526 :
名無し物書き@推敲中?:2005/08/07(日) 18:47:38
「古典」「赤色」「目薬」
「お前、チョコレートが好きだったよな。これ、よかったら」
来年の2006年は古典派の天才音楽家として名高い、モーツァルトの生誕二百五十周年記念祝典が行われるそうだ。
会社の同僚の山田は、それに先駆けてか先日夫婦でオーストリア旅行に行ってきたばかりだった。
パソコンに向かって仕事中だった俺は、「ありがとう」とだけ言うとみやげの箱をそそくさと鞄にしまった。
実は先週、実家の両親がザルツブルグに旅行してきたばかりで、まさに昨日も同じ模様のチョコレートをもらったところだった。
数時間後、俺は無事仕事も終え家に着いて居間でネクタイを外すと、かみさんが包み紙を出してきた。
「おとなりがヨーロッパへ出かけてらしたんですって。これ、あなた好きだったわよね」
今や俺の目の前には総勢百人は越える、赤色の服を来て丸型にくりぬかれたモーツァルトの肖像画が、一様にこちらへ微笑みかけていた。
俺は涙を誤魔化すために、気づかれないようにそっと目薬をさすと
「うん。モーツァルトのチョコ、俺大好き。覚えててくれてありがとう」
とだけ言って、しばらくトイレに籠もりながら膨大な数のチョコレートを片付ける方法について思案していた。
「枝豆」「携帯電話」「リボン」
むかしむかしのある日滋賀県の山中に天から一本のリボンがスルスルと降りてきて、
これを見つけたのは(というより、待ち構えていたのは)この山に住む鵜飼先生と呼ばれる
仙人だったが、この地方の伝説はリボンを見るなり衛星携帯電話を取り出した彼の奇妙な
言動を伝えている。
この仙人のことを昔から嫌っているヌルという大狐がいて、かれの話に
よれば鵜飼先生はどこかへ電話をかけ、開口一番「いやっほう! ついにきたぞ、
天国のリボンだ、メイド・イン・ヘヴン計画もこれで大詰めだ」と叫び、「では、海老男くん、
すぐに例の『枝豆』を用意してくれたまえ。はっはあ!」と言って電話を切るやいなや、
得体の知れない踊りを踊り始めたという。その踊りを見た生物はこのときすべて
発狂してしまったが、ヌルもまたその犠牲者の一人で、だから彼の話の真偽は
ひどく怪しい。ここで気の狂ったヌルはまたあとでこの話に重要な役割を果たすのだが、
それはひとまず置いておこう。ともかく彼の話によればやがて鵜飼先生のもとに身の丈
三メートルを超える、針金のような体つきをしたひどく細長い男がやってきて、かれは
金色の光を放つなにかの種を、鵜飼先生が踊りながら地面に書いたふしぎな模様の
中心に埋めたという。そしてその日、2012年の4月3日からすべてのことが阿呆らしく
変わってしまったのは知っての通りだ。これが地球の第六紀の始まりの年の
始まりの月の始まりの日の始まりの話。
(ところで、520のタイトルは、『夢 再会 夜』の書き間違いでした)
次のお題は
「滅亡」「ジャージ売り場」「囲碁」で。
例えばある日、国会で「国民総ジャージ着用法」が可決され、その他の服という服が滅亡する。
当然「服屋」は「ジャージ屋」と呼ばれ、「葬式に相応しい服装」とは「黒ジャージ」の事で、
挙句にはプロの囲碁棋士は「西陣織のジャージ」を着て対局に臨む事になる。
むろん、デパートのジャージ売り場は常に黒山の人だかりで、
施行2ヵ月後には24時間あいている専門店まで出現する事になる。
なんだかんだで国民がジャージを概ね受け入れ始めた11月の初め、破綻は突然訪れる。
理由は簡単だ。冬が着たのにコートが着れない。ジャージは重ね着にはあまりに向かない。
仕方がないので移動に車を用いる人がふえ、目出度くわが国は環境後進国としての名声を馳せる事になった。
そんなおり、「国民総ジャージ着用法」を断行した首相が凶弾に倒れ、すったもんだの挙句法令自体が撤廃される。
服飾関係者が暗殺者を雇ったとか、左翼的な環境団体が暴走したとか、心優しい殺し屋さんが殺ってくれたとか。
妙な噂は枚挙に暇がない程だったが真相は闇の中で、さしあたり僕たちは普通の服装を取り戻した。
…とまあ、そんな例え話を明日の教育実習でしようとしたら担当教官に物凄くイイ笑顔でどつかれた。
歴史を見る限り、これと同じくらい阿呆は法令なんて幾らでもあると思うんだけど。
次は
スパイク トラック オン・ザ・ロック
で。
むかし滋賀県にはヌルという大狐がいて、これはある事件のせいで発狂する前までは
よく人間に化けて人里に現れたものだったが、なにぶん人間世界の知識が貧弱なもので
行く先々で例えば「ラーメンのオン・ザ・ロック」などの薄気味の悪い代物を注文しては
木の葉を紙幣に見せかけて人に渡そうとしたりするのでたいそう人に煙たがられた。
彼は雪道を裸足で歩かざるをえない狐の暮らしをずいぶん不愉快に思っていたので、ある日
シャム双生児に化けて靴屋に向かった。かれは人を油断させるには老人や障害者になるのが
よいと普段から心得ていたのだが、それにしてもこれは少々やりすぎだったとみえ、店に入るなり
招待を見破られ、かねてより目をつけていたアディダスのスパイク・シューズを手に取る暇もなく
店主に追い掛け回される破目になった。「おれ様にこんな無礼をすると、稲荷の祟りがくだるぞお!」
とヌルは追われながら叫んだが、かれがその稲荷の一族から品性のあまりの下劣さを理由に追放
されたボンクラだということはとっくに周知の事実であったから、まったくかまわれることはなかった。
この街の人々はお祭り騒ぎと弱いものいじめには目がなかったので、見る見るうちにヌルの追手は
増えていった。そしてその中にトラック運転手の源蔵がいて、こいつはタチが悪かった。彼はトラックに
乗り込んで猛スピードでヌルを追い掛け回し、ヌルもこれにはすっかり慌てた。しかし彼がいちばん
慌てたのは、ヌルをさっきからパチンコ片手に追い掛け回していた悪ガキがそのトラックに撥ねられ
ようとしているのを見たときである。ヌルはとっさにトラックから悪がきを救ったが、そのかわりに一番
近くにいた乱暴そうな男に捕まってしまった。ヌルはこのとき尻尾をもがれることを覚悟したが、
冗談みたいなことにこの男はヌルの救った子の父親で、この街でいちばんうまいラーメン屋だった。
かれはその日ヌルを店に連れてゆき、ラーメンをごちそうしたが、ヌルは出されたホクホクのラーメンを
退け、おれはオン・ザ・ロックの味噌ラーメンが食いたいのだといってきかなかった。
次のお題は
「沈没」「マタタビ」「大聖堂」で。
ウミネコ教の大聖堂 大きな船の上の大聖堂
信者達は祈りを捧げ 今日もミャーミャー海を行く
信者達はマタタビを捧げ ウミネコに祈りを捧ぐ
失われた大地がミツカリマスヨウニ
だけど知らない 彼らは知らない ウミネコの姿を
船の上を ぐるぐる回る 太陽は神そのもの
船に纏わりついて グルグル回る 白い鳥は悪魔の化身
彼らは知らない 彼らは知らない 彼らは知らない
何処までも青い空と海だけが知っている
大地は全て沈没したってこと
ある日マタタビを甲羅にはやしたた亀が現れた
それを信者達はウミネコだといって祈りを捧げ始めた
亀は笑った大層 笑った 俺はウミネコなんかじゃない
あれがウミネコだ 白い鳥がウミネコだ あの悪魔そうだ
次のお題は
「雨」「まずい飯」「クーデター」
ああ、どうなっちまうんだろう。この国は。
俺はそんなことを思いながら、ほとほと壊れそうなテレビで自国のクーデターの様子を見ていた。
腹が減ってきたが、たぶん今はどんなものでもまずい飯だろう。
テレビを写しているカメラマンはカメラを担いで革命軍に付いて行っているらしい。見上げたやつだと思う。
先刻、見慣れた首相官邸の前に見慣れぬジープがたくさん止まっている画像を見た。
カメラマンの移す兵の一人が興奮と恐怖で目を血走らせている。ヤバイやつだ。
たぶん職業軍人ではないのだろう。これは軍事クーデターではないから。
画面が兵士の後を追って進んでいく。画面越しに緊張が伝わってくる。
ビクッ、と兵が突然に反応して、画面外にマシンガンを乱射した。突然に溢れる戦場の音。
キャ、と一瞬女の声が聞こえた。
カメラマンは直ぐにカメラをそちらへ向ける。
やっぱり……あーあ、やっちまった。
メイド服を着た女中だ。
兵士の手が画面を覆う。
窓の外に気を向けると、ぽつぽつと雨が降っていた。
この雨は革命の血を濯いでくれるのだろうか?
