【リレー小説】えなりの奇妙な冒険〜冨樫の遺産編第21部

このエントリーをはてなブックマークに追加
1作者の都合により名無しです
これはえなり2世の数奇な運命を追った奇妙な冒険である。

前スレからの続き、行くぜ!!
http://comic4.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1084552706/

 ≪注≫この物語はフィクションです。実在の人物、地名などとは一切関係ありません。
      特に漫画家とか。

ルール! それはここに書き込む際の最低限のルールである!
・過去ログを見てストーリーの流れくらいは把握しておく事!
・漫画のキャラをあんまり出すな! ここのメインはあくまで漫画家だ!
・先人の意思をなるべく尊重しよう! 壊すにも壊すルールがあるのさ!
・関連サイト情報やリアル故人漫画家の扱いに関しては>>2-10の項目参照!
・雑談や感想は本スレで! アンカー付けての遅レスOK!
・展開相談は「したらば」オンリーで! 無論見ないのも自由! 無視されて当然!
・質問は本スレでよし! 先展開の牽制にならぬよう気を遣うのを忘れるな!
・細かい設定や言葉遣いでドジった書き手には極力優しく! 過失だ!決して悪意は無い!
・脊髄反射で罵倒レスをするな! 一呼吸置いて良い部分にも目を向けようぜ!
・わかりやすさは大切だ! 自分の投稿がどの続きなのかアンカーは必ず付けようぜ!
・割り込みはあるものとして考えろ! 即興でそのつど話を書いてるなら尚更だ!
・誤字脱字の訂正は必要最小限にとどめよう! 投稿前に内容確認!!

↓過去ログを参照したくなったらこちらのサイト
http://isweb43.infoseek.co.jp/novel/enari2nd/(〜8部)
http://mypage.naver.co.jp/komaking/enari-house2.htm(9部〜)

↓キャラクターを忘れたりキャラの動向が掴めなくなったらこちらのサイト
http://members2.tsukaeru.net/redman/index.html

↓展開相談、ネタバレ関係はここ「したらば」で
http://jbbs.shitaraba.com/comic/31/
2作者の都合により名無しです:04/06/23 17:12 ID:qddw5oSe
2
3作者の都合により名無しです:04/06/23 17:17 ID:gg92QSGz
4作者の都合により名無しです:04/06/23 17:18 ID:gg92QSGz
・リアル故人の漫画家さんを当スレで扱うと様々な問題が発生する恐れがあります。
 今のところ明確なルールは無く、ケースバイケースなのですが
 誰某を出そうと思っている、若しくは、誰某が登場後にお亡くなりになられた、といった場合
 本スレにSSを貼る前に、したらばに一言お願いします。
5作者の都合により名無しです:04/06/23 17:22 ID:gg92QSGz
    ☆なんとなくそれっぽいあらすじ☆
時は近未来。野球がシーズンオフを迎えている頃。(2012〜3年)
冨樫義博の遺産ファイルがエジプトで発見されたのを始まりとして、
一見平凡な少年「えなり二世」はファイルを巡る争いに巻き込まれてしまう。
この時代の漫画業界を表に裏に支配する男・矢吹は兵力獲得のため、
賞金10億を賭けたバトルトーナメント大会を巨大戦艦内で開催する。
しかし歴史の裏には神の手先ゴッドハンド・闇の支配者妖魔王一派・
漫画界の秩序回復を図るも内部分裂が甚だしい評議会・
10年前に東京で大災害を起こした少年とゆかいな仲間たちKIYU・
さらにはゴッドハンドを実質支配する軍師横山のしもべたち十傑集+五虎大将・
軍師の姦計で矢吹の下を離れ結成された狂人軍団最後の大隊と、
フリーキャラ含めて右も左も敵だらけで、なんだかえなりはピンチです。

ブロック決勝も終わり、選出された4チームと、
負けた5チームの希望者たちが集まった交流会という形で、
鹿児島→別府で開かれた≪温泉慰労会≫はしかし、最悪のシナリオを迎えてしまった!
各チーム各選手が派閥を超えて入り乱れ、方や団結…方や決裂。
そして気がつけば九州が謎の人物『調停者』率いる王蟲の支配下に置かれようとしていた!
嫌な進化を遂げた“知欠王”矢吹の指揮のもと、諸悪の根源・別府浮上作戦が始まる。
だがあらゆる不安定要素を絡めまくった別府の地がそう簡単に救われるわけがない。
蟲たちを始めとして鬼岩城・風使い・巨神兵もどき…最凶最悪の生物ジャバウォックが暴れ狂う!
恐ろしき混迷の地に屹立する、戦士たちの運命やいかに!いよいよ最終章!!

  燃えろ燃えろ――!!
  殺せ殺せ殺せ――!!
  もっとだ――――!!
  もっと漫画家どもを殺しまくれ―――!!

天が叫び、地が嘆き、海が悲鳴をあげる。君は生き延びる事ができるか!?

なお主人公えなりは≪キャノンボール≫大会で優勝しましたが賞金はありませんでした。残念! <了>
6作者の都合により名無しです:04/06/23 17:23 ID:gg92QSGz
□えなり関連サイト□
〜ロマン・ホラー!真紅の秘伝説〜 (〜8部)
http://enari2nd.hp.infoseek.co.jp/
えなりん第2倉庫改装版 (8部〜)
http://mypage.naver.co.jp/komaking/enari-house2.htm
「えなり」過去ログ保管サイト。最初期〜初期のストーリーも是非一読を。

E.B.A DATABASE
http://members2.tsukaeru.net/redman/index.html
「えなり」登場人物等のデータベースサイト。投稿式で追加・更新が行えます。

□したらば・えなり関連スレ
えなりの奇妙な冒険を語るスレ
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/comic/31/1059562987/l100
展開の相談、連絡等に。※ネタバレ要素を含みます。閲覧にあたっては自己責任で。

冨樫の遺産について語るスレ
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/comic/31/1057506770/l100
意見や批判等、ネガティブな話題はこちらでお願いします。
7王大人:04/06/23 17:25 ID:gg92QSGz
それでは始めぃ!!
8作者の都合により名無しです:04/06/23 17:30 ID:hQQXSGla
>1
乙!
9作者の都合により名無しです:04/06/23 17:56 ID:web5Ur5w
つーか、星野は早過ぎるだろ……
いや嬉しい事は嬉しいんだがな。
せめて1クール乗り切ってからでも遅くなかっただろうに。
10作者の都合により名無しです:04/06/23 19:01 ID:8Y0dgJPH
星野は可も不可もなしだと思ったんだが。
ダメなの?
11作者の都合により名無しです:04/06/23 19:28 ID:GvmLPq+6
>>10
ダメじゃない。少なくとも俺は。
ただ本スレを覗いて見ると辛口なコメントも多い。

だが、登場の仕方としては最高のタイミングだったから見切り発車とも言えないな。
連載が続けば設定や技が追加されて強くなるだろうし
10週打ち切りならKIYUの傍に居るのに相応しいだろし。

漫画同様今後どうなるか見守るか。
1210:04/06/23 19:59 ID:8Y0dgJPH
>>11
漏れとしては、他の新連載組よりはマシと思っている。これが
ダメなら新連載組は全滅→ゲドー生き残りかと。
登場のタイミングはご指摘のとおり万全だったと思うので、
和月のGBWみたく1ヶ月早くスタートさせられて煮詰められなかった
というような状況でもなさそうなので、その「連載が続けば」に
期待。

ジャンプも世代交代がうなくいっていない感じが出てきたので、
半年くらい何とか続いて、次への糧にしてほしいと思う。>星野
13ひとりぼっちの旅路:04/06/23 22:24 ID:iOQvTpaQ
(前スレ>509>570 15部406 16部344 17部210)

嵐の前の静けさ。荒木とにわのが出て行った後の松椿食堂ホール。
陸地のジェットストリーム現象を遠目から眺めていた連中も一部戻り、
藤崎を中心に噂の『強者のエキス』対策をあれこれ話し合っていた。

 「催眠術で聞き出した情報によると“詳しくは16〜17部を読むモーン”
 との事じゃが、酒とっくりを亜空間で繋げてマムシ酒のように人を突っ込み、
 人間の精気を吸い取るものじゃそうな。中からは基本的に出られず、
 容器が割れた場合、中の人間はどうなるのか作者にもわからんそーじゃ。
 中の人間を出すには入口の空間を妖力で開かねばならんようじゃが、
 これは他の超能力や解除魔法で応用が利くかもしれぬ。問題は・・・」

一旦言葉を切った藤崎。茶を飲んで続ける。
 「・・・誰がどうやって、このとっくりを取り返すのか、である。
 中に入れた人間が強く、また多いほど酒のパワーは増えまくる!
 そして入れられた人間は遅くとも数日でミイラとなって息絶えるという!
 下手に少数で手を出し、いちいちエキスにされてもうては元も子もない。
 これからは単独行動を控え、ボスモンスター宮下あきらの襲撃に備える事!
 倒すよりもとっくり入手を最優先せよ!自分の縁者は捕まっていないから、
 己にはカンケーない・・・などとは言うまいな。明日は我が身じゃ。注意せよ!」

さすが軍師スキルを持つ男というべきか、
周囲の漫画家達は納得の沈黙と理解の瞳を彼に向ける。
当の藤崎は食堂のホワイトボードに重要事項を書き込みながら溜息。

 (やれやれ、小畑先生の事でも頭が痛いのに・・・しかしのう、
 わしでこれなら両方に深い因縁のある“彼”の苦悩は計り知れぬな。
 宝貝ネタが矢吹にパクられた、あの悔しさに匹敵するやもしれん。
 ・・・じゃが、先の事に悩むのはこの別府地獄変を生き抜いてからで良い。
 怪我人も多くうかつに移動もできぬ宿の者たちを果たして護りきれるか・・・)
気づくとボードはよくわからない落書きで埋まっていた。と。
14ひとりぼっちの旅路:04/06/23 22:25 ID:iOQvTpaQ

       ―― ズ ズ ゥ ゥ ン ッ ッ ! ! ! !

戦慄。粟立つ皮膚。椅子から転がるように立ち上がり、
遠方よりの規格外な重圧を身に受け焦燥する漫画家達。これはいったい・・・?
そこへ飛び込んでくる、崖からひとり戻った荒木。
この緊急時に普段以上に、足取りは力強く自信に満ちている。
 「漫画家・荒木飛呂彦、これよりエックスで出撃するッ!戦闘能力および、
 飛行能力のない者はここより動くんじゃあない!万が一の脱出に備えたまえ!」
いつの間にかエックスが荒木の傍らに、美しいフォルムで並んでいる。
 『よいだろう。あの強烈な魔気の正体も気になるしな。行くぞ荒木、藤崎』
 「問答無用かい!・・・まあ戦力だと言われたら仕方ないのお。行きますか」
よっこらせと冗談っぽく、緊張した場と筋肉を解きほぐすように背筋を伸ばす。
にこりと笑う荒木。我に返り、自分たちにできる事を探し始めた余湖たち。
別府の混沌は最高値に達しようとしていた。


一方、崖に取り残された男ひとり。
さっきまで見えていた星空は瞬く間に、墨をこぼされたように暗黒に染まり。
数滴雨粒がしたたったと思った次の瞬間にはバケツ返しの乱舞となっていた。

  ドザアアアアアアアアアア・・・・!!  ゴオオオオオオオオオ・・・・!!

同時に闇の海で逆巻く渦潮が、不気味な波音を崖下から伝えてくる。
崖の上の男―――虚ろな瞳の覆面男・にわのは顔を持ち上げ矢のような雨粒を全身に浴びる。
彼の霞む視界の中で、銀色の光が地上より駆け上り空へ吸い込まれていった。荒木たちだ。
 (ボクは戦力外なんだなぁ。そうだよな、行った先々で迷惑かけてばっかりだ。
 ボクはもう、どこにも行ってはいけないんだ・・・みんなが幸せになるためには)

彼の能力≪時空移動≫は、その時々で人の流れ――荒木の言うところの『引力』――に、
自然と引かれてしまうため移動のたびに巻き込まれる。彼はその“意味”を知らない。
自分が行くから何かが起こるのではなく、何かが起こるからそこに辿り着くという事を。
15ひとりぼっちの旅路:04/06/23 22:26 ID:iOQvTpaQ
憔悴しきった男に荒木の“魂”は伝わりきらない。
生きる覚悟も死ぬ覚悟も、そこまで思考が動かないのだ。
滝のような豪雨の中、にわのは崖に背を向け歩き出す。
近くを何人かが走り抜けていったが水煙に遮られ判別がつかない。
通路を抜け玄関ロビーに近づいた時、彼はふとみずしなの言葉を思い出す。
濡れた手で周辺の瓦礫をあさり、程なく新しい埃に覆われたファクシミリと用紙を発見した。
 「・・・今泉センセ、ごめん。あなたの情報、役に立てられなかった・・・」
壁のヒビから雨水が勢いよく入り込んでくる。慌てて紙を拾うにわの。
文面を読み、がっくりと肩を落とす。しかしよく読むうちに、彼の心に疑念が湧く。

 (ここには各地の災害情報が書かれている。しかし『王蟲』の話がない!
 “リプレイヤー”の知ってる≪歴史≫とは違う?何の因果を飛び越えた!?
 今この世界を動かすチカラとは違う存在?そいつに歴史が捻じ曲げられた・・・?)

思考回路がなぜか、ここで一旦完全に止まった。
まるで心の中で、『続きを考えたくない』と声が聞こえたように。
 「・・・何がなんだかわかんねーよ、もぉ!!」
彼に似合わぬ荒っぽい口調で、紙を背中から放ってしまう。
・・・しかし10数秒後、思い直したように紙を拾い、裏に走り書きをし、紙上に何かを置く。
そこには彼の友達や仲間たちへの、ごく簡潔なメッセージ。

      しばらく旅に出ます。 さがさないでください。 ごめんね。  byまこリン
 
(裏御伽のみんなへ)別府はかならず助かります。お元気で。荷物あずかっといて。準決勝がんばれ!


 「きっと、ボクがいなければこれ以上ひどい事は起きない。はずだ。
 ボクは・・・ここにいてはいけないんだ。バティを捜す旅に出よう・・・」

彼は知らない。愛する“家族”――裏御伽の皆が、先刻川原と離別した漆黒の海底で、
10年前よりの悪夢≪KIYU≫に翻弄され死の国に誘われようとしていたのを。
そして新たなる因縁の血鎖がまたひとつ家族の手足に絡められた事を。
16ひとりぼっちの旅路:04/06/23 22:28 ID:iOQvTpaQ
驟雨の中、何もかもが黒い雨に飲み込まれてしまった別府の街のどこか。
傘代わりにふすまを頭上に掲げる青年が、ひいこら言いながら歩いている。
傍目独り言を呟いているように見えるが、よく聞くと声質は2種類。
 「くそー!板垣はまだ帰らないのか!ここどこだよーもぉー」
 「カズロウ、この雨量では衾など持たないぞ。それを捨ててもっと頑丈な板を捜せ」
道に迷って松椿に帰れなくなった井上和郎、および岩明均であった。
 「ダメだ!これは“あいつ”が残した大事な・・・うわぁっ!?」
突如雨のカーテンの中から飛び出した人影に、重いふすまの角がゴツンと刺さる。
ぶつかられた人間は「痛ぁおぅ!」とか叫びながら坂道を転がり落ちていった。

 「だ、大丈夫ですか、あんた!」
和郎が声をかけた先には・・・
 「うん、だいじょーび。防御力減ってますけど・・・あれ?君は審判団の」
トレードマークのモモマスクを外して宿に置いてきた、
前髪が緑色の快活そうな若者―――素顔のにわのだった。


 「ん?あれー?これボクの『どこでもふすま』じゃないのさ!
 なんでこれをかずろーせんせーが?原先生が持ってると思ってたのになあ」
前髪で微妙に顔が隠れたにわのが疑問の声を出す。
井上は岩明をちらと見やる。和郎の右手がぐにゃりと変形し口が飛び出した。
 「その衾には、“我々”の友や罪なき漫画家の命を奪った鬼の臭いがついている。
 街中を迷っている際に私が見つけたのだ。これを持っていれば、
 鬼が取り返しに来ると思っていたが・・・見当違いだったようだな」
 「鬼ー?原先生じゃないよなあ、そんな外道さん。
 よくもボクのふすま捨てたなプンスカ。ねーミギーさん、誰よ、それ?」

 「板垣恵介。それが鬼の名だ。青山広美とヒラマツミノル、
 そして通りすがりの漫画家らしき男を一撃で惨殺した戦闘狂のな」

にわのは自分の鼓膜がおかしくなったような気がした。
雨の音が小さく膨らんで、耳に入ってこなくなった。
17ひとりぼっちの旅路:04/06/23 22:29 ID:iOQvTpaQ

  人狼の遠吠えが聞こえたんだ。だからボクは走り出した。
  そして血に滑って転んで、ぐちゃぐちゃの肉片に飛び込んだ。
  あの時は呪いの酒で女の子になってた。何も考えられなかった。
  いっぱい泣いた。川原せんせーは泣くボクを止めなかった。
  その代わり、鬼の力であいつを殺すと言うボクを止めた。
  ボクは無視した。そして・・・。
  真鍋のやった事だと思ったから、闇へ走り出したんだ。
  それすらボクの勘違い、思い込みだったっていうのか?そんな・・・。
  
 「・・・もう、勘弁してほしいなぁー・・・いろいろさあ・・・あはは」
にわのの自嘲気味な笑い声は弾幕のような雨音に掻き消えた。

騒々しさの中に流れる重苦しい沈黙。と。
 「あ・・・そうだボク、どっかの基地に帰らなくちゃいけないんだ・・・。
 マスクがないと長距離ワープできないや・・・もんがーにもなれないし。
 あ、ふすま使うから、そっちで閉めて。好きに使っていいよ。
 あげる。ボクはもう、そーゆーのやめたから・・・」
和郎たちが首を傾げる間に、にわのはふすまを開け、中に入り、手を振って異空間に消えた。
あれこれ聞く事も失念し、言われた通りふすまを閉めた和郎が目をしばたたかせた。
 「今の大道芸は、なんだあ・・・?」


戦火の直中に揺れる、評議会黒軍基地。
長谷川は基地よりやや離れた地点で死闘を演じている。
士郎などの黒軍生き残りは脱出・潜伏をはかるため行動中である。
敷地の内も外も無法地帯と化し、ウィルスや銃弾が飛び交う。
その中を毒ガスマスクと白衣姿で駆け回る下駄履きの男と呆れ顔の同行者。
 『にわの〜にわのまことはどこじゃあ〜〜〜!』
壊れた飛行円盤の修理もそこそこに、憎き敵を探し回る柳田とその一味であった。
 『なんで私までこんなアホにつきあわなきゃなんないのよ』
ドサクサで共に行動する東まゆみが愚痴をこぼす。
18ひとりぼっちの旅路:04/06/23 22:31 ID:iOQvTpaQ
 『恨み晴らさでおくべきか!裏御伽の恥部よ、逃げ隠れるとは卑怯なり!』
柳田の咆哮がガスマスク越しに響く。
 「ボクならここだぞ柳田クン」背後から聞こえる仇敵の声。
 『出たな東洋の珍獣!・・・貴様、誰だ?』
そこにいたのは見知らぬ緑髪の男。
 「でーい、マスクがないとわかんないのかぁ。これならどーだっ」
スポーツウェアのポケットから“フェイスガード某”タイプの覆面を取り出し装着。
 『おお理解した!貴様にも生意気に素顔があったのだな』
 「納得していただいたところでぇー・・・こんばんわぁ(吐息)」
 『どうした、元気ないな。悪役がそれでは張り合いがないぞ』
 「ほっとけ」
 『・・・話が続かんではないか。まあよい!貴様には言いたい事がてんこ盛りなのだ』
微妙な空気の中、強引に会話を進める狂科学者。

 「で?なーによ柳田クン」
 『ふふん、調べさせてもらったぞ。貴様は赤子の時に桃型メカから拾われたそうだな!
 桃はどこの時代・どこの世界から来たのかもわからぬという。すなわち!
 貴様は我々と違う生物・・・異分子!イレギュラー!いてはならない存在!
 路傍の雑草一本、墓石の土一握りも貴様のためには用意されてはいないのだッ!!』
 「わかってますよ、ンなこたぁー・・・」
 『 わ か る な !!そこで納得するな!己の存在意義をかけて闘うとか言わぬかッ!!』
 「ムチャゆーない。こっちだって色々あるんだよ。口調だってアレなんだぞ」
 『貴様の都合など知った事ではない!テンション上げんか馬鹿者!!』
 「うっさいなぁ〜、ボクもー行くからねー?」
 『くそぅ、監獄でこしらえたセリフ集がパーではないか!それでも私の宿敵か!!
 大体なー貴様がいなければ私が逮捕される事もなかったし島も平和で済んだだろうさ!
 ああそうさ、2ゲットされたのもこの基地が燃えてるのもぜーんぶ貴様のせいだ!!
 貴様は生きてるだけで世界の害悪なのだ!やがて世界は貴様のせいで滅びるのだぁ!!』

復讐劇にうつつを抜かす柳田博士は別府や九州の惨状を知らない。
とりあえずノリで言ってみたセリフだったりするが。
                 ――――――  「 ぷ ち 」  ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ・・・・
19ひとりぼっちの旅路:04/06/23 22:45 ID:iOQvTpaQ
ついに堪忍袋の緒が切れたか、にわののフラストレーションが爆発した!
 『な、なんだ!怒ったか?効いたか?んー?』
 「わ・・・わ、わぁーーー・・・ わ か っ て る っ つ っ て ん だ ろ ーーーーー が ぁ ぁ!! 」
 『うおおおおお!!?貴様何をッ・・・ぎゃああああああああああ!!!!』

   ************

―――戦乱去った【原潜やまと】艦内。
ピリピリと帯電した空気が、生き残った乗員たちの精神に重くのしかかる。
両腕を青色に染めた川原の腕に真倉が湿布と包帯を巻いている。
乙の他にも数名、かわぐちの部下に犠牲が出ており、狭い空間に血風の対流が起こっている。
茫然自失となった澤井は、乙の眠る扉の前にいつまでも座ったままだ。
本宮や岡野たちも沈黙を守ったまま、物憂げに備え付けの椅子に腰掛けている。

 ≪真鍋と闘ったってな。血まみれの道着はヤツのせいか≫
人語をしゃべれない肉体のためテレパシーで川原と会話する真倉。静かに微笑む川原。
 ≪あのバカも一緒か?俺はてっきりアレかと(17部120)・・・そうか、魔獣は死んだかよ≫
 「誰も倒したとは言ってないぜ」
 ≪てめえにしちゃ下手な冗談だ。それよりバカに足引っ張られたんじゃねえの?≫
 「いや、そうでもなかったぜ。ただ・・・」
 ≪ただ、なんだよ?≫
 「なんでもねえよ。帰ってきたら、またうるさそうだ・・・ってな」
 ≪構わねぇ。あのアホがいねえと空気がクソ重いんだよ。自分の役割に律儀なバカだ≫
 「・・・ひとりで持ちきれる荷物なんざ、たかが知れてるのに・・・な」
川原の独り言は、消毒液を捜して救急箱を開閉する真倉の耳には入らなかった。

   ************

 『・・・あ、暴れるだけ暴れてどこかへ消えやがったな!許さん!絶対倒してやる!』
 『それより特機隊がまた近づいてきたぞ柳田。こちらの対処が先だ』
 『わかっておるわ筆吉!おのれぇ〜歩く不要物め!どこへ行っても必ず見つけ出してやるわぁ!!』
かくして裏御伽副将は人知れず姿をくらました。どうなる準決勝?どうなる裏御伽!    ←TO BE CONTINUED
20作者の都合により名無しです:04/06/23 23:30 ID:l5lF2uPJ
>1乙彼さん。

副将、強くイ`(⊃Д`)
決勝までには腹決めて家族の所に帰って来いよ〜。
21作者の都合により名無しです:04/06/24 00:21 ID:vd/ui6Gv
そういや、カズロウと板垣には因縁があったんだっけ
もっとも今のところカズロウの一方通行で板垣当人には相手にされてないっぽいが
つか、カズロウが板垣と戦えるようになるには、終盤の新一状態にまで成長するか窓の外を修得するしかなさそうだな…
22作者の都合により名無しです:04/06/24 12:38 ID:kEKwR0LF
今後の成長に期待ですね。
そしてどうなる裏御伽
23再会:04/06/25 01:28 ID:FUhZIVIR
>19

夜の街を、ひとりの男が歩いている。
190センチを超える長身を、重厚な筋肉が包んでいるのが服の上からでも分かる。
だが屈強な体躯とは裏腹、男にはまるで覇気というものがない。
全身ずぶ濡れで、重く肩を落しながら歩く様は、ホームレスでもここまでの惨めさはないと言えるほどの貧相さであった。
濡れて額に張りつく緑色の前髪の隙間からのぞく表情は、果てしなく陰々滅々としている。
近しい者を次々と失い、今やトレードマークのマスクさえ手放した憐れむべき敗残者、裏御伽副大将・にわのまことのどん底の姿であった。
にわのの両眼はどこも見ておらず、虚ろなうろと化している。
その上、ぶつぶつとしきりに何かを念仏のように呟いているとあれば、誰も近寄ろうとする者などあろうはずもない。
いるとすれば――
「ちょ〜〜っとい―――ですかァ♥?」
陰惨なイメージを笑い飛ばすように、声がかかった。
にわののすぐ真横に、ニット帽をかぶった若者の顔がある。まだ十代といったところか。
「君のために5〜6時間だけ祈らせてもらえますかァ」
恐喝(カツアゲ)か、もしくは弱者と見ての憂さ晴らしの為の藁人形か。
いずれにしても、ろくな要件でないことは明らかだった。
この若者の陽気さは、人を明るくするというより、退廃的ともいえる享楽さで他人を嘲笑う類いのものであった。
「えッッッ」
だが、次ににわのが見せた反応に、ニット帽の表情が焦りの色を帯びた。
「ちょっ……ちょっとオイ……ッッ」
にわののとった行動は、ただニット帽を無視して歩く――ただこれだけである。
元々、レスラーの肉体を有するにわのである。
ジャンクフードと夜遊びで堕落しきった脆弱さでは足留めになろうはずもない。
そもそも、にわの自身、その若者の存在を認識しているものか――
「こらァッッッッ」
案の定、ニット帽の態度が豹変した。馬鹿にされたと思ったのだろう。
いきなり、素人丸出しの拳を、にわのの顔面に叩きつける。
「いッッッ」
石のような硬い何かを叩いた感触に、ニット帽が顔をしかめて拳を抑えた。
一方のにわのは、自分の身に何が起こったかもろくに認識していない。
24再会:04/06/25 01:29 ID:FUhZIVIR
痛そうに拳をさするニット帽と、完全に自分の殻に閉じこもり外界の状況すら認識できていないにわの。
そんな彼らを囲むように、たちまち新たに2人の男が現れた。
バンダナの男と、長髪を金髪に染めたちょび髭の男。
ファッション誌から抜き出したような服装をだらしなく着込み、大平楽に倦んだ自堕落な物腰は、彼らが最初の若者の仲間であることを如実に物語っている。
「どしたん?」
「押すのよ、こいつゥ、俺のことォ〜〜〜…」
「押すゥ?」
「ボーリョクじゃん、それって」
口々に、自分達にとって都合のよい解釈を並べ立てる若者達。
「オ…」
そんな彼らに、相変わらず気付きもしないまま、にわのがその場を通り過ぎようとした。
その際に、ひとりの男と肩が触れあう。男達の表情が変わった。
「正当防衛ェ〜〜〜〜」
べろりとチンピラの本性を剥き出しにした彼らは――
「ッだよねェ――――ッッ」
即座に、嬉々として、無抵抗のにわのの全身に拳を、肘を、足裏を、ぶちこみ始めた。
「ッオラァッッッ」
「ひょうッッッ♥」
彼ら最大の娯楽、集団暴行(リンチ)の始まりである。
レスラーの肉体にとってどれも損傷にすらなり得ない反面、戦うどころか生きる意思さえ無くした無気力なにわのは、さながら肉と骨を持つ格好のサンドバックと化した。
周囲で見ている者たちは、薄情というべきか当然というべきか、余計なもめ事に関わることを恐れ、誰も近寄ろうとすらしない。
ただ、遠巻きに眺めているだけだ。ましてや、助けに入る者などあろうはずもない。
そう思われたが――
「そこまでにしておきなさい」
丁寧だが、無視できぬ存在感を内包した声が響いた。
「ア?」
若者達が不機嫌そうに殴る手を止める。誰からともなく、胡乱な声をあげた。
声のした方向を見やると、そこには――
「このまま黙って去りなさい。今なら、見逃しましょう」
飾り気のない眼鏡をかけたサラリーマン風の男が、うっそりと立っていた。
25再会:04/06/25 01:30 ID:FUhZIVIR
「んッだよ」
「誰だよ、おっさん」
自分達の娯楽を邪魔され、不愉快な表情を隠そうともせずに、若者達は語気を荒げる。
そんな彼らの態度は眼中にないかのように、眼鏡の男がゆっくりと前に出る。
周囲の人だかりはかかわり合いになることを恐れ、我れ先にと道を開ける。
たちまち、サラリーマン風の男と、それを囲む4人の若者、さらに大きく円を作って遠巻きに眺めるギャラリーという図式が成り立った。
ちなみに、にわのは散々殴られた後、糸が切れたように放心しながら、地べたにへたりこんでいる。
若者達はその男を見た一瞬、思わず息を飲んだ。
なぜなら、その男は彼らが見上げるほどの巨躯の持ち主であったからだ。
下手をすると、にわの以上の大男かも知れない。
しかし、体格とは正反対に、男は一見すると人が良く気弱そうであり、威圧感のようなものは感じられない。
それを見てとった若者達は、即座に強気に戻った。
「なんだよ、かっこつけて出てきながら、もうビビってんのか?」
ニット帽が言いながら、玩具のようなバタフライナイフを取り出す。
武器としては最弱の部類にはいるが、殺傷力はある。
「オマエが去れば?」
金髪にちょび髭が、ズボンに差してあった棒のようなものを引き抜く。
一見すると、交通整理の誘導灯のようだが、放たれるは赤色の光ではなく、青白い火花だ。
暴徒鎮圧用のスタンバトンである。
「試しちゃうよ、20万ボルト」
市販の最大電圧とは比べものにならない。明らかに違法改造を施したシロモノである。
もはや3人は、にわのそっちのけで、この新たに現れた生贄に舌舐めずりしている。
この大人しそうなサラリーマンの、眼鏡の奥に隠された両眼が、突き付けられた凶器を視界に収めた瞬間、炯とした光を放ったのにも気付かず。
26再会:04/06/25 01:32 ID:FUhZIVIR
ふいに、風が疾った。
ちょび髭の男がそう感じたときには、スタンバトンを持った手は、岩のような掌に捕えられていた。
「――え?」
胡乱な声を出した瞬間、その手があらぬ方向に捻りあげられた。
それだけでカルシウム不足の手首が、あっさりとへし折れる。
握られていたスタンバトンは、鉾先を持ち主本人へと変え、ちょび髭を生やした顎に20万ボルトが叩きこまれる。
ちょび髭の男は一瞬、小刻みに痙攣しながら身体を硬直させ、すぐさま人形のように地面に崩落した。
呆気にとられるニット帽の利き腕に、拳がめりこむ。
弄ばれていたバタフライナイフは、それを持つ腕にいきなりひとつ増えた関節の曲るにまかせ、持ち主本人の肩を突き刺した。
「ひぁいいッッ」
と、情けない声が夜空に響きわたったのは、一瞬の後だ。
「ささったァ〜〜〜〜〜〜!! ささったァアアア!!」
ニット帽が身も世もなく泣きわめく。
いまだに事態を把握できてないバンダナの男が、車に跳ね飛ばされたような勢いで吹っ飛んだ。
顔面を破壊され、無様にごろごろと転がる。
自分達が気弱な中年と評した男の蹴りが、自分を吹っ飛ばしたなど認識すらしなかったろう。
「つ、強ぇえ……」
ギャラリーの誰かが、呻くように言った。
ようやく、この男がただ者でないことに気付いたようである。
サラリーマン風の男は、脇目もふらずに地べたにへたりこんだままの、にわのに歩み寄る。
「にわのまこと、か」
マスクを着けていないにも関わらず、男は身体的特徴のみで、正確ににわの正体を看破した。
ボーッと中空を見つめていたにわのの視線が、名を呼ばれた途端、急速に焦点を結んだ。
そして、ようやく視界と脳神経が繋がったとき、にわのは驚愕の声を発していた。

「さ、猿渡哲也……先生!?」

裏御伽副将・にわのまこと。
元チームタフ首魁・猿渡哲也。

思いも寄らぬ再会が何を生むのか、それは神ですら知りえない。
27作者の都合により名無しです:04/06/25 01:44 ID:PPKr3f4h
工エエェェ(´д`)ェェエエ工
あらやだまた奇縁ですなあー
28作者の都合により名無しです:04/06/25 08:20 ID:E31lt+Ac
副将が刺されて死ぬと思った人→   ノシ
29作者の都合により名無しです:04/06/25 15:14 ID:kfvnXk9C
バキネタかい。
しかもさりげなくヒデさんとかでてるのにワロタ

それにしても意外な形での再登場だなー>猿渡
本宮に諭された猿渡が今度はにわのを諭すという展開なんだろうか
おまえの絶望なんぞまだ生ぬるいって感じで
30作者の都合により名無しです:04/06/25 18:28 ID:PPKr3f4h
('A`)ノシ
かなり期待(刺殺ではなく)
31作者の都合により名無しです:04/06/25 18:56 ID:NQXmjiFi
あのー、ちょっといいかな?
皆がにわの好きなのは分かったし、その後の言動も気になるけど
まずは大まかな流れを動かした方がいいんじゃないかな?
このままにわのの方に傾くのはちょっとね・・・。
別府の面々&鳥山放置中だし。
32作者の都合により名無しです:04/06/25 19:08 ID:E31lt+Ac
え?副将は猿渡復活のただの当て馬でしょ
33作者の都合により名無しです:04/06/25 19:17 ID:NQXmjiFi
そうなの?なんか気合はいってたから・・・。

最近すごくややこしいから現状理解できなくて・・・勘違いスマソ。
34作者の都合により名無しです:04/06/25 19:43 ID:neBEwizE
キニスンナ
もうしばらくすれば簡単になるさ
35作者の都合により名無しです:04/06/25 21:17 ID:uBb6J5IW
>>31
みんな、とかひとくくりにされても困るんだが
それに何を書いたっていーやん、んなの好きずきだし
俺なんてこれまで別府編完全ノータッチですが、何か
36作者の都合により名無しです:04/06/25 22:19 ID:Dpoz45Hs
自己主張が激しい者もいれば、大多数の意見に流される香具師もいる
これが2ch

好き好きに書いたら書いたで問題が起きるので、何書いたって良いと言う訳でもないけど
かといってなあなあで済ませたり、遠慮がちになったりしても良くないし
臨機応変にね、その場その場で
37作者の都合により名無しです:04/06/25 23:35 ID:JoFo+o9J
ていうか、31はにわのが活躍するたびに出てくるにわの嫌いの人でしょ。
流石に何度もやってるだけあって難癖の練度が高いこと高いこと。
38作者の都合により名無しです:04/06/25 23:46 ID:Dpoz45Hs
そうやって決め付けんの良くないよ
皆川オタオタうるさい人と変わらんよ
別に自分は「にわの」好きだけどさ、誰が誰好きとか嫌いとかにケチつけるもんじゃないんじゃないの?
個人の好み出しそんなの、それにアンタだって嫌いなキャラ位いるでしょ?
自分が好きだからって押し付けんのは良くないと思うし
>>31だって別に荒れそうな口調で書き込んでないし
こんなんで荒れんのはイヤなんだよな
39作者の都合により名無しです:04/06/25 23:55 ID:JoFo+o9J
そだね、俺が悪かったです。
しかし、別府編ちゃんと終わらせられるの?
なんか真っ当に終了に向けて話を組みたててる人とその場のノリでどんどん混乱増殖させてる人がいるのでは?
島みたいにレス制限したほうがいいのではないかと思います。
見てて凄くダレてる感じがするんで。
40作者の都合により名無しです:04/06/26 00:04 ID:sc0oDij/
>39
一つ一つの話はいいんだけどねー
別府編として総合的に考えるとおいおい今更それかよって話はいくつもあるね
まあそこらへんは書き手さんが上手く纏めてくれるだろうし、緩く見守っておきませう
41作者の都合により名無しです:04/06/26 00:16 ID:djx0A5lp
>>6
一応、誘導リンク貼っておきます。
42COSMOS撤退:04/06/26 01:54 ID:kwRyDX/a
前スレ205・350

「しまったッ!狙いはわたし以外の連中かっ!!きさまらぁぁぁーー!!」
COSMOSの完璧なる陽動によって、カムイ達から引き離された、ゆで。
無防備なカムイ達に殺到する、COSMOSの精鋭達。
絶望の赤いカーテンが夜空の深淵に幕引かれた――かに見えた。
だが、カムイ達が目を見開く、その先には――
「な…なんだ、こりゃあ?」
驚く椎名達の目の前には、COSMOSから庇うようにして巨大な翼を広げる、夜の眷属の姿。
トレードマークのマントは、悪魔の双翼と化し、その面は完全なる化生。
「し…城平さん!!」
「……え? こ…これが!?」
本音から歓喜をあらわにする水野の言葉に、椎名がギョッとする。
無理もない。『人間状態』の彼とは、あまりに気配が違いすぎるからだ。そして、水野の言葉を肯定するように――
「……遅くなったな」
そう呟く城平の体正面部分には、殺到したCOSMOSが剣林のごとくナイフを容赦なく突き立てている。
大量の血がかげりとなって噴出するが、『完全なる吸血鬼』と化した城平には、その程度はダメージにならない。
「……貴様ら」
押し殺した声には、カムイでさえ怖気を誘うような、殺意と悪意と怒気が塗り込められていた。
銀月の夜空に、人外の魔力が、高らかに吼える。


     「 調  子  に  乗  る  な  よ 」
43COSMOS撤退:04/06/26 01:55 ID:kwRyDX/a
禍々しい笑みを浮かべる城平の目が妖しく煌めいたと思った刹那――――


      ―――― ギ イ イ イ イ イ イ イ イ ン  !!!!


山の木々が、地面が、水面のごとく揺らめき、爆発的な振動が津波のごとく炸裂した。
ナイフを通して直接触れていた機械兵士達は跡形もなく原子の塵と砕け、
木々は次々とヘシ折れ、地面が液状化現象を起こして、地形を激変させた。
COSMOSは構えていた武装をことごとく破壊され、器官を抑えて苦しみ始める。
「な…なんだ、このバカ高え音はああああああ!?」
椎名が滝のような涙を流しながらの独特な半笑いを浮かべながら、喚く。
「こ…これが……『満月下の』城平さんの能力です! 『振動を自在に操る力』!!」「使い所が限定されている分、100%解放されたときの威力は凄まじい……久々に見たな」   
水野とカムイが、それぞれ解説する。
それを受けて、椎名がちらりと城平を見る。
……今の城平は怒っていた。
今まで、彼を次々と襲った予測不能の事態に。そして、ことごとく後手に回った自分に。
それだけに、ここぞとばかりに自らの力を解放した城平の表情には、血濡れた歓喜すら伺える。
(………コ…コワー! 今度から、あんま怒らせねー方がいいな、こいつは!!)
自らも相当な実力者であるはずなのに、相変わらず一見すると恐ろしげな者にはビビり僻のある椎名である。
ふと。
強烈な振動を喰らい、機動力を著しく削がれたCOSMOSの面々が、ふいにバタバタと打ち倒され始めた。
「な…」
カムイの見張られた目に、木々をかけめぐりながら敵を倒す、複数の影が映った。
44COSMOS撤退:04/06/26 01:56 ID:kwRyDX/a
「おいおい、こんなとこにいたのか! 加勢しに来てやったぞ!!」
大声で叫びながら、混乱する機械兵士に、次々と拳足をブチこんでいくのは、岡村だ。
さらにその横では、自家製のハリセンで岡村が討ちもらした敵をフルスイングする、山田秋太郎の姿も見える。
「お前は……確か、裏御伽チームの岡村賢二……か。なんでこんな所に……」
「へっ、あんたがガンガンのリーダーさんかい? 成り行きって奴で……な!!」
とび蹴りをかましながら、吼えるように岡村が言う。
「とりあえず話は後じゃい! 今は、こいつらをぶっとばすのが先決じゃ―――!!」
戦列復帰を果たしたゆでも、大暴れを再開する。
今や、COSMOSは完全に浮き足だっていた。

 ****

「――!」
とある高層ビルの屋上。
そこにひとりたたずむ、COSMOSリーダー、夏目義徳は常に浮いている微笑を、さらに深く刻んだ。
「……邪魔が入ったようだね」
優雅な微笑みは、暗黒のなかにあっては地獄の執行官のごとき様相を見せる。
夏目は、精神感応金属(オリハルコン)による脳波を精神波に変え、
デジタル信号のようにCOSMOSの各部隊員と情報の発信・受信を行っているのだ。
「今回は必要最低限の人員しか動員していない上に、直接の指揮をとっているのはサブリーダー……これであのメンツを相手するには分が悪すぎるかな」 
COSMOSは、<No.0>である夏目をリーダーにして、例えば10から19を第一小隊、20から29を第二小隊といった具合に部隊分けをしている。
そして、No.1から9までの一桁ナンバーをサブリーダーにして、それぞれの部隊を指揮させている。
リーダーである夏目を思考する大脳としたら、サブリーダーは運動を司る小脳のようなものと言えるだろう。
そして、カムイ達がこれまで相手していたのは、実はサブリーダー率いる小隊のいくつかでしかなかったのである。
45COSMOS撤退:04/06/26 01:58 ID:kwRyDX/a
「仕方ない。どうやら港の方では<ジャバウォック>が覚醒したようだし。
 どうやら悠長に遊んでいる暇はない…か。まあ、実戦テストは十分だし、ここらが機(しお)か。君達の始末は次に回そう」
笑みを絶やさぬまま、そう呟くと、夏目が片手を真上に掲げた。
すると、その掌に、ものすごい速度で青白い炎が集っていき、巨大な塊となる。
その唇が紡ぐは、聖なる書の一節。

「ネゲブの森に言いなさい
 主の言葉を聞け
 主なる神はこう言われる
 わたしはお前に火をつける」


    ―――― ド ワ ア ア ア ッ ッ ! ! !


夏目の掌から、小型の太陽のごとき青白いプロミネンスが放たれた瞬間。
カムイ達がCOSMOSと戦っていた山は、たちまち紅蓮の炎に彩られた。
漆黒の空に反逆するがごとく、山々が青く冷たく燃え上がる。
……『白い闇』が支配していく。


  
     ――――火はお前の中の青木も枯れ木も焼き尽くす――――

                        (エゼキエル書/21章3節)


ビルの屋上で、無数の鳩の群れが一斉に飛び立ったとき。
白い闇を纏いし、人型の悪魔の姿は、全てなかった。
46COSMOS撤退:04/06/26 01:59 ID:kwRyDX/a
突如として山火事に覆われた山中を、カムイ達を乗せたプーマ号は懸命に走っていた。
発案者の趣味で備え付けられたプーマ号の走破性がここに来て役に立った。
岡村はステアリングを必死に切りながら、炎の壁を突破する。
「ちっ、あの連中、いつの間にか1人もいなくなってやがった。あんな見事な撤退、見たことねえ!」
「さすが最強部隊……ってことか。やっぱ普通じゃねえ」
椎名が悔しそうに言う。しかし、なによりも悔しいのは――
「大丈夫ですか、城平さん!?」
「……うう…だ…大丈夫だ……水野」
「……そうですか。よかったです、城平さんが無事で……」
キャパ(積載量)をとうに超えた超過密なプーマ号のなかで、水野はまるで他に人がいないかのごとく、かいがいしく車酔いした城平の世話をしている。
吸血鬼でも、やっぱり酔うんかい。
「ぐーそー……! 今回、一番活躍したのは誰だ!? ヒーローは誰だ!? 最大の功労者は誰なんじゃー!?」
アテつけられ、滂沱の涙を溢れさせる椎名であった。そこへ――
「お…落ち着いてください〜。椎名さんが頑張ったのは皆さん、知ってますから〜」
困ったような顔をしながら、山田が懸命に椎名を宥めている。
「…う……うう……秋子さんは優しいなあ……ぼかあ……ぼかあ……」
眼鏡のよく似合う、ナイスバディーな美女に慰められ、椎名は思わず感涙する。
「…う…おおおおお!! あ〜きこさ〜ん! その胸で泣かせてくで……ぶべしっ!!」
どさくさに紛れて、山田の胸元にすがりつこうとした瞬間、金田一の口から発射された『サッカーボール』に顔面を直撃され、椎名は鼻血を出しながら昏倒した。
「……無限か、こいつの体力は」
端で呆れかえるカムイの横で、金田一がニョホホと笑っている。
「屁のつっぱりはいらんですよ!」
意味不明な、ゆで肉マン。
魔界と化した車内に、ドライバー岡村の叱咤が轟く。
「うるせーな、てめーら!! ほら、見えてきたぜ! 港だ!!」

    プーマ号……遂に別府港到着。   ←TO BE CONTINUED
47作者の都合により名無しです:04/06/26 02:03 ID:ajsTZsQP
ヤンヤヤンヤ
うるせー連中がやっとこ到着や(ノ゚∀゚)ノ

プーマ号(CR-V)って5人乗り設計なんだよねw
48作者の都合により名無しです:04/06/26 09:00 ID:ioTCW59z
そして、ついた所にはジャバウォックがw
同士討ちにはなるなねや〜。
49作者の都合により名無しです:04/06/26 09:38 ID:mj6R+ezZ
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!


と思ったのも束の間
すぐヘタレに逆戻りする城平タン(*´д`)ハアハア…
50咲き乱れる妖花:04/06/26 23:14 ID:yIsTD4YV
前スレ>>527

 長谷川「これで終わりだッ!」
『神の武器』ダイソードを操り、長谷川が安彦操るディビニダドに突貫する。
狙いはディビニダドのコクピット一点。そこへ向かって光の剣を突き立てる!
……そのはずだった。
 長谷川「なにッ!?」

           ズガガガガガガガガガガガッッッ!!!

いきなり数十発の凄まじい衝撃が、ダイソードに襲い掛かったのだ!
 長谷川「な・なんだと……これはッッ!」
長谷川が見上げた先にある機体は、すでにディビニダドではなかった。
銀色のボディは毒々しい赤に染まり、そこら中から金属の触手を伸ばし、巨大な花をイメージさせるその姿は、世界最大の花として有名な、その名も!!

 長谷川「 ラ フ レ シ ア !! 」

  安彦「ククク、その通りです。さて、続けましょうか。貴方と私の『お遊戯』を」

     ボヒュン!  ドヒュン!!  ッビュビュアッッ!!  シュババババ!!!

巨大な金属の鞭……『テンタクラーロッド』が一斉にダイソードに襲い掛かる!
 長谷川「う・おおおおッッ!なめるなァッッ!」
一撃でもあたれば危ないほどの攻撃の嵐を、長谷川がニュータイプ能力を全開にして、技術を総動員してかわし続ける。

    ドドドドドドドドドドドドドドドッドドドドドドドドドドドドドド!!!
 
しかし、100本を超えるテンタクラーロッドの襲撃。
ついに、そのうちの一本がダイソードをとらえた!!
51咲き乱れる妖花:04/06/26 23:15 ID:yIsTD4YV
 長谷川「ぐぅ・おおおおおおおッッ」
触手の先端はチェーンソーとなっており、ダイソードの右腕を貫通した。
すさまじい破壊力!
その隙をついて、次々と触手が殺到する。

   ズガガガガガガ!!  ババシュビュバッ!!  チュインチュイン!!!  ビキビキビキ!!
   シュガガガがガガガ!!  ズバウッッ!  ギュリイイイイイイイッッッ!! シュバン! シュバン!
    ギャラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 長谷川「よ・よけきれないッッ!! ヨゴォォォォォッッッ!!」
かわしきれないとふんだ長谷川が、『神の盾ヨゴ』を召喚し、前方に展開する。
だが、しかし!!

     ドッシイイイイイイイイイイイャャャャッッッ!!!

 長谷川「ぐあああああああああッッ!!」
なんとテンタクラーロッドの嵐は、ヨゴの防御力すらあっさりと貫き粉砕し、ダイソードの全身を貫いた!!
 長谷川「うわああああああああああッッッ」
その攻撃の一部はコクピットブロックをかすめ、長谷川自身の肩肉をえぐりとばした。
ダイソードのコクピット内部が、長谷川の大量の血液でぬれる。
  安彦「フハハハハハハハハ!!怖かろうッッ!!」
高笑いする安彦をにらみつけ、長谷川が気力で倒れていたダイソードを起こした。
 長谷川「まだまだああああッッ!エレクトリック・ブレ――――スッッ!!」
ダイソードの両肩から、雷の嵐が放射され、ラフレシアに襲いかかるがッッ!!

     ババァァァァアアアアアアアンッッッ!!!
52咲き乱れる妖花:04/06/26 23:16 ID:yIsTD4YV
 長谷川「ま・魔力もきかないっ!!」
脳裏に、「ひるむなっ」とダイソードの叫ぶ声がする。
 長谷川「ああ…わかってるッッ!!」
気力を必死で振り絞る長谷川が、次々と魔法を駆使する。
 長谷川「炎の雨(フレイム・スコール)!!」
炎の渦がダイソードの目から発射される。
 長谷川「空気の鎚(エーテルハンマー)!!」
すさまじい大気の塊が、ラフレシアに叩き込まれる。
しかし……ラフレシアには傷ひとつつけられない。
 長谷川「そ・そんな……バカなッッ!」
  安彦「おやおや……ちょっと本気を出すと、もうこの有り様ですか?勝負にもなりませんねえ……やはり」
これが一般漫画家とゴッドハンドの差……!
いかなる敵であろうと、戦法次第ではどんな実力差もくつがえせる。
そう信じていた長谷川だが、その信念が根底から揺るがされるのを長谷川は実感していた。
長き戦歴(主に雑用として)を誇る長谷川が、初めて味わう圧倒的な絶望感。
  安彦「やれやれ……貴方にはもう少し期待していたのですがね……」
すると、ラフレシアから、大量の円盤のようなものが吐き出される。
射出された円盤が上下に開き、そこからさらにいくつもの小型の円盤が生み出される。
それらはそろって、鋭利な刃をそなえていた。
 長谷川「あ・あれは……バグ!!」
バグ。
『ラフレシア・プロジェクト』の一環として余剰人口を抹殺するために設計された、対人感応殺傷兵器。
センサーによって人間の呼吸や体温を感知し攻撃する。
 長谷川「ま・まさか……ッッ」
  安彦「あなたが私を退かせられないと、黒軍の人たちはみんな、皆殺しになってしまいますよォ!?」
次の瞬間、大量のバグが凶悪な刃を回転させ、黒軍基地に殺到した!!
 長谷川「やめろォォォォォォォォッッッッ!!」
血を吐くような長谷川の叫びが、山々にこだました。
53流血の狂詩曲(ラプソディー):04/06/26 23:54 ID:ajsTZsQP
(3部735 20部562)

                ≪ K I Y U ≫

それは忌むべき四文字。いつからか単語のみが伝わっていった破壊の血文字。

失われし時―――10年前の、暑く、どこまでも熱い運命の1日。
そのたった1日で、多くの人間・・・多くの漫画家達に死の文字を刻みつけた。
ある者には精神と身体への傷を与え、ある者には突き抜けし力を与え、
ある者には偽りの記憶と空白を与え、ある者には絶望の未来を与えた。
表向き、一般人には某国からのミサイル爆破事件と情報操作してあるが、
特殊職業である漫画家たちの多くは、その言葉を鵜呑みにはしなかったようだ。

わずかな記憶と、現場に残ったごくわずかな痕跡から、
独自の調査を行い当日の事件を再現しようと何名かが協力した事もある。
だが誰もがその日の【真実の記録】には到達し得なかった。
何かが邪魔をするのだ。それが何なのかすら、わからない。
これは矢吹艦データベースに残された、短い情報。

>キユ覚醒プログラム「NUMBER10」:2002年五月に集英社が
>ワールドカップイヤーという理由で安易に作り出した禁断のプログラム
>NUMBER10の数字部分が一週ごとに減って行き、NUMBER0、
>つまりロケットが突き抜けたとき、キユが覚醒し、集英社の半径10Kmが
>焦土となったという。

“人間兵器”NUMBER10と呼ばれた少年・キユの「姿」を知る者は、
Xデー当日を体験している人間にも殆どいない(鳥山、矢吹?)。多くが謎に包まれている。
冷凍カプセルより甦った10年後の現在、少年は数名の漫画家の前に顔を出している。
だが恐らく未だ、かの日の悪夢を深く肉体に刻みし者たちとの再会は果たされていない、ようだ。

≪KIYU≫を刻まれた男たち―――裏御伽チーム創設メンバー4名。
忌むべき四文字の“意味”を知っている本宮。あの日止まった時の針は、再び動き始めた・・・。
54作者の都合により名無しです:04/06/27 00:29 ID:YhMlbPSe
バキスレとえなりスレが仲良く並んでいるところがなぜか笑える。
55敗北渦巻く戦場:04/06/27 07:39 ID:J/FC38+R
>>52 全スレ>>503
長谷川「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
膨大なダイ・ソードを中心に巨大な渦を作り出し始める。
士郎「長谷川先生!大丈夫ですか!」
長谷川「大丈夫は大丈夫ですけど……そっちの方は!?」
士郎「今格納庫へ向かってるところ!」
長谷川「でもまだ!バグが基地内に!!」
次の瞬間、通路の向こうから銃声が鳴り響いた。
士郎「少し入ってきてるみたいね。でもこのまま座して死ぬよりは、神速で動いた方が助かる可能性は高いわ。」
長谷川「そちらの判断に任せますし、メカも自由に使ってかまいません。」
熊谷「わかった……」
次の瞬間、ダイソードに衝撃が走る。

安彦「  戦  場  で  余  所  見  を  す  る  奴  が  い  る  か  !  」

長谷川「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
触手に振り回され、なすすべの無い長谷川。
長谷川「炎だ!炎でろっ!」
目からの火炎放射、フレイム・スコール(火炎の嵐)を連射し、何とか触手を焼き払う長谷川。
長谷川「まいったね……。」

??1「いいのか?外をほっぽいて!」
メンバーの一人が士郎にそう叫ぶ。基地内で「俺って最強だぜ!」と騒いでた男である。
士郎「今は、ここから逃げることが先決よ。私達が逃げたのなら、長谷川先生が戦う理由は無くなるわ。」
そう言って、士郎が通路の角で一度止まり、通路の向こうを確認した。
56作者の都合により名無しです:04/06/27 10:06 ID:zofH0UmB
漫画業界に今1つのブームが起こっています。 それも裁判ブーム。
しかも、裁判漫画では無く、漫画家が実際に裁判を起こすケースが多発しています。
つい数年前、小林よしのり先生が自分の漫画から引用した評論本の作者を訴えた事件がそもそもの発端だったようですが、
まさかここまで広がるとは…。
つい先月には、金田一少年時代の取り分を争って、金成陽三郎がキバヤシ先生を訴えたり、
世界的カードゲームの会社「マジック・ザ・ギャザリング」のWOC社が、「遊戯王」の作者・高橋和希を訴えたり、
と、あちこちで裁判が起こっています。
週刊少年ジャンプ「少年探偵Q」のしんがぎん先生が、
週刊少年マガジンの「学園探偵Q」サイドを訴えようとした寸前に亡くなったケースなどを見ると、
何か裏があったのではないかと思うのはキユだけでしょうか?
そして、ついに、週刊少年マガジン連載中「RAVE」の作者・真島ヒロ先生が訴えられました。
以前から、「ワンピースのパクリ」などとの噂(あくまで噂)があった漫画だけに、訴えられたこと自体には、誰も驚きもしませんでしたが、
まさか、訴えた人物が、『BLACK CAT』の作者・矢吹健太朗氏で、その訴えた理由が、
【他の漫画をパクるのは俺のパクリ】という理由だったとは。
57作者の都合により名無しです:04/06/27 13:35 ID:32PZJ1xl
懐かしいコピペやな
58すべてが赤になる:04/06/28 13:04 ID:95n80FqB

          雨が降る。 雨が降る。

   血を洗い流す。 肉を洗い流す。 

       焼け爛れた生物と非生物が交じり合う。

  思い出も、希望も、当たり前の日常も。

            何もかもが泥まみれで。

風が吹く。 魔獣の咆哮が嵐を呼び、全ての罪を水没させる。

    別府史に残る≪おまつり≫の。

         終わりの笛が近づいて。

           今宵、永遠とも思われた赤い炎の夜は。

  赤い水となって混沌の中心に流れ込む。

    赤い河は港へ向かう。あらゆるものが渦巻く地へ。

      赤い瞳の、あらゆる生物の王たちもまた。


        そして――――すべてが赤になる。
59自然の奇跡!!:04/06/28 15:42 ID:/aT14KW/
前スレ517

「ガアアアアアアアアアア―――――ッ!!」
次から次へと肉体をジガバチに喰われ、いがらしが呪うような絶叫を放つ。
「ま…まさか…この僕が…不覚な…」
全身から滝のような血を流出させながら、獣人がもがき苦しみ続けていた。
「このままならば貴様はジガバチに喰い尽くされて死ぬだろうが…しかし…きさまは…」
激痛に苛まれるいがらしを冷徹に見下していた巻来が、その手に握られた刀を振りかぶる。
「俺自身の手で淘汰してやるぜ―――――っ!!」

「 仏 打 炎 爆 剣 !! 」

  ド ッ バ ア ア ア ア ア ―――――― !!

「ガガアアア!!」
「くたばれェ、バケモノ野郎オォ!!」
巻来の斬撃によって、いがらしの頭部は一刀両断された。
さらには食い込んだ剣が炎を発し、いがらしの全身を内外から炎上させていく。
「ガワアアア!! フゲ――――ッ!!」
炎にくぐもった雄叫びをあげる、いがらしだが。
その狂気から来る執念ゆえか、その手が巻来の腕をつかむ。
「ウッ!?」
そして―――

「 体 中 爆 発 の 術 !! 」

巻来の身体が、内部から爆発を起こしたのは、その瞬間であった。
「ゲハァッッッ!??」
ほとばしる赤が、腐界を染め上げた。
60自然の奇跡!!:04/06/28 15:43 ID:/aT14KW/
掴みかかった相手の体内に爆発を起こす――
これぞ、いがらしの奥手のひとつ、『体中爆発の術』である。
ブワッシュ―――!!
「ガアアア!!」
体内の内臓器官や骨、血管に至るまで破壊され、全身の毛穴から霧のような血を噴き出す。
巻来ががくりと膝をついた。
「ハーハッハッハッハ!! 油断大敵ってやつだァねェェェ!?」
「ぐくっ…! き…貴様!!」
おびただしい負傷に蝕まれた巻来が、反撃に打ってでる。
しかし、いがらしの方がわずかに回復が早い。
その掌が、巻来の胸元にそえられた瞬間――

「 意  念  砲  !!! 」

  ド ッ ガ ア ア ア ア ア ア ア ――――――― !!!

掌から放出された、『手印念』に数倍する威力の念が、巻来を遥か彼方まで吹っ飛ばした。
大木を次々とヘシ折りながら、宙を走り、折れた木の下敷きになるように倒れた。
腐界の木々が、沼のように広がる巻来の流血で染まっていく。
「クックック……思ったよりも手こずらせてくれたねェェ」
頭部を断ち割られたというのに、まだ生きているこの怪物は不死身か。
勝利の歓喜を沸き立たせ、いがらしが倒れ伏す巻来に歩み寄る。
鋭い爪が並ぶ掌で、巻来の首を掴み、持ち上げる。
ここで、いがらしがわずかでも力を入れれば、巻来の頚椎は枯れ枝のように容易くヘシ折れるはずである。
「くく…君は僕を『欲望のあやつり人形』と言ったなァァ……確かにそうかも知れない。
 だが、あやつり人形なのは、君も同じさァァ?
 友情だの…平和だの…正義だの……そんなつまらないもののあやつり人形……走狗にすぎんさァ…」
斬傷と火傷で崩れたいがらしの顔が、醜悪な笑みに歪む。
「そして……知ってるかい!? 犬同士の戦いは、先に喉笛をとった方の勝ちなのさァァァ!!」
61自然の奇跡!!:04/06/28 15:45 ID:/aT14KW/
「死ねい! 低級漫画家め!!」
狂気を顎からほとばしらせながら、いがらしが巻来の首を持つ手に力を込める。
だが。
瀕死のはずの巻来が、常と変わらぬ、あのニヒルな薄笑いを浮かべた。
「――へっ、まさに貴様の言う通り……油断大敵ってやつだ」
「――!?」
そのとき、いがらしは初めて、巻来の手に握られていたものの正体に気付く。
「へっ、深い大自然には、貴様ら傲慢な文明人が思いもよらぬことがあるんだよ」
それは青白い電気をほとばしらせた、一本の蔓だった。
「こ…これは…?」
「植物は微弱だが電気をもっている…その電気を集めると高圧になり、貴様の細胞を焼きつくすことができるのだ…」
何事かと思って聞いていたいがらしが、そこで爆ぜるように哄笑した。
「グハハハハハ、微弱な電気を集めたところで、電気ウナギ程度が関の山さ。
 この偉大なる、いがらしみきおを、世界の破壊者を、焼きつくすことなどできんンンンンン!!」
高笑いするいがらしだが、そんな彼を、巻来は一笑する。
「はたしてそうかな。貴様のまわりをよく見ろ」
「――?」
言われて、辺りを見渡すと、そこには――
「ムッ!!」

   バチバチバチバチバチバチッッ……
       
            ザワザワザワザワ………………

森が、腐界がざわめいていた。
そして、猛っていた。
広大な森林中に、とてつもない量の電気が流れ、巨大な電磁場を形成していた。
62自然の奇跡!!:04/06/28 15:46 ID:/aT14KW/
「――なっ!!?」
「この森、すべての植物が貴様を消したがっているのさ。“いびつ”な遺伝子を排除する、正常な地球の自然淘汰の姿だ」
「ま…まさか…」
いがらしが冷や汗を流しながら、巻来の手元を見る。
「そして、その怒りの電気のすべては、この根とつながっているのだ」
そこに握られているものはまさしく、神の怒りの鎚であった。
「しゃ…」
いがらしの表情から冷静さの虚飾がはぎとられた。
「しゃらくせェ――――っ!! 僕は世界を破壊するものだァァ!! 貴様ァァなんぞにィィィィ!!」
激昂し、大顎を開いて、牙を剥く。
「笑わせる! 貴様ごとき下衆に砕けるものなど、この世に何ひとつありはしない!!」
刹那、巻来の『緑の瞳(グリーンアイズ)』が必勝の覚悟に見開かれ、雷神の一撃が、狂神に炸裂した。

   
「  エ フ ェ メ ラ ル サ ン ダ ―――――――――ッ!!!! (植物細胞雷) 」


    ズッバオオオオオオオオオオオオオオ―――――――z___________ン !!!!!!


放たれた大自然の怒りの矢が、別府中に蔓延した死者達の限りない無念と悲しみの刃が、突きたった。
63自然の奇跡!!:04/06/28 15:46 ID:/aT14KW/
「ま…まさ…が……ぼ…僕が……ぜ…ぜかいの破壊…者……が…ま…まけ……」
原子力発電すら凌駕する膨大な電流が、瀑布となっていがらしの肉体を喰い尽くしていく。
やがて、その身体は焼き尽くされ、原子の塵へと帰っていく。

  「る"」

断末魔と言うにはあまりにも呆気無い呻きを最後に、いがらしみきおは完全消滅した。


         
   ―――― 羅門衆いがらしみきお…20××年○月◇日 浄化 !! ――――


「……これで…淘汰完了……だ…」
その言葉を最後に、巻来が満足した笑みを浮かべ、ゆっくりと腐界のなかで横たわった。



同刻――
腐界の遥か上空を、一個の透明な球体が、人知れず飛んでいた。
その内部には、深く眠り続ける、一匹の小狐がすっぽりと納まっていた。
かつて人であった狐を、その内に飲み込んだまま、球体は流星のごとく水平線の彼方に消えていった。

  ← TO BE CONTINUED
64作者の都合により名無しです:04/06/28 17:22 ID:97TXdmC7
マッキー激勝!めちゃカッチョエエ〜
65作者の都合により名無しです:04/06/28 17:57 ID:gRpMP27L
まさかいがらし先生が負けるとは・・・・

お見事!マキ隊員!
66作者の都合により名無しです:04/06/28 18:21 ID:Q8J9DlxF
別府編の主役は地球防衛軍だったのか(´∀`)
67作者の都合により名無しです:04/06/28 21:55 ID:V74KcwYn
大戦鬼もかっこよかったしなー
マッキーもとんでもなくかっこいい。
淘汰完了にかなり痺れた。株大上昇やね
68作者の都合により名無しです:04/06/29 00:31 ID:tE0p1w+o
しかしマッキーの技はどれもえげつないのばっかりだな・・・心臓破壊とか蜂とか
マジで敵にまわしたくないキャラのひとりだ

ところで、いがらし先生は本当に死んだんだろうか?
このままここで退場になると神の島カナンの伏線やら某巨神兵の立場とかがなくなるがw
69作者の都合により名無しです:04/06/29 00:33 ID:gLmbfdbJ
キッシーに期待
70作者の都合により名無しです:04/06/29 01:55 ID:jZT/psxT
まあ仮にもゴッドハンドクラスと呼ばれた男だしな
裏はあるだろ

俺には見当もつかんけどw
71作者の都合により名無しです:04/06/29 03:14 ID:XzKKoPk2
まーどっちでも良し。
俺的にはキャラの量から考えて切るとこは切ったほうがいいような気もするがな
少年漫画でもそうだけど、何度負けても復活する敵キャラは得てして賞味期限が過ぎる場合多いし
72作者の都合により名無しです:04/06/29 13:19 ID:jp8szsk4
いがらし負けちまったよ…マキ強ぇ…(精神力も大きかったが
残る鬼畜は倫タンと梅さんのみか…(暗罪は乗っ取られちゃったし
過去編の通りなら山口隊長もかなり鬼畜なのだが
73作者の都合により名無しです:04/06/29 13:21 ID:eg68PdEH
地球防衛軍は隊長と久米田以外はなにげに強者ぞろいだね
巻来・佐渡川・岡村はもちろん、ダイも本気だせばそこそこ強いし
隊長、人を見る目だけは確かだったということかw
74蝶のように、蜂のように:04/06/29 18:53 ID:8DbVUpnD
前スレ>523

「さっきとは別の姿。別のライダーってことか」
「……」
「しかし―――傷が癒えた訳じゃない、だろ?」
 その言葉がきっかけになったわけでもないだろうが―――村枝の足元に血が滲む。
 それを自覚していないかのように村枝は力強く―――
「電磁ナイフ!」
 太腿に収納されている伸縮性のナイフを引き出すと、低く構える。
 同時に、今まさに飛びかからんとするその気配を感じ、和月が宙に浮かび上がる。
 刹那―――
「トオ!」
 気息迸らせ、村枝が疾駆する。
「(……避けきれない、な)」
 瞬時に見切り、黒色火薬の鞭を放つ和月の視界から、村枝の姿が掻き消えた。
「上ッ!!」
 振り仰いだ頭上に、まるで月光を遮るかのように蹴足の体勢を取った村枝の姿を認める。
 和月はその足に鞭を伸ばし絡め取る。そして発火の意思を込めた。
 刹那―――村枝は空中で姿勢を変え、頭足を反転させた。
「!?」
 村枝の挙動を理解できずにいた和月の前で火薬の鞭は爆発した。その爆風の中から疾風のように殺到する村枝の姿が覗き、そこで悟る。
「コイツ!俺の爆発を推力にするだと―――!?」
「オォォォッ!!」
 鞭は―――間に合わない。
 見切りの早さが、逆に絶望的な現実を告げる。
 視界に広がる鈍色のナイフ。
 和月は、そのとき初めて村枝という男に驚嘆した。
75ワンナイト・カーニバル:04/06/29 23:17 ID:gLmbfdbJ
(>46 >58)
 「ほら、見えてきたぜ! 港だ!!」

修学旅行並に騒がしい連中を押し込めたプーマ号が、
脱落者やら予定外の客やらに振り回されながらも、
やっとの事で目的を果たして出発地点に戻ってきた。
だが近づくにつれ、異様な気配が数ヶ所から彼らにプレッシャーを与えてくる。
 「なんだ・・・?」「と、鳥肌が立ってきました・・・」「うづうづします」
岡村と山田と松沢が同時に声を出す。
数瞬後、鉄砲水のようなどしゃぶりの雨がプーマ号の屋根を乱打した。
 “ ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド !!!”
いきなり会話もままならなくなるほどの重低音。
 「・・・れだ!・・・は・・・」「・・・気配・・・怖・・・」
嵐のカーテンの向こう、得体の知れない闇の固まりを感じる乗員たち。
確認したいがしかし、戦地でブレーキをかけるわけにもいかない。
不自然なほどに障害物のない地を四輪の勇者は突き進む。
タイヤは丘の上から流れてきた赤い泥水を勢いよく跳ねる。
ヘッドライトは2メートル先の風景も見出せない。
運が悪ければそのまま海へダイブしてしまう。
壊れかけのナビと運転手の岡村だけが頼りであった。


 「わーーーーーははは!わーーーーーーはははは!!
 あーー愉快じゃのう、なんだか知らんが笑えて来たぞ!!
 吹けよ風、叫べよ嵐!ほれもっとわしにサービスせんかっ!!」

崩壊寸前の松椿、ひび割れたコンクリビルの6階ベランダで、
ビール瓶から直接酒をかっくらいながら火事場見物をするのは安永航一郎。
宴会一発芸大会の余韻が忘れられないのか、浮かれ気分で生き地獄を酒のツマミとしている。
 「よぉぉーし!ではカラオケ大会の続きと行こうかのーーー!?
 14番安永、ぐぁんだむメドレー行きまーーす!!♪チャチャーチャー(略)」
生きていれば、いい事あるさ。≪おまつり≫の夜は更けてゆく。
76作者の都合により名無しです:04/06/30 00:25 ID:ZPukBu1J
>>73
実は隊長が直接スカウトしたのは変態2名だけという怪奇

村枝さんかっこいいよなあ・・・
少年漫画家の鑑さね
77深夜輪舞:04/06/30 01:40 ID:Uf9QmRff
関連スレ(前スレ478)

轟々と嵐が唸る別府の街を、藤原芳秀が駈ける。
前方から、隠そうともしない殺気と妖気が顔を叩くのを感じながら。
藤原(……体が熱病にかかったようにだるい……心臓がラップを躍っている……果たして勝てるか?……)
たかしげ宙の一撃により、体内に爆弾を抱えたままの藤原である。
常人ならば戦える状態ではない。今、彼を動かしているのは、己の中の『誇り』であった。
そして、藤原が公園の辺りにさしかかったとき、ふいに脇の茂みが大きく鳴った。
鷹氏「わざわざ死にに来たか!!」
藤原「鷹氏……!!」
ドウン!! ドウン!!
とびかかってくる鷹氏に向かって、コンバットパイソンの引き金を引く。
しかし、マグナム弾は鷹氏が展開した風の盾によって、あっさりと空中で弾かれる。
鷹氏「こんなパチンコ玉など私には通用せん!! 牙 裂 斬 !!」
ゴ ヒ ュ ン !!!
お返しとばかりに、鉄をも切り裂く風の刃が唸る。
しかし、カマイタチは全て、藤原の義手によって巧みに軌道をずらし、力をそらされ、いなされた。
藤原「その台詞、そっくりそのまま返そうか。こんなそよ風じゃ、俺の首は獲れんぞ」
2人が距離をとって着地する。
鷹氏(今まで藤原に対して使ったことのある風では、ヤツを倒すことはできない……!!
   ならば、『魔覇』の風を使い……一撃で終わりにしてやる!!!)
藤原(ヤツにはガンが通用しない以上、接近しての肉弾戦しかこちらの闘う術はない!!
   ヤツの隙をついて懐に飛び込み……ありったけの力でたたきのめす!!)
互いに戦法を決めた。
藤原が前に飛び出した瞬間、鷹氏も詠唱を開始していた。
78深夜輪舞:04/06/30 01:41 ID:Uf9QmRff
鷹氏「大気に宿りし精霊達よ 我が絶対の力と化せ!!
   天と地とを従えし魔流と化し 触れる物全てを無へと帰せ!!!」

      「 魔  覇   皇  龍  盡  !!! 」

これまでとは比較にもならない圧力を持った風が、津波のように押し寄せた。
周囲の木々を薙ぎ倒し、地形そのものを変形させながら、嵐のように荒れ狂っている。
藤原(くっ、義手が、体の細胞が、この超過圧の風に悲鳴をあげている……!!
   それに何と言う風の出の速さだ……化勁と義手の防御だけでは捌ききれん……!!)
遮蔽物を盾にすることはほとんど意味を持たず、逃げ回りつつ防御し、受け流しながら、なんとか直撃を避けている。
鷹氏「どうした!?口先だけか!!面白みのないヤツだ!!」
高笑いしながら、圧倒的な呪の放出を続ける鷹氏。
そのとき、目の前で閃光が爆ぜた。
カッッ!!
鷹氏「!!閃光手榴弾か!!?」
どのように強大な風であっても、光を打ち消すことはできない。
ほんのわずかな空隙が生じた、その瞬間!!
鷹氏「!!!」
風の壁を突き破るようにして、藤原が眼前に現れた。
凄まじく迅い踏み込み。一切の虚飾がない。
地面を破裂させるように踏み込み、全体重を乗せた肘を鳩尾にめりこませる。
強烈極まる、八極拳の一撃!!
鷹氏「ぐう……!!!」
大量の息を吐き出し、身を折ったところへ、間髪入れず横蹴りが飛ぶ!!
 ド ガ ッ !!
まともに喉への一撃が入った。
鷹氏が吹っ飛び、激突した樹がヘシ折れた。
藤原(貰った!!!)
初めて生じた勝機を逃さず、藤原がとどめの一撃を放った。
79深夜輪舞:04/06/30 01:42 ID:Uf9QmRff
大気を軋ませながら、藤原の左掌が走る。
凄まじい震脚。

 猛 虎 硬 爬 山 !!

