この三語で書け! 即興文ものスレ 第十六期

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……で、次のお題は?
573571:04/05/15 14:10
忘れてた。

「盆踊り」「泥」「お医者様」で。
574岸和田 ◆JNnFWYTu2A :04/05/16 17:24
「盆踊り」「泥」「お医者様」
 夜、電話が鳴った。僕は家電は基本的に出ない派なので、
コーラを飲みながらファッション雑誌をめくっていたのだが、十回鳴ったところで
仕方なく子機を取った。
「はい、もしもし。松田ですけどー」 僕はわざとだるそうな声を出した。
「あーお前?あのさぁ、いま祭りやってんだけどさ、来いよ」
同じクラスの金原だった。まぁ、それなり友達だ。
「いいけど?っつーかお前ケータイかけろや。アドか番号知ってんだろ?」
「盆踊りだけど、いいべ?盆踊りはいいぞ」 金原は無視して言った。
「お医者様のご子息ともあろう方が盆踊りやんないで下さーい」
 金原は少し笑うと、セキをしてから言った。
「まぁいいじゃん?なぁ来んべ?女子やたらいるぞ」
「妻子持ちっつーか彼女いるからいいでーす。うぜー、大体盆踊り行かねっつの!」
そして僕は電話を切り、あくびをすると泥のように眠った。

 「バイク」「あんた」「子供達」
 眩い稲光が俺のバイクに直撃したあの日から、俺は変わった。
今の俺は、正義を挫き悪を助けるダーティーヒーロー・雲隠。半分ヤケだ。
 バイクは高いのでそうそう買えない。かといって、働いて収入を得る気もしない。
なので、今日もチャリで通園途中の子供達の群れを襲おう。強襲だ。
 鈴をガチャゴチャ鳴らしまくってガキどもを追う。奴等の泣き叫ぶ声が心地いい。
悦に入っていると、首に衝撃。ラリアットを喰らった。頭から思い切り地面に叩きつけられ、
俺は意識を失った。誰だ、誰が俺にこのような狼藉を……。
 目を覚ますと、深い森の中にいた。目の前には、生まれてすぐに生き別れた母。
間違いない、写真で見たあの女。事故で死んだ親父が美人だったと言っていた――。
「○○――信じなさい、物事を綺麗な眼で見るのです」
「お…母さん、無理だ、俺はあの日からもう何も……何も信じたくない、られない」
「そう……つらかったのね。なら、そこまで無理は言いません。だけど、これだけは誓って。
次に目に映った人だけは信じて、信じて、信じ抜いて。約束ですよ――」
 目を覚ますと、青い空が目の前に広がった。そしてすぐに、女の顔が広がった。
「大丈夫!? でも、あんたが悪いのよ。子供達にいたずらしたりするから……」
 引率している保母か。この女を信じぬけというのか、母よ。
「……よろしく」
「はぁ?」
 とりあえず、信じてみよう。

「祖先」「振興」「乱戦」
「ここらへんで、おらたちが祖先から脈々と受け継いできたこの村の、振興を図らねばな
らねっぺ」
 松井田村長は、公民館でだしぬけにいった。牧歌的な田舎者たちが雁首揃えて不審な面
持ちになるのを睥睨すると、まるでモーゼにでもなったつもりであるかのように、ぷるぷ
ると震える拳を振り上げた。
「長谷部さんとこの倅がよお、上京したって言うでねぇの。若ぇやつはどいつもこいつも
東京、このまんまじゃあ、村の火葬はとまんねえでよ」
「村長さんよ、それを言うなら、火葬じゃなくて過疎だっぺ」
 石倉さんとこのおじいちゃんが、したり顔で指摘した。失笑があちこちから漏れる。
 それが気に障ったらしく、モーゼは自分の痴呆を棚に上げ、大声をはりあげた。
「そういうのをよ、揚げ足取りっていうんだべよ。そもそも棺桶に片足突っ込んでるって
意味じゃあ、村もおめぇさんも変わらねぇべさ」
「なんだとう! わしのどこを見て『棺桶に片足』と言っとるんじゃ、この耄碌爺めが」

 かくして、村の振興は成った。公民館での爺二人の乱戦を、見世物にしようという、米
屋の清吉爺さんのアイデアが大当たりしたのだ。自らリングに立ち、老人に夢と希望を与
えつづけた松井田村長はしかし、加速度的に発展する村を見届けることなく、永眠した。
享年八十九であった。妻のトメさんの証言では、自身がブームの火付け役となった爺格闘
技「爺−1」の第一回大会に参戦できないことを悔やみながらの最後であったらしい。


次は「スタンディングオベーション」「設計図」「交渉」でおながいします。
577名無し物書き@推敲中?:04/05/17 22:26
ダグラスがラリって自分の家を燃やしたので、仲間と共同で新しいのを建ててやることになった。
ダグラスはスタンディングオベーションをスタンディングマスターベーションだと思っていたほどの愚か者だ。
字も読めないし、一人ではレゴブロックの家すら組み立てられない。
そこで俺達が一肌脱いでやることになったのだ。
どんな家がいいかダグラスに絵を描かせて、それを元に設計図を組み立てた。
ダグラスは地上五十メートルの塔を作ってその上に住みたいということだった。
何とかと煙は高いところが好きだというのは本当らしい。
資材を集めるのは大変だった。強欲な材木屋と何日もかけて交渉したり、
街中のゴミ捨て場を全部回ってかき集めたり。
そして、一ヶ月ほどかかってダグラスの新しい家は完成した。
かかった費用はざっと100ドルといったところか。
思ったよりは安く済んだが、貧乏人揃いの俺達には大きな出費だった。
ダグラスは大喜びだった。乏しいボキャブラリーで懸命に感謝を表されて、
俺達の苦労も報われたと感じたものだった。
三日後、塔が倒れてダグラスは家の下敷きになって死んだ。
惜しい奴を亡くした。


