【2次】漫画SS総合スレへようこそpart46【創作】

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1作者の都合により名無しです
元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://comic7.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1165860392/l50
まとめサイト
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
2作者の都合により名無しです:2007/01/13(土) 19:23:01 ID:mV/8SDln0

ほぼ連載開始順 ( )内は作者名 リンク先は第一話がほとんど

オムニバスSSの広場 (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/bare/16.htm
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm
上・ドラえもん のび太の超機神大戦 下・ネオ・ヴェネツィアの日々(サマサ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/tyo-kisin/00/01.htm
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/samasa/05.htm
聖少女風流記 (ハイデッカ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/seisyoujyo/01.htm
上・やさぐれ獅子 下・強さがものをいう世界 (サナダムシ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/yasagure/1/01.htm
 http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1162629937/115-119
上・鬼と人とのワルツ 下・よつばと虎眼流 (名無しさん)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/waltz/01.htm
 http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1162629937/240-250
Der Freischuts〜狩人達の宴〜 (ハシ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/hasi/03-01.htm
シルバーソウルって英訳するとちょっと格好いい (一真氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/silver/01.htm
3作者の都合により名無しです:2007/01/13(土) 19:25:21 ID:mV/8SDln0
戦闘神話 (銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm
バーディと導きの神 (17〜氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/birdy/01.htm
フルメタル・ウルフズ! (名無し氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/fullmetal/01.htm
永遠の扉 (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm
WHEN THE MAN COMES AROUND (さい氏)
 http://ss-master.hp.infoseek.co.jp/kakorogu/43.htm (の218-225から)
『絶対、大丈夫』  (白書氏)
 http://ss-master.hp.infoseek.co.jp/kakorogu/43.htm (の418-424から)
虹のかなた (ミドリさん)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/niji/01.htm
18禁スーパーロボット大戦H −ポケットの中の戦争− (名無し氏)
 http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1162629937/182-185
オーガの鳴く頃に (しぇき氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/nakukoro/01.htm
ヴィクティム・レッド (ハロイ氏)
 http://comic7.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1165860392/l50 (の184-188から)
4銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2007/01/13(土) 19:28:50 ID:mV/8SDln0
容量わすれておりまことに失礼いたしました…
銀杏丸によるヘルシングSS第二段!作中で一番狂ってる人・少佐のSSでした
カミーユ・ビダンと同じ声とはおもえん狂いっぷりがステキです
早くあの演説を聴きたいものです

>>274
ぶっちゃけ、アーカードって何話すんだろうというレベルで躓くので
多分長編じゃ彼を書くのは難しいです、割とマジで
原作から引用して台詞繋げても所詮パッチワークですし
自分なりの+αをやりたいなぁと思っちゃうとだいぶ難航、難しいものです

>>305さん
インテグラは萌えます
少佐に対してこぶしを震わせながら宣戦布告を受けたり
アーカードにセクハラ発言されて怒り狂ったり
ヘルシング機関という狂った場所にいますが、彼女はきっとまっとうな常識人なんでしょう

>>サマサさん
シンには是非とも熱血漢として頑張ってほしいです…
気が早いですが、次回作楽しみにしてます

>>さいさん
少佐は何から何まで本当に狂っている、というキャラクターなだけに、非常に書きづらかったです
それだけにプロの脚本家のすごさを再認識、おっかねぇ
ヘルシング劇中で一番謎が多く、かつ何も開かされてないだけに、彼のミステリアスさ
恐ろしさを描くににはやっぱりしゃべって貰う事以外思いつかなかった自分の未熟さを恥じ入るばかり
5銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2007/01/13(土) 19:30:03 ID:mV/8SDln0

>>スターダストさん
実はこれを書いていたときは第九を聞きながらだったりします
荘厳なイメージをできるだけ崩さないように投影したつもりですが、はたして巧くいっていたのやら…
なんにせよ、多分に実験要素含みだったのでおっかなびっくりでした
司馬遼太郎のすっと目に入ってくる爽やかな文体は憧れです

>>ハシさん
リップヴァーンの泣き顔は萌えますね。エロイ
おっかなくて強いリップもいいですが、やっぱり彼女はドジっ子ですので、
そんな彼女をはやく見てみたいです
関係ないですが、リプというとリプミラを思い出す長谷川祐一ファンな銀杏丸です

>>ハロイさん
ARMSの中でも最も悲劇性の強いキースたち
結果的に隼人のカマセになってしまった彼ですが、そんな彼の過去、実に興味あります
そういえばゲッターロボの登場人物になんですよね、主人公チームの名前って

>>鬼と人のワルツさん
バキの傍迷惑さ加減は0.5範馬くらいでしょうか?なんにせよやっぱりあの勇次郎の息子だ…
飲村一茶の活躍に期待大です

>>ふら〜りさん
原作ヘルシング8巻をダイジェスト的にまとめてみました
劇場予告をイメージしながら書いていただけに、そういっていただくと非常にうれしいです
不詳銀杏丸、中世日本には明るくないので非常に新鮮な気分で読ませていただいてます

いやはや、まことに失礼いたしました…
では、またお会いしましょう
6作者の都合により名無しです:2007/01/13(土) 23:04:52 ID:upyy5nrM0
>鬼と人とのワルツさん
お久しぶり!受験だか就職だか確か人生の大事があったと思いましたが、
無事パスされたようですね。何よりです。
バキに急襲(本人にそのつもりはないでしょうが)されるというのは
どういう事か。まあ、響鬼ですから大丈夫でしょうが。

>銀杏丸氏
多分漫画至上、もっとも長く、そしてもっとも狂っているセリフですな
この少佐の名演説は。カミーユの声か。あんな女声でこのセリフか。
合うのかな?アニメヘルシング知らないけど。
でももう少し、台詞以外に味付けしてくれるともっとよかったかな?
7修羅と鬼女の刻:2007/01/13(土) 23:22:43 ID:whjHpRI70
>>前スレ366
大盛り上がりの内に宴は終わり、大和と正成が期待した通り、皆少し元気になった。
そして翌朝。見張りの兵の大声で正成は目を覚まし、呼ばれるままに城壁に上がった。
朝もやの中、城の外に出てたった一人で幕府の大軍と対峙しているのは……
大和だ。昨夜のまま、ほっかむりと化粧と、四本の鍬を手に持って。
「な。何を考えてるんだあいつは!? あんなことをしたら……」
「かかれええええぇぇっ!」
案の定、侮辱されたと思った幕府軍の武士たちが騎馬で突撃してきた。手に手に
槍や薙刀を構え、憤怒の形相で大和に向かっていく。
対する大和は、鍬四本の内二本を、頭上に高く投げ上げて踊りながら跳躍し、
「♪犬が西向きゃ尾は東〜♪」
向かってきた騎馬武者二人の首を、両手の鍬で雑草のように斬り飛ばした。
え? と武者たちが動きを止める。大和は一度着地したかと思うと、またすぐ跳躍して、
「♪オイラが笑うと星が散るっ♪ と!」
左右の足を旋風のように振り回して、左右の武者たちの首を叩き折った。折りながら
持っていた鍬二本を投げ上げ、代わりに落ちてきた二本を受け止め、また跳躍して、
「♪天下の国々栄えあれ〜っ♪」
……こんな調子で。踊りながら歌いながら、四本の鍬を器用にくるくる操って、
ほっかむりと厚化粧の大和が次から次へと武者たちを薙ぎ倒し、討ち取っていく。
片手逆立ちからの蹴り上げで落馬させ、空中前転からの二連踵落としで兜を割り、
その間も鍬を回すことは決して忘れず、踊りも止まらずに。
城内から見ている河内悪党の面々は、ただ呆然。昨日、みんなで酒を飲みながら
大笑いして見てたあの踊りだ。逆立ち跳びに空中前転に、鍬回しに。で、それに
合わせて幕府軍が切り崩されている。大和一人の踊りに手も足も出ずに。
「な、なんだってんだオイ。わしら、あんな連中を相手に怖がってたのか?」
「もしかして、あいつら……弱いのか? それもかなりヒドく」
河内悪党の面々が、ざわめき出した。その気配が幕府軍にも伝わったらしく、
「ええええぇぇいっ! 誇り高き鎌倉武士ともあろうものが、百姓どもに愚弄されて
どうする! もう手段は選ぶな! 絶対にそいつを殺せっっっっ!」
本陣から厳命が飛んだ。武士たちは一旦引いて大和から距離を取ると、
ズラリと並んで弓矢を構えた。
8修羅と鬼女の刻:2007/01/13(土) 23:23:23 ID:whjHpRI70
さすがにこれはマズい、と大和は鍬を二本だけ持って後ずさる。と、百本近い矢が
水平に流れる滝のような勢いで、大和に向かって殺到した!
「おととととっ、ちょ、ちょ、ちょっと待っ」
両手の鍬で矢を払って払って、開けてもらった城門から何とか滑り込む大和。
好機! とばかりに武士たちは雄叫びを上げて突撃した。
「よぉし、今だ! あの小僧の退却で奴らは意気消沈してるはず、一気に崩すぞ!」
「応っ!」
「いいか、もう無様な姿を晒すことは許されん! 湯の熱さぐらい武士の意地で耐えよ! 
我らは武士、命よりも何よりも、名こそ惜しむべきぞ!」
逆転必勝を誓って、武士たちは決死の覚悟で鉤縄を投げた。もう、熱い湯が来ようが
沸騰した油が来ようが、絶対に引かない覚悟を胸に燃やして。
一方、城内に引っ込んだ大和はほっかむりをほどきながら、一部の男たちに合図を
飛ばした。男たちは城壁の下の、むしろを被せた何か大きなものの周りに集まる。
「? あれはいつもの、湯を沸かしてる大釜ではないか。なんだ、あのむしろは」
「あはは。ま、見ててよ。細工は流々ってね……陸奥大和の宴会芸、最終幕いくよっ!」
男たちが、釜のむしろを取った。いつも通り、ふつふつと煮立っている。何も変わらない。
が、正成は思いっきり顔をゆがめて後ずさった。
「む、陸奥っ! お前、これ、まさかっっ!?」
城外。城壁を登る武士たちの頭上に、いつもの長〜いひしゃくが突き出された。武士たち
は、もう湯なんか怖くないぞ、歯を食い縛ってうめき声一つ立てずに耐えてみせるぞ、と
決死の覚悟を……
「ぎええぇぇやあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」
「あどぐぼおおわあああああああああぁぁぁぁぁっ!」
この世のものとも思えぬ絶叫を上げて、彼らは逃げた。あるものは怒りながら、
ある者は泣きながら、意地も誇りも捨てて赤坂城に背を向け一目散に逃げ去っていく。
何だ、何事だと本陣は混乱したがそれもあっという間のこと。涙に濡れて逃げてきた
彼らを見て、いや、嗅いですぐに事態を悟った。
「っっ! あ、あ、あ、あ、あいつらああああぁぁっっ!」
9修羅と鬼女の刻:2007/01/13(土) 23:23:55 ID:whjHpRI70
赤坂城内は笑いに包まれていた。昨夜の宴会など比較にならない、爆笑の大渦。
次は俺にオレにと皆でひしゃくを奪い合い、我先に釜の中身をすくって城外にブチ撒ける。
それは何かというと、糞尿。わざわざ肥溜めから汲んできた発酵済みのドロドロの糞尿を、
釜でじっくりと煮込んだのだ。
で、それを誇り高き武士たちの頭上にブッかけた。武士たちの、先祖伝来の甲冑も
父上の形見の名刀も、熱々の湯気が立つクソまみれになってしまう。臭い汚いヌルヌル
気持ち悪い。これで悔し泣きしない男は、もはや武士ではないと言えよう。
なので、武士たちは一人残らずクソ湯気を立てて泣きながら逃げていく。そんな彼らを
昨日までは恐れていた河内悪党の面々、もう大爆笑大爆笑。
部下たちの笑い声に囲まれた正成は、呆れ果てて開いた口が塞がらずにいた。ぽかぁんと。
「こ、こ、こ、こ、こんな、こんなの、アリか。肥溜めから汲んで沸かして、それで
敵軍が総崩れって何だ。味方の士気大上昇って何だ。兵法って軍略って一体何だ?」
「あはは。ま、オレにかかればこんなもんだよ。……ん、何だってお兄さん?
孔明の再来? 張良の生まれ変わり? 何とでも好きに言ってくれていいよ」
「いや、ま、その、何だ。天才と何とやらは紙一重、とはよく言ったものだな。つくづく」
「……えっと。オレ、褒められてるのかな。けなされてるのかな」
悩む大和であった。

そして、この後。
血の涙を流しながら復讐を誓い、川で武具を洗っていた武士たちを、正成の指揮する
河内悪党が奇襲した。甲冑を外して洗っていた、すなわち文字通り裸同然の彼らを
完全武装の奇襲隊が一方的に蹂躙、殺戮。ここでも大戦果を挙げることとなった。
馬上で、敵味方交互に、作法通りに高らかに名乗りを上げてから戦うことしか知らぬ
鎌倉武士たち。そんな彼らにとって、正成たちはもはや卑怯者を遥かに通り越して、
得体の知れぬバケモノのように思え始めていた。
後に、「妖霊星」とまで呼ばれ恐れられる河内悪党。その影に、何とやらで紙一重な
修羅がいたことは記録に残っていない。
10ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/01/13(土) 23:25:13 ID:whjHpRI70
……史実らしいです。まぁ高齢者介護においても、排泄介助できるかどうかが
かなり大きな比重を占めております故。アレが人間の精神に与えるダメージは
やはり大きいということで。

>>1さん=銀杏丸さん
おつ華麗さまです。スレも40代後半、いよいよ50の大台が見えてきたというところで
2ch自体が不安なことに。これからどうなるかは解りませんが、どうなっても続けて
いきたいですよね。♪この広い2chで なぜ 君と 出会えたの……♪な皆様と共に。

>>ハロイさん
>お前にはセピアの体調を管理する義務がある
なんかこう、いろいろと妄想膨らむ言い方ですな。でも当の本人にはそういう発想が全く
浮かばないと。そこを浮かぶように矯正(?)するのがヒロインたるセピアの役目か? なか
なか険しそうですけどね。などと考えてる間に魔王出現。こっちはこっちで妹がカギの様子。

>>スターダストさん
流石というか。いろんなところでいろんな思惑と行動、権謀術数だったり熾烈激闘だったり
してるのに、一人悠然と彼女へのお土産のこと考えて、その彼女の笑顔を思い浮かべて
いるのか彼は。強く優しく頭が良くて彼女思い、敵にも味方にも礼儀正しく。ほんと完璧。
11ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/01/13(土) 23:25:56 ID:whjHpRI70
>>さいさん
渋いなぁ。戦友同士、父親と息子、上官と部下。二人を中心にいろんな関係が描かれて
ますが、ただ会話してるだけなのに何だか濃密。映像が浮かぶというより、二人の気持ち
がそのまま伝わってくるような感じで。虐殺描写とは対照的な、こんな文体も巧みですね。

>>ワルツさん(お久しぶりですっっ)
早速やってますな、響鬼さんたち言うところの「人助け」。魔化魍たちは知能とか無さそう
ですし、彼らから見れば刃牙も立派に鬼なんだろうなと思ったり。前にも言いましたが、
刃牙vs鬼たちってのも興味ありますね。弦弟子辺り、切磋琢磨し合える仲になれたりして。

>>銀杏丸さん
また前回に引き続き、テンポが良くてある意味詩的、だけど内容は思いっきり血みどろな
作品。今回のは羅列……じゃなて、列挙がスゴいですね。バリエーション豊富にたくさん。
こういうのを即興でペラペラ言える・スラスラ書ける人はかなり頭いいんだろなと思います。
12作者の都合により名無しです:2007/01/14(日) 09:57:27 ID:NxD1Jtso0
鬼と人さんお久しぶりです。バキと響鬼の掛け合いの復活、すごく嬉しいです!

銀杏丸さん、あの名台詞のアレンジ素敵でした。またこういう番外をお願いします。

ふらーりさん、史実織り交ぜで楽しいですな。楠正成と陸奥の活躍期待してます。

しかしふらーりさんの感想を読むと、ふらーりさんが原作を読んでいるかどうかが
すぐわかるwヘルシングは多分、ふらーりさん読んでないなw
13作者の都合により名無しです:2007/01/14(日) 16:59:43 ID:QPQZQRnu0
新スレ乙。
ワルツ氏と銀杏丸氏は結構お久しぶりだね
お2人とも好調そうでよかった
ふらーりさんの新作は長くなりそうで楽しみ
14作者の都合により名無しです:2007/01/14(日) 20:44:07 ID:NxD1Jtso0
ふら〜りさんにかかると陸奥も可愛くなるなあw
あと、ワルツさん復活お目。
銀杏丸さん、新スレたて&読みきり乙。
15ドラえもん のび太の超機神大戦:2007/01/14(日) 20:57:14 ID:EGP4Cfn90
第百話(最終話)「いつものように」

―――いつもの空き地。いつもの五人。いつものように、彼らはそこにいた。
「あの時も同じだったわね、こうしてみんなで集まってて」
しずかが感慨深そうに言った。
「そうそう。ジャイアンが何か面白いことないかー、ってうるさくてさ」
「それで、流れ星みたいなのが落ちてきて―――リルルと再会して、キラに出会ったんだよね」
「そこからあんな大事件になっちゃうなんて、思いもしなかったよね」
「ああ、本当にな。しかし、こうやってると、本当にあの日のまんまじゃねーか?」
ジャイアンが青い空を眩しそうに見上げる。
「今にもあの空から何か落ちてきそうな―――ん!?なんだ、あれは!?」
「え!?」
ジャイアンの声につられて、一斉に空を見つめるのび太たち。
すわ、再び大冒険の始まりか!?
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・何も、ないけど・・・」
そう。変わったことなど、何もない。雲ひとつない、綺麗な青空。
日常へと戻った世界は今日も平和だった。
「はっはっは、悪い悪い。ちょっと脅かしてみただけだって!」
「もー、やめてよジャイアン!・・・ま、あんなことにそうそう巻き込まれてたらきりがないよ。しばらくはトラブル
なんかと関わらずにいたいね」
ドラえもんがしみじみと語ると、ジャイアンがにやっと笑った。
「そういうけどさ、おれの勘だともう一ヶ月もしないうちに新しい大事件に巻き込まれてそうな気がするぜ」
「いやなこと言うなって」
「魔法世界にロボットバトルときたら、三回目は日本昔話あたりが来そうだと思わねーか?」
「微妙に次回作予告ー!?」
どっから電波を受信したんだ。
16ドラえもん のび太の超機神大戦:2007/01/14(日) 20:57:45 ID:EGP4Cfn90
「ま、とにかく―――不謹慎な話だけどよ、終わっちまうと、気が抜けちまうというか、なんだか張り合いがないと
いうか―――どうにも刺激が足りない。そうだろう、みんなも」
「え?うん、まあ、そういうのがあるにはあるけど・・・」
そんな皆の反応を見て我が意を得たり、とばかりにジャイアンは力強く頷いた。
「そこで、だ―――このジャイアン様は素晴らしいことを思いついた!」
ジャイアンは懐から一枚のチラシを取り出し、堂々と皆に突き付ける。それはド派手な衣装に身を包んだジャイアン
の写真が添えられた、恐るべき告知であった。

<終戦記念ジャイアンリサイタル・○月×日夜八時・空き地にて開催。
松席千円・竹席八百円・梅席五百円也。乞うご期待!>

「・・・・・・」
ジャイアンを除く全員が冷や汗を流しまくる。
「キラたちや稟さんたちやペコとかみんな呼んでよ、おれの歌でガンガン盛り上がるんだ。どうだ、いいアイデアだろ?」
「・・・・・・」
のび太たちはジリジリとジャイアンから距離を取り・・・一斉に駆け出した!
「死にたくないから、スタコラサッサだぜー!」
「あ、お前ら!どういう意味だ、コラー!」
逃げ回るのび太たち、鬼の形相で追い回すジャイアン。
これもまた、いつものように繰り返される日常の光景。
世界は今日も、実に実に平和なようであった。
17ドラえもん のび太の超機神大戦:2007/01/14(日) 20:58:17 ID:EGP4Cfn90
―――そんなこんなで、機械の神々が織り成す鋼鉄の御伽噺は、これで本当に御仕舞。
長い永い戦いを終えて、ひとまずみんなお疲れ様。
願わくば、少年たちにしばしの休息を。
彼らはこれからも、色んな大事件に巻き込まれ―――けれどその度、笑顔で乗り越えていくでしょう。
懸命に真剣に、だけどどこか能天気に、困難に立ち向かう彼らのことを、これからも応援してくださいませませ。

<SUPER ROBOT WARS、AND BLUE CAT、AND FOX> is the END!
18サマサ ◆2NA38J2XJM :2007/01/14(日) 20:58:53 ID:EGP4Cfn90
後書き―――
勢いのみで書き始めたこの作品も、ついにこれで最終回。やり遂げた嬉しさと、終わった寂しさで一杯です。
けれど、最後の段落であるように、これからものび太たちの冒険は続きます。
そんな彼らを応援してくだされば、その活躍を綴る者として、それ以上の喜びはありません。
では次回作「のび太の新説・桃太郎伝(仮題)」でお会いしましょう。
ドラえもん的日本昔話、といったところですが、ノリ次第で第二次超機神大戦にシフトチェンジするかもしれません。
いや、さすがに嘘です。
・・・2ちゃんねる残ってるかな(汗)

前スレ286
この設定が日の目を見るとしたら、次々回作ですね(笑)

前スレ305
ラストはあっさりしすぎかもしれませんが、無駄に長くしすぎたので、最後くらいはさっぱりと・・・

ふら〜りさん
キャラクターを好きになってくれた、という意見は一番嬉しいものです。
しかし、次回作のクロス先は新桃だから、初代にアニメ版しか知らなかったらノリの違いに戸惑うかも・・・
新桃、激シリアスなんですよね。フルメタのギャグ短編と長編くらい温度が違う。

前スレ313
種死もいずれ腰を据えて書いてみたい題材です。

ハロイさん
むしろ長編の方が楽だったりします。最初に大まかなプロット決めて、細かいところはその場のノリで・・・
みたいに書いてたので。文量については・・・よくぞここまで書いたと(笑)

インキ・・・銀杏丸さん
少佐かっけー!しかしこの文章を考えた作者はいい意味でイカレてますねw
次回作、すでにプロローグはできあがっています。出来はまあ・・・どうだろ(汗)
19作者の都合により名無しです:2007/01/14(日) 22:30:35 ID:NxD1Jtso0
本当ーーーに長期連載お疲れ様です、サマサさん。
ありがとうございましたとしか言いようが無いです。
最後は日常に戻って、また次の冒険に・・って感じでよかったです。

次回策楽しみにしてますよ。
2ch閉鎖ならどうにもならんでしょうがw
20WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/01/15(月) 03:44:45 ID:zdC6ZnvQ0
防人の言葉を聞いたウィンストンは不意に立ち上がった。
そして新たな煙草をくわえて火を点けると、防人に背中を向けて窓際に立った。
彼の発する“若さ”と“純粋さ”に耐え切れない心持ちだったからだろう。
それは今のウィンストンには眩し過ぎる。
窓の外を見つめたまま、話を逸らすかのように防人に忠告をした。
「ジュードだけじゃねえ……。お前さんらも充分気をつけろ。特に“奴”とは無理に交戦しようとはするな」
“奴”とはアレクサンド・アンデルセン神父の事だろう。
「マシューや火渡はだいぶ息巻いちゃいるが、ハッキリ言ってヤツに勝てるとは思えん……」
「そ、そこまで……」
ウィンストンは息を飲む防人の方へ振り返りつつ、“お手上げだ”と言わんばかりに頭を掻いた。
ボサボサのロングヘアが更に乱れ、フケが落ちる。
「まず、奴の正体がわからねえ。どんな能力を、戦術を使うのかもまったくわからん。
情報部門の記録を洗わせてみたが、目ぼしい情報は何一つ無かった。
わかったのは、奴が35年前には既に存在しているって事だけだ。俺がまだガキの頃から、
あのクソ神父は化物や異教徒を殺し回ってるってこったな」
それが事実だとすれば、かの神父は五、六十代という事になる。
そんな年寄りがいわゆる“神の敵”を誅殺し、カトリック以外のあらゆる組織に恐れられているとは
防人にはどうしても考えにくい。
(何か秘密がある筈だ……。しかもサムナー戦士長はその事に気づいている節がある……)
昨日の作戦会議の際に見せたサムナーの不自然な態度は、防人の心に疑惑を抱かせるには充分だった。
21WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/01/15(月) 03:45:42 ID:zdC6ZnvQ0
「それに奴に殺された戦士達は、いずれも名だたる歴戦の兵(つわもの)ばかりだ……。
いいか、アンデルセンにはくれぐれも気をつけろ。お前さんらの本来の任務はテロリスト及び
ホムンクルスの殲滅だ。ヴァチカンとの衝突じゃねえ……」
ウィンストンが命じる任務の“正確”な遂行は、防人達の身を案じる思いと合致している。
「わかりました……!」
その時、防人の決意の言葉が終わるのを待っていたかのように、執務室がノックされた。
「失礼します。あ、やっぱりここにいたんですね、ブラボーサン」
扉からヒョイと顔を覗かせたのは、先程まで話題の中心にいたジュリアン・パウエルだった。
「そろそろ出発の時間です。遅れるとサムナー戦士長がうるさいですよ?」
やや小声で忠告するジュリアン。防人を思いやってくれる人物がここにもいた。
先程のウィンストンの話も相まって、防人にはこの少年臭さが抜けないエージェントが
可愛い弟のように見えてしまう。
「どうしたんですか? 僕の顔に何かついてます?」
「フフッ、何でもないさ」
防人は笑いながら、ジュリアンの頭をポンポンと軽く叩く。
185cmの防人と、それより頭一つ以上背の低いジュリアンでは、そんなやり取りもあまり違和感が無い。
「ああっ! ブラボーサンまで僕を子供扱いしてっ! これでも僕はブラボーサンより年上なんですよ!?」
意外な事実を盾にして、ジュリアンは防人に食って掛かる。
「そ、そうだったのか!?」
「そうですよ! 」
22WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/01/15(月) 03:46:33 ID:zdC6ZnvQ0
じゃれ合う二人の若者の姿は、ウィンストンの胸中に温かさと苦さを同時に生み出した。
“コイツらはこれからさ。そして、きっと大丈夫だ”
“何故、どうして俺は、俺達はこうなっちまったんだろう”
「キャプテン・ブラボー」
ウィンストンは防人をそう呼んだ。
「気をつけて行ってこいよ……」
最後まで指揮官らしからぬ指揮官の言葉を受け、防人は気を引き締めて姿勢を正す。
錬金の戦士としての任務。自身の信じる正義。火渡や千歳ら、共に戦う仲間。ウィンストンの願い。
その背中は決して軽くはない。

「ハイ! 戦士キャプテン・ブラボー、これより出撃します……!」



防人衛、火渡赤馬、楯山千歳――。若き戦士達は、己が使命を果たす為に。

マシュー・サムナー――。全てを知る者は、その全てを抹殺する為に。

パトリック・オコーネル――。黒鉄の銃を抱く闘士は、死を賭した明日の為に。

そして、アレクサンド・アンデルセン――。神罰の地上代行者は、この世の愚者を打ち滅ぼす為に。

それぞれがそれぞれの“目的”を胸に、血塗られた歴史を繰り返す北の地に集おうとしていた。

正義という名の栄えある舞台の上で、狂気という名の三文歌劇が幕を上げる。
戦いの始まり(アルファ)が告げられ、闘いが終焉(オメガ)を迎える。
死が、吹き荒れる――
23さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/01/15(月) 03:48:03 ID:zdC6ZnvQ0
前スレ305さん
青森じゃなくて仙台なんですよw 描写については皆さんが不快にならない程度に過激にしたいなと。

ふら〜りさん
何だか自分の書き方がおかしいせいか、どんどん錬金チームが一番弱げなイメージになっちゃって
絶賛後悔中です。ここから挽回しなくては。しかし神父……無敵っぽくしすぎた……。
あと会話パートにお褒めの言葉、感謝の極み。

前スレ311さん
ですから私は元々ガイキチだと何度も何度も(ry

前スレ312さん
全年齢板なのでエロスてんこ盛りは難しいですが、「ちょいとエロってないかい」って感じにはなるかもw
百合大好き。

前スレ313さん
書いてる本人もだいぶ狂ってるものでw 狂いキャラ書くのは大好きです。

スターダストさん
確かに三人組は若い。若さゆえの危うさを多分に持っていますが、若さもまた強力な武器なワケで。
あとは何が起爆剤になるか。それは今後のお楽しみ……。
それと協力者=サムナーに驚いてくれたのが作者として嬉しいw

ハシさん
はい、まさしく某鰤です。IRA繋がりなのでちょっと出してみました。
最初はモブキャラのつもりでしたが、何となくサブキャラへ昇格予定です。
24さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/01/15(月) 03:52:23 ID:zdC6ZnvQ0
ハロイさん
どちらかというと器質的に狂っているより理念に狂っているキャラが好きなもんで。
でも、そういう連中を書くのは難しいです。

前スレ396さん
お気遣いありがとうございます。テンション上がってきました。
んで、このパートは他と同じ続き物です。オリキャラ達の描写が足りないかなと不安でしたが。

前スレ397さん
次回からはダウンタウンも真っ青の“24時間耐久ガイキチバトル”になる事請け合いです。

銀杏丸さん
確かに考えてみれば少佐に関しては何も情報が無いですね。狂気というキャラ立ちだけでここまで
人気を博しているとはヒラコー先生すげえ、って感じです。
自分もあそこまで狂った人間を表現出来るようになれば……。

あとがき
物語はこれで一段落です。次回からは舞台を北アイルランドに移して、バトルに次ぐバトル
……の予定でいます。あとご心配して下さった方々ありがとうございます。もう大丈夫です。
25作者の都合により名無しです:2007/01/15(月) 10:32:13 ID:RPaJYxF40
超機神完結ということで、ちょっとサマサさんへの感想量・・というか
感謝が多めになります。さいさんごめんなさい。

>サマサさん
お疲れ様でした。
バキスレ名物のひとつである大長編が終わって、一抹の寂しさを感じますが、
また楽しみは次回作にも続きそうなので、いい終わりですね。
あえて、あっさりとした感じに終わらせたのもいいと思います。
直接ではないにしろ、神界・超機神と次の作品は繋がっているのかな?
ともかく、完結おめでとうございます。

>さいさん
オールキャストが勢ぞろいで、いよいよバトルの連続のハルマゲドンですか。
過激な描写連続の、死者多発の展開になるのかな?
火渡別に死んでもいいけど、千歳はやっぱり死んでほしくないなあw

26作者の都合により名無しです:2007/01/15(月) 19:01:54 ID:I1eIqAQ80
サマサ氏本当に乙。ずいぶん長い事楽しませてもらったよ。
神界の中盤くらいまでは荒さが目立ったけど、超機神では
その欠点が個性に昇華したのは素晴らしい。お疲れ様でした。
あなたの事は決して忘れないから。たとえ2chが終わっても。
27作者の都合により名無しです:2007/01/15(月) 21:24:57 ID:n7e8AzLZ0
サマサ氏、超機神完結、お疲れさんです。
途中からバキスレ見たんで、前作はまだ読んでませんが早速読んで見ます
本当にお疲れさんでした。新作待ってます

さい氏、いつもサイトの日記ともども楽しみにしてます
今回は集結シーンで量は少ないですが、決戦を期待させるには十分ですな
氏の今後の活躍も期待してます
28作者の都合により名無しです:2007/01/16(火) 07:54:06 ID:S22gQOY00
サマサ、サマサ、サマサ!!
……っていうのが懐かしいなあw
お疲れ様でした。桃伝期待してます。


さい氏も、不調から脱したようですな
燃えよペンを参考にして頑張って下さい。
29『絶対、大丈夫』:2007/01/16(火) 19:30:59 ID:n1o/pueF0
第三話<そして、外れていく日常>


「おい、のび太、野球やんねえか?」
と、野比のび太に言ったのは、この町一番の暴れん坊でガキ大将の、ジャイアンこと、剛
田武だった。
ちなみに、言われたのび太は、ドラえもんと共にジャイアンのほかに骨川スネ夫がいる空
地の前の道路を歩いていたところだった。嫌そうな顔をしながら、答える。
「やだよ。だって、もしそれで負けたりしたら、『のび太、お前のせいで負けたんだぞ』とか
言ってくるじゃないか。」
というのび太の言ってることは別に言い過ぎではではない。ジャイアンは友達を大切にする
情に厚い一面もないこともないが、その一方で自分の失敗を人のせいにするなどの、自
分勝手な一面もあるのだ。というか、その一面のほうが先ほど言った一面よりも強いだろ
う。それだけははっきり言えた。
しかし、人というのは自分の欠点を言われると思わず逆上してしまう生き物だ。もちろん
ジャイアンだって人間だ。
「……なんだと、そんなに、お前は、俺のことが嫌いか、あぁ?」
と、なんだか一句一句を妙に強調しながら、言って……否、脅迫してくる。
思わずのび太は手を大きく振って誤魔化した。
「そ、そんなことは……」
「あるんだろ、違うか?」
「まあまあ、ジャイアン。」
さっきまで傍観を決め込んでいたドラえもんが、口を挟んだ。
「野球だったら、また今度でもいいじゃないか。第一、のび太くんを誘ったって、多分役に
立たないと思うよ。」
なんだか、すごく人を馬鹿にしてるような気もするが、ジャイアンはその言葉でなんとか怒り
を鎮めたようだ。
30『絶対、大丈夫』:2007/01/16(火) 19:34:23 ID:n1o/pueF0
「まあ、のび太なんか役に立つわけないよな〜」
いつの間にか、さっきまで空地の土管の上に座っていたはずのスネ夫が、ジャイアンの後
ろのその年齢にしては巨大な体の後ろに隠れるようにたちながら、嫌みったらしく言った。
思わず腹が立ったので反論しようと思ったが、のび太はそのまま黙ってしまった。スネ夫
の言ったことは反論しようのない事実なのだから。
そこに、のび太の心のオアシスがやってきた。
「のび太さ〜ん。ドラちゃ〜ん、武さん、スネ夫さ〜ん。」
「あ、静香ちゃん!」
源静香。彼女の登場により、先刻まで陰険な表情だったのび太が、急に(もしこの状況
に擬音をつけるなら「ぱーっと」)明るくなった。普段は何時も笑みを浮かべている、整っ
た顔が、なんだか暗くなっていることに気づくまでだったが。
思わず、のび太は口を開いていた。
「ど、どうしたの?」
「あの、実は……」
静香は、一瞬言うのに迷ったようだったが、結局口を開いた。
「誰かに、見られてるみたいなの。家を出てから、ずっと……」
「え……?」
思わず、のび太は呆然とした。彼だけではなく、ジャイアンたちも。
誰かにずっと見られている。つまりそれは────俗に言う、ストーカーという奴か。
「一体、どこのどいつなんだ?」
ジャイアンの言葉に、静香は無言で首を横に振った。つまり、「わからない」という事であ
る。
それにしても、こんな小学生の少女を追いかけるストーカーとは……
「やっぱり変態だろうな……」
と、ドラえもんが言った。
その言葉の返答は、思わぬ所からきた。
31『絶対、大丈夫』:2007/01/16(火) 19:38:29 ID:n1o/pueF0
「う〜ん、変態か……それはちょっと心外だね〜……」
「!?」
それに驚いた一同が振り向くと、土管の上に紫の瞳と髪の毛の、背の高いの細身の青
年が、立っていた。先刻まで驚いていたドラえもんたちが睨みつけるが、その視線をも気
にしていないように、青年はまだ続ける。
「ぼくは、一応ロリコンじゃないよ。かといって、熟女専門でもないけどね。」
と笑みを浮かべながら、いかにも軽く青年は言った。何故か、その笑顔と軽口の下に、
何か空虚を、底なしの、なにか深いものを隠しているような気がしたが。
「大体、ぼくの目的は、その子を追いかけることじゃなくて、そこの蒼いネコ型ロボットから
ちょこっと未来の道具を頂戴することだよ。その子を追いかけたのは、その目的を遂行す
るためのただの過程さ。」
その言葉に、五人……特に、のび太とドラえもんが驚いていた。
───昨日話した事件の犯人は、この男───?
ドラえもんは、いつでも道具を取り出せるように身構えてから、のび太たちよりも一歩、青
年の前に出た。
青年は、相変わらず土管の上で、笑みを浮かべているだけである。いや、のび太たちに
手のひらを向けて─────

その手のひらから、紫色の光が放たれた。



32『絶対、大丈夫』:2007/01/16(火) 19:47:35 ID:n1o/pueF0
麻帆良学園は、埼玉県に存在している、日本でもCLAMP学園を除けば一番の規模
を持つ学園である。
基本的に生徒は学園都市内に存在している寮に住んでおり、小等部に通っている、十
歳にも満たない子供まで、親のもとを離れて学校に通っている────というのが表の
顔。
明治時代の中盤ころに、魔法使いに創られており、しかも現在も魔法使いによって学園
内の治安が守られている────などといかにも現実感のない話だが、しかし事実であ
り、ほかに説明のしようがない。
んで、その女子中等部の3年A組にて。
このクラスの担任である英語教師、ネギ・スプリングフィールド10歳は、暗い顔で自分の
机から窓の外をぼーっと見ていた。さっきから、大きなため息をつく以外に、まったくの動き
を見せていない。そんな様子を見ていた生徒の皆が、心配そうな顔をして、ネギの顔を覗
き込むが、ネギはまったく反応しない。というか、もう授業の時間なので、さっさと授業を始
めてもらいたいのだが。
そこに、このクラスの生徒である、───髪はオレンジ色のツインテール、そして瞳は両
目の色が違うオッドアイの少女───神楽坂明日菜が、立ち上がった。
「ネギ、ネギ!ちょっと、何ぼーっとしてるのよ!」
と、ペシペシとネギの頭を叩く。背後から、ネギ大好きなショタコンの委員長の抗議が聞
こえてきたが、それは完全に無視した。
「あ、明日菜さん?」
自分が叩かれていることにようやく気づいたネギは、彼女の顔を見上げた。
明日菜は一度ため息をつくと、ネギの耳元に顔を近づけ、ほかの皆に聞こえないように
言った。
「一体、どうしたのよ?また魔法関係?なんだか、エヴァちゃんも茶々丸さんも、ハカセも
いないみたいだし……」
「あ……まあ……はい。」
ネギの返事は、なんだか力がない。
33『絶対、大丈夫』:2007/01/16(火) 19:54:51 ID:n1o/pueF0
ネギ・スプリングフィールド。彼は10歳にして(実際のところは9歳だが)ウェールズの魔
法学校を主席で卒業。そして、立派な魔法使いになるための修行として、この学校の教
師をやることになったという、なんだかものすごい経緯を持った少年だ。ちなみに、彼が魔
法使いであることを知っている人物は、明日菜を除いてもすでにこのクラスの半分くらいの
人数にまで及んでいる。魔法使いが一般人に魔法の存在を教えると、罰としてオコジョ
にされてしまうことから、明日菜いわく「もう70パーセントオコジョ」らしい。
それはともかく。ネギの事情を知っている───どころか、魔法使いの世界に足を突っ
込んでしまっている明日菜としては、こういう風にネギが落ち込んでいるのを放ってはおけ
ないのだ。
ネギは、なんとか明日菜に説明しようと、口を開いた。
「実はエ《きーんこーんかーんこーん》
が、授業の終わりのチャイムに邪魔をされて、結局言うことはできなかった。どうやら、ネギ
がぼーっとしていたのは、授業時間約1時間に及んでいたらしい。
「まったく、一体あんたどれくらいボーっとしてんのよ!」
「いはいいはいいはい!ふいまへん!(いたいいたいいたい、すいません)」
さすがに怒った明日菜は、そのままネギのほっぺたをつねり上げた。もはや、彼の事情な
んて知ったこっちゃない。自分の後ろで委員長が文句を言っているが、それは無視した。
そこで、教室のドアががらがら……と開いた。
34『絶対、大丈夫』:2007/01/16(火) 20:00:42 ID:n1o/pueF0
「やあ、少し失礼するよ。」
入ってきたのは、長身のナイスミドル……高畑・T・タカミチだった。
「た、高畑先生?」
それに気づいた明日菜は、慌ててネギのほっぺたから手を離す。
さきほどまで明日菜につねられていたほっぺたをさすりながら、ネギは高畑に問うた。
「どうしたの、タカミチ?」
「いや……ちょっと来てほしいんだよ……ああ、明日菜くん、刹那くんも、ちょっといいか
い?」
「あ、はい。」
突然呼ばれた刹那───妙におでこが広い、サイドポニーの背は低く、手に木刀を持
った少女───は、慌てて返事をして、高畑のもとにすぐに行った。
明日菜も、自分が呼ばれたことに驚きながらも、すぐに「はいっ!」と敬礼つきで妙に気
合の入った返事をした。
「うん。じゃあ行こうか。」
それを笑いながら見た後、高畑はそう言いながら廊下に出た。その後に、ネギと明日菜
と刹那がついていく。
35『絶対、大丈夫』:2007/01/16(火) 20:06:57 ID:n1o/pueF0
と、とりあえず今回はここまでです。
ちょっと中途半端な気がしますけどね……


>>前スレ164さん
ははは……まあ、とりあえず頑張ってみます……

>>前スレ165さん
もうちょっと早く書けるように、精進します……

>>ふら〜りさん
実は、小狼はこの小説に出てくる味方キャラの中からでも、結構高い戦闘能力の持ち主
です。
まあ、つまりは敵が強すぎるってことですね。

>>サマサさん
超機神大戦最終回、おつかれさまでしたっ!
戯言シリーズ、あとちょいで全部読み終わりそうです。
あとは、ネコソギラジカル(中)、(下)……か。
36白書 ◆FUFvFSoDeM :2007/01/16(火) 21:44:58 ID:n1o/pueF0
名前つけるの忘れてた……orz
37作者の都合により名無しです:2007/01/16(火) 22:03:29 ID:WZNUSXYd0
白書さんお疲れ様です!
うみにんさんが去り、サマサさんの連載が終わったあと
バキスレ名物のドラ大作はあなたの手にかかってますよ!w

ネギまはちょっとわかんないですけど、ワクワクドキドキの
展開を期待しています。
38作者の都合により名無しです:2007/01/17(水) 08:11:44 ID:Ae1KgRlM0
静香ちゃんが麻帆良学園に編入したら面白いかも
ネギたちの魔法対ドラえもんの道具とか面白そうだ
39作者の都合により名無しです:2007/01/17(水) 16:43:00 ID:XKQuyGXh0
白書さんは正直、まだまだだと思うけど
キャラクターの使い方とか工夫してて
育っていくと思う

えらそうでごめんw
40作者の都合により名無しです:2007/01/18(木) 08:04:09 ID:fKu3drhX0
ハイデッカやミドリさんまだかな〜?
あと今更ながらテンプレに、ふら〜りさんの新作抜けてる。
41作者の都合により名無しです:2007/01/18(木) 16:13:36 ID:MufCscgZ0
すいません。他スレにクロマティー高校の神山がデスノート拾ったら
どうなるか、というSS中篇書いたんですけど、こちらに再掲しても
よろしいでしょうか?どうもレスがつかず駄作なのかどうかも判断
出来ません。一応、苦労したんで、反応を見てみたいです。
42作者の都合により名無しです:2007/01/18(木) 18:02:13 ID:JwgbBs0T0
>>41
カモンカモン
4341:2007/01/18(木) 18:24:07 ID:MufCscgZ0
>>42
ありがとさんです。後ほど、書き込ませていただきます。
44修羅と鬼女の刻:2007/01/18(木) 18:33:55 ID:6Dl/bLUB0
>>9
楠木正成率いる河内悪党が、赤坂城にて幕府軍を苦しめていた頃。
彼らほど派手ではないが、護良親王もまた激戦を繰り広げていた。比叡山の僧兵たちを
取りまとめ、自身も積極的に最前線に出て、遠征してきた幕府軍をズタズタに切り崩し、
さんざんに翻弄していたのだ。
幕府軍はそのせいで赤坂城への増援もままならず、ますます苦境に立たされていく。

比叡山延暦寺。平安時代、最澄が天台宗を開いたことで有名な寺だが、いまやここは
護良親王軍の総本部となっていた。
月が雲に隠れ、星も僅かしか見当たらず、墨を流したような闇夜。だが延暦寺周辺は
一晩中篝火が灯され、伝説の猛者・弁慶もかくやと思われる武装した僧兵たちが、
あちらこちらで油断なく警備している。
そんな彼らに守られた寺の最深部、広い寝室にて護良親王は静かに目を開けた。そして、
「……む」
腕の中にいたはずの女がいないことに気付く。彼が目を覚ましたのは、
それとは違う理由なのだが、しかし女がいない理由はそれだろう。
そう思った親王は、傷だらけの熊のような巨躯をむくりと起こして立ち上がった。寝巻き姿
のまま寝室を出て、警備の僧兵たちに声をかけつつ寺からも出て、山の中へと歩いていく。
やがて篝火の明かりが全く届かぬほど寺から離れた頃。突然山の奥から、
「ぅりゃいえぎぇああああああああぁぁぁぁっ!」
刀を手にした黒装束の男が、奇声を発して跳びだしてきた。その装束から幕府軍の
暗殺者だと親王が判断したのと、男の方が親王の存在に気付いて何か言おうとした
のと、親王の横殴りの拳が男の首を百八十度回転させて頚骨を粉砕したのと、
三つがほぼ同時だった。
白く濁った泡を吹いて、男が最期のうめき声を搾り出しながら親王の足元に
倒れ伏す。それを見て、改めて親王は思った。
45修羅と鬼女の刻:2007/01/18(木) 18:34:30 ID:6Dl/bLUB0
『この男、幕府が余を殺す為に放った刺客だな。性懲りもなく。だが今の動き、余を
狙ったものではなかったな。むしろ何かから必死に逃げてきたような……やはり、か』
楠木正成のところにいるという少年のように戦の前線に立ってはいないが、その
少年に勝るとも劣らぬであろう凄腕の戦士がいる。親王の身辺警護と敵将の暗殺
において、非常に優秀……というか、少々やり過ぎなほどの蛮勇を奮う戦士が。
おそらく、そいつの仕業であろう。寺の寝室で目を覚ました理由、異様異常な殺気の
正体に確信を得て、親王は更に歩いた。
夜風に雲が流され切れて、月光が山中に降り注ぐ。それを待っていたかのように、
「あら。起こしてしまったようですね」
朝、台所で食事の用意をしていたら子供が起きて来たから振り向いたような。ごく
自然な女の声がした。
白い月の光に溶け込むような白い肌。裾の短い真紅の衣に、新鮮な血を
たっぷりと吸わせて。両手の爪から滴る白濁液は、どの臓物の汁だろうか。
長い紅い髪の少女、勇がそこに立っていた。血まみれで。但し本人は全くの
無傷なので、辺りに転がる惨殺死体たちの返り血だろう。数は十二、三人か。
全員、先ほどの男と同じく、黒装束を身に着けている。肉や骨ごと派手に
裂かれてるので、色の判別は難しいが。
「おそらく、元山賊か何かでしょう。貴方を殺すことで一攫千金を狙ったつもりの。
こんな輩まで拾って使わざるを得ないとは、つくづく鎌倉幕府も堕ちたもの」
勇は、つまらなさそうに言いながら両手を振って血とその他の液体を振り払った。
そして溜息をついてから、親王を見つめる。
「こんな食べ残しのような方々をいくら喰らっても、お腹の足しにはなりません。が、
貴方は別です。此度の戦で僧兵たちの先頭に立ち、幕府軍の兵を虫けらのように
叩き潰す姿を見て以来……そそられていました」
46修羅と鬼女の刻:2007/01/18(木) 18:36:58 ID:6Dl/bLUB0
返り血まみれの勇が、笑みを浮かべて屍を踏みしめ、親王に向かって歩き出した。
反射的に親王が、身構えながら後ずさる。すると勇は、
「ふふっ。喰らう、といってもそういうことではありませんよ。寺に戻って身を清めて、
改めて閨で……のことです。妙な想像はなされませぬよう」
心の中を冷たい手で撫で回すような、勇の声。親王は首を降って意識を固め、
動揺を隠すように言った。
「ごほんっ。そ、その、やはりお主、何か存念があるのではないか。でなくばこんな、」
親王は、勇の凄絶なまでに妖艶な視線に射抜かれてうまく声が出せない。
勇はそんな親王の目の前まで歩いてきて、
「わたしは幕府に恨みはなく、また民のことなども考えておりませぬ。ただ、天下の
幕府軍を向こうに回し、お父上の為に戦う貴方の『勇』を、お助けしたいだけです」
勇はその細い腕を、親王の逞しい首に絡める。操られるように、親王も勇を抱きしめた。
勇の美しさと強さ、そして彼女の秘める底知れぬ何かに、恐れつつも縋っているのだ。
天皇の実子という天下随一の血統、並外れた膂力に武術の才能、そして忠実勇壮
な僧兵たち、と三拍子どころか何拍子も揃っている親王。が、源頼朝が立てた鎌倉幕府
という大樹は未だ健在、強大だ。楠木正成と共に引っ掻き回してはいるが、まだまだ
局地的勝利の域を出てはいない。
いつ鎌倉の本軍が来襲して、その圧倒的な兵力でもって押し潰されるか。その恐怖を、
父・後醍醐天皇の為にという思いで押さえ込んで戦っているのだ。怖くないわけがない。
「……大丈夫。わたしが、いつまでもここにおりますわ」
親王の半分以下の体躯の勇が、親王の腕の中で言う。親王はその腕に力を込め、
「大願成就の暁には……父上が天下を取ったその時には、余は晴れて皇太子となる。
すなわち次期天皇だ。勇よ、お前にも相応のことはしてやるからな」
「何もいりません。わたしは、貴方の『勇』をおそばで見届けられればそれで充分」
勇は、背伸びをして親王の首筋に口づけをした。そして軽く歯を立てる。
『そう……貴方の『勇』を、最後の最期まで……』
勇の歯が当てられたところ。その肌の下、肉の中には、温くて弾力のある
頚動脈が通っていた。
47ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/01/18(木) 18:38:35 ID:6Dl/bLUB0
戦前戦中の日本では、天皇の忠臣・正成は国民的英雄だったそうで。逆賊・尊氏を
うっかり褒めた大臣が、ボコボコに叩かれて辞任に追い込まれたこともあったとか。で今回
の護良親王も、そして新田義貞も正成(天皇)チーム……最後の勝者は孤独だ、尊氏。

>>サマサさん(アスラン&愉快な仲間たち、ペコvsプリムラともお別れ……いつか、また?)
おぉ疲れさまでしたああぁぁっっ!  いつもの空き地にいつもの顔ぶれ、そしてジャイアン
リサイタル。平和な日常の象徴を並べて静かに幕でした。ドラの長編は「主人公チームの
大幅成長or誰かの死」という基本的盛り上げ要素が禁じ手だから難しい、と聞き及びます。
んが、本作を振り返ってみると何回クライマックスに燃えて何度どつき漫才に笑って、何人
の子たち(種族・性別問わず)に萌えたことか。次作も多彩な魅力の大長編、期待してます!

>>さいさん
読者に快感を与える技の一つ。読者が好感を抱いているキャラを別のキヤラに褒めさせて、
「うん、そうだよな〜」と頷かせることだそうですが。今回は「そうそう、奴ぁ普通じゃないから
な〜」と頷いてしまいました私。さぁて読者にここまで思われて、挽回できるか錬金チーム?

>>白書さん
ネギは知りませんでしたがエラい経歴の持ち主ですね。クロウ本人ならともかく、さくら辺り
が肩を並べられる相手じゃなさそう。で、ドラたちにも敵の影が一気に迫ってきたみたいです
が、魔法・超能力に埋もれつつの秘密道具バトルはドラ長編の醍醐味。楽しみにしてます!

>>41
ぜひともよろしくおいでませ! お待ち申しておりまするっ。
48クロノート1/12:2007/01/18(木) 19:45:54 ID:MufCscgZ0
〜クロマティー高校、グラウンド〜
林田「…なんだこりゃ?」

〜教室〜
林田「なあなあ、神山、ちょっといいか?」
神山「やあ、林田君。どうしたんだい?」
林田「なんか不気味なノートを拾ったんだが……」
神山「どれどれ…ああ、これはあれだよ、最近流行っている漫画に出てくるノートだ」
林田「へえ、よく分かるな」
神山「そりゃ分かるよ。だって表にデカデカと『Death Note』って書いてある
じゃない」
林田「おお、それなら知ってるぞ。…それそうやって読むのか」
神山「…一応、高校生なんだからそれぐらいの単語は読めるようにしとこうよ」
林田「でも、『D』までは読めたぞ」
神山「それは読めたとは言わない。君は単語までたどり着いていないから。というより
Dより先は読めないのかい?」
林田「ところでさ、アルファベットってなんで『アルファ』っていうのにαが
ないんだろう」
神山「…君って、とことん人の話を聞かないよね。あと、君、本当にそんなこと
話題にしたくて喋ってる?」
49クロノート2/12:2007/01/18(木) 19:46:45 ID:MufCscgZ0
林田「そもそもだな、アルファベットって英語で書くと『αβ』なワケだろ。αは
アロンアルファのαだからいいとして、βの『ベット』って何だ?チベットの略?
意味分からねえよ、アメリカ人って」
神山「…すまない。僕には君が何を言っているのかが全然分からない」
林田「いや、だからさ、『ド』はドーナツの『ド』だろ。で、『レ』はレモンの『レ』。
それと同じように、『α』はアルティメットファイトの『α』とかになるんじゃねえの?」
神山「なるんじゃねえの?と言われましても……」
林田「やっぱ覚えにくいよな、英語は。俺、これから先、外国でやっていく自信無いよ」
神山「いや、そんな心配は全然しなくてもしていいと思う。世界はまだまだ君の頭ほど
には混乱していないはずだから」
林田「そうか?ま、そんなことはどうでもいいんだけどさ、」
神山「(…やっぱりどうでもよかったのか)」
林田「なあなあ、神山、このノートって本物なのかな?」
神山「う〜ん、外見はマンガに出てくるのにそっくりだけど…」
林田「試しに誰かの名前でも書いてみるか?」
神山「う〜ん、それはちょっと不謹慎では…」
林田「大丈夫だよ、所詮、マンガの話なんだし」
神山「まあ、それはそうだよね。もし、本物でも不良が一人死んだぐらいじゃ、世間的には
何の問題も無いし。ま、とりあえず無難なとこで北斗の子分君でいってみようか」
林田「…お前、結構酷いよな。しかし、俺は奴の名前を知らないぞ。デスノートって
本当の名前を書かないと効果ないんだろ?」
50クロノート3/12:2007/01/18(木) 19:47:28 ID:MufCscgZ0
神山「え、『北斗の子分』でいいんじゃない?」
林田「お前、本当にそれでいいと思っているのか?『北斗の子分』と書いて、それで
マジに通用してしまったら奴の立場はどうなる?」
神山「…ある意味、彼の生死よりもそっちの方が注目に値するよね」
林田「それにさ、いくら不良でも人を書いてしまうってのは人道的にまずいんじゃないか?
手始めにはゴリラ辺りが丁度良いと俺は思うんだが」
神山「う〜ん、それはそれで心が痛むなあ」
林田「人よりはマシだろ。ゴリラと言ったって所詮、人間より頭の悪い
ケダモノなんだしさ」
神山「…確かにそうなんだけど、君がそれを言っちゃうと色々と問題が発生するような
気がする。ねえ、やっぱり止めとこうよ。ゴリラって今は凄く数が減っているみたいだし、
可哀想だよ。大体、命の重さに人も動物もないはずだ」
林田「フッ、命の重さに上下は無い、か…。いいこと言うじゃねえか、神山。ゴリラはうちの
高校内部では着実に増えているが、全くその通りだぜ。…あと、ちょっと気になったんだが、
ひょっとして、お前の中で北斗の子分ってゴリラ以下か?」
神山「林田君、そんなことより問題はこのノートに誰の名前を書くかということだよ」
林田「お、おお、そうか。しかし、人でも駄目、動物でも駄目となると、残るは………」
神山、林田「………!!」
51クロノート4/12:2007/01/18(木) 19:48:09 ID:MufCscgZ0
林田「…今、俺らは同じことを考えていたよな」
神山「な、何のことだい、林田君」
林田「隠さなくてもいい。ただ、問題は奴の名前が本当の名前かどうかなのだが…」
神山「ぶっちゃけ、適当に英数字書き殴ったほうがそれっぽいよね。RX-78とか」
林田「確かに。しかし、仮に名前が分かったとしても、彼らのシリーズ全部が停止して
しまったら緊急事態になりかねんな。ちょっとした2000年問題に匹敵しそうだ」
神山「林田君、いくらなんでも『彼らのシリーズ』とか『停止』はまずいよ。
メカ沢君は世界に一台だけのはずだし、彼が機械と決まった訳じゃないんだから」
林田「全てを語ってしまっているような気もするが、確かにそうだな」
神山「でも、他に名前を書けそうな人もいないし…」
林田「…やるか」
神山「…うん。新世界の王とかはどうでもいいけど、彼が人かそうでないか
分かるのならやる価値はあると思う」
林田「…よし、じゃあ書くぞ。メ・カ・沢・新・一、と。どうだ、何か変化はあったか?」
神山「う〜ん、流石にそんなに早くは…」
不良「た、大変だ〜!!」
神山「え、どうかしたの?」
不良「早く、早く来てくれ。メ、メカ沢が倒れた!」
神山、林田「な、何だってー!!」
5241:2007/01/18(木) 19:54:06 ID:MufCscgZ0
とりあえず、ここまでで。

>>ふら〜りさん
温かいお言葉ありがとうございます。ふら〜りさんの文章に
比べ、自分のSSの漢字の少なさが気にならないでもないですが、
そこはよしなに。
53作者の都合により名無しです:2007/01/18(木) 22:41:34 ID:ugJ4DyEd0
新人さん乙です。(以前、41さんっていたかな?)
林田と神山の掛け合いがいいな。
でも、どこかのスレで「神山がデスノーとを拾ったら」っていうのが
あった気がするw
54作者の都合により名無しです:2007/01/18(木) 23:33:14 ID:C+HVTnHA0
>>53
別スレで書いたのを再掲します、って書いてあるよ
55作者の都合により名無しです:2007/01/19(金) 08:21:43 ID:qrEAZuW20
>ふらーりさん
以外と博識なふらーりさんに感動w
物語はまだまだ続きそうですが、やっぱり出展通り正成は死ぬのかな?

>41さん
メカ沢にも命はあるのかw
あいつなら死んでも、電池を入れ替えるだけで復活しそうだけどw
56クロノート5/12:2007/01/19(金) 18:18:54 ID:evnn+mbE0
不良「こっちだ!」
林田「ほ、本当だ…本当にメカ沢が倒れてやがる…」
不良「さっきまではいつもと同じ様子だったんだ。それが急に…」
神山「容態の方はどうなの?」
不良「…かなりヤバイ」
林田「(…オ、オイ、神山、どうやらあのノートは本物だったみたいだぞ)」
神山「(うん、そ、そうだね。遊び半分でやっていたのが大変なことになってしまった…)」
不良「なにしろ、呼吸が止まっているんだ。これはマズイだろう」
神山、林田「………え、それだけ?」
不良「『それだけ?』とは何だ!脈拍もないんだぞ!」
林田「呼吸、脈拍より先に心臓が存在していることすら怪しいと思うのだが…」
不良「何だと、林田!!」
神山「(林田君、話をこじらせちゃ駄目だ!)ああ、ごめん、あまりの事態に彼も
気が動転していたみたいだ。それで他にモーター以外の故障、いや危険な症状は無いの?」
不良「俺も医者じゃないから、よく分からないが、体も冷え切って、まるで鉄にでも
触っているみたいだ…一体どうすりゃいいんだ!?」
神山「いや、彼の場合、熱を持っている方がヤバイのではないかと」
不良「おお、神山、ひょっとして詳しいのか?」
神山「まあ、家にも一台あるし」
57クロノート6/12:2007/01/19(金) 18:19:37 ID:evnn+mbE0
良「それじゃ、教えてくれ。メカ沢の体全体がカチコチに固まっているんだ。
これって、もしかしたら死後硬直って奴じゃないのか?よく見れば、顔色も鉛色、
瞳孔も開きっ放しだ。クソ、これじゃ、まるでロボットじゃないか!」
神山、林田「(それはギャグで言っているのか!?)」
不良「なあ、神山、医者を呼んだ方がいいのかな?注射とかしてもらわないと
これじゃもちそうにないぞ」
神山「いや、注射は意味ないんじゃないかな。第一、彼に針が通るとは思えないし。
ドリルならまだしも」
不良「ああ、そういえば、メカ沢も言っていたな。『俺は静脈が細いから針が通ら
なくて苦労する』って」
神山、林田「(そういうことを言っているんじゃない!)」
神山「まあ、医者を呼ぶにしても、修理屋さんを呼ぶにしてもとりあえず
医務室に運んだ方が良いと思うよ」
不良「大丈夫なのか?重体の患者は動かさない方が良いって言うが」
神山「問題ないでしょ。むしろ中古の機械は叩いてあげた方が直りそうな気がする」
不良「そ、そうか。よし、それなら早速、皆で医務室まで運ぼう!神山、林田、
手伝ってくれ!」
林田「オウ、まかせろ!………グッ、何だ!?」
神山「ゴフッ…なんか車並みに重いんですけど…」
不良「あれだ、気絶した人間の体は凄く重く感じるって奴だな」
神山、林田「(お前らは本当にそれだけで納得できるのか!?)」
58クロノート7/12:2007/01/19(金) 18:20:48 ID:evnn+mbE0
〜医務室〜
神山「フゥ、フレディとゴリラのおかげでなんとか医務室まで運べたね」
林田「どう考えても、これ、1トンはあったぞ」
神山「まあ、そんなことよりこれからどうするかだ」
林田「俺には皆目見当もつかん」
神山「そりゃ、そうだよね。大体、あのノートの効果もメカ沢君じゃ、
確認しようがなかったわけだし」
林田「もう面倒臭いから放って置こうぜ」
神山「でも、メカ沢君はどうするの?」
林田「おおかた電池が切れたんだろ。そうでなくても、そのうち山田電気辺りで
別のが安く買えるよ」
神山「き、君って人は…」
林田「そうと決まれば、こんなノートなんか捨てちまおう。はい、おしまいおしまい」
北斗の子分「捨てるんだったら俺にくれよ」
林田「ああ、いいぜ。ほらよ」
神山「あ…君は!」
北斗の子分「フフフ、良いものを手に入れた。名前を書けば人を殺せるノート…、
まさしく俺にうってつけじゃねえか。このノートさえあれば、今まで日陰者だった
俺が北斗さんを超えて、クロマティー高校、いや、全世界の王となることも
決して夢じゃねえ」
59クロノート8/12:2007/01/19(金) 18:21:35 ID:evnn+mbE0
林田「クソ、なんて奴にノートが渡っちまったんだ!誰のせいだ!」
神山「大方の責任は君にあると思うよ、林田君」
林田「神山、今は責任を押しつけ合っている場合じゃねえ!おい、返せ!」
北斗の子分「おっと、近寄るなよ。ノートに名前を書くぞ、林田」
林田「ウッ…」
神山「駄目だ、林田君。ノートが彼の手にある以上、うかつな動きは出来ない」
林田「じゃあ、奴をこのまま放っておけと言うのかよ!クソ、せめて奴の
名前さえ分かれば…」
神山「うん、名前さえ分かれば、なんとか打つ手もあるかもしれないね。でも、
彼の名前が簡単に判明するわけないし…」
林田「あ〜、知りてぇ、北斗の子分の名前が知りてぇよ〜」
北斗の子分「………あ〜、ゴホン。お前ら、何だったら名前のヒントぐらいは
教えてやってもいいんだぞ」
神山、林田「いや、そういうのは別にいいよ」
北斗の子分「なんでだよ!話の流れからいっておかしいだろ!」
林田「え〜、だって興味無いし」
北斗の子分「なんだそりゃ!さっきまで俺の名前が知りたいって言ってた
じゃねえか!」
林田「さっきはさっきだ。今はもう興味無いんだよ」
神山「正直、『名前を教えてやる』って態度が見えた瞬間、『死んでも聞いてやるか』
って気持ちにはなったよね」
北斗の子分「お前らって、マジで酷いよな…」
6041:2007/01/19(金) 18:29:37 ID:evnn+mbE0
ここまでです。
>>53
>>55
読んでくれてありがとさんです。以降もこの人達のグダグダの会話が
続きますがもうしばらくのお付き合いを。
61作者の都合により名無しです:2007/01/19(金) 22:40:14 ID:6vaqTff30
神山って本当にこういうやつだからなw
善人そうでいて一番ヤバいw
62作者の都合により名無しです:2007/01/19(金) 22:40:59 ID:MQlnRwEF0
ヤバイwwwww面白いwwwww
63作者の都合により名無しです:2007/01/19(金) 23:55:46 ID:FgtjSSM10
ちょwwヤバイくらい原作の雰囲気だww

設定だけ思いついたんだが投下してもおk?
64作者の都合により名無しです:2007/01/20(土) 00:38:19 ID:8mO97ovq0
とりあえず>>57のラストで吹いた。
65作者の都合により名無しです:2007/01/20(土) 02:19:04 ID:849wIIDR0
設定だけ書いてみる。実際書くかは未定。
作品
・ドラゴンボール(ハイスクール編〜ブウ編)
・ARMS(最初から)
・武装錬金(最初から)
・烈火の炎(武術会が終わった後)
・幽遊白書(原作終了後)
・るろうに剣心(京都編直前)
・北斗の拳(南斗の奴らが出る当たり)
・聖闘士星矢(ハーデス戦直前)
・ワンピース(アラバスタ編直前)
・RAVE(キング編終了後)
・デビルマン(開始直前)
・ドラゴンクエスト ロトの紋章
・ドラゴンクエスト ダイの大冒険
・魁!男塾
・その他(ぬーベー等)

これで作品作れませんかね?
66作者の都合により名無しです:2007/01/20(土) 02:21:08 ID:0Mw650QP0
何を言ってるんだお前は
67作者の都合により名無しです:2007/01/20(土) 02:24:11 ID:849wIIDR0
>>66
いや、設定だけ思いついても自分では書けないんで誰か作ってくれないかなぁと
68作者の都合により名無しです:2007/01/20(土) 07:22:15 ID:y3o+9jmRO
甘ったれンな
ココはそういうスレじゃない
69作者の都合により名無しです:2007/01/20(土) 07:56:50 ID:fD8qnhKf0
>41さん
クロ高の中でメカ沢が一番好きなんだ
友達に必ず一人はいそうな奴って感じで親近感がある
死んだままじゃなく活躍してくれるといいな


>>65
続き書きたいのなら、
SSスレを語ろう、でどうぞ。
70作者の都合により名無しです:2007/01/20(土) 09:53:22 ID:6/ofoVWw0
それは設定ではないと思うのだが。
この作品のキャラが出てくるSSが読みたいという要望だよなあ…
71クロノート9/12:2007/01/21(日) 17:29:52 ID:k+xqZziO0
林田「とにかく、俺の人生にとってお前の名前なんか堺正章の隠し芸並みに
どうでもいいんだ。ノートはくれてやるからさっさと去れ!」
北斗の子分「…な、なんでそこまで言われなくちゃならないんだ。よし、こう
なったら俺も意地だ。今、名前を教えてやるから耳をかっぽじって聞きやがれ!」
林田「神山、耳をふさげ!奴の名前を聞いたら死ぬぞ!」
神山「林田君、勝手に面白そうなルール作っちゃ駄目だよ。ホラ、彼があそこまで
本気になっているのだから、人として名前ぐらいは聞いてあげなくちゃ」
北斗の子分「…神山、お前だけだな、本当に俺のことを理解してくれているのは」
神山「何を言っているんだ、友達として当然のことじゃないか」
北斗の子分「グスッ。そ、そうか。じゃあ、遠慮無く言わせてもらうぜ。俺の
名前は…」
神山「ちょっと待った、北斗の子分君!」
北斗の子分「どうした?神山」
神山「せっかく自分の名前を世に知らしめるのだから、もっとちゃんとした形で
やってみてはどうだい?」
北斗の子分「と、言うと?」
神山「例えば、テレビでやっていた平成の元号みたく、ちゃんと紙に書いて発表
するとか。大体、聞いただけじゃ、漢字が分からないしね」
北斗の子分「なるほど。流石、気配りの男、神山だぜ。え〜と、ペンはあるけど、
紙は何処に…」
72クロノート10/12:2007/01/21(日) 17:31:03 ID:k+xqZziO0
林田「ホラ、この紙に書けよ」
北斗の子分「は、林田…」
林田「忘れてくれるなよ、俺だってお前のダチなんだぜ」
北斗の子分「ク、泣かせてくれるじゃねえか」
林田「ほら、どうした。グズグズしていると涙で湿っちまうぜ。さっさと書いちまえ」
北斗の子分「へ、へへ、済まないな…よし、書けたぜ!神山、林田、見てく………う、
どうしたっていうんだ、な、名前を書いた途端、き、急に意識が…」
神山「ほ、北斗の子分君!」
北斗の子分「は、林田、ひょっとしてお前の渡してくれた紙って…」
林田「あ、え〜と、そこのノートから取った奴だけど」
北斗の子分「お前、それってデスノートじゃ…グフッ!」
神山「き、君はなんてことを…」
林田「すまん、北斗の子分!」
北斗の子分「ハァ、ハァ、いや、いいんだ、林田。ひょっとしたら、これも運命って奴
なのかもしれん。おそらく、身分不相応な野望を持ったとき、俺の運は既に尽きていたの
だろう…。ただ、最後に俺の頼みを一つ、たった一つだけ聞いてくれないか?」
林田「もちろんだ。お前の名前以外だったら何でも聞いてやる!」
北斗の子分「…なっ!?」
神山「そうだよ、何でも遠慮無く言ってよ。君の名前以外なら!!」
北斗の子分「て、てめえら…ガク」


73クロノート11/12:2007/01/21(日) 17:32:24 ID:k+xqZziO0
林田「…逝っちまったか。最後の最後まで名前に拘りぬいた漢だったな」
神山「うん…古の言葉に『侍は己の名のために命を懸ける』とあるけど、彼こそが
真の侍、ラストサムライだったんだろうね」
林田「『名こそ惜しけれ』か…」
神山「ネットで匿名の誹謗中傷が蔓延る現代。ひょっとしたら、デスノートは己の名に
誇りを持たなくなった日本人に警鐘を鳴らすべく、この世に現れたのかもしれない…」
林田「うむ。しかし、強引にまとめてくれたところを悪いんだが、どうする、この
ノート?」
神山「考えてみたんだけど、やっぱりこんなノートは僕達には必要無いよ。ゴルゴ13じゃ
あるまいし、普通の人間がこんなノートを持っても不幸になるだけだ。北斗の子分君の
死は僕らにそのことを教えてくれたんじゃないかな」
林田「うむ、そうだな。奴の不幸は全く別の所に原因があるにしても」
神山「うん、それでね、このノートはクロ校で一番信頼出来る生徒に預けておこう
と思うのだけど、林田君もそれで異存はないよね?」
林田「おお、もちろんだ。しかし、クロ校で一番信頼できる生徒って誰だ?竹之内?」
神山「ううん、ゴリラ」
林田「…いくらなんでもそれはないんじゃないか?いくら俺らが馬鹿でもゴリラ
より信頼が置けないってことはないだろ」
神山「何、言ってんの。この高校に本当に信頼できる人間なんているワケないじゃない。
大体、君達が今まで何かの役に立ったことって一度でもある?」
林田「いや、ないけど…すいません、ゴリラでいいです」
神山「でしょ?ま、しかし、これで、ようやく一件落着だよね」
林田「ああ。何が落着したんだって気がしないでもないが、これでようやく家に
帰れるぜ」
神山「大丈夫だよ。一月も経てば、学校も元通りに落ち着くさ…って、
林田君、二時間目でもう帰るの?」
74クロノート12/12:2007/01/21(日) 17:34:30 ID:k+xqZziO0
〜1ヶ月後〜
林田「お、校門の所にパトカーが来てるぞ」
神山「どうしたんだろう?」
捜査官「生徒の皆さん、今日未明、クロマティー高校内部にキラが潜伏していることが
判明しました。キラの手がかりは『バナナ好き』。『バナナ好き』に心当りがある人は
本部までご連絡下さい」
神山「…バナナ以外に手がかりはないのかな。しかし、『バナナ好き』って、
もしかしたら…」
林田「とにかく、教室まで行ってみようぜ!」
神山「うん!」

〜教室〜
ゴリラ「ウホウホウホ!!」(我はキラなり!!恐れ、そして称えよ!!)」
神山、林田「(あ、やっぱり!?)」
林田「おい、全然、落ち着いていないじゃねえか!どうすんだよ、これ!」
神山「確かに、エラいことになってしまった…、そ、そういえば他にもゴリラは
いたよね、彼らは!?」
ゴリラ(+リボン)「ウホウホウホ☆(キラ、大スキ☆)」
ゴリラ(+メガネ)「ウホ、ウホ、ウホ…(削除、削除、削除…)」
神山、林田「(なんかキャラ分けてる!?)」
林田「う〜む、どうにも収拾がつかなくなってきてるんだが、どう動く、神山?」
神山「とりあえず、他の皆と合流して、なんとかこの事態に対処しなくちゃ…
大丈夫だよね、皆は洗脳なんかされたりしてないよね?」
林田「おい、おい、不良を馬鹿にしちゃいけねえぜ。どいつもこいつも癖者ぞろい。
ゴリラごときに支配などされんよ」
神山「だといいけど…、あ、いたよ。みんなだ!おーい…」
不良「キラ!キラ!キラ!キラ!キラ!キラ!キラ!キラ!キラ!キラ!」
神山、林田「(猿の惑星と化している………)」



死神「ゴリラってオモシロ!」(←オチ)
7541:2007/01/21(日) 17:36:04 ID:k+xqZziO0
>>61 >>62 >>63 >>64 >>69

感想ありがとうさんです。
メカ沢君が微動だにしないまま終わったり、北斗の子分が普通に
死んでたりと書きっ放しの部分が気にならないでもないですが、
これにて終了です。>>69さんもコメントしてくれてましたが、
メカ沢君はもう少し活躍させたかったですね。中国人業者にさらわれて、
ニセアイボとして再登場とか。デスノート関係ないですけど。
あと、>>69さん、お約束なので言わしてもらいます。

>クロ高の中でメカ沢が一番好きなんだ
>友達に必ず一人はいそうな奴って感じで親近感がある

神山、林田「(それはギャグで言っているのか!?)」

なにはともあれ読了感謝。 また、どこぞで。
76作者の都合により名無しです:2007/01/21(日) 18:43:19 ID:HdzYPkms0
お疲れ様でした!
しょーもないオチ(褒め言葉)でしたが、クロ高面子らしさが出てたSでした・・・
続編期待してます
77作者の都合により名無しです:2007/01/21(日) 19:44:20 ID:Dzwg+CjG0
面白かったな
特に神山と林田の掛け合いが本当に本物っぽかった
それまでが面白かっただけけに、ちょっと大オチが弱い気がしたけどw
78作者の都合により名無しです:2007/01/21(日) 21:09:29 ID:f0jp6Kf40
面白かったです。
マジで掛け合いが本編の様でしたw
79作者の都合により名無しです:2007/01/22(月) 09:47:23 ID:qTmeDYnQ0
こういうのまた書いて欲しいな
いい意味で軽く読めて笑える
しかもちゃんと神山の外道ぶりが光ってるし
80作者の都合により名無しです:2007/01/22(月) 20:59:10 ID:SuH4GXbb0

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81修羅と鬼女の刻:2007/01/22(月) 21:58:21 ID:iQsC19vJ0
>>46
長い長い戦いの末、赤坂城は落ちた。城は見事に焼け崩れ、楠木正成の焼死体も
確認され、一件落着と相成った。
わざわざ濃霧の日に城の中から勝手に火の手が上がった、のは別に不自然ではない。
そういえば戦いの最中、河内悪党の連中が時々幕府軍の死骸を回収してたのは
何の為なのだろうか、というのも考えないことにする。あと楠木正成の死骸、
確かに鎧は正成のものだが少し体格が違うような……も無視する。
心身ともにズタボロにされた幕府の遠征軍は、とりあえず城を落としたということで
帰途に着いた。時を同じくして護良親王軍も散り散りとなり、後醍醐天皇も捕らえて
隠岐に島流しにして、戦は一応決着。幕府はホッと胸を撫で下ろした。
だが今回の戦で、さんざん醜態を晒し威信を落としたのは事実。また、かつての元寇と
同じで戦に勝ったとはいえ敵の領土を奪ったというわけではない。なので出陣を命じた
各地の御家人たちに、褒美を与えることができないのである。
そんなこんなで、日本全国で幕府に対する不満がどんどん高まっていく中。
その高まりを待っていたかのように、楠木正成と護良親王の二人が再起した。親王は
吉野から山伏たちを率いて、正成は金剛山に築いた千早城を拠点に京都へと迫る。
幕府は顔色を失って本軍を派遣、今度は五万に達する大軍が千早城を取り囲んだ。
が、正成は相変わらずの奇策を駆使して寄せ付けない。戦はまたまた長引く一方。
無理な連戦、遠征の強制、前回と同じ事態なので褒美は期待できず。それで相手は
強過ぎて被害甚大。……日本中が、破裂寸前の風船と化していた。

かつて後鳥羽上皇が流されたという由緒正しき流刑の島、隠岐。今は後醍醐天皇
(幕府によって皇位剥奪中)が囚われの身となっている。無論、時が時なので幕府は
厳重な警戒態勢を敷いていた。軍船が近づけば即刻迎撃できるよう準備を整えていた。
が、夜の闇に紛れてたった一人で泳いできた少年は捕捉できず、上陸を許してしまう。
腰の後ろに差した刀を抜くことなく、無手で戦うその小柄な少年に、屈強の武士たちが
易々と薙ぎ倒されていった。
「こ、こいつっ! 単身でここを全滅させる気かっっ!」
「もしやこいつが、あの楠木正成に助力しているという噂の……」
82修羅と鬼女の刻:2007/01/22(月) 21:59:51 ID:iQsC19vJ0
そうだよっ、の声と共に少年の脚が、陸奥大和の跳び蹴りが武士たちの首を砕いた。
そして着地する、その地面には既にいくつもの死骸が折り重なっていて、
「動くなっ!」
大和の正面、二十歩ほどの位置に一際大柄な年配の武士が立っていた。どうやらここの
総大将らしい。自身の身長とほぼ同じぐらいの大弓を満月のように引き絞るその姿は、
確かに他の者たちより強そうだ。その矢が放たれれば、それは隼の速さをもって飛翔し、
大岩にも半ば以上突き立つことだろう。
だが大和は動じない。反して、武士の方は額に汗を冷や汗を浮かべている。
「驚いた小僧だな……八岐大蛇にだって勝てそうだ。が、それもここまでと知れ。その
距離から無手では攻撃できまい。今から吹き矢や手裏剣などを構えても間に合わぬ」
「で?」
委細かまわず、大和は歩いて向かっていく。
「そんな弓矢一つで、オレを倒せると本気で思っているならやってみるがいい」
「そ、それ以上動くな! 大人しくしていれば命だけは、」
「無理だね。オレを殺さない限り、オレは止められないよ」
微笑さえ浮かべてどんどん近づいてくる大和を前に、武士は矢を射ることができないで
いた。射るんだ、射ないと殺される……と解ってはいるのだが、体が動かない。
「お、お前は、一体、何者だっっ!?」
「……陸奥」
と、大和が言葉を発したその時。武士の緊張感が限界を越え、半ばヤケクソになって
矢を放った。が、それを大和が見切って掴み取ろうと動くより速く、
「えっ?」
大和の後ろから、大和の脇を駆け抜けて追い抜き、矢を掴んだ……というより、射出の
寸前に矢を握り締めて押さえ込んだ者がいた。その速さと力ももさることながら、
背後からの接近に全く気付かなかったことに、大和は目を見張った。
その者はというと、武士の目の前に立って矢を握ったまま、甘くて高い声で言った。
「遅い弓ですね。見かけばかりで」
83修羅と鬼女の刻:2007/01/22(月) 22:01:57 ID:iQsC19vJ0
裾の短い真紅の衣と、紅く長い髪。雪のような肌と人形のような顔立ち。内に秘めたるは
魔が混じっていると噂の血脈。
武士は顔色を失い、魂が抜けていくような声で言った。
「……今なら充分信じられる。反幕軍に天下を転覆させる武力をもつ二人がいると。
楠木正成の陣に、人ならざる修羅。護良親王を守護する、半魔の鬼女……」
言葉半ばで、武士の発声は途絶えた。矢を押さえたままで放った少女の蹴り、勇の足が
武士の金的を突き上げて睾丸を潰したのだ。
激痛のあまり武士は声も出ず、舌が意思に反して喉の奥へと丸まっていき、それが気管
を塞いでしまい苦しいのだがどうにもならず……そのまま窒息。青白い顔をして息絶えた。
「よく喋る方ですね。もっと純粋に戦いを楽しめば良いものを」
言いながら、勇は振り向く。
「護良親王の命により帝をお救いに参りました、勇と申します。貴方は楠木様の?」
「あ、ああ。オレは大和。陸奥大和」
ほう、と勇が小さく息をつく。
「やはりそうでしたか。陸奥圓明流……お噂はかねがね。一手ご指南をお願いしたい
ところですが、今は時が時。後はお任せします」
「って、え? あんたも帝を助けに来たんだろ」
大和に背を向けて歩き出した勇を、大和が呼び止める。勇は振り向いて、
「そのつもりでしたが、伝説の陸奥がおられるのでしたら話は別。安心してお任せ
できますわ。よもやこの先、ここの残兵に遅れをとるようなことはないでしょう?」
「それはもちろん! 陸奥圓明流の歴史に敗北の二字はないっ!」
「でしたらよろしく」
「いや、だから、あんたはどこへ」
にこりと笑って勇は答える。
「今、帝が奪回され、楠木様や親王様たちが更に幕府軍を引きずり回せば、遠からず
全国の武士たちが蜂起することでしょう。貴方は楠木様のおそばでそれをお助け下さい。
わたしは、もう一つの仕事をしに東へ向かいます」
こうして勇は去り、残された大和は後醍醐天皇を救出して本土へ帰還。
これにより、戦の天秤が大きく傾き始めた。
84ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/01/22(月) 22:04:09 ID:iQsC19vJ0
一時はどうなることかと思いましたが、ほっと一安心。これで明日、あるいは今日中
にでも、どどどどっと押し寄せそうな気が。
で。刃牙をはじめとする各種格闘漫画・小説、そして伝聞などを参考に描写しました
金的攻撃。的確なのかオーバーなのか、はたまたまだまだ足りないか?

