自分でバトルストーリーを書いてみようVol.20

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1気軽な参加をお待ちしております。
 銀河系の遥か彼方、地球から6万光年の距離に惑星Ziと呼ばれる星がある。 
 長い戦いの歴史を持つこの星であったが、その戦乱も終わり、
 平和な時代が訪れた。しかし、その星に住む人と、巨大なメカ生体ゾイドの
 おりなすドラマはまだまだ続く。

 平和な時代を記した物語。過去の戦争の時代を記した物語。そして未来の物語。
 そこには数々のバトルストーリーが確かに存在した。
 歴史の狭間に消えた物語達が本当にあった事なのか、確かめる術はないに等しい。
 されど語り部達はただ語るのみ。
 故に、真実か否かはこれを読む貴方が決める事である。

 過去に埋没した物語達や、ルールは>>2-5辺りに記される
2気軽な参加をお待ちしております。 :2005/05/22(日) 23:01:14 ID:???
ルール

ゾイドに関係する物語なら、アニメや漫画、バトスト等何を題材にしても良いです。
時間軸及び世界情勢に制約は有りません。自由で柔軟な発想の作品をお待ちしています。

例外的に18禁描写はご遠慮下さい。

鯖負担の軽減として【450〜470Kb】で次のスレを用意する事。

"自分でバトルストーリーを書いてみよう"運営スレlt;その1gt;
http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1108181848/l50
投稿された物語の感想等は此方のスレでお待ちしています。

スレのルール等もこのスレで随時検討中ですので良ければお立ち寄りください。
3気軽な参加をお待ちしております。 :2005/05/22(日) 23:03:24 ID:???
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.19 (前スレ)
http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1108181848/l50
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.18
http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1104481409/l50
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.17
http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1101864643/l50
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.16
http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1099232806/l50
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.15
http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1097215306/l50
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.14
http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1094509409/l50
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.13
http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1092163301/l50
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.12
http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1089854742/-100
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.11
http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1086517669/l50
自分でバトルスト^リーを書いてみようVol.10
http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1082898104/l50
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.9
http://hobby.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1079611268/l50
4気軽な参加をお待ちしております。 :2005/05/22(日) 23:04:52 ID:???
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.8
http://hobby.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1074016593/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.7
http://hobby.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1067667185/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.5 (実質Vol.6)
http://hobby.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1063986867/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.5
http://hobby.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1059948751/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.4
http://hobby.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1054241657/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.3
http://hobby.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1008860930/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.2
http://salad.2ch.net/zoid/kako/998/998659963.html
自分でバトルストーリーを書いてみよう!!
http://salad.2ch.net/zoid/kako/976/976898587.html

作品保管所

名無し獣弐氏の過去ログ保管場所
http://sak2-1.tok2.com/home/undecidedness/storage/story.html(現在更新停止中)
にくちゃんねる過去ログ
http://makimo.to/cgi-bin/search/search.cgi?q=%8E%A9%95%AA%82%C5%83o%83g%83%8B%83X%83g%81%5B%83%8A%81%5B&G=%8E%EF%96%A1&sf=2&H=ikenai&andor=and
5気軽な参加をお待ちしております。 :2005/05/22(日) 23:14:33 ID:???
ルールに追加された事項です。

・スレッド一本の書き込み量は一人につき最大100kb前後です。
 100kb前後に達し、更に書き込みを希望される方は、スレッドが最終書き込み日時から
 三日間放置された時、運営スレッドでその旨を御報告下さい。
 この時、トリップを使用した三人の同意のレスがあれば書き込みを再開できます。(※)
 又、三人に満たなくとも三日間経過した場合は黙認と看做し、書き込みを再開できます。
 再開時の最大書き込み量は25KBです。
 反対のレスがあった場合は理由を確認し、協議して下さい。異議申し立ても可能です。

※ 騙り対策のため、作品投稿経験のある方は定期的なチェックをよろしくお願いします。 

・スレッド一本での完結を推奨します。
 続き物はなるべく区切りの良いところで終わらせて下さい。

・複数のスレッドに跨がって書き込む人は「まとめサイト」の自作を推奨します。

・一行の文字数は最高四十字前後に納めて下さい。

・誤字など修正のみの書き込みは原則禁止します。但し張り順ミスのみ例外とします。
6気軽な参加をお待ちしております。 :2005/05/22(日) 23:16:39 ID:???
Q&Aです。作品投稿の際に御役立てください。

Q.自作品の容量はどう調べればいいの?
A.全角一文字につき2バイト、改行一回につき1バイト消費します。
  一行を四十字とすると、最大81バイト消費します。
  そのため自作品の行数×81で概算は導き出せます。

Q.一回の書き込みは何バイトできるの?
A.2KB、2048バイトです。
  又、最大32行書き込むことができます。

Q.トリップはどうやってつけるの?
A.名前の後に#(半角で)、任意の文字列でトリップができます。
  1#マイバト擦れ123abc
  …とすると、#以降がトリップ表記に変化します。尚、名前は省略可能です
7気軽な参加をお待ちしております。 :2005/05/24(火) 03:01:44 ID:???
各作者氏のまとめサイトです。
既に落ちてしまったスレの代わり等にどうぞ。

◆.X9.4WzziA氏
ttp://masouryu.hp.infoseek.co.jp/index.html
鉄獣28号氏
ttp://www1.bbiq.jp/tetukemono/
三虎氏
ttp://www.geocities.jp/torataiger/
8勝者の中の敗者 ◆5QD88rLPDw :2005/05/24(火) 05:59:35 ID:???
第一次全面開戦。
それは40数年の沈黙を破って…今一度この星の覇者を競う戦争の始まり。
西方大陸エウロペのレッドラストでその開戦の狼煙が上った直後の話である…。

「ったく…何だって言うんだ!あのゴジュラス化け物かよっ!!!」
新兵ながらもその素質を認められアイアンコングを受領して戦地に立った青年将校!
それが俺…ハインツ=リーゲル少尉だ。
俺達の一箇連隊は敵共和国軍を完全に分断して各個撃破を行なう…。
これが今回の作戦の概要だ。
そして…今回第2ランドで出会したのは、運の悪い事に最強の機獣だったのだ。
…むしろ機神と言った方がしっくりくる異常さだった。

銀の巨体が唸るとそれで俺達の部隊のゲーターやイグアンは木っ端微塵に成った。
空からサイカーチスが迫る…しかし1発の対空砲に煽られその隙に尾で砂地に刺さる。
俺は冷静に自己誘導ロケット弾を撃ち込むが、見透かされた様に全く当たらない。

「敵だ!敵だ!敵だ!前も後も帝国野郎しか見えやしねえ。
右も左も、上も下もだ。司令部!聞えるか、司令部!……。
くそったれ!味方はどこにいやがるんだ!?」
最早隠しだてもせずに、司令部へ連絡をとろうとしている共和国部隊の指揮官。
「たまったもんじゃね〜な!俺等は片手間かよ…天地の差が有るじゃないか!!!」
見た限り傷だらけのゴジュラス。しかし致命的な損傷や行動に支障の出る破損は無い。
幾ら新兵が多いにしても彼我差推定1000以上:1の現実。
相手はそれを物ともしない非常識な技術と運の良さを兼ね備えている様だ。

俺は隠し玉を手に取った…。後方のグスタフに積んで置いた取って置きの奴。
絶対に不利な状況の時以外は使うなと念を押された試作兵装。
マインスロアーを束ねた大型連装ガトリングマインスロアー。
空に成った右肩のミサイルランチャーを砂地に投げ付け素早くそれを装備し戻る。
その頃既に俺達の一箇連隊は中隊レベルの数に減少している悪夢の様な状況だった。
9勝者の中の敗者 ◆5QD88rLPDw :2005/05/24(火) 06:32:25 ID:???
「おいおい…冗談じゃないぜ!隊長は何処へ…。」
ハインツの呟きに答える様に最早戦闘不能のアイアンコングMSより通信が入る。
「リーゲル少尉!!!来るなっ!奴は…奴は本物のゾイド乗りだ。
俺達と比べるまでもない差が有る。貴様だけでも逃げ果せるんだ!
撤退は負けではない!兵士は生きて明日を迎える事が戦地での一番の仕事だ!」
強気な隊長からは考えられない指示。
しかし誰でも一箇連隊が中隊にまで戦力を減らされたとなればそうも考えるだろう…。
だが…俺は違う!

「リーゲル少尉から各機へ!
最大戦速で奴から離れろっ!そして味方に!後方の高速部隊へ救援を要請しろ!
セイバータイガーが来れば多少の事は何とか成る。
撤退は負けではない!兵士は生きて明日を迎える事が戦地での一番の仕事だ!」
途中から鸚鵡返しで味方に撤退を指示する。そして…
「今この部隊で一番生還率が高いのは俺のコングだ!殿を取る!急げっ!」
隊長はそれを聞いて呆れ返っている事だろう…。
そして呆れ返っているのはゴジュラスの中のパイロットも同じだったらしい。
蜘蛛の子を散らす様に散り散りに散開して後退する味方機。
しかしゴジュラスはそれを追う事無く真っ直ぐに…
一番遠い場所に居る俺の機体に迫る…。
今の俺の指示を傍受して”一騎討ち”の申しでとゴジュラスのパイロットは取った様だ。
「行くぞ!コング…お前を信じる。死なば諸共だ!」

数分後…俺の機体は砂に埋まっていた。
だが数分だ。その間に味方は撤退しセイバーの到着を見てゴジュラスもやっと撤退した。
「リーゲル少尉…後で俺のテントに来いっ!確り報告書を書いて貰うぞ!」
しかしその隊長の声は妙に明るく命令違反を咎める半分俺を多少認めてくれている様だ。
今日の戦闘は俺達帝国軍の大勝だったが俺達の部隊は略壊滅。
虎の子のガトリングマインスロアーは動作不良と散々な目に遭った。酷いオチだ。糞っ!
                                  ー 勝者の中の敗者 終 ー
10傷だらけの咆哮 ◆ok/cSRJRrM :2005/05/24(火) 23:08:10 ID:???
視界の隅で、味方の機体が炎上した。
(・・・どうして俺はここにいるんだ・・・?)
少年は心の中で自問する。が、彼の乗るコマンドウルフもまた、損害が激しかった。
装甲はそのほとんどが焦げ落ち、もはや素体に砲身を載せただけのような状態。
(撃ちたくなんてないのに・・・撃たれたくなんてないのに・・・)
その思いを無視するかのように付近に敵の弾丸が炸裂する。
そして、コマンドウルフの背の砲も、乗り手の意志に反して火を噴いた。

少年−ゲイルは、少し前まで父親の経営するジャンク屋の手伝いをしていた。
共和国領の街であったため、稀に戦闘で傷ついたゾイドの修理をしたこともあったが、
戦争など、自分には関係の無いものだと信じて疑わなかった。
だがその考えは、一瞬にして崩れ去った。
帝国軍の襲撃。たった一夜で、彼はそれまでの暮らしを失った。
早期に破壊された病院の中に母がいた。じきに生まれるはずだった自分の弟と共に。
父は、着弾の衝撃で潰れた部屋の中にいた。
偶然にも倉庫にいた彼『だけ』が、家族の中で生き残った。
無我夢中で父のかつての愛機であるコマンドウルフに乗り込み、逃げ出した。
「どうして・・・どうして・・・こんな・・・」
11傷だらけの咆哮 ◆ok/cSRJRrM :2005/05/24(火) 23:09:03 ID:???
その後、近くの共和国軍基地の周囲を巡回していた兵に保護され、入隊を勧められた。
家も、親も失った16歳のゲイルには、それ以外生きていく選択肢は無かった。
最前線。それ故の人員不足から、そしてジャンク屋にいたことも手伝って、入隊は思い
のほか円滑に進んだ。
不幸中の幸いとも言うべきか、隊長は彼の心情をよく理解してくれた。
似たような境遇の隊員とも友人になることができた。
(俺だけじゃなかったんだ・・・)
少し歪んではいるものの、この小さな喜びにゲイルは支えられ、立ち直ったのである。

出撃。皆が、各々の機体に乗り込む。新品などではなく、つぎはぎだらけの機体に。
「撃たないとこっちが殺されちまう。だから撃つんだ」
ゲイルは自分に、そして愛機コマンドウルフに言い聞かせる。
かつては笑顔で自分に乗った少年の変わり様を見て、何を感じたのかコマンドウルフ
はもの悲しい、それでいて遠方まで響き渡る、狼特有の咆哮を上げた。

                −終−
12名無し獣@リアルに歩行:2005/05/25(水) 17:40:56 ID:mYIAWLsn
あのセイスモ暴走事件から3ヶ月。
もはやゾイドは兵器としての姿はなかった。
だが唯一ゾイドに無制限に武装させて戦うことを許された者がいる。
それこそzIファイターだ。

街角にある全く目立たないような一軒の家がある。
「・・・・・・・暇だ・・・・・」
と言葉が少ない男がいた。アトルだ。
もちろん金がない上、食い物も少ないという悪生活だった。
それにワイツタイガーを失った。
それ以上にzIファイターの免許なしにゾイドの操縦すると、
捕 ま る。という悲惨なことにつながるのだ。
アトルも免許を取ろうとしている。
というわけで、免許取得場にきたわけだ。
「今日はお前さんか・・・・・・」
と面接の男が言う。何回も質問してついに終わった・・・と思ったら・・・!
「次はゾイドの操縦だ。」
と面接の男に言われた。ちゃんと聞こえた。その時重大な事に気づいた。
「待てよ・・・・・・。ゾイド持ってねえよ!」
と言った。面接の男が驚いてこう言った。
「なにいいいい!?ゾイド持ってねえだあ!?」
と面接の男はいった。
「こんな事だと思った。
あるお方から、アトルが来たら連れてきてくれ。と言われたんだ。」
「あるお方?」
アトルは聞き返してみる。
「そんなことはどうでもいい。とにかくこちらにきてくれ。」
と言った。付いて行ってみるとこにする。
「こ、これはまさか!?」
と驚きの声を上げるアトル。
目の前にあったのは赤く、そして凄い威圧感をかんじるあのゾイドだった・・・
13悪魔の遺伝子 838 ◆h/gi4ACT2A :2005/05/27(金) 10:55:55 ID:???
バトルロイアルから数日たったある日。マリン等は大会に備えた特訓を普通に続けていた。
マイルも丁度料理店の方も客足の少ない時間帯だった為、他の従業員に
店を任せ、道場にてマリン等の直接教授を行っていた。そんな時だった。
「たのもー!」
「何だ?」
「たのもー!」
道場の外で誰かが叫ぶ声が聞こえていた為、マリン等は特訓を中止して玄関に向いた。
「たのもーって、昔の道場破りじゃありまいし。」
「しかし今時実に面白い奴だ。どれ、その道場破りとやらの顔を見てやろう。」
外でなおも「たのもー!」と叫ぶ男の声に興味を持ったマイルは率先して玄関へ
進み出し、戸を開くとそこには20歳くらい年齢で割と長身の若い男が立っていた。
その男はジーパン+Tシャツと普通にラフな格好だったが、何故か腰に差していた
日本刀が不思議な違和感を醸し出していた。
「君!この道場に何か用かな?」
「おう!マリン=バイスっつーのはいるか!?」
「何だよ。ウチの娘の方に用あるのかよ!おーいマリン!お前に用があるってよコイツ!」
「え〜・・・。私〜?」
マリンが渋々玄関で出てくると、いきなり男に睨み付けられた。
「お前がマリン=バイスだな!?って何だお前のその格好はぁ!これでもかって
位のロリ系美少女顔の上、さらに傷が二つも付いていると言うギャップが男心を擽り、
しかも服装は上は中国服っぽい感じなのに下はミニスカート+スパッツってお前!
ふざけるのもいい加減にしろ!この俺を犯罪者にする気か貴様はぁ!」
「きゃあ!いきなり何よ!というかそんな事言われたって困るよ!」
何か変な事になっていたが、男の気迫にマリンは思わず一歩下がっていたが、男は彼女を
指差しさらに言った。
「まあとにかくだ!この間のバトルロイアルで名のあるランカー級Ziファイターを
ことごとく倒したらしいがいい気になるんじゃないぞ!!」
「いやいや!別にいい気になってないから!」
マリンは慌てて首を物凄い速度で左右に振っていたが、一方マイルは困った顔をしていた。
「何だよ・・・。大方マリンを倒して名を上げようって腹じゃねーのか?」
「う・・・それは。」
「ほらやっぱり・・・図星じゃねーか!」
14悪魔の遺伝子 839 ◆h/gi4ACT2A :2005/05/27(金) 10:58:38 ID:???
男が狼狽え始めた為、マイルは笑っていたが、男は慌ててにマリンを指差して叫んだ。
「良いか!?あの程度の連中に勝ったくらいでいい気になるなよ!!自慢するのは
この俺に勝ってからにしろ!」
「嫌・・・、だから別にいい気になってないって。」
「問答無用!」
やたら熱いこの男の気迫にマリンは妙に押され気味だったが、彼女はやや狼狽えながら、
「と・・・とにかく。私とゾイドバトルで勝負したいって事ね?」
「分かってるじゃねーか!どうだ!受けるか!?まあ受けないと言ったらその時点で
負け犬と見なすのだがな!」
「もう良いよ別に負け犬でも・・・。」
                 ずげげげげげげっ
マリンの気の抜けた即答に男はその場で度派手な前転を見せてしまった。
「なななな何だとぉぉぉぉ!?負け犬でも良いと言うのかぁぁぁぁ!?」
「うん・・・。面倒くさいし。」
「まあマリンの言う通りだな・・・。大会も近いし、一々こんなワケわからん挑戦に
つきあってる暇は無い。」
ルナリスの言葉と共に、二人はうんうんと頷き合っていたが、マイルがその二人に
これまた気の抜けた表情で口を挟んだのだ。
「いや・・・別に良いんじゃねーの?コイツの挑戦受けてもよ〜。」
「ええ?お父さんそれ本当に言ってるの?」
「だがよ、大会前のちょっとした練習になるじゃねーか!」
「でもね〜。」
「(な・・・何と緊張感の無い奴等だ。)」
マリン等の気の抜けた話し合いには流石に男は苛立ちを覚え、さらに一歩踏み出した。
「おい!!お前!!俺の挑戦を受けるのか!?受けないのか!?」
「は〜・・・、もうこうなったら別にどっちでも良いよ。好きにして。」
「(ったく腹立つ奴だな・・・。)ようしわかった!勝負の日時と場所については追って
伝えるからそのつもりで考えておけよ!!」
そして男は一度帰ろうとしていたが、その彼をマイルが呼び止めた。
15悪魔の遺伝子 840 ◆h/gi4ACT2A :2005/05/27(金) 11:04:54 ID:???
「あ〜・・・。所でお前の名は一体なんっつーんだ?」
「俺か!?俺の名はキシン!キシン=ガンロンだ!覚えとけよ!」
なおもそう熱い叫びをあげながらキシンと名乗る男は意気揚々と帰っていったが、
マリン等3人は唖然とした顔をしていた。
「変な名前・・・。」

結局キシンの挑戦を受ける事になったマリンは道場の隅っこに座り込んでいた。
「は〜、あんまりやる気でないな〜。」
彼女は本当に気の抜けた顔をしていたが、そんな彼女の隣にルナリスが座り込んで言った。
「おいマリン。一つ思った事があるのだが・・・。」
「何?」
「あのキシンとか言う男。変だとは思わなかったか?いきなり何の脈絡も無くマリンに
挑戦状を叩き付けてくる所とか。もしかしてズィーアームズ社の刺客なのでは無いか?」
ルナリスは真剣な顔になっていたが、マリンは困った顔をしていた。
「そんなワケ無いでしょ?だって考えても見てよ。あの連中がわざわざ正面から馬鹿正直
に挑戦して来ると思う?寝込みを襲うとかもっと策略巡らせてくるでしょ普通。」
「そりゃそうだな・・・。何かアイツ頭悪そうだったし。」
と、そんな時だった。二人の前にマイルが現れたのだ。
「まあとにかくだマリン。挑戦を受けたからには気を抜かずに戦う様にな!」
「でも〜。」
マリンは困った顔をしていたが、二人の前にやってきたマイルは笑みを浮かべて言った。
「ようし!ならば嫌でも気を抜けない様にしてやる。マリン!お前は今度の戦いは
バスターロケットとギガクラッシャーヨーヨー、そしてネオコアブロック×2を外して、
お前自身も今までの1.5倍の重量の重量プロテクターを装備して戦え。あ、ちなみに
ルナリス。お前も連帯して同じ1.5倍の重量装備な!」
「お父さん!!」
「つかなんで私まで。」
「お前達は二人そろってのコンビネーションを発揮して初めて最大限の力が出せるん
だろうが。何の為のふたりはゾイキュアだよ。」
「だからゾイキュアってどう言う意味よ。」
16荒野の少年:2005/05/27(金) 17:44:35 ID:???
「マジかよ・・・・・・・」
目の前にあったのはなんと!エ ナ ジ ー ラ イ ガ ーだ!
「これは冗談か?それとも夢?」
混乱するアトル。
「いや、これは冗談でもない。夢でもない。」
といったのは元共和国軍大佐、アルベルトだ。
「しかし何故、襲ってきたエナジーライガーがいるんだよ?」
「それは、お前にゾイダーとしての素質があるかどうかを試したかっただけだ。
だますつもりはなかった。それに攻撃してこなかっただろう。
それにこのエナジーライガーをお前にゆずろう。
そう思ったんだ。だからこいつで操縦してほしい。」
「まあ・・・・・別に機体を選びはしないそれより試験だ。」
エナジーライガーを駆り、早速試験は始まった。
ライガーゼロを倒し、ガイリュウキを倒し、
とにかく目の前にあるものを全て倒した。
その結果・・・・・・・
免許を取れた。
しかし搭乗ゾイドがないのに気づいた。
「安心しろ。ゆずるといったはずだぞ。はっはっは!」
とアルベルトは言った。
「よっしゃー!行くぞ!エナジーライガァー!」
と言いながらゆずってもらったエナジーライガーを操り、
さっさとどこかに行った。アルベルトが気づいた時はもういなかった。
「ふっふ・・・・面白い奴だ・・・・はっはっは!」
と笑いながらアルベルトも去った・・・・・・。
こうしてアトルのバトル生活は再び幕をあけた。
17Full metal president 57 ◆5QD88rLPDw :2005/05/28(土) 03:19:48 ID:???
結局新政府の虐殺にしか見えなかった掃討作戦…。
その影響を受けて政府の方針に表立って異論を唱える者は居なくなった筈だった。
だがそんな中でも頑強に抵抗する者は存在したのである。

ー Zi-ファイター ー

「けっ…今日もファイター狩りかよ!しかし何であんなに奴等は強いんだ?」
割り当ての機体に乗り込む兵士がぼやく。
「まあ何時でも好きな時に試合を組んでやり合ってる。唯の訓練よりは活けるだろ。」
別の兵士が答える…ここは野営地だ。
山中に立て籠もって抵抗を続けるZi-ファイターも多く粘られている状況。
元々流浪生活者が多いので地の利は完全に彼等の物だ。

今…新政府軍はZi-ファイターの処理に困っているのが現状である。
そこらを好き勝手に動き回っていた彼等に今更”首輪”を付けようとしても無理な話。
その結果直接戦闘でケリを付けなければならない。だがこれが問題なのである。
元々戦時とは比べ物にならない程平和な時代。
それが兵士一人当たりの戦力の低下を招いており逆にZi-ファイターは…
…上り調子である。この差だけは機体の戦力だけでは埋まらない溝となっている。
今回もたった1小隊分の戦力に彼等は2中隊の戦力を要するのだ。

「おい!また来たぞ。…ったく奴等はどうしても俺達が嫌いらしいな。」
山岳地の中腹で政府軍の機体を見付けてやってられるか!とゼスチャーする男。
「まあまあ…それでも俺達はやらなきゃならない。弾はもう多くはないけどな。」
もう1機のカンガルーダのコクピットからもう1人が顔を出して言う。
チームスプリンターズ…2足走行型のゾイドで構成された4機で行動している。
人数はゾイドの数より多く20人と意外と大所帯で行商を為ながらの活動だった…。
それ故この事態で一番深刻な打撃を喰らった者達である。
泣きっ面に蜂…その言葉が彼等をさすのに一番の言葉だろう。
「さて…始めるか。恨みは無いが…腕の一本ぐらいは覚悟してもらおう!」
18Full metal president 58 ◆5QD88rLPDw :2005/05/28(土) 04:21:31 ID:???
2機のカンガルーダは散開して持ち場に就く…。
この機体の構成は典型的なキメラからの統一スタイルへの組み替え。
単純に制作できコアがキメラコアの分同クラスのブロックスを上回る機体だ。
その上高安定性と非の打ち所がないチェンジマイズである。
初めて考案してバトルに参加した男曰く…
「誰の挑戦でも受ける!カンガルーダは墜ちはしない!」
…とその言葉に違わず彼の戦歴は引退まで不敗だったという縁起の良い機体でもある。

更に奥…そこには通常のゾイドとは毛色の違う機体が1機潜んでいる。
1機は見た目ゾイド特有のサーボモーターが余り見えない機体。
その更に奥で最後の1機…先日マクレガー達に届いたゴジュラスmk−V凱鬼。
実は結構前からロールアウトしておりチームの看板として頑張っていたようだ。
機体単位の戦力はmk−V以外は略五分と言って良い。
残りの1機も強力な機体なのだが…やはり相手のセイスモやらギガと比べれるのは辛い。
ただ乗り手の技術の差で戦力が五分という事で唯の機体性能なら比べるまでもない。

「頼むぜ…セイスモちゃんよ〜。当たってくれよ!」
ゼネバス砲が適当に山肌に突き刺さり岩等がスプリンターズに降り注ぐ。
開戦の合図。パイロットの技術とゾイドの力…何方が強いかの構図となる。
政府軍はセイスモを旗艦とする2中隊。
その構成ゾイドはセイスモの取り巻きの3種のキメラ。
ギガとアロザウラーに並んでディスペロウと正体不明の揺らぎ…メガレオンだ。

「奴等…メガレオンを使ってきたか。イクスまで居そうだなこりゃ。」
ファイターの1人が言う。
「ケビン…当たりらしいっ!今一瞬揺らぎが高速で動いたっ!」
ケビンは同じくカンガルーダに乗る相方のハンスの通信で気分を切り替える。
始めの戦闘はイクスとカンガルーダ2機で始まると予測される。
今回ばかりは終わりかな?とスプリンターズの面々は考え始めていた…。
だが結果は思いも寄らぬ方向へと転がって行く事になる。
19悪魔の遺伝子 841 ◆h/gi4ACT2A :2005/05/28(土) 09:01:47 ID:???
二人はマイルに対して問い詰めるが、マイルは何も言わずに1.5倍の重量装備を用意し、
道場を去っていくだけだった。
「あ〜あ〜。」
「もう本当に仕方無くなって来ちゃった・・・。」

翌日、再び現れたキシンより指定された場所へ移動したマリン等は見慣れないライオン型
ゾイドに乗るキシンと相対していた。そしてルナリス、ビルト、ミレイナの三人は
この非公式試合の立会人として離れた場所から観戦していたのである。マイルは仕事の
為に現場には来ていない。
「良く逃げずに来たな!だが背中に装備したロケットとかヨーヨーとかはどうした?」
「そんな物が無くても貴方には十分勝てるって事よ。(うっわぁ〜・・・マジ怖いよぉ〜)」
「強がり言いやがって・・・。」
ルナリスとハーデス、ビルトとジャクシンガル、ミレイナとキルベリアンが距離を
置いて見守る中、マリンとカンウは堂々とした態度でキシンの乗るゾイドと
相対していたが、本当ならばいつ泣き出しても可笑しくないくらいビビっていたのだ。
何しろ今日の彼女は昨日マイルから申し渡されたもう一つのハンディキャップとして、
通常の1.5倍の重量の重量プロテクターを装備させられていたのだ。もちろんその
重みによって彼女の負担は増し、ゾイドの操縦等にも支障が出、そして精神リンクにも
影響が出てカンウ自身の弱体化にもつながるのだ。まあこれに関してはルナリスも
付き合ってくれてはいるが。そしてキシンと言う男がマリンの活躍を知っていながら
あえてゴジュラスギガに乗るマリンに挑戦をして来たのは相当な自信がある証拠である為、
そんな相手にタダでさえ重い装備をした状態で操縦しなければならないマリンにとって
本気で怖く思えたのだ。
「(怖くない・・・怖くないよ〜。しかもあのゾイド何か初めて見る型だし。)」
マリンは必死に余裕を装い続けていたが、いつまでそれが出来るか自信が持てず、
密かに彼女の足は震えていた。
20悪魔の遺伝子 842 ◆h/gi4ACT2A :2005/05/28(土) 09:04:54 ID:???
「は〜・・・アイツ大丈夫かな〜。」
「マリンさんなら多分大丈夫だと思いますが?」
「多分ってのがちとアレだな〜。しかしあのキシンとか言う奴の機体。始めて見る型だぞ。」
距離を置いて事の次第を見守っていたルナリス等もマリンの動向には思わず心配に
なっていたが、その時だった。
『その試合ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁ!』
「!?」
突然大音量のマイク音が周囲に響き渡ったのだ。そして皆がマイク音のした方向を
見ると何とこちらへ向かって物凄い速度で駆け付けて来たと思われるディメトロドンの
姿があったのだ。
『その試合待った待った待ったぁぁぁぁ!この試合の実況は私イチロウ=フルタチ!
そして解説は新Ziプロレスのシテツ=ヤマモトさんにお送りさせて頂きます!』
『今まで数々の名勝負を見せてくれたマリン選手の非公式試合なんて凄く興味がある
じゃないですか。一体どんな戦いを見せてくれるのでしょうね〜。』
「ってお前等こんな時までわざわざ駆け付けてくるなぁぁ!」
何の脈絡も無く駆け付けて来たフルタチ&ヤマモトの最強実況解説コンビに皆は唖然とし、
ハーデスは思わず地団駄を踏んでいたが、二人の乗るディメトロドンは試合を見渡せる
高台に勝手に陣取り、いつでも実況が出来る準備を整えていた。
『さあいつでも実況解説出来ますよ!!早く試合開始してください!』
『楽しみですね〜!この戦いは女房を質に入れても見てみたい注目の一戦です!』
「なあ・・・あのおっさん達何者だよ。」
「ある意味謎の多い二人組。」
フルタチ&ヤマモトの二人の行動には流石のキシンも唖然としていたが、
気を取り直して二人のゾイドはそれぞれ距離をとって構え、そして何故か大岩を抱えた
ハーデスが二機の間に立ったのだ。
「こういう時なら普通コインが落ちた音が試合開始の合図になったりするんだが、
そう言うのが無いのでこの大岩が落ちた音が合図となるが、良いかな?」
「ああもう良いよ勝手にしろ・・・。」
「わかった!んじゃ行くぞ!」
21悪魔の遺伝子 843 ◆h/gi4ACT2A :2005/05/28(土) 09:18:54 ID:???
ハーデスが試合開始の合図となる大岩を放った。そして大岩は地面に叩き付けられ、
轟音を轟かせながら砕け散り、それと同時にキシンのライオン型ゾイドとカンウが
同時に跳んだのだ。
『さあついに始まりました!マリン選手と挑戦者キシン選手の一戦です!』
『しかしキシン選手の乗るゾイド。初めて見る型ですが一体何物なのでしょうね。』
ヤマモトはキシンの乗るゾイドを疑問に思っていたが、その直後にキシンが叫んだ。
「俺のムラサメライガー“テッコウ”をこの間の試合の相手と一緒にするなよ!」
「ええ!?ムラサメライガーって名前なの!?そのゾイド!」
「おうよ!最近完成したばかりの新型ゾイドだ!お前のゴジュラスギガにも負けんぞ!」
「確かに私とカンウに挑戦して来るくらいだから並のゾイドじゃないと思うけど、
ゾイテックやズィーアームズのゾイドとはまた感じが違うよね。」
「ゾイテックやズィーアームズと一緒にするなよ!このテッコウ、つまりムラサメ
ライガーは俺っちの実家が経営しているガンロンコーポレーションが最近完成させた
完全自社製作ゾイドなんだぜ!」
『なんとキシン選手のムラサメライガーなる名称のゾイドはガンロンコーポレーションの自社製作ゾイドだったぁぁ!ってガンロンコーポレーションってあんまり聞いた
事無いですね。』
『確かに私も知りませんよ。』
                 ずげげげげ!!!
フルタチとヤマモトのキツイ一言にテッコウは物凄いすっ転びを見せた。
「た・・・確かに俺っちのガンロンコーポレーションは最近立ち上がったばかりの
新興中小零細企業。だが起死回生の為に開発したムラサメライガー“テッコウ”を
持って俺がゾイドバトルで活躍すればムラサメライガーとガンロンコーポレーションの
宣伝になる!故にこの試合絶対に負けられん!」
「なんと、そんな思惑があったの。でも非公式試合でそんな事しても意味無い気が・・・。」
「あ・・・。」
熱弁を振るっていたキシンだったが、マリンに痛い所を突かれ、黙りこんでしまったが、
まるでそれをごまかすかのようにテッコウが跳んでいた。
「ええい!問答無用だ!」
「うわ!速い!」
テッコウの素早い突撃にカンウは何とか回避出来ていたが、カンウの背後にあった岩山が
テッコウの爪の一撃で粉砕された。
二つの轟音が煙の中から立ち上がった。
リリーはその仲間の声を、離れていた所から
確りと聞き取るが、一歩たりともその場を動こうとしなかった。

聞こえたのは確かに仲間の声。
何かが起こったからこそ吼えた仲間の声だ。
だが、それは悲鳴ではなかった。
けして助けを求める情けない声ではなかった。
そう、彼等は何が起ころうとも必ず無事に戻ってくる。
そして、その時自分が敵にやられてしまっていたとしたら、
勇猛な彼等はおそらく自分に対して大きく幻滅するはずだ。
ならば、辛抱を持って彼等の帰りを待ち、敵が来れば倒す。
それこそが今の自分に求められている物――

リリーは黙って念仏のように繰り返し心に誓い、自分に与えられた
「責任」という二文字を操縦桿ごと、強く握りなおした。
…そんな彼女の目の前に突然煙の中から一機のゾイドが
黒くうねったローブの一部を裂き、白い姿を露にした。
「……来たわねぇ!」
直ぐにそれを敵と察知したディバイソンは砲塔を相手に構えた。
鳥のような羽に身を包んだそのゾイドは気付いているのか、
いないのか、とにかく猛スピードでディバイソン目掛けて接近し始めた。
「真っ向勝負?受けて立つわ!」
リリーは敵に対して照準を定めずに次々と光弾を撃ち込んだ。
その1つ1つが光の速さで飛び交い、エヴォから道と視界を確実に奪う。
だが、ファイは迷わず光の群れに飛び込んだ。一部が身を霞め、
パーツをもぎ取るが、エヴォも怯まず相手に向い、地を蹴った。
「この距離なら!」
青い爪を振りかざし、バイソンの背目掛けて飛び込むエヴォ。
この間合では、得意の射撃が封じられるのは勿論のこと、
重量級の機体では避ける事も難しく、エヴォはバイソンに
とって極端に不利な状況を作り出したかのように一瞬思われた。
だが、三十を越えるその圧倒的な砲塔の数に目を奪われ、
彼は相手機体の非常に重要なチャームポイントを1つ見逃していた。
そう、自分にとって危険極まりない間合いに
入ってしまったことに気付いていなかったのだ…。
「接近戦なら行けると思ったの!?」
「何!?」
『極端に不利な』間合いを与えられたリリーは迷わず操縦桿を倒した。
それに連動して一歩身を引くバイソン。
そして次の瞬間、反動をつけて小竜を受け取った超硬質の角を天高く突き上げた。
打ち上げられた衝撃で装甲を零しながらエヴォは空を舞った。
そして、その大振動に神経組織を著しく妨害された
ファイは着地体制を一切取れずに、背中から地面に激突した。
墜落し、コクピットカバーに頭を強打した彼は一瞬、気を失いかけたが、
腹に何かとてつもない重圧を1つ喰らうと、その衝撃でハッと我に返った。
その腹部に受けた重圧の正体はディバイソンの蹄だった。
やわなBLOX装甲をぶち破り、深深と金属の塊が減り込む。
腹部に供えられた飛行モードへの変形機構はすでにグチャグチャで、
全体に広がるダメージは言うまでも無く尋常ではなかった。
「…ちょっと強引なやり方だけど…私も負けられないから!」
リリーが手前の操縦桿を引きなおすとバイソンが
エヴォに減り込んだ蹄を引き抜き、高々と上げた。トドメの構え。
「くっ!」
ファイはその恐ろしい光景に対して、咄嗟に鼻先のバルカン砲を撃った。
余裕無く手元のトリガーを握った、まさに咄嗟の一撃。
…だが、その照準を絞る余裕の無さが、彼を救った。
ロックオンせずに放たれ、行き場を定めなかった弾丸の群れが
至近距離で拡散し、ディバイソンの顎周辺に広くヒットしたのだ。

「ちょ、ちょっと、落ち着きなさいディバイソン!」
顔に攻撃を受けて、本能から搭乗者が居る事を忘れて顔を左右に振りもがくバイソン。
その挙動に自らの超重量のバランスを保てず、彼女はファイに一瞬のチャンスを許した。
「…今…だ!」
エヴォはそのチャンスをきっちり生かし、地獄のポジションから脱した。
そして、さほどディバイソンから離れないところで直ぐに
体制を立て直すと、今度は角の無い側面に狙いを定めて跳んだ。
「今度こそ!」
ザクっという荒い音と共にバイソンの悲鳴が上がった。
横っ腹を青刃が切り込んだのだ。
愛機を宥めることに集中していた彼女は、その攻撃を察知仕切れなかった。
その一撃で四肢のバランスを失ったディバイソンは脚を縺れさせて、地面に伏した。
「きゃぁあ!」
リリーがバイソンを立て直そうとする中、横の床板が突然爆発した。
その衝撃に慌てる彼女の耳に
「おい、大丈夫か!」
と試合前に聞いた懐かしい声が届いた。
少々よろけつつ、ようやく体制を立て直した彼女は
周囲を見回し、ある視野の一角にその声の主を発見した。
その視野のある一角…に居たのは肩のハッチから
白い煙を出すレオストライカーだった。
「 ロ ン !!」
リリーはロンが自分を救った事を確認すると思わず声を上げた。
その声に対して
「よう、リリー。元気してたか?」
とロンは軽く返した。
「無事だったのか!ロン!」
次に聞こえてきた声はグラントだった。
通信能力が回復し、仲間の無事を確認し終えると
彼女は黒い煙が無くなった代わりに桃色の物体が闘技場を分断し、
中央の壁にまで広がっていることに気付いた。
「何コレ?…ははぁ、これにくっ付かれて二人とも動けなかったのね〜」
「そうなんだ!この粘着ピンク!滅茶苦茶粘って全っ然、離れねぇんだよ!
でさ、仕方が無いから煙晴れんの待ってたらお前がピンチに――。」
ボン、ボンっと小銃が吼える音が響くと共にロンの話が途切れた。
脚を固定され、レオの胴体が大きく揺れ苦しむ光景に
ピンクの河の向こう岸で青い蟲型ゾイドが唸った。
「…ぐ、お前か!キーン!」
キーンは操縦席内でニッと笑った。
「僕の名前を呼ぶ君はロンじゃないか!試合中に
おしゃべりなんかしてるから誰だか全然わからなかったよ!」
粘着ピンクの淵に近寄り、グスタフは続けざまにロンに発砲する。
避ける事が出来ないレオは撃たれるがまま、となった。
今回、ファイが考案した自分達に有利な地形を作る…
という作戦の中で最も彼が共感した相手の動きを封じての攻撃。
キーンは煙を撒いたり、粘着弾をばら撒いたりしている時より
明らかに生き生きとスコープを覗き、トリガーを握っていた。
「く、今助けるわ!」
「おっと、俺を忘れてもらっちゃ困る!」
リリーが砲塔をグスタフに向けようとすると、先ほどまでミサイルの影響で
崩れた床に埋もれていたエヴォがディバイソンに踊りかかった。
「邪魔しないでよ!」
リリーは苛立ちながらエヴォに向かった。

「糞っ!ロンがピンチ、だがリリーは手が出せねぇ。残ってるのは俺だけじゃねぇか!
ロンを連れ出すなんて言って何にも出来やしねぇ、じゃ面目丸潰れだ!こうなったら何が何でもやるっきゃねぇ!!!力を貸せ、相棒!」
ゴジュラスが今まで異常の猛音を立てて脚に力をこめ、
粘々と纏わりつく桃色の物質を力ずくで引っ張る。
「おら、気合がたりねぇぞ!ゴジュラス!こんなもんぶっ千切れー!!」
ゴジュラスが低く一声唸り、目を強く光らせた。グラントの気迫に呼応したのだ。
脚のキャップが高速で回転し、前足を引くと
足裏の装甲を代償にゴジュラスはようやく自由を獲得した。
「はぁ…やっぱり俺達二人に出来ねぇことはねぇな!ゴジュラス!さて…」
グラントは向こう岸に目を向けると、グスタフが楽しみながら
攻撃しているせいかレオがまだ、持ち堪えている事を確認した。
「まだ、無事みたいだな。…しかし、どうやってこの粘々の向こうに行けばいくか…」
先程は引き剥がす事が出来た粘着弾だが、アレは数分に渡って何度も力を加えた上に
装甲板を失って脱出できたのであってドンドン千切ってこの境界線を渡れる
という物ではない。それに、いくらゴジュラスのジャンプ力が強いと言っても
中間地点の1つでもなければ渡るのは無理だ。
新たな問題の浮上…計算された戦法。
「ん〜?おっ、いいもん見っけたぜ!!」
…その問題を解決する救世主は割とあっさりと登場したらしい。

轟声が何度も響く中、エヴォフライヤーとディバイソンの戦いは佳境に入っていた。

バイソンの角がきめ細かい羽を突けば、その反動を生かした
エヴォのテイルアタックがディバイソンの脚を崩し、
エヴォフライヤーがバルカンを撃てばバイソンの背中が
その数百倍の火を吹く。スピードとパワー。
両者譲らず一進一退の攻防…。

しかし、そこにあるのは互いに相手を潰し、勝ち残ってやろうという
執念に満ちた空気を遮り、心から今、この時を楽しむ二人の姿があった。
始めは敵であるという考えが先行し、勝ち負けが目の前に揺らいだが
今、それは大変小さな事だった。
確かに…チームバトルとしては互いの『責任』を果たすための戦いなのだから、
負ける事はけして良い事ではなかった。だが、戦士としての血を抑える事が
できない状況に陥るほどのゾイドバトルという物を二人とも
知らなかったのだから、ある意味仕方の無い事だったのかもしれない…。

一瞬の隙が生まれた。汗でレバーの誤作動をしてしまったという大きな隙。
それを今度も物にしたのはファイだった。背中に乗り込み、エネルギーパイプに噛り付く。
「くっ!…こうなったら揺さぶり落とすまで!」
バイソンは脚を地面に減り込ませて体を固定し、全身の力をこめて背中を揺さぶった。
だが、背中という全く武装の届かない弱点を突かれた今、勝負は見えていた。
振動を上手く寝そべって軽減したエヴォは、滅多に使わない牙を剥き出し、
背中で装甲薄いあらゆる所を噛み千切った。そして、ある一箇所を裂いた時、
バイソンは立ったまま静かに眠りに落ちた。システムがフリーズしたのだ。
それを確認すると、エヴォはバイソンが転倒しないように
気を使って地面に降りると挨拶もなしに駆けて行った。
「私の負け…ね。」
コントロールが効かなくなり、照明が落ちるとリリーは両手を自由にし、
溜息を一つ吐いてシートに寄りかかった。それから間もなく
コックピットカバーを手動で開き、汗に滲む視線にそってエヴォの駆けて
行った遠くを眺めた。…ゴジュラスがグスタフと対峙する光景が見える。
「あら?グラントの奴脱出したんじゃない!しかもレオストライカーも無事?
じゃあ、まだ負けってわけじゃないじゃない!やっちゃえー!グラントー、ローン!」
リリーは大声で二人に向かって声援を飛ばした。
ゾイテック社内大会第二回戦…勝負の行方は、まだわからない!

28Innocent World2 円卓の騎士:2005/05/28(土) 19:58:07 ID:???
 ―前スレまでの話―

 人々が年号の概念をも忘れ去った遥かな未来、旧暦を使うのならZAC5013年の惑星Zi。
 ゾイドと融合し、特別な力を得る「能力者」が生まれる時代である。
 2年前に起きた戦いで、戦後復興の道を辿っていた世界は再び混乱の様相を呈する。
 そして――能力者の抹殺を唱える謎の組織「円卓の騎士」が現れ、その混乱を加速させていた。

 囚われの身となったオリバー。暫定政府の牢獄の中、オリバーは一人の少女と出会う。
 時を同じくして、彼を救い出すべくリニア達が動き出す。
 少女――政府議長の娘、レティシア・メルキアート=フォイアーシュタインを『救出』し、
リニアの手助けもあってオリバーは脱出に成功した。
 ――しかしそこで彼を迎え撃ったのは、死んだはずの親友マキシミン=ブラッドベイン。
 洗脳を受け、“第二世代”の力に覚醒したマキシミンに追い詰められるオリバー。
 助太刀に入ったリニアが彼の機体を一蹴し、背後に立つ騎士と対峙する。
 しかし、唐突に騎士はマキシミンと共に逃げ去った。直後――現れたのは奇怪な生物。

 店に戻り、一息つくオリバーたちにワンは語る。ゾイドとは根本的に異なる究極の生物
“アーティファクト・クリーチャーズ”の存在、その生まれた経緯を。
 『その生物』を葬ったヴォルフガングは、騎士への憎しみを燃やすのだった。

 謎の計画“大選抜”への準備を着々と進める騎士。その一環としてまず始まったのは、
世界の人々に能力者への敵意を植え付けるための工作。
 マキシミンによって行われる殺戮。謎の矢文によって次の標的を知ったリニアは
現場に向かい、騎士ラインハルトと相対する。
 そして、戦いのさなか、最強の騎士アーサーが彼女の前に現れた――。

 “大選抜”とは何か?
 そして、能力者を滅ぼさんとする騎士の意図とは?
29作られた『命』 ◆ok/cSRJRrM :2005/05/28(土) 22:09:18 ID:???
(生きた機械・・・か)
整備兵の徽章を付けた老人は、ふとそんな言葉を思い出した。
修理している目の前の機体、ウネンラギアを見て。
BLOX。人間は、とうとうゾイドを1から生み出す術を見つけた。
完全に規格が統一されていて、何よりも補充が利く。
武装も、装甲も、そして、ゾイド核さえも。
それまではそんな考えは存在しなかった。
ゾイド核を撃ち抜かれれば、もうその機体の役目は終わった。
だがBLOXは違う。取り換えれば、それで済むのだ。
おまけに、戦場でさえも味方機とパーツのやり取りが可能。
軍の上層部は即座にこれを採用、各戦線へ支給した。

確かに、以前よりも遥かに整備しやすくなった。
けれども彼には納得のいかない点がある。
「・・・はぁ・・・暗いな、お前さんも」
別に、ゾイドと話す力があった訳ではない。
だが今までは整備を続けているうちに伝わってきたのだ。
その機体の癖。性格。そしてパイロットとの絆が。
右肩の関節の消耗が異常なまでに速かったシールドライガー。
装備を外そうとすると激しく嫌がっていたゴドス。
コクピットの掃除をしようとすると威嚇してきたアロザウラー。
こいつら−BLOXには、そういったことが少なかった。
絶望しているようにも、何もかもを諦めたようにも感じられた。
30作られた『命』 ◆ok/cSRJRrM :2005/05/28(土) 22:10:18 ID:???
当たり前と言えば当たり前だ。
紙コップや割箸を大事に使う人間なんて少ない。
もはや使い捨ての感覚。
操縦者に大事に扱ってもらえない機体が、そいつを守ろうとするだろうか?
確かにBLOXの愛機を大切にしているパイロットだっている。
しかし、その数は減っている。整備兵である彼には解る。
「俺の相棒の調子はどうだ?」
そう聞きに来る隊員の数が激減したから。

(いつから人間ってのは、こんなに偉くなったんだろうな?)
生命を生み出す。それも、消耗品としての。
BLOXが発明される前は、両軍とも必死で自軍の主力機体を育てた。
絶滅危惧種は兵器転用してはならない、などというルールもあった。
その頃はゾイドに乗る皆が皆、愛機とともに死闘を繰り広げた。
パイロットと機体が、お互いに信頼し合っていた。
そう。ゾイドが『生きた機械』であったから。

「・・・戦争の真の被害者は、お前さん達かもしれんな」
出撃して行く、自分の整備したブロックスを見ながら、彼は呟いた。
31Full metal president 59 ◆5QD88rLPDw :2005/05/30(月) 02:34:32 ID:???
「拡声器で堂々と言われた…。」
イクスに乗る兵士は本当かよ!と思いながら機体を素早く岩場に隠す。
この辺りは巨大な砂の層が流れてできた丘陵地。真っ直ぐ走ることはできない。
その代わりゴツゴツした大岩が多いので中にはイクスを隠せる程の岩も有る。
相手の情報は頭に叩き込んである。
「ストームトンファーさえ喰らわなければ…勝てる筈だ!」
特殊合金製のストームガトリングを使用した近距離打突兵器。
物は考え様…初代の機体に乗っていた者は相当頭が良かったらしい…。
現に数回の掃討作戦のおりには2機のカンガルーダのみに叩き伏せられている。
後方のゴジュラスmk−Vや詳細不明の試作ゾイドは一度も戦闘に参加していない。

「相手は1機か…しかしこっちはストームガトリングが砲撃に使えない。
もう直ぐ球切れ。撃てても3秒程。狙いは外せない!」
ハンスは機体をゆっくりと歩かせケビンに通信する。
「こっちはこのまま歩いて本体にきついのをお見舞いしてやる。ケビン?どうする?」
堂々と拡声器で相手に聞こえる様に。同じくケビンも…
「おう!こっちは隠れん坊好きの大猫ちゃんを撫でてからにする。
気を付けろよ。幾ら予測できるからってゼネ砲の直撃喰らうんじゃね〜ぞ!」
「了解した!」
二手に分かれるカンガルーダ。対するイクスは…実は3機居る。

「馬鹿かあいつ等…陽動を掛けてるつもりだろうがもう引っ掛かりはしない!」
とは言えイクスは隠密偵察及び暗殺用ゾイド。略クロスレンジで仕事をする機体。
エレクトロンドライバーが有るとは言え最大出力はアースユニット無しでは厳禁。
威力を抑えすぎれば拡散率が上昇し相手に届かない。
結局格闘距離で一撃を狙う事に相成る…相手はキメラブロックス。
普通なら楽勝だと思われがちなのだが…
「おるあっ!隠れる場所がバレバレなんだよっ!」
ケビンのカンガルーダのストームトンファーが早速1機のイクスを殴り倒していた…。
最高ランクの潜伏技術とを要する機体。それがライガーゼロイクスである。
32魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/30(月) 02:56:55 ID:???
☆☆ 魔装竜外伝第四話「初陣! チーム・ギルガメス」 ☆☆

【前回まで】

不可解な理由でゾイドウォリアーへの道を閉ざされた少年、ギルガメス(ギル)。再起の
旅の途中、伝説の魔装竜ジェノブレイカーと一太刀交えたことが切っ掛けで、額に得体の
知れぬ「刻印」が浮かぶようになった。謎の美女エステルを加え、二人と一匹で旅を再開
する。辺境の地・リゼリアでのトライアウトに挑んだギル。好成績を残すが、その隙に襲
い掛かってきた水の軍団の刺客「ゲリラ殺しのジンザ」には大苦戦。辛うじて撃退し、ジ
ンザは自決して果てた。軍団の長「水の総大将」は次なる刺客を放つ…!

夢破れた少年がいた。愛を亡くした魔女がいた。友に飢えた竜がいた。
大事なものを取り戻すため、結集した彼らの名はチーム・ギルガメス!

【第一章】

 今晩昇った双児の月も、地表を広く見渡すかのごとく照らしていた。
 ギルガメスにとって、この晴れた夜更けは迷惑なことこの上ない。双月の淡い光は残酷
にも、傷付いた心の奥底まで直下に晒すからだ。…寝袋に入り、首だけ出して仰向けに眠
っていたギル。床は新聞紙の上に布を敷いたもの。周囲を棺桶より広い程度に囲う、合成
繊維の壁。彼はテントの中で一夜を過ごそうとしている。
 寝所を塞ぐ扉代わりの布の隙間から、差し込む月明かり。不快そうに身をよじったギル。
横に向いて光を避けると今一度、深い眠りへと我が身を誘う。
 その外の様子。テントは二つ、横並びだ。そこから左へと順に、貯水タンクや簡易キッ
チン、仮設トイレ、カーテンに囲まれた薬莢風呂が弧を描きつつ立ち並ぶ。それらの中心
に設置されているのはいずれも折り畳み式の椅子とテーブルだ。小高い丘上の半分程が、
これらキャンプ用の大道具で占拠されている。
 残る半分のスペースはつい先程まで空けられていたのだが、たった今、所有者が引き上
げてきた。
33魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/30(月) 02:59:06 ID:???
 軽い地響きを立てつつゆっくり丘を上がってきたのはお馴染み、深紅の二足竜。二枚の
翼と六本の鶏冠を背負った体躯は民家二軒分程もあるが、この凶悪且つ巨大な容姿とは裏
腹に、丘上に登り切ると何とも柔らかな挙動で身を伏せ、長い首と尻尾を丸めた。軽く土
煙が舞うものの、この巨体の足首程も立ち篭めたりはしない。誠に、優美。この二足竜こ
そが人呼んで「魔装竜」ジェノブレイカー・又の名を「殺戮と破壊の使徒」だとは中々信
じ難いものではある。勿論、今この竜は只の「ブレイカー」であるため多少の角は取れて
いるのかも知れないが。
 一度は丸めた首を、改めて伸ばす。…向けた先にはテントが二つ。小首を傾げつつ、じ
っと扉の隙間を覗いたその時、この深紅の竜は見た。
 横に向きながら寝入る、若き主人。
(我は人殺しをするためにゾイドに乗っているのだ!
 うぬ一人を殺めるだけで、この星はずっと平和になる。そのためなら、我は喜んで命を
捨てる!)
(惑星Ziの、平和のためにィィィィ!)
 数日前、彼ら主従の前に立ち塞がった刺客の、断末魔。眠れるギルの耳元で谺するのは、
「ゲリラ殺しのジンザ」と渾名された男の呪詛。…実のところ、彼の目前で人が死んだの
は初めてではない。レヴニアで出くわした武装蜂起は言わずもがな、ジュニアハイスクー
ルのゾイド演習で同級生が事故死する有り様を何度も見ている。ゾイドウォリアーを目指
す過程で、他の少年少女よりも人の死が身近な現象になっていたのは事実だ。しかし先日
の経験は、彼の過去の経験とは一線を画していた。…あの男の自決という行為は、それ自
体が実に切れ味鋭い「悪意」という名の刃となって、少年の心を深く抉ったのだ。
 ギルの頬を伝う、一筋の涙。彼の傷心を襲うのは悪夢。抗う術は只ひたすらに、深い眠
りへの逃避のみ。眉間に皺を寄せた寝顔が、逃げ場を求めて苦痛に歪む。
 そっと、伸びた竜の左手の爪。テントの隙間を軽く広げる。無論爪は長く、テント内に
はどうにか半分入る位。だがためらうことなく爪を入れると、斜めに傾けつつ、まるで羽
毛を撫でるかのように。
 若き主人の頬から、弾けた水滴は宝石の粒にも似た。
34魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/30(月) 03:00:20 ID:???
 手応えを確認した竜。一層慎重に、爪を引き抜く。…目前に左手を近付け、まじまじと
爪を見つめる。金属生命体ゾイドの体内からは、決して発生されることのない液体。暫し
見入った、その時。
「…ブレイカー、随分早いのね?」
 不意の呼び掛けに、翼と鶏冠を逆立てる(犬や猫なら総毛立っていたに違いない)。夜
更けは本来ならこの深紅の竜が狩りに勤しんでいる時間。Zi人は大抵寝静まっている。
首をもたげ、ガチガチに緊張した状態で徐に声の方角を向けば。
 寝巻き代わりのジャージを羽織った女性が一人。…背の高い、すらりとしなやかな肢体
の持ち主。並の者ならば何とも垢抜けぬと一蹴される格好なれど、彼女ならばそれなりの
コーディネートに見えてしまうのだから羨ましいことこの上ない。古代ゾイド人・エステ
ル。ギルの師匠にして、他に並び立つ者なき美貌と、異能の持ち主。
 ブレイカーの、何ともばつが悪そうな表情。言わずもがな、エステルの面長で端正な顔
立ちからは寝惚けた様子など寸分も伺えない。深紅の竜は再び蹲ると軽く溜め息をついた。
 無論、ブレイカーの真意などお見通しの彼女。切れ長の、蒼き瞳の輝きは何とも穏やか。
「貴方が気に病んでも仕方ないわ。
 これはね、試練。…ゾイド乗りなら誰もが乗り越えなければいけない、ね」
 落ち着いた口調で諭すと、今度は深紅の竜に代わって膝をつき、テントに首を突っ込む。
少年の寝顔を照らす双児の禍々しい月明かりを遮るように、そっと。
 暫し、見入る。…やがて漏れ聞こえる、ギルの寝息。魔女の影は少年を深い眠りへと誘
った。先程伝った涙の跡は頬に残ったままではあるが、彼女にそれを拭うつもりはない。
「大丈夫。泣く力が残っている内はね」

「すっとぼけてるんじゃねえぞ、糞坊主!」
 けたたましい夜更けも一方ではあったものだ。
 ゾイド用に切り開かれた山道を、双児の月が照らす。道の中央で仁王立するのは、緑色
に金縁のローブを羽織った男。首にぶら下げるのはヘリック正教の十字架。顎鬚を蓄え、
一見温和そうな笑みを、フードの奥に秘めている。
35魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/30(月) 03:01:36 ID:???
 その、ローブの男を二十数名の男が囲む。年格好にばらつきはあるものの、いずれも小
銃・短銃を握り締めている。更に包囲網の前後には、旧家の蔵程もあるゾイドが一体ずつ。
人の形にも似たそれらは長い腕を地面に降ろし、黒い鋼の鎧と兜で身を固めていた。人呼
んで「槌猩機」(ついしょうき)ハンマーロック。ゾイドとしては小柄だが、抜群の腕力
と高い知能は様々な状況に適応できる。まさにゲリラ戦のために誕生したゾイド。
 しかしながらこの光景は異常だ。屈強な男達とそれ程のゾイドが数匹掛かりで包囲する
相手は、見た限り全く丸腰のヘリック正教の司祭に過ぎない。彼らをそこまで駆り立てる
この男は一体何者なのか。
「…はて、とぼけると申されましても」
「お前が『水の軍団』のゾイド乗りだってことは調べがついてるんだ!」
「たった一人で同志千人とゾイド百騎を屠った、『破戒僧』グレゴル!
 だがもう逃げ場はねえぞ。とっとと観念しやがれ!」
 怒鳴り付ける男の銃を握る腕が、震えている。
 周囲を睨み、一呼吸置いた司祭。…薄笑いを浮かべたまま。だが横目でその震えを確認
したその時、込み上げてきた冷笑。
「銃口がブレたら殺せる敵も、殺せませんよ?」
「な…!」
 挑発は男達の感情を沸点まで一気に引き上げた。立ち所に向けられた銃口。破裂音の共
鳴、閃光、そして辺りを漂う硝煙。
 全弾、命中。憎むべきこの司祭の死を期待し、確信した男達。…しかし数秒後、眼前に
広がる世界は彼らの心情をものの見事に裏切ってみせた。
 晴れ行く硝煙の中、佇む司祭の姿は死神にも似た。二十数名が放った銃弾を身に受けな
がら、緑色のローブには解れた箇所さえ見当たらない。
「畜生! 服に何か仕込んでやがる!」
 看破しつつ小銃を振り上げ、挑み掛かった男。
 対する司祭。首の十字架に、掛かった右手。…イブに祈りを捧げるのが目的に非ず。鷲
掴みと共に、十字架の各先端から伸びた「何か」。しかし肉弾戦を挑んだ男はそれを確認
するチャンスを与えられることなく司祭とすれ違い、そして。
36Full metal president 60 ◆5QD88rLPDw :2005/05/30(月) 03:02:12 ID:???
「でええええっ!?」
隣りの岩にぶつかって空中を3回転程しながら姿を消して追い撃ちを避けるイクス。
なんとかシステムダウンこそ逃れる事ができたが早速スタンブレードが片方使用不能。
「ただ隠れるだけならセイバータイガーホロテックでも使えって事だ!初心者が!」
光学スクリーンに偽装映像を投影するイクスの物はクロスレンジでは使い物にならない。
有る距離を界に素で見えてしまうのである。
それがとても短い距離であれ経験の差はそこまで踏み込む事を簡単に許してしまう。
操縦技術と戦闘経験の差は歴然としている…。

今回の戦場の位置取りもスプリンターズが選んだ戦略である。
丁度イクスの全長と全高が納まるぐらいの岩が多い場所に陣取る事…
普通に考えればイクスに有利に見えるが”丁度”と言う大きさが肝なのである。
岩の丁度外に光学迷彩の偽装スクリーンが食み出る様な岩しかない。
つまり…たまに発生するリアルタイムでの映像更新の際に出る揺らぎが確り見える。
そう言う事である。

「うわっと…メガレオンか!」
突然何も無い空間から砲撃音が響き2本の光条がほんの少し前までの足元に炸裂する。
距離は…遠い。完全にカンガルーダの射程圏外だ。ケビンは逃げたイクスを追跡する。
岩を一つ後ろに行けばメガレオンを攻撃できない。後は止めを刺す…それだけだ。
しかし…目の前の岩に揺らぎが食み出している。
「ちっ!1機だけじゃなかったか!」
ハンスを呼ぼうとするがやめる。呼んだ所で彼はメガレオンを処理しないと成らない。
その間にこいつ等に落とされでもしたら寝覚めが悪い。ハンスの小言も聞きたくない。
「どりゃ!」
ストームトンファーを高速回転させて岩を思い切りぶん殴る。
「うわあ!?」
砲身部から高速回転した物を更に振り回して叩き付ける…。
恐ろしい轟音と共に岩が爆散し隠れていたイクス達に石飛礫が襲い掛かる。
しかし…イクスの他にそれに当たって気分を害したゾイドが居た…。
37魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/30(月) 03:05:09 ID:???
 ゆらり、うつ伏せに倒れゆく男。右手を大きく振ってみせる司祭。その掌中、握られた
十字架の各先端、伸びたのは刃、そして滴り落ちるは鮮血。
 司祭は絶命した男を一顧だにせず、又他の男に顧みる隙をも与えず、鞭のごとき勢いで
右手を水平に伸ばす。…掌中から、消えた十字架!
 数秒も経ずして、正面に右手を伸ばした男。するとどうしたことか、左方から巣に舞い
戻るかのごとく飛んできたのは、あの十字架状の手裏剣だ。これを司祭の右手がガッチリ
と掴んだ時。
 司祭を取り囲む壁が崩れ落ちた。…否、男達が次々と絶命し、倒れたのだ。彼らの喉元
はいずれも鋭利な刃物で傷つけられ、鮮血が海を路上に作り出そうとしている。
 忽ちこの危険な司祭の頭上に、忽ち振り降ろされた鉄槌。否、包囲網の後方を封鎖して
いたハンマーロックの鉄拳だ。
「ざまァ見ろ、この糞坊主!」
 地面に広がる放射状の亀裂。だがこのゾイドが腕を戻し、手応えを確認したその場に司
祭の死骸は見当たらない。
「あっはっは、鬼さんこちら」
 声の主は山道の脇を遮る崖の上。双児の月を背にした司祭の高笑い。夜空の妖しい輝き
は残る二体のゾイドとパイロットに対する格好の目くらまし。彼らが地団駄を踏んだ隙に。
「ライネケ、やれ!」
 十字架を振り上げた司祭。するとどうしたことか。双月の輝きの中から現われた獣が一
匹。先程司祭に鉄槌を振り降ろし損ねたハンマーロックとすれ違い様、首を食いちぎった
その正体は。
 紺色の胴体に所々、金色で縁取られた四足獣。耳は角のごとく天に向かって伸び、頬を
固める装甲は錣(しころ)のごとく後方に広がる。まるで兜を被ったよう。身は良く引き
締まり、長い尾を水平に伸ばした姿は何とも優美。背には数枚の装甲を重ね載せているが、
その隙間の一つから、四本の銃身を束ねて一本にまとめた銃器が伸びている。俗に「ガト
リング砲」と呼称される形。これがこの四足獣の主武装であろうことは疑う余地もない。
38魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/30(月) 03:07:35 ID:???
しかしながら何より不可解なのは四肢の踵から生える鉄の爪だ。先程見せた敏捷な動きと
は相居れぬこの意匠、誠に不可解。優美と武骨が絶妙に折り混ざったこの四足獣こそ「影
狐」シャドーフォックス。遠い昔、数多の大陸を恐怖に陥れたヘリック共和国随一の吸血
部隊「閃光師団」の主力ゾイドだ。
 くわえた首を吐き捨てるシャドーフォックス。同時に跳躍した司祭。着地点はさっき
「ライネケ」と呼んだこの四足獣の相棒の頭上。するとこのゾイド、狙い済ましたタイミ
ングで自らの兜を開けてみせ、司祭を己がコクピットに招き入れた。
「馬鹿野郎、隙だらけだ!」
 残るもう一匹のハンマーロックが殴り掛かる。…手応えは、あった。金属音は確かに辺
りを揺るがした筈だ。
 だがこの主従が、憎むべき四足獣の吹っ飛んだ(と思われる)先…山道を囲む壁面に視
線を向けた時。
「そ、そんなのありか…う、うわぁぁぁぁっ!?」
 ハンマーロックの主従が何を見たのか、真相は後の展開で明らかにしていきたい。…と
もかく、この主従は共に死出の旅へと誘われた。地に伏した鋼鉄の肉体を調べてみれば、
無数の穴が開き、油が滴り落ちている。紺色の四足獣が背から放った光の矢は一切音を立
てず、その上見事な命中率で彼らを葬り去っていた。
 山道に広がる死屍の山。それをシャドーフォックス「ライネケ」のハッチを開け見下ろ
す司祭。祈りの言葉を捧げ、十字を切った後。
「…そろそろ出てきなさい、ブロンコ。それに、もう一人の御仁も」
 司祭の声に応じて、月の掛からぬ崖の上から出てきた男、二人。
 一人はテンガロン・ハットを被った眼光鋭い中年。鼻鬚・顎鬚は見事に切り揃えられて
いるものの、眉間には余りに深すぎる皺が数本。服装は上が長袖のシャツにベスト、下が
ジーンズ。そして何より目立つのが、左足に釣り下げられたホルスター。釣り下げられた
拳銃は、この男自身の腿程の長さもある。俗に言う「AZ(アンチゾイド)マグナム」。
所謂「ゾイド猟」に挑む者でもない限り到底持ち得ない代物だ。
39魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/30(月) 03:08:40 ID:???
 もう一人はパイロットスーツを身に纏った長身の青年。尤も襟から腰の辺りまではファ
スナーを開け広げるというラフな格好。その上長い金髪を束ねもせず、伸ばし放題にして
いる。極め付けはその面構え。彫りが深く鼻筋の通った、誰もが二枚目と認めるだろう造
作。しかしながら鼻や顎、頬には無精髭がまばらに生えており、全てを台無しにしている。
 山道に降り立った二人。「ライネケ」と呼ばれたシャドーフォックスも腹這いになり、
頭部ハッチからその主人が出てくる。
「『破戒僧』グレゴル。相変わらず、見事な手並みだな」
 テンガロン・ハットの男が交わす挨拶は、努めて抑揚を押さえた声。
「いや、それなりに厳しかった。それより『銃神』ブロンコ。どうせならその腰に釣り下
げたAZマグナムで加勢して頂きたかった」
「俺が止めたのさ。あの程度の連中なら問題にならない。…事実、あんた息切れどころか
汗一つ掻いちゃあいないじゃないか」
 言い放ったのは長髪の青年だ。その言葉にブロンコは不快そうな表情を浮かべている。
「ブロンコ、こちらの若者は?」
「ヒムニーザ、って言ったらわかるかい?」
 ブロンコが喋るよりも前に言い放った青年。尊大そうに胸を張る様はグレゴルら二名の
中年を小馬鹿にしているかのようだ。
「おお、『風斬りのヒムニーザ』! 最近売り出し中の傭兵が我ら『暗殺ゾイド部隊』に
配属されたと聞きましたが、貴方でしたか…」
「グレゴル、こんな礼儀知らず相手に丁寧語など使うな」
 吐き捨てるように呟くブロンコの表情はひどく忌々しげだ。だが一方のヒムニーザは彼
の態度など全く意に介さない様子。と、その時。
『三人、揃ったな?』
 声はシャドーフォックス・頭部コクピット内から。表情を一変させその方角を睨む三人。
「はっ、水の総大将。ブロンコ、グレゴル、ヒムニーザ、確かに揃いました」
40魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/30(月) 03:10:06 ID:???
 無論、声の主は彼の地・リゼリアより遥か遠方の空中から発せられていた。…雲海を泳
ぐ玄武皇帝・タートルカイザー「ロブノル」。その頭部に構えられたプラネタリウムのよ
うな指令室の中央・円錐状に盛り上がった席上では、「水の総大将」と呼ばれた男が頭上
に描かれた映像を睨んでいた。例によって水色の軍服と軍帽を折り目正しく着こなし、馬
面に痩けた頬、落ち窪んだ上に守宮のように瞳が大きな異相の男。
「御苦労…。時にグレゴル、首尾は如何に」
 低い声に、一層背筋を正すグレゴル。
「明日、或いは明後日にも、過日行なわれたトライアウトの合否通知が受験者に届けられ
るでしょう。…ここはリゼリア。実力を考慮すれば、余程の事でもない限り『刻印の少年』
は合格するでしょう」
「全く忌々しい話しだ。非常事態とも言える。『刻印』の存在を公の場に晒すのだからな。
 早急に手を打たねばロクでなし共が力欲しさに動き出す」
 吐き捨てるように言い放ったのはブロンコだ。しかし彼の発言を遮るように、グレゴル
は軽く手を上げた。
「お言葉ながらブロンコ。それには心配及びませぬ」
「…何故?」
「彼奴らは肩書きの上では確かに新米のゾイドウォリアー。
 しかしながら、最早無名ではない。…悪い意味で、ね」
 成る程と合点がいったのか、大きく頷くブロンコ。一方ヒムニーザといえば、腕を組ん
だまま終始無言。
「総大将殿、我に一ヶ月の猶予、そして『ファーム・デュカリオン』名義の使用を許可し
て頂きたい」
「ゾイドバトルで、仕留めると申すか」
「左様。一ヶ月もあれば、彼奴らは我らと対戦せざるを得なくなること必定。
 公の場で彼奴らを潰し、惑星Ziの平和を乱す者の末路を明らかにしてみせましょう」
 水の総大将は小考の後、軽く頷いた。
「良かろうグレゴル。一ヶ月の猶予と『ファーム・デュカリオン』名義の使用を許可する。
 ブロンコ、君には彼の地での『二強』の動向を監視してもらう。チーム・ギルガメスは
絶好の餌。早々に動くやも知れぬからな」
41魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/30(月) 03:11:31 ID:???
「はっ!」
「ヒムニーザ、悪いが君はしばらく待機だ」
「まあ、仕方ないね。俺も坊さんの考えには同意だ」
「他に質問はないか。…なければこれにて解散。諸君らの健闘に期待する。惑星Ziの!」
「『平和のために!』」

「お前、敬礼位まともに務めようとは思わないのか」
 ブロンコの怒気荒い言葉。矛先は無論、長髪の若者に向けて、だ。しかし彼は全く意に
介した風には見えない。それどころか。
「いやあ直言、痛み入りますな、銃神殿。でも敬礼の遵守は査定外なものでね」
「…何だと」
 途端に、両者の間を不穏な空気が駆け巡る。慌てて割って入ったグレゴル。
「まあまあ、どちらも押さえて。ここは私の顔を立てて下さい。
 作戦は既に開始しておりますからな、今日のところはここらで解散致しましょう」
 その言葉に、ようやく身を一歩引いたブロンコ。尤も、彼一人が熱くなっているように
も見えるのだが。
「グレゴル、してお主はこれから如何が致す?」
「知れたこと。夜が明けたら御挨拶に伺いましょう。…退路を断ちに、ね」
 司祭の、笑み。つい先程までは温和そうに見えた彼の表情に、冷気が宿ったかに見えた。