感想くれ。
next→「スピーカー」「ハーブティー」「楽器」
世界一大きな楽器は滋賀県にあり、これも天国から来たとされる品の一つだ。
その形状と音はリュートによく似ているが、大きさは奈良の大仏が十倍に巨大化して
やってきてもとても弾けないというほど。果てしなく長い弦の一本一本は鉄柱のよう。
人々の考えではこの楽器を弾けるものは神をおいてはルシファー一人しかおらず、堕天する
まえの彼が神の天地創造のためのムード音楽を奏でるのにのみ使われたのだという。
さて小さなハーブティーの店がその世界一大きな楽器の影に隠れるように建っていて、
店主の名はスメドリクといった(MIHP前は大賀といった)。幽霊船から帰ってきた彼が
この物騒な地に居を定めたわけは、ひとえにこの楽器のフォルムに惚れこんだからだった。
彼はこの楽器が鳴らされる日を心待ちにしていて、その日がその日だった。
ある日、彼が客を相手に店で談笑していると、何の前触れもなく彼の鼓膜が破れた。彼の鼓膜だけ
でなく、店のガラスも破れてはじけとび、次には店全体が木っ端微塵に砕けて塵になった。この店だけ
でなく、あの巨大な楽器の周りにあるたいがいのつまらないものは塵になり、彼が話していた客(嫌わ
れ者だった)も水とその他の成分とに分離されて塵になり泥になった。スメドリクはそれらの事態にまっ
たく驚かなかった。ただ涙を流した。音ならぬ音、音楽ならぬ音楽、妙なる響き、天国製の音楽を聴い
たときに、それ以外のことが出来る人間は存在しない。ところでこのあたりにはとある録音機があって、
これは稀有な「つまらなくない」録音機の一つだったが、これがその音楽を拾っていた。それを音源に
世界中のスピーカーというスピーカーがこの日からその音楽を流すようになり、世界中の人間に歓喜の
涙を流させることとなったが、スメドリクは、いま世界で流されている音楽など、自分の聴いた音楽の影の
影の影の影のようなものだと言い張ってきかなかった。他の人間は、「耳の聞こえなくなったあんたに、
なぜそれがわかる」と筆談で訊ねたが、彼はただ「わかるんだよ」と答えるだけだった。
次のお題は
「鮫肌」「ピラミッド」「歌舞伎」で。
以前、フランス旅行をしたときに、電気屋の店頭で見たハリウッド役者は当たり前のようにフランス語だった。
あまり違和感は無かった。
中国あたりに旅行して、ハリウッド役者が中国を喋っているのを見たとする。
多分、それなりに違和感を感じるだろう。
アフリカ独自の言語の音声が入ったハリウッド作品のDVDがあるのかは知らないが。
違和感どころの騒ぎではなく想像すらできないので、いっそあるなら見てみたい。
とまあ、以上私の主観だが、とりあえず一般的なアメリカ人から見たら、
フランス語だろうと中国語だろうとアフリカ独自の言語だろうと、アメリカ語以外は違和感しか残らないのだろう。
違和感なんて所詮成長した環境に依存するし、あるいは得ている知識に拠るものだ。
結局、「知っているか、しらないか」なんだろう。
ところで。
仮面をつけたファラオが「あの」姿で江戸城で政治を行う姿。
鮫肌の歌舞伎役者がピラミッドのなかで公演を行う姿。
…どちらが違和感があるのか、なんて時々考える。
日本もエジプトも知らない人を大量に集めて「違和感がある」「ない」とでもアンケートでもとったら…
一体どういう結果になるのだろうか、物凄く気になる今日この頃だ。
次は「夕暮」「夕立」「夕凪」で。
じゃあ俺も読むか
>.520
文章の雰囲気だけで勝負する作品なんだろうけど、どうしたもんか。
言葉の使い方は悪くないんだけど、芥川のマネをして言えば、
正に器用には書いている、が、畢竟それだけだ、という感じ
こういうふうに幻想的な光景を描くのなら、きちんと描写しないと、
読者には様子がぜんぜん理解できないよ
自分の頭の中にはあるけどここには書かれていないものが、
注意して見ればまだたくさんあるはず
あと、文中で何度も言ってる「あれ」とか「あのもの」について
最後でそれが何なのか明かされないと、ストレスがたまるね
>.527
わけのわからない展開っていうのは、俺は好きじゃないけど、
まあそういう文章はある。
だけど、そういうのはそのわけのわからなさに面白味があるから
文章として成功するのであって、これはそのわけのわからなさが全然
意味を持ってないというか、不条理ギャグにすらなっていないように思う
それというのも、お題の消化をただ単に不条理性でやってしまうという
まあ誰でも一度は思いつくけど賢明な人なら書く前にやめる方法で
すませてしまっているからなんだよね。
不条理ギャグとしてもまったく不出来になるし、お題消化としては最低線、
かつ一発ネタとしては超既出
これではほめるところが無いよ。
ごめん誤爆したORZ
ドンマイドンマイ
夕暮れ時にはまだ少し、時間があった。
落ち始めた陽光に照らし出された寂しげな雲。
海風がぴたりと止んだ薄気味の悪い夕凪の中、彼女は堤防に立っていた。
彼女の眼下、五メートルほど下の方にはテトラポットが無数に積み重なっている。
彼女は失望していた。
心は無常感に隅々まで満たされ、未来という言葉は現実味を持たなかった。
視界の中に生命のエネルギーを感じた経験は、気の遠くなるような彼方のことのように思われた。
一歩足を踏み出し、頭からテトラポットへ墜落し、膨大な血を流し、海水にまぎれた血は闇夜に人の目から隠され
夜のうちに体は波にさらわれる、大海のだれも気にも止まらない点になる。
彼女にはそれがとても魅力的な展望のように思われた。
決心などせずに、ただ無心のまま、数千回通った道の曲がり角を、意識せずにするりと曲がるように
彼女の重心は海へ傾いて行った。
テトラポットは彼女を殺さなかった。
体中に出来た擦り傷と打撲。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
彼女のぼやけた頭はどうしようもない感覚に支配されていく。
やがて、酷い夕立が降り注ぐ。
彼女の身をばしばしと叩く。
流れた血と空から降る水は彼女の体を冷やした。
寒さと痛さが頭の、脳の、隅々まで、うめつくす。それは彼女にとって、どうしようもない現実だった。
誰か書けよぅ
「花火」「遠雷」「蚊取り線香」
曇り空の午後。蚊取り線香が無くなっていくのを、じっと見ていた。
じりじりじりじり。きっと、聞こえるのならこんな音だ。
蚊取り線香は、亀の様なスピードで進んで行く。果てには何もない。
果てに達すれば、彼は消えてしまう。
最果てを見るとき――彼は消えてしまうのだ。
ごろごろごろごろ。これは、空から聞こえてくる音。
油断していれば、聞き逃してしまうような、そんな小さな音。
遠雷である。
私にしてみれば、迷惑極まりない音。蚊取り線香の残り僅かな生命の律動を聞き逃してしまうではないか。
「…さぁ〜ん。よぉこさ〜ん!」
どんどんどんどん。戸を叩く音。隣に棲んでいる外国人だ。私は蚊取り線香に「ごめん」と言った。
「空ごろごろよ! コワイわあ」
「ロジャー、前から花火見たがっていたでしょう」
「見たいで〜す」
「あれが日本の花火よ」
私は、戸の外に見える曇り空を指差した。
「お〜! ジャパンの花火スケールハンパないね〜!」
そう言ったきり、彼は曇り空を見るのに集中しだした。
私は戸を閉め、蚊取り線香の元に急ぎ足で戻ったが、蚊取り線香はもう消えていた。
書き難かったんだよ。感想下さい。
「午睡」「思慕」「カーペット」
簡潔に言おう。おれは神経症にかかり、さらに鬱病を病み、しまいには統合失調症に襲われた。会社も
クビになった。これで人生に絶望しない奴がどこにいる? おれは死ぬ。最後の午睡に、入る。さらば。
おれは、部屋の四隅に、九個ずつ(四・九=死苦)、計三十六個の「バルサン」を置く。
部屋を密閉する。名づけて、バルサン自殺。おれは睡眠薬を飲み、バルサンを焚き、そしておれは、
おれを駆除する。
クールだろ?
