クラナドSS専用スレッド その2

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1名無しさんだよもん
クラナドのSS専用スレッドです。
このスレでは新人作家さんを随時募集中です。
明日のSS界を背負うのは君だ!

前スレ
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1084004163/
前スレ一時保管
ttp://sphiemya.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/upload/src/up0021.zip

関連スレ
葉鍵作品全般DNMLスレッド その2 DNMLはこちら。
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1085839260/

クラナドエロSS専用スレッド エロいSSはこちら。
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1085236618/l50

葉鍵的 SS コンペスレ 13.2
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1080488308/

隔離されるべきSSスレ その他作品、話題のU-1などはこちら。
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1080227915/
2名無しさんだよもん:04/05/30 20:20 ID:8/V0tSlC
ttp://www.cug.net/~manuke/clannad-name.html
呼称の確認はここがお薦め。
3名無しさんだよもん:04/05/30 20:20 ID:e8G7N4C1
2
4名無しさんだよもん:04/05/30 20:29 ID:p2PHlOCP
出た出たついに駄スレのゲットマン スレに「2」とだけ書き込んでガッツポーズだ
5名無しさんだよもん:04/05/30 20:47 ID:hYmgaqxC
人生で二回目の5get

>>1さん、乙ですっ。
6名無しさんだよもん:04/05/30 20:52 ID:38LJxcJS
>>1
乙です。
それにしても、中途半端に残ってる前スレ、どうやって埋めよう……。
7名無しさんだよもん:04/05/30 21:22 ID:bnUINsHH
>>1


>>6
ショート・ショートみたいな小ネタとかなら出来ないこともない
漏れには無理だがナー
               _| ̄|○<ネタガウカバネー
8名無しさんだよもん:04/05/30 21:44 ID:IZVY1PkS
乙!
91/6:04/05/30 23:15 ID:cQ5wAYip
その日は楽しみにしていた土曜日で、岡崎さんと会う約束をしていた。
ところが進路指導の先生に呼び止められてしまった。先生はいつも同じことを言う。
卒業まで半年ぐらいしかないんだから就職にしても進学にしても、早く決めなさい、と。
進学……成績はそこそこで試験は受かるかもしれない。でも有利な奨学金は取れないだろう。
ただでさえ2年間の入院で家計にかなりの負担をかけているのに、
これ以上両親やおねぇちゃん、ユウスケさんに迷惑はかけられない。
うちは裕福ではない。二人は結婚3年目に入ったのにまだ子供も作れないのだ。
じゃあ就職? ……2年遅れの高卒、しかも女の子にどれだけの就職口があるのだろう。
派遣でも事務職につければいい、でも多分アルバイトがやっとだろう。
そんなことを考えながら岡崎さんとの待ち合わせ場所に向かう。
15分ほど遅れてしまった。岡崎さんはコーヒーの空き缶をゴミ箱に捨てているところだった。
「岡崎さん、お待たせしました」
「お、風子。学校、終わったのか」
歩きながら話し始める。行き先はいつも、商店街の洋食屋さんだ。
「はい。先生に捕まってしまいました。最悪です」
102/6:04/05/30 23:15 ID:cQ5wAYip
「お前、何かしたの?」
「失礼ですっ。ただの進路指導です」
「なるほど。……で、どうすんだ?」
「まだ決めてません」
「ふーん、そうか。何かやりたいこととかないのか?」
「どんなことでもしてみたら楽しいと思います。でも一つに決められません」
「そうだなぁ。お前の周りってみんな就職な。進学校なのに。俺もそうだし、春原は地元だろ。
 古河は家業のパン屋だし……、そうだ。お前古河のところで店員やったらどうだ?
 あそこのオッサン、いつも遊びたがってるし、人がいると助かるんじゃないか?」
「必要ありません。渚さんが働くようになってから、子供達と遊んでる秋生さんをよく見かけます」
「そうか、既に人手は充分か」
言った後、岡崎さんはふと考え込んで足を止める。洋食屋さんまではまだ道半ばだ。
「岡崎さんっ、早く行かないとハンバーグがなくなってしまいますっ」
と催促する。
「ん。あぁ、わり」
再び歩き出す岡崎さん。
しばらく無言で商店街に向かう。
113/6:04/05/30 23:16 ID:cQ5wAYip
「あのさ」
目的のお店が見えた頃に岡崎さんが声をかけてくる。
「はい、なんでしょうか」
「風子、お前うちに来る気ないか?」
今日は岡崎さんの家で遊ぼうと言うのだろうか。
「今日は水族館に行くはずですっ」
「そうじゃなくって進路の話。うちにこないか?」
「風子、全然意味がわかりません。岡崎さんは町工場で働いてます。お父さんは服役中だと聞いています。
 岡崎さんの家に行っても仕事はありません」
「いや、だからさ。住み込みで家事をやってみないかって。とりあえず契約金はコレで」
言って岡崎さんはベルベット張りの小箱を取り出した。手のひらに乗る大きさ。
たぶんアクセサリー入れだろう。これに入るのはせいぜいブローチか指輪のはず。
震える手で小箱を受け取り、開けてみる。銀色のヒトデをあしらった指輪だった。
岡崎さんの言葉の意味はわかったはず。それなのに混乱している。
今日は普通の週末。特別な日ではない。いつものように岡崎さんとお昼ご飯を食べて遊んで、
帰り際に家まで送ってもらう。そんな普通に楽しい週末のはず。混乱が酷い。頭が真っ白。思わず出た言葉。
「現物支給ですかっ。はい、あのこれはヒトデですっ。本物の純銀ですかっ」
124/6:04/05/30 23:17 ID:cQ5wAYip
自分でも何を言ってるのか、口に出して2秒後にはおかしなことを言ったのに気付く。
また岡崎さんにからかわれる。子供扱いされる。発言を取り消したくなる。
でも岡崎さんは一瞬あっけに取られたような顔をしたあと、ニコリと笑って
「ん、ああ。見てのとおりヒトデだ。この微妙な曲線とか生き物っぽいだろ?
 それに一応純銀だ。一緒に磨き布と酸化還元剤がついてるだろ。銀はほっとくと黒くなるからそれで磨くんだ。
 で、まあ現物支給ってことだけど、それは契約金だからさ。あんま高いもんじゃないけど」
一つ一つ答えてくれた。どんな表情をしていたんだろう? 返事をしないからなのか、
岡崎さんがちょっと焦ったように続ける。
「あ、確かに労働条件は良くないけどな。まあそこそこの衣食住と、あとちょっと貯金ができるぐらいだな。
 小遣いなんてほとんど無理だと思う。だけど、その分頑張るから。な、風子」
やっと完全に理解できた。20年ずっと日本にいるのに、日本語を理解するのにここまで熟考したのは初めてだ。
理解できたのに言葉に詰まる。突然すぎて、まだ考えることができない。頭の霧はまだ晴れない。
ようやく搾り出した言葉。
「試着してみてもいイデスかっ」
声が裏返ってしまった。恥ずかしい。
「ああ、もちろん」
恐る恐る、まるでお箸で豆腐を摘むように指輪を取り出し、指にはめる。
昔からそこにあったかのようにぴったりと合う。
135/6:04/05/30 23:17 ID:cQ5wAYip
「ぴったりです」
「号数はわかってたからな。で、良かったらそのままつけていて欲しいんだが」
気付いたら指輪は左薬指に納まっていた。可愛い銀色のヒトデが誇らしく輝いている。
それをずっと見ていたいのに視界が滲む。熱いものが頬を伝う。
どうしようもなくなって岡崎さんの胸に顔を埋めるしかなかった。
岡崎さんは優しく抱きしめてくれた。
「風子の涙って初めて見た気がするな」
「悲しいときは……我慢します。嬉しくて涙を流したのは初めてです。……でも、この涙は我慢したくありませんから」
「風子……」
「岡崎さん」
「ああ、なんだ?」
「さっきの言葉は回りくどいですから、もっと直接的に言ってください。そうしたら、風子は岡崎さんが望むように答えます」
「直接的に、か。付き合うときもそうだったけど、お前そういうの好きな」
「はい。そういうの好きです」
「よし。風子、結婚しよう。これからずっと、一生一緒にいて欲しい」
「……はい。よろしくおねがいします。それで、今度から朋也さんと呼ばせていただきます」
「風子っ」
岡崎さんの抱きしめる力がとても強くなった。涙は止まったけど、頭をずっと朋也さんの胸に預けていたかった。

やがて気が付いた時にはランチタイムはとっくに終わっていて、ハンバーグは食べ損なってしまった。
146/6:04/05/30 23:18 ID:cQ5wAYip
月曜日。廊下で進路指導の先生を見つけて声をかけた。
「おはようございます」
「ああ、伊吹さん、おはよう」
「風子、進路を決めました」
「決まりましたか。それで、どうするのですか」
「これです」
言って左手の甲を見せる。
「な、なるほど……。確か、伊吹さんがお付き合いしているのは岡崎君でしたね」
「はい。朋也さんです」
「ふぅん、伊吹さんと岡崎君が、ねぇ。ちょっと驚いたが……まずはおめでとう」
「ありがとうございます」
「ただ、伊吹さん」
「はい、なんでしょうか」
「校則違反だから明日からはつけてこないでください」
「はい、今日だけにします。無くしたくないですから」
15名無しさんだよもん:04/05/30 23:25 ID:hoQAHUEN
うああー! 風子可愛いー!!
朋也もトンチが利いててかっこいいー。
16名無しさんだよもん:04/05/30 23:27 ID:hYmgaqxC
ヤバイ、本編では大して風子好きじゃなかったのに・・・
風子たんハァハァ(;;´д`)

cQ5wAYip氏グッジョブです。
17名無しさんだよもん:04/05/30 23:31 ID:dIOOC4YH
風子可愛い・・・
やっべ、まじやべぇ。
18名無しさんだよもん:04/05/30 23:38 ID:YQjpIQbC
うあ…風子すっげぇ可愛いわ…
ごちそうさまでした
19名無しさんだよもん:04/05/30 23:44 ID:wXZYTaYU
風子に萌え。
そう言えば風子もののSSってあんまり無いな。

ゴッドジョブ
20名無しさんだよもん:04/05/31 00:35 ID:Q6WdoTes
しっかしここの物書きさんはSSもDNMLも神揃いだな……
21名無しさんだよもん:04/05/31 00:35 ID:V4PtRM7/
>>9
すげーよかったよ!
GJ!!
22名無しさんだよもん:04/05/31 01:24 ID:XUkZyzSA
gj
こんな可愛い風子、俺初めてだよ……
23名無しさんだよもん:04/05/31 02:00 ID:N6eIuHMC
妙に真面目な風子だなあ、と思ったら、地の文のせいか。
作者の方はSSより小説の方をよく書いてると見た。
それはともかくGJ!
24名無しさんだよもん:04/05/31 02:29 ID:maIX/6Zt
GJ!!やっべ萌えた。でも岡崎がロリコンに思われないかちょっと心配
25名無しさんだよもん:04/05/31 03:03 ID:JEVvEFN5
あひゃ
26名無しさんだよもん:04/05/31 03:16 ID:Zl6aDIP1
>>9
やばい…燃え尽きた⊂⌒~⊃。Д。)⊃
27名無しさんだよもん:04/05/31 03:17 ID:Zl6aDIP1
燃え>萌えだorz
28名無しさんだよもん:04/05/31 04:40 ID:qQWi+b1H
>>1のコンペスレにも蔵SSが何本か来てるけど、感想があまりつかない。
良かったら見に行ってやってくれ。

向こうを見て思ったけど、意外とまだ未プレイの人も多いんだなあ。
29名無しさんだよもん:04/05/31 05:28 ID:bMU/wReC
>>28
今見に行ったが・・・何気に良作多いな。
30名無しさんだよもん:04/05/31 08:05 ID:k+eGbwMg
>>9-14
いい!風子最高!岡崎が妙にキザで最高!
31名無しさんだよもん:04/05/31 08:17 ID:3EbZN/fO
ねむい・・・
329-14:04/05/31 21:37 ID:VapvIBy7
皆さん有難う。
思いのほか好評で嬉しい限りです。

>>23
風子が真面目っぽくなったのは、
2年後設定で岡崎に対してはかなり素直ってことにしたのと、
あとは俺の描写力なんだろう、と。
なお小説は、というよりSSも殆ど書かないほうです。

33名無しさんだよもん:04/05/31 22:42 ID:BnhIKNMZ
>>32
9-14さん、SSを勝手で申し訳ありませんが、DNML化してみました。

DNML化するにあたって、やや改行などを変えてあります。
文章はいじってありません。

よろしければ下記スレをご参照ください。

葉鍵作品全般DNMLスレッド その2
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1085839260/180
34夢への掛け橋(1/13) ◆28s26Q7ss2 :04/05/31 22:59 ID:CMfiEVsP
それは俺たちがまだ小さい頃の約束だった。

「ことみちゃんの将来の夢はなに?」
「んー、朋也くんと『けっこん』したいな」
「『けっこん』?」
まだ幼い俺にはその言葉の意味がわからなかった。
「なにそれ?」
「私もよくはわからないけど、大好きな人とすることだ、ってお母さんがいってた」
それを聞いた俺は真っ先にこう答えたんだ。
「それじゃぁ、俺とことみちゃんは『けっこん』しなきゃ!」
『結婚』の意味も知らないでよく言ったものだといまさらながら呆れてしまう。
「けど、いまはできないみたいなの」
「どうして?」
「おとなにならなきゃできない、ってお母さんがいってた」
それを聞いた俺は即座に言ったんだ。
「わかった!んじゃ、俺とことみちゃんがおとなになったら『けっこん』しよう!」
「うん、しよ。だからゆびきり」
「えっ?」
「ゆびきりしよ。いまから約束」
「わかった、ゆーびきーりげーんまーん………」
「うーそつーいたらはーりせんぼん………」

―――子供の頃の誓いは永遠なのだろうか。

陽の光で目が覚めた。
随分と昔の夢を見た。
ことみと俺がまだ子供だった頃、ままごとをしてたときの会話だ。
今まで思い出すことなんてなかったのになんで今更…
35夢への掛け橋(2/13) ◆28s26Q7ss2 :04/05/31 22:59 ID:CMfiEVsP
俺とことみが高校を卒業して3年が経った。
俺は電気工になり、ことみは地元の大学に進学した。
ことみの大学での活躍は凄かった。
俺は学問はさっぱりなのでよくはわからないが、
ことみの論文は学会をひっくり返すほどのものだったらしい。
おかげでことみは一躍時の人となった。
それに反し、俺はなんだかことみが遠いところに行ってしまったように感じていた。
ことみが評価されるのは嬉しいことだ。
しかし、ことみの研究が進むごとに、俺と会える時間は少なくなっていった。
もちろん、今でも俺とことみは付き合っている。
だが、会える時間は限られていた。
それでも週に最低一度は会うことは俺たちの暗黙の了解となっていた。
36夢への掛け橋(3/13) ◆28s26Q7ss2 :04/05/31 23:00 ID:CMfiEVsP
今日は土曜日。
いつものように俺はことみの家にいた。
土曜の夜に二人で夕食を食って、俺がことみの家に泊まるのは習慣みたいなものだ。
その席でことみがいつになく真剣な顔をしていた。
「どうしたんだよ、ことみ」
せっかく俺の為に作ってくれた料理も、ことみが暗くしていては味気なかった。
「朋也くん、お話があるの」
「なんだよ、改まって。遠慮しないで話せよ」
「うん…あのね、私が研究してることは朋也くんも知ってるよね?」
「ああ、親御さんが研究してたことを受け継いでるんだろ?」
―――統一理論。
この世界とは全く別次元の『世界』があることをことみの両親は発見したらしい。
その辺のことは俺はよくはわからないのだが。
「うん、もうちょっとでね、この研究の目処がつきそうなの」
「ほんとかよっ!?」
この研究の目処がつけば俺とことみが一緒にいれる時間はぐっと増えるだろう。
それに、ことみも自分の夢にぐっと近づける。
「でもね、あと一歩ってところなんだけど、その一歩がなかなか進まないの」
「いいじゃねぇか、のんびりやれば。急ぐことも無いって」
37夢への掛け橋(4/13) ◆28s26Q7ss2 :04/05/31 23:01 ID:CMfiEVsP
「ううん、急ぐっていうか、もうこれ以上は限界なの」
「えっ…?」
「だからね、アメリカの大学に留学して、研究を完成させ……」
「なんだよそれ!」
ことみが言い終わる前に叫んでいた。
「今までは留学の話は断ってたじゃねぇか!」
なんで今になって…
ことみは泣きそうな顔をしていた。
それでも勇気を振り絞って俺に食いついてきた。
普段ではあり得ないことだった。
「今ままでは大学の研究室の機材で十分事足りていたの。
 だけど、もうそれじゃあどうにもならないことができてしまったの…
 朋也くん、私…」
「もういい、勝手にしやがれ!」
ことみが言い終わる前に遮った。
「アメリカでもどこへでも行っちまえ!」
俺はことみの家を飛び出した。
38夢への掛け橋(5/13) ◆28s26Q7ss2 :04/05/31 23:01 ID:CMfiEVsP
くそっ…くそっ…くそっ…!
何が研究だ。
俺はことみと居たいだけなのに。
アメリカだって…馬鹿な。
そんなのどうやったって会えないじゃないか!
「はぁっ…はぁっ…」
気付けば古河の家の前の公園まで来ていた。
疲れ切った体が貪欲に酸素を欲している。
俺はブランコに腰をおろし、肩で息をした。
呼吸が落ち着くと、思考も冷静なものになってきた。
ことみは両親が成し得なかった研究を最後まで遂げたがっていた。
それは高校時代からわかっていたはずだ。
それに、こんな日が来ることがなんとなくだが、わかっていた。
ことみはこんな片田舎で終わるようなタマじゃない。
ことみの夢を俺は応援するはずだったんだ。
それなのに…
自分がことみなしでは生きていけない、ということにこういう状況になって気付く。
俺、こんなに弱くなってたんだな…
自分のエゴでことみの夢を潰そうとしている自分に、自己嫌悪で潰れそうになる。
ことみ、俺はどうするべきなんだ…
悩みながら俺は家路についた。
39夢への掛け橋(6/13) ◆28s26Q7ss2 :04/05/31 23:02 ID:CMfiEVsP
今日は日曜日でだ。
昨日あんなことがあったからか、昼近くまで寝ていた。
いつもならことみと一緒にデートにでも出かけているのだが。
ピンポーン
呼び鈴が鳴った。
まさか、ことみ?
俺は逸る気持ちを抑えつつ、玄関に急いだ。
「ことみかっ!?」
一気にドアを開けた。
「残念ね、ことみじゃなくて」
そこにいたのは杏だった。
「なんだ、杏かよ…」
全く、人騒がせな。
「いいからちょっと付き合いなさい」
俺は杏に腕を掴まれた。
「い、いて!うわ、ちょっと、まだ靴履いてねぇっつーの!
 ぎゃ、引き摺るな!」
俺は無理やり杏に連行された。
40夢への掛け橋(7/13) ◆28s26Q7ss2 :04/05/31 23:03 ID:CMfiEVsP
連れて来られたのは駅前のオープンカフェだった。
「随分洒落た留置所だな」
「いいから座りなさい、あ、コーヒー2つ」
「勝手に注文するなよ」
「朋也、ふざけてる場合じゃないわ」
真剣な顔の杏に気圧される。
「な、なんだよ」
「昨日ことみから電話があったわ」
ドキッとする。
「あの子、泣いてたわよ」
「…なんて言ってた」
「大体の事情は聞いたわ。
 アメリカ行き、1週間後だって」
「なんだって!?」
思わず大きな声が出てしまう。
41夢への掛け橋(8/13) ◆28s26Q7ss2 :04/05/31 23:04 ID:CMfiEVsP
「ちょっと、落ち着きなさい」
「あ、わりぃ…で、それは決定なのか」
「恐らくね。これがアメリカに行く最後のチャンスらしいから」
何てことだ、最後のアメリカへ渡るチャンスを俺は…
「朋也、あんたはっきりしないとだめよ。
 このままことみを行かせるのか、それとも…」
「杏」
言い終わる前に俺が先に行った。
「なに」
「悪い、することができた。ここ、払っといてくれないか」
杏は溜め息をふぅ、としてこちらを見上げて言った。
「ことみを泣かしたらあたしが許さないんだからね」
「さんきゅ」
俺は走り出した。
まずは金だ。
金を下ろさねば。
これは俺のエゴかもしれない。
けど俺はこうしなくちゃ…
俺は急いで金をおろし、ある店へ向かった。
42夢への掛け橋(9/13) ◆28s26Q7ss2 :04/05/31 23:04 ID:CMfiEVsP
それから4日が過ぎた。
例のものは既にポケットの中にある。
店の人には迷惑かけたなぁ…
俺はことみの家の前にいる。
仕事は早引きをしている。
ことみはまだ帰っていないようだ。
庭の手入れをしながら待つ。
しばらくして、玄関の方から音がした。
「朋也……くん?」
精一杯の笑顔で応えた。
「おかえり、ことみ」
「朋也くん!」
ことみは俺に抱きついて、泣き始めた。
「ごめんなさいっ…!私、朋也くんに相談もしないで…」
俺は優しくことみの頭を撫でる。
シャンプーの香りがくすぐったい。
「私、朋也くんに嫌われちゃったのかと思ったっ…」
「俺がことみを嫌いにならわけないだろ?」
安心したようにもたれかかる。
「私ね、考えたの。すごく考えた。
 それでね、私、アメリカに行くのや…」
「いいんだ」
43夢への掛け橋(10/13) ◆28s26Q7ss2 :04/05/31 23:05 ID:CMfiEVsP
「えっ?」
驚いてるな。
大方、俺がアメリカ行きを反対してるものだと思ってたんだろう。
まぁ、あの時の状況からすると、それしか考えられないけどな。
「アメリカ、いけよ。親御さんの研究継ぎたいんだろ?」
「でも、朋也くん、もう知らないって…」
「あん時は突然だったから俺も頭に血が昇ってたんだ。
 俺が悪かったよ、ごめんな」
小さい子をあやすような優しい声で諭す。
「俺もさ、無い頭で考えたよ。それこそことみと同じくらい。
 うーんと、うーんと、考えた。
 で、出た結論、というか譲歩案はこれだな」
俺はポケットから小さな箱を取り出す。
「それ、やるよ」
「これって……開けていい?」
「どうぞ」
ことみが震える手で箱を開ける。
そこには小さな指輪。
それと同時に俺は言う。

「俺と…結婚してください」
44夢への掛け橋(11/13) ◆28s26Q7ss2 :04/05/31 23:06 ID:CMfiEVsP
ことみは泣いていた。
「私で…いいの?」
「ああ」
「泣き虫…だよ?」
「ああ」
「アメリカ…行っちゃうんだよ?」
「ああ、いいさ」
「ひっくっ………朋也くんとなら、喜んで」
俺はいっそう強く抱きしめる。
「朋也くん、痛いの」
「我慢、我慢」
「いじわるっ…」
しばらくそうしていた。
「これ、つけてみてもいい?」
「どうぞ」
ゆっくりとことみが指輪をはめる。
「すごい、ぴったり。どうしてサイズがわかったの?」
「愛の力ってやつ?」
本当は前々からこっそり測っておいたんだけどね。
「ふふっ…」
それ以上ことみはなにも言わなかった。
45夢への掛け橋(12/13) ◆28s26Q7ss2 :04/05/31 23:07 ID:CMfiEVsP
「朋也くん」
不意にことみが話し掛けた。
「子供の頃の約束、覚えてる?」
「約束って?」
「私と朋也くんがままごとで結婚をする、って約束をしたの。
 朋也くんはお遊びで言ったのかもしれないけど、私すごく嬉しかった。
 いまでも覚えてる。
 朋也くん、覚えてない?」
ドキッとした。
数日前に見たあの夢は予知夢、というやつだろうか。
不思議なこともあるもんだ。
けど、そんなこと言ってもしょうがないので、
「忘れたよ」
そう言った。
「もう…でもちゃんと責任取ってくれたから、許してあげるの」
「まじ?ことみちゃんは優しいな」
そう言って、笑いあう。
あの夢は、俺がするべきことを示してくれたんではないか。
そんな気がした。
46夢への掛け橋(13/13) ◆28s26Q7ss2 :04/05/31 23:08 ID:CMfiEVsP
何日か経った。
俺と杏は空港の見送り展望台にいた。
ことみを乗せた飛行機はたった今、飛び立った。
「ことみ、いっちゃったわね」
「ああ」
「いいの?あんたが引き留めることだってできたはずでしょ?」
「いいんだ」
ことみはこれから親御さんの夢を継ぐ。
ことみはそれを望んだ。
夢に向かって進んでいる者に、止めることなどできようか。
「あんたにしちゃ、やけにあっさりしてるわね」
「悪かったな」
「悪かぁないわよ。自分の欲でことみを縛り付けなかったあんたはすごいな、って思っただけ」
「ことみは1年で研究の目処をつけてくる、って言ってた。
 そのあとは研究はスッパリやめて、正式に結婚式をする、ッて約束したんだ」
そう、俺とことみは婚姻届だけ提出して、正式な結婚式は1年先、ということにしたのだ。
「しっかし、あんたとことみの子供なんて想像つかないわねぇ」
「男だったらすげぇ格好いい奴になって、女だったらめちゃくちゃかわいい子になるぞ」
「あたしは男だったら鈍感極まりなくて、女だったら泣き虫になると思うけど」
「はは、違いない」
顔を見合わせて笑いあう。
見上げれば青空。
まるでことみの旅路を祝福しているような飛行機雲が一本、浮かんでいた。
47あとがき ◆28s26Q7ss2 :04/05/31 23:08 ID:CMfiEVsP
以上です。
ことみは初めて書くので、勝手に困りましたが、いががでしたでしょうか。
ありふれた、ことみエンド後のお話です。
夢と愛を天秤にかける、っていうのは難しいものですね。
感想お待ちしてます。
48名無しさんだよもん:04/05/31 23:15 ID:yOFbaFlX
俺が見たことのある、あんたが書いた作品の中では最低。
内容も結末も地の文も台詞も単調で平板。
49名無しさんだよもん:04/05/31 23:19 ID:66xrULGt
言うべきではないが、一応言っとこう

椎名ゆうひ?
50名無しさんだよもん:04/05/31 23:39 ID:9bpS2J5R
>>47
乙。
俺はこういうベタベタなの好きだけどな。

ところで椎名ゆうひってなに?
51名無しさんだよもん:04/05/31 23:46 ID:v8TmtquR
とらハ2にそんな名前の関西人がいたような
52名無しさんだよもん:04/06/01 00:08 ID:1JXUYflx
>>◆28s26Q7ss2
GJ!!
いい話だったぜー。
叩きにはあまり反応せずに。
ヽ(´ー`)ノまたーりいきまっしょい。
53名無しさんだよもん:04/06/01 00:20 ID:1JXUYflx
あ、998とるつもりが1000とった。
54名無しさんだよもん:04/06/01 00:22 ID:GJV1GlF1
颯爽と1000Getしてやるつもりだったのに……。
55名無しさんだよもん:04/06/01 01:59 ID:MhcmgiKF
前スレのラストでなんかワラタ
56名無しさんだよもん:04/06/01 04:28 ID:G8Qgd1B1
>>48
 ちょっと展開が強引過ぎる感じ…
579-14:04/06/01 07:49 ID:SxwdEjfH
>>◆28s26Q7ss2
そういうマターリしたのいいね。

>>33
有難う、光栄です。DNMLはまだ手をつけてないんでやってみます。
ただ一箇所、原文の間違いに気付いたんで直していただけると嬉しいかも。
5/6(レス13)のラス2行に「岡崎さん」てのがあるけど「朋也さん」で。
58名無しさんだよもん:04/06/01 08:04 ID:b0jlZb1j
おお、◆28s26Q7ss2氏の新作が。
いままでの路線とは毛色が違う感じだな。
ほのシリ(・∀・)イイ!!
次回作も期待してますよー
59名無しさんだよもん:04/06/01 08:06 ID:Dbm5mRrt
>>47
マターリ(・∀・)イイ!!
ただ、やや駆け足的な展開は否めないかもしれません。

>>57
勝手にDNMLにしてスミマセンでした。
スレ違いですが、修正版を下記スレに出しましたのでどうぞ。
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1085839260/206
60名無しさんだよもん:04/06/01 10:39 ID:MQuWtvxT
>>47
まぁ、俺もそんなにいいとは思わなかったとだけは言っておこう。
文章自体は高いレベルではあるんだけど、話としては平坦というか意外性がまったく無いのが原因じゃないかな。
つまりあまりにも「ベタ」過ぎたってこと。
次回作に期待してます。
61名無しさんだよもん:04/06/01 11:56 ID:C2Fo66o8
ついさっき智代シナリオ再プレイしたばかりなせいか、最初の方の朋也に違和感…。
62名無しさんだよもん:04/06/01 13:18 ID:O0mi4bUm
>>47
うーん。冒頭で展開した幼少期のエピソードをいかせないまま、やけにテキパキ
話が進んでどたばたしたまま終了、という印象がぬぐえない。
夢と愛の天秤というが、その葛藤の描写が弱い。正直、もっと圧倒的にヘビーに
書くべきだったのではないかと。それもあって、朋也もことみも掌を返すような
言動に感じてしまう面もある。
ちょっと完成を急ぎ過ぎたんじゃないかな、という印象。
63名無しさんだよもん:04/06/01 22:01 ID:Avu3nznC
春原がマジレスすると・・・って言ったところで
シナリオ書いてる人も2chやってるのか・・・と思った
64名無しさんだよもん:04/06/01 22:37 ID:f0Wg/V9c
>>63
春原の部屋はサイバーじゃないからPCなんて無いはずだ。



とか言ってみる
65名無しさんだよもん:04/06/01 23:14 ID:m07fqTkh
電卓置けよ
66名無しさんだよもん:04/06/02 00:10 ID:l8hyOdPd
>>65
そいつはサイバーだな。
67真昼の決闘 1/8:04/06/02 01:57 ID:KE8KcTwE
日曜日、いつものように汐を負ぶって渚と共に古河パンに向かうと、なぜかシャッターが下りていた。
「どうしたんでしょう。留守でしょうか」
渚が心配そうに言う。
「何かあったら真っ先に俺達に連絡が来るだろ。デートか何かだと思うぞ」
俺はこともなげに答える。オッサン達だって渚が自分の手から離れて、二人の時間を過ごしたいという
ことは大いにありうる。俺達が鍵を持ってるのも知ってるわけだし。
「そうですね、あがってみましょう」
渚もそういって勝手口のドアに手をかける。
「開いています」
ドアはすっと開いた。
「無用心だな。それともオッサンたち、いるのか」
「お父さーん、お母さーん」
すぐに声が答える。
「おう、来たか」
「なんだよオッサン、シャッターなんか下ろして」
「今日は個人的な客が来るんでな。昼までで店仕舞いにした」
なるほど、そういうことか。
「お客、ですか? ではわたし達は帰った方が」
「いや、お前達もいろ」
オッサンに言われて俺達も家に上がる。客が来るのに俺達もいろ? いったいどういうことなんだろう。
68真昼の決闘 2/8:04/06/02 01:57 ID:KE8KcTwE
俺達が居間に上がり、早苗さんがお茶を持ってくるとオッサンが話し始めた。
「今日来る奴は、チャレンジャーだ」
「挑戦者、ですか?」
「ああ」
渚の問いにオッサンが不敵に歯を光らせ、答える。かなり楽しそうだ。
「ゾリオンの全国大会優勝者とかか?」
「カーッ、てめえの想像力はそんなもんか。世の中にはもっと広い世界が開けてんだぜ?
 たまには井戸から這い出て見てみやがれってんだ」
「えらい言われ様だな」
「ふん。まあ待ってろ。もうすぐ来るはずだ」
おっさんが言うと同時に表からも声が聞こえる
「古河のおっさん、来たぞ」
若い男の声のようだった。
全員でぞろぞろと表に出てみるとそこには長身でスマートな男が一人立っていた。
かなりの美形ではあるが、オッサン並に目つきが悪い。年は俺と同じかちょっと上。
しかし黒シャツにジーンズという服装はあまりにセンスがない。
「あれから5年、か。懲りずに来やがったな」
「まあな。あまり来るつもりはなかったが、思うところがあったんでな、来てやった」
「ふん……」
「………」
突き刺さるような雰囲気があたりに漂う。
「ちゃんと前もってお電話いただきましたから、おもてなしの準備もできてますよっ」
早苗さんが一瞬でそれを吹き飛ばす。
5年前、いったいこの二人に何があったのだろう?
69真昼の決闘 3/8:04/06/02 01:58 ID:KE8KcTwE
居間で茶をすすりながらオッサンが話し始める。
「5年前、こいつ、国崎往人は店の前で大道芸をやっていやがったのさ」

『だめだな』
『何がだよおっさん。こっちはこれで食いつないできたプロなんだ。黙ってろよ。
 もっとも商売の邪魔だと言うなら謝るし、ここでやるのはやめてやる』
『そうじゃねぇ。てめぇにプロを自称する資格なんかねえって言ってんだ』
『確かに客は来てないが……。何が悪いってんだ』
『てめぇ、そのチンケな芸で客をどうしたいんだ?』
『俺は客を笑わせたいだけだ』
『無理だな。てめぇは不思議な技を持ってるようだが……それで手一杯みてえだな。
 人形を動かすだけで限界なら、そんな技なんか捨てちまえよ』
『法術は人形を動かす手段だ。別にどんな方法だっていいだろ』
『お前が客だったら今の芸に注目するのか? 見て笑うのかよ?』
『それは……』
『ふん、まあこの時勢に芸で食っていこうってのが気に入った。昔取った杵柄で見せてやるよ。本物の芸をな』
70真昼の決闘 4/8:04/06/02 01:58 ID:KE8KcTwE
「ということがあったわけだ」
「確かに俺はこのおっさんの一人劇に打ちのめされた。だがあの時の俺とは違う」
「そんなことがあったんですか。わたし、全然知りませんでした」
二人の過去に渚が驚く。そう言えば渚は数年前までオッサンの過去を知らなかったのだ。

「で、国崎。俺が先にやるからな」
「え、でも普通挑戦者先行じゃないのか?」
オッサンに俺が質問する。
「俺は現役じゃねえ。俺を基準にしてこいつが上をいくか、下をいくかが問題だろうが」
なるほど、そんな気もする。
「舞台はこの居間、客兼判定は家族にやらせる。安心しろ、贔屓したり嘘をつけるやつらじゃない」
「ああ、それで構わない」
オッサンの提案に国崎が受けて立つ。
「そういえばお父さんの劇を見るのは初めてです」
「当然、俺もそうだ」
「ドキドキします……」
71真昼の決闘 5/8:04/06/02 01:59 ID:KE8KcTwE
「さて、と」
オッサンがすっと立ち上がる。
刹那、オッサンの気配が変わる。あたりの雰囲気が力を持って俺達を飲み込んだ。
これはオッサンが張った結界とでも言うのだろうか。ここは現世ではないのか、そんな錯覚に捕われる。
オッサンが演じたのは、非常に情けない男だった。この世の全ての人間の弱みを併せ持ったような、
どうしようもない男だった。だけど彼には家族がいた。家族は常に男を支えた。男は少しずつ変わっていった。
自分からこぶしや頭で勝負することはできなくても、全てを愛していけるようになった。
やがて男は多くの人を愛し、愛されるようになり、世界中の人を結び付けていく。世界の人が彼と家族になっていく……。
俺はいつかの光景を思い出していた。汐の生まれた日。渚を捕まえ続けた日。町が俺達を支えてくれたと感じた日。
その日の光景だ。オッサンも同じことを感じていたのか? その光景を俺と同じように見ていたのか?
でもそれは違った。オッサンの演じた男は、この世の全ての人間の弱みを持っていた。だから共感できるのだ。
自分と同じ弱みを共有できる主人公、だからこんなにも入り込んでしまうのだ。
だからその男に対する祝福がこんなにも嬉しいのだ。こんなにも涙が止まらない……。

ふいに空気が元に戻る。なんの未練も見せず、あたりは現実を取り戻した。俺は何も言葉が出なかった。
オッサンがやったのは一人劇なのに、何百、何千もの人間を感じ取ることができた。これがオッサンの本気なのか。
「ずごいでず……」
渚は涙声でボロボロだった。
「……さすがだな」
国崎も言葉少なだった。
「今でも現役で通用しますねっ」
早苗さんだけがいつも通り。この人はオッサンの殆どを知り尽くしているのだ。
だからオッサンの世界に飲まれず、むしろオッサンを包み込むことさえできる。そんなただ一人の人なのだろう。
72真昼の決闘 6/8:04/06/02 01:59 ID:KE8KcTwE
「次は俺だな」
国崎が人形を準備する。
「あれのあとじゃ、分が悪そうだな」
俺は素直な感想を述べる。
「見てから言え」
言って国崎は人形を動かし始める。
それはコミカルなホームコメディだった。ホームと言っても家族は二人だけ。少女ともう一人。
たった二人の面白おかしいやり取りの間に、二人がいかに信頼し合っているか、助け合っているか、
そんなことを感じ取れた。俺達観客は完全に部外者だった。この二人の間には入り込めない。
二人に苦難が待ち受けるとき、心の中で必死に応援する。でもその声は届かない。俺達は部外者だから。
二人は困難を乗り越える。そしてまた俺達を笑わせてくれる。山も谷もあるが、基本的に他愛のない毎日。
それなのに俺達はついつい二人を応援してしまう。そして笑ってしまう。
やがて人形劇は終わり、静かに、余韻を残して空気が戻っていく。いつの間にか俺達は飲み込まれていた。
オッサンの時のように力は感じなかった。しかしいつの間にか包まれていたのだ。
そして全てが終わったとき、感想は一つだけ間違っていたことに気付く。部外者であったはずの俺達の声は届いていたのだ。
もし少女達二人だけだったら、困難を乗り越えることはできなかったはず、それを今になって感じた。
オッサンの一人劇のように言葉をなくすことはなかった。だけど拍手が止まらなかった。
俺も渚も早苗さんも、そしてオッサンも拍手をしているのだった。
73真昼の決闘 7/8:04/06/02 02:00 ID:KE8KcTwE
「なるほどな」
国崎の人形劇が終わってオッサンが口を開く。
「てめえの劇の登場人物は3人だったわけだ」
え?
「舞台の二人、それとわたし……観客本人ですね」
渚が答える。
「そして、観客の正体、つまり二人を見守ってたのはお前だ、国崎」
そうか、そういうことなのか。
「いい経験をしたようだな。以前のお前に足りなかったもんだ」
「ああ。笑い方を知らない人間が人を笑わせようとしてたんだからな、それこそいいお笑い種だ」
自嘲気味に言う。
「素晴らしかったですよ、国崎さん」
「カーッ、俺は早苗を取り込めなかったんだぞ? これでてめえの勝ちじゃねえか」
オッサンが意外にも嬉しそうに言う。
「勝ち負けはどうでもいい。あんたに今の芸を見せられて満足したからな」
「ふん、欲がねぇな」
「さて、邪魔したな」
「あ、良かったら泊まっていって明日お帰りになったら」
「ありがたいが、帰るところがあるからな」
「そいつは結構だ」
74真昼の決闘 8/8:04/06/02 02:01 ID:KE8KcTwE
外に出ると日が落ちかけていた。
「世話になった。じゃあまたな」
「待て、頼みがある」
立ち去ろうとする国崎にオッサンが声をかける。
「なんだ?」
「お前、まだ現役だな?」
「……ああ、一応な」
「それなら、もっと多くの奴にお前の芸を見せてやってくれ。俺にはパンを作るぐらいしかできねぇからな」
「わかった」
「だがな」
「?」
「もし、守るべき者がいたら、そっちを優先しろ。何物にも代えられないってもんはある」
「ああ、そうする」
オッサンはやりたいのにできなかったことをこの男に委ねているのか、とちょっと嫉妬した。
もっともこればかりは委ねられてもどうすることもできないが。
「俺の連絡先は知ってるな。良かったら来てくれ」
そう言って国崎は帰っていた。
俺達はその影が曲がり角に消えるまで見送っていた。


                           〜 了 〜
75名無しさんだよもん:04/06/02 02:22 ID:qatPavdm
まさか往人が出てくるとは・・・
衝撃の展開ですね
まぁあの2人が知り合いでもおかしくないような気もしますね

秋生と往人のそれぞれの劇のとこのシーンが
ちょっと読んでて疲れるかな〜って思いました

まぁともかく、楽しく読ませていただきました
別に俺はクロスオーバー嫌いじゃないし、なかなか楽しかったぞ。
ここんとこへタレたSSしか投下されてなかったから余計にな。
ただまあ、オチが弱いかなと。最後に観鈴のもとに帰るシーン入れたらビシっとしまった
かもな。
77名無しさんだよもん:04/06/02 12:01 ID:dyFAc9A6
>>75
俺は逆に劇のシーンが最高だったな。
こういう泣ける粗筋を書ける人はすごいと思う。
78名無しさんだよもん:04/06/02 16:49 ID:9o1eW7Pj
>>76
あんたのSSの続きよみたいんだけど。
壊れかけのレディオまだぁ?
途中まで書いて投げるのはいかんよ。
79名無しさんだよもん:04/06/02 19:29 ID:qatPavdm
>>78
それが人にものを頼む態度か?
何か勘違いしてないか?
80名無しさんだよもん:04/06/02 19:42 ID:YuJe7n7c
>>79
嫌味にマジレスするのもどうかと思うぞ。
81名無しさんだよもん:04/06/02 19:44 ID:+RtAygg5
>>80
アホな子はほっといてやれ
82名無しさんだよもん:04/06/02 20:14 ID:YuJe7n7c
>>81
正直すまんかった。
ただ、こういう奴が他人の作品を読んで「描写が足りない」
とか言ってたら笑えるよな。
83コテとトリップ:04/06/02 20:15 ID:wrxVLw43
だめだ我慢できねえ、いわせろ

>>34-46

こんなに胸糞悪くなる話読んだのは久しぶりだ。ありがとうよ、ぺっ!
84名無しさんだよもん:04/06/02 20:34 ID:g1fFy3dq
良いとか悪いだけだったら3歳児でも言える
85名無しさんだよもん:04/06/02 20:37 ID:7KD2sVa/
3歳児に酷なこと言うなよ
86コテとトリップ:04/06/02 20:41 ID:wrxVLw43
良いとか悪いだけでやめておかないと、いつもの流れになっちゃうから
これでいいんだ
87名無しさんだよもん:04/06/02 20:46 ID:UUyjQ6VI
>>86
意見出して叩かれるのが怖いだけなんだろ?
おまえのレスってほとんどが抽象的なものばかりだし

まあそのカキコも適当に責任転嫁して逃げてるだけなんだろうけどなw
88名無しさんだよもん:04/06/02 20:51 ID:FsmhWeCY
>>87
そんなのみんなわかって無視してんだから相手すんなって。
89コテとトリップ:04/06/02 20:53 ID:wrxVLw43
変に荒れるくらいならそれでいいよ

おれは適当に責任転嫁して逃げているクソヤロウです
よいこのみんなはNGワードに登録して釣られたりしないようにしてください。お願いしますごめんなさい
90名無しさんだよもん:04/06/02 20:56 ID:bPM/xCi5
>>89
最近なんか必死だな。見てて痛々しいぞ。

足に腫瘍でも見つかったか?w
91名無しさんだよもん:04/06/02 21:03 ID:I7Sjh3DY
>>89
お前が出てくるだけで荒れるんだから出てくるな
現に荒れただろ?もう出てくるなよ
92コテとトリップ:04/06/02 21:06 ID:wrxVLw43
ああ、すまんな
本気で胸糞悪かったからよ、我慢できなかった
今度からはなるべく気をつけるよ
93コテとトリップ:04/06/02 21:09 ID:qoWnB+dq
>>92
ガキじゃねぇんだから、いい加減ちったぁ我慢くらい覚えろよw
94名無しさんだよもん:04/06/02 21:11 ID:bPM/xCi5
粘着で糞レス連発か・・・

コテトリも祈と変わんなくなったな。真剣ちょっとショック・・・
95名無しさんだよもん:04/06/02 21:13 ID:+RtAygg5
別のコテトリに期待しろよ。
堕コテトリは放っておいてさ
96名無しさんだよもん:04/06/02 23:25 ID:q5F0cu1r
コテトリもたくさんいるからなぁ
97名無しさんだよもん:04/06/02 23:30 ID:NdZehohU
>>92は本物だろ
ヲチスレでなんか貪り食いながらぶーぶー鳴いてたからな
>>78
ばれてたのか。大体出来てるから今夜中にまとめて投下する
前スレ堕ちちゃったから最初から落とすです
99名無しさんだよもん:04/06/02 23:33 ID:KX2qpuuz
>>98
そいつはたのしみだ
100名無しさんだよもん:04/06/02 23:34 ID:q5F0cu1r
ヲチスレに書く別コテトリもいるぞ
101名無しさんだよもん:04/06/02 23:36 ID:NRcejAPW
まあ馬鹿でも豚でも大差ない
102名無しさんだよもん:04/06/02 23:40 ID:O5X3ZmXX
ぶーぶー鳴いてるのは本物。
食い物の雑談は別コテトリが湧く前からヤツの定番だったからな。
103名無しさんだよもん:04/06/02 23:43 ID:yUT0L8RR
最近の葉鍵は養豚場かw
104 ◆28s26Q7ss2 :04/06/03 00:14 ID:Mz5nuhpW
映画とかを元ネタにSS書くのってパクリなんでしょうか?
105名無しさんだよもん:04/06/03 00:18 ID:wEvTeo3k
まぁ、普通に言えばパクリだな。
106名無しさんだよもん:04/06/03 00:19 ID:tlcuaAUO
引用元のストーリーをただなぞって、登場人物名が蔵等キャラなだけならそうだろうね。
>>104
あなたのSSはつまらないです。
なぜかというと、なんにも自分の頭で考えた形跡がないからです。
キャラクターをまったく活かせてないからです
ようするに2次創作になってません。ただのパクリか駄文です
というのが正直な感想です
108名無しさんだよもん:04/06/03 00:32 ID:P5IIrDdC
>>104
オマージュとして作るならありだと思う。
ただ、かなりのテクニックが必要だぞ。
なんせ、プロの脚本家とタメはろうって言うんだから。
109 ◆28s26Q7ss2 :04/06/03 00:32 ID:Mz5nuhpW
>>107
的確な批判ありがとうございますorz
引き続き打ちのめされ期間を継続。

物を書くことはすごく難しいです。
110名無しさんだよもん:04/06/03 00:50 ID:pEBA/t2W
作品で打ちのめされるのは悪くない。
次に繋がるからな。
がんばれ






…と、DNMLスレの名無しが言ってた
111名無しさんだよもん:04/06/03 00:53 ID:wEvTeo3k
>>109
ブラフはNGにしとけ
112名無しさんだよもん:04/06/03 00:56 ID:YOTiEor0
>>109
批判されたらそのまま直せばいいだけだからそんなに欝に
なることも無いと思うぞ。
あと、批判する人も基本的にアマチュアだから批判の内容が
正しいか客観的に考えることも必要だと思う。
113名無しさんだよもん:04/06/03 01:04 ID:SsO1RvUL
>>112に同意

俺もSSを読ませてもらって
この辺りがちょっとな〜みたいなレスすることがあるけど
それって、俺自身の感想だからなぁ
必ずしもそれが一般の意見かって言うと、そうとも限らないわけで…

まぁ参考程度に考えるのが良いんじゃないかな
114名無しさんだよもん:04/06/03 07:33 ID:E+SFb0GO
なんかお前も書いてみろ>ブラフ
>>114
俺ここに限らずところどころ結構書いてるんだけど
まあコテ出さないことも多いし
つーか少し上のレスぐらい読めな低脳
116名無しさんだよもん:04/06/03 11:27 ID:n+HBfC0O
痛い自己主張だな
>>116
あのさ、何も俺SS誉められたよ!!とか言ってるわけじゃなくて「書いてみろ」って言われたから
「書いてます」って事実述べてるだけよ?なにが痛いわけ?
煽りや非難は結構だけどさ、それならそれでもうちょっと気の利いたやり方にしろよ。
ここ荒らすの嫌だから言いたいこと結構我慢してるつもりだけど、そこまで頭の悪いレスって流石に
無視できないわ。
118名無しさんだよもん:04/06/03 11:52 ID:n+HBfC0O
そういうのが痛い自己主張つってんだよ
日本語読めな低脳
119名無しさんだよもん:04/06/03 12:01 ID:8Z6s0OBw
なんかお前も書いてみろ>114、116、118
痛い自己主張だな
そういうのが痛い自己主張つってんだよ
日本語が読めない低脳
120名無しさんだよもん:04/06/03 12:04 ID:vVJPzVvU
とうとう本物のバカが出てきた
121名無しさんだよもん:04/06/03 12:06 ID:5FMExo8i
ageてる奴の事だな?>本物のバカ
122名無しさんだよもん:04/06/03 12:10 ID:2tSS0p/0
見事に糞スレですねっ!
123名無しさんだよもん:04/06/03 12:45 ID:/zgE/4E5
>>そこまで頭の悪いレスって流石に 無視できないわ。

