この三語で書け! 即興文ものスレ 第十四段

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街路樹が並ぶこの大通りも、
十数年前はイルミネーションという灯りで着飾られていたらしい。
でも今は、街灯の火が点った所を、あたしは見たことはない。

『関係者以外立ち入り禁止』
そんな立札に、あたしは躊躇することはない。
あたしは、その立札ごと門を蹴倒すと中へと足を踏み入れた。
今、あたしには金が必要なのだ。

あたしは今、たしか十九歳だったと思う。
十九年前、あたしを生んだ親は何を考えていたのだろう。
これから先、なんの希望も持てない時代に、
なんで、あたしを送り込んだんだろう、苦労することは解かってただろうに。

あたしは、いつもこんなことを考えつづけていた。
でも、あたしはこのお腹の中にいるだろう子どもを、なんとかして生みたいと思った。
勝手な思いこみかもしれない、でもこの子たちが受ける苦労は
この子自身が解決してくれる、あたしはそう考えていた。
そのためには、金が必要なのだ。


次は「信号」「落下」「痛いよう」でお願いします
夜空から星々が落下したかのようなイルミネーション。
落ちてくる星に紛れて今年もサンタが街にやって来ました。
相棒はおなじみ、トナカイ。
ところがこのトナカイ、まだ子どもで経験が浅く、おっちょこちょい。
さっきも止まりきれずに壁に鼻をぶつけてしまいました。
「痛いよう、サンタさん。オイラの鼻がつぶれちゃったよう」
やさしいサンタさんはトナカイの鼻をなでてあげました。
「つぶれていやしないよ。ちょっと腫れただけだ。心配ないよ」
「ほんとだ。真っ赤になってる」
「トナカイや、それは赤信号だよ。その信号を無視して
またむやみにスピードを出すと、今度はほんとに鼻がつぶれちゃうような
目に遭うかも知れないよ」
「うん。オイラこれからはあわてずに走るよ」
トナカイはどんなプレゼントをもらうよりも
やさしいサンタさんの気持ちがとてもうれしかったのでした。
メリークリスマス!

次は「ブツ」「漢」「萌」の三語
594名無し物書き@推敲中?:03/11/13 00:40
漢パワー!! オレは激しく発光し、地球全体を照らし出した。
事のあらましは5秒前――――。
オレはここ秋葉原で人を待っていた。奴は現れた。おい、ブツは?
「あっ!! ワリィ、忘れちまった。ほのかタン抱き枕」
それを聞いたとき、オレの中の何かが弾けた。音が鳴り響く――。
オレの心の弁は決壊し、訳の分からない言葉(日本語だったかさえ怪しい)でしゃべくった。
大意はこんな感じ。ふざけんな! オレがこの一週間欲求を抑え付けていたのは何のためだったと思ってんだ!!
言うまでもねー!!! オレのほとばしる『何か』をほのかタンにぶちまけ(略)
化学反応が起きた。オレの中の漢心と萌心が混じり合い、何か別のエネルギーに変わっていく――。

漢パワーはこうして発生した。全部アイツが抱き枕を忘れたせいだ……!!
ちなみに…何故『漢パワー』なのか。それは、オレの心の中で漢心がわずかに萌心を上回っていたためである。

「霧」「霞」「河童」
595ルゥ ◆1twshhDf4c :03/11/13 01:37
「霧」「霞」「河童」

無機質な扉の前にそっと立つと、私は抱えた問題集とノートをさらにきつく抱きしめた。
霞掛かった視界と呼吸困難に陥ったかのように締め付けられた胸。
私は頭を振り払い、扉を二つ叩いた。
「失礼します」
パソコンの画面から離された細い目を見つめ、私は静かに彼に笑いかける。
「また質問か?最近は頑張ってるな」
不器用な彼は、少し固まったような微笑を浮かべ、私のノートを覗き込む。
俯く彼の横顔を見ながら、私は何だか急に虚しさと切なさで一杯になった。
「河童の川流れだな。ほら、ここ、君が得意な問題を間違ってる」
そんな彼の言葉が霧に覆われた向こう岸からのように聞こえるのはなぜだろうか。
……こんなに彼の傍にいるのに。
触れたくても触れられない彼の大きな手で指差された文字を見ながら、私は、そうですね、と答えた。
十五も歳が違うのに……そして彼には定められた相手がいるのに、どうして彼に会いたいと願ってしまうんだろう。
――どうして、彼のことを好きだ何て思ってしまったんだろう。
狂おしいほど切ない思いをひた隠し、私は今日も彼のいる教官室を訪れる。

☆ある意味切羽詰った文章ですね……。
 ちょっと自伝的かもしれないw
596ルゥ ◆1twshhDf4c :03/11/13 01:39
すみません。次のお題ふるの忘れてました。
次は、「バレー」「枕投げ」「墨」で。