>>41さん(以前ここで書かれた41さんとは別の方ですか? だとしたら侮れぬ偶然……)
他の皆様も言っておられますが、確かにこういう気軽に楽しめる短編って最近少なかった
ですよね。会話のテンポが良くて、嫌味にならない程度の心地よい毒もあって。これまた
原作未読だったんですが、漫才感覚で楽しく読めました。ぜひ次回作をば、希求致します!
85作者の都合により名無しです:2007/01/22(月) 22:35:35 ID:MAstK0Qw0
クロノートの人、今度は長編よろ
86作者の都合により名無しです:2007/01/23(火) 08:23:50 ID:PlVzfkiV0
ふらーりさん乙。
ふらーりさんの書く女の人が好きだ
陸奥は無敗のままでいてほしいな。
たとえ範馬一族相手でも
87作者の都合により名無しです:2007/01/23(火) 11:19:35 ID:hb18lWYx0
バキスレで天皇一族が出るのってたぶん始めてだろうなw
今までの趣味に走った作品と違い、ふら〜りさんの真の筆力が試される作品だな。
期待してますのでがんばって下さい。
88作者の都合により名無しです:2007/01/23(火) 18:18:25 ID:75dFDzZV0
大和が後醍醐天皇をイカヅチで惨殺したら神
89作者の都合により名無しです:2007/01/23(火) 22:19:56 ID:gEIZGgY10
サナダさん復帰祈願上げ
90作者の都合により名無しです:2007/01/24(水) 19:10:53 ID:1lMBROEL0
91作者の都合により名無しです:2007/01/24(水) 22:26:52 ID:1WX4kCSe0
年末年始好調だったんだけどな
92作者の都合により名無しです:2007/01/25(木) 20:58:28 ID:9YAVzIkE0
スターダストさんとかさいさんとかアームズの人とか
年末年始に好調だった方どうしたんだろ
93ハイデッカ ◆duiA4jMXzU :2007/01/26(金) 08:08:15 ID:WJorsYsO0
書きたいんだけど仕事忙しくてさー
無職の時代がマジで懐かしい
何気ないところに一兆円くらい落ちてねーかなー

今月中になんとか1回は書けるように努力します
94作者の都合により名無しです:2007/01/26(金) 22:19:15 ID:7DkyChRj0
馬鹿な事言ってないで早く続きかけ
95作者の都合により名無しです:2007/01/27(土) 08:17:26 ID:vfJjsxT90
また急に廃れたな。
ハイデッカ氏、その遅筆を何とかしてくれ。
96作者の都合により名無しです:2007/01/27(土) 18:32:31 ID:PvmwD63n0
遅筆の人が多いからな。
ハイデッカ以外にもNBさんやミドリさんとか。
スターダストさんやさいさんやサナダムシさんやアームズの人とか
ハイペースな方が戻ってこないかな。
97ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/01/27(土) 19:00:22 ID:rDhMx3ci0
序章1・太平の世

御伽噺をしましょう―――
とある世界がありました。
その世界に生きるは人と、月の民と、そして地獄に住まう鬼族。
かつて鬼族は、とある奸臣に操られるがまま全てを支配せんと動き出しました。
その力の前には、人も月の民も、ただ怯え逃げ惑うしかありませんでした。
だけど希望はありました。それは、当時にしてほんの十代半ばの少年であった、桃から生まれた愛と勇気の子―――
桃太郎。
かつてえんま大王を懲らしめ、平和に暮らしていた彼は、再び立ち上がったのです。
時に傷つき、時に地に塗れ、それでも彼は諦めることを知らず戦いました。敵であった鬼たちも、彼と剣を交え、そして
分かり合い、彼の元に集い、共に力を合わせることとなりました。
対するは、悪逆たる奸臣カルラ。カルラは己の部下を、鬼族の第一王子を、最後には月の女王にして天地を支える力を
持ったかぐや姫をも手にかけ、この大地を血の海へと変えました。
しかしそのカルラも桃太郎たちによって最後には石像へと姿を変え、その野望は潰えました。
鬼族の王は己の不明を悔い改め、かぐや姫も蘇り、大地は再び生命を取り戻しました。
そして、鬼と人とが手を取り合って暮らす、新たな時代が到来したのでした。
―――それが、五年前のこと。
―――そして、現在。
鬼と人の新たな国造りも、ようやく一段落ついた頃のことでした。
98ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/01/27(土) 19:01:42 ID:rDhMx3ci0
そろそろ日が傾いてきた中を、小さな女の子がまだまだ遊び足りないとばかりに蝶を追いかけたり、花を摘んだり、
とにかく元気よく走り回っていた。
まだ三歳かそこらであろうか、肩まで伸ばした青色の髪を靡かせながら、見ているだけで誰もが幸せになりそうな
無邪気な笑顔を周囲に振りまいている。
彼女の頭の天辺には、小さな角がチョコンと生えていた。僅かながらも、鬼族の血を引く証だ。
少女の名は、桃華(とうか)。新しい大地に生まれた、かつての戦乱を知らぬ世代である。
そんな桃華を微笑みながら見守る男女がいた。
男の方は凛々しくも優しげな眼差しに、どこか浮世離れした雰囲気を持っていた。
そして青く長い髪に美しい顔立ちの女性。その頭には、少女のものよりもやや大きめな角が一本。
歳の頃は二人とも、まだ二十歳になるかならないかといったところか。桃華を見る瞳には、揺ぎ無い愛があった。
二人の名は、桃太郎と夜叉姫。
桃太郎は共に戦い抜いた仲間たちと、平和な世になった後も親交を深めあった。そして―――夜叉姫。
鬼族の大将、バサラ王。彼と人間の娘との間に生を受けた、鬼族の姫。
桃太郎は彼女といつしか恋に落ち、そして子供が産まれた。それが、この桃華である。
「桃華、もう日が暮れるよ。そろそろ帰ろう」
「えー?父さま、まだ早いよ。桃華、もっとあそびたーい!」
桃太郎の声に、あからさまに不満げに口を尖らせた。そんな桃華に夜叉姫が容赦なく告げた。
「我侭を言わないの。聞き分けが悪い子には、夕飯は人参たっぷりにしちゃうから!」
「ええーーーっ!?」
人参は大の苦手だ。ちょっとなら我慢して食べるけど、たっぷり出されたらどうしようもない。
「ちなみに明日の朝御飯も人参三昧、昼御飯も人参尽くし、夕飯も人参王国よ!」
「うええええーーーーーーっっ!!??」
まずい。非常にまずい。母さまは優しいけど、お仕置きする時はとても怖い。それくらいは普通にやりかねない。
「ご、ごめんなさい!もうわがまま言わないから、それだけはやめて!」
「はい、よくできました」
母さまは頭を撫でてくれた。母さまの手は柔らかくて優しくて気持ちいい。
「よしよし。また明日、いっぱい遊ぼうな」
父さまも頭を撫でてくれた。父さまの手は大きくて固くて、でもやっぱり優しくて気持ちいい。
桃華は父さまも母さまも、大好き。
99ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/01/27(土) 19:02:30 ID:rDhMx3ci0
「おーい・・・おーい!」
誰かが向こうの方から呼びかけてくる。目を向けると、二人組の男がこちらに向かって駆けてくるところだった。
桃華は思わずもう帰る、と言ったことも忘れて、二人の方に走っていった。桃太郎と夜叉姫も呆れつつも仕方ない、
といった風に苦笑して、桃華を追いかけた。その時にはもう桃華は二人の元に辿り着き、体当たりのような勢いで
抱きついていた。
「金太郎おじちゃん!浦島おじちゃん!」
二人は金太郎と浦島太郎。見るからにどっしりとして偉丈夫な金太郎と、対照的にいかにもな好青年の浦島太郎。
好対照ではあるが、どちらもかつては桃太郎や夜叉姫と共に、地獄の軍勢と戦った大切な仲間である。
「お久しぶりですね」
「桃も夜叉姫もチビ桃も、元気そうだなー」
桃華の頭に手をやりながら、にかっと笑う二人だった。
「うん・・・金太郎も浦島も、変わりないみたいで安心したよ」
桃太郎は嬉しそうに答えた。その顔には気の置けない友人に向ける、心からの笑顔が浮かんでいる。
「ふふ、桃華は元気すぎて困ってるけどね。我侭ばっかりで手がかかるのなんの」
夜叉姫はわざとらしく溜息などついてみせた。
「はは、その割には楽しそうですね」
「そうね。やっぱり子供は可愛いものよ。そっちはどうなの?そろそろいい人見つけて結婚したら?」
「いやあ、わたしはまだ・・・」
「なーに言ってんだよ、浦島。おめーには乙姫さまがいるだろ!」
ばんばんと浦島の肩を叩き、呵々大笑する金太郎。乙姫は竜宮城の姫であり、浦島とはちょっといい仲だと噂である。
「い、いや、だからまだそういう話は・・・そういう金太郎さんはどうなんです?」
「あー、オラはまだ落ち着くのはごめんだど。年中祭りやってる方が楽しくていいや」
「お祭り?」
素敵ワードに反応する桃華。子供にとって<祭り>とは、ただ言葉を聞くだけでワクワクする催しである。
「お?なんだ、チビ桃は祭りが好きか?」
「大好き!こないだ父さまと母さまにつれてってもらった!きんぎょさんが泳いでて、白くてふわふわして甘いのとか、
たくさんあった!」
勢い込んでまくし立てる桃華。金太郎は笑って言った。
100ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/01/27(土) 19:03:27 ID:rDhMx3ci0
「おいおい、確かに祭りは楽しいしオラも大好きだけど、そう聞いただけでそんな大騒ぎしちまうようじゃまだまだ
ガキンチョだなー。そんなんじゃいつまで立っても大きくて強い大人になれねーど?」
「えー!?やだやだ!桃華もみんなみたいにおっきくてつよくなるの!」
力一杯腕を振って力説する。浦島がそんな桃華を宥めた。
「いやいや、桃華ちゃんもちょっと見ない間に、随分大きくなりました。心配しなくてももっと大きくなれますよ」
「ほんと?じゃあもうすぐ母さまみたいにきれいになれるかな?」
気の早い桃華に対し、金太郎が快活に笑った。
「なはは。その前におねしょ癖を治さねえとな、チビ桃」
「む〜!桃華、もう赤ちゃんじゃないもん!おねしょなんて、もう・・・」
そこまで言って桃華は思い出した。今朝方、布団に盛大に世界地図を描いたばかりである。おねしょなんてもうしない、
と言ったらそれは嘘になる。嘘はいけない。えんま様に舌を抜かれちゃうんだ。
この世界ではえんま様は現実に存在する。桃華も顔見知りである。桃華には優しくしてくれるけど、それでもやっぱり
舌を引っこ抜いちゃうんだろうか。たらー、と冷や汗が流れた。
やっぱり嘘はだめ。本当のことを言おう。
「・・・もう、たまにしかしないもん」
これなら嘘じゃない。三日に一度なら、たまにで通るはずだ。えんま様に舌を抜かれたりしない。
「どはははは!」
思いっきり笑われた。
「む〜!わらわないでよ!金太郎おじちゃんなんか桃華がやっつけちゃうから!えい、えい!」
ペシペシと蚊の鳴くような音を立てて、金太郎の分厚い身体を殴りまくる桃華だった。
「お?やるかチビ桃!」
対する金太郎は、すうっと腕を引き―――張り手を喰らわせた。勿論本気ではなかったが。
「にぎゃあぁぁぁぁっっ!?」
奇声を発しながらごろごろと転がっていく桃華に対し、金太郎は思いっきり勝ち名乗りをあげた!
「どわははは!見たかチビ桃!これがかつて世界を救った英雄が一人、人呼んで希望の男、金太郎さんの実力でい!」
・・・三歳児相手に張り手をかまし、大笑いして勝ち誇る腐れ外道の姿がそこにはあった。
流石に自分が情けなくなったので、すぐに笑いを止めた。
「・・・ううう・・・」
桃華はゆっくり起き上がり、そして―――盛大に泣き出した。
101ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/01/27(土) 19:04:22 ID:rDhMx3ci0
「ふぇぇぇぇぇぇぇん、金太郎おじちゃんがぶったぁぁぁぁ!桃華わるいことしてないのにぶったぁぁぁぁ!父さまにだって
ぶたれたことないのにぃぃぃっ!」
「あ・・・い、いや、その・・・すまん、そんなつもりじゃ・・・」
言いかけて、金太郎は気付いた。自分に突き刺さる、凄まじく冷たい視線を。
「・・・金太郎・・・君って奴は・・・!」
「よくも・・・桃華を・・・許せない・・・!」
「なんてことを・・・金太郎さん!あなたには人間の心がないのですかーーーっ!」
正義の怒りに震える三人と泣きじゃくる一人に、金太郎は完全に追い詰められていた。
この状況を打破するためには唯一つ。泣き喚く桃華をどうにか懐柔するしかなかった。
「どうしたチビ桃、何があった!ちくしょう、誰がこんなひどいことを!」
「うわぁぁぁん、金太郎おじちゃんがべたべたなボケで堂々とごまかそうとしてるぅぅぅっ!」
ボケて場を和まそうとしたがダメだった。
「な、なあチビ桃、オラが悪かった。ほら、謝るから機嫌直せって、な?」
「うぇぇぇぇん、金太郎おじちゃんなんかだいっきらいだぁぁぁっ!あっち行っちゃえぇぇぇっ!」
正攻法でもやっぱりダメだった。桃華は取り付く島もない。
「えぇぇぇぇん、金太郎おじちゃんにきずものにされたぁ!およめにいけなくされたぁぁぁ!」
「そこまでの悪行を為した覚えはねえよ!」
「うぇぇぇん、金太郎おじちゃんが桃華に×××で○○○なことをしたぁぁ!」
「どんどん捏造されてる上に放送禁止用語ー!?つ、強い!オラはこんな相手と戦っていたのか!?」
「ふぇぇぇん、バサラおじいちゃまに言いつけてやるぅぅぅぅ!」
「げっ・・・!」
口調は<先生に言いつけてやる>みたいなものだが、内容は段違いにヤバい。
バサラおじいちゃま。すなわち、鬼族の王にして地獄の支配者、バサラ王。改心してからの彼は名君として知られ、そして
桃華が生まれてからの彼は―――孫煩悩な爺としても知られている。
そんなバサラ王が、先程の会話は本気にしないまでも、桃華がぶたれたなどと聞けばどうなることか。
いや、下手すれば本気にする可能性すらある。
「・・・・・・」
金太郎は自分が無残な屍と化し、海に漂い魚の餌になっている様を想像してしまった。そしてそれは、現実の危機と
なりつつある。
「うわぁぁぁぁん、金太郎おじちゃんがじごくの鬼さんたちにかこくなごーもんされてるのをお酒ちびちびのみながら
ながめてやるぅぅぅぅ!」
「どこでそんなろくでもないセリフの数々を覚えたっ!?いやいやいや、ちょっと待て、チビ桃!取引しようぜ!」
102ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/01/27(土) 19:17:21 ID:rDhMx3ci0
「ひっぐ・・・うえ・・・とりひき・・・?」
「ああ。祭りに来たら、オラが何でも買ってやる!」
「何でも!?」
一瞬で泣き止みやがった。その涙は何だったんだ。少女の涙が純粋だなんて嘘っぱちだ。
「きんぎょさんは!?」
「掬いまくれ」
「ふわふわしたのは!?」
「貪り尽くせ」
「他には!?」
「祭りの女王様!何なりとお楽しみください!」
「わーい!金太郎おじちゃん、大好き!」
交渉成立。素晴らしいスピード解決。ビゴーの人も真っ青だ。桃華は喜びの余りそこら中を走り回る。
今にも<ミュージカル・お祭りで何でも買ってもらえるのが嬉しい>を開演しそうな勢いだ。
「ふっ、オラにかかればガキンチョを懐柔するくらい朝飯前だど!」
「泣かせたのも君だけどね」
「それを言うな・・・ま、何にせよ、平和なもんだな。昔はどうなるもんかと思ってたけどよ」
「そうだね・・・」
桃太郎は相槌を打ちながら、昔を思い出してみた。
「五年前か。あの頃は、こんな時代が来ることを信じて一生懸命だったな・・・」
―――鬼族との果ての無いとさえ思える戦い。その果てに掴んだ、今の幸せな世界。けれど―――
「どうしたんですか、桃太郎さん。辛そうな顔して・・・」
夜叉姫に訊かれて、桃太郎は寂しそうに微笑んだ。
「―――守れなかったものもたくさんあるからね。それが、悲しいんだ」
桃太郎は暮れかけた空を見上げた。失われた多くのものに、想いを馳せるかのように。
夜叉姫はそんな桃太郎の肩に、そっと手を置く。桃太郎も自然な動作でそれに手を重ねた。
そのまま二人だけの世界に没入しかけた時。
「・・・あー、お二人さん。人が見てるってのも忘れずにな」
―――忘れていた。わざとらしく二人して咳払いし、手を離した。
「ちぇっ、見せ付けてくれちゃって。オラもやっぱ嫁さん見つけるかなー。どっかのお転婆娘じゃなくて、もっとこう
お淑やかで可愛らしい嫁さんをさ」
103ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/01/27(土) 19:18:14 ID:rDhMx3ci0
「ちょっと待って」
夜叉姫が金太郎の発言を聞き咎めた。
「どっかのお転婆娘って、どこの誰かしら?」
「ん?どっかのお転婆娘っつっただけで、別に夜叉姫のことを言ったわけじゃねーど。オラが夜叉姫を表現する際には
こう言う。お転婆な上に色気ゼロの貧乳だと!」
「余計酷くなってるー!?も、桃太郎さん、何とか言ってよ!あなたの可愛い奥さんがバカにされてるわ!」
「よし、任せろ!」
愛する妻に助けを求められて、桃太郎は力強く頷いた。
「金太郎、夜叉姫はこう見えても脱ぐとすごいんだぞ!貧乳だなんて失礼な!・・・へぶぅ!?」
「誰がそんな助け舟を出せと言いましたかっ!?しかもお転婆なのは否定しないんですねっ!?」
強烈なアッパーカットで桃太郎を空高く飛ばした夜叉姫であった。
「お?そんなに脱ぐとすごいのか?じゃあおじさんに見せてみろ、な?な?」
さらに火に油を注ぐ金太郎。ついに夜叉姫が切れた。目が敵モードの時よろしく真っ赤だった。
「そんなに見たいのなら、ああ見せてあげるわよ、地獄をね!」
「ちょ、ちょっと二人とも・・・」
浦島の静止も虚しく、ファイトクラブ真っ青な壮絶な喧嘩が始まった。何しろかつて世界を救った英雄同士の喧嘩で
ある。壮絶にならない方がおかしい。まさに竜虎相打つ激闘!
―――争いの次元が限りなく低レベルなのが悲しいものであったが。
皆様、これが世界を救った者たちの素顔である。
「全くもう・・・」
顎をさすりつつ、桃太郎は苦笑した。こうして喧嘩できるのも、本当に互いを信頼しているからだと彼は分かっている。
だからこそ、こうして遠慮なく接することができるのだと。
「・・・あれ?」
桃太郎はあることに気が付いた。
「桃華?」
そう。愛娘、桃華の姿が見えなくなっていた。
ちなみに彼の背後では喧嘩の仲裁にと金太郎と夜叉姫の間に割って入った浦島が、二人の渾身のストレートをもろに
喰らうというベタベタなシーンが展開されていた。
―――彼らは不滅の友情で結ばれた者たちである。いや、ほんとに。それはともかく金太郎に浦島の介抱を任せ、
桃太郎と夜叉姫は桃華を捜しに行くのであった。
104ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/01/27(土) 19:19:01 ID:rDhMx3ci0
―――その頃、桃華は。
「はじめまして、桃華っていいます!」
十歳ほどと思われる二人の少女と一人の少年を前に、元気よく挨拶していた。
桃太郎たちがグダグダやってる間に桃華は見慣れないこの三人を見かけて、興味を惹かれて追いかけていったのだ。
そして追いついたところで、先ほどの挨拶であった。
「な、なにさ、この子は・・・変な奴」
短く揃えた髪に勝気そうな顔立ちをした少女の片割れが、戸惑ったように桃華をジロジロと眺めた。
「けど、可愛い・・・」
対照的に髪の長い、儚げな少女が目を細めて、桃華の頭を撫でた。桃華はえへへ、と笑いながらされるがままだ。
「親はどうしたの?もう暗くなるから、そろそろ帰らないと心配するよ」
線の細い、女の子と間違えられそうな少年が優しく声をかけると、桃華は目を真ん丸くした。
「あー!そうだ!帰らないとダメなんだった!帰らないとごはんはにんじんさんがたっぷり!」
「なんだそりゃ」
勝気そうな少女が、おかしそうに笑った。しかし、どこか―――陰のある笑みだった。
自らの後ろめたさ故に、少女の無邪気さが眩しくて見ていられない―――そんな笑み。
「やっぱ変な子だね、あんた」
「むー、桃華はへんな子じゃないし、あんたって名前じゃないもん!桃華は桃華だもん!・・・あ、おねえちゃんたち
は?おねえちゃんたちの名前は?」
「はあ?どういう話の流れだよ、全く・・・」
この年頃の幼児の会話の脈絡のなさときたら、独特のものだろう。頭をかきながら、少女たちは自己紹介した。
「あたいはティス。で、こっちが・・・」
「私はデスピニス」
長い髪の少女が、小さく答えた。
「僕はラリアーだよ。よろしくね、桃華ちゃん」
少年がそう言って桃華に笑いかけた。
「え、えっと・・・ティスおねえちゃん、デスピニスおねえちゃん、それにラリアーおにいちゃん・・・?」
どうにも覚え辛い名前だった。普通名前と言ったら太郎くんとか花子ちゃんとかなのに。
それに服もなんだか変な感じだった。着物とか振袖とかじゃなくて、なんだろう、どこか遠い国の人の着る服なのか?
桃華にはよく分からなかった。
「はは、この世界の人間にゃあ馴染みのない名前だもんね。覚えられないんだったら無理しないで忘れていいよ」
<この世界の人間>?その言い方に何か妙な感じがしたが、桃華にはやっぱりよく分からなかった。だけど。
105ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/01/27(土) 19:20:10 ID:rDhMx3ci0
「せっかく名前おしえてもらったもの・・・ちゃんと覚えるもん。えっと・・・ティスおねえちゃんたちは」
「なんだい?」
「ティスおねえちゃんたちは、今度おひっこししてくるひとなの?」
その言葉に、ティスたちはどこか気まずい空気を漂わせた。
「うーん・・・引越しっていや、引越しだよ。ねえ?」
「引越し・・・」
「そ、そうだね」
三人は取り繕うようにそう答えたが、桃華にはその辺りの機微が分からなかった。ただ、無邪気に尋ねる。
「じゃあ、おひっこししてきたら桃華と遊んでくれる?」
「ま、気が向いたらね」
ティスが素っ気無く返事した。
「あ、あの、今度ね、金太郎おじちゃんの村のお祭りにいくんだけど、いっしょに行かない?」
「・・・気が向いたら」
デスピニスがぼそぼそと呟くように言った。
「と・・・桃華のおうちに遊びにきてくれたりしたらうれしいな・・・」
「うん、気が向いたらね・・・」
ラリアーも鸚鵡のようにそう繰り返した。
「みんな、ずるい!気が向いたら、ばっかり!」
桃華がついに怒った。とは言っても三歳児。精々子犬がわんわん吠えた程度の威圧感だった。
「ずるいって言われてもねえ・・・あたいたちだって、都合があるしさ。ま、暇ができたら遊んでやるくらいはいいよ」
頭を掻きつつ、とうとうティスがそう言った。残る二人もうんうん、と頷く。適当にこの話題を切り上げようとする気
満々なのが明らかであった。
「じゃあ・・・やくそく」
そんな三人に、桃華が小指を差し出した。
「・・・?」
「ゆびきり!」
「・・・」
迷った。三人は分かっている。そんな約束―――果たされないことを。なのに、迷った。
適当に返事して、適当に桃華の言うがままにしてやればいいだけだ。そう頭の中で分かっていたのに―――迷った。
自分たちのしようとしていることから考えれば、そのくらい、どうでもないことのはずなのに。
106ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/01/27(土) 19:20:58 ID:rDhMx3ci0
「そうだね。約束だ」
ついにそう言って、三人は桃華と小指を絡ませた。
「ゆーびきーりげんまん、うそついたら針千本のーます、ゆびきった!」
―――ああ、そうだね。あたいたちは・・・針千本くらい、飲まなきゃね。
そう思った時だった。
「桃華!」
「ん?」
見ると、まだ若い二人の男女だった。中々似合いのカップルじゃないか、とティスは少々下世話なことを思った。
「あ・・・父さま、母さま!」
桃華がぽてぽてとその二人に駆け寄った。
「もう、ちょっと目を離すとすぐにいなくなるんだから!夕御飯は覚悟しなさいよ!」
「う・・・」
なるほど、<にんじんさんたっぷりの刑>か。思わず吹き出してしまった。そこで二人がティスたちに気付いた。
「あれ・・・?その子たちは?この辺じゃ見ない顔だけど」
「うん、今度おひっこししてくるおねえちゃんたち!あそんでもらってたの!」
「そうか。ありがとうね、お嬢ちゃんたち」
「いやあ、大したことはしてないよ・・・いてっ!」
デスピニスに、脇を小突かれた。
「大人の人に、そんな口聞いちゃダメ・・・」
「そうだよ。ティスは口が悪いんだから。あ、すいません。こっちの話ですので、気にしないで下さい」
「う、うん・・・とにかく、桃華がお世話になったね。じゃあ帰るよ、桃華」
「えー?もっとおねえちゃんたちとお話ししたい・・・」
そう言いかけた桃華は、母親が無言の圧力をかけてくるのに気付いて慌てて口を閉ざした。そんな様子に苦笑して、
ティスは言ってやった。
「ほら・・・帰りな。子供は、親の元に帰るもんだ」
「うん。あ、おねえちゃんたちは?おねえちゃんたちも、そろそろ帰るの?」
「ん?そうだね、実は勝手に出てきたから、見つからないうちに帰らないと怒られちゃうよ・・・ん?何さ、ラリアー」
「・・・手遅れみたいだよ」
そう言ってラリアーが指差した先を見て、ティスとデスピニスは嘆息した。
「げっ・・・!」
107ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/01/27(土) 19:34:30 ID:nU+W/py40
見ると、一人の少女が走ってくるところだった。
歳は十六、七だろうか。背中まで伸びた艶のある黒髪が白い肌によく映えていて、清楚な雰囲気を醸し出す、美しい
少女だった。
「わあ・・・きれいなおねえちゃん!」
桃華が歓声を上げて、少女がそれに気付いた。にこり、と、可愛らしい笑顔を浮かべる。
「あら、そっちこそ可愛いお嬢さんね。この辺の子かしら?」
「うん!桃華ってゆうの!」
「そう。私はテラよ。桃華ちゃん、ティスたちと遊んでくれてたのね、ありがとう」
「ちょっと待った、テラ姉。あたいたちがその子と遊んであげてたんだってば」
「お黙りなさい」
ぴしゃり、と叱られて小さくなる三人。どうやらこのテラという少女には、頭が全く上がらないようだった。
「もう、ダメじゃないの!勝手に外を出歩くなってお父様に言われたでしょう?」
「ご、ごめんよ、テラ姉・・・あたいが二人を誘ったんだ。ちょっと外を見たいって・・・」
「違います、テラ姉さま。私が外の空気を吸いたいって言ったから・・・」
「そうじゃないよ、テラ姉さん。僕が散歩したいなあって提案したんだ。ティスもデスピニスも悪くないよ」
互いに庇いあう三人に、テラも怒る気を無くしたらしい。
「しょうがないわね・・・私からもそんなに叱らないように頼んであげるから、もう帰りましょう」
「うん・・・ごめん」
「じゃあね、桃華ちゃん」
「さよなら」
「さよーなら!また桃華とあそんでね!」
元気よく言って、桃華はようやっと家路に着いた。右手を父に、左手を母に引かれて。
それは、とても平凡で。どこにでもありそうな。だけど、何より幸せそうな。家族のあるべき姿だった。
そんな桃華たちを見つめて、ティスたち四人も思わず笑みを浮かべた。
だが・・・それはすぐに打ち消される。
自分たちがここに―――この世界に来た理由。それを忘れたわけではなかったから。
108ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/01/27(土) 19:35:31 ID:nU+W/py40
「やっぱ・・・出歩いたりするもんじゃなかったね」
ティスがぽつりと語った。
「あんなに幸せそうな連中と、あんな風に馴れ合っちゃったら、やりにくくなるだけだってのにさ・・・」
「今からでも・・・別の世界を探すわけにはいかないかな・・・」
デスピニスがそんなことを言い出した。
「ほら。この世界のことは色々調べたでしょ?何だか手強そうな人たちがたくさんいるし・・・何もこの世界じゃ
なくても・・・」
「今さら無理だよ。もう時空間はタイムパトロールに見張られてて迂闊に移動できない」
ラリアーが複雑な表情で頭を振った。
「この世界で計画を進めるしかない・・・そういうことだよ」
「だね・・・もうあれこれ考えたって仕方ない。あたいたちはあの方のお役に立つため、ここにいるんだから」
「そう・・・全ては」
そして三人は声を揃えた―――
「「「ギガゾンビ様のために」」」

そんな彼女たちを、テラはただ、悲しそうに見つめていた―――

と、まあ。こんな感じですが、このお話は。
小さくて弱い少女が、大好きなみんなのためにおっきくて強くなるまでのお話で。
そんな彼女を優しく見守る人たちがいて。
そこに現れた侵略者たちと、さらに皆様ご存知の、青いあいつとお人好しの少年も加わるわけで。
希望と正義と愛とそして、何より勇気と友情と、それに笑いと涙も一杯の。
ちょっとおかしな御伽噺、始まり始まり♪
109サマサ ◆2NA38J2XJM :2007/01/27(土) 19:49:38 ID:jStwVZnv0
さて、新連載のスタートです。題材はスーファミRPGの最高傑作(と僕は信じる)
新桃太郎伝説。そしてファミコンドラRPG・ギガゾンビの逆襲。そして他色々。
桃太郎と夜叉姫がくっついてますが、まあ主人公とヒロインだし。
オリキャラの桃華ですが、この名前は確か家ゲー板あたりで見たネタからパク・・・拝借しました。
しかし、書いた後で気付きましたが三歳児でこれだけ会話できるのなら、こいつ実は天才なんじゃないか?
ティス、ラリアー、デスピニスはGBAで出た<スーパーロボット大戦R>のキャラです。
スパロボオリ敵の中でも好きな連中。でも今作ではロボットには乗りません。
テラ。ギガゾンビの逆襲より。隠す意味もないので言ってしまうとギガゾンビの娘。
<ギガ>と来て<テラ>だそうな。<キロ>や<メガ>がいるかどうかは不明。

>>19 こんなんになりました。基本的にいつものサマサ作品です。

>>25 一応超機神の後の話という設定です。前作までのキャラも、名前くらいは出るかな?

>>26 サマサはまだ十年戦える!・・・かどうかは知りませんが、とりあえずまだまだSSを書きます。

>>27 処女作の神界は、今見るととてもこっぱずかしい・・・(笑)

>>28 趣味全開の話になります。まあいつものことですが。

>>白書さん
敵はドラでもやばそうなくらい強いようですね。まあいざとなれば地球破壊ば(待てコラ)。
僕の新連載も引き続き読んでくれると嬉しかったり。

>>ふら〜りさん
ふら〜りさんSSと言えばほのぼのというイメージがありますが、結構ハードですね。
金的は・・・あれは、ヤバいです。喰らったら数分は痛みが取れません。
しかし超機神本当に長かった・・・神界も含めれば数年!新人だった僕もいつのまにか古参兵に・・・。時が流れるのは早い。
アスランやバカ王子、プリムラたちが再び活躍する<超機神大戦完結篇>もいずれ書きたいなどと思ってたり。

110作者の都合により名無しです:2007/01/27(土) 19:57:19 ID:yVW47ei2O
在日 竹石圭佑でググる
111スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/01/27(土) 22:21:28 ID:HoqzoL9o0
第011話 「READY STEADY GO!」

何年前だっただろうか。その言葉が掛けられたのは。

──キミにもいつか戦う目的が出来る時が訪れるかも知れない。

樹海でのサバイバル訓練で、傷を負い、無様にはいつくばった自分へその人は。

──どうしても斃さねばならない存在(モノ)が現われた時
──どうしても守りたい存在(モノ)が出来た時
──その時、自分の非力に涙しない様、キミは今、ここで強くなっておけ

優しく真っ向から語り掛けてくれた。

──さあ、立ち上がろう剛太

赤ン坊の頃、家族をホムンクルスに皆殺しにされ、過去も現在も実感できなかった自分へ。
未来への指標を見せてくれた。

だから剛太はその人──津村斗貴子に対して、憧憬を抱いている。
助力できるコトがあれば断じて惜しまないし、現にこの夏の前半部は火渡率いる再殺部隊
から彼女を守るべく、共に逃避行を繰り広げてもいた。
(だから別に急に任務の場所を変えられるのは構わねェけど)
毒島からの指示で突如派兵されてきてみれば。
(なんだよココ)
ちゃぶ台を中心にガスや流しや冷蔵庫などを押し込めただけの質素な6畳である。
それ位は剛太には分かる。
千歳に連れられて来たのが寄宿舎の管理人室というのも、まぁ分かる。
この8月の上旬に彼は銀成学園を訪れたから、その近くに寄宿舎があって更にその中に管
理人室があるのだって分かる。
そこが戦士の会議場なのも、戦士がよく学校へ関係者として潜り込むのを考えれば納得だ。
部屋を照らす蛍光灯は切れかけているらしく、時々チカチカ瞬くがそれもいい。
112スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/01/27(土) 22:25:17 ID:HoqzoL9o0
問題は、管理人室にいる剛太以外の5人のうち4割にある。
防人は戦士長だから充分に知っている。除外。
千歳も何度か面識があり、かつ、剛太が育った戦団の養護施設の先輩という縁もある。
斗貴子はいわずもがなだ。よって見目麗しい女戦士たちは除外。
問題は残りの2名。初対面だから防人から紹介された。その経歴が問題だ。
(なんだって信奉者なんかいるんだよ。しかも2人!)
剛太は「うわっ」という顔をした。
例えば靴裏にガムがついてるのを発見したような鬱陶しい違和感の表現だ。
防人からの紹介では「元」という冠詞がついてはいたが、印象はあまり変わらない。
信奉者といえばホムンクルスに与する者たちである。
剛太はそのホムンクルスに家族を皆殺しにされた立場であり、まぁ、実感はほとんどないに
せよ「うわっ」という印象は変わらない。
そも、剛太の根は現実主義である。
アロハシャツの襟元を大きくはだき、黙ってるときもヘラリと口を綻ばせているせいで何かと
軽薄な印象を振りまいてはいるが、戦闘スタイルはその対極。
彼の武装錬金・モーターギアの破壊力の低さを補って余りある総意と戦略をひねり出し、
そして勝つ。
かの根来忍との戦いにおいてもそうであり、秋霜烈日の風情がある斗貴子ですら「頭の中の
歯車(ギア)がガチッと噛み合った時の剛太は頼りになる」と評している。
再殺部隊の戦部からも太鼓判を貰ったりと新人ながらになかなか評価の高い剛太だが、こ
の局面においては精神面の未熟さと、「信奉者は敵」という現実主義的観念がガチッと噛み
合って「うわっ」という愚にもつかない表情を浮かべている。
「早坂秋水だ。よろしく頼む」
「は、はぁ」
気の抜けた声を漏らしながら、いやに格好よい男を見た。
刈り上げた風味の襟足とは対照的に、前髪は男性としてはやや長め。
分け目は作らず無造作に垂らしているそれは、水気を含んだように額や頬に軽く貼りつき
覗く切れ長の瞳はよく言えば使命感にあふれ、わるく言えば堅苦しい。
学生服を着てこそいるが、どこか前時代的──幕末の剣客のような──な雰囲気だ。
(ぜってー堅物! あの激甘アタマとは別ベクトルで話合わなさそう!)
113スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/01/27(土) 22:27:05 ID:HoqzoL9o0
剛太はそう断定した。もっとも、彼が仲良くしたい人間というのは斗貴子ぐらいなものだが。
軽い自己紹介を済ますと秋水は、まるで事務所からイメージダウン防止のために喋るのを
禁じられている二枚目俳優のように黙っている。
「コラコラ秋水クン。もっと何か喋らないと。まひろちゃん相手にはけっこう出来てたのに」
朗らかな、それでいてどこかトゲのある甘〜い声を発したのは、秋水とよく似た女性。
(双子……? 二卵性の)
こちらも秋水同様、かなりの美人である。
奇麗に切りそろえられた前髪と腰まで伸びた後ろ髪は夜のしとやかさを封じ込めたように
どこまでも黒く、艶やかだ。
更にスタイルもなかなか男心をくすぐるように整っている。
細い体に見合わぬ豊かな膨らみがクリーム色の制服を盛り上げ、かつ、ネクタイを谷間に
埋没させ、スカートからは黒タイツ着用の細く肉感的なふくらはぎが伸びている。
斗貴子一筋の剛太ですらほんの一瞬だけ見とれ、次の瞬間には心中で斗貴子に何十回と
なく謝った。
「でもまさか増援が中村クンなんて」
美人は自分に注いだ視線を嫌がる風でもなく、くすりと笑って剛太を見返した。
「……どうして俺の名を知ってるんスか。こっちは自己紹介もまだしてませんけど」
いちおう年上と見て敬語を交えるが、声や表情の端々に不審は隠せない。
並みの男性なら美人に知られていて悪い気はしないが、斗貴子一筋の現実主義者にしてみ
れば、信奉者に自分の情報を知られているという印象だけしかなく、気味が悪い。
「なぜってそれは御」
言葉半ばで美人は人差し指同士でバッテンをつくった。
「んー。やっぱりナイショ」
総てを許容する慈母のような笑顔だが、どうも剛太は信用する気になれない。
「それにしても逃避行の方、本当にお疲れ様。津村さんを出歯亀して追いかけられたり、太
陽だと思ったら再殺部隊の隊長だったり……。女学院でもいろいろ、ね」
(だからなんで知っているんだ!)
いちいち覚えのあるコトばかり列挙され、背筋にぞぞぞと怖気が走る。
「姉さん、自己紹介を」
「あら秋水クン、自己紹介を薦めるなんてまひろちゃん以外にも関心が出てきたの?」
「……姉さん。ひょっとしてまだ朝の事を根に」
114スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/01/27(土) 22:29:19 ID:HoqzoL9o0
「朝といえば秋水クン、まひろちゃんとのお食事楽しそうで良かったわね。いいのよ別に私
のコトは。秋水クンが自立できるなら私はなんだって我慢するつもり。お食事すっぽかされ
たぐらい、別に平気」
秋水は深刻なため息をつくと瞑目し、まなじりに皺を寄せながら懸命に抗弁し始めた。
「違うんだ姉さん。俺は偶然彼女と出会っただけで、同席したのもヴィクトリアの事について
話したかったからだ」
「あら。意外に冷たいのねまひろちゃんに対して」
「そうじゃない。俺は彼女を無下に扱いたくないと思っている」
やり取りを聞いていた防人がくすくす笑った。
千歳はいつもの無表情だが、若干興味があるらしい。
斗貴子は、まぁ、遺恨ゆえに秋水をギロリと睨むだけだ。
(……そう)
美人だけは一瞬すごく沈んだ顔をして、胸に手を当てた。
剛太はその様子に首を傾げた。
(本当にココはなんなんだ。というか信奉者じゃなかったら案外気が合うかも)
秋水のコトである。
一生懸命、「姉さんとの食事自体は反故にしていない」と抗弁する姿は、なんだかとても共感
できるというか、剛太の人生そのものに似ている。女性に苦労させられる所とか。
「あらゴメンなさい。自己紹介がまだでしたね。」
美人は秋水の抗弁を一方的に打ち切ると、自己紹介を始めた。
「私の名前は早坂桜花。秋水クンのお姉さんです」
さらさらとした美蜜のような声である。
もっとも剛太は聞きほれるより前に、垂れた目を見開いた。
(? そーいやこの声どこかで聞いたような……気のせいか?)
戸惑う剛太を桜花は実に愉快そうに「ふふふ」と眺めた。
実をいうと桜花は御前を介して例の逃避行終盤の剛太を知っている。
女学院では御前搭載のマイクで「人間としての最低限の尊厳は捨てちゃダメ!」と涙ながら
に訴えてもいる。
(だから知ってると思ってたんだけど……あらあら。やっぱり津村さん以外には無関心)
桜花はにこやかな佇まいを消さないが、ちょっとイライラしている。
ここのところ秋水があまり構ってくれず、まひろとばかり仲睦まじいのが響いている。
要するに欲求不満なのだ。
115スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/01/27(土) 22:31:02 ID:HoqzoL9o0
「確かに仲良くさせようとけしかけたのは桜花だ! けど、もう少し構ってくれたっていいじゃ
ねーか! 桜花は桜花なりに色々耐えてんだぞ! ちくしょう!」

桜花の部屋で御前はマイクを手に、歌い始めた。

「もう何がなぁーんだか分からなぁいー なーにを信じたらいい? 寂しさにやられたまま、遠く
流されてゆくぅ 鳥がいなぁぁぁい 鳥がいなぁぁぁい(ウォウウォウ) 喜びも悲しみも見ーえなぁい」

自動車のライトのような大きな瞳から涙が零れた。

むろん剛太はそういう桜花たちの事情を知らない。
いつもどおりの軽薄な調子だ。
「あ、ハイハイ。俺の名前は中村剛太です。よろしく」
ただこういう調子だけで喋るのは防人たちの手前、あまりよろしくない。
剛太のように軽めで頭が回る人間はえてして説教を嫌い、対策を練る。
だから適当に会話を割り増しして、いかにもこの団体に親和したがってますというシナを作る。
「ところで体調の方、大丈夫ですか? さっき辛そうな顔してましたけど」
話しかけられたのは、桜花。
「え?」
成熟した風貌に見合わぬ子どもっぽい表情で、桜花は剛太を見返した。
やがて指摘が、先ほどの沈み込んだ表情に対するものだと気付くと胸を軽くかき抱き、何かを
飲み込むような寂しげな微笑を浮かべた。
「大丈夫。最近、ちょっと暑いからクラっときただけ」
喋りながらも、心臓は軽く鐘を打っている。
秋水ですら気付かなかった変化を言い当てた剛太に、わずかだが心が動いたらしい。
「そですか。なら良かった。で、斗貴子先輩!!」
男性にしてはやや高い声を早口で回して、剛太はでれりとした顔で本命に向き合った。
「斗貴子先輩お久しぶりです! また一緒に任務ができて光栄です!」
「ったく。キミも相変わらずだな。もう少し静かにできないのか。あまり騒いだら他の生徒に
迷惑だろうが」
「すみません。以後、気をつけます」
斗貴子に対してはすごく嬉しそうで楽しそうで、ノリよく敬礼までする剛太である。
116スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/01/27(土) 22:32:31 ID:HoqzoL9o0
桜花はムっとした。
これではまるで、剛太が斗貴子に話しかけるクッション役ではないか。
さっきの指摘にわずかでも心を動かした自分が道化ではないか。
(あらあら。揃いも揃ってこの私を前座扱い?)
故・蝶野爆爵のような感想を抱きながら、限りなく真意が読めない微笑を剛太の背へ向ける。
切れかけた蛍光灯がチカチカ瞬き、部屋を闇と光に点滅させる。
桜花はいいようのない感情に動かされ、剛太にとてもちょっかいが出したくなってきた。
(いいわよね別にそれ位)
(ね、姉さん!?)

┌────────┐
│桜花の顔が     │
│別人に見えたのは │
└────────┘

┌────────┐
│蛍光灯切れかけの│
│薄暗さゆえ       │
└─┐            └─┐              
   │早坂秋水は自分に│              ┌──────────┐
   │そう言い聞かせた .│              │この日              .│
   └────────┘              │生まれた出でた怪物は │
                                │二匹               │
┌───────┐                   └──────────┘
│いや三…………│
└───────┘
117スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/01/27(土) 22:33:58 ID:R9kP7RM00
いやはや申し訳ないです。アク禁と残業と他の用事が重なり更新に間が開いてしまいました……
でもその間いろいろ考えてみましたので、いましばらくお付き合いのほどを。
やっぱ描かないと気分が濁りますな。がーっと頭の中のウズウズをはき散らかさないとダメな自分。

しかし来週のアニメ、マジで秋水出てくるとは。
DBでいうなら、ランチさんがセル編に出てくるようなもんですよこりゃ。
再殺編自体はあまり好きじゃなかったのに期待が俄然高まります。
なお、キーボードをメンテナンスしたら格段に打ちやすくなりました。
どれぐらいかというと↑の1行を4秒で打てるほど!

前スレ>>388さん
実をいうと彼、つかみ所がなくて描けるかどうか不安だったのでお褒めいただくと嬉しいです。
基本的には関さんの声を想像して、原作のセリフとつきあわせつつ地道にやっておりますよ。
原作どおり……むーん。原作準拠をモットーにしている自分には最高の褒め言葉。まとめもいずれ!

>>前スレ389さん
喜んでいただけると嬉しいです。彼は報われないからこそカッコ良く。ある意味、出番がなか
った秋水と同じベクトルで好きですし。オリジナル錬金については応用が効くのを第一に考え
ております。基本的に一長一短、ある方向には徹底的に強く、ある方向には脆すぎるのが理想です。

>>前スレ390さん
斗貴子さん同様、剛太にとって苦しい時期だと思います。ただしカズキと再会できた彼女に対
し、剛太は/zまで傷心……う。想像すると涙が。そして現在は中盤〜終盤に向けて種を蒔い
てる状態です。各キャラの心理描写を入れるとどうしても長く……ラスボスについては、こうご期待。

さいさん
さいさん(関係ないですが、ジュリアンと聞くと増血鬼かりんのファミレスを想像してしまいます)
むむ。ジュリアンの命を託された防人、ちょっとだけ戦士長への成長を歩み始めたのかも。
一般人を守るのは戦士として当然として、何というか、共に戦う仲間の命にまで目を向けるのが
「長」というか。少なくてもウィンストンが防人の理想像の1つだとは思います。起爆剤は果たしてっ!?
そしてサムナーはビビりましたよw 情報収集能力は抜群なので、神父攻略の鍵も持っているかも。
118スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/01/27(土) 22:34:53 ID:R9kP7RM00
銀杏丸さん
そうなんですよね。露助や女子どものくだりからただ勝ち戦を愛でるだけじゃなく、負けとか
ネガティブな要素も持ち出してきた上で「戦争が好きだ」というからあの演説はイカしてます。
そして原作の場面を使うのはかえって苦労しますよね。どこまで自分流に味付けしていいか悩みます。

ふら〜りさん
>修羅と鬼女の刻
煮えたぎったアレをブチ撒けるくだりはなんともふら〜りさん節ですねw しかしかなり太平記
にお詳しい。予備知識のない自分にも時代背景がすらすらーと。横山作品みたいにテンポが
よいですね。で、勇はツボです。膝小僧の出てる和服とか獣性とか艶やかさとか、良いです!

で、感想は自分にとって金貨のように尊いものでありまして、色々な方からの色々な感想を原
動力に時にはプロットを貫いたり大幅に変えたり微調整したりと楽しくSSを描かせて頂いてい
るのですが……今回のご感想は全く予想外であり、いい意味でかなりニヤリとしました。
と同時に、あまり書くコトに熱中すると読んでる人の目線を見失いがちになるとも気付いたので
なるべく冷静な目線を持たねばと思うしだい。何が何やらだと思われるでしょうが、理由があるのです。
119作者の都合により名無しです:2007/01/27(土) 22:50:36 ID:zVwPRiWC0
サマサさん新作お疲れ様です
今回は和風ですね。元となるゲームはあまり知りませんが
サマサワールドをまた楽しみにしとります。頑張れ。

スターダストさんお久しぶりです
さすがに桜花は作中でもっとも美人の扱いなんだなあ。
SSでも、たぶん原作でも。毒がありそうなかんじだけどw
でも嫉妬するのは可愛いですなあ。
120作者の都合により名無しです:2007/01/28(日) 11:30:01 ID:/kSbr0cv0
>サマサ氏
新作おめでとうございます!
前作は超インフレの世界でしたけど、今作は昔話とあって結構まったりしてますね。
まあ、いずれ大決戦になると思いますが。今回も期待してますので、のんびりがんばって下さい。

>スターダスト氏
仕事は仕方ないですが、アク禁は困り者ですよねえ。無関係の人間まで巻き込まれて。
最後、何かと思えばシグルイですか。怪物が生まれましたか。3人も誰?w
桜花の弟離れは中々進みませんねえ。秋水の姉離ればかり進みますが。
121作者の都合により名無しです:2007/01/28(日) 20:32:13 ID:tVUjda0A0
>サマサ氏
新連載いよいよ始まりましたね。
桃伝もギガゾンビも知りませんがまた個性豊かなキャラの活躍を楽しみにしてます。
もうシャッフルキャラは出ないのかな?
バトルは雰囲気的に、少なめになるのかな?

>スターダスト氏
個人的にはトキコと剛太の絡みが好きでしたね、原作。
魅力的な先輩に片思いする後輩というのが。
桜花とまひろの関係も、桜花の予想以上に秋水とまひろが上手くいってるから
微妙になりそうですね。
122作者の都合により名無しです:2007/01/29(月) 00:44:22 ID:uQpsNUX+0
サマサ氏、スターダスト氏復帰おめ!
どんどん復帰してくれるといいなー
123作者の都合により名無しです:2007/01/29(月) 10:53:26 ID:c2hFIMt40
その前にバレさんがなあ
124AnotherAttraction BC:2007/01/29(月) 18:08:18 ID:CeGd3FJR0
前スレから
…怒りのままに目に付く兵士達を殺し尽くし、それでもリンスの怒りは収まらなかった。
「ふざけんじゃないわよ…何が星の使徒よ。通り魔もどきのチンピラじゃない」
幾ら裏の世界とは言え暗黙のルールがある。それは『表の世界に極力干渉しない』と言う事だ。
その棲み分けが出来て初めて悪党は成立し、社会の秩序は保たれる――――…のだが、星の使徒はそれを盛大に破ったのだ。
所詮悪党も社会に依存する生き物だ、その境界が破壊されると社会は崩壊し、果てには節度も礼儀も法も金も無い混沌が待っている。
それも含め、単純に彼らの一山幾らの殺意と根性が、リンスにはどうしようもなく見苦しかった。
「……?」
妙な気配を感じ、彼女は背後を肩越しに覗いた。しかし、其処には戦場の一風景以外見える物は無い。
「……気の…所為か」
思い直し、そのまま一歩踏み出そうとしたが……

突然、何も無い後方へ背中越しに銃弾を放った。
125AnotherAttraction BC:2007/01/29(月) 18:09:06 ID:CeGd3FJR0
「…なぁんて、ね。気付かないと思ったら大間違いよ」
弾丸は、照星の先にある店舗のガラスを砕くと思いきやそうではない。その前の空間に何故かめり込んでいた。
其処を中心に電気のスパークが走り、空間と見えた部分は人型の実像を現す。それは、あの怪物に率いられた異形の兵士だった。
「…何故…判った? 音響ステルスも施していたのに…」
「アンタ、気配くらい隠しなさいよ。姿隠したから一緒に消えると思ってんの?
 ――と、言う訳で他の連中も出て来なさい。眼を凝らせば結構見えるわよ」
それに従う様に、周囲の空間に次々とスパークが湧き上がり、それが治まる頃には総勢十数人の兵士達がリンスを取り囲んでいた。
「………呆れたわね、こいつら殺したアタシに随分景気の悪い数じゃない」
そう言って手で示す周囲には、彼等に倍する数の兵士が無残な屍を晒していた。
「こんな雑兵共と我等『コンツェルト』を一緒にしてもらっては困る。仕事とプライベートの区別が付かない奴とも、
 ビジネスライクな連中とも思わん事だ」
声に微妙な機械的ノイズを混じらせて、兵士達は何も持っていない両手を前に差し出す。
「?」
一瞬降伏かと思ったが……しかし、当然それは降伏などではなく立派な戦闘態勢だった。
――――――――全員の腕が複数のパーツに爆ぜ割れて、その中に仕込んだ武器を露わにしたのだから。
展開した装甲が閉じるや、幾人かの銃口が彼女へと速射を放った。
しかし……体は彼女の意識の外で鮮やかに宙を舞う。そして一人を月面宙返りで飛び越すと、彼女の着地に合わせる様にその首が落ちた。
「!?」「え……?」
彼らもその身体能力に驚いたが、反応で回避し一瞬で首を切断したリンスも驚いた。
首の断面から跳ねるのは血ではなく、黒いオイルとスパークだったからだ。更に、体躯は固い金属音を響かせて倒れた。
「ちょっと……何これ…?」
驚く彼女を尻目に、兵士の一人が憎々しげに場の全員に通信した。
『…総員、全アクチュエーターのリミッターを解除しろ! 本気で掛かるぞ!』


「成る程…サイボーグ部隊って訳か。あの野郎も何処まで行く気なのか判んねえな」
目の前に集う兵士達を眼に据えて、トレインは此処には居ない元相棒に毒づいた。
「…お止し下さい、貴方がその様な事を仰ってはあの方が悲しみます」
126AnotherAttraction BC:2007/01/29(月) 18:09:56 ID:CeGd3FJR0
―――サイボーグの技術そのものは既にクロノスも着手しているが、それが理論の域を出た事は未だに無い。
どうしても機械と生身の完全な接続が成功しないからだ。
…日常生活程度は兎も角として、最新型のアクチュエーター(動力機構)でさえ出力不足で使い物にならない。
…更に、神経接続を行ってもレスポンスの悪さがどうしても改善出来ない。
と、数々の問題がクロノス開発部ですら形にさせないと言うのに、異形の天才が急造したテロ組織は完全な実用化に成功したのだ。
………数多くのSFに於いてサイボーグは今や定番だが、実際の戦場にこれ以上都合の良い兵士は実は居ない。
通常の歩兵の装備も可能な上、複数人数を必要とする重機関銃や対戦車砲をも単独で使いこなし、生身には不可能な強行軍にも
仔細無く耐え、人間なら戦闘不能であろう手足の負傷もパーツを換えれば事足りる。しかもそれが武器内蔵型なら言う事は無い。
それは或る意味、権力者にとって実に望ましい兵器と言えるだろう。極端に言えば、兵士と兵器は同義なのだ。

「クリード様は此処には居られませんが、我々が案内致します。さ…」
「その前に聞かせろ、何でお前等この町を攻めた? 内容次第じゃタダじゃおかねえ」
サイボーグ部隊の恭しい態度を一切突き放して、トレインは滾る溶鉄にも似た怒りで彼らに詰問する。
「さっき殺した奴に訊いたんだが……お前等、オレ達が居るから大部隊に編成し直したんだってな」
この惨状に少なからず関わっている事に、彼の胸は理不尽に対する怒りと悲しみで埋め尽くされていた。
不快だった、クリードの凶行に付き合わされた事が。
だがその怒りを知らない様に、兵士の返答は素っ気無かった。
「……仕方なかった事です、我々の隊長とクリード様が、本来の人数で行くのは至極危険と判断し検討の結果此度の事と
 相成りました。この状況も、クリード様と同行しておられる幹部の皆様のご意向でして、我々には何とも……」

「―――ふざけんじゃねえ!!!」
127AnotherAttraction BC:2007/01/29(月) 18:11:25 ID:CeGd3FJR0
淡々とした説明を、トレインの怒号が吹き飛ばした。
「…オレには何処から情報仕入れたのかも判ってる! ………クロノスからだろうが!!!」
……如何に星の使徒が情報戦に優れているとは言え、クロノスの監視が有る中観光地に消えたトレイン達を追う事は困難極まる。
だが、それでも星の使徒がその情報を得るルートが有るのをトレインは知っている。それは、クロノスが調べ上げて情報を
リークする事だ。何故か? トレイン達を強制的に星の使徒との戦闘に参加させる為だ。となると、デュラムがトレイン達の前に
現れたのも、その前のギャンザの一件も、相当疑わしくなってくる。
となればクリードも、何もかも知った上でこの事態を招いたのは想像するまでも無い。彼は元相棒の異常性を知悉しているのだ。
そして全ての糸を引いているのは……最早考ずる事すら馬鹿馬鹿しい。
「お前等屑だ!! セフィリアもクリードも、それに少しも異を唱えねえお前等も長老会も! 皆クズだ!!!
 そんなに殺し合いがしたきゃ、お前等だけでやってろ!! このカス共が!!!」
息を切らせてトレインは吠え尽くした。怒りが止まらなかった、何もかもが許せなくて。しかし、
「……それがかつてクロノスに於いて最強にして最凶を誇るイレギュラーナンバー、No13黒猫(ブラックキャット)のお言葉とは、
 時は残酷な物ですな。
 貴方が殺した数に比べれば微々たるものでしょうに」
彼等は完全に呆れ返って、トレインの怒りを受け流した。
「そんな事より我々に同行するか否か、それだけをお聞かせ戴きたい。
 ―――――こちらとしては、来ない方が有り難いんだが」
それを皮切りに、一同がトレインに対する殺気を漲らせた。

「…理由は判るだろう? 判らんとは言わせんぞ。
 我等はあの方の理想の礎となる為、体を二度と戻れぬ兵器としてまで忠を尽くすと決めた。
 ―――しかし貴様は、あの御方の友愛の情を一身に受ける立場に在りながら弓を引く……これが、許さずにおれるか!!」
彼の怒りを無視しておきながら、手前勝手な激情を一つに彼等はトレインを糾弾した。
クリードは彼等にとって現人神にも等しい存在だ。それ故に体を消耗品としてまで、彼の理想に答えようとするほど深い忠誠を
抱いている。しかしそれが、彼の頭脳とカリスマによる錯覚だと気付く者は居ないが。
「………そうか、そうだよなあ……お前等にはどうだって良いんだよな……誰が死んでも、何が燃えても、自分の大切な物じゃなけりゃ、
 どうでも良いんだよなあ……それに何言ったって、判る訳無えよなあ…」
両手を力無く垂らし、彼は力無く笑っていた。なのに―――――

『………ッッツッ!?!』
128AnotherAttraction BC:2007/01/29(月) 18:12:13 ID:CeGd3FJR0
光学、視覚、赤外線、聴覚、アクティヴソナー、誰のどのセンサーにも異常は全く無い。
だが何故か、それでも目の前の銃一挺しか武器を持たない生身の男が巨大且ついびつに膨れ上がって行く様に感じる。
「いいぜ、殺ってやる。殺す覚悟はちゃんと持ってるんだ、なら……」
死も恐れないと誓った筈の誰かの足が、僅かに後退する。それをさせたのは何なのか、彼自身も知らない。
「……殺される覚悟も……有るんだろうな?」


「…シンディ!!」
呼ばれるままに振り向くと、通りの向こうから駆けて来る馴染み深い人影が見える。
「ママ!!」
―――しかし、酷く馴染みの薄い物を違和感無く普段着の上から全身に巻き付けていた。銃器類だ。
「……マ…ママ? 何それ?」
「説明は後! 急いで家に帰るわよ! ほら、貴方も!!」
困惑する彼女と店主の手を強引に引き、マリアは無理矢理家路に急ぐ―――…と、通りの反対側から数人の兵士達が見えた。
「邪魔よ!!」
有無を言わさず彼女は背に担いだ機関銃を鮮やかに構え、吠えさせた。
如何に最新戦闘服と言えど、現時点の技術で7.62ミリライフル弾の咆哮を布地のみで食い止める手立ては無く、
彼らは一瞬で薙ぎ倒された。
無論二人は絶句、しかしそれを全く意に介さず彼女は安全を確保した道を突き進む。
「まだこの辺は危険よ、早く!」
「…マ、ママ……何で……こんな…」
129AnotherAttraction BC:2007/01/29(月) 18:15:58 ID:CeGd3FJR0
…犯罪の巧妙化が進むにつれ、諜報機関や司法機関も変容を余儀無くされた昨今、ISPOもその例外とは成り得なかった。
今や最前線などと言う行儀の宜しい物は存在せず、本部で現場に情報を提供するオペレーターにすら銃弾の脅威は及んでいた。
その為彼女も現場の捜査官に劣らぬ修羅場を経験する羽目になり、それを潜り抜けた彼女は見事情報官以外の才能を開花させたのだ。
或る時は――――本部に爆弾を仕掛けに来たテロリストを射殺した。
或る時は――――銃撃戦の真っ只中、応戦しながら敵のアジトで情報を探した。
また或る時は―――――長官を単身殺しに来た、体重が倍以上の殺し屋を絞め殺した。
出来れば娘には晒したくない貌だったが、この状況ではそんな事は言っていられない。
「どっちを訊きたいのシンディ? 殺す方? それとも銃が使える方?」
やたらと捌けているのが自分自身気に入らなかったが、彼女の精神テンションは既に捜査官時代へと戻っている。
其処に母親は僅かしかなく、歴戦の女戦士の様な凄みがシンディに次句をなかなか詠わせない。なので焦れたマリアは警戒しながら
勝手に口を衝くままに流させる。
「……ママはね、スヴェンやパパ達とこんな事をして生きて来たのよ。勿論人を撃ったのもこれが初めてじゃないわ」
………初めて人を撃った時は眠れぬ日々が続き、食事もすぐに戻した。その苦痛が、僅かに甦る。
「――――…でもねシンディ、私達は殺したくて殺した事なんて一度も無い。出来る事なら撃たずに済ましたい、出来る事なら
 撃たれたくない、そして出来る事なら誰一人死んで欲しくない――――――…そう思って撃って来たわ」
母親の背中越しの言葉に、シンディの肩が僅かに揺らいだ。
「…どうしてって? だって私は、皆が好きだもの。パパや、スヴェンや、あなたや、知り合った人とか、そう言う私の掛け替えの無い
 日常が、何もかもを向こうに回して良い位大事なんだもの。
 だけど…撃つ度に悲しいのだけは―――――…どうしても慣れないわ」