気持ちは分かるがここは大人の寛大さで我慢してやれ
124名無しさんだよもん:04/06/03 14:11 ID:nZRaRNaF
荒れてるなぁ
125名無しさんだよもん:04/06/03 14:40 ID:v4lqNvV6
だから、ブラフはNGワードにしとけって、何度も言ってるのに・・・
126名無しさんだよもん:04/06/03 15:05 ID:P5IIrDdC
淡々と作品投下を待とうぜ。
127名無しさんだよもん:04/06/03 18:24 ID:jFyIROTW
期待↓sage↓
128壊れかけのレディオ1/12:04/06/03 20:37 ID:yaMUp0YU
 白緑色のカビがコーヒーカップの内側を隙間なく覆っていた。割り箸を持ち出しその中をゆっくりかき混ぜてみると、ヨーグルトをすくっているようなヌラリとした感触が手の平に残った。顔を寄せてみる。夏のワキガに蜂蜜を垂らしたような匂いだ。それは即ち死の香り。
 うーむ。少し腕を組んで考えたあと、
「おい、春原」
 ベッドで惰眠をむさぼる男に向かって声をかけた。
「……ん〜もう朝ぁ〜?」
 ゴム紐をたるませたような返事が返ってくる。
「おう朝だ。眠そうなオマエのためにコーヒーを入れておいてやったぞ」
 喋りながら布団を引っぺがす。奇妙な金髪が朝日を受けてランランと輝いていた。
「オマエが僕に……? どういう風の吹き回しだよ」
「俺気づいたんだよ」
 落ち着いた声で返す。
「は? 何に?」
「……今まではさ、オマエのこと手足のついたダンゴムシくらいにしか思ってなかったけど」
「爬虫類あつかいですか!!」
「けどさ、コタツの中で色々考えているうちに思ったんだ、やっぱりこいつはかけがえの無い親友なんだって」
「岡崎……」
「そんな俺がオマエのために淹れた初めてのコーヒー」
 そう言って俺はカップを差し出す。
「いや……嬉しいんだけど……この表面に浮いてる毛玉みたいなのなに?」
「クリープだ」
「いやクリープって緑じゃねえと思うんだけど……」
 一応コイツにも危機感知能力が微弱ながらも備わっているようだ。
「春原、オマエまじイケてる」
 俺は突然に切り出した。
「え、やっぱり?僕も前々からそうじゃないかと思ってたんだけどさ」
「ああ、この間なんかB組の女の子に噂されてたぞ。『春原くんって支離滅裂よね!!』ってな」
「マジかよ!!なんかよくわかんないけど僕モテモテじゃん!!」
129壊れかけのレディオ2/12:04/06/03 20:38 ID:yaMUp0YU
「ああ、そしてその子はこう言ったんだ。『春原くんがコーヒー一気してる姿が見たいわ!!』ってな。オマエが嫌じゃなければこのカメラで現場を激写して見せてやりたいんだが」
 都合よくテレビの横に置かれたカメラを構えてみる。
「僕飲むよ!! 僕を待ってるファンのために!!」
 手乗り文鳥も真っ青の扱いやすさである。
「よし、それじゃ撮るからイッキに飲み干してくれ」
「おう!!」
 奴はなんのためらいもなく口元にカップを持っていった。
 ゴキュ……ゴキュ……ゴキュ…
「ぷはぁ〜、ごちそうさま。ねえ、いい写真撮れた?」
「ああ、田代まさしも驚くほどに完璧だ」
「よし!!それじゃ写真を渡すときには僕も一緒に……」
 台詞を言い終わらないうちに春原の顔が青くなり始めた。
「な、なんか急に吐き気が……ブハァッ!!」
 口からなにかを吹き出して奴は倒れた。吐き出されたコーヒーのところどころに赤いラインが入っている。
「……母親思いのいい奴だった……」
 俺は物言わぬ肉塊となった彼に向かって手を合わせた。
「って勝手に殺さないでもらえますかねえ!!」
「あ、動いた」
 つまらん。
「ほ、ほんとに死ぬかと思った……岡崎……友達相手とはいえ冗談でもやっちゃいけないことってのがあるだろ!!」
「わりぃ。友達っつーかそもそも人間だとみなしてねーや」
「これからはみなしましょうネ!!」


「てゆーかさ」
 唐突にマジな顔になる春原。
「なんだよ」
「明日って……卒業式だよな」
「ああ、頑張れよ」
「アンタもですよ!!」
「ああ、そう言えばそうだな。んで、それがなに?」
130壊れかけのレディオ3/12:04/06/03 20:39 ID:yaMUp0YU
「なんつーかさ……虚しくならないか?」
 思わず耳を疑った。こいつからアンニュイな台詞が飛び出すとは予想していなかった。
「僕達ってさ、学校自体お情けで卒業させてもらったみたいだし、なんつーかさ、このままじゃ負け犬みたいじゃん」
「いや、俺彼女いて十分幸せだし。負けてんのオマエだけな」
「そこだよ!!そこ!!なんっで同じような人生辿っているはずなのにオマエだけ渚ちゃんとラブラブショーで僕は一人身なんだよ!!納得いかねーっつーの」
 理由は明らかである。
「オマエ気持ち悪いからな」
「そんな非道いこと笑顔で言うなよ!!」
「くっ……まあ軽いジョークは置いといてさ。僕が何を言いたいかっていうとだ………」
 春原はベッドから跳ね起きると俺に向かって三つ指を立てた。
「僕に彼女作ってください――!!」
「それ人に頼むあたりからしてオマエ駄目な」
「プライドより大事なもんだって世の中あるだろーが!!」
「この場合それ決めゼリフになんないからな」
 ふう。改めてこの男が人より優れている点について考えてみる。
131壊れかけのレディオ4/12:04/06/03 20:39 ID:yaMUp0YU
【春原陽平データ】
 髪:金色で気持ち悪い
 顔:いつもにやけてて気持ち悪い(歯ぐきを出すな)
 行動:いつも空回り
 人望:皆無(つーか友達すらいねえ)
 性格:痛くてなにも語れない
 知能:可哀想である
 足:臭い
 ワキ:臭い
 口:臭い

 ……よし、データはそろった。
【結論】E:志望校を変更しましょう

「オマエ彼女作る前に人に嫌われない努力しろな」
「あんた剥き出しの直球投げすぎですよ!!」
 すでに半ベソである。
「いや……だってさ、彼女作るっていってもなんのアテも無いじゃんオマエ。言っとくけどナンパとか無理だからな。前みたいに恐がられるのがオチだ」
 はっきり言って見た目以前の問題としてコイツはナンパに向いていない。馬鹿だからだ。それも話してみてアホっぷりが分かるというのではなく、半径2m以内に入ってきただけで辺りの空気を支配してしまうほどの馬鹿だ。はっきりいってどうしようもない。
「そのことなんだけど……」
 にやけているのか悩んでいるのか微妙な表情で春原が口を開いた。
「僕、好きな娘いるんだよね」
132壊れかけのレディオ5/12:04/06/03 20:41 ID:yaMUp0YU
 マジか…… 
 俺は言葉を失う。この馬鹿が恋? 無謀だ、いや、無謀というよりもこれは明らかな謀略である。9回2アウト3塁1点差の状況で代打カツノリを投
入するに等しい。
 それにしても……相手は誰だ? 高校生活の中で一番多く春原と時間を共有してきたのは間違いなく俺だ(つーか他の奴は誰も相手にしていな
かった)。そんな俺ですらコイツの浮いた話など聞いたことは無いし、そもそも女子とまともな会話を交わしているところを見たことすら無い。
「相手誰だよ。俺知ってるやつか?」
「ふふ、聞きたいか?」
「は?」
「参ったなあ。一応コレ誰にもまだ話してない極秘プロブレムなんだよね。まあ岡崎がどうしても聞きたいっ
て言うなら話してあげないこともないけどさ」
「別にいいや」
 冷静に考えてみたら興味ねえし。
「え、マジ? 『究極の秘密』って書いて極秘だよ? 凄くないコレって?」
「どうでもいいや」
「…………」
「…………」
 沈黙が続く。
「……ごめんなさい!!ちょっともったいぶってみたかっただけっす!!聞いてください!!」
「わかったから、まず相手の名前言えな」
 そう言うと、春原はうつむいて軽く顔を紅くする。気色悪いことこの上無かった。
「……そのさ……智代……なんだ……」
 ためらいがちにボソッと呟いた。
「いや、ネタいらないからな。空気読めよ」
 と、返事が来ない。見るとまだ顔を下げたまま何か言いたそうに口をもごもごさせている。
133壊れかけのレディオ6/12:04/06/03 20:43 ID:yaMUp0YU
「もしかして……マジなのか」
 またも返事は無い。代わりに奴はコクンと、一度だけ大きくうなずいた。
「いつからだ」
「うーん……秋……ぐらいかなあ。」
「なんかきっかけでもあんのかよ」
「んなもん特にねえよ。ただ、なんつーかさ、アイツ生徒会長じゃん? 仕事で走り回ってる場面に出くわしたことが何度かあってさ」
 懸命に頑張る姿に惚れてしまったとでも言うのだろうか?
「そういう時にちょっかい出したりするとさ、必ず蹴られるんだよね。廊下の端から端まで吹っ飛ぶくらい。で、何回もそんなこと繰り返してる内にさ、その、気がついたら好きに……」
「いやそれ恋って言うより覚醒だからな」
 キッパリと言った。
 まあ、それはいいとして……マジなのか……よりによって智代……?
 無理。なんつーかすね毛むっちゃ濃いオッサンが短パン履いてるくらい無理。
 客観的に見て二人の相性は最悪だ。つーか智代にとって春原など真夏のやぶ蚊みたいなものだろう。
「んで、結局オマエは俺に何をしてほしいんだよ」                                
「なんつーかそれもよくわかんねえんだよ……なんにしてもさ、普通に告白したって撃沈するのは目に見えてるじゃん。けど岡崎ならなにかいいアイディア捻り出してくれるんじゃないかと思って」
 この状況を解決するアイディア……
 まあ……無いことも無いな。
「じゃあまずは紙と鉛筆を用意してくれ」
「ラブレターかよ……結構古い手だな」
「出だしはこうだ、『お父さんお母さん』」
「ふむふむ」
「『お二人に育ててもらったこと、とても感謝しています』」
「うんうん」
「『思えば色々なことがありました。楽しいことも悲しいことも』」
「ほうほう」
「『でも、それも終わりです。僕は永遠の旅に出ます』」
「なるほど……ってこれ遺書ですよねえっ――!!」
134壊れかけのレディオ7/12:04/06/03 20:44 ID:yaMUp0YU
「これを俺が智代に渡すんだ。インパクト抜群だぞ。もちろんオマエが実行した後な」
「死んでちゃ意味ないでしょ!!」
「大丈夫。智代の記憶の中で、お前は永遠に生き続けるんだ……」
「そんなカッコイイ台詞使っても誤魔化されません!!」
 駄目か……
「岡崎……明日で最後なんだぜ、学生生活」
 なかば悲痛な声で語りだす。
「やっぱりさ、最後くらいかっこいいことやりたいじゃん。無謀な考えかもしれないけど、明日智代にはっきりと告白したいんだ」
 春原は水を被った猫のようにシュンとしている。
 ……はあ。
 俺は覚悟を決めた。
「分かった。俺が舞台を整えてやる」
「え……マジ?」
「ああ、これ以上鬱々とした顔を見せられたんじゃこっちが参っちまうからな」
「岡崎いぃぃぃぃぃぃっ!!」
 突然抱きつかれる。うなじに触れる手がこの上なく気色悪かった。
「ははっ。やっぱ友達っていいもんだなっ!!」
 うーん。
「わりぃ。やっぱり俺オマエのこと友達だと思えねえや」
「卒業してからも仲良くしましょうネッ!!」

 翌朝。目覚めの空は澄み渡っていた。雲ひとつ無い、限りなく透明に近い蒼。
 卒業式を迎えるにはこの上ない空模様だ。
 俺は手早く着替えを済ませ、軽く顔と歯を洗うと、朝飯はとらずにちゃっちゃと家を出た。
135壊れかけのレディオ8/12:04/06/03 20:45 ID:yaMUp0YU
「おはようございます。朋也くん」
「おう、おはよう」 
 校門の前で渚とおちあう。渚は病欠のために一時は卒業があやぶまれたが、成績のほうが良好だったことで、どうにか式の日を迎えることができた。
 ゆっくりと、桜並木に目をやりながら講堂へと向かう。
「でも意外です」
「なにがだ?」
「朋也くんが卒業式に出ることがです。てっきり春原くんと一緒に遊びにいっちゃうかと思ってました」
 ま、そう思われてても不思議はないな。
「おまえがいるからな。一人で出席させるわけにもいかないだろ」
「あ……ひょっとして気を使わせちゃいましたか、わたし」
 軽くうつむく渚。
「アホか。おまえと一緒なら式も楽しくなるだろうなって思ったんだよ」
「あ……そういってもらえると嬉しいです……」
 今度はにっこりと微笑む。
「それに……」
「なんですか?」
「ちょっとした余興が見られるかもしれないからな」

 講堂にはすでにほとんどの生徒が集まっていた。全学年の生徒が一同に会している光景はどこか日常から遠く、否が応にも卒業式が始まるのだと実感させられた。脇に配置されている父兄席にも多数の出席者が見受けられた。その中に見知った顔を発見する。
「渚ァー!!てめえ一発ブチかましてこいやああああ!!!!!」
「渚、ファイトですよー」
 オッサンと早苗さんである。証書をもらうだけが役目である娘に何を頑張れというのか。 
「……恥ずかしいです」
「目をあわせなければ大丈夫だ」
 うちの高校では卒業式の際にも席は指定されていない。俺達は適当に空いている場所を見つけて腰を下ろす。式が始まるまであと10分、まあ適当にくつろいで過ごすか……
「岡崎ぃぃいいいいいいい!!」
 と、突然、汚らしい金髪が視界に飛び込んできた。
「朝っぱらからでかい声出すなよ」
「わ、わりぃ……なんかキャラ的に普通に登場しちゃいけない気がしてさ……って、そんなことはどうでもいいから、ちょっとこっち来いよ」
 強引に服の袖を引かれる。
136名無しさんだよもん:04/06/03 20:45 ID:Fs1O5m87
お邪魔します
137壊れかけのレディオ9/12:04/06/03 20:46 ID:yaMUp0YU
「渚、わりぃ、ちょっと行ってくるな」
「あ、はい……」
 講堂の外、誰もいない欅の下で春原は立ち止まった。
「なんだよ」
「なんだよじゃねえよ!!ほら、アレだアレ!!」
「アレじゃわかんねーよ」
「あーもう!!にっぶい奴だなあ!!昨日話してたことだよ。その、智代に僕が……告白するって話」
「ああ、それね」
「ちゃんと考えてくれたのかよ」
 不安そうな顔をする春原。その様子を見ているとこいつが本気で智代を好きなのだとわかる。
「まあな」
「え、なんか思いついたのかよ!!やっぱ式の後で体育倉庫に呼び出したりするのか?」
 好きな子に喧嘩でも売りたいのかオマエは。
「ま、とりあえず任せとけよ。ほら、もう式始まっちまうから戻るぞ」
「お、おう」
 落ち着かないのか、席についても春原は無意味に手の平を擦り合わせたりしている。
 それでも段取りを教えるわけにはいかない。コイツがへタレだからだ。内容を知ったらビビって逃げ出すのが目に見えている。
 徐々に教員達が講堂の前部に集まり始めた。
 校長が壇上に立ちマイクを取る。
「全員起立」
 式の始まりだ。
 ……とりあえず出席してみたもののやはり卒業式なんて楽しいもんじゃない。小学校・中学校全く代わり映えしない段取り。校長の話が無駄に長いところまで似せなくともよさそうなもんだが。
 続いて担任たちの送る言葉が終わり、校長が再びマイクの前に立った。
「送辞、在校生代表―坂上智代―」
「はい」
 一層緊迫した空気が辺りを包む。
 智代のほうは緊張した様子もなく軽やかな足取りで壇上へと向かう。女として、というよりも、一人の人間として立派な奴なんだと改めて思う。横に
目線を移す。開始三十分ですでにイビキをかいている金髪間抜け面。時代が時代ならば卑人が大城主の姫君に求婚しようとしているようなもので
ある。神よ、「無謀」という言葉はこの男のために用意されたものなのですか?
「おい、起きろ。智代の出番だ」
138壊れかけのレディオ10/12:04/06/03 20:47 ID:yaMUp0YU
「ひぃいいいいいいいいい!!!!」
 突然、春原はすっとんきょうな声をあげた。周りの視線が痛い。ま、教師には気づかれていないようだが。
「なんだよ、オマエ。いきなり大声あげんなっつの」
「い、いや。なんかさ……夢を見てたんだけど、夜中にさ、布団に入ってたら足元のほうでなんかゴソゴソ音がするんだよ。で、何かと思って見てみたら、岡崎が僕のパンツを脱がそうとしてるんだ……」
 ドグシッ!!とりあえず正拳を横っ面に叩き込む。
「勝手に人をろくでもない夢に出すのやめろな」
「……気をつけます」
 なんか顔の形が変わってるような気もしたが放っておくことにした。
「それよりほら、ちゃんと前向いてろな」
 すでに智代は送辞の言葉を述べ始めていた。彼女は全く臆することはなく、堂々と、しっかりとした発音で言葉を紡ぐ。
それは決して形式的なものではなく、彼女が心から俺達の卒業を称えてくれているのだと伝わってきた。
「やっぱ……凄いよね、アイツ」
 春原でさえも今講堂に流れている空気を感じ取っているのだろう。多少尊敬に近い面持ちで壇上を見つめている。
「なんだよ、身分の違いにびびったか?」
 俺は小声で尋ねる。
「ばか言ってんじゃねーよ!!そんぐらいで日和ってらんないっつーの!!僕だって……あいつに負けないものくらいあるさ」
 ほほう。
「その心は?」
「アイツのことを想う……この熱いハートさ……」
 なにやら馬鹿は誇らしげな様子である。とっさに出た自分の台詞に対し、悦に入っているのだろう。
「オマエ、今の言葉忘れんなよな」
 少しだけ意味ありげに俺は言った。

「――以上を持って送辞と代えさせて頂きます。在校生代表、坂上智代」
 彼女がゆっくりとマイクから顔を遠ざける。生徒達はその仕草から目を離せずにいる。ま、あれだけ見事な送辞を送られたら余韻も残ってしまうだろう。
 さて、段取りとしては、次に送辞に対するお返しとして卒業生による答辞が述べられる。
「答辞をやるのって藤林だったよね?」
「ああ、だけどその前にやることあるからな」
139壊れかけのレディオ11/12:04/06/03 20:49 ID:yaMUp0YU
 智代が壇を下りる前に、俺は颯爽と席を立ち、舞台脇で司会を行っている教師の下へと歩み寄る。列を成している教師陣も何事かと慌てているがそんなことは気にも止めず、マイクを奪い、口を開いた。
「次に卒業生から坂上智代さんに対する言葉を送らせていただきます」
 在校生ではなく、一個人に対して送られる言葉、ようするにシナリオ無視のゲリラライブ。
「卒業生代表――春原陽平」
「はぃいいいいい!?」
 予想通りのすっとんきょうな声をあげる春原。当然集まった生徒たちもざわついている。
「春原くん、壇上へお願いします」
 そう言われても何がなにやら、と言った様子で、春原は席を立てずにいる。
「春原、オマエさっき言ったよな。気持ちの強さではタメはれるってさ。見せてみろよ、口先だけじゃないってことをさ」
 多少皮肉交じりの口調で俺は言った。
「春原くん、ファイトですっ!!」
「あんた、ここで逃げたら最っ高にへタレよね」
「ヒトデ」 
 春原にとって逃げてはならない局面だと察してくれたのだろう、渚と杏から激が飛ぶ。
 しばし、講堂を沈黙が包み込んだ後――
「おおっしゃああああ!!!!!!!」
 ――春原の咆哮が響いた。
 物凄い勢いで壇上へと突進していく。そして、マイクを手に取り、智代の眼をしっかりと見据えながら口を開いた。
「前から思ってたんだ」
 教師陣、生徒達ともに声を殺して春原の話に耳を傾ける。
「どうして自分には目標が無いんだろうって。どうして自分は何かに一生懸命になれないんだろうって。だらだらと過ごしてる毎日はさ、もちろん悪い
ことばっかじゃないんだけど……時々、凄く虚しくなることがあるんだ。そんな時ってさ、凄く逃げ出したくなるんだ。かったるいこととか何にも考えな
いで、どこか遠くに旅に出ちまいたいような、そんな気持ち」
 ……なんだよ、結局のところ、俺とアイツは似たもの同士なんじゃねえか。すっげえ青臭い、甘えたガキの言い訳みたいなものなのに、こんなにも俺はアイツの言葉に聞き入ってしまっている。

 
140壊れかけのレディオ12/15:04/06/03 20:52 ID:yaMUp0YU
「けど、そんな時にさ、智代がいろんなことを頑張ってる様子を見てると、なんていうか……勇気が湧いてくるんだ。踏みとどまんなきゃいけないっ
て、この場所で頑張らなきゃいけないんだって。そうやってるうちにさ、いつの間にかお前のことばっか考えるようになってた。今頃メシ食ってるかな
あ、とか、生徒会の仕事に追われてんのかなあ、とか。……自分の気持ちには結構前から気づいてたんだ。けど、言えなかった。僕とお前とじゃあ
んまりにも対称的だと思ったから。言う資格なんか無いって、勝手に決め付けて諦めてた。でも、最近になって就職活動とかも自分なりに頑張って
みてさ、変われる自信がついたんだ。なにかしらの目標に向かって頑張れる人間になれるんじゃないかっていう自信がさ。だから、この学校を去る
前に、はっきり言っておきたいと思った。僕は、智代のことが好きなんだって」
 ……続く台詞は一つだよな。
「僕と――付き合ってください」
 ホントに言いやがった。
「断る」
 間髪入れずに響く智代の声。講堂を再び沈黙が支配する。やっぱりな、そんな呟きが聞こえてきそうな雰囲気だ。
 ……終わった。俺はすかさずポケットから財布を取り出し中身を確認する。三千円か、缶ビール二十本程度は買えるな。
盛大な残念会を開いてやろう。励ましの言葉も考えないとな。
「だが」
 と、再び智代は口を開いた。
「卒業式の舞台で脅えることなく個人に対して告白を出来るという根性は認めざるを得ない。それに、自分のことをそれだけ見ていてくれた人間が
いたのだということも、今の私にとってはこの上なく力強い支えだ。……嬉しかった。わたしはこれから三年生になる。受験勉強にも取り掛からなく
てはいけないし、多少は生徒会とも関わっていくつもりだ。正直言って忙しいし、あまり時間は取れないと思う。それでもいいなら……友達として、こ
れからも私の側にいてくれないか」
 それはきっと本当に僅かな間。だが間違いなく、講堂を流れる時は止まった。
 あまりに以外な出来事に声も出せない群集、その中で、俺は一人呪縛から逃れたかのように一直線に壇上へと駆け上がっていく。
「春原ぁあああああ!!!!!!!」
「うわっ!!」
 急に俺に抱きつかれ春原は後ろにドサリと倒れこんだ。そのまま二人して床を転げ回る。
141壊れかけのレディオ13/15:04/06/03 20:53 ID:yaMUp0YU
「やった!!やったな、この野郎!!」
「な、なんだよ!!単に友達でいようって言われただけじゃんか!!」
 そう言いながらも春原の口の端はしっかりと嬉しそうに持ち上がっている。
「ばっかやろう!!卒業してからもいくらでも会えるチャンスがあるってことだろ!?」
 俺は笑った。自分に幸せな出来事が起きたかのように綻んだ。
「……いつまでそうしてるつもりだお前たち。式が終わったわけではないのだぞ」
 ハッと我に返る。全校生徒の視線が一身に注がれていた。
 ……今更のように恥ずかしくなってきた。
「ふう、私は先に戻らせてもらうぞ。春原、時間がある時にでもどこか遊びに行こう。電話は自宅にかけてもらって構わない」
 春原は心の中で「イヤッホーウ!!」と叫んでいることだろう。言うべきことは言ったという感じに智代はこちらに向けていた踵を返し、ゆっくりと歩いていく。と、その途中。
「岡崎」
 思い出したように俺の名前を呼ぶ。
「流石にお前と連れ添っている奴だけのことはある」
「……どうだか」
 素直ではないな、と言わんばかりの顔つきで今度こそ智代は檀下に足を運んだ。俺達もそれに習うようにしてそそくさと移動を始める。席に戻る途
中幸村と目が合い、何かしら小言を言われるかとも思ったが、奴は一言、ふむ、と頷いただけだった。心なしか喜んでいるようにも見えた。
 椅子に戻り再びの静寂。
「え……えー、では気を取り直して、卒業生答辞――」
 司会が式を再開したが、隣のパッキンボーイは未だ上の空で話なんか聞いちゃいねえ。
 きっと自分に都合のいい様々な妄想に心馳せているのだろうと察し、気味が悪いので関わらないことに決めた。
「春原くん……カッコよかったです」
 渚が当人には聞こえない程度の声で耳打ちしてくる。
「……ちょっとだけな」
 妬みを少し織り交ぜつつも、俺自身不思議な充足を感じていた。
142壊れかけのレディオ14/15:04/06/03 20:54 ID:yaMUp0YU
 式が終わったあと、渚と杏を交えて教室で雑談し、外に出てみれば時は既に夕刻。
「これからどうすんのよアンタたち。まさか、帰るなんて言わないわよね?」
 酔い潰してやるからね、と続きそうな笑顔で杏が尋ねる。
「適当に酒買ってって春原ん家で飲むつもりだ。委員長は呼ばなくていいのか?」
「あーあの子お酒はさっぱり駄目なのよねー。チューハイ一口飲んだだけで服脱ぎだしちゃうくらいなんだから」
 ……だったらなおさら呼び出そうと言いたいところだが、渚の視線が痛いので言葉を飲み込んだ。
 近くの酒屋に向かって四人で歩き出す。涼んだ風が肌に心地よい。きっと皆同じ気分なんだろう。言葉を発せずとも物足りなさを感じさせない空気に満ちていた。
「けどさ」
「ん?」
 唐突に杏が口を開いた。
「今回のことって朋也が発案者なんでしょ?自分からマイク奪いに行ったりもしてさ、なんて言うか、普段いがみあってばっかのようでもやっぱ友達なんだ〜って感じよね」
「そうです。朋也くん、普段春原くんのこと悪く言ってるけど本当はお友達だと思ってるはずです」
「ほら見ろ!!二人ともこう言ってんじゃねーか!!いい加減僕との友情を認めろよな!!」
 はあ、と大きなため息がこぼれる。やれやれ。
「春原」
「んあ?」
「オマエとは絶対友達になれないからな」
 断言する。
「僕ぁ永遠にアンタのパシリなんすかねえ!!」
「どっちかっつーと下僕な」
「ちっくしょおおおおおおおおおおんんん!!!!!」
 情け無い喚き声をあげながら奴はどこかに走り去ってしまった。
「あ〜あ、あんたが酷いこと言うからよ」
「しょうがねえだろ」
 だって――友達と親友って違うもんだからな。
143壊れかけのレディオ15/15:04/06/03 20:55 ID:yaMUp0YU
「うっし、とっとと酒買って家に押しかけようぜ。どうせ家で布団被ってヒンヒン言ってるだろうからさ」
「そうね、アイツに遠出する根性があるとも思えないし」
 自分自身の言葉にどれほどの毒が仕込まれているかを知らないのが杏の恐ろしいところである。
「祝勝会……でいいんですよね」
 渚が嬉しそうに呟く。
「ま、そうなるかな」
 勝利か。確かに、今感じている真夏の向日葵のような高揚感は決して敗者のものなんかではないと思う。
 嫌でも、今夜起こるだろう楽しい時間、そして笑いながら過ごすだろうこれから日々のことを考えてしまう。
 空はすでに蒼く染まり始め、薄く白い月の姿を映している。
 それを見上げながら、俺達は休むことなく歩き続ける。
 楽しいことは――これから始まるはずだから――
144コテとトリップ:04/06/03 21:01 ID:pW8xESnK
どうでもいいけど水を被った猫ってすっげえ暴れ出すよな
145名無しさんだよもん:04/06/03 21:06 ID:c/GqGRRZ
>>128
GJ!
これ、最初の方は前見た気がするんだけど、続き?
>>144
猫は基本的に水嫌いだからな。
146名無しさんだよもん:04/06/03 21:07 ID:9Rypd8QY
>>128 乙。前半、ログ消しちゃってたんで助かりますた。
>>144 何かあったの?
147名無しさんだよもん:04/06/03 21:07 ID:RbBfdz/v
耳に水が入るとダメなんだよな確か。

綺麗にまとまって良かった。
乙彼。
148壊れかけのレディオ15/15:04/06/03 21:08 ID:yaMUp0YU
>>144
鋭いご指摘ありがとうございます
自分としては雨に濡れた子猫のイメージだったんですけど、
描写力不足ですね
>>145
どーもです。最初のほうは前スレにも落としましたが、多少変えてあります
149名無しさんだよもん:04/06/03 21:10 ID:2UMZJKzC
グッジョブです。

読後感もすっきりしていて良かったです。

個人的にはクラナドのSSの中で1番好きだな。
150名無しさんだよもん:04/06/03 21:12 ID:qoqQD2uX
>>148
おいおい、素の自分でいこうぜ。
151sage:04/06/03 21:13 ID:Gl5Xe2oB
渚―かえりみち―


影法師が揺れる土手。夕焼けに染まった河原。ソフトボール。
前カゴに入れたコーヒーの缶がカラカラと音を立てる。ペダルをこぐ足を止め、空走するに任せながら、ゆったりと移ろって行くそれを眺める。
歩いてくるには少し遠いけれど、自転車ならすぐに辿り着ける場所。それなのに、ボールを追う子供たちが着るユニフォームに見覚えが無いのを意外に思う。
多分、何度も見ているはずなのに。
しかし、ご近所の風景であるはずのそこは、彼女にとっては異国に等しかった。来たことは無かっただろうか。いや、そんな事は無いはずだった。
多分、ここを通る時は、色々な事を考えていて、悩んでいて、ゆっくりと周りを眺めることが無かったんだろう。
「あ」
ボールを追っていた子供が転ぶ。ヒットをかっとばした子供に喝采、転んだ子供に叱咤の声。歯をくいしばってボールを拾い、ランニングホームランになりかけのホームベースに向かって高々と投げ返す。白いボールが夕焼けに弧を描いて飛んで行く。それを目で追う。
カラカラ、カラカラ、カラ。
元々力を入れてこいでいなかった自転車の勢いが弱まり、土手のはじに寄せて地面に足をつける。
ボールはホームベースまで届かなかった。ピッチャーらしい子がぽてぽてと転がってきたボールを拾い、内野に向かって大声でツーアウトー、と叫ぶ。投げ返した外野の子が、しょんぼりとうなだれている。
そんな風景をじっと見やる彼女の後ろを、陸上部らしい集団が追いついてきて、はきはきとした掛け声をかけながら通り過ぎて行く。
ちらと見たジャージの背中には、彼女の通う高校の名前が記されていた。だが、その中に見知った顔は無い。次のバッターを三振に切って取り、ベンチへ駆け戻って行く子供たちの背中を見送って、自転車のペダルを再びこぎだす。
152sage:04/06/03 21:14 ID:Gl5Xe2oB
前を行く集団が橋を渡りに横道へそれるのを見送りながら、そのまま土手を進んで行く。
前カゴに転がしておいたコーヒーの缶が鈍い音を立てる。新発売、とテロップのついていたヨーロピアン・カラメル・マキアート。
わりとコーヒー党だったりする彼女だが、今回の味は初めてだった。
「ん」
橋のたもとを通り過ぎてしばらく行き、何となく、よさげな場所を見つけて止める。わきの斜面に自転車を寝かせ、自分はその横に腰かける。
少し冷めたコーヒーのプルタブを開けて、一口。カラメルとミルクの匂いがふわりと広がった。
昼間の日差しに暖められてほのかにぬくもりの残る芝生の上に足を伸ばす。町の喧騒からさほど離れてはいないはずだが、そこは不思議なぐらい静かで、ゆったりとした川の流れの音が聞こえてくるぐらいで。
「……もう少し?」
自分で思っていたより甘くないマキアートの缶を手の中でもてあそび、疑問符がついた感想をぽつりともらす。
思っていたよりは甘くなかったけど、でも、どんな味を想像していたのかと問われても、はっきりとは言えない、そんな感じ。
「…あれ」
返事が返ってこないのに首を傾げる。それはそうだ。自分ひとりしかいないのに、誰に向かって質問しているんだろう。そう思うとなぜか笑みがこぼれる。
「ふぅ」
ぽふ、と頭を芝生につけて、夕焼けから夜へと変わりつつある空を見上げる。ゆるく目を閉じる。頬を風がなでていく。それはとても静かで、温かだった。
だけど、だんだん涼しくなって。でも、不思議とさびしくはなかった。
世界にたった一人、ではなくて、世界で、一人いる、感覚。
153sage:04/06/03 21:14 ID:Gl5Xe2oB
『孤独とひとりは違うんだ』
何のお芝居の台詞だったろう。多分、難しいから読むのをやめた本だったと思う。その一節の意味が、今は分かるような気がした。河原にひとりで寝っ転がって、でもそれを怖がらなくていい。
「………」
すぅ、と息を吸い、何事か歌うように呟く。そう、ずっと怖がっていた気がする。ひとり歌う事。言葉を発する事。それは、投げかける相手を意識していたからだろう。
「……あんパンっ」
朋也にいつも言ってるのな、と言われた口癖。こうして呟いてみると、何だか自分でも微笑ましくて、くすりと笑みがこぼれる。そう思えるようになったのは。
「…あんパン」
「食うのか?」
いきなり声をかけられ、彼女は薄く目を開いた。
「こんなトコで寝たら風邪ひくぞ、お前」
斜め下から伸び上がるようにして、聞きなれた声が降って来た。夢から醒めたように目をしばたたかせ、すっかり冷たくなった芝生から起き上がる。
「朋也くん、どうしてここに?」
「どっかの熱いオヤジさんが騒ぐんでな」
「…お父さん、怒ってましたか?」
おずおずと聞く彼女に、頭をかきながら面倒くさそうに答える。
「ああ、ありゃぁ一発はたかれるぐらい覚悟しとけよ」
「……はい。そうですね」
素直にうなずいた。てっきりはぅ、とでも言ってうなだれると思っていたのか、朋也がん?と首を傾げる。
寄り道に道草。いい事じゃないんだから、怒られるのも当然で。だけど、それが何だか嫌ではなかった。
「あんま心配させんなよ」
「はい、でも、ちょくちょくしそうかもです」
「はぁ?」
珍しい口答えに目を丸くする彼を置いて、渚は自転車をよいしょと起こして、サドルにまたがった。
「帰りましょうか」
冷えてきた風の中そう言いながら、道草の秘密基地だった場所をもう一度振り返る。もう誰もいない河原と、それを囲む土手の上に離れ小島のように灯る外灯。
「?」
その光を受けて、しょんぼりと小さな影が佇んでいるのを見て、渚はちょいと首を傾げた。誰だろう、こんな時間に。何だかうつむいているような、寂しい影法師。ひとりぼっちの、小さな小さな……子供?
「いくぞ、渚」
自分の自転車にまたがってこぎだそうとしていた朋也から離れ、彼女はその影に向かってペダルをこいでいた。
「おい」
「ごめんなさい、ちょっと」
154sage:04/06/03 21:15 ID:Gl5Xe2oB
前カゴに入れたコーヒーの空き缶がカラカラと乾いた音を立てる。それを聞きつけたのか、影はふ、と顔をあげてこちらを見た。夕方に見た、ソフトボールチームの帽子。発電機の弱い光に照らし出された頬には、いくつもの光る筋が見えた。
「こんばんは」
「………」
おそるおそる声をかける渚をうつむき加減で見上げながら、子供は汚れたユニフォームの袖で乱暴に頬を拭った。
「もう、日が落ちてしまいましたよ?」
「……」
「帰りましょう?」
「……」
「ここからは、遠いのですか?」
言葉が返ってこないその子に向かって、渚は何度も語りかけた。泣いている所を見られたくなかったのだろう、子供はそれまでよりいっそう顔を隠すようにうつむいて吐き捨てるように言った。
「あっちいけよっ。ねえちゃんにはかんけいないじゃないかっ」
「……」
頬を膨らませて、口を尖らせて。目一杯強がるその子の前に、ずい、と近づいた。
少しかがみこんで、子供のうつむいた顔を覗きこむようにして、お互いの目の高さを合わせる。びっくりして、戸惑って、怯えて、まだ涙が消え残ったままの瞳。
「なんだよ……」
子供の瞳と真摯に向き合って、渚はもう一度言った。
「ね、帰ろう?」
「………」
155sage:04/06/03 21:16 ID:Gl5Xe2oB
よたよたしながら自転車をこいで戻ってくる渚を、朋也は呆れ顔で迎えた。
「二人乗りなんてできるのか、お前」
「初めてです、うぅっ」
よたよたよた。
「ね、ねえちゃんあぶないっ」
「じ、じっとしててくださいねともやくんっ」
「はい?」
いきなり自分の名前を呼ばれて朋也が目を丸くする。
「あ、この子もともやくんって言うんです。えっと字は、あぁっ」
よたよたよた。
「…わかったから落ち着いてこげ」
苦笑しながら、彼女の自転車に並んでペダルをこぎだす朋也。外灯がぽつぽつと灯った土手を、ゆっくりよたよたと、家路へ向かう。
隣で頬を赤くしてペダルをこぐ少女。それに必死でしがみつく小学生ぐらいの泥だらけの子供。
そんな二人を見ていると、探しに出てきたときの刺々しい気持ちが不思議に薄らいでいく気がした。
はじめての寄り道も、道草も。
『アイツぁこれまでずっと日が暮れる前には家に帰ってきてたんだ』
娘を心配するあまり自分を捜索隊員として放り出したオッサンに、そう悪いもんじゃないぜ、と言ってやりたくなるような、そんな光景だった。
「はたかれそうになったら、俺も一緒に頼んでやるよ」
「はい、ぇ、何か言いましたかっ」
「何でもねえよ。それよりきっちりこげ」
相変わらずよたよたする渚の自転車の横で朋也は星が灯りだした空を見上げ、カラカラカラカラ音を立てる缶コーヒーの下手くそなリズムに合わせて口笛を吹いていた。



end
156名無しさんだよもん:04/06/03 21:16 ID:1hbNyhk8
>>128
散漫なSSだな。
作者の公開オナニーってところか。
157名無しさんだよもん:04/06/03 21:20 ID:qoqQD2uX
>>155
心理描写と情景描写が非常にうまい。
すごくいい作品だとおもう。
けど、改行がもう少し多くてもよかったような。

ブラフの作品より100倍上手い。
158名無しさんだよもん:04/06/03 21:20 ID:c/GqGRRZ
>>151
雰囲気はいいんだけど、それだけって感じだなぁ…
159名無しさんだよもん:04/06/03 21:21 ID:iD0pUQ2w
>>134
卒業式を迎えるにはこの上ない空模様ってすっげえ変な文だからな。描写力不足とかじゃなくってだな、それ以前の問題な
160コテとトリップ:04/06/03 21:22 ID:pW8xESnK
まあ、一見うまくみえる文章ではあるんだが・・・
こういうのって、なーんにもないようで、なにかなきゃいけないと思うんだ
これはちょっとそういうのが、弱すぎたかなって思う。悪くはないんだが、うん、弱い
161名無しさんだよもん:04/06/03 21:27 ID:JYE+zHns
なにやら不穏な気配だが、「壊れかけのレディオ」は素晴らしい出来だと思う。
前半の笑うとこと、後半のシリアスっぽいとこのメリハリが良くて
読んでて凄く面白かった。
162名無しさんだよもん:04/06/03 21:30 ID:NJtnEBzR
さてさて、荒れそうな予感がしますぞ
163名無しさんだよもん:04/06/03 21:30 ID:JYE+zHns
「渚―かえりみち―」
地の分の描写は凄いと思うけど、何を訴えたいのかがちょっと分かりずらいなぁ。
落ち着いた感じの文は好感が持てるので、次回に期待。
164壊れかけのレディオ:04/06/03 21:32 ID:yaMUp0YU
>>149
ひたすら嬉しいです。ありがとうございます

>>156-157
そうかー残念。出来ればどこが悪いか指摘してもらえると助かります

>>161
メリハリは意識した部分だったので伝わって凄く嬉しいです。
165名無しさんだよもん:04/06/03 21:41 ID:tcP6exOh
投下がかぶると比較されちゃうよな
166名無しさんだよもん:04/06/03 22:18 ID:9Rypd8QY
生まれて初めて書いたSSもどきを投下してみるテスト。
1671/4:04/06/03 22:18 ID:9Rypd8QY
「春原の愛と苦悩の日記」

6月3日(木)
 今日も昼休みに学校に行った。担任の鶴田だか亀井だかにこってり絞られた。放課後、渚ちゃ
んが直々にパンがたくさん入った袋を持ってきてくれた。あれ?ひょっとして渚ちゃん僕に好意
持ってくれてるの?なんて思いつつパンを食べた。
 この世のものとは思えぬ味がして、僕はぶっ倒れました。遠くなりつつある意識の中、渚ちゃ
んが「やっぱり…」と呟くのが聞こえた。確信犯か、あの女。

6月4日(金)
 廊下で智代とすれ違った。いつの間にか智代が眼鏡っ娘になっていた。やべぇ。ちょっと萌え
ちまったじゃねーか(←眼鏡っ娘好き)。でも、僕はいまだに智代は男であると信じて疑ってお
りませんので、私が眼鏡智代に萌えたという事実につきましてはこの場を借りて公式に否定させ
ていただきたく存じます。
1682/4:04/06/03 22:20 ID:9Rypd8QY
6月5日(土)
 放課後、どういう流れなのか岡崎、杏、委員長、僕の4人でカラオケに行った。そういえばこ
のメンバーでカラオケになんて行くのは初めてだ。みんな、どんな曲を歌うのか楽しみにしてた
らいきなり委員長が泣きながら「あなたに会えてよかった」を歌ってた。杏もそれを聞いて号泣
していた。引きまくってると続いて岡崎が芳野祐介の歌を熱唱していた。すいません、マジで引
きました。ていうか僕ってこの集団の中で一番の常識人?

6月6日(日)
 今日は日曜日だから学校がない。いつも部屋に来ていた岡崎も最近杏と付き合いだしてからさ
っぱり来なくなった。仕方ないから美佐枝さんが昼飯を準備してる間に部屋に忍び込んで下着を
物色した。

…あっさり見つかって普通に警察呼ばれました。いや、呼びますかマジで。生まれて初めてパト
カーに乗りました。
1693/4:04/06/03 22:21 ID:9Rypd8QY
6月7日(月)
 警察に捕まったのに職員室でちょっと怒られた程度だった。今度こそは退学になると思ってた
のに。何故だか幸村のジジィがこちらを見てニヤニヤしていた。ひょっとしてあのジイサンが手
を回してくれたのか?実はあのジジィ、裏で権力握ってんじゃねえのか?

6月8日(火)
 5時間目、授業サボって中庭にいると工業高校の奴らが殴りこみに来た。面白そうなので木陰
に隠れて見てると、幸村のジジィがやって来て全員倒してしまった。背中が慄然としました。
全員倒した後、隠れているはずの僕の方を見てニヤリと笑ったのですぐに逃げた。見なかった事
にしよう。
1704/4:04/06/03 22:22 ID:9Rypd8QY
6月9日(水)
 また廊下で智代とすれ違った。今日こそは確かめようと思い、胸のところを触ったら案の定ボ
コボコに蹴られた。でも、ちょっと気持ちいいかもと思ってる自分が怖い。やべぇ、僕、覚醒し
つつあるのかね。この件につきまして坂上智代に謝罪と賠償を要求するニダ。

6月10日(木)
 帰り道に杏の乗るバイクに撥ねられた。同じ目に遭った岡崎にはフラグが立ったのに僕だけ撥
ねられ損じゃないかと思ったが深く追求すると死にたくなるのでやめておこう。うん。それがい
いさ。
  
171名無しさんだよもん:04/06/03 22:23 ID:9Rypd8QY
スレ汚し失礼しますた。
172名無しさんだよもん:04/06/03 22:27 ID:Dlg0Xhdq
ニダ…
173名無しさんだよもん:04/06/03 22:27 ID:u4vApgOp
ああ……春原は可愛い…な……?

春原視点で文章書くのってかなり難しいんじゃないか、と思った。
でも、個人的には嫌いじゃないよ。6月5日とか。
174名無しさんだよもん:04/06/03 22:28 ID:u4vApgOp
ごめん、アゲちゃった。動揺しすぎた。
175156:04/06/03 22:29 ID:jHH8Qn3n
>>164
では、もうちょっとマジに書くと。
作者の脚本に従ってキャラが演じているだけの感じ。話の中で、キャラが自然に
思考し行動している感じがない。散漫かつ機械的にイベントが進行している
印象を受けた。(春原とのギャグを除くw)
で、具体的指摘が所望とのことなので原因を今さぐってみたが、これはキャラの
心理描写が減っているせいかな、と分析した。朋也視点だから限界はあるけど、
キャラの様子を見て朋也が思うこと、という形で入れられるはず。
ギャグをもうちょい減らして、その分をキャラの行動の理由付けや事態の進行の
裏付けの描写に使うといいかな、と。作者の中ではキャラの心理は手に取るように
わかってるんだけど(その話の時点に至る背景なども)、読み手はそれが文章化
されていないと伝達不全になってしまう。

具体例:春原が壇上に突進するまでの描写。この部分、もう少し春原の描写に
文字数を投入してやらないと、ヘタレな彼の一大決心というのが薄まって
しまっている。ひいては朋也の視線も冷めているみたいな印象につながるかと。

文章自体は読み易いほうだと思った。
176壊れかけのレディオ:04/06/03 22:35 ID:yaMUp0YU
>>175
確かに、読み返してみると、卒業式での春原の雄たけびとか、智代の心境とか伝わりにくく
なってると思う。ギャグパートばっか意識して細かいとこが手抜きになってしまった。
言い訳のしようもないっす。
ご指摘ありがとう。次に活かしたいです
177名無しさんだよもん:04/06/03 22:39 ID:ErFUK3pO
なにこの流れ
178名無しさんだよもん:04/06/03 22:40 ID:YPrKsKFN
悪くない流れだと思うが…
壊れかけのレディオの作者さんには期待しとく。
179コテとトリップ:04/06/03 22:45 ID:pW8xESnK
>>167-170

3/4以外はおもしろかった
爆笑はしねえけどくすっとさせられた。日記形式は書くほうも読むほうも敷居が低いから安心して読める
なかなかに楽しい
180名無しさんだよもん:04/06/03 22:48 ID:x34wftq9
>壊れかけのレディオ
起承転結がはっきりしていて、伝えたいことも明白。
会話のテンポもいいし、地の分もしっかり書けている。
描写が少なめになるってのはここでは仕方ないわな。
ってか、テーマがしっかりした作品は多少の技術の未熟さなんて吹き飛ばすと思う。

ともかく、GJ!

