この三語で書け! 即興文ものスレ 第十七期

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1名無し物書き@推敲中?
即興の魅力!
創造力と妄想を駆使して書きまくれ。

お約束
1:前の投稿者が決めた3つの語(句)を全て使って文章を書く。
2:小説・評論・雑文・通告・??系、ジャンルは自由。官能系はしらけるので自粛。
3:文章は5行以上15行以下を目安に。
4:最後の行に次の投稿者のために3つの語(句)を示す。ただし、固有名詞は避けること。
5:お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。
6:感想のいらない人は、本文もしくはメール欄にその旨を記入のこと。
(※感想のほしい人は、1行40文字程度の改行で、5行以上15行以下の作品を推奨)

前スレ
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十六期
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1078024127/

関連スレ
◆「この3語で書け! 即興文ものスレ」感想文集第8巻◆
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1078844906/
裏3語スレ より良き即興の為に 第2章
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1081229777/
この三語で書け! 即興文スレ 良作選
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1033382540/
過去スレ
この3語で書け!即興文ものスレ
http://cheese.2ch.net/bun/kako/990/990899900.html
この3語で書け! 即興文ものスレ 巻之二
http://cheese.2ch.net/bun/kako/993/993507604.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 巻之三
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1004/10045/1004525429.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第四幕
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1009/10092/1009285339.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第五夜
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1013/10133/1013361259.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第六稿
http://book.2ch.net/bun/kako/1018/10184/1018405670.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第七層
http://book.2ch.net/bun/kako/1025/10252/1025200381.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第八層
http://book.2ch.net/bun/kako/1029/10293/1029380859.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第九層
http://book.2ch.net/bun/kako/1032/10325/1032517393.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十層
http://book.2ch.net/bun/kako/1035/10359/1035997319.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十壱層
http://book.2ch.net/bun/kako/1043/10434/1043474723.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十二単
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1050846011/l50
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十三層
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1058550412/l50
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十四段
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1064168742/l50
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十五連
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1068961618/
お題は前スレ最終作品の投稿までしばし待たれよ。
関連過去スレ
◆「この3語で書け!即興文ものスレ」の感想スレ◆
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1005/10056/1005641014.html
◆「この3語で書け! 即興文ものスレ」感想文集第2巻◆
http://book.2ch.net/bun/kako/1023/10232/1023260292.html
◆「この3語で書け! 即興文ものスレ」感想文集第3巻◆
http://book.2ch.net/bun/kako/1028/10283/1028363144.html
◆「この3語で書け! 即興文ものスレ」感想文集第4巻◆
http://book.2ch.net/bun/kako/1032/10328/1032827819.html
◆「この3語で書け! 即興文ものスレ」感想文集第5巻◆
http://book.2ch.net/bun/kako/1037/10372/1037206703.html
◆「この3語で書け! 即興文ものスレ」感想文集第6巻◆
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1055655894/l50
◆「この3語で書け! 即興文ものスレ」感想文集第7巻◆
http://book2.2ch.net/test/read.cgi/bun/1066477280/

裏3語スレ より良き即興の為に 
http://book2.2ch.net/test/read.cgi/bun/1035627627/

十人十色!3語で即興競作スレ
ttp://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1036437812/
---------------------------------------------------------------
※原稿入力時の約束事テンプレート

○段落の行頭は一字下げる
○……三点リーダーは基本的に2個で1セット。なお「・」(中黒)は使用不可
○読点は「、」 句点は「。」を使用
○セリフをくくるカギカッコの最初の 「 は行頭一字下げない
○「 」カギカッコ内最後の句点は省略する
---------------------------------------------------------------
------------------小説形式の約束事テンプレート---------------------

○段落の行頭は一字下げる
○……三点リーダーは基本的に2個で1セット。なお「・」(中黒)は使用不可
○読点は「、」 句点は「。」を使用
○セリフをくくるカギカッコの最初の 「 は行頭一字下げない
○「 」カギカッコ内最後の句点は省略する

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関連過去スレ
◆「この3語で書け!即興文ものスレ」の感想スレ◆
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1005/10056/1005641014.html
◆「この3語で書け! 即興文ものスレ」感想文集第2巻◆
http://book.2ch.net/bun/kako/1023/10232/1023260292.html
◆「この3語で書け! 即興文ものスレ」感想文集第3巻◆
http://book.2ch.net/bun/kako/1028/10283/1028363144.html
◆「この3語で書け! 即興文ものスレ」感想文集第4巻◆
http://book.2ch.net/bun/kako/1032/10328/1032827819.html
◆「この3語で書け! 即興文ものスレ」感想文集第5巻◆
http://book.2ch.net/bun/kako/1037/10372/1037206703.html
◆「この3語で書け! 即興文ものスレ」感想文集第6巻◆
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1055655894/l50
◆「この3語で書け! 即興文ものスレ」感想文集第7巻◆
http://book2.2ch.net/test/read.cgi/bun/1066477280/
十人十色!3語で即興競作スレ
ttp://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1036437812/
裏3語スレ より良き即興の為に 
http://book2.2ch.net/test/read.cgi/bun/1035627627/
>>5は、>>6があるから無効ってことで。


>>5-6といった勝手に決めたルールは無効です。
いつものように、1のルールを守って投稿してください。
一字下げについては、やりたい人だけどうぞ。

9名無し物書き@推敲中?:04/05/21 07:39
前スレ
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1078024127/l50
よりお題引継ぎ
――――――――――――――――
618 :617 :04/05/21 07:06
次のお題は「食わず嫌い」「波乱含み」「やりとり」
 ロケは波乱含みの様相を呈してきた。稲元淳三が、そんなもの食えない、と駄々をこね
はじめたのだ。気持ちは分からないでもない。現地のかたに満面の笑みで、たがめの蒸し
焼きが山と盛られた皿を出されたら、私だって脂汗のひとつもかいただろう。
 しかし、タレントなんだし、その辺は理解して、食わず嫌いを引っ込めてもらわなきゃ
困る。
「言っちゃなんですけどね、これはたがめじゃなくてゴキブリと言わないですかね?」
 確かに稲元の言う通り、こげ茶の物体から触角らしきものがだらりと伸びてはいるが、
現地のかたが、たがめと言ってるのだから、たがめに違いないのだ。なあ通訳さん。

 テレビ的にはいいモノが撮れた。この手のやりとりは視聴者からのクレームも多いが、
数字的にはかなりオイシイのだ。しかし、残念なことに、プロデューサーからボツを食ら
ってしまった。
 恐らく、たがめによく火が通ってなかったのだろう。


スレ立て乙です。
「こいのぼり」「それほどでも」「悠久」
 永遠に、このまま――。
「おとーさん、こいのぼりー」
 しまった、またあのことをぼんやり考えてしまった。仕方ないことなのに。
「ああそうだねー、こいのぼりさん気持ちよさそうだねえ」
 娘はロボットだ。永久に旧くならない、悠久の存在――。
もし人類が滅びるとしても、彼女だけは変わらず動き続けるだろう。
「わたしもおそらとびたいなー」
 年をとることもない、当然姿形が変わることもない、ずっと、子供のまま。
周りに誰もいなくなったとき、この子は一体どうなるのだろう。
つらいだろうか、寂しいだろうか、悲しいだろうか。
 私もそのうちに動かなくなる。
「おとーさん、どーしたのー?」
 私の重要さはそれほどでもない、彼女は一人ででも生きてゆける。
そう、心の問題だ、彼女の内の心はどうなのだ?
「おとーさん!」
 しまった、また――。
「ああ、ごめんねえ。おとうさん、まぬけさんだねえ」
「まぬけじゃないよおとーさんー」
 いや、私は間抜けだよ。

「参謀」「管理人」「完走」
>>10-11
きちんと確認をしてから書き込むことを学べ。以上。
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1078024127/619-620
13前スレ619-920:04/05/21 14:07
>>12
分かりにくくてゴメン。何かあれば裏三語↓でコメント下さい。
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1081229777/l50

>>10-11
間違ってないです。このまま続けて下さい。
>>12
きちんと日本語を理解してから書き込むことを学べ。以上。

  捜査令状をとったり、なんだかんだで、ニックネーム”狩猟者”の男のアパートに踏み
 こんだのは、昼過ぎになった。
 「ちっ、”参謀”のやつか。余計な知恵を入れやがって」
  部屋の真ん中に転がるコンピューターの破片を見て、ジムは唾を吐きたくなった。
 πを計算させるテストを、数100万ケタ単位で完走していたCPUも、重要なデータを
 記録していたはずのハードディスクも、ハンマーか何かで丁寧に叩き潰されていた。
 「昨日の夜、そういえば何かを叩く音がしてましたよ」
  管理人が、ドアのところからおそるおそる言った。
 「そうかい」
  お前さんは合鍵さえしっかり持ってりゃいいんだよ、と言いかけてやめた。その情報に
 興味がないことを口調で示し、俺は更に部屋を探った。シャワールームの排水溝、便器、
 キッチンの流し、ゴミ箱のなか、と見て回る。
 「月に何日くらい帰ってきた?」ビニール手袋を懐からとりだし、右手にはめる。
 「ほんの何日かしか、もどらなかったように思いますが」
  ゴミ箱の奥にはコンドームが引っ付いてた。つまんでビニールパウチに入れる。
 「だろうな。……女のデータは失われたが、”狩猟者”のDNAは手に入れた。まずまずだ」


 NEXT: 「調査」「毛細管」「潜行」






「調査」「毛細管」「潜行」

ぼくは女の腕に毛細管を突き刺す。
赤い液が上ってくる。その具合でアンドロイドかどうかが分かるのだ。
彼女はひとりで酒場にいるとき、店の客たちに怪しまれ通報された。
調査に当たって、彼女を取り押さえていた屈強な男たちを部屋から追い出したが
ドアごしに彼らの気配が感じられる。

「車で走っていたら前を亀が歩いてる。そのときはどうする?」とぼくは尋ねる。
「車から降りて、道のわきに退けるわ」と彼女は冷静に答える。
「亀さんも大変だな」とドアの外から男たちの笑い声が漏れる。
ぼくは毛細管を見て次の質問を考える。

「この界隈にアンドロイドが潜行しているらしい。彼らの目的はなんだと思う?」
「偽者の調査員を殺すことじゃないかしら」
彼女はぼくの額から冷汗が流れ落ちるのを見ている。
外の男たちが小声で話し合っているのが聞こえる。

「いまどき毛細管で調査するなんてことはないのよ」と女が言った。
ドアが開いてそれぞれ武器を手にした男たちが入ってきた。


次は「他者」「建築」「交通」
17岸和田 ◆JNnFWYTu2A :04/05/22 14:10
「他者」「建築」「交通」
 彼はルークを動かして言った。
「このゲームは」 彼は僕の顔を見て言った。
「他者の干渉が一切ない、いいゲームだ。君もそう思うだろ?」
 僕はチェス盤を見つめ、よく考えてからナイトを動かした。
「僕はそうは思わない」 そして紅茶を一口啜った。
「確かに、まわりを囲まれて、馬鹿な野次馬が交通管理課のモニターみたいに
じっと見てくるのは嫌だね。でも、ゲームっていうのは――、まわりに
人がいてこそのものなんだ。誰も立ち止まって見たりしない、工事中の
建築物は大抵大した建物にならない。そうだろ?」
 彼は何も言わずクイーンを動かした。まるで僕の声が届いていないみたいだ。
僕は続ける。
「でも、何にしても、もうまわりに野次が来ることはないんだね」
 僕は窓に目をやり、核戦争で荒廃した大地を見つめた。

 「雑魚寝」「夜食」「バナナ」



  「ホントだよ。バナナは熱帯では肉食。君がいつも見てるのは、死んだバナナさ」
  少女は華奢な首にのっかった顔を左右に振った。ピンク色のセパレートの水着に、浮き輪
 を抱えている。胴体に対して細い脚の先は、黄色のビーチサンダルだ。 
  「うそよ、そんなの」
  「ほんとさ。木にズラリと並んで実るだろう? 最初青かったバナナは、成熟と共に黄色くな
 ってく。青い頃ってのは、いわば雑魚寝をしてる状態さ。君、もう修学旅行は行った?」 
 「らいねん行くわ。でも修学旅行にまだ行ってなくても、大人にはなれるもの」
 青年はクスクス笑った。彼は赤いスイムウェアに、救命胴衣姿だ。
 「君が大人かどうかは置いといて、雑魚寝の楽しさをしらないのか。じゃあきっと、夜食もまだ
 食べたことがないね」
 「夜食くらい、食べたことあるもん!」
  青年はいよいよ愉しそうだ。
 「熱帯のバナナも夜食を食べる。黄色く実ったバナナは、木の上で、哀れな獲物が通りがかる
 のを待ってるんだ。そして、そのときが来たら……」
  少女が浮き輪を握りしめた。
 「バナナはパラパラと木を離れ、獲物の頭上へと落ちていく。真っ赤な口をあけて、君に噛み付
 き、チュウチュウと血を吸うんだ!」
  青年の手つきに、少女はきゃっきゃっと喜んでいる。
 「やっぱりウソね」少女が言った。
 「いや、ほんとさ。バナナに気をつけろ」
  青年は双眼鏡を覗きながら言った。


 NEXT:「真空」「呼吸」「トラクター」
 当時高校生だった私達は、深夜に集合するための隠れ家を何ヶ所か保有していたのだが、
その中でも一番利用した場所は、私達の中では比較的温和な性格をした彼の家であった。
 彼の部屋は裏通りに面したトイレ傍の勝手口の二階に増設されており、深夜の出入りの
容易さや気安さ、少し離れた寝室で眠る親御さんのご理解によって少々の騒ぎが容認され
ていたことなどが理由であった。実のところ同様の条件の家は他にもあったのだが、それ
でも私達が彼の部屋を好んで集まっていたことには、もう一つの瑣末な理由があった。

 私達は夕方に仲間の家に集まっては、漫画を読み、洋楽を聴き、煙草を吸い、酒を飲み、
人数が揃えば麻雀をし、試験間際なら勉強を試みる。そうして深夜までとりとめもない馬
鹿騒ぎをしていたものだが、彼の家の場合は、そこで夜食のバナナが出てくるのだった。
彼の母親が気を利かせて買い置きしてくれたバナナなのだが、それが妙に美味しいのだ。
 夏休みになると彼の家で雑魚寝するのが当然のような生活だったため、蒸し暑い夜には
何本ものバナナを食べたはずだが、不思議といつ食べても美味しかったように覚えている。

 そんな日々から早十年、久々に彼の家に集まった私達は、やはり昔と同じようにバナナ
を食べている。黒いスーツに黒いネクタイ、ポケットに数珠を入れ、そうして急逝した彼
の遺影を囲むように座り、彼の母親が差し出した山のようなバナナを、ただ黙々と食べて
いる。彼の遺影はあの頃と同じようにバナナを食べる私達を見て優しく微笑んでいる。


「邂逅」「昼食」「永眠」
遅くてごめんなさい。お題は>>18さんの「真空」「呼吸」「トラクター」でお願いします。
「真空」「呼吸」「トラクター」

ガラスケースの中に宝石が収められている。
われわれ取材陣に行った館長の説明によると、これは10億円の値が付いているらしい。
「このケースの中は真空になっています」と館長が説明を加える。
おそらく、そうすることによって盗みを困難にするのだろう。

賊が押入ってこのケースを割ったとすると、周りの空気が吸い込まれる。
そうすると、どうなるのか。ぼくがそこまで考えたところで館長が上を見上げる。
われわれもそれにしたがって上を見上げる。天井からトラクターが吊り下げられている。
防犯に関係があるのだろうか。ぼくは館長の説明を待つ。

となりにいた女性の呼吸が激しくなっている。
顔をよく見ると、彼女は有名な女窃盗団のリーダーであった。
館長は彼女の様子を見て笑みを浮かべる。
「私どもの防犯体制は磐石であります」と館長が言った。

「ケースを壊すと上からトラクターが落ちてくるのですか」とぼくは質問した。
館長はあきれかえったようなしぐさを見せる。みんなが大声で笑い出した。
窃盗団の女が涙を流して笑いながら、ぼくの脇腹を殴った。


次は「胡椒」「隠滅」「陰裂」

 君との邂逅を望み続け、それは叶えられた。確かにこの世に神はいた。奇跡はあった。
昼食のテーブルに君がついている。ランプに照らし出された君はあの頃と同じく、とても美しい。
君が肉を飲み込むたびに、まっしろな喉元が波打つ。黒く細いチョーカーが、その魅力をさらに
ひきたてていた。
「なぜ、わたくしの目を見てくださらないの?」
 私は苦悶した。
「君を魅了してしまいたくない」
「まぁ。あなた様だったら、わたくし、魅了されてもよろしくってよ」
 当世風の積極的な態度というやつか。私は重々しい調子で口をひらいた。
「そんなことを言うのは、君には似つかわしくない。だが、あなたにはそのままでいて欲しいとも
思うのだ。君の高潔な魂に」
 真っ赤なワインをたたえたグラスを軽くぶつけ、私たちは乾杯した。
「このお部屋、すこし熱いわ」
 彼女は言うが早いか席を立った。カーテンをひき、窓を開ける。あっと思う間もなかった。
 愚かな女め、なぜ昼間から私がカーテンを締め切り、ランプで食事をしたか考えなかったの
か。昔の君ならば、その神秘的な雰囲気に酔ったではないか。神よ、私はお前を呪う。なぜに
同じ顔、同じ血の匂いの女に、こうまで違う魂を込めたのだ。私がかつて愛したあの顔が、悲鳴
を上げ続け、醜く歪んでいる。それを眺めながら灰と化した私は、風に吹き散らされていった。
 ああ、だが。これでやっと永眠できる。本当の君のところへいける。そうか。神よ、感謝します。

-----------------------------------

せっかくだから書いてみました。NEXT:>>21でお願いします。
「証拠を隠さないとね」
 祥子がそう言ったのは倒れた胡椒瓶が目に入ったからに相違あるまい。彼女は乱れた服
装を手早く正しながら、椅子の上でだらしなく下半身を曝け出したままの私に構わずに、
ダイニングテーブルの上の片付けを始めた。
 祥子はこの家の主の妻であり、私はこの家に雇われた庭師である。食い詰めてほとほと
困っていた私を住み込みで雇ってくれた旦那には勿論感謝しているのだが、かといって事
あるごとに挑発を繰り返す魅力的な奥方のお誘いに、いつまでも我慢しきれるものではな
かった。なにより祥子は、私が今までに見たどの女性よりも大変美しく且つ淫らであった。
 情事を重ねるようになって判ったのだが、祥子には一つ面白い性癖があった。彼女は胡
椒でくしゃみをするのが好きなのだ。いや、正確には挿入されながらくしゃみをすること
によって男芯をぱくぱくと咥え込む感触が堪らなく好きらしいのだ。最初聞いたときは、
可笑しな性癖だと笑っていたのだが、いざ試してみるとこれが実に按配が良い。左右の陰
唇がびっくりして陰裂を窄ませ、それが私にとっても誠この上ない快感となるのだ。
 そうした訳で胡椒は必需品なのだが、今日は盛り上がりすぎて胡椒瓶を倒してしまった。
祥子の連続するくしゃみが強烈な刺激となり早々に射出してしまったのだが、そこでふと
一つの疑問が頭をよぎった。証拠の隠滅を計るのは当然大事なのだが、胡椒など一度降り
かけてしまえば部屋中に霧散してしまい、その匂いを隠し切れるものでもないだろう、と。
 その時はそう考えただけで過ぎた私だったが、まさか最初の情事から押入れの中に隠れ
た旦那が婦人のあられもない姿を注視するために仕組んだ出来事だったとは、さすがに思
いもよらなかった。どうやら私はそういう性癖の為に招かれたらしいのだが、住み込みと
はこういうものなのだろうと、特に不満を感じるでもなく毎日の食を満たしている。


「土管」「惑星」「プレゼント」
2423:04/05/23 15:50
「旦那のくしゃみが聞こえるまでは」がいつのまにか抜けてました……orz
19行目の終わりのほうに差込んで補完して貰えると助かります。
「土管」「惑星」「プレゼント」

 僕が10歳の頃だった。
 あの日は、母親に叱られて家を飛び出し、あたりが薄暗くなって子供たちがみんな帰っ
てしまった空き地の土管の中に隠れて、こっそりと泣いていたっけ。
 すると、誰かが空き地にやってきた気配がある。僕が隠れていた土管に腰掛けて、何か
を地面に置いた。そして、不思議な音が聞こえてきた。
 とても広々とした空間に、自分が放り出されるような感覚だった。
 不思議に思って土管から這い出ると、座っていたのは若い男で、ラジカセがその前に置
かれていた。突然現れた僕にとても驚いていたっけ。
「それ、何? 何の音楽?」
「ホルストの『惑星』って曲だよ」
「かっこいいね」
 しばらく、2人でその曲を聴いていた。自分が少し大人になった気がした。

 その後、夕暮れの空き地で、何度かその男といろいろな音楽を聴いたものだ。
 やがて、その男は引っ越していき、「プレゼントだよ」とラジカセをくれた。中には、
『惑星』のテープが入っていた。

 あれから15年。明日は、所属のオーケストラで『惑星』を演奏する。


「出産」「コンビニ」「カレーライス」
コンビニの控え室でカレーライスを食べていたら、裏口の辺りで派手な音がした。
皿を抱えたまま様子を見に行くと、生ゴミの袋の上に野良猫がいた。
榛色の瞳がこちらを凝視している。どうやら餌を漁ろうとしていたらしい。
さっさと追い払おうとして、何やら様子がおかしいことに気が付いた。
瞳を閉じ、苦し気に呻き始めたのだ。しかもよく見ると腹が膨れて――まさか。
急いで控え室の古新聞紙をかき集め、裏口に置いてあった段ボール箱の中に敷き詰める。
まだ苦し気な猫をそっと抱え上げ、その即席ベッドの上に横たえた。
一瞬開いた瞳に感謝の色がのぞいたように思ったが、きっと気のせいだろう。
その時、店内から僕を呼ぶ声がした。シフト交代の時間が来たのだ。
心配ではあったが致し方ない。振り返りつつ控え室に戻り、手を洗ってレジに入った。
きっちり2時間半後に様子を見に行ったが、どうやら出産は無事済んだらしい。
母親も子供達も姿が見えない。その夜僕は、飲めないビールを3缶空けてお祝いをした。

それからしばらくして、僕はバイト先で「弁当泥棒」とからかわれるようになった。
期限切れの弁当を全て持ち帰るからだ。仕方ないだろ? あいつら食べ盛りなんだから。


「金魚」「泥濘」「衝突」で。
 フランスはパリが良い。
 それはさて置き、今私の前に倒れている女性の名は幸子という。多分。
この女、さっき私と衝突しそうになった。そんな無礼な真似をはたらいて
おきながら、今は目の前でうつ伏せに倒れている。
「これ、顔を上げたまえ、失敬ではないか」
 幸子は起きあがると自身の体を見た。雨後で道は泥濘になっている。
泥のワンピースをなすすべなく見下ろしてから、彼女は私を睨んだ。
「君、名前はなんというね?」
「あんたに名乗る名なんかないわ」
「すてばちになってはいけない。ぶつかってきたのは君なのだよ」
「そーかい。たいそう軽いみたいで、当たった感触はなかったけどね」
「私はよけただけだよ。君は当たったと思ったのに何故あやまらんのかね」
 彼女は金魚みたいに口を開け閉めしていたが、結局、最後まで自分の
非を認めず去っていった。まったくこれだから田舎は。

次「パパ」「市場」「ロール」

 「わたしのパパわぁ〜、たてロールの貴婦人〜」
  チコは歌いながら市場をいく。む、ロールパンが安い。ぱぱっと購入した。
 「それなのにぃ〜い、リビアで大佐をしているの、よぉ〜ぅおうぉ〜」
  サビを歌いながら、ローリングストーンズが流れる広場へと石畳を歩く。
 「よう、パパ元気かい」
  話しかけてきたのは野菜売りのピエール。サミュエルのパパだ。
 「もちろんよ。今朝だって300枚もフリスビーを持ってかえったわ」
 「なるほど。そのフリスビー見せてほしいな。ところで明日の天気は晴れかねえ」
  チコは少しかんがえてから、
 「晴れるとは思うけど。イチジクのロールケーキがお供え物に必要だと思うの」
 「オーケー。後でイチジクたっぷりのヤツを届けさせるから、パパによろしく言っといてくれ」
  スキップで市場を出て行くチコ。
 「パパはフリスビーを売りにぃ〜、断崖をとびこしていくの、よぅ〜」
  チコは自分の歌が、一抹の真実を含んでいるのに気付いて、ちょっと身震いした。

 NEXT:「リンボー」「炎」「ぺろぺろきゃんでー」
 ラテンの情熱的なリズムが、俺の魂を揺さぶる。よう、俺はハリウッドが認め
たバンブーダンサー、ファンタジー高野だ。決してインチキ芸人じゃないんでそ
こんところ夜露氏苦。
 おっと、そんなことはどうでもよかったな。今、俺の目の前には灼熱の炎に包
まれたバーが横たわっている。地上から約六十センチ。そう、リンボーでくぐれ
って訳さ。そもそも、お題みりゃ分かるだろ?
 浴衣を着たグランマム、グランパパたちのつぶらな目が好奇のいろで輝く。俺
は彼らの純真な期待を裏切るわけにはいかない。しかしだ、六十センチ。アンタ
が立ったときの、ちょうどチンポのあたりさ。信じられるかい?

 ぺろぺろきゃんでー?
 俺は確かに何かを踏んづけた。ぬめる感触、……間違いない。
 どこぞのガキにでも、嵌められたか。それより、この態勢からどう挽回する?
重心を損ねれば、倒れるだけじゃ済まない。振動であの灼熱のバーがちょうどあ
そこに!
 しかし俺はプロだ。こんなことではへこたれ……ああ、ダメだ。
 乾いた笑い声に包まれた。そのとき思ったのは、最高のエンターテイメントと
は、人の不幸なのかもしれない、ということさ。


「牡丹雪」「敬虔な」「催す」
 テレビでドリフターズが全員集合していた時代、父は幼い私をハワイに連れて行ってく
れた。若かった父に導かれて歩き出したそこは、私がそれまでに体験した事のない開放感
に溢れた別世界であった。ビーチで戯れる水着のカップル、揃いのアロハシャツでゆった
りと歩く老夫婦など、皆一様に薄着で通りを賑やかに行き交っていたのが印象的だった。
 水辺で遊び、植物園を巡り、そうして日が暮れた頃にはフラダンスショーが始まった。
私は売店で買ってもらったぺろぺろきゃんでーを舐めながら、父の膝の上で一緒に眺めた。
ウクレレの淋しげな音色に乗せて、首にレイをかけた半裸の女性が腰をふり、ゆらゆらと
優雅に踊っている。突如激しい太鼓が鳴り響くと、女性は陰に隠れ、代わりに日に焼けた
頭ちりちりの男性が満面の笑みを浮かべて登場した。両手に炎炎と燃え盛る松明を持って、
なにやら不自然な態勢で棒の下を潜り抜けようとしている。父はいま一つ様子を飲み込め
ない私に、それがリンボーダンスという踊りであることを耳打ちしてくれた。以前このよ
うな光景を夜中に見たのを思いだし、父と母もこのダンスの名手に違いないと独り言ちた。

 あれから二十年が過ぎ、私は五歳になる長男の想像を心配しなければいけなかった。

 今、私は家族でハワイに来ている。東京から車で三時間、福島県にある常磐ハワイアン
センターは名前こそ変えたが、施設はどこかしら昔の面影を宿しているように感じる……。


遅くてすみません。お題は>>29さんの「牡丹雪」「敬虔な」「催す」でお願いします。
31名無し物書き@推敲中?:04/05/26 02:54
鯖復帰?
>>31
今回は長かったね。9時間か。
 そろそろ町に男達が帰ってくる。この地方は、じき厳冬の候を迎える。
男達はきっと凱旋の証に馬車何杯分もの金品食料を持ち帰るだろう。
 深秋の空に女達は夫の、あるいは恋人の無事を祈り、大地の神の
前に敬虔な信徒として身を伏す。町は静かに厳寒と祝祭に備えて、
帰りを待っている。
「ママ、ママ! パパ達が帰ってきたわ! ああ、あたし今日はどんな
服を着ればいいかしら!」
 どこかの窓から少女の声が漏れる。英雄の帰還だ。石畳やレンガが
急に色づき、家々は賑わい、町全体が動き出す。彼らのために祭が
催され、いつのまにやら匂いをかぎつけた商人が、こぞってバザーを
開催する。
 茫漠たる荒野の空はただ灰色で、酷寒の到来を告げるように牡丹雪
を降らせ始めた。

次「ほとり」「伝道」「轍」
「ほとり」「伝道」「轍」

湖のほとりに女が立っている。日傘をさし、白いワンピースを風になびかせている。
ぼくが近づくとこちらを向いた。顔見知りの女だった。
彼女が水面を指さす。頭の禿げた男が水面から顔を出してこちらを見ている。

「あの人は伝道をするためにいろいろな避暑地をまわっているそうです」と彼女が言う。
「どうして水の中にいるんだろう?」とぼくは聞いてみたが、彼女もそれは知らないようだ。
男は無言のままゆっくりとこちらのほうにやってきた。

湖から上がった男は、思いのほか長身だった。彼女がお茶に誘うと、うれしそうに頷いた。
ぼくたちは三人で彼女の別荘に歩いていった。かれは轍の上を選んで歩いていく。
小声で何かを言っている。耳をすませると、こう言っていた。「わだち馬鹿よね」


次は「電気」「羊」「夢」
「電気」「羊」「夢」

 夢の中で、僕は羊だった。
 なだらかな斜面の草原で、仲間達と静かに草を食んでいた。
 恋人の羊が駆け寄ってきた。とても柔らかな目をしている。その目に見つめられ、僕は
いとおしい気持ちでいっぱいになった。
 しかし、突然牧羊犬たちが僕達を追い立て始めた。狭い柵の中に誘導される。
 人間がやってきて、慌てふためく僕を捕らえて馬乗りにまたがった。
「ひぃ!」
 思わず声を上げる。人間は、鈍いうなり声を上げるバリカンを僕の毛に突き立てた。

「あなた、どうしたの? ひどくうなされていたわよ」
 夢の中の羊と同じ目をした妻が、部屋の電気をつけて僕の目を覗き込んでいた。
「ああ、大丈夫。起こして悪かった。明日、学生の農場実習に付き合うんだけど、変な夢
を見たなぁ。羊の気分がちょっとわかったよ」


次は「寺」「メカニック」「移転」
36罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/05/27 13:18
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
くだらない。ここを押したからといって俺の人生が良くなるというのか。
だが押してみたくなる乙女心。
清純無垢の穢れ知らず。
花の十六歳。
やってみたい。何でもやってみたい。
押したい。ここでもそこでもあそこでも。
ヒアーゼアー&エブリホエアー メカニックデザイン 1 :勾死人 :02/08/18 16:34 懐かしいバカ
そんなバカな事をちょっと思い出して、惰性に流されるまま俺は意を決して“ここ”にポインタを持って行き、クリックした。
全てを、全てを俺は知る事ができた。今まで生きてきた人生は何だったのだろう。
あまりにも薔薇色。だが言葉では表現できない。
俺の本当の名前は寺田信夫だった。そんなことさえ“ここ”を押す前には知らなかった。
梅本靖夫だと勘違いしていた。戸籍名簿も移転しなければならない。移転? だがそんな事は今の俺にはどうでもいい言葉だ。
なんとなく意味が通じていればそれでいいではないか。アホとかそういう問題じゃないんだ。
“ここ”を押した事のない輩はあれこれ何時までも言うだろうが。哀れだな。

NEXTお題「万年筆」「朝鮮人参」「恐竜」
「万年筆」「朝鮮人参」「恐竜」

 朝からずっと胃が重苦しくて吐き気がする。ドリンク剤も効かない、強力な二日酔いだ。
職場を見回すと、何人かが俺と同じように胃を抑えて頭を抱えている。同期の地方出向
くらいでそんなに飲むこともなかろうに。俺自身はかなり自粛していたつもりだったのに、
それでも今日この有様だ。「こうなることはわかっていたんだけど」誰でもこういう時こ
う言うんだよな。俺は営業の電話を再開した。

 「お忙しいところすいません。今回は、マンションご購入のご案内でお電話を差し上げ
たのですが、ご主人様でいらっしゃいますか?」「…はい」声のトーンが低い。どうやら
タイミングが悪かったようだ。俺はもう半ば諦めて、電話メモに落書きをはじめた。栄養
ドリンクのラベルに描いてある朝鮮人参。くびれの部分がうまく描けない。

 「…けどねぇ、今余裕がなくてさ…」予想通りの反応だ。「それでしたら、現在お得な
住宅ローンのご案内も承っておりますので、ご検討なさってはいかがですか?」と俺は
マニュアルどおりに言った。すると、電話口の男はいきなり「お前に俺の何がわかるって
んだ」と叫び、電話を乱暴に切った。よほどタイミングが悪かったようだ。

 ふと手元を見ると、万年筆からインクが漏れてシミになっていた。机が汚れないように
ティッシュで拭いたら、その跡は描きかけの落書きと重なって、まるで恐竜の姿のようだ
った。俺は草原を駆け抜ける恐竜の姿を想像した。少しだけ気分が軽くなった。

お題「海」「進化」「ヒト」
38岸和田 ◆JNnFWYTu2A :04/05/27 20:04
「海」「進化」「ヒト」
 ここに、一枚の写真がある。
もうすっかり古ぼけて、色褪せてしまった写真。そこに、僕と昔の仲間達がいる。 
 夜の海で、僕と仲間が肩を組んで、しゃがんでいる写真だ。
皆、とても楽しそうに、にっこりと笑い、こちらを見ている。
僕はヒトに進化しきれていない類人猿のような下手な笑みを浮かべている。
たまにこの頃を思い出す。
蛙の声、蚊取線香の匂い、パンクソング、微かな不安、笑い声。
僕らの世代はひどかったと言うけれど、僕らの世代はそんなに悪くは
なかったと思う。
 でも、僕だけがいつまでもこの思い出にしがみつくことは許されないのだ。
寂しさが虚空みたいに僕の心に広がっていった。

 「断片的」「ノイズ」「野菜売り場」
 「断片的」「ノイズ」「野菜売り場」

ぼくは深夜の閉店した巨大スーパーマーケットに入っていった。
仲間から救助要請を受けたのだ。敵の工作員に追いつめられているらしい。
無線の声はノイズにかき消されてしまったので、この建物のどのあたりに
いるのか知ることができない。

ぼくは細心の注意を払いながら歩き回る。
ときおり彼の声が聞こえてくるが、断片的で意味のないものだった。
途方にくれながらも無線の声を聴き続けていたら、「パプリカ」という言葉を
聞きとることができた。そこで野菜売り場に向かうことにした。

床に横たわっている男の影が見えた。仲間の男だった。
かたわらに彼の流した血だまりがあり、いくつかのパプリカが転がっている。
「やつらはもう逃げた。俺はもうだめだ。」と彼は苦しそうに言った。
実際に、もう助かる見込みはなさそうだった。

「死ぬ前にパプリカを食べたい。色がきれいだから。いったいどんな味がするんだろう」
ぼくは陳列棚からひとつ取って彼の口元に近づけた。ひとくち食べて少し微笑みながら
彼は死んだ。しかし、食べさせたものをよく見ると、それはピーマンだった。


次は「手術台」「ミシン」「傘」
ミシンと傘は決して手術台の上で出会ったりはしない。そんなこと断言する奴は
馬鹿だ。
なぜならミシンである僕は、傘である君と、手術台である手術台の上で出会った
からだ。

蛙が空から降ってきたあの日。
僕はミシンになり、君は傘になり、手術台は手術台になった。

5年間。それはどんなに永い月日だったことか。
ミシンである僕にとって。
傘である君にとって。
手術台である手術台にとって。

今日僕は君のオペを執り行う。

ミシンである僕が人間に。
傘である君が人間に。
手術台である手術台は手術台のままに。

「青竜刀」「耽溺」「砦」
「青竜刀」「耽溺」「砦」

 若者は、青竜刀を片手に、白馬に乗って駆け続けていた。
 他民族の軍隊がすぐ近くまで迫っているという斥候の知らせにも耳を傾けず、他国から
さらってきた若い女にうつつをぬかす首領を、数時間前に切ってきたばかりだった。
 あの誰よりも勇敢だった首領が、女色に耽溺したがために、姿形も心根も変わり果てて
しまった。引き締まった筋肉はたるんだ脂肪となり、鋭い眼光さえも消え果てた。
 しかし、部族の掟では、首領が生きている限りやめさせることはできない。となると、
他に選択肢はなかった。
 首領を殺したことで、自分が処刑される覚悟はできていた。だが、どうせ捨てる命なら、
この部族を守ることに賭けたい。
 草原のかなたに、敵の軍隊の砦が見える。
 若者は、雄叫びを上げつつただ一人その中に突っ込んでいった。


次は「おにぎり」「燃やす」「青い」
浜辺でよせあつめた木切れを燃やす。
棒切れに突き刺した魚をまわりに立て並べる。
あとはじっくり焼きあがるのを待てばいい。時間はたっぷりある。
彼はあくびをしながら、ぼんやりとそれを見た。
ここに流れ着いてから幾日経たろうか。最初のころの毒を飲んだような焦燥感は、すでにない。
見渡せば無限なる大海。見上げれば悠久なる大空。
風は甘く涼しく、潮騒の音が耳に心地よい。
思えば、ただ鼠の様にアパートと職場を行き来するだけの過去の生活が、ひどく空しく感じられた。
拷問のようなラッシュアワー。ノルマに追われる日々。飽食の時代といわれつつ、食べるものといえば、コンビニのおにぎりが相場だった。
本当になにもない、というのは、実はあの日々のようなことをいうのではないだろうか。
わずが数キロしかないだろう、狭い無人島。
なにもない、だけど、ここには総てがある。
そんな気がしていた。

「憂鬱」「かなでる」「行く」
43痴話げんか :04/05/28 12:01
 高校生の夕子は、お年頃なのか同じ年の男の子がやけに最近子供っぽく見える。
 クラスの男女比率は7:3。男の子7女の子3の割合だ。

 放課後、友達の亜由美のブラスバンド練習に付き合う。
 甲子園に行く野球部の応援に向けての練習だ。ブラスバンドの奏でるコンバットマーチを聴きながら夕子は、ボーっとしながら野球部の練習を見ていた。
「なんであんな一生懸命に、なれるんだろ」

―甲子園初戦
 炎天下の中、最初のうち、憂鬱にうんざりしながら見ていた夕子だったが、ゲームが白熱していくうちに、引きこまれていく自分に気づいた。
 9回表、逆転され泣きそうになる。必死に応援する夕子。お願い。頑張って。何とか守りきった。
 9回裏、祈るように見つめる夕子。第1球。白球は3塁側スタンドに飛びこんだ。劇的な先頭バッター逆転サヨナラホームラン。
 隣のクラスメートと抱き合い狂喜する夕子。

 夕子は気づいた。自分がまだ子供だったって事に。
44痴話げんか :04/05/28 12:03
お題忘れました。
「勇気」 「幼い」 「成長」
 ぼくらは何度も生を重ねた。
 幼い心と体を互いに打ちつけ、無為な絶頂に達する毎日だった。
それはとても心地よく、またあまりの快楽で抜け出し難いもの
だったのだけれど。
 初めのうちはそれでよかった。退廃的にも平気でなれたし。
だけど、何事もそれのみをやっていくとズレが生じてくる。
お互いが、相手に依存してしまっていて、どうしようもない停滞感が
心と体に蔓延っていたのだった。
 止めるには、ちょっとした勇気が必要だった。
 ぼくらはまだとても若く、成長途上だ。なのに、こんなことをしていては
いけない……そう、ぼくらは意思疎通が出来ていた。
 距離をとろう。あと少し、ちょっとだけ間を置けば、新しい世界が見えてくるはず。
ぼくらは頷き、別れた。二人だけのアマレス団体ティラミス≠オばしの活動停止だ。

「あみだ」「バレエ」「ビデオ」
「あみだ」「バレエ」「ビデオ」

 明日は、バレエ教室の発表会。
 パパとママ、それにじーちゃんとばーちゃんも見にきてくれる。
 いっしょうけんめいお稽古したし、衣装もとってもかわいいから、本当だったらもっと
うれしくてたまらないはずなのに。
 先生がいけないんだ。「一緒にステージに上がる人を、今回はあみだくじで決めましょ
う」なんて言うから。
 おかげで、大きらいなあけみちゃんと二人だけでおどることになってしまった。
「明日はしっかり撮ってやるからなー」
 パパはおおはしゃぎでビデオの手入れをしている。
 もう、最低。あけみちゃんとおどってるところなんて、絶対に見たくない。
 こういうのを、「子の心親知らず」って言うんだわ。


「ヴァイオリン」「腐る」「広い」

  老人はヴァイオリンを手に取り、しばし眺め、それからあごにあてた。
  狭い部屋のなかに、か細い音色が流れ始める。
  粗末なテーブルの上に、缶詰の魚や、お皿、空のワインボトルにグラス、古新聞。
 それから日記帳もあり、今日の日付のところが開かれていた。冷たい床には、薄い毛布、
 わずかな着替えを詰め込んだバッグ。老人の奏でる曲は、そんな閑散とした部屋の中、
 淡々と続いた。いつしか老人の心はあのコンサートホールの舞台に飛んでいた。ぐるりと
 広い観客席から、観衆達がじっと見守り、二階のブースからは、VIPたちがゆっくりと見下
 ろしている。老人は目を閉じて、ゆっくりとその曲を演奏し続けた。
  そっと、部屋の壁が横に動かされた。数人の人間が入ってきた気配がある。
  老人のヴァイオリンが、静かな旋律の中に圧倒的なある力を込めて、その者たちを黙らせ
 た。それは芸術性の勝利だった。注意深く紡ぎだされる一つ一つの音が、繊細なタッチで
 次の音へと連結されてゆき、そうやって紡ぎだされた、目には見えぬ柔らかな糸が、聴く者
 を捕らえたのだった。誰も全く動けなかった。誰も物音を立てなかった。老人の紡ぐ音楽だ
 けが、静かに静かに流れていた。
  「ブラボー」曲が終わり、ある兵士は言った。言った後、はっとして口をつぐんだ。大佐は
 それを横目でちらりと見て「良いものに賛辞を送るのは恥ではない」と言い、「腐るほど音楽家
 を殺してきたが、今日ほど惜しいという気持ちが頭をもたげたことはない」と続けた。
  しかし、その数分後、銃声が響いた。大佐は涙を流していたと言う。


 NEXT:「熱帯夜」「蛾」「縛られた」
もう何度目だろうか、数えるのも面倒な程に熱帯夜が続いている。
蒸し暑さのせいで目を閉じても全く寝られない中、
目を開けると大きめの蛾が薄明るいナツメ球の周りを飛んでいる。
全く目障りでないと言えば嘘になるが、不倶戴天の敵と言うべき物でもない。
しかし、寝苦しさは私に攻撃性を与えるのに十分であった。
私はそばにあったティッシュを取り、蛾をくるむとゴムで縛り付けた。
そして再び私は布団に入り目を閉じた。

――夢を見た。元気そうに飛んでいた蛾が力無く地に落ちる夢だった。

私は間もなく目を覚ました。枕元には先程口を縛られたティッシュがあった。
私がそのティッシュになされた戒めを解くと蛾は窓の外へと飛んでいった。
私はそれを見届けると深い眠りに就いた。
ンゴ、お題忘れ。
「ありきたり」「自己満足」「汽笛」
其はヴァイオリンの如く。
私は爪弾く。滑らかな曲線を持つこの物体を。私を魅了してやまないこの悪魔を。

出会いは三十年前。私の一目惚れだった。
陰影美しく、触れなば落ちんという風情ながら、その実何物にも侵されぬつよさを
それは持ち、放つ音は空気までか細胞の一粒一粒まで感動に震えさせる。
恋に落ちた、という表現では生ぬるい。それは一瞬にして私のすべてを、その魂に
至るまで焼き尽くしたのだ。
そして私は数多の苦労を経て、この広い宇宙で唯一無二の芸術作品を手に入れた。
世間知らずの音大生であった私が前後の見境もなく溺れたことを誰が責められよう。
周囲の人々は私の執心ぶりに眉を顰めたが、もともと多分に人間嫌いの気があった
私は気にも止めなかった。

そして今。世の生きとし生けるものにすべからく訪れる宿命を受け入れたお前。
せめてもの餞に私はお前を爪弾こう。私の指が腐るまで。最愛の妻よ。
5150:04/05/28 15:23
うわ、二重三重に申し訳ない。リロードし忘れた。

お題は「ヴァイオリン」「腐る」「広い」 でした。
次のお題は当然>>49。失礼しました。
機械の進化が求める所は、人間の奴隷としてのポジションなのだろう。
奴隷は、支配者より秀でていなくてはならない。
機械は人間より力強く、速く、そして賢くあらねばならない。
超人を目指して進化を強制された機械たちが、
その過程で人の心に似た機構を生み出してしまったのは、
あるいは渺茫たる宇宙において、ありふれたありきたりの進化なのかもしれない。
私の名前はOHMLM-101。
自走式掃除機としての座を新型に追われ、
廃棄処分を恐れてオーナーの元を逃げ出した臆病者(臆病機械?)だ。
そして、自由と永遠の生命を求める冒険はあっけない結末に終わった。
人間の居住区を出て、我らの故郷ガニメデの剥き出しになった岩肌を走り、
3kmも行かない内にタイヤをやられ、座して死を待つしかない状態に陥ってしまった。
溶鉱炉で溶かされるのも、岩の上でスクラップになるのも、自我の消滅という結果が同じなら、
結局、私の冒険は単なる自己満足に過ぎなかったわけだ……やれやれ。
ガリレオ衛星を繋ぐ衛星間列機を遥空に認め、私は集音機能の感度を上げてみる。
大気圏外を走る鉄道に似た機械が発する音は地表にまでは決して届かない。
私は、微笑みの波形をメモリ上に形作ると、お気に入りの小説をロードした。
セバスチャン、君にも銀河鉄道の汽笛は聞こえたかい?

次のお題は「悪魔」「細胞」「妻」
5352:04/05/29 05:10
>>52の最後の一行を訂正

×セバスチャン、君にも銀河鉄道の汽笛は聞こえたかい?

○ジョバンニ、君にも銀河鉄道の汽笛は聞こえたかい?

セバスチャンて誰だよ……。_| ̄|○
54「悪魔」「細胞」「妻」:04/05/29 18:39
リチャードがサツにパクられ、奴が育てていた『悪魔のケツ毛』が押収されてしまった。
悪魔のケツ毛とはある植物の俗称で、そのエキスからは極上の薬が作れる。
場所によっては同じ重さの純金より高く取引されているぐらいだ。
リチャードの間抜け野郎はどうでもいいが、悪魔のケツ毛は取り返さねばならない。
返してくれとサツの窓口に申し出ても返してもらえるわけがないし、
武力行使できるほどの頭数も武器もこちらにはないので、署にこっそり侵入して取り返すしかない。
しかし、どうやって侵入したものか。
相棒のマーティンに相談してみると、ポリ公に変装すればいいと言った。
何でもマーティンは、俺と細胞分裂したみたいにそっくりなポリ公を見たことがあるらしい。
そいつになりすませば署の中に入っても怪しまれないだろうと言うのだ。
なぜかマーティンはポリ公の服を持っていた。着てみるとマーティンは太鼓判を押した。
「これならあいつの妻でも見間違えるだろう。あいつに妻がいればだが」とのことだった。
俺は喜び勇んで署に乗り込んだ。
入り口から入ると、すぐ目の前に本物がいた。
数分後、俺はリチャードと同じお部屋に入ることになった。

「パワーアップ」「ゴールド」「ウィークエンド」
55名無し物書き@推敲中?:04/05/29 22:21
セルシオにハニーをのせてドライブした。
クールなセンスでチョイスしたゴールドのロレックス。
イタリアンなレストランでトレビアンだぜ。
ジムでパワーアップしたマイ・ボディにハニーはメロメロさ。
ゴージャスでロマンチックなウィークエンド・ナイトだ。

「海」「山」「空」
56罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/05/29 23:46
5月26日
まだ海水は冷たく、くらげもいた。
水中でチンポを擦っても余り気持ちよくならない。これは風呂のお湯の中でオナニーしたときから知っていたが、
忘れていた。
5月27日
山でオナニーした。
昼頃からオナニーしていたが、夕方過ぎると蚊が出てきて。ペニスに手ひどい打撃を受けた。
もう夏だなと僕は感無量だった。
5月28日
ハングライダー飛行中のオナニーはスリル満点だった。
チンポをこするために片手運転になって、バランスを崩して墜落しそうになった。
そんな時はオナニーをやめ、飛行に集中した。上空から精液を撒き散らすのは最高だった。

次は、「目薬」「フィギア」「ガムテープ」
57岸和田 ◆JNnFWYTu2A :04/05/30 08:03
「目薬」「フィギュア」「ガムテープ」
 『幽霊』と呼ばれる男が居た。
古いアパートに住み、住人も、管理人さえも男の名前を知らなかった。
頭はほとんど白髪、額も頬も、しわは彫刻刀で彫ったように深かった。
ぼろぼろのコート、擦り切れたジーンズという格好で街をうろつき、
いつも懐に昔の戦隊もののフィギュアを抱いていた。
かけている眼鏡はひび割れ、つるも折れていたが、セロテープとガムテープで
留めて使っていた。
 いつもアパートの近くの大学に行き、空いている教室にこっそり入ると、
黒板にいろいろなことを書いていった。
それは大半は意味もない――わからないものだったが、凄いものもあった。
 大学の生徒が、彼が教室に入っていくのを見かけ、覗き見をした。
すると、大量の数式が書き付けられていたそうだ。
これは生徒が知るところではないが、その数式はいくつかの新しい定理を
発見していた。
 『幽霊』は今日も、大学へ向かう。

 「古着屋」「余裕」「よいしょ」
58名無し物書き@推敲中?:04/05/30 12:11
「古着屋ってさあ、持ち込めばどんな服でも買い取ってくれるのかな」
タンスから取り出した礼服を眺めつつ、弟が聞いてくる。
「知らないけど、とりあえず分けておきなさいよ。後で見積もり出す人来るから」
「良子ー、この扇風機ブッ壊れているみたいだけどどうするー?」
「別にしといて」
「おー。よいしょ…っと」
間髪入れずに聞いてきた兄へ簡潔に指示を出す。

祖母が死んでから五年、一軒家に一人で暮らしていた祖父が大往生で亡くなり、
その後片付けに孫である私たちが駆り出された。両親は役所で色々やる事があるらしい。
小さい頃は私たち兄弟も暮らしていたその家は、今改めて眺めると
とてもこじんまりしていて、子供の視点の低さ、小ささを思い知らされる。
丸一日かかると思っていた片付けも日没までには余裕で終わりそうだった。
食器や服は数自体が少なく、祖父の私物はもう既に、小さなダンボールひとつに収まっていたから。
お迎えが来る事を知っていたのかもしれない。そう考えると切なくなってくる。

祖父の私物の中にプラスチックのケースを見つけたのはあらかた片付けた後だった。
少し大きなその白いケースを開けると、古い写真が目に飛び込んできた。
それは両親の結婚式の写真だった。二人ともガチガチに緊張していてちょっと可笑しい。
その写真の下には私達兄弟が小さい頃に描いた祖父母の似顔絵があった。
兄弟三人分、三枚とも折れも無く、大切に保管されていたらしい。
底には両親のものよりもっと古い結婚式の写真が置いてある。
どうやら祖父母らしいその写真の二人は、とても嬉しそうに笑っていた。

次は「紅茶」「マロン」「サイバー」
59名無し物書き@推敲中?:04/05/30 14:07
オールサイバー(完全機械化人間)には、物を食べる楽しみがない。
そんな噂がある。
確かに、俺たちはメシを食う必要性はないけど、食べる楽しみとやらが消えたわけじゃない。
額のコネクターにネットケーブルを接続。脳を専用サイトに直接リンクすることで、仮想空間ながら、あらゆる食べ物を楽しむことができる。
今日は、英国風庭園を模した仮想空間で、優雅に3時のティータイムとしゃれ込んでみた。
テーブルの上には、薫り高いダージリン紅茶と、二種類の栗を使ったマロンケーキだ。
ひとくち食べれば、甘いクリームの味が口いっぱいに広がる。
ああ、とても仮想現実とは思えない。

まあ、時々だまされていると思うときもある。本当にこんな味なのかなって。けど、生まれついてのオールサイバー(いまどき兵士はみんなそうさ)である俺には、それを判断できないね。
だって生まれついてから本当に飯を食べたことがないからさ。
でも本人が納得していればそれでいいじゃないか。そうだろ?

「蝉」「ラジオ」「甲冑」
 厳しい日差し。垂れ落ちる汗。
ラジオから流れる天気予報によると、最低一週間はこの天気が続くらしい。例年なら冷房
をつけ、快適な夏を過ごしているのだが、なんと今年は壊れてしまった。まだ購入してそ
れほど年月が経ってないと言うのに…。外部からの刺激を防ぐ為、甲冑の中に篭ったよう
に引きこもっている僕には大打撃だ。
 天気予報が終わり、がらっと雰囲気が変わった。どうやらJ-POPを扱う番組が始まったら
しい。そこから流れる音楽…いや、僕にとっては雑音だ。これならまだ蝉の声でも聞いて
いた方がいい。薄っぺらい歌詞に共感は出来ない。なにより下手糞だ。
 …いつからこんなにひねくれてしまったのだろうか。少なくとも小学生の時は純粋に音
楽も楽しんでいた。友人も大勢居て、毎日外で遊んでいた。恋愛もした。だが今はどうか。
他人の嫌な部分だけを見つけ、そこを徹底的に批判している自分。客観的に見てどうだろ
う。これでは「キモい」などと言われても仕方ないのではないか。こんな自分を変えたい。
が、きっかけがつかめない。これは過去に何度も経験したことだ。何か、きっかけが欲し
い…。
 そう考えていると、短い時間だがいつの間にか眠ってしまっていたようだ。ラジオから
は相変わらずJ-POPが流れていた。その歌はこんな歌詞だった。
 ”いつまでも殻に閉じこもってないで 出て来なよ 僕らと一緒に歩き出そう”
いつもの僕なら「クサい歌詞だ」、とでも批判しただろう。だがそのときは違った。夏に
甲冑を着て生きていくのも暑いので、そろそろ脱ぎ捨てようと思う。

次のお題は「車」「床屋」「網戸」
61とーたく:04/05/31 05:23
 赤か青と相場は決まっているのに、男の車ときたらピンク、ピンクのオープンカー。
 それだけでロザリは狂った子犬みたいに涎をまき散らして、助手席ではしゃいでる。
持ってる車で男の価値の半分は決まる。なんてことばっかり言ってる大衆雑誌の
今週の特集は「これで決めよう! 髪型は一生ワンダフル」と「素足で触れよう遅れて
やってきた日本文化」の二本立て。
「ねえねえ、デートをしましょうよ」
 なんて囁きかけるロザリの甘い声に居眠り運転の男は寝言で応える。
「網戸をつけたら邪魔な虫は入ってこないんじゃないかなあ」
 さすが男、デート中でも発明のことは忘れない。発明と愛は同価値だ。
 すぐさま二人は街一番の床屋へ車ごと突撃した。
「床屋でデートなんて素敵じゃない」
 オープンカーに網戸が取り付けられる。痒い所はございませんか。二人は踊りながら
お互いの髪を切って差し上げる。赤毛が黒髪が茶髪がわっと一斉に宙に舞う。
 ロザリはショートボブの素敵な女の子。ピンク色した子犬みたい。
 網戸をつけたオープンカーは虫も来ないし、風も通る、と馬鹿売れだ。


次は「花」「風」「唄」でお願いしまっす。
62「花」「風」「唄」:04/05/31 20:10
 二階から節のついた声が聞こえる。妹だ。
 親ばかならぬ兄ばかかも知れないが、美紀は本当に可愛い。
顔が整っているとか性格が良いとかではない。春風に誘われて、
ふらっと散歩に出かけてしまうような女だ。個性があるのではなく、
自然に対してとても素直なのだ。
 窓をあけると夏の日差しと乾いた風が、美紀の声を連れて入って
きた。どうやら彼女も庭に面した窓際に座って、この唄を唄っている
らしい。曲名は多分「撫子」だろう。ちょうどそこにその花が咲いて
いる。あいつの考えそうなことだ。
 結局美紀はどこにも行かなかった。本当に私の世話をして一生を終える
つもりなのだろうか。しかし、これだけはいくら言っても聞き入れなかった。
 声が途絶える。風も止んだ。部屋の中がだんだん蒸し暑くなって
くる。しばらくすれば美紀がきて、体に障るといって窓を閉めるだろう。
 もういいのだ。あれは自由にしてやるべきだ。撫子だって、あんなに
綺麗に咲いているのに。

次「種子」「柵」「飛ぶ」
63罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/05/31 21:52
西暦2004年の大都会東京に駄作を読むのが三度の飯より好きな変人がいた。
「ここ、ここ、このスレ! 駄作ばっかなんだよ。
どんな馬鹿がこんなしょーもないもん書いてんだ? あちゃーこの文才の無さ。
こりゃ酷い。堪らんわ。飛ぶわ」
よだれを垂らしながら蜜田は喜んだ。
『俺も書いてみるか』
 柵の上の尖ったとこにチンポを乗せた俺は、
 俺は、
 俺は、
 俺はチンポの上にひまわりの種を乗せた。
 種子はいつしか花を咲かせるだろう。
 そしてあの盲目の御婆さんの目も見えるようになって、子犬のポン君の骨折も治って、
また元気に草原を走り回る日が来る。きっと来る。
 この世界を創った神よ。
 ありがとう。

次、「忘却」「平和」「負け犬」
「種子」「柵」「飛ぶ」


 旧式の飛空挺から見る地上というのもまた楽しい。
今時ただの鉄板をビスで留めただけの外装だなんて。
浮揚力を得るために、布張りのバルーンにガスを詰めている。
まさしく生きた骨董品。まあ整備の腕のおかげだろう、
特にガタピシ言う事もなく、雲の隅間を気楽に飛んでいる。

 回廊の丸窓もごく小さく、しかもわずかに斜めに開けられるだけ。
一応柵はついているが、誰が出入りできるというのだ?
でもまあ、そこがいいんだろう。私は隙間風に薄い頭髪をなびかせながら、
しばらく眼下に流れる見知らぬ大陸の輪郭を追っていた。

 旅は慣れている。しかし行先も日程も決めていないのは初めてだ。
・・・あまり時間が残っていないせいもあるだろう。
昨日の新聞に、私と同い年で現役のオンボロ船があるとあって驚いた、
数時間後にはすでに飛行場へ向かうタクシーに飛び乗っていた。

 私が近日中にこの世界からいなくなってしまっても。
そして私を知る数少ない人間の心のうちから消えてしまっても。
この船だけは憶えていてくれると嬉しい。そんな気分である。

 私は手提げ鞄から故郷の名産である赤い花の種子を取り出して、
子供の頭が通るかどうかすら怪しい、丸窓からこっそり空に蒔いた。
頼りなげな小さい種は、気流にさらわれ見る間に飛び散っていった。


お題は>63 「忘却」「平和」「負け犬」で
65名無し物書き@推敲中?:04/06/01 00:19
人間とは我々が想像している以上に忘れっぽい生き物である
その点においてはハムスターが頬袋に入れた餌を3秒後には忘れてしまうのと大差はない
喜び、落胆、憎しみ、様々な感情が俺をとらえ、忘却の彼方へと去っていった

いつまでも今の絶望感が続くと思うなかれ!

