、なんともネクタイ姿の似合わない連中だ。
こいつらの体から染み出るまっとうな人間の物でない空気は、形ばかりの布切れで隠しとおせる物ではないらしい。
俺のやるべきことはもう完了していたが、最後まで慇懃な対応はくずさぬ事にした。
もう必要は無いのだが、こいつらがもっとも見たがっていた部屋へと案内してやる。
「こちらです」
静かに扉を開くとまずオレンジ色の光が、続いて群生する植物の青がとびこんでくる。
奴が息を飲むのが解かった。取り巻きのチンピラ二人にいたっては、間抜けな声をあげて部屋に転がり込む。
「す、すげぇ…」
当たり前だ、この部屋がどれほど緻密に管理されているかなんてこいつ等の脳みそでは理解できないだろう。
「商談成立だな」
奴は悪魔の草に魅入ったまま、身の毛もよだつような笑みでそう言った。
俺もその表情を確認して、ニヤケが止まらなくなる。ここまでの達成感、そしてこれから始まる宴を想像すると震えが止まらない。
きっと俺も今、こいつらと同じ邪悪な表情をしている事だろう。
奴の後ろでチンピラが尻餅をついた。もう一人も足元がおぼつかずにフラフラとしている。
そうだろう? さっき盛ったぶんが、そろそろ効いて来る頃なんだよ。
奴は怪訝そうに部下を眺めていたが、何かを察したらしく慌てて俺を振り返る。
だがもう遅かった、流れだした鼻水とヨダレを必死にすすりながら必死に理性を保とうともがきだす。
無理だよ、その成分の力を一番良く解かっているのはあんただろ?
この植物の前で、毅然とした人間が壊れた人形へと崩れていくのを何度もみてきたろ?
お前が俺の姉にした所業を、忘れたとは言わせない。
「慇懃」「宴」「尻餅」
「虹」「約束」「暗雲」
窓の外、東の空がカッと光を放ってから5分後、僕は自転車を走らせていた。
間違いない。僕はそれを見た瞬間、確信した。
「必ず帰ってくるの」
一言だけ残して。去年の夏、忽然と姿を消した友達。
帰ってきた。あいつが帰ってきたんだ。
光の位置から推測すると、今は管理がなされていない廃ビルの辺りか。
僕が最初に出会ったのもその廃ビルだった。
全速で漕ぐと5分と掛からないだろう。
信号を2つ越え、左折。田んぼの中を突っ切って暫く行くと、
平地の中にぽつんとそのビルは建っていた。
5階建ての下から3つ目、3階の窓から僅かに光が漏れている。
僕は正面玄関の割れたガラスの間を潜り抜け、階段を上った。
そして3階の扉を開けると、そいつはあの時と同じ格好で、そこに居た。
30cmほどの体躯に、背中から覗く半透明にきらめく翼。
「アシェリー!」
翼をパタパタとさせ、再会を祝して宙を舞った。
「帰ってきたのですよー!」
一般的には「妖精」と呼ばれる精神生命体。それが僕の友達だ。
……ただ、そこには一つ、決定的な違いが見られた。
数。数が違う……。複数、というか群生……、いったいどれだけ居るんだ……。
部屋の中をまるで電飾のように埋め尽くす妖精の群れ。目がチカチカしてきた。
「……アシェリー、これは一体どういう……?」
僕が言い切る間も無く、
「お友達方なのですよー!」
その妖精は嬉しそうに羽ばたいて言った。
次は「トリクロロエチレン」「携帯」「マトン」
またお題が重なったようですね。
>>1の5の通り
>5: お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。
次のお題は
>>187の「慇懃」「宴」「尻餅」 でいきましょう。
【消え去る顔たち】
携帯の液晶が22時を表示した頃、私は仕事に疲れ果て混雑する急行電車のつり革にぶら下がっていた。
会社でも家庭でも居場所を無くした私は、ふらふらと虚ろな気分のまま途中の駅で降りた。
初めて降りた駅、いつの間にか外灯もない山道を歩いている自分に気づき立ち止まる。
少し先に神社があり、灯りが燈っている。
何かとても懐かしい気持が、灯りの方へ引き寄せる。
不思議な服を着た人間のような妖艶な獣がそこにいて私に微笑みかけ建物の中へ誘う。
慇懃(いんぎん) にあいさつをする魅力的な獣たち。
女形の獣に誘われ暖かい光の中へ踏み入れるとそこは、いろんな形体の獣達の姿。
永遠にも感じられる楽しい宴(うたげ)が始まった。
「ああ…こんなに楽しいのは、何年ぶりだろうか」
かなりの量の酒を飲んだ私は立ち上がろうとして失敗し、ふらついてしまう。
陽気な獣達が一斉にぶざまに尻餅ついた私を見て笑い転げる。
いつの間にか獣に姿を変えた私も気持ちを抑えきれず一緒に笑う…
「確か私には妻と子がいたはずだったな」だが顔が思い浮かばない。
周りを見渡すが獣たちの顔もぼやけハッキリしない。
顔は必要なかった。私も顔を捨て笑い続ける。
「そうか…私の居場所はココだったのか…」
※次のお題は「女子アナ」「配布」「視線」で
ガラス張りの高層ビル、灰色を吐き出す車、途切れる事の無い人波、それらが熱気をゆるゆるとかき回している。
駅前の交差点、炎天下の中その男はもう何時間もそこに居た。
せわしなく通り過ぎる人々に、小さな冊子を配布している。その紙の束には、聖書の言葉が書かれていた。
そう、男は聖職者なのだ。
長年全てを捧げて生きてきた。神の言葉を伝える事は彼にとって誇りであり、幸福な事だったのだ。
ところが今、彼は苦渋の表情をしている。脂汗が額をつたい苦しそうに喘ぐ。そばに寄れば切れ切れに神の名を連呼する、うめきの声が聞こえたろう。
もちろん暑さのためだけではない、彼はここ数日間闘い続けているのだ。
前から若い女性が歩いてくる。神は人を自分に似せて作ったというが、まさに美しい顔をした女性だった。
健康的な細い腕、涼しげなキャミソール、リズミカルに揺れるミニスカート、そしてそこから覗く誘うような白い太もも。
それは光を反射して眩かった。きめ細かく瑞々しい肌。もしも触れたなら、それは吸い付くような感触である事だろう。
男は慌てて視線をそらし、自分に纏わりつく何かを振り払うように強くかぶりを振った。
あぁ神よ…どうか私を誘惑から…
逃げるように泳がせた視線に、次は制服姿の少女が止まる。ラフで挑発的で小悪魔のような姿に、男は再びうめいた。
湧き出すなにかに飲み込まれまいと、助けを請うよう、天を仰ぐ。
ところが目に映ったのは彼が望んだ空ではなく、ビルの壁面にへばりつく液晶画面だった。
タオル一枚を胸に抱いた女子アナウンサーが、湯の中へ体を沈めてゆこうとしている。
彼は知る由もなかったろうが、持って生まれた魅力から男性に人気の女子アナだった。
白い布の、二つの大きな膨らみから目が離せない。いや、彼の誇りのために言うならばそれを睨みつけていたのかも知れない。
手にしていた冊子がアスファルトに散らばった。彼は強い眩暈に襲われていた。
神よ…神よ…どうか私をお救いください…
若い女性は、端整な顔をした男がうわ言を発しながら車道によろめいてゆくのを見た。
男の容姿を盗み見ていた、女子高生のあげた小さな悲鳴が雑踏に吸い込まれる。
やっと報われる時が来たのだろうか。彼は今、神の御腕にいだかれようとしていた。
「聖書」「制服」「眩暈」
【神の教え】
2046年、ブルーカラーの仕事は、ほとんどが知能ロボットに換わりつつあった。
長く、求職中だった私も、やっと、やっと、先週、ネットで仕事を見つけることができた。
しかも、今どき、高収入高待遇。
そのおかげで金銭面では楽になったのだが、日常生活では逆に…大変な思いをしていた。
職を得る代わりに《電脳教》への入信が条件になっていたからである。
脳へインストールした《電脳教》の聖書が私の日常を常に監視している。
「あはは!そうよね。バッカじゃないの!!」
前を歩いている超ミニの制服を着た高校生が脳内蔵携帯で楽しく友達と会話している姿が眼に入った。
と、突然、強烈なめまいと吐き気、そして特有の身体が浮き上がるような感じが!「あう・う・う…」
そう!原因はわかっていた。
『汝、悔い改めよ!!情欲を抱いて女を見る者は、すでに心の中で姦淫を犯したのです』
《電脳教》教祖様が悪魔のような形相で私の脳内に罰をくださった。
懺悔を繰り返し、やっとおさまりかけた頃、またも眼の前を全裸に近いブランド服を身にまとった30歳位のスタイル抜群女性が歩いてゆく。
だが今度は、先ほどのような教祖様の眩暈(げんうん)の罰はくだらなかった…
そう!今度も原因はわかったいる。
アイツは、今、社会に急速に増えつつある性転換した・お・と・こ・だから…
※次のお題「高級車」「内容証明」「ATM」で
前のお題の眩暈(げんうん)って難しいよ…
「高級車」「内容証明」「ATM」
彼はユニフォームのまま巨体を高級車に押し込み、自慢の屋敷へと向かった。
バット一本で上京して30年。小さな2DKに8人住まいの兄弟たちと、死ぬ気で働いた。
それから30年…今や球団の名監督で、自慢の屋敷の御主人様というわけだ。
運転手がドアを開けると、召使、メイドたちが「お帰りなさいませ」と一斉に頭を下げる。
ずらりと並んだ使用人の中に、まだ学校に行く位の幼い少年、少女がいた。
そんな、まだ子供の彼等の胸倉を掴み、「遅い!」とどやしつけるのだ、彼は。
「さあ、働くですたい!」と、深夜まで働かせ、メイド部屋で折檻したりする。
ぶ厚い眼鏡の奥に、醜く鬱屈した光が宿る。「30年前の恨み、晴らしてみせもそ」
30年前彼を冷遇し、馬車馬の様に扱った者達…その孫がこの子供達というわけだ。
形勢は逆転した。彼等は没落し、今や彼からの金をATMで受け取る生活だ。
「おまんらの親など内容証明一枚で…ふぉっふぉっふぉ」
…厚い頬がどす黒い喜びに歪むのが、自分でもはっきり解る。
(俺はなんて奴だ。30年間の必死の努力は、こんな事のためだったのか?)
たまりかねて、少年の中の長男がキッと睨んだ。30年前の、自分と同じに。
その時彼は直感した。自分と兄弟の一生は、この強烈な「動機付け」の伝播のためにあったのではと。
※なんも考えず書いたら、方言がヘン…
次のお題は:「水着」「液体窒素」「闇鍋」でお願いしまふ。
誰も人工授精を試験管ベビーと言わなくなったのと同様に
遺伝子選択はデザーナーズベビーといわれなくなった。
今では親は皆どの遺伝子を子供に受け継がせることができるか自分で決める。
精子を預ければ5秒でコンピューターが水着を着た男女の一覧を生成してくれる。
これは将来の子供の姿というわけだ。
適当なものが無いと思えば液体窒素で保管された他人の遺伝子を導入することも躊躇しない。
現代において子供を作るというのは大きなリスクなのだ。
全てを運任せで選択するという闇鍋にも似た方法で子作りをする親は少ない。
しかし、そんな昔ながらの方法に拘ってみようと思ったのには理由があった
次のおだい
「消毒液」「GDP」「愛の契り」
【ハイリスク・ハイリターン】 ※↑の続編考えてみました。
「これは、もちろん強制ではありません。が、しかし日本国の将来の為、是非決断を…」
日本国政府からある提案を受けている二人がいた。
現在、日本を始め先進国の子供のほとんどすべてはデザーナーズベビーとして産れていた。
容姿、知能、社会性資質、その他、どれをとってもひと昔前の子供と比べようも無く優秀だ。
今年、結婚をし、初めての子供を創るつもりの智子と清はクリニックを訪れていたのだ。
2週間後、消毒液の独特な匂いの大気中を歩き、クリーンルームへと導かれる二人の姿があった。
準備が整い、歩きはじめたその通路の先では、建物の中とはとても思えない程の地平線が見えるのではないかと思える程の広大な施設が待っていた。
そこは、智子と清と同じく審査をパスした多くの若い男女の日本人が暮らす世界だった。
ココで二人は、初めての子供を、すでに失われつつある高リスクの受精形態、自然な形の肉体関係で。
最近、デザーナーズベビー社会の大きな問題点が指摘されてきた。
それは、つまり天才が生まれなくなったためだ。つまりは秀才だけではダメなのだ。
国のGDPの数値は停滞していて、国力の維持、更には上昇へ向う目的をと国家的プロジェクトが計画された。
ひそかに政府に因る軽い洗脳処置を受けていた二人は、この夜、抑えきれない強い性欲求を起こし深く淫らな愛の契りを交わした…
隔離された特別な世界で繰り広げれれる、自然な常態での子供の誕生が果たして…人類世界を更なる一段階上の高みへと導く天才を生み出してくれるのだろうか。
次のお題は「虫けら」「時代遅れ」「全力疾走」で
198 :
名無し物書き@推敲中?:2006/11/14(火) 21:30:00
おしい
「言われなくなった」のに続編で言いまくるのは変だろう
/\___/ヽ
/'''''' '''''':::::::\
. |(_), 、(●)、.:| 200ゲト
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
. | `-=ニ=- ' .:::::::|
\ `ニニ´ .:::::/
/`ー‐--‐‐―´\
――虫けらにだって命はあると、ガキの頃よく歌っていたなと、ビデオを観て思い出した。
あの頃は信じて疑わなかった――いや、“命”という言葉の意味を理解できていなかっ
たのだから、信じることも、疑うこともなかった。
ただ、先生から教わった歌を、オウムのように唄っていただけで。意味なんてこれっぱ
かしも、考えなかった。
人間も、獣も、昆虫だって命は等価。命に変わらず、全ての命に上下はない。
それは嘘だと知った。……命は等価ではない。
時代遅れのビデオデッキは、いい加減ガタが来ているのか。どんな操作を指示しても、
いちいち壊れた音をたてる。巻き戻ししている間などは、テープが切れるのではとすら考
えてしまう。実際、何本かのテープは、停止の際にブツンと切れた。もはや三本しか残っ
ていない、亡き息子の姿を映したテープが、ぎゅるるると激しい音ともに全力疾走して巻
き戻っていく。
息子と。息子を殺しておきながら、たった13年で仮釈放された男の命が等価なわけがな
い……。
――巻き戻しの音が部屋中に響く、遠くに聞こえるサイレンの音を、かき消すように。
次は「雪」「競争」「うさぎ」
俺は最初、自分が足を止めた事に驚いていた。
気が付けば雪が降り始め、周囲には誰もいない。それまで気にならなかった寒さが急激に体を襲って来る。
スタートの号砲が鳴ったのは何時のことだったか。
今となってははっきりとは覚えていないのだが、俺が誰よりもいち早く走り始めたのは確かだ。
走り続ける事の厳しさや、立ち止まらせようとする誘惑に負け、数多くの仲間達が脱落していった。
俺はそれらを目にして、ますます自分を律し前だけを見据えた。
どんな犠牲をもいとわずに来たおかげで、俺はこの競争のトップを死守してこれたのだ。
辛く厳しい道だったが、充実感にも溢れていた。
それなのに何故俺は今、足を止めたのだろう。
吐く息が綺麗なほどに白い。聴こえるのは自分の荒い呼吸と雪の落ちる音だけだ。
俺は初めて、後ろをゆっくりと振り向いた。
そこにはうっすらと消え始めた、一人分の足跡だけがあった。
そうだ、友も家族もかえりみずに走り続けた来たではないか、静かなはずだ。
もう一度前を向いたが、もう雪のカーテンで先が見えなかった。
俺はもう動けないだろうと悟った。
そうか、俺は気が付いてしまったのか。この道にゴールが無い事に。
ゆっくりとその場に腰を下ろす。動きを止めた体をみるみる雪が覆う。不思議と穏やかな気分だった。
そっと瞼を閉じた俺は、途中でついてこれなくなり足を止めてしまった妻の、うさぎの様に腫らした赤い目を思い出していた。
「誘惑」「呼吸」「不思議」
中学の頃、公園の隅に、屑同然の雑誌を見つけたのを今でも覚えている。
裏表紙なのだろう。泥でまみれた表紙の中に、微かに車のヘッドライトの部分が見える。
何の雑誌なのだろうか。僕は、誘惑に駆られ近くにあった棒を拾い、それを巧みに駆使し、雑誌を開いた。
驚きで、呼吸が止まった。
中身はいわゆる、エロ本というものだった。
あの時、僕は不思議と興奮して、その中身を必死なまでに凝視していた。
カラーの写真で飾られたページは、性行為を生々しく写真の中に収めているものだった。
男と女が激しく舌を絡ませ、必死なまでにお互いの身体を貪っている。そんな描写ばかりが、載っていた。
あまりの過激に、息は詰まり、周りに人がいないか確認していたのは一番恥ずかしい思い出だ。
カラーの写真が終わり、後は泥水を吸って変色した、文章ばかりのページになり、僕はもう一度カラーの写真を再び眺めた。
それを何度も繰り返していると、どこかで物音が響いてきた。僕は、その音に心底驚き、その場を走り去った。
次の日、再び雑誌を見に公園へ行ったのだがあの雑誌はどこかへと消えていた。
あの雑誌は、どこへいってしまったのかわからない。あの時から僕はエロ本に興味を持ち始めて、親にばれないように集めだした。
今では、溢れ返り、処分に困った本を公園の隅に捨てにきている。きっとあの雑誌を捨てた人も同じ事をしていたのだろう。
いつも通りにエロ本を捨てにきた僕の視線の先には、僕の捨てたエロ本を必死に眺めている少年が居たのだった。
「明日」「信号機」「時計」
204 :
名無し物書き@推敲中?:2006/11/16(木) 22:52:54
>僕はもう一度カラーの写真を再び眺めた。
詰めが甘い
【さやかの秘密】
今年で中学生になるウチのひとり娘のさやかは、昔、よく、迷子になっていた。
ショッピングモールへ行った時など、さっきまで眼の前にいたと思っていたのに、行方不明になり、みんなで探すと売り場の前に突っ立ってじっと時計に見入っていたことがたびたびあった。
さやかが時計を好きな訳は多分、長い針と短い針の規則性、時を刻む機能的な部分とか、そういう部分に惹かれていたのだろう。
そんな可愛らしかったさやかも最近、様子がおかしい。
学校で…友達関係で何か重大な悩みでもあるのだろうか…
そんなことを考えながら車を走らせていた今年46歳になる長山武は手前の信号機が黄色から赤に変わった所で…
車内のデジタル時計は14時40分15秒を表示シテイタ…
今年で中学生になる私は、昔、よく、迷子になっていた。
ショッピングモールへ行った時など、突然、行方不明になったと、父や母が大騒ぎし探しまわり、売り場の前に突っ立ってじっと時計に見入っている私を発見するパターンがたびたびあった。
私は別に時計が好きなわけではない。
時計の長い針と短い針が規則正しく動くさまをジッと見つめているうち私にはある能力があるのにきがついた。
つまり、私には時を…時間を…ある一定の枠内で制御できる力を持っているのである。
それが面白く、昔は、よく時の流れを遅くし、行方をくらまし父や母を驚かせて楽しんでいたのだ。
そんな時もあった…でも…もうそんなことはどうでもよくなった。
すべてを終わりにしたかった私も周りもこの世界すべて…
そんなことを考えながら学校からの帰り道、今年12歳になる長山さやかは商店街のアーチに設置されている大時計を見つめ全能力を使い…
大時計は14時40分を指したところで時を止めていた…
この世すべてが停止した…さやか自身も…そう、もう明日は来ない…永遠に…
次のお題は「迷信」「ジャンケン」「四季」で
「迷信」「ジャンケン」「四季」
「ほら、信ちゃん。クラシックなんか全然知らないじゃん。」
俊夫は勝ち誇って甲高い声で言った。
侮辱された信一はぷるぷると震え怒りを抑えながら答える。
「俊、だいたいお前がマニアックな曲ばかりをかけるからだろう」
「マニアック?ヴィバルディの『四季』が?有名だよ。タッタッタータラター。
ハハハ、きっと、信ちゃんがいつも馬鹿にしている太一や明だって知ってるよ。
ラジオやレコードぐらいあいつ等の家にもあるからね。
信ちゃんはいつも何でも知ってるって顔して偉ぶっているけど、
本当は知らないことも沢山あるんだよ。」
俊夫は中学に上がってから、勉強もスポーツもその他なにもかも、
ほとんど運としか言いようのないジャンケンですら勝てない信一に、勝った。
貧乏な信一の家にはレコードもラジオもないことを知っていた。
『四季』を知らないことは信一の非ではない、そんなことは分かっていた。
それでも、信一の知らないことを自分は知っている。俊夫はその喜びで、
世界の王にでもなった心地よさだった。
頬の筋肉をこわばらせ、嬉々とする俊夫を信一は眺めている。
「人を笑いものにした奴は、いつか自分も笑われる。」
信一はぽつりと言った。
それは、信心深い老婆の迷信めいた忠言のようだった。
次のお題は「スカート」「風向き」「動揺」
209 :
名無し物書き@推敲中?:2006/11/17(金) 17:45:08
205 グダグダ
207 おもんない
【いやーん】
こうして人の多い通りを歩く時、いつも私の心は動揺し、鼓動は高鳴り、顔がほてる。
学生でもなく20歳をとうに過ぎている私がセーラー服を着て短いスカートをはき、歩いている。
スタイル、マスクには、自信がある。
比較的童顔で高校生としても十分に通用する自信もある。
でも…やっぱり恥ずかしい…でも、やめられ無い、私の密かな楽しみ。
170cm近くある私…通りすぎた中学生の男の子の視線が感じられた。
「ああっ!」前から歩いてくるオヤジの眼線は、私のスカートからのびる素足…そして少しだけ大胆に広がった胸元に向けられているのがはっきりとわかる!!
気づかない振りをして歩く。
その時、予想もしない風向きと強さの11月の風がいたずらをしかけた。
「きゃっ!」と思わず声が出てしまった。
スカートが見事に踊り、お気に入りの下着をさらけ出した。
顔を真っ赤に染めたまま、足早に自宅へかけ戻る、わ・た・し…
辺りを気にしながら階段をかけあがり、すばやくカギを開け、部屋の中に入るセーラー服姿の女性の影。
そして『第2よもぎ荘』の203号室、ドア表札には、仲田忠行と、そう、書かれていた。
26歳、会社員。休日の唯一のお楽しみは《女装》
次のお題は「木枯らし」「喧嘩」「強化ガラス」で…
212 :
名無し物書き@推敲中?:2006/11/21(火) 23:15:50
ありがち
私のところにはかつて、一流企業に勤めるバリバリエリートのクライアントが通院していた。
自分だけが真に理解しうる友人だと彼は言っていた。
そんな彼はあるときこういった。
「自分に自信がなくなるときがあります。そんなときは自分自身と喧嘩をするんですよ」
「自分に怒っているとやがてやる気がわいてくるんです・・・」
わたしはそれを聞いて木枯らしに吹かれたかのごとく、急に切なくなったのを思い出した。
彼は一見、外部から丸見えであるようだったが決して他人を心の内には入れなかった
今彼はどうしているだろうか、今でも心を強化ガラスで囲っているのだろうか?
私はコンビニの前でうつろな目をして座っている少年をみて、ふと彼を思い出した。
214 :
213:2006/11/22(水) 05:55:01
あ、お題忘れました「株」「ディープインパクト」「金さん銀さん」
私は今回一点買いで勝負していた。
「この馬こそ世界のTOPにふさわしい名馬だ」「負けるはずがない、負けようがない」
私は心のなかでそうつぶやいていた。心は躍っていた。
秋・凱旋門賞スタート。しかしそこからの記憶は、断片的に切り取ったワンシーンのよう。
金さん銀さんの西洋版みたいなのが、頬を真っ赤にし、手を取り合ってはしゃいでいる様子。
跳びあがる紳士風の男、come on!という声、fuck!という罵声も聞こえた。「きゃー」という声も。
私は?私は多分、いや、確かにそのとき泣いていた、不覚にも。肩を震わせ下を向き嗚咽していた。
株で負けたときはもっと大損だったがこんな気分にはならなかった。
私はあの馬に、ディープインパクトに、なにを託していたのだろうか、なにを重ねていたのだろう?
時計、ファイル、植物
216 :
名無し物書き@推敲中?:2006/11/22(水) 19:45:14
age
アパートの隣に越してきたのは、何とも不可思議な老夫婦であった。彼らはいつも
決まった時刻に部屋を出て、決まった時刻に帰宅する。一分一秒の狂いもなく、
ドアノブの回る音が聞こえるのである。
私は机の上に置いてあるクリアファイルを手に取り、そこに挟まれた一枚の紙切れに
目を落とした。「4:44」。私が初めて彼らの不可解な習性に気付いた時に残したメモ
である。彼らは毎日、午前4:44に家を部屋を抜け出し、午後4:44に部屋へと戻ってくる。
この意味深な時刻は一体何を示しているのか? 私の中でふつふつと盛り上がりつつ
あった好奇心は、今ついにその頂点に達した。幸い私の顔は彼らに知られていない。
現在の時刻は4:39。私はいつも通りのラフな服装で、問題の時刻がやってくるのを待つ。
逸る気持ちを抑えつつ、玄関の扉の内側に立ち、ひたすら耳を澄ましていた。やがて私の
腕時計は4:44を指した。その瞬間、隣室のドアノブの回るガチャリという音が聞こえた。
扉の開くキイという音に続いて、「ぼははは」という不気味な笑い声が起こった。間もなく
扉の閉まる音がして、二人分の足音が聞こえ始めた。私はいつものように鍵穴から外を
覗いた。どこにでもいそうな、地味な服装を身にまとった老夫婦の姿が目に入った。
二人は間もなく通過した。私は高鳴る胸元に手を当て、固唾を飲み下してから、思いきって
玄関の扉を開けた。その瞬間、何かの植物のような香りが鼻腔をくすぐった。それは
私にとって、いまだかつて嗅いだことのないほど心地よい香りであった。そのあまりの
心地よさにしばしぼんやりとしていると、遠くでまた「ぼははは」という不気味な笑い声がした。
私は本来の目的を思い出し、笑い声のした方向に歩き始めた。と、
「ぼははは」
私は我が耳を疑った。遠くにいるはずの老夫婦の笑い声が、なぜか背後から聞こえて
きたのである。おそるおそる首を後ろへ振り向けると、そこには満面の笑みを浮かべた
老夫婦が立っていた。老人は笑顔を崩さずに、黙ったままこちらに右手を差し出した。
その手には一本の花が握られている。先程嗅いだ良い香りが、鼻腔を強く刺激する。
「お花畑はまだ早い。これ一本で我慢しておけ」
そう言い放った老人は、もはや笑ってはいなかった。
次のお題 太陽、船、月
一人娘の照子が実家に戻ってきてもうそろそろ2年になる。
抜けるような青空に誘われ、久しぶりに家族3人近くの公園にやってきた。
妻とにぎやかしくバドミントンをする様子を遠くからみてふと昔のことを想った。
悩みに悩んだ挙句離婚を決意したのは照子の方だった。彼女は子供の産めない体だった。
身の回りの整理を全て終え、照子が家に戻ってきたのは12月25日クリスマスの日、
私たちは玄関まで娘を向かえに出た。
いつも笑顔を絶やさぬ脳天気な娘だったが、家に戻ってきた姿を一目見、これがわが娘かと
目を疑った。私は「絶句する」ことをこのときは初めて体験した。
妻はみるなり「ごめんね、ごめんね」と照子の足元に泣き崩れた。
「お母さんは悪くないよ」力ない声が聞こえた。
私は照子を元気づけようとサンタの格好をしていた。
「なに?それ」
みんなを明るく照らす太陽のようになってほしいと願ってつけた名前の持ち主は
目に涙をため力ない笑みを、しかし精一杯の笑みをこちらに向けてくれた。
私は思わず上を見た。綺麗な満月が涙でゆがんだ。
ハンカチ、化学、政治
219 :
218:2006/11/23(木) 00:23:00
あ、船が抜けてる
公園でバドミントンを船旅に換えて読んでおくんなせぇ、スマヌ
220 :
218:2006/11/23(木) 00:30:08
冒頭部分のみ以下に変更しまうす、度々スマヌ
一人娘の照子が実家に戻ってきてもうそろそろ2年になる。
私たち家族3人は、なけなしの年金をはたいて船旅の最中だ。
デッキで妻とにぎやかしく会話する様子を遠くからみてふと昔のことを想った。
221 :
名無し物書き@推敲中?:2006/11/23(木) 00:47:45
良スレage
夜もふけてきたことですし、最後はちょっと珍しい「腹黒いおじさんたち」を
つくるレシピを紹介してお別れでーす
まず国を憂う、ぴちぴちの若者を適宜用意しまーす。
次にこの若者を利権という甘い汁にしばらく漬けておきまーす。
若者が十分に甘い汁を吸ったことが確認できたら、政治という名のハンカチでくるみまーす
次がミソでーす。みんなメモしてちょ
永田町という名の保管庫でしばらく寝かせるだけでいいのです。
彼らは利権と政治が織り成す絶妙な化学反応を永田町でじかに体験してどんどん膨れていきます。
やがてあーら不思議、国憂の士はすっかり姿を変え、ここに立派な腹黒いおじさんたちのできあがりでーす
おいしくないかも・・・
ちゃお!
父親、マイケルジョーダン、千利休
223 :
222:2006/11/23(木) 05:19:24
おはやうおじゃりまする
固有名詞出してしまってスマヌ、テンプレよく読んでなかった
自分でカキコして決着とします
僕には3人のお父さんがいました。
最初のお父さんと最後のお父さんはお母さんと僕をたたくばっかりしました。
真ん中のお父さんは、優しかったけど病気で死んでしまいました。
今日は優しかったお父さんとの思い出を発表します。
僕とお父さんはBSをよく見ていてマイケルジョーダンを応援していました。
マイケルジョーダンには、髪の毛がなくて、お父さんにも髪の毛がありません。
でもお父さんのは癌という病気をなおすお薬のせいなんだよ、と教えてくれました。
またお父さんは、お茶の先生をしています。僕が、お父さんは誰に教えてもらったん?と聞くと
千利休っていう大昔の人がお父さんの一番の先生なんだよと教えてくれました。
お父さんはそれからすぐ入院して死んでしまいました。お父さんと話す時間は短かったけどお父さんみたいに
優しいひとになろうと思います。
よしゆきはなくしたと思っていたはずのこの作文に目を通すと、この父親の葬儀のあとポツリ母が
もらした言葉を思い出した。「・・・幸せな時間って短かいねぇ」
階下から娘の呼ぶ声がする。「お父さーん、ご飯だよー」「はーい」
よーし今度の休みは家族でどっか出かけよう、よしゆきは思った。
辞書、ねじ、タオル
「贈り物」
僕は試験の勉強が忙しく、彼女をかまってやるひまがない。
デートと言えば近くの公園でぶらぶらするくらいだった。
「はい」そんな彼女から高価な辞書をもらったときは驚いた。「おいおい、どうした?」
「そのかわり受かったらいっぱい遊ぼう」彼女はバイトして貯めたお金で買ったのだと言った。
僕はその辞書を片手に懸命に勉強し、見事試験をパスした。
彼女に吉報をメールし、その夜受験仲間と居酒屋で盛大に合格祝いをやった。
どこをどう歩いたのだろう、僕は気がつくと知らない女の子と自分の部屋にいた。
バスタオルをまいた女の子が僕の隣に座ったとき、部屋の扉があいてシャンパンを手にした彼女がそこに立っていた。
彼女はシャンパンをそっと置き、目も合わさず「おめでとう」とポツリ言うと急いで出て行った。
僕は酒でフラフラになった体をあちこちぶつけながら必死に彼女の後を追った。
よく彼女とじゃれあった公園まできたときには彼女を見失っていた。
部屋に戻ると誰もいなかった。玄関にはひっくりかえった工具箱から、あたり一面にねじが散乱していた。
僕はそれを見て大声で泣き崩れた。
ロボット、横綱、ホームシック
とうに陽の落ちた教室で、三人の少女は恐怖に身を震わせ続けていた。
指を吸いつけ離さない十円玉が、ロボットのように文字をたどり続ける。
「お」「か」「あ」「さ」「ん」「ど」「こ」
「お」「う」「ち」「か」「え」「り」「た」「い」と。
思えば、あの注連縄。張った結界が逆だったのだ。正しい注連縄は左ない。
右ないになわれたそれは、何らの効果を発揮しない。横綱の綱に、聖化の力は
ないのだ。
「もうやだ、お母さん助けて」
とうとう、一人が泣き声を上げた。
「お」「か」「あ」「さ」「ん」「た」「す」「け」「て」
十円玉が滑る。
「お母さん」
「お」「か」「あ」「さ」「ん」
十円玉の此方と彼方、互いに互いを縛りあいながら、ホームシックの情念は
連なり渦巻くばかり。
次は「魔王」「ナパーム弾」「取扱説明書」で。
「不運な乞食」
公園のベンチで夜を明かすこの乞食は、今日66歳の誕生日を迎えていた。男は夢をみた。
遺跡を調査している。するとなにか文字のようなものが彫られている、石版を見つけた。
男はそれを手にとると、おもちゃの取扱説明書でも読むかのように、すらすら読み上げた。
そんな自分に不思議がりながら、男は目を覚ました。今年の梅雨は長雨だった。
新聞紙ごと雨に濡れた体は冷え切っていた。男は震えながら、用を足しに便所に向かった。
便所から出ようとして、ふと鏡を見ると、左の頬になにかついている。「ん?文字?」
男は驚いた。夢の中にでてきた文字だった。思わず読んでみる。「※▲>××」
突然、焼付く様な感覚が体にひろがる。「・・・なんじゃこりゃ。」次々石版の文字が頭に浮かんだ。
そのひとつを口にする。今度は目も眩むような光の球が手の平から地面に落ちた。
・・・気が付くと、周りは見渡す限り、更地になっていた。
ナパーム弾1000発一度に破裂させても、こうはならないだろう程に、きれいさっぱりと。
男はニヤけながら、闇夜にただひとりたたずんで、次に浮かぶ言葉を待っていた・・・。
この男はのちの歴史書に「いつわりの魔王」として紹介されている。歴史書にはこうある。
『・・忌まわしき数の並びが、偶然魔界の扉を開けたのだ。彼は「選ばれし者」ではなかった。
彼は「言葉」を制御できず、あるとき自ら「滅びの言葉」を口にし彼は霧散した。』
恋慕、憐憫、愛情
227 :
名無し物書き@推敲中?:2006/11/28(火) 01:16:16
「恋慕」「憐憫」「愛情」
「ま、次期の寮長殿にだ、我々先輩からも卒業課題を一つ…と思ってね」
指を鳴らすと、手下が、薄汚れた大きな布袋を、部屋に運び込んだ。
「この位の課題、君には楽勝だろう。あばよ!」
野卑た笑い声を残して上級生が立ち去った後、彼は中身を見て仰天した。
毎朝、教練に出る貧しい彼を、飾り窓から見ていた彼女、その人だったのだ。
もっとも、当時の彼の立場では、恋慕う事すら叶わぬ相手ではあったが…
(見ないで!)口は塞がれていても、彼女の目が、そう叫んでいた。
あの時のドレスは形もなく、一枚きりの部屋着から、寒さに荒れた指がのぞいている。
可哀想に…彼は憐憫の情を禁じ得なかった。
かつてこの指が階上のピアノを奏で、戸口に耳をつけては、それに聞き入ったものだ。
思えば当時の彼には、扉を開け、もっと聞かせてと言う勇気さえなかった。
それが今や、「卒業課題」。悲惨というか、ラッキーというか、残酷な偶然と言う他ない。
「よーし、卒業課題、がんばるぞー!」「あ、あなたという人は…開いた口が塞がりません」
とはいえ、こんな偶然って数学的にアリ!?
「愛情表現が不器用な彼へ気遣い」という方が、まだしも説得力が…
※ドイツ人が「ラッキー」(w
次のお題は:「戸惑い」「超伝導」「便秘」でお願いします。
228 :
名無し物書き@推敲中?:2006/11/28(火) 05:17:20
「戸惑い」「超伝導」「便秘」
1911年は、ヘイケが超伝導を発見し、
アムンゼンが南極点に到達するなど科学の進歩が目覚しい反面、
ドイツ帝国によるアガディール事件など緊張が高まりつつある年だった。
ウィーンに絵葉書などを売って生計を立てている一人の青年がいた。
生活は比較的安定していたが粗食で堅いパンばかり食べていたせいか、
便秘に悩まされていた。
彼は真面目で、毎日図書館に通う勉強家だった。
ある日、彼はとあるプリマドンナに一目惚れした。
生まれて初めて抱く気持ちに彼は戸惑いつつも、
次第に生活費を切り詰めてまで劇場に通うようになっていった。
だが、そのプリマドンナはユダヤ人の実業家と結婚してしまい
劇場から姿を消してしまった。
彼はひどく絶望した。
気の弱い彼は彼女の歌う姿を見ていられれば幸せなのだと自制してきた。
そのささやかな願いが踏み躙られた思いがした。
神よ、愛する母だけでなく彼女の歌まで私から奪うというのか。
彼はそのユダヤ人を憎んだ。
それは静かではあるが、底無しの深さだった。
10年後、彼は国家社会主義ドイツ労働者党の党首として日本に新聞報道で紹介された。
「ソビエト」「将校」「女子高生」
今日のもうけはっと・・・ざっと23万か
さあて、今日はどうすっかなぁ・・昨日は飲みにつかった。おとついは・・・
俺ゆうじ25才、職業は自称ニートレーダー、これってニート+デイトレーダー
の造語、俺が考えた。
ポリシーは、人のために働かないこと、宵越しの銭はもたないこと
「きーめたっ、今日は久しぶりに風俗いこ、風俗」
トレーダー仲間のやすしにtelする
「おおおおっす」「どやった?」「まあまあかな?」
たあいもない会話の後、本題をきりだす。「ok」
オキニの店の名は、SMクラブ「ソビエト」、オプションは将校コスプレと決めている。
若い子が多い店だが、一説には本物の女子高生がいるとかいないとか。
しかしこないだは、厚化粧のおばはんが、腹のオニクをタプつかせながら登場。
これにはまいった。俺は本来Mなはずなんだが、そのときばかりはSで応戦。
今日はやすしを人柱に、俺は「残りものには福」の作戦。
今日はヨロシク頼むぜ・・・
「水晶」、「鏡」、「おじいちゃん」
ソビエト無理やりすぎw
あたしはキレイなものが大好きで、ママの宝石箱ちゃんとはとても気が合う。
宝石箱ちゃんが不思議な力を持っていることは、あたしだけの秘密だ。
宝石箱ちゃんはフタを開けると鏡がついていて、ママの色々な指輪やネックレスが詰まっている。
その中に、ママったら昔の恋人にもらった指輪も入れていた。
パパがあげたダイヤの指輪なんかよりもずーっと石が小さくて、見るからに安っぽい。
美意識の高い宝石箱ちゃんは、そんなちゃちな指輪を見るのも嫌だったから、
この前、とうとう鏡のなかに飲み込んでしまった。
あたしはママがパパ以外の人から貰ったものを大切にしているのがキライだったから、
内心喜びながら鏡を覗き込んでみると、指輪が水晶になって、鏡の奥でキラキラ光っていてキレイだった。
――そっか、キタナイものは宝石箱ちゃんに飲み込んでもらえばキレイになるんだ。
あたしはワクワクしながら電話をかけた。
「もしもし、おじいちゃん?今度の日曜、遊びに行ってもいい?」
しわしわでよぼよぼなおじいちゃんをキレイにしてあげるから、待っててね。
次のお題「トイレットペーパー」「花束」「かつら」です。
「水晶」、「鏡」、「おじいちゃん」
おじいちゃんは時々ぼくにこう言った。
「わしらにポル・ポトを非難する資格なんて無い
確かに酷い目にあわされたが
わしらがそれに加担したのは事実だ。
字が読めることを隠し、隣人を密告し、処刑する側に立って生き延びてきた」
ポル・ポト時代のことを悔やみ続けながら、彼は去年息を引き取った。
彼は砲弾の破片が目に入り、水晶体を傷つけ左目を失明していた。
未処理の地雷に手足を吹き飛ばされた人も大勢いた。
みんな傷ついていた。
あれから随分時間が経ったのに、僕達はまだあの悲惨な時代を引きずっている。
悪いのはポル・ポトだけなのか?
恩赦を与えられたクメール・ルージュは?
クーデターを起こしたロン・ノルは?
カンボジアに侵攻したベトナムは?
ポル・ポトを支援し続けた中国は?
直接手を下した多くの少年たちは?
贖い切れない大罪は今も僕達を苦しめている。
「鏡を見ることができない」
祖父の言葉を僕はよく思い出す。
「アジア的」「優しさ」「彼女」
【二人の秘密】
そろそろかなーと考えながら彼を待つ女性がいた。
結婚を前程に付き合い始めて1年あまり今日あたりプロポーズが来そうなのだ。
あっ彼だ!
花束を持ち現れた彼。
超高額ではないがそこそこの高給の職に付き、趣味も私と合うし、将来の計画もしっかり持っている。
レストランのメイクルームの鏡に向い心を落ち着かせたあと、彼の待つ席へ。
食事を済ませ、彼からのプロポーズに笑顔でうなずく私の視線はいつものように彼の瞳から頭部へ移った。
かつらなのは、とっくに知っているんだけど…あえてそれには触れないの・・・それが私の優しさ!かな?
よし!今日決めるぞ!と考えながら彼女の待つ表参道へ向う男がいた。
結婚を前程に付き合い始めて1年あまり今日こそプロポーズが出来そうな雰囲気。
あっ彼女だ!
アジア的などこか異国風の顔立ちを持つ魅力的な彼女。
レストランの便座に座りトイレットペーパーを流し立ち上がり心を落ち着かせ彼女の待つ席へ。
食事を済ませた後の、プロポーズに笑顔でうなずいてくれた彼女を見つめる僕の視線はいつものように彼女の顔全体に…
整形してるの!とっくに知っているんだけど…あえてそれには触れないョ…それが僕の優しさ!かな?
235 :
名無し物書き@推敲中?:2006/11/29(水) 18:19:29
記録的な寒波の襲来でぼくは崖っぷちにたたされていた。ぼろ小屋住まいのぼくは、
精神的にも肉体的にも追い詰められていた。このぼろ小屋はところどころに穴が開いており
そこから吹く寒風によるダメージは伊達じゃない。
あと何日待てばいいのだろう……。
この家屋は、先祖代々受け継がれてきたものなのだ。俺の代で潰すわけにはいかない。
それが俺の親の遺言だった。畜生、つまらない遺言残しやがって。
でもまあそれはいい。それよりあんな大きな借金を残しやがって、このボロ小屋の
修理費にあてる金もない。おりゃあ不幸中の不幸な人ですよ、畜生。
それでもなんとかこの悲惨な状態をのりきれるのも、この前、ゴミ捨て場に捨ててあった
電子レンジをストーブ代わりに使っているからだ。これで俺の体温はなんとか保たれている。
畜生、はやく春よこい……。
「ウクレレ」「片思い」「粘液」
もの凄く遠くで音が鳴っている。それが段々段々、近く大きくなっていく。
やがて悲鳴に近い大音響に変化した時、彼はようやく目を覚ました。
ぼんやりした視界の中で腕を伸ばし、ベッド脇の目覚まし時計を立て続けに3つ止めた。
数分間の静寂が訪れる。
やや明瞭になった彼の意識は、今が土曜の午後の5時38分であることを認識した。
彼は身体を起こして袖をまくり上げ、しげしげと自分の肌を眺める。
皮膚はかろうじて皮膚の形を保っているが、いつ何時あの懐かしい「緑色の粘液」に変化してもおかしくはなかった。
(もう本当に時間がない…)
彼は着替えるとレストランに急いで向かった。彼女とは7時の待ち合わせだった。
駅へ向かう途中の路地裏で、薄汚れた老人がウクレレを小脇に抱えて虚ろな目で佇んでいた。
その情景はなぜか、今の彼に強烈な印象を残した。
(やはりこのまま…片思いのままで終わらせた方がいいのだろうか)
彼女のシアワセを考えて彼は逡巡した。
=========================================================================================
次は…
「瑠璃色」「煙草」「贈り物」で…
237 :
1/2:2006/11/30(木) 05:17:13
「瑠璃色」「煙草」「贈り物」
王は軍服のポケットにある毒薬の瓶を握り締めた。
王の軍隊は先の戦いで致命的敗北を喫した。
王は軍の半分を失い、あわや自分の命も失うところを親衛騎兵に助けられた。
この戦争が始まって何年目になるだろうか?
長引く戦争の荒廃に皆苦しんでいた。
首都に敵が迫ればもはや跳ね除けることは不可能だった。
緒戦の輝かしい勝利はすでに色褪せていた。
私はきっと亡国の王として永く蔑まれるだろう。
いや、記憶にさえ残らないのかも知れない。王はそう考えていた。
王はパイプをくわえ煙草に火をつけた。傍らには王を救った親衛騎兵がいた。
王は彼にパイプを渡すと毒薬の瓶を取り出し、彼に尋ねた。
「国家の僕として為すべきことはなんであろうか?」
彼は答えた。
「ただひたすら自分の役目を果たすことです。
高慢で尊大で理想ばかり高く、我々にはいつも皮肉ばかりを言うひねくれ者。
それが陛下の役割です。
例えどんなに繊細で心優しく、王と言う役目を心の底から嫌っていても、
幕が閉じるまでは演じ続けるのが陛下の為すべきことです」
随分な言い様だとは思ったが
勇気付けられた王は毒薬の瓶をポケットに入れて将軍を呼びつけた。
「軍を再編する。今すぐだ」
「負傷兵が多く士官も不足がちです。再編には時間が掛かります」
「時間が無い。繰り返すぞ、今すぐだ。至急大至急!」
命令を終えると王は親衛騎兵に言った。
「煙草を嗜む時間さえ惜しい、そのパイプは君への贈り物だ。
私を救った褒章を出すまではそれで我慢したまえ」
238 :
2/2:2006/11/30(木) 05:18:40
プロイセンの短い夏の夜明けの空は瑠璃色だった。
フリードリヒ二世は七年に渡る戦争で
オーストリア、ロシア、フランス、スウェーデンを撃退し
ドイツ帝国の礎を築いた大王として、今も我々の記憶に残っている。
「尊大」「皮肉」「庇護」
239 :
死神:2006/11/30(木) 11:11:26
「尊大」「皮肉」「庇護」
ブクブク太った腐った豚が蝿を呼び寄せる・・
腹の中に狂った感情を詰め込んで、今日もその口は食うか泡飛ばすかに忙しい。
猫はネズミをくわえる。
ニヒルな庇護の下、だっら〜、と涎にまみれて虚ろな眼。
そして、ギリギリと泡を吹く。
馬鹿は強者に絞られる。
カラカラ。
引きつった口元が甲高い音を漏らす。
響鳴。
不自然に明るい陽光が不自然な場に注ぎ込む。
ザァーーーーーーーーーーー
皮肉な景色のオンパレードが、いやはやケバケバしい。
平和な日だ。
暗殺者は豚をくらい、豪快に笑う。
依頼者は暗殺者を裂き、尊大に笑う。
猫にメシをやらねば。
今日はステーキが食いたい。
スシよりは。
次題:「神」「悪魔」「人間」
【教え子】
はるか未来。
人類は、あらゆる面で進化、進歩を成し遂げることが出来、そして…ついに…
太古の昔からその存在には、触れては、いたが確信を持って認識することが出来なかった二つの絶対的生命と今、同一空間上に相対していた。
それは、神と悪魔。
人間を前にして神は言った。「おお!!ついにあなたたちは私の導きの元、生命の精神的高みの場へと現れたのですね」
人間を前にして悪魔も言った。「おお!!我が邪悪な精神を持つ真の友よ!よくぞ!我と会話し得るこの場へと現れた。共に語ろうではないか。」
肉体的にも精神的にも大幅な自己変革技術を使い能力を増大させている人間は堂々とした姿で神と悪魔の前へ立ち言った。
「お前らが我が人類を長年苦しめていた存在か!!なんと!小さき魂よ!」
そう言っただけで人類の代表である5メートル余りの巨体を持つ1人の人間は、対話を打ち切り歩き去ってしまった。従事であるロボットが一礼をして後に続き、その場はシーンと静まりかえった。
残された5次元空間には、まったく相手にされずに唖然とする神と悪魔の姿があった…
次のお題は「ヤンキー」「ノートパソコン」「伝統」で…
「ヤンキー」「ノートパソコン」「伝統」
ハミルトンは必死にノートパソコンのキーを打った。
「くたばれチンカス野郎!
ママのプッシーかお友達のヤンキーのディックが恋しいか!