ほんの少しだけ見せた、刃毀れの様に小さなマリアの弱さ。しかしそれが、シンディの心に突き刺さる。
『……怖くして…ごめんね』
そう言って彼女に背を向けたイヴも、隠し切れない弱さをそれでもなお隠そうとしていた。それに彼女は、拒絶を示したのだ。
好きって言ったのに…酷い事……しちゃった…
なかなかどうして残酷だった。本当は泣きたかった筈なのに、辛かった筈なのに、イヴはそれを責める事無く血に塗れたと言うのに。
改めて自責に苛まれる。…マリアが気付くと、彼女は足を止めていた。
「…ママ………ごめんあたし…お姉ちゃんを探しに行かなくちゃ」
「……イヴちゃんの事はスヴェンから聞いているわ。でも今は一人にしてあげなさい、あの子を救ってくれるのは時間だけよ」
まだ子供にこの現実は辛すぎるだろう、それゆえの混乱だ、とマリアは思っていた。しかし、

「行かなくちゃ」
130AnotherAttraction BC:2007/01/29(月) 18:19:04 ID:CeGd3FJR0
声も、眼差しも、安い自棄などではなく冷静な意志だった。


「……お前なら、きっと生きてると思ってた」
戦火の中、噴水広場の噴水がいつもと変わらず優美な水の芸術を飾るシュールレアリズムを背景に、リオンは何処か安心した様に
息を切らせた少女へと微笑んだ。
「判ったろ? これが大人だ、ちょっと言い方工夫しただけでそれを理由に此処までやりやがる。オレはこんな事しろなんて
 一言も言ってないのにな。
 奴等は自分勝手な解釈でどんな事もやってのける。例えばそう……宗教戦争なんか…」
「…命令したのは、あなたの意志でしょう?」
リオンの演説を、イヴの静かな怒りが遮った。
「確かにあの人たちは、酷い事をした………でも、あなたが彼らの背中を押した」
「オレは『程度は任せる』って言ったんだ。そしたら命令圏外じゃ思う存分好き勝手だ。
 奴等に良心って物が少しでも有ったら、此処まで酷くはならなかったと思うけどな。
 ………この辺で止めにしないか? 水掛け論でこれっぽっちも進まない」
彼女の怒りを感じながらも、リオンは動揺の類とは無縁だった。
それに毒気を抜かれた訳では無いが、イヴも些か冷静さを取り戻して彼がそうした様にしっかと眼を据えた。
「……じゃあ、一つ教えて。あなたは私とシンディを誘ったけど、それは一体どうして? 何が目的なの?」

「オレの望む世界を作りたい。星の使徒をクリードから奪って」
131AnotherAttraction BC:2007/01/29(月) 18:21:24 ID:pZ7zrwfB0
―――予想だにせぬ即答、だった。一瞬認識が吹き飛んだ彼女だったが、改めて見るその面差しに嘘や誇張は欠片も無い。
そのまま唖然とする彼女を置いたまま、リオンの身の丈を上回る大望が吐露される。
「…概要はこうだ、まず今の大人と言う大人を一匹残らず根絶やしにする。そしたら、ナノマシンでテロメアを保護する方法を
 見つけ出し、ヘイフリック限界を無くした上で全ての子供を十五歳までしか成長しないようにする」
イヴは軽い眩暈を覚えた。驚いた事に、彼はその突拍子も無い目的を真剣に考えているからだ。
「そしてそこからだ、オレ達子供の社会を作るのは。
 だから今、目下の問題としてクリードを殺す事とテロメアの保護を…」
「………ッ…?」
壮大で遠大、そして緻密にして幼稚な計画に彼女の足が崩れそうなバランスを取り直す。
およそ信じられなかった。話の真贋ではなく、外見年齢がさして違わない少年のひたむきな狂気が。
社会とは飽くまで先人の手によるもの。それをこの少年は、歴史からもぎ取ろうと画策しているのだ。しかもその道程を
血の斑に染める覚悟で。
もしそれを普通の少年が言えば笑う所だが、彼は道士であり世界のクロノスにも実態を掴ませない超攻性テロ組織の一員なのだ。
紡ぐ言葉は真実であり、実際起こり得る可能性だった。
「…オレはデュラムみたいな考え無しのマヌケと違う、計画の為ならどんな汚辱にだって耐えてみせる。
 でもその為には仲間が要るんだ……クリードは無意味に強いし、おまけにやたらと頭が回る。だから、お前みたく腕が立つ仲間
 がオレには必要なんだ。判るだろ?」
その猫撫で声は、既に常軌を逸したものを孕んでいた。
132AnotherAttraction BC:2007/01/29(月) 18:22:43 ID:pZ7zrwfB0
「……あなたは……おかしい…。
 私達は、別にその辺から生えて来た訳でも自分一人の力で生きて来た訳でもないのに…なんで其処まで憎めるの?
 大人の人達だって昔は子供だったし、あの人たちみたいなのばっかりじゃないのに」
「笑わせんな、物に釣られたくらいであいつらを肯定するのか。
 大人なんて一皮剥けばどいつも同じだ、子供は殺すか骨までしゃぶるかの二つに一つしか無えよ。
 もしお前やオレみたいに強い子供が居ても、頭ひねってどっちかにしようって考えるだけだ。
 だから―――――――…根絶やしにするしか道は無えんだよ」
既に異論を取り入れる気など微塵も無く、彼の方針は鋭く一直線に固まっていた。
「だけど……!」
「だけど、なんて言ってる時点で終わりなんだよ。オレが妥協を考えなかったとでも思ってんのか?
 それをやった時、オレもお前もとっ捕まって何されるか判ったモンじゃない」
反論はしたい、だが出来なかった。一体何を経験すれば此処まで饒舌になるのか判らないが、イヴに彼を言い負かす事は不可能だった。
彼女は知識に於いて無限の広がりを持ってはいるが、リオンは人の世の闇と狡猾さを何故か知り尽くしている。
こうまで盤の種類が違えば、初めから勝敗は決まり切っている。しかしそれでも、彼女は引けなかった。
「でもあなたは間違ってる! 皆死ななくちゃいけないなんて、どう考えたって間違ってる!!
 世界はきっと、そればっかりじゃない!!!」
力一杯の否定と、髪が徐々に形を成して行くのに、リオンは呆れ気味の溜息をついた。
「…結局腕ずくか。悪いけど…………お前じゃオレに勝てないぜ」
133AnotherAttraction BC:2007/01/29(月) 18:23:38 ID:pZ7zrwfB0
……市庁舎内部は、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
銃弾に穿たれた壁はその上から血に染まり、床には人であった肉片が書類や薬莢と共に散乱し、今宵この町の中でも特に
酸鼻を極めていた。
その中に、黒服の怪物が一人彫像の如く立ち尽くしていた。
しかし呆けている訳ではない。その視界には無数の表示が入り乱れ、または明滅する。
市街に出た幾つかの部下の視界を共有し、その視点から性能と実戦データを確保しているのだが、トレイン・リンス両名に半ば部隊は
壊滅に追い込まれていた。
「……やはり、もう少し改良が必要か」
対ナンバーズ戦を想定した武装なのだが、装備は兎も角彼ら自身が体のフィードバックやレスポンスの具合に着いて行っていない。
無理も無い事だろう、彼等が肉の体を棄てたのはほんの半年ほど前だ。生卵をようやく割らずに掴める様になった者も全体の三割弱、
彼等が一流と対峙する際にはやはり慣らし≠フ要らないボディが必要なのだろう。技術がクロノスを凌駕するとは言え、
戦闘には微細な挙が不可欠であり、昨日今日取り替えたばかりの兵ではとてもナンバーズには使えない。
如何にナノマシンと生体チップで現時点で出来うる限りの神経のズレを埋めた所で、この怪物の様な領域に到るのは極少数だろう。
「……?」
その時、視界に荒れ狂う表示の一つに、少々奇妙な物を見咎めた。

―――ノー・チューン(無改造)隊、全滅―――
134AnotherAttraction BC:2007/01/29(月) 18:26:38 ID:pZ7zrwfB0
改造を施していない兵士達が、全滅していたのだ。
疑問符に誘われるまま彼等の生体反応をチェックするが、其処にはやはり反応が無い。
成る程トレイン一行に見つかったならそれも有るだろう、しかし彼ら四人ではどうしても取りこぼしが生じる筈だ。
だが表示には、悉く全滅と有るのだ。せめて逃走した一ケタ台が居てもおかしくは無いと言うのに、これは果たして如何なる事か。
そしてそれを畳み掛ける様に、またも異変が彼の視界に通達される。
………市庁舎内部で作業に当たっていた部下の反応が、次々消え失せた。
「何………?」
ワイヤーフレームのみの三次元透視地図が回転し部下達をモニタリングするが、その中で動く彼らが一人また一人と見えぬ何かに
薙ぎ倒され、その反応を死亡状態へと移行する。彼らの視界に潜ろうとしたが、既に接続していた分隊長クラスは戦死していた。
ならばと慌てず赤外線モードに移行すると、彼らとは違う小勢が的確に進路と安全を確保しつつかなりの速度で怪物の居る
此処へと迫ってくる。
ナンバーズ…? いや違う、この数は…
クロノナンバーズは現時点で十三人。しかし彼らは二十人近く居て、皆が概ね等しい戦闘力を持っている。
だが、何にせよこれがクロノスの罠だと言う事に違いは無い。
まあ……流石に馬鹿では無いか
部下が死ぬ事にも追い詰められていく事にもまるで感慨無く、怪物はコートの中からあの巨大な砲を取り出した。


「…あんた、エキドナ=バラスか…?」
スヴェンは、眼前に立ちはだかる美女を見るや即刻その名を言い当てた。
「へえ、上手く隠したつもりだったんだけどねえ」
「ああ、俺はあんたのファンだったんでな」

―――エキドナ=バラス、またの名を『妖女エキドナ』。数年前世界中の銀幕を席巻した有名な女優だった。
その二つ名には訳がある。その迫真の演技力が開花する役は、決まって悪女だからだ。
ある作品では三つのマフィアを手玉に取る女詐欺師、またある作品では独裁者を裏で操る淫蕩な愛人、そしてまたある作品では
私欲と野望が為に周辺各国に争乱の火種を撒き散らす非道の女帝―――…と、その末路は多々あれ、間違い無く其処に到るまで彼女は
誰をも寄せ付けぬ野心と聡明にして狡猾な頭脳、そして全てを篭絡する美貌を持つ最高の悪女だった。
無論その真に迫る演技力は世界中に絶賛され、ある世界的なニュース紙面に『如何な主役も彼女の悪役には色褪せる』と一面
すっぱ抜いて報じられるほど、かつての彼女は映画界の寵児だった。―――しかし、
135AnotherAttraction BC:2007/01/29(月) 18:27:28 ID:pZ7zrwfB0
「…あんたが、自分を育ててくれたプロデューサーと尊敬してた先輩女優のローザ=マクネリを殺すまでは…な。
 まさか星の使徒に入って道士やってるとはな」
よもや彼女の泰然が逃亡中の殺人犯だからと言う事は有るまい。およそ戦闘員とは言い難い元女優が単独で戦場に居るのは、彼女が
星の使徒の一員である上常人以上の戦闘を期待出来るからだ。
その証拠に、彼女にとっては人生の転機とも言うべき事件を突き付けられても、その妖艶な笑みは揺らがなかった。
「ま、そんな過去の話はどうだって良いさ。今重要なのは私とアンタが敵同士で戦場にいる、それだけなんじゃないかい?」
相も変わらず銀幕の内外を魅了し続けた笑みが、覆しようも無いリアルで彼の命を欲した。
「……正直気が引けるぜ、あんたに銃を向けるのは」
「気にする事は無いさ。私だってアンタを殺すんだ、遠慮無く思いっきり来れば良いさ」
「だから、だよ」
…こう言う場合、彼の掲げる紳士道は枷に成る。しかし彼にそれを曲げるつもりは微塵も無い。
『弱きに尽くす』は、彼が自らに課したせめてもの償いだった。

「そう言えば…アンタの過去話、私も聞かせてもらったんだけど……傑作だったねえなかなか」
語感と唇に悪意を注ぎ、エキドナはスヴェンを嘲弄する。
「死んだ親友の為に改心して四角四面の正義の味方に成った…か。ふ…笑い話にもなりゃしない。
 悪党に成る根性も無いくせに悪党やるからそんな半端モンになっちまうのさ」
猫が鼠を弄る様に、彼女の悪罵が遠巻きにスヴェンを責め立てる。
「…大体、遺族に金を入れたり心を入れ替えたりで罪が消えるとでも思ってんのかい?
 甘いねぇ、甘過ぎる。アンタは罪を犯した時点で罪人なのさ、それを贖いたいなら命しかないんだよ。
 それとも私みたく、いっそ吹っ切れてみるのも良いかもねぇ…無理だろうけど」
死ぬ事が出来ない、まともに向き合う事が出来ない、ばかりか罪を理解し開き直る事さえ出来ないスヴェンの弱さを、彼女は
ここぞとばかりに抉り尽くした。彼の沈黙がそのまま嗜虐的な快感となって、彼女の心を昏い愉悦に満たす。
どうやら口舌の徒であったらしいが、それが何も言えず苦悶を噛み殺すのは何とも良い気分だった。
136AnotherAttraction BC:2007/01/29(月) 18:29:55 ID:pZ7zrwfB0
「…あそこに居たのは、あんただったのか」
その一言が、彼女の柳眉に不快を刻ませた。
「ま、そう意外な貌するなよ。仕方ないだろ、昔話の最中ずっと妙な視線を感じてたんだ。嫌でも出歯亀を疑うさ。
 二人は聞き入ってたから気付かなかったろうが、俺は知ってる。あんた、気配消すのは下手だな」
逆に言葉に詰まった。彼女は確かにトレイン達を発見していたが、スヴェンにも発見されていたのだ。
「………あんた、少し無理があるな。
 妖女とか言う割りには、随分見え見えの責めをするからな。それとも悪女はスクリーンの中だけで、本当は結構お行儀良いのかな?」
先刻エキドナがそうした様に、彼もまた冷笑で言葉を飾った。
「だとしたら甘いねぇ、甘過ぎる。台本通りの悪女が本物の悪党に説教なんて。
 だから、俺みたいになってから出直すんだな…ま、無理だろうが」
いよいよ六年前に戻った様な悪意を満たし、スヴェンは怒りに震えるエキドナを笑った。しかも彼女の悪言の決め台詞を奪い取って。
「……死にたいのかい…アンタ…」
「それは『だったら止めとけ』を付けて返してやる。
 愚弄(なめ)るなよ、ちょっと変わった手品仕込んだ程度で」
――――相手が未知数の力を持つ道士とやらなのは知っている。これまでの捕り物と訳が違うのも重々知っている。
だからこそ、彼女を自分に集中させるしかなかった。そうでなければその道とやらで好き勝手に暴れて及ぼす被害は想像も付かない。
本当は逃げ出したかった。彼にはトレインの様な神業級の銃技も無ければ、リンスの様な身体能力も無い。ましてイヴの様な
変幻自在の戦闘が可能なナノマシンも無い。有るのはせいぜい幾つかの武器と未来を見る眼、そして人より少々出来の良い頭だけ。
しかし彼は逃げない。死の恐怖をも踏破した友の命が、その中に息衝いているからだ。

とうとう憎悪が渦巻くエキドナを前に、彼はケースの鍵を開いた。
137作者の都合により名無しです:2007/01/29(月) 18:31:29 ID:lfCudRkO0
NBさんキター!
相変わらずうまいし長いw
138AnotherAttraction BC:2007/01/29(月) 18:42:28 ID:pZ7zrwfB0
どんだけ交錯させる気だ、俺!?(挨拶)
はい、NBです皆さん、こんばんわ。既に書いてる俺が混乱しております。

さて、今回で第十一話「火蓋」終了です。
なので、次回のAnotherAttraction BCは―――

…ええい、思い付かねえ。頭が錆びて来やがった。もういいや!(丸投げ)
兎に角次回、AnotherAttraction BC第十二話、「魔軍」を乞う、ご期待!!

と言う訳で、今回はここまで、ではまた。
139作者の都合により名無しです:2007/01/29(月) 18:47:33 ID:NQMbZuQt0
NBさん、久しぶりの投稿お疲れさまです。

随分と登場人物たちが絡み合ってきましたね。
次回あたりでリオンとエキドナの能力もわかるんでしょうか。
トレイン・クロノス・星の使徒の三つ巴が、ほぼ2対1な状況に。
この話もまだまだ長くなりそうですね…。次回も期待します。
140作者の都合により名無しです:2007/01/29(月) 18:47:42 ID:lfCudRkO0
NBさんお疲れです。今回もまた力作ですね
リンスって強いんだな。そして激怒するトレインもかっこいい
でもやっぱり今回はマリアですな。エキドナもいいけど。
決着がどういう形にすれ、哀しい着地にしかならなさそうだ。

それにしても、投稿規制うざいですな
廃スレで支援してたんだけど、1レスの間隔が30秒から45秒に広がってる!
141作者の都合により名無しです:2007/01/29(月) 19:57:53 ID:c2hFIMt40
NB氏、また2回分を1回でw
でも確かに一気にうぷしたい内容だな。

大戦争だな。
エキドナ姉さんとスヴェンの戦いが楽しみだ。
しかしスヴェンはトレインより主役っぽい
142WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/01/30(火) 02:55:07 ID:Rh/7+d7X0
《EPISODE8:Listen to the words long written down》

――北アイルランド アーマー州 アイルランド共和国モナハン州との国境より北東13km地点

遮る物も無い草原に伸びる一本の道路。
その道をかなりのスピードで走り続ける、薄汚れた一台のセダン車。
黄昏(ダスク)の時は疾うに過ぎ、辺りを漆黒の闇が包み始めていた。

車の中には人影が五人。
背筋を伸ばして真っ直ぐに前を見ながらハンドルを握る青年。
腕を組んだまま、目を瞑っている助手席の中年男。
後部座席には若い男女が三人。
一人は眼光鋭い長髪の青年。一人は緊張気味に身を硬くするお下げ髪の少女。
そして銀色のコートに身を包み、揃いの帽子を目深に被った青年が最後の一人。

車中は重苦しい沈黙と緊張感に満ちている。
それもその筈だ。彼らの目的は仲良くピクニックという訳でも、休日の終わりに急いで帰宅という訳でもない。
彼らは錬金戦団。錬金の戦士。その職務は戦闘、その目的は殲滅。
テロリストであるパトリック・オコーネルとその一団“New Real IRA”、そして彼らの操る
ホムンクルスを倒す為に、北アイルランドの大地を疾走している。
しかし、国境を過ぎ、この地の深部へ進むにつれ、度を越した重苦しさはますます強くなっていく。
狩る者が感じる筈の無い“狩られる”恐怖。
野生動物ではない人間である彼らが心の奥底に感じている、また感じていても口にする事は許されない感覚。
戦士が進み、闘士が待つこの地に、神の使徒が遣わされているのだ。
錬金戦団。New Real IRA。ヴァチカン特務局第13課。
追い、追われる。狩り、狩られる。殺し、殺される。
捕食者達の夜を、冷たい月が照らし出していた。
光の下、車はただ走り続ける。
143WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/01/30(火) 02:56:39 ID:Rh/7+d7X0

(随分と飛ばしてるな……)
防人は運転席のジュリアンを案じずにはいられなかった。
初めての戦闘任務に加え、指揮官は最も苦手にしているだろうマシュー・サムナー戦士長。
緊張の余りに、大英帝国支部に向かう際に見せたあの饒舌ぶりはすっかり影を潜めている。
サムナーの発した「飛ばせ。出来るだけだ」という言葉に「ハイ!」と返事をしてからは、ずっと無言のままだ。
だが、それはジュリアンのみに限った事では無い。
火渡も千歳も、そして当の防人自身も余計な言葉を発しようとはしない。
出発前の作戦会議の場で、サムナーに罵られた際の不快な感情が尾を引いているのだろう。
とはいえ、防人はこのわだかまりを多分に残したままのチームワークで任務を遂行出来るのかと、甚だ不安ではあった。
日本人戦士の三人の中ではリーダー格という立場、更には持って生まれた責任感の強い性格がそうさせるのである。
それにジュリアンの事はウィンストンから特に目を掛けるよう頼まれてもいる。
(幸いサムナー戦士長は寝てるみたいだし、声でも掛けて少しジュリアンをリラックスさせてやるか……)
緊張感というものは、それが程好ければ集中力や思考力を高めてくれる。
しかし、過度の緊張を張り詰め続ける事は、その疲労によって精神状態だけではなく、
身体機能にまで悪影響を及ぼしてしまう。
防人は斜め前の運転席に座るジュリアンの方へ身体を伸ばし、声を掛けようとした。
「なあ、ジュ――」

その時。

「アレ? 何だろ……」
隣のサムナーに聞こえない程度の声で、ジュリアンがブツブツと呟く。
「もう、危ないなぁ……」
年齢不相応に子供っぽい彼にしては、珍しくやや苛立った語調だ。
同時に68マイル(時速110km)を指すスピードメーターの針が右へと巻き戻っていく。
そして針の動きに合わせるように、窓の外の景色の流れは緩やかなものになっていった。
突然、サムナーが眼を開け、視線だけをジュリアンに向けた。
「何があった。何故スピードを落とす」
どうやら眼を瞑っていても眠ってはいなかったようだ。
「あっ、えと、あの……その……。前の方で道路の真ん中に人が立っているので……」
ジュリアンはアタフタと口ごもりながら応答した。
144WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/01/30(火) 02:59:26 ID:Rh/7+d7X0
「何だと? こんな田舎道だというのに……」
腹立たしそうに眉間に皺を寄せながら、サムナーは身を乗り出してフロントガラスの向こうに眼を凝らす。
確かに遥か前方に人影が見える。
「!?」
何を、いや“誰を”確認したのか、サムナーは眼を大きく見開いた驚愕の表情でシートにもたれた。
「ば、馬鹿な……。ついさっき国境を越えたばかりだぞ……」
どういう訳か、冷静を通り越して冷酷ともいえるこの戦士長の声が上ずっている。
不可思議なサムナーの様子に、防人と千歳は顔を見合わせた。
その二人の横で、何かを感じ取ったかのように一人身を硬くする火渡。
サムナーは前方を凝視したままだ。
「……スピードを上げろ」
「え……? せ、戦士長?」
ジュリアンの耳にはサムナーの命令が、幼い頃ウィンストンに無理矢理習わされた大嫌いなフランス語に聴こえた。
そんなもの理解出来ないし、理解したくないとばかりに。
「スピードを上げろと言っている! このまま真っ直ぐ進むんだッ!」
「そっ、そんな! 轢いてしまいますよ!」
「構わんッ! 轢き殺せ!!」
気違い染みたサムナーの命令に、防人は身を乗り出して二人の間に割って入った。
「正気ですか!? 戦士長! やめてください!!」
「黙れ!」
サムナーは防人を押しのけると、ジュリアンが握るハンドルを強く掴み、彼の右足を踏みつけた。
ジュリアンの右足ごとアクセルペダルがベッタリと踏み込まれる。
車は急速にそのスピードを上げた。
「きゃあっ!」
あまりにも急な加速に、千歳の身体が勢いよくシートに倒される。
火渡は無言で前方の人物を睨みつけながら、左腕でしっかりと千歳の身体を押さえた。
「あ、ありがと、火渡君……」
スピードメーターは時速87マイル(時速140km)を指し、尚も速度は上がり続ける。
車と路上の人物との距離は急速に縮められ、ようやくその詳細な姿を目視出来るまでに至った。
145WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/01/30(火) 03:04:43 ID:Rh/7+d7X0
月明かりとヘッドライトの光に照らし出されたのは、防人の予想だにしない種類の人物だった。
法衣らしきゆったりとした衣服。ライトに光を反射し、鈍い輝きを見せる十字架(クルス)。
“神父”だ。

ジュリアンは一種の恐慌状態(パニック)に陥っていた。
“このままでは人を轢き殺してしまう”
加速を続ける車は最早、神父の目前に迫っている。だが彼は微動だにせず立ち尽くし、避けようとはしない。
ジュリアンはハンドルから手を離し、両腕で顔を覆った。
「うわあああああ!!」

一人を除いた、車内全員の眼に映る神父の顔は“笑っていた”。

猛スピードで疾走する車と、神父の身体が交錯した。
瞬時に神父の両脚はバンパーに砕かれ、凄まじい勢いで上体がボンネットに叩きつけられる。
その刹那の後、神父の顔面はフロントガラスに強く打ちつけられた。
フロントガラスに蜘蛛の巣状の大きなヒビが入り、ビシャリと鮮血が撒き散らされる。
持ち上げられた神父の身体は車の屋根を転がり、最後にはトランクに叩きつけられ、
後方の闇の中へと消えていった。
すべては一瞬の出来事だった。

「ひ、轢いた……。ひ、ひっ、人を、人を轢いちゃった……。あ、ああ……神様……」
「な、何て事を……」
ジュリアンは涙を流して神に慈悲を乞い、千歳は両手で口元を押さえながらサムナーに非難の眼を向ける。
だがサムナーはそんな事にはお構い無しに、前方を見据えながら怒鳴り声で命令を下す。
「戦士・ブラボー! 追跡してこないか後ろを確認しろ!」
“追跡”してこないか? 馬鹿げている。時速160kmでハネ飛ばしたんだぞ。
“無事かどうか確認しろ”、いや“死体を確認しろ”の間違いだろう?
サムナー戦士長は頭がどうかしてしまったのか?
言われるまでも無く、防人は後ろを振り返り、神父の安否を確認する。
千歳もそれに続いた。
146WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/01/30(火) 03:06:53 ID:Rh/7+d7X0

「なっ……!」
即死間違い無しのスピードでハネられた筈なのに。
車体の真後ろに放り出された筈なのに。
こんなに見通しの良い一本道の筈なのに。
「ま、まさか……。し、死体が、無い……」

「くっ……! 奴が……。奴がッ、あの神父が! “聖堂騎士”アレクサンド・アンデルセンだッ!!」
「なっ……!」
防人と千歳は驚きの余り、サムナーの方へ向き直る。
火渡は逆に、先程の神父と同種の笑みを浮かべて、顔をバックガラスの方へに向けた。

「シィイッイィイイイイイ……!」

突如、猛獣の唸り声にも似た奇声が後方から響き渡ってきた。
防人と千歳が再び振り返ると同時に、トランクの向こう側からニュッと白手袋と法衣の袖に
包まれた右腕が現れた。
その手には月光に煌く“銃剣(バヨネット)”が握られている。
千歳はホムンクルスにも感じた事の無い恐怖に全身が総毛だった。
「くっ、車に、しがみついて……」
人間じゃない。しかしホムンクルスでもない。では彼は、この“神父”は、何者なのだ?
耳障りな金属音を立てて、銃剣がトランクに打ち込まれた。
それに続いて歯牙を剥き出して笑うアンデルセンの顔が現れる。
その顔はまったくの無傷である。フロントガラスに叩きつけられズタズタになった筈なのに。
「If anyone does not love the Lord Jesus Christ…」
徐々に上半身が姿を現し、今度は左手に握る銃剣がトランクに打ち込まれた。
「let him be accursed…」
更に身体が引っ張り上げられ、右脚が靴音高く車上に掛かる。
大腿骨も膝蓋骨も脛骨も粉々に砕かれた筈の右脚が。ボディを踏み抜かんばかりに力強く。
「O Lord, come…!」
車体に打ち込まれた二本の銃剣をしっかと握り、遂には全身がトランクの上に乗せられた。
147作者の都合により名無しです:2007/01/30(火) 03:14:34 ID:6yHBi9Ni0
連投規制ですか?
廃スレで支援しておきますよ
148WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/01/30(火) 03:14:54 ID:Rh/7+d7X0
樹上のジャガーのようにトランクの上にしゃがみ込んだ五体全身は、まったくの無傷だ。
狂気と闘争心と信仰心に依って見開かれたその眼が、車中の五人を捉える。
アンデルセンは右手の銃剣を引き抜くと大きく振りかぶった。

「AAAAAAAAAAMENNN!!!!」





「なっ……!」が一個多かったorz 一気にアホみたいな文章に……。
間が空いてしまい申し訳ありません。なるべく空けたくはないんですが、どうしても。
今回も遅筆っぷりと投稿量の関係から、途中で切ってしまいました。
続きはなるべく早く……。
ちなみに今回の神父唯一のセリフの和訳は「主イエス・キリストを愛さぬ者は誰でも呪われよ。
主よ、どうか来て下さい」です。

>>25さん
トップギアのアクセルベタ踏みくらいの勢いでバトルバトルバトルの展開にしたいですね。
車乗んないからどういう勢いかわかんないですけど。
基本、原作の七年前なので生死はそれに沿ったものにという事で。

>>27さん
遊びに来て頂いてありがとうございます。最近は日記も面白い事書けてないですが……。
これからも頑張ります! 一回の投稿量を抑えつつw

>>28さん
調子の方は良いような悪いような。吼えよペンから熱血分を吸収しつつ頑張ります。
でも元々熱血気質じゃないから無理が出てきたりして。
149さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/01/30(火) 03:16:32 ID:Rh/7+d7X0
ふら〜りさん
金的……金的……。思わずPCの前で丸くなってしまう……。
勇の“和”なセクシーぶりがいいですね〜。史実の人物や大和よりそちらに眼が行ってしまいそう。
それに文章による格闘描写は参考になります。自分は苦手なので……。
史実では結果がどうなるか知ってしまっているだけに、今後の展開がより楽しみですよ。

スターダストさん
剛太が本格的に話に絡み始めましたね。この頃はまだ「斗貴子先輩! 斗貴子先輩!」な剛太かぁ……。
彼の事は大好きです。共感できるところがたくさんあるし、誕生日同じだしw
しかし、まさか桜花姉さんが彼に興味をお持ちになるとは……。そしてヤキモチ焼きですな、姉さん。
まっぴーにお義姉ちゃんが二人で、しかもその二人が犬猿の仲っていう構図は面白いかも。
いや是非そうなってほしい!

>>147さん
支援ありがとうございます!
助かりましたよ〜。
150作者の都合により名無しです:2007/01/30(火) 08:20:39 ID:Mi8Fus+M0
さいさんお疲れです
神父が華麗かつ不気味に光臨しましたね
火渡との絡みが楽しみです。
ある意味同族嫌悪?
でも、火渡では強さ云々の前に格が違いそうな気がするなあ。
151作者の都合により名無しです:2007/01/30(火) 12:42:52 ID:R4xXpybp0
ホント狙ったようなタイミングで復帰してくるなw
152作者の都合により名無しです:2007/01/30(火) 12:57:51 ID:nAaOFSHS0
さいさんお疲れ様です!

ついに決戦開始ですか。
アンデルセン参戦でどうしても彼が戦闘の中心となってしまうでしょうね。
しかしアンデルセンはJudas Priestがイメージですか。神父なのに。
確かに、彼に賛美歌やゴスペルは絶対に似合わないw
153作者の都合により名無しです:2007/01/30(火) 13:49:03 ID:knYSpYeT0
>>152
……アンデルセンの所属部署がどこなのか忘れたのか?
154修羅と鬼女の刻:2007/01/30(火) 21:44:01 ID:9X+ZhClx0
>>83
楠木正成と護良親王の奮闘、後醍醐天皇の隠岐脱出。崖っぷちの幕府は、出陣を
渋っていた足利家を半ば脅迫するようにして京都に向かわせた。が、その足利家が
反旗を翻して京都の六波羅探題(幕府の西の拠点)を攻撃。これが決め手となって、
一気に全国の武士たちが立ち上がった。機は熟した、今こそ幕府を打ち倒せ! と。
その勢いの中、足利家と並ぶ名門中の名門、新田家が幕府の本拠地・鎌倉に向けて
進軍を開始。もはや西の反乱軍鎮圧どころではなくなって、幕府遠征軍は大混乱、で
崩壊、撤退、壊走、消滅。跡形なく消え失せた。
楠木正成と護良親王は、天下の鎌倉幕府を向こうに回して見事戦い抜いたのである。
「……で。あのさ、お兄さん。この戦、オレたちの大勝利と言っていいと思うんだ」
正成が最初に戦いの旗を掲げた、赤坂の地。小高い丘陵に大和と正成がいた。
二人の前には、戦死者慰霊の為に正成が立てた大きな墓が二つ並んでいる。
「何をしている。お前も手を合わせろ」
「いや、あの、その前に。このお墓について一つ質問が」
大和は目の前に立つ二つの墓を指して、正成に尋ねた。
「『身方塚(みかたづか)』と『寄手塚(よせてづか)』って書いてあるけど。この差は何?」
二つとも、これといって特徴のない墓だ。が、身方塚は小柄な女の子程度の大きさ
なのに対し、寄手塚は大和が遥かに見上げている。かなり大きい。
「ずっと一緒に戦ってきたくせに、そんなこともわからんのか」
「わかるよ。寄手ってのは敵、幕府軍のことだろ。なんで敵の慰霊碑が味方のより大き」
「幕府軍の方が死者が多かったんだ。当然だろ」
大和にみなまで言わせず、正成は言い切った。
「俺は乱れた世を治める為に戦った。皆が平和に暮らせる世を築く為にだ。が、その為
に多くの死者が出た。いや、俺がこの手で殺したんだ」
「うん、万人が認める大活躍だったよね。でも戦なんだから、敵を殺すのは当たり前で」
「戦をなくす為に、また戦だ。死ななくていい人々が大勢死んだ」
大和に大勝利だと言われても、正成は手を合わせたまま、何だか沈んだ顔をしている。
「だから敵なんだってば。それに、これで幕府が倒れて帝が天下を治めれば世は変わる
って言ってたのはお兄さんだよ。もうすぐ、全部終わるんだから元気出して」
155修羅と鬼女の刻:2007/01/30(火) 21:46:10 ID:9X+ZhClx0
「くそくそくそくそっ、何とかせねば、何とか……ん?」
浜辺に集結している新田の騎馬軍団。その中から、唐突に一人の少女が進み出た。
紅い髪と紅い衣のその少女……義貞は知らないが勇という名だ……は、その美しい貌に
何の恐怖も昂ぶりも見せず、ただスタスタと浜辺を歩いていく。新田軍のざわめきを背に、
やがて波打ち際に辿り着いた。
さすがに幕府軍も、まさかこんな少女が新田軍の兵だとは思わず、射かけてこない。勇は
ふくらはぎの半ばまで波に洗われる辺りまで来ると、歩を止めて右拳を振り上げた。
そして、
「っりゃああああああああぁぁぁぁっっ!」
轟き響く気合と共に、その拳を海中に打ち込んだ。まるで海を全て粉砕するかのような
一撃だったが、もちろんそんなことは起こらない。勇の拳は海中に突き刺さっただけだ。
幕府軍も新田軍も、少女の気迫に飲まれて声一つなく身じろ一つせず、というかできず、
ただ見守っているが別に何事もない。と思っていたら、
「な、何だっっ!?」
幕府軍も新田軍も、声を上げて身震いした。突然、いきなり、潮が引き始めたのだ。まるで
海が勇の拳に恐れをなしたかのように。
当然の成り行きとして、幕府軍の軍船がみるみる沖へと流されていく。加えて、波打ち際
が後退した為に逆茂木のない砂浜が広く現れた。その場所は、軍船が沖に流されたせいで
矢の射程外となっている。こうなれば騎馬で駆け抜けるのも簡単だ。
そんな天変地異を引き起こした張本人、勇はまたスタスタと歩いて新田の陣へと戻って
きた。兵たちが馬ごと怯える中、義貞は辛うじて馬を押さえ、その場に踏みとどまる。
その義貞の元に勇がやってきて、静かに微笑み語りかけた。
「もう……心配ありません」
156すみません、>>155:2007/01/30(火) 21:51:23 ID:9X+ZhClx0

「そうだな。この戦で散っていった者たちの為にも、俺たちでそういう世を創らねば。
というわけだから陸奥、お前も手を合わせろ。寄手塚の方にもだぞ」
「……はい」
この人は何というか……その……いい人、なんだなぁ。とか思いつつ大和も手を合わせた。
「約束したから最後まで手伝うけど。オレともう一度やるっていう約束も忘れないでくれよ」
「ああ、ちゃんと覚えてるから安心しろ。幕府が倒れるのも時間の問題だ、長くは待たせん」
「ならいいけど。約束を破ったら、我が国に古来より伝わる厳罰を課すからそのつもりで」
「?」
くい、と正成の小指に自分の小指を引っ掛けて、大和はそれを目の高さで上下に振った。
「針千本。飲ませるからね」
「……ははっ」
正成が小さく笑った。
「わかったわかった。伝説の陸奥との約束、違えるのは武人として恥だからな」
「ん、よろしい」
二人は並んで、丘陵を降りていく。
……二つの墓に祀られた霊たちは、大和と正成の行く末を見通しているかのように、
重い沈黙で二人を見送っていた。

腐っても幕府、本拠鎌倉の守りはやはり並ではなかった。鎌倉へと続く稲村ガ崎の海岸
には幾重にも逆茂木(人馬を阻む罠)が仕掛けられ、砂浜の進軍は不可能。といって
波打ち際を進もうとすれば、幾百もの軍船から矢の雨が降ってくる。こちらに船はないし、
もちろん泳いで軍船に向かっていけばいい的。どんな豪傑でもあっという間に針鼠だ。
「ぬぬぅ……」
一族郎党を率いて兵を挙げた新田家の棟梁新田義貞は、進むも退くもならず歯軋りして
いた。先祖代々何かと因縁のある足利家が六波羅を潰そうとしている今、鎌倉占領に
手こずっていては新田の家名が地に落ちる。倒幕後の、天下の主導権も奪われるだろう。
というか、何はさておき足利にだけは負けたくないのだ。もし足利家が天下で一番身分の
低い家柄であれば、新田家は二番目に身分低くていい。天下なんか取れなくてもいい。
義貞は、そういう男なのである。

157で、こっちが>>155の次:2007/01/30(火) 21:53:41 ID:9X+ZhClx0
と一言。平然と語るその少女を見て、義貞の全身に改めて心から震えが走った。
義貞とて新田家の棟梁、並の武士よりは遥かに教養がある。今、目の前で起こった現象
が本当にこの少女の拳によるものだとは思っていない。おそらくは諸葛孔明が赤壁の戦い
にて行った東南の風の祈りと同じもの、現実は純然たる自然現象だ。そうに違いない。
とは思うのだが、しかしそれにしても、この少女の自信に満ちた微笑はどうだ。
『己の拳をもってすれば海すらも退けられる……一片の曇りもない、天下最強の自負……』
ごくり、と唾を飲み込んで義貞は尋ねた。
「お、お前は何者だ?」
「……勇と申します。が、わたしのことなどどうでもよろしいでしょう。今の新田様に
とっては、足利に遅れを取らぬことこそが肝要なのでは?」
足利。その名に義貞は反応し、一気に冷水を浴びせかけられたかのように気を取り直した。
「そ、そうだっ! この機を逃してはならん! 皆の者、いくぞおおおおぉぉっ!」
流石に天下に響いた新田家の軍団、義貞の号令が響くと一斉に応! を返した。
義貞を先頭に、新田の誇る騎馬軍団が稲村ガ崎を駆け抜け、鎌倉へと突撃していく。
軍船に多くの兵力を割いてしまった幕府軍に、それを止めることはできない。あっと
言う間に鎌倉は攻め落とされ、新田家の手に落ちた。
かくして。源頼朝以来、百五十年間続いた鎌倉幕府は滅び去ったのである。

「やれやれ、これからも頑張って下さいよ新田様。あなたは相当に無理をしないと、
自身の実力も家臣の能力も天の運も何かも、足利様には敵わないのですから」
炎に包まれる鎌倉の地を眺めながら、勇は呟いた。
何はともあれ、これで熟れ過ぎて腐りきった果実は落ちた。じきに新しい実がなるだろう。
新田義貞と足利尊氏と、楠木正成と護良親王と、後醍醐天皇と、多くの人々によって。
「ふふ。早く齧りたいものですね……新しい天下の実を」
鎌倉の街を燃やす炎にも負けないぐらいに紅い舌が、勇の唇をチロリと舐めた。
そう、新田には頑張ってもらわねばならない。でないと、実が美味しくならないから……
158ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/01/30(火) 21:56:54 ID:9X+ZhClx0
なぜか二レス連続書きこみすらできなくなってて……すみません。154→156→155→157
と読んで下さい。で、これまた『天皇の忠臣・新田義貞の名場面』なのですが勇に頂きました。
今後もですが、義貞を小者扱いしてしまいますがそれは物語の都合、他意はございません。
今回書いた通り、彼は彼で一途で熱血で単純なとこが正成や尊氏とはまた違った
魅力の人です。

>>サマサさん
早速の新連載、おつ華麗様です! 以前言われた通り、シリアスな桃伝って想像もつき
ませんが、知らぬはアスランやプリムラとて同様。元ネタ知らずでも、オリジナルとして……
ではなく、知ってるような気分で楽しめるのがサマサさんSSの魅力。本作も期待してますっ

>>スターダストさん(ここんとこ頻繁なアク禁は困りものですな。どこの困り者のせいだっ?)
秋水、やっぱりギャルゲ的環境だなぁと再認識。名前を出せない部分、桜花に「美人」表記
がされてますが、無論他の女性陣だって劣らずなわけで。そんな彼女たちから好意も嫉妬も
浴びて、でも当人にその認識は甘く。その辺は剛太の方がオトナというか男なのかも、とか。

>>NBさん
ここんとこ肉体的にも精神的にも血生臭いのが続いてましたが、ザコが一掃された直後に
また更にアブなそうな気配。スヴェンが崩されることはないでしょうし、イヴとシンディも何
とか仲直りできそうですが、マリアがシンディを庇って戦死、ぐらいはありそうで……ちと怖い。

>>さいさん
>“神父”だ。
ぃやっぱり来たっ! サムナーの怖がりっぷりからして、彼しかあるまいと思ってましたよ〜。
こういうのは期待の的中が心地よいお約束展開ってやつで。ヒロインのピンチにおけるヒー
ローの登場のような。しかし出たのはスプラッタ映画的バケモノ。さ〜いよいよだぞ錬金ズ!
159作者の都合により名無しです:2007/01/30(火) 22:10:19 ID:oalqZqEM0
ふらーりさんお疲れ様です。
新田義貞って聞いた事はあるけど、こんな感じの方だったのか。
単純で熱血で、いかにももののふって感じですね。
160作者の都合により名無しです:2007/01/30(火) 22:53:29 ID:utiTnn2N0
正直、錬金戦団側が生き残るのが想像出来ない。
どうやっても神父にくびり殺されそうだ。
161作者の都合により名無しです:2007/01/31(水) 08:15:28 ID:X8GFUZTL0
力作だなあ、ふら〜りさん
本編終了後でもいいので修羅の刻でお約束の
年表をつけてほしい
162作者の都合により名無しです:2007/01/31(水) 20:58:54 ID:tJK2UnCN0
語ろうぜスレの961ってふらーりさん?
パスワードで読めないんですけど。
163作者の都合により名無しです:2007/02/01(木) 08:15:28 ID:fCsmz/V40
語ろうぜスレに書いてあったよ
164作者の都合により名無しです:2007/02/01(木) 22:08:24 ID:DniWLjjC0
一気に復活してまたパタッと止まるパターンかw
ひっきりなしに作品が来るパターンになってほしいがな。
165お得:2007/02/02(金) 00:01:00 ID:F15Q6tkc0

有料情報を無料で大公開!!!
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月収 100 万以上も可能!!!
166作者の都合により名無しです:2007/02/02(金) 22:02:29 ID:XDppx1i10
また来なくなるパターンか。
たまにはNBさん、週に2回とか書いてくれないかな・・
あとミドリさんやサナダさんやハイデッカさんも来ないな・・

しかしなんでバキスレはそれまでさっぱり来ないのに
来始めると一気に4本くらい立て続けに来たりするんだろう
ライバル意識とか、逆に仲間意識とかあるんかな?
167作者の都合により名無しです:2007/02/03(土) 23:15:27 ID:LyoJyBBA0
サナダさん心配だねえ
168作者の都合により名無しです:2007/02/04(日) 18:30:44 ID:8pPwWxAi0
作品期待上げ
169修羅と鬼女の刻:2007/02/04(日) 22:22:19 ID:wHrkv9Ft0
>>157
鎌倉幕府は倒れ、後醍醐天皇の指揮による新しい政権が京の都・平安京にて
立ち上がった。後に、大化の改新・明治維新と並び称されることとなる
日本史上三大革命の一つ、「建武の新政」である。
もちろん、そんなものがそう簡単に順調にいくわけはない。まして今回は、都の周辺が
一番の激戦区となったのだ。街は荒廃し畑は荒らされ、人々は貧窮の中にいる。更に
主君を失った武士、手柄報告に鼻息荒い武士、どさくさに紛れて他人の領地の所有権を
奪おうとか企む武士、などなどが京に集結して戦々恐々。そしてそんな彼らの中から、
夜盗や辻斬りなどをやらかす者が続々出てくる始末。
大化の改新や明治維新もそうだったが、日本の夜明けはまだまだ遠いようである。

夜の平安京。屍肉を貪る野犬の遠吠えが聞こえてくる、とある街角にて。
月の光を弾きながら、白刃が一閃した。確かに一閃だった。が、甲高い金属音が二つ
響いて、叩き折られた刃が二枚、宙を舞う。
その持ち主である二人は、短くなってしまった自分たちの刀を見つめて呆然としていた。
その隙を逃さず、再び白刃が一閃。確かに一閃としか見えないのだが、二人の肩口が
猛烈な力で叩かれた。痛いのを通り越した鋭い麻痺に襲われ、二人は悲鳴を上げて
折れた刀を落とし、後ずさった。その背に、半分壊れた錠前と分厚い扉が当たる。
本来なら今頃、この蔵を破って金品をごっそり頂いていたはずだったのに……。
「お前たちの顔、しかと覚えた。明日までに必ず自首せよ。今ならばまだ未遂で済む。
だが、自首しなかった場合は草の根分けても探し出し厳罰に処す故、覚悟いたせ」
二人は、だんだん熱を帯びてきた肩の激痛に顔を歪めながら言い返した。
「な、何を偉そうにヌカし……」
「……って、え? お前もしかして……」
月明かりの助けを借りて、その若者の人相をよくよく分析した二人は顔色を変えて、
「かっ、かかかか必ず自首しますっっ!」
脱兎の如く逃げ出した。と言ってもお上の追求から逃亡する気などない。言葉通り、
自首するつもりである。でないと、現在この平安京に駐留している軍の何割かが
自分たちを包囲することになる。そういうとんでもない事態が実現しかねないからだ。
170修羅と鬼女の刻:2007/02/04(日) 22:23:20 ID:wHrkv9Ft0
だって、この若者はそれができる男なのだから。
「ようやく訪れた新時代。後醍醐帝が平和な世を築くまで、我らは一丸となってそれを支え
ねばならない。と私は思うのだが、そこのお前。もし邪魔するのならお前も叩き伏せるぞ」
「……あはは。何だかこれって、お兄さんとの出会いを思い出すなぁ」
ほりほりと頭を掻きながら、大和が柳の陰から出てきた。
「そういや、あの時はそのまま、お兄さんと戦ったんだっけ」
「む。貴殿は確か、楠木殿の」
「陸奥大和、だよ。オレはあんたのことはよく知ってるぜ、足利家の棟梁尊氏さん」
尊氏は、刀を鞘に収めた。大和が楠木正成の臣下として幕府軍との戦いで手柄を挙げた
(と世間では思われてる)のは知っているからだ。
その正成は、畿内の散発的な反乱を鎮めるべく、倒幕後も休みなく軍を率いている。
「これは失礼した。して陸奥殿、貴殿は楠木殿と共におられるとばかり思っておりましたが」
「オレもそうするつもりだったんだけどね。お兄さんがさ、この辺りの地勢は知り尽くしてるし、
小規模な賊の反乱如き恐れるに足りない。お前は足利殿の手助けをし、都の治安回復に
努めてくれって」
「ほう、それはそれは。心強いことです」
「でも手伝えなんて言われちゃ、足利さんと戦えないよなぁ。あんな腕前見せられたのにさ」
残念そうに言う大和の様子に、尊氏はぷっと吹き出した。
「なるほど。楠木殿から聞いていた通りの御仁ですな、貴殿は」
「って、どんな風に聞いてたのか気になるんだけど」
「ん、まあ、純粋な武人だと」
絶対それだけじゃなさそうな声と顔で尊氏は答える。
「しかし元々、挑まれても受ける気はありませんぞ陸奥殿」
「だろうなと思うよ、オレも」
え、と尊氏が聞き返すまでもなく、先の二人が逃げ去った方を見ながら大和は言った。
「本気で後醍醐帝の天下を死守しよう、とだけ考えてるなら、あの二人はこの場で
斬り殺せば良かったんだから。足利さんもお兄さんと同じく、ムダに人は殺したくない、
できれば戦いなんてやりたくないってクチでしょ?」
171修羅と鬼女の刻:2007/02/04(日) 22:24:39 ID:wHrkv9Ft0
「……そうですが、それだけではありませぬ」
尊氏も大和と同じ方を見つめて、言葉を続ける。
「彼らとて被害者なのです。今、日本中の武士たちが鎌倉幕府の悪政と此度の戦とに
よって傷つき、苦しんでいる。そんな彼らを救うことこそが為政者たる者の使命」
「ふうん。為政者、か。足利さんは身分が高いから、そういうことも考えなくちゃ
いけないってわけだ」
「左様。私は日本中の武士たちに対して責任があります。源氏の正統を継ぐ者として、
旧幕府に代わって皆の生活を守る責任が」
源氏を継ぐ者。それは、遡れば天皇家にも繋がる者ということだ。正成や、まして大和
(つまり陸奥家)から見れば、身分的には雲の上のお星様の話である。
だから、そういう話をされても大和にはピンと来ない。
「ま、オレはお兄さんとの約束があるから。後醍醐帝の治める平和な世が実現すれば、
また戦うって約束がね。その日の為に、手伝うよ足利さん。よろしくっ」
「こちらこそ。その日が一日も早く来るよう、共に励みましょう」
天下の平和の為に、まずは首都たる京の平和を確固たるものにする。大和は尊氏と
誓い合って別れた。一刻も早く一人でも多く、苦しむ人を助けて悪人を成敗して、
そして何より、道を踏み外そうとする人を引き止めねばならない。
しかしまあ、それはそれとしてだ。
「む〜。足利さんとも戦ってみたいなぁ。鎌倉幕府には大した奴はいなかったし……
あ、そこのお前っ! 待てぇい!」
ぶつぶつ言いながらも、大和は街の巡回を続ける。尊氏に協力して、正成との約束を
果たすために。幕府が倒れて訪れた、この新時代を立派に築き上げるために。

建武新政府は未だ完全なものではなく、まだまだ世は乱れている。だが皮肉なことに、
今この時こそが尊氏と正成、そして大和の三人にとっては、一番平和で楽しかった
時代となってしまう。
既にこの平安京の中で、災いの種は育てられていたのだ……彼女の手によって。
172ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/02/04(日) 22:26:15 ID:wHrkv9Ft0
むぅ、私のSSが続いてしまうとは。自分で言うのも何ですが本末転倒というか。何というか。
さておき、この時代は非常にいろいろと特異で面白く、なのに他の二大革命と比べると
ケタ外れにマイナーで、そこがまた私の好みに合ってて(?)。本当に好きなんです。
>>161さんのリク、最終回でお応えしますゆえ。この時代に興味を持って下されば幸いです。
173作者の都合により名無しです:2007/02/05(月) 10:02:19 ID:3+JVdIQo0
161です
年表つけてくれるんですか。嬉しいです
ある意味、SSより大変だと思いますが、
楽しみに待っております
174作者の都合により名無しです:2007/02/05(月) 18:05:59 ID:BwVB+Fv90
ふらーりさん乙。
確かに建武の新政は明治維新や江戸幕府の始まりに比べると
影が薄いですな。俺もそんなに知らないです。

大和や正成がどう動くか、無知の状態から知るのも楽しいかも。
175作者の都合により名無しです:2007/02/06(火) 03:01:49 ID:SmmilX0lO
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!
176特報なり〜:2007/02/06(火) 03:03:12 ID:SmmilX0lO
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!

パオさん復っっっ活!!!!
177激報なり〜:2007/02/06(火) 03:04:24 ID:SmmilX0lO
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!
サイヤンも復活
178作者の都合により名無しです:2007/02/06(火) 03:06:11 ID:SmmilX0lO
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!
パオさん復っっっ活!!!!
サイヤンも復活

パオさん復っっっ活!!!!
バレも復活

パオさん復っっっ活!!!!

パオさん復っっっ活!!!!

高二も復活←覚えてる?

パオさん復っっっ活!!!!

パオさん復っっっ活!!!!
179作者の都合により名無しです:2007/02/06(火) 08:13:23 ID:EbHMyMAW0
この時代に、陸奥とやり合えそうな武将って誰かいるだろうか
180作者の都合により名無しです:2007/02/06(火) 19:12:04 ID:5B0oSdod0
必殺武術、天皇拳炸裂!!
181作者の都合により名無しです:2007/02/06(火) 21:47:03 ID:PsKnlhim0
聖徳太子によって編み出されし、その名も十七条拳法!!
182作者の都合により名無しです:2007/02/06(火) 22:11:25 ID:Vb8KBMGz0
サナダムシさん、そろそろ復帰してくださいな
183フルメタル・ウルフズ!:2007/02/06(火) 23:44:20 ID:y0sh4GGw0
第19話 漢気
美樹原邸ーーー
一昔前の和風の屋敷があった。
屋敷は広い。
正門から屋敷の扉まで5分かかる。
今その屋敷の応接間に播磨拳児は座っていた。
ガラリと障子が開らかれた。
男が現れた。
「呼んでおいて待たせてすまないね。播磨君だったか。・・・・娘と何かあったと聞いたが。」
男が言った。
「ええ・・・さっきバイクで走っていたら驚かせてしまって。しかし別に大した事は無かったんです。自分が彼女を
驚かせてしまったのは詫びます。」
播磨は一通り説明するとペコリと頭を下げた。
「播磨君。君ももう高校生だから唯謝ればいいというものでは無いんだよ。本当に悪いと思っているのなら誠意を見せて貰うよ。」
男の口調が硬くなった。
播磨は不安だった。
この見るからに“組”の長らしい男が言う誠意を見せる行動とはどのようなものなのか。
まさか組に入れというのか。
断ったら何されるかわからない。
「何をすべきなのですか。」
播磨は聞いた。
「そうだね。今度私達がプロレスの会場を提供するんだけど・・・それに参加してくれないかな。マスクマンとして。」
「自分にプロレスをやれ、と。」
「ああ。心配しないでくれ。君には怪我をさせない様にするから。」
プロレスで怪我無く試合をする。
確かにプロレスには荒唐無稽な技があるという事ぐらい播磨でも知っている。
だがそれをかけられても平気なのはプロレスラーがタフだからなのではと播磨は思っていた。
「それはいつなのですか。」
「この後、組の者と一緒にこちらが紹介するプロレス団体に出向いてくれ。」
「わかりました。」
184作者の都合により名無しです:2007/02/06(火) 23:46:08 ID:y0sh4GGw0
丁寧に礼をすると播磨は部屋から退出し、屋敷から出て行った。
「組長・・・彼をどう思います?」
「根は正直そうな人間だ。やってくれるだろう。」
美樹原組の主は遠い目で景色を見つめていたーーー


数十分後ーー播磨はとあるプロレス団体の事務所にいた。
「つまり・・・私達、東海プロレスとFAWとの試合に彼を出して欲しいと?」
「はいそうです。」
東海プロレスの職員はちょっと考える仕草をした。
名も無き一般人を連れてきてソイツに参加させろというのだ。
そんな話が通る事自体珍しい。
「うーむ。そうだねえ。実は今日ウチの選手が風邪で休んでるんだよね。その代理・・でいいかな。マスクマンなら顔はわからないだろうし。」
「よろしくお願いします。」
組員は恭しく頭を下げた。
「あの・・・質問してもいいですか?」
播磨が聞いた。
「どうぞ。」
「試合の相手は誰なのですか?」
「グレート巽だよ。」
職員の言葉に播磨は愕然とした。
グレート巽。
かの有名なFAWの社長。
それと闘えというのか。
「播磨君。安心してくれ。」
組員が言った。
「安心しろって・・。」
「あー安心して下さい。試合の内容はあらかじめ決めてあります。あなたが負けて彼は勝つんです。」
職員が穏やかな口調で言った。
「手加減して貰えるでしょうか?」
「そうですねぇ。ま、本気ではありませんし。投げも打撃も手加減しますよ。こういう場合は。」
185作者の都合により名無しです:2007/02/06(火) 23:47:27 ID:y0sh4GGw0
「バレないでしょうか?」
「うーん。話したら恐らく試合自体無くなるでしょうねえ。とりあえず今日なので準備をして下さい。」
「わかりました。」
播磨は組員と共に礼をすると建物から出て車に乗った。
彼は今冷や汗をかいていた。
大勢の人の前であのグレート巽と戦うのか。
恐怖だ。
(やるしか無いんだよな・・・)
時刻はもう昼を回っていた。
「播磨君。会場に向かうか?それともどこかで食事でもするかな?」
「会場に行ってください。」
車は走り出した。


夜になった。
会場は人で埋め尽くされていた。
FAWは今や日本で知らない人はいないと言われる程有名なのだ。
今日のカードは

川辺VSショムニアサンダー
梶原年雄VSハリケーンマックス
グレート巽VSハリーマッケンジー。

歓声と音楽が入り混じった会場は興奮のるつぼだった。
皆顔を赤くして選手の名を呼んでいる。
既に川辺と梶原の試合は終わっていた。
今はメインイベント、グレート巽の試合だ。
「ねぇ、烏丸君。知ってる?グレート巽ってね、本当に強いらしいよ!」
「うんわかるよ。彼の筋肉、テクニック、スタミナ、どれをとっても強いクラスだもの。」
一組の高校生ぐらいの男女が会話をしていた。
男子はおかっぱ頭、女子は小柄で髪は黒かった。
186作者の都合により名無しです:2007/02/06(火) 23:48:16 ID:y0sh4GGw0
そのすぐ傍で今度は一人の男子高校生と二人の女子高生が話していた。
「すごかったわねー!梶原さんって実はいい人だったんだ!」
「私のボディーガードをしてくれる人ですし・・やさしい人でもありますから。」
「演技だ・・・。」
「へ?」

ーーー選手控え室ーーー
「では播磨君。健闘を祈ります。」
美樹原組の男が播磨の傍に立っていた。
播磨はその言葉に頷くとマスクを被った。
体には衝撃を吸収するオーバーボディを纏っている。
いくら手加減すると言っても相手はマッチョなのだ。
平均よりちょっと筋肉が多い程度の播磨では肉体に危険が及ぶ。
それを防ぐ腕の処置なのだ。
播磨は黙って部屋を出ると花道に立った。
緊張で体を震わせながら唾をゴクリと飲み込む。
直後、彼の目に一人の少女の姿が映った。
彼は目を疑った。
(天・・・満・・・ちゃん?)
地獄に仏というのはこういう事かも知れない。
信じられない事に彼の想い人、塚本天満がこの試合を見に来たのだ。
(やぁぁってやるぜ!天満ちゃんの為ならあのグレート巽とも真剣勝負をしてやるぜ!)
プレッシャーではちきれそうな心に希望が生まれた。
播磨は堂々と花道を渡り、リングに上がった。
「ハリィィィィマッケンジィィィィ!」
コールがされた。
「グレィトォォォォ巽ィィィィィ!」
グレート巽がリングに上がった。
播磨は先程の緊張が嘘であったかの様にグレート巽を睨み付けた。
やってやる。
187作者の都合により名無しです:2007/02/06(火) 23:49:06 ID:y0sh4GGw0
やってやるぞ。
両者はリングの中央で止まった。
“始め!”
播磨は身構えた。
グレート巽は無表情に播磨を見た。
パシン。
乾いた音がした。
巽のジャブが播磨の肩に当たったのだ。
続いてローからストレートのコンボ。
播磨は防御をせずに受けた。
更にバックスピンキック。
播磨の体が数センチ後ろに下がった。
直後、巽は踏み込んで播磨の体に関節技を仕掛けた。
「お前…代わりだな。」
「よくわかったな。」
巽にはわかっていた。
一般人とレスラーの違いはリング上でよくわかる。
試合時の体の動かし方や攻撃を食らった反応でも。
「何故こんな事を。」
「あなたにはわからないでしょうね。」
巽は播磨をロープに投げ飛ばした。
そしてドロップキック。
播磨の体がロープによりかかり、床に倒れる。
「熱意は本物だな。見せてみろ。受けてやる。」
「感謝しますよ。」
播磨が巽のボディを殴る。
そしてミドルから膝蹴り。
播磨は一時期喧嘩に明け暮れた時期もあったのだ。
つまり今彼のリング上でのファイトスタイルは喧嘩スタイルだ。
だが・・・肉体の差は歴然としていた。
どの攻撃もダメージらしいダメージを相手に与えていない。
にも関わらず会場は盛り上がっていた。
188作者の都合により名無しです:2007/02/06(火) 23:52:02 ID:y0sh4GGw0
巽がいかにもダメージを食らっているかの様に演技をしているのだ。
播磨の膝蹴りを食らった瞬間、巽は自分から後ろに飛んだ。
ロープにもたれかかり、相手を睨む。
(次は俺がそうする番だな。)
播磨にはリング上の空気が読めていた。
巽のジャブとフックが播磨を襲う。
肩、胸、腹、脇。
顔を除く上半身の全てを殴られ播磨は距離をとった。
「すげえぇ!巽と互角にやり合ってる!」
「こりゃ凄い新人だ!」
観客は次々と歓声を上げた。
(互角なものか。)
播磨は心の中で自嘲した。
これがもし喧嘩だったら自分は10回ぐらいダウンしている。
(・・・・そろそろ終わる時だな。打ち合わせだと関節でタップ負けだったな。)
ふと彼の目に女の子の姿が映った。
何と塚本天満は最前列でこの試合を見ていたのだ。
この格闘技の試合とは形容し難い茶番を。
(見ててくれよ。天満ちゃん。俺の闘いを!)
「うおお!」
播磨はこの試合で初めて声を張り上げた。
全速力で踏み込み、蹴りからストレートのコンボを相手の鳩尾に叩き込もうとする。
が・・・蹴りは受けられ、ストレートも防がれた。
そのまま腕を極められ、アームロックの体勢に持ち込まれる。
「威勢は良かったな。踏み込みも。」
「へへへ・・・喜んでくれてますかね?」
「ああ・・・。」
播磨は巽の腕をポンポンと叩いた。
タップの合図だ。
「勝者!グレート巽ィィィ!」
審判が声を張り上げた。
189作者の都合により名無しです:2007/02/06(火) 23:53:14 ID:y0sh4GGw0
ーーー試合後ーーー
「ご苦労だった。播磨君。送るよ。」
「いや。いいですよ。自分の足で帰ります。」
「そうか・・・。お大事にな。」
美樹原組の男は出て行った。
数分後、播磨はふーっと息をついた。
試合の緊張が今やっと解けたのだ。
水を飲んで部屋から出て行こうとしたら、二人の男女の会話が聞こえて来た。
「最後の試合凄かったよね。あんたに叩かれてたのに全力で向かってって。男らしかったな。」
「うん。度胸が無いと出来ない事だよね。」
塚本天満と烏丸大路の声だった。
(俺には見てくれた人がいるんだ!これ程嬉しい事は無い!)
播磨は人生で生まれて初めて嬉し涙を流した。
二人の男女が遠ざかったのを確認すると彼は会場の外に出て空を見上げた。
満天の星空という言葉があるが今夜の空は正にそれだった。
(この星空をいつか天満ちゃんと一緒に見たいな・・・)
少年の願いは叶うかどうか・・・今は誰にもわからない。





後書き
バキスレの皆さん お久しぶりです
去年の12月に復帰する予定だったのですが事情があり今の今まで書けませんでした。
何卒お許し下さい。
190ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/02/07(水) 02:08:32 ID:fyPQ3wlv0
序章・2 ギガゾンビ、再び

異世界の少女、桃華とテラを始めとする四人が出会った瞬間から、少し時間軸をずらして。
ここは未来世界のとある場所。そこには厳重な警備が敷かれた巨大な建物があった。
それはタイムパトロール直轄の刑務所。時間犯罪者のみを集めた特殊施設。
そこで、歴史を揺り動かすほどの大事件が起きようとしていた―――!