「エサ」「失踪」「交換」
「フフフ。これでいい。」
朝刊の三行広告欄を見ながら、男は邪悪な笑みを浮かべた。
エサは撒いた。あとはかかるのを待つだけだ。
あの女が失踪したのが一週間前。本人は上手い事隠れたつもりだったんだろうが…。
鮮やかな手口の中で犯した唯一のミス。たった一つの些細なミスを命と交換する破目になるとは、想像もしなかったろう。
ゆっくりと新聞をデスクに置き、男は煙草に火をつけた。

「古城」「梟」「コーヒー」
 日が沈んでからテントを張って、コーヒー片手に星の輝きを眺めていると、急に大きな
羽音が聞こえてきた。驚く間もなく、眼前を梟が飛び過ぎる。いや、梟にしては大きい。
 過ぎる刹那、不気味に光る両の目とあの荘厳な顔立ちを見た。確かにイーグルオウルの
類である。しかし、体長は一メートルを全く超えていた。翼長もニメートルはあったろうか。
 一呼吸の間に焼き付けた像をどうにか分析すると、私はすぐにテントをたたんだ。もし、
あの大梟の縄張りに入って警戒されたのであるなら、怪我をしないうちに出なければ
ならない。
 目的地は近い。何でも少し前まで偏屈な老貴族が住んで、誰も寄せ付けなかった城なの
だそうだ。今では森の奥に廃墟があるだけだろうと、最後に泊まった宿の主がいっていた。
 空が明るくなってきて、いよいよ木の間から白い姿が見えてきた。貴族の去った五十年の
間、遠目にはどこも痛んだ様子はない。もっと近づこうと歩みを速めた時、あの梟が再び
私の目に映った。
 城門の近くに立つ木に止まって、私を射抜くように見ている。尚近づこうとすると、彼は
吠えるように鳴いた。近づくなとということだろうか。私はもう一度城を見た。
 どうやら新たな主を得たらしいこの古城は、もうしばらく誰も近づける気はないらしい。

次「計算」「ホルダー」「強力」
580名無し物書き@推敲中?:04/05/18 20:55
ひたすら樹海の奥へ進む。
ペットボトルには、もう水が残ってなかった。俺は、ドリンクホルダーごと
外して投げ捨てた。少しでも身軽になるためには、不要なものは処分し
なければならない。不要なもの・・・・それは俺自身でもあった。

少し進むとまた死体があった。これで3度目だった。
スーツ姿の男だろう、胸ポケットには計算機が放り込んであった。金融
関係の人間だろうか。俺はその計算機を取り上げ、電源を入れてみた。
すると、以前のタイピングメモリが残っていた。そこには
「505」
という数字が浮かんできた。俺はそれが「SOS」に見えてならなかった。
普段なら単なる数字としか見ないであろう。この状況にあってこういう
想像をするんだ、と俺は自分を嘲笑した。

死に場所を探さなきゃ。俺は強力な樹海の魔力にどんどん蝕まれて
いった。

next「立ちんぼう」「熱帯魚」「ショットガン」
581罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/05/18 22:17
ショットガンで熱帯魚を撃つ。そのとき俺の脳裏に思い浮かぶ立ちんぼうの姿。
熱帯魚を入れてる水槽がぶくぶくいっていた。泡を出す機械は今日も正常に作動している。水槽に入れるインテリアとして。
死んだネオンテトラから血が出て、その血は生きていた時のそいつの体より美しい。
俺の脳が異常になっているのが俺にも分って……
血で染まっていく水槽の水に俺の極彩色の薄ら笑いが浮かんで……

俺は何のために生まれてきたのだろうか?

またおれは着飾って立ちんぼうを買いに行く。そんな日常を繰り返して金も無くなってきてしまった。残っているのはお前らへの憎しみだけさ。
ショットガンでおれのこめかみを打ち抜く時が近づいて来ているのだろう。明日、午前五時くらいに。

ネクストお題「蛙」「上流社会」「ロンリネス」
「シンジ、遊んでいかない?」
バハマの茹だるような熱帯夜の中、一仕事終えて帰途につく俺に流暢な日本語で
声をかけてきたのは、見事に括れたウェストラインを持つ立ちんぼうだった。
持ち合わせがないことを告げると、彼女―リザ、と名乗った―は笑いながら腕を
絡ませてきた。俺が右肩に掛けたゴルフバッグには触れぬよう気を遣いながら。
「じゃあ今日はもう仕事終わりにするから、うちに来ない?」
いつもの俺なら軽くいなして立ち去るのだが、彼女が身にまとった麝香の香りに
惑わされたのか、或いは久しぶりの仕事を完遂して気が緩んだのか。気が付いた
時にはリザの部屋の小さなベッドの上で、狂ったように身体を重ねていた。
灯りは小さな水槽が投げかける青い光だけ。その夜は熱帯魚になった夢を見た。
暫くしてリザは仕事をやめた。俺たちは将来について語り合うようになっていた。
日本でシンジと暮らしたい。瞳を輝かせながら語るリザに、俺は微笑みで応えた。
――白いシーツ。流れるような黒髪。褐色の肢体。そして、飛び散る赤い血痕。
裏切りは許せない。リザがとっくに別れていた筈の情夫の死体を窓から投げ捨て、
リザの額に軽くキスをした。ショットガンをバッグにしまい、俺は部屋を出た。

