【友達≦】幼馴染み萌えスレ13章【<恋人】

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1名無しさん@ピンキー
幼馴染スキーの幼馴染スキーによる幼馴染スキーのためのスレッドです。

■■ 注意事項 ■■

*職人編*
エロパロ板のスレですが、エロは必須ではありません。
ラブラブオンリーな話も大歓迎。
書き込むときはトリップの使用がお勧めです。
幼馴染みものなら何でも可。

*読み手編*
つまらないと思ったらスルーで。
わざわざ波風を立てる必要はありません。

前スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ12章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1179023636/l50

11代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ11章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1171471579/
10代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ10章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1161975824/
9代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ9章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1153405453/
8代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ8章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1147493563/
7代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ7章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1136452377/
6代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ6章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1130169698/
5代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ5章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1117897074/
4代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ4章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1110741092/
3代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ3章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1097237524/
2代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ2章【<恋人】
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1078148899/
初代スレ:幼馴染みとHする小説
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1073533206/
2名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 00:52:22 ID:8HYTbzxt

*関連スレッド*
気の強い娘がしおらしくなる瞬間に… 第7章(派生元スレ)
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1173661311/
いもうと大好きスレッド! Part3(ここから派生したスレ)
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1155733191/
お姉さん大好き PART4
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163193427/

*これまでに投下されたSSの保管場所*
2chエロパロ板SS保管庫
http://sslibrary.gozaru.jp/


次スレはレス数950or容量480KBを超えたら立ててください。
では職人様方読者様方ともに今後の幼馴染スレの繁栄を願って。
以下↓
3名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 08:46:15 ID:7Ydvabpw
>>1
乙です! このスレでもたくさんの良作が生まれますように。
4名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 09:51:25 ID:uGdkl6c8
>>1
乙!!
5名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 10:20:19 ID:/aO83SV0
>>1
乙!
6名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 15:39:14 ID:2g+ONixa
>>1


「私だって女の子なんだよ?」っていうネタは王道か?
7名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 16:02:29 ID:+3+NqYuy
王道やね。
8名無しさん@ピンキー:2007/08/17(金) 00:34:51 ID:fBYQoIUf
>>1


     ::|    ____
     ::|.  ./|=|    ヽ.    ≡三< ̄ ̄ ̄>
     ::|. / |=|  o  |=ヽ     .≡ ̄>/
     ::|__〈 ___  ___l   ≡三/ /
     ::|、ヽ|.|┌--、ヽ|/,-┐|    ≡/  <___/|
     ::|.|''''|.\ヽ--イ.|ヽ-イ:|  ≡三|______/
     ::|.ヾ |.::. .. ̄ ̄| ̄ /
     ::|  ';:::::┌===┐./
     ::| _〉ヾ ヾ二ソ./       こ、これは乙じゃなくてスラッガーなんだから
     ::||ロ|ロ|  `---´:|____    変な勘違いしないでよね!
     ::|:|ロ|ロ|_____/ロ|ロ|ロ,|`ヽ
     ::| |ロ|旦旦旦旦旦/ロ/ロ|旦,ヽ
     ::|ロヽ 旦旦旦旦旦./ロ,/|::旦旦)
     ::|ヾ旦旦旦旦旦旦,,,/::::|、 旦旦|
9名無しさん@ピンキー:2007/08/17(金) 19:17:02 ID:+zAhZ3cD
>>1

夕飯中にお邪魔します。前スレの埋め用にするか迷ったけど
アドバイスに素直に従い,こっちに投下させていただきます
10名無しさん@ピンキー:2007/08/17(金) 19:20:24 ID:+zAhZ3cD
そして夕方となり、おれは家にいる。食卓には既にメシがある。
なぜかというと昼間アイスを奢ってもらったから、と妙な義理心を出した
理菜が夕飯を作ってくれたのだ。
「いや、そもそもアイスは今日の予定に付き合ってくれた礼なんだが」
「いいんだよ。だって久し振りに実家に帰ったんだから冷蔵庫に何もないでしょ?
 沢山の食材を買うの大変だし」
「むむ……正論だ」
おれはささやかな協力として食卓に置かれてるゴク冷えのビールに貢献した。
「飲むか?」
「少しね」