……ちょっと動揺してたのかもしれませんねw
『リンゴをかじると、歯茎から血が出ませんか?』
「出る」古いテレビCMを思い出して、俺は力強く答えた。「先生、この人漏らすみたいです」隣の
女子がすごい勢いで俺から離れて金切り声を上げた。大げさな。しかしリクエストとあらばしかたがない。
「このバカチンが!」チャックを下げようという俺の動作は先生の激しいゲンコで止められた。
「つむじを殴るとゲリになります」俺は頭を抱えてうめいた。ひっ、と女子が怯えた。
「漏らしたんだって」「ダダ漏らしだって」「なんか臭うよ」バスのなかは大騒ぎになった。
 俺たちは修学旅行に来ていた。シリコンバレー、アメリカだ。理由はわからん。ノリ?見学は
充実していたが、どういう訳だか宿泊は研究所の一角だった。与えられた枕の脇には沢山のランプが
点滅していた。「コワクアリマセンヨー」研究員が怪しく囁いていた。……なんで去年まで京都だった
旅行先が、積立金そのままでアメリカになったのか、わかったよ。
「うりゃー」かけ声。枕が耳元をかすめていった。どごっ、と鈍い音がして、男子生徒が倒れる。
修学旅行の夜は枕投げと決まってます。俺も加わろうと、枕を手に取ろうとした。「重っ!」砲丸かよ!
待て待て、この重さは人命に関わるのでは?「どごっ」「ぎゃっ」「うぅ」阿鼻叫喚である。
やがて乱れ飛んだ枕が施設を破壊し始め、全員が研究所から追い出された。あふれるエネルギーを
もてあました我々は、猿のように喚きながら、日本の伝統、墨で黒々と、「神風参上」「夜露死苦」と
研究所の壁いっぱいに書き散らした。日本文化、此処にあり。満足だった。
「歯茎からでた血は、虫歯菌を更に培養させる。歯槽膿漏は放っておくといけない!」バスに揺られ、
昨日の晩のことを考えながらも、思いは彷徨う俺、青春であった。
「先生、この人『イケナイ』とか喚いてます」女子が半べそで大声を上げた。
「やだー」「たまってるのかしら」「さっきの『出る』はその意味だったのね」違うのだが、リクエスト
には答えねば。チャックを下げようとした俺の手は、先生にがっちりと捕まえられていた。その手は、
鈍い光沢を放ってひんやりしていた。「機械の体」先生は、にやりと笑った。隣の女子の髪が伸びて
いた。バスが浮いた気がした。
598597:03/11/13 04:05
お題は「サックス」「シックス」「ソックス」で。……エッチ(w
眠れない。
伸びきったジャージとスウェットを履いた学生は布団の中で悶々としていた。
埒があかない。もそりと立ち上がると、食器棚からグラスと冷蔵庫から氷を取り出した。
友人に薦められて最近覚えたウイスキーをあおりながら、最近聴くようになったジャズを聴く。
時間は…AM5:24、眠ってしまえば一限には間に合わないかもしれない。
しかし、彼には眠らなければ朝方眠ってしまうだろうという予感というよりも確信に近いものがあった。
だから酒を飲んででも寝よう、そう思った。それは半ば強迫観念に近いものがあった。
サックスの音が心地よい。それでも眠りを強制されねばならない不自由さは如何ともしがたかった。
洗濯物のスニーカーソックス。さっき一週間ぶりに動かした洗濯機から取り出した、生乾き。
いくつかの複雑なリズムパターンとアルコールが彼の感覚を研ぎ澄ましたのか。
第六感、シックスセンス。死神がそこにいるような気がした。
「まだ・・・だろう・・・」
グラスの氷が音をたてた。ここがここでいいという、不思議な肯定感が彼を包んだ。
変な詩みたいになってしまった(鬱
次は「クリーム」「大根」「習慣」でお願いします。
彼の発言に地面が揺れた気がした。魚が足下を通り抜ける感覚。
「だって、いまさらどうにもならないだろ」
あんた、そんな、結婚は慎重にだとか、迷っているから待って欲しいとか、いままでは何だったの?
相手が妊娠したからって簡単に決めちゃう人じゃないでしょうが。
「結局、勢いなんだよな。おれってさあ、きっかけがないと決心つかないタイプなんだ」
は?関係ないって、そんなの。これから仕事なのに、勝手なこと言いやがって。
きれるよ。きれていい?
「まて、落ち着け。落ち着いて話し合おうよ」
話し合っても結果は同じだろ。朝からむかつくこといってんじゃねえよ。
「とりあえず、包丁置こうや。な、まじ、ごめん、謝るから包丁置いて」
彼が手を握ってきたので、咄嗟に右手を振り下ろす。
  スパッ
真っ二つになったのは、大根だった。腰を抜かした彼が、
「ごめん、全部嘘なんだ。許してくれ。こういえば、お前がおれに愛想尽かすと思って」
そんなに必死に謝らなくてもいいよ。許してあげる。あなたの嘘は習慣みたいなものだから。
大好きなあなた、これからもずっと二人でいようね。
お次は♪
・クラス会
・殺人鬼
・「これって夢だよね?」
今日は3年ぶりのクラス会だ。卒業したときには13人いたクラスメイトも、今日の出席者は僅かに5人。
都合で来られない者も勿論いるのだろうが、クラスの半数はあいつにやられたことが判っている。
あいつ・・・エリート揃いのこのクラスの中でもとびきりの切れ者だった。みんな優秀なエリートだったから自分より優秀な者の存在が許せなかった。優秀だったから苛め方も巧妙で、あいつを陥れるための罠は教師にも誰にも気づかれなかった。
しかし奴は気づいた。そして全てに耐えて超一流の就職先を保証してくれる卒業証書を手に入れた後、顔色一つ変えずに復讐を始めた。殺人鬼という本性を現して。
「こうして集まって相談しても、奴から逃れる手なんて見つからないんじゃないのか」
「莫迦なこというな。俺たちだって優秀なんだ。みんなで力を合わせれば奴を出し抜くことだって夢じゃない」
そうだ。その為に開いたクラス会だ。俺たちが力を合わせれば・・・。