お題は>>581の通り。
583鬱井 ◆YnRRG3sK2U :04/05/18 22:44
 孤独な金持ちと孤独な貧乏人では、後者の方が幸せだろう。
 庶民という集合に属する彼らは、仲間意識を共有する相手を
探す事は難しくない。
 俺はもう、十年も探している。
 本当の仲間を。十年もの間。なんて年月だ。
 カラフルに映えるセアカヤドクガエルが、ティファニーランプの
灯りを刎ね付けるようにシズル感に溢れた姿を見せ付けている。
 蛙はじっと俺を見ている。
 この日本で、こんなカラフルな姿でいる意味はない。
 無意味な価値を背負って、無趣味な金持ちの気まぐれで、こいつはここにいる。
「ロンリネス。外に出たいかい?」
 蛙は無表情なまま、俺を見ていた。
「俺の目が黒いうちは、そこから出れると思うなよ」
 バカラのグラスに乱暴に注いだウイスキーを飲み干して、葉巻の端をかじり取りながらそう言った。
 蛙はクルル、と鳴き声をあげた。
 煙の中でまどろみながら俺は、蛙に「お前もな」と言われた気がした。

 次のお題「鮭」「鱈」「鯖」
584鬱井 ◆YnRRG3sK2U :04/05/18 23:03
ごめん上流社会って単語入れるの忘れた。お題スルーで
585罧原堤 ◆5edT8.HnQQ :04/05/18 23:05
もちろん上流階級の間違いだ。どうだまいったか
「君の顔って鱈っぽいよね」
「あー、なんとなくそんな感じだなー、うん」
「なんだよいきなり、お前こそ鯖っぽい顔しやがって」
「あー、わかるわかる、鯖だー、鯖」
「うるさいな、君はあれだ、鮭、鮭だよ」
「そうそう、鮭っぽいよお前」
「あー?第一お前ら鮭見た事あるのかよー?」
「無いよ」
「俺も無い」
「鱈はー?鯖はー?」
「無い」
「あるわけないだろ……だって俺達生まれてこのかた水槽から出た事無いんだから」
「……そうだよなー、はー、一度でいいから大海原を泳いでみてえなー……」
「無理無理、所詮僕達は単なる養殖鯵さ……」


次のお題「毒リンゴ」 「薔薇」 「携帯電話」
587名無し物書き@推敲中?:04/05/19 05:00
毒リンゴを食べた薔薇族は、今夜も新宿御苑で携帯電話を見つめている。

「proof」「T2ファージ」「いそぎんちゃく」
588名無し物書き@推敲中?:04/05/19 12:40
お気に入りのリーバイス501に黒地に白で「T2ファージ」と
書かれたTシャツ、鞄はラゲッジレーベルの「proof」
今日はそんなカッコで大学に行きました。

「恵利子」「ヤリマン」「葛飾区」
「三行も使って消化回しもできないとはね。いそぎんちゃくがいなくてよ」
 そう呟きながらヤリマンの恵利子は葛飾区を通り過ぎた。

お題>>586
 恵利子は身長一六○センチほどと比較的小柄だが、総じて見ると、
なかなかスタイルがいい。顔立ちが飛び抜けてかわいいわけではな
いが、どこか愛嬌のある目鼻立ちをしており、特に、肉感のある厚
すぎない唇に引かれた口紅が赤すぎるのが、いかにも少女から大人
になりかけといった感じで微笑ましく、交換が持てた。胸も不釣り
合いに大きすぎず、どうやらお気に入りらしいニットのセーターを
着ている日は、その上にそっと手を置いたときに手のひらに伝わる
感触までもが想像できてしまうようで、なにか僕のほうが恥ずかし
くなってしまう。そのセーターが黒いせいで彼女の首もとは余計に
白く見え、鎖骨の付け根あたりにあるほくろが、より一層鮮やかに
見える。友だちと楽しそうに談笑する彼女の横顔を眺めていると、
まるで、見てはいけないものを見ているかのようで、自然と鼓動が
速くなってゆく。
 一部の男子学生たちの間では、「彼女はヤリマンだ」という噂が、
まことしやかに流れている。葛飾区のとあるホテルから中年男の腕
にぶらさがるようにして出てきた彼女を目撃したという怪情報まで
ある始末。彼女に声をかけて事の真偽を体現して確かめたがっては
いたが、なかなか実行に移すこともなく、むしろ、そうして騒ぐこ
とのほうを楽しんでいるようにすら思えた。