どうしたベイベー!かかってこいよ腰抜け野郎!
ファックとドープのし過ぎで一口サイズのウインナーソーセージが腐り落ちて
念願の玉無し野郎になったのか?
どうしたホラ?セント・パトリックで懺悔して来いよ!
『薄汚いブタ野郎のボクはママと寝ました』ってな!!」
ハミルトンはタイムを計った。悪くない。
事務仕事に慣れてない彼はキーを打つのが遅く、
オフィスでは仲間の足を引張りがちだったので
こうやって密かに練習していたのだった。
彼はきっちり3分30秒蒸らしたダージリンを口にした。ストレートだ。
「ふむ、やはり英国紳士の伝統のティータイムが落ち着くな。
コーラばかり飲んでるからアメリカ人は品が無いのだろう」
そう呟き、彼はタイプ練習用の罵詈雑言を考えていた。
「聖」「教会」「撃沈」
水鉄砲大戦全国大会決勝。大会会場は悪魔の聖域こと名古屋駅。今日、その地は血で染まった。
毎年、大会優勝は一つのチームによって阻まれていた。
チームの名は、「バナナ教会会員クラブ」とふざけた名前ではあるものの、
その戦力は他の軍勢とは比べ物にはならない。
まずチーム員の上限は十人というルールがある。地方大会止まりのチームならば、
せいぜい十人集めてウォーターサブマシンガンが限界であるが、奴らはてんで違う。
2千もの無人戦車軍団。その黒い集団は町を蟻の様に埋め尽くすという。
そしてチーム員の乗る巨大ロボがその脅威の象徴だった。
しかし僕らが、今日。その伝説を打ち破った。
突如として現れた新生チーム「よいこの顔面巣窟」。地方大会を一人も倒れる事無く勝ち進み、
決勝で初めて、バナナ野郎たちと対戦する。そう、僕らのチームだ。
作戦は既に立ててある。戦車を使う所までは同じだがプラズマ粒子砲を主砲とし、その攻撃力は半端ではない。
そして巨大ウォーターカッターを装備した戦闘機艦。もはや無敵だった。
戦車を次々と破壊し、試合が終わるまで30分と掛からなかった。
千四百万と少々の金額が掛かった。今は後悔している。
次は「H2SO4」「マッハ」「新地開拓」にて
245 :
名無し物書き@推敲中?:2006/11/30(木) 20:24:02
感想欲しい。
書き合わないか?
「薫ちゃん?あのね、今日なんだけど僕、もし薫ちゃんが――」
突然通話が途切れた。
薫は焦った。いくらボタンを押しても携帯の電源は入らない。
こんな時に電池切れかよと毒づきながら舌打ちをする。
通りすがりのおじさんが思わず振り返ったが、薫はお構いなしにもう一回大きく舌打ちした。今日は『新地開拓』する日だ。
胸騒ぎがして、M高校の東門目指して薫は猛ダッシュした。薫流に言えば、マッハで駆けつけた。
東門で学と落ち合う予定になっていた。がしかし、そこに学の姿はなかった。
「えーっと確か、コードネームH2SO4ちゃんだっけぇ。せっかくだがこのシマは渡せねぇなぁ」
ガラの悪そうなマッチョ野郎が嫌らしい声で話かけてきた。薫の背中に虫唾が走る。
「かわいい弟くんは、大切に預かって可愛がってるから安心しなよぉ、なぁ?」
薫がそこまで聞くと、軽く微笑みながら鮮やかな光速並みの重たい蹴りを股間に食らわせた。
あまりにあっけない結末だった。マッチョ野郎の子分に捕らわれえていた学を救出した後、薫はおもむろに尋ねた。
「電話の続きさ、気になるから教えなよ?」
一瞬間があって、学は青白い顔にいつもの優しい気弱な笑顔を浮かべながら囁くように言った。
「あのね、今日なんだけど僕、もし薫ちゃんが勝ったら、大好きだから薫ちゃんに死んでもらおうと思ったんだ。ばいばい」
=========================================================================================
次…
「電卓」「林檎」「いぶし銀」
248 :
名無し物書き@推敲中?:2006/11/30(木) 23:17:17
最近のの話でぜんぜん乾燥ないじゃん。。。
ここ書き逃げ乾燥町スレなのか?
>>248 個人的には感想なんてなくても気にしない。自己研鑽のために書いてるわけで。。(w
「電卓」「林檎」「いぶし銀」
スチュアートはこの分隊のリーダーだ。
勇敢な古参兵でいぶし銀的存在感がある。
マイケルは分隊支援火器を担当している。
体が大きく力持ちで頼り甲斐がある。
この部隊は志願兵のみで構成されている。
誰に背中を任せても安心できそうだ。
戦争はすぐ終わるだろう。
死傷者を数えるのに電卓は不要だろう。
太平洋の向こう側への軽いハイキングだ。
皆そんな気持ちでダナンに上陸したんだ。
スチュアートは僕に分隊の指揮と妻へのメッセージを託して死んだ。
マイケルは僕にバイクのカスタムショップの夢を託して死んだ。
そして僕は、二人から託されたことを何も果たせないまま
遠いベトナムの地で命果てようとしてる。
エミリーの作る林檎と洋梨のパイは最高だ。
せめてもう一度食べたかった。
「遠い」「異国」「淡い」
【命の終わり】
人類のふるさと、地球から遥か遠く離れた戦闘母艦の中で私は産れた。
私は最前線の起動歩兵223分隊配属の兵士、後、数分で敵エイリアン母星への降下がせまっている。
不思議だったが今、恐怖心は無かった。
軍による洗脳処置の効果なのだろうと思う。
この部隊は優秀遺伝子をもつ強化機械歩兵のみで構成されている。
誰に背中を任せても安心できそうだ。
この戦争はすぐ終わるだろう。
異型の化け物エイリアン退治の軽いハイキングだ。
皆そんな気持ちで惑星P66678に降下したんだ。
ナンバー775541は僕に分隊の指揮と仮想妻へのメッセージを託して死んだ。
ナンバー990567は僕にバイクのカスタムショップの夢を託して死んだ。
そして僕、ナンバー447098は、二人から託されたことを何も果たせないまま この異星の地で命果てようとしてる。
そういえば、小さい時のプログラム記憶で父から聞いた事を思い出した。
5世代前の地球内戦争時代、遠い異国のべ・と・な・む??ってトコで死んだ遠い祖先の事を…
そしていつも食べていた僕の家系で受け継がれている林檎と洋梨のパイの最高の味のことも。
せめてもう一度食べたかったなあ。
圧倒的不利な戦況である敵母星の淡い輝きを静かに見つめる戦闘統括マザーコンピューター。
マザーは直ちに全滅した第一波攻撃部隊を複製させ再編成の準備にはいった…
>>250さんの書いた話の未来。異星人との戦場での話し書いてみました。
次のお題 「日本晴れ」「交番」「ハンカチ」で
マユくらいの年齢になると、好きな男の一人や二人はできる。
意中を伝えるにはプレゼントしかない。彼女は決心した。
その日は文句なしの日本晴れだった。
「いいお天気ですね」
交番前に立つ警官に、マユは知る限り最高に大人びた言葉をかけた。
彼は桜の紋をマユに向けてニコリと笑った。交番の中から老警官が、
ニヤニヤしながら出て行く。
「やあマユちゃん、こんにちは。今日はどうしたのかな?」
二人はもう何度か会っている。会う度にマユの思いは強まって今日に至るのである。
「あの、あの。これっ」
といって取り出したのがピンクのハンカチだった。この日のために買った、
マユにとっては最強の告白アイテムである。
「ああ。じゃあちょっと中に入ってくれる?」
やった。とマユは思った。毎日一緒に遊んでもらおう。ブランコとかママゴトとか、
これからの二人の時間を大切にしよう。マユはドキドキしていた。
「いつもありがとうね。またここにお名前と住所書いてくれる?」
次「ボール」「みかん」「雪」
「ボール」「みかん」「雪」
貴方と過ごせて本当に良かった。
辛い時も楽しい時も一緒だったね。
一緒に映画を見たり、時には少しエッチなこともしたね。
わたしの体調が優れない時貴方はいつも文句を言いながらも私を懸命に看てくれた。
いつも文句を言いながらも私を守ってくれたよね。
仕事も一緒に頑張ったね。
貴方は誤字が多かったけど、それも今ではいい思い出。
そして、五度目の雪の季節が来た。
この季節は嫌いじゃないよ。
美味しそうにみかんを食べる貴方を眺めるのが好きだから。
でも、今はとてもつらい。
これで最後だって分かってるから。
もう限界なんだって分かってた。
僕は君の電源を二度も交換した。グラボも換えた。
CPUの調子も悪いって分かってるけど、君の規格に合うものはもう無かったんだ。
HDも不良セクタだらけだ。おまけに筐体のネジも無くした。
君はツギハギだらけでかろうじて生き永らえてる。
本当はいつ死んでもおかしくない状態なんだ。
僕はもう何もしてあげられない。
泣かないで、貴方は一生懸命頑張ったわ。
ほら憶えてる?マウスがボール式から光学式になった時のこと。
最初は辛かったけど、すぐに仲良くなれたじゃない。
新しいわたしが来ても同じように仲良くしてあげてね。
ありがとう、今まで一緒にいてくれて。
わたしのこと忘れないでね、わたしは確かに生きていた。
「共通」「規格」「二度」
255 :
名無し物書き@推敲中?:2006/12/02(土) 14:21:38
[世の中のイケメンばかりがかわいい女の子と仲良くして、我々ブサイク集団は
ブスさえ相手にしてもらえない。今こそ世の中の女の子を規格統一化し、
我々のこの悲しみをこれ以上増幅せぬようにするのだ」
「博士、名案です」モテナイ研究所の助手は言った。
「しかし博士、現実的にどういった手段で、この不条理な社会にメスを入れるのですか?」
博士は少し頭をうつむけると、10秒程経ち、助手の目を見た。
「大丈夫だ。考えはある」
「大丈夫ですか博士。なんか勢いで言っていませんか?」
「んん? けしてさっき女にふられてヒガミでこんなことを言っているのではないぞ?」
「博士……、語るにおちるとはこのこと……」
「何を言っているかね君。とにかく、我々達のような種族がこれ以上悲しみにくれないように
女という生き物を共通化し、この不公平な社会を平等にするのですよ?」
その時、助手のポケットからチラリラリと携帯電話の音がなった。
どうやらメールのようだ。
助手は内容を確認すると、博士に申し訳なさそうに口を開いた。
「すいません……、彼女からで、今から会えないかだと?」
「何? 彼女を持ってる人はこのモテナイ研究所に足を踏み入れたらいけないのですよ?」
「すいません。昨日できたばっかりなんです」
「まあ仕方ない。とにかく、彼女の写メかなにか携帯に入ってないのですか? 見せろ」
「これです……」
助手は博士に携帯を渡した。
「なるほど。これはエビちゃん似。……・二度とこの研究所に足を踏み入れるな!!」
「朝礼」「道化」「みかん」
夕子が朝礼で倒れた。
いつもの貧血かと思ったが、どうやらそうではなかったらしい。
救急車が呼ばれるという「大事件」に、生徒数100人にも満たぬ田舎の中学校は騒然となった。
放課後、帰宅部の連中と誘い合わせて見舞いに行った。
靖雄の家の裏山から盗んできたみかんと、弘美の家の水屋にあった羊羹を手土産に。
正直僕らはこのちょっとしたイベントにわくわくしていたんだと思う。
その気分が一気に萎んだのは田中診療所の受付に着いた時だった。
受付兼看護婦兼亮太の母ちゃんが面会謝絶と告げ、僕らは一瞬固まった。
奥にある病室の方では10人くらいの人間が慌ただしく動いている気配がしていた。
……10人? この診療所には先生を入れても4人しかいないはず。
首を傾げつつ病院を出た僕らの頭上でいきなりヘリコプターの爆音が響いた。
診療所の裏庭に降り立ったヘリから到底医療関係者に見えない黒服の男達が降り立つ。
きっかりその1分後にストレッチャーが運び出され、夕子が運び去られた……ように見えた。
何故なら運ばれていたのは黒い死体。抜けるように白かった彼女とは似ても似つかぬ醜い物体。
それから45分後、戒厳令が敷かれ僕らの街はきれいさっぱり焼き払われた。
一人怪物の僕だけを残して。
ごめんな、夕子。遺伝子レベルまで擬態したつもりだったのにこんなことになって。
異種交配の危険性は重々承知していたはずなのに、結果として君を殺してしまった。
好きだったよ。心から。
257 :
256:2006/12/02(土) 15:16:25
道化が抜けてた。
×遺伝子レベルまで
→道化のような姿のこの星の住人の姿を遺伝子レベルまで
お題は継続で。
「朝礼」「道化」「みかん」
先程僕はみかんを持っていた、右手に。何故みかんなのか? そんなの簡単だ。
昼に食べようと思って学校に持ってきたやつだ。
問題はそこじゃない。考えねばならないのは何故それを右手に握り締めていたのか、という事だ。
今になっては、右手の中で潰れたみかんが酸性のおいしい果汁をぽたぽたと床にたれ落ちていき、
当然それを握っている手はべたべたして気持ち悪い。
そして僕は朝礼にみかんを持っていった男として、生徒からは道化扱いされ、現在は先生の前に立たされ説教をくらっている。
先生も、朝礼にみかんを持っていく、といった事件は始めてらしく説教の言葉に困っているようだ。
「……なんでみかんなんか持って行ったんだ?」
まあそう来るだろう。まあ何でかと聞かれても大したことは言えないが。
返答に困ってふと右手を見た。ぐっちゃぐちゃになった果実はもう食べられそうに無い。……あれ?
あ、……僕は気付いてしまったのだ。その真実に。
「……先生、これはみかんじゃない。いよかんなんですよ!」
「……馬鹿者」
次は「ジュラルミン」「シューベルト」「JIS」で
リヒャルト・ゾルゲはアルプス上空でシューベルトのピアノソナタ21番を聞きながらランチを楽しんでいた。
ここはツェッペリン──ジュラルミンで外殻を構成したドイツの硬式飛行船──の食堂室。
ゾルゲはフランクフルター・ツァイトゥング紙の新聞記者である。
というのは隠れ蓑でソ連の諜報機関であるGRU(グルー)の諜報員である。
主な任務はドイツ共産党員と本国の連絡と政党調査である。
最近ファシズム勢力が増しているのが気になるところである。
「相席よろしいかな?」
スーツを着た男がゾルゲの向かい側に座った。
「失礼しますよ。今日は天候がよろしいようですな」
その男はゾルゲに封筒を渡した。
それを受け取りゾルゲは内容を確認した。
「天候はよろしいが、私の気分はいまいちだ。これは左遷かな?」
「いや、避難と言ったほうが正しいな。JISは君を疑っている」
JISとはI(ヨシフ)・J(ジュガシヴィリ)・S(スターリン)の頭文字を組み合わせた言わば暗号である。
「私が二重スパイであると?」
ゾルゲは聞き返した。
「俺はそうは思わないが粛清リストに君の名前が載る日は遠くない」
「ふむ。つまり気遣いってわけか」
コミンテルンに忠誠を誓い、熱心に仕事をこなしてきたゾルゲにとって納得できるものではなかった。
「新しい赴任先の日本はそう悪いところじゃないさ。
何よりJISの手がそこまで伸びないのは何事に換えても素晴らしい」
「任務を果たすだけさ」
ゾルゲはそっけなく答えた。
「それでは失礼するよ」
男は席を立った。そして、立ち去り際にこう言った。
「あまり仕事熱心になるなよ。これは友人としての忠告だ」
ゾルゲは食事を続けた。
1933年、リヒャルト・ゾルゲは日本に潜入した。
ゾルゲ事件の8年前の話である。
「スパイ」「美女」「教員」
「教育とは、国の根幹をなす基礎的事業である。」
何かの本でそんな文章を読んだことがある。
俺はもっともだと思った、だから、だからこそスパイである俺はここで教鞭をとっている。
敵国にスパイを送り込み、小学校の段階から少しずつ「こちら側」の思想をすり込んでゆく……。
考えてみると気の遠くなるような作戦だ。
しかし教職というものは世間的に無条件である程度の信頼を得られ、したがって工作活動には有利に働く。
合理的な話だ。けれど最近はそのような風潮も弱まり始めてはいるが。
それに教員というのは案外と儲け物な職業だと思い知らされた。
俺と同じ時期に新任としてやって来た女教師がいる。
彼女はたいそうな美女で、三年前、忘年会が終わった後、俺は手を付けてしまった。
いわゆる送り狼というやつだ。
そしてやがて俺たちは結婚した。美人で働き者の妻、そして子供にも恵まれた平和な家庭。
妻と子供を守ろうと誓った。もう祖国の命令などどうでも良い。
それから二十年後の現在。敵国の工作員の妻に洗脳された私は、逆スパイとして働いている。
「酒」「銀色」「中年」
261 :
名無し物書き@推敲中?:2006/12/04(月) 21:51:37
「酒」「銀色」「中年」
(俺は幻覚を見ているのか。目の前に手のひらにでもちょこんと乗れそうな
妖精がいる)タカヒロは思った。
妖精は喋った。
「タカヒロさん、こんにちは。僕はビールっ腹の精。酒の臭いに染まったかすみを
食って生きているんだ。あなたのお腹からは、大量の酒にそまったかすみが発生して
僕にとってはとても居心地がいいんだな。あ、僕に気にせず、タカヒロさんは生きてて
いいから」
「何勝手なこと言ってやがる。お前みたいのが目の前でうろちょろしてたら、
うざったらしくてありゃせん」タカヒロは言った。
「じゃあ、格好を変えて、あなた好みに変わってあげましょうか? 目のの保養になりますよ。
ウシシ」
そう言うと、妖精はぱっと光って、次の瞬間、ロングヘアの谷間のあるビキニちゃんに変わった。
「んー、いかにも中年がでれでれしそうな格好でしょ?」
「つーか、お前、女だったのか?」
「おいらは男でも女でもないス。妖精だから」
「だったら、そのビキニの中どうなってるんだよ」その時タカヒロの口元からヨダレが垂れた。
「中身もバリバリあなたの好みを反映させてますが、別段見せるものでもないでしょう。
人間に欲情されても、妖精の私にはキモイおっさんにしかうつりませんから」
「おっさんか……。おれももう中年といっても差し支えのない歳になったなあ」タカヒロは寂しそうにそう呟いた。
「何言ってやがる。おっさん」
262 :
261:2006/12/04(月) 21:52:38
タカヒロは、kビールっ腹と言えるような腹が脂肪で隆起して、Tシャツがめくれておヘソが
外にでていた。片手で酒ビンを握っており、酒飲み横丁を歩く彼は、
自分で中年といっても差し支えのない歳だななどと呟く前に
誰がどう見ても中年の臭いを漂わせていた。
タカヒロは、酒飲み横丁に一軒店を構える『クラブ・ママ』ののれんをくぐった。
「あら、タカヒロさん。こんばんわ」ママさんは黄色い声でタカヒロに挨拶した。
「おう、今日もきたぜ」タカヒロはニヤケタ顔をして言った。
銀色の着物をまとったママさんは、一段とまぶしくタカヒロの目に焼きついた。
(今日もまぶしいぜ、ママさーん!!)
「……」妖精は黙って見てると、ワル知恵を思いついたように口元を上向きにあげた。
「タカヒロー」妖精は黄色い声でタカヒロを誘うように呼んだ。
妖精はビキニの胸の部分の水着を外した。
「ぎょっ」
(思わず親指と一指し指ではさんでみたくなるそのオッパイ。中年のワシには
グッとせまるもんがあるじゃい)
「お、ついに自分で中年と認めたな、おっさん」
「じゃかあしい。エロは時に人をおっさんに変えるんや」
「タカヒロさん、……あの、えと、一人で何喋ってるんですか……?」ママさんが不気味そうに
タカヒロに尋ねた。
(ママさんにはこいつが見えないのか?)
「いやあ、最近シャブやりだしたせいで、このところおかしくて頭が」
「タカヒロさん、冗談になってないです」
「不当」「スイカ」「アニメ」
艶やかで質量感溢れるボディ。瑞々しさを主張する緑のストライプ。
テーブルの上のスイカは、さながらモデル立ちする夏娘のような魅力を振りまいている。
それを眺める事しか出来ない我が妻と娘は、じっと押し黙っている。
そろそろ娘の好きなアニメの始まる時間なのだが、動こうとする気配はない。
二人の目が俺にすがるように訴える。
「パパ、どうする? なんとかならない?」
ここは父として頼りになる所を見せてやりたい、いつものように娘の期待に答えてやりたい。
しかし正直言って俺の中でも、ほぼ手は尽きていた。
家で一番大きな包丁の刃先を、なんとかこじ入れようとしてみたが、鎧と化した緑の皮が頑として受け付けてくれなかった。
アイスピックの様にして突き立ててもみたがことごとく跳ね返され、手元でも狂わせ怪我をするのが目に見えているのですぐに止めた。
物置から木刀を持ち出しスイカ割の要領で叩いてもみたが、一発で俺の手の方が痺れてしまった。
なんなんだこの不当な程の堅さは… これもう果実ではない、さながら鋼鉄の玉だ。
今までにも娘の突飛な行動には幾度と無く驚かされてきたが、スイカを丸ごと冷凍庫で凍らせるなんて完全に想定外だ。
「アイスになるかなと思って…」
シュンとしながらそういった娘を、俺は抱きしめてやった。
こういった柔軟な子供らしい発想は、大事にして欲しいと思うのだ。
そして今、氷の玉は電子レンジの中で回っている。
あまり気乗りはしないのだが、まぁ残された手段といったらこれくらいだろう。
そして俺は、好奇で目を輝かせながら一緒になってレンジの前で回っている娘をツマミに、ビールを飲んでいる所だ。
「期待」 「冷凍庫」 「好奇」
人というのは、他人にきびしく自分にやさしいものである。
誰も自分の欠点はみえにくく、他人のそれは的確に指摘する。
しかし長く生きていると、こちらを気持ちよくしてくれる殊勝なひとも
少数ながらいることに気付く。そんなひととの出会いに期待しながら、
好奇心を持って人と接するから、わずらわしい人間関係もある程度こなしてきたのだと思う。
昨今の自殺騒動を鑑みるに、なんと短絡的に行動するものかなと胸が痛くなる。
自ら命を絶つなど言語道断。生きてさえいれば、やがてどうにかなることがほとんどである。
関わりのある他人の多くは確かに、辛らつで冷ややかであろう。特に思春期だと傷つきやすい
こともあるかも知れない。二度と他人になど心を開くものか、と思うときもあろう。
しかしそれでも思い切って相手のふところに飛び込んでみろ、といいたい。
冷凍庫みたいに冷たいやつだと思っていた相手が、なかなかどうしていいやつだった、
なんてこともままあること。
そんな経験を少しずつ重ねながら、ひとは成長していくのだと思う。
閉じこもっていたって世界は広がらない。悩みはなくならないのだ。
頑張れ若人よ!未来は君たちのためにある
師走、ボーナス、おでん
僕は非常に追い詰められている。
突然背中をナイフで刺されたかのような衝撃だ。
彼女が僕に好意を持っているとは思ってもみなかった。
薄々と感じていたものは好奇心程度だと思っていた。
彼女が僕に好意を抱いていることはいいのだが、僕には全くその気が無い。
断るのか?
いや無理だ。この様子なら間違いなく泣き崩れるだろう。
自分を偽り彼女と付き合う?
確かに彼女は美人だ。だが、そんな器用なことができるならそもそもこんなに悩まない。
彼女の背中をナイフで刺して冷凍庫に?
それは犯罪ではないか!
曖昧な返事をしておいて、状況を把握、分析し完璧なタイミングを待って断る。
つまりは逃げだ。それしかない。
返事を待たせればそれだけ状況が悪化する。急げ。
「これは政治的判断を必要とする難しい問題だ。
関係各国との調整も必要になる。故にこの場では返答しかねる」
よし、いいぞ。かなり曖昧に誤魔化せた。
そうだ。僕は天才だ。いつだって危機を切り抜けてきた。
彼女はどうやら唖然としている。ハハハ、期待通りだ。見事に煙に巻いた。
あ、あれ?彼女が泣き出したぞ!そんな馬鹿な!
まさか、僕がしくじったというのか!?
僕は天才ではなかったのか、いつも危機を乗り越えてきたのではないのか。
天才の僕がこんなところで挫けるというのか、僕の才覚は?自尊心は?
砂上の楼閣が崩れ去る音が聞こえたんだ。
僕も泣いた。彼女と一緒になって泣いた。たくさん泣いた。
結局、彼女に慰めてもらった。
そして、今僕らは付き合ってる。
「崩壊」「政治」「花束」
266 :
「崩壊」「政治」「花束」 :2006/12/05(火) 20:58:55
自称政治家の卵のナオキは、花組のクラスのメンバーを集め、
一角の大物政治家が何かを演説するように、大声でなおかつ落ち着いた抑揚で喋りだした。
「ピーマンには、おなじみの緑色以外に、赤も、黄色も、ある。たくさんの種類がある。
それは、買う人から許されることだ」
「それでそれで?」右手に絵本を持った女の子は言った。名前はミワコと言う。
眼がねをかけてちょっと頭がよさそうに見える。彼女は絵本をたくさん読んでおり、
花組の中では、ちょっとした知識通だ。
ナオキはミワコの相槌に気をよくしてまくしたてるように口を開いた。
「ピーマンと同じように、人間にも色んな種類がある。緑色の帽子が好きな人も入れば、
赤や黄色の帽子な人もいる。でもみんなバラバラじゃあいけないんだ。
一致団結して人間というのは強くなるんだ。それがボクの論理だ」ナオキは言いたいことを
言い切って、鼻をフフンと鳴らせた。
「論理ってナーニ?」ミワコはナオキに尋ねた。
「考えをかっこよく言うと論理っていうんだ」
「フーン。なんか言葉が大人って感じがするわ」
「あ、わかるかい? ミワコ君。きみは絵本通だけあって察しがいいよ」ナオキがまた鼻を
フフンと鳴らせた。
「キムラ先生はいるかな?」皮膚が色黒で頭がハゲた男の人が、白いタキシード姿で、
花組の部屋に外から顔を覗かせた。
267 :
266:2006/12/05(火) 20:59:26
「あ、車の先生!」花組の誰かが叫んだ。この色黒のハゲた男の人は幼稚園生の
送迎バスの運転手なのだ。
「え? 私ですか? 何ですか?」
「好きです!」そう言うと、色黒のハゲた先生は、背中に隠していた花束を、
キムラ先生の目の前にやった。
キムラ先生は顔が真っ赤にして口を開いた。
「ちょっとちょっと、子供達の目の前ですよ。何ですかいきなり」
「大丈夫。まだ幼稚園生にはわかりませんよ。それよりキムラ先生! 今晩空いていますか?」
「え? ええ、まあ……」
「ちょっとちょっと!!」ナオキが大きな声をだして割り込んだ。
「困るなあ。見た目が子供だからといって、子供をちんちくりんに扱うような言動は」
それに続いてミワコも口を開いた。
「車の先生、そういうのを差別発言というのよ。イエローカード一枚!
よってこの花束は没収ね」ミワコは車の先生から花束を奪うと、目を鋭くしてまた口を開いた。
「それに先生、今晩空いていますかってキムラ先生に尋ねたわね? 知っているのよ。
大人のことは。エッチなことをするつもりでしょ。お父さんの絵本で読んだわ」
(どんな絵本読んでるのよ!?)キムラ先生は心の中でつっこんだ。
「いや、そげんこと言われたらなあ、なあ、キムラ先生。あっはっは」キムラ先生は笑ってごまかそうとした。
その時、ナオキの目がぴかあんと光った。
「いや、大人の一致団結はいいことだ! 政治的にね。子作りは世の中に潤いを持たせる」
(お前ら、どんな幼稚園生やねん!!)キムラ先生は心の中の叫びだった。
キムラ先生の頭の中にある無垢な幼稚園生像が音を立てて崩壊するとある日常の風景だった。
「ニワトリ」「手ぬぐい」「宿主」
師走。
師匠も走り回るぐらい忙しいと言われるこの季節。
人々はボーナスが減った増えたと騒ぎ、年賀状、お歳暮、年末商戦、クリスマス、大掃除、紅白歌合戦と大忙し。
しかし、そんな忙しさはわたしとは無縁。
駆け足の人々を横目に眺め、コンビニのおでんに釣られそうになりながら、のんびりと我が家に向かう。
「おかえりなさい。 寒かったでしょ」
出迎えてくれたおかーさんにただいまを返し、居間のコタツに潜り込んだ。
わたしは猫である。
名前は……わすれたけど、まぁいいか。
お題消化。
次のお題は
>>267で。
ニワトリのドミトリは真っ赤なとさかを立てて憤っていた。
同胞の卵がフライパンで焙られたり、
同胞の太ももが油で揚げられたりして、
手ぬぐいと一緒に食卓に並ぶのを黙って見ていられるか!
しかし、餌付けされた敗北主義者共は知らぬふりをしている。
奴等は我等を宿主にする獅子身中の虫だ。
ドミトリはこの屈辱的状況を覆すために革命を起こそうと思った。
まず、哲学的思考が必要だ。
ニワトリとは何か?
この疑問がニワトリを革命に導く一歩になる。
次に科学的思考が必要になる。
科学的説明において革命に説得力を持たせるためだ。
最後に政治的思考がものを言う。
同胞を革命に導くための具体論を提示するのだ。
しかし、ドミトリはここまで考えた時に、
一体何にこんなに憤っていたのかを忘れてしまった。
三歩歩けば忘れる記憶力の乏しさ故に、ニワトリは家畜であることに対する疑問を抱かない。
人間がニワトリを家畜化しやすかった理由はここにあるのだ。
「同胞」「革命」「車両」
ふるさとの同胞にあてた手紙にはわざと日付を書かない。
消印と合わせて私がどこにいるか探られないようにするためだ。
私は手紙をにぎりしめ、車の窓から外の景色を眺めた。
どこもかしこも荒れ果て、人々の顔は疲弊しきっている。
「この国は変わらなければならない」
軍がクーデターを起こしたのは3年前。野党の党首が軍と結託し、政権奪取を図った。
しかしその後、軍は野党を裏切り、党首は車両にしかけれらた爆弾によって暗殺された。
国はいまやならずものによって支配され、国民の暮らしは一変したのだ。
私は当時の軍中枢にいた。殺された党首とは幼なじみだった。
彼は革命家ではなかったが、当時の国の状況を常々嘆いていた。彼なら信頼できたのに・・・。
私は彼の遺志を継ぎ、彼に代わってこの国を変える気でいた。
私は手紙を投函しに車から降りた。にわかに銃声が轟き、全身がカッと熱くなった。
気がつくと私は地面に倒れていた。
薄れゆく意識の中で、まっさきに想ったのは国でも友でもなく私の妻のことだった。
「世界中が敵になっても、私はあなたの味方ですから」
私は妻の名を呼ぼうとしたが、もはや唇を動かすことさえかなわなかった・・・。
墨、便箋、花
彼の死は突然訪れた。
この国で最も愛された愛国者はたった今凶弾に倒れた。
最期に唇をわずかに動かしたが言葉にする前に彼は事切れた。
「この国は変わらなければならない」
それが彼の口癖だった。
彼が最期に贈った手紙と彼の訃報を受け取った彼の同胞は、
恐らく便箋を開きながら怒りに震えるだろう。
多くの国民も怒りと悲しみに包まれるだろう。
その怒りは新たな争いの火種となり、大火となって国を飲み込む。
クーデターから三年、すでに国民の不満は沸点に達している。
墨色の煙があちこちから昇る日は遠くない。
これで軍事政権は倒れる。
私は彼の遺体に花を供え、無言で懺悔した。
政府が関与したように見せかけて彼を殺したのは私だ。
許されたいとは思わない、
だが私が罰を受けるためにそっちへ行くのは全てを見届けてからだ。
「怒り」「懺悔」「鉄道」
「うわああぁぁぁ!!」私は寝汗でびっしょりになって、ベッドから飛び起きた。
あの日以来、悪夢にうなされない夜はない。良心の呵責にさいなまれない日はなかった。
わたしは自分への怒りと彼への懺悔の気持ちでいっぱいだった。
ここ数年の国の混乱によって市民の生活は極限まで追い込まれていた。
私のスナイパーとしての腕を、どこからか伝え聞いた軍の関係者が、私の元をたずねてきたのは半年前だった。
すんなり引き受けたわけではなかった。私も彼が現政権をたたきつぶし、
国を立て直してくれることを期待していた。彼にはその能力があったと思う。
しかし私の現実は違った。私には愛する妻と、養っていかねばならぬ小さな命があった。
多額の報酬と引き換えに、という条件で私は悪魔に魂を売った。
しかしそのせいで・・・。
私は今、鉄道で現政権が居を構える町に向かっている。
私は考えた末、ある結論に達した。彼を奪ったこの銃で彼の願いを実現させよう。
私はライフルケースに語りかけた。「これが最後の仕事だ。」
将軍の演説場所は事前に調べた。最警戒区域のど真ん中でターゲットをしとめても
自分の命はまずないであろう。しかしそれでもやらなければと私は思った。
廃墟、警官、嘘
廃墟、警官、嘘
廃ビル、というよりは廃墟だ。想像していたよりも状態は酷い。
「先輩……、本当にこんなとこで良いんすか?」
僕は眉を曲げて辺りを見回した。人が居た気配なんかは皆無で、
埃が蔓延して呼吸が幾分苦しい。
「まあ、そんな事言わないで探してみようよ。がんばれ若人」
辿香先輩元気だなぁ、僕より五年くらい年上のはずなんだが。
まだ僕は警官になって半年、確かに経験は少ないがこの光景はどうにもやる気を削がれる。
そんな風にだらだらと部屋を物色する。埃の勢力が強力で、三十分も経つ頃には
いい加減疲れてきた。
「先輩、もう帰りませんか。何も出ないですって」
部屋の奥、先輩の動きが一瞬止まった。
「……そうだね、もう帰ろうか」
よっしゃやっと帰れるぜ、などと浮かれていたのも束の間、
「ほら、これ何に見える? 新人君」
戻ってきた先輩がぱたつかせていたのは、白い粉が入った小さいポリ袋だった。
「……何で分かったんですか?」
「まああんな嘘も見破れないようじゃまだまだだね。 さて気分も良いところで帰ろうか」
「……はい」
僕は先輩の後ろを脳内でぶつぶつ言いながら歩いた。
次は「随筆」「自動調整」「大帝」
最近の採光システムはよくできている。昼であろうが夜であろうが、曇天であろうが
なかろうが、常に快適な照明環境を提供してくれる。それだけではない。
いまや衣食住は全て、オートコントロールされ風邪をひくものなど誰もいない。
TVは3Dホログラムによる番組を放送し、映画等は好きな登場人物になりかわって
その中に入って楽しめるようになった。
全ての乗り物は自動化され、政府の交通システムによって管理されていた。
家には最低でも一台、ロボットがいた。なかでも「サイバー大帝」というロボットは
いろいろ冗談を言いあったり、喧嘩もできた。
が、こんな時代になってもまだ人の感情には謎が多く一日一回、ロボットに触れ
自分のバイオリズムを相手に知らせてやる必要があった。
ロボットはそれで感情プログラムの自動調整を行い、常にこちらと適度な関係を築いていた。
動物は・・・
「ふぁああ〜〜」私は大きくあくびをひとつした。
随筆をと頼まれてたが、今月はこれで勘弁してもらおう。
ふと見ると空が白んでいた。そのままゴロンと寝転んで猛烈な睡魔に身をまかせた。
近未来、伝統、ドラマ
それは最も夢があった時代の話である。
エレベーター、地下鉄、活動写真。
飛行船の実用化に伴い空を飛ぶことさえ容易になった。
人々は、近未来は願えば何でも叶う時代になると信じて疑わなかった。
1900年、パリ、無謀な試みが行われようとしていた。
死者蘇生。馬鹿げた話ではあるが彼らは本気だった。
古代エジプトでは死者は蘇ると信じられ、死体を保存する伝統があった。
ロミオとジュリエットなどのドラマでもたびたび主題に取り上げられた。
彼らもまたこの夢の技術の信奉者だった。
解読したヒエログリフからヒントを得て、
上ナイル地方で捕獲した菌を死体に繁殖させ、
人の活動能力を再生させるのが彼らの方法だった。
しかし、この夢の技術は悪魔の儀式となってしまった。
蘇生された死体は凶暴で、まるで理性など持ち合わせてない。
見境無く人を襲い、その肉を食い漁った。
フランケンシュタイン博士の怪物よりも酷い結果だった。
蘇生した死体は処分され、この技術も封印された。はずだった。
42年、レニングラード(100万人)
44年、アウシュビッツ(120万人)
78年、カンボジア(200万人)
94年、ルワンダ(80万人)
少なくとも過去4回の大規模なバイオハザードが発生した。
この技術は封印などされておらず、どこかで牙を剥いて待っているのだ。
「死者」「技術」「徒歩」
滝のように滴り落ちる汗が体力を殺ぎ、凶悪な藪蚊が全身をくまなく覆い尽くす。
だが構っている暇はない。私は踊り続けねばならないのだ。
狂ったように優雅に、ヴードゥーのリズムに合わせて。
ゲデ祭に遭遇したのは些細な偶然が重なってのことだった。
徒歩でハイチを旅行している途上たまたま親密になった(多くは語るまい)美しい娘。
彼女に許嫁がいたのも偶然ならば、その彼が族長の息子であったこともまた偶然。
彼が私を余所者厳禁の祭に招いた折、慣れぬココ酒で判断力を失っていたのもまた偶然だった。
それが興味本位で覗いてはいけない祭だとわかっていたはずなのに、私は好奇心に負けた。
ゲデは死と生、そして性を司る精霊で、48年に一度顕現すると信じられている。
その節目には贄が供えられ、死者の甦りと生者の長寿、そして部族の繁栄が祈願される。
昔は各部族から人身御供を出していたようだが、余りにも野蛮すぎるということで廃止された。
それはそうだろう。世界中からバックパッカーがやってくるこのご時世なのだから。
かくしてこの私が栄えある節目の贄に選ばれた。
コカインを吸わされた後、まずは女達が 持てる技術を駆使して三日三晩私を弄んだ。
馳走で精を回復させられてからは、生の証として精根尽き果て倒れるまで踊らねばならぬ。
三日踊り続けられれば十分役目を果たしたものと看做されて無事解放されるが――。
期限前に倒れるようなことがあれば、待っているのは速やかな死のみ。
漆黒の闇空の下、うねるような太鼓の音が森に満ちる。
松明が爆ぜ、無数の光る目がじっと私を見つめる。
濃密な黒い人いきれに気を失いそうになりつつ、私は踊り続ける。
狂ったように優雅に、ヴードゥーのリズムに合わせて。
277 :
276:2006/12/09(土) 14:04:39
>>276は「死者」「技術」「徒歩」でした。
次のお題は「悠久」「望郷」「号泣」で。
ウェルキンゲトリクスとガリア軍が避難したアレシアはローマ軍によって完全に包囲された。
残る食料は30日、援軍のみが頼みだった。
しかし、援軍はカエサルの罠に嵌り壊滅し、包囲突破はもはや不可能になった。
ウェルキンゲトリクスは望郷の念にかられた。
悠久のオーヴェルニュの大地。雄大な山々とそこから溢れる澄んだ河川。
ローマ人には勿体無いくらい美しい故郷だ。
彼は二度と見ることは無いだろうその景色をしっかり頭に焼付け、
ガリア軍の兵士達を前に演説した。
「まずは勇敢で誉れ高いガリアの戦士たる諸君らの健闘を称えたい。
その戦意はいかほども衰えてないことを私は確信している。
だが、不本意ながらこれ以上の戦闘は不可能だ。
私は諸君らの安全を条件にカエサルに降伏する。
私は捕えられローマ人の見世物となって処刑されるだろう。
しかし、諸君らにはガリアのために生き残って欲しい。
ローマに屈することになろうともガリアは不滅だ。
最後まで私についてきてくれたことに感謝すると共に、
勇敢なガリアの戦士たる諸君らを率いてこれたことを誇りに思う。
それではレギオンのエスコートでローマを見物してくる。
ガリアは頼んだ。さよならだ」
ガリア軍の兵士たちは号泣しながら和平交渉に向かうウェルキンゲトリクスの背中を見送った。
前52年、ガリア戦争最大の反抗はこうして幕を閉じた。
「遠征」「突破」「忘却」
「遠征」「突破」「忘却」
少なくとも今を変えるには、何か大きな事をしなくてはならない。
僕は自分の部屋で1つの結論に至った。
(そうだな……遠征、と言うよりは家出か)
このままだと僕は一体どうなってしまうのか? と言う考えを抱いたまま
生き続けるのはもう御免だ。一旦全てを忘却の彼方に置き去ってすっきりしてみたい気もする。
今行動を起こさなければ……。
ここで問題が多々ある。まずは経済面だ。高々10万くらいの貯金が頼りだ。それから後はどうするか?
それに住む所も探さなければならない。まあ暫くは野宿か。
そして一番の問題は「一体どうやって家から出るのか?」と言うことだ。
僕の部屋は玄関から一番遠い所にあるため色んな危険にさらされる。途中の居間には大体母と祖母が居る。
家出ともなれば荷物も多いことだろうから、ばれずに外に出れるだろうか?
でもそこは時間帯等を検討すれば良さそうか。
はっきり言って家出って結構難しいなと思う。家での出来る人を尊敬する。何故なら、
僕はヒキコモリだ。
次は「世界」「ユニオン」「顔射」
家出ともなれば荷物も多いことだろうから、ばれずに外に出れるだろうか?
家出ともなれば荷物も多いことだろうから、ばれずに突破できるだろうか?
すいません、抜けてました。これで勘弁してください。
「世界」「ユニオン」「顔射」
仕事が来た、とケンが電話をくれたのは夕方で、雲の影が
山の斜面に打ち込まれた文字をHOLLYWOまで隠した時だった。
「うちの作品か?」と聞いた俺に彼はすまんと詫びてから、続けた。
「驚くなよ、世界同時上映されるんだって!」
「おめでとう。飲みすぎるなよ」
日系二世のケンは、見た目は東洋人だが日本語はカタコトしか話せない。
俺が平社員の宣伝マンの頃に知り合って、もう十五年は経つ。
ある忍者映画のために忍者役をやれるエキストラはいないかと
ユニオンに問い合わせたのがきっかけだった。
俺がジョージ・川上ですと日本語で挨拶すると、彼はハジマメステと握手を求めてきた。
その電話から半年が経った夏のある朝、再びケンから電話があった。
関係者だけの試写会があるから来ないかというので、俺はありがたく誘いを受けた。
まさかライバル会社で映画を見るとは思わなかったが、ケンのシーンでさらに驚いた。
沈みゆく海賊船から小型ボートで脱出する東洋人奴隷ケンの、
そのたくましい腕に二文字の刺青──顔射……。映画の内容は覚えていない。
next「初雪」「マフラー」「アルバム」
282 :
「初雪」「マフラー」「アルバム」 :2006/12/15(金) 16:31:35
アクセルを絞りきる。
マフラーが鋼の馬の咆哮を響かせる。
加速。
加速。
六速に入るまで数秒。
0.4kmは短く長い。
それは一瞬と永遠を併せ持つ。
鋼の馬は一瞬と永遠の距離を駆け抜けた。
タイムは……、悪くない。
加速で狭まる視界では気がつかなかったが初雪が降っていた。
この程度なら今夜のロードレースに支障は無いだろう。
愛馬──トライアンフ・スプリントST──を降りて軽く点検する。
アルバムを開くと俺とあいつが笑顔でVサインしていた。
ロードレースでの相手は単車好きのチンピラ共じゃない。
いつもあいつだ。
加速で狭まる視界にはいつもあいつの背中があったんだ。
きっとこの勝負は終わらないだろう。
鋼の馬から振り落とされて地面を転がり回るまでは。
あいつみたいに。
「加速」「一瞬」「音楽」
崩壊を、食い止めるどころかますます加速させていた。
それこそが政治であると。それが役人の仕事であると。言わんばかりの顔をして。
意味のないものに、湯水のごとく金を費やし、虚栄心を満たす事に専念していた。
課税を強化し、福祉を削り、確信と喜びに満ちた心で、力強く滅びの道を邁進していた。
破滅のときは、すべてを一瞬のうちに飲み込むであろう。
富も栄誉もその命さえも。
いまはまだ、民達の怨差の声が、彼らの耳には甘美な音楽に聞こえてはいても。
その曲に、彼らが合わせて口ずさむ歌も、やがては切り裂くような悲鳴にかわるであろう。
ジョヴァンニ・デ・メディチ。またの名をレオ10世。
メディチ家に生まれ、16歳にして枢軸教となり、
37歳で史上最年少の若さで217代ローマ教皇となった。
人類史の上でも、屈指のエリートといえるであろう人物。
だが、無類の放蕩好きで、わずか10年足らずで先代の蓄えと、
自分の代の税収と、次代の富を惜しげもなく使い果たした男でもある。
いまなお建設の半ばにある、サン・ピエトロ大聖堂の製作を命じた人物、
といえば、少しはそのスケールを測る手がかりとなるであろうか?
いまの世にも、沢山の小さなレオ10世達が支配者として君臨していて、彼を英雄とあがめ、進んで真似をしている。
自らをエリートと称して。それですべてを正当化しながら。
しかし。ローマ教皇であったレオは果たして、神の国に行けたのだろうか? それとも、地獄へ落とされたのだろうか?