それは、ドラム缶だった。誰がどう見たってドラム缶だった。言い訳のしようもなくドラム缶であった。
但し、ただのドラム缶ではなかった。全長数十メートルはあろうか。途方も無くデカかった!
そして、全身に取り付けられた凶悪な武装の数々。砲門・ミサイル・何でもござれ!
何よりも―――ドリル!腕の代わりなのだろうか、規格外にぶっとい凶悪なドリルが激しく自己主張していた。
そんな途轍もないドラム缶が、今まさにここで、大暴れしていたのである!
その猛威の前に、屈強な看守や警備員たちも逃げ惑うばかりであった。
「な・・・なんなんだアレは〜〜〜〜〜!?」
「ははは・・・こりゃ夢だ・・・夢だようん・・・ドラム缶が・・・そんなわけないって・・・ははは・・・」
あまりの事態に現実逃避する者まで現れる始末である。そんな彼らを悠然と見下ろし、ドラム缶の中で一人の男と少女が
高笑いする。
「ふっふっふっふ・・・はっはっはっはっ・・・ひゃ〜〜〜〜ははははは!こんの凡人共めが、我輩たちと戦おうなどとは
片腹痛いのであーる!ん・・・あれ・・・ほんとにズキズキする・・・というわけで心配なので病院行って検査を受けたら
悪性腫瘍発見!ガーン!」
「しかしその時少女の涙が奇跡を呼ぶロボ!頬に落ちる純粋なる涙によって博士復活!腫瘍はさっぱりなくなったロボ!
そして博士は叫ぶロボ!お前が好きだ!お前がほしいぃぃぃぃーーーーっ!」
「我輩たち大勝利!希望の未来へレッツらゴー!であーーーーーーる!」
「何言ってんだこいつらー!?」
エキセントリックを通り越して何だかよく分からないオーラを放つ、近づきたくない(近寄りがたいとは意味が違う)
タイプの男。白衣に身を包み、科学者然としてはいるが、その肉体は格闘家顔負けに無意味に逞しかった。
彼は触覚状になった髪の毛をピコピコ動かし、とても放送出来ないような笑顔で手にしたギターを激しく掻き鳴らし、テロ
行為に精を出していた。そして奇妙な語尾で個性をアピールしている少女。見た目はかなりの美少女だが、その実態はこれ
である。やっぱりお近づきにはなりたくない。
「ちくしょう貴様ら、何者だ!?名を名乗れ!」
勇敢な警備員が(よせばいいのに)一歩前に進み出て、ビシッと指差しながら言い放った。
191ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/02/07(水) 02:09:20 ID:fyPQ3wlv0
そしてそれに対する返答は―――
「名無しキャラめ!死ねェであーる!」
ミサイルが飛んだ。直撃した。
「ぎゃああああああーーーーーっ!」
―――教訓。名無しキャラがかっこいいことをすると、死亡フラグが立つ。
「ふっ・・・心配するな。我輩は無益な殺生は好まぬ。峰打ちであーる!」
「ミサイルぶち込んどいて何が峰打ちだー!?」
しかし実際にミサイルをぶち込まれた男はちゃんと生きていた。もう何ていうか、そう、理不尽だった。
「まあそいつの言うことにも一理ある。我輩としたことが名前も名乗らずこりゃ失礼!でもそんなお茶目さんなところが
我輩の萌え〜なポイントというかチャームポイントというかそんな感じだと思うのであーる!テヘッ!
というわけでまずは自己紹介といくであーる!皆様初めまして!我輩はあなたの街のマッド・サイエンティスト!その名も
ドクタァァァァァァァ・ウェェェェェェェスト!であ〜る!今後とも一つよろしくであーる!」
「そして博士製作の人造人間にして助手のエルザだロボ!不束者ですがよろしくロボ〜!」
その名を聞いた者たちは、一様に顔を強張らせた。
「ドクター・・・ウェスト・・・!?ま、まさか・・・あの・・・!」
―――その名は誰もが知っていた。未来世界に生きるものなら、まず誰であろうと一度は耳にする程の名前だ。
曰く、学問の歴史を悉く塗り替えた男。
曰く、人類史最高の天才。
曰く、空前絶後の頭脳。
曰く、神すら打ち破る大科学者。
曰く、常識の壁を軽々とぶち砕く偉大なる可能性。
曰く―――その全ての賞賛をぶち壊してなお余りあるキ○ガイ!
「ひゃーはっはっはっは!国家権力の犬共めが!この大・天・才!ドクター・ウェスト製作のスーパーウェスト無敵ロボ
28號〜そしてとし子は今〜の前に砕け散るであ〜る!」
「とし子って誰ー!?」
看守や警備員たちのツッコミを無視して、巨大なドラム缶―――スーパー(略)はドリルを振り翳して暴れまわる!
「ふははははははは!バキスレ進出記念にいつもより多く廻しておりま〜〜〜〜す(ドリルを)!」
「運命の歯車もまたこのドリルのように廻り続けるのみだロボー!」
エルザもまたウェストに劣らずノリノリであった。
そして、この凄惨でありながら恐ろしくシュールなテロ行為の陰で、蠢く者たちがいた―――
192ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/02/07(水) 02:10:07 ID:fyPQ3wlv0
「ちくしょう・・・不届き者め!」
ちょっと暑苦しい顔をした若い警備員―――名前は仮にネスとしよう。どうせこの場限りだ―――が、毒づきながら同僚と
共に刑務所の通路を走り抜ける。外でドラム缶とキ○ガイが暴れている・・・そんなわけの分からない事態にパニックに陥り
ながらも、ネスは使命感に燃えていた。
彼は職務精神の強い男である。そんな彼の仕事場を土足で荒らすような輩を、捨て置くわけにはいかない!
そしてネスは、己を奮い立たせようと、吼えた。
「俺たちに喧嘩を売ったこと・・・後悔させてやる!」

「―――へえ、後悔させてもらおうじゃないのさ」

突如響いたその声に、ピタッ、と全員の足が止まる。そして物陰からゆっくりと姿を現したのは―――
「・・・子供、だと?」
立っていたのは三人の子供。ゴスロリ服とでも言うのか?奇妙な印象の服に身を包んでいた。内訳は少女が二人に
少年が一人―――そう、ティス、デスピニス、ラリアーだ。
もっともネスたちには、彼女らの名前など知ったことではなかったが。
ティスはニィッと、不敵な笑みを浮かべた。
「ボーっとしてんじゃないよ―――おじさん!」
瞬間、彼女の小さな体躯が弾丸の如き速度で飛び込んできた。標的になった警備員はそれに反応する間もなく、腹部に
強烈な掌底を喰らって悶絶する。
それに続き、更に二人が宙を十数メートルほど吹っ飛んでいった。直前まで彼らが立っていた場所には、デスピニスと
ラリアーが代わりに存在していた。一連の動きを見切れた者は、誰一人いない。
一体どうすればこんな速度で動けるのか、一体どうすればこんな小さな子供が大の大人を吹っ飛ばせるのか―――
真っ先に考えられるのはひみつ道具の使用だが、それはない。この建物内部には脱獄防止のため、職員登録されている
人物以外はあらゆるひみつ道具の類が使えないように特殊な電波が流されている。
つまり―――この子供たちは、素の状態であれだけの動きができるということだ!
「き、貴様らぁっ!」
相手がただの子供ではないと認識し、一斉に銃を引き抜く警備員たち。
「―――大人しく投降しろ!でなければ・・・」
193ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/02/07(水) 02:11:07 ID:fyPQ3wlv0
「無駄ですよ」
ラリアーがあっさりと言い放った。
「そんな物じゃ、僕たちは殺せない。だから、通してくれませんか?僕たちだってあんまり手荒なことはしたくないん
です。さっきの人たちも、命に関わるような痛めつけ方はしていません。だから―――」
「ふざけるなっ!」
激昂した一人が引鉄を引き、それが伝染したように一斉に銃弾が放たれた。それは三人の身体を容赦なく襲い―――
「・・・だから・・・無駄だって言ったのに・・・」
何も、起こらなかった。何も―――起こらなかった。変わっていることとすれば、デスピニスが凄まじい速度で腕を
動かしていたことくらいだ。
目を丸くする警備員たちの前で、デスピニスが握り締めていた掌をゆっくりと開いた。ポロポロと何かが落ちる。
「こんなものじゃ、私たちには届かない―――遅すぎる」
それは、漫画やアニメではよく見る光景だった。音速で飛んでくる銃弾を、素手で掴み取る―――
しかしそれを、現実に行える怪物がいようとは。
「あ・・・あ・・・」
言葉にならない呻き声を漏らしつつ、ネスはそれでも、銃を向けた。例え相手が何者であったとしても、背を向ける
わけにはいかない。彼は本当に、職務精神の強い男だった。
―――しかし、それは目の前の理不尽そのもののような相手には何の意味もなかった。
全員が打ち倒されるのに、それから十秒もかからなかった。
194ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/02/07(水) 02:11:55 ID:fyPQ3wlv0
―――そして。
「テラ姉、済んだからもう出てきていいよ」
事が終わって、ティスは不意に物陰に向かって呼びかけた。警備員たちは気付かなかったようだが、そこにはもう
一人隠れていたのだ。出てきたのは、清楚な雰囲気の美少女―――テラ。
彼女は倒れた警備員たちを気遣わしげに見つめる。それを感じ取ったのか、ティスはぽりぽりと頭を掻いた。
「心配しなくても、気絶させただけだよ。殺しちゃいないし、後遺症が残るようなこともしてない」
「だからといって・・・あなたたちは、それでいいの?」
テラはポツリと呟く。ティスたちは、ぎょっとしたように顔を見合わせた。
「いくらお父様のためでも、こんなこと―――」
「言わないで、テラ姉さん」
ラリアーがテラの言葉を遮った。
「僕たち三人は、あの方に<造っていただいた>んです。だから・・・」
「私たちは、あの方のお役に立ちたい・・・それだけです。例え、それが悪いことであっても」
デスピニスがそれに続く。ティスもこくこくと頷き、二人に同意する。
テラはそれを見て、何も言えなくなった。この子達は、自分の行為が悪と分かった上で、そしてそれに罪悪感を
覚えてなお、前に進もうとしている。間違った道と知っていて。
―――ならば自分は、どうすればいいのだろう。
堂々巡りに陥るテラを尻目に、三人は先へ先へと進んでいく。テラは慌ててそれを追おうとして―――
「ぎゃふん!」
顔面から派手に転んだ。
―――ちなみに普通なら転ぶ要素などない場所であった。
黒髪の清楚な美少女、テラ。意外とドジっ子属性だった。
「・・・テラ姉。何もないところで転ぶってタイプの萌えは、もう古いと思うんだ。ついでにぎゃふんも」
律儀にツッコミを入れるティスだった。
195ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/02/07(水) 02:26:06 ID:fyPQ3wlv0
歩くこと、数分。
「誰もいない―――どうやら、さっきの連中以外は全員外にかかりっきりみたいだね」
もう少し派手なドンパチも予想していたが、どうやらウェストたちが上手く皆の目を引き付けてくれているようだ。
「・・・あの方の知り合いとはいえ、あんなキ○ガイに物を頼むなんざ不安だったけど、意外にやるじゃない」
「そりゃそうだよ。何せあの人、頭の良さなら文句なく世界一だからね・・・キ○ガイだけど」
「ウェスト博士とエルザさんに感謝します・・・キ○ガイですけど」
「みんな、そんなこと言っちゃ駄目よ・・・確かに、その・・・キ○ガイだけど・・・」
―――どうやらこの四人もウェストのアレさは身に染みて分かっているようだった。
そうこうしている内に、ティスたちは一つの扉の前で立ち止まる。ちょっとやそっとでは開きそうもない、いかにも
頑丈そうな代物だ。
「おーし・・・じゃあ、いくとするか。デスピニス、ラリアー。手伝って」
三人が腕捲りをして扉に手を添え、腹に力を入れて無理矢理扉を開けようと試みる。グギギギギ・・・と、とても扉
が開く音とは思えない地響きと共に、ゆっくりとそれが開かれていった。
―――扉の奥に、誰かがいる。初老の男だ。彼は俯かせていた顔をゆっくりと上げた。憔悴しきった顔だったが、
四人の姿を見た瞬間に、僅かに精気が蘇る。
「おお・・・お前たちは・・・!」
彼はよろよろと四人に歩み寄ろうとして、つんのめる。倒れそうになった身体を、ティスたちが慌てて抱き抱えた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「む・・・心配いらん。何せこのような暮らしだからな。少々身体が弱ってしまってな・・・なに、直に元通り動ける
ようになるじゃろう」
「・・・申し訳ございません。もっと早く来ていれば・・・」
悔やむように呟くデスピニスの頭を、彼はそっと撫でた。そこにはまるで、父が娘に向けるような愛情が篭っている。
次にティスとラリアー、そしてテラに視線をやった。そこにもデスピニスに見せたものと同じ感情が宿っていた。
彼を知るものが今の光景を見れば、驚くだろう。彼はこの刑務所に収容されている者たちの中でも、大物犯罪者の部類
に属するものなのだから。
そんな彼が、この四人にはまるでごく普通の父親のように接している。
歪ではあっても―――彼らの間には、確かに絆が存在しているようだった。
「テラ・・・ティス・・・ラリアー・・・デスピニス・・・正直、ここまでして来てくれるとは思っていなかったよ」
「私は・・・」
196ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/02/07(水) 02:26:55 ID:fyPQ3wlv0
テラは、迷いながらも答えた。
「私は―――あなたの娘ですもの。それに、この子たちだって」
「そうだよ」
ティスが続けた。
「あたいたちはテラ姉と違って、本当の子供じゃないけど・・・けど、本当の家族だって、そう思ってるもの」
「そう・・・そうか。ふふふ・・・ありがとうよ。お前たちと一緒なら、何でも出来そうな気がしてきたよ」
彼はそう言って、笑った。それは意外なほどに人間味溢れる笑顔だった。
「それでは―――改めて」
ティスは、彼の名を呼んだ。
「―――お迎えに上がりました、ギガゾンビ様」

―――ギガゾンビを連れて刑務所を脱出し、彼らは人気のない路地裏にやってきた。
あのキ○ガイとは、ここで落ち合う約束だ。目立つわけにはいかないので、人目のつかない場所を選んだ
―――はずだったのだが。
「いっえぇぇ〜〜〜〜〜〜い!そこ行く凡人共、耳の穴やら鼻の穴やらとても口には出せない穴やらかっぽじって
よ〜〜〜〜く聞きやがれ!我輩は大!天!才!ドクター・ウェストであ〜〜〜〜〜る!」
「博士ったらいきなり卑猥だロボー!」
馬鹿二人、目立っていた。無茶苦茶に目立っていやがった。人気のない路地裏のはずなのに、道行く人々の冷たい
視線を浴びまくりだ。
「・・・・・・おい、キチ・・・じゃなくて、ウェスト博士。それにエルザさん」
「お?やっとこ来たであるか、遅いであーる。待ちくたびれて我輩寝ちゃうところだったであーる!ああエルザ、
ぼくなんだか眠くなってきたよ・・・」
「ああ、大変ロボ!博士がルーベンスの絵の前でおちんちん丸出しの天使様に連れてかれちゃうロボ〜!」
もはやツッコむ気も怒る気も失せてしまった。こいつらはもう、とにかく、アレすぎる。
「・・・ふん、相変わらずだな、ウェスト」
「お?貴様は我がマッド・サイエンティスト仲間のギガゾンビ!どうやら無事に脱獄できたようであるな」
「ああ、この子たちと、ついでに貴様のおかげか。一応礼は言うとしよう」
197ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/02/07(水) 02:27:44 ID:fyPQ3wlv0
「は〜〜〜っはっはっはっはっは!ついでどころか99%は我輩のおかげであーる!まあいい。ここまで騒ぎを
大きくした上、貴様は脱獄囚。さっさとこの時代からオサラバであ〜〜〜る!というわけで、こんなものを用意
したのである」
ウェストが懐から、小さな機械を取り出した。それは―――
「こいつは時間移動はおろか、異世界間の移動すら可能とする道具、CPS(クロスゲート・パラダイム・システム)
という代物であーる。とあるルートでデータだけ手に入れたので、ちょちょいと作ってやったのであーる。
こいつを使って異世界に身を潜めれば、タイムパトロールとておいそれとは追ってこれまい。それとついでに、
これも渡しておくのであーる」
ウェストが差し出したのは、一枚のディスク。それをギガゾンビは受け取った。
「それには貴様の開発していた二つの機密・・・<亜空間破壊装置>と<死者蘇生装置>のデータをまるごと入れて
おいたである。精々有意義に使うがよかろう」
「ほお・・・気が利くな、ウェスト」
「ひゃ〜〜っはっはっは!こんなこともあろうかと用意しておいたのであ〜〜〜〜る!ふふふ・・・ふふふふふ!
こんなこともあろうかとぉぉぉぉぉ!」
どうやら一度言ってみたかった台詞のようである。
「・・・で、どんな世界に行くんですか?」
ラリアーが眉間を指で押さえて頭痛を堪えながら(理由は言うまでもない)尋ねた。
「それはこれから決めるのであーる。とりあえずは、適当に選んでしまうのもよかろう。なーに、人生行き当たり
ばったりくらいで丁度いいのであ〜る!嗚呼、我輩たちはただ流されゆくのみ・・・♪川の流れのよ〜に〜♪
・・・ドドドドド・・・ん?何?この音。はっ!滝だ!
我輩は必死に抵抗したが激しくなる川の流れの前には無力だった。哀れ我輩は滝に飲まれ真っ逆さま!
どうやら我輩は黄泉の国への片道切符を手にしてしまったようである・・・」
「ざんねん!はかせのぼうけんはここでおわってしまったロボ!」
「・・・シャドウゲイトやってるとこ悪いんだけどさ、さっさと行こうよ。こんなことで捕まっちまったら馬鹿らしい
じゃないのさ」
「その通りだな。では行くとするか・・・」
ギガゾンビが、手の内のディスクを知らず知らずに強く握り締めた。
「―――我らの新天地へと!」

―――そして、災厄の芽は異世界へとばら撒かれる。
198ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/02/07(水) 02:28:32 ID:fyPQ3wlv0
投下完了。前回は>>108より。
ついに出ました、西博士・・・とは言っても、デモンベイン知らない人には分からないでしょうから、
キャラクター紹介。リンク先のページには18禁情報もあるのでご注意。

ドクター・ウェスト(西博士)
ttp://www.nitroplus.co.jp/pc/lineup/into_05/characters_09.html
エルザ
ttp://www.nitroplus.co.jp/pc/lineup/into_05/characters_08.html
無敵ロボ(破壊ロボは通称であり、ウェスト的には無敵ロボの方が正しい?)
ttp://www.nitroplus.co.jp/pc/lineup/into_05/mechanical_03.html

正直僕如きのSSでは、彼の素晴らしさの十分の一も伝え切れていません。

>>119 応援ありがとうございます。

>>120 ラストはやっぱりインフレ爆発大決戦です。

>>121 バトルは結構多めになりますね。でもコミカルな要素も多くするのでそうは感じないかもしれません。

>>122 復帰しただけで満足せず、精進していきたいものです。

>>ふら〜りさん(機会があれば是非新桃はプレイしていただきたいものです。桃伝に対する見方が変わります)
時代物のわびさびが効いてていいかんじですね。僕のSSの方も一応時代物・・・になるのかな(笑)
年表の方も大変でしょうが楽しみにしています。
199サマサ ◆2NA38J2XJM :2007/02/07(水) 02:29:18 ID:fyPQ3wlv0
トリ付け忘れ。失礼しました。
200作者の都合により名無しです:2007/02/07(水) 08:09:27 ID:HmmSVuaj0
>フルメタさん
お久しぶりです。なにはともあれ復活されてうれしく思います。
グレート巽、さすがの貫禄ですが、文体が夢枕調になっててワラタw

>サマサさん
雰囲気が前作と少し変わるのかな・・・と思っていましたが
いい意味でノリが変わらず安心しました。バトルも楽しみにしてます。

201作者の都合により名無しです:2007/02/07(水) 17:25:33 ID:DcCZK84H0
サマサさん、いつも大変でしょう
最終話し 質問
恐竜帝国が襲撃した町から離れる事数百キロ…ヤザン達はとある廃墟にいた。
開発が進んだが国からの援助を打ち切られ人に捨てられた町。
その町の中にある廃工場をヤザン達はアジトにしていた。
そして…今その工場の地下にある一室で拷問が行われていた。
一人の女の腕を縛り天井から吊るしているのだ。
「さあって…何から聞こうかねぇ。」
ヤザンがニタリと下卑た笑みを浮かべながら腕を組んだ。
「だっ誰があなたなんかにッ…!」
吊るされた女、ルー=ルカがキッとヤザンを睨んだ。
「ほう…強がるか。ダンケル。」
「はっ。」
ダンケルがルーの腹に触れる。
「触らないでっ!変態ッ!」
一瞬身体をビクッと硬直させルーは顔をしかめた。
直後、ルーは腹に異様なムズ痒さを覚えた。
身体の力が抜けソレが送り込まれる。
声を出すまいと思っても出てしまう。
「さあ・・・言わなければもっとやるぞ?」
ヤザンがニヤニヤしながら言った。
「あひゃああ!くすぐったいぃぃ!やめてぇぇぇ!」
ダンケルがルーの腹を擽っているのだ。
「聞くぞ。お前はどこの組織のものだ?」
「あ・・・あうッ・・・やめッ・・やッ・・」
ルーの耳にヤザンの言葉は入ってはいなかった。
擽りに耐えるのに必死だったからだ。
「お前の名は何だ?俺らの作戦エリアにいた理由は何だ?」
「ひっ・・・あひゃはああッ!」
十分程ダンケルによる拷問は続いた。
「どうだ。言う気になったか?」
「はあッ・・はあッ・・」
203作者の都合により名無しです:2007/02/07(水) 20:03:29 ID:1c4BVLs40
人間は笑い過ぎると呼吸が苦しくなる。
今のルーがそうだった。
「まだ言う気になれないのか・・。ダンケル、コイツを独房に放り込んでおけ。」
「はっ。」
(次はあの女の方だな・・・)
ヤザンは下卑た笑みを浮かべるとヴィレッタが捕らえられている部屋へと急いだ。


ルーを独房に入れた後、ダンケルはのんびりと廊下を歩いていた。
さっきの女のスタイルと顔は良かった。
軍属の美人スパイという線も考えられた。
でなければゲリラか。
そういう事を考えているとダンケルの周囲に甘い匂いが立ち込めた。
頭がぼんやりとしてとろけそうになる。
自然と足がフラフラと匂いがする方向に向かっていた。
「あーら、こんな所に屈強な兵隊さんが。」
にこやかにダンケルを迎えたのは緑色のレオタード姿の赤毛の女だった。
「へへへ、美人さんだなあ。」
ダンケルの態度はおかしかった。
普通、アジトに見知らぬ人間がいたら疑問に思ったり警戒する。
兵隊としてはあるまじき事だった。
「ここにヴィレッタが捕まえられてると聞いたんだけど・・・・お姉さんに教えてくれないかなぁ?」
女が媚びた口調で聞いた。
「あの捕虜ならそこを右に曲がった部屋にいるよ。」
「有難う。いつも頑張ってくれてるご褒美にキスをあげるわ。」
女はダンケルの顎に触れるとこちらに引き寄せた。
目を閉じ唇をダンケルの口に付ける。
「グッ!?」
ダンケルは眩暈がした。
息苦しくなり体が硬直している。
「ふふふ・・・」
「ぐおお・・・・貴様は・・・」
204作者の都合により名無しです:2007/02/07(水) 20:04:14 ID:1c4BVLs40
痛みと苦しみに顔をしかめダンケルは動かなくなった。
「私の名はポイズンアイビー。覚えておく事ね。」
突然、警報が鳴った。
どうやらダンケルが警報を鳴らしたらしい。
「腐っても兵士って事かしらね。ロビン。今そっちに行くわ。」
「OK。こっちも敵と遭遇した。二人を救出したら脱出してくれ。」


ロビンは一人の兵士と格闘していた。
互いに素手のバトルである。
ロビンのパンチとキックを相手は受ける。
「マントとタイツ着てたって怖くは無いぞ!」
兵士が反撃でキックを放つ。
それをロビンは軽々と避けて距離をとった。
身長差は数センチ。
兵士がポケットからナイフを取り出した。
そして踏み込んでロビンに斬り付ける。
大振りでは無く牽制の為に小さいモーションで連続して斬り付ける。
「甘いぜ!」
ロビンは相手の側面に回りこみローを仕掛けた。
「ちょこまかと!」
更にきり付けて来る相手に対して又同じ所にカウンターでロー。
「もういっちょ!」
三度目も同じ所にロー。
「嘗めてんのか!」
激昂した兵士がロビンの頭部にナイフを向けてくる。
「今だ!」
ロビンはナイフをスレスレで避けパンチを放った。
結果・・・・カウンターの様な形でロビンのパンチは相手の顔に直撃した。
205作者の都合により名無しです:2007/02/07(水) 20:05:14 ID:1c4BVLs40
「グフォ・・・」
ロビンの放ったカウンターパンチはラムサスの顎を打ち抜きーー
脳震盪を起こさせーーー
相手の意識を無の世界へと飛び出たせたーー
「ふぅ・・・ナイフに頼りやがって。素手のバトルってのもいいもんなんだぜ?」


警報が響く中ヤザンは相手を出迎えるべく格納庫のハンブラビに搭乗していた。
もうそろそろこのアジトは移るつもりだった。
「何だ。あいつらまだ来ないのか。ちっ、来るまで一人でやるか!」
格納庫からハンブラビが出撃する。
空中でMS形態に変形し地上に降りる。
レーダーに映った機影は三つ。
「三対一・・・てかあ?ジェットストリームアタックでもするつもりかよ?おい」
一人ごちるとヤザンは機影に向かって飛び立った。
おぼろげながら敵が見えてくる。
(ガンダム、ゲッターロボ、そして・・・・何だあの青くてデカイのは?)
直後、ピピピと警告音がなった。
まさかこの距離でロックされたのか・・・?
ヤザンの予想は外れた。
レーダーに大量の機影が出現したからである。
「・・・・なんじゃこりゃあ!?」
急いで振り向くと・・・そこには多種多様の機体がいた。
恐竜帝国、ハニワ幻人、そして・・・百鬼帝国
正に前門に虎、後門に狼である。
(こいつはやべええや・・・)
ヤザンはフルスロットルで横に進んだ。
衝突させれば逃げられると思ったのだ。
だが目測は外れた。
前方にいた三機の内二体がヤザンを追ってきたのだ。
206作者の都合により名無しです:2007/02/07(水) 20:06:04 ID:1c4BVLs40
ヤザンは慟哭した。
今自分の機体は片腕が?がれている。
ガンダムのパイロットはエースなのかどうかはわからない。
勿論ゲッターロボのパイロットもだ。
そして、敵が撃って来た。
ミサイルをマシンガンの様に。
(ゲッターミサイルマシンガンと名づけようか・・・)
そんな事を考える程にヤザンは恐怖した。
時間がゆっくりと流れるのを覚えながらビームライフルとバルカンでミサイルを打ち落とす。
奇妙な事に相手の引き金とヤザンの引き金はタイミングが同時だった。
その時、ミサイルとビームの合間を縫うかの様にどこからかバズーカが飛んできた。
「ん!」
一発だけその弾頭にバルカンを発射して撃墜するとヤザンは又ミサイルの撃墜を再開した。
コンマ一秒の世界である。
ゲッターからミサイルは止め処も無く撃たれ続けている。
「ほらよ!」
ヤザンは機体をほんの僅か横にずらしゲッターの手元をビームライフルで狙った。
ミサイルマシンガンが爆発するのとヤザンのビームライフルのエネルギーが切れるのは同時だった。
ヤザンの目にガンダムが接近するのが移った。
もっとだ。
もっと来い。
「今だッ!」
斬り込んできたガンダムに対してヤザンはビームサーベルで斬りつける。
結果・・・・ガンダムの左腕と頭部が斬り飛ばされた。
(ふっ・・・まずまずだな。)
直後、ヤザンは体が壊れる程の衝撃に揺さぶられた。
207作者の都合により名無しです:2007/02/07(水) 20:12:23 ID:1c4BVLs40
ガンダムがハンブラビの脇腹に膝蹴りを見舞ったのだ。
「ぐふぉッ!」
機体は吹き飛ばされ地面に転がる。
ガンダムが追撃でビームライフルを撃つも当たらない。
メインカメラが吹き飛んでいるせいで相手の場所はレーダーでしかわからない。
アムロ=レイみたいに感覚だけで相手の居場所がわかる人間はまずはいない。
(今なら・・・)
そんなヤザンの安心を打ち砕く様にどこからか赤いビームが放たれてハンブラビの両足を溶断した。
ゲッターロボがゲッタービームを放ったのだ。
(まだまだいけるぜ!)
ヤザンは機体をMA形態に変形させるとゲッターに突撃した。
ゲッターがトマホークを構える。
(へっ・・・ハンブラビの運動性を見やがれってんだ!)
ヤザンは最大出力でブースターを作動させた。
全速力で進むハンブラビにゲッターは反応出来ていなかった。
ゲッターがトマホークを振り上げようした時にはもう既にその左腕は切り取られていた。
ヤザンのハンブラビがすれ違い様に一瞬で変形し、ゲッターの左腕をビームサーベルで切断していたのだ。


「おやおやどうやら苦戦している様ですねえ。では彼等を片付けてから援護しましょうか!」
青く巨大な機体・・・グランゾンを駆るその青年は言った。
目の前にあるのは様々なロボット達の大群。
数だけなら相手は圧倒的である。
その数、百を超えるだろう。
「ここらで終わりにしましょう・・・。縮大砲発射!」
グランゾンの胸部にある砲門に莫大なエネルギーが充電されていく。
その熱で周囲の空気が歪む程に。
臨界に達したそのエネルギーは前方に向けて発射され、その先にいるもの全てを飲み込み、非常に巨大な爆発を起こした。
目を眩ますような光と炎の後に残った物はキノコ雲だった。
そしてそれが巻き起こした突風は周囲にいたゲッター、ガンダム、そしてハンブラビをも飲み込み吹き飛ばした。
「ぐおお!」
今日一番と思える程の突風に巻き込まれたヤザンは機体のコントロールを奪われ容赦なく地面に叩きつけられた。
208作者の都合により名無しです:2007/02/07(水) 20:19:34 ID:1c4BVLs40
(いてええ・・いてえよお。)
体の数箇所が骨折しているのでは無いかと思える程の激痛がヤザンを襲っていた。
ドシン。
ヤザンは地響きを聞いた。
(何だ?)
恐る恐る目を開けるとモニターにはロボットの足が移った。
ハンブラビの足では無い。
とっさにバルカンのボタンを押すも反応が無い。
レバーを動かすも機体の腕が上がらず。
万事休す。
機体のモニター画面が何かで覆われた。
(ビームライフルの砲身か。)
(ここまでなのか。俺は。)
遂にヤザンの心が折れる。
直後、ドカンと音がしてモニターの視界が晴れた。
「無事ですか、隊長!」
ヤザンの回線に誰かが割り込んだ。
「ラムサスか。良くぞ生きていたな。」
「自分はまだ死ねませんよ。」
ヤザンの隣にラムサスが乗るハンブラビが降り立った。
「そちらに移るぞ。」
「どうぞ。」
ヤザンハッチを空けて差し出されたハンブラビの手に乗り移った。
「ラムサス。」
「はい。」
「オート操縦にしろ。途中で俺達は機体を破棄する。」
「わかりました。」
今彼等と戦っても撃破は必至である。
だからヤザンは離脱する事にしたのだ。
ラムサスは機体をMAに変形させると全速力でそこから飛び立った。
209作者の都合により名無しです:2007/02/07(水) 20:21:18 ID:1c4BVLs40
(いてええ・・いてえよお。)
体の数箇所が骨折しているのでは無いかと思える程の激痛がヤザンを襲っていた。
ドシン。
ヤザンは地響きを聞いた。
(何だ?)
恐る恐る目を開けるとモニターにはロボットの足が移った。
ハンブラビの足では無い。
とっさにバルカンのボタンを押すも反応が無い。
レバーを動かすも機体の腕が上がらず。
万事休す。
機体のモニター画面が何かで覆われた。
(ビームライフルの砲身か。)
(ここまでなのか。俺は。)
遂にヤザンの心が折れる。
直後、ドカンと音がしてモニターの視界が晴れた。
「無事ですか、隊長!」
ヤザンの回線に誰かが割り込んだ。
「ラムサスか。良くぞ生きていたな。」
「自分はまだ死ねませんよ。」
ヤザンの隣にラムサスが乗るハンブラビが降り立った。
「そちらに移るぞ。」
「どうぞ。」
ヤザンハッチを空けて差し出されたハンブラビの手に乗り移った。
「ラムサス。」
「はい。」
「オート操縦にしろ。途中で俺達は機体を破棄する。」
「わかりました。」
今彼等と戦っても撃破は必至である。
だからヤザンは離脱する事にしたのだ。
ラムサスは機体をMAに変形させると全速力でそこから飛び立った。
アジトがあった街がぐんぐん離れていく。
210作者の都合により名無しです:2007/02/07(水) 20:22:57 ID:1c4BVLs40
「そろそろだ。押せ。」
「はい。」
直後、ハンブラビから一機の丸いポッドが射出された。
それはパラシュートを開き地面へと降り立った。
「逃がさないわよ!」
先程、ラムサスに吹き飛ばされた機体のパイロット、ヴィレッタが叫んだ。
回避運動を取らずただ直進する機体に当てるのは簡単だ。
R−GUNのビームライフルがハンブラビのバーニアを直撃し、機体は爆発と共に四散した。
「ご苦労様です。ヴィレッタ大尉。」
ガンダムのパイロットがR−GUNに通信を入れた。
「そっちこそ私を救出してくれてありがとうね。」
今、カラバとカツの戦いは終結した。
だがこれは突発的な戦闘に過ぎない。
彼等の戦いはまだまだ続く。
世界に平和が訪れるのはいつの日か。

エピローグ・・・

ヤザンとラムサスは今ゴッサムシティにいた。
脱出ポッドを車型に変形できるよう改良したのが良かったのか、予想よりも最寄の街にたどり着く事が出来たのだ。
今はもうティターンズは無くなっておりその残党は一般社会の中に溶け込んでいた。
が、ヤザン達の様な闘う事でしか生きられない人間は感情のやり場に困るのだ。
やり場のない怒りをヤザン達は金持ちを襲う事で晴らしていた。
そんなある日・・・
「おう!姉ちゃん!美人じゃねぇか!」
「きゃあ!やめて!」
ヤザン達はその日の飯を食う為に金持ちにたかり金品の強奪する常習犯になっていた。
その悪行は瞬く間に市民に広がり今やちょっとした有名人になっている程だった。
いつもの様に金品を奪い相手を気絶させるとヤザン達はその場を後にしようとした。
「待ちな。兄ちゃん達。」
「ああ!?」
211作者の都合により名無しです:2007/02/07(水) 20:25:15 ID:1c4BVLs40
ヤザン達の前に妙なスーツを着て顔を白く塗った男が現れた。
「カラバって覚えてるかい?」
「カラバ・・・・そういやこの前・・・俺達を警察に突き出すつもりか?」
「警察だぁ・・・?んな弱いの当てにならねえよ。裁くのは俺自身だ!このゴッサムシティの帝王、ジョーカーがな!フヘヘヘヘ!」
ヤザンとラムサスが同時に動き相手の側面に回りこむ。
手に持ったナイフで相手を刺そうとするがそれはあっという間に二人の手から離れていた。
ジョーカーがキックとパンチで弾き飛ばしたからだ。
「素手で行くぞ。」
ヤザンがジョーカーを挑発した。
「へッ。」
ジョーカーがせせら笑った。
ヤザンが地面を足で蹴って間合いに踏み込み、パンチを放とうとした瞬間ーーー
「危ないッ!」
パン。
ラムサスが倒れこんだ。
ジョーカーが拳銃で撃ったのだ。
「ラァァムサァァァス!」
ヤザンはキレた。
可愛い部下。
幾多の戦場から共に生還した仲間。
それを。目の前の敵が。
「へっへっへ・・・次は・・・」
ジョーカーが意地汚く笑った。
その言葉が言い終わる前に再度、ヤザンは踏み込んだ。
「けーッ!」
突如、叫び声が響いた。
その声の主はジョーカーを殴ろうとしたヤザンの背中に空中キックを見舞った。
212作者の都合により名無しです:2007/02/07(水) 20:31:21 ID:1c4BVLs40
「ぐあッ!」
踏み潰されヤザンは動かなくなった。
パチパチパチパチ。
ジョーカーは拍手した。
「お手柄だな。」
「まあ・・・ね。」
翌日、小柄でこれといった特技も無いパイロットが凶悪犯となったティターンズの残党を逮捕したというニュースが新聞にのった。
その名はーーカツ・コバヤシーー




18禁スーパーロボット大戦H 完
213作者の都合により名無しです:2007/02/07(水) 21:17:11 ID:nhQkppxN0
>フルメタルウルブス(復帰おめ)
餓狼最強レベルの巽相手では仕方ないかな。
巽との試合はハードだったのに、天満たちが出てきて急に雰囲気変わったw

>新説桃太郎伝説
今までが大人しかった分、今回はサマサ節全快ですな
ウェストは前作のバカ皇子的な存在ですか。主要キャラに化けるかな

>18禁スーパーロボット大戦H
お疲れ様でした。またがんばってください
214作者の都合により名無しです:2007/02/08(木) 08:14:45 ID:dq9HsWlA0
>サマサさん
デモンベイン好きなんで、俺は嬉しいですよ。
ゲーム知らない人は多いでしょうけどw
215作者の都合により名無しです:2007/02/08(木) 22:52:31 ID:5lHeVD5R0
さいさんかスターダストさんが今日当たりきそうだ
216作者の都合により名無しです:2007/02/09(金) 08:04:24 ID:ltKsDDg80
年末は凄かったのに
217作者の都合により名無しです:2007/02/09(金) 23:37:40 ID:Q2Oo1jXO0
週末期待上げ
218修羅と鬼女の刻:2007/02/10(土) 06:02:37 ID:GTi000vw0
第九回

>>171
平安京の一角に、足利軍の駐屯所がある。尊氏と、家臣や兵たちはそこで暮らしている。
毎夜、兵たちと手分けして街の巡回をしている尊氏だが、では日中はどうしているのかと
いうと、ここで大賑わい大混雑の窓口業務に勤しんでいる。
なにしろ倒幕直後のこと。江戸幕府が倒れた後の、明治政府の立ち上がりと同様、
戦うことよりもその後の政治的あれやこれやの方が大変なのだ。まして後醍醐天皇は
自身が陣頭に立って政務を執り、それがまた貴族中心・武士そっちのけな姿勢丸出し
だったものだから、この平安京に集まっている武士たちの不満が日々高まっている
(それがまた治安悪化の一因になっている)。
なので尊氏は、そういった武士たちの相談所を設置。窮状を聞き、訴状を集め、
それらを整理しては新政府にかけあい、苦しむ武士たちのために働いているのである。
そんな駐屯所の中にある尊氏の屋敷にて。尊氏の右腕といわれる足利家執事、
高師直(こうの もろなお)が、書類の山を抱えて奥の部屋にやってきた。
「では、次はこれを」
どさ、と机の上に置かれたその山は、元々そびえていた書類山脈に新たな伝説を
築き上げた。延々続く悪戦苦闘伝説を。
「ぅあ〜」
「ほらほら、呻いているヒマはありませんぞ陸奥殿」
筆を握った手で頭を抱えてる大和と向かい合わせに、師直が腰を下ろした。護良親王
ほどではないが、筋骨隆々でいかにも歴戦の勇士といった感じである。だが猪突猛進
な印象はなく、良く言えば思慮深そう。悪く言えば狡猾そう。底を見せない瞳をしている。
「夜間のみならず昼間も我らの手伝いをしたい、と言われたのは陸奥殿。なれば、
この程度で降参されては世の物笑いとなりましょうぞ」
「こ、降参なんかしないよ。陸奥圓明流に敗北の二字はないっっ」
大和は歯を食い縛って、筆を取り書類に向き直った。慣れぬ作業で目眩がしてきたが、
だがオレの名は陸奥だっ、今のオレは人間じゃないっ、とか思って耐える。
「殿は今も受付に立ち、臣下の者たちと共に全国の武士たちの訴えを浴びておるところ。
我らも負けぬよう、頑張らねばなりませんぞ」
219修羅と鬼女の刻:2007/02/10(土) 06:04:13 ID:GTi000vw0
「うん、解ってる」
筆を持った手で頭をほりほり掻きながら、大和は疲れた声で答えた。
「平和な新時代のために……でしょ。お兄さんもさんざん、熱く語ってたよその話」
「左様、全ては新時代のため。こうした作業や夜間の巡回で殿自身が前線に立って
いれば、やがて武士たちの間で殿の名は不動のものなる。大戦でバラバラになった
武士たちの心が、また昔のように一つにまとまることとなる。足利の旗の下、
武士たちは一枚岩となって二度と崩れない」
「みんなが一つになれば戦はなくなる、か。壮大な話だね。でもって、」
ちょっと楽しそうに、大和は言った。
「師直さん、足利さんのこと本当に好きなんだね。自分のことみたいに誇らしげだよ」
「え?」
「気持ちは解るよ。オレも、街でお兄さんのこと褒められてるの聞くと何だか嬉しいしね。
楠木正成は当代随一の軍師、並ぶ者なき勇将だ、とかさ」
自分のことみたいに嬉しそうに語る大和を見て……師直は、笑った。
「ははははっ。いや、確かに。拙者は殿のことが好きでござるぞ。なればこそ殿の為ならば、
何でもする所存。それこそが足利家執事の務め、この高師直の存在理由にござれば」
「オレはお兄さんのため、高さんは足利さんのため、で目指す所は同じってことだね。
そんじゃお互いの目的のため、仕事頑張ろうか高さん」
「で、ござるな陸奥殿」
二人は仲良く向かい合い、筆を取って事務処理に励んだ。
だが大和は気付いていない。師直の目指す所は、自分のそれとは大きく違っていることに。
そしてそれが、大和と足利家を引き裂いていくこととなる。
『そう、殿の前に立ちはだかる者は、誰であろうと容赦しない。幕府でも朝廷でも、
もちろん皇族でも天皇でも……』
220修羅と鬼女の刻:2007/02/10(土) 06:06:27 ID:GTi000vw0
日に日に足利尊氏の声望が高まっていく中、危機感を募らせている者がいた。
楠木正成が籠城戦なら、こちらは山野を駆け巡って幕府軍を翻弄した護良親王である。
「足利め、幕府を倒したと思ったら武士どもの人気取りとは。抜け目ない奴」
御所近くにある親王の屋敷。親王も尊氏と同様、都の治安維持の任についている。
が、先の戦いでの部下たちは所詮傭兵であり、親王は自分の兵というものを殆ど
持っていない。加えて、後醍醐天皇もそうだが親王も武士たちを身分的に見下して
いるので、尊氏のように「彼らの生活を守ろう」なんて考えてはいない。
なので尊氏の屋敷と違い、この屋敷にはロクに人がおらず、静かなものである。
親王が考えているのは、父である後醍醐天皇が問答無用で全ての上に立つ世を
創ること。というか、それが世の正しい姿だと信じている。武士の政権などもっての他だ。
その辺は、楠木正成だってほぼ同意見である。だが親王には、正成ほどの思慮はない。
「せっかく鎌倉幕府を潰しても、このままでは足利の奴めが新たな幕府を建てかねん」
「でしたら、やることは一つでしょう」
はっ、と親王が振り向くと、いつの間にやら勇が座っていた。きちんと背筋を伸ばして、
行儀よく正座している。……ほんの数瞬前にはいなかったと思うのだが。
「邪魔者は排除。それ以外に何があるというのです?」
「そう言うがな。表向き足利は倒幕の功労者、新政府の重鎮だ。ヘタなことはできん。
実際、新たに兵を集めたりはしてみたのだが、足利本人はともかく家臣ども……執事
の高師直などは、余はもちろん父上にすら目を光らせておる。身動きが取れんのだ」
221修羅と鬼女の刻:2007/02/10(土) 06:07:14 ID:GTi000vw0
「それは、加害者の身元が明らかな場合の心配です。謎の人物に夜討ちされて
謎の死を遂げた、となればどうにもなりませんわ。親王様もさんざんご覧になられた
はずの、このわたしの力をお忘れですか?」
親王は、ぎょっとして勇を見つめた。
「で、では、お前が足利を?」
「はい。わたしは女の身ゆえ、戦や政のことなど、しかとは解りませぬ。が、この国の
正統なる主は天皇、すなわち帝以外にないということぐらいは存じております。
今こそ、卑しき武士どもに思い知らせてやるべきでしょう」
勇の冷たい殺気が、声に乗って紡ぎ出されていく。
「源頼朝が築いた武士政権、幕府。『武士による天下統一』などと思い上がった
百五十年が、取るに足らぬ錯覚であったことを……親王様にしか、できぬことですわ」
親王の心に、勇の言葉と視線が染み込んでいく。皇族としての誇り、武士への蔑視、
己の強さへの自信など、それらの隙間に隅々まで根を張り広がっていく、勇の存在。
「……よかろう、足利の始末を任せる。日本国の未来はお前に預けたぞ」
勇は両手を着き、深々と頭を下げた。
「勿体無き御言葉です。必ずや足利の首級、挙げてご覧に入れましょう」
222ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/02/10(土) 06:09:07 ID:GTi000vw0
赤穂浪士は当時から庶民のヒーローでした。討ち入りを元ネタにした芝居は大盛況……
が、彼らは犯罪者。拍手喝采したらそれだけで逮捕もの。故に舞台を変え人名を変え、
「実在の事件・団体とは関係ござんせん」でやってたそうです。その時の舞台に選ばれた
のが本作の時代。で吉良役=悪役・嫌われ役をあてがわれたのが彼、高師直なんです。
まぁ確かに、なかなかシャレにならんことをやってる男でして。本作では触れませんけど。

>>ウルフズさん
私だったらこれ、不自然に播磨を強く描いてしまいそうだなぁ。巽を本気で怒らせた上で、
勝てないまでも善戦させるとか。でもプロレスのプロレスたる美学と、巽の貫禄をきちっと
描いて、播磨もカッコ悪くはならずに収まるところに収まって後味よく幕。お見事でしたっ。

>>サマサさん
のっけからトバしてますねぇ今回の敵サイドは。前回の桃太郎サイドがほのぼの平和で静か
だっただけに、今回のドカドカ豪快な騒々しさは差が際立ちました。特にエルザ&ウェストが
楽しげですが、二人揃って暴走ボケ。今回は名無しの人々が突っ込んでましたが、今後は?

>>スーパーロボット大戦Hさん
>アムロ=レイみたいに感覚だけで相手の居場所がわかる人間はまずはいない。
それをいっちゃあ、ですな。にしてもここに限らず、いろいろ現実のキビしさが滲んでる作品
でした。タイトルから想像してたほど18禁ではなかったですが、まぁやりすぎても何ですし。
これぐらいがいいのかも。で、思えば洋画というのはなかなかの新境地でした。次は何を?

>>ダーカさん(↓言ってるそばからすみません……「第九回」は外しといて下さい)
お忙しい中、おつ華麗さまです。私の「修羅と〜」、ミスを訂正してくださった上での
非常に読み易い編集保管っぷり、まこと感謝しておりまする。
223WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/02/10(土) 07:16:54 ID:WlV5hOl+0
猛スピードで疾走する車さえも震わせるようなアンデルセンの叫びが響く。
次の瞬間、バックガラスが銃剣(バヨネット)の横薙ぎの一撃で砕かれ、無数の細かな破片となって
後部座席の三人に降り注いだ。
「キャアアアアアッ!」
頭部や顔を覆った千歳の両腕を、無数の針に刺されたかのような痛みが襲う。
「千歳!!」
「野ッ郎ォオオ!!」
そしてガラスの破片に気を奪われた一瞬の後、三人の眼に信じ難い光景が飛び込んできた。

それは神の御業か。

いつのまにかアンデルセンの右手に握られた銃剣が数を増していた。
右手には器用にもそれぞれの指の間に二本ずつ、計八本の銃剣が握られている。
「ククッ、ククククク……!」
握る手に力を込めると、アンデルセンは先程にも増して腕を高々と掲げ、身体を捻り反らせた。
(アレを投げるのか!? この距離から!?)
防人は反射的にシルバースキンの襟首を引き千切るようにボタンを外し、前を開ける。
「シィイイイイイイイイイイ!!!!」
アンデルセンは1mにも満たない至近距離の標的に向かい、渾身の力を込めて銃剣を投擲した。
と、同時に。
防人は己が身から脱ぎ去ったシルバースキンを、まるで闘牛士(マタドール)を思わせる動きで
車内に大きく翻した。
六本の銃剣がシルバースキンによって弾き返され、車外へ音を立てて散らばった。
残りの二本の内の一本は――
「ぐっ!」
防人の太腿に突き刺さっていた。傷口からは見る見るうちに鮮血が溢れ出す。
更にもう一本は――
「うわぁあああああ!!」
運転席のシートごとジュリアンの右肩を貫いていた。
ジュリアンは我が身に起こった事が信じられず、ただ眼を見開いて悲鳴を上げるだけだ。
224WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/02/10(土) 07:17:40 ID:WlV5hOl+0
「チッ、足手まといが!」
助手席のサムナーはお得意の罵り言葉を投げつけると、ジュリアンに、というよりもシートに
突き刺さった銃剣を乱暴に引き抜いた。
「ぐぅううう!」
「パウエル、代われ!」
ジュリアンの“右腕”を掴み、彼の身体を強引に助手席へ引っ張り込むと、サムナーは入れ替わるように
運転席に飛び込んだ。
「い、痛い……。サムナー戦士長……。肩が、肩がッ……」
ジュリアンは右肩から先が千切れんばかりの激痛に、涙を流して身悶えしている。
だが、そんな事はサムナーにとっては関心の外だ。
サムナーは両手でハンドルを握り、今度は己の足でアクセルペダルをしっかりと踏み込んだ。
走行速度はもはや時速112マイル(時速180km)に達している。
そして、深呼吸を一つ。
「フゥーッ……――」
予想外の奇襲に血が上りかけた頭が、徐々に冷えていく。
「――後ろの三人! 頭を下げろ!」
サムナーの言葉と同時に、彼の周囲の空気がまるで陽炎のようにグニャリと歪む。
それを見た防人の脳裏に大戦士長執務室の“あの”記憶が蘇った。
「伏せろォ!」
千歳の頭と火渡の肩を掴み、急いで身を沈めさせる防人。
「まずは“ご挨拶”だ……!」
サムナーの呟きと共に、彼の周囲から四条のレーザービームが凄まじい勢いで射出された。
光の筋は灼けつくような熱気を伴いながら、間一髪のタイミングで三人の頭上をかすめていく。
そして、その先にはアンデルセンがいる。
「!?」
アンデルセンが肉の焦げる臭いに気づいた時には、既に喉、胸、腹に向こう側の風景が覗ける程の
穴が空けられていた。
「……フッ、フハハッ、ハァハハハハハハハハハハ!!」
しかしアンデルセンは、チーズのように身体を穴だらけにされながらも、ノーダメージを誇示するかのように
高らかな哄笑を撒き散らす。
225WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/02/10(土) 07:18:41 ID:WlV5hOl+0
そして、凶暴な爬虫類を思わせる眼が獲物を捉えた。
「異端の売女(ベイベロン)がァ……。死ィねェエエエ!!」
銃剣の刺突が、眼を瞑る暇も無く千歳の眼前に迫る。
だが、銃剣の切っ先は千歳の額に到達する前に、その動きを止めた。
「貴様らカトリックの教義は、女を殺せという事なのか……」
「さ、防人君……」
怒りに燃える防人の左手が銃剣を握っているのだ。
「聖書には“弱い者から殺せ”と書いてあるのか……」
銃剣はそれを砕かんばかりの力で握り締められている。
「どうなんだ! アンデルセン!!」
防人は右の拳をも握り締めた。そちらの手の中には何も無い。
何も無いが、握る力は左手のそれよりも強く、強く込められている。
狭い車内で腰が入らず、太腿の傷のせいで踏ん張りも利かないが、この拳は絶対に打たなければいけない。
絶対に。

「オオオオオオオオオオッッッ!!」

咆哮を上げる防人が放った右の拳は、空気を引き裂く勢いでアンデルセンの左頬に命中した。
「ぶるゥあッ! がッ! ハアッ、ハハハッ!」
アンデルセンの身体は大きく仰け反ったが、やはり重いダメージを与えるには至らなかった。
その証拠に眼光は三人を捉えて放さず、高笑いもやめようとしない。
アンデルセンは体勢を立て直し、またもや右手の銃剣を振り上げる。
その時、一条のレーザービームが、車体に刺さった銃剣を握る彼の左腕を焼き千切った。
「ヌウッ!」
ハンドルを握るサムナーが前方に眼を向けたまま、皮肉たっぷりの笑顔でアンデルセンに言い放つ。
「失礼(ウープス)」
左腕と共に支えを失ったアンデルセンの上体が、勢い良く浮き上がる。

この瞬間を逃さなかった者がいた。

226WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/02/10(土) 07:19:26 ID:WlV5hOl+0
「うおらああああああああああ!!」
火渡は餓狼の如き勢いで車外にまで飛び出し、自身の拳打が100%の威力を発揮できる射程内にまで
踏み込んだ。
「左の頬を打たれたら右の頬も出しやがれェ!!」
炎をまとった紅蓮の拳が、唸りを上げてアンデルセンの右頬に炸裂する。
「ぶぐるるゥオオオッ!」
顔面を炎に包まれたアンデルセンはそのまま後方に吹っ飛んだ。
そして攻撃に使用したエネルギーは、攻撃が終了した時点で止まるというものではない。
殴った火渡も殴られたアンデルセンも、同体に近い形で車上から放り出されようとしていた。
「火渡!」
「火渡君!」
咄嗟に飛び出した防人と千歳は必死に手を伸ばし、火渡の服の裾をガッシリと掴む。
火渡の身体は、アスファルトまで鼻先数cmのところで止まった。
少し遅れて、ドンというダンボールを蹴るような音と、グシャという水気を含んだ音が同時に響き渡る。
巨大な卸し金のように流れる目の前のアスファルトから火渡が顔を上げると、
炎に燻る頭部を陥没させたアンデルセンが、首をおかしな角度に捻じ曲げて道路上に倒れていた。
しかし、最高速度に達している車は、どんどんアンデルセンから離れていこうとしている。

死んでる筈が無え。
時速160kmでハネられてもゴキブリみてえに這い上がってきやがった。
身体をレーザーで穴だらけにされても胸クソ悪い高笑いを続けていやがった。
あの防人にブン殴られても攻撃をやめようとしなかった。

死んでるワケが無えだろ。

トランクの上に引き上げられた火渡は、上官であるサムナーに向かって怒声を発した。
「車を止めろサムナー! あの野郎にとどめを刺してやるッ!!」
だが車は依然として、速度を緩める気配は無い。
「おい! 聞いてんのかよ!」
サムナーは運転に集中したまま怒鳴り返す。
227WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/02/10(土) 07:20:41 ID:WlV5hOl+0
「黙れ青二才! 指揮官はこの私だ!」
「んだとォ!?」
ますます興奮する火渡を、防人は引きずるように座席に戻らせた。
そして火渡の肩を掴み、言い聞かせる。
任務を遂行する戦士として。その身を案じる友として。
「落ち着け火渡! 今はここから離れた方がいい! 俺達の任務は“テロリスト”と“ホムンクルス”の殲滅だ!
それに奴の戦闘能力はお前も充分見ただろう!? 今、ここで戦り合うのは簡単だ!
だが俺達も無事では済まない! 俺も、お前も、千歳も!」
防人は、火渡の肩を掴む力を緩めた。
しかし、眼と眼は逸らさずに続ける。
「堪えてくれ、火渡……!」
「火渡君……」
火渡はしばらくの間、身を震わせながら黙り込んでいたが、やがて怒りと葛藤を拳に乗せて
後部座席のウィンドウに叩きつけた。
「……クソッタレェ!!」
ウィンドウは粉々に割れ砕けたが、アンデルセンによって徹底的に破壊されたこの車では、
割れようと割れまいとあまり大差は無い。
更に火渡は“ある物”を見つけた。
トランクの上にはアンデルセンが突き立てた銃剣が残されていた。
それを握る、千切れた“左腕”と共に。
火渡はそれを引き抜くと、怒りに任せて道路へと投げ捨てた。
「人の車(ケツ)に汚えモンおっ立ててんじゃねえ!」

車の進路は北東へ。速度はそのままに。



遮る物も無い草原に伸びる一本の道路。
その道をただ歩き続ける一人の神父。
周囲は夜の闇に包まれ、一台の車も通る気配は無い。
228WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/02/10(土) 07:41:51 ID:WlV5hOl+0
やがて神父アレクサンド・アンデルセンは目当ての物を見つけた。自身の“左腕”だ。
「ククク……」
アンデルセンは立ち止まり、左腕を拾い上げると切断面にピッタリと合わせる。
ものの数秒もしないうちに左腕は元通りに接着され、切断前の機能を取り戻した。
左手を握り、開く。確かめるような動作を繰り返しながら、彼は己の立つ道路の遥か向こうを見つめた。
「アレが、アイツらが日本から来た錬金の戦士か……」
そう呟きながら、肩凝りを患う老人のように肩に手をやり、首を捻る。
先程まで頚椎骨折、頚髄損傷の深手を負っていた首を。
「見たところまだ子供(ガキ)のようだが、今までの連中よりは数段楽しめそうだ……」
ふと気づくと外套の内ポケットから何やらカチャカチャと音が聞こえる。
懐から取り出してみると、それは原型を留め得ぬ程に壊れた携帯電話だった。
だが、さして気にも留めずに道路脇にそれを捨てると、アンデルセンはまた歩き始めた。
“神の敵”が向かった、この道の先を目指して。

「我に求めよ。さらば汝に諸々の国を嗣業として与え、地の果てを汝の物として与えん――」

神父は闇をまとい、闇に溶け込み、闇に消えていった。





錬金戦団VS第13課、第1ラウンド終了。
そして次回。
涙。ギフト。命の価値。開戦。もう一人の埋葬機関(イスカリオテ)。
229さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/02/10(土) 07:43:10 ID:WlV5hOl+0
>>150さん
火渡との絡みは一応まだまだ考えています。
確かに私も格が違う気はするんですが、彼の武装錬金の特性も強力過ぎなんですよね。

>>152さん
戦闘の中心は確かに神父でしょうね。真の主役だしw
あとJudas Priestはどうしても名前が名前だけに……。旦那のセリフにもありましたし。
ちなみにJOHNNY CASHの『THE MAN COMES AROUND』もイメージ曲です。

ふら〜りさん
今回のEP8を書いてる最中は『ターミネーター』と『13日の金曜日』が頭の中をぐ〜るぐるしてました。
お約束的展開みたいなベタなノリは大好きなんで結構多いかもしれません、この先も。
神父と戦う錬金チームには、かの有名な戸愚呂弟のセリフを……。
あと直後に投稿してしまい申し訳ありません。どうしても仕事に行く前に投稿したかったもので……。

>>160さん
そんな事言われたら、私までそんな気に……。
230作者の都合により名無しです:2007/02/10(土) 10:53:14 ID:tAU2UItE0
>ふらーりさん
大和がなんかほんわかしてるな、陸奥の人間なのにw
普段は人を殺せそうにない感じw勇はかわりに凛々しいけど。
赤穂浪士ってこの時代の話なのかな?

>さいさん
神父と火渡りでは確かに格が違う気もするけど
意地を見せて欲しいなあ。持ってる武器は火渡りの方が強力だし。
千歳が陵辱とか・・はないかw神父から見たら異端だしw
231作者の都合により名無しです:2007/02/10(土) 23:00:12 ID:bjkD1jyf0
さい氏乙。
この作品も華僑で楽しいですが、
次のまっぴー×婦警も楽しみにしてますぜ。
232作者の都合により名無しです:2007/02/11(日) 15:04:01 ID:OYZQfziy0
ふら〜りさんは歴史の舞台でも
マイナーな場面がすきなんだなあw
233作者の都合により名無しです:2007/02/12(月) 10:19:00 ID:farQtzNd0
さいさんの作品も大詰めかあ。
次の作品も書いてくれるそうだから安心だけど、
戻ってこない人多くなっちゃったかな?
234作者の都合により名無しです:2007/02/13(火) 00:52:53 ID:BeLOOJpq0
あげとくか
235作者の都合により名無しです:2007/02/13(火) 19:20:45 ID:CA/5MgWO0
ここ最近で一番スレの進行遅いな
236作者の都合により名無しです:2007/02/14(水) 10:41:06 ID:VK3TJuBy0
今日2月14日は予定のないさいさんが来るよ、きっと
237作者の都合により名無しです:2007/02/14(水) 23:31:15 ID:OGHjDi5Z0
スウィート!ショッコラーテ!!
238作者の都合により名無しです:2007/02/14(水) 23:33:42 ID:OGHjDi5Z0

ふと気が付くと、そこは別の世界だった。
よく物語なんかじゃある話だが、自分がこういう目にあうとは全く持って予想の外だ。

「な…。
 なんなんだ、いったい!?!?」

星矢はそう叫んだ。
右手にはシルクハット、左手には白いマスク。
自分の身を包むのは歴戦の相棒・天馬星座の聖衣ではなく、
なんとタキシードにマントという妙な格好。
これが学ランに木刀ならまだ分かるのだが…。

「星矢!事は緊急を要するのです」

しばらく似合わぬ黙考などしていた星矢の目の前に、
ぬぅっという擬音付きで我らがアテナ・城戸沙織が現れた。

「真面目な事を言っても、その格好じゃ説得力ないよ、沙織さん…」
239作者の都合により名無しです:2007/02/14(水) 23:36:47 ID:OGHjDi5Z0
みれば黒猫を模しているのだろうか?
アテナこと城戸沙織はからだのラインがぴっちりと出るボディスーツに、
猫耳・猫尻尾までつけた格好で星矢の目の前に現れた。
何故か額には月をあしらったマークを額に書き込んでいる。
その格好にアテナのシンボルとも言えるニケの杓杖にアイギスを持っているので、
ミスマッチ甚だしい。
本当ならばかわいらしい、というべきなのだろうが、
沙織本人がこれまた年齢不相応にグラマラスな為か、
なんというかコケティッシュだ。
ぶっちゃけすっげぇエロかった。
嗚呼性少年な星矢は、目のやり場に物凄く困りつつも内心とても嬉しくて、
なんとなく赤くなりながら戸惑った。

「そうよ!大変なのよ!」

姉の声がした為、その方向に星矢は振り返ると…
240作者の都合により名無しです:2007/02/14(水) 23:39:26 ID:OGHjDi5Z0

「姉さぁあああああああああああああああああああああああああああああんッ!」

同時に天を仰いで絶叫した。
そして、沙織と自分の格好の本当の意味に気が付いた。

「セーラー服美少女戦士!月に変わってぇ!おぉしおきよぉ!
 いやぁ、お姉ちゃん一度やってみたかったのよ〜!」

1990年代に土曜の夜を席捲した美少女戦士の格好で、もの凄く楽しそうな星華が其処に居た。

「素敵ですわ、お義姉さま!」

衝撃から立ち直れていない星矢、ノリノリの沙織、それに輪をかけてノリノリの星華。
なんかもう如何にかしてくれという気分に支配されかけた星矢に、救いの魔の手が現れた。
天空の彼方から一機の戦闘機となって!
241作者の都合により名無しです:2007/02/14(水) 23:42:36 ID:OGHjDi5Z0

「トランスフォーム!」

ギコガコギコという音とともに、一機の戦闘機・アメリカ空軍主力戦闘機F-15は、人型ロボットへと変型したのだ!
全長というか身長というか、その大きさは5mほどだろうか?見上げるほどの大きさだったが、
星矢にはそのロボットの顔に見覚えがあった。
なにせ血を分けた兄弟にして戦友なのだから。

「し、紫龍ぅ…」

星矢にはもう呻くよりほかにない。

「紫龍?違うな!俺様の名はデストロン航空参謀シリュースクリームだ!
 断じてシュークリームと略すんじゃねぇぞ!
 ボイスアクターは矢尾一樹じゃあない!
 風林館高校の蒼い雷でもないからな!
 元男塾一号生筆頭でもねぇ!
 シャフトのニヤニヤ笑いの悪党でもねぇぞ!」

紫龍なんだろ!なぁ!紫龍!そう叫ぶ星矢だが、紫龍改めシリュースクリームは聞きやしない。
親友のあまりの変貌ぶりに、星矢ががっくりと膝を突くと、今度は地鳴りが始まった。
242作者の都合により名無しです:2007/02/14(水) 23:45:35 ID:OGHjDi5Z0

「姉さん!沙織さん!俺の傍に!」

今の星矢には姉と沙織という最も優先して護るべき者がある。
今の星矢には例えどんな強敵が現れようとも守り抜いてみせる覚悟がある。

「あらやだ、星矢ってばおませさん♪」

「星矢…、その、人の目のあるところでなんて…」

しかし、のっけからその覚悟もへし折られた。

「とりあえず沙織さん、アンタ一応処女神だろうに…。
 ボケ倒すのも大概にしてくれ!」

そうしているうちに地鳴りはさらに大きくなり、ついに大地を突き破ってそれが現れる!
243作者の都合により名無しです:2007/02/14(水) 23:47:23 ID:OGHjDi5Z0
「氷河ぁああああああああああああああああああああああ!」

大地を突き破って現れたのは、トランスフォーマーの大ヒットに当て込んでアニメ化されたものの、
視聴率不振にあえぎ、玩具シリーズそのものまで打ち切られてしまった不遇の男児玩具アニメのドリル戦車だったのだ!
そのドリル戦車が変型すると、その顔は見覚えのある金髪碧眼の日本男児のものだった。
マッスィーン・ロボ!おーまえには、てーきはないー♪
そんな歌が何処からか聞こえてきていた。

「なんかもう、このパターンだと次が予想付くんだが…」

いきなり姉をナンパしようとした氷河ドリルをぶちのめし、
闇に落ちた天災、とか呟きそうなほど低い声になった星矢。
だが、事態は更に妙な方向へとカッ飛んでいく。
突如として天に影が差すと、そこには三つのセイルをかけ、
血の十字架の紋章を染め抜いた超ド級の宇宙戦艦が現れていた!

「そっちかよ!」

凄まじい多重騒音と共に、黄金の巨大騎士が星矢たちの目の前に降り立つ!
史上最悪の殺戮機械群を束ねる金色の魔神、ザ・ナイトオブゴールドである!
胸部にあるヘッドライナー用コクピットと、額にあるファティマ用コクピットの扉が開くと、
中からサイヤ人戦闘服姿の瞬と初登場時のブルマの格好をしたちょっと恥ずかしそうなジュネが現れた!
流石にミニスカートは恥ずかしかったようだ!
ご丁寧にジュネをお姫様抱っこしてナイトオブゴールドから飛び降りた瞬は

「ふん!この瞬さまが来てやったんだ、つまらん戦いでは承知せんぞ!」
244作者の都合により名無しです:2007/02/14(水) 23:50:01 ID:OGHjDi5Z0
と一喝してのけた。
複合かよ!という叫び声はその場全員の魂の叫び声だ!
同時に今の瞬は星矢にとっては一番相性の悪い相手でもある。
ぶっちゃけ彼女寝取られたし。まぁ、三本目の足元もお留守だったんでしょう。

「皆、そろったようだな…」

そう言って締めたのは、段平を背負い、黄・黒・赤のトリコロールのマスクを被った学ラン男だった。
「瞬、色を知る年頃か」などと小さく呟くあたり、もう身元は割れたようなものだ。

「ああ、時が見える…」などとトリップしだした沙織の頭を引っぱたくという暴挙で本筋に戻した星華は、
声高らかに宣言するのであった。

「アニメ新世紀宣言!」
245作者の都合により名無しです:2007/02/14(水) 23:54:20 ID:OGHjDi5Z0

「姉さん、それ反則」

即座に星矢の突っ込みが入る。
スタンド名・若富野を背負った星華は、星矢のツッコミに舌を出す。

「というのは流石に冗談よん♪
 この面子に集まってもらったのは他でもないわ!12宮を突破して欲しいのよ!
 主にお姉ちゃんの趣味の為に!」

「趣味かよ!」

反対者は星矢のみ。

「面白ぇ!」とはシリュースクリーム。
「のったぞ!」とは氷河ドリル
「ふん!」とはサイヤの王子さまな瞬。
「まぁ、瞬と一緒なら…」と、まんざら嫌でもなさそうな顔で、
 恥ずかしげにミニスカートを抑えるジュネ。
「俺たちは恐ろしい先輩をもっちまったようだぜ」と義妹のミニスカをチラッと眺めた瞬間、
 瞬の洒落にならないくらい鋭い眼光にひるむマスク・ザ・ドイツ。
「おほほほほ」と、無印セーラームーンの大ボスっぽい笑いをする沙織。

他五名は大変な乗り気のようで、かくして異次元メンバーによって小ネタ満載の12宮突破がはじまったのだった!
246銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2007/02/14(水) 23:56:20 ID:OGHjDi5Z0
題名はあえて無題とさせていただきたい!
アルバフィカがカッコよかったので非常に満足な銀杏丸ですお久しぶりです
今回はネタに突っ走ってみました。
すべてのネタがお分かりの方にはステキなSSをプレゼントするかもしたりしなかったり

>>6さん
本当にどうしようもないほどに狂っている奴、というのは
はた迷惑なんですが、赤の他人としてみるとギャグにしか見えなかったりします
少佐のそういった面、平野耕太演出独自のギャグを盛り込めなかったのは残念至極

>>12さん
というわけで番外第三弾、声優ネタでございました
全部わかったらなんかやりますので、ぜひとも元ネタを探してみてください

>>13さん
実はこの直後から大スランプに突入してしまいました…
怖いですねぇ

>>14さん
容量オーバー寸前で誠申し訳なかったです
次はこんなことないようにしますので
247銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2007/02/14(水) 23:57:15 ID:OGHjDi5Z0

>>サマサさん
連載完結&新連載乙!
桃太郎伝説はアニメをみたっきりなので、期待してます
あの玩具ほしかったなぁ…

>>さいさん
ああ、魅惑の若本ヴォイスが聞こえてくる!
キャラクターの特性をうまくつかむと
文章の向こうから声が聞こえてくることがあるんですねぇ
凄い

>>スターダストさん
ヘルシングキャラクター中、一番料理が難しいのが少佐だと思います
既存キャラクターを動かす場合、一番気をつけなきゃならんのが言動だと思ってますが
少佐は何言い出すかわかったモンじゃないので、モノスゴークやりにくかったです…
秋水のキャラクターはアニメのほうが深く掘り下げてるので、
そっちのイメージが大きかったりしますw

>>ふら〜りさん
不肖銀杏丸、原作の力に頼りきっちゃってる感に未熟を実感しております
平野耕太という人物の作品にゃ多かれ少なかれガイキチが登場すんですが
この少佐ほどミステリアスかつ訳わからん奴はそうはいなく、難しい…

では、またお会いしましょう!
248作者の都合により名無しです:2007/02/15(木) 01:54:33 ID:SOmuPiEm0
>>236
さいさんはいつも予定ないだろ
249作者の都合により名無しです:2007/02/15(木) 08:12:13 ID:4+Xo9ohl0
>銀杏丸さん
半分くらいしかネタわからん・・
アルバフィカってチャンピオン連載の星矢だったっけ?
あの絵柄は星矢と認めたくない自分がいる。

ところでこれは連載なのかな?
250修羅と鬼女の刻:2007/02/15(木) 20:43:45 ID:/8eLcJvK0
>>221
昼は武士たちの苦情処理、夜は街の巡回。激務ではあるが、間違いなくそれが人々を
救っているということが実感できる。大和は今まで、強者と戦って己の武技を磨くこと
しか考えていなかったが、こういう生き方もあるのかと新鮮な感動を覚えていた。
たまに戦地の正成から手紙が届いたり、尊氏や師直とささやかな宴会をしたり。街も
少しずつだが平和を取り戻しているし、大和は充実した日々を送っていた。
そんなある夜。いつものように大和は街の巡回をしていたが、
「! な、何だ!?」
異様な気配を感じ、足を止めた。
どこかで感じたことのある底知れぬ妖気。まるで人ならぬ者、鬼か魔物のよう。そんな
奴が、誰かと戦っている。そいつも並の腕ではなさそうだが、正直言って勝ち目は……
『ん? この感じ……あ、足利さんだっ!』
大和は顔色を変えて駆け出した。

『ふふふふっ。ほんのつまみ食いのつもりでしたけど、こうまで美味しいとは』
夜空に、キラキラ光る白刃が舞う。勇によって蹴り折られた尊氏の刀が、月光を受けて
回転しながら舞い上がる。
尊氏は柄だけになった刀を迷わず捨て、正中線を守る形で両掌を縦に連ねて構えた。
その構えを見て、対峙する勇は嬉しそうに言う。
「どうやら、あれからも鍛錬は怠っていないようですね。結構結構」
「なぜ、私を……お前は一体?」
尊氏は覚えている。かつて、山中でたった一度だけ戦ったことのあるこの少女のことを。
「あの時、申しましたでしょう? 私にとっては食欲も性欲も殺傷本能も同じようなもの。
幾度も、幾度も、多くの相手と試してみれば貴方にも解りますわ。戦場で相手を
傷つけることと、閨で相手に快感を与えることは表裏一体……戦いと情交はそっくり
なのだ、と。残念ながら、貴方には傷つける方しか味わわせて差し上げられませんが」
言うが早いか、勇が疾風のように踏み込んできた。尊氏はとっさにかわす。頬を切られて
血が滲んだ。慌てて体を沈める。肩口を衝撃が掠めて内出血を起こした。
それもこれも、全く見えない。突きか蹴りかさえ判らない。殺気から先読みしているだけだ。
蜂の大群のように襲ってくる、錐のように鋭く、斧のように重く、風のように見えぬ攻撃。
251修羅と鬼女の刻:2007/02/15(木) 20:44:37 ID:/8eLcJvK0
「……そこだっ!」
人間の動体視力では捕らえきれない、目視できない勇の攻撃に、尊氏は手を出した。
拳だか脚だかは知らないが、とりあえず「自分を殺そうと飛んでくる何か」に掌を添えて
受け流し、投げ飛ばす。
どうやら脚だったらしく、勇の体が後方に傾いた。が、同時に尊氏の腹を猛烈な衝撃が
襲う。……寺の鐘に縛り付けられ、鐘の代わりに腹を打たれたら、こんな感じだろうか。
「足は二本あるのですよ。成長したかと思いきや、どうやらわたしの買い被りでしたか?
せっかく、初対面の時と重ね合わせて差し上げましたのに」
そんな勇の言葉を耳に入れる余裕などなく、尊氏は血と胃液と唾液の混合液を
吐き散らしながら吹っ飛び、勇は優雅に降り立った。
が、尊氏も倒れはしない。唇をぬぐいながら、辛うじて自分の足で地に踏みとどまる。
「もう一度聞くぞ……なぜ、私を狙う……幕府の残党……刺客……か?」
息を切らしながらの尊氏の声。ふう、と勇は溜息をつく。
「この状況でそんなことを訊くのですか。貴方らしいというか」
「こ……こ、答えろ!」
「はいはい。では、冥土のお土産としてお聞かせ致しま、っと」
言いながら、勇は尊氏の肩越しに飛んできた矢を掴み取った。尊氏が振り返ると、
後方から馬に乗った師直が、弓を構えて駆けてきていて、
「殿おおぉぉっ! ご無事ですかっ!」
揺れる馬上から二本目の矢を射た。が、またも平然と勇に掴み取られる。
「ふむ。速さも精度もなかなかのものですね。さすがは足利家の執事。が、甘い」
勇は矢を、無造作に投げ返した。それは師直が弓を使って射たものよりも遥かに
鋭く重く速く飛翔し、瞬く間もなく馬上の師直の肩に深々と突き刺さり、そのまま
その威力で師直を突き落としてしまう。
師直は呻きながら肩口を押さえ、落馬した。尊氏が駆け寄って支え起こすが、矢は
半分以上めり込み埋まっており、肉を貫通して骨まで食い込んでいるのは確実だ。
苦痛に脂汗を浮かべながら、師直は矢を掴み、そして強引に引き抜き捨てた。歯を
食い縛って立ち上がり、刀を抜く。
「ぐくっ……と、殿っ、お逃げ下さい。ここは拙者が」
たった一撃で立つこともままならなくなった師直だが、尊氏を庇って勇の前に立つ。
252修羅と鬼女の刻:2007/02/15(木) 20:45:34 ID:/8eLcJvK0
「ふふっ。健気なことですね。ではお望み通り、主君の盾となって死した忠臣という名誉を
差し上げましょう。美味しい尊氏様を喰らうことができず欲求不満に思っていたところ、
丁度よい代用食です」
「何?」
「おっと、これは口が滑りました。忘れてください。もっとも貴方は今、死にますけどね。
……と言いたいところですが、」
勇は、ぺこりと頭を下げた。
「注文してもいないのに、代用食その二が到着したようです。わたしは本当に運がいい」
勇は深々とお辞儀して、地面に左手を着いた。代わりに右足を跳ね上げる。逆回し蹴りの
体勢だ。するとその足に、隕石のように降ってきた何かが激しく衝突した。
それは、衝突の反動……勇の蹴りと自身の蹴りとのぶつかり合い……で弾き返され、
宙で三回転ほどしてから塀の上に降り立った。そして心配そうな声を飛ばす。
「足利さん、高さん、大丈夫っ!? いや、オレが来たからにはもう大丈夫だよ!」
大和だ。塀の上から、びしっ! と勇を指差して叫ぶ。
「そこのお前! お前が何者かは知らないが、足利さんたちは今、後醍醐帝の新政府を
固める為に、平和な世を創る為に毎日頑張ってるんだ! それを邪魔するなら……って」
大和が指差しているのは、真白い肌と血の色の髪、そして真紅の衣を纏った美しい少女。
人ならぬ者の血が混じっていると恐れられる、半魔の少女だ。
「お前は……後醍醐帝を救出に行った時に隠岐で会った……確か護良親王の臣下の?」
「そういう貴方は、楠木様の。今は足利様のお手伝いですか? ご熱心なことですね」
「ちょ、ちょっと待てよ。なんでお前が、足利さんを狙う? 護良親王って、後醍醐帝の
実の息子なんだろ? それがどうして、後醍醐帝の為に働いてる足利さんを」
事態を察して動いたのは、師直だった。肩の痛みをムリヤリ無視して、刀を振るって
勇に襲い掛かる。
勇はそれを大きく跳び退いてかわし、
「おお怖い。さすがに、これほどの猛者が三人がかりとなると分が悪いですね。
仕方がないので退散するとしましょう。では、御機嫌よう」
あっけないほど簡単に、一目散に勇は逃げ出した。脱兎の速さであっと言う間に見えなく
なる。師直は追おうとするがやはり傷が痛み、大和は事態が理解できず、そして尊氏は、
253修羅と鬼女の刻:2007/02/15(木) 20:47:09 ID:/8eLcJvK0
「む、陸奥殿。今のは……嘘、冗談、人違い、そのいずれか?」
「え。いや、間違いないよ」
よっ、と塀から跳び降りた大和が尊氏に言う。
「さっきも言った通り、あいつは護良親王の臣下。後醍醐帝の救出に行くくらいだから、
かなり信頼されてるんだろうな。実際、腕も立つ奴だし。それにしてもどうして、」
「陸奥殿っ!」
勇の追跡を諦めた師直が、大和の肩を思い切り掴んだ。
「貴殿の申されるのが事実とすれば、これは由々しき事態! 直ちにしかるべき処置を
取らねばなりません! さもなくば、いつまた殿が狙われることか!」
「確かに、あいつがまた襲ってくるとなると危険だね。できれば帝に直接相談して」
「それは流石に無理でござろうが、新政府に訴えることならできますぞ。さ、行きましょう」
と二人が歩き出すと、尊氏が立ちはだかるようにして止めた。
「ま、待て師直。これは何かの間違いとか……陸奥殿、本当の本当に、今の娘が
護良親王の臣下なのか?」
「ほんとだってば。あんなバケモノ女が、天下に二人といるはずない。間違えっこないよ」
「殿! 護良親王が殿を危険視していたということは、前々から拙者が申し上げて
おりましたでしょう! ことここに到って、何を戸惑うことがありましょうや!」
「しかし……そんな……」
「今は悩んでいる場合ではありません! さあ陸奥殿、一緒に来て下され!」
「あ、うん。けど高さん、傷の手当は」
「拙者のことなどどうでも良いのですっ!」
大和は、半ば引きずられるようにして師直に連れて行かれた。
残された尊氏は、沈痛な顔で佇んでいる。信じたくないが、しかし事実は事実、むしろ
来るべきものが遂に来たというだけだ、だが来て欲しくなかった今日という日……
「帝……私は……」
254ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/02/15(木) 20:49:24 ID:/8eLcJvK0
前にも申しましたが尊氏は戦前戦中の教育では極悪人扱いでした。が近年、大河ドラマで
太平記を観たお婆さんが、「足利尊氏って、いい人だったんだねぇ……」と呟いたそうです。
やはり過去の人物ですので解釈はいろいろありましょうが、私は↑コレでいきます。