>渚―かえりみち―
情景描写は上手いと思うが、それだけだと思う。構成もよくわからないし。
ってか、これ何の話?
もうちょっとテーマを明白にすべきでは。
『壊れかけのレディオ』のようにはっきりとしたテーマ、きちんとした構成(レディオは4レスごとに起承転結を割り振ってある)が必要だと思う。
まあこれにめげずに頑張れ。

181名無しさんだよもん:04/06/03 22:55 ID:x34wftq9
って感想を書いてる間にもう次の作品が。

>春原の愛と苦悩の日記
SSスレでは今までやられてなかった試みですね。
幸村ネタでニヤリとできるかがポイントかな。私はちょっとダメでした。
それとオチも弱い気がする。せっかく2で春原の意外な常識人って事を見せてるんだから、それを生かしてほしかった。
前半はいいけれど、後半で失速した感じ。

それでも面白いネタだし、これからも頑張ってください。
182名無しさんだよもん:04/06/03 22:55 ID:YPrKsKFN
「春原の愛と苦悩の日記」
俺も普通に面白く読めたよ。
強烈なインパクトは無いけど、ところどころ笑えたしなかなか(・∀・)イイ!!
ギャグだとやっぱりここ一つ印象的なのが欲しいとは思うけどね。

春原よ・゚・(つД`)・゚・
183名無しさんだよもん:04/06/03 22:58 ID:ErFUK3pO
幸村でにやりとできた。
というか、段々幸村のキャラの方向性がおかしくなってくてるよなw
184コテとトリップ:04/06/03 22:59 ID:pW8xESnK
別に擁護ってわけじゃねえんだけど、「渚―かえりみち―」が、それだけ、とか
何の話?っていうのはちょっと酷すぎるんじゃねえかなーと思うんだが・・・

テーマだってきちんとある。ただ、ちょっと、ちょっとだけ、地味だっただけだと思うよ
185名無しさんだよもん:04/06/03 23:12 ID:J/cmb+lo
たしかに、テーマ性がはっきりした「レディオ」の後だったから少し地味な感じになっちゃったけど
しっかりとテーマはあるね。
もう少しはっきりと伝えることが出来るようになるといいかな。
がんばれ、Gl5Xe2oB氏


春原の愛と苦悩の日記もなかなか面白かった。
こうやって気楽に読めるSSもいいよね。
186名無しさんだよもん:04/06/03 23:41 ID:OFGtxeIh
sage氏の作品はしっとりしてて好きだ。
クラナドをクラナドじゃない角度から書いてるみたいで面白い。
こういう作品が読めるからSSは面白いと個人的に思うのですよ

>>151
どの場面の渚かよくわからなかったのですが、Afterの渚2回目ダブリ&朋也パン屋時代の話っぽいな、と思いました。
…もう少し?あたりがよく掴めなかったのですが、SSに解説求めるのはやはり無粋ですか?
精神的に強くなった渚っぽいですが、どこか儚く思えるのは自分の脳内補完ですかね。
脳内は上記の設定なんでこれから渚寝込むと思ってます。切ねぇ。
187名無しさんだよもん:04/06/04 00:06 ID:6OkWR47H
>151-155
渚―かえりみち―

前作もそうだけど情景描写が丁寧なのが良い。
テーマ性とか何がいいたいのかとかは、これ以上
露骨にすぎるとクドくなって逆効果だと思う。
折角の雰囲気が壊れそうだ。

>186
唯一つの正解を求めるのはどうだろう。読み手の解釈の
余地を残すスタイル好きだから、むしろいろんなレスが
ついた方が楽しいんじゃないかとも思うけど。




あと、二人乗りはイクナイと思います。
188春原さん:04/06/04 00:10 ID:+FwLswD2
>sage
弱いという感想があったが、言い得て妙だな。
個人的には今回の渚の話みたいなのはすごく好きだ。
落ち着いて読めるし、人に優しい文だと思う。
あなたの風景描写はお手本にしたいくらいだし、こういうのもありかと。

文章って人それぞれだから三者とも私的にはオッケー。
スパイスの効いたエスニックなのも味噌汁すすってる感じのもお菓子食ってる感覚なのもどれも良し。
俺は大好きだーっ!
189退屈な朝 1/4:04/06/04 00:43 ID:seHjq3X2
某日朝、ボンボンのついたナイトキャップと、ヒトデパジャマを着た風子が
ほわ〜んと居間に登場した。第二ボタンまで外れただらしない格好だ。
「おはようほざひまふ」
「おはよう」
「おはよう、ふぅちゃん」
既に出勤の用意を済ませてコーヒーを飲む祐介と、エプロン姿の公子が答える。
風子は自席(テレビの正面)にちょこんと座ると、目の前に出された
トーストにバターとジャムをべったべったと塗りたくってはむはむと食べ始める。
次にミルクの入ったコップを両手で持ってこくこくと煽ったころ、
ようやく目が線一本からくりくりとしたつぶらなものに変わる。
「あらあら、ふぅちゃん。口がべとべとよ」
公子に濡れ布巾で口元を拭いてもらうと、風子は
「おねぇちゃんは大変失礼です。風子まるで子供みたいです」
と言ってぷいっと横を向く。それを聞いて祐介はぷっと吹き出してしまう。
「ところでユウスケさん」
コップを置いた風子が祐介に話し掛ける。
「なんだ」
カップから口を離して祐介が風子の方を見る。
「ユウスケさんは男ですか」
「当然だろう。お前の姉と結婚したんだからな」
突拍子もない質問には慣れているので平然と答える。
190退屈な朝 2/4:04/06/04 00:44 ID:seHjq3X2
「ではなぜ結婚して一年も経つのに子供ができないんですか」
ぶふぅっ!
許容域を逸脱した発言に豪快に噴出してしまう祐介。
「ふぅちゃん! なんてこというの」
さすがに公子も風子を強く嗜める。頬が染まってはまったく迫力もないが。
「期間は関係ない。子供は俺達が夫婦として自信を持てるようになってから考える」
気を取り直した祐介が答える。
「心構えも経済力もなってないまま子供を育てるわけにはいかないからな」
それらしい理由でまとめに入る祐介。
「風子はかわいい甥っ子や姪っ子と遊びたいです」
ヨーグルトをあむあむとパクつきながら拗ねる風子。
姉の視線が祐介に向くことが多く、寂しいのだろう。
夫婦はそれを理解した。
「風子」
祐介が神妙に話し掛ける。
「なんですか」
雰囲気の変化に身構える風子。
191退屈な朝 3/4:04/06/04 00:45 ID:seHjq3X2
「お前は岡崎と付き合っているな」
「はい」
「それも一年近くだ」
「はい」
「ならば問おう! お前は岡崎のことを心から愛しているか!? 彼は伊吹風子を心から愛しているのか!」
祐介は朗々と、謳うように続ける。
「好きでなければ付き合いません」
風子もこっ恥かしい質問にはなれているので、う゛っとなりつつも平然を装って答える。
ほんのり頬が染まるのは姉譲りだ。
「ならばなぜ抱き合わないっ! 愛し合っているなら獣のように抱き合うがいいっ!
 恥じらいを捨てて求めろ! ぶつけ合え! 生命を! 魂を! 一つになれっ! 身も心も!
 ………そうすれば寂しくなどあるものか」
絶叫する祐介。
「祐介さんっ いい加減にしてください」
公子はあきれ返って諌める。
風子は真っ赤になって俯き、ぷるぷると震えている。なんだか色々と想像してしまったらしい。
「え、えっちですっ! ユウスケさん、猛烈に最悪ですっ! そんな風におねぇちゃんを手篭めにしたんですかっ」
「はぁ」
公子は目を回し始めるが、祐介は動じない。
192名無しさんだよもん:04/06/04 00:45 ID:n8u2ot0W
お邪魔します
193退屈な朝 4/4:04/06/04 00:45 ID:seHjq3X2
「はっはっはっ。生娘に何を言われても答えないさ」
むしろ楽しそうに笑う。
「風子、生娘じゃないですっ」
ムキになって返す風子。
あたりの空気が凍りつく。
ぽかんと風子を見つめる祐介。
両手を口元で合わせて目を見開く公子。
そして、自分で何を言ったかに気付いて手で口を抑える風子。
『ふ、ふぅ……』
口を開こうとする夫婦よりいち早く
「いってきますっ」
言いながらカバンを引っつかんで学校に駆けていく風子。

こうして今日も平凡な一日が始まった。

風子が、自分がパジャマ姿なのに気付くのは、通学路で岡崎と合った時のことであった。
194名無しさんだよもん:04/06/04 00:49 ID:a7Jwqh8U
gj
風子は可愛いね。
195名無しさんだよもん:04/06/04 00:49 ID:QcE+Zc6A
爆弾発言過ぎだな。
ダガソレガイイ
196名無しさんだよもん:04/06/04 01:01 ID:Jsq0VeZt
そのままDNML化できるようなSSは、SSである必要があるんでしょうか
197名無しさんだよもん:04/06/04 01:09 ID:vgo+caaN
DNMLにしてくれという、意思表示なのだろう。
198コテとトリップ:04/06/04 01:10 ID:rOYcvpr7
誤字と体言止めの多さが気になったが素直におもしろかったかもしんない
こんな感じでキャラ変えられても案外気にならねえもんだな。むしろ楽しかった
199名無しさんだよもん:04/06/04 01:40 ID:/ZSekNCz
風子は浜辺で大好きなヒトデを眺めていました。
ヒトデの愛らしさは、いつ見ても心の琴線が擦り切れる程に触れてきます。
…あ、今切れそうでした。やばいところでした。

『Baby Baby Baby Baby…』
BGMが流れ、なんだか危険な雰囲気がしてきました。
浜辺の向こうから上半身裸のヘンな人が雄叫びと砂煙を上げて走ってきます。
「おい、風子っ!こんなとこで何してるんだよ。ヒトデ祭り、は〜じま〜っちゃ〜うぞ〜!?」
やばいです。最悪です。やっぱりこの人は考えられる限り最高にヘンな人です。

ヘンな人は有無を言わさず私の手を取って走り始めました。
最悪にヘンな人なのに、不思議とそう嫌でも無いです。

いよいよヒトデ祭りの開始です。
額にヒトデを張り付けた上半身裸の荒くれ男達が、東西に分かれて「ヒトデ!ヒトデ!」と気勢を上げます。
大興奮です!一大スペクトルです!全米も震撼です!
そして、興奮もピークに達した時、ヒトデの巫女がおごそかに告げました。
「朋也君が、一番激しくヒトデでしたっ」
沸き起こる歓声が大地を揺らします。
「ふぅちゃん、勝利のヒトデダンスを踊りましょうっ」
ヘンな人とヒトデの巫女は、私の手を取ると踊り始めました。
皆楽しそうに笑っています。
そして、風子もいつのまにか笑ってました。
        
「…ふぅちゃん、良く寝てます」
「なんか笑ってるな、こいつ」
「きっと、夢を見てるんです。いい夢みたいで良かったです」
「俺はなんとなくさっきから悪寒がするんだがな…」

(Special Thanks 激しく風子スレの皆さん)
200名無しさんだよもん:04/06/04 01:41 ID:INMb/piW
>>189
ベタな言い方だけど、よかったよ。
GJ!
201名無しさんだよもん:04/06/04 05:40 ID:C+L8oU42
・・・・・その巫女って誰?
202名無しさんだよもん:04/06/04 10:03 ID:LryIq1FU
「退屈な朝」
お世辞にも上手な文章だとは言えないけど
話の内容次第ではその文章を補えることが良く分かる典型ですね。
ぶっちゃけ面白かった。がんばってください。
203名無しさんだよもん:04/06/04 10:51 ID:gYxmvMbS
>>196
DNML専用スレに行ってください。
>>201
激しく風子スレ参照。
204名無しさんだよもん:04/06/04 15:41 ID:tnPgnZ0G
>退屈な朝

ワラタ、おもろい!次回作期待sage
205名無しさんだよもん:04/06/04 16:02 ID:DWuxN8Wb
206名無しさんだよもん:04/06/04 16:22 ID:tnPgnZ0G
>>205
いいな。ニヤニヤしながら見たから家族に変に思われたかも
マターリマンセー
207むくどりのこゝろ:04/06/04 23:13 ID:JvLg6wD5
私は岡崎朋也が好きだった。
そう、好き“だった”のだ。

彼と面識があるわけではなかった。
ただ、高校二年のとき、たまたま姉と彼は同じクラスになり親しくなった。
そのおかげで、姉との会話の中でたびたび彼のことが話題として上がるようになり、
結果、私は彼に興味を持つようになった。
ただそれだけのこと。
ロマンティックでもなんでもなく、人に胸を張って言えるような大した理由ではない。
本当に極々些細なきっかけ。
しかし、そんな瑣末な事象が起因となったその感情は、間違いなく思春期の少女が陥る「恋」という病そのものだった。
もっとも、当の本人はそんなことを知る由もなく、
姉の話から聞くだけの「岡崎朋也」という人物への想いを日に日に募らせていく一方だった。

高校三年の春、クラス割の発表があったとき、私は小躍りしてその結果を喜んだ。
何故なら、「藤林椋」と書かれたD組の欄にはっきりと「岡崎朋也」の文字が刻まれていたからだ。
私は神に感謝した。
いや、「何の?」と聞かれてしまうと返答に困る。
私はクリスチャンでもなければ神道に通じているわけでもないし、もちろん仏教徒でもない。
典型的な“チャンポン”であって、特定の神様を崇めているわけではないのだ。
この時はとにかく「神様」という存在に感謝したのであって、私のような無信仰の人間にはそれで十分だろう。
無信心の人間が神様に感謝するというのも変な話ではあるが……。
まあ、何はともあれ、私はこの偶然を素直に喜んだ。
新学期から始まる、恋焦がれし人との学園生活に想いを馳せて。
208むくどりのこゝろ:04/06/04 23:14 ID:JvLg6wD5
彼と同じクラスになったと知ったときにはあれこれと想像を膨らませて、
私は一人、夢想に浸って楽しんでいた。
しかし、そうそう希望どおりに物事は進むはずもなく、
実際に新学期が始まると、その妄想は跡形もなく消し飛ばされる結果とあいなった。
それは当然といえば当然のことなのだが、待てども待てどもいっこうに彼との距離は縮まらず、
一週間ほどたっても話をする機会は訪れなかった。
これでは、彼との甘い学園生活など夢のまた夢。
それどころか、姉のように彼と友人関係を築くことすら現状では困難に思えた。
だが、それも致し方ないことだった。
元来、私は姉と違って積極的に人と関わろうとするような性格ではない。
どちらかというと「待ち」のタイプで、その場の流れに従ってしまうことのほうが圧倒的に多いのだ。
だから、何の接点もない人物とお近づきになるなんてことはボタンを鍋にして食べてしまうのと同じくらい困難なことに思えた。
……いや、さすがに命をかけるほどのことではないか……。

それでも、このときの私はいつになく積極的だったと言っていい。
ある日、私は彼に話しかける決心をした。
口実は「朝のHRで配られたプリントを彼に渡す」という、言ってみればどうでもいいようなことだったが、
同じクラスという以外に特にこれといった接点を持たない私にとっては十分なものであった。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り終わると、そそくさと席を立ち彼の元へと向かう。
身だしなみはチェック済み。
肝心のプリントも右手にしっかりと持っている。
準備は万端、ぬかりはない。
小さく深呼吸をすると、私は意を決して彼に話しかけた。
「あの…」
これが私の精一杯。
意を決した割にはその声はとても弱々しかった。
だが、
「ん?」
彼は私の呼びかけに応じてくれた。
209むくどりのこゝろ:04/06/04 23:15 ID:JvLg6wD5
望んだこととはいえ、いざ会話をしようとすると何を言えばいいのかわからなくなってしまい、
「あ…」
なんて、思わずまぬけな反応をしてしまう。
顔から火が出るほど恥ずかしかった。
いや、実際火が出ていたに違いない。
私の顔は間違いなく平熱異常の熱を発しており、そのあまりの熱さに意識が朦朧としてしまっていた。
だが、いつまでも呆けているわけにもいかず、
とりあえずこの場を取り繕おうと茹で上がった頭で慌てて次の言葉を探し出す。
しかし、
「え…えっと…」
こんな腑抜けたことしか言うことができなかった。
つくづく自分の小物っぷりが嫌になる。
だが、そんな私などお構い無しに彼は話を続ける。
「…なに?」
「あ、あの…これ…」
胸が爆発してしまうんじゃないかというほどに高鳴っていて、まともな対応ができなかったが、
なんとか手に持っていたプリントを差し出すことができた。
そんな私に投げかけた彼の第一声は、
「…ラブレター?」
ーーーーーーーーーーーっ!?
なんて事を言うのだろう!?
この瞬間、私は臨界点を突破し爆発した。
「え? ち、ちがいま――…」
「見かけによらず大胆だな?」
「むき出しで渡すなんて、なかなか出来る事じゃないぞ」
「その…ラブ…レターとか…そんなのじゃないで――…」
もはやリミッターの壊れた私は、何を言っているのか自分でもわかっていなかった。
「じゃあ不幸の手紙か? こんなに堂々と渡すってのはイジメだと思うんだが…」
「ふ、不幸の手紙でもないと思います…」
210むくどりのこゝろ:04/06/04 23:16 ID:JvLg6wD5
「………」
「………」
話が途切れた。
それは救いであったのか、おかげで少しだけ平常の状態に戻ることができた。
しかし、少し気が緩んだところに再び無慈悲な言葉が投げかけられる。
「果たし状?」
「〜〜〜…」
絶句するしかなかった。
私はいったい何をしているのだろう?
憧れの人と今こうやって向き合いながら話しているというのに、全く会話になっていない。
情けないやら、惨めやらで、私はもうこの場から逃げ出してしまいたかった。
しかし、自分から声をかけた以上そんなことをするわけにはいかず、
残る力を振り絞って、手に持っていたプリントを彼の胸へと押し付けた。
「あ、朝のHRの時に配られたプリント…です」
何とかそれだけは言葉にすることができた。
もっとも、彼は私のそんな苦労を気取ることもなく、
「なんだ、つまらねぇ」と一言つぶやいた。
泣きたかった。
私はこの人の瞳に映っていない。
私がどんなに必死になっても、彼、岡崎朋也にとってはどうだっていいことなのだ。
「………」
呆然と立ち尽くす私。
もはや次に何をすればいいのかなんてわからなくなっていた。
だが、そんな私に彼は容赦なく痛烈な一言を浴びせかける。
「…ん? まだ何かあるのか?」
ここで私は退場。
彼に興味をもたれなかった私は二度と話をすることもなく、学園生活最後の一年は失意のうちに過ごすこととなる……はずだった。
「ぁ…えっと…あまり遅刻とかしないほうが良いと思うんです」
正直、はじめは誰が発した言葉かわからなかった。
だが、この場でこんなことを言うのは自分しかいない。
信じられなかったが、現状ではそれが事実だと思わざるをえなかった。
211むくどりのこゝろ:04/06/04 23:17 ID:JvLg6wD5
「…別におまえには関係ないだろ」
もっともな意見だ。
私はなんでこんなことを口走ってしまったのだろう?
藤林椋というのは引っ込み思案で気が小さくて口下手な人間ではなかったのか?
――いや、最後の一つは誰がなんと言おうと疑いようのない事実か……。
それでも、自分が自分で思っているような人間でなかったことに少なからず感動していた。
もはや、ここまで来たら行くところまで行くしかない。
やってしまったものはしょうがないのだ。
「でも…その…学校には…ちゃんと来たほうが良いと思いますから…」
「委員長ともなると、同じクラスの奴の出席にまで口を出すのか?」
「そ…そういうわけじゃ…ないですけど…でも…」
ここで引くわけには行かない。
がんばれわたしっ!
「…その…」
溢れそうになる涙をこらえて言葉を続けようとした。
「………」
彼はそんな私を見て押し黙っていたが、やがて根負けしたように口を開いた。
「悪かったよ、ちょっと言い過ぎた」
勝った。
「いえ…出すぎたことを言った私が…悪いですから…」
「…すみません…」
ちゃんと彼をフォローしておくのも忘れない。
完璧だ。
「おい岡崎、委員長泣かすなよ。姉貴が飛んでくるぞ」
セコンドからタオルが投げられ試合終了。
序盤、劣勢に追い込まれたものの終盤捨て身の攻撃に転じたおかげで、終わってみればT.K.O.、文句なしの圧勝だった。
「…大丈夫です…泣いてませんから…」
試合後に相手の健闘をたたえることも忘れない。
我ながら惚れ惚れするような鮮やかさだ。
もはや彼に私を拒む術はない。
212むくどりのこゝろ:04/06/04 23:18 ID:JvLg6wD5
「…まぁ忠告だけはもらっとくよ」
「あ、は、はい…」
「でも、できれば…遅刻しないようにして下さい」
私の口調は心なしか軽やかだった。
最初、彼に話しかけた時点では考えられないような格段の進歩だ。
そして、それだけでは飽き足らず、調子に乗って上着のポケットからトランプを取り出した――。

それからのことは良く覚えていない。
有頂天になった私はお得意のトランプ占いで何か占ったような気がするが、
そんなことはどうでもよかった。
ただ、日々思い描いていた夢を叶えることができた、それだけで十分だったのだ。
その後、特に親しくなったわけではないが、
少なくとも以前からは考えられないくらい彼と話すようになった。
憧れていた学園生活が、現実のものになろうとしている。
春の陽気もあいまって、私の頭の中はほんのりととろけていた。
213むくどりのこゝろ:04/06/04 23:19 ID:JvLg6wD5
ここまでが私と岡崎朋也の出会いのお話。
それは理想とは程遠い内容だったが、その結果には大いに満足していた。
そのときの浮かれようはどう表現したらいいものか。
それは例えるなら、
日曜日、デパートの屋上に現れたヒーローを間近で見ることのできた子供のような、そんなはしゃぎよう。
そう、彼は私にとってブラウン管の中のヒーローそのもの。
姉というフィルターを通してのみしか知りえなかった彼とこうして直で話すことができるのは、
私からしてみれば絵本の中から飛び出してきた空想上の人物と接しているような、そんな幻想的な出来事だったのだ。
今にして思えばそれはわずかな期間であったが、私はしばしこの夢を楽しんでいた。
214むくどりのこゝろ:04/06/04 23:20 ID:JvLg6wD5
さて、これから後のお話を語る前に、まずは姉の話をしておかなければならないだろう。
何故なら、私と姉は二人で一つ。
その存在は不可分であり、どちらか一方が欠けても満ち足りない。
彼女なくして私はありえないし、私なくしてもまた、彼女の存在はありえないのだ。
故に、私のことを語るのならば彼女の話もしておくのが道理というものだろう。

私には双子の姉がいる。
性格はまるで違うが、外見は驚くほどそっくりだ。
目鼻、顔立ちに身長と、そのほとんどの身体的特徴は一致する。
相違点を強いてあげるならば髪型(と体重)くらいなものだろうか。
余談だが、姉がダイエットをしたことがないなどとうそぶいたときには、本気で殺意がわいたことをここに付け加えておく。

話を戻そう。
先ほども述べたように外見上はいくら似ていても性格はまるで違う。
彼女が向日葵だとしたら私はさしずめ月見草、といったところだろうか。
姉はいつでも輝いている存在であり、一通りのことは人並み以上にこなす。
性格も明るく、そのサバサバとした振る舞いのおかげで彼女が友人作りに困ったことなど見たことがない。
相手が誰であれ、彼女にかかればものの数秒で“落ちて”しまうのだ。
引っ込み思案で、こと人間関係に関しては消極的な私から見ればうらやましい限りである。
何一つ人に誇れるものがない私から見れば、姉は憧れの人だった。
姉はいつでも私を導いてくれる。
そして、いつだって私のことを考えてくれる。
そんな姉のことを誇りに思う自分がいて――そして、疎ましく思う自分もまた、確かに存在した。
このような罪深き人間にはさぞかし不幸が似合うことだろう。
その後に訪れた困難は、ある意味当然の成り行きだったに違いない。
215 ◆OIxaF4KY9I :04/06/04 23:21 ID:JvLg6wD5
以上で前編終了です。
後半はこの休日中になんとか書き上げたいと思います。
216コテとトリップ:04/06/04 23:27 ID:zilUpLKc
うまい、おもしろい、読みやすい、自分を出しすぎ
もっと作者が引っ込んで客観的に書いてくれたなら、おれのツボ直撃だったんだが、それは贅沢なんだろう
続き読みてえ。がんばれ
217名無しさんだよもん:04/06/04 23:30 ID:tnPgnZ0G
続き・・・・まだぁ・・・?期待age
続きよみてえ・・・
218名無しさんだよもん:04/06/04 23:40 ID:5EUuavCH
おーがんばれ、読みたい。
219名無しさんだよもん:04/06/05 01:41 ID:ybXOlRGY
おもろいけど
ですます口調で書いてくれた方が椋らしかったかな
220コテとトリップ:04/06/05 01:43 ID:vzkrN72I
>>219

まじっすか!?
221原点回帰:04/06/05 02:05 ID:kj9SBMLI
おお、椋SSだ。しかもかなりいい感じ。
がんがれー

>>219
口調の硬さと過去形のところを見るに、後日談っぽいしこれでいいんじゃね?
222 ◆Y3iyltz542 :04/06/05 05:00 ID:noXv7Udm
前スレ860-864,886-890再婚afterプロローグ書いた者です。
あの後さらに智代・ことみと再会させて、さあ誰とくっつくんでしょう?でまとめようかと思ったのですが…。
智代はともかく、ことみみたいなキャラは苦手でした。
椋で最後まで行きます。
◆OIxaF4KY9I氏と椋特集ですな。
223再婚afterインターミッション:04/06/05 05:03 ID:noXv7Udm
日曜日、いつものように古河家を訪ねる。
昼食をいただきながら、最近のことを話す。
「最近の朋也さんは、なんだかモテモテですねっ」
「えー、そんなことないっすよ」
かつての同級生に話が及んで、早苗さんが茶化す。
「そうだぞ。モテモテなんじゃなくて、昔の知り合いが同情してくれてるだけだー」
「はいはい、その通りです」
オッサンはそれを否定してくれたが、代わりに俺を貶める。
「でも、早苗さんと汐にモテれば十分ですよ」
「あら、私もいいんですか?」
「もちろんです」
「貴様ーっ、俺の目の前で早苗を口説くとはいい度胸じゃねーか!」
叫びながらオッサンが飛び掛かってくる。
「暴れるならご飯の後にしてくださいねー」
「「はーい」」
しかし、早苗さんに対しては素直な俺たちであった。
一発小突かれただけでその場は解放された。

224再婚afterインターミッション:04/06/05 05:04 ID:noXv7Udm
午後は店番を早苗さんに任せて、野球に引っ張り出される。
休憩中、オッサンが話しかけてくる。
「なあ、朋也よ」
「なんすか?」
「さっきはああ言っちまったけどな、俺たちに遠慮することはねえからな」
「はあ?」
「なんだ? 再婚すんじゃねえのか?」
「早苗さんくれるのかっ!?」
「誰がやるかぁっ!」
「遠慮するなって言ったじゃんよ」
「他の女とだ。馬鹿もんがぁ」
「じゃあ、しねぇよ」
「じゃあってなんだあ? はぁはぁ、もういい。おめーみたいな甲斐性無しにゃ無理だ。無理」
「ちぇー。なんだよ」
だけど、ふと思う。
誰かが隣にいてくれるときの楽しさを。
それは汐ではない別の人で、俺と同じ目線で汐を見守ってくれる人なんだ。
もし、その人が俺を必要としてくれるのならば、俺はどうするのだろう?
225再婚after椋1:04/06/05 05:08 ID:noXv7Udm
藤林姉妹と再会して数ヶ月。
時折、一緒に食事をしたり買い物につき合わされた。
その日も、誘われて遊園地に行くことになっていた。
杏が迎えに来るというので、部屋で待っていた。
ボヘボヘボヘボヘ……。
やたらやかましいエンジン音がアパートの側に止まった。
まさか、な。
「おはよー」
杏が上がってきた。
「おす。やっぱおまえなのな」
「何が?」
「いや…」
「せんせー、おはよーございます」
「おはよう、汐ちゃん。今日は楽しみにしてたかな?」
「うん」
「よし。お弁当もいっぱい作ってきたからね」
「わぁ」
三人で部屋を出る。
杏の車を見せられる、どんな改造車かと思ったのに。
「おまえ、なんつーボロイ車乗ってんだっ」
「いいのよ、雨の日しか乗らないんだから。安物で十分」
「安物っていくらよ?」
「七万だけど?」
「七万て…、絶対ニコイチな」
「バッカねー。こんな車ニコイチにしたって工賃で足が出るに決まってるでしょ。だからそれはない、安心なさい」
「まぁニコイチ以前のボロさなんだけどな」
バイクはピカピカなのに。
後部ドアを開けようとする。
「あ、あんた運転してね」
226再婚after椋2:04/06/05 05:14 ID:noXv7Udm
「何で?」
「汐ちゃんにカッコイイところ見せなきゃ。ねぇ」
と、汐に振る。
「……」
じーっと俺の顔を見つめる。
フッ。しょうがない。
汐の頭を一撫でして、運転席にまわる。
その外見とは裏腹に、中はいい香りが満ちていた。
芳香剤のようにどぎつくない、杏の香水だろうか?
「あ、エアコン付けないでねー。カビ臭いから」
「……」
後部座席では、杏が汐のシートベルトを付けてくれた。
「よーし、準備オッケー」
「オッケー」
二人の合図に、ゆっくりとアクセルを踏む。
ボヘボヘ、ガクン、ボヘボヘ…。
「やーい、ヘタクソー」
「俺のせいかよっ! オートマじゃねえかっ!」
「子どもの前で言い訳見苦しいよー」
「汐ぉ〜、悪いのはパパじゃなくて車なんだからな」
「パパ何言ってるんだろうねぇ?」
「うん」
くっそー、ハメられた。

椋との待ち合わせ場所。
「おはようございます」
あいさつしながら助手席に乗り込む。


227再婚after椋3:04/06/05 05:16 ID:noXv7Udm
「りょうさん、おはよーございます」
「おはようございます、汐ちゃん」
「遅れてごめんねー。朋也が運転ヘタでねー」
「何でも俺のせいかよっ!」
杏に案内されながら、目的の遊園地に向かう。
だがその指示は遅れがちで。
「曲がるんならもっと早く言えよ」
文句を言った。
「しょうがないでしょ。後ろからじゃ、見づらいんだから」
「そうだね、お姉ちゃん席交換しようよ」
「あ、大丈夫よ、ちゃんと見てるから」
また何か企んでるな。
警戒することにした。
汐の口数が少なくなった。
車酔いでもしたのだろうか?
「汐ちゃん、気持ち悪くないですか?」
椋も気付いたのだろうか、後ろを向いて汐に尋ねた。
さすがは看護婦さん。
「うん、だいじょうぶ」
初めてのドライブもさすがに飽きてきただけのようだ。
汐の歌声が流れる。
「……だんごっ、だんごっ、だんごっだいかぞく」
「おっ、汐ちゃんの十八番だね」
杏が汐に合わせて歌い始める。
「とーさん、かーさん、きょーだい、しーまい、ぼくら、ひゃくにんだいかぞく」
「岡崎くん、私たちも…」
「まんまんるだんご、こーろこーろ、ころがるだんご」
椋に促され、俺も歌に加わった。
四人でだんご大家族を歌う。
本物の家族のように。
228再婚after椋4:04/06/05 05:18 ID:noXv7Udm
遊園地に着いた。
四人でパンフレット見つめる。
「まずは、何に乗ろっかー?」
「ゴーカートだっ」
はあ?という表情を女性陣に向けられる。
「いーじゃん。汐にカッコイイところ見させろよっ」
「もう、ガキなんだから」
乗り物チケットを一枚もらった。
「やったーーー。お前らホれるなよ」
「ホれるかぁっ!」

ゴーカート乗り場を出るなり、ガクリと膝をついた。
「大丈夫ですか?」
椋が駆け寄ってきて気遣ってくれた。
「ああ」
「あの…、もう一周してきますか?」
「…いい」
差し出してくれたチケットを断る。
顔を上げると、杏が汐に何かささやいている。
「パパ。おめいばんかいがんばったね」
先生、娘に正しい日本語を教えてくれてありがとうございます。
「いいかい、汐」
「うん」
「このゴーカートは十歳以上対象なんだ。パパは十歳以上だけど背が高いだろ?」
「うん」
「そのせいで、ハンドルに足が当たっちゃって、うまく運転できなかったんだ。分かるかい?」
「うーん、わかんない」
「つまりー、汐が十歳になったらパパの代わりにリベンジしてくれるかい?」
「うーん、でも、かわいいのりもののほうがいい」
「だよねー。じゃあメリーゴーラウンド乗りに行こうか?」
「うん」
229再婚after椋5:04/06/05 05:21 ID:noXv7Udm
杏が汐の手を引いていく…。途中、振り返る。
「あっ、朋也ぁ」
「あー?」
「ホれそう…。同情のあまりっ! プププ」
「オーズ!」
両手を地面についた。
もはや立ち上がる気力もなかった。
「ほら、岡崎くん立ってください。置いて行っちゃいますよ」
「うん」
「言うこと聞かないと、痛いお注射しちゃうぞー」
「痛いの平気だもん」
甘えさせてくれそうだったので、ダダをこねてみた。
「そうですか。岡崎くんは大人ですから、静脈カテーテルくらいじゃないとだめですね」
ゾクリ。
「……」
「ものすっっっごく痛いんですよ?」
看護婦さんのセリフは説得力があった。
「あ、すいません。直ったみたいです」
「はい」
前を行く二人を、椋と追う。

昼、一人、一時退場して車に弁当を取りに行く。
トランクを開けると大きな包み。
これを一人で持ってこいと?
しかし、これだけの物を作る労力を考えると、文句は言えないよな。
包みを下げて、待ち合わせの場所に戻る。
「ご苦労!」
杏は俺から包みを受け取ると、それをレジャーマットに広げ始める。
「しかしよー、多すぎだろ?」
「なーに言ってんの。全部食べて汐ちゃんにカッコイイところ見せなきゃ」
230再婚after椋6:04/06/05 05:23 ID:noXv7Udm
「大食いのどこがカッコイイんだぁっ」
「カッコイイって。ねぇ?」
と、またも汐に振る。
「うん、かっこいい」
汐よぅ、先生の言うことが全て正しいとは限らないんだからなー。
でも、それを言ってしまったらご飯抜きになりそうだったので言えなかった。
椋が自分のバッグからゴソゴソと、小さな包みを取り出した。
「あの。実は私も少しだけ作ってきました」
小さめの弁当箱が二つ。それぞれに一口大のコロッケと野菜の煮物が入っていた。
「えっ」
ただでさえ多いのに、さらに増えてしまった。
しかも、こいつの料理って……。
「あっ。今失礼なこと考えたでしょっ?」
「そうなんですか?」
「とんでもない」
慌てて、コロッケを口に放り込んだ。
ソースもかけなかったが、具の方に味が付いていて美味しかった。
「うまい」
「ありがとうございます」
「どれどれ? 汐ちゃんにも、はい」
「いただきまーす」
杏と汐もそのコロッケの味を見る。
「んー、上出来ね」
「おいしー」
考えてみれば、椋もかつては結婚していたんだ…。
愛する人を思い、練習を重ねたのだろう。
ただ、彼女の結婚生活は夫の病魔との戦いでもあったはずで…、もしかしたら、手料理をふるまう機会はあまりなかったのかもしれない。
それでも、おいしいよと言って欲しくて、何度も料理を作ったのだろうか。
231再婚after椋7:04/06/05 05:26 ID:noXv7Udm
半分まで食べたところで、女性陣が脱落。
俺一人で残り三分の一まで食べたが、そこで箸を置いた。
「うっぷ。ごめんなさい。これ以上はもう無理です」
「しょーがないわねー。まあ、いいわ。残りは明日ボタンに上げるから」
だったら最初からそう言えよな。
「パパー、アイスたべたい」
小さくても女の子、甘い物は別腹ってか。
「よーし。何味欲しいんだ?」
「んーとねー。チョコあじ!」
「あ、あたしもチョコね」
「はいよー。椋は?」
「じゃあ、バニラをお願いできますか」
ソフトクリームをチョコ二つ、バニラ一つ買ってくる。
俺は杏が持ってきた水筒から、お茶をいただく。
とても気持ちのいい一時。
「さーて、午後の部行ってみよーかー?」
三人ともがソフトクリームを食べ終わるや、杏が言う。
「えー、もうちっと休ませろよー」
一瞬、杏の顔がニヤリとしたのを見逃さなかった。
身構える。
「そう? じゃ、汐ちゃんと二人で遊んでくるから、あんたら荷物の番お願いね」
あれ、と拍子抜け。
「汐ちゃん、先生と二人きりだけど行くぞー!」
「おー!」
本当に行ってしまった…。
「毎日、子どもと遊んでんのに、元気だねぇ」
「岡崎くん、それは違います」
「んー?」
「遊んでるように見えても、お子さんたちがケガしないように見守っていると思います。あんなお姉ちゃんですけれど、多分」
確かに。だからこそ、俺たち親は安心して子どもを預けられるんだ。
232再婚after椋8:04/06/05 05:29 ID:noXv7Udm
「悪ぃ。失言だった」
「いえ」
「だから、今のは杏には内緒にな」
「はい」
椋の返事を聞きながら横になる。
本当に気持ちのいい日だった。
「あ、寝ちゃってもいいですよ。荷物は私が見ていますから。今日は暖かいからカゼも引かないでしょうし……」
椋の話し声が遠くなる。

夢を見た。
家族三人で遊園地に来ていた。
俺と、汐と、もう一人。本来いるべき人。
渚。
汐が笑いながら走り出す。俺と渚も走って追いかける。
あっと言う間に追いついて、三人で笑い合う。
渚が俺に話しかける。その声は聞こえない。
俺も渚に話しかける。その声は届かない。
渚が汐に話しかける。その声も届かない。
汐が渚に話しかける。その声は俺にしか聞こえない。
渚…。
ゆっくり目を開ける。
その世界に夢の続きはなかった。
「起きられました?」
「ああ、どんくらい経った?」
「えと、二時間くらいですね」
「二時間? 子ども放って何やってんだ、俺は」
面目ないと頭を下げた。
「お前ずっと待ってたの?」
「いえ、さっきまでお姉ちゃんと交代して汐ちゃんと遊んでいました」
「マジ? 鏡ある?」
233再婚after椋9:04/06/05 05:33 ID:noXv7Udm
「はい…、ちょっと待ってください」
バッグからコンパクトを貸してくれた。
「よかった。落書きはされてねーや」
でも、目は真っ赤に充血していて、まるで泣いた後のようだった。
「ああっ、岡崎くん、それは酷いです」
「冗談だよぅ。だから、今のも杏には内緒にな」
「二度目ですよ。どうしようかな?」
悪戯っぽく微笑む。どうされるんだろう?
「……うん。では、岡崎くん」
注文が決まったようだ。
「はい」
「私の言う通りにしてくれたら、お姉ちゃんには黙っていてあげます」
「おう」
「岡崎くん、」
左手を差し出される。
「この指輪、外していただけませんか?」
ドクン!
心臓が高鳴る。
制御しきれないごちゃ混ぜな感情が暴れている。
椋は、真っ直ぐに俺を見つめたまま。
その瞳に操られるかのように、椋の手を取った。
震える右手、人差し指と親指を指輪に添える。
冬の終わりの日を受けて輝く指輪。
でも、よく見るとそれはあまりにも安っぽい。
まるで…。
俺が渚に贈った指輪のように。
渚…。
234再婚after椋10:04/06/05 05:34 ID:noXv7Udm
渚はいないけれど、もはや悲しみに沈むことはない。
心は満ち足りているから。
それは、誰のおかげなのか。
渚を忘れたくない。忘れるものか。
椋よ、何で俺なんかにこんな事させるんだ?
おまえならば、この気持ち分かるだろう?
そりゃあ、おまえのことは好きだけれど…。
好きだけれど…誰よりも近くにいる友だちで…。
…いられない。
友だちでは…、いられない…。
俺は椋が好きなのか…。
そうか…。
ならば…、心に新しい場所を作ってやってもいいか? 渚?
気持ちが落ち着いていく。
右手を引く。
薬指の第二関節でわずかな抵抗がある。
それは椋の本当の気持ちのようだった。
でも…。
俺が渚を思い出に変えるために。
椋が夫を思い出に変えるために。
俺と椋で手を取り合って生きていくために。
右手を軽く捻りながら引き、左手は彼女の方に送る。
行こう、椋。
この先の道を。
俺と…。
外した指輪を、彼女の左手に握らせる。
椋の瞳から涙がこぼれた。
彼女は右手でハンカチを出して…、俺の頬に…、当てた。
俺も涙を流していた。
だけど、俺はハンカチを持っていなかったので、シャツの袖を引っぱって、それに椋の涙をしみこませた。
二人の涙が止まるころ、指輪はハンカチに包まれて、バッグに優しく仕舞われた。
235再婚after椋11:04/06/05 05:36 ID:noXv7Udm
「椋」
「はい」
「新しい指輪、買いに行こうな」
「え、それって…?」
「気が、早かった…かな?」
「いえ、ありがとうございます。…とっ、朋也くん」
「うん」
二人、寄り添う。
椋は遠慮がちに頭を預けてくる。
「あのっ。今の仕事好きなんです。続けてもいいですか?」
「ああ、もちろんだ。経済的にも…その…助かる…」
「シフト不規則でご迷惑かけますけれど、それでもいいですか?」
「家事ならずっとやってたんだぜ? まかせとけ。汐も春には小学生だしな」
「はい。汐ちゃんにお母さんて認めてもらえるよう、努力します」
そこまで言って、二人で照れ合う。
やがて、汐と戻ってきた杏が、二人の雰囲気の変化に気づきニヤリと笑う。てめぇの企みはこれだったのか?
「汐ちゃーん。もしかしたら新しいママができるかもしれないよー」
「ほんとー?」
「うん。そしたらねー、弟か妹もできるかもしれないねー。汐ちゃんはどっちがいい?」
「りょうほう!」
「両方かぁ。そっか、そっか。でも、パパにそんな甲斐性あるかなー?」
「うーん。わかんない」
「あるよっ」
「ウソっ、あるの?」
椋はとっくに顔を真っ赤にしてうつむいている。
助け船は期待できない。
くっそー、お義姉ちゃんて呼んでやる。
悶絶しやがれ!
「お義姉ちゃんっ!」
「なぁに義弟よ!」
ダブルノックアウトだった。
236再婚after椋12:04/06/05 05:39 ID:noXv7Udm
一人で、古河家を訪ねる。
先のことは全く決まっていないけれど、とにもかくにも、報告したい人たちがいたからだ。
「結婚したい人ができました」
「そうですかっ。それは、おめでとうございますっ」
「早苗ならやらんぞぅっ!」
「残念ながら違います」
「ああ、それは本当に残念です」
え、そうなんですか?
「早苗ぇぇっ」
「秋生さん、静にしてください」
「ちぇ。で、相手は?」
「幼稚園の先生の妹の、…藤林椋っす」
「そうですかっ。おめでとうございますっ」
「ありがとうございます。それと……」
一つだけお願いがあった。
「結婚してからは今までのようには、来れなくなると思います。
「それでもっ、たまにでもっ、遊びに来ていいですか?」
「もちろんですとも」
「さっさと曾孫まで連れて来やがれっ」
それは杞憂だった。
だけどその喜びを、最大限に伝えたい。
「お二人になら玄孫だって見せられますよ」
237再婚after椋13/13:04/06/05 05:40 ID:noXv7Udm
「へへ、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。孝行息子」
「でも、さすがにそのためには、汐を早くお嫁にやらなければなりませんねっ」
「うっ。それは…嫌だな」
「へーん、ダメだね。おめぇも娘を嫁にやる悲しみを味わいやがれっ」
オッサンが俺の弱点を攻める。
「えー、二百歳まで生きてくれよー」
「俺たちは妖怪かっ」
いや、その若々しさはすでに…入ってませんか。
「そして、家族が増える喜びも味わってくださいね」
ああ…。
俺はすでにこの二人にとって、欠けがいのない家族になっているんだって。
だからこんなにも俺のことを、祝福してくれるんだって。
そう、思った。
渚よぅ。
おまえも、俺のこと、祝福してくれるよな…。
なぁ、渚…。
「「はいっ」」
古河家を後にする。
遊びに来ます、必ず。
俺と、汐と、椋と。
そして、まだ見ぬ新しい家族を連れて。

238 ◆Y3iyltz542 :04/06/05 05:43 ID:noXv7Udm
ドクン!のとこでテンション切れた…。

流れ見て杏編上げるかも。
つーか、途中で設定ミスに気が付いて杏とニコイチしたら、慌ただしくなってしまった…。
だんご大家族の歌詞は、
みんなでだんご大家族を歌おう!!
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1085928237/l50
からの引用です。
239名無しさんだよもん:04/06/05 05:52 ID:4E23iQQa
>>238
結構良かったけど、ちょっと結婚決めるのが早すぎる感が。
再開から遊園地までの数ヶ月を、少しでも書いてくれると、良かったんだけど・・・
なんか、一日で決めたみたいに感じられて、魁が思い浮かんでしまう。
>>238
おまえのおかげで椋が尻軽だという事実が揺るぎ無いものとなった
アンチ椋の俺としては感謝
241名無しさんだよもん:04/06/05 09:12 ID:ZnMXHPwh
>>215
この口調、
なんとなくマリみてを想像してしまった。
でもなかなか読ませるね。
期待。
242名無しさんだよもん:04/06/05 12:00 ID:X9yl9H3W
>>239
漏れもそう思った。

そこら辺は脳内補完しておきますw
243 ◆Y3iyltz542 :04/06/05 16:23 ID:fSjWuDPI
最初は汐を二年保育のつもりで書いてたもんで。
婚約だけして結婚はずっと先とか思っておいて下され。

あ、朋也が指輪外さない場合でも、椋は自分で外しますのでw
244名無しさんだよもん:04/06/05 17:05 ID:KOFKOAOp
245名無しさんだよもん:04/06/05 20:48 ID:OUBm+s2q
私的には、修学旅行のSSが見たいなぁ。
246名無しさんだよもん:04/06/06 00:24 ID:1371uQ26
朋也「旅費払えないくて修学旅行行けないから」









でも、真面目に学費は誰が払ってるんだろうかと疑問に思う。
親父が払っているんなら、朋也も少しは感謝せぇとは思う。
247名無しさんだよもん:04/06/06 01:13 ID:lHKh8Q8F
>>246
っていうかそれ以前に親父って働いてたのか?
どうもあの人が働いてるようには思えないんだが
248名無しさんだよもん:04/06/06 01:18 ID:sftrZJaq
あぶない仕事やっててタイーホされたじゃん
249名無しさんだよもん:04/06/06 01:28 ID:G4hWBupA
芳野あたりに何か売ったりしてたかもな。
250名無しさんだよもん:04/06/06 02:28 ID:lHKh8Q8F
>>248
俺が言ったのは朋也がまだ学生だった頃のこと
やばい仕事やってたのはAFTERのときだろ?
251名無しさんだよもん:04/06/06 04:01 ID:yuSheIhX
こっそり祖母が払ってました
252名無しさんだよもん:04/06/06 05:52 ID:NQzEeXD7
スポーツ特待である程度免除されたから入学時に一括払いできた。
そのころはまだ直幸もギリギリまともに働いていた、と想像する。

直幸がいつダメになったのかが正確にはわからんが、(描写されてたっけ?)
「親父の昔の仕事仲間」を朋也が「信用できる」と言えるほど知ってるわけだから、
直幸がダレたのはそれほど昔ではないはず。
253名無しさんだよもん:04/06/06 08:48 ID:pafuijKu
>>245
まあ大抵2年にやるだろうからあれだね
杏しか出ないような
そうすると渚は欠席中だな・・・
254名無しさんだよもん:04/06/06 09:11 ID:BCYDpR+L
あえて夏休みの個人旅行にしてはどうか。

好きなキャラだけ連れ出せる



ただし幸村は必須
255名無しさんだよもん:04/06/06 21:45 ID:3bEZGtVc
>>246
やっぱり、祖母が保証人になったんじゃないかな?
俺もそうしている。
256名無しさんだよもん:04/06/06 22:24 ID:lHKh8Q8F
>>255
あんたも苦労してんな
257高みへ 1/6:04/06/06 22:42 ID:G4hWBupA
「はい、岡崎です。って椋? 結構久しぶりじゃない。どうしたの?
 ふんふん。へぇそうなの。すごいわね、それ。きっと朋也喜ぶわ。
 悪いわね、あんたも勝平君のことで大変なのに。え? そうなんだ。
 良かったじゃない。ようやくあんたも落ち着けるってとこか。
 そうね、また会いましょ。家族ぐるみでね。うん、じゃね」