八極拳の中でも広く知られる程の、必殺の一撃。
その一撃は、鷹氏の肉体を粉微塵に破壊するかとすら思わせた。
だが、鷹氏は起き上がり様、片腕一本で藤原の渾身の打を受け止めた!
藤原「何……!?」
鷹氏の腕の一部が破損し、血がしぶいたが、砕けるにはいたっていない。
その腕の異様な感触に、藤原は驚いたように唸った。
鷹氏「惜しかったな……これが普通の人間の体であれば、今の攻撃に耐えられなかったであろうが……
   今、私の体を形作っているモノは『一角鬼』そのもの!
   肉弾戦で人が鬼に敵うことはありえぬ!!!」
長い爪を生やした巨大な手が、『気弾』を放った。
その一撃があろうことか、先程の風の衝撃で限界が来ていた義手を肩口から破壊した!!
藤原(腕が……!!)
片腕を失い、体勢を崩した瞬間、鷹氏が詠唱を始める。
鷹氏「黒き闇 黒き力 混沌の破滅をこの地へと導け!!全ての存在を暗黒の力により飲み干せ!!!」
藤原「!!!」

      「 黒  死  降  魔  破  !!! 」 

刹那――目の前に出現した巨大な黒球が、レーザーのような黒線を放出した。
藤原「くぅうううう!!」
コートがボロクズのように吹き飛び、後退する藤原の肉体を黒い威力が削り取っていく。
さらに、そこへ追い討ちをかけるように、いまだに吹き荒れていた『魔覇皇龍盡』の結界が津波のごとく押し寄せた。
80深夜輪舞:04/06/30 01:44 ID:Uf9QmRff
藤原(……そうか……最初の一撃はこの為か……俺が接近戦を挑むと予想して…!!)
そのとき、藤原の腹部にひそんでいた『爆弾』が破裂した。
藤原「ぐう!!たかしげにやられた傷がッッ!!」 
もはや、鷹氏が放つ威力を受け止めきれる状態ではなかった。
藤原「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

  ゴアアアアアアア!!! ――――――ドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!

街の一部を消し飛ばすほどの破壊力が、一斉に炸裂した。
土砂崩れを起こし、山となった瓦礫を見やりながら、鷹氏がほくそ笑んだ。
ごぶり、と血を吐き出しながら。
鷹氏「見事だ……藤原芳秀……あの一瞬……風の動きを計算して……」
見れば、その腹部に藤原の折れた義手が突き刺さっていた。
引き抜くと多量の血が流れ出す。
鷹氏「…だが…私はこの程度では死なぬ……一矢を報いたのは誉めてやるがな…」
義手を風によって粉々に破壊すると、鷹氏は踵を返した。
鷹氏「さて……次はあの女共を……皆殺しにしてくれるとしよう……」
嵐に逆らうように、鷹氏が勝利の高笑いを響かせた。
81深夜輪舞:04/06/30 01:44 ID:Uf9QmRff

そのとき、藤原は瓦礫の下で、力なく横たわっていた。
藤原(ヤツの体……まるで鉄の塊を相手にしたみたいだった……どうやらただ殴る蹴るではダメージを与えられそうにない…)
考えているそばから、意識が遠くなり、目の前が暗くなっていく。
藤原「このまま眼を閉じちまえば、どんなにか楽か知れやしない。
   眼がかすんでいる。頭が朦朧としている……俺の中からあらゆる力が抜けちまった」
呟きとは裏腹に、震える手は転げ落ちた銃を握る。
藤原「それでも…それでも俺は立ち上がってしまう…わずかに残った誇りをありったけかき集めて!」
銃を懐にしまい、そして近くに転がっていた、黒のアタッシュケースを開ける。
その中に収められた、新型の義手を掴む。
新しい腕は、それまでの限りなく生身の人体に近い腕とは異なり、まるで刃物を幾重にも重ねたような武骨なシロモノであった。
それは義手というよりも、『武器』と呼ぶにふさわしいものがあった。
藤原(“殺戮者”にして“護り屋”……矛盾を抱えた男、それが俺だ――――)
よろめく足で立ち上がった。
藤原(だが、もはや迷いはない……答えはすでに、胸の内にある――!!)
その眼に、決意の炎が燃え上がる。

藤原「鷹氏……俺にしかできない戦い方を見せてやる…!!」

○月×日 10 (前スレ>27>561 他諸々)

私は地球防衛軍隊長・桜玉吉。理由あって現在は悪魔風肉体だが火傷と塩水で素敵な状態だ。
新隊員2名を流れでスカウトする事になった。思えば結成時はクメタ隊員1名だったのが、
狼男に襲われていた美女の頼みでオカムラ隊員とマキ隊員を引き取り、到着した目的地の松椿は戦乱中で、
クメタ隊員がダイ隊員とジュン隊員の誘い込みに成功し、移動中にキッシー隊員をプーマ号車内で発見し、
港で無礼ド徴収に失敗したドサクサに敵宇宙人の攻撃に遭い色々あって現在に至るワケで。
無礼ド艦長捜索班や艦内に残る隊員たちの様子が気になってたまらない。この私ともあろう者が、
久しぶりの下界と戦争でつい感傷的になってしまったようだ・・・ん?おい。
乗り込んだ我が潜水艦≪スクーン号≫がバカップルの愛の巣になりかけてやがる。
なーにが夕日子ちゃん見てー面白いよーだ貴様の腐ったキャラ変遷の方がよっぽど面白いわ・・・って!
私が貞本そのボタンわーっとか叫ぶ間に唯一の攻撃砲がラッキーストライク。サックリ殺してえコイツ。

どうも私は人生の選択肢を間違えた気がせんでもないがともかく移動。潜水艦港の外れに到着る。
存在自体が汚らわしい貞本ことピンク隊員は脳神経の末端まで桃色野郎になり落ちぶれてしまった。
相方のホオズキ隊員は確かにかわいい目だが私の好みではない。そういや麗しのジュン隊員!
私の悪魔化が解けてない=ジュン隊員の女体化が解けてない!非常に気になる展開である。
私は強気でネコ目な娘が大好きだ!これはもう・・・いやいや何も言うまい。
エロ本と違って私はジュン隊員を慰み者にしようとは思わん。だって心の太陽だから〜って!
妄想止まらぬままピンク隊員の翼で無礼ドへ向かう。もちろん本筋のどこにも書かれてはいない。日記だからなこれ。
そんでこいつら歌やら魔法やら杖やらがどうとか言ってたはずが気づけば目の前に王蟲。
速攻裸足で逃げ出すべき――ああまた馬鹿がいきなり巨神兵変化してボッコンボッコン!
ああジュン隊員助けてっ!日記のページ数ギリギリですが・・・むう?そうか“ごっこ遊び”も面白そうだな。
頼りない隊長だがいいトコ見せるぞ!エネルギー充填120%発射ァァ!! ・・・快・感♪(某映画風)
83"魔牙神"両巨頭激突‥‥!!:04/07/02 03:58 ID:1FJS6348
前スレ83

ブオン‥ッ!
鋭い風切り音をあげながら、ツルハシが振り下ろされた。
狙いは、森川ジョージの脳天。
確実に殺すつもりの速度‥‥‥
ゴキイ‥‥ッッ!
次の瞬間にしたのは、予想外の音だった。
それはジョージの脳天にツルハシの先端が突き刺さった音ではなかった。
佐木が振り下ろそうしたツルハシは、その半分ほどの距離で止まっていた。
なぜなら、ツルハシを持つ指にジョージの左ジャブが食い込んでいたからである‥‥
指が折れ、ツルハシが強制的に地に落ちる。
「ゴッ‥オオッ‥!?」
骨折してグニャグニャになった拳を見つめながら、佐木が吠える。
中腰の姿勢でパンチを繰り出していたジョージが、完全に身を起こしながら、さらに一歩前に出る。
その踏み込みの先には、佐木の左足がある。思いきり踏み付けた。
「‥!?」
「フザけろよ‥‥?佐木ィィィィィッッ!!」
轟‥!!
衝撃を逃がせない佐木の顳かみに十分に回転をひねりこんだフックが炸裂する。
ゴム毬のように吹っ飛び、路上駐車されていた車のフロントガラスに頭から突っ込む。
「立てよ‥‥立てぇ!!佐木ぃぃぃっ!!」
獣のように吼えるジョージ。
倒れてうずくまる佐木。
どちらの顔も血みどろだ。
 ゴリッ
そう小さい音がした瞬間‥‥
ビシッ‥!
「!?」
ジョージの目を硬くて小さい物が叩いた。
84"魔牙神"両巨頭激突‥‥!!:04/07/02 03:59 ID:1FJS6348
一瞬、視界がさえぎられる。
その瞬間‥‥
はじけとぶジョージの顔。
佐木が、なんと折れた拳で殴ってきた。
「ガッ」
凄まじい威力に、ジョージが道路に倒れて頭部をアスファルトに擦る。
「あ‥‥?ナンだって?“立て”って‥?」
口の中でモゴモゴと折れた歯を転がしながら言う佐木。
さっき、ジョージの視界を邪魔したものは、それだ。
「俺にそう言ったんか‥?この俺によう‥?ジョージぃ‥‥?」
バオ‥‥ッ!
バネ仕掛けのように跳ね起きたジョージが拳を飛ばす。
その顔面に、佐木がもう一度歯を吹きつける。
今度は見切ったジョージがそれを額で受ける(かわすと隙ができるから)。
「そーだぜ、“佐木”!?」
ぴゅっ‥!
いつの間に握っていたのか、佐木が木刀をジョージの頭部めがけて水平に薙ぎ払ってきた。
まるで笛が鳴るような音。
「テメェに‥‥」
ダッキングしてかわす。髪の毛が切断されるほどのぎりぎりの距離。
キュン‥ッ!
一度吹き抜けた木刀が、手首の返しひとつで戻ってくる。
並外れたリストの強さがなければできない。

めぎい‥‥!!

木刀が砕け、佐木の頭部がはじけとんだ。
佐木の木刀は、ジョージがフックを放った腕にあたった。
ジョージの拳は、まともにはいっていた。
2人の体が同時に吹っ飛んでいた。
85"魔牙神"両巨頭激突‥‥!!:04/07/02 04:00 ID:1FJS6348
「言ってんだよおッ!佐木ぃ!!」

 ガシャア‥‥!!

ジョージが店先のショーウインドウに叩きこまれ、佐木が道路標識に激突した。
血まみれで笑いながら、悪魔のような表情のジョージが這い出てくる。
その前に‥‥
ゆらり‥‥と、まるで骨がない軟体動物のように佐木は突っ立っていた。
カッ‥‥!!
白眼と赤眼が逆転したような凄絶な眼光が唸っていた。
そのあまりの耐久力に、ジョージが驚愕する。
「(コ‥コイツ‥‥!?“キマッ”てやがんのか‥?どーなってやがる‥‥!?まるで‥‥)」
にたり、と佐木が笑った。
「(“悪霊”とでも喧嘩してる様だぜ‥!?)」
ブン‥‥!!
咄嗟にとった、両腕をまっすぐに揃えてガードするピーカブースタイルの上から、強烈な蹴りが叩きつけられた。
「うがっ!」
鉄壁を誇るはずのピーカブーブロックごしに、真正面から吹っ飛ばされた。
なんとか踏みこたえたジョージが、目を見張る。
「(ぐう‥‥!?折れやがったか‥‥!な‥なんてパワーだ‥‥!?)」
にたあ‥‥と笑う佐木が、さらなる攻撃をしかけてくる。
必殺の右ストレート。
よけられるタイミングではなかった。とてつもない速度。
びゅん‥‥!
しかし、なんとジョージ。
恐るべきことに、あり得ない体勢でこれを間一髪かわしていた。
上体反らし‥‥!
ブリッジぎみに仰け反るジョージに、佐木が初めて面喰らった。
その瞬間‥‥
  
     ゴ  キ  リ ッ !!
86"魔牙神"両巨頭激突‥‥!!:04/07/02 04:01 ID:1FJS6348
ベキベキと、佐木の体内で不快な音が鳴る。
ストレートを放つさいに前に出ていた佐木の脇腹に、カウンターぎみに入った肝臓打ちが突き刺さっていた。
アバラ骨が、一気に4本はヘシ折れた音。
「お‥‥」
激痛のため、佐木の体勢が大きく前屈みになった。
前のめりに倒れそうになる佐木。
ジョージは、自らも深く屈んだ体勢から
それをひっこぬくような要領で‥‥

   ド ゴ ン ‥‥ ッッ!!!

真下からアッパーで突き上げた。
肝臓打ち→ガゼルパンチという強力無比な連係に、佐木が血を吐いて仰け反った。
完全に棒立ちになった佐木の前で‥‥

 ヒュン ヒュン ‥‥!!

ジョージのウィービングが除々に加速していく。

  ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ‥‥‥‥ !!!

今や猛スピードで回転するウィービングの軌道は、数字の「8」を真横に倒したような形。
ジョージの頭が、無限大∞を描いている‥‥
そう、この流れは‥‥!!
そして、この技は‥‥!!!


       デ  ン  プ  シ  ー  ロ  ー  ル   発  動  !!!!!
87作者の都合により名無しです:04/07/02 10:00 ID:TxyY695f
マックノーウチヽ(`Д´)ノキタァァァァ!!
88流転の夜:04/07/02 16:30 ID:TxyY695f
(>19 20部362・455)

最終的な艦内調査のため、今なお海中に潜る原潜やまと。
刺客どもが原子炉やこっそり積んだ核魚雷に爆弾を仕掛けてやしないかと、
乗員が人員を割いてチェックして回っているのだ。
実は合流前の川原が既に安全をだいたい確認していたが、
やはり念を押す必要があった。なにしろ相手は“10年来の怨敵”なのだ。
少年KIYU復活前後、彼ら裏御伽の周辺は急激に流動化している。
10年前の当時いったい何があったのか。
本宮は重く口を閉ざしていた・・・。

客室のテレビはいつの間にか九州災害情報一色になっている。
めそ着ぐるみのみずしなが、「再度」登場し改めて漫画家たちに助勢を訴えている。
先刻の乱入土下座シーンは編集され、みずしな単独の映像になっている。
 『九州の皆様ご安心下さい!必ず救世主は現れます!!』
 『せやで!俺ら漫画家の底力と正義の魂を信じるんや!!』
アナウンサーの隣で元気よく拳を振り上げるみずしな。
アジテーション(扇動)効果は抜群であった。

 「・・・漫画家は正義の勇者、みんなのヒーローである。
 そんな時代も確かにあった。だが歴史の裏で俺たちが、
 どれだけ醜い心を剥き出し争い、血と涙を流し、屍を晒し、
 光と同じぐらいの闇を形成してきたのか・・・彼らは知らない。
 もちろん漫画家の全員が戦争をしてきたわけではない。
 皮肉な事に矢吹政権時代となってから、表面的に闘争は収まった。
 ・・・漫画家という職業を選択したゆえの業(カルマ)は、
 時代ごとに僅かずつ意味合いを変える。しかし本質は変わらない。
 どのような形であれ、どのような精神であれ。
 我々は常に『闘い』によって、あらゆるものを手に入れ、
 あらゆる問題を解決してきた。俺たちは飢えた獣と・・・変わらない」

両肘を椅子に座る太股に乗せ顎の前で指を組み、表情を隠しながら岡野が語る。
89流転の夜:04/07/02 16:30 ID:TxyY695f
廊下で固まっていた澤井は、調査の邪魔だという理由で、
部屋に連れ戻されている。「乙君のそばにいさせて」彼の願いは叶わなかった。
オレンジの球体は寂しそうに、おもちゃの車を床で走らせている。

 「獣とは違うぜ。獣は牙を研ぐがペンは握らない。
 漫画家は人間だ。人間はばかじゃない、血を流さない生き方を知っている」
両腕の包帯が痛々しい川原が皮肉げに言葉を返す。
岡野は心の中で苦笑する。よりによってお前が言うか、と。

調査が終わったらしく、やまとは静かに浮上を始めた。
だが水深30メートルを切った辺りで突如止まる。この辺りは、
計器類を見ていない客員たちにはわからない。ふと、
丸窓の外を覗きに行った川原が声を出した。
 「ナギア・・・?」
声が気になって真下から丸窓を見上げた岩村がびっくりした声を出す。
 「うぎゃあ!サメっス!窓からサメが潜水艦を食いに来たっス〜!」
 「ああ、こいつはシャチだ。ナギアという。
 俺の・・・友だ。鹿児島から追いかけて来たか」
人懐っこそうな海のギャングが、挨拶するように鼻面を窓に突き当てていた。

 「どうも海上の様子がおかしいらしい。
 真倉、ナギアにくっついて見に行ってくれねえか。ついでに松椿の様子も」
何気に人使いが荒い川原、彼の“友”の無言の情報に頷きつつ指示を出す。
 ≪ケ、どうせ俺ぁ便利な半実体幽霊さまですよ。岡野、いいよな?≫
 「ああ構わない。お前の肉体はこっちで制御するから。気をつけてな」
岡野はあっさり了承し、真倉は分裂体『ガーくんボディ』から離れる。
頭人間『サイモンくんボディ』の岡野が合体し妖力で同化する。

 (てゆーかシャチと友達ってすげえな!俺もいつか一人前の、
 漁師になればできっかな〜)傍らの牧野が尊敬のまなざしを川原に向ける。
真倉は「じゃあ軽く行ってくるわ」と学ランをはためかせ、
鋼鉄の船をすり抜け海の中に消えていった。
90流転の夜:04/07/02 16:32 ID:TxyY695f
 「うおおっ!?こりゃ楽しいな、シャチの背乗りなんて漫画の世界だぜー」
『海のトリトン』の主題歌を鼻歌で歌いながら、徐々に浮上する真倉。
しかし・・・久しぶりの海上はまるで台風の真っ只中だ。
今朝の“クリードアイランド”の惨劇が一瞬脳裏を支配した。
それを振り払うように真倉はナギアの背中をポンと叩いた。
 「・・・この荒れ具合じゃあ潜水艦は上がってこれねえかもしれねえな。
 よっしゃ、ナギアっつったな。とりあえず陸地に案内してくれや」
ナギアは高い声で一声鳴くと、まっすぐ雨嵐の中を泳いでいった。


松椿下、腐った鉄階段が唯一の移動手段である崖のふもと。
無事到着した真倉は霊力温存のため徒歩で階段を駆け上る。
途中乙が壊した鉄柵跡を発見し、沈痛な表情になるがそれも一瞬の事。
気を強く持たねばこの地獄は生きられない・・・瀑布のような雨が語りかける。
崖の上、男湯跡地に到着。真倉はまっすぐホテル館に向かった。

裏御伽軍団は全員、ごく早いうちに松椿騒動から離脱している。
岡村なぞ所属団体まで掛け持ちする騒ぎだが真倉たちは知らない。
彼らの副将、『愛すべきトラブルメーカー』の寂しい流転も。

 「雨漏りで建物が崩壊するじゃん!怪我人を木の下に運ぶじゃん!」
 「貸出し用のテントがあったぞ!医療品はそっちに運び込め!」
松椿に残された漫画家たちの、皆で生き残るための闘いが続く中。
あまりの廃虚っぷりに我を忘れ呆然とそこらをうろつく真倉。
 (おいおい、冗談も大概にしろよな)
硬派なゴリラ顔の幽霊男は、ぐちゃぐちゃになったロビーを見渡す。
つい数時間前までそこで仲間たちと談笑していた場所だ。乙もいた。
胸に去来する何かを首を振って振り払う・・・その先に、真倉は見た。
カウンターの上、雨で半分ボロボロになった紙と、
マジック字の別れのメッセージ。そして赤と銀色で構成されたレスラーマスクを。

 「・・・だから冗談は嫌いなんだよ、俺は」今度ははっきりと、言葉を口に乗せた。
91作者の都合により名無しです:04/07/02 17:04 ID:TxyY695f
あーまたやった。
19部445使い損ねた
また今度・・・
92作者の都合により名無しです:04/07/02 17:31 ID:bUANjCWd
なんだか澤井がもの悲しいなぁ‥‥
93とある閑話 (19部72):04/07/03 13:56 ID:37Qugc+q
うっそうと茂るジャングルの中に、ごくわずかな生活空間がある。
きれいな川のほとり、彼らは草むらで寝転がり柔らかな陽光をさんさんと浴びている。
彼らは一様にボロボロで、必死にくぐり抜けてきた幾多の死闘を思い起こさせる。
さらさらと流れる水の音。眠り続ける人々。切なげに風にそよぐ美女の黒髪と、裸体を覆う黒いマント。
彼女の傍らには、ひとりだけ「不寝」の意思を表そうとして失敗したらしい、
体育座りでうつらうつらと首を傾ける男。人工の黒色に染まった銀髪の青年。

 ―――ここは金田一蓮十郎の体内異空間≪パプワワールド≫のどこか。
     眠りにつく者達は安西信行、高橋留美子、樋口大輔、他数名―――

 (俺は今、夢を見ている)
 (俺の周りには、俺にはもったいないほどの)
 (笑顔、笑顔、笑顔)
 (藤田師匠、リック、アシ仲間のみんな)
 (椎名、皆川、スプリガンの連中)
 (荒川、カムイ、蓮、片倉、ガンガンの連中)
 (温泉で見知った新しい奴ら)
 (村枝さん、藤原のじいさん、七月のおっさん)
 (留美子さん)

 (この笑顔が、本物になれたらいいのに)
 (俺は起きて、本物の夢を見たい)
 (なあ、それを夢見るくらい、許してくれるよな?神様よ・・・)

 「・・・ん、しまった!眠っちまってたか。ヤベ。
 まだ留美子さん、起きてねえよな?危ねえ・・・しっかりしねえと」
目覚めた安西はかぶりを振ると、尻ポケットからなぜか無事な、
板チョコをゴソゴソと取り出してパキンと軽快な音を立てて食べた。
 「甘え」
楽しい夢を見てニヤニヤする安西の眼前できらめく川の中で、たった今。
ちょっと前にこの世界へ放り込まれた瀕死の雷句が槍とともに下流へ流されていった。
 (・・・・・・ヤベぇ―――!!まままま待ちやがれ――――!!) 安西の苦労は終わらない。
94黄昏に飛べ:04/07/03 22:52 ID:GX1tZV0z
>>81の続き

血の匂い―――
火の匂い―――
銃声―――
叫び―――

夜が…吠えている!!



藤原(システム起動…プログラム読込…筋電感知デバイス作動…)

キュイ――ン   

新たに接続された武骨な新型義手を、藤原が手動で作動させていく。
システムが目を覚まし、急ピッチで準備を進めていく。
だが、そこに不吉な影が現れた。
鷹氏「まだ……生きていたのか!!しぶとい男よ!!」
目覚めた藤原の気配を『風』で察知したのか、鷹氏の巨体が迫る。

 ギ ュ ワ !!

藤原(アクチュエータ、動力接続……!!)

鷹氏「 黒 死 降 魔 破 !! 」

義手が発動した瞬間、詠唱が完成し、暗黒の気の奔流が放たれた。
95黄昏に飛べ:04/07/03 22:54 ID:GX1tZV0z
一方、松椿の山田医師達は……

天野「……どうですか、先生?」
山田「……ああ、彼女なら……もう大丈夫だ……峠は越えたよ……」
重傷の冬目への手術を成功させた山田に言われ、天野がホッと胸をなで下ろす。
しかし、すぐにその表情が翳った。今、彼女の心を占めているのは、たった一人の男だ。
山田「……心配かい、藤原先生のことが」
天野「!え…あ……はい……」
急に言われて面くらい、やがて消え入りそうな声で天野は呟いた。
藤原の事を気遣ってくれる人がいるのが嬉しいのか、山田は柔らかい笑みを浮かべて、仮設テント内で腰掛け、コーヒーを啜る。
天野「…あ…あの。山田先生は、藤原さんとは長い付き合いなんですか?」
ふいに聞かれて戸惑ったが、山田は首を縦に振った。
山田「『ヤングサンデー』では、僕の『Dr.コトー診療所』と、藤原先生の『闇のイージス』は2枚看板だったからね」
その言葉に納得した天野は、藤原についての質問を、山田にぶつけてみたい衝動に駆られた。
しかし、常人には計り知れない何かを背負っているような、あの眼差しを思いだすと、自分が軽々しく踏み込んではいけない領域があるのだと考え直し、逡巡してしまう。
結局、一番当たり障りのない事を聞くことにした。
天野「……山田先生。さっき、藤原さんに何を渡していたんですか?」
それは些細な質問だと、天野は考えていた。
だが、天野の思惑に反して、山田の顔が曇る。
山田「……『クロムウェル』―――僕が開発した、新しい義手さ。
   もっとも、出来れば彼には『あれ』を使って欲しくない。今まで彼が使っていた義手とはまったく違うから…」
天野「……どういうことですか?」
山田「彼が一貫して求めてきたのは、最高の『防壁』となる義手だった…。だけど、あの義手は……」
そこで言葉を切った。深く深呼吸して覚悟をかため、そして続けた。


山田「 『  兵   器  』  だ ……!!」
96黄昏に飛べ:04/07/03 22:55 ID:GX1tZV0z
黒き巨球が連続放射する黒線。
木々を薙ぎ倒し、建物をえぐり、地面を砕く恐るべき破壊力。
先程は、この術により、藤原は地を嘗めさせられた。
しかし、今度は勝手が違った。
鷹氏(ぐううう……バカな……黒死降魔破でヤツの防御を打ち破れんだとお……!!)
藤原に装着された『クロムウェル』は、黒線の弾幕を、まるで水鉄砲でも打ち払うように弾き返しながら、鷹氏に急速に肉迫する。
そして、藤原が格闘戦の間合いに入った瞬間、刃のような義手が一閃した!!


           ボ  ッ  !!!!   

                  
                   ド パ ア ン  !!


藤原の攻撃の軌道上に螺旋の渦が生じたかと思うと、空気がえぐりとられたような轟音が響く。
そして、辺りを染めあげる、猛烈な血飛沫。
鷹氏「ぬぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」
大絶叫をあげながら、鷹氏が『根元から引き裂かれた』腕を押さえる。
止血しているそばから、大量の血が噴水のようにほとばしる。
その光景を呆然と見つめながら、藤原が呟いた。
藤原「山田…この義手がお前の回答か…?
   俺が『殺戮者』たろうと欲した時、それを実現してしまう破壊の手…
   こいつを俺に使えと――――!!」
今まで鋼鉄のようであった、鷹氏の『鬼の肉体』を一撃で粉砕した、藤原の新たなる腕。
その破壊力たるや、まさしく『兵器』と呼ぶにふさわしいものであった。
97黄昏に飛べ:04/07/03 22:57 ID:GX1tZV0z
自分の新しい義手を何事か思案しながら見つめる藤原。そこへ呻くような声がする。
鷹氏「まだだ……まだ私は終わってはおらんぞ……」
片腕を失っても、まだ鷹氏の戦意は衰えてはいなかった。
鬼の肉体は、再生力が強い。しばらくすれば、また復活する――鷹氏はそう考えていた。
しかし、その考えは裏切られることになる。
鷹氏「!?!」
いきなり、鷹氏の全身から急激に力が失われ、巨体が膝をついたのだ。
千切れた腕からも、腹にあいた風穴からも滝のような血が噴き出してくる。
鷹氏「…バカな…!?肉体が再生しない……な…何が起こった……!!?」
愕然とする鷹氏に、藤原は「ようやく効いてきたか……」と胸をなで下ろした。
鷹氏「…き…貴様…!!いったい、何をした……!?」
すると、藤原が義手ではない、生身の方の掌をかざした。
藤原「『珠砂掌』――別名を『紅砂手』とも『梅花掌』とも言う。――『 毒  手 』と言えば分かりやすいか」
鷹氏「ど…毒手…だと…!」
毒手とは、文字通り己の手を毒と化し、相手を死に至らしめる危険極まる秘技だ。
少林寺七十二芸の中でも、陰手功(陰険で残忍な方法)に属すると言われている。
鷹氏「そうか……さっき防御した猛虎硬爬山のときか……」
あのときから、毒は回り始めていたのだ。しかし、人外の肉体ゆえ、その効力発生が遅くなったのだろう。
藤原「常人ならば即死する一撃……いかに貴様が化物でも立つことはできん」
そう言うと、藤原が右手を鷹氏の頭部に軽くおしつけた。
身動きできない鷹氏が、絶叫する。

鷹氏「 ジ ー ザ ス (ちくしょう) !!!! 」

その瞬間、鷹氏の頭部に『浸透勁』が炸裂した。
顔中の器官から流血をほとばしらせ、鷹氏の巨体が血の池に没した。
藤原は踵を返し、倒れ伏す鷹氏を振り返りもせず。去り際に、ただ一言、こう呟いた。

藤原「その名前……地獄に堕ちても忘れるな」
 ←TO BE CONTINUED
98作者の都合により名無しです:04/07/03 23:37 ID:37Qugc+q
(´゚Д゚`) ジーザス!!
なんて悲しい勝利・・・
99狂気の行方:04/07/04 03:14 ID:R00CpwW+
>97

王蟲の襲撃と、人為的な嵐が荒れ狂うなか、藤原芳秀と鷹氏隆之の死闘は密やかに終決した。
傷ついた身体を引きずり、藤原は混乱に終止符を打つべく、前へと歩みを進める。
一方、頭部に“浸透勁”の一撃を喰らい、鷹氏は生きているかも死んでいるかも分からぬ状態のまま自身が流した血の泥濘へと沈んでいる。
死闘過ぎ去りし後の、わずかな静寂。
その中にあって、藤原と鷹氏の死闘を傍観している者の存在があった。
その男は、覗き込んでいたオペラグラスを取り落としたことも忘れ、ただただ驚嘆に打ち震えていた。
「な……なんだあのウデは…!?」
男は血走った目を皿のようにして広げながら、興奮のあまり声が震えている。
「え〜〜〜〜っ!?」
そして、目以上に大きく開かれた――耳元まで裂けた――口からは子供のような驚愕がほとばしる。
藤原芳秀が垣間見せた“クロムウェル”の攻撃力は――
男――山本英夫はパニックを起こしていた。次の瞬間、山本がとった行動は――

   
       ―――――必然的………逃亡!!!


脇目もふらずに、恥も外聞もなく、山本英夫は脱兎のごとく、その場から逃走していた。
息を荒げ、冷や汗を滝のように流し、動悸を痛いほど感じながら、山本はどこまでも逃げた。
やがて――
そこから数キロも離れたところで、ようやく山本は走るのを止めた。
手近な壁にもたれかかりながら、唇を震わせて言葉を紡ぐ。
「なんだ、あのウデは…なんだ、あのウデは…」
ぶつぶつと呪詛のような呟きは、やがて絶叫へと変化した。

「なんなんだよ、あのウデは!?」
100狂気の行方:04/07/04 03:15 ID:R00CpwW+
「あれがオマエの待ち望んでいたモノだよ」
「――!!」
あらぬ方向からの声に、山本は弾けるようにそちらを振り返った。
上方――栗鼠ですら止まれぬであろうか細い小枝の上に、一人の男が静かに立っていた。
純白のマントに、冷え冷えとした銀髪。
男の名は――田島昭宇。“最後の大隊”にあっても、屈指の猛者である。
「………」
山本は、怯え切った顔を隠そうともせず、ただ呆気にとられたように田島を見上げている。
どこか陶然とした様子すらある山本英夫に、田島が冷厳なる視線を送る。
「感想はどうだ? 目の前で見せられる圧倒的暴力というものの…」
「ゴチャゴチャうるせェなあ…」
平淡な田島の言葉を、興奮に濡れた山本の声が遮る。
「今、それどころじゃねェんだよ! 邪魔すんじゃねェよっ!!」
まるで子供が駄々をこねるように、山本は口角泡を飛ばし、血走った目で喚いた。
「フッ――およびじゃない……か。――だが、こういう情報はどうだ?」
そんな山本の反応を楽しむように、田島が言った。
「オマエが捜していた、真鍋を殺した奴は、藤原芳秀ではない」
「――!!」
山本は今度こそ、声も出なくなった。
「川原正敏――真鍋を殺したのは、その男だよ」
瞳孔まで開ききり、深い闇を孕んだ山本の狂気の視線が、激しく揺れる。
藤原の存在だけでも興奮を抑えきれないのに、目当ての人物は別人だったという。
思ってもいなかった事実に、山本英夫の“中心”が熱を孕み、滾っていく。
「困ったな――殺しきれねえ……対策、立てなきゃな……」
「今宵はもう、じっくり楽しむ間もあるまい。ここは退き、今後の予定をじっくり吟味するかね」
「そうだな――」
どこか熱にうかされたように、虚ろな山本英夫の表情。最早、彼の興奮は臨界点に達していた。
(感謝しよう――藤原芳秀、そして川原正敏。貴様らのおかげで、この男は真の怪物になった)
田島の目が、斜めに歪む。その薄い唇から、唄うような哄笑が爆ぜた。
101鷹の団救助活動中:04/07/04 12:15 ID:zLQbkuuA
関連レス(20部421風狂い、20部470伝説の男)

滅茶苦茶だ、と別府市街地を目の当りにした、三浦は思った。
別府の惨状は、三浦の予想を越えたものであった。
辺りには、壊れた鎧兵士の残骸、暴徒と化した民衆により破壊しつくされた建物。
そして、それらを染め上げるとてつもない量の血液。
空――。
空にすら、平穏は無かった。
まるで神々が猛り狂うかのごとく、天空は嵐により荒れ果てていた。
何が、どうなったらこうなるのか――。
その光景は、修羅場慣れした三浦建太郎をしても、対処できる領域を越えていた。
「(無事でいてくれよ、シズヤ、コージッ!)」
 共に幾度の死線を潜り抜けて来た二人の親友――。
奴らなら、どんな状況だろうと生き延びているはず。
そうは思っていても、焦燥が胸の内に沸き起こるのをどうすることもできない。
「(オラはギリギリまで粘ってこの騒動を静める努力をしようと思う。
 が、もし駄目だった場合は瞬間移動で皆を矢吹艦に退避させる。
 オラの瞬間移動では、顔見知りのいる所にしか転移できないから、
 おめえ達にはできるだけ多くの漫画家を集めておいてもらいたい)」
 と、鳥山は別れた後、思い出したようにこちらの方へ引返してきて、告げた。
だから、三浦は早急に二人――否、未だ迫り来る脅威を知らぬ。
又は、知っていてもどうすることもできない漫画家や一般市民を見つけて、かき集めなければならない。
辺りを見渡す。
壊れた街はまるで額に収められた絵画のように静かで、人の気配が全く無かった。
人の抜け殻だけはあらゆる場所に散乱してはいたのだが。
「さて、どうする?」
 と、足を止めて、後のヨクサルに問い掛けた。
返事は、無かった。
―――何か、とてつもなく嫌な予感がした。
102鷹の団救助活動中:04/07/04 12:16 ID:zLQbkuuA
「おいおい…」
 三浦は、片手で頭を抑えた。
軽い頭痛がした。
焦ってはいたが、この別府において気を抜いていたということは、断じてない。
敵の襲撃、であるならば、必ず気が付いたはずである。
ならば、あの己の気配を苦も無く空気に溶け込ませることのできる戦闘狂が、勝手に離れたとしか考えられない。
「あのバカ…状況を考えろっていってんだろうが…」
 僅かに首を左右に振った後、三浦は踵を返し、今来た道の方へ歩き出した。
時間は無いが、この近くにいるであろうことを考えると、無闇に走ることもできない。
空虚な街を三浦は歩く。
歩きながら、静かに、己の内で戦闘態勢を整え始めた。
三浦は知っている。
柴田ヨクサルが、鷹の団の誰よりも、戦場の匂いを嗅ぎ分けることに秀でていることを
そして、その匂いがよっぽど大物でなければ、あの男が動くことは無い、ということを
そういう理由で三浦は己の精神を研ぎ澄ませていた。
だから、手前の裏路地から僅かに零れた、金属が擦れる音に気が付いた。
つぅと足を止め、そちらに視線をやる。
何か――否、誰かが、壁に手をつき、ふら付いた足取りで裏路地から出てきた。
一瞬、背中に背負った身の丈ほどもある大剣に手をかけるが、止めた。
直感的に、こいつは敵ではない、と悟ったのだ。
相手もこちらに気がついたのか、やや蒼褪めた顔を三浦の方へ向けた。
「あんたは…三浦、建太郎…」
 咥えた呼吸器を離して、その顔に安堵と驚きの混ざった表情を浮かべて男――尹仁完が言った。
103鷹の団救助活動中:04/07/04 12:17 ID:zLQbkuuA
三浦も又完全に警戒を解き、尹の側に歩み寄る。
「そういうお前さんは尹仁完、か――相棒はどうした?」
「それがはぐれちまってな…今探してるんだが…」
「マジか…」
三浦はあちゃーという表情をした。
その顔にはかなり焦りの色が濃く出ている。
「なんだ、何かやばいのか?」
「やばいもなにも、最悪だぞ、今の状況は」
三浦の顔色から不吉なものを感じ、問い掛ける尹に、三浦は簡潔に状況を説明した。
「なるほど、王蟲とはな…ははは、確かにこれ以上はないほど最悪だな」
乾いた笑いが、暴風に掻き消された。
「たのみの綱は鳥山明の瞬間移動か、確かに仲間とはぐれてるのはやばいな」
「連れは相棒だけか?」
「いや、もう一人冬目景ってのがいる…しかし、どこをどう探せばいいのやら…」
と、ぼやいたその瞬間――
           ボ  ッ  !!!!   

                  
                   ド パ ア ン  !!
空気が抉り取られたかのような轟音が、二人の耳に飛び込んできた。
二人は顔を見合わせた。
「絶妙のタイミングだな」
尹がぽつりと言った。
「これだけ不幸が重なってんだ、多少は良い偶然があってもいいだろうさ!」
言って、三浦はそちらに走り出した。
「ちょ、ちょっと待て! 俺はそんな速く走れねえんだよ!」
貧弱な尹は、悲鳴に似た声を挙げつつ、三浦の後を必死で追いかけた。
104鷹の団殺戮活動中:04/07/04 12:18 ID:zLQbkuuA
>100
一方その頃――
「では、ここから脱出するぞ…どうした?」
最後の大隊、田島昭宇は別府から脱出すべく山本英雄を促し、しかし一向に反応せぬ彼に疑問の声を投げた。
と、同時、山本はゆっくりと鉄串を右手に構え、斜め後の裏路地を見据えた。
「む――?」
釣られて向いたその方向に、いつのまにか、一人の男が立っていた。
秀麗な、人形のような無表情を、顔に貼り付けた男だった。
男は、両手をポケットに突っ込んで山本を見つめていた。
「誰だ?」
山本が言った。
男は、虚ろな眼差しで山本を見た後――低い声で呟いた。
「柴田」
山本の特徴的な口元、左右にぱっくりわかれた刀傷が、笑みを形作った。
「何のようだ?」
ややこしくなってきたな、と思いつつ、田島が問うた。
が、しかし――柴田ヨクサルはそちらに一瞥もくれなかった。
彼はただ、山本英夫だけをみていた。
「言っていたのは、お前だよ――」
柴田が、山本に言った。
「?・・」
田島、意味を解せず疑問の表情を顔に浮かべる。
対称的に、山本の笑みはどんどん深くなっていった。
そのような二人の反応など、あるいは全くどうでもいいのか、柴田はさらに言葉を紡いだ。
「俺は、お前に引き寄せられただけだからな」
しかし、と柴田は山本の逃亡経路を目でなぞった。
「どうやら、俺を引き寄せたお前はもういないようだな」
105鷹の団殺戮活動中:04/07/04 12:20 ID:zLQbkuuA
ク ク ク
と、山本がとうとう声に出して笑い始めた。
「田島ぁ〜先に帰ってな」
「…調子に乗りすぎるなよ」
ようやく、二人の間の空気に気が付いたのか、顔に山本のそれと同じくらい歪んだ笑みを浮かべた後、田島はそこから消え去った。
「そうだよ、確かにそうなんだよ…」
山本の声。
柴田、山本の内から涌き上がる、不気味な衝動を感じ、目を細める。
「川原を追っていた俺は消えた。そして、藤原にびびって逃げた俺ももういない…さて、」
ぎらぎらとした表情であった。
人間以外にはどのような生物であろうと決して浮かべることのできないであろう、情欲に満ちたその顔で、山本は柴田を見た。
「今の俺では、不満かな?」
柴田の、人形のような無表情に亀裂が走った。
歓喜という名の亀裂であった。
それが、答えだった。
田島の消えたその場所には、柴田と山本二人だけしかいない。
106修正:04/07/04 12:24 ID:zLQbkuuA
101のラストにニ行追加。
後を振り向く。
柴田ヨクサルは、いなかった。

105のラストに1行追加。
二人だけの世界で、凶人と変態の闘いは始まった。
107作者の都合により名無しです:04/07/04 13:32 ID:BX341blb
殺し屋ふぁいとぉ

>106
101は追加なくても大丈夫
期待
108作者の都合により名無しです:04/07/04 21:39 ID:kj67BMvm
まさかヨクサルと山本英夫の闘いとは、意外
ヨクサル、絶望を経験させられるなよ〜
109“俺たち”の力:04/07/05 18:12 ID:b5VkE5E2
>74

「ハァ……ハァ……」
 ボタ……ボタ……
 うずくまる村枝の全身から血がこぼれ落ちる。
「チィ……」
 和月が舌を打ち、肩越しに眺める。村枝とそして、村枝に切り飛ばされた右腕とを。
 ボロボロの体で、村枝が立ち上がり―――
 右腕を失い、それでも優雅に和月が振り返る。
「(かわす……のか……あのタイミングで……)」
「(この男……"聖石"を利用していたときより確実に強くなっている。そんなことがあるのか?)」
 互いに賞賛にも似た言葉を―――声には出さずに呟く。
 交差の一瞬、右腕を代償に辛うじて身をかわした判断の速さは流石の和月である。
 しかし、瀕死の村枝がそこまで―――和月をして紙一重の取捨選択をせざるを得ないところまで追い詰めた。
 その事実もまた、紛れなかった。
「(瀕死の男一人にこうも梃子摺るのか、この俺が)」
 胸中の思いに苛立つのを自覚する。だが同時に冷静な思考が沸く。
「(いや、少し違う、な……)」
「ハァ……ハァッ!」
「(この男の動き……疲労すればするほど、傷付けば付くほど、更に鋭く、強くなっている)」
 そして、静かに認める。
 この男―――村枝は強い。そしてそれは自分とは異なる強さだ。
「その力。その強さ。一体どこから出ているんだろうな?」
「……お前たちには、無いものだ」
「面白いことを言う」
「ジャンプのアンケートシステム……漫画家たちを互いに競わせ、質を高める……そのシステムは時に、俺たちでは全く太刀打ちできないほどの巨人を生み出す……巨大な"個"の力だ」
110“俺たち”の力:04/07/05 18:16 ID:b5VkE5E2
「……」
 語り始めた村枝に興味を惹かれ、和月が無言で先を促す。
「だがサンデーは違う。そこに苛烈な生存競争は無い。お前たちから見れば微温い環境だろう。だがそれ故、俺たちは共に肩を組み、支えあいながら高みを目指してきた。目指すことができた」
「……なるほど」
 村枝の言わんとすることを理解し、和月は頷いて見せた。
「力を合わせる事で俺たちに対抗するか。確かに俺たちには無い力だ」
 そして、自分には得られない力だとも、思う。
「けれど、この場にいるのはお前一人。それでは俺に勝つことなど……」
「一人じゃ……ない」
「何?」
「……先輩たちから託された魂」
 萎えた四肢を、意志の力で奮い立たせる。
「……後輩たちへと伝えるべき信念」
 遠のく意識を繋ぎ止め、静かなる闘志を湧き立たせる。
「俺の中にはそれがある……だから俺は独りじゃない!!」
 ……ジリ……
「―――!?」
 何かに気付いたように和月が足元に視線を落とした。
「(気圧された……俺が、退いた……だと!?)」
 村枝の気迫に押され、我知らず踵を擦らせたことに気付き、相貌を歪める。
 そんな和月の屈辱に気付く様子もなく、村枝はただ真正面に、言葉を放つ。
「これが俺の武装錬金―――"俺"の力だと……そう言ったな」
「キ、サ……マァァッ!!」

    「ならば……これが " 俺 た ち " の力だ!!」

111作者の都合により名無しです:04/07/05 23:34 ID:EZ0C1QMd
村枝、相変わらずカッコ良すぎだが、傷つきすぎだな・・・
このままだとジャバ戦には参加できそうもないな・・・
どうなる?
112作者の都合により名無しです:04/07/06 00:50 ID:mkvAN1vi
(´-`).。oO(尾田はいつになったら追いつくんだろう・・・)
113作者の都合により名無しです:04/07/06 00:54 ID:+sJ+roGe
個人的にではなく、サンデー陣が全体的にフレンドリーないい説明ですな。
しかし、本当に村枝やばそうだ。がんばってくれ…
114作者の都合により名無しです:04/07/06 01:16 ID:OEqhOhNF
>>112
道に迷ってんじゃないかな(w
ワンピキャラって方向オンチなキャラ多いし
115作者の都合により名無しです:04/07/06 01:24 ID:mkvAN1vi
>>114
そうは言うが
奴はワンピキャラではなく武装れwせdrftgyときこlp;@
116作者の都合により名無しです:04/07/06 02:01 ID:ykuDanFe
キャラまで師匠に喰われちまったか尾田…
117作者の都合により名無しです:04/07/06 06:47 ID:OEqhOhNF
尾田も尻化してパワーアップすんのかな……
118空技:04/07/08 23:06 ID:xKcPkgAb
>105
静寂。
不動。
ヨクサルは、ハンドポケットの状態のまま
山本は右手に鉄串を構え、低い体勢で
二人は、最初の立ち位置から動かずじっと見つめあったまま動かない。
時間がゆっくりと流れていく。
別府の地の崩壊の時がじわじわと迫ってきている。
二人は、ひえびえとした感触と共に、そのことを理解していた。
時間はもう余り残されていない。
が、二人は動かない。
そこには、単に強者同士が互いに攻めてを窺う間合いの攻めぎ合いすら無かった。
山本英夫はくつくつと笑っていた。
柴田ヨクサルは全身を空に預け、うっすらと唇に笑みを浮かべていた。
ゆっくりと己に迫る、滅びの感触を楽しむかのように、二人は動かない。
そして、そのまま数分の時が流れた後――ふと、笑いを止めて山本が口を開いた。
「もしかしたらって、感じるんだよ―お前の眼のイロを見ているとな」
独り言のような声音で呟きだした山本は、まるで――そう、愛の告白をする青臭い餓鬼のようであった。
「なあ、期待していいんだよな?」
ぎらぎらと、生々しい欲望に満ちた視線がヨクサルに突き刺さる。
悪寒を感じたヨクサルが背筋を震わせた。
「ちょっとだけ、ちょっとだけでもいいから、さ」
にいっと―刀傷が左右に数センチほど開いた口を歪ませた。
119空技:04/07/08 23:08 ID:xKcPkgAb
「お前が俺に絶望を与えてくれることを――」
その言葉を最後まで言い切ることはできなかった。
ヨクサルが、とんっ、と地を蹴った。
その動きを、山本が察した瞬間――
でかい靴の裏が、目前に迫っていた。
!?
反応する暇も無かった。
耳奥で響く冗談のような爆発音。
山本の頭部をヨクサルの蹴りが直撃した音。
山本英夫は空を飛んだ。
ふわっ、と体重がゼロになる心地よい感覚に身を委ねる。
至福の時は一瞬。
地面に叩きつけられた衝撃音と共に、
まるでビデオの巻き戻しのように意識が戻って来た。
同時に、全身を砕かれたかのような強烈な苦痛。
「うごおっ!?」
苦痛の声には、未だ驚愕が混じっていた。
ヨクサルの蹴撃は、それほどまで疾く、凄まじい。
地面をごろごろ転がりながら、先ほどまで自分がいた場所を見る。
ヨクサルはいなかった。
120空技:04/07/08 23:09 ID:xKcPkgAb
どこに――?
探す必要は無かった。
脇腹に、電撃で貫かれたかのような衝撃が走る。
ヨクサルの蹴撃が、再び山本に肉体を吹き飛ばした。
あれほど大威力で大雑把な蹴りを放った直後――
にも関わらず、即座に吹き飛んだ山本の体に追撃を叩き込むその疾さ―
でたらめな瞬発力であった。
ヨクサルは蹴り足を地に付けた後、上空に視線を向けた。
その先には、山本英夫。
先程蹴りとは違い、下から蹴り上げた為、滞空時間が長い。
それを確認―した瞬間には、もうヨクサルは地上を離れていた。
無防備な山本の背中を左足で一撃。
そのまま体を捻り右の蹴り
「くおっ!」
苦し紛れに山本が右手の鉄串を繰り出す。
軌道的には、確実に当たる距離、しかし――
ヨクサルはくんっ、と体を捻りあっさりとその一撃を避けた。
121空技:04/07/08 23:09 ID:xKcPkgAb
「(空中で軌道を変えただとおっ!?)」
驚愕に歪む顔に、捻りを加えた蹴りが炸裂する。
柴田ヨクサルは宙を舞う。
傍から見れば芸術的ですらあるその空技。
まさに、エアマスターの名に相応しいものであった。
一撃、ニ撃、と続けざまに蹴りが山本の肉を貫き、骨を粉砕する。
そして、二人の肉体が地に落ちる寸前――ヨクサルは、くるりと体を回転させ――
勢いを加えた最後の蹴りを、山本の鳩尾にぶちこんだ。
きぃん…と風が切り裂かれる音がした。
山本の肉体は高速で吹き飛び、コンクリートの壁に直撃した。
コンクリはあっけなく粉々に砕け散り、大きな穴の空いたその向こう側に、山本は放り出された。
ヨクサルは地に降り立ち、不気味な程の無表情でそちらを眺めた後、ゆっくりとそちらへ歩き出した。
と、その時、キラリと光る何かが、ヨクサルに向けて飛んできた。
それは、正確にヨクサルの眉間を目指していた。
到達の寸前―ヨクサルは右手をポケットから引き抜き、それを掴んだ。
それは、一本の鉄串であった。
く、く、く、と笑い声が大穴の向こう側から聞こえて来た。
そちらに視線をやると、なんと、山本英夫がつい先刻までと変わらぬ笑みでこちらを見ていた。
「痛くないのか?」
と、思わずといった感じでヨクサルが訊ねた。
その無垢な問いに、初めて、山本は苦笑を浮かべた。
122空技:04/07/08 23:11 ID:xKcPkgAb
「いてえよ」
と、山本は言った。
「でもなあ、それ以上に、嬉しくってなあ…」
「嬉しい?」
ヨクサルが眉を顰めた。
「そうだよ! ついに、ついにだぜ…俺の前に現れてくれたんだ、俺の望む男がよぉ。
 嬉しすぎて苦痛なんか吹き飛んじまったぜ…」
蕩けるような瞳がヨクサルに向けられた。
ヨクサル、再び背筋を震わせた。
「ありがとう…俺の前に現れてくれてありがとう」
うっとりとした声であった。
そして、ゆらりと瓦礫を踏み越え、穴の外側に出てきた山本は言った。
「さて、じゃあ、次は俺の番だな」
気楽な言葉と同時に繰り出されたのは、閃光のような蹴りであった。
蹴りは、少しだけ気を抜いていたヨクサルの顔面をあっけなく直撃した。
もし、この闘いを今見ているものがあれば、気がついたかも知れない。
山本が放った蹴りが、最初にヨクサルが繰り出した蹴りと、全く速度、全く同じ角度、全く同じ威力であったことを。
ヨクサルは、吹き飛びながらそのことを察して、よくわからない寒気を感じていた。
その耳元で、山本の声が、聞こえた。
「最高の夜にしよう」
言葉と同時、ニ撃目の蹴りがヨクサルの脇腹を襲った。
123作者の都合により名無しです:04/07/08 23:44 ID:PZe4Eavw
山本の“暴力吸収”キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!!!
ヨクサルに蹴られて女みたいな優しい目になってる山本萌え
124作者の都合により名無しです:04/07/08 23:58 ID:2Z9YCPA0
エロいーん(*´・`*)
125作者の都合により名無しです:04/07/08 23:59 ID:tlL53tSx
hentaiキタ━(゚∀゚)━(∀゚ )━(゚  )━(  )━(  )━(  ゚)━( ゚∀)━(゚∀゚)━ !!
ヨクサルはそんなんにばっかぶち当たるなぁww
126魔獣撩乱:04/07/09 00:44 ID:I8UbsYeA
前スレ464

「…あれだけ放った闇竜王の攻撃が一つも直撃していないだと!?」
闇竜王の背に乗った山賢は、眼下の魔獣を見下ろしながら呻くように言った。

“馬鹿め………こんなトロい攻撃がこの我に通用すると思っているのか!?”

まるで大気全体が振動して、ひとつの音声を構築しているような腹に響く威圧。
魔獣が、憤怒とも喜悦ともつかぬ表情を岩のような頭部に刻みながら言った。


“…竜王デス=レックスとか言ったな………”

“どちらが強大な破壊者か……”

“どちらがより魔に近い存在か…”

“このジャバウォックが教えてやる”


 ―――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!


戦慄の雄叫び。
同時に、ジャバウォックの右腕の砲から圧縮空気の弾丸が連続して発射。
しかし、それらが直撃する寸前、山賢の姿は闇竜王の影――否、『闇』の中に埋没した。
そして、目標を逸れた弾丸も全て、闇に呑まれていく。
「無駄だ、ジャバウォック。闇竜王の『闇』は全てを呑み込む……つまり、おまえの攻撃なんざ、この俺には全く通用しない」
そのとき、闇竜王の翼が、爆発的にその面積を増した。
「闇に呑まれろっ!!」
翼が、翔た。
127魔獣撩乱:04/07/09 00:45 ID:I8UbsYeA
“……ふん、何が闇だ…”
シュオオオオッ――
肩と脚部のバーニアを噴射させ、ジャバウォックの巨体が天を舞う。
“要は貴様の影に触れねばいい――ただそれだけのこと…”
天翔る闇竜王の頭上から、魔獣が襲い掛かる。

 キュワッ――――   バ  シ  イ  ッ ッ  ! !

だが、その瞬間、闇竜王の口から超音波の砲がほとばしり、ジャバウォックに叩きつけられた。
両腕を交差して防御したが、その威力に圧され、空中で後退する。
次の刹那、剣林のごとき触手の大群が殺到した。
“……ふんっ!”
右の巨腕を薙ぎはらい、触手を打ち払うが、全ては防げない。
あっという間に十以上の触手がジャバウォックの身体を穿ち、そのまま『闇』へと引きずりこみにかかる。

 ―――ぐぁあああああああああああ!

「闇竜王の闇に呑みこまれたら誰も助からねェぞ! さっさと消えちまいなナノマシンでできた魔獣さんよォっ!!」
呻きの咆哮をあげるジャバウォックが闇中に呑まれていく。
「所詮、AI(人工知能)しか組み込まれてないナノマシンなんざ、石ころ同然だな」
魔獣をも容易に圧倒する自分の力に満足なのか、嘲りをのせた笑い声を発する山賢。
しかし、それを打ち砕く、地獄の底からの響きが聴こえたのは次の瞬間だった。

“ククク…やはりつまらんな。おまえの『力』とは所詮この程度か…”

「なにいっ!?」
山賢が表情を険しくした刹那――――

  “くだらん!!”

闇が――はじけた。
128魔獣撩乱:04/07/09 00:46 ID:I8UbsYeA
「……バ…バカな…闇竜王の闇が、引きちぎられた…」
“我はジャンプを…マガジンを…チャンピオンを…あらゆる雑誌を潰すためだけに闇から生まれしもの…
 竜王だかなんだか知らんが…我の邪魔をする者は、何人たろうと許さん!!”
地面ごと闇を爆散させたジャバウォックが、その巨爪を真下の闇に突き刺す。
そして、その腕が再び地上に現れたとき、その手に握られていたものは――
「闇竜王を力ずくで…闇から引きずりだした…」
首ねっこを万力にかませたようにメキメキと締め上げられる闇竜王。
その光景に青ざめる山賢だが、すぐさま触手を飛ばし反撃を試みる。
だが、全ての触手が残る片腕でまとめて掴みとられ、ベキベキとヘシ折られた。
シュボボボボボ―――
すごい勢いで、山賢の手にあるデッキ――カードの束が燃えていく。
「こ…こいつは…ジャバウォックはAI(人工知能)や機械(ナノマシン)なんかじゃない………」
あと何分保つか…といった窮地に、山賢は初めて脅威を認識する。
「人間では考えられないような怒り…闘争心といった感情に満たされた…」
山賢の顔中から冷や汗が滝のように流れ落ちる。
「全てを焼き尽くさずにはおかない業火…」


    悪   魔   の   化   身  !!


“ふん…我を愚弄した愚か者め…逃しはせんぞ!!”

    ブ  チ  イ ッ !!

「ぐあっ!!」
闇竜王の翼が裂け、山賢の両肩が裂けて血が噴出した。
だが、その瞬間。
ジャバウォックの真下の地面から、それまでと一線を画す巨大な顎が出現した。

129作者の都合により名無しです:04/07/10 01:56 ID:oBxJjuyM
ジャバ様なら因果律さえも切り裂いてしまいそうで怖い
130魔獣撩乱:04/07/10 04:14 ID:PLYdevBQ
>>103

ボゴゴゴゴゴゴゴ――――
地面から突如として現れた超巨大な顎が、ジャバウォックの両足を喰い千切った。
“ぬう……貴様……”
唸るジャバウォックの影から、巨大な死竜の威容が、その全貌をあらわにする。
『貴様がジャバウォックとやらか……我に歯向かって勝てる気でいたとは……つくづく愚かしい…!』
ジャバウォックの声が地の底より響く呪いならば、デス=レックスの声は天空より地を突き抉る雷鳴であった。
すぐさまジャバウォックが反撃に転じようとするが、その両足が再生しない。
『我に喰われしもの、須らく虚無へと帰す。因果を喰われた以上、再生は不可能だ』
デス様の髑髏の眼窩が底光する。
両の剛腕さえもが竜の顎へと変じ、ジャバウォックの両腕を喰い千切る。
『飢えすら知らぬ石くれが……身の程を知れい下郎……!!』

“ごおおおおおおおおお――っ!!”

ダルマ状態になったジャバウォックに、超重力が叩きつけられる。

 ベキベキべキ……メシメシッ………ズズンッッ…!!

“…ぐぅ…っ……むうっ!!”

陥没した地面に埋め込まれ、圧し潰され、破壊されていく魔獣の身体。

『当分、再生できない状態にまで砕いてから、ゆっくりと食してくれよう…!!』

王者の威厳を発し、不動の体勢で勝利を睥睨する死の竜王。
だが、その目の及ばぬ領域で。
塵となって消え果てるかに見えた魔獣が、猛っていた。
131魔獣撩乱:04/07/10 04:14 ID:PLYdevBQ

 ―――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!

炸裂する魔獣の咆哮。
その瞬間、重力が突如として消滅した。
『…なに……重力そのものを……切り裂いただと……!?』
ズバアアアアアアアアアアアアアアア―――――ッッ!!!
“愚か者ども! 我をこの程度の重力で破壊できるかっ!!”
そう叫ぶ、ジャバウォックの身体が、あろうことか再生を開始していく。
『……なんだと……貴様の因果は確かに我が喰らったはず……!!』
“我は絶対の破壊者ジャバウォック……我を砕けるものなどこの世にありはせぬ……!!”

  “ 我 こ そ が 破 壊 の 王 な り !! ”


  バシュウウウウウウ―――――――――――――――!!!!!


完全再生を果たした爪が、デス様を直撃した。

『ぬぐぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!』

デスレックス=アームの部分が見る影もなく、切り裂かれた
頭部の髑髏の部分にも亀裂が走り、三本爪の痕が刻まれる。
「!!!!」
山賢の両腕が吹っ飛び、その頬に未来永劫消えぬ烙印が刻まれた。
132魔獣撩乱:04/07/10 04:17 ID:PLYdevBQ
「ぐはああっ―――!!」
デッキを失った山賢が、両腕を失い、絶叫をあげた。
(――なんて奴だ――!? まさか奴がこれほどの力を持っていようとは――!!)
頭からパラサイト=マニューバーを出し、失った両腕の復元を始める山賢。
しかし、頬に刻まれた爪痕はなぜか修復しない。
“我はジャバウォック……全てを破壊し殺戮するために生まれた……”
後退する山賢とデス様に、さらなる追撃をかけるジャバウォック。

 ドッゴアアアアアアア!!!

全てを破壊する爪が、鉄槌のごとき一瞬前までデス様が存在していた場所を破壊する。

“我は魔獣!! 我を邪魔する者は何人たりとも許さん!!”

吼える魔獣に、デス様が憤怒の眼光をたばしらせる。
切り落とされた両腕にかぶりつき、咀嚼するデス様。
すると、たちまちの上に両腕は再生され、あらゆる損傷が回復する。

『凄まじき破壊力よ……こうでなくてはつまらん……!!』

(おいおい……ホントに大丈夫なんかよ……こんなこと言っちゃって…)
今だかつて、どのような窮地だろうと口だけは常に傲岸不遜なデス様である。
その相変わらぬ様子に、山賢は場所がらもなく嘆息した。
(…こいつは高橋留美子の比じゃあねえ……こんな化物を飼っていやがったとは…)
小学館……温い連中の集団と舐めていたが、存外に恐るべき敵かも知れん。
山賢は脳内で、直ちにサンデーへの認識を書き換える。
その横で、ジャバウォックとデス様は、いよいよ互いの全開の牙をぶつけあおうとしている。
しかし、そのとき。
デス様の背後に、白い巨人が立ち上がった。
133魔獣撩乱:04/07/10 04:18 ID:PLYdevBQ
「――!?」
山賢が気付いたときには、白き巨人がその巨腕を叩きつけてきていた。
『――新手か…下らぬ……!』
振り返り様の薙ぎ払いで、あっけなく巨人は切り裂かれた。
……それもそのはずである。なぜなら、その巨人の正体は―――

「紙……だと? まさか―――」

そう、それは紙で精巧に作り上げられた巨大な人形であった。
しかも、あっさりと切り裂かれた身体の、その内部にあったのは。

 ドドドドッドドドドドドドドドドド――――――グワッッッッ!!!!

紙の巨人に仕込まれた、夥しい爆発物が一斉に爆裂したのは、まさにその瞬間であった。
さしものデス様も、これだけの爆発ではわずかながらもダメージを負ってしまう。
山賢の皮膚の数カ所が、鮮血を噴いた。
「紙使い……ハッ…連中め、今頃ノコノコとやって来たか…まあいいや」
今しもこちらに向かって走ってくる『プーマ号』――そのルーフに立つ眼鏡の女性と、
その足元で手榴弾を手に穏やかながらも不敵な笑みを浮かべる幼女――に狂眼を注ぎながら、山賢が笑った。
次いで、その眼を港の方角に向けた。
蛇矛と方天戈戟を振り回し、縦横無尽に血風をほとばしらせる王欣太。
ひたすらに熱線を吐き続け、海から来るものを焼きつづける巨神兵。
そして、それをすら次第に凌駕せんとする、大海嘯の猛威。
山賢は、間も無い別府の崩壊を確信した。
「まあ時間切れみたいだし、今日はここまでかな?」
何事かを言おうとするデス様を無理矢理カードに戻し、代わりに『ディープ・ハンマー』を召喚した。
「またねェ〜〜、サンデーの漫画家さん達ィィィィィ〜〜」
134魔獣撩乱:04/07/10 04:20 ID:PLYdevBQ
山賢の像がぶれるように歪んだ瞬間と、ジャバウォックの爪がそこの岩盤を砕くのは同時だった。
わずかな差で獲物を逃がしたことを悟り、魔獣の全身から明らかな憤怒が沸き上がった。
そして収まらぬ怒りと破壊衝動の矛先は、別府で暴れるあらゆる存在。
そして、その視界に収められた『プーマ号』に向けられた。

“………よかろう……我の行く手を邪魔する者は何人たりとも許さん!! 燃やし、潰し、ひきちぎってくれる…!!”



「デスレックスは撤退しました!」
屋根の上に立って、紙の巨人を操っていた山田秋太郎が、報告する。
数メートル先の視界も満足に確保できない状況にあって、真の脅威が未だに存在していることを知らぬプーマ号のメンバー達。
その車体の眼前の空間が、ふいに揺らめき、爆発した。
ジャバウォックの、空間を揺さぶることによって発生させる衝撃波。
プーマ号は、そのたった一撃によって、完全破壊され、粉々に散った。


そして、同瞬間。
戦艦・無礼ド。王欣太。巨神兵。王蟲。腐界……
別府港に存在する、あらゆるものに、高出力レーザーが驟雨のごとく降り注いだ。

混沌を呼んだ竜王は去り。
残された最悪の魔獣による破壊は、いよいよ本番を迎えようとしていた。

←―――TO BE CONTINUED
135作者の都合により名無しです:04/07/10 08:25 ID:M2UrOiky
うわああああああ
山賢のおばかあああ
136作者の都合により名無しです:04/07/10 12:45 ID:rGhd09Dd
>>133
文章内でデスレックスがデス様と書かれているとちょっと笑ってしまうが、
書き手さんの山賢への並々ならぬ愛情が伝わってくるよ。
GJ!
137作者の都合により名無しです:04/07/10 20:20 ID:95sQt/os
つつくだけつついてトンズラ…最悪だな山賢!(褒め言葉)
138ダンディー&ライオン:04/07/11 01:25 ID:o5bgFdeB
(前スレ571 16部98)
 「ど、どうなってるの・・・? あああっ!?怪獣映画ぁ!!?一体何が起こってるんだ!!」

キャノンボールが夢の跡。
ゴールアーチぐらいしか面影の残らないAブロックハイウェイで、
えなり少年は見渡す先の巨大モニターからだだ漏れる終末のラッパの音を全身で受け止めた。
そして“メソ”みずしなが伝えるヘルプメッセージも。
果たしてえなりの選択は―――――

 「えーそう言われても僕は漫画家じゃないからどうにもならないよねェ
 アハハハ〜〜―――ってなワケにはいかないだろがおいィィィ!!!」
なぜか高テンションのセルフツッコミを入れていた。
ともかくこりゃヤバイ。もとの場所に戻り乱闘馬鹿どもに訴えねばならない。
戻ればサムライダーに窃盗の罪で300倍返しぐらいもらうかもしれないが、
主人公がそんな細かい事でヘタれるわけにはいかない
(主人公じゃなければいいかどうかは知らない)。
えなりのごくまっとうな正義感がボウボウと燃え上がり、彼は雄叫びを上げる。

 「よぉぉし!九州の危機は僕らに任せてくれ!!訴えるよ、そして勝つよ!!」
再びKATANAを走らせ、、Uターンして加速――高速道逆走ゴーゴー!
 「急げ急げーどうせ車ひとつ走っちゃいな――――って男が立ってるゥゥゥゥ!!」
かっとばし中のえなりが悲痛な叫びを上げながら轢死体作成―― ・・・男が消えた??
ヘルメットの中の目をしばたたかせるえなり。今確かに銀髪天然パーマの男が・・・幽霊か?
 『どーもぉ、16部でハイウェイの守護天使になった空知クンでぇす』
 「うわああああああ!!この人勝手に僕の背中にぶら下がってるぅぅぅぅ!!」
 『騒ぐんじゃねーよ。とりあえず落ち着いてタイムマシンを探せ』
 「こっ、この人体重がないィィ!幽霊に(また)取り憑かれちまったァァァ!!」
 『えー何?俺の剣の腕はジャンプ三指に入るって?後の2人は知らねーけど』
 「どうでもいいから手で視界覆うのやめてくださいよ!僕の死体作ってどーすんだ!」
 『カルシウム取ってりゃ大丈夫だろ。俺はほれ、ノーヘルだぞ』
 「幽霊に言われても説得力ねえェェェ!!!」
常にマイペース・死んでも死なない仏頂面天使を背負い、現世の地獄を駆け抜けろ!主人公!!
139名無しさん@そうだ選挙に行こう:04/07/11 10:48 ID:B1ziTHyK
>110

「み……な、川……お前……」
 呆然と呟く村枝。
 村枝をして動揺させるほどに、その光景は、信じがたいものであった。
 光の洪水。
 港湾部から離れたその場所でも、その光景ははっきりと見えた。
 ―――見えてしまった。
 村枝の呟きに、和月は一つの名を記憶から探り当てた。
 皆川亮二。サンデーの戦闘部隊"スプリガン"隊長。
 自身、優れた戦闘センスと超人的な能力を兼ね備えた戦士。
「(……あれが、皆川亮二、か?しかしアレは……)」
 赤々と照らし出されたその巨体―――港湾部を更に赤く染めあげんとするその姿を遠くに眺め、和月は口の端を吊り上げた。
「街を破壊している、ね」
 和月の呟きに、村枝が臍を噛む。
「皆川……今、助ける」
「おっと」
 駆け出す村枝の眼前に、和月が割って入る。
「お前と……争っている場合じゃなくなった」
「そう言われて引き下がれるほど、俺は素直じゃ……」
 ジャカッ!
 言い終わる暇さえ与えずに。
 村枝が腕を振り上げ、両肘にセットされた十字手裏剣を放つ。
 楕円の軌道を二つ描き、手裏剣が和月の側背を突くと同時、村枝が突進する。
 それを迎え撃つ和月は、黒死の蝶で手裏剣を撃ち払うと、間髪いれず村枝に鞭を放つ。
 その鞭が―――村枝の体をすり抜けた。
「―――ホログラフかっ!」
 反射的に、距離を取ろうと和月が飛翔する。村枝の罠はそこにあった。
 自分の向かう先に、村枝の膝当てが放り投げられていたことに和月が気付く。
 瞬間、膝当て―――衝撃集中爆弾が大音声を上げて爆発した。
140名無しさん@そうだ選挙に行こう:04/07/11 10:55 ID:B1ziTHyK
 度重なる破壊に、もはやかつての痕跡は失われた街並み。
 村枝の姿は既に無い。満身創痍の体で。それでも皆川を救うため、村枝は港へと向かった。
「対峙している相手に背を見せるなんてね。蝶・失礼な男だ」
 もうもうと立ち込める爆煙から這い出し、和月は独りごちた。
 その口調こそおどけていたが、表情には憤怒がありありと浮かんでいる。
 和月の周囲にわだかまる黒色火薬が意味も無く爆ぜる様が、制御しきれぬその怒りを如実に表していた。
「聖石は手に入れた。だというのに……なんだろうな、このイラツキは」
 分かっている。
 村枝の言葉だ。
「平和だの何だのと……そんなもののために戦うかよ」
 それを本気で信じている。それを本気で行っている。
 それが気に入らない。
「その上俺は……」
 その青臭い偽善者に気圧された。
 それが、許せなかった。
 ギシリ……
 怒りのあまり、噛み締めた奥歯が鳴る。
「……追うか?いや―――」
 自問するが、やはりかぶりを振る。
 道化に成り下がる積もりはない。
 それに―――
「和月ィッ!!」

       ド      ン     !!