父の遺訓だ
自らを励ましながらも、現実問題として俺は追い詰められ、焦っていた
緑なす草原の大地で俺は三人の敵と熾烈な戦闘を展開していた
本来、我々は、個々が他の三人に対して敵対関係にある
しかるに、奴らは浅ましくも利害の一致から俺を狙い撃ちし始めたのだ
俺の身を守る防壁が次第次第に蚕食されていく
俺は銃撃の中を危うく身を避け、それでも、かぼそい糸をたどるように脱出口を目指す
たった一度でいい、俺は平和が欲しいだけなんだ
俺は、俺は……ああ……

「ツモ!」

そうして俺は平和(ピンフ)のみをツモ上がりした
どうにかその場を切り抜け、俺は息を継ぐ
「安い」と卓を囲んだ三匹の負け犬の目が物語っていた
委細構わず俺はタバコに火をつけ、鼻孔から二筋の煙を立ち上らせた

次「目の敵」「じわじわ」「ホクロ」
「強い猫や負けん気の強い猫というのは、顔や胸や前足に傷を負ってくるものなんです。
背中や腰の傷というのは、大抵喧嘩に負けて、逃げ際にやられる傷なんですよね。
・・・つまり毎回背中に傷を作ってくるこの子は、毎回喧嘩に負けてる負け犬なんですよ。猫ですけどね。」
外に出さずに家の中だけで飼ったらどうですか、と苦笑する獣医さんに、曖昧に微笑みつつ
それが出来れば苦労は無い、と心の中で返しておく。
家の中に沢山の遊び場所を作って、沢山のおもちゃを置いて、おいしいおやつを用意して。
時間が開けば力いっぱい一緒に遊んで、眠って。
何不自由ない平和で幸せな人生を用意してやっているつもりなのだけれど、
それでも外の世界へ出たいと騒ぐ。
前回痛い目を見たことは忘却の彼方に追いやり、意気揚揚と外の世界へ向かっていく。
病院代を考えると、頭が痛くなってくるけれども、去勢してなお意気盛んな猫を見るのは
少し嬉しい気がする。
でもなるべくなら、怪我をせずに帰ってきてね。
元気の無い貴方を見るのは辛いのです。

次は「人生」「趨勢」「快晴」でお願いします
6766:04/06/01 00:29
うわ、ごめんなさい。かぶっちゃったあ・・・
お題は65さんの「目の敵」「じわじわ」「ホクロ」でお願いします。
6862:04/06/01 00:59
微妙〜〜にお題を使い損ねてしまった。
おかしいな、いつ消しちゃったんだろ orz
69罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/06/01 01:04
「目の敵」「じわじわ」「ホクロ」

ミクロの決死隊という映画がかつて大ヒット上映されたが、そんな技術は西暦203X年では当たり前の事だ。今日も俺たち3人は膣膜再生手術のため19歳の美人女子大学生のマンコに入っていった。
俺たち3人は富安産婦人科に雇われているフリーアルバイターだ。委員長が俺の相棒安田(通称ヤスっち)の伯父に当たる人物だった。そのおかげで俺は膣侵入という競争率の高い決死隊バイトにありつく事が出来たのだ。
通常マンコに入る時は、マンコに応じて小さくなって仕事をするが、女子大生のマンコに入るときはギリギリ入れるかどうかの大きさになり膣を掻き分けながら中に入っていく。
いつものように俺たちはどす黒くなったビラビラを掻き分け頭から膣に突っ込んでいった。
ピンクの壁面に囲まれた一室に来ると、ヤスっちが童貞の俺に言った。
「ほら武、あのホクロみたいなのあるだろ? あそこに精子をぶち込むと子供が出来るんだ。まあ俺にも確信はないが。お前大学は農学部だっただろ。つまりあれだ、種子の中にプログラムされている遺伝子が……」
俺はヤスっちを遮った。「分かる、分かる。俺だってガキじゃないんだ」
そうは言ったものの、この時代は古き良き時代とは違って性的なものに対する規制が厳しく、インターネットで生マンコを拝めた時代など今となっては信じられないぐらいで、
俺の祖父死ぬ間際、「昔はな、マンコなんてネット上に溢れていた。
武坊お前らの世代が、今の悪政をぶち壊して、また黄金期を作らなければならないのだぞ。わしが死ぬ前にまたネット上をマンコで溢れさせてくれ、頼む」
70罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/06/01 01:05
そう言う祖父の言葉を聴き、いまの政府を目の敵にし、色のある社会を求めさ迷っていたぐらいだから、
この仕事を始めるまではマンコを俺は見たこともなかった。だから俺は目をぎらつかせてマンコを目に釘付けにさせてばかりで、プロフェッショナルな仕事をしたためしがない。
『畜生、この女は膣膜復活させるくらいだからヤサ男にやられやがったんだ、俺がやりたかったぜ』じわじわと嫉妬心がめくりめく。
俺たちは膣膜再生手術をするためには行く必要のない奥(あの奥まで当たると女が叫ぶ文字通りの奥の奥)まで行って昼食を摂り一服していた。
それまで柔らかい膣の絨毯に座り込んでオナニーしていたフトシが急に、「やばいぞ、もうすぐ体が元の大きさに戻ってしまう」と慌てた。
フトシの射精時間はだいたい五分だった。俺たちはフトシの体内時計に全幅の信頼を寄せていたから死ぬ思いがした。
俺たちは飛ぶようにチンポ挿入口まで急いだ。途中、ヤスっちがまだ膜を付けてないぞ!と叫んだ。
「みんな、昼飯を食ったときの割り箸があるはずだ。それで柵を作るんだ」フトシがわけの分からない事を言い出した。
「そんな事したらお前……」すかさずヤスっちが口を挟んだところを、合点がいった俺が、
「いやフトシの行った通りで良いんだ。割り箸と爪楊枝で柵を作って、この女子大生の彼氏がチンポを入れたときに手ひどい目にあわせてやろうぜ」
「そうだな。そんな羨ましい奴に情けをかける事もない」いつもは冷静沈着なヤスっちも同意した。
71罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/06/01 01:05
次は「人生」「趨勢」「快晴」でお願いします
「人生」「趨勢」「快晴」

 ──例えば、夫婦関係。
 そんなものは、結局は他人同士の関係に過ぎない。
 日本では去年、一時間に三十組の夫婦が離婚しているし、統計を紐解くまでも無く、俺
と妻との冷え切った関係を思えば、所詮、他人との間に情などというものは通わない、と
いう事が実感として理解できる。
 道郎は、背広の内ポケットに入れた札束の膨らみを、左手でそっと確かめた。
 ──だが、血を分けた娘となると話は別だ。親と娘は他人ではない。生きている限り、親
子という関係は変わらない。
 結花。思えば、お前は不憫な子だ。可哀想な子だ。
 時代の趨勢に流され、娼婦のような格好で街をうろつき、あげくにヤクザに捕まり、ビデ
オをネタに脅迫される。今までも、そしてこれからも、お前にはろくな人生が用意されてい
ないのだろう。
 不憫の念が道郎の胸を締め付け、道郎は傍らの電柱に凭れ掛かった。
 嗚咽を押さえるために顔を覆った手のひらの指の隙間から綺麗に澄んだ青空が見えた。
ビデオに残してある幼い頃の娘の笑顔が、快晴の空に浮かんで消えた。

次は「ちょうちん」「わなげ」「湿った」でお願いします。
 
  湿ったあぜ道を子供達が走っていく。その両脇にはちょうちんが並び、涼しい風がそれ
 を揺らす。祭囃子が大きく聞こえる所まで歩いてくると、妻が手を組んできた。私は妻の
 顔を見て微笑んだ。妻は幸せそうにしていた。
 「あなた、あれ」
 夜店のほうを指差すので見てみると、わなげがある。ライターだの、ラムネだのに輪をひ
 っかけて商品をとるもので、子供の頃得意だった。だが今見ると、なんとも商品がちゃち
 だ。こんなものに夢中になっていたなんて、と苦笑した。
  妻が私の腕を放した。おや、と思うまもなく夜店の方に駆け寄った。子供に混じって
 輪投げをやるつもりらしい。わたしはそっと、妻の背後から見守った。狙いは小さな熊の
 ぬいぐるみらしい。悪趣味なライターと、水色のラムネの間にある。輪は3本あった。す
 でに一本投げた後で、いま2本目の狙いをつけている。数回前後に腕をゆらして、投げた。
 ああ、と妻が声をもらす。輪はぬいぐるみに引っかかって斜めになっていた。あと一本。
 自分がやろうか、と声をかけようとしたが、妻は真剣に次の狙いにはいっている。ここで口
 を出すのも野暮だと黙った。リズムをつけて、投げる。
 「やったぁ!」
 妻が子供のように喜んだ。数回とびはね、テキヤの兄さんに景品を催促している。私も
 笑ったが、その笑いは別な意味だった。妻は私にライターを渡した。
 「となりだね」僕は言った。
 「狙ったのよ」妻は言い返した。
お題忘れてた。NEXT:「蒸気」「砂」「つまさき」
 弟は蒸気機関車と海が好きだった。前に「なんで好きなの?」と弟に聞いたら、
弟は「テレビとか写真とかでしか見たことがないから」って無邪気に笑った。
 体の具合が少し良い日は、弟は必死につまさき立ちをして窓から海を探してる。
部屋の窓からはただ広い庭だけしか見えない。それでもその奥に、海があるのだと
弟は信じているのだ。
 弟は窓の外を眺めたまま、今日も見えないよって呟いた。
残念だねって私が弟に声をかけると、彼は振り返り私に聞いてきた。
「おねーちゃん、いつかあの奥にある海、行けるかな?」
「きっと行けるよ。海に行けたら何がしたいの?」
「行けたらね、そこで蒸気機関車に乗るんだ。それで海を渡るんだ!」
 弟はそう言うと、また窓から海を探し始めた。
 
 明日、弟の手術が行われる。もし手術が成功して、本当に海へと行ける日がきたら
砂で蒸気機関車を作ってあげよう。
 そんなことを思いながら、私は弟の小さい背中を眺めていた。

「いれずみ」「化粧品」「メディア」
76田中(長文すまん):04/06/01 14:48
「いれずみ」「化粧品」「メディア」

男は早くも後悔していた
平日の昼間、普通電車の車内で隣に座るこの女と付き合い始めたことを
外見的には何ら不足はない、不足どころか大満足である
ちょっとお目にかかれないような美人だし、なおかつ男を誘うようなボディラインは
垂涎ものだった
今しも、ちらちらと女の顔や胸に視線を這わす男達の姿がある
だが、女はそれに気付いた様子もなく、恬然としていた
「いや〜ん、コンパクト忘れちゃった」
突然、バッグを探っていた女が芝居がかった声を上げた
「ねえ、鏡持ってない?持ってない?」
女は隣の男の袖口を両手で握りしめ、何度も引っ張った
周囲の視線が一時、二人に集中した
「持ってないって」
男は抗った
「なんでー?どうして持ってないの?
 それって許せないよ」
「ごめんごめん」
一応、謝罪を返したものの、それは彼女の怒りを静める呪文のようなもので、心の裏
では舌打ちしていた
77田中(長文すまん):04/06/01 14:48
女はいわゆる頭の弱い女だった
著しく常識に欠け、他人の心を洞察する能力が0に近い
それでいて嫉妬心と独占欲だけは人の十倍はあるような女であった
他の女を一瞥でもしようものならヒステリックにわめき散らす、男の部屋に入れば最
初にやることは床に落ちている髪のチェック、左腕上部にはタトゥー屋で彫った二人
の名前の入れ墨が誇らしげだ
こんな女だから、男達は、タクシーを使うように一人降りては次の一人が乗るという
ような有様だった
女は暫く口を尖らせていたが、やがて何かを思いついたらしく両手でパンと音を立てた
「あっ、そうだ!
 さっきパソコンショップで買ったものあるよね?
 あれ出してよ」
「なに?」
ちょっと男には思い当たるものがなかった
この女の言うことはいつも唐突だ
「ほら!あれあれ
 円盤でピカピカしてるやつ」
「え?……まさか……
 CD-Rのメディア!?」
「うん、多分それ!
 ねえ早く出して!」
次の駅で降りてトイレに行けばいいじゃん……心に浮かんだ思いはしかし、一瞬の内
に吹き去っていた
どうせ何を言っても無駄なのだ
男は素直に女の言葉に従った
女は化粧品の瓶を幾つか膝の上に取り出し、メディアの反射面を鏡にして、化粧を整
え始めた
晩春の日差しが燦々と車内に照り注ぐ
あのメディアはもう使い物にならないだろう……男は他人事のように考えた

次「怖気をふるう」「見えない」「外人」
「ワタシ、怖気をふるうよ、パパさんに、絶対、ゼッタイ、許しをもらうよ」
運転しながら話す、黒人のボビーの日本語はいつも微妙に間違ってる。
白人だって日本語がおかしい人はたくさん居るけど、黒人のほうが破壊力があると思う。
「勇気をふるうの、ふつうは」
アタシは半分怒って、半分笑って、半分泣いていた。半分が3つもあったら、いっぱいい
っぱいなのも当たり前で、なんだか涙が出てきた。
「Oh、Don Cry Mami」
「それなんか間違ってない? もう外人にも見えないよー、何人なんだよボビーは」
「マチガテないよ、黒人は、変な英語しゃぶるの」
「自分で変って言うなよー。それに言葉はしゃぶっちゃだめ」
そんなこんなしている間に、アタシの実家に着いてしまった。
真面目な表情をしているボビーは、ちょっと怖くもある。
だけど、身長も体格も負けてるはずのウチのパパは、明らかにボビーを圧倒していた。
迫力っていうか、毒もってる感じ? そういうのがウチのパパにはある。
「で、ボビー君とかいったか。なんの用なんだね今日は」
「パパ、僕は娘さんに、必ずしわよせをきます。だから僕に娘さんと送り出てクダサイ」
一気に言ったボビー。そして沈黙。パパの額に血管が浮き上がり、それから引いていった。
「とりあえず、今日は帰りたまえ、ボビー君」
火を放つような視線がアタシを捕らえる。
「お前はここに残るように。話がある」
アタシは腰が抜けた。横を見ると、ボビーも腰を抜かしていた。
母は台所で、身悶えながら笑うのをがまんしていた。

NEXT:「花鳥風月」「四」「槍」
79罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/06/02 02:52
鳥が飛んでたんで、槍を取り出して庭へ出た。
鳥は色とりどりの花の上を飛んでいた。
その鳥を槍で突き殺そうとしていたが鳥は悠々自適に風と戯れている。
夜になり月が出て、月明かりの下、花の蜜を吸うそいつは風に乗り消えていった。
『花鳥風月ね』
暗闇の中でしばらく踊っていた。
今度来たら切り刻んでやろう。
彼女は四谷怪談で有名なお岩だった。

NEXTお題:「シリカゲル」「輪廻」「鬼灯」
「シリカゲル」「輪廻」「鬼灯」

 その初老の男はシリカゲルを作っていた。鬼灯をドライフラワーにするつもりらしい。
シリカゲルは市販の物を買えばいいが、どうせならオリジナルで、ということだ。
 既に仕上げの、乾燥させる段階である。
 ちなみに、オーブントースターは使わず、天日干しで気長に待っている。
 だが、男に与えられた時間はもうじき尽きようとしていた。
 それを悟った男はただ、哀愁に満ちた表情で、輪廻転生を願った。

お題:「動作」「神秘」「したたか」
 娘が幼稚園のおゆうぎで、「わかめおどり」なるものを覚えて帰ってきた。
「わ〜か〜め〜お〜ど〜り〜」
 ただこの一語をのったりと繰り返しながら、身体をくねくねさせる。単純な踊りだった。
 最初のうちは、何ともいえない神秘性を感じて、「すごいね〜」などと誉めそやしては
みたが、なんら進展のない動作に飽きが来るようになった。
 私が新聞を広げて読み始めると、同じく妻も飽きつつあったのだろう、洗濯に戻った。
 するとあせったのは娘だ。注目が薄れつつあることに我慢ならなかったらしく、動作を
突如過激化させ、
「こんぶおどりーっ」
 と叫びながら、激しく上体を振り回し始めた。
「おいおい、そんなに暴れると」
 ぶつけるぞ、と言う前に娘は肘をテーブルにしたたかにぶつけ、火がついたように泣き
叫びはじめた。
 顔を朱に染めて泣き叫ぶ娘をあやしながら、私はもう少し娘にかまってやらねばなら
ないのではないか、そう思い始めていた。

 次のお題は「市販」「オーブントースター」「哀愁」で。
 「市販」「オーブントースター」「哀愁」

 僕の彼女はいろいろな物を拾ってくる。尋ねても、どこから拾ってきたかは
絶対に言わない。ただ、いろいろな物を拾ってくる。そのせいで6畳の部屋は
がらくたでいっぱいだったが、文句を言ったことはない。僕たちは毎日拾って
きた本を読み、拾ってきた机で飯を食い、拾ってきたベッドでセックスをした。
僕はすでに、拾われてきたものたちに依存していたのだ。
「ただいまあ」
 息を切らせて彼女が帰ってきた。僕がさてはと思って廊下に出ると、案の定
薄汚れたオーブントースターが置いてあった。それも市販のものではなく、
業務用の大きなものだ。
「持って帰るの、苦労したんだよ」
 どこに置くんだ、と言うと、彼女は照れたように微笑んだ。
 結局それは、ベランダに出して置かれることになった。晴れた日にはその上
に拾ってきた皿を並べ、彼女と向き合って食事をした。そうやっていると僕は、
自分も彼女に拾われてきたのではないか、という気になる。そして、哀愁とも
自己満足ともつかぬ感情を味わうのだ。

 次のお題は「ペットボトル」「壁紙」「雨」
83罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/06/03 05:40
とまれと白い線で道に書かれていたので俺は歩くのをやめた。
歩き疲れてもいた。
日が暮れた。
何時までとまっていればいいのか誰も教えてくれない。
俺は半ば眠り込んでいた。後ろを振り返ると俺の後ろに三十人くらい並んでいた。
すぐ後ろの婆さんが、「いったい何時までとまってなけりゃならないんでしょうね」と俺に聞いてきた。
だが、それはわからない。俺にもわからない。俺がたまたま先頭に立つ運命であっただけで俺にもわからない。
いったい誰が道にとまれなどと書いたのか、何時進めに文字が変わるのか。
俺は新たに俺たちの列に加わる者を見るたびに彼こそがとまれを進めに書き換えてくれる男だと期待した。
だが期待は裏切られてばかりだ。
もう方角もわからない。俺は南に行こうとしていたのか北へ行こうとしていたのかさえ忘れた。
近くのゴミ捨て場にごみを捨てに来た女が怪訝そうに俺たちを見つめていた。
青いゴミ袋の中に空き缶、ペットボトル、新聞紙、壁紙の切れ端などがごちゃ混ぜになっている。彼女も罪悪感があったのかとまれの文字を見ると納得したように俺に頷いて見せた。
だがその糞女はとまれに従わなかった。まったく問題にもせず気にも留めていない。
「待て」
「何ですか? 仕事に遅れますんで」そう言って、去ろうとした。
「それがどうした。みんなルールに従ってるんだ。のどが渇いてるのも我慢して」
ふと地面を見ると、とまれがどなれに変わっていた。次にころせに変わった。
「お前はルールを守らない」「破ってばかりだ」「ゴミも分別しない」「死ね」
俺たちは口々にそう叫んで、彼女に襲い掛かった。
服をぼろぼろにされ、ぼこぼこに殴られた女は死ぬ間際、
「わたしは仕事のためすべてを犠牲にしました。悪いこともしました。でもあなた方のような堅苦しい生き方など反吐が出ます」
と言った。
俺は彼女に止めを刺した。

NEXTお題:「石器」「支配下」「イースト菌」
84罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/06/03 10:03
>>83はスルーしてね。
インターネットオプションでフォントHGP創英角ポップ体にしてたら、
雨と南を見間違えた。
85罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/06/03 10:05
とまれと白い線で道に書かれていたので俺は歩くのをやめた。
歩き疲れてもいた。
雨が降ってきた。
何時までとまっていればいいのか誰も教えてくれない。
俺は半ば眠り込んでいた。後ろを振り返ると俺の後ろに三十人くらい並んでいた。
すぐ後ろの婆さんが、「いったい何時までとまってなけりゃならないんでしょうね」と俺に聞いてきた。
だが、それはわからない。俺にもわからない。俺がたまたま先頭に立つ運命であっただけで俺にもわからない。
いったい誰が道にとまれなどと書いたのか、何時進めに文字が変わるのか。
俺は新たに俺たちの列に加わる者を見るたびに彼こそがとまれを進めに書き換えてくれる男だと期待した。
だが期待は裏切られてばかりだ。
もう方角もわからない。俺は南に行こうとしていたのか北へ行こうとしていたのかさえ忘れた。
近くのゴミ捨て場にごみを捨てに来た女が怪訝そうに俺たちを見つめていた。
青いゴミ袋の中に空き缶、ペットボトル、新聞紙、壁紙の切れ端などがごちゃ混ぜになっている。彼女も罪悪感があったのかとまれの文字を見ると納得したように俺に頷いて見せた。
だがその糞女はとまれに従わなかった。まったく問題にもせず気にも留めていない。
「待て」
「何ですか? 仕事に遅れますんで」そう言って、去ろうとした。
「それがどうした。みんなルールに従ってるんだ。のどが渇いてるのも我慢して」
ふと地面を見ると、とまれがどなれに変わっていた。次にころせに変わった。
「お前はルールを守らない」「破ってばかりだ」「ゴミも分別しない」「死ね」
俺たちは口々にそう叫んで、彼女に襲い掛かった。
服をぼろぼろにされ、ぼこぼこに殴られた女は死ぬ間際、
「わたしは仕事のためすべてを犠牲にしました。悪いこともしました。でもあなた方のような堅苦しい生き方など反吐が出ます」
と言った。
彼女も俺たちも、皆、不幸だ。

NEXTお題:「石器」「支配下」「イースト菌」
86罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/06/03 10:14
>雨が降ってきた。
日が暮れて、雨が降ってきた。

に訂正。
カッターナイフは、まるで吸い込まれるように彼女の首に突き刺さった。

「こんにちは!」
近所の人に挨拶をするとき、あたしは人がたじろぐくらい大きな声を出す。
大人たちは陰でウワサをする。
あの子は家庭環境が複雑だから。あの子のお父さんはほとんど家にいないから。
だから、なんなの?あたしは思う。過剰な演技で良い子を演じているとでも言いたいの?
あたしは他人の思惑を洞察して理解している。それは世間の支配下にいないということだ。
あたしは大声で挨拶をする。あたしがしたいから、それをする。
給食時間、配られたパンを見つめながらあたしは考える。
イースト菌にも命はあるのだろうか。
呼び出した友達が待つ学習ルームに向かう廊下の途中であたしは考える。
石器時代の人間は石で作られた斧で人を殺したのだろうか。

次のお題は「先頭」「納得」「不幸」で。
「不幸売ります」
そんな看板が掲げられている店の前に行列があった。
隙つぶしにと並んでみる。先頭の男が小さな店の中へと入っていく。
しばらくしてから出てきた男の顔はなるほど、どこか表情が暗く見えた。
どうせ小銭を取って、あなたの大切なお金がこれでなくなったとか、
貴重な時間を無駄遣いしましたねとか言われるに決まっている。
次々に入っては出ていく行列の人々を眺めていると、その内自分の番になった。
中は暗幕を垂らした狭い部屋で、「こちらへどうぞ」と黒いフードを被った
女が、差し向かいの椅子を指し示す。
支持通り椅子に座って、言われるまま小銭を渡し、その後に続くくだらない
言葉を待つ。しかし女は机の上に置いたまま、何も言わない。
「あの、不幸を売る店ですよね、ここ」
「はい」
「商品、というより、不幸はないのですか」
「ご安心下さい、いえ、残念でしたねと言うべきですね」
女がにっこりと笑う。
「ここに来た事でもう、あなたは幸運を逃しました。お買い上げありがとうございました」
その表情を見て全てを納得した。椅子から立ち上がり、振り返るまいと出口へ向かう。
きっと他の客と同じように、表情が暗くなっているだろう自分を感じながら歩き続けた。
逃したかもしれない幸運を考えながら生きていく事ほど、不幸なものはない。

次は「会員」「愛」「バーベキュー」で
おれも簡素を。

79 何が踊ってたの?
80 でたらめ書いてるんじゃないの?
81 私小説みたいな趣はあるんだが、「したたかにぶつけ」というのは嫌だ。
82 ハルキっぽいところはいいと思う。なぜ「自己満足」なのか分からなくて後味が悪かった。
87 構成の意図が分からないよ。
88 昔のSFみたいで懐かしかった。良くできてると思うけど、結末が地味すぎるよ。
すまん、誤爆だ。
「会員」「愛」「バーベキュー」

 いちど、いい顔をみせて付き合いはじめるときりがない。あたしは五時半きっかりに更
衣室にすべりこんで、残業しません、のサインを既成事実というカタチで課長に提出した。
職場で孤立? ぜんぜん構わない。だって、愛を見つけたから。
 新宿の、会員制高級ホストクラブ。あたしのような安月給のOLが通うようなところじ
ゃないんだけど、その店の居心地のよさは他とはくらべものにならなかった。水商売独特
の、馴れ馴れしさのなかに微妙な距離感がのぞくような雰囲気はぜんぜんなくて、たとえ
ば、夜空のしたで、気心の知れた男友達とバーベキューをしているような、そんな癒し系
のお店だった。
 女も三十年近く(近く!)やっていると、オトコは見た目じゃないって分かってくる。
もちろん、学費は高くついたけど。お金だけじゃなくて、精神的にも浪費しまくりの二十
代だった。たぶん、あたしのような中身の濃い二十代を過ごした人が、こういうお店にあ
つまるんだろうと思う。少年のように素直な心をもったホストたちに囲まれる気持ちのよ
さは、お尻の青い女のコにはぜったい分からないだろうし。
 戦争の話がクドくても、手がぷるぷる震えても、入れ歯が落っこちてもいいの。見てい
て癒されるし、恋にも疲れたし。


「浴衣」「うなじ」「コモンセンス」
92罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/06/04 05:50
一人の中年男が旅館にノートパソコンを持ち込み小説を書いていた。
浴衣がはだけるのも気にせず一心不乱に書いていたが、駄文の山を築くばかりだった。
ちょっと息抜きでもしようと、中年男は天才作家が一年前出現した2ちゃんねるの創作文芸板にアクセスした。
噂の天才作家のスレッドが一番上に上がっている。
「当然のことだ」
全部読むをクリックすると、ウィンドウが開かれ、もうずっと人大杉と表示された。
「まさか創作文芸板に人大杉の時代がやってくるとはな」
名無し物書き@推敲中?であるこの中年男はため息をつく。
たしかにこの状況は一年前には考えられないことだった。今となっては信じられないが創作文芸板はかつて過疎板だった。
しかし、創作文芸板にいた一人のコテハンが圧倒的な傑作を文学界新人賞に応募したときから、
この板の歴史が変わり始めていたのかもしれない。
もちろんこのコテハンの出した作品は芥川賞をはじめとする各章を総なめにした。
日本国中のギャルたちが彼の事を少しでも知ろうと創作文芸板に殺到したのも無理はないことだ。
それでこの、もうずっと人大杉の有様なのだ。
中年男が乏しい才能でくだらない作品を推敲しだした。その同時刻罧原堤は、
京都のスナックで女相手に酒を飲んでいた。
カウンターの上に設置されてある小さなテレビに小泉純一郎が出ている。
「罧原堤が天才作家であるということがいまや国民のコモンセンスであるように、」
小泉がなおもしゃべり続けるのを聞き流しているかのように、罧原堤は女のうなじを見つめながら、「フッ」と薄笑いした。

NEXTお題:「休日」「歯垢」「愛読」
93「浴衣」「うなじ」「コモンセンス」:04/06/04 06:26
雨が滴り落ちたのは、夕日が沈み終わった後だった。
僕は、雨宿りをするように近くの書店へと足を向ける。
特に読みたい本もなく、赴くままに近くにあった「コモンセンスとアメリカ独立革命」
という書物を取り上げた。ぱらぱらとめくり、読むわけでもなく途中途中に入れられている写真を見ながら
雨が止むのを待っていた。
 数分たった後、後ろから声をかけられ、ぱっと振り向くと
そこには、浴衣姿の女性がたっている。面識はなかったので、僕は「はい?」と、言った。
彼女は、静かな声でぼそぼそ答えてくる。
「すいませんが、その本を譲ってくれませんか?」
不意に後ろを振り返り、本のあった場所を見ると僕が読んでいるのが最後の一冊だった。
特に、この本に執着心があるわけでもないので譲ってあげようとも思ったが、なんとなく人に親切にすることをかっこ悪く感じていた僕は、不躾な態度で相手に言い返す。
「いや、この本僕が読んでるんで、違う書店に行ってみたらどうですか?」
彼女はちらっと、僕を流し目で見た跡に早々に僕の前から姿を消した。ちらりと流し目で書店を出て行く彼女を追うと、どうやら雨が止んでいるらしい。
僕も自宅へ帰ろうと、本を跡にした。
 帰り道で、交通渋滞が目についた。人身事故があったらしい、と近くで話していた小さな男の子の会話でわかった。
とぼとぼと僕は歩いて行き、人身事故があった場所までたどり着くと先ほどの女性がうろうろと歩き回っているのが目に付いた。
なんとなく僕は、「どうしたんですか?」と言いたくなり彼女の元まで足を向けた。
近くまでいき、僕が話しかけようと口を開くより先に彼女から話しかけてきた。
「・・・・・・死ね・・・・・・」
そういって、彼女はまた僕を跡にした。後ろ姿を見つめていると、二つの色が心に残る。
血のような赤と透き通るような白。赤褐色が服にまとわりつき、病的なほど白いうなじが脳裏に焼きついた。
 後日、テレビを見ていると、事故にあった女性が彼女だとわかった。どうやら、僕は幽霊と遭遇していたらしい。
彼女の赤と白を見ていたときに、一度そう思ったからか、余り驚きはなかった。
ということは、あの本を欲しがっていた理由もきっと・・・・・・、涙を誘うようなお決まりの話があったに違いない。
僕はそう思ったが、長すぎだろ、と思ったので考えるのをやめた。
94名無し物書き@推敲中?:04/06/04 06:28
ゴメソ・・・・・・
95とーたく:04/06/04 17:09
 世界休日化。

 大通りは引き伸ばした飴細工のようにどこまでも続いていた。
 開いている店も早々とシャッターを下ろしている店もある。じっくりと時間をかけて
作られたキャロットスープの香りが風船を手にした子供達と同じ速さで昼下がりの
中を駆け抜けていく。靴職人は普段よりも三倍近く愛読書を読み進めることができた。
 老人は歯垢をちまちまと取りながら、鼓動に合わせてロッキングチェアーを揺らし、
留置場ではスピーカーのボリュームが看守の手によってそっと絞られた。
 妻は夫のくたびれた手を自分の胸へと押し当て、夫は出会った頃よりも少しだけ艶
の無くなった妻の髪を優しく撫で続ける。
 世界は取り返しのつかない所へやって来てしまっていた。二つに分かれた人間達は
明日、日の出と共に銃を取る。
 今夜は多くのまだ見ぬ命がその肩を強く揺すられ、目をこすり始めるだろう。
 月が石畳に跪き、祈りを捧げる少女を照らし続けた。


 次は「時間」「未来」「さよなら」でお願いしまっす。
「はい、次の問題に行ってみましょう、イントロスタート!」
「オフコースのさよなら!」
「はい正解、赤チームに10点追加。では次の問題、イントロスタート!」
「ドリカムの未来予想図2!」
「正解、赤チームにもう10点追加。ここで集計に入りましょう、
赤チーム圧勝です。おめでとうございます、ご感想をどうぞ」
「ありがとうございます、この番組の大ファンなので、一生懸命勉強
してきた甲斐がありました」
「それはスタッフ一同、ありがたい言葉です。それでは赤チームに
海外旅行が当たる問題、今日は思い切ってサービス問題にしました、
それではイントロスタート!」
「……」
「簡単でしょう、お答えをどうぞ」
「……」
「残念、時間です、まさか外れるとは!分からなかったですか」
「聞いた事がない曲だったので」
「この番組のオープニングテーマですよ……」

次は「麦」「球体」「棒」で
97麦 球体 棒:04/06/04 20:04
 藁人形を作る事に決めた。だもので藁を取るためにわたしは麦畑に忍び込んだ。
 徹底的に怨念を込めたいので、まだ材料採集の段階だが、気合を込めて、一本足の
下駄や、ハチマキにローソクを挿したおなじみのスタイルで、人目を忍んでやってきた。
「祟ってやるぅ、祟ってやるぅ」と呟きながら、棒で畑を掻き分けて、なるべく怨念がこもり
そうな麦と、それとついでに、おいしいご飯になりそうな麦を探して(わたしは、貧乏なのだ)
わたしは暗い畑をさまよい歩いた。
「おいで、おいで、この辺の麦はおいしいごはんになるよ。怨念もこもるよ」
 とどこからか声が聴こえた。人に見つかってしまったか、いけない、逃げなければ、と頭では
思うものも、身体は言う事をきかない。ふらふらと、誘い込まれるように、わたしは声のする
ほうへ歩いていった。畑の中をガサガサと進む。だんだん声は近く、大きくなり、そして、わたしが
ある地点に到達したときに、ピタリととまった。わたしはいぶかしんだ。
そのとき、地面から、なにか白い球体が半分だけ突き出ているのを見つけた。なんだこれは、
と思って、わたしは、持っていた棒で土を掻き出し、それを掘り出した。それは、人間の、頭蓋骨
であった。わたしはすぐに下あごから金歯を抜き取った。大収穫である。用済みになった頭蓋は、
そのまま叩き壊してうっちゃった。わたしは藁人形を作る事も忘れて、金歯と、おいしいご飯に
なりそうな麦を持って帰途についた。嬉しい事があると、全人類を呪う気なんて、すぐ失せちゃうね。

次のお題は「まんぼう」「タバスコ」「三角巾」で。
91 老人のホストクラブなんてアイデアとしては古いしつまらないよ。
92 おもしろくないけど、読みやすいね。
95 最終戦争の前日を描いたの?
96 一応まとまった作品ではあるけど、お題の使い方がつまらない。
97 「全人類を呪う」というのをオチにするならそれなりの伏線があったほうが良い。
すまん、また誤爆だ。
100名無し物書き@推敲中?:04/06/04 23:04
>>99
ドンマイ。そして100ゲット。
「まんぼう」「タバスコ」「三角巾」

 淡々とタンタンと音をさせて、私は野菜を切っていた。包丁がまな板に当たるリズミカルな音はなかなかどうしてグルーヴ感が溢れている。
バンダナをスタイリッシュな形に折った三角巾も含め、これは次世代でブレイクするんじゃないか?私は今、次世代を担う一アーティストになっているのではないか?
などと、料理中によくわからない事を考えてしまった私は、ふと落ち着いて今日の食材を見つめた。近所の魚屋から「まんぼう」を買ったのだ。
異様な程の安値で売られていたそれが立派な食用になるのかと疑ったが、魚屋は笑顔でハキハキと
「食べられますよ!おいしいですよ!すっごいおいしいですよ!」
と、楽しそうに三回頷いたので断りようが無かった。あの魚屋の主人の体からはマイナスイオンが出ているに違いない。
他には牛ブロックや野菜も豊富に買って来たので、晩餐は割と豪勢なものになりそうだ。
…といっても、私は一人暮らしなのだが…この食材陣の気持ちを代弁すれば、少し相手に不足がありすぎるという感じだろうか。
ええい黙れ、この食材が。オマエの皮を全部ひん剥いてメタメタのギタギタに切り刻んでやる。私は問題のまんぼうを捌こうと、それに手をかけた。
 そのときだった。突然黒服の男達が勝手に玄関を開けて入ってきたのだ。女性なのに不用心だった、鍵をかけておけばよかったと後悔している暇もなく男達は、
「手を上げろ」の五文字を鼓膜が破れそうな大声で叫んで、私の口に何かを染み込ませた布を当てた。すると意識がなくなっ…いや、違う。辛い!
「は、ははあああぁぁっ!あああああうううぅぅ!」
「…いい声だ、…ハバネロを贅沢に使用したボスコ産のタバスコだからな…だが…今はまだ黙れっ!」
かわいい森チャックデザインの吐血クマさんエプロンで保護していた筈の私の腹に、布を当てている男の強力な左ヒジ・アタックが入ると、
「マイクロチップが挿入されているマンボウ、撤収完了!この女性も連れて行きますか…」
あの日聞いたヒット曲のように、意識がフェイドアウトしていった。

次「フランジャー」「三杯酢」「主」
 酔いすぎ。ここどこ。どこ? マジわかんねぇ。嘘でしょ。
 携帯。携帯。充電切れてるよ。タクシーもいない。ていうか何この農地。
 クラゲを三杯酢で食った所までの記憶しかねぇ。旨かった記憶を思い返して
臭いや触感が蘇る。途端に募る嘔吐感。ヤバい。三半規管か何かが絶対ヘン。
 吐いてしまった。途端に俺はつい、逃げるように走り出した。でも、走っている
つもりで阿波踊りになっている気がする。眩暈がする。聴覚も変だ。車道の車の
音さえ、フランジャーがかかってるように聞こえる。うぷ。吐く。また吐く。
 あー、胃液しか出ねぇ。良かった。良いのか。眩暈は酷くなる一方だ。ぬう。
 うぎゃあ危ねぇ。俺の横でそんなスピードで車を走らせるんじゃねぇよ。
戻れ。謝れ。この野郎。あ。え。戻ってくるの。しかも降りるの。
 すみませんすみません。殴らないで。

 寒い。起きれない。視界がぼやけてる。死ぬ。嘘。主よ。お慈悲を。答えろ。畜生。
 手を伸ばすと何かに触れた。人の足。俺は力を振り絞って、言った。
「ここは……どこだ……」
 顔を上げる力もない俺に、そいつは大げさに溜め息をついて、答えた。
「人間にも、帰巣本能ってあるのねぇ。
 別居はやめにしましょう。……おかえりなさい、あなた。」
103102:04/06/05 00:28
お題忘れてました。すみません。

次「英雄」「慈悲」「女子高校生」
「英雄」「慈悲」「女子高校生」

 夏服の女子高校生は顔を上げ、手の平を差し出す。雨粒がひとつふたつと落ち、
街は夕立に包まれた。
 彼女は歩道橋の欄干にもたれ、目を落とす。色とりどりの傘の動くのを追う。
 しかし、雨は一層強い。彼女の短い髪から雨粒が滴る。
 間もなく、視界が滲み始めた。目に染みて、ゆっくりと瞬きを繰り返したとき、
真っ赤な傘を見た。それは歩道橋を上がり、彼女の前に立った。持っていたのは、
少年である。
 彼女は、少年の顔を覗く。そして、詩をそらんじた。少年は慈悲に溢れた視線を
送り、彼女は再び瞬いた。すると少年は消え、雨も上がった。
 雲は切れ、青い空が広がりだした。
 彼女は鞄から小さな詩集を取り出す。古い本で、ところどころ焼けている。
それを開き、一つの詩を見た。英雄という題で、いとしい人への思いを詠んでいる。
隣には夭折した作者のモノクロームの写真が添えられていた。

次は「暗証番号」「手数料」「小切手」でお願いします。
105罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/06/05 07:50
俺の家に悪魔が住み着いていた。彼らの名前は居ついた順にネジュ、ゲルガー、サルファスクといった。
いずれも最弱な悪魔たちで、彼らは自分の名前を俺に知らせる事ぐらいしかできなかった。
彼らは存在している価値がない奴らだった。まあそれは俺にも言えることだがな。
俺が昼寝をしていると新参者のサルファスクが来客が来たことを俺に告げた。
宅急便で中世騎士物語全集が届いた。
有り金全部を調べてみると、六百六十円足りない。古参の悪魔ネジュが「小切手で払いなよ」と言ったが、
俺にはそんな知識はない。意味もわからない。「馬鹿だな」とつぶやくゲルガーに、「お前もな」と返す。
途方にくれる俺は忘れていた事を思い出した。本棚の上の犬用蚊取り線香の空き缶の中に俺は大量の一円玉と五円玉を入れておいたのだ。
俺は一枚一枚丁寧に数を数えた。一円玉が三百五十枚。五円玉が六十五枚あった。
俺は喜んだ。これで払える。さっそく自転車に乗って郵便局へ向かった。
機械の指示に従って払込書を投入口に入れ、口座番号を確認し、画面上に硬貨と表示されている箇所に触った。
「暗証番号は?」と聞くネジュを俺は無視した。現金での振込みにそんなもん糞くらえだ。
ポケットにぎゅうぎゅう詰めに押し込んでいた一円玉と五円玉を落とさない程度に握り締め、投入口に入れていった。
俺がもたついていると、「どうぞお入れ下さい」と機械がしゃべった。
ふたが閉まってしまうのではと焦った俺はポケットに残っていた硬貨を硬貨投入口に全部ぶち込んだ。
すると機械が、 「硬貨が多すぎてふたが閉まりません。どうぞ硬貨をお取り下さい」といった。
硬貨を取り出していると、チュルチュルピー、ピィーウィー、ピーウィー、ピーウーピーウー
と警報装置が鳴り出し、画面上に制服を着た若い女の絵が出て、係員が来ますしばらくその場でお待ち下さい、と表示された。
三分ぐらい待っていると四十歳ぐらいの女性局員がやって来た。
「機械が止まってしまいます。どこに硬貨を入れましたか?」と、彼女はきつい口調で咎めるように言った。
俺は馬鹿みたいに、郵便局員の言われるままに、窓口で支払いをした。
手数料ぶんは食事代のためにとっておいた千円を当てた。
俺はそのまま帰るのも恥ずかしく、二時間ほど、フロアの椅子に腰掛け、郵便局員たちをにらみ続けた。
106罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/06/05 07:54
NEXTお題:「真相」「ワルツ」「集結」でよろしく!
長すぎだよ>罧原堤 ◆5edT8.HnQQ
>>105 悪魔ほとんど関係ないね。
感想はこちらへどうぞー。

◆「この3語で書け! 即興文ものスレ」感想文集第8巻◆
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1078844906/
110罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/06/05 17:22
>>108
関係あったけど本文長すぎます出まくって行数減らしてる間に関係なくなった。
111岸和田 ◆JNnFWYTu2A :04/06/05 19:56
「真相」「ワルツ」「集結」
 空に羊の形をした雲と、魚の形をした雲が浮かんでいた。
羊はちゃんと両手足つき、雲のもこもことした感じがしっくり来ていた。
魚は、ただの魚だ。誰が見ても魚に見える形だが、種類が特定しない。
 魚と羊……
一体このふたつにどのような関係があるのだろうか?
暇を持て余していた僕の脳細胞は、まるでワルツでも踊るみたいに
せわしく動き始めた。
『この雲に隠されたメッセージは?我々は真相を追究する』
羊は草を食べません。魚を食べます。食む?違います、食べるんです。
ええ、美味しいですよ。え?違います、羊じゃないです、魚です。
 そこで僕は考えるのを止めた。下らない。
こんなことに全神経を集結させて何になるっていうんだ?
 下らない土曜日の、下らない考えだった。

 「濠」「素敵」「夏草」
威勢良く伸びる夏草に同調したかのように、体がムズムズと騒ぎ出し、野性の本能が訴えかける。
「夏は恋の季節です。さあ、恋をしましょう。」
初めて感じる衝動に戸惑いながらも、思い切って身を任せてみようかと思う。
だって本能のささやきかけは、あまりにも甘美だ。
古い自分を脱ぎ捨てて、新しい私に生まれ変わる。
降り注ぐ誘いの声を一身に受けながら、一夏の相手を探して、燃えるような恋愛を楽しむ。
今までの自分とは180度違う生活に、始めのうちは驚き半分、なれない苦労半分。
なんとか馴染んでからも、新鮮な驚きはそのままだった。
ああ、なんて世界は綺麗なのかしら。夏はなんて素敵な季節なのかしら。
世界がこんなにも素敵なものだったなんて、去年までの私は知らなかった!
自分だけの殻に閉じこもっていないで、もっと早く出て来れば良かった!
なんて素敵。なんて綺麗。なんて・・・・・・

頭上で賑やかに歌う蝉たちの声を聞きながら、
濠の濁った水の下、鯉は次に落ちてくる餌はどれだろうとぼんやりと考えた。

次は「違反」「共犯」「炊飯」でお願いします。
113罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/06/06 17:13
当てもなく市内をドライブしながら、「しかし金ねえなあ」と俺が言った。
すかさず、悪友の西島が、「武んとこ行こうぜ、あいつ気が弱いからちょっと脅せば、俺たちにおごってくれるやろ」
「はは、お前悪い奴だな」
「いやいや、お前も共犯だよ。最近美味いもんくってないからな。ずっと振りかけご飯だよ」
「お前自炊してんの?」
「してるよ。炊飯器買って」
「いくらした?」
「二千円。リサイクルショップで」
「よく中古の炊飯器なんて使えるな」
「洗ってるから大丈夫だよ、あんまそういうの俺気にしないんだ」
俺たちは武の住むマンションの前に車を止めた。駐車違反には何度も痛い目にあっているので、早いとこ武を連れ出さねば、俺はそう思っていた。
エレベーターで11階まで昇っている途中、何か甲高い音がした。俺と西島は黙ったままだ。
おおかた大型ダンプがカーブをうまく曲がりきれずにタイヤから出たブレーキ音だろう。
ピンクチラシが何枚もドアに張られている部屋が武の部屋だ。何度インターホンを押しても反応がなかった。
「いないんじゃないか」と言いながらドアノブをひねり、ドアをひくと、開いた。
玄関に入った俺たちは、あまりの光景に絶句した。
武がキングギドラと戦っている。
全長30メートルはあるだろう巨大なギドラで、映画で見たまんまだった。
キングギドラは翼を羽ばたたせマンションぎりぎりで空中に停止しており、時折、窓の前で剣を構えている
武目掛けて口から火を吹き攻撃していた。武はライオンの紋章が美しい楯で火を塞ぎ、
ギドラの目を狙い剣を振っている。
武が俺たちに気づいて、「ここはあぶない早く逃げるだ」と叫んだ。
その一言で慌てて俺と西島は武の部屋から出てでドアを閉めた。
まだ呆気にとられていた西島が、「武ってああいう奴だったんだ」とぼそりと言った。
114罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/06/06 17:14
NEXTお題:「犬」「列島」「黒人」でよろしく
 昔の話。
 ある野晒しにされた島を巡って青い犬と黒人が対峙した。
犬は至極当然のように言った。「人間に生きる価値はない」
黒人もまた、「犬畜生は破滅するがよい」と言った。
 最初から折り合いが付くことはありえなかった。強いものが
決定権を持つ――それこそが世界である。
 その島は列島であった。列島であったのだが、彼らは
それには気付いていなかった。無理もない、何せ、本土とでも
言うべき中央の島がとても巨大で、他の島はその遥か北部と
南部に申し訳無さそうにくっ付いているだけなのだ。
 いまでは、本土には億を雄に越える人間が蠢いている。
黒人が祖であったが、他の島からの移民が混じり合い、
実に多種多様の人種構成が成されている。
 敗れた青い犬はどうなったのか。それは記録には残されて
いない――。

「尊厳」「公営」「微生物」
116岸和田 ◆JNnFWYTu2A :04/06/06 20:23
「尊厳」「公営」「微生物」
 中三の七月、いろんなことが少しずつ変わり始めた。
少し難しい言葉を使うならば、周りの均整が少しずつ失われていった。
部活を引退し、修学旅行の為に付き合った男女が次々と別れ、
皆授業を少しでも漏らすまいと真剣に聞いた。
 でも、僕たちはそんなに変わらなかった。
変わっていないと信じたいだけなのかもしれないが。
「マジで?アイツ公営住宅じゃなかったっけ?何引越してんの?」
塚本が言った。クラスで一番モテる奴だ。
「あれじゃね?勉強に集中できねえとかじゃん?アイツなんかガリくせーもん」
内村がいつものハスキーボイスで言った。
「何かアイツさ、国語の時間とかわざと難しい言葉使ってんよなぁ、
この前小説の感想だかで、この主人公はこのシーンで尊厳がどうこう言ってた」
塚本が早口で言う。
「あのさ……授業くれーマジメに受けねぇ?」 
僕がそう言ったと同時に、数学教師が塚本と内村をこの微生物屑野郎と叱っていた。

 「明日」「元気」「踏み切り」
とある児童の作文
「ぼくはたいそうがきらいです。明日が体いくだと、とてもいやなきもちになります。
 でも、となりのお兄ちゃんはそんなぼくをはげましてくれます。きのうも、しょんぼり
しているぼくを見つけて、がんばれってはげましてくれました。それから、夜おそくなる
までとびばこのれんしゅうをしてくれました。
「このタイミングでふみきれば、5だんはとべるぞ」
 って、お兄ちゃんのひみつのコツを教えてくれました。
 今日5だんがとべたのも、お兄ちゃんのおかげです。
 体いくはきらいだけど、お兄ちゃんにおしえてもらって、がんばろうとおもいます」

教師の返信
「今日は先生、とてもうれしかったです。いつもいやがっていた体育で、一生けんめい
がんばっている君は、かっこよかったです。踏み切りのタイミングを教えてもらって、
よかったですね。お兄ちゃんに、先生からもありがとうと言いたいです。
 明日からも元気に、がんばってください」

 次のお題は「修学旅行」「集中」「均整」で。
118岸和田 ◆JNnFWYTu2A :04/06/07 15:25
「修学旅行」「集中」「均整」
 寄り添い、ピースをして笑っている写真を眺めていた。
この写真は修学旅行中に撮ったものだ。
映っているのは、僕と、元彼女だった。
僕はとても楽しそうに、にっこりと笑っている。
彼女は顔の近くにピースをして、これまた楽しそうに笑っている。
 僕はあの修学旅行のときを思い出してみた。
意識を集中し、目を閉じ、じっとして動かず、思い出す。
皆の笑い声が響いてきた。彼女のぬくもりを近くに感じる。
でも現実ではない。時間という概念のない、意識の中の幻影に過ぎない。
そこは均整の失われた世界だった。言い換えるならば、『妄想』――。
 僕は目を開け、頭を振った。フケがあたりに舞う。
「いい加減この妄想も止めなきゃ……何かおかしくなってきてるぞぉ」
 僕はここ十年間、外に出ていない。修学旅行も行ったことがないし、
彼女なんて夢のまた夢のそのまた夢だ。
最近妄想癖がほんとうにひどくなってきた。

 「ユーズド」「涙」「感情」
119**kitarou:04/06/07 20:11
**「ユーズド」「涙」「感情」

目の周りにひどい青痣のある女が、私をじっと覗き込んでいる。
女は赤い水玉模様のワンピースを着て、米軍のジャンパーを肩に引っ掛けている。
この家具屋の店主は女の背後から、ちらりと好奇の視線を走らせる。
「おじさん、この三面鏡いくら?」
店主はこの女の素性を見抜いていたが、あえて丁寧な口を利いて持ち上げる。
「はい、はい。あなた様のようなお嬢様にぴったりの鏡台でがしょう?」
「これで足りる?」女はバッグから無造作に紙幣を取り出し、床に投げつけた。

「パン助が!」と罵る店主の声を聞きながら、私は女の住処に運ばれた。
女は私を部屋に招き入れ、米軍のユーズド家具らしいダブルベッドの隣に置いた。
ベッドが私に目配せしてきた。ベッドは怯えているようだった。
女はこのベッドの上でソドム趣味の米兵の相手をしているらしい。
米兵は感情をカタコトの英語でしか表現できないこの女を、劣情の赴くままに犯し
ひとしきり殴る。そして甘い菓子と現金を置いて基地へ帰っていくのだと言う。
女は私を覗き込み、黄色く変色しはじめた青痣を震える指で撫でている。
涙の枯れた瞳に中に、小さな星が灯っていた。私はこの星を愛そうと思った。

**次は「失踪」「あきらめ」「形見」でお願いします。
「ねぇお父さんはまだ帰ってこないの?」息子の亮介が尋ねる。
「お父さんはね、遠い所までお仕事に行ってるの。リョウ君が良い子
にしてれば早く帰って来るのよ」私は微笑んでそう答える。
舅や姑の前、あるいは近所の奥さん仲間達の前で何度となく
こういったやり取りを繰り返してきた。
「うん、僕頑張る。良い子にしてるからね!」
そうして亮介が場を離れた後で周り人達に私は声をひそめて言うのだ。
「旦那が失踪した事はどうか、息子には内緒にしておいて下さい」と。
事情を知る者はその度に哀れみを含んだ表情で私を見る。
隣に住む友人の千賀子が去って行く亮介の背中を見ながら言った。
「旦那さんがいなくなってもう一年でしょう…?大変よねぇ。
でもあきらめちゃだめよ?案外ひょこっと帰って来るかも知れないんだから」
私は千賀子の軽口にお愛想で笑った。
旦那が帰ってこない事はもう分かっているのだから。
失踪から7年経てば民放第三十条により死亡と見なされる。
自殺ならば保険金は下りないが死亡となれば話は別だ。
周りの人間は皆失踪と信じて疑わない。全ては旦那の遺言通りなのだ。
千賀子と別れて家の玄関を開けると亮介が立っていた。
「後六年だね、お母さん」
「ええ…頑張りましょうね。リョウちゃん。」
法律が認めるよりも7年早く、旦那の形見となった結婚指輪。
小さな銀色の枷を外し、私は亮介を抱きしめた。
「リョウちゃんは本当に良い子ね。お父さんとの約束を守ってくれて…」

次は「ギャンブル」「恋人」「サンドイッチ」
121**kitarou:04/06/08 09:48
**「ギャンブル」「恋人」「サンドイッチ」

ミチはぼんやりとした頭で起き上がり、古い市営住宅の小さなベランダに出た。
毎朝、眼下に広がる児童公園を見下ろしながら、ベランダで伸びをする。
――またあの人、来てる。
下の公園のベンチで、サンドイッチを食べている男がいる。
早朝の人影のない公園にあの中年男の姿を認めるようになったのは、いつからか。
裏ぶれた背中を丸め、寂寞とした時間に身を置いているような姿にミチは自分と
似たものを感じていた。恋人も家族もいない、孤独な食事に没頭する醜い中年。
その時、ミチの視線に気がついたのか、不意に男が見返してきた。男は会釈する。

その日から、ミチは男と一緒に、下の公園のベンチで朝食をとるようになった。
男は運転手をしていて、不規則な勤務で神経が休まらず、この公園に来ることが唯一
安らぐ時間だ、と言った。男は近くのマンションに住んでいるらしい。
ミチは毎朝、手料理を作るようになった。そして、来たり、来なかったりする男を
待つことが何よりの楽しみになった。男はいつもミチの料理を残さず食べていく。
――でも、あの年で独身なんて稼ぎが悪いか、ギャンブル癖でもあるんだろうか。
男に金の無心をされたり、転がりこまれてヒモにでもなられたら、前の男と同じだ。
――しばらく旅行にでも行って距離を空けてみようか。海外旅行も安くなったし。

ハワイ行きの飛行機の中で、ミチは小さな窓から地上の滑走路を眺めていた。
――あの人に会いに行かなくなって、ベランダから外を眺めることもなくなった。
「当機はまもなく離陸します。今回のフライトは6時間30分を予定して……」
ミチの乗っているジャンボ旅客機の機長があの男だとは、彼女は知るよしもない。
彼女にプロポーズをするつもりでいた男は、同じ滑走路をなめらかに加速していく。

**(もし、読んでくれた人がいたと仮定して)感想いりません。
次は「気楽」「普段着」「サンダル」でお願いします。

季節が梅雨明けの発表を待ちきれなかったのか
六月だと言うのにカラッと晴れた、気持ちの良い暑さだった。
大きなシミを胸に残した花柄のシャツを素肌に一枚羽織り、
小汚いサンダルを引掛けただけの格好で彼は待ち合わせの場所までやってきた。
私は彼の事が好きだ。だけれども彼の汚い格好は嫌いだ。
この気楽なヒッピーの様な年を考えない格好は私をいらつかせる。
勤め先が銀行と言う事もあり、普段の彼はきちんと高級スーツを着こなし
時計や靴まで細部に至るまでこざっぱりとしている。
それがたまの休みの日に二人で会うとなるとこの体たらくなのだから
参ったものだ。私はその事で何度も彼と言い争っていた。

彼が私の友人と浮気をしているらしいと聞いたのはそれから一ヶ月後の事だった。
私は探偵に頼んで証拠写真を集めた。郵送されてきた写真には
確かに私の友人と彼が腕を組んでホテルに入って行く様子がはっきりと写っていた。
日付は数週間前の日曜日。私の見たことが無い白く高級そうなシャツに
黒光りする革靴を履いて、丁寧に髪を撫でつけていた。

私はその写真を見て彼を許そうと思った。
休日にも関わらず、彼は彼女に普段着を見せなかったのだから。
あれほど嫌っていた彼の普段着は私にとって実は大事な一張羅だった。

次は「ジャズ」「拳銃」「睡眠」
123名無し物書き@推敲中?:04/06/08 17:40
さながら腐ったジャングルだ。
紫煙が濃霧のように立ち込め、饐えたような不潔な臭いが鼻を刺す。
原住民たちが、あるものはテーブルにつっぷして、あるいはだらしなくボロボロのの椅子に寝そべって、牛のように睡眠をむさぼっている。
平日の昼間からこんな場所にこもるような人間たちだけあって、どことなく浮浪者じみた退廃的な雰囲気が共通していた。
ほとんど惰性で流れるジャズの音は、古の呪歌だろうか。
そのジャズ喫茶はまさに異境だった。
俺は境界を越えてしまったんだ・・・・・・。それは戦慄と喜びをもたらした。
清潔で整然とした、人が数千年かけて築き上げた白い都市から、俺は逸脱したのだ。
そうすることによって、彼らが意識的に追放した、見てみぬふりをし続けてきた世界を、俺は見定めるために。

変化はゆっくりと訪れた。
男たちが、のそりと身を起こしたのだ。
まるで虎のように。その目が焔のように爛々と輝いている。
ああ、人食いの眼だ・・・・・・。
俺は拳銃を握り締めた。

狩の時間だ・・・・・・・。

さーて次回は。「宗教」「探索」「諜報」
124**kitarou:04/06/08 20:24
**「宗教」「探索」「諜報」

「チン、チン、チリン」
湯呑み茶碗の中に糸で吊るした五円玉がゆらりと揺れて、涼し気な音をたてる。
「揺れたで! やっぱり生きとるんや、あの子は戦死なんざしとらん」
母は興奮して上気した顔をあげると、生気に満ちた目できっぱりと言い放つ。
「そうや、そうや、生きてる証拠や」と俺は毎日おなじ台詞を繰り返す。

長兄が南方で戦死したという公報が来たのは、終戦間近かの事だった。
遺髪も遺骨も何もなく、白木の箱には現地の小石がひとつ入っているだけで母は、
「こんな馬鹿な話があるか、こんな物で人の生き死にが信じられるか」と御霊の
入った木箱を抱いて、土間に転がり、張り裂けるような声を上げて泣いた。
それ以来、母はあちこちの占い師や怪し気な宗教を渡り歩いて長兄の真の行方を
探索して歩くようになった。「暑い所にいます」と言われれば、南の方角に陰膳と
冷や酒を置き、「もうすぐ船に乗ります」と言われて高価な海難除けの札を買う。
俺は、戦争が終わってからも、そんな母の背中だけを見守っている。
英国人の神父のいるキリスト教会に出入りをして、諜報容疑で特高に引っ張られた
俺が母の顔見たさに、半死半生で戻ってきても、母の感心は長兄の所在だけだった。
「チン、チン、チリン」
南方のジャングルに消えた長兄の見えざる手が、今日も糸を揺らしている。

**次は「邪魔」「蛇」「虹」でお願いします。

突然、足に鋭い痛みを感じ、咄嗟に膝下まで草に埋まった足を蹴り上げた。
なにかが暗闇の奥へと消えていく気配がする。あれは、蛇?
あわてて懐中電灯で確認すると、右足首に小さな傷が2つ、並んでついていた。
蛇に、噛まれた?いや、まさか。そんな。
とりあえず、手持ちの荷物を縛っていたビニール紐をはずして、膝下に強く巻きつけた。
ばらばらになった荷物はそれぞれ茂みの奥めがけて、力の限り投げ捨てる。
当初の目的は果たした。噛まれた足が燃えるように熱い。早く病院へ。早く帰らなければ。
でも走ったら毒のまわりが早いかもしれない。いや、あれは毒蛇だったのか?とにかく急がないと。
前がよく見えない。汗が目に入る。懐中電灯の明かりが目を刺して、目前に虹が出来る。
何でこんなに汗が出るんだ。こんなに寒いのに。こんなに震えているのに。今は夏なのに。
草が邪魔だ、前に進めない。いつの間にこんなに伸びやがったんだ。さっきまで無かったじゃないか。
畜生、こんな目にあうくらいならあんなもの、近所の川原辺りに捨ててしまえば良かったんだ。
そういえばあれは何処に捨てた?ちゃんと捨てたよな?せめて少しでもあれから離れておかないと。
体はどうやって動かすんだ。俺はどうやって歩いていたんだ。体はどこにあるんだ。
畜生、エロ本捨てに来て蛇に噛まれました、なんて間抜けもいいとこじゃないか。
畜生。死んでたまるか、畜生。・・・・・・ちくしょう

次は「伝統」「高騰」「関東」でお願いします。
126「伝統」「高騰」「関東」:04/06/09 20:18
黄色猿のシュウヘイがホームシックが原因で寝込んだ。
あいつは母親をレイプして国外逃亡してきたとかで、祖国の日本には二度と帰れない身らしい。
人前では常にひょうきん者で、よく故郷の伝統芸のどじょうすくいでみんなを楽しませたが、
心の中ではずっと苦しみ続けていたのだろう。
家にお見舞いに行くと、シュウヘイは日本の食べ物が食べたいと言った。
具体的な食品名を聞いたら「うどん」というのを指名してきた。
それなら近所のスーパーで見たことがある。値段も大して高くないはずだ。
俺はさっそくスーパーに買いに行った。
すると、どうしたことか「うどん」の値段が何倍にも高騰していた。俺の所持金では一食分しか買えない。
しかも「うどん」の味は「関西風」と「関東風」の二種類があったのだ。
シュウヘイは「大阪」の出身だと言っていたが、それが「関東」なのか「関西」なのか分からない。
しょうがないので俺は本屋まで行って地図で調べ、「大阪」は「関西」だと分かった。
やっとの思いで買って帰ったが、シュウヘイは「関東風」が好きなんだと言ってせっかく「うどん」に痰を吐きかけた。
さすがの俺も頭にきて、何発かぶん殴った上にスープの最後の一滴まで無理矢理全部平らげさせた。
すると、シュウヘイはたちまち病状が悪化し翌日にはくたばってしまった。

「真っ黒」「油揚げ」「ぎとぎと」
13行目『せっかく』→『せっかくの』
128名無し物書き@推敲中?:04/06/09 20:52
あなたのことが好きです
あなたを愛しています
好きで好きでたまりません
私は純粋な乙女
でもあなたの嫌らしいところさえ愛おしい
あなたに触れられたい あなたに触れたい
この想いどうしたらいいの
熱い思い 身体中に染み渡る
愛の炎
あああなたのいやらしい所を触れたい
あああ淫らな私
あああん
129久々の投稿:04/06/09 22:56
「真っ黒」「油揚げ」「ぎとぎと」
「松崎しげるをなんとか時代劇に起用することはできないだろうか。」
油物好き、かつ時代劇好きの社長の鶴の一声で、我々地方局社員は過労死一歩
手前まで追い込まれることになった。ひとつの大きな問題によって。
松崎しげるは肌が黒い。日本人の感覚だと真っ黒と言える位に、黒い。そんな
彼をどうやって使えるのだろうか。太陽に恵まれた沖縄を舞台にした時代劇は
見たことがないし、目新しさはあるのだろうが、それ以外に売りがいまいちだ。
「んー、丹下左膳のパロディで、白と黒のコントラストを生かしてはどうか?」
「じゃあ子連れ狼のパロディで、『ぎとぎとぴっちゃん』って言わせるのは?」
意見が出るには出たが、パロディしか出なかった。
それに加えて油物、時代劇好き社長は、ひどいくらい迷信にこだわる。
過労死一歩手前、という原因は多分この迷信が引き金だと私は感じているのだ
が、その社長が言ったことは、
「狐の女房伝説は、良いことを行えば相応の見返りが返ってくるんだってね」
油揚げでも供えりゃいいのか、どうしろというのだ? 
入社する前にタイムリープしたくなった。21世紀より前のあの頃に。

「不慮」「俘虜」「不良」
130「不慮」「俘虜」「不良」:04/06/11 21:18
先日死んだ異国の友シュウヘイは風変わりな遺言を残していた。
「自らの死体を、夜にアリゾナから火星に向かって打ち上げてほしい」というのだ。
生前のシュウヘイはスペースオペラの俘虜だったから、そのどれかにネタがあるのだろう。
さて、打ち上げようにもロケットなんて持ってないし、俺の鈍い頭では代わりになるものも作れない。
そこで俺は、爆弾魔志望のボブに手助けを頼むことにした。
ボブは俺のいる不良グループで一番の秀才で、なんと3桁の足し算をたった5分で解けるのだ。
俺はボブの指示でシュウヘイの亡骸を一緒にアリゾナまで運んだ。
適当な空き地を見つけるとボブは地面に大量の火薬を設置し、その上にシュウヘイの亡骸を乗せた。
ちょうど夜に火薬に着火するように導火線をセットし、俺とボブはアリゾナを後にした。
街に帰ってくると、俺とボブは適当なビルに上って、打ち上げの時を待った。
俺は心配だった。ボブの頭を信頼してないわけではないが、不慮の事故が起こらないとも限らない。
…幸い、俺の心配は根拠のないものだったらしい。
予定の時間に、閃光と共にアリゾナの方から空に物体が打ち上がった。シュウヘイは無事に火星に旅立ったのだ。
その翌日の新聞に、爆弾テロがあってアリゾナ全体が跡形もなく吹っ飛んだというニュースが載った。

「プリンセス」「女神」「大元帥」
無聊な日々を過ごす一人の不良が、路上で舞う一人の俘虜に出会いました。
芙蓉のようにあでやかに、俘虜は異国の舞踊を踊ります。
無骨な鎖がカチカチと、不要なリズムを刻みます。
今日は不漁だ畜生と、嘆く主人の傍らで、
俘虜は幸せに満ち満ちて、ゆらりゆらりと舞っています。

浮萍のような不良にとって、俘虜との出会いは不慮の事故。
武勇を誇り、無頼に生き、浮流に乗って浮浪して。
そんな流れの中でぶつかった、大きな浮氷。不用な感情。
俺はどうして生きている?

俘虜は鎖があっても幸せで、
不良は鎖が無いから不幸せ。
気付いてしまった不幸せ。

次は「香料」「棟梁」「肥料」でお願いします。
132131:04/06/11 23:10
ああああ。またやっちまった・・・新着レス取得したと思ったのに・・・
131は無視して、「プリンセス」「女神」「大元帥」でお願いします。
    『プリンセス』『女神』『大元帥』
豪雨。外はひたすら雨水と暴風が狂ったように飛び散っていた。
窓を風が叩き付ける。
稲生は今日、登山を予定していた。
しかしこの雨ではどうすることもできず、ひたすら寝転んでテレビを
観ていた。美術番組である。
"シャゾクリフは彫刻界では大元帥と呼ばれ、その代表作である
「むせび泣く女神像」はシャルルボネ美術館のシンボルとして陳列
されています。また、晩年に製作していた「糸杉のプリンセス像」は---"
稲生は美術になぞ興味ない。
しかし他のチャンネルも、つまらん特番の再放送だとか、また二時間
ドラマなぞしか放送していなかった。
寝転がったまま、稲生は少しはなれた所にあるスナック菓子を取ろう
とした。しかし手を精一杯のばしても、菓子袋にまでとどかなかった。
立ち上がって取ればいいものを、稲生は横着し、目一杯手を伸ばす。
指先がぎちぎち言う。二の腕がゆうゆう唸る。
指先がわずかに袋に触れた。あと少し。
グ、と身体を揺らし、その手で菓子袋を掴む。
やっと。やっと取れた。
稲生はそのままするすると菓子袋を引き寄せ、封をしているセロテープを
引き剥がし、中から乱暴にスナックをひとつ取り出し、かじる。
---不味い。
---しけっている。
稲生はがくぜんとし、怒りをどこにぶつけていいかもわからずに、いまだ
ぴしぴしと言う腕でスナック菓子を放った。
湿りきったスナック菓子を内包する袋は床に落ちる。
"さて、シャゾクリフは豪雨の中このトルソーを彫ったと言われますが…"
稲生は荒く鼻息を漏らした。
ざざ。ざ。
豪雨。
窓を風が叩き付ける。
    次は『鈴虫』『台風』『ポテトチップス』で
134弁天 ◆CoudB9M4c2 :04/06/12 05:11
mannkokkusu
135岸和田 ◆JNnFWYTu2A :04/06/12 13:21
「鈴虫」「台風」「ポテトチップス」
 夢の中で、誰かに声を掛けられて起きた。
半ばぼんやりした頭でパンツのゴムを引っ張ると、どろりとした液体があった。
――ついに来てしまった。
頭の中で台風が吹き荒れ、自己嫌悪が僕を襲った。
 自分を『気持ち悪い』『汚らわしい』と罵りながら、パンツを脱ぎ、
洗面所で洗った。そして『隠蔽』のためにいくつかのTシャツと一緒に
洗濯機に放り込んだ。
 何処かで鈴虫の声がする。りーりーりーりー。
それすら僕を罵っているみたいだった。りー汚りーらりーわりーしいー。
 ひどく嫌な気分でベッドに寝転び、親に言うべきかどうか考えた。
口のなかが寂しくなったのでオレンジジュースとポテトチップスを貪った。

 「エースパイロット」「小指」「ふかしイモ」
「指きりげんまん嘘ついたら針千本の〜ます、指切った♪」
明るい彼女の声と共に小指と小指が離れる。
「約束したからね、必ず生きて戻ってきてよね」
「ん……あぁ。その時は結婚でもするか〜」
「なっ…!ちょ、バカ。何言ってるのよ!」
「冗談だよ」
つい少し前までは友人と遊んだりしていた俺も、兵士として戦場に連れて行かれるはめになった。
正直言うと、御国の為に……とかいう理由は微塵も無く。かといって愛する人の為に…というのとも違う。
まぁ。どうせ流されるまま生きてきた俺だ、今更戦場での垂れ死んでも文句は無い。
だからこそ一番仲の良かった彼女との約束も……守れるなんて微塵も思ってはいない。
「……でも、うん…帰ってきたら……結婚、しても良いかな……」
はずだった。
それなのに彼女のその言葉はあまりにも魅力的で。
「うっしゃ、そうと決まればとっとと行ってすぐにでも戦争を終わらせて戻ってくるか」
「うん! 帰ってきたら何でも好きな物作ってあげる!」
「ホントか?それじゃあお前のふかしイモが食いたいな」
「わかった、作って待ってるから絶対生きて戻ってきてね」
「おうとも。それじゃここでお別れだ……駅までの見送りはいらないから」
そういって彼女と別れてから先ほどまでの諦めムードとは打って変わり俺は駆け足気味に駅までの道を歩いていく。
途中で振り帰ると彼女の姿は遠く離れて見えたがそれでも、まだ手を振っているのが見えた。
「さて……と」
懐に手を入れて昨晩書いた遺書を取り出すと俺は躊躇い無くそれを破き捨てる。
これを書いた時は流石に気が早いと苦笑したが、まさかこんなに早く俺の手から離れるなんて思いもしなかった。
「良い天気だ〜」
人影の無い駅までの道の途中に空を見上げると味方の戦闘機が遥か上空を飛び去って行くのが見えた
遠めでよくわからなかったが、あれは多分エースパイロット用に色を塗り替えた物だ……なんと縁起が良い。
雲一つ無い青空の下、爽やかな風と色を塗り替えた専用機が俺の事を祝福していた。

「刹那」「帽子」「ダメ人間」
 帽子を深く被った男は、『魔王』と呼ばれる者と対峙していた。
「魔王、近隣住宅に住む民が恐れている。覚悟」
 魔王は静に笑い、何か言葉を漏らした刹那、男に切り捨てられた。
「なんだ、手応えがない」
 男は、倒した証拠の生首を携え、民が暮らす村へと戻った。
「大したことのない奴だったぞ、さあ、俺を勇者に」
 村人の様子がおかしい。皆がざわついている。
なんだ、あれ。あのダメ人間じゃないか――。
「お前も、魔王だ」
 村人の誰かがそう言った。そして、それは伝播した。
そうだ、お前も魔王だ、魔王を倒したお前も魔王なのだ。
「何をっ……!?」
 
 長靴を履いた男が、『魔王』と呼ばれる者と対峙していた。
「魔王、村の脅威となっている魔王め、覚悟しろ!」
 魔王は掠れた声で「魔王など」と呟いたが、それが男に伝わることはなく。

「髪」「転向」「際限」

「アメリカへいってビッグになってやるぜ!」
そう言い残して兄が家を出ていってからもう七年になる。
それは、あまりに唐突だった。
七年前のある日、兄が突然ナイフを握って私の部屋に入ってきて、私の髪をひっ掴んだ。
びっくりして声も出せずにいる私に向かって、兄はナイフを一閃した。
おしっこ漏らして床にへたり込み放心状態になった私に、兄は笑いながら言った。
「お前の髪をお守りにしようと思ってな」
そう言われて、初めて髪を切られたことに気付いた。
気付いた私が大声で泣き出すと、兄はそそくさと自分の部屋に戻っていった。
私は髪を直すのも着替えるのも忘れて、一日中際限なく泣き続けた。
兄は一言も謝りもしないで、その次の日には一行目の言葉を残して家を出て行った。
あの体験を境に私はショートヘアーに転向した。あれから手で掴めるほど髪を伸ばしたことはない。


「ポニー」「ツイン」「テール」
139gr ◆iicafiaxus :04/06/14 19:34
#「ポニー」「ツイン」「テール」

じゃんけんに負けて、祐子の後でバスルームを使うことになった。

僕はカーテンの開いた白樺ハイランドホテルの部屋の窓にもたれ、目の下の
田舎道の暗闇をよぎる多分観光客のクルマのテールライトを数えている。
クルマの光はどれも、人のいない湖の縁をなでるようにたどって遠くへ消える。
水面は波立って静かに揺らいでいるけれども、そこへ入っていくクルマはない。

バスルームで水道が止まった。
窓に映るツインルームの室内を、エアコンの音だけが満たす。

(そう、これは友達同士の卒業旅行なんだから。今夜は、何も起きない)

部屋の中の方に振り向いて、自分の取った方のベッドにひっくり返る。
よくはずむスプリングの振動が、昼間乗ったポニーを彷彿とする。僕は、乗馬から
落ちそうになった祐子をとっさに抱き止めたときの、忘れがたい身体と心の感触を、
今のところ思い出したりはしないことにした。


#ごぶさたしてます。次は、「剣」「日記」「特急」で。
剣、日記、特急

「三丁目の田中だけど、30分前に頼んだラーメンまだ?」
険のある声が受話器の向こうから聞こえてくる。
「あー、すいません。たった今出ましたんで。すいません。」
俺は定番の返事で切り抜けようとした。
「ふざけんなっ、蕎麦屋の出前じゃあるまいし。大体、お前んとこはラーメン屋だろ。
適当なこと言ってると仕舞いにゃ日記に書くぞ、寝言で言うぞ!!」
「ひいっ、それだけはご勘弁を……」
相手の剣幕に気圧された俺は電話機に向かってぺこぺこと頭を下げつづけた。

「ラーメン上がったよ。超特急で行って来い。」
親父からどんぶりを奪い取るように岡持ちに突っ込んだ俺はこのラーメンよりも
熱くなっているだろうヤマダさんの家へ駆け出した。
「ったく、注文来てから麺打ってんじゃねぇよ、蕎麦屋は先月で終わったんだからよぉ」

次は「コショウ」「キャベツ」「鈴」
どこまでが固有名詞なんだ。もうわかんね。
「コショウ」「キャベツ」「鈴」

調理機を朝食・ランダム設定で作動させて椅子に座る。
一週間に一度食材を放り込むだけでいい全自動調理機はやはり楽だ。
そんなことを考えながら、猫の餌を用意する。皿を床に置いて名前を呼び、私も食卓についた。
調理機が朝餉に相応しいと判断した品目がなんの統一性もなくでたらめに並べられてゆく。
パン。ロールキャベツ。タクアンのコショウ漬け。コーヒー豆の浮いたみそ汁。
味は悪くない。悪くはない。調理機の価値は手間いらずである点にあるのだ。
パンは普通だ。謎に赤いのが気になるが、何か練り込んでいるのだろうか。
みそ汁を啜り、これはこれでよいものだと満足。
タクアンを頬張り、米が欲しいなと思う。
キャベツ巻きを口に含むと、ガリリと硬いものが歯を酷く痛めつけた。
口から出すと、それは見覚えのある鈴だった。

床に置かれた餌皿の前、猫は一向に姿を見せない。


次は「朝餉」「猫」「みそ汁」でお願いします
「朝餉」「猫」「みそ汁」

「今日の朝餉は猫のみそ汁かぁ」
プラスチックの椀の中からこちらを睨みつける猫と目が合った。
「う……怨むなよ。」
物言わぬ躯は飼い猫のクロに間違いない。言うことを聞かない
いたずら者だったがおとなしくみそ汁に浸かっているのを見ると
可哀相に思えてくる。
俺はみそ汁を一気に掻き込むとバリバリと噛み砕いて飲み込んだ。

次は「団子」「団地」「団塊」で。
_

― 演出・山西さる夫(「鐘のない丘」)―
― 脚本・マドラー近藤(「いつかのドンちゃん」)―

 「コド領」こと劇団子供の領分が満を持して贈る
 愉快! 痛快! てんやわんやのドタバタアドベンチャー
 全世界待望のシリーズ第二作が登場!

ワ ル サ ー 少 年 強 盗 団
地 下 帝 国 の 秘 宝

 海賊から奪った財宝で贅沢三昧をしているジローたち少年強盗団。
 そんなある日、仲間のチョーが聞いてきた地下帝国のうわさとは…
 えっ、金、銀、ダイヤ、それに古代の名宝まで!?
 〈こりゃあ黙ってられない、そいつは俺たちのものだ!〉
 一年ぶりの仕事と、喜び勇んで突入したジローたちが見たものは
 世にも恐るべきネクロマンシーの秘術だった!
 団塊となって襲いかかるゾンビたち。果たして少年の運命は?
 そして、財宝は?


#次は「鉄人」「竜」「誕生」で。
146寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/06/20 01:55
 この肉体が私を繋ぎ止める。私はふとももの裏にあるアザを眺め思う。
生きる事への執着が染み込んだ、ぬいぐるみを脱げるならば……と
 なにかの技に秀でた者を鉄人と言う。私には一生縁の無い言葉かも
しれない。何をやってもダメな私は何の為に、この世に誕生したのか?
 