「妖怪」「ルポルタージュ」「ギター」
次のニュースです。T2ファージproof機能を持つウイルスがいそぎんちゃくから発見されました。
この人類初の快挙を成し遂げた幸運な発見者は葛飾区在住の主婦、豊間恵利子さん(24)。
なお、彼女は中学時代の友人達から『ヤリマン』というあだ名で親しまれていたとの事です。


次のお題「携帯電話」「いそぎんちゃく」「葛飾区」
葛飾区って固有名詞でないの?
593名無し物書き@推敲中?:04/05/19 15:56
葛飾区の職員が、かつて妖怪についてのルポルタージュを纏めていた
というので、早速区へ問い合わせてみた。その職員は外出中で、私が妖怪の研究家だと
知ると、ご丁寧に彼の携帯電話の番号を教えてくれた。早速その番号に電話してみた。
しかし、残念ながら圏外だった。しょうがないので、葛飾区役所まで出向くことにした。

受付嬢に例の件で職員に会いたいことを告げ、面会のアポイントをとった。
あとは区役所のロビーで気長に待つことにした。
ロビーには、魚一匹も泳いでいない水槽の中にいそぎんちゃくが、ただゆらゆらと
佇んでいた。妖怪マニアの私は、そのいそぎんちゃくが得体の知れない妖怪に見えて
仕方がなかった。

それから2時間・・・。
わたしは我慢できずに、もう一度携帯の番号に電話して見た。すると今度は受話器の向こうから
ギターの音色が聞こえてきた。曲名は「禁じられた遊び」だった。どうやら保留音のようだ。待つ
こと10分。ついに向こうから声がした。
「お待たせしました。○○です。あのぉご用件は?」
私は用件を伝えた。
「申し訳ございませんが、もう妖怪は勘弁してください。失礼します!」
そう言ってガチャ切りされた。
なにかあったのだ!妖怪のことでなにか事件に巻き込まれたのだ!私は興奮を隠せなかった。

・・・後で知ったことだが、実は妖怪とは葛飾にいるホームレスの人々のことだった。
世間や役人から「妖怪」呼ばわりされ、さぞ悲しいおもいをしただろう。

それ以後、わたしは妖怪などという夢想の研究を辞め、現実の社会をしっかり見つめることとした。
594593:04/05/19 15:56
お題は「あさがお」「車止め」「ミラクル」
危険を叫ぶ本能というのは、こういう感じなのか。
俺はエレキギターでソイツを殴りつけていた。
「いろいろもっと聞かせておくれ」という声をふりきって走り、
建物の影に肩を寄せ隠れた。ネックを握りしめる。
気付くと、120万もした名機「ルポルタージュ」のボディに亀裂が入っていた。
ショックなはずだった。だがより大きな疑問がそれを感じさせなかった。
普通ありえないことだからだ。ネックが折れずにボディに亀裂が入るなんて。
なにをしたんだ。なにをされたんだ。あっちはどうなったんだ。あっちは平気なのか?
コンクリートの壁にはりつき、頬を擦り付けるようにして向こう側を覗く。
白熱電球が、表へ続く路地を頼りなく浮かび上がらせている。
アスファルトの上、光が徐々に弱まっていき、闇へと変わるあたりに、裸足が見えた。
壁に背を押しつけ隠れる。はずみでギターが僅かに鳴ってしまい、心臓が跳ねた。
あそこを通らないと、帰れない。このスタジオは、高い壁で囲まれているのだ。
アレはなんだろう。怪物か、モンスターか。いや違う。
怪物やモンスターの類なら、ギターで殴れば、ひるむくらいはするだろう。
動物のような、人間のような考え方をするから、怒りもするだろう。
だがアレは殴ったときに、子供のような声で「いてて」とつぶやいた。
そして「おまちよ」と微笑みながら、ゆっくりと迫ってきたのだ。
人間の正気や、物事の道理、全てを小ばかにしたようなその声が耳によみがえった。
頭を言葉がよぎった。そうか。妖怪だ。ちくしょう、あれは妖怪だ。
ああ、モンスターや怪物ならよかった。おれはただ命の心配をしてりゃいいのだから。
だがあれは妖怪だ。俺は何に怯えればいいんだ? 俺は何をされるんだ?
「ほ、ほ、怯えたいの、何かされたいの、ほ、ほ」背後からその声はした。
なんでこんなところに居る。お前は出口の方にいたんじゃないのか。
俺は体から力が抜けるのを感じ、思わずつぶやいた。
「なんでそうせっかちなんだ? 制限時間でもあるのか?」
残念だが、人間ごっこはここまでのようだ。
俺は”皮”を脱ぎ捨てると、その妖怪を引き裂いた。なんともあっけない。
白い塗装が無残にひび割れたギターを見つめ、にやりと笑う。
「また、働く楽しみができたな。こっちののほうが全然面白い」
596595:04/05/19 16:05
タッチの差でかぶってる^^; お題は>>594ですね。
左手は朝顔の花のように弾けて消えた。
バック中だった車は、輪留めに乗りあげ跳ねて、ケツをどこかにぶつけた。
銃撃は止まない。ガラスというガラスが砕け散り、背中に降り注ぐ。
俺は頭をかかえて、うずくまっているらしかった。
コン、カン、と空き缶でも蹴り飛ばすような音がする。
命をかっさらっていく音にしちゃ、あまりにも軽いだろ。
そんな俺の気持ちにゃ関係ないだろうが、弾が飛んでくるのが止んだ。
パラ、とガラスの破片が落ちる音がする。
助かった? はは、ミラクル……。そう思いながら体を起こす。
窓の外からタバコが差し出された。
残った右手で、無言でうけとる。純金のライターが差し出された。
火をつけ、深く深く煙を吸い込み、それから全てを吐き出した。
「いいか?」と聴く声。「おう、やれ」と答えた。
銃声を聞いたと思う。風船でも破裂させたような音だった。