 和月の視線の先。そこに、いた。
 尾田栄一郎がそこに、いた。
「少々八つ当たりになるが―――それで死んでも恨むなよ?」
「心配いらねぇ」
 言葉を交わしながら、二人は静かに構えた。
「俺はお前には負けん!!」
141名無しさん@そうだ選挙に行こう:04/07/11 11:21 ID:bF2ohDFp
巧い流れだなー
そしてだんでらいおん空知キタァァァ
142名無しさん@そうだ選挙に行こう:04/07/11 14:30 ID:ylbqtCpQ
かっちょいいねぇ。
師弟対決も楽しみだ。
143狂戦士:04/07/11 23:53 ID:o2xZ35AS
>>103

轟音の出所を頼りに、ヨクサルが居ると思しき方角にひた走る三浦と尹。
しかし、前を行く三浦がふいに足を止める。
「…おい、なんで急に立ち止ま……」
慌てて立ち止まった尹が言いかけて、そこで気付いた。
自分たちの周囲に雪のごとき降り散る、夥しい胞子。
そして…………

 ………キチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチ………

周囲の空間を埋め尽くすように、何かが蠢く音。
ざわざわざわざわ……と異様な姿を現した襲撃者たちの正体に、三浦と尹は瞠目した。
それらは蟲だった。
この地球上に存在する、如何なる自然体系とも相容れないような、奇怪で巨大な蟲ども。
王蟲とは比べようもないが、その異質さは、十二分に怖気を誘うに足るものだった。
「翅蟲(はむし)か……」
首筋の烙印に針で突かれるような痛みを感じながら、三浦は呟いた。
「……こっちから手を出さなけりゃ通してくれるって訳にゃ……」
「無理だろうな」
尹の希望的観測を、三浦が即座に否定した。
「港の方やら空やらであれだけ派手にやってりゃ、蟲も相当な数が巻き込まれてる。奴さん、相当頭に来てるみたいだぜ」
すでに翅蟲の大群は、完全なる戦闘体勢に入っていた。
「……厄介なことだ」
「まったくだ」
三浦が背の大剣に手をかけ、尹がコートから銃を抜く。
………そのときであった。
三浦の烙印が、それまでを遥かに超える“魔”の存在を感じ取ったのは。
144狂戦士:04/07/11 23:54 ID:o2xZ35AS
ドクッ…。
首筋の痛みが急激に高まり、烙印から血が溢れだした。
眉間に深い谷間を刻みながら、三浦が真直ぐに港湾部の方へ視線を飛ばす。
光の洪水。燃える雨。
港湾部を蹂躙する、破壊の化身が確認できた。
しかし、三浦が感知したのは、ジャバウォックだけではない。
巨大な反応が、他に二つ……いや三つ。
ひとつは、王欣太。
ひとつは、貞本こと巨神兵。
そして、最後のひとつ。
それは、三浦が最も憎み、その胸に剣を突き立てることを誰よりも渇望する男の気配。
かつて、“鷹の団”を壊滅に追いやった不倶戴天の怨敵の姿。

「………矢吹………」

その名を呟いた瞬間、三浦の全身から凄まじい“熱”が堰を切ったように噴出し始めた。
(……なんだ……この黒いマグマのような闘気……いや殺気は……今までとまるで別人……!!)
それまでとはまるで別人のような変貌ぶりに、尹は冷や汗を流れ落ちるのを止めることができなかった。
怒り。悲しみ。恐怖。そのどれでもあり、そのどれでもない。
さらに暗く、激しく、自虐的で、破滅的な感情の渦。
まるで、三浦の深奥にわだかまる闇が、闘気と共に一挙に溢れ出したようであった。
「……奴がここに来ているだと?……」
三浦の唇が獰猛というよりも、醜悪とさえ言えるほどに強烈に歪んだ。
それは人間の表情ではない。少なくとも正気の人間が浮かべる表情では……。
ガチャリ。
左腕の義手に、連射式ボーガンを取り付けながら、三浦が歓喜するように言った。
「待ちかねたぜェェ………」
145狂戦士:04/07/11 23:55 ID:o2xZ35AS
「しらみっっつぶしだ」
腰に小物入れから、次々と矢を取り出し、ボーガンに装填しながら三浦が言った。
「どけなんて言わねえ!!てめえらを一匹残らず踏み潰して……俺は奴の前に立つ!!!」
咆えた瞬間、翅蟲の大群が一斉に三浦たちになだれ込んできた。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
それを迎え撃ったのは、雨のごとき矢の速射。
翅蟲たちの一部は次々と撃墜され、残りは構わずに殺到する。
ジャキ。最装填。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!
ドルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!!!!
翅蟲の三分の1は、ボーガンの嵐のみで駆逐された。
しかし、残りの三分の2は、数本の矢を身に突き刺さっているものの、勢いを落さずに飛んでくる。
三浦はおもむろに矢の尽きたボーガンを捨てると、
ビュボッ!!!
鉄塊とも形容すべき巨剣を抜いた。
三浦の双眸が狂獣のそれへと変貌し、牙のような犬歯がめくれあがった。
紅い眼光が疾走。
その刹那――翅蟲たちの津波のなかに、黒い竜巻が出現したのを尹は見た。
それは獰猛に、無慈悲に、暴虐のままに荒れ狂った。
一欠片の容赦も人間性もなく、翅蟲たちを薙ぎ払い、引き裂き、押しつぶし、呑み込んでいく。
自然の暴威に等しい理不尽さが、そこに存在した。
しかし、これを起こしているのは、自然現象ではない。科学が生んだ兵器でもない。
たった一人の人間が起こした修羅行だという事実に尹は慄然として立ち尽くす。

「………狂戦士(ベルセルク)………」

震える唇から、渇ききり、かすれきった呟きが漏れる声を、尹は他人事のように聞いていた。
146作者の都合により名無しです:04/07/12 00:00 ID:q02flD7d
ぶっちゃけ、ヨクサル探す→尹に遭遇→尹が相棒と冬目がはぐれていると告げる→どう探そう?→轟音
の流れで何故ヨクサルが居る方向に走っていると認識できるのか不思議でしょうがない。

三浦かっこいいからまあいいんだけど、リレーといいつつ繋ぐ時に前の話真剣に読んでない?人多いねほんと。
147作者の都合により名無しです:04/07/12 00:39 ID:W4sI1/dM
別に「おもしき」と書いてあるのでいいんじゃないの?
そんなに気になるかの、これだけの事が…
「真剣に読む読んでない」なんてお前さんに言われる筋合いはないんじゃねぇの?
このぐらい許容範囲にすれば?
148作者の都合により名無しです:04/07/12 00:40 ID:W4sI1/dM
追記
三浦カッケー!!でもまだ矢吹には勝てなさそう…
149作者の都合により名無しです:04/07/12 05:13 ID:d8rV8e83
三浦カッコいいねぇ
ヨクサルはトラブルメーカーだから
轟音のした方向に行けば会えると思ったんじゃない?
ヨクサルが轟音の出所に行くかもと思ったのかもしれないしさ
150作者の都合により名無しです:04/07/12 09:14 ID:BiFTxwK/
しかしヨクサルと酒飲みながらときメモ話してたときとはエライギャップだなw
151作者の都合により名無しです:04/07/12 12:30 ID:zRujU01F
>>150
えなりスレはそのギャップの激しさが魅力なのですよ。
152竜と妖花と蛇:04/07/12 22:40 ID:q4ssuIaB
>>55
 長谷川「(どうする……、どうすればこの場を切り抜けられる……。)」
あまりに強大な敵・ラフレシアを前にして、長谷川のダイ・ソードは絶体絶命の窮地に立たされていた。
ダイ・ソードはほぼ全身に亀裂が走り、緑色の機体からブスブスと黒煙を吹いている。
長谷川自身も肩からの出血がひどく、目眩が止まらない。
  安彦「 死 ね い !!」

   キュバァァァアアアアアアアアア―――――ッッッ!!!

ラフレシアから放射される拡散メガ粒子砲が、ダイ・ソードだけでなく、その後方にある黒軍基地を次々と削り取っていく。
 長谷川「ぐ・くそっ!このままじゃ、ダイ・ソードも基地も……もたないッッ!」
一か八か、長谷川がマナ・ライダー(飛竜)形態になって、凄まじい勢いで突貫する。
 長谷川「う・おおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!」
ありったけの魔法力をかき集め、流星のように突進する。しかし…!
  安彦「無駄無駄ですよ、フハハハハハハ!!」
テンタクラーロッド・拡散メガ粒子砲・バグ。
あらゆる攻撃が隙間なく次々とダイ・ソードにぶち当たり、破壊していく。
 長谷川「ダ・ダメかッッ!!」
右腕と左脚が削ぎ飛ばされた。変形がとけたダイ・ソードの頭部をさらにテンタクラーロッドが斜めに斬り付ける。
 長谷川「!!!」
  ブシュウウウウウウ…!
胸を斜めに深く切り裂かれ、大量の血が長谷川の胸から噴き出した。
 長谷川「(ち・力に差が……ありすぎた……か…。)」
力なく椅子をずるずると滑り落ちる。視界がグワングワンと渦を巻いていた。
  安彦「雑用にしては手こずらせてくれましたが……これで終わりですね」
完全に沈黙したダイ・ソードを無数のテンタクラーロッドが捕らえる。
ボロボロの機体を触手でがんじがらめにされ、ダイ・ソードは安彦の前に差し出された。
153竜と妖花と蛇:04/07/12 22:41 ID:q4ssuIaB
  安彦「さて……美しく幕を引くとしようか」
ミシミシと軋む機体の中で、長谷川はギリギリのところで意識を保っていた。
自分の背後にいる黒軍の存在が、最後の最後で長谷川を立たせているのだ。
 長谷川「俺はアンタを認めない!だから負けられないんだ!だがどうする…どうしたらいいんだ…」
圧倒的な実力格差という現実が、長谷川の前に厚く厚く立ちはだかっていた。
  安彦「死…」
テンタクラーロッドがダイ・ソードを粉々に潰そうとした瞬間!!

   ズギューーン!! ズギューーン!! ズギューーン!!
 
どこからともなく放たれたビームがダイ・ソードを捕えていた触手を焼き切った!!
  安彦「何者!?」
安彦が驚愕してビームの方向を見る。
  ??「―――――戦う気力がある限り負けたとはいえない!!」
 長谷川「!!アンタは!?」
長谷川もまた驚いて叫びながら、謎の声の方向を向いた。
一体のモビルスーツが空を飛びながら、ビームライフルを構えていた。 
量産型とは一線を画す、人間のような2つの目のある頭部を持った機体――ガンダムだ。
しかも、その機体は長谷川の記憶にある、あるガンダムと良く似ていた。
 長谷川「あれは……、戸田の機体に似ている……、だが違う」
戸田の『レッドフレーム』と違うところは、同じ白を基調としたフレームに、赤ではなく、青の塗装が施されている部分。  
さらに特徴的なのは、胸部に描かれたマーク。稲妻のように走る蛇の図案。
 長谷川「あのマークはまさか……あの人が生きていたというのか!??」
長谷川の疑問を肯定するように、青いガンダムのコクピットの中の男が言った。
サングラスの奥の、無惨に潰れた左目と、いまだに衰えない鋭い眼光を放つ右目が長谷川と安彦を厳しい眼差しで見つめていた。

  ??「こちら『ブルーフレーム』 と き た 洗 一 !! 長谷川裕一、これより君を援護する!!」 
154作者の都合により名無しです:04/07/12 23:26 ID:sr3xPOsD
どこで聞いた名か忘れたが援軍キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ァ
155作者の都合により名無しです:04/07/12 23:39 ID:1iFHs1mp
ボンボンのガンダム漫画の人だっけ?
156作者の都合により名無しです:04/07/12 23:51 ID:RwOvejjh
確かこのスレで登場済みのはず…だっけ?
びみょー!
157作者の都合により名無しです:04/07/12 23:55 ID:pDPUPwl3
ときたキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!
あっさり死んだと思ってたから嬉しい。
158作者の都合により名無しです:04/07/13 06:13 ID:hUwcg7In
ガンダムエースでアストレイ描いてた人だな
確か5部(すげー懐かしい)あたりで、平野に洗脳されて戸田と戦ってあっさり死んだと思われていた
159炎の蝶人・和月:04/07/14 01:30 ID:ZmptvusX
>140

「お前には負けない……か。その怪我で大きく出たものだ」
和月が暗天に羽撃きながら、地上の尾田を見下ろす。
尾田は、数時間前での和月との一度目の戦いで負った傷がまるで治っていなかった。
特に肋骨まで達した心臓近くの傷は、心臓が核鉄でなければ即死ものの重傷だ。
「―――余計な心配だぜ。俺はこのテの怪我にゃ慣れてんだ」
呼吸は荒いが、和月を睨めあげる眼光に弱音は微塵もない。
「そっちこそ片腕を無くしてるじゃねえか」
「――ああ、これか」
尾田の揶揄を事もなげに流した和月が、地面に転がった右腕を『バルキリースカート』の精密動作にて瞬時に拾い上げた。
その右腕を左腕で掴み、掌から『咀嚼』する。
すると、たちまちのうちに、バシュウ、と音をたてて右腕は何事もなかったように再生した。
「ホムンクルスにとって、この程度はかすり傷にもならない」
「――そうかい、お互い遠慮はいらない……ってわけだな」
「する気もないだろ? お互いに――――」
おしゃべりはそこまで、とばかりに尾田が両足を踏ん張り、右拳を振りかぶった。

 ボオオオオ………

嵐の中で、尾田の拳が真っ赤に燃える。
それを見た和月が、
「ン―――、一匹分で十分かな?」
と、黒色火薬で形成された無数の『黒死の蝶』のうち、一匹を指先で弄び始める。
刹那―――、

 「 “ 火   拳 ” !!! 」

嵐を切り裂いて、巨大な火炎が渦を巻き、ほとばしった。
160炎の蝶人・和月:04/07/14 01:31 ID:ZmptvusX

 グオオオオオオオオオオオ―――――!!!

紅蓮の炎が、大挙して和月に襲いかかった。しかし――

  バチッ……     ド   ウ  ッ  !!

「――!!」
尾田が放った『メラメラの実』の一撃は、たった一匹の蝶の爆風であっさりと打ち消された。
その事に、尾田が血管を浮き立たせながら、唸る。
「その程度の炎ごとき、一匹分の爆発で十分かき消せる。―――お前は俺を誰だと思ってる?」
「…………」
和月が背中で人生を語る際の独特のポージングをとりながら、その周囲に夥しい数の『黒死の蝶』を配置する。
「俺は炎の修羅にして、蝶・天才――――パピ! ヨン! 和月信宏!!」
主人の昂りに呼応して、黒死の蝶達が一斉に羽撃きを始め――
「往け! 黒死の蝶!!」
回避・防御の隙は与えない――最大加速の攻撃が、尾田に群がる。
「!!」

  ドオ―――ッ!!!

「うがあっ!!」
強烈な連続爆破の直撃を喰らい、尾田が派手に吹っ飛ばされた。
全身から肉が焼けこげる嫌な臭いが立ち込め、尾田が煙混じりの血を吐く。
「がはっ……かっ!」
「――無駄だ。この状況では、お前に俺を倒す術はない」
尾田が図星をつかれ、思わず歯を噛んで唸った。
「お前の最強能力は自然(ロギア)系の4つ――すなわち『メラメラ』『モクモク』『スナスナ』、そして『ゴロゴロ』。
 しかし、この嵐の中では、『スナスナ』はもちろん、『モクモク』も風に吹き散らされてしまう為、使えない。
 『メラメラ』が通用しないのは、先刻で証明済み。
 残る最強の『ゴロゴロ』も、俺の『ソードサムライX』で無効化される――」
161炎の蝶人・和月:04/07/14 01:32 ID:ZmptvusX
「……くっ!」
ギシリ…と鳴る程の強さで、歯軋りする尾田。和月は続ける。
「そして――いかなる飛び道具も、ましてや近づくことも俺の『ニアデスハピネス』にはかなわない。――終わりだよ」

    ドオオオオ―――――z______ン !!!!

「うがああああああああ!!」
為す術なく、黒死の蝶による絨毯爆撃を見舞われる尾田。
瞬く間に満身創痍の状態に追い込まれ、濡れた路面に突っ伏した。
「面白くないな。俺をこの場から一歩も動かすことさえ出来ないとは――やはりお前は高くも遠くも飛べなかった」

  ド  ン  !!

しかし、尾田は立ち上がった。
全身から溢れ出す血が、気化するほどの重火傷を負ってさえ。
「――はっ、はははははは……」
「――!? 何が可笑しい?」
ふいに笑い出した尾田を、和月がいぶかしむ。
「自然(ロギア)系が『4つ』――そりゃ勘違いだ」
「――なにっ?」
尾田が顔をあげて、和月を睨む。
「お前が成長したように、俺も成長した。――見せてやる、この天候にうってつけの俺の新能力を!!」
いきなり前方に両手を突き出し、尾田が叫んだ。

「  氷  河  時  代  (アイスエイジ)  !!!! 」 

     ガキ―――――――――――ン !!!!!

そのとき、全てが『停止』した。
162炎の蝶人・和月:04/07/14 01:33 ID:ZmptvusX
「――なっ!? 蝶・寒い……身体が凍る……これはっっ!?」
「――『ヒエヒエの実』……第5の自然(ロギア)系だ!!」
別府中を席巻する巨大な嵐の渦は――
さながら水中に居るかのごとく『ヒエヒエの実』の効果を大気中に伝播させ――
暗天に羽撃く死蝶さえも凍結させた――!!
半瞬後、
尾田の上空に完全に凍りついた、蝶人の氷像が現れていた。
「この凍気の中じゃ、あらゆるものは凍りつく――終わりだったのはそっちだ」
能力の影響で、自らの身体にも霜が下りており、尾田は冷えた呼気を吐いた。
今や、物言わぬ彫像と化したかつての師匠に、尾田はつかの間、惜別の視線を送り――
「――あばよ、師匠」
限界まで捻った拳にて、氷の彫像を粉々に破壊し、決着をつけんとしたとき、

   ゴ オ オ オ ア ア ア  ―――――  !!!

瞬間、氷像の和月を巻いて紅蓮の炎が噴き上がり、たちまち渦巻き、ついには圧倒的な熱量と体積を持った奔流が迸り出た。
「ンなっっっ!!??」
口をあんぐりと開けて叫ぶ尾田の目前で、炎が次第に晴れていく。
そして、炎の渦が嘘のように、わずかな火の粉を散らして消え去った、その中心には――
「フフフフフフフフ、どうしたんだい? そんな面白い顔しちゃってさ?」
まぎれもない、生身の和月が羽撃いていた。
「馬、馬鹿な……完璧に氷らせたのに……」
「――やれやれ、さっきも言ったろう? “俺を誰だと思ってる”――って」
物覚えの悪い教え子に接する教師のような口ぶりで、和月が言う。
「俺は“炎の和月”!! その程度の凍気では、俺の燃え盛る野望の炎は消えやしない!!」
163炎の蝶人・和月:04/07/14 01:34 ID:ZmptvusX
「あ…あ…」
体得した新しい力が、まるで通用しない。
その事実に、尾田は愕然として、打ち震えていた。
(そんな馬鹿な……いくらなんでもそんなに遠いわけがねえ……)
必死で自分に言い聞かせる尾田。
そんな弟子の心中を見透かすように、和月は余裕と優越の笑みを浮かべた。
「しかし――お前の成長には感心した。その健闘に免じて――」
おもむろに股間から、和月が『あるもの』を取り出し、尾田に見せつけるように突き出す。
「大サービスで拝ませてやろう!! 俺が手に入れた、さらなる新しい力を!!」

   ド   ン  !!

「な、なに!? そいつはまさか――!!」
尾田は和月の手に握られているものに気付き、驚嘆した。
そう、あれは確か、荒木が持っていた――
「そおだ! 『聖石』だよ!! これで俺はさらなる高みを目指して翔ぶ!!!」
ドクン!
瞬間、和月の全身に雷光のごとき火花が散る。
ドクン!
地響きのごとき鼓動が、大気を震わす。
ドクン!
和月の全身が、凄まじい勢いで発光し、帯電していく。そして――!

   カァッッ――――――――!!!!

太陽のごとき輝きの迸りとともに現れた和月は、まるで様変わりしていた。
164作者の都合により名無しです:04/07/14 01:38 ID:l1MDUx7t
ウッヒャー!どこまで行くんだ和月!
165炎の蝶人・和月:04/07/14 01:56 ID:ZmptvusX
このまま舞踏会に駆けつけられる程素敵な一張羅が散り散りに破れ、髪が急激に長く長く伸びた。
細身だった肉体は、筋骨隆々とした鋼のごとき頑強なものへと膨れ上がる。
その姿―――――

淡く光る蛍火の髪!
熱を帯びた赤銅の肌!
筋肉で固めた2m超の巨躯!
しかし、パピヨンマスクとセクシャルバイオレットなビキニパンツは、あくまでもそのまま!

「これが、俺の新しい翼だ!!」

完全なる異形と化した蝶魔人の姿を、

(そりゃねえだろう! そんなに遠いわけがねえだろう!!)

尾田はあんぐりと大口を開け、目玉が飛び出んばかりに剥き出しながら、ただただ驚愕と絶望に打ちのめされて見上げる以外になかった。
166作者の都合により名無しです:04/07/14 02:42 ID:TL5BvQwI
げに恐ろしき魔性なり(´Д`;)ヒァー
167作者の都合により名無しです:04/07/14 06:56 ID:mJTTsMD0
>このまま舞踏会に駆けつけられる程素敵な一張羅が散り散りに破れ、髪が急激に長く長く伸びた
>パピヨンマスクとセクシャルバイオレットなビキニパンツは、あくまでもそのまま!

漏れを笑い殺す気か貴様w
和月はじけてるなぁ…蝶ステキwww
168作者の都合により名無しです:04/07/14 07:26 ID:POxMtZji
村枝が消えた途端、
熱血バトルが熱血ギャグに移行したな和月w
169作者の都合により名無しです:04/07/14 11:34 ID:lEQOA/Qf
蝶々仮面つけたヴィクターを想像して笑い氏ぬかと思ったw
しかし・・すげえハジケっぷりだな和月・・・
山賢ばりに手に負えない存在になってきたような
170追憶の街:04/07/14 12:45 ID:Mj4CSTMV
>>26

 「こんなところで、何をしている」

喧騒に満ちた都会の夜の中。大柄で眼鏡をかけたスーツ姿の男は、
静謐な、だが明らかに怪訝の感情がこもった声で緑髪の青年に問う。
彼の足元に座る青年は、男に引けを取らない立派な体格を縮こまらせ、
心なし怯えた瞳で眼鏡の男を見つめかえす。
その、野良の老犬のような哀れっぽい青年の様子と、
先程から男の持つ携帯ラジオから流れる災害情報とが、ひとつの疑念を形作る。
 「・・・本宮を、仲間を見捨てて一人で別府から逃げてきたか、にわの」
眼鏡の男――猿渡哲也は、ネオンで反射する眼鏡レンズの向こうで冷たく睨んだ。

 「・・・どうとでも取って下さい」
伏し目でアスファルトを見やりながらの投げやりな返答。
おおよそ“らしくない”と、彼を知る者は一様に感じるだろう。
普段ならまず晒す事のない、剥き出しの顔と感情。
猿渡は一瞬、目の前の男に自分と同じ空気を感じた。
――見えざる鎖を自ら担いで、闇の泥濘に身を投げ出すような危うさを。と。

 「おっさんどもォ、よくもダチやってくれたなァー」
 「慰謝料払えばココ通してやんよォ、100マンエンん」
先程の被害者たちの仲間と思しき少年グループが騒動に気づき、
8名ほどで弧を描いて猿渡たちを囲みバリケードを気取っている。
 「ここでは話せんか。・・・まあ、行こうや」
安っぽい防壁には一瞥も呉れず、猿渡は未だ地面に座り込む青年を立たせる。
自分の意志がないような動きで重い腰を上げるにわの。
確認してきびすを返した猿渡は、
バリケードに完全に背を向け立ち去ろうとする。
 「おい待てよ!いいかげんナメんじゃねっぞ!」
 「俺ら無敵の未成年様だぜ!?入るトコ入っても構わねェんだぜ!」
171追憶の街:04/07/14 12:47 ID:Mj4CSTMV
チェーンや刃物を振り回し、狂犬のように喚きたてる若者たちに、
猿渡はつい、と眼鏡を外し肩越しに振り向き簡素な返答。

 「やれるモンならやってみい、 ジ ャ リ ど も が 」

ことさら“誘う”ように背中を見せながらの返答だが、
少年たちはそれ以降一言も発さず場も動かず、
猿渡は再び眼鏡をかけて、亡霊のような青年を連れて立ち去った。
・・・ふたりの姿が完全に見えなくなった頃、グループのひとりがようやく声を上げた。
 「目が・・・薬でキレて日本刀振り回す馬鹿より、恐ぇ・・・」

 「酷い熱だな」
ビルの路地裏に入った猿渡が、ふらつくにわのの異変に気づき、
首根っこを掴んで体温の確認をした。40度近くあるかもしれない。
 「点滴、切れた・・・今朝から・・・風邪・・・」
服の胸部を握り込み、今にも昏倒しそうな男。それでも必死に言葉を繋ぐ。
 「・・・ボクに構わない・・・で・・・先生にまで、迷惑・・・ゲホッ!」
 「たまたま通りすがったついでだ。別府で何があった?答えろ」
緑の前髪を揺らしながら咳込むにわの。猿渡は表情を消して答えを待つ。

 「・・・ボクのせいだ・・・火の海で、みんな苦しんで・・・血を流して・・・。
 別府が、九州が・・・消えなくちゃ、ボク、でも・・・どこに行けばいい・・・?
 死んだって還る土すらない・・・ボクはどこに、ゴホ、帰ればいい、んだっ・・・?」
細かい事情はよくわからないが、猿渡はにわのが慰労会幹事であった事を思い出す。
島から脱出する蟲船の中、一見能天気な覆面男が輪を囲んで温泉企画を立てていた。
 (この様子では、力及ばなかったのだろう。今の俺もまた・・・)
九州を遥か離れた土地、猿渡は今朝の離別からひとり訪れていた。
この街の傍には・・・彼の妻子が、10年前より眠りについている、のだ。
 「猿渡先生・・・ヒラマツ君と青山さん・・・死なせて、ごめ・・・」
猿渡が返事をする前に意識を失い壁にもたれ込む、にわの。
――コウモリが一匹、古い電話線にぶら下がっていた。
172作者の都合により名無しです:04/07/14 12:49 ID:Mj4CSTMV
和月のヌーデザインはこの前から出てきた新ボスさんかあ。
なんだかがんばってるなあ〜蝶期待
173別府港DEATH MATCH!!:04/07/15 15:42 ID:t+o3Q9K4
>>134

   ――――――   パ   ァ   ン  !!

風船が破裂するような高圧力の噴出音と、その原因となった不快な震動波と、
その衝撃波を緩衝させるためオートで展開されたバリアが消滅したのと、
バリアを放った黄色い勇者プーマ号が原子分解の如く別府港の雨に散るのと、
プーマ号が命を賭して守った乗員たちが、闇と雨で視界ゼロの暗黒を一気に染め上げる、
360度ありとあらゆる方向に解き放たれる夥しい光線の束に魂の底まで震わされたのは、
ほんの瞬きほどの、刹那の時間に。ほぼ同時に起こった事であった。

光線の乱舞は雨を蒸発し、泥水に満ちた港のコンクリートに大穴を穿ち、
荒ぶる上空の黒雲の隙間を縫って天を焦がし、数少なくなった生者に最後の鉄槌を振るう。
しかしそれでも、地球の摂理である全ての≪夜≫を振り払う事はできず、
破壊光線の中央にいるだろう恐ろしいモノの、姿をカムイ達は目視できなかった。

 「くそ!今のは何だ!・・・しかし今の攻撃でよく無事だったな、俺たち」
そこそこ回復したカムイが腕で雨から視界を守りながら呟く。
 「こいつが最後の最後まで守ってくれたのさ。・・・今まで、ありがとうよ」
カムイの傍らには、プーマ号のものと思しきテールランプの破片を握る岡村。
一気に雨浸しとなった人間たち。次の攻撃は避けられるか自信がない。
ゆでは今にも闇の向こうに突撃しかねない。山田は吸血鬼のためか流水の中戸惑っている。
水野は城平が抱き寄せマントに包みこみ、椎名が鳴咽の声を上げる。
金田一は腹に手を当てブツブツとつぶやいている。
松沢は「無礼ドに行こーよ」と進言するがどっちの方向かわかりかねる。
もはや彼らを保護するものは自分たちの肉体と能力しかなく、
チームリーダーの冷静な判断が待たれた。

藤原カムイの背に今また、新たなる責任の荷が置かれた。
それらを真摯に背負い込み、彼は闇の向こうに透ける圧倒的な存在に向かって言い放つ。

 「一旦引き状況を確認する!全員俺から離れるな!!」ガンガンの総大将――動く。
174作者の都合により名無しです:04/07/16 00:02 ID:yihgEj2A
リーダーになっちまったなぁ
こいつ確か「切り込み隊長」だったはずなんだがw
175作者の都合により名無しです:04/07/16 00:39 ID:KYAQC+ku
出場してる面々が面々だからな。
柴田も荒川も不在だしリーダーやれんのはカムイくらいだし。
176作者の都合により名無しです:04/07/16 02:38 ID:6l7c6uN2
おいおいカムイは昔からガンガンのリーダーだぞ
正確には「エニクスの切り込み隊長」

つーか、この重大事に柴田はナニやってんでしょーか・・・
177作者の都合により名無しです:04/07/16 09:38 ID:qo/67tvc
エニクスの斬り込み隊=ガンガン、はなんかわかる気がする。
まあ経験、実力、性格合わせて、
リーダーできんのカムイと柴田しかおらんし、
肩書き関係無く柴田いない以上カムイがリーダーになるんは必然だっただろうけど。
つか、なんて今更な話題なんだw
178絶望の魔獣:04/07/16 10:05 ID:IKeBnY1H
>173

 ――ズドオオオオ!!

「ぐっ!」
「カ…カムイ!!」
港から撤退しようとした矢先、全くの突然に飛来した光線が、カムイの肩をかすめた。
「大丈夫か、カムイ!!」
「き…気をつけろ、城平…あらぬ方向から光線――高出力レーザーか何か分からんが――が来る…」
「くっ…これは一体どんな能力なんだ!?」
腕に水野を抱えたまま、城平が周囲に視線をめぐらす。
そのとき、嵐に荒れ狂う夜空が、油をたらしたように歪むのを城平は見た。
「ま…ままままま………まさか…これは………!!?」
椎名が噴水のような涙を流しながら、泣き笑いのような表情で叫ぶ。

  ――――ビュウウウウウン!!!

「お…岡村ァッ!!」
次の瞬間、天から降り注いだ数え切れないほどの光芒が、岡村の全身を貫いた。
全身から血を溢れさせ、白目を剥いたまま、岡村が地面に崩れ落ちる。
「や…やっぱりこれは……『バロールの魔眼』!!?」
「知っているのか、椎名!?」
驚愕に青ざめる椎名に、カムイが訊く。
「……空気中を埋め尽くした大量のナノマシンの一つ一つが、
 まるで光ファイバーのように光を屈折させて、任意の場所から光をレンズのように集束…エネルギーを増幅させ、位相を揃え…」

    キ ュ ン ン  !!!

「レーザー光線と化す!!」
179絶望の魔獣:04/07/16 10:07 ID:IKeBnY1H
レーザーの雨が、港に存在するあらゆるものに降り注ぐ。
その猛威に、カムイ達はただ逃げまどうことしかできない。
「この港はいわば『あいつ』の結界! このままじゃ逃げることもできない!!」
「……ちょっと待て! 椎名、『あいつ』って誰だ!? お前は、この攻撃の主を知っているのか!?」
我先に逃走しようとする椎名の襟首をムンズと背後から掴み、カムイが問いただす。
「……し…知ってるも何も……あいつが……あいつがこんな所に……ましてやこんなことするはずがねえ!」
普段、ふざけているのか真面目なのかイマイチ判然としない椎名だが、その声にはかつて聞いたこともないほどの『驚愕』と『恐怖』がにじんでいる。
まるで、己の仮説を信じたく無いと言わんばかりに――――

“……愚かな……何人たりとも、この我から逃げられると思うてか……”

椎名の恐るべき仮説を立証するように、そして希望を粉々に打ち砕くように、遠雷のごとくその声は響いた。
突如として嵐の中に巨影が浮かび、それを視認するや、雨の瀑布がスチームのように蒸発していく。
そして――絶望が姿を現す。

「ジ……ジジジジジジジジジジジジジジジジ………ジャバウォック!!???」

泣き笑いのような顔から一転、椎名の顔が真面目に愕然とした。
それは椎名が、心から目の前の事象に恐怖したという証明だった。

“……先程からチョロチョロと目障りな虫ケラどもめ……一匹たりとも逃がさん……全て潰し、燃やし尽くす!!”

サンデー最強にして、最悪の魔獣が今、カムイ達の前に立ちふさがり、全てを滅ぼさんと牙を剥く。
  
180作者の都合により名無しです:04/07/16 10:48 ID:9m33CzNf
キキキキキタァァァ!!Д゜)ノ
岡村君死んだぁぁぁ(よく死ぬ男だ)

181作者の都合により名無しです:04/07/16 16:05 ID:H+yJfKTk
まあ死んでねーんだろうけどw
岡村は半不死身みたいなもんだし
182作者の都合により名無しです:04/07/16 16:56 ID:9m33CzNf
半不死身・・・
島ではよく死ねたなぁ(ニガ
183復活:04/07/18 04:10 ID:8WrA9pVl
>93 >179

金田一体内――パプワワールド

「……ハァ…ハァ……」
緩やかに流れる川の水面から、2人ぶんの影がざばりと湧き出た。
「……まったく……世話焼かせやがって……」
瀕死の雷句をなんとか川から担ぎ上げた安西は、背から彼を下ろし、地面に横たえさせる。
おもむろに雷句の胸に幾つも穿たれた弾痕に掌をあてると、意識を集中した。
押し当てられた掌から、燐光のような火が浮き出ると、見る間に雷句の傷が修復されていく。
「……フー、危ないところだった。発見が遅かったらヤバかったな」
安西は呟くと、顔から滝のように流れる汗を拭った。視界が一瞬、激しく揺れる。
「……くっ」
目眩を振り切るように、安西は懸命に頭を振った。
ここ数日、絶えまなく続いた激戦と、『獣の槍』の副作用、『癒しの炎』の過度な乱用。
魂を『安西』と『暗罪』に分かたれ、文字通り『半人前』である安西にとって、肉体的にも精神的にもとうに限界を超えていても可笑しくない酷使であった。
全身の筋肉に凄まじい激痛が走り、吐き気と目眩と頭痛が止まらない。
しかし、それでも安西は休息をとろうとはしなかった。
「……今、ここは非戦闘員と怪我人ばっかだからよ……俺がしっかりしなくっちゃあな」
自分がこうしている間にも、外界では仲間達が血を流しているのだ。
自分ひとりだけが、楽をする訳にはいかなかった。
そう思っていた矢先、安西は雷句を再び担ぎ上げて元の場所に戻ると、そこでちょっとした変化が起きていた。
――留美子が、目を覚ましていたのである。
安西は一瞬、喜んだが、その表情はすぐに青ざめた。
留美子は、川のほとりで両手に水をすくい、ひたすらに自分の手や顔を洗っていた。
ただ虚ろな目で、その行為を繰り返す彼女の姿が、正気とは思えなかったからである。
184復活:04/07/18 04:11 ID:8WrA9pVl
「――留美子さん」
恐る恐る呼び掛けると、留美子は、びくり、と肩を震わせて安西を見た。
豊かな肢体をマント一枚で覆い、濡れた黒髪を額や頬に張りつかせ、光のない瞳を向ける留美子の姿には、悽愴な美しさがあった。
「――安西君」
惚けたように自分の名を呼ぶ留美子の様子に、安西はまずはホッとした。
そしてゆっくりと彼女に近寄る。
悄然としている彼女に如何なる言葉をかけようか考えあぐねている間に。
あろうことか、留美子の側から安西に力なくもたれかかってきた。
「…る、留美子さん!?」
わずかに狼狽する安西だが、すぐに自分の胸元で聴こえてきた嗚咽を聴き、すぐに我に帰る。
高橋留美子が……あのサンデーの女帝が……安西の胸にすがって泣いていた。
「私……本当に血なまぐさい……一生懸命、洗い流そうとしても、だめなの。
 体中に血を浴びて……もう怖くて……たまらないの……ねえ……安西君……私……どうしたらいいの……」
「――――」
何も、言えなかった。
元々、戦いには向かない、心優しい性格だった留美子。
しかし、彼女の体内に流れる、妖怪の血はあまりにも強大だった。
明け暮れる戦いの中、身体は傷つき嬲られ、魂は朽ちていった。
彼女の心はズタズタに傷つき、粉々に吹き飛んでしまいそうだった。
そんな彼女に、安西が何を言ってやれるだろう。
安西は――自分に出来ることはそれだけだ――と言うように、彼女の躯をしっかりと抱きしめた。
「……!」
一瞬、留美子の双眸が見開かれ。そして、再び閉じた目からとめどもなく涙が溢れ出す。
力強く、優しい温もりの中で、涙を流すことほど、気持ちのいいものはなかった。
洗っても洗ってもぬぐえなかった血の臭いが、涙で洗い流せそうな、そんな気がした。
185復活:04/07/18 04:12 ID:8WrA9pVl
留美子は、つかの間の安らぎに満たされる。
しかし、いやだからこそ、彼女は安西をそっと押し退ける。
「留美子さん?」
「安西君……変化してる間のこと…私は覚えていないの。前はそんなことなかったのに…」
「…………」
怯えるように呟く言葉に、安西が押し黙る。
「次に変化したら、私はこの爪で安西君を……リック君を……サンデー……ガンガンの人達まで……引き裂いてしまうかも知れない…!!」
悲痛な絶叫だった。血を吐くような、魂の悲鳴だった。
安西は何も言うことができず、それでも
「――留美子さん……」
後に続かない言葉を呟こうとした、その刹那に、異変は起こった。

凄まじい地響きが、パプワワールドを震撼させた。

「――!?」
「なんだ!!」
思わず2人が顔を見合わせ、そして頷くと、『上』へと上がった。
――場面は、トロピカルな南国風景から一転、やけにメカメカしたSFチックなものへと様変わりした。
まるで、どこかの秘密組織の指令部のような胡散臭い雰囲気が充満した部屋。
得体の知れない機械類が並ぶ奥に、大画面のモニターがあった。
そこには、怪獣映画のような冗談じみた光景が映し出されていた。
無論、それは映画ではない。これは、この世界の主――金田一の網膜であり、つまり彼女が見ている光景が、そのまま映像となってダイレクトに反映されているのだ。
そして、今。そのモニターに映っているのは――

「イヤァアアアアア!!!」
絶叫する眼鏡の女と。
巨大な魔獣の爪に、分厚い胸を刺し貫かれた、ブタマスクの男の姿であった。
186復活:04/07/18 04:13 ID:8WrA9pVl
「……こ…これは一体……」
安西は、ただ冷や汗を流しながら、その光景を食い入るように見るしかなかった。
夥しい王蟲に埋め尽くされた海岸線。光の洪水に破壊されていく港。血まみれで倒れる何人もの姿。
そして――

 ――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!

戦慄の雄叫びをあげる、『魔獣』の姿。
「ジ……ジャバ……ウォック……ど、どうして……!?」
青ざめて恐怖を露骨にあらわしながら、留美子が呆然と呟いた。
その単語に、安西も驚愕を隠せない。
「……あれ…が……魔獣……ジャバウォック………皆川……!?」
安西は留美子達と違い、皆川が昔、ジャバウォックを発動させたところを見ていない。
しかし、その伝説じみた、戦慄の魔獣の噂だけは幾度も聞かされた。
その伝説が、目の前に聳えていた。
ふいに、安西は自分の服を強く掴まれるのを感じた。
弾かれるように視線を向けると。そこには、少女のように怯えきった留美子の姿があった。



留美子は、血の雨の中にたたずんでいた。
折り重なる屍体、屍体、屍体、屍体の山。

――わ…私が…――

その中には、敵だけでなく。仲間達や……そして無辜の民の姿も……混じっている。 
――私が……私が殺した!?――
187復活:04/07/18 04:14 ID:8WrA9pVl
ふいに留美子は、背にいくつもの視線を感じ、振り返った。
そこには、怯えたように目を逸らす人々の姿。

(あ…悪魔)
怯えながら、彼らは言った。

――違う!! 私は…――

(何が違うというんだ!! 自分の手をよく見てみろ!!)

――!!!――

かざした自らの両手は……血みどろだった。

――私は…違う!!――


     ――― ズ ガ ア ア ア ン  !!!


「!!」
新たな激震が、留美子の意識を現世へと立ち返らせた。
彼女は、己の罪という、幻影に何よりも恐怖していた。
「(私は………弱虫だ)」
悄然とうなだれる留美子。そこへ声が――
「大丈夫か、留美子さん!?」
泣き腫らした顔をあげると、そこには自分を心配する安西の顔。
安西と目が合うと、彼は穏やかに笑い、言った。
「留美子さんが戦う必要なんて無い。後は、俺に任せろって」
188復活:04/07/18 04:27 ID:8WrA9pVl
「安西君……」
「大丈夫……俺は…『俺達』は必ず帰ってくる……必ず……」
そう言い残し、安西は留美子から離れ、背を向けた。
しかし、いくらも歩き出さないうちに――
「ごほっ!」
大量の血を吐いた。ガクン、と膝が落ちる。
「安西君!!」
「来るな!!」
驚いて叫ぶ留美子に、安西は言う。溢れ出る吐血を、懸命に手で押さえながら。
「――大丈夫。ちょっと疲れてるだけさ。なんてことねえよ……」
嘘だった。酷使しすぎた安西の肉体は、すでにぼろぼろなのだ。
戦うどころか、本来ならば立っていることすら奇跡に近い。
にもかかわらず、仲間を救わんと死地へ赴こうとする安西の姿は、強く留美子の胸を打った。
留美子の中に、激しい衝撃が走る。
「(私は………私は何を迷っていたんだろう)」
衝撃のままに、留美子は安西に駆け寄り、彼を背後から抱きしめていた。
「留美子さ――」
驚いて何か言おうとした安西の唇が、突如温かいものでふさがれる。
留美子のふっくらとした口唇が、重ねられていた。
「!?!」
いきなりの事態に、安西の頭はパニック状態になった。
やがて、接吻を通して、安西の体内に何か力強い波動のようなものが満ちてくる。
全身を緩やかに包み込む、温かなエネルギーに包まれ、安西は糸が切れたように意識を失った。
「……口移しで『氣』を注いだわ。これで少しは楽になるはずよ……ゆっくりと休んで安西君」
安らかな眠りに落ちた安西に、微笑みながら留美子が呟く。
そして、留美子は羽織っていたマントを脱ぎ捨てると、いつもの巫女装束に全身を包む。
丈をなす黒髪を首の後ろで結い上げ、背に弓矢を担ぎ、鞘に納められた刀を掴む。
その双眸には、今までと明らかに異なる、強い決意が漲っていた。
189復活:04/07/18 05:21 ID:7wPKnbZX
「何かあったの!?」
いきなり、その部屋に新たな影が飛び込んできた。
樋口大輔である。
彼女は激震で目を覚まし、安西と留美子がいないのに気付いて、この部屋にやってきたのだ。
樋口は、留美子の姿を認め、驚いた。そんな樋口に、留美子は静かに言う。
「樋口さん、私ちょっと行ってくるわ」
「……行くって……」
さっきまで死んだように昏倒していた人間とは思えない留美子の様子に、樋口は面喰らう。
「私は大丈夫。みんなをよろしくお願いね」
静かな微笑み。その笑顔には、今までとは明らかに異なる強さに満ちあふれていた。
「ちょ…留美子先……!」
樋口が引き止める間もなく、留美子はかき消えるように、その場から姿を消した。


「(私はこれまで自らの血を恐れ、運命を認めようとしなかった……)」
地を思いきり蹴りこみ、留美子が天高く飛翔する。
「(でも今は違う……)」
常人であれば知覚できないほどの速度で、留美子はパプワワールドを疾走する。

 ―― 私 は こ の 血 の 運 命 を 受 け 入 れ よ う ――

疾走を続けながら、留美子が腰の刀――一度は叩き折られたはずの鉄砕牙――を鞘から引き抜く。
疾走する先に、光が見える。出口だ。
「(これまで私は仕方なく剣を抜いてきた。でも今、私は初めて。心から自分の意思で――)」

   
      ――――  剣  を  抜  く  !!! ――――
190復活:04/07/18 05:22 ID:7wPKnbZX

 ――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!

別府港に轟く、魔獣の咆哮。
それは遍く歴戦の戦士達の心胆すらも、震えあがらせ、凍てつかせた。
「(なんだ……こいつは……こんなのと戦えるのか!?)」
城平は、眼前の魔獣に、心の底から恐怖していた。
岡村がレーザーで貫かれ。カムイの魔法は粉々に完敗し。
MPが底をつきかけたカムイをかばおうとしたゆでが、魔獣の爪にかかった。
頼みの綱であったゆでが重傷を負い、いよいよもってジャバウォックに対抗できる人材はいなくなっていた。
「(あのゆでが……やられている!?)」
「(カムイ……こっちの声が聴こえていない……意識がハッキリしていないのか!?)」
「椎名……!」
「ぐ…」
城平の傍らでは、椎名が恐怖に縛りつけられ、一歩も動けないでいる。他の者も同様だ。
絶望を具現化したような、破壊の権化を前にして、誰もがただただ恐怖の虜だった。
「(な…脚がすくんで動かない……)」
そんな城平達の前で、魔獣が膝をつくカムイに巨大な爪を振り下ろす。
「カムイ――!!」
「(動け……動け――――!!)」
城平が叫び、椎名は心の中で絶叫する。しかし、動かない。
カムイが、今まさに、暴風に消え果てんとする蝋燭の火であるように見えた――

    ド   ン  !!

暴風を切り裂き、一陣の疾風が吹いたのは、その一刹那である。

191復活:04/07/18 05:23 ID:7wPKnbZX
「なっ……誰だ!?」
唐突に大きく開かれた金田一の口から、疾風が飛び出した。
疾風は流星のごとき尾を引き、今まさに魔獣の爪に引き裂かれようとしているカムイに肉迫した。
「残念ね、ジャバウォック。タッチの差で私の勝ちよ」
さらに強く地を蹴り、爆発するように加速する。
コンマ一秒の差で、振り下ろされた爪をかいくぐり、カムイの腕が引かれる。
それと同時、猛烈な突風がジャバウォックの巨体を揺るがした。

「 風  の  傷  !!! 」

一瞬、十メートルを超す巨躯が浮き上がり、一拍を置いて地面に叩きつけられる。
強烈な地響きとともに、地割れが生じるほどであった。
「す…すごい……」
城平達が、その並外れた所業に思わず感嘆する。
そこで初めて、カムイは意識を回復した。
「しゃべれる?」
目の前の巫女服姿の女性の、第一声にカムイは面喰らった。
そこに立っていたのは弱々しさなど微塵も見せない、高橋留美子が立っていたからである。
「……ああ、すまない。少し魔法を使いすぎて意識を失っていた。そのせいで、ゆでが…」
「……もうひとりもかなりまずい状態よ。助かるかどうか分からないけど――」
再び腕を掴まれた瞬間――
「できるだけのことはしてあげて!!」
凄まじい勢いで、カムイはゆでと岡村が倒れている方向に投げ飛ばされた。
魔獣が、仕留め損なった獲物に、再び突進しようとする。
しかし、
「ジャバウォック!!」
それを背後から呼び止める声。
「どこを見てるの!? あなたの相手は私でしょう!!!」
ジャバウォックが背後を睥睨すると、そこには留美子が凛然と立っていた。
192復活:04/07/18 05:24 ID:7wPKnbZX
「それとも……」
その唇が、蠱惑的とも言える微笑を刻み、
「最強の戦闘生命とうたわれたジャバウォックが、尻もちをつかされた女にお尻を向ける気かしら?―――堕ちたものね」
辛辣な挑発を投げ付けた。
“……貴様……我を愚弄するか……”
魔獣の貌が、憤怒に満ち、それだけで空気が圧迫を増す。その怒りの矛先は、留美子へと向かった。
「それでいいのよ、ジャバウォック(さ、カムイさん……早く)」
留美子が時間稼ぎをする間に、カムイは2人の治療を行っていた。残りのMPを全て注ぎ込むつもりである。
「フゥ、後は運次第ね」
ちらりと意識をカムイ達に向けた瞬間、
    ――――バシュウウウウウ!!!
留美子の手足を凄まじいビームがかすめた。
「くっ……荷電粒子砲――『ブリューナクの槍』!! しまった!!」
瞬時にして足場が溶解する。体勢を崩した留美子に迫る、魔獣の爪。
それが留美子を引き裂こうとした瞬間、あらぬ方向からの一撃が魔獣の爪の軌道を逸らした。
留美子の周囲に、城平達が走り寄る。
「あら? 足のすくんでた子達がどうしたの?」
からかうように流し目を送る留美子に、城平とが苦笑する。
「悪かった。貴方の戦いっぷりを見て震えが止まったよ。もう戦える!!」
「お、俺も戦えますぜー! 留美子さん―――!!」
椎名も急に気合いが入ったようだ。留美子が満足そうにうなずく。
「クール。それでいいわ」
再生した鉄砕牙を魔獣へと向けながら留美子は言った。
「城平君、頭をフルに働かせなさい。私達の力を120%引き出して、初めてあいつと互角に戦えるわ」

魔獣への、反撃開始!!
193作者の都合により名無しです:04/07/18 08:15 ID:4COHi/zW
要素がありすぎてどれとは言えんが
とにかく
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!

なんか今初めてジャバの恐ろしさが分かった俺
194作者の都合により名無しです:04/07/18 09:43 ID:7BGN6FNo
姐御━━━━━━ヾ( ゚д゚ )(´Д`)ノシ━━━━━━!!!

留・美・子!留・美・子!
195作者の都合により名無しです:04/07/18 11:11 ID:1xMmNxxp
うおお、やっぱレイラは(゚∀゚)イイ!!
弱さを乗り越え完全復活した女帝の活躍に期待age
196作者の都合により名無しです:04/07/18 18:59 ID:A7PAmx5A
いくら治療行為とはいえ、よりによって自分の体内でキスシーン演じられた金田一の心境やいかに
197倉庫番 ◆Akun.538AA :04/07/19 17:10 ID:FRCwmv/1
昨日までの温泉編アバウトまとめ一覧表できました。
なんかあったら連絡ください。お暇な方遊びに来てください。
第二倉庫からもリンク張ってありますがとりあえずこちらで。

http://mypage.naver.co.jp/komaking/e-onsen.htm

ヾ( ゚д゚ )(´Д`)ノシ
198気分はGOKURAKU:04/07/20 23:11 ID:nubWmG9+
(>101 16部80)

 「俺、その娘に今度こそ本気で恋をしちまったみたいなんだ」

久しぶりに顔を合わせたと思ったら、これだ。この男、友人とは言えこの非常時に何考えてんだか。
だが、普段相手にホレられまくって「普通の女は苦手だ〜」とか言ってるこの男にしては珍しい話だ。
ナントカプレイボーイだかの遺伝子能力でそのホレた娘さんを落とせばいいのにとか思っていると。

 「ダメだったんだ・・・効かないんだ。こっちのドキドキが止まらないんだ。・・・それに」

どうやら鹿児島の温泉で出会った女性に本気で心奪われてしまったらしい。出会い方はアレらしいが。
古い眼鏡をかけていて清楚で本を手放さない、ミステリアスな女性だとか。なんでこう熱く語るかねえ。
僕は普段ややキャラを作っているが彼の前だと普段どおりの田舎者。女性関係はどうも苦手なのだ。

 「どうせなら実力で彼女に好かれたい・・・でもダメなんだ、すっかり嫌われてしまっているよ」

というかなんで僕は別府沈静化のためたまたま訪れたうどん屋の跡地で他人の恋愛話聞いてるのさ?
そしてなんでこの男は一升瓶抱えて泣き崩れて街を彷徨っていたのだ?眼鏡の娘は心配ちがうんか?
え、宿で騒乱が起きて海に向かう途中まで尾行していたが見失った?ええい情けないヒーロー崩れめ!

 「ねえ〜マスター作っておくれよー、涙忘れるカステラ〜」

 誰 が マ ス タ ー だ !! 酔っ払いも程々にしてほしいものだ。何のマンガの台詞だったっけなこれ。
半分焦げた屋根の向こうでザーザーすごい雨が降っている。この男に言わせたら涙雨とかなるのか?
でもな、その娘に今は伝わらなくとも頑張ればいつか、お前のいいとこひとつぐらい見つけてもらえるさ。

 「・・・ううっ、俺、お前が友人で本当に嬉しいよ!ありがとう鳥山っ!!」

ぐああ―――――!!抱きつくなー!!オ、オラにはその手の趣味なんかねえぞー!!マサカズー!!
まいった、とっととこいつ松椿に連れて帰りゃよかったぞ・・・気が散ってオラ瞬間移動に力が入んねえ・・・。

・・・オラ、いったい別府に何しに来たのか、わかんねえ・・・。
199作者の都合により名無しです:04/07/20 23:55 ID:IjYepfQG
hagewarota
200苦痛を味わう男:04/07/21 00:30 ID:cCFcBQYa
>122
山本英夫の蹴りがヨクサルの脇腹へ炸裂する寸前――
ヨクサルは空中で体勢を変え、体を山本の正面へ向けた。
体の中心――ど真ん中に山本のつま先が迫る。
後、コンマ何秒かで直撃、そういう距離であった。
しかし、山本の右足には、いつまでたっても肉の感触が伝わってこなかった。
山本の蹴りは、ヨクサルの腹部に吸い込まれるように、入り込んでいった。
いつのまにか動いていたヨクサルの両の手が、がっしりと山本の右足を掴んだ。

山本の蕩けた表情がわずかに揺らぐ。
次の瞬間――
山本の目前には地面があった。
凄まじい勢いで、地面が山本に迫ってくる。
「おっ…?」
口を吐いた戸惑いの呟き。
そのまま、受身もとれない状態で、山本は顔面から地面にめり込むように叩き付けられた。
合気。
ヨクサルは、山本の蹴りの威力を利用して、逆に山本を投げ飛ばしたのだ。
201苦痛を味わう男:04/07/21 00:32 ID:cCFcBQYa
「面白い技を使うんだな」
山本は、ぐんっ、と前のめりになった上体をバネのような動作で跳ね上げた。
血塗れの―しかし依然として蕩けたような表情の―顔面が、ヨクサルの眼前に迫る。
先程のヨクサルの蹴撃の連打。
そして、此度の山本の蹴りの威力を相乗させた投げのダメージ。
それらをまるで感じられない身軽な動きであった。
その顔面に、蹴りが直撃した。
ぐちゅっ、という鼻の潰れる音がした。
何の容赦も躊躇も無い、強烈な威力を伴った蹴りであった。
しかし――
「(飛ばない…?)」
先程まで、台風の直撃を受けた塵芥のように、
軽々と吹き飛んでいた山本の肉体は、上半身が仰け反った体勢のまま、
地に根が生えたかのように、その場に止まっていた。
そして、山本の上半身が、ヨクサルの目の前に戻ってくる。
先程よりも、距離が近い。
ヨクサルの顔と山本の顔を隔てる距離は、僅かに数cmほどしかなかった。
ヨクサルは、肌と肌が触れ合いそうな距離で、山本の顔を直視した。
変わらぬ、女のような優しげな表情がそこにあった。
先程の蹴りで、鼻から濃い血液がどろどろと流れていた。
ぺろっ、と山本はその血を舌で舐めた。
202苦痛を味わう男:04/07/21 00:33 ID:cCFcBQYa
「今のは中々だった。思わずイっちまいそうになったよ」
山本が、言った。
その囁くような声に危険なものを感じ、ヨクサルは再び本能的に後に飛び下がった。
山本は、そんなヨクサルの反応を楽しみながら、全身を駆巡る歓喜の奔流に身を委ねていた。
ぞくぞくと、体全体が熱を孕んでいくのがわかる。
快楽という名の熱であった。
どくん、どくん、どくん、と心臓が高鳴る音が心地良かった。
山本は、動かない。
じっと、棒立ちで突っ立っているヨクサルを見つめている。
あの佇まい。
あの無防備な体勢からまるで地を滑るように、予備動作無しで四肢を引き千切るような蹴りが飛んでくるのだ。
そう思うだけで、無防備な柴田ヨクサルの姿がたまらなく愛しく感じてくる。
食われてもいい―いや、食われたい、凌辱されつくしたいという感情が肉の底から鎌首を擡げそうになる。
こんな奴がいたのか。
深い悦びが山本を満たしていた。
ヨクサルがこちらを見ている。
このまま―この男の暴力に身を委ねたいと思う自分がいる。
例え、その結果が死であっても、だ。
僅かに、山本の気が揺るんだ。
203苦痛を味わう男:04/07/21 00:34 ID:cCFcBQYa
それを察したのか、
つうう、
とヨクサルは前に出た。
同時―ヨクサルはポケットから居合のように右手を引き抜いた。
手刀。
閃光のような速度でヨクサルの綺麗に揃えられた指先が、山本の喉を襲った。
死!?
その喉を抉り取らんかの如き凄絶な手刀に、山本は死を感じた。
が、その瞬間、山本の肉体は動いていた。
今までの動きからは考えられ無い俊敏さで、頭を左に傾けた。
手刀が、山本の首筋を掠めて通りすぎた。
山本の首の真横に、ヨクサルの伸びきった右腕がある。
その腕を、山本の両腕が捕らえた。
同時に、山本はその右腕に体重を預けながら、己の体をヨクサルの右側面に動かした。
瞬く間に、脇固めの体勢になった。
蛇のような動きであった。
204苦痛を味わう男:04/07/21 00:35 ID:cCFcBQYa
「―――ッッ!?」
ヨクサルの顔に、初めて本物の驚愕が浮かんだ。
関節が嫌な悲鳴をあげた。
ヨクサルは地を蹴った。
ぐるりと空中で体を回転させ、山本の両手を振りほどく。
極めが外されたと見て取ったと同時、山本は頭部を後に反らした。
瞬時の判断であった。
逃げたその頭部を、ヨクサルの足がかすめていた。
ヨクサルは絶妙な身体バランスにより、回転の途中、ほぼ逆立ちの体勢から山本の顔面に蹴りを放っていたのだ。
避けた。
しかし、ヨクサルの攻撃はそれで終わりではなかった。
蹴りを放ったヨクサルの右足の真下に、山本の左腕が残っていた。
その、さらに下を、ヨクサルの左足が走り抜けた。
両足が交錯し、山本の左腕を挟み込んだ。
瞬間―
しゅばっ!
という切断音が空間を震わせた。
205苦痛を味わう男:04/07/21 00:36 ID:cCFcBQYa
エア・カット・ターミネ―ター。
本来は、敵の頭部を挟み込み、意識を刈り取る技だ。
それをヨクサルは、山本の左腕に仕掛けたのだ。
一瞬で相手の意識を言葉の通り根絶(ターミネ―ト)させるその切れ味は、左腕一本切断するに十分なものである。
しかし―
技を終え、広げられたヨクサルの両足の間からは、山本の左腕は消失していた。
否―左腕だけではない、山本の体が、ヨクサルの視界から完全に消え去っていたのだ。
完璧に極まったと思った技が、外された。
ヨクサルは、反射的に技後の無防備な体勢を崩し、数mはなれた場所に飛び下がる。
左腕を鋭い痛みが突き抜けたのは、ヨクサルが地面に降り立ち、山本の姿を探そうとした瞬間だった。
!?
反射的に向いたその場所に、山本英夫はいた。
山本は右手に鉄串を携えていた。
その鉄串は、ヨクサルの左腕を突き刺し、血を滴らせ妖しく輝いていた。
そして、山本はとろりとした眠たげな瞳でヨクサルを見ながら、ぱっくり裂けた特徴的な口元に強烈な笑みを浮かべていた。
206苦痛を味わう男:04/07/21 00:44 ID:cCFcBQYa
戦慄すべき光景であった。
常人なら、いや心身を鍛え上げられた格闘家であろうとも、一瞬の静止を余儀なくさせる。
そんな怖気を震わす表情であった。
だが。
ヨクサルは止まらなかった。
そのまま、大きく足を上げ、山本の懐へ。
超至近距離。
下から突き上げたヨクサルの肘が山本の鳩尾を抉る。
同時に、ヨクサルが勢い良く持ち上げた足を大地へ下ろした。
大地が、悲鳴をあげた。
山本の肉体は、地面と平行に吹き飛び、数m先で落下した。
裡門頂肘。
そう呼ばれる技であった。
「ひゅうううッ…」
ヨクサルの口から短い呼気が吐き出された。
ゆっくりと、ヨクサルは左腕に突き刺さったままの鉄串を引き抜いた。
そして、それを後方に放り投げる。
その時にはもう、山本英夫は立ちあがっていた。
ヨクサルは、鉄串を放り投げた体勢のまま、その場で硬直した。
完璧な手応えだった。
なのに、何故―?
何故こいつは平然と立ち上がる―!?
207苦痛を味わう男:04/07/21 00:45 ID:cCFcBQYa
「やっと、必然性高まってきたな」
山本は、嬉しそうな表情で言った。
その表情に苦痛は欠片も見えない。
「必然性?」
問い返すヨクサルの声が僅かに震えていたように思えるのは気のせいであろうか?
そして、その震えの中に、今までのような生理的悪寒だけでなく、恐怖が混じってると感じるのは?
「そう、必然性が全てだ。俺はあくまでもお前に殺されたくないという前提があって、
 初めて初めて絶望感が生まれてくるんだ」
言いながら、山本は先ほどと無防備なまま死んでもいいと思った自分自身をズタズタに引き裂いてやりたいと思った。
ただ、与えられた暴力で達する場所など、自分は求めてはいない、と改めて実感した。
「今、俺に絶望を味合わせてくれそうなお前がいる以上、
 俺はお前に殺されない努力をしなくちゃいけねえんだよ。必然性ってそういうことだろ?」
山本は微笑した。
闇の淵に潜む妖物のような笑みであった。
この男は真性のマゾであり、とてつもない欲望を身の内に潜ませた怪物なのだ。
苦痛は快楽に転じ。
肉体はその無尽蔵の欲望を潤滑油として凄まじい速度で相手の動きをとり込んでいく。
この男の活動に、果ては無いかのようであった。
208苦痛を味わう男:04/07/21 00:46 ID:cCFcBQYa
「なるほど、な…」
ヨクサルは、そんな山本の告白を聞き終えてから、ぽつりと呟いた。
雰囲気が変わった。
「へえ…」
ヨクサルの体から、少しずつ人間性が消えていくのを、山本は楽しげに見守っていた。
くすっ、
くすっ、
くすっ、
といつのまにかヨクサルは笑い出していた。
「お前を倒せば、  は完成する、そういうことか」
顔面が引きつったような、壊れた笑顔でヨクサルは笑っていた。
「お前は本物のモンスター」
歌う様に、ヨクサルは言った。
「だから俺は引き寄せられた」
言い終えたヨクサルの顔から、全ての表情が消えていった。
いや、表情だけではない。
ひっそりと、柴田ヨクサルという人格そのものが消えていくのを、山本は感じ取っていた。
後には、一匹の怪物が残っていた。
エア・マスターと呼ばれる、怪物であった。。
ゆっくりと、ぎこちなく固まった表情のまま、ヨクサルは身を沈めた。
それに応ずるように、山本も又、ゆっくりと腰を落とした。
辺りの空気が、凍り付いたかのように静止した。
その場にいる、二人を除く全ての生命が呼吸を止めたかのようであった。
そして、ほぼ同時に―
二匹の怪物が、弾ける様に、お互いに向けて走り出した。
209作者の都合により名無しです:04/07/21 01:05 ID:0ibj7UJR
乙。両者の融合具合とか相性がすげえ。
文に散りばめられた細かな描写がゾクゾク来る。
久々にいいもん読んだ、サンクス。
210作者の都合により名無しです:04/07/21 01:42 ID:3sJdheOE
恐るべし山本
さすがは板垣をして「山口貴由に匹敵する」と言わしめるだけのことはある
211作者の都合により名無しです:04/07/21 09:39 ID:XMPMq/AR
餓狼伝AIRの時もあったけど格闘と恋愛はよく似てるのだなあ・・・
甘く危険な匂いがプンプンします
212ケンタロー×ブレード:04/07/21 18:26 ID:BOTev8AO
>前スレ552 >145

「凄い雨だな」
子供のように素直な感嘆が、矢吹の口から漏れる。
倉庫の開け放たれた鉄扉の奥で木箱にあぐらをかき、“クロ”横内なおきの頭を撫でている。
「……雨が降る……矢吹艦は来ない……♪」
えらく微妙な替え歌を呟き、ニャーとしか応じぬ横内に、何故か満足げに目を細める。
そのまま胸にかき抱くと、するりと立ち上がり、こきこきと首を鳴らす。
「…全く……『救助』が来るまで、大人しくしてる事も出来んのか…」
誰に言っているのか。横内にも、わかるような、わからないような。

―――まあいい。溢れるだすこの力。
見せつけるだけ、見せつけてやればいい。
矢吹に『仕える』者には当然研鑚が必要だが。それはあくまで彼の手の平上での事。
「…『守ってやる』のもまた仕事、だ」
傲慢さに、寛容と愛を織り交ぜ、どこか苦笑するように嘲う。
既に皆川は、彼の『選別』こと『大会』から洩れている。そしていくら強大な力を持とうと、自分ひとつ制御出来ぬ者に用は無い。
『終わった男』が、いつまでも表舞台にこだわり足掻くのは、彼の美意識にも、著しく反した。
「ウフ……ウフフフフフ……」
夢想の未来を想う無気味な笑い。
そう。この港にあって、ただ一人。この男だけが皆川を―――ジャバウォックを恐れてはいなかった。
王欣太やいがらしみきお・巻来功士ですら慄いたそのプレッシャーをいなすのは。
絶大な力か。植えつけられた愚かさか。あるいは、その両方か。
「………?」
と、外、海方向を向いていた顔が。街方向、背後の荷を挟んで逆にもある鉄扉を、省みる。
「……客だ」
横内が、怪訝そうに矢吹を見上げる。
興味深げに見据える矢吹の前で、ここからは上方しか見えぬ巨大な扉が、重い軋みと共に開いた。
ゆっくりと濡れた足音が、中央の荷山を迂回し、近付いて来る。
213ケンタロー×ブレード:04/07/21 18:29 ID:BOTev8AO
やがて闇から、更に濃い闇色が浮かび出る。
「ほう」
歴戦の跡をあまた残す漆黒の鎧に、同色の外套。
憎悪にたぎる隻眼が、シルエットのまま、ねめつけてくる。
肩に担ぎ上げられた大剣は常識外の重量を想起させ。
それを片腕が支えているという事実は。この男の並々ならぬ膂力を、初対面の横内にすら知らしめる。
「久しぶりだな、三浦建太郎。だが―――」
矢吹が、なにかを言いかける。
しかし黒の男三浦は、それを一顧だにしない。
「シィッ!!!」
突き、振り下ろし、溜めた脚力で一気に間合いを詰める。
全てが同時に行われ、迫りくる鉄塊の先端を。紙一重の見切りで矢吹がスウェーする。
三浦は無言のまま、更に斬舞を重ねる。
顎を逸らしたまま、矢吹は言葉を繋いだ。
「おいおい―――私は今から―――あの化け物、『ジャバウォック』を始末しなくてはならんのだ―――」
刺突に加えられた僅かな纏絲が、横内を抱いたままの矢吹の、誰も触れることすら適わなかった白マントを抉る。
しかしそのまま横薙ぎに変化する直前。刹那の力点を見切ると。勢いが乗る直前の刃を、矢吹はぴたりと指で挟み止めた。
「―――言葉より先に剣が出る。変わらんな」
固く結ばれた三浦の唇が、犬歯を覗かせる。
214ケンタロー×ブレード:04/07/21 18:29 ID:BOTev8AO
「―――パクリ野郎が―――知ったような口で語るんじゃねえ」
ミシミシと筋肉が膨張し、止まった状態のまま飽和を迎える。
この状態のまま押し切り、荷山ごと挟み斬ろうというのだ。
凄まじい力技。

―――――――― ド ゴ ォ ア ッ !!!! ドサドサドサ……

しかし矢吹は逆に力を抜くと、その勢いをも利用し風に乗り
崩れるさらに奥の荷山。段として見れば、3メートルほどは高い位置にふわりと降り立った。
「―――このままでは犠牲が増える一方だ」
「今の我々は、お前達を含む、全てを『救う』為に動いている」
「過去に囚われ、今を見失うなど愚の骨頂」
「そもそも貴様。今頃『ここ』に現れるということは、『放送』を見て別府に来たのだろう?」
続けざまに言い放った後、亀裂のように矢吹が笑う。
「―――といった説得に応じる面では、無いな」
そして猫を優しく降ろすと、彼はどこからともなく、ぬばたまの剣を取り出した。
「―――よかろう。では」
抜き払い、顔正面に掲げる。

「―――同じ『名』を持つよしみ。『剣士』たる礼儀をもって、世界最強のこの黒刀『クライスト』で沈めてやろう―――」
215作者の都合により名無しです:04/07/21 22:13 ID:mfFhKS6V
来ましたねダブルケンタロー
ファイト
216作者の都合により名無しです:04/07/21 22:25 ID:xgpkM/ou
グリフィス気取りか、矢吹めw
それにしても、三浦vs矢吹って何気に絵が想像しやすい
217作者の都合により名無しです:04/07/22 01:28 ID:R75o6YPc
別府地下水沸騰までの暇つぶしとか言われそうなヤカン
218それぞれの闘い:04/07/22 11:56 ID:M6ccH8Uf
>>198 20部445他)

 「あああああー大嫌いだー!!青い海なんてー!!」
 「ねえ!どこにも青い海なんてねえんだマサカズ!!」

酔いどれモテナイ君と化した桂正和を連れ、
瞬間移動を諦めた鳥山が松椿へと一旦戻って来た。
数少なくなった屋根のある安全そうな焼け跡へ友人を置き、
鳥山は再び混沌の市街へ舞い戻ろうと歩き出した。

彼の特技である瞬間移動は、移動先に知り合いがいないと使えない。
今現在、別府以外で多くの知り合いがいる場所と言えばキャノンボール会場。
他にも点在はしているだろうが、思いつく辺りは皆温泉に来てしまっている。
北条や原などのバンチ連中はいまいち所在がつかめなく標識の対象にしづらい。
(北条は入院、原は行方不明)
自分ひとりでは、あまり細かい作戦を練る余裕もない。
とりあえず松椿に多数人間を集め、期を見てひとり矢吹艦の安全な場所に送り込み、
そこを目印にドコドコワープする算段である。なにしろ、
キャノンボール会場といえば、散々闘った大友を始めとして大乱闘の真っ最中。
Bブロック自体も汚濁と大火災の園であり、うかつに通り抜けできない。
万が一再度乱戦に巻き込まれても冷静に対処できる、
強者を標識に使いたいのだ・・・が。

 「しっかし松椿に残っているのは、怪我人やそれの付き添い、一般人、
 微妙に戦闘力が低い連中に分身体に・・・幽霊と酔っ払いだけかあ・・・」

どうしたものかと頭をボリボリと掻く鳥山。
彼は最大の障壁である大友がゴッドハンド基地に帰還したのを知らない。と。
 「・・・空から何か降りてくる・・・」
どしゃぶりの雨が少し緩んだと同時に上空を覆う奇妙な気配。
闇に光る数個の丸い光源が、地上100メートル辺りで瞬いている。
219それぞれの闘い:04/07/22 11:57 ID:M6ccH8Uf
 「お、王蟲かっ!?あいつ空も飛べるのか!?クッ・・・」

危険物とみなした鳥山は、謎の物体に向けて“気”で光る掌を掲げる。
 「うわ!ま、待ってくれ鳥山さん!そいつは敵じゃねえ!」
それを見て慌てて制止したのは、左手に布の塊を握った真倉だった。
 「敵じゃねえのか?あれは」
 「ああ・・・あれはあの『島』から脱出する時に乗った、
 俺たち裏御伽の、いや島で生き抜いたみんなの『仲間』っス」
 「乗った?」
同時刻に野球をしていた鳥山は島の細かい状況を知らない。
 「岡野の要請がようやっと届いたか・・・『蟲船』ラ=レダルーバよ」
 「船・・・あれが・・・?」
鳥山が闇色の空を仰ぐと、まるで天蓋のような威容の空駆ける蟲が、
松椿の人間を雨嵐から守かのようにゆっくりと真上から舞い下りてきた。

しかしなぜか、6階建てである松椿ホテル部分より下に下がってこない。
これでは本当にただの屋根がわりではないか。

 「おいレダルーバ!お前また岡野じゃなくて俺だったからって、
 ふてくされてんじゃねえだろなぁ!非常時なんだぜ、協力しろよ!」
腕を振り回して怒りをあらわにする真倉。
蟲船の、彼への返答はテレパシーで送られてきた。
それを聞く真倉の表情がやや強張る。
 「・・・“今動くのは得策じゃない。『街が飛ぶ』前に光線で撃墜される”?
 お前俺が嫌いなのは仕方ねえけどよ、もうちょっと人にわかるように話せ」
 「人間にわからねえモンがわかるんだな、あいつ。
 しかし街が飛ぶって何の事だ?王蟲から逃げるために街がジャンプすんのか?」

感心しつつも首をひねるしかない鳥山。
よくわからないが、蟲船に乗り込んで避難する手口は使えなさそうだ。
鳥山は再び生存者を捜しに市街へ飛ぶ事にした。
220それぞれの闘い:04/07/22 12:00 ID:M6ccH8Uf
 「んじゃ、オラまた行ってくる。留守番頼む」
肩を回しながら元気いっぱい、松椿玄関を出る鳥山。
蟲船の圏外に出たため急に雨量が増したような錯覚をおぼえる。
ふと、雨を切り裂くようなエンジン音が近くで聞こえた・・・途端。
ヘッドライトに照らされた鳥山に微妙なデザインのバイクと大勢の人間が突っ込んだ!