「相変わらずね、あなた達」
後ろからハスキーな声が聞こえる。一瞬にしてみんな凍り付いた。
振り向くと喪服に身を包んだ奴がいた。艶やかな笑みを浮かべ、手には鋭利なナイフを持っている。
こんな場所でクラス会を開いたのが間違いだった。廃ビルの地下の会議室。奴に見つからないようにと選んだ場所が、死体を発見しにくい棺桶にもなるということに誰も気づかなかったなんて。
「これって夢だよね?」
「確かめてみれば判るかもね」
ニッコリ笑って奴がナイフの刃を舐める。醒めない夢が始まろうとしていた。


初投稿です。どきどき。
お次は「蒼穹」「深い井戸」「地平線」でお願いします。
604601:03/11/13 18:43
すっごいミス!
《クリーム》使ってなかった!!
ホントは九行目、〈話し合っても結果は同じだろ)の前に、
〈口にクリームつけて、なに慌ててんの?〉
が入るところだったんだよ♪あちゃー、しくっちゃった丸
許してね!?
605「蒼穹」「深い井戸」「地平線」:03/11/13 23:10
生まれてからの80年はあっという間に思えた。しかし死んだ後は、それ以上だった。
死んだ後の霊体はあらゆる物理法則の直接干渉を受けない変わりに、
純粋に「見る」存在になる。初めのうちは興味深かった「見る」事も、
膨大な時間のなかであらゆる知識を吸収しながら、世界に干渉できない
もどかしさのなかで苦しみに変わった。感情は他者との交流によって発展
する。「見る」だけの彼が、新しい感性と環境を持ち作り出していく次代の者たちを
理解できなくなるまでにはそれほど時間はかからなかった。やがて彼は、外界の時間の流れに
背を向けた。自己の内界を過ごした。時間は流れた、轟々と音を立てて。
 ……思い出すのは夏。蒼穹。空のてっぺんは真っ青で、地平線からは真っ白な
入道雲。蝉の声。とぎれとぎれの、子どもたちの声。徐々に視界が狭まっていく。
声が途切れ、手の感触が消え、視界が、狭まり、一点に集中していく。……死の瞬間、
鮮やかに思い出したのは夏の太陽の下、無邪気に遊んだ子どもの頃。見えていたのは、
点。ぎらぎらまぶしい、光。
 そして、気づけば彼は暗闇のなかにいた。体が動かない。頭上には、まばゆい光。
まるで井戸の底から天を見上げるような感覚。デジャブ。俺は、死んで、そして
何を思った?高まる感情。痛切なる願い。ああ、世界はあそこにある。あの光の
なかに。戻りたい。なのに、なぜからだが動かない?ここはどこだ?
 彼の願いは叶うことはない。世界は死んでいた。ブラックホールの中は、たわんだ
重力が、光さえねじ曲がる。頭上に輝く光の中に、確かにすべてはあった。が、直接
物理法則の干渉を受けない彼も、「見る」ためには自身の位置の特定が必要だ。逆流は
あり得ない穴の底では、彼も「自由」ではない。これから続くのは、永遠のまどろみ。
強烈な一点の光を見つめる、恒久の時。
606605:03/11/13 23:12
お題忘れ。スマソ
「スペースシップ」「愛憎」「コインロッカー」で。
607「スペースシップ」「愛憎」「コインロッカー」:03/11/14 00:00
 俺はコインロッカーで生まれた。生みの母は知らない。しかし
今後、出逢ったところで、ショットガンで頭を吹き飛ばすような
事はしないだろう。俺には、理解できない。その怒りが。むなしさが。
つーかさ、なんでそーなるの?
 だって俺のクラスの大半は「コインロッカーベイビーズ」だぜ?
 医療機関が貸し出す人工子宮(+保育器)が一般化してコインを
入れれば動き出すようになって十年、今やコーラとポップコーンの自動
販売機の間に「コインロッカー」が置かれ、できちゃったらコインを入れれば
ちゃちゃっと国家機関が処置をしてくれる。開発時は反対の世論が巻き起こったが、
できちまえばそれ、便利なもんで、みんな、使ってるよな!
 だいたい、今の子どもの半分がお仲間だし、今は福祉がしっかりしているから
なんて事ないんだよね。じーさんばーさんだけよ、気にすんの。……びっくりした?
 ま、未来で大きな事はそんなとこかね。過去から来てもらった君には済まないけれど。
でもね、変わらんところもあるのよ。最近宇宙ステーションに大型スペースシップが
ご丁寧に二台、つっこんだけど、理由は宗教上の愛憎。同じ神なのに、聖地の奪い合い
だってさ。ここら辺は君らの頃と変わらないんじゃない。心は、いつも不可解だねぇ。
 なんか質問ある?……え、ビルに飛行機がつっこんだのは石油メジャーと産軍複合体の
陰謀?……はい、カメラ止めて。お前さ、帰りたくないんだ?なぁ?素直に頷いときゃ
いいんだよ。これ、テレビだよ?言っていいことと悪いこと、区別つく?……オッケー。
わかりゃいいんだ。肩の力抜いて。はは、がんばろう。
 俺はこわばったそいつの方に手を置いて、囁いた「な、あんまり変わらないだろ、未来も」