とにかく、人は彼の存在を認めなかったようである。
レオ10世の享年は四十七歳。一説によると、死因は毒殺であったという。
「アトラス(ギリシャ神話。大地の果てで天を支える巨人。メデューサの盾で石となり、アトラス山脈となったとされる)」
「猫(哺乳類。人類が最古の友とした動物のひとつ。ネズミを捕まえる)」
「枯葉(秋になり活動を終えた広葉樹の葉)」
私と恋人の話をしよう。
落葉広葉樹からは枯葉がすっかり散ってる季節だった。
彼女は寒そうにしていた。
思わず私は彼女に声を掛けた。これが私達の出会いだ。
そして私たちは同棲した。
私は彼女を愛してしまったのだ。
私は彼女の過去については何も聞かなかった。
過去など興味ないからだ。
彼女は私の寵によく応えてくれた。
小さい体でよく私につくしてくれた。
あの日までは。
それは彼女にとって悠然と聳え立つ天を支える巨人アトラスの様であっただろう。
彼女に無いものを持っていた。
そう、「力」を。
彼女はそれに惹かれたのだろう。
私は悟った。
もう彼女の瞳に私は映らない。
悲しかった。
私はまだ彼女を愛している。
しかし、私は彼女を手放した。
体は留めることができても心まで留めることはできないからだ。
さよならだ。
「きゃあ!可愛い、この子猫カズ君より私に懐いてるみたいだよ〜。
私のうちで飼ってい〜い?」
「好きにするがいい……」
彼女は恋人の家で飼われることになった。
私も「彼女」が持つ「力」には抗えた試しが無い。
「愛情」「力」「破滅」
屋上への扉を開くと、彼女は既に来ていて、
暮れなずむ夕日が辺りを照らす中、長い黒髪を朱に染め、
フェンスにしがみつくかのようにして空を見上げていた。
私は声をかけあぐねたが、ひとつわざとらしい咳払いをすると、
彼女が振り返った。逆光になっていて顔は良く見えない。
「……先生なら来てくれると思っていました」
声が震えていた。私は黙ったままだ。
「あれから、また力が強くなった気がするんです。
もう私にも制御できないぐらい強く……」
そう言って彼女は左の袖をたくって見せる。腕には真新しい包帯が巻かれていた。
「……私、もうこの学校にはいられません。
誰かを傷つけてしまう前に、早く、離れなきゃ……」
そして自分で自分の言葉に傷ついたかのように顔を伏せた。
私はまだ黙っていた。何と言えば良いのか分からなかった。
やがて彼女は堪え切れず、私の厚い胸板すがり付き、そして涙ながらに訴えた。
「でも……、この先に待っているのは破滅だ……と、分かっていても、
それでも、あなただけは、一緒に来てくれますか? 先生……」
そのまま声ならぬ声で泣きじゃくる彼女を優しく抱きしめ、私は静かにささやいた。
「病院へ行こう。な?」
工藤源五郎、通称"熊先生"、教諭暦21年。生徒への愛情ゆえの一言であった。
next「犬」「とまれ」「ギター」
日曜日の事、駄文を書き上げると規制に巻き込まれて書き込めませんでした。
お題は消化されていますが、このままじゃ悲しいので貼るのを許して…
世の中とは力ある者にだけ微笑むものだ。
そして俺が持てたのは腕力のみだった。
大刀を手に戦場を駆け抜ける。
敵は俺の名を聞くだけで恐れおののいた。
我行くところ屍の山。見方には勝利を、敵には破滅を。
金も地位も入ってきたが、それらはあくまで副次的な物だ。
賞賛と血飛沫、それこそが俺の望む物、生の証だった。
民家のベットで手当てを受けて一ヶ月が経つ。
信じられない事に、俺は戦場が恋しくなくなっていた。
ノックと共に小さな顔が覗く。
「おはようございます、お加減はどうですか?」
この家の娘だ。さも心配そうな顔をして部屋に入ってくる。
静かな足音、白い肌、華奢な腕、表情豊かな瞳、愛情と慈しみの心、俺とはまるで真逆の生き物だ。
この娘は見返りも求めずに俺の世話をしてくれている。
「あ、あぁ、だいぶ良くなった」
「それは良かった。でも無理は駄目ですよ? して欲しい事があれば何でもいってくださいね」
ひんやりとした薄い掌を、俺の額にあててくる。
「あ、あのな…」
「お酒は駄目ですっ」
「い、いや、良い天気だな…」
娘の顔にもぱっと日が差した。
「ふふふ、ほんとうに」
自慢の腕力ではどうにもならない。
俺は今、この娘の心を捉える力が欲しくてたまらない。
次のお題は
>>285さんの 「犬」「とまれ」「ギター」 です。
新月の夜は、いつもの帰り道をはずれて、家とは違う方向に向かう。路地を抜けた突き当たりに、彼女の住むアパートはある。
夏の盛りには、蛾や羽虫がたかっていた点滅する街灯は、冬の冷気の中で冴え冴えと光っている。どこからか犬の遠吠えが
聞こえてくる。チャイムはないので、ドアをノックする。すぐに彼女が顔を出す。へえ、来たんだ、という表情になる。
「あがれば?」「うん、じゃ、ちょっとだけ」
いまどき、風呂のない2Kの部屋。小さい折りたたみテーブルの前にあぐらをかいて座れば、彼女がさりげなく灰皿を出す。
煙を吐きながら、古びた部屋を見渡す。彼女の部屋は、ちっとも変わらない。台所から冷蔵庫を開ける音が聞こえる。
「はい」 グラスが目の前に出され、彼女がビール瓶の王冠を開ける。
「すまんね」「いいわよ。チーズしかないけど、いい?」「かまわんよ」
彼女の長い髪は、黒くて艶がある。美しい女ではないが、髪だけは人一倍美しい。私の髪は、すっかり白いものが混じった。
いや、白髪に黒髪が少し混じっているというべきか。私は、日常の愚にもつかない話を、彼女にぽつりぽつりと話す。彼女は
頬杖をついて、ふんふんと聞く。つけっ放しのラジオからは、アコースティックギターのメロディが流れてくる。部屋にかけられた
カレンダーは、1992年のままだ。彼女の自殺が新聞の片隅に報じられたのは、たしか12月だった。私は、新婚生活をはじめ
たばかりの部屋で、その記事を読んだ。
とまれ、新月の夜は、彼女の部屋への道が開く。私は彼女の部屋を訪れる。彼女の髪は、訪れる毎に長く美しくなってゆく。
私が家への帰り道を見失うのも遠い日のことではないだろう。
次は「ダウンジャケット」「棚田」「PHS」
時計の針が午前二時を指すのを目にした。
「時間外勤務、ご苦労さん。外は冷えるだろう?」
「ええ、まあ――」
応えながら、ダウンジャケットの襟を引き締める。二月の夜は底冷えする。息が白い。
「これが終わったら休みだ。しばらくブラブラして来いや。田舎にも随分帰ってないんだろう?」
電話口の男はしゃあしゃあと言う。冗談じゃない。どんな顔をして帰ればいいと言うのか。一瞬、言葉に詰まる。
さらに二言三言を手早く交わして切った。息を一つ吐くと、PHSをポケットにしまう。
代わりに取り出したマイルドセブンに火をつける。ゆっくりと吸い、吐く。
このタイミングで、煙草を一本燻らせるのがいつしか習慣になっていた。
14階のビルの屋上には、時折風が強く吹き付ける。その度に灰が小さく舞った。
目線の先には、300メートルほどの暗闇を挟んでマンションが建っている。
背丈はこのビルと同じくらい。ぽつりぽつりと明かりが見える。
マンションは各階のテラスを広く取るため、段々畑のようになっている。ルーフバルコニーと言うらしい。
それは、故郷の棚田を髣髴とさせる。子供の時分駆け抜けた野山。懐かしい風景。
もうこっちへ来て何年になるだろうか。平凡な田舎者はもうどこにも居ない。居るのは――
首を振ると煙草を落とし靴底で揉み消した。余計なことを考えるな。
ポケットから再びPHSを取り出す。教えられた番号を一つ一つ丁寧に押していく。
呼び出し音。やがてカチャリという音がする。同時に、眼前のマンションの一角が赤く光った。
赤々とした火が、真っ白なテラスを舐めていく。寒々しい光景を突き破るように、荒く、獰猛に。
この分なら目標は黒焦げだろう。問題無い、成功だ。踵を返そうとする。
瞬間、再び故郷の風景が現れた。棚田の野焼き。
鼻を啜りながら見ていた光景は丁度、今頃だったろうか。母親と手を繋ぎながら食い入るように炎を見つめる。
不意に、寒けが鋭さを増した。ダウンジャケットの上からでもお構いなしだ。身体の中まで突き刺してくる。
目を瞑り、奥歯を噛み締めこらえる。
やがて用済みになったPHSを再びしまうと、両手をポケットに突っ込み出口へと足を速めた。
次は「猪」「茄子」「子供」で。
289 :
名無し物書き@推敲中?:2006/12/28(木) 18:48:25
「猪」「茄子」「子供」
『子供焼き』
近所の定食屋のメニューにある料理だ。
ひと口サイズのお好み焼きといった外見で、おそらくそのへんからのネーミングだろう。
「日本人、子供焼イテ食ベルカ?」
汚れた作業服を着た外国人が、連れの、同じく作業服の日本人らしき青年に尋ねた。
「食べないよ。そういう名前なだけだよ」
「ナゼ、ソウイウ名前カ?」
「小さいからだろ。小さいのが子供、大きいのは大人」
「ジャ、カルロスのチンチンは大人か?優子ハ昨日『茄子みた〜い』言ッタゾ」
「うるせーよ」
「ソウカ、日本人コドモ食ベナイカ。カルロスの国食ベルヨ」
「え?」
「猪ノ腹ニ生後1週間ノ赤チャンと野菜詰メテ蒸し焼きスルネ」
「…… 」
「懐カシイネ。カルロス子供生マレタラ子供焼キスルネ」
となりのテーブルで子供焼きを食べていたサラリーマンが、青い顔をしてトイレに駆け込んだ。
「リサイクル」「避妊具」「お年玉」
閉じた保健の教科書を握り締めて、5年生の亜由美はつぶやいている。
「んー、避妊具には……、コンド、ム? あー、他にも書いてあったの何だっけー」
「おっはよー! ちょっとこのお年玉の袋見て? かわいくない?」
「おはよー。あー、何? かわいいー」
「ちょっとー、教科書なんか見て歩いて危なくない?」
「んー。だって今日テストするって言ってたじゃん」
「コンドームのところ?」
「あー、そうそう。コンドーム」
「あたし見たことあるよ」
「えー? どこで? 誰の? まさか瑠奈が使ったの?」
「や、普通に親のだけど」
「へー……。どんなの?」
「写真の通りだった。使用後みたいだったけど」
「ふーん……」
「ねぇ、あれってさ、洗って何回も使えんのかな」
「えー? リサイクル?」
「そそ、エコで」
「エコって言えばさー、今朝うちのお母さん、牛乳パックそのまま捨てようとすんだよ」
「えー、ダメじゃん」
「だから怒ったよ」
「あはは、亜由美えらいー」
無邪気に笑いあいながら、少し大人びた身体にランドセルを背負った少女が二人、校門に走った。
「炭酸水」「風船」「ドラマ」
それはまるでドラマみたいだった。
彼女と……再び出遭った。
クリスマスの夜、ぼくは彼女と喧嘩してしまった。些細な理由だった。
怒った彼女はコーラをぼくにぶっ掛けて部屋を出て行った。
そのときに始めて頭を冷やした僕は、一人の寂しさと彼女にかけていた負担の重さを知った。
服を洗濯しているとき、綺麗に取れたはずの炭酸水が僕の心を溶かしていた。
彼女も今、孤独なのだろうか?
僕はだらだらと大晦日まで引きずった。寂しさを晴らす為市街に出た。
雪が降っていて寒い。息が真っ白になった。そこでは年明けを皆で祝うかのごとく人が密集していた。
市の振る舞いで年が明けた瞬間にたくさんの風船を打ち上げる催しが行われていた。
その役員だと思われるウサギのきぐるみが細長い風船を渡してまわっている。僕はつられて受け取ってしまった。
仕方なく膨らまして、理由もなく待つ。
十秒のカウントダウンが始まった。
周りを見ると、皆が声を合わせている。誰もが年明けを祝っている。と思ったが――
その景色の中に、僕がいた。彼女だ。僕は考えるまもなく走っていた。
「ごーっ!」
高々十メートルほどしか離れていない。遠すぎだ。
「よーん!」
人ごみはなかなか行く手を阻む。もどかしくてたまらなくなった。
「さーん!」
彼女に手が届いた。彼女は僕に気付いて目を大きくした。
「にーっ!」
彼女の正面に立ってその思いを告げる。
「いーち!」
僕は彼女を抱いた。そして耳元で、
「ごめんな……」
彼女は泣いていた。
「新年! 明けましておめでとう!」
皆が一つになった時だ。そして今も、彼女は隣にいる。
その場の空気は風船の様に張り詰めた。
ボクはただその容姿に釘付けにされた。
プラチナブロンドの髪に淡いサファイアの瞳。
マイセンの陶器さながらの白い肌は多少煤汚れていたが、
その美しさの片鱗を示すに十分だった。
破けた服からはだけた胸は、
古典絵画からルネサンスへと蘇るビーナスの美しさを思わせた。
着ている服はボロボロであったが、
虚空を射抜く瞳は強い意志を感じさせ、
それは高い地位にいる人間であることを物語っていた。
その端正な顔立ちは焼け付くような空気を放っており、
見る者の目を決して逸らさせなかった。
ボクはドラマでも見ているではないだろうかと疑いたかったが、
炭酸水が膨らむような胸の高鳴りがそれを現実と理解させた。
「フリーザ!!オラはオメェを許さねぇ!!」
「片鱗」「地位」「闘争」
>>291 お題書いてなかったので
>>290のお題使いますね
293 :
「片鱗」「地位」「闘争」:2006/12/30(土) 23:23:47
牛車の中で、従者が読み上げる。「今夜は紫殿。翌日は明石殿、次は末…」
予定時間に庵に到着。5日前から報告がゆき、姫も従女も準備万端の「お忍び」だ。
帝は姫の布団にもぐると、はじめて本音を語り始めた。何かに怯える様な小さな声で。
「本当はな、紫。わしは気ままに、抜き打ちで訪ねたかったのだ。」「…まあ」
「1ケ月前に決まる通い先、ロマンの片鱗もない予定表…ああ、心赴くままに通いたい!」
「姫は大変嬉しいです。けれども、帝様の地位ではそれは少し…」
当然だった。どんな姫にもバックがある。帝がどの豪族の娘と同衾するかは、注視の的なのだ。
帝というものは、権力闘争の頂点に浮かぶ小船だ。今夜の相手を「気分」で選べる訳がない。
「で、でも、でもっ」と、姫は落ち込む帝をもち上げる。
「いつか後世の誰かが、帝様の味気ない現実を、大幅に脚色、美化してくれる…かも」
千年以上経過した。今日も観光バスが、老若男女を寺院、庭園、土産物屋に吐き出して去ってゆく。
一人が無料レンタルの着物を羽織り、感慨深げにこう言った。
「あーあ、現代って味気ないわ。千年経った今、姫と帝のロマンスなんて、もう書物の中でしか…」
土産物屋は小声で「ケッ」と呟いたが…誰一人、このセリフの歴史的重要性に気づかなかった。
千二百年の時を隔てて、無名の女学生と、布団の中の帝…主人公その人の嘆きが一致したというのに。
※なんかショボンな話だが…
次のお題は:「フランスパン」「気球」「期待」でお願いしまふ。
寝台の枕元に置かれた目覚まし時計がやかましく起床の時間を告げる。
僕は叩いてそれを黙らせると、再び布団に潜った。
開け放たれたベランダの窓----おそらく母が開けたのだろう----ほのかに温かい陽光、春の柔らかい風。
母の期待空しく、僕は為すがまま睡魔に誘われ夢の世界へ落ちた。
次に目覚めたのはいつだっただろう、時間は定かではないけれど
今、確実に言えることは、これは夢だ。と言うことだ
地上では緑が地平線まで続き、空を見上げれば思わず眩暈がするほどの神秘的な
蒼が僕の目に飛び込んできた、僕はその草原のど真ん中でうつ伏せになって寝ている。
ここは何処だ?とか、何でここに?とか、そんな事はどうでも良かった。
ただ、酷く心地が良い、風に身を預ければそのまま何処までも飛んで行けそうで、
気球で空中散歩でもしているような、そんな気分。
ここが夢の世界でも、もう少しここにいたい。そう願った。
ふと、誰かが僕の名を呼ぶ声が聞こえた、何処か懐かしくて、そして何となく嫌悪感を覚える声。
次第にその声は大きくけれど、はっきりと何かを伝えようとしている。
耳を澄ましてみる・・・そう、確かこれは。
「たかし!あんた、いつまで寝てるの!」
心臓が止まるかと思った。
僕は勢いよく草原・・・否、ベッドから転げ落ち、鬼のような形相で僕を睨む母の足元に到達した。
母から拳骨を一発もらい、ほどよく目が覚めた。夢は時に残酷だと思った。
僕は朝食のフランスパンをかじって家を出る。
春はもうすぐ終わろうとしています。
なんか色々ごめんなさい・・・
次は「絶望」「希望」「祝福」で
その場所に立っていたのは、若く、そして美しい女だった。
自殺の名所だ。足下には、深い谷底へ通じている。落ちたら絶対に命はない。
女は、その谷底を見つめていた。
「ちょっと、あんたなにしてるんだ」
女の姿を見つけた男は、彼女の元へと駆けてゆく。
「はやまるんじゃない。命を粗末にするんじゃない」
「もう、この世にあるのは絶望だけです。生きていくのに、つかれたんです」
女は悲しみに満ちた表情と声で答えた。
「そんな事はないさ。希望を捨てるな。必ず幸せになれる日が来る」
「そんな事、あなたに判るわけないでしょ。私のような女は、死んでしまったほうがいいんです」
「そんな事はないさ。あんたはまだ若い。人生、これからいくらでもやりなおしが聞くはずだ。」
近づいて、男は女の手を取った。
女は、顔を上げて、男の顔を見た。
「あなたの顔、わたしの好みじゃないわ……」
吐き捨てるようにそう言ったかと思うが早いか、女は電光石火の早業で、
男の懐から財布を抜き取り、片手で男を持ち上げて、そのまま谷底へ投げ捨ててしまった。
男には、なにも出来なかった。なにが起きたか判らぬまま、谷底へ――即死だった。
女はしゃがみ込んで、抜き取った財布の中身を確認する。それなりに、満足出きる額だった。
「神よ、心優しきいまの男に祝福を、そして私に、次の獲物を!!」
そして再び女はその場に立ちあがり、足下の、深い谷の底を見つめた。
次は『秋葉原』『王子様』『あと半年の命』
『秋葉原』『王子様』『あと半年の命』
メイクを落とさずに眠ってしまったので、肌の調子は最悪だった。でも、アキヒロに素顔なんて
見せられっこない。アキヒロが起きる前に、なんとか顔をつくり直そうと、私は静かにベッドから
素足を床におろした。
「すげ。マユ、料理なんてしてんの」
「してるわよ。悪い?」
顔を洗って、メイク(ただし、ごく薄いの。すっぴん風ってやつ)を終わらせて、ルームウェアに
着替えた私を、起きてきたアキヒロが上から下までじろじろと見る。フライパンを片手に持った
私なんて、想像もしてなかったんだろうな。
「悪くない、な。いや、良いです。すげー、いいです」
アキヒロ、素直すぎ。つられて私もつい素直に笑ってしまった。ウスターソースを冷蔵庫から出す。
私はあまり好きじゃないけど、アキヒロが何にでもかけるというから、買ってあったのだ。ちらりと
賞味期限に目をやる。2007.06.08、あと半年の命か。それまでにアキヒロが使い切ってくれるだろうか。
休日の午前は短い。あとで秋葉原にでかけようとアキヒロが誘う。
「あれ行くの? あの、メイド喫茶とか? アキヒロって、そいうヒト?」
「バカ、ちげーよ、女連れで行けっか」
「行ったことあるんだ。わたしも王子様喫茶があったら、行きたい」
「マユも、そいうヒトなのかよ」
そいうヒトかもね。端がはげてしまったマニュキアをちょっと気にしながら、つぶやく。
賞味期限が気になる性質なの。
『私の』は、あと、どれくらいかな。私が使い切られたいのは、ほんとにアキヒロなのかな。
「綿棒」「振り子」「切符」
大きな振り子時計のある駅の広場に彼女はいた。
ダッフルコードのトグルを全部きちんと留め、姿勢を崩さずに真っ直ぐ遠くを見つめていた。
飾りのない黒い手袋をした手を頬に当て、ほうっと溜息をついて少し俯く。
「時間を間違ったかな‥」
誰にも聞こえないような独り言を呟き、彼女は肩にかけた小さな鞄に手を入れた。
取り出したのは一枚の切符。何度も丁寧に読み返す。
2007年、1月、10日‥午後8時‥。確かに今日の日付で、確かに時刻を過ぎている。
「この切符でね」
と何の説明もなく渡された特急券。
面食らっていると、いつも笑顔の彼が真面目に言葉を続けた。
「一緒に街を出よう」
あの日から今日まで、あっという間だった。
しかし彼は来ない。この特急券の電車は既に出発してしまった。
「それとも、嫌われたかな‥」
笑いにならないような笑いを浮かべ、それでも彼女はまだ時計の広場に立っていた。
遅刻常習犯の彼だから、いつもの笑顔で走ってくる気がしていたのだ。もう一度俯き、また溜息をつく。
手に持った切符をしまおうとすると、鞄の中に綿棒が一本見えた。
そういえば出かける前に、アイメイクが滲んでいることに気付いて鞄に入れて来たのだった。
今更、という気もしたが、思い出すと気になってしまうもので、彼女は切符をきちんとしまい、コンパクトを取り出した。
コンパクトに手を掛けようとしたその時、携帯電話が鳴った。彼だ。
「も、もしもし‥!」
聞きたいことと言いたいことが同時に込み上げてきて、上手く喋れなかった。
何よりも今は声が聞きたい。
しかし聞こえてきたのは彼の声ではなかった。
「佐藤さんの携帯から電話しています。鈴木さんですか?警察です」
そして彼女は約束の切符を握りしめ、時計の広場に一人泣き崩れた。
「手帳」「戦車」「神社」
鈴木は神社が好きだ。
猥雑な日常から隔離された世界。誰にも犯せない聖域。
そしてまた、探せばどんな街にでもあったりする。そんな手軽さも良い。
「ふう……」
外回り営業にはタフさが必要だ。
どんなに非常な現実を目の当たりにしても、眉一つ動かさず乗り越えるタフさが。
――少なくとも、俺に、それはねぇな。
苦笑しながら、神社の境内に愛車をつっこんで停めた。弁当と水筒を片手に、尻でドアをしめる。
腕の時計は、十二時丁度。今から一時間の昼休みだ。
大きく伸びをして、鈴木は鳥居をくぐった。
狭い境内は荒れ果てていた。空き缶・トレーがどこに目をやっても入ってくる。
ま、しかし、この程度なら良くある光景だ。鈴木は本心からそう思う。むしろこれはマシな方だろ。前なんか社殿がぶっ壊れてた神社もあったし。
賽銭箱の上に腰をおろし、水筒から茶をつぐ。立ち昇る湯気を目で追う。はるか上空で大木の緑がそよそよ光と戯れていた。小鳥のさえずりを耳にした気がして、鈴木は微笑した。
予定をチェックした手帳をポケットにしまう。午前中でこの辺りは掃討した。次の敵は10キロ先だ。
鈴木は愛車によじ登ると、長い主砲をポンと叩いた。
「さあ、殺しに行くぞ」
次は「唾液」「パソコン」「証拠」
証拠は一つも残していません。
そうする自信がありました。
そうする自信があったからこそあんな事をしたんです。
「人間にこんなにたくさん骨があるとは知りませんでしたよ」
パソコンをやろうと思いました。
何かをして、少しでも気を紛らわしたかったんです。
あの人が仕返しに来るであろう事は、もう、分かっていました。
そんな時です。
天井から何かが垂れてきたのでした。
ぴちゃり。ぴちゃり。
そうです。
唾液だったんです。
お題お題
ごめんなさい、忘れてました。
次のお題は「銀河」「予告」「ぬいぐるみ」でお願いします。
302 :
名無し物書き@推敲中?:2007/01/16(火) 00:22:09
age
私には齢の離れた兄がいる。
十歳以上離れた兄で、私は彼に以前より苦手意識をもっていた。兄も兄で私に対し少し距離を置いた接し方で、家にいる時も一人で
映画を観たり、本を読んだりと孤独な趣味で時間を潰すことが多かったようだ。
言わば私たちは、同じ家で生活をしながら、互いに違う方向を見ながら静かに息をしていた。近くにいながら互いに黒い宇宙で一人佇
んでいる感覚。
私はそれを銀河の孤独と呼んでいた。
故に長じて兄が家を出て独立をし、両親と私のみで過ごすようになったが、正直寂しいという思いは薄かった。
家族で食事をする時にぽっかりとあいた兄の席を見ても奇妙な感覚はあったが、寂しいという感じでは決してなかった。
時は流れて兄が家に帰ることも少なくなり兄は更に遠くへ引っ越しそこで所帯を持った。結婚式で久方振りに見た兄は、幸せそうに微笑
んでいたが、少し老けたようで私が記憶で知っている兄とは別人に見えた。結婚式の後、私は今は主の不在で空虚な兄の使っていた部屋
に入った。机の上に熊のぬいぐるみが置いてあり私はそれを手に何気なく手にとってみた。ふと兄の言葉が甦った。
「人は幸せをどうにか形に残そうとする」ぬいぐるみの柔らかい表面の下に何か異質な手触りがある。私はカッターの刃をぬいぐるみの
腹にあてるとズブリと押し込んだ。
飛び出した綿の間から一枚の古い写真が顔を出した。三つ折にされたそれを広げると私の予想外の光景が映し出されていた。
幼児を抱く少年。笑顔が眩しく、白い歯を見せながら白いお仕着せに包まれた幼子の顔を覗き込んでいる。赤ん坊は目を瞑って表情は薄
いがいかにも安心しきった様子で、そこには幸せそうな雰囲気が漂っていた。そこには約束された慈しみがあり、予告された幸福が写し
取られていた。
私は写真を元の三つ折にし綿と一緒にテディベアの腹に押し込んだ。そして針と糸を捜しに階下に静かに下りていった。
「天狗」「笑い」「葬式」
タカシは子供の頃から悪ガキで、十五で不良と呼ばれて育った。
日常的にバイクを窃盗、家族には暴力をふるう。家庭から笑い声が
聞こえたことはなく、いつも電気は消えていて、中から何かの壊れる音や
誰かの悲鳴が聞こえている。
ある日タカシは死んだ。交通事故だった。葬式は密葬で進行し
しめやかに終了した。家族は涙一つこぼさず、お寺様は徒歩でやってきて
読経を三十秒で終えた。んで徒歩で帰っていった。家族は平謝りに
謝ってスクーターを買える程の大金を御車代として包んだ。
だが不幸はそこまでだった。彼らはタカシの恐怖から逃れたのである。
家族は懸命に働いた。ご近所からの理解、協力もあり今では成績も
うなぎ上り、部活もレギュラーがとれ彼女もバンバンできました。
今では家族はみな天狗。町内の嫌われ者です。なぜなら彼らもまた
タカシの家族なのですから。
#途中から脱線しちゃった。お題継続。
思えば親父の葬式の日とおなじだ。
薄れゆく意識の中、キョトンとした表情の息子と、口煩い妻の涙が見えた。
ふと目をつむり。それからゆっくりと自分の親父の最後を思い出す。
ちょうど息子と同じくらいだったろうか?
我が家の言い伝え。と言うと古臭くて聞こえは悪いが何故か短命の一族らしい。
勿論妻には秘密だ。
飲む。打つ。買う。のとんでもない親父でろくな思い出は無かったが最後の数分間の出来事は今でも鮮明に覚えている。
ふらふらと力無く立ち上がった親父は古めかしい天狗の面を付けてガハハと力強く笑い、私を持ち上げると高い高いの要領でほんの数分間だけ遊んでくれたのだ。最初で最後だったが私にとっては何よりだった。
それからゆっくりと面を外すと私に握らせたまま深く長い眠りについた。
短命だからこそ最後は笑顔で……。
もう一度目を開くと、泣き出しそうな息子が見えた。男だろ泣くんじゃない。
喉元で言葉はつまり、結局息子には届かずに私の中に止まってしまった。
それから、笑顔だけを家族に残し、私は眠りについた。
そう。それから一つ。
面を使って笑かすのは親父の代で終いにした。
なんたって、口煩い妻は長生きの家系らしいからね。
上手くまとまらなかったのでお代は続行で
「天狗葬」
私の故郷の奇妙な風俗に、天狗葬というのがある。
村の北東に位置する峻厳な山々、村民は天狗岳と呼ぶがそこで命を落とした者は、皆すべからくこの葬に付され、野辺送りとなる。
発見された亡者は、まず村の草分けの屋敷に運びこまれる。
屋敷の広い叩きに、畳一じょうほどの茣蓙をしくと、四隅に握りこぶし大の玉石を置く。その時に使用する石は天狗岳の産でないとならない。
そうして、茣蓙の上に亡者をのせると胸の上に蓑と八手の葉をおき、最後に亡者の顔に天狗の面を被せる。
後は亡者をほっといて、飲めや、歌えのどんちゃん騒ぎだ。さみしい土間に置かれた亡者を尻目に、草分けの屋敷のいっとう広い座敷のそのまた奥の座敷も開放して、昼夜かまわず夜もすがら、酒が酌まれ豪勢な料理が運びこまれる。
列席する村民たちは皆一様に、村に伝わる天狗節を唸り、それにあわせてこれも伝わる天狗踊りをしながら、大笑いに笑いつつ用意された酒や料理を次々にたいらげていく。
しかし、誤解してはならない。天狗葬のためには通夜の間、笑いを絶やしてはならないのだ。そのために通夜では、縁故のものがこらえきれず破顔大笑のまま滂沱と涙をながしていることもあり、一種異様なムードがある。
明け方頃に通夜が終息すると列席者は皆、蓑をき、と巾の付け、やはり天狗の面を被る。
そうして亡者を棺に入れ戸板にのせると、村の道には長い長い野辺送りの列がつづく。
亡者が村の川原で火葬されると、枷を解かれた参列者の感情は一気にはじけて、初めて亡者の死を悼む哀切なすすり泣きが、朗々と。
このとき、亡者を焼いた煙が天狗岳の方を向けて、一繋ぎに流れていけば、亡者は来世で天狗に生まれ変わるという。
葬式は葬でOK?
「ジャズ」「空」「15」
ごめん。いまテンプラ読んだ。
スルーしてお題継続。
弟の葬式に天狗がやってきた。
天狗はと巾を頭に被り、蓑をつけ、やつでの葉を右手にもち、腰には瓢箪につけていた。
弔問帳に名前を記載する際、すこし戸惑って首をかしげる様子をみせたが結局、「天狗」と大きく書いて、住所欄には「山」とのみ書いた。
誰かがおもしろいのでやつに弔辞を読ませろといったので、頼んでみると、渋々ながら酒三升で手を打ってくれた。
さあ、天狗の弔辞が始まった。
「私、故人には会社でひとかたならず世話になったものですが、なんというか、今回はいきなりのことで、まったく驚き、悲しんでいます。
故人とは同期で戦友でもありよきライバルでもありました。彼の若過ぎる死はまったく遺憾であり、許し難い損失です」
天狗の弔辞は朗々と続く。
「交通事故ですか。たしかに故人は15年間無事故無違反を続け、免許証はゴールドカードでした。その故人が酒酔い運転とは。
軽率を怨みます。故人は少し天狗になっていたんでしょう」
参列者が少しざわついた。
「いや、いまのは、そういう意味ではないんです。つまり、故人はですね。油断大敵といいましょうか、後悔先たたずといいましょうか。
石橋を叩いて渡るような慎重さを欠いていたということです」
天狗があわててとりなす。
「故人との一番の思い出は、私がまだいまより若く、自信も乏しく、鼻もこんなに長くなかった頃、仕事上で少し悩みまして、いまの仕事をやめてフリーターに
でもなろうかと真剣に迷っていたんです。そのとき故人は相談にのってくれました。一昼夜話し合って出した結論はこうです。故人は営業部長に私は工場長に。
将来の必ずなりいまの会社を盛り立てていくと。私は約束を果たした。しかし故人は……。無念としか言いようがありません」
天狗の弔辞は終わった。天狗は少し疲れた様子で、汗を拭くと茶を一杯所望した。
熱い茶を啜りながら天狗は、言った。
「あんな感じでよかったかい」
私は問題なかったと肯いた。天狗は安心したようににっこりと弱く笑った。
お題は308で
僕はクラリネットを吹く。
今はバーで週に3回吹いて、日中は楽器店の講師のをしている。
たまにイベントで吹いたり、結婚式に演奏を頼まれたり、地方の街で
まぁそこそこやっていけてる方かなと思っている。
僕がクラリネットに出会ったのは15の時。
何の部活もスポーツもやらない高一の夏休みはとてもヒマで、
たまたまつけていた衛星放送で古いジャズを流していた。
サックスほど荒々しくない、だけど適度に枯れて、それでいて透明で、
素朴でもあって、諦めたような明るさがある音。
クラリネットを知らないわけじゃなかったけどこんな切ないような音色を聞いたのは初めてで、
僕は読んでいた雑誌から目を上げて、テレビの画面に釘付けになった。
一曲終わると息苦しいような気分になって窓を開けた。
空が青く迫って来て、急にあの音を自分で出してみたいと思った。
僕は焦るような気持ちで、音楽担当の教諭や、クラスで吹奏楽部に入っている
幾人かの顔を思い浮かべた。
「玉子」「勢い」「表敬訪問」
夜遅く、玄関のチャイムと激しい勢いで扉を叩く音で目が覚めた。
私は応対するため急いで寝室から飛び出、インターホン越しに尋ねた。
扉を一枚隔てた向こう側にいる相手は、「私は玉子だ」、と答えた。
表敬訪問のために来た、というが、訳がわからない。玉子?
「表敬といわれても、親戚にも知り合いにも、玉子という方はおりません」
「友情とは成長の遅い植物というのは、ワシントンの言葉だったよな。思い
だすのに時間が掛かっても怒らないから」
「はぁ、おっしゃってる意味がよくわかりませんが」
「機会が二度 君のドアをノックすると考えるな」
「なんなんですか、一体?」
「五人しか君の友達がいなくても、六人いることだって考えられるよ」
「警察呼びますよ!」
「死んだはずの人が何時の間にか復活していたとは思わないかい」
「思いません!」
「まあ、普通はそうだよなあ。邪魔したな」
「矛盾」「指摘」「休載」
314 :
名無し物書き@推敲中?:2007/01/27(土) 08:45:04
「コンドームのようにペラペラだゼェェー」とナランチャ・ギルガはいった。
「うむ。俺のムーディー・ブルースで探ってみよう」とレオーネ・アバッキオいった。
「こんなことになってしまったが、俺は常に自分の信じる道を歩いていきたい」とブローノ・ブチャラティはいった。
「君の言葉には大きな矛盾があるッ」とパンナコッタ・フーゴはいった
「暗殺は俺の得意分野だからよォー」とグィード・ミスタはいった。
「あえて指摘することはしません。なぜならそれは無駄だからです」とジョルノ・ジョバーナはいった。
「漫画の神様の手はふわふわだった」と荒木飛呂彦はいった。
「作者都合のため次回休載します」と冨樫義博はいった。
お題継続
315 :
「矛盾」「指摘」「休載」:2007/01/27(土) 19:33:37
男は、スーツの擦り切れた袖口をさすりながら、懇願する目で相手を見ている。
「28日の新聞にメッセージを」
「28日は新聞が休載だ」
「なら、29日に」
喫茶店には、二人の他に誰もいない。二人の間にあるテーブルには、昼下がり
の日がうらうらと射している。
「君のやることは矛盾している」
怪盗は、卵のぬめりのある目で、男をツルリと見て指摘した。男はさすってい
た袖口を握り締めた。
「君は僕を逮捕したいと言う、そのくせ、こうして呑気にお茶を飲みながら取引
をする」
「それは」
「君のそういうところは面白いけど」
怪盗は針金の指で、器用に、音を立てずにコーヒーカップを置いた。
「そんなんじゃいつまで経っても僕を捕まえられないよ」
次:「かつら」「青」「春」
316 :
「かつら」「青」「春」:2007/02/06(火) 00:56:53
式も終盤というのに未だに好奇の目が向けられている。まあ仕方がない。
僕にはヒミツがある。影で「かつら」というあだ名があるのは薄々気付いていた。それに今日からかつらは着けない。
そう決めた。
だから、これはヒミツじゃない。ハゲの僕には好きな子がいる。これこそ誰も知らないヒミツ。
結果はわかっているかもしれない。気持ちを伝えない方がいいのかもしれない。でも大袈裟に言えば、明日からもう会えない。だから昨日の帰りに手紙を渡した。
「明日、式が終わったら話がある」と、 26歳の若い教師が教え子に愛の告白。告白してしまえば職場に味方はいなくなる。
「かつら淫行」とあだ名が長くなるかもしれない。教育一途で生きてきた教頭にはこの「青二才がっ!」という古臭い言葉と共に拳骨を一発もらうかもしれない。
けど決めた。
教師である前に一人の男だ、なんてバカらしくていえないけれど僕は教え子に恋をしたことに間違いはない。
今まではうそっぱちを見せてきた。だから、愛の告白の時くらいはありのままの僕でいるべきだと思った。かつらは不要物だ。
「卒業生退場!一同起立!!」
頼りない我が毛が空を舞う。
僕に春は来るか!?
次は
「ハン
317 :
「かつら」「青」「春」:2007/02/06(火) 01:01:47
式も終盤というのに未だに好奇の目が向けられている。まあ仕方がない。
僕にはヒミツがある。影で「かつら」というあだ名があるのは薄々気付いていた。それに今日からかつらは着けない。
そう決めた。
だから、これはヒミツじゃない。ハゲの僕には好きな子がいる。これこそ誰も知らないヒミツ。
結果はわかっているかもしれない。気持ちを伝えない方がいいのかもしれない。でも大袈裟に言えば、明日からもう会えない。だから昨日の帰りに手紙を渡した。
「明日、式が終わったら話がある」と、 26歳の若い教師が教え子に愛の告白。告白してしまえば職場に味方はいなくなる。
「かつら淫行」とあだ名が長くなるかもしれない。教育一途で生きてきた教頭にはこの「青二才がっ!」という古臭い言葉と共に拳骨を一発もらうかもしれない。
けど決めた。
教師である前に一人の男だ、なんてバカらしくていえないけれど僕は教え子に恋をしたことに間違いはない。
今まではうそっぱちを見せてきた。だから、愛の告白の時くらいはありのままの僕でいるべきだと思った。かつらは不要物だ。
「卒業生退場!一同起立!!」
頼りない我が毛が空を舞う。
僕に春は来るか!?
次は
「ハンカチ」「指輪」「オーブン」
世界の全ての者に見放されたかのように、道端にハンカチが落ちていた。
僕は他の人に習って布巾の脇を過ぎるべきだと判決を下し、実行に至った。
ハンカチが睨む。私の様なものでさえ主人への奉公は怠らなかった。主人の側を離れなかった。
なのに今はなんでしょう?最後に見た指輪の憎ったらしい笑顔の輝いてたこと!
どうか置いて行かないでくださいまし。拾って洗って雇ってくださいまし。
僕は振り向いた。そういやオーブンが汚れていたっけな。
『窓』『亀』『カリウム』
「窓」「亀」「カリウム」
「塩化カリウムはKCl……、硫化亜鉛はZnS……」
焦燥感とイライラに襲われながらも、カリカリとシャーペンを走らせる。
明日の化学の試験に向けて、今夜が山場だった。
化学は大の苦手だったので、ここ何回かのテストでは赤点をとり続けた。
「もし、次の期末で赤点を取れば、単位はあげられないわね」
そしてとうとう昨日、担任でもある化学の教師にも、ため息混じりにその言葉を吐かれたのだった。
「プロパンを完全燃焼させた時にできる酸素の体積は……わかんないっ」
集中が切れたので、噛り付いていたノートから顔を上げて、寒そうな窓の外をぼんやりと見る。
――と、窓のすぐ外に、少し薄汚れた亀のぬいぐるみが落ちている。
少し興味がわいたので、窓を開けてまじまじ見つめると、少しまぬけ顔のぬいぐるみだった。
「変な顔」
思わず噴出してしまう。しかし、イライラはどこかへ飛んでいってしまったようだ。
窓から半分身を乗り出す形でぬいぐるみを抱き上げ、汚れを払ってやった。
「私が今晩眠らないように、そこで見張っててね」
私の噴出し笑いの顔に少し似たぬいぐるみを机に置いて、再び化学に向き合い始めた。
☆久しぶりで、苦戦しましたw
次は、「表彰状」「漬物石」「海岸沿い」で。
320 :
名無し物書き@推敲中?:2007/02/06(火) 05:00:54
表彰状。
たった一枚の紙切れの為に、よくあそこまで体を痛めつけられるよ。
海岸沿いを走る彼女を見てそう呟く。
彼女の事はよく知らない。
ただ、毎朝この辺りを走っていると言う事だけ。
向こうは気付いて無いだろう。
僕は遠くから眺め、彼女は走る。
このままの関係で良いんだ。
僕は漬物石。
決して動かない。
彼女とは、異なる存在。
次は『彫刻』『暁』『騎士』で。
貴方達は偉大であった。
暁の空を血潮に染めた英雄達。
陰部を一片の葉で纏い、隆々とした筋肉を露にし。
古代より我々を覗き込んでいる。
貴方は父であり騎士であり神であった。
貴方にとって今の世界は理想郷であろうか?否、違うだろう。
では、何故貴方は闘ったのです?ありふれた彫刻の面々に肩を並べるためでしょうか?
私は、違う。
私は、貴方を超えてみせる。
さて、次はロダンと語ろう。
次「容赦」「波線」「傍若無人」
「容赦」「波線」「傍若無人」
「あなたのこと、好きでいていいかしら」
暗闇の中、女は真紅の薔薇のように紅くぽってりと厚い唇を男の耳元に近づけ、そっと囁いた。
女の唇から漏れる息で、男の髪は、波線のように小刻みに揺れる。
紺色の浴衣の袖から白くすらりと伸びた女の腕が、男の体に背中に絡みつき、妙に艶かしい。
しかし、男は無言のまま、華奢な二本の腕を容赦なく掴んで背中からはがし、女を強く突き放した。
強く掴み過ぎたすぎたせいで、白い腕には桜色の手形がうっすらと浮かんでいる。
「あら、冷たいのね。……でも、わたし、嫌いじゃないわ、その傍若無人な態度」
女はうっとりと口の端を吊り上げて笑った。
「はじめに誘ったのはわたしじゃなくて、貴方の方じゃない」
妖艶に微笑むその笑顔に、華奢な体に、長く絡みつく髪に、男はイライラさせられた。
そして――
「はぁい、カーットーっ! OKでーす」
突然、場に似つかわしくない、妙に間延びした声が飛んだ。その途端、彼方此方からお疲れ様の声が飛び交った。
男は、ほっと一息ついて、近くのいすに腰を下ろす。
普段はコメディな役ばかり演じる男にとって、シリアスな役を演じるのは、中々、楽じゃない。
☆次のお題は「うさぎ」「鍋焼きうどん」「靴擦れ」でお願いします。
4行目
誤:男の体に背中に絡みつき
正:男の背中に絡みつき
すみません。
#「うさぎ」「鍋焼きうどん」「靴擦れ」
午後十一時の時報と合図に湖畔の温泉宿の広告塔が次々と消えた。
満月が今日はやけに円くなって、活火山のはるか上の空にのぼっている。
人が住みはじめてからこの山は何度も噴火して、麓の様子はそのたびに変わった。
僕の学校があるあたりも、昔はただ湖畔というだけの何もない森だったという。。
明治の噴火で温泉地になり、鉱山も見つかって、人が多くなったのはそれからだ。
すぐに電車が通り、旧制中学もできて、そして今のような町ができていったのだと。
その旧制中学の頃から続いている全校行事が今日の「寒中湖周強歩」だ。
明日の朝八時まで、町民運動公園を起終点に一周三十五キロの湖周を歩ききる。
「おはよー。じゃないね。こんばんはかな? あはは、変だよねこんばんはなんて」
あの子は僕にそう挨拶だけして、陸上部の仲間らしい人たちの中に溶けていった。
「教えてくれたとおり靴下にガムテープを貼ってきたよ、」という話ができなかった。
「こうすれば靴擦れしないよ」と言ってくれたのも、陸上部では常識だったのだろうか。
エネルギー効率がいいという父兄の炊き出しの鍋焼きうどんを吹いてさましながら、
僕は誰かが話しかけてくれるのを待っていた。午前零時のスタートまであと五十分。
僕はぴょんぴょんとウォームアップをするあの子のジャージ姿を目で追うのをやめて、
黄金の円板の中に見える灰色のうさぎのことを今日は考えて歩こうと心に決めた。
#ごぶさたしてます。最近全然ものを書く意欲が無くて。でも書くと楽しいね。
#次は「グリンピース」「チョコレート」「パイナップル」で。
「グリンピース」「チョコレート」「パイナップル」
始まるまでは凄く楽しみだった夏休み。
ラジオ体操、プールに花火、素麺にカキ氷。 それと、思い出したくないけど夏休みのドリル。
はしゃいで、騒いで忙しいけどとても楽しい夏休み。 でも、それももう終わっちゃう。
「…あー。 あと2週間したらまた学校かー…」
僕の名前は田村 平和(たむら ひらかず)。 小学4年生。 もちろん男の子。
とまぁ、おやつのパイナップルアイスを齧りながらしんみりと今の状況を呟いてみる。
「おいヒラ。 なに暗くなってんだよ。 まだ2週間も残ってるんじゃん」
そして、そんな僕を隣で笑ってるのは吉岡 緑(よしおか みどり)。 こんな口調だけど一応女の子で僕の幼馴染。
僕たちはいつも一緒になにか問題を起こしてるから、大人たちには『緑と平和(グリンピース)』コンビって呼ばれてる。
僕たちは豆じゃないのに! …背は確かに低いけど。
なんて関係の無い事を考えてると、隣でミドリがチョコレート色に日焼けした顔いっぱいに笑っている。
僕の経験からするとこんな顔で笑ってるときは、何か楽しい事を思いついたときだ。
それも、大人たちが頭を抱えるぐらいとびっきりの楽しい事を。
「そうだ、思い出に残るもの作ろうぜ! …たとえばそう―」
勿体つけて少し間をおいた後、ミドリはこう続けたんだ。
「―秘密基地なんてどうだ?」
これが僕たちの、『グリンピース』コンビの忘れられない夏の始まりだったんだ―
*/初めて挑戦してみたら、どうしても纏まらなくて行数オーバー…
楽しいんだけどとっても難しいですね…...orz... /*
次のお題は「紅茶」「懐中時計」「トランク」でお願いします
「紅茶でも飲んでいかれますか……?」
冴子は黒い瞳を伏し目がちにしてそう言った。
私は懐中時計に手を伸ばしかけ、思いとどまる。無粋な真似をしてはならない。
ショーファーの鈴木が運転席のドアを抜け、すっと夜の闇に溶けた。
そのまま流れるような動きで後部席のドアを開く。優秀な男だ。
ベンツの走り去る音を後ろに聞きながら、目の前のマンションを見上げる。
20代前半の女性が住むのにふさわしい慎ましやかな佇まい。
――既に足を踏み入れた男はいるのだろうか。
思わず口の端が苦笑に歪む。その思いが紛れもない嫉妬を呼び覚ましたことに気付いたからだ。
冴子は激しかった。
繰り返し絶頂に達しながら、欲情か、激情か、或いはその両者により濡れた瞳で私を見つめ続けた。
時には優しく囁くように、時には熱に魘されたように私の名を呼びながら。
その夜何度目かの死が訪れた時、「あいつ」が現れた。
いつものように唐突ではあったが、既に心の準備はできていた。何度も通った道だ。
「あいつ」は静かに冴子の喉に手を掛けて、ゆっくりと締め上げ始めた。
最初は潤んでいた瞳がやがて恐怖の、そして苦痛の色に染め上げられていく。
その瞳がゆっくり光を失い始めた時、漸く「あいつ」も私の中から消えていった。
私は身支度を整え部屋を出た。この季節の朝は寒い。軽く身震いをしてコートの襟を立てる。
しばらくすれば少し離れた駐車場に、鈴木が運転する地味な国産車が滑り込むだろう。
彼はトランクから少し大きめのスーツケースを下ろし、このマンションにやって来る。
あとはいつものように任せればいい。万事上手く片付けてくれる。
空は白み始め、次第に数を増す光条が緩やかに闇を駆逐していた。
今日もいい一日になりそうだ。
「ホットココア」「LED」「破滅」
327 :
名無し物書き@推敲中?:2007/02/12(月) 13:57:35
元彼女の友人連主催井戸端会議、のような吊るし上げは終わった。
彼女との交際は確かに有意義なものだった。実際、物の見方や人生観は変わったし。
欲しい物があれば奪えるぐらい力をつける事。恋愛は好きになることが必要条件、
好かれる事が十分条件である事。一つの終わりは一つの始まりである事……。
そして今なら言える。原因は彼女が社交的過ぎて俺が独り者過ぎただけだということが。
彼女はたくさんたくさん友達がいた。それは俺だけの生活領域に食い込んでおり、
ほとんどの情報が彼女に筒抜けだった。ホットココアの缶を変えたことはその日にバれた。
やましい事は無い、同じ自販機が多かったから変えただけだ。
コンビニでの立ち読みも筒抜けだった。読んでいたのがエロ本じゃなかった事は幸運だ。
スーパーで買った食材もダダ漏れ、そして推測された料理もぴったし。
もちろん黙ってばかりではない。彼女が喧嘩後に行く場所は天性の勘で当てまくったし、
彼女の情報屋どもを調べまくって関門を回避し続けた。
チープなスパイごっこだ。そしてジれた情報屋の流した俺二股説。
シャボン玉のような素早い破滅。くそったれ……。
彼女は初めて体を許した俺よりほんのちょっと、情報屋どもに心を許した。
そして情報屋どもの中心的存在の男とくっ付いて、残ったのはブルーなLED。
だから人間は嫌いなんだ!!
「解団」「鼎談」「王城」
328 :
「解団」「鼎談」「王城」:2007/02/12(月) 17:09:28
「 王城での鼎談の結果、騎士団は解団を命じられた。
仲立ちの教会が敵国と通じていることは、知らぬもののない事実。
昨夜の賊も、他ならぬ教会の手の者であろう。
だが、我が王国の力と権威の象徴であった珊瑚の王冠を、奪われた今、
屈辱を甘んじて受け入れる以外に、我らに打つ手はなかった。 」
―――何かが違う。
微妙な違和感を感じて、ふと考え込む。
オレの頭がこれほど早く、物語を紡げるはずがない。
なんだ今の、どこかで聞いたことのあるようなプロローグは?
―――分かった。これはワナだ。 きっと、いや、絶対に! 無意識に潜む何者かのワナだ!
このままうっかり書き込みボタンを押したら、きっと誰かに言われるんだ!
「パクるなボケ」と!
思い出せ、思い出すんだ! これは何かの、誰かの物語のコピーじゃないのか!
ええぇい、思い出せない!! 忌々しい、胸くそ悪い、腹が立つ!!
あぁ、ダレか教えてくれ、これは何のパクリなんだ!!!!
