【2次】漫画SS総合スレへようこそpart45【創作】 テス
ばしっ、と平手が頬を叩く音が、実験室に響いた。 「この出来損ないが! こんな簡単なテストもクリアできないのか?」 叩かれた少年は腫れた顔を片手で抑え、眼前に立つ研究員を睨んでいた。 「なんだ、その目は!」 「……なら、お前がやれよ。簡単なテストなんだろ」 そう言うと、研究員はさらに激昂して少年を殴る。 「モルモットが口答えをするな! 私を馬鹿にしているのか!?」 今度は平手ではなく拳だった。少年の唇が裂け、一筋の血が流れる。 「まったく……同じ兄妹でも妹は偉い違いだな。やはりクズはクズか」 研究員は忌々しげに吐き捨てると、白衣の襟を正して威厳を整え、少年を省みることなく実験室を出て行った。 「ぐ、ぐうう……」 一人残された少年の瞳から涙が溢れ、それは顎を伝って床にぽたぽた落ちる。 「殺してやる……いつかみんな殺してやる……!」 長く伸ばされた金髪をぐしゃぐしゃと掻き毟りながら、少年はいつまでも熱い涙を流していた。 「さて、キース・レッドよ。検査の結果が出たぞ。お前のARMSナノマシン分布域は──」 「なあ、ドクター・ティリングハースト。そーゆー些細な話は後で聞くからよ、要点だけ教えてくれ」 遮るように手をひらひら振るレッドに、ドクターは眉をひそめた。 「些細? これが些細な話かね? では聞こう。お前にとっての要点とはなんだ?」 「オレの『グリフォン』はいつになったら最終形態になるんだ?」 「……やれやれ。キースどもはそういうことしか頭にないのかね? いいか、レッド。『グリフォン』は急速に成長しておる。お前の望むように最終形態を発現させる日も遠くないじゃろう。 だがな、その急成長に肉体が追いついておらんのじゃ。お前の身体はARMSに蝕まれている、という表現もできる。 命を削ってまで力を手に入れたいのかね? 飽くなき戦闘の果てに、お前はなにを見ているのだ?」 「んなこた知ったこっちゃねーよ。オレは『使えるやつ』だってことを他のやつらに見せつけ続けなきゃいけねーんだ。 そして、オレがたった一人の、誰にも代わりができないキース・レッドだってことを教えてやるんだよ」 「愚かじゃの、レッド。己の価値を求める一方で、その価値を自ら減じておる。これほど不毛なことはないぞ」 ドクターは首を振り、レッドの肩に手を置いた。それはどこか手馴れた仕草だった。 まるで以前にも、こうして誰かの勝気を諌めたことのあるような、それはそういう仕草だった。
「ちっ。説教かよ。たまんねえよな」 レッドは苛立たしげにドクターの手を振り払う。ドクターはそんなことは気にする素振りもなく、じっとレッドの瞳を覗き込んでいた。 その心を見透かすような視線に苦々しく顔をしかめていたレッドは、ふと、 「……あー、ドクター。あのよ──」 「レッドー! お話終わった?」 いきなり医務室に飛び込んできたセピアに背中からタックルをかまされ、レッドは言いかけていた言葉を飲み込んだ。 「痛えな、なにしやがる!」 レッドの抗議を無視し、セピアはドクターに手を挙げて挨拶をした。 「ハロー、ドクター。ご機嫌いかがですか?」 「ああ、見ての通りじゃよ。身体の調子はどうかね?」 「はい、元気です。お薬が良く効いているみたいです。それにわたしのナナノノちゃんも頑張ってるみたいで」 「ナナノノ?」 レッドがその疑問符を投げかけると、セピアは首だけこちらへ向けて答えた。 「ナノマシンよう」 「馬鹿じゃねーのか、あんた」 「ふ、女の子らしいではないか。お前もあまり無理をしてはいけないぞ、セピア」 「それはレッドに言ってくださいよ。わたしの上官なんですから。ね?」 どこかいたずらっぽい声音で告げるセピアへ、ドクターは真面目くさって頷く。 「なるほど。理に適っておる」 「おいおい、ドクター。こいつのたわごとを──」 「レッド。お前に与えられた任務のことは耳にしておるぞ。お前にはセピアの体調を管理する義務がある。そうだな」 その言い方は卑怯だ、と思ったが、なにも言い返せなった。代わりに、最近ではすっかり馴染んだ台詞を口の端に乗せる。 「勘弁してくれよ……」 それからさらにあーでもないこーでもないと益体もない話を絶え間なくしゃべっていたセピアは、話の最後に、 この医療セクションを探検してくる、と言い残して慌しく医務室から出て行った。 嵐の過ぎ去った部屋の中で、レッドは半ば脱力したように天井を見上げていた。
どうも自分とセピアの間には埋めがたい溝がある気がしてならない。 それは別にいい。その程度の溝なんて自分の人生には幾らでもある。 ありすぎてまともに歩けないような現状、今さらその溝が一つ増えたところでどうと言うこともない。 ただ、不可解なのは、セピアのほうはそうした認識に乏しいのか、やたらと無防備に接近してくることである。 バイオレットは彼女を「警戒心が強い」と評していたが、それは間違いなんじゃないか、と思う。 「それで、なんの話だね?」 レッドのあまり生産的でない思考は、ドクター・ティングハーストの声で破られた。 「……なにがだよ」 ドクターはカルテになにかを書き込みながら、目を上げずに重ねて問う。 「先ほど、なにかを言いかけたな?」 「あ、ああ──なにを言うつもりだったかとっくに忘れちまったよ」 肩をすくめかけたレッドは、思い出したように身を乗り出した。 「いや待て。それとは別の話だが……セピアをなんとかしてくれ」 「なんとか? なんとかとはどういうことだね、レッド」 「あいつ、オレのアパートメントに本格的に定住するつもりだ。 日に日に訳のわからん小物や衣服が増えていっている。昨日は得体の知れない料理を食べさせられた」 「ふん、お前にとって良い傾向だと思うがね。キースシリーズは総じて他者とのコミュニケーション能力に欠けるきらいがある。 その中で、セピアのように他人を思いやれる才能は稀だ。お前が彼女から学ぶことはなにもないのか?」 「……は、馬鹿言ってんじゃねーよ。あいつが人の気持ちを思いやれるって? オレの意思を無視して私生活を踏みにじってるのはどこのどいつだよ」 ドクターは書く手を止め、レッドを見た。まるで本当に分かっていないのか、とでも問いたげに。 そして、およそ関係のないことを話題に上らせた。 「セピアのARMS『モックタートル』について、お前はどれほど把握している?」 「あ? ああ……皮膚に分布するナノマシンによる超感覚と、体表面から発する微弱な生体パルスを併用したアクティブサーチ、 それから『ニーベンルンゲの指輪』──他者のARMS能力を強化させる、いわばアクセラレイターARMS、だろ」 「なるほど。だが、それは正答ではない。それだけでは答の半分ほどにしか到達しておらん」 「なんだと? なら百パーセントの答ってのは、なんだよ」
「それは──」 ドクターが言いかけたその時、医務室のドアが激しい勢いで開け放たれた。 「ドクター・ティリングハースト! 大変です!」 レッドの顔が露骨に不機嫌になる。 困惑と苛立ちの混じったなんとも言い難いその表情をレッドに作らせる相手など、そうはいない──セピアであった。 「迷子を見つけました!」 なぜか嬉しそうに顔を紅潮させるセピアは、彼女よりもさらに幼い少女と手をつないでいた。 透き通るようなブロンドを長く伸ばし、子供らしい麻葱色の衣装に身を包んだその少女は、愛くるしい顔を曇らせてセピアに寄り添っていた。 「ほう……」 ドクターが感心したようにつぶやく。レッドはなんとはなしにその少女を観察してみた。 利発そうな顔立ちだが、なにかに怯えているようにその視線は足元に固定されていた。 なにをそんなに怖がっているのか、と不審に感じるくらいの落ち着きのなさである。 レッドにとっては、数多ある嫌いなものの内の一つに入る、そういう態度の持ち主であった。 (なんだ、この根性無さそうなガキは) すると、少女はさらに身を縮こませてセピアの影に隠れるようにする。 「もー、ダメだよレッド。この子を怖がらせたら」 「オレはなにもしてねえし、なにも言ってねーよ」 しかしまあ、少女に対して抱いていた悪感情が雰囲気として漏れていたのかもしれない。 こんな子供相手に苛立つのも自分の余裕の無さを示すようで嫌なので、レッドは努めて気持ちを和らげようとした。 そうしたレッドの努力の成果か、少女はおずおずとセピアから離れ、レッドやドクターを含めた医務室の中を見渡した。 「さ、もう大丈夫よ。こっちの目つきの悪いお兄ちゃん、見た目ほど怖い人じゃないからね」 「うん──」 「で、どうしたんだ、それ」 レッドが少女を顎で示すと、 「だから迷子だってば」 「そもそも、なんでこんなガキがこんなところにいるんだよ」 その疑問にはドクターが答えた。 「なに、驚くには及ばないだろう。エグリゴリの研究対象にはこうした子供も多く含まれておる。 お前たちのようなARMS適性者や、チャペルの子供達、それにこの子のような遺伝子強化者。 ……ふん、ぞっとしない話じゃの」