「屈服」「うきうき」「キーン」で
「行かないで!」
叫ぶあんたの手を振りきって、冥王星行きのスペースシップに搭乗。
しかし、そこに待っていたのは地球と何ら変わらない、つつましくもうとましい、
平凡で怠惰な生活だった。ああ、こんなことなら無理に申し出ることもなかった。
今頃、あいつ何してるかな?いつものように飯食って、テレビ見て、風呂に入って……
いつだって愛憎に縛られてたよなあ。スペースシップでは人種国籍関係なしの
友好平和条約が批准されているのであります!あれほど嫌いだった複雑な人間関係、
喧噪の日々、いまはその思い出だけを頼りに生きてられるのであります……。
そして、航海記録は500日に突入。祝い酒が振る舞われるなか、地球より緊急連絡。
ケビンが赤ら顔をいっそう赤らめて怒鳴る。
「地球が火星人の襲撃を受けた!ほとんどの人間が殺されたか捕虜になったらしい」
いまや計画の全ては海の藻屑。我々の運命も風の前の塵芥。急遽地球に引き返したところで
いったい何になるというのだろう?ケビンが唇を湿らせて、息を整えた。
「NASAのコインロッカーに息子の写真を忘れてきたんだ。もう顔を忘れてしまった。
 死ぬ前に一目見ておきたい。もちろん、みんなの意見に従うけど……」
ケビン、こら、ケビン!俺たちは友好条約を結んでるんだろ。君の意見に文句がある奴なんていないさ。
まっすぐに引き返す。帰りは行きよりずっと速い。窓の外には青い地球。
どうしてる、俺たちの地球。俺たちの家族。平和な星、俺たちのスペースシップ。
609「スペースシップ」「愛憎」「コインロッカー」:03/11/14 00:04
地球上だろうと地球外だろうとスペースシップの上だろうと、
人の出入りが激しいところにはたいてい男女の愛憎劇とか人間ドラマがある。
それと同じくらいの確率でコインロッカーもある。
だがその二つが同時に起こる確率というのはかなり低くなるのではないか?
とはいっても決して起こらないものではないし、実際に起こってしまったら確率がどうとかいう問題ではなくなる。
たとえばこんな風に。
「…スペースシップ・コインロッカー・ベイベー」
語呂が悪い。
僕は、眼前のコインロッカーの中で冷たい宇宙のことなど知らずに、
ただただ眠りこけている赤ちゃんを見つめながら自分で自分に突っ込んだ。

次のお題は「純情」「三段」「蹴り」
610609:03/11/14 00:08
しまったかぶった
お題は>>607さんので
かぶってしまったわ、ごめんなさい(ウフン
つ・ぎ・の・お題は、
607さんの「屈服」「うきうき」「キーン」で、よ・ろ・し・く(チュ
 そして僕は砂に埋められていた。首まで埋められたから何も身動きが
とれない。手が出れば、少しはましなのかもしれないけど。
 いや、変わらないよね。いつの間にかに僕は、動けないのに、
体をぎゅっと丸めようとしていた。恐怖。それが僕を支配していた。
 うつむいた僕の目には映らないけど、そして極力映らないようにしている
のだけど、頭の上には、二人の、四つの冷たい目が哀れな自分を見ているの
だろう……舌なめずりをしながら。
 あっという間だった。手足を押さえられ、埋められた。状況がまったく
つかめなかった。パニックだった。助けて、と、大きな声で喚いた。猛烈な
怒りが沸いた。いやだ、ここから出して、と。
 いきなり叩かれた。耳がキーンとなった。続けざまに何度も、平手打ちが
来た。痛かった。そしてそれ以上に、怖かった。何が起きているのかわからない。
 声を上げるのをやめた後も数回叩いた後で、彼らはようやく手を止めた。僕は、
低く泣いていた。でも、まだその時点ではパニックの渦中だった。
 やがて、ぎゅっとつぶった目を開いた。まぶたが腫れて、あまり開かないが、
頭を上げた。そして、見上げた虚空にあったその目を見たとき……僕の心は簡単に折れた。
屈服した。何よりも怖かった。その目は、歓喜の光が宿っていた。うきうき、と
いうことばがこぼれるくらいに。僕ははじめて、怖い人間を、知った。
 ああ。そして、今は片方の耳は何も聞こえない。キーンという耳鳴りだけ。そして、熱い。
爆竹をつっこまれたのだ。
 痛い。痛い。嫌だ。怖い。僕の瞳は、左右に細かく揺れていただろう。体の震えが、
そこにも現れていた。
 たぶん彼らはこれで終わらせない。僕を見て、彼らはわらっている。夜の砂場には誰も来ない。
「一度、皮をはぐってやってみたかったんだ。痛いらしいんだよこれが」手に、光る物があった。
 ゆっくりと視線が降りてきた。のどの奥に何か固まりがつっこまれたように、声が、でない。
 冷たい、僕の命を奪う物をほほにあてられた。
 彼の瞳が、欲情して潤んでいた。「いい声で啼いてよ、ネコちゃん」

「蟹」「鳥居」「リハビリ」で
美和子はアイスクリームが好きだった。
舌先でくにゅくにゅ練って芯が残りつつも屈服して少し柔らかくなったのをこくん、と飲む込む。
「んふふ」
美和子はアイスクリームを食べている時が一番幸せそうだと、あたしは思う。
「おいしい?」
見てるとなんか、あたしまでうきうき嬉しくなってくる。
だからあたしは最近美和子にアイスをおごる。昔は全然好きな子じゃなかったのに、むしろ嫌いだったのに、世の中わかんないものだ。
「うん、うっ……痛ぁ」
美和子は突然頭をかかえた。たぶん食べすぎてキーンとしてしまったんだろう。
「ほら、急いで食べるから」
「冷たい喉ごしもアイスのうちだし、それにアイスって戦いなのよ」
「はあ? 戦い?」
あたしは思わずすっとんきょうな声を上げた。
「ほら、アイスって冷たくて固いけど、口の中に入れてるとやらかくなるでしょ?
少しはとろとろになるまで遊んであげたいなって思うけど、でもちょっと意地悪なぐらいのがわたしは好きなのよ」
そういうと美和子はあたしに、極上のアイスを食べている時のような至福の微笑みを向けた。