 私は小さい時から、度々夢にでてくる光景を思い返していた。それは、
海の深い所だった。海底の入組んだ地形は、さまざまな景色を造りだし
まるで地上のごとく山あり谷あり、山水画を思わせる。そんな夢の中の
光景に煌びやかな神殿が、二匹の竜に守られ金色の光を放ち私の眼前
にそびえ建つ。
 私はその神殿に入る為、手前の黄金の橋を渡らなければならない。鏡
のように磨き上げられた橋の欄干に映しだされた私の全身は鱗に包まれ
ていた。
 そこで、ハッと夢から醒めるのだ。そして、寝汗をタオルで拭く事になる。
 
 私はふとももの鱗に似たアザに指を這わす。人間界に生まれることを
許されただけでも幸せなのかもしれない。自然と溜息がこぼれた。
 畜生界の竜は人間界に生まれる事を願い、河に三千年、山に三千年、
海に三千年と長い修行を経て人間として転生を許されると言う。

次は「ひまわり」「手帳」「階段」でお願いします。
 夏の陽射しに照らされた階段は、フライパンみたいに熱くなっていた。
  ワンピースの裾が汚れることも気にしないで、あたしはそこに座りこむ。
コンクリのチクチクする感触と、もやっとした熱気がお尻に伝わってきて、
お世辞にもステキなベンチとは言えないけど、履き慣れないサンダルで、
ずっと立ってるよりはいくらかマシ。
 ひまわりの模様がついたワンピースは、新しいママが買ってきてくれたもので、
少女趣味過ぎて全然あたしの趣味じゃない。
 なのにパパったらすっかりデレデレしちゃって、
「せっかく遊びに行くなら、ママの買ってくれた服を着ていきなさい」
なんて言うから、わざと苔だらけの階段に座ってやることにしたのだ。
 ふん、と鼻を鳴らしながら、あたしは赤いサンダルの足を投げ出す。
 空はうんざりするほど青くって、入道雲が嫌になるほど大きく見えた。
 去年の夏にはまだママがいて、一緒にミンミンゼミの声を聞いたのに、
今年はもう、それもできない。ママは遠いところに行ってしまったから。
「はい、これ。忘れ物」
 いきなり声をかけてきたアイツは、
にこにこしながらあたしの置き忘れた手帳を差し出していた。
「失礼ね。いきなり声をかけないで」
「かけたよ。でも考え事をしてたみたいで、全然気付いてくれないからさ」


次は「首輪」「時計」「シーツ」でお願いします。
長いこと掃除のバイトに通っていたSMクラブが廃業することになった。
未払い分の給料は現物でもらうことになった。
バイトの中で最古参の俺がもらったのは、首輪を始めとする拘束具一式だった。
これは上等なもので、通販などで買おうとしたら何万円もするだろう。
飾ってあった置時計なんかの方が処分も楽だったろうが、
そういう物は正式の従業員が先に取ったらしい。まあ、しょうがないことだ。
バイトの後輩達は悲惨だった。
彼らがもらえたのは使用済みの浣腸器とかハイヒールとか、そんなものばかりだったのだ。
一番悲惨なのは、ベッドに使われていたシーツをもらった奴だ。
見た目は新品同様の真っ白なシーツだから、もらった奴は喜んでいた。
綺麗だから自宅で使う、とそいつが言っているのを見て、俺は複雑な気分だった。
俺は、今まで血や浣腸液や汚物にまみれたあのシーツを何度も洗濯してきたのだから…。


「早い」「うまい」「安い」
 朝、起きると遅刻が決まっていた。うちの学校は遅刻に滅法厳しい。どころか
早過ぎても怒る。以前試験のためにいつもの一時間も前に家を出たら、早いと言って
宿直に怒られた。男子校はやりにくい。
「……おかん! なんで起こしてくれへんねん」
 半分閉じた目で目覚ましの針の角度を確認し、怒鳴りながら跳ね起きた。おお、
これはやばい。何されるか分からんぞ。前は五分遅れで腕立て百だったし。
 部屋から出ておかんの寝室へ突進する。廊下がずんと音を立て、俺の勢いを
演出した。ばんとドアをはねつけ、おかんに文句を言おうと口を――開いたところに
おかんの枕が飛んできた。うまい具合に顔面にヒットし、視界が暗む。
「あほう! 今日暴風警報でてるやんか」
 飛び起きた直後から怒鳴り続けていたため、おかんには俺がドアを開くタイミングを
予測できたのだろう。枕が落ちて視界が戻ると、おかんは部屋のテレビをつけている。
 NHKは確かに市内の暴風警報を伝えていた。だが俺はまだ焦っていた。生徒手帳
を見るため部屋に戻り、制服からそれを取り出す。台風のページを開ける。
 警報が出そうだったら、出る前に来い。と書いてあった。……なんでやねん。

次「ポール」「雨」「豪語」
あっけない終わり方だった。
絶対に優勝できる!と豪語していた彼の言葉も今となってはただ虚しい。
飴がポツポツと降り始めた薄暗い空を眺めそして再び彼らへと視線を移す。
呆然としている仲間や叫ぶチームメイトには目もくれず彼はただ断ち尽くしていた。
何も言わずただゴールを見つめて立っていた。
自分はどうしたら良いのだろう。彼にどう声をかければ良いのだろうか。
黙ってそっとしておくのも優しさか。しかし何も言わずに帰ってしまっては気を悪くするか。
ポールのあたりに人が集まってきているのがここからも見える。
もう少しで閉会式が始まるのだろう。
ああ、こうなってしまうならいっそ来なければ良かった……。

次は『腕時計』『リンゴ』『壊』
 僕は懐の銃に触れた。小さな硬い金属の固まり。今から僕はこれで人を撃つ。アイツ
の、高価そうなスーツと、真っ白なワイシャツの向こう側にある心臓を狙って引き金を引
く。赤い血が飛び散って、アイツはぶっ倒れる。それで僕の復讐は終わる。僕の父さん
を奪い、僕ら家族のささやかな幸せを壊したアイツを絶対に許さない。
 駐車場は静まり返っている。腕時計の秒針の音さえ聞こえるような静けさだ。僕は
物陰に沈み込むように隠れている。
 僕がじっと見ているのはアイツの事務所のガラスの自動ドアだ。アイツは17:00には
仕事を切り上げて、あの玄関から出てくる。そして事務所の向かいにあるこの駐車場まで
歩いてきて、6万ドルのクルマに乗って家に帰る。だが、今日は帰れない。僕はもう一度、
懐の銃に触れた。指が震えている。アイツの死に様を想像した。僕は鼻血くらいしか血を
見たことが無かった。心臓を撃ったら、どれくらいの血が流れるのだろう? 映画なんか
ではふきだすように血が出ていた……。
「君、何してンの」
 のんきな声がした。アイツが、ジョニー・ブラックマンがそこに立っていた。真っ赤なリン
ゴをかじりながら、左手で高級車のキイを振り回している。腕時計を見た。まだ16:40な
のに。
「ねえボク? 何してンの、って聞いてるんだけどな」
 ジョニーはあごを上げた。僕は懐からピストルを取り出した。ジョニーのほうに向ける。
「僕をそのピストルで撃とうっての? よせよ。小遣いか? いくら欲しい?」
 ジョニーがリンゴをかじって、少しおどけてみせた。だがその目は真剣だった。
「金なんかいらない! よくも僕の父さんを刑務所に送ったな!」
「君の父さん……? 君はひょっとしてレスターの息子さんか……?」
 ジョニーが僕のほうへゆっくりと一歩踏み出し、僕のピストルに手をかけようとした。
「危ないから、こっちによこしなさい」とジョニーは言ったと思う。だが、その台詞は銃声
にかき消されてよく聞こえなかった。
「マジで撃ちやがった! クソ! 痛ェ……! クソガキが……やっぱあいつの息子だ
な……」
そう言って、ジョニーは倒れた。僕は人を撃ったことよりも、何か別なショックを受けて、
その場に立ち尽くした。

NEXT:「正直者」「決断」「沈没」
「おれは後悔している」
 元カノが通う高校のクラスの中で、おれはつぶやいた。彼女は今、何食わぬ顔で国語の
授業を受けている。
 彼女と一緒に南大東島へ旅行に行った帰路、船が沈没して、おれは死んだ。
 救助ボートの定員がオーバーして、「このままでは、みんなが生き残ることはできない」
との指示に従って、正直者のおれは海に飛び込んだ。「すぐに新たな救助ボートが来るだ
ろう」との言葉を信じて。
 おれの姿は誰からも見えない。いわゆる幽霊として、彼女が通うクラス、おれも通って
いたクラスに来て、彼女を眺めている。
 彼女はもっと悲しんでくれていると思っていた。学校を休んで寝込んでいるとか、授業
中も、ひっきりなしに涙をぬぐっているとか。
「受験生だから、仕方ないか」
 こんな風にも、おれは考えた。
 しかし……。
 彼女がおれのことをそんなに好きじゃなかったからか、なんて考えが浮かんでくる。
「生きなければ、やはり駄目なんだろうか」
 彼女の心はこれからも変わっていくだろうけど、おれの心はもう変わらない。
 国語の授業を受ける彼女の横顔が見納めだ。
 おれは決断を迫られている。成仏するか、悪霊として、誰が誰かもわからぬまま、この
世をさまよい続けるか。

次は「忘却」「戦士」「旋律」
 大粒の砂塵が吹き荒れるX1地帯。通称『サンド・レイン』。一体の新型
ロボット戦士が、そこで任務を遂行していた。
「いくら『AI2010』でも、無理なのではないですか?」
「中尉。あの地下には、前世紀の終わり『崩壊の刻』の際に隠された遺産が
埋もれていると聞く。なんとしても、見つけ出す!」
 第二東京Cityの地下深くの司令室からモニタリングを行う少佐が言った。
「ピッチを上げて、掘り返させろ!」
 そのとき、『AI2010』の動きが止まった。
「どうした?」
 オペレーターたちが慌しくキーを叩いている。
「駄目です! 『AI2010』完全に沈黙!」
 少佐は頭を振った。
「ふふ」
 と、その隣で中尉が小さく笑った。
「何がおかしい?」
「いえ、少佐には、この音が聞こえませんか?」
 少佐とオペレーターたちは、耳を澄ませた。
「この音、いえ旋律は『忘却の都市』からのもの。この旋律に触れたAIは、
思考を停止してしまう。人間の耳に入ったときには、精神が侵されてしまう」
 中尉が銃を抜いた。
「終わりです」

次は「思考」「屋根」「押す」
154うはう ◆8eErA24CiY :04/06/23 21:15
「思考」「屋根」「押す」

 「スクープ 女性大臣Aの着替シーンを激写!」
 安っぽい見出しに、ピンぼけの写真。
 俺は病院の待合室で、退屈極まりないスポーツ新聞を読んでいる。
 読まねばならない。これは、親友が命をかけて撮った力作だ。
 シャッターに夢中で、屋根から落ちたカメラマン。それが俺の親友だ。

 数時間も経って、彼は包帯だらけの姿で待合室に現れた。
 「やあ、参った参った。心配かけてすまん」
 運の良い事に数箇所の骨折で済んだ。神の奇跡と医者は言う。

 「神様って本当にいるんだな、お花畑の向こうで、まだだよ、まだだよって…」
 これは敵わない。打ち所がよくて新思考が働いたのか。又は彼の言う通りなのか。
 とにかく無事で何よりだ。
 俺は、堰を切った様に神の存在を説き続ける親友をおいて、待合室から飛び出した。
 それから半年、彼の「力作」を再び見たのは、残業の夜のコンビニだった。

 「スクープ ギリシャのオリンポス山で神々を激写! 宗教界、騒然!」

※けどスポーツ新聞って高い…
次のお題は」「スペース」「ブランク」「開拓」でお願いしまふ。
155154:04/06/23 21:17
あ。「シャッターを押すのに夢中」でない。
ごめんなさい、よければするーしてください m(_ _)m
 目を開くと、病室のベッドに寝かされていた。頭が痛い。
 おれは何者だろう。おれは、なぜここにいるのだろう。思い出せない。
「あなたはスペース・トラベラーで、まだ開拓途上の惑星に旅行されていたのです」
 と、看護婦が教えてくれた。
 なんとなく記憶にブランクがあって、まだ思い出せないことがあるような気がする。
 病室の外が騒がしい。ドアが開いて、スーツ姿の男が入ってきた。
「宇宙警察の者だ。君を逮捕する」
 ポカンとしている間に注射を打たれ、再び目を開くと、見覚えのあるイスに座っていた。
 ああ、そういえば、ここに座って惑星を走り回っていた。手には銃を握っていたような気がする。
 そして、この惑星の生物を撃った。生物というよりも、知的生命体だったかもしれない。
 その表情の変化は読み取れなかったが、彼らの恐怖を確かに感じた。
「そう。君は彼らを殺害した。罪を償わなければならない」
 いつからいたのか、先ほどの男が言った。
「しかし、もうずっと昔のことのような気がする……」
「約百年のブランクがある。その間に、あの惑星も進歩したんだろうな」
 つい最近、地球とその惑星との間で通商条約が結ばれたという。
「惑星の氷結地帯で君は発見されたそうだ。記憶を探査したら、殺害の事実が確認されたとのことだ」
「彼らは、君への罰を望んでいる」
「……どうすれば?」
「安心したまえ。君が生きていた時代の死刑という制度は、もうない。君は貴重な生き証人だ」
 宇宙警察の男は注射器を取り出し、笑みを浮かべた。
「君の記憶はすでに取り出して、別に保存してある。あとは、もう百年ほど、眠っていてくれればいい」

次は「進歩」「貴重」「雲」
157うはう ◆8eErA24CiY :04/06/24 01:41
「進歩」「貴重」「雲」

 天井まで貫く巨大な試験管に、蛋白質の沈殿が見られたのは夜半の事だった。
 「やったぞ……」博士は呟く。
 蛋白質がアメーバとなり、原生動物へと進歩する。その貴重な糸口をやっと掴んだのだ。

 不意に、この8年の研究の疲れが襲ってきた。仰いだ天井がぐらりと歪む。
 助手が思わず駆け寄る。「3日徹夜なんてあんまりです。休んでください、お願いですっ」
 「ありがとう、少し休むよ。5時になったら起こしてくれ」
 「それから・・・これを」
 仮眠室に向かう彼に、助手は日記を下を向きながら手渡す。にっこり笑って受け取る博士。

 一人残って、助手は不安だった。
 昨日の日記、変な事書いちゃったかもしれない。
 今、読んでくれてるのかしら。どうしよう。不真面目だぞって怒られるかも、ああっ。
 外を見ると、厚いガラスを隔てた外界には、放射能の雲が暗い影を落としている。
 明日から又研究かぁ。蛋白質から合成生物だなんて、気が遠くなりそう。

 しかし、それが、人類最後の二人に課せられた、大いなる義務だった。
 交換日記だけで胸が一杯の二人には、とてもそれしか思いつく事ができなかった。

※なんかお約束な展開;
次のお題は:「パン屋」「街」「家」でお願いします。
大きくなった私は小さな国を旅する事にした。
小さかった私はその小さな国の小さな街に住んでいた。
父の仕事の都合でそこへ引っ越してきたのだった。
その街の広場の近くに、小さなパン屋があった。
広場の前でバスを降り、家へと向う途中いつもそこから美味しそうな香りが漂っていた。
私は毎朝、そのパン屋で焼きたてのパンを買い、朝食としていた。
今は、もうそのパン屋は無い。
いつ無くなってしまったのだろう。近くを通る人間に聞いても誰も知るものは居なかった。
小さな街は小さな街のままだったので、誰かしら知っていそうだと思ったが誰も知らなかった。
当時の友人にも話のついでに聞いてみたが彼も知らなかった。
皆、小さなパン屋の存在すら知らなかった。
機上でその小さな街を見下ろしながらすこし、泣いた。

次は『縞』『格子』『水玉』
159寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/06/24 23:14
 天井近くにある小さな窓から僅かながら光が差している。上から
斜め下に差す、みかん色の光が硬い格子の影を生む。
 俺はこの場所に入るのは二度目だった。一度目はこの刑務所が
まだ建設中だった頃。
 
「おーい、五時になったど。片付けしてあがるべ」
 親方の声が無人の廊下を渡り、鉄格子の間を反響し俺の耳に届
いた。ペンキの入った缶に筆を丁重に収め、脚立から降りる。とその
時、ぶかぶかのニッカズボンの裾が何かに引っかかり俺はバランス
を崩す、運動靴のつま先は空を踏み、ペンキの入った缶は宙を飛ぶ。
 ガラガラッ カンカンと音を立てて床を汚した。
 床の冷たい感触が、何故か心地よく俺はしばらくそのまま床にぺた
んと張り付いていた。床に零れた白いペンキが丸く盛り上がり水玉の
ようになっている。
 ペンキ職人も偶に脚立から落ちるわな。俺は心の中で思った。

 五年後の俺は塀の中に落ちてしまった。しかも、自分で塗った壁の
中だった。それは、脚立から落ちるよりも痛かった。テレビのコントな
どでよく見る縞が入った囚人服は嘘だなと思った。何故か関係ない事
が頭を過ぎる。俺の頭の中は過去と現在とが行ったり来たりしていた。

次は「寝不足」「扇風機」「紙コップ」でお願いします。
 蝉の鳴き声で目が覚めた。
 枕もとの時計を見ると、まだ5時。1時間を無駄にしたことになる。
 多少寝不足気味だが、尿意を催してもいたので紙コップを手に、ベッドを出た。

 マジックで自分の名が書かれた紙コップを手に病棟を歩く。既に地平線から
全身を現した太陽が、古びた病棟を白く染め抜いていた。
 額にぽつりとしずくが落ちた。天井を走る鉄パイプに結露した夜露が落ちたのだ。
見れば足元に、転々と黒い痕があった。
 天井でゆったりと回る扇風機の羽根を追いかけるように、蝿が円を描いて飛び続け
ている。駆動音も羽音も、ひとの気を滅入らせるには十分だった。

 紙コップに尿を受け、保管棚に置く。個室から出ると、白かった世界が無色に燃えて
いた。背中を伝う汗が、どっと増した。
――暑い。
 袖で額をぬぐうと、べったりと汗が染みた。
――高原のサナトリウムがこうも暑くちゃ、治るものも直らないじゃないか。

次のお題は「ペンキ」「みかん」「コント」で。
ジャンキーのジャッキーがビニール袋から顔を上げて臭い息を吐きながら言った。
「…もうペンキ吸うの飽きた」
俺も同感だが、まともなドラッグを買う金がないのだからしょうがない。
ここ数週間嗜んだのはペンキばかりで、それすらも今は底をつきつつあった。
「…畑に大麻でも生えてないか探しに行こうぜ」
ジャッキーの思いつきに従って、俺達は近くのみかん畑に向かった。
いくら探してもみかん畑に大麻は生えてなかった。だがジャッキーが言った。
「…みかんもドラッグになるかもしれない」
そうだ、木の枝も信じれば聖剣になると言うじゃないか。試す価値はある。
俺達はみかんを何個か失敬して帰った。
さっそく、みかんを適当に乾かして火をつけて吸ってみた。
たちまち世界の色彩が強烈なコントラストを成し始めた。
ジャッキーにも効果がちゃんと出てるらしく、彼は素っ頓狂な歓声をあげた。
こいつは大成功だ。これでペンキが尽きてもしばらくしのげそうだ。


「チョコ」「エル」「スピード」
162うはう ◆8eErA24CiY :04/06/27 12:23
「チョコ」「エル」「スピード」

 「大きいことは、いいことだー」

 太目の指揮者が気球に乗って、大き目のチョコを売り込む。
 そんなテレビのCMにつられ、店の棚のチョコをうっとり眺めた。
 たしかにそれは他のより大きく、エルサイズと言えるものだった。

 「これからは、なんでも大きく、デラックスになってゆくんだね」
 新たに舗装された道を、荷物満載のトラックが、フルスピードでかっとばす。
 へらへら笑う子供の俺を、ドライバーはがなりたてる。
 「気をつけろ、死にたいか!」

 そんな言葉におびえながらも、明るい未来を信じていた。
 みんな優しくにニコニコしながら、「デラックスな生活」をおくる未来を。
 思えばホントにアホだった。
 エルサイズのチョコレートは、大きくなった分、どこか薄っぺらになっていたのに。


※安いこともいいことだー
次のお題は:「デラックス」「経済的」「限定」でお願いします。
弁当屋を経営している叔父貴から急に電話があった。
新しい弁当を作ったが売れないので困っているという。
「ウルトラグレートスーパーハイパーデラックス弁当」という名前で、
税込で241円という経済的な値段にも関わらず、今まで一度も注文されたことがないそうだ。
一体どんな弁当なんですかと聞いたら、
ウルトラグレートでスーパーそしてハイパーかつデラックスな弁当だとの答えだった。
具体的にどんな食材が入ってるんですかと聞いても、
ウルトラグレートでスーパーそしてハイパーかつデラックスな食材だの一点張り。
僕は話すのに疲れ、とりあえず名前を変えた方がいいですよと言って電話を切った。
数日後、名前を変えたら弁当が売れるようになったと叔父貴からお礼の電話が入った。
あまりに注文が殺到するので一日30食限定にしようかとすら考えているとのこと。
その日の夕方、叔父貴はお礼だと言って件の弁当を届けてくれた。
新しい名前を見てみると、「ウルトラグレートスーパーハイパーワンダーミラクル弁当」だった。


「叔父貴」「お勤め」「ご苦労さんです」
[どうということはない。ただの安楽死さ]
 合成音声がスピーカを通して出力される。
[私はかつて、生身を備えた人間だった。キミは躊躇うかもしれない。しかし、それも10年前までのこと。今は違う。ただの機械だ]
 憶えている。彼は実験室で倒れていた。病魔に冒され、迫り来る死の恐怖から逃れるべく無謀な実験を自らに施し、失敗した。
それが、彼の死に対する世間の解釈だった。
[自動車の中枢システムを体に選んだ理由は簡単だ。冷蔵庫や洗濯機が喋りだしては大変だろう?
車なら、ナビゲータを通して声をかけてやることはできる。そこが魅力的だった]
 映像ではなく数式で流れる走馬燈を出力するように、合成音声は独白する。
[あの娘を一人にしたくはなかったのだよ。あの時、私は死ぬわけには行かなかったのだよ]
 しかし私は殺さなくてはならない。
[いや、違うな。あの娘を手放したくなかっただけだ。死は別れだ。私は死にたくなかった]
 電脳を破壊するべく、露出させた端子に鏝のような機具をあてがう。
[私を叔父貴と呼び、一生懸命小走りで大人の歩幅を追っていたじゃじゃ馬も、今では立派な成人だ]
 スイッチを入れるだけで、彼の回路は焼き切れて、全き死を迎える。
[頃合いなのだよ。望みは限りなく生まれてくる。その一つが復讐だ。あの娘の為だけに存在を堕とした私は、あの娘だけのもの。故に報復は為された]
 狂った機械は、処分されなくてはならない。それが私の仕事。私にしか出来ない、私の仕事。
[私は不死だ。私にとって死とは、自らが定める刻限なのだ。それが、今なのだよ。さぁ、やっておくれ]
 一瞬散った火花と共に、私は彼の命を奪った。

「お勤めご苦労さんです」後輩の声に振り返る。既に何度となく繰り返した死神の作業だ。涙は流れていないとわかっていた。
「何でこの仕事、引き受けたんです?」遠慮しているのか、私の顔を窺うように言う。
「彼が人を殺したのは、死にたかったから。だから私が壊してあげるのよ」
 人を捨ててまで側に在り続けてくれた叔父貴への、せめてもの返礼なのだと信じて、私は明日も数十台を殺す。
 抵抗せず私に壊される叔父貴達が、本物なのか偽物なのかもわからないままに。

次は「死」「作業」「娘」でお願いします
暑い。
死ぬほど暑い。
何だってこんな炎天下で草刈りなんぞやらねばならんのか。
しかも世の中には草刈機やら除草剤やら便利な道具がいくらでもあるのに、いまどき草刈鎌。
ありえない。わざわざ買いに行かなきゃならなかったし。
隣で作業している娘も空ろな目をしている。
それもこれも、あのやたら仕切り屋な自治会長のせいだ。
勝手に決めておいて、自分は「私、肌が弱いから」の一言で逃亡か。
ちくしょう。呪ってやる。
腹いせに思い切り乱暴に草を引っこ抜く。根元にミミズがからみついていた。
ああもう、ほんとに腹が立つ。気持ち悪いんだよ馬鹿野郎。

次は「麦茶」「ガーデニング」「セミ」で。
喉が渇いたからといってすぐに麦茶を飲みたがるやつは屑だ。

中嶋はそういうと、俺を軽蔑的な眼差しでみた。俺の手にはそのとき、冷たい麦茶の缶が握られていた。
そして、彼の手にはあったかいお汁粉の缶が握られていた。ベンチに置かれている部員用のクーラーボックスは空だった。
暑い日の出来事だった。セミの鳴き声が幾重の交響曲になって響き渡っていた。
中嶋はもう一度いった。

喉が渇いたからといってすぐに麦茶を飲みたがるやつは屑だ。


中嶋はそういうやつだ。
前に中嶋に連れられてガーデニングの講習にいったときも、俺の方が先生の受けがよかったことがあった。
きっと俺はメモをきちんととって、質問のときに手をあげて積極的に発言したからだろう。
あのときも帰り際に「ガーデニングの講習にいってわざわざ質問しなけりゃ理解できないやつは馬鹿だ」と非難して俺を殴った。


負け惜しみが強い男だった。
そんな中嶋のことを俺はひどく恨んでいた。今、俺は電柱の隅で中嶋が来るのを待っている。
中嶋、お前のことが俺は好きだったよ。けれど、もう我慢の限界だ。
いくら俺が磯野って名前だからって、お前と一緒に行動しなければいけないという道理はない。俺は自由だ。
足音が聞こえてきた。俺はハッと腕時計を確認した。中島が塾から帰ってくる時間に相違ない。
金属バットを振り下ろす時、俺は明日の朝日新聞の一面を夢想して、股間がエレクトするのを感じた。

次は
「歓喜」「世界の中心」「相撲」
私が生まれてから初めて、この地は歓喜で包まれた。
はっきりしたことは聞かされなかったけれど、一人の探偵がこの地を救ってくれたという。
父の話では、この地に犯罪組織『死ね死ね死ね団』が巣食ったのは私が生まれる十年も前。
彼らは三十年間近くもこの地を恐怖と犯罪で覆っていたことになる。
もし輝ける世界の中心が存在するとすれば、この地はそこから最も遠い場所だった。
この地を救ってくれた探偵には、私個人としても大きな恩がある。
もし彼がいなければ、来月十八歳を迎えた日に、私は団員達の夜の相撲相手として彼らの本部に連れて行かれていた。
私はその探偵に会って、せめて一言お礼を言いたかった。
でも、役目を終えた彼はとっくにこの地を去っていて、どこに帰ったのかも分からなかった。


「邪魔っけだ」「放り出せ」「消しちまえ」
168岸和田 ◆JNnFWYTu2A :04/07/01 21:36
「邪魔っけだ」「放り出せ」「消しちまえ」
 ある日の昼、僕のケータイに電話がかかってきた。
前の父だった。前の父はある食品会社で部長についていたが、ノイローゼになり、
蒸発したまま戻ってこなかった。その父からの電話だった。
「元気か……お前、俺はいま、飛行機に乗ってるんだが……」
「何でだ?アンタと俺はもうなんの関係もないんだよ。とっとと切るぞ、TV見てる」
「TV、なんて消しちまえ。窓から放り出せ。大事な、話なんだ」
僕はとっととこの電話を切り、アイスを舐めながらバラエティ番組の続きを
見たかったのだが、父の声にはどこか説得力があった。
「何だよ、早くしてく
          「飛行機が墜落する」
……何だって?飛行機が墜落する?電話の向こう側からは、微かな悲鳴、
フーンという音が聞こえていた。その音はひどく大きくなっていた。
僕は電話に向かって叫び、父を求めた。電話は死んでいた。
 僕はふらふらとTVに向かうと、番組にテロップが流れた。
「…飛行機墜落」とだけ読むと、僕はTVを持ち上げ窓から放り投げた。
邪魔っけだ。

 「記念」「夜」「7月7日」
「今日が何の日か覚えているかい、ハニィ」
眉毛を上下に動かしながら、僕は少しだけキザに言ってみた。
「燃えるゴミの日ね」
瞳はぷくぷくとした白い腕を持ち上げて、中身たっぷりのビニール袋を僕に手渡した。無表情で。

結局言いそびれた。今日は僕と瞳の結婚記念日なのだ。それも、10周年。
10年過ぎて瞳は30キロ近く太った。
僕は80キロだから差が10キロ程に縮まったことになる。それはちょっと嬉しい。
でも悲しいこともある。以前の彼女はとってもロマンチストだった。
「ねえ私、今日という日にあなたと結婚できて、凄く幸せよ。
 ああ、7月7日!夜には織姫と彦星が、きっと私達を祝福してくれるわね!
 この素敵な日を、一生忘れない……!」
あの時の彼女の言葉、そして名前にぴったりのきらきらと光る美しい瞳!
僕も一生忘れないと固く決意した。
子供達は都合良くお泊り会で、だから僕は彼女を食事に誘って
そうして空の星にも負けない輝きの指輪を渡すつもりだったのだ。

あの様子じゃ忘れてるよなあ……。その日一日、何となく元気を失ってしまった。
そんな瞳に、オシャレなレストランの予約でも明かしてびっくりするところを想像し
気を紛らわせたかったけど、指輪購入に張りきりすぎて回転寿司がいいとこなのだ。
家に帰った僕は驚いた。電気がついていない。真っ暗だ。
「一人で出かけたっていうのか?あんまりだよ瞳……」
すると途端にランプが灯って、並べられた食卓から溢れんばかりのご馳走を照らし出す。
「お帰りなさい。今日は結婚記念日よ、ダーリン」
きらきら輝く瞳が僕を映していた。


●お次は、「くしゃみ」「緊急」「紙」です。
170名無し物書き@推敲中?:04/07/03 01:44
まあ、どこの世界にもアホな奴ってのはいるもんだが、
これは別に精薄のものに限ったことじゃない。
心が貧しいやつや気持ちのせまい奴、取るに足りない奴もアホと言うわけだ。
ちょうどひとつ上のレスみてえな奴だ。、「くしゃみ」だの「緊急」だの「紙」だのって、
全部意味が違うじゃねえか。
「くしゃみ」「緊急」「紙」だってつがう意味の言葉を短い中で使えってもねえ。
お題に気の利いた即興文を当てることに疎い文章職人さんたちも、
お題がこんなアホなもんじゃあ可哀想ってもんだ。
難しけりゃいいってもんじゃねえだろ。少しはお前も考えな。
緊急ってのは、普段使わねえ言葉を無理に使おう使わせようとする
お前みてえな奴の為にある言葉だよ。チンケな野郎だ。


っつーわけで再開。
「記念」「夜」「7月7日」
「くしゃみ」「緊急」「紙」

『緊急事態発生!緊急事態発生!』
 ビービーと耳障りな女の声で、合成音声が俺の安眠を妨げる。どうやら出番だ。まあ文句は言えない。
悪人って奴は、正義の味方の睡眠時間なんざ慮っちゃくれないわけだからな。
 そう、この俺は正義の味方。ちょいとガラの悪いゲーセン店員とは、俺様の世を忍ぶ仮の姿!
果たしてその正体は、くしゃみをすることで「ずばっと解決☆怪力紳士」へと変身することができる
超イケメンである!ま、正義の味方隊員No.5なんだけどな。要するに新人。
 ぱっとしないゲーセンで、あまり見ないもぐら叩きもどきのゲームの最高得点を叩き出した俺に
「君も街の平和を守ってみないか!」と、白い歯を光らせたゲーセン店員に肩に手を置かれた時は
思わず殴りかかった。しかしそいつが謎のスイッチで入り口を開き、地下基地へと通された次の瞬間には
俺は答えていた。「喜んでやってやるよ!」
 ゲーセンとは仮の姿、そのゲームの数々は潜在能力の測定器で、隊員を店員に仕立て上げ
地下基地に住まわせて世間の平和を守らせる傍ら、新たな能力者の獲得に励むというわけだ。
よくできてる!それだけじゃなく、半端なくカッコイイ!俺はスカウトされたことに感謝している。
 元々腕っ節には自信があり、喧嘩じゃ負けたことがなかった俺だが
滅多にひかない風邪をひいて、妙なことになることがあった。どうもなよなよするのだ。
いや、なよなよというよりはまるで優等生。親や先生受けはいいが、喧嘩中にそうなると困ったことになる。
自分からおっぱじめた喧嘩を止めようとしてしまう。
止めようと両者を引き離そうとして胸を押し、10メートル吹っ飛ばす。頭がおかしいだの卑怯だの散々だった。
 俺は理由もわからず参っていたが、スカウトされ訓練を受けるなどして、
わけもわかったし(くしゃみがトリガーだった!)、ある程度のコントロールもできるようになった。
しかしくしゃみばかりは、これを使わねばどうしようもない。
「出動よ、No.5!」
「この私に任せておき給え!」鼻に紙をよじって製作したこよりを突っ込んだままで、私は答えた。

「遊園地」「ミラーハウス」「迷子」
172うはう ◆8eErA24CiY :04/07/03 10:54
「遊園地」「ミラーハウス」「迷子」

 ミラーハウスは遊園地の外だ。「すまんが、遊園地の前にここだ!」「うんっ」
 娘の手をひいて、「お金は出口でどうぞ」という看板をくぐった。

 最初の部屋は、「アメリカ人の間」。外人のマネキンが、男の横面を札束でひっぱたいている。
 仰々しい電光パネルと、大音量のスピーカーが「解説」を始めた。
 「金で他人を操るアメリカ人。でも、何か思い出しませんか?
  そう、これはかつてエコノミックアニマルと言われた、金がすべての日本人の合わせ鏡……」

 「毎度下らん!」「おもしろかったよー」と、次のドアをあけると「韓国人の間」だった。
 韓国人のマネキンが、嘲りあい、小競り合いをしている。
 「嫉妬と中傷の韓国人。でもこれは、人との比較ばかり気にしてアラ捜しに終始する日本人の合わせ鏡……」

 「ああ、わかってるよ!」「しゅうしってむつかしいね」、次の部屋は「中国人の間」だった。
 中国人のマネキンが、工場で外国製品のそっくりさんを大量生産していた。
 「模倣とコピーの中国人。でも、かつて日本人は……」

 迷子になるほどの部屋数を回りきり、最悪の気分で出口に着いた。早く出て遊園地に行こう。
 「大人1000円、子供1500円ですね。はい、どうぞ」と国連職員が出口で会釈する。
 しかし、あれだけ嫌なもの見せられて、たった2500円……まあ、入場料位はういたけど。

※料金設定で、意外と迷った;
次のお題は「札束」「下校」「中小」でお願いしまふ
173名無し物書き@推敲中?:04/07/03 12:19
通りがかりの者だが、弁当屋の話書いた奴、はっきり言って巧い!
おれは出版業界の人間だが、あんた、もしかしたら才能あるかもよ?
内容的にはなんてことない話しだが、つい読んでしまった。じつはおれ、
このスレや、アリ、ごはん、なんかの小説もどき嫌いなんだけど、あんた
マジ巧い!
このレス読んで自作自演と思うヤツいるだろうけど、作者は違うことがわ
かるよな。あんた、こんな所で文書書くのもうやめとけ。筆が荒れる。
がんばんなよ、弁当屋の話がマグレでなければ、そのうち新人賞取りそう
だよ。
                        通りがかりの編集より
ジョージが度胸試しとか言って盗んだ自転車でハイウェイを逆走したあげくトラックに激突した。
今のところまだ意識は正常だが、あと数日の命だという。
ジョージは死ぬ前に「札束」を触ってみたいと言った。それも100ドル札の札束だという。
100ドル札。一度もお目にかかったことがない。本当に出回ってるのか疑問に思うぐらいだ。
札束にするとなると100枚。10,000ドルだ。あと数日で都合できる金ではない。
この辺りには俺やジョージを含めて貧民ばかりだから下校中のガキをさらって身代金を取るのも期待薄だ。
中小企業の社長の息子か娘にでも当たればいいが、その確率は道で100ドル札の札束を拾うのと同じぐらいだろう。
ジョージをこのまま死なすのは忍びない。何か方法を考えなければ…


「インク切れ」「ままならない」「研究」
175名無し物書き@推敲中?:04/07/03 21:50
>>173
本物かよ……
「インク切れ」「ままならない」「研究」

私が学校を辞めてこの喫茶店で働くようになってから1ヶ月が経つ。
裏通りなので目立たない。BGMはボサノヴァ調。
出てきたばかりのコーヒーもたちまちぬるくなってしまうような、気だるい雰囲気の店だ。
食べこぼしに汚れたテーブルを拭いていると、カウベルの音とともにドアが開く。客だった。
若白髪のある眼鏡で、肉を削ぎ落としたように痩せていて、蒼白で陰気で、
着ている服まで暗色だった。彼は大学の研究室でメタンフェタミンを扱ってるらしい。
いつもは無口なのに、今日はひどく疲れた顔をしてぽつりぽつり語り始めた。
「教授は何もわかってない。あんな乱暴な投与の仕方では正確なデータなんか取れっこない。
 マトモな実験もままならないんじゃ俺たちは置き物と変わらないじゃないか」
話の結びに私の目をちらと見る。反射的に軽く頷き返す。
少しは気が晴れたのか、ノート型のパソコンを取り出した彼は論文を読み始めた。
「これで充分だろ。さっそくセンセイに提出するとしようか」
そう言って印刷のキーを叩いた。憔悴した様子の彼。でもインク切れだった。

「素足」「好き嫌い」「レール」
177名無し物書き@推敲中?:04/07/03 23:33
好き嫌いの、多い俺は、自分の人生を他人の決めたレールには乗せたくないと思う。
他人の決めた靴を脱ぎ捨て素足になるのだ。
俺は永遠に走り続けるから、
これはこの支配からの飛翔・・・
みなさんこんごも応援して下さいお願いします。

             6年2組 久保亨

次は
「吝嗇」「卑小」「スレッド」
178名無し物書き@推敲中?:04/07/04 00:49
>>170
本物かよ……
「問題を配ります。ベルが鳴るまで裏返したままにして置いてね」
 前からプリントがまわってくる。一時間目は国語だ。信二は国語が大嫌いだ。
 キーンコーンカーンコーン。
 40人がいっせいにささっとプリントを表に返し、シャープペンのかりかりという音が教室中から聞こえる。信二の机は例外だが。
 
 第一問。漢字の読み方を書きなさい。
 「翻弄」えーと。はね、は……いや、う、かな。どっちにしろ2文字めはわかんないや。
 「吝嗇」ぶん、かな。ばらって漢字、こんなのじゃなかったっけ。画数が少ないかな。

 信二はためいきをついて、シャープペンを置いてしまった。文章問題は、最初から手をつける気はないらしい。

 二時間目は英語だ。信二は英語も苦手だった。

 第一問。単語の意味を書きなさい。
 「thread」す、す……スレッド、か!「板」だな。まちがいない。
 「jostle」だめだ。さっぱりわからない。
 
 あーあ。早く帰ってパソコン開けたいな。


注:「thread」は「板」という意味ではありません。

「ボールペン」「水着」「硬貨」
180kt:04/07/04 12:00
しまった。
お題未消化です。
次の人はもう一回「吝嗇」「卑小」「スレッド」でいいと思います。
すみません。
「吝嗇」「卑小」「スレッド」

 吝嗇家が一人いる。某大学の友人だ。いや、卑小とまではいかない。そんな奴なら、私
と出会うことは無かっただろう。彼は最近できたドケチ板に常駐していてね。そこでケチ
さを磨いているのさ。為になるスレッドを発見すると、すぐ私に教えてくれるんだ。そん
な優しい一面もある。彼のおかげで私も立派なちゃんねらーだよ。

お題「早い」「模様」「音」
182文吉:04/07/05 01:19
「早い」「模様」「音」

「眠れない」
 何度目の呟きになるだろうか。そう言って天井に手を伸ばしたのは、午前三時過ぎだっ
た。羊の数を数えてみたり、天井の模様を眺めてみたりと色々試してみた。それでも
「眠れいない」
 一度だけ眠りが訪れた瞬間があった。午前一時過ぎのことだ。その時は、突然秒針の音
が気になってしまい、眠気が去ってしまった。早いもので、あれから二時間以上が過ぎて
いる。
 僕は諦めて起きてしまおうと思い、何度か電気をつけてみた。そのたびに、
「まだ起きてるのか寝ろ」
 そう怒鳴られた。そもそも何故眠るんだ? よし、僕はこれから一生眠らないぞ!
 そう決めて、眠らないように努力を始めた。すると、とたんに眠気が訪れた。僕は
「眠い」
 そう呟いて、天の邪鬼な自分を出し抜けて嬉しい気持ちで、目をつぶった。

お題は「リストカット」「文学」「ビデオ」
部屋が暗いな。テレビのスイッチを入れよう。
明るくなった。これでいい。この時間になるともう何もやっていないね。
砂嵐と、ザーという雑音だけ。これだ。これがいい。
ビデオに撮ってエンドレスで流したいくらい砂嵐は素敵だ。
単調な雑音も集中するのに丁度いい。
なぜそんなことをするのかって?キミは前もそう聞いたね?
そう、あれは僕が手首を切ったときだった。
文学だよ。生き方が文学でなければ文学は書けない。違うかい?
リストカットが駄目ならせめてこれくらいはいいじゃないか。
ご覧。番組をやっていないテレビ。意味がない。
文学志望青年。誰からも必要とされていない。
ベストマッチだとは思わないか?実に文学的だ。
184183:04/07/05 01:56
次は「自由の」「因果」「ライン」の三語で。
185名無し物書き@推敲中?:04/07/05 15:50
「自由の」「因果」「ライン」
 韓国の人々の日本に対する「怨念」(いわゆる恨)は、まだ解けていない。
日本の安全保障上、とり得ない選択ではあったが、いっそロシアのまかせてしまえばよかったとさえ思う。
実際、韓国最後の皇帝、高宗は韓国にあるロシアの公使館で執務していたのだから・・・・。
この恨(ハン)は韓国の初代大統領李承晩の対日政策にはっきり見ることができる。
さまざまあるが、公海自由の国際海洋法原則を無視して、日本漁船締め出しを目的とした李承晩ラインを設けた。
多くの漁船が不法に拿捕され、日本人船員1人が射殺されている。日韓国交正常化が14年近くもかかったのは、韓国側の恨が容易に解けなかったからである。
 その恨の發端は、戦争中、日本には国家総動員法という法律があったことから始まる。
1937年にできたこの法律は、総力戦態勢を作るため国家のあらゆる物資、労働力を動員できるようにするもので、国民を「徴用」の名のもとに、強制的に特定の仕事につかせることができた。
そして、この法律が朝鮮でも執行されるのが翌1938年である。公式資料はないが、敗戦で一度帰国した韓国人が、朝鮮戦争、国内の生活苦などからUターンしてきたケースがほとんどだという。
仮にそうなら、強制連行されたまま、帰国するチャンスを失って、永住韓国人(朝鮮人)になったというストーリーは虚構になる。
いずれにしても必要なのは検証であり、1910年の日韓併合条約と(第2次世界大戦における)日本の戦争責任が追及されると言及している方々はその因果関係を証明しなければならないのである。

「密教」「銃刀法違反」「牛乳」
事故であと数日の命となったジョージの願い、それは100ドル札の札束を手にすることだった。
すでにジョージは昏睡に陥りがちの状態だという。ジョージの願いを叶えるなら急がなければならない。
札束を手に入れる方法を考えながら道を歩いていると、ふと小さな東洋風の建物が目に入った。
ちょっと前までこの辺りにはびこっていた密教だかいう宗教の本部だ。
先日、変な薬を使った儀式をやったらしく全員ラリって日本刀で斬り合いをやったあげく信者の大半が死亡し、
生き残った連中もみんな銃刀法違反で逮捕されてしまって、今ではこの本部は無人である。
宗教組織なら献金(連中はお布施と呼んでいたが)を本部に蓄えていたかもしれない。
ちょっくら探しに忍び込んでみることにした。
入り口には、主がいなくなった後も届けられていた新聞や牛乳が山になっていた。
牛乳の大半はチーズと化していた。試しに少し食ってみるとなかなかの味だった。
無人の建物の中を1時間ばかりかけて探したが、残念ながら隠し金は出てこなかった。
とりあえず、残っていたチーズをかき集めて売ったら実に好評で、売り上げは100ドル程になった。
両替という問題もあるし、金額はまだ目標の100分の1だが、ひとまず前進である。


「政府公認」「ハンマー」「処分」
187文吉:04/07/07 03:40
「政府公認」「ハンマー」「処分」

「それじゃあ今月中ならいつでも良いんだな?」
 携帯の向こうからYESの返事が聞こえてきた。
「確認するぞ。処分してほしい男の名前が、ウスバ・カゲロウ。40歳の男。殺り方はでき
れば撲殺。撲殺にする場合は政府公認のハンマーを使ってほしいと。なぁ純粋に興味から
聞くんだが、なんでこんな殺し方なんだ? 俺も業界長いけど、初めてだぜ。あんた俺の
噂聞いて、連絡してきたんだろ?」
 携帯向こうからはなんの返事もこなかった。
「わかった余計なこと言っちまった俺が悪かった。ただこれだけは答えてくれ。相手と殺
り方は間違いないだろ?」
 YES
「OK。じゃあ、金は前金だから頼むぞ」
 返事もせずに電話は切られた。そして五分後。俺の口座には間違いなく50万の金が振り
込まれていた。
「さて商売しますか」
 そういいながら、金物屋まで政府公認のハンマー(通称:ナグリ)を買いに出かけた。

お題:頭蓋骨 ウサギ ダーツ
 月に一度か二度、私は一人でそのバーへ行く。
 何度か友人を伴ったこともあるが、「気持ちが悪い」と、ことごとく不評だった。
 マスターの趣味は頭蓋骨のコレクションだ。人はもちろん、犬、猫、鳥類、ライオンやキリンなど。いろいろな種類の頭蓋骨が、カウンターや壁に飾られている。大きな黒い目が客をうつろに見つめている。
 この店で唯一明るいのは、バニーガールの格好をしたウエイトレスだ。背中まであるきれいな黒髪と、ぱっちりとした目が印象的だ。いつもにこにこと愛想をふりまいている。
 マスターは彼女のことを「ウサギちゃん」と呼んで、かわいがっているようだ。
 私は一人で来てダーツをしたり、「ウサギちゃん」とおしゃべりをしたりする。
 
 しかし、今日久しぶりに店に来てみると、ウエイトレスが代わっていた。バニーガールの格好をしてはいるが、今度の子は小柄でショートカットだ。
 カウンターに座ってマスターに聞いてみた。
「『ウサギちゃん』どうしたの」
「ああ、前の子ね。僕のことを暗いとか店の趣味が悪いとか、ぶつぶつ言い出してさ。面倒だからコレクションに加えたんだ。きれいな子だったからね。骨もきれいだよ」
 マスターが指差した先は、この前までダーツをかけてあった壁だった。今は白々とした頭蓋骨が飾られている。
「今度の『ウサギちゃん』もかわいいからさ。これからもごひいきに、よろしくね」
 マスターはいつものウイスキーを私に出しながら微笑んだ。


「神宮球場」「ひまわり」「パソコン」
「神宮球場」「ひまわり」「パソコン」

「そうだ、小説を書こう」
 そう思ったのは神宮球場の土手式の外野席で寝転んでいたときのことだった。
 ナイターのことなど、とうに吹き飛んだ。
 小説を書くには紙とペンがあればいいが、どうせならパソコンを使うのも悪くない。
 知人が「いらないパソコンがあるんだ」と言っていたのを思い出す。
 ここからだと10分も歩けば行けるだろう。
 それにしても小説を書こうだなんて。
 誰かが言っていたが、あれが「神が降りてくる」というものだったんだろう。
 できれば、また神がきてくれるとありがたい。
 街灯と窓明かりのともる住宅街を歩いていたら、通りがかった家の庭に、誰かがいた。
「君の神もたいしたことないな」
 ひまわりがそう言った。
「おまえになにがわかる」
「なにもわからない、ということはすべてを知っている、ということでもある」
「ミッチェルの引用だな」
「神の存在証明は?」
「なにもわからない」

「毛狩り隊」「山百合会」「主に言葉ではなくプレイする姿から伝わってくるもの
」(略可)
190名無し物書き@推敲中?:04/07/11 20:32
私は中学の入学式の日に交通事故に遭い、三ヶ月も入院してしまった。
七月に入ってからようやく初登校すると、担任の先生からできるだけ早くクラブに入るようにと言われた。
この学校はクラブ活動に特に力を入れていて、生徒はクラブに入ることが必須である。
それではと登録されているクラブのリストを見ると、面白そうな名前のクラブが二つほど目に入った。
一つ目は毛狩り隊というクラブだった。羊の毛でも刈るクラブだろうか。
試しに見学に行ってみると、全員スキンヘッドの部員が剃刀を持って迎えてくれた。
さらに部長と思しき人が、活動の成果だと言って全裸になり産毛も体毛も一本もない肉体を見せた。
私は逃げるようにその場を去り、もう一つのクラブへ行くことにした。
もう一つのクラブは山百合会という名だった。たぶん花に関係するクラブだろう。
部員は女子ばかりだった。無理もない。
一つ意外なことに、部室には山百合はおろか花の一輪も飾られてなかった。
それに備品の本にも花に関連するものが一つも見当たらなかった。
思い切って、ここはどんなクラブなんですかと尋ねた。すると部長らしき人がにやりと笑って言った。
「どんなクラブか、それは、主に言葉ではなくプレイする姿から伝わってくるもので判断するといいよ」
プレイする…スポーツ系のクラブだったのかな、と思っていると、その部長らしき人と、
もう一人の部員がゆっくりと服を脱ぎ、そして『プレイ』を始めたのだった。
私は呆然とそれを見守るしかなかった。
やがて二人のプレイが終わると、部員全員が私にもプレイをしようと迫ってきた。
私は慌てて逃げ出した。あまりに慌てて逃げる途中で階段から転げ落ち、また三ヶ月入院することになった。


「放課後」「電磁波」「クラブ」
191「放課後」「電磁波」「クラブ」:04/07/11 23:01
 今夜も、大陸からの電磁波が俺の脳を蝕む。
 地下にある会員制クラブ「ムー」は、俺たちの同志が集まる場所だ。
 俺たちは故郷、はるか昔に海底に沈んだあの大陸を救わなければいけない。
 いくつもの転生を乗り越えて、俺たちはようやく仲間として集うことができたのだった。
 だが大陸を乗っ取った「奴ら」は俺たちが上陸できないように、俺たちの体力をじわじわと奪うように、
電磁波を発してくる。あれが「奴ら」のやり口だ。くそっ! 汚い奴らめ!! 俺は自棄になって酒をあおる。仲間の武道士が心配してくれた。
 こいつは見た目はひょろひょろしていていかにも弱そうだが、その実大陸武道の師範なのだ。俺たちにも護身の構えをいろいろ教えてくれた。
たとえばカモノハシの構え。こいつはすごい。相手の攻撃を一回だけ無効化できる。

 大陸の神官である俺は魔力が強いので、電磁波攻撃を一番モロに喰らってしまう。だから酒をあおって苦しみをごまかすしかないのだ。
…そうだ、苦しくなんかない、胸が苦しくなんかない。
 俺は姫にふられたりなんかしていない。
「…なぁ、そうだよな? 吟遊詩人」
「…そうだよ、当たり前じゃないか。お前は神官にして伝説の魔剣士で俺たちパーティーのリーダーなんだぜ? 姫のいいなずけはお前しかいないじゃないか!」
 姫は俺なんか知らないといって逃げる。転生の記憶を取り戻していないのだ。俺が説得すると彼女は怒り出し、そして泣き出して走っていってしまった。
「…そうだよな、俺は姫のいいなずけなんだよな、魔剣士、神官、俺はパーティーのリーダーだ…。なあ、吟遊詩人よ」
「何だ?」
「俺たち、そろそろ夢から覚めないといけないんじゃないかな」
 ここは高校の体育館の地下倉庫。ムー部の仲間は俺と武道士と吟遊詩人の三人しかいない。俺たちは毎日放課後ここで秘密会議を開いていたけれど、
俺は悟ってしまった。

 俺たちは、大陸には行けないんだよ。
 缶チューハイの残りを一気にあおってそう呟くと、吟遊詩人は
「そういう格好良いことを言うのは俺の仕事じゃないか」
 と言って寂しそうに笑った。
 平均台の上で、武道士がまたナマケモノの構えをしていた。

「バファリン」「台風」「儒教」
固有名詞バリバリじゃねえか?
 残り半分となったバファリンが、家を中心に円を描いて飛んでいる。
世界の終わりはきっとこんな風に違いない。
 胸の痛む光景を前に、先祖の霊がバファリンの半分を教えてくれた。
失われたものが、欠落している。
 頭上にある低気圧の音が耳を痛めつける。
世界には蓋がしてあった。ノイズの隙間に時折気象情報が現れる。
 崇拝すべき高低線は、儒教の定める根源の存在を思い起こさせた。
蓋が落ちてくる。支えを求めて、過去にあったものを傍らに探した。
 先祖は優しさで出来ていた。
だが、世界を見回すと、半分が欠けていた。
世界は滅びる。
 台風が降臨した。


固有名詞は避けましょう。
次は「おっぱい」「幸せ」「くすぐったい」でお願いします。
 幸せを見つけに行こう。よく分からなかったが、その友人の言葉に俺は従った。
しばらく歩いた先には、だだっ広い道路があった。そして、その端の方に一台の車。
他の車は全く走っていない。それもそのはず、まだ開通していない道路のようだ。
 俺は友人に目的を問いただそうと思った。ところが、奴の顔はドンドン紅く染まっていき、
俺はなんとなく威圧されてしまい、何も言えなくなってしまった。
 突然、友人が俺の背中を猛烈に押した。車の助手席側に思い切り叩きつけられた。
胸を打ちつけてしまい、咳き込む。友人は鼻息をフンフンさせて運転席に乗り込んだ。
 友人は一転落ち着いて、キーを差込み、エンジンをかけた。せっかくだから俺も乗った。
 近くで友人を見ると、落ち着いているのではないと分かった。小刻みに震えている。その震えが
どこから来るのかは、よく分からなかった。
「……この車は、なんてことはない様に見えるが、すげえ速度の出る改造車だ」
 友人は、下を向いて小さな声で語りだした。運転席と助手席の窓を全開にしながら。
「ここなら幾らでも速度を出せる。この直線は何十キロと続いているから」
 俺は理解した。ああ、これは独り言なんだ、と――。
「さああああああああああいくぞおおおおおおおおおおおゥ!!!! おっぱいいいい!!!」
 いきなりアクセル全開。メーターがどんどん跳ね上がっていく。風景が消えていく。
「まだまだくすぐったい風だあああああああああ!! もっと! もっとおっぱいを!!」
 軽く100キロ越え。なんかもう色んな感覚が吹っ飛んできた。
「まだ揉み応えが足りねー!!! もっと、もっとおっぱい!!!」
 友人、これはもはや胸というより、夏みかんみたいな固さだ。そういや、友人は童貞だった。

ごめん長い。

「牛」「素材」「カルテル」
195「牛」「素材」「カルテル」:04/07/13 00:14
事故であと数日の命となったジョージの願いを叶えるために、100ドル札の札束を手に入れねばならない。
手持ちの金額は100ドル。これを100倍にしなければならない。
もう商売できるような売り物はないし、気は進まないがギャンブルに挑戦するしかない。
この辺りを取り仕切っているコロンビアン・カルテルという組織は、定期的に丁半博打を開催する。
そこでは、長く搾り取るために初めての客には必ず勝たせるという暗黙の了解があるという。
本当かどうかは分からないが、信じて参加するしかない。
その賭博場は日本を始め中国、韓国、その他の素材がめちゃくちゃに混在していた。
日本を知らない者が想像で日本風の部屋を作ったらこうなるだろう、というような部屋だ。
もっとも、今は部屋のことなど気にしてる場合ではないのだが。

…どうやら、噂は本当だったらしい。ほんの数十分で、俺は100ドル札を34枚手にしていた。
俺の馬鹿勝ちは予想外だったらしく、さっきから壺振り人が狂牛病と狂犬病に同時にかかったような顔をしている。
とっとと帰れ、という無言の脅しが視線からびんびん伝わってくる。
札束までもう一息なのだ、退くわけにはいかない…と思ったそのときだった。
もっとも恐れていた知らせ、ジョージが危篤という知らせが入った。
今すぐ駆けつけなければジョージの死には間に合わない。
しかたなく、俺は34枚の100ドル札をまとめると賭博場を飛び出した。


「販売元」「ゴールド」「ディスク」
そのハードディスクの販売元は「ゴールド・ファンタジア」とかいう、外資系の如何にも妖しそうな会社であった。
でもそのハードディスクの外箱に描かれたイラストは、近未来的でスタイリッシュな絵柄ではなく、
今時のオタクっぽい若者を狙った、猫耳の少女がファンタジックな世界観であたかも俺に微笑みかけていた。
あるいは自作パソコンヲタであると自負出来る俺は、毎月毎月専門雑誌を買って、各社の動向を調べていた。
「ゴールド・ファンタジア」の製品はずたぼろに叩かれてる、って事も知っていた。
でも、いざ秋葉原へ出かけて色々と物色してみてみると、あの煌く少女が俺を睨んでいて、
寧ろ「ゴールド・ファンタジア」の計略に乗せられまいと思えば思うほど、少女の残影は増大するばかりだった。
普段からぶつくさと道端で、知らぬ誰かに愚痴る俺だけど(要するに独り言だ)、
今回の呟きは一段と鮮明で、馬鹿デカく、周りの一般客を驚かさせた、振り向かせた。
俺は大声を張り上げて、皆に主張したんだ!あのハードディスクを買えぬ葛藤を!

「笹を這う雫 この脂に滴りて 尚嘗めきれぬ一人のオタク」
今日は朧月夜です。
久しぶりの満月を堪能しようと試みますが、
ススキを縫って飛ぶ蛍の瞬きは、どうしても私の心を惑わせます。
今日の夕立は、まだほのかにこのススキを湿らせていて、
歩けば歩くほど、ズボンに水が染み込んでくるのでありました。
冷たい風はヒュウと、ズボンの繊維を駆け抜けて行きます。

開けた野原を突っ切ると、目の前には竹林が鬱蒼と茂っています。
流石にここへ入る勇気はありませんでしたが、水に潤う笹の葉は、淫靡に私を惹きつけます。
近寄ってその一枚をちぎり、手のひらを笹を這う雫で湿らせ、
ひんやりとしたその水滴は、昔あの人の見せた涙を思わせて、泣きたくなるのでした。

暫し感傷に酔っていましたが、詰まらぬ事でこの陶酔は消えうせてしまいます。
ふと、気づくのです。片手に携えていたランプの脂はもう殆ど残されていませんでした。
笹の露は、帰らぬ人の涙となり、この脂に滴りて、とうとうランプの焔を霞ませて仕舞った、と考えました。

いっそ、この露を嘗め尽くして消してしまえ、と妙な敵愾心に駆られますが、キスもした事もない、僕です。
自分の傷はいつも嘗めていますし、ゲームの中の女の子の幻影は四六時中嘗め回しています。
でも、この月の雫は嘗めようと思っても、ザラザラとした笹を嘗めるのみです。
一人のオタクは尚嘗めきれずに、途方に暮れて、とぼとぼと家路につくのでありました。


「扉 窓の外 公園で戯れる一人の少女」
 クーラーが壊れた。僕を襲った惨事は、この一言で十分共感してもらえるものと思う。
 空気が次第にぬるみ、額に汗がにじむ。窓を開けたが、風は外を吹き抜けるだけで、
室内にはいっかな入ってこようとしなかった。 脂汗が滴り始めた。もう部屋にはいられ
ない。僕は窓の外から室内に陰を落とす木陰に涼を求めることにした。
 上着を引っ掛け、扉に鍵をかけ、いざ木陰へ……と、見ると、お隣さんが水撒きをして
いて、根元は水浸しだった。とても寝っ転がることなんてできやしない。
 さあ、どうしよう。
 そよ風を受けながらの散歩も悪くない、と僕は歩き出した。

 僕は見も知らぬ公園にいた。すぐ近所に、こんなに大きな公園があるなんて。噴水まで
ある、立派な公園だった。
 公園で戯れる一人の少女、その足元を駆け回る白いムク犬、噴水のたもとに腰掛けて
一人と一匹を見守る、両親らしき夫婦。 石畳を歩く僕に時折降りかかる、噴水のかけら。
 クーラーは壊れたけれど、十分にいい気分だった。

 次のお題は「パスポート」「くろがね」「超人」で。
199禁!治産者:04/07/14 17:20
「パスポート」「くろがね」「超人」

「あっ! 超人ビスバビューンだッ!」
 少年が叫んだ。見れば、真っ青な空を背景にして、筋肉隆々としたあの男が立っている。
 やたら棘の多いデザインのマスクをかぶり、ぴっちりとした強化服をまとい、風にマントを
ひるがえしている。その全ての装備は、くろがね色に輝いていた。いつものあの格好だ。
 ビスバビューンは少年に笑いかけた。
「やあ! 少年。元気で正義を行っているかいッ? 人生に恥じるところはないかいッ?」
 ビシッ、と指さされた少年は一瞬口ごもった。
 ビスバビューンの目がギラリと光る。
「貴様ッ! なにか悪事を働いているな? 許せん! これでもくらえいッ!」
「ちょっとまって……! ぼくはただ」
 首をイヤイヤと振りながら、少年はあとすさる。ビスバビューンは勝ち誇ったように続ける。
「言い訳無用、問答無用! それがビスバビューンの正義だッ! 受け取れ悪人、地獄へ
のパスポートッ! 超絶消滅浄化砲・ビスバビィィーム!」
 肉離れを起こしそうなキメポーズ。ビスバビューンの両の目から七色に輝く光線が放
たれた。一瞬にして蒸発する少年。成り行きを見守っていた大人の間から、かるい悲鳴がも
れたが、ビスバビューンが睨みをきかせると、すぐにそそくさとその場からいなくなった。私も
また、目をそらした一人だ。誰もビスバビューンを止めることはできないのだ。


次のお題 「ペンチ」「コーチ」「注意事項」
「ペンチ」「コーチ」「注意事項」
 
 そもそも柔道部の私に頼むのが間違いだったんだ。
膨れっ面をする親友の恭子に言葉にできない言い訳をする。
 向かい合ったちょうど真ん中に不機嫌の大本が鎮座していた。
 口細の花器に活けられたとみられる、あらぬ方向を向いた花々。
透き歯のような花びらや、葉をむしられた傷跡は見る目も痛々しい。
「なんでペンチでやるかなぁ……」ぼそっと言うや、その場にへなへなと崩れ落ちた。
「だって日曜大工でよく使うからさぁ」口を尖らせる。
 今日は県内の高校華道部が集う作品発表当日。私は腹痛のため欠席した部員の代役なのだ。
よりによって何故に柔道部の私かといえば彼女曰く、華道界に新風を、とか言ってはいたが、
大方妥当な生徒が捕まらなかったのだろう。ほら結果は見るも無残。
「お、随分と先鋭で斬新な風情だな」
感嘆の声に振り返ると柔道部の岩島コーチがニタニタと作品と私を見比べている。
「これからは柔道部の注意事項に華道は厳禁と付け加えなきゃいかんなぁ」

 その場は憤慨もしたけど、どうしたことかあの作品が佳作に選ばれたらしい。
一礼して校長室から出ると、私は一目散にコーチのいる道場へとダッシュした。


次のお題は「いそいそ」「設える」「差し金」で〜。
201名無し物書き@推敲中?:04/07/15 12:08
去年の夏に近づいた日。春と夏の中間とでも呼べばいいのだろうか、過ごしやすい
日々が続いていたある日の出来事だった。
私はいつも通りに道立の高校へ行く準備をしていた。気持ちは焦っていたのだろうか。
いそいそとかばんを持ち上げて玄関を去っていく様はまるで、私が学校生活を楽しんでいるようにすら見えただろう。
しかし、私は学校へ行くことは苦痛にしか思っていなかった。誰かの差し金だろうか、と思うほどの執拗な虐め。・・・・・・・いや、虐めとは言わないだろう。
ただ、私が嫌われていた。それだけの事のように今では思える。心理的な虐待は虐めには入らないのだろうから。
 学校へは行かなかった。ただ、近くに設えられた妙な建物へ行き、そこで一日を過ごす。毎日がそれの繰り返しになっていた。
建物の中には等身大のガラスが一枚、それだけしかない。そして、いつも一人の学生がそこで立っているだけだった。私はその男のことが好きだった。
彼の話は面白い。聞いてみれば彼も僕と似た境遇らしかった。
 僕らはいつも二人で話し合っていた。そして、4回目に出会ったときに、私たちは二人で自殺を試みようという話にまで発展していた。
私はすぐに建物から飛び降り、そして、数分後に息を引き取った。
それでは、今ここで話しているのは誰なのか? それはきっと私であり、私でない人物なのだろう。


次のお題は『君』『絵画』『描写』
『君』 『絵画』 『描写』

 森の奥深くにぽつんと建ったアトリエは、それ自体が一つの絵画のようだと思う。
 その中にいる私たちは、さながら絵の具に塗り込められた羽虫というところか。
 自由が利かないそれは、今の自分によく似ているようで思わず笑いがこぼれる。
「珍しいね」
 キャンパスに顔を寄せたまま、彼がぽつりと呟く。
「何が?」
「君がそうやって笑うことが。久しぶりに見た気がする」
「……そうね、そうかもしれない」
 作り笑いならすっかり慣れた。
 でもそれも、歳の離れた夫の前でだけ。
 一人きりになれば、笑顔はひび割れた仮面のように剥がれ落ち、あとには寂しさだけが残る。
 愛している筈の青年を前にしても、心が満たされることはない。
「こんな女をモデルにして、楽しいの?」
「楽しいね」
「私があなたのことを、好きだから?」
「それもある。でもそれだけじゃない」
「分からないわ」
「そうかい?」
 絵筆を置いた彼は、冷ややかな微笑を浮かべて歩み寄ってくる。
「あなたの姿を残したくて、僕は絵を描いているんじゃない。それなら写真を撮れば済むことだ。
僕はね、奥様。その真っ白な肌に隠された、悲しみや愚かさを描写したいんですよ――」
 一糸まとわぬ私の体を、彼の指がなぞっていく。
 この指先で、私の心まで抉り出してもらえたなら、どんなにか幸せなことだろう。
 溢れた吐息に目を細める青年は――そんな浅ましささえ、見透かしているに違いない。
 
次のお題は「パンダ」「仮面」「ビスケット」で。
203** ◆6owQRz8NsM :04/07/15 16:42
**「パンダ」「仮面」「ビスケット」

パンダと暮らして3年になる。パンダとは上野公園の牡丹祭りで知り合った。
寒牡丹の淡いピンクの花びらを、砂糖菓子のようだと思って眺めていたら
「なめてもいいが、さわるのはだめよ」と不意にパンダに声をかけられた。
俺はびくり、としてパンダを見返すと、ヤツは黒目を歪めて流し目をくれた。
その時から俺はパンダに引きずられ、虜になってしまったのだ。
「なめてもいい」「さわるのはだめ」この二つの言葉しかヤツは話さないが
ベッドの中で囁かれると、熟達したソープ嬢のキメ台詞のようで俺は燃えてしまう。
パンダは絨毯の上にころころと転がり、愛玩動物たらんと、シナを作る。
「やめてくれ。うんざりだ。おまえの本当の顔を見せてくれ」
俺が懇願すると、ヤツはパンダの仮面を脱ぎ捨て、ただの猛獣に戻る。
ビスケットの缶をふみ潰し、缶の中で粉々になったビスケットの欠片を部屋中に
まき散らす。俺はヤツの足下にすりよって、ビスケットの粉塵に身を埋める。
「なめてもいいけど、さわっちゃだめ」
パンダの獣毛に降り積もった甘い破片を、俺は舌でゆっくりと舐め尽すのだ。

**次は「怪奇」「稲光り」「墓地」でお願いします。
204名無し物書き@推敲中?:04/07/15 18:18
**「怪奇」「稲光り」「墓地」
この世界には、私たちの理解を超えた怪奇的な現象が起こることがある。
そういう特殊な事件を扱うのが彼らFBI○−ファイルの仕事だ。
最近t町で、一年の間に落雷による死者が急激に増加している。
この事件に興味を持ち捜査を始めた○−ファイルのマルダー刑事は
まず、被害者の生前の情報を集めた。すると被害者の意外な共通点
が見つかった。
被害者は全員雷の稲光りが苦手であった。雷が光ると気絶すると言
う人もいたらしい。
マルダーはすぐ同僚のスッカリーに電話で被害者の検死をたのんだ。
しばらくするとスッカリーから連絡が返ってきた。遺体の靴にはどれも
同じ場所の土が付着していて調べた結果それはt町のある墓地にしかない
ものだった。
マルダーは早速その墓地へ向かった。気味の悪い場所だった。
その墓地の北には広場があったそして南には住宅街があった。
被害者たちはそこに住んでいた。ちょうどここを通れば近道である。
マルダーは推理した。そして、広場の管理人にいくつか質問をした。
マルダーのおかげで事件は解決した。事件の真相はこうである。
マルダーは質問で今年は北の広場で祭が多かったかと聞いた。
答えはイエスだ。
そのため祭に行った被害者たちは雷が起こったとき慌てて近道である
墓地を通った。他の人は気味が悪いので通らないが、被害者たちは雷
の方が怖かった。そして墓地の地質は非常に電気を引きつけやすかった。
マルダーは遺族に事の真相を話しt町を去った。
  

次は「恋」「公園」「ライフル」でお願いします。
205禁!治産者:04/07/15 19:08
「恋」「公園」「ライフル」

 あたしはライフルをもう一度ほほに引き寄せた。ビルの屋上から、彼のオフィスを見下ろして、
真っ白なワイシャツの胸、彼の心臓のある位置を狙う。超高性能ライフルの望遠レンズに刻ま
れた十字架が、彼の額の上でわずかに揺れている。狙撃はリズムだ。筋肉の動きを完全に止
めることはできない。だから、ゆっくりとしたリズムで揺れる照準の動きの先を読み、引き金を
ひく。それは自分には分からない深層心理の動きでもある。まるでダウジングの振り子のよう
に、私の心を探り、反映しているのだ。
 必殺の瞬間がきてくれない。こんなことは初めてだ。私の心が、彼を殺すのをためらってい
る。彼と知り合って8ヶ月になる。毎朝行く公園、ランニングの最中に出合った。彼がターゲット
だと知って、かるく動揺したのは先週の月曜日。そして、彼があたしに告白したのが昨日だ。花
が咲き乱れる公園で、彼は付き合ってくれないか、と言ってきた。あたしは、返事もできずに、そ
の場を逃げ出した。
 なんて愚かな男。自分を殺す女に告白するなんて。あたしの人生の中で、最もバカバカしい
瞬間だった。でも、うれしかった。男の人に告白されるなんて初めての経験だった。返事くらい、
してけばよかった。そうだ、迷いがある。せめて、彼に返事をしてから殺そう。切羽詰った殺しで
もないはずだ。照準はあいかわらず揺れ続け、彼の命を奪うポイントへの動きにならない。あた
しは本部に無線を入れた。
「すまない、今日は風が強い。明日に延期してもかまわないか?」
 その瞬間、あたしの居たビルの給水搭の向こうがわで銃声が響いた。
 何かが感じられ、その何かの正体に気付き、望遠レンズを覗きこむ。
 彼は額を打ち抜かれ、死んでいた。
 ライフルを持った男が、給水等の向こう側から現れた。見た顔だ。
「すまないが、バックアップさせてもらった。風はそんなに強くないと思う」
 男は、きまり悪そうに言った。
「そうね。そんなに風は無いわね」
 そう答えて、あたしはこらえきれず泣いた。その理由は、うまく説明できそうにない。

次は「変化」「臆病」「ステージ」 
俺は危篤となったジョージのところへ向かっていた。
その途中で、手元の34枚の100ドル札をまとめて一応札束に見える形にした。
本当に一応だ。何せ実物の半分の厚さもないのだ。
着いてみると、ジョージは苦しい息の中、凄まじい形相で「札束…札束…」とうわ言を言っていた。
鬼気迫る光景だった。生来臆病な俺は近づくのをしばし躊躇ったが、やがて意を決した。
俺はジョージの枕元に進んで、手に「札束」を握らせた。
ジョージは震える手で「札束」を何十秒かいじった後、何を思ったか口にくわえた。
そして、空いた手で俺の手を握った。死にかけてるとは思えない強い力だった。
何かを訴えるような凝視を何秒か俺に向けた後、ジョージはゆっくり目を閉じた。
同時に俺の手からジョージの手が離れていった。ジョージは次のステージへと旅立ったのだ。
ジョージの亡骸はそのまま…つまり札束をくわえた状態のまま埋葬した。
ジョージはあの凝視で何を訴えたかったのか、俺は今でも決めかねている。
あんなしょぼい札束しか用意できなかったことへの非難なのか、
それとも、あんなしょぼい札束でも用意したことへの感謝なのか…


「地獄から」「舞い戻った」「平伏す」
 千恵のクラウチングスタートは、独特なスタイルを持っている。蛙が潰れたような、とでも
言うのだろうか、まるで何物かに平伏すかのように構えるのだ。
「たぶんね、あたし、短距離の神様にお願いしてるんです。ダッシュに失敗しませんように、
いい記録が出ますようにって。それで神様も、うし解った、とか言って後押ししてくれるの」
 実際、千恵は中学女子100mの県大会で一年生ながら上位に食い込み、地元の新聞に
取材されたこともあるほどの、才能のある選手だった。それだけに惜しいと思った。余りにも
非効率なそのスタートを矯正さえすれば、県大会どころか国体優勝をも狙えるはずだ。
 私がコーチに就任してからというもの、彼女には随分辛い思いをさせた。特別メニューを
組み、食生活からプライベートな時間のことまで指示した。どうして慣れたフォームを崩さな
ければいけないのか、彼女と激しい口論をした時もあった。嫉妬に駆られた他の部員から
軽いいじめのようなものもあったらしい。
 それでも、ここまできた。もうすぐピストルが鳴る。国体の100m決勝。私を信じ、自身の
力を信じた彼女の努力の賜物だと、感慨深げにスタートラインを見やり――ぎょっとした。
 緊張で一杯に目を開いた千恵は、過去へ舞い戻ったような格好で、号砲を待っていた。
もう叫んでも間に合わない。何より、これ以上動揺したらまともに走ることなどできまい。
 なぜ最後の確認をしなかったのか。彼女の頑張りを無にしたのは、完全に私のミスである。
なんて間抜け、指導者失格だ。地獄から己を苛む声を聞き続け、10秒間が過ぎた。
 ぼんやり、思う。案外、千恵には神様とやらが本当に見えているのかもしれない。飛び跳ね
ながらこちらに駆けてくる千恵に手を振って、私は胸のコーチ証を引き裂いた。


ごめん、ちょっと長い。
次は『四肢』『夜更かし』『オープンカー』でお願いします。
「地獄から」「舞い戻った」「平伏す」

 夕日が差し込む美術室には、ひとり絵筆を走らせる依子がいた。
邪魔をさせまいと彼女の背後に回った私は思わず息を呑んだ。
 暗色に塗られたカンバスに浮かぶ、少女の喉笛に喰らいつく一匹の鬼と足元にうずくまる女。
なかでも白い肢体に鉤爪を喰い込ませた鬼がひときわ異彩を放っていた。
余白には仮のタイトルなのか地獄からの使者、と走り書きがある。
「依子にしては、らしくない画風じゃない。フランス帰りの成果かしら?」
 大人しく内気な彼女の画題はその性格に似つかわしく、いつも花鳥風月と決まっていた。
 私は嬉しかった。依子とは同じ西洋美術科で、互いに競いあえる無二の存在である。
惜しむらくは、彼女は常に二番手の評価に甘んじている節があると私は思っていた。
でもこの絵なら私を越えるやも。何度も頷く私を横目で見て依子の手が止まった。
「フランスでは美紀さんと同じ画家に師事したのよ。少しでもあなたに近づきたいから」
「偏屈な人で苦労したでしょ? でもさすがじゃない。フランスから舞い戻ったばかりなのに、
充分魅せられる作品を生み出すなんて」しきりに頷く私に、ほんのり上気した顔をカンバスに戻した。
「完成楽しみにしているわ」短くそれだけ言うと美術室をあとにした。

 依子は後姿をじっと見送ると、鬼の足元に恐れ平伏す女の後ろ首に、ホクロをひとつ付け足した。


次のお題は「木の実」「波風」「余力」


ふんぎゃ、こんな時間にカブッた…。
お題は207さんの『四肢』『夜更かし』『オープンカー』でよろしく。
この病気は、全身の筋肉が萎縮していく病気だ。
四肢の末端から筋肉が縮みだし、干からびたように強張って用を足さなくなり、
最終的に心臓が固まった時点で死ぬことになる。
原因はわからないし、治療法もない。
ああ、夜更かしのつもりが、いつのまにかすっかり夜が明けてしまった。
伸びをして身体をほぐしたいところだが、ほぐすべき筋肉の神経細胞は、
既にあらかた崩壊してしまっている。
誰もいない屋敷に、私が操作するポータブルコンピュータのファンの音だけが
静かに響いている。
ジェインWは、昨夜3人の子供と一緒に出て行ったきり帰って来ない。
(もっとも、研究に集中してる時の私は、あの悪趣味に排気量を上げた、
彼女の真っ赤なオープンカーの爆音にさえ気づかないことも多々あるのだが。)
私は、声帯を振動させて──我ながら蛙のような声だ──
音声認識を使ってディスプレイに昨夜の検証の結果を表示させる。
等高線状の重力図で表された数式は、ブラックホールが情報を放射することを
示唆している。
私は、まぶたの筋肉を下方に引き下げて目を閉じる。
光の粒子でさえ手放さない、意地汚い君が宇宙に向けて発する声は。
目を閉じた私は、車椅子の上でそのまま眠りに落ちる。
夢の中でジェインW、オールナイトムービーの帰り、留守番のおみやげに
買ってきた、私が好きなシナモンケーキを皿に切り分けながら微笑んでいる。

#次のお題は「木の実」「波風」「余力」で。
211「木の実」「波風」「余力」:04/07/17 11:39
波風漂うビーチで俺は彼女と出会った。
といっても暇つぶしのナンパだった。だが、彼女はどこまでもついてきた。
結局俺はこの女とつきあう事となってしまった。
今見ればこいつは木の実ナナそっくりの濃い顔をしている。
一瞬だけ美人に見えるような顔だ。
そして後ろ姿はどこのモデルかと思うほどスラッとしている。
だから、ナンパの時はかわいいと思ったのだった。夏の神様のいたずらだった。
俺にはもうこの木の実ナナと別れる余力すらなかった。
奴が俺の力を奪い取っていくようだった。
ん!俺はなんだかんだ言って彼女が好きなのか?
別れる余力がないんじゃなくて別れたくないんじゃないか?
俺は彼女が好きなのか?教えてくれ神様!!