>>さいさん
戦う相手のみならず、自分自身もスプラッタするのがアンデルセンのエグいとこですが、
今回もまた一段と。左腕、持ち帰って分析でもした方がいいのでは? と思ってたら捨て
ちゃって、案の定平然と治癒……能力が単純に「強い」だからつけ込みようがないですな。

>>銀杏丸さん
ぬうぅ。一応全部知ってはいるものの、名前だけってのがほとんど。無念。ナイトオブゴールド
とは映画館で対面したなと思い出す。で銀杏丸さん、長編SSは威厳重厚なのにこういう
時は軽快暴走で両極端ですな。私もこう、キレとテンポのいい掛け合いを書きたいものです。
255作者の都合により名無しです:2007/02/15(木) 21:26:23 ID:IDCMsuU80
>銀杏丸氏
お久しぶり。新連載?乙です。でも戦闘神話の方は大丈夫かな?
知らないのが多いのでちょっと楽屋オチっぽい感じだったけど
ノリで楽しめました。次は戦闘の方お願いします

>ふらーりさん
大和が少年漫画っぽい主人公ですな。
九十九はちょっとニヒリズム漂ってるけど、社交的だw
勇は神出鬼没でエロ可愛いですなー
256ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/02/15(木) 23:21:42 ID:XOIeXQTM0
序章・3 予兆

鬼ヶ島。
かつては人間にとって恐怖の象徴であった鬼族の巣窟―――そこもすっかりと様変わりしていた。
険しい山々に毒の沼と、いかにもおどろおどろしかった大地は生まれ変わり、草木や花が咲き乱れる美しい場所になって
いる。ふと歩けば自然と鼻歌でも飛び出てきそうな平和な眺めだ。
そんな鬼ヶ島の一角。海が見渡せるなだらかな丘の上に、一つの墓標がある。派手ではないがしっかりした石造りの墓は、
そこに眠っている者が高貴な血筋に連なる者であることを示している。
墓前には、一人の男がいた。長身痩躯の身体に纏った白装束。どことなく憂いを帯びた中性的な美貌。女性でさえ羨む
ような、長く伸ばした艶やかな黒髪。頭から二本の角を生やした異形の姿でありながら、彼は例えようもなく美しかった。
そんな外見からは、彼の内面の強さと熱さを窺い知ることはそうそうできないだろう。
彼の名はアジャセ。バサラ王と月の民との間に生まれた、鬼族の第二王子。
アジャセは手にしていた花を墓前に供え、細い指先でそっと墓石を撫で、悲しげに笑った。
「ダイダ兄上・・・もう五年になるか」
―――そこに眠っているのはアジャセの兄、鬼族の第一王子であったダイダ。
鬼神とまで呼ばれた武勇一筋の男だったダイダと、本質的に争いを好まないアジャセ。
仲のいい兄弟とは言えなかった。互いに鬼の世を憂いながらも思想・立場の違いから反発しあって―――
分かり合えたのが、最後の最後だった。
ダイダは幾度にも渡る桃太郎との戦いの果て、桃太郎に打ち負かされ、そしてその曇りなき剣と心に打たれ、彼と共に
戦うことを誓ったその直後、カルラの凶刃によって斃れた。
弟のアジャセと妹の夜叉姫に看取られながら―――彼は静かに息を引き取ったのだ。
「この平和な世界を、あなたにも見せたかった・・・」
「―――そうだな」
背後からの声に、反射的に振り向く。そこにいたのは、長身のアジャセですらも見上げるほどの大男だった。
巨大な角にいかにも頑固そうで無骨な強面。その逞しい腕は、比喩抜きで丸太ほどにも太かった。
彼こそはアジャセの父親にして鬼族の王―――バサラ王。
人間の年齢でいえばそろそろ初老であろうが、それを感じさせない覇気を発散させている辺りは流石に鬼族の大将と
いったところだ。
257ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/02/15(木) 23:22:30 ID:XOIeXQTM0
彼は墓に向けてそっと手を合わせ、ポツリと言った。
「わしは・・・愚かな男だった」
「父上、そのようなことは・・・」
「よい、気を遣うな。そのせいでお前たちにも苦労をかけさせた」
バサラ王は墓標に視線を落とした。
「そして―――死ななくてもよかった者たちまで、大勢死なせてしまった。せめて、同じ過ちだけは二度と繰り返したく
はないものだ」
そのまましばし、墓前で二人は黙したまま佇む。失われた命を悼むように。
やがて、バサラ王があえてそうしているのか、明るい口調で話題を変えた。
「―――そうそう、桃華から手紙が来てな」
「桃華から・・・」
その名前を聞いて、アジャセも顔を綻ばせた。桃太郎と夜叉姫の間に生まれた桃華―――バサラ王にとっては孫であり、
アジャセにとっては姪っ子だ。三歳になったばかりで可愛い盛りの彼女のこととなると、無骨なバサラ王も途端に優しい
祖父の顔となる。
「新しい友人が四人もできたと喜んでおったぞ。それに、近々祭りに行くそうだ。そこでこんなものを拵えたのだが、
どうだろうか?あの子に似合うと思うか?」
バサラ王が取り出したのは、子供用の小さな浴衣だった。薄い青色の生地に桃の花をあしらったもので、中々品のよさ
を感じさせる。アジャセは桃華がこれを着た姿を思い浮かべてみた。
―――うむ、中々いい感じだ。そう率直に伝えると、バサラ王も満更でもなさそうに笑った。
「うむ、それはよかった。何せわしの手作りなもので不安だったのでな」
「あんたの手作りかよ!」
思わず言葉使いが崩れた。
「親に向かってあんたとはなんだ、あんたとは」
「この際言わせて貰う!」
彼がせっせと子供用の浴衣を拵えているというのは、そのくらいヤバげな光景だと思えた。
「ちなみに守備力は数値に直すと80はあるぞ」
「その浴衣には一体どんな伝説が!?」
原作じゃ最強の防具だって精々60だったというのに。
「はっはっは、大げさなことを・・・ただわしの愛をたっぷりと込めて拵えただけだ」
嫌なもんまでこもってそうだ、とまでは流石に言えないアジャセだった。
258ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/02/15(木) 23:23:23 ID:XOIeXQTM0
何しろ桃華が生まれてからというもの、彼女のこととなると落雷を受けたあげく頭の螺子が外れ、更に頭を何度も激しく
打ちながら超上空から落下したのかと思うくらい行動が常軌を逸してくるのだ。
桃華が流し素麺が食べたいと言ったら自ら麺を打ち、竹取の村に出向いて竹を勢いよく伐採し、万里の長城の如き雄大な
竹樋を作り上げた(折角だから素麺は皆で美味しく頂いた)。
桃華が病気になったと聞いた時には三日三晩不眠不休で滝に打たれながら桃華が元気になるようにとお経を唱え続けた
(ちなみに桃華の病気とは単なるおたふく風邪だった)。
他にも枚挙に暇がない。だがアジャセはそんなバサラ王を呆れつつも、微笑ましく思った。こんな風に笑えるくらいに、
平和な時代が来たのだと。
―――桃太郎には、本当に感謝しないといけないな。
今はアジャセの義弟となった男を思う。彼がいなければ、今のこの平和はなかっただろう。そして、桃華だって生まれ
なかった。彼が妹を―――夜叉を選んでくれてよかったと、心からそう思う。
アジャセは妹に対して過保護すぎるきらいがあった(歯に絹着せぬ言い方をするとシスコンという)が、桃太郎ならば
文句の付けようがなかった。妹を任せるにあたって、彼以上に相応しいと思える男などいなかったからだ。
だからバサラ王への挨拶(娘さんを僕にください)の時には、桃太郎の側に立って父を説得したものだ。
―――詳しくは言わないが、あの時の父の目にはマジで殺気が宿っていた。それもまあ、いい思い出である。
そんな彼も桃華が生まれてからは、先述の通りの孫馬鹿ぶりを発揮している。
世は全てこともなし。この平和はきっと、いつまでも続いてくれるだろう―――
と。二人は丘を登ってくる人影に気付いた。近づくにつれてその姿が明らかになってくる。
それはこの世の者とも思えぬ、美しい女性だった。いくら美麗辞句を重ねたところで、それを正確に表現することなど
できないだろう。月も恥じらい、花も閉じるような美貌には一点の瑕疵もない。
「―――かぐや姫!」
「お久しぶりです、アジャセ王子、そしてバサラ王様・・・」
―――彼女はかぐや姫。神の末裔である月の民、その女王にして、アジャセとは従兄弟の関係にあたる。
彼女はカルラの手にかかり、一度は命を落としたが、奇跡的に蘇り、以後は月世界の復興へと力を注いでいた。
そんな彼女が、ここに何用だというのか。
かぐや姫は墓前にそっと手を合わせた後に、アジャセたちをしかと見つめた。
「私は・・・夢を見ました」
「夢?」
「はい。とても恐ろしい夢を・・・私にはそれが、ただの悪夢だとは思えません。近いうちに現実のものとなってしまう。
それはもう・・・確信といえるほどに、私には思えるのです」
259ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/02/15(木) 23:24:19 ID:XOIeXQTM0
アジャセもバサラ王も、それを聞いて笑ったりはしなかった。
神の末裔であるかぐや姫には不思議な力がある。それは、天地を支えるほどの強大な力だ。そのかぐや姫が、これほど
に確信めいた警告を送っているのだ。ならばそれには何らかの意味がある―――そう思えた。
そしてかぐや姫は静かに語り始めた。
「数多ある、この世界とは空間を隔てた場所に存在する平行世界―――その中の一つから、恐るべき侵略者がやってくる
のです。彼らは見たこともない武器や道具を用い、この世界を、ひいては全ての世界を支配せんと動き出すのです」
「なんと・・・」
信じられないような内容だった。異世界からの侵略者―――普通ならば、与太話と一笑に付してしまうところだ。
だが・・・。
「それが本当のことになるのなら・・・」
―――この平和な世界が、再び乱されるということだ。
思わず手を握り締めるアジャセを見て、かぐや姫は続けた。
「―――けれど、私の見た夢は悪夢だけではありません。そこには希望も、確かに存在していました」
かぐや姫は青い空を見上げた。その果てに、何かを見出そうとするかのように。
「私の見た希望―――それは青き神獣と、その仲間たち・・・」
「青き・・・神獣?」
「そう。彼らと桃太郎さん、そしてこの世に生きる皆が力を合わせ―――再び平和を取り戻す。そんな夢を」
そこまで言って、彼女はふっと笑った。
「・・・ごめんなさい。不安にさせてしまいました。けれど、どうしても伝えなければならないと思いまして」
「いえ、そんなことは・・・しかし」
アジャセは思った。青き神獣とは―――一体なんなのか?
考え込むアジャセを尻目にかぐや姫は、すっと踵を返しながら、にこやかに言った。
「いずれ月にもいらしてください。皆で盛大にニンニクで宴会を開きましょう」
「いや・・・それはどうかと・・・」
「大丈夫です。無臭ニンニクを使いますから」
そういう問題ではなくて、そう、あなた自身の神秘的なイメージとか、その辺とかも考えて欲しい。
アジャセはそう言いたかったが、結局言わなかった。
「それでは―――またお会いしましょう」
260ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/02/15(木) 23:25:07 ID:XOIeXQTM0
―――かぐや姫は去っていったが、その後もアジャセとバサラ王はその場を動かなかった。
「アジャセよ・・・今の話を、どう受け取る」
「は・・・ただの悪夢だ、というのは簡単ですが・・・」
だが・・・そうは思えない。ただの悪夢で騒ぎ立てるなど、かぐや姫がするわけがない。
ならば・・・。
「本当にそんなことが起きるというならば・・・私は戦います」
決意を込めて、アジャセは言い放った。
「敵を殺すためではなく、この平和を守るために」

―――その数日後。
かぐや姫の悪夢は、現実のものとなる。
異世界よりやってきた未知なる敵が、ついに侵攻を開始したのだ。
ならば―――希望は。
青き神獣たちは、いつ舞い降りるのか―――

ドラえもん   のび太の新説桃太郎伝   序章は終わり、いよいよ開幕―――!
261サマサ ◆2NA38J2XJM :2007/02/15(木) 23:37:01 ID:XOIeXQTM0
投下完了。前回は>>197より。
次回からようやくドラサイドです。
ちなみにかぐや姫がにんにく好きなのはアニメ版設定だったり(笑)。

>>200 ノリはもっとよくしたいですね。

>>201 はい、大変ですw

>>ロボット大戦Hさん
完結お疲れ様です。やはりシュウ&グランゾン強し。彼らが活躍してくれただけで大満足してしまう僕がいます。
ところでアニメのサイバスターはやたら活躍してて嬉しい限り(関係ない)。

>>213 西博士は主要キャラがどうとかいうレベルではありません。とにかく<西博士>としか言えません。

>>214 マイナーでも、西博士だけは出したかった・・・だって好きなんですよ。

>>ふら〜りさん
勇怖ええ!こういうキャラは大好きですよ。
西博士にツッコミをかませる人は多分いません。彼はそんなレベルを遥かに越えた高みにいます。

>>銀杏丸さん
なんだこりゃwさっぱり元ネタ分かりませんが、騒々しくも楽しい雰囲気は嫌ってほどに伝わってきました。
桃伝、アニメ版は確か、パワードスーツとか着てましたっけ。
262作者の都合により名無しです:2007/02/16(金) 08:30:13 ID:hu4xPcKc0
>>サマサさん
“青き神獣”
でも、やっぱり桃ちゃん達にはタヌキ呼ばわりされるんでしょうねぇ(w

>桃伝アニメ版
何故か(というか意図的に?)、主人公クラスキャラのCVの大半が『サムライトルーパー』の
それでした。
ついでにパワードスーツ装着シーンが「男のハニーフラッシュ」(w

◆この先の展開予想(w

桃太郎(と言うか、ドラえもん達)が、平行世界移動に使うマシーンが列車(新幹線もどき)型。
↑搭載AIの声が、浦島太郎とそっくり。(CV:草尾毅ネタ(w)
桃太郎が「僕は最初からクライマックスだ!」と言う(w
キングボンビー出現

◆『神界大活劇』&『超機神大戦』
つい忘れがちですが、プリムラは原作では高校生相当の年齢。
下手したらのび太はプリムラの年齢を、上級生程度と思ってるんじゃなかろうか。

そちらの『SHUFFLE!』世界の“シナリオ進行”にもよりますが、『超機神大戦』でムウがクルーゼの
素性を明かした時、稟やプリムラはリコリスの事思い出したりしてたりして。
263ゴート ◆EXkilp59vM :2007/02/16(金) 13:20:56 ID:bHy1xU9Y0
ダーカ改めゴート

あのスレでは一足先に報告させていただいたのですが、バレさま復帰までの暫定まとめwikiを作りました。
とりあえず43スレ以降の作品がまとめてあります。
リンク切れや見にくいところや要望などありましたらご連絡ください。
また、編集を手伝ってくれる方や絵師さまなども随時募集しています。

>フルメタルウルヴズさま
相変わらず格闘の描写がすばらしいですね。プロレスっていいなと思いました。

>ふらーりさま
勇が怖いですね。策略家なので、勇次郎より性質が悪そう。

>さいさま
神父の迫力は世界一ィィィ! 左手を燃やさずに捨ててしまうあたり、火渡の無意識の恐怖を感じてしまいます。

>インキ…銀杏丸さま
これはwビクトリームw

>サマサさま
青き神獣とは!のび太達が成立に関わった国以外でドラえもんの呼び名がここまで持ち上げられるのは初めてではないでしょうか。
新章楽しみにしています。

それでは
http://www25.atwiki.jp/bakiss
264作者の都合により名無しです:2007/02/16(金) 19:03:13 ID:fDKUz2+c0
サマサさん乙です。
いよいよ序章が終わり、世界が膨らんできそうですね。
インフレもどんどんしていってほしいです。

そしてゴート様、大変お疲れ様です!
手伝いたいけど、編集ってどうやってやるのかな?
265作者の都合により名無しです:2007/02/16(金) 22:07:20 ID:C6T7n1yS0
ゴートさん、ありがとう!
あなたみたいな方がいる限り、今年もバキスレは大丈夫と思ったり。
でもバレさん、連絡くらい欲しいよねえ。
もう引退でも、みんな「ありがとう」と言うに決まってるし。
続けてくれるのが一番だけど。


サマサさんお疲れ様です。
いよいよ本編突入ってことで、神界や超機神にも負けないくらい
騒がしくて魅力的な面々の活躍を楽しみにしてます。
266作者の都合により名無しです:2007/02/17(土) 12:14:27 ID:fdq0xgMt0
ゴート氏、GJ!
267作者の都合により名無しです:2007/02/17(土) 23:40:00 ID:HF6nr4Z50
バレさん復帰はさすがに厳しいか
268永遠の扉:2007/02/18(日) 20:17:29 ID:zcSMlZ+K0
「さて……戦士・剛太。キミにここへ来てもらったのは他でもない」
「あ、ハイ」
斗貴子からさっと視線を防人に移し、剛太は居ずまいを正した。
が、それでもあまり上司に報告する態度にはやや不足。
新人ゆえの未成熟と形而上の軽さは敬語一つ位では補えないようだ。
そも、上司を目の前に斗貴子へでれでれと話しかけるのも良いとはいえない。
とはいえそれを咎めるほど防人は狭量ではない。
むしろ推奨し、時には自ら悪ノリして斗貴子を悩ますコトもしばしばである。
「キミには1つ──…」
「待って防人君」
それまで影のように黙っていた千歳が防人の言葉を遮り、引き戸へと歩いた。
4畳半ほどの寄宿舎管理人室、秘密の話には不向きである。
というのもここは生徒の部屋と同じく廊下に直接面しており、引き戸一枚に耳を当てれば中
の様子が丸分かりなのである。
その引き戸が千歳にがらりと開けられると、意外な3人が現われた。
「わ、やっぱりバレた。ごめんなさいー」
とバツが悪そうな微笑は河合沙織。
フリルのついたスカートから幼い膝小僧を覗かせて、ちょこんと座っている。
「でもどうして!? 私たち完全に気配を断ってたよねびっきー」
こちらは武藤まひろ。沙織の2つ後ろで立って、信じられないという顔をしている。
どうやらこの3人、階段状に並んで部屋の内部を伺っていたらしい。
「……無理だと思うよそういうの」
最後はヴィクトリア。沙織とまひろの間で膝立ちをしている。
いつものように猫を被っているが、戦士たちを見る眼差しはかすかに冷たい。
その中で剛太だけはヴィクトリアを見ると、「ん?」と瞬きをした。
「こらこら。大事な話をしてるんだ。盗み聞きはよくないな」
「ゴメン。さーちゃんに誘われて、つい。あ、秋水先輩もいた!」
まひろは謝ると、ちょっと嬉しそうに手を振った。
秋水も軽く手を上げて応じようとしたが、桜花の微妙な態度を気にしたのか目礼で留めた。
「まったく。戦士長のいう通りだ。あまりこちらの事情を探るな。また巻き込まれても知らないぞ」
腕組みをしながら厳しくいう斗貴子だが、かえって沙織の興味を引き立てたらしい。
「斗貴子先輩。戦士長ってなんですか!? やっぱりブラボーさんも仲間だったり!?」
269永遠の扉:2007/02/18(日) 20:18:50 ID:zcSMlZ+K0
「う……」
斗貴子はしまったという顔をした。
(そういえば俺の素性はまだ明かしてなかったな)
思い返せばカズキと斗貴子は銀成学園での決戦時、まひろや沙織、千里を始めとする友人
一同に戦士であるコトを明かしたが、その際別の場所でムーンフェイスと交戦中だった防人
(寄宿舎管理人としてはキャプテンブラボーという別名で通している)については別だ。
「んー。まぁなんだ。ブラボーな役職とだけいっておこうか。もっとももうすぐ引退するが」
「え〜。もっと知りたい」
「これ以上はヒミツ! なぜならそっちの方が」
「カッコいいから? そうだよね。やっぱまっぴーから聞いた通り。えーと。とにかく、盗み聞き
してゴメンなさい」
沙織は立ち上がるとスカートの裾をぱんぱんと払った。
「……分かっているとは思うけど」
引き戸の近くで千歳は底の見えない神秘的な瞳を、沙織に向けた。
「うん。他の人にはナイショにしとく」
「そうだよ沙織」
ヴィクトリアもいちおう話を合わす。戦士たちの手前、あまり露骨に猫をかぶらないように。
そんなあどけない表情を見た剛太の中で何かが弾けた。
「あ───!! お前はあの時の!!」
「なんだ剛太!! うるさいぞ!」
剛太は垂れがちな眼を驚きいっぱいに見開いてヴィクトリアを指差した。
「ほ、ほら! 斗貴子先輩覚えてるでしょ!? アイツ、ニュートンアップル女学院にいたホ」
剛太の呼吸はそこで途切れた。
例えるなら相棒を射殺されたアバッキオの未来のように終わった。
なぜならば桐の枝よりなめらかな十指が背後よりにょきりと伸びて、ノド声で叫ぶ口を優雅に
塞いだからだ。
彼は仰天したまま背後を見ようとした。もっとも人間の視野は一般に

片目で約160度程度、両目だと200度 (Wikiより)

といわれているからすぐ後ろの人物をみるコトは叶わない。
ただ口に当たるなめらかな指の感触に驚くばかりである。
270永遠の扉:2007/02/18(日) 20:20:06 ID:zcSMlZ+K0
剛太が知っているものといえば、斗貴子の凶器じみた指ぐらいである。
使い込まれた鋭利なそれは、奇麗な外見とは裏腹に鈍器がごとく硬い。
それに比べていま口を塞いでいる指の感触はどうであろう。
斗貴子以外に無関心な剛太ではあるが、つい唾液をつけまいと余計な配慮をしてしまった。
「あらあら。顔見知り?」
桜花はくすりと微笑むと、剛太の口に当てた指を始点に体を密着させた。
(せっかくのチャンスだし、少しちょっかいをかけようかしら。さっき私をあしらった罰よ)
悪戯っぽいを笑みを浮かべて、桜花は自分という存在の中でかなりの自信を持っている部位
を、剛太の背中に押し付けた。
具体的にいうと、胸である。
B88という脅威の質量が、煤けた背中に当たってぐにゃりと押しつぶれた。
「ちょ、な、なにを……」
「ほら、女のコを指差して大声を出すのは失礼じゃなくて? デリケートなんだからもっと優し
く扱ってあげないと」
「そ、そうじゃなくて」
剛太は顔を真赤にして一生懸命後ろを見ようともがくが、口を塞ぐ手に妨げられ動けない。
そしてもがけばもがくほど、背中にある柔らかな2つの膨らみがめいめい別方向に動くのが
分かり、艶かしい感触に抵抗の意思も拒絶の意思も奪われていく。
柔らかくも弾力に富み、微細な動きを押し返しては押し潰され押し返しては押し潰され……
あぁ。斗貴子先輩が生八ツ橋ならばこちらはメロン。いやそれ以上。
などと混乱をきたす剛太の脳内はやがて銀河に接続した。

       ,,;;;"゙;;  ← 吹き上がるプロミネンス、地球の直径の10倍以上はザラ!!
      ((  ゙゙ゞゝ
::ヽ、   ,,ノノ゙
:::::::::\,,彡"゙    o ← 地球の大きさはこれくらい
   :::ヽ"
    :::゙、
    :::::|
 太陽 :::|
       :|
これほどの差があるのである。
271永遠の扉:2007/02/18(日) 20:21:08 ID:zcSMlZ+K0
(…………)
秋水は色を成した。桜花の目論見は分からないが、とてもとても色を成した。
桜花はそんな様子にすごく満足した。
溜飲を下げるのが主目的だったが、秋水の気が自分に向いたのは予想外に嬉しい。
それで気が済んだのか、剛太の口から手を離してくすくす笑った。
(またやってみようかしら)
笑いながらもヴィクトリアを見てウィンクした。正体を隠してあげたといいたいのだろう。
(恩着せがましい)
ヴィクトリアは実に不快だ。そもそも桜花のような気質の女性は好みではない。
男性に媚を売っているように見えるからだ。
夫のためだけに100年間ずっと研究に没頭した母をどこかで理想にしているヴィクトリアに
とっては受け入れようがない。
それを抜きにすれば恐らくただの同族嫌悪だろう。桜花もヴィクトリアも猫かぶりの腹黒だ。
相違点を挙げるとすれば、腹黒の性質だ。
桜花は高層ビルから地上の人間を見下してくすくす笑う生まれついての令嬢。
キャパシティがあり、よほどのコトでは取り乱さずやんわりと毒を吐く。
反面。
ヴィクトリアは地べたで幸福な人間を睨んでイライラしているツギハギ装備の没落貴族。
常に窮々としており、大声こそ上げないが毒舌には凄まじい敵意がこもっている。
さて、そういう人間たちを憎む少女が1人いる。
こちらも腹黒だが、ブッ殺すと心の中で思ったのならその時すでに行動は終わっているッ!
てな調子の直情径行型だ。毒舌などない。殺戮あるのみ。
それは斗貴子だ。桜花のおふざけが面白くないらしい。
「私の後輩をからかうのはやめろ。どうせそういう気もないクセに」
(俺が? 斗貴子先輩の? なんか嬉しい!)
剛太はバカみたいな勘違いをして頬を緩めた。
桜花に抱きつかれたコトにそうしたと秋水は勘違いをし、内心穏やかではない。
ああ。なんというコトか。徐々に関係が入り組みつつあり、ややこしい。
「あらあら。そういう気がないのは津村さんも同じじゃなくて?」
「何の話だ」
(そりゃないですよ先輩。少しはこう、やきもちぐらい焼いてくれたって)
剛太はがくりとうなだれた。
272永遠の扉:2007/02/18(日) 20:22:19 ID:RI4pmLK00
「わー。なんだかすごいコトになってる。ちーちんも来れば良かったのにね。予習なんかより
こっちの方が面白いのに」
部屋の様子は沙織にとってとても興味を惹くものらしく、童顔が興奮の朱に染まる。
「お楽しみのところ悪いが、そろそろ部屋に戻ってくれないかなガールズ」
「おーけー。よく分からないけど頑張ってね秋水先輩! 斗貴子さんも桜花先輩も!」
まひろの聞き分けは実にいい。沙織とヴィクトリアを率いてさっさと立ち去った。

防人は目を細めると、ふぅ〜っと軽く息を吐いた。
「ま、ココはこんなところだ戦士・剛太。楽しいからお前も来たらどうだ?」
「お言葉ですが防人戦士長。俺は戦士一本でやってくつもりです。今さら学校生活なんてやっ
ても仕方ないですよ。というかココはなんなんですか。信奉者が仲間にいてホムンクルスが
普通に暮らしてる場所なんて聞いたコトも」
上司相手ゆえに多少の隠蔽はあるが、剛太は非常に嫌悪感丸出しだ。
(こういうコばっかりね)
千歳はこの場にいる少年少女の共通項を見出した。どうも全員、世界への関心が薄い。
彼女と防人、火渡が若かりし頃、「世界を守るんだ」という理念で一致していたのを考えると、
果たして上手く連携できるか千歳は少し不安でもある。
「その辺りの事情はおいおい話すとして、なぁ剛太」
防人は突然真剣な顔をして、剛太の肩を叩いた。
すわ、何か余計なコトをいったかと視線を落とし怯える剛太に、ささやき声が届いた。
「戦士・斗貴子はしばらくココにいるぞ」
「え」
「そしたらどうだ。彼女とブラァボーな学園生活が送れるぞ」
剛太はいまだ桜花の感触残る口を押さえて考えた。
弁当を忘れた斗貴子に焼きそばパンをおごるのはどうか。
そして後で、「ありがとう剛太。助かった」などとお礼をいわれるのだ。笑顔で。
文化祭や部活動といった種々様々なイベントを共にこなせるではないか。
何か運ぶ用事が出来たとき、さりげなく斗貴子の分まで持つのだ。
そして後で、「ありがとう剛太。助かった」などとお礼をいわれるのだ。笑顔で。
体育祭なんかもっといい。
優勝をかけて争う相手は強豪3年A組、勝負は最後のリレーに委ねられたぁ!
273永遠の扉:2007/02/18(日) 20:23:17 ID:RI4pmLK00
しかし見舞われる突然の不幸、アンカーの選手がアクシデントで怪我をして参加不可能!
すわ優勝は絶望的かと沈む斗貴子の肩を、笑顔でぽんと叩いてこういうのだ。
「大丈夫っすよ。まだ俺がいますから。もちろん、モーターギアは使いません」
そしてリレー本番は一進一退で、決着はアンカーしだい。いいも悪いもリモコンしだい。
だが相手のアンカーは強い。速い。やはり負けかと落ち込んだところに「剛太頑張れぇ」と
斗貴子の声援が飛んで持ち直してすごい速度が出て追い抜いて勝って爆発して秋水死亡。
そして後で、「ありがとう剛太。助かった」などとお礼をいわれるのだ。笑顔で。
見詰め合う斗貴子と剛太。やがて先輩の腕が後輩の首に巻きつき唇が──…
(いいかも)
剛太はぽうっと天井を眺めて、それから防人と拳をガシリと付き合わせた。
「さすが防人戦士長、話が分かる」
セリエを自由にしていいと許可をもらった兵士のようなコトをいう。
「そうだろうそうだろう。で、任務の話だが──…」

閑静な住宅街を10分ほど歩くと、急に視界が開けた。
どうやら河原につきあたったらしい。
コンクリートに舗装された土手の向うで、広くも狭くもない川が緩やかにせせらいでいる。
左手には橋が見えた。3分も歩けば着くだろう。
どうやら大きな道路から伸びているらしく、赤やオレンジをした車のライトがまずまずの交通量
で通り過ぎているのが見えた。
その活発さとは裏腹に、塗装の剥げた橋台が銀の月光にうっすら照らされ物寂しい。
(戦士たちを撹乱しにくる敵を追跡。できれば斃す。っと)
剛太たちの用事は橋にはない。正反対の右手方向である。
直線と見まごうほど緩やかな湾曲を描く道の先では、濃紺色のベールの中でもそれと分かる
ほど無数の影が充満している。
聞くところによると山に入る道らしく、影はそこに茂る木であるらしい。
なるほど、道の先では中空の3分の2を占めるほど大きな影が連なり、物言わぬ星々の見
せ場を無残に奪っている。
「そだ。任務の概要でも確認しときます? ずっと黙ったままだとヒマでしょ斗貴子先輩」
剛太は斗貴子に話しかけた。彼女は、新人1人じゃ危ないというコトで同伴している。
「……」
「先輩?」
274永遠の扉:2007/02/18(日) 20:24:07 ID:RI4pmLK00
剛太は見た。夜空を悲しそうに見上げている斗貴子を。
その仕草にどうしようもなく心が痛む剛太である。
彼は見たコトがある。
カズキが月に消えた直後、鋭い瞳を涙でぐしゃぐしゃにして、本当にただの女のコとして泣き
じゃくる斗貴子の姿を。
そういう涙を流させたカズキを「許せねェ」と思う反面、そういう涙を流させるほど重要な存在
たりえた彼が羨ましい。
好意は世界の誰より抱いている。努力だって他の戦士より重ねてきた。付き合いだって長い。
にもかかわらず斗貴子の心は自分には向いていない。
並んで歩いているいまこの時だって、目線が自分に向いていない。
悲しみから救ってやれる術もない。
夏にも関わらず剛太はひどく胸が冷たい感じがした。
「あ、ああ。すまない」
斗貴子は務めて表情を引き締めると、剛太を見すえた。
「キミはさっき作戦に組み込まれたばかりで分かってない部分もあるだろう。私がもう1度教
えてやる」
現金なモノで、見られただけで剛太は嬉しい心持ちだ。ただし斗貴子の優先順位という物を
無視した、一種の現実逃避的な喜びであり、それが分かるから笑っていても物寂しい。
「いいか。この街にはいま、『もう1つの調整体』とかいう物騒な物が眠っている。これは未完
成版ですら、ひ弱な信奉者を並みのホムンクルス以上に仕立て上げる物だ。だから目覚める
前に倒しておかなくてはならない。だが現在、その所在は分からない。だから」
「えーと。割符でしたっけ? そのもう1つの何とかを起動するのに必要な道具」
「ああ。数は全部で6つ。うち1つは私たちの手にある。これを先に総て回収し、ホムンクルス
が『もう1つの調整体』を起動できなくしてしまう──… それが今回の任務の目的だ」
「なるほど。で、その割符を探しているところにすばしっこいのが邪魔しにきて難航している
から俺が呼ばれたって訳ですね」
「その通りだ。キミはすぐ納得してくれるから助かる」
斗貴子はカズキの変に物分りの悪いトコロを思い出し、ため息混じりに答えた。
「そしていま目指しているのは神社だ」
神社、といえばいま正に総角たちがねぐらにしている場所である。
つまり斗貴子たちは期せずして敵の本拠に向かいつつあるのだが、そうとは知らず。
「1つ質問していいですか先輩」
275永遠の扉:2007/02/18(日) 20:28:00 ID:RI4pmLK00
剛太は気楽な様子で口を開いた。
「何だ」
「敵を追跡するにしても、2人の速さがバラバラだったら意味ないでしょ」
「確かに一理ある」
仮に剛太1人が追いついたとしても、結果的に逃走を許したり、もしくは返り討ちにされては
意味がない。
だから斗貴子と共に行動し、2対1でかかるのが基本的な方針だ。
2人いれば敵が増えたとしても袋叩きだけは免れる。
余談ではあるが、剛太の立たされている状況は日露戦争時のロシア艦隊に似ている。
艦隊は常に一番速度の遅い戦艦に合わせて進軍する。
ゆえに各戦艦の速度はほぼ同じでなくてはならない。
でなくば一番速い戦艦が一番遅い戦艦の速度に遭わせるハメになり、能力を十全に発揮で
きなくなると坂の上の雲で読んだから間違いない。
「手でもつなぐか?」
斗貴子はぶっきらぼうに呟いた。
「それもいいですけど、走ってる最中にモーターギアが当たったら危ないでしょ? だから俺
さっきからずっと考えてました。斗貴子先輩のために!」
最後の、「斗貴子先輩のために!」はすごい真剣さを込めたのだが、斗貴子には伝わらない。
「……またキミはおかしなコトを考えてるんじゃないだろうな」
「いいえ。俺はいっつも真剣。斗貴子先輩のためなら何だってしますし考えます」
「あぁもういいから、さっさと本題に移れ。こうしてる間にも敵が出てくるかも知れないんだぞ」
月光に影を落として2人並んで歩いていく。
「おんぶ」
「は?」
「ほらこの前、武藤と防人戦士長が戦ったときに俺、斗貴子先輩をおんぶしてモーターギアで
走ったでしょ」
「そーだったか? 手を繋いで横浜を自力で走っていたような気がするが」
斗貴子は記憶を辿ってみるがどうもはっきりしない。
考えてみればあの後、目の前で防人が五千百度の炎に呑まれたり突如現われた坂口照星
からカズキ再殺の一時中断を告げられたりと色々目まぐるしかった。
だから記憶が流され気味だ。だいたい、斗貴子の中で「記憶」という要素はあまり判然としない。
276永遠の扉:2007/02/18(日) 20:29:07 ID:RI4pmLK00
7年前の惨劇以前の記憶はなく、祖父母や両親、家に仕えていた気のいい老人たちや住み
込みの男のコ、同級生たちのコトは全く思い出せない。
だからひょっとすると剛太のいう「おんぶ」もされていたかもしれないし、剛太の勘違いかも知
れない。
「しましたよ。だから敵を追いかけるときは遠慮なくおぶさっ」
剛太の頭に拳骨が炸裂し、そのまま彼は道路に沈められた。
「断る! も、もし人に見られたらどうするんだ! もうちょっと人目を偲べ!」
「ふぁ、ふぁい」
立ち上がりながら大きなタンコブを一さすり。しかしこういう暴力的コミュニケーションが剛太
には心地よい。桜花の胸より斗貴子の拳骨の方がやや嬉しい。
ちなみに斗貴子がおんぶという行為に起こっているのは、数ヶ月前カズキに強制的におんぶ
をされて、山道から電車の中、街から寄宿舎へと1日以上もその姿を衆人の目に晒されてい
たからである。
当時はわりと本気で「もういい。死なせて」と落ち込み、まひろのズレた励ましに呆れたりもし
ていた。
「でも斗貴子先輩がおぶさっていたら、追跡しながら攻撃できますよ。ほら、移動は俺が担当
して、あとはバルスカで。ねっ。名案でしょ」
斗貴子は無言でバルキリースカートを発動した。
包丁のような原始的なフォルムの刃物に幾何学模様と可動肢を与えた異形の武器が、斗
貴子のしなやかな大腿部から自生し、蒸し暑い夏の夜に凍えるような恐怖を撒いている。
「すみません! いってみただけです!」
上官にビビり倒す新兵よろしく、剛太はぴんと直立不動して謝罪の構え。
そんな彼に容赦なく刃物は注ぎ。
「あっちゃー。奇襲失敗」
『悪事など成功するためしがないっ!! 男なら正々堂々真っ向勝負が一番ッ!!』
「あたしいちおう女のコだけど、まーそんな感じ?」
聞きなれない声に剛太は、だんだん状況がつかめてきた。
バルキリースカートは剛太の両肩の上や小脇の横でピタリと止まっている。
そして背後にはホムンクルスがはなつ独特の気配。
「ったく。さっそく敵に背後を取られるとは情けない! おかしな話に熱中しているからだ!」
「す、すみません。けどっ!!」
ポケットに手を突っ込み核鉄を展開!!
277永遠の扉:2007/02/18(日) 20:30:07 ID:RI4pmLK00
戦輪(チャクラム)の武装錬金、モーターギア!!
発動を悟ったのかホムンクルスは間合いの外へと跳躍。その距離約20m。
が!
響く小川のせせらぎをギュンと切り裂き、モーターギアが肉迫する!
「うげ。ふつーの状態で受け止めちゃすごく痛そう」
奇麗に着地したホムンクルス──栴檀香美──は猛烈なうねりの気配に眉をしかめた。
ツンツンの髪の毛と豊満なバストと生意気そうな目つきが特徴の少女である。
『はーっはっは! 僕の武装錬金で弾くか香美!?』
「うんニャ。これくらいならあたし本来の姿でじゅーぶんっ!」
楽しげに八重歯をむき出す香美の手で、何かが光った。
と見るや次の瞬間!!
ギアを模した戦輪(チャクラム)が、剛太の頬と右腕を掠めていた。
(な……!? いったいどうやって弾いたんだ!?)
「にゃららたったらぁー! だい・せい・こぉ〜!」
巨大な掌を宙に突き出して、香美は満面の笑みだ。
掌はともかく丸い。人間の指を4本にしてもこもこ太らせればこうなるだろう。
そして指の先端にはピンク色の肉球が付属している。
肉球は手の平にも3つ。ここからは毛が無造作にもじゃーっと生えており、総じていえるのは
無機質なホムンクルスでありながら、ふわふわぷにぷに〜なフォルムというコトである。
そして香美の頭の上で、三角形の器官が2つ、ぴょこぴょこと動いた。
これは大きな大きな耳である。
ホムンクルスだけありやや無機質だが、モチーフとはあまり遜色ない。
最後に、香美の腰の辺りから、パイプを組み合わせたような物体がひょこひょこ動く。
嬉しいときはピンと立ち、驚いたときは膨らむ器官。いまはピンと立っている。
「ホラあたしってネコ型ホムンクルスじゃん? だから肉球で弾いたりっ!」
ネコ耳と肉球としっぽ装備の香美は、顔を洗うと大きな生あくびをした。
278スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/02/18(日) 20:34:50 ID:RI4pmLK00
えー。お久しぶりです。
恥ずかしながらHPなどを開設いたしました。
詳細はまとめサイトの掲示板にて。

>ゴートさん
遡っての補完、本当にお疲れ様でした! 永遠の扉収蔵の際、8〜10話をまとめていただいて
おりましたので、すごくすごく助かりました。どこまでお手伝いできるかは分かりませんが、よろ
しくお願いいたします。

>>119さん
千歳もかなりの美人なのですが、こう、華があるという点ではやはり桜花が一番かと。黒髪で
すよ黒髪。和月先生の描くツヤベタは奇麗で大好きです。腹に含んだ毒もそれはそれでそれ
でw 完璧な美人よりは人間味のあるキャラが好みなので、嫉妬する桜花は自分のツボ!

>>120さん
ですよねぇ。個別ないしは板別に施すコトはできないものか……
えーと怪物は……ブッちゃけノリで描いたのでどうしましょう。2人目はネコ耳香美というコトで何卒。
そして秋水。今回期せずして、桜花に密着される剛太への嫉妬が出てきて自分も驚き。妬くんだこの人。

>>121さん
あの2人のつかず離れずの関係は良いですよね。よって先輩成分を多めにしてみました。
未熟な戦士がいると彼女の厳粛っぷりが引き立ちます。あぁ、連載初期はこんな人だったような。
桜花は……まひろの純真っぷりに却って自分の腹黒さに落ち込むとか。描かないと分かりませんが……

さいさん
個人的にはこの頃の剛太の方が好きですね。アフターの彼はなんか痛々しくて……
ともかくも斗貴子一筋な彼は描いてて実に爽快。彼は彼でかなり主役映えするかも。
桜花と剛太の関係は、秋水とまひろ同様ずっと以前から描きたかったので、楽しみで楽しみで。
気位が高いので、なびかない男には躍起になると思うのです。そしていつしか本気になってたりしたらもう。
お義姉ちゃん2人はものすごく楽しそうw きっと秋水が一番あおりを受けるに違いません。
279スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/02/18(日) 20:35:56 ID:RI4pmLK00
>WHEN THE MAN COMES AROUND
なんかブツブツいいながら徐々に姿を現してくるこの恐怖! ホラー映画の域ですよコレ((;゚Д゚)
>「異端の売女(ベイベロン)がァ……。死ィねェエエエ!!」
これを初めとして脳内で忠実に再現される御大節で脅威は二乗三乗、右肩を刺されて涙す
るジュリアンくん(比較的一般人に近いので)には果てしない鬱というか等身大・感情移入可
の生々しい恐怖もあり…… そこで吼えた防人はさすが主人公! 反面、サムナーは嫌われそうw

ふら〜りさん(競馬板とか全く無縁のトコから飛び火してまして、やるせないコトこの上なくッ!)
原作では3人ほどカズキの男友達がいるのですが、出せずじまいで気付けば女性比率が高いコト高いコト。
ま、まぁ、恋愛に疎いからこそ助かっている要素も多々あり、これで秋水が女たらしだったらもう偉いコトに。
剛太は原作の中で一番恋愛に積極的で、一番報われない奴です。でもだからこそカッコいい。

>修羅と鬼女の刻
高師直について調べてみた所、「戦場で首持ち歩くなっ!」と命令したり配下に自分の鎧貸
したりする所に感銘しました。本作で初めて知った人なので善玉の印象が強いです。ハイ。
史実から考えると大和vs尊氏もあるのでしょうか。しかしそれだと勇があぶれる……。むーん。

銀杏丸さん
しかもヴィクターとガチでやりあってましたものね。アレには感激です。アルバフィカがカッコ
いいのを見たぐらい。(なぜなら自分は魚座!) 既存キャラは「核」を見つけて描いていく
というのが自分の手法ですが、パピヨンだけはどうも手に負えなさそう…… ブッちぎってる人
キャラは、すごく手ごわいですよね。今は爆爵をベースにパピヨン描けないかと模索しております。

>無題
>>237の一文を見た時に「ええ!?」でした。まさかあの最中にとは。めっさ軽快&マニアック!
シリュースクリームの登場からこれはもう、アレだとw バレンタインの瘴気に導かれ、恐るべき
世界が現出したー! と。一輝兄さん、ブラッディースクライド出すかも。てか今気付いたけれど
アカギまで混じってらっしゃるw 詰め込みすぎですよこりゃw
280作者の都合により名無しです:2007/02/18(日) 21:45:41 ID:pcCdDJ/r0
3人娘ってまひろが突出して目立ってるから
名前知らなかったけど、沙織と千里っていうんか・・
沙織とというと女神のあの人を思い出すw

スターダストさんもいよいよHP開設ですか。
お気に入りに入れます。
281作者の都合により名無しです:2007/02/18(日) 22:40:39 ID:+2MeZDji0
>スターダストさん
この作品も前作のネゴロも好きだけど、
スターダストさんは短編も多く書いているんですな
サイト見に行って驚いた。
一日1本くらい読んでいきます
282作者の都合により名無しです:2007/02/19(月) 09:58:07 ID:OtLRGppH0
斗貴子の天然は残酷なのかもしれない
剛太の方がカズキより絶対いい男だと思うが
283作者の都合により名無しです:2007/02/19(月) 21:25:52 ID:4og0dAM40
HPってどうやって作るんだろう
特殊な技術はいるんだろうか
284修羅と鬼女の刻:2007/02/20(火) 20:57:23 ID:tXj9b1g50
>>253
師直は、かねて用意していた護良親王の動向調査書(尊氏を討つ為に兵を集めたり
していた証拠)と、引きずってきた大和(親王が尊氏暗殺を企んだ件の証人)を揃えて
新政府に訴えた。武人気質の親王はもともと公家たちと仲が悪く、またそういう
気質だから言い訳などもせず尊氏暗殺命令を堂々と認めた為、親王の有罪が確定。
尊氏の弟、直義(ただよし)が治めている鎌倉へ流され幽閉されることになった。
だが、この件の実行犯である暗殺者は事件当夜から親王の前にすら姿を見せず、
何処かへと消えてしまったという。
「ま、あの小娘を逃がしたのは残念でしたが、首謀者をひっ捕らえることができたの
ですから。とりあえず一件落着ですな、陸奥殿」
「……うん」
足利の屋敷。師直と大和が、いつも通り机に向かい合って事務仕事をしている。
「それはいいんだけどさ。最近、足利さん元気なくて」
「ほう」
「無理ないけどね。幕府を倒す為に一緒に戦った、戦友だと思ってた護良親王に……
いってみれば裏切られたわけだから。もしかしたら、後醍醐帝自身も親王の立てた
暗殺計画に加担してたかも、なんて言い出す始末でさ。もう鬱々で見てられないよ」
「ふむ、流石は我が殿。そんな状態でも見事な状況分析能力」
師直は満足そうに頷いて、
「恐らくそれは正しいですぞ。口には出さずとも、後醍醐帝も殿を危険視し始めていた
様子でしたからな。少なくとも暗殺計画を知っていて止めなかった、のは確実でしょう」
「危険視? どうして? こんなに毎日毎日、後醍醐帝の新政府の為に頑張ってるのに。
ほっといたら暴動とか起こしかねない人たちを、足利さんが説得して抑えてるような
ものなんだよ。この苦情書類の山、足利さんや高さんたちが受け止めてなかったら、
まんま新政府への恨みに転換するのに」
「その結果その人たち、そういう武士たちの人気が殿に集中する。するとどうなるか」
「前に高さんが言ってた通り、武士たちが一つにまとまって戦はなくなる。でしょ」
「左様。しかし戦をなくす為に必要な戦というものもありますれば」
「あ。それって前にお兄さんが言ってた台詞」
285修羅と鬼女の刻:2007/02/20(火) 20:58:28 ID:tXj9b1g50
そういえばそろそろ正成が帰ってくる頃だ。対鎌倉幕府戦の初期、劣勢の中を
共に戦い抜いた護良親王が、今は罪人となって鎌倉に幽閉されている。それを
聞いたら、正成はどんな顔をするだろう。
「さあさあ陸奥殿。そんなことより、今は目の前の仕事を片付けましょう」
師直に促され、大和は筆を取って書類整理を再開した。
なにぶん大和は馬鹿なので、師直や尊氏や後醍醐天皇が考えている政治的な
思惑策謀何だかんだは解らない。だが、何だか嫌な予感を感じていた。前よりも
もっともっと大きな戦が始まりそうな……と思っていたら。
鎌倉で大規模な反乱が発生したという知らせが入った。旧幕府の実権を握っていた
北条氏の末裔・北条時行が、新政府に不満を持つ武士たちを集めて蜂起したのだ。

鎌倉、二階堂ヶ谷の土牢。昼なお暗い……のも当然な、洞窟の最深部の突き当たりに
ある牢獄に、護良親王が幽閉されていた。
この時、鎌倉全土で足利直義の新政府軍と北条時行が率いる反乱軍とで激戦が
繰り広げられていたのだが、ここまでは何も聞こえてこない。怒号も悲鳴も剣戟の音も、
「ん……?」
粗末な、薄汚れた木綿の服に巨体を包んだ親王の耳に、うめき声が流れ込んだ。
かつて、戦場で何度も聞いた声。人が暴力によって捻じ伏せられる時の、苦痛と恐怖
とに彩られた、聞くものの脳髄まで這ってくるような声だ。
だがここには誰もいないはず。いるのは、洞窟の入り口を守っている獄吏だけだ。その
獄吏が何者かに攻撃されたというのか? とすると……
「お久しゅうございます、親王様」
牢の中の灯火だけが微かに照らす、薄暗い洞窟の奥。紅い衣を纏った色の白い少女が、
しずしずと歩いてきた。
その少女のこと、親王はよく知っている。
「勇……」
「今、幕府の残党が大規模な反乱を起こしております。混乱に乗じる好機と思いまして」
286修羅と鬼女の刻:2007/02/20(火) 21:00:24 ID:tXj9b1g50
言いながら、勇は手刀で牢の鍵を切り落とした。
「今ならば、何が起こっても戦のどさくさで済みます。さあ」
「あ、ああ」
親王は、身を屈めて狭苦しい牢から出た。凝りをほぐすように伸びをしつつ、勇に尋ねる。
「勇よ。都で足利を襲った時、何があった? お前ほどの者が逃亡せざるを得なかったとは
信じられんのだが。もしや楠木の軍にいたという、噂の修羅にでも邪魔されたか?」
「……あの場で戦っていれば、確かにどうなったか判りませんね。ですが、しくじって逃亡
したのではありませんよ。親王様が足利様を狙ったということを、証人付きで新政府に
報せることこそが最初からのわたしの狙い」
「何?」
「後醍醐帝は新政府の安泰の為、武士たちの人気が高い足利様を敵に回せない。結果、
足利様の手の中とも言えるこの地に親王様が送られることとなりました。正に計画通り」
「お、おい。どういうことだ。何を言っている?」
親王は勇に問いかけ、その肩に手をかけようとして……思わず一歩後ずさった。恐怖で。
「この状況で親王様が殺されれば、先ほど申し上げました通り戦のどさくさという言い訳
ができなくもない。けれど難しい。それにより、事実上武士たちを取りまとめておられる
足利様と皇族とがいがみ合うことになる……ふふっ。日本国が、見事に真っ二つに
割れますわ。そして、かの源平合戦すら比較にならぬ規模の大戦が幕を開ける……」
「!」
親王はもう一歩、下がろうとしたが間に合わない。踏み込んできた勇の回し蹴りが、
木こりの振るうマサカリのような勢いと重さと鋭さでもって、親王の横っ面を蹴り潰した。
歯が折れ、その破片が口の中を深く切り裂き、歯茎と内頬から血を溢れさせ、
その血を吐き散らしながら、親王はたたらを踏んだ。だが倒れず、踏みとどまる。
「き、貴様……一体、何を考えている?」
「貴方は役に立ちました」
親王の問いには答えず、勇が歩く。親王に向かって。ざわり、と殺気を発しながら。
「貴方の活躍なくして、鎌倉幕府の滅亡はなかった。鎌倉幕府が滅亡したからこそ、
公武の争いの種が生まれた。そして貴方の死によって芽を吹くこととなる……」
287修羅と鬼女の刻:2007/02/20(火) 21:01:13 ID:tXj9b1g50
親王は拳を振り上げ、勇の頭蓋を砕かんと振り下ろした。だがその巨岩のような拳を、
勇は易々とかわして親王の懐に入り込む。そして抱きついて、
「頑張って下さいましたね親王様……よい戦ぶりでしたよ」
抱き締めた。ミシッ、と音を立てて親王の背骨が軋む。メキメキ、と音を立ててヒビが入る。
「お休み下さい。永遠に」
痙攣する親王の口から白く濁った泡が流れ出す。それでも親王は勇の肩を掴んで抵抗した。
「っ……ま、まだ……まだだ……こんなところで、死ぬ、わけには……いかぬのだっっ!」
文字通り必死、もはや死は免れぬ状態に陥りながら、親王は噛み付いた。勇の細い首に、
親王の牙が深く強く食い込む。
だが勇はそれを心地よさげに受け、恍惚とした笑みさえ浮かべて親王を強く強く、抱く。
「なんていい男なのでしょう……」
ビキッ! と音を立てて。親王の背骨が、脊髄ごと粉々に砕け散った。
勇が力を抜く。帝の血を受けた肉の塊が、天皇の実子である親王の遺骸が、崩れ落ちる。
今、勇の足元に、倒幕・新政府設立の功労者が息絶えて倒れ伏した。

後醍醐天皇の実子・護良親王、鎌倉は二階堂ヶ谷の土牢にて没。
その無念の呻き声が、新政府崩壊の序曲となった。
288ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/02/20(火) 21:03:05 ID:tXj9b1g50
多分、本家「修羅の刻」もそうだと思うんですけど、歴史上の事件をいかに「大和のおかげ」
や「勇のせい」にするかが難しいとこです。やり過ぎると白けるし、でも二人が出張らないと
ただの史実小説になるし。史実に沿いつつ勇をラスボスにするの、なかなか苦労しましたぞ。

>>サマサさん
鬼一家のアットホームドラマから一転、戦乱と魔王・希望と勇者の到来が予言される……
か。この、いよいよ開幕! にふさわしい下拵えは流石に熟練の技です。さぁ今回はまた、
どんな大所帯になってゆくのか。アスランのような暴走やペコのような凹みなど、楽しみ。

>>スターダストさん(HP設立おめでとうございます!)
む、いろいろと解ってるではないか少年。そういうのを専門用語でフラグと言い、積み重ね
れば斗貴子と……ではなくて。本作では後発ですがなかなか濃いですこの二人。ことに、
>桜花の胸より斗貴子の拳骨の方が
良い! 漢としてカッコよく、斗貴子側としても女冥利に尽きる……こと、理解しろよ当人っ。
289作者の都合により名無しです:2007/02/20(火) 22:18:37 ID:MHaO7mqm0
ふらーりさんお疲れです

勇、天皇のご一族を殺してしまいましたかw
まあ、勇次郎のご先祖ならやりかねんw
あと、そろそろ人物のまとめとかお願いします。
歴史弱いんでw
290作者の都合により名無しです:2007/02/21(水) 08:16:23 ID:cMf9gfNT0
ラストバトルは大和対勇かな?
でも男と女だしなあ
291作者の都合により名無しです:2007/02/21(水) 23:28:36 ID:r6iBxnqt0
サナダムシさんは本当にどこ言ったのかな
292作者の都合により名無しです:2007/02/22(木) 12:29:06 ID:Xr17ElYE0
年末のサーバー移動のときにdat落ちしたと思ってこなくなっちゃった…
なんてことはないよな
293作者の都合により名無しです:2007/02/22(木) 22:46:10 ID:E33LAKwf0
サナダさんはずっとこのスレを支えてきた屋台骨だからな
サマサさんと並んで
294作者の都合により名無しです:2007/02/22(木) 22:56:55 ID:nhWaz0iV0
スーパーマリオブラザーズ
http://www.nicovideo.jp/watch/utAWxpcd4Nbto
295作者の都合により名無しです:2007/02/23(金) 09:46:34 ID:3cTHg7mf0
スターダストさんって日記も長いんだなw
サイト見て思った。
さいさんは筆まめだし、やはり職人は書く事が
好きでないと務まらんのだろう
296作者の都合により名無しです:2007/02/24(土) 10:11:40 ID:BNxHU01P0
あげとこ
週末は沢山作品来る事を期待して。
297作者の都合により名無しです:2007/02/24(土) 22:45:09 ID:mC6PyW6+0
ジャンプロワの評判を落とそうとして
自演レスしたクソ住民が集まるカススレはここですか

責任取って消えてください
298作者の都合により名無しです:2007/02/24(土) 23:08:25 ID:x1El9H4J0
ああ?証拠もねーのにほざいてんじゃねーよ!
299作者の都合により名無しです:2007/02/24(土) 23:09:42 ID:mC6PyW6+0
証拠?

善良なジャンロワ住民が他スレに迷惑かける訳がない、というのが証拠だ
300作者の都合により名無しです:2007/02/24(土) 23:17:12 ID:mC6PyW6+0
言っとくがジャンプロワが終わる時はここも道連れにしてやるから

301作者の都合により名無しです:2007/02/24(土) 23:22:23 ID:mC6PyW6+0
けけけけけけけw
302作者の都合により名無しです:2007/02/24(土) 23:27:24 ID:PNIhpeJh0
ジャンロワを今の有様にしたゴミどもの巣はここですか?
303作者の都合により名無しです:2007/02/24(土) 23:28:18 ID:mC6PyW6+0
ID:x1El9H4J0、なんとか言えよヘタレがw
304作者の都合により名無しです:2007/02/24(土) 23:31:31 ID:mC6PyW6+0
このスレはジャンロワがのっとった!
305作者の都合により名無しです:2007/02/24(土) 23:33:08 ID:PNIhpeJh0
ここからはジャンプキャラ・バトルロワイアル感想議論スレ PART.29ってことで
306作者の都合により名無しです:2007/02/24(土) 23:36:25 ID:mC6PyW6+0
死ぬときは一緒
それが仲間だろ?
307作者の都合により名無しです:2007/02/24(土) 23:37:25 ID:PNIhpeJh0
そのとおりだ
308作者の都合により名無しです:2007/02/24(土) 23:38:06 ID:5J4b5h/K0
8/20 八回裏 阪神甲子園球場にて

          _|新二|
          (・∀・;) <ブラックジョック先生!何故医者のあなたが人殺しを
           (  20)

           彡彡彡ミ
          リル∀キ゚彡 <ふふふ 君たちは私と始めて会って時のことを忘れたかな
     〆──┼(::::∞:::::)

           ∧_∧
          (゚ー゚* ) <はっ そういえば食あたりで本当は死んでいたはず・・・
           (    )

           彡彡彡ミ
          リル∀キ゚彡 <そう わたしは魔王ジョムジョラ様に救われたのだ そしてその下僕になったのだ
     〆──┼(::::∞:::::)

          _|新二|
          (・∀・ ) <だからって何でしがない野球部監督を殺す必要があったんだ
           (  20)

           彡彡彡ミ
          リル∀キ゚彡 <どうやら奴はジョムジョラ様をこともあろうに封印しようとしていたからね といっても正確にはまだ封印されてるが
     〆──┼(::::∞:::::)

          _|新二|
         ―(´∀` ) <どういうことなんだ 封印されているのに封印しようとしたなんて
           (メカ 1)
309作者の都合により名無しです:2007/02/24(土) 23:40:31 ID:x1El9H4J0
ヘタレだと?ホントのこと言われてもなんともないぜ!
ジャンロワの連中はほったて小屋の巣に帰れ!
言うこときかねーと潰すぞ誰かが!
310作者の都合により名無しです:2007/02/24(土) 23:44:18 ID:PNIhpeJh0
だから潰すも何も道連れなんだってば
311作者の都合により名無しです:2007/02/24(土) 23:45:19 ID:x1El9H4J0
うるせーバカ
312作者の都合により名無しです:2007/02/24(土) 23:46:36 ID:x1El9H4J0
で、ジャンロワってなによ?
313作者の都合により名無しです:2007/02/24(土) 23:53:58 ID:x1El9H4J0
もう終わりか?
本気で潰す気ねーなら中途半端に書き込むなよアホどもが。
314作者の都合により名無しです:2007/02/24(土) 23:55:45 ID:PNIhpeJh0
あ?
315作者の都合により名無しです:2007/02/25(日) 00:02:47 ID:9Q81c4Qx0
こんなもんか?根性なしのチキン野郎どもw
ジャンロワ連中は程度の低い烏合の衆と判定w
316作者の都合により名無しです:2007/02/25(日) 00:02:51 ID:5J4b5h/K0
IE等普通のブラウザで見る場合 http://tubo.80.kg/tubo_and_maru.html
専用のブラウザで見る場合 http://www.monazilla.org/

2ちゃんねる Viewerを使うと、すぐに読めます。 http://2ch.tora3.net/
この Viewer(通称●) の売上で、2ちゃんねるは設備を増強しています。
●が売れたら、新しいサーバを投入できるという事です。

よくわからない場合はソフトウェア板へGo http://pc8.2ch.net/software/

モリタポを持っていれば、50モリタポで表示できます。


------------------------------------------------------------------------
317作者の都合により名無しです:2007/02/25(日) 01:13:17 ID:kQy+75ua0
おいいるかい、アホのID:9Q81c4Qx0よ
318作者の都合により名無しです:2007/02/25(日) 01:17:07 ID:9Q81c4Qx0
なんだよアホのID:kQy+75ua0よ
メシの誘いなら割り勘だぞ
319作者の都合により名無しです:2007/02/25(日) 01:20:43 ID:kQy+75ua0
お前さ、ほんと言葉覚えた方が良いよ
あれじゃ実生活に支障きたしてるはずだって
早めに何とかしろよ?
320作者の都合により名無しです:2007/02/25(日) 01:25:06 ID:9Q81c4Qx0
なんとかってねえ。実生活では不便しとらんのだが。
いまさらDSで鍛えるのもなんだが、まあ買ってみてもわるくないかな?
って、アホに言われたくねーよ!
321作者の都合により名無しです:2007/02/25(日) 01:27:42 ID:kQy+75ua0
そのアホに言われてるんだから重度だって気づけよ、な?
お前ヤバイって
322作者の都合により名無しです:2007/02/25(日) 01:27:50 ID:9Q81c4Qx0
それはそうとID:kQy+75ua0、お前んとこのスレ程度の低いのが取り付いてるぞ?
323作者の都合により名無しです:2007/02/25(日) 01:29:20 ID:9Q81c4Qx0
ヤバイか?まあ気をつけるわ。忠告ありがとよ。
324作者の都合により名無しです:2007/02/25(日) 01:31:17 ID:kQy+75ua0
お前のこと?それとも埋めようとしてるクソガキ?
たぶん奴はサンデーロワとガンガンロワを潰した奴だ
要領オーバーを狙ってるのだろう
まあやらせておけばいい、埋まったら次ぎ建てりゃ良いだけの話
325作者の都合により名無しです:2007/02/25(日) 01:36:44 ID:9Q81c4Qx0
まあそうだわな。
しかし手動でシコシコってのが哀れだな。
326作者の都合により名無しです:2007/02/25(日) 01:37:33 ID:kQy+75ua0
所詮、その程度のことしか思いつかないのだろう
可哀相な人なのさ
327作者の都合により名無しです:2007/02/25(日) 01:39:51 ID:9Q81c4Qx0
んだなや。
さて、明日はお前の忠告に従ってDS漁りにいってくるわ。
じゃあな。
328作者の都合により名無しです:2007/02/25(日) 01:43:34 ID:kQy+75ua0
ちゃんと挨拶できるじゃないか
良い夢見ろよ、おやすみ
329スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/02/25(日) 13:37:13 ID:F1itgBzi0
第012話 「混戦」

「あ、聞いたとおり垂れ目じゃんコイツ。やっぱあたらしいの!」
『こら香美! あまり僕たちの知っているコトを教えるな!! 情報は何より大事だ!』
(なぜ知ってるんだ)
訝しみながら、剛太は傷口を確認する。
幸い、右腕は服が破れた程度。
頬からは血がカーテンのようにだらっと溢れているが、放っておいても治るレベルだ。
「こら剛太! 何をボサっとしている! さっさとモーターギアを拾え!」
斗貴子の鋭い叱責の声が飛ぶ。
見れば彼女はすでに香美目がけて突進中だ。
(いや先輩。俺の体勢が整うまで待ってくれたって)
などと剛太は思わない! いささか短慮な先輩をたしなめない!
「やっぱ先輩はカッコイイ!」と内心で喝采すら送っている。
ちなみに斗貴子がくすんだアスファルトに足裏を叩きつける度、白い美脚が濃紺のミニスカ
ートをひらひらたなびかせる。
剛太としてはそれを後ろからいつまでもいつまでも(目で)追い続けたい。
けれどいまは戦闘中。断腸の思いでモーターギアを探しにいく。
一方、斗貴子。
(こいつ、体の一部だけをホムンクルス化……!)
一般的に確認されているホムンクルスの形態は2つ。
人間の姿と、ベースとなった生物を模した怪物の姿。
だが極まれに、体の一部だけをホムンクルス化する個体も存在する。
数ヶ月前、斗貴子がカズキと共に戦ったオオワシのホムンクルスがそうだ。
名を鷲尾といい、蝶野爆爵(Drバタフライ)の玄孫の配下。
斗貴子がカズキと2人がかりですら苦戦を強いられた実力の持ち主である。
(種類は違えど、並みのホムンクルスよりは上と見るべき。剛太の体勢が整うまで、ここは
私が手の内を暴いておく! 仮に逃げられても追跡すればいい!)
大腿部を覆う無骨な筒から可動肢を両側に向けて展開。
高速かつ精密をうたうだけあり、各関節部分は滑らかだ。
330永遠の扉:2007/02/25(日) 13:38:54 ID:F1itgBzi0
走る斗貴子の上下につれて重く揺らめく。白骨化した4枚羽のコウモリさながらに。
ただしコウモリと違うのは先端についた4本の処刑鎌(デスサイズ)
その刃先を総て向けられた香美は……動く気配はない。
メッシュ入りのロングヘアーの上で猫ミミをぴくぴくさせてるぐらいだ。
「コソコソ逃げ回るのはもうやめか」
「ホントはそーしたいけど、できないの!」
香美の鼻先を掠めたのは、びりびりと大気打ち破るプレッシャー。
横薙ぎに経過……いや、避けられたのだ。
無論そうされるのは予測済み。
加速を殺しつつ全可動範囲をきゅっと収縮させ、袈裟懸けに切り払う。
同時に2本の処刑鎌が距離も角度もバラバラに香美を襲う。
「避けるというなら攻撃が届く範囲を手当たりしだい斬り裂けば済むコト。死ねッ!!」
青い光が鈍く瞬き、そのまま香美に吸い込まれた。
「やったか!?」
モーターギアの片方を拾い上げつつ剛太。斗貴子たちとの距離は30mほど。
「まだだ」
処刑鎌は。
両腕の肉球、そして八重歯むき出しの口に受け止められていた。
「ほーよひっはふひふひゅーひははほひっ! (どうよ必殺肉きゅー白刃取りっ!)」
以下、香美が処刑鎌を口でがじがじやり始めて聞き取り辛いので意訳。
「死ねとかそーいうおっかないの、やなのよあたし! あーもう。これももりもりのせい。ムカ
つくムカつくムカつく! きぃ〜〜〜っ!」

話は、斗貴子と剛太が寄宿舎を出た頃に遡る。

「ほう。なるほどな。新しい戦士は髪をツンツンと尖らせた垂れ目の少年。衣装はアロハシャ
ツ……か。その発想はなかった。今度買ってみるかな。ところで、おいお前たち」
携帯をぱちりと閉じると、総角は眼前にいる部下たちへ呼びかけた。
ここは例の神社の中。広さはおおよそ6畳。
風雨を凌ぐのに問題はないが、集団生活には不向きだろう。
ここにいるのは総角を含め4人というからやや手狭。
331永遠の扉:2007/02/25(日) 13:40:24 ID:F1itgBzi0
「やっぱさー。さっき使ってたアパートのがいいじゃん。あたしはまー平気だけど、あやちゃん
やご主人は辛そう」
『そうはいうが普通の住居にいては戦士に見つかりやすい!! もっとも連中が本気を出せ
ば僕たちはすぐに見つかるが、いまは一応見つからずにいるしな!!』
「フォローしますが香美どのおっしゃるさっきは1週間ほど前であります
やはりホムンクルスといえど、電気・ガス・水道の備わった住居の方が良いらしい。
「フ。話を聞かないのは相変わらずだな。まぁ、それはお前たちの個性だから声を荒げたり
はしないが、あまりに話が聞かれなければ相応の対処をせざるを得なくなる」
総角は認識票を軽く握った。
喚いていた香美と貴信はぴたりと静かになり、冷や汗まじりに総角を見た。
つい先日、後頭部をニアデスハピネスで爆破されたばかりなのだ。
「偉いな。よく分かってくれた。でだな。1つ厄介なコトが起こった」
「と申されますと?」
小札はシルクハットのつばをくいと直して反問。
「鐶(たまき)からの報告だ。新しい戦士は例のセーラー服美少女戦士と寄宿舎を出た」
「常なる事では? もう1つの調整体起動に不可欠なる6つの割符を求め、L・X・Eのアジトを
虱つぶすが奴らの常」
巨椀を組む黒装束の男は鳩尾無銘。
「だろうな。だが常ざるコトが発生した。なんと目的地はココ。この神社だ」
『はーっはっは! そうか! それは参ったなぁ!!』
「そういえばL・X・Eのアジトだったからな。割符の隠し場所だと思われても仕方ない」
「な、なに落ちついてんのよバカもりもり! ご主人もわらってる場合じゃないし!」
香美は瞳孔を見開いてふーふーいいながらまくし立て始めた。
「こっち来ちゃったらすごいケンカになるじゃん! そんなの、あたしはや! てきとーにちょ
っかいだして逃げるのはいいけどさっ! 人間はホムンクルスと違ってすごくぎゃーしやすい
からすごいケンカはイヤ!!」
叫ぶたびにツンツンの髪の毛と豊満なバストがゆさゆさ揺れる。
小札はその様子を見ると、胸に手を当てほろりと泣いた。
(あぁ。なぜに不肖はぺたんこ)
332永遠の扉:2007/02/25(日) 13:41:50 ID:F1itgBzi0
(だがぺたんこだからこそいい。気にする姿を見て楽しめる。ちなみに俺はれっきとした微乳
派だが小札にはいわない。いえば喜ぶだろうが、こう、俺の目を気にして時々容量の少なさ
にため息をつく姿が見てて楽しいからいわない。あぁ、小札は俺を想って苦労してるんだなと
いうのが分かり、安心できるしな。フ。俺はどうにも根が軽い。もっともそれを後天的努力で
補っている所に、俺という奴のえらさがある)
総角は額に人差し指と中指を当てて、フっと気取って見せる。
いつものコトなので一同は誰も突っ込まない。
ただ無銘だけは黒装束から覗く瞳に、冷淡な光を宿らせた。
「我の武装錬金を使えば総ては終わる」
「フ。確かにお前なら可能だな。特にあのセーラー服美少女戦士ならば恐らく一方的に勝て
るだろう。お前の美徳を別にすれば、の話だが」
意味ありげな笑みを向けられたのは鳩尾の足元にいるチワワ。
ヘルメスドライブで連れ帰ってきたちっちゃい子犬である。
「安心しろ。俺は別に卑怯卑劣な手段を責めるつもりはない」
「……」
「ともかくだ。鐶が知らせてくれたおかげで時間ができた」
「やた。じゃあ逃げるかてきとーにあしらえれるっ!」
「でだな。香美、貴信、無銘」
「な、なにさ」
『何か!?』
「我、いかな任も遂行する所存」
総角は紺碧の瞳で一座の反応を心地良さそうに確かめると、呟いた。
「奴らの動きが活発になりつつある。だからそろそろ、お前たちの実力を底上げしておきたい。
だから戦士と戦え。勝敗は問わない。なに、負けても大丈夫だ。きっちり俺がフォローしてやる」

(あぁもう。結局おっかないのとやりあわなきゃなんないの? やだなー、ほんとやだ)
香美は鼻でため息をついた。ネコは基本鼻呼吸なのだ。
「だから不意打ちでサクっとかたづけよーと思ったのにコレよ。あ、でも……」
ネコ口でバルスカをはむはむねぶる香美は新たな発見に目がキラキラ。
「コレけっこうおいしい!」
処刑鎌がアスファルトに火花散らしつつ香美目がけて跳ね上がった。
『はーっはっはっは! 音から察するに受け損ねた4本目らしいなッ!!』
333永遠の扉:2007/02/25(日) 13:42:49 ID:F1itgBzi0
「げっ。やば! もうー。せっかくおいしかったのにぃー!」
慌てて処刑鎌からと手を口を離し、香美はその場からかき消えた
アスファルトに積もった砂を巻き上げて。
「チッ。意表をついたつもりだったが」
バルスカは香美のツバを空中に撒きちらしながらむなしく砂煙を切り、静けさだけ残る。
「今のは、瞬間移動? 千歳さんのような」
ようやくもう片方のモーターギアを拾った剛太の視界に、鉤状の爪が現われた。
「ちぃーがーうー。あたし本来の持ち味! ネコはすばやさが売りじゃん!」
正に怒涛。
香美は斗貴子の攻撃を避けがてら、ゆうに30m近い間合いを詰めていた!
その鋭い爪が剛太の胸板めがけ鋭い軌跡を描く。
とっさに身を引く剛太だったが、シャツごと薄皮一枚斬り裂かれうっすらと血を流した。
「ふふん。けっこー本気のあたしを避けるなんてなかなかなかなか。けどっ!」
例えば鉄の塊が強風に煽られ顔面に飛んできたとしよう。
恐らくこの時剛太が右頬に感じた気配は、そういう凶悪な重量の破壊意思。
人間ならば奇形と呼べる巨大な平手。
肉球つきのそれが剛太の頬げたをしこたま殴り飛ばした。
彼は骨の軋むいやな音を聞きながらゆうに5mは飛んでいき、そのまま土手の下へと落ちて
いく。
「わるいけどさ垂れ目、ちゃっちゃと終わらせるつもりじゃんあたし。だってそのほーが安全
なワケよ」
剛太を叩いた掌を、紅色の舌でざらっと舐め上げた。
「鳩尾だって長い戦いはやばいってなんかの本よむたびいってるしさ」
『ははは! そして僕たちに死角はない!』
「そゆコト! ご主人がいる限り、不意打ちなんて通じないわよおっかないの!」
「チッ」
いま正に背中を撃たんとするバルキリースカートを振り向きもせず引っつかむと、フルパワー
で回転。
「っの!!」
声にならない叫びを上げて攻撃に転じようとする斗貴子から、重力の干渉が消滅した。
見れば刃先は香美の手から離れている。
そのまま39kgの華奢な肢体は剛太同様、なすすべなく宙を舞う。
334永遠の扉:2007/02/25(日) 13:44:33 ID:aq4Tcmkj0
「どよっ! ヒットアンドアウェーも得意だけどさ。真っ向からやりあってもこれ位」
「失礼します!」
土手を何か高速の物体が駆け上ってきて、斗貴子目がけて跳躍した。
「んにゅ?」
アーモンド型の眼窩の奥で瞳をまんまるくして首を意味もなく伸ばす香美。
『心持ち斜め上に伸ばすのが習慣!! 何か見つけたネコはみんなそうだッ!!』
そして右に伸ばした首を左に伸ばしなおす香美である。
斗貴子と影は交錯し、香美のはるか向うに背を向けて着地。
「助かった。恩に着るぞ剛太」
「い、いえどういたしまして」
剛太は斗貴子を抱えながら、天を仰いで感泣に浸った。
見よ、その胸中を。
右手は斗貴子のほっそりした肩を抱き、左手は恐れ多くも膝を抱いている。
要するに……
お姫様抱っこだ! お姫様抱っこだ!! バンザーーイ!!
(あ、あぁ。生きてて良かったなぁ俺。まさか先輩にお姫様抱っこが出来るなんて!!)
バルキリースカートが「ばさぁ」と剛太にしだれかかっており色気は皆無。が、この際無視だ。
「そろそろ降ろせ。降ろさないと肘鉄だ」
「ハイ!」
拒否されてるのに何が嬉しいのか、剛太は満面の笑みで斗貴子を下ろした。
ちなみに彼の足にはモーターギア。土手を駆け上って斗貴子をキャッチした原動力である。
「スカイウォーカーモード」といい、高速でのローラー移動が可能なのだ。
「ちょっと段取り狂っちゃいましたけど、どうします」
スケーターのように優雅に踵を返すと、剛太の表情からヘラヘラした様子が消えた。
あるのは本来の冷徹さのみであり、斗貴子より21cmもある上背と合いまると実に頼もしい。
「いかな事情があるか知らないが、奴は逃げる気配がない。好都合だ。キミと私で一気に
追い込みを掛けるぞ!」
「了解!」
軽い調子で敬礼を取ると、剛太はボソリと囁いた。
(要は俺たちがアイツの近くにいればいいだけですからね)
斗貴子は頷き、香美のしっぽが「?」の形をとった。
(ねーご主人聞いた?)
335永遠の扉:2007/02/25(日) 13:49:04 ID:aq4Tcmkj0
(ああ。聞いたとも! どうやら何か裏があるらしいな!! 僕たち同様に!)