こういう人生、あってもいいだろ?
いいさ。
床のカーペットに、死すべきダニどもが、うごめいている。こいつらは、おれの、おれというファラオの、
洵死者。
おれの、忠実なる、しもべ。おれの守護者。冥界での。おれはダニたちの王。ダニたちの。
「いい人生」とおれは呟く。「いい人生」へのおれの思慕は、おれの生命を通じて、止む事無く続いた。
それはいつもいつもあと一歩というところでおれの前から逃げていった。おれはその後を追った。
追って、追って。
そのザマがこれだ。「いい人生」はおれをここに導いた。おれは負けた。騙されたのだ。
一個、二個と、バルサンがつぎつぎ蒸散をはじめ、睡眠薬は効いてくる。最後の瞬間が迫ってくる。
まだ遥か彼方にあったはずの「それ」を、おれが呼び寄せたのだ。それ、ハッピーエンド。
数分後、そこに訪れているはずのハッピーエンドは、濛々たる、あまりに濃い煙のなかに隠れて、
まったく見る事ができなかった。横たわるかれは最後にそれを見る事ができただろうか。
だったらいいのだが。
次のお題は、
「銃弾」「深海」「ぬっへっほう(ぬへっほ、ぬっぺっぽ、などでも可、腐肉の妖怪)」
私は絶望的な気分で今一度計器を見た。水深計は標高3000mを
遙かに突破し、水圧計は0.2hPsでその役目をボイコットしている。有人
潜水調査艇"への8号"はまさに危機的状況だった。
「藤島ぁ! 浮上の他に管圧抑える方法はないのか!」
調査隊の隊長が怒鳴る。でも、そんなものはない。ただ深海で冷静さを
失えば、皆潰れたも同然である。
「落ち着いてください! まだ海にはぬっへっほうが居ます!」
隊長ほかメンバーがオカルト狂を見るような目で私を見た。
「知りませんか? 腐肉の妖怪ですけど、きっと助けてくれます」
隊長はこんなこともあろうかと、という顔で腰から拳銃を引き抜き、額に
手を当て首を左右に振りながら私へ銃口を向けた。
「いや、いやいや。ちょっ、待てよ!」
言うと同時に、私は調査艇の窓にドロドロした肉の塊がくっついている
のを見た。ほら、と指さし隊長を促す。
「お、おのれ妖怪! 極楽へいかせてあげるぜ」
かくして隊長は妖怪に向かって発砲し、その銃弾がギリギリで保っていた
調査艇の均衡を崩したわけだった。
……これが今回、第二次調査隊が海底墓地で発見した石碑の内容です。
せっかくぬっへっほうとか無理矢理入れて頑張ったんだから、お題くらい提示しておくれよ。
進まないよ、ぬっへっほうじゃ。
>>542 あー、すまん。投稿後忘れてたことには気づいたが、行オーバーしてたのも
あるし俺なりに気を使ったつもりだった。まぁでも進まんなら出しとくか。
つーわけで「字画」「万力」「飛行船」
「銃弾」「深海」「ぬっへっほう〜」
テレビをつけたまま眠ってしまった。会社の後、カレシと飲んで帰って、すぐ起きるつもりで
ベッドに横になったのだ。そして、そのまま眠ってはいけないとテレビをつけたのだ。一日でも
化粧を落とさないで寝ると二日は肌の調子が悪い。だから音量を大目にしたのだけれど、
ムダだった。飲みすぎたのは、カレがなかなかプロポーズしてくれないせいだ。
私は「ぬっへっほう〜」という声で目がさめた。
「それを言うなら『ヘイヘイホー』でしょー!」と、すぐにツッコミがはいった。どうやら漫才番組らしい。
「しっかし合コンですよ。女の子にインパクト与えたいじゃないですか。モテたいじゃないですか」
「インパクトって、あんた、だからってカラオケで『与作』歌います? だいたい深海魚みたいな
顔してけつかるくせにモテたいって……冗談もええかげんにせぇよ」
「そんな、照れちゃうなあ」
「誉めてませーん。ぜんっぜん誉めてませーん」
「それでまあとにかくカラオケは終わりまして、次はオシャレな個室レストランに行ったんですよ」
「君、立ち直り早いなー。まあええわ。そいで?」
「それでですね、せっかくの個室で騒げるぞってことで、ゲームすることになったんです」
「ほう、ゲーム? なんのゲーム?」
「銃弾ゲーム」
「……君ね、それ言うなら『牛タンゲーム』でしょー?」
「ううん、銃弾ゲーム。別名ロシアンルーレットっていいます」
「なにがオシャレや! シャレになっとらんやないかい!」
「そんなことないです。偽者の拳銃だし、当たったら僕と結婚できますから」
わたしはテレビを消した。洗面所に行き、化粧を落とす。鏡を見ると、そこには疲れた顔の
深海魚がうつっていた。私が夫婦漫才をする日はまだまだ先のようだ。
すみません。かぶりました。
お題は
>>543さんの「字画」「万力」「飛行船」で。
ごめんなさい。
疲れた顔の深海魚って何だ?気になる
「字画」「万力」「飛行船」
悪人を懲らしめるための装置、なのだそうである。
捕らえた悪人を逆さ吊りにして空に飛ばして反省させる装置、なのだそうである。
なんてことはない、市販の飛行船に市販の万力をぶら下げただけの代物だ。
私のクラスの金持ちの児童が夏休みの宿題だと新学期早々飛行船を校庭に着陸させた。
ありえないことを平気でしでかすのが、ありえないお金持ち連中である。
飛行船には仰々しく家紋と並べて『俎亟侾玲珊号』と記されてあった。
土地の名士である児童のお祖父様が字画にこだわって命名したらしい。が誰も読めない。
校庭では校長と教頭がその名士の周りで太鼓持ちよろしくヘコヘコしっぱなしだった。
それにしても、万力で悪人の足の指を挟んで空高く吊るすだなんて……
「そんなひどいことを考える人間こそ大悪人です!」と叱ってやりたかったのだが……
私は権力者に楯突く勇気がなかった。教育者として失格である。
なんてことだろう、たかが児童の工作のせいで一日中とても惨めな気分だった。
頬を引きつらせながら「ずいぶんお金がかかったでしょうね」と件の児童に尋ねたら、
「う〜ん、先生の給料の何年分だろうかね〜」とガキはそう言って鼻で笑いやがった。
本当にいけ好かないクソガキなのである。一家して明後日にでも没落してしまえばいい。
「うさぎ」「決戦」「おにぎり」
文字どおり雌雄を決さんがため、二人は睨みあっていた。
妻は包丁を持ち、夫は座布団を手にしている。
「貧困に苦しむタンスにセーターとスカートを!」
「これは家庭に限りある資金を守る聖戦である!」
夫婦の決戦はいま膠着状態にまで移っていた。じき決着である。