 既に昇った陽の下では、地を蹴る乾いた足音が小刻みに谺している。
 丘半分を占拠しつつ、身体を丸め込み、熟睡する深紅の竜。その傍らで、少年は疾走を
繰り返す。彼らが集う丘の中心を横切るかのように。…パイロットの訓練方法はどんなゾ
イドに乗るかによって異なる、例えばこの一見呑気な深紅の竜・魔装竜ジェノブレイカー
に乗るというなら、短距離走を徹底的に繰り返すことで瞬発力を高めていかねばなるまい。
格闘能力に秀でたゾイドを乗りこなすには、必要に応じて瞬時にレバーを引き絞り、ペダ
ルを踏む能力がパイロットに一層求められるからだ。
42魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/30(月) 03:12:32 ID:???
 何度目かの疾走が折り返し地点である竜の鼻より先にまで達した時、彼らの脇で仁王立
していた背の高い美女が自らの右手を睨む。ストップウォッチで計測された愛弟子の所要
時間は、今日も水準通り。満足した彼女は早速小脇に抱えたボードに記録すると、肩で息
する彼を労うべくタオルを差し出した。
「はい、お疲れさま」
 受け取ろうとした少年。伏し目勝ちだったのが彼女の声に釣られて急に顔を持ち上げた、
その時。…重なった、視線。少年、動揺。そっぽを向きつつタオルを手にする動作は、何
やらひったくったかのようにも見える。あっ、と声を上げた二人。それで少年は一層自己
嫌悪に陥る。
「ご…ご…」
「?」
「ごめん、なさい」
「うん、気にしてないわ」
 今の出来事も、先日の失敗も。…こと指導方針に関する限り、彼女の行動は終始一貫し
ている。怒る時は徹底的に厳しく。だが根に持ったりは、しない。しつこく言ったりも、
しない。余程の事でもない限りは。萎縮が成長の妨げになることを恐れるからだ。
 だが彼女の考えは、少年には今一歩ピンと来ない。…そもそも先日はあんなに怒ってい
たのに、今はどうしてそんなに穏やかになれるのか。だから彼女が「気にしてない」と言
う理由も見当がつかない。それが一層、少年を憂鬱にさせる。
 斯くして自然と視線を反らすようになる少年。対する女教師の軽い溜め息。年の差・経
験の差があるのはわかるが、こうも頑なだと少々もどかしいものがある。
「ギル、五分で再開だからね」
 言いつつストップウォッチを振ってみせる。タオルを被ったまま頷く少年。だがこの時。
 突如、鳴り響いた着信音は、傍らのビークルから。不意の事態は両者の目を一瞬丸くさ
せたが、女教師は早速いつも通りの表情で応対する。
「はい、こちらチーム・ギルガメス。…はい、…はい」
 やがてゆっくりと、無線通信のスイッチを落とした女教師。頬杖をついて小考の後。
「次のダッシュ十本で午前の練習はおしまいにしましょう」
43魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/30(月) 03:14:00 ID:???
 不意の言葉にようやく顔を持ち上げ、自ら進んで視線をあわせる少年。疑問に思うまで
もない、彼女がそう言い出した理由は自信に満ちた微笑みを見れば十分理解できる。
「トライアウトの合否通知が届いたそうよ」
 熟睡していた深紅の竜までが、頭と尻尾を軽く持ち上げた。

 チーム・ギルガメスの面々(とは言ってもたった二人と一匹ではあるが)は、連絡をよ
こしてきた東リゼリア村に到着していた。…高台の上に築かれた貧しい村。中腹には所々
土嚢が積まれており、頂上付近は土嚢の間に申し訳程度に取り付けられた木製の門で固め
られ、その向こうには屋根の低い民家が立ち並んでいる。…高台の麓で、又しても身を丸
めつつ、主人が戻るのをおとなしく待っているのは深紅の竜ブレイカーだ。その物々しい
格好故か、同様に佇むゴーレムら3S級ゾイドの面々はずっと落ち着かぬ様子。
「はい、ギルガメス君。早朝の便で届いたんじゃよ」
 村中央の広場では人だかりができている。だが、この静まりようは奇異ですらある。中
心に立つのは師弟と村長。…杖をつき、毛糸の帽子を被った老人だ。すぐ後ろには村長の
息子もいる。ガッシリとした体格の持ち主にして、村一番のパン職人。
 村長から両手で受け取った大きめの封筒をまじまじと見つめる。或いは、手触りの確認。
ひどく難しい表情に、彼の躊躇がありありと伺える。
「…さあ、見ましょう?」
 言いながら、エステルは悩める弟子の両肩を抱く。一瞬、ひどく強張ったギルの背筋。
だが背後を一瞥した時、彼は見た。…サングラス越しに垣間見えた女教師の落ち着いた瞳。
 意を決して、封を切る。

 小さなゾイド達が一斉に騒ぎ出した。
 ブレイカーも首を持ち上げ、近付いてくるその「原因」を睨み付ける。
 姿勢は腹這いに変更。翼を、鶏冠を、そして尻尾を折り畳むのは、主人に迫るやも知れ
ぬ危機に備えるため。何かあれば、すぐさま尻尾を地面に叩き付けて跳躍、臨戦体勢に移
るつもりだ。
「成る程。ゴドス部隊を退け、ジンザとブズゥのコンビを仕留めただけのことはある。
 ライネケ、我らが戦場はここに非ず。今日はあくまで挨拶に限りますぞ」
 言いながら「原因」から降り立った影、一つ。
44魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/30(月) 03:15:00 ID:???
 数秒、じっと封の中身を見つめていた少年は、不意にそれを抱き締め、顔を伏せた。表
情こそ見せぬものの、漏れる嗚咽は雄叫びにも似た。
 背後から、そっと抱き締める女教師。トン、トンと軽く肩を叩く。今は少年を、落ち着
かせてやるのが彼女の役目だ。
「え…エステルさん、彼は…?」
 訝しむ村長達。だが女教師は自信に満ち満ちた表情で彼らを見渡すと、大きく首を縦に
振る。
「皆さん、ありがとう。…合格です」
「そ、そうか…! それは良かった!」
「よおし親父、昼は早速宴会だ!」
 途端に人だかりから歓声が上がる。数秒前の静けさが嘘のように。
 だが周囲の喧噪とは裏腹に、ギルは万感の思いで打ち震えていた。…封筒の中に入って
いたのは合格証明書と個人情報の記録されたライセンスカード、そして今後の手続きを記
した案内といったところ。数カ月前、不合格として処理された時、入っていたのは紙切れ
たった一枚だったことを彼は思い出す。その時に比べてたった数グラム、重量は増した。
だが価値の重量差は計り知れぬ。エステルもそれは十分承知の上。今は受け止めてあげよ
う、この子の気持ちを。
「だが、これで謎が残されましたなぁ。…アーミタ(※ギルの故郷)のジュニアトライア
ウトでも完璧な成績を収めたのに何故か不合格に処された。それがなければわざわざ家出
までしてこんな辺境のトライアウトに挑む必要はなかったのですからねぇ」
 背後から、良く通る声。瞬時に静まり返る喧噪。師弟も抱擁を解き、慌てて振り返る。
「…どちら様でしょうか?」
 サングラス越しでも圧倒的な、女教師の眼光。…相手に殺気はない。だがこの圧倒的な
存在感は警戒に値する。
「失礼。私、ファーム・デュカリオン所属のゾイドウォリアー、グレゴルと申します。
 ギルガメス君、合格おめでとう。少しでも真実を知りたいと言うなら、君のデビュー戦
は私が相手だ。
 尤も、他に選択肢など残ってないと思うがね、フフフ…」
 緑色に金縁のローブを羽織った男が立ちはだかっていた。
45Full metal president 61 ◆5QD88rLPDw :2005/05/30(月) 05:25:46 ID:???
突然地響きが起こりスプリンターズの砦代りでもある山肌が隆起する。
そして…地割れ。運の悪い位置に居たメガレオンが地割れに消える…。
と思いきや巨大な槍に串刺しにされて山肌に戻って来た。

「何事だ!」
旗艦を勤めるセイスモの中央のコクピットに陣取る司令官が叫ぶ。
そんな事を言っている間にもその槍は宙にそびえ立ちその根元が現れる。
「司令官殿!Bone’zです!こんな所にも潜んでいたとは想定外です!
撤退を進言します!我が戦力では奴には歯が立ちません!!!」
巨大な槍を掲げた雷竜。その槍は刺であり丁度前足の肩に付いてそびえ立っていた。
「うわっ!?でけぇ!!!こいつはBone’zと言うよりヘテロリジェネレーターだろ!」
ケビンも慌ててその場からに逃げる。
その当人?はメガレオンを口に咥えると山肌にそーっと下ろす。
そして…槍の先を顰めっ面でペロペロ舐めている。
たまたま地表部に出ていた刺の先端に岩が当たって痛かったらしい…。

その巨体はウルトラザウルスより一回り大きい姿。
更に恐ろしい事にこの固体は一度戦闘用に改造された固体らしいのだ。
その証拠としてウルトラの代名詞たる36cm高速キャノン砲が搭載されている。
威力こそ360mmリニアキャノンに劣るものの着弾時の被害範囲はそれより広い。
更に活動した際に吸収したと思われる刺々しい外装は…
古代チタニウム合金特有の輝きを放っている。

「おのれい!これでも喰らえ!」
折角注意が刺に逸れているというのにセイスモはゼネバス砲を発射する…。
だが次の瞬間にはセイスモとその周辺の機体群はクレーターを残し消滅していた。
特殊な能力を持っていたりするゾイドは数あれどこれは桁違いの力だ。
”入れ替え直し”と言われる時系列の入れ替えを”それ”は行なったのである。
結果はゼネバス砲が過去を伝ってセイスモに戻って来た事による大爆発。
彼等は逃げる事というより自身が消滅する暇すら感じる事は無かっただろう…。
46Full metal president 62 ◆5QD88rLPDw :2005/05/30(月) 06:02:42 ID:???
3機のイクスは目標を残りの部隊を消し飛ばした物に向けるが…
それは何素知らぬ顔で消えている筈のイクスを無邪気な目で見つめている。
本人からすれば唯の自衛行動であって悪い事をした等と考えもしていない。
「ケビン!こいつはやばい!逃げるぞ!脇目も振らず逃げろ!良いな!」
かなり慌てた声でハンスが捲し立てる。ケビンも思いを同じくしている。
間違い無い…無駄に係わると無邪気な好奇心の餌にされ死ぬだろうと…。
数秒もしない内にイクスも姿を消す。光学迷彩ではなく完全な消滅だ。

「これはやばいですね…ボス?どうしますか?」
試作ゾイドに乗る少年はmk−Vに指示を仰ぐ。
「当然…無視を決め込むわよ!絶対に目を合わせちゃ駄目よ!いい?」
若い女性の声と言うよりは少年と同年代の少女と言った所だ。
「了解!ボス。」
「そう言う事!レディン…私達も逃げるわよ!」
スプリンターズは蜘蛛の子を散らす様に散開しあっと言う間に”それ”の前から消えた。

ー 数時間後 ー

「…で?なんでこの子が一緒に居る訳!?」
彼女等は目の前に居る巨体を見上げる。それも彼女達を確りと見つめている…
その危なっかしそうな姿からは想像もできないキュートで大きな瞳で…。
確実に”まいた”筈なのにアジト代りの場所にででんと居坐っていらっしゃるのである。
そして…
「メリージェお姉ちゃ〜ん!さっき山で、でっかいゾイド見付けたよ〜!!!」
未だ存在していたコクピットの中からチームのボスを務めるメリージェの弟が顔を出す。
「こらっ!アーク!勝手にゾイドに乗っちゃいけないって言ったじゃない!」
ゾイドを降りれば商隊の中では余り地位の高くない彼女。
顔を赤らめて弟を叱ることしかできなかったのである。気が遠くなる思い。
しかし直に立ち直り現実と戦わなくちゃと決意を新たにする。
明日も多分政府軍は来る…その為の準備だけは怠る訳にはいかないのだ。
47悪魔の遺伝子 844 ◆h/gi4ACT2A :2005/05/30(月) 09:32:11 ID:???
「うっわ強!」
「どうだ?ムラサメライガー“テッコウ”の性能は伊達では無いだろう?」
『おお!テッコウ思いの他強いぃ!少なくともライガーゼロ以上のパワーがあると
思われます!』
「実況のオッサン!俺のテッコウをあんなザコと一緒にすんなよ!」
素早くテッコウが再度カンウに向けて跳び、今度は避けられず直撃を受けてしまった。
大きなダメージがカンウとマリンを襲い、思わず片膝を付いてしまった。
「ああもう!操縦桿が重いよぉ!」
テッコウは確かに速く、そして強かった。しかしカンウも本来の実力が出せればそう
恐ろしい相手では無い。だがマリンが戦っていたのは目の前のテッコウだけでは無い。
自らを束縛する重量プロテクターの重みとも戦っていたのだ。それ故に本来の動きが
取れず、それが結果としてテッコウのスピードに対処出来ないと言う事に繋がっていた。
「どうしたぁ!?この間テレビで見せた凄い戦いは何だったんだ!?こっちはまだ
実力の半分も出して無いんだぞ!」
浮き足立つマリンとカンウに対し、キシンとテッコウは一気に畳み掛ける目的で
再度跳んだ。そして背中に装備された大型のブレードを煌かせたのだ。
「これでトドメだ!必殺ムラサメブレードォ!」
「うわぁ!何か凄い刀が!」
キシンの背中に装備された大型ブレード攻撃をカンウはどうにか横に跳んでかわしたが、
完全にかわせなかった脚部の装甲が一部スッパリ斬れ、さらにカンウの背後にあった
岩山すら綺麗に真っ二つにする威力を誇っていた。
『おおお!テッコウは爪だけでは無く、背中に装備したブレードも強力だったぁぁ!』
「うっわぁ・・・スッゲェ。」
「どうだ?伊達では無いだろう?元々俺っ家ガンロン家は刀鍛冶の家柄。テッコウの
背中に装備したムラサメブレードもその経緯で作られた名刀なのだよ。その辺の単なる
鉄板にレーザーで切れ味を上げただけレーザーブレードなんかと一緒にするなよ。」
『おおお!テッコウのムラサメブレードはなんと伝統の刀鍛冶の技術を応用して
作られた刀だったぁぁ!』
48悪魔の遺伝子 845 ◆h/gi4ACT2A :2005/05/30(月) 09:35:06 ID:???
『確かに良く鍛えられた刀である事が分かりますね。しかし、あの攻撃は刀の性能だけ
ではありませんね。どんな名刀でもただ振り回すだけでは威力を引き出す事は出来ません。
恐らくキシン選手本人も刀の威力を引き出す為の剣術の技術を持っているのでしょう。
ですがそれをかわすマリン選手も凄いですね。』
フルタチとヤマモトは感心していたが、それと戦うマリンとカンウはそれ所では無かった。
「(そんなワケ無いでしょ!操縦は重いし!こっちの思う通りに動かないし!)」
フルタチはマリンを煽てる実況をしていたが、マリンはそれに苛立ちを覚えていた。
確かに先程のカンウの動きは並の人間からすれば既に巨大ゾイドの限界を超えた
素早い物であったのは間違い無い。しかし、今は重量装備で動きが制限されている状態で
あり、普段のカンウの動きに比べればカメのごとき鈍重な動きでしか無かったのだ。
「オラオラ!どうしたどうした!?」
『キシン選手のテッコウがカンウを追撃します!物凄い速度です!』
テッコウの機動性は、カンウがギガの常識を越えている様にテッコウも常識を越えた
レベルを誇っており、また機体の軽さも手伝ってマリンですらかわすのが精一杯だった。
「凄いですよマリンさん。なんだかんだ言って全部かわしてますよ。」
「おれはあのキシンとか言う奴も同じだろうが。何時までもかわせるとは思えない・・・。」
距離を置いて観戦していたビルトとミレイナは安心している様子であったが、
ルナリスは既にマリンが苦しんでいる事を見抜き、眉を細めていた。
「(さあ・・・アイツに勝てるか?マリン。)」
「いつまでも逃げ回って面白いかぁ!?この間のバトルロイアルの時の様な
凄い戦いを俺にも見せてくれよぉ!」
「(そんな事言われたってぇ!)」
マリンは内心嘆きの叫び声をあげながらテッコウの目にも留まらぬ連続攻撃を何とか
かわしていたが、いつまでもかわせる自信が無かった。そもそもゾイドは操縦技術だけで
どうこう出来る物では無い。良く「心で操縦する」と言われる様に、パイロットと
ゾイドの精神リンクが重要になるのだ。そして今キシンの乗るテッコウはキシンの
熱き魂と呼応し、より高みへと力を引き出していた。それ故に彼等は今までも数多くの
ゾイドを撃破してきたのだ。
49悪魔の遺伝子 846 ◆h/gi4ACT2A :2005/05/30(月) 09:37:25 ID:???
「後ろを取ったぜ!」
素早く回り込んだテッコウはそのままカンウへ殴り掛かった。が、その攻撃はカンウを
すり抜けていた。そして空しくすれ違う形になった後、キシンは慌てて背後のカンウを
振り返るとそのカンウは陽炎の様に薄く揺らいでいたのだ。
「何!?これは何だ!?」
『出たぁ!幻惑残像ギガスミラージュは重量装備している状態でも健在だぁ!』
『さて・・・、肝心の実像の方はどこにいるのでしょうね〜。』
「(コイツが噂に聞く残像と言う奴か・・・。あなどれん奴め。)」
キシンは眉を細め、カンウの実像を探していたが、その時テッコウが何かに気付いた
らしく、上を向いたのだ。するとそこには何と上空高くからテッコウ目がけて跳び蹴りを
放とうとしているカンウの姿があった。
「上かぁ!だがその状態では回避出来まい!」
上空で蹴りの体勢を取っていたカンウに対しムラサメブレードの柄に装備された
キャノンが撃ち込まれた。
いかに残像を作りさせる程のスピードを誇るカンウと言えどもバスターロケット無しでは
空中で回避行動をとる事は出来ないとキシンは考えていたのだ。しかしカンウは脚部
ブースターを併用する形で、その攻撃を体をそらす動作で回避していた。
「何!?かわした!?」
「(うわぁぁぁん!やっぱり操縦が思いよぉ!)」
どうにか攻撃を回避していたとは言え、マリンが自らを縛る重みにあえいでいたのは
変わらず、もはや攻撃をかわす事だけでも大変だったのだ。もちろんそれだけでは無い。
己を縛る重みはそれだけ彼女の体に負担を掛け、かなりの体力を消耗させる事にも
繋がっていた。
「(これは早く決着を付けないと・・・。)ギガクラッシャァァスピィィン!!」
カンウは空中で高速回転を始めた。それこそかつて水中での戦いでカンウが行った
“ギガクラッシャースピン“。己自身をドリルに見立て、その回転力によって敵を貫く
驚異の技である。
50平和の記念碑 ◆ok/cSRJRrM :2005/05/30(月) 20:26:01 ID:???
『平和である今を象徴する機獣』
石碑には、そう刻まれていた。奥には、朽ち果てた2体のゾイド。
互いに頭を撫であうような不思議な姿勢のまま止まっている。
人々にはそれが、終戦を喜び合っていたように見えたのだろう。
だが、その2機には、喜びなど微塵もなかった。
遥か昔、ここが戦場であった頃。


白と黒。2体のゾイドが死闘を繰り広げていた。
駆け抜ける白は、共和国軍のライガーゼロ。
対して稲妻の如き黒は、帝国軍のライトニングサイクス。
互角の勝負。
競技か何かならば、両者とも楽しんでいただろう。
しかしここは戦場。
2人には、そんな感情は皆無だった。

シールドライガーを駆る男性は、家族を帝国軍の襲撃で失っていた。
父を。母を。姉を。
戦争を、軍すら嫌っていた彼が入隊した理由。
「家族の仇を討たせてくれ」
死んだ者は帰っては来ない。それは彼にも理解できていた。

セイバータイガーを操る女性もまた、大切なものを失っていた。
両親を幼い頃に失った彼女にとっての兄。
それは正に親も同然だった。
「軍なんかに入って、死んでも知らないよ」
冗談で言ったつもりだった。それが、最後の兄へ言葉となった。
51名無し獣@リアルに歩行:2005/05/30(月) 20:27:00 ID:???
2人は似過ぎていた。境遇も、戦い方も、そして逃げ方も。
ただ復讐のためだけに敵を倒してきた。何の容赦もなく。
牽制し、肉薄し、爪を相手のコクピットに叩き込んだ。
優しく温もりのあった心を凍らせて、罪悪感を遠ざけてきた。

2機が間合いを取った。
(これで・・・終わらせる!)
そう考えて操縦桿を握り締めたのは同時。
爪を繰り出したタイミングも、狙った場所も。
眼前に迫る白熱化した塊。その隙間に映る敵の終焉。
2人はそれを、どういった思いで見たのだろうか。
決められていた運命だったのかもしれない。
悲しみの連鎖を止める、唯一の方法。それを実行するための。

もしこの2人が、平和な時代に、普通に出会うことができたなら。
一瞬で意気投合し、浅からぬ関係を築けたことだろう。
幸せな笑みをこぼすことも、冗談を言い合うことも。
だがそんなことが起こるはずもなく、戦争は終結した。


この戦いの跡は、いつまでも保存され続けていくだろう。
皮肉にも、平和の記念碑として。
けれど、それでも良いのかもしれない。
人々の心の中でなら、2人は手を取り合っていられるのだから。
屈託のない、明るい笑顔でいられるのだから。
52魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/31(火) 02:39:09 ID:???
【第二章】

 黒山の人だかりが、今や両断された海のごとく。
 波の向こうには、緑色に金縁のローブを羽織った男・人呼んで「破戒僧」グレゴルが。
 こちらには、紺色の背広を着こなした男装の麗人・エステルが。…そして彼女に庇われ
る形でギルガメスが。田舎町とは言えよもや日中、町中で相対することになろうとは思い
もよらぬ。しかしながら、エステルは安堵していた。幸か不幸か、この不敵な司祭から殺
気は伺えない(尤も殺気で満ち満ちているなら、敵をここまで近付かせる斯様な不覚は起
こり得なかったであろうが)。さては、腹を探りに来たか。
「ファーム・デュカリオン…噂には伺っておりますが、中々洒落た名前ですわね」
「左様、我らが雇い主は風流を解しますのでな」
「だけど、申し出は丁重に辞退させて頂きますわ」
「…ほう?」
「彼には、まだ荷が勝ち過ぎ…」
「し、真実って、どういうことですか!?」
 女教師の言葉を遮り、庇い手を押し退けまでして前に出たのは不肖の弟子。叫ぶ声は震
えている。
「あ、アーミタのジュニアトライアウトで僕が不合格になったのも、リゼリアで合格した
のもやっぱり理由があるからなんですか!?
 もしかして、僕らが水の軍団に狙われているのと…んっ、わあっ!」
 錯乱しかけた不肖の弟子を引っ張り返した女教師。透かさず両肩を押さえて静止させる
と、狙い済ました張り手を一発。乾いた破裂音の谺。呆然、頬を押さえた少年に向かい、
低い調子で呟いた「落ち着きなさい」の一言は、どうにか彼を現実世界に引き摺り戻す。
「…とにかく、彼の合格はたった今、確認したばかりです。これから様々なチームやファ
ームからのオファーが届くことでしょう。
 お話しはその後でも十分できるのではありませんか?」
 司祭の口元が…口元のみが笑みを宿した。
「成る程、貴方の仰ることももっともですな。
 それでは又日を改めて。御返事はいつでも構いませんがね。フフフ…」
 ローブを翻し、門を出ていく司祭。その先に待機していたシャドーフォックスが歩き出
すまで、この場から喧噪が戻ることはなかった。
53魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/31(火) 02:40:32 ID:???
「う、薄気味悪い奴だったな…」
 そう呟いたのは村長の息子だ。
「世の中には色々な人間がおる。案外ヘリック正教の信者からは慕われておるかもしれん。
…それよりお前、例のものを持ってきたんじゃろう?」
「おお、そうだった。…ギルガメス君、受け取ってくれるか?」
 村長の息子が麻布の袋を差し出す。…凹凸のある膨らみを見たギルはまさかと驚き、実
際に袋を手にした瞬間確信した。
「お、お金…!? こんなに一杯、どうしたんですか…」
「カンパじゃよ。村の若い衆は休日と来たらゾイドバトルで賭け事するばかりなのでな。
 無駄に擦る位なら前途あるお主らの手助けになった方が良かろう?」
「相変わらずきついな、親父…。でもまあ、俺達ゃあんた達に賭けて取り返すからさ。頑
張ってくれ!」
 村長の息子ら、若者達の屈託ない微笑み。ギルもエステルも深々と頭を下げるばかりだ。
…ゾイドバトルは読者諸氏の想像以上に金の掛かる競技だ。ゾイドの維持費もさることな
がら、試合場のレンタル料を始めとした雑費がとにかく掛かる(これらの大半はゾイドバ
トル連盟及び下部組織としてのゾイドウォリアー・ギルドが賄ってくれるが)。そして何
より、賞金。相手あってのバトルだ、賞金を持参できないチームは多少実力があっても強
豪と戦うチャンスを得るのは困難を極める。一応エステルは巧妙に偽造した銀行口座と預
金を持ってはいるものの、何度もそういうインチキをするわけにはいかない。金は、ある
に越したことはないのだ。
「フフッ、これは責任重大ね」
「…は、はいっ! が、頑張ります。本当に、ありがとうございます。絶対、勝ちます」
 言ってから、ギルは堪え切れぬ苦笑いを漏らした。…まだ対戦相手も決まってないのに。

 テンガロン・ハットの武人が荒野に、独り。シャドーフォックス「ライネケ」の前に立
ちはだかる。気付いた破戒僧は愛獣を伏せさせ、頭上のコクピットから飛び降りた。
 相対する、二人。一方ライネケと言えば、主人に向かって何かお伺いを立てるかのよう
に軽く唸る。当然とばかりに頷くグレゴルの表情を確認するとそっと立ち上がったライネ
ケ。すぐさま地を蹴り…やがてこの場から消え去った。
「あんなことを言って、良かったのか?」
 銃神ブロンコの生真面目な視線。
54魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/31(火) 02:41:59 ID:???
「ゾイドウォリアーの…いや、広くゾイド乗り全般に通じる常識で考えるなら、あの少年
達に好き好んで挑む痴れ者などおりません。ですが、世の中には例外もある。
 可能性は早めに潰す。それが困難なら早々に別の策に取り掛かる。そのための一手です」
 グレゴルの一言一言に、一々頷くブロンコ。
「…まあ、確かに。例外的事態となったら殊だ。何しろ折角『二強』を黙らせる絶好の機
会も失われる。最悪、『我ら』も動かねばならぬ。
 総大将殿はお主に期待しておる。頼むぞ、『破戒僧』グレゴル。これは大一番だ。…惑
星Ziの!」
「平和のために!」
 敬礼を交わすと交錯した両者。荒野の歩みはやがて互いが互いを見失う程にまで達し、
それを砂埃が覆い隠した。

 二週間後。
 今朝も丘の上では、深紅の竜が寝そべる中、少年が走る、又走る。…只、辺りを見渡し
てみるといつもと大きな違いに気付くだろう。
 何度目かの往復を繰り返した後、少年は息を荒げながらテーブルに向かい、ストップウ
ォッチを押す。そう、いつもそれを押すのは彼に非ず。
 麓でガシャガシャと、小刻みな足音が聞こえる。眠そうに首をもたげ、下方を睨んだ深
紅の竜。来訪者の駆る独眼猩機ゴーレムの足音に、この聡明な留守番は軽く尻尾を振って
みせる。
「お早う! お邪魔するよ!」
 顔の半分程もあるコクピットハッチが開くと、中から出てきたのは村長の息子だ。傍ら
の紙袋からはバゲットが数本、顔を出している。まだ焼き上がって間もないのか、軽く湯
気が立ち、香ばしい匂いが少年の鼻先まで早速届いてきた。
「あ…お、お早うございます。い、いつもすみません!」
 テーブルから手を離し、深々と頭を下げる。彼に限らず、東リゼリア村の村民はチーム
・ギルガメスに対し様々な援助をしている。…まるで村の英雄であるかのような扱い。ギ
ルは未だに戸惑いを隠せないままではあるが、とにかく色々なものを頂くことからお礼の
言葉は欠かさず言うようになった。ジュニアハイスクール時代ではちょっと考えられなか
ったことだ。
「あ…こりゃ、練習中だったんだな。ごめんよ、お邪魔して」
「大丈夫です、気にしないで下さい」
55魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/31(火) 02:45:27 ID:???
 正直なところ余り大丈夫ではないが、これ位の愛想もできるようになった自分自身に、
ギルは驚きを隠せない。だがこの来訪者の続く言葉には、流石に返答に窮した。
「…で、対戦相手、決まったのかい?」
 ギルは唇を噛み締める。…相手の言葉は何気ないが、今の彼には十分突き刺さる言葉だ。
俯き加減、腹から絞り出すような声を出しての応対は、女教師が見ていたらきっと注意し
ている筈。
「いや…まだ、何処からもオファーが来ません。
 今日は早朝からエステル先生がリゼリアのギルドまで交渉に行っているんですが…」
「う〜ん、それはちょっと意外だな。WZB(ワールドゾイドバトル)なんかずっと見て
ると、君と同い年位の子供のデビュー戦、よくやってるからさ、君もすぐに決まるものだ
とばかり思ってたんだが…」
 返す言葉がない。そう、若くしてゾイドウォリアーになった者のデビュー戦なんて普通
は三日も経ずして決まってしまう。なり立てのウォリアーはベテランから見れば絶好のカ
モなのだ。それが、こうも決まらないとは一体どうしたことなのか。

 広々としたこの一室は現在キャンプしている丘の上にも匹敵するのではないかと、エス
テルは感じていた。…リゼリアのゾイドウォリアー・ギルド事務所に彼女は来ている。部
屋の向こうにはまるで銀行か郵便局かという位にズラリと窓口が並んでおり、エステルは
傍らの椅子に座って呼び出しを待つ形だ。
 やがて呼び出された窓口に向かった彼女。サングラスは敢えて取らず、代わりに深々と
頭を垂れて礼を尽くす。応対した職員は頭部のはげ上がった中年だ。
「え〜、チーム・ギルガメスの…エステルさん、ですね。初めまして。
 早速、ですが…対戦相手、御希望の条件に該当するチーム、あたって…みたのですがね」
「…?」
 女教師のサングラスで隠した瞳が輝く。書類に目を通しながら呟く中年の、辿々しい言
い回しは聞く者を苛立たせるに十分だが、それ以上に何か引っ掛かる。
「…全て、断られておるのですよ。
 今日までに三十四件当たってみましたが、さっぱりです」
 表情は変えぬまま、軽い溜め息とも深呼吸ともつかぬ息を漏らした女教師。
56魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/31(火) 02:47:59 ID:???
「…ぜ」
「は?」
「…何故に三十四件も問い合わせて悉く断られたのか、理由をお聞かせ頂きたいのですが」
 表向きは無表情を装った女教師。だが語気はどうにか押さえているようにも聞こえる。
 職員は生え際を掻いてから周囲を一旦見渡し、そして小声で囁くように喋り始めた。
「エステルさん、貴方のチーム、水の軍団に絡まれているとお聞きしましたが…」
「な…!」
 あの鉄面皮の女教師が声を上げ、立ち上がった。…一瞬、周囲を静寂が包み、他の窓口
に集う者たちの視線を一身に受ける。ばつが悪そうに着席する彼女。
「何処の誰がそのようなことを…」
 改めてこちらも小声で、あくまでしらを切るつもりで。だが、この事態は余りに予想外。
「…何処のチームに問い合わせても、そう言いますよ?
 それに、貴方のところのウォリアーさん…えー『ギルガメス』君、でしたか。
 先日のトライアウト帰りに『ゲリラ殺しのジンザ』を葬ったそうじゃないですか」
「いや、葬ったというのは話しに尾ひれが…」
 苦しい。誠に苦しい弁明。女教師は想像だにしなかった。彼らを襲った一連の事件がそ
もそもこんなにも知れ渡っているのでさえ理解を越えていたし、それがまさかここまでネ
ガティブな評判に繋がっているとも思わなかった。
「…んー、いずれにしろ、ですよ。断ってきたチームは全て噂を理由に挙げておるのです。
 水の軍団に絡まれている噂から、トラブルを避けたいというチームが十九件。
『ゲリラ殺しのジンザ』を倒した噂から、実力が釣り合わないというチームが十五件。
 以上が三十四件の内訳でございますな」
 あくまでも無表情を装い腕組みする女教師。だが内心、途方に暮れている。
「…こういう噂はどれ位で収まるものなのでしょうか?」
「最低、半年。運が悪ければ数年掛かることもありますな」
 それはあの子達主従にゾイドバトルなんてするなと言っているも同然ではないか。少年
は今が伸び盛り。その芽を潰し、剰え心を腐らせるのか。
57魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/31(火) 02:49:12 ID:???
「まあそのぉ、一番良い方法は…ですよ? 実力的に釣り合いが取れない位の強豪チーム
と試合をすることですな。リゼリアは共和国から見れば片田舎なのですがね、それでもト
ップチームの試合はWZB(ワールドゾイドバトル)で中継されますからなぁ。
 論より証拠、皆に試合を見てもらった方が話しは早いってもんです」
 言いながら禿の職員は背後から別の資料を引っ張り出してきた。しかしながら目前に差
し出されたそれに、女教師はサングラス越しに目を丸くした。
「…実は一件だけですが、強豪チームのオファーがありましてな。
 こちらはファーム所属のウォリアーですな。…ふむ、ファーム・デュカリオン! 共和
国でも有名な常勝軍団ですよ。チーム名は『ザ・ビショップ』。
 戦績は既に百勝を越えております。…はっきり言ってお宅のウォリアーとは釣り合いが
取れませんがね、でも是非試合したいそうですよ。
 噂をさっさと払拭したいということでしたら、受けて立ってみるのも良いかも知れませ
んな。…ウォリアーの命の保証までは、できかねますがね」
 禿の職員は言い放つ。
 資料に添付された顔写真には、あの鬚を蓄えた司祭が映し出されていた。

 陽は頂上にまで昇った。
 それは少年にとって、昼食休憩が終わったことを意味する。椅子から立ち上がり大きく
伸びをすると、相棒に向かって一声。
「さぁ、いこう?」
 声に応じて尻尾を振った深紅の竜・ブレイカー。もうすっかり目も覚め、やる気十分。
腹這いで畏まると胸のハッチを開け、主人を向かい入れた。
 ふわり、深紅の竜の飛翔は軽やか。丘を飛び下りると奇麗な放物線を描きつつ、地面に
着地…は、しない。地表すれすれで浮き上がったまま滑空を開始。ゾイド特有のマグネッ
サーシステムは、斯様に巨大な肉体の飛行をも可能にする。
「それじゃあブレイカー、今日もよろしく。
 メニュー通り、まずは二百からいくよ!」
 二百とは、時速二百キロのこと。操縦訓練の始まりは、まずは低速でお互いの身体をほ
ぐしてからだ。
 かくして今日の練習メニューも着々とこなされていく。
58魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/31(火) 02:50:37 ID:???
 気がつけば丘の上も、夜の帳に包まれていた。
 横になって束の間の休息を取るのはブレイカー。…そう、横にだ。両手両足を投げ出し
て脱力する様子は少々だらしないが、これも愛すべき主人との練習を全力でこなしたが故。
 一方ギルガメスといえば、例の薬莢風呂に浸かり、ひとときのくつろぎ。…カーテンで
覆った外にある簡易キッチンでは既に夕食のシチューが煮え、弱火で加熱されている。女
教師が遠くリゼリアまで行っている以上、食事の支度を済ませてからの風呂だ(尤も仕込
みは殆ど彼女が済ませているのだが)。
 ふと、轟いたビークルのエンジン音。気付いたギルは湯舟で立ち上がり、カーテン越し
に外を覗く。相棒は横たわっていた身体を持ち上げ、尻尾を振って出迎えだ。
 ビークルから颯爽と降り立つ女教師。ゴーグルを外した視線は一見、爽やかではある。
「只今」
「あ、お帰りなさい、先生」
 深紅の竜もピィピィと鳴きながら鼻先を近付けてくる。最大級の愛情表現。エステルも
当たり前のように頬擦りしてやる。
「夕食の用意、ありがとうね?」
「い、いいえ…」
 慌てて湯舟に首まで戻した少年の照れ隠し。だが視線を外した理由はそれだけではない。
 エステルといえば、自らのテントから服を引っ張り出してくると、徐に背広の上着、ネ
クタイ、ズボン、そしてワイシャツの順で脱衣し始める。…がさつではないことは、背広
に皺がよらぬよう丁寧に椅子に掛けているところから見ても明らかだ。只、見られること
に抵抗が全く無い彼女。それ故に弟子である少年からすれば風呂の外で衣擦れの音が聞こ
えるのは堪らないものがある。元々熱い湯に浸かって赤面した頬が、一層赤みを帯びる。
 だが、今日ばかりは照れているわけにはいかない。
「あ、あの…先生…」
「なぁに?」
「た…対戦、相手は…」
 衣擦れの音が、止んだ。
「…ごめんね。さっぱりだったわ…」
「そ、そうですか…」
 ギルが、エステルが唇を噛み締める。そうして訪れた一瞬の間。だが少年には、いつ終
わるのかもわからぬこの時間が惜しく感じられてならなかったのだ。…意を決し、湯舟で
立ち上がる。
59魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/31(火) 02:51:54 ID:???
「…あ、あの、エステル先生!」
 視界遠方に入ってきた彼の師匠の後ろ姿は下着のみだ。慌ててそっぽを向く。一方彼の
呼び掛けに対し、着替えの手が止まった女教師。
「この前の…お坊さんは、だ、駄目で…」
 バサッ。布の塊が椅子に叩き付けられる。地を小刻みに蹴りつける音が、後に続く。
 不意を突かれたギル。よもや薬莢風呂を仕切るカーテンを開けられ、女教師が乗り込ん
でくるなんて。それも凄まじい憤怒の形相。…女のような悲鳴を上げたギル。慌てて首を
すぼめるが、問答無用の女教師。構わず両の頬を押さえ付け、湯舟から引き上げる。
 女教師の視線は、醒め切っていた。
「…今、私が入ってくること、予測できなかったでしょう?」
「う…」
「だから駄目。人の気配が察知できない内はね。貴方はそれ位、未熟よ。
 それにね、ギル。彼奴、水の軍団の刺客だから。どちらにしろ駄目よ」
「!? それって…どういう…」
「デュカリオンというのはね、愚かな人々を滅ぼし、大地を浄化しようと神が差し向けた
洪水の名前よ。『遠き星の民』の間で言い伝えられた伝説の、ね。…洪水、つまり『水の
軍団』。
 こんな伝説を知ってる人間なんて、ごく限られているわ」
 声を失った生徒。視線は徐々に力を失い、反らしかけたかに見えたが。
「で、でも…だとしたら、バトルの申し出を断ったら断ったで、今度は闇討ちとか、仕掛
けてくるんじゃあないんですか?」
「…」
「だったら、僕はバトルしたい。結局逃げ切れないなら、戦って本当のことを知りたいよ。
 それに、先生。バトルだから審判もいる。不味いことがあったらきっと止めてくれる…
なんて考えは、虫が良すぎますか…?」
 勇気を振り絞りながら自説を述べる弟子は毅然とした態度ながら、既に涙目である。…
だが、その瞳の奥まで覗き見るかのごとき女教師の視線。やがて大きな溜め息をつくと、
両手を離し踵を返した。
「…風呂、私も入りたいから。出たら教えてね。
 私が上がったら、夕食がてら今後の予定について話し合いましょう」
 女教師のしなやかな後ろ姿はこんな夕闇の中でさえ、ひどく眩しかったのである。
60魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/31(火) 02:55:36 ID:???
『ガイロス! ガイロス! ガイロス! ガイロス!』
 絶叫の合間に必ず太鼓と、拍手と、地面を踏み鳴らす音が挟まれる。部屋の外から聞こ
えてくる異様な、そして異常な熱気。
 ブロンコは苛立ちを隠せずにいた。そういえば、いつも腰から釣り下げているAZマグ
ナムのホルスターが見当たらない。…ここはグレーベ・スタジアムより数キロ離れたとこ
ろに建てられた、控え室とは名ばかりの掘建て小屋。スタジアム及び関連施設は安全面の
問題から武器はウォリアー搭乗ゾイドが使用するもの以外、完全持ち込み禁止が原則なの
だ。だがそれだけでも十分不快なのに、この遠くから聞こえる声援は一体なんだ。狭い一
室の隅に寄り掛かりながら、吐き捨てるように呟く。
「…全く、ゾイドバトルというのはいつから代理戦争になったんだ」
「いつも何も、リゼリアの民にとって、昔からゾイドバトルは代理戦争でしたよ」
 中央のテーブルに着席していたグレゴル。己が宗派の聖書を読みながら、平然と即答。
「ならせめて自国の名前を呼べというのだ、弱者共が。…それより」
 テンガロン・ハットの鍔を押し上げ、厳しい視線を送る。
「余り言いたくはないが、ギリギリ今日が、刻限だ」
「承知しております」
 聖書を閉じたグレゴル。笑みは寧ろ爽やかですらある。
「刻限は今日までなれど、我ら主従にとって絶対的に有利な地勢で戦える。辛抱した甲斐
があったというもの。
 ブロンコ、貴方の手を煩わすことなく必ずや、任務を処理してみせましょう」
「期待している。惑星Ziの!」
「平和のために!」
 敬礼を交わす二人の暗殺者。と、そこへ控え室のドアをノックする音。
「グレゴルさん、そろそろ出場準備お願いします」
 運営係の声。丁度良いタイミングだ。
 外へ出た二人の前には大人しく伏せて待つシャドーフォックス「ライネケ」と、運営側
が用意したグスタフが控えていた。ライネケはグレゴルを頭部コクピット内に迎え入れる
と軽やかにグスタフが引っ張る運搬車輌に乗る。
「さぁて、行きましょうかライネケ。我らが戦場へ。
 入場まではいつも通り、身体が痒くなるかも知れませんが辛抱して下さい」
 一方銃を持たぬ銃神は、主従を見送ると早速踵を返した。…自らの任務をこなすために。
61魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/31(火) 02:57:36 ID:???
『ガイロス! ガイロス! ガイロス! ガイロス!』
 苛立ちはギルも同様に感じていた。何だよ、これ。ガイロスガイロスって一体誰に声援
を送ってるんだよ。
 女教師と相談したあの日から、今日で丁度二週間経過していた。…あの日、結局エステ
ルを説き伏せるには至らなかったギル。だが、彼女は約束した。「もう一週間待って、そ
れでも対戦相手が見つからなかったら、その時は仕方ないわね」…と。一週間経過の後、
渋々と、だが迅速に彼女は対応し、斯くしてもう一週間たった今日、チーム・ギルガメス
対チーム・ザ・ビショップ(ファーム・デュカリオン所属)開催と相成ったのである。試
合場はここ、グレーベ・スタジアム。「最後の大戦」時代、城塞都市リゼリアのすぐ近く
に建てられた武器工場を再利用している。ほぼ密室に近い建物は面積こそ狭いものの、縦
には圧倒的に広く地上も地下も数十階に及ぶのが特徴だ。
 スタジアムには専用の道路で行き来する。言わばゾイドの「花道」だ。数キロにも及ぶ
それの脇には野ざらしのスタンドがある。尤も試合場の様子は構造の関係上、外から覗く
ことはできない。よってこのスタンドも精々「賭けの対象となったゾイドの動き」をチェ
ックする以上の意味は持たない。だからこそ、この雰囲気は異常と言える。その上スタン
ドを埋め尽くした観客がエールを送る相手は、何故か暗黒大陸の小国と成り果てたガイロ
ス公国(旧帝国)の名前と来た。
「ギル、気にしちゃ駄目よ。…ほら、ブレイカーも!」
 控え室の窓を開けるとすぐ側には深紅の竜が決戦を控え、腹這いになって待機している。
…だが、明らかに不機嫌そうだ。何度も首を左右に振り、両足や尻尾を盛んに地面目掛け
て打ちつけているではないか。その雰囲気に呑まれてか、周囲の他チームのゾイドが落ち
着かぬ様子。異常な声援のせいで気付かなかったが、これではいつ他のチームから苦情が
来てもおかしくない。早速控え室を出たギル。
「ブレイカー、さあ、良い子だから大人しくしよう?」
 正面に立って説く主人。見下ろす深紅の竜は、愛おしそうに鼻先を近付ける。よしよし
とばかりに頬を擦り寄せてやる若き主人。
 その様子を後ろで眺めていた女教師。深紅の竜が静まるまで待つと、徐に両者の脇まで
近付く。
62魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/05/31(火) 02:58:46 ID:???
「ギル、ブレイカー、いい? 今日が貴方達チームのデビュー戦。
 …ゾイドバトルの、ゾイドウォリアーとしての、ね」
 頬を寄せあっていた両者は共に女教師の方を向いた。
「ゾイドバトルには、一応ルールがあるわ。でも、勘違いしちゃいけない。
 幾らルールがあっても、偶然コクピットやゾイドコアに攻撃が決まることは大いにあり
得る。…死ぬかもしれない、死んだら何にもならないのは戦争もゾイドバトルも同じ。
 だから、必ず生き延びなさい。…生きていれば、明日は必ず訪れる」
 女教師の言葉に大きく頷いた主従。
「…ギル」
「は、はい」
「全力を尽くしなさい。尽くしても勝てないと判断したら私が試合を止めます。
 だからこそ、悔いを残す戦い方はしないように」
「はいっ!」
「ブレイカー」
 ピィ? と甲高く鳴いて返事。
「力量のチェックは貴方もするのよ? 駄目と判断したらすぐに連絡しなさい。…今日は
彼の未来のために、貴方はプライドを捨てるように」
 言われた深紅の竜、少々不満げに溜め息をつく。だが隣に立つ主人の「ごめん」の言葉
は却って奮起させたようだ。不意打ち気味に鼻先を主人の頬に押し当てる。主人の軽い悲
鳴を聞くが早いか、頼りにしてくれとばかりに思いきり胸を張り、コクピットハッチを開
けてみせた。
 かくて搭乗したギル。エステルの手によって刻印を発動させてもらうと、ハッチを閉じ、
己が出番を待ち望んだのである。

 遠くではシャドーフォックスがグスタフに引っ張られていったようだ。
『ガイロス! ガイロス! ガイロス! ガイロス!』
『ジェノっ! ブレイカーぁっ!! ジェノっ! ブレイカーぁっ!!』
 声援の内容は徐々に変化していった。…ひどく大事なことを置き忘れながら。
63Full metal president 63 ◆5QD88rLPDw :2005/05/31(火) 05:49:56 ID:???
「…で?無事なのは君のみと言う事か。」
「そう言う事になります…かくなる上は!」
「そこまで!!!君には帰還して貰い視察に来たエロール両議院に報告してもらう。」
通信を終え駐屯地では司令官がサーレントとカサンドラの2人に向き直る。
「申し訳有りません…なにぶんメガレオンは…。」
「良いよ。もう…それなら此方から回収に向かおう。姉さん?良いね?」
サーレントは途中で報告を止めさせカサンドラの方へ目を向ける。
「良いわよ。駄目って言っても聞かないのなら止めても無駄でしょ?」
「話が早い!すまないが指令殿?サラマンダーF2を1機お借りしたい。」
突然の要求に戸惑うが…直に答えは出る。
「了解しました。くれぐれも森林地帯にだけは墜ちないでもらいたい。」
その言葉にサーレントは答える。
「大丈夫だ。爆装はしないから墜落だけで済ませるよ…。」
無茶な事をさらりと言ってサーレントは司令塔を後にした。

「やはり空は良い!特に夜空は最高だ…。」
借用したサラマンダーF2は夜の帳を黄金の翼で切り裂きながら飛翔する。
しかし良くもこれを扱えるパイロットを二桁揃えれたものだとサーレントは思う。
駐屯地には全12機配備されておりあの指令自身もそれに乗り空中から指揮するらしい。
視察は為ておいて正解だったと思いながらサーレントはメガレオンを捜索する。
途中地対空ロケットの防空線も幾つか有ったが山火事を起こさない程度に焼き払った。
ゲリラ化した集落も2つ程焼き払っている。火炎放射器の燃料は空に成っていた…。
「ん?見付けた!止まれ!そこのメガレオン!」

固定用アンカーにメガレオンを固定するとF2は素早く上空に飛び上がる。
「へ〜…そいつは驚きだな。ウルトラザウルスが素体か…。」
サーレントは操縦を怠る事無く考察を始める。
先ずは入れ替え直しの事だが…これは直に想像がつく。
嘗て全方位攻撃と呼ばれるブラストフラッシャー現象を使用した機体。
それだけの力を秘めているなら回路の組み込み方でこれができて当然の事だろう。
64Full metal president 64 ◆5QD88rLPDw :2005/05/31(火) 07:23:50 ID:???
事象系列の入れ替えもオルディオスの時点で時空間応用技術ができている。
それの順序と位置関係の修正それを同時に行なえると言う所に疑問は残るのだが。
それでもそれが起きた事とそれを行なう者が居ると言う事実だけは揺るがない。
少なくとも今は…F2の借受け先に戻りアームレスプロヴィデンスを投入する。
それ以外にその存在を止める方法は無いだろう…。一度とは言えど、
完全に敵対した以上は傭兵業を続けているとは言え彼の男にいらいする訳にもいかない。
「本来ならまだこのカードを公式に見せたくは無かったんだけどな…。」
サーレントの右腕に一瞬淡い光が宿った事は誰にも知られる事は無い。

「…ぶえっくしょいっ!!!何か嫌な風が吹きそうですね。」
サーレントの言う件の傭兵のエロジジイは一応嫌な予感を感じ取ったらしい…。
直にある男に連絡をとるとまた暖かいベットに潜り込んで寝息を立て始めた。
「ふん…やる事だけはやってから寝るか。相変らず無駄な所ばかり抜け目の無い…
まあ妾が用立てする必要も無いのであろうから気にする事もあるまい。」
相方の方もまだ寒さが残る場所と言う事でエロジジイのベットに…
そして間を置いてベット暖まった頃に相方はエロジジイをベットから叩き出しそこで寝る。
残ったのは床で寝たまま震えている上半身裸のエロジジイのみだったと言う…。

次の日になり本格的にスプリンターズのアジトでは”それ”の処遇を考えていた。
「やっぱり置いて行こう。アレには悪いが事態が深刻化した以上は…
場所を変えた方が良い。丁度スケープゴートにもなる。」
ハンスはその”それ”を見上げて言う。
「いえ…私の見解からはコレは有用な戦力です。その上ペイロードも格別です。
奴等に殺されてしまったグスタフの替わりに使うべきだと思います。
我々が動けない理由は正にそれなのですから…。」
レディンは使える物は最後の最後まで使うべきと主張する。
「まあ何方だって良い!レディンの言う通りでいっていざという時はと言うのもある。」
ケビンはどうでも良いと言いながらも最大限”それ”を活用すべきと言っている。
「2対1…決まりね。一応団長は私達の決めた事を採用するらしいわ。」
メリージェは”それ”を見上げると”それ”の方も同じく彼女を見下ろした…。
65戦場の流れ星 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/01(水) 00:26:30 ID:???
(・・・頭が変になっちゃいそう・・・)
見えない装甲、ホロテックを持ったヘルキャット。
それに乗る少女が溜め息をつく。

仲良くなれた人が、翌日には消えている。
優しく接してくれた人が、昏睡状態になる。
いつ自分が悲しまれる立場になるか。そう考えると怖かった。
そんなことなど無視し、軍は彼女に偵察任務を与えた。

(まだ・・・気付かれては・・・いないよね)
スナイプマスター。狙撃用の機体。
最初は見張りか何かだと思った。だが姿勢がおかしい。
まるで穴を掘っているようだ。
確か尻尾がライフルになっていたはず。
でも、空を警戒するならそれ用の機体があるだろう。
と、ふいにスナイプマスターの背のスコープが少し動いた。

「何か上に・・・あ」
自分も空を見上げて初めて気が付いた。
満点の星空が広がっていた。
(そう言えば、最近はずっと晴れてたっけ)
そして思い出した。自分も夜空が好きだったこと。
兄の望遠鏡で星を見る、それを何よりも楽しみにしていたことを。
彼女はしばし、星々の瞬きに見入っていた。
機体のホロテックの限界時間が来るのも忘れて。
「・・・綺麗・・・」
最後に言ったのはいつだったか。久しぶりに、そう呟いた。
66戦場の流れ星 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/01(水) 00:27:24 ID:???
「良かった。帝国にも、そういう人がいるんだ」
スナイプマスターからの通信。身が凍りつく気がした。
けれど、内容を聞いて安心した。
声音からすると、自分と同じ位か、少し上。そんな少年の声。
不思議と嬉しさが込み上げて。
「ええ。だって同じ、人間でしょ」
明るく、そう答えると、少年と一緒に笑った。

「さて、と。そろそろ帰った方が良いよ」
そう彼が言ってきた。できればもう少し話していたかった。
星のこと。お互いの境遇のこと。だから理由を聞いた。
見張りの交代の時間らしい。
でもそれでは、敵である私を庇うことになるのではないか。
自分でも何故そう思うのか解らなかった。
ただ、彼に迷惑を掛けたくはなかった。
「ホロテック装甲の機体なんて、見えるはずがないだろう?」
おどけた口調で、彼は言ってくれた。見なかったことにする、と。

「ありがとう」
そう言い残し、彼女は去った。
ふと見上げた夜空に、一つ流れ星が見えた。
少し複雑な思いで、彼女は願った。
―― 平和な時代が来るまで、ニ度と彼に会いませんように。
もう一度会って、撃たずに済むかどうか解らなかったから。
―― それから、その時まで私も彼も無事でありますように。
67戦場の流れ星 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/01(水) 00:27:57 ID:???
生きる希望が生まれた。
戦場での毎日が嫌で仕方がなかった少女に。
少年も同じだった。久々に、笑うことができた。
またいつか、戦争が終わったら会おう、そう約束した。
だが、このニ人が再開でるかどうかは解らない。
それでも彼らには、真っ直ぐに生きていくしか道がない。
まるで先刻の流れ星のように。
68Full metal president 65 ◆5QD88rLPDw :2005/06/01(水) 05:06:28 ID:???
「アーク!あんた本当に動かせるの?この子?」
メリージェは血の繋がった弟に呼びかける。
この商隊は…バルツ=スプリンターの集めた身寄りのない者で構成されている。
それ故全員を家族として統率する為に下の名前で相手を呼ぶ事を禁じている。
本来略全員他人の為下の名前は有るがそれをお互い知る事は無い。
ここに居る殆どがその下の名前に関係したトラブルを持っていると考えていいだろう。
バルツ自身はおやっさんとか親父、父さんで通っている。

「アーク。無理は禁物だぞ。私もそこに行っていいかな?」
バルツはメリージェの持つ不安を解消する為にアークの居る”それ”に乗る。
「父さん!この子の名前は…ウルドっていうんだって!ここに書いて有るよ!」
アークはそれをバルツに見せる…バルツはそれを見て繭を潜める。
「…ノルンプロジェクト?時を示す女神の総称だな。成る程な…。
あの子達が言った事も理解できる。唯の見間違いだと良かったのだがな。」
バルツが知り得た事はこの機体がそのプロジェクトの試作品である事。
年代を見てそれが旧戦争時代の遺物である事だ。
彼はこう見えても大型ゾイド乗りとしてつい最近までバトルに出場していた。
いわゆる古強者の部類に入る有名な元ファイター件商人である。

「アーク?良いかい、これから操縦を教えて上げるから確り見ておくんだよ。」
表情こそ厳しいものだが操縦を教えて貰えるとなればそんな事は気にしない。
「おやっさん!アークには速いって…と言っても無理か。
昔から言い出したら聞かないからな…せめて確り仕込んでくれよ!」
ケビンは彼なりの心配をして声を掛ける。
「ふんだ…操縦を覚えたら直ぐケビン兄ちゃんなんて追い抜くんだから!」
アークは強がりを言ってみせる。
「その強がりが有れば大丈夫だな。確り頼むぜ!おやっさん!ウルド!」
荷物をウルドに格納しながらケビンは言う。確り手も動いているので問題無い。
後は…ここから今直ぐにでも抜け出す事だ。これ以上の遅れは致命的な結果になる。
しかし少し準備が遅かった様だったらしい。
69Full metal president 66 ◆5QD88rLPDw :2005/06/01(水) 05:40:21 ID:???
突然の轟音。間違い無く巨大質量の砲撃が山に降り注いだ音だ。
断続的に続く音の中にはうんざりする程聞き飽きた粒子の飛翔音も含まれる。
ゼネバス砲だ。それも今までとは違い寸分の狂い無く2発が着弾している。
外に様子を見に行ったハンスが血相を変えて戻ってくる。
「大変だ!アームレスプロヴィデンスが居る!!!あの元老院が居るんだ!
俺達の居場所はバレバレらしい…急ごう!」
だがそれも遅かった様で出口にはそれが仁王立ちしているのである。

「これまで良く耐えた…御苦労な事だ。しかしそれも今日までだ。覚悟!」
奇妙な姿とアンバランスなシルエットからは想像もできない速度での接近。
あっと言う間にカンガルーダ2機を洞窟の壁面に埋め込みmk−Vに迫る。
「ここは通さないわよ!レディン!アレをやるわよ!」
「了解!ボス!」
突然アームレスプロヴィデンスの目の前から2機のゾイドが消失する。
「ちぃ!舜幻足かっ!!!どうりで術式組成阻害物質が散布されていると思ったら!!!」
その言葉が終わると同時にアームレスプロヴィデンスは洞窟の外に叩き出された。

外にはカノンプロヴィデンスも控えていて総攻撃の準備は整っている。
元々この2機だけで戦力はデスザウラー20体分の火力。
マッドサンダー10機分の格闘戦力を持っている。一騎当千とはこの事だろう…。
「あら?サーレント?やけに速いお帰りね…してやられたって所かしら?」
その声に返る答えは肯定の返事。それを聞いてカサンドラははあ〜と溜め息を吐く。
「それじゃあ何処の誰が攻めても墜ちない訳だわ。それじゃあアレもまだなのね?」
それにも肯定。
「しょうがない…格闘戦は好きじゃないけど!やらないと不味いわねっ!」
カノンプロヴィデンスは右腕を振り抜き攻撃を弾く。
術式組成阻害物質のアンチレーダーミストを隠れ蓑に接近したゾイドを弾く。
それが晴れ目の前に現れたのは…ジェノザウラーでもなく、
バーサークフューラーでもなく、ましてや凱龍輝でもない同クラスのゾイドの姿。
ネオヴェナトル…新たなる狩人と呼ばれるデスナンバーの姿だった。
70悪魔の遺伝子 847 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/01(水) 11:32:51 ID:???
『おおおっとぉ!カンウが空中で回転を始めたぞぉ!そのままテッコウへ突っ込むぅ!』
「甘いな!そんな見え見えの攻撃!当たると思ったか!?」
落下速度に加え、高速回転を行ったカンウのスピンアタックであったが、テッコウに
あっさりとかわされてしまった。そしてカンウが突っ込んだ地面は物凄い爆音と共に
地面爆発を起こし、大量の砂埃、土埃を枚あげていた。
「うお!何という威力・・・。あんなのまともに食らっていたら即死だったぜ。」
回避したとは言え、ギガクラッシャースピンの威力を目の当たりにしたキシンは唖然とし、
ほっと胸を撫で下ろしていた。が、キシンはまたも唖然としてしまった。なんと爆煙が
晴れた時、そこには巨大なクレーターを残すだけで、カンウの姿は無かったのだ。
『おおっとぉぉぉ!カンウの姿が消えたぞぉぉぉ!一体何処に行ったぁ!?』
「またさっきの高速移動か!?」
キシンとテッコウは共に360度あらゆる方向を見渡した。しかし何処を見てもカンウの
姿は見えなかった。
「何!?一体何処に行ったのだ?」
突如姿を消したカンウにキシンは一瞬困惑した。が、その直後すぐに気を取り直した。
テッコウの持つセンサーがある事を発見していたのだ。
「なるほど〜・・・。そこに隠れるとは面白い事をやってくれるじゃないか。」
キシンはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。そしてテッコウは地面のある場所にムラサメ
ブレードを突き刺した。するとどうした事か、地面爆発と共カンウが飛び出してきたのだ。
「痛ったぁぁぁぁ!」
『おおおおっとぉぉぉ!何とカンウは地中にいたぁぁぁぁ!』
『この間のバトルロイアルでエレファンダーを倒した時のアレですな。』
ギャグ漫画の様に飛び出したカンウは素早く体勢を立て直してテッコウの方を向いたが、
マリンは精神的に動揺していた。
「な!何故!何故地中にいるって分かったの!?」
「テッコウの嗅覚を舐めるなよ。言っておくがテッコウは嗅覚と嗅ぎ分け能力を
鍛えてるんだぜ!並のコマンドウルフとは次元が違う程にな!」
「な・・・。」
71悪魔の遺伝子 848 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/01(水) 11:35:22 ID:???
ムラサメライガーはライオン型である為、嗅覚はお世辞にも強いとは言えない。しかし
キシンの乗るテッコウは鍛錬を重ねる事によってコマンドウルフすらも凌駕する嗅覚を
手に入れたのだ。そしてその嗅覚と連動した高性能センサーによって光学迷彩を使用して
完全に姿を消したライガーゼロイクスすら見破る事が出来た。また、嗅ぎ分け能力も
高いと前述した通り、ただ鼻が強いだけで無く、様々な匂いの中から対象のみを
探し出す能力にも優れているのだ。そして地中に潜ったカンウを発見するだけでなく、
先程の残像を残して飛び上がったカンウを発見したのもテッコウの嗅覚による物だった。
『恐るべしテッコウの嗅覚!例え姿を消しても匂いまでは消せないかぁぁぁ!?』
「なるほどね・・・。匂いでこちらを発見するとは盲点だったよ。でも!」
「!?」
マリンが一度軽く深呼吸をした後だった。カンウが目にも止まらぬ速度で飛び掛かった
のだ。その瞬間速度時速400キロを超えていた。
「くそ!!コイツ速・・・。」
カンウはあっという間にテッコウの懐に飛び込むとその前足に組み付こうとした。
そして関節技で勝負を掛けるつもりだったのだ。が、しかし、テッコウも素早く前足を
引っ込めてかわし、飛び退くと同時に腹部の衝撃砲を撃ち込んだ。しかしその一撃は
カンウの作り出した虚像をすり抜けただけであった。
「く!また残像か!」
テッコウは己の嗅覚によってカンウを探した。が、その時には既にカンウの実像が
テッコウの側面に回り込んでいたのだ。
「何!速い!?」
「ローリングソバット受けてみなさい!」
テッコウの側面でカンウは高速回転を始めた。そして俗に言う“ローリングソバット”の
一撃をテッコウの側面装甲に叩き込み、テッコウは数十メートル先まで蹴り飛ばしたのだ。
『おおおっとぉぉぉ!物凄い速攻と共に激しい一撃がテッコウに炸裂したぁぁぁ!
凄いです!どんな重装甲も砕く一撃ですよこれは!』
『しかしテッコウも凄いですよ。あれだけの一撃を受けながらまだ立ち上がっています。』
確かに彼等の言う通りだった。カンウの蹴りを食らい、あれだけ派手に吹っ飛んで
いながらテッコウは起きあがっていたのだ。
72悪魔の遺伝子 849 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/01(水) 11:41:31 ID:???
「なるほど。蹴りのインパクトの直前に飛び退いて蹴りの威力を最小限に押さえたのね。」
「お前は確かに凄かった・・・。俺の予想以上だ。あの並み居るランカー級
Ziファイターがまとめてやられるのも無理は無い話だ・・・。しかし、この俺と
テッコウの実力はこんな物では無いぞ!」

カンウとテッコウの勝負は一身一体。両者互角のまま続いていた。
と、その時だ。マリンは別方向から襲い来る強烈な殺気を感じたのだ。
「ん!」
「今だ!」
一瞬のスキを突き、飛び込んで来たテッコウだったが、カンウはそのテッコウを
蹴り飛ばし、自身も後方へ後退した。その直後だった。先程までカンウのいた空間を
強烈な粒子線が貫いて行ったのは。
「何だ今のは!」
「この粒子線はセイスモサウルスの物よ!」
皆が粒子線の先を注目した時、そこには山の上に聳え立つセイスモサウルスの姿だった。
『おおおっとぉ!セイスモサウルスの乱入だー!』
『この試合はどうなってしまうのでしょうか!』
皆はセイスモサウルスの方へ注目しいた時、そのセイスモからマイクで増幅された
野太い声が周囲へ響き渡った。
「この不意打ちの一撃すらかわすか!流石は噂の二代目緑の悪魔だ!コイツの首を
持ち帰れば一生遊んで暮らせる程の金が手に入るぜ!」
『こ・・・これは凄い絵に描いた様な小物悪役だー!』
『いや〜。自分で思いっきり目的を皆に分かる様に説明するとは親切ですね〜。』
「なんだとぉ!」
フルタチ&ヤマモトに半ばバカにされる様な事を言われたセイスモの男は顔を真っ赤に
させながら怒っていたが、一方その標的であるマリンは拍子抜けた顔をしていた。
「何だアイツ?」
「そんな事私に言われたって。」
キシンも気になってマリンに問い掛ける程だったが、とりあえずセイスモの男の目的が
マリンの首と言う事なので、試合妨害者と見なして排除する事にした。
73悪魔の遺伝子 850 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/01(水) 11:44:15 ID:???
「とりあえず一持休戦ね。」
「おう!」
テッコウはムラサメブレードを展開し、カンウはその両手のツメを鳴らしていたが、
その後でルナリス等が通信を入れた。
「おーい!私等も手伝おうかー?」
「いや!お構いなく。見物してて良いと思うよ。」
「ああそうか。なら見物する。」
と、あっさり了解したルナリス等は引き下がり、カンウとテッコウはセイスモへ向かった。
『突如乱入したセイスモの脅威に手を組んだ両選手!さあこの戦いどうなるかぁ!』
『これはこれで面白そうですね〜。』
フルタチ&ヤマモトは相変わらず実況を続けていたが、カンウとテッコウはセイスモの
雨の様な砲撃をかいくぐり、どんどんと接近していた。
「な!何故だぁ!ズィーアームズ社特製の強化セイスモサウルスなのに!」
「腕が違うのよ腕がぁ!」
それはあっという間の出来事だった。ゼネバス砲を回避し様に放ったカンウのタックルは
セイスモの巨体をたやすく浮き上がらせ、その後でテッコウがムラサメブレードで
セイスモの首や四肢、尾をたやすく切り落したのだ。
「な!何で!?ひ!ヒィィィィ!」
セイスモに乗っていた三流の殺し屋と思しき男はセイスモを乗り捨ててそのまま
逃げ帰って行くのだったが、余りの手応え無さに皆目が点になっていた。
「おい。何だったんだ今の。」
「さあ。」
ただ、あえて補足させてもらうならば、このセイスモ、パイロット両方とも
決して弱くない。それでも弱く感じたのはマリン等がそれだけ強い証拠なのだ。
74魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/01(水) 14:03:08 ID:???
【第三章】

『ガイロス! ガイロス! ガイロス! ガイロス!』
『ジェノっ! ブレイカーぁっ!! ジェノっ! ブレイカーぁっ!!』
 誰に向けられているのか皆目わからない声援は続き、斯くして醸成されつつある偽りの
空気。

「いや〜っ、実に! 実に、目出度いねぇ。こんなに目出度い日が来るとは思わなんだ」
 賭け事について回るのは嗜好品の類い。ボロを纏ったこの爺も、真っ昼間から酔いどれ
ていた。…グレーベ・スタジアムのスタンド裏には酒場や料理屋がひしめき合っている。
この場に屯(たむろ)する客達の娯楽は、一杯引っ掛けながら己が賭けたチームの試合に
一喜一憂することだ。
「ガイロス『帝国』伝説の決戦ゾイド! 魔装竜ジェノブレイカー様がゾイドバトルでふ
ぅっかぁっ!
 頼もしいねぇ。この調子でヘリックのインチキ民主主義者共をぶちのめして欲しいや。
 …兄ちゃん、あんたもそう思うじゃろ?」
 話しを振られた男…パイロットスーツをだらしなく纏った金髪に無精髭の青年は、カウ
ンターで独り寡黙に呑んでいた。いかにも胡散臭そうな格好とは裏腹に、他の客のように
酔いに任せてはしゃいだりはしそうにない。…それもその筈。他の客がグラスでビールな
りワインなりを呑んでいる一方、青年が手にしているのはマグカップで、しかもこの喧噪
には場違いな位、香り高い湯気が立っている。彼はこんな酒場に来たにも拘らず、さっき
から茶ばかりすすっているのだ。只、男に話し掛けた酔っ払いは相手の飲み物を詮索でき
ぬ位に酔いが回っていた様子。
「そうだな。目出度いな。…で、爺さん、あんたはデュカリオンの『ザ・ビショップ』と
『ギルガメス』、どっちに賭けた?」
 そう尋ねられた酔っ払い、急にばつの悪そうな表情を浮かべる。
「いや…それは…兄ちゃん、あんたもきついね。
 ジェノブレイカー様復活は嬉しいよ、それにパイロットの坊やは水の軍団ともやり合っ
たんだって?
 でも、それでもあの残忍な坊さんと、相棒のシャドーフォックスには叶わないじゃろ。
ゾイドバトルの、キャリアが違うよー」
75魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/01(水) 14:05:08 ID:???
「フフッ、皆そう言うな。…でもな、爺さん。ビール一杯分程度なら『ギルガメス』に賭
けてやっても良いだろうな。何しろ百倍付いたそうだぞ」
「ひゃ…!? 兄ちゃん、良い話しをありがとうよ。それじゃあ一杯分、賭けに行ってく
るよー」
 足元をふらつかせながら、酒場を出ていく爺。それを気にも止めず、相変わらず茶をす
する青年。
 と、彼の隣りに全く物おじせず着席した者が一人。リゼリア近辺では余り見掛けないゆ
ったりとした服を纏った、栗色髪の若者だ。成人したかどうか、微妙な位幼い顔立ち。だ
がカウンターに座った彼を誰も咎めない。…物腰に全く澱みがないこの者を、未成年とは
誰も思わなかったのである。
「お久し振りです、ヒムニーザさん。御自身ではお賭けにならないのですか?
 …あ、僕、ビール一杯」
「賭けるのはテメェの人生一つで十分さ…って、お、おい…」
 茶をすする青年…通称「風斬りのヒムニーザ」は目を丸くし、隣席の若者を睨む。…数
秒の後、頭を抱え始めた。
「国費留学生のあんたが何でこんなリゼリアくんだりまで乗り込んでるんだよ…」
「やだな、観光ですよ、観光」
「ゾイドバトルを見に、か」
 微笑みを返事に代えた若者。
「…兄上達はもう勘付いています。だから僕が代表して直々に、確認です」
 ヒムニーザの大きな溜め息。ジョッキに注がれたビールを美味しそうに呑みながら、若
者は会話を続ける。
「今日、もし連中が敗れたら?」
「弱者に用は無し。…魔装竜ジェノブレイカーの名を冠するなら尚更のこと」
 屈託の無い笑顔でそういうことを抜かすか。誠に、喰えぬ奴。
「ああそれと、遅ればせながら御就職、おめでとうございます」
 ヒムニーザの何とも呆れ果てた表情。特大の溜め息をつく。
「あんたねぇ…。そこまで知ってて俺に接触するかよ。一応、これで敵同士だぜ?」
「仁義を通しに来ました。今日、戦う…えーと」
「グレゴル」
「そう、グレゴルさんが負けたら次は貴方の予定でしょう?
 貴方が負けたら次は僕らの番だと考えてますから」
76魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/01(水) 14:06:36 ID:???
「水の軍団は…どいつもこいつも、強ェぞ」
「御忠告、痛み入ります。…あ、マスター、御馳走様。釣りはいりません。
 それじゃあ又機会がございましたら、一杯やりましょう。…夫人によろしく」
 すっくと立ち去った若者の飄々たること。まさしく雲のごとし。
 一方、その若者と入れ替わるように入室してきた者がいた。…うら若き、女性だ。それ
も彫り深く肌白い、相当な美女と言って良い。黒髪を天辺で簡素に結い、残りは腰まで長
く伸ばしている。それが彼女の軽快な歩行とともに、華麗になびく。一方衣装はこれも又
見慣れぬもの。純白の…これは東方大陸独特の「着流し」という格好だ。そして帯には一
本、東方大陸で「カタナ」と呼ばれる長刀を差している。
 ヒムニーザの隣席に、息を弾ませ着席した美女。酒場の店主は背筋に軽い緊張を覚えた。
落ち着いた物腰なのに、この変な男の隣に座った途端雰囲気が豹変したからだ。
「…お館様、遅くなりました」
「ああ、スズカ。お疲れさま。どうやら『石動』は…」
「ええ、お陰さまでどうにか打ち直して貰っています。それより先程の御仁、まさか…?」
「その『まさか』。シュバルツの、三男坊だよ」
 忽ち色めき立った美女。腰の長刀に手を当て追い掛けようとするが。
「止めておけ。あちらはお忍びだ。『獣勇士』も当然、周囲を固めている」
「は、はあ…」
 不満げに座り直す着流しの美女。
「まあ、良いさ。今は俺達の『最終戦候補』の視察が先だよ。
 それ次第で彼奴らのこともどうでも良くなるだろうからな」
 コクリと、頷き返す彼女の視線に疑念の欠片も伺えない。
「それじゃ、行くか。…親父、釣りはいらんよ」
「お、お館様、又そんな見栄を…」
「ん? ああ、悪い悪い。でも彼奴も格好つけて行きやがったからさ…」

 コントロールパネルに八つ当たりするような奴は、ゾイドを操縦する資格などない。女
教師のみならず、ハイスクール時代…エレメンタリーもジュニアも関係なく、今まで出会
った教師には必ず言われてきた。しかしながら、外で繰り広げられる声援に対してはいい
加減、八つ当たりの対象が欲しいところ。
77魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/01(水) 14:09:02 ID:???
 ギル、そしてブレイカーの苛立ちは最高潮に達しつつある。…さっきから聞こえてくる
のは暗黒大陸の一小国の名前だし、そこにいつの間にか、相棒が捨てた忌わしき名前が追
加されていた。一人でも良いから、僕の名前を呼んでくれ。相棒の今の名前を呼んでくれ。
これから行なわれるのは戦争じゃない、僕達のデビュー戦なんだ!
 大きな溜め息を漏らしながら、ギルは座席にもたれ掛かる。一方、彼を胸元に隠したブ
レイカーも同様の気分か。グスタフが牽引する運搬車輌の上で、意外な程大人しく蹲って
はいるが…。
 一行が進む「花道」は、紙コップが散乱していた。彼らより先にスタジアムに向かった
グレゴルとシャドーフォックス「ライネケ」に浴びせかけられたものだろう。…シャドー
フォックスがヘリック原産であるというだけでこの有り様だ。
 一体僕達は、何処へ行くのだろう。

「…あれがジェノブレイカー、か。禍々しい、けれど美しくもあるな」
「そう言えば、お館様の『ジンプゥ』同様、翼を背負っていますね」
「だな。しかし彼奴の翼には隠し武器が仕込まれているって話しだが…うむ、成る程。
 スズカ、そっちも終わったか?」
「はい、上出来です。それでは早速…お館様?」
 小型カメラを懐に隠したスズカ。だがヒムニーザと言えば、花道とは全く別の方角をじ
っと睨んでいる。彼らと同じ、スタンドの一角をだ。
「…お館様、如何致しましたか?」
「ああスズカ、悪い悪い。俺の気のせいだ。じゃあ、行こうか」
 早々にスタンドを立ち去る二人。

「これは、驚いたなぁ」
 スタンドの別の箇所ではあの、謎の青年がじっと深紅の竜を観察していた。無論、彼も
撮影を忘れてはいない。
(しかし見たところ、流出ものというわけでもない。実に、若々しい。これは早速本国に
打診して血統図を洗い直してもらう必要が…)
「ヴォルケン様でいらっしゃいますね?」
 いつの間にか隣に近付いてきたこの者、ヒムニーザが見たらどんな反応をしただろう。
「ヴォルケン」と呼ばれた若者が振り向いた時、そこには泥酔したあの爺がいた。…但し、
先程までの泥酔振りが嘘のような仏頂面。その上眼には殺気が漲っていると来た。
78魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/01(水) 14:11:35 ID:???
 一瞥した途端、笑顔が消えた若者。
「どうか、我らにお力添えを…」
 避けるかのように、若者は花道に視線を戻す。
「何故『今』でなければならないのですか? あそこには前途有望な少年もいる。
 彼を巻き込みまでして復讐を果たそうというのは如何なものでしょうか」
「今でなければチャンスは潰えてしまうやも知れません。それに、ヴォルケン様にしても
本国からの指令が下り次第、彼らの討伐を行なうのでしたら、今仕掛けても問題ない筈」
「だとしても、筋は通すべきです。…貴方達の作戦、見事勝利を収めたとして、人々の支
持をも集め得るとお考えなのですか?」
 口を噤んだ爺。無言のまま、踵を返す。
(もっと気長に構えようよ…)
 若者の溜め息も又、喧噪の渦に呑み込まれていった。

 花道の終点に到着したグスタフ。運搬車輌から降り立った深紅の竜と、女教師が駆るビ
ークル。真正面に聳え立つのは四方を堀に囲まれた、ボロボロのコンクリート製の建物だ。
そしてその向こうには岩山が聳え立つ。ここは言わば堀と、岩山やスタンドで二重に囲ま
れた試合場なのだ。
 任務を終えて引き返すグスタフを尻目に、一行は堀と、その向こうを睨む。…堀は相当
な広さだ。深紅の竜ブレイカーの十数倍はある。その方角に開かれた門はブレイカー程で
も容易に入れる大きさだが、肝心の橋がない。…しかしながら、それ自体は彼らにとって
余り問題にはならなかった。
「貴方達、先に行ってなさい。私もすぐに追い掛けるから」
 その言葉に頷くと、早速翼二枚と背の鶏冠六本を広げた深紅の竜。強い踏み込みと共に、
堀の上を飛び越える。…その挙動一つ一つに対し、毎度のように歓声が上がるのだから迷
惑な話しだ。
 さて正門に着地してみた主従。普通に歩きかけたところで、躓きかける。…良く見れば、
堀と呼んで良さそうな空間は、正門をくぐってすぐ手前にも広がっているではないか。つ
まりこの建物、外と内で二重に堀が作られていることになる。
「全く、変な作りだよね。…気を取り直していこう。マグネッサー!」
 着地した正門の前で、改めて地面への蹴り込み。
(大丈夫…かしらね)
 呟くエステルも又エンジンを吹かす。
79魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/01(水) 14:12:55 ID:???