そこでは何か小規模な爆発があったようだ。
木製の壁や屋根が無残に飛び散り、月光にあぶり出されている。
「定時連絡なし…… つまり始まったようね」
千歳はヘルメスドライブを発動すると、筺体を覗き込んだ。
映されているのは斗貴子と剛太。

「相手の立場に立って考えるのは重要だ。そうは思わないか小札」
「え、ええ。確かに不肖もそう思い、なるべくもりもりさんの心情を斟酌しようと」
ロッドの武装錬金、マシンガンシャッフルをくるくるーっと回して
「日々精進!」
総角に突きつけた。
「フ。そういうワケの分からない動作がいちいち良い……じゃなくて、戦う相手の心理を読む
のは何かと重要だ。相手の手練手管を見抜ければ、対処の幅はグンと広がる」
総角と小札の足音は辺りに反響し、その反響もまた反響する。
空間は狭く、そして薄暗い。
どうやら彼らは地下道にいるようだ。
「よって俺は考える。新たな戦士を得た戦団の連中が何をするか、考える。恐らく真にキー
とするのは垂れ目の方じゃあない。中核に据えるのは……」

千歳は思う。L・X・E本拠地の跡で。
(私のヘルメスドライブは、出逢ったコトのない敵は捕捉出来ない。けれど、その敵と近距離
で遭遇した戦士を捕捉できさえすれば)

「画面越しにしろ、瞬間移動で合流するにしろ、敵を捕捉するのは可能だろう」
「と、とゆうコトは、香美どの貴信どのもあえなく捕捉でありますか……? となるとお2人は
戦士の皆様方に所在が常にばれてしまい、不肖たちと合流できぬまま斃される恐れが……」
小札は怯えたように瞳をきゅうっと伸縮させて、上目で総角を見た。
(何かご助力賜わいますよう)
そんな懇願が篭っている。
「フ。そういう目は可愛いが似合わない。案ずるな。対策はちゃんと練ってある」
336永遠の扉:2007/02/25(日) 13:49:54 ID:aq4Tcmkj0
シルクハットをポンポンと叩きながら、総角は自信たっぷりに笑ってみせた。
優しさと頼もしさの混じったごくごく父性的な笑みだ。
小札はそういう表情をする総角にどきどきしてしまう。

(でもこの策は、一度敵に露見すればそれで終わり。次から戦士の接近を許さなくなる。だか
ら戦士・斗貴子と戦士・剛太が、敵に最も近づく瞬間に捕捉を……)
ヘルメスドライブ付属のタッチペンを握る千歳。
その面持ちは緊張に満ちている。かつて根来と組んで久世屋と戦った時のように。
彼女は常に任務においてミスをせぬよう務めている。
7年前、敵へ不用意に核鉄を見せてしまい、自分が戦士と知られて以来。
ここは森の中。辺りは静寂に包まれている。
張り詰めた神経にはその静寂が良くもあり、ひりついた精神の熱をますます内面に追い込
んでくるから悪くもある。
ツ……と千歳は不意に森を見た。
なぜ見たかは分からない。
あるいは研ぎ済まれた精神が、そこにある異変を捉えたせいかも知れない。
「忍六具(シノビロクグ)の武装錬金・無銘が弐。鉤縄」
黒い鉤状の金具がついた縄が千歳に向かい殺到しつつあった!

「こちらも向こうと同じく増員が来た。ならば使わない手はないだろう?」
「確かにそうでした! 無銘くんの武装錬金ならばレーダーの捕捉はけして通じぬ筈!」

ヘルメスドライブの裏側で甲高い金属音が響くと、鉤縄が空に向かって大きく跳ね上がった。
千歳の武装錬金は非常に硬質。楯としても使用可能なのだ。
たわんだ縄が一気に引き戻された。
「古人に云う…… 千丈の堤も螻蟻の穴を以て潰ゆ。如何な些細な綻びですら、我らが決定
的な綻びと化す。よってそれへの対処をいまから行う」
森の中から現われた巨躯の黒装束を、千歳は冷静に見つめた。
337スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/02/25(日) 13:52:41 ID:aq4Tcmkj0
DVD2巻で鷲尾戦を見たので本編にもちらりと。
彼はカッコいいですな。鷲尾のように心意気と意思一つで強さを誇るのがいてもいいじゃないか、
というコトでブレミュ一同はある程度原作設定を活かしつつ、強敵に。

>>280さん
原作では長らく本名不明でしたね。どころか、どっちがどっちか分かったのが37話という。メ
ガネのおかっぱのコが千里でツインテールの童顔のコが沙織です。で、確かにアテナなワケ
でしてw 何かネタ作れないモノか。そしてブックマーク、ありがとうございます!

>>281さん
名無しで細々とやっておりましよ! しかし初期の作品は粗い…… なるべくなら「おすすめ」
の所だけで。なぜならちょっと恥ずかしいから。いずれはHP上で各人物や武装錬金のまと
めを。キャラクターファイル風に総角たちを紹介できたら面白いかも。

>>282さん
剛太になくてカズキにあるのはキャパ、でしょうか。もしカズキの代わりに剛太が鷲尾戦にい
たら、カズキ同様の奮起で勝ったと思いますし、斗貴子をおぶって帰ったとも。ただ、「見た目
よりずっと大きな背中」だけはできなかったかな〜と。いい奴なんですけどねぇ……

ふら〜りさん(ありがとうございます。以降はおまけ要素を充実させたく)
>歴史上の事件をいかに「大和のおかげ」 や「勇のせい」にするかが難しいとこです。
でも、破綻せぬよう定かならぬ闇に肉付ける一種の精密作業は難しくもあり楽しくもあり。
皇族の方を餌食にするSSはそうないかとw 勇、強いだけではなく策士なところもあり恐ろしい。
純情な大和と対照的。しかし彼への説明を介して、自然に歴史背景が分かるからありがたい。

さて。困ったコトに剛太がだんだん目立ち始めてきました。ネゴロにおける千歳再来。
主人公は秋水なんですよ。本当。でも剛太も描くと楽しい。胸より拳骨を尊ぶのはある意味硬派?
にしても斗貴子さん、厳しい部分を甘んじて受ける剛太をもうちょっと大事にしてやっても。

>>295さん
ご訪問ありがとうございますw いやはや、執筆するといいながら日記に筆を取られお恥ずかしい限り。
しかし描くのはどうしても楽しく、日記でもばばーっといっちゃいます。ハイ。
338作者の都合により名無しです:2007/02/25(日) 14:46:43 ID:7CGeTe+U0
スターダストさんお疲れ様です。
こういう時の力作の投下は本当にありがたいです。

原作で剛太はトキコを諦める事(自立する事)でいい男になりましたが
まだまだこのSSの時点では可愛い弟やファンみたいな感じですなw

小札の口調や仕草が相変わらず可愛いです。
千歳は今作でも活躍してるけど根来もまた活躍してほしいなあ

339作者の都合により名無しです:2007/02/25(日) 19:42:40 ID:96hov34U0
香美にしろ小札にしろ、女のオリキャラの性格が立ってますな
(錬金詳しくないので香美が原作キャラだったらごめん)
千歳とか香美とかまひろなどの巨乳軍団より小札とか斗貴子とかの微乳の方が個人的には好きだ
340作者の都合により名無しです:2007/02/25(日) 21:00:53 ID:3LBFZge60
スターダスト氏の錬金への愛が感じられるな、読む度に。
しかしまだ半分くらいなんですなw
今年いっぱいくらいは楽しませていただけるかな?
341修羅と鬼女の刻:2007/02/25(日) 21:42:25 ID:Pmot0Tlm0
>>287
弟・直義が鎌倉で反乱軍相手に苦戦していると聞き、尊氏は初めて新政府に逆らった。
まだ許可も得ぬ内から、軍を率いて鎌倉に向かったのだ。
そして反乱は間もなく鎮圧できたのだが、尊氏はそこで護良親王の死を知る。その時には
もう、噂が都に届いていた。「戦のどさくさに紛れて、足利が親王を殺した」と。
無許可出陣した間の悪さもあり、都に帰れなくなった尊氏は鎌倉に居続ける。すると、
今こそ好機とばかりに新田義貞が、
「足利は、第二の幕府を開くつもりです! これこそ護良親王が恐れていた通りのこと
であり、なればこそ足利は親王を邪魔に思い、殺したのです!」
と訴えて認められ、反乱軍討伐と称して公式出陣した。直義と師直が迎撃に出たが兵の
士気が低く苦戦を強いられる。なにしろ総大将である尊氏が、「帝に逆らう意思はない」
と引き篭もっているのだから。これでどうして兵たちの士気が上がろうか。
だが尊氏としては、帝と戦うなんてできない。実際、それをやった鎌倉幕府は滅んだでは
ないか。頼朝だって(尊氏は知らないが家康だって)、帝から正式に許可を得て征夷大将軍
となって幕府を開いたのだ。そう、帝に逆らうのは日ノ本の民として絶対の禁忌なのだ。
だがその一方、大和と送った苦情相談所での日々で、地方武士たちの貧窮ぶりも実感して
いる。新政府のやり方では武士社会に未来はないことを理解している。
でも帝に、天皇に刃を向けるだなんて。でも武士たちはみんな困ってる。でもでも……

「えぇぇえいっ! この期に及んでウチの殿はっっ!」
今日も新田軍に破れた足利軍の陣屋。指揮官の師直は一人、頭を抱えていた。皇族なんて、
利用価値がなければ引っ括って島流しにでもすりゃあいいと公言している師直にしてみれば、
今の尊氏はもう、なんというかなんというか。昔、劉備玄徳のお人よし・優柔不断に
苦労させられたという諸葛孔明の気持ちがよく解る。
とか言ってる場合ではない。このままではあと数日で足利軍は全滅だ。
とか師直が悶えていると、突然目の前に一枚の書状が突きつけられた。押されている
印からすると、朝廷の公式文書。間違いなく本物だ。新田義貞の訴えを認めた上で、
「『足利尊氏は朝敵なり。足利の名を捨て、出家して僧になろうとも許さじ』……だと?」
「ええ。ですから今更無抵抗を示しても手遅れということです」
その声に、はっと顔を上げる師直。目の前にいたのは……獄吏からの報告によると、
護良親王を殺害して逃げたという謎の小娘がこんな風体で……だが、都で大和が
言ってた、護良親王の臣下で後醍醐帝を救出したとかいうのも確かこいつのはずで、
342修羅と鬼女の刻:2007/02/25(日) 21:43:11 ID:Pmot0Tlm0
「お久しぶりです、高様。肩の矢傷はもう癒えられたご様子ですね。安心しました」
勇だ。朝廷の公式文書を持って微笑んでいる。
「これを足利様にお見せすれば、吹っ切って頂けるのではないかと思いまして。それで、」
「待て待て待て待て! お前、一体、何を考えている? と言うか、お前は護良親王の
臣下だろうが! この足利家に報復に来たのかっ!?」
後ずさって刀に手をかける師直。だが勇は動じない。
「報復とは心外な。そもそも護良親王を手にかけたのはわたしですよ。それを信じて頂く
為に、あえて獄吏の方に姿をお見せしたのです。護良親王を殺害したのは、こういう姿の
小娘であるという報告を受けておられませんか?」
「い、いや、受けている。では本当にお前が? 何のためにそんなことを?」
「高様でしたらお解りでしょう。わたしが、足利の天下のために動いていることは」
何を今更、という顔で勇は語る。
「護良親王の足利様暗殺未遂事件のおかげで、足利家の敵である親王を都から追放
できました。そしてその護良親王をわたしが殺したおかげで、今こうして足利軍と新政府軍
が刃を交えることに。後は足利様がその気になられて新政府軍を叩き潰せば、晴れて
足利幕府の成立となります。どこかおかしいですか?」
「い、いや……」
おかしいも何も言われてみれば確かに、足利家にとって、そして師直にとって理想の展開
だ。これが全部、尊氏の指示によるものだったりすれば最高だがそこまでは望まないとして。
「では、ここまで全部お前の筋書き通りだったというのか、その……護良親王に助力
して、鎌倉幕府と戦っていた頃から? 鎌倉幕府を倒し、新政府を立て、それを我らに
倒させることで新たな幕府を、足利幕府を開かせようと……?」
勇は頷く。
「では、足利様の説得はお任せしましたよ。わたしは都に戻り、高様の軍勢を平安京へ
迎え入れる手引きを致しましょう。……くれぐれも、わたしのことは足利様にはご内密に」
343修羅と鬼女の刻:2007/02/25(日) 21:44:26 ID:Pmot0Tlm0
それこそ言われるまでもない。尊氏が実力で、自分の意思で新政府軍を倒した上で
幕府を開いてくれないと(そう世間が認知しないと)意味がない。
文書を渡して去ろうとする勇に、師直が最後に尋ねた。
「待て。そういえばお前は、今はもう護良親王の臣下などではないのであろう。
ならばこの書状、どうやって入手した?」
「ふふ。わたしがその気になれば、」
勇は振り向いて、
「ある晴れた日に、平安京の……御所の奥におられる後醍醐帝をぶん殴りに行くのも、
いと易きこと。ですが、わたしが帝を撲殺しても無意味でしょう? 足利の天下にとっては」
と言い残し、陣屋を出て行った。

師直が持ってきた書状を見た尊氏は、しばし煩悶した後、
「つ、つまり新田義貞が讒言しているのだな。よし、帝のお側に居座る奸臣を一掃する!
その上で帝を説得し理解を得て、理想の武士社会を築くぞ!」
ということで、やっと腰を上げた。師直はいい加減泣きたくなってきたが、もうこの際
何でもいいとばかりに尊氏を伴って前線に立つ。末端の兵たちは詳しい事情など知らない
ので、尊氏がようやく新政府を叩き潰す気になったかと信じ、尊氏の指揮の下で奮起奮戦。
もともと戦の才能はある尊氏なので、瞬く間に新田軍を打ち破り、それを追って西へ西へと
攻め寄せた。
344修羅と鬼女の刻:2007/02/25(日) 21:45:34 ID:Pmot0Tlm0
「え? 足利さんが、軍を率いて攻めて来る? この平安京に?」
都の奥、足利の屋敷。尊氏が帰ってきた時のためにと部屋の掃除をしていた
大和のところに、やっと帰還したばかりの正成が告げた。
「ど、どういうこと? だってオレ、ついこないだまで、この屋敷で足利さんと高さんと
一緒に、都の平和を守るために新政府成立のためにって苦情相談と街の巡回と……」
「だそうだな。俺の頼みをよくきいてくれて、ご苦労だった」
「そんなことどうでもいよ! それより、なんで足利さんがここに攻めて来るっての?」
「足利殿本人の命令ではなかろうが、まず護良親王を領内で殺害した。次に朝廷に無許可
で出陣し、鎌倉に居座った。そして討伐に出た新田殿の軍を破った。更にはこの平安京に
軍を向けた、と。これだけあれば、もはや足利殿個人の意思など何の意味もない」
正成は、淡々と大和に説明した。
「確かに後醍醐帝の新政府は、平安時代の再来とばかりに公家ばかりを重んじて、
武士たちをないがしろにし過ぎた。今や足利殿は、貧窮にあえぐ武士たちにとって
希望の星となっているのだ。そして足利殿は、そんな彼らを見捨てることのできる
御仁ではない。源氏の棟梁という血筋もあるしな。何の束縛もない俺やお前とは、
立場が違うんだ」
「立場……」
尊氏の人柄と立場は、大和もよく知っている。この平安京で、一緒に戦いもしたし
宴会もした仲だ。みんなで、平和な日本国を築こうと汗水流した仲間だ。
何も言えないでいる大和に、表情を引き締めて正成が告げた。
「もう時間がない。新田殿の軍が帰還し次第、俺も合流して兵を整え、賊軍を
迎え討つ。これから出陣の支度にかかるから、お前もそのつもりでいてくれ」
それだけ言って、正成は出て行く。
大和は雑巾を手にして、困惑した顔で立ち尽くしていた。
ほんの少し前には筆を手にして、事務仕事に頭を抱えていた足利の屋敷で……
345修羅と鬼女の刻:2007/02/25(日) 21:48:16 ID:Pmot0Tlm0
「修羅と鬼女の刻」人物紹介

☆足利家(実力ある人気アイドルと、真面目堅物な経営者と、裏にも通じた強い用心棒)
足利尊氏……源氏の嫡流、名門の御曹司。温厚にして勇敢、でも優柔不断。三国志で
         例えれば「将軍として凄く有能な劉表」。臣下から見ると歯痒くて堪らん人。
足利直義……尊氏の弟。健気な萌え弟キャラなのだが本作では影薄し。正成にも同様な
         萌え弟がいるが、そっちは出演すらせず。作者の遠慮である。察されたし。
 高師直……皇族・公家への敬意の無さが革命的で、いわゆる「バサラ」の起源みたいな
        男。だからこそ尊氏にはできないことを担当して活躍した、足利家の執事。

☆天皇家(ここまで長期間、実際に泥にまみれて戦った皇族って、多分この二人だけかと)
後醍醐天皇……倒幕を二度企て、二度目で捕まって島流しにされるも脱出して遂に
          倒幕を成し遂げた、おそらく天皇家史上最強不屈の帝。私利私欲の人
          ではなく、彼なりに「平和で正しい日本国」を目指して頑張ってるのだが。
護良親王……↑の実子、武闘派で父思いの皇子。幕府を倒したのも尊氏を狙ったのも
         父の為だったが、その父によってトカゲのシッポ切りされて没。かわいそう。

☆その他(身分的には天と地なのだが、活躍度では逆の天と地な二人)
新田義貞……家柄は尊氏とほぼ同格で、先祖代々因縁が深い。尊氏が新政府軍所属を
         続けてれば、京都を飛び出して反政府軍を立てただろうとさえ言われている。
楠木正成……自殺者続出でもおかしくなかった絶望的籠城戦を勝ち抜いた、知略だけでは
         ない人望のひと。父の名さえあやふやな田舎武士だが、金や権力への執着心
         の無さは本物。聖徳太子を尊敬し(史実)、平和な日本を夢見て今日もゆく。         

☆そしてこの二人
陸奥大和……正成をお兄さん呼ばわりして懐いているが、作者としては尊氏の方が萌え度
         では上。でもやはり、最終的に滅ぶ方につくのが「刻」の陸奥ってもので。
半魔の勇……この時代はまだ圓明流が分派してないことに気付き、急遽不破の女から変更
         して誕生。作者の脳内では「らいむいろ〜」の九鬼様2Pカラーというところ。
346ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/02/25(日) 21:51:40 ID:Pmot0Tlm0
この時代も戦国も江戸も、基本的に「上品で教養豊かな人」になればなるほど天皇崇拝に
なってくものです。最上級の家柄で最上級の教育を受け、でも「パンがなければケーキを
食べれば?」ではなく「パンがないなら僕のをあげるよ」な人に育った尊氏がこうなるのは
必然。少年時代から辛酸舐めまくりな家康&頼朝とは根本が違う。……そのせいで江戸&
鎌倉幕府と比べ、室町幕府は大名たちにナメまくられて戦国時代に突入したわけですが。

>>スターダストさん(千歳が参戦してると、根来を思い出す。あの掛け合いも早く見たい)
最近、小札へのあれやこれやな思いが描かれるたび、総角の威厳が縮小……もとい、身近
な人に思えてきます。萌えってものを理解してますな彼は。そしてそれを天然で体現してる
小札が、総角のことを心から好きで。妙な言い方ですが、鑑賞するには理想的な男女です。
347作者の都合により名無しです:2007/02/25(日) 22:48:43 ID:3LBFZge60
ふらーりさん人物紹介乙です。
漫画以外の知識も意外と博識なのに驚いたw
歴史と絡めているのは勉強になるから得した感じだな
348作者の都合により名無しです:2007/02/26(月) 11:20:34 ID:IiuAJKLM0
半魔の勇って勇次郎のご先祖様じゃなかったの?
らいむいろって何?w
349作者の都合により名無しです:2007/02/26(月) 19:14:09 ID:1BvOwJ5d0
>スターダスト氏
日記の長文も読み応えありましたよw
総画←小札なんでしょうか。
子供なだけに父性に対して憧れているだけの気がしますが。

>ふら〜りさん
人物紹介ありがとうございます。これで一層読み易くなりました。
最終戦はSSらしく大和対勇になるのかな?
陸奥が女を殴るのは見たくない気もする・・
350作者の都合により名無しです:2007/02/26(月) 19:39:00 ID:jopMrJNU0
>>348
『らいむいろ戦奇譚』っつーエロゲ(後にコンシューマに移植)がありまして、それに出てくる「九鬼様」
ってキャラの色違いが、勇のふら〜りさんの脳内におけるイメージってことだと。

ちなみに。
こんなttp://www.aquarian-age.org/promo/saga2/image/ep039.gif
キャラです。

個人的には、おかっぱのちびっ娘(有態に言えば女性化金太郎、若しくは『修羅の刻』の葉月)をイメージ
してたのでちょっと吃驚。
351作者の都合により名無しです:2007/02/26(月) 19:46:18 ID:1BvOwJ5d0
俺も知らなかったけど見た感じ結構かわいいですな。
しかしふら〜りさんはエロゲすら手の内か。何者だw

葉月って相撲取りと戦った女修羅でしたよね。
352作者の都合により名無しです:2007/02/26(月) 22:06:15 ID:gcJ4cswD0
永遠の青
353戦闘神話:2007/02/26(月) 22:08:46 ID:gcJ4cswD0
part.10act2
閃光の鉄拳が驟雨となって海皇へと襲い掛かる。
天馬星座の神聖闘士の代名詞たる流星拳であるが、
その拳速はもはや音の域を遥かに飛び越え、光の域すら超え、神の域に達していた。
光速を越えた光速、神速というべきその領域は、まさしく彼ら神々が独占していた領域だった。
だが、其処へ人間の到達を許した。
所詮人間、たかが人間、人間如き、そう見下した連中が如何にして苦杯を舐めたかは彼の記憶に新しい。
何せ、その連中の一人が他ならぬ彼自身なのだから。
天馬星座の彼は、彼らは、神へ挑み、神から勝利と栄光を簒奪する為に己を練磨し、
ついにはその無謀を現実のものとするに至った。
神聖闘士。
かつて神と巨人とがその生存をかけて合い争ったギガントマキアにおいて、オリンポスの神々が纏い、
巨人とその雌雄を決した鎧にもっとも近づいた神聖衣をまとった彼らは、
英雄たちの栄光の残照すら消え果た、
この哀しく虚しい鋼鉄の時代における、至高の英雄だ。
巨人も、神も、後から来たもの達に打倒され、
その栄華を蹂躙されて神話の彼方へと消えて果てて来た。
巨人はオリンポスの神々に打倒された。では、オリンポスの神々は誰に打倒されるべきなのだろう。
天馬星座の神聖闘士たちの故国には、栄える者は尽く枯れ、盛るものはすべからく衰える、
栄枯盛衰。
そんな言葉が伝わっている。
354戦闘神話:2007/02/26(月) 22:10:56 ID:gcJ4cswD0
巨人を打倒した神々は故に、神は打倒されなければならない。
神話の昔から、この一柱の神は只一つの敗北の為にその小宇宙を燃やし続けてきた。
同族たるオリンポスの神々でも、巨人の群れでもなく、只の人間が己を滅ぼすという、夢想。
権勢に固執するがあまり、己の本道を見失い、
挙句の果てに意思すら喪いエネルギーへと成り果てた天主ゼウス。
彼の姿に絶望した海皇は、以来その夢想にとりつかれていた。
故に、戦い。故に、敗れた。
去れども未だ、その夢想は果たされていない。
神を打倒し、栄光を世に示す人間は、未だ彼の前には現れてはいない。
ようやく、今、天馬星座の男がそこへと手をかけた。
ならば、その男に倒されるために、海皇自身もまた切磋せねばならない。

神速の鉄拳の群れを往(い)なし、交わし、
裁いて間合いを取るべく離れようとするが、間際に蹴りを喰らう。
拳撃と同時の突撃を許していたのだ。
天馬星座の聖闘士の踵が海皇の爪先を踏みしめると、
彼は海皇に向かって渾身の力を込めた正拳突きを放つ。
皮膚を、脂肪を、腹筋を、臓腑を貫いて彼の拳が海皇の肉体を打ち抜いていた。

「負け、か…」

気が付けば、ジュリアン・ソロは汗みずくになっていた。
ソロ家の邸宅の一つに、広大な運動施設を備えたものがある。
これは己の肉体を筋肉の塊へと変換することに妄執した挙句、
ステロイドの過剰摂取によって死亡した彼の叔父のものだ。
355戦闘神話:2007/02/26(月) 22:13:18 ID:gcJ4cswD0
彼の死後、ジュリアン・ソロが使用している。
己を海皇の肉体へと変質させる術は、膨大な運動であった。
それも只の運動ではない。戦闘である。
格闘家のトレーニングコーチから拳法の達人まで呼び寄せられたが、
彼らは海皇の本質にまったく気が付くことなくその職を解かれていた。

「残念ながら」

フルートの演奏を終え、簡潔に堪えるのは、
海皇最後の供回りとなってしまった「海魔女・セイレーン」の海将軍・ソレントだ。
嘗ての戦いの際、アルデバランに致命傷を与え、
瞬相手に互角に渡り合った海将軍屈指の実力者である彼は
ジュリアン・ソロの裏も表も知悉した唯一の人間として、ジュリアン・ソロ個人に仕えている。
海将軍として覚醒した直後、であった為あのような結果に終ったが、
今の己ならば瞬と再び見えたとしても遅れを取ることはないと確信している。
傲慢ではない、それが海皇に侍る七つの海の覇王である証だ。
今や、ソレントの魔曲によって幻想の中で再現される戦闘のみが、
海皇の肉体をこの世に顕現させうる唯一の儀式であった。
海皇とジュリアン・ソロの精神の混淆(こんこう)を明かされたソレントは
はじめ困惑し、次に歓喜し、そして従属を誓った。
そして、こうして戦闘を繰り返している。
先ほどまで彼が闘っていた天馬星座の聖闘士の姿は、その力の一端である。
一種の幻覚だ。
356戦闘神話:2007/02/26(月) 22:16:45 ID:gcJ4cswD0

「まだ、足りない…。
 フ…。せめて神の力なくとも星矢と全力で戦いたいと思っているのだが…」

ソレントからタオルを受け取り、顔の汗を拭って、ジュリアン・ソロは続ける。
人間として星矢に挑みたいという、ジュリアン・ソロの本音と、
神として星矢に挑みたいという、海皇の本音とが、そこで初めてソレントに突きつけられた。

「私はまだ弱い」

あの黄金の小僧共に吐いた手前、星矢と並ばねばならないからな、と続ける。
敗北に屈する者に英雄の資質はない、真実の英雄とは敗北を食い殺し、
その骨で勝利の塔を築き上げる者を英雄というのだ。
だから、きっと、あの小僧どもも再起してくれるに違いない。

357戦闘神話:2007/02/26(月) 22:20:59 ID:gcJ4cswD0
「完敗だ…」

アドニスの目から涙が流れた。
何が最強か、何が敗北は無い、だ…。
無様に負けた。圧倒的に負けた。お情けで生かしてもらった。
挙句の果てに、海皇は聖衣に傷一つつけては居なかったのだ。
敗北だった。

「勝ちの途中だ!」という声にアドニスは貴鬼をみると、血の涙を流しながら彼は叫んでいた。
屈辱に身を焦がすのはアドニスだけではない。
正統な聖闘士の血統の貴種。聖域でそう呼ばれる貴鬼だからこそ、という面もあるのだろう。
そんな風に穿って見てしまう自分を、アドニスは恥じた。
叔父にアフロディーテをもつ彼にとって、教皇シオンの最も新しい孫である貴鬼は、眩しく思うこともある。
大好きだった叔父がその実聖域の裏切り者であり、挙句の果てに死後の栄誉すら穢した背信者。
自分がそんな男の甥であるのに対し、貴鬼は、聖域史上屈指の名教皇であり、
聖戦において壊滅状態に陥った聖域を見事に再建してみせた中興の祖・シオンの孫だ。
貴鬼の母はシオンの十三人いた子供の中で最後の娘であり、
聖域ではなくシオンの郷里であるジャミールで育ったので
生涯の大半を聖域で過ごしてきたアドニスはその正確なところは知らないが、
それでもその血統のよさはアドニスに暗い影を落とすこともあった。
正直、貴鬼より早く聖闘士の位を得たのは彼の意地だった。
突っかかっていったのも、八つ当たりに等しい。
自分の中の薄暗い心があることを、アドニスは否定したいが為、飄々とした風情を装うのだ。
それこそが師匠の前でのみ彼があらわす固い表情の正体であり、
アドニスという聖闘士の根幹を苛むものだ。
358戦闘神話:2007/02/26(月) 22:24:08 ID:gcJ4cswD0
己は一体何者なのか、何処から来て何処へ行くのか。
アイデンティティは揺らぎ、小宇宙は乱れ、魂は穢れる。
そう思って自ら封じた問いが、再び重苦しい音を立てて廻りだす。
だがアドニスは知らない。彼を狂騒に駆り立てるその問いを彼の親友もまた抱いていることを。
聖闘士、業深きこの生き様こそがアドニスにも、貴鬼にも相応しいのかもしれない。

「…、ふぅ」

そんな少年たちの慟哭を、水銀燈は哀しげに見ていた。
他者に、人間に対して彼女は感情を傾けることは基本的にない。
人間より優れた存在である「お父様」が創り出した自動人形、
ローゼンメイデンの最初にして至高の一体であることを誇りに抱く彼女にしてみれば、
「人間」でしかない彼らに助けられた事は決して好ましい事実ではない。
負け狗にかけてやる言葉を持たない彼女だが、
彼らの真っ直ぐさが彼女自身の心を抉るのを感じてもいる。
まるで己自身の映し鏡のような慟哭に、ただ彼女は悲しいと思った。
だからこそ、彼女らしくも無い声をかけたのかもしれない。

「…ありがとう」

呟くような一言だったが、貴鬼もアドニスも弾かれるように彼女を見た。
泣きっ面で凝視されては流石の水銀燈も引かざるを得なかったが。
359戦闘神話:2007/02/26(月) 22:26:55 ID:gcJ4cswD0
そうだ、一体何を捉え間違いしていたのだ。
護るべき者を護れたのだ。
たとえ試合に負けたとしても、どんなに矮小であったとしても、勝利は勝利なのだ。
地上の守護者たる聖闘士にとって、勝利の意味は果てしなく重く、護るという言葉は何よりも尊い。
偉大な敗北よりも卑小な勝利を選ばねばならないのだ。
少なくとも、そう思えるだけの価値ある言葉を、知らず水銀燈は彼らに与えていた。

「ど、どうってことないさ」と貴鬼。

「僕らは聖闘士だからな!」とはアドニス。

彼らが立ち上がれるだけの言葉だったのだ、それは。
惨酷で美しい銀髪の美しい乙女の言葉は、故に少年たちを再起させた。
そうして立ち上がった彼らの姿に、彼女は、すこし微笑んだ。
それは、哀しく冷たい銀の乙女が、心を溶かした瞬間でもあった。
微笑んだ瞬間、彼女は倒れ、アドニスが駆け寄ると同時に、
彼らの居る世界が崩壊を始めた。
海皇の存在にこの「水銀燈のフィールド」が耐え切れなくなったのだろう。
いや、耐え切れなくなったのは水銀燈の心かもしれない。
人間よりも細微かつ機微な心をもつローゼンメイデンなのだ、
海皇と聖闘士の戦闘によって気を失わなかっただけでも奇跡に近しい。

アドニスが水銀燈を抱き寄せ、貴鬼もそれに駆け寄ろうとすると、
空間がまるでガラスのように爆ぜた。
地に落ちる水滴のように、風に舞う羽毛のように、彼らは翻弄される。
どこへ消えるのか、どこへ落ちるのか、どこへ行くのか、知る術はない。
360銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2007/02/26(月) 22:29:05 ID:gcJ4cswD0
というわけで、戦闘神話第二回part10act2をお送りしました
まだ序盤だよオイ…

なんかもう、凄いことになってますねジャイアントロボ・地球が燃え尽きた日
バンデスおじさんがかっとんでたり
アルベルトが原作比10000%で悪党面だったり
エロ担当のお銀ちゃんは原作だとツンデレヒロインだったり
もうステキ若本ヴォイス以外きこえねぇよ竜作兄貴だったり
そんなこんなで戦闘神話第二回part.11でした
エドにするかアドニス貴鬼の少年よ〜コンビにするかホント迷った挙句
つながりを重視して少年よ〜コンビになりました
エド対千歳は次回にお預けです、失礼しました

>>249さん
御大が描かないので、ねぇ…
良くも悪くも星矢を現代的に料理してて実に由ですよ
由乃よりも令ちゃんの方が萌えますよ
核実験場などと揶揄されるREDのほうはもう
ポントスがどえらい事しでかしてくれましたがw
捨て台詞が敗北宣言ってそりゃねぇよ、だから海神はカマセ扱いなんだよゴルァ!

>>255さん
ご心配かけてまことに申し訳ない
年末年始にかけてヘルシングSSかいてたころからずーっとスランプになってまして
「あえて無題」でようやく星矢たちが戻ってきてくれたって感じです
ギャグはノリが大事だと思っております、ハイ
361銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2007/02/26(月) 22:33:03 ID:gcJ4cswD0

>>サマサさん
佐々木望はこの時期が一番イイ声してたような気がします
オルバ・フロスト以降はなんかこう、声が重たくなったような気が…
あの時期、クロスブームの後期だったせいか何でもかんでも鎧きてましたもんねぇ
ガンダムクロスあたりはもう開き直って大好きですが

>>ゴートさん
拙作の収蔵ありがとうございます
うわぁ、part.7以降ぜんぜんストーリィ進んでねぇw
がんばります

>>スターダストさん
サイト開設おめでとうございます
ひとつネタばれしときますと、星矢のツッコミは永倉新八です
ぜってぇわからねぇだろうな、と思いましたのでここで答えをw
全元ネタはまたの機会にでも
番組終了後のカットでも秋水の弄られキャラぶりはステキですね
アニメだと弄られキャラなんですね、斗貴子同様
戦闘神話で斗貴子さんがでてくるのはいつのことやら…
夏までには出したいなぁ…

>>ふら〜りさん
ぬぅ、侮っておりました まさか劇場で「ラキシス!おいで!」を聞かれていたとは…
長山洋子ももう立派な演歌歌手ですねぇ
ギャグから美少年までこなす芸の幅の広い堀川りょう氏には畏敬を抱いております
だってねぇ、GS美神の横島と瞬とベジータが同じ人なんて信じられませんよw
元ネタ解説はまた別の機会に続編とともに投稿しますのでお楽しみに

では、またお会いしましょう
362作者の都合により名無しです:2007/02/27(火) 11:56:45 ID:PSyDb6rk0
今回は戦闘神話のほうですか。相変わらず長いですが力作乙です。

ソロは星矢と戦うために自己を追い込んでいるのか。
ちょっと意外だなwでも、ソレントとのコンビは好きなので楽しみ

驟雨←こんな難しい漢字をわざわざ使わんでもw
363作者の都合により名無しです:2007/02/27(火) 19:34:59 ID:KMCuGJLr0
銀杏丸氏はちょっと文章がクドくなりがちだね
この文体は好きだけど、もう少し肩の力を抜いた程度が読み易いと思う。

まあ、反面アドニスたちのやりとりにはほっとするけどね
364ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/02/27(火) 20:19:11 ID:RBqf2ekS0
第一話「報せ」

「ドラえも〜〜〜〜〜〜〜ん!なんていうかもう、とにかく法律に触れそうなくらいヤバいチャカとかそんな感じのブツ
を出してくれぇぇぇ〜〜〜〜〜〜!!!」
―――絶叫しつつ部屋に飛び込んできたのは、我らが主人公、野比のび太。いきなりテンションが高すぎるが、割とよく
あることだったので、ドラえもんはもはや呆れもしなかった。
「のび太くんったら・・・またジャイアンにいじめられたのかい?」
「ジャイアンだけじゃないよ!スネ夫もしずかちゃんも、み〜〜〜んな殺してぼくも死ぬ!」
興奮しすぎて危険思想をぶちまけ始めた。ドラえもんはふんふんと聞き流しながら、のび太が落ち着くのを気長に待つ。
五分ほどして、戦時中の日本軍ばりの言動を繰り返していたのび太もようやく平静を取り戻していた。
「で、何があったのさ?」
「うん、ちょっと聞いてよ!みんな酷いんだ!」
のび太は身振り手振りを交えつつ、如何に自分が可哀想な目にあったのかを解説しだした。
「あのさ、クラスで学芸会をやることになったんだよ」
「ふむふむ」
「で、ぼくも何か役をやりたいなーって言ったんだ」
「へえ、そりゃあ身の程知らずな」
「けどさ、そしたらジャイアンたちが笑いだしたんだ!」
「うん、気持ちは分かる」
「お前なんて、その辺に生えてる木その一くらいしか出来ないだろって!」
「はっはっは、全く持ってその通りだね!」
「スネ夫はおろか、しずかちゃんまでぼくを笑ったんだ!」
「そりゃあ笑うね!」
「―――ってドラえもん!何か笑うようなことか!?」
「だってその通りだもの。笑うしかない」
「じゃあ好きなようにやってろ!」
どっかで聞いたようなやり取りの果て、のび太は不貞腐れて寝転がってしまった。
365ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/02/27(火) 20:19:58 ID:RBqf2ekS0
「全く君って奴は、あれだけ冒険して色々学ぶこともあるはずなのに、どうして進歩しないかなあ。経験値が日常に戻る
たびにリセットされてるじゃないか」
「・・・逆に考えるんだ。ぼくの経験値がリセットされてるんじゃなくて、みんなも成長してるからぼくが成長してないように
見えるんだ。そう考えるんだ」
「屁理屈ばっか上手くなっちゃって・・・」
―――その時だった。ドラえもんのポケットから、ピーピーと妙な音が響いたのだ。
「ん?珍しいな。<タイム電話>の呼び出しだ」
「へえ、誰から?ドラミちゃん?それともセワシくん?」
「えっと・・・あれ、ムウさんからじゃないか!」
「ムウさん?」
意外な名前に、のび太はヒョイと身を起こした。
ムウ・ラ・フラガ。タイムパトロールの一員であり、以前のび太たちが遭遇したとある大事件の際に知り合った人物で
ある。のび太たちにとっては世代や立場を越えた友人といった間柄だ。
「もしもし―――あ、どうも久しぶりです。え・・・何ですって・・・そんな!・・・はい・・・はい・・・のび太くんも
ここにいるから替わります!」
話している間に見る見る顔色を青くしていくドラえもんを不審に思いつつ、差し出されたタイム電話を受け取った。
「ムウさん、久しぶり」
「ああ、しばらくぶりだ・・・俺の方も色々あったから、随分と話したいこともあるが、緊急事態なんだ。本題から入るぞ」
「本題?」
のび太は首を傾げた。そこから一息おいて―――ムウは言い放った。
「ギガゾンビ・・・奴が、脱獄した」
「―――!」
思わず息が詰まる。ギガゾンビ。その名前は、よく覚えている。
古代日本世界を拠点に、世界の歴史を造り替えようとした未来の時間犯罪者―――!
「な、なんであいつが!?」
「奴の仲間が刑務所に襲撃をかけたらしい。警備員たちを圧倒的な力で薙ぎ倒し、そのままギガゾンビを連れて逃げた
そうだ。今タイムパトロールが行方を追っているが・・・芳しくないな」
「そんな・・・」
366ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/02/27(火) 20:21:35 ID:RBqf2ekS0
「・・・君たちに連絡したのは、そのことで注意しておきたかったんだ。奴は君たちを恨んでるはずだから、もしも奴が
復讐を考えてるとしたらと思って、な。そっちで何か、変わったことはないか?」
「いや、特にありません」
「そうか・・・流石にそれは取り越し苦労だったかな。とにかく、しばらくは身の回りに気を付けてくれ。俺たちも必ず
奴を見つけ出すから」
「はい・・・」
それからいくらか言葉をかわして、のび太は通話を切った。部屋の中には、不穏な空気が流れている。
「ギガゾンビ・・・どうする、ドラえもん!?」
ドラえもんは腕組みをしながら、やがて答えた。
「・・・ぼくの道具を使えば、奴がどこに行ったのか。それは分かると思う。けど、危険だよ」
「うん、それは分かってるよ。でも・・・知っておいて、放っておくっていうの?」
真剣な表情ののび太。それを見てドラえもんは笑みを浮かべた。
「なるほど・・・経験値は、ちゃんと引継ぎされてるみたいだね。よし、行こう!」
「そう来なくっちゃ!よし、じゃあみんなも呼んで・・・」
言いかけてのび太は気付いた。<みんな>とは、喧嘩中なのだということを。
「どうしたの、のび太くん?」
「・・・いや、やっぱり今回はぼくたち二人だけで行こう」
「え!?何でだよ!・・・まさか、喧嘩したことを根に持ってるの?」
「ち、違うよ!やっぱこんな危険なことに友達を巻き込みたくないしさ。ま、ドラえもんの道具があれば、二人だけ
でもどうにかなるって。それに大長編では大体、現地の協力者とかも現れることだし・・・」
あれこれもっともらしい理由を語るのび太だが、本音はありありと顔に書いてあった。
「はあ・・・ホントに屁理屈だけは上手くなっちゃって。そんなこと言ってる場合じゃないってのに・・・」
「うるさいなあ!とにかくどれだけ事態が深刻だろうとも、今はあいつらと顔を合わせたくないんだよ!さあ、無駄口
叩いてないで、出発だ」
本音をぶちかまし、さっさと引き出しを開けてタイムマシンに乗り込んでしまうのび太。
ドラえもんもやれやれとばかりに腕を広げつつ、引き出しへと飛び込んだ。
「しかし、本当に大丈夫かな・・・」
全くのび太くんは変な所で意地っ張りなんだから。ドラえもんは嘆息するのであった。
367サマサ ◆2NA38J2XJM :2007/02/27(火) 20:38:03 ID:K1op/IWS0
投下完了。前回は>>260より。
なんか結構、スランプです。しかも三月はスパロボWも発売なので、更に筆が遅くなりそうな・・・
スパロボだけはSSよりも優先させてしまうかもしれん・・・

>>262
まあ、奴はタヌキにすら見えないという問題がありますが(笑)そしてその桃太郎は桃太郎違いだー!
プリムラに関しては、のび太は彼女の実年齢を知りませんので、精々2,3歳程度しか離れてないと思っています。
リコリスは神界や超機神で全く触れてません(稟も知らない)が、プリムラは彼女のことを所々で思い出しながら
喋ってたと脳内保管すると割といい感じに読めるかもしれません。

>>ゴートさん
暫定まとめサイトの管理乙です。青き神獣・・・青き珍獣ならピッタリなんですがw

>>264
がんがん広がるといいなあ、このSSも・・・

>>265
今回もネタキャラ、熱いキャラ、色々取り揃えたいです。

>>ふら〜りさん
勇はマジで鬼女ですね・・・まさに女勇次郎(肉体的には多分勇次郎のが強いでしょうが)
暴走キャラはいるのやら、いないのやら。

>>銀杏丸さん
やっぱあなたの星矢ネタは素晴らしい・・・原作への愛を感じまくれます。
どうでもいいけど僕が一番好きな聖闘士はリザドのミスティです。理由はもう・・・アレです。素敵だから。
佐々木望は僕の中ではおぼっちゃまくんの柿野くん。
368作者の都合により名無しです:2007/02/27(火) 22:58:30 ID:PpQrODzH0
>銀杏丸さん
文章は詩的な感じで俺は好きですよ。銀杏丸さんが星矢(というか御大)を
愛している気持ちがSSから伝わってくるし。
でも、まだまだ長く続きそうですねw今年いっぱいは間違いなくw

>サマサさん
なんとなく今回の出だしは今は亡きVSさんの麻雀教室を思い出したw
いつもの日常的なドラノ世界から、ギガゾンビ戦への移行ですな。
のび太緊張感ないけどw
369作者の都合により名無しです:2007/02/28(水) 08:14:45 ID:OYfeqQLh0
サマサさん朝から乙です
タイムパトロールとギガゾンビが本格的に動き出したことで
いよいよドラチームも本格的に出動ですね
桃伝チームとどう合体していくのか楽しみです。
出来るだけ長く続けてください。
370作者の都合により名無しです:2007/02/28(水) 08:17:37 ID:OYfeqQLh0
朝じゃなかったw
371作者の都合により名無しです:2007/02/28(水) 16:29:41 ID:RlVIqZ2N0
>>サマサさん
いよいよドラ側からも物語が動き始めましたね。

>その桃太郎は桃太郎違いだー!
まぁ、あっちの方も発表直後は「桃電ライダー」と揶揄されましたしねぇ。
ちなみに
ttp://fun-bolt.sakura.ne.jp/rakugaki/data/IMG_004652.jpg
こんなネタ絵が(w

◆こんな新説桃太郎伝はいやだ(?)
桃華の真名が、「鬼が怒る」と書いて「きぬ」

桃華が大事にしている人形をうっかり壊してしまい、ご飯粒でくっつけてごまかすのび太

その直後に通りかかり、人形を手に取ったら首がポロリと落ち、そこを桃華に見られて、
(桃華に)ボコボコにされる金ちゃん<「トウカ」違い(苦笑)
元ネタ
ttp://www.youtube.com/watch?v=5x2JFNwagSY&NR
372AnotherAttraction BC:2007/02/28(水) 22:27:58 ID:z8YncZ3O0
136から
……イヴが戦支度を整えたと言うのに、対するリオンは先刻から何一つ動こうとしない。
―――ならば先手必勝、一足飛びで彼女はブロンドの拳を振り上げて砲弾の様に跳んだ。
ごめん!
心の中で短く詫びるや、全身のバネを利かせた巨拳が突進力と重なって無防備の少年に直撃した。
そして木霊する激しく堅い激突音―――――

「――――――――…え……?」
……それは生身を殴った音ではない、感触も違う。
それもその筈、金髪の拳はリオンに届かず、その眼前に突如出現した黒いタワーシールドに阻まれていた。
「ま……こんなもんだろうな。次はオレだ、殴れ」
まるで映像が消える様に僅かなノイズを残して消失した盾の向こうから、つまらなそうに飛び出した命令口調。
それに未だ中空のイヴは気を取られた―――のが不味かった。

一拍置いて、彼女の脇腹に巨大な衝撃が弾けた。
373AnotherAttraction BC:2007/02/28(水) 22:28:53 ID:z8YncZ3O0
「ッ!?」
その威力は凄まじく、彼女は投げ捨てられた人形の様に宙を舞った……が、それでもバランスを建て直し、
一回転して辛うじて石畳への顔面着地は凌いだ。
「…ッッッ!!!」
しかしそれが精一杯だ。激痛と呼吸困難に敵の直視と姿勢維持を妨げられ、彼女は脇腹を押さえて膝を付く。
「悪いな、オレの道は一度発動すると手加減効かなくてな」
痛みに霞む視覚と聴覚に、リオンのそれなりに済まなそうな所作が届いた。その佇まいには、先刻と同様戦闘のそれは
見当たらない。だが、今彼女が享受する痛みは間違い無くリオンの手による物だ。それを頭の冷静な部分で分析するが、
どんな攻撃なのかさっぱり判らない。
「……何があったか判らないって貌だな。安心しろ、見せてやる……出て来い」
言い様手を振り上げるや、彼の背後の空間を一列横隊が席巻した。
「…………!?」
―――――現れたのは、白銀の巨躯を微動だにせず、全てが生物的で且つ堅そうなフォルムを持つ集団………
それは、奇怪でマッシヴな鎧に身を固めた騎士の一団だった。どれも同一では有るが、大きな上半身と小さな下半身のバランスの悪さ
と言い、意匠の戯画的な不気味さと言い、およそ人間が纏う物では無いのは誰の目にも判る。
そして各々が携える武器も、剣に斧、槍や鎖鉄球と様々だが、それもやはり細工が何処か戯画じみて、にも拘らず凶暴な実用性を
匂い立つ様に溢れさせる。
「これがオレの道……オレの敵を完璧に排除し、オレに絶対の忠誠を誓う最強の騎士団だ」
手を下ろすと、背景を埋め尽くした甲冑達は何事も無く消失する。
「何で見せたか判るよな? オレだって、出来ればお前を傷付けたくない。なるったけ進んでオレの同志になって欲しいんだ。
 それに―――」
喋りながら、傍から見れば無警戒にイヴへと近付くが、彼は初めから筒先を向けていたも同然だ。
彼の道は命令するだけで良い。さすれば即座に甲冑が現れ命令を実行し、反撃の間も無く消え失せる。
「…判ってんだろ? 知った所で手の打ち様が無いって事が」
正に心中を見抜かれ、イヴは身を強張らせた。


―――エキドナの右肩辺りの空間に、何の予告も無く水面の様な波紋が咲いた。
「?」
その中心から、黒光りする槍の様な棒状の物が滑り出る。
形状は長い棒そのものだが、その先端には毒蛇の頭を思わせる角張った部品が付属され…
と其処で、突然スヴェンが思慮を捨て、手近の路地に頭から飛び込むのと――――――、
374AnotherAttraction BC:2007/02/28(水) 22:31:03 ID:z8YncZ3O0
轟音、そして彼の背後に有った屋台が破壊されたのは同時だった。

「…………ッッッッ!!」
その残響が狭い路地で増幅され、彼の耳を強かに聾する。その中で、思考は恐るべき方向へと帰結した。
――――あの突如現れた長い棒は間違い無い。轟音と威力が完全に証明している。
あれは………対戦車ライフルの銃身だ。
「…良くかわしたねぇ、スヴェン=ボルフィード。意外と動けるじゃないか」
熱を持つ銃身が作る陽炎の向こうから、美女が殺意の薄笑いを送った。

これが………道か……
およそ尋常の戦闘法が通用しない領域をスヴェンは肌で感じる。
命からがら避けた彼への呼び掛けに反動の余韻が無い事を見るに、彼女にその手の負荷が訪れないであろう事が窺える。
しかも原理は判らないが、恐らく空間にあんな自分だけのポケットを作って置けるのだろう。その中に入れてある武器を
使うと見て間違いは有るまい。
「…これが私の道さ。私の周囲にこんな収納口を開けて、そこに色んな物を入れておける。例えば、そら…」
そう言った矢先、彼女の周囲に先刻より小さな波紋が無数に沸き上がるや、彼は慌てて全身を路地へと隠す。
再度襲来したのは、銃弾の嵐だった。
「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
極力体を丸めて破片と跳弾から身を守るが、彼と引き換えに暴威の洗礼を受ける路地の入り口が無残に破壊されていった。
銃火を咲かせる短機関銃の銃身に囲まれ、その中心で凄みの有る媚態を飾るエキドナは、さながら死の女神を思わせた。

…実際は一分も経っていないのだろうが、それでも長きに感じる撃たれっぱなしの時間が過ぎ去った。
彼女が眼前に差し出した手元にまた波紋が起き、其処から現れたティーカップの取っ手をそっと掴んだ。
その中からは湯気が立ち上り、程よい飲み頃だと言う事が良く判る。
「おやおや、先刻の威勢は何処に行っちまったのかねぇ」
その香りを悠々と楽しむエキドナを崩壊寸前の路地から覗き、スヴェンの胸に絶望交じりの正解が圧し掛かった。
ヤバいな…こりゃあ……
正解…と言う事は、これからどんな兵器が出て来るのか想像も付かない。まだ判断の材料は足りないが、彼女の戦法は恐らく
ファランクス――――――…圧倒的火力による徹底制圧だろう。
対してこちらは単騎にして火力にも劣る。常識的なら投げ出しても誰一人責めまいであろう難易度だ。
375AnotherAttraction BC:2007/02/28(水) 22:32:02 ID:z8YncZ3O0
しかしそれが何だと言うのだ。
戦闘とは強い者が勝つのでは無い、勝った者の勝ちなのだ。
相手が人間である以上完璧も完全も存在せず、必ず何処かしらに穴がある。だからこそスヴェンは、これまでその穴を
突く形で策略の糸を廻らせて来たのだ。
確かに凄いが……やっぱりあんたは甘いな
まず完勝を信じて能力を晒した時点で、場はスヴェンの優勢だ。彼女の手は疑い様も無く大きいが、最強の手ではない。
となればイカサマでも何でも伏せたエースを拾えば良いだけの話だ。
ライフルを組み立てながら、脳裏で更に緻密な戦略を組み立てて彼の唇は奸智に笑んだ。


砲をぶら下げて待ち受ける怪物の前に現れたのは、黒服を着た老若男女混合の集団だった。しかし服装に対し、
各々が携える武器は統一性のかけらも無い。弓、槍、剣、銃、鞭、斧、鎌………と、明らかに個の能力を優先した武装になっている。
それらを一瞥する怪物の前に、部下の首が何処からとも無く投げ出される。
「……お前が、このガラクタ共の親分か?」
語調も不敵に進み出たドレッドヘアの黒人も、やはり黒服だ。察するに彼がこの一団の首魁だろう。
「まさか俺達が伏せてるとは思わなかったかい? こっちはそんなモン見越して、末端の構成員すら退避させて町中に配置してあるのさ。
 だからまあ、無駄な努力ご苦労様………ってな」
「此処に居た連中は、掃除屋か」
「まあな、そこそこ戦力が無いとお前らも疑うだろ? 仕方なくさ」
勿論彼らの命に対する悔悟などひとかけらも無く、皆が失笑した。
「…お喋りはここまでだ、デカいの。これから先のお前には質問に答える権利しかない―――――…まずは問い一、
 星の使徒の内情、今すぐ喋るかブチのめされてから喋るか……好きな方を選びな」
弄う様に笑いながら両手を振ると、掌中の柄から三段式のロッドが金属音を響かせて飛び出した。無論それはオリハルコン製だ。
勝勢の傲慢…と言うべきか、彼はロッドの先端を怪物に指し示した。
事実此処は三階。彼の背後は窓であり、彼らがこの部屋に入った時点で退路は絶たれている。チェスで言う所のスティールメイト
(敵方にキングしか駒の無い王手)は目前だ。
376AnotherAttraction BC:2007/02/28(水) 22:33:15 ID:z8YncZ3O0
―――怪物に注目した為だろうか。砲を握る手が震えているのを見咎める。
それを恐怖が故と判断した彼は、顎で手近な隊員の一人に促すと、歳若い男が追従笑いと嘲笑を半々に進み出て演説を始めた。
「……紹介が遅れましたね。
 我々はナンバーズ候補生、通称盤外(アウトラウンド)=v
無駄に演出過剰に、自分達を自前の武器で示す。
……今まで何度と無くやってきた事だ。何時もこれをやるだけで敵対した者共は殊更に萎縮し、状況を理解するにつれて
許しすら請おうとする。当然それを聞いているナンバーズなど、腕など組んで得意満面だ。
組織と上司の威を借りた男も、酔い痴れたまま演説の山場に入って行く。
「そしてこの方は! クロノナンバーズNo10!! その名もデイビッド=……!!!」
だがその得意の絶頂は、突如生じた比較的軽い音に断ち切られた。

怪物が彼を―――――――、文字通り一撃で粉砕したからだ。

「………は?」
予想外の惨事に、誰もが空白になった。
怪物も、砲の衝角(ラム)を振り下ろした態勢から動かない―――――と、思いきや、その肩が今までに無く震えている。
「……貴様ら…」
驚く事に、怪物の声には確かな赫怒が満ち満ちていた。
彼は……理由こそ判らないが、恐怖どころか包み隠せなくなるほど怒っていたのだ。
「貴様らの様なクズが…………クロノスを…!!!」
某と呼ばれたナンバーズは、咄嗟に両手のロッドで十字受けの態勢をとる。続いて激しい金属音と、壁まで弾き飛ばされる彼。
怪物の拳は、それだけで充分に凶器だった。
「クロノスを………此処まで腐らせたのかァッッ!!!」
爆風紛いの圧力すら感じる怒号が、彼らの心を激しく打ち据える。
誰も理解出来なかった。何故この怪物が、星の使徒の為ではなくクロノスの為に怒るのか。
しかし仔細はどうあれ、今この場に於いて敵対関係で対峙するのは間違いない。巨大な斧槍(ハルバート)を握る隆々たる巨躯の黒服
が、蛮声を上げて怪物に突撃した。だが怪物の砲が、彼の全てを轟音と共に吹き飛ばす。
「う…うわ! うわああぁ!!!」
「引くな馬鹿! 俺達(アウトラウンド)に撤退が有ると思うな!!」
或いは恐怖に駆られ、或いは自身と周囲を鼓舞し、それでも彼らは憎悪に漲る怪物を包囲した。
377AnotherAttraction BC:2007/02/28(水) 22:35:14 ID:z8YncZ3O0
「な……何だこいつは!!?」
弾き飛ばされてようやく立ち直ったナンバーズ―――デイビッド=ペッパーは、虐殺される部下を目の当たりにしながら愕然とした。
あの戦闘の機微が足らない他のサイボーグと一線を画す反応速度は、生身の人間とまるで大差無い。しかもまともな武器では、彼の纏う
コート一枚貫通させる事が出来ない。その上―――――、

「おおぉッ!!」
怪物の脚が雄叫びに合わせて宙に弧を描くや、上空から槍を突き立てようとしたアウトラウンドの頭が弾け飛んだ。

――――その上、あの巨躯で蹴りが使えるほど体の重心を把握している。この怪物は断じてウドの大木ではない、どころか
人の機動力を持つ重戦車だ。それとの戦闘を、誰が想定するだろう。
デイビッドの脳裏に、雷光の如く打開策が閃いた………が、彼はそれを却下した。
幾らそれしか思い付かないとは言え、黒猫(ブラックキャット)に頼りたくは無い。勿論嫌っているのは彼のみではなく、
此処に居るアウトラウンド達も口に出せば猛反対するだろう。
気に入らない理由は多々有れ、最大の理由は無論彼の背負う13の番号だ。誰もが其処を目指していると言うのに、あの男は
僅か三年で異才を理由に、急遽イレギュラーナンバーとして強引にナンバーズに捻じ込まれたのだ。
自分は十年待って、しかもNo10が道士に殺されたからその穴埋めとしてと言う、実にプライドの傷付く任命だったと言うのに。
「お前ら! 此処じゃ狭過ぎる、表に出るぞ!!!」
プライドと現状の狭間で、彼はトレインに助けを呼ぶ選択を捨てた。
378AnotherAttraction BC:2007/02/28(水) 22:36:01 ID:z8YncZ3O0
かくして、怪物との絶望的な撤退戦が始まった。先刻まで何と言う事も無かった廊下が、今は長く、遠い。
「クズ共が……逃げられると思うなアァッッ!!!」 
生き残ったアウトラウンドを連れて走るデイビッドの遥か後方から、怪物の死刑宣告が轟いた。
何人かは雷に打たれた様に竦み上がるが、流石に止まろうと言う者は一人も居ない。
「何で…何で怒ってんですか、あいつ!!?」
今までの連中は、ナンバーズの名前を出しただけで竦み上がり、時には許しを請うた。なのにあの怪物は烈火の如く怒り、
彼らの人的優勢を物ともしない。ばかりか圧倒してさえいる。
「知るか!! 兎に角外に出ろ!!!」
まずそれをしなければ始まらない。屋内ではなく開けた場所なら、戦闘も撤退も多少なりとも自由になる。
……と、突如壁に亀裂が走り―――破砕音と共に現れた怪物の手が部下の一人を捕まえる。
「いっ………嫌アァ――――ッ!!!」
「トゥーラ!!」「構うな! もう無理だ!!」
彼女の悲鳴を置き去りに、彼らはただひたすらに走り続ける。絶叫が性別をかなぐり捨てた辺りで、恐怖が更に色濃く押し寄せた。
階段に差し掛かる。誰もが半ば飛び降りる様に下り、一階まで実に十秒かけていない。
「見えた!!」
正面に、出口が開いていた。距離は二十メートル近いが、その間に障害は何一つ無い。彼らの脚力なら二秒フラットの近さだ。
だが先頭の部下が急ぐべく一歩を踏み出した瞬間、進行を遮る形で崩落が発生した。
「!?」
そして濛濛たる瓦礫と粉塵の向こうに、死の壁さながらの仰々しさで怪物が起き上がった。
379AnotherAttraction BC:2007/02/28(水) 22:37:10 ID:z8YncZ3O0
蒼褪めてもこれ以外の退路は無い、かといって背を向けて階段を上る訳にも行かない。となると、
「………おい、飛び道具持ってる奴は何人だ?」
「三……いえ、四人です」
歯噛みするデイビッドの小声に、訊かれた部下も小声で返す。
「それ以外は?」
「五人…ですね」
正直両方ゼロがもう一つ欲しい所だが、無い物ねだりをしても仕方ない。怪物の前髪の奥から迫る憎悪を受けながら、いよいよ腹を据える。
「時間が無え、良く聞け。
 まず撃てる奴は、合図と同時にあるだけ撃ちまくれ。少しでもひるんだら、後は全員であいつを叩く。いいな?」
然るに彼らも覚悟を決める……と言うより、この状況で彼らの思い付く策の限界だった。
「……ッてぇ―――ッッ!!」
隊長の指示に違わず、矢が、銃弾が、怪物の全身を火花と金属音で飾る。しかし怪物は、別に仔細無く空いた腕で頭部のみを守り、
そして砲も、何事も無いかの如くゆるゆると彼らを無情に見据えた。
「デ……デイビッドさん! 駄目です、全然効きま………!!!」
半分泣きそうな声でデイビッドに目をやった彼が見た物は―――、大急ぎで一人階段を駆け上がる彼だった。
……彼の策はもう少し先を行っていた。つまり、『部下を足止めに逃げ切る』が彼の狙いだったのだ。
「そ………そんなぁ! デイビッドさん!!!」
後に続こうとしたがもう遅い。当然今撃っている連中も、突っ掛けようとした者も、すでに一手誤った。
――――――それでなくとも、彼らはその砲が連射出来る事さえ知らない。
380AnotherAttraction BC:2007/02/28(水) 22:37:59 ID:z8YncZ3O0
砲声と絶叫の混声合唱を聞きながら、部下を捨てた気まずさと命を拾った安堵を胸にデイビッドは階段を駆け上がる。
良く考えれば、二階から飛び降りても良かった。落ちる衝撃もパラシュート以下なのだから、よもや転落死をするほど不器用は居まい。
しかしその判断を誤って候補生を死なせたのだから、間違い無く処罰は免れない。
違う……俺の所為じゃ無い。仕方なかったんだ
俺はそもそも、ナンバーズとしては新米だってのに…
いきなりこんなヤバい仕事任されたから……そうだ! 俺は悪くない!!!
無理に自分を弁護しながら走る足を納得させ、体は廊下の突き当たりにある窓に向かっていた。
わざわざ空ける暇も惜しい、なので両手のロッドを振り上げながら一直線に走り出す。
「うおおおおぉぉお!!!」
それ≠ェ先刻の怪物への行動ならまだ評価出来たのだが、生憎それは単なる窓ガラスに過ぎない。
甲高い破砕音と共に、流星雨の如きガラス片。それに続いて黒服の男が窓の外へと飛び出した。
―――――やった。
怪物は、馬鹿正直に階段を駆け上がり追い駆けて来ている筈だ。事実中空から見て何処にも見えない。
確かに懲罰と査問は免れないだろうが、それでも命を拾っただけ良しとせねばならない。

……しかし彼は、今し方生け贄にしたアウトラウンドの面々の様に知らない。
虐殺を終えて一歩も動かない怪物の砲口と各種センサーが、全遮蔽物越しにずっと追尾している事など。
そして、随分前から完全にロックオンされていた事など。
尤も、気付いた所で空中の彼には手遅れだが。

……そんな彼の愚考は、どれ一つ気付く事無く途切れた。
381作者の都合により名無しです:2007/02/28(水) 22:54:25 ID:lgcgkHj5O
連投規制かな?
382AnotherAttraction BC:2007/02/28(水) 23:02:00 ID:z8YncZ3O0
遅え……遅過ぎるぜ!! 勿論俺が!!(挨拶)
こんばんわ皆さん、NBです。久々の1スレに2作投下だキャッホー!!