両者狙いはただ一つ。相手を屈服させることである。隙を探りあっていた。
きっかけは、換気扇から突如怪人うさぎ男が現れた瞬間である。
「この幻惑おにぎり"を食べた者は言われたことをなんでも聞いて
しまうのだ! これを使って我が悪の秘密結社は世界征ふ――」
そこまで言うとパワーバランスは崩れた。うさぎ男はすでに台所に
突っ伏していた。夫もその上にくず折れていた。その背に片足を乗せて
妻はおにぎりを天高く持ち上げていた。
「ああ! これでバッグと指輪と帽子とイヤリングとスカートとセーターと
化粧品と靴が買える!」
妻は叫んだ。勝者の雄たけびであった。
次「カニ」「十字」「まんじゅう」
「カニ」「十字」「まんじゅう」
「・・・27日未明某国北部の山岳地帯で多国籍軍による爆撃があり一般人に多数の死者
が出たことがCNNテレビの・・」
「ちょっとあんた、暇なら灯油入れてきてよ灯油」
正月くらいは顔を出そうと帰省したにも関わらず、母は実家にいた頃と同じように
私を遠慮なく使う。うぁい、と気の抜けた返事をして食べかけのまんじゅうを頬張り、
灯油缶を携え玄関に向かった。12月の冷気がすっ、と抜けていった。
「・・・では一連の誤爆は十字軍の再来であるとの声も出ており多国籍軍への反発が強
まることは避けられないとの見方が・・」
コタツに戻ると、ぬくぬくした幸せな感覚がじわりと広がる。久々にこういうのも悪
くない。ぼけっとテレビを見ながらまんじゅうに手を出す。
「あんたねーご飯前にそんな食べるもんじゃないよちょっと箸運んで」
本人によると、母は近頃なぜか葬式続きで疲れるわ腰が痛いわで大変なのだそうだ。
テレビでは、十字の印を掲げた軍隊が槍を振りかざしている。
夕食は鍋らしい。鮮烈に赤いカニがぐつぐつと煮えていた。昔は土まんじゅうってい
って、行き倒れた人のお墓を道端に作ったんだよ、と誰か言っていたな、と思った。
次は、「楽園」「絶壁」「亀」で。
亀の長老は黙示をもって男に語った。「われわれの楽園は死んだ。おまえ
たちに滅ぼされたのだ。わたしの曽祖父の時代にも、こんなことがあったという」
生き残りの巨亀たちは群れをなして絶壁の端に男を追い詰めている。
「かつておまえたちはわれわれの持つ先見の力に目をつけた。それでおまえたちは
われわれの亡骸、空っぽの鎧を拾い、焼いて、その残された力を燻りだす術を学んだ。
それでお前たちは未来をおぼろげにだが見る事ができた。そして栄えた」
男を取り囲む亀たちは緩慢な動きで忍び寄り、男はへたりこむ。
「その礼としてお前たちはわれわれを虐殺した。老いた亀も若い亀も殺して、その
亡骸を焼いた。おまえたちはわれわれの楽園を見つけ、乗り込んだ。笑いながら
次々われわれの首を刈った。お前たちは素早く、われわれは逃げられなかった。
わたしの曽祖父はそのときのことをいつまでも忘れなかった」
亀の長老は、鼻先を男の見開かれた目に突きつけて語った。
「それは死んだ仲間達も同じだった。われわれは呪った。全身全霊をかけてお前たちを
呪った。われわれの亡骸を使ったおまえたちの占いは、すべて『凶』とでた。無論その
占いは当たった。われわれの霊はおまえたちに復讐を始めた。おまえたちが降りかかる
災難の元凶に気づいて、あちこちで亀をめでたきものとして祭り始めるまで」
そこまで言って、長老は男を崖の向こうに押しやった。落ちてゆく男に亀は叫んだ。
「そして今度はおまえたちだ! 何度われわれの楽園を踏みにじれば気が済む!」
次は、「拒食症」「モスク」「日本刀」で。
551 :
、「拒食症」「モスク」「日本刀」:2005/09/01(木) 22:05:50
せめて彼女が、モスクや日本刀が似合う人であったらな、と私は思った。
彼女はゴルフクラブを潰さんばかりに力強く握っている。彼女は美しい。しかし
痛々しい。それはガリガリに痩せているからだ。彼女には拒食症の噂がある。私は
彼女が好きだ。痩せ過ぎで目がぎょろついていて、絶対に見つからないものを必死
で探しているような哀れな印象を受けるが、好きだ。寧ろその哀れな所が好きだ。
私の不安定さが、私にそんな彼女を好きと感じさせるのだと思う。
不意の風が彼女の状況を変えた。風が彼女の頭からベレー帽を奪った。
違うな、と私は思った。彼女に似合わないのはモスクや日本刀だけではない。青々
とした芝も、どんより曇った空も、一緒にいる健康的なゴルファーも、何もかもが
似合わないのだ。寧ろ彼女”に”似合わないのではなく、彼女”が”この世界に似
合わないのだ。
私の頬に涙が滑った。そこで私はハッとした。
ブラウン管の中で彼女は、キャディーからモスクの屋根のようなベレー帽を受け
取っていた。そして再びゴルフクラブを日本刀のように振り回し始めた。
私は思った。涙だけは彼女に似合うに違いない。
彼女が人間でよかった、似合うものがあって良かった、と私は思った。
NEXT:「ホラー」「かいがらむし」「わらじ」
「ホラー」「かいがらむし」「わらじ」
シナリオ、読んだわよ。
巨大化したかいがらむしが人を襲い始める……う〜ん、ところで「かいがらむし」ってなぁに?
それってポピュラーな虫? 巨大化して襲われたら一番嫌なおっかなそうな虫?
あとこのさ、わらじで踏み潰すと体液が足の裏にじかに粘ついてくる、ってあるけれどさ……
そのかいがらむしはすでに巨大化してんでしょう? だったら踏み潰すってのは辻褄合わなくない?
巨大化ってのは、虫にしてみたらの巨大化? 巨大化ったって拳大程度の巨大化?
いや、あなたに映画を撮らせたい気持ちは山々よ。もうそれったら私の夢でもあるのよ。
でも……、もうすこし話の筋を詰めてから撮影に臨んだ方がいいんじゃないかなぁって……
あと一つ気になったことがあるんだけど言っていい? これってさ、ひょっとしてホラーじゃなくない?
いや、ホラーでなくてもいいんだけれどさ、あなたがあんまりホラーの巨匠に!とか言ってものだから。
違うの違うの、あなたのね、その一生懸命なのは、その情熱は私が一番知ってんの、わかってんの!
でも、あんまり物語に無理がありすぎて、なんだかもうこれはコメディなんじゃないかって……
いやよ、怒らないで怒らないで! どうせ私なんて素人なんだから、何もわかっちゃないんだから!
いくらなの? いくら出せばその映画が作れるの? 言ってごらんなさいよ、ねぇいくらなの?