次は「純情」「三段」「蹴り」で
614「屈服」「うきうき」「キーン」:03/11/14 01:55
すいません、次は>>612さんの「蟹」「鳥居」「リハビリ」で
 恋愛救済専門旅行代理人という大層な肩書きの私ですけれども、
じつわ対した事はしていないのです。
妻が食事の用意をしなくなったという方に「北海道の蟹ちゃん食べ放題コース」
なぞをご紹介したり。
セックスレスの夫婦様に「関門海峡と愛の鳥居を潜る」
といった一見訳のわからない御旅行をご紹介するだけの職業なのです。
いわば、愛のリハビリと言うのでしょうか?
それとも心のリハビリと言うのでしょうか?
いずれにせよ、その「何か」を感じるのはお客様自身なのです。
 
――お相手のいらっしゃらないお客様の場合ですと、特別コースAの
         「眠らない町新宿。今日もダブル太陽」なぞがお勧めかと――

次は「ミサイル」「抑える」「貰える」で

 大統領はうんざりした顔で、目の前のモニターを睨み付けていた。
「何とかならんのかね、ラムズフェルド」
「残念ながら」
 国防長官の絶望的な言葉に、大統領は溜息をつく。
「……この際だ、ミサイルでもなんでも予算で買い占めて、まとめて撃ち込んではどうだね」
「大統領、今少し辛抱の時ですぞ。我が国が世界を抑える役目をもっているのは、証明せずとも明白なのですから」
「ならば、なぜ国連のアホどもは、我々に協力しない」
「………」
 国防長官が黙り込んでしまったので、大統領は再びモニターに視線を落とした。
「……ジャップどもが盛り返してきてるぞ」
「残念ながら……今我々に出来る事は限られています。それに、イラク情勢に対しては数少ないの協力国で…」
「軍も派遣せず、何が協力だ。あの程度のテロで尻ごみしおって」
 苛々と首を振ってから、情けなさそうに大統領はうめく。
「ああ、こんな事なら、ゴアに勝たせてやれば良かった……」
「……」
「次の休暇はいつ貰えるのだね?」
 大統領の露骨な現実逃避の言葉に、国防長官は皮肉な笑みを浮かべた。
「お望みなら、今すぐにでも」
 彼に出来たのは、乾いた笑いをあげる事だけだった。


お次は「かさぶた」「毛布」「告白」で。
617名無し物書き@推敲中?:03/11/14 20:19
かさぶた「ブリブリブリブリブリブリブリブリブブブブブブブブリリリブォオオオオオオオオオオオオォオオオオオオッッッッッッ」
毛布「ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲゲゲゲゲゲゲゲロロロゲェエエエエエエエエエエエエェエエエエエエッッッッッッ」
告白「ああっ、もうダメッ!!はうあああーーーーっっっ!!!
ブリイッ!ブボッ!ブリブリブリィィィィッッッッ!!!!
いやぁぁっ!あたし、こんなにいっぱいウンチ出してるゥゥッ!
ぶびびびびびびびぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!!!!ボトボトボトォォッッ!!!
ぁあ…ウンチ出るっ、ウンチ出ますうっ!!
ビッ、ブリュッ、ブリュブリュブリュゥゥゥーーーーーッッッ!!!
いやああああっっっ!!見ないで、お願いぃぃぃっっっ!!!
ブジュッ!ジャアアアアーーーーーーッッッ…ブシャッ!
ブババババババアアアアアアッッッッ!!!!
んはああーーーーっっっ!!!ウッ、ウンッ、ウンコォォォッッ!!!
ムリムリイッッ!!ブチュブチュッッ、ミチミチミチィィッッ!!!
おおっ!ウンコッ!!ウッ、ウンッ、ウンコッッ!!!ウンコ見てぇっ, 」
つみとがのしるし天にあらはれ、
ふりつむゆきのうへにあはわれ、
木木の梢にかがやきいで、
ま冬をこえて光るがに、
おかせる罪のしるしよもに現はれぬ。

みよや眠れる、
くらき土壌にいきものは、
懺悔の家をぞ建てそめし。
浄化されました。
お題は引き続き、「かさぶた」「毛布」「告白」です。

無邪気に毛布にじゃれつく子犬を見て祐樹は溜息をついた。
「どうしよう……」
学校の帰り道、道ばたに捨てられていたのを友達が見つけたのだ。
柔らかく愛らしいぬいぐるみのような子犬に
最初はかわいいね、小さいねと笑っていたのだが
そのうちすてられたのかなと誰かが言いだした。
しかしいっしょにいた友達はかわいそうかわいそうと言うばかりで、
家が社宅だから駄目だとか言って子犬を連れ帰ってくれそうになかった。
「ぼくがつれて帰る!」
そんな友達のやりとりを聞いているうちについ言ってしまったのだ。
薄汚れた段ボール箱の中でたった一匹、来るはずのない迎えを待っていた子犬が
母子家庭で帰りをひとりで待つじぶんと同じように見えたからかも知れない。
母親が仕事から帰ってきた。
祐樹は手の甲のかさぶたをいじくりながら告白の機会をうかがった。