さていよいよ始まりました第十二話「魔軍」。
リオン達の道、予告通り変えて見ましたが……どんなもんでしょうね。
やっぱり強過ぎるかなぁ…とも思ってしまいますが、原作よりは与し易いかも。
そもそも圧倒的物量不利を覆すのは俺個人としては燃える展開なので、まあ有りですかね。

しかし、生みの苦しみの向こうに有るのはそれを帳消しにする様な達成感なので、やっぱり
執筆は止められませんね。
と言う訳で、今回はここまで、ではまた。
383作者の都合により名無しです:2007/02/28(水) 23:32:04 ID:5yH9DyKz0
NBサン乙!
ちょっと進行が落ちてるバキスレだけど
NBさんのような熟達者が来てくれると絞まるな。

いよいよ大決戦のマーチが聞こえるぜ!
384作者の都合により名無しです:2007/03/01(木) 01:20:07 ID:KU4AvNKw0
もうこの連載も3年以上になりますか。
今のこのバトルもラストバトルって訳ではなさそうだから
まだ2年は楽しませてくれそうですね。

エキドナが強くてう美しくて恐ろしくて良いですね。
口調が(原作から)おばさんっぽいけどw
385WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/01(木) 01:35:47 ID:+FkIk2W50
《EPISODE9:Till Armageddon no shalam no shalom》

――北アイルランド アーマー州 モーテル・オクトーバー

「そのままで聞いてもらって構わん。……今後の作戦を変更する」
ソファに座り脚を組むサムナーは、唐突に切り出した。
ベッドに腰掛けて太腿の傷に包帯を巻く防人は、サムナーの方へ顔を向けた。
火渡は相変わらず憮然とした表情で腕を組んだままドアのそばの壁にもたれており、
千歳はジュリアンの右肩に包帯を巻いている。
ここはアーマー州の最大人口都市ラーガンから程近い、国道沿いのモーテル。
アンデルセンの奇襲を何とか振り切った五人は、車を替え、道を変え、この場所へと落ち着いていた。
否、“落ち着いていた”という言葉は相応しくない。
五人の頭の中には、つい先程までのアンデルセンの姿が焼きついている。
どれ程の速度で車を走らせようが、どんな道を通ろうが、また車の前にフラリとアンデルセンが
現れそうな気がしてならなかった。
そして、こうしている今にも部屋に飛び込んでくるのではないか、という神経症(ノイローゼ)染みた想念が
どうしても振り払えない。
それはサムナーの言動にも表れていた。彼自身、表面上は冷静に振舞おうと必死に努めている。
「あの場所にアンデルセンが姿を現した事からもわかるように、我々は国境を越えた瞬間から
イスカリオテの連中に捕捉されている。
どうやって我々の国境入りを察知したのか知らんが……クソッ!」
自分の想定範囲外の行動を取ったアンデルセンに対して、怒り、苛立ち、そして動揺が隠し切れない。
何度も何度も自問自答と計算を繰り返し、その度に自分の策に納得して自信を得る。
しかし、またすぐに「もしかしたら……」という不安が頭をもたげてしまう。
そんな感情がサムナーを焦らせた。
「こうしている間にもアンデルセンが我々を追跡している可能性は高い。
テロリスト共を襲撃するタイミングを充分に図ろうと思っていたが、もうそんな悠長な事も言ってられん」
サムナーは芝居掛かった重々しさで、四人に言い渡す。
386WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/01(木) 01:38:01 ID:+FkIk2W50
「今から十分間の休憩の後、すぐに出発、夜明けを待たずテロリスト共の本拠(ホーム)を急襲する。
場所はここからおよそ北東20km程の所にあるラーガン市。その外れにある小さな輸入貿易会社が
所有する六階建てのビルだ。無論それは表向きで、実際は奴らのダミー会社に過ぎん」
更にニヤリと口角を吊り上げると、この男らしい冷酷かつ傲慢な言葉を吐いた。
「突入と同時に殲滅を開始する。殺せ、躊躇無くな。
そしてテロリスト共を皆殺しにした後、改めてアンデルセンを迎え撃つ。
まあ、その時は君達の出番など無いだろうがね……」
少なくとも、防人・火渡・千歳の三人は気づき始めている。
車上の決闘の際や、その後のサムナーの態度から、彼の自信過剰な物言いには若干の虚勢が
入り混じっていると。
「了解……」
口を開いたのは防人だけだった。
「よし。わかったなら……少し休むといい。私は出発まで外を見張る」
サムナーはそれだけ言うと、足早に部屋から出て行った。
“自分の眼に見える仕事は、すべて自分の手で行わなければ気が済まない”
完璧主義者にありがちな発想に基づいての行動だが、この場合は不安感によるものも
多分に含まれているようだ。

部屋に残ったのは四人の若者。
やがて、千歳がこの暗さと緊張感の入り混じった部屋に似合わぬ明るい声で言った。
「神経も骨も大丈夫だわ。三角筋を筋繊維に沿って浅く貫通しただけみたい。見た目よりずっと軽傷よ」
包帯を巻き終わったジュリアンの肩を優しく撫で、慈愛に満ちた笑顔を彼に向ける。
大概の男なら妙な勘違いを起こしてしてしまいそうな笑顔だ。
「ありがとうございます……」
だがジュリアンは消え入りそうな小さな声で礼を言っただけで、モソモソと服を着始めた。
いつもの明るさは影も形も見当たらない。
防人は二人に近づくと、ジュリアンの肩に手を置き、彼を気遣う言葉を掛ける。
「大したケガじゃなくて、本当に良かった」
ウィンストンに彼の身を任されたというのに、完全に守りきる事が出来なかった。
防人はそれを痛烈に悔いている。
それに比べれば、自分の拳がアンデルセンに大したダメージを与えられなかった事など霞んでしまう。
387WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/01(木) 01:38:59 ID:+FkIk2W50
「すまなかった。お前を、守ってやれなくて……」
「僕、先に車に戻ってますから……」
ジュリアンは防人の言葉には答えず、というよりもまるで防人から顔を背けるように立ち上がり、
ドアの方へ向かう。
「お、おい……! 待てよ、ジュリアン」
彼の不可解な態度に慌てた防人もまた立ち上がり、後を追おうとする。
だが無情にもドアは乾いた音を立てて、静かに閉められた。
「ほっといてやんな」
出て行くジュリアンを横目で追っていた火渡が、防人を制止する。
やや、飽きれ気味の態度だ。ジュリアンにも、防人にも。
「ヘコみてえんなら好きなだけヘコましときゃいいのさ。さっきみてえな命(タマ)の取り合いになりゃあ、
嫌でもメソメソしてなんかいられなくなるんだからよ」
「けど……」
防人は、ウィンストンに言われたのだ。

『だからよ……。アイツの事を、よろしく頼む……』

それでなくとも、ジュリアンは戦闘要員ではないエージェントだ。
彼を守るのは絶対の役目だと、防人は自身に誓っている。
だが火渡は防人を軽く睨むと、彼の心の内を読んだかのような言葉を放った。
「……お前がウィンストンのオッサンに何を言われたかは知らねえけどよ」
“オッサン”という言葉に、火渡なりの親しみがこもっている。
「そうやって兄貴ヅラしてアイツを追っかけ回して、気ィ遣って、甘やかして――」
火渡は壁から離れると、懐から煙草を一本取り出す。
しかし、その煙草は大戦士長執務室のシガレットケースに入っていたものだ。
大方、出発前に失敬してきたのだろう。
「――どっかにキン○マ落としてきたようなカマ野郎にしちまうのを、あのオッサンが
望んでるとは思えねえな」
「キ、キン……」
千歳は顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
388WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/01(木) 01:40:34 ID:+FkIk2W50
そんな事は気にも留めない火渡は、人差し指に灯る炎で煙草に火を点けると、煙を吐き出しながら
言葉を続ける。
「別にあのオッサンじゃなくてもいいや。例えば、照星サンがお前の立場だったとしたらっつーか、
照星サンはどうやって俺達を育てたかっつーか。つまりよォ……」
話の方向性が火渡にはまるで似合わないものになってきたが、防人は友の忠告に真剣に耳を傾ける。
珍しげに眼を丸くする千歳も、やや身を乗り出し気味に火渡の話を聞こうとする。
「だから、何つーか、問題はよ……」
千歳は更にグッと身を乗り出す。
「……やっぱ、やめた」
おかしな外し方をされた千歳はそのまま前方につんのめり、テーブルに額をぶつけてしまった。
「イタタタタ……」
「慣れねえ事考えると、頭が痛くなってきちまうからな」
火渡は、額を押さえてうずくまる千歳に「アホか」という視線を向けながら、話を終わらせてしまった。
「もぉ……! こっちの頭が痛いよ!」

自分の考えを言葉に出来なかったのか、それともあえて口にはしなかったのか。
それでも火渡が何を言わんとしているのか、防人は何と無しにだが気づいていた。
そして、自分が「よろしく頼む」というウィンストンの言葉に、思い違いをしていたという事にも。
火渡や防人の思考を代弁するのなら、こういう言葉になるのかもしれない。
『問題は“本人が何を望み、何を選択するか”。それと“何が本人を成長させるか”』



「僕にも、力があったら……。防人サンやサムナー戦士長みたいな力が……。ジョンみたいな、
力が、あったら……」
ジュリアンは自分達が乗ってきた車のタイヤにもたれて、地面に座り込んでいた。
そして、止めどなく涙が流れてくる。次から次へと。
嗚咽も、しゃくり上げるような情け無い声も、止まらない。
「どうして、僕は……こんな……」
ジュリアンの脳裏には様々な感情が激しく渦巻いていた。
389WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/01(木) 01:42:45 ID:+FkIk2W50
“恐怖”“苦痛”“哀しみ”“後悔”“無力感”“諦念”“絶望”
それらが源泉となり、彼の両眼から涸れる事無く涙を溢れさせる。
だが、そんな感情の中に混じって、新たな負の感情が生まれつつあった。
自分自身でもまるで気づかぬ程の小さな小さなものではあったが、確実に芽吹いていた。
それは“怒り”だ。
あまりにも無力な自分への。そして、そんな自分を見下げる人間達への。
「力が欲しい……。力が……。そうすれば……――」
「力が欲しいか?」
突然の声に驚いたジュリアンが顔を上げると、目の前にはサムナーが立っていた。
「サ、サムナー戦士長……」
慌てて立ち上がり、気をつけの姿勢を取る。だが、涙も鼻水もすぐに止まるものではない。
「敵と戦えるだけの力が欲しいのか? エージェントのお前が」
サムナーの残酷な質問に、ジュリアンは涙声で答える。
何故、こんな質問をするのか。だが、今ならばどの場面よりも正直に答えられる気がした。
ずっと胸の中に仕舞い、厳重に施錠し続けてきた“望み”を。
「はい……。もう、見ているだけも足手まといも、嫌なんです……」
また涙が流れ落ち、何度も声が詰まる。
「僕は、戦士になりたかったんです……。エージェントなんかじゃなく、ウィンストン大戦士長のような
戦士に……。ずっと……今も……」
ジュリアンの心の底からの告白を、サムナーは表情一つ変えず聞いていた。
そして、彼の涙が収まりかけるのを待って、言葉を掛けた。
「そうか……。そこまで“力”を渇望して止まないのなら――」
サムナーは懐を探り、何かを取り出す。
「――お前に“力”をくれてやろう。敵と戦える力を。敵を打ち倒す“武器”をな」
「え!? ほ、本当ですか!?」
あまりにも意外なサムナーの言葉に、ジュリアンは喜びよりも驚きの声を上げた。
「ああ……。コレだ」
手渡されたのは、10cm四方程の金属製の箱だった。
特に装飾が施されている訳でもない。何の変哲も無いただの箱だ。
「コレが……武器?」
390WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/01(木) 01:51:41 ID:+FkIk2W50
ジュリアンは不審げな顔で箱を振ったり、裏返したりしている。
「そうだ。お前の身体に、お前の肉体に合わせて作られた、お前だけにしか扱えない最高の“武器”だ。
渡す事は無いと思っていたが……。持ってきておいて正解だったようだな」
「この箱がそんなに凄い物なんですか……?」
どこからどう見てもただの箱だ。
しかし、箱というからには中身が入っているに違いない。
ジュリアンは中を確かめようと箱を開けかけたが、サムナーがそれを遮った。
「ああーっと……! 今、開けてはダメだ。真の死地に立った時、真の窮地に陥った時に開けるんだ。
そんな場面でこそ、この武器は真価を発揮するからな」
一体、どんな武器なのだろう。この大きさの箱という事は……。
もしかしたら核鉄だろうか? もし、そうなら自分も皆と一緒に戦える。
そうであって欲しい。いや、そうに違いない。
明る過ぎると言っていい空想を展開させるジュリアンの両肩を、サムナーの両手がそっと包んだ。
「お前の、戦う力を求める熱意と、『守られるだけではいたくない』という意志に心を打たれたのだよ。
言わばこれは、私からの贈り物(ギフト)だ」
ジュリアンはこれ以上無いくらいに眼を輝かせた。
ずっと自分を疎ましがっていると思っていたサムナーの優しい言葉に。
そして言葉だけではなく、自分の“望み”を、“願い”を形にしてくれた事に。
サムナーの人格への評価は一変し、彼への悪感情は氷解してしまった。
「僕……。僕、サムナー戦士長の事を誤解してました! 本当にありがとうございます!」
「なあに、気にするな。お前は可愛い部下だからな。それと……この事はあの三人には言うんじゃないぞ?」
サムナーはジュリアンの耳元に顔を寄せ、低い声を更に低くさせて言った。
「私と、お前だけの、“秘密”だ……」
「ハ、ハイッ!」

喜色満面で掌の中の箱を愛でるジュリアンは、気づいていなかった。
自分を見下ろすサムナーの眼つきに、表情に。
戦団のラボでよく眼にするであろう、研究者が実験動物(ラット)に向けるそれと同じである事に。
気の毒な話だ。
ジュリアンが“真に何を望んでいたのか”を一番理解していたのが、この男だったのだから。
391WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/01(木) 02:11:56 ID:+FkIk2W50
――アーマー州 アイルランド共和国との国境付近

国境監視所からやや離れた場所に、二人の神父が立っていた。
だが、ただの神父ではない。彼らはヴァチカン特務局第13課の武装神父である。
武装神父と言っても今回の任務は戦闘ではなく、アンデルセン神父のサポート役ではあったが。
そのうちの一人が引っ切り無しに携帯電話をリダイアルして耳に当てていたが、帰ってくるのは
通話不能の自動音声のみだった。
「ダメだ、やはり繋がらない。アンデルセン神父に何かあったのか……?」
携帯電話を片手に多少焦り気味の神父とは対照的に、もう一人の神父は幾分余裕のある表情を浮かべている。
彼は同僚を落ち着かせる為に、“誰の事を心配しているか”再確認させてみた。
「しかし、な……。考えてもみろ。アンデルセン神父が“窮地に立たされている”だとか、
“命の危機に晒されている”なんて姿が想像出来るか?」
言われた方は口元に手を当て、虚空に眼を遣り考えてみる。
だが、彼の鬼のような形相と「どっちが化物だ?」と思いたくなる戦いっぷりしか頭に浮かんでこない。
「……いや、まったく想像出来んな」
「だろう? ここは焦らず、他の武装神父隊やヨハネの連中と密に連絡を取り合った方がいい。
もしかしたら、そのうちアンデルセン神父の方から『標的はすべて殺した』と連絡が入るかもしれんしな」
「フム……。それもそうだ」
アンデルセンの人間離れした強さを知っているだけに、どうしても楽観的になってしまう。
それはこの二人に限らず、第13課に属する人間なら誰でもそうだろう。
アンデルセンの上司である次期第13課局長エンリコ・マクスウェル司教ですら例外ではない。

ふと足音が聞こえる。よく耳を澄まさなければ聞き逃してしまう程の小さな足音が。
話がまとまり、ではここから離れようかという二人の神父に近づく人物がいたのだ。
その人物が二人に問い掛けた。足音と同じように小さく、それでいて意志の強さを感じる声で。
「アンデルセン神父はどこです」
二人に問い掛けたのは、ショートヘアに眼鏡をかけた若く美しい女性だった。
青い髪、青い眼、青を基調にしたカソック(※ワンピース状の聖職衣)。
眼鏡の奥に光るその眼は、冷たい表情の源となっているようだ。
392WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/01(木) 02:13:12 ID:+FkIk2W50
「シ、シエル……!」
「何故貴様がここにいる! いつ日本から……――」
洗礼名、シエル。
目の前の神父達やアンデルセンと同じ、ヴァチカン特務局第13課“イスカリオテ”の所属であり、
“弓”の異名を持つ実力者である。
現在は、別名“アカシャの蛇”と呼ばれる吸血鬼ロアを追って日本に潜入している最中だった。
その彼女が何故この北アイルランドにいるのか。神父の問いはもっともな事だった。
だがシエルはそれを黙殺し、再び言葉少なに尋ねる。
「アンデルセン神父は?」
「クッ……。錬金の戦士共を追って、単独行動に移られた。今はどこにおられるかわからない。
携帯電話も繋がらん」
連絡の途絶という弱みのある二人組は、歯噛みしながら不承不承答える。
「まったく……仕様の無い人ですね。標的を殺す事しか頭に無い、猪武者なところは相変わらずですか……」
まさに“仕様が無い”と形容するのがピッタリの微笑を浮かべたシエルだったが、
二人の神父はそれを侮蔑の嘲笑と受け取った。
二人は、シエルの言葉が終わるか終わらないかの内に、素早く銃を抜いた。
「今の発言を取り消すんだな……。あの方への誹謗は我らが許さんぞ!!
……大体貴様、何の用があってここに来た!?」
第13課の武装神父の中ではリーダー格であるアンデルセンを慕う者は多い。
この二人も“彼への侮辱は我への侮辱”というクチなのだろう。
だが、自身に向けられた銃口を前に、シエルは平然と答える。
「私は、彼への次の任務を伝えに来ただけです。『シチリア島にて手配中の分類A吸血鬼を捕捉。
現任務が完了次第、討滅に向かえ』と」
「フン、それだけではあるまい。常日頃からあの方と反目し合っている貴様の事だ、何か魂胆があって
この北アイルランドに来たのだろう」
確かに“銃剣”アンデルセンと“弓”シエルは犬猿の仲、というのが第13課では定説になっている。
だが、それは正確ではない。
シエルの血塗られた“過去”、そしてそこから来る“能力”を知ったアンデルセンが一方的に
彼女を敵視しているだけだ。
シエルはシエルで、そんなアンデルセンと距離を置いているのである。
393WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/01(木) 02:15:00 ID:+FkIk2W50
「……」
シエルは軽く溜息を吐くと無言で二人に背を向け、元来た道を歩き出した。
彼女の心中は誰も察し得ない。
「待て! どこへ行く!」
「あなた方がアンデルセン神父の動向を把握していない以上、ここにいても仕方ありません。
私が自力で彼を探します」
振り返りもせず申し渡すシエルへ向かって、神父の一人が悪罵を投げつける。
「魔術師め……。貴様なんぞ異端共……いや、化物共と何ら変わらん」
夜の闇に包まれてゆきながら、シエルは独りごちる。

「百も承知です……」





長くなってしまってすみません。EP9前編終了です。次回は後編。
EP10から場面転換無しの最終局面突入……の予定ではいます。
あと、申し訳ありませんがレスへのお返事は次回にさせて頂きます。
394作者の都合により名無しです:2007/03/01(木) 13:00:37 ID:kI6zH5480
さいさんお疲れ様です
なんか仕事も忙しそうな中投下して頂きうれしいです
アンデルセンを中心に右往左往している周りの方々が不憫ですが
同格っぽい女が現れましたね。原作未読なんで分からないですがw

でも千歳って落ち着いたイメージがあるから
キンタマの一言くらいでうつむくかな?
395作者の都合により名無しです:2007/03/01(木) 19:54:13 ID:VqrDbri00
さい氏おつ。
火渡VSアンデルセン、千歳VSシェルという構図になっていくのかな?
どっちにしろ錬金サイドに荷が勝ちすぎる相手だな。
ジュリアンとかも絡んで、まだまだ一波乱二波乱ありそうな感じ。
396修羅と鬼女の刻:2007/03/01(木) 20:40:26 ID:wYmcW7EZ0
>>344
深夜。京の都・平安京に足利軍が到着した。師直の軍と尊氏・直義兄弟の軍との
二手に分かれて、怒涛のように進軍していく。
古来より、攻めるに易く守るに難いと言われているこの平安京だが、それにしても
この突入劇は見事過ぎる。まるで何者かが内側から手引きをしているかのような。
街は大混乱に陥り、人々が悲鳴を上げて逃げ惑う中、尊氏は配下の全員に厳命して
いた。市民には決して手出しせぬよう、目指す敵以外に被害をもたらさぬようにと。
そのおかげか、入り組んだ市街での大混戦にも関わらず火災すら出ていない。
「こんな場所では楠木得意の奇策も陥穽もやりようがありますまい。新田などは恐るる
に足りませぬし、もはやこの平安京が我らの手に落ちるのも時間の問題ですな、兄上」
かつての足利軍駐屯地に再び設けられた本陣。いまいち浮かない顔で立つ尊氏の隣で、
直義は誇らしげだ。
確かに直義の言う通り、足利軍は新政府軍を追い立ててどんどん都の奥深くへと進撃
している。後醍醐天皇のいる御所に到達するのも間もなく……
「がっ!」
「ぐおっ!?」
足利兄弟の元に悲鳴が届いた。陣を守る兵たちが、まるで突風に煽られたススキのように
みるみる内に切り崩され、何者かがこちらに向かってきているのだ。
反射的に尊氏は刀を抜いて身構えた。そして、
「直義っ!」
白刃一閃。直義の眉間を狙って矢のように飛んで来た石つぶてを、一刀両断叩き落した。
見れば、もう尊氏と直義以外、この場に立っている足利軍の者はいない。兵たちは残らず
打ちのめされ、蹴り倒され、あるいは直義がそうなりかけたように石つぶてを眉間に受けて
気を失っている。
その犯人は、兄弟の目の前に立っている少年。単身非武装、なのに無傷で、無人の野を
行くが如く足利の本陣に攻め込んできて総大将に肉薄した、人ならざる修羅。
「陸奥殿……」
397修羅と鬼女の刻:2007/03/01(木) 20:41:22 ID:wYmcW7EZ0
尊氏は刀を下ろした。大和も構えを解いた。
「久しぶりだね、足利さん」
「全く。……こんな形で再会したくはなかったですが」
「それはこっちの台詞だよっっ!」
辺りを包む何万という兵たちの怒号も吹っ飛ばす大声で、大和が叫んだ。
「何がどうなってこうなったのか、お兄さんに説明されたけどオレ馬鹿だから解らない!
けど、こんなことしてたら足利さん、ますます後醍醐帝やみんなから離れちゃうってこと
ぐらい解る! というかもう既に、新政府から完全に敵視されてるってことも解ってる!」
それこそこっちの台詞、嫌になるぐらい解ってますと尊氏は胸の奥で呟く。
「だから足利さん、兵をまとめて一度軍を退いて、落ち着いて話し合いを……」
「殿おおおおぉぉっ!」
大和が尊氏を説得しようとしたその時、騎馬の一隊が駆け込んできた。
「罠です! 我が軍も師直様の軍も、敵の伏兵に完全に包囲されほぼ壊滅!」
「何!? では師直の言っていた、新政府軍内の内応者というのが裏切ったのか?」
「はっ、おそらく! 既に師直様は西へ落ちられました! 間もなくここにも新田・楠木の
本軍が来ます! さあ殿、直義様、早く!」
騎馬兵たちはそれぞれの武器を構えて大和に殺到した。入れ違いに尊氏と直義が
走り去る。
「あ、待って足利さん! まだ話が……ええい、邪魔するなっ!」
「行かせぬ! 我らの命に代えても通さぬぞ!」
「殿は我らの希望、真の武士の世を築くことのできる唯一のお方なのだ!」
「だ、だから、足利さんがあんたらのことをいつも心配して苦労してるのは
オレだって知ってるってば! 一緒に苦情相談所やってたんだから! だけど今は、」
「黙れ、新政府の犬め! 殿の前に立ちふさがる者は全ての我らの怨敵だ!」
「たとえ我らが死すとも、我らの子のため、孫のため! 足利の天下を築かねばならん!」
「っっ……あぁ〜もうっ! オレは今、何のために誰を相手に戦えばいいんだよっっ!?」
尊氏への希望と忠誠を燃やして決死の覚悟の兵たちを前に、大和は戦いあぐねてしまって。
結局、足利の軍勢は壊滅したものの尊氏・直義・師直は何とか西へと落ち延びた。
398修羅と鬼女の刻:2007/03/01(木) 20:42:32 ID:wYmcW7EZ0
夜明けの平安京。逃げ去る尊氏たちの背に届けとばかりに、高笑いしている男がいた。
「わっはっはっはっはっ! 無様だぞ無力だぞ足利!」
一度は敗走したものの、この平安京戦では大勝利の立役者となった武将、新田義貞だ。
これも、高師直に内通して足利軍を罠の奥深くへと誘い込んでくれた間諜のおかげ。
「おめでとうございます、新田様」
義貞の傍らで恭しく頭を下げる間諜の少女。……もはや言うまでもなく、勇だ。
「護良親王に助力して幕府を倒し、新政府の土台を築いた上で、その護良親王を利用して
足利を反政府軍に仕立て上げ、こうして罠に嵌めて壊滅に追いやる、と。見事だったぞ!」
「恐れ入ります」
「お前のことは、稲村ガ崎での一件以来只者ではないと思っていたが……やはり、我が
新田家に栄光をもたらす勝利の女神であったようだな」
「いえ、わたしなど。それより、もはや足利は放っておけば消滅する運命です。新田様は
遠からず新政府の軍事を一手に握るお方となりましょうから、今の内にいろいろと
ご準備なされた方が」
「うむうむ、確かにその通りだ。よぉし、これから忙しくなるぞぉ!」
楠木正成がどんなに手柄を立てようとも、出自は下級も下級の田舎武士だ。何があろう
とも、源氏の流れを汲む新田家の上に立つことはない。もちろん、足利は敵軍で敗軍だ。
となると、他に競争相手はいない。もはや新政府内での新田家の地位は約束されたも
同然。尊氏たちの野垂れ死にも約束されたも同然。
そんなこんなで笑いが止まらない新田義貞。その姿を遠くから見つめている、正成と大和。
「陸奥。足利殿はどうだった」
「……全然変わってないよ、あの人は。だからあんなに、みんなに信頼されてるんだ」
「だろうな」
沈痛な面持ちで正成が答える。今回の戦は間違いなく新政府軍の大勝利であり、足利軍
はボロボロになって逃げていった。だというのに、新政府軍から抜け出して尊氏たちに
着いていく者が多数出ているのだ。これからも更に増えそうな勢いで。
それでも義貞の命令で追撃がかからない。かけられない。それは身分の低い正成では
どうにもできないこと。いや、できたとしても今の足利軍を追撃・全滅させるというのは……
「お兄さん、足利さんたちはどうなるの? オレたちはこれからどうすれば?」
399ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/03/01(木) 20:44:08 ID:wYmcW7EZ0
大和と勇は、私にとって三国志演義の周倉みたいなものかもしれませんね。歴史人物の
ファンが、自らの分身として萌えキャラ(って実在の人物ですが)の脇に配したオリキャラ。
……他の時代にも手を出そうかな。天保編をやれば、時代劇で超有名な彼と並んで……

>>銀杏丸さん
能力的には神の領域でも、心はしっかり人間。貴鬼・アドニスはもとより、ジュリアンにも
そういうところを感じましたね。それこそが弱さにもなり強さにもなる、という展開は王道
ですが、そうなると「人間よりも細微かつ機微な心」との対比とかも今後描かれるかも?

>>サマサさん
実績は充分に英雄だけど、心はいつも小市民。って意味的には↑と似てるかも。しかし
こうなると、残りのメンバーをドラ以外の誰かが後から連れて行くのかな。ここでのスタート
遅れが、後々ドでかいピンチを招くかもしれないのに。相変わらずの小市民ですな、彼は。

>>NBさん
本作のバトルは、やられる時は徹底的にやられますよね。やられる側の痛々しさが、やる側
の強さを示してて。それは敵側でも主人公側でも同様で。にしても、ちょっとイヴが立ち直り
かけたかと思えば瞬く間にそれどころじゃない状況……息もつかせぬ、とはこのことです。

>>さいさん
敵からも味方からも、肉体的強さ・精神的残虐性に加えて神出鬼没さまで恐れられてます
ねぇアンデルセン。このバケモノをどうやって倒すかが本作のメインだと勝手に認定。あと
ジュリアン、ちょっと主人公っぽい雰囲気を漂わせたかと思えば一気に死亡フラグ。危険!
400ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/03/01(木) 20:45:20 ID:wYmcW7EZ0
>>350
九鬼様の解説、感謝です。「らいむ」は作品そのものはそれほど好きってわけではないんです
が、「凛花」は私の知る限り全てのアニメ・ゲーム・特撮などの主題歌の中で、五本の指に
入るほど好きです。曲や映像もカッコいいんですが、歌詞に歴史好きの心をくすぐるものが。

>>ゴートさん
「修羅と鬼女の刻」長編への移行、ありがとうございましたっ! ウルトラマンやパタリロに
続いて太平記……いやははは。そんな私を許容してくれる当スレの偉大さを再認識です。

>>さて
ちょっと勢いが戻ってきましたね。読んだり感想を書いたりするのも楽しいんですが、「そんな
作品群と自作が並んでること」も大きい。大和や勇が、貴鬼やドラやスヴェンやアンデルセン
と一緒に同じ舞台に立っていること。光栄だから緊張するし、それが嬉しいから楽しいです。
401作者の都合により名無しです:2007/03/01(木) 23:05:26 ID:KU4AvNKw0
さいさん、ふら〜りさんおつです。

>さいさん
新キャラの加入でますます混沌としてきましたね、戦線。
でも今までは神父といい火渡といい、アッパー系キャラが中心でしたから
冷静な女性、が変わって中心となるのも面白いかも。

>ふら〜りさん
政局も政変も大和には関係なく、ただ己の友と己の戦いに生きている感じですね。
でもいずれ来る別れに対して、この無垢な大和がどう変わるかが楽しみです。
402作者の都合により名無しです:2007/03/02(金) 00:51:26 ID:Xd8KwQbY0
また盛ってきたな

ふらーりさんやNBさんなど初期から盛り上げてくれた人が
健在だとほっとする
お2人とも最近筆が乗ってるっぽいし。
NBさんは相変わらず遅筆だけどw
403作者の都合により名無しです:2007/03/02(金) 22:11:23 ID:jpWGjMO2O
練金、ヘルシングに次いで月姫までもってきたか>さいさん
この二つと型月が世界観的に同一なのは面白いですね
404作者の都合により名無しです:2007/03/02(金) 22:17:05 ID:akkn9jed0
スターダストさんにしろさいさんいしろNBさんにしろ
職人連中が意外と物知りで驚いている

ふら〜りさんなんて絶対漫画やアニメしか詳しくないと思ってたのに
裏切られた気分だ
405作者の都合により名無しです:2007/03/03(土) 08:40:06 ID:b5a9EdaB0
NBさん、今、特にスピーディーでスリリングな展開だから
出来れば一気呵成にこの決戦を間をおかず書いて欲しいな
お忙しそうで心苦しいけど
406作者の都合により名無しです:2007/03/03(土) 12:07:53 ID:cGCYb3wV0
いや、NB氏文章にこだわりを持っておられるようだから
質を下げてまで毎週投稿とかは、彼の主義では無いんでないかな

月2位はお願いしたいけどね。でもお仕事も忙しいだろうし
407作者の都合により名無しです:2007/03/03(土) 22:15:01 ID:HQlO3zcT0
けしてー
りらいとしてー
408戦闘神話:2007/03/03(土) 22:17:42 ID:HQlO3zcT0
part.11
エドワード・エルリックが来日したのは、四月も半ばを過ぎ、
五月に程近い頃だった。
彼は預かり知らぬことだが、
カズキがホムンクルス・パピヨンとの壮絶な死闘を演じた翌日である。
ギリシアからの移動中、ジュリアン・ソロの緊急通告により探し物の一つが減った為、
尋ね人への接触が主任務となったのだ。

エドワードとしては焦る気持ちは大きい。
この世界に来て二年目の春だ。
田舎育ちの彼としては、春は晴れやか且つ忙しい季節だという認識がある。
国家錬金術師となって以来、旅先で春の訪れを実感することが多いが、
それでも生まれ育った東部の田舎の風景を仰ぎ見ることは多かった。
同時に、詮無きことだが焦慮の感が強くなる季節でもある。
自分のことはどうでも良い、一時も速く弟を元の身体に、そして自分の体を元に戻す。
そのためだけに軍の狗と蔑まれる覚悟を決めたのだから。

「まったく、先に言えっつうの…」

現在、エドワードは隻腕ではない。
サイボーグ兵士計画というものがかつて存在した。その計画の成果の一つがこの義肢だ。
軍産複合体にも一枚噛んでいるソロ家だからこそ用意できたのだが、特筆すべきは、この軽さだ。
「元の世界」で使っていた鋼鉄の義手は剛性には長けていたが、
精緻な動きを求めるにはいささか荷が克ちすぎた。
なにより、比重がどうしても義手側の右によってしまうのだ。
幸か不幸か、左足も義足であったため、一応まっすぐとした姿勢を保つことはできたが。
だが、いかに高性能であっても、これは武器だ。
人を殺すための道具だ。人を生かすための道具ではない。
409戦闘神話:2007/03/03(土) 22:20:00 ID:HQlO3zcT0
接合部が妙に冷えるのは、おそらく心の部分がそう思っているからだろう。
エドワード・エルリックはさらにうんざりとして、漸く現実に目を向けた。
警戒色のビニルテープで閉ざされた蝶野邸の門扉、
警備する警官、
銀成市警のパトカーと科捜研のバン、
聞き込みにまわる刑事、
未だにざわつきを濃くする巷間、
蛭のようにまとわりつくマスコミの群れ、
コンビニに立ち寄り、新聞を開けばそこには扇情的な見出しと共にこう書かれている。
『銀成市で謎の大量失踪事件?』『暴力団も関与か?旧家の謎!銃声と共に消えた住人!』と。
つまりは…。

「いきなり手がかりが途絶えた…」

絶望的な声色で、エドワードは呟いた。
蝶野翁と接触して欲しい、といわれたモノの、
調べてみると当の蝶野翁は大正前に亡くなっているし。
その研究足跡を知るだろう彼の遺族は、事件性の高い集団失踪と来た。
ジュリアン・ソロは目的の品のほうをさっさと手に入れてしまっていて、
踏んだり蹴ったり、泣きっ面に蜂と言ったところだ。
ここでジュリアン・ソロから見放されたら、元の世界へ返る折角の手がかりが消えてしまう。
だが、諦めたら「鋼の錬金術師」の名が廃ると言うものだろう。
今ここに彼の弟が居たなら、エドワードをこう評しただろう。またなんか悪事を思いついた、と。

410戦闘神話:2007/03/03(土) 22:26:04 ID:HQlO3zcT0


その日の晩、人気の絶えた蝶野邸に魔法のように人が現れた。
闘争本能を武器に変える特殊合金・核金、それを与えられた錬金の戦士であると同時に、
錬金戦団亜細亜支部の誇る潜入・調査のエキスパート、楯山千歳だ。
錬金戦団団員、とくに嚆矢たる錬金の戦士は慢性的な人員不足に苦しんでいる。
いくら成り手が多くとも、錬金の戦士の証である核金は、
各支部ごとに割り当て数が決まっているのも一因だ。
亜細亜支部は最後に裏切りの戦士が消息を絶った場所であるが故に、
他支部に比べて核金に数的余裕があり、
更に安定した実力から諸外国の錬金戦団からも信の厚い
戦士長・キャプテンブラボーや、
この時点では九州のホムンクルス・コミューンを殲滅中の
奇兵とでもいうべき戦士長・火渡の存在の為、
攻撃力という点では一歩先んずるものがあるが、それでも人員不足は否めない。
戦闘とは攻撃だけしていればいいという物でもない、
故に、一人の戦士が複数の任務を並行してこなさなければならないケースは多々発生する。
彼女、楯山千歳もその一例だ。
彼女の本来の任務は、大戦士長坂口照星直属の各支部、駐留所との連絡員であり、戦闘分析である。
同時に百年前、裏切りの戦士討伐の際不明になった核金捜索の任務と、
そして、こうした突発的な事件の調査といった複数任務対応要員も兼ねているのだ。
彼女の武装錬金がそういった事例にたいして非常に有効であったことも、
彼女の多忙さの一因でもあるのだが。
因みに、現在待機状態にある津村斗貴子嬢は、
核金捜索とホムンクルス抹殺任務の二つを請け負っていた。
十代中盤の彼女ですら、複数任務が割り当てられている事を鑑みれば、
自ずと人員不足の程が分かるものだろう。
411戦闘神話:2007/03/03(土) 22:28:00 ID:HQlO3zcT0
日中、警官や捜査員でごった返していた蝶野邸は、まさしく幽霊屋敷のように静まり返っていた。
戦士長・防人衛こと、キャプテンブラボーが先んじてホムンクルス精製器を回収していたものの、
ホムンクルスパピヨン・蝶野攻爵の研究の全てが回収できたわけではないのだ。
今回、彼女に与えられた任務はホムンクルスパピヨンの研究の回収と、
彼の知識の源泉の調査である。
何も無いところからホムンクルス精製を成すことが出来るとしたら、それこそ奇跡だ。
亜細亜支部の最高統括者であり、
先任の犬飼翁がかつて率いていた「犬飼部隊」の筆頭戦士でもあった坂口照星は、
彼の知識の源泉が存在することを確信しており、楯山千歳にその捜索を命じたのだ。
学生寮の蝶野攻爵の部屋は先日の戦闘で消し飛んでしまっている為、
一応の確認といった趣きが大きかったが…。

時を同じくして、エドワードエルリックもまた、蝶野邸へと侵入していた。

千歳は攻爵の元私室、現在は彼の弟である次郎の部屋から捜索を開始した。
もはや何も残ってはいないだろうが、一応念のため、である。
黒い感情で埋め尽くされた次郎の日記を見つけた時には、彼女は暗澹とした気分になった。
コンプレックスの無い人間はいない、だが、
これほどまでに露な人間もそうある者ではなかっただろう。
後半、つい四日前の記述では兄に代わって家督を継ぐことが内定し、
それを喜ぶ内容が書かれていたことが、千歳をさらに暗澹たる気分へといざなった。
確かに彼は過剰なまでのコンプレックスに侵されていただろう、
だが、それが死な無ければいけないほどとは千歳には思えなかった。
千歳に家族はいない。
412戦闘神話:2007/03/03(土) 22:32:37 ID:HQlO3zcT0
強いていえば、旧照星部隊の面々、防人と火渡が兄弟、隊長であった照星が父、のようなものだろう。
だからこそ、彼女の中で家族というのは理想化される傾向にあった。
赤銅島事件以降、彼女は怜悧な仮面を被り続けているが、
それでも、深層には少女のような無垢を隠している。
世は理不尽と虚しく哀しく嘲笑う火渡や、
防人衛の名を捨てて飄々と振舞うブラボーも、その深層に無垢を抱えているのだろう。
無垢とは、屈託なさとは、時としてこの上なく惨酷だ。
己の内もつからこそ目を背けたくなる。否定したくなる。
日記には、蝶野次郎という少年の悲しい純粋さがあった。
父親に認めてもらいたくても、
彼ら蝶野家が創設に携わっていた歴史ある銀成学園に通うことすら出来なかった彼は、
仕方なく進学した公立高校で、まさしく血の滲むような努力をして生徒会長の地位を手にし、
この国の最高学府への進学を目ざして日々精進していた事が赤裸々に綴られていた。
それでも、尚、蝶野次郎の中の兄攻爵は強大だった。
兄ならこんなミスはしなかったはずだ、兄ならこの程度らくらくとこなしていた筈だ。
そんな記述はすべて筆圧が係り過ぎたのか、乱れた筆跡だった。
なんと歪な愛情だったのだろう。
次郎自身が死んだ今となっても彼を縛り続けているのだから。
いかに否定しようとしても、肉親という名の縛鎖は軋みをあげて締め上げる。
蝶野刺爵や蝶野次郎が全身全霊をもって否定せしめんとした蝶野攻爵の存在は、
それ故強く彼らを締め上げる。

そんな蝶野次郎の残滓は、千歳の怜悧の仮面を貫くだけの力があったのだ。
その一瞬が敵を彼女の内懐へと呼び込んでいた。
彼女らしからぬミスだ。
413戦闘神話:2007/03/03(土) 22:38:39 ID:HQlO3zcT0
床板の軋む音と。
「武装錬金」という千歳の発声は全く同時だった。

潜入および情報捜索を主任務とする千歳は、
敵の情報を可能な限り読み取り、
そこから敵の戦闘スタイルを推測し、対応する。
ブラボーほど徒手格闘に特化しているわけでも、火渡ほど強大な武装錬金をもたない彼女が、
あの照星直属の部下として過ごせてきた理由が此処にある。
所謂、先読みと言われる技術だが、彼女のそれは最早超能力の領域である。
相手が何を仕掛けるか、どういった技か、
どういった種類のホムンクルスか、
どういった攻撃を得意とするか、
それを一瞬で読み取る洞察力、直観力、想像力といった面こそ、彼女の真骨頂なのである。

がきん、と金属同士が噛みあう音。
楯山千歳の投擲した己の武装錬金・ヘルメスドライブが、敵の右腕に叩き込まれた音である。
まるでブーメランのように楕円軌道を描いて彼女の手元に戻ったのと、
金属音が蝶野次郎の部屋に響いたのはまったく同時であり、
その瞬間、千歳は三角跳びの要領で天井を蹴り。敵にむかって飛び蹴りを加えていた。
蹴りを交わした人物の金髪が数本宙にまうが、それに構う間は両者ともない。
414戦闘神話:2007/03/03(土) 22:43:41 ID:HQlO3zcT0
千歳、相手を視認。
性別→男
   →頭髪は金
    →目の色・不明
身長→160cm前後
   →服装は黒系
    →隠し武器の類は見られず
得物→徒手
    →攻撃は格闘系統と判断
     →右腕に金属音
      →ガントレットの類の武装錬金か?
一瞬の攻防で千歳が判断したのは、以上である。
故に。

「…ッ!」

迷うことなく近接格闘へと移行。
ある程度の重量を持った武装は、うち懐に入り込まれると非常に弱い。それを踏まえてである。
千歳、遭遇直後で微妙に崩れた敵の態勢を見逃さず、敵の顎にむけて右手掌打。
敵、首を捻ってかわす。が、千歳敵の頭髪を掴みとる。
敵、そこで対応開始。拳で千歳の右ひじを破壊せんとするも、
髪の毛を掴まれた態勢の為、力入らず。
千歳、そのまま手前へ敵を引きずり落とし、敵の脳幹部に左肘鉄。
敵、バランスを崩すがタックルへと以降。
千歳、かわしきれずに倒される。
415戦闘神話:2007/03/03(土) 22:48:38 ID:HQlO3zcT0

「殺ったッ!」

「殺ったッ!」

マウントポジション。
エドワード・エルリックは激痛に顔をしかめながらも、
敵を組み敷くことに成功していた。
だが、そこで大きな問題に直面していた。

「おん、な?」

エドワード・エルリック18歳、童貞である。

千歳はその声で敵の性格を掴んだ。
少年なのだ。
故に、緊張が解かれるのも感じ取っていた。
瞬間、エドワードは鳩尾に衝撃を受け、反吐を撒き散らしながら宙を舞った。

千歳がその脚をあげ、満身の力をこめて畳に叩きつける。
その反動を利用して、エドワードの矮躯に彼女の武装錬金・
ヘルメスドライブを突き刺していたのだ。
臓器そのものを打ち抜く技であり、嘗て濃尾最強を誇った流派にも存在したこの技は、
金的よりも効果的にマウントポジションから脱出する手段でもある。
瞬間移動装置にして盾でもあるヘルメスドライブの硬度は、実は非常に高い。
堅牢なホムンクルスの表皮を突き破ることも可能であり、
章印を打てばホムンクルスを倒すことも可能である。
そんなものを人体に叩きつけられれば無事ではすまない。
だが千歳は、少年だろうが老人だろうが、
一切の容赦もなくヘルメスドライブを打ち込むことが出来る。
それが、彼女の覚悟の表れであり、覚悟の形でもあるのだ。
416戦闘神話:2007/03/03(土) 22:50:41 ID:HQlO3zcT0

千歳は、エドワードが態勢を整える前に勝負を、決めたかったが、予想外の事態に見舞われる。

「…ッ!」

エドワードが懐から取り出したものが千歳の眼前で炸裂する。
手榴弾?
 →炸裂弾
  →…

千歳の思考がそこまで展開した瞬間、それは強烈な音と光を放った。
スタン・グレネードという、暴徒鎮圧用に生み出された非殺傷兵器である。
強烈な音と閃光によって相手の戦闘力を封じるこの近代兵器によって生み出された、間。
それはエドワードが逃亡するのに十分なものだった。
不利とみるや即時撤退。
この敵は手ごわい。そう思うと、千歳はヘルメスドライブを展開してその場を去った。
要らぬ詮索を受けないようにするためだった。
間をおかずに千歳モヘルメスドライブを起動させる。
あの音に気がつかぬようでは、警官とはいえないのだから。

千歳が蝶野次郎の日記を失った事を知ったのは、
ヘルメスドライブのワープが完了した直後である。
そして、ゆがんだ少年の心情が、エドワードの心をえぐるのだった。
417戦闘神話:2007/03/03(土) 22:52:50 ID:HQlO3zcT0
失礼しました、>>415は「殺った!」が一つ多く
>>416第一行の「〜態勢を整える前に勝負を、決めたかったが〜」の
勝負を、の句読点は要りません
収蔵の際に変更お願いします
418戦闘神話:2007/03/03(土) 22:55:36 ID:HQlO3zcT0
繰り返し申し訳ありません

>間をおかずに千歳モヘルメスドライブを起動させる。

この一文不要です、重ね重ね失礼しました
419銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2007/03/03(土) 22:58:29 ID:HQlO3zcT0


冥王神話についにバルゴの聖闘士登場!
いきなり「拝め!」とかいわなくて一安心
でもエイトセンシズ覚醒済?ますます目が離せない!
というわけでpart.11でした
ようやくエドの戦闘シーン。というよりは千歳の戦闘シーン。
もうちょっと推敲しようよ俺…

>>362さん
人気者なんですよ、星矢はw
>驟雨
ごめんなさい、気に入ったのでつい使ってしまいました
もうちょっとわかり易いようにすべきでしたね

>>363
>クドい
バランスが難しいです
気を抜けばクドクドクドクドやっちゃう性質なんでw
アドニス貴鬼のコンビの馬鹿っぷりでバランスとりたいなぁ…

>>368
>詩的
不肖銀杏丸に過分なお言葉…
ありがとうございます
韻(いん)を踏むように、とか
同じ母音でおわるように、とか
けっこう気を使っていたりします、実はw
420銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2007/03/03(土) 23:00:37 ID:HQlO3zcT0

>>サマサさん
星矢、というか黄金時代の車田スタイルの熱がすごいすきなんですよ
今はもう、見る影もないんですが…
リザドの人は僕も大好きです
オリキャラで彼の元弟子も出てたりしますよ、戦闘神話だとw

>>さいさん
そっちのジュリアンも大変、というか、
エイリアンに卵産み付けられたリプリー状態ですね
えらいこっちゃ、果たしてパンドラの箱の中には何が詰まっているんでしょうか?
希望だけは絶対に詰まっていなさそうなおっソロしい状況です
シエル登場でさらに混迷に向かって突撃するんでしょうか?
パイルバンカーの登場を期待してます

>>ふら〜りさん
人と人外を何で分けるかっていったら、やっぱり心なんじゃないかと
最初は暴走するも、斗貴子さんのおかげで理性と取り戻し
最後の最後まで「人間」であり続けたカズキ
小宇宙と共に走りぬけながらも、本質を見失わなかった星矢
そして人間の分類が広すぎるエドワード
そんな彼らの弱さと強さを書けていけたらいいな、と思っています

では、またお会いしましょう
421作者の都合により名無しです:2007/03/03(土) 23:04:33 ID:KtjKX4Uf0
しっかし千歳って人気あるなあ
銀杏丸氏のSSでも大活躍してる
やっぱり大人のいい女ってのがポイントなのかね
422作者の都合により名無しです:2007/03/04(日) 00:51:58 ID:s3yxAj4V0
銀杏丸さんお疲れ様です
このスレでの千歳率、というか錬金人気は高いですが
戦闘神話でもいよいよ錬金部隊が前線に出張って着ましたね。

それにしてもおそらく主役の一人のはずのエドが影薄い・・
423作者の都合により名無しです:2007/03/04(日) 14:02:46 ID:TnCNotyL0
エド18歳設定か!忘れていた・・
最近出てなかったしw

銀杏丸さんも最近ノリノリだな
これでサナダさんやハイデッカが復帰すればスレも完全復活だがな
424永遠の扉:2007/03/04(日) 23:53:51 ID:oZX/jSgO0
河原近く。土手の頂。道路。
すえた暑気を十数mばかり挟んで相対する3つの影がそこにある。
斗貴子・剛太。栴檀香美。
『もう1つの調整体』起動に不可欠な割符をめぐる攻防は、これより佳境に差し掛かるだろう。
「行くぞ剛太!」
ハスキーな声をあらん限り振り絞ったのは斗貴子!
闇をつんざき住宅街に轟く声の中。
亡者を打ちのめす閻魔よりも傲然とッ!
獲物に向かう断食8日目の狂犬よりも早くッ!
「おおおおおおおおおおおおッ!!」
両手を腰の辺りで後ろに垂らし、斗貴子は再特攻を試みる。
周囲で銀の光を撒き散らす処刑鎌をすらりと避けて、緑の影も前へ行く。
風と振動に揺すられる鋭角的なショートボブを流し目でニヘラと盗み見たのは中村剛太。
「了解ッ!」
スケーターのようにシャッシャッなめらかに足で地を掃き、蛇行しながら向かっていく。
両者とも火中より爆ぜた栗より早く、そして苛烈。
「あいつらが何かんがえててもいいけどさー あたしはブレミュん中でいっっっちばん弱いの
に、なんで2人も相手しなきゃなんないの? 2人ってめちゃくちゃ多い数じゃん」
パイプをつなげ合わせた幾何学的なしっぽが、地面をばしばし叩く。
不機嫌なネコの良くとる仕草である。
「鳩尾もそうとう弱いけど、武装錬金のおかげでかなり強いんだし、あいつが戦えばいいじゃ
ん。あーやんなっちゃう」
香美は眉間へ皺寄せ眉を吊り上げ、「もー帰っていい?」と今にもいいだしそうなしかめっ面。
『愚痴るな香美! それでもお前のスペックなら遠距離近距離どっちでも問題ないッ!』
出所不明な大声に不機嫌がぴくりと蠢いた。
例えるならかつおぶしの匂いを嗅ぎつけて、期待にわくわくしているネコの顔。
『僕は以前からもこれからもずっとお前を信じている! だからファイトだ! ガッツ全開で……
いいいいけぇぇぇぇ!!!』
斗貴子に負けず劣らずの騒がしい声に、香美はややはにかんだ。
照れと元気を含んだ可憐な顔だ。
「うんニャ! ありがとご主人。あたし頑張ってみる! ってワケで……」
掌中央にある一番大きな肉球(掌球というらしい)がサイケな光と共に変形を遂げた。
425永遠の扉:2007/03/04(日) 23:55:18 ID:oZX/jSgO0
ぼかりと大きな空洞を開け、左手のそこから空気が吸い込まれていく……
「気をつけろ剛太! 奴は手から武器を射出するぞ!」
斗貴子はかつての経験則から迷いなく忠告を迸らせ、剛太も行動に活かす
「くらえっ!!」
香美の右手にも空洞が開くと、剛太目がけて真空の刃が射出された。
むろん彼も斗貴子も『真空の刃』などと確証をえていた訳ではない。
ただ無手の香美から瞬間的にそうと推理し、事実それは的中していた!
鈍色の処刑鎌の刃先を空気が薙ぎ、不気味なうねりと共に後方へ吸い込まれた。
「ふぇ? 垂れ目狙ったのになんであのおっかない奴に」
「避けたからに決まってんだろ」
剛太はしゃがみこんだ姿勢で左足を大きく伸ばすと、右足を軸に一回転!
踵を香美の脛にブチ当てようと試みる。
(狙うはコイツの足! 動きさえ封じてしまえば)
踵にモーターギアを着装し、機動力を強化するスカイウォーカーモード。
当然、その踵で回転する戦輪で敵の足を切り裂くコトも可能!
『当たらじ当たらじ!』
ハーフパンツからむき出しの白い脛が羽毛のように舞い上がり、その下を黒いズボンが通り過ぎる。
「なんとか避けれた」
ぶるんと左右別々に膨らみを揺らしながら、ほっと一息をついた香美だが。
「飛ぶと思っていたぞ」
頭上の気配に息を呑み、ネコ耳をはっとそばだてた。
星空へつま先を。
頭上を地面に。
それぞれ向けながら刺すような視線を送っているのは……
斗貴子。
通常の重力を無視したありえからぬ姿勢の彼女の周囲で毅然とした金属音が響いた。
バルキリースカート。
それまでブドウと同じくだらりと垂れていた処刑鎌に攻撃姿勢がみなぎり、香美に向き直る!
さながらジェットスラスターの機敏なる方向転換!
ただしそれの吹く白熱は、後方よりも前方へ! 推進よりも殺戮をただ願う!
銀に瞬き空裂くそれが、それこそが!
戦乙女の切札!!
426永遠の扉:2007/03/04(日) 23:57:18 ID:oZX/jSgO0
「臓物(ハラワタ)をブチ撒けろォォォォォ!!」
香美は中空ですさまじい汗をかいた。
(やば! 垂れ目の攻撃よけたばっかで自由きかない! とにかく着地、着地しないと──)
「モーターギア! ナックルダスターモード!」
下方より襲いくるうねりに、香美はとことん絶望的な気分になった。
見ればさっき避けた剛太が舞い戻り、手に何かをつけてアッパーを繰り出している。
それが打撃力強化verの戦輪用途とは知らないが、ともかく目前に死があるコトだけは香美
に分かった。
(やだ! あたし死にたくない! でもどーしよーも……)
勝気な様子は顔色とともに失って、香美はぎゅっと目をつぶった。目じりからは涙が少々。
『はーっはっはっは! この程度なら軽い! 軽すぎるぞぉぉぉ!!』
斗貴子は見た。
香美の手からヘビのようにうねる光が伸びるのを。
剛太は聞いた。
金属が群れなす独特の甲高い音を。
光は凄まじい力でバルキリスカートとがっきと絡み、そのまま斗貴子を吹き飛ばした。
「先ぱ──…」
音は踵を返したかのごとく遠方より剛太に向かい、手の甲で回転する戦輪をしたたかに打ち
据えた。間髪いれず、2個同時に。
金属越しとはいえ、剛太の手骨に鈍痛が走り、ついですさまじい虚脱感に見舞われた。
まるで神経伝達と活力を総て奪われてしまったような、行動不能の虚脱感。
しかし、剛太はこの瞬間……
まったく別の物を視界に捉えていた!
宙を舞う斗貴子である!
吹き飛ばされキリを揉み、セーラー服を風になびかせているのにスカートはまるでめくれて
いなかった!
(惜しい! もうちょい早かったら!)
剛太は歯噛みしながら右手を左へ掬いあげるようなポーズで指パッチンした。
手の痛みなど、見逃した素晴らしい光景に比べれば大したコトないらしい。
……なぁ。
お前、真剣に戦えよ。
(てか、今のは一体──…)
427永遠の扉:2007/03/04(日) 23:58:15 ID:oZX/jSgO0
そうだ。そっちに目を向けろ。いちいち筆者にこういうツッコミをやらすな。空気が壊れる。
(ただ打たれただけなのに、あの虚脱感はなんなんだ)
剛太はかつて海豚海岸で味わった、異様な経験を思い出した。
エネルギードレイン。
皆さまはヴィクターを覚えておいでだろうか。
日露戦争当時、蝶野爆爵と邂逅した異形の男。
彼は元々錬金の戦士だったが、賢者の石の試作品たる『黒い核鉄』を身に埋められ、怪物へ
と変貌を遂げたという経緯がある。
そして彼が身につけたのが、エネルギードレイン。
他者他生物の生命エネルギーだけを吸収する恐るべき能力──…いや。
本人曰く”能力”ではなく”生態”
呼吸と同じく自らの意思では止めようがない。断ちたいのならば殺すほかない。
ヴィクターならびに、ヴィクターIIIこと武藤カズキが

「存在(い)なるだけで死を撒き散らす怪物(モンスター)」

として再殺の憂き目にあったのは、その忌むべきエネルギードレインによる。
そして剛太も海豚海岸で、気絶中のカズキにエネルギードレインをされた経験がある。
一瞬で2〜3km走ったような疲労。
剛太評ではそれだけの虚脱があった。
(けど、今のは一瞬だけ。あの時のような疲労はねェ。……一体なんだったんだアレは?)
「ご、ご主人。ありがと」
『礼など無用! わずかばかり僕の武装錬金を使っただけだ!! しかし手ごわい連中だ!
これはいよいよ僕の出番かな!? さー注目!! 今から』
剛太、そして香美。
彼らはこの一瞬にして苛烈なる攻防への疲労と疑問に、気付いていなかった。
足元に亀裂が入っていたのを。
地中より何かが出現するのを。
離れていた斗貴子だけ、いちはやくその異変を察知した。
「剛太! その場を早く!」
金切り声をあげた瞬間!
アスファルトを吹き飛ばしながら、巨大な半円状の金具が勃興した!
428永遠の扉:2007/03/04(日) 23:59:35 ID:ycju8NOM0
よく見れば金具から地下に向けて太い支柱が伸びており、まだ全容を現していないのが見て
取れる。
そして支柱は金具ともども、バネ仕掛けのように跳ね上がり!
剛太と香美を乗せたまま、すさまじい放物線を夏の暑気に描いていた!
「な、なに?」
(ダメだ! 加速が強すぎて!)
胸板を押しつぶし、肺腑から呼気を搾り出すGに苦悶を浮かべつつ。
剛太は香美ともども空へ飛ばされていた。
その方角は──…
山。
当初の目的たる場所に向かって2つの影は猛然と弾かれ、やがて流星のように見えなくなった。

「へ、へへ。案ずるより産むがなんとか。どーにかバレずに分断できたぜ」
少し離れた橋の下で、緊張の青色吐息をつく男がいた。
衣装はドクロが描かれた赤シャツ。背は高いが痩せぎすり、血色も青紫とかなり悪い。
釣り上がった目の下にはピアスが打たれ、薄汚い銀髪と併せてみれば到底堅気には見えない。
ホムンクルス佐藤。
L・X・E残党の1人である。
「逆向の奴から戦士とブレミュの奴らの戦いに割り込んで、消耗させるよういわれているから
な。どうにかコレで任務完了。へ、へへへ。使い勝手悪いがよぉ、こういう使い方はありだろ?」
1人残された斗貴子の前から、謎の支柱と金具は消え、代わりに佐藤の掌に核鉄が現われた。
「投石器の武装錬金、フレクスビリティーオズ。コレが地中に潜行させれて良かったぜ……」
恐ろしそうにブルブル身を震わせながら、佐藤はそーっとそーっと斗貴子のいる方を見た。
「んで、俺は直接対決するつもりはない。恐ろしいからな。へ。へへ。代わりに」
斗貴子は川の向こう岸から無数の殺意が走ってくるのを感じた。
「敵ッ!」
さすが歴戦だけあって気が早い。
相手の正体を視認する前に土手から飛び降り、河原に着地するまで2〜3体手当たり次第
にブチ撒けていた。スカートを抑えながら。
「チッ。有無をいわさずかよ、相変わらずよぉ〜!」
「だがテメーは1人。こっちは50体ばかりいるんだ」
斗貴子の周りに黒い影がぞろぞろと歩み寄る。
429永遠の扉:2007/03/05(月) 00:00:34 ID:BS/mBCSH0
「逆向曰く、『野良』の連中。俺らに加わらなかった奴らだ。ま、半端なく胸が痛むけどよぉ…… 
俺らだって生きたいから捨て駒になってくれや。消耗させさえすりゃ、後は浜崎が料理する。
できればあの戦士を斃して欲しいが、ま、無理だろーな」
佐藤は何度か振り返ると、夜の闇に溶け込んだ。

「L・X・Eの残党か。早く剛太を追わなければならない時に……!」
服装も人相もまちまち、けれど「柄が悪い」という点で一致している周囲を見据えて、斗貴子は
不愉快そうに呟いた。
「そうだよ! てめーともう1人に潰されたL・X」
最前列で悪態をついた奴は、本当に不運だった。
言葉半ばで顔をナナメに斬り落とされたのだから。
「ホムンクルス風情が……思い上がりもはなはだしい」
唾棄するような調子で斗貴子は敵どもをねめつけた。
夏だというのに、凍えるような緊張が河原に満ちて、残党たちは一瞬気押された。
「頭数を揃えれば私に勝てるとでも?」
斗貴子は、フっと笑みを浮かべた。
普通、笑みというのは相手に親愛を伝えるものだと思われがちである。
だが。
笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣が牙をむく行為が原点である。
包囲する敵の中へ斗貴子が躊躇なく足を踏み入れると、その分だけ包囲網が薄まった。
気迫に圧された?
いや。そんな生ぬるい状態ではない。
斗貴子が足を踏み入れる周囲3mでは、銀の光がざんざんと降り注ぎ、音の数だけ。
頭が。
手が。
足が。
耳が鼻が指が脳漿が眼球が。
ホムンクルスのパーツが宙を舞う。
残党たちは冗談のような光景に息を呑むと、乾いた笑いを浮かべて後ずさった。
モーゼの十戒? いやあれは海を神通力で裂いただけ。ここまで残虐非情な実力行使じゃない。
「なぁ。やっぱり復讐とかやめにしねーか?」
430永遠の扉:2007/03/05(月) 00:01:28 ID:ycju8NOM0
「だ、だよなぁ。そういうのって」
やめた方がいい。いいかけたホムンクルスの胸にバルキリースカートが刺さった。
「逃がすと思うのか? 確かに剛太の行方も気になるが、こちらが先決だ」
あがあがと口を開閉する断末魔を楽しそうに見納めると、斗貴子は再び残党たちを見渡した。
「住宅街が近いからな。貴様たちを見逃せば、必ず被害が出る」
一座からはしないしないごめんなさい許してという声がちらほら上がったが、斗貴子は黙殺した。
「さあ来い! オマエたちを殺して残党を全滅させて、ネコ型ホムンクルスの女をブチ殺して、
この街を守り抜いてみせる! 敵は殺す!! ホムンクルスは全て殺す!」
もはやどちらが怪物か分からない。
心なしか、爆爵の玄孫のセリフ(2巻P189)も混じってる。
女性とは思えぬ兇気に浸る斗貴子に、残党たちはやけを起こして襲い掛かった。
「ど、どうせ無抵抗でも死ぬんだ! なら徹底的にやってやる!」
「そうだ! それでこそ化物! 臓物(ハラワタ)を……ブチ撒けろォォォ!!!」

千歳は、唖然としていた。
鳩尾無銘という敵の登場の瞬間。
彼女はすぐ目線を切り替えた。
そうだろう。
彼女の武装錬金は、相対した者を捕捉できる。
斗貴子と剛太をレーダーに映していたのだって、彼女らが香美に最接近した瞬間、敵を捕
捉し、割符探しが円滑に進むよう策を練るつもりだったからだ。
と同時に、そういう婉曲な手段を取らざるをえなかったのは、千歳の能力が既に敵に知られ
ており、ブレミュ一同がことごとく千歳の前に姿を現さなかったせいである。
だが無銘は現われた。
そして千歳は瞬間移動能力も持っている。
ならば。
戦う必要はない。
敵を捕捉したコト自体を最大の戦果として引けばいい。
そういう作戦遂行上の柔軟さを、千歳は7年前の大失態と引き換えに得ている。
もちろん、敵だって千歳の考えを読んでいるというのも織り込み済みだ。
敵の初手は瞬間移動の阻止。
そこまでは読んでおり、実際に無銘は猛然と踏み込み殴りかかってきた。
431永遠の扉:2007/03/05(月) 00:02:53 ID:ycju8NOM0
千歳は、初手に防御を選んだ。全身全霊をつぎ込んだ防御を。
ヘルメスドライブの筺体は非常に硬質であり、楯としても使用可能。
先ほど鉤縄を防いだように、拳を受け止め、相手がたじろぐ一瞬に瞬間移動を行う。
それだけで、千歳の追った役目は果たされる……筈だった。
が。
殴りかかった無銘はたじろぐ様子もなく、ただ自らの拳の形にへこんだ楯を物憂げに見つめ。
わずかばかりそうしてから、くるりと踵を返しこう呟いた。
「終わりだ」
……
千歳は、唖然としていた。
ヘルメスドライブが瞬間移動を選択していたからだ。
”千歳自身の操作によらずして”
”勝手に”
”意思を無視して”
ヘルメスドライブが瞬間移動を選択していたからだ。
行き先は、千歳にすら予測不可能。ヘタをすれば生命に関わる場所へ行くかも知れない。
彼女の姿はその場から掻き失せ、後はのしのしと歩を進めていく。
「第一の任は遂行。次は──…」
黒装束の巨体は愉悦すら浮かべず、のしのしと森をすぎていく。
432スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/03/05(月) 00:03:43 ID:BS/mBCSH0
えーこのたび、人物紹介などを作ってみました。
http://grandcrossdan.hp.infoseek.co.jp/long/tobira/character.htm
オリキャラにはそう注記してありますので、未読の方でも安心?
ちなみにラジオ最後のキャラクター紹介コーナーをちょっと意識しております。
あとは武装錬金ファイルとキャラクターファイルだ!(予定は未定)

>>339さん
ありがとうございます。女のコは自分の好みを反映させてるので描きやすいですw
男キャラも魅力だてたいと思うものの、どうもさじ加減が難しい。
巨乳と微乳では……どちらも好きです。ええ。ただ、どちらにしろ、ぷるぷる感だけは欲しい。


>>340さん
大好きですからw 漫画は数あれど、辛さも嬉しさもいっぱいもたらしてくれたのは武装錬金ぐらい。
で、これでまだ半分くらい……いやひょっとしたら4分の1? むーん。分からない。予定ではもっと
色々やってる頃だったのですが。何はともあれ、楽しんでいただけるものを描きたいです。

ふら〜りさん(根来はいずれ。いろいろ考えておりますよ)
縮小……あぁ確かにそうかもorz 彼はコンセプトがけっこう漠然としてるので、さじ加減が難しい。
ともかく手探りでなんとか破綻なきよう。最大最後の見せ場だけは考えてますから、そのためにも!
反面、小札はわーっと動かす方がいきいきしてるので良いです。なんだかんだでお似合いかも。
433スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/03/05(月) 00:05:40 ID:FuxmYlvR0
>修羅と鬼女の刻
勇のイメージは自分的にグーですグー! これで膝小僧丸出しなんですね。グーです! だんだんと正邪さだか
ならない状態になりつつありますね。純真な大和には耐え難く、尊氏正成も実に辛い。諸悪は勇では
ありますが、彼女だって自分が狙われるのは想像してるワケで。今後いかにえげつない策を使うのか。

銀杏丸さん(永倉がまったくわからないw なんでしょう。ドラマCD?)
>戦闘神話
敗北をいさぎよく認め己を高める糧とするジュリアン。反対に未練たらたらの貴鬼たち。
貫禄の差はこういうところに出ますね。で、おお。カズキとパピヨンが戦った直後なのですか!
 てコトは金城陣内太細桜花秋水佐藤浜崎、全員健在! そして戦闘神話にもついに千歳登場!
やはり千歳はどこか情感的ですよね。エドは取り乱しすぎw 確かに女性の敵は少なかったですけど。

秋水のいじられっぷりはもう。大好き。アニメスタッフのみなさん大好き。
逆銅かましてサムライX折れるところは大爆笑。テンポ良すぎw
そんなアニメももうすぐ終わり、秋水の今後になにか追加がないかと期待中。

>>349さん
お越しいただき、ありがとうございます。でもやっぱあまりに長いと永遠の扉に支障が出るので
控えたいかもw でも描きたい。色々描きたい。司馬遼太郎についても語りたい。
そして「父性」というファクターは彼らにとってけっこう重要だったり。こっちはいずれHPにて番外編を。

さいさん
いや〜な存在感を持ってますね神父w いたらいたで恐い。けれどいなかったらいなかったで
今度はどこから出てくるか分からず恐い。完全にエイリアンとかプレデターのポジション。
にしてもまさかサムナーがジャバウォックだったとは(違) 中身はなんでしょう。良くないもの確定ですが。
434作者の都合により名無しです:2007/03/05(月) 00:54:50 ID:HtSQxSb10
小札って「こざね」って読むんだw
ずっと「こふだ」で読んでたw

スターダストさんお疲れ様です。
斗貴子がヒロインらしく(この作品のヒロインはまっぴーだけど)
大暴れで、残酷な部分も見れて満足です。

しかしまだ半分弱ですか!すっごいw
435作者の都合により名無しです:2007/03/05(月) 23:40:47 ID:0J47OnSI0
お疲れ様ですスターダストさん。
これからしばらくは戦闘編に突入ですね。斗貴子が凛々しくて強い。
まひろの登場はしばらくおあずけかな?
436作者の都合により名無しです:2007/03/06(火) 00:24:52 ID:GDDsao360
小札ってどんなビジュアルなのかな?
437作者の都合により名無しです:2007/03/06(火) 09:01:36 ID:HLpFT6JE0
前作のネゴロとこの永遠の扉って時系列的につながっているの?
438作者の都合により名無しです:2007/03/06(火) 14:33:43 ID:yVMnON/s0
アームズの人って復活しないの?・・
439作者の都合により名無しです:2007/03/06(火) 23:29:10 ID:w9KRkMfm0
スターダストさんお疲れ様です。
人物紹介、正直助かりました。
武装連金ってあんまり詳しくないんで…
今は元キャラとオリキャラの割合が2:1位になってますね。
でもオリキャラも立ってるから違和感無いです。

>>438
久しぶりの大型新人で期待してたんだけどね…
440作者の都合により名無しです:2007/03/07(水) 08:58:51 ID:hXKvKEBD0
サナダさん・しぇきさん・ハイデッカさん・ミドリさん・
ハシさん・カマイタチさん・鬼と人さん・ハロイさん・・

誰かそろそろ復活しないかな!
441作者の都合により名無しです:2007/03/07(水) 17:15:02 ID:XU06JSg+0
一つお聞きしたい。
マンガとゲームのクロスSSはここに投稿しても宜しいか?
442作者の都合により名無しです:2007/03/07(水) 17:47:48 ID:BhjRL9360
大丈夫。ゲームどころかエロゲーも混じった作品も大分前から連載されてるくらいだし。
443作者の都合により名無しです:2007/03/07(水) 22:38:27 ID:k9lIsNZ+0
何本も連載されてるよな、漫画とゲームなら
444修羅と鬼女の刻:2007/03/07(水) 22:44:59 ID:+A0cK/yc0
>>398
「このまま時が過ぎるに任せれば、結果は見えている。足利殿は間もなく再起して
ここに攻め寄せるだろう。その時には、もはや我らと足利軍の戦力差はどうしようもない
ほど大きく広がっているはず。つまり、我らは敗北し新政府は潰れ足利幕府ができる」
「え。そ、そんな、当たり前みたいにあっさり言わなくても」
「当たり前……そう、当たり前かもしれんのだ。いいか陸奥、よく考えてみろ」
正成は語った。かつてこの日本国は神の国であったが、やがてそれが神の化身である
人間、天皇のものとなった。それが平安時代、藤原家などによって公家たちが実権を
握った。そして鎌倉時代、公家の下僕だった武士たちの中から天皇の血を引く名門・
平氏と源氏が力をつけて天下を取った。
天下の実権は下へ下へと降りていくのが、歴史の必然なのではないだろうか。だとすると、
次は名門武士の下、地方武士たちの時代。それは今、尊氏を慕って足利の旗の下に
集っている者たちのことだ。
そんな時に、後醍醐天皇の世を創ろうなんていうのは、歴史・時代の流れに逆らうこと
なのでは。そもそも、最初は庶民のために悪役人と戦っていた河内悪党だったのに、
どこで何を間違えてしまったのか……
「って、今更そんなこと言われても! というかお兄さん、いつの間にか足利さんばりの
鬱思考になってるよ!」
「こうまで敗北が色濃く見えていれば、鬱にもなる」
「ほ、ほら! 鎌倉幕府と戦ってた時みたいに、何か、こう、凄い策略でどかーん! と」
「策なら一つだけある。今の内、足利軍が劣勢な内にこちらから和睦を申し入れるんだ。
向こうが降伏する形でな。足利殿の身分・権限を大幅に認めて、武士たちの統治を全て
任せる。そうすれば、足利殿は喜んで新政府の、というより後醍醐帝の下に帰ってくる
だろう。足利殿が統治するとなれば、全国の武士たちも大人しくついてくるから、間接的
にだが新政府が武士たちを治めることができる。万事解決だ。……が」
445修羅と鬼女の刻:2007/03/07(水) 22:46:43 ID:+A0cK/yc0
正成が視線を動かす。大和がそれに続く。その先にいるのは、
「無様と書いて、ザマぁ無いと読むぞ足利! あの世から見ているがいい、新田家の
隆盛を! 歴史に残る名将・新田義貞の活躍ぶりをな! わっはっはっはっはっ!」
新政府軍の総司令官が高笑っている。これでどうやって足利と和睦できようか?
また、義貞以外の新政府の上層部といえば、戦を知らぬ公家たち。自軍が有利な時に
和睦交渉など、鼻で笑うことだろう。
新政府の末路を悟った正成が、歩き出した。今はとにかく、兵たちに休養を取らせねば。
そして勝ち戦の褒美をやらねばならない。
「ほら、陸奥。お前も足利殿の手伝いで、事務仕事にも慣れたのだろう? 手伝ってくれ」
「……うん」
大和も正成に続いて、歩き出した。
朝日に照らされる平安京を二人が歩いていく。ここにいられるのも、あと何日のことだろうか。

この後、正成は尊氏との和睦を新政府に進言したが、勝ち戦に浮かれる上層部は予想通り
受け入れなかった。義貞も、敗走する足利軍の追撃など全く考えていないようである。
ただ義貞の場合、最近になってそばに仕え始めた絶世の美少女との色香に溺れ、束の間も
その少女と離れたくないから出陣を渋っている、との噂もあった。
そんな新政府の、崩壊の音を正成は確かに耳にしていた……
446修羅と鬼女の刻:2007/03/07(水) 22:49:03 ID:+A0cK/yc0
平安京戦から僅か四ヵ月後、正成の予言は当たった。尊氏は一度九州まで敗走した後、
九州・四国・中国地方、それに新政府軍からの寝返り者も含めて、西日本の武士たちを
根こそぎかき集めて攻め上ってきたのだ。新政府と尊氏の人望の差を的確に見抜いて
いたのは正成一人であったことが証明されたわけだが、その新政府はこの期に及んでも、
「帝の御威光があれば、足利軍も鎌倉幕府軍と同じように破れるであろう」
「そもそも鎌倉幕府が倒れたのも、帝のおかげであって楠木や新田の如き
卑しき武士どもの活躍などでは断じてない」
「解ったな? 勝ち目がないなどという臆病な泣き言は聞けん。さっさと出陣せよ」
で、あった。
足利軍の総勢、もはや正確な数は不明だが間違いなく十数万に達している。
対する新政府軍は、奥州に援軍を求めてはいるが今出陣できるのは新田軍一万と、
楠木軍(河内悪党の生き残り)が……七百。
かくして、日本史上に名高い悲壮な戦いが幕を開ける。『湊川の合戦』である。
「冗談じゃないっっっっ!」
平安京で出陣の準備を整えている正成たち、河内悪党の本営。大和が正成に、
必死に訴えていた。
「いくらオレが馬鹿でも、十数万と一万七百じゃ戦にならないってことぐらい解るよ!
しかも湊川じゃロクな山も谷もないから、罠とか伏兵とかそういうの、何もできないし!」
「ほう、地形の調査なんかしてたのか。お前も随分と思慮深くなったものだな」
「なるよ! だって、だって、この戦は、」
「最初から言ってる通り、勝ち目はないな。陸奥、今の内に都を出ておいた方がいいぞ。
俺と一緒にいたら負け戦に巻き込まれることになる。陸奥圓明流に敗北の二字……」
「こんな時に茶化さないでっっ!」
大和は正成の襟首を掴んで引き寄せた。鼻息がかかる距離で正成を真っ直ぐに
睨みつけて、ドスの効いた声で言う。
「今からでも遅くないよ。こうなったらもう、お兄さん一人でも足利さんに降伏するんだ。
足利さん、新田義貞はともかくお兄さんには恨みなんかないから、きっと受け入れてくれる。
もしかしたら新政府に対する降伏説得の使者として使えるからってことで、丁重に扱って
くれるかも。足利さんだって新政府、というか後醍醐帝とは仲直りしたいと思ってるんだし」
「……思慮深くなったとは思ったが、そこまで考えが及ぶようになったか。正解だぞ、それ」
「でしょ? だったら、」
447修羅と鬼女の刻:2007/03/07(水) 22:50:14 ID:+A0cK/yc0
「だがな、陸奥」
正成は大和の手を解くと、まるで弟を諭す兄のように言った。
「俺は今まで、何千何万もの敵と戦い、殺してきた。また、俺を信じて着いてきてくれた部下たち
も大勢死なせた。その俺が敵に頭を下げて生き延びるなど、許されることではない。違うか?」
「だから! 何回も言ったと思うけど、そんなのは戦なんだから当たり前のことなんだってば!」
噛みついてくる大和に対し、正成はあくまでも落ち着いて応じる。
「それに、俺はあくまでも後醍醐帝の臣だ。お前はこの楠木正成に、裏切り者として
後世に名を残せと言うのか?」
「じゃ、じゃあ、忠臣として名を残したいっての?」
「忘れてるかもしれないが、この俺だって武士の端くれだ。鎌倉の武士たちも、俺やお前に
殺されながら言っていただろう。命よりも名を惜しめとな。俺は今更、形勢不利になった
から、命が惜しいからといって後醍醐帝を裏切ることなどできん」
どうやら正成を説得するのは無理らしい。そう悟った大和は、一つ決意して拳を握る。が、
「もう一つ、忘れてないだろうな? お前はこの俺の手助けをすると約束したはずだ。
平和な世を創る手助けをな。この戦が終わった後、その世を創るのは間違いなく
足利幕府だ。その創設者たる足利殿を害するなど許さん。無論、後醍醐帝や
お公家様たちは我らの主、その方々に手を出すなど言語道断。解っているな?」
「……っ……わ、解ってるよ……」
尊氏か、あるいは新政府の上層部か。そのどちらかを叩き潰せば、この戦自体が
消滅して正成を救えるかも、と大和は考えたのだが。見事に釘を刺されてしまった。
「解ってる……解ってるに決まってるだろ! オレは今まで、お兄さんや足利さんたちと
一緒に戦ってきて、思慮深くなったんだからっっ!」
もうここにいること自体が辛くなってきた大和は、正成に背を向けて駆け出していった。
目指すは湊川。足利軍、総勢十数万が大地を揺るがせて迫る戦場だ。
448ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/03/07(水) 22:53:16 ID:+A0cK/yc0
この鎌倉幕末浪漫戦記こと太平記ですが、実は終盤の南北朝問題を突き詰めると、
現在の天皇家の正当性を否定することも可能。ゆえに、未だにタブーとされてる部分も
あるとかないとか。……そうか! コーエーさんが「太平記無双」を製作・販売できない
理由はそれかっ? 