…………出しちゃう! ポーンと出しちゃう!…………まぁ現金な巨匠さんだこと。あらあらふふふ。
「勇気」「気持ち」「葛藤」
553 :
名無し物書き@推敲中?:2005/09/06(火) 00:31:46
「勇気」「気持ち」「葛藤」
こんなところで、熊に出会うとは思わなかった。
勇気を振り絞って、銃を構える少女に向かって、熊は言った。
「お嬢さん、お逃げなさい…」と。
死に物狂いで、逃げる少女。それを眺める熊の心に、激しい葛藤が巻き起こった。
「何たる事だ。それでもお前は熊か!」「熊たるものが、恥かしくないのか!」
本能に圧倒され、とうとう熊は走る!自分で「お逃げなさい」と言った相手に。
少女の足が、熊にかなう訳がない。もう追いつくかという、まさにその時。
「ズダーン!」少女の震える指が、銃の引金を引くと、熊は赤黒い血を流して倒れた。
「熊さんっ!熊さんっ!ごめんなさい、私…」
「いいんだよ、お嬢さん。でも最後の願いとして、君の歌を聞かせてくれないか?」
「ラララ、ラ、ラ、ラ、ラ、ラ〜」
可愛い彼女の歌を聞きながら、熊の意識は薄らいでいった。雨の中の涙の様に。
「先生!この熊って、なぜ逃げろって言ってから追いかけるんですかー?」
「そう、なぜかしらね…」彼女は笑って答えない。
8年前のあの事件。熊さんの、最後の気持ちを語るには、この子達にはまだ早いだろうと。
※なんか久々;
次のお題は:「葛藤」「劇中劇」「川流れ」でお願いしまふ。
554 :
名無し物書き@推敲中?:2005/09/07(水) 01:14:04
この国へ来てもうすぐ1年になる。一泊、日本円で300円ほどのドミトリーに住み着いてしまった。
こういうのを沈没というらしい。
汚いベッドで眠りにつくとき、明日こそはここを出ようと思う。しかし、朝になればまたいつものだるさと葛藤に襲われる。
人生は旅だと思う。その旅の中で旅に出ることは劇中劇のようなものだ。
演じきるにはメリハリが必要なのだ。
そんなメリハリなどとうの昔にガンガーに川流ししてしまった。
こんなぐだぐだな劇を一人演じながら、異国の空を眺めている僕は旅人なのだろうか。
僕は自由になることができたのだろうか。インドの雑踏にもまれながらまだ終われない気がした。
次は「飯ごう」「裏切り」「二日酔い」で。
「飯ごう」「裏切り」「二日酔い」
野良犬に顔をなめられ目を覚まし、驚いて飛び起きると二日酔いの頭がズキンと痛んだ。
俺は大木の根元に眠りこけて朝を向かえ、数分後には無一文になっていることに気がつく。
前の日の晩、野宿を決め込んで適当な場所を探していると焚き火が見えた。
地獄に仏と俺は駆け寄り、火に手をかざしている男に声をかけた。物静かな男だった。
俺は良かれと思って自慢の自作小話を披露したのだが、男は眉根ひとつ動かさない。
そして突然、「オチがなっちゃないよ君」「完璧自己完結というやつだね」と鼻で笑った。
確かに俺の小話は、誰にでも優しい飯屋の女中にすらウケない。
それからしばらく男から小話の何たるかを諭されたのだが、俺には難しくてちんぷんかんぷんだった。
たとえばこうすれば、と添削された俺の小話からは、笑かし要素がすっかり排除されていた。
俺は『お笑い小話人』になると誓って村を飛び出た人間なのである。
今更笑いの神様を裏切ることはできないと、男の忠告には愛想よく対応しながら、心の耳を塞いでいた。
語りながら男がしきりに酒を勧めるのが妙だと思ったが、俺も嫌いでない口なので大いに馳走になった。
そして翌朝、犬に顔をなめられ目覚めると、男と俺の金が消えていた。
男は俺がわざわざ飯ごうに隠し持っていた有り金を全部、きれいに持ち去って消えたのである。
「事実は小説よりってやつだね」と嘆息を漏らすと犬の姿も消えており、朝飯のソーセジも消えていた。
「手足」「雷」「踏んだり蹴ったり」
556 :
「手足」「雷」「踏んだり蹴ったり」 :2005/09/10(土) 18:32:45
踏んだり蹴ったりしていると、
四つんばいになった禿親父は、私を見上げて言った。
「もっと激しく踏んでくれぇ、ビンビンに。ビンビンにしてくれぇ」
汗まみれの顔と恍惚じみた目。ああ気持ち悪い。体験入店なんてするもんじゃない。
「ほら! 立ちなさいよ!」
体を立たせて、やっとのことで三角木馬へ乗せてやった。
手足が痛い。この仕事って、けっこう重労働みたい。
「ああ! いい! ああ!」
暗くなりはじめた窓の外に、稲光が走った。
雷の音で泣かなくなったのはいつからだろう。
「ああ! もっと! もっとしてくれぇ!」
いったい何やってるんだろう。私。
私は、干してきた洗濯物を気にしながら、背中を蹴り上げた。
手足が急速に冷えていく。
新宿。
歌舞伎町。
路上。
脱げたヒール。
赤く染まるタイル。
こちらをじっと見つめるカラスの群れ。
白む空を見上げながら考える。
どこで間違ったのだろう。
踏んだり蹴ったりの人生でも、もっとましな終わり方でもよかったんじゃない? 神様。
遠くで雷が鳴る。
飛び立ち、またすぐに戻ってきたカラスに微笑みかける。
おまえたちは強いね。
ばいばい。
「シナジー」「伝播」「汚染」
教頭のバカにしこたま殴られた帰りにガンジーとシナジーに会った。
二人してそれぞれ三郎の手足を持って、ふらふらしながら川に投げ込んだところだった。
「おいおい何?三郎いじめてんの?」と俺が聞くと
「三郎死んじゃったアルよ」とシナジーが言った。シナジーは泣いていた。
「日本の川を汚染すんじゃねーよ、おまえらただでさえくせーのに」と言って川に浮かんでる三郎を見ると、
なんというか、すごく死んでいた。
三人でしばらく流れていく三郎を見た。
「ワタシ死んだら誰か川に投げてくれるかしら」とガンジーが言った。
「ロコさん、またこないだのすけべな女の子つれてきてくだいよ」とも言った。
「ああ、今度な」と俺は言った、ガンジーはにんまりしたが、シナジーはやっぱり泣いていた。
「デンパってどういう意味アルか?」と突然シナジーが俺に聞いた。
「デンパ?あーテレビとかラジオとか、携帯とかのあれだ、言葉みたいなもんだな。なんで?」
「三郎氏、ずっとデンパーデンパーでんぱあならねちゃ、っていってたアル」
「そりゃ方言かもな、それかお前の耳がおかしいか。
もう帰るわ、もし三郎が誰かに殺されたんなら、探すぜ。森君の連絡先もわかったし」俺はそう言って家に帰った。
辞書で「でんぱ」をひくと
「伝播―1 伝わり広まること。広く伝わること。2 波動が媒質の中を広がっていくこと」
という言葉があった。
次の日、シナジーから電話がきた。
「ひざ」「凶器」「宝物」
「ひざ」「凶器」「宝物」
アナジーが電話で何を話したのか気になる……
三語のお題で短文を作りましょうという掲示板のネタの話だ。
昨夜「アナジー」という使い慣れない言葉を、どうこなそうかと思いあぐんでいるうち寝てしまった。
朝、目が覚めると新しい書き込みがあるじゃないか。
どうこなしたのかと興味深く覗くと、アナジーはあっさり人名で登場していた!