NEXT:「ほうせんか」「かみしばい」「通知」
>>597、「輪留め」→「車止め」、「聴く声」→「聞く声」の間違いです。
間違ったままだとお題が入らないので、訂正させてください。     
599** ◆6owQRz8NsM :04/05/19 18:11
**「ほうせんか」「かみしばい」「通知」

 川沿いの石畳みを歩いていると、真ん丸のピンクのライトをビニールの軒下に灯した
毒々しい小店が連なっている路地が目に入る。チョンの間で客をとる、「ちゃぶ屋」と
いうヤツだろう。店先には梅雨の雨に細い肩を濡らしながら、異国の女が佇んでいる。
「レモンティー」と書いた黒いドアーの前に、ちょっとヒロスエ何とかに似た
小柄な女が立っていた。俺は「ヒマ?」と言って彼女の前で立ち止まった。
 女を買う気はさらさら無かったが、彼女の素朴な風情に少し魅力を感じていた。
「オニイサン、飲みます?」と八重歯を見せて笑って、片言の日本語で答える。
「ビールある?」「アリマス。入って」彼女の細っこい背中が黒いドア−の中に
消える。俺は少し躊躇したが、店に踏み込んだ。彼女はビール瓶を片手に2階へと
続く木の階段を登っていく。「キテ、キテ」彼女は手招きする。俺は店の土間に立って
まだ迷っていた。階段の脇には椅子があり、彼女より年増の中国人らしい女が座っていた。
 年増女は下半身が素っ裸だった。白い太ももに、ほうせんかの花弁のようなアザが散らばり
 女は左手で、そのアザをピシャリと叩いた。
 俺は、突然、我に還った。川は緩くながれ、俺は欄干にもたれている。そして思い出した。
 この路地の女にハマって全財産を失ったこと。レモンティーという店が突然消えたこと。
 彼女は亭主と国に帰ったこと。俺の頭の中で一枚一枚、記憶の画像がかみしばいの様に
めくられていく。「エイズ検査 要精査」という病院からの通知を、俺は破って川に捨てた。
どこかで異国人の女が、のんびりと仲間と笑っている声が聞こえた。

**次は、「血飛沫」「眼球」「裏切」でお願いします。
600

お題継続
601「血飛沫」「眼球」「裏切」:04/05/19 22:50
街の広場に古びた人間の像がある。
『裏切りの男』という明るいお題がついている。
作者、いつ作られたのか、誰をモデルにした像かは全て不明だ。
昔は宝石や金銀で豪華に飾られていたらしいが、
次々に盗まれて、今や金目の者は眼球のサファイアしか残っていない。
このサファイアは頭部を破壊でもしないと取れないから盗人も敬遠したのだろう。
数年前、私はこのサファイアを盗もうとしたことがある。
夜中にハンマーを持って出向いて、像の頭を叩き割った。
するとサファイアと一緒に何かが飛び散って顔にかかった。
たちまり辺りにたちこめた匂いでそれが血飛沫だったことがわかった。
私は仰天し、慌てて血まみれサファイアを拾って一目散に逃げ出した。
誰かが追ってきていた。少し明るいところに出て振り向いてみると、
追ってきていたのは、私がついさっき暴力を振るった首のない像だった。
私は無様にもその場で気絶してしまった。
目が覚めると朝だった。
あれから像の復讐を受けた様子はなかった。私の状態は気絶する直前のままだった。
ただ、盗んだサファイアはなくなっていたし、顔にかかったはずの血も消えていた。
恐る恐る広場に行ってみると、像は何事もなかったかのように元通りになっていた。
粉砕したはずの頭はしっかりと首の上にあったし、サファイアも像の目に平然と輝いていた。