次は「はな」「とり」「ゆき」
おとうさんへ。
おとうさんはげんきですか。まゆこは とってもげんきです。
まゆこが にゅういんしているびょういんは とってもあついです。
おうちでは ゆきがふっていたのに ここは なつやすみくらい あついです。
きれいなはなや おおきなとりが いっぱいいて とてもすごいです。
もうすぐ まゆこは しゅじゅつをして とってもげんきになります。
そうしたら はなや とりを おとうさんにも みせてあげたいです。
たのしみに まっててね。 まゆこ
東南アジア・某国の片田舎にある廃病院。
かつて、世界中から誘拐されてきた子供達が「入院」と称し監禁されていた場所。
……ベッドの脇に落ちていた手紙。私の元へは届かなかった、娘からの手紙。
娘が最後に過ごしたこの場所で、この手紙に目を通す度に―――疲れ果て、
今にも崩れ落ちそうだった心と体に、狂おしい程の力が湧き上がる。
娘をこの手に取り戻すまで―――私は決して倒れはしない。
奪われた娘の体―――残るは心臓、腎臓、右角膜―――全て取り戻してみせる。
次は「脱藩」「マンモス」「@」で。
To: <
[email protected]>
From: T_Taira<
[email protected]>
Subject: Pteropus loochoensis Gray,1870
(以下、事情により日本語訳)
前略
保護区より脱走しましたウチナーオオコウモリの件ですが、琉球を脱藩し
九州ムカシマンモス保護区にまで逃げ込んでいたことが判明しました。
去る2月4日未明にこれを無事保護、琉球保護区へ還しましたので
簡潔ながらここにご報告します。ご迷惑おかけしました。
事後処理はやはりそちらでも協力お願いします。では。
草々
次「硬貨」「南下」「マーケット」
「うちではお取り扱い致しかねます」
レジ係が抑揚のない声で言った。
「カードもしくはメモリーチップをご提示下さい」
声ばかりか顔までも無表情でいやがる。
「もう結構」
俺は金をひっつかんで、足早に店を出た。
ついにここらのフードマーケットですら現金が使えなくなったか。
しばらく前に施行された現金回収政策は国土最北端の首都直轄区から始まり、
徐々に国全体へ広がりつつある。工業地区のめざましい発展による
空前の金属不足、それを受けて政府は硬化の金属までも工業材料として
使用することを決定した。釣銭がないわけだから当然紙幣も同時に禁止だ。
理屈は分かるし、預金を持った一般市民はそれでいいんだろう。だが、
俺みたいな大きな声で言えない職業の人間はそうそう口座も開けやしないし、
何より現金だけを信じて生きてきたのだ。この強硬な政策は、本当に
工業発展のためのものなのだろうか。もしや、もしや俺らのような・・・
ま、考えても仕方ない。背に腹は代えられないしなあ。
俺は次の地区を目指して国道をさらに南下した。
次は「杉板」「霧」「青」で。
332 :
331:2007/02/14(水) 16:14:07
変換ミスしてしまいました。 硬化→硬貨
思いもよらぬ方向から銃声が響いた。
山内が驚き腰を浮かせるにほぼ同時、杉板の壁に三つ穴が空た。
暗い室内に、薄ぼんやりとした乳白色の光の筋が浮かぶ。
「この……! おんぼろプレハブめ!」
私は帽子を前後も気にせず急いで被り、ライフルを掴んで外へ走り出た。仲間の動き出す音を背中に聞いていた。
外は一面の霧。なおも敵の銃声は断続的に続いていたが、視界は非常に悪く、反撃するわけにはいかない。
何しろ残弾がほとんど無いのだ。早くこの敵地を抜け、補給を受ける必要がある。
肥満体質の杉田は、三分も走るとすぐに肩で呼吸を始めた。
どうやら彼は軽いパニックに陥っているらしい。口の端に泡を浮かべ、先ほどから瞬きもしていない。
ぜいぜい呼吸音を聞き咎められぬか、心配になる。
人影が見えてきた。おうい、と帽子を振って杉田が呼びかける。
人影が振り向く。
すぅっ……と、突如霧が晴れた。
気づかなかったが、足下には病的なほど青い湖面が広がっていた。まるで死人の顔色だ。
人影が振り向いた。そして一瞬の後、腰の拳銃を抜き発砲。浅山が額に穴を開けて倒れた。敵だった。
次は「レンコン」「バレンタインデー」「パソコン」で。
スコン。スコン。今日も僕はレンコンの穴開けに情を出す。
最近はこう言った作業は、どこの工場もパソコンで済ましているが
うちでは「ぬくもりだけ。」をモットーに、未だに手作業での穴空けを続けている。
一つ一つ丁寧に、愛情を込めて穴を開ける。スコン。スコン。
今作っているのは、バレンタインシーズンのみの完全限定生産
ハート型の穴がポイントのフォーリンラブ恋根「ホールイン・ラブ」だ。
これがなかなか手間が掛かる。
毎日毎日、僕はレンコンの穴に情を出す。僕はレンコンが恋人だ。
スコン。スコン。
→羊 嘘 ライオン
336 :
名無し物書き@推敲中?:2007/02/15(木) 22:34:45
嘘ー!羊じゃなくてライオンなの!?
次「亀仙人」「じっちゃん」「暗殺」
ある一人の亀仙人がある一人のじっちゃんを暗殺しましたとさ。
#次は「羊」「嘘」「ライオン」で。
羊は走っていた。
今までの人生が走馬灯のように駆け抜けていく。
俺もここまでか。つまらない人生だった……。
ちらと背後に目をやると、ライオンとの距離はもう僅かにしか開いてないことを確認し、最後の奇跡を信じた。
「私は羊じゃありません!ヤギです!嘘じゃありません!」
「関係ねーよ。」
次、「孫六」「席替え」「バーコード」
その刀剣屋の老人が再び警察に呼ばれたのは、二月十九日―――連続通り魔
事件、その犯人が大捕り物の末に逮捕された翌日のことであった。
「新聞見ましたぞ。大手柄ですなぁ……これで、窓際に席替えされる心配も無くなり
ましたかのう」
「ええ、まぁ……いや、そんな事より例の凶器を確認していただきたい」
老人の前に運び込まれたのは、一振りの日本刀―――確認されただけでも十人を
超える人間の命を奪った、通り魔が使用していた凶器である。
「……反りといい紋といい、まるで図鑑から抜け出してきたような孫六兼元ですな。
……しかしどれほど忠実に出来ていても模造品は模造品。どこの世界に、チタン合金で
できた兼本などあるものですか」
それまで穏やかだった老人の眼が、次第に険しさを帯びてくる。
「のう、刑事さん……わしらは刀なんて時代遅れなモンを売って生きちゃあいるが、
それだけ刀に惚れ込んどるんじゃ。バーコード貼ッ付けて、軒下に並べておくような
ぞんざいな売り方をした事は一度だってねえッ……こんな、人を殺すためだけに、
刀の姿を借りただけの化け物や……こんなもんを作りやがった奴の方が、わしは
通り魔よりもよっぽど憎いんじゃよっ……!」
次は「旗本」「ジャイロ」「拝火教」で。
闇の中を静かな足音で黒い塊が追ってくる。
「お主ら、次に俺に会うときまで、この天下御免の向こう傷・・・」
「ほら急いで!貴方のは風呂場でぶつけてできた傷でしょうに!」
後ろ頭をはたかれた。昨晩旗本退屈男の再放送やってたんだよ。全く男まさりのくせにロマンが
わからん奴だ、ぶつぶつ言いながら俺は走った。数百年絶やしたことのないという聖火を崇める
拝火教とは今は名ばかり、なんとまあ闇社会とつながりがあったとはね。道理でここら一体じゃ
不明者の死体が見つからないわけだ。一体何人灰になった事やら。黒い塊はわらわらと広がり
ながら手に手に持った松明を灯し俺達を追いつめる。全く聖なる炎が聞いて呆れる。点火御免だ。
手近の一人の鳩尾に肘を突き込みそのまま打ち上げるように体当たりして黒装束の一角を崩した。
悲鳴と共に何人かの装束が火を吹き上げるが、無数の松明の輪はすぐまた迫ってくる。
「涼!乗って!早く!」
オートジャイロのローターを回しながらリサが叫ぶ。
追っ手を蹴倒して俺が扉に飛びつくが早いか、ジャイロが前上方に離陸する。ふう、なんとか
カメラは無事のようだな。これを証拠にすればあの狂信集団に正式に踏み込むことができるだろう。
眼下の寺院には光の象徴たる炎が煌々と燃えさかっていたが、俺にはそれがなんだかどす黒く見えた。
341 :
340:2007/02/20(火) 12:53:14
次は「りんご」「ファイル」「救急車」で。
美紀が救急車で運ばれたという報せは、デスクに向かって過去のデータファイルを
繰っていた僕の背中に、電話に応える課長のだみ声として突き刺さった。課長は課
員の視線を一身に集めながらはい、はい、わかりました、ご家族にはこちらから連
絡を、と電話に向かってしゃべっている。その声は最初の驚きの叫びから一転、ひ
そめるようなトーンに変わっていた。
受話器を置き、ざわつく事務所内を片手を挙げて制しながら、課長はまた受話器を
持ち上げる。僕はその姿を見ながら、何度か訪れた美紀の部屋にあるクリーム色の
電話機を思い出していた。クリーム色の電話機と、隣に置かれたガラス細工のりん
ご。電話のかかっている先は、一人暮らしのあの部屋ではないだろうに。
家族への連絡を済ませたらしい課長が課員に向かい、事の次第を知らせた。使いに
出かけた支店からこちらに戻る途中で交通事故に遭ったこと、容態は急を要するも
のであること。自分はこれから収容された病院に向かうこと。交通事故と聞いて、僕
はほっとしていた。飛び降りや飛び込みのたぐいではなかったのだ。
「課長、私も行かせて下さい」
申し出たのは見るまでもなく、曜子だとわかった。同期の曜子の申し出は、誰が見
ても当然のものだったろう。しかし僕は行かせたくなかった。仮に美紀が一命を取
り留めるとしても、それまでにできることはたくさんある。今曜子を行かせたくはなか
った。
次は「パルメザン」「人名事典」「アクリルアイス」でお願いします。
343 :
340:2007/02/22(木) 12:11:05
よしそろそろいいかな。私は辞典を両手で持ちゆっくりと持ち上げた。下には赤茶色で円形の
板がきれいに三枚。よしよし上出来だ。伸すための重石も重すぎても駄目だし軽ければもちろん
役に立たない。この三吾堂の人名辞典が一番しっくりくる。本来の意図にはあまり使ってないが。
さてお次は、黄白色に着色したパラフィンに、硬めの樹脂を少し混ぜたものを本物のチーズ
おろし器でおろす。我ながら、あのパルメザンチーズの芳醇な香りが漂ってきそうだ。人に
よっては天ぷらの衣の余りをグレーターで細かくしたもので代用していたりするけれど、イタリア
料理好きとしては粉チーズであろうと手を抜く気にならないのだ。さっきのサラミを三角形に並べ、
スプレーで液体糊を少しずつかけながら、粉チーズをぱらぱらとかけていく。特注の「ナポリタン」
の完成だ。一緒に卸して貰っているオリジナルのアクリルアイスなんかも収入にはなるんだが、
やっぱり改心の食品サンプルができたときの達成感に勝るものはない。
翌日引き取りに来た坂元君が紙で包みながら「これが店にあったら絶対ナポリタン頼みますよ!」
なんてことを言う。御世辞が入っていることはわかっているが、お互いに信頼関係があるからの
ことだし悪い気はしない。「ちょっと早いけど昼飯ご一緒にどうですか?いい店見つけたんですよ」
彼の見つけてくる店はもちろん旨いし、「勉強」にもなる。私は一も二もなく承知した。
次は「時刻表」「計算機」「マグカップ」
うわ。名前が残ってしまいました。情けない。申し訳ない。
電車の車両を改造して作られた構内。切符を買い、壁に掛かった錆だらけの時計を眺める。
不意に私は、若かった頃を思い出した。
計算機のまだ無い、そろばんの時代だ。
当時は鉱山の労働者でまだ町が賑わっていた。
活気ある通りを歩けば常に人の声が聞こえていたし、
それに誘われ早朝には豆腐屋が、夕方にもなるとラーメンの屋台が良く来ていた。
ノイズだらけのメガフォンの声は今でも耳にこびりついている。
そしてそれを聞いて、もう一杯飲もうかと、若い鉱夫たちが肩を組み千鳥足で歩いていたものだ。
その頃、私は、この駅でマグカップを売っていた。
国内の名もないがらくたを、舶来品だ舶来品だと声を張り上げ声を張り上げ。
けれど今では、あたりを見渡せど人影の一つもない。
あの青春の記憶を共有する人間はただ世界にひとりぼっち、私だけしかいない。
どうせなら、あのときのコップは偽物だったと、方言に訛った声で誰かに問い詰めて欲しい。
いつかの新聞の記事によれば、あまりに人口が少なすぎて、あと二十年もすればこの村は自然消滅してしまうそうだ。
東京へ帰る列車がもうすぐ到着する。
時刻表にさとされて、私は故郷に背を向けた。
次は「松脂」「竹林」「梅毒」
「松脂」「竹林」「梅毒」
松脂の粉末を、型紙を被せた銅板に均一に振りかける。不純物のないよい松脂でないと仕上がりに
影響する。質のよいものならば小さめの乳鉢で何回も何回も挽き、気持ち密に振りかけることにして
いるという。この銅版をバーナーで裏から熱した後、そっと型紙を剥がし、全体にニスを塗る。
この後表面を腐食させるために硝酸に漬けるのだが、なんと匠もいつも緊張するそうだ。この加減で
色ののりが全て決まる上、何年やっていてもその見極めが難しい工程だという。
余談だが、その硝酸で面白い話を聞いた。上野氏の師の師にあたる宗像三悟氏(注1)は優れた版画家と
して知られるが、外国を修行旅行中、安宿で売春婦につい手を出してしまい、病を患った。心底後悔し、
自戒のためにニードルを突き立てたという痕が太股に残っていたと師佐村晃氏(注2)から聞いたとのこと。
そればかりか梅毒で出来た、膿んだ皮膚硬結に硝酸をぶっかけたと言うのだ。ひどい火傷のように
なったことは想像に難くないが、その後数日間も高熱を出して寝込んだものの、なんとその後は
梅毒も治ってしまったという。昔の話だからどこまで本当かわからない、とは上野氏の言だが、
なんとも凄い話ではある。この「大師匠」のエピソードに合わせて、実は上野氏も昔、手の甲に
できた大きなイボを、興味半分に硝酸を一滴載せて潰したことがある、と話してくれた。なんだか
それは一門の「血」なのでは、と思った次第。
大師匠が極めた銅板画の技法、師匠が工夫を重ねた漆を使用したインク(注3)、そして上野氏が学んだ
日本の切り絵の技法を用いた図柄。この三つを合わせた技法は完成後氏の主たる作風となった。
版画でありながら、水墨画のような淡いトーンでどこか懐かしい色に浮かび上がった後の代表作、
「月下竹林図(写真)」を実際に見た読者も多いだろう。(月刊「ART&アート」連載『匠を感ず』より)
次は「さつまいも」「テンキー」「ティッシュペーパー」
「さつまいも」「テンキー」「ティッシュペーパー」
夜の屋敷に轟いた声は、「悲鳴」というより「懺悔の絶叫」に近かった。
さっそく使用人が駈け付ける。「どうかしましたか、編集長」
「鍵を開けて下さい。貴方の大好きなさつまいもの天麩羅を…い、いかん!」
慌ててドアをこじ開けると、そこには血まみれの自殺未遂編集長がいた。
翌朝。ティッシュペーパーで巻いた首の傷も痛々しいまま、編集長は訊いた。
慣れた手つきで、画用紙に絵を描き、「この漫画、知っとるか」、と。
「もちろん、大好きですよ。無免許の天才外科医!でも、その手術料は…」
カウンセラーが不意に口ごもる。相手の顔に嫌悪の表情が浮かんだから。
「そう…あの、亡き巨匠だ。子供型ロボットの話、不死鳥の話、みんな彼だ」
彼は巨匠の生い立ちを語り始めた、若い頃から名作を連発した男の話を。
しかしそれは賞賛であると共に、巨匠への絶ち難い嫉妬と殺意の告白だった。
「そして巨匠は死んだ。膨大な仕事を抱え、私に催促され続けて死んだのだ」
カウンセラーは屋敷を出る、藁の様に疲れていた。電車は深夜なのに満員だ。
前の人の背広を気にしながら電子手帳のテンキーを叩く。今月も休みなし、と出た。
彼は溜息をつく。編集長も軟い。超多忙は何も巨匠だけではなかった筈なのに。
※珍しくメジャーな本ネタw
次のお題は:「光子」「イオン」「納豆」でお願いします。
「ダイエットに××イオンが効果があると納豆を勧めるなどしていたこの番組ですが、なんとデータ捏造の疑惑が発覚しました。もとは○○大学の教授からこの件が告発されたらしく……」
久しぶりにテレビを付けてみると、ワイドショーで最近話題の事件をやっていた。
不愉快なので電源ボタンをもう一度押すと、ぷつんという音を残し画面はまっっくらになった。
あれかな、最近のテレビ番組ってのは、光子がどーしたこーしたなんて書いてるSF小説みたいにしか楽しめないのかな。
どこからか日光を感じ振り向いた。窓に貼ってある新聞紙が少し、めくれかかっている。
窓枠には新聞紙を四重にしてガムテープで貼り付けているのだが、温度変化や結露の影響か、たまに剥がれてしまうことがあった。
その窓の小さな三角の隙間から外に誰もいないことを確認。
それからようやく、めくれかかっているところを修復した。
こうした用途のために、新聞紙は常に山積みで保管してある。ただ一枚だけを除いて……。
その一枚は引き出しの一番奥に仕舞ってある。
それを手に取り広げると、忌まわしき記憶がよみがえってきた。
適当な取材で俺を事件の容疑者にでっち上げて、こんな生活に追い込んだ原因が。
次、「三振」「タッチネット」「コーナーキック」
テストが終わった昼下がり、老人が叱咤した。
「……っんだそのヘッピリ腰はぁ!やる気あんのかコラァ!」
バシンっと衝撃波が轟き、部員の表情が歪んだ。痛かろう。
「腰を引き付ける前に撃たなきゃ三振になるだろうがよ!テメェ辞めちまえ!」
すいませんでしたっ!言い終わる前に鈍い音が響く。
「お前何やってるだよぉ!力任せにやりゃあいいってモンじゃねぇ!手ぇスッポ抜けてタッチネットになるぞ!」
ハイッ!部員も叩かれたくないから必死だ。
「よしっ!それだ!」
老人が手を叩く。
「足をもう一歩右に出せば相手を側面から攻められるがな、云わばコーナーキックだ。」
部員が不可思議な顔で返事をしている。
「ウチの顧問、説明うまいよなぁ。」
「あぁ。」
かいた汗を必死にゆすぐ。
「問題は、会話だけじゃあとても剣道部とは思えないとこだな。」
次「少女」「刺青」「異母弟」
俺の額には刺青がある。こいつは小さいころ彫氏だった親父に遊びで入れられたものだ。
かつては、なにかあると、ハリーの傷あとのように額をちくちくさしやがったのだが、
今はほとんど気にしなくなっていた。
なぜなら、こいつについては小さいころから損をしたこともあったが、
得したこともあり、そのつど沸き起こる感情に複雑に結びついてしまったので、
自分でも刺青の正体がなんなのか、子供のころほど考えるのに飽きてしまったからだった。
しかし、それも、やつが俺の前にあらわれるまでのことだ。
俺の会社に新入社員が入社してきた。その中にあいつがいた。
俊哉。俺の異母弟。俺はすぐに気づいたが知らん振りをしていた。
がしかし、やつは、俺を異母兄だと気づかず、なれなれしく接近してきやがった。
何の苦労もしらない少女のように、のほほんとしている俊哉をみていると、
忘れていたはずの怒りのピースが次第に集まりだし、気づいたときには、
巨大奔流となり、俺の脳内を暴れに暴れまくった。再び刺青がちくちくしはじめていた。
俺の父を奪ったくそ女の子供め。俺は俊哉を呼び出し、事実を告げた。
「そんなこといわれたって……」
俊哉はもじもじして俺の様子を伺っていた。
「この刺青はおまえのせいだ。こいつが消えるまで、お前は俺のどれいだ」
俺はこの言葉に俊哉がどう反応してくるか見守った。反撃してきたら、叩き落す準備はできていた。
しかし俊哉は、わかりましたというのだ。俺はぶちぎれた。
「俺のほしかったのは妹だ。お前は異母妹になれ」
「……はい、おにいちゃん」
お題は継続で。
父が死んだ。戦後復興の厳しい中で、人にも運にも恵まれ一財産を成した父。
しかし労が祟ったのか、早すぎる死だった。
その仕事一辺倒に見えた父にも、母以外に産ませた子が。父自身も会ったことがなく、
名前もわからないらしい。ここからもよくある話で、父の子だという母子が二組現れた。
なんと性別まで違う。弁護士の坂田さんが開いた遺言状によれば、父はこんなことを
予見していたのかなんとまあ「長女碧子が選んだ者を以後自分の子として云々」などと。
その異母妹候補は10歳。ただもじもじとして私が話しかけようとしても一言も発せず、
顔を逸らして母親の後ろに逃げ出さんばかりだ。その母親も決して堂々とはしていないが、
優しい穏やかな雰囲気をたたえている。
異母弟候補は13歳。年にしては精悍な顔立ちで、にこやかにはきはきと私と会話をする。
私に会えて嬉しいといったことも忘れずに。私とよく似たタイプだ。
その母親は少年の母親らしく非常に目立つ美人。
長年父を手伝ってくれた人達もみんなこの少年こそが父の子だと思っているようだ。
しかし奔放で華やかだった母とすれ違いで家で休むことの滅多になかった父が、外でまで
あの女性を選んだろうか?女の子の右の首筋には小さな丸い痣が見える。一方少年には
くっきりとした蝶型の痣。父にも、そして私にもその蝶の形の痣がある。
私は目一杯の笑顔を作り、不意に、二人に向かって、「ねえ、刺青って知ってる?」と
大きな声で尋ねた。少年の笑顔が貼り付き、彼の母親の美しい顔が緊張に引きつる。
きょとんとした彼女の母親の表情を見るまでもない。
私は、優しく、しかししっかりと、妹を抱きしめた。
次は「鍵」「瓶」「朱色」で。
うああ、下から6行目の「女の子」→「少女」でお願いします。
かばんから鍵を取り出し、音をたてないようにそっと玄関を開けた
朝は気付かなかったのだろうか?きれいな朱色の花が花瓶にさしてあった
妻がさしたのだろうか。いい匂いが鼻腔をくすぐる。
かばんを置くと、一気に服を脱ぎリビングのソファーに身を投げ出した。
「ビール冷やしてくれてるかな?」
静寂の中で時を刻む音がやけに大きく聞こえる。
大きくため息をひとつついた。
朝早くから番遅くまで働く毎日にいつから順応したのだろう?
明日もまた同じような1日だ。明後日も、明々後日も。
妻は幸せなんだろうか?
これでいいんだろうか?
・・・・・・・
・・・・・・・いいんだろうな
ごま、外車、心
354 :
名無し物書き@推敲中?:2007/02/28(水) 19:36:07
「……従って、今回の件は不採用とさせていただきます。」
無機質なタイプ文字と、小さな溜め息。
これでもう三回目。いつまで親の脛をかじって生きなければならないのだろう。
「……第一俺にゃあ向いてねえのかなぁ。胡麻擂り星人の会社員なんてよぉ。」
昔からそうだった。テストは一番で、通信簿はアヒルの飼育場。
三子の魂百まで…。あと70年以上このスタンスで生きていかなければならないのか。
ビジネスマンの友人は一丁前に外車なんぞ転がしてる。腹立たしい。
俺は決心した。
この言葉を心に刻み生きて行こうと。
「働いたら負けかなって思う。」
次は『野人』『炭火』『ろ過』
その男は、現代に生きる野人と言われていた。
国内至る所の無人島に移り住み、都会から離れること六年間。
あまりにも人目につかぬ暮らしをしているため、都内のマンションで炭火をたいて自殺したのでは、とのデマも流れた。
これまでにも雑誌やスポーツ新聞の記者が来たことはあったが、全て追い払っている。
しかし男は今日にして初めて、テレビ出演を了承した。
「飲み水はどうやって調達しているんですか?」
その質問に彼は、「この島は海を隔てた向こうを山脈に囲まれていて、降水量の少ないのが特徴なんだ。しかも水の沸いている場所もない。だから……」
やってみた方が早いか、と呟いてから撮影班を海岸に連れて行った。
そして海水を漂流物のバケツに汲むと、一抱えほどの大きさの箱に入れた。
次に、その箱についている、小さな蛇口のようなものの栓をひねる。
するとちょろちょろと水が流れ出て、撮影班の持ってきた小さめのビーカーには、しばらくするとなみなみと水が注がれた。
「これって、ちゃんと飲めるんですか?」アシスタント・ディレクターが冗談交じりに訊いた。
野人はそのビーカーを奪い取り中身を飲み干すことでそれに答えた。
「どういう仕組みで海水を飲み水に変えたんで?」
「なあに、今ではほとんどの人が知らない古い方法だが、三百年も前にはずいぶんと注目されたやり方なんだよ。海水濾過装置ってやつさ。」
「海水濾過装置……聞いたことがある! 二十一世紀の機械を使うなんて、なんて文明からかけ離れた人なんだ!」
次は「電子メール」「砂丘」「犬」
『なみ。色のない景色。日のみがしらじらと。なにもかもがいや。子どもをよろしくたのみます。』
夫にそう電子メールを送った。送信を確認し、そのまま携帯電話をほおる。
矩形の薄い影が空にゆるいカーブをえがいて砂地にずかりと突き刺さった。
そのまますたすたとあとも見ずに歩き出す。遠くで波の音。はげしく、臓腑をゆするような、にぶい。
ふたつの波頭がぶつかりあい、おおきく割れて砕け散る、そのときの音。
鼓膜がじんとしてその余韻がしばらくわたしのうちにとどまり。
突然目のまえに砂の壁。砂丘。日の光がわたしを焼く。照り返し。
二つの火に挟み込まれわたしは気がとおくなる。やはり色がない。背中に熱い砂の感触がじんわりと。
麦藁帽子はどこかに飛ばされて。
わたしは子どもの頃に大きな犬に咬まれたことがある。脇のあたりをするどく、がぶりと。足元に血だまりが。
意識のないわたしを兄が発見した。わたしは10歳だった。
夕方になり立ち上がる。空と海が接するあたりがとおく、群青色に。みれば汀にわたしの帽子がゆらゆらと漂っている。
「アメリカ」「羽根」「心臓」
真里子にとって、八桁の手術費用は簡単に払えるものではなかった。
それに、もしも移植が失敗したら……。
そう考えると今すぐ手術をキャンセルして払ったお金を取り戻し、家へと逃げ帰りたくなる。
もちろん書類に書いてあったとおり、実際には費用を取り戻すことなんてできない。
心臓移植の専門家、その他色々なスタッフ、病院の施設など既にもう準備がなされているのだ。
ぽん、と真由が肩を叩いた。
「どうしたのよ。そろそろ時間よ。早く行かなきゃ。」
「うん……でもね、」真里子は一瞬ためらって、「飛行機に乗るの、はじめてなの。」と心中をごまかした。
「何言ってるのよ。さあ行っておいで。そしてきちんと……帰ってきなさいよ。」
後半を、真由は心なしか小さくなった声で言い、気恥ずかしそうにちょっとうつむいた。
それに応え頷くと、
じゃあまたねと手を振り真里子は歩き出した。
羽根のように軽く、とまではいかないが、精一杯元気な足取りに見せかけながら。
次、「夏」「文庫本」「ハードル」
「ようし、3冊は読むぞ!」
でもなー、文庫本なんて異次元の世界のもの。
俺はもっぱらまんが専門。
そんな俺がなぜ無謀とも思える計画をたてたか・・・・
そう、俺ももう14、恋のひとつも覚える年頃。
俺が惚れた彼女は本好きなのさ。放課後は図書室に直行。
休日は町の図書館に出入りしてるのを俺は知っている。
そんな彼女とどうしても話がしたくて俺はこの夏休みに、自分でも信じられない目標をたてたってわけ。
目の前にあるのは赤川次郎の推理小説3冊。近くの古本屋で占めて300円なり。
だっていきなり歴史小説はハードルが高いだろ?
活字、活字、また活字。ページをいくらめくったて画なんて出てきやしない。
ま、当然だけど。
なんでこんなのがおもろいんだろ
俺が興味があるのは本じゃなくて、君なんだよーー。
情けなく独り言を吐きながら、俺はゆっくり読み始めた。
情け、温泉、女将
来週の水曜日に、温泉に行った。
女将さんはとてもきれいな人で壊した。
彼女は笑った。
元に戻したかったと思い。
出来なかった
嘘の墓を建てた。
これも何かの縁だと言う
痛切に迅速に、
情けをかけ
嘘の墓に
本当の名前を書いた。
羨ましく思い
自分が入った。
次
老い、
マンネリ、
カラスウリ、
360 :
老い、マンネリ、カラスウリ:2007/03/14(水) 21:05:59
カラスウリの少女がささやいた そんなに長く生きて あなたは飽きないのと
とうの昔に飽きてるさ 飽きることにも飽きたのさ
でも 仕方がない 仕方がない 生きる限りは生きるのさ
カラスウリの少女がささやいた そんなにボロボロの体で あなたはどうして生きるのと
死ぬのはこわいし それ以上にわずらわしいのさ
いわば そう マンネリだね 生のマンネリなのさ
そして 春は過ぎ 夏が来て 少女は白い花となり
秋のころ 子を孕み 橙色に膨れ上がる
カラスウリの妊婦がささやいた あなたにも子供はいるのと
いるかもね いないかもね 風だけが知ってるさ
カラスウリは鳥についばまれ その子供はどこかへ運ばれた
行っちゃったね ええ 行っちゃったわ
後に残るは 老い果てた樹と 生を散らしたカラスウリ
カラスウリは目を閉じて そのまま茶色に朽ちてゆく
NEXT THEME
黒
白
灰色
「私には黒い服しか似合わないから。」とあなたはいつも言っていた。
透き通る白い肌には、たしかにそんな色のコントラストが映えていた。
風に吹かれれば流れる髪は少しも脱色していなかったし、色とりどりを身にまとう春の町の中でも、あなただけが黒色に身を包んでいた。
なんだかちょっとだけ場違いで、でも、かわいらしく思った。
あなたはこうも言っていた。
「でもね、雨合羽だけは、黒じゃなくても大丈夫でしょ?」なんて嬉しそうに笑っていた。
雨と雪交じりの空は、宮沢賢治の詩に出てくるように、ひどくぐちゃぐちゃに乱れていたっていうのに。
可哀想……とは思わない。でも教えてあげたい。いや僕が、教えたい。
君には白い服だって似合うことを。
「ねえ、これ、結婚指輪。」
ウエディングドレスだって、きっと世界一似合うんだってことを。
次は「指輪」「ガラス」「チョコレート」
は、灰色がないですよ・・・。たぶん「空」が「灰色の空」と見た。
ガラスの心を持つ君に、この季節は残酷すぎる。君は彼氏がどう思っているのか、ずっと悩み続けたんだから。
一ヶ月前に渡したチョコレート。付き合って二年になる君の彼は、そっけなく受け取った。
……今年君は、初めて手作りに挑戦してみたのにね。その日のために、去年の三月から君は料理教室に通っていた。愛情のこもった、手作りのチョコレートを彼にあげるためだけに。よく頑張ったんだよね。
でも、彼の反応は君の想像を打ち砕いた。彼も君が料理教室に通い始めてたのは知ってたはずなのに。料理教室での出来事を話たり、チョコレートの話題を口に出したりして、さりげなくアピールはしていたのに。
彼の反応は、君の心にグサリと突き刺さったんだ。
それからだよね。君の笑顔がぎこちなくなってしまったのは。ガラスの心の君は、気高く美しいけれど、小さな傷一つで脆くも崩れ去ってしまう。
だから君は今日も彼にうまく笑えないでいた。この関係は偽りなの? 君の心は不安に包まれている。
夕食のあと、彼が小箱を取り出した。バレンタインデーのお返し。彼は優しくそう言った。
君は不思議に思って、小箱を開いた。ダイアモンドの輝く指輪。君は驚いて彼の顔を凝視した。
「バレンタインデーのチョコレート、本当に美味しかった……。お前は真剣に作ってくれてて、俺、嬉しくて恥ずかしくて、うまく言葉にならなかった。お前の気持ちが凄く伝わってきたんだ。……だから、それは俺からのホワイトデープレゼント」
真っ赤に顔を染めて彼はそう言った。そして、こう続けたんだ。
「結婚して下さい」
ガラスの心の君は小さな涙を流して、はい、と返事をした。ダイアモンドの輝きが、二人の絆になった瞬間だったんだ。
次回「飴、雨、天」
飴の雨ふるふる。
高い天からふるふる。
青赤黄色ふるふる。
僕の傘にふるふる。
足許にふるふる。
僕はそれを、踏み潰した。
次【風邪、約束、漫画】
ムズムズする。
日課のコンビニでの立ち読みも、今の季節は結構辛いものがある。
むず痒さを押さえるために百面相になってしまうのがとても恥ずかしい。
ああ、店員が掃除しながらコッチに来やがる。花粉舞わすんじゃねーよ!
週間少年サンデーを読み終わり、同じく週間のチャンピオンに手を伸ばす。
今週のバキは、ビスケットオリバと恋人マリアの話。主人公のバキの出番はない様子。
筋肉デブと超々肥満体のシーンで「ギシ…ギシ…」はないだろうよ。
と、箒が足元の床を撫でる。
と、花粉が舞う。
と、鼻が痛いほど痒くなって……
「はぶしゅうぉーん!」
ぐしゃぐちゃ、ぶちゅぶちゅっと。
ベッドシーンに、粘液をブチマケテシマッタ。
ハンカチを取り出しながら恐々と振り向くと、店員とバッタリ目が合う。
気まずい。実行犯は俺。だけど教唆犯は店員さんだよとは多分お互い感じている。
しかしここでは毎度毎度長時間立ち読みをしている負い目が強い。なんとなく。
「あの、風邪気味で」
俺はそそくさとレジに行き、雑誌を手から離さずバーコード面を上に向ける。
店員がレジ操作をしている間に片手で小銭を取り出し、金額を告げられる前にレジに置く。
ありがとうございました、の言ってる顔が苦笑いの店員。
ああ、もうこのコンビにでは立ち読み出来ない。
それが失態を犯したハード立ち読ミストとしての、お約束だから。
次は「糸 水 感触」
「ただいま。」
少女が帰宅しても返事するものは居ない。
「うふふ。おかえりくらい言ってくれればいいのに、照れ屋なんだから。」
少女がリビングに移動すると少女と同じくらいの年齢の少年が
壁にもたれてうなだれていた。
まるで糸の切れた操り人形のようになっている。
「普段はあんな元気にグラウンドを駆け回るアナタが本当は
こんなに照れ屋さんだなんて、そんなこと知ってるのは私くらいよね。」
少女の言葉に少年は答えない。
少年の周りには水溜りのように血が広がっていた。
「うふふ。私達はずっと一緒よ。これからも。どこまでも。永遠に。」
そう言って、少女はもう動くことの出来ない少年を抱きしめる。
ひんやりとした感触が少女を包み込んだ。
次のお題
「目障り、寝癖、勇気」
しばらく見ない間にレベルが高くなってますな……
どなたもGJです。
368 :
名無し物書き@推敲中?:2007/03/16(金) 23:44:24
あいつが目障りだった。あいつは入社以来、同期の中でトップスピードで出世している。
しかも品行方正、身なりも完璧、もちろん仕事バリバリの企画課のスーパーマン。
だから余計に腹が立ったのだ。
その日は社内ソフトボール大会だった。
あいつはスポーツ万能で、この日もホームラン量産の大活躍。
黄色い声援が乱舞乱舞。実は俺はソフトボール部だった。これだけは負けたくなかった。
本格的な投手経験者の俺がいる総務課は、ついに企画課と決勝で対戦。
そして9回裏、一打逆転満塁のピンチであいつが打席に。
俺はヘトヘトだった。あいつはそんな俺を今日3安打と打ち込んでいた。
気付けばカウントはノースリー。敬遠でも同点だとうっすら思った。
いや、ここで逃げるわけにはいかない。勇気を出して投げろ。せめてこの勝負だけは勝つんだ!
二十球に及ぶ勝負の末、俺はやつにホームランを打たれた。完敗だ。
その日は悔しくて眠れないと思ったが、疲れで泥のように眠った。
夢で俺は何故かあいつだった。出世トップの自分に必死で追いすがってくる俺。
なぜかあいつは焦っていた。そんな気持ちを俺はずっと感じていた。
翌朝、俺は遅刻寸前で目を覚ます。疲れのせいだ。
会社への道すがら走っていると、なんとあいつも俺の後から走ってきている。
「珍しいな、寝坊か?」
「今は喋ってる場合じゃない!」
珍しく焦っているあいつ。同じく疲れのせいだろう。目障りだったあいつの姿が、今日はなんだか違って見えた。
「おい、寝癖ついてるぞスーパーマン。直してこなかったのか?」
茶化して言ったら、あいつがこちらをキッと睨む。
「お前も寝癖つきまくりだろが!」
二人揃って遅刻したその日、俺とあいつは初めて二人で飲みに行った。
次お題「革命、カステラ、肖像画」
雪深い山奥の山荘。ここには今、8つの死骸が転がっている。
この堕落した日本に真の革命をもたらすため、志を一つに集った9人の活動家たち。
そして、この潜伏先で疑心暗鬼から殺し合いを始めた、救いがたい愚か者たち。
わたしもその中の一人。仲間をこの手にかけ、生き残ってしまった最後の一人。
どうしてこんな事になってしまったのだろう。私たちはついさっきまで、心の通じ合った
革命の同志だったはずなのに。久しぶりに届いた補給物資でいつもより豪華な夕食を楽しみ
ながら、来るべき蜂起の日を夢見て、皆で熱い志を語り合っていたというのに。
きっかけはその夕食の後。些細な、本当に些細なことが始まりだった。
意見の食い違いは激しい口論となり、いつしか暴力を伴う諍いとなっていた。
――この似非共産主義者が――貴様ァ総統閣下を愚弄するか――山下が脱走を企てたぞ――
斉藤は公安のスパイだ―――裏切り者はあと誰と誰だ、吐け吐け―――この野郎、殺してやる!
――あれ程敬愛していた筈の総統閣下の肖像画が、飛び散った誰かの血でべっとりと汚れて
いるのを見ても――もはや私には、何も感じられなくなっていた。
私はよろめきながら立ち上がると、テーブルの上に置かれた「それ」を見た。
―――文明堂のカステラ。きれいに10等分された、最後の一枚―――引き金。
鷲掴みにして口の中に押し込んだ。何の味もしなかった。涙が、止まらなかった。
次は「絞首台」「馴れ初め」「ガチンコ」で。
馴れ初めはホストクラブ。
下っ端だった俺がただ一度だけメインについたのが彼。
ふらりと現われた、ツナギを着た樽型体系の中年紳士。
「いらっしゃいませ」
背をつつかれぎこちなく接する俺に眼鏡ごしの流し目をくれる。
彼はおもむろに、見せ付けるようにツナギのチャックを下ろす。
禿げ上がった頭髪とは対照的に剛毛の生い茂る裸体が覗く。
「ドンペリを、君と飲みたい」
今考えれば、あそこで普通の客として接していれば良かったと。
社長の這い蹲るベッドの上で、泣きながら、いつも以上に腰を振る俺。
「俺、貴方みたいな紳士は初めてです」とは初心だった頃の俺の言葉。
とんでもない、彼は悪魔だった。
お持ち帰りされた次の朝、彼が大きな会社の取締役だと知った。
そして、君のような真っ直ぐな人間こそわが社には必要なのだと。
「私の養子に な ら な い か」
社長の子息として会社に迎えられ、トントン拍子に出世。
5年も経たず、素人サラリーマンの俺が社員5000を抱える会社の重役。
これこそが絞首台のへの階段。
パンパンパンパンパン!
狂ったように、快楽を得るためでなくただ責める為に攻め立てる。
彼は苦痛に顔を歪めながら、そして俺は泣きながら。
敬愛する彼との初めての戦い。すでに勝負を終えている、初めてのガチンコ勝負。
俺のツナギの紳士は、俺の心を食五年で人生まで喰らい尽くした。
繋ぎ目から快楽の毒が侵略し、腰を砕かれ脊椎を締め上げ脳を鷲づかみにされる。
俺は射精し、次の日には自殺したそうだ。
NEXT「帽子」「かかし」「飛行機」
371 :
370:2007/03/17(土) 15:15:46
アッー!
>俺の心を食五年で人生まで
しくったorz
372 :
名無し物書き@推敲中?:2007/03/17(土) 15:41:13
田んぼだらけの田舎道に強い風が吹く。
彼のくれた麦わら帽子が宙に舞った。
追いかける気にはならなかった。
あの帽子を取り戻しても、彼は帰って来ないのだから。
田んぼに佇むかかしが私を見て笑っているような気がした。
何だか妙に悔しくて、思わず空を見上げた。
すると一機の飛行機が、空を分断するように駆けている。
――彼は、あの飛行機に乗って行ってしまったのだろうか。
「きっと迎えに来るから、待っててくれ。」
彼はそう言ったけど、来ないに決まってる。
彼のことを一番知っているのは私だから。
気が付くと飛行機は特徴ある雲を残して消えてしまった。
そして、気が付くと私は涙を流していた。
私は涙を拭かずに、そのまま空を見上げ瞳を閉じながら呟いた。
「……さよなら。」
次のお題は
「信号」「桜」「姉」
「信号」「桜」「姉」
信号が変わると、横断歩道で待っていた人たちが一斉に歩き出した。
向こうからやってくる人波の中に、僕は姉を発見した。どうやら向こうは僕に気付いてはいないようだ。
これといった用もなかったので、僕は姉のあとをつけてみることにした。
姉が入っていったのは洒落た喫茶店。僕は向かいのコンビニの雑誌コーナーで、彼女を観察していた。
しばらくして、一人の男が彼女の向かいに座った。
姉は結婚しているが、やってきた男は義兄ではなく、僕の見知らぬ男だった。
同年齢ぐらいだろうか、やけに親しそうだ。姉の顔から笑顔がこぼれる。
喫茶店を出た二人を追いかけようとしたが、途中で見失ってしまった。
浮気しているのか? 夜、姉が帰ってきてから、自分の見た光景を話し問い詰めた。
「ああ、あの子、性転換した高校時代の同級生なの」
「え?」
「名前は桜ちゃん」
次は「王冠」「エスカレーター」「星図」でお願いします。
376 :
名無し物書き@推敲中?:2007/03/17(土) 23:56:30
就活板から来ました。実際の面接では偽りまくってるけど本音はこんなんです。
面接官「それではまず自己PRをお願いします」
A「はい、私は他人と協力し合うようなことは嫌いです。「自分で
やらなくてもいいことは他人にやらせる。そうじゃないことは
独りでやり通す」がモットーです。」
面接官「学校では何を学びましたか?」
A「社会に出てから最も大切なことは何かを学びました。
私は中学高校がエスカレーター式だったため、
高校時代は中学時代からの数少ない友達がいました。
けれど大学ではほとんど友達ができず、
テスト前に知り合いからノートを借りて授業も出ずに
単位を得ている人を見てうらやんでいました。
この人たちを見て、社会に出てから必要なことは人脈と要領のよさで、
まじめにこつこつやってるけど口下手で人見知りな自分は
お先真っ暗だということを学びました。」
面接官「ではあなたの趣味と特技を教えてください」
A「趣味は妄想。特技は引きこもりでも居心地のいい場所を見つけることです。
人の前にでることや派手なことはとにかく苦手で、
中学時代は英語の教科書「crown(王冠)」という文字を
見るだけでもいたたまれない気分になっていました。」
面接官「あなた就職活動むいてないんじゃないですか?」
A「図星です。」
あ、次のお題は「ねこみみ」「地球儀」「涙」で
「人の趣味ってそれぞれだよな」「ああ、それぞれだなブラザー」
俺は殺し屋。そして隣の運転席でハンドルを握りしめる相棒もまた、殺し屋だ。
この世界狭いもんである。一端、殺し屋家業を始めると、右を向いても左を向いても
殺し屋ばかりである。いつから、世の中こんなに殺し屋が溢れるようになっちまったんだろう。
「いいや、違うねブラザー。それは視野狭窄って状況だ」
「そうなのかブラザー。良く分からない。説明してくれ」「いいだろう」
相棒はハンドルから手を放して、車を発進させた。一般人が真似できない所作を軽々と
こなせるからこそ、相棒は殺し屋への道を選んだのだろう。
「さてこの両手には何も握られていない」
彼はアクセルペダルをじっくり踏みながら、その無骨な両掌をパーにして俺の方へ向けた。
「ああ何も握られていないな」
俺は観たままを述べた。だが俺の返答にニヤリと笑った相棒の掌からは意外や意外、
掌を一度だけ閉じ、開いた次の瞬間にはポロリとビール瓶の王冠が飛び出してきた。
「凄いな」「だろう? 殺し屋は常日頃から人に驚かれる術と暴力を備えてなきゃ駄目だ。
上から与えられた仕事をエスカレーター式にこなすだけなら誰にでもできる」
「成る程」「そう、あるスナイパーは星図と日付を目にしただけで、それがどこの地域であるかを
即座に特定できるし、あるナイフ使いは足だけでも自由自在にナイフを操ることができる」
「つまり?」俺は、相棒の話に耳を傾けながら左腕だけを窓の外へ放り出した。
「何事も一つを追求するだけじゃ、駄目だ。殺し屋は殺し屋でありながらにして、殺し以外にも趣味を持つべきだ」
「そうかい」そう一言だけ短く答え、銃を携えた腕をまっすぐに伸ばして照準を合わせる。
その先には、暢気に犬の散歩を楽しむマフィア上層部構成員の姿。
「なぁブラザー。こうして彼は趣味のお陰でいとも容易く殺されちまうわけだが、それでも趣味は持つべきなのか?」
「勿論。彼はブラザーが趣味について質問した時間だけ、長生きすることができたんだから」
次のお題は「耳かき」「ガーターベルト」「ベルトコンベアー」で
381 :
377:2007/03/18(日) 02:15:05
>>379 いえいえ、お気になさらず。
…そうか、図星じゃなくて星図かorz
彼女と別れた次の日、俺の部屋に残された彼女の残り香と云えば、
ねこみみカチューシャだけになった。相も変わらず彼女の行動力には驚かされる。
俺と別れると決めたその日、即断即決で引っ越し業者を呼び、荷物一式を
手っ取り早くまとめるとどこかへ去っていってしまった。
ハンバーグランチを頼むか、ステーキセットを頼むかで小一時間はゆうに悩める
俺には到底真似できない所業だと言えよう。
さて、サイフの一円玉のように使い捨てられ取り残された俺だが。
仕事をする気にもなれず、当然のようにバイト先へ欠席の連絡を入れ
一番大切にしていた地球儀をアパートの庭で燃やすことにした。
この地球儀にはかくかくしかじか、彼女との想い出が盛りだくさんに詰まっていて
部屋に置いておくには忍びなかったし、俺が持っているものの中で一番高価なものだから
燃やして、無くしてしまえば、どこか心がスッキリするんじゃないかと、俺は頑なにそう信じ込んでいた。
ショックを受けた人間ってのは大概そうだ。わけのわからない衝動が身体の中を突っ走って
無我夢中に何かをしていたくなる。近所の公園で中腰になって枯れ枝ばかりを拾い集め、
大家さんに無断で庭にそれをモリモリうず高く積み上げ、中央には地球儀を埋め、
やおらポリタンクから石油をドバドバぶっかけてライターで火を付けた。
「ああ、綺麗だなぁ」ごうごうと燃えさかる火を見ながら俺はそう呟いた。
綺麗なのは、原初の体験を揺さぶる火の赤色なのか。それとも煙で滲んだ涙にぼやける視界なのか。
はたまた、俺と彼女のメモリーが塵に火の粉になって空へ舞い上がっていくその様なのか。
俺には分からない。優柔不断な俺には何もかもわからない。
レストランで何を頼めば良いのか、フラれたらどうやって哀しみをやり過ごせばいいのか。
彼女と俺がどうして分かれてしまったのか、その理由でさえも分からない。
俺は後片付けもせず、部屋に帰ると彼女のねこみみカチューシャをはめ、
頭から布団をかぶって目を閉じた。「眠ろう」
俺に分かるのは、この喪失感も哀しみも、眠れば束の間去ってくれること。それだけだった。
それだけで良かった。
次のお題は「耳かき」「ガーターベルト」「ベルトコンベアー」で
彼女の太股が好きだ。
ちょっとむっちりとしていて、艶めかしく白いその脚が。
いけてない僕にふさわしい、いけてない彼女。
きっと道行く人は後ろ指を指して僕たちのことを笑っていたことだろう。
それでも僕は構わない。
彼女の太股に頭を委ね、耳かきをしてもらう至福の時間に較べればそんなことは気にならなかった。
ある日僕は彼女によく似た人を見かけた。
断定できなかったのは彼女の雰囲気が違ったから。
センスのよい挑発的なミニのスカートから覗く黒いガーターベルト。
断定したくなかったのは彼女の腰を抱いている男がいたから。
180を超える長身をハイブランドで固めた茶髪の男。
いけてない僕の隣で、いけてない冗談にも笑ってくれた、いけてない彼女。
僕の中で何かが崩れた。
1ヶ月後、僕は傷心のまま異国の空港に降り立った。
さようなら、僕のいけてない彼女。もう二度と会えないね。
名残惜しかったからこの国まで連いてきてもらったけれど、ここでお別れだ。
ベルトコンベアーで運ばれてきたトランクケースからタグとビニール袋を取り外す。
もう一度だけそっと撫でて、またベルトコンベアーに載せた。
そしてその場を立ち去り、もう二度と振り向かなかった。
「虚偽」「廃墟」「泥濘」
誰もがその街を通り過ぎるだけだった。
人と物とが交差する地として一時は隆盛を誇った地上四百階の商社ビルも、
運送業者向きに進出してきた数えきれぬほどの飲食店も、
全て、吹きすさぶ火星の風に、今は廃墟のような面持ちを見せている。
「虚偽の申請は認められません。」
この街唯一といっていい就職先である、自動車の水素ステーションに履歴書を提出したが、それが偽造だってことをロボットに一発で見破られてしまった。
この不景気な時代、馬鹿正直に「三年間ひたすら就活の毎日でしたが、一社も通りませんでした。」なんて書いていたらどこも門前払いに決まっている。
かといって、五十年前ならまだしも、国民番号で全てを管理しているこの社会では、データを参照する機械があれば嘘はすぐに看破される。
チクショウ、と足下の小石を蹴る。重力は地球の三分の一なので、それは飛んでいきすぐに見えなくなった。
俺は母が地球出身なので、両親が火星生まれの奴らよりは、いくらか身体が丈夫にできていた。
もっとも歳をとるにつれそのアドヴァンテージは環境に順応し、次第に薄れて、今では就活に役立つものではないが。
ずぼり、と不意に足下が生暖かく柔らかい感触に包まれる。
左足が泥濘の中にはまっていた。
あはははは、と笑えてきた。
誰もが通り過ぎるこの街に、足を捕まえられてしまったから。
次、「身体」「森」「法則」
朽ちてゆく朽ちてゆく朽ちてゆく。
私を殺した首輪は頭上で風に揺れ、腐り落ちた身体は足元に。
離れ離れになってしまった頭は熊が咥えていった。
心はどこにあったのだろう。
脳みそは朽ち、それも今では獣の胃の腑に納められただろう。
うじの湧いているこの心臓に心があったのだろうか。
獣も、鳥も、虫も、私の身体を飲下して。
子を成す事のなかった陰嚢も、黒い虫や茶色い虫、白い虫。
彼等が食べてそして私のかわりに子を成してくれる事だろう。
ああ、救いのなかった人生に。
この誰一人いない森で、私は初めて孤独ではなくなった。
焼かれ灰になる人たちにはこの喜びはわかるまい。
自然の法則の中で朽ちてゆく喜びを。
そして、食い尽くされた私は、また独りになった。
NEXT「蛸」「鎖」「ハチマキ」(カナ漢字問わず)
「蛸がはいってねぇんだよ! 殺すぞテメェ!」
冗談ではないのである。本気なのである。
殺し屋である俺様には殺すことなんて朝飯前なのである。
俺様が購入したタコ焼きにタコが入ってないなど、言語道断ものなのである。
人を殺しながら生きる――食物連鎖の鎖が繋がるその先にゃあ、この俺様が君臨してるってこと
良く覚えとけこの野郎。
「いや〜すんまへん」
ねじりハチマキを頭に締めた爺は俺の真っ当すぎるクレームにへらへら対応すると、
お詫びに、と云って新しいものと交換してくれただけでなく、更にもう一パック追加して返品してくれた。
そうだ。ありとあらゆる人間は、この俺様にそうやって低姿勢で接するべきだ。
連鎖の頂上に位置する俺様も、ある側面ではやはり人間だ。人情同情が皆無なわけじゃあない。
俺は助手席にタコ焼きが入ったビニール袋を放り出すと、軽快に愛車(プジョー)を発進させた。
赤信号で停止した隙を狙って、袋に手を突っ込むと中から一パック取り出して、手際よく揃えた
膝の上に広げる。爪楊枝で突き刺して、早速一口。次の瞬間――
「だから蛸がはいってねぇんだよ!」
も、殺す。絶対、殺す。何パック差し出そうが絶対に殺す。
だが待て。この俺様があのクソジジイをぬっ殺す、ということは蛸に敗北したということにならないだろうか。
こんなにも蛸に悩まされた挙げ句、ジジイの方を殺すなんて見当違いじゃないか。
「チッ。命拾いしたな、爺」
核となる蛸が失われたタコ焼きなど、単なる小麦粉ボールにしか過ぎないが、それでも俺は何かを殺すことによって
片が付く敗北に囚われないため、飲み下すことにした。当然、そのタコ焼きは酷く不味かった。
次のお題は「文鳥」「コンサートホール」「フォッサマグナ」で。
「ああクソ」
プジョーを路駐し、高架の下に見える明かりに足を向ける。今日の胃袋は嫌にタコヤキに飢えてやがる。蛸をよこせとグーグー五月蝿ぇったら。
手前の公民館からはジジイババアがぞろぞろ出てくる。ちょっとしたコンサートホールもあるのだが、やるのは寄席やら演歌だのばっかりだ。この街は若さがねぇよ。
「あら〜このタコヤキ、蛸入ってないわ」
屋台の横でババァが呟く。
──プチン。と、頭のほうで音がした。俺は懐の鉄塊を取り出すと、ゆらりと屋台までの残りの3歩を詰める。
無言で金を渡すと積んだままのパックを開け、つまようじで突き崩す。1つ、2つ、安全装置を外す、3つ4つ、トリガーに指をかける、5678!