 「「「うわぁぁぁああーーーーー!!野中っ停まれ停まれぇぇぁあーーーーー!!!」」」

 ガッシャァーーーーーーン!! ずばーん! どかーん! ・・・カラカラカラ・・・


・・・雨の中、ぼけっと立ち尽くすは鳥山ひとり。
哀れ、野中バイクに無理矢理曲芸乗りしていた徳弘以下8名の変態軍団は、
野中の爆発四散と共にそれぞれ松椿の土と化した、っぽかった。
 「衛藤先生〜俺らまで変態扱いでいやがりますがナレーションぶっ殺しやしょうか」
 「・・・ぼくにはとてもできない(バタッ)」
 「おートリサではないか〜もしかして生き返ったのか〜?」
 「お、おう・・・相変わらずおめえら無茶すんなー、徳弘・・・」
 「俺らその他大勢ですか!?裁判所に訴えてでも出番ほしーですー!」
 「木多はややこしいから黙ってるのだ。とうっ」
ぐしゃ。徳弘がチョップで木多の延髄を破壊した。
鳥山は何も見なかった事にして空を飛び去っていった。


一方、雨雲の『上』に出て別府を覆う黒雲と異様な気配を調査中の荒木と藤崎。
やはりこの異常気象は、別府港の方向からひしと伝わる謎の存在が生み出したものか。
 「グレイト・・・だがこれ以上、俺たちは他者に運命の手綱を握らせないぜ」
どこまでも不敵に笑う荒木。藤崎は遥か天空の三日月を眺め訝しがる。
 (この三日月・・・おかしい。満月の軌道を描いている。しかし構う時間はないか)
そして彼らは再び、不気味な雲海に身を投じた。

動乱の時代の真っ只中、漫画家たちの戦いは続く。
221光と闇のはざまで:04/07/22 15:35 ID:M6ccH8Uf
>>192

 「凄いな・・・“サンデーの女帝”か。よく言ったものだ」

回復魔法の光を両手から放ちながら、カムイは横目で留美子の立ち振る舞いを見やる。
ただ単に強いというだけでは女帝などとは呼ばれまい。
気品、風格、彼女が積み重ねてきた光と影の歴史。
それらを一身に背負い、あの輝きが生まれるのだ。
 (まだ俺たちは闘える。最後の最後まで)
力を振り絞り魔法に集中するカムイ。と。
 「・・・いい、もう大丈夫だぜリーダーさん。俺は、ここまでで」
全身を炭化させた岡村が意識を取り戻し、身体を小刻みに震わせながら喋る。
 「馬鹿を言え。生きてるだけで奇跡なんだぞ、おとなしく・・・」
 「俺、いっぺんマジ死にしてっから。こんくらい死んだうちに入らねえよ」
 「何を・・・」
 「離れてな・・・ 感電するぜ」
なお手をかざすカムイをかすかに動く右手で制し、岡村はゆっくり息を吸う。
強大なる魔獣・ジャバウォックの上空を覆う暗雲を、蛇のような雷が暴れまわる。
次の瞬間―――閃光、轟音、網膜や鼓膜が破壊されそうな衝撃。
 「岡村ッ!?」 
 「“ミラー”!!」 ・・・ 白く包まれる港の一角。


 「・・・裏御伽チームは、奇人変人揃いのファンタジー格闘集団だという話だが、
 なるほど・・・よくわかった。決勝トーナメントで当たるのが楽しみだな」
 「どこからそんな話聞いたんだよ。他の連中よりはマシだと思うぜ、俺は」
感心するカムイの眼前には、天からの雷を浴び全身が帯電している、
松椿脱出行でも見せた“武蔵裏天流奥義”で肉体を復活させた異形の鬼神がいた。
 「お前のところの副将がそう言ってたよ」
 「ヘッ、あれが一番の変人だっての。俺は下から数えた方が早い」
軽口を叩く間に、岡村は魔獣に向き直り、カムイは次の治療者ゆでに手を乗せる。
 (しかし・・・今の雷を避けきった覚えはないが、なぜ無事だったのだろう)
222光と闇のはざまで:04/07/22 15:38 ID:M6ccH8Uf
ふとカムイは自分の背中に、柔らかく暖かい波動を感じた。
宮下との闘い以降、疲労を蓄積させた全身に活力がみなぎる。
誰かヒーリングの魔法を持った人間がいただろうか・・・カムイが考えていると。
 「んもう、カムイさん!おいらがMP分けてるんだからボンヤリしない」
 「・・・松沢!?お前そんな技術持っていたか?」
カムイのひび割れた鎧とボロボロのマントにしがみつくように、
スイカヘルメットののんきな男が、もみじのような手の平をカムイの背に当てていた。
 「お忘れでしょうが、おいらは“魔法動力炉”の戦艦無礼ド艦長ですぜ。
 魔法も使えるんですよ、呪文ド忘れしたんで今は防御結界ぐらいしか出せませんが」
 「松沢・・・温泉とカレーと宇宙にしか興味のない男が・・・」
 「ほらレーザー来たーっ!“ミラー”!!」
“バシュウウウウウッ!!”
――カムイの側面に凸面の鏡のような巨大透明バリアが生成され、
魔獣の周囲から放たれた殺人光線を受けて輝きながら粉々に砕け散った。
先程の雷から己を守った力強い存在の正体を知り、カムイの瞳に烈光がともる。
 「・・・やれる。俺たちは闘える」
今度は口に出して、カムイは周囲の連中にまっすぐな視線を向けた。
 「あたりまえだ!あんなバケモン一匹なんぞで死ねてたまるか!」
 「おいらだってカレーの国を造る前に死んだりしないやい」
男たちは熱き視線を交わし合い自然と拳を握り、3つのグーでゴツンと叩き合う。
勝利への、生き抜く事への誓いの握手がわりだ。
 「わ、わたしも混ぜてもらおうかな」「ゆで!?大丈夫か」
分厚い唇の端から血を流しながら、僅かばかり回復したゆでが起き上がり、
4つ目のグーをぶつける。これ以上の言葉はいらなかった。


 (・・・ちょっとだけ、あなた方が羨ましいと思いました)
先程から調子の悪い山田が、ずぶ濡れで重くなった長いスカートの裾を固く握る。
本好きが高じて世の全ての光に叛けた、吸血の徒。
ささやかな“温泉休暇”の旅が終わりに近い事を、悟らざるを得なかった。

蒸発する地面、震える流水、滾る炎熱。狂乱の宴はいよいよ終末の叫びをあげた。
223作者の都合により名無しです:04/07/22 17:53 ID:svYX34za
アラもある。でもあんたみたいに、謙虚に指摘されたところを繕おうとし
また終わりに向かって文句ではなくSSを投下し続ける態度は、とても尊いものがあると思う。
ガンバレ

「ぼくにはとてもできない」(笑)
224218:04/07/22 18:02 ID:POJbOIEE
指摘ってしたらばの話ですね
がんばります

「無理やり書かされた読書感想文のようですわ」(笑)
225到来(アドヴェント):04/07/23 00:51 ID:qAjTSOG1
>>222の続き

大地が己の滅びを嘆くように叫びをあげている。
ジャバウォックは怒り狂っていた。
地上最強の戦闘生命たる自分が……たかが足元の虫ケラ程度すら叩き潰せない。
ジャバウォックの爛々と光る目には、懸命に命を振り絞って戦う留美子やカムイ達が、叩いても叩いても地面の下から這い出てくるミミズのように見えていた。
 ジャバ『こざかしい虫ケラ共が……ならば二度と再生できぬように跡形もなく消し飛ばしてくれるわ!!』
 ベキベキベキベキ・・・・  
そう叫ぶジャバウォックの身体が変形していく。
右の巨大な爪が枝別れし、まるで掌を二つ重ねたような形状になっているのだ。
そして、十本の爪の真ん中では、ごく微少の……しかし凄まじく凝縮された高エネルギーが発生しつつある。
 岡村「な、なんだぁ?」
 ゆで「あのデカ物の腕が…変形しとるわい」
事情を知らない者達が首をかしげるなか、留美子と椎名は戦慄すべき光景に慄然としていた。
留美子「み、みんな……逃げて……!」
 椎名「あ、ああああああ、あれはヤ、ヤバすぎだろ……」
2人の顔は恐怖に青ざめ、全身を戦慄で震わせていた。
留美子「ジャバウォックは…… 反  物  質  砲 を放つつもりだわ!!!」

――反物質。
反核子からなる原子核と、陽電子から構成される原子によって組み立てられた物質。
理論上、これは我々の世界の物質と接触すると対消滅を起こし、γ線やπ中間子に変化する。
その対消滅が生み出すエネルギー量は…わずか1グラムの反物質が………

  
     20 キ ロ ト ン の 原 子 爆 弾 に 匹 敵 す る !!
226到来(アドヴェント):04/07/23 00:53 ID:qAjTSOG1
 全員「な、なんだって――――――!!!」
説明を聞いた全員が、驚きのあまり、お約束のように仲良く唱和した。
留美子「人工的に反物質を生み出すには……普通なら直径10キロもの巨大な粒子加速器と莫大なエネルギーを必要とする…
    だけどジャバウォックは、そんなものを必要とせず…自らの体内で大量の反物質をいとも簡単に生成することができるのよ!!」
これがサンデー最強の魔獣に秘められた真の恐ろしさ!!
カムイ達はあらためて、自分達が相手していたのが比喩ではない正真正銘の怪物であったことを思い知る。
もしジャバウォックが気まぐれに握り拳ほどの大きさの反物質を生成したら……
最悪、地球そのものが滅亡する!!
恐ろしい想像にカムイ達は戦慄を禁じ得なかった。
 椎名「ル、ルーラで逃げようぜ、カムイ!!」
カムイ「馬鹿な…俺達が逃げてどうする…。それでは別府は間違いなく滅亡する…そんなことができるはずがなかろう…」
 椎名「ぐわーー、やっぱしー!!」
頭を抱えて泣き出す椎名。しかし、そんな彼を笑ったり、失望したりする者はいない。
誰もが絶望に打ちひしがれていたからだ。
打つ手なし。万事休すとはこの事か。
 キュイイイイイイイイイイイ!!
ジャバウォックの手に握られた、蛍ほどの小さな光は、より一層激しく集束していく。
今まさに、滅びの一撃が放たれようとした……そのとき!!

       キ ュ ボ ッ !!!

一本の光が疾走し、時が止まった。
しかし、全てを消滅させる破壊は、遂にやってこなかった。
そのかわりに、今しも反物質を放とうとしていたジャバウォックの、その右腕が切断されて、地面に落ちていた。
誰しも呆然とするなか、魔獣の呻きがこだました。
227到来(アドヴェント):04/07/23 00:53 ID:qAjTSOG1
ジャバ『グアアアアアアアアアアアア!!』
魔獣が咆哮するように叫喚する。
その光景を目の当たりしながら、カムイ達は自分達が助かったという事実を認識できないでいた。
そんな彼らの目を覚まさせるように、ジャバウォックの背後――その空間がグニャリと歪んだのは、次の瞬間だ。
  キュウウウウウウウウウウウ・・・・
 全員「!!」

    ド ゴ ア ア ア ア ア ア ア ア !!!

さらに次の瞬間、空間が裂け、扉のように開き、光や轟音と共に何者かが姿を現した。
癖のある金髪をオールバックにしていた。耳がファンタジーに登場するエルフのように尖っている。
その顔だちは作り物めいて整っており、漆黒のスーツに全身を包んでいる。
その男は現れた瞬間から、叩きつけるようなプレッシャーを放っていた。
 岡村「な、なんだァ―――!?なにもねえ場所から人間がいきなり現れよった――!!」
岡村達の驚愕を無視し、その男は泰然と空中に浮かんだまま、ジャバウォックを見下ろしていた。
 ??「フフフフフ……プログラム“ジャバウォック”は最終段階にはいったか……」
男は薄く笑いながら、実験動物を観察するような冷たい視線をジャバウォックに向けている。
ジャバ『貴様は……!!』
ジャバウォックの目がギラリと光ったときには、レーザーが放たれていた。しかし……  
    バキュウウウ!!
空中で身じろぎ一つしない男に当たる前に攻撃は弾かれ、男の髪の毛一本すら焦がすことはできなかった。
228到来(アドヴェント):04/07/23 00:54 ID:qAjTSOG1
ジャバ『ぬう……貴様……!!』
怒りのなかに、底の知れない憎悪が宿っているかのように、魔獣は唸る。
男の周囲には、極めて高出力のバリアーが張り巡らされ、鉄壁を為していた。
 パンパンパンパン…!
 ??「素晴らしい……よくぞこれだけ立派に育ってくれた……“お父さん”は嬉しいよ」
男は機嫌良さそうに尊大な笑顔を浮かべ、拍手を繰り返している。
 ??「君達が育てたのだ……礼を言おう」
今度は、カムイ達に言う。
カムイ「……誰だ……貴様……」
普通ではない……その場の誰もがオールバックの男の放つ圧倒的なプレッシャーに圧倒されていた。
 ??「私はゴッドハンドの一角に名を列ねる者、高屋良樹……覚えておくといい」ゴッドハンド。
その単語を耳にした瞬間、カムイの表情が険しくなる。
カムイ「ゴッドハンド……だと!?」
 高屋「そういきり立つな……今夜は君達と戦いに来たのではない……そこの…」
ジャバウォックを指差し。
 高屋「私の最高傑作を……引き取りにきたのだ」
そう言うと、魔獣が怒り心頭で攻撃を仕掛けてきた。
ジャバ『戯言を……!!』
 高屋「……ところで君達、この地上で最も多くの生命を奪った武器はなんだと思う?」
唐突な質問。
高屋が唇を吊り上げて、微笑んだ瞬間。

 ビシッ……  タ――――――――・・・ン・・・・

まず最初に魔獣の肩のあたりに銃弾が撃ちこまれ、銃声が遅れて聴こえた。
229到来(アドヴェント):04/07/23 00:56 ID:qAjTSOG1
銃声が遅れて聴こえる。それはすなわち、1キロ以上もの遠距離から狙撃が行われたということだ。
 高屋「それはね……」
次の瞬間、あり得ないことが起きた。
今しも高屋を引き裂こうとしていたジャバウォックの全身が、突如として崩れ始めたのだ!!
 全員「!!!!」
カムイ達が驚愕するなかで、高屋はもったいつけるように答えた。

 高屋「 “ 毒 ” だよ !!」

  キイイイイイイイイイイ!!

とてつもない痛みがジャバウォックの体や精神をかけめぐっていた。
岩のようだった全身が、まるで乾いた粘土のように粉になって崩れ落ちていくのだ。
ジャバ『い…痛い!!我が引き裂かれる…我が…消えていく…』
ジャバウォックが凄まじい呻きを轟かせた。
カムイ「ど、どうなっているんだ……」
 高屋「……説明しよう……」
そう前置きしてから、高屋が切り出した。
 高屋「今、狙撃手がジャバウォックに撃ち込んだのはただの弾丸ではない。
    ナノマシンで作られた弾丸、『VENOM(猛毒)』だ」
留美子「ヴェノム!?」
 高屋「そう…ジャバウォックがどれほどの戦闘力を持っていようと、その中身はあくまでもAI…0と1の羅列にすぎんのだ。
    ヴェノムは他のナノマシンに接触すると、みるみる増殖し始め、ごく小さなプログラムを発信する。
    そしてARMSを統括するコアチップに侵入し、人口知能プログラムを徹底的に破壊する……」
その間にも崩壊は続き、遂にはジャバウォックが粉々の砂になって崩れ落ちた。
 高屋「それがヴェノム……私が生み出したコンピュータウイルスだよ」
230作者の都合により名無しです:04/07/23 01:03 ID:RQERTvZy
嫌なパパキタァァ━━━━━━(´Д`)━━━━━━!!!
某スナイパーが仕事してる━━━━━━(´Д`)━━━━━━!!!
さてどうなる?
231素朴な疑問:04/07/23 13:55 ID:j6VTVvKw
>>220 20部249)

乱流渦巻く地上へ向けて、上空から雲の中へと突入した荒木たち。
しかし雲の内部は、天候が変わって間もない先程よりも数段荒れ狂っていた。
雷が意志を持つかのように彼らへ襲いかかり、四方八方から迫る雨水は、
鋼鉄の麒麟エックスの乗員たちを容赦なく呼吸困難へ陥れる。
 (やれやれだぜ・・・)
荒木は一旦降下を断念し、再度三日月が照らす雲海の上へと飛び出した。
気を失う寸前だった藤崎は、なんとか気を取り直して荒木の背にしがみついた。
 「時が経つごとに天候が凶悪化しているな。藤崎、
 上からはもう無理だろう。移動して雲の薄い場所を捜した方がいい」

多量に水を含んだ衣服が、成層圏に近い世界に降り立つ人間たちを凍らせる。
荒木はスタンド“魔術師の赤”を傍らに出して暖を取りながら、
酸素不足に注意しつつエックスを南へと疾らせる。
別府より南には広大な九州の大地があり、雲の切れ目の目印となるからだ。
しかし―――
行けども行けども切れ目どころか、雲は分厚くなるばかり。
下界では大洪水その他で王蟲進軍とダブルパンチ、被害状況を考えるのも恐ろしい。
 「のう、荒木先生」
藤崎が例の三日月を見つめながら、静かな声で。
 「なんだね。手短に願おうか」
相変わらず微妙にそっけない口調の男。
誰よりも熱く奮え立つ魂とはうらはらの、冷静沈着な奇術師の顔。

 「・・・なぜわしら“クリエイター”は、この世界この時代に於いて、
 強大な力を持ち、いつ果てるとも知らぬ争いに身を投じておるのじゃろうな」
 「考えた事もないな。
 創作活動にはどんな形であれ力が必要なのだ。
 そして力を持つ者のみがクリエイターになる。力有る者同士が出会えば、
 そこから運命が生まれ――争いを含めた様々なものに変質する。
 ただそれだけの事だ。問題はあまりに強力すぎて第三者を巻き込む事だな」
232素朴な疑問:04/07/23 13:56 ID:j6VTVvKw
 「それじゃ!! なぜ関係ない一般市民を巻き込むほどの力を、
 我々漫画家やその他のクリエイターどもが持たねばならんのじゃ?
 彼らは我々にとって絶対必要な存在、それをも傷つける力に何の意味があろうか!
 自分の首を絞めるに等しい馬鹿げた行為・・・そこに何があるというのか」

言葉に熱のこもる藤崎が、忌々しげにかぶりを振った。
そんな彼に意外なところから声がかかる。
 『藤崎とやら。その辺り、あまり深く考えない方がいい』
 「え、エックス!?なんじゃそれは、どういう意味なのだ!!」
 『あの破滅の日、《世界の真実》に近すぎた者の、末路を垣間見たからだ』
 「・・・・・・!! そ、そんなやばい危険思想なのか、これ??」

10年前――エックスが瓦礫の下に埋もれ半永久の眠りについたあの日。
一部の真相を知る者が《キユドライブ》と名づけた破滅の時。
多くの者に悲劇を押しつけた、運命の一日にいったい何があったのだろうか?
エックスは以降、その一件に関して藤崎がどれだけ追求しても口を利かなかった。
 「・・・クッ、中途半端に恐怖を煽りよって。
 まあよいわ。いつか自力で世界の謎を暴いてみせようぞ。
 ・・・とするとやはり、あの妙ちきりんな三日月も、
 どこぞのクリエイターの企みなんじゃろうかのう・・・」
むすっとした藤崎が思い出したように天空の弓を見上げる。
言葉につられてなんとなく月を見た荒木が小さく呟いた。
 「・・・『N』・・・?」

  幾百もの操り糸の、先につく指貫を誇らしげに天にかざす、
  凄然な笑顔を貼り付けた男の幻を、荒木は夜空に見た気がした。


数刻戻るわけにもいかず、南へと進路を取る荒木たちの瞳に、
“天空の王国”矢吹艦の灯火が映り徐々に大きくなってゆく。別名・1000万ドルの夜景。
 (おかしい、いつの間に俺たちは戻ってきた?)
あまりの巨船ゆえか、矢吹艦自身が別府に接近している事に荒木は気づかなかった。
233作者の都合により名無しです:04/07/23 14:01 ID:j6VTVvKw
しまった・・・
>数刻後、元の場所に戻る〜
234作者の都合により名無しです:04/07/23 14:20 ID:p5Apb1Kt
矢吹艦天候にも負けずにちゃんと来てるのね、よかったよかった
235不幸な結末:04/07/23 17:00 ID:HtBrbdVM
>229
高屋「ふっ…他愛のないものだな…」
ジャバウオックが完全に消え去り、その跡地に死体のように倒れる皆川亮ニの姿が現われたのを確認し、高屋良樹はゆっくりと地上に降り立った。
カムイ達その場にいる全員は、まるで凍り付いたかの如くその場に立ち尽くしていた。
動かない、のではない。
動けないのだ。
彼ら全員が、見えるわけもないのに、はっきりと感じていた。
自分達の心臓に銃口を突きつけられる感触。
後一歩でも高屋に向けて足を踏み出せば、弾丸が己の心臓を食い千切る、と。
高屋「流石The13th。はは、小学館とエニックスの二大巨頭が揃って冷や汗を流す姿というのは中々壮観なものだな…」
留美子「The13th…?―――ッッまさかッ!」
反射的に、留美子は先程弾丸が飛んできた方向を見て、そして直ぐに首を振った。
留美子「(The13th…あの男が狙撃後にいつまでも同じポイントに止まっているはずがない…)」
そんな留美子の様子を面白そうに眺めながら、高屋は皆川の体の側で足を止めた。
と、同時―
??「作戦成功って感じでゲスね」
と揉み手を擦り合わせながら、後に音も無く一人の男が現われた。
山田「あ、あなたはっ…山本賢治!」
山田、それに留美子が表情を強張らせ、戦闘姿勢を取る。
が、山本は二人などいないかのように、眼前の高屋良樹に忠犬のような媚に満ちた追従の笑みを見せる。
高屋「うむ。貴様の御蔭で今のジャバウオックの戦闘力を確認することができた。礼を言う」
山犬「へへ…とんでもないでゲスよ…で、皆川は前の…なんていっいましたっけ?」
高屋「夏目、か?」
なんともあからさまな媚びに満ちた態度に苦笑しながら高屋が言う。
すると、ぽんっと手を打ち山犬は激しく傾倒した。
236不幸な結末:04/07/23 17:01 ID:HtBrbdVM
すると、ぽんっと手を打ち山犬は激しく傾倒した。
山犬「そうそう…その夏目と同じように?」
高屋「うむ、頼んだぞ」
山犬「へへ…ご安心を、あっしの記憶操作の腕はたしかでゲス」
と言ってぴっと右手の指先にカードを挟む。
そして、身軽い動作で皆川の体を抱え込んだ。
それから後を向いてニ、三歩進んでから、何を思ったのか歩みを止めて、後を振りかえった。
山賢「ところで、高屋様…例の物は…?」
そういって高屋を見る山賢の瞳には、先程までの媚びは一縷も残ってはいなかった。
高屋「ふふ、わかっている。既に解析し終えたあれは私にとって要の無いものだ」
山賢の変化を目で受け流しながら、高屋はポケットから何かを取り出し、山賢に投げ渡した。
受け止めた山賢の左手に握られたそれは、掌程度の大きさの宝石であった。
克「あれは…聖石!?」
例の如くいつのまにか来ていた克・亜樹が解説する。
そう、長谷川の手により回収された主を持たない聖石は、そのまま十傑集、軍師を経由し、高屋良樹の手に渡っていたのだ。
パアアアアッ
山賢の手に収まった瞬間、聖石は、一際禍禍しく光り輝いた。
そう禍禍しく、黒い光りを―
237不幸な結末:04/07/23 17:04 ID:HtBrbdVM
克「聖石が、山本賢治を主と認めた…」
山賢はそれを見て嬉しそうに歪んだ笑みを顔に浮かべ、聖石を懐にしまった。
山賢「確かに…では高屋様。本拠にて生まれ変わった皆川亮ニをお楽しみに…」
そういって山本は、まるで今までの存在が嘘だったように、静かに音も無く消えた。
高屋「何が高屋"様"だ、狸め…」
苦笑混じりに高屋が山賢のいた場所を眺め呟いた。
その時、別府の地を風のように動く影が、高屋の足下に傅いた。
高屋「血風連か、何のようだ?」
血風連「はっ! 九州北部の王蟲は永井様、石川様の力により90%殲滅。高屋様は南部全土の腐海化を抑えるようにとの横山様より指令です」
その指令を聞き、高屋は重々しく頷いた。
高屋「The13thは?」
血風連「高屋様退去確認と同時に我々と共に退去せよ、と」
高屋「行き届いたものだな。了解した」
血風連「はっ!では失礼します」
血風連は再び深く一礼した後、慌しく別の地へと飛ぶように駆けて行った。
その後姿を見届けた視線を留美子達に戻す。
高屋「さて、そういうわけで、私も急がしのでね、そろそろお暇させてもらおう…」
留美子「皆川くんを、いったいどうするつもり…?」
ようやく、といった感じで言った留美子を高屋良樹は面白そうに眺めた。
高屋「心配なら止めればよかったのではないかな?」
逆にそう問われた留美子は言葉を詰まらした。
高屋「ふっ…憐れだな。力が無い者というのは」
その嘲るような言葉を聞いた何人かが動こうとしたとほぼ同時。
高屋の後の空間が、壊れ、何かが飛び出してきた。
238不幸な結末:04/07/23 17:04 ID:HtBrbdVM
全員「!?」
現われたその奇妙な物体は、一瞬で高屋良樹の体に貼りつき、全身を覆った。
その生物的な鎧が持つ威容は、踏み出した何人かを後ずさりさせるのに十分であった。
高屋「では諸君…また会おう。三日後に、な」
そう言って高屋は上空高く飛び、南の空へと消え去った。
後に残されたものは皆、何か大切なものを奪われたかのような、虚脱した表情を顔に浮かべていた。
藤原カムイは、一人宙を睨み、両手を爪が食い込むほど強く握り、言った。
カムイ「無力、か…」
その言葉は誰の耳にも聞こえなかった。
その場に吹いた一際強い風が、藤原カムイの言葉を打ち消した。
嵐は去り、別府最大級の脅威も消えた。
しかし、彼らの誰も、そのことを喜ぶことはできなかった。
ただ寥々たる風が、彼らの心の中に吹き荒れていた――
239作者の都合により名無しです:04/07/23 17:31 ID:rnEDmtT4
おお、いよいよ上位クラスとメイン連中の間に因縁が…
しかし山犬(苦笑)
240作者の都合により名無しです:04/07/23 22:32 ID:LI+nQ3/8
ミナガーもとうとう完全黒化か……
そしてロックの魂にすら認められた山賢はどこまで行くのか……
241作者の都合により名無しです:04/07/23 22:35 ID:RQERTvZy
いよいよ温泉編も終わりが近いね・・・しみじみ
242ケンタロー×ブレード U:04/07/24 09:51 ID:pA1yB61N
>214

   ギ ョ ォ オ ン !!!!

ありったけの憎悪を乗せた斬魔刀の打ち下ろし。
矢吹が、頭上に架けた漆黒のアーチで軽々と受け止める。
細身の刀身は揺らぐ事も無く。そのまま矢吹が先端を垂らすと、研ぐような音を残して質量が移ろう。
(グッ……!)
加速する意識の中で、矢吹が更に無造作に動いた。表情の無いまま突き出された神速が、肩口を掠る。
身を斜めに逸らした辛い体勢のまま、それでも大刀を返す。
袈裟懸ける筈だったその直線は、虚しく荷山の角を削るのみ。
(また!どこに消えやがったッ……!)
小麦かなにかが、箱内に積まれていた麻袋から滝と流れ

「 飛 天 御 剣 流 ―――」

殺意が、尖角となって三浦の頭頂に突き刺さる。
(上かっ!!)
首を返し、目の端で落ちくる矢吹の影を捉える。
コンマ数秒で追いすがる実の『刃』は、到底避けられるタイミングでは―――

「 龍 槌 閃 ――― 惨 !!!!!」

 ガ ギ ィ ッ !!!!!!

骨の軋る音。
鋼鉄を噛んだカルシウムの音が、室内に響き渡った。
渡る静寂の中、貫かれた三浦の『頭』から、ぽつぽつと血の玉が落ちる。
「―――ほほっ」
剣に全体重を預けて、三浦の上の矢吹が楽しげに頬を震わす。
その目は、避けられぬと見るや一瞬の判断で体を捻り、『歯』で必殺の一撃を受けた三浦のそれと合っていた。
「ふかまえたえ(捕まえたぜ)」
243ケンタロー×ブレード U:04/07/24 09:52 ID:pA1yB61N
頬に穴を開け、不自然なブリッジのまま三浦が言う。
漂うかすかな火薬臭。
鼻をひくつかせる間もなく。矢吹を取り囲むように、ひとつ、ふたつ、みっつ。小さなコンペイトウのような鉄粒が飛んだ。

――― バ チ ュ ン ッ !!!!
                         バ ギ ュ ン ッ !!!!
          バ チ ュ ン ッッ !!!!

素早く大剣を楯にした三浦。
銃弾の爆ぜるような、硬い音が連続して鳴った。
無理矢理首の力だけで放り上げた『剣』と『矢吹』のせいで、寝違えたように筋が痛い。
おして顔を覗かせると、そこには―――
「チッ」
当然のように誰も、居ない。
こんな物で仕留められるとは思っていなかったが。床に血の一滴の跡もないことから、かすりもしなかったことが分かった。
神経を張り、警戒しながらゆっくりと起き上が

   ヒ ュ ッ

風切り音。
前かがみの姿勢のまま、三浦の横目が映したその軌跡の行く先は頚動―――

―――死線が、交差する。

「―――無茶なまねを」
止まった世界を動かしたのは、矢吹の、賞賛混じりの声。
一瞬で背後に回り、三浦の首筋めがけ払われた『クライスト』は、節くれだった手により、見事に挟み止められていた。
「―――ちょいと反射神経と腕力がありゃ、あながち無茶じゃねえ。―――てか、手前に出来た真似が、俺に出来んワケがあるか?」
ガチン、と義手の手首が外れる。
244ケンタロー×ブレード U:04/07/24 09:54 ID:pA1yB61N
「―――成る程。そういえば隻眼の武者は、広い視野を失う代わりに独特の間合いを得るというが―――」
至近距離。呑気に、空いた片手で顎を撫でる矢吹。に

シュッ ―――― ド ッ !!!! ゴ オ ォ ォ ォ ォ ォ ン !!!!!

今度は剣を押さえたまま紐引き、仕込み砲を撃ち込む。

―――― ド ゴ ォ ン !!! ド ゴ ド ゴ ッ !!! ド ッ ゴ ォ ――― ン !!!!!!

油でも入っていたのか『その先』にあったドラム缶が爆裂、四散する。延びる火の舌が瞬く間に怪異めいた影を踊らせた。
しかし矢吹は、またも影も形も無い。が―――
「……返してくれんかね?」
斜め上からの声を仰ぎ見れば。燃料ごと飛び散った炎を背に、荷山の上で矢吹がこちらに手を差し出していた。
三浦に『クライスト』を握られたまま退った為、くだんの剣は今、三浦の手にあるのだ。

…………ギリッ

強く歯噛みしながらも、三浦は剣を投げ渡す。
「ありがとう」
実に、白々しいやりとりだ。
別に、親切でやったわけでも無い。正味の話。こうした方が有利だからそうしたまで。
何を考えているのかこの男、『剣士たる礼儀』がどうのと、先程言ったその通り
かの『絶対知欠空間』はおろか、百を超えるであろう特殊技の一つとして使おうとしていない。
『相性』というものに屈服するのは内心忸怩たるものがあるが、これは間違いなく『機』だった。
(下手に『剣』を奪えば、どんな能力で来るか……)
再び上と下で対峙しながら、腰だめに構え、切っ先を下げる。
ちなみにこの場合、ムカつきこそあれ、『正々堂々全力を尽くせ』などという思考は、三浦には存在しない。
『傭兵』としては当然。
なにより『復讐者』『斬魔者』としての殺意は、それを圧倒し塗り潰すだけの、闇を秘めている。
あるいは『馬鹿め』と厭きれるのみだ。
(しかし……)
忙しない攻防から一転。
245ケンタロー×ブレード U:04/07/24 09:55 ID:pA1yB61N
ミリ単位を凌ぎ合う剣気で、互いの剣結界を歪ませながら、三浦は思う。
(あの動き……どういうシロモンだ、一体……?)
異様なまでの脚力。おそらく初速から最高速に移行することが出来、傍からはまるで消えたようにしか見えないのだろうが……。
(今のところ、なんとか目の端で捉らえちゃいるが……)
「……『縮地』という」
フェンシングにも似た片手構えのまま、唐突に矢吹が言った。
「あまりの速さに、傍からは瞬間移動しているとしか思えない足運び。―――まるで、地脈を縮めたかのようだったろう?」
矢吹が突如警戒を解き、黒刀を肩に載せる。
とんとん、と足の具合を確かめるように小刻みに飛び。いきなりの隙だらけに、かえって警戒を強める三浦に笑いかける。
「しかし正確に言うとアレは『縮地』ではなく―――その、二歩ほど手前だ」
ごう、と火の赤が、天井を舐めた。
「素直に剣を返してくれた礼と言ってはなんだが―――」
三浦の警戒レベルが、最高値のメーターを振り切る。
「『縮地』一歩手前―――ゆくぞ」
「!?」

   ド ヴ ァ ッ !!!!  ガ ォ ン ッ !!!!!

 ドッ !!! ドッ !!! ドッ !!! ガッ !!!!!!

 ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド
  ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド
 ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド !!!!!

突如矢吹の姿が消失し
そこかしこで起こる、『足音』と呼ぶにはあまりに激しい騒音。
何も無い筈の床が蹴られ、壁が軋み、梁が歪む。
眼前で始まった、ポルターガイストとしか思えぬ現象に対し―――
(こいつは)
戦慄と共に、三浦の理解が及ぶ。

( 『 速 い 』………!! な ん て も ん じ ゃ ね え ………!! 『 見 え ね え 』 !!! )
246作者の都合により名無しです:04/07/24 10:40 ID:Y01AhOgP
【現時点での聖石所有者とネーミング表】

荒木:赤石のレッドエイジア
安西:黄道のバランスオブゴールド
和月:??
山賢:??
大久保:??
藤田:柔らかい聖石


矢吹の現在のマイブームは和月か…
247作者の都合により名無しです:04/07/24 12:57 ID:ZJZV9wKM
いや、昔から和月技を好んで使ってた傾向はある。

焼肉コンビ終盤に来てハッスルしてんなぁ
248闇の楯:04/07/24 15:13 ID:ykWvEQ/4
>98 >140 >238

「一足、遅かったか……」
自分達の無力さに打ちひしがれ、悄然と項垂れるカムイや留美子達を遠目から見つめる男が一人。
黒髪に、黒いコート、そして右腕の黒い義手。
ずざり。
背後に足音を聞き、男は振り返る。そこには、満身創痍の男が立っていた。
長く伸びた白髪は、黒い男とは対照的だ。
「老師」
白髪の男が、黒い男に言った。
「まだ、俺を“老師”と呼んでくれるのか、村枝」
黒い男――藤原芳秀が言うと、白髪の男――村枝が真直ぐな視線を向けてくる。
交錯する、視線。
やがて――ゆっくりと村枝が、藤原の隣に並んだ。
「風の噂で聞いていた。あんたが俺達を裏切ったと――」
「………」
藤原はただ押し黙っている。数拍の間を置いて、村枝は言葉を選ぶように続ける。
「だが――どうやら違った。あんたは昔も今も、変わっていない」
「いや、俺は変わった……」
自分に快活な笑みを向ける村枝の言葉を否定し、藤原は自嘲気味に言う。
「一時、俺は己の裡にある、“戦闘家の本能”にとりつかれた。
 そして、獣の本能のままに戦い、仲間を殺しかけたのは事実――」
「だけど、あんたは誰も仲間を殺していない。そして、自力で己を取り戻した」
「いや――」
藤原は目を瞑り、述懐する。瞼裏に映るのは、誰の姿か。
「俺が自分を取り戻せたのは、俺だけの力じゃない。“護るべき者”――その存在が俺を“業”から解き放った」
249闇の楯:04/07/24 15:14 ID:ykWvEQ/4
「護るべき者……」
村枝が、遠距離にいるカムイ達の方向に視線をやる。
一方、藤原は踵を返し、その光景に背を向ける。
「これからどうするんだ」
村枝が振り返らずに尋ねた。
「今更、のこのこと奴等の前に姿を現す訳にはいくまい」
「一人で、影から仲間を支えるつもりか」
「その方が俺の性分に合っている。すでに俺は“死人”――闇に沈み、一人で動くのが似合いだろう」
去り行く直前、藤原は言う。
「お前は奴等と共に歩め。今の奴等にはお前のような存在こそ必要だ」
「しかし――」
「あの小僧――安西のことなら心配するな。奴はすでに一人前の男に成長している。
 今、お前と会っても、決してお前の力に頼り切ってしまうようなことはあるまい」
そして、藤原はコートを翻し、闇の中へと消えて行った。
「灰は灰に…、塵は塵に…」
祈りのように呟きながら――
250屈してはならぬ言葉:04/07/24 15:16 ID:ykWvEQ/4
悄然と項垂れ、立ち尽くすカムイ達。
そんな彼らの耳に、ふと不思議なメロディが聴こえてきた。
「口笛?」
全員が音源を振り返ると、そこに血まみれの村枝が立っていた。
「ヨオ、みんな。どうしたい」
顔面を朱に染めながら、村枝は頼もしい笑みを浮かべている。
「む……村枝ああ!!」
「無事だったんだな!!」
和月の介入がある直前まで、行動を共にしていたメンバーが口々に叫ぶ。
一方、旧知の留美子や椎名はそれどころではない。一様に、幽霊でも見たような驚愕の表情を張りつかせている。
なにしろ、留美子は安西から彼の死を聞かされていたし、椎名に至っては例の爆発シーンをビデオで目撃しているのだ。
「ひ…ひえええ!! 悪霊退散!! 悪霊退散!!」
泣き笑いの表情で和洋様々な退魔道具を手に、椎名が突進してくる。
そんな椎名をキセルで遥か天空まで投げ飛ばした後、留美子がおそるおそる尋ねる。
「本当に……村枝君なの……?」
「ああ、他にこんな色男はいないだろ」
ニカッ、と村枝特有の笑顔を見せられ、留美子は確信し、表情を綻ばせる。
「……し…しかし……あの爆発からどーやって!?」
留美子達の足元で、地面に突き刺さった椎名が尋ねる。それに対する、村枝の返答は。
「へっ、そんなこと、俺が知るか」
答えになっていなかった。
まあ、村枝自身も知らないのだから無理もない。
「それよりも、今はやらなきゃいけないことがあるだろう」
再会の喜びもつかの間、カムイ達は現実に引き戻される。
皆川が浚われるのを前にして、何もできなかったという現実に。
251屈してはならぬ言葉:04/07/24 15:17 ID:ykWvEQ/4
ここで湾岸方面へ視線を飛ばしてみれば。

 ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド !!!

絶望の朱き大軍が、津波のごとく押し寄せ。

 ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ッ !!!!!

今しも別府をのみこもうと、視認できるほどの距離まで迫っていた。
さらに空を見渡せば、もはや天空を遍く覆い隠すほどの、雲海のごとき翅蟲の集団。
己らの無力さと相まって、それはまさに絶望を具現化した存在に見えた。
誰もが、己の矮小さを実感する。
「クソォォ、どうすりゃいいんだよ!!」
「ゴッドハンド…妖魔王…そして大海嘯……奴らの目的はいったい……」
途方に暮れるカムイ達の耳を、村枝がぽつりと呟いた一言が打った。

「 世  界  征  服 」

もちろん、村枝は比喩としてこの言葉を用いたのだろう。しかし、その一言は何よりも端的に現在の状況を表していた。
その一言が持つインパクトに、皆がカッと目を見開いて、村枝を見た。
「俺が……お前達が……自分達の漫画を通して幾度も闘ってきた言葉だ」
全員の胸に染み込むように、その言葉は通った。
「人ならば決して屈してはならない言葉だ」
堂々とそう言う村枝に、カムイは反発するように怒鳴った。
「だがな、村枝さんよ!! けたがちがうぜ!! 奴等はたった数時間あまりで別府中を壊滅させちまったんだぞ!!」
252屈してはならぬ言葉:04/07/24 15:19 ID:ykWvEQ/4
絶望と焦躁からくる叫びは、全員の胸中を代弁していた。
だが、それを聞いた上で。また、全ての状況を知った上で。なおも村枝は毅然として言う。
「確かに人間には爪も牙もない。これだけの戦力差を見せつけられた今、弱者になるしかないのかもしれない」
そのとき、村枝が海岸に体を向けながら、変身の動きをとる。
「!!」
「だな中には……その体に爪を、牙を、与えられた者もいる……」
刹那、
村枝の全身が朱く発光し、神の戦士――ZX(ゼクロス)が誕生した。

「 俺 た ち の よ う に 」

村枝の新たな姿は、カムイ達に驚愕を与えた。
「!! あ……あ」
「ヒ……ヒデエ」
村枝の身体は、他の誰よりも傷つき、崩壊していた。
しかし、その風貌に、わずかも死の影はおろか、脆弱さすら感じないのは何故か?
おそらく、今の村枝と闘っても、この場に勝てる者はいない――理屈なしに全員がそう感じた。
今の村枝は、仮面ライダーの姿よりも強い、何かを纏っていた。
朱き仮面ライダー、村枝が王蟲の大軍に向かって、雄々しく歩みを進める。
そして、その背後に続く者の存在を、村枝は感じた。
「まてよ、村枝っての……」
振り返り、村枝は笑みを浮かべる。
「さっきの話、ガラにもなく弱気になってしまった……忘れてくれ」
カムイが、留美子が、全員が追従する。
「さあ、行こうや」
もう下を向いている者はいない。
彼らの心には、勇気の旋風が吹いていた。

253作者の都合により名無しです:04/07/24 15:38 ID:Y01AhOgP
別れと出会いの温泉編
とても好きです。
ただの闘いを超えるだろう真・老師vs川原が蝶楽しみ
254作者の都合により名無しです:04/07/24 17:08 ID:kVv3Zm87
第2の広末にはなるまい…大学生タレントの通信簿
http://ex5.2ch.net/test/read.cgi/campus/1090656145/(大学生活板)
http://tmp4.2ch.net/test/read.cgi/joke/1090655125/(学歴板)
255作者の都合により名無しです:04/07/24 18:12 ID:uoKfPQxO
人の縁って本当にいいものだよなぁ。
なあ安西よ
256終わりと始まり:04/07/25 01:00 ID:kPUGtNLy
20部47より

別府全景を見下ろせる遥か高み。
別府タワーの展望台にて、彼らは滅びの光景をただ眺めていた。
どのくらい時間が流れたのだろうか?
えなり姉は、心の片隅でそんなことを思った。
たった数秒しか経ってはいないようにも思えるし、もう数時間もここにいるようにも思える。
眼前では、黒い闇が人の輪郭を形作り、別府の光景を穏やかな顔でただ眺めていた。

調停者、と彼は言った。
えなり姉は、その男が別府―いや、九州全土に王蟲の群れを解き放った張本人だとわかっていた。
しかし、諸悪の根源とも言えるその男を前にしてえなり姉の心は、不思議と安らぎを感じていた。
背中に規則正しい鼓動を感じる。
久保帯人は、いつのまにか眠りについていた。
えなり姉も、眠ってしまいそうな誘惑に幾度もかられていた。
それを打ち払うのは、今現在の別府の状況と、
そして心のどこかにある、何かがおかしいという疑心である。
ふと、強烈な光りが眼を焼いた。

その光りは、ここから遥か離れた北の地から発せられたものであった。
そちらの方に眼を向ける。
二つの小さな物体(もっとも距離を考えると実際はとてつもなく大きなものであろうが)が、
嵐の中を縦横無尽に飛び回っていた。
光りは、その黒点の両方から発せられたものであった。
そして、驚くべき事に、別府を越えて遥か遠くまで見渡す限りに続く赤い光り―つまりは王蟲の群れだが―が、
その二つの物体が光りを放つたび、跡形も無く消え去っていくのだ。
257終わりと始まり:04/07/25 01:01 ID:kPUGtNLy
「マジンガーにゲッター…神の下僕達が遅まきながらご出陣というわけか」
さらに、と別府周辺を守護するかの如く獅子奮迅の働きを見せる四人に視線を向ける。
「破格の男、物理法則の超越者、寄生虫、そして、全てを外側から操る者、か…
これだけ異色の面々が漫画家達を救うために動いている。
なるほど、まだまだこの世界は健全のようだ。君もそう思わないか?」
こちらに向けられたと思ったその言葉はしかし、違った。
調停者の瞳は、えなり姉を通過してその後方に向けられていた。
えなり姉は後ろを向いた。
彼女が見た後方の空には、紅く染め上げられた大きな人の形を模した兵器が浮かんでいた。
その時、キラリと、彼女の眼前を複数の何かが通りすぎた。
そして、それは瞬く間に散じて、調停者を取り囲んだ。

――ファンネル。
とえなり姉は密やかに呟いた。
それに応ずる様に調停者は自らに向けられた小型のサイコミュ誘導型ビーム砲の砲身を見てため息を付いた。
「やれやれ、久々の再開だと言うのに、随分な挨拶ではないかね?冨野くん?」
その言葉に、上手く動かぬ心のどこかで目の前の機体が、MSと呼ばれる物であることを確信した。
冨野由悠季。
今は亡きサンライズの大御所であり、今やその力の大部分を失った男である。
258終わりと始まり:04/07/25 01:03 ID:kPUGtNLy
しばしの不動の対峙の後、コクピットから冨野の声が聞こえて来た。
「企みが破れてなおその傲慢なまでの余裕、貴様はまるで変わっていないな」
「ふむ、これは中々手厳しい――ところで企みとは何のことかね?」
「とぼけるなっ!」
その野獣のような罵声に、えなり姉はファンネルが火を吹くのでは無いかと冷や汗をかいた。
あのファンネル全てが攻撃を始めれば、当然タワーは壊れ、自分や久保も無事ではすまないからだ。
「あの時と同じだ…前大戦時、貴様は神と妖魔王が相打った後、疲弊しつつも泥沼のように闘い続ける神の下僕と妖の軍勢をあの忌々しい巨人を使い、焼き払った。そこに生きていた全ての生命ごとだ!」
闇が、冨野の激昂に反応し、蠢いた。
「泥沼と化し、闘う意義を失いながらも、
己の正しさを主張しながら闘い続ける彼らの憎しみの連鎖を止めるにはあれしか方法が無かった。
あの火の七日間に失われた幾千、幾万の生命と自然、そして私の可愛い子供達が犠牲とならなければより多くの血が流れていただろうさ」
「それはエゴだ!」
「かもしれぬ、な。まあそれはいい。君の聞きたいのはそのようなことではないであろう?」
至極尤もな問いに、冨野は怒りの矛先を収めるしかなかった。
と、その時、えなり姉が横から口を挟んだ。

「何故、あなたはこのようなことをするのですか?」
調停者は、少しだけ眼を見張った。
調停者、と呼ばれるこの男には瞬時に人の心を探り、自分の在り方ですら自在に変えてしまう恐るべき力がある。
その力により彼は対峙する人間のもっとも安心感を持てる者の雰囲気を纏い、悲しみと敵意を忘れさせて下僕と化させてしまうのだが――
彼の見るえなり姉は、か細くながらも彼の力に抗っているのだ。
「人、人の心の力か。強い子だな君は…」
闇の中心で、瞳が慈愛に満ちた瞳を彼女に向けた。

「王蟲達が猛り狂う理由は一つ。長き眠りから目覚めた世界で今尚果て無き争い
を続けこの世界を我が物顔で蹂躙する漫画家達への怒りだよ」
尤も、と調停者は付け加えた。
「それらは少なからず私の思考の影響を受けてしまったものでもあるが…それは私の創造物である以上仕方無きことだがね、私が全てを予期してこの騒動を引き起こしたわけではないよ」
259終わりと始まり:04/07/25 01:04 ID:kPUGtNLy
「これだけの惨劇を引き起こしておいて自分に責は無いというか?」
冨野が言った。
「責?不思議なことを言うね。王蟲達は死して腐海を形成し、世界を浄化する礎となる。
むしろ近い未来起こる大乱を考えれば、この地は安息を得たといえるのではないか?」
「――っ! その安息の為に何人が犠牲となったと…」
「悲しいが、何事にも犠牲はつきものだよ」
その時、えなり姉は漠然と悟った。
この人は、破壊と慈悲の混沌だ、と。
冨野が何事かを叫んだ。
それはえなり姉には聞き取れなかったが、きっと彼の失われた名なのだろうと思った。
そして、幾多の閃光が、調停者に向けて発射された。

それは、瞬く間の出来事だった。
ファンネルは、一つ一つが人の指先で操作されてるように繊細に動き、
タワーやえなり姉にビームが当たらぬように砲身を修正し、一斉に閃光を放った。
全ての閃光が正確に調停者の体を貫き、闇にいくつもの大穴が空いた。
が、しかし―数秒後、あっさりとそれらの穴は闇に覆われ、闇は再び調停者の形へと復元された。
「無駄だよ、ここにあるのは私の思念のみだ――その程度のことすらわからないとは、本当に力を失ってしまったのだね君は」
完全に復元していない顔面が、哀れみのような奇怪な表情を形作った。
260終わりと始まり:04/07/25 01:07 ID:kPUGtNLy
そして、すううっと闇はサザビーに向かって伸び上がった。
闇は装甲を呆気なく突き抜け、コクピットの内部に侵入した。
冨野の目の前に、調停者の顔が現われた。
その異様な光景に思わず富野は息を飲んだ。

「此度の戦は、嘗てのそれより遥かに大きくなると予想され、私の力も衰えた。
争いの根を断ち切るには君の力が必要だ…君のよく知るあの男のように、君もまた私の配下となるがいい…」
ゆっくりと、調停者の闇が冨野の体を覆い尽くそうとしたその時――
突然、調停者の全身を激しく痙攣した。

「ゲェー」
耳を劈くような絶叫が、辺りに響き渡る。
「困りますね。人の組織の客分を勝手に引き抜かれては」
ひっそりとした、だが聞く者が思わず背筋を伸ばしてしまうような威厳を秘めた声であった。
「あわわ」
いつのまにか目を覚ましていた久保が間抜けな声を発した。
突如疾風の如くタワーを駆け上ってきたその男は、そのままの勢いでサザビーに纏わりつく闇に触れた。
すると何たる事か、先程ファンネルのレーザーに貫かれても無傷であった調停者があらぬ悲鳴を挙げ始めたのだ。
男の動きには一切無駄が無く、故に容赦も無かった。
261終わりと始まり:04/07/25 01:10 ID:kPUGtNLy
相手が苦しんでいると見るや、
その崩れた闇を一気に己の片腕―男は隻腕であった―で調停者をサザビーから引っぺがし、空中に投げ捨てた。
調停者は空中で静止し、ようやく原形を作り直し己に手傷を負わした男を見た。
男は、頭にベレー帽を被った老人であった。
「手荒い挨拶だな――軍師っ!」
「私は貴様に対する挨拶など持ち合わせておらぬよ」
サザビーの出っ張りに器用に立つ軍師、横山光輝は鋭い瞳で調停者を見据えた。

「これは厳しい、で、なんのようだ?」
「水を止める時に蛇口を締めるのは当たり前だろう―寝起き早々すまぬが―」
「再び眠ってもらうぜぇ〜宮崎ッ!!!」
横山の言葉を引き継ぐ形で、調停者の体を突如影が覆い尽くした。
「!?」
反射的に振り返った調停者の上空。
愛刀、斬鉄剣に手を掛けたゴッドハンドのTheV――モンキーパンチの姿がそこにあった。

――――――――   シ  ュ  バ  ッ  !!

閃光が、煌いた。
そうとしか言い様が無い、まさに神速の抜き打ちであった。
モンキーパンチは、前方の足場に降り立ち、ゆっくりと斬鉄剣を鞘に収めた。
チンッ…と金属音が辺りに鳴り響き、それと同時に、調停者の闇が真っ二つに両断された。
「モンキーパンチ…とは、な…ふふふ恐れ入ったよ軍師殿。まさか自ら囮を務めるとはな」
静かに、ひっそりと、闇が空中に消えていく。
モンキーパンチの愛刀斬鉄剣。
こんにゃく以外なんでも斬れるという異名は誇張でもなんでもないのだ。
二つに分かたれた調停者の声が、その場にいる全員の頭の中に響き続ける。
262終わりと始まり:04/07/25 01:13 ID:kPUGtNLy
「軍師よ、しかし愚かだとは思わないか?皆が皆自らは誤ちをしないと信じながら業が業を生み悲しみが悲しみを作る輪から脱け出せない。
目覚めてからこの世界を展望して驚いたよ、同じだ。
あの時と、前大戦と何も変わっていない。
はははっまるで役者だけ変えた出来の悪い映画を見ているような気分だよ。
人は変わらない、何も変わらない。
軍師よ、私にすら心を覗かせない軍師よ!貴様も又到達した答えは私と同じなのであろう!」
「黙れ」
一言。
たった一言で、横山光輝は調停者の問いを切り捨てた。

「宮崎よぉ〜お前さんの言う事は確かに、正しい、ことなんだろうさ…
でもよぉ〜外側から眺めてるだけのお前さんに、
この世界で拙いながらも必死で足掻いてるクリエイター達を弾劾する資格なんかねえんだよ」
モンキーパンチが、癖のある声で言った。
「認めたくはないものだろうな、己の、老い故の過ちというものは――」
特に何もしていないのに富野は偉そうであった。
調停者は、しばし横山の静謐な表情を、分かたれた二つの瞳で凝視していた。

「まあいい…私も又今しばらく、我が子と共に繭の中で眠るとしよう。
神の下僕どもよ――次は巨いなる兵の神と共に地獄の業火の中で合間見えようぞ!」
断末魔の叫びのような言葉を放ち、調停者は跡形も無く別府の空に消えた。
「いつでも、やって来るがいい。その度に思い知らせてやろう――人が易々と貴様などの思い通りにならぬことをな」
短く、しかし強い口調で、軍師、横山光輝は調停者の消え去った虚空を睨みつけて言葉を紡いだ。
同時に、九州近海から尽きる事の無いかのように現われ続けた王蟲の群れの出現も止まった。
263終わりと始まり:04/07/25 01:14 ID:kPUGtNLy
無論、今存在する王蟲達だけでも膨大な数であり、別府を押し潰すには十分な数であった。
しかし、少なくとも九州全土における被害は収束も時間の問題であろう。
そして、まるで申し合わせたかのようなタイミングで、別府上空を覆う嵐も嘘の様に消え去っていった。
「高屋さんの方も終わりましたか」
遥か高みから、先程まで魔獣が暴れていた場所を見る。
「お、横山の旦那。報告のようだぜぇ〜」
モンキーパンチの言うように、タワーを外側から黒い影が駆け上ってきた。

勿論、横山配下の血風連である。
「報告を」
「はっ! 高屋様は皆川亮ニの身柄を確保、同時にThe13thも本拠地へと帰還!
そして矢吹殿による例の計画はほぼ順調に進んでいるようです」
「わかりました。ご苦労でしたね」
「矢吹さん?」
ようやく、聞き慣れた言葉が出てきたせいか、ふいにえなり姉は言葉を発した。
まるで、今気がついたかのように横山光輝はえなり姉を見た。
「おや…貴方は――」
言い掛けて横山は言葉を切った。
それから、直ぐに穏やかな老人の顔で、えなり姉に言った。
「既に大半の危機は去りましたが、こんな所にいるのは危険ですよ。空に放り出されるかもしれない。」
264終わりと始まり:04/07/25 01:20 ID:kPUGtNLy
「いったい何が―」
「知る必要もありませんよ、ここで起こったことは忘れなさい。
望みとあらば矢吹艇まで送っても構いませんが」
「いえ、それは――」
目の前の老人の、穏やかながらも有無を言わせぬ口調に詮索を諦めたえなり姉は、横山の進めに首を振った。
「私は、ここで事の顛末を見届けたいと思います」
「――そうですか。では、せめてタワーの中に入っていなさい」
と言って軍師は、何も言わせぬまま静かにその場から消え去った。
「事は終わった。しかしあの男の元に下ったというのは誰のことだ?」
ぶつぶつと呟きながら、サザビーは無駄に疾くその場を飛び去った。

「あわわ」
久保はまだ呆然としていた。
えなり姉は、再び別府に目を向けた。
彼女には、今この場所で起こった出来事がなんであるかさっぱりわからなかった。
ただ、わからないなりに、彼女は納得していた。
目前の風景を見る。
少しずつ、少しずつであるが、別府の騒ぎは沈静化しているように思えた。
これはきっと、別府中の漫画家達の力によるもであろう。
未だこの世界は健全である。
調停者が言った言葉。
それが彼にとって何を意味するかはわからない。
しかし、彼女も又、目の前に広がる光景を見て辿りついたのは、同じ言葉だった。

「ふ〜じこちゃ〜ん」

ドゴッ!

後からルパンダイブしてきたモンキーパンチの顔面に、
良い角度の右ストレートをぶちかましながら、彼女は一際強い風を、心地よく肌に感じていた。
265作者の都合により名無しです:04/07/25 02:01 ID:N8fG0e4M
斬鉄剣かっこいい!!
すげぇよこのルート。マジやべぇ。蝶やべぇ。
266作者の都合により名無しです:04/07/25 02:16 ID:lbcLLVcq
温泉編の主役は彼らとKIYUと防衛軍なのじゃよー
267蝶魔人、誕生:04/07/25 23:05 ID:+A6rjsK1
>165
(クッ…ハッタリだ……外見がちょこっとばかし変わっただけだ……ビビるんじゃねえ!!)
漆黒の夜空に聳えるように浮かぶ、赤銅の巨人――『蝶魔人』和月信宏。
聖石によって異常進化を遂げた怪物の前に、尾田は動揺を隠し切れない。
「ウエああああああ―――――――――――っ!!!」
奇声を発しながら、空中の和月に踊りかかった。
(そうさ、こんなに遠いハズはねえ!!)
飛びかかり、拳を振りかぶる尾田に対し、和月は直立不動のまま微動だにしない。
「ゴムゴムの銃連打(ガトリング)!!!」
そこへ大量の拳が降り注ぐ!!
まさしくマシンガンが銃弾を吐き出すような速度で、拳の嵐が吹き荒れた。
しかし、和月。一歩も動かず、無造作に――まるで蠅でも払うかのように――拳の弾幕を残らず叩き落していく。
「なんて凶暴な拳だ」
鼻歌混じりで、和月が尾田の拳を掴み、後方の建物に投げ飛ばす。

  ド  ガ  ア  ッ !!

「こなくそ!!」
すぐさま崩れた建物から飛び出し、ロケットのように飛びながら蹴りを放つ。

「ゴムゴムの……戦斧!!!」

    ゴ ッ ッ !!  
 
真上に振り上げ、やはり限界まで伸び切った足が、踵から猛スピードで和月の鎖骨に叩きつけられる。
ぐらり、と和月の巨体が傾いだ。
機、
と尾田は見て取った。

「ゴムゴムの……バズーカ!!!」
268蝶魔人、誕生:04/07/25 23:06 ID:+A6rjsK1
限界までゴムの張力を利用した双掌打が、和月の土手ッ腹に叩きこまれる。
体を折った和月の頭が下がった。

「ゴムゴムの……回転弾(ライフル)!!!!」

     ド ギ ュ ン  ッ ッ ッ  !!!!
 
引き絞った上に、雑巾を絞るような『捻り』までも加えた拳が、和月の鼻っ柱に突き刺さった。
一撃、一撃が、並の漫画家だったらそれだけで致命傷となるであろう重爆の連続攻撃。
しかし。
「……で? 出し物はこれで打止めかな?」
ペロォ〜リ、
と自分の顔面に抉り込まれた拳を、和月の長い舌が舐める。
そこにはダメージはおろか、かすかな損傷すらない。
(……お、俺の攻撃をじゃれつかせて……楽しんでやがるだと……)
尾田の全身を、どおっ、と大量の汗が濡らした。
(…に…人間じゃねえ……)
今さらのように、尾田はその事実を認識した。そして、絶対的な差異を。
思考は、鳩尾に突き刺さった痛烈な肘撃によって強制中断された。
「おごあっ!!」
一撃で、胸骨が粉砕された。尾田が白眼を剥き、激しく喀血する。
さらに、裏拳が跳ね上がり、尾田の顔面を砕く。
「うぼあっ!」
顔から鮮血を溢れさせ、尾田が吹っ飛んでいく。
「シュワッチ!!」
そこへ、和月が頭からダイブし、尾田に凄まじい追撃を加える!!

     ド ッ ガ ア ア ア !!!

  「!!!!」
粉砕された地面に深々と突き刺さった。
269蝶魔人、誕生:04/07/25 23:07 ID:+A6rjsK1
「どうかな? 『二重の極み』の三連発は。肉体に多大な負担をかける『二重の極み』も、この強靱な肉体にとっては最早、通常技に過ぎない」
地面に埋もれ、大の字になったまま尾田はピクリとも動かない。
その体から、急速にエネルギーが吸い取られていることに、尾田は気付いていたか。
「そして、俺と闘う者は、対峙しているだけで『エネルギードレイン』により力を失っていく。
 つまり! 俺は闘えば闘うほど、果てしなく強くなっていく、無敵の存在になったんだ!!」
両手を広げ、天空を仰ぐようにしながら、蝶魔人は凱歌を叫び、哄笑する。
「しかし……この力は素晴らしい。聖石ひとつだけでも、五聖人級の強さ……決めたぞ」
ふいに、和月は何かを思い付いたように、ニヤリと笑う。
「残り『5つ』の『聖石』……全てを手に入れ、俺はさらなる高みを目指して翔ぶ!!」
新たなる野望を宣言する和月。そのとき、眼下で、瓦礫の山が動いた。
「なぜ、まだ立ち向かう? お前じゃ、俺には勝てない……その程度の事が理解できないわけじゃないだろ?」
「ああ……確かに。悔しいが、俺じゃあテメェを止められそうにない……だからなおさら退けねえな」
全身を蝕む負傷に、今も吸い取られ続けるエネルギー。今の尾田は、棺桶に片足を突っ込んでいるに等しい状態だった。
「今のテメェを、チームの連中と闘わせるわけにはいかねえ……お前は刺し違えてでも、俺がここで止める!!」
和月に歯が立たぬと悟った尾田は、仲間の捨て石になる決意をしたのだ。
腰から、三本の刀を抜き、三刀流の構えをとる。それを見た和月が、感心したように顔を綻ばせた。
「なんとも殊勝な心意気。その男気に敬意を評し……最高の一撃で葬ろう!」
和月が、自らの左胸に掌をあて、高らかに叫ぶ。

       
        武   装   錬   金  !! 
270蝶魔人、誕生:04/07/25 23:09 ID:+A6rjsK1
「ヌ、オオオオオッ!!」
左胸に自らの指を突き刺し、心臓部から何かをえぐり出した。
その巨大な掌に握られているのは―――
「なんだあれは!? 『黒い核鉄』なんて、俺は知らない…!!」

    ド  ク  ン  !!

和月の掌の中で、『黒い核鉄』は放電するように輝きを増し―――!!
一方、和月の左胸に黒い核鉄を象った、奇怪な模様が浮かびあがる!!

“大戦斧(グレートアックス)”の武装錬金―――――――


      フ  ェ  イ  タ  ル  ア  ト  ラ  ク  シ  ョ  ン  !!


今の和月の巨体に見合った、凄まじい威容を誇る、武装錬金。
それが今、尾田の眼前に立ちふさがる。和月は『フェイタルアトラクション』を振りかぶったまま、気を充実させつつ、尾田を待ち構えている。
尾田に迷いはなかった。どの道、対峙が長引けば、尾田はエネルギードレインによって死ぬのだ。
どうせ死ぬのならば、前のめり。尾田が、一撃必滅の気合いを込めて、突貫した。
「三刀流奥義―――――」
「ヌオオオッ!!」
尾田と和月が、同時に叫ぶ。

「 三  千  世  界 !!! 」

「 臓 物 を ブ チ 撒 け ろ !!! 」

       ――――――――――――  ガ  カ  ア   ッ  ッ  !!!!
271蝶魔人、誕生:04/07/25 23:11 ID:+A6rjsK1
砕ける刀

砕ける心

砕ける生命――――

三本の刀――そのうちの一本は和月に譲られた逆刃刀である――が粉々に砕け散った。
尾田の魂とも言える、その三刀を失ったことを、しかし悲しむ者はいない。
尾田の肉体もまた、和月の一撃によって、同時に微塵に粉砕されていたからだ。
和月は、一瞬前まで尾田の肉体を形成していた、血と肉と臓物のシャワーを全身に浴びていた。
「熱い雨だ……まさにお前の血潮のように」
恍惚の表情で呟く和月。

    パ キ イ イ イ ン !!

表皮が剥がれるように、和月の変身が解除された。
そこには既に蝶魔人の姿はなく、いつもの蝶人がいるだけだ。
その両手に、それぞれ別のモノが握られている。
右手には、尾田の心臓を務めていた、核鉄。
左手には、尾田自身の、頭部。
「お前のおかげで、現時点での自分のスペックを確認できた……礼を言うよ。
 お前に渡した核鉄は返してもらうが、その代わりに――――」
この上なく歪んだ笑みを、和月は浮かべる。
「お前には新しい肉体をあげるよ。お前も、生まれ変わるんだ。蝶サイコーに俺好みの、蝶・最凶の下僕としてね」
回収した核鉄。聖石。そして、尾田の生首を股間にしまう和月。
そして――
「今回はここまでだ。次を楽しみにしているよ、村枝! そして、安西!! ハ――ハッハッハッハッハッハッハ!!!!」
狂笑の尾を引きながら加速し、嵐の止んだ夜空へと、吸い込まれるようにして消えていった。

←TO BE CONTINUED
272作者の都合により名無しです:04/07/25 23:19 ID:oz03ozxd
股間に頭部…さっ最低の死に様だ、尾田!('A`)b グッドラック!
273作者の都合により名無しです:04/07/25 23:24 ID:pQbd5SeH
皆川といい尾田といい正義側で今一つ活躍できない連中が続々と黒化していくな…
悪役も結構頻繁に正義化するし、善悪の流動がすっげー激しいね
プロレスみたいだw
274作者の都合により名無しです:04/07/26 01:47 ID:AN+EKIyK
イイヨイイヨー
275不穏な動き:04/07/26 03:22 ID:0J7KKOdo
(19部653の続き)

殺伐とした……どこか朗らかな……そんな夜。
別府…いや九州全土が大海嘯の猛威に晒される中、この者たちも懸命に夜を生き抜いていた。
ゴッドハンド特殊部隊「オメガ7」(+捕虜2名)。

既に帰還命令が出て久しいが、度重なる王蟲との戦闘により、彼らは牛歩を強いられていた。
そんな中、捕虜とは思えぬ態度で、悠然と佇む者がひとり。
捕虜の2名の片割れ、「射手なき銃たち」GUNG―HO―GUNSの誇る怪物ヒゲメイド、広江・ザ・ブラックラグーンである。
広江が交代制で仮眠をとっていると、ふとその横にひとりの兵士が並んだ。
言うまでもなく、「オメガ7」の隊員のひとりである。
眠いので適当に無視しようと広江は決めこんでいたが、その兵士がいきなり奇妙な唇の動きを見せた途端、広江の表情が一変した。
その兵士が使ったのは読唇術である。
しかも、広江以外の誰にも見られないよう、極めて目立たない細心の動きだ。
しかし、広江が驚いたのは、そんな事ではなく、読唇術によって聞かされた、その内容についてである。

広江(あなた……木葉さん……ですわね。今までどこに…というかその格好は?)
木葉(……誰にも知られずに、君と連絡がとりたくてね。苦労したよ)

同じくGUNG―HO―GUNSのひとり、木葉・ザ・クリオダイバーには、類い稀なる偽装術がある。
木葉はその気になれば、顔や声はもちろん、体格・年齢・性別まで、ありとあらゆる偽装を完璧に行い、全くの別人になりすますことができるのだ。
GUNG―HO―GUNSの中でも、木葉が暗殺を最も得意とする由縁がこれである。
276不穏な動き:04/07/26 03:24 ID:0J7KKOdo
ちなみに、彼の今の姿は、インテリ風の黒人兵士である。
「オメガ7」は、世界中の様々な軍隊出身の兵士からなる混成部隊であり、それこそ多種多様な人種が存在する。
黒人がいたとしても、特に珍しくはない。

広江(……今まで何処に行っていらしたの?全く連絡がとれないのですもの)
木葉(……それはこっちの台詞なんだけど……まさかゴッドハンドの特殊部隊にとっ掴まってるとはね…)
広江(……仕方ないでしょう……多勢に無勢……それもひとりひとりが超一流の兵士とあっては……)
木葉(まあそれはいいさ。むしろ、そっちの方がかえって好都合だしね)
広江(……それはどういう意味ですの?)
木葉(まあまあ、これから順を追って話すよ)

読唇術による会話を一旦中断し、木葉は軍隊用のレーションを口に運び、人心地つく。

木葉(僕は、あのふざけた宣言――ほら、あの妖魔王がどーたらいう――を聞いたとき、まだ旅館にいたんだ。
   そこで混乱に乗じて別れの挨拶代わりに、いきなり機銃掃射してやったら……
   ははは、連中、次の瞬間には勝手に乱闘おっ始めてたよ。笑えるったらなかったね、あれは)
広江(……そんなことはどーでもいいですわ。その後、その後が肝心なのです)
木葉(急かすな、急かすな。これは重要な話なんだ。だから、よーく聞いててね……)

そして……おもむろに木葉は本題に入った。

木葉(実は……『砲神』とコンタクトがとれたんだ)
277不穏な動き:04/07/26 03:25 ID:0J7KKOdo
広江(……なんですって?本当ですの、それは!?)
木葉(吹かしこいてどーすんだよ……現に、僕はついさっきまで、彼と話をしてたんだ)
広江(それで……彼は何と?)
木葉(それが驚くなよ?なんと……内藤様がゴッドハンドの手によって、KIYUの本拠地から奪取されたらしいんだ)
広江(なんですって!?)