「ボギー」「贋物」「失踪」
「この人がボギーさんですか」
 私はクライアントに渡された写真に写っている、失踪したという男を見て、昔の同僚に似た男がいたなと
思いながらそう答えた。
「ええ、ジョン・ポール・リーガルと名乗っていましたが」
 その言葉に、奴もそんな偽名を使いそうな奴だったと思い出し、つい可笑しくなってしまう。それが顔に
出てしまったのだろうか、クライアントは顔を顰めて言った。
「この方の本名を答えてくれませんか」
 そう言われて、やっと私はボギーとは美術品の裏市場で名を知られているとあるブローカーの使う隠語
だという事に気づいた。クライアントは突然汗が吹き出してきたことに気づいているだろう。
「・・・・・・つまり、彼が、自分で作った贋物を掴まされたと言っていたということですね」
603602:04/05/19 23:39
お題は「瓶」「名画」「サファイア」で
「それで、君はどうしたの?」
教室の片隅で本を読んでいる吉川に、僕ははんば投げやりに訊いた。
「さぁ」
吉川のだらしない返事だけが返ってきた。
「見たんだろ?その名画を?」
僕は再び吉川に訊いた。
「よく解からないの・・・。私にも。お父さんは、それだって言ったけど・・。どうだろ?」
「はぁ〜」
僕は、思わずため息をついて、宙を見上げた。
「タイトルは覚えてる?」
僕の苛立っている言い方に、気を使ったのか、吉川は読んでいた小説を机の上に置いた。
「サファイア」
「サファイア!?」
「そう」
そっと、爪を噛んだ。「どうしたの?」心配そうに吉川が顔を覗き込んで来たので、「何でもない」と
一言言って席を立った。
教室の前方まで移動すると、ビールの瓶を教卓の上に置いて、一本の薔薇を入れた。
「この花の名前は?」吉川に大声で訊いた。「薔薇」既に吉川は小説の方に目が行っているようだ。
「薔薇という作品は?」僕の言葉に吉川は首を傾げて答えた。
どうやら今回も父親は僕に嘘をついてたみたいだ。朝、父親は僕にこんな話をした。
「俺の作品が美術館で飾られてるみたいだ」「何て作品?」僕が訊くと、一本の薔薇を渡してくれた。

教室の教卓の上にある、瓶の中にある一本の薔薇を見つめた。父親は、この瓶の中の薔薇を模写したらしい。
名画と語るその絵が、美術館に飾られる日はあるのだろうか?
いや、無いだろう。せめて、今日、父親に言ってやらなければ。
「ラガービールのラベル剥がした方がいいよ」
お題は?
606名無し物書き@推敲中?:04/05/20 03:58
「とんでもない贅沢」
今、俺の目の前には、一枚の絵画が置かれている。
絵の知識のない俺には、この絵のどこが素晴らしいのかは、全く解らない。
だが、先月のオークションで三十億でようやく落札できたんだから名画と言っても差し支えは無いと物だということは解る。
そして、俺の右手には、握りこぶし大程の鈍く蒼に輝く大きなサファイアが握られている。
俗に「人魚の泪」と言われる、世界で一番巨大なサファイアだ。
これも、数年前にオークションで、大金をはたいて手に入れた物である。
俺は、ゆっくりと、自分の右腕を動かし、絵の中に居る女性の真上に右手を持っていったところで動きを。
そして、そのまま右手のサファイアを絵に叩きつけると、再び右腕を動かし始めた。
油絵であるため、バリバリ、という耳障りの悪い音とともに、絵の具が面白いようにどんどん剥がれていく。
三十秒程それを続けた後、手の動きを止め、絵の左側に置かれたワインの瓶を見つめた。
さっき、全部飲んでしまったから中身は空だが、これも相当な値段がした思う。
とは言っても、せいぜい数百万止まりだろうし、この絵や石っころとは桁が違うんだがな。
俺は、絵を乱暴に額からはずし、直径1センチくらいの棒状に無理矢理まるめると、それを瓶の中にめいいっぱい押し込み、コルクでふたをした。
立ち上がった後、俺は、大きくかぶりを振って、傷ついた絵の入った瓶を、眼前に広がる大海原に向かって、あらん限りの力で放り投げた。
こんなにも損失的なことをしても、俺の望んだものが来てくれる可能性は皆無に等しいのだ。
ああ、なぜ、船が難破するときにもっと役に立ちそうなものを持って来なかったんだろう。頼むから、誰か早く助けに来てくれ。
男の願いもむなしく、「SOS」という傷が付けられた絵画の入った瓶は、まだ島から数十メートルの位置を漂っている。
跪いて懇願する男の傍らに転がる世界一大きなサファイアが鈍く蒼く光った。

初投稿、・・・ダメダメだな

「麦チョコ」、「ベランダ」、「冷蔵庫」
608 :04/05/20 11:31
冷蔵庫で冷やした麦チョコを、ベランダで食べられる時期が一番好きだ。
暑すぎれば麦チョコで手がべとべとになるし、寒すぎればベランダに出てるのが
苦痛だ。その中間が丁度いい。季節で言えば春とか秋とかになろうか。
極端にならず、中庸で安定してるほうがいいということだろう。

つまり、わたしも歳をとったということだ。


「損料貸」「スタイリッシュ」「かどつけ」

 絵を調べたマリーは、感心した声で言った。「サファイアの粉ですね」
 瓶底メガネをした上に、分厚いルーペを使っている。見ているとめまいがしそうだ。
 「青い瞳のハイライトの表現のために、注意深く、ひかえめに使ってあるのね。      
  ロマンチックな作者さん。まだ無名だけど、才能はあるほうだと思うわ」
 僕はシビレを切らし始めていた。ソファから立ち上がり、イーゼルの横をすりぬけ、
 マリーの傍へ行く。「あー、それで?」一瞬、後姿に見とれた。「ほかに意見は?」
 彼女がこちらを見る。すこし困った様子だ。
 「情熱をかんじるタッチ。ええ、とても情熱的です。名画に特有の迫力を感じます」
 そこで何事かを言いよどむ彼女に、先を続けるようにうながした。
 「ええと。とても愛情をこめて書かれていますね。そうだわ、まるで恋文のような絵」
 僕は彼女の瓶底メガネを奪った。そのまま青い瞳を覗き込む。
 「やっとわかってくれた?」
 マリーは赤面して、僕の手からメガネを奪い返し、掛けなおした。
 そしてもう一度絵をじっと見つめたあと、可愛らしくうつむいて、僕にこう言った。
 「でも、50ドルってとこね。迫力だけじゃダメなの。がんばってね、未来の巨匠さん」