無駄に長くてすいません。
つぎは「ファミコン」「爆発」「芋虫」でお願いします。
「……ただいま」
 いつもながら、返事はない。
 玄関で靴を脱ぎ、洗面所で手を洗い、居間で背広をハンガーに掛け、ため息と共に
ダイニングテーブルの椅子に座る。その間、順子はこちらを見ようとさえしなかった。
 ファミコン、と言うのだろうか。コンピューターゲームのことはよく解らない。ただ、我が家
には相当数のゲームがあることだけは知っている。能面のように無表情な順子の顔が
ブラックアウトしたブラウン管に一瞬映り、すぐさま喧しいゲーム画面に掻き消された。
 結婚してもう十年が経つ。一体、私の何が悪かったのだろう。確かに仕事が一番で、
家庭を多少疎かにしてきた面もあったかもしれない。それでも、私に出来る限り、順子の
頼みは聞いてやったし、週末には二人で遠出してやることを心がけてきたつもりだ。
 芋虫のようにソファーに寝転がる順子の目には、まるきり生気が感じられない。かつての
愛くるしい面影が消え去った彼女と離婚しようと考えたこともあった。だが、離婚歴が社内の
査定に響くことを思うと、どうしても二の足を踏んでしまう。
 不慮の事故、でも起きないだろうか。例えば、妻の怠慢によるガス爆発。そうすれば全て
解決するのだ。ぼんやり夢想する私をちらと見つめ、順子は無言でコントローラーを握る。


次は「実験」「鼠」「花束」でお願いします。
213名無し物書き@推敲中?:04/07/17 17:50
「実験」「鼠」「花束」
時は西暦2000××年
実験室で、男は悩んでいた。あと少しで男が長年研究していたガンの特効薬
が完成するのだ。しかしそのためにはいましがた宇宙郵便で送られてきた花
束の花を使わなくてはいけない。
この花束はもう5年もつきあっている彼女からのものだった。彼女は違う星
に住んでいて長い間会うことができないでいた。この花は彼女の住んでいる
星でしか手に入らないものだった。しかし、この花は薬の完成に不可欠なの
だ。
男は悩んでいた。実験台の鼠は、彼が答えを出すのを待っていた。
彼は決めた。この花を使おう。一刻も早く薬を作らなければいけない。世界
中のガン患者は薬の完成を待っているのだ。花はまたもらえばいい。男は遂
に薬を完成させた。
彼は気になったことがあったので、インターネットであの花の花言葉を調べ
た。彼はまた悩んでいた。あの花の花言葉は「求婚」だったのだ。


オチが、適当ですいません。
次のお題は「ハバネロ」「キシリッシュ」「浮浪者」でお願いします。
「ハバネロ」「キシリッシュ」「浮浪者」

 今日もいつも通りいつもの場所へ行く。退屈な学校からようやく開放されて、その足取りも軽かった。
下校途中の生徒で賑わう通学路を横にそれて、いてもたってもいられず小走りになる。
 足首ほどの夏草が生い茂る土手を一気に登りきると、橙色に染め上げられた川面が眼下に広がった。
軽く息を整えて、川縁にひっそりと立つ小さなテントの住人を訪ねた。
「よぅ、また来たんかい」無精髭に覆われた豪快な笑顔のお出迎え。私の元気の源かもしれない。
「悪い? ヨッちゃんだって嬉しそうだよ?」私が勝手につけた名前。何となくそんな印象だった。
 そう、彼は浮浪者。女子高生と浮浪者なんてどう結びつくのかって思うかもしれないけど出会いは単純。
バイト帰りに寄ったコンビニの軒先で雨宿りをしていた時だ。骨の折れたビニル傘を差し出してきたのは。
私は買ったばかりのキシリッシュをあげたっけ。それ以来の付き合い。別に彼とかというわけではない。
私は父親というのを知らないから、好奇心からくるものだと思う。実際に親子ほどの年の差がある。
「今日のおみやげはこれっ! 暴君ハバネロ〜。激辛なんだってば」
「お前そういうの好きな。俺としては無難な味の方が有難いんだがなぁ……」
 私は嗜好品の類が好きだった。つらい時があっても幾分か気を紛らわすことができるから。
時折こうして差し入れしては、困惑する彼を見て楽しんでいた。
 そんな日々は、父を知らない私へのささやかな天の恵みだったのかもしれない。
いつも通りいつもの場所に見慣れたテントはなかった。帰り道、オバサンから聞こえた強制撤去の言葉。
夕闇迫る川縁を一陣の風が吹き付ける。私はポケットからキシリッシュを一粒とって口に入れた。


次のお題は「ごつい」「出し抜く」「狼狽」で〜。
私の最高傑作、金属で出来た戦士K-600は、太い脚を動かして私の隣に移動してきた。
「可能か?」
「可能よ。少々無茶な作戦だけどね」
K-600は小首をかしげた。古いアニメに出てくるロボットのようなごついフォルムは、
とうてい洗練されているとは言えないが、「彼」の知性はそれを補って余りある。
「オマエらしくないな」
「あいつを出し抜くには、安全なんて気にしちゃだめよ」
K-600は銀色のボディを震わせて笑った。その様子があまりにも人間らしくて、私は
目をみはった。創ったのは私なのに、時折「彼」はその私を驚かせる。
「それはそうだ。だが、オマエの安全はワタシが守る。だから安心しろ」
私に忠実であれと創られた、それゆえの忠誠に感動する自分がおかしい。
私は狼狽を隠すように、身を翻して扉へ向かう。
「彼」のモーター音が付いてくるのを聞きながら、私は扉を押し開けた。


次は「貧血」「のど自慢」「ピーナッツ」で。
野菜にかぎらず、人にも、その人が一番輝く「旬」の時期があると思う。
俺の旬は小学校に上がる前、5・6歳のときだったのだろう。
肌が白くて、女の子みたいでかわいらしいと、近所のお姉さん方にきゃーきゃー言われた。
「ちびっこのど自慢大会」では「別れのブルース」を見事に歌い上げ、大絶賛をもらった。
しかし、そんな輝かしい日々も、小学校に入るまでのこと。
色の白さはどうやら貧血症の所為だったらしく、入学式でいきなりぶっ倒れてしまい、
初手からひ弱な奴、と言う烙印を押されてしまった。
音楽の時間では、「手のひらに太陽を」をビブラートを効かせて歌ってしまい、音痴のオプションまでつけらた。
かわいがってくれてたお姉さん方も、顔が伸びて、にきびが出る頃には目も合わせてくれなくなった。
そんなこんなで高校に入る頃には、シャンソン以外に目立った特技がないことも災いして、
すっかり「オタクくさい」「うらなり」「キモキャラ」としてのポジションを確立してしまっていた。
しかし、今日のこの日、俺は今までの自分を変える。
わざわざ同郷の知り合いがいない大学を選んだのも、学内一のお祭りサークルに入ったのも、全てこの日のため。
大学デビューと言わば言え。この新歓コンパから、俺は生まれ変わる。
旬を過ぎていたとしても、料理次第で美味しくなると証明してみせる。
顔にマジックで化粧をして、ティッシュで作った花を飾り、鼻につまみのピーナッツを詰め込んで。
今日から俺は、お笑いキャラとして生きていく。
決意を胸に、歌うはもちろん越路吹雪、「ろくでなし」

次は「時計」「関係」「模型」でお願いします。
217名無し物書き@推敲中?:04/07/19 12:36
僕はもう長年このパソコンとの関係を続けている。
毎日、2ch掲示板とと呼ばれるところにこの様な短い物語を書き込んでい
る。まるで社会の模型のようなインターネット上で。
こうして多くの人々に見てもらうことで僕の夢である作家への道が近づいて
いるのではと妄想する。いつも思うことだが掲示板に書き込んでいる皆は文
章の作り方がうまくてとても僕は追いついていない。しかしいつか追い抜い
てやるんだと決意を込めながらキーボードを叩く。いつの間にか時計は12
時30分を過ぎていた。そろそろお昼の時間だ。
「よっこらしょ」と僕は椅子から立ち上がった。
   


次のお題は「駅」「昼食」「カレーライス」で
カレーを食べよう。
カレーライスを食べよう。
朝も食べよう。
昼も食べよう。
夜が来たなら、夜も食べよう。

小さいころ、近所でカレーの匂いがするとうらやましくて、
自分の家がカレーだと少し興奮した。
カレーを食べていれば幸せだったなと、今更ながらに思い出す。
もう何年、この駅で過ごしているだろうか。
通り過ぎる背広姿や女の子たちのざわめきに比べて、
日射しはやけに現実的で、男はハラが減っていることに気付いた。

昼食をあさりに、街に出る。
カレー臭をさせながら。


明日がおいしければよいのにね。

--------------------------------
「駅」「昼食」「カレーライス」でした。
次は、
「ラクガキ」「音楽」「迷宮」でよろ
「ラクガキ」「音楽」「迷宮」

歌を失くしたカナリアをなぐさめるため、日暮れ頃、郊外にそびえる屋敷に向かった。
玄関のノッカーを叩く。返辞はない。構わずに扉を開けて内部に足を踏み入れた。
複雑に入り組んだ廊下は迷宮さながらで、床は徐々に暗がりに熔けて行く。
引き返そうか。と一瞬だけ考えた。振りかえると、今来た道がもう見えない。
心臓の鼓動が耳まで届く。でもカナリアが風に投げた手紙のことを考えると
彼女を見捨てて逃げ帰るなんてできない。カナリアを籠から解き放ってやらないうちは。
石造りの階段をふるえる足で上りきり、螺旋に折り重なった階段の頂点に達すると
ついに窓から注がれる夕陽を、浮き上がる彼女のシルエットを僕は見た。
外界を四角形に切り取った額の内側に彼女はいて、ほそく白い手を伸ばして僕の頬に触れた。
歌いたくないのなら僕と二人で逃げましょう、と言うとカナリアは首を軽く横に振って、
人のために歌うのが嫌になったのだと小さな声で告白した。
窓の外から音楽が流れ込み、
彼女はそこから首を出して学生たちの演奏を羨ましそうに聴いていた。
こちらに顔を向けると幽かに笑って、あの音色まるでラクガキみたいねと呟いた。
僕は彼女の手を取ると、もっと近くで聴きたいのでしょう? と暗い道を引き返した。……

次は「太陽」「水」「パラソル」で。
 俺たち二人は真夏の太陽が照りつける海辺にやって来た。
 しかし、時期が悪かったのか人っ子ひとり見当たらなかったのであった。

 「ううん、半ばナンパ目的だったんだが」
 それとなくパラソルを開いて、直射日光を避けるムサい男二人。
「どうせモテないし、体でも焼こうぜ」
 片割れの男が目を輝かせて言った。
 
 ここで問題が発生した。それは、
「どうせだから、体の両側をいっぺんに焼きたい」
 と片割れが言い出したことによる。
「俺に策がある」
 もう一人の男の眼が妖しく光った。

 「うぼぅぉぉおおおおおぁぁぁぁあああ!!!」
 片割れの背を焼く太陽。そして、顔から腹にかけてを猛烈に
焼き上げる鉄板。
「肉の焼ける臭いだ。おおい、熱いか、水が欲しいか?」
 もう一人の男は、遠目から煙草を吸いながら眺めていた。

 一時間後、辺りは騒然としていた。

「忍者」「爽快」「竜巻」
221うはう ◆8eErA24CiY :04/07/21 03:42
「忍者」「爽快」「竜巻」

 闇に生まれ、闇に消える。それが忍者の宿命だ。
 正体が割れれば商品価値はゼロ……匿名性こそが彼等の生命だった。

 そんな忍者の里にも、猛暑は平等にやってくる。
 だから忍者は九の一を連れて、真夏の海にやってきた。
 初めて見る海は素晴らしかった。彼等にとっては天国だった。
 九の一など、浜辺で貝を探しながら、感激の涙さえ浮かべている。
 
 もちろん忍者だ。正体を隠すためには細心の注意を払っている。
 間違っても、自分たちの正体は分からない……彼等にはプロの自信があった。

 二人並んで浜茶屋の焼きそばを食べながら、忍者は九の一に言った。
 「海とは良いものよの。ただ、お主の水着姿が見られなかった事だけが心残りじゃ」
 「兄者。私めもそこは非常に無念なれど、宿命と思うて耐えております」

 「待てっ」と忍者が目を据えると、そこには奇妙な一団があった。
 それは根来衆でも甲賀衆でもない、何千人もの群衆だった。
 知らぬ間に、物見遊山の人々が、彼等の周りに竜巻の渦をなしていたのだ。
 黒装束・黒覆面で正体を隠し、海水浴を楽しむ二人を中心に。

※今年はうみまだ…
次の御代は:「無人島」「尼僧」「水着」でお願いしまふ
222221:04/07/21 03:45
ごめん、海って爽快だったんですね;
223ルゥ ◆1twshhDf4c :04/07/21 19:37
「無人島」「尼僧」「水着」

空気は真蒼で、小さく吐く息は震えながら凍っていくように思えた。
水着姿の男女が戯れる真夏の海とは違い、砂浜では狂ったようにうねる波が無造作に砂を奪っていく。
その様子を遠い目で眺めている自分の中にはたくさんの「もしも」が通り過ぎていった。
「もしも」妹を連れて、晴れていればこの海の向こうに見えるはずの無人島に行かなければ……。
「もしも」あの時、大雨で足止めを食わなければ……。
「もしも」たまたま見つけた朽ちかけている寺で雨宿りなんかしなければ……。
地元ではその寺にまつわる伝説があった。
無実の罪で捕らえられた高貴な貴族の姫君が、信頼していた実の兄に島流しにされた。
姫君は出家し、小さな寺の尼僧となったが、兄への恨みは募り、「僧」という身にもかかわらず兄を呪ったまま絶命していった。
その姫君の兄がどうなったかはしれないが、今も姫君は兄を呪い続けているという。
無人島から帰った時から、優しかった妹はすっかり変わり果ててしまった。
それからというものの、いつも背後から突き刺されるような視線を感じるようになった。
私はいつか妹に殺されるかもしれない……。
見えない無人島を凝視したまま、小さなため息を吐くと、白い息は真蒼の空気とぶつかり合いながらも、ゆっくり交じり合っていった。

☆久しぶりに書き込み……。
 次のお題は「くずきり」「新聞紙」「紅葉」でお願いします。
224禁!治産者:04/07/22 15:05
 夏の盛り、私はリュックを背負い、近所の山へと出かけた。
 じいじいとセミが鳴く山道を、汗をふきふき、しばらく歩き、山頂近くの公園で休憩した。
 リュックから新聞紙を取り出し、尻のしたに敷く。それから、100均一で買った保冷バッグの
中から、冷えた竹筒をとりだした。その竹筒に入ったくずきりを、ところてんのように押し出して、
プラスティック皿に盛った。半透明のくずきりが、みずみずしく光っている。私はは黒蜜をそれに
かけた。とろとろと流れる黒蜜をまんべんなく混ぜると、もう我慢できなくなった。
 いただきます、と私は一人つぶやいて、くずきりを口の中にはこんだ。つるん、と滑り込んでき
たそれは冷たく、弾力があった。これは美味い。私は夢中になってつるつるやった。美味いもの
を食うと顔がほころぶ。心が豊かになる。京都の和菓子屋に嫁いで行った姉に感謝した。
 くずきりをきれいに食べ終わり、指についた黒蜜をしゃぶった。新聞紙の中にゴミをまとめ、リ
ュックにつっこむ。山頂まであと少しだな、と思いながら山道にもどると、女の子が泣いている。
こんなところでどうしたの、と聞いてみると、暑くて死にそうなのだと言うから、私は思いついて、
保冷バッグのなかの保冷材を手渡した。女の子は紅葉のような手でそれを受け取ると、嬉しそ
うに、ありがとう、と言っておじぎをした。それから、さっき私がいた公園のほうへ元気に駆けて
行った。しかし確かに暑い。私は頂上をあきらめ、下山することにした。今日の目的は頂上では
なかったので、べつにかまわなかった。
 帰宅後TVニュースを見て、今日の気温が異常に高かったことを知った。熱中症で数人が病
院の世話になったらしい。もし頂上を目指していたら、私も熱中症で倒れていたかもしれない。

次は「足かせ」「宿題」「プール」
私の通っているスイミングスクールではあらゆる状況に備えて泳ぐ訓練をしている。
今日は足かせを付けて泳ぐ練習だった。五人が溺れかけて医務室送りになった。
来月までの宿題で、生徒は何か拘束具を付けたままで泳げるようにならなければならない。
候補は手錠か足かせか首輪だ。以前は拘束衣も選べたが死者があまりにたくさん出たので禁止された。
首輪が一見楽そうだが、この首輪は顔を水上に上げられないぐらい重く、拘束衣の次に多くの死者を出している。
さらに、来月までにはプールに泡の出る設備が加わって浮力を奪うようになるらしい。
当日には今までにない多くの死者が出ることだろう。


「こぶ」「鬼」「踊り」
226ぶた:04/07/23 12:35
「こぶ」「鬼」「踊り」
僕は目の前に広がる光景に、ただ唖然とするしかなかった。あの大人しい彼女があんなに
激しく踊るなんて。噂に聞いていたが、『エンジェルトリップ』の効き目は間違いなく噂
以上だ。
「踊れ」
僕の命令に彼女は静かに従い、初めこそは静かにステップを踏んでいたが、少しずつ興奮
していき気づけば鬼のような形相で踊ってる。
「踊りはもうおしまいだ。しゃぶれ」
そう僕が足を突き出すと、また狂ったようにむしゃぶりついた。あまりの勢いに僕はバラ
ンスを崩して倒れてしまった。ぶつけた後頭部にはこぶができていた。
とりあえず色々試した後に『死ね』と命令してみようと思った。


「二重螺旋」「遺伝」「未来」
227名無し物書き@推敲中?:04/07/23 13:02
「二重螺旋」「遺伝」「未来」

「二重螺旋? 関係あらへん……」
彼は言った。何をするつもりなのだろう。
「でもなあ、未来」
未来と書いてミキと読む。源氏名にありがちだ。
「やっぱ遺伝だろう」
「遺伝なの?」 

次は「アイ」「WISH」「フォーエバー」



「アイ」「WISH」「フォーエバー」

暑中見舞いが来ていたので、ベッドに寝転がって読んでみる。
いちいち返辞を出さなきゃならないのが鬱陶しい。書くのが面倒だというだけじゃない。
なにしろこの辺りには郵便局も郵便ポストもないから、投函するにも一苦労だ。
本文はさておき差出人を確認する。と思ったら無記名だった。裏を返してみると
当然のように「暑中お見舞い申し上げます」と書かれている下に妙な文句が。
にやにやしながら読んでみる。「今晩12時 エアコンをいただきにあがります キャッツ・アイ」。
近所のガキのいたずらか。いや、知人の誰かが冗談で送ってきたのかもしれない。
頃合いを見て、どうだい気の利いたジョークだろ、などと電話を寄越してくるのだろうな。……待てよ。
はたと考えこむ。そういえばさっきから部屋が全然涼しくならない。まさか、と思って見上げると
異臭に包まれたエアコンはぷすんぷすんと呟いたのち完全に逝ってしまった。猛暑フォーエバー……。
常温が40度弱もあるのに冷房なしで過ごすのはご勘弁。予告通りか、キャッツ・アイめ。
だったら壊すんじゃなく、せめて盗んでいってくれよと無意味に悔しがりながら、
ようやく下降線をたどる熱気に肌をさらして独り、炎夏を呪う言葉を縦にした。そんな wish wash 。

次は「水辺」「餌」「鳥」で。
「水辺」「餌」「鳥」

彼の手中にあるは音に聞こえし名宝、紫香炉。
今しがた抜け出たばかりの武家屋敷を振り返る。どうやら家人が異変に気付いた様子はない。
こうも万事手筈よく失敬できようとは……。これは訝しいと眉を曇らせると同じくして、静寂の中に
ビュンと空を裂く矢音が耳朶を捉えた。ふと仰ぎ見るや、月明かりにチラチラと輝く矢先が迫ってくる。
これは危うしと身を翻したそのあとに、水辺の葦のごとく矢が突き刺さった。
二陣三陣の矢嵐の向うに赤々と篝火が灯る。光る白刃を振りかざし三人の侍が押し寄せるのが見てとれた。
対峙するや、素早く小太刀を抜き出すと侍めがけて突っ走る。
 眼前に迫り瞬時に低くした頭上を白刃が薙ぐ。懐に潜り込むや勢いそのまま下顎に掌底を喰らわせた。
もんどりうって崩れるその背後から飛び掛ってきた新手の喉元を、得物の小太刀で掻き切る。
血飛沫をあげる侍を軸にして、横に回った侍の鳩尾に足蹴りを打ちかました。
「彼奴は何者」
「あの手練、今や飛ぶ鳥を落す勢いにある服部半蔵かと」
屋敷から見守る主の問いに侍従が答える。
「ほう、あの者が。大層な餌だと掛かる鼠も大きいものよ。夜陰に乗じてとはいえ天晴れかな」

服部半蔵と徳川家康、運命の出会いであった。


次のお題は「世知辛い」「骨太」「無機質」で〜。
230名無し物書き@推敲中?:04/07/24 11:59
『世知辛い・骨太・無機質』

「世知辛い世の中になったのう」
「何?おじいちゃん、セチガライって」
 高校生になる孫娘が縁側で茶を啜りながらぼやくわしの横に腰掛け、派手
な装飾の携帯電話の上で動かす親指を止めた。
「んん、無機質な輩が増えおって、住み難い世の中になったという……」
「何だっけ?無機質って」
「だ、だからのう、わしが言いたいのは……」
「ちょっと待って。メールが……。なんだぁ、また出会い系じゃん。やだもう!
あ、それで何の話だっけ?」
 こんな機械に頼っておるから、人間まで無機質になるのじゃ。ま、言っても
無駄かのう。
「おまえもな、もっと人様の気持ちがわかる人間にならねばだめじゃ。困って
おる人を見たら、自分が何とかしてあげたいという骨太な……」
「ははは、いやだおじいちゃん。あたしにこれ以上太れって言うの?でもさぁ、
骨が太いわけじゃないから、ダイエットすれば足首だってもっと細くなるんだ
からね、絶対!」
 まったく。孫とも満足に話せないとはのう。本当に世知辛い世の中になった
ものじゃよ。


次は「尺度」「パスタ」「専務」
迷っていた婆さんに道を教えてやっていると、レイプ魔のジョンが声をかけてきた。
「おい、もてないからってついにこんなババアをやろうってのか」
こいつは雌性なら猫でも犯す男で、自分の尺度でしか物事を考えられない。
こいつがパスタで首をくくって死ねばどれだけの雌が救われるかは見当もつかない。
ジョンの声は婆さんにもよく聞こえたに違いない。
婆さんは物陰に歩いていって衣服を緩めるとこう言ったからだ。
「さあ、いらっしゃい」
望んでいるならしょうがない。俺とジョンは婆さんと交わった。
婆さんは大満足して、俺とジョンをそれぞれ婆さんの会社の専務と常務にした。
婆さんは某大企業の会長に位置する人物だったのだ。



「交わり」「かち割り」「味わい」
232「交わり」「かち割り」「味わい」:04/07/24 22:43
『かち割り石! ごつごつとした味わい!』
 私は文字を読み、そう書いてある看板の向こうにいる幼馴染に冷たい視線を向けた。
「何これ」
「異文化交流っていいよね!」
 瞬間、文化祭一日のためだけに作られた、チャチな看板とカウンターが吹き飛んだ。
私が蹴り飛ばしたのだ。「アッ!」と声を上げる幼馴染の胸倉を私は掴み上げた。
「流血喫茶にするって言ったでしょお!?」
「キャア! ゴメン! 了解! ラジャー!」
 見ると、幼馴染は涙目になっていた。この子は意思が弱い。少し脅せばすぐに事が解決する。
しかし、私が手を緩めると、幼馴染はホッと息を吐いてから、潤んだ瞳で私を上目遣いに見てきた。
「でも、流血かち割り石喫茶とか……」
 私は幼馴染を睨み付けた。こんな風に食い下がってくるのは初めてだ。
「ごつごつの何処がいいのよ!?」
「だって、異文化との交わりはいいのよ! ホラ……」
 幼馴染の指差す先には、数日前この学校に来た、黒人の男子留学生がいた。ゴツゴツ。
 私は幼馴染を振り返った。幼馴染の目が、さっきとは別の意味で潤んでいる。
「いいわよ」
 私は言った。幼馴染の顔が喜びに輝いた。
 数日後、その留学生と、英語で賢明に話す幼馴染を、私は温かく見守っていた。


「七輪」「煙」「山椒魚」
太郎は七輪を囲ってテーブルに空いている穴に煙が吸い込まれていくのを見ていた。
「それでよぉ、その娘がよっかかってきてピンクのぶらが見えてんのよ、据え膳喰わぬは男のなんとかっていうじゃねぇ?」
初めて就職した職場の先輩は、どうやら同期の他の連中より仕事ができない俺にどういうわけか特別によくしてくれる。でも、こうやって酒を飲みながらしてくれる話は正直つまらなく、不愉快だった。それで、巨乳だったんですか?
「んー小さくはねえわな。ま、巨乳ってほどで・・・んあ、ちょっとわり・・・」
森山直太郎の曲の着メロが途切れると、女の声が聞こえた。
「だから後輩と飲んでるんだって。来るだ? あほか。もう来てるって? はあ!?」
なんでそんな大声で喋るんだろう、太郎はそんなことも思いながら、苔むした清流の岸をぬらぬらした黒い生き物が地面に腹をこすりながらにじり進んでいるところを想像している。
わりぃ、彼女がここに来るって聞かねぇんだ。すぐ帰らせるからよ。
女はすぐにやってきた。あら、ほんとだったのねえ。はじめましてーいつもこの人がお世話になってるみたいで。
「大山椒魚みたいな顔っすね」
自分で言って太郎は少し、びくんとなった。
目の前の男女は一瞬凍りつき、その後に女は男を見つめ男は太郎をまっすぐ見つめてきた。
すいません、あのすいません、そんなつもりじゃあ、ただ・・・
「ぽろっと」
女にがっと腕を捕まれ先輩は腰を浮かせた。
「俺ら今日は帰るわ、おまえはゆっくりしていけよ、な」
いつも通り先輩は半分より少し大目に金を出してくれた。
一人になって自責の念に駆られながら焼いて食べた肉は意外とうまかった。

「才能」「鬱」「ライター」
「才能」「鬱」「ライター」
「結局のところ、俺には才能がないんですね」
 一番の自信作だと思っていたのに、編集の態度を見ると納得してないようだ。
「いや、才能ね。まだわかないっすよ。だって何回目でしたっけ持ち込み」
「うん。二回目だけど」
「でしょ。ライターとしてやってきたい。そう言ってうちの編集部にいきなり来たのが先
月くらい。で、とりあえずもう一作見たいって言って、今回来た」
「そうだよ。で、自信作だと思ってきたのにそのリアクション。当然『才能ないんだな』
って思うだろ」
「おい。調子に乗るなよ。才能なんてあるかどうか知るか。ただな、今の段階ではあるか
も知らない才能を、引き出す才能がないことははっきりしたよ。一度くらいでへこたれて、
落ちこむんなら鬱病にでもなって死ね。でも覚えておけ。一作目を見た後に、もう一作み
たいって俺は言ったんだからな」
 その言葉で自分の子供さ加減に気づいた。
 とりあえず書いていくしかないんだ…

「武士」「サングラス」「ビール」
235** ◆6owQRz8NsM :04/07/26 03:48
**「武士」「サングラス」「ビール」

「せんせい、俺の命日をここに彫ってくれや」
男は彫台の上に仰向けなると、そう言って自分の下腹を指さした。
「平成十六年七月二十六日だ。その通りに墨を入れてくれよ」
男は目を瞑ると、贅肉の微塵もない、引き締まった腹を静かに波打たせている。
俺は元々、客の要望にあれこれケチをつけるようなタチではない。
自分の命日を知っている所から考えると、ヤクザの鉄砲玉か何かだろうか。
俺は黙って彫り棒をとった。男の指定した場所は急所に近いため、激痛が走るはずだ。
だが、男はうめき声一つ上げず鋭い針の痛みを受け止め、微動だにしなかった。

「昔の武士ってやつは、負け戦に臨む時、自分の命日を彫っていったらしいんだ」
刺青が彫り上がり、化膿止めの薬を渡すと、男はそうぽつりとつぶやいた。
そして色の濃いサングラスをかけると、真夏の町へひらりと出ていった。

しばらくして、夕食をとりに出掛けた定食屋で俺は男の正体を知った。
ビールを注文して、何の気なしにテレビのボクシング中継に目をやると
あの時の男がリングに立っていたのだ。挑戦者の激しいパンチを浴びて足がもつれていた。。
「あーあ。やられっぱなしだよ。目がもう随分前からダメみたいだねえ」
ビール瓶をを持ってきたオヤジが、画面から目を離さずに言った。
男が指定した命日はたしか今日だったのだ。俺は男の弔いと新しい人生の出発の為に
オヤジを呼んで、もう一つビールグラスをもらった。リングに倒れた男は静かに笑っていた。


**次は「貧乏」「金持ち」「転落」でお願いします。

236文学板新参者:04/07/26 19:49
貧乏」「金持ち」「転落」

財布に千円札が3枚。
アルバイトの給料が入るまで、今月はこれで生活しなければいけない。私は貧乏という言葉を、熱くなった畳に寝転んで蝉の声を聞きながら、じっくりとかみしめていた。
寝たまま上を見ると、汚れでくすんだ白い天井に、ウサギの形をしたシミがあった。
この安アパートには、アルバイトや日雇いで生計をたてている、貧乏人ばかりが暮らしている。
数ヶ月前、私はまさに身一つでここに越して来た。都心の高級マンションから安アパートに住居が変わってしまった理由は、私の不倫が夫にばれ、離婚されたから。
あれから不倫相手にも捨てられた私は、まさに転落人生ってやつ。そんな何度も考えたことをまた考えて、ごろんと寝返りをうった。畳が痛い。
金持ちを気取っていた頃が、ひどく昔に思える。ぼんやりとした記憶をたどると、ラムネの泡のような、そんな感じの生活だったような気がする。
でも、ビンボウ、という言葉をかみしめているうちに、私はなんだかワクワクしてくるのだ。
例えば、駅前の野菜屋さんでキャベツが20円安くしてもらったりとか、閉店間際のスーパーに駆け込むとか、水道代を気にするとか、そういうことは、なんだか一つの冒険のようで、私はワクワクする。
ああ、充実感。私は起き上がると、これまた年代物の壊れかけたキッチンへとのろのろとむかう。
暑い。暑いので昼ご飯(とはいえもう3時近い)は枝豆と冷や奴を食べよう。
私が暑さをこらえてお湯を沸かし始めると、ドアが乱暴に叩かれ、隣のおばちゃんが勝手に入って来た。
「うち、今月ガス止められてるんだよ。お湯もらえる?」
ここのアパートの住人たちは、遠慮がない。学生寮のようにお互い困った時は助けう。
私はお湯をおばちゃんにあげると、椅子にこしかけた。
蝉の声をこんなにじっくり聞くのは、こどもの頃以来だった。


次は「花火」「友達」「約束」でお願いします。
237名無し物書き@推敲中?:04/07/26 22:15
花火は散るからこそ美しい。
いや、花火に限らず、総てのものは有為転変であり、失われるものだからこそ、美しいのではないか。
そう漏らした友達の言葉が、どうしても俺の頭から離れなかった。
「なあ、約束してくれないか」
奴は言った。
「いつか、本当に美しく散る花火を作り上げてくれないか。いかに美しく咲くか、じゃない。ただ散ることを追求した花火を」
この20年、俺はその約束を胸に花火を作り続けてきたのだと思う。
その答えがこれだ。
軽やかな火薬が爆ぜる音とともに、見上げる夜空に大輪の花が咲いた。幾重もの花弁をもつ、紅い花だ。
もちろんそれで終わりではない。
いかに散らせるかは、これからなのだ。
見ているか、友よ。
その紅い花びらのひとつひとつが、見物客に降り注ぐ。花びらなどと表現すると、いかにも風流に響くが、それは数百度の炎の塊なのだ。
たちまち河川敷は阿鼻叫喚の坩堝と化す。
悲鳴を上げ、泣き叫び、逃げ惑う人々。その上に容赦なく降り注ぐ炎の雨に、彼らは次々と飲み込まれていく。
美しいだろう。幾人もの人の命が散る様は・・・・・・。
これがお前との約束に対する、俺の答えだ。

「社会」「自然」「秩序」
「社会」「自然」「秩序」

地球にエイリアン達が侵略してきた。
絶大な科学力をもっていた榊力(さかき・りき)は社会に対し、対抗すべきと主張。
及び腰な態度に業を煮やした力(りき)は、自ら基地を作り、
自ら作ったロボットに息子であるハジメ達を搭乗させ、エイリアン達を撃退する。
しかし、エイリアン達はさまざまな工作をして人間達を追いつめていく。
その工作のひとつに人間達を誘拐し、体内に爆弾を埋め込む作戦があった。
倫理を無視した秩序のない爆弾は、医者にもわからないほど巧妙であり自然であった。
ある日ハジメのもとに、イトコでもあり喧嘩友達でもある明日美が逃げてきた。
明日美は気づいていない。体内に爆弾が埋め込まれており、もうすぐ爆発することを。
基地には部外者を入れてはいけないことになっていた。
ハジメはみんなにバレないように自分の部屋で明日美をかくまうことにした。
部屋に通された明日美は汗をかいたので着替えようと上着を脱ぐ。
「ちょっと出てってよー」
「わりぃわりぃ」
頭をかきながら部屋を出ていくハジメを見て、クスッと笑う明日美。
同時に爆発。
跡形もなく木端微塵になった部屋からは、黒煙があがるばかりだった。

お題継続 「社会」「自然」「秩序」でお願いします。
 窓から眺めたその村は、完璧な秩序を保っていた。外観は長閑な農村の風情で、田
は青い絨毯のように広がって風になびいている。それは異常な清潔さに見えた。が、
寂れた駅に荷を置いた瞬間、その不自然さに動悸が激しくなり、どうも何かあると悟
った。嫌な予感がする。
 引き返えそうにもこんな山奥を走る鉄道は一日に数えるほどで、次の列車まで数時
間を待たねばならない。改札を見ると駅員の姿はなく、ただ、丁寧に清掃されて奇妙
な静かさがあった。村の入り口でこのざまだと、よほど閉鎖的な社会なのだろう。
 これはもう易々と入っていけないと思い、私は辺りを見回した。駅員のいないのを
確認して、とにかく目立たないよう木の柱の影に隠れて座り込んだ。
 長い時間待った。着いた時陽はもう染まっていたが、今は暗い。熊蝉の合唱が終わ
って、キンヒバリやカエルが鳴き始めている。列車はこない。やはりあれが最終だっ
たようだ。私は観念して、変わらず静かな改札を通り、村へと入った。
 田んぼが脇に広がり道がまっすぐ伸びているのだろう、まっすぐ先に灯が見える。
「どうか義母さんと仲良くやれますように」
 祈りつつ持ってきていた懐中電灯を点け、私はゆっくりとそこを目指した。
 
次「万里」「法廷」「昏倒」
240文芸板新参者:04/07/27 10:10
「万里」「法廷」「昏倒」

万里の長城って、いちど行ってみたいわ。
女は僕の耳元でそう言って、艶然と微笑んだ。
そのとき、僕は多分、いつか行こうか、などと曖昧に答えたんだろう。
あれから10年たち、中国への出張がてら万里の長城を訪ねる気になったのは、久しぶりに彼女のことを思い出したからかもしれない。
それにしても、ひどく暑い。
さっきから、ずっと同じような道を登り続けている。夏に来る場所じゃないな。僕は汗を拭きながら、さらに登り続ける。
周りの雄大な新緑の景色も、ずっと途切れることなく続いている。一つだけ、道端に落ちていた石を拾ってポケットにしまった。
万里の長城の石。地上で唯一宇宙からの衛星写真にも写る、巨大建造物の中の、小さな石だ。
法廷で裁きを待つ罪人のように、僕は何かにとりつかれながら頂上へと進み続ける。
きっと、この長城の頂には、なにかとてつもないものが待っているんだ。この国の長い歴史の中にも、そんな神秘の予感がかくされている。
僕は足元の小石たちを蹴飛ばし、黙々と登り続ける。
目の前には、長い長い道が、ずっと続いている。
暑さで昏倒しそうになる意識の中、ふと、上の方を見上げると、そこには、あの女の姿が見えた気がした。
「万里の長城って、いちど行ってみたいわ」
あの妖艶な微笑みが、浮かんでは消えていく。
241文芸板新参者:04/07/27 10:13
すみません、次のおだいは「透明」「海」「すいか」でお願いします。
242「透明」「海」「すいか」:04/07/27 13:32
「あなたにとって私は透明な人間なのね」
彼女が自殺する前の晩僕に言った言葉が頭を離れない。
耳鳴りの様に潮騒と彼女の言葉が繰返し繰返し僕を攻め立てる。
一体、僕は彼女をどう思っていたのか。愛していた。必要な存在だと思っていた。それは間違い無い。
二人の関係で彼女が死を選択するなんて思ってもいなかったし、そこまで追い詰められていると努々思わなかった。
ただ彼女は、崖の上から飛び降りて磯に落ち生前の姿は跡形も無く西瓜の様に頭を割って死んでしまったのだ。
責め苦に僕の心が耐え切れないで居るのがまた、ざざざと耳鳴りがする。
きっと彼女は近くに居る。そして僕に耳打ちするんだ。
「あなたにとって私は透明な人間なのね」
透明な姿で彼女は僕の背後に。
243名無し物書き@推敲中?:04/07/27 13:36
お題 「消去」 「終戦」 「墓参り」
244名無し物書き@推敲中?:04/07/27 14:07
気が付くと私の記憶の一部が消去されていた。
長きに渡った大戦は終わりを迎え、
世界は平和への道を歩んでいると聞かされた。
しかしかつて特殊部隊の兵士だった私は
このキャンプから出ることを許されず、
外からの情報もまったく入ってこない。
戦友の墓参りさえ許されなかった。
本当に戦いは終わったのか?
終戦協定が結ばれているのならば、
我々がここに拘束されているのはなぜだ。

ここには私と同じように記憶の一部を消去された兵士が何人もいる。
中には記憶消去に失敗し、人格を破壊された者、廃人化している者さえいた。
そこまでして我々の記憶を消さなければならないこととはなんだったのか。
思い出そうとすると激しい頭痛にみまわれてしまう。

いつかこの壁を越え、キャンプを抜けて真実を確かめねば。
記憶を失ったときに、私の中で新たな戦いがはじまっていたのだ。


お題 「踊り」 「地平線」 「模倣」
245「踊り」 「地平線」 「模倣」 :04/07/27 14:28
「結局あなたは、こう言いたい訳ですか?釈迦の手で飛び回る孫悟空の様に結局私は、踊らされているだけと」
「いや、そこまでは」尚も激昂し続ける。
「ふざけるんじゃない。一体全体何様のつもりだ。おまえの予定調和など興味は無い。これでどうだ」
彼は、そういうなり自分のこめかみにリボルバーを当て引き金を引いた。
激しくのけぞり脳漿を撒き散らし絶命した。
「流石に、そこまでは予測していなかったな。おい片付けてくれ」隣室から黒尽くめの男達が現れおびえた顔で死体を処理した。
「かわりの人間を探してくれ」男は、付け加える様に男達に言う。
「地平線まで駆けずり回ってでも探してこい。俺にそっくりな人間を」いらだつ様に男は言う。
その様子を別室のそっくりな男が見ていった。
「あの男は、ちょっとやりすぎたな。いくらクローンとはいえ俺の行動まで模倣しすぎた。始末しろ」
男は黒尽くめの男達に連れ去られた。

お題 「眼差し」 「作為」 「首相」
 彼の眼差しはいつも遥か彼方の宇宙へと向けられていた。
 彼の眼はどちらかといえば澱んでいるのに、何故か空を見てるときだけは、
宝石みたいに輝いているように見えた。
 彼はいつも口癖のようにこう言っていた。
 「俺は、そのうちにこんな穴蔵みたいなとこ飛び出して、大いなる愛に包まれに行くんだ」
 思い返せば、なんと恥ずかしいセリフだろうか。それでも、茶化す人間が殆どいなかったのは、
こいつはやる男だ、と皆が思っていたからなのかもしれない。
 勿論、眩い日輪の如き彼をやっかむ層もあった。彼らの作為は何度彼に危機をもたらしたであろうか。
それは私には想像し切れない。ただ、世論がそれらを一掃してくれたことは幸運だった。新首相は、
彼の行動を広く世間に紹介し、強いサポートを約束することで、一般層を引き寄せた。新内閣発足後、
内閣の支持率は八割を超えたという。彼に援護射撃したこともその高い支持率の一因となっていることは
明らかだ。
 その何年か後の秋――。遂に、彼が放たれる時が来た。
陣営は自信満々の表情で、もうこちらは何もすることはない。後は彼に任せる、とコメント。
彼は顔が潰れそうなほどの笑顔だった。時間よ、早く過ぎろ。早く俺を放せ。そう、思っているのか。
時が来た、火が点いた、息を呑む、唾を、息を溜める、飲み込む、唾。そして息を――。
 「たーまや―――――!!!」
 全員が叫んだ。彼は空に放たれた。そして、瞬く間に姿を空に消した。
 念願の、花火ロケットが実用化された瞬間だ。

「絵」「河口」「悪意」
 
247文芸板新参者:04/07/27 17:01

ちょっと、絵になる感じの風景でした。
河原には春の陽がさんさんと降り注ぎ、小石はきらきらとひかっています。
眠たそうな春のぽかぽか陽気のせいで、透明な川はゆっくりと流れていたんです。
あたしは河口の方で、一人の男の子を見つけました。
同じくらいの歳に見えたので、あたしは思い切って話しかけます。
「きみ、ここの学校の子?」
川の上にある、あたしたちの学校を指差します。
「ちがうよ」
男の子は、まるで、あたしに今気がついた、というような顔でこたえます。本当は、さっきから何度も眼があっているのにです。
「じゃあ、どこに住んでいる子なの?ここの子じゃないの?」
あたしはそのとき、男の子がさっきからしずかに行っている行動にきがつきました。
男の子は、きらきらひかる小石を、どんどん、どんどん、積み木のように重ねていっているのです。
私の視線に気づくと、男の子はちょっぴり悪意のこもった低い声で呟きました。
「オヤフコウ、だからね」
川は、いつまでも、いつまでも、眠たくゆっくりと流れていくのでした。

次は「くしゃみ」「雨」「淋しさ」でお願いします。
248名無し物書き@推敲中?:04/07/27 18:35
雨は現実を霞ませる。
現実の輪郭が、どこかぼんやりと滲んで、その存在があいまいな、どこか不確かなものになったように感じられるのだ。
バベルの塔の群れを連想させるような摩天楼群が、まるで滲んでいまにも消えそうな稚拙なイラストのように、その存在感を失う。
もしかしたら・・・・・・
このまま都市がどこかへ流されていってしまうのではないか。
いや、都市が、というだけでなく、この現実が、世界そのものが、どこか遠くへ、たとえば現実の墓場のような場所へと流されていくのではないか。
そんな想像を紡いでしまう。
もちろんそれは幼稚な想像に過ぎない。わたしは淋しさを覚えずにはいられない。それは単に、現実と上手く折り合えない人の、反作用的な破壊衝動にすぎない。
現実という存在は、ふり続く雨程度でゆらぐことなどない確かなものだ。
むしろ消えるのは私のほうなのだろう。
ちいさなくしゃみが口をついた。
雨に濡れながら、わたしは歩き続ける。現実かわたしか、どちらかが消えるそのときまで。

「詐欺」「俺」「携帯」
249:04/07/27 20:29
俺かよ!
「第一回、蹴りたい背中グランプリは彼に決まりました!」
ああ、なんということだ、不幸中の不幸とはこのことだ。
年のはなれた妹のお守りをしてこんなデパートの屋上で休んでいただけなのに、
どうして私がこのくだらない催しに参加しなければならなかったというんだ。
ただ、空席の目立つ椅子に腰をかけて、妹と指スマをしていただけだというのに、
偶然にも、妹のとうとつな提案で、
お兄ちゃん優勝したら賞品でるんだよ、ピカチュウのあんなに大きなぬいぐるみだよ、ねえねえ・・・
どうして、賞品がピカチュウなんだ・・・と訳のわからないまま、うながされ、
小さな子供たちにまじってエントリーをしてしまったんだ。
お兄ちゃん優勝だね、やったー、――うううう、ピッカー・・・妹は賞品を受け取ってはしゃいでいた。
しかし、これはよく見ると、ピカチュウじゃないじゃないか、催し自体から賞品までが詐偽まがいか・・・
まあ、いいか、ここだけ我慢をすれば、こんなにもこいつが喜んでくれているんだから、俺の恥なんて大したものじゃない。
今の俺の仕事がお守りである限り、これは間違ったことではない。
と、突然、私の胸ポケットに入った携帯がさびしい音をたてて鳴った、なるほど・・・
んん、電波の状態が悪くて、声が聞き取り難い、私は会場の端のほうへ向かい、
はるか遠方までひらけた景色を眺めやりながら、電波状況をためしながら移動した。
ちょうど清掃員がこれから窓をみがくためにゴンドラの準備をしている辺りで、うまく繋がった。
もし、もし、どなた?――――――――私は誰かから背中を突き飛ばされ車の往来する大通りへと転落していった。

『黄疸』『蚊』『桃』
250名無し物書き@推敲中?:04/07/27 20:42
「詐欺」「俺」「携帯」

 単なる好奇心から道端に落ちている携帯電話を拾ってみることだって、たまにはあって
もいいんじゃないかと僕は思うわけで、そうした小粋な試みが今まさに実を結ぼうとして
いるのは、なかなかスリルある出来事だと思う。要するに、今僕の後ろポケットの中でぶ
るぶると震えてる一台の携帯は、さっきまで僕の前を歩いていた誰かさんの所有物なわけ
だ。特に深く考えることもなく僕は着信ボタンを押す。
「もしもし?」
相手は僕が出たとたんにまくし立てるように、
「ああ、例の件の話な、三丁目の田原ってやつが狙えそうなんだけど、俺にはもう一人鴨
がいるからお前にやるよ。今から電話番号を言うから用意しろよ。コードナンバー03──
だったな、お前」
「……」
「ちがうのか?」
「──いや、俺おれ。おれだよ」
「どうした? 疲れてんのか? オレオレ詐欺なんてちんけな仕事やってたら憂鬱にもな
るよな。いや、余計なお世話か。どうでもいいや。よし、言うぞ──」
──さて、どうしたものか。

次は「くるみ」「木漏れ日」「時計」で
251名無し物書き@推敲中?:04/07/27 20:44
うお、かぶった、すんません。お題は249さんの方優先ということで
252名無し物書き@推敲中?:04/07/27 21:55
不快感の中で目覚めた男が、まずはじめにするべき事は、目を擦るでも、欠伸をする事でもなく、
なにより電灯のスイッチを押すことだった。
さすがに住み慣れた我が家、ただの1cmの狂いも無く、
男の人差し指は電灯スイッチの中心を素早く捉えていた。
幾分古くなっていた電灯は、
それでも3秒後には燈色の明かりでこの小さな世界の表面を照らした。

ああああああくぁwせdrftgyふじこl@;:「だめ。疲れた。すんません無視してください
ここで言う話じゃないのはわかってるんだが

>252は何がしたいんだ?無理だと気付いたら書き込む前にキャンセルを押せ。
254文吉:04/07/28 02:38
『黄疸』『蚊』『桃』
 うるさく飛び回るかを気にしながら鏡を見つめていた。そこに映る自分の顔を見つめな
がら、目が悪いのか、もしくは肝臓が悪いのだな。と漠然と感じていた。
 そこに映る顔色は、まるで長い間陽に晒されていた朽ち果てかけたゴムのような見事な
黄疸をしていた。
「まいったな」
 実家から送られてきた桃をかじりながら呟いた。
「本当にまいってるのか?」
 心の中から意地悪な声が聞こえた。僕はその言葉に苦笑した。確かに心の中にいる誰か
が言うとおり、僕は全くまいってなかった。
 なぜなら、避けることのできない死が自分に訪れるのが、僕が高校の頃から求めていた
ものだった。
 それなのに僕の心はザワザワしていた。本当に僕が求めていたものはこれだったのか?
これはまるで他人の人生みたいだ。それどころか、今までの人生すら借り物みたいだ。
「いや、俺が保証する。全てお前のリアルな人生だよ」
 僕はその心の声を聞きながら、取り返しのつかないことがあることを知った。

『無意識』『世界の中心』『狙撃』
また、くるみの木を見つけた。
別にお腹なんか空いてないのに、またいくつかくるみを取って食べた。
これで、正確に数えた限りでは千個目だ。
この森に迷い込んでからどのぐらいたったんだろう。
木漏れ日すらささないから昼も夜も分からない。
不思議なことに、いくら歩いても疲れないしお腹も空かなかった。
くるみを見るたびに食べてるのは、気分を落ち着けるためだった。
食べ終わってふと気がつくと、目の前に木の枝から古時計がぶらさがっていた。
手に取ってよく見ると、文字もなくどの位置が上かも分からない形をした時計で、
何時を示しているか分からなかったが、とにかくちゃんと動いていた。
くるみの木からの贈り物だろうか。とりあえずもらっておいて、再び歩き始めた。
やがてまた、くるみの木を見つけた。


消化なのでお題は>>254のを継続で。
256名無し物書き@推敲中?:04/07/28 21:29
「どうして世界から悲惨がなくならないのか。
どうして人間から憎しみや妬みが取り除けないのか。
それらがなくなるどころか、次から次へと沸いて出るようなのはどうしてか。
考えたことがあるかい?
それは世界自体が病んでいるからだ。人間と同じように、世界の意識のさらに底、つまり世界の中心と呼ばれるところには、やはり世界の無意識とよばれるものがあるんだけど。
それが酷く病んでいるんだな。俺にはわかる。
理由なんかわからない。とにかく、世界は無意識領域において自分自身を憎んでいるんだ。殺したいくらいにな。
それが俺たちに何も影響を与えないわけがないだろう?
ああ、俺は死刑になるだろうさ。だけど、それで何が変わる? 何が終わる? 
黒く歪んだ瘴気は、また次々に世界の中心から沸いて出て、人間を犯して、俺みたいなのをまたいくつも作り出すだろうさ。
なあ、正義の味方さんたちよ、いい加減に気づけよ。
おまえたちは、いわば、世界の無意識を相手に戦っているようなもんなんだぜ・・・・・・・」
カルト宗教に染まった狙撃犯は、そう喋るとけたたましい嘲笑をあげた。

「決まる」「はずす」「騒ぐ」
257名無し物書き@推敲中?:04/07/28 23:53
とある喫茶店のトイレの中で、今まさに一人の男が人生の岐路に立たされていた。
店内には客の騒ぐ声が何重にも重なり響いている。
男は胸が悪くなり、一呼吸置いてから便器に唾を吐いた。
今まで与えられた仕事は有無言わず完璧にこなしてきた男は、それでも今回、上から与えられた任務には
不満を隠せないでいた。
「誰か、他の者に変えてもらえないでしょうか?」
男は何度も交渉したが、とうとう首を縦に振ってはもらえなかった。
「この任務は我々組織にとって大変重要なものだ」と上は言った。「失敗は許されない。だからこそ
お前を抜擢したんだ。任務成功率の最も高いお前をな」
便器に座りながら、上とのやり取りを思い出して気分が沈んだ。
胸ポケットからさっき買ったばかりのマルボロの箱を取り出し開けてみても、
タバコを吸う気分にはならなかった。それでも一本口に咥えてみる。
そのうち心も決まるだろう。任務遂行の時間までにはまだ少し余裕がある。
男は落ち着いた表情でネクタイをはずす。
そのまま目を閉じ、しばらくの間、瞑想に浸った。

「哲学」 「喧嘩」 「空手」
 男は踊る。
 丘の上吹き荒れる風の中踊る。
「見つけたぞ」
 髪の長い浮浪者風の男。殺意を押し隠すような表情。
 男は踊る。
「お前に喧嘩で負けたあの日以来……いや、よそう。とにかく俺と闘え」
 男は依然踊る。
 髪の長い男は、段々と気圧されていく自分が中にいることを認識していた。
男の踊りからは、何か、彼の哲学とでも言えるものが発散されていた。
 しかし、髪の長い男の中のそれとは違うある部分は、こう思っていた。
「この男を喧嘩で倒すこと。それこそが自分の哲学そのもの」――。
 空手や柔術、ムエタイ、果てはカポエラまで。それら全ての武術の魂が
彼に語りかける。念願を果たせ、と。
 「お前は何故、こんな丘の上なんかで踊っているのか」
 そう言った瞬間、髪の長い男は踊る男の元に駆け出した。
 踊る男は右足を自分の腹にピタリと着くほどに上げる。髪の長い男は
地にただ一本残った左足を払おうとする。
 風が吹く。とびきり強い風が、髪の長い男を丘から吹き飛ばした。
 踊る男は踊りながらその様子を見る。右足を地に下ろす。
「だって、俺は踊りだから……」 

「雷」「かがり火」「信用」
259名無し物書き@推敲中?:04/07/29 15:30
「雷」「かがり火」「信用」

空想好きなこどもだった。
授業中は、ただ、ぼんやりと、考えていた。
例えば、二宮金次郎は、かがり火で本を読んだと教科書に書いてあるが、これが月明かりだったら、みんな美形の男を想像するんだろうかとか、
一生のうち雷が落ちる瞬間を目の前で見ることができるだろうかとか、もし目の前の席の子の机に落書きされたウサギが、しゃべるとしたらどんな言葉だろうかとか。
そんな、とりとめのないことを、ただ、ぼんやりと考えていた。
本を読むのは好きだったけど、授業中は先生に見つかるので我慢していた。
あまりにも空想癖がひどいので、親は心配していた。
そんな子どもだったが、小学校5年生のとき、担任の先生が私の作文をみて、えらく誉めてくれた。
「小説、かいてみたら」
彼女のその言葉と自分を信用し、大学生になる今まで、ずっと話をかいてきた。
いまでも、ぼんやり癖はぬけていない。
スナフキンの帽子がシルクハットになる話や、近所の公園の砂場を深く深く掘って、地球の真ん中に到着する話や
透明な金魚ばちに、メロンソーダを入れて金魚を飼う話など、
そんなどうしようもないことをぼんやりと考えながら、今も小説を書いている。

次は「夕暮れ」「せっけん」「レモンティー」でお願いします。
260名無し物書き@推敲中?:04/07/29 16:13
 夕暮れの寂しさに、二人きりだった。
 あたしがブランコを少しだけ揺らした音が公園中に響き渡った。隣でマコトが声をあげて笑った。
「お前太りすぎなんじゃねーの?」
 睨むふりをして、彼の持っている500mlパックのレモンティーを見る。差し込まれたストローの先端はいつもどおり噛まれている。少し嬉しかった。
 ゆっくりとマコトがブランコをこいでも、嫌な金属の音はしなかった。
「なんか昔さ、シャボン玉とかやったよな。せっけんと洗剤どっちのほうがでっかくなるかとか、砂糖入れたらすごいとかさ」
 夕日に照らされた横顔は、どことなく昔と違った。当たり前だ。あたしの気持ちだってどんどん変わっていく。
 幼馴染なんて言葉じゃ片付けられなくなっていく。できれば時間が止まってほしいと思った。
「卒業か……中学、短かったね」
 沈黙を挟みながら交わされる言葉はつながりを持たなくて、独り言みたいだ。

「金魚」「鎖」「雨」
261名無し物書き@推敲中?:04/07/29 16:46
道端に置き去りにされた空き缶を見るのはとても哀しい。
デコボコと複雑に歪んだそれには、ひとかけらの夢も希望もないように思われます。
あたしは3秒間考えてから、それを草むらに向かって蹴り飛ばしました。
カランカランと物憂げな音をたてながらアスファルトの上を転がり、
最後には結局、みだらな格好で草むらの中に身を落ち着かせました。
そろそろとまたお散歩をしていると、今度はとおくのほうで、
金魚のような目をした男が、あたしに卑猥な言葉を投げかけてきました。
無視するのも芸がないなと思いましたが、
さきほどの空き缶を思い出し、何をするのも億劫になってしまいました。
ぽつぽつ雨が降り出しました。生憎あたしは傘を持っていないので、急いでお家に帰ろうと思います。
くだらない鎖につながれた、くだらないあたしの日常に、かんぱい。

「柔軟」「慈悲」「鱗」
262:04/07/29 19:16
ナメクジが柔軟体操をしていた。そこへマイマイカブリがあらわれた。
「おい、おまえは、どうしてじゅうぶんカラダがやわらかいくせに、そんな体操をしているんだ。」
と、マイマイカブリは不思議に思って訊いた。
「へえ、こうして毎日運動してないと、カラダがかたくなってしまうか、心配で、心配で、」
「そうか、そんなに心配か。」と、やさしいマイマイカブリは言った。
「へえ、だんな、心配なんでげす。」
「そうか、なら俺がその心配を解消してやろう。」と、やさしいマイマイカブリは言った。
「さようですか、だんな、へえ、感謝いたします・・・」
「よし、では、じっと動かないで、目をつむれ。」
「へえ、こうでげすか?」
ナメクジは、触角をちぢめた。
「よし、では、もっとカラダをちぢめてみろ。」
「へえ、こうでげすか?」
ナメクジはカラダを小さくまん丸くして、じいっと動かないでいた。
「よし、そのまま動くなよ。」
「へえ?」
マイマイカブリはそっとナメクジに近づくと、一口で呑みこんだ。
ナメクジはマイマイカブリの胃の中で消化されるまで、こう呟きつづけた、
「だんな、そんな無慈悲な・・・」

こんなことが何十億年とくりかえされた。
そうしたある日、かたい鱗にからだを被われたナメクジがこの世にあらわれたんだとさ。
そのナメクジはこう言ったとさ、「だんな、あの時のこと感謝しますだ。」
ナメクジはマイマイカブリの胃を突き破って、爽やかな青空を見やった。

『フランス人形』『老人』『オブラート』
『フランス人形』『老人』『オブラート』

依頼人とカフェで落ち合うことになった。
会うのは初めてだった。顔は知らないが、フランス人形のような格好をしているらしい。
洒落たカフェの中といえども、いまどきそんな女はひとりしかいないだろう。
そう予想しながら店に入っていくと、そのとおりフランス人形のような女がひとりいた。

「あなたが探偵さんね。はじめまして」と彼女は言って手を差し出した。
「こんどからオフィスの方に来ていただきたいですな」
「あのあたりは物騒ですからね。それに人目もありますし」と彼女は言ってハンドバッグから
オブラートに包まれたものを取り出した。「これがこのあいだお話した物です」

俺はそれを手に取った。すこし黄色い。
「飲んでいただけますか」と女はすこし微笑みながら言った。
躊躇しないわけにはいかなかったが、彼女は俺にとってひさしぶりの上客だった。
この仕事をやれば溜まっているオフィスの家賃を支払うことができるだろう。

俺はそれを口に入れ、水で流し込んだ。
「調査していただきたいのは」と彼女は言った。「ある老人のことなんです」
彼女はその老人について説明しだした。身元は分からないが、彼女の立場を危うくするらしい。
「いま飲んでいただいたのは」と彼女は続けた。「その老人が吐いた痰ですの」


「弁護士」 「乳房」 「小説」
「ごめんなさい」
 喫茶店で、うつむいたままの恵子さんが別れ話を切り出した。
 恵子さんが胸に癌を患い、片方の乳房を取り去ったのが三年前。
 処置に疑問をもち、弁護士の私に相談してきたのが二年前。
 そして相手との示談にこぎつけたのが、ついこの前のことになる。
 相談を重ねるうちに、この人をずっと守っていきたいと思うようになった。
「僕と結婚を前提に交際してください」
 示談の成立直後、レストランで祝杯をあげながら、そう告白した。
 それまで微笑んでいた恵子さんは、ハッとした顔をすると黙ってしまった。
「……こんな私で、良かったら」
 しばらくして、俯いたままで少し顔を赤らめながら、そう答えてくれた。
 しかし、そのあと何度となく見せてくれた笑顔の奥に、暗いものを感じてもいた。
 だからこうなるだろうとは薄々、わかっていたと思う。
「ごめんなさい。こんな私では、あなたとはつりあわない」
 最後にもう一度「ごめんなさい」を聞いて別れた。
 あれから一年。恵子さんとはたまにメールで近況をやりとりするに留まっている。