あまりの驚きに、広江はつい肉声を出しそうになった。慌てて、木葉が口を押さえる。

木葉(シーッ!聞こえるだろ!)
広江(ご、ごめんなさい……でも、それってどーいうことですの!?)
木葉(どうやら「オメガ7」とは全くの別働隊らしい。なんでもKIYUの本拠地で派手な戦闘があったとか。
   その戦闘がどうなったのかは知らないけど、その時に内藤様は海に投げ出され、それを空母「エリア88」が回収したみたいだ)
広江(「エリア88」……ということはこの部隊と同じく……)
木葉(……そう、最高指揮官は、ゴッドハンド総司令……松本零士)
広江(……では、私達はこのまま行けば、内藤様と同じ場所に連れていかれるわけですわね!?)

また危うく広江が騒ぎだしそうだったので、木葉がその口をふさいだ。

木葉(……まさにその通り。…で、それを見越した上での、『砲神』からの指令だ)
広江(……なんですの?)

念のために聞くと、木葉は「分かり切った事を」とばかりに、こう言った。

木葉(……内藤様を……『救出』する)
278不穏な動き:04/07/26 03:27 ID:0J7KKOdo
広江(……ええ、たしかにそうでしょうが。簡単に言いますわね。
   仮に、上手いことゴッドハンドの膝元で、首尾良く内藤様を救出したとしましょう。
   けど、問題はそこからどうやって脱出するかですわ。これは潜入より難しいことですわよ?)
木葉(ごもっとも。ただし救出といっても、僕らの役割は陽動だ。わざと内部に潜入し、タイミングを見計らって、『引っ掻き回す』)
広江(……その間に、『砲神』自らの手で内藤様を奪還する、と言うわけですわね)
木葉(……半分は正解だ。実際に関わるのは、『砲神』だけじゃない。
   どうやら『大隊』の連中とも結託して、相当に大規模なイタズラを考えているらしい)
広江(……あの方々と組むのは、『ミカエルの眼』でクーデターを起こした時以来ですわね。それでは、さぞかし派手になることでしょう)

そこでふと思い付いたように、広江が問う。

広江(……ところで、寺沢様は、この事を御存知なのかしら)
木葉(……あの人の事だ。きっととっくに何もかもお見通しさ。
   全部、知った上で『砲神』の好きにさせてるんだろ。なんせ、「面白けりゃなんでもござれ」って人だしね)
広江(介入…してくるでしょうか)
木葉(あの人の興味を引くほど、派手なことになれば、おそらくね。
   こっちとしては、むしろ介入してもらった方が楽しめそうだけど)
広江(そうですわね。上等ですわ。重畳ですわ。楽しみですわ。
   こっちでは遊べなかった分、あちらできっちり楽しませてもらいますわ)
木葉(全くだね。楽しみだね)

2丁の乱射魔(アッパーシューター)たちが嬉々として、鬼気として笑う。
九州全土を揺るがす大争乱がゆっくりと終息に向かう中。
新たなる争乱の陰謀は、水面下ですでに密やかに進行し始めていた。
279作者の都合により名無しです:04/07/26 04:38 ID:k1egTm/4
内藤がヴァッシュ化したことによる、ガンホ内紛の予感


そして例の三角関係に広江が加わることによる、超修羅場の悪寒(((((゜д゜;))))))
280作者の都合により名無しです:04/07/26 10:10 ID:gjPsY/Vf
修羅場乙!('A`)q
281作者の都合により名無しです:04/07/26 23:50 ID:1Y1Nfiwg
うーんどうなるかホント楽しみ
でも大丈夫かヤマト?ちゃんと発進できるのか?

あとオメガが「それもひとりひとりが超一流の兵士」っつうのの
原作オメガとの落差に悪いがちとワロタ
282決戦の海へ:04/07/27 11:51 ID:8FgZWPo4
>>252

勇猛なる者の背に、導かれるように歩き出す戦士達。
嵐の過ぎ去った別府港、海面から断続的にフラッシュのような閃光が差し込む中を、
白く流麗な宇宙船、戦艦無礼ドが停泊する方面に一同自然と爪先を向ける。
戦場への架け橋・無礼ドを超えた海の先――― いざ、焔色に包まれた腐界の森へ―――


 「あ!松沢艦長!やーっと戻ってきたんですね!」
 「“地球防衛軍”の皆さんの活躍がなかったら今頃どうなってたやら・・・」
 「あれ?岡村先生、他の防衛軍の方々はどうなさったんですか?」
口々に声をかけてくる無礼ド乗員たち。
防衛作戦で艦内の浮遊エレベータを破壊したため、
重傷者を治療する間に岡村と松沢の他元気そうな数名のみで、
無礼ドの非常階段を登りなんとか艦橋への帰還を果たしたのだが。
 「む、ほ・・・他の連中は色々あってはぐれちまった。
 生きてりゃいつか逢えらあな。それよかヒゲ隊長や巻来たちは?」
逆に質問する岡村。艦橋は惨禍の跡が生々しく、背中に冷たい汗を感じた。
 (地球防衛軍ですかプププ)含み笑いが止まらない松沢を、
幼女形態の水野を連れた城平が眉をひそめて睨んだ。
 「それが、隊長や他の方々は・・・」
スタッフの声を遮ったのは、外界とぽっかり繋がった壁の大穴から差し込む光と爆音。
先程からの妙なフラッシュの正体は―――
“巨神兵もどき”が腐界に向かって延々と破壊光線を発射し続ける光。

 「焼き払え!!薙ぎ払え!!」
 「ぶっ殺せー!はったおせー!赤組ー!」
 「制裁しちゃうよォーーーー!!」

人間砲台と化した貞本の肩に乗り、意気揚々と火祭りを楽しむ玉吉隊長一行。
暗視スコープで隊長と佐渡川の姿を確認した岡村が呆れ返った。
 「な、何やっとるんだあいつらは・・・」
283決戦の海へ:04/07/27 11:52 ID:8FgZWPo4
腐界を焼いて王蟲の侵攻を抑えてくれてはいるのだろうが、
どうも周りの状況が見えてないんじゃないかなと岡村は判断する。
 「あんなのがいたら森に攻め入る際にこっちが撃たれちまうぜ」
ため息をつく岡村にスタッフの一言。
 「ですよねー。そういえば未確認ですが森の方にいるんですよね、巻来さん」
 「へ? ・・・・・・わー!中止だー!あの馬鹿どもを止めろー!!」
岡村大騒ぎ。
そこへポンと彼の足を叩く、水野より背の低い娘。金田一だ。
 「目測400m・・・。一発だ」
ニヤリと唇の片端を吊り上げると、村枝の愛銃を両手持ちで巨人へ向ける。
 「どーーーーーーん」    タァァァ――― ・・・ン ・・・

ざぶーーーーん。
大穴から迫る闇の向こう、頭部を撃ち抜かれた貞本がゆっくりと海中へ座り込んだ。
 「行動終了。救助ボートでも出してやんな」
銃口に息を吹きかけ、くるりと闇に背を向け悠々と立ち去る金田一。
岡村は隻眼からちょっぴり尊敬の視線を金田一に見せた。


無表情の金田一は銃を手にぶらつかせたまま、
やんやと騒がしい艦橋からひとり抜け出し薄暗い廊下を歩く。
修理中の浮遊エレベータの下層部では、カムイや椎名や“あの女性”が待機している。
ふん、と鼻息をならした金田一はおもむろに、銃口を口に突っ込んで何度も引き金を引いた。


 「艦長、コネクタスーツ装着完了ー。動力エンジンに魔力注入開始!」
激戦により艦体エネルギーが消耗したため、松沢の魔力を抜き出すところから始める。
直後、非常灯ばかりの艦内が一気に明るくなり、充電された機器が元気よく反応する。
 「自転車操業で構わねえ、一秒でも早く飛んでくれ」岡村の指示が飛ぶ。
慌ただしい中、金田一がとてもニコニコした顔で艦橋に戻ってきた。
 「どうした?ちっけえ姉ちゃん」「・・・制裁してきた(ニィ)」「?」
岡村が首をかしげる間に、戦艦無礼ドは静かに海面から上昇を始めた。
284作者の都合により名無しです:04/07/27 17:24 ID:Q6j6OIgw
グゥを知らない奴が見たら自殺とも取れる行為だね。
>銃口を口に突っ込んで何度も引き金を引いた
285作者の都合により名無しです:04/07/27 19:45 ID:Snv4Hl9i
森へ攻め入るにはガスマスクが必須だな(純粋人間キャラは)
自然の申し子マッキーや、怪物いがらしと違って一瞬で腐食するぞ
286闇の扉の向こうに:04/07/27 21:58 ID:nbsWFECG
>>232 9部B・347等)

藤崎竜はこれまで、自分が戦う理由も“クリエイター”が争う意味も、
別段どうでもよかった。この矢吹政権以降の≪戦史≫を自作品として書き上げてみたい、
そんな野望の前には眼前の戦乱全てが己にとっての『いいネタ』扱いだった。
近日、矢吹に自分の宝貝をパクられ使用される事に憤りを覚え、
矢吹を裏切り冨樫にファイルを返し、真島を封じて小畑を救おうとした。
それらは私憤の延長線であり、基本的に義理人情で動いた記憶はない、と本人は思っている。

流れるまま、いつしか心に湧き出ていた、素朴な疑問。
なぜこの世には≪知られざる戦争と破壊の歴史≫があるのか。
なぜ自分は、漫画家はその歴史に当たり前のように組み込まれているのか。
決して表舞台に出ることのない。
それでいて世界、そして宇宙までも巻き込んだ大きな争乱。
だが、問題はそこではないのだ。(もちろん多少は気にするべきだが)問題は――――

 (個人の記憶はともかく、≪記録≫がほとんど残っていない、という事だ。
 古来より我々人類は、洞窟の壁画からヒエログリフ、木簡に竹簡、
 模型に彫刻、絵画、肖像画に写真、原稿用紙に映像フィルム、IC・・・。
 なんでもかんでもデータとして残す性分があるはずなのだ。
 それがまるで、中世ヨーロッパの暗黒時代のように空白に近いじゃないか。
 おかしすぎる・・・そしてエックスは“考えるな”と言った。
 考えてはならない、気づいてはならない・・・記録を取ってはいけない?
 わしがこの戦争を書物として残しても―――歴史の闇に放り込まれる??)

まさか。気になる。これまで何名の、歴史の闇に挑んだクリエイター達が、
その存在ごと消されてしまっただろうか。あくまで仮定ではある、だが生々しい恐怖と・・・
 「同時に、わしの漫画家としての矜持が歓喜を覚えておるよ。
 『歴史の証人』なんて言葉もあるのう。なってみたいものだのう」

別府港の魔獣が去った事により、徐々に薄くなる暗雲のカーテンを踏みしめながら。
エックスは拳を握る藤崎と現在位置を確認する荒木を乗せ、天翔ける矢吹艦の前方を歩んでいた。
287ケンタロー×ブレード V:04/07/28 11:26 ID:0CCjYuy2
>245

(スッゲー……)
眼下の剣戟の凄まじさにOの字に口を開けたまま、荷箱の上で横内なおきは『おすわり』していた。
(ヤブキサマって、強かったんだなぁ……)
なんだか結構、失礼なことを考えていたりする。

   ギ ョ ォ オ ン !!!!

見下ろす先で、超重量の打ち下ろしを剣先と柄を支えられ、黒刀が迎えた。
そのまま流され、落下した先端が大地を揺らす。
奇妙な、時が停止したかのような空気。間髪を入れず黒男(三浦のこと)がヤブキサマに攻撃を返され、肩口を抉られた。
そして、そのままなんの溜めも無しで、強引な跳ね上げをヤブキサマは飛び、避ける。
あれなら、黒男の視界からは完全に消失した筈だ。
しかし、一度は見失った上空からの刺突(つき)に。気付いた黒男の迎撃法もまた尋常の手段ではない。
(……歯ッ!?)
思わず自分が、『やったか!?』と思ってしまったのが、いけなかったのだろうか?
ギシギシと鳴るほどの静止が、また黒男により、動く。
いち、にい、さん。
小さな三つの炸裂弾。取り囲み、ズタズタにせんと横内の主を狙う。
黒男が分厚い楯のような大剣に隠れ。放り上げられたヤブキサマは―――消える。
(―――!?)
離れた場所からでも、刹那、その位置が特定できない。
三連の爆発ののちに、剣の影の黒男の背後に出現するヤブキサマ。
(今度こそ!)
完璧な、タイミング。
しかしその横内の意気込みは、またしても空振りに終わった。
白刃取り。砲撃、爆散、火災。
むしろ契機に、めまぐるしく状況が変わり始めた。
その後の、どこか奇妙で不自然なやりとり。
奪われた剣を取り返し
そしてそれを最後に。ヤブキサマは今度こそ横内の瞳からすら消える。
288ケンタロー×ブレード V:04/07/28 11:28 ID:0CCjYuy2
(こりゃ……)
人の、剣の、体術の極限の動き。
速すぎて目で追うどころか、そもそも目に『光』として映っているかどうかすら怪しい。
暫し、三次元を目一杯に使い―――天井や壁を含む、そこかしこで響く姿無き『足音』。
やがてそれが、明確な殺意を持った『踏み込み』に変わる。
「ォオッ!?」
叫ぶ黒男の二の腕に、突如として紅線が走る。
それが切欠だった。
次々と黒男の体中から、鮮血が噴き上がる……。








「グッ!?」
四人以上に囲まれ、一斉に斬りつけられているかのようだ。
複雑に重なる軌道によろめきながら、それでも剣と義手で、急所だけは庇う。
交差させた両腕の奥から、片目を覗かせ、焦りを抑え、思考を回す。
(網を張るか……。カウンターを狙って斬り飛ばす……か?)
いずれにしても。最低数瞬、動きを読む必要がある。
(……エサを、撒くしかねえ)
予想外に早く炎が広がりつつある。矢吹の動きによる衝撃も、建物の崩壊に拍車をかけている。全ては時間との戦いだった。
ひたすらに耐えつつ、義手に、砲弾と火薬を仕込み直す。

  ボ ッ !!!!

終えると、ほとんど第六感のみで、面を向けた大剣を奮った。

  ボ ッ !!!!  ボ ッ !!!!  ヴ ボ ッ !!!!
289ケンタロー×ブレード V:04/07/28 11:30 ID:0CCjYuy2
空気を叩く音。
延々続く空振り。
マヌケな絵だが、とにかく『当てる』確率は、少しでも高めた方がいい。
……と自分が思っていると、矢吹に思わせる。
そんな最中も、当然、傷は増え続けている。
ごく自然に、隙も増えた。
さりげなく、毒を盛るように、細心を払って。
邪魔な剣や鎧を障害に、明確に開いた三浦の急所が実はひとつであると、気付いてもらわなくてはならない。
そしてそれが罠であると、気付かれてはならない。
無心に見せかける剣が、やがて本当に無心になりかけた頃、それは来た。

      ―――ッッ

遅いくる殺意を頼みに、永遠ほども遠い剣を引き戻す。
構え、軌道を立て直す暇は、無い。
そのまま鞭のように微調整して、必殺のカウンター。

  ギ ッ ……… ゴ オ ォ ォ ォ ォ ォ ン ッ !!!!!!

小さな硬度の擦れ
そして轟音。
手ごたえと呼ぶには、あまりにささやかな接触の後、床に斬魔刀が食い込む。
なんとか逸らした一撃、三浦の耳たぶを穿った『クライスト』の奥に、矢吹のすこし驚いた目があった。
それが、全てを賭けた一撃で得た、全て。
失敗。
最早先程までと状況は同じ。いやもうこの手は使えないから、悪化してるといえる。
今にも、矢吹は眼前から消えるかもしれない。
それだけではない。
290ケンタロー×ブレード V:04/07/28 11:33 ID:0CCjYuy2
渾身を込めた報いで、今の自分の体勢は無残なまでに崩れたままだ。
「グッ……!」
どれほどの膂力があっても、人の肉である以上限界はある。
慌て、床から剣を引き抜き

――― 来 る

当然、この隙を、矢吹が見逃がす道理は無かった。
今度こそ確実に急所を仕留めようと、目の前で構えから入る。

瞬間。
左手の義手砲が、火を吹いた。
矢吹に向かってでは無く、左斜め後ろの空に向かって。
驚きはするものの、矢吹は止まらない。
警戒はしていたのだろう、砲口がどちらを向いているか。
無意味さがかえって怪しくも、攻撃の手を緩めるほどでは―――
しかし火箭の向きにばかり気を取られ、その反動がどこに伝うかは、矢吹にも思惑の外。
二の腕を通り、左肩の先端から、逃げ場を失ったエネルギーが体前面に抜ける。
脱臼の激痛と共に、背骨を支点にシーソーのように右肩が引かれる。
上半身全体を突き動かす力。逆らわず、むしろ乗せ。右手の大剣を強く―――

    ゴ ッ !!!!!!!!

不具者であるが故の、人ならざる動き。
初めて知欠王の表情が、驚愕に歪んだ。
交差からこっち0.1秒。
吹き上げる谷風。
矢吹の、攻撃に転じようとした僅かな緩み。
牙が吼える。
白マントを削り、右脇から、左肩口に抜けて両断―――
291ケンタロー×ブレード V:04/07/28 11:35 ID:0CCjYuy2
―――しなかった。







「―――!?」
渾身の左切上が空を切り
片手のみで大剣を支えて、黒男は呆然と宙を見ていた。
無理もない。
横内から見ても。あれは完璧な伏線、完璧な駆け引きだった。
自らの命を餌とした、超絶のカウンターに。その後の隙すらも織り込んだ二段構えの罠。
しかし綿密に組み上げられた迷宮は、たった一秒にも満たぬ時に咲き、そして散ってしまった。
横内に認識出来た事が、奇跡に近いほどの神業だったのに。
「―――ふむ」
ヤブキサマが、忽然と、黒男の間合いの外に現れる。
「『一歩手前』で十分かとも思ったが……結局、使わざるを得なかったな」
―――『縮地』
先程の解説が横内の脳裏にも蘇る。
同じモノを浮かべながら、黒男は声も無いらしい。左手から硝煙が昇り、やがてガツリと剣を杖に縋る。
「もう、いいだろう?」
ヤブキサマが、『クライスト』を鞘に収めた。
隙といえば隙。だがもはや―――
自らの流した血だまりの中に、黒男が膝をつく。
「―――今日はもう休め。客分とはいえ、お前にも明日、試合がある」
炎が壁となり火の粉舞う修羅場にあって、ヤブキサマはあっさりと戦闘体勢を解く。
余裕どころか、なにもかもが遊びであったと言わんばかりの態度。
安堵・憎悪・葛藤・絶望、様々なものをない混ぜにした隻眼が鈍く光り。一瞬、ヤブキサマを超え、横内とも目が合った。

―――――――――――――
292ケンタロー×ブレード V:04/07/28 11:38 ID:0CCjYuy2
強者ほど、敵の力量にも敏感だ。
黒男は、フラリ、と腰を上げる。
呆然が成せるワザか。出口の前をあらかた塞ぐ激しい炎の壁に、何の躊躇もなく黒男は踏み入った。
後に残されたのは。点々というには多く、河というには少ない、真っ赤な血の、足跡のみ……。







「…………」
無言のままその背中を見送った矢吹は、やがて小さな溜息を吐いた。
(……しかし……考えてみれば、出場者への治療は、どうも必須だな)
半死人や怪我人ばかりでは、試合が盛り上がらん事、火を見るよりも明らかだ。
(……だがだからといって大会本部に治療室を設置しても。素直に『治して下さい』と来る素直な連中がどれほどいるか……)
ぶつぶつと、腕を組む。
ちなみに矢吹はのん気に構えているが。実は倉庫はすでに燃え落ち、崩れつつあったりする。
(……ふむ)
それでも何かを思いついたらしい。劫火の中、顔を上げる。
(自分のチームに治療役が居れば勝手に回復するのかもしれんが。まあ一応、次善の策は用意しておくか)
踵を、返す。
「……頃合か」
幾本かの梁が炎に包まれ、音を立てて崩壊する天井。その向こうの夜空を、透かすかのように見上げる。
293ケンタロー×ブレード V:04/07/28 11:45 ID:0CCjYuy2
そしてその耳に、猫の悲鳴が届く。









「にょわぁ――――ぁっ!?」

バキバキ……  ドゴ―――――ン  ズシ―――――ン  バキ―――――ン……

続け様に倒れてくる柱や屋根を、猫の癖に器用な二足歩行で回避する。
すでにして周囲2メートル四方ほどを残し、あたりは完全な火の海と化していた。
(どどどどうするかッ!?)
スッカリ『決闘』に見惚れ、火中に逃げ場を失うとは。自分らしいのか、らしくないのか。
(……とか考えてる場合じゃねえ!!!)
バキバキと爆ぜる木材が、次から次にこちらに向かい覆い被さってきた。
「のわっ ちょ!!」
片足立ちで、盆踊りのようなポーズになりつつ、なんとか避ける。
しかし更にその上に倒れこんでくる、次なる炎塊は。どうにも避けられそうに無かった。
(ぎょえ――――ッ!?)
先程の柱と合わせ、この柱の下敷きになれば、丁度十字の墓標のカタチになるとは、一体、頭のどこが考えたのか。
そんな横内の絶体絶命のピンチを救ったのは。またしてもこの男だった。

  パチ…… パチ……

木の、焼ける音。
「……無事か? “クロ”」
いつまで経っても落ちてこない『死』に。横内が抱えた首を捻る頃。
294ケンタロー×ブレード V:04/07/28 11:47 ID:0CCjYuy2
かけられた優しい声を見上げれば、ヤブキサマが納刀した『クライスト』の鞘で巨大な薪を支えていた。
さして体格が良くもないのに、余裕綽々である。
そのまま片手で猫掴みされ。呆然とぶら下げられる横内。ふ、とヤブキサマが笑った。
「私はこれから一仕事あるのだが……心配するな、とりあえず安全な場所に連れて行ってやる。そこで……」








身を焦がす。身を焦がす。身を焦がす。
揺らめく炎の向こう、小さき者を守る者。
躊躇は無かった。


      ゴ ッ


ありったけを掻き集め。自らを焼きつつも、姿を隠してくれた火の壁を割って飛び出る。
一拍遅れ、矢吹がこちらに気付いた。
驚愕に、顔が歪む暇すら与えない。



       ┣¨



正中線に沿い。
終に、斬魔刀が矢吹の胴を深々と貫いた。
295作者の都合により名無しです:04/07/28 17:41 ID:ZZlDRoE3
!!!
296作者の都合により名無しです:04/07/28 20:44 ID:4W+N9wMF
まさかの奇襲!
三浦、ようやく「らしさ」が出てきたね
297昏冥の海(きおく):04/07/29 01:42 ID:O78BvLOU
>>171 16部151 7部313 10部212 15部330)

 あれは1年前のこと。
 本宮せんせーがいつものように数日間ふらりと消え、帰って来て間もなくのある日。

 「ここに来ればメシが食えるって住所もらったんでな。よろしく頼む・・・ぜ」

 ボクらの事務所になんだか変なお客さまが来た。
 あいにくその時はボクひとりで、事務所じゅうの材料で泣くほどごはんを作らされた。

 「屋根のある部屋は久しぶりだな。ああ、メシうまかったぜ。あんた名前は?」

 ちゃっかり応接室に住み着いた、小柄で糸目で後ろ髪を結ったたくましー男。
 ひと目で強そうな人だなーと感じて、けれどやっぱりのほほんとしてて。

 「なんだよてめえは!5日分の食材食いつくしやがって!表出ろコラ!」

 真倉君が岡野君と共に仕事(ボクらの仕事は裏社会のトラブルバスターなのじゃん)から帰るなり、
 居候を決め込んだお客さまに文句を言ってそのままケンカになった。まあそりゃそーだ。

 「へえ、あんたおばけの類か。無理して成仏しちまっても俺は責任負えんからな」

 居候さんは宣言どおり、真倉君をぶっとばして消滅寸前に追い込んでしまう。
 “虎砲”という技名と彼が身につけた武術流派の名を聞いて、ボクはようやく彼の正体を知る。

 「ここ、本宮のおっさんのいるところだろ?旅先で知り合ってな。川原・・・正敏だ」

 そういえば彼、髪の毛いつ切ったんだろうな。あれからしばらく、時々事務所に顔を出しては、
 当たり前のよーにごはんを食べて何日か泊まって、たまーに仕事を手伝ってくれた。

 懐かしいなあ。
 この頃はまだ岡村クンとかもいなくて、初の新メンバーだったね、せんせー。
298昏冥の海(きおく):04/07/29 01:43 ID:O78BvLOU

 「この辺りはまだ憶えられなくてなあ。ところで・・・腹、減っちまったんだが」

 トレーニング中に道に迷ったのか、わざと迷って捜しに来たボクにおごらせる作戦だったのか。
 事務所から遠い公園で、せんせーにハンバーガーをおごった。あまり好きじゃないと渋られた。

 「で、あんたはいつ真倉みたいに、怒って俺にケンカを売ってくれるんだ?」

 また妙なことを言い出したんだ。なんか強い人と勝負するのが趣味?みたいで。
 ボクは当時のメンバーの中で戦闘スタイルが一番近いから、目をつけられたんだと思う。

 「ハンバーガー食べないんだったらぁ、ボクがぜーんぶ食べちゃうぞなー」

 いつものように、はぐらかしてみたり。
 これやるとセンセの方が怒るんだよねえ。まあ顔とかに出す人じゃないけどさ。

 「お前さん、長生きするぜ。・・・おい、本当に全部食うなよ」

 ベンチに並んで座りながら。あまりホメ言葉に聞こえなかったなー。
 ケンカじゃなければ別に構わない気がするけど、どうだろう。こわーいお兄さんとの試合。

 「さて・・・またしばらく旅に出るかな。おっさんによろしく。あ、そうさな・・・」

 別れ際、彼はいつもの笑顔で半分背中を見せながら言った。
 彼と次に再会するのは、営業資金獲得のためトーナメント乱入が計画される前後の頃だった。

 「・・・いつか気が向いたら海に行かねえか。ケンカのひとつも、したくなる」

 そりゃあ、いつの青春不良ケンカ漫画ですかってーの。
 ボクはお客さんが楽しくなれないバトルはしない主義なんだぞ。

 「お月さんかお天道さんが、観客になってやるってよ。安心しな。じゃあな・・・ にわの」
299昏冥の海(きおく):04/07/29 01:44 ID:O78BvLOU

 ・・・・。

 そんな事言ってんじゃないんだけどな。

 もう、忘れてるんだろうなあ。

 あの島で並んで見た海は、台風の嵐で真っ暗だったね。

 ・・・うあ、そーいや≪影船≫の甲板ではつっつかれてたっけ。ボク。

 こりゃあ憶えてるぞ。ボクみたいなのとケンカしても、つまんないよ、絶対・・・。

 ・・・・。

               * * * * * * * * *

 「やっと薬が効きよったか」
高熱にうなされ、意識朦朧となった緑髪の青年を、猿渡は自分がひと時の休憩所としている、
現在は廃墟となっているうらぶれたビルの一室に連れ込み風邪薬を飲ませてソファに寝かせた。
手持ちのウィスキーで飲ませようとしたが、酒だけはなぜか執拗に断わり震え出す始末。
何か嫌な記憶と直結してるのだろう。猿渡は水道水のコップと薬剤を手渡し、別の椅子に座った。
青年は薬を飲んだ後もしばらく熱と悪夢にうなされ、
時々起き上がり咳き込んで、倒れるように寝た。今はようやく落ち着き始めた頃だ。

ラジオの向こうでは、九州中を突然覆った大嵐が急激に去った先の現場中継と、
無限とも言われていた王蟲の発生がほぼ落ち着いたとの情報が流れていた。
眼鏡を外し、椅子の隣のデスクを指でトントンと叩きながら、猿渡はソファで眠る青年に向かって口を開く。
 「セフィリアとかいう艦の中で、本宮に少し聞いたで。
 ・・・起きたら行こうか、あの≪場所≫へな。お前も来たんやろ?仲間の墓参りに」

 ―――追憶の街。かつて神保町と呼ばれた、今は正式な名を持たぬらしい、そこは空白の墓標――
300黒と白:04/07/29 20:54 ID:ccUcpCui
>>294

 ぎ ゃ あ あ あ あ あ 

断罪の剣が、知欠王の鉄壁の牙城に、遂に穴を穿った。
矢吹が大量の噴血と共に、苦鳴の咆哮をあげる。
その背後には、鉄塊のごとき剣を、羅刹の表情で突き立てる黒い剣士の姿
「……くああ!!」
矢吹が吼えながらもがき、力ずくで三浦の体を引き剥がそうとする。
しかし、三浦は乾坤一擲の刃を決して離さず、咆哮をあげながら更に渾身を込めた!!

「ぐ…… が あ あ あ !!! 」

最後の力を振り絞り、三浦が突き刺した剣を、真上に斬り上げる。
矢吹の体は、貫かれた正中線を起点に、わずかに左肩に抜ける形で両断された。
大量の血雨が降り注ぎ、三浦の体を、そして横内の周りの炎を消した。
まるで全身の血を噴出させられたかのような凄まじい出血であった。



(………計算してたんだ)
自らの恩人が、無敵の帝王が、血だまりに没する姿を驚愕と共に見つめながら横内が心中で呟く。
(ヤブキサマが俺を救いに来ることを計算して……自分も炎の中に身を潜めて)
闇一色に塗りつぶされたような風体の三浦を見上げ、横内が息を呑む。
黒き剣士の双眸はなお尽きることのない憎悪と怨嗟に満ち、死体のように倒れ伏す矢吹に注がれていた。
ガチャ……
黒き怨念の塊が、ゆっくりと白き偽救世主へと近づいていく。
301黒と白:04/07/29 20:55 ID:ccUcpCui
「や…やめろ……もうやめろ……」
比してあまりにも巨大な相手の前に、勇気を振り絞って小さな体が立ちふさがった。
猫にあるまじき直立不動の体勢で、倒れた矢吹をかばうように立つ。
「ヤブキサマはもう動けない!! これ以上傷つけるニャ!!」
ドン!
「ニャ!」
猫が喋るという怪異を一顧だにすらせず、三浦は黒猫を押し退けて前進する。
「…待ってくれ!お願いだ、もうそっとしといてやってくれェ!!」
すがりつくように、哀願する横内。
「どうしてだ…どうしてそんなに憎むんだ!?どうして…!!?」
……答えはなかった。
三浦が無言のまま、横内の小さな体をはじきとばす。
「ぐあ!」
荷材の一角に叩きつけられ、横内が悲鳴をあげる。
痛みに震える黒猫の眼前で、闇がとどめの剣をふりあげた。
「ぐ…」
もはや正気すら失ったように見える三浦が、獣の唸りをあげる。
「やめろバカァ!!!」
「が…!!」
まさしく、その瞬間。
斬魔刀が、断頭台の刃のように振り下ろされたかに見えた刹那。

   ズ キ ィ ……!!

「……!!」
脳髄を掻きむしるような激痛が、三浦を襲った。
「が…!!」
痙攣し、その場に跪いてしまう。
それを境に、異変は始まった。
302黒と白:04/07/29 20:57 ID:ccUcpCui
いきなり周囲の景色が暗転した。
それも一瞬で、すぐに元に戻る。
一見、何も変わっていないように見える。
しかし……かすかに、だが確実に空間を支配する歪な感覚…!!
「これは…!! 異次元空間!? いや違う……これはまさか……」
背骨をかけのぼる戦慄に慄然とする三浦。
三浦は、この感覚を知っている…!!
かつて、決して忘れ得ぬ忌わしき記憶に刻まれた、この感覚を…!!


「 知  欠  絶  対  空  間 (ヤブキズオリジナリティー) !!!! 」


「……正解だ」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「……!!」
激痛に悶える三浦の上方。
傷も、衣服の損傷すらも元通り。
まるで、今までの戦いなどなかったかのような姿の矢吹が立っていた。


読者もすっかりお忘れの設定であろうが、三浦の斬魔刀は“ベルセルク合金”という特殊金属で造られている。
この金属には“再生能力を無効化する”という特性があり、ナノマシンにとっては天敵とも言える存在である。
ナノマシンによる自己再生を可能とする矢吹の肉体を殺せる、数少ない手段でもある。
しかしながら、これすらも無と化す、脅威の能力を、この帝王は有していた。
303黒と白:04/07/29 20:58 ID:ccUcpCui
――知欠絶対空間(ヤブキズオリジナリティー)
矢吹を帝王たらしめる、究極の奥義。
あらゆる事象を、矢吹の都合のいいように捩じ曲げる絶対領域。
その空間にあっては全ての物理法則、あらゆる常識は意味を失う。
そして……
かつて、三浦の朋友、技来静也を再起不能とせしめたのもまた、これであった。


ギリ…ギリリ……!!
「……矢吹ィィ…………!!」
全ての力を使い果たし、為す術なく這いつくばり、それでもなお軋むように唸る三浦。
その様を尊大に見下しながら、矢吹は呟いた。
「…まだ…そんなところを“這いずり回って”いたのか」
虫けらでも眺めるような冷笑に、三浦の表情が変わる。
「…な…何だと……!?」
それを無視して、矢吹が唖然としている横内を拾い上げた。
「……待たせたな、“クロ”。それでは行くとしよう」
すると、矢吹の腕の中で横内が、何かを訴えるように騒ぐ。
(…ヤブキサマ、この男を放っておいていいのか!?このままにしといたら、いつ寝首をかかれるか…)
横内の言わんとしていることを察したのか、矢吹が安心させるように言う。
「殺すわけにもいかん……彼は大事な客分だ。それに……」

「所詮は取るに足らない存在だ」

その一言。
尊大に満ちた、その一言が、黒い剣士の逆鱗に触れた。
「ガ…」

 あ あ あ あ あ あ あ …… !!!!
304黒と白:04/07/29 20:59 ID:ccUcpCui
雷鳴のごとき咆哮。
激痛と、半死半生の肉体を、突き上げる激情が強引に立ち上がらせた。
(ヤブキサマ…!!)
あの状態から、まだ立ち上がるとは…!
横内は、かつてこれほどの精神力…闘争心を持つ男を見た事がなかった。
今の三浦を支えているのは、矢吹に対する凄まじい憎悪だ。
血の轍を引きながら、三浦が帝王ににじり寄る。
「取るに足らない存在だと…笑わせやがる…」
嵐の海を泳いでいるかのように荒い呼吸を繰り返しながら、怨嗟を吐き出す。
「その取るに足らない存在のおかげで、てめえはそこでそうしてられるんだぜ…」
斬魔刀を引きずりながら、轍がどこまでも尾を引く。
「この俺が同人作家どもの相手をしてやってるおかげで…!!
 俺が血ヘドの中を這いずり回っているおかげで!!
 てめえはそこで帝王ってやつを気取ってられるんだ!!
 矢吹!!!」
力の限り、吼えた。対する矢吹は、あくまでも尊大である。
「…そう。貴様は這いずり回る生贄にすぎん」
「……!!」



(この二人の間には、いったい…?)
何者の立ち入れぬ、神聖とも言える緊張に包まれた対峙。
横内は、ただ両者を見比べながら、おろおろするばかりだ。
そして、遂に三浦が再び、矢吹の目前まで迫ったとき……
「ぐ…」
ブシュウウウ…

 う お お お !!!
305黒と白:04/07/29 21:15 ID:ccUcpCui
三浦の“烙印”から、さらに勢いよく血が噴き出した。
人間の精神を容易く破壊するであろう激痛に、三浦の巨体が痙攣する。
「愚か者め…」
矢吹が呆れたように溜息をつく。
「この知欠絶対空間の中では、“烙印”の反応を操作するなど思うがまま…
 このまま無限に苦痛が増大すれば、それだけで死ぬこともある!!」
ビクン ビクン
「…ここまでだ…」
三浦が白眼を剥き、ゆっくりと後方に倒れていく……

……ダン!!

矢吹が、かすかに目を見開いた。
激痛に喪神したはずの三浦が、ギリギリのところで踏み止まったのだ。
それだけではなく、あろうことか……

   ゴ…!!

「があああああ!!」
なんと、そこから繰り出された斬撃は、これまでで最速を誇った。
起死回生の斬撃が、矢吹の頭蓋を微塵に破砕するかに思われた……刹那!!
「…ならば見るがいい……星々の砕ける様を……」


  ギ ャ ラ ク シ ア ン エ ク ス プ ロ ー ジ ョ ン !!!!


斬魔刀が、矢吹に触れる寸前。
聖闘士最大の奥義が、炎ごと、倉庫ごと、三浦を光の奔流の中へと叩き落した。
306黒と白:04/07/29 21:16 ID:ccUcpCui

    ド ガ ガ ガ ア ン  !!!!!

長い夜を裂くように、光の柱が屹立した。
一瞬、凄まじい力場が空間に満ちる。
静寂を取り戻したとき、矢吹の周囲には、胸に抱いた黒猫以外に、動くものは存在していなかった。
さっきまで戦場であった倉庫は、溢れかえる炎と共に、跡形もなく消滅し。
牙のように長い亀裂が、矢吹を中心に蜘蛛の巣のように広がり、別府港を縦横に貫いている。
しばし、辺りを見渡し、やがて矢吹がぽつりと呟く。
「素晴らしい闘争心だ。あの苦痛のなかで、剣を振り下ろすとは。意識はほとんどないはずであろうに」
周囲に三浦はどこにも見当たらない。 
かといって、簡単に粉々に消滅したとも、三浦の生命力を思えば考えにくい。
おそらくは、威力の余波で、遥か腐界の方角まで吹き飛ばされたか。
「貴様が我が配下になってくれれば……これに勝る喜びはあるまいに」
心底、名残惜しそうに矢吹は呟く。
その矢吹の頬が、浅く裂け、細い血がしぶいた。しかも、その傷が再生しない。
知欠絶対空間の領域内にもかかわらず。
「……奴の執念が、ほんの一瞬、我が知欠絶対空間さえも切り裂いた、とでも言うのか!?」
矢吹の目が驚嘆の色に染まり、やがて歪んだ唇から笑い声が漏れる。
「面白い……味な挑戦状を叩きつけてくれたな、三浦建太郎」
傷はいつまでも再生することなく、いつまでも矢吹の頬に刻印されていた。
「認めよう三浦建太郎……貴様こそ、私にとっての最大の宿敵になり得る男だということを…。
 私は先、幾年月でも、この“最強”の座で貴様を待つ!!
 猛る己が心力挿して、この力を超えてみよ!!
 この私を超えてみよ!!フハハハハハハハハハハハハハハ!!」
修羅の夜に、帝王の歓喜の叫びは、どこまでも響き渡る。

ノックアップ開始まで、あと5分を切っていた。
  ←TO BE CONTINUED
307作者の都合により名無しです:04/07/29 21:25 ID:O78BvLOU
偉そうな人ったら強━━━━━━(´Д`)━━━━━━いぃ
308作者の都合により名無しです:04/07/29 21:40 ID:olE9GD+O
 私は先、幾年月でも、この“最強”の座で貴様を待つ!!
 猛る己が心力挿して、この力を超えてみよ!!
 この私を超えてみよ!!フハハハハハハハハハハハハハハ!!」

キメ台詞までパクリかよw
309作者の都合により名無しです:04/07/29 22:05 ID:TYU3fS08
> 私は先、幾年月でも、この“最強”の座で貴様を待つ!!
いや、3日って期限きられてますがwww
これで横内サイボーグ化がやっとできますな。がんばれ破壊のプリンス。
じつはこいつのヤブキサマって言い方すげー好きだったりw
310作者の都合により名無しです:04/07/30 02:27 ID:q0TmYdNK
>ベルセルク合金
そういえばあったな・・こんな設定(w
カムイの世界樹の肉体なみに懐かしいネタだ

しかし別府編もいよいよ終わりだな
311作者の都合により名無しです:04/07/30 10:46 ID:B5D9l8rf
なんか三浦と矢吹の最終決戦フラグが立った気がする
数々のパクリ技を誇る知欠を相手に、剣のみで勝負する三浦がカッコイイ
312バトル・ラブ・ランゲージ:04/07/30 16:02 ID:Wm2i7QaK
(20部446)

 「そう、貴様だ!そこの悪魔っぽい男! 闘(や) ら な い か 」

 「さすがにその手のネタも終わりだぜ!チラシの裏にでも書いてろ、な!?」

誰かと思えば島本和彦。対峙する悪魔(おとこ)は梅澤春人。
そう、ここは今なお続く地獄の戦場キャノンボールハイウェイinBブロック。
思い通りにならない自体にイライラを溜め込んだ、梅澤に降って湧いた謎の敵。
 「終わりか・・・そうかも知れん。だが男と男の闘いに終わりなどないッ!!
 俺は熱いバトルを求めている!漫画で、野球で、自転車で、拳で、足で、愛で!!」
 「・・・愛は違わねーか?」梅澤の横槍。
 「 い い や 同 じ だ !! むしろ愛は必要不可欠!!愛なき男は獣と同義!!」
 「わけわかんねーよ!」
 「 こ ぉ ーーーー の わ か ら ず 屋 ぁ ぁ ーーーーー !! 」

  ど が あ あ あ あ あ っ !!
 島本のお説教パンチが梅澤の左頬に炸裂した!!

 「グハッ!! テメー!なにしやがんでー!」
さしもの梅澤もペースを乱され素に戻っている。ダメージこそないがちょっぴり涙目だ。

 「いいだろう・・・俺が貴様に愛を叩き込んでやる!
 悪魔よ、名は何だ!俺は“バーニングファイヤー”こと 島 本 和 彦 だ !!」
島本、ノリノリ。全身の服を焦げさせながら、なおも内なる炎で魂を燃やす。


 「伊藤はーん、なんやあっちは楽しそうやねんな・・・って姉ちゃん!何しとんねん!」
 「え?わたくしは足のすばしっこいチビを捕まえてかかとで背を踏んづけているだけですわ」
 「うわーん!足の甲に釘がいっぱい刺さって痛いよぉ〜助けてぇ稲垣〜〜!」
 「(聞いてない)YA−HA−!!おらおら蜂の巣になりたい糞野郎はいるかぁーー!?」
けたたましい笑声と被って響く機関銃の斉射音。なんだかどこも大騒ぎ。
313バトル・ラブ・ランゲージ:04/07/30 16:03 ID:Wm2i7QaK
 「ケンカしてえんなら最初っからそー言いやがれ!
 もったいぶんじゃねー!俺は梅澤春人、またの名を“酔いどれ天使”!!」
両の親指でビシッと自分の胸を差す梅澤。
 「ほう、いい度胸だ。ならば俺の血潮を受けてみよっ!!」
 「!!」
    ─── ヒ ュ バ ッ !!   ・・・・・・びしっ!!

島本の繰り出した拳は途中で人差し指が伸び、10センチ先からまっすぐに梅澤の眉間を指し示す。
 「・・・そりゃどーゆー意味だ、てめえよお」
 「 『 あ っ ち む い て ホ イ 』だ 」
 「はぁぁ?」
指先のせいで自然と寄り目になった梅澤が素っ頓狂な声を上げる。

 「ただし指じゃあない。 拳 だ。ジャンケンで勝った方が殴り、相手は避ける!当たると痛い!
 力尽きて先に倒れた方が負けだ!!ジャンケンと肉体に自信あらば か か っ て こ い !!」

 ・・・ゴゴゴゴゴ・・・!!  炎逆巻くアスファルトの戦地に、ひときわ強烈な熱風。

 「・・・ロックだな、あんた。
 気に入った!やってやろーじゃねーか!!ところでこれ元ネタあんのか?」
牙を剥いてにやりと笑う梅澤に対して島本の返答。
 「わからん!!あるようなないような、いや絶対あると思うが思い出せない!!
 だがひとつ言えるのは、決して『モン○ーターン』ではないという事だけだ。
 あれは 幼 な じ み の 娘 が ほ っ ぺ た に チ ュ ー だからな!!」
 「力説すんなぁーーーーー!!!」
ともかく互いに一定の距離を置いて睨み合い、握った拳を背中に隠す戦士二人。

 「「さぁーーーいしょーーーはぁ・・・・」」

 「「グーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」」

凄まじい破壊音と同時に衝撃ではじける梅澤と島本の左頬と右拳!! バトルあっちむいてホイ、スタート!!
314作者の都合により名無しです:04/07/30 16:04 ID:fnxvO2pI
三日後のイベントが、仮にも触だからな
どういう形なるかは置いといて、確かに三浦絡めないんじゃ、ちょっと可哀相かもしれん

しかし別府に来てから俺が確認しただけでも、聞仲に袁紹に比古に鷹の目に丸神にグリフィスにサガに・・・
台詞や技のパクリもここまで来ると「ズル」の域だ(笑)
315作者の都合により名無しです:04/07/30 17:49 ID:mEUe5YZW
どうせなら三浦と戸土野の戦いが見たかったり


…戸土野ってどうなったっけ?
316作者の都合により名無しです:04/07/30 17:51 ID:PMq3Itls
えーと確か暗罪の体乗っ取ってそのまま倫タンと帰還したんじゃなかったっけ?
でも暗罪を乗っ取ったことはまだ知られてないはず。
317作者の都合により名無しです:04/07/30 18:00 ID:EkhxVNpD
暗罪を乗っ取ったのは真島では?
戸土野は他の漫画家と同じように矢吹に倒された後
矢吹復活をキユ勢に伝えに行った(19部669)らしい
318作者の都合により名無しです:04/07/30 18:35 ID:PMq3Itls
あ、そうそうだ間島だ。
ごめん記憶が曖昧になってた。
しかし、19部か…
319星霜の砂:04/07/31 22:16 ID:1Vcyev7J
>>89

 「おい、真倉が帰って来てからでいいんだぜ?俺の事ぁよ」
 「歯は早く治療しないと最悪死にますよ。おとなしくしていてください」

憎むべき刺客たちに冷静さを失って闇雲に攻めかかり、
盟友かわぐちに窘められた際に己の顔面を殴って戒めとした、本宮。
あまりの強烈さに歯をいくつか折ってしまったが、
本宮の頬に当てられた、岡野の≪鬼の手≫から放たれる彼の得意技“ヒーリング”の波動で、
少しずつ新しい歯が生えてきている。恐るべしは岡野剛である。
濃いメンツに押され、世話女房の副将以上の苦労性だが、
それゆえかメンバーの信頼は厚い。血気盛んな他の連中に対し、
常に冷静で客観的、一歩下がったところがある。
生真面目すぎるのが難点でもあるが。

≪鬼の手≫とは数年前、恐らく仕事で退治を請け負った岡野が滅し損ね、
当時人間だった真倉を封印媒体として無理やり自分の左手に押し込めた≪鬼≫である。
そもそも鬼とはどのような生物・生命体なのか、
怨念や精神の集合体なのかすらよくわからないわけだが、
 『人が闇に染まって変形したものであり、
 やがて心まで染まり尽くすと人に戻れなくなる』
などという説もある。あの≪強者のエキス≫も鬼を生み出す触媒のひとつと言える。
岡野に取りついた鬼も、かつては人だったのかもしれないが・・・詳細は不明である。

ともかく、抑え役の真倉がいないためややパワーを抑え、
治療者の傍らに立つ岡野はゆっくり本宮に回復波動を伝えている。
・・・ふと、岡野が本宮をしげしげと眺め、溜息をつく。

 「なんだよ、岡野。疲れたならそう言ってくれや」
苦笑いをする本宮に対し、岡野は首を横に振り言いづらそうに口を動かす。

 「・・・また、白髪が増えましたね、先生」
320星霜の砂:04/07/31 22:17 ID:1Vcyev7J
 「あン?そうかあ?まあ気にすんなよ。気は若いから安心しやがれ!がはは」
ことさら明るく笑い飛ばす本宮。
潜水艦の狭い個室に圧倒的な存在感を与える巨体が軽快に揺れる。
手作りのコタツに入っていた澤井がなぜかつられてケラケラと笑っている。
・・・数秒後には全身の空気が抜けたようにポシャって寝込んでしまったが。

岡野は大きく頷きながら、再び左手から癒しの気を送り始める。
だが、彼の心は今とは別の時間に飛んでしまっていた。

 (10年前。全てはあの一日から変化したのだ。
 だが肝心のあの日の記憶は、俺たちの中から少しずつ失われていた。
 それは忙しい日々の移ろいのせいだと、悲しい事だが仕方がないと思っていた。
 ・・・しかし何だ?あの刺客たちは・・・なぜ今この時に、俺たちを10年前に引き戻す?
 本宮さんの、あの尋常でない怒り方。巻き込まれただけの俺や真倉とは違う、
 恐らく何かを体験しているのだろう。
 奴らとの因縁も当時の事が関係しているのかもしれない。
 気になるな・・・今ここで聞いてみるべきか、
 他のメンバー・・・特に真倉とにわのが戻ってから聞くべきか、どうしたものか)

戦闘を日常する職種ゆえか、
青年期が一般人より数倍長いとも言われる彼ら≪クリエイター≫。
しかしやはり、寄る年波には勝てぬものなのか。
岡野は彼の瞳に映る、『魂の父親』本宮の頭髪を支配する白髪に、
過ぎ去った10年の時を重ね、再び小さな息を吐いた。


 『別府周辺の海域が異様な熱反応を出している。
 海底火山等の発生に似ているが情報が少なく断定できない。
 海面の嵐は収まったようだが、様子見のため陸方面から距離を取る』

原潜やまとの艦橋より、彼らの許へ通告が届いたのは間もなくの事である。
≪別府ノックアッパー作戦≫発動まで、残りわずかであった。
321乱闘の果てに‥‥!!:04/08/01 02:42 ID:1/gxUZw0
>>86 >>313
  ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!

地鳴りのような音が響き続ける‥‥
その音に振り付けするように、佐木飛朗斗の頭がピンボール状態で左右に弾け揺れ続ける。
高速のシフトウェイトが生み出す、脅威の連打‥‥
ウィービングが描く軌道のごとく、無限大の威力を秘めるブロー‥‥
そのラッシュが秘めるパワーは、あらゆる格闘漫画家の頂点に立つと言われる‥‥
森川ジョージ最強の奥の手、デンプシーロール‥‥!!

       ゴ   オ   ッ !!!!!!

一際、強烈な一撃が、佐木のテンプルにめりこみ、吹っ飛んで派手に壁に叩きつけられた。
ビヂャッ‥‥!!
人間が固体に激突したような音ではない。
まるで‥‥湿った何かが激しい勢いで壁に思いきり投げつけられたような‥‥そんな異音。
ズルズル‥‥と佐木の体が力を失ったように壁に沿ってずり下がっていく。
そんな佐木の有り様を目の当たりにして、ジョージは激しく息を吸う。
ラッシュは無酸素運動だ。まして、アバラを半分以上折っているジョージには、相当にこたえる作業だったろう。
「“終”わりましたか‥‥?」
タイミングを見計らっていたように、その声がジョージにかけられる。
「“あ”‥‥!?」
殴り合いで昂っていたジョージが、喰らいつくように声の方向を振り返った。
「‥‥ナンだヨ‥‥てめェか‥‥?」
「ナンだはないでしょう‥‥勝手な行動は程程にしていただかないと」
ジョージに向かって話しかけたのは、眼鏡にマント、ステッキの青年。
八房龍之助‥‥妖魔王十二使徒随一の穏健派であり、大罪衆の監視役も兼任している男。
呆れて溜息をつく八房‥‥ともあれ彼はようやく肩の荷が一旦は下りた、と胸をなで下ろしただろう。
‥‥その背後で蠢くものの存在に気付くまで‥‥
322乱闘の果てに‥‥!!:04/08/01 02:43 ID:1/gxUZw0
  ‥‥ジッ‥‥ジジ‥‥

頭の中で“ノイズ”が走っている‥‥

              ‥‥カッ‥‥カッ‥‥

 何故‥だ‥?
 何故‥啖(くら)い合う‥‥
   
      オマエ達は‥‥
      一つの命‥‥
      一つの魂‥‥

   
    ‥溶ける‥
              骨が‥‥


「フン‥‥!?言われなくても、今夜はもー疲れたからよ?帰って寝るぜ?」
「まったく‥‥和月さんといい‥‥三条さんといい‥‥しょうがないですね‥‥」



  躍ろーよ‥?
              互いを滅ぼす為の‥!


      永久の‥‥

             舞踏(ダンス)‥‥!!

         
323乱闘の果てに‥‥!!:04/08/01 02:44 ID:1/gxUZw0
カラ‥‥ン
壁の破片が落ちるかすかな音に反応した瞬間、ジョージの景色は吹っ飛んでいた。

                ゴ     ッ 

「‥‥“!!”」

     バァッ!!

花が咲くように鮮やかな血をまき散らしながら、ジョージが仰向けになって跳ね飛ばされていた。
「こ‥この“男”‥‥“森川ジョージ”の‥‥“あの連打”をくらって‥‥まだ‥‥」
滅多なことでは動じない八房が、珍しく驚いていた。
「(に‥‥人間では‥‥ない‥‥!?)」
蒼ざめた八房を、佐木が振り返る。
にたり‥‥
真紅の瞳で嗤う佐木を‥‥八房は‥‥
「(ま‥‥魔人‥だ‥!?この男‥‥)」
そう‥‥思った‥‥



一方‥‥吹っ飛んだジョージは‥‥

  だ ぁ ん !!

“あっちむいてホイ”やりながらブン殴りあってる島本と梅澤の間に割って入るように、叩きつけられた。
324乱闘の果てに‥‥!!:04/08/01 02:45 ID:1/gxUZw0
「ナンだァ!?」
殴り合いを邪魔されて怒る梅澤をよそに、島本は割って入ってきた男の正体に驚きを隠せない。
「お‥‥オマエ‥‥もしかして‥‥森川‥‥森川ジョージ‥‥!?」
「‥‥“島本”‥‥?久しぶりダナ‥‥?」

      ド   ゴ   ッ 

「がっふぅ‥‥!?」
ブン殴られた島本が、訳も分からず膝をつく。
「‥‥どーした?今の俺は“敵”だぜ‥‥島本‥‥油断コイてると‥‥」
「‥‥ジョ‥‥ジ‥‥?」
「‥‥“死”んじまうぜ‥‥?」
愕然としてジョージの顔を見上げる島本を、ジョージの冷ややかな視線が打ちのめす。


「ナンだ、テメ、コラ‥‥勝手に割り込んでエラソーにしてンと潰しくれてヤンぞ‥‥!?」
「潰すのはテメーごとだぁ!“梅澤”ァ!!」

      ゴ  ツ  ン  !!

「ぐ‥ぅおぉ‥‥」
後頭部を鉄パイプで強打され、梅澤が鼻血と頭血を出しながら呻いた。
「‥‥“佐木”ィ‥‥テメェ‥‥!!」
「ヒャッハァッ!!」
すでに相手など誰でも構わん‥‥というか全部が敵だモードに入った佐木が梅澤に殴りかかった。
325乱闘の果てに‥‥!!:04/08/01 02:46 ID:1/gxUZw0
「今だッ!対人(タイマン)は終わりだッ!乱闘だぜ!?特攻(ブッコ)んでグシャグシャにしちまえ!!」
「おおおおおおおおおおッ!!“がつん”だ!!」
TWO突風終了により、漢字やカタカナを使えるようになった旭凛太郎と、なぜかいまだに平仮名しか使えない藤井良樹の二人が、鉄パイプ片手に乱闘に突っ込んだ。
このまま乱闘に持ち込んで、全て有耶無耶にしてしまうつもりだ。
どちらのタイマンもあれ以上続けては危険だと判断したTWO突風の英断である。

「どーやら、てってり早く喧嘩終わらすには、それしかなさそうやの?」
「しょうがない方々ですわね‥‥万遍なくえぐってあげましょう」
「あんたが言うな」

「そろそろズラかるぜ、糞チビ!もう祭りは終わりだ!」
「うわあ、待ってよ稲垣ぃ!!」

果てしない乱闘は、一挙に集束点へと向かっていく‥‥
そして、ピリオドを打つ“もの”は、終に降臨した‥‥!!

   ギャバババァ‥‥!!

             !?!

突如、乱闘現場に割り込んできた、一台のレーシングカー。
並みいる猛者たちの心臓を一瞬で鷲掴みにし、乱闘現場に静寂をもたらした奇妙な威圧。
強いだとか‥‥弱いだとか‥‥そんな些末な判断基準の埒外に存在する異形‥‥
“次元”が違う‥‥とはこういうことか‥‥
「‥‥よう‥‥遅かったじゃねーか‥‥」
梅澤が、その名を呼んだ。全てにピリオドを打つ存在の、忌わしき名‥‥

        
          ‥‥ K I Y U ‥‥
326作者の都合により名無しです:04/08/01 04:25 ID:ybnnxZ9e
うおおー!
ダンスったー!
すごい人キター!!
327作者の都合により名無しです:04/08/01 07:58 ID:xvq+Yr4y
巻き込まれて喋りの雰囲気変わってる人達が、十三の絵で浮かんだ
ジョージだけの時はそんなこと無かったんだが…
とりあえずGJ!
328サーキットの狼:04/08/01 16:06 ID:hENFwo66
>>325 20部256 7部360・458 15部335他色々)


 誰だ・・・?

 この威圧感・・・

 赤いレーシングカーに乗った、小さな人間・・・

 それだけの存在なはずなのに・・・

 全身に悪寒が走る・・・

 何者だ・・・?



 「本当はレーシングカートがよかったんだけどね。みんなが格好つかないって言うから」

極限まで高速の走りを追求した、飛行機の羽のようなフォルムの、
世界最速クラスのスポーツカー≪ランボルギーニ カウンタック≫から下車した小柄な少年が、
メタンガスに溢れた高架の戦場に呆れて手の平をはためかせながらしゃべった。
彼の額に何か文字のような紋様が見える、前髪に半分隠されてよくわからない。
少年の体躯に不似合いな深紅の高級モンスターカーが、より一層不可思議さ、不気味さを演出している。
甲虫の羽根のような形状と動きで、独特な開閉をするランボルギーニのドアには、
殴り書きのように白い塗料でアルファベットと数字が描かれている。

 ―――― 【 NUMBER 10 】と。

 「せっかくだからキャノンボール大会に参加しようと思ったのに、
 なんだかよくわからない事になっているんだもの。
 そういえば梅さん、昼過ぎに呼び出したんだけど、連絡届いた?」
329サーキットの狼:04/08/01 16:07 ID:hENFwo66

 「ああ、来てたぜ。だからわざわざ別府からこっちすっ飛んでよー。
 今朝まで鹿児島だったんだぜ、忙しいったらねーや。
 ・・・で、結局俺様になんの用事だったんだ?・・・キユ、よ」

島本と鉄拳で熱く語り合い、赤く膨れた左頬もそのままに、
梅澤が頭部から新しい血をドクドクと流しながら不敵に笑う。
 (キユ?)聞きなれない名前に首を傾げる、戦場に残った数名の漫画家達。
―――10年前、集英社を中心とした破壊の衝動の、詳細を知らぬ者の心にその名自体は残らない。
傍目ごく普通のおっとりとした少年であり、奇妙な気配こそ漂わせているが、
人によっては“世間知らずのお坊ちゃん”程度にしか見えないからであろう。
しかし・・・少年は、ただのお坊ちゃんなどではなかった。
傍らの赤い羽根の車もそれを如実に物語っていた。

 「ああ、それは僕らの基地に帰ってから話すよ梅さん。
 それにしても、ここのブロックは汚いね。昨日から矢吹艦の、
 ワープセキュリティが厳しくなってから、ゴミの排出が大変なんだろうね。
 まあ僕のせいなんだけど・・・ゴミは掃除しないと、ねえ?」

無邪気ににっこりと笑う少年―――キユ。
ただそれだけの行動が、周囲に細波のような動揺を与えた。
少年が何を考え、何の意図を持ってその台詞を口に出すのか。
片倉は取り戻して間もない、生身の身体から噴き出す冷汗を必死に拭った。


 (・・・この気配!この全容掴めぬ謎の小宇宙!
 あいつが、あの男がこの地に現れたというのか!?)

原の朋友・巨馬の松風にまたがりBブロックを駆ける、
盲目となった車田が瞼を閉じたまま、馬を止め見えぬ周囲を見渡した。

車田は一度、彼と・・・キユ少年と出会い、敗れているのだ。
330サーキットの狼:04/08/01 16:09 ID:hENFwo66
悪の心に染められていた猫状態の高橋留美子が捕らえられていた、
キユ陣営のあるAブロック内部へと青山剛昌が救いに向かった際、
当時車田は高田祐三の手によって青山と同化していたのだが、
色々あって留美子奪還と青山との分離に成功した。
(第7部『聖魔の帰還』参照)
しかし、岡本倫の依頼で侵入者排除に借り出された≪同盟者≫真島が3人の前に立ち塞がり、
その真島を止めるため自ら顔を出したのが“KIYU”――キユ少年であった。
(KIYU陣営は各々が好き勝手に行動するきらいがあり、宇野をいつも悩ませている)
キユは闘おうとする車田を一蹴し、真島をただの一言でその場から立ち去らせた。

その際にどうやら矢吹艦内でのテレポート制限が厳しくなってしまったらしく、
それから車田は遠距離移動に苦労し、当時川原捜索中のにわのを捕まえて異次元移動を図るも、
荒川の入浴シーンに立ち会ったりヌードフェンシングの決着を見て気絶したり散々であった
・・・のは余談である。

車田は恐ろしい記憶をかぶりを振って脳裏から追い払うと、
再び松風の手綱を握り、多くの気配がぶつかる高速道の上を目指して走り出した。

 「あの時とは何かが違う・・・そう、動き始めたのだ・・・ KIYUそのものが・・・!!」



矢吹やKIYUと同盟関係にあり、監視者の小畑を引き連れ不機嫌だった当時の真島。
鬱憤溜まった男をあっさりと引き下がらせた、少年の「たった一言」とは―――

 「うーん。何でも吸い込める掃除機とか、あるといいんだけどな。
 まあいいや、梅さんちょっとそこをどいてくれないかな?危ないよ」
ちょいちょいと手で指図し梅澤を移動させるキユ。これから何が起こるというのか。

 「Live Like Rocket・・・お久しぶりです、9部A274以来の登場です。
 ポップで熱い仕上がりになりました。これからも応援よろしくね。
 それではどうぞ、キユで 『 ロ ケ ッ ト で 突 き 抜 け ろ 』 !!」
331作者の都合により名無しです:04/08/01 16:44 ID:Bp7e4Mn3
ロケットキター!!
332作者の都合により名無しです:04/08/01 19:39 ID:MaBwUJUL
キユきたああああああああああああ
333メイン・ディッシュ!:04/08/02 13:08 ID:cC6/uEJF
>306 >前スレ552

吹きっ晒しの瓦礫に腰掛け、大ボス風に黒猫を撫でている矢吹の前に、大川と猫井は片膝をつき控えていた。
「―――ジャバウォックの無差別レーザー攻撃と、別府上空での翅蟲掃討戦により。手勢の三分の一を失いました事を」
「お詫びいたしますわ」
猫井の釈明を、大川が締める。
報告を聞きながら、たいして興味も無さげにしていた矢吹の見つめる、夜空の先。
急速に大気が澄み、雲は晴れ、煌びやかな大小の星々が天空に戻りはじめている。
「―――まあ、そんなものだろう」
ジャバウォックの現出により瞬く間に広がった嵐は。その到来と同様、去り際もまた風の如し。
あるいはまるで、そんなものは最初から存在しなかったかの如く。
ごろごろと、黒猫・横内が喉を鳴らす。
「―――次の手筈は?」
「なんとか」
だが空の真実は、既に次なる変異に見舞われていた。
―――おかしい。
妙だ。
よくよく見ればあの星々、『煌びやか過ぎる』。
赤やピンク、蒼や黄色の星彩など。地球上から、はたして見ることが出来たろうか?
耳をすませばどこからともなく、ゴウンゴウンと一体化式の大規模工場のような駆動音が、腹に響く。
―――そう。
やっと来た。
ようやく来たのだ。
「―――では行け」
静かに立ち上がる二人。
去ろうとするそれを、矢吹が思い出したように呼び止める。
「ああ、そうだ」
怪訝そうに振り返る猫井に近付き、黒猫を手渡す。
「ついでに、こいつを上に連れてってやってくれ」
そして返事も待たず、矢吹は背を向け歩き出す。
大川の耳に、最後にこう、聞こえた。
「では、始めるとするか」
334闇の獣:04/08/02 23:18 ID:ZkOd/tzr
>>283 >>306 >>320

瘴気漂う人を拒みし、自然の結界――腐界。
別府沖を埋め尽くすようにして出現した、暗黒の大海の底で、ひとりの獣がもがいている。

全身を漆黒と、返り血と自らによる朱に染め、倒れ伏す男。
三浦建太郎――力及ばず、帝王を僭称する知欠王に敗れ去った彼は、闇の底にいた。
                  
 クス         クス               クス
      クス                クス
  クス              クス
          クス
                               クス

今しも朽ち果てようとしている三浦を、わだかまる闇が嘲笑う。


  ――殺した               ――ああいっぱい殺した
           ――殺したね


     ――蟲を
           ――自然の守主を
                       ――殺した
        ――たくさん
                  ――ああ殺した

  ――無辜の誰かを助けるためじゃない
                     ――自分の怨みをはらすために
――いっぱい                 
          ――殺した           ――殺した
335闇の獣:04/08/02 23:19 ID:ZkOd/tzr
 ――自分の思いをとげるために
                  ――助けを求める市民を
     ――仲間を
             ――見殺しにしようとした

  ――蟲だからいいの?
                       ――殺していいの?

     ――読者かも知れない人達を
                        ――見殺しにしていいの?

      ――自分の怨みが果たせれば
       
                ――殺していいの?
   ――闇の臭いがするよ
            ――するよ    
          ――お前はオレたちととても近い闇の臭いが
       
      ――いるのさ
            ――お前の中にはいるのさ
  
          ――獣が
   ――黒い黒い

          ――― 闇 の 獣 が ―――
     
  ――渇いていくよ                ――どんどん
             ――こいつがいると        ――渇いていくよ
   
 ――血を浴びれば浴びるほど              
               ――どんどん渇いていくよ
336闇の獣:04/08/02 23:20 ID:ZkOd/tzr
                     ――殺せばもっと渇くよ
   ――獣は底無しの大喰いだから
                   ――渇けばもっと殺すよ
       ――血を浴び続け  
             ――殺し続け    ――渇き続けるんだよ

    ――ずっと            ――ずっと
            ――1人きりで   
                               ――ずっと
        ――1人
                       ――ずっと    
               ――ずっと

     ――そして獣はお前を喰いつくすよ
          ――お前に取って代わるのさ
   
  ――憎しみ以外何も感じなくなる
                     ――人の形をした怪物になるんだ

            
           ――…いいや
  
   ――もしかしたら
                  ――本当の怪物になれるかも
         ――なれるかも
       ――かも         
             ――かも         
    
     ――あの知欠王みたいに 
                   ――みたいに……   
337闇の獣:04/08/02 23:21 ID:ZkOd/tzr
ふざけるな!!!

血と闇の泥濘に沈む意識の淵で、三浦は叫ぶ。

こんなところで 

       ――贄        
                  ――贄

……だが

いつになったら

届く?