>>銀杏丸さん(性格捏造も二次創作の楽しみの一つですね。節度は守らねばですが)
実は未だに、錬金未読の私。だからこそ、本スレのおかげで私の中で千歳のイメージが
てんやわんやで面白い。違う方のSSを読むたび、違う性格・容姿・声の彼女が浮かんで
きます。今回はひたすらクールに鋭く、強かった彼女ですが、いつかは無垢故の弱さも?

>>スターダストさん
で、本作の今回は斗貴子との対比でした。直感と速度の斗貴子、策略と判断力の千歳。
千歳は何だかんだで女性らしい心遣いのできてる人、斗貴子は今はそれどころじゃない人。
千歳には心配してくれてる男性が、斗貴子には想ってくれてる男の子が。そんなとこかな。

>>441
ゲームに特撮に少女漫画、推理小説、トドメに太平記。私が当スレで書かせて頂いた題材
です。一応少年漫画を絡めてはいるつもりですが、それでもまあその……皆様毎度感謝です。
とにかくそういうわけですから>>441殿、臆せず書かれよ! お待ち申しておりますぞっっ!
449作者の都合により名無しです:2007/03/07(水) 23:02:40 ID:k9lIsNZ+0
ふらーりさんお疲れー
大河っぽい題材にふらーりさん風の青春ロマンですな
大和の物言いがちょっと可愛すぎる感じもするがw
450作者の都合により名無しです:2007/03/08(木) 00:20:50 ID:uaD1z5IS0
事務仕事の得意な陸奥というのもおかしいなw
湊川の合戦をどう書かれるか楽しみです。
こういう歴史を舞台にした作品は好きだな。
勉強にもなるし。
ハイデッカさん復活しないかな・・
451作者の都合により名無しです:2007/03/08(木) 03:12:56 ID:tJXAg4XXO
保管倉庫は更新はもうしないのですか?
期待して毎日まとめサイトをクリックしています。
452作者の都合により名無しです:2007/03/08(木) 08:48:29 ID:vYIJE5Dz0
バレさん辞めちゃったみたいだからなあ・・
こちらの方はやってくれているよ。ありがとうゴート氏。
http://www25.atwiki.jp/bakiss


ふら〜りさん乙です。
少年っぽい大和もいいけど、
そろそろ「修羅」に目覚めた大和もみたいな。
453作者の都合により名無しです:2007/03/08(木) 22:52:41 ID:6Phr/IGs0
まぁっかな、ちかぁいぃ〜♪
454戦闘神話・幕間 Dawn:2007/03/08(木) 22:54:38 ID:6Phr/IGs0

にぃっと、彼は笑う。
悪戯小僧のような顔だと、ヴィクターは常々思っている。

「ぃよぉ〜しっ、ヴィクター!
 いぃ〜か!絶対にアレクを悲しませるんじゃねぇぞ!」

だが、今日のその笑みは、泣き笑いだった。
戦友にして恋敵。錬金の戦士となる、いや訓練生時代からヴィクターと共に戦い、
共に泣いて笑った男・アルトリウス・ファスケス。
実直で寡黙なヴィクター、奔放で饒舌なアルトリウス。
戦斧と剣という近接戦闘という点以外は全くもって正反対だった。
だが、不思議と気が会った。
錬金の戦士としてコンビを組んで数多くのホムンクルスを屠ってきた。
全ては、力なき人々が錬金術によって傷つかぬ為に、
全ては、力なき人々を錬金術によって幸せにする為に。

「アレクがよぉ、アレクがさぁ、アレクがなぁ…。
 お前を選んだんなら、なぁ。しっ…仕方ねぇ、仕方ねぇよな。
 なぁ…」

ヴィクターに背を向け、途中から泣き笑いに、洟を啜り上げながら、
アルトリウスはまるで自分に言い聞かせるようにそう言った。
短い金髪頭をゴリゴリとかき、黒い瞳に涙をためて、アルトリウスは漸くそれだけ言葉に出来た。
455戦闘神話・幕間 Dawn:2007/03/08(木) 22:59:03 ID:6Phr/IGs0

「す…」

「謝るんじゃねぇ!」

思わず謝罪の言葉が付いて出たヴィクターに、アルトリウスは鋭く一喝する。

「アレクがお前を選んだ!お前はアレクを愛してる!ならそれでいいじゃねぇか!
 俺なんぞに気にしねぇで幸せになっちまいやがれ!」

ばんばんと、力強くヴィクターの背を叩きながらアルトリウスは叫んだ。
手荒いが、彼なりの祝辞なのだと、ヴィクターは思った。
友だ。
得がたき友だ。

「だから誓え!」

そうだな、とあたりを見回したアルトリウスは、いい物を見つけたらしい。

「あの夕日だ!
 男同士の誓いだぜ?絶対に破るなよ!
 真っ赤な誓いだ!」

「あぁ、アルトリウス。
 オレは誓う。アレキサンドリアを護り続ける!」

そして、二人して血ゲロ吐くまで痛飲した上で朝帰りして
アレキサンドリアに叱られた。
456戦闘神話・幕間 Dawn:2007/03/08(木) 23:04:28 ID:6Phr/IGs0



「なぁ、ヴィクター。
 俺ぁ、あン時お前にいったよな?」

憎悪、嚇怒、狂気、敵意。
それらのどれでもなく、それらのどれでもあるどす黒いどぶ川の腐ったような瞳で、
アルトリウスはヴィクターを見ていた。
漆黒の感情の渦が、エネルギードレインの震源地で尚、彼を支えていた。
快活に笑って未来を見ていたはずの男の瞳は、もはや過去しか見ていない。
アレキサンドリアの死が、彼らの友誼を破綻させていた。

「なんとか言えよこの野郎!」

アルトリウスの右手に握られていた筒、いや、柄のようなものが発光すると、光り輝く刃を生んだ。
ライトセイバーの武装錬金・エクスカリバーである。
かつて蒼い清浄な刀身であったそれは、今の彼を表すかのように、血のように赤黒い刀身だった。
刀身は伸縮自在、相手に間合いを覚らせない非常に厄介な剣であり、
触れたもの全て尽く両断するその切れ味は、まさしく空前絶後。
重力を自在に操るヴィクターの武装錬金と並び、近接戦闘型の武装錬金では戦団双璧である。

「俺ぁ、なぁ、手前のそういう何でも分かってますって澄まし面が大ぇ嫌ぇなんだよ!」
457戦闘神話・幕間 Dawn:2007/03/08(木) 23:09:28 ID:6Phr/IGs0

激昂するアルトリウス。それを受けてなお沈着なヴィクター。
スペシャリストであるアルトリウスよりも、
ゼネラリストであるヴィクターのほうが戦士としての戦術に幅がある。
それが不幸にも彼を此処まで生き延びさせていた。
ロシア・ウラジオストクにてヴィクターを捕捉するも、追手の戦士、
彼はかつてヴィクターに命を助けられて錬金の戦士となった、を振り切って逃亡。
ついに東の最果て、日本へまで流れ着いていた。
地獄だった。
戦友同士で殺し合う。命を助けた相手の命を奪う。師弟同士で殺しあう。
錬金術が世の発展に、
人の目から涙を拭う術だと信じて闘ってきた者同士にとっては地獄だった。

のどを引きつらせるように笑うアルトリウス、
そんな笑い方などヴィクターの記憶の中の彼はしなかったはずだが。

「これをみても、その澄まし面が持つかねぇ?」

指を鳴らすと、クレーターと化した戦場を取り囲むようにしてホムンクルスの群れが現れる。

「馬鹿な…オレを倒すためだけに錬金戦団がホムンクルスの製造を行うなどと!」

「オイオイ、お前さんらしくねぇなぁ?
 戦闘での洞察力はお前のお家芸だろぉ」

何処かからかう様な声は昔のままなのに、込められたのは純粋な悪意だけだ。
そしてヴィクターは見てしまった。
458戦闘神話・幕間 Dawn:2007/03/08(木) 23:13:26 ID:6Phr/IGs0

「貴ッ…貴様ぁあああああああああああああ!」

「バケモンの子はバケモンだろ?
 あのロシア人、いぃ〜い仕事してくれたぜぇ…」

ホムンクルスへと変えられた娘の姿を!

「かわいそぉになぁ…
 知ってるか?あのホムンクルス共な、お前さんの知人友人の皆さんだ。
 同期のフィッツジェラルド、イッコ下のアレックス、
 お前がウラジオストクで殺し損ねたミゲルもいるなぁ…
 お前を殺したら開放してやる、元に戻してやる。っつってるが、そんな訳はねぇ」

アルトリウスの挑発に乗る形で、ヴィクターは彼に踊りかかる。
だが、激昂したヴィクターの単調な攻撃である。
回避などアルトリウスにとっては容易いことだ。

「だいぶッかた減っちまった戦士の練習台になるンだよ、お前の娘もな!」

エクスカリバーがうなりを上げてヴィクターに迫る、が、彼はそれを紙一重で避ける。
互い、奥の手まで知り尽くした戦友だ。千日手は必須といえた。
常ならば。

「…ッ!!?」

エネルギードレイン。
アルトリウス一人ならばまだ憎悪によって拮抗していただろう。
459戦闘神話・幕間 Dawn:2007/03/08(木) 23:18:26 ID:6Phr/IGs0
だが、このホムンクルス軍団がその拮抗を崩していた。
錬金術の魔人となったヴィクターの『生態』であるこれは、それ故にヴィクター自身制御は出来ない。
無論、アルトリウスもエネルギードレインを知らぬわけではなく、
ヴィクターに対峙する際には常に一人、もしくはエネルギードレインの圏外からの攻撃を選択していた。
だが、エネルギードレインの影響圏は、
その心神の状態に著しく左右されることを彼ら戦団は知る由も無かったのだ。
皮肉なことに、アルトリウスは己の策に落ちたのだ。
だがそれでもアルトリウスは折れない。

「アルトリウスゥううううううううう!」

「ヴィクタぁああああああああああああああ!」

二人の戦士のうちに燃えるのは、只一つの憎悪だけだった。
ヴィクターの武装錬金がアルトリウスのわき腹を抉り飛ばし、
アルトリウスの武装錬金がヴィクターの左腕を切り飛ばす。
憎悪で憎悪を拭い、殺意で殺意を覆う。
もはやどちらかが斃れるまで終ることのない戦い。
しかし、ヴィクターはエネルギードレインによって見る間に快復して行く、
傷が増えていくのはアルトリウスだけだ。
だが、それでもアルトリウスは斃れない。
創傷はもはや臓器に達し、死は免れない。
左腕は砕け散り、柄にただ添えられているだけだ。
重力場を纏った斧を避け損ね、右目は顔の右半分ごと潰れた。
血溜りと化した顔で、それでもアルトリウスは吼える。
怨敵の名を、親友の名を。
460戦闘神話・幕間 Dawn:2007/03/08(木) 23:22:20 ID:6Phr/IGs0

斧の一撃がアルトリウスの胴をなぎ払う。
ぶちぶちと臓腑がちぎれて舞い、脊髄から髄液がこぼれ、大地に転がったアルトリウスの上半身。
何かに懺悔するかのようにアルトリウスの下半身がヴィクターの前に膝をつく。
それでもアルトリウスは生きていた。
上半身だけになってしまったが、剣を口にくわえ、
ヴィクターを殺すべく這いずりながら、憎悪に身を焦がしながら。
砕けた左手はあらぬ方向へと向き、もはや腕の機能を成さない。だが這いずるくらいなら出来る。

嘗ての親友のその姿に、ヴィクターは耐え切れず背を向けて逃走を再開する。
そんなヴィクターの姿を、アルトリウスはにぃっと哂ってみていた。
屍山血河の果てに、再び出会うことを理解しながら、わらっていた。
461作者の都合により名無しです:2007/03/08(木) 23:22:40 ID:PITr+IrS0
最初のレスはいらんだろ、銀杏丸。
462銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2007/03/08(木) 23:26:18 ID:6Phr/IGs0
というわけで、ヴィクターの過去編でした
三角関係は男二人に女一人が好きな銀杏丸、黄金時代でも似たようなネタやりましたw
今回登場のオリキャラ、アルトリウス・ファスケスは武装錬金からもわかるとおり、アーサー王がモデルです。
ファスケスとは古代ローマにおいて権威の象徴ともいうべき代物です、一応武器扱い
彼はいずれ本編でも登場しますのでお楽しみに
この銀杏丸、アーサー王が数ある神話・英雄物語の中で一番嫌いな英雄でして
いつかネタにしてやろうと虎視眈々と狙っていた次第でありまする(次点はローラン、ランヌは大好きですが)
伝承によると、エクスカリバーはピカっと光って
「うぉっ、まぶしっ」させるだけの能力しかないんだそうな
やくそくされししょーりのけーん?フザケンナっすよ
ローランもそうですが、匹夫の勇を振るうしかないやつは大嫌いです
嫁寝取られる、子に殺される、まったくもって情けねえ
史実のルキウス・アルトリウス・カストゥスはローマの軍人で、サクソン人を一時的に追っ払ったそうです
詳しくはアフタヌーンで連載してる「ヴィンランド・サガ」を読んでください
このオッサンについて語りだすとそれだけでSS一本分くらいの要領になるんでこのくらいで…

>>421さん
こういう大人の女性は憧れますよね
一見完璧にみえても、よく観察するとどこかほころびがある
グっときます

>>422さん
ファンの方には申し訳ないです
だいぶ先までエドは地味めで踏んだりけったりの目にあう事になります
錬金術つかえないエドなんて、ちょっと腕っ節の強いガキですし
拙作劇中じゃ腕っ節で張り合おうにも聖闘士なんていう化け物いるんで…

>>423さん
ノリノリですとも!そりゃもう公私ともにノリノリですとも!
その気になれば空だって飛べます!あいきゃんふらぁ〜い!
一応劇場版が下敷きになってますんで、18です
すげぇな、エド。主人公陣営じゃ年長組だw
463作者の都合により名無しです:2007/03/08(木) 23:31:00 ID:PITr+IrS0
頑張ってるな、銀杏丸氏
ヴィクターの過去はオリジナルか?
オリキャラ乱発は感心しないけど
ストーリー上必要ならいいか。

しかし錬金キャラ含有率がこのスレやたら多いなw
464銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2007/03/08(木) 23:35:58 ID:6Phr/IGs0
>>461さん
一応、書き込み確認の意味があったりします
申し訳ない

>>463さん
ヴィクターの錬金戦団時代というのは、アニメでは1カット、原作では傷ついた時だけ、と
ほとんど描かれていないため、でっち上げるほかないのでオリキャラ乱舞という憂慮すべき事態に…
一応原作キャラクターも関わっちゃいるんですが、小説版等でこの時代が描かれない限り
ちょっと解決しつらいです、申し訳ない

>>スターダストさん(銀魂の志村新八でした、どこで間違って覚えてたんだろう、申し訳ございません)
えぇ〜、なんと申しますか、被りました。ものすごく
最初期から「ヴィクターの戦友にして仇敵」というキャラは出したかったんですが
公私ともどもいろいろあったせいで遅れに遅れこんな自体に…
挙句の果てにヴィクトリア関連でも…
もう開き直るよりほかになかった、というのが実情です、
誠申し訳ございませんでした

>>ふら〜りさん(今でも時々出てきますよね、南朝のなんたらと名乗る頭の螺子の緩い方々が…)
無垢さ、という点のみでいうなら千歳は武装錬金登場人物中一番無垢かもしれません
某漫画家のエッセイ的漫画で、「屈託のなさ」は果たしていいことか?的問いかけがあったのですが
それをどこかで生かせたらいいな、と思っております。
書きたい物語の都合上、オリキャラが増えてしまうのが大問題…
いかんともしがたいです。

では、またお会いしましょう
465作者の都合により名無しです:2007/03/09(金) 02:58:06 ID:gua8aw/G0
ちょいと失礼しますよ

続・葉鍵でドラえもんを製作しないか?
http://book4.2ch.net/test/read.cgi/bun/1173279864/l50
466作者の都合により名無しです:2007/03/09(金) 07:44:12 ID:ifmgflrf0
そろそろこの作品にも人物紹介がほしいな
キャラクターの相関図がわからなくなってきた

ヴィクターの過去、ぐっジョブでした
467作者の都合により名無しです:2007/03/09(金) 22:35:25 ID:ypGDeor90
銀杏丸さん乙。
試行錯誤しながら色々とチャレンジしてますね。
華はないけどじっくり読むと面白いです。
ヴィクター対エドの錬金術対決?


次スレは480KB超えたあたりでいいか。
468作者の都合により名無しです:2007/03/11(日) 00:20:52 ID:Qce/b0kx0
新人さん、最近来ないなあ。
469狂った世界で 序章:2007/03/11(日) 09:13:15 ID:mZrnx/t00
 緩やかに降り注ぐ雨の音色だけが、耳朶に吸い込まれては消えていく。
 先ほどから体の震えが止まらないのは、単純に、雨で冷えたせいだけではないだろう。
 私はおそらく、不安なのだ。でも、その不安を、例え心の中だとしても、言葉にはしたくなかった。
 不安の正体を言語化した瞬間、言葉が力持つ言霊となって、現実に干渉してしまう……そんな、根拠のない妄想に苛まれる。
 私は顔を上げて、首を振った。まるで雨上がりの犬みたいに、髪の毛に付いた水滴を、四方八方へと飛び散らせる。
 父様も、母様も、とびっきり強くて優秀な忍びだ。
 私は、二人を間近で見ていて、それを誰よりも実感している。
 今までだって、何人もの追っ手を返り討ちにしてきた。
 だから……すぐに戻ってくる。
 父様は、大丈夫だ、と言って、頭を撫でてくれた。
 母様は、すぐ戻るから、と言って、抱き締めてくれた。
 頭に、父様の大きな手の感触が。体に、母様の柔らかな温もりが。まだ残っている。
 それを失いたくなくて、私は膝を抱え、その間に頭を埋めて、時が過ぎるのを待った。
 そうしてから、どの位の時間が経っただろうか。
 がさり、と音がした。私が背を預けている古木の上から、気配を感じる。
「父様!? 母様!?」
 私は思わず叫んで立ち上がり、頭上を見上げる。
 次の瞬間、三つの影が、私の周りを囲むようにして、音も無く地上に降り立った。
 三人……? 頭を掠める小さな疑問。
 でも、すぐに気付く。彼等が、父様でも母様でもないことに。
 彼等は、全員追い忍の仮面をつけていて、衣服は鮮血で真っ赤に染まっていた。
「奴等の子供か」
 仮面の向こうで、感情の無い声がした。私から見て右側に立っている男だった。
「どうする? 母親から血継限界を受け継いでいるなら、利用価値はあるかも知れんぞ」
 正面の男が言う。しかし、右側の男は手を軽く挙げて首を振った。
「落ちこぼれと交わった血継限界など使い物にならん。それに、任務は『関係者の抹殺』それ以外ない」
 唇を噛み締める。話を聞く内、恐怖よりも憤怒が上回りつつあるのが、自分でもわかった。
 勇気を振り絞って、三人を睨みつける。その冷たい仮面の奥にまで、私の敵意が伝わるように。
「父様を、母様を、どこへやった!」
 そして、震える声で、言葉を叩き付けた。
「血継限界の女は、向こうに転がっている。回収はお前を始末した後になる。『父様』とやらは――」
 正面の男はそこで言葉を切り、左側に立つ男の方に顔を向けた。
470狂った世界で 序章:2007/03/11(日) 09:15:04 ID:mZrnx/t00
「『これ』か」
 左側に立っている男は、背負った大きな袋を探ると、中身を取り出して、私に向かって放った。
 投げられたそれは、小さな放物線を描いて飛び……ばしゃりと。私の足元、水溜りに落ちた。
「あ……」
 視線を落として、私は戦慄した。
 水溜りに打ち捨てられたそれは――引き千切られた腕だった。
 見間違う筈もない。ついさっき、私の頭を撫でてくれた、父様の腕。
 許せない……こんなの、許せるわけがない……!
 感情が爆発した。後先なんて、考えなかった。憎悪を胸に、泣き叫びながら、印を結ぶ。
 未熟な私の唯一の武器は、母様から受け継いだ血継限界。土塊を自らの手足のように自在に操る、土遁系忍術の素質。
 勿論、私のそれは二人には遠く及ばない。父様、母様、二人がかりでも敵わなかったこいつらに勝てる道理などない。
 だけど、このまま黙って殺されるくらいなら、せめて。父様と母様への手向けとして、掠り傷の一つも負わせてやる。
「土遁、泥人形……!」
 果たして、絶叫は言葉になっていただろうか。それでも、私の想いに呼応するようにして、術は発動した。
 瞬く間に周囲の地面が隆起、盛り上がった土砂が、四体の人形(ヒトガタ)に姿を変える。
 人形の数は想像していたよりも少なかったが、私のチャクラ量では、全力を振り絞ってもこれが限界らしかった。
「……くだらん」
 肩を竦め、正面の男が嘲る。
 無駄な抵抗と、笑いたければ笑えばいい。私はもとより、死ぬ覚悟なのだから。
「行け!」
 私は殺意を込めて、左の男を指差す。四体の泥人形が一斉に、男に襲いかかった。
 これが通常の戦闘であれば、私はこんな無茶な真似はしない。残る二人の攻撃を警戒して、泥人形二体を手元に残しておく位はしただろう。
 だが、今は身を守る事なんて頭になかった。そもそも、そんな小細工で戦況に影響を及ぼせる程、優しい相手でもない。
 私の望みはたった一つ。憎むべき仇に手傷を……!
「水遁、水鉄砲」
 心なしか、余裕が感じられる声だった。見ていて腹立たしいくらい流麗な動作で、印が結ばれていく。
 そして、左の男が翳し、振るった腕全体から、水流が砲撃の如く凄まじい勢いで射出される。
 今まさに男に掴みかからんとしていた泥人形たちは、水流の直撃を受けて、粉々に砕け散った。
「く……!」
 不快な音を立て、泥人形の残骸が私の頬に貼り付く。
「終わりか?」
 左の男が、わざとらしく首を傾げた。
471狂った世界で 序章:2007/03/11(日) 09:17:38 ID:mZrnx/t00
「だから使い物にならんと言ったのだ。わざわざ試してやるまでもない。折角の血継限界を、こんな屑に貶めよって」
 言いながら、正面の男は鞘から忍者刀を抜き、構えた。
 私は、硬く目を瞑る。三人が距離を詰めてくるのが、気配でわかった。
 父様、母様、ごめんなさい。私、何もできなかった……
 直後、風を切る音。続いて、肉が切り裂かれる音がした。
 でも、おかしい。何がおかしいって、私の体に、痛みが……ない。
「何だと!?」
 狼狽した男の声で我に返り、私は瞑っていた目を開いた。
 正面で刀を構えていた男は、私の足元でうつ伏せに倒れていた。背には、深い刀傷。
「ぐあうっ」
 呻き声。と同時に、倒れている男の上に、折り重なるようにしてもう一人が崩れ落ちた。
 そこでようやく私は視線を上げて、状況を把握する。
 目の前に、異形がいた。
 ろくろ首のように伸びた首。生気を感じさせない白い肌。狂気を孕んだ鋭い眼光。
 そして、全身から発散される、とてつもない威圧感。
 懇切丁寧に説明されなくてもわかる。こいつが、追い忍たちをいとも容易く骸に変えた張本人だ。
「ククク……誰かと思えば。追い忍風情が、私の縄張りで一体何をやっているのかしら……?」
472狂った世界で 序章:2007/03/11(日) 09:18:54 ID:mZrnx/t00
「おのれ……ば、化け物めが……!」
 仲間を二人失い、一人取り残された追い忍は、先程の自信に満ちた様子が嘘みたいに動揺していた。
 眼球は落ち着きなくあちらこちらへと泳いでいて、倒すべき敵の姿を映してはいない。
 まるでその姿は――蛇に見込まれた蛙のようで。傍目から見ていても、殆ど戦意を喪失しているのは明らかだった。
 構わず異形は、伸びた首を鞭のように振るう。いつの間にか、その口腔内からは大振りの剣が生えていた。
 追い忍の頭部が、血飛沫を撒き散らしながら、宙に舞った。
 それは無造作に投じられた賽のようにころころと転がり、木の根元にぶつかって止まる。
 一拍遅れて、思考を奪われた胴体が足を折り、軟体動物を想起させる滑稽な動作で地に這い蹲った。
 異形は気色の悪い異音を発しながら、再び胃袋の中に剣を収めてしまうと、呆然と立ち尽くす私へと歩を進めた。
 私は、一切の抵抗を止めていた。最早いかなる行動を起こそうと無駄だと、本能で理解していたから。
 結局のところ、こいつの胸三寸で全てが決まるのだ。しかし今となっては、それならそれで構わない、と思う。
 期せずしてとはいえ、唯一の心残りであった仇は、私の眼前で無惨な死を遂げたのだから。
「希少性はそれほどでもないようだけれど……なかなか興味深い素材ね」
 異形は、無遠慮に私の顔を覗き込むと、背筋の寒くなるような微笑を浮かべる。
「私の住処はすぐ近くにある……もし、強くなりたいのなら来なさい。衣食住だけは保証してあげるわ」
 それだけ言うと、さっさと背を向けて歩き出す。強制はしない、と言いたいのだろう。
 どうやら、私を殺すつもりではなかったらしい。それどころか『強くなりたいのなら来なさい』だ。
 安堵と同時に、抑制していた種々雑多な感情が押し寄せて、ともすればその場に膝をついて嗚咽を漏らしそうになる。
 俯いて歯を食い縛り、暫くの間、自己意識すら呑み込んでしまいそうな感情の激流に耐えた。
 少し落ち着いてから、頬を伝った涙を衣服の袖で拭い、森の奥へと消えようとしている、名前も知らない異形の背を追った。
 勿論、こいつが人助けをしようなんて殊勝な輩ではないことは、言われなくとも、その禍々しい雰囲気から察している。
 それでも。これは私なりに考えた末の結論で、決意表明だった。心残りは一つだけではなかったのだと、たった今、気付かされたから。
473作者の都合により名無しです:2007/03/11(日) 09:20:15 ID:mZrnx/t00
長く続くかどうかはわかりませんが、書き始めたのでこっそり投下。
世界観はNARUTO+αで、時系列は『疾風伝』前、第一部アニメオリジナルあたりでしょうか。
ジャンルは、このままシリアスになるやら脱線するやら、まだ未定です。
474作者の都合により名無しです:2007/03/11(日) 13:00:35 ID:mnvm01Lu0
お疲れですー
ナルト物は初めてなので期待してます。
正統なサイドストーリーっぽい出だしですね
文章も上手いし、ぜひ完結させてほしい

次回はコテハンをつけてほしいな
475作者の都合により名無しです:2007/03/11(日) 13:06:42 ID:/pdyuj1LO
あぶ
ふ。
476作者の都合により名無しです:2007/03/11(日) 13:07:39 ID:/pdyuj1LO
あぼ。。
477作者の都合により名無しです:2007/03/11(日) 13:20:17 ID:/pdyuj1LO
あべし?
478作者の都合により名無しです:2007/03/11(日) 20:58:54 ID:9CxLexJ40
>狂った世界で
こういう暗い過去物のSSは大好きです。
過去が舞台になるのか、序章だけ過去で主舞台は現在になるのか?
どうなるかわかりませんが、ワクワクしながら期待してます。

でも、ナルトあんまり詳しくないから、どのキャラが主役なのかわからないな。
サスケかな?
「私」が一人称だから女かな?
479ヴィクティム・レッド:2007/03/11(日) 21:38:11 ID:WlrmIUkQ0
 どこか釈然としない気持ちで、ドクター・ティリングハーストの待つ医務室へ戻ったレッドだったが、
「なんだよ、いねえじゃねーか」
 もぬけの空となっていた部屋のデスクに一枚の紙片を見つける。
 それはレッドへと宛てられたもので、文末にはドクターのサインが記されてあった。
『急な用事のため、わしは戻らなくてはならない。簡潔ながら、先のクエスチョンに対するヒントを与えておく』
 一瞬なんのことか分からず首をひねるが、すぐに思い当たった。
 キース・セピアのARMS『モックタートル』についてレッドが見解を述べたところ、ドクターはそれを「半分の答」と評した。
 そのレッドのアンサーには欠けていた、もう半分の答について、ここで触れているのだろう。
「つーか、ヒントってことは素直に教える気はねえのかよ」
 などと文句を垂れながら、レッドはメモを読み進める。その先はたった一つの言葉しか書かれていなかった。
『Semantic Contact(セマンティック・コンタクト)』
「……は?」
 思わず素っ頓狂な声を上げる。まるで意味不明だった。
 意味論的接触。
 意味論。すなわち、言葉の意味を研究する学問であり、意味の構造や歴史的変移をフォローする部門。
 それは分かる。だが、それとセピアとにどういう関係があるのだろうか。
 眉根を寄せてメモを睨んでみるが、それがなにかの足しになる道理もない。
 しまいにメモを握りつぶし、ゴミ箱に放り投げた。
「ったく、どいつもこいつも」
 苛立たしげにデスクを蹴り、レッドはドアへと向かう。
 器質的精神的を問わず、レッドには、セピアに関するあらゆる事柄が理解不能に思えた。
 ドクターのありがたい言葉どおり意味論的に接することができたなら、この不機嫌も収まるのだろうか。
 自分と彼女とが出会ったことに、何がしかの意味を見出せるのだろうか。
 それが出来ない現状、キース・レッドにとってキース・セピアとは、理解とは程遠い存在であることは間違いなかった。
480ヴィクティム・レッド:2007/03/11(日) 21:39:15 ID:WlrmIUkQ0
 しかしドクターがいないならどうしたものか、セピアと合流するのは自分から頭を下げに行くようで気が進まないな、
と手持ち無沙汰になったレッドの背後から声が掛かった。
「ねえ」
 振り向くと、簡素な検査衣を着た少年がいた。
 レッドよりもやや幼い年頃で、どこか癇に触る微笑を浮かべてレッドを見上げていた。
「なんだ、ガキ」
 そう乱暴に返すと、少年の顔が見る見るうちに怒りに歪む。だがすぐにのっぺりとした無表情に変わり、
その異様な百面相にレッドは呆気に取られた。
(なんだこいつは……)
「心外だな、僕はもうガキじゃないよ。だって──まあいいや。こんなことでムキになるもの馬鹿らしい。
そんなことより、さ。僕の妹を知らないかい?」
 知るか、と言いかけ、だがある少女の姿がレッドの脳裏に浮かぶ。
 その少女は目の前の少年に少し似ているような気がした。
「あー、もしかして暗そうっつーか大人しそうな、金髪でこんくらいの背のいい子ちゃん丸出しのやつか?」
 胸の辺りで平手を振って背丈を示しながら、そう問い返すと、少年は力強く頷いた。
「ああ、きっとその子だ。どこにいるか分かるかな?」
「……案内してやるよ」
 我ながら柄にもない申し出だと思う。だが、セピアに会いに行く口実くらいにはなるだろう。
「いいのかい? いやあ助かったよ。君って意外といいやつだね。殺すのは止めておくよ」
 クソ面白くもない冗談だった。なので聞かなかった振りをする。
「ごちゃごちゃ言ってねーで付いて来い」
 足を踏み出しかけて、ふと気づく。少年の検査衣に、ひとつふたつ赤黒い染みがついていた。
 よくみると、それは血液の染みだと分かる。
「その血はどうした? 怪我か?」
「いや、大したことないさ。これは代償なんだ。ある種の大きな力の影には、常に血が流されている。そうだろう?」
 などとよく分からない答が返ってきたので、やはり無視した。
 最後に、もう一つだけ思い出す。
「お前、名前は?」
481ヴィクティム・レッド:2007/03/11(日) 21:40:26 ID:WlrmIUkQ0

 キース・セピアは後悔していた。
 それはもちろん、キース・レッドと口論をしたことについてである。
 あんなふうに強い言い方をするつもりではなかった。ただ、自分のことを分かって欲しかっただけなのだ。
 セピアにとってレッドとは、兄であり、自分を暗い檻から連れ出してくれた恩人そのものなのだ。
そんな人が、人の気持ちを傷つけるようなことを平気で言うところを見るのが、なにより辛かったのだ。
 そう思うのは間違いだったのだろうか。レッドの意志を無視して、自分の理想を押し付けているだけなのかもしれない。
 でも、それでも、セピアにとってレッドは──。
「泣かないで」
 いきなりそう言われ、セピアは我に返った。反射的に手を目元にやるが、涙は出ていない。
 セピアは手を繋いで隣を歩く少女に笑みを見せる。
「泣いてないわ。どうして?」
「うそ」
「……え?」
「それはうそ。泣いています、心の中で。自分で気が付かないんですか? 大人ってみんなそうなんですか?
大人になると、自分が泣いているかどうかも分からなくなっちゃうんですか」
 正直、なにを言っているのか本気で理解できなかった。だがセピアには、少女の言葉を否定することがどうしても出来なかった。
 理屈ではなく感情で、少女が正しいことを言っていると、そんな気がした。
 瞬間、セピアの記憶にある事柄が思い出される。それが答だった。
 あの時、この少女はレッドに向かって確かにこう言った。「あなたには、ほんとうに、人の心が分からないんですか」 、と。
 それは裏を返せば、つまり──。
「ねえ、もしかしてあなた……人の心が分かるの?」
 その質問に対し、少女はこっくりと肯定する。
「それってつまり……テレパシーってやつなのかな。ええっと──」
 そう言えばこの子の名前を聞いていなかったな、と途中で詰まったセピアの言葉を、少女は正確に引き取った。
「ユーゴー・ギルバート」
482ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/03/11(日) 21:41:24 ID:WlrmIUkQ0
二ヶ月ぶりにすんまそん。近いうち、もうちょっとだけ進める予定であります。
483作者の都合により名無しです:2007/03/11(日) 22:34:14 ID:Qce/b0kx0
>狂った世界作者さん
新連載おめでとうございます!
ナルトはファンの多い作品ですから大変でしょうが
書き甲斐もある作品だと思うので頑張って下さい!
ちょっとミステリ気味なオープニング期待大です!

>ハロイさん
お久しぶりです!期待してた作品なので、復活嬉しいです。
人気キャラノ「天使」ユーゴーが出ましたね。
原作ではバイオレット姉さんの次に好きなキャラです。
プライベート忙しいでしょうが、のんびり完結させて下さい!
484永遠の扉:2007/03/11(日) 23:47:49 ID:Uq9oH5EE0
第013話 「分岐の先の、その向こう」 

……雨はどこまでも激しく降りしきり身を濡らす。
冷たい水が傷口に染みる。ナイフよりも冷たく染み渡る。
手についた傷は指標そのものへの無残な傷。
晴れて戦士になった自分。
けれど、再会した斗貴子の眼中に、自分はいなかった。
砂浜で彼女が見据え、生死を共にすると誓ったのは、いずれ怪物へと変貌する敵。
ヴィクターIII。人間だった頃の名前は武藤カズキ。
彼の右手の傷口──岩を叩いた程度の軽微な──にその人はすぐ気付き、手当てを申し
出た。
斗貴子に右手を刺された自分が、すぐ傍にいるにも関わらず。

雨中での彷徨の末、剛太は遭ってはならぬ者たちと遭遇してしまった……
目の前にいた戦士は6人。

火渡赤馬。
根来忍。
円山円。
犬飼倫太郎。
戦部厳至。
毒島華花。

破綻しきった性格性質ゆえに奇兵と呼ばれる者たちだ。
火渡はヴィクターIIIに与する斗貴子を敵と見なした。
再殺部隊はみな、異を唱えなかった。
脅威を知り、なお脅威に与するのであれば敵。
無情なる断定と曲げがたき真実が彼らにあった。
進軍を許せば、斗貴子は粛清されるだろう。

氷雨の中、剛太は1つの言葉を胸に抱いていた。
それが導く結論は──…
485永遠の扉:2007/03/11(日) 23:48:40 ID:Uq9oH5EE0

映像はそこで途切れ、もやもやとした半覚醒の感覚に移り変わった。
頭が痛い。
目を開けるのも億劫だ。
体がじんわりと湿っているが、拭く気にはまだなれない。
(夢、か。ったく、あまり思い出したくねェのに……ところで俺、何してたんだっけ)
剛太はやっとの思いでぼんやり薄目を開けた。
視界もはっきりしない。
それは意識が判然とせぬゆえの、認識不足か。
ひとまず少しずつ伝わってくる感覚を元に、自分の状態を探ってみる。
仰向けに寝ているようだ。
背中や半そでからむき出しの肘が土に濡れ、体温が奪われつつある。
にも関わらず、頭の辺りはやけに暖かく、そして柔らかい。
だが剛太はそれを追求するどころではない。
嗅覚で外界の情報を得るのに忙しいのだ。
幸い、呼吸に支障はなく、新鮮な空気と共に草や木の匂いが流れ込んでくる。
(外、だよな。……アレ? なんでこんな所で寝てるんだ? 確か先輩とネコ型ホムンクルス
と戦ってて、それから、それから──…)
「あ゛───!!」
「ふぎゃ!!」
「痛っ!!」
跳ね起きた剛太は何か硬いものに額を打ち付けて、頭を元の位置に沈めた。
先ほどの、正体不明の「やけに暖かく」「そして柔らかい」場所へ。
「うぅ゛〜〜! や、やっとおきたと思ったら痛いじゃん!! 大丈夫そうなのはいいけどっ」
甘い匂いがした。頭の先では、大きなふくらみがぷるぷると揺れる気配がした。
で。
頭を打った衝撃が幸福方面に作用して、剛太をまっとうに再起動。
判断力が戻ってきた。
額を押さえて涙目の香美が、上下さかさで自分を覗き込んでいるのを見て、剛太は。
気付いた。
香美の太ももに頭を埋めて寝ていたと。
そして周りの風景から、ここが山だとも。
486永遠の扉:2007/03/11(日) 23:50:20 ID:Uq9oH5EE0
「う、うるせェ! というか何で膝枕してるんだッ!」
慌てて跳ね起きる距離を取り、踵を返し、戦闘体勢を整える。
(ちくしょう。俺のファースト膝枕は先輩だと決めていたのに!)
さらば俺のファースト膝枕。
剛太は血涙を流す心持ちでだばだば滝涙である。
(って、待て! 核鉄取られたりは──)
慌ただしくボディチェックを繰り返すと、ポケットに硬い手応えがあった。
引き出し、確認する。辺りは暗いが、仄かな月光で見えた。
LV(55)の核鉄。
支給されてそれほど間はないが、すっかり掌に馴染んだ核鉄だ。
(良かったぁ)
結び目を解かれて空気が抜ける風船のようにゆるりと剛太は笑った。
剛太にとってコレはようやく戦士になれたという証。一種の宝物なのだ。
そんな彼のささやかな喜悦を吹き飛ばすように、香美は叫ぶ。
「だってだってだって! あんた吹き飛ばされて頭うって仮ぎゃーしたのっ! 寝てなきゃ、
寝てなきゃ、危ないでしょーがああああ!!!」
のどちんこが見えるぐらい大口開けて、八重歯むき出しで香美は叫ぶ。
「るせぇ! いちいち叫ぶな!! てかなんだよ仮ぎゃーって!!」
「き、気ぜなんとか!」
「気絶か!」
「それ!」
もふもふしたネコハンドから爪をちょっぴり覗かせて、香美は剛太を指差した。
指先はかすかに震えている。
どうも落ち着きがない。
会話の合間合間に、辺りを怯えたようにきょろきょろ見回している。
「だ、だから起きるまで待ってたってワケ! 寝てる奴をいじめるのってやなの!」
「嘘つけ。お前ホムンクルスだろ。何か企んでるのに決まってる」
剛太がジト目で指摘すると、香美はびくりと瞳孔を見開いて、ネコ耳やしっぽをしゅんとさせた。
「……ぶ、ぶっちゃけるとさ、ね?」
「はぁ?」
487永遠の扉:2007/03/11(日) 23:52:18 ID:Uq9oH5EE0
「実はご主人も気絶中! 飛ばされてるさいちゅうにさ、ハイテンションワイヤーで手近な木に
ひっかけてにげよーとしたんだけど、暴発して、ご主人頭うって…… でさ、その…… あた
し……」
剛太は鬱陶しそうな目を香美に向けると、武装錬金を発動した。
(コイツが何考えてようが関係ねェ! さっさと倒して先輩と合流──…)
「暗いところがニガテなのっ! せまいところも高いところも、1人じゃダメなの──っ!!」
香美は怯えとやけの表情でやけに可愛く絶叫した。
シャギーの入ったツンツンセミロングが、声の反動で舞い上がるんじゃないかと思えるほどだ。
「はぁ!?」
剛太は思わずモーターギアを取り落とした。
人差し指を軸にぎゅるぎゅる回っていた戦輪が、地面でネズミ花火のように旋回する。
「な、何いってんだ!! お前、ネコ型ホムンクルスだろ!!」
ネコは暗いところとせまいところと高いところが大好きな生物である。
「ネコでもさっきいろいろあんのっっ! 暗いとこじゃ1人じゃやなの。だからあんたが起きる
まで待ってたってワケで…… う゛ぅ〜! あたし、あたし、どーすりゃいいかわかんないっ!
あんた倒さなきゃなんないけどさ、倒したらひとりで暗いとこ歩かなきゃなんないから、すごく
恐いの!!」
おかしなコトになってきた。

おかしなコトになってきた。
鳩尾無銘の一撃で飛ばされた千歳。
真暗(まっくら。真っ赤が真赤なので)な辺りを見渡し、ため息をついた。
(どうやらさっきの敵は、武装錬金に干渉する術を持っているようね)
ヘルメスドライブの画面には砂嵐。
青白い光で千歳の顔を闇に浮きぼるだけである。
(操作不能。しばらく瞬間移動は無理。とりあえずここがどこか調べておかないと……)
とりあえず軽く片足で地面を蹴ってみる。
カツッ、と硬い音がして、遠くに響いた。
(反響がある。そして空気も奇麗。というコトは廃墟ではない建物の中ね)
あいにくライトの持ち合わせておらず、遠くをはっきり視認できないが夜目を頼りに千歳は進む。
どうやら廊下らしい。
両側には等間隔で大きな扉がいくつか設置されている。
488永遠の扉:2007/03/11(日) 23:53:25 ID:Uq9oH5EE0
開けてみようと試みたが、施錠されており入れない。
ドアの上にはプレートがあるが、辺りの真暗(まっくら。しつこいようだが真っ赤が真赤なので!)
に呑まれているので分からない。
ためらう瞬間のようにその闇に呑まれてるので、自分の可能性を疑うより信じてみても、目
醒めてゆく未来の世界を諦めなくても、分からない。
ただその茫洋とした影が千歳の記憶に符合する。
(……? なんだか見覚えが。ひょっとしたら)
ヘルメスドライブは千歳の行ったコトのある場所へのみ瞬間移動を実行する。
ならば先ほどの強制転移も、見知った場所なのかも知れない。
ただ、と千歳はそうでない可能性も描く。
見覚えというのはあやふやなもので、旅先の路地とかで「近所に似てる!」と珍しがって写真
を撮り、帰郷後に見比べて「うわ。全然違う」とか笑うのも良くあるコト。
まして周りが暗ければなお当てにならない。
おばあちゃんが言っていた。
嫁と反物は明るいところで選べ。
光がなければ美醜などは分からない。
(それに、大手のショッピングセンターだったりしたら、必然的に内装が同じ。現に婦人警官
の制服を売ってるお店だって、東京と大阪でまったく同じだったから)
どうやら趣味で東京大阪を渡り歩いたらしい千歳は冷静に分析する。
引き合いがアレだが、表情は真剣そのものだ。
(でも、この匂い。もしかし)
もしかしたら。
思索半ばでヘルメスドライブの画面を見た千歳は。
気付いた。
砂嵐が掻き消え、別の映像が割り込むのを。
「はーるかとおくのぉー」
千歳の聞き覚えのある声ともに。
和太鼓みたいな紋様を刻んだ丸が回転しながら、画面の中心に移動した。
で、同じような丸が左上と右下に出た。
異常異質。本来ならば人と景色しか映らぬヘルメスドライブが別なモノを映している!
呆然とし、いい知れぬ悪寒に浸る千歳。
草原らしい景色が覗いている丸は回転しながら中心へ重なり、ズームイン。
489永遠の扉:2007/03/11(日) 23:56:01 ID:IUt9f4EY0
「ちへいせんからぁ〜♪」
すると草原を歩く1人の青年を引きで映した。鬼とかじゃなく、青年だ。
中肉中背、髪は短くやや童顔。どちらかといえば整っているが、美形というほどでもない。
彼はバストアップで移った。スーツ姿だ。
腰には太鼓と音叉をぶら下げている。
千歳は息を呑んだ。
「ひかりあふれて〜くるよぉに〜!」
青年は……画面に触れた!
本来、『対象を映す』だけのヘルメスドライブ。
だがまるで水槽の中で泳いでいるリュウキンやらランチュウやら黒デメキン2匹のように!
ヘルメスドライブの中にいるように!
青年は画面に触れたのだ!
手の平はガラスに押し付けられたように薄く黄ばんで、じきじきと幾何学的な雑音と波紋を
軽く撒き散らし!!
「きーみのみーらいはぁぁぁ〜♪ はじまったばかりぃー!」
影が猛然と画面を突き破り、千歳の頬を掠めた!
(そ、そんなコトがある筈……。だってあの時、確かに彼は死んだはず──…!)
「お久しぶりです」
影はそのまま天井に向かって逆さに立つと、
「ところで、以前お会いした時っていろいろ忙しかったですよね」
のんびりとした口調で千歳に話しかけた。
「忙しいって嫌じゃないですか? 俺は嫌ですね。すごく。他の人の惰性に飲まれてしまって、
大事なコトがちっとも伝えられない。部長を殺す前も色々ありましたし。おっとそうそう。本題」
なんといえばいいのか。
再殺部隊の制服の下で、恐ろしい汗が流れるのを感じた。
「名前って社会じゃ大事ですよね? 悪魔とかそーいう名前だと、面接の時に落とされて、
おもちゃ買うお金が稼げなくなる…… だから俺は偽名を名乗っていたんですよ。あの時
名乗ってた名前は、えぇと。えぇと。なんでしたっけ?」
千歳はやや掠れた声で、その名を告げた。
「そう。そうそれ。けれどありゃ偽名なんですよ。俺の本名は」
右手に真赤な筒を現出させると、青年は逆さづりのまま微笑しつつ
490永遠の扉:2007/03/11(日) 23:57:14 ID:IUt9f4EY0
「久世夜襲。姓が久世で名が夜襲。コウモリな俺にぴったりでしょ? 久世屋秀ってのは社会
生活を便利にするための偽名にすぎません」
人差し指と中指を立て、しゅっと息を吹いた。

千歳は今回の割符争奪戦に参加する前、別の地で根来ともども任務に就いていた。
その時倒したホムンクルスこそ。
いま目の前にいる久世屋秀こと、久世夜襲である。
「月並みな質問だけど」
顎を毅然と上に向け、千歳は夜襲を見据えた。
あくまで現状把握が第一。狼狽しては勝てる物も勝てないと踏んだのだろう。
「ハイハイ。ご疑問ももっとも。俺は確かに死にました。千歳さんには好感持っているので、
ちょっとだけヒントあげましょうか? 笑顔可愛かったですしね。で、ヒント。俺は、別に生き返
ったワケではありません。しかしこれ以上は企業秘密。ま、死んで退職してますけど」
ボトボトと床に真赤な筒を落としながら、夜襲は楽しそうだ。
「ふー。この感触。やっぱおもちゃはいいですね。手からダイレクトに抽出できるのがもう」
(百雷銃の武装錬金・トイズフェスティバル……核鉄がないのにどうして……?)
「ふっふっふ。といっても再生怪人は弱いのがお約束ですがね。まったくどう思われます。
俺はおもちゃが好きなんです。あと、何か抽出するのかとね。人間っぽい奴じゃないですか。
ならモグラ獣人とかみたいにヒーロー側についたっていいというのに、再生怪人に甘んじてます。
だいたい、俺は奇麗に散ったんですよ? ならそこで終わっておけばいいって話ですよ。で
も再登場。はぁ。これも惰性ですかね。死してなお惰性に縛られるってちょっと癪ですが……
諸事情により逆らえませんので、行きますよ!」
真赤な(誤変換で真っ赤にしたらどうしよう……)筒がヘビのように連結し、千歳に躍りかかった!
491スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/03/11(日) 23:58:25 ID:IUt9f4EY0
ジョジョを読んで考えるに、新能力を見せる時に必要なのはインパクト。
そー思ったので、自分でも意外な展開にしてみました。
あぁ。二度と日の目が見れないと思ってた名前と形態が描けて楽しい。
で、キャラ紹介に続き、ビジュアルをば。
ttp://ranobe.com/up/src/up178941.jpg
画面左から1番目 上から 浜崎、佐藤、鈴木震洋※1
画面左から2番目 若宮千里、河合沙織
画面左から4番目 ムーンフェイス、蝶野爆爵(Dr.バタフライ)
画面左から5番目 早坂秋水、早坂桜花、書記※2

※1 逆向凱はこれのメガネなしverです。体を乗っ取ってますので。
※2 小札のビジュアルイメージとなっております。
このコにシルクハットとつけてタキシード着せて、小柄にしたら小札です。

>>434さん
変換は「こふだ」ですよw 鳩尾だって「みぞおち」ですし。総角だけです。辞書登録してるの。
斗貴子さんは暴れている方が実に楽しい。カズキは偉い。こんな人を抑えていたとは。
殺しまくりーの嬲りまくりーの、ブチ撒けまくりーのの斗貴子さんも魅力的ですけどねw

>>435さん
戦闘編はあらかじめ用意してたネタを徹底投入しますよ!
しかし戦闘になるとまひろの出る幕がまるでないw 秋水も。
仮にも主人公な彼なのに、本筋への影響力がないというのが……彼らしい。

>>436さん
上記の通りです。意識したワケではなく、「ぱっ」と浮かんだのを採用したら上記の書記さん
だったという。総角は比古師匠と相楽総三足したような感じ。鳩尾は柘植の飛猿! 巨椀燃えなんです。

>>437さん
はい。途中でそう決めちゃったので、ネゴロ前半読むとちょっと矛盾ありますがw
492スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/03/12(月) 00:00:48 ID:DphEyWFt0
>>439さん
この割合が最終的に2対1.5になるかも…… 立っていると言って頂けると嬉しいです。
やっぱオリキャラは扱いが恐いものでして…… 香美は剛太と絡むと予想以上に楽しいですがw
なお、人物紹介は展開に応じて徐々に変えてきます。なにせまだまだキャラ設定はあるのです。

ふら〜りさん
>修羅と鬼女の刻
義貞さん、頭のネジが飛んでるアホもといナイスガイじゃないですかw
修羅の刻の武蔵編だけ拝読しましたが、大和も陸奥の一族だなーと。腕っ節だけじゃないの
が良いです。そしていよいよ終盤、でしょうか? それとも舞台を移し一騎打ち? 

対照的な千歳と斗貴子。この2人の関係も描き甲斐がありそうです。
戦闘で組んだら無敵かも。ヘルメスドライブで2人ワープ → バルスカで不意打ち が出来ますから。
ともかく結論としては、冷静の奥に秘めた女性らしさは良い! 家事得意ってのがまた! >千歳

>銀杏丸さん
100年前は現時点ではまったく分かってないので、想像しがいがありますよねw
あのロシア人というのはムーンですよね! とすればヴィクターと敵対するのかも。
日露戦争好きとしてはウラジオストクにニヤリと。ここに艦隊逃げ込ませないために日本海海戦が(ry

ネタかぶりは大丈夫。お気になさらず! 話の原則性をつきつめていけば、けっして全く同じにならないと
いうのが持論なので! より永遠の扉にナイズドして作劇的エネルギーをしなる定規のように内包した
話をただただ自分は描くのみであります。ただ/zで100年前の話だけは勘弁! 総ての序章が破綻してしまう……
493作者の都合により名無しです:2007/03/12(月) 00:18:46 ID:/r/gzTZ30
>ハロイ氏
お久しぶりです。ユーゴーとセピアの絡みがどうなるか楽しみです
正月の鬼ペースとまでは行かないにしろ、ちょくちょく楽しませて下さい

>スターダスト氏
香美も小札にまけず劣らず良いキャラですな。剛太の戸惑いもわかる
千歳は前作から活躍してますが、今回もクールビューティな感じですなあ

494作者の都合により名無しです:2007/03/12(月) 00:49:52 ID:os4OygxJO
>>452さん
どうもです。
覗かせて頂きます!
495作者の都合により名無しです:2007/03/12(月) 01:22:36 ID:bPTISkPG0
>ハロイさん
復活おめです。
原作の隙間を上手く縫っていくような感覚がとてもいいですね。
凄く楽しみにしているので最後までいけることを願ってます。

>スターダストさん
久世屋秀と久世夜襲の言葉遊びが好きです。
そういえばネーミング規則に乗ってなかったっぽいですからね。
ところでふと思いついたのですが、ちから=パワーですけど深読みでしょうか?
496作者の都合により名無しです:2007/03/12(月) 10:12:05 ID:83ZSGBfU0
新人さんも着たしハロイさんは戻ってきたし
スターダストさんは好調だし。
半年は大丈夫だねバキスレ。

・ナルト作者さん
ナルトに付き物の暗い過去ですがw文章化されると
内面がより書けてぞくぞくしますね。完結目差して頑張って下さい

・ハロイさん
これでほぼオールキャスト出揃ったのかな?
ユーゴーはテレパシストだから、内面の葛藤が激しそうだなあ。

・スターダストさん
剛太と香美の戦闘中とは思えないやり取りが面白いですね
小札ってこういうビジュアルだったのか。言動から幼女をイメージしてたw
497ヴィクティム・レッド:2007/03/12(月) 11:26:53 ID:VOomuzi+0

 医療セクションに到達したキース・シルバーは、頭上から降り注ぐけたたましいアラートを聞いた。
「ふん、やっと発令したか……」
 腕時計をちらと見、自分がその命令を下してからのタイムラグに軽い不満を覚える。
エグリゴリの危機管理体制について若干の修正が必要かもしれない、と。
 だがそれも全てが終わってからの話であり、今はその元凶を取り除くことが最優先だ。
 そう判断したシルバーは思考を打ち切ってさらに歩みを早めた。
『アラート42。アラート42。現在、当施設内において深刻なサイコハザードが発生しています。
危険レベル3。現時刻より、当施設に第三次警報が発令されます。
職員は所定のマニュアルに従って各自避難してください。ルートは19、103、330を推奨。
これより210秒後に施設内の全隔壁を封鎖、ロックコードをシャッフルします。
災害発生源は動性のため、接近遭遇は可能な限り回避してください。
発生源は人間。外見的特徴、ヨーロピアン系の少年。金髪、碧眼、身長5フィート2/8、やや痩躯。グリーンの検査衣を着用。
被験者名──』

『──クリフ・ギルバート』
「ああ、これだよ」
 スピーカーから流れる無機質な声に耳を傾けていたレッドは、その声に少年の方を見た。
「……なんだと?」
 聞くまでもなかった。この警告が伝える『動性発生源』の特徴は、今目の前にいる少年と完璧に合致していた。
「だから、これが僕の名前さ」
 少年──クリフ・ギルバートはいともあっさりと言った。
それはまるで銀行窓口の順番待ちをしている主婦が「あら、わたしの番だわ」とでも言うような気安さで。
「そう言えば、僕は君の名前を知らないね。教えてくれないか?」
「……キース・レッド」
「そうか、じゃあレッド。早く僕を妹のところに案内してくれないか?」
 耳を劈くような警報が鳴り響くなか、クリフのまとう雰囲気が、とてつもなく凶暴なものへと変化していた。
逆らえば殺す、そういった感じの有無を言わせぬ殺気が彼の身体全体から発散されていた。
 だが、天邪鬼なレッドにとってそれはまったくの逆効果であり、口の端を歪めて吐き捨てる。
「『やっぱ気が変わった』って言ったらどうする気だ?」
498ヴィクティム・レッド:2007/03/12(月) 11:27:54 ID:VOomuzi+0
 その言葉にクリフは目を丸くし、そして、
「へえ……」
 これ以上ないくらいに晴れやかに、にっこりと笑った。
 次の瞬間には不可視の圧力が怒涛のようにレッドを襲い、気味の悪い音を立てて両腕があらぬ方向へ捻じ曲がった。
「がっ……!」
 思わず膝を落としたレッドの頭上から、家臣に下知を垂れる王者のように傲慢な声が降ってくる。
「いけないなあ……そんなわがままを言うもんじゃないよ。
一度案内してくれると言ったものを、そんな簡単に引っくり返すなんて不親切が過ぎるんじゃないかい? え?」
「てめえ……サイコキノか……」
「そんなことはどうでもいいだろう? 君は僕を案内してくれればそれでいいんだ。そうすれば命だけは助けてあげるよ」
 だらりと垂れ下がったレッドの腕を見下ろしながら、どこか嬉しそうにクリフがうそぶく。
 己の力を他者に見せつけるのが、たまらなく楽しいとでも言いたげであった。
 腕を苛む激痛に耐え、脂汗をだらだら流しながらも、レッドはやっとのことで言葉を搾り出す。
「──なよ」
「え? なんだって?」
「ふざけんなよ、バァカ」
「おいおい、それはないだろう」
 今度は背中から強大な圧力を加えられ、地面に押しつぶされる。床に亀裂が蜘蛛の巣のように走った。
 彼の念動力は圧倒的だった。この空間全てが彼の暴力的な意思に満たされていた。
 その気になれば、きっと目に見える範囲全てを吹き飛ばすこともできるだろう。
 レッドはその力の差を感じながらも、その一方で、彼の態度に激しい嫌悪感を抱いていた。
 その嫌な感じは、誰かに似ているような気がした。
「がっかりだよ。君も他の大人たちのように、上っ面でしか物事を見てくれないのかい?
あんなチャチな放送一つで、妹に会いたいという僕の気持ちを踏みにじるのかい?
なあ、僕はなにかおかしいことを言っているかな」
「ズレてるよな……てめえはよ」
「なんだって?」
 不思議そうに聞き返すクリフの表情が、さぁっと蒼ざめる。
499ヴィクティム・レッド:2007/03/12(月) 11:28:49 ID:VOomuzi+0
「お、お前……僕の力に……」
 レッドは立ち上がろうとしていた。
 今この空間を支配するクリフの意志に逆らい、他者を抑圧する残酷な力を捻じ曲げ、己の意志を貫こうとしていた。
「倒れろよ!」
 クリフの収斂された意識が叩きつけられ、今度こそレッドの全身が致命的なまでに捻り曲げられる。
 だが、それ以上の復元力でもってレッドの骨格が、筋肉が、元の姿を取り戻そうとしていた。
 今さらながらクリフは気が付く。
 レッドの顔面、体表面に、奇怪な幾何学的紋様が浮かび上がっていることを。
 彼の体組織が、人間のそれとは思えない奇妙な感触のものに変質していることを。
「てめえ、よ──」
 あえぎ、レッドがつぶやく。
「人にモノを頼むのにその態度はないんじゃねーのか?」
 クリフの視界が怒りで真っ赤に染まる。
「ふざっ、けるなぁ!」

 なんの前触れもなく発令されたアラートに、セピアは驚いてスピーカーを見上げた。
 ARMS『モックタートル』を発動させ、周囲を警戒する。
 そこにはなんの異常も──いや。
 今まで感じたことのない異様なエネルギーを、ここから直線距離でわずか数十メートルの位置で検出した。
 何枚も壁を隔てた向こうのことなので、その詳細は把握できない。
「きゃ……」
 セピアは強烈なARMS共振波をその肌に感じる。誰かが、いや、まず間違いなくレッドが、ARMSを戦闘状態で解放したのだ。
 体中を駆け巡る、びりびりとくる振動に耐え切れず、セピアは床にへたり込む。
 こっちのARMSの状態を制御して共振を押さえ込むが、まだむずがゆい感じが身体の表面を這いずり回っていた。
「なんなのよ、もう……」
 さっきからやかましい放送と併せて考えるに、レッドは今その『発生源』とやらと戦っているのだろう。
 レッドの元に駆けつけることを即座に思いつくが、それより先にこの子を非難させなければ──と思い直し、
「とにかく、どこか安全な場所まで避難しましょう……ってユーゴー? どうしたの!?」
 セピアのすぐ横で、ユーゴー・ギルバートも同じように床にうずくまっていた。
 だがそれはセピアのそれとは比べ物にならないくらいに深刻そうなもので、頭を抱えてがたがたと震えていた。
500ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/03/12(月) 11:54:31 ID:VOomuzi+0
書いては消し、消しては書いての変なループにはまってしまい、結局二ヶ月以上も放置してしまいました。面目ない。
つってもここ一ヶ月はなにも思いつかないで諦めてたのですが、
ふと立ち寄ったジョジョスレでSS書いてみたら意外とキーパンチが軽かったので、
「このテンションならいける!」と今度はそっち放り投げてこっちに戻ってきた次第です。
なんか我ながら不安定ですが、自分なりのペースでゆっくりと進めたいです。

>スターダスト氏
剛太がなんか可愛くて羨ましくて妬ましいです。ネコミミに膝枕とかもう……。

>銀杏丸氏
愛憎入り混じった話は大好きです。
そーか、俺のヴィクトリアたんをホムンクルスにしたのはこいつですか。けしからんですね。
俺は匹夫の勇、というか馬鹿丸出しの英雄とかは好きです。

>狂った世界で
ナルトっすね。文章が上手いなあと思いました。
大蛇丸の元に走った主人公の今後が気になります。素晴らしいツカミです。
501ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/03/12(月) 12:09:42 ID:VOomuzi+0
>ふら〜り氏
読んでいて色々勉強になります。
こういう重厚な書き方は真似できそうにない……真似したいですけど。
最近の大和が可愛くてしょうがないです。


えー、と。
前スレで「ママ・マリアは出ないのか?」と質問された方がいましたが、彼女は登場させる予定です。
それまで続けばの話ですが。無責任。

クリフ&ユーゴーはここだけのゲストキャラです。
ちゃんと書ききれるか心配ですが。
なんつーかこう、レギュラー的に登場するのはキースシリーズとドクター・ティリングハーストくらいなもので、
出来るだけ色んなキャラの前日談を書いてみたいと思ってます。
502作者の都合により名無しです:2007/03/12(月) 16:15:50 ID:7FxEhsAP0
ハロイさんは書き始めるとペースがすごいなあw
たとえゲストキャラでもクリフとユーゴーが出たのは嬉しい
ママ・マリアとバイオレット姉さんの対面は楽しみだな
503作者の都合により名無しです:2007/03/12(月) 17:11:39 ID:VOomuzi+0
近づくサイレンの音はどんどん大きくなり、わたしたちの背後で何台も車の止まる気配がしました。
それと同時に、周りから「警察が来た」とかそういったささやきが聞こえてきました。
「来るな警察!! このガキがどうなってもいいのかッッ!!」
さらに興奮を増した男によって見境なく振り回される包丁が、二度三度と赤ん坊の衣服を掠め、
「やめてください!」
閉まりきる直前の自動ドアから飛び出してきた女の人が、男の足元にすがりつきました。
「その子は私の子供です! 私が人質になりますから、その子は放してください!」
ですが、警察の登場で前後を失ったのか、それともすでに「アッパー系でドンキメ」だから正常な判断力が失われているのか、
「じゃあテメーから死ねよぉぉぉッッ!!」
男は包丁を振り上げ、
「警察だ! そこを通してくれッ!」
赤ん坊が火のついたように泣き叫び、
「なにをする気!? やめなさい、静・ジョースター!」
刃の切っ先がきらめき、
野次馬がどよめき、そして──。
わたしは男の背後に立っていました。男から奪った包丁をその手に持って。
「お、お前……なんだあ……?」
男は驚いたように、わたしと、わたしの手の中の包丁を見比べていました。
どうしてここまでの接近を許したのか、いつ包丁を取り上げられたのか、まるで分かっていないようでした。
ここにいる誰の目にも、わたしがなにかをしたのかは分からなかったでしょう。
実のところ、大したことはしていません。ただ男に駆け寄って、その手から包丁を奪い取っただけです。
……『アクトン・ベイビー』によって自分の姿を透明化しながら、ですが。
504作者の都合により名無しです:2007/03/12(月) 17:13:36 ID:VOomuzi+0
誤爆orz
505作者の都合により名無しです:2007/03/12(月) 17:22:44 ID:7FxEhsAP0
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart47【創作】

元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1168683721/
まとめサイト  (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ (ゴート氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss
506作者の都合により名無しです:2007/03/12(月) 17:23:32 ID:7FxEhsAP0
オムニバスSSの広場 (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/bare/16.htm
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm
聖少女風流記 (ハイデッカ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/seisyoujyo/01.htm
鬼と人とのワルツ 下・よつばと虎眼流 (鬼平氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/waltz/01.htm
Der Freischuts〜狩人達の宴〜 (ハシ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/hasi/03-01.htm
戦闘神話 (銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm
フルメタル・ウルフズ! (名無し氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/fullmetal/01.htm
永遠の扉 (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm
WHEN THE MAN COMES AROUND (さい氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/105.html
507作者の都合により名無しです:2007/03/12(月) 17:25:58 ID:7FxEhsAP0
508作者の都合により名無しです:2007/03/12(月) 17:29:17 ID:7FxEhsAP0
今回は今年、まだ連絡のない方についてテンプレより外しました。
復帰を心からお待ちしております。
(バレさんは一月初めにサイト更新していたのでギリギリ残しました。
 復帰もしくはご連絡を心から待ってます)
ミドリさん、しぇきさん、17さん、一真さん、そしてサナダムシさん。
復帰とご連絡をお待ちしております・・。

ゴートさんお疲れ様です。助かりました。
でも、妙にアドレスながいのが2つw

立てれるなら次スレ立ててみます。
509作者の都合により名無しです:2007/03/12(月) 17:35:40 ID:7FxEhsAP0
510ヴィクティム・レッド:2007/03/13(火) 01:26:51 ID:Bwb449pn0
「くそ……なんで死なないんだ、レッド」
 レッドは超能力者ではない。なので、サイコキネシスを振るうことが術者にとってどれほどの負担になるか想像もつかない。
 だが素人目にもクリフは疲弊しきっていた。汗をだらだら流し、息は荒く、こめかみがぴくぴくとチック症を引き起こしていた。
 わずか数分の戦闘ですら、彼の意識に多大な精神的負荷を及ぼすらしい。
 限界が近い。小刻みに動き回って攻撃を避け続ながらそう判断したレッドは、
勝負を決めるべく両腕の刃に振動波を流し込んだ。
 先のクラーク・ノイマン少佐との死闘で獲得した、分子結合を破壊するバイブレーションであった。
 果たして、がくりとクリフの身体が崩れ、周囲に渦巻いていたサイコキネシスが消失する。
「もらった!」
 交差する両腕をスライドさせながらクリフに飛び掛り、その時、
「ユーゴー……」
 虚脱状態にあるクリフがつぶやく。
 その一言はどんな念動力よりも強くレッドを揺さ振った。
 「人の心が分からないんですか」とレッドに言った少女、
 「わたしはレッドを理解しようとしている」と寂しそうにつぶやくセピア、
 寄り添って泣く二人。
 そんな意味のない光景がレッドの脳裏に蘇り、その切っ先が鈍る。
 ──それが正しかったのか、間違っていたのか、それは誰に分からないだろう。
 だが、その鈍った一瞬こそは、両者にとって取り返しのつかない時間だった。
 クリフの内部から、強大な力が突如として爆発的に膨れ上がる。
 床を叩き割り、壁に穴を開け、周囲のありとあらゆるものを飲み込んで肥大してゆく。
 その奔流に為すすべなく吹き飛ばされながら、レッドは己の思い違いに気づく。
 限界が近い。
 そう、それは間違っていない。
 だがその限界とはあくまで「能力を制御できる限界」であり、その一線を見失ってしまったクリフ・ギルバートは、
ひたすらに破壊を振りまくだけの、暴走する怪物と成り果てたのだ。
 それはさながら、知性も気高さもなく、妄念のみでこの世の暗黒から這い出る──魔王のように。
511作者の都合により名無しです:2007/03/13(火) 21:11:59 ID:U9hB7aue0
これ誤爆?w
512作者の都合により名無しです:2007/03/14(水) 20:49:47 ID:vcWNqwck0
支援
513作者の都合により名無しです:2007/03/14(水) 21:04:52 ID:vcWNqwck0
ハロイさんどうしたんだろ?
規制?
514作者の都合により名無しです:2007/03/15(木) 13:48:53 ID:x2iAJ6JF0
なんとなく保守
515作者の都合により名無しです:2007/03/21(水) 22:52:18 ID:bNeJspYz0
保守
516作者の都合により名無しです:2007/03/23(金) 00:17:55 ID:LLxVG98N0
支援
517作者の都合により名無しです:2007/03/23(金) 23:14:11 ID:LLxVG98N0
支援
518作者の都合により名無しです:2007/03/23(金) 23:14:59 ID:LLxVG98N0
支援
519作者の都合により名無しです:2007/03/24(土) 03:41:13 ID:zPcVBKyj0
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【2次】漫画SS総合スレへようこそpart47【創作】
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1173688295/
520作者の都合により名無しです:2007/03/25(日) 15:39:54 ID:5ml1gH1a0
ごめんなさいorz
リロード忘れてました
521作者の都合により名無しです:2007/03/25(日) 15:56:50 ID:FTIGdGLwO
支援
522作者の都合により名無しです
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