その手があったか、とはさすがに思わなかったが、読み進めるうち、勢いあるその世界に引き込まれていた。
夜中の3時。書いたのは学生か? 彼あるいは彼女は、多分短時間でこれを書き上げたに違いない。
若者特有の瞬発力。精神的無頼漢。この傍若無人さは意識的に達成できるものではない。
私は年を取り過ぎたのだろうか……
中途半端に聞き分けのいい大人になリ下がってしまったのだろうか、まさかそんな……
若さという武器の前で怖気おののき、手を上げて降参するしかない、そんなくたびれた人間になって……
若さは凶器である以前に宝物だということも私は心得ている。では今まさに若さに嫉妬しているのだろうか……
あぁ朝からなんて気分だ。今日は仕事を休んでしまおう。下手すると線路に飛び込みかねない。
一日中小田和正でも聴きながら、部屋の隅っこでひざを抱えて過ごそう。そう、あの頃に立ち返ろう……
私は……、なんというか、すごく生きたいんだ! すごく生きたいんだよ! 私はまだ全然死んでいないはず!!
「ずる休み」「コーヒー」「退屈」
「ずる休み」「コーヒー」「退屈」
通学途中、放し飼いの犬が道路の真ん中に寝てたから、そのままUターンして学校行くのやめた。
午前中は誰もいない公園で、滑り台に斜めになったまま寝てて、目が覚めてその状況にびっくりした。
一眠りしたら、朝の犬がむかついてむかついて仕方なかった。
いつか横を通り過ぎようとした時、歯をむき出して唸ったんだ、あの犬は。犬のくせに生意気だ。
あんな犬は、うっかり車に轢かれてしまえばいいんだ。
道を塞ぐな、と誰かが石でも投げてたら、私も一緒になって痛めつけてやったのに。
ふてぶてしい顔してたって、そこは犬のことだから、きゃんきゃん情けなく尻尾巻いて逃げ帰るに違いない。
誰かあの犬に石を投げてくれないだろうか。そうしたら見ているだけですっとするのにな……
お昼はコンビニでおにぎりを買って、午後からは、お客の来ない喫茶店で時間を潰した。
マスターは理解ありげな顔して「ずる休みだね。学校なんて行かなくてもいいんだよ」とか言って笑ってた。
感じが良かったので、バッグに引っかかったふりをして、太ももを余計に見せてあげた。
なのに、普通に目を逸らして見なかったふりをする。なんとなく、ゲイなんじゃないかと思った。
コーヒーに関する蘊蓄を聞くでもなく聞きながら、ぼんやり街行く人を眺めていた。
T高の男とY女の女が、手をつないでにやけながらたらたら歩くのを見た。二人してブサイクだった。
世界中の人間が死んでしまえばいいのに、とか思ってたから、少しも退屈はしなかった。
お題継続。
「ずる休み」「コーヒー」「退屈」
退屈が高じて厭世観に苛まれる頃、トッテンガーガーがあなたのくるぶしをこつこつ叩くでしょう。
トッテンガーガーは、河原の地中深くに暮らす生き物です。
普段人目に触れることはありませんが、彼らは世界中どこでも、例えばスカンジナビア半島にも生息します。
トッテンガーガーは、退屈しきった人間を見つけ出しては、トッテンガーガーの里へといざないます。
そうして、人間界からアルミ缶の調達を依頼するのです。
トッテンガーガーの長老自ら、会社や学校を休んでぶらぶらしていた人間に熱く語りかけるのです。
「ずる休み、やめらっせい。きっぱり仕事、辞めてきらっせい。この里にぜひ、ぜひともいらっせい」
人間たちは、まるでヘッドハンティングにでも遭ったような、得意な気持ちがするようです。
早朝、個人的に空き缶回収に励んでいる人は、9割方トッテンガーガーの仕事をこなす人なのでしょう。
「あれ、もしや、まさか……」と感付いても、問い詰めたりせず、放っておいてあげて下さいね。
トッテンガーガーはアルミ缶を加工して『悪魔のフォーク』を作り、主に土産物屋で販売しています。
悪魔のフォークは……、まぁとにかく見事な代物です。なにせ“効く”らしいですからね。
空き缶は空き缶でも、缶コーヒーなどに使用されるスチール缶は加工に向かないそうです。しかし心配御無用。
持ち込まれたスチール缶は、山岳地中に生息するチッターネッターの里に、まとめて寄付されるそうですから。
さぁ、人生に飽きてしまったあなた、河原近辺でつまらなそうに小石でも蹴ってみませんか。
お題継続。
562 :
名無し物書き@推敲中?:2005/09/16(金) 00:32:33
「ずる休み」「コーヒー」「退屈」
「とにかく、こんな生活には、もううんざりなんだ」
そう声に出してみる。普段では絶対に言わないようなフレーズを口にする。
それだけで、今までの自分とはどこか違ったような気分になれる。
朝起きる。友人にメールして、再び寝る。昼起きる。コーヒーだけの昼食を済ませ、
家を出る。大学までは自転車で通える距離だ。講義を受ける。そこそこ面白い。
友人と待ち合わせ、下らない話に興じる。そのまま夕食を共にする。誘いを断り、
家に帰る。リアリティを売りにしたサッカーゲームを数時間プレイした後、床につく。
安寧。退屈。怠惰。そんな言葉ならいくらでも浮かぶ。そんな言葉しか浮かばない。
「とにかく必要なのは……」
これも声に出す。ただ、そこから先は自然には出ない。反射的に口蓋は動いてくれない。
じゃあどうすればいいのか。知りたいのはその続き、具体性なんだ。
立ち上がる。洗面所に行き、顔を洗う。クローゼットから服を取り出す。
お気に入りのブランド"GOODENOUGH"。僕は善きもので満たされている。
ずる休みをした小学生のような、軽やかな興奮が全身を包む。
時刻は夜の11時。そろそろ外に出ようと思う。忘れないように、リュックに
包丁を詰め込む。こんなもので何ができるのか。結局、コンビニにでも行って
帰って来るだけなんだろう。
僕はそう信じる。
次は「敵」「オルガン」「生業」
563 :
名無し物書き@推敲中?:2005/09/16(金) 01:54:51
ずる休み」「コーヒー」「退屈」
「それなら、もう一杯飲んでからにしなよ。」
と、ミナがコーヒーを私のカップに注いだが、
その指はまだ、わずかに震えているように見えた。
「それならって・・・、そんな言い方ないだろう」
私の言葉も、相変わらず最後の方は聞き取りにくかっただろう。
闇を伝って聞こえてくる街の雑踏が、今夜はやけに優しく感じた。
それは、これまで私が「退屈」と定義し、忌み嫌っていた沈黙の時間とは明らかに違っていた。例えば、ミナは、コーヒーは飲めない。特に今日のように苦めのはほとんどダメだ。
それを、今日は2杯目を注いだりしていたのだから。
この八年間という時間は、人生を「ずる休み」していただけ、という言い訳で済ますにはあまりに長すぎた。私は、三六から四四まで、ミナは一九から二七まで。
そろそろ私は、私の人生を終わらせようとしている。
理由は? そんなものは、どこにもであるようなこと。
ミナは? それは、わからない。
彼女がどうするかは聞かない約束だし、その時は、確かめる私自身存在しない。
ただ私が知る限りでは、彼女は、二杯目のコーヒーには一度も口つけていなかった。
564 :
名無し物書き@推敲中?:2005/09/16(金) 12:35:12
すいません。お題忘れました。
お題は、前の方の「敵」「オルガン」「生業」
「敵」「オルガン」「生業」
「なんでオルガン弾けて、ピアノ弾けねぇんだよ!」
「ですから! 私はあくまでオルガン奏者なのだと、先程からそう申しているじゃありませんか!」
「オルガン奏者っつったっておめぇ……、別にピアノ弾いたって構わねぇじゃねぇか!