「あの、わたし、お薬、もらいにきたんです。……わたしのじゃなくて、兄さんのお薬、です」 それははっきりとした声だった。とても綺麗に澄み切った、天使の歌声のようなソプラノだった。 その細い顔からこうも華やかな声がでるんだな、とレッドは少し感心した。 「兄さん、最近、お熱が続くみたいで」 「それならお前たちの主治医に頼んだほうが良かろう。なぜそうしないんだね?」 少女は言いよどみ、それでも誰かに聞いてほしかったのか、言葉少なに語った。 「……周りの大人の人たち、兄さんに冷たくて。兄さんのことを役立たずとか不良品とか、そう思ってるんです。 みんな、わたしには優しいのに、でも兄さんにだけ辛く当たってて……熱が下がらなくて兄さんとても苦しそうなのに、 ……う、うう……ぐすっ」 次第に声の湿り始めた少女を、慌ててセピアが慰める。 「そんな悲しい顔しないで。天使みたいなお顔が台無しよ。ね? 事情はなんか良く分からないけど、そのうちきっと上手くいくわ。あなたも、あなたのお兄ちゃんも幸せになれる」 「……ほんとう?」 「ええ、本当」 (んなわけねーだろ。こいつの兄貴がどこの実験体だか知らねーが、 エグリゴリで『失敗作』の烙印を押されたやつが、どうやったら幸せになれるんだっつーの) 内心でそう嘆息したレッドは、つい言葉を漏らしてしまう。 「無責任なことを言うよな」 それは聞こえるか聞こえないかのほんの小さな声だったのだが、それを耳ざとく捉えたのか少女は火のついたように泣き出した。 「ちょっと、レッド!」 本気で目を怒らせているセピアは、少女の肩を抱いて優しく何度も頭を撫でさする。 「大丈夫、大丈夫よ……なにも心配いらないわ……」 わけも無く後ろめたさを感じているレッドの背後で、ドクターがぼそりとつぶやいた。 「あの二人をどう思うかね、レッド。ああしたことがどういった感情から来ているのかを、お前は正確に理解しているかね? お前は自分本位すぎる。己の言動のほとんどが、お前にとって都合のいいように組み立てられたものだということを自覚しているか?」 「ふざけんな。あんなの、ただの傷の舐めあいじゃねーか」 レッドは投げやりに答える。だが、その目は、二人の寄り添う少女に未だ注がれていた。
「う、うう……」 目の前に並べられた数枚のカードを前に、少年はうめき声を上げていた。 (この熱さえ引けば……) そう念じながらカードを凝視する。 「どうした。早くシーケンスを進めろ。カードとにらめっこをすることしか能が無いのか?」 研究員の罵声に歯を食いしばり、少年は再びカードに意識を集中させた。彼らのニーズに応えるために。 カードの表面は白紙である。裏側にはそれぞれ違う図形がプリントされているのだが、 カードを裏返すことなくその図形を当てて見せろ、というのが彼らのニーズであり、少年自身も求めてやまない自己の存在理由だった。 (この熱さえ引けば……) 再び、そう思った。しかしそれでカードが透ける道理もない。 熱とか体調とは関係なしに、少年のごくごく正常な知覚能力は白い面のみを少年に見せるだけである。 自分にはカードを見通すことはできない。それは理解しているのだが、それでもその努力を諦めることはできなかった。 それを諦めることは、少年にとって死を意味するからだ。 物心ついた時からエグリゴリという檻に閉じ込められていた少年にとって、これより他に生きる場所はなかった。 「さあ、早くやれ」 少年がいくら発熱を訴えても、彼らは一顧だにしない。むしろ実験をサボる口実としてでっち上げたのだと詰問されたほどである。 「う、うう……」 高熱でおぼろげな思考の中、少年は自分の妹のことを考えた。 妹は、少年にとって地獄そのものでしかないこの環境でも、破格の厚遇を受けている。お姫様か天使様のような扱いだ。 それは、自分とは違って妹は研究員たちのニーズに完璧に応えているからである。 その妹の存在は少年にとってたった一つの救いだった。 この残酷な世界の中で、互いに助け合うことを誓った唯一の肉親。 妹が自分のような酷い扱いを受けていないことに関してだけは、この研究員たちに感謝しても良かった。 だが、それよりも激しい憎悪が少年の心を満たしていた。 自分を物のように扱い、人間としての価値を認めない者たちに。 「伏せたカードの絵柄が分からない」という、およそ馬鹿げた理由のために、自分はこんな環境に置かれている。 それどころか──。 「どうした、早くしろ。お前のような無能をいつまでも飼っているほど、エグリゴリは優しくない。妹と永遠に引き離されたいか?」
(──殺してやる) 発作的に膨れ上がった少年の怒りは、その呪詛を吐き出した。 (殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる──) 少年は心から願う。だが、どれだけ念じたところで誰も死にはしないし、少年が救われることもない。 「さっさとしろ!」 痺れを切らした研究者が少年の頬を叩く。 (僕に力があれば──それもゼナーカードを読むだけのような、なんの役にも立たない力じゃなく、もっと──) 数日前から続く原因不明の高熱のせいで身体を震わせながら、少年はカードに視線を注いだ。 ひときわ大きな音を立て、テーブルがひっくり返された。 長きに渡って染み付いた暴力への恐れから、少年は反射的に頭をかばった。その頭上から、ぱらぱらと数枚のカードが降る。 「なんだ、この的中率の低さは!」 少年の視界は歪んでいた。 せめて熱が下がれば──せめてこのカードが分かれば──せめて妹と一緒にいられたら──せめて力があれば。 「お前の成果が上がらないと、こっちの査定にまで響くんだぞ! このゼナーカードすら読めない無能力者め!」 力が欲しい……自分を認めくれるような力が……こいつらを皆殺しにできるような力が……。 がんがんと頭痛がした。喉が渇いていた。目がひりひりした。自分の身体が自分のものでないような違和感があった。 「なんだその目は……お前たちはここでは人間ではない」 (神様、僕に力をください……この世界をめちゃくちゃにしてしまうような、悪魔の王様のような力を……) 「『ヴィクティム』だ!」 その瞬間、少年の心の内でなにかが破裂した。 世界のすべてが根底からひっくり返されるような、圧倒的な感覚の反転が少年の内部を蹂躙し、 ……そして目の前が真っ赤に染まった。