「ただいまーってくぁー、こいつもう寝てやんの。せっかく早めに
 帰ってきたのになぁ」
「おかえり、朋也。その子、今日たくさん走り回ってたから疲れちゃった
 みたい」
「はぁ…。自分の子供が起きてるのを週末しか見られない父親ってどうよ」
「ぶつくさ言わない。忙しいのはいいことよ。そのお陰で収入も安定して、
 この子だって幼稚園にやれてるし、あたしも育児に専念できるんだから。
 ま、すぐお味噌汁温めるから席についてて」
「おかずはなんなんだ」
「特製とんかつ」
「あれか。そいつは楽しみだ」
258高みへ 2/6:04/06/06 22:44 ID:G4hWBupA
「でね、朋也。椋から電話があったのよ」
「椋から? なんだって?」
「今病院で、再生医療の臨床試験をやろうとしてて、患者を探してるんだって」
「再生医療、ねぇ。失われた組織を回復するっていうあれ?」
「そう、それ。で、今回試験しようとしている技術は腱の再生して埋め込み、
 並行して神経接合を行うものなんだって」
「まさかそれを俺に受けろ、と? 腕の治療を?」
「もちろん、いきなり決定するわけじゃないけど、椋は推薦できる立場にいるから
 朋也はどうだってさ」
「うーん、仕事を長期にわたって休むのはなあ」
「あんまりかからないらしいわよ。髄から細胞を取り出すのに、無菌室で一週間。
 腱の培養中は通常生活に戻ってて良くって、暫く後、手術とリハビリで一ヶ月だって」
「充分長いぞ。医療休暇は取れるけど無給だし、この忙しい時期に同僚に
 かなり迷惑をかけちまう」
「ふぅ……ん。受けたくないなら仕方ないけど、最後の機会かもしれないのよ?
 技術が確立した後だと治療費も全額かかっちゃうし、年齢的にも無理になるかも」
「受けたくないわけじゃないけど、あまり困ってないしなあ」
「それは嘘でしょ。公園で他のお父さんが子供を高い高いしてあげてたのを見て、
 この子、あんたにせがんだじゃない。その時、頭を撫でてあげるだけだった。
 見ていてすごく痛々しかったわよ。あたしも辛かったし」
「…」
「無理に、とは言わないけどあたしは受けて欲しいのよ。この子のためにも、ね」
259高みへ 3/6:04/06/06 22:44 ID:G4hWBupA
「やっほー、朋也。リハビリ頑張ってる?」
「おお、愛しき妻にかわいい・・・あれ? かわいい我が子はどこいった?」
「母さんに預けてきたわよ」
「あれ? そうなのか」
「岡崎さん。嘘をつきましたか?」
「いや、そういうつもりは」
「あれ、なに? この子」
「リハビリ仲間の伊吹風子ってんだが、一応こいつは俺達とタメだぞ」
「嘘っ!?」
「今、とっても失礼なことを言われた気がします」
「あははー、ごめんごめん。でもかわい……、若々しいから同い年には見えないわ」
「最近まで何年も昏睡してたそうだからな」
「そうなんだ……。大変ね。ところで、伊吹さん。朋也にどんな嘘をつかれたの?」
「俺の子はかわいいんだぞ、風子の大好きなヒトデなんか目じゃないって言われました。
 それで、会わせてくれるって言うのでこの部屋に来てました」
「あー、そうだったんだ。それならつれて来れば良かった。あの、伊吹さん、
 明日つれてくるから、それでいい?」
「はい、楽しみにしてます」
「俺も楽しみにしてるんだからな。我が子に会えないなんて気が狂いそうだ」
「大げさねぇ。あたしが週に3回は来てるのに」
「もちろん来てくれるのは嬉しいが、妻が子の変わりになるわけじゃないっ」
「はいはい、わかったわかった」
260高みへ 4/6:04/06/06 22:45 ID:G4hWBupA
「んーっ、かわいいですっ」
「どうだ、まいったか」
「別に岡崎さんにやられたわけではないです」
「強がりな奴だな」
「それにしても、本当に可愛いお子さんですねっ」
「ありがとう、公子さん」
「おねぇちゃん」
「どうしたの、ふぅちゃん」
「風子もかわいい子供が欲しいです」
「じゃあまずはいい人を見つけないとね」
「風子と杏さんは綺麗さで実力伯仲だと思います」
「あははー、そ、そう?」
「ですから、この子より可愛い子を産むには朋也さんより美形な男性を見つけねばなりません」
「そいつは難題だな」
「要するに若い男性であれば誰でもいいと言うことです」
「おいっ!」
「こら、ふぅちゃん。岡崎さん失礼でしょ」
「あははは、まー気にしない気にしない」
「おい、風子。この写真を見ろ」
「はい? ………(* ´ヮ`)」
「ちょっと朋也、何見せたのよ……ヒトデの群れ?」
261高みへ 5/6:04/06/06 22:46 ID:G4hWBupA
「ってちょっと朋也、伊吹さんになに目隠ししてるのよ!」
「まあ見てろって」
「……わーっ! まっくらですっ! 何も見えませんっ! おねぇちゃん、どこですかっ」
「ここよ、ふぅちゃん」
「風子、暗闇ですっ。 おねぇちゃん、助けてくださいっ」
「はいはい」
「怖かったですっ」
「あっはっはっはっは」
「あぁ、あの伊吹さん、ごめんね。今の朋也のいたずら」
「そうだったんですか。最悪ですっ」
「失礼なこと言った仕返しだ」
「風子のお相手の条件に岡崎さんより礼儀正しいっていうのが加わりました。
 でも一向に母集団が変化しません」
「まだいうかよ」

「朋也、入院生活が楽しいものでよかったわね」
「そうだな。リハビリはきついが退屈はしてないな」
「伊吹さん達とは退院してもいいお付き合いができたらいいわね」
「ちょっと大変そうだけど、まあ同意だな」
262名無しさんだよもん:04/06/06 22:46 ID:TSLb6PKG
お邪魔します
263高みへ 6/6:04/06/06 22:46 ID:G4hWBupA
「ふぅ、この公園も久しぶりだな」
「明日から仕事なんだし、のんびりしてよ」
「ああ」
「岡崎さん、お久しぶりです」
「あ、お久しぶりです。えーとお子さん、少し大きくなりました?」
「お互いに、ですね」
「はは、そうですか。自分の子は入院中も会ってましたからあんまりわかりませんでしたよ」
「まあそんなもんでしょうね。それにしても入院、大変でしたな」
「いえいえ、結構楽しかったですよ」
「そうなんですか?」
「それに入院の価値はありましたから。おい、ちょっとパパのところに来い」

「ほーら、高い高い」
「岡崎さん、肩はすっかり宜しいようですね。こうしちゃいられない」
「?」
「ほら、お父さんの所においで。高い高ーい」
「お、負けませんよ。高ーい高ーい」
「やりますな。高ーい、高ーい」

『たかーい、たかーい』
264亀レススマソ:04/06/06 22:51 ID:dHT/qC2J
151-155

あんた、camelさんですか?
265原点回帰:04/06/06 22:52 ID:xBbPMVAe
すごくよかった。なんか嬉しい。
266名無しさんだよもん:04/06/06 22:53 ID:7O+5KvLz
カッペイラネ
267コテとトリップ:04/06/06 22:56 ID:yj+fyPd/
タイトルからしてすばらしいギャグセンスを感じます
268名無しさんだよもん:04/06/06 23:02 ID:+ICukigK
あっはっはっはっは
よかったよ
269名無しさんだよもん:04/06/06 23:05 ID:PncGQw7H
>264
FromZEROの?
270愛しき娘へ:04/06/06 23:35 ID:q30IjOZB
たまたま (偶々)
(副)
(1)偶然。ちょうどその時。
(2)まれに。時おり。
三省堂提供「大辞林 第二版」より

「――――!」
「――――――!?」
なにやら、子供達が騒いでいる。
それもそのはずだ。
彼らの目の前には、そこにあってはならないものがあったのだから。
もっとも、当の本人達はそんなに深くは考えず、そのもの珍しさにはしゃいでいただけなのだが。

いつの間にか浜辺に打ち上げられていた得体の知れない物体をいきなり触れるほどの勇敢な人間はそこにはいなかったらしい。
とりあえず彼らはそれに石を投げてみたり、木の枝でつついてみたりして安全であることを確認した。
それは思いのほか軽く、思いのほか頑丈だった。
まさかそれが、幾年もの歳月を隔てて地球の裏側までたどり着くなんてことはこの場にいる誰もが想像していなかった。

少年達は「それ」を家に持ち帰ると、早速、中を見てみることにした。
しかし、その口は堅く閉ざされており彼らの力だけではどうにもならない。
自力で何とかすることをあきらめた彼らは大人の力を借りることにした。

「お母さん!」
彼らの中でもっとも幼い少年が大人を呼びに行く役目を負うはめになった。
どこの国でも年功序列というものはあるらしい。
ただし、誰もがそれを認めているわけではない。
運が悪かったというべきか、浅はかだったというべきか、
彼らのこの行為は母親の逆鱗に触れることとなった。
271愛しき娘へ:04/06/06 23:36 ID:q30IjOZB
その後、こっぴどく怒られはしたものの、なんとか「それ」は取り上げられずにすんだ。
彼らは気をとりなして、大人たちにそれの開錠を依頼した。
だが、頼りにしていたはずの大人たちでもそれを開けることはかなわなかった。
しまいには近所の人間が総出で“こと”にとりかかったが、それでも誰一人としてそれを開けることはできない。
やがて、痺れを切らした青年が大きな石で鍵を叩き壊そうとした。
だが、なかなか壊れない。
我慢の限界に達した青年は「クソッ」と悪態をつきながらそれを放り投げた。
勢いよく木に叩きつけられたそれは、呆気なく開いてしまった。
これには一瞬その場にいた人間は唖然としたが、すぐに歓声が沸き起こった。
しかし、木に当たった衝撃で偶々、鍵のダイヤルが合ったということに気づいた人間は誰一人としていなかった。

さて、開いたはいいものの、中にはクマのぬいぐるみと封筒が一通はいっているだけだった。
その場にいるものは誰一人として字が読めなかったし、当然、クマのぬいぐるみが欲しいものなどはいない。
この「贈り物」の処遇に誰もが困っていたが、偶々その日に誕生日を迎えた少年に贈るということで落ち着いた。

少年はある日、母親と大喧嘩した。
その原因は些細なものだったが、お互い一歩も引かず、どんどんエスカレートしていくばかりだった。
そして、怒りが頂点に達した母親は少年が大切にしていたクマのぬいぐるみを取り上げた。
少年は泣いて謝ったが、母親の腹の虫は納まらない。
彼女はそのぬいぐるみと、それを入れていた鞄を捨ててしまうことにした。

いざ捨てようとするとなかなかいい場所が見つからない。
近場に捨てればすぐに見つけられてしまうし、
かといって長々と家を空けて遠くに捨てに行くわけにもいかない。
ほとほと困った彼女は、隣家の息子が偶々この村に帰ってきていることを思い出した。
彼は、この村では珍しく学のある人間だ。
彼の叔父が街に出て行ったときにくっついていき、
そこで死に物狂いで勉強して、援助を受けられるほどに優秀な成績を収めた。
いまは発掘調査の助手をしており、村ではちょっとした有名人である。
その彼に任せれば、どこか遠いところに捨ててきてくれるに違いない。
272愛しき娘へ:04/06/06 23:37 ID:q30IjOZB
もっと冷静に考えれば、他にいくらでもやりようがあったのに、
そのときの彼女は何故かそれが名案であることを疑わなかった。

青年は渡された鞄の扱いに困っていた。
「捨ててくれ」と頼まれたのはいいが、問題はその鞄の中に入っていた一通の手紙だ。
そこにははっきりと
「この鞄を拾った方は、どうか娘に届けて欲しい」と書かれてある。
いくらなんでも人の落し物を捨ててしまえるほど、その青年は割り切った考え方ができる人間ではなかった。
彼は仕方なく、車の中にその鞄を放り込む。
各地を回っていればもしかしたら落とし主にめぐり合えるかもしれない。
そんな事はほとんど0に近い確率だったが、久しぶりに故郷に帰ってきたおかげで偶々気持ちに余裕ができていた。
まあ、車に載せておくだけならタダだということで、軽い気持ちで落とし主を探すことにした。

それから一年程たち、青年はすっかり鞄の存在を忘れていた。
ある日、街に立ち寄ったついでに車を買い換えようと下取りに出したら
「この鞄はどうすればいいか?」と店の人間に尋ねられた。
ここで初めて青年は鞄の存在を思い出す。
とりあえず、「ついでに処分しましょうか?」という申し出は断り、引き取ることにした。

青年は途方にくれていた。
引き取ったはいいが、これからどうするべきか決めあぐねていたのだ。
このまま自分が持っていても、おそらく落とし主に届けられることはないだろう。
かといって、これを届けてくれそうな人物に心当たりがあるわけでもない。
一通の手紙から推測できるここといえば、これは落とし主の娘への贈り物であるということと、
どうやら落とし主は日本人であるということ。
だが、あいにく知り合いに日本人はいない。
だいたい、こんな面倒ごとをいったい誰に頼めばいいのだろう。
さあ、どうしようかと悩んでいたら、偶々ある店の看板が眼に入った。
彼はそこで「運試し」をすることに決めた。
273愛しき娘へ:04/06/06 23:37 ID:q30IjOZB
店主は先ほど訪れた奇妙な客のことを考えていた。
「これを買ってくれないか?」
と言って差し出されたそれは、ボロボロになったクマのぬいぐるみ入りの鞄だった。
「こんなもの買えるわけがない」とつっぱねたが、
なんと彼は金を差し出してこういったのだ。
「もちろんタダでとは言わない。あなたにやって欲しいことはただ一つ」
「この店に次に訪れた人間にこれを売って欲しい。もしその人物がいらないと言えば捨ててしまってかまわない」
「どうだい? 悪い話じゃないだろ?」
そこまで言われたら店主は買い取るしかなかった。
いや、お金をもらったのだから引き取ったというべきか。
まあ、細かい言葉のアヤは置いておくとして、妙なことに巻き込まれた事には違いない。
店主は何故こんなことになったのかと考えてみたが、満足の行く答えは得られなかった。
しかし、それも当然のことだ。
ぬいぐるみを売りつけた当の本人でさえ、何故こんなことをしたのかわからなかったのだから。

店主は青年との約束を守らなかった。
確かに金は受け取ったが、彼がその約束を履行したかどうかは確かめる術がない。
わざわざ客に売りつけなくてもそっと捨ててしまえばいいのだし、
事実、店主はそうするつもりだった。
だが、すんでのところで思いとどまった。
「何故?」と聞いても、おそらく明確な答えは返ってこないだろう。
「気が向いたから」と返されるのが関の山だ。
店主はボロボロのクマのぬいぐるみをみると、とりあえず売れる程度に直そうと考えた。
ところどころ縫い目がほつれていて、なかの綿が飛び出していたが、
職業柄、簡単な補修だったらわけなくできた。
やがて、見違えるようにきれいになったクマのぬいぐるみが店頭に並んだ。
もはや店主は「次に訪れた客」には拘っていなかった。
大したスペースもとらないし、売れるまでおいておけばいいと考えたのだ。
どの道自分は損はしない。
それはあくまで商人としての発想だったのか、単なる気まぐれだったのかはわからない。
274愛しき娘へ:04/06/06 23:39 ID:q30IjOZB
ぬいぐるみを店頭に並べてから数日たったある日、ある男が店を訪ねてきた。
異国の人間らしいその男は、どうやら娘への土産を物色しているようだったので、
「ならば」と例のクマのぬいぐるみを薦めた。
最初は難色を示していたが、やがて彼の興味はその人形に備え付けられた鞄――の中の手紙へと移った。
「これは何か?」と聞かれたので、そのぬいぐるみがこの店に売られてきたときに一緒についてきたものだと答えた。
それを聞くと男は「うーむ」と唸った後、「では、これを頂こう」と言った。
まさか本当に売れるとは思っていなかったが、とりあえず懐が暖まったので深くは考えないことにした。

ここは花の都―パリ―。
男はその日、リビングで久しぶりの休日を満喫していた。
しかし、物置から叫ぶ娘によってその至福のひと時はぶちこわされた。
何事かと駆けつけてみると、
「これは何?」と薄汚れたクマのぬいぐるみを突きつけられた。
「はて?」と男は本気で考え込む。
「何?」と聞かれても、その男自身、それが何なのかわからなかった。
だが、そんな答えでは娘は満足せず、執拗に問い詰められた。
それが功を奏したのか、はじめは全く心当たりがなかったものの、
やがてそのぬいぐるみを買ったときのことを徐々にではあるが思い出していった。
それは、数年前にさかのぼる。
男は仕事の都合でナイジェリアへ単身渡っていた時期があった。
そこで何年か仕事をした後、やっと母国に帰れるということでその日は浮かれていた。
その時、偶々立ち寄った店でこのぬいぐるみを見つけたのだ。
最初は全く買う気などなかった。
だが、そのぬいぐるみといっしょにあった一通の手紙の中身に興味を引かれた。
そこには「娘へ届けて欲しい」という一文があった。
自分にも娘がいるせいか、元の持ち主が不憫に思えてついつい買ってしまったのだ。
おかげで税関で呼び止められるはめになったが、苦労して母国に持ち帰った割にはすっかり忘れていた。
だいたい、こんな薄汚れたぬいぐるみを実の娘に贈るわけにはいかない。
男は何気なく買ったものの持て余してしまい、とりあえず物置に放り込んでおいて今に至る。
今更こんなものを発掘されても困るのだが、娘が欲しいと言ったので、男は彼女にそれを贈ることにした。
275愛しき娘へ:04/06/06 23:40 ID:q30IjOZB
少女はその日、テニスラケットを探しに物置に赴いていた。
だが、そこで偶々見つけたのは目的のものではなく、薄汚れた鞄だった。
それまで一度も見たことのなかったそれの中身が気になり、開けてみることにした。
そこには薄汚れたクマのぬいぐるみが入っていた。
彼女はこのぬいぐるみに興味を持った。
父を呼び出して聞いてみると、どうやら海外へ行っていたときに買ったものらしい。
そして、元はどこかの誰かが落としたものだということも教えてもらった。
出自のわからないそのぬいぐるみに、少女は魅せられていた。

とりあえず、クタクタになったぬいぐるみを補修することからはじめた。
あちこち痛んでおり、最終的にはほとんど全てのパーツを交換することになった。
つぎ込んだ費用は甚大だ。
もはや引くことはできなかった。
次に、添えられていた手紙から持ち主を探すことにした。
しかし、与えられている手がかりは少なすぎた。
おそらく元の持ち主の署名と思われるK&Mという文字と、
彼(彼女)の娘とおもわれる人物の名前以外はこれといったものはなかったのだ。
「住所くらい書けばいいのに!」という少女の叫びはむなしく響く。
ここで彼女は捜索を断念することとなった。
その後、彼女の記憶からこのぬいぐるみの存在が忘れ去られてしまう前に、
偶々日本人の青年が彼女の大学に編入してきたことで、ぬいぐるみの旅は首の皮一枚でつながることとなる。

青年は久しぶりの母国の空気を満喫していた。
そして、その手にはあの薄汚れた鞄がしっかりと握られている。
例によって税関で呼び止められるはめになったが、なんとか日本の地に持ち込むことができた。
このぬいぐるみの終着点は、もうすぐそこまで迫っていた。
276名無しさんだよもん:04/06/06 23:40 ID:TSLb6PKG
お邪魔します
277愛しき娘へ:04/06/06 23:41 ID:q30IjOZB
数年前のこと、青年は留学先である少女と出会った。
彼は彼女に恋をした。
そして、彼女から声をかけられた時、青年は間違いなく自分も大人への階段を上っていることを確信した。
しかし、彼女が青年に与えたのは彼が望んでいたものではなく、薄汚れた鞄だった。
彼女の気を惹けるならと青年は快くそれを受け取ったが、悲しいかな、ついに青年と少女が特別な関係になることはなかった。
だが、彼女との関係が途絶えても鞄は彼の手元に残った。
留学先のアパートを引き払う際に捨ててしまおうとも思ったが、中に入れられていた手紙が気になり、日本に持ち帰ることにした。

男は黙々と作業を続けていた。
その内容は、航空機事故の特集記事を書くということ。
もっとも、特集といっても男が担当するのは、自分が取材したもう何年も前の一件の事故だけだった。
その事故は、当時大変な騒ぎとなった。
犠牲になった人物は邦人というだけでなく、世界最高と謳われた物理学者の一人だったからだ。
だから、この事件は一航空機事故の域にとどまらず、さまざまな方面へ飛び火した。
男も、物理学発展の見地からこの事件を追っていたのでよく覚えていた。
――そういえば、と、あることを思い出す。
その事故の話題は「ある事件」をきっかけに何故かあっというまに収束したのだ。
そう、それはたしか――

内線がコールされた。
男は受話器を取る。
どうやら甥が男を訪ねてきたらしい。
アポはなかったが、男以外の人間は皆、出払っていたため迎え入れることにした。
「俺も甘いなぁ」とにやにやしながら一人つぶやく中年の姿は傍から見れば不気味だった。
彼には子供がいない。
だからついつい甥っ子を甘やかしてしまう。
しかも、「将来は叔父さんのようなジャーナリストになりたい」なんていわれた日には、もうメロメロになるしかなかった。
彼の留学を援助したのもその男だった。
おかげで奇妙な事件に巻き込まれてしまうことになったのは、はたして運が良かったのか悪かったのか。
だが、もはや男がどんなに拒んでも、ぬいぐるみの旅路の最後を見届ける役回りを辞退することはできない。
何故なら彼は「選ばれた」のだから。
278愛しき娘へ:04/06/06 23:42 ID:q30IjOZB
甥は男の目の前まで来ると、小汚い鞄を差し出してきた。
「それは何だ?」と尋ねると「誰かの落し物だ」という答えが返ってくる。
「いったいどういうことだ?」と子細を説明するように求めた。
甥の話によれば、どうやらこれは誰かの落し物で、その人物はこの鞄の中身を娘に贈る予定だったらしい。
中にはクマのぬいぐるみと封筒が一通入っている。
甥曰く手がかりになりそうなのは、
「このスーツケースを拾った方は、どうか娘に届けて欲しい。K&M Ich」という英語で書かれた一文と、
娘とおもわれる人物に宛てた、日本語で書かれた一通の手紙だけだということだった。
「――?」
ある単語が男のデータベースに引っかかった。
いったいどこで引っかかったのか?
男はその場所を必死で検索する。それは――

青年はとりあえず鞄を日本に持ち帰ってきたものの、
どうやって持ち主を探そうかと、途方にくれていた。
いくら考えても名案と呼べるようなものは思い浮かばなかったので、記者をやっている叔父を訪ねることにした。
少なくとも自分よりはましな情報網を持っているだろうという安易な考えだったが、それが幸いした。
叔父はぬいぐるみに添えられていた手紙に目を通すと、何か思いついたようにPCのキーボードを叩き始めた。
青年は突然のことに呆気にとられていたが、叔父は迷うことなく何かの操作を実行していった。
やがて画面にはあるリストが表示される。
すべてアルファベットで書かれたそのリストが何を意味するかは、すぐにはわからなかったが、
よくみるとそれは何かの乗客名簿であるようだ。
日付は――十年前?
やがて、叔父は二つの名前をピックアップした。それは――
「Kotaro Ichinose,Mizue Ichinose――K&M!?」
おもわず青年は叫んだ。
だが、叔父は意に解さずに操作をつづける。
その顔はいつもの優しい叔父の顔ではなく、獲物を捕らえた記者のそれだった。
279愛しき娘へ:04/06/06 23:43 ID:q30IjOZB
次に画面に現れたのは「物理学会震撼!?」と題された記事だった。
叔父はすぐさまある部分を拡大する。
そこにははっきりと、こう書かれていた。
故一ノ瀬夫妻の一人娘、
「一ノ瀬――ことみ――」

そこから先はトントン拍子に話は進んでいった。
叔父はすぐさま少女の通う学校に連絡すると、彼女の保護者としてある男性を紹介された。
その後、方々手を尽くしてその日の深夜にはその男性と会うことができたのは驚嘆するしかなかった。
どうやら、叔父とその男性は面識があったらしい。
おかげでことのほかスムーズに鞄を渡すことができたのだが、
最初会ったときのその男性の苦虫を噛み潰したような表情から察するにあまり良い仲ではないらしい。
少女の保護者と名乗る初老の男性は、感謝しつつも早いところ厄介者を追い払いたいようだった。
だが、叔父はそれだけで終わらすつもりはなかった。
なんと、取材を申し込んだのだ。
青年は驚いた。
もちろん初老の男性もだ。
だが、故一ノ瀬夫妻の遺品を届けてもらった手前、しぶしぶ承諾するしかなかった。

その日は良く晴れた日だった。
取材は許可されたものの、部外者が校内に立ち入ることは許可されなかったため、
男は校門から少し離れたところで待つことにした。
まさかこんなことになろうとは思っていなかった。
いったい何処がどうなってこんなことになったのだろうかと、男は自問した。
甥を社内に招き入れた時だろうか?
特集記事を受け持つことになった時だろうか?
もっと遡って、甥の留学を手助けした時だろうか?
それとも――あの時、「あの事件」に関わった時だろうか?
280愛しき娘へ:04/06/06 23:43 ID:q30IjOZB
当時、男はあるネタを追っていた。
誉れ高き一ノ瀬夫妻の死が与えた物理学会への影響について、だ。
男は夢中になっていた。
なんせ、当時の物理学会ではあまりに前衛的だった「超統一理論」の提唱者が突然死したのだ。
一時はそのせいですべて白紙になりかけた。
ただでさえ、乗客266名が全員死亡する大惨事だったのに加え、
そんな“おいしい”ネタを世間がほうっておくはずがなかった。
男はどんなことをしてでもこのネタをモノにしようとした。
あるときは夫妻の自宅に押しかけ、あるときは電話のリダイヤルを押し続けた。
だが、そんな無茶な取材方法が災いしたのか、まもなくして「ある事件」が起こった。
一人残された追い詰められた、彼らの娘がぼやを起こしたのだ。
幸い、大事にはならずにすんだが、
この事件のおかげでこの事件を追いかけていた人間は叩かれ、
また、方々から圧力が掛かる事態となった。
彼女の保護者と名乗ったあの男性も圧力をかけた人間の一人だ。
おかげで取材を続けることは困難になった。
そして、時がたつにつれこの話題は風化していき、男自身もつい最近まで思い出すことはなかった。
だが、あの日偶々過去の記事を穿り返してたおかげで、今日、この場に居合わせることができた。
おそらく、甥が訪ねてくるのが少しでも前後していたら永久にあの鞄は届けられないままだっただろう。

「フゥ」と男は紫煙を吐き出す。
最初はこの“偶然”に熱くなっていた。
だが、この場で落ち着いて考えてみると、どうしてあんなにも躍起になったのかが良くわからなくなった。
たしかにこれは記事になる。
だが、それは一面を飾るような類のものではなく、せいぜい社会面の一画に小さく掲載されるような代物だ。
実際、彼がスペースを空けとくように指示したのはその場所だった。
そんなにムキになるようなものでもない。
もう、記事のことなどどうでも良くなっていた。
281愛しき娘へ:04/06/06 23:44 ID:q30IjOZB
男は短くなったタバコの火を消し、すぐさま次のタバコに火をつける。
いまごろ、少女は例の「小包」を開いているのだろうか?
その情景を想像しながら、男は何故、自分がこの役を演じることになったか考えていた。
それは、あの日、あの少女の運命の一端に触れたからだろうか?
あの日の償いを果たすために、今日、この場に呼び出されたのだろうか?
――いや、そんなセンチな考えは“らしく”ない、と、すぐさまその説を否定する。
偶々、自分がこの役に適任だった。
きっと、ただそれだけの理由なのだろう。
その答えで、男は満足した。

残る問題は、この記事をボツにすることでぽっかり空いた社会面のスペースをどうするかということだった。
残念ながら、適当なネタはない。
真剣に男が悩んでいたちょうどその時、
携帯電話が着信を告げていた。

青年は叔父とともに校門のすぐ近くで、事が終わるのを待っていた。
先ほどこの校門から中に入っていた少女たち(と少年一人)の中のひとりが「ことみ」なのだろうか。
そんな事を考えながら、彼はぼんやりと今回のことについて考えていた。
旅客機が墜落したのはアラスカ沖。
そこからアフリカの地に流れ着き、ヨーロッパを経て、
ここ、日本へと辿り着いた。
青年には不思議でしょうがなかった。
鞄の中に入っていたのは、クマのぬいぐるみと一通の手紙だけ。
しかも、落とし主を特定する手がかりは皆無に等しかった。
普通ならどこで打ち捨てられてもおかしくはない。
だが、あの鞄はここまで辿り着いた、十年の歳月を経て。
しかも、聞けば今日は少女の誕生日だという。
あの鞄は、いったいいくつの奇跡に彩られているのだろうか?
282愛しき娘へ:04/06/06 23:45 ID:q30IjOZB
――ここで、青年は考えるのをやめた。
理解の範疇を超えていたからだ。
きっと、「偶然」という名の郵便やさんが粋な計らいをしてくれた。
そう思うことにした。

青年は今回のことについて、一つだけ不満な点があった。
叔父が取材をすると言い出したことだ。
青年はこの行動が気に入らなかった。
今回の「奇跡」に水をさすことにしかならないからだ。
はっきりいって、叔父には失望していた。
だが、憤る青年を横目に、なにやら叔父は電話で大声を張り上げている。
正確な内容は良くわからなかったが、「差し替え」だとか「いそいで記事をかけ」とかいう言葉から察するに、
今回のことを大々的に報じるつもりなのだろう。
そう考えると、青年はたまらなく情けなくなった。
分別のある人間だと思っていた人物の内面を知ってしまったから。

電話が終わると、男は青年に声をかけた。
だが、青年は返事をせず、仏頂面を男に突きつけることで自らの意思をアピールした。
そんな青年に男は告げる。
「じゃあ、俺はこれで帰るから。先方には取材は中止になったって伝えておいて」
これには青年は目を白黒させて驚いた。
予想外の言葉が男の口から飛び出したからだ。
しかし、男は青年の返事を聞くことなく、さっさとその場をあとにした。
もう、目的は果たしのだから――。
283愛しき娘へ:04/06/06 23:46 ID:q30IjOZB
青年は状況の把握に苦しんでいた。
いったい何のために叔父はここにきたのだろう?
そう質問しようと思ったが、すでに叔父の姿はそこにはなかった。
しばし呆然としていたが、それでは埒が明かないのでこれでよしとすることにした。
何故かはわからないが、とりあえず青年の望むとおりの展開になったのだ。
不満を漏らす理由はない。
すこしだけ叔父のことを見直した青年は、
後で今回のことを話のねたに、一杯ひっかけようと叔父に提案することにした。

青年は、少女が出てくるのを待つ。
叔父に言われるまでもなく、最後まで残っているつもりだった。
もう一目だけ、あのぬいぐるみを見たかったから。

ちなみに、翌日、新聞の社会面に「怪奇、七色のパンを売るお店」という記事が載ったのは、“偶々”である。
284名無しさんだよもん:04/06/06 23:46 ID:q30IjOZB
意外に長くなってしまいましたが、これで終了です。
285名無しさんだよもん:04/06/06 23:50 ID:q30IjOZB
誤字脱字がけっこうある……ごめんなさいOTL
286名無しさんだよもん:04/06/06 23:55 ID:SnqvY1ck
いや、それでも俺はよかったと思う。
287名無しさんだよもん:04/06/07 00:18 ID:oAfArifO
長すぎるのと痔の文ばっかで読みにくいなぁ…
288名無しさんだよもん:04/06/07 00:19 ID:oAfArifO
うわ、何だよ痔の文って…

内容は面白かったよ。
289名無しさんだよもん:04/06/07 00:32 ID:SLX/jGd9
>283
早苗さんが読んだら泣きそうな記事だな(w
290284:04/06/07 01:28 ID:blvIfblo
つーか、ところどころ日本語がおかしい……
推敲、校正が足りてないですOTL
291名無しさんだよもん:04/06/07 04:59 ID:YxL5mfL6
>それは嘘でしょ。公園で他のお父さんが子供を高い高いしてあげてたのを見て、
>この子、あんたにせがんだじゃない。その時、頭を撫でてあげるだけだった。

なんかここだけ妙に印象に残った
292名無しさんだよもん:04/06/07 06:27 ID:1RBIEvzm
>>263
ttp://pya.cc/pyaimg/pimg.php?imgid=4735
この画像思い出してしまった。
293 ◆Y3iyltz542 :04/06/07 09:53 ID:tgpdciGR
>>244
悪かったな。
ムシャクシャしてやった。
目玉焼きが冷めるとは思わなかった。
反省文書いてみた。
ただ、目玉焼きは冷めた方が黄身の風味を味わえて俺は好きだ。
294再婚after杏10:04/06/07 09:54 ID:tgpdciGR
両手で、椋の左手を包み込む。
「ごめん、それは俺の役割じゃあ、ない」
「そうですか…。…残念。岡崎くんに外して欲しかったな」
そう、俺に笑顔を向ける。
「じゃあ、自分で外してみます」
見守る。
「…外れない。ちょっと太っちゃったかしら」
力が全然入っていなかったのが、見え見えだった。
「でも、もう一度やってみますね」
今度は、ゆっくりと力を込めて、ゆっくりと…。
「外れて…、しまいました」
目に涙をためていた。
「胸貸そうか?」
「恋人じゃ…ないんですよ?」
「背中はどうだ?」
「友だちならいいんでしょうか」
いいだろ、それくらい。
黙って背中を向けると、椋がすがりついてくる。
声を立てずに泣く。
ジャケットの上からでも熱い吐息が伝わってくるようで、涙さえも背中にしみこんでくるようで…。
それでも、泣きやんだ彼女の顔はとても晴々としたものだった。
俺もいつか、あんな顔をできるときが来るのだろうか。
295再婚after杏11:04/06/07 09:55 ID:tgpdciGR
夕方、遊園地内のペット動物コーナーに。
たくさんの小動物とのふれあいの場。
そう言えば、夏休みの旅行でも動物にさわりたがっていたな。やっと、念願かなえてやれた。
汐と椋が、動物たちと遊んでいた。
俺と杏は、その二人を見ていた。
「ありがとね」
「何が?」
「椋を励ましてくれて」
「俺も、あいつには励まされたしな。おまえにもな」
「あはは、何言ってんのー。でも、いきなり指輪まで外しちゃうとはビックリしたわ」
「うん。けじめ、付けたがってたんだな。ちょっと羨ましく思った」
「なーに、人ごとみたいに言ってんの」
「でも、俺は背中貸しただけだし」
「はあ? あんたが外したんじゃないの?」
「違うよ。あいつが自分で外したんだ」
「あんたが外させたんでしょっ?」
「違うって。自分でやったの、あいつが」
「あんた、何やってんのよっ!」
「何、怒ってんだよ?」
「何で、そこで慰めなかったの」
「悲しみから立ち直った人を慰めるって変だろ」
そう、椋は俺なんかよりもずっと強い人だった。
「あーっ、何か企んでるとと思ったら、そうゆうことかっ」
「そうゆうことって何よっ」
「大きなお世話だっつってんだ!」
「いいじゃない。お似合いでしょっ」
「脛に傷持つ者同士くっついてろって? ふざけんなっ」
「…何よぅ」
296再婚after杏12:04/06/07 09:57 ID:tgpdciGR
「俺たちはそんなに、お可哀想なのかよっ」
「そんなこと思ってな…。かっ帰る」
杏が後ずさる。
「どこ行くんだよっ」
「帰るって言ったでしょっ」
取り出した車のカギを、俺の胸にぶつけた。
「勝手にしろ!」
俺たちの怒声に気が付いたのか、汐と椋が寄ってきた。
「どうしたんですか?」
「パパ、けんかしたの?」
「うん。ごめんな」
「だめだよ、パパ…」
「分かってるよ。明日には謝って仲直りするから、な?」
「うん」
汐に、こんな悲しそうな顔させるなんて。
「椋も、すまなかったな」
「いえ。私が原因ですか?」
「んー、いや。やっぱ感情的になっちまった俺が、悪かった」
「すみません」
「そろそろ帰ろうか…」
「はい…」
冬の終わり、だが、日はまだまだ短かった。
帰りの車の中でも、歌われるのはだんご大家族。
でも、往きに比べて歌い手が一人足りないだけで、大家族の歌はひどく寂しく感じられた。
椋は免許を持ってないとのことだったので、車は俺が返しに行かなければならなかった。
住所と地図を書いてもらう。
朝の待ち合わせ場所で椋を下ろす。一日の礼を言って、別れた。
297再婚after杏13:04/06/07 09:58 ID:tgpdciGR
アパートに帰って、汐を風呂に入れ、寝かしつける。
「じゃあ、パパは先生に車返してくるからな。一人で寝てるんだぞ?」
「せんせーとなかなおり、する?」
「ああ、ちゃんと仲直りしてくるよ」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
遊び疲れたのだろう、あっという間に眠ってしまった。

杏の実家のある住宅街に入る。
と、街灯の下に長い髪の女性がいた。
ブレーキを掛ける。
「まだ帰ってなかったのかよ」
言いながら車を降りる。
「ん。帰るとこだった。あたしの車の音聞こえたから、通るかと思って待ってた」
「女一人危ねーだろ。ちょうどよかったな。乗ってけ」
「明るいよ?」
降る雪でも受け取るかのように、街灯の明かりをその手に受ける。それは俺が作ってる光だ。
「そんなの表通りだけだよ。ほら」
運転席を差し出すが、乗り込まない。
「朋也、送ってってよ」
「汐一人残してるんだ。早く帰りたいんだよ」
「車で帰っていいからさ」
「その車を返しに来たんだからな?」
「あ、そうだったね」
元気がない。
俺はそんなにもこいつのこと傷つけてしまったのだろうか。
汐との約束を思い出す。
「今日のは俺が悪かったよ。謝るよ、ごめん」
「うん。あたしこそ、ごめんなさい」
まいった。心ここに在らずだ。
298名無しさんだよもん:04/06/07 09:58 ID:VD/pjcuk
お邪魔します
299再婚after杏14:04/06/07 09:59 ID:tgpdciGR
「……じゃダメかな」
「うん?」
「椋がダメなら、あたしでもダメかな」
「何…、言ってんだ…?」
「あたし、朋也が好き。
「椋みたいにあんたの悲しみ、分かってあげられないかもしれないけど、朋也が好き。ずっと好きだったの」
「ずっと…って?」
「高校の時からずっとっ」
「高校って何年前の話だよっ」
「悪いっ? 迷惑だった?」
「おまっ、それ逆ギレ…」
「だってしょうがないでしょっ。
「あんたは、三年になってすぐ彼女作っちゃってさ。
「卒業するなり同棲始めるし、
「一年たってやっと気持ちの整理付けたころ、彼女の卒業式やるから制服着てこい? ついでに結婚します?
「また一年経ったら、子ども生まれました、妻が亡くなりましたって?
「節目ごとに騒動起こされたら、忘れられないじゃないのよっ。
「うちの幼稚園に娘まで入れてさ、あんな健気で可愛い娘放って、あんた何やってたのよっ、バカーっ!
「渚ぁーーっ! あんた、何で死んじゃったのよーーーっ!」
いつの間にか、杏を抱きしめていた。
おまえ、俺の悲しみちゃんと分かってくれてるよ。
友だちの死を、同じように悲しんでいるじゃないか。
「おまえ酔ってるだろ」
「酔ってなんかないわよぉっ。こんなこと素面で言ったって、あんたはごまかすに決まってんだからぁ」
グズりながら返してくる。全く、その通りだ。
愛おしさが込み上げてくる。
杏の顎を引いて、唇を寄せる。
「やめてよ。汐ちゃんから、あんた奪えないもん」
「じゃあ、おまえがこっちに来いよ。な?」
「うん、行く」
街灯の下。二人の影を重ねた。
300再婚after杏15:04/06/07 10:00 ID:tgpdciGR
幼稚園の卒園を目前に控えた日、保護者同伴のさよなら遠足があった。
保護者とはいえ、男親なんて一人もいない。
集合場所の幼稚園の庭、隅っこでボーっと突っ立ていた。
母親の一人が近づいてきて挨拶をする。
「おはようございます」
「あ、ども、おはようございます」
「岡崎さんですよね」
「はい。男親一人じゃ目立ちますかねぇ」
「そうですわねぇ。あー、そうそう、おめでとうございます」
「はい? 何ですか?」
「杏先生とご結婚なさるとか?」
ブーーー。
「だっ、誰がそんなこと言ったんですかぁ?」
「あら、結婚なさらないんですか?」
「しっ、しませんっ」
「なんだぁ、違うんですってよ」
いつの間にかお母さん方に取り囲まれていた。
「あら、馬場さんの奥様に聞きましたのに」
「私は樋上さんから聞いたんですよ」
「私はスーパーで家族みたいに買い物していたって言っただけですよ」
「何だー、つまらない」
あんたら、ワイドショーの見過ぎだーっ。
301再婚after杏16:04/06/07 10:00 ID:tgpdciGR
「あ、と言うことは一緒に暮らしてらっしゃる?」
一人が再び油を注ぐ。
「一緒に暮らしてはい・ま・せ・ん」
毎日のように来てくれてるけど。
「でも、その気はあると?」
「まぁ、その…、なくは…ないですが」
主婦って恐えーよ。
ふと、子どもたちの方を見る。
杏が取り囲まれていた。
「せんせー、しおちゃんのママになるってほんとー?」
「ウッシーだけずるいなー」
ウッシー言うな。
「いいなー、ぼくのママととりかえてよ」
「だっ、誰が言ったの、そんなことっ?」
「んーとね、みんなのママがいってるよ」
「みんなのママっ?」
キッと俺をにらむ。
どう言うことよっ、とその口が動いた。
知らねぇよ、と首を振って返した。
「これはもう、プロポーズするしかないわね」
「骨は拾ってあげますよ」
「あら、いやだ。奥さんたら」
ホホホと笑いながら背中を押される。
マ、マジか。
杏もまた、ガキどもに押し出された。
あー、もうっ。
302再婚after杏17/(9+8):04/06/07 10:03 ID:tgpdciGR
こうなったらヤケクソだ。
「結婚してくださいっ」
一瞬、無音の世界が訪れる。
杏が、はいと言ってくれたなら…。
渚よぅ。
おまえも、俺のこと、祝福してくれるよな…。
なぁ、渚…。
「「はい」」
おめでとうっと歓声が上がる。
祝福してくれる人々の顔を見る。
その中に、汐の飛び切りの笑顔をみつける。
ああ、汐。
そんなにも喜んでくれんだな、汐。
汐の顔が渚に重なって見えた。
もう悲しみはない。
お節介かもしれないけれど、この町の人々は、誰も彼もが暖かい。
「はい、と言うことで、汐ちゃんと結婚する男の子には、自動的に先生がママになりますよー」
「てめぇー、勝手に汐の婿取りするんじゃねぇ」
今日は一日、みんなのオモチャだ。
でも、その見返りはとても大きく欠けがえのないものだった。
303名無しさんだよもん:04/06/07 10:14 ID:ZiD/Fl2W
>>再婚after
イイ!
304名無しさんだよもん:04/06/07 10:20 ID:lhHNwwpk
椋とのからみがなければ、と思う俺はだめですか。
305名無しさんだよもん:04/06/07 10:31 ID:oAfArifO
椋イラネ、と思う俺はだめですか。
306名無しさんだよもん:04/06/07 10:49 ID:Cnjnpdd5
むしろ、椋がだめですか。
307名無しさんだよもん:04/06/07 14:19 ID:sSgxJ9aa
>「節目ごとに騒動起こされたら、忘れられないじゃないのよっ。

このフレーズ好きだな。
308名無しさんだよもん:04/06/07 15:49 ID:bZ+H8Z9N
>ウッシー言うな。

このフレーズ好きだな。
309264:04/06/07 18:01 ID:tOqFNo8Q
>>269
そうだが、FromZEROはもうないYO

>>151-155のは、情景の表現がcamel氏に似てるとおもう
310名無しさんだよもん:04/06/07 20:45 ID:5NX3QoVE
>「私は樋上さんから聞いたんですよ」
フイタ  いたるかよ!
311名無しさんだよもん:04/06/07 21:56 ID:dcAyVkrP
>>310
>「あら、馬場さんの奥様に聞きましたのに」

こっちのVAVA社長夫人にも注目だろw
312小ネタ:04/06/08 00:47 ID:UCFu4WfX
「ただいまです」
「お帰り、風子。毎晩遅くまで大変だな」
「しかたありません。納期ぎりぎりです」
「なんでいつもぎりぎりなんだよ」
「お客が仕様を変えまくりだからです」
「そんな客殴れ。ヒトデの彫刻で遠慮なく」
「主任内示がフイになります。最悪すぎです」
「それで手取りが俺の日当と同じぐらいだろ」
「朋也さんの健康保険は風子のお給料と会社で折半してますが」
「言ってくれるなよ……」
313自宅出産なんてありえなーい:04/06/08 00:57 ID:FKP/Zji5
「血圧低下、母子ともに危険です」
にわかに分娩室内が慌ただしくなる。

「ご主人、申し訳ありませんが」
そう言って、助手が俺を外へ連れ出そうとする。
「ちっ、放せよ。 俺がそばにいないでどーんだよっ!」
必死に抵抗するが、数人がかりで外に放り出されてしまった。
扉が閉まる直前、「朋也さん……」という消え入りそうな渚の声を、俺は確かに聞いた。

その後、二度と渚と話すことはできなかった。
あんなにも近くにいたのに、別れの言葉すら告げれなかった――
314名無しさんだよもん:04/06/08 01:00 ID:FKP/Zji5
「どーん」って何ですか?
315名無しさんだよもん:04/06/08 01:32 ID:nJZ4B0Da
>>312
笑い所が解らん。

>>313
「朋也さん」と言ってるので、別人と断定。
316名無しさんだよもん:04/06/08 01:42 ID:FKP/Zji5
>>315
ああ、ほんとだ。
「朋也“くん”」だったね、勘違いしてた。スマソ
ついでに言うと、おもいっきりら抜き言葉使ってるね……
即興で書くもんじゃないな……OTL
317名無しさんだよもん:04/06/08 09:08 ID:PifoHmRA
318真面目にやろーよ:04/06/08 19:22 ID:FKP/Zji5
とりあえず俺は、風子のアホな行動をやめさせることにした。
姉の幸せを一心に願うその気持ちはわからないでもない。
だが、だからと言って、関係ない人間に手彫りのヒトデをおしつけて、
「代わりに姉の結婚式に出てください」
と言うのは、流石に頭がおかしいと思われても仕方がないだろう。

とりあえず、俺達は当時の学生と連絡を取ることからはじめた。
幸い、渚のおかげで昨年度の卒業生とは難なく連絡を取ることができた。
さらに、その卒業生達の親兄弟からあっという間にこの話が広まったのは、
公子さんの人望というほかない。

その後、学校側に校舎を結婚式会場として提供するように提案すると、
幸村のじぃさんの口添えもあって、わりとすんなりO.K.が出た。
つくづく、公子さんという人物が築き上げてきたものの偉大さを思い知らされる。
本当に、風子はいい姉を持ったものだ。
正直、家族というものにほとんど縁がないせいか、彼女がうらやましい。

そこでふと、俺はあることを思い出した。
当の本人に結婚式の話を一度も打診していない。
これはまずい。

あわてて、公子さんの自宅へ行って、説得を試みる。
最初、彼女は風子のことを気にして頑なに断り続けたが、
既に結婚式の段取りはついていることと、
多くの卒業生が出席することを伝えると彼女は揺れた。
そして、俺はあるものを彼女に渡す。
風子が彫った、あのヒトデだ。

そうして、彼女は結婚を決意した。
風子が願った姉の幸せもようやく現実になりそうだ。
明日は公子さんの結婚式。きっとうまくいくはずだ。
319名無しさんだよもん:04/06/08 19:29 ID:uWm4cF9J
失礼します
320名無しさんだよもん:04/06/08 20:38 ID:7+z68+FV
皆さんはオリキャラは可ですか??
321名無しさんだよもん:04/06/08 20:39 ID:KiheEMWz
そんなもんどんなオリキャラかによるだろう
322名無しさんだよもん:04/06/08 22:32 ID:JgmAH+9v
>>320
そんなもの、誰がどうやって作るか分からない料理を
「美味しいですか?」と聞いているようなもん
意見を聞きたけゃまずサンプルをもってきな
323コテとトリップ:04/06/08 22:40 ID:05sLtWtz
Q ラーメンは好きですか?

A 誰がどうやって作るか分からないラーメンを
「美味しいですか?」と聞いているようなもん
意見を聞きたけゃまず出前とっててきな。もちおまえのおごりで
324名無しさんだよもん:04/06/08 22:43 ID:hxWY7rKe
>>323
いや、それは違うから
325コテとトリップ:04/06/08 22:44 ID:05sLtWtz
Q 皆さんは女性は可ですか??