「タコがねぇんだよジジィ! ぶっ殺すぞ!!」
銃を持つ右手を振り上げると、すぽーーーんと銃が飛んだ。
ガツッ、と親父の頭にぶち当たる。
「す、すんまへんすんまへんすんまへん」
「おぃ、ぶっ殺してやるから銃取ってくれ。でなきゃタコヤキに蛸入れろ!」
ジジイは「あっ」と声をあげ足許の銃を拾い上げ、そして事もあろうかのこ俺様にその銃口を向ける。震えてる上に目ぇ瞑ってるじゃねーか。
「フ、おっさんマグナム撃てるのか?」
吐き捨てた俺の口に何かが飛び込み、前歯と血と肉と脊椎が背後に舞った。
数年後──
俺は女の唇を無理矢理奪う。しかし女は俺に微笑みかけ、その手で抱きしめてくる。そして俺をねぐらに誘うと、先ほど料理していて汚してしまった厚手のTシャツに手をかける。
ブルン、と。その細身に似合わぬDな塊が飛び出す。若くて張りがって、たまらねぇ。一度俺が咥えた時なんざ痛がってなみだ目で睨まれたが、まだまだ俺が雄だとわかってねぇようだ。
ヂヂ、ヂヂヂヂヂ!
「はいはいチーちゃん待っててね。ごはん食べたらまた遊びましょうね?」
なんの因果か気付いたら文鳥が母親だった。そしてこの女に貰われたわけだ。ああ、この生活も悪くねぇ。同居人はすこぶる付きの巨乳美人でセクハラもし放題。まぁ、乳首はしばらくお預けだろうが。
コイツに男が出来た日にゃ、俺はそいつをつつき殺すだろうよ。
次は「草履」「感染」「膝枕」
フォッサマグナをおっさんマグナムというのはさすがにナシでは・・・?
「ちょっとコンビニ行って来る」
雑然とした部屋。もちろん返事など帰ってこない。
回線の向こうでは「ついでにハバネロ買って来い」「じゃ漏れフランスパン工房」
とか打ち込んでる奴がいるのだろうが、一体それに何の意味が?
玄関まで来ると、磨り減った草履を引っ掛ける。コンビニまでは1分と掛からない。
ここ数ヶ月、その往復しかしていない気がする。
仄白い均一な照明に照らされた、清潔な店内。
(無菌状態に慣れすぎみんなあちこち弱ってる・・・はB’zだっけな。
俺はとっくに、ヒッキーウィルスに感染しているようだが。フン。)
自分の思考に不愉快になってりゃ世話ない。
チューハイ2缶といかフライを手にとり、レジへ並ぶ。
(何で夜中のコンビニってのは、数人しか居ない客が、同時にレジに向かうんだろう?・・・まぁいい。
さっさと帰って、スレ見て、アイツの膝枕(型クッション)で寝るとするか・・・)
次「スピーカー」「ハサミ」「イオンパルスドライブ」
イオンパルスドライブ、ググってもヒットしねーぞw
391 :
389:2007/03/18(日) 21:41:27
ホントだwスマソ
SFっぽい単語を入れてみたんだがな。
じゃあ最後は「VTEC」で。
>>391 両方使ってみたw
『あーテステス。聞こえるか?「コードネーム;タフなハサミ」。貴様は完全に包囲されている。
四面楚歌もマッツァオだ! 投降するなら今の内だぞ? 今、投降するなら懲役30%OFFにしてやる!』
テロ屋家業もそろそろ年貢の納め時か。
俺は半ば絶望と諦念が入り混じった感情を丸抱えにしたまんま壁にもたれ、
窓の外から飛び込んでくるスピーカーの大音量に耳を傾けていた。
追い詰められたのなら仕方がない――最期の最期、この血の一滴が地に流れ尽くすまで戦うだけだ。
どんなに状況がシビアでも、テロ屋にはテロ屋なりのプライドがある――
だが、その決意は次の瞬間、いとも簡単にへし折られることになる。
『ガガッ、ピーッ。貴様が投降しない場合、我々はイオンパルスドライブの使用も厭わない!』
「な、なんだってー!」 俺は慌てて身を起こした。そして、危険も省みずに窓の外へ身を乗り出すと――
そこには一門の巨大な銃身を持つ砲口が、こちらへ首をもたげ待ち構えていた!
「ま、マジかよ……! 説明しよう!
イオンパルスドライブとは……荷電粒子砲に備え付けられた
大気吸収装置の一種であるが、元より拡散しやすい荷電子を取り扱うため動作が安定せず、
実戦への投入が見送られてきた幻の制圧用兵器である。が、最近になって確立された、
可変バルブタイミング・リフト機構――所謂VTEC――ドライブの回転数と蒸気排出を連動させる技術の
兵器科学応用によって、実験的に次世代機が投入された」――と風の噂に聞き及んではいたが。
「なんてこったい。オワタ」
絶望、諦念。その二つと天秤で釣り合っていた俺のプライドは、音も無くゴロリと床へ這い蹲り、
天高く掲げ上げられたのは『投降』に続く、俺の両腕だった。が――「まぁいい。まぁいいさ」
世界中のテロ屋から熱い眼差しを注がれていた兵器の完成品を拝むことができたんだ。悔いはない。
たとえ、俺がこうして敗北したところで、どこかのテロ屋がアレを使ってテロを成功させることは想像に難くない。
兵器とは、そういうものだ。暴力が巡り巡って、この世界を支配していること。それだけは忘れるな。
次は「フォッサマグナ」「殺し屋」「招き猫」で。
『もしもし、もしも〜し』ちっ、電話切りやがった。ありえね〜。
真下にフォッサグナが通る町、ここは静岡の片田舎。まわりは山ばっか。
何でこの俺がわざわざこんなド田舎まで来なきゃいけないんだよ。暑いなぁ。
まぁでも、仕事は仕事だし・・・きっちり始末するか。
一昔前なら何処にでもあったであろう古びた駄菓子屋の前、一人の男。蒸し暑い夏、しかも田舎町のここでは
およそ見当違いの漆黒のスーツ。五分ほど中を伺い入ろうかどうしようか迷っている様子である。
やがて、『ふぅ・・・』と短く息を吐くと、古くなった引き戸を丁寧に開け中に入った。
『あい、いらっしゃい』 人の良さそうな老婆が男に微笑みかける。
『地元の人じゃぁないねぇ、サラリーマンかい?』 『お仕事で来たのかい?ここらは何も無いでしょう?』
久々の客が嬉しいのか、退屈していただけなのか老婆が一息に質問を浴びせる。
男は柔らかい微笑みを返し、『ええ、仕事で来たんです。』 短く答えると、懐から取り出した銃を老婆に向けた。
躊躇うことを一切せず引き金をひいた。
鮮やかな真紅が乱れ散り、塵の積もった招き猫に降り注ぐ。
『もしも〜し、殺し屋XXXですけどぉ、仕事完了しましたぁ。お金振り込どいてくださいね〜』
次のお題は 「実験室」 「口紅」 「爆音」 でヨロシクです。
爆音が聞こえてきたのは、私が口紅を塗り終えた丁度そのときである。
「やー、しまったしまった」
と黒煙を吐き黒焦げになった髪を手グシで直しながら藤島忠雄が部屋へ入ってきた。
「また失敗?」
彼はこの田村超常現象研究所に所属する研究員だ。先の爆発は当研究所の
所有する精密再現実験室から聞こえてきた。
「やー、成功……かな」
「え!」
私は驚いた。成功の言葉に、ではない。そう宣言しながら藤島忠雄が
もう一人部屋へ入ってきたからだ。
「藤島クンが二人いる!」
「やー、三人いたりして」
ともう一人入ってきた。私は自分の頭がどうかしたのではな――
「やー、もう一人」「また一人」「もう一人おまけに」
ワラワラと入ってくる藤島忠雄の集団を前に、私はいつまでも口を閉じることができなかった。
次「スーツ」「縄跳び」「果物」
今日は記念すべき初実験の日だ。
その成功を祈願して関係各所から届いた、花や果物(合成ではない、天然のものだ・・・ここ、地球から遠く離れた実験用ステーションでは、実に貴重な存在である。)を一瞥し、インナースーツに着替える。
(しかし、この反物質ワープシステムが実用化すれば、地球産の果物の肉も、いくらでも手に入るようになるさ。)
チャンバーの壁面から伸びたマシンアームが、インナースーツ上に正確にパーツを配置していく。最後に、収縮式のアウタースーツがかぶせられ、装備が完了する。
「減圧チェック・・・正常。外装甲パッド装着。・・・幸運を!」
マシンに見送られ、チャンバーを後にする。
ミッションルームの椅子に体を固定すると、もう一度テクニカル・マニュアルに目を通す。
「反物質炉・・・反物質である炉心が、常物質である隔壁に触れることのないよう、
カーボン・マイクロコイルを束ねた制御線に電流を流し、回転させるにより磁場を形成し
・・・つまり、永遠に終わらない、縄跳びの2重とびのような状態で、炉心を浮遊させ、その膨大なエネルギー
のみを取り出すわけだ・・・
もし、反物質と常物質が触れれば、その瞬間、対消滅ですべてが吹き飛ぶからな。」
さあ、そろそろ時間だ。この実験が終わったら、俺は地球への帰還が許されている。
フィアンセの待つ、地球へ・・・
次は、「電子辞書」「ブレーキ」「永遠の愛」で。
「永遠の愛って、どこにでも転がってると思ってたんスよ」
居酒屋のテーブルにつっぷして、さめざめと涙を流す後輩は
控えめに云っても、相当気持ち悪かった。フラれて当然なのである。この男。
「ねぇ! 先輩も思うでしょ? 付き合い始めた頃の二人はもう永遠そのものなんスよ!
天皇がこの国の象徴なら、あの頃の二人は永遠の象徴だったんスよ!」
云ってる意味が分からない。ちなみにまだ、注文した生中は運ばれてきていない。
つまり彼はシラフである。シラフにも関わらず、泥酔時さながらの醜態を晒しているのである。
「ちょっと! 先輩聞いてます!?」「うん。ちゃんと聴いてるよ。話半分」
「話半分じゃダメッスよ! 真面目に聞いて下さい」
「だって真面目に聞いても、終わった問題は何一つ解決しないし……」
「せ、先輩まで俺にそんなムゴい発言を……!」
彼は酷くショックを受けた面持ちでフラリと席を立った。
その姿はあまりに幽鬼めいていて、単にお手洗いに行くのではない、と思わせるだけの迫力があった。
「待て、どこへ行く」「自殺します」
「……どうやって?」「近くの橋から飛び降ります。止めないで下さいよ」
「ま、まぁ待て」
マズい。彼は自暴自棄になっている。
しかもフラれたばかりで、致命的なショックを受けている彼の脳内ブレーキは壊れたままだ。
どうする、どうする。俺。
「よ、よし。良い物をやろう! これでどうか一つ、自殺を思いとどまってくれ」
「……なんスか」「じゃじゃーん!」
口で効果音を付けながら、鞄から取り出したのは――
「電子辞書だ! どうだ。これは凄いんだぞ。英和辞典、国語辞典、百科事典になんと翻訳機能まで搭載した
超高性能な辞書なんだ。これがあれば、おまえのこれからの人生、快適に過ごせること間違い無しだ!」
「…………。さよなら先輩」
ふむ。これで駄目なら、もう彼を止める手だてなど何一つ無い。
彼はふらふらと心許ない足取りで居酒屋の暖簾をくぐると、そのまま振り返りもせず黒洞々たる夜に消えていった。
その後の後輩の行方は、誰も知らない。
次は「スペクトル」「スペクタル」「スペリオル(Superior)」でよろしく〜
美沙はしばらく無言で、目を閉じて考えていた。
しかしすぐに大きく頭を振って本棚に手を伸ばした。こんなことは考えたって
しかたがないのだ。目的の書物を手に取った。
『スペリオル カタカナ語/外来語辞典』
類似の辞典の中では群を抜いて解説が分かりやすいお気に入りの辞典だ。
「えーと、スプ・・・スペキュ・・・スペクター、スペクタクル・・・スペクトラム
・・・やっぱりないなあー、スペクタルなんて」
パタン。辞典を閉じてはぁとため息を吐く。
「スレッドが活性化してるのは喜ばしいけど、三語が肝なんだから、
お題決める方も、お題使うほうももう少し丁寧にやって欲しいなあ。
奇をてらうのが必ずしも悪いとは思いませんけど」
ダージリンティーの湯気に光のスペクトルが優しげに浮かんでいる。
次は「折り紙」「北極星」「ビタミン剤」
おおスペクタクルをスペクタルと書き損じまった。スマソ
つーかここ、これでスレ活性化してる状態なのかw
十分過疎ってると思ってたけど、普段どんだけ過疎ってるんだよw
400 :
名無し物書き@推敲中?:2007/03/19(月) 16:49:53
ありゃー、もう書かれてる!流れ速すぎ!!
でもせっかく書いたんだから載せとく。
_________
ここは「漫画バー『のこりび』」。今日も常連客は思い思いの漫画をバーテンに注文しては、グラスを片手に読み耽っている。みな名前も知らないが顔なじみだ。
カウンターの一番左、壁側の席に腰掛ける。
「いらっしゃい。」
言うと同時に、バーテンの手は読みかけでキープしてある「究極超人あ〜る」4巻に伸びる。
「ああ、いや、今日はやめとこう。何か気分を変えたい。」
「そうですね、珍しいモノが手に入ったんですよ。1987年モノです」
そういってバーテンが差し出したのは「ビッグコミックスペリオール」創刊号だ。これはすごい。目立った日焼けも無く、抜群の状態だ。これほどの上物はそうそう出てこないだろう。
「いやぁ。雑誌はいいよ。やっぱりコミックスのほうが気楽に読めてね・・・、気楽に・・・こう、スリルとスペクタクル!みたいなのが読みたいね。」
ふいに、隣の客が、カウンター上を滑らせて、本をよこしてきた。
「おお、これは!」
「『スペクトルマン』全7巻、さ。ボリューム的にもちょうどいいだろう?読みなよ。俺のおごりでいい。」
全て初版だ。『スペクトルマン』といっても、大人の事情により第1巻は『宇宙猿人ゴリ』、第2〜3巻は『宇宙猿人ゴリ対スペクトルマン』、第4〜7巻は『スペクトルマン』となっている。
今日は久しぶりにいい夜になりそうだ・・・
で、398の指定どおり、次は「折り紙」「北極星」「ビタミン剤」
「北極星を望む天蓋に、ぽっかりと開いた覗き窓。あれが月です。
折り紙で、月を折ることはできないけれど、月に棲む兎を折ることはできます」
先生は私にそう教えてくれた。だから私は折り紙で兎を折ろうと一生懸命に工夫を凝らしてみたけれど
どうしても兎を折ることはできなかった。兎は私に折られたくないのかもしれない。
「先生、人は月に住んでいるの?」「まだ人は、月に住むことができません」
「じゃあ、どうして兎は月に住むことができるの?」
先生はちょっとだけ困った顔をして、それから首を傾げるとこう答えた。
「それは……月に人が住んでいないからかもしれません」
「でも地球には、人も兎も一緒に住んでるよ?」「ああ、そういうのとは、また少し違ってですね」
それっきり先生は黙ったまんま、琥珀が沈むティーカップを片手にぼんやりと、
ステンドグラスに染色された斜陽を眺めるばかりだった。
「それはそうと」 ふと思い出したように先生は、日溜まりから視線を外し、私へ向ける。
「ちゃんとビタミン剤は服用していますか?」
「はい。先生に言われたとおり一日三回、他の処方薬と一緒に摂ってます」
「……そうですか」
どうやら、先生とのお話はこれで終わりらしかった。
会話を期に先生は、傍らの医療バッグを手にすると、椅子から腰をあげた。
「たとえこの世界が、貴方の望むものでなかったとしても、貴方は生きなければなりません。
それが月に棲む兎のように儚く、脆いものであったとしても、
貴方にここに居て欲しいと願っている人が居ます。だから……」
「なんのお話ですか? 先生」「いや、ただの独り言です。気にしないでください」
先生は唐突に、難しいお話をしだしたかと思うと、それを笑顔で掻き消して、そのまま何も言わなかった。
そして扉から、静かに姿を消すと、私はまた日溜まりが沈む部屋に、一人ぼっちで取り残された。
寂しかった。だから私は、また折り紙で兎を折り始めた。折れるはずのない兎を。
でも折れたら、兎も私も一人ぼっちじゃなくなって、そしたら――
次のお題は「スペクトル」「スペクタクル」「スペリオル(Superior)」でよろしく〜
って
>>400・・・orz
またリロードすんの忘れてたw
お題変更します。
「書き込み」「プレビュー」「ローカルルール」でよろしく〜
健一はその廃墟に足を踏み入れた。
地下を下りてゆくほど闇の密度は増し、靴底を通し感じている埃も厚くなってゆく。
映画なんかでは部屋の角に蜘蛛が巣を作っていたりするのだろうが、実際にはそのような生命の息吹など、微塵も感じない。
懐中電灯が、ある扉を照らした。健一は少し躊躇して、その部屋へと進入した。
なんだか他の部屋よりも壁が黒ずんでるな、と彼は思った。
しかしよく近づいてみてみると、どうやら細かく鉛筆で書かれた文字らしい。
日本語……だろうか。この二十三世紀、日本語を使っている日本人なんて、よっぽどの変わり者か国文学者くらいなものだろう。
もちろん健一もその例に漏れず読み書きはできない。日本語は、歴史の教科書の片隅にわずかな記述が載っているだけの存在だ。
彼は携帯端末のカメラ機能でその日本語を撮影する。画面に映った小さなプレビューを彼は確認した。
かすかに後ろで、空気が動いた。振り返り懐中電灯で照らす。埃が舞い上がり空気中を漂っている。
「この部屋にはいるなああぁぁぁぁぁぁあ!!!」
左からの不意な衝撃をうけ、健一は床へ倒れ込む。懐中電灯の光の中に、一人の大きな男のシルエットが浮かび上がった。
「近寄るな近寄るな近寄るな近寄るな!!」
男は健一のマウントポジションを取り、顔面腹部ところかまわず殴りつける。
「引きこもらせてくれよこっちに来るな出て行け出て行け」
健一はやめるよう、かすれた声で叫んだ。
「△ー,>○#ー●|*凵h}”!!!」
しかしその言葉は男にとって理解不能で、ついに健一を殴り殺してしまった。
男は血液に濡れた拳を服の裾でぬぐい、引きこもり生活を再開した。
ローカルルールだけが、男にとっての全てだ。
次は「雨」「リスク」「駆け引き」で。
あう、遅かったか。もったいないから投下。お題は
>>403で。
家に帰ると、姉が俺のパソコンをいじってた。
パソコンのパの字も知らぬ姉が何をしているのかと見れば、なんと2chへ書き込みをしていた。
「姉、なにしてんの?」 たどたどしくタイピング――主に人差し指のみの――をしていた姉は、
声をかけられてようやく俺の存在に気づいたらしい、びくっとして振り返った。
「おう、弟か。今某匿名掲示板? に書き込みをしているのだ。」
(ちなみに姉は俺を「弟」と呼び、また俺に自分を「姉」と呼ぶことを強要している。
よくわからないが、『固有名詞を剥奪することで安部公房の世界に近づけるから』だそうだ。
これは家族にも強要しているが、今のところ俺と姉とだけのローカルルールである。)
「どこからどう見ても2chだ。……しかし姉、何でまた2chに書き込みを?」
「うむ、友達がやっててだな。色々面白そうだったから。」
ふーんと言いながらプレビュー画面を見る。しばらく読んで、そのレベルの低さにため息をつく。
「姉よ、一丁前にトリップなんぞをつけているが、初心者は半年ROMだ。」
「ROM?」「ああ、見るだけの人って意味だ。2chにも色々ルールがあってだな……」
3分ほど説明すると、姉はわかったと言った。――大抵の場合、微妙に分かってないのだが。
「ふむ。じゃあ、いまから私が言うことを打っていけ。お前はもう書き込めるんだろう?」
ああ、やっぱり分かってなかった。
俺はもう一度ため息をつき、――今こうしてタイピングしている。
大四朗の隣で平太が小刻みに震え、水滴をピチピチと跳ねとばしている。
雨の中でさえ、奥歯の鳴る音が大四朗の耳に届くかと思われるほどだ。
「まあ・・・即命を取らねばお互い潰し合うだけだということはおわかりなのでしょうね」
敢えて間延びした声で、しかし突きだした銃口はそのままに大四朗はゆっくりと言った。
「おうさ」
低い、絞るような声が、濡れそぼる白銀の屹立の根元、銀治から返る。
「晴れの日なら、弾丸もたたき落とすという貴方の大刀だ、私の弾が当たることがあっても一、二発。
ものともせずに私たちをあっさりと4つにしてしまうでしょう。しかし今はこの雨です。
弾は霞み、踏み込みも鈍り、切っ先も滑る。私に浅手を負わせてる間にこの子の
デリンジャーがいくつ風穴を開けるか。どうです、そこまでのリスクを冒しますか?」
雨音だけがしばし響く。二尺八寸はあろうかという大刀を構えた銀治は、ふとニヤリと
笑って距離を取った。
「流石は轟の大四朗さんだ。ここは預けたぜ。勘違いするなよ、お前さんは相手にとって
不足はないが、嬢ちゃんには似合わない修羅場だ」
言うや、それこそ滑るように消えた銀治を見送って、平太-の格好をした美鈴-がへたり込んだ。
「ダイさん・・・、そ、その気になれば・・・勝てたんですよね?」
「さあてね。挑発されれば強く握ってしまうのが人の性。雨の中握りしめれば束が滑る
気がするのも人の性。奴に少しだけ不安を与えてやったんですよ。まあ私との駆け引きを
楽しめたことで今日の所は奴も良しとした、そういうことかもしれませんがね」
大四朗は銃を拭きながら、こともなげに笑った。
次は「北風」「ペットボトル」「サインペン」
未成年で酒飲みでもない人が肝臓ガンになるのはたいへん珍しいことだ。
しかし可能性がゼロでなく「珍しい」確率なわけで、誰かには必ず起こることなわけで。
肝臓のガンはまだまだ早期の小さいものだったそうだ。しかしちりぢりになった細かいかけらが、何かの原因で、全身に転移してしまっていたらしい。
手術でも薬でも完治は無理だそうだ。いつか訪れる死を待つしかないそうだ。ただガンの箇所が非常に多かったので、莫大な保険金だけは受け取れた。
その日から彼女は通院を始めた。病院へ行くたび、ガンの進行をめいっぱい遅らせるため、ペットボトル入りの特効薬を処方してもらった。その薬は、とても苦い味がした。
どうして自分なのだろうと運命を恨みはしなかった。ただ消えてゆく自分が悲しいと思った。
せめて……せめて、生きた証が欲しい。誰かに声を聞いて欲しい。
その二日後、家と病院の途中にある階段を散歩した日から、彼女のメッセージは始まった。
ペットボトルに閉じこめる手紙……サインペンでぎっしりと書き込まれた文面……。できるだけ遠くへ投げてやった。
いつかきっと、誰かが手紙を読んでくれるだろう。
そう思い彼女は手紙を飛ばし続けた。八年間にも及んで。
衰えが見え始めたのは、ある寒い冬の日。
いつもより自転車のペダルが重く、タイヤに空気を入れなければ、と思った日のことだった。
家で用意した手紙とペットボトル。北風に乗せ空高く飛ばした。はずだった。
それから来る日も来る日も自転車のペダルは重くなりつづけ、ペットボトルも遠くへは行かなくなっていった。
黒いガンの影が、彼女の両股と肩を蝕んでいたのだ。
その二週間後、彼女はベッドで寝たきりになった。
それから二ヶ月、彼女は何とか必至で生き延びた。普通なら、とっくに死んでいて当然だというのに……。
医師が、看護婦が、父が、母が、妹が、
昏睡状態の彼女を「生き続けて。」と励まし続けていた。海岸に流れ着いた誰かからの手紙を、読み上げ続けていた。
次、「裏」「チャレンジ」「郵便」
>>405 庭のボロのペットボトルの風車が北風の力を受けカラカラと軽快な音を立てて回っている。
「春はまだ遠いか…」
私はその音を聞きながらサインペンで孫への手紙を書いていた。
先程の話に出てきた風車は孫からの贈り物である。
手紙を書き終えた私は草履を履き、縁側から風車のある庭に出た。
冷たい北風が老いた私の身に染みる。
「雪はまだ降らんようじゃなぁ…」
空には鈍い色の雲が広がっていたが、雪の降る気配はしなかった。
私は風車をまじまじと見つめた。
風車には孫の書いた春夏秋冬の絵が描かれていた。
孫の書いた冬の絵は雪だるまが雪合戦をする内容の絵であった。
私はその絵を見たあとに鈍い色の雲をじっと見つめ続けた…
次のテーマ
「ニート」「本」「ボランティア」
「裏」「チャレンジ」「郵便」
今日は進路相談の日だった。
担任の先生はそれなりにレベルの高い私大を薦めてくれたけど、
あたしは大学に進む気はなかった。あたしは家計の為に、働かないといけないのだ。
いくつになってもチャレンジ精神というのは大切だが、度が過ぎるのはどうかと思う。
あたしの父はあたしが中学生のとき、会社を辞め、あたしと母を置いて旅に出た。
なんでも、世界中を旅するのが小さい頃からの夢だったのだとか。
今までは父が残した退職金と母のパートのお金でなんとかやっていけた。
だが、さすがに大学に通うお金までは用意できない。だから高校を卒業したら、あたしは働くんだ。
家に帰って郵便受けを確認したら、一通のポストカードが入っていた。
毎年、父があたしの誕生日に送ってくるものだ。
あたしの健やかな成長を祈っているという文面が、無骨な字でしたためられている。
裏には、毎年違う、世界中の美しい風景。今年はどうやらアマゾンらしい。
図鑑でしか見たことのない動物と一緒に、日焼けした父が屈託もなくニカッと笑っている。
あたしもいつか世界中を旅してみたい、
写真を見ながら、そんなことを心のどこかで考えている自分に気付く。
次は「ニート」「本」「ボランティア」で。
「殺し屋も探偵も仕事にありつけなければただのニートだこん畜生」
俺はやさぐれていた。やさぐれながら帳簿をつけるが、ありとあらゆる側面から
計測しても、三ヶ月連続の赤字は確定していた。
自由業としてはなかなかに切羽詰まった状況である。
「だったら仕事を選ばなきゃいいのに……」
ソファーにねそべりながら新聞を広げる相棒はそう云うが、俺には俺なりに
譲れないプライドがある。
「……できるかよ。『この一冊で貴方も××になれる』シリーズの執筆なんてよ」
「印税で、ウハウハ生活勤しめたかもしんないのに……」
「ばーか。印税は来年期にならなきゃ入ってこねぇんだよ。本を書くとしても、
当面の六ヶ月はどうやって凌ぐ気だよ」
「本書かなくても仕事ないじゃん」
「…………。ボランティアをする」
「ボランティア?」
「そう、ボランティアだ」
俺は座っていた椅子を吹っ飛ばしながら、勢いよく立ち上がり、拳を振り上げた。
「ボランティアをして宣伝するんだ。この俺が殺し屋としても、探偵としても有能であることを
民間人に証明するんだ!」
「……はいはい。頑張ってね」
相棒はやる気なさそうに、ゴロリと身体を反転させると俺に背を向けた。
次は「詩人」「カレンダー」「コントローラー」で。
カレンダーに貼ったケーキのシール。
一緒にお祝いをしようと二人で決めたよね。
君の誕生日には赤いシール。
僕の誕生日には青いシール。
つきあい始めて間もないけれども。
二人でこのカレンダーを幸せで埋めていこう。
ぼくって詩人ぽくね?
「あれ、あのシールはなに?」
「裕美の誕生日じゃないか。豪華にいこうな」
彼女は顔を赤くして。
「あたしンじゃないわよ!」
ぼくに思いきりWiiコントローラーを投げつけた。
次は「潜水艦」「幻覚」「フカヒレ」
rainbow-sea
実に美しい言葉だが、この揶揄には許せない物がある。
sea-rainbow、波間に見える虹をさかしまにしただけのこの言葉。
工業廃水に汚され、もはや青い色さえ失われた毒々しい光を放つ海の色。
天気予報は天候被害予想に取って代わられた。
降水予測は地点が分単位で変化し、汚染物質含有量と酸度が示され、
花粉の飛散量が土地の健常度を示すなどと誰が思ったであろう。
第三の核から始まりその年の内に第六まで落ち、翌年の第一の中性子爆弾。
人類は世界大戦を続行する力すらも失った。
潜望鏡のワイパーが水面の油を拭い去る。
復興努力により汚染された海。ここを除いた9割の海域は核で浄化された青い海。
科学の魔力に取り憑かれた人類が残りを食い尽くすのは時間の問題だろう。
小型の潜水艦を浮上させ、ただ一人のクルーである私は陸に上がる。
馴染みの中華料理店に向かう。換気も浄水もいいものを使っていないがその分安い。
「フカヒレをくれ。天然物だ」
「目が八つは安いアルが、目が二つはお客さんには払えそうにないアルネ」
「……目が二つだ。代金は俺の艦がある」
フカヒレは案外旨いモンでもなかったが、良しとしておこう。実に気分がいい。
天然物は毒が多いが、この多幸感はアタリだったと言う事にしておく。
覚束ない足取りで波止場に腰掛け、もと我が家を見上げる。
陽が眩しい。太陽が拝めるなど幻覚に違いない。
ああそして、海が輝いて
sea-rainbow だ。
次「ぬるぬる」「ぼうず」「電柱」
鼻血がでた・・・。
信じられない。あのおとなしかった裕美がこの僕にWiiコン投げつけてくるとは!
「いったい誰の誕生日と勘違いしてんのよっ!ちくしょぉぉぉぉ!」
怒り狂った裕美の顔はまるで般若の様。僕は幻覚を見ているのだろうか?
「ゴルァァ!」
怒号と共に今度はWii本体を僕に投げつける。
「くらってたまるかぁぁ!」
横っ飛びでサッとかわす。にやり。
「グシャリ」
えっ!?なにぃぃぃ!!
総製作期間6ヶ月、海軍特型潜水艦「伊401」がぁぁぁぁ!!
ありえねえ、ありえねぞぉぉぉぉぉぉ!!
「てめっ、もう帰れ!けえれぇぇ!!二度と来んな、もう二度と俺の前にツラみせんなぁぁぁ!!」
家から飛び出て行った裕美には一瞥もくれず、ガラクタと化した「伊401」を手に、
ひたすら泣いた。
ぐつぐつ・・・キッチンの鍋が煮立っている。
裕美が作っていたフカヒレスープだ。出来上がるまでWiiテニスをしようと言って
彼女はニコッと笑っていたんだ。
火を止め鍋の蓋を開ける。
「伊401」の残骸を入れ再び火をつけた。
次は「サラミ」「CD」「スープ」
「おいぼうず」
おいちゃんはいつも僕をそう呼んだ。
癖のあるだみ声で呼ばれるとついビクッとしてしまい、その度おいちゃんは
豪快に笑って僕の頭を撫で回した。
母さんの帰りが遅いのはいつものことだけど、その日はちょっと違ってた。
夕食の献立の相談と、家への到着時刻を僕に知らせるための電話は
いつもの時間に鳴らなかった。なんだか広く感じる居間。
気づいたら駆け出していた。
細く暗い道を小雨が濡らしていく。電柱ごとの灯をすがるような思いで見つめる。
そのとき、女の人の押し殺したような声が雨の音に混じって耳に届いてきた。
立ち止まる僕のスニーカーがぬるぬるの地面にめりこむ。
ひときわ明るい電柱の陰に、赤い傘が咲いている。
傘の下にいるのは、よく見るとおいちゃんと背の低い女の人だ。
いつも僕のいがぐり頭をゴシゴシこする太い指が、女の人の白い首を這っている。
女の人の履きつぶしたサンダルには見覚えがあったから、急いで来た道を引き返した。
次は「粘土」「夜更かし」「サラリーマン」
416 :
412:2007/03/21(水) 17:11:25
>>414gj!
ゴメン。実は411も俺なんだ。会社から帰ったけど続いてなかったからつい…
ちなみに387も俺なんだ。
>>414の人生に悪影響を与えてしまったようで、今は反省している。
417 :
414:2007/03/21(水) 17:36:41
>>412 こちらこそすまない。あげる前にリロードしなかった俺が悪い。
ということでこの話はもうお終い!!
粘土ををこねていると落ち着くとか言う奴がいる。
フンッ、バカバカしい。紙粘土歴10年の俺から言わせてもらえば、気持ちいいのなんて粘土が冷たい内だけだろ。
こねていく内に段々生暖かくなってくるし、なんかパサパサになって気持ち悪いし。
だいたい粘土こねてる間他の物触れないじゃん。
超不便だよ。いつも夜更かししてTV見ながら粘土いじってるから、つまんない番組が始まった時チャンネル変えられないんだよ。
砂嵐の時なんか最悪だね。
夜中にザーザーうるさい暗い部屋の中、一心不乱に粘土をこねてると気が狂いそうになるよ。
はぁ、一体いくつ作ればいいんだろう・・・。
この地獄はいつ終わるんだろう・・・。
てか就職もしないで毎夜毎夜なにやってんだろう、俺?
こんな事なら普通にサラリーマンにでもなっとくんだったな。
部屋の半分ほどを埋め尽くす真っ白なハロの群れを眺めながら、そんな事を考えた。
ザーザー・・・ざーざー・・・
コネコネ・・・こねこね・・・
次は「雨」「ガンダム」「芸人」
テロ屋はありとあらゆる武器に精通していなくてはならない。
いつ如何なる時にも、手元に都合の良い武器が用意されているわけではないからだ。
時には飛び道具の火線をかいくぐり、針金一本で敵将を仕留めなければならない事もある。
だから俺は――誰もが無用の長物だと、搭乗を諦めたこの機体――ガンダムでさえも華麗に乗りこなしてみせよう。芸人の心に芸人魂が宿るように、テロ屋の心にもテロ屋魂が宿っている。
影として、陽の目を見ることがなくとも、俺の心は常に、抱いた理想の炎で赤々と燃えさかっている。
「発進! ガンダァァァァァァァム!」
雄叫びと共に、踏み込んだペダルが、ガンダムの心臓に命を吹き込む。
誰からも「無用」の烙印を押され、蔑まれ続けた鉄の塊は、
今こそ我が時とばかりに核燃料炉に蒼い風を吹き込むと、一気に身体中にエネルギーを行き渡らせる。
燃料パイプが駆動する驟雨のごとき音色が、狭いコクピットに心地よく響き――俺はその脈動にレバーを目一杯に引いて答えた。
「……さぁ行こう、戦場に。この俺も兵器である貴様も、生きる場所はあそこにしかない」
次は「睡眠」「トカゲ」「紫水晶」で
「私は殺しの芸を生業とする者。以後お見知りおきを、と言ってももう聞こえませんね」
ピンクのスーツに返り血がない事を確認しシルクハットに手をやる。バリアのスイッチを切ると雨の冷たさを体に感じた。
バッテリが冷えてから通りに出ないと頭から湯気が出ていて変ですねぇ、と一人ごち。
ゴッ、と顎に衝撃。自慢のヒゲが天を衝くのが観えた。
「気にすんな。芸人が外すのは良くある事さ」
青と白のスーツ、その左胸には風穴。しかし雨に濡れた濃紺部のソレは血の色など解らない。しかしまさか!
針の突き立った手のひらに余る緑色の球体。開いた側面から覗く蛇腹のグリップからして投石紐《スリング》の類だろうか? ソレが
もう一度振り上げられる。
「こいつにゃ二度も救われたが、さて。もうプレゼントにはならんなぁ」
内ポケットにそんなデカイものが入るワケがない! 内ポケットに入る程度のモノで電磁屠針銃が防げるものか!! 俺の殺死を防げ
る筈など絶対にないのだ《・・・・・・・・・・・・・・・・・・》!!!
「まさかキサマは」
──銃を嫌うもの《gun damn》──
次こそは「睡眠」「トカゲ」「紫水晶」で。ゴメンナサイ orz
421 :
名無し物書き@推敲中?:2007/03/21(水) 21:09:28
チロチロと舌を伸ばしながら、木の枝から小屋の窓を覗き込む。
僕はこれでも王子様。魔女の森で茸を取ったらトカゲに変えられてしまったのだ。
紫水晶の塊。あの気持ちの悪い宝石がどうやら魔女の力のみなもとらしい。
あれをどうにかすればきっとどうにかなる。ああ、脳みそが小さいと考えにくい。
魔女が出かけたその隙に、なにかないかと魔女の家に忍び込む。
そこで見つけた魔法の書物にあった魔法の生き物。これならきっと何とかなる!!
「魔女さま魔女さま」
「ああなんて事、ツチノコじゃないか!」
ぼくは毒キノコをたくさんたくさん飲み込んで、とてもトカゲとは見えない姿。
「僕はツチノコ。どうかこの僕の価値を認めて、この身とその紫水晶を交換して下さい」
「この水晶をかい! どうするかね、とりあえずお前を食べてから考えよう」
僕と交換に紫水晶をゲット作戦、失敗!
「さて捕まえた。とりあえず捌いてからだね」
腹を食い破って魔女を倒す作戦、失敗!
「なんだいこりゃ、手足が付いてるよ。トカゲじゃないか!」
お腹の毒キノコで魔女を倒す作戦、失敗!
「それ全部俺ENDチョッコーじゃん」
僕を迎えに来た天使に、鋭いツッコミを入れられた。
次は「ホチキス」「星の町」「一発ギャグ」
推敲の段階で「睡眠」消しちまいました。すみません。
星の町は日本各地に在りすぎて、扱いづらい・・・
どう扱えばいい? 地名を指す名詞として?
それとも童話に出てくるような空想の町として?
ルールで固有名詞は無しだから、空想の町にした方が良くないか?
「誰もがホチキスの針のように死んでいく」
唐突に運命から放り出された命の灯火は、流星のように尾を引きながら土に還る。
「未だ生きている。だが、ただの順番待ちに過ぎない」
如何なる状況もロスタイムに相違ない。死期を逃して無様に生きる俺のような存在なら尚更。
苦味走る想いだけを噛み殺して、日常を硝煙の彼方へ掻き消していく日々。
まるで星の町――惑星のワルツがさんざめく生まれ故郷の夜空。
天体望遠鏡で、夜通し追いかけ続けた星の数さえ、古び、色褪せ、心のどこかへ埋葬されて思い出せない。
「そう――テロ屋ではなく芸人だった頃の俺のことですら」
様々な火器の扱い方を覚えた。だが、引き替えに、一体幾つの一発ギャグを見失ってしまった?
ステージで客を沸かせていた俺は――スポットライトのど真ん中に居た俺は、過去に追いつかれ、ホチキスの針のように弾き出され――
だが俺は、一つでも多くの笑顔が見たいと願ってしまった。
そしてこの国には、自由に笑えるだけの平和が欠けていた。ならば――どうするべきなのか。
答えは一つではない。幾つもあった。
それでも俺はテロ屋を選んだ。心の底から笑う、人の笑顔が見たいと願ったからだ。
「誰もがホチキスの針のように死んでいく」
俺もまた――いつか、死屍累々積み上げられた屍の山を乗り越えながら、同様の死を迎えるだろう。
「それでも、一つでも、多くの笑顔を救えるのなら」
俺は無様な自身を、ほんの少しだけでも許すことができる。尽きかけた命の灯火に、僅かながらも希望の灯りを見いだすことができる――
次は「カーテンコール」「ミートソース」「西部劇」で
>>過去に追いつかれ、ホチキスの針のように弾き出され
うまいと思った。こういうの好き。
このご時世に西部劇のガンマン気取りなんて、俺も焼きが回ったもんだ。
血でぬめる銃把を握り締めながら、空いた左手で最後の煙草に火を付け――ガス切れかよ、ついてねぇ。
俺があいつと出逢ったのはきっかり15年前のこと。
貧民街で5歳のあいつに財布を抜かれたのが縁で、何の因果か手許に置いて育てることになっちまった。
そりゃあ最初は手を焼いたさ。貧民街育ちのガキなんざ猿並のおつむさえ持ち合わせちゃいないからな。
だけど知っての通り根は優しい娘だ、15になる頃にゃ俺のことをパパ、パパって慕ってくれてよ。
俺の好物だからって毎日毎日ミートソースのスパゲッティを作ってくれたっけか。
それがどうよ、今じゃ世をときめく歌姫様で150$のチケットさえ5分で完売だそうだぜ。
そんな金の卵を利にあざとい「こっちの世界」の奴らが放っとくわけがねぇ。
あれよあれよという間に関係者が囲い込まれ、気付いた時にゃ逃げ出せないようにすっかり薬漬けさ。
まぁよくある話だが、あいつにだけは起こっちゃなんねぇ話だった――決してな。
そして今日はあいつの公演の千秋楽。こんな茶番に幕を引くにゃ持って来いの日だと思わねぇか?
だから俺はこうやって闇に潜んでいるのさ。
錆び付いたS&Wを握りしめながら。
光を浴びるあいつの姿を思い浮かべながら。
鳴りやまないカーテンコールを遠くに聴きながら。
「老醜」「訣別」「喝采」
我々は死に場所を探している。赤枝の騎士団と人々に崇拝されたのも遠い昔日。
我々は、いささか戦に疲れすぎた。若かりし頃のように連戦連勝、と云うわけにもいかなくなった。
時に敗走し、敵に背を見せることも、少なからずあった。
そんな我々に与えられる賞賛は、次第に影を潜めていき――やがては嘆きや誹りの醜聞に飲まれていった。
「老醜とは酷なものだな」
「そういうものだよ。老いれば老いるほど、引き際と死に場所を悟らねばならない。
……民の求める英雄の偶像を手放す日が来た。それだけのことだ」
「我々の時代では無くなった、と?」
「重荷は次の世代が背負ってくれる。……訣別する日が来たのだよ」
「…………」
無意識に、傍らに立てかけた槍に触れる掌。
それに気づき、固く拳を結び、持ち上げようとしたが――最早片手では、一寸も重みに逆らうこと敵わなかった。
「フ――」
魔槍の英雄も老いたものだ。先に逝った大勢の友と共に戦い続けたあの日々は――瞳を閉じれば、今でもまざまざと目蓋の裏側に蘇る。
信念ばかりではなかった。憎悪があった。恐怖があった。飢えも、渇きもあった。
英雄――その響きがもたらす民の喝采に溺れ、人にあらざる、蛇蝎すべき行為に手を染めたこともあった。
だが、それでも、一つだけ不変のまま胸の裡で輝き続けた真理。
美しいものが、見たかった。戦の果てに平和があるのなら、それを一目で良い、目にしてから死に逝きたかった――故に。
「老醜と蔑まれようとも――私は戦い続ける」
戦いの最果ては、戦場以外に無く。また散り際も同じ。
英雄の落日は、彼の地の地平に没するものと相場が決まっている。
次は「シクラメン」「死語」「ペットボトル」で
僕の投げたペットボトルはごみ箱の縁に当たり、地面に落ちた。やれやれとブランコから立ち上がりそれを拾いに行く。
今度こそきっちりダンクシュートを決め、僕は腕時計を見た。画面はその表面にデジタルの「20:08」という数字を映し出している。
きぃ……と背後からブランコの軋む音がし、僕は振り向いた。
「キミ、こんなところで何してるの?」そこには警察官がいた。年齢は、オニーサン、と呼ぶのがふさわしい程度か。
「いや、別に……」
「ははは、『別に……』なんて言葉、イマドキ流行んないよ。もう死語だよ。」よっ、と小さく踏ん張って、そのオニーサンは腰を上げた。そして質問を繰り返す。
「ねえ、こんなところで何してるの?」
これ以上はぐらかすのも不自然だと思った。変な嘘をついて家に連絡されても、母がまた怒るだろう。だから僕はなるべく神妙に見える表情を作り、本当のことを白状した。「ちょっと塾をサボってるだけです。」
「ちょっと?」
「いや、結構……。」三分の一は欠席してます、と補足しようとも思ったが、無駄なことはしない方が良い。
「なんでサボるのさ?」
「だって勉強なんて役に立ちませんよ。嫌いなんです。自分、家の印刷会社を継ぐんです。」
「本当に嫌いかい?」
「はい。」
僕が答えると、オニーサンは少しだけ笑った。「だったら逆に、勉強しちゃいけないと命令されたらどうかな? 塾に行くな、学校にも行くな、本屋で参考書には近づくな、なんて。」
そんな風に言われると……僕は少し考え込んだ。
「ほら、そんな顔をするってことは、本当はまんざら嫌いでもないんだろう、勉強は。」
そうしてその警察官は自転車にまたがり、去っていった。
空から雪が降り始めた。三月のシクラメンの花に、うっすらと重なってゆく。
↑「シクラメン」「死語」「ペットボトル」
↓「秒針」「ドア」「鼻」
シクラメンに水をやろうとした手が、途中で止まる。
……枯れてるじゃない。いつの間に?