その異常事態に最初に気がついたのは、そのセクションを担当している警備兵だった。 廊下の歩哨に立っていた彼は。どん、という不審音を聞きつける。 「なんだ?」 彼はその音がした部屋のドアを開け、絶句した。 「こ、これは……?」 まるで高所から突き落とされたように、一人の人間の身体が壁に──広がっていた。 視線を転じると、床には潰れたトマトを連想させる無残な死骸が転がっている。 部屋のあらゆる調度品は奇妙に捻じ曲がり、もはや家具としての体を成していなかった。 その圧倒的ともいえる破壊の限りが尽くされた部屋の中央に、直立する人影があった。 そいつに声をかけようとして、警備兵は絶句する。 そいつは宙に浮いていた。まるでなにかに押し上げられているように、なにもない空間に静止していた。 彼はこのセクションの部門がなんであったかを即座に思い出し、目の前の凄惨な光景と即座に結び付けて考えた。 「これは……お前がやったのか?」 その声に、そいつはゆっくりと振り向いた。 その幼い顔には、悪魔のように吊り上った酷薄そうな笑みが張り付いていた。 「お前が彼らを殺したのか? そうなのか?」 ごくり、と知らず唾を飲む。 「──クリフ・ギルバート」 それが彼の最後の言葉だった。 目に見えぬ不可思議な力によって、彼の頭部は一瞬にして吹き飛ばされた。 「……そうさ。僕が殺したんだ。そう、殺した……僕が! 僕が僕が僕が! この力で殺した!」 そいつ──後に『魔王』と綽名される少年、クリフ・ギルバートは血に汚れた頬をぬぐい、満足そうにつぶやいた。 もう、熱はない。涙はない。 代わりに力があった。憎悪があった。 憎しみだけで人を殺す力が。念じるだけで破壊を呼ぶ力が。 ずっと求めてやまなかった、世界を、人類を超越する力が。 第七話『超』 了
俺が泡食ってるその僅かな間にアク禁解除されたようです。 ので、自分で改めて書き込みました。どうもお騒がせしました。 つーわけで残しておいた感想を書きます。 >>サマサ氏 物凄いクロスオーバー作品ですね。 一読して度肝を抜かれました。俺の情報処理能力だと絶対無理スwww五秒で話が破綻します。 USDマンとバカ王子は好きなのでそれが見れただけでも大満足です。 これだけあるのかと、その文章量にまた度肝を抜かれました(二個の度肝を失った計算)。 これだけの大長編でクォリティ維持してるって常人の所業とは思えません。 とりあえず最初から読みます。かなり大変そうですが。 >>銀杏丸氏 繰り返される旋律のような文体にうっとりしました。 こういうゴシックな雰囲気の内容とマッチしてると思います。 アーカードの異形の存在感がくっきりはっきり浮かび上がってると思いました。 情景が目に浮かぶようです。 >>さい氏 これもカッコ良すぎwww 硬質な感じの男の美学っつーかなんつーんですか、まあそーゆー雰囲気です。 興奮してるんでイミフですが、つまり酔いました。素敵すぎ。 どれだけ狂ってようが、揺るがない信念の持ち主は、読んでて気持ちいいです。
380 :
永遠の扉 :2007/01/10(水) 00:42:18 ID:Dp1HRaS50
彼は駅らしい場所に到着した。 「むーん。絶景、だね」 広々とした地下空間におどけた声が響く。 発したのは、三日月の輪郭を持つ燕尾服の男。 形相はぶきみとしかいいようがない。 鉤状に鋭く裂けた口は常に笑っているが、丸い瞳は盲(めし)いたように白く、感情が見えない。 名をムーンフェイス。 かつて防人と死闘を演じた末に拘束されていた、元L・X・Eの幹部だ。 彼の前には数人の黒い影と、巨大な列車の影。 「そういえばお礼がまだだったね。助けてくれてありがとう。おかげで晴れて自由の身」 柔らかい物腰だがどこかに嘲りを含んだ声で、ムーンフェイスは握手を求める。 だが黒い影たちは応じない。無言のまま列車へ歩いていく。 「おやおや、なんともつれない人たちだね。そうだ。じゃあ1つ面白い話でも」 ムーンフェイスは指パッチンをすると、尖ったアゴに人差し指を当てた。 「さっきキミたちがさらった照星君。彼は10年前、部隊を率いてかなり大きな共同体を殲滅 していたそうだよ。まったくヒドい話だね。生き残りがいれば復讐の機会を伺っているかも。 いや、ひょっとしたらもう動き出しているのかも。そう」 歯がクジラヒゲのように合わさり、ニマリと笑った。 「まるでキミたちのようにね」 明るいが場違いな笑顔。影たちに微妙な振動が走った。 「確か相当強い連中で戦団も倒すのに難儀したって話だから、生き残りがいたら大変だね。 しかもその盟主というのが驚くコトに100年前──…」 「事情に通じてらっしゃるのはステキですけど」 言葉半ばのムーンフェイスを、銅色に輝く拳が横なぎに襲った。 「無駄口は早死にの元ですわよ。ところでお1ついかが?」 振るったのは影の中でもそれと分かる艶かしいラインの女性。 「ワタクシの『ハズオブラブ』(愛のためいき)。先ほどの殺戮からまだ冷めてませんから、痛々 しいほど硬く尖っててエロティックな刺激がありますわよ」 髪を立巻きロールにして、片手に何かの腕を持っているのがシルエットの中でも見えた。 「せっかくだけど遠慮しとくよ。ところで何か分からないけど気に触ったようだね。失礼」 「分かればよろしい」 腕が消えるとその手に核鉄が現われ、入れ替わるように前方の影が1つ消えた。
381 :
永遠の扉 :2007/01/10(水) 00:43:20 ID:Dp1HRaS50
「あぁんもう。戦士の方々思ったより少なすぎ。まだまだちっともワタクシ、満たされてませんの。 なのにこんな地下で仲間割れもどきなんて……浅ましくて余計に興奮しちゃ、あ、あぁ。早く お花をつみがてらこの疼きをこねくりまわないと、ダメぇ……耐えられない」 唇に手を当てて切なそうに喘ぐ影に、ムーンフェイスの笑いが少し固まった。 「……むーん。以後気をつけるよ」 「そうして頂けるとありがたい。そして君も淑女であるなら慎みたまえグレイジング」 こちらは中肉中背、髪も短めと無特徴なシルエット。 だが声には宝塚女優のようなハリがある。 「そー問われれば否ですわよ。ワタクシは淑女気取りじゃありませんから。むしろ娼婦である べきですの。あ、あん。娼婦! 何て甘やかな響きでしょう。想起するのは蜜溢れる花園。 週刊実話に連載されてる官能小説。そして名前はグレイ”ズィ”ング! ジではなく殿方に甘 い吐息を吹きかけて淫らに蕩けた夢世界に叩き落とすようにィィ〜〜! グ レ イ ズ ィ ン グ ! ……って発音なさって下さらないコト? まったくウィル様、日本語ばかり使われるから英語 の発音をお忘れ気味ですわね」 ウィルと呼ばれた影は軽くこめかみを抑えてムーンフェイスだけに話をふる。 「所詮一時的な協力関係。無用な詮索はなるべく控えて頂きたい」 「もちろん! 何たってキミはあのバスターバロンすら一撃で無効化したからね。逆らおうな んてとてもとても。ところで照星君はどこにいるのかな? さっきから全然姿が見えないけど」 詮索無用といわれてすぐこの対応。 ウィルはかすかに気色ばみ、そして瞑目した。 「では、ご覧にいれましょうか。ボクの『インフィニティホープ』、ノゾミのなくならない世界と共に」 突如として大蛇のような巨大な影が空間をガラスのようにブチ破り、ムーンフェイスを襲った。 「止まれ」 ウィルの指示で肩口スレスレで止まったそれは低く唸ると、割れた空間に引き戻る。 そこでは水銀に輝くブ厚い扉が開いており、中には照星の姿が見えた。 神父風の彼はアザと血に塗れてピクリとも動かない。 胸のかすかな動きで息があるコトだけが辛うじて分かった。 「こりゃビックリ」 感想をもらすムーンフェイスはどこかわざとらしい。
382 :
永遠の扉 :2007/01/10(水) 00:45:22 ID:Dp1HRaS50