なんとも理菜らしい回答に苦笑しつつも夕飯を始める。
おれは、まず最初に冷や奴と酒の相性の良さを喉で楽しむ。
「くぅ〜〜っ! たまんねーなー。夏が暑くても許せる瞬間だぜ!」
「ふふふ、天ぷらもどうぞ?」
理菜の作ってくれた品は、どれもさっぱりとしていて茹だる夏には、ぴったりだった。
特に天ぷらは衣が薄くて外がサクッとしていて中がジューシーだ。
思わず箸がテキパキと皿の間を動いていく。

そして夕飯が終わり皿洗いは後回しにして、理菜と一緒に酒をちびちびとやる。
大きく開けた窓からは網戸と竹のすだれを通して心地よい風が入り込んでくる。
「ふー、涼しいなあ。エアコンなくても夜は凌げるな」
「そうだね。大抵、扇風機でどうにかなるね」
理菜がうちわを扇ぎながら続ける。
「そう言えば、この辺が夜涼しいのって山から冷たい水が流れているからって
 聞いたことがあるよ。
 山の森の中を石清水が流れていて、それが例えば田んぼとか用水路を流れるから
 夜になってくると、この辺りはぐっと冷えるんだって」
「ああ、おれも聞いたことがあるような気がする。
 大学のレポート用に調べておこうかな」
「あ、うん。そうだね……」

ちりーん………

「お、風鈴かー。風流だねえ」
「……そ、そうでしょ? ねえ健次ちゃん、ずっと風鈴を聴くというのはどうかな?」
「え?」
「じゃなかったら風鈴を都会に持っていくのはどうかな?」
「??」
「ぁ………」
理菜は自分が何を言っているのか、ようやく気付いたらしい。
「ご、ごめん。なんでもないよ……あ、あははは」
11名無しさん@ピンキー:2007/08/17(金) 19:22:07 ID:+zAhZ3cD
……どうしておれは、こんなにも理菜の顔を見つめてしまうのだろう。
理菜は、どぎまぎしながら更に言う。
「あ、あのさ……健次ちゃん」
「なんだ?」
理菜は、まるで酒の勢いに任すように切り出した。
「健次ちゃんって彼女、いるんだよね?」
「ん? ……ああ」
理菜、知っていたのか。

「………………」
「い、いるけど?」
「k、彼女と上手くいっているのかな?」
「ええっ」
「ほ、ほらその、わ、たわし、じゃない……わたし、つ、付き合ったこととかないし」
……。
「さ、参考になるかも……って」
「……そ、そうだな。んー」
別に嘘をつく必要なんかないはずだ。
「まあ正直上手くは行ってない。何と言うか接していて疲れるというか根本的に違うというか」
理菜は、じぃっとおれの言葉に耳を傾ける。

「なんだろうな? 悪いやつじゃないけど、どうしてダメなんだろうな。
 何と言うかさ……。向こう行ってから、いつも思ってたんだけど、
 おれどうやらみんなと違うらしい。
 それが地方出身だからなのか、おれの性格なのかはわからないけどさ。
 ……どう思う? おれの性格が問題なのかな」
「そんなわけないよ……」
「友人とは、それでもそこそこ上手くやってるんだぜ?
 だけど、彼女とはどうも上手くいかなくて」
「だったらさ………か、代わりでもいいから……わ、わたしと……!」
理菜……!?
彼女は自分の言った事に対して我に返るや否や息を呑んで言葉を止める。
「ご、ごめん。なんでもな――」
「待て、理菜」
何故だ。どうして、おれはこんなことを言ってしまうのか。