あとどれだけパクリ漫画どもを掻き分けたら

あとどれだけ同人作家どもを斬り倒したら


どれだけ闇の中を這い回れば  


あいつに…………………………………………

 …………………………………………
 ……………………………
 …………………
 …………
 ……
 …
338闇の獣:04/08/02 23:25 ID:ZkOd/tzr
場面は変わり、戦艦・無礼ド。
無礼ドはすでに、腐界の上空を飛んでいた。
さっきまでひっきりなしに押し寄せてきた翅蟲の大群も、大分沈静化してきている。
しかし、腐界の奥深くでは、まだ大量の蟲どもが棲息しているだろう。
そして、そこには王蟲もいるはずである。
ノックアッパー作戦が迫る中、いまだ危機は去っていない。
その渦中にて、悩む者がひとり。樋口大輔である。
「結局……ここでも私は何もできない。同じだわ……あの時と」
あの悪夢の島を思いだし、自分の力の無さを痛感し、樋口は悩む。
「私の戦場……私の戦場とはどこなんだろう」
かつて、敬愛する男に言われた言葉が、樋口の胸をしめつける。
煩悶を繰り返す樋口の背に、ふと声がかけられた。
「大輔、大輔!」
自分を下の名前で呼ぶ者は、この艦には1人しかいない。樋口が、振り向いた。
「リック君、目が……覚め……」
言いかけて、樋口は硬直した。
なぜなら、そこに立っていたのは、いつもの小柄な金髪の少年ではなく、妙にカクカクした大昔のブリキの玩具みたいな、『ロボット』だったからである。
「……リック君……よね…?」
「何を言ってるピヨ、大輔。我輩以外に、リックはいないピヨ」
(……我輩? ……ピヨ?)
「そんな事より、大輔。さっきから我輩のセンサーに反応があるピヨ」
(………センサー!?)
樋口の頭は激しく混乱した。しかし、次の一言で、完全に我に帰る。
「この反応は……三浦建太郎殿ピヨ」
「…………………………………………………え!!?」
三浦が、この腐界のどこかにいる? でも、なぜ? いや、そんなことはどうでもよかった。
ほとんど、無意識に、樋口はリックに掴みかかるようにして叫んでいた。
「リック君、私を一緒に、そこまで連れていって!!」
339作者の都合により名無しです:04/08/02 23:43 ID:hkGj7hrp
三浦の葛藤が、上手い。
ただパターンが荒川内藤と同じだな…
この後流れで三浦がBチームに入ったりはしないで欲しいと意味の無い希望を言ってみるテスト
340作者の都合により名無しです:04/08/02 23:45 ID:raIMdKYj
腹の異世界から出たようですが、
制裁された安西は生きてますか?w
341作者の都合により名無しです:04/08/03 02:00 ID:19Fx/DQV
このリックはもしやコーラルQ?
あの超変形に長谷川あたりがどういう反応するか見てみたいw
342作者の都合により名無しです:04/08/03 18:05 ID:HRFDRBBP
リック……さすがギャグ漫画家なだけはある。
 「で、この『ふすま』は結局どうするのだ?カズロウ」
 「うーん、使い道がわからないけど、せっかくもらったんだしなあ」

雨宿りをする間、にわのに半ば押しつけられたアイテム『どこでもふすま』を、
しげしげと眺め開閉し、何度も首をひねる井上和郎。気がつけば雨はやんでいる。
ふすまの持ち主は横引き戸の向こうに消えたが、傍目ただのふすまである。
“仇敵”板垣との繋がりもよくわからない以上ただのかさばる道具でしかない。
 「・・・ミギー、確かあの人“どっかに行く”ために中に入ったよね。
 って事は、もしかして行きたい場所を念じれば辿り着けるって事なのかな?」
 「非常識だがありうるな。≪世界≫はひとつではないという。
 このふすまが≪外≫に通じていて、別のどこかに旅立てるのかも・・・ ・・・」
ふとミギーこと岩明は口をつぐみ、変形した和郎の右腕の先にある、
不気味な単眼を和郎の『額』にギョロリと向けた。
 「な、何見てるんだよー」
 「・・・・(もう少し私との細胞融合が進めば、あるいは・・・)」
 「なんだよ、僕のおでこに何かついてるのかぁ?」
額をゴシゴシとこする和郎に、岩明は何も答えない。
 「ちぇ、まいっか。とにかく実験してみよう。
 ふすまさんふすまさん、僕らを別の世界に連れてっておくれ」
ホニャーと祈り、すらりと戸を引く和郎。
そこには雨宿りした軒先ではない、全く違う光景が―――

 武井「ああっ!知ってる顔だ!助けて、この世界から僕を連れ出してく・・・うーわぁー!」
 光原「アウターゾーンの扉が開きました・・・そう武井先生は異次元での修行を、
    終えたと思ったら変な力でで宇宙船墓場・サルガッソーに連れてこられてですね」
 小野「今度こそ逃がさん!BF(バーコードファイター)復刊にBJ(万乗)アニメ記念で復活だ!」
 万乗「そうだ!今こそ【超・参炉里魂】として合体変形ロリ魔王になるんだ武井君!」
 武井「いーやーだー!あんたら足を引っ張るなー!成仏したいのかぁ!?」
 島袋「なんでもいいから地球に返してくれよ〜俺を〜〜」

直後、怒りの武井の攻撃で爆発炎上するサルガッソー。
和郎は無言でふすまを閉じた。     ★次号、武井先生の活躍にご期待ください!?
344作者の都合により名無しです:04/08/04 00:50 ID:YkNOMyzD
呪いのような復活劇だなw
アウターゾーンの彼方に追い払ってしまえ>参炉里
345嘲笑:04/08/04 12:47 ID:RRQOr4uN
>333 >前スレ409

例えば『ナノだから』
例えば『オリハルコンだから』
例えば『タオだから』

かの『絶対知欠空間』においても『ルール』は…………
否。『理屈』は必須である。

元より叶わぬ事。
もこなあぱぱがその超越の演算で、如何な公式を導こうと
そもそもの初期入力が間違っていれば、それは誤った『解』でしかない。



地響き。
本日最大の突き上げが、別府の街を襲う。
つまり、『上昇する海流(ノックアップストリーム)だから』
ああ、無辺なる『絶対知欠空間』よ。



誰ひとりその手で殺めぬ『男』
とりあえずの『完遂』
間近にして『微笑』
『N』はなんでも知っている
『N』はなんでも知っている
『N』はなんでも知っている……………



……………おおお……『月』よ!!!
346足掻き:04/08/04 12:48 ID:RRQOr4uN
>333 >19部682

技来静也が、かつと目を見開く。
(これは……!?)
間違いない。
この怖気。この既視感。
覚醒したばかりの脳裏に、かつて自らを滅ぼした腐敗の超領域がよぎる。
(絶対……知欠空間……!?)
見知らぬ天井。
いまだ痛撃の芯を残す腕を寝台につき、ひりつく喉で息を貪る。
―――気配を探る。
(……居ない……)
少なくとも近くには、彼の怨敵の存在は無い。
(……と、なると)
この広さと、この力。双方を必要とする『何か』が、この別府を舞台に今しも成されようとしている。
「―――ああ、無理をなさらないで下さい」
白衣を着た誠実そうな男が近付いて来る。技来を再び横にさせようと、肩を掴んでくる。
「おい」
ぎろりと睨め上げ、手を重ね、問う。
「ここは、どこだ」
「……『松椿』です。あなた方は重傷を負い、気絶したまま運び込まれて来たんですよ」
一瞬躊躇するも、丁寧に答える山田医師。
聞きながら、周囲の暗がり、重傷者達のうめきに目を凝らす技来。
(…………そうか。俺は負けて……)
347足掻き:04/08/04 12:53 ID:RRQOr4uN
一矢すら、報いる事が出来なかった。
(ッ……やはり『呪い』を、せめて一時的にでもおさえない限り……!)
悔恨と、燃え滾る憎悪。
砕くほどの歯軋りに。ふと見れば、どんな顔をしてしまったのか、医師がかなり引いている。


     ド   ン   !!!!!!!!


突然の、大地の揺れ。そこかしこで悲鳴と、モノの割れる甲高い音。
―――そうだ。
とにかく今は
「治療、感謝する。それから、逃げろ」
「は?」
立ち上がり、傷を気にした風もなく身支度を整える技来を
震動に尻餅をついた山田医師は、周囲をキョロキョロした後、呆然と見上げる。
「俺にも、なにが起きているかは分からん。―――だが、これだけは確かだ」
我に返った山田医師の制止を、引き摺るように進み、振り向く。
「―――矢吹健太朗が、なにかを企んでいる」

そして技来静也には、『それ』に自らの身を任せる理由が。なにひとつ無かった。
348『その先』:04/08/04 12:55 ID:RRQOr4uN
>220 >286

ほんの少し、時間は遡る。

祭や、キャンプファイアーを想起させる高い炎が。衰え、黒い灰の中に消えてゆく。
別府という薪、『人』という薪。
それらを燃やし尽くし、眼下でチロチロとした点になりつつある赤は、始原の闇の中に、今、埋もれつつあった。
(なんか……切ねえな)
その光景は、安堵よりむしろ寂しさをかき立てる。むろん、不謹慎な感想ではあるのだが。
松椿と街とを往復し、何度目かの救助活動を、空中でおこなっていた鳥山明は、そこでふと頭上を見上げた。
(……あれは)
高速で、上昇する。
「――――――鳥山!?」
向こうも気付き。下降してくる。
それは雲海でまごまごしてる間に港の異様な気配が消え、また嵐も晴れた為舞い戻ってきた
Xを駆る荒木飛呂彦と、藤崎竜であった。
思いがけぬ再会に、まずは互いの無事を喜び合う。
「―――で、状況は」
しかし束の間の歓喜を、すぐさま表情から洗い流し、荒木は問う。
「……いや、正直オラにもよく……」
省みれば、ほとんどここまで、他人に流されて来たのだ。
その流れの最中、勢いでゴッドハンドを慄かせたりもするのだから、やはりまあ、ただ者では無いのだが。
この男タイプとしては猛将であり、しかもその力の割には、今ひとつ戦歴が地味。
「……一応、松椿に要救助者を集めて。テレポートで逃げようとか、計画してんだけど」
智将に対し、どこか自信なさげに、自らの考えを説明する鳥山。
「…………」
なんともいえぬ荒木の表情。
アホな我が子の通知表を開いた、母親の嘆きにも似ている。
「……あー……鳥山。お前がやろうとしていることはな。鰯の群を、釣り竿で一匹ずつ釣るようなもので――」
言いかけた台詞に、しかし途中で目を伏せる。
「―――いや。皮肉を言っている場合では無いな」
顔を上げ、真っ直ぐに鳥山を見つめる。
349『その先』:04/08/04 12:56 ID:RRQOr4uN
「スマン、鳥山」
言うが早いか、荒木の指先が宙を踊った。

「 ヘ ブ ン ズ ・ ド ア ――― ッ !!!!! 」

   バ ガ ァ !!!!

軌跡が、帽子を被ったピンクダークの少年の絵を象り。
それを目に映した鳥山は、奇妙な音と共に、人型をした一冊の本と化した。
「フム……フム……」
落下しかけるそれを掴み、引き寄せるや、一枚一枚、荒木は丁寧に『鳥山の顔のページ』を捲る。
「……ムッ!?」
その手がピタリと止まり、一塊の文字列を凝視する。


 「・・・“今動くのは得策じゃない。『街が飛ぶ』前に光線で撃墜される”?
 お前俺が嫌いなのは仕方ねえけどよ、もうちょっと人にわかるように話せ」
 「人間にわからねえモンがわかるんだな、あいつ。
 しかし街が飛ぶって何の事だ?王蟲から逃げるために街がジャンプすんのか?」


……奇妙ではあるが、『漫画家』の波乱万丈の人生を『読んでいる』場合において、あえて目を留める理由は、通常、無い筈の一文。
しかし荒木飛呂彦の、明晰にして忘れっぽい頭脳は、『それ』を切欠に、瞬く間にいくつかの論理の糸を結びはじめていた。
(……そう。鰯の群を攫おうとするなら。釣り糸を垂らすのではなく、網を張るべきだ……)
(車田によれば……矢吹は『別府を救う』と。そして『細かい所にまで手が回らない』と言っていた。らしい……)
(……我々の戦いに介入し、ゆで将軍を呼びつける事態……)
(『別府を浮かす』という発想……足りない人手……その先にあるものは、なんだ?)
(……決まっている!!王蟲の、足止めだ!!!)
飛躍する論理の結び目の向こうで、別府(ここ)に来る直前に描いた、そして先ほども雲海の中で描いた、『あの男』の顔がチラつく。
ほぼ直感。しかし
(……考えろ!荒木飛呂彦!!!)
『あの男』は今まで、誰にも尻尾を掴ませなかった。
350『その先』:04/08/04 13:01 ID:RRQOr4uN
狂気の奥に自らの真実を隠し。
それ以前に、何度か『捉えた』こともあったが、それは結局、今鑑みれば『捉えたと、思わされた』だけだった。
―――今回だって、そうかもしれない。
しかし、だからといってここで『無駄無駄ァッ!』という恐怖に負け、欠片ほどの可能性を逃すのか?
そんなことをすれば
矢吹陣営の重鎮として、また手の届かない厚き壁の向こうに埋もれてしまうか。それとも再び、どこへともなく姿を眩ますか……。
(……王蟲の群を、結界の類で防いでいる、ということはありえない)
(どれほどの力量があろうとも、あの圧力を単一の防壁で防ぐのは不可能だ……)
(事実、僕達は別府入りする際に、そういった障壁の存在を全く感じなかった……)
即ち矢吹は、四方を、トップクラスの漫画家に守らせなくてはならない、ということ。
(……いや。『別府を飛ばす』という仕事がある)
(それは誰の仕事だ?)
(……そうか!……成る程!それで矢吹艦が……!)
雲間が切れた今なら分かる。
眼下に広がる街並。
そして、南方より来たりてもうすぐそこまで、超超巨大戦艦が迫っているということが。
(……いずれにしても『別府を飛ばす』という仕事は『どこで誰がやるか』また『何人でやるか』全くわからん!)
(……ならばかえって、決め打つことが出来る!!!)
即断され、選り分けられる情報。
(論理的にソツの無い思考で、そも『奴』を捉えられる道理も無い!)
まだ赤き津波の蹂躙が及んでいない街を、見下ろしながら、賭ける。
(別府を飛ばす人間が一人《と、決めつける》!!!)
(別府を守る人間が四人《これは、ほぼ間違い無い》!!!)
(面子は、矢吹・将軍・アンノウンが二人……)
(そして―――『N』だ!!!)
四方を回れば『N』に会える確率は『4/5』
かなり、悪くない!!!

  バ ァ ――――――― ン !!!

派手目の効果音と共に、鳥山が元に戻る。
「?????」
351『その先』:04/08/04 13:03 ID:RRQOr4uN
何が起きたのか分からず、不安そうに辺りを見回す鳥山。
「―――大丈夫、心配するな。少し、記憶を読ませてもらっただけだ」
「!?なっ、なんてことすんだオメ!?」
食ってかかる鳥山を、なだめるというより、鼻で笑う。
「―――ついでに『頭がすこし良くなる』と書き込んでやった。むしろ感謝しろ」
「ぬなッ!?」
荒木飛呂彦、興奮してるのか素なのか、かなりの傍若無人ぶりである。
「そんなことより、聞け」
プライヴァシーの侵害を『そんなこと』扱いされ、完全に絶句する鳥山の眼を見据えながら淡々と語る。
「その救助活動だが―――もういい」
「な、なんで」
「そんなやり方では、別府の民全員を救うことは、とても無理だからさ」
薄々、勘付いてはいたのだろう。はっきりと現実を突きつけられ、鳥山は肩を落とす。
「それに僕の読みが正しければ―――そんなことをしなくても、全員助かる」
「えっ!?」
今度は喜びと驚きとを半々に浮かべ、顔を上げる鳥山。背を向ける、荒木。
「それより、これからすこし付き合ってくれ―――」
自らの乗るXに何事かを告げ。振り返り、誇らしげに頷く。

「おそらく今が、『あの男』に迫る最大のチャンスだ!!!」

―――如何な運命の導きか。
それから、真っ先に向かった『南』の荒野(荒木達はXで南に向かい飛んでいたので、とりあえず四方の内そこが一番近かった)
その先に
全ての『糸』を繰る、その『男』は―――居た。
352作者の都合により名無しです:04/08/04 14:43 ID:4VmPL3K0
うっわー、なんつー最初期の因縁だよ…荒木とNなんて …
荒木の唐突な自殺は、本当にインパクトあったよなぁ。
353作者の都合により名無しです:04/08/04 14:46 ID:RzRgTSvM
未だにえなり史上最大の怪奇なんだよな荒木自殺事件
354道連(なかま):04/08/04 22:09 ID:eb+mw/fJ
>>338

 ドドドドドド……

暗黒と腐敗に満ちた静寂を、重低音が突き破る。

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

叫ぶ爆音。ハイビームが、闇を切り裂く。
夜の森を、暴走にも似た高速で突っ走るのは、一台のバイク。
その後部座席に跨がっているのは、ボーイッシュな少女。
そして、鋼鉄の荒馬の手綱を操るのは、純白のボディをした異形。
絶妙なバランスで、華麗な秋葉流乗りを披露するのは、その面は勝利の『V』!!

「ふっかぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜つっ!!!(CV:若本○夫)」

雷句誠こと、『V字型のビクトリーム』、美しく見参!!!

                ――――――― ドガッシャアア!!

当然というべきか、ようやくというべきか、目的を視界に収めたところでバイクが転倒。
ビクトリーム様が派手に吹っ飛ぶ先には、なぜか宝石のごとく美しきマスクメロン。
後部座席に座っていた少女――樋口がリックに協力を要請した際の交換条件である。
「ハァアア!!!」
ガブゥウウウと勢いよく華麗にメロンにかぶりつくビクトリーム様。
ブシャボショジョブジョブ……と美味しそうにメロンを咀嚼する音が森に響く。
「………………三浦さん!!」
その横で、持ち前の運動神経によって見事な着地を決めた樋口が、倒れ伏した黒い剣士を必死になって揺り動かした。
355道連(なかま):04/08/04 22:10 ID:eb+mw/fJ
「お願い、目を覚まして三浦さん!!」
「アーイル・ビー・バ―――――ック!! ビクトリーム!!!(CV:若本○夫)」
「目を覚まさないと死んじゃうわ!!」
「ゲ−ット・バ―――――ック・ナ――――――ウ!!! ビクトリーム!!!(CV:若本○夫)」
「………………」
「お口にとろけるベリーメロン!! ワン・トュ− ワン・トュ− ベリーメロン!!(CV:若本○夫)」
「バカ――――!!」
「ブルァアア!! ブルァアア!! ベリーメロン!!(CV:若本○夫)」
「私にあんな偉そうなこと言っといて、貴方はこんなところで終わるつもりなの!?」
「おかわりだ!!(CV:若本○夫)」

「 や  か  ま  し  い  ! ! ! 」


           〜〜しばらくお待ち下さい〜〜


「ハァハァ……、と、とにかく三浦さんを運ばないと……」
ひとしきり怒りをぶち撒けた樋口が、重傷で気絶したまま動かない三浦を動かそうとする。
しかし、そのときである。
「大輔、すでに囲まれたようだぞ」
V字型のボディのところどころに新しい絆創膏を貼付けたリックが、声に緊張を込めた。
「………!!」
いつの間にか、リック・樋口・三浦の周囲を、夥しい翅蟲の大群が覆い尽くしていた。
「ど、どうするのリック君!?」
一見平静さを保ちながら、その実、おぞましい恐怖に冒される樋口が震える声で呟く。
「フハハハハ! 小賢しい虫ケラどもを踏み潰す! その名はビクトリーム様!!」
それに答えたのは、常のリックからは想像もつかない、不敵な自信に満ちた笑声だった。
「分離せよ!! 我が美しき頭部よ!!」
瞬間、ビクトリーム様が華麗なる『V』の体勢をとると同時、その美麗な御首が分離した。
356道連(なかま):04/08/04 22:11 ID:eb+mw/fJ
「視界良好!!! この状態に死角なし!! 我が体はVの体勢で待機せよ!!!」
自分達を取り囲んだ翅蟲達を、上空からグルリと睥睨する美しきV様の頭部。その頭部が、目まぐるしい回転を開始する。
「荘厳回転(グロリアスレヴォリューション)!! 3・6・0!!
 加速(アクセル)・加速(アクセル)・加速(アクセル)・加速(アクセル)!!」

「 マ グ ル ガ ァ ! ! ! 」

  ―――― ブ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ !!!!!

荘厳なる高速回転する御首から乱射される、美しきVの破壊光線。
それは、腐界中に、美しき勝利を暗示するVの爪痕が刻み始めた。



………
……………
……………………外界のあまりのけたたましさに、三浦は深い闇の眠りから目覚めた。そこで彼が目にした光景は。

「フハハハハ、時間の問題だな! この森の崩壊とともに虫どもも消えていくだろう!!」
「ちょ、ちょっとリック君!!」
絶好調で翅蟲どもを焼きつくし、腐界を薙ぎ払っていくビクトリーム。
あまりに味方を省みない破壊ぶりに、抗議する樋口。
「…おい」
三浦は、その光景になかば唖然としながら、呆れたように呼び掛けた。そのとき!!
 
    ――――――ドガアアアア!!

「三浦建太郎、撃沈!!!」 
ビクトリームが高らかな叫びを、三浦は高速で吹っ飛びながら聞いた。
357道連(なかま):04/08/04 22:12 ID:eb+mw/fJ
「………………!!」
マグルガをまともに喰らい、深々と大の字になった三浦が、声にならない呻きをあげた。
「…………………」
さしもの樋口も何も言えず、ただただ頭を抱えていた。
そこへ、リックがてくてくと歩み寄り、一言。
「感謝するがいい、華麗なる気付けの一発だ!」
「てめ……わざとか……」
激痛に顔をしかめながら、三浦が唸る。
「……ふざ……」
その貌が怒りの形相へと変じ、
「……へ」
瞬時に、それは苦笑となった。
「ハ…ハハハハ……!!!」
終には、それが爆笑と化した。
「?」
樋口もリックもさすがに呆然とする前で、三浦は涙が出るほどに笑っていた。
やがて、どこか吹っ切れたように身を起こす。
「……ったく、てめえらがいると力が抜ける。マジでやってんのがアホらしくなるぜ」

  ………ヒュウウウウウ

木枯らしが吹き抜けていく。
いつの間にか、翅蟲達は一匹残らず姿を消していた。
「……どうやらヤツらもシラケちまったみてェだな」
「ベリーシット!! 見たか、我が華麗なるパワーを!!」
呆れ半分に呟く三浦の横で、リックが森の奥に向かって中指を突き立てながら、唾をマシンガンのように飛ばしていた。
358道連(なかま):04/08/04 22:13 ID:eb+mw/fJ

   ――いるよ
              ――獣が

  ――なるよ

         ――怪物に 
                    
                  ――なるよ
  
                         ――………

三浦の耳に、風に混じって最後の囁きが聴こえた。
しばし無言で耳を傾けていた三浦だが、やがてそれを笑い飛ばすように言った。
「怪物(バケモノ)……へっ、ふざけんじゃねぇ」
「?」    
隣で疑問符を浮かべる樋口をよそに、
「俺は俺だ。他のなんでもありゃしねえ」
三浦が地面に斬魔刀を突き立てながら立ち上がる。
「俺は俺のまま、あいつまで辿りついてみせる」
遥か、別府の街があるであろう方角を睨みながら、誓いのように呟いた。
そして、リックと樋口に向き直る。
「借りが、できちまったな」
誇らしげに胸を張るリックと、照れてかしこまる樋口が対照的だ。
「なかま、か……」
ふと脳裏によぎった『鷹の団』のメンバー達と、眼前の二人を見比べながら、三浦がひとりごちる。
そんな三浦の顔をしげしげと見つめながら、樋口は、
(ああ、こういう風に笑うんだ)
そう思うのだった。
359作者の都合により名無しです:04/08/04 22:34 ID:37cUT2Ah
リック飛ばしてんなー
樋口っちゃんはフバーハ付き?
360作者の都合により名無しです:04/08/04 22:59 ID:vpVOmaKw
樋口、ホントいいキャラに育ちましたね。
361惜別の情景:04/08/05 00:54 ID:jM7AdLya
>>356〜 10部460)

リックVライダーの三面六臂の大活躍(暴走)を空から見守る無礼ド乗組員たちは。

 「っ危ねえ!こっちまでレーザー飛んできやがった。
 ったくよ、どいつもこいつも非常識な生態しやがって」
自分もその仲間だと素で気づかない岡村がモニター向こうの遠い地表に毒づく。

先刻、応急修理が終わった浮遊エレベータから昇って来たカムイ達待機組は、
自分たちと入れ替わりる形で下りのエレベータに飛び乗った、
金田一の体内から帰ってきた樋口と雷句っぽいロボに驚きを隠せなかった。
腐海―――眼下の人外魔境は見るからに危険で、
某作品の知識から言っても軽装の少女が考えなしに飛び込む地域ではない。
しかし樋口の意志は固く、せめてもの対策にとMP補充済みのカムイはふたりに、
思い切り気合を込めたフバーハの呪文をかけて送り出し、
彼自身はいつでも彼女らを救いに行けるように、独り残り最下部の入口ハッチで待機した。

フバーハとは大気中の微粒子を集結させ、呪文を受けた者の周りを薄い光の壁で包み込み、
炎や吹雪をある程度防ぎダメージを軽減する、特殊攻撃中心の敵相手に重宝する魔法である。
今は亡きプーマ号にもフバーハの名を冠したバリア機能があり、大いに役立ったものだ。
ともかく、留美子や村枝、ゆでまで混じっていきなり大所帯となった無礼ド艦橋で、
怒って腕を振り上げる岡村を横目で見ながら、所在なげに立ち尽くす娘がいる。山田だ。

 (鹿児島からずっと、流されるように私は多くの人たちと歩いてきました。
 ・・・樋口さん、留美子さん。城平さんや岡村さん、カムイさん、他の皆さん。
 とても楽しかったです。いつかどこかで、別の形でお会いするかもしれませんが・・・
 ・・・どうかその時は≪山田秋子≫の名をお忘れください)

眼鏡の奥の目蓋をふっと閉じると、この半日の思い出が走馬灯のように現れる。
山田はキュッと唇を噛むと、まだ騒いでいる岡村の隣から去り、
応急処置で閉じられた大穴――玉吉隊長が排出された――の鉄板の前に立って壁をさする。
 (・・・気になると思ったら・・・)板に触れた指先が何かに気づいて止まる。
362惜別の情景:04/08/05 00:55 ID:jM7AdLya
真新しい壁の周辺には、巻来が浄化してもなお残るサンデー作家たちの血痕が数点。
壁に点在する血の跡を山田が指で辿ると、こちらも板が仮貼りされた艦内の仕切り壁に当たった。
いがらしが血肉の大玉に乗って飛び出してきた際の穴だ。
山田の顔からすっと表情が消え・・・赤い染みの向こうに見える悲憤をただ見つめた。
 (・・・・・・)
“彼女”の心に去来する感情が何を意味するのか、自身にもよくわからなかった。
 
 「ん? 眼鏡の姉ちゃん、なに壁ニラんで突っ立ってんだ?
 疲れてるならオペレーターの席とかに座っちまえよ。無理すんな!」
山田の後姿に気づいた岡村が、やや遠くから大声で話しかけてくる。
 「あっ、は、はい」
飛び上がるように振り向く山田。やや照れたような彼女の顔を見て、
今度は岡村がなぜか驚いた顔で隻眼をしばたたかせ、慌てて瞼をこすり出す。
 「? ええと岡村さんでしたよね。どうかしましたか?」
きょとんとする山田に岡村は、後頭部を掻きながら弁明するように話し出す。
 「あ、あー。今一瞬ダブって、ほら、あれだ。教会の・・・シスターに見えてさ、あんたが」
 「シスター・・・神に仕える聖職者ですね。私には・・・」
最も縁遠い、自分と正反対の存在ですよ、とは口に出せなかった。


雨嵐にも負けず貞本光線の連打で燃え続けていた腐海の森に、
リック魔法が新たに熱線をぶちまけ収拾がつかなくなっている下界。
ちなみに貞本は湾内の小島と化し、玉吉達が救助ボートの到着を待っている。
ぶくぶくと気泡を漏らす貞本の頭部に腰掛けて別府港に視線を向けている、
佐渡川が何かに気づいたか、額に一筋の冷汗を流した。
 「・・・揺れてる・・・?」


同時刻、無礼ド艦橋にも新たに報告が届けられていた。地上部に微弱ながらも、
断続的に小刻みな地震が起き始めたという。今度は何事だとざわめき出す乗組員たち。
その中をてふてふと練り歩く金田一が、階下の冷蔵庫から持ち出した牛乳パックを一気呑みする。
出してもらえなかった約一名(他の者は寝室に搬送)への制裁は、まだ続いてるらしかった。
363ベイリーメロン:04/08/06 21:09 ID:c/GiF+cy
>>358
とりあえず三浦の応急処置をして、雷句に付き添われる形で進むことになった三人。
そこにまた、膨大な数の蟲達が襲い掛かってきた。

「Vの華麗な力を頂点に!チャーグル!!」
ビクトリームと化した雷句の腕にある球が輝き、巨大なVの文字が雷句を包む。

  チ ャ ー グ ル イ ミ ス ド ン ! ! 

Vの形をしたエネルギーが、森の木々を焼き払い、道を作る。
「くそー!負けるかぁ!! マ グ ル ・ ヨ ー ヨ ー ! ! 」
襲い掛かるトビケラを伸びた腕で吹き飛ばしながら雷句が叫ぶ。
「バベルガ・グラビトン!ガンズ・ベギル!オル・ドグラゲル!ギガノ・ケストロ!!」
すさまじい呪文の連鎖を受けて、蟲達が一掃される。
(……何か変………)
進みながらも樋口は胸の奥にある違和感を隠せずにいた。
「ねえ、今何処に向かってるの?」
その違和感を目の前を進む雷句に聞いてみる。
「もちろん、腐海の一番奥にあると言われる幻の ベ イ リ ー メ ロ ン を食べに行くに決まってるだろう!!」
「違うでしょうが!!」
樋口は突っ込みを入れるが、蟲の第2波にかき消される。
「くそー!腐海の蟲どもめ!!邪魔をするなぁ!!」
ブィィィィィィィィィィィィン!!荘厳回転しながら放たれるV字型のエネルギーが蟲達を吹き飛ばしていく。
「負けるかぁぁぁぁぁぁ!!!」
364誕生!! モヒカン・○○○:04/08/06 22:38 ID:A5m0Gb7L
>>363
蟲を蹴散らし樹海の奥のベイリーメロン目指して進む雷句。
早々に説得を諦め、それについていく樋口とそれに支えられる三浦。
早いところ樹海を抜けてみんなと合流したい樋口の本音ではあるが、現時点で唯一
戦闘能力のある雷句の説得が不可能な以上、樹海の奥へと進む雷句に着いていくしかない。

「イスが直接おしおきよーーーーーーー!!!」

どこからかジェット噴射で飛んで来たイスを振り下ろし、多数の蟲を吹き飛ばす雷句。
と、幾度目かの蟲の襲撃を蹴散らした雷句の動きがぴたりと止まった。

「ベリーシット!!私としたことが大切なことを忘れていた!!」
そう吐き捨て、何やら懐から取り出す雷句。

「「へ?」」
雷句が取り出したものを見て、呆然とした呟きが樋口と三浦の口からこぼれた。
それもそうだろう、それはこのいつ蟲に襲われるかもしれない状況で出すようなものではなかったからだ。
そう、その道具の名は……

「……バリカンとサインペン?」
365誕生!! モヒカン・○○○:04/08/06 22:38 ID:A5m0Gb7L
>>364
ぞくり、と三浦の背筋に寒気が走った。
それは矢吹と相対したときを上回るほどおぞましい感覚。
全身を走る嫌な予感に動かされ、三浦がバリカンとサインペンを構える雷句へと訊ねた。

「そ、それを一体どうするんだ?」

樋口はいつのまにか三浦から離れ、近くの木の陰に隠れている。
じりじりと三浦に近づきながら雷句は答えた。

「決まっている。私のパートナーとしてふさわしい姿になってもらうのだ」

予感的中。反射的にその場から逃げようとする三浦。
逃げた後どうするのかとか、蟲に襲われたらどうするとか、そういったものが全て頭の中から消える。
そしてただこの場から離れなくてはという危機感だけが三浦を突き動かした。
だが、普段ならともかく、今の三浦では雷句から逃れることは出来なかった。

そして樹海に悲鳴が轟き渡る……

そして数秒後……モヒカンにされ、額に大きく1と書かれた三浦の姿がそこにあった。

「フハハハハ!!ゆくぞ、モヒカン・建太郎!!」
モヒカン・建太郎と化した三浦を付き従えること、それが雷句の心の力を充実させているのか
これ以上ないほど破竹の勢いで蟲が蹴散らされ、道が切り開かれる。

すまなそうに(笑いを堪えながら)自分を見る樋口に支えられて、その後ろを歩きながら三浦は思った。

(雷句……体が治ったらぜってぇぶっ殺す)
366作者の都合により名無しです:04/08/06 22:51 ID:8zmY50cX
ど う し ろ と ヽ('A`)ノ 三浦乙
367作者の都合により名無しです:04/08/06 23:16 ID:7pPdUNgD
リックはっちゃけすぎだーーーー!!!!wwww
いいなぁいいなぁ、惚れそうだよw
368:04/08/07 00:00 ID:pr9CEeJl
>208
二人の肉体がぶつかりあった瞬間、爆発に似た衝撃が空間を走り抜けた。
世界がぐにゃりと歪んで見えた。
二人の体が弾ける様に離れた。
片足一歩分の距離で両者は踏みとどまった。
先に動いたのはヨクサルだった。
手刀――
ヨクサルの指先が、山本の肉を抉りとらんと左右から襲い来る。
喉。
耳。
首。
腹。
鋭い。
疾い。
機械のように正確な連打が山本の肉体を襲う。
山本はそれを手で受け、払い、流し、跳ね上げていく。
数撃、かわしきれず、山本の肉が裂け、鮮血が宙を染めた。
三秒。
山本が攻撃に転じた。
369:04/08/07 00:01 ID:pr9CEeJl
首筋に迫り来る右の手刀を紙一重でかわし、鋭い呼気を吐く。
右足が、ヨクサルの顎目掛けて跳ね上がった。
顔を後方に退いて、避けた。
その時―月光を反射して、山本の靴の踵で何かが光った。
ひゅん、
と、通り過ぎた足の軌道は、赤く染まっていた。
山本の踵に仕込まれた刃が、その分だけ間合いを計り損ねたヨクサルの顔面を切り裂いたのだ。
僅かに、ヨクサルの動きが鈍る。
そこまで予想していたのだろう――
山本は顔に喜悦を張り付けたまま、一気に攻勢に転じた。
足。
拳。
指。
踵。
手技を複線に、足の刃を繰り出していく。
月光に刃が煌く度に、鮮血が舞う。
一撃、深く肉を裂いた。
その愉悦に浸る暇も無く、下から飛んで来たヨクサルの足をかわす。
強烈な衝撃が、空気を通して伝わってくる。
370:04/08/07 00:01 ID:pr9CEeJl
「ふひゅうっ…」
「はああっ…」
二人は、ほぼ同時に、息を吐き出した。
静止。
二人の全身は、ずたずたに引き裂かれていた。
眼の上を切った出血が眼球に流れて、柴田ヨクサルの右目が真っ赤になっていた。
それでもヨクサルは眼を閉じない、かっと顔面が凍結したような表情で眼を見開き、山本を見つめている。
それを見た山本は、首筋から血液が流れていくのも構わず、にやりと微笑んだ。
息が詰まるような濃密度の空気が二人の間に満ちていた。
痛いような沈黙であった。
そして―
動いた。
二人、ほぼ同時。
山本の右足と、ヨクサルの右足が同時に地を蹴った。
ハイキック。
両者の脚が、空中でぶつかり合い、後に弾けた。
脚が地に付き、鋭い呼気が二人の口から同時に洩れていた。
手刀。
手刀。
足。
足。
拳。
拳。
目まぐるしく二人の攻撃が交錯する。
371:04/08/07 00:02 ID:pr9CEeJl
それは異様な闘いであった。
まったく同時に、まったく同じ攻撃が放たれる。
まるで互いに申し合わせた一つの演舞のような―
寸分違わぬ動き。
一歩も、退かない。
一撃も、クリーンヒットしない。
少しずつ、
少しずつ、
速度が上がっていく。
二人の動きは既に目で追える物では無くなっていた
柴田ヨクサルは闘いの中でその動きを疾めていく。
山本英夫は、ヨクサルを取り込まんと、その成長を追いかけている。
どちらも、止まらない。
永遠に続くいたちごっこ。
最早それは成長、と言う段階を超越していた。
肉体ではなく、精神、精神でなく、その更に先―
まるで、そう―魂の底から涌き出てくる何かに突き動かされるかのように
二人の肉体は加速していく―
372:04/08/07 00:03 ID:pr9CEeJl
拮抗は、意外な形で破れた。
山本によって切り裂かれた瞼の傷。
そこから流れ落ちる血液。
それが、ついにヨクサルの片目を完全に閉ざしたのだ。
ひとつ、ふたつ、みっつ、今までの拮抗が嘘の様に、たて続けに山本の攻撃が当たる。
当たるたびに、ヨクサルの頭部が後方に弾ける。
にいっ…
と山本の顔に、加虐の悦びが浮かぶ。
 真性のマゾであるはずの山本にとっては、それは有り得ないことであったが、その自らの矛盾に山本は気が付かない。
闘いの中で、山本英夫の精神はヨクサルにより引き上げられ、彼自身理解できない場所に辿り着いていた。
山本は射精しそうな興奮の中で、只ひたすらにヨクサルを感じていた。
つ…と、山本は左側に体を動かした。
ヨクサルの塞がっている視界の方。
一瞬。
ヨクサルの世界から山本が消える。
その姿を追いかけるように、ヨクサルが体を動かす――
視界に現われた山本の右手が疾った。

ぐちゃっ

その瞬間、ヨクサルが感じたのは痛みではなかった。
音であった。
何かが潰れたような音だった。
同時に、ヨクサルの視界が、完全に閉ざされた。
左目の中に、異物感があった。
固い。
細い。
冷たい。
そこで、ようやくヨクサルは悟った。
己の左目が、山本の鉄串によって貫かれたことを――
373:04/08/07 00:09 ID:pr9CEeJl
ねちゃり、ねちゃりと、山本は鉄串を蠢かし、ヨクサルの中を蹂躙していた。
赤と黒の闇の中。
視界は、完全に閉ざされていた。
しかし、それでもヨクサルは闘いを止めなかった。
目の穴から繋がる先へ―
前蹴りを放った。
ヨクサルのつま先に、腹筋を裂いた感触が伝わってくる。
同時に、左目の異物感が消失した。
追撃―
動こうとした右足の甲に、鋭い痛みが走った。
刺された―?
「駄目じゃねえか、勝手につっぱしっちゃよお」
口から胃液と血液の入り混じった液体を吐き出しながら、山本が言った。
その手に握られた鉄串は、ヨクサルの右足の甲、更には、コンクリで舗装された地面を貫いていた。
ヨクサルの肉体が、地面に縫い止められた。
闇雲に放った蹴りはあっさり空を切る。
後は、もう、山本の思うが侭だった。
右。
左。
右。
左。
大振なパンチを、規則的にヨクサルの顔面に叩きつける。
衝撃で、ヨクサルの上半身が後方に揺らめいた。
その頭を抱え込み、首を押さえ、顔面を下に向けて、膝を突き上げる。
ひとつ
ふたつ
みっつ
ぐちゅっ、と鼻の軟骨が潰れる音がした。
その感触を楽しみながら、山本はヨクサルの首を放した。
374:04/08/07 00:10 ID:pr9CEeJl
どさっ
とヨクサルは膝から崩れ落ち、地面に倒れた。
びしゃっ、と何かが飛沫をあげた。
血液。
ヨクサルと、山本、闘いの中で流れた二人の血は、地面に零れ、水溜りを作っていた。
「あーあ、もう終わりか?」
落胆の込められた声で山本は言った。
蕩けた表情から一転、玩具を取り上げられた子供のような表情になった。

柴田ヨクサルは、その声を聞いていなかった。
静かに
身を、地平に委ねる。
ぼんやりと、遠ざかる意識の中で、ヨクサルは空気の流れを感じていた。
不思議な感覚だった。
全身が触覚になったような感じがした。
感覚が刃物のように鋭敏になっている。
眼を、閉じてみた。
閉じた世界の中。
目の前に、何か大きい空気の淀みがあった。
なんだ―?
と問うその脳裏で、しかしヨクサルはそれが何なのか理解していた。
認識すると、さらにその姿が明確になってくる。
人の形。
あやふやながら、しかしその淀みははっきりとした人の形を形成していた。
375:04/08/07 00:10 ID:pr9CEeJl
「あは…」
笑った。
その笑いに反応し、背を向け、この場から去ろうとしていた山本が振り向いた。
その時にはもう、ヨクサルは足から鉄串を引き抜き、立ち上がっていた。
「まだ、」
やるのか、と山本は嬉々とした表情で言った。
「まだ、」
やるんだよ、とヨクサル両目を閉じた―どこか不可侵な静謐さを感じさせる表情で言った。
山本が地を蹴った。
獣のような前傾姿勢で、地を這うようにヨクサルに迫る。
そして、その体勢から右足を跳ね上げた。
山本の足が、半月状の弧を描きヨクサルに向けて振り下ろされた。
ハイキック。
極めて不自然な体勢からのキックだった。
当然―視界の閉ざされたヨクサルには避けようが無い。
しかし―蹴り足が空を切った。
上!
上空へ飛翔したヨクサルの動きを本能的に捉え、手刀をアッパー気味に突き上げる。
当たらない。

タ…

と不気味なほど静かにヨクサルは山本の真横に着地した。
山本の顔が、驚愕で歪んだ。
376:04/08/07 00:11 ID:pr9CEeJl
「―――ッ!」
短く息を吐き、くるりと体を廻し、蹴りを繰り出す。
その動きを予測していた様に―
ヨクサルの蹴りが先に山本の背を抉っていた。
「!??」
山本が片膝を付く。
直ぐに跳ね起きるが、その顔には冷たい汗が滲んでいた。
動きが、全て読まれている。
「そんな…まさか、な…」
山本の目の前には、柴田ヨクサルがいる。
両目を閉じて、両手はだらりと垂れ下がっていた。
無防備。
無表情。
「お…」
ゆらっ…と体勢を崩しながら山本は拳を握った。
拳を繰り出す。
モーションに入りかけていたその時にはもう、ヨクサルは飛んでいた。
強烈な反応速度だった。
超至近高速ソバット。
山本は拳が避けられた事を認識すら出来ずに顔面を吹き飛ばされる。
衝撃。
山本の体は付近の家の壁に叩きつけられた。
「あっっ―」
痛い。
痛い。
痛い?
軽く、頭を振る。
「空…気…?」
山本の口から言葉が零れた。
何故そんな言葉を吐いたのか、彼自身わからなかった。
だが、直感的に、彼は理解していた。
377:04/08/07 00:12 ID:pr9CEeJl
「空気…?」
もう一度、言葉に出す。
そして、ヨクサルを見る。
「そうなのか…?」
反応は、無い。
本より、ヨクサルへの問いではなく、それは半ば自問であった。あ
「空気を…『見てる』とでも…」
呟いたその時。
一歩ヨクサルが足を踏み出した。
「ひ――」
声に成らないほどの程の短い悲鳴が山本の口から漏れた。
山本英夫はこれまでの人生において希望というものを持つ事は無かった。
 彼はその異常な性癖から、とてつもない存在に、全力で挑み、限界ギリギリまで打ちのめされた挙句の果ての絶望を味わうことを心が擦り切れる程切なく願っていたが、彼を打ちのめすような存在は現われず、どのような闘いにおいても常に、絶望して傅くのは相手の方だった。
今、彼の望みは半ば叶った。
しかし、彼は悦びなど感じてはいなかった。
肉体が、彼の許容範囲を超え、ついに快楽ではなく痛みを彼に伝えていた。
精神は、一歩、一歩と迫ってくる怪物にがたがたと震えていた。
 つまるところ、彼はその強さと変態性故に、常人を超える苦痛を快楽と見なしてきて、絶望とは甘美なものであると勝手に思い込んでいただけであった。
希望と絶望とは合わせ鏡のようなものである。
 彼が真に幸福だったのは、自分が不幸せだと思い込み、絶望をまるで宝物を探す様に無邪気に追い求めていた彼の今までの人生だった。
そのことに、遅まきながらようやく気がついた時―彼は崩壊した。
378:04/08/07 00:15 ID:pr9CEeJl
「あひゃあっ!」
声をあげて、山本はヨクサルに、鉄串の束を纏めて投げつけた。
コンクリを貫く勢いはそこには無く、鉄串はヨクサルの胸に当たり、地面に落ちた。
そして、同時に、ヨクサルは足を止めた。
右足を前に踏み出し、左足を後に―
前後に、大きく開き、腰を深く落した。

「ひいいいいいいいいいいいいいっ!」

その構えに、明確な殺意を感じ取り、山本が血が凍る絶叫を上げた。
山本は逃げ出した。
そう、逃げた。
正面に向かって、逃げた。
目の前にはヨクサルがいた。
それすらもわからず、山本は逃げ出した。
それは希望に向けての逃避だった。
すう、とヨクサルの足が大地を離れた。
次の瞬間―
大地が、絶叫した。
震脚。
尋常ならぬ地の震えに、山本の体が揺らめく。
その体に、ヨクサルの体が迫っていた。
肩から、ぶつかった。
ぶつかった瞬間―既に山本の体から意識は吹き飛んでいた。
意識の遊離した抜け殻が宙を吹き飛んでいた。
そのまま―壁を付き抜け、民家の内部に放り出された。
その強烈な痛みが、彼を肉体に呼び戻した。
「あひっ」
彼はそのまま地面を這いずり始めた。
ヨクサルの最大級の剄の一撃は、山本の全身を完全に砕いていた。
蛞蝓のように成り下がった体。
全身を使って、山本は地を這っていた。
379エピローグ:04/08/07 00:17 ID:pr9CEeJl
死にたくない、と思った。
「死にたくない」
と呟いた。
悲劇―もはやここまでくれば喜劇ですらあるかもしれないが―はその直後起こった。
彼の真後ろに存在する壁。
彼の肉体の直撃、そして震脚の影響により深刻な損害を被ったそれがついに崩れた。
瓦礫が空から降ってきた。
その中で一番大きな塊が、山本英夫の頭蓋を割った。
脳漿が零れ落ちた。
「死にたくない」
と呟いたその形で、顔面が硬直していた。

憐れな、最後だった。

柴田ヨクサルは、しばらくじっと山本が飛んでいった方向を向いていた。
時間が、ゆっくりと過ぎていった。
そして、上空を一度呆けた様に見上げた後、彼は踵を返して、歩き始めた。
「(三浦―探すか)」
意識の片鱗でそのことを思った。
今の彼にとって、人の気配を探るのは容易なことだった。
彼は、何の躊躇いも無しに樹海に足を向けた。

――歩く。

その背に、たまらない孤独が張りついていた。
380作者の都合により名無しです:04/08/07 00:28 ID:ziKMjYQk
おお・・・逝っちまった・・・
真鍋共々悲惨な死にっぷりに合掌。
そして格闘家(と書いて男と読む)のエロチシズム万歳
381作者の都合により名無しです:04/08/07 00:47 ID:PY3VYByt
「泣き」が出ないうちに逝ってしまったか……英夫め
原作のカッキーよろしくな死に様に万歳

それにしても、三浦のトコとの落差がすげえw
382作者の都合により名無しです:04/08/07 03:17 ID:AwjYpm/I
焼肉コンビ内ですら格差が出た(笑)バンジャーイ
383荒木飛呂彦の旧くて新しい戦い:04/08/07 07:24 ID:qkLRRbO0
>351

別府も外れ、街の明かりも遠ざかった『南』荒野の上空。

光弾となって風を切る麒麟の上で、行く手に広がる光景が、徐々に大迫力のパノラマとなり、視界を占めてくる。
「ぉお……」
地平を染める赤い線は、やがては面に、立体に。
闇夜を進軍するその巨大な威容が、いまだ距離のあるこの位置からも、暗がりの中に、薄ぼんやりと見えはじめていた。
「……で、その『N』だっけか? どんな顔してんだ?」
空を一人、舞空術で平走する鳥山が、荒木に訊く。
「ああ。どうも今は、包帯で顔をグルグル巻きにしているらしい。……で、もし素顔なら」
そこまで荒木が言ったところで、黙ってタンデムしていた藤崎が、口を挟んだ。
「……荒木先生」
「……なんだい?」
「……申し訳ない。……もし『N』が、先生のおっしゃる通りの漫画家である場合。先生のなさる事に、わしは協力出来ません」
「わかった」
どこまで悟っているのか。荒木はあっさり了承し。また何故とも返さず、怒る事も無い。
鳥山との会話に戻る、その背に感謝しながら、藤崎もまた、自らの思考に沈んでいった。
(……『記録者』としてのポリシーもあるが、基本的に『N』先生に恨みはないからのう……。
 かといって、ゆで将軍や矢吹との繋がりを理由にし、挑むには、あまりに相手が悪すぎるわい……)
しかしならば、何ゆえ、こうして戦いへの道行きを、共にしているか?
(……もし、荒木先生vs『N』先生などという対決が実現するなら。
 これもまた『記録者』としてのポリシーから、絶対に見逃せんしのう……)
おそらく、全漫画界でも五本指に入る『智者』同士の戦い。想像するだに、胸躍るものがある。
「―――ムッ!? あれかッ!?」
声に急停止するエックスの鞍上。荒木が鋭く見つめ、藤崎が我に返る。
視線の先、目下の地上では。
次から次へと街の灯へ向かい突っ込んでくる王蟲たちが、阻む一人の男の攻撃により、同じく、次から次へとその命を散らしている。
―――いや。
(……おりょ? 一人……ではないのう。えーと……)
ひいふうみい、と指折る藤崎の前で、荒木は眉根を寄せる。
384荒木飛呂彦の旧くて新しい戦い:04/08/07 07:27 ID:qkLRRbO0
(いきなり読みが外れたか……? 大軍勢ならともかく
 矢吹旗下に『数人で王蟲の群から別府の一辺を守れる』なんて、半端な『強者』が、残っているとも思えんが……)
まあ最初から、四方の内『二辺』は賭け捨てである。
すぐに思索を切り上げた荒木は、そのままエックスに次なる目的地を告げようとして。しかし鳥山明に引き留められた。
「ちょい待て。あいつら、オメエの言ってた『包帯男』だぞ」
田舎者の視力の良さは、侮りがたいものがある。
言われたとおり、一番近くのシルエットをようく見ると。その顔には確かに、白い布が巻きついている。
「…………『N』を、買い被っていたか……?」
かつて、自分を手玉に取ったほどの男が
余勢を借りねば、この程度の量の王蟲たちすら殺しきれぬとは(まあ、比較対象の問題だが)……。

「失礼だな」

そこに突如、天空からの声。
同時にエックスと鳥山が、超機動を発揮し、二方に飛び退った。
残像の上を通過する、破壊のエネルギー光球。
地上に激突したそれは大爆発を引き起こし。また、幾十匹かの哀れな王蟲が蒸発した。
しかし三人と一匹は、その様を見てはいない。見れるわけが無い。
呆然と目を奪われた、頭上。月光を背負い、ほどけた包帯をはためかせている、その男。
秀麗な面差しに、すこしウェーブのかかった長髪が胸までかかり。
一ミリの邪気も無い、ニコニコとした笑顔が、静かに見下ろしている。
そしておそらく、そこから先ほどの攻撃を発したのであろう、人差し指。
それが、ピンと立てられたまま酷くゆっくりと顔前に上げられ。やがて、からかうように「チッチッ」と横に振られた。
誰かの悪夢にでも迷い込んでしまったような、リアリティの希薄さ。
信じられないというより、まるで『現実味』が無い。
しかしソイツは確かに、そこに居るのだ。
『斜め上』にして『ネームのまんま』『王子』と呼ばれし『世界を嘲笑う者』。

「……冨樫義博」

「YES I AM !!!」
385荒木飛呂彦の旧くて新しい戦い:04/08/07 07:29 ID:qkLRRbO0
誰かの呟きに応える『N』こと冨樫の指が空を切るのと
それを合図に、荒木を乗せたエックスが跳び、鳥山が消失するのは、ほぼ同時であった。
藤崎が、宝貝『風火輪』にて戦線を離脱する。
「『ホルス神』!!!」
まず鳥の骸骨のような、スタンド・カタパルトから、氷のミサイルが無数の礫となって弾き出される。
「わっ!」
素直に驚いて見せた冨樫は。手の平に炎塊を集約し、忙しなく、千本ノックをキャッチするかのように迎撃する。
なんとか受けきったその背後、前触れも無く、鳥山明の姿が重なった。

   ッ ―――― ド ガ ッ !!!!

冨樫の『硬』がなんとか間に合った。そこに組み合わされた鳥山の両拳が打ち下ろされる。
『念』の創始者の全オーラをもってしても軽減しきれぬ破壊力は。そのまま、猛スピードで冨樫を地表に叩きつける。
轟音。
空中の二人に、わずかな硬直。
しかし、その間湧いた拍子抜けと、「いける!」という希望とを、すぐさま打ち消し
二人もまた、追い討つ為に、隙無く地上に降り立った。
ちなみに別府を守っている『包帯の六人』は。まるでこちらを気にする風も無く、ただひたすらに王蟲を駆逐し続けている。
まあ手が離せない、というのが実情であろうか。
「イチチチ……」
土煙の中から、首を捻る冨樫がまろび出た。
前かがみのまま、そらっとぼけるように上目を遣ってくるのを見て、荒木はムカムカとした衝動を抑えきれなかった。
「フフ……フフフ……なんとか言ったらどうなんだい? 『申し訳ございませんでした』とか―――『少しはしゃぎすぎました』とか」
屈辱の歴史が、走馬灯のように脳裏をよぎった。
「…………」
静かに口を覆い、目を落とす富樫。
やがて―――
「―――ひどいじゃないか!いきなり攻撃してくるなんてっ!!!」
「第一声がそれかいッ!!!――――というか、『いきなり攻撃してきた』のは貴様だろうがッ!!!」
まさか、本気とも思えぬが。
いやいやそれとも。自分は冨樫の別府での『暗躍』を、仄かにも察知出来ぬほどのアホだと、見くびられているのだろうか?
どちらにしろ―――
386荒木飛呂彦の旧くて新しい戦い:04/08/07 07:32 ID:qkLRRbO0
(許せんッ!!!!)
ズギュルと駆け出そうとしたその足を、心の冷静などこかが、しかし慌てて止める。
(―――いかんッ!)
両足の裏から、土ぼこりを風にさらわれながら。とにかく、頭を冷やす。
最初に想定していた状況とは違うが、むしろ展開は有利に働いているのだ。
ここで冷静さを失えば、それを覆されかねない。
まず、傍らの鳥山と頷き合い、アイコンタクトを交わす。
そして、鳥山とのコンビネーションは、むしろ勘に頼るくらいの方がいいな、と思い―――
「さて、どうするか―――」
その冨樫の声に目を向けて。

―――背筋に、氷柱でもつっこまれた心地が、した―――

まるで別人だった。
静かに中空を見上げ、こちらの存在すら忘れてしまったかのような顔に、浮かんでいるモノは、虚しさ。
「鳥山明と荒木飛呂彦……二人同時に相手してたら、天地が引っくり返っても勝てない気ガス……」
うわ言がぶつぶつと聞こえるが。
ならばその油断ぶりは一体なんなのか、まるでわからない。
憶えこそあれ、やはり相も変わらぬ、気色悪さの澱が、攪拌された心中でひらひらと舞った。
「……ああ、そうか」
ステキな玩具でも見つけたかのように輝く瞳が、こちらを向いた。
「こうだ」
パチリ、と冨樫の指が鳴らされる。

………………………………

なんだ? ……なにが?
異変を決して見逃すまいと、まばたきすら恐れる鳥山と荒木に、冨樫は優しくこう言った。
「荒木、あっちあっち」
対峙する自分達の背後を指さされ。単純すぎるが、隙を誘う手では無いか、との疑念も拭えず
チラリ、と横目を使った先の光景。荒木は最初、どこがおかしいのか、気付かなかった。
(なんだ? 別に、普通に王蟲が突進してきてるだけ………………ッ!?)
387荒木飛呂彦の旧くて新しい戦い:04/08/07 07:34 ID:qkLRRbO0
居ない。
別府と王蟲たちとの間に横一列に並び、防波堤となっていた『六人』が、忽然と姿を消している。

「「 ナ ニ ィ ッ ―――――――――――― ッ !? 」」

自分達の居る場も含め、破滅の大波が別府に押し寄せるまで、まだ幾許かの距離はある。
しかし
「『暗黒妖篭陣』という、自分自身を『七人』にする最高等妖術があるんだ。で、さっきの『六人』はそれ。当然―――」
嬉しくてたまらない、といった顔で笑う。
「出すも消すも、私にとっては自由自在さ。―――ドースル?」
「貴様正気かッ!?」
地響きが、背骨を伝い頭を小刻みに揺らす。このままでは別府は、矢吹の作戦完了を待たずして全滅―――
「『別府飛ばし』はどうなるッ!? 一体、矢吹にどう言い訳する気…………!!!!」
そこまで言って、気が付いた。
『矢吹』? それがなんだというのだ。
この男が、『そんなことを気にするわけが無い』!!!!
「お……どこまで知っているのかな……?」
『別府飛ばし』という単語に、ほんの少し驚いたような顔をして、ペチペチと気の無い拍手をする冨樫。
構っている、時間は無い。

「 鳥 山 ァ ―――――― ッ !!!!! 」

冨樫を見据えたまま荒木が叫ぶと、無言で鳥山が勢い良く飛び立った。

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨・・・・・・・・・・・・・!!!!

背に迫る王蟲の圧力に抗しながら。やがて起こる爆光に照らされる冨樫の顔を睨みつける。
「……どうしてそんなに怒るんだい? 最初から、『そのつもりで鳥山を連れてきた』んだろう?」
「―――ッ!? 『心』を読んだのか!?」
慌てたように頭を抑える荒木。
確かに『冨樫が一人で居る』という前提で来たので。
388荒木飛呂彦の旧くて新しい戦い:04/08/07 07:36 ID:qkLRRbO0
対峙する為には、誰か他の人間が王蟲を抑えなければならず。その為に鳥山を連れてきたのだが―――
「君、ホントに失礼だな。まあ確かに私には、『盗聴(タッピング)』という能力が、あるにはあるが……」
気分を害したように、ジト目で口をへの字に曲げる。
「こりゃ推理だよ、純然たる」
何故か嘘だとは、思わなかった。
(相変わらず、恐ろしい男……折角の有利条件を、一瞬で元の木阿弥にされてしまったか……)
まあ、元から、僥倖ひとつでなんとかなる相手では無いが。
「……ジツは『六人』で防ぐのは結構大変だったんだ。私も君も、欲張り過ぎは良くない、ってことだろうね」
腕を組み、うんうんと頷く冨樫。
(しかしこの態度……)
ふと、ひとつの事に思い当たる。
「―――タイマンなら、受けてもらえるということかな?」
その言葉に、ニヤリ、と口端を曲げる冨樫。
「逃げてばかりじゃ悪いしね。それに―――」
風が、ツムジを巻いて通り過ぎる。
「―――聞きたい事が、あるんだろう?」
心は熱いのに、頭は冷めていく。
荒木に、知略戦時における、最高のコンディションの自覚。
冨樫が、拳を突きつけるように持ち上げた。
「―――そうだな。『全てを賭けて』のギャンブルなんてどうだい? 『これ』で―――」
389足掻き(2):04/08/07 07:45 ID:qkLRRbO0
>347

 ミキッ・・・ミシッ・・・ドッ・・・
 ベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリ
 ベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリ
 ベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリ
 ベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリ・・ッ

高くも重い、岩盤の剥がれ落ちる音。走る亀裂が、撓みの限界を超えて顕在化する。
常軌を逸するほどに溜まった蒸気。爆発の瞬間を焦がれ、もうもうと蠢く。





        ゴ  ゥ  ン  ッ  !!!!!


「―――どわぁっ!?」

別府市中。
更新される、『本日最大の突き上げ』。
市民や、いまだウロウロと逃げ遅れていた漫画家たちを襲う、衝撃と、エレベーターのような一瞬の浮遊感。
鎮火、というより、燃え尽きつつあった家屋の梁が、黒い粉を舞い上げ、無残に崩れ落ちた。

(……………)
僅かによろめきながらも、足は止めない。どこまで行っても、『絶対知欠空間』の圏から、抜けることが出来ない。
技来静也の胸中、まるで釈迦の手の平で踊る孫悟空のような、焦り。
「お、おいちょっと待ってくれよシズヤッ!」
大分早足になっていたらしい。車や人通りの全く無い大通りの真中で。振り向き、同僚・森恒二を待つ。
「な、なあ、本当に良かったのか?」
結局、松椿を出て技来に追いて来たのは、この森ただ一人だった。
390足掻き(2):04/08/07 07:52 ID:qkLRRbO0
「―――構わん。まあ『絶対知欠空間(これ)』の恐ろしさは、一度経験しなけりゃ分からんのだろう」
動かせない重傷者が多すぎたというのもあるが、そも実際、どちらが本当に危険か、わかりゃしないのだ。
「チャンピオンチームには、とりあえず借りも返した。団の消息も分かってるわけだし、これ以上、強いて一緒に居る必要もあるまい」
一刻も早く、抜け出さなければ。強迫観念にも似た衝動。
時間が経つにつれ、徐々に間隔の狭まる大きな縦揺れと。今も継続する微細な震動。
そして、あるいはバランスのいい技来静也にしか察知できぬであろう、大地の微妙な『傾き』。
一帯を覆う、なにもかもが気に食わなかった。
(…………)
そこまで考えて、思い至る。
そう。ひょっとしたら自分は、ただ『気に食わない』だけ、なのかもしれない。
『絶対知欠空間』。悪意は感じない、冷静になれば。
むしろ包み込むような、傲慢な『優しさ』を感じる。
この行動が、逃げなのか、戦いなのか。それすら曖昧だ。
人間形態の森が、追いつく。
しかし、それでいいと、思う。
『それ』さえも無くしてしまえば。自分は多分……

再び歩き出す技来が、すぐに元の小走りに戻る。
自分より重傷の筈の男の、遠ざかる背中に苦笑する。
(まったく、ウチの連中ときたらどいつもこいつも……)
森は技来ほどには、チャンピオンチームの事を割り切る事は出来なかった。正直、後ろ髪引かれる思いだ。
しかしどちらを選ぶ? と言われれば、その答えもまた明白だったのだ。
(無事で居てくれよ)
最早『誰に』でもない呟き。
そしてそれに応じるタイミングで。一人の男が、すぐ傍の角から、ひょっこりと姿を見せた。
391作者の都合により名無しです:04/08/07 15:20 ID:jfbD775i
富樫の緊張感の無さが逆に不気味・・・!
とうとうえなり史上最大の頭脳戦が実現するのか、楽しみ

そして、技来たちの前に現れた男は・・?
392雷句様と愉快な仲間達:04/08/07 19:20 ID:F61gBU29
>379
森奥へ目指して突き進む雷句様御一行
順調に蟲を蹴散らし歩くその時―

ザシュウウッ!!

上空を蟲達を吹き飛ばしながら、何かが飛んで来た。
「!!!?」
それは、丁度、いい感じにらりった雷句様と三浦を担ぐ樋口の狭間に着陸した。
雷句様は気が付かなかった!
樋口は咄嗟に三浦をかばうが、三浦はそれを手で制し、そいつの前に出た。
「随分とまあ…派手にやられたもんだな、柴田」
呆れと、それ以上の安堵の込められた声で三浦が言った。
「お前もな」
ズタボロの柴田ヨクサルは、女に担がれた三浦を揶揄するように返した。
ぶっきらぼうな態度にはしかし、山本との闘いで見せた狂気が和らいでいた。
「はっ、そりゃそうだ」
三浦が笑った。
樋口は、柴田の顔を見て息を飲んだ。
閉じられた左眼からは、血が流れ続け、右目の瞼からの出血も酷い。
傍から見れば血の涙を流しているようにしか見えなかった。
そこに眼を奪われたが、体全体を見渡せば、至るところに深い傷跡が残り、肉がめくれあがっていた。
393雷句様と愉快な仲間達:04/08/07 19:21 ID:F61gBU29
樋口は思わず口を押さえて嘔吐を堪えた。
二つの疑問がある。
これだけの怪我(両眼が見えないはずなのに!)で何故平然と動けるのか?
それに、何故三浦はこの怪我を目の当りにして平然としているのか?
「痛く、ないんですか…?」
とそんな子供のような問いがようやく樋口の口から出た。
「ん…?―――痛いぞ」
それが、自分に向けられた問いだと気が付いて、見えない瞳を樋口に向けた後、ヨクサルは言った。
そういえば似たようなことをあいつに言ったな、と心の片隅で思った。
「痛みを意識的に消してる…"痛み"は後からやってくる集中力が切れると…痛い」
その言葉と同時に、ヨクサルの眼から本物の涙がだぁーっと滝のように流れ始めた!
「え…?」
ひきつった表情で、樋口はその突然の変化を目の当りにした。
三浦は、ハア、と嘆息した。
394雷句様と愉快な仲間達:04/08/07 19:22 ID:F61gBU29
「痛いっ」
コロ
「痛い」
コロコロ
「イタイ」
コロコロコロ
「エテエテ!」
コロコロコロコロ
「テテテイタイ痛い痛いいってええええ―っ!!!」
ヨクサルは地面をコロコロと転がりながら苦しみ悶えた!
「眼ェ、潰れてるしっ!」
ヨクサルが叫ぶ!
「なんかいっぱいっ! 体切れてるしっ!!」
樋口は退いた。マジ本気マジで退いた。
その足下にヨクサルが転がってきた。
395雷句様と愉快な仲間達:04/08/07 19:23 ID:F61gBU29
ひゅーっ
ひゅーっ
変な呼吸。
そのまま、がくっ、とヨクサルは崩れ落ちた。
「ちょ、ちょっと!?」
「――集中力が戻ってきた…」
慌てて助け起こそうとした瞬間、ヨクサルは起き上がった。
「うわあっ!?」
驚いて樋口は仰け反った。
「水をくれ」
「へ?…あ、はい」
どうなってるの?と問う気力は残されてはいなかった。
携帯していたボトルの水をヨクサルに渡す。
一口飲んで、ヨクサルが言った。
「どうしたよお前?」
「あんたがどうした!?」
三浦はそいつに突っ込むだけ無駄だと樋口に言おうか迷ったが結局止めた。
ふと前方を見る。
雷句様は未だに何かいい感じにキまったテンションで直進していた。
三浦は思った。
「(収拾付くのかこれ?)」
396作者の都合により名無しです:04/08/07 20:33 ID:AwjYpm/I
無理だ(笑)
397作者の都合により名無しです:04/08/07 23:57 ID:c2yPfGu+
>>299

乙君――!
青山さん――!
ヒラマツ君――!
みんな――――!!

 が ば っ !!!

 「!?」
悪夢にうなされ、にわのはバネ仕掛けのように跳ね起きた。
「ど…どこだここは…」
ソファから起き上がった場所は、とある廃虚の中。
暗い部屋の中には誰もいない。
どうやら熱は下がったらしいが、寝起きの為にまだ頭がボーッとしている。
そのまま呆然としていると、ドアを開ける音がした。
「おっ、ようやく気がついたかい」
そこに立っていたのは、丸まると太った、赤ら顔の男だった。
額に、団子のような縮れ毛が、ひとつだけついている珍妙なヘア−スタイルが印象的。
しかし、何よりもアレなのは、醜男のくせにあからさまに不似合いなチュチュ(バレエのプリマドンナが着るアレ)を身に着けていたことだ。
はっきり言って変態以外の何者でもない。
「だ、誰だ、君は? ここはどこだモン!?」
「まーまー落ち着いて。ずっと寝てて何も喰ってないから腹へったろ。キビ団子でも喰うかい?」
「寝てた…? ずっと…?」
「そう、おまえはずっと眠ってたんだ。何か嫌な事でもあったのかい? ひどくうなされてたけど」
398作者の都合により名無しです:04/08/07 23:57 ID:c2yPfGu+
「うっ…」
そう言われて、にわのは思いだしてしまう。
別府で起きた数々の惨劇、悲劇を。
「うわああああー!! ボクのせいだあぁあ――――ッ!!!」
泣きじゃくりながら、床を叩いて、泣きわめく。
「ボクが慰労会なんて言い出したばかりにー! 未来なんか覗いてきたばっかりにー!! みんな死んじまったー!!!」
「おい!!! どーいう事だい、おまえ!!! 泣いてないでしっかり説明おしよ!!!」
「うわあああああ!!」
「誰が死んだんだ!!! つーか、慰労会ってなんじゃい!!?」
「うわあああ!! うわあああ!! うわあああ!!!」
いくらチュチュの男が質問しても、まるでラチがあかない。
にわのはただ、子供のように泣きじゃくるばかりだ。
それを見た男は呆れ果てた。
「やれやれ。しょーがない、ひと肌脱ぐか…」

ポチッ
ブンシャカ♪ ブンシャカ♪

「!!?」

急にラジカセから優雅な音楽が流れ始め、思わずにわのが泣くのを止めた。

「ヘイ小僧!!! オレの躍りを見ろ!!!」

 プリン プリン

「はうあ!!!」

音楽に合わせ、チュチュの男の華麗な躍りが始まった。
399作者の都合により名無しです:04/08/07 23:58 ID:c2yPfGu+
「そんなかお」
 
   プリン

「にあいませんよ」

   プリン

「も」
「も」
「た」
「ろ」
「さん」

  ぐるん ぐるん

 さ  あ !!

  ぐるん ぐるん

全身を使ったダイナミズムに溢れるダンス
まるで新体操のように、両手で体を支えて回転、両足を旋回させる。
400作者の都合により名無しです:04/08/07 23:59 ID:c2yPfGu+

    ぴ た っ

倒立したままの芸術的なポーズでフィニッシュ

「わらって」
 

    ぱ  あ  あ  あ  あ  あ  あ  あ  あ  !!


その瞬間、嵐の空が一気に雲ひとつない青天になったように、にわのが笑顔を見せた。


     そ う  そ の ほ う が  い い  


謎の癒しダンスを躍る珍妙な男
果たして、この男は何者なのか!?

 N E X T !!!
401作者の都合により名無しです:04/08/08 00:22 ID:VjtC8RXY
うっわーつっこみてえw
このタイミングで出るかよw
402作者の都合により名無しです:04/08/08 00:25 ID:LJtPpumK
誰なんだー(゚ヮ゚;)
403作者の都合により名無しです:04/08/08 00:35 ID:0bJJ1OAW
わかんねー。誰誰?
404作者の都合により名無しです:04/08/08 00:38 ID:CgHcHSw/
つい最近打ち切られたアレですな
405作者の都合により名無しです:04/08/08 00:47 ID:JMezR8mO
えーとひょっとして復活系?
406作者の都合により名無しです:04/08/08 01:04 ID:LJtPpumK
ともかく変形猿渡さんではないと信じてるぞ!怖いから!('A`)
407作者の都合により名無しです:04/08/08 01:04 ID:NjN4Kd8Y
うわー、桃太郎繋がりでそっちに行ったかー。




                                      で、誰よ?
408作者の都合により名無しです:04/08/08 01:55 ID:fdhpgsxN
メサワロタ
いつ以来の登場だw

>誰よ?
メル欄ぐぐれ
409作者の都合により名無しです:04/08/08 12:44 ID:0bJJ1OAW
>408
わかった。ありがd
410作者の都合により名無しです:04/08/08 17:46 ID:NjN4Kd8Y
>>408
いやいや、流れ的に一応「誰よ?」と書いた方がいいと思っただけで。
411作者の都合により名無しです:04/08/08 20:08 ID:qM1/9mbR
俺も副将みたく癒されたいものだ…
412黒軍最期の日3:04/08/09 13:45 ID:dTFZJMlo
>>55 >>153
長谷川・ときたが安彦と戦っている頃
陥落寸前の黒軍基地内部でも死闘が続いていた
突き刺さるMG34機関銃とモーゼルC96自動拳銃による銃弾の嵐。
まさしく狼の牙。この黒い死風たちを止める術はないように思えた。
そのとき……
 隊員A「…ん?なんだあれは。」
突入小隊の行く先、廊下の遥か前方で、待ち受けている者がいた。
数はひとり。間違いなくエージェントであろう。
 隊員B「…たったひとりで我々を阻むつもりか……愚かな。」
 隊員A「構わん、一気に撃ち殺せ。」
漆黒のプロテクトギアに身を包んだ、鋼鉄の猟犬たちが一斉に躍りかかろうとした。

     ド ッ ゴ オ オ オ オ オ オ  !!!!

いきなり爆発するような轟音が轟いたのは次の瞬間だった。
 隊員B「ガハッ!」
呻きをあげて、隊員のひとりが吹っ飛ばされ、壁に激突する。
  全員「なっ!?」
視界の片隅にいたはずの人物が、いつの間にか目前まで接近していることに他の隊員たちが驚愕した。
その人物は一瞬の踏み込みで10メートル近い距離をゼロにし、その勢いのまま隊員のひとりに拳による突きを叩きこんだのだ。
さっきの爆音は、その際の踏み込みが、音速を超えた証である。
  全員「き、きさまッ!!」
他の隊員たちが同時に銃を突き付ける。だが、相手の方が速い!!

 ?? 「  真  空  辰  巻  キ ―――――― ッ ク !!!!  」
413黒軍最期の日3:04/08/09 13:45 ID:dTFZJMlo
 
   ズ ッ シ ャ ア ア ア ア ア ア ア  !!!!!