「失礼。少々気性の荒い者が同席していましてね。坂口照星は殺さないよう命じてありますが、 それ以外には容赦がなく見物に骨が折れる状態。先に断っておくべきでしたね。申し訳あり ません。深くお詫びいたします。戦士を2、3殺したので落ち着いているかと、つい」 実に丁寧な口調ではあるが、それだけの理知を持つ者ならば予め危険を知らせるコトもでき ただろう。 「危害を加えるコト自体は禁止してないようだね。なんとも冷酷な人たち。むーん」 ドアが閉じると、何かが破滅的に暴れまわる音がしばらく地下に響いた。 「ところで私は銀成市にちょっとした用事があるけれど、送ってもらえるかな?」 慇懃無礼な対応を無視した上で、自らの希望だけを述べる。実に食えない男だ。 ウィルは無言のままで首肯し、列車を指差した。 「装甲列車(アーマードトレイン)の武装錬金・スーパーエクスプレス」」 暗がりでは分からないが、通常の列車に装甲を追加した厚ぼったいフォルムだ。 「通称、『レティクル座行き超特急』。こちらで送迎や増援の派遣を務めます。けれども」 「もちろん、口外はしないよ。キミたちの計画が頓挫してしまうからね」 「ふふん。どこぞの弱小共同体じゃありませんし。コレの情報くらい良くってよ」 水と油のように紙一重で折り合わない微妙な気配を漂わせつつ、3人は列車に乗り込んだ。 「この世で愛されなかった人たちだけが、レティクル座行きの列車に乗れるの。レティクル座 の入り口ではジムモリソンがわたしたちの為に、水晶の舟を歌って、歓迎してくれるの」 列車の運転席でアナウンスをするのはオーバーニーソックスの少女。 その膝小僧は薔薇のように赤黒い。 「なぁ無銘よ。子犬という奴は可愛いな。俺は好きだ。連れて帰れば小札も喜ぶ」 火渡たちから少し離れた森の中で、総角はチワワを抱いていた。 おそらく先ほど犬飼が間違って呼び寄せた野良犬だろう。 「我の好みに合わず」 「堅物だな。ま、そんなお前だからこそ重大な任務を1人で任せられる。小札や香美、貴信は どうも危なっかしい。俺か鐶(たまき)が手綱を引かねばどうにもならん。……おお。よしよし」 頭をなでられたチワワがしっぽをちぎれんばかりに振って、鼻面を総角の顔に当てようともがく。 「我、如何ともしがたく」 無銘は何故か深いため息をついた。
383 :
永遠の扉 :2007/01/10(水) 00:46:19 ID:Dp1HRaS50
「フ。気にするな。ところで鐶から聞いたが、坂口照星がさらわれたらしいな」 「奴らを追跡中に現場に到着。そこで遭遇せし者も同様のコトを発言。数は5名」 「ほう。災難だったな。まぁ、お前の武装錬金が真の特性を発揮すれば、一個小隊相手でも 負けはしないがな。しかし」 総角主税。やや小難しい顔である。 「奴らを追っていたお前が、坂口照星の誘拐現場に出たというコトはだ」 「もはや犯人は確定」 「この辺りを見てみたが、バスターバロンが暴れた形跡はない。一撃で斃されたか、もしくは 発動直後に無効化されたかだな。となると相手は恐らく、太陽か水星」 さて、と総角は火渡らのいる方向を見て頷いた。 「今度は戦団の連中が奴らを追う番だ。つまり無銘、お前の追跡は」 「期せずして戦団が引き継ぐ形」 「そしてその動向ならば、鐶を通して知るコトができる。要するに間接的に奴らの行方を追え るという訳だ。よって無銘。追跡任務は一時中断としよう」 「されば我は如何様に?」 巨躯を誇る無銘だが、指令を仰ぐ姿勢は子犬のように無垢である。 「我はな」 総角はからかうように笑った。 「まずこの前渡した割符を懐にしまっておけ。以前にもいったと思うが」 「その点は抜かりなく」 小さな金属片を懐から抜き出すと、無銘は再びしまった。 「よし。細かいコトだが後で役立つだろう。それでだな」 総角はチワワに頬をなめられながら、話を続ける。 「お前は銀成市へ帰還だ。戦士がもう1名来るようだからな、こちらも増員する必要がある」 いうが早いか、総角は子犬を持ったまま190cmはあろうかという無銘に肩を持つよう促した。 そして認識票を一撫で。 「出でよ! レーダーの武装錬金・ヘルメスドライブ!」 六角形のレーダーを展開するなりペンを走らせ瞬間移動。移動は素早く(WA5風)、である。(WA5風に) ただしヘルメスドライブの特性と、現在移動した者の質量を合わせて考えると齟齬が生じる。 男子2名と子犬1匹。本来ならば──…
384 :
永遠の扉 :2007/01/10(水) 00:47:02 ID:Dp1HRaS50
銀成市駅前。すっかり夜となったが人通りは多い。 「長旅お疲れさま。本当は私が送れたら良かったんだけど」 瞬間移動を能力の一つに持つ千歳は、無表情ながらに嘆息した。 移動させられるのは質量にして最大100kg。47kgの彼女が運べるのは53kgまで。 目の前の少年と、戦団が保有する彼のデータをつきあわせて (10kgオーバーね)と嘆息した。 どこにでもいそうなはねつきショートヘアーだが、沈静な美貌の人だ。 加えて長身で華奢、着ている緑色のサマーセーターは着やせをかなりしている膨らみの下で すっぱりと布地を途絶えさえ、ほっそりとしたウェストと哺乳類なればほとんど持っているであ ろう「へそ」を外気に晒している。 もはや夏にも終わりが見えたというのに、非常に開放的かつ大胆なファッション!! 道行く人が千歳を可視範囲に収めた瞬間、わずかに歩を緩めわずかに見とれるのも無理 なからぬコト。 「大丈夫ですよ。1時間ぐらいでしたし。だいたいこないだまでやってた逃避行に比べたら」 千歳の前に佇む少年は、やけにヘラっとした笑顔で応答した。 秋水ほどではないが、なかなか端正な顔立ちだ。 ただし若干垂れ目がちで、短くもボリュームのある薄茶色の髪を四方八方にツンツン尖らせ ていたり、派手なアロハシャツを着込んでいる所が頂けない。 全体的に軽薄な印象があり、事実、浮かべる表情もどこか重みがない。 常に表情を崩さず、言動にも事務員的冷静さが漂っている千歳とは対照的だ。 蛇足になるが、少年曰くの「こないだまでやってた逃避行」では、千歳は彼を追う立場に属し ていたので、彼の返答は皮肉に聞こえないコトもない。 もっとも千歳はそこに噛み付く女性ではないし、彼も少しデリカシーに欠けているだけだ。 「とりあえず寄宿舎まで案内するわね。詳しい話はそこで」 「ハイ」 傍らの荷物を軽快な動作で拾い上げ、彼──中村剛太は千歳の後を歩き始めた。 ただし道中。 (先輩、寝込んでいなければいいけど) ずっと頭の中を心配事で埋め尽くしていたので、駅から寄宿舎への道を覚えられなかった。 そして、12月半ばに再度銀成市を訪れた時には、道を尋ねるハメになる。
投下数が少ないのは、アームロックを掛けられたせい……ではなく、年末に風邪引いて遅
れてた分を前回で取り戻せたからです。
しかし遠慮すると見せかけて容赦のない攻撃。見事……だ。(ガク)
(ムクリ)そりゃ本当ははっちゃけたい。ええ。あそこでノれば奇麗に落ちてすごく楽しい気分で
寝れたのでしょう。しかし他の方も来られる以上自分の勝手を通すワケにもいかず、相手の方の
諸事情を鑑みればこっちでさらりと返すしかなく、これも内輪ネタでやばめという。
むーん。社会とのふれあいって難しい。
文中の「愛のためいき」「ノゾミのなくならない世界」「レティクル座行き超特急」は筋少の歌です。
ジムモリソンのくだりとか赤黒い膝小僧も「レティクル〜」の歌詞です。
……分かる人いないかも。
そしてグレイズィングは555の「EGO 〜eyes glazing over」、ウィルはハガレン4thED「I will」より。
無銘は555の「The people with no name」。いずれも藤林聖子さん作詞の曲から。
>>348 さん
あ、それも捨て難い。戦団最強の攻撃力vs30体増殖。どっちが勝つのでしょうか。
もうすぐアニメでどういう倒され方をしたのか見れそうで楽しみ。
漠然とですがムーンの相手も決めてます。SSじゃないとできない戦い方で。
>>349 さん
ははは。恐ろしいコトにまだ4〜5人ほど未出です。ほら、パピヨンも未登場ですし。
でも当面の展開に必要なキャラは出揃ったのでご期待下さい。更に実のところ、るろうにで
いうなら御庭番衆編でひょっとこが出てくる辺り。長くなりそうなので、今後は飛ばしていきます。
>>350 さん
ありがとうございます。あ、忍六具は忍者の必需品らしいです。
物の本によると、編笠に矢を仕込んだり手拭で水をろ過したりと中々便利。
久世屋の武装錬金でボツった奴が3つあるのですが、うち1つを転用してみました。
あと1つは今回で登場済み。もう1つはいずれ。
後半はきっと苛烈で一心不乱な大戦争。まひろがそこにどう関係するかで、秋水の立ち位置
も変わるので慎重に討議中です。
>>351 さん
序盤の中盤ってところでしょうか。るろうにだと(略 小札は……んー。まぁ色々。色々、と。
ふら〜りさん
まさか一気に戦へ入るとは。そんな中でも正成の堅物ぶりと大和のムードメーカーぶりが丹
念に描かれていてお見事。ストーリーテリング、本当お上手ですなぁ……
で、次回に来るのはまさか煮えたぎるアレ? ネゴロ連載当初にさらっと仰って自分を震撼させたアレ?