「理菜。おれの彼女になってくれないか?」

何故だ? 愛していないとはいえ、おれは彼女がいると言うのに。
いや、だがわかってる!
風鈴。
理菜が小さい時に、おれにプレゼントしてくれた風鈴!
そういうことだったのかッ!!
理菜は、おれが付き合っている事を知っていた。
その上でなお、風鈴をずっと聴かないか、と言ったのだ!
12名無しさん@ピンキー:2007/08/17(金) 19:24:44 ID:+zAhZ3cD
「あ………ぁぅ……」
理菜の潤んだ瞳が、やけに綺麗だ。
「彼女とは、ずっと前から上手くいかないと感じていたんだ。この際、きっぱり別れる。
 だから理菜。代わりなんかじゃなくて、本命として。
 おれと付き合ってくれないか?」
理菜の目からは涙が溢れそうになっていて今にも泣き出してしまいそうだ。
「ほ、ほんとに………!?」
「ほんとだ」
「嬉しい………健次ちゃん……!」
「ただ……。2日ほど待ってほしい」
「えっ?」
「とりあえず待って欲しい。2日後にすべてがわかる。
 多分……既に理菜を待たせてしまっていただろうから虫のいい話なんだが………」
「わ、わかったよ、健次ちゃん。2日待てば良いんだね?」
「ああ」
「うんっ。私、信じているから………!」

そして、おれは理菜を家まで送っていった。
帰り道である水田のあぜ道から見る星空がとても綺麗に見えた。
家に辿り着くと「お帰りなさい、お嬢さん」と華のある声が掛けられる。
彼女の家は地元で有名な和菓子屋さんなのだ。


理菜を送り届けてから我が家に帰り、ふと部屋を見渡す。
座卓のおれの隣がさっきまで理菜が座っていた場所だ。
皿洗いも理菜がしてくれた。遠慮したのだが理菜の上機嫌さに負けた。
風鈴は今も、ちりーん……と鳴いている。
思い返してみると、とんでもないことを言ってしまったような気もする。
だが、これは良い機会だ。
付き合ってる彼女と全然上手くいってないのは本当の事だ。
2日もあれば別れるための心構えを固められるはず。




と、ゆーわけで何も心配する事はないので健康的なおれは理菜の可愛い顔や
昼間のエロ妄想をネタにしておなにぃした後クソして寝たっ。
13名無しさん@ピンキー:2007/08/17(金) 19:29:11 ID:+zAhZ3cD
主人公が無駄にエロいのは仕様
そこで抜きにかかる主人公に漢を感じてくれ

う、埋めネタじゃないからキンチョーしてしまう
14名無しさん@ピンキー:2007/08/17(金) 19:37:15 ID:kIMz5edT
前スレと合わせてGJ!

欲を言うともうすこしエピソードがほしかったんだぜ?
15名無しさん@ピンキー:2007/08/17(金) 20:12:34 ID:sa6S57qY
前スレの幼なじみとハイテンションBOYとの
ほのぼのとした触れ合いの部分が特に、GJ!!!
それと、彼が無駄にエロイとは感じなかったYo

只、彼が今付き合ってる彼女をあっさりと
振り捨てる部分がいきなりっぽい感じがして、ちょっと戸惑った
もーちょっとそれなりの逡巡とか戸惑いとかが
欲しかったなぁと思うのは、自分だけかもしれませんが

あーでも、理菜ちゃんかわいいよ理菜ちゃん
健次ちゃんには勿体無い(w
16名無しさん@ピンキー:2007/08/17(金) 21:06:48 ID:+zAhZ3cD
エピソードって言うとアレか。風鈴のこととか?
そう言われて見ると物足りないねw ラストまでに、どうにかしたいけど…