 これがスタジアムだとでも言うのか。ギルの、唖然。薄暗い室内は廃工場? それとも
廃格納庫? いずれにしろブレイカー程の体格で移動に支障が無さそうな位、中は広く、
高い。その上至る所にゾイド用と思われる巨大な重機の残骸が打ち捨てられている。
 背後では、外界との行き来を封じる金属音。それと同時に暗転する室内。一瞬コクピッ
ト内の光源は計器類とギルの額で輝く刻印のみとなる。彼がハッとなってコントロールパ
ネルから指示を送るよりも前に、暗視モードに切り替わった全方位スクリーン。こういう
時、相棒はやはり歴戦の勇者らしいそつの無い対応をこなす。ブレイカー、ごめんとの呟
きにも軽く嘶く(いななく)のみで、何ら咎めたりすることはない。
 閉ざされた外界に代わって、今度は人工の光が差し込んできた。…女教師駆るビークル
の、到着。
「ギル、ブレイカー、ローカルルールのおさらいをしましょう。
 室外に放り出されたらその時点でリングアウト。まあこれは心配いらないかしらね。あ
ちらは殺す気でいるのだから。
 又、このスタジアム内には地下区画が存在するわ。…地下にはこの建物内部の堀から行
き来できる。でもね、落とされたら20カウント以内に地上区画まで戻らないとやっぱり
リングアウトだから。
 因みに、地下区画は無線が一切遮断される作りになってるわ。それはつまり…」
「一切の反則行為が黙認される、でしたよね」
「良く出来ました。万が一落ちることになったら気を付けて。
 あと、私はアドバイスしかできない。これは試合だからね」
 ギルの、大きな頷き。…つまり彼女のビークルに搭載されたAZ(対ゾイド)ライフル
での援護は不可能ということだ。ある意味通常の戦闘よりも厳しい。
 と、一斉に点灯を始めた室内各所。途端に、昼の陽射し程に明るくなっていく。同時に
サイレンの谺。それが鳴り終わるや否や、室内の遥か向こうで、不意の明滅。左右に散る
ブレイカーとビークル。…明滅の正体は、無数の光弾! 忽ち後方の門に突き刺さり、穴
を開けていく。
 弾痕を一瞥する二人と一匹。しかしそのすぐ後、前方で響き渡るゾイドの足音。速い!
夕立ちのごとき勢いだ。すぐさま向き直す面々。だが彼らが体勢を整えるよりも速く、足
音の主、飛翔。
80魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/01(水) 14:14:28 ID:???
 教会の鐘を砕いたら、こういう音が聞こえるのかもしれない。壁を、床を震わす衝撃音
の正体は、深紅の竜が展開した翼と、紺色の狐が放った爪撃との激突。重力を味方に付け
た一撃に押し込まれるが、すぐさまレバーを押し返す竜の主人。彼のレバー捌きを敏感に
察知した相棒、受け止めた翼で押し返し、爪撃を払い除けると気合の咆哮。かたや、宙を
反転し、いとも軽やかに着地してみせた紺色の狐。
 かくてコンクリートのリングで見合う、深紅と紺の獣達。…どちらも名乗りを上げよう
という気配はない。
 両の翼を、おもむろに広げた深紅の竜。そのまま、左へゆっくりとカニ歩き。一方紺色
の狐も又、背中のガトリング砲を突きつけながら一歩一歩、足場を確認するかのように進
み行く。…いずれのゾイドも俊敏な動きが信条だが、下らぬ障害物で躓きでもしようもの
なら、ダメージは他のゾイドの数倍だ。だからこそ、彼らは歩く。
 いつしか視界に割り込む重機。両者の視界を遮断する。
 重機を越えると広がる世界。
 又、遮られた視界。今度はコンクリートの巨大な柱。
 柱を越えると又視界の広がり。
 重機。
 視界。
 柱。
 視界。
 重機。
 視か…。
「行った!」
 コンクリートの床に四肢の爪先を叩き付け、バネのごとく走り出す狐。
 深紅の竜も負けじと左足で床を蹴り込み、早速滑空の体勢に移行。そのまま、追撃へ。
「ギル! 深追いは禁物よ!」
「は、はいっ! ブレイカー、まずは背後につけよう!」
 何度目かの視界の広がりを見計らい、その向こうへと入り込む。
 だが狐の反撃も用意周到だ。走ったまま背中のガトリング砲を後方へ旋回させると忽ち
の光弾、雨あられ。小刻みな動きでこれを躱す深紅の竜。だがそんな動きができるのは、
全速力には程遠いということ。紺色の狐、一気の加速。竜との間合いを広げるや否や、左
脇の柱目掛けて、跳躍! 柱を踏み台にして今度は右方目掛け、更に跳躍。着地点は…竜
の頭上!
81魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/01(水) 14:16:00 ID:???
「それは虫が良すぎるよ!」
 背の鶏冠の各先端から、蒼炎の噴出。覆い被さる狐の爪撃を済んでのところでくぐり抜
けると、右足を地面に突き立て、加速でついた勢いを一気に殺す。コンクリートの床を抉
りながら、反時計回りに旋回。相手の姿を視認したと同時に反撃の開始だ。前の挙動によ
って前に向いた左足を蹴り込むや否や、両の翼を正面に展開、目指すは渾身の体当たり。
 鈍い衝撃音がコクピット内にまで、谺。同時に受けた圧倒的な衝撃は手応えありの感触。
「やったか!?」
 確かに、その攻撃は「やった」。結果、視界の左側へ放物線を描き、コンクリートの柱
に叩き付けられようとする狐。だがその後の展開は、予想と希望の二点で大きくかけ離れ
ていた。
 空中で身体を捻る、狐の高度な芸当。柱に叩き付けられる寸前でしっかり四肢を向け、
堅いコンクリートを受け止める。…しかし、深紅の竜とその主人は予想していたのだ。狐
は柱を踏み台にして、又飛び降りるだろう。ならば着地点を狙うと。
 その筈が。
 降りてこない、狐。…柱に、へばりついている。まるでその辺りだけ重力の掛かる方向
が変わったかのように。
 何故!? と声を出すより速く、放たれた光弾。両の翼を前方に展開する深紅の竜だが、
流石に予想を越えた事態。完全には受け切れず、数カ所受けたダメージが同調(シンクロ)
によりギル自身の身体にも反映される。肩や腰に、刃物で斬り付けたような傷。…幸か不
幸か身体が抉られるようなダメージは受けてはいないが、それにしても。今一度、仕切り
直しの一睨み。
「我らが秘術の正体を見て、今尚生き存えている者がいるとは珍しい。
 見ての通りですよ、ギルガメス君、そして相棒ジェノブレイカー。シャドーフォックス
は踵の爪を使い、壁や柱にへばりつくことができるのです。無論、歩くことも走ることも。
 しかし! 真骨頂はこれからです!」
 言うが速いか、忽ちの疾駆。重力を己が辞書から完全に消し去った動きは、壁面を、天
井を床のごとく駆け抜けていく。釣られて首を天井へ向けたギル達主従。だがシャドーフ
ォックス「ライネケ」の動きは速く、そして老獪だ。このゾイドが頭上の配管を、柱をく
ぐり抜けていった時、大変なことに気付いた主従。
「あれ、何処に…み、見失った!?」
82魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/01(水) 14:18:44 ID:???
 少年の声とほぼ同時に、彼の背中を走った電流。否、これは痛みだ。深紅の竜の翼の付
け根あたりを流れる油。主従は慌てて背後を睨む。だが、そこにも敵機は見受けられない
…そう判断した瞬間、今度は腰に突き刺さった痛み。不味い、これじゃあ埒が開かないよ。
 深紅の竜目掛けて、四方八方から放たれる光の針、針、針。このままでは火だるまなら
ぬ「光の針だるま」だ。
「さあ、もっと狼狽えなさい! 絶望しなさい! そしてイブに祈るのです!
 跪いて命乞いするならもっと楽に! 
 抵抗するなら地獄の苦しみを味わいながら殺してあげましょう!」
 何処からか、反響する声。…声? どの辺から聞こえてくる!?
 だが声を聞いただけでは、相手の位置などさっぱりわからない。そうこうしている内に
も傷口は増える一方。打つ手無しか? 打つ手無しなのか!?
「ギル、ギル、聞こえて?」
「…エステル先生!? 先生、相手の動きが全く読めないんです!」
 女教師のビークルは依然、二匹を追い掛けているところだ。しかしながら不肖の生徒の
悲鳴にも動揺の色は見られない。コントロールパネル上の地図を睨みながら、只一言。
「深呼吸」
「…え」
「いいから、さっさとやる!」
「は…はい!」
 吸って、吐いて、吸って…という間に、二匹の攻防がビークルの視界に入ってきた。
「…で、どう? 貴方達、すぐにもやられてしまいそうなの?」
 女教師に諭され、大変なことに気が付いた。…確かに、今も己が五体に無数の切り傷が
増えてはいるが、致命傷には程遠い。
「あ、彼奴、思いのほか攻撃力が低い…?」
「あのシャドーフォックス、体術を生かすために火力を相当押さえているようね。
 ギル、相手も焦っている。できるだけ早めに貴方達を倒したいから、挑発を仕掛けてい
るの。
 だから貴方達。…寧ろ、誘いなさい!」
 さ、誘うって言っても…と声を上げ掛けた時、相棒が全方位スクリーンの左方に図面を
映し出す。
「ブレイカー、これは君の…背中の口、鶏冠の先端、腰回り…そうか、わかった!」
83魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/01(水) 14:20:33 ID:???
 言うが速いか、コンクリートの床を蹴る。あからさまに背後を見せての、逃走。追い付
いてきたビークルの真正面を横切る。
「己、逃がすか!」
 追いすがるシャドーフォックス「ライネケ」。天井を、壁を、そして床を、又壁を、螺
旋を描くように疾駆。だが…。
「ああ、やっぱりだよブレイカー。僕らが逃げてみせたから、彼奴、弱点の集中する君の
背後しか狙ってこない。だったら…!」
 深紅の竜、跳躍しつつ、宙返り。天井目掛けて全身バネのごとき、両足揃いの踏み込み。
 敵が背後からしか攻撃「できない」ということは、その延長線に注意すれば自ずと敵の
位置も特定できることを意味する。
 相棒が、視界に捉えた。その理屈のまま、追いすがる敵を。
「そこだ!」
「そう来ましたか!」
 天井に走る亀裂は、深紅の竜の並外れた運動能力の証し。
 壁面から床へと駆け降りていく紺色の狐目掛けて、両翼裏側から刃を展開させ…。
「翼のおぅっ! 刃よおぅっ!」
 背の鶏冠先端から蒼炎を迸らせ、着地点に向けて狙うは翼の刃での幹竹割り。忽ち地面
を抉った深紅の竜。その辺一体に敵の残骸が見当たらぬことに気付くと早速周囲を見渡し
に掛かる。…シャドーフォックス「ライネケ」は壁にへばりついていた。軽快な動作で地
面に着地してきたこのゾイドの右足には、深い刃の傷がくっきりと浮かんでいる。…間違
いない、手応えありだ!
「これは、これは…。流石に『ゲリラ殺しのジンザ』を葬っただけのことはある」
 身構えるシャドーフォックス「ライネケ」。深紅の竜ブレイカーも気合負けすること無
く、水平に翼を伸ばして構え直す。
「ならば我らも奥義を尽くしてぶつからねばなりません。行きますよ、ライネケ。
 チーム・ギルガメスよ! 機獣殺法『影つむじ』、受けてみるかぁっ!」
「影…つむじ!?」
 ライネケの、両の瞳が妖しく輝く。それと共に火花を散らす程激しい眼光の迸り。辺り
一帯を包み込む金属音。…音階は余りに高い。ひどい耳鳴りだ。
 警戒し、構え直すギルとブレイカーの主従。
84魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/01(水) 14:22:06 ID:???
 岩山の向こうでは人の形にも似た黒い鎧・兜のゾイドの群れが集結しつつあった。槌猩
機(ついしょうき)ハンマーロックの一団だ。…十匹は揃っている。
「諸君、復讐の時は来た!」
 群れの先頭から発せられた檄。声の主は他ならぬ、あの酔っ払いの爺だ。無論この操縦
席上で酒気は一切伺えない。
「今現在、『破戒僧』グレゴルはゾイドバトルの真っ最中じゃ。好機を見計らって突撃し、
彼奴の首を取る。
 幸い『水の軍団』は寧ろ相手の『魔装竜さま』に御執心、ノーマークに等しいときた。
まさに千載一遇! 必ずや彼奴を討ち取り、ゼネバスここにありを知らしめるのじゃ!」
 人が、ゾイドが雄叫びを上げる中。
 乾いた破裂音が、一発、二発、そして三発。
 忽ち、辺りは静まり返る。
 ハンマーロックを通じて周囲を見渡す爺。カッと目を見開き、そして声を失った。
 十匹の内、三匹の身に起こった異変。…本来は緑色の目が、朱に染まっている。グラリ、
バランスを崩し、横転。
「誰がジェノブレイカーに御執心だ?」
 低いが良く通る声の主が、向こうから。テンガロン・ハットを被った男。両手でに余る
程巨大な拳銃を構えながら、一歩一歩近付いてくる。
「お、お頭! 彼奴の得物、AZ(アンチゾイド)マグナムだ!」
「何と! まさか貴様、銃神ブロンコ!?」
「確認したいか? ならば『我ら』を倒すことだ」
 その声に、残るハンマーロックが一斉に身構える。だが彼らはこの男の言葉にもっと注
意しなければいけなかった。
「神聖な戦いを穢すことは許さん。…いでよ、テムジン!」
85魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/01(水) 14:23:17 ID:???
 紺色の狐、稲妻への変化。壁を、床を、天井を、ジグザグに飛び跳ねながら近付いてく
る。…速い! 今までも十分すぎる速さだったのにこれは一体。
 余りの勢いに呑み込まれかけた竜の主人だったが、慌てて我に帰る。
「…いや、焦るな。焦っちゃ駄目だ、ギル。こういう時は…」
 狐の鋭い眼光。
「相手の目を見る!」
 幸い、オーガノイドシステムで相棒と同調している今の彼なら十分、追える速さだ。視
線の奥に隠された意図を読むのは対人戦もゾイドバトルも大差ない。…壁、壁、天井、床、
壁、壁…。相手の接近は間合いの接近でもある。翼を広げ、迎撃の準備。
 だが、稲妻が間合いに入ったその時。
「そこ! え、き、消え…!?」
 視界から消え去った、紺の稲妻。斬撃の挙動を止め切れず、前に傾いた五体。レバーを
引き絞って相棒の転倒を防いだギル。全方位スクリーンで周囲を見渡す。ライネケは!?
 敵は既に、背後遠く。だが慌てて向き直し、構えようとしたその直後、主従の身に襲い
掛かった異変。…身をよじらせる、ギル。痛みの根源は、腹部から。忽ち純白のTシャツ
が朱に染まっていく。余りの痛みに悲鳴を上げることすら叶わない。
 同様の傷は、相棒の腹部にも出来上がっていた。こちらは主人とは違い経験豊富。これ
しきの事態でも決して悲鳴を上げたりはしない…が、それでも傷口はゾイドコアのすぐ近
くだ。油が溢れ出る傷口を、押さえ、庇わずにはずにはおれない。そうしつつ、眼前の敵
を今一度睨み返す。
 一歩、一歩、再び間合いを詰め始めるシャドーフォックス「ライネケ」。コクピット内
では破戒僧が狂気を孕んだ笑みを浮かべていた。
86魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/02(木) 12:09:05 ID:???
【第四章】

 やりにくいわね。想像はついていたけれど、実際にやってみると、こうも面倒なの。
 無敵の女教師でも、ぼやきたくなることはある。彼女とて、密室内での戦闘もサポート
も経験済みだ。…だがこの勝負、ゾイドバトルなのだ。離れた位置から指示を出すより他
ない上に、殆どの場合直接この目で見て確認できないのが何とももどかしい。
「ブレイカー、至急映像、送りなさい! ギル、とにかく一旦、間合いを取る!」
 苦戦中のコンビに指示を送りつつ、現場に向けてエンジンを吹かす。
 一方、ギル。身を捩らせる程の激痛を堪えつつ、両のレバーでどうにか身体を支えてい
る格好。…ジュニア時代、よせば良いのに校内のワル共に突っかかて返り討ちにあった時
も、こんな痛みじゃあなかった。くの字に曲げた姿勢をそのまま折り畳んでしまいそうだ。
「…馬鹿、ギル! さっさと引く!」
 女教師の怒号に、ようやく我を取り戻す。しかし激痛に歪む顔を持ち上げた時、ジグザ
グに舞う紺色の狐は既に目前。…そして、またもやの消失!
 深紅の竜、跳躍。完全な逃げの一手ではあるものの、他に打つ手無し。
 だがそれが如何に無意味な行動なのか、早々に思い知らされた。挙動を終え、着地した
シャドーフォックス「ライネケ」。着地するブレイカー。だが、紺色の狐が振り向く一方、
着地した深紅の竜、足元から崩れ落ちる。
「み、み、右膝、撃ち抜かれて…る…っっ!」
「中々往生際の悪い…しかし面白くもない。少し期待し過ぎたか」
 破戒僧の、失望混じりの呟き。
 一方、ようやくビークルの端末に送られてきた映像を見た女教師。
「ギル、ギル、聞こえて? 相手の技の正体は『視線外し』の一種よ!」
「し…視線…外し…!?」
「相手の目を見るのは格闘の基本中の基本。…目の動きで相手の狙いが予測できるからね。
『影つむじ』はその裏を掻いた技。貴方達が気後れせずに彼奴の目を睨み返しているから
こそ、目前でわざと宙返りしてみせた。当然、追い続けてきた視線が急に消えたように見
えるわ。
 相手が消えたと思い込んで貴方達が動揺したその隙に、相手は交差して、思いのままに
攻撃したわけ」
 ようやく現場に到着したビークル。一瞥したシャドーフォックス「ライネケ」。
87魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/02(木) 12:11:01 ID:???
「…ふむ、生徒の出来は悪いが先生は大したものです。我らが『影つむじ』の正体をこう
もあっさり見抜くとはね。
 だが幸いこの勝負、戦闘ではない、ゾイドバトルなのです。…貴方は生徒達が不様に命
を散らすところを指をくわえて眺めているが良い!」
 主人の叫びに応じて、ライネケが吠える。そして三度目の跳躍はまさしくとどめの一撃
を狙うもの。
「さあ、イブに祈りを捧げなさい!」
「ギル! ブレイカー! とにかく一旦、引く!」
「ええいっ! ままよ!」
 紺色の狐が、深紅の竜が床を蹴り込む。…この競走、シャドーフォックスが絶対的に有
利だ。踵の爪を使って壁や天井を意のままに走り、障害物は軽々と跳躍して避ける。かた
やブレイカー。複雑な地形、且つ右膝を撃ち抜かれた状態では音速に迫る滑空をやりたく
ても叶わない。そうこう言っている間にも魔の手は迫る。底力を発揮できぬまま虚しくド
タ足で走るより他ない状態。
 潮時か。やはりこのコンビには荷が勝ち過ぎる相手だったのか。らしくもなく爪を噛ん
だ、女教師。棄権するためには審判団に連絡せねばなるまい。端末を、叩く。端末を…。
 だが、一瞬の躊躇。
 指が止まったのは僅かに刹那。だがこの激戦の最中では、那由多にも。
 今一度、端末を叩き直す。…映し出されたのは、深紅の竜の胸部・コクピット内。
 確認せねばならぬ要素をこの目でしかと見届けようとしたその時、アクシデントは起こ
った。
「そうだ、とにかく間合いさえ確保できれば…!」
 女教師の葛藤など露知らぬギル。相棒を走らせ、自らは進行方向と追撃、そして足元に
注意を払う。だが何度目かの曲がり角を進んだ時。
「壁!?…し、しまった、堀だ!」
「よーし、追い詰めましたよ。さあ、ライネケ!」
 天井から、紺色の狐が迫る。
 やんぬる哉。そう言い掛けたギル。…締め付けられる、胸。
 いや、違う。相棒が、本当に自らの胸を押さえ付けている。僕を、僕を守るためにか。
 意を決し、拳を振り上げた少年。…標的は、自らの右膝。鋭い痛みに声にもならぬ悲鳴
をあげるが、それでも尚。
88魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/02(木) 12:12:44 ID:???
「ごめん、ブレイカー。大丈夫だから。壁を使って三角跳び…」
「そうはさせません!」
 足元への銃撃、一閃。どうにか躱し切って跳躍する筈が、手を滑らせた少年。
「し、しまった!」
 深紅の竜、よもやの蹴躓き。勢い余って何十メートルも前に。…その先にあるのは。
 声にもならない悲鳴を上げながら、主従、奈落の底へと真っ逆さま。

「い、痛…」
 頭を押さえる少年。軽い脳震盪。ジュニア時代、既に何度も経験はしている。だが慌て
て勢い良く立ち上がったりすると猛烈な吐き気がついて回り、コクピット内を滅茶苦茶に
汚しかねない。だからまずは軽く…軽く、深呼吸。だがその上で身体を起こしてみた時気
付いた周囲の、そして自らの激変は脳震盪以上の同様を与えかねないものだ。
 辺り一面、真っ暗闇。それが堀の奥底の風景。天井を見上げれば、向こうに光のカーテ
ンが差し込んでいるのがわかる。カーテンのすぐ下には瓦礫の山。いや、より正確には
「ゾイドの死骸」。「最後の大戦」の最中、ここでゾイドの改造実験が行なわれたと聞い
たことがある。惨い話しだ。光が届かないからよくはわからないけど、多分足元にも…。
「…って、えぇっ!? 僕、ブレイカーの…外に…。
 刻印も消えちゃってる。何だよ、何だよそれ…」
 がっくり、膝を付く。項垂れる。…気絶していなければ、額の刻印の輝きがこの単色の
風景に僅かでも彩りを与えていただろう。即ち彼はこのドサクサで一瞬とは言え失神して
いた。しかも機外へ放出のオマケ付き。試合中のパイロットの失神も、勝手にゾイドから
降りることも、問答無用で反則負けの対象だ。パイロットの生命に関わりかねない状態で
ある以上、当然といえば当然な措置ではあるのだが…。
「こ、こ、これからだって言うのに…何をやってるんだ、僕は…」
 震える、声。あれだけ粘ったのが、自らの軽率な行動で何もかもふいになってしまった。
ブレイカーに、エステル先生に、合わせる顔がない。溢れ出る涙を堪え切れず、地面に顔
を埋めようとした、その時。
『…スリー』
 え、何だ、今の。
『…フォー』
89魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/02(木) 12:14:38 ID:???
 ようやく、理解したギル。ここは地下区画。一切の反則行為が黙認されるって、試合前
に先生と確認していたじゃあないか! 耳を澄ますまでもなく、試合場でのアナウンスが
ここにまで届いている。確か20カウントでリングアウト負けの筈だけど、このペースだ
と1カウントにつき三〜四秒は掛けているようだ。時間はある。
 意を決し、顔を、身体を持ち上げる。今、僕がすべきことは…!
 後ろを振り返れば、やっぱりそこにいた。目を点滅させ、無事をアピールする相棒の姿
が。だがいつものように鼻先を当てて戯れたりはしない。…できないのだ。右半身を、下
方に向けて倒れている深紅の竜。その胸元を良く見れば、開いたコクピットハッチがもの
の見事に瓦礫に引っ掛かってしまっているではないか。…この暗闇の下へと転落した際、
受け身を取り損ねたに違いない(何しろ最下層まで何十メートルあるかもわからない以上、
起こるべくして起こったと言える)。その時コクピットハッチが誤作動で開いてしまい、
斯様な珍事態を招いた。無理矢理に引き抜こうとすればコクピットハッチ自体が無傷では
済みそうにない。
「ブレイカー、ごめん。顔、もうちょっと、こっち…」
 主人の意図を汲み、首を傾けた相棒。少年は近付いた光源を頼りに、ハッチに引っ掛か
った瓦礫を睨む。…鉄柱が何本か、地面から伸びてハッチの根元で交差している。これで
は近すぎて相棒自身の手や口で引き抜くのは辛い。
「これを引き抜くか、折るかすれば良いんだな。よぉし!」
 意を決して掴み掛かった、その時。
 相棒、突如の悲鳴。甲高い鳴き声に少年の手が止まる。
 鉄柱に、突き刺さった十字架手裏剣。少年、顔面蒼白。腰を抜かし、歯の音が合わぬ程
震えるより他ない。投擲された方角を見れば。
 瓦礫の中、緑色に、金縁のローブの男が一人。
「何と往生際の悪い子だ! 貴方はここで死ぬ。死なねば、ならないのです。
 さあ、さっさとイブの御許へ旅立つが良い!」
 グレゴルの、はためくローブ。十字架手裏剣の挙動! 目を瞑る。口はへの字。頭を抱
え込む。声にもならぬ悲鳴を上げ、ギルガメス、絶体絶命。
 血の気を求め、風を切り裂く十字架手裏剣。
90魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/02(木) 12:16:09 ID:???
 だが、追撃は不意に止んだ。…小気味よい金属音と共に。
「…非常識な人ですねぇ。飛び蹴りで手裏剣を払うとは」
「あら、失礼ね。『華麗』と言って頂戴」
 ギルが顔を持ち上げたその時、目前にはいた。エステル。あの、無敵の女教師が額の刻
印を明滅させつつ左前に構えている。無論、既に外していたサングラス。破戒僧に襲い掛
かる、蒼き瞳の鋭利な煌めき!
「むむっ、何という眼力ですか! だがしかぁし! ここで怯んで…!」
 なるものかとばかりに放たれた十字架手裏剣、無数にも。だが、もっと恐るべきは女教
師の裂帛の気合。
「かぁーっ!」
 放たれるたる、激しき息吹。悉く、弾き返した十字架手裏剣。標的は本来の持ち主。邪
悪な司祭はローブを翻しこれを防ぐ。
「グレゴルさん、本当にこの子達を殺したいのなら、そろそろ『地上区画』に戻った方が
よろしくてよ?」
 カウントは10に達しようとしている。
「ふむ、そのようですな。…では、わざとらしくリングアウト負けなどせぬよう」
 口元に歪んだ笑みを浮かべ、跳躍して立ち去る破戒僧。
(全く、こんな地形でなければゾイドごと乗り込んできたのでしょうね。冗談じゃないわ)
 退却する刺客に一瞥を送ると、向いた蒼き瞳の矛先は。
 情けない悲鳴を上げた相棒。さっきの刺客より遥かに強烈な視線だ。
 同様の衝撃は、竜の主人も。
 思い出した。…思い出してしまった。試合前に、彼女と交わした大事な約束。
 そして今し方、思い知らされてしまった。彼の力量では到底、それを守り通せそうにな
いと。
 暗闇の向こうから近付いてくる。明滅する刻印の青白い輝き。そして、蒼き瞳の凍てつ
く矛先。…心無しか、怒りに打ち震えているようにも見える。
 へたり込んでいた竜の主人。戦慄は先程の刺客以上。頬を張られる位で、済むのか? 
試合の棄権を宣告される位で、済むのか? 僕らは、僕らは、僕らは…!
「お、お、お願いです! 先生!」
 慌てて身を起こし、そして、土下座。右膝は頗る痛さだが、それどころではない。
「棄権に、しないで下さい! まだできます! 試合、させて下さい! ぅぅぅ…」
91魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/02(木) 12:17:51 ID:???
 最後の方は嗚咽でどうにも聞き取れない。だがそれでも、今の彼にできるこれが精一杯
の意思表示。
 だが、女教師といえば。
 一瞥もくれること無く少年の横を通り過ぎる。少年、愕然。
「…! え、え、エズデルぜんぜ、ぞ、ぞんな、おねが…!」
 泣き喚く彼を尻目に、右手を翳したその先には。…ぼんやりとした、輝き。コクピット
ハッチに引っ掛かった鉄柱が、まるで砂のように砕け散っていく。
「男が、女に軽々しく土下座なんかしたら、駄目」
 鉄柱の消失を確認した深紅の竜。二度、三度とハッチの開閉を繰り返すと、喉のつかえ
が取れたかのように機嫌良く姿勢を戻す。
「こんなアクシデントに陥っても何をすべきかすぐに気付き、実行した。…大丈夫、貴方
には、まだ戦う資格がある」
 言いながら、向けられた手。…思ってもいなかった。まさか彼女に手を差し伸べてもら
えるなんて。慌てて掴まろろうとする少年。だが不意に、襲来した痛み。右の脇腹、そし
て右膝裏だ。しかしながら女教師は至って冷静。早速傷口に手を翳せば、今度は見る間に
瘡蓋に覆われていく。
「…そう言えば、刻印も消えてるのね」
 ハッとなって額に手を当てる少年。
「こ、これは、その…」
「男は言い訳しない」
 途端に頬を膨らませる少年。だが次にすべきことは決まった。視線を重ね合わせる二人。
「『例え、その行く先が』」
「『いばらの道であっても、私は、戦う!』」
 忽ち少年の額に、刻印の輝きが戻る。
 不完全な「刻印」を宿したZi人の少年・ギルガメスは、古代ゾイド人・エステルの
「詠唱」によって力を解放される。「刻印の力」を備えたギルは、魔装竜ブレイカーと限
り無く同調できるようになるのだ!
 さっきまでの泣き顔は何処へやら、颯爽とコクピットに乗り込むギル。エステルも遠く
に置いたビークルへ向かう。
「ギル、ギル、聞こえて?」
 女教師の声は無事再起動した全方位スクリーンの右方からだ。
92魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/02(木) 12:19:05 ID:???
「試合場を、もっと広く活用しなさい。その子は伝説の魔装竜なんだから。さっき貴方が
やろうとしていたことは、その子の実力に合わせてやってみなさい」
「ブレイカーの、実力…」
 カウントは18に達しようとしている。

『さぁシャドーフォックスに続いてジェノブレイカーもリング・イン!
 実に危ないところでした。リング下ではどんな攻防が展開していたのでしょうか』
 グレーベ・スタジアム・スタンド席下の酒場では一斉に歓声と怒号が上がる。一応WZ
B(ワールド・ゾイド・バトル)の実況試合のため、スタジアム内には小型のテレビカメ
ラが幾つも据えられている(流石に地下区画はその限りではないが)。それを通じての観
戦だ。
 一方、この場を立ち去る者もいた。
 旅客車輌を引っ張るグスタフが、出発。行き先はリゼリア。
 まばらな座席の中に、ヒムニーザとスズカの二人もいた。
 形勢の転変を伝える手元のラジオ。お館様…と言い掛けたスズカは、窓際の相方が吐息
も立てずに眠りこけていることに初めて気付いた。電源を落とすと、そっと右手を重ね合
わせる。それが彼女の、決意。

 実況は銃神ブロンコの耳元にも届いていた。正確には、コクピット内でよく聞こえる程
度にボリュームが開放されていたのではあるが。…今、「仕事中」の彼にとって、こうい
うエンターテイメントに脚色されたものが脇でがなり立てられるのは迷惑なことこの上な
いが、同僚の奮闘を無線通信以外で知るにはこの方法しかない。
 視界の外ではゲリラの駆るハンマーロックが一匹、又一匹と沈黙していく。…そして、
最後の一匹。
「馬鹿な! こちらは十匹いたのじゃぞ!? それがものの数分で…」
「仕方があるまい。実力の差があり過ぎる」
 平然と言い放つ銃神。その一言に、憤怒の形相を浮かべたゲリラの老リーダー。透かさ
ずレバーを押し込む。ハンマーロック、決死の飛翔。敵の頭上目掛けての一か八かの突撃
は、しかしながら虚しく空を切った。目標を見失った彼らの真後ろには、既に銃神操る
「テムジン」なるゾイドが回り込んでいたからだ。
 響き渡る銃撃。…丁度、十発目。恐るべきことに、銃神とその下僕は一発も無駄撃ちす
ること無く戦闘に勝利した。
93魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/02(木) 12:22:57 ID:???
 だがこの決着にも何ら表情を変えぬ主従。雄叫びも、勝ち名乗りも上げぬまま、早々に
この場を立ち去る。向かうは同僚の戦場…!

「な、成る程、そういう手があるか…。でも、どこで狙う?」
 全方位スクリーンに、様々な図形が描き出されていく。その度、一々返事する若き主人。
「…うん、うん、わかった。場所は探さないと駄目なんだね。先生、如何ですか?」
「OK、ギル。私は離れて指示を出すから、存分にやってみなさい」
 声と共に、後方で旋回するビークル。
「あ、ありがとうございます! ブレイカー、早速行こう。
 それにしても最下層までの深さ、いつ調べたのさ?」
 主人の質問に対し相棒が映し出したのは、暗い闇の中に一筋写る光のカーテン。無論、
先程主従が酷い目にあった地下区画で見たものだ。
「何だ、この時調べてたのか。そういうところ、君って案外抜け目ないよな…」
 軽く鳴いて相槌する深紅の竜。だがそれもほんの一瞬。この密閉空間の中を、彷徨い、
駆ける深紅の竜。勝利への鍵を見つけ出すために。
(おのれ、急にちょこまかと。策ありと見たが、一体何を考えておる)
 追い掛ける、影狐。訝しむ、破戒僧。ビークルは、はぐれた。ゾイドが仕掛ける策の邪
魔にならぬための措置だろう。だが肝心のジェノブレイカーと来たら、止まっては急に走
り出し、又止まっては…の繰り返し。何かを探しているようにも見えるが、何をと問われ
ると皆目見当も付かない。ならば徹底して追従してやる。なあに、我が相棒ライネケに進
めぬ道無し。それに如何なる策を以てしても「影つむじ」は破れない。
 又、止まった。足元を確かめるように、二度三度、床を蹴っている。これでも喰らえ!
 無数の光弾が影狐の背中から放たれる。又しても避ける深紅の竜・ブレイカーだったが、
ここからが違っていた。銃撃を躱すと、道の向かい側の壁目掛けて跳躍。そのまま壁と壁
との間をジグザグに飛び跳ねつつ、気が付けば天井付近にまで登り詰める。真下にまで迫
ってきたライネケ目掛けて、言い放つギル。
「か、か、影つむじっ、やっ破れたりっ」
(ブ、ブレイカー、こんな感じ?)生きるか死ぬかという場面でハッタリの効いた台詞回
しをするのは相当抵抗がある。
94魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/02(木) 12:24:18 ID:???
(高さ凡そ120メートル、か。何のつもりだ…)だがどちらにしろ、破戒僧自ら手を引
くことはちょっと考えられない。
「ふん、破れたりと抜かしますか。ならばお望み通り、決めてくれましょうぞ!
 機獣殺法『影つむじ』!」
 ライネケ、跳躍。右の壁、左の壁、右、左、右、左。その度、高まりゆく加速。そして。
 ギルの、ブレイカーの視界から、影狐、消失。
 だがそれは、彼ら主従が待ち望んだ瞬間。アクセルを踏む。レバーを引き絞る。…天井
を、強く蹴り込む。
 少年、咆哮。深紅の竜、落下。両の翼は前方に展開しているが、何故か背の鶏冠から蒼
炎を吐き出してはいない。
「引き付けて、体当たりですか? 小賢しい!」
 深紅と紺の、交差。
 宙返りの完成と共に、背中の銃器、起動。標的は、遠ざかっていくあの忌々しい深紅の
竜の背中。大丈夫、たとえ彼奴が地上へ降り立ったとしても、十分射程内だ。
 深紅の竜を、追い掛けていく光の雨。
 グレゴルは確信していた。…ライネケが壁面にへばりつくまでには敵の主従も着地して
いる。即ち、今放った光弾は弱点の集中したジェノブレイカーの背中を捉え、致命傷に至
らせると。
 だが彼の予想は、脆くも崩れ去ったのである。…深紅の竜は着地など、しなかった。
 目を瞑る、少年。軋む、奥歯。音と共に。
 忽ち、ひび割れていくコンクリートの床。勢いの余り破片が天井にまで、舞い上がって
いく。壁面に食らい付いてそれを凌ぐより他ないライネケ。
「ば、ば、馬鹿な、つまり彼奴ら、さっきまで最も脆そうな床を探していたと…!」
 下方を睨み付けたグレゴルの、絶句。ぶち抜かれた床の、底に広がる闇に目を凝らした
時、彼は初めて己が不覚に気が付いた。
 深紅の竜は? 魔装竜ジェノブレイカーは、何処にありや!?
 破戒僧の獲物は、彼らが睨む闇の彼方。
 決戦の部隊からやや離れた位置では、ビークルのモニターを注視する女教師の姿が。
「ギル、残り30メートルで宙返りよ!」
「は、はい! 地下区画の床下まで、あと50…40…30…!」
 ギルの合図と共に、宙返りを始めるブレイカー。
95魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/02(木) 12:26:31 ID:???
「…20…10…!」
 前方に展開していた翼を左右に広げつつ、両足は地面目掛けて伸ばす。
「着、地ぃっ!」
 降り立った深紅の竜。闇の底面に、広がりゆくクレーター状の亀裂はライネケらのいる
天井付近からは伺えないが、不吉な音は彼らの耳元にまですぐに届く。
 と、同時に視認した青白い輝きは爆炎。…爆炎だと!?
「おおおおっ!」
 相手にこちらを見失わせた挙げ句、十分な助走距離を獲得。
 その上地下区画の床を強く踏み込んだ時、背の鶏冠の力をも上乗せ可能。
 ならば時速七百キロを軽く叩き出す深紅の竜にとって、三百メートルに満たぬこの距離
差を縮めるのに必要な時間は僅かに一秒と、半。
 グレーベ・スタジアム全体が、鈍い金属音で揺れ軋んだ。天井に放射状の亀裂が広がる
中、叩き付けられた紺色の狐。渾身の体当たりを決めた深紅の竜に、上半身を両の翼でが
っちりと押さえ込まれている。それでも前足でしきりに振り解こうと試みるが、爆炎を上
乗せされた圧力の前にはびくともしない。…ギルの、一睨み。相手の腹部は、隙だらけだ。
 深紅の竜、そのままの姿勢で左の回し蹴り、一発。渾身の爪先。
 その身をくの字に曲げる、紺色の狐。更にもう一発。もう一発! もう一発っ!!
 影狐は鉄塊のサンドバッグと化したかに見えた。
 しかし、不意の閃光。今度は深紅の竜と、主人がその身をくの字に曲げる番。激痛の正
体は、ライネケの背中のガトリング砲。ブレイカーの押さえ込みで封じられていたそれは、
蹴りの衝撃で拘束が甘くなる隙を突いて、どうにか引っ張り出すことに成功したもの。
「おのれチーム・ギルガメス! 地獄にはうぬら主従で行くが良いさ!」
 若き主人の意識、朦朧。レバーを握る掌の力が失われかけるが。
「馬鹿! 根性見せなさい、ギル!」
「…はっ!? え、エステル先生!」
 たまりかねて決戦の場に向かい、出くわし、そして頭上高くを見上げる女教師。
「貴方がやりたかった『ゾイドバトル』なんでしょう!? こんなところで諦めたら承知
しないわよ!」
96魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/02(木) 12:27:56 ID:???
 途端に醒める、意識。全方位スクリーンを、凝視。ライネケの後方で蠢く、あれが僕ら
の脇腹を…!
 再び、回転する銃身。だが、残る両腕で押さえ付ける深紅の竜。銃身、暴発。若き主人
の両掌も焼けただれるが、それでも、もう力を失うことはない。
 左足の爪先が一発、又一発と叩き込まれていき、そして遂に、自ら解いた翼の拘束は決
め技の合図。
「エックス! ブレイカー!」
 とどめの十字斬り、炸裂。
 深紅の竜、着地。両の翼を広げながら。
 数秒もせぬ内に、今度はその目前にて、叩き付けられた紺色の狐。一度、激しい痙攣を
起こしたかに見えたが数秒の後、動かなくなった。
 斯くして、室内外をサイレンと怒号が包み込む。
「試合終了! 試合終了! チーム・ザ・ビショップ、ゾイドの失神を確認!」
 畏まり、四つん這いになって咆哮、深紅の竜。依然、息乱れたままの若き主人は座席に
もたれ掛かる。やがて自然と浮かんだ笑みは紛れもない、十六才に満たぬ少年のもの。
 目前、そしてモニター上に広がる光景を目にした女教師は深々と溜め息。
 試合は、確かに終了した。誠に殺伐とだが、今も鳴り止まぬサイレンは彼らを祝福して
いるかに見える。いや、サイレンだけが、彼らを祝福していたのだ。きっと例のスタンド
下の酒場では、鉄板の筈がとんだ大番狂わせに投票券を破り捨てる者達で荒れているに違
いない。
 様々な状況の急変を生み出しつつ、試合は…試合自体は、確かに終了したのだ。

「勝った、勝った、勝った、勝った…」
 乱れた息を徐々に、整えていく。…それと共に、忘れかけていた何かを取り戻した気分。
 嗚呼、勝つってこんなにも良い気分になれるんだったっけ。こんなにも…。
 若き主人の晴れ渡った気持ちには、彼を擁する深紅の竜も少々驚いている。…こんなに
爽やかな気分で己が座席に搭乗した者は、正直なところ心当たりがない。それ故に、とに
かく心地よい。だから深紅の竜は…ブレイカーは、首を傾げつつ胸元のコクピットハッチ
を見つめていた。
97魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/02(木) 12:33:30 ID:???
 しかし突如、三分も経ずして醒めた、美酒の酔い。
 深紅の竜が胸元の急変に、女教師がスピーカーから聞こえる嗚咽にハッとなる。
「ごめん、なさい」
「…どうしたの、急に」
「僕が…僕が、本当に欲しかったものは、多分、もう手に入れていたんです。バトルに勝
って、初めて気が付いたよ。
 だから、その…。無理にバトル、お願いしてすみません。皆に、迷惑掛けました」
 半ば呆れた表情を覗かせつつも、エステルは微笑みを返す。それが二人の縁。
「そ、それと…」
「?」
「こ、このお坊さんからは何も、聞かない。聞いたらいけない。聞かないためには…」
『おふざけでないっ!』
 両者に割って入った、絶叫の主は破戒僧。横たわるシャドーフォックス「ライネケ」の
頭部コクピットからどうにか降りた模様。
(どうした、グレゴル。まさか、お主…)
(申し訳ありません、ブロンコ。…よろしくお願いします)
 小声の通信を早々に切ると、身に纏ったローブを脱ぎ捨てる。露になったのはシャツ一
枚のみを纏った鍛え抜かれし上半身。だが、その覚悟は!
 声を失った少年。破戒僧の呪いの言葉に竦む手足。
「ギルガメス君、契約に基づいて、君には少しでも真実を知ってもらうよ」
「い、いや、結構です! せ、先生!?」
「ギル、さっさとこの場を…!」
 慌てて踵を返す深紅の竜だったが。
「そうやって、過去から目を背けるおつもりですか!」
 悲痛な叫びを上げ、深紅の竜は胸元のコクピットを揺さぶる。無理もない、若き主人は
掴んだレバーを引けずにいる。ギルを縛り付ける破戒僧の言葉、まさに手枷足枷のごとく。
「…ギルガメス君、『B計画』の名を、覚えておくが良い」
「びい、けいか…はっ!?」
 いけない、聞き入ってしまおうとする僕がいる。不味い、不味いよ。…だが司祭が言い
放つのは呪いの言葉。
98魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/02(木) 12:34:49 ID:???
「刻印の謎を突き詰めていけば、いずれはこの『B計画』にぶち当たる。『B計画』完全
阻止のために、刻印を操る者は根絶やしにせねばならないのです。無論、君もだ!
 …覚悟しておくが良いさ。水の軍団は君を許しなどしない。必ずや君を倒し、B計画を
阻止することでしょう。精々、覚悟しておきなさい。
 さらばだ、諸君。惑星Ziの、平和のために!」
 室外で響いた破裂音、二発。この場には響かぬものの、しかしその正体自体は、確かに
届いた。…ぶち抜かれた、壁面。一発は、敗れ去った影狐のゾイドコアを。もう一発は、
深紅の竜の背中を。
 後者の惨劇は、辛うじて回避された。…どうにか振り返り、両の翼を前面に展開した深
紅の竜。心苦しいが、敢えて主人の意を破ったのだ。
 しかし前者は、なんとも無惨。ものの見事に影狐のゾイドコアを貫いた銃弾。爆発・炎
上させるに至る。破片による被害は深紅の竜の機転によってどうにか逃れられたものの、
若き主人は声もない。
 破られた壁面の向こう。目を凝らす主従。…真っ白な、四脚のゾイドだ。ここからでは
容貌はわかり辛いが、それでもちょっとした意匠から、大体の正体はわかる。何より、背
負った巨大すぎる二門の銃器。神機狼コマンドウルフにも似た細面の上に無骨なスコープ
が被せられている。紛れもない、人呼んで「王狼」ケーニッヒウルフ。
 チーム・ギルガメスの面々は、敗者を問答無用で処刑したこの白いゾイドが立ち去るの
を呆然と見守るより他なかったのである。それ程までに、疲れ切っていた。

「よもやグレゴルまでもが破れるとはな…。残念だ。実に」
 無線の主は言わずもがな、水の総大将。純白の四足獣・ケーニッヒウルフ「テムジン」
の頭部コクピットから発せられている。だが、主人といえばコクピットの外。荒野のど真
ん中、立ちすくむブロンコとヒムニーザ。その前ではテムジンが従順そうに伏せて無線か
らの声を流しているところだ。
「ヒムニーザ、次は君の番だ。必ずや、チーム・ギルガメスを潰せ」
「無論、『俺ら』はそのつもりでここまで来た。任せてくれ」
「期待している。…惑星Ziの!」
「平和の、ために」
 ここで、途切れた無線。
99魔装竜外伝第四話 ◆.X9.4WzziA :2005/06/02(木) 12:38:53 ID:???
「…ヒムニーザ、敬礼を返すとはどういう風の吹き回しだ」
「なぁに、ここからは本番の仕事だからな」
 言いつつ不敵な笑みを浮かべる。
(まぁ、俺の知ってる惑星Ziなんざ、物凄く範囲が狭いのだがね)
「…しくじった時はどうなるか、グレゴルを見ればわかるな」
「勿論さ。この風王機・ロードゲイルのヒムニーザ、何らの策も無しに戦ったりはしない。
 必ず『チーム・ギルガメス』の弱点を突いてみせるさ」
 イブは安息の時を与えたりはしない。
(了)

【次回予告】

「ギルガメスが出会った戦士は、既に大事なものを手に入れていたのかも知れない。
 気をつけろ、ギル! 敵の秘策は三対三!?
 次回、魔装竜外伝第五話『風斬りの、刃』 ギルガメス、覚悟!」

魔装竜外伝第四話の書き込みレス番号は以下の通りです。
32-35、37-44(第一章) 52-62(第二章) 74-85(第三章) 86-99(第四章)
魔装竜外伝まとめサイトはこちら ttp://masouryu.hp.infoseek.co.jp/
100悪魔の遺伝子 851 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/02(木) 16:19:52 ID:???
と言う事で試合は本格的に再開され、両者互角のまま試合は進んでいたが・・・。
『さあ乱入者もあっさり倒れて再開された試合ですが両者互角のままであります!』
『果たしてそうでしょうかフルタチさん?』
『ハイ?』
『確かに今は互角です。しかし、次第にマリン選手の方が押してきているかのように
思えるのです。』
『そ・・・そうなのですか?』
ヤマモトの予感は的中した。彼の言う通り、カンウがテッコウを次第に押し始めていた。
「これでどうだ!!」
膠着する現状を打破しようと、テッコウがカンウに組みかかった。しかし、
その爪がカンウに直撃する前にカンウの膝蹴りがテッコウの下顎を直撃し、
そのまま上に持ち上げられたのだ。
「な!」
先程の攻撃による衝撃で一瞬意識が飛んだキシンは慌ててカンウの方を向いた。
するとカンウは寸分の隙も見あたらない程の構えを見せていたのだ。
「くそぉ!」
苛立ちを覚えたキシンは慌ててテッコウの腹部の三連衝撃砲を撃ち出した。
しかしそれもカンウは体を前後左右に傾けるだけの動作でかわしていた。
『す!凄いです!!突然カンウの動きが変わりました。これは一体どうした事
でしょうか!?』
『マリン選手が戦いの中でテッコウの動きを見切ったのでは無いでしょうか?あるいは
数週間前から装備している例の重量装備の方に慣れて来たのか・・・。いれにせよ
恐ろしい人ですよ。』
ヤマモトは冷静に解説していたが、その額からは一筋の汗が流れ出ており、
本心では驚いていると思って間違い無いのかもしれない。そうしている間にも
テッコウの攻撃は続いていたが、ことごとく回避されていた。
「くそ!どうしたと言うのだ!ハア!ハア!」
ことごとくかわされる攻撃にキシンは焦り、息も完全に荒くなっていた。
しかし、それとは対象的にマリンの呼吸は一切乱れておらず、むしろ逆に一定のリズムを
整え始めていたのだ。と、その時だ。突如としてマリンがカンウの動きを止めたのだ。
『おおっとぉ!カンウの動きが止まったぞぉ!この後一体何が起こるのかぁ!』
「動きが止まったのならばこちらの物だ!一気に逆転を狙わせてもらうぜぇ!」
101悪魔の遺伝子 852 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/02(木) 16:25:36 ID:???
キシンは笑みを浮かべ、テッコウは全身全霊をその一撃に込めて突撃した。そして
ムラサメブレードで斬りかかる。が、それをカンウは真剣白刃取りで受け止めていた。
「“気”は十分に練る事が出来た・・・。そろそろ勝負をかけさせてもらうよ・・・。」
「は!」
キシンの目は丸くなった。なんとカンウの全身から何かのオーラの様な物が発生し、
そしてそのオーラから発生した光がカンウの右足へ集束されていたのだ。
「はぁぁぁぁぁ!!気功爆砕脚!!」
                 ドォォォォォォン!!
それは一瞬の出来事だった。右足へ“気”を集中させたカンウの蹴りはいともたやすく
テッコウを吹き飛ばし、宙を舞ったテッコウはそのまま数百メートル以上に渡って
吹き飛ぶ程であった。
『ついに決着が付きましたぁぁぁぁ!マリン選手&カンウの勝利です!
おめでとう!おめでとうぅぅぅぅ!』
『良い勝負をありがとうございますありがとうぞざいます!』
その時のフルタチ&ヤマモトの二人はいつにもましてエキサイトしていた。
余程この試合に感動したのか、彼等は目から涙をボロボロ流しながら拍手を延々と
続けていたのだ。が、しかし、そのうるさい程の騒ぎ様は逆にルナリス等のテンションを
下げてしまう結果にもなっていた。

「う・・・。」
カンウの気功爆砕脚によってテッコウが吹っ飛ばされたショックで気を失ったキシンで
あったが、彼が目を覚ますと彼はベットの中に寝そべっていた。
「う、こ、ここは何処だ・・・。」
「良かった〜!やっと気が付いたのですね!」
「ああ!ちなみに貴方のなんとかライガーも無事ですよ。今修理を受けてる最中です。」
キシンが寝ていたベッドの隣にはビルトとミレイナの姿があり、キシンは一瞬驚いたが、
その後で悲しい表情になった。
「お・・・俺は負けたのか。」
「そだよ!勝ったのは私!」
キシンに対しそう言ったのはマリンだった。しかし、その手には茶の入った湯飲みを
乗せたお盆が握られていた。
102悪魔の遺伝子 853 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/02(木) 16:33:42 ID:???
「とにかくこれでも飲んでゆっくり体を休めなさいよ。」
茶を渡すマリンであるが、キシンは下を向いたまま、目のみをマリンの方へ向けて言った。
「何故助けた。お前ならこの俺をテッコウごと即死させる事だって不可能では無いはず。」
「まあそんな事よりも茶飲みなよ!」
「何がそんな事よりもだ!施しは受けん!それに俺は不敵に挑戦して
おきながら負けたのだぞ!そんな敗者の俺が勝者であるお前から何か受け取れる
ワケが無いだろうが!お前も少しは勝者としての自覚を持て!」
と、その時だ。マリンがキシンの頭を小突いたのだ。
「痛!な!何しやがる!」
「あんたも何も分かって無いね!“グローリー・ノーサイド・ゴング”って言葉知ってる?」
「ぐ、ぐろおりい・・・って何?」
マリンの放った言葉にキシンは全くワケが分からないと言った顔で、頭を前後左右に
動かしていたが、マリンは呆れた顔で一息付くと説明を始めた。
「簡単に言うと“試合が終わればノーサイド”って奴よ。試合中どんなに激しく、
かつ相手を殺さんばかりの戦いをしていたとしても、試合終了のゴングが鳴れば
もうそこに怒りも憎しみも無い。そう言う事よ。」
「う・・・。」
マリンの言葉は余りにも説得力があり、キシンは言葉も出なかった。が、マリンは
さらに言ったのだ。
「それにさ、貴方の言った敗者は勝者から施しを受けないと言う論を肯定したとしても、
逆を言えば勝者が施すと言うのならば敗者は大人しく従わなければならないと言う事にも
ならない?」
「・・・。」
キシンはまたも黙り込んだ。そしてマリンの出した茶を仕方なく飲み始めたのだ。
マリンはそれを確認するとその場に座り込み、一度深呼吸をしていた。
「は〜、それにしてもキツイ戦いだったな〜。だってこんな重い物付けて戦え
だもんね〜・・・この体中の重量装備のせいで全然上手く動かなかったし。というか
これ本当に重いのよね〜、もう肩がこっちゃってこっちゃって・・・。」
                   ブバ!!
マリンは疲れた顔で肩を押さえていたが、キシンは突然飲んでいた茶を鼻から
吹き出していたのだ。
103向日葵 第1話 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/02(木) 18:19:53 ID:???
「本当に出場しちまうなんて・・・」
選手控え室で、少年はため息をつく。
自分の身分証明書となるニ枚のカードを見比べて。
「ゾイドバトル・・・ねぇ」

一枚目。それは自分がゾイド整備士の資格を持つ証。
父が修理屋であるため、当然と言えば当然である。
ジョイス・リヴァス。17歳。ゾイド整備士。
残る一枚、それを持つことになった理由を、思い出していた。


休日の昼下がり。街外れの丘の上。
そこが彼のお気に入りの場所だった。
数日前、目の前に、あの少女が姿を現すまでは。
こちらに気付いた刹那。
「タダ見でもしてるの?」
一瞬、頭が真っ白になった。
けれど、すぐに何のことを言っているか察しがついた。
ゾイドバトル。この小さな街でも、祝日には必ずと言っていいほど
それは行われていたから。
「違う違う。って君はまず誰?」
自分と同じくらいの年齢の、目の前の少女に聞いてみた。
彼女は待ってましたと言わんばかりに、愛機を呼んだ。
「この子の右肩を見てから言って欲しいわね」
現れたのは、白き獅子、ライガーゼロ。
その肩には、黄色く大きな花 ―― 向日葵が描かれていた。
この街で最近デビューしたZiファイター。
『闘技場に咲く向日葵』ことリース・ゼファ。
104向日葵 第1話 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/02(木) 18:20:55 ID:???
この時点での問題点は二つ。
まずジョイスは、ゾイドバトルを一度も見たことがなかった。
否。見たいと思ったことが無いのである。
つまりは、彼女を見たことがない。
そして、彼が整備士であったこと。悲劇はここから生まれた。
「う〜ん、強いて言えばズレてる」
彼は言われた通り、彼女のライガーゼロの右肩にコメントした。
一方リースは、自信作でもある自機のエンブレムに文句を言われた
と思い込んでしまい、
「最ッ低!!向日葵って言うのは茎が太陽の方に曲がる花なの!」
怒鳴る。この時になってやっと、ジョイスは話の話題がその絵である
と知った。まだ睨んでくる彼女に対して、
「ごめん、そーじゃなくて、ホラ、そいつの右肩のシャフト」
言い逃れに見えたのだろう、なおもリースは彼を睨み続ける。
それが何なのだ、と早口に尋ねられる。
「俺の家、修理屋だから。着いて来れば説明するよ」
だが彼女は動こうとせず、まだ彼を睨んでいる。
あえて気付かぬふりをした。まずは、目の前にいる患者のために。
「気ぃ悪くした侘びに、金は取らないから」
そう言った瞬間、リースがライガーゼロに乗り込んで。
卑怯な奴だと思われてしまったか、と悔やんだ時。
「ほらほら。どっち?早く早く〜」
声を弾ませている。どうやら、無料という言葉に反応したらしい。
(・・・何なんだよ、この娘は・・・)
だが言ったのは自分なので、いさぎよく案内してやることにした。
105向日葵 第1話 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/02(木) 18:22:12 ID:???
娯楽の少ない街だったから。
休日、ゾイドバトルに街中が熱狂した。
おかげで、道は空いている。
ほどなくして、彼の家 ―― ゾイド修理店へと辿り着いた。
まずはライガーゼロを格納庫の修理スペースへ固定する。
慣れた手つきで右肩のシャフトを外し、新たな物と入れ替えて、
「ほら、これが正しいやつ。まっすぐだろ?」
余分に持ってきていたシャフトを見せる。人間の腕ぐらいの大きさ。
「で、こっちがさっきの右肩に入ってた方」
なるほど、確かに曲がっている。ニ本を並べられると、気付いた。
他の部分も点検しながら、
「最後にバトルしたのはいつ?」
そう聞いた。リースは驚いた様子で答える。
昨日だと。そしてそれがデビュー戦であったとも。

「・・・ゾイドバトルを見たことないって、今時珍しいのね」
実際にそうである。現に、今この修理屋には自分達しかいない。
父も母も、ゾイドバトルを観に行ったのだ。
「悪くはない、って思うんだけど・・・どうも好きになれなくてね。
 ゾイド同士が戦ってるのを見るってのを、さ」
世界のZiファイターを否定するつもりではない。
ただ自分は、そういった戦闘を見て楽しむことができなかった。
リースは黙って、ジョイスの話を聞いていた。
106向日葵 第1話 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/02(木) 18:23:16 ID:???
整備が一通り終わって。
「え・・・っと、今、本当にお金持ってなくて、その・・・」
急に彼女の声が小さくなった。
だが彼は呆気にとられた顔をしてから、微笑んで、
「タダにしとくって言ったのはこっちだから。気にせずに」
別にシャフトの交換なんて大した料金ではないと。
それに、君を怒らせたのは自分なのだから、と言い聞かせた。
「う〜ん、じゃせめてお礼にコレ」
そう言って、手に一枚の紙を握らせて。
ありがとう、と彼女はライガーゼロとともに去った。

どうやらそれは、リースの試合の分のチケットらしい。
ゾイドバトルには興味はなかったが、気になっていた。
彼女がどういう戦い方をするのか。
あのライガーゼロには、右肩のシャフト以外に損傷はなかった。
つまりそれは、相手の攻撃に全く当たらず。
ストライクレーザークローだけで勝負を終わらせた。
そういうことになる。
(明後日か・・・行ってみるかな?)
107向日葵 第1話 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/02(木) 18:25:11 ID:???
闘技場では、一方的な戦いが繰り広げられていた。
ステージ中央で、セイバータイガーが狼狽している。
その周囲を、白い風が ―― ライガーゼロが駆け抜ける。
ステップを踏んでは敵の死角から殴りかかる。
どこにいようとも、機体の正面は相手を向いている。
(なるほど・・・だから『向日葵』なのか)
確かにその動きは、夏の太陽を追う向日葵の花に見えなくもない。
ジョイスは熱心に試合を見ていた。
そして。右腕だけでしか攻撃していない彼女を見て。
(そりゃシャフトも曲がるわな)
今度は苦笑していた。

選手控え室へ向かってあるくジョイス。
彼女に対して礼を言いたかったから。
ドアをノックして。
「はい?どーぞ、お入りください」
中に入る。リースの顔がぱっと明るくなる。
それを見届ける前に。真摯な顔で、
「ありがとう」
と、深く頭を下げた。
そう。先刻の戦いを観て。彼の中のゾイドバトルへの印象が
払拭された。戦う二機が、とても楽しそうだったから。
「もうゾイドバトルに抵抗は無いよね?」
笑顔で聞いてきた彼女に、自分も笑顔で頷く。
そして、唐突に。
「じゃ、出てみない?」
そう尋ねてきた。さきほどの笑顔のままで。
108向日葵 第1話 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/02(木) 18:26:06 ID:???
Ziファイターの資格がない、まず彼はそう言い張った。
だが有無を言わさず、リースに手を引かれている。
「良いじゃない。貴方の店に、コマンドウルフがいたでしょ?」
確かに、倉庫の奥にいたあいつは自分の機体である。
言い合っている内に、彼女は電話のボタンを押していく。
彼女の知人に、ゾイドバトル連盟の上層部の人がいるらしい。
電話でその人とやり取りをして、数秒後。
控え室に備え付けのファックスが、書類を吐いた。
半ば強引にサインをさせられて。
「あとで自分の写真をこの人に送っておいて。
 三日もすれば、届くそうよ。貴方のライセンスカード」
宛先の書かれたメモを渡されたのだった。


今日がその日。二対ニのバトル。
リースは、パートナーがいなくて困っていたところだったとか。
一方の足止めさえしてくれればそれで良い。
「でもなぁ・・・」
自分の機体を見て、呟く。
時間がなかったから、武器はいっさい装備してはいないのだ。
普通のコマンドウルフと違い、背中には大きな箱が積まれている。
(親父の趣味全開なんだよなぁ・・・コレ)
愛機が背負っているそれを見て、ジョイスは悩む。
「ま、やれるとこまでやりますか」
合図が出たことを確認し、ステージへと上る。
109Full metal president 67 ◆5QD88rLPDw :2005/06/03(金) 06:55:11 ID:???
その姿を確認して血相を変えるエロール兄弟。
「「何故この機体がっ!?」」
この兄弟はどうやらこの機体の事を知っているらしい…。
しかも余程嫌な存在らしいと言う事が聞いてとれる。
レディンはそれに気付くと矢継早に攻撃を続行してこの機体の何を嫌がるのかを捜る。
元々この機体は落とし物だ。レディンは2年の歳月を経て機体を受け取っている。
結局誰が捨てたか解らずじまい…だが何か解るのならやってみるしかない。
閃く小降りの鍵爪がカノンプロヴィデンスの右腕を襲う。
その右腕は4連装のロングレンジバスターキャノンともなれば余り効果は無い。
しかしダメージが蓄積すれば…砲撃を封じる事ができるので気にせず引っ掻く。

「…この!何でこの世界に此奴が居るのよっ!!!彼方では量産されて居たけど。
鬱陶しいわね…。」
「”この世界”!?」
カサンドラの言葉がレディンに新たな疑問を湧かせる。
しかし今は一番撃たれ易いであろうロングレンジバスターキャノンを封じる事が先決。
ネオヴェナトルの両腕のビームバルカンが至近距離で炸裂する。
筈だったがエネルギースクリーン塗装の塗膜に阻まれ大した損害は与えていない。

一方カサンドラの方は…大体の事情が飲み込めてきたらしい。
何時までも使用されない量産の決め手となったあの武器。ネオヴェナトルの看板装備。
しかし油断はできない。攻撃をのらりくらりと躱しながら見極める…
このパイロットが同郷の者であるか如何かを。

「しめた!足を坂の傾斜にとられた…!!!」
ネオヴェナトルの口腔に輝きが宿るとこの機体独自の荷電粒子砲が発射される。
過剰帯電荷電粒子砲。一番外側が故意に非常に不安定な状態で発射されるために…
吸いきれなかった大気中の電子と反発作用を起こし周囲数m範囲で放電が起こる。
そして、その放電が稲妻の如き軌道を取るため通称…雷電荷電粒子砲と呼ばれている。
小口径ながら電撃と荷電粒子砲が2属性のダメージを生む強烈な兵器である。
110Full metal president 68 ◆5QD88rLPDw :2005/06/03(金) 07:33:00 ID:???
「やっぱり…アレの存在に気付いていない!だからこんな出来損ないを。」
雷電荷電粒子砲は確かにカノンプロヴィデンスを捉えた…。
しかしそれはカノンプロヴィデンスの中空の胴体の隙間に絡め取られる。
その動きに余裕が見えた事からレディンは相手がこれを警戒している事が予測出来る。
「(だが…足りない!決定的な何かが!)」

中空の胴体に収束されて球体となった雷電荷電粒子砲。
それをカノンプロヴィデンスはネオヴェナトルの足元に撃ち出す。
素早いフットワークでそれを躱すネオヴェナトル。
実際の所これまでの全ての攻防においてエロール姉弟とスプリンターズの戦闘は、
実の所FCSやら格闘戦の間合いでのロックオン等の誘導システムは使用していない。
アンチレーダーミストの効果はとっくに切れている。
だがそんな物の捕捉を待っていられる程悠長な戦闘は行なわれていないと言う事だ。

「…レディンは苦戦してるわね。そう言うこっちも!」
mk−Vはアームレスプロヴィデンスの破滅の膝蹴りを尋常でない動きで避ける。
それを受け止めれる者は多分居ない…物理法則上の話だが。
その膝はマッドサンダーの頭部。それが飛んで来るのだからたまったものではない…。
更にそれを避けたからと言ってまだ問題は解決しない。
その後は足首のガード代わりのデスザウラーの頭部から当然の様に…
大口径荷電粒子砲が情け容赦無く発砲される。
集光パネルで防ぎながらも直撃は当然アウトなので更に回避運動を執る。
即ち、今mk−Vは絶対に相手に攻撃が届く事が無いと言う事になる。
射撃もできるがこのクラス相手では豆鉄砲になるか如何かすらも疑わしい。

轟音。その数4。突然アームレスプロヴィデンスとカノンプロヴィデンスが傾ぐ。
普通の相手に限った場合の安全圏からのウルドの支援砲撃。
「くうぅっ…良い所で邪魔をする!だが!本来の狙いは貴様だ。」
アームレスプロヴィデンスはデスザウラーの首を器用に使いmk−Vを転ばせる。
そしてその後猛然とウルドに向かって突撃する…。
111向日葵 第2話 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/03(金) 18:55:25 ID:???
相手はロードゲイルとスティルアーマー。
共にキメラBLOXという種類だったはず。
「そっちのゴツいのお願い!」
そう言って、リースはライガーゼロと共に駆けた。
ジョイスのコマンドウルフもまた、姿勢を低く構える。
目の前に迫るのは、スティルアーマー。

彼のコマンドウルフは不思議な機体である。
まずはその四肢。どの脚にも、地面に打ち込むアンカーがある。
そして何よりその背。巨大な箱状の物体が乗っている。
火器は無い。数日前まで、彼はZiファイターではなかったから。
そしてその箱こそ、彼の父親が趣味で作ったもの。
製作者曰く、作業用の装備だそうだ。

敵が背のレールキャノンを放った瞬間。
相手の横に付く形で跳躍し、その胴を照準の真ん中に捉える。
四肢のアンカーを地に固定してから。
「行っけぇ!」
背の箱の前面から二つ。左右から一つずつ。
計四本の『何か』が飛翔する。
ミサイルだと思ったのだろう。スティルアーマーは動かない。
厚い装甲に頼り、レールキャノンだけをこちらに向けてくる。
銀色に輝く『何か』が、スティルアーマーの身体に命中する。

「・・・うそぉ・・・」
ふと隣で戦うパートナーを見て。
リースは驚きを隠せなかった。それは敵も同じ。
スティルアーマーに取り付いた『何か』は、ミサイルではない。
全て、ワイヤーでコマンドウルフの背の箱へと繋がる。
112向日葵 第2話 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/03(金) 18:56:10 ID:???
四肢のアンカーを地面に突き刺してから。
巻き取り速度:速。
そのスイッチを入れる。刹那、スティルアーマーが揺らぐ。
だが、力比べではあちらの方が優位であろう。
すぐに体制を立て直し、踏ん張る。
やがて、ワイヤーの張り具合を示すランプが、赤く点灯した。
それを確認し、深呼吸するジョイス。
「絶叫マシーンとか、苦手なんだけど・・・」
一斉に、四本のアンカーを引き抜く。
当然ワイヤーは巻き取りが終わっていない上に、張り詰めている。
つまり ――

コマンドウルフが、飛んできた。
スティルアーマーの操縦者には、そう見えた。
激突。
硬く閉じた瞼を開けたジョイスの前には、横たわる敵の姿がある。
あとはそれを、ワイヤーでずるずると引きずって。
「これで、良いんだよな?」
場外に蹴落とした。

一瞬の沈黙の後。大歓声が巻き起こった。
「・・・何?今の」
リースの方も、ロードゲイルを倒したところだったが、それ以前に
目の前の光景を飲み込めずにいた。
勝利の喜びよりも、驚きの方が大きかったから。
113向日葵 第2話 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/03(金) 18:57:57 ID:???
「ワイヤーで戦う人なんて、初めて見たよ、私」
控え室で、リースが話しかける。
正しくは、ワイヤーで『飛ぶ』人である。
「仕方ないだろ?俺の家は武器屋じゃねーんだしさ」
笑いながら、ジョイスが答える。
軽く先の戦いを振り返って談笑した後。
「次の試合は・・・四日後。まずは・・・
 機体の修理よろしくね。少しくらいなら手伝うけど」
明るい笑顔が、少し怖い。
けれど、不思議と悪い気はしなかった。
もともとゾイドの整備は好きな仕事であったから。

「前から気になってたんだけど・・・アレ何?」
ゾイドを整備しながら少女 ―― リースが尋ねる。
結局、彼女は整備屋の手伝いをさせられている。
働くなら住み込みでも構わない、と。
そう軽く言ってのけるのが、ジョイスの父親であった。
リースの指したアレ、とは倉庫の奥にいるカノントータス。
傍のコマンドウルフと、ほぼ同じ箱を背負っている。
「あー、俺の家に伝わる名ゾイドなんだってさ」
呆れた口調でジョイスは答えて、続けた。
なんでも、昔、まだ戦争が行われていた時代の話らしい。
たった1機で、この街を守り抜いた機獣だそうだ。
今は自分の父親の愛機だ、とそう付け加えた。
「・・・そのパイロットも、貴方みたいな人だったのかも」
こっそり彼女がそう呟いた。
普通ならば不可能な話だが、もしその人が彼の先祖かなにかなら。
やってのけたような、そんな気がしたから。
114向日葵 第3話 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/03(金) 18:58:57 ID:???
今回の相手は、ダークスパイナーとバスターイーグル。
試合開始と同時に、バスターイーグルは上空へ舞い上がった。
空から光の弾丸が雨のように降り注ぐ。
「ちょ、ちょっと、何とかしなさいよ!」
リースは通信でパートナーに怒鳴る。
この状況では、彼女お得意の『向日葵』は咲かずに枯れてしまう。
「あのなぁ!あんなトコまでワイヤーが飛ぶかよ!」
ジョイスも叫び返す。彼のウルフがワイヤーを使うには、まずそ
の四肢を地面に固定しなければならない。
空から狙われている以上、それは不可能であった。

二人が慌てている内に、ダークスパイナーは背びれを立てる。
ジャミングウェーブを放つらしい。
「おっと・・・させるかよ!」
ワイヤーを射出。狙うは背びれの基部。
引っかかったのを確認し、ウルフにそのワイヤーを咥えさせる。
すかさず、スイッチを押す。
エレクトロンバイトファング。それを発動させるための。
115向日葵 第3話 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/03(金) 18:59:34 ID:???
もとは修理店の機体である。高圧電流を取り扱う機材も多い。
だから彼のコマンドウルフには、各部に耐電処理が施されている。
そのため今、感電しているのは相手だけ。
「相変わらず凄いわね・・・
 で、そろそろ止めてくれない?触れないんだけど」
回避運動をしながらの、ライガーゼロからリースの声。
ジョイスがワイヤーを回収するのを確認してから。
ライガーゼロの爪は、ダークスパイナーを仕留めた。

「で、後は上のアレだけど・・・」
そう。彼らには射撃武器が一切無いのである。
倒れている敵の、背びれを見てジョイスは思い出した。
(電波・・・波・・・振動・・・・・・音!)
自分の愛機の背に、それを操る装置が入っていることを。

パラボラアンテナのような物体が、出現した。
同時に、ウルフの口元にマイクも生え出てくる。
「今度は何?歌でも歌うの?」
もう驚きは無い。何が出てきても、何をしようとも。
彼は平気な顔をしているのだから。
「いや、もっとタチ悪ぃぞ、これは。
 よっし・・・吼えろ、ウルフ!」
どこか嬉しそうな咆哮が、場内に響き渡った。
舞い降りる敵弾を必死に避けながら。
背の発信装置を、真上に向け、引き金を引く。
パラボラの原理を利用し、収束された不可視の音が、天に昇る。
116向日葵 第3話 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/03(金) 19:00:14 ID:???