次のお題「水鏡」「ビー玉」「雲」でお願いします。
水面に映った自分の姿は、人間として成熟され、充分すぎるほどに育ってしまっていた。
池の水鏡に映るのは、見慣れたはずの、くたびれたコートを纏った大人の姿。
普段、注視する事のない自分の姿は、背後の青と勝手に対比されてしまって、愚かな姿を映し出している。
そう、空は変化することがない。昔は、もっと汚くはなかっただろうか。昔を思い出す。
例えば子供時代、よく愛飲したラムネ。硝子の瓶に入った液体。中のビー玉は、市販のものよりも
絶対に綺麗だったろう。何かに包まれて生きる限りは、きっと不純物が混じることはないのだと思う。
――無論、ラムネの作業工程など知らないが。それでも、そんな漠然としたイメージを想起して、
何となくため息をついた。子供と大人の境目は、一体何だったと言うのだろう。何かに包まれて生きていた子供時代。
世の中は不思議だらけで、それ故に生活を心配する必要なんてなかった。
思うに、外側を知った時から。自分の中にあった綺麗は失われて、不思議が不思議でなくなった時に、
自分は生活する力と引き換えに、世の中の仕組みを知ったのだ。知らないと言う事は、見えないと言う事。
そうして見る目が変わってしまっただけ。濁ってしまった、そんな目でさえ、見ていたものは一緒だったのだから。
空に浮かぶ雲。透明な空を汚す不純物でも、合わせ見ればこれ程綺麗に映ると言うのに。
不純と純を合わせ見た時に、人は綺麗に映るものなのだろうか?
漠然とした思考を停止して、立ち上がった。肌に受ける風もまた、透明だった。


お題「銀色」「モノクローム」「ポートレート」
 一つだけ、色が違っていた。美術館といえば色とりどりの絵画や力強い石像が
立ち並び、全体が重々しい空気に包まれた場所であると思っていた。そうして
その一角に来るまで、確かにこの美術館は私の思った通りの場所だった。
 入り口を入ってすぐの広間に石像が立っている。詳しくないから誰が造った
とは分からない。私の興味は、すぐ隣に伸びる廊下にかしずくように並んだ
絵画の方へ、自然と向けられた。
 色の溶けた廊下をゆっくりと進みながら、私は美術館にいる自分を眺めていた。
別の広間に出てもう一度廊下に入った時、それが私の目に映った。そこだけ色が
欠けている。見ると、モノクロームの絵がかけられていた。鉛筆による肖像画だ。
 古い紙なのに尚力強く描かれ、人物の目は光っているようにさえ思われる。
作品名は銀色のポートレート。確かに目だけでなく全体が淡い銀のようだ。
 しばらく呆と眺めて、後の絵や像は素通りして元の広間に戻った。まだ目の奥に
あの肖像がある。若くないが美しい女性の画だった。
 出る時案内係にあの絵について聞こうとしたが、私は結局苦笑いしてそのまま
出てしまった。案内嬢の面影に、あの銀色の貴婦人が確かにあったからである。

次「カレー」「扇子」「火傷」
623 「銀色」「モノクローム」「ポートレート」:03/11/15 02:29
「あいつのためにやったんだ」
40男はポツリポツリと喋りだした
盗ったモノは銀色に輝くプラチナリング
女を想像してみた
きっと銀幕で見るようないい女なのだろう
スラっとしていてグラマー、大きな瞳で猫のようにしなやか
中年男はおもむろに女のポートレートを差し出した
うっ、意外と地味なタイプ どこにでもいそうだ
「あんた、だまされてたんだよ」とつぶやきながら、煙草に火をつけた
きっといい女だったんだろう
この男にとっては――と思って苦笑した

次のお題は 「海岸」「貝殻」「犬」
624名無し物書き@推敲中?:03/11/15 21:32
「カレー」「扇子」「火傷」

カレー大魔神の屋敷の端には召使のサムが住む小屋がある。
カレー大魔神は、毎日毎晩カレーをすすり、世界中のカレーの
味を吟味し、本物に近い味を出すことに腐心しているのだ。
本物のカレーはどんな味か。それは大魔神が子供の頃、まだ
小魔人だったころに味わったカレーの味が一番近いだろう。
カレー粉を煉るうちにあらわれるカレーの精。
彼が扇子でひと煽ぎすると、黄色い香りのむこうにはサムの笑顔が
現れた。サムは何者か。「俺はしがない薬売りですぜ、だんな」
サムの腕の中には火傷したアンモナイトがうずくまる。
「もう十分ですぜ、だんなさん」サムは大魔神に哀願するように微笑む。
カレー大魔神はアンモナイトとサムを従えインドの路上で「猫屋」になった。
もうカレーの心配も世界のカレーの風向きも気にせず、猫をなでて暮らすばかりだ。

次は 「海岸」「貝殻」「犬」で。
625「海岸」「貝殻」「犬」:03/11/15 22:25
空は暗く、風は冷たい。
 ならせめて、星星が瞬いていてもいいのだけれど、あいにく空は雲
に覆われていて、ただ黒い。
 そんな中、私は犬に引っ張られながら、海岸沿いを歩いていた。
 ――たまにはあなたが連れて行きなさい。
 母は言うと、我が愛しのポチと、リードを手渡してきた。
 だからしかたなく、私はこうして寒空の下ポチと共に、寒風吹き止
まぬこの道をあるいているのだけれど。
 しかしこれでは、まるで犬がリードを引いて私の散歩をしているよ
うだ。……あれ?なにやら手が軽い。私は恐る恐る、リードの先に目
を向けた。
「うそ……」
 リードの先が千切れていた。嬉しそうに走るポチの姿が見える。
 て言うか、なぜ気付かん。私。
 いやいや、自分に突っ込んでる場合ではない。いま、やる事は一
つだ。
「ポチ!」
 私がそう怒鳴るとポチは一瞬振り向き、首をかしげた。
「お座り」
 かんぱついれずに言うと、ポチはすっと腰をおした。
 私はいそいでポチの下へと走っていく。
 私が目の前に立つと、ポチは喜ばしそうに尻尾をふった。
626「海岸」「貝殻」「犬」:03/11/15 22:59
 寒いなあ。私は相変らず海沿いの道を歩いていた。
 少し先をポチが歩く。
 その首には首輪だけで、リードはない。どうしても首輪につけなおすこ
とが出来なかったためだ。
 それにしても寒い。どうにか体を温めなければ。思い、私は近くの自動
販売機まで向かった。
 確か、財布にはギリギリ百二十円入っていたはずだ。
 私は何を買おうか心踊らせながら財布を開き、お金を取り出す。
 百円、十円。私はもう一枚の十円玉を取り出そうと、財布に指を入れる。
「……えっ?」
 何故。私の指が触れた物は十円玉ではなかった。何か貝のようなもの。
「しじみ……?」
 財布の中には十円玉のかわりにしじみの貝殻が入っていた。
 冷たい風が私をなでる。