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 かぶりですが、できたら評価つけて欲しいです。
 お題は>>607で。
ごめんなさい。お題は>>608で。
611???? ◆6owQRz8NsM :04/05/20 12:22
**「損料貸」「スタイリッシュ」「かどつけ」

 代々木公園のフリーマーケットで、黒い留め袖を着た日本人形を見つけた。
 鶴と亀のおめでたい裾模様を、うつむいた瞳が物憂く見つめている。
 人毛を張り付けた頭は、たった今、油をぬったかのようにしっとりとした艶がある。
 私はその人形をしばらく眺めてから、木影に入って静かに目を瞑った。

 いつの時代か。おかっぱ頭の幼い娘が三味線に合わせて唄っている。
 侘びしい町家の灯り。雪がちらつく寒い夜だ。娘の裸足の爪先が、凍えて紫色に
なっている。三味線を抱えた女は、娘の尻をそっとつねる。娘は泣き声で唄い出す。
 ガラリ、と戸が開き、銭が投げられる。割れた茶碗に銭を拾い、娘は後ろの女を振り返る。
「ちッ。損料貸しで、子供を借りたってのに。たいした人寄せにもなりゃしない」
 かどつけ芸人の女は雪の夜道を歩き出す。娘は細々とついていく。赤い帯びが揺れている。

 人形のある方向を、もう一度振り返ると、白人の夫婦が人形を手にとっていた。
「スタイリッシュ」「クール!」人形を褒めそやす。あの人形の髪はあの娘のものだ。
 あの黒い留め袖は、喪服に刺繍をした禍々しい品だ。見えないものが見える私は
 黙って人形の横を通り過ぎた。白人夫婦は人形を紙袋にいれて、歩き出した。
 紙袋からはみ出た人形の赤い帯が、だらり、だらり、と揺れている。

**次は「老婆」「声音」「結核」でお願いします。
「なあ、分かってくれよ刑事さん。ファミリーは裏切れないんだよ」
 この石頭には何を言っても無駄だろうとは思ったが、ありったけの媚態で懇願した。そ
うするしかなかったからだ。
「何か勘違いしてないか? だいたい、お前ごときヤクの売人に、人権があるとでも思っ
てるのか?」
 それを言われると頭が痛い。慈悲深いイエス様だって、この俺を許してはくれないだろ
う。何人もの餓鬼が俺の所為で廃人になったのだから。
「……と、言いたいところだが、連邦には証人保護プログラムがある。司法取引に応じて
も数年、ムショん中で臭い飯を食う羽目になるが、命は責任を持って保障してやる」
 朝から何度も繰り返された問答だった。額面どおりに行けば、決して悪い話じゃない。
俺はしがらみから自由になれるし、なにより贖罪はできなくとも、これ以上、罪を重ねず
に済む。しかし俺は、売人仲間のミッキーが、ファミリーを売ろうとしたが為に右の眼球
を抉り取られたことが頭にこびりついて離れなかった。俺はそれを目の前で見た。血飛沫
と苦悶の声が巻きあがっても、目を逸らすことは許されなかった。泣きたくなった。
 思い切って楽になってしまおうか――気持ちが傾きかけたとき、刑事は、ぞっとするよ
うな高笑いを始めた。
「ようし、ジョージ、お前は試練に耐えた。ここでタレ込んでたらミシシッピ川の魚の餌
になってるところだったぞ。ミッキーみたいにな」
「なんだ……。脅かさないでくださいよ」
 いつか絶対に、脚を洗ってやる。しかし俺はそんな思いを億尾にも出さず、ソファにふ
んぞり返る三下の咥えた煙草に火をつけてやった。


大幅に遅れてスマン。スルーしてください。
 俺の住む村では、昔結核が猛威を振るっていたことがあったそうだ。
昔の結核といえば、それはもう恐ろしい病気であったことは言うまでもない。
村には当時子供だった年寄り達がまだ多くいる。皆一様に「恐ろしい」と言う。
 ある日、昼過ぎに山の中を歩いていて妙な光景とぶつかった。見覚えのない
老婆が道の端っこに寝転がっているのだ。それも何事が呟きながら――。
「あの……婆さん、何やってんすか?」
 老婆はすぐには反応せず、ただジッとこちらを見つめていた。そして、
「坊主にはわからんだろが、ここは結核菌が吹き出す場なんじゃ。おれのいる下
には菌が吹き出す穴があっての。この辺の時間が一番活発に菌が動くんじゃ」
 そんな穴があること自体知らなかった。俺は、軽く頭を打たれた感じがした。
もう何十年も前の菌が、未だに地中で蠢いてるということなのか……。
 俺はその後しばらく老婆と話し込んだ。やがて、日が落ちようとする頃、老婆は
立ち上がって、「今日は終いじゃ」と言った。菌も今日はこれでお休みなのだろう。
「坊主、おれが死んだら、この役目継いでくれるけ?」
「絶対お断り」
 老婆は、力ない声音で笑った。俺も一緒に笑った。