数秒後。気を失ったバスターイーグルが、落ちてきた。

「・・・今度は何したの?」
おそらく場内の全ての人が思っている、それをリースが聞いた。
の問いに簡潔に。かつ理解しやすく。
「ゾイドが不快に感じる音を、大音量で響かせた」
ちなみにこの装備は彼の父親の友人が作ったものだ。
ゾイドの聴覚について研究しているというその人。
周波数の違いから、人間には全く聞こえない音を放つそれ。
営業活動、いわゆる宣伝用と、護身用として父に譲ったもの。
と、彼は手短に説明した。
「周波数いじれば人間にも聞こえるけど・・・聞く?」
耳を壊されるほどの音量で、彼が怒鳴られたのは言うまでもない。

それからと言うもの、星の数ほどのバトルをこなしてきた。
評判になってしまったのだ。彼の戦い方が。
勝つときもあれば、惨敗することも多かった。
117向日葵 第3話 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/03(金) 19:02:27 ID:???
いつの間にか自機に描かれている向日葵を見て。
(悪くはないかな・・・Ziファイターってのも)
そう思っていた。けれど自分は、正規のそれではないのだが。
倉庫の隅に置かれている、ある物体で構成された山。
そこに、リースがいて、笑いながら手を振っている。
「30勝目、達成だよっ!」
ズレている右肩のシャフト。それが30本。
彼女の言う通り、勝利した時『しか』それは集められてはいない。
実際には、もうその倍近くバトルをこなしていたのである。

そして今日も二人は、並んで闘技場へと赴く。
「ま、なるようになるさ。なぁ、ウルフ」
コマンドウルフもまた、嬉しそうに雄叫びを上げた。
少し前を行くライガーゼロも。
「よぉーし、今日も張り切って行くよ!!」
その中にのる、自分のパートナーの少女も。

彼らは正に向日葵である。
勝利という名の太陽だけを見つめて進んでいく。
敗北は、その眼中に無かった。

―― 向日葵   完 ――
118悪魔の遺伝子 854 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/04(土) 09:33:34 ID:???
「きゃぁ!どうしたのよいきなり!」
「ななな、おおお重いぃぃ!?それってただ身を守る為に付けてたんじゃないのかよ!」
「うん。全然違うよ。これについてはかくかくしかじかで・・・。」
「何ぃ!?それは一個何十キロもして、それを常に身に付けた状態での特訓中だとぉ!?」
「うん。」
キシンが唖然とする中、マリンは軽く頷いていた。そして彼女は肩に付けていた
重量プロテクターを外すとキシンに渡したのだ。
「ほら。持ってみなよ。持てば重いってのが分かるから。」
「う、うそだろ。だってお前こんなに軽々と持っているじゃないか。何十キロも
あるなんてハッタリだろ・・・ってうぉぉぉぉぉぉ!!」
キシンの叫び声が部屋中にこだました。重量プロテクターを受け取った直後に
その重量が彼を襲い、そのまま下へ落としてしまったのだ。
「な、何だよこの重さは。冗談じゃねーぞこれは。お前こんな物を身に付けた
状態で俺と戦っていたのか。そしてあの時のバトルロイアルもまさか・・・。」
キシンは青ざめていたが、マリンはキシンが落とした重量プロテクターを拾い上げ、
にこやかな笑みを浮かべながら頷いた。
「うん。多分貴方の考えた通りだよ。もうね、本当にこれが重いのなんのってさ〜。
おかげで肩がこっちゃってもう嫌んなっちゃうのよ〜。」
マリンはきつそうに両手をクルクルと回転させていたが、キシンは唖然と口を開けていた。
と、その直度、彼は突然マリンの前に跪いたのだ。
「きゃあ!!一体どうしたのよ!お腹でも痛くなったの!?」
「負けやした!俺の完敗です!」
「か、完敗ですって・・・。」
突然のキシンの態度の変わり様にマリンは戸惑いを隠せなかった。そしてさらにキシンは
頭を上げて言ったのだ。
「お、俺を弟子にしてくだせぇ!」
「えええええええ!?」
キシンの爆弾発言に今度はマリンの声が部屋中に響き渡った。そして彼女はさらに首を
超高速で左右に振っていたのだ。
119悪魔の遺伝子 855 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/04(土) 09:36:29 ID:???
「ダメダメダメ!だって私だってまだまだ弟子をとれる程歳を取ってるワケじゃないし、
実力だってまだまだだし!」
「そんな事はありませんよ師匠!この俺が見た師匠の戦いは素晴らしいの一言です!
それだけではありません。俺、師匠には実力以外の人柄に関しても思う所があるのです!
是非!是非ともぉぉぉぉ!」
「だから師匠とか言わないでぇぇぇ!」
もはやコントの域に達していたマリンとキシンの掛け合いは異様の一言であり、ビルトと
ミレイナはそろりそろりと部屋から逃げ出していたのは言うまでも無い。と、そうして
いる間にも二人の大騒ぎは続いていたのだ。
「師匠がダメならばせめて姉御と呼ばせてくだせぇ!」
「姉御もダメぇぇぇ!と言うかむしろルナリスちゃんの方が姉御っぽいよ!」
「だからちゃん付けするなぁぁぁぁぁ!」
何と言う事か、別の場所にいたルナリスがマリンの例の言葉に反応し、音速を凌駕する
速度で突っ込んで来ると同時にマリンの頭を殴り付け、そのまま顔面を床へ叩きつけた。
「痛たたたた・・・。と、それはそうとして、ちょっと聞いてよ!」
「何がそれはそうとしてだ!で、何だ?」
マリンはキシンが勝手に彼女を師と仰ぎたいと言った事を話した。
「別に良いんじゃねーのか?というか私としてはどうでも良い事だな。」
「そ、そんな事言わないでよ・・・。少しはフォローしてよ〜。」
「まあその生まれて初めて出来た弟子を精々面倒見てやれよ!」
「だーかーらー!」
何故かこの時ばかりはルナリスも無情に帰ってしまうだけであり、マリンはそのまま
失意のどん底に叩き落とされていた。

そしてその夜、父マイルに助けを求めたマリンであったが・・・
「別に良いんじゃねーのか?コイツはお前の弟子になりたいんだろ?だったら俺が口を
出す事じゃないだろうが!それにコイツのなんとかライガーも悪くないと思うぞ。
コマンドウルフ以上の探知能力持ってるんだろ?ならコイツの探知性能は
オラップ島大会でも役に立つはずだ。」
「そんな〜・・・酷いよパパーン!」
「こらぁ!飯食ってる時に抱き付いてくるな!」
120悪魔の遺伝子 856 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/04(土) 09:42:46 ID:???
マリンは泣きながらマイルに抱き付くが、流石にこの件に関してはマイルも
相手にしてくれなかった。

そうして結局キシンはマリンの弟子と言う名義でバイス家に住み込みで働きながら
お世話になる事になるのであったが、勝手にキシンの師とされたマリンはため息が
尽きなかった。
「お、俺も、師匠見たいにこれで体を鍛えて・・・ってクソ重ぃぃぃ!」
「だから師匠はやめてって言ってるでしょ・・・。」
マリンとルナリスにあやかり、キシンも重量装備を借りての特訓を行っていたが、
ゾイドの操縦技術、身体能力共に高いと言っても、まだまだ常識範囲内のレベルである為、
二人が身に付けている物の半分以下の重量のそれですらまともに立ち上がる事が出来ず、
四苦八苦しており、マリンの方も相変わらず師匠呼ばわりするキシンに溜息を付いていた。
「漢キシン=ガンロン21歳・・・来るべきオラップ島バトルグランプリで、師匠の
お役に立てるように頑張ります・・・。」
「だから師匠はやめてって。」
「じゃあ姉御と呼ばせていただきます・・・。」
「姉御もやめて、というか貴方の方が私より6歳年上なのに。」
「じゃあ姐さんてのはどうです?」
「は〜、もう好きにして・・・。」
マリンはやはりため息が耐えなかったが、キシンと言う新たな仲間を加えた
チーム“ふたりはゾイキュア+α”のオラップ島バトルグランプリへ向けての
準備は着々と行われていた。
121Innocent World2 円卓の騎士:2005/06/04(土) 17:40:35 ID:???
「……約束の時間だ。師匠からの連絡は、」
「ない」
 リニアは出撃の前に言った。『日が沈みはじめるまでに私が戻らないようなら、一度刑
務所まで来てくれ』と。
 約束の時間。夕日は紅く、黒雲を通して世界を染める。
 エルフリーデはもう眠ってしまった。わざわざ起こすのも酷だろう。ここしばらく、平
凡な少女である彼女にはあまりにも非日常的なことをやっている。
「よっし……エメットはここに残ってくれ。ワンさん、一緒に来てくれるか?」
 最年長のワンには『さん』をつけているが、エメットが自分より少し年上であることは
全く無視して名前で呼ぶ。そんなオリバーだが、エメットは好感を持っている。
「……うん。君も気をつけて」
「では、行くとしようかな」
 修理を終えた愛機、ライガーゼロイクス。オリバーはそのコックピットに飛び込み、ハ
ッチ上面を軽く撫でる。
 一足先に、ワンのサイクスが格納庫を飛び出した。
 と、その時。
「……!? あの光……それに、この音は?」
「どうやら、大型ゾイド同士が強力な武器でドンパチやっとるらしいのう。恐らく一機は
嬢ちゃんのフューラー、もう一機はこの距離じゃ解らん」
 オリバーは衝動に突き動かされるように、その光の方向へと操縦桿を傾けていた。恐ら
くそんなことをせずとも、イクスはそちらへ向かっていたであろう。
 まるで、何かに引き寄せられるかのごとく。

 アーサーの機体が飛んだ。雨を弾き、剣をリニアに向けたままでの軽やかな跳躍。およ
そ鈍重と呼ばれるデスザウラーの動きではない。
 騎士の機体は、内部機関からして通常機とは桁違いのチューンアップが施されている。
「どうくる……ヤツの“剣”の能力は!?」
 これまでに数度、オリバーと出会う前からリニアは騎士と戦ったことがある。しかし騎
士の長たるアーサーと対峙するのは、これが初めてだ。
 そして振り下ろされる一撃目。ビームブレードを交差させ、その刃を受ける。干渉され
たビームが激しい光を放ち、両者がはじけ飛ぶように離れる。
122Innocent World2 円卓の騎士:2005/06/04(土) 17:45:11 ID:???
 アーサーの動きには全く無駄がない。しかしリニアが考えていたのは、その動きさえも
ある人物に似ていることだった。
 勿論、そんなことはありえない。何故なら……。
「――さあ、私はラインハルトと違って手加減されるような腕ではないぞ!」
「あんだとォ!? この俺が手加減されてたってのか、アーサー!」
 怒鳴るラインハルトに答えたのは、リニア自身。
「……お前の剣がどんな能力か、見極める必要があった。だから反能力を使わなかった。
能力はかなり良いものだが、ゾイド乗りとしての腕はジークフリートの方が上だったな」
 そう。ラインハルトは完璧に『反能力』について失念していたのだ。
「ぐ……(確かに、コイツと剣無しでやったら負けるぜ……)」
 アーサーが“剣”の力を発動しないのも、無駄に手の内を明かさぬためだ。どうせ能力
を出してもすぐに封じられてしまうのでは、意味がない。
 ――こいつは、馬鹿じゃない。
 大破壊の後、戦術というものが失われがちだった戦いにおいて、性能による力押しが有
効な戦い方であった。有効というよりは、『それで充分』という程度のものだが…。
 しかしリニアがいま対峙している敵は、自己の力をひけらかすことをしない。できるだ
け手の内を明かさない戦い方をしつつ、そこに隙が生じない。
 その戦い方もまた、“彼”に似ている。
 『切り札は最後まで取っておくもの』……彼は、よくそう言った。
 声も戦い方も、まるで“彼”そのものである。しかし、それはあり得ないことだ。

 何故なら、彼は――――彼女の兄と共に、この世を去ったのだから。

 自分自身に、何かの間違いだと言い聞かせる。そう、声色の似たような人間など、珍し
くはない。騎士が『人間』と定義できるかは別としても、ただの偶然だ。
 だがアーサーが発した一言が、彼女の思考を砕いた。
「……帽子はまだ……持っているか……?」
 リニアの中で、時が止まった。その脳裏に、ありありと2年前の光景が浮かんでくる。
 ――全てを飲み込んだ光。涙でかすんだ視界の中、ふわりと空から舞い落ちてきたもの
は羽のように軽く、彼女の指し伸ばした腕の中に納まる。
123Innocent World2 円卓の騎士:2005/06/04(土) 17:48:04 ID:???

 それは少し焦げて黒ずんだ、古ぼけた帽子。

「あ……そん、な…………」
 いつの間にか彼女の瞳からは、あの日と同じように涙が溢れ出している。
 彼女がゾイドの扱い方を学んだ男。既にこの世にない、最愛の人。
 ぼやけたモニターの中、アーサーが自らの顔を晒す。
「……うそ……」
 ――その顔は間違えようもなく、“マエストロ”ルガールのものだった。


「――見つけた! 騎士が二人……一人は、アーサーか!」
 機体にトラブルでもあったのか、リニアは動かない。その機体に一歩ずつ迫るアーサー
は、横手からのエレクトロンドライバーを刀身で弾いた。
「てめえッ! 今日こそはこの間のリベンジマッチをさせてもらうぜ!」
「ほう……ハートネットか。貴様の友達はいま、収容所の凶悪犯を逃がしている所だ」
「な……!?」
 やり取りの最中にもレーザークローが閃き、アーサーの機体は上半身だけを右に逸らし
て一撃をかわす。クローの熱で蒸発した雨が白い煙となり、派手に尾を引いて伸びる。
「何が目的だ! マキシミンを使って、何を……」
「貴様らとてそれくらいは解っているはずだ。そうだろう――リニア」
 リニアの肩が揺れる。操縦者の激しい動揺を感じ取ったのか、シャドーエッジもただ周
囲の敵を警戒するだけで、動こうとはしない。
「……師匠? コイツは、一体……」
「え? そ……そいつらは…………言っただろう。能力者を貶めるための罠だ。お前の友
達が騎士の仲間だと知っているのは私たちだけ、民衆には『能力者が無差別に殺戮を行い、
凶悪犯を逃がしている』という事実しか届かな……」
「そういうことを聞いてるんじゃあねえッ! コイツを――アーサーを知ってるのか!?」
 びくん、と、またリニアの肩が震える。代わって答えるのは当のアーサー。
「ああ、彼女は知っているよ! 誰よりもよく知っている……いや、私という存在を知ら
なかったか。しかし彼女は、ルガールという男が最も深く心の中に立ち入らせた人物だ」
124Innocent World2 円卓の騎士:2005/06/04(土) 17:55:41 ID:???
「やめろ! 彼は……ルガールは死んだ! 私の兄、セディール=レインフォードと共に!」
 全く話の中に入っていけないオリバー。その彼を、ふいに強い衝撃が襲う。機体の状態
を確認すると、右側の装甲が吹き飛ばされていた。
「やっとてめーとタイマン張れるってか! 俺の名はラインハルト――円卓の騎士が一翼!」
「なにを! 邪魔するな、俺はあの野郎を……!」
「てめーじゃ無理だな! いや……“能力者がアーサーに勝つことはできねえ”!」
 レーヴァテインから手持ち花火のようにビームが放たれ、オリバーは即座に能力を発動
するとその斉射をかわした。が、右の装甲がないため空力的バランスが悪い。
 ならば、と左の装甲もパージする。それを見てとったラインハルトは、口笛を吹いた。
「……いいね! 思い切りのいいヤツは好きだぜ、オリバー=ハートネット!」

 必死に目の前の敵を拒絶するリニア。本心では自分がルガールを見間違うことなどあり
えないと解っていても、それを認めてしまったら自分は戦えない。
 しかしアーサーは執拗に彼女に問う。落ち着いて、どこか面白がっているような口調で
――ルガールそのものの口調で。
「本当にそうか、リニア? 君が見たのは光の中に消えるマッドサンダーとデス・メテオ
……それだけだろう。――もっとも、君の言うことも間違ってはいない。私は…」
 アーサーが“エックス・キャリヴァー”を天に掲げる。

「……私は君の知るルガールではなく、円卓の騎士を統べる『王』……アーサーだ」

 一瞬という時間の経過すらなかった。少なくとも、リニアにはそう見えた。
 だがその『一瞬ですらない時間』の間に、シャドーエッジはバックパックを破壊されて
崩れ落ちていた。
 武装とスラスターの集中したバックパックがないのでは、戦闘力は無きに等しい。
「な……何を……したん、だ」
「安心したまえ、致命傷は与えていない。君にはまだ、真実を知る権利がある。 しかし
“彼”の方は……運次第だ」
 アーサーは飛び回る白い機体を目で追った。
「今のままではラインハルトには勝てまい。しかし、私の予測が正しければ……彼は勝つ。
もっともそうなったら、君にとっては彼が死ぬよりも辛い事になるだろうがな……」
125戦場の十字架 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/04(土) 23:35:47 ID:???
「・・・これで何度目でしょうか・・・そろそろ諦めてほしいものです」
帝国軍の通信を傍受していた男が、軽く笑った。
どうやら五日後、この街は襲撃されるらしい。

街のほぼ中央に位置する、大きな教会。
向かってくるトレーラーを見て、牧師はため息をついた。
荷台に積まれて運ばれてくる、被害者。
戦闘で致命傷を負った機体を乗り捨てて行く兵士も多い。
せめて最後くらいは戦争の恐怖を忘れさせてやってほしいと、
街の人がこの教会へと来るのは、さして珍しくはなかった。
胴に穴の開いたイグアンを見て、牧師は頷いた。
「わかりました。後は任せてください」
もう長くはないと見た牧師は、その機体の傍に腰掛ける。

「疲れたでしょう。ゆっくりと休みなさい」
イグアンの魂が天に召されたことを見届け、祭壇の前で祈りを捧げる。
その魂の無事を祈っている、そうシスター達には見受けられた。
だが実際はそうではない。彼は自身について考えていた。
―― 許してくれ、などとは言えませんね。
   あの機体を撃ったのは、私自身なのですから。

牧師になる前。彼は共和国軍のゾイド整備兵であった。
戦争が激化するにつれ、彼の仕事は整備や修理ではなくなった。
致命傷を負った機体から使える部品を外し、残りを『処理』する。
ゾイドを助けたいと願っていた彼には苦痛でしかなかった。
除隊して愛機と共に途方に暮れていた時に、ふと足が止まった。
教会。気付けば彼は、中に入り、悩みを打ち明けていた。
心を救ってくれた牧師。自分も人を救いたい。そう思った。
126戦場の十字架 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/04(土) 23:36:15 ID:???
程なくしてその牧師は病でこの世を去り、彼はその職を継いだ。
そして先日。あのイグアンが運ばれてくる前夜。
街は最初の帝国軍の襲撃を受けていた。あの機体もその中にいた。
もっとも、さして行動を起す前に全滅させられたのだが。

「人生と言うものは、何が幸いするか予測できませんね」
教会の地下。緑色の愛機、カノントータスに向かって牧師が囁く。
整備兵であったため、パーツさえあれば彼は愛機を整備できた。
部品の源は、運ばれてきた廃棄寸前の帝国のゾイド達。
残された通信機を利用して、帝国軍の状況を知った。
強力な武器や弾薬、さらには光学迷彩までも手に入れた。
だから彼は、たった一人でこの街を守り抜くことができたのだ。

敵は傍受した通信の内容通り。既に数を減らし、動揺している。
混乱している相手の通信を拾うと、思わず口元が緩んだ。
共和国部隊がゲリラ戦法を取っている。
街のどこかに砲台がある。
レジスタンスが潜んでいる。
「どれも間違っては・・・いませんね。一応は」
気付けば、彼のカノントータス以外のゾイドの反応は消えていた。
当然である。光学迷彩により、敵には自分達が見えないのだから。

その翌日。予想通り、瀕死のゾイドが多数運ばれてきた。
1体ずつ丁寧に弔う。それが彼にできる唯一の償いだったから。
聖職者が生命を絶つ。許されぬことだと、解ってはいる。
けれど、自分に生きる希望を与えてくれたこの街を救いたかった。
彼に出来る方法はこんなものしかないのだ。

「今夜は第三波まで来るそうです。気を引き締めましょう」
ただ独り、彼は大きな十字架を背負い続ける。
戦友でもあるカノントータスと共に。
127Full metal president 69 ◆5QD88rLPDw :2005/06/05(日) 05:31:02 ID:???
「しまった!?ひぃっ!!!」
転倒したmk−Vにカノンプロヴィデンスの背より中空の胴体を貫く巨砲の砲撃。
中折れ式でもないそれを胴体を通して撃つと言う奇妙な絵。
しかしぱっと見でも500mm以上の弾頭を飛ばしている。
不本意だが坂と言う地の利を生かし素早く転がり直撃を避けるmk−V。
だが…その一撃の強大さ故に錐揉み回転で宙を舞う羽目になる。
「ひいいいいいい〜〜〜ん…でも!この距離なら!レディン!受け取って!!!」
その声と共に背に隠して有ったネオヴェナトルと同じ配色の何かを投げる…。

「了解!ボス!」
メリージェからの支援物資をレディンのネオヴェナトルが受け取り素早く背に接続する。
それは接続を確認すると一気に展開。
何も無かった背と言うより明らかに欠損した部位に昆虫型ゾイドを思わせる透明な羽3対。
そして…
「抜けば霊散る氷の刃!氷室乃太刀風…参ります。」
ブースターユニットを兼ねているにも係わらずそのエッチングブレード装甲は冷気を放つ。
それと共に吹き上るブースターの温度は…ー120℃。
「冷却パルスブースター!?机上の空論の筈では…。」
恐れているものでは無いがこれはこれで肝を潰すアクシデントだ。

6つの羽と2本のコールドメタルブレードを左右に付けネオヴェナトルが突撃する。
この近距離…外す事は無いし外れる事も無い。
これまでの戦闘を見る限りレディンの操縦傾向は格闘特化の奇襲タイプ。
その上至近での極点火力なら長距離砲撃用のカノンプロヴィデンスより勝る。
無傷で済ます所が最悪墜ちる場面へと移り変わっていた。
しかし止めの一撃は何時まで経っても喰らう事が無い…。
「そう…彼方が止められたのね。」
カサンドラの目が遠くを視る…
その先にはアームレスプロヴィデンスの肩のギガの頭部がウルドの首を掴み締め上げる。
完全に詰みの状態となっている。
128Full metal president 70 ◆5QD88rLPDw :2005/06/05(日) 06:06:54 ID:???
「ゲームセットだ。だがこれでは面白くないな…そう言う事で!」
サーレントの右腕が輝くとそれに呼応するj様にウルドを掴む大顎に光が宿る。
「プロジェクトノルン…ここに完遂する。」
アームレスプロヴィデンスはウルドよりシステムのデータをハッキング。
その後自らにそれを封印してその能力…入れ替え直しを発動する。
封術士サーレント。対術戦闘に特化した封術のエキスパートにして模倣術士。
自らに封じた力を自由に行使する最悪の魔術師の1人である。

その効果は…カノンプロヴィデンスとアームレスプロヴィデンスとウルドに使用された。
その立ち位置を入れ替えカノンプロヴィデンスは砲撃に最も効率の良い位置に陣取る。
今レディンの目の前にはウルドの巨体が間近に迫っている状態だ。
直ぐさまウルドの救出に飛ぶネオヴェナトル。
それを見透かした様にウルドの首を締め上げているギガの大顎を外し避ける神帝。
「馬鹿な奴だ。ここで大人しくこれの墜ちるのを目に逃げれば助かったものを…。」
サーレントは肩透かしと言わんばかりにレディンの行動を指摘する。
「馬鹿な事?それはあんたの方だろう…。
家族を置いて逃げる程貴様達みたいに賢くはない!だが!馬鹿だからできる事も有る!」
このやりとりの間に偶然気付いた可能性…それにレディンは賭ける事にした。
「土壇場でそれに気付くだとっ!?」

ネオヴェナトルの口腔から伸びる光の刃。
極端に不安定な外周部のベクトルを反転させた為に発生した荷電粒子の大太刀。
荷電粒子ブレード…その刃は神帝の左足を捉え膝より下を切り落とす。
更に脱落した部位を荷電粒子で吹き飛ばし処理する。これがネオヴェナトルの真の力。
誰もが扱える訳では無い呪装ゾイドに変わる新型機として量産された由縁。
ここでは誰も知る事ない近くて遠い合わせ鏡の裏やページの裏の世界の事象。
「でも…これで終わりね。」
カノンプロヴィデンスより物理的に対処不能の弾幕が彼等に降り注ぐ…。

ー Zi-ファイター 終 ー
129悪魔の遺伝子 857 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/05(日) 09:31:16 ID:???
第20章:オラップ島バトルグランプリ開幕編

「本当に良いの?」
「ああ・・・。これからオラップ島へ向かうんだからもうそれは要らないだろう?」
ついにマイルから重量装備を脱ぐ事を許されたマリンとルナリスは早速重量装備を
外したワケだが、その直後、二人は余りの自らの軽さに驚いていた。
「え・・・あれ?」
「どうしました?」
その様子を見守っていたビルト、ミレイナ、キシンの三人は一瞬戸惑った。が・・・
「いや・・・別にどうしたと言う事は無いんだけど・・・ねえ。」
「ああ・・・、あんまり軽いんで自分がいなくなったのかと思ってしまったよ私は。」
「ハッハッハッハッハッ!そりゃそうだろうよ!お前達二人はこの重い重量装備に
耐えて来たんだ。それだけ筋力が強化されたって事だ。しかしただ単純に力が
強くなっただけでは無いぞ!あれだけの重量のあった装備に耐えて来た全身の骨格も、
同時に強靭になっているのだ!」
皆はマイルの方を見つめると、彼は笑っていた。
「お前達はまだ完璧とは言い難いが、それでもこれから臨むオラップ島大会の事を
考えるならば今の所は俺に教える物は無い!今までの特訓で鍛えた成果を十分に
発揮し、思い切り暴れて来い!」
「ハイ!」
皆は一斉にそう叫び、オラップ島大会へ行く準備に取り掛かり、その準備が終わると
共に素早く一路目的地へ向けて出発するのだった。

「うわ〜!軽い軽いぃ!」
「おいおいあんまりはしゃぐなよ!ガキだと思われるぞ!」
「良いですも〜ん!ガキですから〜!それにルナリスちゃんだって嬉しいんでしょ〜?」
「ちゃん付けすんな!」
130悪魔の遺伝子 858 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/05(日) 09:32:48 ID:???
マリンとルナリスは100キロ以上もあった重量装備から解放された事が相当嬉しかった
のか、思わずピョンピョン跳ね回っていた。しかもそれは彼女等自身の身体能力を
強化するだけで無く、ゾイドとの精神リンクにも強く影響し、カンウとハーデスの
機動力運動性能を大幅に高める結果にも繋がっていたのだ。こうして二機は巨大ゾイド
とは思えぬスピードと軽やかな動きで歩を進めていたが、その後を追うジャクシンガル・
キルベリアン・テッコウの3機は大変な思いをしていた。
「姐さ〜ん!ルナリスさ〜ん!」
「待って下さいよ〜!」

こうしてマリン等は目的地へ向けてなおも広大な荒野を進んでいたが、やはり彼女等と
同じ目的を持って行動をしていたのか、彼女等の進む方向とほぼ同じ方角へ進む
ゾイド集団やホバーカーゴ、ホエールキング等の輸送ゾイドを数多く見掛けていた。
「ほほ〜・・・流石に大会が近いとなると色々な連中が向かっていると思われるな〜。」
「そりゃそうですよ。あれだけの規模の大会になりますともう出場選手だけの話では
無くなりますからね。観客や報道関係の人や商人等、選手以外にも様々は人が向かって
いると思いますよ。」
「おおおお!何かそう聞くと興奮して来たぜぇぇぇぇ!」
「あああ!キシンさん落ち着いて落ち着いて!」

大会に出場する前から燃えていたり色々あったりしたが、マリン等がまず最初に
向かったのはオラップ島では無く、出発地点からもっとも近くにある空港だった。
ここでホエールキングに乗り込み、オラップ島大会の控え室とも言える商業都市
“ポルト”まで行こうと言うのである。無論彼女等と考えを同じくする者は大勢いた
様子で、そのホエールキングには様々なZiファイターの姿を見かけ、ゾイド格納庫
にも様々な種類のゾイドが並べられていた。
「うわ〜・・・色々イカツイのがいるいる〜。」
「あんなに殺気立っちゃって〜。」
空港で手続きを済ませた後、ホエールキングにそれぞれのゾイドを格納したマリン等は
目的地であるポルトに到着するまでゆっくりしようと言う事になり、暇つぶしも兼ねて
ホエールキング内部を歩き回っていたが、大会前で緊張しているのか、あちこちに
凄い剣幕のZiファイターがウロウロしており、見ているマリン等まで気疲れして
くる程だった。
131Full metal president 71 ◆5QD88rLPDw :2005/06/06(月) 03:58:39 ID:???
「帰ってもらいましょう。此方には貴方達に協力する気は全く有りません。」
取り付くしまも無く相手が用件を言う前に断る男。
「なんだと!俺達が…共和国軍と知ってってぇえええ!?わっ悪かった!
頼むからその物騒な物を締まってくれええええええ!!!巻き添えは御免だあああ!!!」
途中から何かを止めてくれとせがむ共和国の使者。
その目の前には老人が手持ちサイズのギガフォトン爆弾をお手玉していたと言う。

ー 舞い降りたるはXの獅子 ー

ここは総合教導宇宙開発局と言う場所。
ヘリックシティ南東の共和国のゴミ溜めと呼ばれているジャンクヤードストリート。
その一角にそびえ立つ失敗して途中で折れた軌道エレベーター跡の中である。
夢の跡にまたこんな施設を作って研究に勤しんでいる輩。
砕けた希望の亡霊のように残る跡にはそれでも尚諦めぬ闘志が充ちていた。
「総帥…趣味が悪いっすよ!さっさとそれをしまって下さい!
この人精神崩壊しちゃいますよ?」
受付の女性局員に指摘され老人は渋々それを懐にしまう…。
だがそれでは根本的な問題は解決されていない。
「全く近頃のネゴシエーターは度胸が足りませんね10点です。当然100点満点で。」
総帥と呼ばれた男はゴホゴホ咳をしながら向き直る。
彼の偽名はファイン=アセンブレイス。
老後の今更になってやりたい事ができて惑星中を飛び回っている傭兵にして…
この組織を立ち上げた当人。昨日の夜半から上半身裸で床で寝ていた男。
目下の彼の目的は…外宇宙への探索や移民船用の超々巨大ゾイドの開発である。

「それに今の所…ZOITECと新鋭のZi-ARMSの2社にアレは貸出中です。
戻ってくる目途が立っていないので何方にしろ無理ですよ…さあ!お帰りください。」
アレとは…衛星軌道上に存在する月の欠片の回収用のエンディミオン。
クラゲ型の巨大人工衛星ゾイドの事である。
触手を作業用オペレートアームやカタパルトとして使用可能な汎用作業衛星だ。
132Full metal president 72 ◆5QD88rLPDw :2005/06/06(月) 05:45:02 ID:???
「おい!正気か?これからあいつに乗って地上に降りるって!?
燃え尽きちまうぞ…って言っても無駄か。なら思い切って死んで来い!
生き残っていたら後で飯でもおごってやるよ…。」
カタパルトにセットされた機体に乗り込もうとしている男に彼より年配の男が言う。
「いや…材料費だけで良い。食事は無理を許してくれた貴方に私が作らせてもらう。
楽しみにしてくれ。」
彼の乗る機体は…エナジーライガーXW(クロスウィング)。
長年の研究の末ついに完成されたエナジーライガーの最終形態と呼べる者。
エナジーチャージャーの調整に成功し使用方法を限定した事で高い安定性を持つ。
「エッガ!ランツェン!私が先陣をとる!予定通り2人は…
ゼロファルコンで後を付いて来い!シールドは確り貼れよ。」

カタパルトが地上に向けて略垂直に成る位置を見計らう…。
彼の機体には再突入専用のタキオンEシールド発生機が外付けで装備され、
尾にキャノンとガトリング砲を付けている。
「3…2…1…XW!エルリッヒ=ローゼンベルガー突入する!」
タキオンEシールドを最大出力で展開してXWは故郷に突入する。
続いて間を置かずエッガとランツェンのライガーゼロファルコンも後を追う。
2体の獅子は今流星となって空を駆け降り始めた…。

ー 同時刻 とある山中 ー

確実に迫る最後の時。
mk−Vやネオヴェナトル…ウルドに洞窟の中より2機のカンガルーダ。
全機が総力を持って降り注ぐ砲撃を相殺せんと奮戦する…
だがたった1機とは言えカノンプロヴィデンスの砲撃の雨の弾幕は非常識な程厚い。
何とかウルドの入れ替え直しを駆使して着弾を遅らせたりもする。
しかし確実に逃げ場は失われつつある。
ネオヴェナトルの雷電荷電粒子砲ですら全てを支える事はできずに、
遂に一箇所に固まる状態となって弾切れに陥ってしまう…。
133悪魔の遺伝子 859 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/07(火) 13:26:27 ID:???
「あ〜あ〜・・・。何かこっちまで疲れて来ちゃったよ〜。もう360度あらゆる
方向から殺気が飛んできてもうキツイの何のっても〜。」
「確かにな〜・・・。いくらこれから大会だって言っても緊張しすぎだっつ〜の!」
殺気立っていたZiファイター達をマリン等はそう愚痴りながらのんきな顔で見つめて
いたが、他のZiファイター達にとっては大会前でありながらのんきでいられる
マリン等の方が異端であり、あんなにのんきにしていられるのはどうかしていると
感じられていたのだ。それ故に痺れを切らせたあるZiファイターチームがマリン等へ
渇を入れるつもりで彼女等の方へ近づいていったのだった。
「ようお嬢さん達・・・。もしかしてあんた等もオラップ島バトルグランプリに出るのか?」
「あら奇遇ですね。貴方達もそうなんですか?」
「質問を質問で返すんじゃねーよ・・・。全くこれだから最近の若い奴は・・・。」
そのZiファイターチーム中のベテランっぽい人がやや愚痴を零していたが、その中
でも最も若い男(それでも二十代後半は行っていると思われるが・・・。)がやや不敵な
笑みを浮かべつつ睨み付けた。
「行っておくがあの大会は子供の遊びじゃねーんだぞ。お前等の様な人生甘く見てる様な
のんきな奴が生き残れると思ったら大間違いだぞ〜・・・。」
「ハッハッハッハッハッハッ!!」
Ziファイター達は大笑いを始めてしまった。それに怒ったのか、キシンは思わず彼等に
殴り掛かろうとしていたが、それをマリンが彼の手を引っ張って止めた。
「やめなさいキシンさん。」
「姐さん・・・。」
マリンはキシンを後ろに下げると、自身が前に立ったのだった。するとそれに気付いた
Ziファイターの数人が彼女をあざ笑うかのごとく見下ろした。
「何だ〜?俺達に文句でもあるのか〜?」
「それとも怒ってるか〜?でもお嬢ちゃんみたいなのが怒ってもちっとも怖くねぇ・・・・。」
Ziファイター達の笑い声はそこまでだった。一瞬のうちにマリンがZiファイターの
一人の両腕を掴み、後ろに回して締めると共に羽交い絞めにしていたのだ。
「は!!」
「い、いつの間に・・・。」
Ziファイター達は唖然とした。そしてマリンは笑みを浮かべつつ、己が締め上げている
Ziファイターの耳元で囁いたのだった。
134悪魔の遺伝子 860 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/07(火) 13:28:14 ID:???
「貴方・・・生きるか死ぬかの戦いってした事ある?」
「・・・。」
Ziファイター達は声も出なかった。そしてマリンがゆっくりと彼を離すと、彼等は
何も言わずにそそくさと逃げ帰ってしまった。
「あ〜あ〜・・・。意外とだらしない人達・・・。」
「もうこの際完全に締めていてもよかったんじゃねーのか?」
マリン等は拍子抜けした顔をしていたが、先程のやりとりを見ていたのか、その周囲に
いた他のZiファイターチームもそそくさと逃げ出していたりする。
「(何だあいつ等は!)」
「(おっかねぇ!)」
「(あんま関わらねぇ方がいいぞ!)」

それから約数時間の間、マリン等はホエールキング内部の施設を利用して暇を
潰していたりしたのだが、そんな時に船内アナウンスが響き渡っていた。
『これよりあと約10分で目的地のポルトへ到着となります。繰り返します。これより
あと約10分で目的地のポルトへ到着となります。』
「あと10分か〜。」
そのアナウンスを聞いたマリン等は何と無く窓から外を覗き込んだ。するとホエール
キングの進行方向に、やや雲に隠れてうっすらとしか見えないが、天まで届く様な
巨大な柱の様な物が見えていたのだった。
「あの柱は確か・・・。」
「ああ、あれはポルトのシンボルとも言えるウェンディーヌだな。何か良く
分からんが一種の発電ゾイドで、街中の電気の大半はあのウェンディーヌから
供給されているらしい。その能力や特異な形状も相まってポルト発展のきっかけにも
なっているそうだ。それに風力発電だけで都市一つ分の電力を賄うアレについて、
色々研究なんかも行われてるがまともな結果は出てないらしい。」
「へ〜・・・。ルナリスちゃんやっぱり博学だね〜。」
「だからちゃん付けするなと。」
やはりルナリスがマリンの頭を小突くと言うお約束のパターンが披露されてたが、
重量装備で鍛えられただけあって、その小突き方も常人から見れば相当な威力がある物に
思えた。が、それを受けるマリンの方も同時に鍛えられているので、実質的に与える
ダメージそのものは全然変化は無かったりする。
135悪魔の遺伝子 861 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/07(火) 13:30:13 ID:???
「まあまあルナリスさん落ち着いて落ち着いて・・・。」
「これが落ち着いていられるかよ!コイツいつまで経ってもこの私をちゃん付け
ちゃん付け・・・。これじゃあ私のクールなイメージが台無しだろうが!!」
「ああ!もう痛いからやめてってばぁ!」
ルナリスは苛立ちながらマリンの頭を何度も殴り付けていたが、皆は唖然と口を
開けつつこう考えていた。
「(貴女にクールなイメージなんて初めから無いのでは?)」
と・・・。とまあそんな事が起こっていたワケだが、その時にビルトが下の荒野の方を
指差していた。
「あれ見て下さいよ。陸からもかなりの数のゾイドがポルトへ向かってますよ。」
「それだけじゃありません。周りにも今乗ってるのとは別のホエールキングが沢山・・・。」
彼等の言う通り、陸海空、東西南北様々な方向からポルトを目指す集団が数多く見られ、
それだけオラップ島バトルグランプリは激戦が予想された。
「うううおぉぉぉぉ!燃えて来たぜぇぇぇぇ!」
「ああ!!もう耳元で騒がないでよキシンさん!変な人だと思われるでしょ!?」
「あ・・・すんません姐さん。」
興奮のあまりキシンが周囲の迷惑になる程大騒ぎしてマリンに叱られると言う
アクシデントがあったとは言え、こうしてホエールキングは徐々に高度を下げていった。

空港へ降り立ったホエールキングから降りたマリン等はそれぞれのゾイドを停める為、
駐機獣場へ向かうゾイドの行列の中を並んでいたが、その横目から見るポルトの街の
眺めを見て驚きに耐えなかった。何故なら街中人であふれていたからである。
「ここが商業都市ポルトか〜。」
「人が沢山いますね〜。」
「普段から商業都市として栄えてる街だからな。大会のあるこの時期ならなおさらだ。」
「へ〜。」
と、マリンがルナリスの説明に返答しようとした時だった。突然ハーデスがカンウの
口をふさいだのだ。
「それ以上言うのはやめろ。また殴られたくなければな・・・。」
「・・・。」
その時のルナリスは相当な殺気が放たれており、流石のマリンも黙り込むしかなかった。
136冷血の死神 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/07(火) 15:26:35 ID:???
鎌首をもたげるステルスバイパー。
その横を駆け抜けていく紅の弾丸、レブラプター。
背の鎌が鋭い音を立てたと思えば、相手の首は地に落ちていた。

被弾しても。敵のコクピットを破壊しても。味方が撃破されても。
レブラプターを駆る女性の顔には、表情が無かった。
ただ敵を切り裂くことだけ。それしか考えていない。

帰還し、愛機を整備してもらうために降りようとして。
ハッチに貼ってあった写真を見つけた。
自分と、大好きだった人が、寄り添って幸せそうに笑っている。
戦争が終わったら結婚しよう、そう言ってくれていた。
けれど彼は、出撃したきり戻っては来なかった。
友人や家族の死はなんとか乗り越えてきた。彼が支えてくれたから。

いつからだろうか、泣かなくなったのは。
疲れてきた。悲しむことにも、敵を哀れむことも。
だからやめた。何も考えず、敵を倒すことだけに集中した。

懐かしい写真を見て、微笑む女性。だがそれは冷たい自嘲の笑み。
お守り代わりに、彼の機体にも貼ってあったはず。
―― こんなもので、生き延びられるはずないのに。
何の躊躇もなく、それを放り捨てる。

レブラプターが、主人を心配しているような唸り声を出す。
それを聞いた彼女は、無表情のまま、心の中で苦笑した。
(これじゃ、どっちが生きた機械なんだか)
あの写真のように、明るく笑う彼女を知る人間はもういない。
レブラプター。愛機だけが、かつての主人を知っている。
幸せそうに笑って。味方の死を泣いて。敵を殺すのを嫌う。
そんな女性は、今は乗機の背にある鎌と、戦い方から。
『冷血の死神』そう呼ばれていた。
137Full metal president 73 ◆5QD88rLPDw :2005/06/08(水) 04:53:52 ID:???
勝利は間違い無かった…降り注ぐ砲撃の雨は確かに敵を捕らえ、
数秒もしない内にそれを砕く爆音が耳に聞こえて来る筈だった…。
だがその瞬間は永劫に訪れる事は無かったのである。

「冷却装置正常起動…再突入用タキオンEシールド問題無し!
加速する!確り付いて来い!」
「「了解!」」
星の海と命の坩堝を隔てる力。それを超え坩堝に飛び込む者には洗礼が待っている。
ゼロから無限倍にまで跳ね上がる大気による摩擦。
そしてそれで起きる摩擦熱である…本来頑強な結界たるこれに阻まれると火達磨に成る。
しかし2頭の獅子にはそれは届く事は無く坩堝は彼等を無造作に受け入れる。
その無造作の程は重力加速度という愛の力で彼等をその深淵に誘うの事で伺い知れる。
嘗て詩人は重力を愛と喩え空に飛び立とうとする人々を掴んで放さなかった。
そんな話がエルリッヒの脳裏に過る。
「エッガ!ランツェン!私はこのまま突撃する。2人は予定取りに動け。」
成層圏に達した事を確認して2頭の獅子はそれぞれ想うところを行い始める…。

「決まったな…どんな魔術を使おうとこの距離ではどうにもならん。」
サーレントは勝利を確信して空を見上げる。
すると…
「敵影!?距離2000!?そんな馬鹿な!周りには気配等っ!?」
「空から…墜ちてくる!?増援は予測出来たけど上から墜ちてくるなんて思わなかったわ。」
カサンドラも呆れて空を見上げる。
一瞬光が見えたかと思うと次の瞬間砲弾の雨はその増援に貫かれ四散。
てきとうな方向にバラけて派手に爆発を起す。
スプリンターズの面々も余りの非常識さに空いた口が塞がらなかった。
そんな中それは激突する事無く巧みな姿勢制御から砂ぼこりを上げる事無く着地する。
漆黒のボディに赤き翼…頭部に掲げる角は角というより両刃の直刀と後ろに偃月刀。
右肩のゼネバスの紋章を咥え高々と天に掲げる獅子の精悍なエンブレム。
チームコルレオニスのエナジーライガーXWの勇壮な姿だった…。
138Full metal president 74 ◆5QD88rLPDw :2005/06/08(水) 06:05:16 ID:???
「商売敵が何用?って言いたいところだけど助かったわ。」
背に腹を代えられぬ状態のメリージェはせめて強がって言ってみる。
「これは…一段と美しく且つ生傷が絶えない姿になったものだなメリージェ。」
素晴らしく嫌な返され方をしてしまったが彼特有のブラックジョークなので気にしない。
エルリッヒとはそう言う男だ。
「どうせあの爺さんに頼まれたんでしょ?団長とは昔から懇意だったから。」
「その通りだ。所で…結婚しようマイハニー!」
「全力で断る!!!」
この言葉のみは本気らしいのだが…どうやらメリージェにはギャグにしか聞こえない。
それ故…絶対零度の冷めきった言葉で終わる。

「ほう…良い度胸だ死に損ないを助けに入ってプロポーズとは!
喰えん男だ。だがこれを喰らって貰えば君達の立場が多少は解る筈だが?」
カノンプロヴィデンスが砲撃を行なっている間にフレームのみを修復した足。
元々他の機体の首はコアを独立して用意され接続していた為再生はできない。
完全に培養できなかったとゴミの様に捨てられ手居た者達だ。
立ち上がったアームレスプロヴィデンスはXWに攻撃を仕掛ける。
今度は足ではなく騎乗槍状の頭部より生える2体の鹿の頭部からの角。
外側だけが翼の様に歪に巨大化した物の斬撃。
それを喰らえば一撃必殺は間違い無い。超重量の衝撃音…。
しかし目の前の現実はまたしても目を疑う様な様相を見せる。

その双振りの角を余裕の構えで…
頭部の直刀リオンレイバーと偃月刀ライオムーンで受け止めるXW。
「力のみで押し潰そうとは…その程度の力量ではXWを捉える事はできん!」
逆にその重みと硬さが祟り巨大な角は根元からポッキリと折れてしまう。
今度はXWのエナジークローが閃き右膝のマッドサンダーの頭部の左目を貫く。
大きい事は良い事だ…だが過ぎたるは及ばざるが如し。
それを見事に目の前で再現しているXWの勇姿。
もしここがゾイドバトルのスタジアムならば観客総立ちの大喝采が拝めた事だろう…。
139悪魔の遺伝子 862 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/09(木) 09:21:26 ID:???
『焦らず二列に並んで下さい!駐機獣スペースは十分にございます!
急がず慌てず落ち着いてこちらの誘導に従って下さい!』
流石に時期的に多くの人とゾイドがくる事は分かっている様子で、係員や治安局員が
乗るアロザウラーが駐機獣場への誘導をあわただしく行っていた。が、その駐機獣場の
余りの広さにマリン等は呆れて物も言えなかった。
「と言うか駐機獣場の方が街そのものより広いってのはどういう事よ・・・。」
「ま・・・まあそう言うな。何しろ時期的にゾイドだけでも何千何万と言う数が来るんだ。
もうそれは仕方のない事だとは思わないか?」
「う〜ん・・・それは分かるんだけどさ〜。こう広いとゾイドに降りた後が大変だと
思うのは私だけかな?だってあんなにだだっ広い所を徒歩で街まで移動しなきゃいけない
のよ。そりゃ送迎バスみたいなのがあれば問題無いんだけど・・・。」
「っていうかみんな!あれ見て下さい。」
「え?」
キシンの思考に合わせ、テッコウが右前足で指差す動作を行った方向を見た時皆は
唖然とした。何故なら駐機獣場にゾイドを停めたは良いが、街へ行くまでの道で日射病に
かかって倒れた人が大勢いたのだ。
「オイオイ・・・。マジかよ。」
「ウワァァァン!何か激しく怖いよぉぉぉ!」
お祭り騒ぎのポルトの街の陰で繰り広げられる阿鼻叫喚の地獄絵図な世界にマリンは
思わず泣き出してしまったが、泣いた所で事態が解決するワケでも無く、マリン等は
係員の誘導に従って駐車機獣場へ向かっていった。
「街から近くに停められます様に街から近くに停められますように街から近くに
停められます様にぃぃぃ!」
「悲しい事だがそれは無理な話だと考えた方が良い・・・。何故ならその辺は既に先客が
いるからだ。」
確かに現実はルナリスの言う通り甘く無かった。街から近い駐機獣場は既に先に来た
者達によって停められ、マリン等がゾイドを停める事の出来た場所はもうかなり遠くの
場所にあったのだ。しかも驚くべき事に、それでもまだ全駐機獣場の半分にも満たない
距離なのだと言う。それを考えると後から来る人が災難としか言いようが無い。
140悪魔の遺伝子 863 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/09(木) 09:25:20 ID:???
「あ〜あ〜、結局歩きなのね・・・。」
「キツイっすが、やっぱりそれしか無いっすよ姐さん・・・。」
「送迎バスが通ってないワケでも無いが・・・。既に多くの人に使われてて私等が乗る分は
残ってないみたいだしな〜。」
それぞれゾイドを停めた後、地に降りたマリン等はさながら地平線の彼方にあるように
すら思えるポルトの街の陰影を見つつ唖然としていた。
「これからあそこまで歩かなくちゃならないと思うと・・・目眩がしてきたよ・・・。」
「あんま泣き言を言うなよ。それにあそこまで歩かなきゃ始まらんしな。」
「それは分かってるけど〜・・・。」
「とにかく歩いた歩いた!」
ルナリスはマリンの背中をポンと押しながら皆は長い道のりを進み始めた。
周囲を見ると駐機獣場の通路を進む数々のゾイドや、マリン等の様に必死になって
ポルトを目指している人々の姿が多く見られた。挙げ句の果てには途中で行き倒れ、
そのまま白骨化している者すら続出していたりする。
「な、何か、大会に出る前に既に多くの人が脱落しそうな気が・・・。」
「それは私も思った。よくよく考えればこれはある意味で大会委員会が仕掛けた
ふるい落としなのかもしれん。」
「考えすぎではありませんか?」
「だと良いのだが・・・。」

こうして長い時間と体力を消費しつつ、マリン等はポルトの街へ到着した。
「ハァ、ハァ、。やっと付いた〜・・・。」
「よし。それでは大会受付へ行ってエントリーだ・・・。」
「ら・・・ラジャー・・・。」
いつ熱中症に倒れても不思議では無い程の炎天下の中、進んできた道のりは相当に
きつかった様子で、皆息絶え絶えだった。が、それで終わりでは無く、今度はポルトの
街の人混みをかき分けて大会受付へエントリーを行わなければならなかった故、
皆は再度進み始めたのだった。
141希望の狙撃手 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/09(木) 18:47:19 ID:???
照準が、ゆっくりと敵を捉える。
「・・・動くなよぉ・・・頼むから」
画面の中の敵 ―― セイバータイガーに願う。
まだ相手はこちらに気付いていない。
機体に伝わる反動。刹那、セイバータイガーの前脚が、弾けた。

「あ〜、疲れた。やっぱ撃つのは苦手だな」
汗を拭く少年が、愛機であるガンスナイパーに語りかける。
視界の隅に、何かが映る。腕を押さえている人間。

「おい、死んでないな!?」
荒い息をつく、腕から血を流している少女は、無言で頷く。
基地で教わった応急手当を施して、愛機に乗せる。
移動している間にも、彼女の服が赤く染まっていく。
負傷者、それも重症。一人を保護したと、隊長に通信を入れておく。

基地内の病院の彼女の部屋へ行く途中。手に持った布の塊を見る。
ゾイド置き場で待っていた隊長がくれたもの。
「今、上は忙しいらしくてな。手続きとかは後で良い。
 とりあえずソレ着せとけ」
と渡されたのは共和国軍の女性軍服。何故こんなものを、と尋ねた。
軍の病院は、軍人しか診てくれないのだと、隊長は言った。

事情を説明すると、少女はすんなりと受け入れてくれた。
あっちを向いていて、そう言われ、慌てて後ろを向く。
「ありがと。で、ちょっと話し相手になってもらえる?」
軽くOKする。自分とて、部屋に帰ってもすることは無かったから。
ゾイドが好きだと言う彼女に、この基地にいる機体の説明をする。
知っていることを話した後、少女が聞いてきたのは自機のこと。
「貴方は脚しか狙ってなかったけど・・・」
142希望の狙撃手 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/09(木) 18:47:53 ID:???
「普通は、コクピットとかゾイド核を撃つんじゃないの?」
少なくとも自分ならそうするだろう、そう考えて聞く。
「・・・人やゾイドを平気で殺すのが、普通か?」
一瞬、頭が真っ白になった。何を言われてるのか解らなかった。
ゆっくりと、目の前の少年は過去を語ってくれた。
彼の父親は軍人で、その父が死に、残された自分と母は辛かったと。
敵を撃たない。撃てば、その敵の家族が悲しむだろうから。
それが、彼が脚を狙う理由だと。脚が壊れれば、敵は退く。
もし敵に砲台があれば、それを撃つだけだと。

夜。自分の付けている腕時計を見る。否、これは時計ではない。
針を調整して、蓋を開く。あるのは、帝国軍の紋章。
言われた通り、重症を装えば潜入は驚くほど簡単だった。
さきほどまでここにいた少年から、ここの部隊編成は聞き出した。
あとは自分が得た情報を、この通信機を介して送るだけ。

けれど。指が動かない。
―― ・・・人やゾイドを平気で殺すのが、普通か?
彼の言った言葉が、深々と心に刺さる。

本当に良いのか?あの少年が消えても。
ゾイドが好きだと言ったら、一生懸命に話してくれた彼。
銃で帝国の人間を殺せない、心優しいあの人。
迷う余地は無かった。
窓から通信機を投げ捨てる。家族を失って入隊したから、悔いは無い。
明日からの私は、彼に保護された民間人。共和国軍服を着てはいるが。

朝。久しぶりに、身体が自然に起きるまで寝た。
窓の外に、出撃していく部隊と、その中のガンスナイパーが見える。
彼の撃つ銃は、悲しみを与えるためのものではない。
人に、希望を与えるための銃。そんな気がした。
143Full metal president 75 ◆5QD88rLPDw :2005/06/10(金) 03:53:24 ID:???
「な…マルギアナの魔石の一撃を術も無しに受け止めれる物はマルギアナの魔石のみ。
そう言う事ならば!」
サーレントはこの男が誰であるか等は思い出す必要が無い。
術士の弟子とりはしなかったがゾイドの操縦技術の弟子とりをしていたファイン。
そこの一番弟子であり更に剣術をとある男に習っていたのならば当然の結果だ。
アームレスプロヴィデンスの胸部が鳴動する。
その金管楽器を思わせる複列の筒はそれぞれ違った音色を奏で始める。
「嘘っ!?サーレントったらギャラルホルンを使う気なの!?」
そそくさとカノンプロヴィデンスは岩陰に隠れ更に長大な尾で体を包み防御体勢を執る。
神々の黄昏を告げるその音色は世界中に届くと言われた伝説の楽器。
その名を冠するだけの物…多分衝撃砲の一種だろうが威力は考えたくない。
スプリンターズの面々は略回避不能の位置に居る。
エルリッヒ自身は最前列の特等席と言う事でここで何とかする他無い。

何方が駆けるのが速かったのだろうか…?
「エナジーサイクロンッ!!!」
「ギャラルホルン発射!!!」
異様な不協和音が周囲に木霊し周囲が目映い閃光に包まれる。
それが終わった後。数秒の間はまるで数時間に感じる程緩やかに感じられた事だろう。
2体の獣は両者ともその立ち位置を替え背を向けている。
両機とも機体から激しい水蒸気が上りXWは外付けのタキオンEシールドが消滅。
アームレスプロヴィデンスは金管の一部を破損。右肩のギガの首が切り落とされている。

「「おおおおおおお!!!」」
XWの尾よりエナジーキャノンとエナジーガトリングが火を吹く。
それを察知して異様な速度で上昇しそれを回避するアームレスプロヴィデンス。
一方周囲の機体は破損を免れた物は無く各々焦げてブスブスと音を上げたり、
配線の消失で火花を散らしていたりと結構大変そうだ。
一番破損が少ないネオヴェナトルもコールドメタルブレードが故障して…
冷却パルスブースターが使用不可能になっている。
144Full metal president 76 ◆5QD88rLPDw :2005/06/10(金) 04:20:43 ID:???
「黙って見ている他は無い…と言いたい所だが。アーク?ちょっと耳を貸しなさい。」
「え?何々?…(中略)…解った父さん!」
バルツはアークに何やら秘策を授けているらしい…。
だが敢えて相手に聞こえる様に話している所も在り罠の匂いが漂う。
何方が罠か?しかしサーレントやカサンドラはそれを考える余裕は有るらしい。

エルリッヒの攻撃は威力こそそれ程でないものの…
確実にダメージを蓄積させる長期戦の構えを執っている。
普通なら機体の関係上セオリーを外れ常軌を逸した自爆戦略にしか見えない。
しかしXWは背を見る限りエナジーチャージャーを殆ど使用していない。
それでカタログスペック上の戦闘速度を維持している。
起動させると如何なるか?恐ろしくて想像を止めさせる程インパクトが或る。
X字のエナジーウイングが開きアームレスプロヴィデンスの胴体を掠める。
するとまたギャラルホルンの砲口が罅割れ砕ける…。
実力差は埋め様が無いほどのものに見えるのだがエルリッヒは攻撃の手を緩めない。

「(…おかしい。幾ら何でも手応えが無さ過ぎる。
その上得意の術も飛んで来ないとなると…時間稼ぎか?それとも…?)」
ついぞ脱落した角もその気になれば即回収できるものだ。
それすらしないと言う事は含むところが大有りなのであろうと簡単に予測出来る。
サーレント達もブラフを掛けてきて居るのだ。
何方がブラフかは不明…二拓一捨の確立は半々。
戦況は略固まりつつある。

そんな頃成層圏から二手に分かれたライガーゼロファルコン。
エッガ=クラウとランツェン=パウル。彼等は黄金の翼を確認する。
「F2!それが1ダース。爆装も満点だ!」
「それならどうする?エッガ?」
「当然…やるぞ!俺が落ちる前に済ませてくれよ…ランツェン!」
「了解した!爆装したF2程度ならジェットファルコンシュバルツ1機で充分だ!」
ゴジュラスは粘液の海に漂う黒い機体を踏み台に、青き宿敵の居る向こう岸に渡ると、着
地音も消え終わらぬうちに熱く咆哮しグスタフに飛び掛った。
レオストライカーを攻撃する事に夢中であったキーンの反応は僅かに遅れたが、
グスタフはその殺気立ったコアの生命反応を敏感に感じ取り、分厚い装甲で相手の攻撃を
受け止めた。旋回により力を得た装甲は、向かってきたゴジュラスの爪先をまるで粘土を
こねるかのように軽がると捻じ曲げた。変形した指を確認すると、ゴジュラスは眼前の忌
まわしい虫型ゾイドをキツく睨んだ。グスタフは身を震わせ、まるで虚弱な体だと言って
いるかのようにゴジュラスを嘲り唸った。苛立ちを隠し切れなかった(――勿論、隠すつも
り等全く無かった)ゴジュラスは、もう一度捻れた爪をグスタフの装甲に叩き込んだ。再度
グスタフがそれを受けると、ゴジュラスは痛みが身を伝わるよりも速く、変形した拳を続
けざまに殴りこんだ。
…だが、ゴジュラスの気迫とは裏腹にその一撃一撃のダメージは殆んどゼロだった。
グスタフに打撃技で致命傷を与えるためには、一度によほど強力な攻撃を加えるか、
内部系統に大きく響くような個所を狙うしかないのだが、このグスタフに限ってそんなド
ジを踏むはずが無かった。…ダメージは無い。むしろ自分の身の方が傷ついている。そん
な状況でもグラントとゴジュラスは黙々と拳を殴り込み続けた。
激しく火花が散る。金属と金属が擦れ合い、嫌な音が会場に響く。
凌ぎ合いの渦中でキーンには余裕が無かった。先程から何度も相手の攻撃を防ぎ、少しず
つダメージを与えている物の、何時ものように相手を呑み込むような体制へと持っていく
ことが出来ない。…いや、それよりも今問題なのはゾイドその物の闘争本能が異常に高ま
り異常な反応速度を生み出しているという事だった。
少しレバーを傾けただけで何時もの数倍の速さで動くため、何時もの要領で操縦をしよう
ものなら直ぐに動力系統を破損し、真っ直ぐ自滅への道を歩む事になるという状況。
操縦は困難を極め、キーンの体力は徐々に奪われていった。
試されているのだろうか?それともグスタフは己自身を試そうとしているのか?
…それが分かる者は精神リンクで繋がっている他でもない自分のみだった。
リンクを通してキーンは身を焦がした。言葉や文字では表しきれない不思議な感情。
全身の血液が沸くように熱い。ゴジュラスの詰らなく単純な攻撃の何がそうさせるのかは
理解できなかったが、キーンは確かに、本気でぶつかってみたいと思った。
グゥとグスタフが唸り声を上げた。そして、急に装甲と装甲の間を魔王の口のように
ガバッと開くと、向かい来るゴジュラスの右腕を二の腕から食い千切った。何本にも絡み
ついたコードが露になり、バチバチと鳴る痛々しい音を、ゴジュラスは自らの一声で掻き
消した。そして咆哮音を背中にグスタフに顎と残ったもう一方の腕で掴みかかった。牙が
挫け、手首が吹き飛ぼうともゴジュラスはグスタフを離さなかった。
そして、全身全霊の力を寄せ集め、グスタフの身を担ぎ上げた。
グスタフがもがき、抵抗すると、重みでゴジュラスの肩が粉砕した。
銀の粉吹雪を撒き上げ、残された片腕が地面に零れ落ちると同時に、ゴジュラスは
顎の圧力のみで無理矢理外骨格の隙間に頭を捻り込み大きく首を振った。
コックピットでは危険を報じる音声が鳴り響き、キャノピーにヒビが生じるが、グラント
は構わなかった。そして、身を大きく傾けると尾と片足で反動をつけ、グスタフをリング
の壁に放り投げた。激しい轟音と共に壁を貫き、装甲がバラけ、グスタフはドームの外に
沈んだ。勝利の雄叫びを上げると、間もなくゴジュラスも地面にヘ垂れ込んだ。
同時に、試合終了のブザー音が鳴り、結果のアナウンスが入った。
『Aチーム、システムダウン機"2"、現存機"1"、
Bチーム、システムダウン機"3"現存機"0"よって勝者、Aチーム!
そして、第二回戦勝者及び、決勝出場者はリリー、グラント、ロン。計三名!』
観客席から様々なものが飛び交い、試合は大喝采の中、終了した。

…ちなみに、余りにも出番が少なく、試合中殆んど動く事を許されなかったロンが、
文句の1つでも言ってやろうと思って弟の元へ向かった時、例の物質の清掃に
似合わない作業服を着て参加している姿を確認し、十分な罰は受けていると考えて
あえて何も言わずに宿泊場に戻ったのは彼だけの秘密である。

148悪魔の遺伝子 864 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/11(土) 08:58:07 ID:???
「うう〜。キツイ〜死ぬ〜・・・。」
「弱音を吐くな〜。キツイのはみんな一緒だ〜。」
弱音を吐くマリンを戒めるようにルナリスはある方向を指差した。するとその方向では
他のZiファイターチームと思われる集団がマリン等の様に死ぬ思いで受付を目指す姿が
数多く目撃されたのだ。
「あいつ等だって必死なんだ・・・。ここで弱音を吐いたら・・・。負けだぞ・・・。」
「で、ですから、頑張りましょう姐さん!」
「う、うん。」
皆に励まされ、マリンは気を振り絞って一歩一歩踏み出していった。が、
その時ルナリスが歩みを止めたのだ。
「よし!負け!お前等あそこで一休みしていくぞ!」
                  ずげげげげげげっ
弱音を吐いたら負けだと言った張本人が一番最初に負けた事実に皆は思わずすっころんだ。
が、何だかんだ言って、皆もいつ負けても不思議では無い程疲れていた為、共に
ルナリスの指差す方向へ向かった。そこにはグスタフのコンテナを飲食店として
使用している屋台の様な物が存在した。そのコンテナを牽引するグスタフに
貼られていた札を見るとどうやら一応許可は取っている様子である。
「とにかくここで何か食って行こう。腹が減っては戦は出来ん。」
「ま、まあそうだね。」
「別に受付締切まではまだ相当時間ありますものね・・・。」
皆は疲れた顔でコンテナの中へ入っていった。
「はいいらっしゃい!何にします?ってあ!」
「ああああああああああああ!」
見事に飲食店として形作られたコンテナ内に入った時、第一に彼女等を出迎えた店員と
思しき若い男とマリンの目が合った瞬間互いに驚いた顔をしていた。
「お、おい一体どうしたと言うのだ?」
「お・・・お兄ちゃん!」
「そうかお兄ちゃんか・・・っておにい!?」
予想だにしない展開に皆は唖然とした。そしてカウンターから出てきた若い男と
マリンは互いに近寄ったのだ。
「やあマリンじゃないか。こんな所で会えるなんて思いもよらなかったよ。」
「こっちだってこんな所でお兄ちゃんに会えるなんて思わなかったよ。」
149悪魔の遺伝子 865 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/11(土) 09:00:24 ID:???
どうやら二人のやりとりを見ていると二人は本当に兄妹の様子である。
が、その男は兄妹と言う割には顔立ちもマリンとは全く異なり、髪の毛の色自体金髪の
マリンとは全く異なる青髪だった。
「姐さんのお兄さんって割に全然似てないっすね。」
「多分母親似なんだと思いますよキシンさん。だってサリカさんには何処か似てます物。」
「ああ、そう言えば・・・。」
横目でマリンと兄の様子を見ていたキシン、ビルト、ミレイナの三人はそう言って
納得し合っていた。確かにその兄はマリンには全く似ていなかったが、マリンの
母サリカには随分似ていた感が強かった。
が、さらに付け加えて言うと、その男はのほほんとしたのんきな顔をしていたが、
これはこれで結構なイケメンだったりする。
「いや〜こうしてお前と出会うのも久しぶりだな〜・・・。」
「そんな事より久しぶりに帰って見たら?お父さんとお母さん心配してたよ。」
「まあそれについては考えておくよ。所でマリン。お前ももしかして色々無理してる
んじゃ無いか?いつの間にかに顔に二つも傷が付く凄みのある顔になっちゃって・・・。
お前弱いんだからあんまり無理するなよ!」
兄はマリンを心配するように彼女の左頬を優しく撫でていたが、マリンは慌ただしく彼の
手を払って言った。
「傷の事はどうでも良いでしょ!そんな事より。」
マリンは皆の方を向いた。そして兄を指してさらに言ったのだ。
「紹介するよみんな。こちらは私の兄のマリナン。よろしくね。」
「どうも、兄のマリナンです。20歳です。妹がお世話になっている様で。
まあこちらとしてはありがとうございますとしか言いようがありません。」
「マリナンさんですか?失礼かも知れませんが、女の人見たいな名前ですね・・・。」
ミレイナがそう口を滑らせた瞬間、周囲は凍り付いた。マリナンが物凄い勢いで
ミレイナの方へ歩み寄ったのだ。
150悪魔の遺伝子 866 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/11(土) 09:03:28 ID:???
「マリナンが男の名前で悪いですかぁ!僕は男ですよぉぉぉぉ!」
「は、はい、す・・・済みません。」
物凄い剣幕で叫び出すマリナンにミレイナはガクガクブルブルと震えるしかなかった。
が、突然マリナンはニッコリを笑みを浮かべ、ミレイナの両手を掴んだ。
「・・・って何処かのアニメの主人公みたいなセリフ、一度言ってみたかったんですよね〜。
でも中々誰も突っ込んでくれなくてさ〜・・・。いや〜、君のおかげで心の
差し支えが取れてスッキリしたよ〜!ありがとう!」
「ど、どういたしまして・・・。」
予想だにしない展開に皆は唖然とするしか無かった。が、そういつまでも唖然と
しているワケにも行かない為、皆は自己紹介に入っていた。そうしてキシン、ビルト、
ミレイナの順で自己紹介を終えていくワケだが、最後のルナリスの番が来た時、それは
起こった。突然マリナンは口をあんぐりと開け、驚いた顔をしたのだ。
「・・・。」
「ど、どうしたのお兄ちゃん?」
突然の事態にマリンは慌ててマリナンに顔を近付けた。と、その直後だ。マリナンが
物凄い勢いでマリンにアックスボンバーを掛ける様に彼女の首筋に右腕を引っかけ、
そのまま何処かへ連れ去ってしまったのだ。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
「姐さーん!」
「一体何が起こったんだ・・・?」
151春空の下で ◆ok/cSRJRrM :2005/06/11(土) 22:26:36 ID:???
「狙撃ポイントに到着・・・っと」
連絡を入れる、ウネンラギアに乗り込む白髪混じりの男。
コクピットの中で、照準と睨みあいながら、今回の任務を確認する。
敵の補給路を絶つ。そのために自分はここにいる。

今、眼前に雪崩のように押し寄せて来るのはキメラBLOXの大群。
与えられた情報とは、完全に違っていた。

司令部への回線を開き、怒鳴る。が、通信機は沈黙を押し通すのみ。
そう言えば、陽動作戦を実行をどうとか話し合っていた気がする。
「オトリ・・・にされたか。済まないな」
最後の言葉は愛機に向けられていた。