A そんなもの、事前に写真も見せないお店で
「いい子いますか?」と聞いているようなもん
美人とやりたきたけゃまず雑誌でも見てから予約入れな
326名無しさんだよもん:04/06/08 22:44 ID:hxWY7rKe
やっべ、コテトリにマジレスしちまったよ_| ̄|○
327名無しさんだよもん:04/06/08 22:45 ID:9eI4vQzK
>>320
オリキャラが主役級の扱いだったりすると叩かれやすい
原作脇役をオリキャラ扱いはネタであれば受ける(久瀬・仁科など)

どんな厨設定でも文章力があれば受け入れられやすい。
328コテとトリップ:04/06/08 22:47 ID:05sLtWtz
>>321-326

ひねくれ者、自覚のない人、融通の利かない人

>>327

いい人、大人
329名無しさんだよもん:04/06/08 22:47 ID:nJZ4B0Da
オリキャラ物は、名作か、どうしようもない駄作かどっちかだからな。
今まで片手で数えるくらいしか名作に出会ってない。
330名無しさんだよもん:04/06/08 22:47 ID:/+tR5CUO
>>323
そのレス番取ったときくらいまともなレスしてみろ。
笑えるやつをな。
>>327
>>どんな厨設定でも文章力があれば受け入れられやすい。
んなこたねえだろ。なまじっか文章力ある奴は小説とSSの違いを分かってない
から読んでてしんどいこと多いぞ
332名無しさんだよもん:04/06/08 22:52 ID:Lahn+ifq
オリキャラ「出た時点で読むの止めることが多いな俺は。
333コテとトリップ:04/06/08 22:52 ID:05sLtWtz
>>330

そんなくだらねえこと押しつけられても、困る。興味ない、ごめんな

>>331

それこそ人によりけり
それは文章力ではなく作者の性格と方向性の問題
334名無しさんだよもん:04/06/08 22:54 ID:POUSXcKb
前世ネタはありかね?
335名無しさんだよもん:04/06/08 22:56 ID:9eI4vQzK
>>331
個人的に、文章力がある=万人に受け入れられる なんで、
そこらへんちゃんと理解してる書き手なら、ってこと。
同じくらい濃い長文でも読める物としんどい物があるし。
336名無しさんだよもん:04/06/08 22:59 ID:nJZ4B0Da
>>334
間違いなくNG
とりあえず祐一の親父とかフルネームで出されるとマジ萎える
338名無しさんだよもん:04/06/08 23:06 ID:MS1yTKcA
美汐たんおながいします
339コテとトリップ:04/06/08 23:08 ID:05sLtWtz
今気づいたんだが、ここ討論スレじゃなくて隔離スレのほうじゃんか
やっべ、マジで邪魔してごめん。迷惑かけたね、消える
340名無しさんだよもん:04/06/08 23:10 ID:FKP/Zji5
気づくの遅いよ
以後淡々と↓
341名無しさんだよもん:04/06/08 23:15 ID:S4HeQrSY
ttp://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1085992043/155-159

これでも読んで、またーりしとくれ
342名無しさんだよもん:04/06/09 03:54 ID:h1WEOmA9
そういや
DNMLで高校生汐視点で朋也の立ち絵を無理矢理芳野にした上にオリキャラの汐の友人まで出ていて
その友人の立ち絵がまんま高校生美佐枝というめちゃくちゃな奴があったな
343名無しさんだよもん:04/06/09 13:31 ID:D9g0BiFZ
>>342
それ見たことある気がする。
マンションかどっかの背景を病院で代用してたヤツっしょ?
344名無しさんだよもん:04/06/09 14:12 ID:+I2von3w
>>342
それ見たぞ。
立ち絵の代用は違和感バリバリだったけど、あのオリキャラ自体は俺はOKだったな。
むしろあの年齢と性格で友達いないほうが不自然だろうし。
話自体は結構面白いとは思ったが、立ち絵とかで無茶し過ぎなのがなぁ。
345名無しさんだよもん:04/06/09 14:28 ID:d9/3KLUY
芳野の立ち絵でたとこで自己暗示かけながら進めたが美佐枝さんでてきたとこで終了したなぁ。
SSと違って制限あるわけだし無理にやるものじゃないね。SKYみたいに立ち絵まで自作するならともかく。
346名無しさんだよもん:04/06/09 20:38 ID:GV80oDy1
>>345
SKYは、一枚絵はなんか変だったけど、立ち絵が凄く良かったって記憶が残ってるな。
久しぶりにやってみよ。
347名無しさんだよもん:04/06/10 04:22 ID:aJMZ7zdx
ストーリーは別にいいんだけど
立ち絵流用の所為で芳野と渚が夫婦というイメージになってしまって
なんかCLANNADというゲームを根底からぶち壊しているように感じてしまったよアレは
勝平&椋の件とは比べ物に成らない位にやっちゃいけなかった事だと思った。

348名無しさんだよもん:04/06/10 21:55 ID:NNt8vmjq
なんか話が止まってるんで、とりあえず報告しておく。
SSコンペスレにて智代SSが投下された模様。今回もCLANNADSSは集まるのだろうか?
349名無しさんだよもん:04/06/10 22:04 ID:l3jjvBSG
しかし、寂しいスレになっちまったな。
職人さんはどこいったー?
350名無しさんだよもん:04/06/10 22:06 ID:hJQvFXd4
DMNLの方は大盛況なのにね。
351名無しさんだよもん:04/06/10 22:18 ID:+fJ42N8Q
ブラフに難癖付けられるのがいやで投下しない、と言ってみる。
352名無しさんだよもん:04/06/10 22:23 ID:BKu0PEhL
池沼の雑言に腹を立てているようでは、精神の鍛錬が足りぬ。精進せよ。
353名無しさんだよもん:04/06/10 23:29 ID:+fJ42N8Q
でも、最後に投下されたのが2日前か。
しかも小ネタ……。
週末になれば賑わってくれるだろうか…………
354名無しさんだよもん:04/06/11 00:07 ID:1NuvQRUE
>>353
悪い意味でね。
355名無しさんだよもん:04/06/11 02:28 ID:QAaOcqMI
どっかのクソコテが調子こいてるからだ
356コテとトリップ:04/06/11 02:59 ID:6w1Nbp+4
最初のころは勢いもあってぽんぽん投下されてたけど
そんなに頻繁に書き上げられるもんでもないだろう。
書いてるやつが焦るかもしれんし、どーんとかまえて待ってようや
357名無しさんだよもん:04/06/11 08:23 ID:WfTSxNVe
このスレって投下の時期が重なることが多いよね
358名無しさんだよもん:04/06/11 08:57 ID:wBlv5D6T
くらなどSS祭りの方に行った人も少なからず居るかと
359名無しさんだよもん:04/06/11 20:14 ID:dLsfFV5l
>>358
なにそれ、詳細希望
360名無しさんだよもん:04/06/11 20:16 ID:8swshnFh
361コテとトリップ:04/06/11 22:02 ID:T15np4k9
>>270-283

いま偶々読んでみたんだがけっこうおもれった
いいな、偶々
362名無しさんだよもん:04/06/12 21:40 ID:ahMgYbvf
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1085992043/304-316
俺の常駐スレにSSが投下されたんで報告。
珍しい芳野夫妻SS(・∀・)イイ!!
363名無しさんだよもん:04/06/13 07:03 ID:AtH/LgqT
364名無しさんだよもん:04/06/13 22:37 ID:puC3u32M
エロすれまた落ちたのか・・・?
3651/3:04/06/13 23:48 ID:vwYtSsQV
「せんせいさようなら〜」
「はいさよなら」
「せんせい〜またあした〜」
「またね」
……ふぅ。
今日も一日の仕事が終わる。いくら好きでやっている仕事っても、毎日遊びたい盛りの子供達を
相手にするのはさすがに疲れるのよね。
っと、まだ終わってなかった。一番肝心な子がまだ残ってるじゃない。もうあのバカったらなに
やってるのよ。
「……ハァ、はぁぁ……すまん、待ったか汐?」
「パパったらきょうもおそかったの」
「あー悪い悪い。明日はちゃんと時間通りに迎えにくるから」
「きのうもおとといもそういってたのに〜」
そういってすねる汐ちゃん。数ヶ月前までは見ることのなかった顔だ。やっぱり親と一緒に暮らす
ってことがよかったんだろう。最近はどんどんと表情豊かになっていくのがわかって、こっちも嬉
しくなる。
それはいいのだけど。
「ちょっと朋也、ここんところ毎日お迎えが遅いじゃない。仕事が忙しいのはわかるけどもう少し
どうにかならないの?」
「そういうなって。これでも無理いって抜けさせてもらってるんだぜ。それに明日からは現場がこの
あたりになるから、時間通りにこれると思う」
「「ほんとに〜?」」
期せずしてハモる私と汐ちゃんの声。
「本当だって。ったくこういうときだけピッタリと息が合いやがって」
「あら失礼ね。私と汐ちゃんはいつだって息ピッタリよ。ね」
「ね〜」
「はいはい、そういうことにしといてやるよ」
3662/3:04/06/13 23:50 ID:vwYtSsQV
ひとしきり3人で笑ったあと、少しばかり真剣に訊いてみる。
「でもさ、マジメな話、私がもう少し面倒みててもいいのよ? ボタンだっているから汐ちゃんも
寂しくないと思うし」
「いや、そこまでしてくれなくても大丈夫だって。いざとなったら早苗さんもいるからな」
「それもそうね」
「それに、おまえだって大変だろ?」
こういうところは変わってないな。ぶっきらぼうで口が悪い癖に、ヘンに他人のことを気にかける。
そういえば彼女も頭にバカがつくくらいにお人好しだったっけ。今更ながらに思うけど、やっぱり
お似合いだったわけだ。
「なにいってんのよ。私が汐ちゃんともっと一緒にいたいからよ」
憎まれ口に載せる本音。でもコイツは昔っからこういうことに鈍いから私の気持ちは気づかれない。
それがちょっと、悲しい。
「パパぁ、はやくかえろ?」
私たちのやりとりをみてるのに飽きたのか、汐ちゃんが朋也の上着の裾を引っ張っている。
「そうだな。それじゃ今日はこれで帰るわ。また明日な」
「せんせいさよなら〜」
「はい、また明日会いましょうね。朋也も明日こそはちゃんと迎えに来るのよ?」
「わかってるって」
二人手をつないで夕日の中を歩いていく。その光景が少しうらやましかった。
367名無しさんだよもん:04/06/13 23:51 ID:vwYtSsQV
「あ、そうだ」
と、突然振り返って、小走りに戻ってくる。
「いったいどうしたってのよ」
あ〜あ、汐ちゃんをほっぽってなにやってるのよ。あきれた顔でこっちを見てるじゃない。
「なぁ、今度あのトンカツの作り方、教えてくれ」
あのトンカツ。
高校時代に何度か作ってあげたアレか。懐かしいな。
それに、朋也ったら忘れてなかったんだ。
「べつにいいけど、説明するのはちょっと難しいのよ、アレ。タイミングとか、分量とか結構微妙だし」
「そっか」
「だから、今度の休みにでも作りに行ってあげる」
「悪いな。じゃぁ日曜にでも頼む」
「わかったわよ。それよりちゃんと掃除しておきなさいよ。私はトンカツを作りに行くだけなんだからね」
「うるせーよ。じゃ、そういうことで」
今度こそ二人で帰って行く背中を見つめながら、私は日曜の算段を必死に考えていた。
なに着てこうか? ヘンに気合いの入った格好だと不自然だし、普段着のままってのもアレだし。
それに肉もいつもよりいいものにしておかないと……
ふと、アイツの部屋に行くのはこれが初めてだということに気づく。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
顔が音を立てて真っ赤になったのが自分でもわかる。
うわぁ……、よく考えたらとんでもないこと言い出したかも。
でも、私とアイツの関係を変えるための第一歩としては、これ以上の機会はないのかもしれない。
「っし! やっぱり気合い入れてくわよ!」
368名無しさんだよもん:04/06/13 23:53 ID:vwYtSsQV
↑3/3です。

つーことで、汐afterで杏よりのエピソードでした。
杏スレがトンカツのレシピの話で盛り上がってるのを見て、勢いだけで書いてしまいました。
369名無しさんだよもん:04/06/14 08:59 ID:gm0JIsMe
もしかして某妹スレの某コテ氏でしょうか?
370名無しさんだよもん:04/06/14 14:32 ID:mfMRSlz8
age
371名無しさんだよもん:04/06/14 22:24 ID:jphTmpYe
そこで風子とばったりですよ。
372名無しさんだよもん:04/06/14 23:00 ID:Ekr52ivA
風子にグッサリ刺されるのか・・・ヒトデで
373名無しさんだよもん:04/06/14 23:05 ID:S38E66N+
風子がばったりです。
374名無しさんだよもん:04/06/15 04:30 ID:lRsFd76q
風子がぐったりしてるところを介抱するのさ。
375名無しさんだよもん:04/06/15 04:45 ID:iL8LOaBy
風子がバーバラ静岡してるところを大宇宙コスモするのさ。
376名無しさんだよもん:04/06/15 13:19 ID:fgbP9fi0
どうでもいいが、バーバラ藤岡じゃないか?
377名無しさんだよもん:04/06/15 14:40 ID:RVqXokX7
>>376
ネタn(ry
378名無しさんだよもん:04/06/15 15:42 ID:q6o+q4Z4
バーバラ セクサロイド
379名無しさんだよもん:04/06/15 20:14 ID:UKJkVvoQ
よりによって戸川純かよw
380名無しさんだよもん:04/06/17 03:00 ID:I6KZ19s7
保守
381名無しさんだよもん:04/06/18 09:58 ID:JtiyMyqb
ココは過疎なインターネッツですね。
382名無しさんだよもん:04/06/18 10:09 ID:O+xlUA4G
■■■■■■■■■■■■警告■■■■■■■■■■■■■
保守書き込みや意味の無いレスは止めてネタを作る努力をしろ!
(この警告は保守効果をなくす為に、
前の書き込みから一時間以内に行っております。)
■■■■■■■■■■■■警告■■■■■■■■■■■■■

インターネッツだ?アホか?2ちゃん初心者は半年ROMってろ!
383名無しさんだよもん:04/06/18 10:13 ID:5/4xXeca
>>382
自分のことを棚に上げてる奴はっけーん
384名無しさんだよもん:04/06/18 10:15 ID:O+xlUA4G
>>383
バルタンさんハケーン。
385(Y)<o¥o>(Y):04/06/18 10:15 ID:5/4xXeca
ばりた
386名無しさんだよもん:04/06/18 10:18 ID:O+xlUA4G
ちょっと言い訳しておくと、コテハンとか保守巡回をするやつのIDは
今やっている事のためにどうしても気になっちゃうんですよ。
387(Y)<o¥o>(Y):04/06/18 10:23 ID:5/4xXeca
なにに対しての言い訳か知らないけど
本気でばるたんだって事隠してるわけでもないよ
388名無しさんだよもん:04/06/18 10:31 ID:O+xlUA4G
いや、俺の書き込みに対してだけ名無しでレスしてるなぁと思って。
もしかして
「バルタンは俺のレスが気にくわない」
じゃなくて
「名無しさんだよもんは俺のレスが気にくわない」
っていう構図を作りたいんじゃないかと疑ってしまったわけ。
389(Y)<o¥o>(Y):04/06/18 10:37 ID:5/4xXeca
何というか勇者君は本気で自己解釈を押しつけるの好きだね
とりあえずこれ以上ここを邪魔するのもアレなのでばるたん撤退しまーす

スレ住人の皆様スレ汚しごめんね
390名無しさんだよもん:04/06/18 10:52 ID:JtiyMyqb
ばるたんさん、お土産どうぞ
っ [ ID:O+xlUA4G ]
391名無しさんだよもん:04/06/18 10:58 ID:O+xlUA4G
じゃあ、俺もこれで失礼します。
スレ汚しすみませんでした。

>ばるたんさん
何か有ったら続きは自治スレでどうぞ。
392名無しさんだよもん:04/06/18 10:59 ID:0aP2XTg5
>>382のメル欄の確認は忘れずに
393名無しさんだよもん:04/06/19 02:05 ID:FLnmdFKb
さがりすぎですよ
394名無しさんだよもん:04/06/19 15:34 ID:k4bXvdeq
基本的には、職人さん待ちだし。
395名無しさんだよもん:04/06/19 17:10 ID:qh99a2iW
クラナドSS「渚生存編カントリーロード」

俺は今電車の中で揺られながら寝ていた・・・
それは数時間前の事だ。
早苗さんに言われお盆休みをとり古河パンに3人で向かった。
がらがら・・・
朋也「ちーっす」
しかしいつものような明るい返事は返ってこない。
しかたないので奥まで行ってみるが、やっぱり誰もいない。
渚「朋也くん、どうしました?」
朋也「いや、早苗さんとオッサンがいないんだ・・・」
くいくい
ズボンを引っ張りられていた。
朋也「汐、どうした?」
汐「パパ」
そう言うと汐は外を指差した。
外を見てみるとそこには見慣れた光景があった。
早苗さんが泣きながら走っている。
秋生「俺は早苗のパンが好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
朋也&渚&汐「・・・・」
そして早苗さんは家の奥に行ってしまった。
396名無しさんだよもん:04/06/19 17:11 ID:qh99a2iW
秋生「よう!渚と汐じゃねーか。」
朋也「オッサン、俺も来てるんだけど。」
秋生「かーっお前なんてどうでもいいんだよ!帰れ帰れ!」
渚「よくありません!朋也くんが帰るなら私としおちゃんも帰ります。」
秋生「・・・しょうがねぇな、よく来たな!」
朋也「ところで早苗さんが泣いて走ってきたけど、オッサンまた泣かせたのか・・・」
秋生「ああ、昨日売れ残った早苗のパンで汐と野球するぞ〜って言ってたら聞かれてた・・・」
朋也「それはオッサンが悪い。」
そんな話をしてると中から涙を拭きながら早苗さんが出てきた。
朋也「ちっす」
早苗「朋也さん、おはようございます」
渚「お母さん、おはようございます」
早苗「はい、渚もおはようございます」
汐「さなえさん、おはよう」
早苗「はい、しおちゃんもおはよう」
いつもの早苗さんだった。
そういえば旅行に行くとは聞いていたが詳しくは聞いていなかった。
397名無しさんだよもん:04/06/19 17:12 ID:qh99a2iW
朋也「早苗さん」
早苗「はい、朋也さんなんですか?」
朋也「あの・・・旅行ってどこにいくんですか?」
早苗「それはまだ秘密です」
そういって微笑む早苗さん。
早苗「じゃあみんな揃いましたしそろそろ行きましょうか」
秋生「おう!さっさといこうぜ!朋也お前は荷物持ちだからさっさと持て」
朋也「なんで俺が荷物持ちなんだよ!」
渚「そうです。朋也くんは荷物持ちではありません!」
さすが俺の嫁だ。
早苗「私は秋生さんの男らしいところ見てみたいですね」
秋生「俺はいつも男らしいぞぉぉぉぉ!おらっ荷物よこせって・・うあぁぁぁぁぁぁぁ!」
早苗「秋生さん、かっこいいですよ」
結局オッサンが荷物持ちになっていた。
秋生「じゃあいくか」
汐「・・・おー!」
そうして俺たちは駅に向かった。
398名無しさんだよもん:04/06/19 17:13 ID:qh99a2iW

秋生「よし!着いたな、お前ら俺が1番乗りだからな!俺の後に乗れよ!」
あんたは子供か・・・
早苗「秋生さん私たちはここまでですよ」
秋生「なにぃぃぃぃ!そういえば俺たちの荷物がないっ」
早苗「はい、だから私たちは見送りですよ」
秋生「なんだとおおおおおおおお!」
オッサンは駅の改札口で叫びながらもがいている。
早苗「はい、朋也さん」
そういわれるとメモと3枚の切符を渡された」
早苗「このメモに泊まる旅館と行き先の予定が書いてありますので」
俺もよく分からなかった。
朋也「あの・・・早苗さん達は行かないんですか?」
そういうと早苗さんは微笑みながら
早苗「はい、家族水入らずで楽しんできてください」
今理解できた。
いつものことだが早苗さんには一生頭が上がらないな。
朋也「そうですか・・・わかりました!早苗さんありがとうございます」
早苗「はい、楽しんできてくださいね」
渚「お父さん、お母さん行って来ます!」
早苗「はい、いってらっしゃい」
秋生「いってこい!久々にちちくり合ってこい!」
渚「ちちくり合いなんてしません。それにしおちゃんの前でそんな事言うのはやめてください」
旅館と言えば布団を並べてあんな事やこんな事をするんじゃないのか・・・
朋也「はぁ・・・」
少し期待していた俺は肩を落とした
399名無しさんだよもん:04/06/19 17:15 ID:qh99a2iW
渚「朋也くんもがっかりしないでください。でも朋也くんがしたいのならしてしまうかもです・・・」
また恥ずかしい事を言ってる渚。アホな子だ。
秋生「するのかぁぁぁぁ!」
そういいながら俺を睨むおっさん・・・
汐が生まれてるんだから今更オーバーリアクションするなよ
秋生「まあ楽しんでこい!」
朋也「ああ」
早苗「そろそろ電車が着きますよ」
朋也「じゃあ行ってきます!」
渚「行ってきます」
早苗「はい、お土産楽しみにしてますね」
秋生「俺にはガソダムのプラモデル買ってこいよ!」
そんなもん売ってるわけないだろ・・・
そうして俺達は電車に乗り込んだ。
400名無しさんだよもん:04/06/19 17:16 ID:qh99a2iW
そう数時間前にこんなやり取りがあったのだ・・・
俺は電車で揺られ寝ている。
夢を見ていた・・・分からないが良い夢ではなかった。なぜこんな物悲しい夢を見たのだろう・・・

なぜか分からないが他人行儀な汐と旅行をしているような夢だった。
そこには渚の姿は無く俺と汐だけしかいなかった。
汐は俺を怖がってるようにも思えた。
親子のようで親子でない・・・そんな感じがした。
夢の中の俺は胸にぽっかり穴を開けていて抜け殻のような人間だった
俺は汐におもちゃを買い与え、汐はそれを暑くだが美しい風景のなかで
それを・・・なくしていた・・・・また買ってやると言ったが
汐はそれでないとダメと言っていた・・・それほどたいした物ではなかったはずだった。
俺と汐はそれを探したが見つからず
・・・そのあとは覚えていなかった。
ただ・・・そのあとは嫌な感じではなかったはずだ。
401名無しさんだよもん:04/06/19 17:17 ID:qh99a2iW
汐「パパ・・・パパ」
その声に気づき俺は目が覚めた。
汐「パパ・・・大好きだよ」
なぜか俺の目は潤んでいた・・・
朋也「ああパパも大好きだ」

なぜ汐がこんなことを言ってるのかよく分からなかったが
隣の家族をみて理解できた。
女の子「ぱぱ〜大好きだよ〜!」
女の子の父親「そうか〜パパも大好きだぞ!」
女の子「ぱぱ〜とっても大好きだよ〜!」
女の子の父親「パパもとっても大好きだぞ!」
しばらくこんな会話が続いてた。アホな子か?と思った。
しかし明るい笑い声がしていた。

汐「パパ・・・泣いてるの?」
朋也「いや、あくびだ」
朋也「それに強い子は泣かないんだ!」
汐「うん!」
俺はそう答えたが原因はあくびではなかった。
夢の事だろう・・・しかし思いだせなかった。
そしてなぜだか嫌な予感がして回りを見渡した。
渚を探していたのだ・・・
しかし・・・渚の姿はそこにはなかった・・・数時間前には汐を挟んだ隣に
座っていたはずなのに・・・
夢のせいか俺は無性に心配になった・・・
402名無しさんだよもん:04/06/19 17:18 ID:qh99a2iW
朋也「汐・・・ママはどこだ?」
しばらく下を向くと・・・
汐「・・・トイレ」
朋也「そうか」
そして渚が席に戻ってきた。
俺は無意識のうちに渚を抱きしめていた。
朋也「・・・渚・・好きだ」
そうつぶやいていた・・・
渚「はい、私も朋也くんの事が好きです」
俺は渚を強く抱きしめた。
渚「でも朋也くん・・・ここは電車の中です。みんな見てます。恥ずかしいです。」
渚は頬を赤くして下を向いていた。
俺は渚の言葉を聞き我に返った・・・マジで恥ずかしい・・・だが俺は安心していた。
朋也「ごめんな・・・」
渚「謝らなくてもいいです。・・・・嬉しかったです・・・えへへ」
渚は照れながらも喜んでいた。
それをみて汐も微笑んでいた。

そして電車は目的地に着き動物園に行き汐はとても楽しそうだった。
宿では3人で色々な話をした。
次の日のお花畑では景色を眺めながら売店で買った弁当を3人で食べ
最後は聞いたことのない岬へ行った・・・壮大な眺めだ・・・
そこに一人の年老いた女性がいた。
403名無しさんだよもん:04/06/19 17:18 ID:qh99a2iW
そこでこの人が親父の母親であること
親父が俺を一生懸命育てた事を聞いた・・・
俺は親父を初めて尊敬した。

志乃「あなた達は直幸の為にも幸せになってくださいね」
志乃「あなた達の幸せは直幸の幸せにもなると思いますから」

俺はすでに長い坂道を登りきった気でいた・・・
しかしまだ登り出したにすぎないんだ・・・
俺は・・・渚と汐とこの長い、長い坂道を一歩一歩登っていこうと決めた!
時間はかかるかもしれない・・・だけどこいつらとなら必ず登り切れる・・・
今まで家族を知らなかったが、これが本当の家族なんだと・・・俺は・・・思った。

朋也「渚・・・幸せになろうな・・」
渚「朋也くんとなら必ずそうなれます・・・えへへ」

そして俺達は長い、長い坂道をゆっくりと登りだした・・・

渚生存編END
404名無しさんだよもん:04/06/19 17:20 ID:qh99a2iW
糞SSですがどうぞ(・∀・)

405名無しさんだよもん:04/06/19 17:28 ID:oU9MmUmR
  _、      
( ,_ノ` )      あんた、CLANNADクリア完了感想スレの229かい
  [鯖]'E 
406名無しさんだよもん:04/06/19 18:09 ID:rDYpZwro
・・・と!が多すぎ。でも大筋は好き
407名無しさんだよもん:04/06/19 18:13 ID:9nfzHBHS
バーチャンの筋書きじゃなくて、カーチャンの思いやりで解決の方が好みだが、
これはこれで
408名無しさんだよもん:04/06/19 19:18 ID:FJthiojk
どっかで見たことあるんだが。
409コテとトリップ:04/06/19 19:51 ID:5kz/CMdP
>いつもの早苗さんだった。
>そういえば旅行に行くとは聞いていたが詳しくは聞いていなかった。

ここで読むのやめた
なにが「そういえば」だつうの
410名無しさんだよもん:04/06/19 20:08 ID:Sv/cucKl
>そして電車は目的地に着き動物園に行き汐はとても楽しそうだった
これ、三段オチみたいでいいな。ワラタよ。
411名無しさんだよもん:04/06/19 20:22 ID:q+9sTpeF
>汐「パパ」
>そう言うと汐は外を指差した。
秋生がパパですか。

SSつーか考えたことをただ書きなぐっただけって感じだな。
台本形式で読みづらいし、文法的におかしい箇所があるし。
話の山場?より導入部分の方が長いってどういうことだよ。
>>440-441の夢で回想のシーンは生理的に受け付けない。
412名無しさんだよもん:04/06/19 21:07 ID:ETZbidS/
題材は悪くないんですが、残念ながら技量が全く追いついていません。
最高の素材を生煮え生焼けの状態で食べさせられたような気分です。
厳しい事を書いていますけど、それだけ期待外れだった、ということです。
期待されるような題材を選んだ以上、期待に応えてください。
あと、書きたいという気持ちだけでは賞賛は得られない事を悟ってください。
413コテとトリップ:04/06/19 21:13 ID:5kz/CMdP
勝手に期待しといてなんて言い草だ。酷すぎる
414名無しさんだよもん:04/06/19 22:26 ID:rR4qkeg6
コテトリは>>409で・・・
415コテとトリップ:04/06/19 22:54 ID:5kz/CMdP
おれはタイトルに「生存編」なんて入れるセンスにはじめっから期待のキの字もなかったからいいんだ
416名無しさんだよもん:04/06/20 00:28 ID:6eJqQbYb
>>395-403
どっかのスレで前に見たぞこれ?
仮にパクリだとして、糞SSとか言ったら元の作者さんに失礼だろうが
417コテとトリップ:04/06/20 00:37 ID:y9d2pQLb
パクリだったとしてだ、パクることは失礼極まりないことだとは思うが
それに糞SSとかいったら元の作者さんに失礼ってのは変な話だ
クソがクソなことに変わりはないだろうに

上のSSとは関係のない次元の話で、な
418名無しさんだよもん:04/06/20 02:10 ID:neCP4r/x
なんで俺の書いたSSが貼られてるんだ?
しかもぼろ糞に言われとるし('A`)

まあ最初で最後のSSやで糞なのはわかっとるけど_| ̄|○

↓↓↓↓↓↓↓↓以下スルーでよろ↓↓↓↓↓↓↓↓
419名無しさんだよもん:04/06/20 05:27 ID:DZwQA7C7
>>418
お前か。こんなクソ捻り出したのは。
4201/5:04/06/20 05:40 ID:US/egdQA
最近よくつるんでるグループで海へやってきた。最初は俺と風子のデートのはずだったのだが、
「ふぅちゃん、来週の日曜日、あいてますか?」
「その日は海に行こうかと」
「海いいですねっ。わたしも行きたいです」
「では渚さんも一緒にいきましょう」
「ちょっとまったぁっ。渚ちゃんが行くなら僕も行くからねっ」
「はい。みんなでいきましょう」
ということで古河と春原がついてきてしまったのだ。最初はまあいいかとも思ったのだが、
「いやー、今日は絶好のダブルデート日和だよねっ」
とワンパターンな台詞を吐く春原を古河がさらっとかわしたり、俺が軽く突っ込みをいれたり、
そんなシーンが往路だけで20回は繰り返され、いい加減うんざりしてきたりもしていた。
それでもなんとか海へつくと、水着に着替えて浜辺に集まる約束をした。
俺が着替えて浜に行くと、最初から下に水着を着ていた春原がパラソルを広げて待っていた。
そこに風子もやってきた。しかしその格好は色気とは遠いものだった。
「風子、おまえスクール水着かよ。もっと何か持ってないの?」
「ちゃんと着られる水着です」
「スクール水着、僕はいいと思うよ。風子ちゃんにぴったり似合ってるしねっ」
「目つきが異常ですっ」
ボガッ
「ぎゃああぁぁぁぁっ」
などとやってると、最後に古河がやってきた。こちらはかなり大胆なハイレグツーピースだ。
「古河、お前見かけに寄らず大胆なんだな」
「渚ちゃんさいこーっ」
「ちょ、ちょっと恥かしいです。お母さんがこんなのを選んでしまって」
照れる古河に見とれていると
「岡崎さん、目つきがいやらしいです」
と風子にジト目で言われる。
4212/5:04/06/20 05:41 ID:US/egdQA
「いや、だってお前の水着、シンプルすぎるし」
「無駄な買い物はお金がもったいないですから」
まあ風子らしい理由ではある。しかしそれでは古河の方に目が行ってしまうのは無理からぬことなのだが。
ともかく4人は水着で揃い、色々と遊んだ。

ビーチバレーでは俺の肩の問題もあり、俺チームの不利はいなめなかった。
「こらっ、俺はトスもアタックもできないんだぞっ」
「じゃあ素直に僕と組めばよかったんだよ」
「てめえはいの一番に古河とチーム組んだだろっ」
「でも岡崎さんの対応できない分はふぅちゃんがカバーしています。
 さすがに恋人同士の相性はバッチリです」
「もちろん僕と渚ちゃんも最高のうぼぁっ!」
風子のアタックが見事に春原を撃沈していた。
もっとも、古河がすかさずフォローして返されてしまったのだが。
結局のところ、古河春原チームの圧勝だった。

スイカ割りでは春原が風子をからかった。
「風子ちゃん、こっちこっち」
「春原さん、いじわるしてはだめです」
「おーい、風子。こっちだこっち」
「どっちなのかわかりませんっ。えーいっ」
バゴン
割れた。春原の顎が。そして春原の倒れた先にはスイカがあった。
ぐしゃ
風子は間接的にだが見事にスイカを割った。

遊びつかれた俺達は宿に行き、夕食まで休むことにした。
夕食は浜辺でバーベキュー。水着にTシャツ程度の格好で集まることになった。
4223/5:04/06/20 05:42 ID:US/egdQA
プルルル、プルルル。
俺が自室で休んでいると、電話が鳴った。
液晶パネルには205とあった。確か風子の部屋のはずだ。
「はい、岡崎だけど」
「風子です」
「どうしたんだ?」
「ちょっと部屋まで来て下さい」
「今?」
「はい。だめでしょうか」
「いや、まいいけど」
受話器を置くと、俺は2つ隣の風子の部屋に向かった。
コンコン
ドアをノックすると
「開いてます」
風子が答えた。
ドアを開けて部屋に入ると、中は薄暗かった。灯かりが点いていない。
「風子?」
廊下を抜けて部屋の中央まで進むと、柱の影に風子が佇んでいた。
風子の顔は暗くてよく見えないが、バスタオルを巻いている。
このシチュエーションはまさか……?
「岡崎さん、風子のこと、嫌いにならないでください」
「お、おい落ち着け風子」
「もう我慢できません」
「だめだっ。心の準備が、いやそういう問題じゃない。とにかくだめだっ」
「だめですか? やっぱり風子のこと、嫌いになってしまいましたか?」
風子は悲しそうな顔をする。
4234/5:04/06/20 05:42 ID:US/egdQA
「風子のことは好きだ。だけどさ、ほら」
「もう隠し事はいやです。岡崎さんにはすべてを受け入れてほしいです」
言って風子はバスタオルから手を離す。
ハラリ
バスタオルは床に落ちる。
「うわっだめだ……って、え?」
風子は水着を着ていた。スクール水着ではなく、方形の布を胸に巻いて縛り、腰には短いパレオをまとっていた。
髪もよく見るといつものリボンは外していて、代わりに真っ赤なヒトデの髪留めをしていた。
南国風にまとめた姿はとても可愛いものだった。
しかしその露出した腹部には傷痕が走っていた。
隠し事、というのはこの傷のことなのだろう。
「風子………びっくりするぐらい可愛いぞ」
俺は素直な気持ちを言った。
「隠し事、いやでした。でも岡崎さんに嫌われたくなかったです」
「嫌うわけないだろ」
「受け入れて貰えるかわかりませんでしたから。水着を買ってないなんてウソまでついてしまいました」
「バカ。お前は俺の気持ちをそんなに軽く見てたのか?」
「すみません」
そう言って風子は俺に体を預けてきた。
俺は風子を軽く抱きしめ、キスをする。
「ん……」
風子は背伸びをして腕を俺の首に回し、さらに深いキスを求めてきた。
一瞬目を開くと、間近にある風子の顔には涙の跡があった。
これだけの告白にこいつがどれだけ悩んだのか、それを痛感した。
俺はさらに強く濃厚にキスを重ねた。
水着姿で抱き合い、何度も唇を合わせた。
やがて、俺は風子の体をベッドに横たえたが、風子は顔を赤らめながらも俺に幸せそうな視線を投げかけていた。
俺はそれを了承と受け取り、風子に体を重ねた。
4245/5:04/06/20 05:43 ID:US/egdQA
俺と風子は呼吸を整えてから、部屋を出た。
すると目の前に古河と春原がいた。
「あ、ああ、あ、ふぅちゃんに岡崎さん。も、もうバーベキューの準備できました」
「何どもってんだよ」
「お二人さん、何をしてたんだか」
二人とも気付いているのか!? ……まあ部屋の防音はしっかりしてるから怪しんでるだけだと思うが。
そうだ。そうに違いない。そういうことにしておこう。
「二人で部屋から出てきたから誤解してるんだろうが、俺達は話し込んでただけだぞ。なあ風子」
「はい。特別なことはなにもありませんでした」
予め俺が指示した通りに風子は答える。このまま適当にごまかせるだろう。
「はい、そうですねっ。わたし、先に下りてますから」
言って足早に古河が立ち去る。そこまで疑ってるのか?
「あのねぇ、お二人さん」
春原がにんまりとしながら話し掛けてくる。
「ごまかせないって。お互いの体を良く見てみるんだね」
え? 俺は驚いて風子の体を見る。風子も俺の方を見る。
首筋やら胸元やらにてんてんと赤い染み。どう見てもキスマークだった。
しまった。部屋では暗くてよくわからなかった。
「……このホテルは蚊とかアブが多いよなあ、風子?」
「…………」
風子は顔を真っ赤にして俯いてしまい、もう何も答えられなかった。
「ごまかすのはあきらめたほうがいいんじゃないの?」
ふふんと笑う春原。
「うるせっ。お前にも同じ跡をつけてやる。つねりまくってなあっ」
「ひいいぃぃぃっ」

結局、俺と風子、古河は始終無口で、
バーベキューをまともに食べられたのは春原だけだった。
めでたくもあり、めでたくもなし。
425名無しさんだよもん:04/06/20 10:32 ID:QfZ8TVWH
風子と岡崎が恋人関係になっていても、
他の二人がちゃんと友達として存在しているのがいいなあ。
風子がかわいいのはもちろんだが、渚も岡崎も春原も可愛いよ。
ほのぼのしまくりだったよ。

あと、
>往路だけで20回は繰り返され、いい加減うんざり
いちいちツッコミ入れてやってるのかと思うと……
いい奴だな、岡崎。
426sage:04/06/20 12:42 ID:7+O4Es67
ことみ―Daddy Long Legs―


今でも夢に見る、暗く沈んだ書斎。
ちろちろと舌を這わせるように燃え広がる火、その前で冷たい床に座り込んで、小さな身体を震わせて、軋むような嗚咽をあげる少女。
我々の、私の、罪がそこにあった。
そのほんの数日前、動転していた我々がした行い。
悲しみの淵に沈む彼女を奈落へ叩き落すような所業。
それは、永劫に消えない記憶だった。

「………」
すべてを拒絶するような暗闇に覆われた家。
師事していた、いや、恋焦がれていたと言っても過言ではないほどに憧れていた博士の生家。
無知蒙昧な輩が陥る狭量な色眼鏡で世界をねめつけていた私の、文字通り目を開かせてくれた先生は、もうそこにはいない。
誰もいないのか、そう疑りたくなるような、痛いほどの沈黙。
だが、わかっている。
彼女はそこにいるのだ。
あの日から止まったままの時の中で、今も一人、悲しみの淵に。
「………」
氷が滑り落ちるようなひりつきが胸を苛む。
身を折り、振り払うように咳払いして、そして背を向ける。
本当はそこには何でもない暖かい家庭があって、やんちゃ盛りの娘を寝かしつけた両親が疲れ果てた寝息をたてているのだろう。
だが、暗く沈んだ家は嫌でもあの夜の事を思い出させた。
赤の他人の家を見るだけですら、これほどの自責の念に襲われるのだ。
実際にあの家を前にすれば。情け無い事だと歯噛みする。
世界をねめつけていた頃の自分が抱いていた万能感が、いかに取るに足りないつまらないものであったかを、嫌になるほど思い知らされる。
齢四十にして、ようやくそんな事に気づくとは。
「先生。自分は未熟者です」
博士夫妻が消えた空を見上げる目に、涙がにじんだ。
427sage:04/06/20 12:43 ID:7+O4Es67
月明かりが窓から差し込む部屋で、少女は一心に何かを覗き込んでいた。
青白い光に照らされた頬はげっそりとこけ、瞳は目の前のページの上を滑ってはいるが、文字を読んではいなかった。
たどたどしく取り留めの無い数式を取り上げ、ひとり泳がせた目線の中にその理論を展開し、それが夜闇に次々に消えて行くのにも構わずに、また次の理論を読み上げ、展開する。
ただ消えて行く数式。
その裏に隠されている意味も真理も振り捨てて、ただ一心に定理を追う。
何のために? 何でそんなどこにも行き着かない事を? 
わからなかった。
つい数日前までは、料理の本を読み漁り、お節作りで夜を明かしたり、貸してもらったヴァイオリンを一生懸命に弾いていた。
もっと前はこの場所で、こんな風に本を読んでいた。
けれど、その傍らにはいつもノートを置いて、浮かび上がった意味を書き留めていたはずだった。
たどたどしい鉛筆、丸っこいシャープペン、そして落ち着いた万年筆に変わりながら、文字は、既にノート数十冊にわたってびっしりと書き込まれていた。
もし、意味が取れる人間がそれを読んだら、そこに連綿と書き連ねられている壮大な理論に驚嘆した事だろう。
だが、少女はそれをどこにも発表したりしなかった。
連ねること、それが彼女がやるべきことだったから。
428(Y)<o¥o>(Y):04/06/20 12:43 ID:4QhJ2zcN
ばるたん「やらせはせん、やらせはせんぞー」
429sage:04/06/20 12:43 ID:7+O4Es67
「…………」
不意に、ページの上に涙が零れ落ちた。
かちかちと歯が触れ合う音、びく、びく、と大きく波打つ背中。
突っ伏した。
発作のような嗚咽が胸の奥から白い喉をすり切らせないばかりに湧き上がる。
筋の浮いた手で床を引っかき、もう片方の手で必死に口を押え、それでも声が漏れるのを止められない。
「…っ………っ」
ぽたぽたと落ちる涙が、床に散らばる何かを濡らし、引っかく爪にへばりついた。
べたべたした感触に背筋を総毛立たせて跳ね起きる。
そして見た。月明かりを受けて床一面に青白く浮かび上がる、無数の墓標のような紙片。
「は」
焼き切れた。
なりふり構わずに髪を振り乱して。絶叫にも似た泣き声が薄暗い部屋を突き破った。
かたかたと震える手が、裁ちばさみを掴んでいた。
何年も使い込んで薄く錆が浮いた刃はぬらりと不気味に光って。
切れるだろうか。
ついと当てた指に薄く一筋、血の玉が浮く。
これなら。めいいっぱいに開いて、冷たい刃を首筋に当てる。
少しでも動かせば、それで弾けて、終わり。終わり。もう、終わり。
ぐ、と手に力をこめる。薄い首の皮が押し切られる寸前まで。
そしてはさみを取り落とす。
怖い。どうしてここに生きているかわからないぐらい悲しいのに。それなのに、死ぬのが怖い。
手首を切るより楽に死ねる。なのに、その時間が怖いの? それとも、死ぬ事自体が怖いの? 
わからない。わかんないよ。おとうさん、おかあさん。
430sage:04/06/20 12:44 ID:7+O4Es67
後見人を引き受けてから最初に彼女に会ったのは、何年前の事だったろう。
あの日の泣きじゃくっていた少女は、少女らしからぬ冷たく拒絶するような目で、挨拶に来た私を見上げた。
「こんにちは、ことみちゃん。おじさんはこんど君の後見人になった……」
「………」
「ああ、後見人っていうのはね」
「知ってるの」
「本当かい、そりゃぁすごいな。ことみちゃんはえらいね」
「………」
「えっと、そうだ。今回はね、ことみちゃんのお世話をしてくれるおばさんを紹介しに来たんだよ」
「いらない」
「そんなわけにはいかないだろう、君はまだ小さいんだし、ご飯とかお洗濯を手伝ってくれる人が」
「ひとりでやるから、いいの」
「………」
二の句が継げない私の目の前で、ドアがぱたんと閉まった。
一緒に来ていた新しい家政婦が怪訝そうな目でこちらを見やっていた。
事情が分からない人からすれば、こういうやり取りは離婚沙汰やら隠し子やらの下卑た妄想をかきたてるものなのだろう。
かすかに笑いを含んだその顔をそれ以上見ていられなくて、私は家を後にした。
彼女の家を訪れたのは、あれが二度目で、そして最後だった。


夜空を見上げて、煙草をふかしていた。
下校途中に彼女と話す機会はもてたが、彼女は初めて会ったときのあの目のままで、言葉少なに応えるだけだった。
今でも、やはり許してはくれていないのだろう。
脅かしているとでも思ったのか、割り込んできた級友たちに向けられた彼女の控えめな笑顔が、唯一の救いだった。
一人ぼっちだった彼女に、友達が出来たんだ。
見も知らぬ中年男に向かって毅然と胸を張って、仲間をかばえるような、そんな、優しくて心強い友達が。
そう言えば、彼女の笑った顔を見たのは、今日が初めてだったかもしれない。
431sage:04/06/20 12:45 ID:7+O4Es67
杏ちゃん、渚ちゃん、椋ちゃん。みんな、今何をしているんだろう?
書斎にこもって、もう何度目の夜が明けただろう。
空腹を通り越して全身が虚脱しているのを感じる。
弱々しく目をしばたたかせて、相変わらず自分をぐるりと取り囲む紙片を見つめる。
まるで巨大な墓地に迷い込んでしまったような感覚。
だが、そこに眠っているのは名も知らぬ他人ではない。
お友達に会いたい。
そんな当たり前の願いが、その事実に強張り、ひびが入り、砕け散る。
見ていることが辛かった。そこに散らばっているすべてが、自分を責め苛んでいるような気がした。
無数の紙片に砕け散った、自分の罪。何よりも大好きだった二人の生涯の宝を燃やしてしまったと言う事実。
そして、そこから思い出してしまう。幼い自分が二人に投げかけた言葉。
『だいきらい』
神様! 
もう何度も何度も、喉に血の味がしみつくぐらいに呼んだ神様。
十年以上も繰り返されてきた懺悔。枯れ果てるほどの涙と引き換えに知った事実。
かみさまはいないんだ。おとうさんの言っていた、世界のハープなんて、ここにはないんだ。
どうして私はことみって言う名前なんだろう。
どうして世界に無いものの名前なんてついてしまったんだろう。
432sage:04/06/20 12:46 ID:7+O4Es67
ことみちゃんは、ことみちゃん
とってもきれいな みっつのひらがな
『きみは、だれ?』
『ことみ』
『ひらがなみっつでことみ』
『呼ぶときは、ことみちゃん』
ぎこちなく笑っていただろう私。
そんな顔をおずおずと覗きこむ男の子。
その子はあんまり笑わなくて、照れ屋さんで、かっこうつけるような事は何も言わなくて、だけど、とっても優しかった。
「朋也……くん…」
滝のように脳裏を流れ落ちて行く、彼の笑顔、そして、自分の周りで笑ってくれているお友達。
それが眩しくて、膝を抱えて。
目を刺す光から顔を隠して、そして少女は何度目かの嗚咽を繰り返していた。
ざく、ざく、と土を掘る音。懐かしい、芝刈りの音。ホースから流れる水の音が、半分開けた窓から聞こえてくる。
もうすっかり明るくなった庭に、その子がいるのにも気づいていて。だけど、会いに行けなかった。
433sage:04/06/20 12:47 ID:7+O4Es67
「アンタこないだホームルームさぼったわよねぇ?」
うりうり、と募金箱を押し付けながら、杏はいたずらっぽい表情で言う。
「し、しらねえよ、大体何のカンパなんだよそれ」
「あんた文盲? ちゃんと見なさいよね」
『ことみにヴァイオリンをプレゼント』
マジックで書かれたそれを見て、男子生徒はますます首をひねる。
「俺、ことみなんて奴知らねーし」
「いいから出す。じゃないと内申にひびくわよ?」
「藤林、それって脅迫って言わないか?」
「………」
無言で小銭を漁ろうとする男子生徒の財布から素早く札を抜き取る。
「あ、おいっ」
「毎度あり〜〜」
声をあらげる男子生徒を尻目に杏はぱたぱたと廊下を駆け出した。
部長も椋も休憩時間のたびに募金箱を持って教室を回ってくれてはいるが、多分あの二人だと大した金額は集まるまい。
目標金額をクリアするには、自分が頑張らないといけなかった。
生徒たちでごった返す昼休みの食堂にたどり着き、見知った顔を見つけ次第捕まえて募金させながら歩く。
怪訝な顔をする者もいた。誰かわからないけど、素敵ね。そう言ってお金を入れてくれる子もいた。
杏先輩の頼みなら、そう言って可愛らしい財布を取り出す後輩からは、気持ちだけ受け取っておいた。
広い食堂を回り終わった時には、もうくたくたになっていた。
「戻ってきたらあんたにも手伝わせたげるから」
だから、早くことみ連れて来なさいよね。
よく晴れた校庭の様子を見下ろして、杏はぽつりとそう呟いた。
434sage:04/06/20 12:47 ID:7+O4Es67
意味を無意味に転換する事は出来ない。
代替物たる記号数式には本当は意味なんて含まれていない。
だけど、我々が世界を知るすべは、こんなささやかな記号を労する事しか無いのだ。
「あなたはいつも難しく考えすぎですよ」
おくるみに包まれた赤ん坊を抱きかかえて、妻は笑う。
そうは言っても、この祝福されるべき命に意味に縛られた言葉を与えても良いのだろうか。
「…………」
すやすやと眠る赤ん坊の顔をじっと見つめる。
頼りなく、弱々しく、けれど、その寝顔に浮かぶほほえみは、生まれてきたこの世界への期待に満ち満ちているようにも思える。
願わくば、この子が世界にも愛されん事を。
世界中に鳴り響くハープが、彼女に祝福の歌を奏でん事を。
「ことみ」
名前は不意に口をついて出た。いきなり出てくるとは思っていなかったのか、妻がちょいと小首を傾げる。
「この子の名前ですか?」
「ああ。ことみ、と言う名前にしよう」
「ことみ…ことみちゃん」
数度名前を呼んでみて、彼女はふわりと笑顔を浮かべた。
「とってもすてき」
ことみ、ことみ、ことみ。
わたしたちの、大事な大事なたからもの……
435sage:04/06/20 12:49 ID:7+O4Es67
それが届いたのは、研究も佳境に入った深夜の事だった。
一ノ瀬夫妻宛ての荷物らしいですが。
そう自信無さげに言う所員の言葉に、私は読んでいた論文を放り出した。
机の上に置かれたそれは、確かに十数年前、一ノ瀬博士が愛用していた、そして、博士と共に海の藻屑となったはずのジュラルミンケースだった。
これに、この中に博士の最後の何かが残されている。
夫妻共同執筆の未発表論文が眠っているのか。
それならば、あの子の罪悪感を少しでも、ほんの少しでも和らげてあげられるかも知れない。
期待を込めてそれを開けた。
中に押し込められていたものがころんと転がりだした。
茶色でふわふわした、土埃のついた何か。
「………?」
自分の目が信じられなかった。そこに入っていたのは小さい子供に親が買い与えるようなくまのぬいぐるみだった。
博士が? まさか。
他には何か入っていないか、ぬいぐるみを脇に退けて、ケースの中を漁る。
もう何年も使い込まれたかのように、埃や砂で汚れたそこから、一葉の封筒が見つかった。表には、鉛筆の走り書き。忘れるはずもない、博士の筆跡。
この鞄を見つけたら、どうか娘に届けてください。とだけある。
愚かしくも私は、それが論文のタイトルでなかったことに少なからず落胆を覚えていた。
ならば、この中には何が入っているのだろう。
薄い封筒の中にあったのは、一枚の便せん。
そこに連ねられていたのは、十行足らずの日本語だった。
夫妻の日本語を見たのは、そう言えばはじめてではなかったろうか。
几帳面で力強い博士の、そして優しく丸まった夫人の筆記。
そして、そこに綴られていたのは。
436sage:04/06/20 12:50 ID:7+O4Es67
「……………」
涙が滂沱と零れ落ちた。
私は、私は何を探していたんだろう。
罪滅ぼしのために求めていた。
違う。
私は博士の論文を読みたかっただけなのだ。
博士の世界をもっと見ていたかっただけなのだ。
先生。お許しください。
私はどこまでも未熟な弟子でした。
嗚咽が漏れる。
ひざまずく。
彼女に、届けに行こう。
どんなに拒絶されても、冷たい目を向けられても、もう、逃げたりしない。
ここに綴られている思いこそが、そしてこのぬいぐるみこそが、彼女に届けられるべきもので。
そして、今度こそ私が届けるべきものなんだから。
437sage:04/06/20 12:50 ID:7+O4Es67
ほんとに大切なことは、いつでもとっても簡単なことなの
でも、だからこそ、人は気づけないのかもしれない