>本作のバトルは高速攻防の中で互いに罠を仕掛けあってるのが面白い。
ありがとうございます。久世家戦の反省から「バトルはなるべく中だるみなくテンポよく」をモッ
トーにしている自分には最高の褒め言葉です! そしてこれからは正に「敵を知り己を知れば」
力量のみならず事前知識も勝負を分ける要素になります。勝負は運でなく「勝つべくして勝つ」でないと。
ハロイさん(はじめまして!)
>ヴィクティム・レッド
ARMSといえば、「運命に抗う」「進化」という2つのテーマ。本作でもそれは健在ですね。同時
にレッドの苦悩やセピアとの絆を描いた青春活劇なのもツボです。そしてエグリゴリの面々の
登場にはニヤっと。彼らも一種の主役ですから。しかしまさかクリフがここで来るとは。
おお。秋水ファンだったとは。彼、色々のびしろはあったのに使われないまま終わったので、
こちらでは大活躍させますよ。毒島もいいですよね。原作の挙動を中身ありきで想像すると
違った趣が。ギャグも楽しんで頂けたようで幸いですw デビルマンは歌詞を冷静に考えると面白いですね。
犬が西向きゃ〜はダルタニアスですな。懐かしや。
>ハロイさん(アク禁大変ですね) 「ヴィクテム」というのが物語の重要キーワードになっていたんですね。 しかし、この頃のレッドは最終形態に希望を持ってたのか。ナイトに惨殺されたけどw >スターダストさん ムーンフェイスが原作どおりの人を食った態度でうれしいです。 しかし、序盤の中盤ですか!今年いっぱい連載決定ですね。うれしいです。 オールキャストが揃ったら、一度人物紹介と各錬金のまとめをお願いできませんか?
389 :
作者の都合により名無しです :2007/01/10(水) 18:53:24 ID:5AXkyrVy0
・ふらーりさん ふらーりさんが意外と物をしってそうで驚いた ふらーりさんが書くと陸奥も可愛くなりますな ・ハロイさん 結構ハードな展開だから余計にセピアが可愛らしい クリフが出るという事はユーゴーやキャロルも出るのかな? ・スターダストさん 個人的に一番錬金で一番好きな男キャラの剛太が出て嬉しい オリジナル錬金たち、本家より強そうですな
>ヴィクテムレッド アームズはSSし易いようでとてもしにくい作品という気がする あの物語ってスキが無さそうだし。セピアいいキャラですね オリジナルアームズたちが出ないのは残念ですけど、期待してます >永遠の扉 この剛太は時系列的に、まだトキコを完全に諦め切れていない時かな? 原作キャラもほぼ全部(肝心のカズキがいないけど)出て、 強そうな敵たちも現れて、これでまだ序盤の中盤?ラスボスは誰だろ。
――錬金戦団大英帝国支部 大戦士長執務室 防人は立ち尽くしていた。 自分一人が大戦士長の執務室に呼び出された事に。 いくら打ち解けて話が出来たとはいえ、目の前にいる人物は言わば“雲の上の人間”だ。 自分の所属している日本の戦団のトップである亜細亜方面大戦士長にも、防人はまだ会った事が無い。 また昨日あれだけの連帯感の無さをさらけ出しただけに、何とも言いようの無い緊張感が生まれる。 「何の御用でしょうか、ウィンストン大戦士長」 「別に用って用は無えよ。出発前に少し話でもしようかと思ってな。まあ、座れよ」 とても大幹部には見えないこのくだけた人物は、引っ切り無しに煙草の煙を吐きながら着座を勧める。 特に不機嫌そうな訳でもなく、初対面の時の気安さはそのままだ。 「はあ……。失礼します」 防人はおずおずとウィンストンと向かい合うようにソファに座る。 ウィンストンはくわえていた煙草を指に挟むと、防人を見据えて口火を切った。 「マシューの事だが……悪く思うな、とは言わねえ。昨日のアレはアイツの言い過ぎだ」 防人の顔が曇る。 ウィンストンの手前、防人は必死に感情を抑制しようとした。 だが、自分を、そして仲間を全否定されたあの物言いを到底許す気にはなれない。 後年の彼は、ホムンクルス・ムーンフェイスによる部下の殺害にも、武藤カズキの再殺指令にも “私”の感情を押し殺し、“公”を貫くまでに成長する。 しかし、如何せん今の彼は若すぎる。 「気にしていない、とは俺も言いません。俺だけじゃない。火渡や千歳も……」 視線を落とし、暗い声で言い放つ。膝の上のその拳は、怒りに強く握られていた。 ウィンストンはフーッと溜息と共に大きく煙草の煙を吐き出した。 「すまねえな……。アイツは昔からプライドが高くて自己中なとこはあったが、あんな奴じゃなかった……」 意外な話に顔を上げる防人の真向かいで、ウィンストンが短くなった煙草を灰皿に押し付ける。 吸殻から立ち上る細い煙が、ウィンストンの話す息遣いで大きく揺れ散った。
「訓練生時代も、新米時代も、それにお互い戦士長になってからもアイツと俺はいい仲間同士だったし、 親友同士だったよ。俺が無茶をする、アイツがそれを止めるって感じでな。ずっと、それが続くと思ってた……。 けど、戦団上層ぶのご老人方に見込まれて奴らと繋がるようになってから、アイツは変わっちまった……。 今じゃアイツが何を考えてるのか、何をやってるのか、俺ァ半分もわからねえ。 形式上は俺の直属の部下だが、ほとんど俺の手を離れてご老人方の為に働いてるのさ……」 話しながらも防人から微妙に眼を逸らすウィンストン。 組織を統べる立場にいる者が口にすべき事ではないと、充分に自覚しているからであろう。 「しかし……。大戦士長はウィンストン大戦士長です」 若い防人はウィンストンの心の機微には気づかず、自分の思ったままを言葉にする。 ややおかしな言い回しではあるが。 だが、ウィンストンの顔に浮かぶのは自嘲の笑みだ。 「“ただの”大戦士長さ。所詮、俺は“戦闘部門”のトップよ。使えるマシューは“政治”の場へ、 老頭児(ロートル)の言う事を聞かねえ俺は“政治”とは無関係な兵隊の親玉に、ってワケさ。 現場に飛び込めないようにクソ会議とクソ机とクソ書類でがんじがらめにした親玉にな。 お前さんも使わない物は高いとこへ置いとくだろ?」 「そんな……」 二人を包む空間に沈黙の帳が降りる。 実際は普段のお気楽さと程遠い暗い世界に囲まれているウィンストンと、若さに似合わぬ傷を抱えた防人。 外からどう見えようが、男は上着を一枚捲れば、内に着ているものは案外と汚れや綻びだらけなものなのだ。 「……すまんな、愚痴を並べちまって。本来、お前さんにゃ関係無い話なのにな。まあ……。忘れてくれ」 また少しの沈黙を挟み、幾分遠慮がちにウィンストンが話し始めた。 「それと……ジュードをよろしく頼む」 最初は誰の事を言っているのかわからなかったが、すぐに思い当たった。 子供扱いのその呼び方に頬を膨らませるあの坊やだ。 「ああ、ジュリアンの事ですね」