試験的に、出力を大幅に上げてあるコアブロック。
機体に与える負担が大きいため、普段は通常のものと同出力だが。
その抑制を外すためのスイッチを、彼は押し込んだ。
殺人的な加速。必死にそれに耐え、操縦桿を握る。
軽く爪を当てるだけで、面白いように敵が砕けた。
残骸の山が生まれるまで、そう時間はかからなかった。

ウネンラギアは動かなくなった。
各部が急激な負担に耐えかねて、崩壊したのだ。
それでもその機獣は最期まで主人の身を案じ続けた。
ハッチが開く。太陽に目を細めながら、彼は再びそれを閉める。
「もう、俺も疲れたんだ」
そう言って、彼はシートを倒し、横になった。

レーダーに映っていた多数の赤い点は、無視することにした。
ただ、最期まで自分を気遣ってくれた愛機と一緒にいられる。
それだけで良かった。目を閉じ、彼は言った。
「おやすみ」
寝心地は、最高に良かった。
152Full metal president 77 ◆5QD88rLPDw :2005/06/12(日) 04:25:57 ID:???
「敵機が接近中!機体は…黒塗りのジェットファルコン!?
間違い無い!あれは…コルレオニスのシュバルツタイプだ!」
編隊の一番外側に居たF2より部隊全機に入電された報告。
「8番から12番機!爆装を1番から4番まで排除!私と共に迎撃にでるぞ!」
その命令を受け5機のF2は対地攻撃用のフォトンボムを翼より切り離す。
そのフォトンボムは地表から約3kmの地点で全部爆散。
「気付かれた!こうなれば…!」
ランツェンは身軽になったF2達5機を相手に更に爆装した残りのF2を相手にする。
さっきまでの状況とは代わり不利が在る状態に成っていた。
そして…数秒後空中には爆音と爆発の光…それと鮮やかに奔る銀光の線。
空中での格闘戦も同時に行なわれていた。

「…先に気付かれたか。それじゃあこっちも私怨じゃなくて支援をしないとな。」
落ちるのみのライガーゼロ。しかし普通の裸ゼロでは無い。
下地にライガーゼロフェニックスのパーツを一部付けた姿にバスターキャノン。
セミテレストリアルと呼ばれる形態。空力を考慮して後向きの砲塔にカバー付きである。
今F2は…ランツェンのシュバルツに気を取られこちらに気付いていない様だ。
それに都合の良い事にフォトンボムを切り放し爆破した事でレーダーの状況が不安定。
「スナイパーエッガ!決める!」
体勢を変え後向きに接続されたバスターキャノンをF2の7機編隊の鼻先に打ち込む。

閃光と爆発。その一撃に反応したF2の編隊は爆装を放棄して素早く散開。
だがタイミングが多少遅くフォトンボムとバスターキャノンの爆風に巻き込まれる機体。
直撃こそ無かったが結果として支援予定位置にされたであろう空爆の阻止に成功する。
巻き込まれた数機は機能が停止して自動着陸プログラムが起動している。
難を逃れた残りも次の一撃を恐れて降りる事しかできない仲間のフォローに回る。
「…後5分。任せるよランツェン。」
通信を入れてその後…煙草に火を付け分煙装置のスイッチを入れる。
その目の見詰める先では1対5の空中戦が行なわれている。
しかし奇襲は一度が限度で後は相棒の無事を祈るしか彼には残されていない…。
153Full metal president 78 ◆5QD88rLPDw :2005/06/12(日) 05:21:53 ID:???
「おお…エッガ。やるな!運が絡むとは言え最高の戦果だ。負けられないな!」
F2と擦れ違いざまにバスタークローを軽く展開し…
マグネッサーファルコンウィングに深い引っ掻き傷を付ける。
これで良い。マッハ3,5の速度で飛翔しているF2がそんな物を付けられたら?
「うおっ!?翼が!」
引っ掻き傷を起点に一気に翼に罅が入り砕ける隼の翼。
バランスを崩して速度を落としながら墜落して行く…先ずは1機。

突然高熱原反応が迫るのを確認して宙返りをしてそれを避ける。
相手もさるもの…曲芸飛行のごとく火炎放射を行ないながら高速で突っ込んで来る。
更にロックONの警告音。十数本の空対空ミサイルが一気に迫る。
シュバルツは素早く右回転を3回行なって攻撃を回避。
その後旋回を行ないミサイルの群を一纏めに軌道を集める…。
本来ならここがF2の仕掛け所で有る筈だが慎重に慎重を重ねて様子見らしい。
「今の隙は…致命的だ!」
ジェットファルコンシュバルツは翼を最大展開して飛ぶ。
その翼には尾翼として…フェニックスの翼が有り獲物を狙っている…。
だがF2は警戒している為どうしても寄せ餌が必要となって来る。
ランツェンが出した結論は…この行動である。

「なっ!?リバース!!!レッドアウトを起こしても文句は言えんぞ!!!」
逆宙返り…それも特大のループを描く軌道。
本来宙返りはコクピットを円周軌道を中心に内側に置いて行なうものである。
しかし逆宙返りはそれが逆な為に遠心力で頭に血が上り目に不都合が起きたり、
最悪血管が切れてそのまま意識を失い墜落する可能性も有る。
正に特大の不都合…特大の餌である。
だが…彼等は忘れている。
ジェットファルコンと言う機体最大の空戦での長所を。希少である事が幸いしたらしい。
そして逆宙返りが行なわれ始める…
今まで誰も見た事が無い程長大で鮮やかな飛行機雲のループを描いて。
154哀の逃飛行 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/14(火) 01:00:46 ID:???
長かった戦争は終わりを告げた。
明るく晴れた空を、青年の駆る緑の翼 ―― レイノスが滑っていく。
志願兵だった彼は少尉にまで昇進した。勲章だって授与された。
「帰ったら・・・まず何をしようか?」
下方に臨む山脈。これを越えれば、自分が生まれ育った街がある。
家族が、友人達が待っているはずだ。
帰路に着く彼の心は正に、今の空のように晴れ渡っていた。

「・・・嘘・・・だろう・・・」
そこは彼の育った街『だった』場所。だが今は、瓦礫の山。
ゾイドの足跡。残骸。それらがあちこちに見受けられた。
つまり、ここが戦場だったということ。

息を殺した悲鳴。かつての彼ならば、それに気付かなかっただろう。
だが味方の屍と、数々の死線を越えた彼には、鮮明に聞き取れた。
「誰だ!?」
正面の瓦礫の裏。そこにいるはずの相手に、抜いた銃と怒りを向ける。
悲鳴の主は、怯えきった様子で、姿を現した。

自分と同じくらいの歳の少女。髪型に、見覚えがあった。
かつて自分が世話になったゾイド乗りの資格試験場。
そこの娘だったはず。気付いて、慌てて銃をしまう。
彼女の方も思い出してくれたのか、表情を和らげた。
「ごめん。もっと速く俺が・・・」
戻っていれば。そう言おうとしたが、彼女は遮った。
「貴方は悪くありません。そう気負わないで下さい」
無理に笑顔を作って、言ってくれた。その笑顔が、逆に痛々しかった。
155哀の逃飛行 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/14(火) 01:01:40 ID:???
「ありがとうございます」
不意に目の前の少女が自分に礼を言って、語り始めた。
ゾイド乗りだった父が応戦して。知り合いは皆避難して。
独りだけになってしまって。自殺しようとも考えていたと。
そんな時に、自分と再開したから。今、ここにいられるのだと。

気付いた時には、彼女をレイノスのコクピットに押し込んでいた。
「ちょっと耳が痛くなるけど、我慢しろ」
注意を促して、愛機を飛翔させる。
山脈を超えた辺りで、自分から口を開いた。
相手の顔は見ない。感情を抑えられる自信が、無かったから。
「自殺なんて、絶対にしちゃ駄目だ。
 生きたくても死んでいった人が大勢いるんだから、な」
それを聞いてどう思ったのか、彼女は泣き伏した。

なんとかしてこの娘を助けたかった。自分が救われたから。
ここに帰ってきたとき、発狂してしまいそうだった。
戦場で苦しみぬいた自分でさえそうなってしまったのだ。
そんな中でも正気を保っている芯の強い少女を見て。
自分も負けてはいけないと、思うことができた。

「生きてれば、どうにかなるさ。戦争はもう終わったんだしな」
大丈夫。立ち直ってくれるはず。そう確信していた。
予想通り、彼女は微笑んで力強く頷いた。

空は、相変わらず晴れ渡っていた。
156Full metal president 79 ◆5QD88rLPDw :2005/06/14(火) 04:11:18 ID:???
流石にこれだけ余裕を見せられると腹が立つものである。
強力なチェンジマイズカスタム機とは言え…マッハ0,1程F2より遅い。
ミサイルの直線での最高速は…約マッハ4,2。
旋回しながらでもシュバルツを充分捉えられる速度で追尾している。
逆に言えば下手に近付くと自分のミサイルの餌食と言う事も在りうる。
しかしここまで小馬鹿にされたのでは少しきつい灸を据えたいところだ…。
「…その誘いに乗ってやる。精々頑張れ!」
見ている限り実力的には同レベルなら単純に速度とサイズが大きいF2。
それを頼りに2機のF2が確実にシュバルツを沈めようと上昇する。

描かれたループが雲間に消えまた雲海からシュバルツが姿を現す。
それは…
逆宙返りをする胴体と逆宙返りをしていない頭部コクピット。
元々ブロックスそれ自体はコンビネーションアミガーと呼ばれる機能を持ち、
ジェットファルコンはそれによって機体をCASとしてライガーゼロと合体する。
中には爆発的な力を発揮する覚醒現象”ユニゾン”と言う症例も有るが…。
その接続の時にジェットファルコンは胴体が反転してゼロと接続される。
つまり空戦時においてジェットファルコンはコクピットの頭部を固定したままで、
胴体を自由に回転させる事ができるのである。
まあその機能の為か…
自力で出せたかもしれないマッハ4圏内を犠牲にした事は余り知られていない。

「な…?」
それ以上の声は無い。ファルコンの翼に首を撥ねられミサイルを貰い墜ちるF2。
更にもう1機も背をバスタークローに抉られコントロールを失う。
「機体色に惑わされたか。情けない…。8番機!撤退だ。追撃はないだろうが…
私が足止めをする。離脱して11番機のコクピットを拾ってやれ!」
「了解しました…完全な敗北。無念です。」
F2の8番機は落下する11番機のコクピットを追い掛け戦闘を離脱する。
「さあ…1対1!君には時間がないのだろう?如何でるかな?」
157Full metal president 80 ◆5QD88rLPDw :2005/06/14(火) 05:15:49 ID:???
落下阻止限界時間まで後2分程。相手は足止めを狙っている…。
「さて…俺の生きれる時間も遂に2分を切った。これ以上の加速度では脱出もできない。
空中でトマトだけは勘弁だ。同じトマトなら相棒の中の方が余程良いな。」
強がって皮肉でも言ってなければ到底耐えられ無い状況。
だがまだ2分を切ったばかりだ。もう1人と1機の相棒を催促する訳にはいかない。
だが…口にした煙草は既に携帯灰皿に灰とフィルターだけになって燃え尽きていた。
銀線は交錯し激しい戦闘が彼の目の先で0,001単位の差が決める所に到達する。

「ふふふ…もう途中でコクピットのアジャストなどできるレベルではないな!
蒼穹の王者はF2なり!」
相変らずミサイルを従えて戦闘するシュバルツ。
それと相対して速度の有利と操縦に余裕が有るF2。
決定的な差が有ると思われたが…空戦とは言ってもゾイドの戦い。
コアを使わず飛ぶ飛行機の物とは圧倒的に違う物が或る。
更には…通常機とブロックスと言う似て非なる存在。
それが今回不利と思われたジェットファルコンシュバルツに勝利を呼び込む。

交錯するF2とシュバルツ。
次の瞬間F2目の前に爆風が発生する。
精神リンクが可能とする驚異的な反応速度でそれを避けたF2だが…
その目の前にはシュバルツの尾羽根の位置にあったフェニックスの翼が有る。
「これまでかっ!」
無理矢理軌道を修正するがそれが勝負を分かつ。
シュバルツはそのままフェニックスの翼を切り離しミサイルを一網打尽とする。
そして…その破片がF2の進路を阻んだのだ。
その間にシュバルツは重力加速度を伴ってその場を悠々離脱。
残ったF2は翼に崩壊ギリギリの線のダメージを受け追撃不能。
遠くで響く合体の音。最大望遠で見る黒塗りの副腕持ちのライガーゼロ。
勝者に負け惜しみの発光信号が送られる。その内容は2度と来るな鳥獅子野郎だった。
敗者にも発光信号が送られる。その内容は…2度と来ねーよ翼竜野郎だったそうだ。
158悪魔の遺伝子 867 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/14(火) 13:23:39 ID:???
皆はマリナンの意味不明な行動にチンプンカンプンだったが、彼はマリンを店の裏に
連れ込み、息を荒くさせながら彼女の肩を掴んでいた。
「お、お兄ちゃんいきなりどうしたのよ!!」
「ままま、マリン?ああああの、黒い髪の人、一体・・・。」
「ハァ?ルナリスちゃんの事?それがどうかしたの・・・?」
「そうか、ルナリスさんと言うのか。所でルナリスさんは何歳なのかな?」
「17だけど、あ、まさかお兄ちゃん・・・。」
マリンは悪寒を感じた。何故ならマリナンの顔はレッドホーン以上に赤く染まっていた
からだ。そして彼はマリンの肩をポンと優しく叩き、言ったのだ。
「マリン、次からはルナリスさんを義姉さんと呼びなさい。」
「うわぁぁぁぁぁ!やっぱりぃぃぃぃぃ!」
「鋭いね。流石は僕の妹だ。そうその通りだ!僕は、僕は・・・。」
マリンはまるで恐怖マンガの驚く人の様になっていたが、マリナンは何かに
取り憑かれた様に厨房の方へ走って行った。ちなみに厨房と行ってもネット用語の
アレでは無く、料理を作る場所の事である。

一方店内ではまだルナリス等がワケも分からず立ち往生していた。
「一体何がどうしたんだ、おい。」
「あ!姉さんが戻ってきましたよ!」
キシンが指差した方向には紛れもなくマリンの顔があった。しかしその彼女の顔は
真っ青になっていたのだ。
「お、おい、どうしたんだ?お前何か顔色悪いぞ。」
「何でもないよ。何でも無い。」
「何でも無いワケ無いだろうが!一体何があったのか言って見ろ!」
ルナリスは相当にマリンを心配している様子で、彼女を必死に問い詰めていたが、
マリンはルナリスから目を背け、こう一言言ったのだった。
「すぐに分かるよ。」
「すぐに分かる?どういう事だ?」
と、その時、蔓延の笑みを浮かべたマリナンが料理を乗せた盆を持って出てきたのだ。
「まあみんな疲れただろう?これでも食べて行きなよ!もちろんこれは僕のおごりさ!」
「うおおお!すっげぇ美味そう!」
159悪魔の遺伝子 868 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/14(火) 13:25:42 ID:???
さり気なく席に着いていたルナリス等はマリナンの振る舞った料理を見入っていたが、
マリナンの視線はルナリスの方へ向けられていた。彼は心臓を高鳴らせながら何とか
彼女に話し掛けるタイミングを狙っていたのだが、何とルナリスの方がマリナンに
話し掛けて来たのだった。
「あの。これ本当に良いんですか?」
「良いです良いです!これ本当に僕のおごりですから!」
「あ、ありがとう・・・。」
ルナリスはやや微笑みつつマリナンに礼を言った時だ、それだけの事でも彼自身に
とってはかなり衝撃的だった様子で、マリナンはそのまま蔓延の笑みを浮かべて
ぶっ倒れてしまったのだ。
「わぁぁぁ!どうしたどうした!?」
「姐さんのお兄さんが!」
「いきなり倒れたぁ!」
いきなりぶっ倒れたマリナンに店中大騒ぎになった。そして丁度マリナンの一番近くに
いたルナリスが倒れたマリナンを軽く起こしながら顔をペチペチと軽く叩き、
心配そうな顔をしていたのだ。
「おいあんた!大丈夫か?」
「う、美しい・・・。」
「え・・・?」
マリナンの言葉に皆は唖然とした。そして彼は顔を赤くし、朦朧としながらさらに言った。
「その長い黒髪・・・厳しさの奥ににじみ出る優しさを持った容姿・・・あああ!!
僕の頭ではもうこれ以上表現できないよ!!」
「!!」
その瞬間ルナリス以外の全員がその場から慌てて飛び退き、ルナリスは思わず戸惑った。
「お、おいおい。一体どうしたんだよ!」
「い、いや、だって・・・。」
皆は気まずい顔でマリナンを指差しながら目を背けていた。そしてマリンは一人席に着き、
他人のフリをしながら料理を口に運んでいた。
「(あ〜あ〜。お兄ちゃんいくら何でも口説き方下手すぎ。まあそれに気付いて
いないルナリスちゃんもルナリスちゃんだけど・・・。)」
もうマリンは見ている事すら出来なかった。料理を口に運びながらも思い切り顔を
背けていたのだ。
160悪魔の遺伝子 869 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/14(火) 13:30:52 ID:???
「お、おいおい。一体何がどうしたんだよ、おい。」
皆の行動にルナリスは訳も分からず戸惑っていた。と、その時だ。マリナンが彼女の
両手をガッチリと掴んだのだ。突然の事に彼女はさらに戸惑い、その光景を見ただけで
皆は悪寒を感じ、さらに飛び退いた。
「おい!あんたいきなり何を・・・。」
「あ、済みません。もう大丈夫ですから。それにしても、綺麗な手ですね。」
皆が唖然とする中、マリナンはゆっくりと立ち上がった。そしてその様子に皆は
確信していた。
「これは確実にアレですな。」
「うん。アレ。」
「でもルナリスさんは気付いてない見たいですよ。」
皆はそう口々に小声で言い合っていたが、ルナリスもそれを聞き取れてはいなくとも
何か変な噂されている事は気付いていた様子でやはり戸惑った顔をした。
「い、一体何がどうしたってんだ。」
「あの、済みません。」
「ん?」
またもルナリスに話し掛けてきたマリナンに彼女は半ば睨み付けながらマリナンの方を
向いたが、マリナンは微笑みながら言ったのだ。
「貴女の名前は確か、ルナリスさん・・・とおっしゃいましたよね?」
「そうだが?それがどうかしたか?」
マリナンはいきなりポケットから携帯電話を取り出す。
「出来れば電話番号教えてくれません?」
「(スッゲェ口説き方下手クソ過ぎぃぃぃぃ!)」
「(あんまりにもストレート過ぎない!?)」
「(もう無茶苦茶だ!姐さんのお兄さんがこんなに色々な意味で凄いなんて。)」
161Full metal president 81 ◆5QD88rLPDw :2005/06/16(木) 05:00:37 ID:???
「(なかなか…粘る。幾ら8本槍を頭に持つ神帝魚種とは言え良く耐えられる。
しかし…今更プロヴィデンスシリーズを戦線に投入する真意は?)」
エルリッヒは戦闘を継続しながら考える。
元々神帝種と呼ばれる8体のゾイドは…空より落ちてきた生命体。
それもトライアングルダラスに落下しその後の環境に適応し、
巨大魚型ゾイドの姿へと自己進化を繰り返してきた存在だ。
そして…8本槍の仕事とはトライアングルダラスに落下した時計島の浮上キー。
更にその時計島は意思無き神の玉座として存在していた…。
既に時計島の持ち主は去り各国の人々が入り乱れ都市として再建されている。

「(…奴め。気付いているようだな。わざわざ此奴達を投入する意味を。
しかし…まだ気付かれてはならない。ならば!)」
サーレントは攻撃に移りXWに今度はアームレスプロヴィデンスの右膝が迫る。
まだ健在なマッドサンダーの頭部が唸りを上げて戦場となった岩場を切り裂く。
抉られ砕かれ飛散する大小の岩石。
その飛散する岩石を上手く角である剣で捌き更に直撃を躱すXW。
当然追撃が有るのだが…今回は両の太股の付け根に有るセイスモの頭部。
互い違いの方向にゼネバス砲を発射しそれを狭窄させる事で逃げ場を奪う。
だが…それすらもその場で伏せをして避けてしまうWX。
頭部の剣はゼネバス砲の直撃をプリズムの様に屈折させ明後日の方向に流す。
しかしその間は…動く事ができない。邪魔な火器も尾に有る。

「喰らえ…ロングレンジバスターキャノンの4連激を!」
そう誇らしげに言うが…実は姉便りだったりする有る意味巧妙なコンビネーション。
「あら?私っ!?」
そんな事を言っているカサンドラだがとっくにトリガーを引いている。
色々な噂を持っているこの姉弟だがその内の一つはどうやら本物臭い。
”とある行動の前後を完全に予測出来るため有り得ない支援行動を行なう”
と言う噂。普通なら一卵性双生児に現れたりする可能性が有る事象なのだが…
略本能的にそれを行なっている様にしか思えない行動だった。
162Full metal president 82 ◆5QD88rLPDw :2005/06/16(木) 05:32:17 ID:???
「…切り離しだ。」
アームレスプロヴィデンスは胴体から騎乗槍の頭部を切り離す。
そして…胴体は一瞬で消え失せる。サーレントは瞬間転送をさせたらしい。
元々魚類な神帝種は今見る様な胴体を持ち得る事は無い。
しかしそれを逆手に取ったのがプロヴィデンスシリーズの特徴である。
頭部と思われるそれはそれ単体で魚型ゾイドとして機能する。
そして…残りの胴体はコアブロックを接続点に追加武装として装備している形だ。
胴体自体が後付け武器。これによりプロヴィデンスシリーズは随時色々な局面で、
着替えるように装備を取り替えることが可能なのである。
更に本体は飛行可能な魚型ゾイドとして運用可能とかなり特殊な存在となっている。

緊急起動させたエナジーチャージャーのタキオン粒子を、
全て背部の特注タキオンブースターに注入しゼネバス砲の効果が切れ次第点火。
圧倒的な加速力で爆風の効果範囲外に走り去るXW。
しかし…両者はスプリンターズの存在を忘れがちだったようだ。
そしてそのつけはカサンドラのカノンプロヴィデンスが払う事になっていた。

「あっ…。」
カノンプロヴィデンスの背後には…
絶妙なバランス感覚で前足を上げて直立するウルドが居る。
カサンドラはその影でやっとその存在に気付いたらしい。
直後に大きな衝突音。そしてこの場で最大の質量を持つにも係わらず…
それを物ともしない勢いで空中に投げ出される。
「メガトンダブル張り手!大成功!」
アークの嬉しそうな声が辺りに響く。新しい旗艦。新たな家の初戦果。
チームの面々は万歳している。それもその筈でカノンプロヴィデンスの武装は…
そのメガトンダブル張り手を喰らったときに全損。
残るは豆鉄砲レベルの機銃と頭部の謎の砲門のみ。
「ならお返しね。」
しかし確りお返しの主砲を足元に喰らってチームの全機が下半身が岩に埋もれてしまう。
163吹き抜ける風 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/16(木) 21:00:04 ID:???
緑色の機獣が戦場の隅で獲物を待っている。
見え隠れする黒い箱状の物体から、BLOXであると知れた。
背に後付けされた砲塔が、敵を捉えた。

深緑の賢狼、ジーニアスウルフ。
それに乗る兵士は、数日前にこの機体を愛機として譲り受けた。
自分の戦友だったコマンドウルフを失って、立ち尽くしていた倉庫。
そこに、緑色の狼型ゾイドがいたのだ。見つめられている気がした。
整備兵に尋ねてみると、BLOXシステムの実験用の機体だったらしい。
聞けば、廃棄寸前だと言う。無理を承知で、彼は頼んだ。
「こいつを、俺の乗機にしたい」
意外にも快諾してくれた。やや意味ありげな笑みと共に。

その笑みの理由は、すぐに解った。
機体性能は劣悪。別に、動きに問題があるわけではない。
格闘用の武器しかないのだ。それなのに、Eシールドも持っていない。
センサーの類の性能は抜群だが、射撃武器が無い。
だから、彼は背に砲台としてもう一つブロックを取り付けた。
かつての愛機の装備、アタックユニットを思い浮かべて。
本来ならばボルドガルドに装備されるニ連装キャノンを装備した。
けれど、この機体の最大の問題点はその性格にある、そう言われた。
164吹き抜ける風 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/16(木) 21:04:18 ID:???
出撃の時も足並みを揃えようともしない。操作も受け付けない。
だが、戦場に立つと静まり返った。ただじっと、遠方の敵を見つめる。
そして、砲台を敵に向ける。撃て、と言われている気がした。
照準を敵に合わせ直すと、怒りを帯びた唸り声。
そしてまた、自分でキャノンを敵に向ける。
画面を見れば、赤い丸と、敵の機影は明らかにずれている。

「これじゃ、外れちまうぞ?」
言いながら、放つ。当たるはずが無い。そう思ったとき。
画面の中の敵は、爆発していた。
「・・・な・・・」
何が起こったか解らない。こいつのセンサーは確かに優秀。
モニターへの配線も問題はない。照準がずれる、などありえない話だ。
考えていると、キャノピーに何かが当たる音がした。
隣にいる見方が砲撃したときの、薬莢の破片が飛んできたのだ。
その時、彼は気づいた。何故、先刻の砲撃が命中したのか。
「お前・・・風を・・・」
そう。緑の狼は、吹き抜ける風を計算し、主人に教えたのである。

帰還する時、青年は新たな愛機について考える。
こいつは、性格に難があるんじゃない、と。
操縦の下手な主人を助けようとして、そう呼ばれただけなのだと。
そして、語りかける。
「ジーニアスウルフ・・・賢狼、か。お前にゃぴったりの名前だな」
その狼は、初めて自分を認めてくれた人間へ、喜びの咆哮を上げた。

かつての愛機を思い浮かべながら、彼は空を見上げた。
(お前はゆっくりと、そこで俺達を見守っててくれよ)
コマンドウルフが応えてくれたような、そんな気がした。
165悪魔の遺伝子 870 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/17(金) 10:10:25 ID:???
マリナンの行動にビルト・ミレイナ・キシンの三人は思い切り戸惑うしか無かったが、
肝心のルナリスはと言うと・・・
「電話番号か?ちょっと待ってな。ええと・・・。」
「(ちゃっかり教えてるぅぅぅぅ!)」
「(これは一体どうした事!?双方ともに何か狙ってるの!?狙ってないの!?)」
「(姐さんのお兄さんもスゲェがルナリスさんもスゲェェ!)」
何の疑問も持たずにマリナンに電話番号を教え始めたルナリスにやはり三人は戸惑い、
そのままソロリソロリとマリンの方へ音も無く歩み寄っていた。
「ね、ねえ、マリンさん・・・?」
「ん?ああ、貴方達の言いたい事は分かってる。とにかく席に着いて飯食いましょ飯!」
「ハイ・・・分かりました。」
三人はそのまま席に着き、何事も無かったかのように料理を食し始めたが、
それぞれ食べながらマリナンの異変について話し合い始めたのだ。
「マリンさん、もしかしてマリンさんのお兄さんって、まさか・・・。」
「うん、そのまさかだよ。しかもさっきお兄ちゃんに店の裏に連れ込まれた時、
彼女の事を義姉さんと呼びなさいとか言ってたし。」
「うわ!マジっすか姐さん・・・。」
「でもお兄ちゃん本当に女性口説くの下手だと思ったよ。まあしょうが無いと言ったら
しょうがないけどね・・・。」
マリナンの方を心配そうに眺めるマリンに皆は気になる顔をした。
「何故しょうがないと?」
「私の記憶が正しければお兄ちゃんは家族以外の女性と会話した事もロクに
無いからね。これがまた恋愛関係になると一体どうした事か。」
「え?そうなんですか?でもマリンさんのお兄さんってルックスも良いし、
かなり優しそうな人だから黙っていても女の人の方から寄ってくると思うのですが・・・。」
166悪魔の遺伝子 871 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/17(金) 10:12:51 ID:???
ミレイナは「うそぉ!?」と言わんばかりの顔をしていたが、マリンは気まずい顔で、
「ま、まあね。確かにお兄ちゃんは昔から結構持ててたよ。でも・・・。」
「でも?」
「私が知る限り、以前のお兄さんは料理に熱中しててそれ所じゃ無かったって感じかな。
でもそっけなく突き放すワケじゃなく、ちゃんと優しい言葉で振っていたけどね。
でも・・・そんなお兄ちゃんが自分からルナリスちゃんにヘタクソでもアプローチ掛けてる
って事はもうただ事じゃないよ。」
「ですがそれに全く気付かない所か疑問すら感じてないルナリスさんもどうかと
思いますが。」
皆はそれぞれ料理を口に運びながら横目で二人の方を見た。するとマリナンとルナリスは
何故か不思議と普通に会話していたりする。
「何だかんだ言って普通に会話してるんだけど・・・。」
「意外とお似合いのカップルだったり・・・?」
「で、どうします姐さん?あの二人。」
「放っておきましょう?あの二人はあの二人で何とかなるでしょ?」
「そうでしょうかね〜。」
マリン等はもう考えるのをやめ、食事に専念する事にした。と、その時だった。
「よし!僕は決めたぞ!」
「!?」
突然後ろから響き渡ったマリナンの叫び声に皆は一斉に彼の方を向いた。
「一体何を決めたのお兄ちゃん?」
「みんなはもちろんバトルグランプリに出場する為にこの街に来たんだろ?」
「うん。一応・・・。」
「なら話は早い!本当なら僕は大会の為に訪れた人々に料理を振る舞う為にこの街に
来たんだけど、やっぱり気が変わった!僕もみんなと同じチームで出場する事にするよ!」
            「な・・・なんだってぇぇぇぇ!?」
皆の驚愕の叫び声が店中に響き渡った。
「ちょっと待て待て!あの大会はZiファイターじゃないと出られないぞ!」
「それなら大丈夫。僕も一応Ziファイターの資格持ってるからね!」
            「な・・・なんだってぇぇぇぇ!?」
167悪魔の遺伝子 872 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/17(金) 10:15:11 ID:???
またも店中に皆の叫び声が響き渡り、ルナリス等は慌ててマリンの方へ駆け寄った。
「お、おい!それマジか!?Ziファイターの資格って・・・。」
「うん。私がZiファイター試験受ける時、お父さんがついでにお前も受けろって・・・。
だからお兄ちゃんも・・・。」
マリンの説明を聞いた皆は唖然としながらマリナンの方を向いた。
「ただの料理人では無かったのですね?」
「まあね。でも試合そのものは一度も出た事無いけどね!ハッハッハッハッハッ!」
のんきに笑うマリナンに皆は唖然とするしか無かったが、今度はマリンが彼の方へ
歩み寄った。
「でもお兄ちゃん!Ziファイター資格持ってるのは良いけど、何かそれらしい
ゾイド持っていたっけ?いくら何でもグスタフは・・・。」
「それなら大丈夫だよ。でもまあ今日だけはとりあえず店を出して起きたいから、
それについては後で、ね・・・。それじゃあ僕の分のエントリーもお願いね。」
「は、はあ・・・。」
マリナンはのんきな笑みを浮かべながらマリンの肩をポンと叩くが、皆は唖然と
するしか無かった。
「何か先が思いやられる。」
「足引っ張りそう。」
その後、食事を終えた皆は今後の心配をしつつも店を去ろうとした時だった。またも
マリナンがルナリスに話し掛けたのだ。
「後でまたお店に来てくれるかな?」
「ああ。まあ受付終えて、街見物し終わったを後で時間があったらな。」
ルナリスは真顔でそう答え、店を出ていったが、その光景に皆はやはり戸惑っていた。
「や、やけにあっさり承諾してる・・・。」
「やっぱり、何だかんだ言ってお似合いなのかも・・・。」
「でもルナリスさんは別にマリナンさんの思惑に気付いているとは思えないけど。」
「おいお前等一体何をやっている!?早く受け付けに行くぞ!」
「あ!分かったよ!」
こうして一人先行するルナリスの後を追う形でマリン等は走り出したのだった。
ZOITEC特設の練習場は既に廃墟のような外観と成り果てていた。
そして、その寂しげなフィールドを駆ける、青き機獣の姿が四つ。
空を行く二つは狂いの無い滑らかな動きでオレンジのラインを暗闇に描き、
地を行く二つは迷いの無い軽快な動きで浮遊する黒の球体を撃ち落す。
一寸のズレも無い見事なシンクロ。そして、それらはそれぞれの役目を
終えると姿を1つに集め、力強い青を纏った1つの竜となり、ゆっくりと屈むと
頭部のコックピットカバーを開いた。
「上出来だ!」
カバーを開く音を遮るように老人が吼えた。そして、その声を聞き取った青年は
静かに笑うと、コックピットを飛び降り老人の元へと急いで向かった。


「ん!期待していなかったとまでは言わないが、この短い時間で正直ココまでやるとは
思わなかった。良くやった、合格だ。これなら予定よりずっと早く白虎に乗れそうじゃな!」
滅多に無いランドからの褒め立てに、カルロは少々照れ臭そうな顔をして頬を掻いた。
「あ、そういえば…」
カルロは思い出したかのような口調で切り出した。
「明日ってZOITEC大会の決勝だったよな?今日で一区切り付いた所だし…
スタジアムまで見にいっちゃいけないかな?ずっとTVも見れなかったから、結果も気になるしさ。」
カルロの発言に、ランドの顔つきが少し渋くなった。カルロはやはり
無理だったかと、少々諦めた考えを浮かべた。暫くの沈黙…。
「えっと、現場まで行くのが無理なら、別にTVだけでも…。」
カルロがポツリと呟くとランドは険しい表情を解き、口を開いた。
「そんなことをする必要は無い。」
「えっ?」
「ここから闘技場までは大分ある、出発は早いからもう休むんじゃな。」
そう言い残すとランドはさっと振り返り、ドアの方へと歩き出した。
「闘技場、出発は早い…!」
カルロは許可が下りた事を確認すると、喜びの余り高く声を上げた。
その声を聞いたDrは階段の途中で、静かに柔らかい笑みを浮かべた。

晴天に恵まれたZOITEC社内大会決勝は雨の中で行われる事となった。
客席のみに防水カバーが設置され、入場した三機のゾイドは雨水に打たれていた。
三日前のチーム戦での影響で完全に回復していない様子が、悪天候と相まって、
まさに激戦の中で生き残った強者という雰囲気を醸し出していた。
「いよいよ始まるのか…」
カルロはVIP席にランド、ケイン、ライトと共に腰掛けていた。一回戦、準決勝の間に
フランカ、ファイが脱落していた事は残念であったが、今こうして最後の戦いに
グラントとロンが参加している事は限りなく嬉しかった。

最後のゴングが響いた。試合開始だ。
バトルロイヤル方式のラストバトル。一回戦で試された個人技能の高さ、二回戦で
試された周囲に気を配る能力、それが一度に試される。
ディバイソンが1つ唸り、キャノン砲をレオとゴジュに向ける。
「勝負よ!グラント、ロン!」
リリーは叫ぶとターゲット目掛けてビームの雨を発射した。
迫る光の渦をレオはEシールドを張ったまま濡れた床を滑るように交わし、
ゴジュラスは自らその中へと突進する。だが、高出力な上に正確な狙いを持つ光弾は
レオストのやわなシールドを歪め、迫るゴジュラスの足を止めた。
シールドを打ち破られそうになったレオは、チェンジマイズ用の予備エネルギーを
出来るだけ回し、再度シールドを張った。そして、その持ち前の俊足でレーザーの雨を
掻い潜り、なんとかディバイソンの足元まで到達した。
「ここまで来たらもう怖くねぇ!」
ロンはシールドを切断し、今度は全身のエネルギーをザンブレイカーに集中させた。
力を得て眩い光を放つその斬剣が目に映ると共に、ディバイソンはゴジュラスへの
砲撃を止め、身を瞬時に屈めた。勢いのついた紫の閃光を、輝く銀の角が出迎えた。
互いに交わり、弾けるような音が雨雲へと響くと、猛牛の角が真っ二つに裂け、
獅子の尾が根元からもげた。二つの、悲鳴に似た咆哮が轟く雷のごとくコロシアムを包んだ。
互いにダメージを負い、怯むディバイソンとレオに突然凄まじい衝撃が走った。
何mも飛ばされる二機。ふらつく意識の中で本能的に爪を立て、なんとか地に
しがみ付いたレオに対し、猛烈な水しぶきを上げて地面に沈み込んだディバイソンと
そのパイロットには、既に意識が無かった。
巨獣、ゴジュラスのテイルアタック。不意打ちといえば卑怯なように聞こえるが、
これはバトルロイヤル。一瞬の隙をいかに作らず、見抜けるかが勝利の鍵なのだ。
「…ふぅ、流石に回復しきっていない今の状態じゃあ、二体一度にってのには
流石に無理があったか。まあ、良い。直接潰しにいってやる、来いロン!」
巨獣は再度咆哮し、姿勢をぐっと傾けて猛スピードでロンに迫った。
頬をピシャリと叩き、くらくらした頭を目覚めさせると、ロンは操縦桿を強く握って
迫り来るゴジュラスに向かって水溜りを蹴った。尻尾を失い、バランスが取り難い
状況でもロンは華麗にレオを操ってみせた。目の前、鼻先100メートルという
距離まで迫る二機。
ゴジュラスが鋭い爪を備えた右足を蹴りだす。速い。とても修理が
間に合っていないとは思えない技のキレだ。回避に転じるが、
広範囲を捕えるその爪は容赦なく、取り残された左後ろ足を砕いた。
「ぐああぁぁぁっ!」
左後足から巻き取られるように地面に叩きつけられ、ロンは強い衝撃を受けた。
まだシステムは停止していなかったが、機動力を奪われたレオに既に戦う余力は
残っていなかった。
「勝負あったな、ロン。」
聳えるように立つゴジュラスから声が聞こえてきた。
まだだ!と言いたい所だったが、流石に尻尾を失い、足を失った(…しかも後ろ足を)
今の状態でスピードが命と言えるこの機体に、反撃の術は一切無かった。
負けを示すため、ロンがコックピットを開こうとすると突如、天から現れた
極太のビームがレオストの体を吹き飛ばした。
「なんだ!?」
グラントがビームの現れた空を見上げると、赤い翼を広げた黒い獅子の姿があった。
その獅子は急降下し、リングに着地すると背中に備えた翼をドリルのように前方へ
可変させ、ゴジュラスに顔を向けた。
「…我が名は、ダーク。」
パイロットの音声が会場に響いた。
「ゴジュラスのパイロット、グラント。お主には今ここで死んでもらう!」
雨が降りしきるZOITEC社内大会決勝戦。その決着が付いたかと
思われたその時、波乱の幕が開いた。
172Innocent World2 円卓の騎士:2005/06/18(土) 16:37:36 ID:???
「状況に応じて武器を選べるってのは、いいもんだぜェ! 避けてみやがれーッ!!」
 ラインハルトが吼え、実体弾とビームが次々と撃ち出される。オリバーは一旦機体の姿
を消し、すぐに100mほど動いた位置で姿を現す。
「? 光学迷彩も、この雨の中じゃ動作が悪いみたいだな!」
 レーヴァテインが振り上げられた。決めの一撃とすべく、放たれる荷電粒子砲。
 しかし、それが撃ったのはオリバーではなく、数秒前までオリバーが居た空間だった。
「な……FCSに異常を!?」
 ――オリバーは光学迷彩の起動と同時に、あるだけのチャフを空中にばら撒いたのだ。
ラインハルトがその一瞬で攻撃してくることを見越しての行動である。そして、既に彼の
機体は敵の背後を取っていた。
「 隙 あ り ぃ ぃ ぃ ぃ ッ !!」
「うおっ!?」
 振り下ろされたレーザークローを、剣の柄で受け止める。衝撃が水滴を散らし、周囲の
地面が1mほど陥没する。
 通常のデスザウラーであれば、運動エネルギーをたっぷり乗せたこの一撃に腕部が故障
していただろう。前述したとおり、デスザウラーは体内のシンクロトロンジェネレータに
大きなスペースを割き、フレームそのものの強度などはあまり高くない。
 しかしラインハルトの機体は荷電粒子砲を体内に装備する必要がない。そのため、他の
騎士の機体と比べても遥かに打たれ強い機体となっているのだ。
 もっとも、そうでなくとも騎士の機体には特別な機構が用いられている。
「今のは……良かったぜ! だが、機体性能に差がありすぎて話にならねえ!」
 イクスは剣の側面で弾き飛ばされ、ビルの残骸に激突した。

 ――てこずってるな。
 誰だろう。俺の頭の中で声がする。
 ――代わってやっても、いいんだよ?
 アンタ誰だ? これは俺の勝負だ。
 ――今のお前に、勝てるかな?
 勝つさ。ジークフリートは倒せたじゃないか。
 ――まあ、いいさ。『家賃』を払う時は僕が判断しよう。
173Innocent World2 円卓の騎士:2005/06/18(土) 16:42:07 ID:???

 視界が戻ってきた。
 崩れ落ちたビルを払いのけ、周囲を見回す。目的の地形は、右側前方。
 傷ついたゼロが走る。後を追ってタフなデスザウラーも走る。
「どこへ……」
 イクスはくぼ地に雨が溜まってできた水溜りに飛び込んだ。
「……逃げようとしてる!?」
 振り下ろされる、深紅の刃。水中からもう一度渾身のジャンプ、入れ替わりにラインハ
ルトが水溜りに沈む。
 そしてオリバーはこの時をこそ待っていた。雨のせいでドラムコンデンサーの調子が悪
い。撃てるのはせいぜい2発。
 灰色の世界を貫き、駆け抜けるエレクトロンドライバー。
 それだけで充分だった。放たれた高電圧のビームは水溜りの水から空気中の雨水、そし
て敵機の表面、内部に入り込んだ水を通してゾイドコアを刺激する。
 瞬間、心臓麻痺の要領でスリンガーの動きが止まった。『出す』なら今だ。
「その力は復讐のためにッ! “ビューティフル・リベンジャー”発動!」
 赤い光が暗雲を貫いた。機能が回復しないラインハルトの機体に、質量を持った残像と
その本体が襲い掛かる。
 立て続けに、衝撃。装甲がひび割れ、欠損部分から火花が噴き出している。そのまま彼
と愛機は池に沈んだ。
「……やったか? よし、次はあの野郎を……」
 何かが機体の横を掠めた。そして、目に見えないほど速い『何か』が通り過ぎてから一
秒としないうちに、爆音と共に世界が回った。全てが白くなる。
 やっと意識が戻ってくると、彼はコックピットに戻っていた。愛機と第二段階のリンク
に入っていたせいか、身体中から血が出ていた上に、右肩の感覚がない。
 しかし、イクス自身はもっと悲惨だった。
 ダメージを受けた直後に主人を切り離し、同調ダメージを軽減したが、本体は右肩の駆
動部が完全にガタガタで、全身の装甲も巨大なハンマーで殴られたような状態。
 既に立っていることさえできない。完全に戦闘不能だった。
「やってくれるぜ……俺の機体じゃなかったら危なかったな。だが、俺たちの機体には特
別なフレームが使われてるんだ」
174Innocent World2 円卓の騎士:2005/06/18(土) 16:47:27 ID:???
 オリバーは唐突に吐血した。あまりにダメージが大きかったためか、意識も薄れ始める。
「今のが俺の考える最強の射撃、“ロトンライフル”だ。マッハ80を越える超スピードで
硬質金属弾を発射し、相手に当たらなくとも衝撃波で致命傷を負わせられる」
 くぼ地の底の水溜りの中だ。機体さえ耐えられるなら、そんな兵器の反動にも壊れない
でいられるのだろう。
「かなり面白かったぜ、オリバー・ハートネット! 残念だが……これでトドメだ」
 レーヴァテインが、崩れ落ちたイクスに向けられる。
 避ける手立てもない。オリバーは薄れ行く意識の中、ただその剣が光るのを待った。

 目を醒ましたオリバーは、まず自分が生きていることに驚き、そして自分がなぜ店のベ
ッドで寝ているのかと疑問を抱いた。
 記憶が飛んでいる。どうやら、あのまま気絶したらしい。どうやって騎士を退けたかは
知らないが……もしかしたら、師匠がなんとかしたのかもしれない。
 彼は立ち上がった。
「師匠? エル? ……誰もいないのか?」
 と、隣の部屋で物音がし、エルフリーデが部屋に飛び込んできた。
「オリバーっ! ……よかった……生きてるんだよ…ね……」
「おわ、泣くなって! いったい、何が……?」
 部屋にエメットとワンが入ってくる。二人とも、どこか暗い面持ちで。
「オリバー、やっぱり君は……覚えていないの?」
「だろうな。まともな意識があれば、可愛がっていた相棒をあんなふうに動かしはすまい」
 何の話をしているのか、まったく解らなかった。しかし二人の目つき――まるで親友の
死体でも見るような、困惑と悲しみの混ざった視線――を見るに、何かがあったのだろう。
「もしかして、師匠に何かあったとか?」
 エメットはかぶりを振った。
「……じゃあ、誰かの機体がやられた?」
 オリバーの前で、少年と老人は顔を見合わせる。話すべきかどうか、迷っているようだ。
 エルフリーデが愛らしい顔を曇らせ、二人に言った。
「話して……あげてください。彼は自分に何があったのか、知らなくちゃいけない」
 無言でワンが頷く。そして、彼は語りだした。
 オリバーが何をしたのかを。
175Innocent World2 円卓の騎士:2005/06/18(土) 16:51:41 ID:???
 ――約22時間前、市街刑務所ブロック郊外。
 ラインハルトの“ロトンライフル”によって中破したオリバーのイクスに、今まさに止め
が刺されようとしていた。
 しかし、唐突にイクスが立ち上がったかと思うと、突然姿を消してしまう。
 ここから、『それ』は始まった。
 オリバーのイクスは一秒もせぬ間に数百mの距離を詰め、ラインハルトの背後に回り込
んでいた。ゼロの移動力では、物理的に不可能な機動。しかも、足跡一つ残さず。
 振り返ろうとするラインハルト。しかし、90度も回らぬうちにスタンブレードが閃き、
自慢のフレームもろともスリンガーは肩口を切り裂かれていた。
「な……中破した機体でこんな力を!?」
 傷は深く、そのまま機体は雨の中に沈む。その姿に目もくれず、イクスが目指したのは
横たわるシャドーエッジ、その前に悠然と立つアーサー。
「オリバー…? そんな状態で戦闘したら、お前の機体は再起不能に……」
 リニアが呼びかけるも、応答がない。モニターに映るオリバーの顔は通信状態が悪く、
細部まで見て取ることはできない。だが、その顔は恐ろしいほどの無表情である。
 次の瞬間、その口元が不敵に歪んだ。
「――やはり、来たか!」
 またもイクスは一瞬にしてアーサーの目の前に姿を現し、レーザークローを叩き付けた。
エックス・キャリヴァーで受け止められ、強度で劣るイクスの爪がひしゃげ、砕ける。
 しかしオリバーは攻撃を止めなかった。悉く受け止められ、自機のダメージが蓄積して
いっても、彼は爪を、刃を、敵機に叩き込み続けた。
 遂には自らの攻撃によるダメージで大破し、崩れ落ちるイクス。勝ち誇った顔でアーサ
ーが呟き、エックス・キャリヴァーが一段と明るく輝く。
「一粒で二度美味しい……あるいは、一石二鳥と言うのか。とりあえず今回の目的は達さ
れた。帰還するぞ、ラインハルト!」
 言ってみるが、ラインハルトからの応答はない。通信機がお釈迦になったらしい。
 信号も消えている。『予想通り』に撃破されたようだ。
「ちぃッ! 上手く脱出しろよ、ラインハルト……!」
 そう言うとアーサーの機体はかき消すように消え去った。イクスの残骸を残して――。
176戦争の終わらせ方:2005/06/19(日) 00:56:56 ID:???
基地の方が騒がしい。
少年は、かつて自分が所属していた場所を見た。
彼がいる場所は、その近辺の森。いわゆる脱走兵、である。
敵襲だろうが、もう自分には関係ない。
だが、不可解な点がある。砲撃の音が、聞こえない。

「ちょっと盗み聞きしてみるかな?」
森の奥に隠してある、愛機のプテラス。
偵察用に改造された機体だったため、通信の傍受などは容易にできる。
内容は、更に彼を困惑させた。

「どっちに逃げた、あの女!?」
「あのバケモノ、噛み付いてきやがった!」
「森の方へ飛んで逃げたぞ!」
「もう夜も遅い。危険だから捜索は明日だ」
親切にも、レーダーに小さな光点が一つ。こちらへ向かっている。
(・・・一体、何が来るんだ?)
もしそれが、自分を危険に晒すものなら、撃ち落とす。
偵察用として武装を取り払われたが、念のため、と付けられた火器。
小型のビーム砲のロックを外す。

一瞬で見えなかった。ただ、青色の何かが、地面に向かって落ちた。
恐る恐る、降りて確認する。目の前にあるものは二つ。
地に突き刺さる青い物体と、酷く怯えている白い肌の少女。
確か、古代ゾイド人。本で読んだことはある。
こちらの隙を突いて、彼女は青い何かを庇うように立つ。
「・・・こ、この子は人殺しの道具なんかじゃありません!」
その背で、青い物体がモゾモゾと動き、形を変えていく。
177戦争の終わらせ方 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/19(日) 00:57:53 ID:???
(・・・オーガノイド・・・!)
それこそ、彼があの基地から逃げ出した理由。
研究と称して、オーガノイドを分解する様子を、見てしまった。
愛嬌のある奴だった。そいつの最期の叫びは耳に張り付いている。
今でも軍はオーガノイドシステムを完成させるのに必死なのだろう。
意識を現実に引き戻せば、少女は泣き崩れていた。
「お願いです・・・見逃して下さい」

やっと気付いた。自分は、共和国軍の制服を着ているのだ。
「俺はもう軍人じゃない。君を捕まえる気なんてないから、安心して」
信じて良いのか、と訪ねてくる彼女に、真剣な顔で頷く。
それでもまだ震えている。これ以上話しても、距離は縮まないだろう。
そう思って、毛布を投げる。
「追っ手が来るのは明日らしい。疲れただろ?
 おまけに冷えるし、今夜はもう休んだ方がいい」

意外にも、少女はすぐに寝息をたて始めた。
傍らの青いオーガノイドは、まだこちらを睨んでいる。
「その娘を守って、お前も大変だったろ?ほれ、食うか?」
放り投げたのは、干魚。近くの川で釣った魚を自前で加工したものだ。
最初は警戒するようにじっとそれを見ていたが、一口で終わらせた。

「嬉しいけど・・・警戒心ってモンはねーのか?」
今や青いオーガノイドは自分の隣で眠っている。
あの後、おかわりを要求してきた。それも食べ終わると、今の状況。
少女の幸せそうな寝顔。それを見ている彼も、睡魔に襲われた。
178戦争の終わらせ方 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/19(日) 00:58:32 ID:???
朝。少年とオーガノイドが格闘していた。
「こらっ!俺の食料を狙うな!」
どうやら干魚が気に入ったらしい。保存している袋を奪い合う。
視界の隅で、毛布が動いた。少女が騒音に耐えかねて起きたのだ。
彼女はこちらを見て目を丸くしている。無理もない。
昨日の晩は威嚇されていたのに、今では戯れているのだから。
「あ・・・昨日は、ありがとうございました」

なんとか彼女にオーガノイドをなだめてもらい、朝食を済ませた。
軽く談笑できるほどに打ち解けあえたその時。
銀色の翼が空を掠めた。彼女達への追っ手が来たのである。
自分が時間を稼ぐ、そう言ってプテラスに向かう手が、掴まれた。
「手伝います。この子も、力になりたい、って」

「まさか、ここまで速くなっちまうとは・・・」
青いオーガノイドと合体したプテラスの速度は、異常だった。
ストームソーダーを振り切るなんて、本来ならば不可能な話だ。
「誰も・・・傷付けてませんよね?」
後ろから、恐る恐る少女が尋ねる。もちろん、攻撃などしてはいない。

戦場からはかなり離れた所を飛んでいる。丁度良く山を見つけた。
川も流れているし、とりあえず生きていくには問題なさそうだ。
彼女の方は、戦地が見えなくなっただけで嬉しいらしい。
早く降りよう、と急かしてくる。

「お前はもう十分に食っただろうが!これは俺の分!」
やっぱり干魚を取り合う少年とオーガノイド。
「ふふ、スープが冷めちゃいますよ」
それを見て微笑んでいる、古代ゾイド人の少女。
もう彼らの戦争は終わったのだ。後は、毎日を楽しく過ごすだけ。
幸せな笑い声を、響かせながら。
179Full metal president 83 ◆5QD88rLPDw :2005/06/20(月) 02:45:27 ID:???
「ソニックジャベリン!?」
エルリッヒはスプリンターズの状況を見てその言葉を口から零す。
この攻撃はカノンプロヴィデンスの頭部のみの能力。
攻撃用ではなく自己防衛などに使われるこれは実体弾を振動波で打ち砕く。
しかし位相を同じくして収束から排出する事で今の様な状況を作り出す。
更にそれの発射口に実体弾を詰めると強烈な拡散弾を撃ち出すことも可能だ。
今はカノンプロヴィデンスとXWのみが真面な戦闘を継続できる状態。
エルリッヒは素早くフォローに回ろうとする…。

「そこまで!」
突然XWを縛り上げる太く長い金属蛇腹の触手。
「もう1機が持ち直したか!?」
後方をモニターするスクリーンを見るエルリッヒ。
そこには自らの頭部を内側に内包する卵を半分に割って中味を出した様な存在。
それの周囲を高速で回る長い物体…それが蛇腹の触手であろう。
残像を残して素早く動き回るそれはスカイフィッシュのように無軌道。
その上本体と物理的に繋がっていない事と言い突っ込み所が山程有る姿だ。
その触手は丁度エナジーライガー特有の刃状の場所を全て避け器用に絡みついている。
「このまま締め潰す…貴様は少々知り過ぎているらしいからな。」
見た目からは想像だにしない威力で締め上げられその装甲に罅が入るXW

必死に振り解こうと自身がもがく為余計に損傷は拡大する。
「落ち着けXW。…せいっ!」
せめてもがく事を止めさせるため尾の火器を連射させ神帝を狙う。
だがその攻撃は触手に阻まれ明後日の方向に弾かれる。
しかしその攻撃の手を止める事無く一定のリズムで攻撃をしてはリズムを変えている。
「無駄な…何っ!?」
サーレントは突然の直撃弾に驚きを隠せない。略鉄壁の防衛行為。
例え一本をXWを縛り上げるのに使っているとは言えそこに付け入る隙はほんの僅か。
ダメージこそ少ないがそれを今度は連射もせずに当ててきているのだ。
180Full metal president 84 ◆5QD88rLPDw :2005/06/20(月) 05:23:19 ID:???
「…余りに高速過ぎて自由に制御できない多数の触手。ならばやる事は一つ。
触手の防御パターンを一定にして触手のバッティングを防ぐこれしか有るまい。」
断続した直撃に怯み触手の拘束が緩む。それを逃さずそれから逃げ出すXW。
「我が剣の師の教え。それは…常に身を護ることのみに執着する事。
師たるカイエンは遅咲きの剣匠。それ故護身をに重点を置く形を執る。
自らの守りを鉄壁とする事でその身のみならず周りの者をも護る!
それが我等が流儀。」
保身を攻撃に転化する剣術。かなりの無茶があるが実現している証拠がある。
…現に彼の乱入により本来生き残る事ができなかった生存者の存在。
かなり苦しいがどうやらそう言う事らしい…。

「ならば攻撃するまで!」
サーレントは触手を使った攻撃を行なう。先端部に有る穴がレーザーを発射する。
それは歪な模様を描いてXWに迫る。
だかそれもその効果範囲を大幅に回避すれば問題無い。
XWの居た場所には…切り刻まれた山肌の無残な姿が残っている。
しかし自慢の格闘攻撃ができない事にはあの異質な孵りぞこないを始末できない。
そんな所に…やっとの事で増援が到着する。

空の一点が瞬間煌めいたかと思うとカノンプロヴィデンスに強烈な一撃が決まる。
ライガーゼロファルコンのバスタークローが胸部装甲を破壊。
それによって上半身の左右を繋いでいたカノンプロヴィデンスは中央から裂ける。
「もう1機!?…F2の爆撃が何時まで経っても無いのは貴方達の仕業ね?」
裂けた胸部から連結を断たれ本体のみになるカノンプロヴィデンスの頭部。
それと同時にやはり胴体として機能していた追加装備は消え失せる。
しかしサーレントと違いカサンドラは直ぐさま替えの胴体を装着して立て直す。
妙に隙間のある関節を持った地まで掴む長さの細長い腕。
それの所為で短く見えるが実は体のサイズに丁度良い太く長いマッシブな脚部。
それに特徴的なのは…残る6本槍を投入した背部。
「姉さん…やる気満万だな。これは退いた方が良い。巻き添えは御免だ…。」
優勢もそこそこにあっさりと引き上げるサーレント。1体の神帝が姿を消す。
181Full metal president 85 ◆5QD88rLPDw :2005/06/20(月) 06:43:27 ID:???
「時期尚早だけど紹介するわ。セブンスプロヴィデンス(7つの神帝)。
牽制の為に見せて上げるわね…これで貴方達の支援者も簡単には動けない。」
カサンドラはコクピットの中で悪戯っぽく笑う。
「既に8本槍全てを手にしていたか…ならば生かしては帰せんな!」
自らの装甲が砕けるのも気にせずXWは加速しセブンスプロヴィデンスに襲い掛かる。
エルリッヒは本来こう言った言葉を吐く人間ではない。
それをしてこう言わせる存在は途方もなく厄介な物だと容易に判断できるだろう…。

その攻撃を背の6体の神帝で受け止めるカサンドラ。
攻撃したリオンレイバーに衝撃が再集中し弾き飛ばされるXW。
その素材と技術故それが折れる事は無いがその反動は本体へダイレクトに伝わる。
着地し全身を震わせ衝撃のショックを振り払うXWに攻撃が加えられる。
正面へ突き出したセブンスプロヴィデンスの両腕が素早く肘を曲げる…
すると腕の外側方面だけで支える肘フレームの付け根に3連装の火器の砲口。
その数12。上腕部と下腕部両方に火器を仕込んであったらしい。
近距離戦用のピンポイントレーザー砲が矢継早に放たれる。
「くっ…前方30°の誘導範囲内に居ては危険だ。」
先にタキオンEシールドユニットを破損している為回避を余儀無くされるXW。
しかしその砲口はそれ自体もある程度の角度に修正が可能。
その上機体の向きを変えれば更に射角は広まる…早々簡単に避けさせてはくれない。

「遅くなりました!」
XW直撃コースのレーザーをEシールドで受け止めるゼロファルコン。
「すまない…恩に着る。遅れてくれて正解だったようだ。」
結果オーライだが余り時間を掛けてはいられない状況。
直にでもこの場を脱出しないと十中八九陸からの増援で逃げ場を奪われてしまう。
そうなれば弾切れで満身創痍のチーム等一捻りだ。
レーザーの合間を縫う様にセブンスプロヴィデンスはその足で踏み付けや蹴りを行なう。
その複合攻撃を2機は巧みに回避しながら少しづつスプリンターズから離れる。
それに釣られるようにしてセブンスプロヴィデンスも追い掛ける。
そうして約10km程離れた所で彼等は最後の攻撃を仕掛ける事にした。
182光と絆と引き金と ◆ok/cSRJRrM :2005/06/22(水) 22:24:16 ID:???
「また出撃だってよ。面倒だよなぁ」
頭の中に声が響いてくる感覚。次いで、溜息も聞こえる。
歩いて倉庫を出て行く同僚達に合わせ、自分も動き出す。
「どこも調子は悪くねーよな?」
少年が尋ねてきてくれる。まだ子供だというのに、彼は強い。

最初は自分 ―― ガンスナイパーが手伝ってやっていた。
だが何度か出撃する内に、それが不要となった。
嬉しい反面、後悔もした。
明るかった少年が簡単に敵を撃つ。その理由が、自分にあるのだから。
始めの内こそ彼は敵に銃を向けるのを嫌っていたが、今はしない。
冷たく、敵を消す。その狙いには、寸分の狂いもない。
だから、照準を発射する瞬間に少しずらしてきた。
彼に、人を、ゾイドを殺させたくなかったから。

今、自分に乗る少年は怯えている。
本来、援護に徹するだけであった自分達の部隊。
その目の前に、紅い敵がいて、味方が消されていく。
近くで戦っていた友人が、その巨大な鋏で断ち切られた。
だが、もっと恐ろしい光景が展開された。

開いた敵の口から、光の柱が一本、出現した。
爆発という名の付き人を随所に従えたそれは、収束荷電粒子砲。
少年が操縦桿を動かしたらしい。身体が後ろを向く。
逃げるのだろうか、と思ったが、様子がおかしい。
「・・・今回だけは、ずらさないでくれよ、狙い」
183光と絆と引き金と ◆ok/cSRJRrM :2005/06/22(水) 22:25:08 ID:???
気付かれていたか、と心の中で苦笑する。
次に聞こえた言葉は、ガンスナイパーの思考を一瞬、止めさせた。
「殺したくないけど・・・このままじゃ皆やられちまう」
自分の行為の意図まで見透かされていた。ふと疑問が浮かぶ。
では何故、何も言わなかったのだろうか。照準をずらされていたのに。

「初めてお前に乗った時、『誰も殺したくない』って言ったよな。
 それを覚えててくれたんだろ?でも今は・・・撃たなくちゃならない」
笑い出したい気分だった。かつては自分が面倒を見ていた少年。
だというのに、今はまるで立場が逆である。
迷いは消えた。この少年は、自分の予想以上に強いようだ。

紅い魔爪竜が、こちらに向け口を開いている。
尻尾が、自分の意思に反してそこへ向けられる。
念のため、照準を確認してみる。―― 凄いものだ。
地表は平面ではないのに、狙いは正確。補正してやる必要はない。
後は、少年が引き金で合図してくれれば良い。

沈黙したジェノブレイカーを背後に、基地へと帰還する。
自分の中で眠る少年。その寝顔は、無邪気そのもの。
だが、彼の射撃は完璧だった。狙いも、撃つタイミングも。
発射寸前で出口を失った破壊の光は、内側から魔爪竜を焦がした。
その刹那、少年が動かなくなった。一瞬、恐怖を感じた。
が、耳を澄ませば、静かな寝息。緊張が解れたのだろう。

思えば、昔は人間を憎みもした。自分の身体を、兵器にしたのだから。
けれど今は、それも悪くないと感じる自分がいる。
頭の中で穏やかな寝息をたてる少年。彼に、出会えたのだから。
184Full metal president 86 ◆5QD88rLPDw :2005/06/23(木) 05:52:54 ID:???
「そろそろ手の内を見せてくれないかしら?
こんな所までエスコートして下さったのだから…。」
露骨に攻撃してこなくなった両機の行動は明らかに攻撃を誘ってのもの。
その上こんな距離まで誘導されたのだから誰でも気付くことである。
もう味方である伏兵が伏せて有る位置に程近い森の側…
当然の様に伏せられていた兵力からの砲撃を受ける2機。
しかし予定外の来客に放たれたそれは当然当たる筈も無い。
地上戦では最大戦速・最大加速力を誇るエナジーとゼロファルコンの改造機。
この2体に攻撃を当てる事は正攻法では100%無理な話なのだ。

「そこね。」
今度は脚部からの衝撃砲と胸部から指向性のエネルギー爆雷。
更には肩の後に隠していたロングレンジマシンガン34挺と大盤振る舞い。
限界こそ有るが…有る一定の物までは重さと銃身の長さで容易に飛距離を伸ばせる。
それを限界まで引き伸ばしたマシンガンの弾丸の雨。
素早く飛び退く2機の居た場所は穴だらけとなり更に衝撃砲とエネルギー爆雷で砕ける。
当たらなければ良いだけの話と言うが実際にはこれが一番難しい事である。
高速ゾイドはお世辞にも堅牢とは言い難く何方かと言うと吹けば跳ぶ程度の装甲。
高速機きっての重装甲の2機とは言えその程度はたかが知れている。
エナジーライガーの方でも最も硬い場所でアイアンコングPKと同じ程と言う事は…
他の部位は全て武装として使用する場所以外それなりという事になる。
ゼロファルコンに到っては硬いというより受け流し優先の3次元曲面。
それと翼として機能していた場所だけが砦である。

伏兵と本人からの複合砲撃は一重に砲弾の雨と言ってもスコールの域に達している。
それでもその大半がセブンスプロヴィデンスの物というのだから恐ろしい話だ。
「そうそう…知っているかもしれないけどこの子には誘爆するような場所は無いわ。
だって弾薬の全ては基地から撃ち出し時にのみ転送されるのだから。
でも薬莢はこっちに散蒔くけどね…。」
有り得ない連射の持続時間はこの為である。撥ねる薬莢が山と溢れ跳ねる。
更にその空いたスペースも冷却装置となり連射を助ける事に貢献している。
185Full metal president 87 ◆5QD88rLPDw :2005/06/23(木) 06:26:40 ID:???
「ならば!こちらも見せよう…一瞬の閃光。時すら止まる刹那の連鎖を。」
これまでエナジーチャージャーを真面に使用していなかったXWだが、
遂にこの時を持って真の力と使用法を執り行う。
X字のエナジーウイングを展開し何処其処となくエナジーサイクロンを披露するXW。
その後にはタキオン粒子の高速回転するトンネルが残る。
それ見たカサンドラの顔色が真っ青になる。
「ちょっちょっと!!!それって一定の量以上狭い空間に溜め込んだら…!」
タキオン粒子は本来タキオンの時点でそう言う意味なのだが取り敢えず突っ込み無し。
彼女が言いたいのは…
負の質量を持つこの粒子が有る一線を超えて一定の場所に存在し続けると…
時空間に科学的アプローチで異常が発生すると言う事である。

当然タキオンチューブ周辺の時間の流れはもう異常を発生させ景色が止まっている。
それを幾つか作るとXWとゼロファルコンはそのチューブに別々に飛び込む。
途中でゼロファルコンはゼロとファルコンに分離。各々チューブを高速で駆け抜ける。
そのタキオンの円周に包まれたチューブ状の空間。
それは光すら超え遅延波よりも強大な先進波の支配する世界…
現在が完全に固定された空間。それを駈ける機体には未来に進む為に通る道が無い。
遠回しな言い方だが先の世界に進むためには現在には通行証としての事象が存在する。
空気抵抗や重力や磁力諸々の抵抗を生む物。
それが無いという事は理論上無理な事が可能ということになる。

「しまった!?始めから…あああああああああ〜〜っ!?」
気付いた時には既に遅くタキオンチューブを駆け抜けた3機の機体各々の一撃。
それが交叉してセブンスプロヴィデンスを貫く。
そして…更におまけとして彼等が本来払うべき代償がセブンスプロヴィデンスを襲う。
神帝の離脱は確認したが残る部分は存在に見合わない壮大な花火と散る。
「逃がしたか…だが任務は折り返し地点だ。スプリンターズを援護。
その後同戦力と共に戦闘空域を離脱する!」
3機はまたスプリンターズの元へ派手な歓迎を置き去りに走り去って行く…。
これからきついエスコートの仕事が待っているのだ。
186悪魔対皇帝 1 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/23(木) 10:18:46 ID:???
共和国と帝国の長い戦争の時代が終わって数年後、共和国内のとある田舎町に
場違いとも思える程の豪華とも言えるロールスロイスが現われ、その町外れに止まった。
すると中からサングラスを掛けたスーツ姿の男達が現われ、その後で彼等に守られる様に
これまたスーツ姿の二人が出て来たのだった。
「本当に行きなさるのですな?皇帝陛下。」
「皇帝と呼ぶのは止めろズィグナー。今の我々は首都から来た商社マンと言う設定なのだ。
でなければわざわざ危険を犯してまでお忍びでやってきた意味が無いでは無いか。」
「そ、そうですが・・・。(商社マン名乗るならまずそのケバイ髪型何とかしろよな〜。)」
ネオゼネバス皇帝ヴォルフ=ムーロア。彼が身分を偽ってお忍びでかつて敵国だった国の
田舎町へ何故訪れたのだろうか。その原因については数年前にさかのぼる。

数年前、共和国と帝国の激しい争いが熾烈を極めていた。開戦当初、圧倒的勝利が
予想された帝国であったが、共和国の根強い反抗の前に次々勢力圏を失い、大戦後半には
共和国は帝国と同等、もしくはそれ以上の勢力を持つにすら至っていた。そして中央大陸
の中心線を挟んで両国軍の睨み合いが続いていた。

一方帝国軍首都の皇帝邸では、日々飛び交ってくる戦況報告処理に大忙しの皇帝ヴォルフ
の姿があった。そして彼は一息付きながら側近のズィグナーに軽く呟いた。
「なあ、お前“緑の悪魔”の噂聞いた事あるか?」
「緑の悪魔・・・ですか?」
「強いらしいな。」
すると話題を振って来た言い出しっぺであるヴォルフは黙り込んだ。沈黙が続く。
ズィグナーは嫌な予感がした。それと同時にヴォルフが立ち上がったのだ。
「ちょっとトイレに行ってくる。」
「お待ち下さい陛下。まさか緑の悪魔と戦いに行くのではありませんかね?」
図星だったのか、ヴォルフは立ち止まり、半泣き状態で振りかえった。
187悪魔対皇帝 2 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/23(木) 10:21:49 ID:???
「だってキツイんだよ〜。毎日毎日書類整理の単純作業・・・。後は皇帝としての儀礼的な
堅苦しい事ばっかりだし。たまには前線へ行って気分転換したいんだよ〜。」
「いけません!それに緑の悪魔と言えばこの世の者とは思えぬ地獄の使者ですぞ!
3メートルの巨体にバケモノのように肥大した筋肉。肌は浅黒く、セイバータイガーより
長い牙。その力は素手でデスザウラーを殴り倒し、果てには殺した兵士を細切れにして
食ってしまうそうではありませんか!レイ=グレックとはワケが違うのですぞ!そんな
バケモノに皇帝陛下を戦わせるワケには行きません!」
「マジで?マジでそんなバケモンなの?」
ヴォルフはガクガクブルブルと全身を振るわせ、体中から汗が流れ出ていた。
「怖いでしょう?ですから、奴と戦うと言うのは・・・。」
「見てみたい!是非とも見てみたい!そんな面白そうな奴見なくては男が廃る!」
「あ!お待ち下さい陛下ぁ!」
ヴォルフはまるで子供の様に喜び、ズィグナーの静止を振りきって部屋を出ていき、
ズィグナーもその後を慌てて追った。

一方中央大陸の中心線。双方の軍が睨み合いを続け、日々一進一退の工房が続いている
最前線にとある二人が降り立っていた。マオ=スタンティレル中尉と、その部下である
ライン=バイス曹長である。二人は苦戦を強いられているこの戦線へ、割と余裕のある
別戦線から態々ピンチヒッターとして派遣されて来たのだったが、マオの愚痴は
尽きる事はなかった。
「私等良いように使われているよね。」
「まあ、中尉は色々活躍してますし、それだけ高く評価されているって事でしょう?」
「だからってね〜。あっちへ行けこっちへ行けって・・・。まるで私自身囮にされてるんじゃ
ないかって時々思っちゃうのよね〜。まるで懲罰部隊よこれじゃあ・・・。」
「まるで懲罰部隊だとぉ!?ふざけるな!お前は懲罰部隊がどんな物か知らないから
そんな事が言えるんだ!」
「え!?」
いきなり口を挟んで来たのは一人の若き将校だった。その男は物凄い剣幕とオーラを
漂わせながらマオに近付いて来たのだ。それにはマオも思わずビクビク震えていた。
188Full metal president 88 ◆5QD88rLPDw :2005/06/24(金) 07:29:08 ID:???
「やっと抜けれた…。」
共和国軍を引き付けて貰っていた間にスプリンターズの面々は地面より這い出す。
そんな頃丁度コルレオニスが合流する。
「やあ!大丈夫だったかな?」
何故か陽気モードのエルリッヒが爽やかにメリージェに声を掛ける。
「(これだから此奴は嫌いだ…口を開かなければどれだけましか!)」
呟いたつもりが…外に声が漏れていたりする。

「何と!?それは本当かいっ!?それならば…………。」
突然だんまりを決め込むエルリッヒの醜態に堪えきれず周囲から笑い声が聞こえる。
それを見て顔を真っ赤にしたメリージェはこう言う…
「オレサマオマエマルカジリ!」
周囲の温度が2℃ほど下がる様な感覚と共にmk−VはXWの頭部に噛み付く。
「のおおおおおおおおおおお〜〜〜〜〜〜〜!?わっ私が悪かった!
悪かったから!もうやめてくれえええええええっ!!!」