>振り捨てる部分がいきなりっぽい感じ
確かに。次回ようやく詳しい事情が語られる……つもり
つか、おれも前半のほのぼのが好きなんだけど、パワーダウンしたっつーか
設定間違えてる感がしてるっつーか
17名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 00:27:24 ID:fNgUOCKC
>>16
確かに、少し急いじゃった感じがあるよな
18名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 01:14:40 ID:wi2UaUvX
前スレ、557です。
汚名返上するため、もう一度投下します。
これで万が一、またどこかとネタが被ったら立ち直れる自信がない。
19名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 01:16:08 ID:wi2UaUvX
「ん……ぬぅ…」
 起きてはみたが、どうも疲れがとれた気がしない。
 まぁ、そりゃそうか。スーツなんて堅苦しい服で寝て気分良いわけないな。
 大きな欠伸を一回。
「……シャワーでも浴びるか………」
 そう呟きベットから起き上がる。
 違和感
 何かを焼く音、焼ける匂い。
 それが馴染み深いものと気付くのには数秒とかからなかった。
「あれ?起きちゃった?」
 そう言いながら顔を出すのは
「……友梨…今、何時?」
「九時半。ついでに私がここについたのが九時頃、ご飯の準備を始めたのが十分頃。あと質問は?」
 さも当然の様な顔をして言う。
「……なんで、ここに?…」
「昨日のお礼。気付いたらベットの上だったから。飲み代、払ってくれたんでしょ?」
 聞き慣れた台詞。週に一回はこれを聞いている。
 というのも、飲む→友梨寝る→俺支払い、という流れが毎週少なくとも一回、多くて三回。
 それがあった週の土曜日、もしくは日曜日も、必ずと言っていいほどの確率で来る。
 鍵は合鍵を渡している。
 一昨年の友梨の誕生日に「ちょうだい」と一言、言われたから。
 言ったのが友梨だったから。
「もうちょっと待ってて、すぐご飯出来るから」
「……シャワー浴びる…」
 
 ずるいと思う。
 ずっと好きなのに、好きだから家にまで来てるのに、それに気付かないのは。
 毎回毎回、どれだけの覚悟でここに来てるか知らないのは。
 一回だけ……もしかして女の子に興味、無いのかな…と疑った事がある。
 まぁ、それはこの前、彼が寝ている間に床に……その、女の子が写った………エッ、チな本を見つけたから……否定出来た。
 それじゃ……やっぱり私に…興味が無い、のかな?……
 いや、でも、家の中には入れてもらえるんだから、少なくとも、嫌われてることは無い、と思う。思いたい……
20名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 01:18:22 ID:wi2UaUvX
「美味いよなぁ」
 優也にそう言ってもらえるのが一番嬉しい。
 母に料理を教わったかいがあると言うものだ。
 優也にそう言って欲しい。そう思って料理を教わっているのだから。
 
「ホント?」
 その問いについ笑う。
「嘘言う理由がないだろうよ」
「なら良かった。せっかく作ったんだから美味しく食べてもらわないと」
 彼女が作るご飯はシンプルだが、美味い。とても真似は出来そうにはない。
「ところで、なにで来たんだ?」
「え?だから、お礼に……」
「なんで?じゃない、なにで?手段の方だ」
「あぁ、んとね。お父さんに送ってもらった」
 おじさん……あなた、付き合ってもいない男の家に娘さんを送りますか……
「それがどうかした?」
「いや、特には。ところで、あとどうするんだ?」
 予定くらいは聞いておこうと思う。
「ん〜……まぁ、良いじゃない?」
「なにが?」
「なにもしなくても、さ」
 そう言いながら漫画三割、小説三割、仕事の資料三割、その他が一割の本棚に近付く。
 このお嬢さんは、帰る気が無いらしい。まぁ、別に良いが。
 あ、そこはその他のスペースですよ。
「えっ!?」
 本の背に指を当てたところで動きが止まる。題名をやっと見たようだ。
 いい年した女性が十八禁の本くらいで停止しないでください。
「ちょ、ちょっと……なんで、こんなの……堂々と……」
「前、床に落ちてたろ?」
「!」
「それ拾って、お前、机の上に置いたろ」
 あれは思い出すだけでも恥ずかしい。十年間隠し続けた物を見つかったのだ。
「なんていうかね?親にエロ本見つかった高校生の気分を味わえたよ」
 もしかしたら、親に見られるよりキツイかも知れない。好きな女に見られるとは。
「だから、隠すくらいなら堂々と、と思ってさ」
 開き直り?うん、開き直ったよ。
21名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 01:20:10 ID:wi2UaUvX
「うぅ………」
 一度背に引っ掛けた指を離していく。それが賢明だろうね。
 正直、困ったように顔を赤くしている友梨は、可愛かった。
 