だいたいピアノとオルガンなんて、大して違わねぇだろうが!」
「まぁ! ずいぶんと乱暴なこと言ってくれるじゃないですか。あなたのような方は全く持って芸術の敵です!」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで弾けよ! ただ弾きゃいいじゃねぇか! プロなら聴かせてなんぼだろうが!」
「わからない人ですね。考えてもごらんなさい、私が今ピアノに触れたら……、オルガンの方でどう思いますか?」
「…………どうも思わねぇだろうよオルガンはよ! ん? おめぇの言ってるオルガンと俺の思うオルガンは、別物か?」
「あぁやだやだ! 酔っ払いというのは、本当マイペースで、わけわからないことを真剣な顔して言うから嫌だ!」
「そりゃおめぇだろうがよ! オルガンの方でってなんだよ!? オルガンの方でって!」
「ではこういうことですか? ギター弾きならウクレレだって当然の如くさらっと弾いてみせろって?
マンドリンだろうが、琵琶だろうが、弾けと言われたら黙って弾いてみせろって、そういった了見で?
私はねぇ、もう30年オルガン弾きを生業にしてきている男なんですよ! それこそ天職だと思ってるんですよ!
それともあなたの言いたいのはこういうことですか? 蕎麦屋を始めたら片手間にうどんもこねろって! 馬鹿なっ!!」
「いいからピアノを弾きやがれ! 弾かねぇんだったら黙りやがれ! そしてとっとと俺の視界から消え失せやがれ!」
「洋犬」「キャラメル」「運動会」
「洋犬」「キャラメル」「運動会」
柴犬にアメという名をつけた。雨の日に拾ったから、アメ。
そのせいかアメは雨が嫌いだ。雨の降る日には、とても淋しそうな顔をする。
あした晴れたら久しぶりに遠出をしよう。車に乗って海岸まで。
大きな水たまりの前で運動会だ。ときにお前が洋犬だったなら。
キャンディとかいう名前をつけたかもね。あるいはキャラメル。
話はかわるが、
>>561はひさびさに面白かった。ただ、それだけ。
お題継続。
「洋犬」「キャラメル」「運動会」
仕事でミスった。致命傷的ミスだ。厳密には上司のミスなのだが、そんな言い訳は通らない。
どっと疲れて帰宅すると、一昨日から預かっている姉の犬が、玄関で出迎えてくれた。
ミシェルというオスの犬だ。
犬種に詳しくないのでわからないが、白とキャラメル色の、短足で胴の長い、やけに顔ばかり大きな洋犬である。
私は食事もせず、早速辞表を書いたが、書き上げた途端、ミシェルがカップを倒して辞表を紅茶まみれにした。
呆然と犬の方を見ると、ミシェルは私を仰ぎ見て、にっこり笑顔の表情を作り、そしてこんな声が聞こた気がした。
「辞表なんて書いちゃダメだよ。こんなところで負けちゃダメだよ。元気出さなくっちゃダメだよ」
なんだこの犬……。しかし、もてはやされるだけのことはある。微笑み返さずにはいられない笑顔なのだ。
くさくさした気分を晴らそうと、犬レベルでじゃれあおうとしたところ、いきなり彼の前足を踏んでしまった。
犬ならば本能的に回避しなさいよ、と思うのは傲慢な考えだろうか。
パニクったミシェルは、気が違ったように三部屋を股にかけ、どんどこどんどこ、とにかく走り回った。
『殿御乱心』という言葉を頭に浮かべながら、私は呆然と走り回る不恰好な犬の姿を眺めていた。
しかし、ミシェルの乱心も長くは続かない。この犬は多分体力がないのだ。咳をしながら運動会を止めた。
衝動的にぜえぜえいってるミシェルの背中を抱きしめていた。そのぬくもりに涙がこぼれた。
話はかわるが、書き込みネタを褒められていた。ただ、嬉しかった。嬉しくってやっぱり涙がこぼれた。
お題継続。
「洋犬」「キャラメル」「運動会」
「あ〜あ残念、やっぱりいないや。見てごらんよ、あっくん、誰も続いてくれないや……
あれかな、ここでパパが「俺様のネタがあまりに光り輝いていて皆気後れしているのであろう!」とか書いたら……」
「パパ……、それだけはよしなよ。瞬く間にひどい目に遭うから……。ところでさ、お題変えたら?」
「だってさぁ、あっくん。これパパが出しだお題だよ。パパが出したお題をさ、パパが変えちゃっちゃぁさ……」
「使いにくい悪いお題だったんじゃないの?」
「そうか?? そうなのか?? ん〜……じゃ、あっくん、お題考えてみておくれよ。若い感性でさ」
「やだよ〜、そんなの僕〜。だいたい「洋犬」って何さ?」
「うちのミシェルとかさ、あれがずばり洋犬だよ。犬の外人ってことだよ」
「犬の外人ってパパ……。ところでミシェル実名で登場してるね。「顔ばかり大きな」って、パパ酷いよね。
で「運動会」ってのは、土曜日僕が運動会だったからでしょ。で「キャラメル」は?」
「書きながら食べていたんだよ、キャラメルをさ。それがちょーど奥歯にくっついちゃって、もうにっちもさっちも……」
「パパ〜〜〜! それって安易過ぎな〜〜〜い?」
「な〜んだあっくん、「安易」なんて言葉使えるのか。すごいな〜、あっくんは! へ〜「安易」ってか。へ〜。
あ! こんなのどうだ! あっくんも三語に参加って! 父子鷹父子鷹! 国語の勉強にもなるんじゃないか!?」
「パパ……、子どもに2ちゃん勧めちゃダメじゃん……。あとさ、パパはさ、もうちょっとこう、文学した方がいいかも知んない」
お題継続。
「洋犬」「キャラメル」「運動会」
快晴、西南の風やや強し。ポケットにキャラメルを入れに出かけた。土手に座り少年野球の試合を眺めながら一粒、
口に入れる。キャラメルは黄色いパッケージの洋犬印。ブルドックの顔がデザインされている。よく見れば御菓子
の図案としては少し不思議だ。背景には学校らしきものが描かれ、小さな旗がはためいている。しかし、それは校
舎ではない。兵隊さんたちの眠る兵舎なのだ。その証拠にいう訳ではないが建物のわきにはすごく小さ大砲のシル
エットが見える。これはキャラメル会社の創業者が熱烈な愛国者であったことと関係がある。彼はずっと入退院を
繰り返す病弱な少年だったのだが、病室の窓からは練兵場が見え、その規則正しい行進やラッパの音にいいえぬ憧
れのようなものを抱いたというのだ。
改めてラベルを見ると、やはり校舎のようにも見える。その出入り口は黒い四角。そこから蟻のようにバラバラと
出てくるのは玩具の兵隊か、子犬のような子供たちか。なんにしてもラベルの中も快晴。いまブルドックの背後で
は運動会が行われいるのではないか、という気もしてくる。
「霧」 「耳かき」 「投票」
「霧」「耳かき」「投票」
「すっきりしない天気だな」と、男は耳かきの先端をふっと吹いた。
窓の外には、垂れ込めた厚い雲。その下に暗く霞んだ森が広がっている。世界は陰鬱に染められていた。
男は大きく息を吐き出してから、「出かける」と、背後に控えていた執事に言いつけた。
五人の使用人を忙しく立ち働かせ、男は西洋甲冑で完全武装した。そして鉄仮面を小脇に抱え、颯爽と屋外へ出る。
屋敷にこもりがちの男であったが、今日ばかりは、どうしても自ら赴かねばならない用事があった。
役場からの重要な紙片を確かめると、男は馬のわき腹を蹴った。
森から抜けようとする頃、霧が小雨に変わった。「嫌な天気だ」と、男が今一度天候に苦言を呈したその時……!