「…。なんなのアレ?」
仏頂面でそれをモニターしているカサンドラ。
ここは…コクピット。だがこれらの種類の機体は搭乗口も二つ有る奇妙な様式。
先ずは普通のハッチ。もう一つは…彼等の自室のドア。
立場の違う者が者なら乗り口まで尋常じゃない威容を誇る。
呪装ゾイドの類は殆どがこのように一癖も二癖も有る物ばかり。
酷い物は機体その物にはコクピットが無く別の世界からダイレクトに操作する物も有る。
当然機体が爆発しようが基本的には乗り手は無傷。
機体の方もコアだけは自動的に回収され結果的にこの手の物の争いは…
殺し合いでしか決着が付かないのが常である。
「面白いじゃないか姉さん。強い者は正しい。それが…間違いでも。
今はそれが正義なのだから。僕らが作り上げた秩序…少しの間だけでも良い。
彼等にこの世の春をじっくり味わってもらうといいだろう。
これが完成するまでの間…確り踊り続けてもらう。予定通りに。」
サーレントは後方に広がる闇を見詰める…。
189Full metal president 89 ◆5QD88rLPDw :2005/06/24(金) 07:57:17 ID:???
そこに横たわる者はその中心に明らかに人にできうる技術では無い物。
横から見れば存在が確認できない薄さの金属板にビッシリと書き込まれた文字。
その文字も不変一般の知識では読む事のできない物。
それが中心の機械の心臓を守る様に数十枚存在する。
「これが…完成すれば大統領も賢者の王も如何にでも成る。
神すら到達できない領域を支配し全てをこの手で監理するときが来る…。
待ち遠しい事だ!」
その声に反応するように機械の心臓は怪しく蠢いた様に見えた。

「寒いな…心なしか…。」
「いや…現実だそれは!」
その場に居た全ての者に一斉に突っ込まれるエルリッヒ。
それもその筈で…彼の機体の頭部のコクピットカバーは存在していない。
先のやりとりで本当に丸齧りにされてしまっていたりするのだ。
流石にライオムーンは咬み砕かれる事は無かったがカバーは食べられた。
気温の低い山を駈け降りながら包囲網を格闘のみで料理している彼等。
やがて海が見え包囲を突破する事に成功。
ワイワイガヤガヤ騒ぎながら堂々と森へ消えて行く…。
残っていたのはX字に引き裂かれた機体多数。
量では質を上回れないと言う事例を後に残したこの日の戦闘。
共和国軍では”Xインパクト”と呼びXWを駆るエルリッヒの存在を神格化する…
そんな不名誉な結果を残す事になった。

ー 舞い降りたるはXの獅子 終 ー
190悪魔対皇帝 3 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/24(金) 09:02:42 ID:???
「何だぁ?お前震えているのかぁ!?それで良く軍人勤まるなぁ!まあ良い・・・
忘れるなよ。懲罰部隊ってのはお前が思っている以上に甘くは無いと言う事だ!」
将校はそう言い残して去って行ったが、二人は黙り込むしか無かった。
「中尉、大丈夫っすか?」
「あ〜怖かった〜・・・。いきなり怒るんだもんな〜。何でキレたのかな〜?」
と、ほっと胸を撫で下ろす二人の前に一人の下士官が現われた。
「彼は元レイフォースのレイ=グレック中尉ですよ。」
「元レイフォースって・・・あの何かやらかして懲罰部隊行きになったエリートの
末路みたいなの?それにレイ=グレックって・・・。レオマスターの?」
「なるほど、レイ中尉?が怒っていたのは懲罰部隊だったからなんだ・・・。」

一方その頃、基地格納庫で愛機であるゼロファルコンの調整を行っていた将校、
すなわちレイ=グレックに整備員の一人が離し掛けていた。
「レイ中尉、先程マオ=スタンティレル中尉と何かやってましたが何かあったんですか?」
「ん?ああ、あのガキマオっつーのか。アイツならあんまり戦い舐めてそうだったから
ビシッて言ってやったよ。ってか何でアイツが中尉なんだよ。ビクビク震えやがって。」
レイはまだイライラしている様子だったが、整備員は笑ってさらに言った。
「いや〜凄いですな。レイ中尉の前では流石の緑の悪魔も形無しですか!」
「え?緑の悪魔って・・・。」
「知らないんですか?彼女がそうなんですよ。」
「お前な、ウソはもっと上手につけ!緑の悪魔と言えばこの世のものとは思えぬ地獄の
大魔王だぞ。あんなガキがそんなもんなワケ無いだろうが。もし本当にそうだったと
したら俺は今ごろ神様になれてるっての!」
マオの知らない所で本人が聞いたら絶対切れる+セクハラ扱いな程、“緑の悪魔”の噂が
一人歩きしまくっていたが、言うまでもなく本人には知る由も無かった。

それから一時して戦闘が始まっていたのだが、やはり懲罰部隊はその中でも特に敵の
攻撃の激しい場所へ配置されていたのだが、レイはその毎日の中を戦い抜いていた。
191悪魔対皇帝 4 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/24(金) 09:07:28 ID:???
「次こそヴォルフを完全に倒すまでは・・・俺は死ぬかよ!」
共和国首都奪還戦以後も、レイは打倒ヴォルフに熱を注いでいた。が、その時、共和国軍
が築いた巨大な防壁を乗り越えて進撃しようとするデスザウラー部隊の姿が見えたのだ。
「ヤバイ!あんな物が本陣に進入したら!」
レイはゼロファルコンを飛ばした。と、その時だった。
「撤っ退!撤っ退!帝国軍はさっさと撤っ退!」
と、まるで何処かの迷惑おばさんみたいな叫びをあげながらマオの愛機であるゴジュラス
ギガ“カンウ”が防壁から顔を出し、乗り越えようとしていたデスザウラー部隊を
まとめて殴り倒していたのだった。
「お・・・お前・・・。」
「あ!誰かと思えば貴方はさっきの怖い中尉さんじゃありませんか!貴方レオマスター
なんですって?まあお互い頑張りましょうよ!」
と、マオの意思に反応してカンウがレイのゼロファルコンに手を振っていた。
「なるほど・・・。俺の見込み違いだったって事か・・・。もっとも、良い意味でのな!」

最前線での戦いは続いていたが、後方からその光景を見守る二人の将校の姿があった。
「アレです。あの緑色のギガが緑の悪魔の乗機です。」
「なるほど。確かに噂通りの強さだ。」
周囲の空気を読まない態度を取る二人に他の兵士達がイライラしていた。
「何なんだあの二人は!」
「軍本部から派遣されたVM少佐とその部下のZF大尉と名乗っていますが・・・。」
勿論賢い読者はお分かりだと思う。そのVM少佐こそ、将校に成りすまして最前線へ
赴いたヴォルフその人であり、そしてZF大尉はズィグナーである。
「よし行くぞ!他の機体を寄せ付けないよう露払いは頼んだぞ!」
「了解です!しかし、本当に一人で大丈夫なので?」
「何度も言うな!それにこの機体は帝国きっての天才、ドボルクがカスタマイズした
機体だ。負けはしないよ!」
ヴォルフはエナジーライガー、ズィグナーはデスザウラーでついに出撃した。
目的はカンウのみである。
192大切なもの、そうでないもの ◆ok/cSRJRrM :2005/06/24(金) 21:33:50 ID:???
(あと一時間・・・か)
青年が溜息をつく。これで何度目のことだろうか。
彼が座っている場所は、作戦司令室の中央。そこにある椅子。
父親が共和国軍の上層部の人間だから、彼はこの場に座っている。
作戦開始の予定時刻までは、残り一時間。

父の影響もあって、軍に憧れていた彼は、名を偽って入隊していた。
そこで彼は、自分の予想していた戦争と現実の差を見せ付けられた。
消えていく仲間。憎しみと怒りと悲しみ。
そして、それらを振り払うために、皆で笑っていた。
「どうして・・・こうなるかな・・・」
名を変えたところで、父親の目からは逃れられなかったのである。

作戦内容自体は、父の計らいもあって実に簡単なもの。
山脈を背にするように建造された基地に、地上部隊を差し向ける。
そして、地上で交戦している間に、飛行ゾイド隊が基地に爆撃を行う。
合図さえすれば、手柄が勝手に彼の元へやって来るはずであった。

だが、その地上部隊こそ、彼がかつて所属していた部隊。
自分が司令官になることを打ち明けると、仲間は皆、祝福してくれた。
けれど、このままでは自分の指揮で彼らを失ってしまう。
あの部隊には、迎撃や奇襲に適した機体は多い。
だが、今回のように正面から突っ込むには不向きなのだ。
そのため普段は、シールドライガーを他が援護する戦法を取っていた。
よってシールドライガーの損傷は激しく、今、動けるのは二機のみ。
「せめて、あと一機、動けるなら・・・あ!」
193大切なもの、そうでないもの ◆ok/cSRJRrM :2005/06/24(金) 21:34:40 ID:???
司令室の人間には、すぐ戻る、と嘘をついた。。
彼は、ただ真っ直ぐ倉庫にいる愛機に向かって走る。
地位と、父がもう一つ自分にくれたもの。ブレードライガーの元へ。
制止する整備兵を無視して、壁を自慢のレーザーブレードで切り裂く。
「まだ俺は・・・指令官なんかじゃない!」
そう。形式上、彼は昇級と『同時に』作戦を指揮するはずだった。
つまり、作戦が始まるまで、彼はまだ普通の軍人なのだ。

上空に、サラマンダーの部隊が見えた。
「よし!皆、退くぞ!」
通信機に向かって叫ぶ。彼は陣頭指揮と称して戦場で戦い抜いたのだ。
新品同様だったブレードライガーは、今やボロボロである。
装甲は剥がれ、レーザーブレードも一本折れた。
けれど、ライガー自身は嬉しそうな雄叫びを上げている。

父親には怒鳴られるだろうが、そんなことはどうでも良い。
通信機越しに、口々に自分を讃えてくれる声が聞こえる。
破損した機体こそいたが、誰も失ってはいない。

気付けば、『最前線のお偉いさん』と言う二つ名が自分に付いている。
結局、彼は指令室にはもう行っていない。
階級も何も気にしない中間達と共に、笑い合っていられる。
そこが、彼にとって最高の場所なのだから。
194三虎伝説 エピソード25 デス:2005/06/24(金) 23:25:26 ID:???
暗い空が見守る決勝戦。男の眼の前に現れたのは、一人の死神だった。
その死神は、ローブの変わりに漆黒の装甲で身を包み、鎌の変わりに鋭い一角を頭部に、
禍禍しく輝く真紅の槍を二つ背に備えた、獅子の姿をしたゾイドだった。

「死ねだって?急に邪魔が入ったと思ったら、随分と過激な事を言いやがるな」
グラントが言った。獅子はそれに答える素振りも見せずに、槍を掲げて構えた。
「ちっ、問答無用か。なら希望通り返り討ちにしてやるぜ!」
グラントが怒鳴り、反応したゴジュラスが一歩踏み出す。時が止まる。

最後まで悲鳴は上げなかった。それが、そのゴジュラスの誇りだった。
雨が強くなり、雷がなった。ゴジュラスが死んだ。
死神・エナジーファルコンによって勇ましい1つの命が、この世から消滅した。

操縦桿が冷たくなるのを感じた。グラントは信じられなかった。
相棒が遠のくと同時に意識も遠のくような気がした。

攻撃を受け止めたはずの腕は消失し、血に染まった槍はゴジュラスからコアを奪った。
壊れた人形のようになったゴジュラスは天へと持ち上げられると、無残に身を引き裂かれた。
バラバラに散らばって落下する。グラントはその中で意識を失ったため、
コンソールで頭を強打した痛みしか感じなかった。
「これで作戦完了だ。」
エナジーがバルカンを転がったゴジュの首に向けた。グラントも殺すつもりだ。
「まて!」
声が掛かるとバトルロイヤル用の八つの扉が全て開き、ガンナーモードに変形した
ディスペロウ六体と、ライガーモードのレオゲーターが二体姿を現した。
ブルーナイツ隊から選出されたZOITEC特別警備部隊だ。
「お前は完全に包囲されている。今直ぐ武器を捨て、投降しろ!」
195三虎伝説 エピソード25 デス:2005/06/24(金) 23:29:17 ID:???
「お前…か、偉くなったものだな。」
エナジーは1つ吼えると地面を蹴った。精鋭ディスペロウ警備隊は
直ぐに反応し、ロングビームを雨あられと浴びせ掛けた。
全方位からの射撃攻撃。普通のゾイドならイチコロのこの戦法も、
このゾイドの前では無力だった。エナジーは走り出すと共に
バスタークローの一つを前面に、もう一方を後面に向けることで、
全方位にEシールドを張ったのだ。
当然、一切のダメージも与える事が出来ない彼等に未来は無かった。
ある一体は爪でパイロットごと砕き潰され、ある一体は凄まじい熱で壁と1つになり、
数分と立たずにディスペロウ全てが残骸に姿を変えた。
残るレオゲーターも突撃したが、一瞬で残骸の山の一部とかした。

「お、俺達も殺される…」
急に立ち上がると、観客の1人が呟いた。それをきっかけに、今まで、
恐れつつも一部始終を見守っていた観客達が一斉にパニックに陥った。
「落ち着け!落ち着くんだ!」
観戦に来ていたダムは声を上げ、混乱する観客達に誘導を呼びかけた。
それを見てZOITEC職員達も誘導を始めるが、騒ぎは宥まるどころか
ただ大きくなるばかりで、彼等の仕事は困難を極めた。

196三虎伝説 エピソード25 デス:2005/06/24(金) 23:29:35 ID:???
「少々邪魔が入ったが、これで終わりだ…作戦外であるが、
ついでに後二人の邪魔者にも消えてもらうとしよう。計画の障害は、
少なくて困るという事は無いだろうからな…」
エナジーは残骸の山頂に駆け上がると、ビームキャノンの砲をゴジュラスに、
そしてバスタークロー基部のビーム砲をそれぞれ、レオストライカーとディバイソンに向けた。
「さらばだ」
ダークがトリガーを引くと、三つの閃光が放たれた。
三人の戦士を襲う死の光。それが今、まさに直撃しようとしたその瞬間、奇跡が起こった。
なんと、青白い閃光が突然オレンジ色の光に変わり消えてしまったのだ。
「これは?」
ダークが目を凝らすとそこには三体の小型ゾイドの姿があった。
「燕型、カブトガニ型、そして猪型…?これはもしや!」
振り向くと、リングの淵に立つ青い龍の姿があった。
「もう、これ以上殺させはしない!人も、ゾイドも!!」
青年の声が強く響いた。凱龍輝が高い咆哮を上げた。
197Full metal president 90 ◆5QD88rLPDw :2005/06/25(土) 03:15:59 ID:???
「この喧噪は…一体何の騒ぎですか?大統領?」
ミリアンの声には怒りすら篭もっている。それも当然で…
ファインがホバーカーゴに行かせた場所は悪名高きエウレカ施設。
その14番目で島自体がカモフラージュだったと言うオチ。
ここまではまだ良い。しかしこの施設…発見し再開発された跡が有る。
機能美に優れただけでなく隠し部屋や隠しガレージが一杯のびっくり箱その物。
その為ここに着いてから2ヶ月も経つというのに全てを把握しきれていない。
遂にその忍耐に限界が来たミリアンの目には…
楽しく隠し部屋を探しているマクレガーの姿が忌々しく映るのだった…。

ー 我は天宮 ー

「うわぁ!?ミリアンさんが切れたああああああ!?」
ジェスターはその般若の如き表情を見て腰を抜かしてしまう。そして…
床のスイッチが入り彼女が最も忌み嫌う意味の無いトラップの発動。
今回は巨大スポンジの球体。猛烈な勢いで彼女達探索斑Aは外壁に押し付けられる。
「ジェ…ジェスターさん?」
「は…はひぃ!?」
「せめて…最もましなトラップに掛かれば良かったのに。
また道を戻らないと成らないわ…。」
精一杯穏やかな言葉を選んでいるようだが声はそう言う風には全く聞こえない。

「彼女はこう言うのは嫌いだからな…プライベートではそうでは無いらしいが、
仕事での御巫山戯は厳禁。だから施設自体が御巫山戯のここは鬼門だな。」
マクレガーがミリアンに聞えない様に話していたが…
「大統領?逸れた時のための通信マイクのスイッチが入りっぱなしですよ?」
確り聞こえている。
「ソーリーソーリー私が悪かった…だから…チョ……ク…は…止…めて……。」
その言葉を最後にマクレガーは墜ちる。
今日の探索が終了した瞬間だった。
198Full metal president 91 ◆5QD88rLPDw :2005/06/25(土) 03:57:54 ID:???
「マスターファインと言う男…唯の馬鹿ね。それもホームラン級の馬鹿。」
ミリアンは本人が居ない事を良い事に毒吐く。
この施設を改装したのは間違い無く彼で…
上部に在る港町は偽りでありそうで無い不思議な場所。
ミリアンが聞いた話では地殻変動の繰り返しで沈没した島からの難民らしい。
そしてそのまま定住したという流れだったそうだ。
島自体が季節毎に移動する為最適な漁を行う事ができ観光にも適してる。
島民の生活レベルは近年爆発的な成長を続けるブルーシティ並みのもの。
完全に世界から浮いてしまった浮き世離れの世界だ。

だが最近は新政府の鎖国によって観光に来る客も魚介を求める者も来ない。
自活はできるがやっと動き始めた文化レベルの向上の妨げとなっている現状。
デルポイの政変は間違い無く周囲の迷惑であることには違い無い。

ここで彼女はエウレカ14に小さな島レベルの規模を持つ空母戦艦ゾイド…
凡ゆる意味で突っ込み所満載な者が存在するらしいとの情報を得る。
そんなゾイドはホエールキングのみで件のそれは中途半端極まりない存在。
中途半端な火力と積載量で何方かに重視した設計であれば共和国に勝利は無かった。
そこまで言われた残念な存在。
こんな例しかないのでミリアンには到底役に立つ存在とは思えなかった。
しかし何故かその存在に惹かれる不思議な感覚が在り思いきってマクレガーに報告。
そして今の状態となる訳である。

彼女の後のガレージにはまたまた突っ込み所満載な超兵器の数々が横たわっている。
大型ゾイドが手に携帯する形で持つショックマシンガン、ショックショットガンそして…
ショックマグナムにショック銃剣。この銃オタクめ!と言いたくなるような火器。
装弾数制限無し。空気さえあれば壊れるまで連射可能な馬鹿兵器。
他にもマグネイズアンカーユニットや巨大な水中銃。果てはヒーローものを連想させる…
ブースター付き追加装甲やら何に使うか解らない巨大大工道具等枚挙に暇が無い。
「本当に大丈夫かしら?私達…。」
多分ミリアンでなくても心配する趣味の武装見本市状態である。
199悪魔対皇帝 5 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/25(土) 09:38:14 ID:???
「アレから何年経ったか・・・。まさかアイツが料理店を経営しているとは世の中何が
起こるか分からない物だ。しかもかなり美味いという噂では無いか。」
本人達は商社マンに成りすましたつもりであろうが、誰もが見ても違和感バリバリな
雰囲気を醸し出す異様な集団は、ついに目的地である“料理の猫屋”へ到着した。
「これが緑の悪魔が経営していると噂の店ですか。」
「そうだ。では行くぞ!」
ヴォルフはまるで激戦地に赴くような緊張感で店の戸の取っ手を掴んだ。

結局あの戦いはどうなったのか。あえて説明するならば“痛み分け”と言う所であろうか。
真の強者同士の戦いは永遠に続くか一瞬で決着が付くかのどちらかであると言われる。
二人の戦いは前者の方だった。ヴォルフのエナジーライガーは火器と翼を破壊され、
カンウは左腕を破壊された。双方まだ戦う事は出来た。しかしそうはしなかった。
「あの場合、やはり逃げた私が負けた事になるのかな?」
「しかし、貴方は国を背負って立つお人なのです。あそこで逃げたのは懸命な判断です。」
「そうか・・・。まあお前もあのレイ相手に良くやったよ。」
露払いを担当したズィグナーもヴォルフとの戦いを急くレイを押さえるので精一杯だった。
確かにその戦いは戦略的に意味の無い物だったのかもしれない。しかし、二人にとって
とても充実感のある戦いであった事も確かであった。

「ハイいらっしゃいませ〜!」
戸を開けて始めてヴォルフとマオは邂逅を果たす事となったが、彼はすぐにズィグナーを
睨み付けた。
200悪魔対皇帝 6 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/25(土) 09:39:09 ID:???
「おい!あれの何処が緑の悪魔なんだ?以前言っていたのと全然違うじゃないか!」
「そんな事言われましても・・・、私も人づてに聞いただけですし・・・。」
「オイ!とはいえ・・・。これもまあ事実は小説より奇なりって事になるのかな?
まさかこんな美人だったなんて。まあアンナに比べれば大した事無いが・・・。」
「お客さん!美人なんて何処にもいませんよ!」
「いや、あんただあんた!」
「冗談キツイですねお客さん。それはそうと、ご注文はいかがですか?」
ヴォルフとズィグナー、そして同じく商社マンになりすました護衛団はマオの店で
焼き魚定食を召し上がり、帰って行ったのだったが、マオはその後姿を見送っていた。
「思ったより面白い人だったな〜。ヴォルフ皇帝は・・・。」
どうやらマオも彼等の正体が分かっていた様子である。

そして帰路へ付くロールスロイスの中でヴォルフは静かに空を眺めていた。
「美味かったなズィグナー。」
「はい美味かったです。」
「また来ような。今度は売れない漫画家に成りすまして。」
「そ・・・それはどうかと・・・。」

こうして歴史の狭間に埋もれたこの二人の出会いの物語は静かに幕を閉じる。
願わくば、両国が永遠に平和であります様に。
201強さと弱さと優しさと ◆ok/cSRJRrM :2005/06/26(日) 15:28:31 ID:???
出撃命令を受けた青年の顔は、暗く沈んでいる。
彼が乗り込む機体は、ダークスパイナー。
受領された時はどんなに喜んだことだろうか。
ジャミングウェーブを自分の良いように解釈していた。

ダークスパイナーの背びれから放たれるそれ。
当初、彼はそれを、敵を止める物だと思っていた。
相手を撃たなくて済む。そして、撃たれなくて済む。
そんな夢のような武装だと、信じて疑わなかった。

あの日の光景は目に焼きついて離れない。
迫り来る敵の部隊に、意気揚々と背びれを向けた。
確かに、攻撃していないし、されてもいない。
彼は、地獄を見届けるしかなかったのだ。

不可視の電波を受けた共和国のゾイド部隊は、悪鬼と化した。
手近の機体へ、その牙を、爪を叩き込む。
「止まれ、止まってくれ!」
叫んでも、眼前の惨劇は止まらない。
ついに、動く敵はいなくなっていた。

薄々気付いてはいたのだ。ジャミングウェーブが、そんなものだと。
それでも信じたかった。誰も傷つかない、夢のような武器の存在を。
だが、兵器は、あくまでも兵器でしかなかったのだ。

戦場で彼は、愛機の中で苦しみ続ける。
自分自身の優しさと、罪悪感とに板挟みにされながら。
今日もまた、涙を溢れさせながら引き金に指をかける。

彼からは既に、優しい微笑みは消え失せていた。
202Full metal president 92 ◆5QD88rLPDw :2005/06/27(月) 02:54:58 ID:???
そんな武器の山からミリアンは目を別の方向に移す。
そこでは同じく同施設内に棲息していた謎の生命体群。
こっちの方は彼の趣味ではなく共和国と両帝国の作り出してしまった遺物。
潜入して調べたところ…施設内で完全なミクロコスモスを形成していたらしい。
兵器の実験の煽りを喰らった者。兵器として生み出されたものの失格だった者。
各々経緯は様々だがここで上手く遣っているという事だ。
「兵器として失格…まあこれでは…あひゃ!?跳び付かないの!」
小さなサイズで2本の尻尾の中に致死性の毒を持つリスが彼女に跳び付く。
特に何をする訳でもない。じゃれているだけで攻撃の意思は全く感じられない。
これが失格の理由でつまるところの…
”人懐っこすぎて武器として使用不能”と言う事である。
訓練の利便性を考えてロボット3原則の様な条項を脳に焼き付けて有る。
まあそれでは敵であっても人には危害を加えられないと言う事だ。

この島全体で奇妙な生態系が出来上がっているが彼等は外に移住する気は無い。
移住したところで屠殺されるか見せ物小屋の見せ物…果ては剥製と成るのがオチ。
そんな考えがミリアンの頭を過り人は本当に自分勝手だなと思ったりもする。
そんな中で特に大きな良く解らない熊っぽい固体と相撲をしているマクレガー…。
「私は…惑星Ziの坂田金時に成ってみせる!」
と羽目を外しているのをミリアンは見て諦めて寝る事としたようだ。
そして寝床へ行く際に…
「”まさかり”を担がなくて何が坂田金時ですか?」
と嫌味たっぷりに突っ込みを入れて置いた。

「?これは…夢ね。」
何も無い真っ暗な空間にミリアンは居る。イライラしている時等に決まってみる夢。
その舞台がこの何も無い真っ暗な空間である。
だが今回は何時もと違い巨大な音がリズム良く一定の感覚でしている。
それに…心なしか少し赤くそして…重金属の混合体の匂い。
「余りに執着し過ぎているのかしら?ゾイドのコアの前みたい…。」
その声が空間に響くとそれが染み渡るかのように明度が上り空間に彩りが生まれる。
203Full metal president 93 ◆5QD88rLPDw :2005/06/27(月) 05:52:31 ID:???
「(我を呼ぶは貴方か?我を求めるのは貴方か?我は天宮。されど空には無い。
我は空を見る事無く翼折られ海に漂うのみ…。)」
空間全体に流れる声。ミリアンの夢に入り込んだ何かの意思。
ミリアンは無理と解っていても何とか全神経を集中させ声を聞こうとする。
やはり夢の中否覚醒状態の意識では無理が有り過ぎそれと裏腹に声を聞くのみ。
「(そして…今我は数十年前に翼を持つ者に出逢いそれを与えられた。
きっと何時か継ぎ足しされた翼がはばたく日が来ると。
それが今ならばこの声を…我が声を!我が新しき翼を!我を!求めたまえ!
貴方の求めるまま…我は羽ばたかん。遠く恋い焦がれた空へ!!!)」

ミリアンの目が醒めた時既に日は中天に達し初夏の日差しを照らせる場所に与える。
起き上がる時に頬を伝う何か。手で拭うとそれが涙である事を確認するミリアン。
「(急がないと…今回だけは!今回1度限りは…あの声を信じる!)」
誰に告げるとも無く彼女はできるだけの装備を身に付けドントレスに乗り込む。
やっとの事で安定性のある機体に乗ることができる様になった…。
それを活かすのは今しかないと彼女は確信して施設内に侵入する。

「おい!あれって…大統領の。」
「その様だな。しかも躊躇の無いあの動き…ビンゴの様だ。」
新政府側も黙ってこの探索行為を見過ごす事は無い。
そう言うよりはかなり前より彼等はマクレガー達が求める者を探し続けていた。
唯…頭がすげ変わっただけの話である。
「綺麗だな…嫁さんにするなら顔があのレベルなら宝物だぜ。」
3人かがそんな話をしているが…
「静かにしろ…我々は見極めなければならん。今の政府に着くかそれとも…。」
「「「彼処の彼女の側に着くかを。」」」
「その通りだ。万が一の事もある付けるぞ!リガス!リオード!リカルド!行くぞ。」
「「「了解!」」」
サンドスピーダー2機を両脇に繋げたメガトプロスに乗り込み彼等も行動を開始する。
目的は巨大空母戦艦ゾイドの発見とそれの道標に成り得るミリアンを秘かに護衛。
しかしこの5人がそれの全容を知るまでにはかなりの時間を要する事となった…。
204ルーガスの野望 1 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/27(月) 10:07:12 ID:???
ルナリスの祖父、ルーガス=バッハードはバッハードコンツェルンを一代で築き上げた
大実業家であるが、今では引退し、名誉会長として静かな余生を過ごしている。
そんな彼も、若い頃は帝国軍の少将として名を馳せていた。彼が特に情熱を注いでいた事、
それは共和国軍の士気高揚の要因の一つとなっていた“緑の悪魔”の異名を持つエース
パイロットを倒す事。士気高揚の原因となっているエースを倒せば後は烏合の衆。
そう言う理論の基に数々の作戦を展開していたのだが、実はそれは大義名分と言うか、
単なる建前に過ぎ無かった。何故そうなってしまうのかについて、この様な逸話がある。

帝国と共和国の大戦も真っ盛りなある日の事、ルーガス直属の諜報員“サスケ=サルトビ”
はルーガスの部屋へ呼び出されていたのだが、入室した瞬間彼は凍り付いてしまった。
「うおわぁっ!ま・・・また何か増えてる・・・。」
サスケが凍り付いた原因。それは部屋のあちこちに置かれた一人の女性を題材にした
グッズの数々だった。それらはポスターからフィギア、肖像画まで様々だった。
「やあやあサスケ君。思ったより早かったね。」
「と、頭領・・・じゃなかった少将閣下、貴方一体何をやってるんですか?」
「何を言う!これも立派な緑の悪魔対策研究の一環だぞ!それに見ろ!つい今さっき、
6分の1マオちゃんフル稼働フィギアが完成したんだ。色々なポーズが付けられる上に
このボディーラインが改心の出来であろう!それに着せ替えも出きるんだぞ〜!」
と、手作りの女性のフィギアを自慢するルーガスの姿はまるで危ないオタクの様だった。
彼の部屋に飾られた写真やポスターは販売品では無い。全てルーガスが写真を加工して
作った代物であり、その写真を調達する為だけにサスケが駆り出される事もあった。
「(あ〜あ〜・・・。これさえ無ければ真に立派で素晴らしい人なのに・・・。この人をここまで
変えてしまった緑の悪魔ってのが憎くて仕方ないよ。)」
ルーガスはまるで本当のオタクの様に自作のグッズの自慢を続けていたが、サスケは
呆れて涙がちょちょびれてしまう程だった。
205ルーガスの野望 2 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/27(月) 10:11:29 ID:???
「(しかも同人誌にまで手を出しちゃってま〜・・・。何だよこの“ルーガス×マオ”って・・・
本当に泣けてくるよ。いつか絶対セクハラで訴えられるよアンタ・・・。)それはそうと、
頭・・・少将閣下。自分を呼んだ理由とは何ですか?」
「ああ、そうだったね。では本題に入ろう。」
するとどうだろうか、先程まで気の抜けた顔だったルーガスが一気に引き締まった顔に
なったのだ。それにはサスケも感激していた。
「実はな。以前から暖めていた“キャットウェディング作戦”の決行を決定したのだ。
それには君の力も必要なのだが、手を貸してくれるな?」
「了解!喜んで!(これだ!これこそ俺の尊敬するルーガス頭・・・少将閣下なんだ!)」
その時のサスケたるや、それはもう見事な敬礼だったという。

その頃、ルーガスの攻撃目標である“緑の悪魔”ことマオ=スタンティレル中尉は
戦いの日々の合間にようやく出来た休日をとある町で謳歌していた。
「いや〜。久しぶりにやっと休めるよ。こう羽を伸ばせるのって良いよね〜。ラインも
一緒に来ればよかっ・・・。」
突然マオは黙り込んだ。嫌な気配を感じ取ったからである。彼女はその異名や活躍ぶり
から、もはや命を狙われるのは慣れっこになってはいたが、今感じるその気配はそう
言った物とはまた異質の物だった。ただ言えるのはすさまじい“気”である事である。
マオは一般市民の被害を最小限する為、人通りの少ない裏通りへ移動する事にしたが、
その後をサングラスを掛けた一人の少年が付けていた。
「(アイツ私の後を付けて来るけど、あの気の正体は奴じゃないね)」
裏通りの特に薄暗い所へ入った後、マオは後ろを振り返り、サングラスの少年を見詰めた。
「あんた私の事さっきから付けてるけど、ストーカーって奴?激しく怖いんだけど。」
「まあそう言う事さね。でもまあそれもすぐ終わるから安心してや。」
少年はサングラスを外すと構えた。その正体はサスケである。
そしてその直後、彼はその場からフッと姿を消した。
206Full metal president 94 ◆5QD88rLPDw :2005/06/28(火) 03:55:59 ID:???
ミリアンの駆るドントレスは素早く奥に移動しとある壁の目の前に到着する。
ああ見えて順列を正しくする事をモットーとするマクレガー。
彼女が如何意見しようともその方針を変えなかったので独断での行動。
それ故この手の機体に乗るときに装着する強化服は着ていない。
だがあれは戦闘になった際の安全用と言う側面が強く、
ゾイドを相手にしない限りそれを必ず装着する必要性は無い。
それを影から覗く者達は…
「危ねえな…こりゃ護衛は必須だ。」
リオードはハンドガンにマガジンを挿す。それに習うように他の者も同じくそれをする。

ミリアンはドントレスを降りると…壁を慎重に叩く。
少しして彼女にも解る音で奥に空間が有る音が聞える。
するとドントレスに跨りそこら中を動き回り床のスイッチが無いかを調べる。
それを済ませると今度は壁…何と簡単に壁が回る仕様だったらしい。
「「「「え〜〜〜〜〜〜っ!!!」」」」
思わず声を上げてしまった4人。
こんなに簡単な仕掛けだと誰も思っていなかったらしい。
「誰っ!?」
ミリアンは振り向く…そこには強化服を着けて銃を持った男4人。
素早く護身用のガンファーを構えるがあっさり押さえ込まれてしまう。

「悪いな。手荒な真似はしたくなかったのだが…
こんな簡単に壁の向こうに行けるとは思っても見なかったものでね。」
隊長のレイガがそう言って彼女の手を離し銃を床に投げて手を上げる。
それに習い他の3人も同じく無抵抗な状態になる。
「争う気は今の所無いって所ね…じゃあ銃を取って着いてきて。
この先は何か嫌な予感がするのよ…勘の鈍い私がそう言うのだから解るでしょ?」
「了解した。しかしあの魔術師がこんな簡単な仕掛けを置いているとは驚きだな…。」
レイガのその言葉にミリアンはこう答える…
「裏の裏をかけばこうなるのは当然だと思うわ。相手の意表を突くのが魔術師。
そう本人が言っていたわよ。」
ミリアンは手を上げ舌を悪戯っぽく出しそんなの解るかよ!とゼスチャーをして見せた。
207Full metal president 95 ◆5QD88rLPDw :2005/06/28(火) 05:09:09 ID:???
闇が蠢く。
そこは長らく自然はおろか機械的な光が入っていない空間。
うめき声が聞こえる…さっき捕まえた今日の昼飯の声だ。
気にせず胴体の真ん中当たりから咬み千切り胃袋に収める。
何れくらい時が経ったのだろう…それは本人にも解らない。
だが解る事が一つ有る。それは…
特大のご馳走が…自分をこんな場所に押し込めたご馳走の匂いがする。それだけ。
闇は嬉しそうに喉を鳴らせた…。

「なんだって!?そんな化け物ゾイドが下層に居たと言うのか!
不味いな…何かを見付けたらしくミリアン君がそこに向かっているじゃないかっ!!!」
頭を抱えて右往左往しているマクレガー。
遊んで居る訳では無いが確固とした証拠がない限り大きな動きは避けたかった。
だが最深層への道は既に開かれておりそれが起動キーとなり別の入り口、
ゾイド用の搬入路が開かれそこから有害な存在が湧いて来て居るのだ。
「はっ!?こんなことをしている場合じゃない!カムヒア!パープルオーガッ!」
とんでもない呼び声で目の前に走り寄ってくるパープルオーガ。
彼を摘むとコクピットに放り込み手近なショックマシンガンを取り行動を開始する。
戦の…闘争の匂い。それを逃す程彼は鈍くは無い。
早速現れた同クラスのそれをマシンガンで蜂の巣にする。
宴の始まり…彼れのみによって行なわれる暴力と殺戮の宴。
あっと言う間にそれが終わると今度は施設に走っていくパープルオーガ。
次の獲物は施設内に居ると解り切っているらしい…。
その間マクレガーは…コクピットの中で派手に転がっていた。

「人員用通路が別途に有るってかなり警戒していた見たいね…
遊びもセキュリティも違う意味で手加減無しって所かしら?」
入り口より先は有害な存在を隠していたらしいと言うより隔離及び封印と言うレベルだ。
奥からは清掃されていない汚染空間とも言うべき匂いが充満しそれが流れて来ている。
更にこの匂いは…両生類系の捕食者(プレデター)特有の嫌な匂い。
ミリアン達は手持ちの火器のみならずゾイドの火器のセイフティーロックを外す。
絶対に引く気は無い。今引けばチャンスを失うばかりか彼等を自由にしてしまうからだ。
208訪れぬ春 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/28(火) 23:08:19 ID:???
真っ白な雪景色。恐らく、今夜は出撃命令は出ないだろう。
山の斜面を削るようにして作られた基地。
窓を見ている青年は、安堵の溜息を漏らした。

彼の住んでいた街は、こことは別の山の麓にあった。
丁度あの時も、今のように雪が積もった静かな夜。
流星群が見られる日だったので、気の合う友人達と近くの丘にいた。
そこから、全て見えてしまった。

二機の飛行ゾイドがもつれ合うように山の斜面へと吸い込まれた。
墜落。その衝撃が原因で、雪崩が起きた。
夜中の出来事である。ほとんどの家は、静かに雪に呑まれていった。
家も無ければ、人もいなかった。そこに街など存在しなかったように。
そして、墜落した機体を確認しに来たであろう軍人に、保護された。

彼に与えられた機体は、一人乗り用に改良されたスナイプマスター。
改良、と言ってもスナイパーズシートを廃しただけであるが。
主な任務は、上空を偵察に来る敵飛行ゾイドを撃ち落とすこと。
彼の狙いには寸分の狂いもなかった。
翼だろうが、推進機関であろうが、何の躊躇もなく弾けさせてきた。
バランスを失って落ちていく敵を、どこか楽しそうに見つめながら。

「・・・嬉しそうね」
背後から女性の声。こちらも、あの街の生き残りである。
彼女が生きている理由は、偶然、雪崩の通り道にいなかったから。
そのため、街が消えていく様を最も間近で見ていた一人。
戦争によって休校になりがちだったが、クラスメートだった女性。
笑いながら、彼女に青年が答える。
「そりゃ嬉しいさ。俺達の街を消した飛行ゾイドを落とせるんだから」
声は明るいが、どこか冷たい感じがする。
「そんな人じゃ、なかったのに・・・」
209訪れぬ春 ◆ok/cSRJRrM :2005/06/28(火) 23:08:54 ID:???
彼女が知る限り、彼は過剰と言って良いほど、争いを嫌っていた。
自分からは決して揉め事の種を作らず、そして、干渉しない。
他人のために力を貸しても、その逆は恥ずかしがっていて。
平和主義者、という言葉そのものに思えるような人だった。
「どうして・・・貴方がそんなことを・・・?」

尋ねてから後悔した。目の前の青年がどう答えるか知っていたから。
かつて学校で、先生が出張した日のこと。
教室を掃除しておくよう言われたが、誰もそれを守らずに帰った。
けれど、彼だけは黙々と掃除をしていた。
忘れ物に気付いて戻った彼女は、彼に何故か聞いてみたのだ。
そして今。あの時と、返ってきた言葉は同じ。
「誰かがしなきゃならないから、俺がやってるだけのこと」
ただ、言うときの彼の明るい笑顔だけが、欠けていた。

それから数週間後のこと。彼女は、自室で泣き伏していた。
彼女の仕事は、補給リストを作成すること。
そのために、撃破された機体をチェックする必要があったのだ。
頭を失った、かつてスナイプマスターだったものを見つけた。
その機獣は、この基地には彼の乗る一機しか配属されていなかった。
彼女が、最後の知り合いを失った瞬間。
悲しみが、心を埋め尽くしていく。まるで、降り積もる雪のように。
けれど、人の感情は春が訪れても溶けることはない。

それから数日の内に、戦争は終結してしまった。
空を見上げながら、思い出していた。結局、掃除を手伝ったあの日を。
雑巾で拭いたばかりの床で自分が滑ってしまって。
彼が手に持っていた黒板消しで、二人で真っ白になって。
大声を出して、笑い合っていた時間を。

太陽の光を反射して輝く雪野原が、濡れた瞳に眩しかった。
210ルーガスの野望 3 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/29(水) 10:33:14 ID:???
「薄暗い所を選んだのが君のミスだよ緑の悪魔。俺のゼネバス忍法の冴えを見せてやる。」
姿は見えないと言うのに彼の声だけは不気味に響いていた。が、マオは驚きもせず、
軽く左に移動すると、先程自分がいた場所へ向けて右足を出した。するとどうした事か、
突然サスケが現われ、マオの右足で躓いて転んでいたのだ。
「私を殺すにはスピードが足りなかったね。」
「殺すだとぉ!?誰が!」
「嫌、態々尾行して襲ってくる時点でそれじゃないの?典型的暗殺じゃん。」
サスケは素早く起き上がりマオに迫るが、彼女は容易くかわし、結局蹴り倒された。
「ハア、思ったより大した事無かっ・・・!!」
彼女はまたも先程の凄まじい“気”を感じた。そしてその気が背後から近付いていたのだ。
「!!」
彼女が素早く背後を向くと、そこにはなんと私服のルーガスの姿があった。
「この凄まじい気の正体はあんたね!今度は何しに来たの?」
「やあマイハニー。私は別に君を殺すとか、そんなよこしまな目的では無いよ。」
「んじゃあコイツは一体何なのさ!」
「サスケ君は君の居場所を探った時点で十分仕事はやり遂げた。まあ眠り薬で君を
眠らせてしまっていれば100点満点だったがね。」
「十分よこしまじゃない!一体何が目的よ!」
今までも数々の強豪エースや大戦のどさくさに漁夫の利を狙おうとした第三勢力の作り
出した怪物ゾイド、薬物投与や遺伝子操作、サイボーグ技術によって作られた怪物兵士、
果てには魑魅魍魎まで色々な敵を倒してきた彼女であったが、ルーガスだけはどうしても
ダメだった。一度彼に敗北寸前まで追い詰められた事もある上、その後も何をとち狂った
のか、アイラブユー的に何度もしつこく求愛求婚を求めてくる始末。もはや生理的に
苦手な存在となっており、今でもマオは自然に焦っている事が自分でも分かっていた。
「ったくまた何か変な事企んでるんでしょう貴方は!」
「別にそんな事は無い。私はただ君を迎えに来たのだよ。」
「迎えに来た?」
「そうだ。この戦争はいずれ近い内に終結するだろう。一将校に過ぎない君は知らない
かもしれないが、今は双方の国家首脳同士の外交が水面下で行われているのだ。」
「それと迎えに来たのがどう関係あるの?」
211ルーガスの野望 4 ◆h/gi4ACT2A :2005/06/29(水) 10:35:25 ID:???
と、その時ルーガスは服の中から一枚の紙を取り出していた。
「ちなみにこれ、サスケ君に盗って来させたマイハニーの個人情報について書かれた
資料なんだけど、これによると“結婚したい相手:自分より強い奴”だそうだね?」
「な!あんた何私のプライバシー見てるのよ!個人情報保護法違反よ!さっきの質問の
答えになってないし!」
マオは顔を真っ赤にして怒っていたが、ルーガスは表情一つ変えずに言った。
「これでもし私が君より強い男と言う事になれば、私は君の夫に相応しい男になるね?」
「な!何言ってるのよあんたは!第一敵同士だってのに・・・。」
が、ルーガスはマオの話を聞かずに素早く飛び掛った。それに感付いた彼女もやられる
のは御免だとばかりにカウンターを行おうとし、双方がすれ違った。その間一瞬。
「ぐはぁっ!」
ルーガスは血を吐き、腹を押さえて肩膝を付いた。マオに軍配が上がると思われたその時、
彼女はバッタリと倒れた。その口には何か薬品が染み込んだ布が貼られていた。
「ぐふっ、紙一重だが何とか勝ったな・・・。よし!それはそうと、サスケ君大丈夫か?」
「だ・・・大丈夫です・・・。それにしても彼女強すぎ・・・。ゼネバス忍法が通用しなかった・・・。」
「君は諜報専門なんだから負けても仕方が無い。とにかく君の仕事はここまでだ。
後はゆっくり休みたまえ。」
そう言ってルーガスは気絶しているマオを抱えつつサスケの手を掴むが、サスケも
ルーガスの被ったダメージの大きさは分かっていた。
「少将・・・、貴方も大丈夫ですか?何か口から血吐いてますし。」
「だ・・・大丈夫だ。マイハニーに勝てた喜びに比べればこの程度の痛みなど・・・ぐふっ。」
やはり痛そうだった。しかし、彼にはそれ以上に喜びがあったのだ。
「とにかくだ。これで“キャットウェディング作戦”の第一段階が達成された。
次は第二段階へ移行する。」
「少将、その作戦名の意味とは?」
「キャット、つまり猫とはね、地球の中国と言う国の言葉でマオと言うのだよ。」
「ああ・・・って貴方まさか・・・。」
「そう、そのまさかだよフフフフフ。」
ルーガスはニヤリと笑みを浮かべた。
212Full metal president 96 ◆5QD88rLPDw :2005/06/30(木) 05:42:28 ID:???
「何げに怪しいわね…こんな所にファンシーでグロテスクな。」
熊とも狸とも〇ン太君ともつかぬ姿の動物。その奥で光るのはその姿に似合わぬ牙。
良く見るとその外側がきぐるみで有る事が解る。その胸には…
”フランキーサーカス団へようこそ!”と言う汚れて傷だらけの看板を着けている。
見た限り水路の封鎖は余り気にする必要が無かった為の漂流物。
それを着込んでいるらしかった。多少の知能は有るらしい。
しかし牙と言い右腕の釘バットを思わせる下腕部と言い…有効的には見えない。
何か投げやりな声を上げて襲い掛かって来るそれ。
その力は恐るべきものでドントレスの鎌を受け止め傷もつかず狙い澄ました銃撃。
それを牙で弾く瞬発力を持っている。この騒ぎを聞き付けたのか集まり始めるそれ。
各々腕部の獲物の違う同じ種類の存在に囲まれてしまったミリアン達。

メガトプロスのガトリング砲の弾丸が迎撃の為散蒔かれる。
それを驚くべき跳躍力で回避しリガスとリカルドに襲い掛かる別の固体。
だが戦闘用の強化服を身に付けた彼等はそれを容赦無く叩き落とす。
嫌な音が闇に響きその場所には寸分の狂い無く後頭部からの踵落とし…
そしてそのまま頭部を床に打ち付け最後に押し潰す。微塵の躊躇も無い証だ。
軍人たる者に必要な素養の一つ。切り捨ての精神。
彼等個人には国からの莫大な投資と国防の任務が在る。
それを見ず知らずの失敗作にくれてやる程彼等は甘くは無い。
それもつかのまの間だが潰れたそれに突然群がる小型の何か。
それは瞬く間に頭部の潰れた化け物を綺麗さっぱり食べてしまう…
残るは体液の後のみ。幾ら何でも凄まじい状況に一同表情が引き攣る。

ミリアンはもう1度向かってくる相手に合せて特注の超硬金属バレルを叩き付ける。
元々この銃はガンファーと言う名前の通りホルスターと銃身が一体化したトンファー。
しかも…普通の銃と構造が違い本来とグリップの付け方が逆。
更に激鉄が在る位置に銃口が有る。その銃口を真面に口に入れてしまったそれ。
次の瞬間には東部を貫通する弾丸に散る。今度もまた小型の何かがそれを掃除する。
しかし数は減る様子が無くむしろ増えている。道を切り開きながら進むが…
その内後方からの攻撃を警戒しなければならない状況になる。
213Full metal president 97 ◆5QD88rLPDw :2005/06/30(木) 06:21:26 ID:???
「道は!?何処かに抜けれる場所はっ!?」
ミリアンはサーチライトをドントレスに使用させ周囲を調べる。
その時偶々頭部からシュモクザメの様に離れた位置にある目に当たる。
当然光など見た事も無い目は暗闇を僅かな光源で見渡す生体スターライトスコープ。
なので呻き声を上げて床を転げ回る。
「今だ!ライトを目に当てろ!それで奴等はまけるぞ。」
その後相手の目にライトを浴びせまくり何とか追撃を振りきる事に成功する…。
だがこの一連の騒ぎで何処に進めば目的の場所に行けるかが解らなくなる。

下水道…多分どこにでも有るそれ。
だがそれを進むものは何処にでも居るものではない。
「コノニオイ…ニンゲン。ダレカイルノカ?オーイ!ココカラダシテクレ!」
頭部を水面から出し必死に聞き取り難い声で侵入者を探す。
彼はここに廃棄された存在でも1〜2を争う悲惨な存在であろう…。
なにせ知能を持って言葉を操る。それ故に廃棄されてしまったのだから。
一応彼がマクレガーの言っていたとんでもない奴の1体である。
埒が開かないので彼は下水から脇の通路に上る…
その姿は錆色に煌めく金属の鎧。その間に機械的なフレームと有機的な血管。
頭部には髪程の細さの金属の毛が長く大量に生えている。
頭部には光を失って久しい目が右上から斜めに3つ。
髪の間からは武器としては役に立ちそうもない無軌道に曲りくねった角数本。
唯単にバロック(歪み)と名付けられた対人専用の戦闘ゾイドである。

「コッちカ…ダが慎チョウに行カなイと…。だんだん舌が回ってきた!
これで交渉は言葉だけなら大丈夫だな…今度こそ光の元へ!」
バロックはゆっくりと歩き始める。足も左右サイズも形も違う。
だがふらふらしながらもどんどん歩居ている内に歩き方を思い出す。
その足取りは軽くなり下水道を抜け通常のフロアに入る。
そんな所でバロックはミリアン達と鉢合わせという運の無い状況に陥った…。
「やあ…こんにちは。」
声を掛けられた方は…時が止まったかの様に呆然と彼を見るのみである。
214ルーガスの野望 5 ◆h/gi4ACT2A :2005/07/01(金) 08:36:26 ID:???
「う・・・ここは・・・。」
マオが気付いた時、彼女は薄暗い部屋で一人手枷を付けられた状態で椅子に座っていた。
「そうだ・・・。私はあの時クロロフォルム?を嗅がされて気を失ったんだ・・・。多分ここは
敵の基地なんだ。殺されないウチに脱出しないと・・・ってあれ?」
マオは手枷を引き千切ろうとしたのだが、体に力が全くと言って良い程入らず、手枷を
引き千切る事が出来ないのは愚か、自分自身の体すら重く感じていたのだ。
「な・・・何で?こんな安物の手枷・・・、すぐに千切れるのに・・・、それに体もまるで全身に
重りがのしかかっている様に重たい・・・。」
『我が軍の開発した特殊薬品が効いているようだな。』
突然部屋に響き渡ったのはルーガスの声だった。
「ルーガス!私を拉致して一体何をしようと言うの!?私を裁判に掛けて処刑しよう
ってんならもう暴れて戦って死んでやる!」
『無駄だよ。それは君だって分かっているだろう?私が君を気絶させる際に使った特殊
薬品はね、ただ相手を気絶させるだけじゃない。気が付いた後も数日間程筋力を著しく
弱めてしまうと言う副作用があってね。今の君の筋力は平均的成人女性以下だよ。』
「な!ただのクロロフォルムじゃなかったのね!」
マオは青ざめてしまった。本来の彼女なら手枷を引き千切る事は造作な事では無いが、
それが全く出来ない時点でルーガスの言葉はハッタリでは無い事実である事が分かり、
彼女はその場で唖然とするしか無く、完全にヤケになってしまった。
「あーもー!煮るなり焼くなり殺すなり好きになさい!やってられるかってこん畜生!」
『君は何を勘違いしているのかなマイハニー。君は殺さないよ。いや、私が全力を持って
殺させなどするものか。何故なら君は私のものになるのだから・・・。』
そう言い終えた後、突然薄暗い部屋の壁が開くと、そこからルーガスが姿を現した。
しかも彼はなんと結婚式の時に着る真っ白なスーツ姿に身を包んでいたのだ。
「フフ・・・その姿、お似合いだよマイハニー。」
「!!な!?何この格好!」
マオはさらに愕然とした。なんと彼女もウェディングドレスに身を包んでいたでは無いか。
215ルーガスの野望 6 ◆h/gi4ACT2A :2005/07/01(金) 08:37:21 ID:???
「意味が分かってくれた様だね。さあ行こう。」
「や!嫌ぁ!それに第一私はあんた達にとって敵なのよ!あんた達が血眼になって
殺そうとしているのよ!なのに何でそんな事するのよ!」
「確かにそうかもしれないな。緑の悪魔マオ=スタンティレル・・・。彼女たった一人の為に
失ったゾイドや兵士は数知れず、被害総額も何兆に及ぶのか・・・。ネオゼネバス帝国に
とっては地獄すら生温い極悪人だろう。捕まれば即刻死刑確実だな。だが、この私
ルーガス=バッハードの妻、“マオ=バッハード”には関係の無い話だな。」
「・・・。」
その瞬間マオの血の気がサーッと一気に引き、その目は完全に白眼を剥いていた。
そして彼女を連れて行こうとするルーガスに対し、必死の抵抗し始めたのだ。
「嫌だ嫌だ!あんたなんかと結婚するくらいなら死んでやるー死んでやるぅぅ!」
「そう嫌がるな。“慣れるより慣れ”という言葉もあるし、それに私は君に勝ったでは
無いか。それだけでも十分君の夫になるに値出来ると思うが?」
「嫌な物は嫌なの!誰かぁ!誰か助けてぇ!」
マオは泣き叫びながら手を引っ張るが、筋力の弱まった今の状態ではルーガスに
歯が立つはずも無く、空しく引っ張られていくだけだった。が・・・
216戦場の、その裏で ◆ok/cSRJRrM :2005/07/01(金) 21:32:04 ID:???
「もうすぐ基地。・・・久しぶりにベッドで眠れる」
ホバーカーゴの、操縦席に座る青年が呟く。
ここ数週間は、激戦区の間を縫うように通って来た。
仮眠を取ることはあっても、自室にはもどらず、ここで過ごした。
注いであったコーヒーを飲み、減った分をポットから補充する。

「あ、私も貰うね」
女性の声。横から手が伸びてきて、ポットが数瞬、視界から消える。
ポットが戻されるとすぐに、咳き込むのが聞こえる。
「うわ。また一段と濃いね、コレ」
カップに注がれた真っ黒な液体を見ながら、彼女が言う。
実際、それはコーヒーを淹れて、さらに煮詰めたもの。
「いや、もうこん位にしないと、味が解んなくて」
笑いながら彼が振り向き、カップの中身を口に含む。
常人ならば鼻先に近づけるだけでむせ返るであろうそれ。
「・・・それ、立派な中毒だと思うけど。ま、お疲れ様」
苦笑しながらも、彼女もそれを平気な顔で飲んでいる。

「そっちこそ。最近は戦闘も不定期だったからな」
二人でほぼ同時に溜息をつき、笑い合う。
操縦士である彼と、格納庫のゾイド達を整備する彼女。
ゾイド乗りは作戦行動中でも、気持ち程度の睡眠時間が与えられる。
だが、彼らには基本的にそれが無い。
戦闘と言う、死への恐怖に直接向かい合わなくて良い代償である。
この部隊は奇襲を専門としているため、戦闘はほとんど夜に行われた。
今夜も作業をしていたのだろう、彼女は汚れた作業服姿のままである。
「もう部品が無くて大変。隊長さん、格闘しかしないんだもの」
この女性の整備の愚痴を聞くのも、実は彼の日課だったりする。
217戦場の、その裏で ◆ok/cSRJRrM :2005/07/01(金) 21:32:30 ID:???
このホバーカーゴに所属する部隊の隊長。愛機は黒いライガーゼロ。
格納庫には砲撃用の装備もあったが、使われることは無かった。
「単機で突っこむから、装甲を変えても変えても落としてくるし」
部隊長の操縦の腕は抜群で、援護無しでも敵陣へと入り込める。
だが、やはり至近距離での攻撃は避けられないらしい。
機関銃やら体当たりやらで、装甲はいつも傷だらけ。
それでも、致命傷だけは決して負わない人物。それが、ここの隊長。
「なのに、『いつも新品同様にしとけ』。無理よ、無理」

たまに鬱陶しくも感じるが、彼にとっては心休まる一時。
独りでずっとここにいるのは、恐ろしく退屈なのだ。
だから、彼は時に相槌を打ちながら、彼女の話に耳を傾ける。

「・・・と、そろそろ戻って休んだ方が良い」
カフェインで頭は騙せたとしても、身体は睡眠を要求する。
目の前の女性は、それを体現しているようだった。
しきりに瞼を擦って、欠伸をかみ殺している。
「あとちょっとで着くんでしょ?・・・だったら、ここにいる」

どうやら、愚痴はもう尽きたらしい。彼女は、操縦席の後ろにいる。
頭やら頬やらを背後から突付かれるのは、はっきり言えば操縦の邪魔。
けれど、不思議と嫌な気はしない。
急に、その手が止まった。何事かと振り返ろうとしたが、やめた。
耳元に、静かな寝息が聞こえたから。

移動する速度が少し落ちた。青年が窓の外のホバーカーゴの頭を睨む。
「・・・おい。余計な気は使わなくて良いんだよ」
怒気を帯びた口調だが、顔は緩みきっている。理由は二つ。
基地が地平線の彼方に見え始めたのと、肩に乗せられた小さな手。
大きな欠伸を一つして、彼は操縦桿を握り直した。
218Full metal president 98 ◆5QD88rLPDw :2005/07/02(土) 04:06:26 ID:???
その凍った時間も束の間ミリアン達は何事も無かった様に…
彼の脇を通り抜けて行こうとする。はっきり言ってきりが無いのだ。
驚くのにも相手にするのもだ。
「聞えなかったのかな?お〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!話を聞いて〜〜!!!」
今回はビンゴ。完全に声の発生源があのゾイドで有る事が確定するやいなや…
気分的には光の速さで脱兎の如く逃げ出すミリアン達。
「そっちは!行き止まりだって〜!!!」
「「「「うわ〜〜!!!」」」」
「きゃあああああああああ〜!!!」
後の祭りだったようだ…。

「大丈夫ですか?」
謎のゾイドに体を拭いて貰っているミリアン。全員びしょ濡れ…
行き止まりは行き止まりでも十数m下の下水道に落下したショックは大きい。
ドントレスもメガトプロスもサンドスピーダー2機も機能停止。
何とかバロックに機体毎引き上げてもらって命を繋いだ状態。
「あ…ありがとう。助かったわ。でも何で貴方は言葉を?」
「そうだ…こんな高性能ゾイドが何でここに居るのかも解せない。」
リガスは呟く。考えは人それぞれ。廃棄した者と彼女等は正反対に位置する考えらしい。

彼…バロックと呼ばれたそれは知り得る限りの自分の事を語る。
先ずは自分が捨てられたのでは無くここで産まれた事。
他に5体同じ存在が居たが今は自分ともう1体しかいない事。
その1体がやばい事に手を染めている事。
「と言う事でここは危険です!直に外に出ましょう!」
必死に説得するバロック。ここで説得に成功すれば時間は掛かるだろうが外に行ける。
だが彼女等の出した答えは一つ。
「ご免なさい…それを聞いた以上はもう退路は無いわ。
逃げても問題は変わらないから…。」
「その通りだ。それをこのまま許せばいずれ世界は高い確率で滅びる。」
説得は失敗し逆に諭されてしまい止める気満々になってしまったバロック。
これも多分廃棄された原因なのだろう…。
219Full metal president 99 ◆5QD88rLPDw :2005/07/02(土) 05:31:12 ID:???
もう1体のバロックが行なっていた事…
それは何処かから流れてきた本の内容に毒され事も在ろうか邪神の復活を目論む、
とファンタジーな計画だった…。だがそう言えたのは80年以上前の話。
オーガノイドシステムや古代チタニウム合金…
なんて地面を掘ればでてきたトンデモOパーツが当り前の世界。
その上60年程前には神が実際にこの星に降臨までしている。
眉唾な事でも阻止しなければならないようになってしまっているのだ。

「ぐふふふふ…生け贄が自ら来る!解るぞ!裏切り者も一緒だ!
いあ!いあ!はすたあ!はすたあくふあやくぶるぐとむぶぐとらぐるんぶるぐとむ…
あい!あい!はすたあ!…後は生け贄と金の蜂蜜酒さえあれば!」
実は突っ込み所有りなこの発言。
金の蜂蜜酒等この世…少なくともこの世界には有りません。
生け贄…実は生である必要が有りません。
〇女及び童〇の方の血が1〜3パイントあれば充分です。
それでも手順にこだわる彼は…ミリアン達がそこに来るまで確り待ってくれていた。
逆に言えばそれが破滅を回避できた一番の原因だったりする。
更にはこの行動自体が本来神を呼ぶ儀式でなかったりするのも一因である。

「くそっ!こいつ等数が多い上に…小さすぎる!」
先に死骸を綺麗さっぱり掃除していた者…勝手にスカベンジャーと名付けた存在。
これも超小型ゾイドである。本来の用途は…暗殺等の裏事の後始末。
しかしこれの廃棄された理由は現実的で単体で仕事を熟せないからと言う事だ。
更には生きている者には全く興味を示さないと言う事である。
見た目がグロテスクなので…有る意味嫌がらせの為に居るかの様だ。
たとえ無害であってもこれの中を分け入って進みたいと言う馬鹿は居ないだろう。
「でも…確かここの虫には嫌がらせを目的にした奴が居た気が?」
バロックがとんでもない事実を口にする。不幸な事にここに居る全員が虫嫌い。
気配がして振り向くと…正にその嫌がらせ虫の登場だったのだ。
多種多様な気味の悪い虫の大軍は通路を完全に閉鎖している。
急いで火器のロックを始めそれを手放すミリアン達。パニックに成る事は避けられない。
ならばせめて…無駄な弾薬の使用と同士討ちだけは避けるベしと判断したのだ…。
220ルーガスの野望 7 ◆h/gi4ACT2A :2005/07/03(日) 09:32:35 ID:???
マオが拉致された事も知らない共和国軍超巨大移動要塞ゾイド“ジャイアントトータス”
内部では、突如としてパニックが発生していた。
「どうしたぁ!何が起こった!事故か!?敵の工作員が潜入したのかぁ!?」
基地格納庫で数多くの整備員が逃げ惑い、悲鳴や罵声が飛び交う。
「大変です!カンウが!スタンティレル中尉がいないのに突然動き出して・・・。」
と、その時だった。格納庫中に猛烈な爆音が響き渡ったのは。
「暴走したカンウ!ジャイアントトータス外部隔壁を突き破って外に出ました!そのまま
何処かへ移動中!ライン曹長がゼロファルコン“ジェネラル”で追跡しています!」
「何だとぉ!?一万二千枚の超重装甲を持つGトータス装甲を破って出ただとぉ!?
本当にスタンティレル中尉は搭乗していないんだな!?」
「ハイ!コックピットの映像を見ても完璧に無人です!何か意図的に暴走するような
コントロール装置を付けられた形跡も見当たりません!」
「まさかカンウ自身の意思で行動しているのか?とにかく追跡を急がせろ!
止まらないなら撃ち落して構わん!」
「ダメです!今のカンウは通常の50倍の出力で稼動しています。ライン曹長の
ジェネラルでも追跡するのがやっとです!」
「何で50倍!?」
ブリッジでは突然のアクシデントに大騒ぎだったが、なおもカンウは爆走中だった。
「くそぉ!信じられねぇスピードだ。新型エンジンでスーパーゼロファルコンと呼んでも
過言じゃねーくれぇ強化されたジェネラルでも付いて行くのがやっとだ!こんな時に
中尉は一体何を・・・。」
爆走を続けるカンウを追跡しながら、ラインはそう愚痴っていた。
221ルーガスの野望 8 ◆h/gi4ACT2A :2005/07/03(日) 09:33:48 ID:???
まるで何かに憑り付かれたかの様にも思えるカンウの暴走は帝国軍にも衝撃を与えていた。
「最前線第三防衛部隊壊滅!中央山脈駐屯第五部隊壊滅!哨戒第八部隊壊滅!」
「何でそうなるんだ!相手はたった一機のギガ程度だろうが!」
恐るべき事に、カンウは己の進路上に存在する全ての部隊を壊滅させながら進んでいた。
通常のギガではとても考えられないスピードもさる事ながら、その不可解な破壊に
帝国軍総司令部ではその事実に大騒ぎだったが、その時一人のオペレーターが叫んだ。
「大変です!民放で中継やってます!」
「何!?映像に出して見ろ!」
司令部中央に設置された巨大スクリーンにその映像が映し出された。民間放送局が
いち早くその様子を中継していたのだが、その光景たるや、広大な荒野をカンウが
周囲に群がる帝国軍ゾイドを弾き飛ばしながらただひたすら真直ぐに爆走していたのだ。
『実に恐ろしい光景であります!精強を誇る帝国軍が手も足も出ません!あのギガは一体何者なのでしょうか!そしてその目的は一体何なのかぁ!あ!ギガの正面数キロ先を
ごらん下さい!アレは帝国軍の誇る“アイゼンライオン隊”です!物凄い数の
エナジーライガーです!彼等は果たしてギガの暴走を止める事が出来るのか!』
アイゼンライオン隊のエナジーライガー軍団はエナジーチャージャー全開にし、
全火器を一斉発射しつつ突っ込んでいたがカンウは全く恐れもせずに直進していた。
「う・・・うわぁ!コイツぅ!」
その瞬間カンウの直線上にいたエナジーが数機まとめて弾き飛ばされた。残存する
エナジーライガーは急旋回して追撃するが、その差は縮まるどころか逆に離されていた。
「何だコイツはぁ!エナジーライガーでも追い付けないなんて・・・。」
『まるで冗談としか思えない光景であります!陸戦ゾイド最速を誇るエナジーライガー
すら全く歯が立ちません!あ!もう我々の中継機ではもうあのギガを追う事は不可能かも
しれません!と言う事でここでの中継はここで終了します!皆様さようなら!』
と、ここでその中継は終了したが、司令部の人間は凍りつくしか無かった。
222生きる理由、死ねない理由 ◆ok/cSRJRrM :2005/07/03(日) 18:32:02 ID:???
暗闇の中、戦闘は突然始まった。
帝国軍の兵士には、黒い影にしか見えなかった。
崩れ落ちる乗機から目に映ったもの。
それは、黒いライガーゼロだった。

「おい!遅いぞ!」
ライガーゼロを駆る男が、後続の仲間へと通信を送る。
彼の機体と同様に、黒く塗られたシャドーフォックスがニ機、現れる。
「隊長が速すぎるんスよ!」
少年の声が響く。その最中にも、敵への射撃を忘れない。
ライガーゼロも、援護を受けて再び敵陣へ飛び込む。

黒いライガーゼロの中で、男は自分の部隊について考えていた。
先程のシャドーフォックス二機のパイロット。
片方は、射撃の位置取りがまだ未熟だが、撃つタイミングは正確。
おまけに、最近は突撃までもこなせるようになってきた。
もう一方は、無口だが気のつく奴だ。援護射撃の天才と言えるだろう。
今も、自分を狙っている敵を確実に仕留めてくれている。

ホバーカーゴへ帰る途中、シャドーフォックスから通信が入る。
「一応、僕達の到着を待ってから、突撃してください」
彼は答える代わりに笑った。通信機から溜息が聞こえる。
(これなら、いざという時、お前達だけは助かるからさ)
心の中でだけ答えた。彼の部下に、素質の面での心配は不要だ。
問題は、彼らがまだ子供、ということである。

男は、頭を振って考えを消した。無駄だと知っているから。
この部隊には、彼よりも年上の人間はいない。
艦長でもあるホバーカーゴの操縦士でさえ、自分よりも若いのだ。
だから、彼はある種の教育係である。
子供達を戦士にするのではなく、生き残る術を教えるための。
223生きる理由、死ねない理由 ◆ok/cSRJRrM :2005/07/03(日) 18:32:34 ID:???
ホバーカーゴの操縦室へと伸びる廊下を、彼は歩いている。
もうすぐ基地へ到着するらしいので、艦長と話をするためだ。
艦長、と言っても、年齢は彼よりも十近く若い。
それでも、たった一人でホバーカーゴを操ることのできる青年。
操縦室の扉を開ける前、彼は少し躊躇した。

男女の話し声が聞こえたのだ。男の方は、艦長の声。
もう一人の女性の声は、確か、整備士の人間だったはずだ。
どうやら、整備士の少女が、自分についての愚痴を話しているらしい。
内容を聞き取った彼は、耳を疑った。

愚痴の内容は、自分とライガーゼロが単独で突撃することについて。
その辺はどうでもいい。問題は、何故その戦術を知っているか、だ。
この部隊では、整備士とゾイド乗りが話す機会はほとんどない。
彼でさえ、ライガーゼロを預ける際に二言三言、告げるくらい。
奇襲専門の部隊であるため、戦闘は主に夜に発生する。
部下も、帰還すれば、すぐに自室で眠ってしまう。
信じ難いが、彼女は機体の損傷具合だけを見て、判断したようだ。

ふと、楽しそうな笑い声も聞こえてきた。
(邪魔しちゃ、悪いな)
彼はすっと立ち上がり、自分の部屋へと戻ることにした。

「やれやれ。また死ねない理由ができちまった」
自室へ入るなり、彼はそう呟いたが、表情は明るい。
彼が戦場で倒れれば、この部隊は恐らく壊滅するだろう。
そうすれば、このホバーカーゴも、あの二人も、お終いである。
「仲の良い男女を引き裂くなんて野暮な真似は、できねぇな」

それは、小さくとも、生きるための決意であり、強い意思。
一つ大きな欠伸をして、彼は眠りについた。
224ルーガスの野望 9 ◆h/gi4ACT2A :2005/07/04(月) 22:09:08 ID:???
「じょ・・・冗談だろ?あ・・・あんなのが首都に攻め込んだら・・・。」
「首都に攻め込む?はっ!まさか連中の狙いはあれを首都で自爆させる事なのでは!?」
「何だとぉ!?」
「考えても見て下さい。ギガは単機での戦闘力もさる事ながら、自身のゾイドコアの
エネルギーを直接周囲に放射する事で辺り一面を焼き尽くすと言う強力な自爆兵器を
搭載しています。たった一機のギガがそれを行った為に一個師団まるごと壊滅させられた
実例もあります。その威力たるや、初代皇帝プロイツェン様がヴァルハラでデスザウラー
を自爆させた時とは比較になりますまい。ましてや今こちらへ向かっているギガは通常の
二倍、いや三倍の出力は有にあるでしょう。それを考えると・・・。」
司令部はさらに凍り付いた。そして最高司令官は慌ててこの様な命令を全軍に発した。
「中央大陸中の全デスザウラー、全セイスモサウルスを奴に向かわせろ!
何としても食いとめるんだ!この一戦こそ我が帝国の運命を握る一戦ぞ!」
何やら話が凄い事に発展していたのだが、ネオゼネバス全軍の息の合った迅速な連携に
より短期間で全デスザウラー&セイスモサウルスが集まり、なおも爆走を続けるカンウの
直線状に夥しい数の大軍団として布陣されていた。その光景は民放によっても中継され、
各家庭のお茶の間から軍司令部の誰もが注目していた。
『見て下さいこのデスザウラーとセイスモサウルスの大軍団を。真に壮観であります。
原因、目的など一切不明の暴走ギガを止める為に彼等は大陸全土から集まったのです。
この戦いが帝国の運命を握ると言っても過言ではありません。お!東をご覧下さい!
ギガです!ギガが来ました!早くも戦闘開始です!』
「全機砲撃開始!」
膨大な砂埃を巻き上げながら爆走を続けるカンウへ向けて全ミサイル、荷電粒子砲が雨の
様に撃ち込まれた。地平線の彼方に位置するカンウを中心として物凄い大爆発が
巻き起こり、誰もが勝利を確信した。しかし、それでも爆走音は鳴り止まなかった。
そして煙を割って現われたのは、全くと言って良い程無傷のカンウの姿だった。
「そ、そんなバカな・・・。」
兵士達は愕然とするしか無かった。しかし司令官は慌てながらも各部隊へ采配を行った。
225ルーガスの野望 10 ◆h/gi4ACT2A :2005/07/04(月) 22:10:55 ID:???
「第一陣前へ!」
彼等は良く訓練されているのだろう。司令部からの指令に従い、彼等はカンウへ接近した。
「相手は所詮一機だ。全機を持って押さえ込めばなん・・・。」
その瞬間だった。カンウの進路上にいた一機のデスザウラーがカンウの拳の一撃で粉々に
されたのだ。その時の彼等に唖然とする余裕すら無かった。カンウは猛烈なスピードを
緩める事無く、進路上のデスザウラーやセイスモを弾き飛ばしながら爆走を続けていた。
「くそぉ!誰か!誰か奴を捕まえろぉ!」
辺り一面に群がるデスザウラーやセイスモ軍団が一直線に爆走するカンウを必死に押さえ
込もうと追い駆けるがスピードに絶望的な差があり、全く意味が無かった。万が一
掴まえる事が出来たとしても、冗談のようなパワーであっという間に跳ね飛ばされた。
あらゆる角度から飛び掛り、押しくら饅頭の様に潰そうとしても無駄。逆に弾き飛ばされ、
次々に宙を舞い、粉々になるデスザウラーやセイスモサルス。
「なんて奴だぁ!お前は死ぬのが怖くないのかぁ!?」
『信じられません!真に信じられません!しかし、その信じられない出来事が今我々の
目の前で展開されているのであります!』
「ま・・・まるでアメフトの試合を見ているかのようだ。」
総司令部のスクリーンから事の次第を見詰める上層部の一人がそう呟いた時、カンウは
早くも最終防衛線の眼前にまで達していた。
「こうなったら壁だ!全機を一箇所に集めて壁を作るんだ!」
彼等は最後の手段に出た。残存する総力を持ってゾイドの壁を作ったのだ。が、それさえ
も意味が無く、跳ね飛ばすと共に物凄い勢いで走り去っていった。その中継映像に
総司令部の皆は開いた口が塞がらなかった。
「お・・・オイオイ・・・ウソだろ?」
「お前等唖然としている場合か!今すぐ首都に住む全国民を避難させるんだ!
予備兵力も投入!何としても被害を最小限に食いとどめるんだ!」
226Full metal president 100 ◆5QD88rLPDw :2005/07/05(火) 05:04:15 ID:???
「きゃあああ!?」
「うぎゃああああ!?」
「ひいいいいい!」
「いやだあああああ!!!」
「おっ落ち着け!その場から動いてはいけ…くっ来るな!」
バロックはしげしげと彼等の方を見る…とは言えメインカメラは故障している。
なので赤外線センサーやらサーモグラフィーやらの装備で彼等を覗いている。。
完全にパニック状態に陥っている彼等は後から来る嫌がらせ虫を踏んでしまう。
そこで今度はスカベンジャーが行動を開始し阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。
だが実際に襲われるのは嫌がらせ虫やスカベンジャー死骸なので実害は無い。