 こ、こんな本があったら、意識してしまう……
 優也がどんなのに興味があるか……優也が……その…ど、どんなのを見て……オナ…二ー…するのか……とか…
 ショックもあるが、彼も男だ。良く考えれば、持ってない方が不自然なのかも知れない。
 正直、見てみたい。と思う。だけど、見たら、エッチな女の子と思われそうな気がする。
 ……それも良いかな………って、ダメダメダメ!!
 彼に少しでも良く見られたくて、今までずっと品行方正な女の子を通してきた。
 今更、品行方正からエロに、なんてアクロバティックな転身はしたくない。
 ………まぁ、品行方正と言っても……一人のときは…何回も彼を想って……その…オナ
「どうした?」
「ひゃい!?」
 優也の声に現実に引き戻される。
「お前……その年になってまで、その手の本には耐性無しか」
「な……何か悪い?」
「うんにゃ、何も悪か無いさ」
 彼が意地悪な笑みを浮かべているのが、見なくても分かる。
 なんとなく、悔しい。
「てか………私だって……女の子なんだよ?なんでそんなに堂々と………」
「いやぁ、隠し事は良くないかなぁ?…と」
 絶対馬鹿にしてる。そんな口調だ。
 変な意地が出てきた。
 私だけがあたふたさせられるなんてフェアじゃない。優也の顔も赤くさせてやる。
22名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 01:22:49 ID:wi2UaUvX
「男の子って、こういうの見て、オ、オナ、ニー……するんだよね…」
 あれ?私、なに言ってるんだろ?
 
「………はあ?」
 彼女が何を言っているのか、すぐには分からなかった。
「やっ…ぱり……興奮………しちゃうものなの?……」
 さあ、果たして友梨は自分がなに言ってるのか分かってるのかね?
 一応、答えておく。
「世間一般の男は、まぁ……そうなんじゃないか?」
「優也……も?」
 なぜ俺?
「ま、一応、俺も男だな」
「じゃあ優くんは……こういうの見て………妄想とか、しちゃう……の?…」
 ホントにこの娘さんはさっきから何を言っちゃってるのかな?
 エロ本は何かのスイッチでしたか?
「まぁ……あなたのご想像にお任せしようと思う」
 とりあえず、当たり障りのなさそうな返答を。
 ……おいおいおいおい………
 友梨の顔が噴火でもするんじゃないかと思うくらい赤くなっていく。
 何を考えてる?なあ、何を考えてるんだ?
「………ぅぷ……」
 奇声。
 鼻を押さえてる様だが………って!?
「は、鼻血!?」
「うー………うん……」
「二十代後半突入してんのに妄想で鼻血!?なにそれ!?」
「う、うるひゃい!へか、女の子のねんへいをでっかいこへて言ふなぁ!」
 半分くらい聞き取れない。鼻つまんでたらそりゃ、そうなるわな。
 いや、まぁ、可愛らしいが。
「ほれ、ティッシュ」
「うぅ………」
 ティッシュを数枚取り、鼻に当てる。さすがに鼻栓するのは恥ずかしいか。
23名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 01:25:09 ID:wi2UaUvX
「ったく………お前はいったい何を考えたんだよ?」
「な……何って………」
 友梨が止まった。
 顔が更に赤くなっていく。
「あぁ、いや、思い出さんで良い」
 鼻血がもっと酷くなったら困るからな。
「てかさ、俺らはなんでいい年してこんな話してるかね?もっと別のことしよう」
「別の、ことって?」
「……ゲームでもしようや」
「………うん」
 一緒に遊ぶのに、ゲームはいい手段だった。性別、体格が違っても、ほとんどフェアに遊べる。
(向き、不向きはあるが、幸い二人とも、向いていた様だ)
 中学あたりから、ゲームを二人ですることが増えてきた。
 たぶん、ゲームがあったから、今でもこうやって、一緒に遊べるんだと思う。
 結局今日は、ゲームでほぼ一日を潰した。
 貴重な休日だが、友梨といれたんだ、良しとしよう。
 