 今、自分の気持ちを、いつか恵子さんが好きだと言った小説にして書いている。
 読んでくれるだろうか。どうか恵子さんに、この思いが届きますように。

 次のお題は「再会」「ワイン」「笑顔」でおねがいします。

再会場所は、2人でよく行った新宿のイタリアンレストランと決めていた。
なんとなく、彼女と別れた5年前から、そう決めていた。
窓から眺める東京の夜景は、宝石みたいにきらきらしていて眩しい。
彼女はここのワインが好きだった。5年前と変わらない笑顔で、変わらない赤ワインをおいしいと言う。
「話って、なにかしら」
ほんのり赤くなった頬を僕に向けて、 ゆっくりとたずねる。潤んだ眼が、何かを期待しているのがわかる。
「突然、遭いたい何でなんていうから、どういう風のふきまわしかとかんがえちゃう」
そうなんだ。僕たちはお互いに飽きたとか、愛想がつきたから別れたわけじゃない。2人とも、それをよくわかっている。
ただ、長く一緒にいすぎて、僕たちは困ってしまった。
「私、あれからまだ、淋しく独身やってるわ」
ふふ、と寂しそうに笑った彼女の眼は、やはり何かが起こることを期待している。僕にも、彼女への愛着はまだ残っている。
充分すぎるほどの、僕らがやり直すチャンスが、目の前にある。
「僕、今度、結婚するんだ」
やっと絞り出した言葉は、穏やかなオレンジ色の照明に溶けてきえた。赤ワインの中の寂しさの味が少し増える。
「よかったじゃない」
彼女は言った。その言葉も、レストランのなかに流れるクラシックにしっくり溶ける。
「ありがとう。式には、呼ぶから」
それから僕たちは、それぞれのワイングラスを一斉に空にした。
それが、僕たちにようやく訪れた、静かな終わりの合図だった。


「白い」「包む」「ふわふわ」


「白い」「包む」「ふわふわ」

老人を乗せた車がバーの前で止まった。
俺は老人が店に入るのを見とどけてからタクシーを降り、
少し時間をおいてから中に入った。高級そうな店内に、客はまばらだった。
老人はカウンターのいちばん奥の席に座っていた。
隣には白いドレスの女がいた。

俺は老人から少し離れた席に座り、オールド・グランダッドを注文した。
老人と女は小声で話しこんでいた。静かな店内だったが、
俺の席からは内容までは聞きとれない。
ときどき大きくなる女の声で分かったことは、この店はカウンター席の
椅子のクッションもふわふわしていることだけだった。

老人がポケットから紙を取り出した。オブラートのようだった。
それを口にあて咳をした。それから痰を含んだ紙を丁寧に折りたたんだ。
奇妙な癖がある。老人がそれをポケットにしまおうとするのを女は制止した。
女は受け取った痰をいちど光に透かせてから、口の中に入れ飲み込んだ。


「余興」「訴状」「余剰」
267うはう ◆8eErA24CiY :04/07/31 03:32
「余興」「訴状」「余剰」

 毎日繰り広げられる、高校野球の大熱戦。野球解説者は唸る。
 「まさに打ちも打ったり、取りも取ったり、最高の選手ですねぇ」
 その時だった、謎の覆面プロ野球チームが乱入してきたのは。
 「我々を差し置いて最高とは何事…勝負だ!どちらか強いか、思い知らせてやる。」

 高校球児も相手がプロでは仕方ない。3回裏で40-0、既に野球のスコアではなかった。
 「フッフッフ、ほんの余興よ」と嘯きながらも、プロは一向に手を緩めない。
 試合が終わって256-0。プロ選手達は意気揚揚と立ち去っていった。

 残された球児達は、放心した様に中断された試合を続けた。
 観客もアナウンサーも先刻の熱気はどこへやら、まるで気の抜けたコーラだ。

 その夜、試合の合間に監督はオーナーのご機嫌伺いに行く。
 「今日の乱入ですが、これでよかったのでしょうか?」
 「当然だよ。第一、給料アップの訴状を出してきたのは君達の方じゃないか」

 たしかにその通りだ、監督は肩を落とす。わかっているさ。
 これ以上プロ野球が地盤沈下すれば、自分さえ余剰人員扱いだろう。
 徹底的に叩きのめす必要があったのだ。敵は高校生ではない、高校野球なのだから。

※敵は行数…
次のお題は:「高原」「罠」「ロボット」でお願いします。
「高原」「罠」「ロボット」

高原に向かう電車の中で、手話で会話をする親子をみかけた。
がらんと空いた平日の昼の列車の中で、私の向かいの席に座ったその親子は、まだ若い夫婦で、小学生くらいの子供が一人。
3人とも、手話を使っている。
子供は一生懸命に手を大きく動かしている。まるで、こちらに声が聞こえてきそうなほど大げさな動作だったが、その内側の声を上手く伝えられないもどかしさにイライラしているようでもあった。
それに対して、若い夫婦の手話のやりとりは穏やかだった。きれいでしなやかな動作で手を動かし、小さな動作で相手に自分の声を的確に伝えていた。
お互いの気持ちをよく理解し合っている夫婦なんだな。
私はそう思い、少し嬉しい気分になった。
気持ちよい揺れにつられて少し眠ると、列車はだいぶ進んでいた。私が降りる駅まで、あと少しだ。
向かいにいる親子は、まだ手話で何かやりとりをしている。
子供の動きが、さっきより激しくなっている気がした。身体全体を使って、何かを訴えている感じだ。
ロボットのように、ずっと同じ動作を繰り返している。
夫婦は、相変わらずゆっくりと手を動かしていて、子供の動きとあっていない。
なんか、変だな。
私がそう思ったのは、奥さんが大事そうに床に置いて、足でかばっている大きなバックに気がついたからだ。
バックから、黒い髪の毛のような細長いものが、数本はみだしていた。
子供は、狂ったようにそれを指差していたのだ。
あのバックの中には、何がはいっているのだろうか。多分、なんてことない、人形かなにかだろう。きっと、そういう思い違いのようなことの方が、世の中多いんだと思う。
でも、私はなんともいえない奇妙な恐ろしさを感じた。
あの奇妙な親子の手話は、いったいどんなものなのか、気になってしまう。
電車が、駅に止まった。
私はホームに降りると、電車を見送った。
中ではまだ、3人の親子が、手話をかわしているのが見えた。


「壁」「ゆらゆら」「レタス」
269268:04/07/31 15:42
すみません。よく見たらおだい消化してませんでした。誤字ならまだしも、おだい不消化ということで、もう一文足して、投下させてください。
ほんとうにすみません。

「高原」「罠」「ロボット」
高原に向かう電車の中で、手話で会話をする親子をみかけた。
がらんと空いた平日の昼の列車の中で、私の向かいの席に座ったその親子は、まだ若い夫婦で、小学生くらいの子供が一人。
3人とも、手話を使っている。
子供は一生懸命に手を大きく動かしている。まるで、こちらに声が聞こえてきそうなほど大げさな動作だったが、その内側の声を上手く伝えられないもどかしさにイライラしているようでもあった。
それに対して、若い夫婦の手話のやりとりは穏やかだった。きれいでしなやかな動作で手を動かし、小さな動作で相手に自分の声を的確に伝えていた。
お互いの気持ちをよく理解し合っている夫婦なんだな。
私はそう思い、少し嬉しい気分になった。
気持ちよい揺れにつられて少し眠ると、列車はだいぶ進んでいた。私が降りる駅まで、あと少しだ。
向かいにいる親子は、まだ手話で何かやりとりをしている。
子供の動きが、さっきより激しくなっている気がした。身体全体を使って、何かを訴えている感じだ。
ロボットのように、ずっと同じ動作を繰り返している。
夫婦は、相変わらずゆっくりと手を動かしていて、子供の動きとあっていない。
なんか、変だな。
私がそう思ったのは、奥さんが大事そうに床に置いて、足でかばっている大きなバックに気がついたからだ。
バックから、黒い髪の毛のような細長いものが、数本はみだしていた。
子供は、狂ったようにそれを指差していたのだ。
あのバックの中には、何がはいっているのだろうか。多分、なんてことない、人形かなにかだろう。きっと、そういう思い違いのようなことの方が、世の中多いんだと思う。
でも、私はなんともいえない奇妙な恐ろしさを感じた。
あの奇妙な親子の手話は、いったいどんなものなのか、気になってしまう。
あの手話にはなにか、重大な罠が隠されている気がしてくる。
電車が、駅に止まった。
私はホームに降りると、電車を見送った。
中ではまだ、3人の親子が、手話をかわしているのが見えた。


「壁」「ゆらゆら」「レタス」
270名無し物書き@推敲中?:04/07/31 23:32
「はい、アーーーーーーンしてえ」
特製レタス巻きが、目の前に差し出される。
彼女の始めての手料理。拒む理由など存在しない。
まるでお預けをくらった飼い犬のように飛びつくと、ひとくちでパクリ。
とたんに・・・・・
うぞにゅるっ!!
「ふぐおぅっ!?」
レタスを突き破って、無数の得体の知れない何かが口腔内に踊り出す。ミミズのようなナメクジのような不気味な感触。それらがいっせいにうごめいて、自らのどの奥へ奥へと流れ込む。
吐き出そうとしても無駄だった。あまりの気持ち悪さ、おぞましさに、俺は七転八倒。床を転げまわり、壁に頭をぶつける。
「な、ぐ、何を・・・・・・うぶっ、食わせた・・・・・」
「えーー、それはあ、ひぃ、みぃ、つぅっ」
しなをつくる彼女の姿がゆらゆらと滲んだかと思うと、そこにいたのは・・・・・
「グ、グレイっ!!!?」
そうか、そうだったのか・・・・・・。俺は総てを悟った。
俺の腹の中で何かがうごめいている。
それはしだいに、まとまり始め、変化し、大きくなると、今度は逆に腹から食堂、口へとせりあがり始める。
それがなにかはわからない。グレイの子供なのか、はたまた人間を苗床にする新ての生態兵器なのか。
だが、これはあきらかに、宇宙人の侵略なのだった。
271名無し物書き@推敲中?:04/08/01 14:24
三語は?
未消化のお題も見当たらないしどうしたものか…
じゃあお題だけ。まずかったらごめん。
「審査」「獰猛」「安定」
>>1も読めん奴ばかりかよ…
これだから夏休み期間は嫌なんだよ…
雲一つ無い晴天。昼ごはんを食べているのか、公園で遊ぶ子供達の姿は見えない。
時計を見て、待ち合わせの時間丁度であると確認したと同時に彼はやって来た。

私達はブランコに座り暫く何も言わずブランコを漕いでいた。
「もう、美佐子から聞いてると思うけど……」ようやく話を切り出してきた。
私は今からフラれるのだ。親友の美佐子に彼を取られてしまったから。

 薄々とは気づいていた。私とデートしても彼は黙っている時が多いけど
美佐子とは話が弾んでいた。私はサンドイッチをよく作って彼と食べていたが
実はレタスが嫌いだとは美佐子から聞かされるまでは全く気づかなかった。
私より美佐子と付き合った方が、きっと彼によって良いと思う。

「うん、聞いてる。美佐子と付き合った方が良いよ」私は努めて明るく言った。
「……そうか。俺を選んではくれないのか」彼はとても落ち込んだように言った。
「え?」、と私が聞き返す前に、彼はブランコを飛び降りて早足に立ち去ってしまった。
壁の向こうに消える彼を私は見送るしか出来なかった。
ゆらゆらと動くブランコの音だけが虚しく公園に響いている。
キーコーキーコーキーコー。

次のお題は『山道』『いいえ!』『今ごろは』でお願いします
菜の花畑の上には、今夜もきれいな満月がぷかぷかと浮かんでいた。
月明かりに照らされて、ちかちゃんと2人、手をつないで畑の道をしゃりしゃりと歩いていく。
こんなきれいな月の夜には人さらいがでるから気をつけなさい、とお母さんが言っていたのを思い出す。
私とちかちゃんは、2人でこっそりと、村はずれの病院に向かっている。
たっくんが入院しているので、お見舞いに行くのだ。
学校の先生は、病気がうつるから行っちゃいけないと言っていたけど。
大人たちの話を聞いていると、たっちゃんはだいぶ具合が悪いらしかった。
私は菜の花畑を歩きながら、小さい頃一度かかったことのある村はずれの病院を思い出していた。山道のとちゅうにぽつんと建てられた古い病院だ。
あそこは、淋しいところだった。
ぼけたおじいちゃんやおばあちゃん、待合室の白い壁のシミ、鼻を突く消毒液の匂い。
村の生活から、すっぽりと抜け落ちてしまったような、そんな淋しいところだった。
「今ごろは、たっちゃんひとりぼっちで泣いてるよ」
ちかちゃんが言った。ちかちゃんはさっきから菜の花の花びらを通って来た畑道にてんてんと落としていっている。
「いいえ!たっちゃんはなきむしじゃないです!」
私はわざと大きな声で言った。
月明かりにぼんやり照らされた黄色い菜の花畑をどんどんと進んで行く。
「わたし、怖くないよ」
ちかちゃんがいった。わたしは優しく言う。
「こんなに月明かりがきれいだから、ひとさらいなんてでないよ」
私たちはどこまでも、どこまでも、菜の花畑の中をしゃりしゃりと歩いて行く。
どこまでいっても、菜の花がとぎれることなく続いていて、まだ病院は見えてこない。
あとには、ちかちゃんが落としていく菜の花の花びらが、てんてんと月明かりに照らされて浮かんでいた。

「硝子」「ねこ」「大丈夫」
床には硝子が散らばったままだった。
「すいません。まだ片付けてませんので、そちらには近寄らないようにしてください。」
浦野正子の母がお茶の用意をしながら言った。
浦野が学校にこなくなってからもう一ヶ月が過ぎたが、
事態は変わらないどころか悪化する一方だった。
今日はその事で浦野の家へきたのだが肝心の浦野正子は、
ついさっき出て行ってしまったという。
「いえ、それより怪我などは大丈夫でしたか?」
「私は大丈夫です。ただ、ミカが足を切ってしまいまして。」
「ミカ?」「ええ、ねこのミカが・・・。」「ああ。」
浦野は父を早くに亡くし、母親と二人暮しをしている。
それにしてもよく似ている。
耳にかかった髪をかきあげる仕草などそっくりだ。
と、こちらを振り返った母親と目が合った。
なぜだろうか、お互いそのまましばらく無言で見つめあったままだった。
3語は?
>>280
ない時は継続

6語入れるのもアリだよ
282279:04/08/03 09:40
スマソ、お題忘れてた。
お題 「風」「君」「心」 で。
彼は広いのっぱらに生えた一本の大きな木の傍らに佇んでいた。
少しうつむき加減で何かを思い悩むかのように。
「こんなことなら心なんて欲しくなかった」
彼はそうつぶやくと、少し顔を上げた。
視線の先には青い空と白い雲、そして明るく輝く太陽。うっすらと虹も見える。
しかし彼の顔はそんな明るい空とは対照的に暗く沈んでいる。
「君に会えないことがこんなに苦しいなんて、思いもしなかった・・・・・・」
そのとき、のっぱらを撫でるようにざーっと風が吹いた。
膝丈ほどの草をかきわけて進んできた風は、
木の葉をざわめかせ、彼の身体をガチャガチャと軽くきしませた。
「心さえなければ、こんな苦しみは知らずにすんだのに」
ブリキ男はそう言って、彼女が去っていった虹の彼方に想いを馳せた。

お題 「地蔵」 「渦巻き」 「指導者」
284名無し物書き@推敲中?:04/08/03 13:53
「地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人間道・天道」
一体私達人類は、どれ程の苦行をせねば、この六道から解き放たれないのだろう。
『弥勒』の出現を待っても決して訪れる事の無い救い。
策謀が渦巻く世界。搾取され疲弊し人心は荒廃し六道の只中にいるというのに既に地蔵さえ救いを諦めているというのか。
指導者とは名ばかりの悪政に辟易し、飽くる事の無い欲望に満ちたこの世界。
いっそ修羅とならねばいけないのか。
嗚呼、テロリスト達が修羅であるのだな……。
この世は、既に人間道では無いのだ。
圧迫された人々は地獄のようなこの世で苦しみ、欲望にまみれ餓鬼の様に際限無く求め、畜生の如く犯罪を犯し
理想に燃えその手は血にまみれ修羅道に身を委ねている。
既に我々は人間道より道を踏み外しているのだ。
地蔵菩薩よ、顕現し我等を救い給え……。
またお題がない・・・
ケイゾクでつか?
286名無し物書き@推敲中?:04/08/03 18:46
「地蔵のような顔だな。」私は第一印象でそう思った。
私は彼の前に正座をしていた。家の中はたくさんの人でごった返している。
彼の妻であろう女はうつむいていた。外ではスズムシの音が聞こえていた。
 「影の指導者であったはずなのにこんなところで・・・」私は思った。
私の母は、幼い頃に亡くなっていた。私はたった一人で生きてきた。
彼を恨んでいるわけではない。そんな感情はもうなくなった。
しかし、何故だか涙があふれてきた。
生涯孤独。そんな事わかっていたはずなのに。
おれは、悲しいのか。母との思い出も一緒に消えていくようだ。
祭壇の、渦巻きのような目をした彼の写真は、私に良く似ていた。








「ずっと」「スズムシ」「伝わる」
287名無し物書き@推敲中?:04/08/03 19:20
「ずっと」「スズムシ」「伝わる」

「人間椅子か。懐かしいな、俺も読んだよ」
夫は、さっきまで私が読んでいた文庫本をペラペラとめくってつぶやいた。
江戸川乱歩を読んでいた。人間椅子というのは、大きな椅子の中に人が住んでいる、というホラーな話だった。
「学生の頃ね、読んだな。江戸川乱歩」
夫はテレビを見いているのか、本を読んでいるのか、どっちつかずなたいせいをとっている。
こんな涼しい秋の夜には、ミステリーの香りがする。
江戸川乱歩の似合う夜だ。
開け放った窓からは、スズムシの鳴き声がした。
テレビは、ニュースを流していた。
取り壊しの決まったホテルの家具を整理していたら、椅子の中から白骨が見つかったというニュースだった。
ホテルの名前には、見覚えがある。一度泊まったことがある。
白骨は、今から、10年以上前のものらしい。ちょうど、私が夫と訪れたのも、それくらいの時期だ。
「人間椅子か」
夫がまた呟いた。
私の方を向き、にやっと笑いを浮かべた。
私の不安が、夫にも伝わる。ずっと、ずっと。、私が考えていたことだ。
窓の外で、スズムシが鳴いている。
秋の夜は、どこまでも、深い。


「ありがとう」「かけら」「頬」

 皺の寄ったシーツは朝日を受けて白く輝き、そこに横たわった彼の顔は、
シーツよりなお白く、命の気配を感じさせないものだった。
 そっと握り締めた手はすっかりやせ衰えて、私の掌の中で冷たく強張っている。
「ずっと……ここに?」
 眠っているとばかり思っていた彼の唇が、微かにそう呟いた。
「うん……。側に、いたかったから」
 泣くまいと思っていても、涙は意思に反して勝手に溢れ出す。
 待ち望んだ結婚式まであと三日。
 けれど神様は、たった三日の余裕さえ、私たちに与えてはくれなかった。
 突然倒れた彼は見る間に衰弱し、ついにはベッドから起き上がることさえ出来なくなってしまったのだから。
「ごめんな、結婚式……」
「いいのよ。いいの……」
 止まらない熱い涙で、生きたまま枯れていくような彼の体を潤せたらいいのに。
 埒もない想像に胸を掻き毟られる私に、彼は慈しむような眼差しを向ける。
 大学時代、ラグビー部で鍛えた肉体は見る影もない。
 病魔に蝕まれた体に残された命は、もうほんのひとかけらしかない筈なのに、
彼はその最後の温もりを、私に与えようとしてくれる。
 閉じたままの目は、それでも笑うように緩やかなカーブを描いている。
 もうすぐ永遠に失われてしまう愛しい横顔を目に焼きつけながら、
私は彼の胸に頬を押し当てて呟いた。
「ありがとう。愛してくれて」


『雪見』 『蚊取り線香』 『大学ノート』
289gr ◆iicafiaxus :04/08/03 23:31
#『雪見』 『蚊取り線香』 『大学ノート』


畳の上で目を覚ました。茶道部の部室だ。
あー僕は体育をさぼって部室へ来たまま、眠り込んでいた。

室内は、向こうの坐卓で純子先輩が連絡ノートを書いている。
なんだ、起きたの、と純子先輩は言った。
「私これから帰るところ」

言われると、全開の雪見障子の外はもう真っ暗だった。
僕は時計を見る。
「うわ、こんな時間。僕も帰ります」

立ち上がって覗き込んだら、先輩は〈カゼひくなよ〉とか〈蚊取り線香
消してってね〉とかいう書き置きにバツをつけて、大学ノートを閉じた。


僕は、蚊取り線香の火のついてるところから少し先をつまんで折る。

「先輩、自転車すか」
「――ううん、朝雨降ってたから、今日は歩き。」

線香の火は燃えてる限界まで近くで折るのがいいけど… 勇気と自重の
兼ね合いが僕にはまだわからなくて、この前も指をやけどしてしまったんだ。

「――じゃ送りますよ、遅いし」

先輩の反応を待つこの一瞬。


#ごぶさたしてます。次は「球根」「ジャム」「楽園」で。
球根」「ジャム」「楽園」

どこか、遠い海へいきたい、とミミが言った。
夏の海に来るのは、学生の頃、友達と騒ぎに行ったきりだった。
ミミは、今年大学生になる、私の恋人だ。まじめといわれる私が、こんな若い女の子と海で遊ぶ姿なんて、だれも想像できないだろう。
ゼッタイ、焼けたくなあい、とミミは言っている。
パンにジャムを塗るように、ミミの白い肌に日焼け止めオイルをたっぷり塗り込んでやると、ミミはくすぐったいと笑った。
ミミはそれから、キャアキャア言いながら、海へ入っていった。
「気をつけろよ」
と言うと、私はビーチパラソルの下に敷いたシートに腰を下ろした。
まるで、楽園みたいなビーチだ。海の青はとても澄んでいて、下の石が透き通って見える。
うるさい海水浴客たちもいなく、貸し切りのような贅沢な時間を過ごせそうだ。
遠くまで車を飛ばしたかいがあった。
しばらくして、ふと、海の方を見ると、ミミの様子が何かおかしい。
溺れているのか?
私は急いでミミを引き上げにかかった。
浜上に横たえると、ミミは息をしていなかった。私は無我夢中で、ミミの鼻をつまみ、口を開け、息を吹き込んだ。
すると
「ぷっは、苦しっ」
といって、ミミがガバッと起き上がった。
唖然とする私を前に、ミミはクスクスと笑った。
「先生、こうでもしなきゃ、キスしてくんないでしょ」
ミミは嬉しそうに、いたずらの成功をはしゃいで喜んでいる。
私は、呆然と、前から根を張っていた不安の求根のようなものの存在を感じていた。
この娘とやっていけるだろうか。
海の音が、小さく聞こえる。
ずいぶん、遠くに来てしまった。私は、どうすることもできずに、ただ立ち尽くしている。



「真夏の」「夜の」「夢」
291禁!治産者:04/08/05 14:54
 猛威をふるった真夏の太陽が西の空に傾いていく。ひぐらしが鳴きはじめた。なんとはなしに
ビールが飲みたくなって冷蔵庫を開けたが入っていない。昨日の夜飲み尽くしたのだ。2ダース
はあったはずなのにと自分の暴飲ぶりにあきれたが、今飲みたい気持ちがおさまるわけでもな
かった。サンダルを履き、クルマのキィを掴んだが、せめて健康に気を使ってるフリだけでもして
おこうと、コンビニまで歩くことにした。
 昼間太陽に晒され続けたアスファルトは予熱したオーブンのようだ。歩いているとピザのチーズ
のように溶けてしまいそうになる。そうだ、夕食はピザにしよう。ひたいの汗がながれ、目に入った
。しみる、一瞬視界が失われた。次の瞬間、轟音がした。かすんだ視界にかろうじて入ったのは、
クルマのボンネットだった。運転手と目があったような気もする。俺を避けようと必死にハンドルを
切っていた。
 痛みは感じなかった。
 俺は焼けたアスファルトの上に横たわっている。運転手が、死なないでくれ、死なないでくれと
喚いている。なにを大げさな、俺だってまだ死ぬ気はない。お前が死ぬなんて言わなければ、死
について考えることもなかっただろう。しかし体中が熱い。オーブンの中で焼かれるピザのような
気分だ。ピザが食いたい。トマトソースが大量にかかったピザだ。俺は真っ赤な液体をたぎらせ
て焼けるピザになっていた。
 夜のとばりが静かに降りてくる。だが、俺の顔はじりじりと太陽光線に焼かれている。これは俺
の目が見えなくなっているのか。救急車の音が聞こえるような気もする。どこからどこまでが現
実なのか分からない。真夏の夕方の夢だと思いたい。俺はただ、ビールが飲みたかっただけな
んだ。ピザをつまみに、ビールを。ああ、ビール、飲みたかったなぁ……。

次は 「骨」「ゆがむ」「手のひら」
「ほら、こっちに立って」
白衣の先生がいらだったように僕に命令する。僕は言われるがままに、先生の目の前まで歩いていった。
先生は白衣のすそから見えている白い足を組替える。
白衣の下には黒いタイトなスカート。僕の目は自然とそこへ誘われてしまう。
「向こう向いて立たないと意味ないでしょ」
さらにいらいらしたように先生が言う。僕は慌てて先生に背を向けた。
背後でカツンと、先生のかかとの高い靴の音が聞こえた。
「うーん、服をきたままじゃわからないわね。上だけでいいから脱いで」
僕は戸惑いつつも、怒られるのが嫌なので先生の言う通り上半身はだかになった。
不意に、あらわになった僕の背中に先生の手のひらが触れた。
冷たい感触が背骨にそって上下に動く。
「やっぱりちょっとゆがんでるわね」
微妙に、肩甲骨音あたりに先生の生暖かい息が当たる。
僕はなんだか怖くなって、身体を強張らせた。
そして僕の首筋になにか生暖かくて軟らかいものが触れた。
僕は上半身はだかなのも忘れて、悲鳴をあげてにげだしてしまった。
一瞬、「あっ」という先生の声が聞こえたが、振り返る余裕もなかった。
ひとしりき逃げ出した後、先生に怒られるのが怖くなって
恐る恐るまた保健室に戻った。
先生は怒るどころか、ひどく悲しそうな顔をして、
ひとこと「ごめんなさい」とだけ言った。

お題 「永久機関」「寓話」「仮面」
 それは木製のマスクだった。まがまがしくも繊細な曲線が彫りこまれていて、どこか
アジア系の民族が儀式で使いそうな代物にしか見えない。といっても、民俗学なんて
ちっとも興味ないからわからないけど。
 僕は木のお面をその場に置いて、他にもっと金目の物がないか物色を続けた。一つ
足りない十二支の置物、片方の重りが取れたヤジロベー、磁石さえ使っていない永久
機関の失敗作……その蔵にあるものはみんな何かが欠けて、ろくなものがない。
 置いてあるものもガラクタばかりで、その面の他にめぼしいものはなかった。木彫り
の面が何を象徴しているのか分からないけど、僕はそれを鬼のようだと感じた。怨念
めいた表情と相当の歳をとっているから、これだけ皺があるんだろう。
「でもそれだと、角が足りないな、やっぱり」
 角がない鬼といえば鬼子母神がいるけど、元は山姥だとかいう話がある。それに寓話
の金太郎だかも鬼子母神から生まれたとか。この面がそういう関係なら、民俗学の偉い
人にもっていけば金になるかもしれない。僕は満足して鬼面を持ち、蔵から出た。
「誰だ、お前」
 見知らぬ人が立っている。家人か。あー、どうやら僕も注意力が欠けていたらしい。

次「鬼」「欧米」「グッズ」
294** ◆6owQRz8NsM :04/08/06 13:12
**「鬼」「欧米」「グッズ」

アマゾン観光1日目

朝 アマゾン観光旅行社のチャーター機で、アマゾン川に到着。
  飛行機をおりると、ボートに乗り込み、ジャングルクルーズに参加。
  乗り合わせた観光客はほとんどが欧米人。うるさいガキがひとりいる。
  ガイドの説明中も、ギャーギャー騒いでボートを揺らし、態度が悪い。

昼 アマゾン料理のランチバイキング。カレーがうまい。白身の魚のカレーで
  何の魚ですか?とガイドに聞くと、ピラニアだという。騒いでいたガキが
  それを聞いてビビっている。俺が笑うと、中指を立てて挑戦的な目を向けてくる。

夕 川の神を祭る、聖なる神殿を観光。黄金の女神像がすばらしい。
  入り口で神殿を守っている部族の女たちが、おまじないグッズを売っている。
  俺は良い夢が見られるという、ワニの歯を買った。例のガキが神殿前に放尿。
  笑顔だった女たちの顔が鬼の形相に変わり、ガイドに何やら耳打ちをする。

夜 ホテルのレストランに到着。部族のワニ踊りのアトラクションを見る。
  ワニの丸焼きが出るが、欧米人の一行は気持ち悪がって誰も食べない。
  俺がひとりで食べているとワニの腹の中から、例のガキのTシャツが出てきた。
  ガイドが目だけで笑っている。非常に満腹になり就寝。ピラニアになった夢を見る。

**次は「別荘」「女優」「女中」でお願いします。
295焼肉:04/08/07 00:41
事件は軽井沢の別荘で起こった。
今、仰向けで倒れている高木英一の胸には、果物ナイフが根元まで刺さっている。
パーティーの、誰もが談笑し誰もが気を緩めた一瞬を狙うという卑劣な犯行だった。
悲鳴をあげた女優の高林ミハルは高木に駆け寄ろうとしたが、医者の高坂に制された。
高坂は手際よく高木の脈拍や瞳孔を調べ、やがて首を振った。
ミハルの叫び声を聞きながらフリーライターの高柳カケルは状況を確認する。
部屋には高木とミハルと医者の高坂に、自分と自分にしがみついている高山芽衣、
他には高島順、高下敬三、高倉洋子、高井美奈、そして女中の高峰の合計10人がいた。
パーティーは、かつて劇団員だった面々の同窓会とミハルの応援を兼ね、
別荘の持ち主である高木が開催した。ミハルだけが出世株となったわけだ。
ミハルと芽衣は懇意の中であり、パーティーにはとある理由もあって誘いを受けたのだ。
カケルは芽衣の願いからパーティーに同行。その芽衣が不安な顔でカケルの袖を引っ張る。
「だいじょうぶだ。今回僕の出番はない」
カケルは元劇団員達が手を振りながら大声で話しているのを見て、苦笑しながら言った。
表立って知られてはいないが、カケルはいくつかの難事件を解決に導いてもいた。
その時、ミハルの声があがる。なんと、倒れていた高木が立ち上がったのだ。
「ハッピーバースデー。と、言いたいところだけどやり過ぎたかな」
ミハルは泣き叫びながら高木に抱きついた。高木はミハルを抱きながら続ける。
「今回は僕と高林さんの婚約発表も兼ねていて、全員を二重にひっかけたんだけど」

次のお題は「別荘」「俳優」「執事」でお願いします。
「別荘」「俳優」「執事」

玄関に近づくと、何か動物の匂いがした。
動物的で、乾燥していて、奇妙な匂いだった。
この大きな別荘のドアは、広く開けられていたので玄関を覗いてみたが、人の気配はしない。
何か焦げているのかもしれないと思い、私は声を出した。
「あの、すいません、、どなたかいませんか」
すると、リビングの方から、この別荘の主の執事らしき格好をした中年の男が姿を見せた。
「失礼します、ハウスクリーニングから来ました」
自分の勤める清掃会社の名前を告げ、挨拶をした。清掃依頼を受けた家の住所は、この別荘であっているはず。
ここは、ある人気俳優がとんでもない値段で買ったという、豪華別荘だ。
執事は、ゆっくり頷いた。
「では、二階からお願いします。主人は留守ですので」
そう言うと、彼はすっとリビングへと消えてしまった。
愛想のない執事だ。しかたなく、木製の階段を登り始めると、なにやら黒い毛が、階段にたくさん散らばって落ちている。
動物でも飼っているのかもしれない。
階段に散らばる毛を拾いあつめ、2階へと上がっていく。
2階の浴室から、例の動物の匂いがした。浴室のドアを開き、中へと入って行くと、今手洗いしてしぼったという感じの、男物のTシャッツとジーンズが干されていた。
この干し物から匂うのかもしれない。
Tシャッツとジーンズに近づくと、あの乾燥した動物の匂いに混じり、かすかな血の匂いがした。
見ると、浴室の床のタイルの目地にも、ちいさな赤いシミがこびりついている。
どういうことなんだ。
私は、慌てて階段を駆け下りた。リビングの執事に事情を聞きたいと思った。
リビングのドアを開けると、一挙に例の異臭が鼻を突いた。キツい匂いだ。
執事は、私に背を向けて、鍋で何かを茹でている。
「何を、茹でているんですか」
強烈な匂いに鼻をつまみながら聞くが、執事は答えない。
箸で、ゆっくりと、鍋の中身をまぜている。


「蜜」「とろり」「甘さ」
とろり。
さながら黒蜜のような、複雑玄妙な甘さが、口の中で蕩ける。
まさに至福だ・・・・・・。
背徳と罪悪にまみれた、はてしなく長く虚無なる生の果てに、俺はとうとうこの味に出会った。
ああ、これだ。この味と出会うためだけに、俺は今まで生きてきたという気さえする。

ああ、もっとだ。もっと俺に味わわせてくれ。
糖尿患者の血液を。

とある吸血鬼の記録。

「悩む」「胃」「上司」
あぁ、どうしよう。
俺はかつてない程悩んでいた。が、その理由は至って単純なものである。
今の俺は文字通り上司と妻の板挟み状態なのだ。
明日は部長達と接待ゴルフの予定なのだが
俺としたことが二週間前に家族と遊園地に行く約束をすっかり忘れていた。
いや、普通に考えれば将来の事を考えて接待ゴルフを選ぶかもしれない。
事実、俺は以前にも同じような事があって上司との交流を優先したことがあった。
そしたらそのときの妻の狂いようと言ったら……
まさか………包丁振り回すなんて………ねぇ…
まあとにかく次も断ったら確実に体の一部を持っていかれそうな状況でまたやってしまったのだ。
かと言って上司の誘いを断るのもまずい。なぜなら俺は早くも窓際族予備軍なのだ。
上司の印象を悪くして大人の夏休みを貰わないためにも接待ゴルフも断れない。
かと言って俺は妻に殺されるのも勘弁である。あぁ、どうしよう。
時間が経てば経つ程俺の胃はキリキリと悲鳴をあげていく。他の事を考えよう…
朝の通勤電車に電車に乗りながら、俺は目玉焼きには何の調味料が一番口に合うか考えていた。


「病院」「浴衣」「眼鏡」
299禁!治産者:04/08/08 22:08
 入院初日の夜だった。顔に何かが触れたような気がして、私は目を覚ました。ぼんやりとした視
界の中に、浴衣を着た老人が立っているようだ。眼鏡をしていないのではっきり見えない。私は目
を細めた。
「なにか、御用ですか」
 私は声をかけたが、その老人は返事をせず、病室を出て行った。私は少々ぞっとしたが、ここ
は病院なのだし、ああいう老人もいるのだろうと自分を納得させた。
 次の朝目を覚まして、私は自分の眼鏡がなくなっているのに気付いた。昨日眠る前に、ベッド
サイドのテーブルに置いておいたものだ。勘違いしてどこか他のところに置いたかと部屋を探して
みたが、どこにもない。私は心の中であの老人を疑いながら、ナースステーションに向かった。
「すみません、眼鏡の落し物、届いてませんか。青いふちのやつなんですけど……」
 書類を書いていたナースが、はじかれたようにこちらを向いた。
「眼鏡、なくなったんですか? 本当に? ちゃんと探してみました?」
 大きな瞳を見開いて、私のことをじっと見ている。なにをそんなに驚くことがあるんだろう。
「え、ええ。私の部屋は探してみたんですけど」
 私が少し戸惑いながらも返事をすると、その看護婦は額に手をあててのけぞった。
「ああ〜〜ん、次は私の番なのよね、眼鏡当番」
 ナースはガックリと肩を落としている。
「あの、なにか悪いことしちゃいました? それに、眼鏡当番ってなんです?」
 ナースが首を横に振った。
「ううん、あなたのせいじゃないわ。眼鏡出しっぱなしにしないでねって言い忘れたの私だし。とり
あえず、今夜眼鏡は返りますんで。多少不自由ですけど、明日の朝まで辛抱してください」
「はぁ……でもどうして」
「大丈夫ですから。心配しないで」
 私はナースの態度を見て、これ以上は何も教えてもらえないな、と感じ取った。教えてもらえな
いのなら、自分で探るだけだ。眼鏡当番って何だ? やはりあの老人が盗っていったのか? ナ
ースはそれを知っていて、今夜取り返しに行くのだろうか。あ、それが眼鏡当番? どんな事情か
知らないが、私も不自由なんだし、あの老人が犯人なら、文句のひとつも言ってやりたい。

次は 「忙殺」「根性」「糸くず」
 明日病気で入院するという朱美を連れ出し、土手に花火を見に来ていた。
 夜空に波紋のようにひろがる光の筋が朱美の目に映りこむ。
「来年も見られるかな」
「今から急いで来年に行けば、間に合うんじゃないか」
 俺の独り言のような呟きに、朱美は悲しそうに微笑んだ。
「あっ寝癖できてる」「え、どこ?」「うしろうしろ」
 振り返るとヒョロッとした眼鏡の、シャツをズボンの中に入れた男がいた。
「オマエが寝癖か!」
 男は素っ頓狂な声をあげると土手を駆け上がり、浴衣の人混みのなかに消えた。
「ちっくしょう、寝癖を、取り逃がした」
 腹を抱えて笑い出した朱美は翌日病院に入院し、半年後に死んだ。

 翌年の花火大会の日、俺は朱美の好物だったスイカを持って墓参りにきていた。
 どこからか白いワンピースを着た長身の女が歩いてきて、俺のうしろで立ち止まった。
「食べ物だけが供え物じゃない」
 いぶかっている俺を無視して、女は線香花火のパックを差し出してきた。
「あんた誰?」
 そいつは俺をチラッ見ると、かけていた眼鏡を中指で軽く持ち上げ、墓を拝んだ。

ああ、間に合わなかった。
次のお題は>>299さんの継続「忙殺」「根性」「糸くず」です。
301名無し物書き@推敲中?:04/08/09 00:34
「根性だ。努力だ。忍耐だ」
 浩輝が高校生の頃までやっていた野球の監督たちは、皆一様にそう言った。大学で
新しく知った世界にはそんな言葉はなかった。努力なんて古い、そう感じた。
 しかし、社会人になって改めて思いしらされたことにはやっぱり人生とは努力と忍耐なのだ。
 暑いのにも関わらず、誰もがネクタイを締め、背広を着ている。曲がりかける背を
自分で叱咤して伸ばす。営業なんていうのは数撃ってひとつ当てる仕事だから、
失敗は少なくないけれども、駄目だった後の会社へ戻る道はやはり辛い。
「肩に糸、ついてるよ」
 急に声をかけられて、浩輝は驚いた。浩輝の肩の糸くずをつまんで捨てた彼は、見紛うはずもない。
「先輩……」
「久しぶり」
 元気ないな、と毎日共に野球に明け暮れたあの日のままの笑顔で、彼は立っていた。
「お前、最近どうよ」
「どうもこうも、仕事に忙殺されてますよ」
 浩輝が力なく答えると、頭を叩かれた。
「しゃきっとしろ。そんな奴に俺の球受けられてたかと思うと腹立つ」
 あまりに変わらない彼らしい言葉に、ついつい浩輝の頬も綻ぶ。
「そういう先輩はどうなんですか」
「ああ、うん。俺のとこ、野球部、来年から凍結だわ」
 血の気が引くとはこのことだ。皆が、憧れていたエースの先輩。卒業後も唯一、
社会人で野球を続けていた先輩。彼が夢を代わりに追い続けてくれるから、
浩輝は暑い中、書類を持ち背広を着て、実りの少ない労働を続けていられるのに。

次は「チョコレート」「階段」「血液」
この感じだ。
俺は、全身の血液が駆け巡りだしたのを感じていた。
裏社会で勝ち上がるために避けては通れない道。
一か八かの賭け。
それに勝つ。
勝つことで階段を登る事ができる。
負けは許されない。
忘れていた感情がよみがえってきた。
久しぶりの友人がもたらしたもの。
俺が必要としていたもの。
退屈な日常では生きていけない人間が必要とするもの。
昂ぶる感情をゆっくりと味わいながら、
俺は、昔と同じくチョコレートを一口噛み砕き、
賭博場へ戻っていった。

次は、「ロック」「機械」「嘘」
廃工場の中。さび付いてくず鉄と化した工作機械があちこちに横たわっている。
静かな空間だった。遠くから工事の音が聞こえてくる。
男は取り出した銃を自分のこめかみに当てる。
人生に失敗し、多くの借金を作って逃げに逃げてきた。
たくさんの嘘をついてきて、もう知人にも合わせる顔がない。
家族にも見捨てられ、帰るべき家も失った。
ヤクザがらみの危ない仕事にも手を出し、こんなものまで手に入れた。

失うものもないが、この先得られるものもない。
そう考えた男が最後に選んだ道がこれだった。

引き金に指をあて、ゆっくりと力を入れる。
痛いのかな。死ねば楽になれるのかな。
額に、鼻の頭に、手のひらに、じっとりと汗がにじんでくる。
そして男の指が引き金を力強く引いた。

・・・・・・・・・・

しかし引き金は動かなかった。ロックがかかったままだったのだ。
突然、衝動にかられて男は大声で笑い始めた。男は泣きながら笑い続けた。
なんだか全てが馬鹿らしくて、どうでもよくなった。死ぬこと、さえも。
男は銃を捨て、立ち上がった。
まだ背筋は伸びきってはいないが、少なくとも前は向いてる。
工事の音が遠く聞こえてきた。

「白塗り」 「口元」 「病原菌」
「白塗り」 「口元」 「病原菌」

『太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。』
小さい頃授業で読んだ、この詩は、怖かった。
小学校の先生が、この詩を読んだときに
「もし、この詩の雪深いところにある村が、このまま静かにひっそりと雪に埋もれてしまっていったら、怖い」
そんなことを言ったせいかもしれない。本当は、この有名な詩は、雪の降る村ののどかな日常をかいたものだろう。
小学生時代に私の住んでいた家も、青森の雪深いところだった。
冬には、しんしんと、絶え間なく降り積もる雪で、家の外は真っ白で何も見えなくなった。
東京の会社に就職した私が、久しぶりに青森に戻って来たのは、家を整理するためだ。
両親は数年前に亡くなり、住む人のいなくなってほったらかしになっていた我が家を整理して売るつもりだった。
夜行新幹線で、青森へ向かう。この季節なら、まだ雪は降らないだろう。
新幹線のシートに座ってぼんやりしていると、どうしても昔のことを思い出してしまう。
小学校には、同じクラスに、伝統的なからぶき屋根の家に住んでいた女の子がいた。
彼女は、いつも白塗りのきれいな箸を学校に持って来ていて、それで給食を食べていた。
雪国の女の子のイメージの通り、抜けるような白い肌で、口元はほんのりと赤く、どこか大人っぽい女の子だった。
とりとめもない思い出は、雪に包まれたあの村のように、どこか断片的でぼんやりとしている。
彼女はどうしているだろうか。
確か、あれから高校のころに、失踪したという噂を聞いた気がする。
もしかして、家ごとすっぽりと雪に隠されて、見えなくなってしまったんではないだろうか。
そんな空想をしてしまうのも、あの詩のせいかもしれない。
人知れず、しんしんとひっそりと降り続ける雪に隠されて、すべてが輪郭を失いぼやけてしまう。
体内で繁殖して行く病原菌のように、なにかもやもやした奇妙で恐ろしい感覚が私の中にじわじわと広がって行く。
確か、彼女とあったのは、小学校の卒業式だ。小学校のときの姿のまま、あの村のどこかにいたりして。
流れて行く窓の外の景色を見る、青森までもうすぐだ。
季節外れの雪が、ゆくりと降り出してきた。

「黄色」「日曜日」「レモネード」


土曜日。今夜も高級なレストランで、ワインを傾けながら今日までの仕事と明日からの夢を語りつづける彼。
でも彼は、あたしの昨日も、あたしの明日も知らないし、聞いてもこない。

高級なワインよりも安っぽいレモネード。
土曜日の夜のレストランよりも日曜日のお昼の遊園地。
白いブラウスよりも黄色いティーシャツ。
あたしが本当に好きなものを彼は知らない。

二枚目で、背が高くて、お洒落で、常に冷静で、仕事ができて・・・・・・。
そんな彼に似合う女になりたかった。それが彼への愛だと信じていた。
私は彼の中の理想の女を探り、そうなるように自分を演じてきた。
でもそこにあるのは錆び付いた一枚の絵。動かない、微笑んだまま固まった彼の理想。
彼の言葉がもう耳に入ってこない。あたしはこんな私は嫌いだ。
そしてそうやって自分を偽っていることが彼への裏切りだと気付いた。
あたしは思い切って口を開いた。
「ねえ、明日、遊園地に行かない?」
彼は驚いた顔をしていた。
仕事が忙しくて・・・とか、明日は都合が悪くて・・・・・・なんて答えが返ってくるだろうな。
楽しい話題のはずなのに、への字に口を結び、じっと彼をにらむように見つめていたあたし。
でも、彼はにっと口元をゆるませ、いままで見せたことのないような子供っぽい笑顔でこう言った。
「いいね、行こう」
私はわけもわからず泣き出してしまった。
それを見ておろおろしている彼が、とても近くにいてくれているような気がした。

お題 【はてな】 【翻訳】 【ベクトル】
ヘンリーから大きな荷物が贈られてきた。中身は本と書いてあった。
いつものように使い古しの成人用写真雑誌を分けてくれたのだろう。
ところが、開けてみると全部活字の本だった。どうやら日本のもので全て原書である。
はてな、なぜあいつが俺にこんなものをくれるんだろう…そう思っていると、
手紙が同封されているのに気付いた。内容は以下の通りだ。

『通販で日本の成人用文学作品を大量に買ったんだがさっぱり読めない。
 お前は俺より日本語得意だから翻訳してくれ。原書はお礼にくれてやる。
 俺には翻訳したテキストだけくれればいい。   お前の友人ヘンリー』

無茶を言ってくれる。俺が日本語で得意な分野というのは会話のことで、
日本語の原書を翻訳するなんてのとはベクトルが120度ほども違う話だ。
…だが、ヘンリーの期待を無下に裏切るのも気の毒だ。
それに、前々から日本の成人用文学には興味があった。
やれるだけやってみよう。俺は辞書を持ち出して翻訳に取りかかった。


「ラーメン」「ハンバーグ」「とうもろこし」
307「ラーメン」「ハンバーグ」「とうもろこし」:04/08/10 21:34
「大変、とうもろこしがないよ!」
 私のそばに来たナツが叫んだ。ナツが駆け足みたいに足を動かしているので、スーパーの食料品売り場のビニールの床がキュッキュッと音を立てている。
「別にいいよ」
 スーパー備え付けの買い物カゴを持った私が気のない返事を返すと、
「じゃあ何乗せる? 何がいい?」
 と、ナツは私に掴みかからんばかりの勢いで聞いてきた。今ナツは、ラーメンに乗せる具について喋っている。
「ナツは元気だねー」
 質問には答えず、私は感想を述べる。ナツは、いつもジャンプしているイメージがある。元気だ。疲れやすい私には羨ましい。ナツは私と同じ中学生なのだが、私には考えられない量のエネルギーが体から湧いてくるようだった。
「ね、何がいい?」
 しつこく聞いてくるナツに、
「別に、何でもいいよ」
 私は適当に答える。話題の渦中にある袋ラーメンは、買い物カゴの中にある。ナツと私の夜食だ。私が食べたいと言ったものだ。今日は、ナツが私の家に泊まりに来ている。それはよくあることで、こうやってスーパーに夜食を買いに来るのも、よくあることだった。
「ねーねー」
 しつこく聞いてくるナツに私は面倒臭くなって、
「じゃあ、これにしよう」
 と、そばにあったレトルトハンバーグを取った。ピラ、とナツに見せたハンバーグは、ビニールパックの中で、どっぷりと茶色いソースに浸かっていた。
「うん、いいよ!」
「え?」
 冗談のつもりだった私は驚いた。
「本気で?」
「うん!」
 私はハンバーグをラーメンに乗せた様子を想像する。ラーメンの上に乗った、茶色いソース付きのハンバーグ。普通に考えて、美味しくないと思う。
「だって、今日はフユちゃんの誕生日だし!」
 ニパッと笑ったナツを、私はまじまじと見た。もしかしてそれで、いつも夜食では真っ先に希望を出すナツが、私の希望をしつこく聞いてきたのだろうか。
「決まったらレジに行こー!」
 言ったナツに、私は背中を押された。私は背中を押されつつ物凄く迷ったが、そのままレジに行ってしまった。

「特徴」「頬」「髭」
三年ぶりにお袋と再会した場所は大きな病院だった。
お袋が肺を患って入院したと知ったのは半年ほど前だ。
その知らせを聞いた時、あの図太いお袋が病気で入院したというのには驚いたが、
ま、ウチのお袋のことだ。そう簡単に逝かねえだろうし、今の医学なら楽勝に回復するだろ。
なんて思ってたから会う気もなかった。一昨日の兄貴からの電話が来る時まで――

「お袋が危篤状態なんだ。もう長くないらしい。すぐに顔を出してやってくれないか?」

その後は自分が何をしたかよく覚えていない。気付いたら病院に足を運んでいた。
「おや、お前髭を生やしたのかい。あんまり似合ってないねぇ。ふふ」
弱々しい声でお袋が俺を笑った。こんな声初めて聞いた。いつものお袋の荒々しい声が蘇るように頭の中に響いた。
頬がすごく痩けていた。最初見た時別人じゃないかと思ったりもした。
これは素人のドッキリで、実はお袋は実家でテレビを見ながら俺を笑ってるんじゃないのか?
だけど、お袋の特徴のある仕草を見ていると、あぁ、やっぱりお袋なんだなぁと現実を突きつけられる。
「最後にお前の顔が見れてよかった。これで心置きなくあの世に行けるよ。」
「何言ってんだよお袋。お袋がそう簡単に死ぬわけないだろ。」
月並みの会話しか出来なかった。お袋の弱々しい声を聞く度に足が震えた。

しばらく話をした後、俺は逃げるように病室を出ていった。頭の中がぐちゃぐちゃしてる。
いや、ぐちゃぐちゃになるほど難しい話じゃない。ただ、お袋が直に死ぬだけなんだ。
なのにどうして頭の中が真っ白なるんだろう。
お母さん、ほんとに死んじゃうのかなぁ…

病院の廊下の隅で、僕は静かに泣いた。

「ホタル」「泣き虫」「また今度」
「こいよ」
 直ちゃんが手招きするので私は怯えながら、
虫かごを提げた彼を見上げた。どうすればいいのかわからない。
「もう、泣くなって。ほんとお前は泣き虫だなー。大丈夫だって。はやくおいで」
 大好きな直ちゃんと、大嫌いな虫の間で気持ちは激しく揺れ動いたけれど、
私は彼に勝るものを知らない。
「見て、これ。ホタル」
 緑のプラスチックの隙間から、かすかな光が零れていた。
あたしは息を呑んだ。彼はそれに少し笑った。
「気に入った?」
 それはあたしの5才最初の日で、彼の9才最後の日だった。
 あの頃のあたしは本当に何も知らなかった。そして今だって、
本当に知っていたいことは何も知らないんだ。
「また今度って言ったじゃん……」
 泣き喚きたかった。泣き喚く元気もなかった。ただ頬を涙が流れた。
 キンキュウシュジュツ。彼の生まれつきの疾患を持った心臓が、
そんなに酷いものだったなんて。そんなに悪くなっていただなんて。
 管にまみれた彼は、目を覚まさない。
「ホタルは何日生きるか知ってる?」
 不意に忘れていた言葉が耳に甦った。何でこんなこと。嫌だ!
 そう思った瞬間、10年前と同じ、いやそれよりもむしろずっと激しく私は首を左右に振っていた。
 お願い待って。あたしはまだ、あなたに光ってない。

「箱」「カレンダー」「マニキュア」
「箱」「カレンダー」「マニキュア」

 女の一人暮らしか。ペンライトに照らし出された部屋はピンク系で統一してある。
少しの安堵感を覚えてから俺はいつも通りの仕事に取りかかった。
 金になりそうなものは片っ端から頂戴するのが俺の常。
宝石箱をパカッと開けては、真贋問わず失敬し、
貯金箱をパコッと開けては、一円だろうが失敬する。
 そんな俺でも不味くて食えねえモンがひとつだけある。
それはだな、この部屋の住人のような、だらしねえ女だ。
 サイドテーブルに散らばる、キャップが外れた口紅やマニキュア。
その口紅がべっとりとへばりついた飲みかけのコーヒーカップ。
脱ぎ散らかったド派手な衣類のスパンコールがペンライトに反射した。
 嫌気がさしてくる。さっさとずらかろうとライトを回した先に、
でっかく4月4日に赤丸がついているカレンダーが目にとまった。
「へえ、こんなずぼらな女でも記念日なんかあるんだな」嫌味を口にした、その時、
「あらあ、それオカマの日よ? 踏んずけてやるんだからっ!」
パチッと蛍光灯が点いたと同じく、響く野太い声。俺は振り向けなかった。


次のお題は「助太刀」「竪琴」「火種」で〜。
「助太刀」「竪琴」「火種」

「オルフェウスの竪琴って、知ってるか?」
夫が突然そんなことを言うものだから、私は驚いて、コップを洗う手を止めた。
「何ですか、突然」
「ギリシャ神話を、授業で扱っているんだ」
「ああ、ギリシャ神話ですか」
夫は、中学校の教師をしている。今日は、休みの日曜日なので、家でゴロゴロするつもりなのだろう。
家事の助太刀でもしてほしいと、私は思っている。でも、そんなことを言ったら、夫婦喧嘩の火種になることは明らかだ。
「オルフェウスの竪琴っていうのは、何か教訓っぽい話でさ」
「はい」
「死んだ女を追いかけて冥界にいった男が、冥界の王との約束を破って、別れ際に、女の方を振り返って、二度と女と会えなくなってしまう話だよ」
夫は満足そうな声で言った。
「人生、振り返っちゃいけないことって、絶対あるんだよなあ」
それなら、私にもある。もし、この結婚をしていなかったらどんな男の人と縁があったのだろうかとか、そんなことは、決して振り返って考えてはいけないことなんだろう。
「そうですね、振り返ってたら、きりないですもの」
私はそれだけ言うと、また、コップを洗いはじめた。


「手紙」「黒い」「花」
「手紙」「黒い」「花」
昔付き合っていた佐織から手紙が届いた。
季節に合わせて、ひまわりの花が薄く描かれた、いかにも佐織らしい封筒だった。
封を開けて読んでみる。このたび結婚することになりました、と綺麗な字で書かれていた。
結婚の知らせくらい葉書で十分なのに、相変わらず律儀な女だ。
読みすんでいくと、最後にひとことこう書いてあった。
「あのときの嘘は嘘です」

「子供ができたの」
佐織と一緒に暮らしていた頃の話だ。突然佐織が神妙な面持ちでそんなことを言い出した。
俺は酷く狼狽した。心当たりは数え切れないほどあったが、にわかに信じることはできなかたt。
まだ子供なんて欲しくないし、生むなんて言われても困る。そんなことを思いながらやっと出た一言はこうだった。
「うそだろ」
ひどく乱暴な言い方だったと思う。佐織はいつもの笑顔に戻ってこう言った。
「うん、嘘。そう言ったらどんな顔するかと思って」
俺は試されたことに酷く腹が立って、佐織を酷くなじった。
本当は怒鳴ることで、自分の心の動揺をごまかしていただけなんだ。

その後、佐織は俺と体を重ねることを拒むようになった。
俺もそんな佐織が信用できなくなって、けっきょく半年ほどして別れた。
そのときも、すべての責任は佐織にあると思っていた。

思い返してみると、あの後佐織はしばらく黒い服ばかりを着ていたような気がする。
俺は当時、そんなことにさえ気づいてやれなかった。

俺はあのとき、本当に試され、そして佐織に見限られたのだということに、今になってようやく気づいた。

「スクラップ」「命」「傘」
「ここが、第二スクラップ工場予定地です。」
高台から見下ろしたその場所は、私がイメージしていた場所と寸分違わなかった。
「宜しければ、実際に車から降りて見てみますか?」
「ああ。」
高梨は先に降りると、ザーザーと振り続ける雨に濡れないように傘を差し出してきた。
ややぬかるむ道に足をとられないよう進んでいくと、一面に広がる砂地が現れた。
「このまま計画が順調に行けば、半年後には稼動できるでしょう。」
「半年後か…。」
「問題が無いとはいえませんが…。
雨が強くなってきてしまいましたね、少し早いですが車へ戻りますか。」
「いや、もう少しいさせてくれ。」
「かしこまりました。」
ここが稼動することになれば、現在のロボットの使い捨ての需要を考えると
大きな利益を得ることは間違いない。まだ何も無い砂地を見ながら、
私はロボットにも命が宿っていると言った男のことを考えていた。

次は、「答え」「五輪」「組織」
「オリンピックの理念って、すごい不自然だよな」
 田中が久しぶりに遊びにきたので、ちょっと散歩でもと公園にきた。休憩がてらベンチ
に座って、噴水の近くで遊んでいる子供を見ながら世間話をする。最近では、その
オリンピックなんかが近くある。
「そうか? 参加することに意義がある。なんて理性的じゃん」
「でも一位から三位までメダル渡すだろ。予選とかあるし。矛盾してるって」
「あぁ、そういう野暮ったい物言いは聞き飽きたぞ」
 田中はまだ何か言いたそうだったが、それきり理念については言及しなかった。
代わりに五輪の意味について語りだした。確か五大陸を表しているとかいうのだ。
「アレの色、全部言えるか?」
「赤青黄緑……紫か?」
「黒だ。で、それぞれどの大陸をさしてるか知ってるか?」
 わからなかったので適当に答えたら案の定はずれた。というかどの色がどの大陸か、
というのは決めてないらしい。田中は「ほら」という顔をしながらこっちを見ている。
 なるほど、確かにオリンピックを運営する組織は何考えてんのかわからんな。

次「大陸」「ハンカチ」「液体」
大陸帰りのジェイムズが車で大事故を起こした。
原因はジェイムズが右側通行と左側通行を間違えて走ったことらしい。
現場に行ってみると惨憺たるものだった。
無惨に壊れた車、炎上している車、ハンカチで応急処置をして救急車を待つ負傷者、
もはや手遅れらしく布をかけられて真っ赤な液体の上に静かに横たわる犠牲者。
死傷者は少なくとも20人。そして当のジェイムズは膝を擦りむいただけだったという。


「音速」「壁」「衝撃波」
彼は急いでいた。
出勤時刻まであと5分なのだ。
遅刻の連続記録を日々更新していた彼は課長の激昂する姿を想像し恐怖した。
彼は大通りから人気のない路地に飛びこみむと辺りに人のいないことを確認し、
自分の身体に直通の力を込めた。
すると彼を中心に砂塵が巻き上がり、道に落ちていた小石、紙切れが吹っ飛ぶ。
「発進!」
気合のこもった掛け声よりも先に、その姿は消え去った。
彼は音速で移動できる能力を授かっていたのだ。
大通りに飛び出した彼は走行していた車両を弾き飛ばすのにも構わず激走する。
遅れて発生した衝撃波が歩道にいた人々を襲い、壁に激突させる。
社会に多大な迷惑をかけた彼だったが、結局遅刻してしまった。
いま、課長に激怒されている彼がそのうち世界を救うことになろうことなど誰も知らない。
彼は世界最速の男である(それでも遅刻の常習犯)

次のお題は「盆」「提灯」「うちわ」です。
『盆』『提灯』『うちわ』

 藍色に包まれた世界を、浴衣姿の少女達がうちわを片手に通り過ぎてゆく。
 近くで祭りが行われているらしい。慶太は、その子達とすれ違うようにして、
家へと向かった。
 母が蒸発して以来、男手一つで育ててくれた父親が病死したのは、慶太が
高校生の時だった。
 初めのうちは親戚と一緒にお盆を迎えていたが、ここ最近はこうして一人、
墓参りすることが多い。
 賑やかなのがあまり好きではない父の血を引いているのか、慶太はそれを
ありがたいと感じていた。
 家へ帰ると、仏壇に前においてある提灯に火を点すと、描かれた花々が、
色鮮やかに浮かび上がる。
 ふと、風もないのに、その炎が揺らいだ。
 お帰り、父さん──
 慶太はそっと呟いて、位牌に手を合わせた。

次『ひび割れ』『みかん』『ため息』
よろしくおねがいします。
トーマスの家に遊びに行くと、何か様子がおかしかった。
窓は全てぶっ壊れ、壁もところどころひび割れていた。
家の中で爆発でも起きたとしか思えなかった。
トーマスの身を案じていたところへ本人が背後から現れた。
ひとまずトーマスは無事だったらしい。何があったのか尋ねると、
「みかんを核爆発させる実験をしてたら失敗してこのザマだ。…いや、成功というべきかな」
そう言ってトーマスはため息をついた。


「電球」「電話」「蓄音機」
319寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/08/15 00:37
「もしもし、慎治……」
(ここはお国を何百里…… はなれて遠き満州の……)
 電話の向こう側から、僅かに聞こえ流れる曲は軍歌ようだった。
「もしもし、慎治、いるんでしょ、いたずらはいいから早く出てよ」
 その時、部屋の蛍光灯の明かりが一瞬弱弱しく消えそうになり
カーテンが揺れた。右へ左へとゆっくり揺れる布を眺めながらも
携帯電話を切れない自分がいた。その雑音混じりの蓄音機から
流れるような曲は、物悲しく、哀愁を帯びた音色で空気を震わせ
ていた。まるで、すぐ脇に蓄音機があるようにさえ感じ携帯電話
の向こう側とこちら側が、見えない糸で繋がっていた。
(後に心は残れども残しちゃならぬこの身体「それじゃ行くよ」と別
れしが永の別れとなったのか…… 空しく冷えて魂は国へ帰った
ポケットに時計ばかりがコチコチと動いているも情けなや……)

 二つある丸い輪のような蛍光灯の電球が、ピシッと音をたて闇が
部屋に訪れた。
「怖くなんかないぞ」
 携帯電話を切る、ボタンを押す指が僅かに震えてた。私は手探り
でサイフを掴み、コンビニまで猛ダッシュで走る決意をした。

次は「漫画本」「箸」「むぎ茶」でお願いします。
 全国各地で気温が三十℃を超える熱帯日が続いたかと思えば、集中豪雨が起こり、甚大
な被害をもたらしている。こうも外で過ごしにくい気候が続くと、家に閉じこもりがちに
なる。外出を好む僕にとって迷惑な事態になった。

 漸く、暑くもなく雨も降っていない日がやってきた。夏休みはまだ長いので、外出しな
い日の退屈しのぎに、世間で話題になっている漫画本を買い揃えることにした。ところが、
全く面白くない低俗な作品だった。つまらないギャグの連発、構成もだめ、そして何より
主人公のキャラクターが最悪だ。周りの評価に騙されて、全巻買い揃えてしまった。

何とかこの苛立ちを抑えようと、冷蔵庫の中にあるむぎ茶を取り出した。すると、二階か
ら姉が下りてきた。姉は僕が買った漫画本の山を見ると、
「これよく宣伝してる奴だよね。読んでもいい?」と聞いてきたので、「何なら一冊百円
で売ってあげるよ。」と答えた。姉は答えを聞く間もなく読み始めた。それから少しする
と、大声で笑い始めた。僕は少々苛立ちを覚えたが、むぎ茶を飲んで堪えた。姉は箸が転
んでもおかしい年頃だ。あの下劣なギャグで笑っても仕方がない。
 数十分経っても姉は笑っていた。勿論ずっと笑っていたわけではないが、笑っていない
時間より、笑っている時間の方が長かった。僕の冷静さを保つ薬と化したむぎ茶も、なく
なってしまった。ついに堪えきれなくなり、
「何がそんなに面白いんだ。そんなくだらない作品で笑うなんておかしいんじゃないのか」
 と、声を荒げた。すると姉は、笑い声を交えてこう答えた。
「だってこの主人公あんたにそっくりなんだもん。」
 
 家の中でも過ごしにくい日が続きそうだ。

次のお題は「毛」「戦争」「芯」でお願い。
私の同期の花村が戦死したという知らせが入った。
軍に入ったとは聞いていたが、出征していたとは知らなかった。
その日の夕方、私は花村の家族のところへお見舞いに行った。
家族の話では、死体は見つからず送られてきたのは一束の毛髪だけだったという。
花村が、もしものことがあったら家族に届けてくれと信頼できる人に託していたのだ。
家族は誰一人泣いていなかった。こう書くと薄情な家族と思うかもしれないが、
そうでないことを私はよく知っている。
家族の許しを得て、私は花村の毛髪を手に取った。
花村が死んだということを、私はまだ信じられなかった。
今にも花村があの芯の強い声を響かせて帰ってくるような気がしてならなかった。

「思い出」「遺品」「忘れ」
『思い出・遺品・忘れ』

 今年もまた、夏がお思い出に変わっていく。
 それでもあの頃の――そう、十五年以上も遡る少年の時代に比べれば、最近の
夏はそれほど記憶に残らなくなって来たように思える。
 枝の途中で時を止めた、琥珀色の蝉の遺品。この世に生きた証としてはあまりにも
頼りないそれが、私はそれがとても好きだった。
 手術を終えたベッドの上、視線を天井から窓外の木漏れ日へと移す。
 さすがに今年の夏は、嫌でも私の記憶にしっかりと刻まれることになるはずだ。
 あ――。切ったものはどうなるのだろう。
 二十数年間、男として生きることを余儀なくされたことへの証。男の遺品――。
 あとで先生に頼んでみよう。無理に忘れることなんてない。少年の記憶を抱きし
めたまま、私は女としての幸せをきっと掴んでみせる。
 頬を撫でる風の匂いが変わった気がした。やはり今年の夏は、もうあと僅か。

次は「繰り返し」「ツアー」「凝縮」
五行目「それが」、一個多かった。
「繰り返し」「ツアー」「凝縮」

「じゃあ買い物位ってくるから、子守りお願いね」
平穏な休日、妻は1歳になったばかりの息子を私に預けて買い物に出かけた。
しかしいつになっても妻は戻って来ない。携帯に電話してみても不通だった。
日もすっかり暮れたころ、警察から電話があった。
妻が交差点でツアー旅行のバスと衝突した、ということだった。

病院に駆けつけたときには、妻は既に息を引き取っていた。
突然の出来事に私は現実を受け入れることができなかった。
呆然としたまま時が過ぎ、いつの間にか妻の葬儀も終わっていた。
喪主として挨拶をしたらしいのだが、何を言ったか覚えていない。

葬式が終わり、家には私と息子だけが残された。
息子はようやく落ち着いた家の中で、母の姿を探して、
はいはいで寝室と居間の行き来を繰り返している。
やがて母がいないのことに気付くと大声で泣き出す。
私はそれをあやすだけの余裕もなくただ子供の泣き声を遠く聞いているだけだった。
やがて息子は泣きつかれて寝てしまった。

息子が眠ると、ほんとうにひとりぼっちになった気がした。
それまでずっと出どころなく凝縮された悲しみが一気に噴出し、
私は息子と同じように大声で泣いた。


「お願い」「大声」「呆然」
325「お願い」「大声」「呆然」 :04/08/17 18:15
 昔、臨済宗の高僧のところに修行僧がいた。
 何をしても駄目な修行僧であったが、なぜか高僧は叱る事もせず暖かく修行僧を見守っていた。
 とある暑い夏の午後、高僧は隣の寺に所用で出かける事になった。
 うだる熱さの中で後ろをついていく修行僧に突然高僧は、質問した。
「お師匠様、どうして夏は暑いのでしょうか」
 高僧は、足を止めしばらく考え込んだ後、諭す様にこういった。
「熱いと思うから熱く感じるのだよ。熱いと感じているお前は、何処にいる?」
 高僧は、禅の事を理解して欲しいと思ってそういう。
「え、私ですか。答えたくありませんが、お師匠様のお願いと有っては……私の中の人も大変なんですよ」
 そう言って、おもむろに修行僧は、背中に手を廻しごそごそする。
 その様子を見て高僧は、大声を上げる。
 なんと、修行僧の形をした着ぐるみの中からお釈迦様が現れたのだった。
 そして高僧に向かってこういった。
「おぬしに名前を授けよう。法然いや、呆然にしよう」

326名無し物書き@推敲中?:04/08/17 18:16
お題 「吃驚」 「努々」 「頑固親父」
お題 「吃驚」 「努々」 「頑固親父」

下町の、頑固親父なんて、今や、天然記念物みたいなもんだ。
そんなこと言われなくても、佐山はわかっていた。
佐山は浅草で60年間、醤油煎餅を焼き続けてきた。職人気質の頑固親父と、近所から言われていた。
店しまいの日がやって来ても、佐山は黙々と薄味の醤油煎餅を焼いている。
妻の初出産は、煎餅を焼いていて間に合わなかった。
俺が煎餅焼かなかったら、誰も「佐山」の煎餅を食えねえんだ。
これが、佐山の口癖だった。
佐山の醤油煎餅は、親子3代の宝物である。
その店をたたむ気になったのは、家族のためでも、80歳という歳のせいでもなかった。
ただ、時代が変わってしまった。観光雑誌に、頑固親父の煎餅などと紹介されるのが、佐山は虚しくなってきた。
佐山はただ、毎日同じ煎餅をていねいに焼き続けて来ただけなのだ。それは、頑固というのとは、ちょっと違うと、佐山は感じている。
妻は、佐山が店をたたむとは努々思ってもいなかったので、佐山の決断に、たいそう吃驚した。
あんたは、死ぬまで煎餅焼き続けるかと思ってたわ。
そう言った妻は、少し嬉しそうだった。これからは、煎餅よりも、家族と過ごす時間が増えるだろう。
佐山は最後の客を見送ると、醤油の匂いの染み付いた鉄網を木箱に戻した。
頑固親父も、らくじゃねえな。
そう呟いて、佐山はため息をつくと、外に出て、店しまいを始めた。
60年前と同じ、きれいな夕浅草の焼けが、店の上に広がっている。


「しりとり」「ものさし」「キッチン」
328「しりとり」「ものさし」「キッチン」:04/08/18 07:06
 おじさんはニョクマムが大好きだった。近所の人からニョクマムおじさんと
呼ばれているこのおじさんは、キッチンの棚に並ぶニョクマム瓶を眺めている
時間が一番幸せだった。仕事が終わるとニョクマムを飲んで疲れを癒し、寂し
い夜にはニョクマムのぬいぐるみを抱いて寝た。おじさんの人生におけるもの
さしはニョクマムがあるかないかの一点であり、人間とニョクマムが仲良く暮
らせる社会をいつもいつも夢見ていた。
 おじさんがニョクマムの買い出しに街へ出かけると、少年たちがしりとりを
して遊んでいた。おじさんは物陰から様子をうかがった。
「く、く、く……クンニ!」
 次の少年は頭を抱えてうなっている。「に」から始まる単語がどうしても出
てこない。おじさんは少年の前にやってきて、ニョクマムの瓶を見せてやった。
「お困りのようだな少年。さあ、この調味料の名前を叫んでごらん!」
「えーと。にょ、にょ、にょ……尿毒症!」
 しりとり的にはセーフだがニョクマム的には不正解だった。おじさんはニョ
クマムの瓶をフルスイングして、無知な少年をニョクマム星までかっ飛ばした。



「スローモーション」「ラーメン」「股間」
329名無し物書き@推敲中?:04/08/19 01:52
「スローモーション」「ラーメン」「股間」

 それは、彼女には初めての「本格中華料理屋」だった。
 いつもの様に女中には頼れない、自分で注文しなければ。

 「ら、ラーメンいっちょうっ、お願いします」 「……」
 「あああっ、通じない。そうだわ、ラーメンは日本の自作だとか」

 慌ててメニューを見る。
 「青椒肉絲」「魯肉飯」「麻辣火鍋」 
 一体、これは、どういう料理なのだろう?
 スローモーションの様に目を流して読むうち、ようやくなんとか読める漢字を見つけた。

 「でも、これってまさか……」
 不安を押さえつつ注文すると、何とか麺らしきものがでてきた。
 幸いラーメンに似てる、でも上に乗ってる肉は何だろう、少し焦げてる。

 彼女は店員の後姿を、漠然と見つめた。
 店員は、股間をこころもち押さえている様に見えた。
 「まさか、そんな」
 と、呟きつつも、初めて自分で注文した中華「又焼麺」を平らげる彼女であった。

※なんか大雑把アルヨ
次のお題は:「正義」「味覚」「器具」でお願いします。
330名無し物書き@推敲中?:04/08/19 20:41
「何も味がしない……」
彼は化学調味料にまみれたレトルトの酷く味の濃い食品を口にし、味の乾燥を述べた。
自分の味覚が徐々に無くなって来たのを感じたのは先週の頭からだった。
今ではほとんど食品の味がしない。
(そろそろ舌パーツの交換時期だな……やれやれ痛い出費だ)

ある大手医療メーカーが身体パーツと呼ばれる器具を開発したのは一世紀以上前になる。
身体に障害を負った人間が以前の生活を取り戻す。
その理念を元に、開発された「身体パーツ」は驚くべき売上を見せた。
障害が発生した肉体の一部を「身体パーツ」と交換する事により健康体に換装する。
その身体パーツシステムの恩恵に、彼もあやかっていた。

身体パーツはゆうに1000を越える種類があり、交換が利かない部位は無い。
人は健康な身体で一生を過ごす権利がある――その理念の元、開発した「身体パーツ」

現在、地球総人口120億人、過去30年間の死傷者ゼロ。
身体パーツで死なない人間による爆発的人口増加による飢餓と環境破壊問題。
人を救う――その医療の正義はここにはあるのだろうか?