「ハハッ、そうだ。俺はあの坊やが三つ四つの小便垂れだった頃から面倒を見てきたんだ。 まあ、よくある話だ。ホムンクルスに家族を皆殺しにされて身寄りが無いアイツを、俺が拾ったのさ。 それから、アイツは戦団の施設に預けられたが、まるで弟のように思えてな。 特別、可愛がったよ。それに、アイツはこんな俺でも憧れてくれてな――」 『僕、大きくなったらジョンみたいな錬金の戦士になるよ!』 「――ってよく騒いでたっけ……」 先程とは違う、優しさに溢れた笑顔を浮かべるウィンストン。その脳裏には、幼い頃のジュリアンが 浮かび上がっているのだろう。 防人にも、無邪気な少年とそれを愛おしげに見守る青年の姿が、容易に想像できた。 郷愁を誘う微笑ましい光景だ。 そして、それと同時に少し驚いてもいた。 ジュリアンの生い立ちと、彼のウィンストンとの関係性が、自分の身にも覚えのあるものであったからだ。 約一ヶ月ほど前。ホムンクルスの共同体(コミューン)の潜入捜査の為に向かった赤銅島。 捜査中に知り合った数々の人間。大人とも子供とも笑顔を交し合った。 そして、任務の失敗。島民は一人残らず犠牲となった。 三人が流した涙。だが、地獄の中で見つけたたったひとつの奇跡。 あの、唯一救い出す事の出来た幼い命、津村斗貴子はこれからどんな未来を歩むのだろう。 自分もウィンストンのように、その成長をつぶさに見守る事になるのだろうか。 それとも……。 ウィンストンは視線をテーブルの辺りに定めて思い出話を続ける。まるで欧州方面大戦士長としての タガが外れたように。 「だが、訓練所の教官はアイツに戦士の素質は無いと判断した。まあ、俺が贔屓目に見ても、 確かにアイツは戦士に向いてなかったけどよ」 「俺の見てないとこじゃ随分と落ち込んでたらしい。けど、情報部門のエージェントになった時ァ、 眩しいくらいの笑顔で俺の前に挨拶に来たっけなあ……」
「戦士だろうがエージェントだろうが、戦団の為に働く事に変わりはないと自分に言い聞かせたんだろうな。 それから今まで、お世辞にも優秀とは言えないが、アイツは誰よりも任務に対しては一生懸命さ……」 「そんなアイツだから今回の任務には大喜びしてたよ。憧れの“錬金の戦士”と同じ任務に就ける、ってな。 だが……――」 ウィンストンの眼に暗さと厳しさが戻ってきた。 「――今回の任務は危険が大きい。ホムンクルスを操ってるのは、目的達成の為なら手段を選ばす、 テメエの命をクソ程にも思わねえテロリスト(ガイキチ)共だ。それに……。 “あの”アンデルセンの影がチラついてるとなりゃあ、尚更ただのエージェントのジュードにゃ荷が重過ぎる……。 命令を撤回する事も出来るが、それをやっちゃあ他の連中に示しがつかねえし、第一アイツのやる気に 水をさしちまうしな……」 そしてウィンストンの視線が防人の目を捉える。 「だからよ……。アイツの事を、よろしく頼む……」 そして、膝に手を突き、深々と頭を下げた。 日本の風習をよく知る西欧人であるウィンストンの、最大限の礼の示し方である。 「だ、大戦士長!」 世界中のどんな軍事組織にもこんな光景はありえないだろう。 軍を統べる元帥が一兵卒に頭を下げて頼み事をしているのだから。 「すまねえ……。俺は大戦士長失格だな。自分の悩みをブチ撒けるわ、直属の部下を信用しねえわ、 身内は特別扱いするわ。ハハッ……」 先程の優しい笑顔は鳴りを潜め、またもやウィンストンの顔に自嘲的な笑みが戻ってきていた。 防人は器用な人間ではない。 お世辞や誤魔化しの言葉は得意ではないし、好きではない。 だからこそ、自分が思ったままを口にするしかない。 それが果たして我々が見るに正しいのか、間違っているのかは別にして。 「いえ……。大戦士長は素晴らしい方です。俺は、そう思います」
前後編の予定でしたが前中後編になってしまいました。 今日はちょっとこの辺で。 レスへのお返事も次回にさせて頂きます。
396 :
作者の都合により名無しです :2007/01/11(木) 09:33:10 ID:bmAodLgo0
さいさん乙です サイトではスランプに陥ってなかなか書けないとありましたけど 大戦士長たちのやりとりは素敵だと思います このパートは物語内の、独立した1エピソードという捉え方でいいのかな?
このSSは神父や火渡の狂いっぷりが目立つけど、 こういう心理描写や静かな情景描写もいい感じだね ガイキチだらけの戦場、期待してますぜ
「状況は?」 「PSIラボは完全封鎖しました。ですが、目標は各ブロックの障壁を破壊しながら進行中です。 ラボに隣接する医療セクションを目指している模様」 廊下を早足で歩いていたキース・シルバーは立ち止まった。リノリウムの床を叩く軍靴の音が消える。 「医療セクション? なぜだ?」 「さあ、それは──」 「ふん、まあいい。そのセクションにもアラート42をレベル3で発令しろ。急げよ」 「イエス、サー・シルバー」 再び歩みを始めたシルバーの目が、わずかに細められる。 「ふ……まさか『アラート42』とはな」 最先端かつ非人道的なテクノロジーを多く扱うエグリゴリにおいて、それらが引き起こす危機的状況を想定して、 ケースごとの様々な対応策が用意されている。 それは、ウィルス流出などを意味する『微生物学的災害(バイオハザード)』や ARMSの暴走災害を示す『微金属粒子の異常増殖(ナノハザード)』のように比較的頻発しやすいリスクから、 『宇宙空間における航空機の非衝突性圧壊』など、どういう状況を想定しているのかよく分からないものまで多岐に渡っている。 その中の『アラート42』はこれまで一度も発令されたことの無い、いわゆる『処女アラート』だった。 しかし、それもたった今破られた。 クリフ・ギルバートという一人の少年のために。 「アラート42……『超心理学的アプローチによる人為的災害(サイコハザード)』、か」 シルバーは面白そうにつぶやき、左腕に眠るARMS『マッドハッター』を解放させた。 ぱきぱきと鉱物が触れ合うような音とともに、シルバーの左腕が形を変えていく。 「さて、その悪魔のごときサイコキネシス……とくと味あわせてもらおうか」 シルバーの攻撃的な性格を象徴するように鋭角的なフォルムのARMSは、その拳が振り下ろされるときを待っていた。
それよりわずかに数分前、アラート42が発令される直前の医療セクションを、 その静謐な空間とは少し場違いと思われる三人の子供が歩いていた。 一人は少年と青年の中間くらいの、どこか癇の強そうな少年だった。 「待てよ、おい」 もう一人はまだ幼さをわずかに残した少女で、本来なら整っているであろう顔立ちは、 ぷっとむくれた頬のせいで、この上ない不機嫌さを周囲に発していた。 その少女と手をつないでいるのはさらに幼い、少女というよりは女の子という表現が似つかわしい、 どこか憂いを帯びた表情の子供で、険悪そうなムードの少年と少女を交互に見比べていた。 「わたしは『おい』とかそういう名前じゃありません」 「セピア」 「はい、なんでしょうか、サー・レッド」 「なんだよ、その棘のある言い草は」 「あら、失礼しました。親愛なるレッドお兄様のご機嫌を損ねたこと、心から陳謝いたしますわ」 「なにがそんなに気に食わないんだ」 セピアと呼ばれた少女はぴたりと足を止め、背後からついてくる少年を振り返った。 つん、と突き出された下唇は、自分が不機嫌だということをどうしても相手に伝えなければならいとでもいうかのように、 そのレッドへと真っ直ぐ向いていた。 「『なにがそんなに気に食わないんだ』? なにが、ですって? 呆れた、本当に分からないのかしら、キース・レッド?」 「……分かんねーな」 「それ、嘘」 「なんだと?」 「レッドは分かってないんじゃない、分かろうとしないだけ。この子の気持ち、分かろうともしていない」 「他人の思考なんて分かるわけねーんだから、しょうがないだろ」 顔を真っ赤に染めて、過剰なアクションでレッドに指を突きつけた。 「ただ努力を放棄してるだけじゃない! そういうことを少しも考えていない! 心とか気持ちをこれっぽちも大事に思ってない! 『どうやったらもっと強くなれるか』、『明日目が覚めたら、昨日よりもマシな自分になっているか』、エトセトラエトセトラ! あなたの頭の中はそんなことばっかり! ホントにホントにほんっっとぉっにっ、馬っ鹿じゃないのっ!?」 一息もつかずに言い終えたセピアは、はあはあと息を荒げ、それでも言い足りないのか恨めしそうにレッドを睨んでいた。 「それのなにが悪いんだよ」