 次のお題は「部屋」「月」「玩具」で
彼は暗い部屋の中にいた。
その部屋は彼の大きな家の中では小さな部屋にすぎなかった。
しかし、毎日が孤独で退屈な彼にとっては、安らぎと暇つぶしを与えてくれる大切な部屋のうちの一つだった。
部屋には大小様々な形のつぶが浮かんでいた。
目に見えない霧の様な小さいつぶもあれば、中にはテニスボールくらいのつぶもあった。
あちこち動き回るつぶもいたし、凍っているつぶや、燃えているつぶもあった。
彼は目をとじるだけで高性能な顕微鏡のように詳しくつぶ達を眺めることができた。
彼が念じればつぶ達を操作することさえできた。
彼はいつもそこでつぶ達を眺めたりいじったりして時を過ごした。
ある日、彼はつぶを眺めている時にくしゃみをした。
その勢いである青いつぶの周りを回っていた小さいつぶが青いつぶにぶつかってしまった。
その二つのつぶが壊れたのを見て、彼は少し残念だった。
しかし、彼にとってはたかが二つの玩具を失っただけにすぎなかった…



その日、月が地球にぶつかったせいで僕らはみんな死んでしまった。


次の題は、「人生」「ミュージアム」「遅刻」でお願いします。
628名無し物書き@推敲中?:03/11/16 00:27
629名無し物書き@推敲中?:03/11/16 00:41
「海岸」「貝殻」「犬」「部屋」「月」「玩具」

海岸を歩く。少し泣きながら。
でも、振り返った時には子犬のように無邪気に笑って見せた。
今日のわたしは人魚姫。貝殻の水着がその証。自分にそう言い聞かせる。
会心の笑顔にも先生はけわしい顔だ。九月の沖縄はもう三日晴れ間なし。そう、わたしは雨女だ。
自覚はある。昨日ホテルの部屋で作った照る照る坊主にはしっかり雨合羽を着せてやった。
「そろそろ、上、外そうか」
先生の無慈悲な声が飛んでくる。彼の中ではすでに決定事項のようだ。
わたしから視線を逸らしたマネージャーの姿が、わたしの苦しい立場を物語っている。
脳裏に浮かんだのは無表情な父の顔。
わたしはあなたの玩具にはならない。そう言って家を飛び出したのはいつのことだったか。
貝殻は簡単に砂の上に落ちた。紐を引っ張ればいいだけのことだった。

重複御免。お題は>>672で。
630名無し物書き@推敲中?:03/11/16 00:42
重ねて御免。>>627だったね。
631「人生」「ミュージアム」「遅刻」:03/11/16 03:14
地下鉄の窓を鏡代わりに使いながらピアスを付けた。
毎週、早朝会議の日は朝食を取る時間がない。あわてて口紅を引き、駅に走るだ
けで精一杯。地下鉄の中で過ごす三十分の間に、ピアスを付け、書類を見直し、
ウォールストリートジャーナルの一面に目を通す。今日は五分寝過ごして、一本
遅い地下鉄に乗った。会議に遅刻をすれば、まる一日、シニアアドバイザーと意
地の悪い彼の秘書の一言一言にびくびくして過ごさなければならないだろう。秘
書の凝った細工のセルフレームの眼鏡が目に浮かぶと、空きっ腹がきりきり痛ん
だ。途中の駅に止まった地下鉄の車内に、突然アナウンスが流れた。
「この電車はこれ以上先へ行きません。全員下車してください」悪態をついて流
れ出る人にもまれて階段を上りながら、キャブに飛び乗ればまだ間に合う、と私
は思った。ここから通りをまっすぐ下るだけだ。地上に出ると、車は絶望的に渋
滞していた。いや、歩道の人間さえも立ち止まって前方を見上げている。反射的
に振り返ると、あと十五分で会議が始まるはずの私の職場に飛行機が突っ込んで
いた。人生は不可思議なものだ。あの秘書のものだった変形したセルフレームは
今、ミュージアム・ピースになっている。   