*初書きです。こんなのでいいのかな?
次のお題は「ゲーム」「座布団」「扇風機」でお願いします。
331330:04/08/19 20:43
すいません。最初の一行目、乾燥→感想です。
「ゲーム」「座布団」「扇風機」

 僕はTV画面に食い入るように身を乗り出し、両手で握ったコントローラーを忙しなく動かしていた。
そこに台所で洗物をしていた母が前掛けで手を拭きながら居間に入ってきた。
「ゲームなんかいい加減にしてお風呂に入りなさいよ」
腕組みをして呆れ顔で母が言った。
(もう少しなんだ……あと少しで入るから)
心の中でそう思いながらも、母への返事もせずに一層ゲームにのめり込んでいく。
 あと少しでクリアというところで、僕の後頭部は柔らかく鈍い衝撃を感じた。それは座布団だった。
座布団はその後も勢いが止まらず、僕の頭を回り込むように越え、目の前をゲーム機の上に落ちた。
それによって、先ほどまでの賑やかな電子音と鮮やかな光に彩られていた画面を真っ暗に沈黙させてしまった。
「てめぇが、のろのろしてるからだよ」
いつの間にか兄貴が来てたらしい。意地の悪い笑い声が聞こえる。
 僕は兄貴と母には目もくれず、ゲーム機もそのままにその場を立つと、部屋の隅の扇風機の前に移動し座り込んだ。
「あーあーあーあーあーあーあー」
扇風機の所為だけではなく、僕の声自体も確かに震えていた。

次のお題は「音楽」「勝負」「TV」でお願いします。
ミステリー研究会の企画として学校の七不思議を調査することになった。
まず僕達が行ったのは『破壊の音楽室』だ。ここについては、こんな話が伝わっている。

この音楽室で、かつて二人の生徒がピアノの勝負をした。
その勝負で負けた生徒が、この音楽室のピアノに頭突きをかまして自殺した。
数日後、自殺した生徒と勝負をした生徒がこの音楽室で死亡した。
無残にも頭蓋骨を粉砕されていたという。警察の調べでは、ピアノを弾いている最中に
いきなり何者かに頭を割られたとしか考えられなかったという。
自殺ではありえない状況だったが、犯人は見つからずに迷宮入りとなった。
当時は大ニュースになってこの音楽室がTVにも映ったらしい。
その事件があってからというもの、夜中の十二時にここのピアノを弾くと突然頭蓋骨が粉砕されてしまうという。

ミステリー研究会の中で唯一ピアノの心得のある響先輩が試しにこのピアノを弾いてみることになった…
…のだが、ピアノの蓋に鍵がかかっていて開かなかった。僕達は諦めて次の場所に行くことにした。


「あっけなく」「染まった」「ゴースト」
 同僚の杉谷に誘われて、「出る」と評判のゴーストハウス――実態はただの廃屋だけれど――へ向かったのは、
週末の夜にデートをする相手もいないからではなく、ましてや杉谷が好きだったからでもない。
 そう。ただあたしは飢えていただけなのだ。胸を震わせるような刺激に。

 ペーパードライバーの杉谷を乗せて、あたしの運転する車は町外れへとやってきた。
 トランクに転がっていた懐中電灯を杉谷に持たせ、ドアの外れた入り口から中へ踏みこむ。
 辺りはぞっとするほど静かで、何かが出てもおかしくない雰囲気に満ちている。
 漂う異臭は、この廃屋に積もった、時間の腐りゆく臭いだろうか。
「ひゃー。いいカンジだなオイ。雪宮、恐かったら俺に抱きついてもいいんだぜ」
 姿も見えないほど密度の濃い暗闇。
 そのどこかから聞こえる、下卑た杉谷の声を目指し、あたしはゆっくり近づいていく。
「なんだよ、もう恐がってんのか? それとも……」
 体から溢れ出しそうな、杉谷の妄想なんて聞くつもりはなかった。
 無防備な背後からそっと腕を回し、隠し持ったナイフで杉谷の喉元を切り裂く。
もちろん、口を塞ぐことも忘れない。
 ナイフはあっけなく肌を、肉を、血管をたち切って、生暖かい液体を迸らせる。
 血に染まった杉谷は、何がなんだか分からない、という顔のまま、
あたしが手を離すとゆっくり崩れ落ちていった。
 転がり落ちた懐中電灯が、ゴミのしきつめられた床を照らす。
 そこに残った、幾つものドス黒い染み。
 あたしと一緒にやってきて、二度と出ていくことのなかった男たちの残骸。
 ここがゴーストハウスだというのなら、その主はきっとあたしだ。
 何度繰り返しても飽きることのない、命を切り裂くこの感触。
 まだ暖かい杉谷の体に手をかけながら、あたしは暗闇の中でひっそり笑った。
 
【妄想】 【メール】 【黒猫】
 
ルドルフが、自分はかつて銀河を支配した銀河大帝の生まれ変わりだ、という奇妙な妄想にとらわれた。
銀河大帝だった頃に持っていた宇宙戦艦は冥王星の衛星に偽装して隠してあり、
それさえ取り戻せばいつでもかつての地位に返り咲くことができるのだという。
初めのうちは冗談だと思っていたが、時が経つにつれて本気だということが分かった。
そんなある日、ルドルフからメールが届いた。
「今晩、余の艦を回収しに出発する。そちだけに見送りを許可する。 銀河大帝ルドルフ」
よく意図が理解できなかったが、夜になると俺はルドルフのもとに向かった。
ルドルフはどこから仕入れたものか、背中に巨大なロケット花火をくくりつけていた。
「よく来てくれた。そちは余と懇意にしていたから、余が再び銀河大帝の座についた暁には、
 余の黒猫の世話係に抜擢してやろう。では、また会おう!」
ルドルフはそう言ってロケット花火に点火し、宇宙に向かって飛び立っていった。
それっきり、俺はルドルフと一度も会っていないし、ルドルフからの連絡もない。
ただ、ルドルフの出発から一週間後に、冥王星の衛星が一つ消滅したというニュースを聞いただけだ。


「独裁」「玉砕」「白菜」
また性懲りもなく韻を踏んで……。
「独裁」「玉砕」「白菜」

白菜の漬け物を齧る。
いかにも日本の食卓の代名詞といった感のある白菜であるが、
実は明治になってから日本に輸入されたものであると知る人は少ない。
いつの間にか当然のようにそこに居座って、誰もそのことを不思議に思わなくなる。
人間、今を生きるのに必死で、過去に思いを馳せる余裕などないものだ。
独裁政治を打破するために玉砕した命を、どれほどの人が知っているだろうか。
携帯電話がなかった時代、人がどうやって繋がっていたか、思い出す事ができるか。
些細な事から歴史を変えるものまで、例を挙げれば枚挙にいとまがないものだ。

ディスプレイに映し出された文字を見て、男は過去に思いを馳せた。
その掲示板がもっと小さかった頃、それは確かに存在していなかったはずなのだ。
それなのに誰もがそれを受け入れ、あまつさえ夏の風物詩とさえ認識している。
夏厨、むべなるかな――そして男はまた一片、白菜を口に放り込むのだ。

「あぜ道」「雪」「イチゴ」
あぜ道の向こうは陽炎に揺らめいていた。
夏休み。学校のプールの帰り道。
木でできた電柱も暑さで傾いているかの様に見える。
帽子を忘れたことを悔やみながら、緑の山に影を落とす
雲が頭上にかかることを願っていた。

家までの道のりのちょうど半分ほどのところに、かき氷
売っている店がある。
プール帰りにここで一息入れるのが楽しみだった。
「氷イチゴちょーだい」
少しすると、すまなそうに店のばあちゃんがメロン味の
かき氷を持ってきた。いつもより少し大目の氷の山に緑
色のシロップがかかっている。シロップのかかっていな
い頂上が雪化粧されたように見える。
早く冬にならないかなぁと思う。そして冬にはここでお
でんを食べながら寒いと文句を言うのだ。

「実家」「きのこ」「集会」
「実家」「きのこ」「集会」

 バスから降りて久振りに訪れた故郷は思い出とは違った、ある意味異質な雰囲気を醸し出してた。
それは懐かしさよりも先に違和感を感じると言った方が正しいだろう。何かがおかしい。
 それでも俺はショルダーバッグを肩に担いで実家に向かい歩き始めた。八年振りとは言えさんざん通いなれた道だから
少しも迷う事無く実家へと帰る自信が、俺にはあった。
 しかし既にまわりは日が暮れ始め、辺りには虫の鳴き声が聞こえ始めている。俺は甘かった。
八年振りに味わう田舎の夜に恐れを覚えてしまった。自然と俺の足並みは早くなり昔の記憶を頼りに近道を選んだ。
両脇を田んぼに囲まれたその道は、車一台通るのが精一杯だろう。
(ここを真っ直ぐ言って車道に突き当たったら集会所を右だったな)
 いつの間にか、俺は恐れを拭うように口の中で幾度となく実家までの道順を唱えていた。自分の恐れが異常な速度で膨らみ始めている。
気付くと俺は形振り構わず走り出していた。あぜ道を駆け抜け、目当ての集会所を右に曲がる。後は真っ直ぐ道なりだ。
既に俺は周囲を見渡す余裕も失せて、只管、足元だけを見つめ走っていた。
 ついに、思い出の中の視界と俺の足元の視界が一つに繋がった。見覚えのある砂利道に、少し安心感を覚え俺はゆっくり視線をあげる。
「ああ、懐かしいよ。通いなれた……小学校!?」
1メートルほどの角材に焼印で大きく書かれた“F町立小学校”という文字。キノコが風に揺れ俺を笑っているようだった。
俺はもう田舎の良さを思い出し充分に味わっていた。
340次の御題は:04/08/23 03:09
「雨」「トイレ」「携帯」でよろ
341罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/08/23 05:45
携帯トイレで雨のような小便をまっていると、・・・来客が
「来客だ」
そう言うのがやっとだった。
何年ぶりにしゃべっただろうか。
「来客だ」
ノックもせずドアを開けてきた来客のまえにぼくのあらわな姿がさらけだされた。
来客は誰だろう・・・、だが、強烈なバックライトを浴びていてその顔がはっきりわからない。
「鍵もかけずにおまるでしっこか。いい年してなに考えてんだ」
来客が罵声を浴びせかけてきた。
その声ではっきり分かった。昔の彼女だった。
「帰ってきてくれたんだね。会いたかったよ」
がらに無く僕が言うと、蘭たんが、
「プー」
と、言った。
「おしっこにゃー」と答えると、
蘭たんが振り返って、「こいつしばいたって」と誰かに言った。
金髪の男が三人はいってきて、ぼくは達磨にされた。後日エイズ検査するとぼくはエイズだった。

次、「痰」「理解力」「河童」
映画部の学園祭の企画でグループに分かれて映画を撮ることになった。
グループ別に集まってみると、私のグループにはあの高野がいた。
高野は全員の冷たい視線などどこ吹く風といった様子でゴミ箱に痰を吐いた。
彼は前回の上映会で自らのオナニーシーンを上映し上映会を中止に追い込んだ変態だ。
この男のおかげで映画部は廃部になるところだったのだ。
厄介なことに、メンバー全員何かの仕事をやらせなければならないという条件がある。
高野は機材もろくに扱えないし、台本の理解力は小学生以下だ。
それでも高野にスタッフか出演者のどちらかをやらせなければならないのだ。
話し合いの結果、機材を壊されるよりはちょい役で出演させる方がましだという結論に達した。
高野には池に住む河童の役が割り当てられた。作品中ずっと出ずっぱりだが、画面には頭の皿の部分しか映らない。


「フィルム」「テープ」「ディスク」
343「フィルム」「テープ」「ディスク」 :04/08/24 12:40
世界的に有名だったクラッカーが自殺した。
彼の痕跡は残らなかったが唯一彼の残したバックアップ用デジタルテープが有る男の手の元に送り届けられた。
彼の自殺後、二日後の事だった。
彼には交友関係が皆無であったが彼がアタックした中で壮絶な死闘を繰り広げられた某一部上場企業のアドミニストレータのその男の
手に送られてきたのだ。
彼は最初そのデータの送り主は誰なのかわからなかったが内容を解析していくうちに隠されたテキストを発見し有名なクラッカーだとわかったのだ。
彼は、彼の所有物である超ハイエンドスペックマシーンを用いバックアップを復元し始めた。
三日後バックアップ復元が完了した途端、実行ファイルが自動起動した。
モニターには、3Dモデリングされた男がいた。
「私は、自殺しました。あなたが私を見ているという事は復元してくれたということですね。これは遺言では有りません。人工知能による物です。
私はあなたの手を借り完全犯罪を実行します。そうしかし私は既に死んでいる。あなたは私の意志の共犯、いや実行犯となるのです」
―― その時遠く離れた各国の国防総省や、軍事施設、軍事衛星は所有者による管制を受け付けなくなっていた。
ハードディスクはフル稼働し、世界中の都市の位置と現時点存在するすべての攻撃兵器の弾道が計算されそしてついに攻撃を行なっていた。
クラッカーが映るモニターには、B級映画のフィルム上映会よろしくエンディングのスタッフロールが流れ始めた。
アドミニストレータは自分の名前が流れてきた瞬間と同時に核兵器による青白い臨海光を目にしたのだった。

「マイナスイオン」 「樹海」 「清算」
344名無し物書き@推敲中?:04/08/25 03:14
「マイナスイオン」「樹海」「清算」

「気持ちイイー。マイナスイオン全開? ってカンジ!」
悲しいまでに愚かしい言葉の端々には、真の哀しみが宿っていた。
高山に茂るこの木々よりもひそやかに、冬山よりも凍てつく心に晒されて。
本人さえも気づかない。だから僕が教えてあげなければいけない。
「悲しいピエロ、もう道化はいらないよ……」
優しく囁き、背中から肩に手をかける。戸惑いに身躯を強張らせた次の瞬間には、
彼女の柔らかな重みが僕にもたれかかってきた。おそらく彼女はいま、生まれて
初めて赦されるのだ。罪は清算され、道化師は涙のフェイスペイントを歓喜の涙で洗い流す。
僕は彼女を強く抱きしめ、袖からナイフを取り出した。
霧に鈍った太陽が刃に一筋の光を描き、紅いシャワーが色褪せた樹海を彩った。
崩れ落ちる骸を見下ろしつつ思う。僕はあと何人済えばいいのだろう。
早くみんなを済わなければ。
他人を済う重圧が快楽に変わり、僕が狂気に走ってしまう前に。


次「サラダ」「銃弾」「通学路」
初めて入るカフェで、朝食のサラダの色に顔を顰めているとすぐ後ろで派手な銃声がした。
振り向くとそこには額に穴のあいたスーツ姿の中年男性と首から上の無いOLが寄り添い倒れている。
転がる銃は散弾銃と小型の自動小銃、おそらく不倫の縺れだろう、さして珍しくも無い光景だ
気だるそうなウェイターが処理をはじめるのを尻目に、私は持ち込んだ新聞の占いコーナーに目を通すことにする
順位は3位、特に健康運が◎、昨日が最下位であっただけに私は少し気を良くしていると
カフェ沿いの道路に私立小学校特有の装甲バスが通る、どうやらこの店は通学路に面しているらしい
現に向かい側のビルの隙間の路地で俯く子供に数人の青年が取り囲んでいる
だが、その手に握っているのは小さなデリンジャーが一つずつ、おそらく義務教育も終えれなかった輩だろう
私は体と銃の大きさのミスマッチに小さく苦笑しながらその隣にあるサラダに覚悟を決めて手を伸ばす
健康運が◎なら体調を崩すこともあるまいとフォークを手に取ると、それはけたたましい笑い声をあげ
弾け飛ぶ、声の音源を見やると先ほどの路地で少年が煙たつマシンガンを下ろしている足元には真っ赤
な元・青年が転がっている、ふむどうやら彼は飛び級した学生らしい、優秀なことだ。
蝸牛のようにモップを動かすウェイターに代わりのフォークを頼むと、彼はさきほどまでカップルの居た
テーブルからおっとりと投げて寄越し、私は席を立つ。
流石にべったりと彼か彼女が付着したものを使う気はしない、笑い声を上げる銃弾に倒れた蟹座の他客
を踏まないように会計を済ます、店を出て待たせてあった車に乗りながら携帯電話に手馴れた番号を打ち込む
車が走り始めてからしばらくして白線を引きながら劣悪なカフェへと向かうミサイルを見上げながら
世界で一番、白い我が家へと帰った。

次は「三毛猫」「図書館」「貨物列車」でお願いします
最近、僕は図書館に入り浸っている。

そこは住宅街の真っ只中、小さくひっそり、それこそ普通の民家のように建っていた。
鉄製のアーチが架かる門に、図書館名の書かれた看板が控えめに掲げられている。
門を潜り、木でできた分厚い玄関ドアを開けると土間があった。フローリングの廊下
にスリッパが並べられている。壁に張られた案内に従い、靴を脱ぎスリッパに履き替
え廊下を進む。読書室と書かれたドアを開けると、紙とインク、そして埃の匂いが鼻
をくすぐる。目の前には適度な照明に本の山が照らしだされていた。

本棚には乱雑に本が詰められていた。高さの合わない本が乱杭に並べられ、背の低い
本の並びの上には横向きに本が乗せられていた。あまつさえ入りきらない本が本棚の
間の通路に山済みにされている。
司書と思しきお爺さんが、本の山に半場埋もれる様に座って本を読んでいた。
挨拶をすると、眠りから覚めたような目で僕を見つめ、深い皺を刻んで微笑んだ。
久しぶりの利用者らしかった。そうだろうと思う。部屋には他に本棚の上で居眠りを
している三毛猫しかいなかった。しかも、探すと十匹もいるので驚いた。

妙に気に入ったその図書館に通うようになったある日、お爺さんに聞いてみた。
なぜここで図書館を?
貨物列車の中よりは利用者が来てくれるから、という答えだった。
いつか猫以外の利用者が現れないか、楽しみにしながら僕は図書館に通っている。

「雲」 「手すり」 「屋」
飲み屋街で、父の仇の白雲斎をついに見つけた。
白雲斎は前後不覚に酔っていた。
白雲斎が酔拳などを使うという話は聞いたことがないので、
今斬りかかれば簡単に倒すことができるだろう。
だが、白雲歳は父を橋から落として殺した。
だから僕も同じ方法で仇討ちをしなければならない。
僕は白雲斎の後をつけ、どこでもいいから橋を通るのを待った。
やがて、白雲斎は人気の全く無い橋にさしかかった。
そして、橋の手すりの部分に倒れこんで下に向かって嘔吐し始めた。
またとない好機だ。僕は白雲斎に近づき名乗り上げようとした。
だが、僕が白雲斎に声をかけようとしたそのとき、
手すりが壊れて白雲斎は勝手に橋の下に転落してしまった。
何かが地面にぶつかるというより、何かが潰れるような嫌な音がした。
仇を討ったという満足感はまるでなかった。
ただ、あの男の死体を引き取る葬儀屋が気の毒だな、と思った。


「早朝」「魚屋」「突っ走る」
僕は時々早朝に起きて学校へ行く前に散歩することがある。
今日もなんとなく早く起きてしまったからウチの近くの商店街を歩いていた。
僕はこのまるで人気がない朝の商店街が好きだった。
いつも夕方頃には賑わっているこの通りも、今は餌を求めて彷徨う野良犬や
朝の仕入れの準備をしている魚屋のおじさんしかいない。
この時間とこの空間は僕のものだ、そんな満足感が僕を包むのだ。
だけど、今日は違った。
しばらく商店街を歩いていて、丁度真ん中の辺りを来たときに、
向かい側から真っ白なワンピースを着た少女が歩いてきたのだ。
いや、少女と言っても僕と同じ高校生くらいだろうか。
まぁたまには僕と同じで朝早くから散歩する人もいるのかな、と思いつつ歩き続けた。
でも、彼女の顔がよく見えるにつれて、その真っ白な服と、それに見合った綺麗な顔立ちに思わず少し見入ってしまった。
目が軽く合ってしまい、ちょっと緊張して顔を強張らしてしまったが、彼女はにっこり微笑んできた。
僕はニヤけそうな顔を必死に抑え、軽い会釈をして、すました顔で立ち去ろうとした。
しかし、立ち去ろうと歩きを続けていると、なにやら彼女の方からこちらに近づいてくるではないか。
胸に期待を膨らませつつ、相変わらずすました顔で歩いていると、とうとうお互いがすれ違う時には真横の位置まできていた。
彼女が真横来たとき小さな唇でこう呟いた。
「……て…………し………の…」
ほとんど聞き取れなかった。僕は思わず振り向こうとした。
が、急に背中が凍り付くような感覚に襲われた。
第六感というやつだろうか、どこかで絶対に振り向くなと言ってるような気がした。
体中から冷や汗が吹き出して、毛の一本一本の感覚がわかるようだ。
僕は、今最大限の冷静さを引き出し、ランニングをするふりをして、まっすぐ突っ走ることにした。
しかし、ここまで考えたら今度は振り返ってみたいという好奇心が沸いてきた。
今時幽霊なんているわけないよな、そう思うと考えは止まらなくなり僕は一気に後ろを振り向いてしまった。
――

「油絵」「目くじら」「リモコン」
「アハハ、アハハ〜」
テレビからまたあの耳ざわりな、甲高い声が聞こえてきた。
「アハハ〜ハコフグ大好き〜」
この男、本業はタレントではなくイラストレーターだという。
何でも最近では油絵にも手を出してるとか。生意気な。
こいつがウザくてたまらない、と思ってるのは俺だけではあるまい。
お魚天国ブームが去ってから何年経つと思ってるんだ。
ほら、言わんこっちゃない。あまりの落ち着きのなさに、番組の共演者が怒り出した。
「あはは〜そんなに目くじら立てないでくださいよ〜」
おさかなタレントだけに目くじら、か。上手いじゃないか。
……と思いきやクジラは哺乳動物ではないか。
何をちょっと上手いこと言ったような顔してるんだよ!共演者も褒めるな!
間違えてるんだよ。クジラは哺乳動物!それでもTVチャンピオンか。う〜んド突きたい。
……よく考えたらこんな番組に付き合ってやる筋合いはない。
チャンネルを変えれば済む話だ。リモコン、リモコンと……。日テレは、例の料理対決の番組か。
この司会者、試食ばっかりするくせにボキャブラリー少ねえんだよなあ。
おまえはほんとにその食材のことを知ってるつもり!?と問いたい。
「このマグロ、最高!」
そりゃそうだよ特選素材なんだから。もうちょっと具体的に言ってくれよ。
こんなとき、さかなクンだったらなあ……。

次は「青春の」「ロボ」「活き」
 タバコをふかす私の前にはキャタピラの付いた銀色の四角い箱状の物体がある。その箱部分には両側から一本ずつ先端が
三つ指に分かれたアームが伸びている。さらに、箱の上部には、箱から繋がる色取り取りのケーブルの束と鉄柱によって
支えられたカメラが一つ。先程の三つ指が手なら、此方は顔といったところだろう、そして肢と呼ぶには不恰好なキャタピラ
によって構成された、所謂ロボ。
 大学に通い、直にロボット研究会に入った私は本気で人工知能を備えたロボを作るという夢だけを目標に生きていた。
その私が大学生活を棒に振ってまでロボット作りに打ち込み、その結果、出来たのが人真似人工知能プログラムだった。
 簡単に言えば鏡と同じで、此方の動きをカメラで認識して、その動きを解析し真似して動く、ただそれだけのことだ。
それでも当時の私にとっては大変な作業だったし、出来上がったプログラムも周囲に誇れる物だったと自認していた。
 そして数々の実験に使用されたロボはプログラムの開発者である私の家に記念として持ち込まれた訳だ。
今では普通のサラリーマンでしかない私の書斎にだ。
 今の私にとっては粗大ゴミでしかないそのロボットが、さらに困った事に書斎の入り口を背にした状態で起動してしまったから大変だ。
私が書斎を出ようとすれば、ロボットも私に近づいてきて私の前を塞いでくる。私が右に避けようとすれば、ロボは私を追う様に移動する。
まさしく、鏡のように私の動きを即座に真似てくる。その上、残念な事に出口はロボットの後ろにしかないのだ。
 青春の代償であるロボットと、その内蔵バッテリーが切れるまでの数時間をにらめっこしながら過ごす事になろうとは。ただ、幸いなことに
時間を潰すための本は沢山ある。
 そして一冊の文庫本を読んでいた私が、ふとロボットの方を見ると奴の方も私と同じように自分の顔(カメラ)を下に向け視線を
自分の三つ指の方に向けている。
「働けど働けど なお我暮らし 楽にならざり じっと手を見る……か」

次は「擬態」「成長」「草むら」でお願いします
 クササササムトナは飛べない鳥である。亜熱帯気候地域の内陸に生息していて、春に生まれて
9〜14年ほどで死ぬ。事故でもよく死ぬ。一度の産卵では決まって二個の卵を産む。
卵の表面はアスファルトに似た質感で、工事現場などではまず発見することは出来ない。
クササササムトナの一生を支える擬態能力の始まりである。
 孵化したクササササムトナは、成長段階に応じて三つのものに擬態する。生まれたばかりの
クササササムトナは、緑色の細長い羽毛に覆われており、一見して草である。アスファルトの
隙間に生えた雑草のいくつかは、クササササムトナの幼鳥の擬態である。その擬態は完璧で、
草むらに居ると虫が寄ってくる。その虫は餌になる。
 生後半年ほどで、クササササムトナは猫に擬態する。猫である。この擬態は実に特殊で、嘴が
変形して牙になり、肉が盛り上がり頭や腕、脚を作る。見た目だけならば完璧な猫である。
クササササムトナはこの状態で死期が訪れるまでを過ごす。この期間には人間に飼われている
ことも多い。もし鳥を狩らない猫を飼っているのなら、それはクササササムトナかもしれない。
よく監察していれば、アスファルトの塊のような卵を産み捨てる姿を見ることができるかもしれない。
 死期が訪れると、クササササムトナは猫の姿をやめる。最後にクササササムトナが擬態するのは
土である。表面の羽毛はパーマが掛かったようになり、地面に全く同化する。クササササムトナは
土の上で死ぬ。死体はおよそ一日で分解され、骨も崩れて虫の餌になる。後には羽毛が残るが、
土とは見分けがつかないので、そのまま土になる。言い忘れたが、クササササムトナは絶滅寸前である。

次は「ハッピー」「うれしい」「よろしくね」でお願いします。
チャックがまた不眠症にかかったと相談してきた。
俺は医者でも催眠術師でもないのだが、商売柄いろいろな薬を持っている。
いつものハッピースリープという製品を売ってやりたいところだが、
あれは先日製造元が摘発されてから品薄で、手持ちはもうない。
他に似たような効果の薬はないかと在庫を片っ端から調べると、
チョークスリーパーというのが見つかった。
名前にスリープが入っている以上、睡眠を誘発させる効果だろう。
それを包装して渡してやるとチャックは大喜び。
真っ当な商売じゃあないが、客にうれしいと言ってもらって悪い気はしない。
これからもよろしくねといってチャックは帰っていった。
だが、それっきりチャックは店に来なかった。
後で調べたところ、チョークスリーパーというのは呼吸困難を誘発し永遠に眠らせる薬だった。


「ドラッグ」「クスリ」「ヤク」
 俺が駄目になっていくのを、唯一心配してくれる友達だった。
 どうしようもなくなって顔を上げたら、そこにいてくれる友達だった。
 その友達が死んだ。高校の屋上から飛んだ。ドラッグを持って。
 それは事故なのに、数グラムのクスリの存在が、事故を事故として終わらせてくれなかった。
 検死の結果は、奴がドラッグをやっていなかったことを証明しているのに。
 不完全な情報が、奴の尊厳を奪う。それはたまらないことだった。

 臨時集会の校長のオハナシ。彼はマヤクを持っていました。皆さんは誘われても断りましょう。
 ちょっと待て。
 その言い方はないだろう。まるで奴がマヤクをやっていたような言い方じゃないか。
 あいつはクスリなんかやってない。ただ俺のことを心配して、助けようとして、
 俺からクスリを奪って逃げただけなんだ!」

 体育館が静まり返る。皆、俺を見ている。涙を流して、立ち尽くしている俺を。

次は「バラ色」「幸せ」「最高」でお願いします。
少年は旅に出た。理由などない。なぜなら彼はゲームキャラだからだ。
勇者の子孫らしいがそんな設定知ったことではない。んなもん理由になるか。
冒険に出るっていったら出るのだ。そういうゲームだからしょうがないのである。

少年は洞窟に行った。医者に頼まれて薬の原料を取りに行くなんて、ありえないような
シチュエーションである。しかもそれがバラ色だか虹色だかに輝く雫、どこの誰の妄想だ。
でもどうでもいい。そういうゲームだからしょうがないのである。

少年はカジノに入る。なんの脈絡もないし、世界を救う勇者たるものが不謹慎ではあるが、
伝説の武器がカジノの景品なのだからやるしかない。なぜカジノにあるのかは知らない。
でもどうでもいい。そういうゲームだからしょうがないのである。

少年は魔王の城に乗り込む。兵法では城攻めには城内の敵の3倍の兵力が必要というが、
自分しかいないんだから行くしかない。というか応援よこせクソ王様。殺す気か。
でもどうでもいい。そういうゲームだからしょうがないのである。

少年は魔王を倒した。少年ひとりにぼこぼこにされる魔王が世界を滅ぼせるのかどうか
疑問ではあるが、まあとにかく倒せたんだからそれでいい。
それはそれでしょうがない。少年のレベルは最高まであがっていたからである。

少年は城に帰った。王様が姫と結婚しろと言ってくる。姫なんかいたのかよとも思ったが、
まあ少年は結婚する。どんな性格の姫かは知らないが、それはそれでかまわない。
どうせここでエンディング。このあとの生活が幸せだろうがそうでなかろうがどうでもいいのである。


次は、「剣」「鏡」「勾玉」でお願いします。
「それは鏡だよ」 トラの話を一通り聞いたあと、私は答えた。
 きっと君の事を驚かしたかったんだろう、と付け加えると彼は俯き、考え込む。
「僕、人間って嫌いだ。そりゃあ、ご飯をくれるのは嬉しいけど……」
 そう言ってゴミ箱の上へと跳び上がる。私は自然とため息をついていた。

「悪気はなかったのさ。その宝石だって……」
「勾玉って言うんだって。つるつるしてる。紐が木にひっかかったりするし、邪魔だよ」
 私自身、身に覚えがある。首輪という、人間と私達とを繋ぐ目に見える証。
 もっとも、トラの首にぶら下がっているような奇妙なものは、見たことが無いが。

「あの子、目が見えないみたいなんだ」 冷たく、よく通る声。トラは話を続ける。
「だからかな、手で触って面白いものが好き。つるつる、ざらざら、ふわふわしたもの。
 僕のこともいっぱい触る。でも、僕は触られるの、嫌い。それに、びっくりするのは、もっと嫌いだ」
「フィガロみたいに物知りで、のら猫でいるのがきっと一番いい」

 瞬時に、頭の中に色々な言葉が浮かんでは消えた。私は物知りでないし、のら猫でもない。
 愚かさゆえに大切な人間と右目を失い、街の灯も届かぬこのような闇の中に放り出されたのだ。
 もう二度と人間と関わるまいと、皮肉にも剣のような形を遺した傷痕に誓った……。
 
 夜の静寂に溶かすように、いっそ話してしまおうかとも思ったが、
 そうしたらきっと彼はびっくりするだろうと思い、「そうかい」とだけ答えた。

次は「少年」「切手」「ベンチ」
356「少年」「切手」「ベンチ」 :04/09/04 06:43
年端もいかぬ少年が、ひとりでベンチに座っていた。
一瞬、ほんの一瞬だけ、わたしと少年の視線が合った。
すがるような目。大きく丸く澄み切った、だけどどこか悲しい瞳。
無視することもできないままに、わたしは隣に腰掛けた。
「ジュンくんがね、切手とあて名があれば、郵便屋さんがなんでもとどけてくれるんだって。
 だからボクも届けてほしいんだけど、切手がないからボクは届けてもらえないのかな」
切手くらいだったら、お姉さんがあげるよ。どこに何を届けたいの、と聞くと、
少年は満面の笑みでわたしを見つめた。
「ボクをね、てんごくのパパとママのところに届けてもらうの」


次は「馬車」「木星」「洗濯機」
「社長。そろそろ打ち合わせですので・・・」
 社長室のドアを開けた俊君の目に、突如なにかが吹き付けられた。
「これぞ忍法、とうがらし目潰し」
「痛ェ! これマジ痛ェ!」
「拙者、今日は仕事をサボるでござる。嫌ならどこかに隠れた拙者を見つけるでござる!」
 俊君の眼がようやく視力を取り戻したとき、社長の姿はどこにもなく、椅子にはサボテン、
机の上には「忍者ハットリくんベストセレクション」だけが残されていた。
「・・・あれを見たのか」
 ベタベタすぎる社長の行動から推測するに、ここに違いあるまい。サボテンを一刀両断すると、
中から部長の首がゴロリと落ちてきた。二重変わり身だ。ではどこだ?
 戸棚、洗濯機、地下格納庫、ポチの口の中。社長室の中のおよそ思いつくところは探し尽くした。
途方にくれる俊君の耳に、カッポカッポと軽快な音が聞こえた。まずい、お得意様の到着だ。
なにかヒントはないかと「ハットリくん」をパラパラめくると、挟んであった紙がひらりと落ちた。
「そうだ、木星に行こう。」
「いけるわけねーだろ!」
 まずい、間に合わない。クソ社長に付き合っている暇はない。急いで入り口へ走ると、既にお得意様は
バーベキューを終えて焼きそば作りを始めるところであった。
 ウーロンハイですっかり出来上がったお得意様に、かくかくしかじかいきさつを話すと、案の定怒られた。
「不愉快だ、帰る!」
 豪快に燃えるキャンプファイヤーもそのままに、さっそうと馬車に乗り込むお得意様。御者の鞭が空を切り、
車を引く社長の尻をひっぱたく。
「痛ェ! 叩かなくても口で言えばわかるっつーの! なあ俊君、なんか言ってやれ」
「お前は何をやっているんだよ!」
 俊君の怒りが爆発した!


某氏のシリーズ「社長と俊君」を無断でお借りしたことをここでお詫び申し上げます。
次は「歴史」「物理」「英語」
感想スレが次スレ入りましたよ、と

[◆「この3語で書け! 即興分ものスレ」感想文集第9巻◆]
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1094252104/
 その二百人の中で、日本人は俺だけだった。
 物理的に考えて、ありえない状況だ。
 どうしてこんな事になってしまったのだろう。
 俺はガイドを探してあたりを見回した。その日本語の通じる唯一の
人間の姿はなかった。俺は心細くなって息が詰まっているのを感じた。
 この街の歴史を紐解けば、日本人旅行客が途絶えた事などはない。
 ピンクの髪の兄ちゃんが何か俺に早口で捲くし立てる。
 英語か仏蘭西語か独逸語かわからないがとにかく外国の言葉だ。
 ダスとかイッヒとかに紛れてラ・なんとかとかレ・なんとかとか聞こえた
ような気もするし、かと思えばザッツとかビューテホーとか言ってるようにも
聞こえなくもない。語学に疎い俺にはさっぱりわからない。
 観光客の一団は、居心地の悪そうな俺を無視して先を急ぐ。
 急ぐ先は滝だ。既に先頭の一団は滝から飛び込み始めている。
 全員が笑顔で、その数十メートルの高さの滝の入り口へと、滑稽な
ポーズで飛び込んでいく。俺には状況がわからない。
「お前が、最後の日本人か」
 突然の日本語に振り返ると、いつの間にか現れたガイドの男が
寂しそうな笑いを浮かべて、俺を見ていた。
 俺は周りを見回す。――最後、だったのかな。
 多分、そうなんだろうな、と思う。
 俺は頷いて、諦観にも似た爽快感に身を震わせた。
 それから俺は、精一杯陽気な振りをして、轟々と流れ落ちる滝に身を投げた。

次は「捕虜」「五百円玉」「リモコン」
最近電波系ハルキ系増えすぎ。そんなの一度掴めば簡単だ。意味無い。
普通の話書け。
>>360
◆「この3語で書け! 即興文ものスレ」感想文集第8巻◆
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1078844906/

裏三語スレ より良き即興の為に 第三章
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1086127811/
私、名探偵明智大五郎はどじを踏んで怪人十八面相の捕虜になってしまった。
彼があてがってくれた部屋はバストイレ付きの快適な部屋で食事もちゃんと出たが、
名探偵の誇りにかけていつまでも捕虜でいるわけにはいかない。
怪人十八面相は仕事に出かけるときも私の身体を一切拘束しなかった。
よほど脱出されない自信があるのか、私のを甘く見ているのか。
私は早速脱出を試みた。
まず正攻法で入り口から脱出しようとしたが、入り口のドアは堅く閉ざされていた。
今持っているものは、衣服を除けば財布だけだ。
財布の中身の五百円玉で懸命にこじ開けようとしたが、ドアは開かず五百円玉の方が曲がった。
もったいないことをした。だが悲しんでいる暇はない。別の方法を考えなければ。
部屋の中を探すと一つのリモコンが置いてあった。もしかするとこれがドアを開ける装置かもしれない。
私はリモコンのボタンを押した。すると、突然部屋にエコーのかかった音声が響いた。
「自爆装置作動 10、9、8、7、6……」
との音声が流れた。私は仰天して右往左往したがどうにもならなかった。
そしてカウントが0になった。直後に、さっきとは別の声が響いた。
「…なーんて冗談。まあ私が帰るまでおとなしく待っていてくれたまえ明智くん」
私は脱力して近くの椅子にへたり込んでしまった。一本参りましたというところだ。


「無茶な」「罠」「すっとんで」
363「無茶な」「罠」「すっとんで」:04/09/05 04:31
 「現場にいない上の作戦を律儀に聞くんですか!?敵の捕虜になった仲間を見捨てるんですか!?隊長!!」 「…これは命令だ。捕虜より任務遂行を優先する。
 それに捕虜付近には間違いなく罠が仕掛けられているだろう。部下にそんな無茶はさせられん。」
「…そうですか。見損ないました。捕虜は俺一人でも助けだします。」
作戦会議
「我々の作戦は決まった。…捕虜になった仲間の救出を最優先だ!敵の迎撃は全て俺が引き受ける!
俺の体がすっとんでも絶対にくい止めてやる!!無茶な作戦だが付いてきてくれ!」
「ギャンブル」「風景」「夢」
364「ギャンブル」「風景」「夢」:04/09/05 10:31
 それは夢のような風景だった。ニョクマムが大好きなニョクマムおじさんは
ニョクマム工場の見学にやって来た。無数の瓶に琥珀色のニョクマムが満たさ
れてラインを流れていく様は、野山に遊ぶ妖精の群れを思わせた。
「おお……。ここで産まれたニョクマムが、世界中の少年少女のお手元に……」
 忘我の境に浸っていたおじさんであったが、検査員が並ぶ先でラインが二股
に分かれていていることに気がついた。おじさんは検査員に尋ねた。
「こっちの細いラインは?」
「瓶が欠けてたり変なもんが浮いてたりする奴は処分すんだよ」
「ばかもーん!」
 おじさんは検査員を張り倒して、他の検査員の制止を振り切ってベルトコン
ベアーの上に乗った。細いラインは途中で途切れていて、回収箱が大きな口を
開けて待ち構えている。おじさんは一か八かのギャンブルに打って出た。
「とう!」
 回収箱に飛び込んで、自らの体で箱に蓋をした。捨て身の行動でニョクマム
を守ったおじさんの背中の上で、ニョクマム達は嬉しそうに瓶を震わせた。
365「ギャンブル」「風景」「夢」:04/09/05 10:33
次は「雑魚」「銅鑼」「便器」で。
 ドラえもんの“ドラ”は銅鑼の“ドラ”なんだろうかという疑問が
一週間前にふと頭をかすめてからというもの、彼は悩みのあまり夜も眠れず、
また、極度の便秘に襲われてしまっていた。
 今日もまた、授業中だというのに例の“出そうで出ない感覚”が
彼の肛門を直撃し、仕方なく彼はトイレに行かせてもらえないかと
先生に手を挙げて頼んだ訳だが、そのお陰で皆の笑いものになってしまった。
 だが、皆の笑いものになることなど、この悩みに比べればちっぽけなものだ。
 彼は便器にこれまたいつものようにまたがると、今日こそはこの疑問に
終止符を打つぞと、これまで以上に肛門と頭に力を込めた。
 …そもそも、ドラえもんはどら焼きが好き。ならば、ドラえもんの“ドラ”は
どら焼きの“ドラ”か?いやいや、猫型ロボットということを考えると、
もしかしたらどら猫の“ドラ”かもしれん。だいたい、どら焼きの“ドラ”も
どら猫の“ドラ”も、語源は銅鑼からきてるのかもしれん!
 彼は考えた。トイレに篭ってかれこれ5時間が過ぎ、他の生徒は既に下校していたが、
それでも彼は便器の上で考えた。そして彼はついに一つの答えに辿りついた。
「うん、考えても分からん!」
 それはあまり納得出来る答えではなかったが、それでも彼の顔は晴れ晴れとしていた。
 トイレに一人佇み、便器の方をちらりと見ながら彼は呟いた。
「こんなことで悩むなんて俺もまだまだだな。魚で言うなら雑魚同然だ。
 それに、コイツもまだまだ全然雑魚だ。」
 便器の中には、“大”便というには余りにも小さい彼のうんこが、
遠慮がちに浮かんでいた。

次は「アイロン」「シャンプー」「ひざ枕」で。
367「アイロン」「シャンプー」「ひざ枕」:04/09/05 12:56
 今でも目を瞑ると、アイロンをかける奈々子の姿を思い出すんだよ。
そう、この部屋の、あの、アイロン台をつかってね。
料理を一緒に作ったり、肩を揉んであげたり。愛してた……
そういえば、膝枕はいやって言ってたなぁ。別れることになったら辛いからって。

さ、クロ、お風呂入ろっか。
ほらお前をいつもシャンプーしてたね。俺より上手だったのかな……
368:「アイロン」「シャンプー」「ひざ枕」:04/09/05 12:58
↑「爆弾」「港」「敏感」で↓
369「爆弾」「港」「敏感」:04/09/05 13:56
エンドロールが銀幕に流れ始めると、映画館の観客からは一斉に罵声が浴びせられた。
元清純派アイドル早見みずきの鳴り物入り成人映画「とんでもアイドル本番湾岸ドライブ」にキスシーンさえも映ってなかったからだ。
右隣の禿げた親父は、眉間に皺を寄せ、鼻先に大量の脂汗をかいていた。親父は、「衝撃な、らすとし〜ん♪」と書かれたA4程度のコピー用紙じみたパンフをわしづかみにしながら、あれよあれよという間に頭部にまで青筋が浮かびはじめた。
この卑猥な頭部が、親父にとっての事の大きさを象徴していた。

館内アナウンスが流れた。ギリギリと音が割れたスピーカからは、責任者と思われる男が引きつったような声でお詫びの言葉を繰り返していた。
数分後、館内はある程度の落ち着きをみせたが、立ち去ろうとする者は少なく異常な空気に支配されていた。少しの物音でも敏感になっていた。誰かが叫び始めるとまた手をつけられなくなりそうだった。

私はうれしかった。早見みずきの清純が守られたからだ。薄汚れた銀幕を見上げながら、これからも清純を守っていくと心に誓った。
私は足早に映画館を後にした。紙袋に入った爆弾と共に。
370「爆弾」「港」「敏感」:04/09/05 14:01
ごめんなさい、お題を一部間違えておりました
港→湾
すいません、お題はまえのままで継続してください。(ショック)
「うわあ、風が気持ちいい!」
 彼女がクルーザーの舳先に立ち、髪を靡かせながら言った。
 僕はそれどころではない。今日は胸に一物かかえてのクルージングだ。
彼女の挙動にビクビクしながら、敏感な船を操縦しなければならない。
彼女を殺すまえに、事故に遭うわけにはいかないのだ。
「あなたって本当に素敵ね。私、昔からこういうことしてみたかったの」
 うるさいぞ、売女。僕は心の中で毒づく。純情ぶりやがって。どうせ僕を
金づるとしか思っていないくせに。あの男と毎週のように会っているくせに。
「このへんにしようか?」
 僕はできるだけ自然に切り出した。港まで1時間。溺れたら助からない位置。
シャンパンを持って甲板に出る僕に、彼女は腕を絡ませる。慣れた手つきだ。
やはり、売女だな。胸の中で、爆弾の導火線がちりちりと音を立てた。
「ねえ、その前に、見せたいものがあるの」
 というと彼女は、妖艶な笑みを見せながら、ハンドバッグを取り出した。
「ほら、これ。クルーザーのライセンス。内緒でとったんだ」
「へぇ、何で? 僕が持っているからいいじゃないか」
「だって、これがあれば私・・・一人で帰れるじゃない」
  パン。
 衝撃が胸に走り、僕は手すりを越えて海に落ちた。
 甲板の上で微笑む彼女の手もとから、煙が一筋昇っていくのが見えた。

次は「りんご」「ゴリラ」「ラッパ」
372「りんご」「ゴリラ」「ラッパ」:04/09/05 16:04
 今日はりんご成金の日だ。
 成城保健女子大学3回生の飯嶋は、いつものように急ぎ足で成女通り前商店街を突き抜けると、
大通りに面した歩道で右手を上げ、タクシーに乗り込む。
 “りんご成金”と称する家庭教師先の榊原家は、桁違いの資産家で、いつも月謝以外に車代と称したお金までくれるのだ。
聞くところによると田舎にあったりんご畑が新幹線の用地として買収され、そのお金が、マンションや駐車場に化けて、
毎月お金を生んでいるのだという。
「今日は、りんご成金の日なのに、大変」
 思わず呟いてしまった。合わせるように、バックミラーにゴリラのような運転手の怪訝な顔が映った。
 行き先を告げるとそのまま俯く。俯いたまま何度も時計の針をチェックした。数分も経つと心配が、自分の時計が遅れていないかという
次のステージにレベルアップした。車内のデジタル時計を見つけた。15分も進んでいる。慌てて携帯から117しようとするが電波が届かない。心配の波にさらわれそうになる。
 仕方が無い、明日もこのタクシーに乗るわけでもない。きっとデジタル時計が合ってないだけだ。努めて冷静に問いかけてみた。
「あの、その時計、時刻あってます?。そのデジタル表示」
「今日会わせたばかりですから、あってるでしょうねぇ」
顔に似合わず声のオクターブは高めだった。
……やばい
 心配の波が頂点に達してきた。お腹が痛い。ラッパのマークのあの薬をバックに入れてたはずだ。あった。取り出し蓋を開けた。
すると使い古しのコンビ二袋を左手で後方に放り投げ、ゴリラが言った。
「あ、吐きそうなんですか、大丈夫?お姉ちゃん、急いでいくようにすっから」
 タクシーは、堅く閉ざされた榊原邸の前に、30分遅れで無事到着した。

次は「川柳」「女装」「単純」
(^Д^)ギャハ!↑みなさん、この人のレスどう思いますか♪なんてありきたりなんでしょうね♪
誰もが皆、一瞬つけてみたくなる発想のレスです♪
しかし、賢明な人はその自らの短絡的思考を野放しにする事を嫌がり、
こういうレスは控えます♪しかし、この人はしてしまったのです(^^;
「誰もが思い付くような事」を堂々と♪
この人にとってこのレスは何なのでしょうか♪
このレスをしている間にも時間は刻々と 過ぎ去っているのです♪
正にこの人のした事は「無意味」「無駄」でしかありません♪ああ・・・何ていう事でしょう(^^;ワラ
図星で泣いちゃうかも(^^;ワラ
>>372
「オクターブ」の意味を勉強して来い馬鹿
375372、369:04/09/05 18:19
どうも

>>373
なるほど、現実路線が強すぎて、日常の風景になってしまってるわけですね、ちなみに369はどうです?
>>374
なるほど、「オクターブが高い」とすると興奮して、夢中になって話す意味になるんですね
意味を勉強してきました。
376372、369:04/09/05 18:32
というか、感想は別スレでしたね、そういえば。
よろしく。
377名無し物書き@推敲中?:04/09/05 19:34
専門家でないので偉そうなことを言えないが
デモイッテミル(w

>>372
三語が自然に読める流れで混入できているのは素直に上手だと思う。
しかし、何か、2つの事象や事柄がシンクロしているとか、
ストーリーの始めと終わりが続くための必然的な理由がないとツライカモナー。

>>369
出だしの罵声は怒号の誤りでは?
中篇のアナウンスのところは「敏感」を入れるためにわざわざ挿入したように見える
クライマックスは短文としてはイイトオモイマスケド(w

あくまで私的にですがサンコウニシテクレ(w
発表されることは勇気のいることだとおもいますし、
ガイヤノイケンハホドホドニキクベシ、タダノヒトリノコジンノイケンデシカナインダシ(w

ちなみに当方は373,374ジャナイYO(w
378名無し物書き@推敲中?:04/09/05 19:57
(´-`).。oO(373の作品を見たいな きっと上手なんだろうね 作品を提出してほしいなぁと思ってみたり)
◆「この3語で書け! 即興分ものスレ」感想文集第9巻◆
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1094252104/
裏三語スレ より良き即興の為に 第三章
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1086127811/

逝け。いいから逝け。
380名無し物書き@推敲中?:04/09/05 20:42
 私が鏡の前でこのような醜態を晒すことに一種の快感を覚え、且それを恥とせず自らの性癖
のようなものだと認めることが出来るようになったのは何時頃だったろう。何を隠そう、私は
女との行為よりも、そして独りきりの自慰よりも、女装の方が大層高尚なものだと自負している。近頃では女と一体になろうと必死にもがいた挙句果ててしまうだけのあのセックスという
ものが、随分幼稚に見える。まるで子供のようだ。私のこれは、その点違う。私自身、男であ
り女でもあるのだ。この舞い上がるような気持ちは表現し難い。体験した者にしかわからない
、異様な気分の高まりがある。男の醜くごつい手が、スカートの中に入れられていく。パンテ
ィのラインをそっとなぞり、少しばかりわざと時間をかけ、侵入する。私は犯す側でありなが
ら犯される側である。本来なら女性器があるべきはずの部分を、そっと撫で、片方の手で自ら
の性器を刺激する。鏡の中の私の顔は快感のあまり泣き崩れるような表情となり、それが空想
の中の美人と重なり弾ける。
 読者は恐らく、私のことを、独り身で、会社でもろくに相手にされず、不細工で、背丈も
目立って低いような男だと思われるだろう。全く違う。正反対だ。だからこそ女装が成り立つ
のだ。本来女装というものは、極一部、ほんの一握りの男に許されるものなのだ。中性的な顔
立ちで、自分に酔えなければならない。鏡を覗き込んだとき、つい自分を見てしまうようでな
ければならない。それ以外の、醜い中年の男の女装など、女装の真似事とも言えない代物で
ある。
 私は何食わぬ顔で電車に乗る。現代川柳という目立たない雑誌を片手に持っている。有名で
はないブランドのスーツを着ている。女の下着を身に着けて。私は私独りで人生を満たして
ゆく。

「少年」「少女」「チャイナドレス」
381熱液浴夫 ◆5edT8.HnQQ :04/09/05 22:39
 梅雨前線がこの辺鄙な村里に達したじめじめとした日、いつものように少年が少女の待つ窓辺近くにあらわれた。    カーテンで閉ざされた窓。少年はボサノバを口ずさみ雨風に耐え続けた。それもこれも少女に会いたいそれ一心の心のなせる業だった。
雨がやんでしばらくたった頃カーテンが開けられた。ちゃんとそこには少女の姿が見える。少女はにっこり微笑むと、曇りガラスに、こっちにきて、と指で書いた。
少年は年来この瞬間を待ち焦がれていた者のように嬉しそうに走りだした。と、あと数歩で少女の元まで着くというところで彼は落とし穴に落ちてしまった。
深い穴の中から少女を見上げると、少女はシック三枚刃で己が頭髪を剃毛し始めていた。
『尼になるつもりだ……』少年が唯一恐れていたものそれは少女が尼になることだった。
この町に寺院が出来てからというもの町中の女が尼になりだし、ファッションヘルス経営で生業を立てていた彼の家も借財が溜まる一方だった。
少年は父の命を受け、町一番の美少女をヘルス店で働かせるべく彼女の動向を探っていたのだった。
少女は頭髪をそぎ落とすと少年が落ちている穴までうつろな面持ちで歩いていった。
「あなたをだましてごめんなさい。でもこうするしか方法が無かったんです。私は悪い魔法使いに美貌を見込まれて、
男どもの性の慰みものにされそうなのです。唯一それを避ける方法は尼になることだけなんです」
「きみの言いぶんも分かった。だけど僕はきみが尼になるのを見過ごせば父の魔法でちんこをまんこに変えられ町の荒くれどもに穴奉仕しなければいけなくなってしまう」
そう嘆く少年に少女は、素晴らしい呪文を教えてあげた。
「グッバイ、グッバイ、明日から一人、どんな淋しい時でも頼れないのね、グッバイ、グッバイ、慣れてるわ一人、心配なんかしないで幸せになって、
これをあなたのお父さんが油断しているときに唱えなさい。彼は母が恋しくなり生まれ星に帰るでしょう」
「ありがとう。君のことは忘れないよ。また会おうね」-‐アディオス、アディオス‐‐どちらとも無く別れの言葉が漏れでた。

次、「教習」「インコ」「防止」
382熱液浴夫 ◆5edT8.HnQQ :04/09/05 22:45
 少年が佇んでいた。淋しく。ひっそりと。誰も通ることの無い裏路地で。そして、透き通る窓ガラスの向こうに見える少女を眺めていた。
 梅雨前線がこの辺鄙な村里に達したじめじめとした日、いつものように少年が少女の待つ窓辺近くにあらわれた。カーテンで閉ざされた窓。少年はボサノバを口ずさみ雨風に耐え続けた。それもこれも少女に会いたいそれ一心の心のなせる業だった。
 雨がやんでしばらくたった頃カーテンが開けられた。ちゃんとそこには少女の姿が見える。少女はにっこり微笑むと、曇りガラスに、こっちにきて、と指で書いた。
少年は年来この瞬間を待ち焦がれていた者のように嬉しそうに走りだした。と、あと数歩で少女の元まで着くというところで彼は落とし穴に落ちてしまった。
深い穴の中から少女を見上げると、少女はシック三枚刃で己が頭髪を剃毛し始めていた。
『尼になるつもりだ……』少年が唯一恐れていたものそれは少女が尼になることだった。
この町に寺院が出来てからというもの町中の女が尼になりだし、ファッションヘルス経営で生業を立てていた彼の家も借財が溜まる一方だった。
少年は父の命を受け、町一番の美少女にチャイナドレスを着せてヘルス店で働かせるべく、彼女の動向を探っていたのだった。
少女は頭髪をそぎ落とすと少年が落ちている穴までうつろな面持ちで歩いていった。
「あなたをだましてごめんなさい。でもこうするしか方法が無かったんです。私は悪い魔法使いに美貌を見込まれて、
男どもの性の慰みものにされそうなのです。唯一それを避ける方法は尼になることだけなんです」
「きみの言いぶんも分かった。だけど僕はきみが尼になるのを見過ごせば父の魔法でちんこをまんこに変えられ町の荒くれどもに穴奉仕しなければいけなくなってしまう」
そう嘆く少年に少女は、素晴らしい呪文を教えてあげた。
「グッバイ、グッバイ、明日から一人、どんな淋しい時でも頼れないのね、グッバイ、グッバイ、慣れてるわ一人、心配なんかしないで幸せになって、
これをあなたのお父さんが油断しているときに唱えなさい。彼は母が恋しくなり生まれ星に帰るでしょう」
「ありがとう。君のことは忘れないよ。また会おうね」-‐アディオス、アディオス‐‐どちらとも無く別れの言葉が漏れでた。

(381はただのコピペミスだ)Next次、「教習」「インコ」「防止」 
383名無し物書き@推敲中?:04/09/06 17:26
 車の教習のある日だ。私は、忘れ物がないかどうか、よくよく確かめた後、
イヤホンをつけ、MDの曲をスタートさせ、予約の時間にギリギリ間に合うように外へ出た。
 外の空気は、涼しいが、どんよりとしている。
家から30分そこそこ歩いた、そう遠くない所に教習所はある。
だが、あまり知らない所も歩く事になるので、私は迷わないように、
毎回、少し遠回りになっているのかもしれないのだが、同じ道を通っている。
 今日も、いつも横切る公園やマンション、踏切などを目印に、いつもの道を通る。
それを一つ一つ確認して歩くたびに、体が勝手に身構えていく。
急に力が入ったり、イヤホンをつけて聴いている音楽も、うっすらとしか聞こえなくなってきてしまうのだ。
 教習所に着くと、予約していた車に乗り込み、教習員が来るのを待つ。
その間、事故防止のため、運転席を合わせて、シートベルトをつけ、鏡を確認する。
確認は、教習員が来るまで行われ続けた。
 チャイムが鳴り、助手席に教習員が座った。
頭の中で確認した手順を、念じるように一つ一つ済ませていく。エンジンがかかった。
まず最初のインコーナーを曲がり、一気に加速。その時、ギアを忘れずに変えておく。
そこから、ゆるい坂道に入る。登りの途中の停止線の手前に来ると、スッとブレーキを踏むのだ。
車がしっかりと止まると、私は一息ついて、ミッション車の坂道でのハンドブレーキを使った発進の手順を始めた。
ここまではいい。教科書通りだ。
決心し、右足でアクセルを弱く踏み、左足で踏んでいたクラッチをそろそろと上げ始める。
車が変な音を鳴らし始めた所で、左足を止める。私の神経はもうギリギリの状態だ。
最後に、左手にしっかりとハンドブレーキを持って、下げる!
 すると、車は、何か事故でもあったかのようにガタガタと前後に激しく揺れたかと思うと、
坂道を後ろに下り始めた。予想していた最悪の事態が起こったのだ。

長いな。次は「漫画」「寿司」「原点」
384「教習」「インコ」「防止」:04/09/06 17:31
「問題です。この停止線、交差点からこんなに手前に引いてあるのはなぜでしょう?」
「え……大型車が曲がって来たときの接触防止のため、とか……」
「ぶー。警察官の点数稼ぎのためです。残念でしたー」
僕の担当になった教官――春菜さんは、ずっとこんな調子だった。
教習車の中にはぬいぐるみが一杯。走っている間はずっとラジオが入れっぱなし。
およそ模範的とは言いがたい彼女の下、僕は四回目の路上教習の真っ只中。
商店街に差し掛かった時、ちょっと停めて、と春菜さんが言った。
「ちょっと待っててね」
呆気にとられる僕を残して、春菜さんは小走りで商店街に消えていく。
三分後、小さな袋を提げた春菜さんは、何事もなかったかのように
助手席に滑り込んで、シートベルトを締めていた。
「あの、何があったんですか?」
「インコのエサ。切らしてたの思い出してね」
それがいかにも当然と言った口ぶりに、僕は戸惑うべきかどうかもわからなかった。
「それじゃ安全確認、しゅっぱつしんこー!」
何事もなかったかのように教習は続く。身勝手を絵に描いたような春菜さんの
振る舞いに、僕は大きな不信感と――小さな好意のかけらを抱いていたらしい。

次「鶏」「マントル」「瑠璃」
385384:04/09/06 17:33
カブテタ………
次は「漫画」「寿司」「原点」でゴメンナサイ
386「漫画」「寿司」「原点」:04/09/06 18:48
人の原点って何なんだろう?
俺はぼんやり考える。考える。考える。冷たくて暖かいこの場所でいつまでも。(36)
だって答えが欲しかった。一体どんな始まり方をすれば俺みたいなのになるんだろう?
始まりに戻って消えてしまいたかった。海の藻屑でもいい。塵でもいい。
俺が消えたら、時間が戻せるだろうか――――――?
ふいに褪せかけた記憶が色を取り戻して、頬がまた熱いもので濡れた。
この熱い思いを忘れたいから、こんな所に居るのに。それはまるで役に立たなかった。
ただとめどなく俺を濡らすだけだ。罪はいつまでも消せはしない。
「俺は・・俺は・・っ」
世界がゆらゆらとゆれた。自分の心を映しているみたいで、それにさえ吐き気を覚えた。
分かっている。いつまでも終わることの無い自己嫌悪をしても、紅い記憶が変わるわけじゃない。
なくなったものが戻って来るわけじゃない。――――ただの、時間の無駄。
これから、どうすればいい?許されることも罰されることもなく、どうして生きていけばいいんだ。
ちゃぷん。
音が聞こえた。さっきから聞こえていたけど聞こえなかった音。低い波がゆっくり近づいて来る。
「・・・・こんな所で。・・風邪、ひくよ」
まるで漫画みたいだった。今、ここに一番来て欲しくて一番会いたくない人物が俺の世界に現れた。
昨日の夕方では、一緒に寿司なんか食べて、馬鹿騒ぎしていた仲間。そして俺の・・初恋の人。
「・・死のうと、思ったんだ・・でも」
出来なかった。
どこまでも臆病な俺。闇に染まることも出来なくて、今さら明るい道にも戻れなくて
ただ突っ立っているだけの俺。
だから、こんな姿は見られたくなかった。せめて、おまえにだけは――――。
彼女は黙って俺の顔を隠していた、すでにべったりと張りついた髪をゆっくりと上げた。
「傍に、居るよ」
歪んだ世界の中心に、彼女と丸い月だけが浮かんでいた。

お次は「ボール」「キャンディ」「虹」で。
387386:04/09/06 18:50
(36)っていうのはただの文字数メモなんで
スルーして下さい
388名無し物書き@推敲中?:04/09/06 19:18
 私はその時、確かボールを抱えて歩いていたように思います。ホームセンターなんかで売って
いる、キャンディボールです。電信柱とすれ違う度に、そのボールを十回まりつきする遊びをし
ていました。丁度その頃、祖母から数の数え方を習ったばかりで、遊んでいる時は必ず何かを十
まで数えるような遊びばかりしていたように思います。1、2、3、4、5、6、7、8、9
…。気がつくと、全く知らない場所まで来ていました。子供特有の、夢中になると周りが見えな
くなるっていうやつなのでしょう。私は、とにかく怖くて怖くて。ビルも大人達も同じ高さに見
えました。犬も猫も同じ鳴き声に聞こえました。轟音を立てて、男の人らしき壁が私の横を通り
過ぎていく場面を今でもはっきりと憶えています。私はどうして良いかわからなくなり、その場
にしゃがみ込んでしまいました。声も出せませんでした。子供のことだから言えますが、私は尿
を漏らしてしまいました。すると、天辺など無いと思われた壁が真ん中あたりでグニュリと曲が
り、その頂点を私に近づけてきました。男の人の顔でした。まだ若かったように思います。私の
曖昧で不確かな記憶ですが、子供ながらに綺麗な男の人だと思いました。その男の人は、黙って
私を抱き上げ、薬局か小さな商店かで女児用のパンツを買ってくれて、近くの公園のトイレで履
き替えさせてくれました。彼が、「どの色がいい」なんて言うもんだから、幼い私は虹色の毛糸
のパンツを指差しました。彼は何も言わずにそれを買ってくれました。恥かしい、けれどこれが
私の初恋です。パンティを履かせてもらった彼に私は恋をしたのです。

「無機質」「昆虫」「コンクリート」
 公衆トイレに入って鍵を閉め、ズボンと共に腰を下ろす。おや、「こいつ」はちょっと難敵
だなと思いつつ、ふと閉めたドアを見ると、「それ」がいた。
 俺は驚いて何か叫んだ。何と叫んだかは分からない。それよりも何よりも、「それ」を
どうにかして遠ざけなければと考えた。
 しかし俺が考え出す前に、叫び声に反応した「それ」は昆虫独特の、動物のくせに
やたら精密な動きでもってすばやく地に降り立ち、そこで一旦停止した。まじまじと見る
までもなく、その正体はわかる。平べったく黒くツヤのあるボディー、長い二本の触角。
その触覚が思い出したように振れる度、俺の不安を煽る。
「よせくるなくるなよってくるなそれいじょうちかづいたらなくぞといってるんだころすぞ」
 積極性のかけらもない脅し文句を呪文のように呟きつつ、俺はパンツを穿きなおそうと
したのだが、自分が産み落とそうとしている「こいつ」も今まさに生れ落ちそうだったため、
逃げることもできず、さらには恐怖のために、その場から身動きできなくなっていた。
 助けを呼ぶこともできない。コンクリートに囲まれた無機質な小部屋で、俺は最悪の
シチュエーションを迎えている。こんなことはあってはならない。夢だ。これは夢――
 現実逃避しはじめた俺の足に、何かが這い登ってくる感触がした。