一匹の顔ばかり大きな犬が、突然馬の前を横切り、驚いた馬が男を地面へ叩き落した。
「ううっ……!」
本来ならば自らを守るはずの頑丈な甲冑が、男の肉体に致命的打撃を与えた。
意識の朦朧とする中、男は口惜しそうに土くれを握り締め、そうして呟いた。
「こんな所でくたばってなどいられないのだ……投票せねば……同志が私の一票を待っているのだ……
あぁ……私は、私は死ぬかもしれない……が同志よ、君たちは立派に生き長らえてくれ……
日本西洋甲冑党……、いずれ、いずれ絶対与党に……!! 鎧兜よ……フォー……エバー…………」
そこへ蝶々を追っていた顔ばかり大きな犬が再び現れ、事切れた男の屍にけつまずいて2回転したが……そのまま去った。
「読書」「入浴」「食事」
日付が変わる頃爆音が鳴り、朝日が昇る頃に人が飛んでくる。昼には大量の肉食獣が降りて来て、夕方には
また爆音が鳴り、夜になると虫の鳴き声と爆風が。毎日毎日そんなことの繰り返しだ。
至って平凡なこの世界で俺は生きている。
読書をしていた。入浴しながら。食事をしながら。俺がこれら全てを同時進行でこなすのは、勿論その必要性
があっての事だ。俺は大変に忙しい。予定は分刻みだ。あと一分と二八秒で相棒のロスが風呂場の窓を叩く。
ノルマまであと四ページ。まだ髪を洗っていない。ホットドックが一切れ。終わった。窓を叩く音。体を拭く。着替
える。外に出る。ロスのボーボーの髭を一本抜いてやる。奴の車に乗る。走る。今日も殺風景。こうしたのは人
間か? それともあの肉食獣達か? いやあいつ等は人しか喰わねえしな。そんな事を考えてるうちに目的地
到着。今日のターゲットはショボいとしか言い様の無いジジイ。とりあえず一発殴りつけ耳元で怒鳴りつける。
じいさんアレ持ってんだろ? ジジイは大人しくアレを出した。何の価値があるのかは分からないが、これは金
になるのだ。ロスにそれを渡し車に乗りクライアント宅に行き金を受け取る。でウチに戻ってくる。
俺はこの平凡な世界で毎日こんな感じで生きている。
今日はターゲットがジジイだったお陰で時間が余った。読書と入浴と食事を分けてしよう。時間に余裕があると
いうのは大変にいい事だ。外ではまた爆音が鳴っている。
「彼女」「茄子」「ゲーム」
「彼女」「茄子」「ゲーム」
本日は『茄子のラタトゥイユ』に初挑戦しましたが、なかなか美味しゅうございました。
昨日のうちにプリントアウトしておいたレシピを手に、スーパーに寄ってから帰宅。これがほとんど日課になっている。
この夏、彼女と同棲を始めてから、僕らはちょっとしたお遊びを始めたんだ。
朝、目覚まし時計を止めなかった方が、罰ゲームとしてその日の夕飯を作る、というもの。
僕は連敗続きで、まるで料理係と化しております。
彼女の好物は茄子で、だから僕は茄子料理ばかり作っている。
焼き茄子、揚げ茄子、麻婆茄子。茄子のカレーに茄子のパスタ。名前すら覚えられなかった、コジャレた茄子の一品。
彼女は毎回、「わ〜い茄子だ、茄子だ」と子どものように喜ぶし、ぶっちゃけ僕は調理を失敗したことがないんだよね。
(たった一度だけ、水気を拭き取らずに油の中に放り込んで、それこそ罰ゲに相応しい仕打ちを受けたことあるけど)
どうやら僕は、料理が性に合ってるっぽいのだけれど、彼女にはあくまで“渋々”罰ゲをこなす風を装っている。
だって、有り難味が違うと思うわけですよ。
僕が好き好んで料理してるとわかれば、多分というか確実に、有り難がり方が激減すると思うわけなのです。
「好きでやってんだし〜」みたいなね。そんなの損だから、僕はこの“渋々”を貫き通しているわけなのであります。
ぬか床(←茄子を美味しく漬けてくれるのさ!)をかき回す僕の背後で、今日も彼女、「絶〜対、楽しいでしょう?」
「楽しいわけあるかいっ、こんなしち面倒臭いっ!」と、自然とにやけてくる表情を、必死で隠す僕なのでありました。
「菓子」「休日」「ブランコ」
今日、ニュースで凶悪犯の写真が公開されていた。
よくみると、そいつは幼稚園、小中と同じ学校の奴だった、体も大きくて、力も強いやつだった、だから誰も逆らわなかった。
どんな奴だったかな?と、そいつの事をよく思い出してみる。
幼稚園のときは、みんなで食べていたお菓子を取り上げてきたな、そういえば小学校低学年のときに、たった一つのブランコを独り占めしていた、
中学校のとき、日曜の休日部活もさぼっていて、ほとんど部活に来たことないし、学校にすら来ていなかったらしい。
同じ学校の奴ならこのニュースを見ても、やっぱりと思うだろう。
まぁそれの延長線にあるものだからな、強盗も、大量殺人も。
次
「100円玉」「水」「布団」
「100円玉」「水」「布団」
私はベランダで布団をパタパタ叩き、向かいの奥さんは窓から除湿機の溜めた水をジャージャー捨てていた。
私たちはともに2階にいて、道路を挟んで挨拶を交わし、天気の話などしたかもしれない。
ふと、向かいの奥さんが、じっと目を凝らしている表情が見て取れた。
視線の先を追うと、互いの家の門の先、道路のほぼ中央に、きらりと光る物体が見えた。
再び顔を上げると、向かいの奥さんは私と目が合うなり、にやりと意味ありげな微笑みを向けた。
「見ましたね、山田さん」
「ええ、見ましたわ、木村さん、門の先にはっきりとね」
「どちらがあれを手にするか、競争よ!」
「臨むところだわ!」
閑静な住宅街の平和な午前に、二人の主婦の階段を駆け下りる音は、どんなに響き渡ったことだろう。
ほぼ同時に双方の玄関が荒々しく開かれ、そして閉じられ、乱暴に門の取っ手に手がかけられる。
向かいの奥さんの物凄い形相が、門の向こうに垣間見れた。負けるものか、負けてなるものか……
しかし、門を開けた途端、二人は悲鳴をあげることになる。屈んだ隣のお婆さんが視界に飛び込んできたからだ。
呆気に取られた私たちの前で、お婆さんは、きらりと輝く100円玉をつまみ上げ、得意げに私たちを見やるのだった。
私と向かいの奥さんは、日頃から張り合うほど視力が良かったが、隣のお婆さんは、町内屈指の地獄耳だった。
「童話」「居眠り」「大木」
「童話」「居眠り」「大木」
「昔々、ある所に・・・」
母が息子にむかって童話を話し始めた、前はおとぎ話や昔話をしてやっていたのだが、最近は飽きてきたのか童話など変わった話を求めるようになってきた、母がこういう話が上手いのを思い出し、度々実家に帰ってきている。
「そしてそのきこりが大木を切り倒そうと斧を振り上げると・・・」
童話、金の斧銀の斧だ、これなら自分でも知っている、わざわざ帰ってくる必要もなかったかな?とも思ったが、やっぱり生まれ育った我が家はいいものだ、それに親父との将棋の対局もできる、高校一年生のときはまったく勝
てなかったが、今では勝ったり負けたりと、いい勝負になり、頭の体操にもなる、おかげで親父もボケていない。
よく考えると金の斧銀の斧の話も、断片しか思い出せないことを思い、苦笑いをする。
いつの間にか、息子が母の膝の上で居眠りを始めてしまった、これも母の持つ才能なんだろうか、すーすーと寝息を立てる息子の頭を母がなでる。
なにもない一日、元気な両親、そして家族、なにも変わらない生まれ育った我が家、こんな何もない一日があってもいいかもしれない、いや、これ以上のものは望むことはできないだろうな。
例え自分があと数日の命だとしても。
「大金」「爆弾」「CD」