「多分、あの二人は気づけてはいないのだろうな」
里帰りしてきます、という彼女を見送り、同行する二人に訓示を述べ終えると、教授は苦笑いを浮かべていた。
「評判のはねっかえりですからね、あの子たちは」
横で妻が笑顔を浮かべる。
「ああ。だが、その故に見落とすことも多い。ささやかな事かもしれないが、それはとてもとても重要な事なんだ」
だから、教授は二人にこう伝えた。
気障だと思ったろうが、だが、これは本当に大切な事だから。


『世界の美しさを知りなさい』





end
438名無しさんだよもん:04/06/20 17:22 ID:Lq2Swovq
>ID:7+O4Es67氏
GJ
良かったです。
439名無しさんだよもん:04/06/20 19:41 ID:VeDcnG74
いいです。
GJ
440名無しさんだよもん:04/06/20 19:49 ID:pN17s68K
ちょっと視点変更が多すぎる気がして読みづらかったが、GJ
>429の嗚咽の描写が上手いなあと思う
441名無しさんだよもん:04/06/20 20:25 ID:qkION77K
良かったんですが、敢えて苦言を。
>>440が言うように視点変更が多すぎる上、何の前振りもないので、
何度か読み返す必要がありました。
また、これは持ち味なのかも知れませんが、わざと難しい言い回しを選んでいるようで、
少し鼻につきました。
この2点とも、リズム良く読む上での妨げになっていたので、
内容は良かっただけに非常に残念です。
442名無しさんだよもん:04/06/20 20:46 ID:a2i1JzHT
↓コテトリ降臨
443名無しさんだよもん:04/06/20 20:47 ID:Wc0VNaIN
│    _、_
│  ヽ( ,_ノ`)ノ 残念 私のおいなりさんだ
│ へノ   /
└→ ω ノ
      >
444(Y)<o¥o>(Y):04/06/20 20:51 ID:4QhJ2zcN
コテトリの正体はおいなりさんか…
445名無しさんだよもん:04/06/20 21:04 ID:PuiglCdq
うそまじで?!
くっさー
446名無しさんだよもん:04/06/20 21:07 ID:HUOz/OjN
というか全人類の正体はおいなりさんというか
その中に納まっているモノだろ?
447名無しさんだよもん:04/06/20 21:47 ID:8AuLVh5T
秋生も、そんなこと言ってたな。
448名無しさんだよもん:04/06/21 00:20 ID:e61Fudfz
風子萌えだから>>420-424とか好きなんだけど、
>>9-14書いた人と同一人物?
449名無しさんだよもん:04/06/21 00:37 ID:V/fjIRet
>>426-437
ことみ―Daddy Long Legs―

視点切り替えが多いというより、ほぼ毎レスごとに切り替えていることに気づく
(特に初見の人)読み飛ばしぎみの場合たしかにつっかかるのは解る。
漏れの場合、sage氏の作品は描写に力を入れている事が予め解っていて、
じっくり読みに逝くのでその点は気にならなかった。

>441
つーわけで、名前欄がsageの人の過去作品も読んでみては如何だろうか
450名無しさんだよもん:04/06/21 01:23 ID:rDkLdePB
これは春原の、智代に対する凄惨な復讐劇を描いた一大叙事詩である。
ドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッ
ドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッ
ドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッ
ドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッ
ドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッ
            NEW RECORD!
朋也「智代やった!スコア更新だ!」
智代「スコア・・・?私はいつも通り春原を蹴り飛ばしていただけだが。一体何の話をしているんだ?」
朋也「だから、その春原蹴りのコンボ数が65 hitでニュースコアなんだよ!」
智代「朋也、私が春原を蹴っている回数なんて・・・そんなどうでもいいものを数えてたのか?」
朋也「おうとも!いやあ、あのみんなの力を合わせて作った64hitを、あっさりぬいちまうなんてなぁ。」
智代「お前はいつも取るに足らないことばかりしているな。なんというか、暇な奴だ」
朋也「暇だから、いつも一緒に居られるんじゃん?だからいつもキスできる」
智代「恥ずかしいことを真顔で言わないでくれ。反応に困る。」
朋也「じゃ、その雰囲気を保ちつつ、部屋に戻って弁当を食べようか。」
智代「うん。今日はウィンナーを頑張ったんだ。絶対おいしい・・・と思うぞ。」
朋也「智代の作った料理にまずいものなんてあるわけない。」
二人は肩を寄せて教室へと戻っていった。
あんかけ団子と化した春原など無いものであるかのように、ポッキーを両端から食べたり、
LOVEジュースを二人で飲んだり、教室は愛の巣となっていく。
一方、道行く男子生徒に避けられまくり、一瞬近づいた女子生徒にはひそひそ話をさせられる哀の巣となった廊下の春原はというと。
451名無しさんだよもん:04/06/21 01:24 ID:NFdLfMXW
>>426-437
ことみ―Daddy Long Legs―

くらなどSS祭りにも同じ作品が投稿されてるけど、sage氏なのかな?
微妙に改稿されてたりするけど、sage氏じゃなかったら問題だな。
452名無しさんだよもん:04/06/21 01:24 ID:rDkLdePB
春原(うぉおおおおお。朋也めぇ。てめぇだけはゆるさねぇ。修行して、智代をそして朋也を、ぶったおしてやる。
ハハハ・・・いつもおいしい所だけ持って行きやがる朋也。みじめに地面にはいつくばって、僕に助けをもとめるのさ。
すいません。春原さん。私が間違っていましたと、フハハハ・・・地獄で僕にわび続けろ!トォォモォォヤァァア!ハァーハッハッハッ!ブチッ)
通行人A「あれ?ガムふんじゃったかな?」
ラグビー部に踏みつぶされて、せんべいのようにひらひらに春原はなってしまった。
と、そこに背の曲がった老人が現れた。
謎の老人「あわれじゃのぉ・・・少し手伝ってやるか」
せんべいとなった春原を見下げた老人は、春原を綺麗に4つ折りに畳むと何処かへと連れて行った。
453復讐鬼春原:04/06/21 01:25 ID:rDkLdePB
朋也「なぁ、今日の夕飯は俺が作るよ。いつもいつも智代にばっかり作らせてちゃ悪い。」智代「そんなに気をつかわないでくれ。朋也は家庭が色々大変なのだろう?私のように弟がいて、母親がいて、父親がいて、家族に恵まれているわけじゃないんだ。だから、あの、その、」
朋也「ん・・どうした?俺は何言われたって気にしないぞ。どんとこいだ!」
智代「うん、ありがとう朋也。だからな。妻の手料理ぐらいは食べてもらいたいんだ。家族がいないならたった一人の家族になって、おいしい夕飯を食べてもらいたいんだ。私はそんな家族愛で更正することができた。」
朋也「そうか。ならありがたく受け取るよ。ただ、たった一人の家族だなんて言わないでくれ、いつかは3人、4人にしていくんだから。その時は俺に手伝わせてくれるよな?」智代「朋也・・・」
夕日を背に二人はキスをした。

春原「ってラブってんじゃねぇええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
二人がキスをしていた場所は学校の桜並木だった。坂の下から大声をあげた春原は全速力で坂を駆け上がって登ってくる。が、坂の半分程で止まってしまった。
春原「はぁはぁ・・・ちょっちょっと休憩。・・・よしゃ60%回復。これでなんとか登り切れるはず」
また登ってきた。が、今度は3分の2程行ったらまた止まってしまった。
春原「はぁはぁ・・・くっそ、脇腹イッテ。・・・よし次は100%回復だ」
寝っ転がって一睡した後、登っていく。しかしまたもや途中で止まってしまった。
春原「はぁはぁ・・・おおぅ今度は腎臓がイッテ。・・・120%ぉ」
もう少し、後3歩くらいで朋也達の場所に着くと思った時。
春原「はぁはぁ・・・心臓が痛い。・・・た、助けて」
倒れた。
が、最後の力が残っていたのか、ほふく前進でその数歩を縮めると、そのまま意識を失ってしまう。
454復讐鬼春原:04/06/21 01:28 ID:rDkLdePB
春原「ハッ!?僕は何を!?そ、そうだ!智代!朋也!僕と勝負だ!修行してパワーアップした僕に敵わない敵はこの地球上にいなくなった!さぁかかってこい。」
春原はすっと立ち上がるとファイティングポーズを取る。
けれど、体力つきたのだろう。へなへなと腰を曲げて地面に尻餅をついた。
春原「痛ぁあ。アスファルトにもろに腰打ったぁああ。でも、僕は負けないぞ!」
智代「春原、少し忠告しておくが、私たちに戦いを挑む前に常人並の体力をつけた方がいいと思う。」
智代はとんとんと中指で頭を叩いて頭大丈夫?というリアクションをした。
しかし、その瞬間彼女の動きが全く止まってしまう。
春原「アホな子だって思うなぁ!謎の老人特訓施設で鍛えた。僕の奥義みせてくれる!」
春原は指に絡ませていた糸を朋也に見せつける。その糸の先を辿っていけば、ほんの少しだけ、智代に糸がかかっているのが見えた。
そして、見せつけるように春原はぎちぎちと智代を締め上げていく。
糸が彼女の豊満な胸を締め付け、股の間に食い込み、智代は嗚咽をあげた。
智代「うっ・・くっ・・まずい。助けて、と・・も・・や」
春原「ゲ。初めてやったけど、これエロすぎるっす。はぁはぁ・・・」
朋也「くっ!春原ぁ!智代を汚すんじゃねぇ!!」
落ちてくる桜の花びらを蹴散らし、怒りの篭もった朋也の拳が春原の頬に、ぶつかった。
春原「その程度かい?ホルホルホル。それじゃ北の将軍様も倒せないニダ」
春原の頬に鋼鉄で編まれた糸が錯綜している。
朋也が殴る一瞬の間に編み上げたものだった。それはどんなものも貫けない面となっている。
朋也「こ、こんなの春原じゃない・・・」
455復讐鬼春原:04/06/21 01:29 ID:rDkLdePB
もし昔の春原だったら、自分で自分の体に自縄自縛して、雪だるまさんのように坂道を転がっていくはず。しかし、この春原。
春原「フフ。朋也君、智代ちゃんの亀甲縛りを見てみたくないかい?」
エロのセンスが抜群だ!!
朋也「そ、それは凄く見たいと体がぐんぐん反応している。」
智代「う・・く・・もや」
朋也「しているがしかし!俺は智代の悲しんでる姿が見ていられねぇ!」
朋也の髪が金髪に染まり、たてがみのように逆立つ!真っ白な髪の毛は作者のベタ塗り嫌いが原因だったが、昨今のコンピュータの普及によりこのことは解消されつつあった。
が、コンピュータの普及はセルアニメの減少に繋がった!
春原「って、その説明文全然このSSと関係無いっす!」
朋也の3倍になった筋肉が春原が防いだ部分、頬へと当たる。
春原「もう、めっちゃ負けそうだけど、僕頑張るよ!」
春原は4ナノ秒という光速ぎりぎりの速度で東京タワーを編み上げた。
そして、朋也は止まってしまった。
春原「え?真剣で?ヤバクないの?」
朋也はゆっくり動き出す。
春原「やっぱり!」
しかし、動いたのは腕ではなかった。それは脚、脚が腰を中心として90度曲がる。
そして、そいつは春原の股の間を押しつぶした。
朋也「春原。今度からは女らしく過ごしな。いや・・・」
金玉の奥深くから来る電撃に身を走らせる春原。が、金的の痛みはこれからが地獄。金玉の細胞ダメージは時間に比例して上がっていくのだ。股がつぶれた時の痛さより、その後の苦しみは切腹よりも痛い。
朋也「武士の情けだ・・・ここで死にな!」
智代「朋也だめだ!正気になれ!」
朋也「と、智代。だけどこれでいいのか。」
智代「冷静になるんだ。こんなクズを殺して父親みたいになってどうする?
お前が刑務所になんか入ったら、私は本当にどうすればいいんだ。少しは私の身になって考えてくれ」
456復讐鬼春原:04/06/21 01:31 ID:rDkLdePB
朋也「す、すまねぇ・・・じゃあ一発。智代を悲しませた分で許してくれ。」
智代「ああ、それくらいならいいだろう。それなら親父さんのようにはならない」
春原「あわわ・・・暴行罪って罪があるんですけドコッ」
悪は討たれた。しかし、まだ先は長い。春原に風俗場でSM流亀甲縛りを教えたあの謎の老人を倒さなければならない。
あのじいさんを捕まえて、亀甲縛りを教えてもらう岡崎朋也の放浪の旅はまだまだ続いていく。
春原「それ目的変わってますよねぇ!」
457復讐鬼春原:04/06/21 01:32 ID:rDkLdePB
「って話を次の演劇でやろうと思うんだが?」
朋也は四枚くらいの作文用紙を演劇部の皆に配りながら言った。
ご丁寧なことに12枚コピーして部員一人一人に配っていく。演劇部はなんだかんだいって渚の演技に惹かれ一人だけ生徒が入部し、存続することができた。そして、次の演劇をしようと夏の公民館を取った矢先に渚本人が倒れてしまった。
しかし、渚の努力で作り出された夏休み講演を潰すわけにもいかず、俺ら三人だけで新しく演目を考え、一から劇をすることになって、できたのがこれである。
「つうか、僕主人公なのにめちゃくちゃやられ役っすね!全然復讐鬼じゃないし!」
「いや、十分鬼だよ。俺と智代の仲を裂こうなんて、悪魔だ。そうだよなー智代」
「全くその通りだ。」
二人は仲がよさそうに手を組んで頷きあっている。
「あ、知ってるとは思うけど、これ二週間毎日講演するから。坂ダッシュと俺に殴られまくるシーンで凹まないように、ちゃんと顔に鉄板いれる整形しとけよ。」
「顔変えろって、あんたむちゃくちゃっすね!」
「よし、それじゃ練習を始めるぞ!」
その日は日が暮れるまで練習を続けた。
458復讐鬼春原:04/06/21 01:33 ID:rDkLdePB
「はぁ・・・僕はずっとこうなのかなぁ・・・」
肩をがくんと下げて、春原はすぐ近くの学生寮へと歩いていく。
朋也が書いた物語では綺麗な夕焼けとなっているはずのこの坂道も、雷鳴が聞こえる黒い積乱雲に、すさまじい風圧のおまけつきだ。
それに雨も降ってきた。夏時の雨とは兎角激しく、まるで天が穿たれたかのような滝が春原だけに降りそそぐ。春原はすぐ近くにある学生寮には走らないで、そのまま歩いていく。
かなり落ち込んでいるようだ。
気分の上がり下がりの激しい人は鬱になりやすいものらしい。
「このままじゃ風邪引くかも、ここで倒れたら、お話の中みたいに僕も死んじゃうのかな。朋也と智代なんていちゃついてるだけで、僕のことなんて眼中にないし、誰にも気づかれないでこのまま死んじゃうのもいいか・・も」
ドッという音がして、春原は学生寮の玄関で倒れた。
459復讐鬼春原:04/06/21 01:34 ID:rDkLdePB
「おーい。起きろ。」
「駄目なんじゃないか?」
「こら、滅多なこと言うな。それより、ちゃんと風邪薬買ってきたか?」
「桃とウィスキーを買ってきた。」
「桃とウィスキーって、風邪薬を買ってこいと言ったのに・・・はぁ、」
「俺の田舎じゃあ風邪薬と言えばこれだ。」
「田舎の記憶なんて無いって言ってただろう・・・さっき読んだ漫画のネタをするのは止めてくれ。」
「いや、これでいいんだよ。こいつが薬なんて飲むわけないし、薬飲むくらいならゲルルンジュース一気飲みして死んでやるって言ってたじゃん。」
「ふう、朋也、世の中にはな。果物の味がする薬もあるんだ。子供用のオレンジ味だ。はい。病人に酒を飲ますつもりか?」
「い、いつのまに・・・」
「お前がまともなものを買ってくるか不安になって、買ってきた。芽衣ちゃんにも電話しといた。明日には看病しに来てくれるだろう。」
「明日までか。それじゃあ今晩は泊まりだな。」
「・・・本当に朋也か?その発言?」
「仕方ないって、こうなった責任は俺らにもあるし、まあたまにはギャグ担当の春原にも休みが必要だろう?」
「だから、私と性格を入れ替えるな。」
「ん?智代も同じこと思っていたのか?」
「まあな。友達は大切にすべきだろう。・・・ん?」
460復讐鬼春原:04/06/21 01:36 ID:rDkLdePB
春原は目を開けていた。気がつくとベットの上、隣には智代と朋也のトモトモコンビがいた。彼らの話を目をつぶりながらじっと聞いていた春原。熱がでているにもかかわらず
飛び上がった。
「うぉおおおお!心の智代ぉおおおおおおお」
そのまま、智代の胸に飛び込んでいった。
智代は朋也に一瞬のアイコントを取り、朋也がガッツポーズをする。
ドガッ!
春原は壁をぶち抜いて、美佐枝さんの部屋に突っ込んだ。
「わっ!何!」
フライング・ニーで春原を上空へと蹴り飛ばす。
ドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッ
ドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッ
ドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッ
ドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッドガッ
ドガッドガッドガッドガッドガッドガッ
 NEW RECORD!
復讐鬼春原の人生はここに終わりを迎えた。
461人生ブラフ@イリヤタソ(;´Д`)ハアハア:04/06/21 04:03 ID:zwaiJ0sg
文章のマナーがなってねえし、地の文少ないSSって基本的に嫌いだけど
これはなかなか面白かった。
ただまあ小ネタとして入れたセルの話は無いほうがよかったよな
一発で現実に戻された感があった
あと、「こんなクズを殺して父親みたいになってどうする?」ってのが気になった
これだと父親も屑みたいに聴こえる(実際そうだけど)智代がそう思ってるのは変かなと
ま、読んでて楽しかったからいいや
おつかれさまでした
462名無しさんだよもん:04/06/21 04:12 ID:cGG0BhAi
>>426
話はいいと思うんだけど文章がちょっとくどい、というか演出過多なきがする。
むりやり感動させようとしているみたいでちょっと倦厭してしまう。

あと、言葉ももう少し選んだほうがいいような。
難解な単語を使えばいいというわけではなくて、
その場その場でもっともふさわしい言葉を選ぶのが重要なんだと思う。

なんか、小手先のテクニックにおぼれている感じが全体を通してひしひしと。
463名無しさんだよもん:04/06/21 21:41 ID:D2NvcWsd
CLANNADのSSリンクってどっかにないの?
やっぱあんまし盛り上がってないのかな。
464復讐鬼春原:04/06/21 23:00 ID:Vf7pcRQf
文章が狂ってるのは一日で作った証。
DZの話を入れたのはU−1SSに汚染された証。
まあ、ギャグSSだから・・・勘弁
後、閑話休題なんだけど、
智代たんのきっつい発言は朋也の脳内脚本だから。あんなことになっているんですよ。

まあなんだ。このスレには春原分が足りないと思った。だから書いた。そして、これから先も春原に哀を与えて欲しいと思う。

465sage:04/06/22 21:43 ID:S+qN0bla
ご感想いただいた皆様ありがとうございます。
演出過剰、小手先のテクニックに溺れているように受け取られたのは残念です。
言葉遣い、メインの視点を紳士に置いた分、単語の選択を意識したきらいはあるのですが
難解になってしまったかと反省しきりです。
視点の切り替え方についてはご理解いただいた方もおられて少しほっとしました。
ただ全体として反省部分が多い作品になってしまい、残念と共に申し訳ありません。
これから一層切磋琢磨させていただきます。
重ね重ねありがとうございました。
466名無しさんだよもん:04/06/23 02:50 ID:KPquCLC8
>>465
SS祭りに二つ投稿してたけど、あれって本人?
467名無しさんだよもん:04/06/23 07:48 ID:1SXM5W8K
「難解」と「鼻に付く」を一緒に考えてはイカンよ
468はじまり・であい・だんごたち:04/06/23 23:25 ID:GpKNUU13
 朝のいつもの時間、同校の生徒たちが一定の方角に歩みを進めている。
 俺もその流れに混ざるように、学校に続いている桜の生い茂った長い坂道を登っていく。

 「はぁ」

 坂道を登りながら、小さなため息をついた。
 昔は、桜の幹に囲まれたこの場所で、とてもきれいな光景を見上げることが出来ると思っていた。
 それなのに、入学してすぐ、この坂道が鬱陶しいだけの存在になってしまった。

 (なんで俺は、こんな進学校に真面目に通っているんだろう。 場違いなだけなのに)

 自分でもわからないのに、毎日を当たり前のように過ごしている今が、とても滑稽だった。
 校門を過ぎて下駄箱に着き、自分の靴をしまい終えた後に、隣のクラスの下駄箱の一点を見つめた。
 ……春原のやつ、今日も来てないのか。
 この学校では、気が合うやつは殆どいなかった。
 たった数週間の授業、学校の雰囲気でそれを感じ取ることが出来た。
 そんな中で、春原とだけはよく喋ったりしていたが、あいつは昼近くにならないと現れないから。

 (まぁ、いなかったとしても、なにかが変わるわけでもないんだから、いいんだけどな)

 足重に教室まで進み、窓際で、黒板の近い位置にある自分の席に腰をつける。
 特に親しい仲の友人がいるわけじゃないから、挨拶の1つも交わさずに、呆けたように窓越しに空を見上げた。
 そこには、今までとなにも変わらない青空が広がっていて、陽光が瞳に眩しくうつった。

 (俺の日常も、この空のようになにも変わらず、無意味に流れていくんだろうな)

 ……それは違うか。
 今の俺なら、間違いなく日常は変化していくだろう。
 たとえその変化が、堕落に向かっているものだったとしても、止めることもしないで……。

 「ふわぁ……眠いな」
469はじまり・であい・だんごたち:04/06/23 23:26 ID:GpKNUU13
 俺は、右手の拳を震わせながら上半身を前に傾け、机にうつ伏せになって目を閉じた。

 (本当に、俺はなんのために、この場所にいるんだろう)

 答えの出ない問いを頭に響かせながら、俺の意識は闇に沈んでいった。

 ………。

 今日もいつもと変わらずに、昼休みだけ起きて、昼食をとり、ほかの時間は寝て過ごした。
 寝ていた分、時間が早く過ぎて、すでに放課後の教室内が疎らになる時間帯になっていた。

 「ふわぁ……体がだるい」

 寝すぎて調子の出ない体で立ち上がり、、軽く伸びをする。
 すると、背後からどかどかと荒い足音が近づいてきたので、つられて振り返った。

 「岡崎っ、俺がトイレに行っている間、これを預かってくれっ! 中身は見るなよっ」

 ばんっ! と人の机に、きれいに包装された四角い物を置いて、大柄の男は走り去っていった。

 「……さて、座って帰りでも待つかな」

 立ち上がったばかりの体を、再び椅子の上に戻した。

 「って、なんで俺が他人の持ち物を預からないといけないんだよっ」

 急な流れに身をさらわれそうになりながらも、なんとか事態の把握をこなし、抵抗の表れとして立ち上がった。

 「ぐあぁっ!」

 だが、寝すぎてだれていた体に、その激しい? 上下運動はきつ過ぎたようで、足腰に痛みが走った。
470はじまり・であい・だんごたち:04/06/23 23:27 ID:GpKNUU13
 (俺の体って、大分弱ってるんだな……いや、今回の痛みあの大柄な男のせいだ。 自分の荷物だったらトイレだろうが持ち込むのが当然だっ)

 こんな物を無視してさっさと帰りたいが、身体が小さくとも悲鳴をあげている今は、歩くことが出来なく、仕方なくまた、椅子に座った。

 「岡崎、急に声なんてあげて、どうかしたの?」

 近くで聞きなれた声がしたので、その方向に振り返った。

 「なんだ春原、今日は欠席じゃなかったんだな」
 「まあね、昼までは寝てたけど、腹が減ったら眠気が覚めちゃって」
 「おまえ、学校がなんのための場所か知ってるか?」
 「そんなのどうでもいいじゃん、今から暇だし、ゲーセン行こうぜ」

 春原の誘いの言葉に、目の前に置かれている物……よし、春原の誘いに乗ろう。

 「あぁ、俺もゲーセンに行きたいんだけど、これをどうにかしないといけないんだ」

 そういって、四角い包みを春原に渡した。

 「なんだよ、これ」
 「実はな……とにかく包みをといて、中を見てくれよ」
 「中身?」

 春原は俺に言われたとうり、包装紙を破って中身を取り出した。

 「……岡崎、おまえってこんなのに興味があったのか?」

 春原は中身を見つめたあと、俺にそれを渡してきた。

 「……だんご大家族だな」
 「あぁ、そうだね」
471はじまり・であい・だんごたち:04/06/23 23:28 ID:GpKNUU13
 俺たち2人の間に、変な雰囲気が流れる。
 あの大柄な男が、こんなだんごに興味があったなんて……。

 「なあ、音楽を聞くなら、こんなのは止めて僕の持ってるボンバヘッ聞こうよ、ボンバヘッ!」
 「2度も続けて言うな、あんなのに興味はないんだよ。 それにこのだんごにも興味はない」

 渡されたCDを春原に返す。
 それを受け取った春原は、怪訝な表情を浮かべて俺を見返してきた。

 「興味がないのに買ったの?」
 「ほかに欲しいやつがあったんだけど、何故か間違えてそれをレジに運んじゃったんだよ」
 「ははっ、岡崎って意外と馬鹿なんだな」

 春原はころりと表情を変えて、腹を抱えて笑いだした。

 (ははっ、こんな嘘を信じるだなんて、見た目どおり馬鹿なんだな)

 心で春原を嘲笑いながら、今は馬鹿な自分を演じておく。

 「そう、俺って馬鹿なんだ……くそっ、なんでこんな物を買っちまったんだよっ! こんな馬鹿な自分が許せないんだっ」

 だんっ、と力強く机を叩き、哀れな自分をアピール。

 「落ち着けって! そんな失敗、誰にだって何度もあることじゃないか」

 少なくとも、俺はしたことのない失敗だ。

 「なら、春原、これを叩き割ってくれないか?」
 「そんなことでいいの? 僕と岡崎の仲だからね、ジュースくらいなら奢ってあげれるよ」
 「そんな安い友情はいらないんだっ! これを割って、俺の無念さを晴らしてくれよ……」
 「岡崎……」
472はじまり・であい・だんごたち:04/06/23 23:29 ID:GpKNUU13
 春原の目尻に、薄っすらと涙が浮かび、哀れみを感じさせていた瞳が、力強い目つきに変わった。

 「岡崎の無念は僕が晴らしてやるよっ!」

 春原は持っていたCDを高らかに持ち上げて、床に叩き付けた。
 それとほぼ同時に、大柄な男が教室に戻ってきて、自らのCDに向け行われている行為に、唖然としながら歩いてくる。

 「おい、金髪……おまえ、なにをしているんだ?」
 「邪魔すんなよっ! 今は憎いやつを懲らしめている最中なんだっ」

 がすっがすっがすっ。
 床に置かれたCDを、何度も踏みつける春原。
 それを見ながら、顔色を赤く変化させていく男。
 ……春原わりぃ、見てて面白いや。
 男は春原の肩に手を置き、強引に正面を向かせて、口を開いた。

 「一応訊いておくが、それが俺のだって知っての行為か?」
 「おうよっ! って……ひいぃっ!」
 「さすが春原だな、こんな状況でも堂々と言い切るなんて、男だぜ」
 「春原? あぁ、確か俺の部屋の隣も春原って名前のやつだった気がするが……金髪同士だし、同一人物なんだな」
 「あっ、いや、これは岡崎の無念を晴らすためでしてっ」
 「包装を破ったのも、叩き付けたのもこいつな。 それと、CDのことをこんなの呼ばわりしてたぞ」
 「全部合ってるけど、大事な部分の説明が抜けてますよねぇ!」
 「ところで、こんな小さい物だったらトイレだろうと自分で持っていけばいいんじゃないのか?」
 「これは、彼女にプレゼントするために買ってきたんだっ! 自分用できれいに包装すると思うか!?」
 「あぁ、プレゼントじゃトイレなんかには持ち込みたくはないな。 春原、しっかり弁償しろよ」
 「普通はあんたが弁償するべきだと思うんですけどねぇ!」
 「てめえは自分の行いを友達のせいにするのか? ちょっと、奥に行こうや。 いろんなことを教えこんでやるよっ」
 「ひいいぃぃぃいぃいいぃぃ…………」

 襟首を掴まれた春原は、そのまま何処かに連れて行かれた。
 たしか、あいつの部屋の隣って、ラグビー部だったような……死ななければいいよな。
473はじまり・であい・だんごたち:04/06/23 23:30 ID:GpKNUU13
 俺も教室から出るために、椅子から立ち上がった。
 かちゃ……。
 そして、なにかを踏んだようで、足元を見下ろした。
 そこには割れたCDケースの破片が散乱していて、とてもみにくい有様だった。

 (さすがにこのまま放置するのは問題だよな)

 「はぁ」

 やる気なくため息をつき、床に散らばった破片を拾い集めた。
 ケースの上蓋は完全に砕けていたので、教室のゴミ箱に捨てて、CD本体と裏面だけをもって焼却炉に向かった。
 一階の廊下を通り歩いていると、とても、嫌な音が耳についた。
 身体が動かなくなる。
 右腕が疼いて、過ぎ去ったはずの痛みがぶり返してきた。
 ダン、ダン、と規則正しくボールが突かれている音。
 ときに早くなり、ときに聞こえなくなり、ゴールネットを揺らす音がコートに響く。
 全身の力が抜けた。

 (馬鹿だな俺は……ここは廊下なんだ、ゴールネットを揺らす音が届くわけがないじゃないか。 俺は、何処にいるつもりなんだ?)

 不意に、朝の問いを思い出した。

 (本当に、俺はなんのために、この場所にいるんだろう)

 こんなところに立ち尽くしている自分が滑稽すぎて、自嘲を浮かべながら下駄箱に向かった。
 ……下駄箱に着き、ふと、疑問。

 (俺は、なんのためにあんな場所にいたん……)

 顔から血の気が引くような感覚。
 自分の持っている荷物を確認する。
 鞄に、履こうとしている靴……以上。
474はじまり・であい・だんごたち:04/06/23 23:31 ID:GpKNUU13
 「だんご……落としてきたよ」

 きっと、右腕の痛みがぶり返したときに、気づかずに落としてしまったのだろう。
 どうする、気にしないで帰るか? でも、教室での出来事を見ていたやつらがいる以上、出来る限り確実に処分しておかないと、春原の冤罪がばれる危険性が……。

 「くそっ、拾われてなければいいが」

 俺は、来た道を急いで戻った。
 そして……

 「あのっ、誰かこのだんごたちを落とした方を知りませんかっ」

 (ぐわ……)

 聞き覚えのない声の女生徒(だと思う)が、廊下の角を曲がったところ付近で、声をあげてまで持ち主を探していた。

 (どうする、このまま騒がれているのはよくないが、正直に名乗るのも……)

 ………。

 「やぁ、きみ、だんごを拾ってくれてありがとうな。 それは、俺のなんだ」
 「そうなんですか? 持ち主が見つかって、本当に良かったですっ。 かわいいだんごたちのCDを大事にしてあげてくださいねっ!」
 「あ、あぁ。 大事にするから、もう少し静かにしてくれないか?」
 「すいませんっ! わたし、かわいいだんごを見ると、つい興奮してしまいましてっ!」
 「あぁっ! だから静かにっ」
 「すいませんっ! わたし、かわいいだんごを見ると、つい興奮してしまいましてっ!」
 「あぁっ! だから静かにっ」
 「すいませんっ! わたし、かわいいだんごを見ると、つい興奮してしまいましてっ!」

 ………。

 「こんな馬鹿げた会話を続けるのなんて嫌だっ! というか、姿も見ていない相手にこんな想像を膨らます自分も嫌だっ!」
475はじまり・であい・だんごたち:04/06/23 23:32 ID:GpKNUU13
 「あのっ、すいませんっ! このだんごたちの持ち主を知りませんかっ」
 「──ストップっ!」
 「えっ!? あっ、はいっ」

 こちらに駆けてこようとしていたであろう女生徒を言葉で制した。
 ……今ならまだ、俺の姿は見られていないよな。
 このまま逃げるか? いや、逃げても、いつか教室までやってきたら……。

 「えっと、このままで話していいかな」

 逃げるわけにはいかなかった。

 「構いませんが……どうしてでしょうか?」
 「俺は、だんごたちを見る資格がない男なんだ」

 とっさに意味不明な嘘をついてみる。

 「えぇっ! そんな、こんなにかわいいだんごを見てはいけないだなんて、わたしだったら耐え切れませんっ」

 こんな嘘を真に受けるのかよっ!

 「その、そいつらを捨てたのは俺なんだ」
 「どうして捨ててしまったんですか?」
 「もう、だんごは一杯一杯で……家で飼うことを禁じられてしまって」
 「そうだったんですかっ、それは、とても悲しいことです」
 「あぁ、でも、やっぱり心配だったから戻ってきたんだけど、どうやら心配いらないようだな」
 「そんなことないですっ! だんごたちは皆、悲しんでいますっ! だんごたちは皆が揃ってこそだんごたちなんです。 なのにあなたが抜けてしまったら、悲しいですっ」

 俺はいつから人間止めてだんごになったんだ?

 「大丈夫さ、あんたがだんごたちを拾ってくれるんだろ?」
 「あ、あのっ! わたしなんかがだんごたちを拾ってもいいのでしょうかっ」
476はじまり・であい・だんごたち:04/06/23 23:34 ID:GpKNUU13
 「もちろんっ、大歓迎さっ!」
 「あっ、その……わたしはかわいいだんごたちが大好きで、飼ってもよいのでしたら飼いたいですっ」

 俺たちの会話を他人が聞いたら、春原並みの馬鹿だと勘違いされてしまいそうだった。

 「とにかく、それ、あんたにやるから、それじゃっ」

 最後は簡単に言い流し、その場をあとにした。

 「あのっ、よかったら名前を教えてくださいっ! わたしはふるか……」

 女生徒の言葉を最後まで聞くことなく、俺は、下駄箱で靴を履き替えて、外に飛び出していた。
 夕陽が辺りを朱に染め始めている中、俺は、朝に通った道をゆっくりと歩いていく。
 いくらゆっくりと進もうが、確実に前へ進んでいる以上、必ず、家に着いてしまう。
 オレンジ色に染まったドアが、俺の瞳にとても寂しげにうつる。
 ガララッ。
 廃れて見えるドアをくぐり、自分の部屋に戻ろうとした際に、親父が、そこにいた。

 「やあ、朋也くん。 学校は楽しかったかい」
 「………」
 「あのね、朋也くんがいない間に考えたんだけど、家に2人もいるのに、会話がなかったら寂しい気がするんだ。 よかったら、私の話

し相手になってくれないかな。 朋也くんがよかったら、でいいんだ」
 「……ふざけんなよ」
 「ふざけてなんかいないよ、私は、朋也くんと話せたら、それでいいんだ」
 「だからっ、それがふざけてるんじゃないかっ! あんたは俺のなんなんだっ!? 好きなようにすればいいだろうっ」
 「そうか、なら、学校のことを話してくれないかな、私の話し相手になってもらいたいんだ」
 「──くそっ!」

 俺は踵を返して、その後の親父の言葉に耳を傾けることなく自室に入った。
 ばたんっ!
477はじまり・であい・だんごたち:04/06/23 23:35 ID:GpKNUU13
 (……どうして、こんな関係になっちまったんだろう)

 毎晩のように襲ってくる、この嫌な雰囲気に犯され、俺はベッドに潜り込んだ。

 ………。

 次の日も空は快晴で、とても眩しい陽を浴びながら桜並木を歩いた。
 いつものように靴を履き替えて、隣のクラスの下駄箱を覗く。
 ……今日は珍しく、春原の上靴がなくなっていた。
 教室に向かい、自分の席を見ると、そこに春原はいた。

 「今日はどうしたんだよ。 おまえと知り合って、初めてじゃないか? 遅刻しなかったのなんてさ」
 「よう、岡崎。 別にただの偶然だよ。 珍しく朝に目が覚めたから、なにかの啓示かと思って来たんだ」
 「それで、馬鹿なおまえに神の導きはあったのか?」
 「人を堂々と馬鹿呼ばわりするなよっ、それに、これを聞けば岡崎だって僕を認めるね」

 春原は頬をつりあげ、自信ありげな目線を俺に向ける。

 「ははっ、通学中にラグビー部に囲まれて、金を取られたのか。 とんだ貧乏神がついたもんだな」
 「人が語る前に、変な想像は止めてもらえませんかねぇ! 廊下で女の子と話が出来たんだよっ」
 「……あんな大柄な男を女の子と見間違えるなんて、病院に連れて行ってやろうか」
 「なんで僕が筋肉だるまのラグビー部を、女の子と見間違えないといけないんだよっ!」
 「いや、馬鹿には馬鹿がお似合いだなと」
 「あいつらは馬鹿で、見た目で圧倒するしか出来ないような腰抜けだよ? そんなのと一緒にしないでもらいたいね」

 俺の椅子に座っていきがっている春原の後ろを指差す。
 
 「やあ、春原。 よかったらその腰抜けと一緒に学校内をうろつかないか?」
 「ひいぃっ! さっきのは言葉を間違えただけで、そんなことは全然思ってませんよっ」
 「そんだな、春原はただ、ラグビー部をこけにして、自分をアピールしたかっただけだよな」
 「そうそう……って、そのまんまっすねぇ!」
 「嘘じゃないだろう」
478はじまり・であい・だんごたち:04/06/23 23:36 ID:GpKNUU13
 「春原、ちょっとこいやあっ!」
 「ひいいぃぃぃいぃ…………」

 (負けるなよっ、春原)

 俺の席についていた邪魔者を退かしたあとに、俺は腰をつけた。

 (にしても、女の子って誰なんだろう。 あいつに話しかけるやつがいるとは思えないが……)

 物思いにふけていると、疎らだった教室に生徒が少しづつ集まり始めていった。

 「…………でさ、1階の廊下にいる女の子がさ」

 何故か、他人の会話が耳につき、意識を声に向けた。

 「なんでかは知らないけど、だんご大家族を歌ってるんだよな」
 「まじかよっ、で、可愛いのか?」
 「いや、普通」
 「なんだ、ただのきちがいかよ」

 がたんっ!
 俺の身体がなにかに取り付かれたかのように、急に、立ち上がった。
 その勢いで椅子が倒れ、教室内の生徒の注目を集めてしまった。

 (もしかして、昨日の女生徒じゃないだろうなっ)

 それが気になり、俺は、昨日CDを落とした場所まで全力でかけていった。

 ………。

 「だんごっ、だんごっ」
479はじまり・であい・だんごたち:04/06/23 23:37 ID:GpKNUU13
 本当に、だんご大家族を歌っている声が廊下に響いていた。
 俺は、きれかかっている息を整えてから、女生徒に話しかけた。

 「おまえっ、なにこんなところで歌ってるんだよ」
 「あっ、昨日の方、来てくれました」
 「……なんだよ、俺を呼ぶために歌ってたみたいなこと言うなよ」
 「はいっ、あなたにお礼を言いたかったので、ここで待っていたんですっ」
 「待つんだったら、もう少し普通に待てないのか?」
 「すいません、昨日頂いただんごたちの歌が可愛くって、つい歌ってしまいました。 だんごっ、だんごっ」
 「だーっ! だから歌わなくていいっ」
 「すいませんっ」

 あぁ、俺は本当になんのためにこの学校に来ているんだろう。
 来て早々、春原をからかって、何故か全力疾走なんかして、角越しに見知らぬ女生徒と会話して……。

 「あのさ、気に入ってくれたのは分かったから、今度からは友達にでも聞かせてやれよ」
 「はい、それが、わたしはあまり親しい仲の友達がいないです。 なので、あなただけでも聞いてもらいたかったです」
 「なんで友達がいないんだ?」

 こんな、他人に聞かせたくてだんご大家族を、廊下で熱唱出来るようなハイテンションなやつだったら、すぐに友達なんて作れるとおも

うんだけど……。

 「その、わたしはあまり身体が強くなくて、風邪をひいたらすぐに長期間、学校を休んでしまうので、迷惑をかけるわけにもいかないの

で、友達は作らないんです」
 「そんな生活で、今は楽しいのか?」
 「はいっ、優しいお父さんやお母さんがいるし、今の生活はとても大好きです」
 「友達がいない生活がか? 俺には信じられないな……」
 「今、友達を作ってしまうと、失ったときに立ち直れないです……」
 「……あんたって臆病な」
 「えっ、どうしてですかっ」
480はじまり・であい・だんごたち:04/06/23 23:39 ID:GpKNUU13
 「今は今、未来は未来だろ? 確かに友達を失うのはつらいかもしれないけど、学校を休んだくらいで放れる友達なんていなくていいじ

ゃん」
 「でも、それは……」
 「それに失ったらまた、作ればいい。 作らないで、友達の楽しさを知らないのは、滑稽な生きかただぞ」
 「なら、あなたがこの学校での初めの友達になってくださいっ」
 「それは、止めとけ」
 「どうしてですかっ」
 「あんたは臆病だけど、強いよ。 風邪で長期間休んでしまうような体質なのに、しっかりとここに来ているんだから」

 俺は何故か、途中から自分に言い聞かせるような言葉を漏らし始めた。

 「もう少し、勇気を出してみろよ。 きっと、楽しい生活を送れるからさ。 なにも毎日を全力で走らなくてもいんだ、疲れたら休憩し

ればいい。 休憩して、また、歩き始めていけば、前には進めるんだから」

 (今の俺はどうなんだろう。 前に進んでいるのか? 休憩だけで留まっているのか?)

 「必ずさ、つかれて、動けなくなったら、誰かが見つけてくれるから。 休憩さえしていれば背中を押してくれやつが現れるから。 今

を、精一杯楽しめるようにしてみろよ」

 (この言葉はなんなんだ? 俺は救いを求めてるのか? 誰に? 春原……だったら御免だな。)

 言葉を終えて、後悔する。
 自分ですら出来ていないことを他人に論したりして、俺は何様なんだろう。 春原が今の俺を見たら、滑稽のあまり、床を笑い転げるん

だろうな。

 「……わたし、頑張ってみます」

 思いもよらない返事が返ってきた。
481はじまり・であい・だんごたち:04/06/23 23:40 ID:GpKNUU13
 「友達、頑張って作ってみます。 今を、頑張って生きて、疲れたら休憩をいれて、また、歩き始めます」
 「本当に、そんな生活が出来ると思っているのか?」

 自分で勧めておいて、かなり馬鹿な質問だった。

 「はいっ、頑張ればきっと出来ます。 それに、諦めずに前へ進むことは、とてもいいことだと思いますから。 わたしが疲れて、休憩

していたら、あなたは背中を押してくれますかっ」
 「……あぁ、考えておくよ」

 こいつは、本当に強いんだな。
 関心すると同時に、自分の不甲斐なさが心に染みる。
 この学校で、楽しい生活を送れると期待していた。
 それが、ささいな親父との喧嘩で壊れて、なんの希望も持てなくなった。
 堕落し始めた俺に、前に進むと言うこいつ。
 その差は、とても長いと思う。

 「それじゃ、俺はもういくから」

 最後にそう告げて、踵を返した。

 「あのっ、お名前を教えていただけませんかっ」
 「あんたには、俺の名前なんか必要ないさ」

 俺と正反対の場所に進んでいるのに、ぶつかることなんてないんだから。

 「名前を知らなくても、わたしの背中を押してくれますか?」
 「あぁ、多分な」
 「なら、安心ですっ」
482はじまり・であい・だんごたち:04/06/23 23:43 ID:GpKNUU13
 俺みたいなのに背中を押されても、無事に前へ進むことが出来るのかは知らないけど、それでも、安心してもらえると、なんだか照れく

さくなり、嬉しい。
 結局、女生徒に名前を明かしも、訊きもしないまま、俺はそのまま春原の部屋に向かった。
 この日から、学校には遅刻していくようになった。

 ………。

 桜の生い茂る坂道に、わたしは立ち尽くしている。
 朝の早い時間から、何十、何百もの同校の生徒が、わたしの隣を通り過ぎていく。
 友達は何処にもいない。
 それはわかっているのに、わたしは、1人、この坂道までやってきて、ここで休憩している。

 「はぁ……」
483はじまり・であい・だんごたち:04/06/23 23:45 ID:GpKNUU13
 ここからの道が辛くて、ため息を漏らしてしまう。
 ここまでは進むことが出来るのに、ここから先は、桜に捕らわれたように、身体が動かなくなってしまう。
 それでも、前に進む気持ちだけは忘れない。
 いつかは、進めるときが来るかもしれないから。

 「うんうん……」

 諦めちゃだめ。
 前に進んで、疲れてしまったら休憩して、待っていれば、誰かが、背中を押してくれるかもしれない。
 誰かと一緒だったら、この先にも進めるかも知れないから……

 「………」

 長い、長い坂道の先を見つめる。

 「この学校は、好きですか」

 これからどうすればいいのか分からず、言葉を漏らしてしまう。
484はじまり・であい・だんごたち:04/06/23 23:47 ID:GpKNUU13
 「わたしはとってもとっても好きです。 でも、なにもかも……変わらずにはいられないです。 楽しいこととか、うれしいこととか、

ぜんぶ……ぜんぶ、変わらずにはいられないです」

 頑張って作った友達も、皆いなくなってしまって、わたしは、これから、この場所になにを求めればいいのでしょうか。

 「それでも、この場所が好きでいられますか」

 先に進まなければいけないのに、休憩し続けているわたしは、弱い子でしょうか。

 「わたしは……」

 この場所を、嫌いになりたくはないです……。

 「見つければいいだけだろ」
 「えっ……?」

 とても、懐かしい声が隣から聞こえ、振り返る。

 「次の楽しいこととか、うれしいことを見つければいいだけだろ。 あんたの楽しいことや、うれしいことはひとつだけなのか? 違う

だろ」

 1年も前に聞いた声、とても、鮮明に覚えている声、わたしに勇気をくれた声……。

 「ほら、いこうぜ」

 昔も今も、変わらずにわたしの背中を押してくれる方がいました。
 これは、とっても幸せで、この場所を好きでい続ける理由になるでしょうか?
 きっと、なります。
 だって、辛くて、登ることの出来なかった坂道を、彼の背中を追って駆け続けることが出来るのだから……。
──本編に続く──
485名無しさんだよもん:04/06/24 00:10 ID:ugyNJy+t
渚の台詞、語尾の「っ」が鼻について萎える。
それがキモくて途中で読むのをやめた。
486名無しさんだよもん:04/06/24 01:44 ID:JJVB6mPm
話はおもしろい。朋也のボケ方はかなり好き。
でも一行開けが多すぎ。読みづらいよ……
487名無しさんだよもん:04/06/24 02:14 ID:DsTjpxXf
なかなか面白かった。ただ謎の改行が気になった
488487:04/06/24 02:25 ID:DsTjpxXf
ああorz俺アホな子ですっ
謎の改行と思ってたのは表示文字数越えてたからだったorz
>>487
面白かったです、乙です
489487:04/06/24 02:26 ID:DsTjpxXf
ああっ俺、自分にレスしちゃってますorz
もう消えますorzすいませんorzすいませんorz

>>468-484
面白かったです。乙です!
490名無しさんだよもん:04/06/24 02:28 ID:quBheSbs
>>489
つωT`)ヾ (゚Д゚ )…ィ`
491名無しさんだよもん:04/06/24 03:25 ID:qi45OLTV
>>465
難解つーか、文のリズムも何も考えずに適当に単語を置いているだろ。
難しいからじゃなくて、単純に文章がこなれていないから読みにくい。
492名無しさんだよもん:04/06/24 05:07 ID:qmZ+2UyX
 どんな場面なのかがすげーわかりにくいな…。
 場面が変わったことがはっきりわかる改行or描写がないことも
それを助長してる。
 なんつーか、イメージ先行で、内容を伝える努力を放棄してる
ようにみえる。

493名無しさんだよもん:04/06/24 12:05 ID:oG6FYxzF
背景描写が少ないから状況把握がしづらい。
字数オーバーの面をさっ引いても一行あけが多いぞ
494468 作者:04/06/24 20:32 ID:vkFaMUD4
意見、感想を述べていただきありがとうございました。

今後は背景描写をしっかり意識して書くように気を付けます。
なお、無駄に多いと言われています改行ですが、
地の文と台詞を分けてみたものでした。
ですが、読みにくいとのことですので、今後のSSでは改善します。

渚の台詞に関しましては、愛情不足のようなので、
本編をプレイし直してきます。
495名無しさんだよもん:04/06/25 00:19 ID:vpFBeqTL
>>494
頑張れ
496名無しさんだよもん:04/06/25 04:06 ID:z+BHFd3x
>>494
 いや、モノローグのみで、背景を描写しないって手法もあるには
ある。ただしそれは、モノローグ部分で十分な描写があればの話。

 全体的な中身は悪くなくて、どっちかというと小手先の技術の
部分で損してるからもったいないと思う。がんばれ…
497名無しさんだよもん:04/06/25 22:55 ID:x4E+wDhN
>>300
そいつは、いいなっ!
498名無しさんだよもん:04/06/27 11:49 ID:JHclgXiB
保守
499名無しさんだよもん:04/06/27 13:35 ID:wBdahSyS
>>463
作ってみました。
ttp://www.big.or.jp/~rufus/gaterar/clannadss/
杏つえぇ。
500名無しさんだよもん:04/06/27 14:36 ID:H8sVS8FL
>>499
おお!GJ!
501名無しさんだよもん:04/06/27 15:30 ID:JL8EL2Ao
>>499
おおお!GJ!GJ!
502名無しさんだよもん:04/06/27 15:38 ID:U52NObFR
>>499
おおおお!GJ!GJ!GJ!
503名無しさんだよもん:04/06/27 15:52 ID:GTb5bfDV
>>499
おおおおお!GJ!GJ!GJ! GJ!
504名無しさんだよもん:04/06/27 16:10 ID:zB9mVnpN
>>499
素晴らしい
やっぱ杏と智代が多いね
505名無しさんだよもん:04/06/27 19:30 ID:BUkx59HS
>>499
おおおおおお!GJ!GJ!GJ! GJ!GJ!
506名無しさんだよもん:04/06/27 19:59 ID:j1jqraTl
>>499
おおおおおお!GJ!GJ!GJ! GJ!GJ!GJ!
507名無しさんだよもん:04/06/27 20:18 ID:8OU7t4HP
>>499 ついにキタ━━━(゚∀゚)━━━ !!!!!今後の展開に期待してまつ。
508ベーカリー:04/06/27 20:41 ID:aqBU4kms
 ぴぴっ、ぴぴっ、ぴぴっ。
 ぴぴっ、ぴぴっ、ぴ──カシャン。
 昨晩にセットしておいた目覚ましが鳴り響き、朝
の到来を、眠っていた頭に知らせてくれた。
 俺は体を横にしたまま、布団から腕だけを伸ばし
、目覚ましのスイッチを切る。

 (……まだ、眠い)
 頭の中は、その言葉だけが独占していて、意識が
もう1度飛びそうになる。
 (……馬鹿、ここが何処なのかを思い出せ……こ
こは……)
 布団の外に放り出したままだった腕を眼前に運び
、眠け眼をこすって無理やりに意識を保つ。
 そのまま上半身を起こして、時計を確認する。
 ……午前5時50分。 時間どうりに起きること
が出来たようだ。

 最近になってようやく、寝起きの頭でも違和感を
感じなくなってきた、畳の部屋。
 軽く伸びをしてから立ち上がり、蛍光灯の明かり
をつけて、部屋の隅にある鞄に手を伸ばした。
 鞄の中から普段着を取り出し、早々に着替え、布
団を畳んでから厨房に向かった。

 がらがらっ。
 襖を開けると、パンが焼きあがったばかりの香ば
しい匂いを感じられた。
 その匂いを辿るように、光が届いていない暗い廊
下を進んでいく。
509ベーカリー:04/06/27 20:43 ID:aqBU4kms
 厨房に近づくにつれ、蛍光灯の明かりが俺の背後
に影を作り始め、目的地までの距離を知らせてくれ
る。
 影が光により作られ、光により薄らいできたとき
、カエルのピンポイントが似合うおっさんのエプロ
ン姿が目にうつった。
 「オッサン、おはよう。 今日の分、もう運んで
いいよな」
 焼きあがり、トレイの上に分けられたパンが用意
されている机に向かいながら、軽く挨拶を済ませる

 「よう、小僧。 居候の分際でこんな時間まで寝
てるたぁ、どういう了見だっ」

 蛍光灯だけで照らされている薄暗い厨房で、オッ
サンの眼光が鋭く背中に突き刺さってくる。
 「どういうって、初めに早く起きたら、仕事の邪
魔だから出来終わるまで寝てろって言ったのは誰だ
よっ」
 俺は振り返り、オッサンに睨み返した。
 とうのオッサンは、作業を終え、休んでいる最中
だったのか、部屋の隅で立ち尽くしていた。
 (……背後からの威圧は効いたけど、なんだか顔
色が悪いか?)