行き場のなくなった手をぎごちなく下ろしながら、鈍くなった頭で考える。
今日はいつ? ここはどこ? 私は……誰? 全てがわからない。
何となく考えるのが億劫になり、そのままゆるゆると頽れる。
傍らに転がるペットボトルの蓋を開け、一口飲もうとしてすぐ吐き出す。腐ってる。
白いネグリジェが汚れてしまった。そう思ったのも束の間、それが既に白くないことに気付く。
骨と皮ばかりの身体に張り付く布は、シルクの艶どころかその柔らかさえ既に失い。
窓や扉どころか一切の継ぎ目さえ見付からないこの部屋で過ごした時間が一気にフラッシュバックし。
すぐさま忘却と愚鈍という砦に我が身を押し戻すことで狂うまいと躍起になり。
毎日がその繰り返し。既に「日」という概念さえ消え去ってしまったけれど。
ここでの1秒は1分と等価。1分は1時間と等価。1時間は1日と等価。1日は1週間と等価。1週間は1年と等価。
そして1年は……無と等価。ならば私も無と等価ということになりはしないだろうか。
実存主義という今や死語に等しい思想のことが脳裡をかすめる。
死に至る病に罹った者は幸せ。いつかは無に返るから。
だが無に帰すこともできず存り続けているのに無に等しい私は、一体どうすればいいのだろう?
そして私は今日も眠り続ける。いつの日か、本当の無に同化することを夢見ながら。
「花弁」「奇蹟」「諦念」
433 :
432:2007/03/22(木) 16:28:12
434 :
秒針 ドア 鼻:2007/03/22(木) 16:42:39
暗い廊下
微かに鼻をつくアルコール臭
冷たい黒ビニル張りの長椅子
白衣の群れ
四つの滑車がけたたましく音を立て
薄明かりの奥へおちてゆく
ドアが閉まる
赤い
ランプが点る
尖った秒針
ダイヤル上を滑ってゆく
酷く遅い
次は「天王星」「エレベーター」「モンブラン」
「×び太くん! いつまで寝てるんだ! さっさと起きて秒針のようにあくせく働けこの野郎!」
良い方向と悪い方向。そのどちらかに転じるベクトルが五分五分だとすれば、
いかなる道を辿ろうとも、平行世界の半分は+に通じ、残りの半分は-に通じる。
こうして×ラえもんに口汚く罵られている状況から鑑みて、おそらく彼は悪い方向に傾いてしまったの×太くんなのだろう、とひとまずの見当をつけておく。
さて彼は面倒臭そうにもそもそと布団から這い出すと、寝ぼけ眼のまま、壁にもたせかけてあったコ×ーロボットの鼻を押す。その鈍重な動きに反比例して、なかなかの手際良さだ。
ここから、「朝、目を醒ますと同時に×ピーロボットの鼻を押す」という行為が彼の日課になっている、と予想するのは容易だろう。
やがて×び太くんの容貌へと変形し、のっそりと立ち上がった彼は心なしかうんざりとした面持ちで、二度寝に勤しむ主人を見下ろしながらも、律儀にランドセルを背負い、ママさんに朝の挨拶を済ませると、朝ご飯も食べずに外へ飛び出していく。
時間は八時三十分。走っても100パーセント間に合わない。完全に遅刻である。
時々、ド×えもんが気を利かせてどこ×もドアで送り届けてくれたりもするのだが、最近の彼は×び太くんに相当愛想を尽かしているらしく、コピー×ボットへの扱いもぞんざいになってきた――
「以上で状況説明を終わります。さて、どうですか? ×ワシくん。
本当に彼の元へネコ型ロボットを送り届けることは正しかったと断言できますか?」
「……いいえ。ゴメンナサイ。彼がこんなに駄目人間になるとは思わなかったんです」
「我々時空警察は、過去への作為的な介入を許しません。
よって貴方の行為は違法であると判断し、法律に基づいて貴方を拘束します。宜しいですか?」
「はい……」
×ワシくんはもう何も言えなかった。ご先祖様のあまりの痴態っぷりに弁解の余地すら見当たらなかったからだ。
良い方向と悪い方向。そのどちらかに転じるベクトルが五分五分だとすれば、×ワシくんがこうして時空警察に逮捕される未来もありうるわけで。
――何か意味深な発言を付け足しておくとすれば「人は与えられると堕落する」
折角書いたのでうpさせて貰いまった・・・
次の方のお題は
>>434さんのです
436 :
434:2007/03/22(木) 17:07:13
ありゃ。「花弁」「奇蹟」「諦念」 も可ってことで。
「暗号だ」
モンブランを片手で鷲掴みにして頬張りながら、相棒はポツリと呟いた。
街並みを遥か足下に望みながら、エレベーターは屋上へと静かに登り詰めていく。
私と二人っきりになってから、ようやく死体の傍らに表記されていた『石・神・我々』の三単語について言及する辺り、彼の用心深さが窺える。
「暗号?」
「そうだ……暗号だ。ガイシャが俺達に残したダイイングメッセージだ。
ラテン語、ヘブライ語、英語、の組み合わせでおそらくは正解だろう。単なる置換法だ」
彼にそう告げられても、どこをどう置換すればいいのか分からない。
「……つまりだな」
彼は最期の一かけを口に放り込み、飲み下すと解読法を開陳し始めた。
「発想の飛躍が一つだけ二段階用意されていることに悩むべきポイントがあった。
それは『石』だ。『石』だけ発想が二段構えで必要になる――が筆頭のそれが暗号のすべてを象徴していると考えれば、それほど場違いな置換でもなかったわけだ。
さてこの『石』だが。これを古代ローマ時代に使用されていたラテン語で訳すと『calx』となり元素記号『Ca』の由来となる。
そして次に神だが。こっちは古代繋がりでもヘブライ語訳だ。神は当時の言葉で俗に『el』と表記する。
そして最期。これは英語で直訳して『us』
これらをすべてつなぎ合わせると『Caelus』になる」
「カイルス?」
「ああ。カイルス――ローマ神話に登場する神だ。ここで『石』に象徴される共通点が表れるわけだな……そしてこのカイルスという神は、本来なら『天王星』に付けられるべき名前だ」
「天王星?」
「ああ。天王星だ。重要なのはここからだ。
天王星を発見した人物と同じ名前の客が、今日集められた客の中にいる。
そしてそいつは、遺産相続権の序列七位――太陽から数えた天王星の位置と丁度同じ場所に居る。
流石は天文学者――らしい暗号を残してくれたもんだ」
次の方は
>>436さんのお題で
人類には為す術がなかった。
突如東京上空に現れた一頭の竜。
対空砲にも戦闘機のミサイルにも、全く傷を負った様子はない。
今現在も手を尽くして暴れる竜を食い止めようとしているが、自衛隊と横須賀基地の米軍だけでは、全く障害にもならぬらしい。
遙か上空で、AH-6アパッチが竜の爪に捕まり、まるでラジコンのようにばらばらに砕け散った。
プロペラの残骸、座席のシート、そういった部品が崩れた都庁の上に降り注ぐ。
エレベーターの中で蒸し焼きになった死体の腹に、直角にひん曲がったマシンガンの砲身が突き刺さった。
と、竜が急に向きを変え、地面へと突進してくる。
海岸の小さな蟹のように、人間たちは車両や陣地から逃げ出そうとする。
「じょうだんじゃねえ!」
死んでたまるか、と思ったがうねる人並みの群れに阻まれ、上手く移動できない。
竜の人間の身長ほどもある胴体が、俺のすぐ傍らを、滑るように通り抜けた。
風圧に俺はよろめき後ろに尻餅をつく。
びちゃりと、ズボンに赤い液体が染みこんだ。気持ち悪い。
すぐさっきまで俺ともみ合っていた人間たちは今、すり鉢で潰されたように無惨な姿をさらしている。
目の前に転がっている誰かの太ももは、断面の組織がまるでモンブランのように裂けていた。
俺とその屍たちを覆うように、影が降りてきた。
見上げるとあの竜が、天王星のような青い瞳で、こちらを凝視している。
↓「ラーメン」「花」「蜜柑」
>>1に
5: お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続
て書いてあったから、流れ整理するためにあえてお題ださずに
>>436に繋いだ次第。
重複した時のルールわがんねーから上記を参考にして自己流に解釈してみたんだ
新参でスマソ
>>440いや、自分も新参ですので。
一度無視したお題は破棄するのかと思った……けど、「優先」という単語から考えると、無視したお題も次に消化すべきだろう、なんて。
>>440の言い分が正しい気がするし、
口論(?)は全くしたくないので、
次からは何事もなかったかのように
>>436でおねがいします。
442 :
432:2007/03/22(木) 19:22:42
最初に被ってしまったばかりに申し訳ない……。
>>437さん(と
>>436=434さん)は
>>433で取り消したお題に配慮して
くれているけれど、このまま
>>438さんのお題を使ってもらえれば。
ご迷惑をお掛けしました。
「花弁」「奇蹟」「諦念」「ラーメン」「花」「蜜柑」
俺様の思考はすっかり諦念に支配されていた。エネルギーパックも最後の一個となり、
自身のあった体力のほうもほぼ限界。それにしても最後にここを訪れたのはほんの半年か
そこら前のこと。あの時はせいぜい催眠性の植物フェロモンを出す程度だったのに、
まさかこんな短期間に筋肉を備え、獲物を握りつぶそうと襲ってくるように進化しているとは。
しかし筋肉の花弁は美しくない。まるでラーメンの上に円く広げられたチャーシューのようだ。
しかも撃っても撃っても一枚も落とせないときた。トレジャーハンターとして色んな星を
渡り歩いたが、人食い花に飲み込まれて終わりとはねえ。相手が植物と見て甘く見たか。
あの花びらを斬ってレアに焼いたら旨いのかねえ・・・。と、大の字に寝ころんだ俺様の
脳裏にふと閃きがよぎった。花とは言え肉を取って喰うということは、消化器官も備えて
いるはずだ。あの太い茎か?でっぷり膨らんだ根か?茎に賭けてみるか?
祈るようにエネルギーパックを装填し、奴に向かってブラスターをぶっ放した。
俺様の日頃の行いがいいせいか、白い線条が茎と根の中間点を打ち抜き、期待した以上の
大量の消化液がぶちまけられた。それをもろに被った肉の花は周りの植物も巻き込みながら
煙に霞んで溶解していく。諦念と絶望との違いは、前者は悟りを開くという意味もあるって
ことだが、この場合はどうなんだか。学のある俺様にはわからんが。
前世紀に滅びたこの星の科学者達が、植物遺伝子工学の粋を集めて作り出した奇蹟の果実、
温州蜜柑を手にした俺様は意気揚々と青い星へ飛び立った。
次は「藁半紙」「ワニ」「ネオンサイン」
「白いワニがね、襲ってくるんだよ……」
大家と呼ばれるその漫画家は、カウンターに涎を垂らしながら寝言を漏らしていた。
その襟を乱暴に引っ掴んで顔を上げ、少々手心を加えたビンタを計8発お見舞いする。
初老のマスターが何も見なかったふりをして背を向けた。あんた長生きするよ。
澱んだ目を開いたその顔に、容赦なくグラスの水を浴びせてもう2発。
ようやく意識がはっきりしてきたらしく、男は大きく身震いをした後私の顔を見つめた。
「あんた、確か……」
皆まで言わせず、その顔の前に血判の捺された藁半紙を突き出す。
震える字で「今後もう二度と〆切を破りません」と書かれたそれは、意外な程の効果をもたらした。
その男がいきなり引きつけを起こしたのだ。
舌を噛まぬよう近くの雑巾を口に押し込み救急車を呼んだ後で、私はそのバーを後にした。
少々手荒すぎたか。幾ばくかの苦い思いを噛みしめながら私は煙草に火を付けた。
私のような手合はこの業界では「捕獲人」と呼ばれている。
文字通り逃げ出した作家や漫画家を「捕獲」するのがその仕事だからだ。
その由来は単純明快。好きな作家が原稿を落とすのを嫌う熱烈な読者の自主的な活動だった。
まずは同じ立場の読者に、そして当然やがては編集者に感謝されてこの職業が確立された。
作家を愛すればこそとことんまで追い込まねばならない。何と因果な商売か。
どさくさに紛れて持ち出した漫画家のベレー帽をそっと抱き締めながら、私は空を見上げた。
――派手なネオンサインの文字が滲んで見えたのは、きっと疲れているからだろう。
「睡魔」「拘置」「解毒」
# 「ラーメン」「花」「蜜柑」「花弁」「奇蹟」「諦念」
「学士様からついでもらえるなんて光栄でございます」
ゆみは自分の水玉のコップを傾けながら、上目づかいでふざけた。
「なんだよ、『生茶』で光栄もなにもあったもんか、学士様こそ」
僕は2リットルペットを置いて、もらったばかりの卒業証書の筒で
晴れ着用のセットを解いたゆみの髪をそっと叩く。
「あー、学士様がぶったー!」
ゆみがそう言って自分の筒を振り上げたとき、薬缶の笛が鳴った。
荷造りの終わった段ボールだらけの部屋を、ゆみはお湯を止めに立つ。
梱包した蜜柑箱をテーブル代わりに、カップラーメンを二つ並べて僕たちは待つ。
もうカーテンを取ってしまった窓の外の夜に僕たち二人とたくさんの箱が映る。
大好きだった本も、誕生日にもらったクッションも、出会ったころの手紙も、
詰めてしまえばどれもただの段ボールの一箱にすぎない。そんな諦念。
ゆみが僕の分の花束から花弁を一枚とって財布に入れると、花は傷ついて欠けた。
僕もゆみといることでいろんなものをなくして、でもそれが何より尊い奇蹟だと思う。
一緒の時計を見ている。時間まではあと少し。
#6語やってみたけどほんとに流れ早いな…。
#お題は上ので。
「おい、聞いているのか?」
男の脇に立っている黒スーツが凄む。身長2メートル近くありそうだ。
「ずっとこの調子で。何も喋ろうとしないんですよ。」
だめだ。喋る訳にはいかない。解毒剤のありかが奴らに知れたら、
それこそウチの組織はおしまいだ。
「ふむ。仕方がありませんね・・・」
小男はあきれた様子で首を振ると、黒スーツを引き連れて出て行った。
とりあえずは凌げたか。しかし俺はあと何時間持ちこたえられるだろうか・・・
「だめだな、ありゃ。埒があかん。」
「はあ、着用していた制服の校章から、市立第二中の生徒だというのは分かったのですが、名前も住所も、アレでは・・・」
「もういい。学校に連絡しろ。何時までもウチで保護しておけん。」
__________________________
434です。無用の混乱を呼んでしまい申し訳ない。
次から、重複等の議論はこっちでやりましょう
裏三語スレ より良き即興の為に 第四章
http://book4.2ch.net/test/read.cgi/bun/1106526884/ ちなみに感想はこちら。
この三語で書け! 即興文スレ 感想文集第12巻
http://book4.2ch.net/test/read.cgi/bun/1140230758/ 次は「スパイダー」「懐中時計」「生命」
痛恨のコピペミス。本文を再掲します。
「いい加減、本当のことを話してくれないかい・・・?」
使い古された科白を吐きながら拘置室に入ってきたのは、
背の低い小太りの男だ。逆光のため、顔は良く分からない。
「あなた、ここに来てからもう丸3日、飲まず喰わずだというじゃないですか。それに眠ってもいない。」
確かに、自分の中で空腹や睡魔との戦いは限界に達しようとしていた。
しかし、出された食事と水は毒が盛られているかもしれないし、
もし眠ってしまえば何をされるか分からない・・・隙を見せる訳にはいかないのだ。
「おい、聞いているのか?」
男の脇に立っている黒スーツが凄む。身長2メートル近くありそうだ。
「ずっとこの調子で。何も喋ろうとしないんですよ。」
だめだ。喋る訳にはいかない。解毒剤のありかが奴らに知れたら、
それこそウチの組織はおしまいだ。
「ふむ。仕方がありませんね・・・」
小男はあきれた様子で首を振ると、黒スーツを引き連れて出て行った。
とりあえずは凌げたか。しかし俺はあと何時間持ちこたえられるだろうか・・・
「だめだな、ありゃ。埒があかん。」
「はあ、着用していた制服の校章から、市立第二中の生徒だというのは分かったのですが、名前も住所も、アレでは・・・」
「もういい。学校に連絡しろ。何時までもウチで保護しておけん。」
「ラーメン」「花」「蜜柑」「花弁」「奇蹟」「諦念」「睡魔」「拘置」「解毒」
今年ももう桜舞う季節か。窓から舞い込んだ一片の花弁が、私にそれを教えてくれた。
東洋の奇蹟とも讃えられる桜並木は、特産の蜜柑同様この過疎村の重要な収入源でもある。
ラーメン屋を営む知己の家では、この時季ばかりは出店の焼鳥屋の方に精を出す。
この1ヶ月の出店の売り上げが平時の4ヶ月分に匹敵するのならば、それも道理であろう。
この拘置所の庭にも数本の桜が咲いている。
幸い今は自由時間だ。私は睡魔を誘うだけのフッサールを閉じ、庭に出た。
まだ八分咲きではあるものの、見事な枝振りの桜たちが私の心を平穏にしてくれる。
それは一種諦念にも似た後ろ向きな感情だったかも知れないが、何の問題があろう。
この憎しみという感情の解毒剤となるのであれば、私は何でも喜んで受け入れるつもりだ。
そう、私はもう憎んでなどいない。無辜の私を終身刑に追いやった弟を。
そしてその弟と密かに不義を働いていた妻を。
憎んでなど、いるものか。
私は溜息をつき、房に戻ることにした。
やはりこの花は危険だ。いともさり気なく人の心を狂気に誘なう。
私には春を愛でる風流者よりも、薄暗い部屋で蠢く本の虫がお似合いのようだ。
お題は
>>446で。
449 :
名無し物書き@推敲中?:2007/03/22(木) 22:12:59
相変わらず不気味な男だ。金さえ払えばなんでもしてみせる。
子供の世話でも、殺人依頼でさえ翌日にはこなしている。
少し、試してやろう。
「スパイダー。お前はなんでも出来る、そう言ったよな?」
「あぁ、金さえ払えば」
「今回は殺人依頼の二倍の報酬を払おう」
男の眉が少しつり上がる。
「スパイダー、自らの生命にピリオドを打つことはできるか?」
私は微笑を隠しきれなかった。どんな反応をするのだろう。
「……」
男は無表情のまま拳銃を取り出した。
拳で覆いきれないほどのリボルバーに鉛玉が装填される。
「おいおい冗談だよ。お前を試そうと思ったんだ。無茶すんなよ」
「実は、半年前に依頼を受けたんだ」
懐中時計が零時を指す。
「『殺された夫の敵を命日に討つこと』あんたが殺した社長の夫人からな。俺の命日にならずに済んだぜ」
次は「火」「水」「木」
かつて神は8つの日を創りたもうた。
最初は太陽の日。全てのものを生み出す日。
次は月の日。生まれたものを見守る日。
次は火の日。それに力を与える日。
次は水の日。それを豊かに育む日。
次は木の日。それに住処を与える日。
次は金の日。それに道具を与える日。
次は土の日。それに食物を与える日。
そして次は――次は闇の日。全てのものを滅ぼす日。
ただ8つ目の日だけがあまりに勢いが強すぎた、強すぎたのじゃよ。
神の創りたまいしものどもがほぼ全て吸い込まれてしまったのを見て。
神はそれだけ封じたもうたのじゃ。
だからわかるな、我が息子たちよ。
闇だけは見つめてはならん。闇だけは覗き込んではならん。
闇はすべてを呑み込まんと身構えておる故。
封の解かれん日は今か今かと待ち構えておる故。
闇にだけは気を付けよ――。
古老は息を引き取り、部落中を悲しみの漣が覆った。
その最も若い曾孫は涙を拭い、密かにほくそ笑む第二古老の背中を睨め付けた。
いつかお前の悪事を暴いてやる。どんな犠牲を払っても。
その瞬間、古老が禁じた闇が我が身に宿ったことを若者は知る由もない 。
「至芸」「画策」「怠慢」
「私、膵臓ガンの末期のようで。一人で死ぬのは心許ないんですよ」
画策したのだ! 奴は、俺の武器で道連れを作るために!!
「怠慢に生きる癖に、死が絡むとそれこそ必死。ならば楽しく死なせてやるのが人情ってモンでしょ?」
殺しの仲介人だったその男。薄ら寒いその表情は笑いを必死に堪えてるものだ。
至芸のギャグ。
お笑い芸人を目指していた俺が行き着き、自らその道を閉じてしまったのは家族の笑死体だった。
「クク、もうだめだ! ぎゃはははははははははははははははははっははははっはっは、は、つっ、っ」
覚悟があって耐えていた奴も、爆笑した。そしてその場の全員がすでに笑いすぎて痙攣し、しかし。
「バカ野郎、俺の芸を舐めるな!」
俺の殺しの相棒、超指向性スピーカー。ソレとすり替えられていた拡声器のボリュームを最大にする。
「あ、うんこでそう。プリッ♪」
テレビカメラの前に尻を突き出し、前から入れたマイクでズボンの肛門のあたりを押し上げる。
ブッ! と、俺の屁が全国の茶の間に流れた。
「っっ、く、げぁ、は、はぁ。……ナニソレ?」
笑いから脱した誰かが呟く。
究極のカウンターギャグ。一発の屁で日本は救われたのだ。
次は「深海」「積乱雲」「チャンバラ」
買い物帰りにいつもの小高い丘に登る。
空の抜けるような蒼さとドデカイ積乱雲の白さが、じっとりとした夏を爽快に感じさせてくれる。
そっと目を瞑り、空に吸い込まれていく自分を想像する。
ゆるい翠の風が僕をそっとさらう。何処までも流れ、なにかも忘れ、このまま僕以外の何かになれそう。
やがて僕は、空をまるごと吸い込んだ海に吸い込まれてゆく。
きらきら輝いてとても綺麗。段々と光の粒が小さくなってゆく。
沈んでいく、深く深く。何も見えないし、何も感じない。
深海の底は暗闇の世界。誰も僕に触れない。寂しさも開放感も無い、暗闇。
このまま闇に溺れて彷徨って、いつか病み溶けてしまいたい。
そっと目を開け現実を呼び覚ます。遠くでキャッキャッと楽しそうな声が聞こえる。
そろそろ帰らなきゃ。
「ただいまぁ。母チャン、バラ肉買って来たよー。」
お題
「シーチキン」「蒼穹」「夢」
「A.C2022、九州戦役。一人の男が竜に挑んだ」
竜――それは、鋼の翼、鉄(くろがね)の鱗に、炎の息を纏う破壊の権化。
積乱雲を切り裂く咆哮を千里に響き渡らせる神の眷属。人よりも遥か高みの頂に君臨する偽神(デミゴッド)。
人類が講じた、ありとあらゆる自衛手段はその身一つで打ち砕かれ、世界は緩やかに滅亡への道を下り始めたかに見えた。
「だが、戦があれば、いつの時代であろうとそこに英雄は顕現する」
ある日、唐突に男は現れた。誰も素性を知らず、またその姿を目にした者ですら僅かに生存するばかり。記録には何一つ痕跡を残さず、竜と互角に戦い抜いた史上最強の人類。 彼の名は――
「Christopher――その名が冠する意味は『救世主』ではなく」
『救世主に捧げられし者』。すなわち――『生贄』
人類は人類の手によって救われなければならない。いかなる時代も人は人としてその歴史を、世界を築いてきた。
故に、それに離反する異端はすべからく迫害され闇に葬られてきた。彼もまた、例に漏れず――その運命は悲劇に幕を閉じる。
「自由に大空を舞う獣と対等に渡り合い――業火に巻かれ、鋼鉄の爪に裂かれ、片腕を吹っ飛ばされながらも、
なお彼は勇猛果敢に挑み続けた。あれは、ジャパニーズチャンバラに通ずるものがあった、と確信している」
彼の存在を目の当たりにした、戦闘機乗りは後に語っている。
「当時、俺は最新鋭の機体X-2に搭乗していたんだが――彼我の戦力差は圧倒的すぎた。
記録を振り返れば分かると思うが、一個師団で挑んだ我が国の部隊はものの五分で壊滅状態に導かれている。
俺も死に物狂いで戦ったが、死を受け容れる他なかった……。彼が現れたのは、丁度俺がそんな絶望に浸っていた時だ」
彼は、唐突に竜の頭上へと舞い降り、そして――
「そしてさっきも話したとおり、満身創痍の身体を引きずりながらも竜を伐った。伐って――竜の身体と共に、水平線の彼方へとその姿を消したんだ。
あの海域の深海をサルベージすれば、竜か彼か、そのどちらかの遺骸を引きずり上げることは可能かもしれないが――」
彼は分かってるだろう? と云わんばかりに目配せをくれた。
そう、彼はこの世界にあってはならない存在なのだ。故に彼の存在を暴こうとするものはなく、語り継がれる伝説にChristopherという名を留めるばかり。
「せんぱーい。またお昼ご飯シーチキン缶一個ですか? 死にますよ? マジで」
「……夢のために死ねるなら本望だ」
「まーたそんな強がり云っちゃって……」
うるさい後輩である。俺の聖地にずかずかと土足で踏み込んできては、余計な世話を焼きまくるお節介焼きさんである。だが、俺はそんな後輩を好意を抱いていたりもする。なぜなら。
「こんなことだろーと思って、先輩の分もお弁当作ってきたんですけど。食べます?」
「俺は据え膳を拒んだりしない派だ。恵んで貰えるならなんでも貰う。たとえそれが道ばたに転がってる石コロであったにせよ」
「なんか路傍の石と、私のお弁当並列に並べられるのってスッゲー気に食わないんですけど」
「気にするな。余計な物事を気にすると思考が鈍る。……知っているか?
ありとあらゆる芸術、学問、哲学の基礎が築かれたギリシャ=ローマ時代の話を。
あの時代は奴隷制度が徹底していたお陰で、衣食住に困ることはそうそうなかったそうだ。ゆえに思考は究極的に先鋭化し、素晴らしい知識の数々が発見されるに至った、と云う――」
「んーな余計なウンチクはいいですから。人からタダで物貰う時には云うべき決まり文句があるでしょう」
「…………。ありがとうござい」
「なんなんですか。その前振りの沈黙と、語尾足らずの感謝の言葉は。……ま、いーですけど。
で、せんぱいはどーして、そんな必死でお金貯めてるんです?」
「貯蓄が趣味だから」
「冗談ですよね?」
「冗談だ。……俺が金を貯めているのは、あの蒼穹に至るためだ」
箸で差した空は、否が応でも己の矮小さを思い知らせてくれる。
広大で、無限で、大地のように果てがない――大気層に屈折する蒼穹。深遠なる宇宙の最下層。
この俺が、この街が、この世界が、素晴らしくも有限な水槽の底でしかないと。そう悟った日から、俺はあの非ユークリッド幾何学の楕円よりも尚美しい、蒼穹にばかり意味を見いだしていた。
そこには夢がある。そして夢しかない。叶ってしまえば、それが夢でなくなると云うのなら、空を、宇宙を追い求める夢に限りはない。
人が生涯を探査機(プローブ)として費やそうとも、それは僅かばかりの漸進でしかない。己の有限性を知るだけの無意味な一歩と等価値かも知れない。だとしても俺は、その矛盾を追い求めずに居られないのだ――
次のお題は「かさぶた」「鍾乳洞」「アラビア数字」でよろしく〜
左手の指でかさぶたを摘み剥がす。
鎖に繋がれた右手を合わせ揉み解す。
左の手のひらに僅かに載せて海水に晒す。
待つ事数分、小さな魚が血の塊を啄み、私はその魚を啄んだ。
何故私はこのような罰を受けねばならないのか。
夕日の差し込む鍾乳洞、その入り口で鎖に繋がれもう幾ばくか。
傍らの岩に刻んだアラビア数字は半ば海苔に覆われている。
私はたった一つの玉子を盗んだだけなのに。
陽と潮で焼けこげた肌に、満ち始めた潮が痛みをすり込む。
満潮になれば海水が腰布を超え、岩に捕まっていないと痛い目に遭う。
うつらうつらとしている時に体を打ち付け目を覚ました事も、何度もあった。
鶏を盗んだ男は石切場で働かされているらしい。
重労働で給金が出ないのは割に合わないが、罪人には仕方のない事だろう。
しかしあそこでは7日に一度は祭りをやり、ビールやワインが振る舞われる。
何故私がこのような目に遭うのだろうか。
──ああそうか、生きているうちの形態変化はありえない。ならば玉子が先か。
審問の場で、彼が洩らした呟きが。
周り岩という岩には正確な1300年分のカレンダーが刻まれ、
その全てが消化された頃に、彼の許される世界が訪れた。
次は「幽霊」「まんじゅう」「高架線」
通学の車窓には、毎日おんなじ景色。
高架線から見下ろす町並みは、今日もまた始まる退屈の繰り返しを暗示しているようだった。
「仙港高校前 仙港高校前到着です お降りの方 足元ご注意ください
総局線 江楠方面行きは1番線 善琴線 弦天行きは3番線・・・」
鼻詰まり声で、いつもと同じアナウンス。
「・・・足元にご注意ください 邦佛線 右回り 発車致します はいドア閉まります」
いつものアナウンスを、初めて最後まで聞いて、繰り返しじゃない一日に足を踏み出した。
実は、わたしが学校をサボるのは、これが二回目だ。
中学2年の春。大好きだったおばあちゃんが亡くなった。
ずっと病気で入院していて、覚悟はできていたつもりだったけど。やっぱり心は割り切れなくて。
ポッカリ空いた心のすきま。学校前の停留所でバスを降りなかった。
あのときの運転士さん、元気かな。
終点の回転場で一人バスを降りて、そのままベンチに座ってうつむいてた私に、
おやつのおまんじゅうを半分くれた。そして私の隣に座って話を聞いてくれた。
「わかるよ、僕もおばあちゃん子だったからね。
今君を満たしている悲しみは、時間が経てばいつか消える。
でも君は、悲しみとともに、楽しかったおばあちゃんとの想い出まで
薄れて消えてしまうんじゃないかって、それが寂しくて泣いているんだろう?」
運転士さんは缶コーヒーを飲み干すと、ベンチを立ってこう続けた。
「でもね・・・悲しいことだけど、死んだ人は、生きている人々を引きとめてはいけないんだ。
君がいつまでも気にしていると、その『想い』に縛られて、おばあちゃんは成仏できない。
君だって、おばあちゃんが墓場の幽霊の仲間入りはイヤだろう?だから。涙を拭いて、歩いていかなきゃ。
想い出は大事なものだけど、引きずってはいけないよ。大事なものは、心にしまって。
また毎日に戻っていくんだ。・・・さ、帰りのバスを出すよ。君がもう歩けるなら、学校前で降りるといい」
「・・・まもなく 縁翠台 縁翠台 お降りの方 お忘れ物等 ご注意ください・・・」
たった一駅ぶんの冒険。でも今の私には十分。
荷物を持ってホームへ降りる。向かい側のホームまでダッシュして、学校へ戻る列車へ。
ホームルームにはギリ間に合う!また、前を向いて走っていかなきゃ、ね。
460 :
名無し物書き@推敲中?:2007/03/25(日) 03:17:43
長くなってしまいました。すんません。
次は 「複葉機」「救世主」「イリュージョン」で。
先越されました。せっかく書いたので、すいませんがアップします。
頭上を通る高架線がやかましく音をたてる。
夕刻ともなると滅多に人の来ない河川敷。ましてや高架下には夕暮れ時を伝える赤陽すら届かず、
そのため薄暗い寂寥感が漂う。
夕暮れが近づくと、毎日ここに来ては自らの存在を確かめ反芻する。
何故あの時・・・どうして誰も・・・
・・・どうして・・・ねぇどうして・・・
きりのないルーチンワーク。吐き気のもよおす無限ループ。
小学校に入学するとき、大好きだったおばあちゃんに、「友達いーっぱいできるといいね。」なんて言われ、
お祝いに紅白まんじゅうをくれた日のことを思い出した。
もう限界だよ もう耐えられないから
・・・諦めてもいい?・・・
目の前には、暗く醜く紅く横たわる骸がひとつ。
僕の場所に、僕の唯一の居場所に紅く赤い夕陽が射す。
腐り、朽ち果ててゆく僕をやさしく照らしてゆく。
「知ってるー?あそこの橋の下で自殺があったんだってー、ママがゆてったー。」
「こえー、じゃ幽霊とかでるのかなー?」
お題は
>>460で
462 :
名無し物書き@推敲中?:2007/03/25(日) 15:40:23
「複葉機のメリットは安定性に優れている点にある。
その分、デメリットとして速度、機動性を犠牲にすることになるが、我々偵察部隊の役割を考慮するならば、戦闘力よりも任務遂行率を重視するのは当然と云えよう。
我が軍は敵に背を見せることを決して許可しない。だが、我が部隊に配属された貴様らには、前提として撃墜されること自体が許されていない。
いいか。如何なる状況に陥ろうが、兎に角生き延び、我が軍に有益な情報をもたらす――その一点にのみ意識を傾けろ」
スロットルを開いて最大加速。未来から召喚された僕が、この時代の人間に勝るところがあるとすれば。
それは加速時、転回時のG衝撃に対する耐性だ。あっちの世界じゃ、操縦技術が伴わず、正規パイロットになるのを諦めたが。こっちの世界では、こうして戦うことができる。
それが救世主めいた、偉大な戦いではなかったとしても。
「……右斜め後方四時の方向に敵機四」
僕は――
右へロール。沈み、機体を反転させながら、左に蛇行。急旋回でエレベーター・アップ。複雑な航路に、僅かな乱れをみせる敵編隊。そのうち迂闊な一機が、隊から離脱して強引にバックをとろうとする。
狙い通り。そのままバックにつかせながら、スロットル・ハイ。急上昇する機体。エンジンが鼓動を僅かに早める音。が――しばらく息継ぎの心配はない。単葉機とは異なり、複葉機のエンジンには持続力がある。
そのまま雲を貫いて晴天の部隊へと躍り出る。強烈な陽光のスポットライトを浴びる、僕と彼。他の役者はまだ追いついていない。
さぁ、本番はここからだ。油温計を確認する。少々高め。なら、大丈夫だ。
縦に伸びる蒼天を尻目に、シートに深く身体を預ける。ロールしながらターン。背に貼り付いていた敵機のパイロットの機影が垣間見える。遮光シェードに遮られて、表情までは読めない。
スロットルを一瞬切る。エンジンの回転数を最大減速。空の地平は逆様のまま一瞬静止。
それから――自由落下。重力に引かれ、雲の海目掛けて堕ちていく機体。
トンボさながらの宙返り。イリュージョンじみたバレルロール――
人は何かになりたいから、何者でもないことを恐れる。だけど、僕に恐れはない。
誰もが僕に追いつけない。僕には過去が無い。だから、誰も僕の影を踏むことができない。
463 :
名無し物書き@推敲中?:2007/03/25(日) 15:42:56
次のお題は「ボーリングピン」「曙光」「切り札」で
僕はぼんやりと持ち替えった陶器でできたボーリングピンを眺めた。意外と軽いボーリングピンの中にはこの僕を救う切り札が入ってるという。怪しいおっさんがくれたボーリングピン。何となく開けない方が良い、そんな気がした。
でも、やはり・・・・・・。
僕はその頃あまりに苦しんでいたため、わけのわからない希望に飛び付いてしまった。粉々に飛び散った陶器の破片。中は空っぽで何もでてこなかった。
僕はドキリとした。
怪しいおっさんはきっと、自分自身を救えるのは自分自身しかいないということを言いたいがために空っぽのボーリングピンをくれたに違いない。
・・・・・・いや、実をいうとそうでないことくらいしっかりとわかっている。僕はからかわれたのだ。
しかし僕の心に明日を生きる決心がついたのは怪しいおっさんのおかげである。
窓からは曙光が差し込んできた。
次のお題は「豚」「花」「女」
クシュ!ゥクシュ!ックシュ!!
あー辛い。この時期はブタクサだ。
スギといい、イネといい、あんた達無駄に花粉飛ばしてんじゃないわよ。
マスクをして、メガネをして、完全装備で外出してもこの有様。
仕事も捗らないし、お肌もやられちゃって化粧が乗らない。
合コンのおさそいもこのシーズンはノーサンキュー。
マスク女もイヤだけど、マスクの下の素顔はとても見せられないわ。
鼻セレブだなんてとんでもない、何度も鼻をかむから鼻は真っ赤。
まるでブタさんのお鼻よ。あっ、だからブタクサっていうのかしら。
ブタブタ云ってたら、なんだか無性に「紅の豚」を見たくなっちゃった。帰りにDVD借りて来よ。
次は「化け猫」「警備会社」「ノートパソコン」
我が輩は化け猫である。いきなり冒頭からこれでは、身も蓋もないが、名前はちゃんとある。
某小説の化け猫のように、頭から酒瓶に突っ込んで溺死しないだけの理性もある。
シャワーも浴びれば、爪も切る。服も着れば、料理も作る。
要は、我が輩は巧く社会に適合した、新しいタイプの化け猫なのである。
里長達――いわゆる、団塊の世代――我々より一昔前に、都を跳梁跋扈していた老猫達は、そんな我々を
『人間どもの配下にくだるとは。情けない』と嘆くが、我々にしてみれば毛頭そんなつもりはないのである。
猫本来の性質に照らし合わせて考えれば、すぐに分かりそうなモノなのに、彼らは全然そこまで考えが回らないのである。表層の問題ばかりに気をとられて、なぜ目の前の議題が解決に導かれないのか悩み続ける、木を見て森を見ない、所詮は現役引退したロートル共なのである。
そんな――益体もない思考を巡らせながら、我が輩はノートパソコンの電源を入れる。起動するまでの数分を、ビール缶のプルトップを開けたり、おつまみを用意しながら――
ああ、そうそう。言い忘れたが、自宅での我が輩は、ちょっとばかし変身を解いている。
細部まで変身をコントロールするのはなかなかに疲れるのだ。勤め先の警備会社に勤務している時間帯は何とか巧く、ごまかしごまかしやり過ごしているが、不審がられることもたまーにある。
ビックリした拍子に思わず、耳や尻尾がはみ出してしまったり。
ちょろちょろ動く物体を見かけると思わず、身体が反応してしまったり――本能的な部分を理性で律するのは、それなりに難易度を要する。そういった点で、人間は我々よりも優れていると云える。
ただ年柄年中発情期であることや、刺激の強い食品、娯楽雑貨を好む点については、未だに解しがたい。どうして彼らはそんな風にできているのか。
我が輩の好奇心は人間と接触し続けている限り、おそらく満たされることはないだろう。
次のお題は「ベルボトム」「DJ」「スタジアム」で
久々に彼女に会いたくなった。ここ最近はDJの仕事が忙しかったせいもあって、デートはおろか連絡すらまともにしていなかった。
彼女、ユキは俺がDJを始めた頃に出会い、下積みで苦労していた時からずっと応援していてくれた。そんな俺にも遂に、地元で一番でかいクラブから専属DJになって欲しいと誘いがきた。
嬉しかった。DJ仲間も祝福してくれ、その中でも特にお世話になり、俺にいろんなテクを教えてくれた先輩のYo!!さんが一番喜んでくれた。
仲間からお祝いとしてサッカーの横浜FC戦のチケットを貰った。
ユキはキングカズが好きで、ちょっと前まではよく一緒に横浜FC戦を観にいっていた。仲間から最高のパスを貰った気がした。
サッカーの試合前日、久しぶりに電話をした。「久しぶり、ユキ明日仕事休みでしょ?一緒出かけない?」一瞬の沈黙、ぎこちない空気が流れる。
「ごめん、明日はちょっと。やり残した仕事があって、休日出勤なんだ。」「そっか。」
電話を切り、しょうがないと自分に言い聞かせた。少しだけショックだった。専属の話もできなかった。あのたった一瞬の沈黙が、心に絡み付いて離れなかった。
次の日、俺はたった一人でスタジアムの前に来ていた。せっかく貰ったチケットを無駄にしたくなかったし、試合を観て心のモヤモヤを吹き飛ばしたかった。
さあ入場しようと一歩踏み出した時、視界の隅に見知った顔が見えた気がした。慌てて辺りを見回すと、確かにいた。
露出の多めなキャミソールにタイトなベルボトムのジーンズ。ユキだ。さらさらと美しかった長髪は、ばっさりと短くなっていたが間違いない、ユキだ。
思わず声を掛けようとした時、「おーい、ユキこっちこっち。」10mほど離れたところで知らない男が手を振っていた。
ユキは笑顔でその男の方へ歩いていった。
お題「スピーカー」「牛」「母」で
470 :
名無し物書き@推敲中?:2007/03/27(火) 17:42:30
夏休みも半ばの昼下がりの海水浴場で、私は母の正面に立っている。
母は日傘をさしながら弟を抱きかかえている。
「お母さん、お母さんは泳がないの?」
「おかあさんは貴志の面倒見なきゃ」
母はそう言って、胸に抱いた乳飲み子を抱きしめた。
「お母さん、私もだっこしてよ」
母は笑って「おねえちゃんでしょ」と言った。
「つまんない」
私はそのまま人から少し離れた入り江に移動した。
弟が産まれてから、母は私の相手をしてくれない。
貴志なんか死んじゃえば良いのに。
そう言いながら海牛を蹴っていると、岩陰に人の気配がした。
私が後ろを振り返ると、その人間は私の股間に手を入れ、股間を触り出した。
「お兄ちゃん知っている人?」
男は返答せず、私の股間を触っている。括約筋がふっと緩み、私は漏らした。
その瞬間目の前が真っ暗になり、息が止まりそうな痛みが体中を走った。
私は殴られていた。
あまりの痛みに動けずにいたが、男は私を抱え海に投げ込んだ。
白い泡の見える中、青い海に私は沈んで行く。
スピーカーからは渚のシンドバットが流れている。
471 :
名無し物書き@推敲中?:2007/03/27(火) 17:43:53
お題は「ブッシュ」、「雨蛙」、「クリープ」で。
472 :
名無し物書き@推敲中?:2007/03/27(火) 17:46:49
ごめんなさい。固有名詞なしですね。
「大統領」、「雨蛙」、「脱脂粉乳」で。
店の裏手の廃車の山から、雨蛙の声がする。・・・一雨きそう。
ヤードの隅に代車が停まる。運転席から降りてきた人物が、ドアを必要以上に強く閉めながら、第一声を発する。
「よゥ大将、直ったけ?」
「ええ、桜さん。いま済んだトコですよ。ATフルードを交換しておきましたから、変速ショックは改善したでしょう。
前よりクリープが強くなっていますので、信号待ちなどではしっかりブレーキを踏んでください。
ただ、長く乗られるのであれば、一度トルコンとAT本体の詳しい検査をしたほうがいいですよ。
あと、サスペンション回りのゴムブッシュがへたってますから、これも出来れば早めに交換することをお勧めします」
リフトを降ろしながら答える。時計を一瞥。やっぱり引渡し時間にはまだ早い。
「いーンだよ別に!車なんて動きゃあ十分なんだから。じゃ、貰ってくぜ」
男は福沢諭吉と守礼門を手渡すと、「愛車」に乗り込み、エンジンをかける。
「おゥ、調子いいじゃねえか。アンタいい腕してんな。世界一だぜ、大統領!じゃナ!」
そういい残して出て行った。・・・旋回時、CVジョイントからの異音も出てるな。ふぅ。
手を洗い、事務所に戻る。コーヒーをカップに注ぎ、脱脂粉乳を溶かす。砂糖は入れない。
ソファに腰掛けて一口啜ると、パソコンに向かっている樹理に問う。
「なぁ、俺の夢、憶えてる?」
「んー。『俺は世界一の車屋になる!』ってやつ?」
「いや、それもだけど・・・・・・」
自分が携わった全ての車が、一年でも、1万キロでも、長く愛されて使われて欲しい。
それが俺の・・・世界一よりは現実的な・・・夢だ。俺はいつでも、車が長持ちするように、同じ場所が二度と故障しないように、
完璧な修理をしたい。しかし、お客さんはそれを望んでいないのだ。大抵、最低限の応急処置でいいという。
時々、どうしても忍びない時には、見積もり外の修理をしてしまう事もある。もちろんその分は請求しないが・・・
「ねえ、あなた。これは経理担当じゃなく妻として言わせて貰うんだけど。」
樹理がキーを打つのをやめ、こちらに向き直る。
「男はいつも夢、夢というけど、女はそれに付き合ってはいられないの。夢ってのはそのコーヒーと同じよ。
クリーミーで、口当たりはいいけど、甘くないの。分かった?さ、車検整備2台とETC取り付け、今日中に終わらせなさい!」
5個いっときました(笑)。おかげで長くなってしまいましたが。
個人的には固有名詞もかまわないと思いますがね。以下裏スレで。
次は「3点」「石英」「アゲイン」で。
「ちょっとアゲイン買ってきてよ」
紫煙の脂が絡まって粘ついた埃。赤い背表紙の漫画本を戻し指先をカーテンで拭うがカーテンも同じ有様で、仕方なしに自分のハンカチで拭いた。
「本動かさないでよ? どこにあるか全部把握してるんだから。それよりアゲイン!」
カリコリという大人しい音ではなく、一行も書いたら芯が潰れそうな勢いでゴリゴリゴリゴリと書き殴る巨漢。潔白を嫌うかのように鉛筆の粉を手で延ばし原稿用紙を汚していく。
「外出てまっすぐ角曲がるとコンビニにあるから、わかるだろコレ!」
黄色と黒の小さな空き瓶が、机の横の漫画雑誌の土壌から頭を覗かせている。それはアゲインではないだろう。
「リゲインでしょ」
「いいから! 早く買ってきてっつってんでしょ!!」
洋風の古いドアを閉めるとその場で足踏みし、次第にその音を小さくしていき待つ事数秒。曇りきった石英ガラスの向こう側に影が差し、ゆっくりとドアノブが回転する。
「あ、なんでいるの?」
「リゲインありますよ。先生」
薄汚れた原稿に目を通す。この誤字脱字をそのままに出版したら気が晴れるだろうか、後悔するだろうか。何故に女子供はこのような稚拙極まりない本に傾倒するのか、わからなす。
「3点」
鞄を開き、リゲインのあった隙間に丸めた原稿を詰めた。
作家の名は二色乃秋那。当社ジュニア向けノベルの看板である。
次は「空気」「呑気」「損気」
空気が淀んできた――暗喩ではない。念の為。
あいにく傘は持ってきてないし、置き傘も盗られっぱなしだ。
さて、どうしたものか。
「まぁ、なんとかなるか」
「明日まで続くってよ。今の内に帰ったら?」
受験が終わった今、勉強する気など起きるワケない。
ワケないのだが、俺達は図書室にいる。
「風邪ひいたこと無いし、春休みだから制服濡れても構わないし」
「そこまで呑気だとバカの域に達するわね」
また一頁物語が進む。まぁ殆んど読んでないが。
「お前は大丈夫なの?」
「朝の天気予報を聴いてきたから。大雑把だと損気ね」
物語が終焉に近付いてきた。感動は一片も起きない。退屈を通り越して眠くなってきた……。
さて、帰るか。いつの間にやら本降りだ。
「待って」
「ん?」
「傘立てに青い傘があるから」
「使っていいの?」
コクりと小さく頷く。返事さえ面倒なほど集中してるんだろうか。
「折り畳み傘あるし」
「サンキュ。また明日な。」
次の日ソイツは来なかった。虫の知らせによると風邪をひいたらしい。
次は「雰囲気」「巫女」「槍」
#「雰囲気」「巫女」「槍」
「すいません。“恋みくじ”なんですが」
「はい。二百円お納めください」
「あたしは普通のほうの八番」
「はい、“運勢みくじ”ですね。百五十円お納めください」
巫女さんが愛想なく窓越しにお金を受け取って紙をくれる。
その“普通のほう”のおみくじをうれしそうに広げるこの子の笑顔は対照的に。
「なんで恋みくじにしなかったの」
「しないよ、だってあたしはカレとらぶらぶなんだから」
今日はこの子と残念ながらの友達デート。残念? いやもちろんうれしいのです。
「僕はえーと、なになに『大吉。恋の進展につながる転換の出来事が…』。へえ」
「えー、見せて見せて」
顔を寄せて見せっこする僕たち二人は、巫女さんにはどんな雰囲気と見えるのだろう。
「あたしはねー、『中吉。万事おおむね問題なし。旅行:吉。商売:吉』。ふーん」
「へえ。どれどれ、僕にも見せて」
「『人間関係:小吉。横槍は新たな関係への起爆剤と心得よ』って書いてあるね」
「ほんとだね。ねえねえあたしリンゴ飴食べたい。行こ?」
「あー。いいね。うん」
カバンを持ちかえ、“恋みくじ”を大事にさいふにしまってからついていく。
#久しぶりにこういうの書いてみたくなって。次は「朝日」「イロハ」「おしまい」で。
『眩しいな……』
俺は始発電車に乗るために駅へと急いでいた。
冬の間はこの時間はまだ真っ暗だが、今の季節は朝日が真正面から俺の眠くてたまらない目を直撃しやがる。
地元の高校を出てからずっと、自分には出世なんか縁がないのを百も承知で、俺は毎朝始発に乗って都心の会社へ通っている。
安月給ゆえ都内には住めない。楽な新幹線通勤だって夢のまた夢だ。つまんねぇ人生。
歩きながら俺は思う。
『そうだよ、こんなツブシのきかないデスクワークをして、人にヘコヘコ頭を下げて一生終わるのなんてごめんだよ』
俺は子供の頃から憧れてたんだ。生涯一俳優とか、生涯一大工とか、そういう俺にしか出来ない仕事を一生死ぬ真際まで続けることに。
今からじゃ遅いだろうか。俺は何度も考えた同じ問いをまた自分に投げかける。
『蕎麦打ち職人でも、板前でもいいな。どっかに弟子入りして、技のイロハから盗み出して……』
そうだ、俺の歳ならまだなんとかなるんじゃないか。でもどこにそんな師匠がいるかな。
とりあえず駅に置いてある就職情報誌でも見てみるか。タイミング良く俺の師匠が弟子を探してるかもしれないしな。
駅前のロータリーに入る交差点の信号が青に変わるのが見えた。
俺は未だ見ぬ師匠との出会いを思ってちょっとニヤけた。どうせこんな時間は周りに誰もいない。
俺はニヤけながら横断歩道に足を踏み出す。朝日が眩しい。一瞬目がくらむ。
キキキキキーーーーッ!