「光」「鏡」「藻類」
614 ◆L.dyD/snow :04/05/20 17:59
「光」「鏡」「藻類」

最近は鏡を見るたびに、自分の若さが失われている気がする。
まだ二十代なのに。

「気にしすぎだよ」
「光の加減でそう感じるだけじゃないか?」

慰めてくれるのはありがたい。
しかし、これは気のせいなんかじゃない。
なぜだ? あんなにも気をつけていたはずなのに。
なぜだ? 毎日の食事において、海藻類をたくさん摂取しているのに。

最近は鏡を見るたびに、自分の若さが失われていることに滅入る。
こんなにも早く……髪が薄くなってくるなんて。
まだ二十代なのに。

※次のお題は「キャスケット」「鐘」「封筒」でお願いします。
615岸和田 ◆JNnFWYTu2A :04/05/20 18:47
「キャスケット」「鐘」「封筒」
 男は愛用のキャスケットを目深にかぶると、
サックコートとベージュのユーズドジーンズをはいた。
 男はこの小さい街の鐘付きだった。
大体街の中心に位置する塔のてっぺんにある大きい青銅の鐘――
それを毎日、朝の七時と夜の九時につきに行くのである。
 この街には実に様々な、しかし不思議な仕事が沢山ある。
例えば鼠売り、なんてのもあるし、鍵作り、鉛筆修理人なんてのもいる。
しかしその仕事に疑問を持ってはならない。
封筒に入った『追放命令』が家に届くことになり、この街を追放されてしまうからだ。
 男は様々な疑問――何故この街に来たのだろうか、一体この街は何なんだ、
そういった疑問をかき消してしまうと、スニーカーをはき、
鐘をつきにいった。

 「手紙」「青」「スニーカー」
616** ◆6owQRz8NsM :04/05/20 22:39
**「手紙」「青」「スニーカー」

 拝啓 関東地方もいよいよ梅雨入りし、鬱陶しい毎日が続いていますが
 その後、いかがお過ごしでしょうか。
 お陰様で私はこちらの暮らしにも慣れ、毎日たのしく過ごしています。
 今となっては、あの日、あなたにピッキングしてもらった偶然に感謝したい
 気持ちで一杯です。有り金を残らず差し上げて、コレクションしていた腕時計や
 愛車のフェラーリの鍵もお渡し出来て本当に満足しています。
「人間は裸で生まれて、裸で死ぬんじゃ」あのときの貴兄の言葉は本当でした。
海の底に沈んで、青いビニールシートがめくれ上がると、私は真に自由になりました。
鉄アレイが邪魔でしたが、漁船のスクリューに引っかかり、見事に解放されました。
外国のマグロ漁船に拾われ、今はベーリング海のマグロを追い掛かけている所です。
ヘミングウェイみたいにカジキと戯れて暮らせるなんて、まるで夢のようです。
長くなりましたが、取り急ぎ御礼まで。船上にて乱筆乱文お許し下さい。

追啓 あの時、思わず掴んだ貴兄のスニーカーの片足を、まだ持っています。
   スニーカーの中に住所と名前が書いてあったのでお手紙を出せて嬉しいです。
   時節柄、くれぐれもご自愛ください。

**次は「剣」「蠅」「修行」でお願いします。
「剣」「蠅」「修行」

おそらく私が最後の伝承者となろう。苦しい修行の末、ついに百歩剣を体得した趙雷は
寂寞の想いに駆られ呟いたという。百歩剣は彼の師匠断公導師が編み出した必殺剣で、
その名の通り百歩離れた蠅をも落とすことが出来る恐るべき技だった。

断公導師は趙雷に奥義を授けることにやぶさかではなかったが、なぜ遠くの敵を打てるのか
自分でもよく分かっていなかったので、伝えることができなかった。
そこで趙雷は痴呆気味の師匠が剣を振るうのを注意深く観察することにした。
導師がふいと剣を振るうと百歩先にある西瓜がぱかっと割れる。
コツを尋ねると、山羊の交尾のことを考えるとぱかっといくとのことだった。理由は例によって不明だ。
趙雷も試しに山羊を思ってみたが、西瓜は割れなかった。
切羽詰っていた趙雷は馬や豚、犬、様々な動物の交わりを見て回った。
挙句の果てには蛙やかぶと虫の交尾にまで至ったが、その努力は趙雷を村から孤立させただけだった。

趙雷が半ばあきらめて剣を振るっていたある日、何の前ぶれもなく、百歩離れた西瓜がぱかりと割れた。
「何故」
趙雷はもう二度と言うまいと自らを戒めていた言葉を口にしていた。
その時趙雷の目にたまたま映っていたのは、泥酔した師匠がだらしなく晒していたフグリだったのだ。
618617:04/05/21 07:06
次のお題は「食わず嫌い」「波乱含み」「やりとり」
次スレへ移動して下さい。十七期スレ↓
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1085027276

★簡素、良作選のがあるので、埋め立てないで下さい。
620619:04/05/21 07:41
>>619
の がいらない。失礼しました。
621619-620
>>619-620を、分かりやすく書き直しました。

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次スレへ移動して下さい。十七期スレ↓
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1085027276

★第十六期スレ(このスレ)は、
 簡素、良作選があるので、埋め立てないで下さい。