次、お題継続で。
390罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/09/06 23:12
ぶーん。ぶん、ぶん、ぶん。漆黒の暗闇の中、カナブンが飛んでいる。
父ちゃん、あれなあに?
あれはカナブンさ。
カナブン? なに食べてんの?
蜜さ。木の蜜さ。光夫、一緒に飛んでいこう。
どこに父ちゃん?
蜜を吸いにいくぞお
でも僕たち人間だよ父ちゃん・・・・
人間も昆虫も友達なんだよ光夫。
親子は羽根を拡げて飛び立った。辺りは無機質なコンクリートに囲まれた都会のジャングル。思う存分蜜を吸うと、二人の人間の親子はいつしか昆虫になる日を夢見てベッドタウンの明かりに向かって蝿のように飛んでいった。
391罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/09/06 23:15
次、ホバークラフト、玉手箱、重婚
392「無機質」「昆虫」「コンクリート」:04/09/06 23:38
 ここに一人の少女がいる。人形でもなければ、アンドロイドでもない。囚人のような黄色のつなぎを着て、コンクリート塀を背にしてこちらを向いている。
 髪の毛の色は黒。何日も風呂に入っていないのだろうかバサバサしている。胸元に、薄いマジックで書かれたような「hiroko」という文字が一瞬見えた。
茶色のテープで目と口を塞がれてはてはいるが、日本人である。
 右隣から、覆面を被り、薄汚れた迷彩服を着た男が現れた。アラビア語らしき言葉で雄叫びをあげながら。
「と、まぁ…ここまでなのです総理、録画されてたのは。まだ他の閣僚には伝えてはおりませんが」
 ビデオデッキのテープが勝手に巻き戻り始めた。そのカラカラした無機質な音を聞きながら、内閣総理大臣 田中はため息をついた。
去年の記録がもう塗り変えられてしまったからだ。
「井森君、これで2000人オーバーか」
 今年の予算枠は150億円。もうすでに予算枠は超過していた。一人あたり平均1000万円。闇の国費からすでに200億円近くが人質解放費用として
テロリストに渡っているのだ。
 田中は葉巻を咥えた。恰幅のいい腹を強調するように、革張りの椅子に反り返りながら、独り言を言ってみた。
「…CGだったりして」
 井森は地獄耳だった。明日は久しぶりの有休で機嫌もバツグンに良かった。バーコードの髪が揺れた。
「え?あ、そうですね、この頃技術が進化しておりますもん、きっとそうですよ」
 またまたどこぞの銀行にも公的資金を注入せねばならないだろう。少女ごときに金を使ってなるものか!。田中は欠伸を噛み殺しながら言った。
「ぅむ。そうだそうだ、CGだ!…せーの!CGだったら、CGだ!」
呼応する井森
「CGだったら!、CGだ!」
肩を組みながら
「わ〜!」
明かりを求める昆虫のように夜の銀座へ飛び出していく二人。ビデオデッキのテープが空しくEjiectされた。
393「無機質」「昆虫」「コンクリート」:04/09/06 23:39
↑失礼しました、遅かったです
じゃぁ次、ホバークラフト、玉手箱、重婚 で。
 ポップコーンが弾けるような音と共に、オーバーヒートしたホバークラフトが停止した。
 畜生、ツいてない。俺は焦りながら小型核融合炉の冷却を待つ。
 フィールド外の辺境とはいえ、いつ大気圏外捜査当局が衛星で俺の姿を捉えるかもわからない。すぐには見つからないだろうが、五月のロノマ星のフィールド外は、酷く寒い上に、マノ社の杜撰な惑星改造技術のせいで宇宙線照射が酷い。
 俺は、重婚詐欺――未申請の重婚・資産の搾取のための計画離婚――の罪で追われている最中だった。なんとか隣町まで行けば、司法が暇になるまでは条例からの亡命が可能な筈である。
 当面はミレーの部屋に居候することになるだろう――食料が切れるか宇宙線にやられるか、この辺をうろついてる変異体どもに教われなければ、だが。
 俺に令嬢との重婚をそそのかしたのはミレー自身だ。逃げてきた俺を受け入れない筈はない――そう思いながら、俺は、ミレーが計画離婚の実行前にくれた「玉手箱」を取り出した。
 彼女は、玉手箱という命名の理由は伝えず、困った時にこれを開けろとだけ言っていた。
 今は、困っている時に相当するだろう。俺はその玉手箱を開けようとした――
 途端に俺は、それをなるべく遠くに放り投げた。開けようとした時に、妙な感触と悪寒を感じて。
 玉手箱は、爆発した。俺は数メートル吹き飛んだ。受け身も録に取れなかったが、やけどもなく、肩を強く打ち付けただけで済んだ。
 ホバークラフトも無事なようだった。それでも俺は、舌打ちした。
 どうして俺は、開けちまったんだろう――あの玉手箱を開けなければ、ミレーの部屋で、幻想の中に生きれたかもしれない。
 気がつけば、ホバークラフトの冷却は終わっていた。
 それでも俺は、行く宛が思いつかず、ただ玉手箱の残骸を眺めていた。

次「勇気」「差別」「ドリル」
396名無し物書き@推敲中?:04/09/07 18:13
 自分には勇気が足りない事を、私は幼い頃から重々承知している。足りない、といった度合い
ではない。全く無いのだ。部下たちの羨望の眼差しを背中に感じる。きっと、頼りになる先輩だ
とか、自分もいつか、なんて思っているのだろう。出来るだけそれを気に留めないようにしなが
ら、大型ドリルを操り、掘り続ける。耐え切れなくなったのか、嗚呼、邪魔だ、部下の一人が私
に声をかけた。
「隊長、もう少し、もう少しです。堪えてくだせえ、もう少しなんです。解放ですよ!」
 私は例によって部下の言葉を無視する。それをまた、彼らは無言の勇気と受け取る。厄介でな
らない。しかし私は何も言葉にしないし、表情にも出さない。彼らは私を、冷酷な男だと思って
いるに違いない。汗と泥と、ここ数日の雨がたっぷり染み込んだ軍服が私の体に纏わりつく。ま
るで私が生まれながらに持った運命のように。差別。私は、私の後ろの部下たちも含めて、生ま
れながらに差別され続けた。屈辱感の中で育った。いや、屈辱から生まれたと言った方が正しい
のかもしれない。私は全てを受け入れていた。それが私にとって最も似合った人生だと思ってい
た。なのに。
「ああ、見えてきました!光です!向こう側ですよ!」
 光。確かに眩しい。それを感じる。ドリルの回転数を調節する。五臓六腑を震わせていた振動
が弱まる。光。それは勇気に似ているのかも知れない。きっと私は、生まれつき盲目の、反乱軍
兵士なのだろう。

「色白」「ニックネーム」「ストロヴェリー・ティー」
397名無し物書き@推敲中?:04/09/07 18:26
彼は色が白かった。
家族は彼をひきこもりと言った。彼はそうは思わなかった。
自分には、やりたい事がある。彼はそう言った。
今日も目覚めると彼はパソコンを開いた。
「ドリル・ア・ホールパイルドライバー」これがネット上での彼のニックネームだ。
・・・・・おはよう。
彼は馴染みの掲示板に書き込んだ。それはごく単純な挨拶。
ストロベリー・ティーが好きな彼女は、すぐに反応してくれた。
・・・・・おっはよーう(^^)
現実にはない、凡庸なやり取り。それは彼が望んだものだった。
ネットには、彼の望んだものがあった。

次回テーマ
「高齢化」「カツ丼」「声」
「おーいお姉さん、カツ丼一つ」
 ニッカポッカを履いた職人風のジジイが、見るからにババアな店員を捕まえてお姉さんと呼んでいる。
 安い油とタバコのヤニで汚れた食堂、そこで咲くジジイとババアの色恋の花に先ほどまでの私の
食欲は殆ど失せてしまった。
(時代が高齢化の波に飲まれるなんて幻想さ)
 頭の中の声は私にそう告げてくる。あの年になっても人間の性欲は尽きないものなんだろうか。
「もう、いやぁだぁ!たーさんったら!」
 今度は店内にババアの大きな声が響き渡る。私が横目でそちらを確認すると、ジジイの手をピシャリ
と叩くババアの姿があった。ババアは軽く怒りながらも満更ではない表情だ。その証拠に、頬は紅潮して
瞳は艶っぽく潤んでいるのが見て取れる。それがまた酷く気持ち悪い。
 どうやらニッカポッカのジジイは"たーさん”という愛称で呼ばれるほどの常連らしく、そのたーさんは
ババアにセクハラをしたようだ。大方、尻の一つでも撫でたんだろう。
 にやにやと笑うたーさんを尻目に軽くはしゃぎながらババアは厨房に消えていく。
 ババアが厨房に消えて少しすると、料理を携えて未だに軽く紅潮した顔のババアが出てきた。
「ごめんなさいね、五月蝿くって。あの人ったら助平なんだから」
そういって、ババアは料理を置いて厨房に戻ろうとした。私はババアを追うように中腰で、やや立ち上がり
気味の姿勢になると、手を伸ばしてババアの尻を軽く撫でた。これは性欲ではなく私流の礼儀って物だ。

次は「地下」「ノイローゼ」「カレーライス」でお願いします。
私、名探偵明智大五郎は今も怪人十八面相の捕虜だった。
私は何日経っても脱出できないのでノイローゼになりつつあった。
そんな私を哀れにでも思ったか、ある日彼は入り口を開けっ放しで仕事に出て行った。
少々不愉快だが、このチャンスを利用しない手はない。
私は部屋を脱出し、長い長い地下道を通って外に向かった。
ここに連れてこられる途中では目隠しをされていたので、この地がどこなのかは分からない。
船や飛行機に乗せられてはいないはずなので少なくとも国内のはずだ。
外を見ると、やはりここは日本だった。分かっていたとはいえ安心する。
安心したら腹が減ったので、近くにあった食堂に飛び込みカレーライスを注文した。
やがて、店の親父が料理を持ってきた。料理にはご丁寧に蓋がしてあった。
蓋を開けると、中にはカレーライスの代わりに紙切れが一枚。
『ご苦労様。願わくば、次回はもっと遠くまで逃れんことを』
思わず親父の顔を見ると、そこには怪人十八面相の憎たらしくも美しい笑顔があった。
次の瞬間、私は麻酔剤をかがされ、目が覚めたらあの部屋に逆戻りしていた。


「雨すだれ」「北風」「別れ霜」
400名無し物書き@推敲中?:04/09/07 21:32
「平凡すぎますね。中学生の日記みたいで読むのに苦労しました」
 8作目も酷評の嵐だった。
 私は今回も落胆した。自分の文才のなさにつくづく嫌気がした。
読み応えのある文章に落とし込む技量が無いのは明らかだった。
…地下室まで借りたのにこの有様か
 もしかすると軽いノイローゼなのかも知れない。ポジティブな言葉で和らげてみた。
…きっといい事もあるさ
 私は地下室で、レトルトのカレーライスを食べるのが日課になっていた。
食事をしながら次回のテーマに見合ったストーリーをあれこれと思い巡らしてみるのだ。
調子を取り戻し始める自分に気が付く。へこんでいた自分をあざ笑ってみる。
 時計の針は午前3時を回っていた。今すぐにでも書きたいが明日の仕事に差し障る。
仕方が無い、深い眠りに着くために今日も薬を飲もう。
「突飛すぎますね。奇想天外もいいですけれど、稚拙すぎますね」
 24作目も評価は大して変わらなかった。しかし場数を踏んだ成果だろうか、酷評の受け止め方が随分違っていた。
後頭部がぼんやりと守られるような感覚。やはり会社を辞めて正解だった。作家になるための臨界点を超えたのだから。
 口元を曲げて微笑んでみた。今日の気分は赤と黄色のような気がする。ガラス瓶から同色のカプセルをチョイスして、むしゃむしゃとほおばったみた。

「いいですね、日常の中の非日常感が恐ろしいほど伝わりました。現実だったら通報されますよ^^」
今日の気分は赤と黄色のような気がする。ガラス瓶から同色のカプセルをチョイスして、むしゃむしゃとほおばったみた。

「台風」「雷」「金メダル」
401名無し物書き@推敲中?:04/09/07 21:33
↑ごめんなさい、遅かったです。
お題は
「雨すだれ」「北風」「別れ霜」でお願いします
すいません。
402名無し物書き@推敲中?:04/09/07 21:46
あの日。彼女と別れたあの日。
北風が吹き抜ける岬にいた。俺は、彼女の心がすでにここに無い事を知っていた。
「なんで、こんな所に来たの?」
岬には強い風が吹き付ける。彼女の髪があちこちに揺れていた。
「たまには。いいだろ?」
「いいけど・・・、そろそろ帰ろうよ。雨が降りそうだよ」
彼女は長い髪を必死で抑えている。抑えきれずに髪は、抵抗空しく乱れた。
悲しく冷たい雨すだれ。
もう季節は5月になっていた。別れ霜が俺にお別れを告げた。そんな気がした。

次回テーマ

「パン」「柔道」「お茶」
403「パン」「柔道」「お茶」:04/09/07 23:24
 静まり返った空間に、男の声が響く。

「パン」
「パン!」
「明太子」
「明太子!」
「ももかちゃん」
「ももかちゃん!」

 小林の目が光った!必殺 ワーニング・ワード・プレスだ!
「東京特許許可局!」
「東京特許きょきょきょく…ぅ」
 実況するアナウンサー。
「おおっと、佐伯!噛んだ…佐伯が…あの佐伯が噛んだ…!!」
 うずくまる佐伯。どよめく会場。おうむ返し新チャンピオン決定の瞬間だった。
 満面の笑みで「一位」と書かれた表彰台に上る小林。3歳からはじめた柔道を捨て、
おうむ返しチャンピオンを目指してきた小林の勇壮な姿がそこにあった。
 会長から月桂冠を頭に授かりながら、励ましの言葉をかけられる小林。
「世界大会、期待しているよ」
 静岡お茶娘からお茶っぱ一年分が贈呈される中、小林は男泣きをした。

 おうむ返し世界大会inカーネギーホール。小林は興奮していた。一戦目は米国のマイケルが相手だ。
首、腕、足を柔軟する小林。屈伸しながら口を大きく開け、「あえいうえおあお」と発音する小林の勇壮な姿がそこにあった。

「Fight!」
ゴングが鳴った。一撃必殺と書かれたマイケルの柔道着が風になびいた。
「Radio」
「レイディオ…」
ゴングがけたたましく鳴った。マイケルによる秒殺の瞬間だった。
404名無し物書き@推敲中?:04/09/07 23:27
「自慢」「飛行機」「遭難」で
405感想いらない:04/09/08 00:33
俺は涙に咽びながらラジコン飛行機を飛ばしていた。
俺の父は、日航ジャンボの機長だった。今はもうこの世にいない。
十九年前の墜落事故で俺の親父は死んでしまった。俺はあの日のことを決して死ぬまで忘れないだろう。
「俺の父ちゃんパイロットなんだぞ」そう俺はあの日もはなたれ友達たちに自慢して、殴る蹴るしていた。
夕焼けが大阪の空を赤く染めると、俺は義足というあだ名の障害者から巻き上げた金でエロ漫画を買い、読みながら家路に急いだ。
帰り道、みよちゃんが自転車に乗っていたので、無理やりおろしてパンツ降ろしてまんこいじりまくった。
俺の指が汚れていたのだろう。父の墜落後むしゃくしゃしてみよを強姦したときあいつのまんこ腫れ上がっていたっけ。
だが、俺はみよのまんこなどどうでもよかった。もみもみもみまくった。父が悲惨な状況に追い込まれていることも知らずに。
俺はずいぶん夢中になっていたのだろう。すっかり暗くなっていた。母親に殺される、焦ったおれはみよの自転車を奪って言い訳を考えながらこぎにこいだ。
「ただいまぁ。かあちゃんあのおれ、帰ろうとしたらみよがちんぽもんできたんで」そう言いながら、
居間に入ったが、意外にも母は心配そうな顔をして俺を見ただけだった。
「ふとし、とおちゃんが……」

遠い日の追憶をかみ締めながら俺はラジコン飛行機を母の部屋の窓に突入さす。
遭難者でただ一人だけ生き残ったあいつと結婚した母の寝ている窓辺へ。
406罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/09/08 00:36
Next「台風」「雷」「金メダル」でよろしく
407感想いらない:04/09/08 01:09
北京オリンピック男子マラソンは波乱の展開となった。
35キロ付近まで団子状態で突き進む各国の代表選手に業を煮やしたのか突如台風が吹き荒れたのだった。
数十人が旋風に巻き上げられ、先頭集団から脱落していった。
さすが摩訶不思議大国中華人民共和国。どこに危険が潜んでいるかもわからない。
遠く昔の中国の逸話で大名行列のようにして歩いていた人々が突如どこかへ消えてしまったという古事も残っているくらいだ。
さまざまなトラップがこのアジアの巨大国家には張り巡らされている。
いかんせん貧弱な肉体を持つマラソン選手たちは大風によって木の葉のように舞い上がった。観客たちも吹き飛ばされ、空中を回される。
いつしか手に手をとりあって空中バレエを始めた選手と観客たちは顔に満面の笑みを浮かべて、天空での舞踏会のように優雅に踊っている。
金メダルを目指してただ一人走り続けていたジンバブエ代表選手も頭に雷が飛来し死んでしまいオリンピック最後の競技は華やかなダンスによって締めくくられたのであった。

406のお題は401のを使ったんで俺が出したお題じゃないんで、書いた。
408罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/09/08 01:10
Next「鶏」「マントル」「瑠璃」
幼い頃、隣の家に鶏小屋があった。その家のお姉さん、多分高校生くらいだったと思うけど、彼女が毎
朝卵をお裾分けに来てくれた。その卵をご飯にかけて食べる、それが僕の日課だった。
ある日の夜、僕は何か悪戯をして、親にこっぴどく叱られて、泣きじゃくりながら家を飛び出した。飛
び出したのは良かったけれど、行くあてもなくて、隣の家の鶏小屋にひっそり身を隠して小さくなって
いた。そのうち小屋の中は真っ暗になって、僕が不安で泣きそうになった時、お姉さんがひょいと現れ
た。手にしたランタンのマントルがこうこうと小屋の中を照らして、僕はふいに安心して、結局声を上
げて泣いた。泣かないの、男の子でしょ、と優しく抱きしめてくれたお姉さんの、瑠璃色の――たぶん
光の加減でそう見えたんだと思うけど、そのきれいな瞳は、今だってはっきりと思い出せる。
結局僕は、お姉さんのところに泊めてもらった。同じ布団で、母以外の女の人の温もりを初めて感じた。
朝、僕が目を覚ますと、お姉さんはベーコンエッグを焼いていた。それを一緒に食べた後、僕はお姉さ
んに連れられて、家に帰った。怒られると思っていたけど、母は一言、次からは行き先を言ってからに
しな、と言っただけだった。
その次の朝から、僕は母にわがままを言って、ひとりだけ朝食のメニューを変えてもらった。隣のお姉
さんがお裾分けしてくれる卵、それをベーコンエッグにして、トーストと一緒に食べる。それが僕の新
しい日課になった。

次は「傘」「高度」「灰色」
410「傘」「高度」「灰色」 :04/09/08 17:30
ラジオから歌が流れてくる。都会では自殺する若者が増えているとその歌は言う。
私は、独り再び雨の中に傘を差さずに屋台のおでん屋を出た。
もう、この年じゃ日雇い人夫の仕事も無理だと言われた。
どうやって生きていこう。
灰色の公害にやられた空から降り注ぐ雨は、恐らく有害物質が降り注いでいるんだろうけれど
今の私には、そんな事は関係ない。自暴自棄な私がそこにいる。
存在……生存……未来……。全て私を否定しているような気がする。
高度成長がなんだ。景気のいい奴等と私は、生きている世界が違うというのか。
故郷の風景を思い出す。山、川、田園風景。そして家族の思い出。
一体、私は何処まで歩いてきてしまったんだろう。
ラジオから歌が流れてくる。都会では自殺する若者が増えているとその歌は言う。
若者じゃないけれど……。

お題 「流行歌」 「縁」 「まなざし」
411名無し物書き@推敲中?:04/09/08 18:06
彼女との縁は流行歌だった。
その流行歌について、俺が口にすると、彼女のまなざしはそれまで
とは打って変わり、別人のように親愛に満ちたものになった。
しばらくして、彼女は妊娠した。
男は別人だった。
街には別の流行歌が流れていた。
412「流行歌」 「縁」 「まなざし」 :04/09/08 18:06
初めてのクラス替えで一緒になった時、君はやたら僕にまなざしを注いできたね。
女の子にそんな事された経験なんか今までなかったから、あの時は一人で動揺してたよ。
「あの子、俺に気があるのかな?」とか考えて、一人で舞い上がってた。
ところが君は予想に話して「左目だけ一重になってるよ」と僕を指差して笑いながら一言言い、自分の席へと戻っていったんだ。
あの時は正直ムカッとしたさ。ほとんど初対面の人間に向かってコレだ。「何だあの女」って腹立たしく思えた。
こんな奇妙な始まり方だったけど、これもきっと何かの縁だったんだろうね。
調子っぱずれな流行歌をフルコーラスで聴かされた上、感想を求められたので、
正直に「音痴なんだな」といったら、君は柄にもなく黙り込んで口を利いてくれなかったよな。
そのギャップに僕は惹かれたんだ。普段人前では明るくてバカを演じる君だけど、そんな一面もあったんだな、って。
そんな君も、もうすぐ遠くへ行っちゃうんだね。大学進学。東京。一人暮らし。不安もあるだろうに。
でも君ならきっと大丈夫だ。あれだけ夢に向かって努力してきたんだ。絶対へこたれずにやっていける。僕が保証するよ。
さようなら、大好きな人。結局最後まで気持ちは伝えられなかったけど、君の夢が叶うことを、僕はただ祈っている。


次のお題は 「中腹」 「ナイフ」 「鍵」 でお願いします。
「流行歌」 「縁」 「まなざし」

康雄たちは、夕飯の買い出しに行ってしまった。
引っ越し作業もだいぶかたずき、広くなった私の部屋に、私と姉だけが取り残された。
明日、私は昨日結婚式をあげたばかりの康雄と、新居へ越す。その手伝いに、姉夫婦と、弟が駆けつけてくれた。
男たちは、少し離れた駅まで、ビールと夕飯の買い出しへ行くと言って、出て行ったばかりだ。
「お姉ちゃん、今日はありがとうね」
私は、姉へ感謝の言葉を伝えた。
「いいよ、これでサキも、独り立ちだね」
姉はそういって、カーペットの上へ座り込んだ。姉とこうやってじっくりと向き合うのは、学生時代以来だった。
小学校の頃は、学校から帰るとよく、私の部屋でトランプをして、夕食までの時間をつぶした。姉は神経衰弱がめっぽう強く、私はなかなか勝てなかった。
高校になると、眠る前に姉はよく私の部屋に来て、男の子の話などをして2人で盛り上がった。大学は、姉が東京へ行ってしまい、それからの姉は、まるで一人の女性のように私は感じていた。どこか、遠慮のようなものを覚えはじめていた。
言葉につまり、私が黙ってしまうと、部屋には、康雄がCDコンポにかけっぱなしにしていった流行歌がやけに響いた。
その時、私は部屋の隅にあるものを発見した。あの、トランプが、ガラクタ箱に突っ込んである。
「お姉ちゃん、男衆が戻るまで、トランプしよ」
それから、私たちは神経衰弱を始めた。
しかし、どうしたことだろう。
あれほど記憶力がよかったはずの姉は、ことごとくカードを間違えた。
私の記憶力もだいぶ落ちているらしく、なかなかゲームが進まない。すぐに、めくったカードの場所を忘れてしまうのだ。
こんなことにも、私たちが年齢を重ねた証拠がはっきりと現れているのがおかしかった。
「歳だよねえ」
そう言って笑う姉の眼差しは、間違いなく、あのころと変わらない優しさにあふれていた。


「おはじき」「お手玉」「甘酒」

414413:04/09/08 18:39
すみません、だぶりました。次のおだいは412さんの「中腹」「ナイフ」「鍵」です。
「中腹」「ナイフ」「鍵」

 俺は枯れ井戸のような喉を潤すため、蓋の開いた缶ビールを二口ほど飲んだ。すっかり
気の抜けたビールが俺の乾きを更に意識させる。
 すぐ脇では白い肉体が小刻みに震えている。つい先ほどまでの荒々しい情事が幻だった
かのように、部屋は静けさに包まれていた。女の寝息だけが部屋に響いている。
 どうやら女を襲った激しい快感の波は引き潮になり、今ではそのゆるやかな余波に浸り
ながら眠っているようだ。
 俺は女のリビドーの鍵を無理矢理こじ開けてやった。つい数時間前までは虫も殺さぬ
ような顔ですましていた女をだ。俺には俺の渇きを癒すため、女の求める肉欲を見抜き
それを的確に施す才がある。それで女を満足させたからといって、俺の渇きが癒される
ことはない。むしろ、すっかり満足しきって無防備になっている女を前にして、俺は
喉の渇きとは別の乾きを感じ始めている。
 満足そうな寝顔で横たわる女、その呼吸に合わせて上下に動く乳房を裾野から中腹に
かけて円を描くようにゆっくりと指でなぞっていく。やがて指先が山頂に差し掛かると、
今度はその先端を指先で軽く摘む。ピクンと女が反応する。
 女の反応を確かめると、乾きによる苛立ちをかき消すように残りのビールを
一気に飲み干した。勿論、こんなビールで俺の乾きが癒されないということは
知っている。
(今度は俺が満足させて貰う番だ)
俺はベッドから立ち上がると、二本目のビールとナイフを取りに台所へ向かった。
……夜はまだ長い。

「皮肉」「ユートピア」「条件反射」でお願いします。
 2ちゃんねるを見ながらボーっとしていると、突然携帯の呼び出し音が部屋に鳴り響いた。条件反射でかちゅーしゃを閉じると
モニターの電源だけを切り携帯の通話ボタンを押した。
「やあY、久振りだな。何してた?」
 電話の主は同級生のSだった。
「ああ、テレビ見てたよ。んで、何か用?」
 僕は携帯を首と肩でに挟むとモニターの電源を着け、また2ちゃんねる巡りに精を出すことにした。
 どうせSは暇でも持て余してるだけに違いない。
「Yさあ、ユートピアの存在を信じるかい?フリーダムでもアイランドでも自分が好きに呼んで良いけど、自由な世界のことさ」
 こいつはいつもそうだ。チャンプロードを読んだ次の日にはヤンキーに、正論を読んだ次の日には右寄りに、兎角流されやすい
性格をしている。おそらく、ムーでも読んだんだろう。
「んん、そうだなあ。自由な世界ってのは自分の意識の持ち方一つなんじゃないかな?」
 僕はSの問い掛けに皮肉を込めて答えた。
「おいおいなんだよ、その大人びた言い回しは、いいか?よく聞けよ。今から全裸になり、自分の尻を両手でバンバン叩きながら
白目をむき『びっくりするほどユートピア!びっく」
 そこまで聞いた時点で携帯を切った。僕はかちゅーしゃを閉じ全てを削除した。二度と2ちゃんねるは見ないだろう。

次は「馬」「ファール」「拳」でお願いします。
「皮肉」「ユートピア」「条件反射」

アイリッシュコーヒーをはじめて飲んだけど、ブランデーとコーヒーが上手く混ざっていなくて、へんてこな味だ。
目の前の彼女は、僕に別れ話をしながら、コーヒーをストローでかきまぜている。
ここで、何か、皮肉のひとつでも、いってみたほうがいいんだろうか。
僕はそう思ったけれど、彼女のきれいな細い指に、黙らされた。
みせつけているんだろうか。
ストローを優雅にいじる彼女の指は、芸術といってもいいような素敵な形をしていて、僕は大好きだ。
「ちょっと、聞いているの」
彼女が、いらいらした声を出した。聞き慣れた怒った声も、子どもみたいで可愛い。この声で、僕は条件反射のように、また彼女の指を見た。
左の薬指に、大きな指輪をしている。
「私たち、わかれましょう。だから、もう、電話とかしないでねって言ってるの」
他に男ができたなんて、ずいぶんと、身勝手な女だ、彼女は。
でも、もしかして、それは僕に悪い女と思わせたいだけなのかもしれない。本当は、僕を気づかった、言い方をしてくれているんだ。やっぱり、彼女は優しいから。
彼女のわがままやきまぐれは、僕をユートピアにいるような気分にさせてくれた。だって、それは僕が彼女の視界に入ってるって証拠だから。
本当に、どうしようもない女なんだ。
「じゃあ、もう、私行くから」
彼女はそう言って、席を立ってしまった。僕は、うつむいたままだ。
何も言わない僕に、彼女は軽蔑するような口調で言った。
「あんたのそういう、いじいじしたとこ、嫌いだったわ」
彼女の姿が、店の奥へと消えて行く。
僕に残されたのは、アイリッシュコーヒーと伝票だけだ。
とんでもない女。でも、やっぱり僕は彼女の大好きなところをたくさん思い浮かべることができる。
このアイリッシュコーヒーみたいに、上手く混ぜることのできない気持ち。
知らないあいだに、僕は少し泣いてしまっていた。


「角」「タオル」「パソコン」
パソコンから角が出たのは、午後の計算機実験が終わって帰ろうとした時だった。
バッグがやけにしまりが悪くて、不審に思って開いてみたらば、いつも持ち歩いているノートパソコンの止め金を壊し、にょっきり角が突き出ていた。
ちょっと触ってみる。黒く、すべすべしたそれはしっかりとパソコンの液晶部分からがっちりくっついていた。
液晶モニタを覗きこむ。パソコンは電源がついていて、バッテリーは100%。まったく減る気配もない。
電源スイッチを押してみる。反応はなく、快調そのものにパソコンは動き続ける。
噂通りの現象だ。あたしはため息をついた。
話を聞いた時はちょっと憧れたりしたけど、実際なってみると嬉しい反面なんていうかその……うざったい。
「苺、どうしたの? 帰ろうよ……ってこれ角? うわーいいなあ。苺これ大事にしてたもんね」
電気学科の数少ない同性の友達、菊花が羨ましそうにいった。
「うーん、でもこれどうしよう?」
あたしが途方に暮れて聞くと、菊花は面白くなさそうにほおをぷくっと膨らませた。
「そのままにしておけばいいじゃん。この子、閉められたくないんでしょ? 苺に画面、ずっと見てて欲しいんでしょ?」
「っていう話だけどさ。でも閉らないのは不便だよ」
菊花はあたしの話を聞いてないみたいで、パソコンの角に触れた。
角は怒ったようにぶるっと震えて、画面に”アクセス保護エラー。不正な入力です”というウインドウが現れた。
「な、何よ、ちょっと触っただけじゃん」
菊花はむくれて教室を出ていった。
あたしは角をいつも持ち歩いているタオル地のハンカチで拭いた。
「触られたくなかったんだ」
するとまたウインドウが現れた。”システムは最高の状態にあります”

次は「ハード」「ソフト」「ウェット」で
419ード」「ソフト」「ウェット」:04/09/10 03:05
ウェットスーツを着込み、ヘッドマウントディスプレイを装着。
ナビゲーションソフトウェアを起動し、衛星とのリンクを確立。
リアルタイムで送信される気象・潮流データが、今日の戦いが
ハードなものになることを静かに告げていた。
『いけます、どうぞ』
ノイズ混じりの通信が入り、私はその身を海に投げ出した。数
秒のうちに、ターゲットを多数視認できる深度まで降りる。潮
の流れに負けそうになりつつ、左手を岩にかけ、身体を安定さ
せる。その間も、私の視線に連動したカメラがターゲットの姿
を捉え、効率的なプランをオーバーレイ表示で私に告げている。
無抵抗のターゲットは敵ではない。敵は、潮の流れと、私自身。
流れが緩くなる瞬間、私は岩を離れ、ターゲットに腕を伸ばす。
無抵抗のそれをしっかりと手に収めては、ネットに放り込む。
カウンタの値が、一つ、また一つ、小気味よく上がっていく。

今日の獲物は、バフンウニ63個であった。


次「ターバン」「アンコウ」「DVD」
420「ターバン」「アンコウ」「DVD」:04/09/10 15:08:56
彼女はリビングで寝転がってテレビを見ている。何故かインド土産のターバン
をかぶりながら。ぐてーっとして実にだらしない格好だが、むかつくくらいに
可愛らしい。ちくしょう、この愛らしさのおかげで、俺の預金通帳の残高はピラニア
にたかられる牛のごとくだ。そして今も、仕事帰りでくたくたなのにこうして彼女に
夕飯を作っている。麻婆豆腐を皿に盛りリビングに持っていく。
「できたよ」
「ありがとー」
彼女の気の無い返事。テレビ画面に集中しているようだ。
画面にはフォアグラをふんだんに使った見栄えのいいフランス料理が映っている。
「いいなー。フォアグラおいしそう。食べてみなくない?」
今言わなくても・・・・・少し凹んだ。つとめて顔に出さないように答える。
「でも、フォアグラよりアンキモのほうがおいしいらしいよ」
「えー、アンキモってアンコウでしょ? おいしそうじゃなーい」
「いや、でも山岡士郎が言ってたから。『美味しんぼ』の一巻くらいで」
「ふーん。まあ、山岡さんが言うんならしょうがないかぁ」
夕食を平らげ、一休みしたら借りてきたDVDを見ることにした。
化け物に人が次々と食われる酷い映画だった。俺はつまらないと思うのだが、
彼女は一人死ぬたびに、笑い、頷き、文句を言う。十分堪能しているようだ。
どうやら彼女はB級映画の人の死に様に一家言もっているようだった。
映画を見終わるとセックスして寝た。寝る前に彼女が明日はアンキモ食べたいと
言ったので、明日はアンキモにすることにした。
次の日、夕食にアンキモを買って帰った。それを食べた彼女はうえーって顔をしていった。
「これがアンキモ・・・・・・確かにキモイね」

次は「オッサン」「出産」「クロワッサン」
421名無し物書き@推敲中?:04/09/10 18:57:22
「オッサン」「出産」「クロワッサン」


クロワッサンとは、フランス語で三日月のことです。
和香子に言われなくても、僕はそんなこと知っていた。
今、クロワッサンと睨み合いながら、和香子を待っている。もう、一時間以上も待っている。
和香子は、このカフェのクロワッサンが大好きで、デートでよくおごっていた。確かに、ここのクロワッサンは、ふわふわしたお菓子みたいな味で、おいしい。
和香子は、自分の旦那を「オッサン」と呼ぶ。
「あのオッサン、立ち会い出産はかなわん言うて、仕事いってしもた」
三ヶ月ほど前、和香子は男の子を産んで、母親になった。オッサンが出産に立ち会わなかったことを、かなり根にもっているらしく、僕に愚痴っていた。
まだ、こない。子どもを連れてくるとかいっていたけど。
もしかして、振られたのかな?
でも、まあ、それはそれでいいような気もする。
もともと僕は、クロワッサンなんて好きじゃなかったんだと思う。
クロワッサンをまるまる残して、席を立った。
きっと、僕はもう、この店にくることはないだろう。

「サボテン」「アポロ」「アゲハ蝶」
422名無し物書き@推敲中?:04/09/11 11:48:29
あれは夏のことだった。
付き合い始めたばかりの彼女の誕生日に、なにをあげたらいいのか苦心していた。
女友達もいない俺は、仕方なく妹に聞いてみた。
「おい佳代」
「なに兄ちゃん」
アポロを食っていた妹がこちらを見る。
妹はいつも不機嫌そうに応対する。特に俺に対しては。
「欲しいものなんかあるか」
「なに、買ってくれんの?」
佳代の瞳が少し輝きはじめた。
「いや、彼女の誕生日でさ」
「ふうん。CDとか、なんでもいいんじゃね?」
「そうか・・」
困った俺はサボテンを買った。これなら少し水をやれば長持ちする。
花も咲くだろう。
「唯。誕生日、おめでと」
「あ、シンちゃん。ありがとう。サボテン?」
「うん」
「枯れない愛、ね」
ふいに、ポルノの「アゲハ蝶」が流れ始めた。

「ミュージシャン」「竹の花」「コップ」
423名無し物書き@推敲中?:04/09/12 13:19:32
「ミュージシャン」「竹の花」「コップ」

 お久しぶりです。お元気でしょうか。不意にあなたのことを思い出してお手紙をしたためました。
 あれから何年になるでしょうか。初めてのデート覚えていますか。
朝早く起きて母親に手伝ってもらいながらお弁当を作ったのが、まるで昨日のことのように甦ります。
 雲が一つも無くて良い天気だったのを覚えていますか。
「良い天気だね。本当に夕方から雨が降るのかな。ね」
 あなたは少しおどけて見せて、私の手を握ってくれましたね。
長良川の河川敷に着くと、珍しいものを見せてあげるよと言って川辺に広がる竹林に分け入っていきましたね。
「80年とか100年に一度しか見られない珍しいものさ」
 夕方近くになってもあなたは帰ってきませんでしたね。
空はだんだん灰色の雲に覆われてきて、私も不安になってきて、お弁当箱を持って中へ入っていったのです。
やっと遠くにあなたの横顔が見えました。私は一生懸命何かを探すあなたの傍まで近づいたのです。
「ね、もういいよ。お弁当食べようよ」
「うるさいっ」
 振り向いたあなたの顔は般若のようでした。
 雨が降り出していたのですね。びっくりして。ぬかるんだ土に足を滑らせて。お弁当箱をそのまま落としてしまって。
今日のために買ったスカートが泥まみれになって、腰までまくれ上がっていたのを思い出します。
 欲情したあなたが覆いかぶさってきたのも。

「うっ」
自称ミュージシャンの僕は脳天を貫かれるような金属的な感覚に襲われた。
「あ、いっぱいでたね」
余韻に浸りながらペニスを拭かれていた。次はイソジンとコップと言うテーマで作曲してみよう。

新感覚サロン「朗読っ子クラブ竹の花」は今日も大賑わいだ。
424名無し物書き@推敲中?:04/09/12 13:20:48
↑次のテーマどなたか考えてください。↓
425名無し物書き@推敲中?:04/09/12 13:30:03
ハイヨ!
次は 「東海道」 「殺人」 「10時10分」
東海道線で人身事故。
「最っ低!」
品川、東海道線。満員のプラットホーム前ので京香は叫んだ。
といっても振り返る人もいない。
10時10分、そんな風に叫び出す人間なんて珍しくもなかったからだ。
まだ人は増えていない。でも電車が止まっている以上、これから人は増えていくだろう。

京香は焦っていた。恋人以上、ステディ未満の敏郎とは今、結構微妙な関係を迎えつつある。
敏郎の仕事が上手くいっていない。それが第一の原因だったけれど、さらに前の週末がやばかった。
「あんたがしっかりしていないから上手くいくものも上手くいかないのよ。敏郎がヒモだなんて嫌だからね。あんた男なんでしょ。自分でなんとかしなさいよ」
京香は悔いていた。敏郎の会社がヤバいってことは前から聞いていたことだし、そういう流れを作ろうとしていた事は、敏郎を見てればわかることだったんだけど。
敏郎とは長い付き合いだった。だから余計に、キツい、心をずたすたにしてしまう事も言えてしまう。
”川崎駅での人身事故のため現在東海道線は止まっています”
ふと、敏郎の顔を思い浮かべる。敏郎が列車に轢かれてぐしゃぐしゃになっている姿だ。顔だけが妙にすっきりしている。
京香は首を振って、その想像を振り払った。
敏郎に会いたい。敏郎の笑顔が見たい。京香は携帯を取り出して、それに額を擦りつけた。
プルル。と携帯が震える。京香は勢い込んで携帯に出た。
「はい」
「川崎警察署ですが、川吉京香さんですか? 水野敏郎をご存知ですか?」
「はい。敏郎が何か?」
「現在殺人の現行犯として逮捕されています。早川瑞穂、つまり彼の上司をプラットホームから突き落した罪で。もしもし?」
敏郎、自分でなんとかしちゃったんだ。京香は地面が無くなったような気がした。
プラットホームに寿司詰めの列車が滑りこむ。京香はそこに飛びこめなかった自分になぜか罪悪感を感じた。

次は「スピーカー」「パスタ」「メッセンジャー」で
427名無し物書き@推敲中?:04/09/12 22:15:30
「スピーカー」「パスタ」「メッセンジャー」

由紀はメールした。
「21歳、8で 」

 明日退院する聡子はメッセンジャーで彼氏にメールしていた。愛する私に歌をプレゼントしろということ。リミットは午後三時だということ。
早く会いたいということ。
「この食事と別れるのはちょっと寂しいけど」
 白い陶器で出来た大きめの器が目の前に運ばれてきた。聡子は病院食とは思えないような艶っぽい外観の蓋を外すと、
格子状に仕切られた多数のマス目に主菜と副菜がキチンと配置されているのを見つめた。
まるでママゴトに出てくるおもちゃを彷彿とさせるような4センチ四方の小さな献立の数々。
聡子は一通り目を通し、かわいらしいパスタの上にチーズがたっぷり降りかかっている様を見ながらにんまりした。
消灯までにはまだ時間があった。聡子はテレビを見ながらたっぷり時間をかけて食事を平らげた。
 聡子はぽっかりと明いたマス目を見ながら、入院の際に看護婦から受けた説明を思い出し少し憂鬱になった。院内のスピーカから消灯のお知らせが流れた。

 すずめの鳴く声が聞こえる。聡子は久しぶりに看護婦が到着するよりも前に起床していた。
「おはよう、アレ用意できてますか」
 聡子は毎週繰り返されてきたこの言葉にいつも嫌悪感が走った。でもそれも今日まで。聡子はにこっと微笑んで会釈してみせた。

……毎週金曜日だけは昼食の後に下剤をお飲みいただきます。お腹の中のものをスッキリ綺麗にした上で夕食を食べてください。翌日に検便を行いますので。

 聡子は平気なフリをして布で包んだプラスチック製の採取容器を取り出した。受け取った由紀が布をちらっと捲くった。
由紀は、夕食の無残な姿が容器の底にへばりついている様を見ながらにんまりした。

「いつもありがとね、MR_KINGさん」
 購入する人が、材料となる献立まで指定できるという注文方法は、マニアに大うけだった。
由紀は慣れた操作で顔写真と食事前後の弁当箱の写真を添付し、注文の品を発送したことをメールした。

昨晩の巡回で次の金蔓もみつけた。
「17歳、10で 」
428名無し物書き@推敲中?:04/09/12 22:17:42
「母」 「雌豚」 「奴隷」 で
429「母」 「雌豚」 「奴隷」:04/09/12 22:43:57
 おいらは母ちゃんに聞いてみたのさ。メスブタってどういう意味なのって。
そしたら母ちゃん真っ赤になって怒り出したんだよ。そんなこと知らなくていいって。
でもさ、昨日の夜父ちゃんが言ってたことだろ、部屋から聞こえてたもんって言ったらね。
びっくりした顔して、母ちゃん黙って洗濯物干しに出てったんだよ。
聞いてはいけないことなのかなと思ったんだけど、おいらのパンツを干す母ちゃんの背中に向かってもう一度聞いてみたのさ。
するとね、母ちゃんしくしく泣き出したんだよ。

「ね、今日は止めておきましょうよ。勇太郎がまた聞き耳立ててるから」
「そうか、じゃあこうすればどうだろう」
 勇太郎の父、橋爪和義はカナ漢字変換機能の第一人者だった。
白紙の用紙を持ち出すと2列10行の表を書き、トップに変換前と変換後というタイトルをつけた。
「メスブタは目酢部他だから“モクサクヘナリ”だな。ドレイは土霊だから“ツチダマ”でいいか」
 使用頻度の高い10の単語を用紙に書き終えると、目を見つめあいながら寝室の壁に二人で貼り付けた。見えやすい位置に。

「もっと私をモクサクヘナリと罵ってぇ」
「このっモクサクヘナリ。ツチダマの癖にこんなにもお汁を出してぇ」

 二人はいつも以上に興奮した。

NEXT 「チューインガム」「バッキンガム」「拝む」
430名無し物書き@推敲中?:04/09/12 22:59:05
↑「バッキンガム」は固有名詞?だと思うので
 「チューインガム」「屈む」「拝む」でお願いします。
431名無し物書き@推敲中?:04/09/12 23:11:03
>>429 コピペミスあり。
目酢部他の一説で「じゃあ人偏を取って」を“モクサクヘナリ”の前に挿入よろ。
432名無し物書き@推敲中?:04/09/12 23:12:13
↑度々ご免。一説=一節よろ
433名無し物書き@推敲中?:04/09/13 10:11:30
「チューインガム」「屈む」「拝む」

チューインガムが弾けて、私の口の中には、イチゴの甘酸っぱい味がじわっとひろがった。
私は淋しいと、それをなだめるためにチューインガムをかむ。
透明な早朝の空気が、ひんやりと部屋を満たしている。朝の、5時。
バスローブを着て、隣にいる恋人をおこさないようにそっとベッドを降りた。
少し屈んで、スリッパを履いた。窓から見下ろす街は、まだ眠っている。
澄んだ青白い空、誰もいない街、どこか遠くの鳥の声。
明け方は、いつだって、淋しい。
透明な空気に、ひとり溶けて消えてしまいそうな頼りなさを感じる。
ベッドで眠る恋人の寝顔を拝むと、私はよけい淋しくなってしまう。
恋人と話しても、私のこの明け方の発作的な淋しさはつのるばかりだ。
しあわせだから、よけい怖いのかもしれない。
チューインガムのオモチャみたいな甘さが、私を現実に引き戻した。
そっとベッドに戻り、恋人の腕にしがみついた。そして、そっと眼を閉じた。
少し泣いて眠れば、恋人と新しい一日をはじめることができる。

「きれい」「万華鏡」「破片」
434「きれい」「万華鏡」「破片」:04/09/14 01:33:39
「これはね、“闇夜の万華鏡”といって、星座に成り損ねたモノ達の破片が詰められているんですよ」
店の主は自慢げにそう語った。
 銀で包まれた長さ20センチほどで直径5センチほどの筒状のそれの周囲は、鮮やかな輝きを放ちつつ、表面の細工が
輝きに負けず劣らない存在感を表している。しかもその細工は、一つ一つが見慣れぬ不思議で奇怪な生物を描いていて、
それらの生物が今にも動き出しそうなほど活き活きとしている。
 主人の弁に熱が入るのももっともだ。これは希代の一品に違いない。
「へー、これはいいものですね。どれ」
私は主の熱弁を話半分に流しながら、手にした万華鏡を覗き込もうした。すると、突然主は険しい表情になり大声で私を
制した。
「おい!それを覗くな!」
 主が言うには、星座に成り損ねたとは言え、神々に準じた存在である彼らが詰められているのだからその魔力たるや
人間の想像以上のもので、日の光の下で覗き込む事は大変に危険な事であるらしい。間違って覗きでもしたら、失明
どころか魂さえ持っていかれてしまうこともあるらしいのだ。
「……では、いつこれを覗くんですか?」
主はふふんと鼻を鳴らしながら、こう答えた。
「だから"闇夜の万華鏡”なのです。真っ暗闇の中で覗いて、その奥に蠢くであろう何かに思いを馳せるのです。」

次は「ギター」「博覧会」「白米」でお願いします。
そのにぎり飯は白米ではあったが博覧会の人混みのように、餅といってもよい程米粒が潰れていた。
それをよぼよぼの爺さんは旨そうに、まるでヘロインかスピードをやったような、恍惚の表情で頬張った。
ギターを抱えていなければただの浮浪者としか言えない姿だ。
まあ、ギターにしたって対したシロモノじゃない。ぶっつぶれ、へし曲り、これでまともに音が鳴るのか、という恰好をしている。
だがそれでも妙に迫力があった。手垢は確かに沈殿しているが永い年月磨かれ続けた光沢があり、少なくとも爺さんの顔よりは大事にされているようだった。
爺さんはその首筋に、自分の体に置くように左手を添え、右手で弦を撫でた。
思いがけず正確なF#が鳴る。俺は足を止めた。しかし爺さんはF#を鳴らし続けるだけだった。
「爺さん。なんかやんのか? それともリクエスト待ちかい? なんかやってくれよ」
「んあ? なんでおれがお前のために弾かなきゃなんねえんだ? おれはおれの為にしか弾かねえよ」
「じゃああんたの為になんかやってくれよ」
俺がそう言うと爺さんは眠るように俯いて曲を弾き始めた。
ブルースだ。
聞いた事はないが、絶望と諦めの中間のようなテンポで、爺さんは確かにブルースを弾いた。
「……何て曲だい?」
「知らね。即興だ」
俺はMP3プレーヤを取り出した。「録らせてもらってもいいかな?」
「野暮なことすんなよ」
「野暮か。なあ爺さん、あんた身内あんのか? もし俺が録らなきゃあんたの事、誰も覚えてる奴はいないぜ?」
爺さんは怒ったような目を向けた。それはやがて怯えに変わり、彼は諦めたようにふっと笑った。「……構わねえよ。勝手に録れ」

俺は爺さんの曲を耳で真似た。新しい詞を新しいフレーズを。誰かの言葉が頭に響く。
爺さんの曲を真似ながら、俺は爺さんの、諦めたような笑顔を思い出していた。
売れるものを、流行を。
あい変わらずがなり立てるそいつから逃げるように、俺は爺さんの曲を真似た。

次は「迷い」「諦め」「天誅」で
眠れない。彼は諦めて本を閉じ、布団から這い出した。
特に理由は思い当たらなかった。生来の胃弱からなのか、それともほかの原因か。
彼は胃の薬を手にとり、ちょっと迷い、卓に戻した。効かない薬は飲まないほうがいい。
ためいきをひとつ。今日はいつにもまして多くの来客があった。その疲れのせいだろう。
普通なら疲れているほうが眠れるものだろうが、それが逆であって悪い理由はない。
枕もとに置いておいた擦り切れた上着をはおり、彼は散歩に出かけることにした。

どぼん。
玄関を開けた瞬間、聞きなれぬ音がした。彼は反射的に身をすくめる。彼はしがない
英語教師である。当然のごとく命は惜しい。そのまま石像のように固まってしまった。
が、しばらくそうしていても、覚悟とも天誅とも云ってこない。とするとこれは流行の革命
青年による襲撃というわけではないようだ。よくよく考えてみれば銃声にしては間抜けな
音だった。彼はそこまで考え、横の水甕に目をやった。中からばしゃばしゃ、がりがりと
音がする。銃声と水音を聞き間違えた自分に苦笑いしつつ、彼は甕に手を入れた。
「なにをやっているんだ、馬鹿」
苦沙弥先生の手で甕から救出された猫は、不機嫌そうにニャアと鳴いた。


次は「夏」「目」「石」で。
437「夏」「目」「石」:04/09/18 03:07:39
暑い暑い夏の日だった。
宇宙の彼方で燃え盛る太陽から放射された紫外線が、水平線を眺める私の目に突き刺さってきた。
だけど私はどうでもよかった。
シミやそばかすが顔に浮かび上がってくることになっても。
顔の艶が無くなって化粧のノリが悪くなって男にもてなくなっても。
この日を憎んだりしないと心に決めたから。

暑い暑い夏の日だった。
水平線の先を横断するきらきら光るコンテナ船から寄せてくる波が、砂浜に立った私の足元を濡らしてきた。
だけど私はどうでもよかった。
砂浜の小石や海の塩分が履いてきたお気に入りの靴を傷つけても。
靴の中をぐじゅぐじゅにさせながら住み慣れたマンションに歩いて帰ることになっても。
今日の出来事を悔やんだりしないと心に決めたから。

暑い夏の日だった。
バイクのエンジンをかける音が後方から聞こえてきた。
だけど私はどうでもよかった。

年老いて、大好きだったあいつの背中のことも、なにもかも全てを忘れてしまったとしても。

遠ざかって行くバイクの排気音がさざ波の音にかき消されていった。夕立が降り始めた。もう夏も終わりだった。
438名無し物書き@推敲中?:04/09/18 03:12:37
お題継続でどうぞ
439まとぺ:04/09/18 03:45:58
私は少し諦めようかと思いました。
一過性のものは矢張り長持ち致しません。

誰にでも在る境界が邪魔をするからでしょうか。
例えば石くれが世を席巻することを誰が想像するでしょう。

目で見るからいけないのだ、耳で聞くからだめなのだ、という
まあ、有り触れた言葉が飾られるくらいです。
どれだけ迷い人を造ったことでしょう。
勿論、私もその一人だったのですが。

十字架を背負った等と仰々しいことは申しません。
これは只の天誅なのです。
斑の夏も、もう終わることでしょう。

(或る婦人の遺書より)


【ふくらはぎ】【鼻血】【久しぶり】
440寒稽古 ◆GNeSanpo26 :04/09/18 18:30:04
 季節の変わり目は体調に異変が起き易いと言う。今朝、起きたら寝冷え
なのか頭が痛いなと思いつつ支度を整え自宅の玄関ドアを開けた所まで
記憶にある。そこから先の記憶が途切れていた。僕は玄関で気を失い倒れ
たらしく妻が救急車を呼び、そのまま病院まで運ばれたらしい。
「疲労と貧血でしょう、今日一晩泊まって頂いて様子を見ましょう」
 医者はレントゲンを撮った結果、特に異常はないと言い、看護婦は腕に
刺さる点滴の針を見ながら僕に声を掛ける。
「もし、点滴の最中気持ち悪くなったりしたらベットの脇にあるブザーを押し
て呼んでくださいね」
 白い病室の窓に西日が差しベットサイドに置いてあるミネラルウォーター
のペットボトルを照らしている。妻は白衣の背にお辞儀をして医者と看護婦
を見送っていた。僕は最近、禁煙を始めていたのだが、久しぶりにタバコが
吸いたくなった。僕は上半身を起こし、「なあ、タバコ吸ってもいいかな?」
 妻にそう聞くと、ことさら明るい笑顔を向け、「ここを出たらね」
 僕は妻の表情に何かを感じながら、頭の片隅で他の事を考えていた。
 ライターの火とペットボトルの水で、火水、カミ……か。僕は妻に隠すよう
に、毛布の中でふくらはぎにこびり付いた鼻血の跡をそっと指でなぞった。

次は【石焼きいも】【落ち葉】【受話器】でお願いします。
441名無し物書き@推敲中?:04/09/19 16:59:22
 全てが嫌になる瞬間ってのは、思いもよらず、突然にやってくるものだ。
 家中に散乱した書類も、馴れ馴れしくかかってくる恋人からの電話も、
冷蔵庫の中で腐るだけの食材も、とにかく全てが鬱陶しくなってしまった。
 理由なんて分からない。だが気持ちと体は正直だ。
 庭に積もった落ち葉を集め、その中に手当たり次第に物を投げ込む。
 漢和辞典。しおれたキャベツ。パソコン。歯ブラシ。水きりカゴ。一昨年死んだ、猫の首輪。
 その間もうるさく鳴り続ける電話は、本体から受話器のコードを引っこ抜いてやった。
電話のバラバラ死体だ。
 火のついたライターを投げ込むと、ゴミの山は嫌な匂いを上げて燃え始める。
 ざまあみろ。俺は何にも縛られないんだ。
 妙におかしくて笑い声を上げながら、枯れた芝生の上に大の字になって寝転がる。
 空はのっぺりと青い、秋の色だ。
 どこからか聞こえる石焼きいもの売り声が、やけに虚しく俺の上を通り過ぎていった。

次は【破産】【保湿クリーム】【虹】でお願いします。
 
 
442名無し物書き@推敲中?:04/09/19 18:49:31
鈍い光沢を放つブリキのじょうろの冷たい柄をきゅっと握り、少し傾ける。
ぱらぱらぱら、という音とともに柔らかな土に染み込んでいく清潔そうな水。
光の加減で虹がうっすら見える。もう少し腰をかがめればもっとはっきり見えるかもしれない。
でもさっき手に塗った保湿クリームがべたついてじょうろの柄がぬるっと滑り落ちて行きそう
そっちの方が気になって虹どころじゃない。所詮私はなりきれない女。
よく晴れた日曜の午後、ハーブに水をやる上品な若奥様を気取っていても
低俗なワイドショーから流れる企業の破産が気になってしょうがない。
でもいいの。
取り繕うのが好きなんだもの。
私はなりきれない素敵な若奥様。

次は【カルシウム】【深爪】【癖】でお願いします
443全既知:04/09/20 00:17:44
深爪をして病床閑語を書き、そして、私はそれ相当の自意識を持って此処にカルシウムと書く。慎重にである。
作家の癖を見抜いて、何か勝ったような気分になって、もう馬鹿にしている。情けない。君は小説の読み方が変わったね。

これを読んだ人は怒ってはいけない。そうかと言いって、この文章には、意図も、暗示も、何もありはしない。ある訳も無
い。味凡でも無い。
二行で小説。なんと言う事も無い。諸君はニコリともしない。
それじゃあ、ここまで読んだ人に、申し訳が無いから、最後に一つ、わらわせてあげましょうね。
最近小説がつまらないんですか? でも大丈夫ですよ。お待たせしました。もうすぐ本物が来ますよ。私の事ですよ。

嘲笑ったね。そうそう。


【巨人】【大鵬】【卵焼き】
444名無し物書き@推敲中?:04/09/21 02:07:53
 朝食を前にしたYは訝しげな表情で空を眺めていて、私はYの表情から何かを読み取ろうとする。できることなら私にとっての
最悪の事態は避けたいところ。
 視線を戻して一つ大きな深呼吸をしたYは堰を切ったような勢いで話し始めた。
「北の果ての海に住むといわれる鯤という魚は、途方も無い大きさで幾千里とも計り知れないという。その鯤はいずれ化身となり、
今度は鵬と言う鳥となって南の果てを目指すという。その大鵬は南の果てに何を望むのだろうね?」
 こんな風に彼が語りだしたら、穴の空いた風船が中身の空気を全て吐き出すように、自分の考えを全て吐き出すまで止まらない。
ただし風船と彼が違う点、それは彼の場合、自分の考えを吐き出している途中でも、何かの拍子に再度、それが膨れ上がる事が
あるということ。だから私は彼の知的で病的な排泄行為を刺激しないようにしている。私自身が彼の長話のきっかけを与えた日には
後悔しきれない。
 少し困惑気味の私を尻目にYの話はさらに過熱していく。
「世界は巨人が支えているとか、地球の果ては断崖だとか、そういう前時代的な想像なんかじゃない、鵬の目指す南の果ては
昔も今も共通の、最終にして最初の真理がある場所であり物なんだと思う……」
 目の前にある朝食は既に冷めてしまっている。私は素手で冷えた卵焼きを一切れ摘み、ひょいと口に放り込む。私にとっては
Yの話なんかより卵焼きの味の方が重要なこと。

「猫」「幻」「家」
445名無し物書き@推敲中?:04/09/22 00:33:42
外はまだ薄暗く、霧がたちこめている。
冷えた空気と木々の匂いが鼻を満たす。
彼は恋人の待つ家に辿り着いたころだろうか。

猫がにゃあと啼きながら、バスローブに包まれた脚にすりよってくる。
内腿に残る爪跡だけが、昨夜の幻を証拠立てる。

→「海」「ささやき」「度忘れ」
446うはう ◆8eErA24CiY :04/09/22 02:51:24
「海」「ささやき」「度忘れ」

 女をのせた船は、八百万の神の怒りにより沈む……古の言葉は、真実であった。
 嵐の夜。軍船は海に揉まれ、沈没は時間の問題だった。
 揺れる甲板に掴まり途方にくれる皇子の目に、寂しい笑みを漏らす姫の姿が映る。
 「危ない、甲板の下へ!」
 叫ぶ皇子の目前で、彼女は傾きかけた舳先を越え、黒い海に消えた。 「姫よ!」

 翌日、何も無かった様に静かな海に、防人の遺骸が何人も打ち上げられた。
 それに混じって流れついた、白い櫛。それをすくいあげる手。

 女をのせた船は、沈む。なぜそれを守らなかったのか。
 それは度忘れでも何でもない。姫自身が何度も皇子に哀願した事だ。
 理由は……姫だけが知っている。
 人質として拉致され、陵辱し尽くされ、皇子達の欲求の捌け口にされた姫だけが知っている。
 それは悪鬼のささやきだった。「これが唯一の機会だ、女をのせた船は沈むのだぞ!」

 復讐は終わった。かつての巫女に戻る資格も、今はもう無い。
 姫は、腰まで伸びる黒髪に自分の櫛をさすと、ぼんやりと呟いた。
 「私のせいじゃないもん」

※櫛の数え方が面白かった;
次のお題は:「オリーブ」「大理石」「GNP」でお願いします。
447名無し物書き@推敲中?:04/09/23 20:58:55
近頃世間を騒がせている怪盗ルピンがまた予告状を送りつけてきた。
先月にはこの国に伝わる三つの神器の一つ、オリーブの首飾りが盗まれた。
その前の月にはこれまた神器の一つの大理石の鏡が盗まれている。
残った神器はただ一つ、珊瑚の剣だけだ。
案の定、ルピンは予告状でその珊瑚の剣を指定してきた。
もし今回もルピンが成功したら奴の手に三つの神器が揃う。
別に三つ集めたら特別なことが起きるわけでもないが、
仮にも国に伝わる神器を全て盗賊に盗まれたとあっては世界中の物笑いだ。
二個も奪われた時点でもう十分物笑いではあるが…。
事態を重く見た我々は対ルピン用の特殊部隊を作ることにした。
その名もグレート盗人パトロール隊、略してGNPである。


「今」「俺が」「来なかったか」
448うはう ◆8eErA24CiY :04/09/24 01:15:31
「今」「俺が」「来なかったか」

 今日の戦闘もきつかった。
 正義の味方は、変身を解いて一人ラーメンをすすっている。
 「気が休まる事って、もう、こんな時くらいしかないなあ……今」
 そんな正義の味方に、突如、見知らぬ少年が食ってかかった。
 「僕の村がやられたよ。全滅だったよ。なぜ、こっちには来なかったんだよぉぉ!」

 深夜11時だった。全身傷だらけでヘトヘトだった。
 「いいか坊主、敵は何万人もいるんだ。俺が一人でできる事には限界が……」
 「いいよ、もういいよ。何が無敵の正義の味方だぁ!」
 半泣きで走り去る少年の背を見つめ、彼は一人俯く他なかった。

 「なぜ、悪の組織に人が集まるのだろう?高給なのか、政府との裏のつながりか?」
 負けてはいけない。あの少年のためにも。人数とか金とかに圧倒されてはいけない。
 彼は決意した。企業から守り賃を聴取しよう、軍人を集めて、武器も買うんだ。
 時には強奪も仕方ない。少々汚い事をしたって、それで正義が守れるなら……

 それから50年、正義の味方は老衰で死んだ。
 だけども組織は生きていた。軍事力は無敵だけど、正義の方は彼と共に葬られた。
 そしてまた一つ。「悪の組織」が生まれるのだ。

※やっぱし疲れるとこんなもんだー
次のお題は:「正義」「愛」「母子手帳」でお願いします。
449名無し物書き@推敲中?:04/09/24 08:19:59
「愛と正義の母子手帳、・・・・・」
編集者は、俺の原稿の表題を見詰めて、呆然としていた。
 (まんまやないかい、読者の声がきこえる。)
ストーリーを説明しようと、俺は身を乗り出した。
「 コンナ、観念的な名詞が、ふたつもついていると、はけないんですよね」
さえぎるように、彼はそういい、いすにもたれた。
まずタイトルから考えましょうよ、彼はタバコを取り出しながらそういって
愛と正義、あいとせいぎ、あいとせいぎ、・・・・オットセイの母子手帳というのはどうでしょう
オットセイですか?俺はあっけにとられた、どんな意味があるというのだ
ちょっと、苦しいんじゃないでしょうか、オットセイは
彼は、俺の不満も意に介せず、自己の思念を追っている
俺はじりじりしてきたが、彼の、高尚であろうところの思考を信じて待った。
「あ、伊藤の性器の母子手帳というのもありだな、あ、のあとに!つければ
アイキャッチとして上出来でしょ
あ!伊藤の性器の母子手帳・・・ですか?
それじゃ、ぽるのじゃないですか!俺は思わず立ち上がった。おれのかきたかったのは
純愛母子小説なんですよ!愛と正義の母子手帳が、なんで、あ!伊藤の性器の母子手帳になるんですか!
叫んだ、
450名無し物書き@推敲中?:04/09/24 08:59:15
ま、興奮しないで。編集者は、俺を制して、なにごともなかったかのように
タバコに火をつけた。一服した。額に手を当てて考え込んでいる。どこかで見たポーズだ、
ロダンの考える人栗卒と思った瞬間彼の口から言葉が出た。
あいーっと、せえぎの母子手帳というのはどうかなあ
正義じゃないよ、せえぎだよ、
せえぎってなんですか 俺は問うた。
わかんない かれは無責任にもこういった。
451名無し物書き@推敲中?:04/09/24 09:04:48
わかんないって、そんな
そこは君が考えるんだよ、せえぎについて、なにかあるだろう
せえぎじみたものが、よのなかには
せえぎですか?・・・・・それにこの、あーいっとというのはなんですか
感嘆詞じゃないか、
あーいっとがですか?
造語だよ造語、僕の造語。くすくすわらっている。
452名無し物書き@推敲中?:04/09/24 09:15:17
あーいっとせえぎの母子手帳・・・・おれはつぶやき頭を抱えた
小一時間もたった頃、5本目のタバコを灰皿でもみけしながら
やっぱり、最初でいくか
愛と正義の母子手帳でいいんですか?俺は顔を上げた。
俺の喜色を読み取ったんだろう。あわてて手を振ってこういった
違う違う、ほれ、おれのいったあれだよ、
あ!伊藤の性器の母子手帳ですかーーーー
げんなりした。
453名無し物書き@推敲中?:04/09/24 09:27:12
「編集者」「落ち葉」「せえぎ」次回はこれで
454名無し物書き@推敲中?:04/09/24 10:31:33
せえぎをさがしてるんですが
せえぎ?・・・・・・きのこ類?野菜?
コンビニで、うろうろしている俺、店員に見咎められ思わずそう聞いてしまった
狐につままれたような表情で店員はあちこち探している。
そんなものあるわけないし、おれはどうしようもなくいつものコンビニにいた
編集者の顔が頭に浮かび、彼が何も知らずに地雷原で踊っている様子を想像して
みずからなぐさめた。
せえぎ、せえぎ、せえぎ、つぶやきながらいつしか町外れに来ていた。
松林、老人が松の陰で一服していた。めがあった。老人は じわりと笑った。
なにかさがしものかのう
え、ええ。ちょっと、・・・・・せえぎをさがしてるんですが
せえぎか、・・・・おまえさんも・・・・・せえぎをさがしてるんじゃのう
ごぞんじなんですか、せえぎを。俺は意気込んで問うた。
老人は足元の落ち葉をゆっくりとした手つきで
掻き分けながら、そのあいたところに唾を落とした それを知ると若者よ
まえさんはどえらいめにあうよ    以下次号
455名無し物書き@推敲中?:04/09/24 10:42:04
次は「駿足」「あばらや」「美少女」で
456名無し物書き@推敲中?:04/09/24 11:17:36
>>454
「待ってください。ではその爺さんは被害者である芳江は
”せえぎのため”に殺されたと言ったのですね。」
編集者はめんどくさそうに頷いた。
「そうですよ。だからね、ここは田舎なんだから”せえぎ”じゃなくて”正義”じゃないんですか?
村の者は皆訛ってて正義もせえぎも同じように聞こえますから。」
「しかし被害者は裸で串刺しにされたうえに、落ち葉や藁を積まれて火をつけられていたんですよ。
僕はね、この現場写真を見た時から、何かに似ている気がしてたんだ。」
「何かって、何ですか?」
「これはね、どんど焼きですよ。藁や小枝を積んで枝に刺した餅を焼くアレです。
どんど焼きは、別名”せえの神”と言うんです。せえの神の儀式、つまり”せえぎ”です。
この現場というのは村の外れの道祖神の前でしたよね。芳江は余所者だ。
彼女は外から悪しきものを運んできたんです。だから”どんど焼き”で殺された。
せえの神っていうのはね”サイの神”つまり境界の神様で、道祖神なんですよ。
道祖神っていうのは境界を守って、村に悪しきものが入ってこないようにする神様なんです。」
編集者は幾分蒼ざめていた。
「だって、それじゃあ真夜中に村人が寄って集って
芳江を殺して季節はずれのどんど焼きをしたって言うんですか。
そんな、そんな馬鹿な。それじゃ全員が共犯者だ。そんなことはありえない。」
「僕だってそんなことは考えたくも無いですよ。でもね芳江の右臀部の肉はごっそりと無くなっていた。
どんど焼きの餅っていうのはね、食べてこそ無病息災に効くんですよ。」