『何で……?』
俺は空中を飛び、アスファルトの地面に叩きつけられた。青信号で轢かれたのかよ、俺。
しかも轢き逃げ? 目撃者なし? そこまで思って意識が遠のく。
生涯一冴えないサラリーマン。生涯一始発で通った男。あーカッコわりぃ。こんなんでおしまいかよ。
せめて救急車くらい呼んでくれ。そうだ、師匠でもいいや。
#お題継続で
地中ふかく、夜も届かぬ場所。銃声におののき、死んだ鳥が一羽、
存在しない翼をはばたかせて飛び立つ。私は隣の壷にひそむ夫に
訊ねた。「わたしたちがここに来てから、何度の朝日が昇ったのでしょう」
夫はいつもの癖で「イロハニホヘトチリヌル……」と妙な数え方をして
(空気の代わりに、土を、土にひそむあまたの霊を震わせて喋って)、
「11だと思う。11」と答えた。「どうしてわかりますの」と訊く。ここには蟻塚
さえ届かないのだ。日の光も、その温かみも、エネルギーも、波も、粒子も、
そして時間も、もしかしたら空間さえも、ここには届かないはずなのに。
「ならば13だ、あるいは0、それとも56億7000万。朝日なんか、君は知らない
だろうが、死者にとってはいつでも好きなとき、いくつでも昇ってくるものさ」
「では」と私は言った。「私たちの全てを焼き尽くすほど、なにもかもを
覆い尽くすほどの朝日を、いまどうか、昇らせてくださいまし。私はこのような
暮らしには、とてものことに耐えられません。いっさいを朝日のなかに、おしまいに
してしまいましょう」
夫は答えた。「わかった、そうしよう」
そして、そうなった。
次のお題は「鏡像」「論理空間」「帰巣」で。
481 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/01(日) 10:40:31
「鏡像」「論理空間」「帰巣」
「信じられないだろ?」元所長は言った。
「貴女の夫は優秀だった。なぜ彼のロケットが引き返してきたか…誰も解らなかった」
彼女にとっても、つらい記憶だった。
太陽の向こう側にある、地球とそっくりの惑星への飛行。
旅立った夫は、なぜか半分の時間で地球に帰ってきた。
「地球の鏡像の様な惑星だったのだ。
帰ってきたのも、論理空間が左右逆である以外全て同じ惑星の住人で…」
看護婦達が、慣れた仕草で、車椅子の元所長を連れ去る。
「あーあ、また発作よ」「可哀想にねぇ」「気にしないで、今日は4月1日よ」
そしてその後、彼は、鏡に激突して死んだと聞いた。全ての真相は闇の中だ。
しかし彼女は知っていた。元所長の妄想こそが、実は本当だという事を。
今にして思えば、再び同じ飛行に志願したのも、一種の帰巣本能だったのかもしれない。
ロケットは墜落し、二度と帰らぬ旅とはなったが…
あの日。地球に帰ったその夜。
あの人のは、通常右に曲がっていたのに…
※
>>480の意図を汲んでみた…つもりw
次のお題は:「宇宙」「開拓地」「スパイス」でお願いしまふ
「あたし、他に好きな人ができちゃった。」
喫茶店でコーヒーを飲みながら、彼女は重々しく呟くように言った。
たしかに、宇宙航空学校に通っている彼女とスポーツも勉強も平凡以下な僕とでは、あまりに釣り合わないと思っていた。
三年前……付き合いだした中学生の頃だって、彼氏より彼女の方が優秀、とクラスメイトにからかわれたりしたものだ。
僕は何かを言いたいのに言葉を何もひねり出せずにいた。
「金魚みたいに口をぱくぱくさせないでよ。嘘よ。」
「なんで嘘なんてつくんだよ。子供じゃあるまいし。」
「つまらない日常に、ちょっとしたスパイスを加えてみただけ。」
彼女は少し満足げに笑ってから、今日はエイプリルフールだと教えてくれた。
そしてやがてウェイターが、僕の注文したサンドイッチと彼女のモカ・アイスクリームを持ってきた。
僕はパンの角の部分を一囓りして、彼女がアイスクリームをスプーンで切り出すのを見ていた。
すると彼女は思い出したように、「あたし、タイタンの開拓地へ行かなくちゃならないの。土星の衛星よ。」と事も無げに口にした。
僕は……それも嘘だろ? とかすれた声でしか言えなかった。
彼女は「嘘だよ。」と微笑んで、その日以来僕が姿を見ることはなくなった。
次、「渡り鳥」「西」「砂漠」
俺の名はジョン・西原。
言っておくが、俺はハーフじゃねぇ。れっきとしたジャパニーズだ。
じゃあなんでそんな名前なのかって?ヤボなことは聞かんでくれよ。
俺は結構活動家でね。あっち行ったりこっち行ったりで忙しいんだ。
まぁ、それでもアッチのほうはしっかり励んでるがな。すまん、聞き流してくれ。
でもな、あっちこっち行ったって見る風景は変わりゃしねぇんだ。あんた達の通勤電車の窓の風景みてぇなモンだ。
西、西に行きてぇんだ。西へよぅ。
ちょっとした旅気分でよ。西に寄ってからまた南へ帰ろうと思うんだ。
西欧美人と一夜の冒険も夢じゃな……冗談だ、半分。
まぁ、一週間もあれば着くだろうし。チャイニーズフードも満喫してみるつもりだ。ゆっくりで構わねぇ。
あっちが気に入ったら帰って来ねぇかもしれん。まぁそゆことだ。達者でな。
「ちょww待てwwおまwww砂漠を計算に入れてないだろwwwうぇww」
次、「夜」「人形」「カボチャ」
夜。おれたちは女部長の部屋に集まっていた。
ゴスロリ趣味のカーテン、その窓辺に並ぶフランス人形、不気味に口を開いているカボチャを模した置物。
電灯はついておらず、蝋燭だけが室内を橙色に照らす。一応、水の入ったバケツも部屋の隅置いてあった。
文学部という名前だけはダイヤモンドのようにお堅い部活だというのに、なぜこんなことになっているというのだろう。
部長は気まぐれな人で、よくよく何度もこのような計画を立てるのだ。
初詣には神社へ。夏には近所の標高1000mの山へ、文化祭が終わればカラオケで打ち上げ会(俺はよく知らない演歌を歌わされた!)、あとなんだかんだ色々エトセトラ。
まあ、部長の部屋は、今現在夜勤の両親が医者なのでそこそこ広く、十二名の高校生が中に入っても、余裕を持って腰を下ろせるほどである。
ちなみに部員の男女比率は推して知るべし。
あとはまあ、食べるや歌うわのちょっとしたどんちゃん騒ぎ。
ふう、とちょっとため息をつく。
と、視界が急に狭まり、頭の回りがぬめぬめとした感触に覆われた。
あはははは、というたぶん八人分ほどの笑い声。
どうやら俺は、本物のカボチャをくりぬいたもの(しかも内側の処理が適当!)をかぶせられたらしい。
髪の毛もぐちゃぐちゃ、シャツの襟も汚れているかもしれない。
それでも、それでも今はまだこのカボチャをかぶって道化になろう。
残り二ヶ月で、俺は受験のため部活を引退するから。せめて今だけは。
次、「ねこ」「ピアノ」「スプレー」
町外れにさびれた教会がある。時代に取り残されたかのような風貌。一部割れた色とりどりのガラスから、夕方の光が漏れる。通って折られて歪んで広がって。少し柔かいオレンジだった光は、教会の冷たい床につく頃、最初の状態を保ってはいない。
僕はこの頃よくここに来る。だいぶ前からこの教会はあったし、薄い記憶だが昔は結婚式なんかもしていた気がする。でもここに来たのは一年前が初めてだ。
「ピアノ弾きたいの?」
教会には古びたピアノがある。触ったこともない。いつのまにか、そのピアノのイスの足元に野良猫が一匹来ていた。二本足で立ち上がりカリカリとイスを掻いている。登りたいって言ってるみたいだった。
「イスに登ったって、多分そのピアノは音出ないよ」
僕は最前列の椅子に腰掛けて、返事の返せない野良猫に喋りかけている。はたから見たら変な人に見られてしまうだろう。
「にぃー」
野良猫は僕にたいして警戒するでもなく、甘えるでもなく、必死にカリカリと掻いている。こちらをちらりとしか見ない。
“絶望と紙一重の希望と、鼓動を持っていけ”
聖なる場所のはずの教会の白い壁に、赤いスプレーで書いてあるのが見えた。誰かの悪戯だろう。というかこの場所にまだ人が来るという事に少し驚いた。
「にゃ〜〜!」
「!?」
ピアノのそばにいたはずなのに、自分の足元から急に鳴き声が聞こえてびっくりしてしまった。足元で何か訴えている。
「のっけてほしいの?」
猫の大きな瞳が揺れて僕を見上げている。
重い腰をあげて、猫をピアノのイスの上に抱き上げてあげた。ふと腰が痛む。まだ治ってはいないのだ。
ピアノの鍵盤が見えた猫はとてもうれしそうだ。
僕は落ちていた青色のスプレーで落書きを塗り潰して、横にこう書いた。
“強すぎる鼓動は、希望も絶望も期待すらも飲み込んでしまう”
書き終えて一人でため息をつく。しかし年を食らったのがわかるしわしわの手がさっきの光に照らされ、光は吸い込まれた。
後ろで「ポロン」とピアノの音が聞こえた。
486 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/04(水) 02:26:32
次は「ティッシュ」「メリーゴーランド」「風見鶏」
#「ねこ」「ピアノ」「スプレー」
四階の音楽室から合唱の練習が聞こえる。
この曲でエントリーしているのはどこのクラスだったか。
ほほえみかわしてかたりあい おちばをふんであるいたね
僕は文庫本から目を上げて校舎を仰ぐ。開いた窓でカーテンが風に揺れる。
文化祭初日の合唱コンクールに向けてこのクラスは準備も順調のようだ。
なみきのいちょうをあざやかに いつかもゆうひが
ピアノの伴奏がふいにやむ。だめ出しだろうか。
沈黙のあと、少し前まで戻って同じ場所を歌いだした。
空を見つめたあとの目は暗い地面に落としてもすぐには見えない。
文化祭実行委員会の立て看板。三回に分けて色を塗るその三回目の乾燥途中。
マスキングテープがはがせるまであと三十分は文庫本が読める。
僕の役目は、たとえば乾きかけのスプレーの上をねこが歩かないようにとか。
さあ でかけよう おもいでのあふれるみちをかけぬけ
さあ かたりあおう あたらしいぼくらのゆめのせかいを
もう少しこの場所で合唱曲を聞いていよう。看板はまだしばらくは乾かない。
#お題は上ので。
「ティッシュ」「メリーゴーランド」「風見鶏」
丸められたティッシュが路上を転がっていく。僕はそれを拾ってゴミ袋に入れた。清掃作業は本来の仕事じゃないけど、夜半過ぎの見回りはヒマすぎる。警備って言ったって、どうせ誰もいないんだ。
真夜中の遊園地は暗く、何かしながらでないと逆に怖くなりそうだった。
アラビアン・カーペットの向こうにはメリーゴーラウンドがある。僕は正面のベンチに座ると、持ってきたコーヒーで一息ついた。
ここのメリーゴーラウンドは豪華だ。馬も馬車もきれいだが、夜にみるとそこがむしろ怖い。
風が吹いた。僕は襟を立ててコーヒーを握り締めた。冬だというのに、何か生暖かい。立ち上がろうとして、動きを止めた。最初は空耳だと思った。
でも違った。背筋がひやりとする。
音楽が本当に鳴り出して、ぎりぎりとメリーゴーラウンドが回り始めた。
一気にライトがついて僕のことを照らす。馬の上にも馬車の上にも無数の人影があった。いつの間に。
逃げようとしても足がすくんで動かない。どうしよう。どうしよう。
そのうち、ひとりの少女がこちらを向いた。にんまりと笑っている。いっしょにいかが? そんな感じで手を伸ばしてきた。
ゆっくりと、馬が列を離れてこちらに近づいてくる。馬も少女も僕を見てる。足が震えた。どうしよう!
そのときだった。
いいかげんにしなさい、そんな声が聞こえた。少女の顔がひきつる。
ニワトリの鋭い叫びがしじまを破り、声にならない悲鳴のようなものがそこに重なった。人々の姿がじょじょに薄れていく。呆然とした面持ちで僕はそれを見るしかない。
やがて明るい光があたりを照らした。馬を、馬車を、メリーゴーラウンドを光が染め上げていく。
朝だ。
僕は目を細めて光の方を見た。そこでようやく了解した。ああ、なるほど。
向こうの、とんがり屋根の上に、風見鶏のシルエットが浮かび上がっていた。コケコッコウ。
次、「夜中」「キャベツ」「風の音」
春の空はきまぐれである。
先ほどまで五月蝿いほど雨が降って、どうにも眠れなかったのに、今はすっかりあがってしまって、こんどは静か過ぎて、眠れなかった。
そういうわけで、私は仕方なく庭に出た。
こんな夜中だというのに、月のせいでとても明るい。
生暖かい風が頬に触れる。庭中に植えられた紫陽花も震える。踊るように。歌うように。
ふと足元を見つめると蟻がいた。それも一匹や二匹ではない。ゆうに十数匹はいる。
よくよく観察して、それがアルゼンチン蟻だと気づいた。アルゼンチン蟻は名前のとうり外来の蟻で、家の中に入り込んで食物を喰い散らかしたり、農作物を全滅させたり、と悪名高い蟻である。
蟻の進行方向に目を向けた。白っぽい物体が見える。どうやら蝶のようである。
こんども、また、よくよく観察して、モンシロチョウであると気づいた。
すっかり馴染んでいるモンシロチョウも、実は奈良時代に日本にきた、外来種である。そして、キャベツなどを喰い散らかす、害虫でもある。
そしてこのキャベツというやつも、実は外来なのだ。しかもこちらはモンシロチョウよりもずっと後、十八世紀になってから日本に来たと言われている。
人間のために作られる野菜を喰う害虫が、害虫に喰われている。そしてその全てが人間の手で、この国に持ち込まれたものである。
春の夜は不思議である。こんなとりとめのないことで、私を感傷的にしてしまうのだから。
―――――風の音がした。紫陽花が大きく揺れはじめたのだ。
紫陽花は虫に強い花だ。何にも手を加えていないのに、もうふた月もすれば、鮮やかな紫で庭を彩るだろう。そして日本固有の花でもある。
蟻の巣ホイホイが必要かな。と、そんなことを考えながら私は部屋に戻った。
次、「桜」「川」「猫」でお願いします
親譲りの無鉄砲で仔猫の時から損ばかりしている。
……そんな目で見るのは止めて貰おう。我が輩、何も文学作品の冒頭をパクるだけが人生ではないのである。
ちなみに「パクるだけが人生」は、井伏鱒二の「さよならだけが人生だ」をパクっている。ことについては内緒である。
内緒であるのに堂々と発言しているのは、これが公然の秘密、という奴だからである。
ちょっと前からやってみたかったのだ。気にしないで欲しい。
さてさて。猫の一人称と云うと、やはり某作品の影響からか、我が輩というのがもっぱら取り扱われているのが現状で
雑多の娯楽絵画や活動写真、三文小説などなどでは「俺」「僕」「私」「わし」などといった現代風味なものが持ち上げられているようだが、文学伝統を重んじる我が輩としては、やはり「我が輩」を貫き通すのが最良と考える処であります候。
文法が違う? そんなものは川にでも流してしまえば良い。
楽屋裏〜(「違う水、水」というカンペに気付く語り手。ウォッホンと一息入れ、何事も無かったかのように言い直す)
水にでも流してしまえば良い。何? さっきと発言が被ってる? 気のせいだろう。あんまり深煎りすると火傷するぜ?
楽屋裏〜(「×深煎り→○深入り」カンペ二回目に少々気を悪くする語り手。尻尾がふらふら揺れている。犬が尻尾を揺らしている場合、これは親愛の情を示す仕草だが、猫の場合ストレスを感じると揺らす傾向にある)
うおっほん。
えー、文学伝統と云うと、有名な作品の一つに三島由紀夫作、豊饒の海第一章に「春の雪」という作品が有るが……昨日、京都ではこの表題通りの光景――八分咲きの桜に雪嵐という非常に珍しい組み合わせ――を見ることができたらしい。
四月の頭に入って再度雪が拝めること自体、関西地方では稀なケースであるために、実際その光景を目の当たりにできた人間は非常に幸運である。
我が輩は残念ながら、急激な冷え込みに風邪を引きコタツでひたすら丸くなって眠っていた。
養生には、睡眠が一番である。そんな我が輩を見て、同居人は『九つも魂があるのに、風邪引くの?』と訝しがっていたが、化け猫が万能であると思って貰っては困る。風邪も引けば、熱も出す。空腹を感じれば、痛みだってあるのだ。
つまるところ、我々はほとんど人間に近い存在であり、性格も代を重ねる毎により人に近くなっている。
だからこうして文学について色々パクってみせることも可能だし、「桜」「川」「猫」という三語を用いて、さりげない告白をしてみせることも可能なのである……と、締めくくって置くことにする。
楽屋裏〜(「オチなし?」という真っ当なツッコミを入れるカンペに、にぎゃーと怒りの牙を剥く語り手。そのあまりの形相に恐怖して、カンペを片手に逃げ出すアシスタントを、生来の本能が災いして追い回し始めた語り手)
を尻目に、 『2007年4月5日 ここに日記を記す』と、
代わりに同居人である僕が記しておきますよ、と。
<<了>>
申し訳ない。
ライン数は足りたんだが、字数が六百字ほどオーバー・・・
けど、折角書いたのでうpさせて貰いまった・・・
お題は継続で
>>488さんの「桜」「川」「猫」でドゾー
「チチチチチ、こいこい」
顔だけ振り向いて、体は全力逃げ出そうとしている猫。しかしその先は車が行き交う道路でどうしたらいいかと焦る。
「うおおい、何やってんだ」
連れの酔っ払いが大声を出し、絡み付いてくる。
「あ、ぬこたんっ!」
猫がすばやく脇を抜ける。振り向くと花見客が猫を触ろうと手を伸ばすのが見えたがことごとくかわして行く。そして追い詰められていたのか、猫はその先の水路に飛び込んだ。
気付いた花見客のざわめきが周囲に伝播する。コンクリートで固められた水路は落差があり、降りる足場も見当たらない。溺れもがく猫はやがて大人しくなり、水面をたゆたう桜の花びらがその塊を飾る。
張り詰めた弦が切れたかのように喧騒が止む。やがてポツリポツリと帰り支度をし、立ち去ってゆく。お供え物のつもりなのだろうか、残り物を詰めた容器を水路の縁に置いていく人もいた。
他の猫たちはその供え物で今夜の宴を開くのかもしれない。溺れて死んだ猫を悼んでか、明日をまた生き延びることを喜んでか。それは猫でないとわからない。
「桜の下には溺死体、か」
ちょっとオチをつけてみた。
次は「桜」「衛星」「放射線」
「あっ、一番星」
「人工衛星だな」
いちいち空を指差す彼女の左手。その薬指に光るものが頬を緩ませる。
「あっ、UFO」
「飛行機だって」
湯上りでまだ暖かいその手を、冷えないようにそっと握り締め。
「あっ、オーロラ」
「放射線だな」
首に巻いていたタオルが乾いたので、それを彼女の首にそっと巻きつける。
「あっ、猫」
「メインクーンだな」
彼女が左手で差していた猫が、その場でパタリと倒れ。
「あ、地面」
「だなななななななな」
衝撃が体を、地面を、町を軋ませ夜の闇を昼のように照らし出す。
その刻、全世界で地球侵略への序曲が奏でられた。
次「ロボット」「地下」「堕落」
495 :
494:2007/04/07(土) 09:51:53
桜入れ忘れましたorz
オーロラのくだりで入れる予定だったのに…
お題継続で「桜」「衛星」「放射線」でおながいします。
496 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/07(土) 14:28:10
「桜」「衛星」「放射線」
「貴様と俺とは同期の桜。ぱっと散って御覧に入れます」
彼は駆け出した、ぬかるみの戦場を。「天皇陛下、万歳!」
異変はその時おこった。「物忘れ」という名の異変が。
「万歳いいい〜…あ…天皇陛下って、誰だっけ?」
無数の弾丸が目前まで飛来しているのが、目でもはっきりと分かる。
「俺、なんでこんな事してるんだろ…あわわわわー!」と、後悔するには遅すぎた。
高層ビル街。
「社長、あなたに汚職は似合わない。私が全てを背負ってゆきます」
物忘れは、放物線を描いて80階分を自由落下する、某社長秘書にも訪れた。
「ところで社長って誰…あわわ、やっぱしやめ!キャンセル!あ、地面だ!」
キャンセル不可の重力が、秘書と地面の距離をより近づけてゆく…
何万光年彼方のある惑星が、「地球と呼ばれる惑星」を探査していた。
高度文明だった。遠隔操作で住民の記憶を読取るから、すごーく楽だ。
「これが、生命をも自己停止させる価値を持つ記憶か。意図的に作られたものもあるが、なかなかだ」
「住民へのお礼に、自殺原因となる記憶は消去しました。喜んでくれると嬉しいな…」
※日本最高って80階だったかどうか忘れた。
次のお題は:
>>494さんの「ロボット」「地下」「堕落」でお願いしまふ。
>>496 お題は「放物線」じゃなく「放射線」ですが・・・
「ロボット」「地下」「堕落」
ぼくはその日、ひみつきちににしていた古いぼーくーごーでヘンなものを見つけた。きのうまではなかったのに。
そいつはやたらと黒くって、人の形をしていた。大きさはよく分からないけれど、たぶんぼくのおとーさんよりずっとずっと大きい。
何かににてるなぁと思って、よぉくかんがえてみると、きのうテレビでやってた『がんだむ』にでてくるロボットみたいだ。
どうしてこんなとこにがんだむがあるんだろ? ぼくはおもしろいことを思いついた。
きっとこいつはむかーしにせんそーで負けちゃって、空から落っこちてきたんだ。かっこいい言い方だと『ついらく』だ。どんな漢字は分からないけど。
それからゆっくり地面にうもれていって、だからこんな地下にあるんだ。
少しこわかったけど、ちょっとずつ近くにいってみた。
するとさ、そいつの頭みたいなとこが少しだけ光ったんだ。
びっくりしてしりもちをついちゃったけど、そのピカピカ光ってるとこをにらんでやった。
するとがんだむの方から何か音がきこえてきた。犬がかなしげにないている声にそっくりだった。
その音がぼーくーごーの中にクワンクワンひびいて、ぼくも少しかなしいきもちになった。
ないたのはそれっきりで、へんな光もだんだん小さくなって、まっくらでしぃんとしたいつものひみつきちにもどった。
ゆうきを出して、がんだむの、さっきまで光ってたところにさわってみた。
そこは少しあつくて、まるでついさっきまで生きてたみたい。
「また、来るからね」
それだけ言って、ぼくはおうちにかえった。お母さんがこいしくなったから。
次のお題は『指紋』『時計』『鳩』でお願いしますぅ。
「指紋」「時計」「鳩」
僕は大きな時計台の下で人を待っていた。時計台はオブジェみたいに凝っていて面白い形をしている。そして人が行き交う広場の真ん中で時間を刻んでいる。
「遅いなー」
もう何人もが時計台の下に集まり、離れていった。その証拠のように、時計台のガラス部分にいろんな指紋のあとがついている。
僕の待ち人はなかなかこない。約束の時間はとっくに刻みおわったというのに。待っている間、ほんとに色んな人が広場を通ったり、ここで待ち合わせたりしてるのを見ていた。
真剣な顔で急いでいたり、暗かった顔がやっと来た友人や恋人の顔を見つけてぱっと笑顔になったり、その人達の長い一日の一部がここに集まっていた。
けど、皆すぐにここから離れていく。こんなに人が集まる場所なのに、ここは決して行きたい場所ではなく通り過ぎる場所なのだ。
それが少し寂しい気がした。
「ポッポ、ポッ」
ふと見ると足元に鳩がいた。可愛く鳴いている。もう慣れているのか、人間に警戒心などないようだ。足元でテクテク歩いている。
「きみは寂しくないの?」
「ポッぽぽっ」
聞いているのか聞いていないのか、鳩は僕の前を通り過ぎていった。
鳩の足取りは軽く、別に寂しくなさそうだ。
「ごめん!待った?」
やっと僕の待ち人がやってきた。時計を見上げると、鳩が三、四匹とまっているのが見えた。楽しそうに談笑している。
「もう20分もたったよ〜、まぁいいや。いこっか。」
そして僕もまたここを離れていく。あの指紋のあとも、朝には掃除のおじちゃんによって綺麗に消されるのだろう。
でもきっと寂しくない。また指紋のあとは増えるし、何よりも時計台には鳩達がいるのだから。
500 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/08(日) 01:02:00
次のお題は「大学」「スコップ」「赤い服」
「うまいなぁ、コレ。なんていうん?」
スコップを地面に突き刺し、汚れた軍手も構わずに額の汗を拭う。口に入れられたそれを咀嚼しながら水筒を手にし、お茶と一緒に喉の奥へと流し込む。
「大学イモやん」
口に入れた物も、形を見ていなければ良くわからないかもしれない。逆に、形がわからなければ物が何だかわからないわけで。
「穴はこんでええな。俺一休みしとくから、アレもってきてな」
「いややん、あんなん触りとうない」
イモを摘んだ甘い指先をペロリ。薄暗い林の中で赤い唇と舌と指先が妙に艶やかに見える。彼女の視線の先には青いビニールシート。
「ひと一人分掘んの、めっちゃ疲れるんやで?」
ビニールシートからは、かつては白だった赤い服が覗いていた。
次「カバン」「人形」「目玉焼き」
「あら、早いじゃん」
母と妹が囲むテーブルに今にも湯気が見えそうな香ばしい目玉焼きがチラリと覗いていた。
母は席を立ち、僕はいつものように床で新聞を広げた。
運ばれてきた皿は二つ。
些細な差異だが、最期に口にするのが母の手料理というのは、うれしいかもしれない。
と同時に毎日部屋を掃除して食事を作ってくれる母に対し、改めて罪悪感が涌いた。
本来の役目とは明らかに違う仕打ちを受けていたカバンを発掘し
僕はこの一ヶ月、一つ一つを手に取った全ての自室にあるモノたちの中から
CDを五枚、写真集を一冊、持てるだけのクスリ、そしてこの二十年僕の心の拠り所でもあった
一際薄汚れほころんだリサを、そっとカバンに詰めた。
僕が新聞を読む間、母が部屋の掃除をする。それが他者の唯一の出入。
この日常を考えると、次に母がこの部屋へ入るのは数日後になるだろうか。
浅ましい未練ではないと言い聞かせつつ、僕は机上に母と祖母、そして友人宛の三通の遺書を並べると
遺していかざるをえない人形たちに、もう一度ずつ触れた。
「ごめんね・・・これまでありがとう・・・」
僕はリサの命の重さを両肩に感じつつ、果てしない永劫へ回帰すべく
終わりの一歩を踏み出した――。
次は「鬼」「リボン」「木漏れ日」
503 :
498:2007/04/08(日) 22:28:11
今気付いた。『堕落』を『ついらく』って読んでたよ。
なんかもう、日本人としてダメだorz
笑ってくれ。
504 :
496:2007/04/08(日) 22:46:52
>>503 その程度で日本人ダメなら、「衛生」と「惑星」を取り違えたこっちの立場も;
505 :
498:2007/04/08(日) 23:00:52
『衛生』? 『衛星』じゃね……?
ある意味GJ
貸切状態の鈍行を降りると、不思議な感覚に襲われた。
あの日、同じクラスのナツコが消えてから止まったままでいた時間(とき)が
再び回り始めたかのような、えもいわれぬ感覚。
鬼の伝承が今も残るこの土地は、昔から神隠しの噂が絶えなかった。
いつからだろうか。行方不明が性犯罪や誘拐として語られるようになったのは。
誰も語らなくなって、鬼は姿を消した。
ナツコは特別な存在だった。長く艶やかな碧髪にいつも種類の異なるリボンが結ばれていた。
誰にも変わらなく向けられる微笑、年齢とはアンバランスに伸びた手足、この世のモノとは思えない肌の白さ
そうした一切が堪らなくボクは好きだった。
ボクの内でナツコは未だあの日の姿のままイキテイル。
鎮守の森の神社はあの頃と寸分も違わぬ威容を静かに晒していた。
懐かしさにふらふらと足を踏み入れると繁茂の森の木漏れ日の下で
ボクはあらゆる知覚を満たされた。
繁茂の森の木漏れ日の参道をぐらぐらと歩いた。
中央の巨木を迂回し神社の裏手に回ると小さな祠が無数に並ぶ濁った池が視界に入った。
ボクはポケットからそっと拳を出すと水面にかざして開いた。
ひらり――とリボンが舞い落ち波紋を立てた。
ボクはしゃがみこんでみなもを覗き込んだ。
ゴポリと池が粟立ち、ボクの顔を掻き消した――。
次は「りんご」「下弦の月」「チャイム」
りんご売りは決って夜中にやって来る。夜空に浮かぶ下弦の月。煌めく星々。冷たい夜風が肌に染みる頃、決ってチャイムは鳴り響く。
「今晩は。りんごは要りませんか?」
ドアを開いて、見つめあって。りんご売りの少女の第一声はいつも変わらない。
金色が目をひく長い髪を緩やかに巻いた彼女は、その幼さ故なのか、自身がおかれている状況を全く連想させない笑顔を振り撒いている。
夜中にりんごを売り歩かねばならないのだ、生活は相当切り詰められているのはずなのに。
「そうだなぁ……じゃあ、一つ貰おうか」
「お一つですね? はい。今日摘んで来たばかりの、とっても美味しいりんごですよ」
籠に入った美しいりんごを、彼女は更に綺麗に拭いて渡してくれる。私は掌に置いてもらって、ありがとう、と朗らかに微笑んだ。
「また明日」
踵をかえすと、彼女は嬉しそうにスキップをしだした。
帰ったら何を話すのだろう。帰ったら何をするのだろう。彼女を見ていると、私はとても幸せになる。
貧しいはずなのに、苦しいはずなのに、彼女は幸せを感じているから。
……また明日。そう言ってまた巡る。今日と同じ明日の今日。いつもと変わらない下弦の月夜に彼女はりんごを売りに来る。
遠く、楽しそうにスキップをしていた彼女の体が突然傾いた。ガシャガシャと甲高い音を立てて、彼女は、彼女をもした人形はその場で崩れ去ってしまった。
……あの日から、私が彼女を永遠の存在にしてしまった日から変わらない、ずっと続いていく明日の今日。
私は部屋に戻ると、巨大なガラス張りの筒を眺めた。変わらない変わらない。彼女は永遠に変わらない。この中で永遠を生き続けるのだ。
そって慈しむように、そっと愛を伝えるように、ガラスを撫でる。あの日の彼女は、あの日のままで、虚ろな瞳を私に投げ掛けていた。
次は「蛍」「多次元」「虹色」で
「ようこそバーボンハウスへ」
年期の入ったカウンターの向こう。グラスを磨くネコだか何だかわからない人型の可愛らしい生物が歓迎の言葉を紡ぐ。
「あんたは騙されたわけだが。まぁ、しょげずに一杯やってくれ」
先客の声か。カウンターを滑ってきたグラスは目の前を通り過ぎ、床で爆ぜる。目をやると妙に角張った、しかし丸っこく首も胴もないような生物がしょんぼりしている。
「なぁ、ここは天国か?」
改めてカウンターに置かれたグラスを見やり、マスターらしき生物に訪ねるが彼の姿はない。
「ぃよぅ、窓の外を見てみな」
L字になったカウンターの影。その先のテーブル席にいた、これまたアザラシのような鼻先の珍妙な人型の生物に促され窓を覗く。
その先に見えたのは闇夜に浮かぶ星。いや、星ではなく蛍のように揺らめく無数の光。しかしその光点は星のように遠くにあるように思える。
「あの一つ一つが世界なんだ。多次元宇宙の分岐点にあるのがこのバーさ。なぁ兄者」
「ああそうさ、弟よ」
振り返ると、テーブルの上のノートパソコンを置をのぞき込む二人組。今度は人間のようだが何か得意げな顔が癪に障る。
「折角来たんだからとりあえず腰を下ろして、しばらく休んでから新たな世界へ旅立ったらどうかな?」
箒とちり取りを手に、マスターは言った。
「騙された事は気にせずに、まぁ一杯やんな」
チン、と澄んだ音。目の前のグラスがショットグラスに入れ替わり、そしてまたガラスの爆ぜる音がした。目の前からカウンターの縁まで水で引かれた線が虹色に光っている。
「騙されたって?」
その問いに、しょんぼりした声が返る。
「天国なんかないって事さ」
そんなバカな。俺はAMEN、と十字を切った。
俺が何に騙されてたって?
次は「汁」「元凶」「ハイキング」
「ちょっと、汁が飛んだじゃない!」
頬を膨れさせて胸を張り、ささやかな膨らみを指さす。そこには確かに黒い点がついている。
何故かと問いたい。問いつめたい。日帰りのハイキングに来たはずが他の3人とははぐれて今は二人きり。キャンプという訳でもないのに、なぜ彼女が飯ごうや米や野菜やレトルトカレーなどを持っているのか? その材料にしてなぜ食しているのがカレーうどんなのか。
そもそも性格とは正反対の細腕で、如何にしてこんな糞重い荷物を持って歩けたのかと。
「やだもう、染みになっちゃう!」
すすれば飛ぶと言われるカレーうどん。そんな物を肩寄せ合って食する事自体が間違っている。
着ているのは品こそ違えど俺のと同じ量販店ブランドの安物パーカー。ワゴンに乗せて売られるような逸品を着てハイキングに来たのに汚れるだの何だのと小五月蠅い事この上ない。
はぐれたのも何もかも元凶はコイツなのに、何故俺がこんな目に遭うんだ?
「じゃ、拭いてやるよ」
リュックからウェットティッシュを取り出し、突き出された彼女の胸元に手を伸ばした。
眉間から皺のとれた彼女の顔は、凄く愛らしかった。
お題「かけそば」「五月病」「終末」
週末を目前にして、章仁は大いにあせっていた。
先々週、龍太に大手商社の内々定が出た。
先週末、ェ人にインフラから内々定が出た。
龍太はともかく、引っ込み思案のェ人でさえ内々定が出ているのに、自分はまだ一次面接さえ突破したことがないという事実は、章仁に重くのし掛かった。
今日は五月の端っこの週。駅のホームで章仁は、ふらふらと立ち食いそば屋に立ち寄った。
「かけそば。」
「あいよ。」
一分足らずで章仁の前にかけ蕎麦が置かれる。
箸をパキッ、と割る。すると隣に座っていた、みすぼらしいなりのおっさんが話しかけてきた。
「就職試験中かいな? 大変だね。」
章仁は、面倒だな。と思いつつ返事をする
「ええ。どうにも上手くいかないですけど。」
「人生そんなもんじゃ。生きてりゃ、またいいこともあるさ。」
会話が続いてしまう。ウザイ。煩わしい。五月蠅い。オマエみたいなクズに言われたくない。
「ふむ。まあ、なるようにしかならんさ。それに、まあ、五月病も今日で終わりだ。」
おっさんはそう言い残して、席を立ち、去っていった。
悟ったようなこと言いやがって。オマエに何が分かるってんだよ!
章仁は顔を歪めて振り返った。――おっさんが立っている。電車がくる。おっさんが飛び出す。電車がぶつかる。おっさんが弾ける。
ふむ。オマエは終末を迎えたのか。いっそ俺も終わりにするか? そう考えたとき、両親の顔が浮かんだ。
「なるようにしかならん。か。」
章仁はそう呟き、歩き出した。
お題は
>>510を継続して「かけそば」「五月病」「終末」 でお願いします。
512 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/13(金) 01:10:55
「かけそば」「五月病」「終末」
傾きかけた木戸がガラガラと開くと、子連れの女が俯いてた。
「あのう、子供とでかけそば一杯なのですが…」
「あっ!」と、蕎麦屋のおやじが叫ぶと、「わわっ!」と女もうろたえる。
蕎麦屋は女の手をとる。「この時を、待っていました!」
紺色のカーテンを引くと、歯医者の機械の豪華版の様なものが現れた。
「さあ!」女を座らせ、手足をロックし、ゴムマスクを口に締めて、装置を起動する蕎麦屋。
「あの騒ぎの反動の後の、五月病の様な長い日々…それも今、終末を迎えます」
かけそばメーターが「1.0」を示す。一杯分の高圧かけそばが、体内に注入されたのだ。
「一杯と言わずに、もっとどうぞ!」 コンプレッサーは唸り、かけそば圧をさらに押し上げた。
「世評に弄ばれ、前の店は潰れました…思い知れ!政治に利用されたかけそばの恨みを!」
(ぐほ!)胃から逆流し、与圧され、体内に押し返されるかけそば。メーターが300を超える。
「ピュルルルル!」遂に涙腺から噴出したかけそばが、針の様に板戸に突き刺さった。
ついに完成したのだ。史上初のかけそば生命体が。
「う…う・・・」それは叫んだ。「七味ハドコダ!」
「いっぱいのかけそば」 完
※果てしなく無意味;
次のお題は:
>>510さんのを一部継続し「かけそば」「アルカリ」「邂逅」でお願いします。
月から降るアルカリの雨が濡らす黒と蒼の邂逅。
こんな夜も僕は遅くまで起きている。
そしてかけそばを憎んでいる。
君を奪ったかけそばを憎んでいる。怨んでいる。呪っている。
そしてかけそばを食べている。
一生懸命かけそばを噛みちぎって粉々している。君の仇を討ち続けている。
全力で、真摯な気持ちで、かけそばを憎んでいる。
でもきっと君は怒っている。
かけそばを食べる僕を怒っている。アルカリの雨を降らす。大切な窓を濡らす。
それでも僕はかけそばを食べ続ける。
やっぱりおいしんだもんかけそば。
次…花粉・耳・誕生
いつからだろう。いやあるいはこの世に私が誕生した瞬間からかもしれない。
毎日毎日、森を渡り林を抜け人間のもとへと飛んでゆく。この生活に、行動に意味はあるのだろうか。
杉の枝に腰をかけ、羽を休めているととめどなく疑問が溢だしてしまう。
「なぁにサボってんのよ!」
耳元で急に声をかけられた私の体はびくっと震え、危うく枝から落ちてしまいそうになった。いや落ちたとしても飛べるから関係ないけど。
「もうびっくりさせないでよ。」
「だってボーっとしてるから。何?考え事?」
急に現れた友達のピピは無邪気に聞いてきた。この娘はなにも疑問に思わないのだろうか。
私はふと知りたくなった。
私達妖精の存在理由や、あらゆる種類の花粉をひたすら人間のもとへ運ぶという行動の意味を、私以外の妖精はどのように捉えているのか。
「だって楽しいじゃん。ちょっと花粉をばらまいてやるだけで、いつも偉そうな人間が死にそうな顔して苦しむんだよ。
私が思うに、杉の花粉が最強だね。さっきも街中が大変な事になってたよ。」
ピピは実にあっさりとそう言うと、えへへとちょっと得意げに笑った。
そして少し俯き、
「それに花粉を意識する事で、人間も少しは森や林を気にするでしょ?ほんのちょっと気にしてくれるだけでいいんだ。
そうじゃないとアイツら次から次に私たちの住処を消してしまうじゃない。」
悲しげな声だった。
ピピの両親は5年前に死んでしまった。住処である森が人間に伐採されたんだ。私達妖精は住処を失うと生きてゆけない。
森や林が私たちに力を与えてくえるから。それが無くなると、私たちはゆっくりと空気に溶けてゆき、そして消えてしまう。
「ま、人間が苦しんでる姿を見るのが私の快感だから、別に意味とかはどうでもいいけどね。
さてとっ、もうひと頑張りするか!」
そう言うとピピは、「ん〜っ」と伸びをして、
はじけるような笑顔を残しふわりと夕闇の中へ溶け込んでいった。
次のお題
スピーカー
夢
傷
埃の積もった物置を整理していると、古いスピーカーが出てきた。アンプを内蔵している、真空管のやつだ。
私が高校生だった頃。エレキギターにのめり込んでいた頃に使っていたものだ。
当時は商店街の路上なんぞで弾き語りしたもので、
「こんな田舎にいられねえ。都会に出ないと音楽は出来ないんだ。」
と青臭い言葉を父に投げつけ家出したのも、今では良い思い出だ。
久しぶりに弾いてみるか、とさらに物置を探ると、すぐにギターの方も見つかった。
すぐにアンプの電源を入れ、ギターとコードでつなぎ、セッティングを開始する。
(ミドルはどれくらいだったっけな……?)
昔を思い出しつつ、つまみをひねってゆく。
これくらいだったっけな、と思いBのコードを押さえてみる。
が、明らかに異常な割れた音が出て来るだけだ。
点検してみるとどうやら、スピーカーに大きな傷が出来ている。
夢の敗れて六十年、今は商社の重役である。
次、「宝石」「スティック」「盗賊」
金庫の扉をバールでこじ開ける。
新聞では一行で書いてあるが、実際やってみると大変な作業だった。
戦時中に無くなった爺さんの形見のトランクが蔵の中から発見され
盗賊気分で開ける役を引き受けたことをちょっぴり後悔しはじめていた。
汗だくになってバールを振り回して一時間、ようやく開いたトランクから
出てきたのは宝石でも金塊でもなく、一膳の箸だった。他には何も無い。
申し訳ない気持ちで箸を差し出す俺から箸を受け取り眺めている。
「his chopstics・・・」ハワイから一時帰国していたばあちゃんは
片言の日本語で礼を言いながら何度も頭を下げた。
チョップスティックかぁ。
呆然とする俺たちとは対照的にばあちゃんは幸せそうだった。
519 :
518:2007/04/15(日) 21:18:43
スマソ、次のお題は「名札」「帰り道」「通り雨」でよろ
ラブレターの返事を受け取った私は、家路につく。
どしゃぶりだった。放課後の教室で泣いた目は赤かったけれど、それでもこの雨なら誰にも気づかれないで済む。
傘がないから、帰り道でずぶ濡れになるだろうが、それでもどうせかまいやしない。
今日は金曜日で、明日は制服に袖を通さない。
どうやら通り雨だったらしく、やがて惨めな姿の私は、白昼に晒されることになった。
歩いていた人たちは傘を閉じ、すれ違う私に好奇の視線を向ける。
まるで悲劇のヒロインだ。
ただ彼女たちは美しくもあるけど、私は無様なだけ。
胸に黄色い名札を付けた小学生たちが、脇をかけていった。
うつむいている私はアスファルトの水たまりに気づき、足を止め、空を見上げる。
(ああ……。)
虹が映っていたのだ。
明日は私服で、街へ出かけよう。
次、「映画」「渋い」「mp3プレイヤー」
映画館の前で待ち合わせ。約束の時間はとっくに過ぎていた。
「すっぽかされたかなぁ。」
十数回目のリピートを繰り返すmp3プレイヤーのstopボタンを押し、
かばんの中に放り込んだ。
実物より何倍も渋くかかれたブラッドピットは高倉健に似ていた。
すまんす。お題は継続で。
"アルバイト・マハト・フライ"という標語が監視所の上に
掲げられている。「労働は人を自由にする。」という意味だ。
僕は周囲の静けさから逃げ出すようにmp3プレイヤーのスイッチを入れる。
修学旅行で見せられた教育映画の中の収容所が目の前に広がる。
当時のように僕らは一列になってガス室を目指して歩いてゆく。
ドキュメンタリーの中に入り込んだ気分。なんだか神聖な気分になり
必要も無いのに打ちひしがれた渋い表情でうつむき加減に歩く。
行列の速度が遅くなり、やがて止まる。着いたのだ。
僕は奥歯を噛み締めながらゆっくりと顔を上げる。
そこに広がっていたのは石畳とまばらに生えたタンポポ。
戦争はとっくに過去のものだった。
次は「ピアノ」「ハーモニカ」「かぜ薬」で
「これっきりだからね!」
そう言って、妹が貸してくれたハーモニカ。それを吹こうと口を近づけるが、臭い。とてつもなく臭い。自分のなら気にならないんだが、コレはヤバイ。山本の笛は平気だったのに。
「鈴木君、早く吹きなさい」
指一本で鍵盤を弾く百合子先生。ドレミファソラシドをピアノに合わせて吹いてからテストをするのだ。例え下手糞でも吹かなければ解放されないのだ。
とりあえず皆の方を向く。そして手元を隠しハーモニカに口を付けるフリをし、佐藤に目で合図する。奴は椅子から尻を浮かせ、そっと窓を開ける。
「じゃ、行きます」
ぬる目の風が教室に吹く。キタ、キタキタキタキタ! 鼻ムズムズキタ───!!