「悪いとは言わないよ、でも、もっと……」 「もっと?」 セピアは靴の先に視線を落としてから、湿った上目遣いでレッドを見やった。 「わたしはレッドのことを理解しようとしている」 (だからなんだっつーんだよ……オレにはそーゆーの分からないんだって) 返すべき言葉を知らず、レッドは苦々しく横を向く。 セピアもこれ以上重ねる言葉を持たないのか、黙ってレッドを見上げていた。 「ほんとうに、分からないんですか?」 頭上を飛び交う二人の会話をずっと聞いていた少女が、不意に口を利いた。 「あなたには、ほんとうに、人の心が分からないんですか」 短いシラブルに込められた、その剥き出しともいえる苛烈な意味に、レッドは内心どきりとした。 それきり、少女もまた沈黙に戻る。ゆっくりとレッドから視線を外し、目を伏せた。 これ以上の問答はもはや不要だとても言うように。 「……とにかく、わたしのこの子のお兄ちゃんの薬の都合をつけてもらってくるから、レッドはドクターのところで待っててよ」 「あ、ああ」 少女の言葉によってなんとなく毒気を抜かれたレッドは、やはりどこか戸惑うなセピアの声に、曖昧に頷いた。 「ごめんね、じゃ、行こっか」 「うん」 二人の背中をぽつねんと見送り、その姿が見えなくなってから、やっとレッドは盛大に溜息をついた。 その三人から百メートルも離れていない地点。 「なんだ? この怪我人たちは?」 「隣のPSIラボで事故が起こったんですって」 「ふーん、医療セクションの隣で事故とは、運が良いやら悪いやら。とにかく収容する場所を確保しようか」 「はい」 などとどこか暢気に、続々と運ばれてくる負傷者の受け入れ態勢を取る医療スタッフたちは、自分たちにまもなく降り注ぐ 破滅的な災害を知る由も無かった。 その『隣』から、災害の発生源そのものが現在進行形で接近中であることを。 ……なんの前触れも無く、ぴし、と壁に亀裂が走った。
まとまった時間がなかなか取れないので、ぶつ切りで投下します。(書き溜めてからまとめて、のほうがいいんですかね?) とりあえず今日はこれだけです。今回はちょっとだけ長めの話になりそうです。
ハロイさんお疲れです 冒頭のバイオハザードとかナノハザードとか、相当なSF知識とか もってらっしゃる感じですな セピアの背伸びした感じのしゃべり方とかかわいい
403 :
作者の都合により名無しです :2007/01/12(金) 09:19:22 ID:rFf9FGIW0
お疲れ様ですハロイさん。 セピアってレッドに憧れているのかな。 潜在能力的には既に上なのに。 あと、ハロイさんに出来たら出してもらいたいキャラがいる。 スラム街にいた、巌や隼人やバイオレットが出会った 名前忘れたけど寝たきりの預言者みたいなおばあさん。 あの人、出番は少なかったけど好きだった。
「歩みを止めるのは絶望ではなく諦め 歩みを進めるのは希望ではなく意志」と言ったばあさんだな バイオレットがメインで出てるから出るかもね しかし、2ch閉鎖とか大丈夫か
前回前までのあらすじ 刃牙が馬鹿でかいカマキリと戦っていたら響鬼さんが現れて倒してしまいました。 刃牙は響鬼さんに興味がわいたので会いに行こうと思いました。 ・・・きりが無い。 泥と得体の知れない飛沫を拭いながら刃牙は思う。 グネグネした腕らしきものが刃牙の眼前をかすめ、あぜ道を深くえぐっていく。 その腕の戻り際、懐にもぐりこみ、掌を粘液に包まれた体幹に当て、全身のバネを解き放つ。 「弛緩と緊張の触れ幅が打力の要…」 剛体術の応用で生み出した疑似消力の衝撃が粘液を貫き怪人の体を侵食し、破裂させ、内容物をぶちまける。 其処へ間髪いれずに振り下ろされた別の怪人の腕を髪一本の差で避け、頭部にそっと手をかけ、力の向きを変えてコンクリートの道路に叩きこむ。 コンクリートの砕ける音に混じって、ぐちゃりと嫌な音が聞こえ、怪人の頭部から嫌な色の液体が盛大に飛び散る。 もはや泥沼と化した田には同様の形をした怪人たちがまだ大量に蠢いていた。 少し前に倒した怪人が早くも動きを取り戻してきている。 百匹は下るまい。 自分を囲む魔化魍の群を前に刃牙の背中を冷たい汗が流れ、口元には笑みが浮かんでくる。 「百人を相手にするのはいつ以来だったかな」 刃牙の呟きに反応してか、怪人たちが怪訝そうな動きをした。 「かかって来いよ、化け物が怖気づいてんじゃねぇ、お前らの半分はすぐに餌だ」 そう叫ぶと化け物達の只中に飛び込んだ。 嵐の如く戦いながら 早くしてくれ。 少し焦りを感じながら刃牙はそう思った。 少し日を遡る。
田の広がるのどかな町の郊外を散歩していたとある解説的柔術家は異様な光景を見た。 職無き柔術家にとって田園風景はとても貴重な食料源である。 河原にある畑も貴重なのだが、なにぶん鍬を遠慮なく振り下ろしてくる方々が相手では身が持たない。 本当(ガチ)に痛いのだ。 辺りを警戒すると奇妙な物体が目に映った。 遠くの田の一枚の中に人型をした何かがうねうねと踊っているのだ。 「むぅ、あれはもしや・・・」 眼を凝らしてみる。 くねくねくねくねくねくねと見ていて気色悪くなってくる。 「あ、あれこそは都市伝説に唄われたクネクネ!長時間見ていると生気を抜かれて死ぬという…」 いや、ウネウネだったかな。 「いや、そんなことより見てちゃいかん、逃げるんじゃ、わし」 「clock up! 宅急道!」 解説屋は脱兎の如く逃げ出した。 さて解説役が逃げ出してしまったのでこの後の描写を少し続けよう。 クネクネと蠢くその物体の周囲が波立ち出し、同じ形をした物体が分裂するように増えていく。 遠目には茶色いイソギンチャクが蠢いて田一枚を多い尽くすように増えると、ずぶずぶと沈んでいき、吸い込まれるように姿を消した。 周囲の町村で行方不明者が多数現れたのはこの数日後のことであった。