ー 十数分後 ー

辺りはスカベンジャーと嫌がらせ虫の体液の匂いで鼻が曲る程の異臭を放っている。
嫌がらせ虫の特徴は多種対応である事と1匹の体液が空気中に散布されると…
興奮状態になってそこかしこの生命体に抱き付く習性が有る事だ。
現にミリアンは特大サイズの彼女の背程も在る者に抱き付かれ気を失っていた。
何とか自前で持って来ていた気付け薬で目を覚ました所である。
かく言う他の者もバロックに気付けを貰って起きたばかりだったりする。
「さあ…先を急ぎましょう。私達はお互いの居る場所を知る事ができます。」
全員頭を左右に振り気を取り直して行動を開始する。
当然後は振り向かない…過ぎ去った過去は気にしない事にしたのだ。
…特に悍ましいものは脳内フォーマットで即削除である。

「やっと来たか…兄弟!今日こそ俺の願いが叶うぞ!!!はっはっはっはっはっは…
なっ何だ!?こいつ等は何処から…!?このっ放せ!放せえっ!!!」
丁度何かのエアロックらしい区画でもう1体のバロックに遭遇したミリアン達だが…
目の前で繰り広げられる光景はバロックを襲う異様な羽根付きの生物。
殴られようとお構い無しにがっちり抱き締めて放さない。
儀式は…失敗と言うより別の儀式を行なってしまった様だった。
床を見れば…”石笛”が墜ちている。ミリアンはそれを偶々知っていた為こう叫ぶ。
「急いで中へっ!!!その儀式は転移の効果を持っているわっ!」
227Full metal president 101 ◆5QD88rLPDw :2005/07/05(火) 06:27:02 ID:???
本来のこの儀式は血や生け贄など必要無いもので…
異次元すらも飛び越えてしまう翼を持つ風の眷属ビヤーキーの招喚の儀式。
招喚されたビヤーキーはその自慢の翼で呼んだ者を何処へでも連れて行く。
しかしこのビヤーキーは結構いい加減な存在。
特に指示が無い場合…ただ自分がその前に居た所に運んでしまうのだ。
それが何処か解らない為乗る方にとっては物凄い迷惑である。

ミリアン達は素早くエアロックの中に飛び込み扉を閉める。
外では…断末魔の叫びを上げながら何処かへ運ばれていってしまうバロック。
その声はあっと言う間に掻き消えてしまう。
しかし実はまだ終わりではなかった…バロックが対象としてミリアン達を選んでいる。
つまりは…彼女等の頭数まで確りビヤーキーは現れていたのだ。

「ヘイ!お嬢さん方!何処まで御運びいたしやすか?」
目の前に6体のビヤーキーが同じポーズで構えて居る。
その時…
「我は天宮…空を望める場所へ…。」
どうやら目的地に着いていたらしいがそれがとんでもない事を口走ってしまった。
「了解だッぜ!!!球数と大きさが足りないぜベイベー!グングゾアを30匹頼むッぜ!!!」
「ヘイ!お嬢さん等?あんた等は?如何するね?ベイベー?」
ビヤーキーが尋ねてくる。実際下級種の彼等は現実に毒されやすい。
随分とファンキーな彼等に結局頼んだ場所は…このゾイドの艦橋。
「了解だッぜ!」

刹那の時間が流れる事無く艦橋にミリアン達は居る。しかし…
艦橋から覗ける景色は見た事も無い場所。
地球で言えばギリシアのオリンポス山に有る神殿に似ている物が眼下に広がり、
空は真っ暗。星を見上げても明らかに惑星Ziの空ではない。
「セラエノに到着だッぜ!」
脳天気なビヤーキーの声。折角乗れたのだが今居る場所は別の世界の別の星。
この場所を知る者はここを…セラエノと呼ぶ。下に見えるのはその星の大図書館。
真意は定かでは無いが古き神々達の知識が集う場所と呼ばれている。
228Full metal president 102 ◆5QD88rLPDw :2005/07/06(水) 04:52:29 ID:???
「さてと…困ったわね。如何帰ればいいのかしら?」
ミリアンは考え込むが去り際のビヤーキーが直に答えを教えてくれる。
「ここの図書館に黄金の蜂蜜酒と石笛があるッぜ!
始めに酒をかっくらって!次に!石笛を吹いて、
いあ!いあ!はすたあ!はすたあくふあやくぶるぐとむぶぐとらぐるんぶるぐとむ!
あい!あい!はすたあ!って叫びな!
そうしたら契約完了だッぜ!もう1度あんた等を運んでやるッぜ!
その代わり…その道具は自分で捜しな!じゃあな!また会おうッぜ!」
そう言い残しビヤーキーの姿は消える。

「まあそう言う事で。今回の任務はセラエノ大図書館で石笛と…
黄金の蜂蜜酒を入手することだ!三文SFでは別の世界での時間の経過が…
元居た世界と違う場合が或る!そうなっては非常に不味い!
緊急を要する任務だ!各員健闘を祈る!散開!」
レイガが指揮官らしく全てを仕切り行動を開始する。
聞いた話ではここでは戦闘が禁止されているらしいので襲われる可能性は低いらしい。
なので隊を割り振りこのゾイドから大図書館に降り必要な物を探索する…
これが今回の作戦となる。

しかし…のっけから躓く作戦。まずは出口捜しからというお粗末な状況だったのだ。
「ねえ?貴方は出入り口を知らない?」
折角ある程度の知能が有るのだから思いきってミリアンはゾイドに聴いてみる…。
「…確か…ここに見取り図が…有った。表示するぞ。」
ここに来て何故彼が自らを”天宮”と呼ぶかがはっきりと解る。
まず艦橋だが…この区画は何故か中世の宮殿を思わせる形となっており、
その下に本体。全長15kmは下らない巨体に翼を開かず全幅が5kmも有る。
出された映像は背に武装化された宮殿を建てられた巨竜。
何ともいかれたセンスの姿である。その本体も組成不明の装甲板に包まれている。
その隙間からは機銃っぽい物が見える。おバカも極めれば壮観で有る事この上無しだ。
だが気分を思いきり害する…
「我は…天宮。名前はまだ無い…。」
その言葉でその場の2〜3人かが転びそうになったのはお約束である。
229Full metal president 103 ◆5QD88rLPDw :2005/07/06(水) 05:59:12 ID:???
「それなら…ベルガーでどうかしら?」
ミリアンは精一杯短めな名前で切り抜けようとする…因みに城と言う意味になる。
「ちょっと待て!それじゃあ可哀想だろう…私なら同じ語源でドラッケンを前に!」
レイガの横やりで…今の名前は暫定でドラッケン・ベルガー(竜の城)。
「え〜…隊長!何方かというとリンドブルムじゃないですか?」
「何!?リンドブルムは確かに4つ足だが意味合いとしてはワイバーンに近い!
却下だ!却下!リオード!貴様博学を装って押し通そうとしても無駄だぞ!」
「…いや…名前で揉めないでも…。」
「「黙れ!」」
この後本人を置き去りにして10分程揉めるという本末転倒な出来事が繰り広げられた。

熱き論争が実を結ぶ事は無く変な曰くを付けない名前にする事で一同納得する。
端から見ると頭でっかちのアホ集団に見えるかもしれないが当事者は必至だ。
「…と言う事で、レザルドリュングに決定!」
乾いた拍手が辺りに響く…参加してない者からはやっと終わったか感で一杯だ。
「ならば…我は天宮レザルドリュングで良いのだな?」
「「「勿論!」」」
名前を争っていた3人の表情はやけに晴れやかだったという…。

「…やっとここに降りて来るか。久しぶりの人間の客だ。歓迎せねばな。」
異形の宝庫のセラエノには珍しい人っぽい影。
「余り派手な嫌がらせは嫌われますよ…御主人様。」
隣りの影は女性らしいが…シルエットを見る限り魔族の類のようだ。
「解っているつもりだ。だが…余がここに居る事は一握りの者しか知らぬ。
少しぐらいは弾けても文句は有るまい。」
「そうだと良いのですが…。幾ら普通の物では死なないからと言っても、
脳漿が飛び散るぐらいに頭を蜂の巣に撃ち抜かれても知りませんよ?痛くても…。」
彼等の近くのテーブルにはミリアン達の求める物が在る。
しかしその前に控えているのは最悪の存在。神すら恐れぬ極限存在。
極一部の者のみがその実体を知り彼を”神々を冒涜する者”と呼んでいたと言う…。
230Full metal president 104 ◆5QD88rLPDw :2005/07/06(水) 06:24:51 ID:???
そんな頃…当の施設内では?
「シット!何処から湧いてくるんだ!この大軍はっ!!!」
マクレガーは何とかシートに座り戦闘を行なっているが何分頭数に絶望的な差が有る。
無限連発のショックマシンガンも既に銃身がそろそろご臨終な状況になって来て居る。
今はマッドサンダーをも空中に投げ飛ばすそのパワーと古代チタニウム合金の硬さ。
それに頼って格闘を行なっている状況だ。
一撃毎に飛び散る敵…しかし1回に1体では幾ら持久力も自慢のコンビでも辛い。
ロケットブースターが点火されクラッシャーテイルが周囲をなぎ払う。
幾つもの敵影が壁に叩き付けられてバラバラの鉄塊に変わる。
しかしまだまだうじゃうじゃしている敵にいい加減飽き飽きしていた所だった…。

突然危険を察知したパープルオーガが、
その場をアクロバティックなバックステップで数十m後方に待避する。
待避したパープルオーガの目に映るのは…馬鹿が着くほどの巨大なゾイドの脚部。
今まで腐る程存在していた敵を一撃で踏み潰してその足は闇に消えて行く…。
巨大な足音だけが地下を響きその衝撃が施設を揺るがす。
パープルオーガのアナライザーが算出したそれのサイズとそれの予想図。
それを見たマクレガーは悪い夢でも見ている様な気分になる。
それの大きさは…推定全長3〜4km全高5〜6km。全幅0,8〜1,2km。
体重12435t。その姿の予想は…鰭が手足になっているホエールキングだった。
「…丘鯨。真逆御伽噺の中での話では無かったのか!?」
昔噺もビックリな現実は予測の範疇を遙に超えて居る。
その上…それが2機存在しその上それが動き出しているというのだ。

ー 我は天宮 終 ー
231ルーガスの野望 11 ◆h/gi4ACT2A :2005/07/06(水) 11:34:06 ID:???
帝国首都に住む全国民の集団疎開が始まった。しかし、軍の必死の非難誘導も空しく、
あちこちで次々発生するパニックを止める事が出来ず、中々進む事は無かった。
「皆さん落ち着いて下さい!落ち着いて下さい!」
「うわー誰か助けてくれー!」
「誰かー、私の、私の子供は知りませんかー!?」
「うわーんママーママー!どこー?どこにいるのー?え〜ん!」

その頃、ネオゼネバス全軍が大騒ぎになっている事など全く知る由も無いルーガスは
この為だけに作ったと思われる妙に豪華な教会で盛大に結婚式を行っていた。
「お願い・・・誰か私を殺して・・・。今の私なら多分簡単に死ぬと思うから・・・。
こんな奴と一緒になるくらいならいっそ地獄に堕ちた方がマシよ・・・。」
特殊薬品の副作用で筋力が常人以下にまで弱まり、どんなに抵抗しても無駄と分かった
マオはもう完全に諦めてしまっており、その目は死んでいた。が、それとは対象的に
ルーガスの部下の将校達が拍手で二人を祝福していた。
「ルーガス少将もついに身を固める時が来ただべ。」
「これで守る家族が出来た少将閣下はこれからなお一層共和国討伐に情熱を燃やして
くれるだろう。」
「それにしても綺麗な嫁さんたい。」
二人を祝福する将校達は誰一人として目の前の花嫁が緑の悪魔である事など知る由も
無かった。無理も無い話である。帝国がプロパガンダの為に作った映画・ドラマ・漫画・
アニメ等に登場する緑の悪魔はどれもまるで山賊の親分みたいなゴツイ風貌をしていたり、
本物の鬼や悪魔の様に描かれているのが殆どであり、(まあ後者に関しては、常識的な
人間から見ればとても信じられないと言った戦い方をするマオにも問題があるわけだが)
本物を知る者は、ハガネなど直接相対して何度も戦った事のある者や対策本部の
人間など一部の人間であり、末端の人間が知らないのも仕方ない話と言えた。
その様な説明をしている間にも結婚式は続き、ついに口付けの段階にまで来ていた。
232ルーガスの野望 12 ◆h/gi4ACT2A :2005/07/06(水) 11:36:02 ID:???
「何時までもくよくよしてはいけないよマイハニー。確かに最初は違和感あるだろうけど、
その辺は徐々に慣らしていけば良い。私には各ゼネバス貴族とのコネもあるからね。
それはそうと、準備は良いかな?」
「・・・。」
マオはその場で黙り込んでいた。もうどうあっても逃げられないと観念してしまったのだ。
そしてルーガスがどんどんと彼女に顔を近付けていた。

「(もうダメ・・・。私の人生はここで終わった・・・。みんなゴメンナサイ・・・。もうどう
あってもコイツとの結婚から逃れられないと言うのなら私は死を選ぶ・・・。)」
マオは口の中で己の歯を舌に近付けていた。そのまま噛み切ろうと言うのだ。
「(ゴメンねカンウ・・・。私が死んだら貴方もまた開かずの第五倉庫送りにされてしまう
かもしれないね・・・。ゴメンナサイ・・・。でも、死ぬ前にもう一度会いたかったな・・・。)」
ルーガスが徐々に唇を近づけてくるその一瞬の間にマオは様々な想いを巡らせていた。
人は死ぬ前、それまでの思い出が走馬灯の様に蘇ると言う。今まさにそれが彼女に見えて
いた。数々の激闘や辛い事、嬉しかった事など様々な思い出が蘇る。そして一際強く
蘇っていたのは、ひ弱だった幼少時代、他の子供に苛められていた所を助けてくれた
一人の少年の姿だった。当時の彼女にとってその少年は誰よりも格好良く見えた。
彼女が強くなろうと決意したのはその少年に憧れたが故の事である。しかし、いざ努力の
果てに強くなっても彼女に対する風当たりは変わらなかった。今度は逆に強くなり過ぎた
のだ。修行時代においても兄弟子達から不気味がられ、仕官学校時代でも同級生や
名だたる鬼軍曹達からバケモノ扱いされた。彼女には友と言える存在や、心の底から
打ち解けられる様な人間は一人としていなかった。彼と出会うまでは・・・。
「(ライン・・・私にはお前がいたんだなぁ・・・。どんなに厳しく当たったり、こき使ったり
してもしっかり付いて来てくれた・・・。今思えば貴方と一緒にいた時が楽しかった。)」
ライン=バイス。彼女が生まれて始めて持った部下。そして生まれて始めて自分を
心の底から信頼してくれた人。だから彼女も心の底から正直になる事も出来たし、
今までの戦いにおける勝利も彼の存在が無ければ全く異なる結果となっていただろう。
233ルーガスの野望 13 ◆h/gi4ACT2A :2005/07/08(金) 09:34:16 ID:???
「(さよならって言えなくてごめんね・・・。こんな事になるのなら・・・。もっと優しく接して
あげれば良かった・・・。みんな・・・さようなら・・・。)」
ルーガスの唇は残す所一センチの所まで達していた。彼女も歯を舌に当て、顎に力を
入れて本当に噛み切ろうとしていた。が、その時だった。突然二人の前に立つ神父の
背後にあるキリスト象や十字架、聖母マリアが描かれたガラスが吹き飛ぶ様に砕け散り、
その向こう側からカンウが現われたのだ。
「うわぁぁ!!何だぁ!?」
「ゴジュラスギガだぁ!!」
神父や他の皆は散り散りになって逃げ出し、ルーガスはマオを抱き寄せていた。
「カンウ!!貴方助けに来てくれたの!?」
「何だとぉ!?一体どうやって嗅ぎ付けたんだぁ!?」
と、その直後だった。今度はカンウの後ろからジェネラルまでもが現われたのだ。
そして中からラインが現われ、やや戸惑いながら周囲をキョロキョロと見渡していた。
「何だここは?教会か?カンウを追い駆けていたらこんな所に出てしまったぞ!って
中尉!?こんな所で何やっとんですか!?」
マオの存在に気付いたラインは驚いていたが、マオは泣きながら彼に助けを求めた。
「ウワァァァンライン助けて!このおじさんが私を拉致して無理やり・・・。」
「こらおじさんなんて言うんじゃないマイハニー!私はこれでもまだ若いんだぞ!」
「いくら若いったって私より十歳以上年上な時点で十分おじさんよ!このロリコン!!
そんな事よりお願い助けてライン!じゃないと私このおじさんに犯される〜!」
「こらぁ!勘違いされそうな事も言うんじゃない!」
「中尉?」
その時、ラインは物凄い形相になり、ルーガスを睨み付けた。
「貴様・・・中尉を離せ・・・。」
「何を言うか。君の事も勿論知っているぞライン=バイス君。君程度の力では私には
到底勝つ事は出来ないよ。それにもうマイハニーは私の物なのだ。ハッハッハッ!」
「人を物みたいに扱わないで!私は私の物よ!」
マオは必死に抵抗するがルーガスには全く歯が立たず、彼は笑い続けていた。が・・・直後、
ルーガスの顔面にラインの拳が直撃し、彼を吹き飛ばすと共にマオを抱き寄せていた。
「うわぁぁぁぁぁん!ラインありがとう!」
234ルーガスの野望 14 ◆h/gi4ACT2A :2005/07/08(金) 09:35:56 ID:???
マオは嬉し泣きしながらラインを抱き締めていたが、ラインの予想外の強さとマオの
行動にルーガスはショックを受けていた。
「そ・・・そんなバカな!マイハニーに手も足も出ないはずの君が何故・・・。って言うか
マイハニーも何で私よりそんな何処にでもいそうな男の方が良いんだ!?」
「そんな事は知るか!ただ分かる事は貴様なんぞに中尉は渡せないという事だ!」
と、その時、ルーガス配下の将校達が拳銃を構えて二人に迫った。
「クソッ!貴様花嫁を離せ!」
「馬鹿者!銃をしまえ!マイハニーに当たるでは無いか!素手で生け捕りにするんだ!」
「はっ!」
将校達は二人に飛び掛るが、ラインは表情一つ崩さず彼等を次々殴り倒していた。
「うわぁ!怖い!」
「滅茶強ぇ!」
「俺を舐めるなよ!伊達に毎日中尉にシゴかれてんじゃねーぞ!」
「ライン・・・貴方・・・。」
マオにとって今のラインはとても頼もしく見えた。そして彼はマオに目を向けて言った。
「一体何がどうなってるのかは良く分かりませんが、俺以前言いましたよね?中尉は
俺が守りますって!」
「!!」
その時。マオの中で今のラインの姿と、かつて幼少時代の彼女を助けてくれた憧れの
少年の姿が重なって見えた。そうして赤くなっている彼女をラインはカンウへ乗せ、
自身もジェネラルに乗り込むとその場を立ち去っていた。
「あら・・・。」
「何故だ・・・何故私よりあのような何処にでもいそうな男の方が良いんだ君は・・・。」
もう誰もがその光景を唖然と見守るしか無く、ルーガスがそのショックから立ち直るには
相当な時間が要された。そしてカンウもマオを助けた事で安心したのか、先程までの
悪鬼の様な暴れっぷりがウソの様に大人しくなり、帰路へ付く歩みもゆっくりとした
物になっていた。そしてマオもカンウのコックピットの中で少しドキドキしていた。
「(ラインって・・・実は凄いんじゃないの・・・?ねえ・・・。)」
235裏切りに、裏切る ◆ok/cSRJRrM :2005/07/08(金) 18:23:42 ID:???
性能のテストを終えた帝国軍のライトニングサイクスの試作機。
簡単な任務だった。機体の隠密性を試すため、敵の基地を襲撃する。
性能の高さは立証されたものの、共に出撃した友人二人を失った。
けれど、今、コクピットで泣き伏す女性の理由は、別にあった。
怒るように唸るサイクス。
「そっか・・・嫌よね、私が貴方に乗ってるのは」
そっと、コクピットの奥に隠してある、御守りを取り出す。
ヘリック共和国軍の、拳銃。

三年前、彼女は乗機ヘルキャットの脚を破壊され、捕虜にされた。
俯いて歩かされる通路で、懐かしい声を聞いた。
軍に入る前に、同じ職場で働いていた青年が、そこにいたのだ。
仕事場では、いつも彼は必死だった。
その月のノルマを達成しても、少しも休もうともしない。
聞けば、人間は甘えたらそこで終わりらしい。
だから、絶対に止まらないのだと。

尋問では、黙秘を貫いた。今は、これでもなんとかなる。
けれど、いずれ拷問に変るだろう。絶望したその時。
格子の前に、彼を見つけた。口に指を当てながら、鍵を開けてくれる。
黙ったまま、通路を歩く。そして、外に出た。
彼が指差した先には、共和国の主力高速ゾイド、コマンドウルフ。
半ば強引に、そのコクピットへ押し込められた。

「で、でもこれじゃ貴方が反逆罪とかに・・・」
笑って彼は銃を抜く。そして、躊躇なく、それを放つ。
左腕から、血を流す彼。銃をこちらに放って渡し、言う。
「隙を突かれて、捕虜に撃たれた。おまけに、機体も盗まれた」
自分の罪を語る割りには、明るい表情。そして、声。
「だけど、これなら誰も死ななくて済む。・・・怒られはするけど」
既に命令されていたのだろう。コマンドウルフは走り出した。
236裏切りに、裏切る ◆ok/cSRJRrM :2005/07/08(金) 18:24:33 ID:???
そして今日。急に呼び出された彼女に、渡された機体。
ライトニングサイクス。あのコマンドウルフによって完成したのだ。
同時に与えられた仕事。それは、共和国軍基地を襲撃すること。
その基地こそ、かつて自分が捕われ、逃げてきた場所。

たった一機のシールドライガーが、やっと応戦に出てきた。
既に基地は壊滅寸前。必死に祈っていた。彼が死んでいないことを。
こちらは三機。戦っても無駄だ、そう勧告した時。悲劇は始まった。
「・・・投降はしない。人は、甘えたらそこで終わりなんだっ!」
通信機から発せられた声。その台詞は、紛れも無い、彼のもの。

そっと、威嚇する様に移動し、指向性の通信で確認する。
「やっぱり。走るときの癖、そのまんまだ」
コマンドウルフのデータを一部流用しているため、彼は気付いたのだ。

傷だらけのシールドライガーは、もう限界だった。
全身から煙を噴いてなお、戦い続ける。
止まって欲しい。けれど、止められない。
彼女の友人達は、容赦なく彼を追い詰めていく。
残酷にも、通信機が、最期を告げる。
「・・・その人の言うこと、ちゃんと聞けよ。優しい人だからさ」
かつての愛機に向けた、彼の言葉。
直後。彼は、こちらの友人を二人巻き込み、自爆した。


自分の胸に、御守りを当てる。引き金に触れる前に、呟いた。
「・・・ごめんなさい・・・」
ライトニングサイクスの中で、乾いた銃声が響いた。
倉庫では人が慌しく行き来し、誰も気付くことはなかった。
237三虎伝説 エピソード26 サポーター:2005/07/10(日) 00:03:01 ID:???
凱龍輝がリングへと降り立つと、エナジーはクローを収めて残骸の山から
静かに駆け下りた。対峙する二機。天は依然として暗黒に覆われている。
「お前…こんなことをして、一体何のつもりだ。」
エナジーに向かってカルロが静かに言った。
「何故、そのような事を問う?」
男は重い声で聞き返した。
「…どういう意味だ。」
カルロは目の前の黒いゾイドを睨んだ。
「君の意思は、それを知った所で変わらないという意味だ。
こちらにどんな理由があろうとも、君に私の行いを許す気は無いはずだ。
…するべき事はただ1つ、それを君も分かっている。」
エナジーが再度バスタークローを掲げ、凱龍輝に矛先を向けた。
「そうか。それなら確かに一つかもしれない。」
二つの咆哮が響いた。雷が鳴った。

エナジーがジェットエンジンを起動して地面に踏み込むのと同時に、
凱は背部バックパックを転換し、真横へと高速で回避した。
凱の背後にあった壁が紙切れのように裂けた。瞬間的な反応。
これが出来なければこの魔獣と戦う資格は無かった。
エナジーは赤い輝きを纏ったまま急旋回すると、また凱目掛けて突進した。
だが、何を思ったのか、少し近づいただけで直ぐに足を止めた。
「良いオモチャだ。」
エナジーのパイロットがそう言うと、空から飛燕と月甲が
風を裂くスピードでエナジーの前を通り過ぎた。
「勘のいい奴め。」
カルロが呟くと、青い二体のゾイドは素早く凱の脇に揃った。
「…確か君の凱龍輝は、一般の物よりも高出力のビームを吸収できると聞いた。
またと無い良い機会だ、ひとつ試してみるとしよう。」
238三虎伝説 エピソード26 サポーター:2005/07/10(日) 00:04:36 ID:???
エナジーはバスタークローを前面に突き出すと肩のチャジャーシステムを起動し、
極太ビームを凱目掛けて撃ち出した。飛燕、月甲がそれを受ける。
冷たく青白い光がオレンジの輝きと共に次々と吸い込まれていく。
凱はその光がぶつかり合う様子を静かに見据えた。
「…むう。そろそろ限界か。」
男が一言漏らすと、エナジーはビームの連続照射で急激に温度の増した
バスタークローを納め、両脚のガトリング砲とキャノン砲による射撃に切り替えた。
休む間のない連続射撃。しかも出力は常軌を逸していた。
悲鳴を上げ始める二機のサポートゾイド。いよいよ突破されるかという所で、
突然銀色の小型ゾイドが一機現れた。
そして、そのゾイドはビームを受け止めている最前の位置へと踊り出ると、
二機の青いゾイドと同じく、オレンジの光を放ってビームを吸収し始めた。
暫く相手の攻撃を凌いできた飛燕、月甲は雷電の登場を機に、その場から離脱すると
再び凱龍輝と身を一つにした。それと同時にエナジーも完全に射撃を止めた。
「…ふ、本当に良く出来たオモチャだ。」

凱が合体した二機のゾイドをもう一度分離すると、エナジーはガトリング砲と
キャノン砲を地面へと切り離し、クローの下に隠れていた鋭利な翼を開いた。
「いくぞ。」
クローとウィングから光を放つと、エナジーは影のようになった。
回避に転じるが、凱はあえなく腕を切り飛ばされた。
先程とは比べ物にならない速さ。化け物としか言い様が無い。
凱が低く悲鳴を上げて痛みを堪える間に、エナジーの前に飛燕、月甲が姿を現した。
旋回時に生まれる一瞬の隙を狙った攻撃。それは両肩に張り出したドラムを捕え、
エナジーを仰向けに弾いた。様々な武装が集中した背中からの転倒。
ダメージは計り知れないはずだ。しかし、流石は化け物と言ったところか、
エナジーは直ぐに起き上がると、もう一度翼を輝かせ、風のように駆け出した。
凱は雷電と合体すると、電磁キャノンをエナジー目掛けて撃った。
239三虎伝説 エピソード26 サポーター:2005/07/10(日) 00:05:34 ID:???
十分速く、正確な攻撃であったが、エナジーは生き残った右側の
バスタークローでEシールドを開いてそれを凌ぎ、凱へと襲い掛かった。
素早く月甲が間に割って入る。だが、エナジーはそれを物ともしない。
月甲が鋭い角の餌食になると、次に飛燕が横から仕掛けた。
エナジーの目が微かに光ったように見えた。
次の瞬間、飛燕はバスタークローに貫かれ、粉砕された。
一瞬の内にサポートゾイド二機が散る中、最後にエナジーを受け止めたのは
他でもない凱自身だった。エナジーを頭から押さえつけたため、受け止めた右足は
グングニルホーンの串刺しとなった。ゼロ距離に密着した二機の間で、
唯一機能する武装であるバスタークローが凱を狙う。身動きの取れない凱は、
コックピットを庇うことで精一杯だった。槍が確実な急所を捕える。
…ここで予想外の事が起きた。なんと、距離が近すぎたため勢いが足らず、
クローが凱を捕えたまま引き抜けなくなってしまったのだ。
「勝ちを焦りすぎたか。私もまだ甘い…むっ?」
ダークがモニター越しに上を見ると、そこには先程の銀色のゾイドの姿があった。
振り払おうとするが、凱と密着しすぎているため力を出し切れない。
240三虎伝説 エピソード26 サポーター:2005/07/10(日) 00:05:57 ID:???
「…くっ、図られたか。」
ぼそりと呟いた男の耳に青年の声が聞こえてきた。
「…流石に気付かなかったみたいだな。まあ無理も無い。
雷電が集光エネルギーを大量に受け取って凱から離れたのは、
さっきバスタークローが伸びるのと、ほぼ同時だったからな。」
カルロがそう言うと、エナジーとファルコンの連結部に入り込んだ雷電のコアが
全ての暗闇を掻き消すほどに強く、眩いオレンジの光を放ち始めた。
「自爆させるつもりか。…なるほど、この距離なら威力は保証済みだな。」
男はあくまで冷静に反応した。そして、静かにガード付きの赤いボタンに指を伸ばした。
「 雷 電 ! 」
凱龍輝のコックピットから声が響くと、一段と強くなった光がコロシアム全体を覆った。
真夏の太陽を髣髴とさせるような輝きと共に、爆音が闘技場の壁を切り崩した。
すでに人の居なくなった観客席に青く細かい金属片が散らばっていた。
吹き飛ばされた凱龍輝の姿もそこにあった。だが、闘技場の何処にも
エナジーファルコンの姿は見られず、凱以外で闘技場に姿を残したのは、
リングに横たわる無人のゾイド三機と、残骸の山と化したZOITEC警備隊の機体だけだった。

何時の間にか雨が止んでいた。だが、空は依然として暗闇に覆われていた。
241ルーガスの野望 15 ◆h/gi4ACT2A :2005/07/10(日) 09:39:11 ID:???
その頃、なおも国民の避難が終了せず、パニック状態の帝国首都だったが、
「大変です!ギガが突如として方向を変え、帰って行きます!」
「何だとぉ!?と言う事はもう大丈夫なのか!?」
「やったぁ!帝国は救われたぁ!」
と、別の意味で彼等は大喜びしていたのだが、今回の事で莫大な資金と兵士を
失ってしまった事は言うまでも無かった。

マオも今回の件で姉であるミオから直々のお叱りを受け、再起不能寸前ギリギリの所まで
たっぷりみっちりと締め上げられたワケだが、おとがめ自体は特に無く、バツも一週間の
トイレ掃除だけで何とか事は済んだ。

それから、特殊薬品に関しても後遺症は特に無く、数日もすれば彼女の筋力も元通りに
なったのだが、この件で彼女はラインをより意識するようになった。
「ねえライン。あの時ルーガスの奴をぶん殴った時の凄い強さ。もう一度見せてよ。」
「え?いや〜そんな事言われましてもですね?あの時俺自身何がどうなったのか・・・。」
あの時何故ラインがあそこまで強くなれたのかは本人でも良く分からなかったらしく、
その為に白兵戦の訓練でも結局ラインはあの時の強さを見せる事無くマオに簡単に
伸されてしまうのでった。
「ダメだこりゃ・・・。少しでもあんたの事見直した私がバカだったよ。」

その頃、ルーガスはまるで燃え尽きたかのように自室の隅っこでじ〜っと体操座りし
続けていた。よっぽどマオと結婚出来なかなかったのがショックと思われる。
242ルーガスの野望 16 ◆h/gi4ACT2A :2005/07/10(日) 09:39:53 ID:???
後、この件についてマオはこう語る。
「あの時ははっきり言って他のどんな激戦や苦闘なんて比較にならない程のピンチ
だったね。だって人生棒に振る所だったのよ。それにあの子達だって生まれて来る事は
無かったし・・・。それにしてもあの子達今ごろ何処をほっつき歩いているのかしら・・・
久しぶりに会いたいわ〜。ねえ!ちょっと貴方聞いてるの?そりゃね。私だって
分かってるわよ。みんなから“何時までも子離れ出来ない親”って言われてる事位。
でもね、やっぱり寂しいのよ。私自身孤児院育ちで親の愛知らずに育ったからかも
しれないけど・・・。下の子はまだしっかりしてるから良いけど、上の子の方は心配なのよ。
顔に凄い傷作って帰って来た時なんか、思わず整形外科へ連れていこうとした程よ。
それにウチの旦那は何時までたっても頼りないし。と言うか未だに私の事軍隊の頃の
階級付けて呼ぶし、敬語使うし。もうね。結婚して16年以上経つんだからもう
いい加減対等の関係でありたいと思うのよ。でもまあそんな所が好きだって事も
あるんだけどね・・・。何だかんだ言ってイザと言う時は・・・ってもう時間来ちゃったの?
あ〜あ〜、まだまだ話したい事色々あるんだけどな〜・・・。」

結局ルーガスは夢を実現させる事は出来なかったが、その彼の孫がマオの曾孫と親しい
間柄になっていると言うのはもしかしたらこれもまた運命的な物があったのかもしれない。
243Innocent World2 円卓の騎士:2005/07/10(日) 17:49:05 ID:???
「お……俺が……?」
 彼にはとても信じられなかった。自分がそんなことを無意識の内に行ったなどとは。そ
して、話の中から一つの事象を思い出す。
「……俺のイクスは……?」
 重い沈黙。それだけで結果は見えていたが、彼は部屋を飛び出していった。

 嘘だ。あいつが死ぬはずはない。俺と、“ギルド”時代から一緒に戦ってきた相棒が。

 階段を駆け下りる時間さえもどかしい。きっとこれは何かの冗談で、格納庫には何事も
なかったようにイクスが立っているんだ。いつもと同じ、俺と共に荒野を駆け抜けたいと
うずうずしながら――。
 格納庫のドアが開いた。
 そこにあったのは、散らばる金属片の山と、足の関節が完全に壊れ、倒れたまま動かな
いイクス。そして、木箱に腰掛けて考え事をしている様子のリニア。
「あ……」
 言葉も出ない。目の前にあるのは、生命を持った雄々しい金属の獣ではない。
単なる『それ』の残骸に過ぎないのだ。
「……オリバー?」
 暗い格納庫。リニアの声は反響し、奇妙な響きを残して闇に吸い込まれていく。
「師匠……俺は、自分でコイツを……?」
 問い掛けに対する答えはなく、リニアは彼の方に歩いてくる。
 そして、無言のまま彼を抱きしめた。
「!? し……」
「私はあの時……怖かった。もう二度と、元のお前が戻ってこないんじゃないかって思う
と、締め付けられるような感じがして…………戻って、きたんだな?」
 リニアの脳裏に焼きついた、オリバーの冷たい笑み。あんな顔は見たことがなかった。
いや――あんな顔ができること自体、知らなかった。
 怖かった。その笑みが、彼女の知っている人に似ていたから。
 その動きも能力も、その人に似ていたから。オリバーのものではなかったから。
「アーサーは……私の師、ルガールと同一人物かもしれない」
244Innocent World2 円卓の騎士:2005/07/10(日) 17:52:42 ID:???
「!?」
「私は彼に攻撃できなかった。シャドーエッジはボロボロだが……死んではない。でも、
お前のイクスはもうコアが石化してしまったよ」
 彼女がオリバーを離すと、彼はよろよろと『かつて愛機だったもの』に歩み寄った。
 冷たい亡骸。魂の消滅したゾイドはただ黙するのみ。オリバーはそのコックピットに昇る。
皮肉なことに、機体から独立して動く機器の類だけが『生きて』いる。
 いつもシートに座って感じる暖かさのようなものはなく、ただ狭いだけの空間。
「う……う、あっ……」
 形はどうあれ、マキシミンは生きていたのだ。そのことが救いにもなっていた。だが、
今の彼には救いなどない。自分が共に戦ってきた相棒は、今ここで確かに死んでいる。

 そして、殺したのは他ならぬオリバー自身なのだ。

 静かに、暗いコックピットの中でオリバーは泣く。世界とのつながりを全て遮断して、
一人ですすり泣く。
 この時、彼は怒っていた。敵にではない。『無意識の内に』愛機を死なせてしまった、
自分に対する怒りだった。

「リニアさん、『捕虜』が……起きました」
「そうか。ちゃんと見張ってるな?」
「はい」
 『捕虜』が寝かされているのは、オリバーが寝室として使っていた屋根裏部屋だ。階段
を昇り、リニアが埃っぽい部屋に顔を出すと、赤毛の男が彼女を見て苦笑する。
「ほーお、噂に名高い『天使』どのと、ゾイドを降りて対面することになるとは思わなか
ったぜ。俺をどうするか、もう決めたのか?」
「いいや、これから決める。――確か、ラインハルトとか言ったな」
「名を覚えていてくれて、光栄だぜ」
245Innocent World2 円卓の騎士:2005/07/10(日) 17:55:59 ID:???
 一瞬、二人の間に沈黙が壁を成す。ぶつかり合う視線――動いたのは、リニア。
 彼女はラインハルトを拘束していたベルトを外し、その襟首を掴むと、呟いた。
「お前がまず話すべき者は、私ではない……自分のしたことを教えてやる」
 その迫力、その殺気! 居合わせたエメットでさえ凍り付くような、圧倒的な気迫!
 ラインハルトは逆らえなかった。彼は今確かに、アーサーに感じるのと同じ威圧感を
感じたのだった。

「オリバー、降りてこい」
 冷たいシートにうずくまるオリバーの耳に、その声は届いていた。だが、出たくない。
いつまでもここで――願わくば、俺が死ぬか世界が終わるまで、動きたくない。
 大切な人、大切なものが失われていく。『反乱』の日には両親を、少し前にはマキシミン
の記憶を。そして今度は相棒を。
 一体となって戦った彼だから解る。コイツはもし死ぬとしても、勇敢に戦って、戦って、
戦い抜いて……命尽きるまで敵と戦い、敵に討たれる。誇り高い討ち死にを望むだろう。
――いや、『望んだ』だろう。
 死に形など関係ない。死んでしまえば形が残っていようと粉々になろうと、大した違い
ではない。わずか14歳にして多くの人を殺めてきたオリバーの理性は、そう結論付けてい
る。死に方の違いなど、“生と死の違い”に比べれば塵に等しい。
 しかし、彼の『理性ではない何か』は告げる。少なくともコイツは、乗り手に無茶をさ
せられて自殺的な戦闘をするべきではなかった。平和というものが訪れ、チェーンアーツ
のような組織が必要とされない時代まで、一緒に生きて欲しかったのだ。
「……オリバー!」
 リニアがハッチを強制開放し、中を覗き込む。そこに小さくなっているオリバーの姿に、
彼女の憤りは一瞬で冷めた。
 憐れみ、そしてもっと複雑な何か。どうすればこの少年を救えるのだろう? 彼はとて
も深い心の闇に、自らを沈めてしまっている。
「……オリバー」
 さっきとは違う、静かにいたわるような声。その優しささえ、今のオリバーには痛い。
 本当は、その心遣いに感謝したい。優しさに縋りつきたい。だが、それはできない。
 ――この悲しみは、彼自身が生み出した物なのだから――。
246Innocent World2 円卓の騎士:2005/07/10(日) 18:01:17 ID:???
「大丈夫か、とは聞かない。見ればわかるからな。……一人で悩まないでくれないか?
頼ってくれていいんだ。エメットでも、ワンさんでも、エルフリーデでも……きっと、
お前の助けになってくれる」
「ダメなんだよ、師匠!」
 突然大声を出したオリバー。下では、ラインハルトが二人を見上げている。
「俺が殺したんだ! 師匠たちでも騎士でもなく、この俺が! 大切な相棒を、しかも
『無意識の内に』なんて……そんな、ひどい話が……ッ!」
 リニアは彼をコックピットから引き出した。抵抗するでもなく、オリバーはただ引き
ずり出されるに任せていた。そんな様子をまた、どこか辛そうにラインハルトが見ている。
「オリバー、何とかしてこいつを甦らせよう」
 怪訝そうに彼女を見るオリバーの顔には、ありありと『無理だ』と言う表情が見える。
だが、リニアは本気だった。この少年を助けたい。そのためなら、何だってする。
「石化したといっても、本当に石になる訳じゃない。活動を停止した金属細胞はすべて
同一の粒子に変化するが、ゾイド自体の因子は何らかの形で残っているはずだ」
「でも、それだけあったってなんにもならない」
「そうだ。だから、金属細胞を再起動させるためのアーティファクトを探す。大戦前は
あらゆる物の生と死を自在に操れるとまで言われた時代……コアを甦らせる何かが、あ
るかもしれない」
 これは賭けだ。何の根拠もない、ただの嘘に過ぎない。しかし今の彼女にはそれで充
分だった――オリバーが、僅かでも希望を見出せるなら。
「ただ探すといっても、独力では無理だ。だが、私には手がかりがある」
 リニアはラインハルトに向き直った。その口元に、薄い笑みを浮かべて。
「さて……お前にも、手伝ってもらおうか」

 ラインハルトは結局、彼女達に連れ出された。おとなしく従ったのは、リニアの威圧感
のせいもあるが……最大の原因は、オリバーの悲痛な嘆きを聞いたからだ。
 自分のゾイドが死んで、あれほど悲しむパイロットは見たことがない。よほど深い信頼
があったのだろう――しかし、その死の原因を作ったのは、自分とアーサーだ。
 感じるはずのない罪悪感に悩みながらも、彼は歩いた。
247希望と絶望の光 ◆ok/cSRJRrM :2005/07/14(木) 22:17:34 ID:???
帝国軍が生み出した、凶悪にして最強のゾイドの武装。
荷電粒子砲。
原理こそ通常のビーム兵器と変らないが、用いる粒子が違う。
加速に必要な時間、距離、そして機体強度が、大きすぎるそれ。
その差が、桁違いの破壊力を生む。

「ハッハッハ!我らは遂に最強の武器を造り出したのだ!」
開発室では、宴会が行われていた。
あらゆる人間から反対されたこの計画。
ティラノサウルス型ゾイドの尻尾から口へかけて、粒子を加速させる。
今までにない、一撃必殺の破壊力を持つ兵器。
この部署の人間以外、誰もが失敗を予想していた。
だが、完成した試作機の時点で、その威力は上層部の人間を黙らせた。

「おかしいよ・・・ねぇ、どうして笑っていられるの?」
隅に座っている女性が、近くにいる青年に尋ねた。
「おいおい、俺達が認められたんだぜ?喜ばない理由が無いだろ?」
彼女は黙って、彼の腕を掴んで外へ出た。
それに気付いた他の同僚が冷やかしてきたが、無視することにした。

宴会の喧騒から離れて、呟くように彼女が尋ねる。
「・・・あれで大勢の人が死ぬんだよ?」
連れ出された方の青年は、空を見上げながら、簡潔に答えた。
仕方がないんだ、と。
「『戦争を終わらせる武器』って言ったから私は参加したのに!!」
そう。彼女をこの計画へと招いたのは彼なのだ。
同期の技術士官ということもあり、彼らの気はそれなりに合った。
だから、彼が誘った時に彼女は喜んで応じたのだ。
248希望と絶望の光 ◆ok/cSRJRrM :2005/07/14(木) 22:18:43 ID:???
「荷電粒子砲は絶対的な力だ。だからこそ戦争を終わらせられる」
彼女は後ずさった。彼の言う言葉の意味が、理解できなかったから。
「おかしいよ、そんな考え方!」
思わず、声を荒げた。
それを聞いた青年は、優しく、それでいてどこか冷たい口調で話す。
「確かにそうかもしれない。だけど、もうこれ位しか方法が無い」
ゆっくりと、彼は説明した。

荷電粒子砲の力を見せつけられた敵の士気は著しく低下するだろう。
そうすれば、簡単にこちらが勝てるようになる。
各地の戦線でそれが起きれば、戦争は終わる。
少しでも早く終われば、それ以上戦死者の数は増えないだろう、と。

話を聞いた後、彼女は俯いて、黙っている。
「最終的に正しいのはお前の方だ。これは、殺しを正当化してるだけ」
彼女が、何か言おうとして、口篭った。
少し考えて、青年の方がおどけた口調で言った。
「じゃ、終戦まで毎日、教会にでも通うか?」
冗談のつもりだったが、そうやら彼女は本気にしてしまったようだ。
「・・・うん。そうしよ」

ジェノザウラーが。ジェノブレイカーが。デスザウラーが。
今日も戦場でその口から破壊の光を放つ。

教会の祭壇の前で、目を閉じて祈る男女が一組。
ふと、青年が隣で硬く目を閉じ手を合わせている女性を見た。
(世界が・・・お前みたいなのだらけなら、戦争なんて起きないのに)
そう考えてまた、届くことのない祈りを捧げた。

だが、荷電粒子砲は皮肉にも、戦争の激化を促進してしまうのだった。
249三虎伝説 エピソード26 テクノロジー:2005/07/16(土) 21:54:12 ID:???
エナジーの乱入によって大会が幕を下ろしてから5日ほどたった。
テレビではしきりにその事件に関するニュースが流れていた。
ZOITECという世界的な超巨大メーカー主催の企画で起きた事件というだけあって、
それは全ての人が注目する大きな話題の1つとなっていたのだ。
世界レベルのニュースというだけあり、記者たちの動きも活発その物で、
結果的に、その事件は社長を始めとした大会関係者全員の身動きを封じる事となった。

「今日も結構来てるねぇ〜。」
ライトは社長室の窓からビルの入り口に押し寄せる記者の群れを見て言った。
「ご苦労な事だ。」
アデルはライトに背を向けたまま答えた。
ガチャ、とドアが開く音がした。
二人が振り向くと、そこには険しい顔をした男の姿があった。
「お待ちしていましたよ、社長。」
ライトとアデルが軽く礼をする。
「うむ、揃っているようだな。」
ケインはホワイト、ブルーのトップの姿をそれぞれ確認するとそう言い、
部屋の奥にある椅子に腰をおろした。そして、静かに話を始めた。

250三虎伝説 エピソード27 テクノロジー:2005/07/16(土) 21:55:39 ID:???
グラントは持ち前の回復力から既に歩けるほどまでに回復していた。
同じ日に病院に入ったリリーは昨日退院した。ロンも今日退院できるらしい。
なんだかんだ言ってタフな連中だ…グラントはそんな事を考えつつ、
松葉杖を突いて、自分の居る病室から二つ先の部屋へと向かった。
部屋に入ると、懐かしい顔が見えた。
「よう、目ぇ覚めたみたいだな。」
グラントが声を掛けると青年は落ち込んだ表情のまま顔を壁にそむけた。
「おいおい、いきなりそんな態度を取るなよ。」
そう声を掛けると、青年は壁を見つめたままゆっくりと口を開いた。
「…俺がもう少し早く出撃できれば、ゴジュラスは死ななくて済んだ。
それに敵を取る事も出来ず、奴を逃がした。…合わせる顔が無い。」
フッと笑みを浮かべると、グラントはカルロの頭に強く手を被せた。
「馬鹿言うな。俺達が負けた相手にお前等が簡単に勝っちまって溜まるか。
万が一そんな事にでもなったらそれこそ、ゴジュラスだって浮かばれねぇ。
…まあな、終わった事はとやかく言っても仕方がねぇんだ。時間は一方通行。
いったん俺達が通り過ぎたら、もう元には戻れねぇんだ。まあ、そんな初歩的な事を
分からねぇでいるようじゃ、爺の特訓とやらもまだまだって感じだな。」
カルロは黙ったまま、静かに聞いていた。
「さて、ちょっくらゴジュラスの墓参りにでも行って来るかな。」
そう言うと、グラントはカルロの頭を軽く弾き、
覚束ない足取りで出入り口まで向かうと、病室の外へと出て行った。
カルロは何か言おうと思ったが、結局言葉が見つからなかった。

251三虎伝説 エピソード27 テクノロジー:2005/07/16(土) 21:56:13 ID:???
それから暫く経つと、今度はDrランドがカルロの病室へと入ってきた。
元気してるか?…まあまあさ、等と適当な挨拶を済ませると、
Drは見舞いの品を脇に置き、話を始めた。

「さて、この前の黒いゾイドの件だが。アレがどういう代物か知っているか?」
「…いや。だが1つ分かったは、恐ろしく強いって事かな。」
Drはウンと頷くと、話を続けた。
「そうだろう。いや、そうでなくては駄目じゃ。何故なら、
あのゾイドは本来存在してはいけない伝説のゾイドだからな。」
「…伝説のゾイド?では、あれも三匹の古代虎の一種か?」
カルロが身を乗り出すと、Drは首を振った。
「いや、アレはそういう存在とは違う。古代ゾイド三体がコアという点で
特殊である事は前にも話したが、あのゾイド『エナジーファルコン』は
それとはまた、違う部分で特殊なのじゃ。」
「…つまり?」
「つまり、エナジーファルコンはその中心となるコアではなく、
その周囲を取り巻く武装が特殊であるという事じゃ。」
「特殊な武装…いわゆるキメラシステムのようなものか?」
カルロは思いつく限りで言った。
「ふむ、それも一部関係しているとは言えるな。…だが、その力の強大さは
そんなちっぽけな物じゃない。なんせ、アレはZiにおける技術の結晶と
呼ぶに相応しい代物だからな。」
「Ziにおける技術の結晶…。」
カルロは息を呑んだ。
252三虎伝説 エピソード27 テクノロジー:2005/07/16(土) 21:58:26 ID:???
「とてつもなく強大で、破壊的な技術の形。戦時…それも後期に生み出された物だ。
当然、戦争終結の際にデスザウラーやマッドサンダー、セイスモ、キメラ等と同じく
製造を禁止され、全ての設計図が燃やし尽くされたはずだった。だが…。」
Drは俯いた。
「一度生まれた技術というものは、その開発に携わった者の中にどうしても生き続けて
しまうんじゃ。そして、その技術が生きる人間の意志に魔が差したとき、今度のような
形で技術は猛威を振るう。…同じ技術を扱う物として、これ以上に悲しい事は無い。」
カルロは静かにDrの言葉に耳を傾けた。そして、技術という物に軽く恐怖を覚えた。
「しかし」
Drは口を開いた。
「あれだけのシステムじゃ。1人の簡単な邪念で再現できるような物とは違う。
大きな組織…それも大規模な工場を働かせても疑われないような物が背後に
動いているはずだ。そう、例えばZi−ARMSのような…。」
「Zi−ARMS?あのゾイドを始め、様々な分野の武器を扱う巨大メーカーの?
有り得ない。あの会社が何故ゾイドの本体を製造するZOITECに恨みを持つんだ?
ゾイドをZOITECが造るから、向こうだってゾイドの武器が売れるんじゃないか。
ZiGコーポレーションのように、その両方を一手に扱っている店ならまだ分かるが…。」
「まあ、例えばの話じゃ。それに利益、恨み…恐らくそれらは無関係じゃろう。
もしそれが目的なら本社なり社員なりをまず狙ってくるはずじゃからな。
良く思い出してみろ、エナジーはまず始めに何を狙った?」
カルロは目を細めて答えた。
「…グラント?」
「正確にはZOITEC社内大会優勝者…まあ、ゴングは鳴っていなかったがな。」
「でも何故?頭が痛くなってきたよ。」
「もう一声必要か。あの大会の真の目的はなんじゃ?」
青年は頭を抑えつつ、急に思い出したように答えた。
「ワイツタイガーの護衛か!」
253三虎伝説 エピソード27 テクノロジー:2005/07/16(土) 21:58:52 ID:???
Drは小さく頷くと答えた。
「その通りじゃ。しかも奴は最終的に残りの二人も狙った。
護衛隊に配属が決定している二人のファイターを。もう、見えてきたじゃろう?
コイツ等の狙いが虎である事、そしてその正体が今までの騒動の組織と同一であると。」
「ああ…で、俺はこれからどうしたら良い?さっきグラントにも言われたが、
俺はまだ未熟だ。ワイツに乗る資格があるとは思えない。でも、時が許さないのであれば
俺はワイツに乗る。そして、必ずその時までに乗りこなしてみせる。」
カルロがそう言うと、Drは静かに笑みを浮かべた。
「ふふ、お前さんには乗ってもらうさ。ワイツだって目覚めてからもう数十年もの間、
一歩も動いてない。そろそろ体を慣らしていかんと、いかに伝説のゾイドといえども
流石に本来の力を発揮できんじゃろう。何、時が許さないなんて事は無い。
凱もそろそろ休暇が欲しい頃じゃし、純粋にちょうど良い時期なんじゃよ。」
「そうか。俄然、退院が楽しみになってきた。
…Dr、ちょっと外に出たいんだ。連れて行ってくれないかな。」
カルロは日の差し込む窓を見て言った。
「それは表の騒ぎを知ってのことか?」
Drは歯を見せながら言った。カルロもニッと笑い返す。
「…いいじゃろう、目的先はGALESのファームじゃな?
取って置きの裏道を行くから覚悟せい!」
カルロは大きく頷くと、ベッドからさっと降りた。
五日前のあの日の空。それとは違う、澄んだ青空が青年を照らした。
254三虎伝説 エピソード28 ロス:2005/07/22(金) 22:06:58 ID:???
上空から見たブルーシティーの眺めは、まさに壮観の一言だった。
銀色の建物が立ち並び、車や人がその隙間を流れるように行き交う。
グラーグの景色とはまるで違ったが、これがこの街の日常であり
平和なのだとカルロは思った。

「取って置きの裏道っていうからどんなトコかと思ったら…。」
青年は窓から外を覗きながら言った。
「まさか空を飛んでいくとは、一本取られたよ。」
メイン操縦席に座る老人は、その声を聞くと顔を微かに綻ばせた。
カルロは窓に映った自分の顔に気付いて、忘れかけていた疑問を思い出した。
「そういえばDr、今こうやってプテラスで飛んでいる訳だけど」
カルロは何気なく切り出す。
「それがどうした?」
ランドも何気なく答えた。
「ちゃんと治安局に許可取った?確か病院出て、ヤケに短時間で飛立ったような…。」
問いにランドは暫く無言になった。そして、声の調子を変えて答えた。
「勿論、問題等ない!」
カルロはその数秒の間に不安を覚えた。だが、あえてこれ以上何も問わないでおこうと決
めた。病院の外出許可でさえDrの顔を見せただけで簡単に降りてしまったのだ。きっと
また何かあるのさ。そう、いま光学迷彩を起動していることにもちゃんとした理由が…。

255三虎伝説 エピソード28 ロス:2005/07/22(金) 22:08:02 ID:???
GALESのファームが見えてきた。入り口付近に人だかりが見える。
「Dr、あれって…。」
カルロは明らかに嫌そうな口調で言った。
「ああ、間違いない。記者の皆さんじゃ。」
ランドもまた、同じような口調で言った。
「どうする?これじゃあ着陸しようにも…」
カルロは施設の様子に、話を中断した。
「どうした?」
ランドがプテラスの速度を落としつつ言った。
「いや、ホバーカーゴの姿が無いなぁと思ってさ。
あれで移動するって事はバトル以外じゃ無いはずなんだけど。」
「カーゴ?ガレージの中じゃないのか。」
「いや、ここにはそんなに大きいガレージは無いはず。Dr…悪いけどこの周りを低めに一周
回ってくれないか?もしかしたら目の付きにくいところに止めてあるのかもしれない。」
「了解した。」
ランドは操縦桿を握りなおすと機首を下げてゆっくり移動し始めた。
カルロは窓に張り付いて、流れる景色に目を凝らした。

256三虎伝説 エピソード28 ロス:2005/07/22(金) 22:09:12 ID:???
「どうだ?」
「ああ、やっぱり無いみたいだ。…Dr、ゴジュラスの残骸は全てここに運んだんだよね?」
「そうじゃ。グラント切っての頼みでな。」
「ってことは、ゴジュラスの墓はまた別の所に作ったのかもしれないな。
もしかしたらカーゴがここに無いのも、残骸を何処かへ運んでいるからなのかも。」
「墓?」
ランドはカルロの言った何気ない一言に違和感を覚えた。
「ゾイドのか?」
「そうだけど?」
カルロはきょとんとして答えた。
「墓…とは。珍しいな、奴は死んだゾイドに墓を用意してやるのか。」
ランドはまるで奇妙な事のように言った。だが、彼がそんな反応を取るのにも
無理は無かった。…ゾイドの墓。この東方大陸にその概念を持つ物は少なかった。
もともと野生体が少なかったことから先住のゾイド人が少なく、
住人のほとんどが中央大陸から逃れた地球人だった事がその大きな原因だった。
この土地で暮らしを始めた彼等は、もともと持ち合わせていた機械的な物を道具として
捉える風習に加えて、実際に生のゾイドを見るという機会がほとんど無かったため、
他大陸の民族と比べてゾイドを生き物として捉える考え方が欠けていたのだ。
「そう?俺の村じゃ極当たり前の事だったんだけど。」
カルロはうなじに手を回しながら言った。
「村…?ああ、そういえばお前さんの出身は中央大陸だったか。
まあ、あの辺のゾイドに対する異常な感情の入れ込み具合を考えればおかしくも無いが。
…ん?となれば、もしかして奴もこの大陸の出身じゃ無いのか?」
257三虎伝説 エピソード28 ロス:2005/07/22(金) 22:11:09 ID:???
「あれ、まだ話した事無かったけ?実は兄貴も俺と同じで中央大陸の出身者なんだ。
しかも相当山奥に住んでいたらしくて、こっちに始めて来た頃は驚きの連発だったとか。」
山奥…ランドはグラントの姿を思い浮かべたが、あまりイメージが合致していない
ように思った。確かに豪快な男ではあったが、そういうのとは少し違う印象だった。
「…ああ見えて案外田舎者なんじゃな。じゃあ、後の二人も?」
「ルドさんと姉御の事?いや、確かあの二人はこの街の出身だったと思うよ。
何でも兄貴がこっちで最初に知り合ったのが確かルドさんだったとかで。」
「ほぉ、そうだったのか。(…ふ、人とは面白いもんじゃ。遠い大陸から遥々やって来た
山の民と、こんな大都市の住人が今ではあんなに意気投合しておるとは…。)」
「あ、もしかして…」
ランドが感慨に浸るのをよそに、カルロにある考えが浮かんだ。
「兄貴はカーゴで中央大陸に向かったのかもしれない…。」
「はぁ?」
ランドは予想だにしなかった急な発言に、思わず声を上げた。
「いや、ずっと前に、ふるさとの村にはゾイドの大きな墓地があるって
話を聞いた覚えがあるんだ。確かその時、兄貴はこのゴジュラスが死ぬような事があったって…」
「なるほど。…だが、流石にそれはあり得ないだろう。そもそも奴は怪我人という身分だ。そんな無茶は出来ん。」
ランドが真面目顔で言うと、対照的にカルロは表情を緩めていった。
「いや。兄貴ならやりかねないよ。Drはまだ分かってない部分があるみたいだけど、
あの人ってのはそういう人だ。…元に病院は無断で抜け出してったみたいだしね。」
258三虎伝説 エピソード28 ロス:2005/07/22(金) 22:12:12 ID:???
「まさか…、いやお前が言う冗談として上手すぎるか。なら、速く追った方が良い。
…まあ、此処から1番近い水上ゾイドロードって言っても相当な距離がある。
コイツの足なら直ぐに追いつけるじゃろう。本当に向かっているなら、の話だがな。」
ランドは半ば呆れた顔をして言った。
「悪い。」
カルロは笑いを堪えながら、ランドの肩を叩いた。ランドはこの若者を
連れ出した事を少々後悔したが、気分を取り直して操縦桿を握った。
プテラスはマグネッサー出力を上げ、海へと向かった。

カーゴは割と早く見つかった。何故なら、海へ出るゾイドロードの途中で
渋滞に巻き込まれ、身動きが完全に取れなくなっていたからだ。
「ちっ、何だってこんな巨大輸送機専用のロードで引っ掛からなきゃいけねぇんだ!」
グラントは苛立ちから、落ち着きがなくあちこちを歩きまわりながら言った。
「おいおい、大人しくしてろよ。大体よく松葉杖でそこまで動き回れるな。」
「全く。まあ、これは病院を勝手に出てきちゃったバチだと思って我慢するしかないわね。」
二人は対照的に急ぐ様子も無く、冷静な反応をとった。
その様子にグラントは耐え切れずに怒鳴った。
「何!ゴジュラスがこのままの姿で良いってのか、お前等!」
フランカが溜息を1つついて答える。
「そうは言ってないわ。だけど、仕方ないじゃない。
そもそも、こんな無計画な行動に付き合って貰うだけありがたいと思いなさいよ。」
「フランカの言う通りだ。(まあ、あの勢いでカーゴを持ち出されても危ないし。)」
三人しかいない内、完全に二対一。グラントも引き下がるしかなかった。
「ちっ…分かったよ、もう何も文句は言わねぇよ。」
259名無し獣@リアルに歩行:2005/07/22(金) 22:12:54 ID:???
言い合いに決着がつき、グラントが椅子に腰を落ち着けると、急にポーンと音が鳴った。
「メッセージ?一体誰からだ?」
グラントの呼びかけに、ルドブは少し驚きがちに答えた。
「例の博士…Drランドからだ。」
「げ、早速ばれたか〜?で、何だって?」
「…えっと、今すぐ戻れ。話がある…だそうだ。」
「今すぐ?じゃあ、ゴジュラスどうすんだよ。」
「取り合えず、ファームに補完するしかないんじゃないか?」
「そんな…それじゃあ渋滞待っただけ損じゃねぇか。」
グラントは椅子から立ち上がって呟くように言った。
「諦めるのね。相手があの老人じゃ勝ち目は無いわ。」
諭すようにフランカが言った。グラントは呆然とした。
「決まりだな。次の分岐で引き返すぞ。」
ルドブがマップを開きながら言った。
「ちょ、ちょっと待てよ!あんなにあっさり引き受けてたのに
何でこんなに簡単に止めちまうんだよ!おかしいだろ!」
グラントはいかにも納得がいかない様子で怒鳴った。
260三虎伝説 エピソード28 ロス:2005/07/22(金) 22:13:28 ID:???
「悪いな、グラント。…でも、話があるってことは何か大事なことがあったの
かもしれないだろ?お前だって命を狙われた事を忘れちゃいないはずだ。」
「だが、俺は俺のけじめとしてアイツを元あったところに戻してやらなきゃ成らない…。
それも出来る限り早く。お前等が嫌なら良い。俺1人でグスタフでも借りて持っていく!」
グラントが息を荒げてそう言うと、ルドブは顔に手を当てながら返した。
「お前が聞かない性格なのはわかっている。だがこの位のことは理解できるだろ?
ゴジュラスを失って、お前自身が苦しんでいる事は分かる。だが、冷静になるんだ。
安心しろ、ゴジュラスは俺達がいつか必ずお前の村に連れて行ってやる。」
ルドブが力を込めてそう言い放つと、グラントは腕を組みなおして口を閉じた。
そして、閉じた目を見開き、松葉杖の先を壁につきつけて言った。
「…畜生め!約束だからな!絶対守れよ!」
グラントが目に薄っすらと涙を浮かべて床に座り込むと、ルドブは顔を和らげて言った。
「当然守ってやるさ。アイツは他でもない、このチームの仲間だったんだから。」
261すれ違う想い ◆ok/cSRJRrM :2005/08/05(金) 00:26:32 ID:???
今日も、パイロットが自分の頭に乗り込む。
いつも通り、ブレードライガーは雄叫びを上げる。
『動かされる』感覚にも、もう充分に慣れてきた。

気が付けば、すぐ目の前では戦闘が繰り広げられていて。
自分も敵を切り裂いている。
使い過ぎて折れ曲がったブレードを振りかざしながら。
その動きには、恐ろしいほどに無駄がない。
一撃で、相手の息の根を止めていく。

降りた時、青い獅子は寂しげに唸った。
今の操縦者には、その意図は解らない。
右前脚の損傷が激しかったから、それが原因だと考えた。

ブレードライガーは、主人を心配していた。
出撃を重ねる毎に、冷たくなっていく彼に。
腕の痛みなんてどうでも良かった。

「大切なものを失いたくないなら、それを持たなければ良い」
格納庫から出る時、パイロットはそう呟いた。
相棒が自分を気遣ってくれているのは知っている。
けれど、それに応えるには彼は失い過ぎていた。
大切な人を。場所を。時間を。

決して交わることのない、平行な二つの思想。
戦場へ赴く度に深まる溝。
出会った時、彼らには笑いがあった。
硬い信頼と絆が、両者の間に確かに存在した。
けれど、それらは今は消え失せている。

今日も、出撃の合図と共に、悲しげな獅子の咆哮が響いた。
262Innocent World2 円卓の騎士:2005/08/08(月) 14:53:01 ID:???
「アレックス・ハル=スミス! 居るんだろう?」
 市街の一角、異彩を放つ豪邸の前で3人は立ち止まる。インターホンに耳を近づけるリニア。
数秒の間を置いて、溜め息とともに返答が返ってくる。
「……やれやれ、それが年上の人を訪ねるときの態度ですか?」
「おや、敬語で話してほしかったかな?」
「いえいえ、そんなことは。しかし……昔のあなたの方が可愛かったと思うのですがね」
 門が開いた。オリバーは、笑ったまま固まっているリニアを見ることができなかった。

「……あなたが、円卓の騎士ですか。もっとこう、強化人間というからには、化物みたい
な顔つきのサイボーグを想像していたのですが」
 じっくりと時間をかけ、アレックス・ハル=スミスはラインハルトを観察する。わりと
整った顔つき、理想的な体型。普通の人間と大差ない。
 考えてみれば、強化人間は元々軍事的な用途のために作られていたモノである。人間離
れした怪物に、スパイや潜入任務は任せられまい。
 とすれば、この『欠点の見当たらない外見』も、そうなるようプログラムされたものだ。
もちろん、彼女も――。
 観察を終え、アレックスはテーブルを挟んで向かいに座る少女を見つめた。
「で、協力してほしい事とは?」
 リニアは彼に話す。騎士との戦い、かつての師に似た敵、オリバーの中に潜むもう一つ
の存在。そして、彼が失った相棒。
 すべてを包み隠さず話した。アレックスは、ルガールが死んだ後も何かと彼女を助けて
くれたから。どこかつかみ所の無い男だが、悪ではない。それには自信がある。
 全てを聞き終えたとき、彼はまずオリバーの方を見た。
「君が以前ここに来たときのことを、覚えているかな? 君は力を求めて僕を訪ね、彼女
に会った。こうして君がまたここに来たのも、何かのめぐり合わせだと思いたいね」
 それに、と、視線がラインハルトの方へ移る。
「理由は知らないけど、能力者をただ殺すだけの騎士はあまり好きではありません。世界
最初の能力者としては、自分の弟妹が殺されてるような気分なのでね」
 能力者を殺す理由。その意味を考えた時、ラインハルトは震えた。
263Innocent World2 円卓の騎士:2005/08/08(月) 14:57:45 ID:???
 ――こいつらは何も知らない。俺たちは必要に迫られてやっているのだということも、
能力者がやがてこの星にとって致命的な危機を生み出すということも。そうだ、俺たちは
この星のためにやっている。倒すべき敵に同情してる場合じゃない。
 それでも彼は、ふとした瞬間に見せるオリバーの悲しげな表情を見るたび、迷う。
 大いなる意思に従って生きることよりも、大事なことはあるだろうか? もしあるとす
るならば、それは……?
「とにかく、私はできる限り協力させてもらいます。ちょうど大戦前の機体の設計図が発掘
された所なので、ボディはそれを使いましょう。――君の相棒は、生まれ変わる」
 大戦前の機体。オリバーはその響きに、顔を曇らせた。惑星Ziの歴史上、最高の技術力
を誇った時代。外道とまで言われた生命工学の発展が生み出した機体……そんな物に、自分
は乗るのだろうか?
 その逡巡を読み取り、アレックスは微笑みかける。
「そのゾイドは、データが正しければ……イクスをはるかに凌ぐ性能を持っています。強大
すぎる力かもしれません。今と言う時に、あるべきでない存在かもしれません――けれど、
オリバー君。私は、一本のナイフであろうと荷電粒子砲であろうと、使うものがその在り
方を決めると信じてます。それほど深く、相棒のために悲しめる君なら、きっと闇から生
み出された力をも、己が信ずる正義のために使えるでしょう」
 その言葉にこめられた優しさを感じ、オリバーは己のわがままを恥じた。いま必要なの
は、相棒が再び大地を駆ける為に必要な身体。そして同時に、愛する人を守るための力だ。
 彼は決意した。そのためならば、呪われた力さえも我が物としようと。

 ――時を同じくして、暫定政府本部・地下研究所。
 大型ゾイド用のハンガーの中、改修を受けている黒い機体はかのデッドボーダー初号機。
見上げるヴォルフガング・フォイアーシュタインが目を細め、その瞳に愉悦が光る。
「……卿、『エクシャリア・システム』の接続作業が終了しました」
「ン、ご苦労サン。もう動かせるんだろ?」
 研究員の報告に、視線を動かさず答えるヴォルフガング。
「…………」
264Innocent World2 円卓の騎士:2005/08/08(月) 15:00:45 ID:???
 何も言わず、頷くだけの研究員。しかしその返答を得られただけで、彼には充分だった。
ひと時でも早く、この新しい力を試してみたい。
 その欲求の本質は、新品の玩具を手に入れた幼児と同じだった。コックピットに入り、
ベルトを締め、彼は告げる。
「――“エブラーツィオン”、試運転しますよ」
 研究員達は止めだてしない。彼とは長年の付き合いであり、止めても無駄なことはわか
りきっているから。
 開いたハッチから飛び去って行く機体の背には、元々持っていた、骨組みだけに見える
黒い翼。そして新たに追加された、銀色の機械的な多重ウイング。この新パーツこそが、
もともと破滅的な力を持っていた初号機に更なる力を与える重要なユニットなのである。
 しかし、仕事と割り切っている筈のスタッフですらその力には恐怖を禁じ得ない。そし
て思うのだ。
 ――我々は、惑星Ziを殺すような真似をしてはいまいか? と……。

 “扉”の前に騎士が集う。13人居たはずのメンバーはまたも一人を欠き、円卓には一つ
だけ空席がある。
「ラインハルトが敵の手に落ちた……早急に対応を決める必要がある」
 一つの空席を見つつ、アーサーが場を仕切る。
「救出するか、あるいは――抹殺するか。このまま事態を看過することは許されぬ」
 その声には感情がない。ただ、騎士達に決定を促すだけの言葉。
「助けてあげたらどうかしらぁ? 彼、まだ若いし……そう何人も補充要員はいないわ」
「同意しかねますねぇ、リノーさん。僕たちは感情で動いてはいけない……将来のことなど
考える必要はないのです。彼が抜けるなら、その分僕たちが働けばいいのですよ」
 リノーと呼ばれた赤いマントの女はツンとそっぽをむき、反対側の騎士達たちに訊く。
「あんた達も、たまには意見したら?」と。
 そんな彼女の問い掛けに対する答えは、こんなものだ。
「私はただ主に従うのみ」
「…………」
「僕は……助けたいけど、難しいと……」
「俺は戦えれば何でもいいんだがよ。で、何の意見を出せって?」
265Innocent World2 円卓の騎士:2005/08/08(月) 15:03:52 ID:???
 リノーは頭を押えた。およそマトモな意見など出ないではないか。いらいらする彼女に、
最初の若い騎士がとどめを刺す。
「ふふ、そう怒らないで下さいよリノーさん。せっかくのお綺麗な顔が台無しだ……もっ
ともその顔も、抜群のカラダも、『製作者』の趣味みたいですけど。 ――おっと、気に
されていることでしたか」
 リノーが席を立ち、腰の鞘から剣を抜き放った。と、斬り合いが始まろうかという寸前。
「……私は、ラインハルトをどうするかと訊いているのだが?」
 アーサーの一言に乗せられた圧倒的な殺気が、全てを黙らせた。畏れが怒りに取って代
わり、リノーはおずおずと剣を収める。
 一通りの騒動が終わったのを見計らい、場にそぐわぬ雰囲気を持った老人が喋り出した。
「私としては、リノーどのの意見に賛同したい。これ以上やみくもに人数を減らすのは、
得策でないと考えるでな」
 反対意見を唱える者はない。先程の青年も、ただリノーをからかうことが目的だったら
しく、薄笑いのまま事態を傍観している。
 その時、アーサーが突然立ち上がった。
「! 神が『啓示』を下されたぞ! ……ふむ、どうやら我々にとって非常に厄介な敵が
増えてしまったようだな。プロフェッサー!」
「はい、ソードマスター」
 もはや慣れたことだ。騎士の長たるアーサーには、時として“神”が直接語りかける時
がある。今回は急を要する用事だったらしい。プロフェッサーと呼ばれた老人は、アーサー
の問いに淀みなく答える。
「……槍と翼を持ったデッドボーダーを見かけたら、一端ここへ帰って来い。他の者にも
そうするよう伝えろ」
「了解しました、マスター」
 アーサーが解散の合図を出し、騎士たちはそれぞれ自分の機体に乗ってまた『仕事』に
出る。その姿を見送り、一人になった彼は、“聖域”への扉を開いた。
 ――世界は未だ知らない。いや、絶対者の存在を信じようとしない。それを認めてしま
えば、自分で選べる筈の未来さえも敷かれたレールに過ぎないと認めることになるからだ。
 人間は愚かだ。いつまでも夢ばかり見る、理想を追い続ける。そんな一面を持ちながら、
知らず知らずのうちに誰かが決めた道に沿って歩く事を選ぶ。
266Innocent World2 円卓の騎士:2005/08/08(月) 15:09:05 ID:???
 その方が、楽だから。
 自分の行動に、責任を持たなくて済むから。
 能力者という存在自体が、愚かな人間の罪を象徴している。ならば……。
 彼にとっての能力者抹殺とは、究極目標の為の第一歩に過ぎなかった。