 オッサンの顔をよく見ると、あまり生気は感じら
れず、さっきの威嚇も、意地だけでしたもののよう
に思えた。
 「んなこと言ったか? なら今日だけは早く起き
ろ。 って、今日はもう過ぎてるだろてめぇっ!」
510ベーカリー:04/06/27 20:45 ID:aqBU4kms
 「自分で変なこと言って、勝手にきれるなよオッ
サンっ」
 「あのっ、朋也くん、おはようございます」
 声のした方向に振り返ると、居間のほうに、ヒヨ
コのマークがついた、早苗さんのとは色違いのエプ
ロンをつけた渚が俺を見つめていた。

 「あぁ、おはよう。 渚、おまえのオッサン、す
ごい勝手なことを言ってるぞ」
 「……ごめんなさい、よく聞いていなかったので
内容がわからないです」
 「そっか、まあいいか。 オッサン、このトレイ
持って行くからな」
 「おう」
 俺はトレイを持ち上げて、置き場に向けて歩こう
とした瞬間、今までにない違和感に気が付き、渚を
見つめなおす。
 が、俺に挨拶を済ませて満足したのか、渚は厨房
から立ち去っていた。

 「オッサン、なんで渚がこの時間起きていて、エ
プロンなんかをつけているんだ?」
 トレイを下ろし、ぎこちない動きでオッサンの方
角に振り返る。 きっと、今の俺の表情は滑稽なも
のだろう。
 「……今日は、渚までパンの新商品を考えてくれ
たぞ。 おまえなら渚を止められると思い、どれだ
け心の奥底で名前を叫んだことか」
 「さっきは怒鳴って悪い、オッサンの心の声を聴
けなかった俺を許してくれ」
511ベーカリー:04/06/27 20:47 ID:aqBU4kms
 早苗さんの血を確実に継いでいる渚が作ったパン
。 味を想像してみる……。
 『ぐあ……まじでやべぇ』
 オッサンも同じことを考えていたらしく、厨房に
虚しく、男2人の危機的悲鳴にも似た呟きが漏れた


 「言っておくが小僧、俺は味見なんてしてないか
ら、おまえが1番に食って感想を述べてやれ。 で
、俺への被害を最小限に抑えろ」
 「こういうときこそ、父親の威厳を発揮して、渚
の行動を抑えるもんだろっ!」
 「うるせぇ! 可愛い娘が頑張ってパンを作るっ
てのに、それを止められるかっ。 そうだ、おまえ
は将来、渚と関係をもつんだ、今のうちに秘密はな
しでパンについて語り合って来い」

 オッサンは、とても良いことを語りましたっ! 
と思っているような爽やかな表情を浮かべながら近
づいてきて、ぽんっと俺の肩に手を置き、自身に対
して相づちを打った。
 「それじゃなんだ、オッサンは俺と渚の仲を認め
てくれてるんだな。 それなら、パンを食う価値も
あるな」
 「だれがおまえみたいな優男に渚を渡すかっ、渚
はな、俺のち○こがでっかくなって飛び散らして、
下半身からドパーって生まれてきたんだぞっ! ど
うだ、萎えただろっ! 軟弱者は用なしだっ」

 とりあえず、そろそろオッサンの下半身を研究所
に売りつけてみたくなるな。
512ベーカリー:04/06/27 20:48 ID:aqBU4kms
 「秋生さーん、厨房でヘンな言葉響かせないでく
ださいねーっ」
 オッサンの叫びに間、髪もいれずに早苗さんの注
意が返ってきた。

 「ぐわ……おまえのせいで朝っぱらから、早苗に
怒られちまったじゃねぇか」
 「何処で俺のせいになるんだよ」
 「てめぇのち○こが軟弱で、俺様に助けを乞うか
ら怒られたんだろうがっ」
 「なんで俺があんたにそんなことを相談しないと
いけないんだよ! それに、俺のは渚で反応するよ
っ」
 「おふたりさーん、厨房ではパン作りに集中して
くださいねーっ」
 再度、早苗さんの注意が返ってきた。 こんどは
2人に対して。

 『ぐあ……てめぇのせいで、無意味に怒られちま
ったよ』
 ……そして、再度、男2人の呟きが合わさってし
まった。
 「くそっ、さっさとパンを運んで飯を食うぞ。 
おまえは渚のパンを運べ」
 オッサンはそう言いながら1つのトレイを指差し
たあと、別のトレイを持ち上げた。

 「見た目は普通のパンなんだけどな……」
 「当たり前だ、焼いてるのは俺なんだからな」
 俺もトレイを1つ持ち上げて、オッサンと2人で
店先に向かって歩いていく。
513ベーカリー:04/06/27 20:50 ID:aqBU4kms
 少し前に通ったときは暗かった廊下も、明かりが
つけられて通りやすくなっていた。
 蛍光灯に照らされながら廊下を進み、店内に出る
と、外から陽光が差し込んでいて眩しさに目が霞む

 窓越しに外を見上げると、陽が昇り始め薄闇がは
れていた。

 「ちんたらやってると、どっちかが催促に来るだ
ろうし、飯が冷めたら不味くなるからな、急ぐぞ」
 オッサンの声が店内に響く。
 ただ、決められた箇所にトレイを置くだけの作業
で、急かす必要はあるんだろうか?
 「あぁ」
 適当に相づちを打って、作業を進める。

 (今週は、新商品が2品もあるんだな……2品合
わせても1つ売れるのか怪しいぞ)
 「おい、小僧」
 棚にトレイを置いたところで、オッサンに呼び止
められた。

 声が聞こえた方向に振り返ると、オッサンがなに
かの瓶を差し出しながら、俺を見ていた。
 オッサンの背後から流れてくる味噌汁の香りに、
腹が呻きをあげようとしている俺は、怪訝な顔を浮
かべながら見返した。
514ベーカリー:04/06/27 20:51 ID:aqBU4kms
 「念のためだ、胃薬くらいはくれてやる。 さら
に念をいれて、下剤もいるか?」
 「あんたはそんなものを常備しているのか」
 「馬鹿野郎っ! 早苗のパンを2口3口しか食っ
てないやつが文句を垂れるな。 渚のパンでだって
、必要になるこも知れんぞ」
 「とりあえず、あんたの場合は後ろを確認してか
ら口を開いたほうがいいぞ」
 「あん?」
 俺に言われて、渋々、自分の背後を確認するオッ
サン。

 「お父さん、ひどいです……」
 そこで、酷く落ち込んだ渚を確認する。
 「早苗、好きだ」
 「わたしはお母さんじゃないですっ、お父さんは
わたしのことが嫌いなんですねっ」
 そう言い残し、渚は店から飛び出していった。
 「しまった! パン関連はいつも早苗だから間違
えちまった。 渚のパンは食ってないから薬が必要
かは分かってないぞっ」
 「それ、フォローになってないから。 それに…
…」

 俺はもう1度、オッサンに背後を確認するよう指
差した。
 「わたしのパンは……わたしのパンはっ、胃薬が
必要なものだったんですねーっ……!」
 「ぐわ……まさか、早苗まで来るとはっ、早苗、
俺は胃薬を必要とするまでたらふく食いたいんだー
っ……!」
515ベーカリー:04/06/27 20:52 ID:aqBU4kms
 オッサンは、手当たり次第に早苗さんのパンを口
に放り込みながら早苗さんのあとを追っていく。
 朝食も食べずに朝から元気な人たちが、店から一
斉に飛び出していった。

 「渚、俺たちは先に食ってるか?」
 辺りを見渡して、落胆する。
 「そうだ……今回は渚も元気な人の仲間だったん
だっ」
 今更、そのことに気が付いて、新作のパンを3つ
持って、俺も渚を探しに店を出た。
 外に出ると一陣の風が吹き抜け、朝の涼しさを感
じさせてくれた。
 俺は歩きながらある場所に向かう。
 渚に、早苗さんのような体力があるとは思えない
し、居場所は検討がつく。

 店からでも目に入る位置にある公園の、隅に配置
されている木造のベンチ。
 そこに向けて足を伸ばし、声をかける。
 「渚っ、夜露をなめると身に毒だぞ」
 「……はい、とてもお尻が冷たいです。 きっと
、お猿さんみたいになっちゃってます」
 渚は顔をうつ伏せながら、力なく答えた。
 「渚のお猿姿は見てみたいけど、俺のは見るなよ
な。 かっこ悪いからさ」

 そう言って、渚の隣に腰をつける。
 夜露に濡れたベンチは濡れていて、ズボンを通り
越して、肌に冷たさを感じさせる
516ベーカリー:04/06/27 20:53 ID:aqBU4kms
 「それじゃ渚のパン、貰うな」
 パンを食べることを渚に告げて、噛り付いた。
 もぐもぐもぐ……。
 (これは……中がぐちゃっとして、どろっとして
……固形物もしっかり入っていて……葉っぱ? 桜
餅かっ!? よく噛み締めると、小豆の味も混ざっ
ているような……)
 「これってさ……だんごパンなのか?」
 「はい、だんごパンです。 朋也くんにだんごを
好きになってもらいたかったです」
 自分が噛み切った部分からパンの中身を確認する
。 が、一瞬覗き込んだだけで、目尻に追いやって
しまった。
 (味も、中身の見た目も、渚には悪いが早苗さん
級だよ……)

 それでも、2口3口と、食が止まらない。
 (そんな毒が含まれているわけではないだろうけ
ど、なんて言うか……)
 「ごちそうさま。 たぶん、うまかったよ」
 「そんなはずないです、お父さん、薬が必要って
言ってましたから」
 「おまえアホだろ、オッサンの戯言なんかに付き
合うなよ。 それに、俺は嘘をつかないよな?」
 「はい、朋也くんは嘘をつかないですけど、顔が
苦しそうでした」
 渚はポツリポツリと言葉を繋げていく。 俺がパ
ンを食べているところを横目で見ていたようだ。
 「確かに、味は凄かったよ。 1口食べて、早苗
さんの顔が思い浮かぶくらいにはな」
 「それは、お母さんにも失礼ですっ」
 俺は渚の言葉を無視して、話を続ける。
517ベーカリー:04/06/27 20:56 ID:aqBU4kms
 「でもさ、俺にとって渚のパンは凄いおいしかっ
た。 だって、渚が俺のために考えてくれたパンな
んだからさ」
 そう、パンを食べる度に、オッサンがなんで早苗
さんのパンを焼き続けるのか、分かるような気がし
た。

 「俺の好きな人が、俺のために作ってくれるのに
、それを不味くなんて感じるわけないだろ? 味は
仕方ないけど、渚の気持ちは伝わったと思うから」
 「……朋也くん、なんだかとても恥ずかしいこと
を言っていますっ」
 「渚、店に戻るぞ。 オッサンたちはいつ戻って
くるか分からないし、俺たちが店番しないとな」
 「はい、朋也くんとなら、お店にも戻ることが出
来そうです」
 笑顔を見せてくれる渚に、パンを1つ渡して、立
ち上がる。
 「ほら、行くぞ」
 手に残ったパンに食いつきながら、渚の前を歩く


 渚は俺を追いながら、自作のパンをほお張る。
 (パンを食べたことによって、味を認識してくれ
たら助かるんだけどな……)
 心にうまくても、身体に危ないものを何度も食う
ことになったら、俺は耐えられそうになかった。
 (オッサンはすげぇよな)
 「だんごたちはやっぱりおいしいです……えへへ

 (渚にだんごに関して通常の味覚を期待した俺が
馬鹿だった!!)
518ベーカリー:04/06/27 20:57 ID:aqBU4kms


 ……………。


 いつもと変わらない畳敷きの部屋。
 体が温かく、少し動かすと、布団に包まれている
のが分かった。
 頭上では蛍光灯が光を放ち、部屋の隅々まで明る
く照らし出している。
 「──朋也くん、大丈夫ですかっ」
 不意に隣から声が聞こえて、振り返ると、悲しみ
に顔を歪ませた渚がいた。

 上半身を起こして周りを見渡すと、早苗さんにオ
ッサンまで周りに座って、心配そうに俺を見つめて
いた。
 「あぁ、別に、腹にあたったわけじゃないだろう
し、皆に迷惑をかけて申し訳ないです」
 (渚のパンを2つ食べて、地味な計画を立てて、
オッサンに関心して……そのあとに精神を打ち砕か
れたんだよな)

 たったそれだけのことで、ふせている自分が、と
ても情けないものに感じられた。
 「やっぱり、わたしのパンがいけなかったのでし
ょうか……」
 目尻に涙を滲ませながら、渚がぽつりと言葉を漏
らした。
519ベーカリー:04/06/27 20:59 ID:aqBU4kms
 「おまえ、しっかりと渚のパンを食べたんだな。
 倒れたのはだらしないが、やるじゃねぇか。 ご
褒美をやらねぇとなぁ」
 オッサンが関心したように言葉を漏らした。 俺
はそれを無視して、渚を見つめながら言葉を発する


 「やっぱおまえ、アホの子だろ。 あのパンは、
最高なものが詰まったパンだったよ」
 「……かぁっ、てめぇ、嘘でも今まで食べたこと
のない程に美味なパンだったとか言えねぇのかよ」
 「お父さんっ、嘘はよくないです。 それに、朋
也くんにそう言ってもらえると、とっても嬉しいで
す」

 渚の泣きそうだった表情が、俺の1言で、口もと
を綻ばせた。
 本当に俺は、渚に好かれていて、とても幸せ者だ
と思う。

 「娘よ、人は大人になるにつれ、嘘も方便といっ
た言葉の意味を深く知るようになるぞ」
 オッサンが、またも要らぬことを言おうとしてい
るように思える。
 早苗さんも、それを感じ取ったのか、穏やかな笑
顔で口を開いた。

 「秋生さん、例えば、どんなときに意味を深く知
るのでしょうか?」
 「そりゃもちろん、早苗にパンの感想を言うとき
に、傷つけないよう言葉に気を付けてだなぁ……っ
!」
520ベーカリー:04/06/27 21:01 ID:aqBU4kms
 はっと我に戻ったオッサンが、早苗さんを目尻に
見る。 頬には、1筋の汗が伝っていた。
 「わたしのパンは……わたしのパンはっ、素直に
感想を述べられない出来なんですねーっ……!」
 何度同じやり取りをすれば気が済むのか、本日が
始まってまだ間もないのに、早苗さんの2度目の逃
走劇が始まった。

 (オッサンはすげぇよな……いろんな意味で)
 「ありゃ、早苗が泣いちまった。 俺もあとを追
ってくるが、20分もしないで戻ってくるぞ」
 そう言って、オッサンはすくっと立ち上がって、
背を向ける。
 すーっ、と思い切り息を溜めている音が聞こえて
きた。

 「ぽんぽこたぬきいぃぃいいぃぃぃっ!」
 (意味不明な発言のためだった!?)
 「たなぎたたさ、すたきにしたろーっ……!」
 (さらに意味不明な発言までっ!?)

 大声は上げながら駆けていくオッサンの背を、2
人で唖然と見つめていた。
521ベーカリー:04/06/27 21:04 ID:aqBU4kms
 「あの、お父さん……どうしてしまったのでしょ
うか?」
 渚が困惑な表情を浮かべて振り返った。
 俺も腕を組んで考える。

 (ぽんぽこたぬき? オッサン、この子供じみた
発言はなんだよ……)
 少し頭を悩ませて、1つの案が閃いた。
 「渚、オッサンの言葉、狸の次から言ってくれな
いか?」
 「はい、えっと……たなぎたたさ、すたきにした
ろー? だったと思います」

 (やたらと『た』が多い発言に、直前のたぬき…
…)
 なんだか、子供向けの暗号文が思い浮かぶ。
 (たなぎたたさ、すたきにしたろーっから、たぬ
きの言葉どうりに『た』を抜いてみると……)

 なぎさ、すきにしろ……。
522ベーカリー:04/06/27 21:07 ID:aqBU4kms
 「ははっ、なんだよこれ、オッサンの言ってたご
褒美なのか?」
 「朋也くん、なにか分かったんですか?」

 思わず顔をにやけてしまう。
 オッサンからくれたチャンスだ、ありがたく使わ
せてもらう。 でも、20分で出来て、じきに開店
しないといけないパン屋のことを考えると、やれる
ことは限られていた。
 オッサンも、さすがにそこまでしか認めてくれな
いのだろう。 それでも、満足だった。

 「なあ渚、教えてやるからさ、顔を近づけろよ」
 「はい」
 俺に言われたとおり、渚は不用意に顔を近づけて
きた。

 こんなことをしたら、嫌われるだろうか?
 そんな考えが浮かびながらも、渚の紅に染まる頬
が綻ぶことを期待してしまう。

 なんの前触れもなく、腕を曲げて渚の顎を摘み、
熱く、柔らかなキスを交わした。
 ……唇が放れて初めに視界に映った、渚のはにか
むような笑顔が、とても、堪らない程に可愛かった。
523名無しさんだよもん:04/06/27 21:39 ID:+Yac9/7G
もうすこし改行に気を使ってはくれまいか。
524名無しさんだよもん:04/06/27 21:44 ID:KRIo1vAS
内容は良かったと思います。GJをお送りします。
だけど、>>523と同意見です。
恐らく携帯からのレスだと思うので仕方ないところなのかも知れませんが、
改行のところで読むリズムが細切れになるのは非常に残念です。
525ある親衛隊の手記1:04/06/28 00:31 ID:kvMNS+ol
記憶が揺らぎだしたのは、創立者祭の頃からだろうか。
記憶、というのも違うかもしれない。
もっと深いところ……心というのが近い表現かもしれない。
そう、心に大きな空洞が空いてしまったようなのだ。
この空洞は何なのだろう。
そこには何があって、僕は何を失ってしまったのだろうか。
分からない。
しかし、今はもうあの心を撫でる穏やかな風は吹いていないのだと思えて、それが悲しかった。
526ある親衛隊の手記2:04/06/28 00:32 ID:kvMNS+ol
「なぁ、副隊長君」
僕は、隣で弁当を食らう男子生徒に声を掛けた。
「どうしたんだい?隊長君」
「僕らさ、いつの間に友達になって、どうしてこんな名前で呼び合ってるんだっけ?」
副隊長君は、箸を止め、首をかしげた。
「そう言えば、いつからだろうね。少し前まではこんな事は無かったはずだけど……」
「君も、分からないのか……」
「確かわりと最近の事だったと思ったけど……駄目だ、よく思い出せない」
副隊長は思い出すのを諦め、再び箸を動かし始めた。
僕もパンを再び口に運んで、咀嚼した。
そうして、暫く黙ってご飯を食べていると、
「何となくだけどね」服隊長君が言う。「僕たちが友達になって
こういう名前で呼び合うきっかけになったのには誰かのおかげだった気がする」
そう言われて、僕もそうだと思えた。
527ある親衛隊の手記3:04/06/28 00:33 ID:kvMNS+ol
創立者祭から、一週間後の日曜日。
この日、昔この学校に勤めていた先生が学校で結婚式をするらしい、という噂を聞いた。
しかし、今の学校でその先生に教わっていた生徒はいない。
だから、僕にしたって、その先生の結婚式を祝いに行く義理はなかった。
……でも、何故だろう。
僕の胸のうちには漠然とした義務感らしきものががあった。
その先生の結婚式は、決して僕とは無関係ではなかったずだ
僕は、その先生の結婚式に出て「おめでとう」と言わなければなかったはずだ。
それが、約束、だったはずだ。
そう思えてならなかった。
その約束は無視しようとしても、指に刺さったトゲの様にその存在を主張し続けて……
僕は制服へと着替え、学校へと走った。
528ある親衛隊の手記4:04/06/28 00:35 ID:kvMNS+ol
僕は驚いた。
日曜の学校に、僕以外にもたくさんの生徒がいたのだ。
副隊長君や、そのほかの隊員君達も皆がいたのだ。
長身のすらっとした男の人と、柔らかな印象を与える女の人が校舎から現れた。
きっと、あの人たちが今日結婚する人なのだろう。
そして、あの女の人がその先生なのだろう。
「ごめん、通して!」
祝福なのか、怒声なのか、よく分からない歓声の中を、僕も負けないような大声で叫んだ。
人の波をかきわけて、その二人に近づいた。
ただ、ただ、「おめでとう」を言う為に。
そして、やっと二人の姿が真直に見えた、その時、
ベールを被った先生が、足を止めた。
先生は、驚いたような顔をして、泣きそうな顔になって、嬉しそうな顔をした。
でも、きっと僕も、それは同じなのかもしれない。
だって、先生の前に、僕らが大好きだったあの子の姿が見えたのだ。
少女はパーティで被るような、三角の帽子を被っていた。
何があったのか、具体的には思い出せない。
僕らとあの子の関係、あの子の名前だって思い出せない。
でも、確かに僕には、あの子の思い出があったのだ。
      
……おめでとう、おねえちゃん……ずっと、ずっと幸せに……

木霊のような声が響いた。
そして、その子の姿も、薄れて消えていった。
訳も分からず涙が出そうになった。
でも、僕はこれを言うために、ここまで来たのだ。
それを言うまでは泣いてはいけない、約束を守らなければいけない。
「おめでとう……」
風が吹いた気がした。
温かな、心地良い、風だった。
529ある親衛隊の手記5:04/06/28 00:37 ID:kvMNS+ol
時は流れて、数ヶ月後。
僕らの学校は、ある種の噂で持ちきりだった。
ある女の子の噂だ。
学校に来たくても来られなかった、当たり前のことが出来なかったある女の子の噂だ。
誰も見たこと無いくせに、噂はどんどん具体性を増していって、
いつしか僕らは皆その子の事を待つようになっていた。
そして、遂に……
僕らが待っていたもの、一度は忘れ失ったもの。
噂の女の子がこの学校に戻ってきたのだ。

だから、
「親衛隊を結成して良いですか!?」
僕はいつかのようにこう言うのだ。
すると女の子は、露骨に嫌そうな顔をして、
「風子、そんなのいらないです」
言った。言い切った。実に容赦ない言い方だった。
ああ……本当に、
風が学校に再び吹いたのだと、僕には思えたのだった。
530525:04/06/28 00:41 ID:kvMNS+ol
以上です。
あの親衛隊の連中が気になって、書いてみました。
今回は短く出来た……
531名無しさんだよもん:04/06/28 05:51 ID:6Y9ccFJ5
>>530
そういえば…親衛隊の連中もいたんだよな…。
俺、忘れてたよ…。

いやほんと、あなたのSS読んで思い出しましたorz。

SSの内容ですが、短いながらもとても良かったです。
確かに風子には友達は元からたくさん出来てたんですよね。
(風子自身はそんな意識はなかったんでしょうが)

あと、これは個人的な好みなんでしょうけど、
最後の部分はもう1レスぐらい引っ張っても良かったかなと思います。
532名無しさんだよもん:04/06/28 12:46 ID:fTPKL8PU
>>530
のだった。
もう少し文末に工夫を持った方がいいぞ
533名無しさんだよもん:04/06/28 18:06 ID:kD9Eh1si
某問いつめゲームを思い出してしまった。

のだった。
534名無しさんだよもん:04/06/28 20:43 ID:WYTUcFPD
そういやあれは修正パッチあったのだったな。
535名無しさんだよもん:04/06/29 00:03 ID:bn8ZIlbh
ガテラーさんがSSリンク作ったよ。
みんな登録しまくろう。
ttp://www.big.or.jp/~rufus/gaterar/clannadss/
536名無しさんだよもん:04/06/29 07:39 ID:SRtVKlTM
>535
背景はヘタレ風味だけど、なんか和むわ〜
537名無しさんだよもん:04/06/29 08:02 ID:C92s8fbT
春原が背景かと思ったじゃないか…
538名無しさんだよもん:04/07/01 09:38 ID:vQgW77GN
ほしゅ
539名無しさんだよもん:04/07/02 12:58 ID:3wAO6CGE
保守
540名無しさんだよもん:04/07/04 00:46 ID:ZnzTvx1j
保守っと。
541名無しさんだよもん:04/07/04 11:21 ID:4/xSyg0e
大東亜戦争に行くSSが見てみたいな。
542智代after1:04/07/05 20:34 ID:zp8UQWo1
安アパートの小さな部屋借り、家を出た。
智代は反対したが、親父の側にはいられなかった。
俺の多くもない友人たちもそれぞれの道を進んでいくなか、古河だけは二度目の留年をしてしまった。
智代によると、また演劇部を作ろうとがんばっているらしい。
そして三年ともなると、智代の進路も気に掛かった。
「おまえ進路はどうするんだ?」
「働く。働いて、朋也と暮らしたい」
「一緒に暮らすだけなら、学生でも問題ねーだろ」
「朋也が一生懸命働いているときに、私だけ遊ぶわけにはいかないだろう」
「マジメに勉強しろよ」
「おまえがそんなこと言うな」
「成績いいのに、もったいない」
「朋也は、私が遠くの大学に行ってもいいか」
「行きたい大学あるのか」
「ううん」
「なあ、智代。同級生たちは、自分の意志で進路を決めてんだろ? 何もかも、俺に合わせなくたっていいじゃないか」
「朋也と暮らしたいんだ」
そう言われては、言い返せないじゃないか。嬉しくて…。
だけど、そんなことでいいのかと思わない事もない。
智代にはもっと高い目標が似合うのだ。
543智代after2:04/07/05 20:35 ID:zp8UQWo1
五月、創立者祭。
智代の生徒会長としての最後の仕事を見るために。
去年とは違い、自ら後輩の指導のため俺から離れてゆく。
それでも一日の半分は俺と過ごしてくれた。
一人になったとき、ふとクラブ発表のプログラムを見る。
演劇部の名前はなかった。

夏。
智代は、やはり進学する素振りを見せない。
夏休みなどはほとんど同棲状態で、二人で遊び回った。
去年の分を取り戻すかのように。
そして、そのツケは秋に回ってきた。
工場が倒産したのだ。
つぶれた小さな会社からの紹介状など何の役にも立たず、資格も学歴もない俺が、新しい職を得るのは大変なことだった。
焦った。
智代と過ごす小さな場所を失うのが恐かった。
職を求めて駆けずり回る…。
ひょんなことから、小さな電気工の会社に拾われた。
わずかに残されていた幸運に感謝しつつも、落ち込まずに入られなかった。
俺はこの先何度もこんな思いをするのだろうか、と。
「智代…、大学、行けよ」
「…うん」
情けない俺の姿が、ようやく智代の決心を変えた。

544智代after3:04/07/05 20:38 ID:zp8UQWo1
智代は地元の大学を選んだ。智代の実力からすれば、教師どもは落胆するような所だ。
俺が足を引っ張っている。
その大学で一番難関そうな法学部をめざす、と言ってくれたのがせめてもの慰めだった。
「法学部か。将来は弁護士か? 金儲かりそうでいいなぁ」
「案内によると、法曹ってほとんどいないみたいだぞ」
「へー。まぁ、おまえならなれるよ」
「そうかな。じゃあ、お金が貯まったら大きな家を買おうな」
「で、俺主夫な」
「私だっておまえの世話を焼きたいんだぞ」
「分かった。共働きでいーよ」
「大きな家に、子どもたちがいっぱいで…」
智代が夢見る乙女のようで、愛おしくて、抱きしめようと…。
「もちろん、おまえの親父さんも一緒だ」
手が止まった。智代から目をそらした。
「まだ、ダメなのか?」
何も答えなかった。
「そうか…」

翌春、智代は志望通りの進学が決まった。
その間も、俺たちが合う時間は減らなかった。
時折小さなあくびをしていた。睡眠時間を削って受験に備えていたのだろう。
そして卒業式。
仕事から帰ると、智代が待っていた。最後の制服姿を目に焼き付けた。
「そうそう、古河もな、今日私たちと一緒に卒業したぞ」
寒くなってから、また体調を崩して休んでいたらしく、卒業式にも出席できなかったという。
「私も古河には励まされたからな。今度お見舞いに行こう」
「おまえが古河には励まされたって?」
「うん。彼女ががんばっているのを見て、自分もがんばろうと思わぬ者などいない」
おまえの彼氏は、そんな男じゃないのか?
情けなくて、なかなか古河に顔を見せに行けなかった。
智代に引っ張られてようやくお見舞いに行ったときには、実家のパン屋を手伝っていた。
545智代after4:04/07/05 20:40 ID:zp8UQWo1
智代の大学生活がスタートした。
「やっぱり就職すればよかった。大学生なんて遊んでばかりだぞ」
「ふーん」
「気のない返事だな。ナンパしてくるんだぞ」
「何ぃーっ」
「大丈夫。男と住んでいるって言えばすぐ離れていくから」
起き上がったところに、ちょこんとおデコをぶつけてくる。
「それは、それで恥ずかしくないか」
「恥ずかしがることなんてないだろ」
部屋を見回すと、ただでさえ狭い部屋が智代の荷物に占領されつつあった。
「なー、勉強は自分ちでやれよ。その方がはかどるだろ?」
「バカ。それじゃあ、おまえと会っているときは、いつも情事に耽っているみたいじゃないか」
おまえ、自分の家族には照れ屋なのな。

「今日はな、親父さんを訪ねてきた」
親父の話なんかしたくなかった。ふてくされてそっぽを向く。
「ちょうどお客さんが来ていてな、息子の彼女ですなんて紹介されちゃったんだ」
顔を赤くして、俺の背中をバンバン叩く。
親父が、俺を息子だって?
「なんだか幸せ感じたぞ」
目をキラキラさせながら、でも、何も答えない俺にガッカリして、声を落として話を続ける。
「でもな、そのお客はチンピラの目をしていた。だから言ってやったんだ。大学では法律を学んでいる、検事になって犯罪者を断罪してやるって。
「言ったら、そのチンピラは急用を思いだしてくれてな、慌てて出ていったよ。
「私がそいつを追いかけたら、本性現して突っかかってきた。心配しなくていいぞ、蹴り飛ばしてやったからな。今後は親父さんに関わるなと言って……」
「智代っ! 親父なんか放っとけよっ。親父のせいで、おまえに何かあったらっ」
「それでも、朋也の親父さんだ。私にとっても大切にしたい」

546智代after5:04/07/05 20:41 ID:zp8UQWo1
俺が高校を卒業して二年が過ぎた。
その春、訃報が舞い込んだ。
古河が亡くなった。
その報せを受けるなり、智代はかつての同級生たちに電話を掛けまくった。古河の葬儀に参列するように、と。
古河の人付き合いの下手さを思えば、そんなことは無駄なことだと思いながら、智代と二人、古河の葬儀に出かけた。
驚いたことに、智代と同じ学年の連中が三十人ほど訪れていた。
一学年の十分の一ほどの人数。
これほどの人間が古河に影響されていたのだろうか?
「言ったろ? 古河の姿に励まされぬ者などいないって」
智代に誘われたからってのも少なからずあるんだろうけど。
俺も…、せめて春原のヤツくらいは引っぱってくればよかったんだ。
古河の友人としては唯一ご両親と顔見知りだったからだろうか、何となく最後まで残ってしまった。
葬儀の後、四人で飲む。
肴は古河の思い出。
幼き古河の病、奇跡的な回復。
それは、オッサンに役者を、早苗さんに教師を止めさせた。
お二人は、夢は娘に託したのだから後悔はないという。
娘を亡くした今となっても…。
親というものは、子どもに自分の全てを捧げられるものなのだろうか。
いつの間にか、智代が泣いていた。
肩を寄せて慰める。
古河に託された希望。
少しでも俺たちが紡いでやれればいいのに。

547智代after6:04/07/05 20:42 ID:zp8UQWo1
俺が高校を卒業して五年目、智代大学四年。
同級生が就職活動で駆けずり回る中、卒業は余裕だと言う智代は来年の司法試験をめざし勉強していた。
俺はと言えば、司法試験の大変さと言うものを、この頃になってようやく理解できるようになった。
俺にできることは、応援することだけ。
なのに俺ときたら、またもや智代の足を引っ張ってしまった。
言い訳すれば、”最良の形で”とは言える。
その夏、智代が妊娠した。
いや、俺が妊娠させてしまったわけだ。
智代はもちろん産むと、何を置いても最優先の目標だと言った。
他人から見ればつまらないことかもしれない。
それでも、俺は、ようやく智代と目指せるものを見つけられた気がした。
親子三人、慎ましく生活する程度の稼ぎはあったから、智代の両親に土下座して結婚の許可をもらう。
さすがに結婚式をやる余裕はなかったが、安物の指輪だけは買ってやれた。
智代の両親と弟、俺の親父を交えて食事をした。
かつて壊れかけた智代の家族。今の様子からはとても信じられない。
そんな人たちの娘だからこそ智代は、俺にも親父との関係を正す日が来ると信じているのだろうか。
その日も親父は相変わらず他人のままで、おめでとうと言ってくれた。

548智代after7:04/07/05 20:43 ID:zp8UQWo1
智代が安定期に入るころ、子どもの誕生に備えて少しだけ広い部屋に引っ越す。
広さはともかく、智代の負担が少なくなるような場所を探した。
産院、大学、司法試験予備校に通いやすいように。
引っ越し費用節約のため、会社から軽トラを借りてきた。
本来なら戦力となる智代は、無理をさせるわけにはいかない。
鷹文を安いバイト料で雇った。
「にぃちゃん、この箱重すぎだよぉ」
「ああ、そりゃ智代の資料が詰まってるヤツだ」
「何でこんな大きい箱に紙物詰めるの。反対持って」
「情けない。それでも世界最強と呼ばれた一族の末裔かっ?」
「僕は、耐久力に特化してんだよぉ」
マジかよ。
もともと狭い部屋にあった荷物だから、絶対量は多くはない。あっという間に引っ越しは完了する。
四年半ほどの時を、智代と過ごした部屋を後にする。
新しい部屋、来年の春からは三人の部屋になる。

ある日帰宅すると、智代が浮かない顔で予備校のテキストをめくっていた。
「どうした、気分悪いのか?」
「ううん。……いや、やっぱり話す」
「うん、夫婦だもんな」
「今日な、以前お義父さんのとこで会ったチンピラに絡まれたんだ」
「なんだとっ。大丈夫だったのか?」
「うん、助けてくれた人がいたんだ…」
「そっか。よかった」
「でも、悔しいっ。妊娠さえしていなければあんなヤツなんかっ」
ドンッと拳をテーブルに叩きつけた。
「バカ…、そんなこと言うな…」
赤くなったその拳を手にとってさすってやる。
「うん…、ごめんね…」
智代はお腹に手を当てて、俺たちの子に謝った。
549智代after8:04/07/05 20:43 ID:zp8UQWo1
「しかし、まあ、チンピラ相手にして助けてくれる人なんているもんなんだな」
「あぁ、昔私がケンカした不良の一人だって」
「おい、下手すれば敵増えてたじゃねーか」
「私たちも不良だったろ。不良は更生できるんだ。チンピラと違ってな」
ま、智代の不良狩りもちったぁ役に立ったてことか。

十二月の検査では性別が判った。
「女の子だって」
「マジ? 判ったの」
「うん、今日の検診で言われた」
「そうかー」
「男の子がよかったか?」
「そんなことないぞ。これで名前決められるな」
「ともこ、ともみ、ともえ……」
「ともともファミリーかよ」
春原のツッコミを思い出してしまったぞ。
その後も二人で女の子の名前を出し合った。
「渚? 古河か? 死んだ人間の名前って縁起悪そうだな」
「冷たいヤツだな。だいたい縁起を担ぐなんて事今まであったか?」
「何か、俺、古河に気があったみたいじゃん」
「そうなのかっ?」
「ねーよ!」
「ならいい。じゃあ渚から連想して…波…、潮…、汐…」
汐…、なぜかその名前が懐かしく感じられた。誰の名前だったろうか。
「汐が、何かしっくりくる…」
「じゃあ第一候補だな。もっと色々考えよう」

550智代after9:04/07/05 20:45 ID:zp8UQWo1
そして胎動も大きくなっていく。
さすが智代の子どもだと笑っていられたのは最初だけ。
妊婦ゆえの神経質さが原因なのだろうが、智代の体調に支障を来すこともあった。
出産日も近づいてきたころ、智代がまた落ち込んでいた。
「今度はどうしたんだ?」
「うん、首席になれなかった」
「首席? お前そんなの目指してたのか?」
「この四年間、朋也が応援してくれた結果を見せたかった。でも、一人優秀な学生がいてな…。妊娠していなくても勝てたか分からないけど」
「バカ、そんなこと気にすんなよ。お前の頑張りは、ちゃんと分かってる」
「うん。見ててくれ、司法試験は必ず一発合格するからな」
「だから無理するなってのに」
苦笑しつつも、いつの間にか智代にプレッシャーかけていたことを反省する。
「ま、卒業式にマタニティーで表彰されたりしたら、子どもに自慢できたな」
「残念ながら、卒業式は予定日より後だ」
「なら、子連れで壇上に上がれ」
「問題は、卒業式に間に合うかだな」

そんな冗談を言っている間に、予定日が過ぎる。
予定日よりだいぶ遅れて、智代に陣痛が始まった。
予定が遅れると難産だと聞いていたが、あっさりと生まれてしまった。
それでも数時間に及ぶ大変な作業に、変わりはないのだが。
俺と智代の娘が、無事生まれた。
汐。

五日後退院。
三人の部屋に帰る。
新しい生活のスタートだ。
551 ◆Y3iyltz542 :04/07/05 20:47 ID:zp8UQWo1
長いので残りは後ほど。
仕込みはOKと。
子どもを?w

司法試験の制度変わるとかのツッコミはかんべんな。
ググッただけなんで間違いとかあるかもしれないが、高いハードルって言うとこれかなと。
あ、別に本編97年派じゃないよ。
552名無しさんだよもん:04/07/05 21:50 ID:6Q7BW/TP
期待大
続き楽しみにしてる
553名無しさんだよもん:04/07/05 22:26 ID:SxxuNpYE
なんか淡々としてるけどこれはこれでアリかと、続きまってます
554幻想世壊 T:04/07/06 02:12 ID:Q5qFCqVg
幻想世壊 T


 僕は見ていた。遠い世界を。

 薄暗い場所だった。辛気くさい、木造の廃校になった校舎のような室内に、黒々とした木製の机が並んでいる。白い漆喰の壁と濡れたように艶やかな板床。染みだらけの天井。どれもが月日という病に冒され、萎びて枯れ果てていた。
 奥に開いた大きめの窓から白く霞んだ陽光が滲んでいる。外の風景を見て取ることは出来ない。窓は一面を白く光る塗料に覆われているように思えた。
 無人だった。人の気配は全く感じられなかった。この場に居るのは僕だけだ。誰もここには居ない。その事実が妙に気分を高揚させる。今なら何だって出来る。僕は、やれば出来る子だから。
 手始めに全裸になってリンボーダンスでもしようかと思ったが、僕の体は意に反してぴくりとも動かなかった。どんなに足掻いてもズボンを降ろす事すら出来ない。そもそも、手足の感覚がなかった。というか、僕は既に全裸だ。多分。
 つまらない。僕は諦めた。
 世界は未だに沈黙を守り続けている。僕は、ひたすらに続く無音の中で、何一つ肉体の実感を得る事が出来ずにいた。ひょっとしたらこの世界では生まれていないのかも知れない。そんな疑問が、あるのかどうかすらわからない頭に浮かび上がってきた。
 そうだ。僕はまだこの世界に生まれてすら居ないんだ。そう考えると、酷く納得出来るように思えた。僕の体が無いことも、この延々と続く静寂も。
 相変わらずの黴臭そうな教室。動くものの一つもない。流れ込む光だけが、何か別世界から届いているかのように異様だった。
 この世界は終わっている。別の世界からさらさらと流れてきた時間はここで溜まってしまうんだろう。だから、何も動かず、何も変わらない。もう世界は死んでいる。
 このまま目を閉じてここから去ろう。僕は思う。
 つまらない世界は嫌だった。
 どうか、次目覚めたときは、六十人くらいの美女に囲まれてウハウハ言ってる僕が居ますように。
 ささやかな希望を願って、僕はこの世界での意識を閉じた。
555幻想世壊 T:04/07/06 02:15 ID:Q5qFCqVg
 その時、一瞬光が揺らいだ。
 何かが動いた。その正体はわからない。けれど、何か動くものがあるのだ。
 僕にはこんな錆び付いた世界に動くものがあるということが驚きだった。全ては吹き付ける時間に、その関節を錆び付かせ、クレ556を射したところで動きはしないだろうと思っていた。しかし、この世界にも動く何かがあったのだ。
 僕は今ほど動かすことの出来ない自分の「目」を疎ましく思ったことは無かった。せめて視界だけでも辺りを窺うことができたなら、不動の世界で動く何かを捉えることが出来たろうに。
 僕が悔恨と怒りとが混じった理不尽な放置プレイを受けていると、壁一面を照らしていた光の一部が黒く陰った。
 僕は思わず息を飲んだ。
 窓から零れた光を受けて、暗く影が浮き出ている。明らかにヒトガタをしたその影は、ゆらゆらと揺れながら動いていた。やがて、壁は元の通り、光に、白くのっぺりとした表面を映すだけになり、代わりに、ひとりの少女が目の前に現れた。
 まだあどけなさが残る子供だった。正直、僕は落胆した。こういう時は絶世の美女がでてくるもんだと相場が決まっているというのに、それを目の前の餓鬼はわかっちゃない。僕が手取り足取り教えてやっても良い。
 そんな僕の葛藤なんて露知らずといった風に、彼女は手を僕に向かって差しのばした。白く細い、小さな指が僕の前に突き出され、そのまま、僕をすっと通り過ぎた。
 当然のことだ。僕はまだこの世界に生まれていない。触れることなんてできるわけがなかった。だとしたら、何故、彼女は僕の存在に気付いたのだろうか。姿だけは見えているのだろうか。
 見えているとしたら、どんな姿で?
 疑問を解消するために、僕はとりあえず全裸になろうとした。リンボーダンスを踊ってやろうと思った。
 が、やはりダメだった。服を脱ぐという以前に、体を認識することができなかった。リンボーダンスをしようにも、突き出す股間がわからない。僕はまだ生まれてすらいないのだ。その事が痛烈に意識された。
556幻想世壊 T:04/07/06 02:17 ID:Q5qFCqVg
 目の前で彼女が手を小さく左右に振っている。僕はただ、茫然とそれを眺めていることしかできなかった。彼女には、僕はどのような形で見えているのだろうか。
 全裸だといいな。
 去っていく彼女の背中に、僕は少しだけ思った。
 背中は直ぐに見えなくなった。こんな世界に人がいるというのは驚きだった。彼女がこの世界で何をして、何を食べ、何を糧に生きているのか、気にはなったが、考えても詮無いことだ。服を脱ぐことが出来ないという絶望に比べたら大した事ではないようにも思えた。
 そう、僕は服を脱ぐことすら出来ない。自己の存在を否定されてしまったかのような衝撃だった。アイデンティティの崩壊。
 僕は体が欲しかった。脱いで、見せびらかして、モンキーダンスが踊れるような体が欲しいと痛切に願った。体をください。僕に、体を。

 また僕はこの世界を見ていた。相変わらず、無音の世界。ただ、少しだけ楽しみが出来た。
 彼女はそれからも、頻繁に僕の前に現れた。僕と彼女とは意志の疎通をすることは出来なかったけれど、僕は彼女を視姦していたし、彼女はきっと僕の姿――おそらく全裸であろう――を見て悦んでいた。多分。
 僕は彼女の来訪が待ち遠しくなっていた。ふらりとやってきては、僕をなめ回すように見つめる視線に、僕はありもしない体を悶えさせていた。もっと見て欲しい。もっと僕を感じて欲しい。欲求は日に日に高まっていった。
 彼女は常に一人だった。この世界には彼女以外の人間は居ない。それは当然のことだ。何も生まれず、何も死なない。それがこの世界だった。
 だから、僕たちは二人きり、世界に取り残されたアダムとイブだ。赤い林檎も蛇も居なかったけれど、めくるめく失楽園が待っている筈だ。僕はその夢だけを糧に生きていく。きっと彼女もそうだろう。僕らは夢を食べて生きる二匹の獏なんだ。

557幻想世壊 T:04/07/06 02:21 ID:Q5qFCqVg
 ある日、彼女は胸に何かたくさんの何かを抱いてやってきた。彼女は僕の前で屈み込んで、自分を抱きしめるようにしていた手を開くと、音も立てずにバラバラと床に大小様々のがらくたが散らばった。
 用途の良く解らない物ばかり。棘のついた棒や、ギザギザのついたブリキの欠片。中世の拷問器具か何かかもしれない。彼女の意外とマニアックな一面に、僕はありもしない海綿体が隆起するのを感じた。
 床に散らばったそれら卑猥な玩具を、彼女は一つ一つ愛おしそうになで回してから、おもむろに並べていった。形の系統ごとに区分けされた大人の玩具は、入念に磨き上げられ、金属の光沢を窓の光に強調させていた。
 並べられた玩具。そこから彼女は長い時間をかけて、新しい拷問器具を作り出そうとしていた。彼女は試行錯誤を繰り返しながら、さまざまなガラクタを組み合わせて、積み上げていく。
 凹凸に合わせてパーツをはめ込み、合わないものは外して、また他のパーツを試す。僕は目の前で日夜繰り広げられる淫靡な光景に見入っていた。凸と凹が合わさって、凹が凸に嵌っていく。彼女はあどけないその顔を快楽に歪ませて単純作業をこなしていた。
 どれだけの時間が過ぎただろうか。彼女の前には、その背丈の半分ほどの拷問器具で出来た人形が立っていた。彼女は両の手を腰に当て、見た目にそぐわない妖艶な笑みを浮かべて僕を挑発するように身を乗り出した。
 彼女の笑みを見て、僕はやっと気付いた。その人形は僕のための体だったのだ。眺めるだけでは飽き足らなくなったのだろう。彼女は己の肉欲を満たすために、僕の体を作っていたのだ。
 そう思って人形を見ると、とんがって角張ったフォルムに、どことなくいやらしさを感じる股関節。ご丁寧に棒が一本はみ出している。なるほど、素晴らしい出来だった。右肩と左肩の高さが違うのはご愛敬だろう。
 ただ、いささかバランスの悪いこの体で、モンキーダンスやリンボーダンスが踊れるかどうか不安だったが、体が欲しいという欲求の前には小さな悩みと言えた。自由に動かせる体。そして、形は違えども全裸である。僕の理想はすぐ目の前にあった。
 彼女が小さな手をゆっくりと差し出した。傷だらけの手の平。僕はその手を握りしめてあげたいと思った。
 この二人きりのエデンの園は、僕と彼女との永遠の世界なのだから。
 躊躇うことは無い。
 僕は、その手を求めた。
558名無しさんだよもん:04/07/06 02:22 ID:Q5qFCqVg
「幻想世壊 U」に続くかもしれません。
つーか、私はアホです。間違いない。
559名無しさんだよもん:04/07/06 02:54 ID:ZB7ayeXe
>>551
けっこう面白かった。
司法試験の制度は問題ないが、
普通だと大学在学中に合格を目指す。
560名無しさんだよもん:04/07/06 04:02 ID:AnyxQIkT
>>558
面白かった。
というか腹痛いかも。
あんたはアホだと思うが、悪い意味のアホじゃない。
561名無しさんだよもん:04/07/06 16:11 ID:QJqa+Qd9
>>558
ワロタ
562智代after5:04/07/06 20:11 ID:Pk5cd5f7
子どもは可愛いだけではない。育児は大変なものだった。
たとえ夜中であっても、泣き声に叩き起こされる。
ミルクをやったり、おむつを換えたりして、智代と二人で汐をあやす。
智代は、翌日も仕事がある俺に気を遣ってくれるが、智代だって昼間は試験勉強をしている。
育児を押しつけるつもりはなかったが、それでも、二十四時間一緒にいる智代の負担は大きかっただろう。

桜も散ったころ、親父に汐の顔を見せに行こうと誘われた。
俺はいつものように拒否し、結局、智代は汐と二人だけで出かけていった。
帰ってくると、親父が汐の頭を優しく撫でてくれただのと話しだした。
いい加減、親父の話をするのは止めて欲しかった。
娘の前で智代に悲しい顔をさせるのが、何より嫌だったから。
たとえ俺が悪いのが分かっていても。

汐を風呂に入れる。
その小さな背中に、赤い出来物のようなものを見つける。
智代を呼ぶ。
「見てよ、背中になんか出来てるんだ」
「あっ…」
「どうした?」
「……。今日…、ぶつけた…」
「ああっ、どこで?」
「そっ、その…。机の角で…」
「何やってんだ。気を付けろよ」
「うん、ごめんなさい…」

そんな、慌ただしい毎日の中、司法試験二次短答式試験が終わる。
智代は無事通過。
子育てしながらよく勉強できたもんだと感心した。
次は七月の二次論文式試験。

563智代after11:04/07/06 20:13 ID:Pk5cd5f7
梅雨。じめじめとした空気。まるで俺たちの心さえも腐らせてしまいそう。
智代は買い物に出かけていて、汐と二人で留守番をしていた。
汐のオムツを取り替える。おしりに赤い出来物。
また?
人差し指でさする。それは大人の指先ほどの大きさ。
まさか……アザ?
悪寒が突き抜ける。
智代が…、やったのか…?
汐の服を脱がし、異常がないか確認する。
背中に薄く消えかけたアザが一つ。
ウソ、だろ? 智代! お前、何したんだよ!