突きの勢いを殺さずに後ろ回し蹴りを繰り出した瞬間、真空の竜巻が発生した。
取り囲むようにして銃を突きつけた隊員たちは反応する間もなく、全身を切り刻まれ、そこら中の壁や天井に叩きつけられた。
 ??「ハァハァ……ざまあみろ。人の基地で好き勝手やってくれて。」
エージェントが軽く呼吸を整える。
しかし、そんな暇など与えんとばかりに、新たな銃弾がエージェントのこめかみをかすめる。
 ??「…ッグ!休ませてもくれんってわけ?」
集中砲火にたまらず、エージェントが床を転がりながら避ける。

       バキン!! バキン!! バキン!! バキン!!

そこへ新たな銃弾。その独特の銃声と同時に、声が飛ぶ。
 熊谷「鶴田!援護する!!」
 ??「熊谷!!」 
エージェントの正体は、【鶴田洋久】。
『なつきクライシス』の作者であり、黒軍でも指折りの格闘家である。
援護に入った、熊谷カズヒロの連発銃が敵の数名を撃ち果たす。
その間に、鶴田はなんとか角を曲がって、射界の死角に身を隠す。
熊谷が遮蔽物の背後で銃を乱射し、懸命に応戦を繰り返す。
そうしながら、熊谷が銃声に負けないような大声で叫ぶ。
 熊谷「鶴田、このままじゃ勝負にならん!後退するぞ!」
 鶴田「くっ…さっきは『俺って馬鹿だぜぇ!』とか気合い入れてたが、情けない……やっぱ『あの人』みたいにはいかねえのか。」
414黒軍最期の日3:04/08/09 13:46 ID:dTFZJMlo
実は、さっき『俺って馬鹿だぜえ!』と号令をかけていたのは、鶴田であった。
今はもういない、『ある男』の真似をして、なんとか志気を高めようとしていたのである。
 熊谷「…【九大天王】のひとり、【ディックまこと】か……。」

本名、【小林まこと】
柔道出身の、プロレスラー。
そして、かつて評議会最強の格闘家でもあった男だ。
だが、今は他の【九大天王】同様、逐電しており、行方はおろか生死すら不明であった。

 熊谷「……とうの昔に組織を去った男の事を思いだしても仕方あるまい。それよりも今はここを逃れることを考えろ!!」
 鶴田「…あ、ああ。」
しかし、熊谷の必死の応戦にもかかわらず、状況は悪化する一方だった。
なにしろ、あまりにも数と火力が違いすぎるのだ。
 熊谷「くっ…マズイ。そろそろこの防衛線も限界だ。このままでは……。」
ガチン!
 熊谷「くそ…弾切れか…!」
弾を込め直している暇はなかった。火線が途切れたのを見計らって、特機隊が殺到してくる。
万事休すか……そう思った。しかし!!

    D O G O O O O O O N  !!!!

雷のような轟音がした刹那、特機隊の連中が廊下ごと吹っ飛び、炎上した。
何か、榴弾のようなものが炸裂したのだ。
そして、壁に空いた巨大な穴から、瓦礫をかき分けるようにして戦車が姿を見せた。
415黒軍最期の日3:04/08/09 13:47 ID:dTFZJMlo
唐突に現れた戦車の入り口が開き、そこから唇の厚い男が姿を現す。
 ??「ケヒョヒョ、無事ですか?」
 鶴田「……押川!!」
戦車で現れた、嫌味な笑い方をする男は、押川雲太郎。
熊谷達と同じ、黒軍のエージェントにして、武器商人である。
 押川「すいませんね、これの調達と、基地に爆弾をセットするので遅れました」
 熊谷「……他のエージェントたちは無事か?」
 押川「残念ながら生き残っているのは、私と、お二人、それに士郎さんを含めても10名もいませんね。事実上、黒軍は壊滅です」
 熊谷「〜〜〜ッッ!!」
のしかかる悲惨な現実に、熊谷は砕けそうなぐらい歯を噛みしめた。
 押川「いやだなあ、後悔するのは後、後!今は、さっさと逃げないと。ケヒョヒョ!」
冷たいのかマイペースなのか、押川は愉快そうに耳障りな笑い声をあげている。
それに顔をしかめながら、鶴田が言う。
 鶴田「正直、おまえは真っ先に裏切ると思ってたが」  
 押川「ンマァー、心外ですね、ケヒョ。別に、正義がどうとかには興味ありませんがね?
    ただ簡単に大勢力に迎合するのが嫌いなだけですよ。それに、こうやって戦いが続いた方が武器も売れるし! ケヒョヒョ!」
 鶴田「――――」
どうにも掴めない態度に、鶴田は溜息をついた。
まあ、実力は確かなので、敵対されるよりはマシだ。
 押川「あと3分でこの基地は爆発します。脱出しますから、乗って下さい。ケヒョ」 熊谷「生き残ってる連中は?」
 押川「それぞれ脱出しましたよ。士郎さんが格納庫に向かいましたが、たぶんモビルスーツで脱出するつもりでしょう」
 熊谷「そうか、あいつなら心配はないな」
 押川「では脱出しましょう!」 
416作者の都合により名無しです:04/08/09 14:26 ID:jtuuPTtf
わーい久しぶりに押川キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!!!
417作者の都合により名無しです:04/08/09 14:35 ID:9Xaz0CGr
武器商のおっちゃんキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!!!
418作者の都合により名無しです:04/08/09 20:20 ID:zRTBqV3R
フジナミキター
419作者の都合により名無しです:04/08/09 20:51 ID:Nou0p3Fr
猫先生いな━━━━(゜Д゜)━━━━い
4202人の“桃太郎”:04/08/09 23:18 ID:dM7VYxqZ
>>400

「ブラボー!! ブラブラボ――――――ッ!!!」
さっきまでの沈み方が嘘のように、にわのが晴れやかな顔で拍手していた。
「いやーすばらしい!!! すげー躍りダスね」
「気持ちは落ち着いたか?」
「えっ!? 気持ち!?」
そう言われて、にわのは初めて、自分の心が軽くなっていることに気付いた。
「あっ、そういえば気持ちがおちついてる。さっきまでの悲しみがまるでウソのように」
表情が緩むにわのだったが、次の男の言葉で再び緊張が戻る。
「それじゃあ、話してもらおうかな。何が起こったのかを!!!」
「は…はい」
真剣な表情を浮かべ、にわのは全てを語り始めた。

そして数分後。

「なるほど、そーいうことだったのか。そいつあ大変だったのォ…」
「ボクのせいです…ボクが余計なことしなければ…」
「過ぎたことを今さら言っても始まらん。
 イット イズ ノー ユース クライング オーバー スピルト ミルクじゃ(※覆水盆に返らず)
 大切なのは、これからどう生きるかだ」
「は…はい」
なんだか妙な説得力がある男の言葉に、にわのは思わず正座して聞き入っていた。
そして、これからどうするかを考える。
絶え間なく続く戦いと、繰り返される悲劇と復讐の連鎖を断ち切るにはどうすればいいのか。
そこに思いを巡らせたとき、にわのはふと、今しがた自分が恩恵を受けたダンスが無性に気になった。
4212人の“桃太郎”:04/08/09 23:20 ID:dM7VYxqZ
「それにしても、アレはすごかったモン」
「え!?」
「あの躍りを見るとすごく癒されるんダスが、一体なんじゃらホイ、アレ」
すると、男は自負に満ちた表情で、こう答えた。
「あれは、オレが発明した、究極のバレエじゃ」
「きゅ…究極のバレエ!!?」
「そうじゃ。名づけて“カメちゃんバレエ”!!!」
「カ…カメちゃんバレエ!!?」
「そうじゃバレエによって人々の心を癒し、世界を平和にするために、オレが何年もの歳月をかけ、世界中の様々なダンスの癒しの要素をミックスして作り上げた究極の癒しバレエ……それがカメちゃんバレエじゃ!!!」
「ヘエーそうだったのかモン……しかしそんな躍りを身に着けてるとは、あなたはどこのどちらさん?」
「フッ……オレこそは“つっぱり桃太郎”……漫・画太郎!!」
「桃太郎!? ま…まじで!!?」
チュチュの男は、画太郎であった。そして、桃太郎という肩書きに、にわのは驚愕する。
「(ボ…ボクは勝てねー……同じ“桃太郎”でも、完全に負けとるダス……)」
衝撃を受けたにわのは、その場で土下座した。そして強い決意を持って、嘆願する。
「先生、ボクを弟子にして欲しいモン!!! ボクもその躍りを体得してーダス!!!」
かつてないぐらい真剣な様子のにわの。
だが、返ってきたのは嘲笑だった。
4222人の“桃太郎”:04/08/09 23:21 ID:dM7VYxqZ
「プー、その筋肉ダルマの体型!? お前がこの躍りを身につけるって!?ヒャヒャヒャ、バカも休み休みに言えやー!!」
「お願いします!!! どんな厳しい修業にでも耐えてみせます!!!」
「ムリムリ、時間のムダだよーあきらめな!!!」
「お願いします!!! ボクにはどーしてもあの躍りが必要なんダス!!!」
「しつこいねー!!! ムリだって言ってんだろ!!!」
嘲笑はいつしか怒りに変わっていた。
「バレエってのはねー、オレみたいな癒し系の美形しかやっちゃいけないんだよ!!!
 お前みたいな汗臭い男のバレエじゃ人は癒せないんだよー!!! 不快になるだけだ、バカヤロー!!!」
「カチーン!!!」
あまりの暴言の数々に、下手に出ていたにわのも、堪忍袋の尾が切れた。
「じゃあ、もしボクがダンスであんたを笑わせられたら、ボクを弟子にしてくれるかー!!?」
「ああ、いいとも。オレがクスリとでも笑ったら、デシにでもリットルにでもしてやるよー!!!」
「言ったなー!! これでも拝めー、もんがーもんがー!!!」


外に買い出しに行っていた猿渡が、中で行われていた珍妙かつ奇怪なダンスの激しい応酬を目撃したのは、それからさらに数分後のことである。


続く…(気がしねえ)
 
4232人の“桃太郎” :04/08/10 01:00 ID:fbqOUNd1

 「はーっ、はーっ、・・・こ、こなくそー!こぉんな肝心な時に、
 “もんがー”に変身できないなんてボクはダメな男だなマジでこんちくしゃーっ!!」

なにやら癒されてるんだか嫌がらせを受けているんだかわからない男が、
己のレスラー系筋肉体型をも恨み再び鬱モードに入りかける。
そう、モモマスクのないにわのは特殊能力の半分以上を失った三下野郎なのである!
 「しかしまこリンは負けないっ!
 この世に真の平和をもたらすために!
 民衆の味方『桃太郎』の名のもとにっ!!
 そしてあんたを超えるっ!!がたろーせんせー!!」
近年まれに見るアッパーモードに入ったにわのは気を取り直し、
≪癒し系地獄漫画家≫画太郎を指差し図々しくも宣戦布告。
 「ゲシャシャシャ!あんだってー!あたしゃ最近耳が遠くてねぇーーー!!」
画太郎が『ハァ?』とばかりに耳の後ろに手を当て聞き返すポーズ。
鼻水やらよだれやらに彩られた、書き込み量の凄まじい赤ら顔がニヤニヤ笑う。

 「言ったなー!!大体なー、そんな素敵な技術があるんなら、
 なぜそれをみんなのために生かさないんだ!愛は心の仕事だモン!
 あーわかったどーせ金儲けにしか使わないんだ!銅像つくるなら金よこせってか!(謎)
 ボカァ見そこないましたよせんせー!あんたなら世界のひとつやふたつ、
 救えるもんだと思っていますが見込み違いですかね〜〜〜ぇ!?」
 「はぁぁぁぁぁ!!?その口が言うか!?この偉大なる≪GAGキング≫様にのたまうか!?」
 「かんけーないねっ!GAGキング募集のイラストカット描いてたのは、
 ボクんとこでアシやってたH君なんだぞ!!(※実話)」
 「本当に関係ねえーーー!!」
 「いいじゃんかケチーーーー!!」
 「んだコラー!!!」
 「やるかハゲー!!!」
                      〜〜以下>>422ループ〜〜

その後、猿渡の強烈なツッコミ(灘神影流)で日本一の大馬鹿野郎達が血反吐と共に地に這ったのは言うまでもない。
424作者の都合により名無しです:04/08/10 01:08 ID:Vbx06aeX
すっかり通夜ムードだったルートの空気が一発で塗り替えられるとはさすがは画太郎
425作者の都合により名無しです:04/08/10 01:40 ID:p0ARTl3s
>さっきまでの悲しみがまるでウソのように

自分でナレーション入れるマコリソ萌え
426ジャンケン冨樫がやって来る!:04/08/10 18:41 ID:DFPznLqC
>388

グー
チョキ
パー

差し上げられた冨樫の拳が、次々と、見慣れた形に変化した。
「……ジャンケン……?」
提示された種目に、荒木は思わず眉をしかめる。
「嫌?」
クリッと小首を傾げられ。とりあえず、先を促す。
「……全五回勝負。で!賭けるものは」
冨樫の人差し指が、自らのこめかみをつつく。
「―――互いの『記憶(メモリー)』。とはいえ、互いの賭ける『記憶』の意味が、チョイとばかし違う」
「ほう」
荒木も腕を組み、斜に構えた。
事態の割にはのん気というか。駆け引きの為の装いとはいえ、見る人間が見れば、怒り出しそうな雰囲気である。
「もし私が負けたら、全て教えよう。過去・現在・未来問わず―――君が知りたい、そして私が知ることは、全てだ」
「…………」
荒木と、そして遠目で、藤崎の喉が鳴る。
「しかし、もし君が負けたら―――」
某みのよりは、短い溜め。
「―――君の、『私に関する記憶』を消させてもらう。方法は、秘密だがね」

……………………………………………………
427ジャンケン冨樫がやって来る!:04/08/10 18:42 ID:DFPznLqC

ルール! それはギャンブルを行う際の最低限のルールである!
・読心やら操作やら、ジャンケンの勝敗に直結する能力は全て使用不可!
・頼るは三種の手形!そして自らの脳漿の中身のみ!
・担保やらルール違反のペナルティやらは無し!互いのギャンブラーとしてのプライドを信ずる!
・掛け声(〜ホイ!)による勝負開始は交代で行う!それまではハッタリ効かすなり口八丁で惑わすなりお好きにどうぞ!

……成る程、シンプルだ。
自由度が高く。罠のある無しとは別の、公平さもある。
ただひとつ
「―――賭けるモノが公平でない理由は?」
「……私が、君から貰いたい物なんて、考えたら何ひとつ無いからだよ。せいぜい―――」
鼻の穴から、意気が吹き出る。
「―――『私の記憶』でも貰って。それからまた明日あたりに君に会いに行き
 『どなたでしたっけ?』とか言うアホ面を、楽しむくらいかと」
荒木の眼輪筋が、ピグッと脈打つ。
むろん、一瞬のことだが。
「……面白い。よかろう―――」
スウッ、と目を見据える。
「―――『記憶(メモリー)』を賭けようッ!!!」
「グッド」
同時に冨樫が親指で、銀色の光を弾いた。
やがて落下するそれを、手の甲が受け、更にその上に手の平が重なる。
「表か、裏か。当てた方が、先攻後攻、好きな方を選べる」
「―――裏」
「では私が表だな」
五百円玉の、数字の面。
「……後攻で」
言いながら歩み寄り。荒木と冨樫は2メートルほどの距離で向き合う。
「じゃ、まずは小手調べ……」
素早く組んだ両手を腰だめにして、居合にも似た対峙。
「……最初はグ―――ッ!!!ジャン、ケン―――」
428多分これで全員:04/08/10 18:44 ID:DFPznLqC
>>220とか

揺れがまたひと段落して、そこら中で崩れそうな柱や壁を支えていた余湖が、恐る恐る手を離す。
最初は、王蟲が近くにまで迫っているのかと慄いたが。TVの報道特番を見る限り、どうもそういうことでもないらしい。

徳弘「頼むのだ!このままでは俺たち全員王蟲にペッシャンコにされてしまうのだ!」
真倉「“今、飛んで逃げるとむしろ危ない?”“『別府』に轢かれる?” ……だから何言ってんだよお前っ!!!」
ぎゃあぎゃあと喚き散らす声が、入り口の向こう側から聞こえる。
やはりあの白い蟲での脱出策は、アテには出来ないらしい。
山田貴敏は碁盤の目に並ぶ簡易寝台の間を抜けながら、周囲の患者の様子をまんべんなく見渡した。
累々と横たわる、人、人、人。
その理由は様々だ。

酔いつぶれている人。
桂「ぅう〜……山田さん……行かないでくらさい〜」
安永「ックシュッ!!えぇ〜い!!……調子に乗りすぎました。今は反省しています」

重傷の人。
冬目「はぁ……はぁ……」
天野「がんばってください……冬目さん!」
鈴木「ぅぅ……」
余湖「おいコラ!しっかりするじゃん!!これ以上仲間が死ぬのは嫌じゃん!!」

死にかけている人。
草場「…………」
橋口「準決勝はサッカーという噂もある!草場よ……生きろ!」

死んでいる人。
松島「…………」
伯林「ファ〜」
施川「……それ、泣いてるんだよな?」
429多分これで全員:04/08/10 18:45 ID:DFPznLqC
……もう、この場で自分に出来る治療は、ほぼ全てやった。
あとは親しい者の呼び掛けだけが、患者たちを『こちら』に引き寄せる力になるだろう。
ようやく溜息を吐いたその眼が
井上「……おい医者ッ!」
井上に呼ばれ、ある箇所で止まる。
なんとそこでは真船が、うつ伏せの体勢でおびただしい血を口から吐いているではないか。
山田はほとんど悲鳴に近い声を上げながら駆け寄ると、近くにいた井上を押しどけて、真船の体を診察する。
しかし真船は、唇から血を垂らしながら、表情だけは何事も無かったかのように山田を見上げ、こう言った。
真船「患者は……どんな様子だ……?」






すこし離れて、元浴場だった瓦礫の山で。
やまもと「なあ……オラ、誰もが注目してくれるような強烈な個性が欲しいだよ!
     あんた達からはヒシヒシとそれを感じる!よければ……!」
如何なシンパシーによるものか、やまもとかずやの熱の篭った視線に、変態チームの面々は顔を見合わせていた。
木多「……チームに入りたいってのか?」
古谷「ど、どーする?」
衛藤「……意見を求められても」
土塚「だからいつ俺らが変態チーム入りしたと」
うすた「あなたを遠くに感じました。  フユミ」
野中「…………」
そして、リーダーが不在で我々ではいかんともしがたくどうのこうのと返事を濁す、そんな面々の更に奥。
脱衣所の残骸から新沢と三上が、一着の服を引っ張り出していた。
三上「なんだ」
新沢「服だな……でも女物じゃないのだ、チェッ」
放り上げた二人の頭上には、その服の持ち主が半透明のまま浮いていた。

霊体キバヤシ(オレにだって……死ぬことぐらい…ある…)
430王城の腸:04/08/10 18:48 ID:DFPznLqC
>>390とか
『耐圧臨界まで、あと104秒!!!』
『蒸気密度、既に必要MPaを上回っています!!!』
WARNINGの赤色灯と怒号と、職員たちの駆け抜ける足音。中央司令部を、仕上げ間近の喧騒が埋め尽くす。
そこらじゅう咲いたモニターには、高速道路や水道管・高電線など、別府と、それ以外とを繋げるありとあらゆる糸が
圧倒的力場により次々と断たれていく様がブレながら映り込む。
そして天の目、衛星からの緑がかった暗視の大画面では。長方形の別府、その地図上の『形』が、冗談のように闇夜に縁取られていた。
むろん処理の問題ではなく、実際に、亀裂が走っているのだ。
『甲板の別府受け入れ準備、進捗は72%!! 出撃した機動艦はほぼ全ての配置を終えていますが……!!!』
矢吹艦上空には、発艦孔より立ち昇った数百の収容艦が、雲霞のごとくひしめいている。
一度『上昇』した別府は、重力により『落下』する。そしてその衝撃が強すぎれば当然、せっかく助けた別府民は皆殺しになってしまう。
勢いを少しでも減じる為、かかる質量からすれば可哀相なくらい見劣りする推力を、それでもなんとか寄せ集め
利用しようという試みであった。
矢吹様には一度『んなことせんでも大丈夫だぁ』などと気楽に流されていたが。
重ねて上申し、とりあえずの許可だけはいただいた、苦肉の策。
431王城の腸:04/08/10 18:49 ID:DFPznLqC
『待機部隊による強制介入作戦の配置、完了いたしました!!!』
『帰還部隊の種別残存数は、メインコンピュータにインプット!!』
『データが来次第、可能な限り待機部隊に編入……!!!』
ピザでは無い。
放り投げて皿に入れて。無論それでは終わらない。
要救助者の確保や、別府に残っている、大会に関係無い犯罪漫画家の逮捕。
なにより決勝トーナメント出場者を、明日の試合開始までに、なんとしても全員補足しなくてはならない。全職員、完徹を覚悟していた。
(しかし……)
そのオペレーターBは。忙しさにかまけ忘れていた一般人としての思考を、エアポケットのような暇に、ふと取り戻した。
考えてみるまでもなく、別府まるごと飛ばし、抱き止める、などというのは。
人類滅亡クラスの隕石を受け止めるのと、そう変わらない難事だ。むろん速度等の要素がまるで違うので、一概に同一視は出来ないが……
『実現が不可能』という意味においては、まるで同じものともいえる。
(つーか……)
致命的なことに、気付いてしまった。
(『矢吹艦』あってこそ、だわな)
しかしその
(『矢吹艦』……まさか沈みゃせんだろうな……?)
432作者の都合により名無しです:04/08/10 19:19 ID:DtkcDutg
え、まじ!?
てか沈んだら九州どころか西日本壊滅だなw
433作者の都合により名無しです:04/08/10 20:04 ID:fbqOUNd1
キバヤシ死んだぁぁ!!
434作者の都合により名無しです:04/08/10 20:13 ID:INdUXiI2
やまもとには「なんか知らんが死なない」という木村太彦並の個性が(ry
435長谷川・ときたvs安彦:04/08/10 22:24 ID:l8mNAbFF
>>153 >>415
黒軍基地前――
安彦良和の相手に、長谷川裕一・ときた洸一は懸命に立ち向かっていた。
ビーム粒子が、金属の触手が、魔法が、戦場の至るところで華を咲かせる。
大量に迫りくる『殺人兵器バグ』を打ち落とし、『テンタクラーロッド』を焼き払いながら、長谷川は己の限界とも戦っている。
 長谷川「出血が酷い……、機体の損傷が深すぎてバランス制御もおぼつかない…。」
片腕・片足を失った『ダイ・ソード』は、今にも撃墜寸前だ。
そして、そんな長谷川を庇いながらの戦いゆえに、ときたの『ブルーフレーム』も、ただでさえ不利な状況は悪化する一方だ。
  安彦「しぶといですねェ……、しかし私を相手にここまで持ちこたえるとは、流石は『コーディネーター』」
 ときた「―――――」
コーディネーターは、あらゆる面において、通常のパイロットを大きく上回る、遺伝子改造された新人類だ。
その能力はニュータイプと比べても遜色はない。
  安彦「ですが、この機体性能差の前では、所詮は時間の問題!!」

    キ ュ バ  ―――――――― ッ ッ !!!

拡散メガ粒子砲が、ブルーフレームめがけて吐き出された。
ビーム粒子の雨が、ブルーフレームを焼きつくそうとする。
 長谷川「と・ときたさん!!」
その光景に、長谷川絶句。
しかし、ときたは冷静だった。
 ときた「兵器の性能が戦いの優劣を決めるのではない。要は戦い方だ。」 
その瞬間、ブルーフレームは消え、新たな機体がときたを覆った。
それと同時、メガ粒子砲が、ハリネズミのように、その機体を撃ち抜く。
436長谷川・ときたvs安彦:04/08/10 22:25 ID:l8mNAbFF
撃墜される…!
長谷川はそう思ったが、しかし!!

 ときた 「 ア ル ミ ュ ー レ ・ リ ュ ミ エ ー ル !! 」

    ヴ イ イ イ イ イ イ !!!

突然、幾つもの多面体から形成された歪な球形のバリアーが、新たな機体の周囲に展開された。
そして、光り輝くバリアーは、全てのメガ粒子を完全に防ぎきったのだ。
  安彦「ほう…その機体は…。」
新たに出現した、両肩に巨大なビーム砲を装備したガンダムを、安彦は多少驚いたように見る。  
 ときた「ハイペリオンガンダム……。
     この機体が持つモノフェーズ光波シールド……『アルミューレ・リュミエール(装甲した光)の前では、
     ビームだろうが、実体弾だろうが、一切通用しない。」
  安彦「なるほど『アルテミスの傘』を利用した、単位相指向性の光波防御帯ですね。なかなか厄介なものを…」
アルテミスの傘とは、同じ名前を関するスペースコロニーに装備された、防御帯の名前である。
この防御帯は、極めて強固な防御力を持つかわり、莫大なエネルギーを消費する。
それを、保有エネルギーが限られたモビルスーツが使うとなれば、なおさら。
 ときた「(これが持つのは最大でも5分……、しのぎきれるか…?)」

制限時間5分。
最後の足掻きが始まった。
437作者の都合により名無しです:04/08/10 23:10 ID:p0ARTl3s
おお、ロボ編も進んでるな。ガバーレ
そしてさりげに台詞取られた施川乙
438眠れる森の漫画家たち:04/08/12 01:20 ID:Lu/I+m/E
>>395
         〜 冒険パーティ 〜
 勇者:ひぐち 戦士:みうら 武闘家:よくさる 遊び人:らいく

バランス微妙。


シダ植物や巨大菌類、大量のコケ類が見る間に成長してゆく。
禁忌の地≪腐界≫は急激に九州の海を未知の大陸に変化させている。
土壌となるのは、生命活動を終えた王蟲や巨大昆虫たちの死骸。
特に王蟲は小さいものでも乗用車クラス、
大きいものでは小山と見紛うばかりの体躯ゆえ、
彼らを苗床にした海上の森は起伏に富んでいる。
だがのんびりとトレッキングを楽しむ風情ではない。
ここは人外魔境・・・“持たざるもの”を一瞬で生命サイクルに飲み込む魔の森・・・。


 「ねえ、一旦艦(ふね)に帰ろうよリック君!ふたりが死んじゃうよ」
 「ベリーシィィット!!私はおたからを手に入れるまで帰るわけにはいかんのだァァ!!」
 「あたしじゃでかい男2人連れ帰れないのよ!リック君の力が必要なの!」
 「グル――――――――ビ――――――――――!!!!」
 「わけわかんないって!!」

ちっとも進展しない会話を延々と繰り返す、男勝りの少女とV型魔人。
 「なんなのよ、もう・・・」
樋口はここ数日の、己の不運さを思い出してみる。
ジャンプスポーツチームには『女だから』という理由で入れてもらえず、
ならばと臨時審判として赴いたC決勝のあの島では忌わしい吸血鬼や、
ペナルティを無視して逃げたどっかの変な漫画家のせいで散々な目に遭った。
その流れで自然に参加した温泉慰労会ではトロい眼鏡娘を保護した矢先、
変態軍団や謎の予言者や外道な女用心棒に絡まれ、覗き魔が出たり風呂で溺れたり、
槍持った男とケンカになったり異世界ジャングルに入ったり。そして気がつけば。
439眠れる森の漫画家たち:04/08/12 01:21 ID:Lu/I+m/E
 (なんでわたしはこんなところにいるんだろ?)
ふと差し込む心。闘う力を持たない自分に新しい道を示してくれた、
あの島で輝いていたあの人に恩返しをするため・・・ なんだろうけれど。
荒々しく剃り上げられたナイスモヒカン男と化した≪黒い剣士様≫の顔を、
色んな意味で正視できずに樋口は何回目かもわからないため息を吐いた。と。

 ♪  ・・・メーロ〜〜〜ン  ・・・  ・・・  ♪

雷句の朗々たる歌声が、発光する菌類でほのかに輝く密林の彼方に消える。
そして返って来るはずのないこだまを期待して耳を澄ます雷句の立ち姿。
その彼の耳が何かを感じ取った!
 「あの奥に誰かがいるな!幻のメロンの情報を知ってるやもしれぬ!今ゆくぞ、チョヤッ!!」
カクカクと関節を動かして闇の奥へひとり消える雷句。

樋口は追う事を諦め、傷口にキノコが生えかけてとてもヤバイ三浦とヨクサルを、
動くたびに埃のように舞う胞子から手をはたいて必死に守っていた。
そこへ光の速さで帰還するリック。
左手で謎の青年をズルズルと引っ張りながら・・・。

 「あ!あなたはバンチチームの巻来先生!大丈夫ですかっ!?」
昼間の食事会で、狐のキッシーを食べたがっていた濃ゆい顔で笑う男。
そういえば戦艦無礼ドが人捜しをすると言っていたが、どうやら彼の事か。
樋口に頬をぺちぺちと叩かれ、巻来の緑の瞳が開かれゆっくり焦点を合わせる。
いがらしとの激戦ののち、森に守られるように静かに眠っていたのだ。
 「・・・夢を、見たんだ」
巻来は額を抑えながら、うわごとのように言葉を紡ぐ。
樋口は身体にこたえるからしゃべるなと制すが、巻来は悲しそうに首を振り、なおも声を出す。
 「森が泣いているんだ。暴力に対し暴力で返しては、負の力は永遠になくならない。
 王蟲にこの地上から、彼らの世界へ帰ってもらうには・・・火ではない力で意思を伝えないと・・・」

 (火ではない力?攻撃では闘いが終わらない?そんな事言われても、どうすれば・・・)
“持たざるもの”に近しい存在・樋口は無意識に――祈るように両手を組んで、いた。
440旅景色〜霊界編〜:04/08/12 11:01 ID:/r80zoC7
 森は楽しい
 森は楽しい
 水の音が聞こえる
 水の音が聞こえる
 ハナをかむ音も聞こえる
 ハナをかむ音は
 どうするんだろう
 これから どうするんだろう
 森は楽しい
 森は楽しいったら

 「そうだ、今日はマホウを見に行こう」
 水にぷかぷかゆらゆら浮かんでいるラッコが間の抜けた声で言った。
 ぷかぷかゆらゆら、ぷかぷかゆらゆら。
 少しの間が空いたあと、また、
「そうだ、マホウを見に行くんだっけ」

441旅景色〜霊界編〜:04/08/12 11:02 ID:/r80zoC7
 「エガワさん、マホウ見せて」
 エガワと呼ばれた大学生風の男は怪訝そうな顔をして、
「またおめえか、いいかげんにしろ」
 ラッコの目から大粒の涙がこぼれる。
「泣くなよ。オレはもう魔法を忘れてしまったんだよ」
 ラッコは何事もなかったかのように泣き止んだ。
「おまえって素直だな。いい子だ」
 また涙が出てきた。
「褒められたからってなにも泣くことねえだろ。泣くなよ」
 また止まった。
「おまえってホント素直だな」

 エガワの家を出て、深くお辞儀をするラッコ。
「あぁ、気をつけて帰れよ、いがらし」
 いがらしのすぐ横に、二つの中くらいの大きさの石が落ちていた。
のそのそとそれを拾い、なんとなく重ねてみるラッコ。
「ウンウン、いいから早く帰りな」
 重ねた石を指差すいがらしに、エガワはそう言ったのだった。
 
442作者の都合により名無しです:04/08/12 12:54 ID:g1TbA0AM
ぼのバージョンいがらしなんて貴重なものをありがとう
443作者の都合により名無しです:04/08/12 17:30 ID:OaUlj4xr
よかったな江川生きてて
444作者の都合により名無しです:04/08/12 17:43 ID:kV3Q2dvy
生きてないよ〜。タイトル参照。
門前に置き去りの連中にも出番来るか?
445作者の都合により名無しです:04/08/12 18:57 ID:OaUlj4xr
あ、ほんとだ。
でも江川といがらしちゃんとあの世にいけてよかったな。
446漫画家兵器らしい:04/08/12 21:25 ID:Z4Ok8A+L
>264
「割れる?」
 眉間に僅かな皺を寄せて、横山光輝が言った。
「別府が、ですか?」
 とその"両手"で持つ茶碗をテーブルに置き、横山は念を押すように目の前の男に問いかけた。
「可能性は、あるな」
 と男が言った。オールバックに整えられた髪。強い意思を感じさせる尖った顎。そして、深遠な智を感じさせる深い眼。
 ゴッドハンドが一人―高屋良樹であった。

 高屋は横山の指示により南九州へと飛んだが、その仕事―王蟲の殲滅の大半は既にダイナミックプロにより遂げられていたのだ。
 土地の5割の壊滅いう形により―。
 残りは鹿児島―しかしそこでは松本零士傘下の部隊が戦闘中により、下手に連携を取っても邪魔になると判断し、退き返して来たのだ。
 高屋は一度茶を啜った後、問いに答えた。
「あれだけの広範囲を地面から強引に引き剥がし、さらには重力に逆らい打ち上げ、
それを受け止めるというのだから…まあ」
 とそこで言葉が止まった。思わず失笑が漏れたのだ。

「馬鹿にしてはいけませんよ」
 半ば以上の本気を込めて横山が諌めた。
「あの男と…他の世に言われるパクリ漫画家との違い、何かわかりますか?」
「―――ふむ」
「想像力ですよ」
 思案顔を作った高屋に横山が告げる。
「想像力?」
「そうです。例えば、上等の食材と最高の設備を我々が与えられたとしても、出来あがるのは最高の料理ではないでしょう?それと同じことです。
彼らは他人の技を偽造することができますが、それを活かすことができない。
重要なのは、能力ではなく、それを状況に合わせて臨機応変に取捨選択する機転とセンス―つまり想像力ですからね」
 しかし―と横山は続けた。
447漫画家兵器らしい:04/08/12 21:29 ID:Z4Ok8A+L
「矢吹殿はこの状況に置いて、己が蓄えた贋物の才能の中から必要な物を、
 見事なまでに回転させてこの作戦を組み立てられた。彼に想像力がある証拠です。
 パクリとは本来想像力が無い漫画家が羞恥心をかなぐり捨てて
 ―まあ、元々そんなもの持ち合わせていないだけかも知れませんが―手に入れた異質な才能。そこに想像力が加われば―」
「誰も、敵う道理が無い」
 最後の部分を、高屋が付け加え、横山が頷いた。

「が、欠けている部分もある」
 横山は一度茶を啜り間を置いた。
「と、いうと―?」
「想像力が己の内にしか及んでいない」
「なるほど」
 高屋は得心したように頷き、そうであろうと思った。
「他の存在の反動を考慮しないというわけか」
「ま、支配者という者は得てしてそういう倣岸なものですが―彼の場合そこに陶酔が混じっている気がします、さて、冷めた時にどうなることやら―話が逸れましたね」
 そこでふと気が付いたような顔を横山がした。
448漫画家兵器らしい:04/08/12 21:30 ID:Z4Ok8A+L
「別府が割れる―としても我々には関係ありません。既に別府の住民の避難もほぼ完了していることですしね」
 辺りを見まわしながら横山は言った。
 横山光輝と高屋良樹が居る場所。その周辺には、多くのテントが仮設されており、
白い清潔な服装を着た女性が幾人も忙しなく動いていた。
 看護婦である。先程から定期的に、災害にあった怪我人が運ばれている。つまり、ここは仮設の治療所であった。
 地理的には別府よりやや離れた福岡の辺り。
 が、ここ以外の既に王蟲の掃討が完了した場所に、幾つもこういう場所が組みたてられていることを彼らは知っている。

「魔界医師がここまで大々的に動くとは思わなかったがな」
 眼前の光景を見、高屋が呟いた。
 この治療所、更には働く看護婦達も全て、かの有名なメフィスト病院―その院長である魔界医師菊地秀行が指示し、動かしているものであった。
「彼は漫画界を見捨て、傍観者と化していますが、
 その暴慢により一般人が被害を受けるのを漫然と見逃すことはないでしょう」
 その点は私と共通している―と心中で横山は呟いた。
 もっとも、見透かしてるかのように言う彼自身も、
血風連に指示して別府の住民を避難させようとしたその時に、
既に魔界医師の手により別府の地が裳抜けの殻と化していたその手際には呆気にとられたのだが―
449漫画家兵器らしい:04/08/12 21:32 ID:Z4Ok8A+L
 ちなみに、その避難させた人間の中には、クリエイターはいない。
 それは意図的なもので、唯一の例外は、
闘神により手傷を負わされた福本伸行だけで、その他は怪我人であろうとも一瞥もされない。
 己達が多数で集まるという事の危険性を認識せず、
享楽に流され結果一般市民を危機に陥れた愚か者達など知ったことか、という冷めきった非難がそこに現われていた。
「ところで、あれの再調整は進んでいますか?」
 茶碗を置き、ふと思い出したように横山が訊ねた。高屋の動きが止まる。
「…三日後までには何とか―なるかもしれない」
「進んでいないのですね…」
 横山はため息を付いた。
その仕草が、どこか締め切り直前の担当に似ているなと高屋が思ったかどうかはわからない。

「貴方は優秀なのですが、仕事が遅いのが欠点ですね…間に合わなければ皆川亮二を代役に?」
「と、考えてはいるが…想定する相手が"ユダ"の竜戦士ともなれば"冥王"をできれば間に合わせたいところだな…」
「まあ、三日後に出てくる、とも限りませんから、来るべき大戦を見据えて調整して頂いて構いませんよ」
「了解した。――では、私はこれで帰還しても宜しいのかな?」
「ええ」
「そうか…ちなみに、安彦の処置はどうするつもりで?」
「どうしましょうかねえ」
 それについては今現在も思案中、という表情を横山は作った。
450漫画家兵器らしい:04/08/12 21:34 ID:Z4Ok8A+L
 安彦の造反自体は、彼の策の枠内のものであったが、調停者の復活という予想外の事態により、策は崩れた。
 調停者が示唆した"賛同者"の探索。
そして、別府浮上後別府の跡地空洞にて衝突するであろう王蟲達の殲滅作戦。
 これらの問題を処理しない限り容易に別府を離れることはできない。
「長谷川が稼いだ時間分、想定外の余裕もできましたので…。
 尼子を中心とした忍軍を一応黒軍の残存部隊保護に出向かせましたが…安彦自体をどうこうは今の所不可能――」

「な、わけなかろうがああああ!!!!」

 その鼓膜を突き破らんばかりの怒鳴り声は、横山の直通回線から放出された。
二人は両手で耳を押さえながら渋面を作った。
「そんな大声を出さなくても聞こえますよ、石川さん。どうしました?」
 横山が、通信器を通して、声―石川賢に訊ねる。

「 話 は 全 部 聞 か せ て も ら っ た ! 」

「だから声を…」

「ワシはこれより黒軍基地へと赴く!!!」

「はあ…しかし、黒軍との同盟は破棄…」

「ワシは史上最強の義理と人情を持つ
 
     漫 画 家 兵 器 じ ゃ ! ! ! 

黒軍も長谷川も見捨てはせん!!」

「「(゚Д゚ ) ポカーン」」
451漫画家兵器らしい:04/08/12 21:35 ID:Z4Ok8A+L
 軍師と科学者、二人の理知的な男がそれに似つかわしく無い間抜けな表情を顔に浮かべた。
「義理と人情…サンライズを食らい尽くした男が何を…」

「チェーンジ、真ゲッター1! スイッチ オン!!!」

―――― キ イ イ イ イ イ イ イ イ ン  !!!!

 横山、反射的に空を見る。
音速の衝撃音を撒き散らしながら、ゲッターは空の遥か向こうに消え去った。

「がっはっは! まっとれよ安彦ぉ!!!」

 その高笑いを最後に、プチッ、という音がして、通信は切れた。


「そういえば、あの二人は多少の確執があったな…」
「いや、そんな風に納得されても困りますが…」
 天を仰ぎため息を付いた後、今日何度ため息をついただろうと思い横山は少し憂鬱になった。
だが、同時に頭の中に閃くものもある。
452漫画家兵器らしい:04/08/12 21:36 ID:Z4Ok8A+L
「石川賢、安彦良和、長谷川祐一…サンライズ…ふむ…」
「どうした?」
「いえ、ね。先程話した調停者が示唆した賛同者のことで少し思いつきましてね」
「ほう…」
 高屋の眼が細まる。

「確か、どの勢力にもそれらしい者は見当たらない、と言っていなかったか?」
 横山がそういえば、それは実質この地上に存在しないに等しい重みを持つ。
 五虎神、十傑集、血風連、恐らく諜報能力においては他のどの勢力をも軍を抜いている集団を傘下に収め、
自身も優れた忍びであり超能力者でもある横山光輝の眼を欺ける者は少ない。
 例外は冥府に潜む妖達か、評議会から姿を消した9人の男達ぐらいのものだ。
或いはその中の誰かか…?
「違いますよ」
 一瞬過った考えを顔色から察したのか、横山は言った。
「すっかり忘れていましたよ。宇宙に消えた一人の男の存在を――」
「宇宙…ああ、あの男か!」
 そこまで言われて、高屋も又その男に辿り着いた。横山は一度頷き、言った。

「そう、永野護ですよ」
453作者の都合により名無しです:04/08/12 21:41 ID:NjTYd3Z3
竜戦士と冥王……この2機が闘ったら間違いなく地球が消し飛びそうだ
454作者の都合により名無しです:04/08/12 21:45 ID:Lu/I+m/E
そもそも傀儡の舞で一般人巻き込んだのはどちら様の部下ですかと小一時間
455作者の都合により名無しです:04/08/12 22:29 ID:HnOLE6R8
組織が大き過ぎると個人の美意識は半ば関係なくなるしねえ…
あれもあのお二人さんの独断っぽいし
それはともかく極道兵器キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!!!
456平野の思惑:04/08/12 23:19 ID:NjTYd3Z3
関連スレ(20部261・>436)

「はははははははははは!!」
花粉をまき散らすように破壊の閃光を振りまく妖花。
巨大MAラフレシアを駆りながら、神の武器と最新鋭のガンダムを翻弄する安彦。
狂的に笑いながら戦場を謳歌する魔人の姿を、遥か上空――成層圏を越えた天空の彼方から見つめる『眼』の存在があった。


『最後の大隊』本営――
人工衛星から絶えずリアルタイムで送られてくる各地の戦況を、平野耕太は多面モニターにて粒さに観戦していた。
「楽しいか安彦良和。戦争は楽しい!!」
たるんだ頬の肉皮をわずかに吊り上げながら、彼は楽しげにほくそ笑んだ。
「君はそこでただ暴れていれば良い。それだけで君も彼らも私達も、味方も敵もそのまた敵も、満たされる」
太い足を組み直して座り直すと、そこへ直通回線による通信が入る。
『やあ少佐』
そう言って親しげな、どこか歪な笑みをモニターに映したのは、倉田英之。
『黒船』の艦長にして、平野の古き戦友(カメラード)のひとり。
「久し振りだねえ、倉田。再び出会えて歓喜の極みだ」
平野もまた親愛というにはあまりに凶悪な笑顔を見せる。
「で、どうかね?安彦氏の具合は」
『どうもこうも…』
苦笑しつつも、倉田は答える。
『まるで無茶苦茶だ。冗談にもなりはしない。確かに彼奴の強さは恐るべきものだ…万の大軍にも匹敵しよう。
 …が、あまりにも『強すぎる』。強すぎる力は反発を生むものだ…およそ肩を並べるにおいて、ここまで使いづらい存在もない』
「ふむ…」
平野が興味深そうにうなずいた。
457平野の思惑:04/08/12 23:20 ID:NjTYd3Z3
「…それで君達は早々に、戦線を離脱したと言うわけか」
『わずかではあるが『特機隊』の連中にも被害が出てね…まあ微々たるものだが。
 これ以上、『行き掛けの駄賃』で余計な兵力を割く必要もなかろう。
 彼らはもともと、『本命』のために用意した兵達だ…黒軍基地攻略はあくまでその途上における実戦訓練に過ぎない』
「敵から受けた打撃よりも、味方から被った損害の方が大きいとは、いかにも『我々らしい』」
ククク…と愉快そうに平野は笑い続けている。
「残りは安彦ひとりに任せておけばよい…その間に君達は『本命』に向かってくれたまえ」
『心得たよ』
「ときに」
モニター通信が切れる寸前。平野が思いだしたように問う。
「君の相棒の件なのだが…どうやら彼女、外で良い友人に巡り合えたらしい」
『ほう…それは好都合』
倉田が上機嫌になった。平野はその態度にわずかながら疑問を呈す。
「良いのかね、大事な彼女を放任しておいて」
なかば挑発するような言葉に、倉田は眼を閉じて静かに微笑む。
『問題はない…というよりそれこそまさに俺の望み通りの展開だ。
 俺は待っていた…彼女が、俺と、本以外の世界を知り、触れることを。
 そして俺の希望通りに、『カード』は1枚目が揃った』
「カード?」
怪訝そうに平野が尋ねる。
『フフッ…気分屋な『埋蔵図書館』の貞操帯をこじ開ける鍵さ』
もったいつけるように倉田は言う。
『図書館は生きている。生の生たるゆえんは情念。

 すなわち“歓喜” “憤怒” “哀切” “悦楽”。

 喜怒哀楽という感情の四大元素を贄に、図書館(ヤツ)を地上に引きずりだす』
458平野の思惑:04/08/12 23:23 ID:NjTYd3Z3
『だが『彼女(図書館)』ときたらとんだグルメでね。
 凡人のものではどうやらお気にめさないらしい。
 魂を同じくする、本の権化でなければ』
倉田は続ける。
『人であり、人でなく。
 本でなく、本である。』

     ザ ・ ペ ー パ ー   山 田 秋 太 郎  

『そう彼女はスペシャルだ!!
 歴代にもあれだけの者はおそらくいまい。
 そもそもザ・ペーパーは…すべからく本の主となるべく宿命づけられてきた。
 でも彼女はね。 
 
   躍  る  ん  だ  よ 』

「躍る?」

『能力によって使役されるべき紙たちと、まるでワルツを躍るように、くるくる、くるくるとね』

「――――」

『そして、すでに。『歓喜』は喰わせた。
 初めて出逢う新しい世界、初めて出逢う友人たち…彼女にはささやかながらもめくるめく時間だったろう。
 そう、まさしく『夢のような歓喜』さ。これで1枚目だ』

指を1本、ピンと立てながら呟く。

『あとの3枚…『身を焦がす“憤怒”』『至上の“悦楽”』『深淵なる“哀切”』
 これらを彼女から引き出さないとね』
459平野の思惑:04/08/12 23:32 ID:NjTYd3Z3
「君は……君はそれを使って何をしたいのかね?」
純粋な好奇心から、平野は尋ねる。
それに対し、倉田は一瞬、ぞくりとするような笑みを浮かべると――
『すべてをあるがままに。
 それこそが俺の願い。
 人はこの茶番から抜け出し、あるべき姿に…本来の道に戻るときが来たんだ』
両手を広げ、倉田が陶然としたように演説する。
『そう、こんな小さい窓を飛び出して。
 誰に書かれたわけでもない、真っ白な世界へ』
「フフ…世界を1から書き換えるつもりかね…してその最初のページには何を綴る?」
『さあ…それはまだこの先のお楽しみといこうじゃないか』
狐と狸の化かしあいのような会話。
腹にそれぞれ深淵なる闇を抱えた者同士の、悪意なき悪意に満ちたやり取り。
『とりあえず…まずは目の前の御馳走から、いただきにあがるとしようか』
それを最後に、倉田との通信は途切れた。
残された平野が、ぽつりと呟く。
「お楽しみか…確かに」
ニンマリと笑った。
460平野の思惑:04/08/12 23:33 ID:NjTYd3Z3
通信が終わったのを見計らい、血だらけの白衣を羽織った長髪に眼鏡の男――『博士(ドク)』こと七三太郎がやってくる。
「博士(ドク)、『あれ』はもう使えるのか」
七三が何か言う前に、平野が好奇心に満ちながらも鋭い眼で七三を見る。
「え、ええ。ですけど、非常に不安定です。
 ですが、危険ですが、おっしゃる通りに致しました」
七三がかしこまるようにして答える。
すると、平野は満足そうに笑みを浮かべ――
「それは重畳。『いい』だろう、『あれ』」
「はい、ええ。確かに素晴らし素体です。
 ですが、大変だったんですから。
 何分時間がありませんでしたので、少々手荒な施術をしてしまいましたよ」
「構わんさ。これで…安彦抜きでも、手駒は十分というわけだ」
膝の上で、組んだ両親指を弄びながら、平野はひとりごちる。
「我らと…『砲神』…他にも別府の大災害を静観していた者たち。
 これらの戦力が、王蟲出現によって生じた、ゴッドハンドの『綻び』に殺到する」
平野が、テーブルの上に置かれたチェス盤上の一駒を動かす。
「その綻びの名は」
タン!
チェックメイト。

「 宇 宙 戦 艦 ヤ マ ト 」

いまだ修理中のゴッドハンド旗艦の名を、舌の上で転がす。
「君もそこにいるのだろう…内藤泰弘。
 ネクロライズされた『あれ』を見たときの、君の顔を想像するだけで股ぐらがいきり立つ。実に愉しみだ」
そう言いながら、ワイングラスに満たされたドロリとした朱い液体を飲み下した。
461作者の都合により名無しです:04/08/12 23:38 ID:HnOLE6R8
おーって、無傷のゴッドハンド二人(高屋と永井)がまだ九州に滞在してんじゃん…
462作者の都合により名無しです:04/08/12 23:40 ID:OaUlj4xr
ところで『あれ』って?
463作者の都合により名無しです:04/08/12 23:43 ID:HnOLE6R8
わからん。
まあこの後で明らかになるでしょ。
464作者の都合により名無しです:04/08/12 23:46 ID:Lu/I+m/E
えなりの新ヒロインは山田さんということかー
465暗号名はBF:04/08/13 06:05 ID:hcqpJPc0
>>436 >>456
士郎がたどり着いた格納庫。そこでは一人の男が所狭しと置かれたロボットを確認していた。
「ふむ、全部はさすがに無理か。」
男はそう言うと、格納庫を見下ろす。
「本来ならば”オックス”があれば良かったのだがな。」
「動くな!何者だ!!」
士郎が銃を突きつけ、その男に誰何の声を上げる。
「彼の……ときた君のスポンサーさ。」
「スポンサー?そういえばときた洸一は一回死亡が確認されたと言ってたけど……。」
「私が助けた。」
そう言って、男が士郎に向き直る。
「この基地はもうそろそろ爆発するのだろう?逃げる準備はしといたほうが良い。」
確かにそうだ。だが目の前の怪しい男を見逃すわけにはいかない。
「貴方は一体何者なの?」
もう一度誰何の声を上げる。
「あまり表には出たくないのでね。とりあえずはBF(ビッグ・ファイア)とよんで欲しい。」
男はそう言って、近くのMSに取り付いた。
466作者の都合により名無しです:04/08/13 09:03 ID:DOJwnMhH
ええ!? 神様!?
467作者の都合により名無しです:04/08/13 09:27 ID:VD+mNS11
いいサブタイだね (´Д⊂
468平野の思惑2:04/08/13 12:37 ID:Z99NdmVJ
関連スレ(>271・>460)

「御機嫌だね、平野」
夕餉を楽しみながら、これからの戦いに思いを馳せる平野の背に、背後から声がかけられた。
首だけで振り向くと、そこには尾田の生首を片手にぶら下げた和月が立っている。
「上機嫌なのはそちらも同じだな。どうやら別府での余暇は有意義なものだったようだ」
「まあね」
平野の視線が尾田の生首に注がれているのを見て、和月が微笑む。
「それで、栄えある『妖魔王様』とやらの下僕が、ここに何の用かな」
今度は椅子ごと回転し、全身を和月に向けながら訊いた。
「実は、こいつをホムンクルスに改造したくてね。その為の研究施設を借りたいんだ」
尾田の生首を高く掲げながら、和月が答える。
「妖魔王の所には、そういう設備はないのかね?」
「愚問だね。俺はあいつらを信用していない。そんな所で大事な研究ができるわけないだろ」
「なるほど」
たるんだ顎に手をやり、平野がしげしげと尾田の頭部を見つめる。
「いいだろう。なかなか面白いものができそうだ。…博士、君の研究所(ラボ)の一部を提供してやりたまえ」
「し…しかし…」
パチンと指を鳴らし、傍らにいた七三に命ずる。
当然、七三はあまりいい顔をしなかったが、平野も和月もすでに無視していた。
「その換わり…といってはなんだが、ひとつ使者を頼まれてくれないかね?」
再び和月に視線をやると、平野はそのように言った。
なんらかの交換条件を予想していた和月が、聞き返す。
「使者…使い走りってことかい?別に構わないけど、君の手下でもできそうなことでいいのかい?」
「それが誰にでもできることではないから、君に頼むのだよ。
 あの『赤き戦場』に介入するには、一流の手練でなければメッセンジャーすら覚束ないだろう」
「赤き戦場…よく分からないが面白そうだ。詳しく聞かせて欲しいね」
和月の歪んだ眼に好奇の色が浮かんだ。
469平野の思惑2:04/08/13 12:40 ID:Z99NdmVJ
「秋田書店の赤き核実験場…『チャンピオンRED』にてゴッドハンド・妖魔王・RED残党の各勢力が入り乱れて戦っている。
 そして、そこには我らの好敵手……『反逆者』戸田泰成・『蛮勇』山口貴由も加わっているそうだ。」
ヒュウ、と和月が口笛を吹く。
「そいつは豪華なメンバーだね。確かに、その面子が相手にただの雑魚じゃ、巻き込まれて死ぬのがオチだ」
「そこで君だ。君なら申し分なかろうし、ここで妖魔王傘下の連中に貸しを作っていくのもいいと思うのだが」
「分かった。了解したよ、引き受けよう。…それでメッセージカードの文面は?」
聞かれた平野が、もったいつけるように答える。

「死の砂漠にて闘争に渇き続ける猛者諸君。蒼穹の海原にて新たなる舞踏を躍ろう」

それを聞いた和月は全身を震わせるようにして笑った。
「なんだ、君も同じこと考えていたのか。」
「やはり、君なら私の思考を読んでいると思ったよ」
「別府大火に乗じてのこの行動…京都大火とそっくりなシチュエーションだからね」
そう言って、和月は踵を返す。
「こいつの下準備を済ませ次第、すぐに発つとしよう。すこぶる、面白くなってきた」
そう言うと和月は、案内されたラボの方に消えていった。

「あの戦線に戸田まで放り込むとは…いやはやどうなりますやら」
和月が去った後で、七三が口を開く。
「…『あれ』は、戸田とも繋がりが深い者だからな…
 戸田・内藤・そして『あれ』……縁深いこの三者が一同に会した時、何が起こるか
 私にも予測もつかんな……これだから戦争は面白い」
そう言って、平野が席を立つ。
「忙しくなりそうだな」
470足掻き(3):04/08/13 13:02 ID:q/lg00Tl
>343 >390

断崖絶壁に沿って歩きながら、ビル三階分くらいはある段差の下、足元の道の『続き』に目を細める。
「……こりゃ、無理だな」
高低差だけならともかく。双方の間には、10メートル近い幅を持つ谷が、黒々と横たわっているのだ。
むろん、地割れで出来たそれに、橋がかかっていようはずもない。
「……私がなんとかしようか?」
『一人』なのに、二人めの声。
「うーん……」
宵闇もあり底の見えない谷底から立ち昇る潮の香り。
内陸の地下から何故そんな匂いがするのか、際を歩きながら、暫く『声』には答えず、考えていると。
「ぉ〜ぃ」
ほてほてと来た方角から、三つめの声がした。
街中で『再会』し、共にこの別府の外れにまでやって来た、二人連れのかたわれ、森恒二の呼ばう声だ。
「こっちだ〜」
顔を上げ、『左手』を振り。その男、井上和郎も迎えに走り出す。
やがて合流すると、互いの瞳の期待の光に、互いの失望を感じ取る。
やはり駄目、渡れるトコなど無かったか。
「あー…」
自らの『右手』の進言を、この妙な繋がりを持つ『仲間』に伝えようかと、井上はすこし迷うが。
「……別府と外部とは、どうも完全に隔てられたようだな」
もう一人の男、技来静也の言葉に
「……あ、そうだ」
一応もうひとつ、手段があったことを思い出す。
忘れていたというより、忘れたかったそれを、背から下ろし、アスファルトに立てる。
「そういやさ、このフスマなんだけど」
拾った時や、持ち主から譲り受けた経緯を説明する井上。
「……なんでそんな便利なもんを今まで」
当然の疑問であろう。
「いやさ、なんかこれ、接触がかなり怪しいんだよね」
謎の異次元空間と、そこに蠢く亡者の幻影を思い出し、ぷるりと震え、重ねて説明する。
「……なるほど」
471足掻き(3):04/08/13 13:03 ID:q/lg00Tl
合点がいったか、森が頷き、しかし技来が
「俺はそれでもかまわ」まで言ったところで、




     ゴ ウ ゥ ン ッ !!!!!!!




ものとてつもない揺れが、来た。
『向こう側』、崖下の大地がみるみる遠ざかり、自分達の居る別府が、ブッチギリの勢いで『隆起』しているのだと
理解より早く、舌を噛む。
「イデデッ!?」
激痛。
今までものと違い、突き上げが一回で止まらない。
「おわわわわッ!?」
ふすまがパッタリと倒れ、それに手をかけ体を支えていた森が、一緒に倒れこむ。
拍子に開いたその奥に、転がりこむように森の体が落ち
「ムッ!?」
技来が手を伸ばし、森をなんとか掴まえる。
更に揺れ。
腹ばいになり、半身を異空間に落とし込んでしまった技来と、完全に『中』にぶら下がる森。
それでもなんとかそのままの状態が続き。
472足掻き(3):04/08/13 13:04 ID:q/lg00Tl
ようやっと揺れが落ち着いた頃。
慌てて駆け寄り、引き上げを井上が手伝おう……
として



 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ッ !!!!!!!




再度始まった大揺れに、完全に不意を突かれた三人は。
数珠繋ぎのまま、どこかへ
「「「うあああああああああああああああああああああああああああ―――――――………」」」
との叫びを残し、落ちていった。

ぽつねんとフスマだけが残された。
473ジャンケン冨樫がやって来る!A:04/08/13 13:15 ID:q/lg00Tl
>427

『ジャンケンで冨樫のやつをコテンパンにしてやりたい』

『ジャンケン』は確率ではない。
勝ちたいと願う『心の力』だ。
『ジャンケン』で負かすことは、冨樫の『心の力』を負かしたってことだ。
冨樫義博は一漫画家にして、『世界の秘密』をほぼ全てその脳漿に納める、真の意味での『超越者』の一人だ。
しかも、多くの人間の運命を狂わせてもいる。
しかしこの手の異常者は、『人生』そのもの、『生きる事』に大概飽いている、という悪癖があり
そういう人物は、動機の希薄さ故の冷静さと、狂気にも似たおそろしいまでの保身の無さが、『無敵』に変換されがちではあるが
逆に、どうしても『熱さ』や、視野狭窄にも似た『使命感』には欠ける。
そこが狙い目だ
(―――って顔してるな、荒木センセー? 一回目では『実績』を積めないから『意志』と『運気』に任せる、ってとこかナ―――?)
いいセン突いてる。
―――と、言いたいところだが。
『ジャンケン』とは、確率と心理の勝負である。
『ジャンケン』を単に確率だけでみれば、負ける確率は1/3。残り2/3は勝ちかあいこ。
つまり『普通に勝負』しても、七割近く負けない。
しかもここに、統計と人間心理が加わる。
統計的に、人が最初にもっとも出しやすい手は『チョキ』。
つまり『グー』を出しておけば、勝ちかあいこの確率が、さらに少し上がる。

「「 ―――― ホ イ !!!! 」」

――― パ ァ ン ッ !!!!

「―――ッ!?」
突如間合いに飛び込んできた冨樫の拳――『グー』――に、荒木の顎が綺麗に跳ね上がる。
威力はさほどでなくても、まさか物理的な攻撃が繰り出されるとは、思ってもみなかったのだろう。
自らも『グー』を出しながら、ジンジンとした痛みにしばし荒木は呆然とする。
「―――どうした? そんな腸チフスにかかった豚コレラみたいなカオして」
474ジャンケン冨樫がやって来る!A:04/08/13 13:16 ID:q/lg00Tl
からかいながら冨樫は、続ける。
「―――別にジャンケンの『勝敗』と直接関係ないなら、能力使用してもいいんスよ? ルールにも、そう書いてあるでしょうが。
 ホラ、アータも、『ついで』で攻撃してみたらどうだい?」
「ッ!?」
瞠目する荒木。一瞬の迷い。
次に出す『手』と、そしてその『形』における『攻撃』の相性。
―――憎い『冨樫』をブチのめせる絶好の―――
(いや惑わされるな今は『ジャンケン』のことだけを―――)
(―――そして、迷ったり自信のない者は、心理的に安定を望んで、『前と同じ手』を出すか
 自信回復しようと『前の手より強い手』を出そうとする。
 つまりこの場合、相手が出しやすいのは『グー』か『パー』。故に『パー』を出しておけば負けは、ない)

「「 あ い こ で ……… シ ョ ッ !!!! 」」

付け加えるならば、荒木飛呂彦のスタンド能力の中でも『最強の攻撃力』を持つもののひとつ
『スタープラチナ』の『オラオラ』の『形』、は

オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオーラァ!!!!!!!


自らはそれでも決して『パー』の形を崩さぬまま。荒木の『グー』ラッシュにより、冨樫はものの見事に吹っ飛んでいった。
星空の下、放物線を描き、頭から落ちた体が、大地を擦り、やがては止まる。
ピクリとも動かず、生きているかどうかも不明だが。
(勝ったぞ………グフフ)
やはり生きてたらしい、とりあえず『ジャンケン』においては―――冨樫、一勝である。
(―――僕は、バカかッ!)
ただの『戦い』ではないのだ。軽々に相手に乗せられてどうするつもりか。
そう。自らを戒める荒木の眼前、内股になりながらもヨロヨロと冨樫が起き上がった。
475ジャンケン冨樫がやって来る!A:04/08/13 13:18 ID:q/lg00Tl
「―――ヒヒ……ヘヘヘ……ヒヒヒヒヒヘヒャヒャ……痛てえ〜〜痛えェエヨ〜〜!!!
 こいつが『破壊力―A(超スゴイ)』『スタープラチナ』の威力か―――」
片目玉が飛び出し振り子のように揺れ、右腕の関節がありえない方向に曲がっている。
胴体も、よく見ればそこかしこが陥没し、言葉さなかで折れた胸骨が肺にでも刺さったか、ゴブゴブと大量の血に咽る。
惨状と、態度に、ゴクリ、と唾を飲む荒木。
しかしその目の前で、冨樫は懐から、震える左手になにかダンゴのようなものを取り出した。

グシュウ――――スゥ――――ッ

そのまま握り潰し、気体に変化したそれを、美味そうに吸い込む。
如何な効能か、冨樫の体が、みるみる内に修復してゆく。
「裏御伽(某準決勝進出チームとは関係無い)闇アイテム『奇美団子』」
グルグルと、あっという間にツヤとカタチを取り戻した両腕を回し、冨樫はその元気ハツラツぶりをアピールする。
「―――『奇美団子』は、その身に受けた『威力』を参考に、自身の肉体を、強化・補修する特殊アイテム―――
 ―――どうする、荒木先生〜〜〜? 
 『ジャンケン』に負けた上、『破壊力―A(超スゴイ)』の『威力』を、私に『記憶』されちゃったよ〜〜?」
ヘラヘラと笑いながら、人を苛つかせる為だけに存在するようなポーズをピヨピヨと決める。
(あ、相変わらず―――)
今戦闘において、有利とか不利とかいう、問題ではない。
この男は、いつだって『ホンモノ』なのだ。
一石で、二鳥も三鳥も四鳥も仕留め
誰よりも『理』を知りながら『無理』に進む事を恐れない。
彼の予想を越えることは可能だ。しかしそれが、自分の勝利のイメージに結びつくことは決して無い。
絶佳の狂気と無双の神算。
駄目だ。脳が、普段どおりに働いてくれない。
(―――まだ1敗だッ!!!)
熱病にも似た、脳下垂体をボウッとさせる絶望感。
誘われた闇カジノで、いつの間にか負けが込んでしまった時とは、あるいはこんな心地だろうか。
なんとか気を取り直す為、目を瞑り頭を激しく振る。
(次は僕の『ペース』―――『かけ声』の番ッ!!!)
しかし開いた視界は。相変わらず奇妙に歪み、曲がって見えた。
拭えない。
476ジャンケン冨樫がやって来る!A:04/08/13 13:22 ID:q/lg00Tl
心の芯に染み付いた『ニガテ意識』が、清水に落とした墨汁の広がりとなる。
侵食。『策』が『手』が『作戦』が―――なにひとつ浮かばないまま、気ばかりが焦り
プレッシャーの高波に、荒木は結局、身を投げることしかできなかった。
「―――さッ、最初はグ――――――――――ッ!!!!」

冨樫はカオにさえ出さず、プリプリと笑っていた。
確かに、何も考えず無心で『ジャンケン』を行うことは、ひとつの手法ではある。
通常の、場合なら。
(私が、『そう言った』から、かな? 『言っちゃいけないこと』を言っちゃったな―――)
『最初はグー』こう言った以上。これこのように

 ブ ン ッ !!!

互いの『グー』は、一度その形を間違いなく振り下ろされる。
そして再度持ち上げ、改めて『勝負手』を作るのだが―――
その瞬間、一度握られた手の平は、十中八九、既に次なる『勝負手』の形に変化しているのだ。
テレフォン・パンチ?
そこまでいかなくても、『グー』以外の『手』を出そうとする者は、握り方が空き気味になる。
つまり敵の手が『グー』なままだったり、変えた手がハッキリ見えたら、それより強い手を出し
微妙な空き具合だったら『チョキ』をだしておけば、負けは、ない。
『最初はグー』で相手の拳を前に出させとけば『動き』が見やすいから
目がいいヤツならこの方法で―――90%以上―――

勝てる。


全てを掌握しているぞ、と言わんばかりの冨樫の手の平『パー』。
あっけなく敗れ去った二度目の『グー』を引っ込める事も出来ず。
荒木はペタリと尻餅をついた。
冨樫が、呆れたように言った。

「―――おやおや、二勝目。もうリーチか」
477ヒステリック・B-ZONE:04/08/13 21:19 ID:VD+mNS11
>>330 4部601)


           『 ロ ケ ッ ト で 突 き 抜 け ろ 』 !!


        ┏━┓ ┏┓┏┓ 
        ┃  ┃ ┃┃┃┃                   ┏━┓
        ┃  ┃ ┗┛┗┛                   ┃  ┃
        ┃  ┗━┓              ┏━┓    ┃  ┃
        ┃      ┃              ┃  ┃    ┃  ┃
        ┃  ┏━┛              ┗━┛  ┏┛  ┃
        ┃  ┃                        ┏┛  ┏┛
        ┃  ┃                ┏━━━┛  ┏┛
        ┃  ┃                ┃        ┏┛
        ┗━┛                ┗━━━━┛




 それは超新星が爆発するさまにも、

 空の彼方のオズの国へと吹き上がる竜巻のようにも、

 演奏者と観客が一体化した究極のセッションのようにも思えた。


         ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド !!!!!!


 アスファルトがめくれ、炎と黒煙が掻き消え、破片や汚物や多くのものが、刹那の速さで宙へと消える。
478ヒステリック・B-ZONE:04/08/13 21:20 ID:VD+mNS11
それだけなら、ただの『上昇気流』。
だが違うのはその凄まじいまでの威力とスピード、
立ち尽くす人間の内腑にかかる“下からの”重圧と、
彼らの精神から急速に失われる敵愾心と、
それらの現象を引き起こしている、人外に等しき存在と――― ・・・


 「知っている・・・!
 俺はこの少年を知っている!今の今まで忘れていたがっ!」

腫れる頬を押さえながら、脂汗を滲ませうめく男がいる。島本だ。

 「あれはそう、意気投合したばかりの戸田と共に、ええっと・・・(記憶を辿る)
 ・・・とにかく色々あって“MONSTER”を捜してた時の事だ!なぜ捜してたかは忘れた!!
 あいつは現れた・・・黒スーツの男(※A)が光の中へ消えた!そう、今みたいに!
 危険だ、誰がなんと言おうと関わらない方がいい!!なぜなら――」

島本の声は風に乗ると同時に、他のあらゆるものと同じく上空へと吸い込まれた。
彼はそれでも構わず叫びの声をあげる。精一杯の抵抗をするかのように。

 ( ・・・ ぜなら・・・ 彼には ついて る・・・ 見える・・・ 背中に・・・ )

邪気の一片たりとも見せない、少年キユの穏やかな瞳に映るものは何か。
それは彼にしか見えない、彼だけの楽園。  ≪突き抜けた先の世界≫。
そして真下から天空へ向かって無限に溢れ出る光玉の中、島本はキユの背後に何かを見た。


 ( 背 ・・・ 怨霊・・・? あらゆる 打ち切り 作品の ・・・怨念の 集合 体・・・!! ・・・)


   やがて――――   
           光も音も、人も車も、風も地面も、心も身体も、全てが空白に包まれた――――
479作者の都合により名無しです:04/08/13 22:12 ID:QIOLqmHv
キユってどう考えてもゴッドハンド以上にヤバイ存在だな・・・
なぜならゴッドハンドは極悪に強いながらも戦いにはなる
しかしキユは戦いそのものが成立しない・・・!
480作者の都合により名無しです:04/08/13 22:19 ID:DJKhF9AX
麻宮も勢力図での扱いに困ってたからな>キユ
481ジャンケン冨樫がやって来る!B:04/08/14 04:56 ID:mSgEstCl
>476

勝てる気がしない。

座り込んだまま後光のように銀月を背負う冨樫を見上げながら。
荒木は、ゆで将軍の時とはまた違う、深く暗く果てしない、どこか遠くに堕ちてゆく『落下』を味わっていた。
「しゃーのやろー」と気合を込めつつ、正拳突きを横に撃ち出す冨樫。
こちらを振り返ろうともせず、喜びのダンスらしきものを踊るシルエットは、まさに荒木にとっての『悪魔』そのもの。
そうして自分の『掛け声の番』なのをいい事に、一曲(?)を丸々踊り終えると
息が切れたらしい、曲げた膝に両手をついて前かがみになり、疲れと呼気を整える。
やがて、ゆっくりと身を起こすそれにつられ
荒木もなんとか立ち上がった。
立て直す。積み木の城より儚い『砦』だとしても。

「―――誤解があると思うんだ」

冨樫が両腕を広げ、弁解のポーズで背を向けた。
「荒木先生、きっとこう考えてる―――『こいつのせいだ、アレもコレもナニかもが』―――」
「…………」
まだ勝負がついたわけでもないのに、一体何を言い出すのか?
「―――それが誤解なんだ。私は、実質『ほとんど何もしていない』」
ペースを握られるか、とりあえずの休息を喜ぶか。荒木が選んだのは、結局、後者。
「―――そりゃ『動いた』よ? でもさ、アカシック的にもうチョイ過去ログ嫁よ。
 結構オロオロしたり『アレ?ソンナハズジャア』とか言ってるじゃん、私。過大評価し過ぎなんだって―――」
(…………昔知り合った奴がラリで、丁度あんな感じだったな……)
482ジャンケン冨樫がやって来る!B:04/08/14 04:56 ID:mSgEstCl
あらぬ方向に、愚痴とも告解ともとれぬ文字列を流し続ける冨樫のその姿は、不気味を通り越し、変な色さえついていた。
「要所要所で影をチラつかせたのがマズかったのか―――人助けしてブーコラ言われる筋合いねーし。
 大体、王蟲の襲来だって、フツーに知らなかったってーの」
そして「……いや、アレは私に限らないか」と、自らの頭を手の平で叩く。
「―――『我々はみな【運命】の奴隷なんだ』」
ふいに、その存在感が、トランプを裏返すように『変わる』。
オモテかウラか、そこにはどんな『絵』が描かれているのか。
わかりゃしないが。
また、背筋を貫く氷柱の幻影。
「―――貴方の、『台詞』ですよ。荒木先生」
天然のプラネタリウムを見上げる、冨樫の表情は見えない。
「―――私も含め『特別な漫画家』なんて一人も居ません。全てが『有る』か、全てが『無い』か。ただ舞台における役柄が―――」
こちらを向く。
「―――違うだけ。貴方は、どんな役? 『王』? 『勇者』? 『魔王』? 『道化』? 『魔法使い』とか? それとも―――」
―――冨樫が『変わる』。
「CLAMPに『力』を与え」
「『神』も『魔』も、『全て』の動きを知っていた」
「でもね」
「『知識』と『干渉』との間には、深くて広い、溝がある」
「すくなくとも、ああいうのを『操る』とは言いませんよ」
「各勢力の皆さんにシツレーです」
「―――ああ、でもキャノンボールは、楽しかったな―――」
「―――そうか―――」
足元の小石を、蹴り上げる。
「―――そういう意味では、乙一が死んだのも、半分くらいは私のせいになるのか―――やんなるな―――」
―――冨樫が『変わる』。
「―――『運命』が『存在』する事と、人の『意志』には、圧倒的エネルギー格差があります。
 つまり人の意志は『無駄』ではありませんが、『予定調和』なのです。
 『予知』にしろ『時間移動』にしろ、人の脳の造りでは、豚に真珠、ネコに小判に近い。
 運命は変わりません。変わったように見えても、それが、つまり運命だったのです。『未来』ではなく『過去』こそが―――」
483ジャンケン冨樫がやって来る!B:04/08/14 04:57 ID:mSgEstCl
―――冨樫が『変わる』。
「人生を『目的』とせず、『手段』とする者に、動機を問う意味など無い。
 オセロや将棋やチェスの『工夫』を、策に置き換えてみるがいい。
 『何故そんなに策を巡らすの?』『勝ってどうするの?』なんて―――プロじゃあるまいし―――」
―――冨樫が『変わる』。
「世界における情報量。強く賢く偉大な者ほど知っている―――と、思うかい―――」
―――冨樫が『変わる』。
「―――いいですか―――」
どうやら『会話』は、これで終わりらしい。
静かに『ジャンケン・フォーム』の腰溜めに入り、こう宣言する。
「このままだと―――君の最後の『行(ぎょう)』が
 『冨樫にアサーリ返り討ちにされました まる』で、終わることに―――なりますよ―――」



―――言ってる意味は、半分もわからない。
そのくせ、全てが腑に落ちた。
掴み所が無い、などというありきたりなレベルではない。
そう。知っていた筈。
こいつは『柱』にして『端末』、『全ての外側』に立つ者だ。
どの種のソレかは知らないが―――
絶対に。
逆立ちしても。
『越界の作法』は通用しない。
どれほど足りなく、ちっぽけに見えたとしても。
貫くべきは『人の法』。
如何な激流濁流あろうとも。

―――『自分』を、取り戻すしかないのだ。
484いがらしの影、終息:04/08/14 11:14 ID:gIjU4wfA
 …これは、夢だ。きっと、森の禍々しい瘴気に、中てられただけなんだ。
 ……ヤツが今、現れるハズはない。でも、あれは……あれは――――!!