話を刃牙と響鬼が出会った翌日の朝に戻す。 刃牙は名刺を手に、走り出していた。 行き先は52km離れた、昨日刃牙を送ってくれた車の運転手の家である。 名刺には電話番号やメールアドレスも記載されていたが、刃牙はメールの打ち方を知らないし、電話も面倒だ。 第一なんと説明すればいいのかがわからない。 「もしもし、すいません、昨日の化け物みたいなのと戦わせていただけませんか?」 とは言えまい。 直接会っていれば何とかなる。 直接聞きに行くのが最も手早く、また熱意も伝わりやすいだろう。 つまり 1、うまく説明はする気はないが、 2、直接会って話せば勢いでなんとかなる というご都合主義的思考である。 一般人や先の解説屋ならば問題ないが範馬刃牙クラスにこれをやられると酷くまずい。 身にまとう雰囲気だけでも最早単なる脅迫となる。 同じ部屋にいるだけで震えが止まらなくなる人間さえいるのだ。 それを知っていながら刃牙は直接会いに行くのである。 範馬の血とはそういうものなのだ。 同じ頃、飲村一茶は電話機を前をうろうろしていた。 電話をかけるか迷っているのだ。 化け物退治に協力したいと申し出る。用件はそれだけなのだが既に一時間半も行ったり来たりしていた。 何かをしたい、だが化け物は怖い。 いざかけようと受話器を取り上げもするのだが、いざとなると踏ん切りがつかないのだ。 こうして彼は貴重な有給休暇を消費していくのだった。 ヘタレな新入社員にはありがちなことなのだ。
忘れられてしまっているでしょうが、盛り上がってるのに便乗して…
悪魔巣取金愚
「ありがたいことに私の狂気は君達の神が保障してくれるという訳だ。 よろしいならば私も問おう。 君らの神の正気は、一体どこの誰が保障してくれるのだね? 」 太った少佐のその一言はつまり、宣戦布告だったのだ。
「諸君、私は戦争が好きだ」 芝居がかった仕草で、男が一人あるきながら語りだす。 「諸君、私は戦争が好きだ」 白いコートに白いスーツ、オマケにタイまで真っ白なその男、 形だけみれば十分に伊達なのだが、矮躯に肥満体では折角の仕立てが台無しだ。 「諸君、私は戦争が好きだ」 声音に、口調に強いものは無くただ淡々と、だが同時に狂熱を拭おうともしない。 「諸君、私は戦争が大好きだ」 醒めている。だがどうしようもないまで熱狂に駆られている。 白いスーツの小男はそんな風情だ。 「殲滅戦が好きだ。 電撃戦が好きだ。 打撃戦が好きだ。 防衛線が好きだ。 包囲戦が好きだ。 突破戦が好きだ。 退却戦が好きだ。 掃討戦が好きだ。 撤退戦が好きだ。」 苛烈にして静寂。淡々と語られる口ぶりに駆り立てられるのは、兵士たちだ。
「平原で、街道で。 塹壕で、草原で。 凍土で、砂漠で。 海上で、空中で。 泥中で、湿原で」 ただ、ただ、淡々と。 ただ、ただ、冷静に。 ただ、ただ、情熱的に。 「この地上で行われる ありとあらゆる戦争行動が大好きだ 」 言葉通りなのだろう、彼はとても愉快そうだった。 「戦列をならべた砲兵の一斉発射が、轟音と共に敵陣を吹き飛ばすのが好きだ。 空中高く放り上げられた敵兵が、効力射でばらばらになった時など心がおどる。 戦車兵の操るティーゲルの88mm(アハトアハト)が、 敵戦車を撃破するのが好きだ。 悲鳴を上げて燃えさかる戦車から飛び出してきた敵兵を、 MGでなぎ倒した時など 胸がすくような気持ちだった。 銃剣先をそろえた歩兵の横隊が、敵の戦列を蹂躙するのが好きだ。 恐慌状態の新兵が既に息絶えた敵兵を何度も何度も刺突している様など、感動すら覚える。 敗北主義の逃亡兵達を街灯上に吊るし上げていく様などは、もうたまらない。 泣き叫ぶ虜兵達が私の振り下ろした手の平とともに、金切り声を上げるシュマイザーに ばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ。 哀れな抵抗者達が雑多な小火器で健気にも立ち上がってきたのを、80cm列車砲(ドーラ)の4.8t榴爆弾が、 都市区画ごと木端微塵に粉砕した時など、絶頂すら覚える 」
愉悦が声音を震わせていた。 まるで戦争と同衾しているかのような口ぶりだ。 勝ち戦に猛るのは兵の性だ。 だが、彼の本質はそんなところにはない。 「露助の機甲師団に滅茶苦茶にされるのが好きだ。 必死に守るはずだった村々が蹂躙され、女子供が犯され殺されていく様はとてもとても悲しいものだ」 とても愉快そうに。 「英米の物量に押し潰されて殲滅されるのが好きだ。 英米攻撃機(ヤーボ)に追いまわされ害虫の様に地べたを這い回るのは、屈辱の極みだ」 快楽に歪んだ声の中にあるのは、怒りでもなければ絶望でもない。 ただ、ただ純粋に『戦争というもの』を一方的に愛する歪みがあった。 それは、ただ一方的に奪う愛・エロスだ。 博愛のアガペでも、友愛のフィロスでもない、奪うだけの、己の欲望のみを満たさんとするおぞましい「愛」。 「諸君、私は戦争を地獄の様な戦争を望んでいる。 諸君、私に付き従う大隊戦友諸君、君達は一体何を望んでいる? 更なる戦争を望むか? 情け容赦のない、糞の様な戦争を望むか? 鉄風雷火の限りを尽くし、三千世界の鴉を殺す、嵐の様な闘争を望むか? 」
疑問ではなく、確認だ。 彼は己に付き従う一千人の吸血鬼が望むことの確認だ。 たった一つの欲望の為に集まった一千人が唱和する。 「戦争(クリーク)!! 戦争(クリーク)!! 戦争(クリーク)!! 」 兵士たちの熱狂を満足そうに、彼は笑む。 「よろしい、ならば戦争だ。 我々は満身の力をこめて今まさに振り下ろさんとする握り拳だ。 だが、この暗い闇の底で半世紀もの間堪え続けて来た我々に、ただの戦争ではもはや足りない!! 」 一気呵成に彼は言葉を吐く。 最早留まらぬ狂熱と共に。 最早止まらぬ狂喜と共に。 「大戦争を!! 一心不乱の大戦争を!! 」 振り下ろされた手と共に、狂気が進む。
「我らはわずかに一個大隊、千人に満たぬ敗残兵に過ぎない。 だが諸君は、一騎当千の古強者だと私は信仰している。 ならば我らは諸君と私で、総兵力100万と1人の軍集団となる。 我々を忘却の彼方へと追いやり、眠りこけている連中を叩き起こそう。 髪の毛をつかんで引きずり下ろし、眼を開けさせ思い出させよう。 連中に恐怖の味を思い出させてやる。 連中に我々の軍靴の音を思い出させてやる。 天と地とのはざまには、奴らの哲学では思いもよらぬ事がある事を思い出させてやる。 一千人の吸血鬼の戦闘団(カンプグルッペ)で、世界を燃やし尽くしてやる 」 一千人の吸血鬼たちに伝播した狂熱は、一つの意思となって進軍する。 戦争。 只それだけを求める兵どもの狂熱は、天と地の彼方へと突き進む。 「全フラッペン発動開始、旗艦デクス・ウキス・マキーネ始動」 「離床!!全ワイヤー、全牽引線、解除 」 「最後の大隊 大隊指揮官より 全空中艦隊へ」 「目標、英国本土。ロンドン首都上空!! 第二次ゼーレヴェー作戦、状況を開始せよ。 征くぞ、諸君」 かくして惨劇の幕は上がる。
うお、もう490kbこえてる! ちょっとスレたててきます
保守あげ
419 :
作者の都合により名無しです :
2007/01/22(月) 21:50:29 ID:SuH4GXbb0 簡単にお金稼ぎ!!!
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