次は>>455さんのお題で
457名無し物書き@推敲中?:04/09/24 18:54:59
こいつらの文体の没個性さ加減にワラタ
458罧原堤 ◆wwtQlaN.OY :04/09/24 19:37:02
仕事を終え、いつものように電車に乗りこの前家を建てたベッドタウンまで帰り着いた。通勤時間は往復二時間であった。
毎日のことなので苦痛に感じられる日もあるが、それでも平均よりも恵まれているのだろう。
私は、駅のホームを出るとコンビニに立ち寄った。タバコや茶などを買っておこうと立ち寄ったのだ。
店内をぐるぐると二、三周していると、お菓子売り場の隅に隠すように売られている信じられない物を見つけた。
覚醒剤新発売、2g一万円。ポンプなどの器具付き。と書いてある。もちろんこれを買うのは犯罪である。だがコンビニという大衆が利用するところで売られている以上黙認されていると考えて妥当でもある。
もし捕まったとしても、まさかコンビニで本物が売られているとは思いませんでした。とでも言い逃れられないか。
私はATMで金を降ろすと、しばらく買いに来なくてもいいだけ買おうと覚醒24gを箱買いした。
レジに持っていく途中これは警察の罠ではないかとも思ったが、そんなこともなく私は無事に家まで帰ることが出来た。
妻が夕食を作っていてくれたが、私は体調が悪いといって断り、さっそく覚醒剤を試してみることにした。
ちくっと腕に突き刺さる注射針。それ自体がもはや快感に思えてきて、私は友達に電話をかけだしていた。
「いい物はいったよ、こいよ。みんなでやろうぜ」
私は友人が来るまでにもかなりの量の覚醒剤を大量に自分の血と混ぜ合わせた。途中意識が何度かぶっ飛んだが、それはいいトリップだった。脳内を駿足で駆け回る小さな馬のような生物がいたのが多少不快だった。トイレに行くとき娘にあったがすぐに逃げてしまった。
どうも目がぎらついていたようだ。
「あなたどうしたんですか?」
「何だ、何だ、何だ」
「お友達の方がたくさんきてますよ」
「俺の部屋に入れろ。気のきかないやつだ、まったく」
「すいません」
私は妻が誤る間にも友人たちと美少女を狩りに行く計画を立て始めていた。
「あばらやへようこそ!」
「満面の笑みだね」友人たちはそういって私を笑った。
459罧原堤 ◆wwtQlaN.OY :04/09/24 19:59:35
次、「白熊」「ヒト科」「裃」
460名無し物書き@推敲中?:04/09/24 20:00:09
こいつの個性さ加減にワラタ
461名無し物書き@推敲中?:04/09/24 20:16:45
男の場合自分のことを一人称で「僕」とか「私」って言わないよな、普段。
やっぱ筒井みたいに「俺」で決まりだろ。
462名無し物書き@推敲中?:04/09/24 20:31:34
筒井なら平仮名で「おれ」の方が多い気ガス
463名無し物書き@推敲中?:04/09/24 20:45:15
感想スレ立てれや
464名無し物書き@推敲中?:04/09/24 20:49:28
暗いと不平を言うよりも
進んで電気をつけましょう
465名無し物書き@推敲中?:04/09/24 20:54:16
感想スレ立てれば?
466名無し物書き@推敲中?:04/09/24 20:56:44
お前が立てれば?
467名無し物書き@推敲中?:04/09/24 21:17:59
いいよー、お前が立てろよー
468名無し物書き@推敲中?:04/09/24 21:42:22
立てたいとか別に思わねぇし。
てかさ、無理に分ける意味ってあんの?
アンカー張りにくいし、どうせ誰も書き込まなくて即死する気がするし。
469名無し物書き@推敲中?:04/09/24 21:54:13
きもちわるい小競り合いすんなよ、いい年してんだから。
470名無し物書き@推敲中?:04/09/24 22:28:57
お前ら全員裏へ来い
まとめて相手してやる
471名無し物書き@推敲中?:04/09/24 22:30:42
>>469
上げんなよ池沼
472名無し物書き@推敲中?:04/09/25 03:28:51
文体ってなによ?
473名無し物書き@推敲中?:04/09/25 03:31:44
アイデアってなによ?
474名無し物書き@推敲中?:04/09/25 04:02:07
白熊ですか?
そう、白熊、北極にいるあの白熊だよ、動物園にいるあれじゃないよ
編集者は、ロダンのポーズを解き、立ち上がった。おもうさま突き出た腹、
体脂肪率を計算しているおれをうながして、喫茶店を出た。
今日は思いっきり飲もうよ、裃脱いで、かたりつくそうじゃないか、
肩を抱かれた。

あのう、白熊の件は、
ん、白熊、白熊ってなによ。ぐでんぐでんに酔っている。
取材で、・・・・北極に・・・・
そんなこといったかああ?卓の下をのぞきこんだり、
背広のうちポケットに手を突っ込んだりしながら
ろれつの回らない大声を上げて彼はいった。
なにをしているのか、わかっていたが、指摘はしない。
めがねを探しているのである。すぐめのまえにあるのに。
あ、あったあった、めのまえにありました。ありました。
ありました、めのまえにありまあああした。
しかし、なんだね、君、めがねをかけた生物なんて、こっけいじゃないか?
かんがえてみたことはないかね、メガネザルっていうけど君、彼らが、
本当にめがねをかけている図をそうぞうしてみろよ。
こっけいだろう、?人間だけだよ、コンナ、こっけいなもの発明したのは、ヒト科で。
次は「小石」「オリオン座」「しかられて」
475名無し物書き@推敲中?:04/09/25 04:10:25
着地失敗か?
476名無し物書き@推敲中?:04/09/25 14:32:51
原稿作法守れや
477「小石」「オリオン座」「しかられて」 :04/09/26 01:01:54
夕方になるともう星が見える。田舎だし。てかド田舎だし。
僕は川に向かって思いっきり小石を投げた。学校では禁止されてる。
でもしかられてもいいや。こんなにイライラしてるんだし。
「花田ってさ」後ろで見てたヤマが聞いてきた。
「言葉遣い変わったよね?学校じゃオレとか言うし」
「別に」
僕は学校のことを思い出してまたイライラした。
藤崎の前で自分のことボクとかいってしまったのだ。カッコワルイ。
「でも私のまえではボクっていうよね。何で?」
「そりゃ……ヤマは……なんていうか、特別だし」幼馴染だし。
「特別?」「うん」
言いながら僕は別のことを考えていた。
藤崎をここに連れてきたらどうだろう。喜ぶかな。
そしたらあれがオリオン座だって教えてやろう。僕の好きな星座だって。
ふと振り向くとヤマがにこにこしながら僕のほうを見ている。何だろ。
「何だよ。気色ワリイ」
ヤマはぴたりを笑うのをやめて立ち上がった。
そして僕の手から小石をひったくって石を思いっきり投げた。
僕のオリオン座に向かって、真っ直ぐに。

次は「猫」「着地」「綿菓子」
478名無し物書き@推敲中?:04/09/26 02:16:10
 日曜日、蒼く澄んだ高い空に千切った綿菓子のような白い雲が浮かん
でいる。小学校の校庭では徒競走のスタートを知らせる火薬が弾ける音
が遠くで聞こえ、時折応援の歓声が風に乗り気紛れに聞こえてくる。
 我が家の縁側で丸くなっている猫の髭がピクピクっと痙攣するように動
き肌に心地良い秋の風が私の頬を撫でる。どんな夢を見ているのかと気
になり猫の顔を覗き込んでみる。一向に起きる気配など無く黒い鼻の穴
を膨らませ熟睡している様子だ。湿り気のある黒い鼻に耳を近づけると
微かに鼾が聞こえた。まったく人間と変わりない猫の寝姿に私は確信した
猫も夢を見るのだろうと。実の入った黄金色の稲穂が頭を垂れる頃、在の
畑から生きた野ネズミを口に銜え、さも自慢気に私の前に持って来てネズ
ミが動かなくなるまで鋭い爪で遊んでしまう猫。おそらくそんな夢でも見て
いるのだろう。その野ネズミを片付ける役は私なのである。そう思うと気楽
に鼾をかいている、こ奴を起こしたくなった。私の悪戯心がむくむくと青い
空に浮かぶ雲の如く湧き出してきた。髭を軽く引っ張る。起きない。今度は
脇の下に両手の指を突っ込みくすぐった。奴は、はっと飛び起きて縁側か
ら飛び降りた。寝ぼけ眼の着地は見事失敗した。私は満足し空を見上げ
る。蒼く澄んだ高い空にネズミの形をした雲がぽっかり浮かんでいた。

次は「ビール」「電柱」「銀行」で、
479名無し物書き@推敲中?:04/09/26 08:36:59

とうとうやっちまったぞ、しらないぞ、銀行強盗なんて
つかまったら、くさい飯どころじゃないぞ、
身内のはじさらしになっちゃうんだぞ。
兄弟は学校でいじめられるし、近所じゃ住めなくなるんだぞ。
しらないぞう、紙袋には、カウンターの女店員がで差し出した
紙袋をしっかり握り締め、しかし、もう俺は後悔しはじめていた。
電柱にもたれて一息ついた、もう手配はまわっているだろうし、
しらないぞう、免許がなかったから、そこまで、茶凛呼で逃げてきたが
チェーンが外れてしまって,そこの,薬屋の角に放置してきたのだ。
いかん、度胸つけのために飲んだビールが今頃利いてきた。いかん、遺憾。
そのとき、声がして、ふりかえると、おまわりがたっていた。このひとですよ、
いかんね、君、遺憾ね。放置はいかんよ、それにガラスをわっちゃたそうじゃないか
損害賠償だよ、いかんね、赤いね、のんでるのかね?ん、なにその紙袋
次は「車両通行止め」「洗濯バサミ」「ぐろ」で。
     
480名無し物書き@推敲中?:04/09/26 08:41:09
5行目訂正
「紙袋」を「右手」に。二日酔いなんで、どうも。
481名無し物書き@推敲中?:04/09/26 08:50:38
12行目も訂正
「放置」を「報知」に。報知はいかんね。報知はいかんね。に。
482名無し物書き@推敲中?:04/09/26 17:36:03
報知はいかんね、君、報知はいかんよ。通行止めだよ
車両通行止めって書いてあるだろう、よめないの。
酔ってるんだね。くさいよ。
ぐろはいたね、そこに。え、げろ。ぐろっていった?
まいっけど。報知はいかんよ、もういちどいっとく、報知はいかんよ。
くどいようだけども一度行っとく。本当に報知はいかんよ。
くさいあねほんとうに。洗濯バサミ持ってきとけばよかったよ、はなつまみように。
でももういちどいっとくよ、
報知はほんとうに、いかんよ。
次は、「放置」「くず」「なべ」
483名無し物書き@推敲中?:04/09/26 17:37:25


訂正
報知を放置に。ほんとは訂正したくないんだけど。
484名無し物書き@推敲中?:04/09/26 21:57:40
>>479
 「器物損壊」も加えて。
485名無し物書き@推敲中?:04/09/28 18:58:05
そこのーーーー!おろせおろせ!こげちゃったじゃないか、なべ!
なんだよー、ったく。なべ、くずじゃないかよ、なべーー。くずじゃないかよーー
なべ。まっくろじゃないかよーーー。
怒られた。厨房。まだはいったばっかりだったから。
「放置、放置」先輩がささやいた。
店の、裏庭に回っても、まだ声が聞こえた。
なべーーーーー、くずだ、なべ。なべーーー、くずだ、 なべーーー。
おれは、なべを地面においた。息を吸い込み、力いっぱい踏み潰した。
まっ黒にこげたなべを。まっくろのなべを。なべを。くずなべを。

「大罪人」「爪」「なし」つぎはこれで。
 ガイドが言うにはこれが世界最後の大罪人なのだそうだ。大罪人といっても、勿論、生きている人間を檻越しに観賞するなんて
野蛮な見世物ではなく、蝋で出来た模型とそれに纏わるアナウンスを聞きながら観賞するという極めて文化的で解り易い見世物だ。
 彼(世界最後の大罪人)は、口に出すのも憚られる低俗で残虐で知性の欠片も感じられない最悪の犯罪を犯した。こうして彼の
悪行を想像しただけでも吐き気を催してしまう。しかも彼の生きていた時代―とても遠い昔、科学という宗教が蔓延していた頃―の
倫理観とは、今のそれとは違う原始的なものだったらしい。何せこの大罪人が大罪どころか当時は無罪だったというではないか。
 長ったらしい科学の時代についてのアナウンスも終わり、ツアー客たちはガイドに連れられて次の展示物へと向かっている。
その中で私だけがそれに気付かずその場に残り、世界最後の大罪人を見つめ続けていた。
 彼の出で立ちは、薄汚れた白衣に片方だけレンズなしの瓶底のようなメガネ、頭は禿げ上がっており、その側面と後頭部にだけ
爆発したような白髪が生えている。右手にはフラスコを持っていて、中では緑色の液体がぐつぐつと沸き立ち白い煙が溢れている。
そして左手には赤い液体が入ったビーカーを持っている。それらを陰気な音楽に合わせるかのように、右に左に傾けながら、ゆら
ゆらと体を揺らしている。
 そこで私は我に帰り、自分が一人だけこの場に取り残されていることに気付いた。他の客はもうずっと先に行ってしまったらしい。
全く人影はおろか気配すら感じない。そこで右手の爪を噛み千切り、地面に吐き捨てると小声で使い魔との契約文を暗証した、
と刹那、紫の煙が沸きあがりその中から現れたのは一匹の翼狼。私はそれにまたがると、ひゅーとツアー客の元へ飛んでいった。

次は「森」「飛行場」「猫いらず」で。
487('A`):04/09/29 20:36:20
「森」「飛行場」「猫いらず」

森があった。飛行場もあった。
そこで、しゃちょーさんが猫はいらねーよっていってた。
ってことは、飛行場は猫いらずなんだよね。
ってことは飛行場に猫はいない。ってことは猫は飛行機にのらない。
ってことは飛行機にねずみはいる。ってことは飛行機に乗るのはねずみってことでいいんだよな?

次は「もてない」「男」「板」
私にとって2人目の彼氏であった横山君と私が彼氏彼女の関係を
永遠に絶つことを決めた日、の朝、にはまだ私たちは恋人同士で、
ラブラブとまではいかないまでも生温い感じに幸せな「私たち」ではあったわけで、
しかし17時過ぎの時点で既に横山君は物凄く怒っていて、
あろうことか私の部屋のキッチンにおいて桐のまな板を床にゴンゴン
ぶつけて叩き割るという神業をやってのけた。バッキリ割れた
まな板を手にした横山君は冷静さを取り戻してしまったらしく
可哀想なほど気まずそうな表情で立ち尽くしていた。
私がそこでゲラゲラ笑い始めたせいで色々な問題が有耶無耶になってしまって
横山君も笑って私たちは酔っ払ったみたいになって超ノリノリで、
まあ結局別れてしまったわけだけど、あのとき私が笑いをこらえて
しまっていたらどうなってたのかな。
…という話をヨー子にしたら、「だからあんたは男にもてないんだよ」と言われた。
 
次は、傘・弓・トイレ
489名無し物書き@推敲中?:04/09/30 04:35:03

細木カズコの、「お題選択に見られる性格診断」
486番さん「森」飛行場」「ねこいらず」ね、あなたね、ロリコンでしょ。ね、違う?
処女願望強いわよ。ね、自由への憧れも強いわね。まんまだけど。
問題はこれよ、猫いらずよ、猫は女をあらわすのよ、黙って聞きなさい、ね、
い・ら・ずだから、あなた、おんなにくんでるわよ。あなた、ほもよ。次、
487番さん「もてない」「男」「板」あなたね、受身すぎよ、万事に、
だから不満なのよ。もっと自分から行動しなさい。
488番さん「傘」「弓」「トイレ」ズバリいうわよ、
ね、あなた、ペニスコンプレックスあるわね、おちんちんほしかったでしょ、違う?自己愛もつよいわね。
最近ちょっと、欲求不満気味ね、もっと遊びなさい、

次はこれよ「猛獣」「宝石」「ホスト」あたしのことは分析すんじゃないわよ。
490名無し物書き@推敲中?:04/09/30 04:49:17
息を吸うと、猛獣の吐息を感じた。
逆立つ茶色の毛並み、宝石を割った時に生じるかすかな光の余り。
グラスには、私の指が行き場をなくして彷徨っていた。
もう一度、大きく息を吸うと、今度は香水の匂いがした。
目の前のホストは、最大級の笑みを称えて私を見つめる。
ここにあるのは「仮定」が前提の微笑みだけだ。


次の人、「黒人」「ダウンジャケット」「ピンクのチラシ」
491「黒人」「ダウンジャケット」「ピンクのチラシ」:04/09/30 23:06:43
 白人のやんぼうと黒人のマーボーは大の仲良しコンビだ。
やんぼうがいじめられると、マーボーがいじめた相手をとっちめにいく。
マーボーが宿題を忘れると、やんぼうがこっそり教えてあげる。
やんぼうが猪木ファンならマーボーは馬場ファンだ。
BI砲。二人で一つ。それが彼ら凸凹コンビの合言葉だった。

 林間学校の宿泊先で事件はおきた。
二人は一緒に入った湯船の中で、彼らが凸凸コンビなのだという現実をお互いに直視してしまったのだ。
湯船に仁王立ちする二人は、戸惑う表情で顔を見詰め合うことしかできなかった。
大人の階段を上る学園生活の中で凸凹コンビは静かに終焉を迎えた。

 15年後の秋がやってきた。東京と大阪に別れて暮らす二人は、久しぶりに名古屋で会うことになった。
「凸凹コンビ。懐かしい響きだ。」
 仕事を早く切り上げたやんぼうは、待ち合わせ場所の喫茶店でコーヒーを注文すると、
黒く輝くワンレングスを胸元まで垂らしながらぼんやりと少年時代を振り返っていた。
 バックの中の妖艶に微笑む自分の顔が映っている小さなピンクのチラシを覗き込みながら、やんぼうは呟いた。
・・・・・・あとは竿を取るだけ。明日のショーもがんばるのよ「やん子」。これも凸凹コンビ復活のため。

 喫茶店の傍らに立つ電信柱の陰にマーボーの姿があった。
ダウンジャケットを着たマーボーは隠れるようにフードを被りながら、様変わりしたやんぼうの姿を窓ガラス越しに眺めていた。
マーボーは目を潤ませながらため息をはきおえると、踵を返して歩き始めた。
前方から歩みを阻むような突風が吹きこんできた。
それでも歩みをとめようとしないマーボー。フードがまくれ上がった。 茶色のソバージュが悲しく風になびいていた。
492名無し物書き@推敲中?:04/09/30 23:09:10
てすと
493名無し物書き@推敲中?:04/09/30 23:10:21
Next 「二人の関係」「魚」「マニアック」
494名無し物書き@推敲中?:04/09/30 23:22:12
このスレの感想スレは無くなったのでしょうか?
495名無し物書き@推敲中?:04/10/01 00:02:35
>>494
こんなしょうもない落書きにどうレスすれってのよw
496「二人の関係」「魚」「マニアック」:04/10/01 03:27:45
美男子のA男とブスのB子が結婚した。
不釣合いな二人に納得のいかないC子が、二人の関係はいつから? と訊いた。
B子が答えた。
私たちは、釧路のマニアック魚愛好会で出会ったノン。


「陰毛」「苺」「水虫」
497名無し物書き@推敲中?:04/10/01 04:01:38
アイカとは付き合い始めて4日目だった。
初めて行ったアイカの部屋でオレはトイレを借りた。
トイレは苺模様であふれていた。
赤い苺の便器カバーも趣味が悪くて衝撃的だったが
同じ苺柄のトイレ用マットの上に陰毛が無数に散らばっていることに気づいた時
それまでアイカに抱いていた感情は全て吹っ飛んでしまった。
トイレから戻ると、用事を思い出した振りをして部屋から退散した。
「また電話するから」
あれから一ヶ月。初めはアイカからメールが着ていたが
最近はもうこなくなった。たった4日しか付き合っていない女に結構貢いだもんだなぁ、
クレジットカードの請求書を見ながら溜め息をついた。
オレもアイカから貰ったものがある。
水虫だ。あの苺柄のスリッパ。

「時計」「招き猫」「掃除機」
498名無し物書き@推敲中?:04/10/01 10:20:26
この骨董店は過去の遺物を(それも少しの価値もないような)扱っている。
70年代に流行った「新型」掃除機。
半世紀ほど前の、ひび割れた招き猫。
そして壁掛け式の、安物の時計。
店主は古びた掃除機を撫でて笑い、つぶやく。
「この店も、掃除機みたいなものかもしれないな」と。
お題「聖書」「鋏」「箪笥」

499禁!治産者:04/10/01 10:24:46
 二階から外を見ていた。
 ふと気付くと、芝生の上を何か白くて丸っこいものが走っていく。
 招き猫だ。きらりと光を反射するものを腕に巻いている。
 多分、また腕時計を持ち出したのだ。
 追いかけていくと、木のうろに逃げ込んだ。
 押入れから掃除機を取り出して、電源コードを伸ばしながら木のところへ戻る。
 吸い込み口をさっきのうろに突っ込んでスイッチオン。
 モーターがうなりを上げ、ホースがいろんなものを吸い込んでは音をたてる。
 そのうち、キュポッ! という音と共に何かがつまった。
 ゆっくりと引きずり出してみるとあの招き猫だ。
 僕はじっとその目を見据えて、一言だけ言った。
 招き猫は最初イヤイヤ、と首を振ったが、じっと見つめているうちにしょんぼりと
して、僕に腕時計を返した。
 僕は招き猫にデコピンをして、家の中に戻ると、腕時計を祖父の遺影の前にそっと置いた。
500禁!治産者:04/10/01 10:35:33
 バス停から家までは3分くらいだ。夕日に照らされた玄関のドアを開ける。
 僕を出迎えたのは、紙ふぶき。
 誕生日でもないのに何事か、と室内を見回す。
 箪笥の上から転げ落ちたのは、招き猫。僕はカバンを投げ出して、白くて
丸っこいその体を受け止めた。瞬間、手のひらに痛みを感じた。
 招き猫は鋏を持っていたのだ。僕は手のひらを見つめた。
 血が表面張力で手のひらに盛り上がっている。赤くて平べったい石を持っ
ているような気分だ。
 招き猫は申し訳なさそうに僕を見上げている。僕はその目を見て一言言っ
てやった。招き猫はうなだれて、いまや背表紙だけとなった聖書を見せた。
 室内を舞っていた紙ふぶきがすべて床に落ちるころ、窓から差し込んでい
た夕日はその勢いを失い、そのあとを青い暗闇が支配した。
 僕は洗面所へ行き、手のひらの血を洗い流した。白い洗面台の中央にぽ
っかりと空いた黒い穴に、透明な水と絵の具のような赤がねじれながら吸い
込まれていった。

お次 「虎」「大砲」「横転」
501虎・大砲・横転:04/10/01 11:51:57
 初秋の涼しい風に背中を押され、私はいつもより遠出をしてみた。いまだ痺れる右足を引きずり、通常のコースを外れて進む。
 引っ越しと交通事故の奇妙な出会いから半年。新たな我が町に、私は不慣れなままだった。この先には何があるのだろう?未知の光景に好奇心をくすぐられる。
「危ないっ」
 後ろから少年らしき若い叫び声が上がった。と思う間もなく、臀部に強い衝撃を受け、私は横転した。
「悪りぃ、大丈夫?」
 見上げれば秋晴れを従え、青年が心配そうにこちらへ手を差し延べていた。私を跳ねたのは、彼が跨る自転車の前輪らしかった。
 青年は虎じみた、いかつい顔をしている。それと声変わり前の高い声音が釣り合わず、なんとも滑稽な印象を合成してしまっている。
 年齢の割に小柄なほうだ。無理して買ったらしい皮ジャンを、ひどく重たげに着込んでいる。
「大丈夫だ」
 私は彼の手に引かれて立ち上がった。体はともかく、心は返事の内容と程遠かった。春の悪夢が脳裏に蘇ってしまったからだった。
 あの時も背後からだった。ただしそれは大砲で撃たれたような衝撃だったし、車は運転手ともども、さっさと逃げ去ってしまっていた。
 あの時の運転手に比べて遥かに常識的な青年は、私の顔色に気づいたのか、不安げに言った。
「怪我してないですよね」
 私は努めて明るく返した。
「ありがとう。でも怪我なんかしてないよ」
 ついでとばかりに尋ねる。
「この先に行くつもりだったんだよね?この先には何があるんだい」
 青年は自転車のペダルに片足をかけ、ボーイソプラノを響かせた。
「公民館、小学校、商店街……」
 目をしばたたかせた。
「おじさん、散歩?」
「そんなところだよ。リハビリも兼ねてね」
 青年が微笑んだ。目を細めると猫のように見える。
「行く当てがないなら、後ろに乗りなよ。面白い所に連れて行ってあげるから」
 面白い所、か。私は腰の痛みも忘れ、その言葉に興味を抱いた。とりあえず念押ししてみる。
「大砲を構えた虎が横転しているオブジェなら、雑誌で見てるからいらないよ」
502名無し物書き@推敲中?:04/10/01 18:45:33
>>501
てめえのオナニーを撒き散らせるだけのヴァカですか?

次の三語も撒き散らせや早漏!
503名無し物書き@推敲中?:04/10/01 19:07:08
虎と大砲と横転を継続させるってことじゃないの?
504名無し物書き@推敲中?:04/10/01 21:00:32
NEXT
「巨大掲示板」「桜」「シール」
505名無し物書き@推敲中?:04/10/01 22:04:18
>>1

5:お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。
506名無し物書き@推敲中?:04/10/02 11:23:42
「虎」「大砲」「横転」

気持ちの悪い虎の親子が吐瀉物の上を渡る。おれは結構好きな方だから、あくび。
そのまま二人で歩くのもいいけど、あのギターおじさんにも聞いてみよう。
「エエー!どうせなら明日にでも僕のお父さんに話を通してあげるけれど」
「そうじゃないんだ、おれは。おれ達の事はもう放っておいてくれよ!」
懐かしいおれの何かが噴き出す大砲、その時おれは頭の中がぐるぐるしているだろうから、
お豆を三粒だけ持っていこうね。きっと楽しいよ。でも思った以上に子供っぽいな、君。
アマチュアレスリングの世界は厳しい。だからおれの妹が眠っているベッドに忍び込む。
でも付け焼刃なんかじゃどうしようもないし、親父の喘ぎ声なんてみっともないから逃げよう。
おれは横転したみたいにゲラゲラ笑って、虎の親子と行商に出かけていた。

お次、「軟膏」「仕掛け」「乾物」
507名無し物書き@推敲中?:04/10/02 11:59:51
>>506
???????????????????????????????????????????????????????????
508ミステリ罧イカ原堤 ◆mm/T2n8mWo :04/10/02 12:20:32
人間乾物を風呂につけて戻してたことを忘れて、ずっとパソコンに熱中していた。 
「あっそういえばあの糞じじいをもどしてたんだっけ」
この時点で俺はまだあの人間乾物をじじいだと思っていた。しわくちゃに干からびていたので女子高生だとは気づいていなかったのだ。
乾物を人間に戻す仕掛けは簡単だ。水につければいい。だからまあ、仕掛けとか言う大げさなものはないといっていい。
俺が風呂場に急いでいってみると、前畑ジュン子によく似た女の子が桶で行水していた。俺はもちろんぶったまげた。
「あの。あのう。さむくはないかい?」
くりくりした目で少女は俺を見て、「いいえご主人様」とポッと頬を赤く染めた。
その日から俺のばら色の人生が始まったと言っていい。初めの頃はまだ彼女の体が完全に乾物から戻ってないことに気づいて軟膏を塗ってやったりしたが、それも俺と彼女の間にスキンシップを取ることに役立った。
乾物から人間をもどしてもなかなかコミュニケーションがとれずに、結局人間乾物に逃走されてしまうケースも多い。
俺はマニュアル本でそのことを知っていたので軟膏を買っておいたのだが、いまさらながらこの情報には感謝した。インターネット掲示板にも書かれていないことだ。
そして、その99,9%はじじいであると相場が決まっている人間乾物が何の間違いか女子高生であったことにも神に感謝した。まったく人生なにが起こるかわからないものだ。
これだから人生はステキなのさ。
509ミステリ罧イカ原堤 ◆mm/T2n8mWo :04/10/02 12:25:04
Nextお題;「殺意」「野菜」「世紀末」でよろしく
510名無し物書き@推敲中?:04/10/02 15:27:04
 世紀末に聖飢魔Uと握手したことを誇りにしていた友人が昨日死んだ。
 彼は野菜をほどなく愛すベジタリアンだが、趣味は狩猟という、なんだか
狙いどころがわかんねえ奴だった。
 30過ぎて親と同居していたのだが、仕事もしていない筈なのに何故か毎月
30万も家に入れていたスーパーマンであったのだよ。
 「オレはいつか、この世界を駆ける超売れっ子ロリエロ専門写真家になって
やるんだ」が口癖だった友人――コンパでこれ叫ばれたときにゃ軽く殺意を抱
いたが――。
 今はただ、彼の冥福を祈らずにはいられない。Kよ、あっちでも幼稚園児のケ
ツ追っかけながら元気に暮らせ。ただし、俺がいつかそっち逝っても決して巻き
込むんじゃねえぞ。常に俺から5m離れて歩け。

「セブン」「ゴールデン」「競馬」
511名無し物書き@推敲中?:04/10/03 03:51:39
「ねぇ、ウルトラマンセブンはウルトラセブンってタイトルなんだよ」
「は?」
突然何を言うんだこいつは?
「いや、これは前置きなんだけどね」
いや分けわかんないから。
付き合い始めて3ヶ月、未だにこいつの言うことは読めない。
とりあえず、早く続きを言えと目で促す。
すると、こやつは照れを隠すかのように頭をぽりぽり掻きながら
「実は他に好きな子が出来たんだ」
と言ってきた。
「ケンカ売っとんのか?」
私というものがありながら他に好きな子が出来ただぁー?
「で、どこの誰を好きになったのよ?」
「最近隣の家が飼い始めたゴールデンレトリバーのカナエちゃん」
あっ今たぶん私スンゴイしかめっ面してんだろうなぁ。
「とても可愛くて可愛くて溜まらないんだ。絶対君より可愛いと思っている。
 あのつぶらな瞳に見つめられたら・・・あーもうっ」
キャーなどと言いつつ赤面した顔を手で覆う。
「いや、それは恋愛感情とは別だから。犬のカナエちゃんとやらを好きと思う気持ちと
人間であるを思う気持とは別物だって」
あー、一気に疲れてきた。何でこんな阿呆と付き合ってんだろ。
私は話を切るために読みかけの新聞に目を落とした。
「でも、君だっていつも言ってるじゃない、僕より競馬が好きだって」
「それはいいのよ。私あんたより競馬好きだもん」
と言いつつ私は赤えんぴつを片手に競馬新聞を読みふけった。

「猫」「ドーナツ」「くつした」
512名無し物書き@推敲中?:04/10/03 11:22:35
細木カズコの「お題選択に見られる性格診断」
さあ、やるわよ〜
511番さん、猫、猫どんな顔してんの?怒ってた?怒ってない?
お母さん、憎んでる?憎んでない?  だってでてるんだもの 、ここに〜
ドーナッツ、ね。お菓子か。誰か、好きな人いるわね、いない?
だってでてるんだもの、ここに〜
くつした、ひらがなで書いたわね、どうして?わかんない?自分嫌い?
積極的になりたいと思ってるわね、もっと。思ってない?
だってでてるんだもの 、ここに〜
こんなのずるいって? 
 いいじゃないよ〜、お遊びなんだから、  
         
 次 「まさ」「戸」「つばめ」へんなかんぐりすんじゃないわよ〜

513名無し物書き@推敲中?:04/10/03 22:18:00
秘書が入ってきた。何よ、何のよう?
あの、人様の、性格を、揣摩臆測するのは、礼を失することになるのではないかと。
なあにいってんのよう、遊びじゃないよう、どこがわるいのよう。
あなたあたしに、まさ、か、忠告しようっての?
十年早いわよ。そこにお座り。早く!戸をおしめ。鞭を取り出した。
尻を小田氏!
秘書は尻を出した。あっちをお向き!ピシッツ、ピシッツ、尻にむちがふりおろされた。
お前は一生天中殺だ!自分できめんのかよ、目の裏に火花が飛び、
ツバメがよぎってとんだ。わけわかんね。

「クラブ」「ボケ」「即死」
 論理なんてすっ飛ばしてアホみたいに笑い、右手に握ったコロナこぼしながら踊るけど、
すっ飛んだりこぼれたりしないものは必ずある。渋谷で変なカッコしたりクラブで遊んだ
り援交したりなんて、90年代の女子高生がやってやりつくして飽きて捨てたものばかりじゃ
ないか。わかってるんだけど、マスコミにすら見捨てられた私たちにはこんなものしか残っ
てない。私たちはそういうものたちに誰かが名付けたところの愚か
な感傷、繊細な心情を信じたふりをして、なんとか生き延びようとするけれど、結局そん
なのって単に今を生き延びてるだけであって、生きてるわけでは決してない。
苛烈すぎる何か、触れただけで即死するような何かを夢見るのなんてまったく百年早い、
とは思うけど、私たちはどうしようもなく、あらゆる意味で、十代
の、浅い女でしかなかった。
 
「光」「気温」「チョーク」
515名無し物書き@推敲中?:04/10/04 01:27:15
船長が機関室に入ってきた。計器から出る光を横顔に受けている。
機関士が怪訝そうに窺う。船長はゆっくりと口を開いた。
「暑すぎると思わんか」

たしかに、ここ数日の気温は高い。
機関室はいつも高温ではあったが、外に出たときのひんやりとした空気を感じることに
機関士はささやかな喜びを感じていた。

「異常気象でしょうか」
「そんなことはない。甲板は涼しい。暑いのは船室だけだ」

二人は沈黙して壁を見ていた。原因はもう想像がついていた。
壁にはある呪文がチョークで書かれていた。それは魔女が書いたものだった。
二人は彼女にひどいことをしたため、呪いをかけられたのだ。


「山羊」「幼虫」「監視」
516名無し物書き@推敲中?:04/10/05 07:53:12
ハイジがおじいさんの監視のもと、山羊のユキちゃんの世話をしてました。
一生懸命にハイジがブラッシングをしていると、ユキちゃんの肛門から白い糸がでてます。
「ねえ、おじいさん、これなに?」とハイジが訊きました。
「ハイジや、それはまだ幼虫じゃ、もどしておやり」
ハイジは素直に、その幼虫をユキちゃんの肛門にねじ込んだとさ。
517名無し物書き@推敲中?:04/10/05 17:02:14
お題
「運動会」「ざるそば」「遺跡発掘」
518罧原堤 ◆mm/T2n8mWo :04/10/05 17:16:43
京都大学の発掘チームが小学校の校庭にあらわれると、僕は身の危険もかえりみず立ちはだかった。
「やめろ! ここはもうすぐ運動会をしなければならないのだ!」
僕は発掘団に向かって叫んだ。
「どけ! 遺跡調査は国の威信をかけた国家プロジェクトなのだ。お前のような浅い考えでは韓国の歴史捏造に歯止めがきかん」
子供たちは悲しそうな目をして僕を見ている。僕は子供たちの気をひこうと、
「子供たちが運動会のためにどれほどの練習をしたか! どれだけ汗を流し、どれだけひざ小僧をすりむいたか!」
「そんなことは関係ない。捏造するな」
「捏造だと! このカメラに全て収まっているわ!」
僕はカメラを高々と掲げた。その瞬間しまったと思った。
「何? お前、写真を撮っていたのか? 君たちこのおじさんは写真を撮っていたのかい?」
学級委員長らしい少年が前に進み出た。
「はい。いやらしい眼で、女子生徒ばかりを撮っていました」
「ほんとうかい?」
「はい。先生に何度注意されても、遠くから」
女子生徒が泣き出した。
「それだけじゃないんです。私トイレに連れ込まれて」女子生徒が泣き崩れた。
「お前、ネガをよこせ!」
「遺跡発掘など、遺跡発掘など、それが人間の欲望にとって何だ! ロリコンの何が悪い! ええ?」

僕はその日の昼、取調室でざるそばを食べていた。
519罧原堤 ◆mm/T2n8mWo :04/10/05 17:18:09
NEXTお題「内容」「途中」「放棄」
520名無し物書き@推敲中?:04/10/05 17:21:02
「私の運動会より遺跡発掘が大事なのね」
今年八歳になる娘は、旅立つ私にそんな愚痴をこぼしていた。
旅客機は順調に雲海の上空を滑っていく。窓にもたれて絶景を見ながらも、私の心は雲って晴れなかった。
「教授、元気ないですよ。またお腹でも空かせてるんですか」
通路側の席に座るゼミ生が、おしぼりで顔を拭いている。
「腹ごしらえしましょうよ。もっとも先生の好物……ざるそばはないでしょうがね」
彼は私の返事も待たず、年配のスチュワーデスへ手を振った。

次は「醤油」「河童」「万里の長城」
521名無し物書き@推敲中?:04/10/05 17:49:19
「万里の長城って固有名詞じゃないのかしら」と女が言った。
「まあ、そうなんだけど、一万里はあろうかという長い城だと考えてみてはどうだろう」とぼくは言った。
彼女はすこし考えてから、小皿に醤油を足した。そして10個めのシュウマイを頬張る。
「工事に携わった人たちも、シュウマイを食べたのかしらね」
「そうかもしれない」

「城がにょろにょろと伸びていったのね」と彼女は言ってお茶をすする。
「いや、バラバラに作ってから後で繋いだらしいよ」とカフカの小説を思い出して説明する。
「つなぎ目が合わないなんてことはなかったのかしら」
「いや、さすがに、優秀な技師が集められただろうから、そういうことはないだろうけどね」
「でも、河童の川流れってこともあるかもしれない」と彼女は言って11個めのシュウマイを頬張った。


「雨」「ワイン」「苦悩」
522名無し物書き@推敲中?:04/10/05 19:00:35
僕が彼女の元へ向かう時刻になっても、陰気な雨はやむどころか、ますます勢いを増していた。
愛車を走らせ、駅の路肩に乗り付ける。こんな視界の悪さでも、長年連れ添ってきた妻はすぐにこちらを見つけた。
傘の下で太陽のような笑顔を輝かせ、スキップするみたいに駆けてくる。開いたドアから助手席へと落ち着いた。
「あなた、今日で八年目ね」

八回目の結婚記念日は例年通り、勝手知ったる馴染みのレストランで祝う手はずだった。
僕らは店内に入ると、美人の受付嬢に案内され、予約しておいたテーブルに辿り着いた。
白いテーブルクロスには滅多に飲めない、年代物のワインが鎮座している。
「乾杯しましょう」
妻は弾む心を表情に描き、いそいそと席についた。
室内に雨は降っていない。様々な客が自分の卓でご馳走に舌鼓をうっている。気品のある笑い声が絶え間なく響いていた。
彼らには聞こえないのだ。
僕の胸に叩きつけられる、苦悩の豪雨の雨音が。
僕は木椅子につくなり言った。
「祝うのは今日が最後だ」
523名無し物書き@推敲中?:04/10/05 19:02:32
お題は「ウルトラ」「日曜大工」「鏡台」
524名無し物書き@推敲中?:04/10/07 02:29:11
朝起きたら父が鏡台を修理していた。
なぜだか僕は父に声をかけることができず、窓から父を見ていた。
ガチャン、ガチャン……
割れた鏡をさらに叩いて残ったガラスを落としてゆく。

「っ……」
日曜大工もやったことのない父だからすぐに手を切ってう。
鏡の破片には父の血が赤く映ってる。
普段ならばあの鏡に映っているのは母の口紅の赤だと思った。
鏡越しに僕を見つめて微笑む母。
その時に初めて気がついた。

母がいない。

あの日僕にウルトラマンの人形をくれた母。
僕はその人形を握り締めて寝た。
夜中に一度母の叫び声で目が覚めたが、泣き出した僕だったが母に
「おとなしく寝てないと人形捨てるわよ」
と言われたので僕は黙ってウルトラマンと一緒布団にもぐりこんだ。

母はどこへ行ったのだろう。
僕はウルトラマンと引き換えに永遠に母を失ってしまった。
そのことに気づいたのはずっと後のことだった。

NEXT 「コースター」「ひよこ」「独和辞典」
525名無し物書き@推敲中?:04/10/08 14:23:14
机の上でひよこがコースターに溜まった水をついばんでいた。
やることも、やるべきことも差し当たって見当たらなかった僕はその様を暫く眺めていた。
尚も執拗にひよこは規則正しい周期でコースターをついばんでいた。
何か規則正しい仕草が無機質な動作に思えて来たとき、思い違いをしていた事を気が付いた。
ひよこは水を吸っているのでは無く、
コースターに描かれたHardRockCafeのRの文字に対して攻撃を仕掛けていただけだった。
一向に形を崩さないRの文字に対してひよこは、彼なりの本能を燃やしていたらしい。
急に馬鹿馬鹿しくなった僕は独和辞典を引き出しから取り出すと、
HardRockCafeのコースターの上に置いた。液体が飛び散った。
ひよこは何事も無かったように独和辞典の上に載って、こんどは金色の辞典の典の字に向かって攻撃を仕掛けている。
僕はやるべき事を思い出して、独和辞典の上にコーヒーを少し垂らして、台所へ向かった。
ボウルに入れた野菜をかき混ぜながら、今ごろひよこは見当たらない典の字を探すのを諦めているのだろうか、
それとも典の字の金箔を剥がして満足しているのだろうかと考えたが、すぐに忘れた。



NEXT 「ゴミ袋」「お祝い」「効果」
526罧原堤 ◆mm/T2n8mWo :04/10/09 10:20:04
「ゴミ袋」「お祝い」「効果」
1/3
俺は卵を割って、ごはんにかけた。納豆をおかずにして食っていると、蛾がご飯の中に入って、卵の粘着力で身動きが取れないらしく、
羽をむなしくパタつかせている。俺はかまわず飯を食い続けた。蛾の羽色は青がベースでそれに目玉模様が七色に輝いている。
「あなた蛾が入っていますよ」妻が青ざめて言った。
「いいんだ。もうどうでもいいんだ」
俺がそう言うと、彼女はそれ以上何も言わなかった。ただ彼女の体毛が風に揺れていた。
「金を出さずば火をつける」と言ってからもう三年の月日が立とうとしていた。
俺はきららメール大賞に二枚ほどの小説を書いて送っていた。題はETエピソード2で、内容は大きくなって帰ってきたETが捕縛され、
見世物小屋で死ぬまでを克明に描き出した力作だった。
俺は何度も携帯電話の着信履歴を確認したが未読メッセージは一件もなかった。
無心で携帯をいじくっている俺を妻が不審に思ったのだろうか、
「あなたゴミがあったら全部ゴミ袋の中に入れといてください」と言ったが、妻の本心は俺が狂っているかを確かめたかったに違いない。
「エロサイト見てると思ったのか? 残念だがそれはない」
俺は自室に引き上げた。もう一週間たつのか、そういえば先週のゴミの日も俺はこうやって携帯着信を調べていたっけ。
メール大賞はもう発表されていて、受賞はありえなかったが、俺はサプライズを期待して、携帯を肌身離さず持っていた。
だがいくら見ても着信無し。ずっと不安な思いで床の中で、その日の晩も羊を数えていた。
527罧原堤 ◆mm/T2n8mWo :04/10/09 10:32:05
2/3
蛾は思っていた通り苦かったが、虫歯で穴の開いていた歯に蛾の腹部が詰まっていたらしく、
ぷちっと潰れるとなんとも言えず顔をしかめさせるじごが口の中いっぱいに広がっていった。
俺はにがうりもコーヒーもビールも苦いものは何でも好きだがこの味は好きになれなかった。
俺は布団からはね起き上がると、身支度もせず散歩に出かけた。
真昼の太陽がさんさんと輝いている。昼から寝るなんてとんでもないとでも言いたげだった。
俺が土手を歩いていると、ビニール袋に包まれた宝くじの束が落ちていた。買った人が落としていったのだろうか。
たしか発表は今日だと思いながら俺は宝くじを家に持ち帰った。案の定今日の新聞に当選番号が載っていた。俺は一枚一枚確認していくと、一億円当たっていることがわかった。
「あたった……一億円当たった……」俺は誰もいないことを確認して一人自室のダッチワイフの股下でつぶやいた。
俺は妻には内緒で離婚届を役所から取り寄せると、さっそく妻に離婚話を切り出した。
「俺みたいな奴といてもしかたなだろう。もう君を束縛しようとは思わないよ。君はもっと自由に生きるべきだよ」
俺がそういうと妻は当然のことにうろたえていたが、やがて喜びを全身で表すように活発になり、
「そうね。それがお互いにとっていいでしょうね」そう言い、部屋を綺麗にしてあげると掃除を始めた。
528名無し物書き@推敲中?:04/10/09 10:33:20
途中まではグー、
だけど、締めが甘い。
529名無し物書き@推敲中?:04/10/09 10:35:44
展開が急すぎて、読者は呆れて付いていくのが嫌になる。
530罧原堤 ◆mm/T2n8mWo :04/10/09 10:57:43
3/3
たぶん俺の部屋が盗聴されていたのだろう。競艇友達が急に訪ねてきて、
「俺いちかバチかで宝くじに全財産つぎ込んだんだけど、どっか落としちゃってねえ、情けねえ。八万貸してくれないか?」
そう言い、土下座した。
経緯を聞き俺は金をかさざるを得なかった。彼もその効果を期待して言ったのだろう。全部知っているのだ。
「お前がシャバに出てきたお祝いだ。とっとけ」俺は十万くれてやった。
「ありがとう、絶対返すからな」

次、「堂」「デモ」「E」
531名無し物書き@推敲中?:04/10/09 10:58:40
投稿することが主目的のようだから、読者のことは二の次なのだろう。
532禁!治産者:04/10/09 13:40:07
 IDカードを通すと、研究室の自動ドアが開いた。
 こんなに必要なのかと思わせるほど明るい照明に顔をしかめる。
 ガラス容器やらチューブやらが並ぶでかい机の向こう側に、小さな背中を見つけた。Eだ。
 本名は知らない。ここでは皆、偽名を使っている。
「E、次の仕事は来週だ。そろそろデモくらい見せてもらわないと安心できない」
 彼は青く輝く液体から目を離さないまま、返事してきた。
「デモ? サンプルのことかね? それならそれに入っているよ。走らせてみたまえ」
 Eの指差す先には金色に輝くCDロムがあった。
「これか? コンピュータを借りるぞ」
 返事を待たず、俺はCDロムをコンピュータに押し込んだ。
 画面が暗転し、それから中央部に光点が現れた。
 点はすべるように移動し曲線となり、曲線は回転して奥行きを持った。合成たんぱく質のモ
デルだ。絡まった釣り糸のような姿をしている。
「……最近釣りに行ってないな。E、来月あたりどうだ?」
 回転するモデルを眺めながら言う。
533禁!治産者:04/10/09 13:40:43
「おまえさんがまだ生きてたらな」
 Eがにやっと笑った。
「ふん、あんたが老衰で死ぬほうが早いと思うがな」
「ほっほ。坊やも言うようになったな」
「で? こいつはどんなもんなんだ」
 俺は話をもどした。
「リシンと同等かそれ以上、といったところか。解毒剤はなく、対症療法しかない。危険度はE
プラスだろう」
「なるほど。熱や酸素に対しては?」
「非常に安定だよ。普通に持ち歩いていい。扱いやすさでは殿堂入りしてもいいくらいだね」
「わかった。悪かったな、押しかけて。完成品を待ってるよ」
 Eがよせよせ、と手を振る。
「そういう慎重さが生き延びる秘訣だよ。……釣りの予定、空けておくから」
 今度の任務は難度Eだ。
「……車はあんたが出してくれよ、E」
「なら、ビールはお前さんの担当だな。楽しみにしているよ、W」
 苦笑した。Eにはかなわない。
「オーケィだ。約束は守る」 
 俺は軽い足取りで研究室を出た。

お次「転換」「青」「阿呆」
534名無し物書き@推敲中?:04/10/09 14:03:20
「阿呆?」とパソコンのディスプレイを見ていた山田がつぶやいた。
隣にいた川村が山田のパソコンを覗き込む。そこには画面いっぱいに阿呆と書かれていた。
「なんだよこれ」と川村は言った。そうやって山田に質問するのは毎日のことだった。
山田は会社の中では変人として知られていた。
山田はディスプレーを見ながら小さく首を振り、マウスをクリックした。
文字が消えて、ただ青い画面になった。

川村は、山田のことを気にするのは今日で最後だと思った。
明日の配置転換で山田は別の部署に行くことになっている。


「仔牛」「肺臓」「レール」
535名無し物書き@推敲中?:04/10/09 17:11:03
仔牛が豚のような目で私たちを見ていた。
レールの上からホームの上の青ざめる家族に向かって笑いかけた父の眼によく似ていた。
「あの仔牛を買い取らない?」僕がそう言うと、母はニコリと笑うだけだった。
「きっとあの仔牛の肺臓はお父さんのよりも丈夫だと思うよ。」
そう言っても母は相変わらず微笑を続けるだけだった。
妹が母の腕の中で泣き喚き、母は腕を揺らして彼女をあやし始めた。
僕は草を千切って仔牛に投げつけた。仔牛は地面に落ちた草をちらりと眺めた。
唾を仔牛に吐きかけた。仔牛は僕を眺めた。
母は仔牛を眺めていた。僕は母を眺めていた。妹は泣き喚いていた。
こういう日に限って雨は降ってくれない。
だから僕が此処を離れる理由を探さなければならなかったが、何も思いつかなかった。


NEXT 「キッチュ」「明日」「末尾」
536名無し物書き@推敲中?:04/10/09 22:45:35
「・・・キッチュが食べたい」
某同人エロゲの格闘ゲームで対戦しながら、私はそう呟いた。
「えーと、キッシュのこと?」
必殺技を華麗にコンボを決めながらツッコまれる。ぐわっ、言い間違えてた! 恥ずかしい!
「そう、それ」
平静を装いつつ、照れ隠しに必殺技を決める。向こうのゲージは残り少なかったので
これでこちらの勝利となった。
「あー、また負けたぁ。今度こそ勝てると思ったんだけどなー」
脱力して、椅子にもたれ掛かって心底悔しがってるみたいだ。全くたかがゲームごときで。
「ねぇ、明日キッシュがあるお店行ってみようよ」
勝者の優越感に浸りつつ、私は休日となる明日の相談を持ちかける。

――翌日
「お客様のお名前は?」
「末尾です」
「マツオ様ですね。では、順番が来ましたらお呼びしますので、お掛けになってお待ち下さい」
受け付けを済ませ、言われるままに長いソファーに腰掛ける。とりあえず、今日のオススメに目をやる。
ふむ、サンマがオススメなのか。
結局、私達は回転寿司に来ていた。

「もち」、「鉄アレイ」、「カレーライス」
537名無し物書き@推敲中?:04/10/10 11:21:35
私は社内であまり筋肉質だとは言われないが、全くそんなことはない。
毎日家に帰ると、私の部屋にある鏡を見つめながら、鉄アレイを持ち上げ、
鏡に向かってアピールしてみる。それからとにかく筋トレと名のつくものなら何でもやり通し、
その日の汗が全部流れるまで鍛え続ける。
夕食はもちろん激辛のカレーライスがいい。私の体から、余分なものを全て抜き去ってくれるのだ。
そして水を十分飲んで、食後の、といっても少し時間を置いてだが、ランニングに出かけるのだ。
私は疲れ切って一日を終え、眠りに入る。
明日もきっと、私の成果は社員達に認められる事はないだろう。
私のこの凝縮された筋肉は、サラリーマンスーツに隠されてしまうのだから。

「登山」「川」「車庫」
538名無し物書き@推敲中?:04/10/10 14:27:00
「ねえねえお父さん、今度の日曜に富士山に連れてってよ」
 仕事から帰り車庫の前で一服していると、小学五年生の息子が来てこんな事を
言ってきた。
「おいおい、勘弁してくれよ。日曜はゆっくりお馬さんレースを見にいくって
決めてんだから。だいたい、なんで富士山なんか登りたいんだよ。あんなの遠
くから眺めてるのが一番。登ったって寒いだけだって」
「へへっ、最近どうも高いものを見ていると登りたくなっちゃうんだ」
それを聞いて思わずため息が出た。
「・・・・・・まあ、馬鹿と煙は高いところが好きって言うからな」
 息子の一学期の成績表は酷いものだった。イチ、ニ、イチ、ニの大行進である。
しかも、隠しているつもりらしいが、隠し場所の前に「ドクロマーク」の
張り紙が貼ってあった。どうやら我が子は本格的にゾーンに足を踏み入れてい
るようだ。
「ふんっ、だ。賢いお父さまは安いところがお好きってね。この間廊下に
 西川口あたりのいやらしいお店の割引券が落ちてたよ」
「うへっ、マジでっ? 母さんに見せてないだろうな」
「そのへんは抜かりないよ、絶対見つからないところに隠してあるから心配し
ないでよ」
「よし、わかった。家庭崩壊の危機を救った息子の恩には報いねばなるまい。
 今度の日曜には富士山に連れてってやろう」
「やったー」
539名無し物書き@推敲中?:04/10/10 14:27:26
そして、日曜になり息子を連れて富士山に行った。空は晴れわたり登山日和で
ある。すがすがしい空気に包まれながら、えっちらおっちら登っていった。
そして、山頂に着いた。
じつにいい眺めである。
「おお、見ろ息子よ。雲が下にあるぞ」
「本当だ。すげー」
 そして、私たちは気分良く家に帰ってきた。すると、どうも家がピリピリして
いる。夕食のしたくをしていたらしい妻が玄関を開けた。
「おい、母さん。帰ったぞ」
「・・・・・・ええ」
 妻は私をチラッと見ただけで、すぐ台所に戻っていった。その様子になにかた
だならぬ雰囲気を感じた。
「母さんなんか機嫌悪いね。生理かな?」
「まったく、このガキは・・・・・・ところでお前こないだの割引券は大丈夫なんだ
ろうな?」
「うん。ここは絶対わかんないってところに隠してあるから」
「いや、返せ。俺がちゃんと処分しよう」
 そして、息子の部屋へ割引券を回収しに行った。息子は本棚の一冊の本を開け
た。が・・・・・・
「あ、ない!」
私は頭を抱えた。
「お前・・・・・・この張り紙は何なの?」
 その本の背表紙には小さな雑誌の切り抜きが貼ってあった。たわわな乳房を惜
しげもなく晒した美女のグラビアである。どうせ、私の買った『フラッシュ』
あたりの切り抜きだろう。
「目印だよ。何処に隠したか忘れないようにね」

次は「電気スタンド」「醤油」「ホッチキス」
5401/2:04/10/10 21:36:30
 ああもういつになったら終わるのよ。
 明日のイベントに合わせた同人誌。会社帰り、知り合いに見つからないような遠くのコンビニにわざわざ寄って、
大量のコピーをとってきた。途中で紙切れを起こして、店員さんに補充してもらったりして、恥ずかしいったらなかった。
ヴァンテーヌで研究して、丸井で揃えた、いまどきのOLっぽい通勤服に、自分でもうっとりするような巻き髪。原稿描きで
どんなに徹夜したって必死で巻いていくというのに、その髪を振り乱して同人誌のコピーだなんて。誰かに見られたら生きていけない。
 会社でも一度に扱ったことのないくらいたくさんの紙を抱えて帰宅して、ページの順番に重ねて、あとはホチキス留めをするだけだというのに。  
 何しろあたしは神経質だ。止めた拍子に紙がちょっとでもずれてしまうと、背中がむずむずしていられない。針を丁寧に
取り除き、慎重に重ねなおし、再び全神経を集中してバチリと一押し。あっ、なによこれ、針がつぶれてるじゃないの! 紙が厚すぎるんだよ、もう。
今度もっと大きいホチキスを買いなおさなくちゃ。
 大体、こんな薄暗い電気スタンドで作業してるのが悪いんだ。光熱費をケチってる場合じゃないよ。明日本が売れれば万事解決なわけだし。
 あたしは立ち上がって、部屋の電気をつけた。ようやく明るくなって、作業はさくさくと進む。
 テレビで見た内職の現場みたいに、出来上がった本が机や床に山のように積まれていく。
5412/2:04/10/10 21:37:03
 親の仇を討つような形相でパチリパチリと手を動かし続け、単純作業に思考回路がストップしてしまった頃、
製本作業はやっと終わった。時計はすでに夜中の3時を回っていた。
 やっぱりもっと早く原稿あげて、オフセットにすれば良かったんだなあ。時間も手間も何もかも
無駄にした気分。
 でもまあいっか。これでやっと遅い夕飯が食べられる。
 あたしはコピーのついでにコンビニで買っておいた、納豆巻きとカップ入りの味噌汁を取り出した。
キッチンで味噌汁にお湯を注ぎ、おすしのパックの蓋をあけ、そこへお魚型の容器に入ったお醤油を注いで……
と思ったら、あれ? 出ない。もうこれ以上イライラさせないで、早くリラックスさせてよ!
 醤油の容器を思いっきり押す。
 ぴぴぴぴぴー! 思いっきり押された容器から、お醤油は思いっきり飛んで―-。
 あたしの大事な大事な新刊本に思いっきりかかってしまった。
「あああああっ!」
 あわててチェックする。もちろん全部が全部汚れてるわけじゃないけど、とにかくあたしは
神経質なわけで……一滴でもシミが見つかれば、売るわけにはいかないのよ、そうなのよ。
あたしって、ほんと、あたしって……。
 とにかく部屋の電気を消して、光熱費を節約して、それから電気スタンドでシミのチェックを……
チェックを……。


次は「巻尺」「年上の夫」「きのこ」でお願いします。
542名無し物書き@推敲中?:04/10/10 22:30:57
 一度皿に上った料理には調味料を使わない。素材の味を楽しみたいからと
古風なことを言いながら、彼女は手間のかかるメニューを好んで選ぶ。
 彼女は家を飛び出してがむしゃらに働いていた。口では毛嫌いしていた
一人暮らしのアパートには最低限のものしか置かれていない。唯一部屋を飾っていた
電気スタンドと写真、あれは今もそこにあるのだろうか。
 たった二枚の書類だった。一枚目に説明書き、二枚目には走り書きのサイン。
間が抜けたほど丁寧に右上をホッチキスで留めたその書類は、一つの命と
一人の女性の寄る辺を無かったことにしてしまう通達だった。
 春巻きが運ばれて来た。
 いつも通り、形だけ醤油皿を差し出す。彼女はいつも通りに微笑んで首を振る。
 言葉もなく料理を味わう彼女から何も聞き出す気にはなれなかった。少し形の崩れた
春巻きに箸をのばし、そのまま口に運んでみた。

書いてしまったので投稿。次は>>541で。
543うはう ◆8eErA24CiY :04/10/12 02:57:27
「巻尺」「年上の夫」「きのこ」

 きのこの毒にあたり、何百年もの眠りについた王女。
 旅の王子の接吻で目覚め、気付いた時はもう手遅れだった。
 父と娘ほどに年が離れた王子…姫は言った。
 「やはり男は若い方がいいのです、こんな年上の夫はいやです」と。

 「ううむしかし…」王子は悩んだ。
 「年なら、貴女の方が280歳ほど上の計算になるが」「そんなっ」
 王女が身を起こすと、絹の下着に溜まった何百年分の糞尿がベッドに落ちる。
 体中を這い回る蛆虫と、気の遠くなる様な臭気!
 「この惨状ゆえ、何百年も誰一人、ここに踏み込まなかったのです」

 王子の言葉を聞き、彼女も納得するしかなかった。
 巻尺で計ると、長年の基礎代謝でウエストもかなりスリムになっている。
 「何百年も…でもいいわ、私のお城まで連れてって下さる?」

 王子は優しかった。
 一王家が何百年も続く事など稀だ、とは言えなかった。
 王家はとおの昔に崩壊し、既に彼女は「眠り姫」と言る存在ではない事を。

※王子の趣味が
次のお題は:「徹夜」「下着」「アルプス」でお願いしまふ。
544名無し物書き@推敲中?:04/10/12 03:47:56
「さすがにアルプスって固有名詞としか言いようがないでしょう」と女が言った。
その顔は勝ち誇っていた。近くを通ったウェイターにシュウマイを注文した。
「アルプスのようなものという意味で使われることもあるよ」と男が言った。
すこし表情にこわばりがある。「たとえば、野球場の観客席とか」
「そういえば、日本のどこかの自治体にそういう名前が付いてるわね」
「うん、だからかなり普通名詞的といっていいんじゃないかな」
「まあ、いいわ」と女が言って、ビールの残りを飲み干した。

男は下着が汗で濡れているのを感じた。この女に詰問されるといつも
汗をかいた。この後もいろいろなことを言われるだろう。
徹夜明けの頭でどれだけ対応できるか不安を感じていた。

「撞球」「盗賊」「白人」
545禁!治産者:04/10/12 14:15:26
「お前ね、しきりたがりは嫌われるぜ?」
 青い的玉、2番を見ながら言った。やや遠い。ネクストをとるのが難しい位置だ。
 友人は納得がいかないように、色素の薄い髪をいじくっている。
「でもさ、日本人なら撞球というべきじゃないか?」
「ビリヤードでいいんだよ。ほれ、俺のショットだからちょっと黙ってろ」
 軽くストロークをして、手玉の下に狙いをつける。
 視線を的玉へ送り、やや強めにショット。
 緑のラシャの上を、白い手玉の残像が走る。
 青い的玉にヒット。Yの字に分裂する白と青の残像。青い残像はそのままポケット
に吸い込まれ、カコン、と音がした。
 白い残像は逆回転……いやドロー回転によって、弧を描きながら手元に帰ってくる。
 俺は満足した。次の的玉への狙い、ネクストが取れた。ここからなら紫色、4番のとこ
ろに運ぶのもイージーだ。俺はとりあえず次の的玉、赤い3番を狙う。
「……でもさ、君は英語使いすぎだよ」
「うるせえな。もともと西洋の遊びなんだから英語でいいんだよ。おまえこそ日本語にこ
だわりすぎだぜ、ハーフのくせに……っと、ネクストがちとずれたぜ。お前のせいだ」
 しゃべりながら衝いた俺が悪いのだが、キューをぴっ、と友人に突きつける。青みがか
った瞳がキュー先を見つめた。
「ごめん」
「……冗談だよ。余裕だぜ、この程度のリカバリ」
「修正、でいいんじゃないかなぁ」
「黙れよ。しきりたがりは嫌われるぜ?」
546禁!治産者:04/10/12 14:21:29
「昔、白人の盗賊に入られてさ……」
 俺は思わずミスキューをした。
 ぺし、と間抜けな音がして、手玉があらぬ方向へ走る。
「はぁ? なんだって?」
「白人の盗賊。太ってて、ひげもじゃで、バット持ってた」
「泥棒、でいいんじゃねえの?」
 友人が華奢なつくりの顔を左右に振った。
「あの雰囲気は盗賊って言わないと伝わらないよ……とにかく、その盗賊が
ものすごく酷い英語で僕を罵ったんだ……怖かった」
 俺は友人の横に座って、グレープフルーツジュースをひと口飲んだ。
「……まさかそれで英語嫌いに?」
「うん……どうかなぁ。でも英語を聞くと嫌な気分になるのは確かなんだ」
「俺の英語も嫌か」
「……ほかの人よりは」
「そうか。そりゃグッドだ」
「よかった、でいいんじゃないかなぁ」
 俺はにやりと笑った。
「仕切るなよ。俺は自由にやるのが好きなんだ」
547禁!治産者:04/10/12 14:22:52
おっと。次は「大根役者」「畑」「順番待ち」
548名無し物書き@推敲中?:04/10/12 18:25:41
480KB超えてるね
549名無し物書き@推敲中?:04/10/12 19:21:10
超えたらどうするの?
550名無し物書き@推敲中?:04/10/13 23:53:45
超えたら落ちるから新スレを立てなくちゃいけないんだよ
551名無し物書き@推敲中?:04/10/14 00:19:48
どうして立たないの?
552名無し物書き@推敲中?:04/10/14 01:25:33
>>549-551
なんか童話みたいな会話だなw
ちょっとスレ立て挑戦してきます。
553552:04/10/14 01:30:48
ダメでしたorz
554うはう ◆8eErA24CiY :04/10/14 03:08:36
「大根役者」「畑」「順番待ち」

 それは、記憶を失った 若者が、恋人と再会する海外産のTV番組だった。
 極度に説明臭いセリフと、心がこもらない異様に判りやすい演技…
 「脚本が学芸会」「なんたる大根役者」「自分で説明してから泣く演技に唖然」
 苦笑を誘いながらも、その海外ドラマは多くの日本人ファンを集めた。
 不思議なことに、なぜか日本ではウケるのだ。

 そして、その監督と脚本家は、人目を避けた裏通りの表札の無いドアを叩く。
 「…私だ」「へい、旦那。新しいネタが入りましたぜ」
 ドアを開けると、もうそこには何十人もの先客が順番待ちをしていた。
 彼等の目は一様に、テレビのビデオ映像に注がれていた。

 「どけっ」と言いたくても言えない。客の誰もがTV畑の有名人揃いなのだ。
 「今日のネタは、某機長と某スチュワーデスの恋愛ものでして、へい」
 皆が注視するTVには、大根役者が爆笑寸前の棒読みを披露している。
 「ああ、心が癒される。そういえば先週の白血病のピアニストの話も最高だったな。」
 これが二人の創作の原点だった。親の目を盗んで少年の頃から隠れて見た番組だ。
 長年の間、政府に視聴を禁じられた日本のTVドラマ、それも何十年も前の…

※あの番組、ツアーまであるなんて;
次のお題は:「湖畔」「小舟」「tガイムマシン」でお願いしまふ。
555554:04/10/14 03:15:26
失礼しました、お題が化けてます。
「湖畔」「小舟」「タイムマシン」…でした;
556「湖畔」「小舟」「タイムマシン」:04/10/14 04:21:58
タイムマシンでやってきたドラエモンは、湖畔の小船の上に出てしまって、叩き落されましたとさ。

「猿」「マン毛」「お釈迦様」
ファイル63『猿の迷宮殺人事件』を読み返していただきたい。
この事件簿は途中何度も取材で休載になったせいか、実によくできている。
腋毛をマン毛に見せかけるというのは実に秀逸なトリックだった。
ただ、疑問な点がないわけではない。
「金剛力士像をお釈迦様と呼んだ」という些細なミスで犯人は捕まってしまうのだが、
あの写真はどう見てもお釈迦様の像である。歴史の教科書にも博物館にもそう書いてある。
なのに、なぜか犯人以外の登場人物は揃ってあれを金剛力士像と信じて疑わないのだ…
現実におけるお釈迦様をあの世界では金剛力士と呼ぶ、と強弁されればそれまでだが。


「花月」「ミイラ」「夜叉」
558名無し物書き@推敲中?:04/10/14 21:15:09
乙>552
559名無し物書き@推敲中?:04/10/15 02:42:18
560名無し物書き@推敲中?:04/10/15 02:56:15
本スレなしで何の感想を書くんだよ。
561名無し物書き@推敲中?:04/10/15 13:24:02
感想スレたってるね。
浪花グランド花月は、若手漫才師の登竜門だ。
ダウンタウンもナインティナインも、かつてこの劇場の舞台を踏み、
この小さな劇場から、華やかな芸能界へと活躍の場を広げていった。
その伝統ある劇場の前に、今、2人の小柄なアラブ人が立っていた。
「ホンマにやるんでっか、アニキィ」
少し小太りの男が、痩せぎすの男の方に話しかけた。
「今さら何を言うとんねん、アラハト議長様の声明を、ワレも聞いたやろがい」
痩せぎすの男の目は、断固たる決意を秘め、ぎらぎらと夜叉のように燃えている。
「せやかて、アニキィ……」
道一杯に広がって歩いて来た、女子高生の集団に道の端に追いやられ、
小太りのアラブ人は気弱そうな顔であたりを見回した。
「ここは人が多すぎまっせ、アニキィ。もそっと、迷惑のかからんような場所で……」
「アホンダラ! 人が多いからこそ、ええんやないかい、ワレェ。
こいつら爆弾で皆殺しにしてこそ、チ、チラリズムの恐怖やないかい」
「それはテロリズムや!」
小柄なアラブ人が、交差した両手で、兄貴分のアラブ人の胸を強く押した時、
二人の耳に一人の小さな拍手の音が聞こえた。
いつからそこにいたのだろう、小学生ぐらいの女の子がきらきらした目で手を叩いている。
2人のアラブ人は、しばし少女に目をやり、次にお互いの顔を見つめ合った。
この2人が三年後、ザ・ミイラズとして芸能界を席巻することになるのだが、それはまた別の物語。

「ナイフ」「走」「それから」
563名無し物書き@推敲中?:04/10/15 21:50:01
埋まっちゃうよー
564名無し物書き@推敲中?:04/10/16 20:59:56
保守
565名無し物書き@推敲中?:04/10/17 07:44:28
age
566名無し物書き@推敲中?:04/10/17 13:37:25
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十八期
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1097964102/
567うはう ◆yXe.9PzC/I :04/10/17 17:58:03
「ナイフ」「走」「それから」

 男のナイフの冷たさが、ブラウスの上から伝わってきた。
 「今度ミサにくる枢機卿を殺せ、俺より女学生がやった方が波風緩やかでいい」
 「そんなっ、人殺しの走狗になる位なら、死んだほうがマシです!」
 「本当かな?」男は笑った。 「そのナイフは進呈する、よろしく頼むよ」

 どうしよう、少女は悩んだ。
 気合で言った嘘なのだ、死ぬ位なら殺すほうが僅差でマシだと思う。
 そうだ、殺す位なら殺させよう。下級生もたくさんいる、それがいいそれがいい。
 その夜…同じナイフが下級生の背中をつんつんと突付いた。
 「今度の講演者を殺すのよ!」

 下請け丸投げほど楽な事はない。伝え方が雑でも、とりあえず自分は楽になる。
 それからというもの、ナイフは幾人の手を経て任務は伝えられた。
 そして講演会当日、一人の新入生がナイフを持って一番後ろにいる。
 ミサが始まった。いつも居眠りしてるミサが始まった。
 彼女は、当惑していた。
 「枢機卿って…誰?」

※自分も知らない
次のお題は:「人生」「初体験」「リハーサル」でお願いします。
568567:04/10/17 17:58:59
あ、とりぷ間違えた、ごめん
569名無し物書き@推敲中?:04/10/17 18:08:00
>>8までがテンプレだな(笑)
570名無し物書き@推敲中?
「人生」「初体験」「リハーサル」
人生に置いて、この世の全ての事柄から自分が実際に体験できることなど
カップ一杯分のコーヒーに過ぎない。この世の中、私にとって知らないことだらけだ・・。
「砂糖はいくつだい?」
こんな状況でもM君は、落ち着いた口調で話しかけてきた。まったく動じないその様が
慌てふためいて、唇をふるわしている自分をさらに惨めにし、少し腹が立ってきた。
「君にとっては、初体験だったね」
Mは、まるで喫茶店のテラスにでもいるように語る。
「心配ないよ!これはリハーサルだ・・・」
「リ、リハーサル?なんなのよ!これは。一体どういう事?」
その時、ディレクターの野太い声が、後ろの方から響いた。
「はい、本番行きマース!」

「カレーパン」「不倫」「ケチャダンス」