「はぶしゅうぉーん!」
パプーと鳴ったハーモニカ。しかしそれは持っていた手ごとツバと鼻水だらけ、ついでに正面にいた山本を巻き添えにした。
阿鼻叫喚の地獄絵図。わざとじゃないのだよわざとじゃ。佐藤はガンシャガンシャと言いながらハァハァしている。汁に塗れた山本は確かに萌えだ。
事態が収集すると先生はハァとため息をつき。
「保健室でかぜ薬貰って、家に帰りなさい」
その日から山本に無視されるようになったが、何故か妹にやたらと懐かれるようになった。
次「平和」「憲法」「拳法」
「これがなんだか解るか。」
木村は一枚のフロッピーディスクを放ってよこした。
一見ただのフロッピー。どこにでもある黒いやつだ。
「何が入っているんだ。もったいぶらずに言えよ。」
もう少し遊ばせろと言いたげにぼそりと言う。
「不幸」
「何だよそれ、俺、オカルトとか苦手なんだよ。」
慌てて投げ返したフロッピーを拳法の達人の様な身のこなしで
キャッチした木村はニヤニヤと笑う。
「・・・・・・与党の憲法改正案さ。こいつが今夜強行採決される。」
「え、税金でも上がるのか。」
「いや、もっと派手だ。」
「何なんだよ。」
「自衛隊は国軍として再編され徴兵制が実施される。そして・・・・・・」
「何だ?まだあるのか」
「国軍はその力を示すために平和主義を捨てる。」
つけっ放しのテレビから臨時ニュースが流れ「不幸」が現れた。
次、「強風」「不安」「伝統」で
「熱いな」
「ああ、アレのせいだろ」
視線を向ける事も出来ない正面のビル群。海を背に半円を描くようにそびえ立つ六棟の、その各々が落ちかけた陽を映し出している。
山に落ちる陽しか見る事のできない丘陵のこの町で、海に落ちる陽を再現しようなどと酔狂なコンセプトで作られた近代デザインの高層建築物。その落成式典。
「後は中でパーティーだろ? それまでの我慢だよ」
左手で集音マイクをかざし、右手には手ぬぐいを持ち汗を拭う。相棒がカメラを向けるその先では白衣を着た壮年の男が熱弁を振るっている。市長はいつ壇上から降りたのだろうか。
「の気温が下がり、流れ込んだ空気が海風に後押しされて建物の隙間で圧縮され猛烈なビル風が生まれるわけですが───」
言われてみれば、周りの人たちの衣服が激しくはためいている。しかし先程からの熱気は相変わらずで、
「───窓が夕日を映し出す最適な角度になるよう一元管理されています。では、このPDAから操作してみましょう。そうすると」
不安。背後に感じる熱気。正面から吹いていた強風が体に絡みつく。
「一点に焦点が集まり気温が急上昇し、ビル風を巻き込んで竜巻が生まれる訳です」
手ぬぐいが宙に舞い、ソレを追って石の礫が顔を体を刻みつける。
「氏ねよ糞共。俺はこの町の連中を」
そして人が舞う。
ああそういえば彼は、夜這をかけられた奥さんが自殺した新婚の。あれは町の伝統だというのに───
次は「幻覚」「エビフライ」「ヤバイ」
「やめろ。」
男の絶叫が固い壁に反響する。足音が二つ、異なったテンポで連なる。
幻覚アレルギー症状の発作が心臓を破裂させる勢いで駆け巡る。
ヤバイ、このままじゃ死んじまう。グルタミン酸ナトリウムは
鰯の頭ほどの効能も示してはくれず、ただ体温を上昇させるだけだった。
金色のエビフライは黒くくすんだ鯱同様に俺にとっては無意味だったから
二十歳のときに故郷を捨てた。そんな俺がいまだに生きているのは
あのときのまま、大人になりきれていないからに違いない。
次、「盗難」「自転車」「疾走」
僕がレストランを出ると、駐車場の自転車が盗まれているところだった。
その男は鍵を切断したらしく手にペンチを持っている。
僕の慌てた様子に気づき、男はどこか楽しむように自転車にまたがった。
そして一瞬よろめいてから、追いすがる僕を振り切るようにペダルを踏み込む。
男のその表情にはスリルの色が浮かんでいた。盗んだ奴の方が良い気分だなんて、なんだか少し不公平。
駐車場を出ると自転車は右折。あちらは人通りが多い。通行人の多い中では、ますます男を捕まえるのは難しくなるだろう。
僕は焦った。
二千円の中古だとはいえ、盗まれるのは痛い。何より帰宅するための足が無くなるのだ。
交差点。青信号の交差点を男は駆け抜けようとする。
しかしその時、横合いから失踪するトラックが突っ込んできた。
「10t」と書かれたボディを凹ませながら、そのトラックは男を6メートル前方にはじき飛ばす。
運転手が出てきてすぐに駆け寄ったが、彼の不自然に変形した様子を見ながら僕は、ああもうだめだな、と何となく理解した。
そして傷一つ付かなかった自転車は、銀光りする表面にぬめぬめとした血液をまとわりつかせている。
そういえば自転車屋のオヤジは、「この自転車が安いのはね、ちょっと因縁があるからなんですよ。」と言っていた。
次、「牛」「国」「昼」
「何、このお題。センスねーな。」
独り言を繰り返しながらカタカタとキーボードを叩く。
どこかで聞いたような単語を連ねて無意味な文章をつなげて行く。
量だけは多いが学生時代の国語の評価は悲惨なもので、それは今も
変わりは無かった。画面が文字で埋まっていく様にただ自己満足を
感じているだけだ。白い画用紙を黒く塗りつぶすかのように画面が
文字で埋め尽くしてゆく。空っぽな時間を無意味に消費するために
ひたすらにキーボードを叩き続ける。
改行のたびに画面全体が繰り上がる毎に瞼が重くなり、大きな欠伸を
しながら時計を見ると短針が12時の辺りを指していた。
「もう、昼か。吉野家で牛丼でも食って寝るか。」
すっかり夜型の生活になじんだ体はもはや若者とは呼べない年齢に
なりつつあった。
次ぎ、「あのね」「たぶん」「きっと」。
529 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/22(日) 15:56:05
「あのね」「たぶん」「きっと」
なんであんたはいっつもそんなこというのもうおこったぶんなぐる。
もう呪文である。彼女の口はきっと毎朝潤滑スプレーでも噴いているに違いない。
「わかった。今回は俺が悪い。だから、ね。……許して」
両手を顔の前で合わせ彼女を拝む。そして上を覗くと、ハリセンボンが居た。
「何!? また面倒くさくなりそうだから早めに謝っとこうとか考えてるの!?
最ッ低! 死ね! エロ!」
直後鳩尾に正拳突きを喰らい、痛みになす術も無く僕はその場にへたり込む。
このままでは追撃が予想される。弁解を図らなくては。
「あ……あのね、罵詈雑言やエロを含め僕は君に惚れてるんだ、好きなんだよ」
彼女の動きがが停止し、ハリセンボンだった彼女は現在熟れたトマトである。
追撃は回避されたし。
「だから……、まあちょっとだけでいいから……」
彼女は固まったまま僕を見ている。それがとても可愛らしくって、
思わず言ってしまうのだ。
「巫女のコスプレをしてください」
追撃被弾。
次は「=」「点」「人形」
そのモノリスは数万年前からそこにあったのだろうか?
巨大な砂漠の海に光る一本の塔。
太陽の光を反射して一点の灯台と化す。
さらに数万年がたち雨が川を作り川はジャングルを作り
やがて生命が生まれ、類人猿が生まれた。
ある日、好奇心旺盛なサルが塔に登り そこに彫られた模様を指でなぞる。
直線を組み合わせて表現された人形といつくかの図形そして、
π=3
サルは塔を降りると手に取った枝で地面に円を描き始めた。
サルは不思議そうに自分の手と円をじっと眺める。
なんでこんなことしたのか自分の行動が理解できないと
いう風に。
それは何時間も続いた。
太陽がジャングルの西に傾きかけたころ
彼は群れに戻っていった。
群れに戻ると彼は言った。
「ここに巨大な四角錐の建造物を建てよ」
それはのちにピラミッドとよばれるものになった。
次は「日本語」「普通に」「やってられない」
題:「日本語」「普通に」「やってられない」
「日本語には、魂がある」
白髪に皺くちゃの顔の先生は、右手で僕の頭をぐしゃぐしゃに撫でながら言った。
「良く聞き、良く見ておきなさい」
先生は左の手で、窓の外の木を指差しながら何事かを呟く。
――幹――要らぬ――、僕にはそこだけは聞き取れた。
先生が言葉を止めると、外の木は、幹の真ん中から音を立てて圧し折れる。
僕には何が起ったのかは良くわからなかった。
ただ、電気ショックを受けたように体が一瞬震えた。
「どんな言葉であれ、意思の力や魂は、どんな言葉にも普通に入り込む。
例えば、お前が人間に悪意を吐けば、その人は悪意の通りに死ぬであろう」
先生は相変わらず、僕の頭を撫で続けながら言った。
けれども、僕は窓の木に目を奪われ、返事が出ない。
「言葉には細心が必要。『やってられない』、そう思わば言葉を使ってはならぬ」
先生は撫でるのをやめ、僕の頭をコツンと叩く。意識が木から頭に移る。
よいな? との言葉に、我に帰った僕は条件反射的に「はい」と答えた。
題:「単語」「文節」「文章」
532 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/23(月) 01:04:45
思うこと、感じたこと
心の中を照らそうと
捕らえた単語を縛りつけ
文節刻む、深夜にも
考え抜けども、文章にならず
次「桃」「FTA」「保険」
「こんなものしかなくてごめんね。」
そういいながら申し訳無さそうに缶切りを操る。
保険の外交員をしていた叔母の家に遊びに行くと
いつも黄桃の缶詰を御馳走してもらうのが楽しみだった。
甘いシロップづけの桃は旬の白桃よりも甘く
幼い私にとって何よりの御馳走だった。
FTAの範囲が拡大するにつれ世界中の作物は
国境を越え、旬の物が安価に流通するようになり
缶詰のような加工品は廃れて行った。
「あれはあれで美味しかったよな」
味覚の記憶という物は消えない物なのだと思った
次は、「大丈夫」「真っ直ぐ」「靴」で
「大丈夫でしょ」
気楽な感じで君は言う。
僕にとってはこの世の終わりにも近い一大事なのに。
「だけどさぁ・・・」
言いかけた僕の言葉を遮るようににっこりと笑う。
「靴の紐、結び直して真っ直ぐに行ったらうまく行くよ。」
ちぇっ、人ごとだとおもって・・・
「待ってるからね。」
無邪気な笑顔がじっと見つめる。つられて笑顔になる。
根拠のない自信が伝染したようだ。
次は「電車」「常連」「無意識」で。
私のうなじを焦がす光
無意識にジーンズで手汗を拭う
電車の中
いつもの座席
むらむらと人のぬくみが立ち上る
うなだれ頭をひざに倒す
頭を抱えると指先に毛の隙間の水分がにじみ込む
手の隙間から覗き込む
『常連』と目が合う
あいつはいつも長袖のシャツを着ている
あいつの薄手の生地に汗がにじみ皮膚に張り付いている
ゆっくりと目をそらす
手のひらの赤み
じゅるじゅると移動しているのだ
手のひらが何かに覆われている いや、全身が
狭い車内に揺らめく大気
見られている そうか
次は『ウエストポーチ』『ほくろ』『左足』で
ほくろ。それはある時は魅力となり、またある時は汚点となる、まか不思議なものなんだ。
ほら、俺みたいに、頬骨の上、ヘイッ、と自らの名乗りあげてる様なほくろは、大抵汚点。俺はこのほくろと二十数年過ごしているが、こいつを殺してやろうと思った回数は、年齢の五乗ぐらいあるんだ。
……時々、他人のほくろが羨ましくなる。ほら、あそこ。座って文庫本を読んでる女がいるだろ? そうそう、ウエストポーチしてる女。
あいつの……そう左足だよ。あるだろ、ほくろが。控え目で、いかにもおしとやかです、って言わんばかりのほくろがさ。ああいったほくろを見る度思うわけよ。何で俺のほくろはこんななんだってな。
頬骨の上にあるのは……まあ、それも嫌だけど、今はいい。問題は大きさなんだ。ムカつくだろ、このほくろ。見てると潰し殺してやりたくなる。こいつのせいで俺がどんな人生を歩んできたことか……
ん? えっ、さっきの女が俺を見てる? ……ちょっと熱くなり過ぎたかな。ほくろでこんなに語れば、そりゃ深夜の電車だ、注目されるよな。しまったなぁ……失敗だよ。
ん? 向かってくる? 向かって来るって何がだよ。ええ? 後ろ?
「あのー……ちょっといいですか? ……自分のほくろ、そんなに嫌いにならないで下さい。それは貴方の分身だから。そんなに大きいのは、貴方という人の大きさの現れですよ。あ、すみません。ちょっと話が聞こえたので」
………………な、何だったんだ今のは! びっくりしたじゃないか!
ああ? ……まあ、平均よりは上だな……。う、うるさいうるさい! ドキドキなんてしてねぇよ! その、ちょっと可愛いかなって……ちょっとだけ思っただけだ!
…………もういい! 勝手に言ってろ! もう寝る。
次回
「君、黄身、気味」
あげあげ
538 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/29(日) 19:52:11
「君。君」
私は廊下でちょうど通りかかった男に声をかけた。
「なんですか?」
男はお前は誰やねんという目つきでこちらを見ている。
「いやー、君、君は卵で例えると卵の黄身だね」
「はぁ?」
貴様は何を言っているんやという眼で男はこちらを見ている。
「いやね、黄身と言うのはね、つまり白身の部分で守られているということなのだよ」
「で?」
男はあくびをして通り過ぎた。
(うんこ気味だな。もうこれを当たり前のように思っている)
私は帰宅の準備をした。
次は「アンモナイト」「太古の海」「重油が浮かぶ海面」
539 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/29(日) 22:16:14
太陽が昇り、海面がキラキラ輝いた。砂浜に埋もれた目覚まし時計に、波を伸ばす。
「いっけない!遅刻しちゃうわ!」
背中に重油が浮かんだ海面は、急いで着替えると、太古の海になった。
「父なる者よ!食事中は、大地を広げて読まないで!海も、朝ごはんくらいちゃんと食べなさい!」と、母なるものが叫んだ。
「帰り遅くなるかも、行ってきまーす!」
トーストのようなアンモナイトの化石をくわえ、まだ名前の無い、新しい五月の坂道を、海は、遺伝子を漕いでダッシュで駆け抜けた。
540 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/29(日) 22:20:45
次の方「留守番」「汗」「子供の頃」で。
541 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/30(月) 22:42:10
留守番 汗 子供の頃
会社帰りの道すがら、ふと僕は夜空を仰いだ。
視線の先にある、さえぎるもののない星の瞬きに導かれて、ある記憶が甦る。
とおい、はるかとおい、子供の頃の思い出だ。
ひとり留守番をしていた、あの夜。君が遊びに来たんだ。
僕らは、近くの海岸を臨むベランダで、時が訪れるのを待った。
ゆるやかに風になびいた君の長い髪が、
かすかな香りをともなって僕の心をくすぐっていた。
やがて、時報の音とともに、雷にも似た轟音が重なって響いた。
目の前では、真っ黒なキャンバスに滴っては飛び散る虹色の水滴のように、
無数の花火が連なり咲いては闇に溶けこんでゆく。
「きれい……」何度もそう言いながら、君は無心で光の宴に見入っていた。
僕はといえば、君の瞳に映った光の閃きしか見ていなかったっけ。
そして、何度もためらったあと、汗ばんだ手を伸ばし、君の手をそっと握った。
君は驚いていたけれど、何も言わず、ただ笑顔で僕の手を握りかえしてくれた。
僕のいる今という現実からは隔絶された過去の残り香。
それでも思い出さずにはいられなかった。君と過ごした、花火のように儚い時間を。
542 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/30(月) 22:44:47
543 :
sou:2007/04/30(月) 22:48:07
541ですが、お題忘れてましたね
「鎖」「牢獄」「こんな世界で」
544 :
名無し物書き@推敲中?:2007/05/01(火) 01:27:52
牢獄で食うメシは、兵隊時代に、蛇の干し肉よりもまずかった。
吐くのを我慢して食い切ると、目尻に溜った涙が頬を伝った。
泥水の匂いのする粥と、水滴を眺める日が続いた。
隣の罪人が、テリサに訊ねた。
「なぁ、鎖を外してくれ、オレのおっかあは病気なんだ。」
テリサは言った。
「外してどうする。どうせ、治らない病気だろ?しゃべるな。みんな長くはないんだ。」
苔の尖端で膨らんだ、水滴が落ちた。
「それより、外は雨かな?」
「こんな世界なんて、ましてや、天気なんざ、もう知らねぇよ」
「洗濯屋だったのかい?」
「農夫だよ。足のわるいおっかあじゃ、とても無理だ。麦もみんなダメだ。」
ある日テリサは、自分の鉄の鎖が、水滴で、錆び始めたのを知った。
「なぁ、おじさん、もう一度きくけど、今って雨期なのかい?戦争で、頭が少しおかしくなったらしくて、いつなんだろな。」と暗号めいた事をいった。
しかし、心弱い農夫は、自分の事しか言わなかった。
「一日でも晴れたら、おっかあの足も良くなるんだが、神様、お願いだ、明日だけでも晴れにしてくれ、首をはねられても、おっかあが、見にくるといいな、ああ、あ」と、農夫が泣き崩れた。
王が発狂してから、牢獄はいつもこんなふうだった。
「おっさん」英雄テリサは、流れ落ちるのが遅くなった水滴と、自分の鎖を眺め、目をつむると「明日、晴れるといいな。」と言った。その夜、農夫は泣いてばかりだった。
次の日、発狂した王が罪人を直々に見に牢獄に来た。王が、テリサを見た。
テリサは王を睨み、ボロボロになった鎖を見せた。
「これはどういうことだろうな、王が親殺しの腰抜けだと、鉄も腰抜けになるな。今日おれを殺さなきゃ、逃げるだろうね」と叫び、王の顔にツバを吐いた。
その日、絞首台に登ったのはテリサだった。丘の向こうで、大麦がざわめいているのを見ると、彼は安堵した。
そして、妻と農夫の母ために祈りながら、一歩一歩、太陽に近づいていくような気がした。
次の方「カメラ」「不器用」「6」で
「でも、これらの写真を見比べてください」
机の上にずらと並べられた6枚の写真には、それぞれ同じ場面、炎上中の田中邸が写っている。
どれもほぼ同時刻、田中家の長女が消防士に助け出される瞬間を撮ったものだ。
それぞれの写真は別々に週刊「ホットスキャ」編集部に持ち込まれてきた。現場には偶然、
6人のカメラマンが居て、6枚の決定的瞬間が記録されたというわけだ。
「君の言いたいことはわかる」
彼は6人のうちでもっとも良い写真を撮っているのだから、ギャラも相応に払えと訴えている。
編集の目にも彼の腕は群を抜いているように見えたし、もし載せるなら他の素人だか駆出し同然の
不器用な絵は実用に耐えないのだから、彼のものを使うより他にないのは明白だった。
「だが駄目だ。他と同じ金額しか出せない。」
「どうしてです?」
「はっきりいって、どの写真にも価値がないからだ。これは腕の良し悪しの問題じゃないんでね」
それを聞くと6人目のカメラマンは出された金だけを持ってスゴスゴと帰っていった。
当の編集担当である田中氏は、彼がドアの向こうへ消えると、六枚目の写真をまじまじと眺めつつ、
そっとアルバムの一番手前に仕舞って元の業務を再開した。
次「次代」「センター」「アルミ」
546 :
SF:2007/05/08(火) 10:17:03
おれは部室棟の裏に呼び出された。その場所はこの学園内でも最も人通りが少なく、おそらく最も地面が血を吸っている場所。
正直なところ、タイマンなんてものは時代遅れだと思ったし、そもそも腕力には自信がないので行きたくはなかった。
でもその申し出を断るわけにも行かない。おれを呼び出したのは、今付き合ってるカノジョの、いわゆる元カレだった。
そういった因縁にはなるべく筋を通しておきたかった。
そんなわけで今が、俺の顔面に元カレの拳がのめり込んだ瞬間。
彼のヤンキー仲間がいれば、「センターど真ん中あ!」なんてヤジも飛ぶような一撃。
そういえば今日の朝、担任が「君たちは次代を担う人間なんだから、しっかり勉強しなさい」と言っていた。でも、それはちょっと無理かもしれない。そんなことを俺は地面に這いつくばって考えた。
鼻血も、だらだらと口の周りに溢れている。とても無様なんだろう、俺の姿は。
元カレはそばに置いてあった缶ジュースの栓を開けた。
それを自身の口に近づけ……思い直したようににやりと笑い、俺の頭上に掲げた。そして傾ける。
頭に炭酸の不快な感触。糖分のねばねばと甘ったるい匂いとが俺の顔にまとわりつく。
へへへ、と元カレは残りを飲み干した。
「ちょっと!」
そこへ誰が呼んだのか、カノジョが走ってきた。
彼女は元カレの威圧感に一瞬だけ足をすくませ、すぐに俺の元へ駆け寄り介抱しようとする。
元カレの表情が固まった。
彼はアルミ缶をぺしゃりと握りつぶした。
次、「夕焼け」「自転車」「電線」
僕は今、七階建てのビルの前に立っている。
大宇宙真理平和祈願センター。思ったよりずっとデカい。
屋上から下がる垂れ幕には、「次代を担う若者たちへ」と大きく書かれている。
先輩が言ってたスペースなんとか、って団体名に聞き覚えはないけれど、この様子じゃ信者はかなりいるようだ。
宗教って儲かるんだなぁ、と改めて思う。
「そんなとこで何やってんだ、早く来いよ。講演始まるぞ」
入り口から先輩の呼ぶ声がして、僕は慌てて会場に向かった。
薄暗いホールに通された。周りにいるのはみんな僕と同世代の若者ばかりだ。
まもなく静かな音楽が流れ始め、前方のステージに灯りがともる。
舞台の右端から小柄な男が現れ、深々と一礼をした。
マイクに向かい、すぅっと息を吸い込む音が聞こえて。
「一円を笑うものは一円に泣くッ!!」
よく通る声が、スピーカーを震わせる。
「ハイ、いいですか皆さん! 貴方達は一円玉のことを軽視しているでしょう!
道に落ちていてもわざわざ拾う人など居ないでしょう?
しかしッ!! 知っていますか一円玉の本当の価値を!
一円玉を作るのに約二円のコストがかかっているということを!!
貴方達は例えるならば一円玉! 正当な評価をされていないだけなのです!!
そう、真の価値は二倍!! 胸を張って世間にアルミニウムの輝きを見せ付けてやろうではないかッ!!」
ああ、と僕は一つ納得した。
それで先輩は一円単位まできっちり割り勘したがるのか。
549 :
548:2007/05/08(火) 20:11:38
ああ、リロードしてなかった…すみません
お題も忘れたのでちょうどよかった。
僕は枕もとの目覚まし時計を見て、ため息をついた。
もう塾へ行く時間だった。
読みかけの漫画雑誌を閉じて、僕はベッドの上でのそのそと起き上がる。
机の脇においてあるショルダーバッグを肩にかけて、部屋を出た。
居間からはテレビの音が漏れて聞こえる。
祖母が好きで、よく見ている時代劇シリーズの決め台詞だ。
僕は居間の外から「塾、行ってくる」と声をかけてから外へ出た。
空がすっかり朱の色に染まっていた。
グラデーションが僕をなんとなくさみしい思いにさせる。
庭に止めておいた自転車を出してまたがると、僕はそのさみしさから
逃げるように勢いよく漕ぎ出した。視界の先はあくまで赤く、電柱も
電線も、何もかもが黒いシルエットになっていた。僕は小学生の頃に
作った切り絵を思い出していた。そして、僕自身もその絵の中に取り
込まれてゆく気がした。
次は、「かごバッグ」「手帳」「椅子」でお願いします。
551 :
名無し物書き@推敲中?:2007/05/12(土) 21:36:54
午後十二時三十五分。いつもどおりに噴水のヘリを椅子代わりに休憩する僕の前を、
いつもどおりに名も知らぬ美しい女性が通りがかる。初夏の爽やかな風とともにアカ
シアの甘い香りがただよい、顔を上げた僕のボサボサ髪がそよそよとなびく。二十八
歳の遅い青春の胸の高鳴りとともに、思わず瓶底メガネを押し上げて彼女を見る。今
日の彼女は、白レースの日傘に、籐で編んだかごバッグを持っていて、相変わらず清
楚だった。女性と殆ど会話をしたことのない僕は――最近の女性との会話は「ご注文
は?」「コーヒー」だけである――彼女に声を掛けることも、ましてやこの胸の高鳴
りを伝えることなど、とても出来ない。振り返らない彼女を、ただただ見詰めるだけ
である。昨日まではそうであった。しかし今日は、今日こそは声をかけようと決意し
て会社を出てきたのだった。ごくりと唾を飲み込み、手を握り締める。行くぞ、と何
度も自分に言い聞かせ、立ち上がった。膨らんだ鞄を肩に掛けるのももどかしく彼女
を追う。手を伸ばし呼び止めようとしたそのとき、運命が動いた。少なくとも僕はそ
う思った。初夏の風が彼女のバックからハンカチを攫ったのだ。ハンカチはふわりと
僕の手の中に舞い降り、彼女が振り返った。
次:五月、浜辺、南国
553 :
552:2007/05/14(月) 22:42:27
推敲過程で「手帳」が抜けてしまったorz
もういちど同じお題で書いてください
次:「かごバッグ」「手帳」「椅子」
窓を開けると、新鮮な風が室内に舞い込んできた。
机の上の手帳もぱらぱらと音を立てめくれてゆく。
ああしまった、と僕は急いで駆け寄り、手帳の今日の日付を探し出す。
五月十四日の欄には赤い丸印。そこに書かれた言葉は『彼女が恋人ではなくなる日』。
三ヶ月も前から計画してきた。彼女自身、口には出していないけれど、今の関係に飽きてきているようだ。説得する自信はある。
椅子に座り、僕は、日付の丸印に斜線を入れた。
そうしているとインターフォンのチャイムが鳴った。
時計を見ると、もう約束の時刻。
窓から外を見下ろすと、かごバッグを手に提げて彼女が立っていた。
僕は階下の玄関へ向かう。机の引き出しを開け、その中の婚約指輪を確認してから。
次、「涙」「坂道」「選択肢」
――こんな時こそ頭の上に選択肢が出てきたらいいのに。
その三択か四択の中からだったら、正解を選ぶ自信があるのに。
人生最大のピンチにして最大のチャンスである。
目の前には美少女と言って差し支えないクラスメイト。
その頬に流れる涙。
カードの切り方次第で今後の学園生活が大きく変わるってこと、
ギャルゲーの鬼とまで呼ばれた俺にはハッキリわかる。
好感度アップか?ダウンか?
フラグ立つのか?立っちゃうのか!?
いきなり逆転ホームランかっ!?
どうする、俺!!!!
ああ、今すぐ選択肢降りて来い。そして俺を導いてくれ。
目を閉じてゲームの神に祈る。
――よし。
まずは声をかけようと再び目を開けると、彼女はいなかった。
視界の端に学園前の坂道を駆け下りていく姿が映った。
ゲームオーバー。
今こそ頭の上に文字が表示される瞬間である。
現実世界って、人生って、どれだけ難易度高いんだ。
セーブとロードが使えないなんて。
次 「数学」 「遊園地」 「高校野球」
556 :
名無し物書き@推敲中?:2007/05/15(火) 23:08:50
557 :
名無し物書き@推敲中?:2007/05/16(水) 19:24:07
傲慢で粗暴な親父の平手を食らったあの夏の日からもう25年。
我が家は数十年の歴史を持つ野球家系だったらしい。
なんとかの星よろしく。徹底的な野球漬けの日々が幼い頃の俺には待っていた。
春の暖かな風を切り裂くようにバットを振り。
夏の暑い日にはスタミナをつける為に徹底的に走り込み。
秋の緩やかな空を背景に強烈なノックをし。
冬のは肩を壊さないように気をつける。
そこには娯楽など無く、旅行はおろか遊園地さえ二十歳を越えるまで行った事は無かった。
嫌気が差した俺は、17の夏野球を辞めた。平手を数発と怒声を少々、仕上げは勘当。
着の身着のまま親戚の家へと放り出されたおかげで野球とは縁を切った――
今年も例年通りの夏が来た。甲子園の夏。
あの親父は今では大好きな高校野球の監督だ。死ぬときはマウンドで死にたいらしい。
俺は数学の研究を生業にした。昔気質の根性論などクソ食らえだ。勿論、親父への中てつけでもある。
TVのスイッチを付けると洗い物もそこそこに妻が駆け寄ってくる。
途端、リビングのTV越しに硬球とバッドの弾ける気持ちの良い金属音が響いた。
放物線を描くように綺麗なアーチが球場外へと延びる。妻が両手に持ったエプロンを中空へと投げ出し歓喜した。
あの夏の日の親父の平手のような感覚がビリっと頬に走る。
悠々とベースを踏む息子を眺めていると、嬉しいやら悲しいやら複雑な気持ちだ。
相手のチームの監督の知った顔がチラリテレビに映った。ニヤリと笑った気がする。
どうやらもう暫らく我が家の野球戦争は続くらしい。
「銭」「電話」「飴」
なぁあんちゃん、世の中は銭や、ぜ〜んぶ銭でできよるんや。
せやさかい銭持っとらん奴はカス扱いされてもしゃあないやろ?
それが世の中の道理っちゅうもんや。
で、あんちゃんはカスなんか? 違うやろ。わかるで、うんわかる。
上等なおべべ着とるもんなぁ。ほらナイフで軽う撫でただけで柔らこう裂けよる。
わしのんなんかもうがびがびのがっちがちや。赤黒いシミもようけ取れんしな。
あ? 持ち合わせがないから親に電話させてくれって?
まぁええわ。そこの公衆電話からかけ。ほら10円くらいくれたったるわ。
一つ言うとくけどな、持ってこさせるんやない、お前の口座に振り込ますんやで。
あんちゃんは利口やからわかっとる思うけど、念のためな。
そうそう上出来や。それじゃ早速そこの機械で引き出してもらおか。
ああ、ほんまおおきに。これでようようDS Lite買えるわ。
何かあったら遠慮なく言うてき。力になったるさかい。ほな。
一気にまくし立て、お下げの少女は軽やかな足取りで駆け出した。
残された少年は、30分前から忘れていた口の中の飴をようやく思い出した。
「義理」「嘔吐」「敗色」
僕は布団にうつ伏せになりながら、先刻買って来た現代絵画集を開いた。
抽象画のページをぱらぱらと捲っているうちに目に留まったその絵は、
何か真っ白い画用紙に茶色い絵の具をぶちまけた様な――いや、絵の具というには余りにも汚い。
画材に何か混ぜているのか、目の粗い土のような滓がこびり付き、
その表面にはがびがびと乾いた何か粒の細かい穀物が付着している。
絵画の説明に目をやると次のようなことが記されていた。
「敗色」 喜志田 玉雄(1913〜1949)
晩年の喜志田が嘔吐した際、その吐瀉物を画用紙に擦り付けた彼の作品群の中でもとりわけ異質なもの。
喜志田は戦時中に兄・孝雄を失い、その妻フサ江も終戦後心身を病み後を追うように他界した。
喜志田自身も遊興と放蕩の末に自らの生の進路を断つことになる。
喜志田の死後発見された書簡には義理の姉フサ江への秘めた思いが綴られていたが、
この作品にその思いを託したかはあくまで閲覧者の想像に委ねる他はない。
561 :
560:2007/05/23(水) 01:48:54
忘れてた
次の方
「愛媛」「ドロップ」「だんだん畑」
562 :
「愛媛」「ドロップ」「だんだん畑」:2007/05/26(土) 23:53:35
だんだん畑のはたを登っていくと、愛媛みかんが植えられた斜面がある。僕は、
うちの庭のもみじよりも小さい、僕の手の半分よりも小さい、小さい小さい妹の
手を引いて、だんだん畑のはたを歩く。妹に合わせてゆっくり歩く。妹の小鹿の
靴が、歩くたびにクウクウと鳴く。これからみかんを採りに行くというのに、妹
が嬉しそうに、「ロロップ、ロロップ」と言って、ドロップが二・三個入ったク
マさんのポーチを振っている。「ドロップ好きか?」と聞くと、「あのね、おば
あちゃんがね……」と満面の笑みで説明してくれる。その、妹にドロップをくれ
た、風邪で寝込んでいるおばあちゃんの代わりに、僕はみかんを採りに行く。
そうこうするうちにみかん畑に着き、僕はみかんの収穫をした。妹は畑の隅に
テンと座って、土を熱心に掘っていた。
帰り道、妹にみかんを一つやった。
そうして、愛媛みかんにまみれた僕たちは、夕焼けでみかん色に染まっただん
だん畑のはたを、手を繋いでゆっくりと降りて行った。
次 「蛍」「露」「稲」
「蛍、みたことある?」
彼はいきなり、そんなことを言った。
何か裏に意図があるのか、と思いながらも僕にはそれが想像も出来ず、ただ素直に首を横に振った。
「ほら、ネットで見たんだけどさ、俺たちが昔通ってた小学校の近くに、けっこう良いスポットがあるらしいんだよ。」
行ってみないか、と彼は目を輝かせながら言った。
地図でよくよく確かめてみると、僕も何度も行ったことのある場所だった。
当時は良く、帰宅するとき道草を食いながら帰った。
「何年ぶりだろ。」
その晩。独り言を漏らしてから、僕は自分の案外と楽しんでいるのに気がついた。
一車線の小さな道の両側には、延々と田んぼがつづいている。
昔はそこに侵入して、稲を滅茶苦茶にして叱られたものだ。
そうしてずっと歩いてゆき、山へ入った。
街灯がないため、彼は懐中電灯を付けた。
「準備が良いね。」
僕は言った。こちらは全くの手ぶらだったのだ。
足首に背の高い草が触れる。露に濡れているのか、ひんやりと冷たい。
小川の匂いがする。たまに、友達をそこへ突き落としたりしたものだ。
そこから歩いてゆくと、すぐに目的地へ到着した。
その小川は、コンクリートですっかり舗装されてしまっていた。
僕と彼は肩を落とした。
ネットのページを帰ってからもう一度確かめると、更新日時は僅か半年前のものだった。
次、「ロケット」「電池」「ブリキ」
564 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/02(土) 21:37:32
「ブリキ」「ロケット」「電池」
ブリキのロンには、友達がいる。友達の名前はリン。「おはよう、リン。」
町を歩いていると、リンが走っているのが見えたので、声をかけた。
「お!おはよ、ロン。なぁ、今から皆で、探検しに行くんだ。ロンも行かない?」
リンは走っていた足を足踏みに変え、話しかけてくれた。
「行く!」
ロンは嬉しそうに答えた。そして二人は走っていった。
たどり着いたのは、大きな沼。沼の前には「立ち入り禁止」の看板がある。
リンとその友達逹は、ぎゃいぎゃい言いながら沼に入っていく。
ロンは沼の前に立ったまんまだった。
「ロン、この沼に恐竜がいるんだって!」
「恐竜?」
「そう、恐竜。一緒に探さない?」
「ちょっと僕は遠慮しとくよ、ごめんね。」
そっか、と言ってリンは仲間のとこに行った。
結局、夕方まで探しても恐竜は見つけることができなかった。
あ〜あと言いながら、皆家路に向かった。
「あ〜泥だらけだ。これ絶対起怒られるだろなー。」リンが自分の汚れた足を見て、つぶやいている。
僕は、汚れることもできない。
「なんで入んなかったの?」
リンがなんとなく聞いてくる。
565 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/02(土) 21:38:44
「僕の体、鉄板薄いから…。」
「あ〜、そっかー。誘っちゃってごめんね。」
リンは申し訳なさそうに言った。
「違うんだ!誘ってくれて、すごく嬉しいんだ。一緒に行こうって言ってくれなくなるのが、一番悲しいし。」
「なら、よかった。」
リンはケラケラ笑っている。
「リン逹は好きだね。」
「ん?」
「危険なとことか、怖いとこ。この前だって、幽霊でるんだー!って言って廃墟まで行ったじゃん。」
「あ〜、あれね。だって危険だとか怖いだとか言われると、恐ろしいんだけど、凄く見たくならない?」
相変わらずリンの笑顔は太陽みたいに暖かい。
僕が笑うと、ギコギコ鳴る。それが嫌だった。
「僕は臆病だからな〜」
とても弱い、いつ止まってしまうかわからない僕の体と心が怨めしい。
566 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/02(土) 21:41:11
「じゃあ、また今度ねー」「うん、バイバイ〜」
ある朝、リンは目の前の光景に呆然とした。
「なんで…なんでロン…」リンの頬に涙がつたった。
ロンの家に遊びに行ったリンは、ロンがいなかったので、辺りを探したのだ。
そして見つけたのは、前に一緒に行ったことのある、ロケット工場。
ロケット工場に行くには、川を渡らなければならなかった。
「ロケットいいよな〜、カメラ持ってくればよかった。」
「なんで?」
「いや、記念に撮っておきたかったなーと思って」
「そっか〜…」
あの時の、ロンのうつむき気味の顔を思い出す。
「僕があんなこと言わなければ…」
リンはその場にしゃがみこんだ。
そこには、倒れているロン。手にはカメラを持っている。
警官が来た。
「あ〜、可哀想に。電池が壊れてるわ。この型のブリキロボットは水に入ると壊れちゃうんだ。」
ロンが手に持っていたカメラには、しっかりとロボットがうつっていた。
無駄に長くてごめんorz
次のお題「髪の毛」「くまさん」「メガネ」
すいません、最後、ロボットじゃなくてロケットでした…or2
569 :
「髪の毛」「くまさん」「メガネ」:2007/06/05(火) 11:26:12
「パパー、くまさんから髪の毛ぇ…」
泣きそうになりながら訴える娘の声に、私は居間へ向かった。
見るとテーブルの上でお行儀よく座らされたテディベアの頭部から、たわしの様に何かが生えている。
バニラアイスの様な色の生地から作られた彼は、先日インターネットで私が購入したものだ。無名作家さんの作品ながら非常に丁寧なつくりが見て取れ、手の平の上で無垢に微笑む姿に娘も愛らしい笑みを返していた。
それが、今は。
テーブルに近づきメガネをかけ近くで確認すると、クマの頭部から生えているのはどうやら人毛らしいことがわかる。娘の言うとおり、まさしく髪の毛が生えてきたのだ。
…触るとチクチクする。剛毛だ。
娘が不安そうに、少し離れた位置から私とクマの様子を窺っている。
まさか髪の毛が生えるとは、迂闊であった。なんと説明すればよいのだろう。
髪の毛の伸びる人形の怪談も知らないというのに。剛毛の生えるテディベアもいるんだよ、なんて教えてしまったら人形の怪談話を怖がるという夏の楽しみの一つを奪ってしまいかねない。それは親としてあるまじき行為だ。
気付けばモミアゲまで生やしかけてきている彼とにらめっこしつつ、うまい説明を考える。
「ミサキ、これはね…」
「ただいまー」
妻の声。旅行から帰ってきたようだ。
「あ、ママ−!」
居間へ入るなり妻の視線はテーブルの上の剛毛ベアへ。
「何、それ?」
「くまさんからね、髪の毛が生えてきたのー…」
「……。あなた、また私のいない間に…」
「いや、今度はホラ、ワラとか木の人形じゃないから…」
「ワラや木じゃなくてもそのモミアゲで充分よ」
そう言い放った妻はテディベアをゴミ袋にいれ、その上から日本酒と粗塩を振り撒き袋の口をしっかり結ぶと
「これ、明日ちゃんと捨ててきてちょうだい」
私に突き出した。
「はい…」
オカルト趣味に馴染んでもらおうと、可愛い「のろいのテディベア」を選んだのだがまた失敗してしまった。髪の毛の生える「のろい」とは思わなかったのだ。
テディベアが根性で我が家に戻ってくる事を夢想し、妻の土産話と土産物を、それはそれで楽しむ事にした。
次は「手袋」「香水」「雨雲」でお願いします
それは、バイトが長引いた日の帰り道のこと。
いつもの道を歩いていると、前方から1人の女性が歩いてきた。
彼女は上から下まで真っ黒な服で、雨雲もないのに黒い傘を差している。
そう、黒い手袋に握られているそれは、日傘ではなかったのだ。
……何か、嫌な予感がした。
俺は来た道を引き返そうと彼女に背を向け……肩を掴まれた。
「あ、やっぱり守ちゃんじゃないのー!」
頭のてっぺんから出ているような甲高い声を浴びせられ、しぶしぶ振り返る俺。
「なんつー格好してんだよ……」
上から下までフリルだらけの真っ黒な服に、まるでノコギリのような装飾がゴテゴテとついた黒い雨傘。
「死獄幼女の澪ちゃんよ。 かわいいでしょー!」
そう言ってその場でくるりと回転する彼女。
強烈な香水の香りが、徹夜明けの俺の脳にトドメを刺した。
彼女は日高薫子2X歳。
正真正銘、血の繋がった俺の実姉である……
えー、わたしにホラーは書けませんでした。
次のお題「田舎」「月」「井戸」
571 :
570:2007/06/06(水) 01:31:57
って、一文抜けてる!
最後から四行目、「スカートとともに広がる強烈な香水の香りが」に置き換えて読んでください。
夏休み、恒例だった父の田舎への帰省。
当時は祖父母が住んでいた大きな屋敷を、小学生最後の夏休みだからというだけの理由であてもなく真夜中コッソリ抜け出した僕は、庭に白い人影を見つけた。
時間が時間だけに考えられる可能性はいずれも有り難くないものばかり。
小心者のクセにおとなしく寝ていないからだと罵る心臓を押さえつけながら、祖母の愛でるサボテンを避けつつそっと木の陰に隠れ、それでも低い位置から覗いてみた。
白い人は大して動いておらず、ぬるい空気の中近くの川から時折流れてくるひんやりとした空気に揺られる様に、井戸のぐるりをゆらゆらと周っていた。背すじがゾクリとした。
「月を飲みたい」
聞き間違いかと思ったが、声は間違いなく僕へ向けられていた。白い影が動きを止め、こちらを向いている。血の気が引き、一瞬目の前が真っ白になった。
「月を飲みたい」
激しくはねる心臓とは対照的に、静かに、全く同じ調子で繰り返される言葉。
「月を飲みたい」
かぼそい声だった。
何故だか急に居たたまれなくなってしまった僕は、木の陰から白い人の正面へ出てしまった。
空には月が皓々としていたのに、近くで見てもその人は輪郭意外はっきりしない。
今度は井戸を見ながら言った。「月を飲みたい」
月は天頂の辺りだ。もしかすると井戸の蓋を外せば月が水に映りこむのかもしれない。蓋に手をかけると、涼やかな甘い香りが周囲に満ちた。昼は日陰に避難させられていた無数のサボテンが、夜は今かと一斉に花開いたのだ。
井戸の蓋を完全にどけると、あたりに溢れる白いサボテンの花をより一層輝かせながら月は、深い穴の底でも輝いていた。
安心した僕は顔をあげ、横にいた白い人に声をかけようとしたが、その姿は無かった。
翌朝、「一部地域で皆既月食」というローカル新聞の記事を何やら熱心に読み耽る父を尻目に、庭の井戸へ向かった。
そこらじゅうの日陰からサボテンの花がこちらを覗く中、井戸の蓋を開けると中に一輪。真っ白な大輪のサボテンの花が月の様に、真っ黒な水に浮かんでいた。
次は「襲名」「ヘビ」「花盗人」でお願いします
573 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/06(水) 16:25:56
相変わらずツマンネーなここ
574 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/07(木) 01:02:16
お題がマニアックすぎるし、誰が書くか気になる…(´・ω・`)
書けない私は多分、確実に頭が悪い
575 :
「襲名」「ヘビ」「花盗人」:2007/06/09(土) 11:40:00
「襲名」「ヘビ」「花盗人」
30年ぶりに憧れの女のドアをたたく。男は年甲斐もなく震えていた。
最初に会った頃、彼はまだ少年だった。画家に憧れる名もなく貧しい少年だ。
時折、階上から響く彼女のピアノと歌だけが、彼の唯一の慰めだった。
「勉強家なのね。いつか、貴方の素敵な絵を見せてください」「…は、はいっ」
名画家となり、門の中から彼女を連れ去る事を、何度夢見た事だろう。
何の憂慮もない、劣等感のかけらもない、花盗人としての自分を。
しかし、彼女は堂々たる家業を襲名する継ぐであろう、大富豪の娘だ。
クリーム色の荘厳な門を前にすると、ヘビににらまれたネズミの様になる。
ノックできないまま30年が過ぎ…そして今、彼は粗末な薄いドアの前にいる。
昨日、彼女を見た。
屋敷もドレスも没収され、粗末な服に身をやつしてはいたが、瞳の色で判る。間違いなく彼女だ。
「今なら会える!」と、彼は決心した。なんだかすご卑屈だけど。
「そうさ、やっと地位を得た、胸を張って会えさ。そのために今まで、努力を重ねて政策を通してきたんだ。」
でも…
モジモジと珍しく目を落とし、こっそり深呼吸をする彼をみて、収容所長が小さく囁いた。
「大丈夫ですよ、総統」
※削った行数の方が多いなあw
次のお題は:「猿」「コンピューター」「納豆」でお願いします。
576 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/09(土) 13:30:56
文章作法くらい守れよw
「猿」「コンピューター」「納豆」
猿顔のコンピューターに納豆をぶちまけた時から全てが始まった。
思わず僕は叫んで、猿の額っぽい液晶画面の表面で糸を引いて転げ
落ちる納豆を一粒一粒取り除いていく。
飯を食いながらレポートの作成をしていた僕が悪いのだが。
「これは雨期か。ただの気まぐれな暴風雨か。私は濡れ飛ぶノイズを
前にして呆然としていた」
どうやら故障は免れたようで、僕は気を取り直して入力を続ける。
『これはウキィか。たんぼも木まくってボーナスステージだ。私は濡
れ手に粟のリスを数えて呆然としていた』
しかし、コンピューターに表示された文字は、僕の意図したもので
は絶対に有り得なかった。
「やっぱり故障したのか。時間が少ないのに」
僕は画面を見つめて途方に暮れた。
『あっぱれ遡上ショーのカジカ・スキャンライン』
音声入力をONにしたまま呟いたら、それがそのまま意味不明な誤変
換に変わってしまった。このソフトは調子が良い時の変換率99%以上
で誤変換は全くと言っていいほど起きないのに。
「困ったな。どうしよう」『小股な。ドリアン』
本格的に故障らしい。
『ていうか、君。コンピューターは計算機なんだぞ。君の脳みその補
助具。それに納豆ぶちまけるというのはいったいどういう了見してん
だ。納豆菌もツーツーだよ。あのねえ……』
故障じゃなくて、故意らしい。
「なんだよ。その投げやりな誤変換は?」
『まあ、なんだ。ついつい粘着質になっちまった。正直すまんかっ
た。ていうか、変換に専念させて』
次は「舟」「月」「番茶」で、お願いします。
路上で二人の男が言い争っていた。
「なんで番茶なんか買っちまったんですかアニキ! しかも1kg!」
「水は飲まねぇ主義なんだよ!」
「じゃあペットボトルの茶で充分じゃないですか!」
「茶葉から淹れる方が経済的なんだ! そんな事もわかんねぇのか!」
「だからって残りの有り金使い果たしちまったら、茶ぁ飲みきる前にオレら餓死ですよ! 『本国からの送金が遅れるから金はできるだけとっておけ』って、今朝オレに言ったのアニキですよ!?」
『返品』という言葉が浮かばず途方に暮れる二人の目の前に、まだ小学校入学前と思しき子供が一人歩いてきた。剥き出しのガマグチを手に持って。
互いに目配せをする男二人。
ひょろりとした男が子供に近づき、カタコトを強調した奇妙な発音で話し掛けた。
「チキュウ コニチハ。ワタシタチ ツキ カラキタ」
空には半分程の月。
「月にはウサギがいるんだよ。本で見たもん。おじさんたちじゃないよ」
「ぐっ…ワタシタチモ スンデイル」
「えっ、じゃあUFO乗ってきたの!?」
「乗ってきたのは舟だ! 手漕ぎモゴ……」
苦戦しそうな弟分を助けようと突然話に加わってきたアニキの口を抑えつつ、男は何とか言い繕った。
「フネノカタチ ノ ユーフォー! コ、コイデキタ!」
「ふ〜ん」
「ワタシタチ ツキ カエリタイ。デモ オカネナイ。オカネナイ チキュウノヒト ツキヘ カエシテ クレナイ。アナタ オカネ モッテル?」
少々強引に話を運び、男は地球人の慈悲を乞う様な瞳で子供を見た。正確には子供が持つガマグチを凝視した。
「マミちゃんのとこでお買い物する約束したんだけど……可哀想だからあげる」
子供は少し考えてから、ガマグチごと男に手渡した。
「アリガト! アリガト! チキュウ バンザイ!」
ガマグチを手にしたらもう用はないとばかりに手早く礼を言い、誰かに見咎められぬ内にと男二人はその場を急ぎ去った。
茶葉1kgとガマグチを手に、アジトであるところの狭い一室へ転がり込んだ二人は『ひゃくまんえんさつ』が6枚という大収穫に狂喜し、部屋にあった残りの食パンを全て平らげてから、うららかな陽気の中意気揚揚と、食料の買出しへと飛び出していった。
次は「ウサギの群れ」「王者」「封筒」でお願いします