「大戦前の技術発展には裏があります。それは、『ある物』の発見でした」
「……『ある物』?」
 アレックスは3人を伴い、邸宅から自家用ジェットで飛び立った。リニアが窓から下を
見下ろすと、そこは海。
「ええ。それはこの星に2度、技術革新をもたらしたものです」
 やがてジェット機は油田のような場所に降り立つ。そこが何なのか、見当も付かない。
 誰も居ない施設から海底へと伸びる、長い長い階段。ときおり耐圧ガラスの窓が配置さ
れており、水の暗さから深さを推測する事ができる。
 どれほど降りただろうか。窓から外を見ると、海底に異様な物体が横たわっていた。
「……私の祖父は、この場所……『これ』が眠っている所を最初に突き止めた人だった」
 巨大な船。正確には、その一部。居住区だけがこの星に落下したはずのモノ。
 ――“グローバリー3世” それが、この巨大な構造物の名前。
「もともとあまりにも巨大な船でしたから、内乱や大気圏突入だけでは充分に破壊されな
かったのです。歴史の本を読んだ事がありますか? この星でまだ原始的とも呼べる戦い
が行われていた頃、遥か彼方の青い星からやってきた人々が、まだ若いこの星に不相応な
技術をもたらした。その星、『地球』は……宗教的な信仰の対象でさえあったのですよ」
 階段が終わる。視界に入りきらないほど巨大な船体に、彼らは足を踏み入れる。
「それで、なんでこんな所に? ここにイクスを甦らせる方法が?」
「ここはグローバリー3世の中枢です。大戦前の技術は、すべてここから生まれたといって
もいい。……つまり、生命活動を停止したゾイドを甦らせる技術の基盤も」
「なるほど? 大戦前の技術そのものはごく僅かなアーティファクトとして残っているに
過ぎないが、ここなら膨大な情報が得られるということだな」
 リニアがそう呟いた時である。かなり遠くから、だが確かに強い振動を全員が感じたのは。
事件から10日が過ぎた。Dr.ランドの包囲網を抜け切れずに、グラントは
まだブルーシティーに居た。マイクやカメラから逃げ隠れるように本社ビルで過ごす毎日は
とてつもなく面倒で、退屈だった。ある日、グラントは何故治安局が積極的に動かず、
こちらも強く訴えかけないのか、自分達は正真正銘の被害者なのに何故全くインタビューに
全く応じようとしないのか、とランドに聞いた。だが、新しいゾイドがどうのと話を誤魔化され、
結局確かな答えを得る事が出来なかった。
新しいゾイド…その言葉を聞いた時、グラントは漠然とした現実に引き戻されたような
きがした。ゴジュラスがいなくなってしまったということ。そして、もう帰っては来ない
と言うこと。何よりもそれを強く感じさせられた、厳しい一言だった。
こんなことを今更…。グラントは自分が情けなくなった。もし、こんな姿を見たら…
グラントは相棒の姿を思い浮かべようとした。だが、何故か操縦室内の光景ばかりが
浮かびあがり、ゴジュラスの外観をはっきりと思い出すことが出来なかった。
いくら丁寧に拭いても落ちなくなった汚れ、無数の傷跡。くっきりと手の跡がついたラバー
…こっちは全てが鮮明に浮かんでくる。そうか。奴と居る時はいつもバトルの中だった。
だからすっかり俺の中にアイツがこういう形で残っちまったって分けか。
…思い出して見れば、熱く楽しい日々だった。操縦桿を折らんばかりに戦った
シティーAランク昇進戦、キャノピーが砕けるのも気にせずに暴れまわったZOITTEC社内戦。
…少し思い出すだけで、Ziファイターとしての道を歩み始めてから経験してきた、
幾多もの戦いの記憶がとめどなく溢れてくる。
 考えてみれば俺達はよくやったほうだ。不意にグラントは思った。いわゆる潮時ってのが
近いのかもしれない。世界の王者と呼ばれる、ブルーシティーバトルリーグの頂点。
夢だった。あくまでそれは夢だった。その夢を現実に変えられるかもしれない。
ゴジュラスと一緒にいる時間、俺はそう思い始めていた。コイツとなら…ってよ。
だが結局ヤツを失って、それはまた夢に戻った。何を試さずとも分かる。俺にとって、
もうこれ以上の相棒が生まれることは無い。どんな奴だって駄目だ。
俺の最高の相棒だったアイツ。その代わりはもう、どこにも居ない。
 グラントは項垂れるようにソファーに横になった。次に浮かんだのは黒い髪に
緑の目をした少年の顔だった。笑っている。あどけなさが強く感じられる顔の持ち主は、
五年前のカルロだった。身の上から、自分に似ていると思った。遥か中央大陸から
バトルを求めてこの地へと来たあいつ。歳は14。自分がここに来た時が確か15、6だったことを
思い出すと、他人とは思えなかった。俺はチームへ入りたいと言ったあいつを歓迎した。
実際に、カルロと一緒に居た時期はそれほど長くは無かったが、俺達はカルロを存分に可愛がった。
そう、まるで本物の弟のように。あいつと俺達の絆は、どこよりも強かった。
そういえば、アロザウラーが保護区行きギリギリのところまでの状況に陥った時があった。
確かシングル戦だった。乗っていたのはカルロで、あいつ自身も大きな傷を負ったが
緊急脱出装置のお陰で、命に関わるような事にはならなかった。あの時脱出シートから
救い出されたカルロが、「最後まで、やりたかった」と一言呟いたのが今でも印象深く残って
いる。最後まで…。考えてみれば、あんなことを言ったのは、自分が脱出した直後、
空のアロが八つ裂きにされる光景を見てしまったのが原因だったと思う。乗り手だけが
リタイアし、相棒を危険な場にとり残してしまった形になった事を悔やんだという辺りだ。
…だがあの時、何故か俺にはここで相棒と引き離されることを嫌がっているように思え
た。その時点で、カルロはゾイドの具合について知らなかったのだが、アロザウラーと最
後まで。そう聞こえてならなかった。それから、俺は見舞いにも一切行かずにルドブを
引き連れ、勝手にゾイド修理に携わる多くの技術者の所へ駆け回った。そして昔ZOITECに
務めていたという男の協力を得て、無事アロは危機を乗り切った。
 今思えば、あの爺がカルロについて掴んだのはその口だったのかもしれない。アロザウ
ラーと長く一緒に居させてやりたいと思った行動が、結果的に逆の効果をもたらしたわけだ。
運命とは読めない。あの時にしろ、今回のことにしろ。
「………最後まで。」
グラントはかみ締めるように2、3度繰り返した。そして思った。俺達は果たして最後まで
行けたんだろうか、と。実際、夢の実現には一歩手が届かなかったが、果たすべき事は
もっと違う所にあるといつも感じていた気がする。もしそれが達成されているのであれば、
今ゾイドを降りても問題は無い。悔いが無いはずだからだ。しかし、実際引退を考えると、
今まで味わった事の無い嫌な感覚が、異常な速さで体の深い部分を渦巻き始める。
恐らくこれは「まだだ」と俺が腹の底では思っている証拠なんだろう。きっとあの世の
ゴジュラスも同じように…。最後まで。そう、最後まで。そう思っているに違いない。そうだ。
まだ俺達は終わっちゃいない。ゴジュラスだって望んで死んだわけじゃない。アイツはま
だ勝ちを欲していた。負けっ放しで良いだなんて思ってねぇ。もう、アイツはもうこの世
に手を出すことが出来ない体になっちまったが、まだやる気でいるのは確かだ。そして
今、俺はその信念を代行してやるべき立場にあるのかもしれない。俺がここで降りたら
俺もアイツも本当の意味で死んじまうのかもしれない。…こうなったら、もうやるしかねぇ。
そう、俺は今こんな所でくすぶっていちゃいけねぇんだ。俺達にはまだ、それぞれやり残
したこと、やらなきゃならないことがある。
 何時の間にか、グラントは立ち上がって握り拳を作っていた。成長したカルロの顔が
頭に揺らいだ。そう、今やるべきことは、亡骸に拘る事でも、Ziファイターを辞める事でもない。
 用意された部屋から飛び出すと、予めランドから受け取っていたメモを片手に握り締め、
グラントは通路を全速力で駆け出した。その顔に、先ほどまでの曇りは無かった。

グラントが部屋を出た頃、カルロの姿はあるゾイドのコックピットの中にあった。
これまで、自分以上の有能なファイター達が全く乗りこなせなかった…いや、動かす事すら
出来なかった伝説のゾイド。目の前の機器からして、異質に思えた。適正者の話を聞いてから
ずっとそれを信じてきたが、いざとなると不安を感じずにはいられなかった。
「…ここまで来たんだ!とにかくやってみるしかない。」
カルロは自分に喝を入れ、様々な疑心を振り払い決心を固めると、操縦席に腰を降ろし
レバーをがっしりと掴んだ。キャノピーを閉じた。コックピット内の照明が広がっていく。
順調だ…そう思った瞬間、突然言い知れない感覚がカルロを襲った。
「特殊な操縦システムだとは聞いていたが、これは…!」
 カルロは痛みに耐え切れず、右手で頭を掴んだ。何故か操縦桿から左腕が離れない。
明確には分からないが、何か強い意志が流れ込んでくる。何が起こっているんだ…?
カルロは必死に思考をめぐらせるが、激痛がそれを遮る。叫びのようなものが聞こえる。
寂しげであり、嬉しげでもあるその声が、次第に全身を呑み込んでいく…。
 ハッと、カルロは我に返った。先ほどまでの激痛が急に止み、かつてない静けさが訪れ
た。右手は何時の間にか操縦桿を握り、モニターにはハッチを閉じる前と同じ、銀色の地
面が広がっていた。酷い苦痛の割に、汗は全くかいていなかった。
「何かあったのか!?」
 Drの声が聞こえてきた。カルロは冷静な眼差しで前を見つめると、落ち着き払った声で
特に問題はありません、と短く答えた。言った後、そう答えたのが自分でも不思議だった。
「そうか。ということは第一段階はクリアじゃな。今までのテストパイロットはコックピットを
閉じた時点で急に体調を崩して脱落というパターンが多かったんじゃが、そういうことも
なさそうだな。よし、じゃあ次は動かしてみてくれ。ゆっくり歩く程度でいいぞ。」
心なしか嬉しそうなDrの声を聞き取ると、カルロはレバーをゆっくりと操作した。
ワイツウルフはその反応を感じとると、力強い一歩を踏み出した。青い爪がしっかりと地
面を掴み、静かに前進するウルフの姿には流石は伝説と呼ばれるだけあり、特別なオーラ
が感じられた。王のような風格を共にしている…神聖なる存在としての証だろうか。
 ウルフが一歩進むたびに、見学に来ていたZOITECを既に退社した過去のワイツ研究チームの
歓声が響き渡った。皆年寄りばかりであったが、涙を流し、肩を抱き合って喜んでいた。
 すごい騒ぎになっている。折角の秘密試験場もその意味をなさなくなるほどだ。
まだウルフの段階で…しかも、歩いただけだ。この様子では、タイガーがブースター前回で
走ろうものならこの老人達はどうなってしまうのか。カルロは内心そんな事を気にしつつ、
操縦桿から伝わってくる不思議な感覚に、意識を集中させた。
272生み出す悲しみ ◆ok/cSRJRrM :2005/08/12(金) 01:26:12 ID:???
「こりゃまた、凄いモノを・・・」
図面を見せられた、ゾイド設計士の青年が、呆れたように呟いた。
彼が手に持つのは、共和国軍の新ゾイド、ゴジュラスギガの資料。
「感想はどうでも良い。はやく仕上げろ」
いかにも堅そうな軍服の男は、そう命令して去った。

「せっかく、生きてきたのにな・・・」
眠らされている、ギガノトサウルスの野生体を見て、彼は呟いた。
部下に指示を出しながら、そっとその表面に触れる。
ところどころに存在する傷。
連れて来られる前に、喧嘩やじゃれ合いで生じたものだろう。
「戦って、戦って・・・また戦わされるんだな、お前は」
溜息を一つ吐くと、作業に加わった。

「ゾイド核砲・・・誰かね、こんなん考えたの」
配線と、砲塔の配置を終えて、彼がぼんやりと言った。
その命と引き換えに、莫大な破壊力を生み出す。
「そうまでして、勝たなきゃならんのかね?」
気付けば、目の前にあるものが変っていた。
共和国の『兵器』ゴジュラスギガに。
273生み出す悲しみ ◆ok/cSRJRrM :2005/08/12(金) 01:26:57 ID:???
「恨まないでくれよ」
全ての作業を終了し、運ばれていくゴジュラスギガへ向けて囁く。
そして、祈った。顔も知らない、この機体のパイロットに。
(ゾイド核砲・・・あのトリガーだけは、引かないでくれ)

満面の笑みを浮かべて、軍人がやって来た。
渡された書類には、ゴジュラスギガの初実戦の結果が記載されている。

ゾイド核砲の威力:帝国軍ゾイド部隊を・・・

続きの文章はどうでも良かった。
問題は、ゾイド核砲が『撃たれた』こと。
つまりそれは、あのゴジュラスギガの死を意味する。
「量産体制に入ってくれ。これからは忙しくなるぞ」
声を弾ませる、目の前の男が憎く思えた。
けれど、その命令を嫌でも聞いている自分の方が、汚いものに見えた。

「・・・ごめんな」
完成させた新たなゴジュラスギガを見上げ、彼は呟いた。
274恐怖体験Zi 1 ◆h/gi4ACT2A :2005/08/18(木) 23:27:57 ID:???
惑星Ziにも夏が来た。夏と言えば怪談の季節。それは惑星Ziも変わらない。
これは、そんな時期にお茶の間に放送されたTV番組である。
「恐怖体験Zi!」
「さあ、今年もこの季節がやってきました!今年はどんな恐怖体験談が聞けるので
しょうか。怖いですね〜。でも怖いけど気になるのは何故なのでしょうね〜。」
番組司会者の二人がステージの中心でそう言い合うと、今度は両側面からそれぞれ二人の
人物が現われる。
「この番組の為に起しいただいた特別ゲスト!霊能者の“ズィーボ=アイコ”さんと
超常現象研究家の“機田葉芽音”さんです!」
「よろしくお願いします。」
ゲストの二人がそれぞれ司会者二人の隣の席に座ると、話は本題へ入っていく。
「それではまず一つ目の恐怖体験談を開始しましょう。Ziファイターをやっている
M・Bさん(15)の恐怖体験談です。」
司会者が少々怪談チックなゆっくりとした口調でそう言うと場面が変わり、
番組レポーターを前にして椅子に座る、M・Bさんと思しき15歳の少女が現われた。
M・Bさんの顔はモザイクで隠されていたが、彼女は金髪で、袖の大きな緑色で中華風の
服装をしていた。そして彼女は体験談を話し始める。と言っても、これも音声が変え
られていたが。

『ハイ、あれは夏の蒸し暑い夜の事でした。私はZiファイターの片手間で賞金稼ぎ
なんかやってたりするんですが、愛機のカン・・・じゃなかった!・・・ゴジュラスギガと共に
賞金首の盗賊団探して真っ暗な山道を探索していました。』
そう言うM・Bさんの語り口と共に、再現映像が流れる。M・Bさんと同じ格好をした
役者が通常ブルーの部分がグリーンに塗装されたゴジュラスギガに乗って山道を歩く
映像である。
『結局盗賊団に関係する様な手がかりは掴めず、とりあえず今日は帰ろうと思った時
でした。突然正面に何かの気配を感じたのです。良く見るとそれは一体のコマンドウルフ
だったので、特に気にせずに帰ろうと機体を反転しようとした際にもう一度そのウルフを
何気無く見た時、私は凍り付きました。そのコマンドウルフの首から上は人の頭をして
いたのです。』
275恐怖体験Zi 2 ◆h/gi4ACT2A :2005/08/18(木) 23:30:06 ID:???
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
何処からとも無く響き渡る悲鳴。そして「戦慄!人面コマンドウルフ!」と言うテロップ
が画面上に現われる。
『私はカン・・・じゃなかった、ギガごとその場に尻餅を付きました。』
そしてギガがCGの人面コマンドウルフを前に尻餅をついている映像が流れる。
『私達は必死にその場から逃げようとしたのですが、その時人面コマンドウルフは・・・』
「ほっといてくれよ。って言うかゴジュラスギガに乗ってるからってエラそうに
してるんじゃねーぞ。おじさんの若い頃はな〜。」
『と、突然説教を始めたんです。私はカン・・・じゃなかったギガごと恐怖のあまり気を
失ってしまいました。そして気が付くと私達は半径数百メートルはあろうかと言う巨大な
クレーターの中心部に佇んでいました・・・。』
巨大なクレーターの中心部に立って戸惑っているギガの映像が流れる。
『不可解な事の連続に私達は怖くなってその場から逃げ出しました。とにかくワケが
分からないんです。だからこの番組にこの体験についてを応募しました。』

M・Bさんの体験談はここで終わったが、スタジオは悲鳴に包まれていた。
「いや〜怖かったですね〜。それにしても最後の辺りは何が起こったのでしょうか・・・。」
「これについてズィーボさんの見解をお聞かせ下さい。」
「ハイ。確かに霊の気配を感じます。これはその昔の戦争で命を落した一兵卒の霊が
関係していますね。一兵卒としては個人でゴジュラスギガを所有しているM・Bさんが
憎たらしくてしょうがなかったんでしょうね。」
「そうですか。では葉芽音さんの見解はどうでしょうか?」
「人面のゾイドの存在は遥か昔から目撃談が数多くあります。恐らくM・Bさんが見た
のもその一つだったのでしょう。」
「そうですか。しかし、人面コマンドウルフもまだまだ序の口です。次の体験談をどうぞ。」
「次はM・Bさん同様にZiファイターのL・Bさん(17)の体験談です。」
276恐怖体験Zi 3 ◆h/gi4ACT2A :2005/08/20(土) 15:11:36 ID:???
映像は変わり、今度は長い黒髪と黒い服を着た少女の姿が現われる。そしてやはり顔は
モザイクが掛かっていたし、音声も変えられていた。
『ああ、あれは夏の蒸し暑い夜の事だった。私は愛機のハーデ・・・じゃなかった、
デスザウラーに乗って夜の散歩をしていたんだ。すると正面から突然、顔の部分を装甲で
覆い隠したアイアンコングが現われ、こちらに話しかけて来たんだ。』
「なあなあ。俺って格好良いだろう?」
『私は突然の事にワケが分からなかったが、とりあえず・・・。』
「そんな装甲で顔を隠されてちゃカッコイイのか否かなんてわかんねーよ。」
『と言ったんだ。すると突然アイアンコングが顔を覆っていたの装甲を剥ぎ、
大きく裂けた口が現われたんだ。』
再現映像におけるその光景はCGで作られた物だったが妙にグロテスクに作られていた。
そして響き渡る悲鳴と「戦慄!口裂けアイアンコング!」のテロップ。
「こんな顔でもそんあ事言えるかぁぁぁ!お前も同じ目に遭わせてやるぅぅ!」
『そう叫ぶとそのコングは大ナタを両手に持ち、私のハーデ・・・じゃなかった、
デスザウラーに飛びかかってきた。』
「まてまて!私のハーデ・・・じゃなかった、デスザウラーは元々口が裂けてるだろ!」
『慌ててそう言っても相手のコングはお構いなしに攻めてくる・・・。得体の知れない
それに私は逃げた。これでも機動力の高い相手との戦いとか慣れてるし、私のハーデ・・・
なかった、デスザウラーもスピードには自信があった。しかし目の前の口裂けアイアン
コングはひとっ跳びで数百メートルの距離を跳んでしまう程のジャンプ力を持っていたし、
単純な速力だけでもエナジーライガーさえ有に超えていた。』
再現映像でその際の光景が映し出される。CGで作られているとは言え、その口裂け
コングの動きは速く、また両手に持っている大ナタも相り、得体が知れず、不気味だった。
デスザウラーの方も逃げたり等、様々な抵抗を試みるがまったく歯が立っていなかった。
277恐怖体験Zi 4 ◆h/gi4ACT2A :2005/08/20(土) 15:13:00 ID:???
『冗談抜きでその口裂けコングは不気味で得体が知れなかった。私は恐怖のあまり、
思わず荷電粒子砲のボタンを押していた。口裂けコングはそれで姿を消したが、
今でもその時の夢を見る。私はこれでも色々と死ぬような修羅場を潜り抜けているつもり
だがこんな体験はハッキリ言って初めて。あまりに怖いので今回応募した。』
そうしてL・Bさんの話は終了した。

「いや〜!怖かったですね。口裂けアイアンコング。」
「口裂け女が昔社会現象になって治安局が出動した事もありますが、これのゾイド版が
あるとは驚きですね。それでお二方の見解をお聞かせ下さい。」
まずはズィーボが言う。
「やはりこれも霊の気配を感じます。その昔の戦争で亡くなったコングの霊ですね。
生前に口を裂かれるような辛い目にあったのでしょう。」
それに続いて葉芽音の見解。
「あの口裂け女も事故によって口が裂けたとか、整形の失敗だとか色々な説が
ありましたが、この口裂けアイアンコングも同じ様に修理に失敗したとかそう言う理由が
あったのでは無いでしょうか。おまけに誰も修理してくれないから自暴自棄になって
ああ言う行動に移ったのだと思います。それに、デスザウラーを一方的に圧倒するなどの
アイアンコングに有らざる運動能力に関しましても、あの口裂け女も常識外れの運動能力
を持っていたと言う話ですから、それと似たような事が口裂けアイアンコングにも
起こったのでしょう。」
「いずれにせよ恐ろしい話ですね。おっと、番組終了の時間が近付いてきました。
それでは皆さんまた次回にお会いしましょう!」
こうしてスタッフロールが流れ、怪談的なおどろおどろしい音楽と共に番組は終了した。
278変わる姿、変わらぬ想い ◆ok/cSRJRrM :2005/08/24(水) 00:36:30 ID:???
目を覚まし、こうして考えるのは何ヶ月ぶりだろうか。
乗り込んで来たのは、まだ若い兵士。
歩き出しながら、BLOXゾイド、レオストライカーは考えていた。


以前の自分は、確かレオブレイズとか言う機体だったはず。
未だに信じ難い。この体が、自由に交換できるものであると。
ふと思い出した。かつての自分の主のことを。
だが、考えてすぐにそれを振り払った。
それが、思い出したくない記憶だったから。

面倒臭がりなのか、それと愛機に情を注いでくれていたのか。
まだ少年とも呼べた彼は、よくコクピットの中で眠っていた。
軽く唸ってそれを起こしてやるのが、レオブレイズの楽しみだった。

あの日は突然訪れた。ロードゲイル。帝国側のキメラBLOX。
彼らは必死に戦った。味方と連携し、遂に敵を仕留めた。
しかし、相手が最期に放った槍が、レオブレイズの背を掠めた。
背中。そう、コクピットの設けられた場所を。
その後、戦闘データの回収のため、彼のゾイド核ブロックは外された。


その自分が今。再び戦場に立っている。
改良が進んでいるのか、身体も遥かに動かし易い。
ふと、足を止めた。あの忌々しい姿を、見つけたから。
279変わる姿、変わらぬ想い ◆ok/cSRJRrM :2005/08/24(水) 00:37:02 ID:???
「うわ。ロードゲイルの部隊・・・嫌なモン見つけちまったなぁ」
言いながら、新たな主人は引き返す命令を操縦桿越しに伝えてくる。
確かに、現在の状況ではそれが正しいのだろう。
けれど。
レオストライカーは動かなかった。唸り、敵を睨み続ける。
「・・・お前・・・」

どうやら、レオストライカーの意思は少しではあるが伝わったらしい。
「倒すんだろ?あいつらを。・・・行くぞ!」
飛び出すために操縦桿が押し込まれた。
レオストライカーが脚を伸ばした瞬間と、それは重なった。

目の前の敵を倒す理由が増えた瞬間。
かつての主人の復讐のため。そして、新たな、彼の主人を護るため。

レオストライカーは、雄叫びを上げて突撃して行った。
280トライアングルダラス 魂の眠る海:2005/08/24(水) 17:04:20 ID:???
 魔の海域。人はその場所をそう呼ぶ。
 どれほどの命がその海に呑まれたのだろう。悪夢のごとく荒れ狂う海、一年を通して
静まることを知らない電磁嵐……。

 ある男が居た。彼はレイノスを駆り、安全地帯とされる『回廊』を抜けようと低空
飛行を行っていた。
 その時、唐突にそれは現れたのである。
「――敵!? まさか、電磁嵐の中からか!?」
 反応は敵機がレドラーであることを示している。しかし、パルスガードが開発されたと
言っても、まだまだトライアンクルダラスの電磁波を無効化するには至らない。人類に
できることは、ただそれを中和、弱体化させることだけなのだ。
 そんな思いをよそに、そのレドラーは猛然と襲い掛かってきた。
 錐揉み回転しつつヴァリアブル・レーザーブレードが展開され、緊急回避したレイノスの
右側わずか数mの距離を掠めていく。衝撃波が機体を打ち、パイロットは激しく揺さぶられる。
 レドラーは異常に小さい回転半径で宙返りし、クローを閃かせて迫ってくる。その動き
を見てレイノスのパイロットは確信した。――アレは、野良ゾイドだ。
 人間が乗っていては不可能な機動を行えること、それが野良ゾイドの強みと言っていい。
 とりあえず、格闘戦ではレドラーの方が圧倒的に有利である。レイノスには貧弱なクローしか
格闘武装がないのに対し、相手は可変レーザーブレードと言う極めて強力な武器を
持っているのだから。
 ブレード系の武装が強い理由は、格闘攻撃に際してわざわざ減速する必要がないということ。
むしろ速度が乗れば乗るほど実効質量と衝撃度は増大し、大きな破壊力を得られる。
 レイノスが勝っている点は射撃能力。距離を取って撃ち落とすしかない。
「だが……後ろを取らねば!」
 相手と正対して撃っては命中率が下がるし、カウンターのブレードで真っ二つにされる。
何とかして後ろを取る必要があったが、この狭い回廊でまともなドッグファイトなど不可能だ。
相手と違ってこちらは、電磁波の影響も気にしなくてはならないのだから。
 そうこうしている間に、真後ろから敵が迫る。後部マシンガンをばら撒くが、所詮は
牽制用の武器だ。こんなもので落ちれば苦労はしない。
281トライアングルダラス 魂の眠る海:2005/08/24(水) 17:06:01 ID:???
 レドラーの爪がレイノスの尾を捉えようと言う瞬間に、パイロットは期待を急降下させた。
海面が迫ってくる。後ろからレドラーが付いてくるのが解る。
 ――今だ!
 彼は電磁波で誘導装置が使い物にならなくなったミサイルを、海面スレスレで放つと
そのまま機体を急上昇に転じさせる。急激なGが脳から血液を奪い去り、意識が途切れかける。
しかしここで気絶するわけには行かなかった。敵は二度も同じ手にかかってはくれまい。
 海面ギリギリで放たれたミサイルは巨大な水柱を噴き上げ、レドラーはもろに海水を被って
バランスを崩した。なんとか体勢を立て直したものの、その時には敵が遥か上方、
それも後ろを取っている――位置の有利はレイノスが奪った。
「当たれよッ!」
 レイノスが回転しながら3連ビーム砲の斉射を浴びせる。避ける暇を与えられなかった
レドラーの装甲を螺旋状にビームが貫き、一瞬の後に紅蓮の焔と水蒸気爆発を伴って
野生化したかつての帝国空軍機は海中に没した。

 ――あそこは海戦で死んだゾイド乗りたちの魂が、海流に乗って集まる場所なんじゃねえかな。
 レイノスのパイロットは後日、同僚にそう漏らしたのだという。つまりアレは幽霊で、
充分戦ったからもうあの世へいけたのだろう、と。
 無念さを残して死んだ戦士たちの怨念こそが、あの海域の電磁波を生み出すのではあるまいか?
「戦士として死ぬことを望んだ者を安らかに昇天させる為には、正々堂々戦って
勝つしかないのさ。あのレドラーの中にはもしかしたら、朽ち果てたパイロットが乗っていたのかもな」
 この話は共和国軍の一部である種の伝説となり、魔の海域に巣食う『幽霊』に
両軍の兵士が恐れを抱いたと言う。


                     END
282歴史から消えた究極メカ 1 ◆h/gi4ACT2A :2005/08/29(月) 22:01:12 ID:???
様々なメカが現れては消えていく。戦争とはそう言う物だ。そしてもしかしたら歴史さえ
大きく変えていたかもしれないそれも、例外ではなかった・・・。

「試作ゴジュラスが敵に奪われたぁ!?」
そんな理由でいきなり姉であり上司でもあるミオから対策会議に呼び出された
マオ=スタンティレル中尉は驚いたような顔をしていた。
「いくら試作ゴジュラスったって、ギガが作られる以前の奴でしょ?そんなのにここまで
大げさにしなくても良いと思うんですけど私は・・・。」
そんな時、突如として彼女の前に白髪の老人が現れた。
「確かにギガ以前の試作としてワシが作ったそれのほとんどはどれも大した事は無い。
しかし、ただ一機を除いてな・・・。」
「って、そこにいらっしゃるナイスミドルなおじ様は誰で御座いますか?」
「戦略技術部でゴジュラスシリーズの開発主任をしていたタカハシ博士だ!」
ミオはマオの頭を押さえて無理矢理お辞儀をさせる。その後でタカハシ博士が
「やっかいな事になったもんじゃ・・・まさか“アルティメット”が奪われるとはな・・・。」
「“アルティメット”?」
「そうじゃ。皆も知っての通り正式採用されたゴジュラスギガは、対デスザウラーを
想定した強大なパワーを持たせつつ、同時に機動力を高める事でより高い格闘能力を
発揮させたゾイド・・・。そしてその武装配置も必要最小限のものとし、代わりに
外付けを想定したウェポンラックを多数設ける事でコストパフォーマンスと整備性、
汎用性を高めた機体じゃ・・・。しかし、“アルティメット”は違う。
そもそもアルティメットはギガとは異なり、史上最強と言われた“キングゴジュラス”を
現代に蘇らせると言う思想の下に開発された物であり、“キング”には到底及ばない物の、
その戦闘力は絶大な物があり、同時に数々の武装を施した“動く要塞”でもあった・・・。
しかし、ここでワシが話すより、実際に見てもらえばわかり易いじゃろう。」
そう言ってタカハシ博士はリモコンをコントロールすると、何かの映像が現れる。
283歴史から消えた究極メカ 2 ◆h/gi4ACT2A :2005/08/29(月) 22:04:19 ID:???
それは敵に奪われた“アルティメット”と呼ばれる試作ゴジュラスに対し、
マッドサンダーを含む奪還部隊が挑んでいる映像だった。しかし、目の前のそのマッドは
アルティメットに比べ、随分と小さく見えた。
「うわ〜随分と小さなマッドサンダーですね〜。ブロックスで作ったレプリカですか?」
「いや、あれは正真正銘のマッドサンダーじゃ。」
「え・・・。」
マッドサンダーさえ小さく見えるアルティメットの巨大さにマオの目は点になるが、
ただ巨大なだけでは無かった。その戦闘力も片手でマッドサンダーをひっくり返し、
手首から先がドリルの様に回転すると共にマグネーザーを粉砕し、極めつけの胸部から
放たれるプラズマキャノンはマッドはおろか後方の部隊さえ吹き飛ばす威力があった。
「・・・。」
マオは目が点になりながら口をパクパクさせていたが、ミオの命令は非情だった。
「お前にはアルティメットの奪還、もしくは破壊をやってもらう。」
「ムリムリムリムリ!だってあんなの死んじゃいますってぇ!お姉・・・じゃなくて准将!」
「うるさい!お前が今まで倒して来たデビルジョーズだのキメラサタンだのだって似た
ようなもんじゃねーかぁ!さっさと行って来い!」
我侭な妹に切れた姉ミオはそのままマオの襟首掴んで天高く分投げ、マオは虚空へ消えた。
「いやはや手厳しいですな。」
「そんな事は無いですよ。これだけやって十分なんですよ妹は。それより解せませんな。
あれだけの物を作りながら何故不採用にしてギガを作ったんです?」
「それですか・・・。今でも良く聞かれますよ。まあ確かに性能は高くてもマッドサンダーの
10倍以上の劣悪なコストや整備性や汎用性の悪さなど、色々理由はありますけど・・・。」
「その言い方だと他にも理由ありそうですね。でもまあ良いです。私にはこれから名誉
ある戦死を遂げたマオ中尉の葬儀と二階級特進手続きの準備がありますんで。」
「もう死ぬ事前提に話を進めているとはいやはや手厳しい人ですな・・・。」
284歴史から消えた究極メカ 3 ◆h/gi4ACT2A :2005/08/29(月) 22:09:35 ID:???
その頃、アルティメットを強奪した帝国特殊部隊は周囲をデスザウラーやエナジー
ライガーに護衛させつつ進行していた。
「報告します!後1時間もすれば本国からホエールキングがやって来ます!」
「そうか、ならその1時間までコイツのテストと洒落込もうか?」
そうしてアルティメットに乗り込んだ男が笑みを浮かべて武装のボタンを押そうとした時、
「容量節約と私達の命の為にやられちゃって頂戴よー!」
と、突如猛スピードで現れたマオの搭乗するゴジュラスギガ“カンウ”と彼女の部下
ライン=バイス曹長の搭乗するライガーゼロファルコン“ジェネラル”がアルティメット
の取り巻きを一瞬にして全部叩き壊し、蹴り壊し、殴り壊していた。
「その“アルティメット”を返してもらうよ!」
「おうおう。良く見ればあの噂に聞く緑の悪魔さんではありませんか?デスザウラーの
装甲さえ緑の悪魔の前ではティッシュ紙も同然になるという噂は本当だったようですね。」
アルティメットに搭乗する男は余裕を見せていたがマオはカンウ共々膝が笑っていた。
「(うわ〜・・・。実際見て見るとマジででっかいよ〜。)ライン!援護お願い!」
「了解!」
ジェネラルがバスタークロービームで牽制をかけつつ、カンウはアルティメットに
飛び蹴りを入れた。が、それだけだった。
「ウソ!カンウの攻撃が効かない!?」
「ハッハッハッ!流石アルティメットだ。緑の悪魔の攻撃でもなんともないぜ!」
今度はアルティメットの全身からミサイルの雨が放たれ、二機は逃げ回った。
「うわぁぁ!おっかねぇ!」
「動きが鈍いのがせめてもの救いだけど・・・あの冗談みたいな装甲と武装は脅威だわ!
とにかく各部関節を破壊して動きを止めてから時間をかけてやるしか・・・。」
大量の爆風に身を隠すようにアルティメットに接近したカンウは拳を握り締め、
アルティメットの腕部関節部に突きを入れ様とした。が、カウンターでアルティメットの
武器の一つであるドリル化したマニュピレーターが高速回転してカンウを襲った。
「うわぁ!怖い!」
カンウはその場で大急ぎで身を丸めてドリルをかわし、その際に体勢を崩した
アルティメットの腕を掴んで柔道の一本背負いで地面に叩き付けるが効き目は無かった。
285荒ぶる風の凶王 ◆5QD88rLPDw :2005/08/29(月) 22:17:47 ID:???
「おい…このコンテナの中か?情報に在った有人型キメラって奴は?」
1機のアロザウラーが身の丈を超える大きなコンテナの前で通信を行なう。

ゴジュラスギガの登場によりデルポイの一点の情勢は完全に引っ繰り返っていた。
当時デスザウラーは絶対無敵の存在として信仰されるまでに到っていた…
それが突然カモであったゴジュラスタイプに敗北したという情報は、
一瞬で各地に流れていく…。
このギガの困った事は唯でさえ強力なゾイドであるにも係わらず…
強大な進撃能力を有し本来決戦用ゾイドが避けて通る山岳や森林に分け入り、
街道などのゾイドの通り道の脇に忍び寄り奇襲までしかけてくる。
画期的且つ最悪の決戦用ゾイドの1機として後世に語り継がれることになる。

そんな国土奪還部隊の一つがジェノザウラーやデススティンガーが、
護衛をしていた輸送部隊を急襲。戦利品の品定めをしている最中と言う場面。
周囲には踏み潰されたデススティンガー2機とバラバラに成って、
元が何機だったか解らなくなったジェノザウラー数機の残骸が残っている。
ギガは周囲の索敵にゴルヘックスと共に出ておりアロザウラー数機と、
最新型ブロックスのバスターイーグルが2機が残るのみ。

「嫌な予感がするな…このコンテナには手を付けないでおこう。
注意に越した事は無い。大尉が戻ったら開けてみよう。」
だが何故か知らないがこう言う時だけ決まって嫌な予感は当たるのである。
コンテナの中味は既に起動していたのだ。
コンテナを内側から打ち破ろうとするキメラの攻撃の音が周囲に響き渡る。
「ちっ!動き出しやがった!!!散開だ!散開!大尉に救援を養成しろっ!」
正体不明のキメラと言う事で大事を執っての行動だが…
多勢に無勢の状況に陥るとは思っても見なかったのだろう。

偵察部隊が戻って来た時には味方は全滅。全滅した味方部隊の戦闘記録には…
急に別のコンテナから活気付いたキメラの群が現れ襲われるアロザウラー達と、
上空に一気に飛び立った件の新型にあっと言う間に撃墜されたバスターイーグル。
その極限られた一瞬にちらりと霞む黒い敵機の姿が残されていた。
286求めた果てに ◆5QD88rLPDw :2005/08/30(火) 04:53:05 ID:???
それから時は経ち…輸送部隊襲撃の3週間後の出来事である。
部下の仇と任務すらすっぽかしてゴルヘックスと共に探索を続けていたギガ。
その目の前にはチェンジマイズで拡張に拡張を続けたと思われるキメラの死体。
「これは…凄い。自業自得とは言え恐ろしいものだな…。」
大尉は自然とその言葉を漏らしていた。

そのキメラは無人で起動し本来の力を発動させた。
その力とはキメラへ正確な指示を出し群を完全に一つの部隊として運用する事。
今までは質の違うゾイドのダークスパイナーからの指示で行動していたキメラ達。
それ故指揮系統の徹底が成されていなかった。
その事が災いし指揮系統を離れる者や中には味方や民間人を襲う者も出る始末。
それで必要となったのがキメラの行動を完全に掌握できるゾイド。
要するに今回の暴走キメラブロックスであり目の前の死体である。

彼は事件の後各地を転戦し共和国軍を無差別に襲撃。
その部隊内の通常のブロックスすら制御せしめたそうだ…。
味方からの攻撃に混乱しそれに乗じてキメラの大軍が雪崩れ込む。
その要領でキメラとブロックスの数を増やしながら幾つもの部隊を襲撃、
部隊規模を爆発的に拡大させていたらしい。

途中からは巨大なチェンジマイズ機が出現し始め共和国軍は一時戦線を縮小。
通常ゾイドを掻き集めて殲滅の準備を始めていた…。
だがその時を境にぱったりと襲撃が行なわれなくなったのだ。
その原因がエネルギー伝達の不具合からの全コアブロックのショック死だと今判明した。

「どうします?大尉?」
部下にこれの処遇を求められたが彼はこう答える。
「兵共が夢の跡…放って置け。どうせ持ち帰ってもガラクタが増えるだけだ。」
大尉の目にはその中心の新型の顔が妙に幸せそうに映り妙に嫌気が抜ける。
後にロードゲイルと名乗り共和国を苦しめるキメラの王からの最初の被害だったと言う。

ー 終 ー
287歴史から消えた究極メカ 4 ◆h/gi4ACT2A :2005/08/30(火) 23:28:04 ID:???
「生きた心地がしないよまったく・・・。!!」
その瞬間だった。アルティメットの腹部の装甲が開き、雨の様に多数の高出力レーザーが
カンウに打ち注がれたのは・・・
「なんと・・・。」
「中尉!」
ギリギリの所でかわし、致命傷は免れたものの、一撃でカンウの装甲はボロボロにされた。

「あああ!ちょっと君の妹さんピンチなんじゃないのかね?」
遠く指令本部から戦いの様子を見守るタカハシ博士は慌てていたが、ミオは余裕の表情で、
「大丈夫大丈夫。ここからが妹の真骨頂なんですよ。多分。」
「多分って何じゃね多分って・・・。」

「緑の悪魔の無敵神話もここで終わりを告げるのだ。これからは私が新たに悪魔の名を
継いでやろう。このアルティメットでな!」
片膝を付いたカンウに対し、立ち上がったアルティメットはドリルマニュピレーターを
回転させ、そのまま打ち砕こうとした。が、それに割って入るようにジェネラルが
飛び掛ってきたのだ。
「中尉ぃ!今の内に逃げてください!」
ジェネラルはストライクレーザーランス全開でアルティメットの腕部に突き込むが全く
ダメージを与えられず、逆にドリルで薙がれた。
「あ・・・ライン・・・?」
ジェネラルの背負うジェットファルコンは粉々に砕かれ、本体も数百メートル吹っ飛ぶと
共に動かなくなった。マオは愕然とした。
「邪魔者が入ったが・・・これで終わりだぁ!」
間髪入れずにアルティメットのドリルが来た。が、その時だった。何とカンウがドリルを
真っ向から受け止め、その回転を止めていたのだ。強引に止められた為に煙を噴出す
アルティメットの腕。
288歴史から消えた究極メカ 5 ◆h/gi4ACT2A :2005/08/30(火) 23:32:05 ID:???
「な・・・何ぃ!?」
「調子に乗るのもここまでにしな・・・。あんたは私を心底怒らせてしまったんだから・・・。」
アルティメットの腕を掴みこんだままカンウはゆっくりと立ち上がると、そのまま物凄い
勢いでドリルごと腕を引きちぎった。
「な・・・。」
アルティメットに乗る男はうろたえた。しかしそれだけでは無く、アルティメット自身
もカンウの発する“気”に押されていた。
「何だって言うんだぁ!」
今度はアルティメットの胸部装甲が大きく展開し、プラズマキャノンを発射した。
巨大な球状に圧縮されたプラズマがカンウを襲う。しかし、カンウは回避せず、両手に
“気”を集中させてプラズマ弾を受け止めていたのだ。
「ぷ・・・プラズマを素手で・・・?」
男の目は点になっていた。そしてプラズマ弾はカンウに吸収されるかのように消滅し、
カンウは緑色の光を放ち始めた。
「うおぁぁぁぁぁ!!」
マオの叫びに呼応するようにカンウが吼える。そしてカンウを包み込む“気”の光は
やがて巨大な龍へ姿を変えていく・・・
              「神 龍 拳 !!」
次の瞬間、中央大陸の古代神話の時代から語り継がれ、全ての邪を滅すると言われる
伝説の龍、“神龍”のごとき姿となったカンウはアルティメットの分厚い胸板を
打ち貫いていた・・・
289歴史から消えた究極メカ 6 ◆h/gi4ACT2A :2005/08/30(火) 23:36:25 ID:???
「あれこそワシがアルティメットを採用しなかった理由じゃ。確かにアルティメットの
武装は強力じゃ。しかし、武装を強力にし過ぎた為にゾイドとのバランスが取れず、
結果的に本体の精神面が不安定になってしまった・・・。いや、むしろそのゾイドとしての
精神的アンバランスさをカバーする為の超武装だと言って良い。
単なる兵器として見るだけならそれでも良いかもしれないが、生きた生物、
ゾイドとして見た場合それではいかんとワシは思った。そう言う意味では武装より
ゾイドとしての能力をより高い次元に引き出し、同時に人の精神力を力に変える事の
出来る君の妹さんのギガはアルティメットの対極に位置するゾイドだと言えよう・・・。」
「なるほどね・・・。ま、どっちにせよあんな機体じゃまともに量産出来るかも怪しいから
世に出なくて正解だったかもしれませんね。」

アルティメットを倒したマオとカンウ。しかし、彼女らにとってはそんな勝利の栄光より
ラインの安否の方が心配だった。と言っても、ライン自身気絶していただけでさほど
ダメージは無く、心配して損したとマオに言わせるだけだったのだが・・・。

なお、この事件は共和国上層部によって、「帝国軍の秘密兵器を緑の悪魔がやっつけた」
と改変され、アルティメットの存在は完全に抹消されてしまった・・・。
290蘇る黒の一撃 ◆5QD88rLPDw :2005/09/03(土) 00:07:18 ID:???
「もうやめてくれぇ〜〜〜っ!!!」
今日もチームブラックインパクトのファームにもう日課となった声が響き渡る。
声の主はこのチームのオーナー且つチームリーダーであり、
ブルーシティーのゾイドバトルチャンピオン…ラスターニである。
彼の目の前には愛機ブレードライガーBI(ブラックインパクト)の姿。
だがその機体にはじゃれ付く兄の負の遺産が…。
今日もキメラとブレードライガーは楽しくじゃれ合って乗るタイミングをまた外していた。

結局このキメラ達は戦闘さえ行なわないなら問題無いとしてチームに送還、
その後戦術AIを調製しチームの機体を味方と認識させた結果と言う事になる。
ゾイドとしては産まれたばかりの赤ん坊の如きキメラ達。
それを見て躾をしている真っ最中のブレードライガー。のどかな光景である。
しかし、もう直ぐゾイドバトルの再開が迫っているブルーシティ。
チャンピオンである彼等は当然出場を半ば義務付けられているのだ。

ジャッキーとビリーはまたかと呆れながら同じく愛機を見上げている。
嘗て一方的に嬲られていた相手と楽しそうにしている3機のライガー達。
ラスターニと違い2人は相棒を上手く誘導しコクピットに乗り込む。
嘆くラスターニを他所にキメラを伴いながら練習メニューを熟していく…。
どうやらラスターニはバトルならともかくこう言う事には適応しにくい様だ。

2人の助けで漸くコクピットに乗り込むラスターニだが…
突然通信が入り練習はお開きとなる。
「大変ですオーナー!ブルーシティに大量の野生ウネンラギアが出現したらしいです。
緊急の治安局からのゾイド狩り養成です。」
「こんな時にか!?…仕方がないな。ビリー!ジャッキー!お仕事に時間らしい。
さっさと行って片付けてこようか!」
「腕鳴らしには丁度良い!」
「練習ばかりで飽きてきたところだ。行こう!」
そのまま装備を実弾に変え意気揚々と走り出していく3機のブレードライガー
そして…後を必至に追い掛ける4機のキメラの姿が有ったという。
291蘇る黒の一撃 ◆5QD88rLPDw :2005/09/03(土) 00:29:59 ID:???
周囲にはウネンラギアの大集団があちこちを走り回っている。
殆どのZi-ファイターがそれの駆逐に借り出されており…
マッハストームやマジカルステッパーズ、ドラールスと気合いの入った面々。
しかし数が多過ぎる為手間取っているのが現状だ。

ブラックインパクトの面々も素早くレーザーブレードを展開。
ウネンラギアの足を切り倒して動きを制限していく…。
相手がブロックスという事も在り確実に仕留めていけば簡単な相手の筈。
しかし何か彼等の動きがおかしい事に彼等は気が付き始めていた。
「気を付けろ!何処かに指示を出している存在がいるぞ!」
マスクマンが全員の代弁を計り戦力の集結を指示する。

「今更気付いても遅いのです。」
コマンドストライカーに迫る一条の光。
それを躱すも道路の状況により乱反射したビームは機体の右前脚を貫いていた。
「その声は?ワッツ!貴様がこいつ等を!?」
ビルの頂点に降り立つユニゾンゾイド…しかしマトリクスドラゴンとは差異が多い。
RDはジェットファルコンを呼び出そうとするがジェットファルコンは一行に姿を現さない。
「そいつは今頃ナイトワイズの大軍と遊んでいるぜ!」
バルカンがRDを笑い飛ばし攻撃を開始する。
「何!?うわああああああああああああっ!!!」
その攻撃はビルの上からでは無く彼ライガーゼロの真横。1機だけでは無かったのだ。
更にキラースパイナーももう1機の機体に攻撃を受け応戦を余儀無くされている。

「ふっふっふっふ…これがあのアルファが残した遺産!
マトリクスドラゴネアですっ!素晴らしいゾイドでしょう?はっはっは…。」
ワッツがせせら笑う中残ったファイター達は必至に応戦する。
だがウネンラギアとマトリクスドラゴネアの複合攻撃に1機づつ数を減らしていく状況。
勝負は決したかに見えた。

一陣の風と共にウネンラギアの群を吹き飛ばす赤い影が現れるまでは…。
292蘇る黒の一撃 ◆5QD88rLPDw :2005/09/03(土) 01:12:31 ID:???
「ふむ…キメラドラゴンですか。
しかし新たに産まれたこのマトリクスドラゴネアには役不足ですよ!」
ワッツは背よりビームキャノンやミサイルランチャーでキメラドラゴンを攻撃、
威力はともかくユニゾンの効果で速度を増したミサイルを避ける事は叶わない。
爆炎に捲かれて墜落するキメラドラゴン。機体に目だった損傷は無いが、
動くのには厳しい状態に成っている。

「治安局の奴等は来ない。他の機体が確りと足止めをしているからな!
幾らゴジュラスギガであろうとマトリクスドラゴン4機を相手するには荷が重いだろう。」
ミゲールが嬉しそうに嘲笑いキメラドラゴンに止めを刺そうとする。

「ぐあっ!?」
その伸ばした左腕が肘のした辺りから消えている。
「ラスターニスペシャル!」
ブレードライガーBIの必殺技がフレーム剥き出しの左腕を切り裂いていたのだ。
「ユニゾンもできない機体が調子に乗りやがってっ!!!」
ミゲールは左肩の甲羅でブレードに体当たりをする…
勢い良く弾き飛ばされるブレードだが途中でスラスター噴射をして着地する。
「ユニゾンゾイドが何だと言うんだ!私はチャンピオン!ラスターニだ!
今更唯ユニゾンしただけのゾイドに恐れを抱いたりはしない…。
ジャッキー!ビリー!決めるぞ!アレを!」
「「解った!」」
その数秒後ミゲールのマトリクスドラゴネアは3枚におろされていた…。

「やるな…3機掛かりとはいえユニゾンゾイドをノーマルゾイドで叩き切るとは!」
マスクマンは感嘆の声を上げる。
「ミゲール…はしゃぎ過ぎですよ。まあ良いでしょう。
チャンピオン!貴方達は私とバルカンできっちり沈めて差し上げましょう!」
攻撃の矛先が一気にブラックインパクトに集中する。
ウネンラギアの群に阻まれ動きの取れない状況に打ち込まれる攻撃。
このマトリクスドラゴネアと言うゾイドは使うブロックスを変えた存在。
レオストライカー、ボルドガルド、カノンダイバー、エヴォフライヤーのユニゾンである。
293ユニゾンファイトフィーバー ◆5QD88rLPDw :2005/09/05(月) 02:28:37 ID:???
突然周囲のファイターの驚きの声にワッツ達は何事かと辺りを見回す。
「なんと!馬……鹿な!?」
「冗談だろ!おいっ!?」
驚くのも無理は無い。完全にノーマークだったマジカルステッパーズのゴドス。
周囲の大量のブロックス達…
実はウネンラギアに隠れて相当数の別のブロックスが混じっていた。
ウネンラギアの数が多過ぎるた為確認を怠っていたのが災難の種だ。
その内に紛れ込んで居たボルドガルドと相性が一致してユニゾンが発動したのだ。
「Zi-ユニゾン!ボルゴドス!」
更には…同じくキュラッシャー隊から溢れたシザーストームともう1機のゴドス。
「Ziーユニゾン!ゴドストーム!」
ワッツの開いた口が塞がる前に…彼等が誘導の為に使っていたディアントラー。
「Zi-ユニゾン!ゴドス・ディスホーン!」
「全部名前の付け方が違う!!!」
驚く所を間違えてしまう程バルカンは狼狽しワッツは引き攣った笑いを浮べていた。

「っはっはっはっはっは…所詮はゴドスのユニゾン!
このマトリクスドラゴネアに叶う訳が有るかよっ!」
バルカンはそれを認めたくないと言う心理で3機のユニゾンゴドス達に襲い掛かる。
だが、バルカンは重要な事を忘れていた様だ。
こう見えてマジカルステッパーズはゴドスで並み居る強豪を退け…
ラスターニ達に挑戦状を叩き付けた生え抜きのZi-ファイターである事に。
「「「ゴドスファランクス!!!」」」
10秒も持たず崩れ落ちるバルカンのマトリクスドラゴネア。
ゴジュラスさえも機能停止させるコンビネーション攻撃とユニゾンのパワー、
ワッツに頼りきりなバルカンでは相手が悪かったとしか言い様が無い結果だ。

しかしそれを見てワッツの表情に余裕が戻る。結局はバルカンの言う通りなのだ。
彼等の実力とコンビネーションで総合的な結果がバルカンを敗北させただけである。
だがそのワッツの余裕もそう長くは続かない。
ブラックインパクトに攻撃を集中した為砲撃重視のケーニッヒウルフmk-Uや、
出遅れた為、増援になった凱龍輝デストロイの砲撃でその数が半分に減っているだ。
294ユニゾンファイトフィーバー ◆5QD88rLPDw :2005/09/05(月) 02:57:47 ID:???
「遅いぜ!ブレード!でも助かったよ。」
RDは礼を言いライガーゼロは走り去る。ジェットファルコンと合流する為だ。
「ふん…小さな事だ。」
意にも介さず黙々とブロックス群を砲撃する凱龍輝デストロイ。
しかしブレードとしては最近ろくな目に遭っていないらしくストレス解消と言った所か?
正確ではあるが執拗な砲撃を周囲に行なっている。
「ブレードちゃんはご機嫌斜め見たいね…。」
コクピットで小声で呟くエミー。もし集音マイクで拾われたら蜂の巣にされかねない。
しかし彼女のウルフのスナイパーライフルの残弾は底を付きミサイルも空となる。

「こんな時に!?後はもう爪と牙で…?」
重りとなった装備を排除して格闘戦に移ったエミーのウルフのモニターに映る画像。
「え〜…ユニゾン?この亀ちゃん達と?」
目の前にはカノンダイバーとブラックインパクト所有でないシェルカーン。
そう言うが速いかシェルカーン達側から戦術AIで介入と言う形で強制ユニゾンする。
「じ〜ゆにぞん。KDTS(ケーニッヒウルフデュアルタートルシールドの略)。」
今一乗り気ではないが背に腹は変えられない。
エミーのテンションは兎も角また砲撃を再開できるので仕事は一気に楽になる。

「な?何処で私の計算が間違ったと言うのですか!?」
更に加速度的に手駒を失いさしものワッツではあるが焦りが芽生える。
そう言う彼も幾人かのファイターを倒してZi-ファイターとゾイドの数を減らしている。
だが戦力の目減り具合が割に合わないのだ。

「それはこう言う事さ。」
背後に何時の間にか回り込んでいた黒い影。声からして間違い無い。
ワッツが甘ちゃんとして見下していたラスターニのブレードライガーBIの姿だ。
更には空よりライガーゼロファルコンが降り立つ。
クラッシャーズが起した騒動は結果として多数のファイターにユニゾンの力を齎した。
頭数が多ければ多い程Zi-ユニゾンするゾイドが出る確立は飛躍的に上昇する。
こんな単純計算をワッツは怠っていたと言うお粗末な結果の賜物である。
数の有利が崩れ去り彼等の敗北が決定した瞬間でもあった…。
295ユニゾンファイトフィーバー ◆5QD88rLPDw :2005/09/05(月) 05:28:40 ID:???
「ふ…人の事は馬鹿にできないと言う訳だよ。ワッツ君。」
その映像を収容所のモニター越しに見る男。
「アルファ?どう言う意味なんだ?」
看守がアルファ=リヒターに説明を要する。
「簡単な事さ。私達リヒタースケールはユニゾンの有用性に目を付け…
より簡単に、より強力なユニゾンを計れるゾイドを研究していた。
その成果がアレだ。ブロックスは特にユニゾン媒体として非情に優秀でね、
彼等は戦術AIと自身の闘争本能である程度ユニゾンできる相手を選べるんだよ。」
「そうなのか?」
看守が聞き返すと、
「ピアースはそう言っていたよ。奴が言ってる事だから間違いは無い。」
拾い物には厄が有る。そう言う事らしい…。

「ちくしょう!粘りやがる!いい加減に諦めろ!ワッツ!」
RDのライガーゼロファルコンとラスターニのブレードライガーBIの攻撃を躱すワッツ。
流石に威張るだけは有り操縦技術もピカ1で2機の波状攻撃をやり過す。
「こうなれば…せめて反撃の決めてになったラスターニだけでも!」
マトリクスドラゴネアの腕のザンスマッシャーがブレードライガーBIを捉える。
「ぐあっ!?」
ユニゾンゾイドの強烈な一撃にビルに激突するブレードライガーBI。
衝撃に持って行かれそうになる意識を何とか引き戻し耐えるラスターニ。
その目に移る物は…破れかぶれと言うのだろうか?
無人のマトリクスドラゴネアの集団。
何時の間にかバルカンとミゲールもその内の2体に乗り換えていた様だ。

「さっさと片付けちまおうぜ!遊んでいたらまたユニゾンされちまう!」
「その通りだ。さっきの借はきっちり返させて貰うぜ!
先ずはブラックインパクト!貴様等からだ!」
ミゲールとバルカンのマトリクスドラゴネアが迫るが…
この行動がブレードの癇に障ったらしい。突然側面からの雨の様な砲撃。
やはり彼等はゾイドを使っているだけの輩。過ぎた機体散々に振り回されたあげくに、
自ら砲撃の前に跳び出し自滅してしまう。
296ユニゾンファイトフィーバー ◆5QD88rLPDw :2005/09/05(月) 07:00:20 ID:???
「所詮は付け焼き刃。その程度という事だ。」
妙に気難しいブレードならではの行動。
凱龍輝デストロイはそのまま無人で動いているマトリクスドラゴネアに向かう。
しかし残りのこの機体は自動で動いている方がバルカンやミゲールが操縦している者より、
素早く強い。この事から解り切ってはいるが乗り手を選ぶゾイドだという事だ。
「ミゲール、バルカン、引きなさい。後で確り操縦を覚えてもらうとしましょう。
残りは私が始末します。凱龍輝デストロイとライガーゼロファルコンに攻撃を集中なさい。」
ワッツの機体には唯一戦術AIの制御システムが存在する。
それを介して自分達を攻撃させないようにする。それだけで事が済むのだ。

ワッツの性癖は…狡猾にして慇懃無礼。
無駄な疲労を避ける為ユニゾンゾイド達に無人のマトリクスドラゴネアを向かわせ、
彼本人はまた何かを企んでビルの高みに消える。
それを追えるゾイドは居ない。
「くそっあいつ等逃げてくよ!マスクマン!?もう少し仰角を上げれないのか?」
レオストライカーのコクピットで悔しそうにシグマが呟く。
今右前足を使えないコマンドストライカーには仰角を如何こうする事はできない。
ただ流れ弾で致命傷を受けない様に小出しにEシールドを張るのみ。
ここまで生き残れたのは、
タイミングを見極めザンブレイカーで相手を切断していたマスクマンの腕のお陰だ。
それに伴ってシグマもキャノン砲等で確実に動きを止めれる相手を狙撃している。
「済まない…シグマ。」
苦渋に充ちたマスクマンの謝罪が痛々しい。

「こう数が多いと!速くしないとワッツ達に逃げられるっ!」
RDも必至に突破口を探すが飛行が可能なゾイドに重点的にねらいを定める戦術AI。
今ここでワッツ達クラッシャーズを逃せば次は少数精鋭の奇襲に作戦を切り替えられる。
そうなればもうブルーシティで彼等を止められる者は無い。
サクイの民のバラフ、ファン、ツルギが追撃を試みるが何処でタイミングを覚えたか…
一時的に姿を視認できる位置に移動したマトリクスドラゴネアに出鼻を挫かれる。
「此奴等!やりおる!少しづつ我等の行動を読み始めて行動しよるわっ!!!」
バラフはマトリクスドラゴネアの群を睨み付けた。
297負の遺産 ◆5QD88rLPDw :2005/09/06(火) 04:40:36 ID:???
「くくくく…マトリクスドラゴネアにはまだ切り札が有るのです。」
直ぐ一区画隣りのこの場所にマトリクスドラゴネアの戦術AIの本体が有る。
戦術AIは嘗てのマッハストームとの戦いで単体(一集団)では対応に遅れが出る。
その問題の解決に使用されたのが秘かに建造された巨大制御システムである…
通称エグリゴリシステムである。
高邁な思想を掲げたアルファが名付けただけあって見張る者の名を持つ天使の意。
面倒な説明を省くと戦闘対象を末端の戦術AI搭載のゾイドで監視し、
そこから得られた戦闘データをエグリゴリの中枢を介して他の戦術AIにデータ転送。
機体接続等無しでデータをアップデートさせられるシステムである。

アルファがセイスモサウルスを使って実力行使に出る前からシステムは作動しており、
その為今戦闘を行なっているZi-ファイターにとっては手を詠まれている様に錯覚する。
それをクラッシャーズは偶然発見しそれを拝借した次第なのだ。
それが好機だったのは彼等がブロックス乗りだった事が偶然に追い風になっただけで、
他の者が見付けたとしてもこの様な惨事に発展する事は無かった筈である。
更にこの時彼等は新しいユニゾンブロックスのマトリクスドラゴネアの存在を知った後、
この二つの偶然が折り重ならなければ有り得なかった話だった。

「さあ!バルカン!ミゲール!新しいデータ得て完成しましたよ!
マトリクスドラゴネアを超えるマトリクスドラゴネア…ドラゴネアエグリゴリが!」
彼等の目の前にはアルファの投入したセイスモの10分の1のサイズの胴体に…
治安局の象徴ゴジュラスギガの尾より前全て。
背にはブロックスを介してロードゲイルやフライシザースの翼を3倍程にした物が1対。
それを守る様にエヴォフライヤーやナイトワイズの翼が付け根をがっちり覆っている。
リヒタースケールが新たなゾイドの創造を目論んだプラントに直結しているこの場所。
ゾイドのコアが何処までを己と認識し何処までを補助装備と認識するかの…
限界を計算して産まれた限々の姿がドラゴネアエグリゴリの姿であり、
この外装はともかく中味はブロックスが蠢きギガのコアの拒否反応を消していた。
その外装も突発的なユニゾンを意識したブロックスのコネクターを幾つも揃えられている。
298負の遺産 ◆5QD88rLPDw :2005/09/06(火) 06:21:55 ID:???
一方周囲でのマトリクスドラゴネアの戦闘技能は少しづつ上昇。
次第に戦況を悪化させている。
しかしここでラスターニは…キラースパイナーの姿を見詰めていた。
「何故だ?以前とは格段にユニゾンしていられる時間が増えている気がする。」
その声にマロイがこう答える。
「毎日ユニゾンを続けた結果だよ!地道に慣れさせれば少しづつ限界が伸びる。
負けたら負けを取り返す努力をするのがZi-ファイターだろ?」
ジャイアントクラブがマトリクスドラゴネアの1機を捕まえ挟み潰す。
「マロイ!ガトリングガンは球切れだ!レーザーに切り替える。」
「解った!ラトル!限界まで残りが少ない…今の内に1度離脱して補給をするぞ。」
この時点でユニゾンを行なっている機体の半数は限界時間が迫っている状況。
ビリーとジャッキーはコマンドストライカーを待避させて、
マスクマン等と脚部の修理を何時の間にか行なっている。
ダンが何時の間にか居るのもご愛敬だがマッハストームは無茶ばかりするので、
余り珍しく感じないのは疲れているからだろうとラスターニは思った。

何時の間にか前衛と後衛ができあがって何とか戦線を支えるファイター達。
そんな中異常にユニゾンの持続時間が長いライガーゼロファルコンと凱龍輝、
そしてユニゾンできないラスターニのブレードライガーBIだけが前衛と成った時、
それは現れた。サクイの民達は何とか包囲を抜けてワッツ達を捜索に出ている。
完全に手薄な状態のそこに巨大な敵影、攻守の入れ替わる鐘の音が鳴る…。

「何だ彼奴は!黒いゴジュラスギガに…羽!?」
素っ頓狂な声でRDが叫ぶ。しかし尾が異常に長い上に小型に成ったセイスモの物。
それに生える機銃の数々。一目でガミーの駆るギガでない事が解る。
だがこれだけで相手を威圧するには充分過ぎる上にそれから蛇の様に生える…
ブロックス製の異様な武器の塊2本とその中央にはバルカンとミゲールの乗るコクピット。
「クラッシャーズ。デカブツを持ってお帰りか?随分と礼儀正しい事だ。」
ブレードに不機嫌メーターなる物があればそれは多分降りきれていた事だろう。
その言葉も終わらぬ内に凱龍輝の口腔が光り輝き荷電粒子砲が発射される。
掻き消される大型ゾイド…マトリクスドラゴネアも巻き込み勝負は着いたかに見えた。
299負の遺産 ◆5QD88rLPDw :2005/09/06(火) 08:01:39 ID:???
「ふん…運の良い奴等だ。いや…裏が有るな。
リュック!何か思い当たる事が無いか調べろ。」
「ブレードさん!調べるまでもなく奴等はエグリゴリシステムを使用しています!
このまま長引くと危険です。」
素早い対応を見せるリュック。レオゲーターで後衛の守備を行ないながら答える。

ユニゾンばかりで忘れられがちだがチェンジマイズも行なえる為、
リュックは近くのマトリクスドラゴネアの生き残ったパーツを武装として運用している。
ユニゾンではない為随時球切れや破損する度に取っ替え引っ替えしているので、
RD達の目には忙しい奴と言う印象にしか見えないことだろう…。

「こいつ等みんなEシールドで荷電粒子砲を防いだのかっ!?」
RDはここまで徹底した指揮系統の行動を見た事が無い為驚くの当然かもしれない。
「どうです?素晴らしいでしょう…。これが統一された指揮系統の力。
そして一元された指揮の元に相手によって行動を変える変幻自在の戦術AI。
それと…統一された機体を使う事でAIの負担を最大限に軽減!
素晴らしすぎますよ!はっはっはっはっは…そろそろ終わりにしましょうか?
このドラゴネアエグリゴリで!」
ドラゴネアエグリゴリが吼える。それだけで周囲の温度が数度下がった様な感覚。
気圧されている事がひしひしと感じられるRD達。
そこにマトリクスドラゴネアとドラゴネアエグリゴリの猛攻撃が加わる…。

砕け散る舗装道路。立て直したばかりのビルが倒壊し再建中のビルも基礎毎砕かれる。
もし嘗て有った戦争を目にした事が有る者ならそれを思い出しているかもしれない状況。
立ち直り始めてやっと復旧の目途が立った矢先のこの状態。
その攻撃は更に苛烈さを増しドラゴネアエグリゴリの砲口がブレードライガーBIに向く。
「これで終わりだ!無芸のチャンピオンはさっさと散りがぁっ!?」
バルカンの声が途中から悲鳴に擦り替わっている。
「お前等の横暴もここまでだ!だが例を言わなければ成らんな!
漸く及び腰の上層部もコレを治安局の移動分署として使用する許可を出したのだからな。」
ワッツ達ドラゴネアエグリゴリの後方に更に巨大な青い影が現れる…。
300正の遺産 ◆5QD88rLPDw :2005/09/07(水) 03:34:01 ID:???
その声はガミーの物だがゴジュラスギガの拡声器ではない。
明らかに巨大で音割れを起こしている。
煙に巻かれた周囲。それを割って入ってくる巨大な頭部とガミーのギガ。
「×複数 セイスモサウルス!!!」×複数
治安局所属のゾイドのカラーに塗り替えられ巨大だった各部砲塔は小型の物複数に変更。
「がはははは!残念だったな。マトリクスドラゴン程度俺が3分で片付けた!
此奴の投入が急遽承認されたから準備に遅れただけだ。
何と言っても俺のギガで砲塔を取り替えていたからなっ!はっはっはっは…。」
反則を通り抜けた治安局の増援に流石のワッツも呆然とする。
「これは…何かの間違いです!きっと夢です!こんな事が有って溜まるわけ有りません!!!」
しかし現実は厳しくバルカンの操縦していた大型ウェポンバインダーは地面に落ちている。
ブロックをそのまま使って単一接続していた事がこの状況になった決めて。
セイスモのそ〜っと息を吹き掛けるかのように調製したゼネバス砲の一撃である。

「しかし!所詮は大艦巨砲主義の塊!マトリクスドラゴネア!奴を落としなさい!」
ワッツは指示を出しマトリクスドラゴネアの群が一斉にセイスモに襲い掛かる。
しかし…
「俺を忘れちゃ困るぜ!このディド様をよ!」
セイスモの内部ではディド等を含めて砲撃のスペシャリストが各々31の、
対ゾイドトーチカの射撃を担当。広い背中や首には…
「私達も忘れては困るわ。アロザウラー各機!トーチカに相手を触れせるな!」
チャオ達アロザウラーの部隊も展開されトーチカへの格闘行動を阻止する布陣で居る。
さながらセイスモを帆船だとするとトーチカは大砲でアロザウラーは乗組員。
そしてマトリクスドラゴネアは海賊と言った風情である。
何方も1歩も引かぬ拮抗した戦況を作り出しZi-ファイター達の方の戦力が手薄になる。
直営12機のマトリクスドラゴネアとドラゴネアエグリゴリ。
これでほぼ両者手駒を出し尽くした形となる。
「また…僕は…袖で見守るだけなのか?」
半年ほど前の決戦の時を思いだしラスターニは悔しさに自然とレバーを握る手に力が。
だがそれに答える者が居た…。
始めで力尽きたかに見えた居候。練習の邪魔をするお邪魔虫の…キメラ達だった。
301正の遺産 ◆5QD88rLPDw
「兄さん…貴方の投資は無駄じゃなかった!!!ユニゾンできるよ!キメラ達と!」
モニターにはキメラブロックスとユニゾンした愛機の姿…
モニターに自然に落ちるラスターニの涙。
「Zi-ユニゾン!ブレードライガーKI!!!」
RDのジェットファルコンやブレードのディスペロウと同じく無人ゾイドとのユニゾン。
その速度は折り紙付きであっと言う間に、
キメラを纏った黒いブレードライガーが大地に降り立つ。
「このタイミングでっ!?行きなさいマトリクスドラゴネア!不確定要素は即排除です!!!」
ドラゴネアエグリゴリの周囲からマトリクスドラゴネアが一斉に飛び立つ。
「決まったな…。結局あいつ等じゃ無理だったって事だろ。」
アルファが去った後もモニターで観戦していたマービス。
しかしこの捨て台詞を残して席を立つ。結果が見えたと言うサインだった。

結果はブレードライガーKIは一気に空中に上昇。ネオラスターニスペシャルで一掃。
その時にガミーのギガの飛び蹴りでドラゴネアエグリゴリは空中へ。
そこへファイター達のゾイドの一斉砲撃。
更に凱龍輝の荷電粒子砲の直撃を受けてEシールドが機能を停止。
砲撃の影響で独楽の様に回転するドラゴネアエグリゴリにライガーゼロファルコンと、
ブレードライガーKIのクロスアタック。
ドラゴネアエグリゴリは胴体に大穴を開けその穴の中心から真っ二つに切断。
満を持しての投入だったドラゴネアエグリゴリも相手が悪かったと言う事だろう。
そのまま回転しながらパーツを撒き散らして機能を停止する。
「そ…んな…馬鹿な…?」
単純計算を間違えた者の末路だった。

この事件から数日後。ファームでは…
「もうやめてくれぇ〜〜〜っ!!!」
相変らずのラスターニの絶叫が木霊していたという…復帰はまだまだ先の話だ。
真のチャンピオンへの道は遠く険しい。
まだまだ彼には超えなければならない壁が沢山有るらしい…。

ー 終 ー