    い  が  ら  し  み  き  お  ――――  ! !
 
 「キミは、これから好きに生きられる――」
 なんだって。
「暴力に心を染めるコトも、快楽に身を委ねるコトも、絶望に打ちひしがれるコトも――
そう、キミには何の枷もないのさアァ……」
 どういうことだ、一体、何を――
「永く生きて、そして死ねェ、貞本義行ィィ」
 闇が取り込まれ逝く――無限の白に。
「あァ、それから――彼女とキミは見ていて愉しかったよォォ」
 闇は、完全にその姿を消して、そして、そして――

 「……そして?」
「あッ! おおい隊長ー! このスケベ起きたよー」
 佐渡川の快活な声が部屋全体に響いた。
485いがらしの影、終息:04/08/14 11:15 ID:gIjU4wfA
 そこは、純白のベットだった。貞本は続きを思い出そうとする。
「そして……? なんだ、どうなったんだぁ……」
 ドアがやかましく開いて、変なお面被った親父が飛んできた。
「おおピンク隊員! 無事生還したな」
「別に死んじゃあいなかったろう」
 ツッコミと言うには余りに強烈な佐渡川アッパーが隊長の腹を貫く。
何やらビクビクと言葉もなく悶絶しているが、誰も気に留めなかった。
「……なんか、あそこにもう一人倒れてるぞ。血塗れで」
 それは、上半身裸で、ダボダボの白い長ズボンを穿いた変態王子。
「まあ、どうでもいいか……」
 佐渡川も頷き、
「まあ、どうでもいいね」
486いがらしの影、終息:04/08/14 11:16 ID:gIjU4wfA
 「ぐっはぁぁっ!!!」
 2人の会話に反応したかのように、木村太彦が立ち上がる。
「「なんだ、生きてたのか」」((死んでりゃあいいのに))
 貞本と佐渡川はほぼ同時にそう言った。思った。
「貞本! 余は夢を見た!!」
「何よ?」
「なんかとんでもなく怖い、ドス黒い男の夢だ!」
 ピクと、貞本の眉間が動いた。
「……いがらしか?」
「いや……ラッコだ!」
「ラッコ……」
「ああ! ドス黒い恐ろしい形相のラッコが闇の奥にぶべらァ!!」
 何となく木村を殺してみた貞本。
「……ラッコ……だったのか、な?」
「一体どうしたんだい、あんた。さっきから落ち着かないねえ」
 隊長の腹を貫いた女には言われたくないと貞本は思ったが、
「いがらし……死んだのか?」
 人は死を迎え、違う世界に旅立つ時、生きていた時とは異なる姿に
転生するらしい。それが、ラッコだったのだろうか。
「くくく……あっははは」
「あっ、隊長! 貞本が欲求不満で狂いだした!」
「ぐぐぐ…ジュ、ジュン隊員、お前が、相手を…」
 隊長は死んだ。その顔は秋の青空のように冴え渡っていた。
(おかしいじゃねえか……あの、化物が、ラッコだなんて……くくく、あはは)
 貞本の笑いはしばらく治まらなかった。
487いがらしの影、終息:04/08/14 11:17 ID:gIjU4wfA
 しばらくして――ようやく落ち着きを取り戻し、佐渡川と談笑する貞本。
「あれ……?」
「どうしたんだい?」
「俺は、とても大事なコトを忘れているような……思い出そうとすると頭が痛むんだよな」
「……下半身のほうも、痛いんじゃないかい?」
「え、ああ、これは俺が健全な男である証明とでもいうか、不可抗力で」
 この日何発目か分からない、佐渡川の拳が貞本の(ry
 ピンク野郎とお面隊長は、仲良く部屋の床で寝んねしていた。
 勿論、木村太彦は、まだ死んでいた。
488作者の都合により名無しです:04/08/14 14:33 ID:MsNOmfh/
佐渡川の立ち位置が確立した瞬間であった(ナレーション)
489作者の都合により名無しです:04/08/14 15:35 ID:K7n5UjtW
佐渡川の外見は美輝のはずだが、中身はどちらかというと真紀子さんっぽいな
490ジャンケン冨樫がやって来る!C:04/08/14 21:05 ID:mSgEstCl
>483

奇妙な事だが…………
今、荒木の心を追い込んだ、間違いなくその張本人。ありとあらゆる横紙を破る、『冨樫』自身が。
マッチポンプのように、歪めた荒木の『心』をまっすぐに矯正してくれたのは、何より確かな、事実だった。

もう、イジけた目つきはしていない。
道など元より一つしかない。
荒木の心には、さわやかな風が吹いていた……

「……お前は……意外と嘘は吐かないんだな……。それに、誠実だ」
もーこの期に及べば、どれがどうとか言っても始まらない。
感謝の意を表すと。
ぱちくりと眼をしばたたかせ、冨樫は『ジャンケン待機』を解き、一本指で鼻下を擦る。
「イヤーそれほどでもー」
赤面したそのツラに
「照れんな、褒めてねーぞ」
と一応のツッコミを入れ。
「……ところで、僕も少し話をしてもいいかな?」
と、後を継ぐ。
黙って片手の平を差し伸べる、うながしの表示。
ありがとう、と再度礼を言い、静かに考えを纏める。
それを『余裕』と見るか、『緩み』と取るかは人それぞれだろう。
しかしついさっきまでの自分は、そんな当たり前のことすら忘れ。ただ冨樫の『余裕』を恐れていた。
少なくとも、それは『馬鹿な事』である。
肝心の事、にばかり気を取られ、どーでもいい事、を失念してはならない。
得物を前に舌なめずりする隙を、物事の多面性を、知らない者に。『勝つこと』など、端から出来はしないのだ。
491ジャンケン冨樫がやって来る!C:04/08/14 21:08 ID:mSgEstCl
「―――確かに、君の言う通りだ。
 『連続』―――音楽のすばらしさは連続する音の美しさであり、モーツァルトは『音符一つとしてカットできない』と
 皇帝に向かって言ったし、『生命』も連続するDNAという鎖でできている。
 そう考えると、この世には連続する、どうすることもできない『運命』というものが存在するのを、認めざるを得ない。
 しかし一方で『運命』で決定されているとなると、努力したり喜んでも仕方がないという考えも生まれてくる。
 ―――問題は、そこだ」
常に自らに問いかけ続ける『人間賛歌』の永遠の命題。
冨樫の首肯を受けて、だけど、と反語。
「―――僕は、信じているんだ。『天国』とは、また別の解。
 運命を『乗り物』に例えた人もいたが、それとも違う。神や竜の『夢』と、『世界』を断じるある種の虚無主義なんて、もっての他さ。
 ただひたすらに『瞬間』―――『一瞬』の連続として、それぞれの積み重ね、ただ、目の前のモノをその時愛する。
 運命の介在。運勢の内在。客観的に見て『現在』なんて時間は、実は存在しえない。
 ―――でも、だからこそ!!! ―――僕は戦えるし―――
 君は―――素でかワザとでかは知らないが、享楽により『忘れる』ことが出来るんだろう? 多分―――」
息を吸う。
冨樫の目はどこまでも澄んでいる。
これもまた『弱点』だろう、渇望ゆえ、絶対に『無視』はできないのだ。
「―――似たもの同士なんだろうね、僕たちは」
言葉通り。
奇しくも、冨樫と荒木は同時に肩から力を抜いた。
「―――ん、とても興味深い―――が、それは私を『教育』しているのかね?」
またトーンが明らかに違う、冨樫の声。
疲れたような、しかし疲れに見合う『なにか』を確実に手に入れたような。
ゆっくりと首を振る荒木。
「―――違う。萎えさせて悪いが、僕は今、『ジャンケンに勝つ』ことしか考えていないよ」
冨樫は「あはは」と笑い「正直でよろしい」と笑う。
492ジャンケン冨樫がやって来る!C:04/08/14 21:08 ID:mSgEstCl
「君が『受け』『守り』『逃げ』に回れば、例え『神』だろうと君を殺せないだろう。だけど」
突きつける。
「―――君は『攻撃』してきた。そしてそこに、どんな意図があろうと。それは間違いなく君の根幹―――『人間性』と直結している」
          。。 。 。 。。 。 。
冨樫の額に、汗がひとつ浮いた。
「―――だから『賭ける』ことが出来るんだ。 君は次の勝負……『絶対』に――― 『 パ ー 』 は 出 さ な い 」


空中には、もはや完全に『意味不明』の領域にまで逝ってしまった『会話』を
あとでじっくり考えようと、開き直ってそのまま書き綴る藤崎。彼の肌にも、『流れ』の変化が実感となり伝う。


儀典・儀式。
「フフ……それはどうかなあ〜〜」
「おいおいおいおいおいおい 待 て よ 。
 君は今、ぼくに『パー』で、二回連続して勝ってるんだぜ?
 この手の勝負において、『流れ』や『運勢』『縁起』は絶対のものだ、ってのは
 前述の話があろーがなかろーが、同意してくれるだろう?
 なにもしなくても、『手札』に『ロイヤルストレートフラッシュ』が揃ってしまうような者をこそ
 『真に強いギャンブラー』と呼ぶように。今ここでぼくの立場になれば
 大切な最後の勝負で、マケッパナシの『縁起悪いグー』なんか出すはずが無いと、聡い君がわからない筈がないだろうが?」

汗、ふたつめ。
「君が『柱』として闘っているのならば、何がドーなろうとも、僕が勝つことは無い。
 逆に君が『人』として闘ってくれるなら、今ここで『悪運のグー』に勝つ『パー』は決して出さない。
 ……………君さ、もう『生きる』ことに飽き飽きしてるだろ?」
突如ズバリと核心を突かれ、冨樫に三つ目の汗の玉が浮く。
「わかるよ。僕だってこれでも『知ってる方』だ。君が今、どんなに喜んでいるか
 ―――『僕』と言う『友達』の存在を、どれほど待ち焦がれていたか、面映ゆいが、気が付かないほどニブチンじゃあない」
気まずげに、冨樫が目を逸らす。
493ジャンケン冨樫がやって来る!C:04/08/14 21:12 ID:mSgEstCl
「―――ここで君が『人として勝負する』と賭けるッ!!!!
 君の『人間性』が『柱』になりきっていない、と賭けるッ!!!!
 ここに来た時と同じだッ!!! どうせ身を投げるなら、自らの『覚悟』と共にッ!!!!! そして―――」
体を捻りこむように、『ジャンケン待機』の構えで荒木。

「 『 覚 悟 』 と は 『 向 か う べ き 正 し き 道 』 を 照 ら す も の だ ッ ッ !!!!!! 」

「……ゴーインだね」
「なら、このまま『ゆっくりと死んでいく』べきとでも?」
「…………」
微動だにせず冨樫の『掛け声』を待つ荒木に、なにかをこらえる様に傍らに目を落とし。
ぼそりと冨樫はこう言った。
「可能性としては、ここで私が『柱の男』として負け、次代の『柱』に君がなる、ってのもあるが」
「無いな、断る」
まあそうだろうね、と冨樫の小声が擦れた。
ふと見れば、つま先が震えていた。
別府の、局所的とはいえ、大分おおがかりになってきた『揺れ』が。
この場にまで余波を及ぼしつつあると、ようやく気付く。
(ヤレヤレ……随分勢いに飲まれてたんだな……)
向き合うことを恐れるかのように、そっぽを向いたまま、それでも冨樫は、肘から先を上下させ『開始』を告げた。
「……最初は、グー」
すごく、やる気なさげに。
○月×日 11 (>82 >320 >484->487他)

その後しばらく巨大化絶賛暴走中の巨神兵で遊ぶ私達だったが、突然貞本の頭部に小さな穴が開く。
直後ヤツがガタガタ震えだしたかと思うと腰砕けのように海中へ沈み出す。浸水は一旦胸辺りで静止した。
私の日頃の行いが良いからなと微笑む。弾が飛んできた方角を見ると闇に浮かぶ戦艦無礼ドと、
そこから排出される救助艇らしき船。貞本のアホの暴走を見るに耐えかね止めてくれたのだろう。
余計な事を・・・いやあえて言うまい。
困った事にボート(救助艇)が近づくスピードより貞本が縮小化するスピードが速い。到着した頃には、
無礼ドは森へと消え、貞本はほぼ原寸に戻り、私は悪魔の羽でジュン隊員を拾い上げるのがせいぜい。
ホオズキ隊員はアホを支えると言って共に波に揺られていた。救助艇の浮き輪が彼らを拾い上げる。
早速救護室へと運ばれるが、気づけばホオズキ隊員が消え謎の裸の大将が貞本の添い寝をしている。
ピンク隊員そこまで節操がなかったかよと呆れているとジュン隊員の手刀が裸の男の鳩尾に吸い込まれた。
その後の光景を見るのが辛かったので私は一旦席を外した。しかしホオズキ隊員はどこへ消えたのだ?

廊下で待機中、ジュン隊員が私を呼ぶ声。景気良く飛び込んだ直後、なぜか強烈な一打を食らう。
そして貞本ことピンク隊員は起きたそばから電波トークを始め、ひとり笑い出す。頭部に銃弾が残ってるのか?
ジュン隊員にエロトークを振ったらさっくり十倍返し。女体化してからさらに強くなってる?その後一時記憶が飛ぶ。
やがてボートの連中が「潜水艦が来た」というので、隊長として私が代表で出迎える事となった。
甲板から見える、潜水艦のハッチから細目の男が乗り出している。市街で会ったオカムラ隊員の仲間ではないか。
潜水艦はこの船を海中から発見し交信、浮上したそうだ。オカムラ隊員の無事を聞かれたが私は部隊分け以降の、
奴の行方を知らない。するとスタッフが、奴の要請で我々を救助しに来たと言った。借りができた?口惜しい。
私はふと細目の男が捜してた巨乳娘を思い出し、無事かと聞いたら「だといいがな」と生返事。
なんと煮え切らない男か〜などと話していたその時、私達の眼前で 『それ』 が、起きた。 (つづく)
495ジャンケン冨樫がやって来る!D:04/08/16 13:37 ID:wv+x5WA2
>493

冨樫『グー』

荒木『パー』

反撃の狼煙。
まずはの一勝に
しかし荒木は、喜ぶでもなく。また冨樫も、悔しがるでもない。
ケッ、とかポケットに『負けた手』を突っ込む冨樫。
普段学校に来ていない不良学生が
「ドォーセ阿呆の俺にゃあ一個もわかんねーんだからヨォー。試験受けるだけありがたいと思ってもらいてーなァ―――?
 留年? ジョートーじゃねぇかァアンッ!? 『答、書くだけ書いとけ』? イイゼそれくらいなら
 ……ホレ『うんこ』『ちんぽ』『バッテンロボ○』……」とか、テスト用紙に明らかな出鱈目を書く、のにも似た拗ね態度だ。
ツカツカと荒木が歩み寄る、そして


   ド ボ ォ ア ッ !!!!!!


無造作無慈悲にして強烈な前蹴りが、体を向けた冨樫の腹に『スタンド』と共に突き刺さる。
うぐぅ、と箇所を抑え、頭から倒れ込み
やがては吐瀉物を撒き散らしながら、転げ悶える。
その脳裏をよぎる疑問に、荒木は訊かれもせぬ内から、ベラベラと解答を怒鳴った。
「―――『超スゴイ』の『攻撃力』は『記憶』したダァッ!? 調子くれてんじゃねーぞ冨樫ィッ!!?
 『A』クラスの破壊力ったってピンキリに決まってんだろうガアァァッ!? 
 つーかそもそも『一撃必殺系』や『特殊能力系』が主な人間にッッ!!!
 その程度でッ!!!『ナニ』ヲッッ!!!!『どう』振りかざしてやがんだッッ!? アァァッ?!? ゥルァアァッッ!!?!?!」
サッカーボールキックを、蛹のように包まる冨樫に何度も何度も何度もくれる。
やがて、うめきすら聞こえなくなる頃。ようやく止め、離れる。
怒髪天というのか。何十本かの髪の『筋』がピコピコと立ち上がっているのを、どこからともなく取り出した櫛で整え。
「―――スマンな。チコッと頭にキたんでな」
496ジャンケン冨樫がやって来る!D:04/08/16 13:38 ID:wv+x5WA2
そのまま戻り、定位置に着いたところで背中越しに言う。
「立て、大して効いていない筈だ」
「―――ヒドイ」
冨樫が血痰にむせびながらむくりとし、女の子座りでヨヨヨと泣く。
「―――分かっているんだろうな? え? 僕が、『なにを』怒っているか」
冷静にただす声だが、湖底には、静かな怒気が透ける。
「―――分からなくはないが。―――だったら『ジャンケン』で勝つなよぉナア―→↑↑」
乱れた前髪でカオ上半分を隠しながら、冨樫は腰を落としたままヒヒヒと歯を見せる。
「―――なぁ? オイ荒木さんよぉ―――『勝って』から『思わず勝っちゃった』自分に『自己嫌悪』するのは勝手だケドさァ
 その上、人に当たるのはドーかと思うよ―――?」
虚仮にしたような響きの中に、確かに存在する愛執の念。
どこか絵的に、DV(ドメスティックヴァイオレンス)盛んなアパートの一室で、それでも離れられない、腐れ恋人同士の醸すような

(―――話が、妖しくなってきとらんか?)

ナレーションに嫌な汗をかく藤崎を安堵させる為、でもなかろうが。
振り向き、見下す荒木の顔は、どちらかといえば『馬鹿な弟を諭す、良く出来た兄』のものである。
「―――気付いてくれると思ってたんだがな」
「?―――だから言ってんだろうが」
「違う」
眉間に皺で、首を振る。
「そりゃ確かにそれもある。『負ける気』のお前を倒してもしょうがないとか。いや、お前の『負ける気』自体許せない―――
 ―――つーか、お前、僕が『年上』で『先輩』だってこと忘れてるだろ、完全に」
苦笑に対し「それこそ今更だな」と、冨樫も投げる。



「―――ああ、そうか」
『間』の後、冨樫が、泣き笑いの表情をつくる。
届いたのだ。荒木の想いが。
497ジャンケン冨樫がやって来る!D:04/08/16 13:39 ID:wv+x5WA2
しかし
「―――心配してくれたんだ、私の事を」
フ……フフフ…………
フフフフフフ
フフフフフ

笑いが、ハモる。

フフフフフフフ
フフフフ――――――ハ――――――ッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ
ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ
ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ
ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ
ハッハッハッハッハッハッハハッハッハハハ―――――――――――ッ!!!!!!!!!!!!!!

やがてそれが、二人の哄笑となる。
ひとしきり――――


「 ――――――― 何 が 可 笑 し い ッ ッ !!!!!!!! 」

衝撃波となり空気を砕く。音波兵器は冨樫の怒声。
ふう、と荒木の溜息ひとつ。
『いつ立ったのか』冨樫の両足は、しっかりと大地を踏みしめている。
取り繕うことを止め、爛々と輝く眼光が、射殺すが如き勢いでねめつけてくるのを
もう一度溜息を吐き、完全に逆転した余裕で捌きながら、図ったように、荒木は指を突きつける。

 ビ シ ィ ――――――――――― ッ !!!!!!

「それでいい。やっつけてやるぜ………… 冨 樫 」

荒木飛呂彦はゆっくりと、『ジャンケン・フォーム』に入った。
498↑開始:04/08/16 13:44 ID:wv+x5WA2
>472 >494 他

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・ッ

実質。とっくの昔に打ち上げる『意味』を喪失した『ノックアッパー作戦』。
なんか人気が無いな、とか、普通気付きそうなもんだが、矢吹様は偉大かつ、とても器が大きいので
そんな細かい事は全く気になさらないのであった。
「…………」
というのは【本気】としても。集中する矢吹様。
二本の足はしっかりと大地―――別府の中心地に程近いビルの屋上―――を踏みしめ。
普通は、立っていることすら叶わない振動の中で
何故か平然と両の手の平を、「ベントラーベントラー」と今にも呼びかけんばかりに、高々、天に掲げている。
「…………」

―――波動。
コンクリートを伝い、鉄骨を通じ、アスファルトを超える。
足の裏から浸透する不可視の力場が、地層を、地層を、地層をまたぎ―――
その下、はち切れんばかりの『水』と『蒸気』に『式』を組み込む。

―――波紋。
空気を伝い、雲を伝い、星霜に及ぶ。
手の平と空間の、境目より発する膨大な『式』。
この『惑星(ほし)』に生まれし者が、決して逃れる事の出来ない『重力』という法を
消去(イレース)し、上書きし、『それ以外』と繋ぐ。
499↑開始:04/08/16 13:45 ID:wv+x5WA2

―――――『世界』の『レイプ』。

捻じ込まれた『知 欠ける事無き 王者の領域』が。宇宙における、ありとあらゆる約束事を、殺し、引き裂き、バラバラに『矢吹く』。
声無き悲鳴をものともせずに、ただひたすらに『術』『式』『技』『陣』。
既に何十メートルという『高地』に成った。別府の容は、厳かに佇む『祭壇』に―――似ていた。



生じた囲う裂け目の奥で、海がグブグブと唸りめいて、鳴る。
いまや大地は、地底に造り上げられた大空洞―――
―――そこに流し込まれた海水に、『浮き島』のように、ただ浮いているだけの状態。

「…………………遅いな……いや、足りんのか? ……フム」
この激変をして、彼にとっては不満足なのか。
手の平を。地面、さらにその下の、改造された街の胎内に、かざす。
「……なら、喝を入れてやろう」

 ・・ ド ッ ・・ ド ッ ・・ ド ッ ・・ ド ッ ・・ ド ッ ・・ ド ッ ・・ ド ッ ・・

あくまで机上、あくまで仮説。だが、肝心なのは、それで彼が『どう思うか』のみ。
『ノックアップストリーム理論』に、最後の駄目押しが、かかる。


        ド      ク      ン    ッ    !!!!!!!


まだ瓶と接しているコルクのようなせり上がりが、突如その速度を速めた。
『横』から見れば。それはさながら、飛び立つその日を信じ、脱皮をむずがる蝶蝶の、よう――――――――――
500↑開始:04/08/16 13:50 ID:wv+x5WA2

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨・・・・・・・・・・・・・!!!!

その光景は、近辺で戦っていた『陣営』と『義挙』の者達に、仕事の終わりを知らせる。

「オオ……!!」
小脇に抱えた王蟲に拳を打ち込みつつ、見上げる将軍。

「……これからも僕を応援して下さいね(^^)。」
山崎がそう言うと、荒野を埋め尽くしていた(^^)が、狂気のドラクエ作家の体に、吸い込まれ、消える。

「グフゥ――――――――――ジュルルルゥ―――――……?」
戟に刺さった王蟲の肉を、絶人の域に咲いた、武威の獣、欣太が啜る。
怪訝に見上げるその顔が、理性の火を、灯す。

「ホントにやりやがった……」
両腕をマシンガンのように前後させ、無限の連鎖、気功波の撃ち出しを止める、空中の鳥山。


人が、建物が、木が、道が。地鳴りと共に激しい、最後の、縦ぶれを始める。


「一体何が……」
自らの体を楯とし、必死で患者を庇いながら。
ふと、震動が落ち着き。
山田の、足元が、沈んだ―――――――気がした。
(…………?)
501↑開始:04/08/16 13:51 ID:wv+x5WA2

『重力』

跳ぶ、直前にしゃがみこむように。
矢、放つ前に引き絞るように。
喫水線をギリギリに引いた【風呂】に、【桶】を空気ごと推しつける――――――と


ガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブ
ガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブ
ガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブゴボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ
ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ
ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ
ボボボボボボボボボボボボボボボ・・・・・・・・・・・・・・・・ッッッ

『裂け目』から、あぶれた海水が耐えかねたように一斉に噴き出す。
周囲に、津波の如き高波が一瞬立ち、しかしすぐ平野を、広く浅く濡らす――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
502↑開始:04/08/16 13:58 ID:wv+x5WA2
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

耳鳴り、沈黙、そして――――――――――――――――――――

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
503作者の都合により名無しです:04/08/16 18:45 ID:Ic3twUN1
キター!!
504作者の都合により名無しです:04/08/16 18:49 ID:NhjEHHbi
待ってたぜ━━━━(゜∀゜)━━━━!!!!

505作者の都合により名無しです:04/08/16 18:57 ID:jpakKegG
ヽ(`Д´)ノウォー!!
506作者の都合により名無しです:04/08/16 19:24 ID:/m2zQQy3
(つ∀`)
507猛き流星は≪弾丸≫のように:04/08/16 23:01 ID:jpakKegG
>>478 15部335)



                 白。




―――幾許の刻が経過したであろうか。
突如時計の針が動き出し、光に溶けていた周囲の風景が豁然と浮かび上がる。
ようやく建造物の輪郭が自己の存在を取り戻したが・・・しかし、
そこにはおおよそ有機物と呼べる存在が、欠片ほども残ってはいなかった。

バイクや車、その残骸。凶器類とそれに付着した血液。瓦礫屑。
あれほど渦巻いていた≪死の輪舞≫は滓かな痕跡を残したのみで、
この落莫たるアスファルトの上にひとり立つ、純白の雪の如き少年に、
狂乱のダンスの誘い声をかけることはなかった。

ふと、暖かな笑顔を絶やさぬまま少年―――キユがきょとんとした表情をする。

 「あれ・・・梅さんまで飛ばしちゃった。まあすぐに帰ってくるよね」

顎の近くを指で掻くキユ少年の苦笑に合わせるように、
悪魔の羽を生やした逞しい男が中空に突如出現し、重力に逆らえずドスンと尻から落下した。
 「おーイチチ・・・おいキユ!俺までぶっ飛ばす馬鹿がいるかよ!」
 「ごめんごめん。色んなパターンを試してみたくてさ」
えへへと照れながら微笑む少年に、悪魔の男・梅澤はそれ以上何も言えなかった。

 「うーん、今回のは使い勝手がそこそこだね。ひとりを宇宙に飛ばすパワーを分散して、
 数多くを別の場所に転移させる感じなんだけど・・・どこに行くのかよくわかんないや」
 「おいおい『よくわかんない』で消された連中はたまんねーだろーが」
508猛き流星は≪弾丸≫のように:04/08/16 23:03 ID:jpakKegG
 「そうだよね梅さん。でも僕は普通にBブロックをお掃除しようと思って、
 指定条件を“汚れてるナマモノ”にしただけだよ。そうしたらみんな飛んでっちゃうんだもの」
 「・・・大雑把すぎだっつーの、そりゃあよー」
呆れる梅澤の傍らで、深い空のような瞳に心からの困惑を浮かべる少年。
10年ぶりの復活時、昔の記憶を失っていた少年は仲間と再会した現在も時折不安げな表情になる。
しかし彼には不安になる理由がよくわからない。
穢れを知らない双眸に映るものは、過去でも現在でも未来でもない、世界。

 「だいじょうぶだよ。飛ばされた人たちに力があれば、梅さんみたいにすぐ帰ってくるよ。
 それに友だちがいる人は、無意識にそっちに飛んでるかもしれないしね。
 みんな僕のロケットに乗って旅に出たんだ。今頃どこでどうしているんだろう・・・」


  佐木、森川、サムライダー、島本、TWO突風、皆川が去ってからもぼちぼち遊んでいた大和田。
 
  八房、伊藤、片倉、逃げおくれた何名かの漫画家、高速道の周辺にいたレスキュー隊や一般人。

  彼らは恐らく≪突き抜けた≫自覚もないまま時空の狭間へと消え、それぞれ流星となり何処かへ散った――――


 「・・・というわけだから、友だちを飛ばしちゃってたらごめんなさい、車田先生。
 彼らがすぐに帰って来れるように祈ってあげて。ところで横にいる子とおばけは誰?」

 「・・・キユ・・・!
 この瞳見えずとも、お前の小宇宙が俺にひしひしと兇星の瞬きを伝えてくるぞ!」
 「キユ?どっかで聞いたような気がするけど」
 『こーゆー時はもっとそれっぽい決め台詞を言うモンだぜマダオ』
 「誰だよそれ!僕はえなりだっつーの!!」

キユがにっこりと笑いかけた先には、馬から降りた車田と、
つい先ほど再会し行動を共にしていた、えなり2世及び守護霊・空知が佇んでいた。
先日トーナメントで対戦した因縁のふたり―――車田と梅澤の再会。
509猛き流星は≪弾丸≫のように:04/08/16 23:04 ID:jpakKegG
 「おう車田ぢゃねーか!ケケケ、逢いたかったぜ。その目ン玉はどーしたよ!
 この俺様が喰らってやろうと思ってたのに情けねえったらなぁ〜〜!ギャハハハ!」
 「フッ、笑止。その禍々しい小宇宙は梅澤か・・・再び冥界に送られたいか、雑魚め」
一触即発の空気はしかし、ひとりの男の声で瞬時に変質した。

 「あっ!あんた梅澤先生!あ、あんたが僕を見つけて無理やりバイクに乗せなければ、
 僕は佐木って人に絡まれる事も≪キャノンボール≫大会が始まる事もなかったんだ(たぶん)!
 しかもせっかく僕が優勝したと思ったら大会自体なくなってるっぽいし!
 おまけに変な霊にとりつかれるし踏んだり蹴ったりだ!ひどい!恨むぞ!日記に書いてやる!」

 「坊主・・・ そ れ が 拾 っ て や っ た 悪 魔(ニンゲン)様 に 言 う 台 詞 か ? あ ? 」

破裂寸前の邪気が膨れ上がる。さらに状況が悪化したのだ。
それに気づきえなりが今にも車田の背に隠れそうになった時、梅澤を制止する声が響いた。
 「まあまあ梅さん、とりあえず会議あるし帰ろうよ。僕少し疲れちゃった」
 「・・・キユがゆーんならしゃーねえ。ガキ!車田!次に会った時が楽しみだぜ!」
あっさり承諾する梅澤を見て、えなりは眼前の少年が只者でない事を悟った。

 「じゃあ乗って」「おーよ」
赤い羽根扉が開き、キユと梅澤はランボルギーニに乗り込んだ。
無言で見送る車田達。今闘う事は得策ではない・・・現状の確認が先である。
と、梅澤がにやつきながら、扉を閉める前にえなりに声をかける。
 「おいガキ、キャノンボールってな俺らがやってたレースの事か?バイクや車やらでよー」
 「そ、そうですよ。ヘリが実況しながら飛んでいたでしょ」
 「へえー、そいつにテメエは優勝したってか」
 「ああ、そこの黒いバイクを奪って、ね」
 「・・・優勝か、よかったな。そいつぁめでてーや。名前聞かせろ」
 「・・・えなりチーム代表、えなり2世です。ありがとう・・・ございます」
 「ケッ、その名、忘れなければ覚えておくぜ!あばよ、ガキ!!」
爽やかな風と共に、深紅の車は静かな高速道の彼方へと消え去った。

程なくえなり達は、≪ノックアッパー事件≫の目撃者となるのだが、またそれは別のお話。  ←TO BE CONTINUED
510作者の都合により名無しです:04/08/16 23:19 ID:Ic3twUN1
終わったか…
しかしみんな飛ばされたわけでこれで
どこに誰が現れようとおかしくなくなったなw
511作者の都合により名無しです:04/08/16 23:38 ID:RQEB9HMp
あれでよく綺麗にまとまったなw
512扉の先に有る物は―?:04/08/17 18:51 ID:Fk5CpTsa
>362
安西信行は悩んでいた。
彼はまだ金田一の中にいる。
広い。かなり、広い。
他の人間は既に外に放り出され、その果て無き広さが割と静かで寂しかったりもする。
安西は何故自分だけ出して貰えないのかさっぱりわからなかった。
更には天上、まあつまりは金田一の口から色々とやばいものが自分目掛けて降ってくる理由もわからなかった。
わからないまま逃げた。
なんかもう疲れてぐだぐだになったその時―彼はそれを発見した。
扉、である。
金田一の腹の中―恐らくは端っこの方に、ぽつんと、そこだけ現代風の取っ手付きの扉が存在していた。
異質。その扉は、見るからに他の風景から浮きまくっていた。
入るか、入らざるべきか―
そのことを安西は迷っていた。
なんとはなしに、危険、というかやばい予感がする。
そもそもが人外魔境な金田一の腹の中。
その中で更に浮いているとなれば、そこに待ち受けるものは想像することすらできない。
止めておいたほうがいい、と安西の理性は警告していた。
が、しかし―
「よしっ!」
ぱんっ、と頬を叩き、安西は扉の取っ手に手を掛けた。
513扉の先に有る物は―?:04/08/17 18:54 ID:Fk5CpTsa
動機は、結構切実である。
最初に銃弾が降って来た。
全て、狙い済ましたように体を掠めた。
次に白い水が大量に降って来た。
溺れながら飲み込んでそれがようやく牛乳だと気が付いた。
体全身が牛乳臭いし、ねばついている。
何度か空に向かって抗議したが、返答は無かった。
次に何が降ってくるか――
考えるだけで気が滅入る。
だが、この扉の向こうにいけば空からの襲撃から身を護れるのではないか―?
そんな淡い希望が彼の原動力。
まあ、要するに安西信行、かなりてんぱってるのである。
取っ手を廻し、一度ごくりと唾を飲み込んで、安西は扉を開いた。

!??
――バタンッ!

一瞬の出来事だった。
安西は扉を勢い良く開き、次の瞬間、その倍の速度で扉を閉めた。
「待て、待て待て待て、落ちつけ俺―」
呟く。あの一瞬―開いた扉の先に見えた光景。
扉の先には部屋があった。
狭い部屋だ。そして、古い。
部屋の天井には蜘蛛の巣が張っていた。
そこまではいい。
問題は、その部屋の隅っこで、こっくりさんをしている人がいたことである。
しかも、その背後に人魂が浮いていたような気がする。
514扉の先に有る物は―?:04/08/17 18:54 ID:Fk5CpTsa
「ははは」
有り得ない。
きっと見間違いだ。
安西はそう思った、いや思う事にした。
きっと今のは目の錯覚。
そうにきまってる。
そういうポジティブな思考で論理武装しながら、安西は再び扉を空けた。
「――――」
安西は硬直した。
そこにはこっくりさんをしている人はいなかった。
ただ、人が倒れていた。
その人の手首から血液が噴出し、床に血の池が出来ていた。
もう片方の手には刃物。
そこまで見て、安西はようやく理解した。

「手首切ってる―――!?」

安西信行。
彼の不幸はまだまだ続く。
515作者の都合により名無しです:04/08/17 19:36 ID:a1oInOVk
すげ〜久しぶりの登場で自殺かよ(w
しb(ry
516作者の都合により名無しです:04/08/17 19:57 ID:vNEyF7Fu
ガソガソの女帝死んだアア(´Д`;)
517作者の都合により名無しです:04/08/17 20:00 ID:j0flKZ1h
安西はし(ryさんまで落とす気か。
518作者の都合により名無しです:04/08/17 20:32 ID:CD59uMml
カムイの心労のタネがまたひとつ・・・三条と決着つける前に死ぬなよw
519作者の都合により名無しです:04/08/17 22:00 ID:2u32gND+
よりによって、何でそのキャラなんだよwwwワラタw
俺様なのだって何ぼでもいるのになw
520作者の都合により名無しです:04/08/17 22:07 ID:OK+UmXGM
UMA子登場キボウ。
521作者の都合により名無しです:04/08/17 23:49 ID:eQAyWjfd
蝶ワロタ
522作者の都合により名無しです:04/08/18 09:03 ID:i+iHdH58
ハンターのパームみたいになりそうで今から怖いぜ
523↓終了:04/08/18 13:23 ID:fhT6ZW47
>509 >502 他

――――極端に言えば、派手な水芸  大絶壁のごとくして、雲海のごとく白く在る――――

( ゚д゚)( ゚д゚)( ゚д゚)( ゚д゚)( ゚д゚)ポカーン

甲板に並ぶ、地球防衛軍と、救命ボート操員のアホ面。
一人、細い海を挟んで潜水艦上の川原のみは特に表情も変えないが
よくよく見ればその糸目が、片方、少しだけ、驚いたように見開かれている。

┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・・・・・・・・・ッ!!!!

突如、目前に『現れた』『上昇水流』『天駆ける滝』には
海面の境が、ある場所から唐突に変わるほどの圧倒的な『勢い』があるため、かえって周囲には細波しか立たない。
しかし
「……のんびり話してる暇は、無いな」
一人ごち。殆ど反射でギャンギャンと吼える玉吉の首筋に、一撃。本日何回目かもわからぬ気絶を果たした体を、肩に乗せる。
「閉めるぞ、はやく来い」
さしたる慌てた動作もなく、甲高い音とともにハッチを空け、梯子を下りながら顎をしゃくって川原が誘う。
「……あ、ああ!」
もう既にボートから離れようとしている潜水艦に、次から次へと飛び移る者ども。
最後に残ってハッチから、顔を出した佐渡川は強く強く唇を噛んだ。
(こりゃ、もう…………無事でいなよ!!あんた達ッ!!!!)
未練を断ち切るハッチが閉まり、ハンドルが回る。艦は静かに波を蹴立て、やがて沈んだ――――




「グッ……ッ!!!」
真下から撃ち込まれた、直径数キロのコロニーレーザーが掠るようなものだ。
急旋回と急制動に、『無礼ド』の乗員は。漫画家、アシを問わず、誰もが壁や座席に押し付けられる。
昇る、膨大な『水』と『大地』に、どけられた、『空気』と『風』の塊が、乱流となり翻弄する。
524↓終了:04/08/18 13:25 ID:fhT6ZW47
―――もし『無礼ド』が別府の『上空』にあったら―――との考えが脳裏をよぎり、カムイはゾッと鳥肌を立てるが。
考えてみれば別にまだ『助かった』わけでは無い。
これほどの至近なら、下手をすれば、下手をしなくても、なんらかの切欠で、これからでも撃墜されかねない。
「おい!!この船一応、宇宙戦艦なんだよなッ!?」
それにしちゃあ、色々な意味でヤワ過ぎる。カムイも同感な疑問を
岡村が、コンソールにしがみ付く松沢アシスタンツに、がなる。
「……ええ!!しかし!!!」
操作を、受け付けない、というより『別の法則』でコンピューターや回路が働いている。
デジタルであれ魔法であれ、法則というものは、在る。
さっきから仄かに感じる『世界の違和感』のせいなのか
おそらく『1+1』が『2』にならぬであろう、この『世界』で、果たして『この船』は一体『なん』であるのか?
『しくみ』を犯され幻惑されて、それでもいまだ浮き、飛んでいる事は、あるいは奇跡に近しい事なのかも知れない。
「……つまりどーなるかは運次第ってことかッッ!?」
「そう……いうことに、なりますね」
また、衝撃。





「♪〜〜〜♪〜〜♪♪〜〜〜♪♪〜〜」
暴風を切り、気流に乗る。空気の束が頬を撫でる。
のん気な鼻歌と共に、矢吹は『空』を飛んでいた。
「♪♪〜〜♪♪〜♪〜〜〜」
テーマは有名な『タイタニック』の『My Heart Will Go On』。
ビルの屋上の角で、両腕を肩から並行に伸ばし、顎を上げたポーズは、これまた有名な
ローズ嬢のタイタニック号・舳先のシーンのものである。
「空を飛んでるみたい」
えらい微妙な棒読み。周囲に人っ子一人居ないので、『つーか空飛んでんだよ!』とのツッコミは、入らない。
奇妙な静寂。人里離れた山奥で、どこかの遠い滝の音だけが混じる、深い深い森のよう。
びょうびょうと鼓膜を叩く冷たさは、ほんの僅かに湿ったものだ。
夜空と、矢吹の間には、もはや遮るものも無い。
525↓終了:04/08/18 13:30 ID:fhT6ZW47
みるみる迫る月影に。しかし、やがて、立ちはだかる。矢吹艦がその巨体を横滑りさせて、くる。
「…………」
満足げに目を細め、そのまま黙って目を瞑る。
徐々に、徐々に、見えてくる、破滅の未来が、見えてくる。
肝心の、矢吹の瞼の裏に『だけ』無い、その光景は
このままいけば、二つの巨大な質量が、道無き空の交差路で、直角の機動のまま激突するという――――――




 ・ ・ ・




まさに、ギリギリであった。
すれ違う際の『矢吹艦』と『別府』には、10メートルも間隙が無く。
実際、何が起きているのかをまるで分かっていない『別府』や他の者たちはともかく。
矢吹艦や別の場所で、直接・間接的に固唾を飲んで光景を見ていた『意味』知る者達に
距離、立場、地位、関係なく、ほぼ同時に、大小の冷や汗が伝う。
一人、自らを疑いもしなかった矢吹は、無事を、確かめる事すらしなかったが――――
そして大地はそのまま宇宙(そら)を目指し、ひたすらに高く高く昇り続ける―――――かと、思われた
白く、太く、真っ直ぐな水の如意棒。
このまま往けば、惑星(ほし)による、全ての戒めから解き放たれることすら、可能だろう。
しかし、むしろ、スピードを増した矢吹艦が、流星の尾のごとき『水流』に、勢いよく、側面から突っ込むことで
それは儚き夢幻の未来図と、消える。

┣¨ ッ !!!! ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ッ !!!!!

流石に、一つの『街』である、『別府』でさえも押し上げる、超超超超水圧も
それさえ遥かに凌ぐこの、ひとつの『県』の大きさの
『矢吹艦』―――超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超重量―――の前には、若干、強力な水鉄砲程度に過ぎない。
526↓終了:04/08/18 13:33 ID:fhT6ZW47
……………ほんとか? とか疑問を感じてはならない。
ここは『彼』が全てを司る。
そうだと言ったらそうなのだ。

――――そして
『矢吹艦』に『上昇する海流』を遮られ、言わば『エンジン』を失った『プレート』は、暫しの惰性で上昇するも、やがて失い―――


―――――――――――――――――――――――――――――――


一瞬の、中和。後、落下。
胃にこみ上げる、なんとも不快で、心地よい、モノ。


「この惑星に――――――


                          在る限り―――――――――――――


重力と時間が――――――――――――――


                                     人間を支配する―――――――――――」


―――どこかで、誰かの、声が、した。
「そう、だが、私は、その檻の外に出た」
うっとり月と星だけの、宇宙のような視界を愛でる、呟く矢吹の耳にはしかし――――
527↓終了:04/08/18 13:35 ID:fhT6ZW47

しかし、『現実』は、唐突にノイズを入れる。

…………………………………!!!!!!!!

ドガァンッ!!!!    ドボォオンッ!!!!!        ドガカァ―――ンッ!!!!      ボゴォオンッ!!!

     ゴォォオンッ!!!      メシメシメシッ!!!!!       ドグォオンッ!!!!       ドンッ!!!

  ゴゴォンッ!!!    ドカァンッ!!!      バッゴォオンッ!!!!!     ミリミリミリッッ!!!!

    ベキョオォンッ!!!!        ドカンッ!!!!       ゴゴゴゴッ!!!      メキョォオンッ!!

 ベキョンッッ!!!!     バゴババゴォンッ!!!!     ドグシャァアッ!!!!    ドカンッ!!!

バシバシバシッ!!!     ギャギョォ―――ンッ!!!!     ドモンッ!!!!!      バッシャァ―――ンッ!!!

もこなあぱぱに一元化された、無人にして神速の操作系統により、イノチを乗せぬ機動艦が
『命令』通り、一斉に『艦』と『別府』との間に入ったのだ。
ほとんど下からぶつかるように、あとからあとから濡れた岩盤に群がって―――――
しかし当然というかなんというか、焼け石に水、もいいところ。
殆ど触れた瞬間に、あっという間に潰されて、小さいものから順々に、大爆発を起こしてゆく。
「ぁあ……そうかそうか」
ほんの一時「うるさいな」という顔をして見せ、しかし矢吹は、職員たちの懇願を思い出す。
それ見たことか、では無いが、おそらく『予想外』の、『連続大爆発』を反作用にしてすら、別府の地面は小揺るぎもしない。
反対側(街側)の矢吹の足に震動が届くことさえ無く、落下の速度もいっかな―――――衰えぬ。
「えーと………なら………こんなものかな」

しかし、ふっ、と矢吹が何かを『思う』
528↓終了:04/08/18 13:36 ID:fhT6ZW47

それがそのまま『物理』に変わる。


         『  重     力  (グラビティ)』


『絶対知欠空間』数ある優位性において、最も有名かつ偉大な能力のひとつ。超・重力操作。

中央司令部で
それでも幾許かはまっとうに数値を示していた、様々なモニター・計器の類が。ついに、意味不明の記号を羅列するに、至る。

「「「―――――――――――」」」
もこなあぱぱが倒れ込み、白目を剥いて、耳の穴から煙を上げる。
最後の最後に単純な『ひたすらに支えよ』という『命令』を
指揮下にあった全艦船に、なんとか伝えたのは―――『立場』から言えば不思議な『矜持』であろう。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――そして、『落下』が、ほんのすこし遅くなったような、錯覚。

しかし、『その先』は、見紛う筈無く、また錯覚ではありえない。
向かう事を止め、そのままホバリング待機する、頂点。一隻の中型艦に
今までの『無力』が嘘であったかのように



 ――――――― あ っ さ り と  『 別 府 』 が 載 っ た の だ 。
529↓終了:04/08/18 13:42 ID:fhT6ZW47
ゆっくりと、ゆっくりと降下してゆき、単点接触がゆえのバランスの悪さも
ひとつ、ふたつ、みっつと、支える艦が増えていく事で、綺麗な平行を取り戻す。
輪郭を取り戻した、巨大な月。
着々と降臨する、大地。
大陸の如き中天の、戦艦。
地と海とを埋め尽くす、赤き波。
全てが集う、その中心に屹立する水の柱は。ようやっとその勢いを減じはじめ、徐々に短くなっていく。
あちこちで、霧や、雨や、土砂降りとなり。
シュールにしてリアル、おおがかりすぎ。自分が心配しようだとか、どうかしようだとか
ブラウン管の向こうに干渉する気がまるで起こらないのに、良く似た無力感。
ただ、見ていることしか出来ない。
甲板で待機し、『別府』への介入を用意する矢吹パクリ軍団(もう実際の所やること無いんだけど)も、
その殆ど存在しない筈の自律意志と目を、一様に奪われて、いた。
それだけではない。
矢吹艦のかなりを占める一般職員や、その家族。力持たぬ者達までもが
あちこちの甲板口からゾロゾロと遠巻きに囲み、見物する。――――幾人かの、漫画家たちも。

 500メートル……450……400……350・……

実際に、どれくらいの距離があるのかは、本当のところ分からない。今『ここ』には、計る術がほとんど無いのだ。
しかしやがて、一番大きな機動艦が接地し、次々と、他艦が後に続く。
『別府』の隙間や窪みから、溜まった水が細く滝となり、甲板を濡らし
『矢吹艦』と『別府』の間、何百という機動艦をサンドイッチした、奇妙なオブジェが―――――



  ズ・・・・・・・ズ・・ウ ン




    『 別 府  ノ ッ ク  ア ッ パ ー― 作 戦 』  ―――― 完 了 ――――
>>497

勝算に、追い風があった。
ここで一気に引き寄せる。
小細工でも、イカサマでも
『次勝てば、間違いなくその次も、勝てる』
そんな確信。

(そして僕には、心当たりが、ある)

スローモーションの冨樫。スタンド能力ではなく、ただ脳処理により動くそれは
カッカきているのが、傍目にも恥ずかしいほどよく分かる。
おそらく二連続で負けた自分は、たとえば、冨樫に、こう、見えていただろう。

「最初は!」

互いの『グー』をお見合いさせて。『馬鹿め』と冨樫の声無き声が、心のどこかで木霊した。
(―――僕、スタンド能力使ってないよな?)
あまりに『読めすぎ』。『上手く運びすぎ』る。
慣れぬ全能感に戸惑いながら。
コマ送りの映像、見据える中で。
ゆっくりと『グー』が持ち上がり、頂点を―――――迎える。
(ここで)
トロくさい(実際には一秒にも満たないのだが)、『戦場』への『降下兵』。
ゆるゆると開いていく『僕の左手』『元グー』に、冨樫の口端が堪えず吊り上がる。

そう、こうすれば 冨 樫 は 僕 の 手 が 『 チ ョ キ 』 か 『 パ ー 』 だ と 思 い 込 む だ ろ う 。

正にそれこそ『ゆるゆる』に。

「「 ――― ホ イ ッ !!!! 」」

でも最後まで、信じられなかった。
結果が出た今も、信じられない。
違和感ありすぎ。
『こんなもの?』
『手応えなさすぎ?』
『罠ならどうする?』
『敵を過小評価するくらいなら、過大評価した方が、まだいいんじゃあないか?』
―――母さん父さんありがとう。
耳を貸さなかった僕に、おめでとう。


 A  H A P P Y  N E W  Y E A R !!!!!


なんでか分からん夜空いっぱい、花火で、そう祝福が記される。

荒木の『左手』ではなくスイッチされた
右手の『グー』の『役目』が終わる。
冨樫の『左手』無知なる『チョキ』が
実質、最後の、勝敗を、誰の目にも明らかに、高らかに―――

ぼすん

今度は、冨樫が腰を抜かす。
まるきりさっき、二連敗した自分と同じ―――
(『最初はグー』の『掛け声』と『動体視力』によるコンボの罠。チと冷静になれば気付くし、裏を取るのも、意外と、簡単)
―――しかし、決定的に違うこと


    キ     タ  ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


全能、順風、禁忌の浪費。
バカヅキ、剛運、神意の小鳥。
なんと呼ぼうと、構わない。
一般人なら極一部。漫画家内でもそうそう居ない。
一生の内に一日たりと、『成れる』『イノチ』のなんたることかッッ!!!!
『燃焼』にして『最北端』
『最終局面』――――『無敵補正』で、ある。

「フフ……フフフフ…………」
体内を、巡る
迸しるなにかの、溢れる出る口を作るかのように、ガリガリと眉間を掻き荒木は低く笑う。

「フフ……フフ……スゴイな―――これは――― 次 の 勝 負 !!! ――――― い や ッ !!!

 今 の 僕 は な に を し て も ッ ッ !!! ま る で 負 け る 気 が し な い ッ !!!! 」

例えば

「 ――――― ほ ら ッ !!!! こ ん な こ と を し て も ッ !!!!! 」

 バ ッ ド ・ カ ン パ ニ ――――― ( 極 悪 中 隊 ) !!!!!

幾何学模様に整然とする。
小軍人の嵐の礫。
把握しながら自由にさせて、完全ランダムに『自分』を狙わせた全銃口が火を―――
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!!
脇。
肩口
股。
膝裏。
頭頂。
全て――――――空を切る。
『技術』では無い。
ただの、『運』。

「か……かすり傷ひとつ負っていない……無敵を信じた『アレキサンダー大王』は
 何千と飛んでくる矢の中を平然と歩いたというが……今の『荒木先生』はまさにそれだ!!
 逆に逃げた『冨樫先生』がけがしとるぞッ!!!」
そう、例え六発中五発入った、『ロシアンルーレット』だろうと。
乗馬中、突っ込んだ雑木林で、なんのアテも無く目を瞑ろうと。
『自分を乗り越え』『運命に克ち』『前髪しかないチャンスの女神』を引き寄せた、今の荒木を傷つける事は、何人たりとあたわない。
離れた距離で、藤崎にすら、それがビシビシ伝うのだ。
至近で目の当たりにしてしまった冨樫の心中は、果たしていかばかりか―――


「痛ッ……!?」
冨樫が、脇の痛みに目をやれば、ちいさな傷痕、血の温かさ。
(荒木には一発も当たらず……流れ弾で、逃げた『私』が怪我してる……?)


―――これが『超える』ということか。
「……はは…………あははははは…………すごいすごい」
既成にも似た確信。
今の自分なら、たとえ今まで出会ったどんな強敵にも、引けを取ることはないだろう。
将軍? 水島? 岡本だって?
それが一体なんぼのものか。
なんだか、随分ちっぽけに。
冨樫でさえも河童に見える。
―――こんなもん、だったかなァ?
ステップを踏んでジグザグ寄ると、腰を抜かした冨樫が、ザリザリと後じさる。
とても、笑えた。
あはははは
なんてザマだ。
回り込む。
「―――――逃げる気かい? だめだめだめだめだめだめだめ! 君は死ななくてはならないんだ……
 僕を虚仮にした君を許してはおけないよ。誰一人としてこの『荒木比呂彦』より優れていてはならないんだ……」
とうとうと語りながら。まあ一応訊くだけのことは、訊かなくてはならない。
『読めば』わかることだが、本人からも『実際』に聞いておきたい。


……ああ
それにしてもこんなものか。あの冨樫でさえもこんな――――
もうこれ、そうか。ひょっとしなくても――――『世界を左右できる力』なんだ。
『漫画』の革変。
『神魔』の放逐。
やろうと思えば何でも出来る。
つーかもうアレだ。
必要ねーだろ大会とか。
仲間とか。
僕一人いれば――――――――――――――――――――



     我に、還る。



――――――――ヤバい。
今まで、完全な『制御系』―――力を乗りこなす者、としてやってきたせいか
逆に危うく、あと三歩ほどで、引き返せぬ場所まで連れ去られるとこ、だった。
『力』に『自分』を、乗りこなされるとこ、だった。
(間違えるな、荒木)
誠実に、言いきかせる。
(お前が今やるべきは、そんなんじゃあない)
今ここで、この状態で下手な事を『望む』のは、おおいに危険だ。
それより―――
どれほど腐っても『鯛』。
目の前で、器用に、尻と足と手とで、後ろ向きにシャカシャカ逃げてるこの男を。
もう、『今の自分』どころか『いつもの自分』でも蹴散らせそうなこの男を。
『因縁』を―――――片付ける事から始めよう。
「おい」
ただその一言で、冨樫が石像と化す。
「お前の番だぞ」
自覚のほどは怪しいが、『開始』の『掛け声』冨樫の番だ。
「早くしろ」
ずい、と近付くと、眼が泳いでいるというより、ハイライトを失っているのが分かる。
「……おい」
面倒な。
例えば、『ダービー』の『アトゥム神』や『オシリス神』なら、戦意を失ったこの時点で勝負アリなのに。
「早くしろって……」
「無理だ」
(………? なんと言った? 今こいつ)

「―――― 『 私 』 じ ゃ あ も う 無 理 だ ッ !!! お い !! 『 起 こ せ 』 ッ ッ !!!!」
突如絶叫、吼えだす冨樫に。さすがの荒木も、びくり、と顔を引き攣らせる。
(―――狂ったか?)
「―――――起こせッッ!起こせっつってんだろゥガッッ!!!!」
(―――ああぁ〜〜〜? ――――もしやひょっとして、腰が抜けて立てないとか?)
一応、さあ、と優しく手を差し伸べてやり、素直に冨樫が立たせられる、ので(やっぱそういうことか?)と思いかけるも―――
「グダグダ抜かすなッ!!!急げ――――――この野郎ッッ!!!」
もうしっかり立ってるくせに、まだ言う。
(―――あららァ〜〜こいつもう駄目だ―――)
と、『じゃあ勝手に【記憶】読まさせてもらいますよ、はい』風に手をかけようとして。
次の言葉に、流石に『別』の『異常』を感じ取る。
「―――しつけえぞ『田所(仮名)』『今井(仮名)』ッ!!!お前等と代わってもおんなじだ!!!
 ―――――素直に、『冨樫』を出しやがれっ!!!!!」
その『要請』の瞬間


   ど   ん   !!!!


心臓に電気ショックをうけたように、冨樫の体が仰け反り跳ねる。


   ど   ん   !!!!   ど   ん   !!!!   ど   ん   !!!!   ど   ん   !!!!


階段を駆け上がるように痙攣し、浮き上がり、目の前の宙で、地と並行に大の字のまま涎を垂らす。
完全にイッてるその顔が、やがて、ぶれが激しすぎて、ハッキリとは見えなくなる頃―――

ふい、と変異が、始まりと同じように、唐突に、終わった。

くるん、と1メートルほどの高さで回り。
ぽん、と軽やかに地に足つける。
屈み気味だったその顔を『冨樫』があげた。

「……………………おまえ、誰だ?」
荒木はそう訊きながら、同時に、自問していた。
なにを―――言ってるんだ僕は? こいつは―――『冨樫』じゃないか………………………………いや そうか

 いや そうか
 いや そうか
 いや そうか
 いや そうか
…………そういうことか !!!!!

「―――冨樫ですよ。―――『お久しぶりです』荒木先生」




┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・┣¨・・・・・・・・・・・・・・!!!!


背景で、『別府』が、スペースシャトルの打ち上げめいて、厳かに、飛び立っていた――――――






 読者のみなさまへ 『ジャンケン冨樫がやって来る!』休載のお知らせ
 いつも『ジャンケン冨樫がやって来る!』を応援して頂き、ありがとうございます。
 楽しみに読んで頂いている方々には申し訳ありませんがしばらくの間、休載させていただきます。
 連載再開は、次スレ・第22部の予定です。引き続き応援よろしくお願いします。週刊少年ジャンプ編集部

  ←――TO BE CONTINUED――…
538作者の都合により名無しです:04/08/18 14:22 ID:d/XB80Cf
超乙
539作者の都合により名無しです:04/08/18 14:25 ID:W7wyAIdp
ベリー乙!ベリー乙!
では残り容量をエンディングロールとまとめ表に使いますので、
できそうな方新スレ立てを宜しくお願いしますね
540温泉編終了・緑の日々:04/08/18 16:21 ID:W7wyAIdp

  静寂ののち、夜空にはぽっかりと満月。

  捻じ曲げられた日常を取り戻すかのように。


超弩級の噴水。土地ごと天空にぶっ飛んで消えた別府の地は、
凄まじい音量と共に『お迎え』の艦に飛び乗った・・・ように彼女の瞳に映る。
彼女──樋口は再度閣下モードに変更しジェット噴射玉座で魔の森を飛び出した、
雷句の頭部に乗り華麗なる水芸を、現場よりやや遠方にて傍観していた。
ちなみに巻来・三浦・ヨクサルのボロ雑巾トリオは閣下の膝上で寝込んでいる。

 「恐ろしいわ・・・誰の仕業なんだろう、
 こんな馬鹿げた事で、本当に別府は救われたっていうの・・・?」
やがて彼女が錐揉み状に空中を舞う戦艦無礼ドを肉眼で確認した直後、
猛烈な圧迫感と共に急激な物質移動により発生した乱流が、
閣下椅子のある森の上空に達し、木々を揺らし瘴気を飛ばし、
雷句たち一行を木の葉のように軽く巻き込んで弾けた。
 「キャアアアアアア!!」

景色がカレイドスコープのように目まぐるしく変化する中、彼女は見た。
かつて別府が存在した暗黒に向かって四方八方から、
全ての束縛から解放された王蟲の大軍が飛び込み新たな大地を形成した光景を。

そして怒りをあらわす蟲たちの赤い複眼が、
なおも色を失わぬまま小山のように積み上げられ、
遥か天空の地に伸びる蔓の如く、自分たちの仲間を踏み台にして、
一歩でも目的地に近づくために金色の触手を伸ばしながら、
空に向かって行軍するさまを。
               ──それは星のように紅玉を散りばめた黄金の塔──
541温泉編終了・緑の日々:04/08/18 16:23 ID:W7wyAIdp
 (駄目だ、駄目だよ)
 (炎や、血や、怒りの赤は、多すぎると自分たちも滅ぼすんだよ)
 (あなたたちがなんでここに来たのかは知らない、でも)
 (もし私の声が聞こえたら・・・もし巻来さんの言う森の声が聞こえたら・・・)
 (ここはあなたたちの世界じゃない)
 (あなたたちの赤色を全て受け止められるほど・・・)

 (この世界は優しくないの)

 (この世界は広くも深くもないの)

 (ごめんね)


 荒れ狂う人工の嵐の中、閣下椅子は偶然最接近した戦艦無礼ドの、
 二叉槍の機体の中心にある緑色の巨大水晶へ椅子を降ろしてしがみつく。
 樋口が水晶に両手を触れながら、彼女は憐れな蟲の塔に向かって・・・


 (いつか争いのない世界になったら遊びに来て。蒼い瞳で、蒼い地球に)


 闇の中、無礼ドの水晶──魔力の中枢──が淡く輝き出す。
 樋口の純粋な、なんの邪心のない祈りと一粒の涙に応えるかのように。


 ( いつになるかは・・・ わからないけど・・・ 約束・・・ させて・・・ )


 やがて別府湾周辺の空がエメラルド色に染まり、矢吹艦は真下からライトアップされた。
542温泉編終了・緑の日々:04/08/18 16:24 ID:W7wyAIdp

全てを覆う暖かな緑色が消え去った時。

海上に聳え立つ蟲の塔はそのまま鍾乳石のような形の『森の島』と化していた。

そこからは不思議と瘴気のひとつも発せられない。

≪大分県別府市≫と名のついた土地が『二ヵ所』に分裂した瞬間である。

陸の別府と空の別府。温泉で有名なかの地の、歴史に残る祭りの一夜。

日付がようやく翌日の位置を指し示す頃。

祭りの終わりはニュース映像に乗って全国津々浦々を駆け抜けた。

死者、行方不明者、災害状況の詳細が調査・発表されるのはこれからである。

この日の出来事を全て正確に記録できる媒体は恐らく存在しないであろう。

複数箇所に散らばった『別府浮上事件』の体験者たちは、何を思い何を感じたであろうか。

それはまた・・・ 次の機会に聞く事としよう。

今はただ、生き残った者達にねぎらいの声を。

そして舞台を去っていった者達に万雷の拍手を。

                               ≪ 温泉慰労会編 了 ≫

        →おまけ【しあわせのそねみ 〜桜玉吉鬱日記・完結編兼まとめ〜 】につづく
○月×日 12 (>494 >523他)

『それ』の説明を一言で表すとシャンパンの蓋である。もうすんごいとしか書けない。日記の最終ページは、
私の叫び声一色で埋められる所だったが細目の男に邪魔され意識を失う。目覚めると例の≪やまと≫なる潜水艦にいた。
海上はヤバいからと救助艇の乗員は全員移って来たらしい・・・が貞本ともう1人を忘れてきたそうだ。滑稽だな!
金を払うまでピンク隊員には生きてて欲しい。で、海上や海中の嵐が落ち着いてから艦は再浮上したのだが、
かつて別府のあった場所にとんがり山ができていた。神秘である。そして元の別府は山の上空を飛ぶ矢吹艦に鎮座。
伊豆の山奥に潜みて幾年月、外界はやはり刺激に満ちて面白い。私はしばらく我が地球防衛軍と行動を共にしたい。
そして小憎らしいオカムラ隊員の線で縁を持った裏御伽に一時世話になろうと思う。・・・持ち合わせがないからな。

日付が変わり、ニュースは一斉に別府騒動の終焉を流し出す。我々当事者にとって昨日は特別な1日だ。
細かい出来事は明日以降にぼちぼち書くとして、嗚呼、今日はとにかく疲れたものだ。悪魔ボディも筋肉痛だ。

この旅で出逢った多くの人間たちに、柄にもなく幸福と安らぎがが訪れる事を祈りながら私は筆を置き、眠りに就こう。


         ゚(Д)゚  あ  あ  、 楽  し  か  っ  た !! ('A`)
544まとめ:04/08/18 22:24 ID:6NVYDO4+
 ≪21部まとめソフト版≫

【悩める幹事〜裏御伽の過去】

ひとりぼっちの旅路 >13 >14 >15 >16 >17 >18 >19
再会        >23 >24 >25 >26
追憶の街      >170 >171
昏冥の海(きおく)  >297 >298 >299
癒しの男      >397 >398 >399 >400
2人の“桃太郎”   >420 >421 >422 >423

流血の狂詩曲(ラプソディー)>53
流転の夜          >88 >89 >90
星霜の砂          >319 >320


【いざ戦艦無礼ド〜別府港決戦1】

COSMOS撤退      >42 >43 >44 >45 >46
すべてが赤になる   >58
ワンナイト・カーニバル >75

蝶のように、蜂のように >74
“俺たち”の力     >109 >110 >139 >140
炎の蝶人・和月     >159 >160 >161 >162 >163 >165
蝶魔人、誕生      >267 >268 >269 >270 >271

魔獣撩乱        >126 >127 >128 >130 >131 >132 >133 >134
別府港DEATH MATCH!!  >173
絶望の魔獣       >178 >179
545まとめ:04/08/18 22:25 ID:6NVYDO4+
とある閑話       >93
復活          >183 >184 >185 >186 >187 >188 >189 >190 >191 >192
光と闇のはざまで    >221 >222
到来(アドヴェント)   >225 >226 >227 >228 >229
不幸な結末       >235 >236 >237 >238

闇の楯         >248 >249
屈してはならぬ言葉   >250 >251 >252
決戦の海へ       >282 >283 (→別府港2・338へ)

惜別の情景       >361 >362

扉の先に有る物は―?  >512 >513 >514


【海上の森の守人〜別府港決戦2】

自然の奇跡!!    >59 >60 >61 >62 >63

狂戦士 (殺し屋編分岐) >143 >144 >145
ケンタロー×ブレード >212 >213 >214
            >242 >243 >244 >245
            >287 >288 >289 >290 >291 >292 >293 >294
黒と白        >300 >301 >302 >303 >304 >305 >306

闇の獣        >334 >335 >336 >337 >338
道連(なかま)     >354 >355 >356 >357 >358
ベイリーメロン    >363
誕生!! モヒカン・○○○ >364 >365
雷句様と愉快な仲間達 >392 >393 >395 >396
眠れる森の漫画家たち >438 >439
546まとめ:04/08/18 22:27 ID:6NVYDO4+
【殺し屋の競演〜別府市街バトル】

深夜輪舞       >77 >78 >79 >80 >81
黄昏に飛べ      >94 >95 >96 >97 (→別府港1・248へ)

狂気の行方      >99 >100

鷹の団救助活動中   >101 >102 >103 (→別府港2・143へ)
            >104 >105 (>106)
空技         >118 >119 >120 >121 >122
苦痛を味わう男    >200 >201 >202 >203 >204 >205 >206 >207 >208
空          >368 >369 >370 >371 >372 >373>374 >375 >376 >377 >378
エピローグ      >379 (→別府港2・392へ)


【ゴッドハンドの戦い〜九州全土にかかる腕】

終わりと始まり    >256 >257 >258 >259 >260 >261 >262 >263 >264
不穏な動き      >275 >276 >277 >278
漫画家兵器らしい   >446 >447 >448 >449 >450 >451 >452


【突き抜けろ弾丸小僧〜キャノンボール】

"魔牙神"両巨頭激突‥‥!! >83 >84 >85 >86
ダンディー&ライオン   >138
バトル・ラブ・ランゲージ >312 >313
乱闘の果てに‥‥!!   >321 >322 >323 >324 >325
サーキットの狼      >328 >329 >330
ヒステリック・B-ZONE   >477 >478
猛き流星は≪弾丸≫のように >507 >508 >509
547まとめ:04/08/18 22:29 ID:6NVYDO4+
【黒vs黒〜評議会黒軍基地】

咲き乱れる妖花  >50 >51 >52
敗北渦巻く戦場  >55
竜と妖花と蛇    >152 >153
黒軍最期の日3   >412 >413 >415 >416
長谷川・ときたvs安彦 >435 >436

平野の思惑     >456 >457 >458 >459 >460

暗号名はBF    >465

平野の思惑2    >468 >469

【知 欠ける事無き王〜別府ノックアップ作戦】

メイン・ディッシュ!>333
嘲笑        >345
 
私を異次元へ連れてって >343
足掻き        >346 >347
            >389 >390
            >470 >471 >472

多分これで全員登場 >428 >429

王城の腸      >430 >431

↑開始        >498 >499 >500 >501 >502
↓終了        >523 >524 >525 >526 >527 >528 >529
548まとめ:04/08/18 22:31 ID:6NVYDO4+
【荒木の奇妙な冒険〜『N』の因縁】

気分はGOKURAKU >198
それぞれの闘い   >218 >219 >220
素朴な疑問     >231 >232 (>233)
闇の扉の向こうに  >286
『その先』      >348 >349 >350 >351
荒木飛呂彦の旧くて新しい戦い >383 >384 >385 >386 >387 >388

ジャンケン冨樫がやって来る! >426 >427
                >473 >474 >475 >476
                >481 >482 >483
                >490 >491 >492 >493
                >495 >496 >497

    〜N星人に幕は降り〜 >530 >531 >532 >533 >534 >535 >536 >537


【エピローグ】

温泉編終了・緑の日々     >540 >541 >542


【玉吉日記帳〜地球防衛軍】

旅景色〜霊界編〜   >440 >441
いがらしの影、終息   >484 >485 >486 >487

しあわせのそねみ 〜桜玉吉鬱日記〜
    (その10 >82 その11 >494 その12 >543)
549王大人:04/08/19 00:11 ID:gkQb8hS0
       ▲まとめポップアップ▲
 
   >>544 >>545 >>546 >>547 >>548
 
       ←TO BE CONTINUED