「ただいま」
と、帰ってきた智代を、無言で玄関に出迎える。
「ふぅ、今日は蒸し暑くてまいったぞ、えっ」
右手を智代の頬に当てて、そしてつねる。
「いっ、痛い痛い」
ばっ、と手を振り払われる。
「痛いじゃないか。いきなり何をする」
抗議の声を上げる。
俺は無言のまま、智代をにらむように見つめるだけ。
俺は、お前が汐にしたこと、気付いたぞ。
「朋也…」
確かめなければならなかった。だけど、口に出したら何もかもが壊れてしまいそうで…、言えなかった…。

梅雨が明けても、俺の心は曇ったままだ。おそらく智代も。
お互いに疑心暗鬼になって、嘘臭い家族を演じているような気がした。
あの日以来、汐に異常は見られなかったが、そんな俺の態度はますます智代を傷つけていったのかもしれない。
そんな日々の中で論文式試験が行われた。
いっそ落ちてしまえば、こんな状態から抜け出せるだろうか。
いずれにせよ、合格発表は二ヶ月以上先だ。その間は、この気持ち悪い生活が続く。
564智代after12:04/07/06 20:15 ID:Pk5cd5f7
限界は早くもやって来た。
「ただいま」
帰宅の挨拶に返事はなかった。
見ると、智代はこちらに背を向けて、汐を抱いていた。
だが、あやすでもなく、ただじっと立っているだけだった。様子がおかしい。
部屋に上がり声を掛けようとした、その時。
智代の腕から力が抜け、汐が床に落ちた。
「えっ?」
「朋也っ、いつ帰ったの」
俺の声に振り向いた智代を押しのけて、泣きわめく汐を抱き上げた。
「智代…、今、何した」
震える声で、智代を問いつめる。
「ごめんなさい…。手が…すべって」
なんで、そんなウソつくんだよっ!
「捨てたろ…? お前…今、汐のこと捨てたろっ!」
「そんな、捨ててなんかないっ」
「なあ、そんなに汐が邪魔なのかよ?」
首を大きく横に振って答える。
「お義母さんに相談しよう、な?」
「ダ、ダメ…」
「どうして?」
「だって、私のせいで、私の家族が壊れるなんて…言えない…」
「バカっ! じゃあ、どうするんだよっ」
「もう…、しないから。ね?」
手がすべっただけじゃないのかよ?
何でしらを切れないんだよ!
「信じ…、らんねぇよっ!」
汐を抱えたまま、部屋を飛び出した。
「朋也ーーっ!」
何で汐の名前を呼んでやらねぇんだよ!
走りながら、涙があふれ出た。
565智代after13:04/07/06 20:15 ID:Pk5cd5f7
夏の夕方まだ明るい町を、とぼとぼと歩く。
思わず飛び出してきてしまったが、どの面下げて帰ればいいんだ?
智代が「もうしない」と謝りながら迎えに来てくれたら…。
バカか?
それを信じられないと言って、逃げてきたくせに。
お互い、もう少し頭が冷えるまで時間を潰そう。

汐がグズりだす。
「ん、ウンチか? オシッコか? おっぱいは困るぞぉ」
とりあえずはオシッコのようだ。
慌ててコンビニに飛び込む。
紙オムツはあったが、ウェットティッシュは普通のだけ。
仕方ないのでその二つを買う。
トイレを借りて、オムツを交換する。
コンビニを出て、再びブラブラ歩く。
そういや、汚れた作業着来て、赤ん坊抱いてブラついてたりしたら怪しくねぇ?
誘拐犯とか思われたら、どうするよ?
いっそ、智代に身代金要求してやるか。
んで、仲直りのきっかけには…。ならねーよなぁ。

かつて森だった土地は、今は切り開かれバイパスが走っている。
その通りに、ドラッグストアが出来ていた。
時間つぶしに入ってみる。
薬は当然として、日用雑貨は言うに及ばず、お菓子やジュース、酒まで扱っているのに感心した。
夜遅くまで開いているようだし、子どもに何かあったときには助かるよなぁ。
町が変わっていくことの郷愁なんて、そんな便利って言う言葉の前に吹き飛んでしまうのだろうか。
今は、俺も町の姿を変えることで、日々の糧を得ている。
俺や智代も変わらずにはいられないのだろうか。
566智代after14:04/07/06 20:16 ID:Pk5cd5f7
チューブ入りベビーフードとベビー用ミネラルウォーターを買って外に出る。
だいぶ薄暗くなってきたが、まだ帰る気はしない。
どこかで落ち着いて、汐に何か与えたかった。
再び、バイパス沿いに歩く。
同じく最近出来た総合病院の敷地に、ベンチを見つけた。
そこに座って、汐の口にミネラルウォーターを少しずつ含ませてやる。
続いてベビーフードをチューブから絞り出して食べさせてみる。
半分ほど食べたら、残してしまった。
「もういらないのかぁ? パパもらっちゃうぞ?」
薄い。
不味くはないが、すごく薄味だった。
離乳食の参考にはなった。

病院の中庭、病棟と駐車場をつなぐ通路。
昼間なら、リハビリを兼ねた散歩をする人もいるのかもしれない。
さすがにこの時間は、見舞客であろう人たちが行き来するくらいだ。
ふと見ると、病棟から出てきた人影。フラフラしながら歩いてくる。
危なっかしい。
だが、近づいてきたそのシルエットは見覚えのあるものだった。
親父……。
567智代after15:04/07/06 20:17 ID:Pk5cd5f7
「おお、朋也くんじゃないか。こんな所でどうしたんだい?」
酒臭い息。
左の頬に湿布、右腕に包帯。
酔っぱらってケンカでもしたのか。何やってんだ!
「まさか、汐ちゃんの具合でも悪いのかい?」
汐の頭にのばしかけた手を遮るように、汐を抱いて背を向ける。
「は。あ、はは…」
しゃがれた笑いが響く。
「じゃ、私はこれで失敬。失敬…」
祖父が孫を撫でようとして、何が悪いんだよ。
こんな邪険にされて怒ってくれよ。
親父が立ち去ろうとした時、俺自身思いもしない言葉を発せられた。
「…けてよ」
「えっ?」
「助けてよ…。智代が…、こいつを虐めるんだよ。
「俺たち、壊れちゃうよ…。助けてくれよ…、父さん!」
思わず口に出した言葉に我に返り、親父を見上げる。
「あ、あぁー…」
親父もまた、突然の嘆願に戸惑っていた。そして返ってきた言葉は…。
「む、無理だよ。う、うん、無理だ」
親父は自分自身に拒絶の言葉を言い聞かせた。
「そ、それは朋也くんたちの問題なんだから、朋也くん自身で解決しなさい。い、いいね。じゃ、じゃあ」
親父は踵を返すと、早足で去っていった。
「は、ははは…」
自嘲する他ない。
さんざん無視しておいて、何調子いいこと言ってるんだ。
当然の報いじゃねぇか。
だけど、この子はっ! 汐が何をしたっ?
汐は俺が守るんだ。
たとえ…、智代と別れることになっても…。
568智代after16:04/07/06 20:17 ID:Pk5cd5f7
それからもしばらくの間、同じベンチに座っていた。
もう辺りは真っ暗で、通る人もいなかった。
何時までもこんな所にはいられない。あきらめて家路をたどる。

アパートの前、人影に気付く。智代?
思わず足を止めてしまった。
その影の主も俺に気がついたのか、近づいてくる。
「朋也くん…」
智代ではなかった。親父だった。
まだ何か用かよ。逃げたくせに!
親父を無視して通り過ぎる。
「あ…。と、朋也…」
再び足を止めた。
「あ、あの…。その…、い、一緒に暮らさないか?」
ハッと振り返って、親父の顔を見つめる。
混乱して自分でも何を言っているのか分かっていないような表情。
相変わらず、その息は酒臭い。
「酔っぱらってんのかよ」
「酔ってるかもしれないけどっ」
「どう…して…?」
「と、朋也と、智代さんと、汐ちゃんと、私と四人で暮らそう?」
何で突然、そんなことを言い出すのか分からなかった。
「そ、そうすれば、お前がいない時は、私も汐ちゃんを見てやれるよ」
「…あぁ」
親父が、俺たちのことを考えてくれた。
今の親父の顔は、間違いなく家族だったころの親父の顔だった。
今なら親父にすがることが出来る。
こくん、と頷いた。
「あぁ、良かった…。はぁー」
親父が、ホッと息をついた。
569智代after17:04/07/06 20:18 ID:Pk5cd5f7
部屋に帰る。
「汐っ!」
智代は俺から汐を奪い、また部屋の奥に引っ込んだ。
「智代?」
汐をギュッと抱いてうずくまる智代に声をかける。
「なに?」
泣きそうな震える声で返事が返ってくる。
「あのさ、俺の実家に越さないか?」
「え? どうして…」
涙がたまった目をこすりながら、智代が問う。
「親父がな、一緒に暮らそうって言ってくれたんだよ…」
「…本当に?」
「ああ、ホント」
「仲直り…したの…?」
「んー、まぁ、一応」
和解というか、娘と孫のための休戦のようなものか。
「そっか。良かった…。汐、パパとお祖父ちゃんが仲直りしたんだって。
「ずっとケンカしていたんだよ。しょうがないパパだね…」
そんなに俺と親父のこと気にかけていたのか?
ならば、俺は親父と和解するから…、お前も汐と仲直りするんだぞ…、智代。

部屋の前をウロウロしていた親父に、世話になると伝える。
「いつでも引っ越してきなさい。あ、散らかしているからすぐに片付けなくちゃな」
「父さん…、ありがとう…」
「うん…。じゃ、おやすみ」
570智代after18:04/07/06 20:19 ID:Pk5cd5f7
「お義父さん、いたのか?」
「ああ」
「何で上がったもらわないんだ。これじゃ、私、お嫁さん失格じゃないか」
「だって、何か嫁が泣いてるしよ」
「バカ。朋也のせいじゃないか」
悪いの俺かい?
でも、今日の所は反論しないでやって、話を変える。
「で、いつ頃引っ越すか?」
「今月中」
「……。無理。」
「どうして?」
「仕事休めねーし、日曜は来週が最後だろ。何で慌てて、越さなきゃならない?」
「来月の家賃がもったいない」
確かにそれはもったいないな…。
「納得したっ」
「だろう。お嫁さんがしっかりしていて良かったな?」
それは、ちょっと納得できない。声には出せなかったが。

翌日から、職場であまった段ボールをもらってきて荷造りを始める。
日曜、前と同じように軽トラックを借りた。
鷹文は雇えなかったが、今回は親父が手伝ってくれた。
掃除は智代に任せて、親父と二人、荷物を運ぶ。
「そう言えば、今、仕事何やってんだ?」
「あぁ、この間ね。夜の工事現場の誘導係の仕事決めてきたよ」
「夜勤か。大変そうだな」
「夜勤なら、お前がいない間も、汐ちゃんを見ていられるよ」
「あ。すまねぇ…」
「気にしない、気にしない」
親父に対して感謝してもしきれなかった。
571智代after19:04/07/06 20:19 ID:Pk5cd5f7
智代との新婚生活を過ごした部屋にカギをかける。
寂しさを感じた。
一年も暮らしていないのに、愛着って湧くものなんだな。
親父も、家賃の安いところに引っ越さずにあの借家に住み続けたのは、そんな気持ちからなのだろうか。
あるいは俺が帰れる場所を守るため…?
実家の家賃は親父と折半する。
最近は滞納気味だったようで、それも分割してはらっていく。
経済事情は、当分変化無しだろう。

四人での生活が始まる。
まず、目に見えた変化は、親父の血色が良くなったこと。
智代の料理のおかげで、栄養状態が改善されたせいか。
酒の量もおそらくずいぶん減っているのだろう。
俺との関係は、完全にうち解け合ったと言うには、まだまだ遠い。
汐は健康に育っている。
母親からの拒絶の傷痕は、ない。
そんな中、智代だけがやつれ気味だった。
ただの夏バテならいいけれど…。
572智代after20:04/07/06 20:20 ID:Pk5cd5f7
ほどほどの暑さを残して夏が過ぎてゆく。
智代は、まだ元気がない。
論文式試験の合格発表まで二週間ほど。

「ただいま」
いつもならあるべき返事がない。
ふいにあの日、智代が汐を捨てた日のことが思い出される。
不安でたまらなくなり、智代の名を呼ぶ。
「智代っ!」
やはり返事はなかった。
そもそも、智代の靴も、汐のベビーカートもないのだ。
返事など返ってくるはずがない。
家に上がる。
書き置きでもあるかと思ったが、それもない。
親父の部屋に向かう。
この時間は夜勤に備えて寝ている時間だが、今日だけは起きてもらう。
「智代知らないか?」
「夕食の買い物では?」
「伝言も何もないんだ」
「もう少し様子を見よう」
親父は時計を確認してそう言ったが、俺はじっとしていられなかった。
近所を捜してまわる。
秋分の日が過ぎれば日の入りは早い。あっという間に真っ暗になった。
家に戻る。智代はまだ帰っていない。
智代の実家に電話をかけてみるが、来ていないとのことだった。
親父は職場に休みの連絡を入れた。
「すまねえ」
「いいから。さぁ、捜しに行こう」
親父に促されて智代たちを捜しに出る。
今度はもっと遠く、商店街の方へ。
573智代after21:04/07/06 20:21 ID:Pk5cd5f7
こんな小さな町でも、当てもなく人を捜し出そうなんて無茶な話だった。
時折家に電話を入れるが、出る者はいない。
やがて途方に暮れる。
俺が汐を抱えて飛び出した日、残された智代もこんな風にさびしく思っていたのだろうか。
あるいは俺が自立を気取って家を出たとき、残された親父は…。
あの日、汐を抱いた俺が、親父に出くわした場所に足が向かった。

信じられない。智代がいた。
汐を抱いて、あの日の俺のようにベンチに座っていた。
「智代!」
「朋也…。…どうして?」
「どうしてじゃねぇっ! こんな時間まで何やってたんだっ!?」
「ごめんな…さい…」
ああっ、こんな所で言い争ってる場合じゃない。
「帰るぞっ」
「うん…」
通りに出てタクシーを拾う。
ベビーカートはトランクに。
汐は智代が抱いたままだった。

帰宅する。親父はまだ帰っていなかった。
居間に上がる。
親父が帰るまではくつろぐわけにはいかない。
智代は俺から離れて座る。
まるで、俺から汐を隠すように。
そして俺は、汐の足に異物を見つけてしまった。
「おいっ、何だその包帯はっ?」
「ごめんな…さい…」
おびえながら俺に謝罪する。
「ごめんじゃねぇよっ! どうしたんだよっ?」
「お茶を……こぼした」
574智代after22:04/07/06 20:22 ID:Pk5cd5f7
目の前が真っ暗になった。
俺の怒声に泣き出した汐を、智代から取り上げてあやす。
智代に向かって、静かに言う。
「智代…、別れよう…」
「え…? どうして、どうしてそんなこと言うの?」
「だって…、お前がこいつのこと傷つけるから。だったら、離れて暮らすしかねえだろ?」
「い…や…。返して! 私の娘だぞ」
「俺たちの子だっ!」
「ウソつき!」
「なにがウソだ」
「お義父さんと仲直りしたって言ったくせに! 二人して私のことを見張ってたくせに!」
それはお前の負担を軽くするために、親父と二人で出来るだけ汐の世話をしていたんじゃないか。
それを分かってくれないのなら、俺たちの家族ごっこは終わらせるしかない。
ガラッと障子が開かれた。
いつの間にか帰っていた親父が、智代の前に立つ。
「ダメだ…。ダメだよ、智代さん。このままじゃ…、私と朋也くんのようになってしまうよ?」
朋也くん、か。
家族とはとても呼べないような親子。
それでも親父は、俺たちのために無理をしてくれていたのが分かってしまった。
「私たちがどんなに醜い親子だったか…、ずっと朋也くんの側にいたあなたなら分かるでしょう。
「そんな風になってもいいのかい!?」
「……」
智代と汐をそんな親子にするわけにはいかない。
「イヤ、そんなのイヤだ」
智代はゆっくと立ち上がり、俺の手から汐を受け取った。
「ごめんね! ごめんね、汐。ママを…、許して!」
泣きくずれながら娘に詫びた。
575智代after23:04/07/06 20:23 ID:Pk5cd5f7
「これで、良かったかな?」
親父が、俺に問う。
さっきの、朋也くんて呼ばれたことにはもうこだわらない。
「ああ。ありがとう、父さん」
「朋也…」
俺の肩を、ポンと叩いて部屋を出てゆく。
俺たちは、今度こそ、本当の家族に戻れる。
汐のおかげだ。
汐が、自分と母の関係を犠牲にしてまで、父と祖父の絆を守ってくれたのだ。
そう思えた。
だから、父親である俺は、汐と智代の絆を守らなければならない。
智代の隣に座って、その肩を抱く。
彼女が泣き止むまで。

膝が触れ合う距離で、智代と向かい合って座る。
「本当に、ごめんなさい」
「もういいよ」
自ら過ちを認めた智代が、再び同じ事を繰り返すとは思えなかったから。
「でも、どうしても苦しいときは俺に言えよ?」
「うん、大丈夫だ。もう勉強はしないって決めたから」
「は? ずいぶんと極端だな、おい。口述試験てのが残ってんだろ。この間の発表だってまだだし」
「やるべき事はやった。今は汐のために時間を使いたい」
「その代わり、もし合格したら、一年半の研修に行かなければならない。その間、汐のことお願いする」
「おう。まかせろ」
「うん…。あ、汐と離れなければならないんだって思ったら、また悲しくなってきたぞ…」
智代の目が、潤んでくる。
「大丈夫。きっと汐だって分かってくれるさ」
「うん…。」
576智代after24/24:04/07/06 20:26 ID:Pk5cd5f7
「もう一つ。そしてその後、私は弁護士になりたい」
「ああ、いいんじゃないか」
「私には、朋也やお父さんがいてくれた。幸いなことだ。
「でも、世の中には、不幸にも、我が子を傷つけ罪に問われる母親たちがいるんだろう。
「そんな母親たちの助けになりたい」
その決意に衝撃を受ける。
自らの行いを反省するだけでなく、あっと言う間に成長してしまった。それでこそ…、智代だ。
「それで、そんな人たちからは、あまりお金を取れないと思う」
「ま、しょうがないわな」
「だから、大きな家を買うなんてのは諦めてくれ」
はあ? ああ、そう言えば、昔そんなことを話したっけ。
「いいよ。お前と汐がいれば。親父もいるしな」
借家だからいつか出ることはあるだろうけど。
「なー、汐。ぶちゅっ」
汐の右頬にキスした。
「うわっ。いやらしい」
汐を取り上げられてしまった。
「どこがいやらしいんだよ」
「パパ、いやらしかったよねー。チュッ」
智代が汐の左頬にキスした。いやらしくはない、いや、かわいいぞ。
「じゃ、いやらしいちゅーはママにだな」
「汐の前で…」
「わはは、よいではないか」
ガラッと障子が開かれた。
「お風呂、先に頂いたよ……あ、スマン。失礼」
そう言うや、親父は障子をピシャと閉めた。
「バカッ」
と、蹴り飛ばされる。
でも、すぐに汐を挟んで笑い合う。
大丈夫。確かな目標がある今のお前なら、迷うことはなく進んでいける。
少しくらい離れたって、俺たち家族の絆は壊れない。疲れたときには、俺が支えてやる。
577 ◆Y3iyltz542 :04/07/06 20:29 ID:Pk5cd5f7
以上です。
智代はンな事しないと言われるかもしれないが、バッドエンドとか見るとわりと脆いかなと思えるんで、このくらいはアリかと。
一応智代にはプレッシャーかけたつもりだし。

バッドルートも考えたが、書くと鬱になりそうなので止めとく。
・智代、育児ノイローゼで自殺
・朋也、子育て放棄
・鷹文(あるいは有紀寧と)汐を引き取る
・立ち直って和解?
578名無しさんだよもん:04/07/06 21:15 ID:EUwGsz3N
GOOD
…迫真のSSであった。元が鍵の作品であるのを忘れるくらいに。
579名無しさんだよもん:04/07/06 21:17 ID:qfgSyPoX
キツイっすねー、でも面白かったです。マジで智代がやってる展開にするとは・・・
ちょっと意外でした。グッジョブ
580名無しさんだよもん:04/07/06 21:42 ID:bp+id+iy
智代と汐はそんな簡単に割り切れるものなのか?
そこだけ疑問。汐の心情が描写されてないし。
581名無しさんだよもん:04/07/06 21:47 ID:SFdkAZV9
良SSだが、
あれくらいで虐待はなくなるものか?
カウンセリング受けないとだめだと思うが。
582名無しさんだよもん:04/07/06 22:05 ID:YkATHNOp
>>577
GJです。
欲を言えば、もうすこーし痛さを増やしても良かったかなとは思います。
まあ読んでるうちに耐えられなくなるかもですが…。
583名無しさんだよもん:04/07/06 22:11 ID:ueBHvqsU
うん。
それと虐待しといてそんな母親の弁護うんぬんが成長で片付けて良い
問題だろうか?
俺はこれで一件落着のハッピーエンドとはとても思えない。
584名無しさんだよもん:04/07/06 23:16 ID:62/VAJCI
         ,へ、,.-‐ー/´\- 、
         ./,r^ヽ -―‐'⌒'ミヽ ヽ
        ,.'/ 〃,    ヽ ヽ\. `、
     .,.'〃/ / i ! ! l l i lヽヽ. i l .'、
      〃!l. ! !_l,⊥| l. | { l⊥L._i } !.l. i.
     ´ l.| | Nヽ」_NVヽレ」L_レ | | l !
        !|ヽN.ハ「';i]   ´|l';;il〉_|_! l l.     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
       | l |i.ゞ┘ '__ └-'.|>>|. | l.     | 
        | l| !ゝ.  ヽノ  ノ |彡|.i l |  <  虐待通報するわよ
       .| l| l | |` ;_-_.'┘、.|三|. l_l l   | 
       | |.l | レ'7ミ≡彡ノ〈,ハ「| | |. /) ,、 \_______________
      .| レ、'´ {丶ニ ノ ムム| U l//レ'ノ
      | i |ミ丶、 .l  /  ノハヽ、 , ,ハ
       ! l l  ```ミ.レ´彡´//┌`――ー-iヽ
     / //      `i'´  /// |三三三三|ヽヽ

585名無しさんだよもん:04/07/07 01:00 ID:UoYDL14x
(゜皿゜;) やめてくれっ、虐待通報するzhuihiaodasmea
586名無しさんだよもん:04/07/07 03:46 ID:ct8MVZMw
智代の口調がゲームと違う、また一貫性がない。
虐待から仲直りにかけての智代の気持ちがわかりにくい。
こういう題材なら智代視点にしたほうが良い。
原作における登場人物の良い点がごっそり抜けてる為、読むのが苦痛。
最後に魅力を感じれるようなフォローが欲しかった。
情緒不安定さを出す為の言動の不一致と、智代の内面描写の少なさが相まって、
最後の弁護士になると決心する、という綺麗なシメが、口からでまかせのような薄っぺらいものに感じる。

色々ケチつけちゃいましたが、ダークなネタをひっぱってくる発想、これだけの文章を完結させた実力は素晴らしいと思う。
次の投下も楽しみにしてます
587名無しさんだよもん:04/07/07 04:43 ID:LRR/5OKl
>>586
的確な評論だな。どこで勉強したんだ?
588名無しさんだよもん:04/07/07 08:04 ID:nSSNzyTF
>>577
親父いいね。ジーンときた。
GJ!
589名無しさんだよもん:04/07/07 11:43 ID:Q9LR8k4O
>>587
鼻毛
590名無しさんだよもん:04/07/07 13:52 ID:hvQnziHZ
>>586
敬意を表しておまえにレインボー
591名無しさんだよもん:04/07/07 19:31 ID:Ipmouhua
てす
592名無しさんだよもん:04/07/07 22:28 ID:MlspUBz1
       . .       _                   
      . .      /   ⌒ヽ    ベンピニナッチャウヨー!!
             '  ノノ)ノレノノ
      .      イ イ > < .|'  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
             'ヘレゝ" ' /  < う〜、菊門が塞がれてウンコができないよ〜(泣)
            /       \ \__________________
            | |       | |
            | |       | |   
          |⌒\|       |/⌒|    
          |   |    |   |   |  
          | \ (      ) /.|   
          |  |\___人___/|   |
          |  |   /"lヽ  .|  |
         (__)  ( ,人) (__)
                |  |
          _∨__/Z |  |    
    ..     /     .\|  |
   .     /  ノ|ノレハ ||  |
       .. | c| |  <|ヽノ|  |
        \.|). l7/ ..|  |  <お望みどおり君の菊門に栓したよ!
            /´  \..|  |
           (  ) ゚  ゚.|  | 
           \ \__, |  ⊂lll シュッ
            \_つ ⊂llll シュッ
            .(  ノ  ノ  
             | (__人_) \ 
             |   |   \ ヽ  
             |  )    |   ) 
            /  /    /  /  
            /  /    (___) 
           (___)
593名無しさんだよもん:04/07/07 22:34 ID:CyS6Qc5p
CLANNAM1968
594名無しさんだよもん:04/07/07 23:30 ID:alUlFE67
だからこういう話をCLANNADキャラでやる意味は?
595名無しさんだよもん:04/07/07 23:41 ID:AiEKnYXz
智代の言動が絶対的な武力によって裏付けられていた事を立証するためかな。
特に>>548後半〜>>549前半
596名無しさんだよもん:04/07/08 00:15 ID:z+fWb3Mx
535 名前:コテとトリップ 投稿日:04/07/08 00:08 ID:BZqaJleJ New!!
何人もの男達が、私の体の上をただ通り過ぎていきました・・・
私の体だけに価値を見い出すだけのつまらない男達
そんな男達のなかでも、ケードロをドロケイと呼ぶ人達
100発100中で田舎もんだったにゃりよ

536 名前:コテとトリップ 投稿日:04/07/08 00:09 ID:BZqaJleJ New!!
二行目異常だな。ぶっちゃけありえねえ。駄文の極み。ありえねえ
頭わりいなあこれ。どうしようもねえや
597名無しさんだよもん:04/07/08 04:12 ID:+Nkp1gya
淡々としてるのも作風なのかも知れんが、ただ単に行間を埋める術を知らないように見える。
智代が虐待を行うまでの動機が省かれに省かれまくってて超わかりづらい。
その点がありとあらゆる点をブチ壊しにしてると感じてしまったので100点中20点で。
598名無しさんだよもん:04/07/08 10:04 ID:jM1m8i1T
となりの赤ちゃんアザ多い♪
「この子そそっかしいの」とお母さん♪
・゚・(ノД`)・゚・
599名無しさんだよもん:04/07/08 13:01 ID:gH37CD27
>>598
見て見ぬ振りも虐待になるので通報しましょう。
600600 ◆600KBYxYHU :04/07/08 15:51 ID:YmTWY+86
600はおれのもの
601男子寮のハートマン:04/07/08 20:28 ID:xe1MDef4
うつむいていると、髪が顔にかかって邪魔だった。
近くにあった輪ゴムを手にとると、髪をひとつにまとめて、くくりつける。
一息ついて、作業を再開した。
五分後、最後のタマネギの皮を剥きおえた。
数えてみると、大小あわせて、二十三個もあった。
タマネギの皮の色素が付着して茶色くなった両手を洗うと、ひたいに浮いた汗をぬぐった。
時刻は、午後の四時になろうとしている。
タイムリミットは七時。
テーブルの上には、食料品店から運ばれてきたままの食材が山のようにつまれている。
あとどれぐらい時間がかかるのか見当もつかなかった。
「ふぅ・・・」
すこし意識が薄らいでいくような気がして、坂上智代は、ため息をついた。
602男子寮のハートマン:04/07/08 20:29 ID:xe1MDef4

「うわっ、なんで、おまえがここにいるんだよ!!」
智代を見た瞬間、春原はあとずさりした。
「・・・手伝ってほしい」
ぎりぎりまで絞りきったレモンの最後の一滴のように、智代は声を絞り出した。
「はっ?」
「料理だ。いま、カレーを作っているんだが、このままでは間に合いそうもない」
「あのー、まったく話がみえないんですけど」
お伺いを立てるように、春原が言った。
「正直、おまえの手は借りたくなかった」
「いきなり、ヒドイいいようっスね」
「だが、背に腹はかえられない。約束を破るわけにはいかない」
「だから、なんなんだよ。はっきり言えっての」
「わたしと一緒にカレーを作ってほしい」
「えっ・・・」
春原はなぜか顔を赤らめた。
「それってプロポーズ?」
ドガッ!!
思わず蹴りが入る。
「どうして、そうなる」
「いやー、みそ汁のカレーバージョンかと思って」
「時間がないんだ。手伝ってくれるのか、くれないのか、どっちだ」
「つーか、なんで僕に言うんだ? 勝手に作ればいいじゃん」
「自分の晩御飯なんだぞ、すこしぐらい手伝ってくれてもいいだろう」
「えっ、寮のメシ、作ってんの?」
「そうだ」
「美佐枝さんの手伝い?」
「いや、彼女は今いない。わたしが代わりだ」
「よくわかんないねぇ。美佐枝さんがいないからって、なんで生徒会長様が男子寮のメシ作ってんのさ」
「美佐枝さんには、いろいろアドバイスをもらったんだ。そのお礼だ」
春原の皮肉は無視した。
603男子寮のハートマン:04/07/08 20:29 ID:xe1MDef4

「ふぅん。律儀なやつだね」
「それで、手伝ってくれるのか?」
「いいけど、まー、それなりの見返りが欲しいね」
「なんだ」
どうせくだらないことだろうとは思うが、一応きいてみる。
「おっぱい、揉ませてくれ。片方だけでいい」
ブシッ!!
顔面にストレートをお見舞いする。
「岡崎には、さわらせたくせに・・・」
春原の断末魔は無視して、智代は春原の部屋をでた。
時間を無駄にしたようだ。
どうして春原に助けを求めたりしたのだろう。

智代は台所に戻って、タマネギを切りはじめた。
その途端に涙がにじむ。
視界がぼやけて、目が痛くなった。
それでも、かまわずに智代はタマネギを刻みつづけた。
すべて刻み終えると、サラダ油をいれた熱したフライパンに、タマネギを投入した。
きつね色になるまで、じっくりといためる。
ときどき、しゃもじでかき回してやりながら、そのあいだに、ニンジンやじゃがいもの
皮を剥き、別のコンロで牛肉をいためた。
確かに量は多かったが、思ったより早く終わりそうだった。

灰汁取りも終わり、あとは弱火でぐつぐつと煮た。
食堂のテーブルをフキンで拭き、お皿の用意をする。
時間は六時を過ぎたあたり。
               
604男子寮のハートマン:04/07/08 20:30 ID:xe1MDef4

夕食までには、まだ時間があった。
何をしようかと考えて、先ほど見た春原の部屋の汚さに思いあたる。
あんなところで過ごす岡崎が、不憫だった。
智代は再び、春原の部屋をノックした。
「あっ、智代ちゃん。メシできた?」
能天気に訊いてくる春原の言葉に、智代の眉がぴくんとあがった。
「ああ、できた」
本当は、おまえに食べさせるものなどない、と言いたかったが、
春原も食費は払ってるはずだから、口に出さなかった。
「よし、じゃあ、食いに行こう」
「待て、食事は七時からだ」
「そんなの関係ないじゃん。さっ、メシ、メシ」
智代の脇をすり抜けて廊下に出ようとする春原の首根っこをつかむと、部屋に引きずり戻した。
「ぐえっ、なにすんだよ」
「わたしは美佐枝さんの代わりにここを任されている。勝手な真似は許さない」
「わかったよ。チッ」
舌打ちをすると、春原はベットに横たわって雑誌を読みだした。
智代は部屋を見まわした。
「すこしは、片づけたらどうだ?」
「あん、なに?」
春原は雑誌から、智代のほうに視線を移した。
「部屋を掃除しろ。汚いぞ」
「そう? こんなもんだろ」
「岡崎も、ここにはよく来るんだろう? 客人を迎えるのには散らかりすぎていると思うぞ」
「あいつは客じゃない。勝手に来てるだけだよ」
そう言って春原は、思い出したように続けた。
                       
605男子寮のハートマン:04/07/08 20:31 ID:xe1MDef4

「そういや、岡崎、今日来てないな」
「なんだ、知らないのか?」
「なんだよ」
「岡崎なら、美佐枝さんと遊びにいったぞ」
「なんじゃそりゃ、僕、聞いてねぇよ。どこ行ったんだ?」
「さあ、それは、わたしも知らない」
「岡崎め、うまいことやりやがって。くーっ、今頃、おっぱい、もみもみしてんのかなぁ」
「なに下品なことを言っているんだ」
「だって、うらやましいじゃないか。もみもみだぞ。もみもみ」
「岡崎が美佐枝さんを連れ出したのは、日ごろお世話になっている感謝のためだぞ。
おまえと一緒にするな」
「ふん、岡崎がそう言ったのか?」
馬鹿にするように春原は言った。
「そうだ。だから、わたしも協力したんだ。とてもいいことだと思わないのか」
「たしかに、ほとんど休みもなく、むさい男どもの相手をしている美佐枝さんは
 大変だろうさ。僕だって感謝してる。でも、岡崎は部外者だ。なんであいつが
 美佐枝さんと出かけるんだ? おかしいじゃないか」
智代はすこし言葉に詰まった。
「ここに、よく出入りしているからだろう」
「あいつが迷惑をかけているのは、僕で、美佐枝さんじゃない」
「だとしても・・・働きづめの女性を気遣ってあげているのはいいことだ」
「だから、そんなんじゃないっての。おっぱいのために決まってるだろ」
「・・・そうなのか?」
あまりに断定的にいわれるので智代は、つい尋ねていた。
春原は力強くうなずいた。
「間違いないね。美佐枝さんのおっぱいでスリーポイントシュート決める気だよ。あいつは」

智代はうつむいて自分の胸をみた。
あきらかに負けていた。
606男子寮のハートマン:04/07/08 20:31 ID:xe1MDef4
七時前になって、ぞろぞろと寮生たちが食堂に集まってきた。
「いい匂いさせてんじゃん」
「今日は、カレーか」
仲のいいもの同士が、適当な席に腰をかける。
大して広くない食堂が、ガタイのいい男たちに占拠されると、よりいっそう狭く感じられた。
「おまえたち、まだ手をつけるなよ」
智代が言った。
寮生たちは、不思議そうな顔で智代をみた。
(なんだ、あいつ)
(生徒会長が、なんでここにいんの?)
そのうちのひとりが、智代に言った。
「なんで、おまえが仕切ってんだ? 美佐枝さんは?」
「わたしが、美佐枝さんの代理だ」
それで、その男子は納得したようにはみえなかったが、これ以上詮索する気はないようだった。
「みんな、揃ったか」
智代は食堂を見渡しながら、言った。
「ラグビー部のやつらは、まだ部活やってるけど」
「わかった。そいつら以外はもう揃ったか」
「んー、山辺と藤本がまだきてないな」

「はっ、いちいち待ってられっかよ」
そう言って春原がスプーンを持って、食べようとした。
「勝手な真似をするなといっただろ!」
智代は春原を椅子ごと蹴り上げた。
ドゴッ!!
吹っ飛ぶ春原。
天井に頭をぶつけてから元の場所に落ちてくると、そのままテーブルに突っ伏した。
607男子寮のハートマン:04/07/08 20:32 ID:xe1MDef4
いままでうるさかった食堂が、一瞬で静けさにつつまれる。
それは、まるで家族連れで賑わっている夏休みのプールで、いきなり水にもぐったときのような
劇的な変化だった。
(おい、なんじゃ、ありゃ)
(人間技じゃねぇぞ)
(蹴りで人が空中に浮くか?)
(美佐枝さんとはレベルが違う・・・)

そこに、いま食堂に来た二人組みが、なぜこんなに静かなのかと訝しがりながらも席に着いた。
「ん、これで揃ったか?」
誰も返事をしなかった。
「ところで、おまえたち、食事の前に手を洗ったのか?」
寮生たちは黙って顔を見合わせた。
ひとりが立ち上がると、つられるように全員(春原以外)立ち上がった。
ドタドタと水辺に向かって移動する水牛のように走り出した。
「おい、廊下を走るな」
智代の声に、寮生たちは一斉に足を止めた。
それから競歩のように早足で、洗面スペースにつらなって歩いていった。
しばらくして食堂に戻ってくると、みんな姿勢よく席に座った。
喋っているものは誰もいない。
「よし、おまえたち、手を合わせろ」
智代の掛け声に、全員が手を合わせた。
「いただきます」
「いただきます」
寮生が復唱する。
それからしばらくは会話もなく、スプーンが食器にあたったときのカチャカチャという音だけがした。
608男子寮のハートマン:04/07/08 20:37 ID:xe1MDef4
「おい、なんでこんなに静かなんだ? すこしは喋ったらどうだ。食事は楽しいほうがいいだろう」
「そうだよな、はは」
智代の前の席に座った男が同調したが、声は乾いていた。
「ぐはっ、あ、みんなもう食ってんじゃん」
気がついた春原は、さっそく食べはじめた。
一心不乱に、がつがつとカレーを掻きこんでいる。
「春原」
智代は呼びかけた。
「なぜ、ニンジンだけよけてるんだ?」
「僕、ニンジン嫌いなんだよね」
「まったく、子供みたいなやつだな。好き嫌いはよくないぞ」
「べつに食わなくても、死なねぇじゃん」
「だからといって、食べ物を粗末にするな」
「へっ、ニンジンは食いもんじゃないから、いいんだよ」
「仕方がないな」
智代は左手を春原のあごにそえると、無理やり口を開かせた。
「もごごっ」
必死に閉じようとして、春原は釣られたばかりの魚のように口をパクパク動かしている。
智代はニンジンを素手でつかむと、春原の口に入れた。
春原は、なんとか吐き出そうとするが、智代はそうはさせまいと、右手で春原の頭頂部
あたりを掴むと、強引に咀嚼させた。
「ウゲェ、ゴヴァ」
ガチガチと歯が噛み合わされる。
(恐ろしい)
(あご、くだけるんじゃねぇ)
(なんか、血、吐いてねぇか)
寮生たちは固唾を呑んで見守っていた。
609男子寮のハートマン:04/07/08 20:37 ID:xe1MDef4
「どうだ? 食べてみたら結構おいしいだろう?」
智代は微笑みながら、たずねた。
「ウン、ボク、ニンジン、ダイスキ」
まるでロボットのような片言で、春原は言った。
心なし、目がうつろだった。
「ダカラ、ジブンデ、タベル」
それからはいっそう、寮生たちの食べるスピードが速くなった。
「ごちそうさま」
流し込むように平らげたひとりが、そう言って立ち上がった。
「すまないが、食べ終わったお皿は、流しに持っていてくれないか」
智代が、その男子に言った。
「わかりました」
妙に礼儀正しく言うと、その男子はそそくさと食堂をあとにした。
そのあとは、堰を切ったように食べ終わったものから、逃げるようにしていなくなった。
(あー、怖かった)
(いつから、ここは軍隊になったんだ)
(ほんとだよな)
春原もゴチソウサマと言うと、ぎこちない動きで部屋に戻っていった。

智代は、ひとりきりになった。

誰もいない静かな食堂で、智代は食事を終える。
台所へ向かうと、シンクには食器で溢れかえっていた。
まるで天を目指して伸びる植物の芽のように、白い食器が積み重なっていた。
智代はため息をついた。
そのため息は、ここで毎日洗い物をしている人のため息によく似ていた。
610男子寮のハートマン:04/07/08 20:38 ID:xe1MDef4
事前に休憩するときはここを使っていいと言われていたので、智代は後片付けを終えると、
美佐枝さんの部屋にお邪魔した。
あまり物に触れないようにして、座布団にちょこんと座った。
クッションだけ拝借すると、おなかに抱え込むようにして三角座りをした。

智代は気分が沈んでいた。
さきほどの男子寮生の態度が、昔、荒れていたころの自分を思い出させた。
まるで猛獣でも見るような目をして、一歩引いたところから、智代を遠巻きに見ていた。
それがとてもショックだった。
すこしは変わったと思っていたのに。
もう自分でも、どこにでもいる普通の女の子と思っていたのに。
智代はクッションに顔をうずめた。

その格好のまま、智代は、ほっぺたに手をやった。
ちかごろ気分が落ち込んだとときに智代は、よくほっぺたをさわる。
そこは以前、岡崎朋也がつねったところだった。
その時のことを思い出すと、春の穏やかな日差しのなかで、縁側に寝転んでいる猫のお腹を
さわっているような暖かさが智代の胸に染みこんでいった。
自然と笑みがこぼれる。
春原への蹴りを見た後でも、彼だけが普段と同じように智代と接してきた。
たったそれだけのことが、智代にはとても嬉しかった。
そして、いつからか岡崎ことを考えると、自分の心臓が、生まれたばかりのウサギの心臓と
入れ替わったかのように苦しくなった。
611男子寮のハートマン:04/07/08 20:40 ID:xe1MDef4
気がつけば、九時半をすぎていた。
九時までには戻ると、岡崎は言っていた。
智代は急に不安になった。
遅くなるのなら、連絡ぐらいしてくるはずだ。
ひょっとしたら、事故にでもあったのだろうか。
それとも・・・

岡崎と美佐枝さんは、いったいどういう関係なんだろう。
また胸が苦しくなる。
しかし、この苦しさはさっきのとは違っていた。
そして、自分ではコントロールできない感情が、むくむくと膨れ上がる夏の日の入道雲のように
智代の胸の内をおおいつくした。
それは湿り気を帯びていて、陽射しをさえぎるほど分厚かった。


窓の外も曇り空。
もうすぐ、雨が降ろうとしている。
                 
612名無しさんだよもん:04/07/08 22:14 ID:YmTWY+86
つ、続きを…
613名無しさんだよもん:04/07/08 22:46 ID:+Nkp1gya
おお、なかなかいい出来だ。
続きに期待が持てる、やる気があるなら是非とも次を書いて欲しいもんだな

ただタイトルと内容がちょっとすれ違い気味かも
思いっきりギャグ主体かと思ってしまった
614名無しさんだよもん:04/07/08 23:51 ID:xgtSdCsC
イイヨイイヨー
615名無しさんだよもん:04/07/09 00:28 ID:4v6zz24U
面白いっす、春原風味がよく利いてる。
616原点回帰:04/07/09 02:26 ID:RISeadTF
男子寮の奴らなさけねえw
というか肝心のラグビー部がいなかったのがちょっと残念
美佐枝さんの飯じゃねえのかよとか言って智代に睨まれて欲しかったかもw
617名無しさんだよもん:04/07/09 10:46 ID:8PZsxmdy
Good!
タイトルは伏線なのか?続き楽しみにしてます。
618名無しさんだよもん:04/07/09 10:47 ID:8PZsxmdy
あ、ハートマン軍曹ね・・・
619■誘導■:04/07/11 18:44 ID:xWN8Zxtm
http://info.2ch.net/guide/adv.html#saku_guide
|6. 連続投稿・重複
|同じ事象・人物に関するスレッドは、個々に多少の違いがあっても原則的に削除対象になります。
|その場合、立てられた時期・時間、1に書かれている内容、レスがどれだけついているか、という優先順位で総合的に判断します。

葉鍵板・SS総合スレッド
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1089537629/
620■誘導■:04/07/11 18:44 ID:jUmT0/nb
http://info.2ch.net/guide/adv.html#saku_guide
|6. 連続投稿・重複
|同じ事象・人物に関するスレッドは、個々に多少の違いがあっても原則的に削除対象になります。
|その場合、立てられた時期・時間、1に書かれている内容、レスがどれだけついているか、という優先順位で総合的に判断します。

葉鍵板・SS総合スレッド
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1089537629/
621名無しさん@そうだ選挙に行こう:04/07/11 19:26 ID:HNc0j2n5
どうやら誘導厨は2匹いるようだな
622名無しさん@そうだ選挙に行こう:04/07/11 19:31 ID:IBX3CsEP
コピペしている内容と誘導の判断基準が矛盾している次点でアレだが、一応参考資料を。
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大人の時間 [Leaf・key] クラナドSS専用スレッド その2 619

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