次のお題は「コーヒー代」「出す」「女」
 子供の頃やるなと言われたのを我慢できず、皿を円盤投げのようにして投げた
事がある。がしゃんと大きな音がして割れた。これを聞いた母がさっと私に寄って
来て、腕を掴むと外に放った。追い出すと母は戸の鍵を閉め、大声でやっては
いけないと言ったでしょうと言って、父が帰ってくるまで私を家に入れなかった。
 父の後について入ると、割れた皿は綺麗に無くなっていた。投げたのは初めて
だったから割れた皿は自然に無くなるのだと思い、その後も度々投げた。やる度に
締め出されたが、家に入る頃には皿はいつも姿を消した。母はそういう女だった。
 今となっては母に当時の厳しさを見ることはない。子供心にただただ冷たい人だ
と思って育ったが、母が歳を取って弱ると次第に優しさが見えてきた。或いは私が
歳をとったからなのか、今は暖かさしか感ぜられない。
「あぁ、コーヒー代ぐらい私が払うわよ」
 一人暮らしを始めてもう十年になるが、今もこうして喫茶店で母と会う。最近は
はやく結婚しろと煩い。そろそろ私も結婚を考えた方がいい歳なのだ。
「アンタも、早くいい人見つけなさいね」
 とても、暖かい言葉だと思った。
633632:03/11/16 04:25
題書いてなかった、ごめんなさい。次は「紅玉」「七夕」「サザンクロス」
634「紅玉」「七夕」「サザンクロス」:03/11/16 04:45
「今年こそたくさん紅玉のジャムが作れるよね」
結花が嬉しそうに呟いた言葉は闇とボンボリがせめぎ合う屋台の隙間に消えていく。
彼女を病床から、七夕祭りに誘い出したのは私だ。
要安静、と医者から念を押されてはいるものの、日々意気消沈していく結花は見ていられなかった。
それに約束だった、今年こそ一緒に七夕祝おう、って。
看護婦である私は結花の主治医に頼み込んで、七夕祭りの外出を許してもらったのだった。
毎年毎年ベッドで見上げるしかなかった窓越しの四角い夜空はどんなに狭かったことだろう。
治るかもわからない僅かな希望と治らないかもしれない大きな不安に苛まれる毎日…それは心も風前の灯火のようにしぼんでいくだろう。
結花は入院する前、私に語ってくれたことがある。
入院前は毎晩星座早見盤で欠かさず夜空を見上げていたこと、南の島でしか見れないサザンクロスを見るという夢、病院はあまりに夜空が小さいこと…。
「そうね、結花ちゃん。冬ごろにはきっと退院できるわよ。」
「ね、お姉さん。結花が退院したら一緒に南の島行こうよ。一緒にサザンクロス見るの!」
「ふふ、ありがとう結花ちゃん。きっと退院出来るわ…」
私は遥か南のサザンクロスにそっと願いを懸けた。
結花ちゃんが元気に退院できますように…。
635634:03/11/16 04:49
ミスった…後半初めの
結花は入院する前、私に語ってくれたことがある。

結花はベッドの上で、私に語ってくれたことがある。
m(_ _)m

あと次のお題は「早朝」「寝ぼけた」「大失敗」で。
つーか次スレ立てなきゃ。
立てました。移動ヨロ。
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十五連
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1068961618/
638「早朝」「寝ぼけた」「大失敗」:03/11/18 00:46
油でなでつけた薄い頭が風によって乱れてしまった早朝
イライラしながら電車に飛び乗ると、これまた大混雑
ハッ、誰かが黒いスカートの子の尻をなでてる
「痴漢はよくないな」田村正和風に言ってみた
「うっせーよ、禿げ」と振り返った女はオカマだった
「ばっかじゃねーの、あたしたち、遊んでただけだし」
電車を降りてから会社まで7分もある、バーコードが乱れてしまって、つるっぱげが寒い
大失敗の朝だった

次は「猫」「虐待」「いじめ」で
緑の茸を盗んだ。それは誰も見たことも無い神秘的な斑点のある茸で、とてもじゃないけど
人間の食欲を駆り立てる要素は皆無に等しい。
「あの泥棒猫め、絶対に許さないぞ」、スタンガンを片手に男が息を荒げてそう云って手元
を光らせたのは確認していた。
あの憎らしい男から茸を奪い取ることができたが、正直心中穏やかではなかった。本能に身
を任せることしかできない、どうしようもない衝動を否定する術なんて存在しない。別に茸なん
て欲しいと思わなかった。脳からの信号だけ、それだけでくすねた。
それはあの男にも当てはまる、と思った。スーパーのゴミ置き場のダンボールよりも無造作
に積重ねられた痣が訴える復讐せいでもない、ただ単に本能、いや、衝動を吐いただけ。
大事にしている茸をあいつの手元から消去することは、虐待をされた私の痛みよりも酷いのか
もしれない、背中に無数と植えつけられた鉛の跡を思い浮かべながら私はそう浮かべみた。私
は新品の鉛筆で背中に何度も数字の1を書かれた。普通の鉛筆なのに赤鉛筆になるなぁこりゃ
あ、あの男の言葉を覚えているくらいの恐怖だったのに、あの男を思いやる。可笑いとも、イカれ
ているとも思わない。
なぜなら弱い立場だと自覚した時点で、いじめられてい自分を成立させてしまうからだ。いじめら
れてはいない。弱者はあの男なんだ。茸が無くてしどろもどろのあの男の姿を想像して、背中の
傷から赤ん坊が生まれるのかと思った。私はいじめられてはいないのだ。

次は、「プロ野球」「廃墟」「CD」でお願いします。
>>639
【訂正】
(11行目)
私はそう浮かべみた。

思った。
シャカシャカシャカシャカ……♪
音漏れの酷いヘッドフォンを耳に当て、ポータブルCDプレイヤーから流れる音楽に絆される。
彼が今寝っ転がっているここは、一部の仲間しかしらない廃墟。工事中のままもう十年手をつけられていない。
「あっ…!! こ、ここにいたんか…おめえこんな日になにやってんだ!?」
友達だ。肩で息してる。なんか必死だ。
「今日からプロ野球選手だってのによー…先生ビビってたぞ、すげえ報道陣の数だって」
甲子園でちょこっと優勝しただけでこんなに注目されるとは夢にも思っていなかった。彼は。
このまま生きていきたいと思っていた。