「あ……十時……」
「ん?あぁ、帰るなら送ってくぞ」
 ……どうして君は、泊まってけ。とか気の利いた台詞を言えないのかな?
「……な、なに?その目は?……」
「別に……じゃあ、運転手お願い」
「はいよ。おじさんたち心配させるわけにゃ行かないからな」
 確かに心配はしないけど、その代わりがっかりするんだよ?色々と。
「……あのさ…」
「ん?」
「明日、買い物に……つ、付き合って……くれないかな?…お父さんの誕生日が近いから……プレゼントを…」
 付き合って、のところでちょっとだけ声が裏返ってしまった……感づかれたり……して………
「良いぞ。どうせすることも無いしな」
 ……しないよね……感づいてくれる訳ないよね………だって優也だもん………
 それでも、明日も会えると分かると、嬉しい。
「んじゃ、明日、お前が準備出来たらメールでもくれ。迎えに行くから」
「いや、私がここに来るよ?」
「なにで?おばさんは車の免許持ってないだろ。おじさんには、一応でも秘密にしとけ」
 ……どうしてそんなところには気が回るのに、私の気持ちには気付いてくれないのかな?
「……いや、だから…なに?その目は?……」
「……別に…」
24名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 01:26:15 ID:wi2UaUvX
投下終了です。
25名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 01:28:39 ID:9RhfKfEx
次回にwktk
26名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 01:34:48 ID:SzJDqoYo
じれって〜!!
しかしGJ!!
続きまってます
27名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 01:56:37 ID:8Y2WShjH
初だが書いて良い?
28名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 02:01:28 ID:GMfiW3XP
豚切スマソ
前スレ見た?おいしい梅キテタ━━━( ゚∀゚ )━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(゚  )━(∀゚ )━( ゚∀゚ )━━━!!!!
29名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 15:30:05 ID:YX0xbbcr
,前スレ埋まったな

>>27
お願いします
30名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 05:29:34 ID:qDeBnKqv
>>24名作ktkrGJ!!!

このもどかしさがたまらない!!
31名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 18:12:39 ID:qmH4kfol
前スレ◆NVcIiajIyg氏ナイス埋めネタGJ!
>>24氏GJ!

夏休みが終わってしまうけど、とりあえず投下
32名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 18:13:30 ID:qmH4kfol
そして2日後。おれは都会の喫茶店で付き合ってた彼女と会っていた。
「それで今日おまえと会っている理由は、な」
「………」
「既にメールでも言ったと思うんだが……って聞いてるか?」
「………」
「お、おい」
「……きーてる」
あぁ……先が思いやられる。付き合い始めた頃から現在まで彼女は、ずっとこんな感じだ。
彼女に別れる旨を伝えたが納得できないと、ごねるので今日会うことになった。
というか、こんな態度見せ付けておいて納得できないって何だよ。

「……別れようぜ」
「あたしは納得できないんですけど」
「何がだよ。どう見ても、おれら終わってるだろ」
「なんでオメーは別れようなんて言いだしたんですか」
「もうおまえとはやってられないんだって」
「ホントぉ? そんなのいつものことじゃん。
 それでも付き合ってたのは、あたしのことが好きだからと思ってたんですけど」
頭いてぇ。
「おまえな、おれのこと金づるぐらいにしか思ってないだろ」
「そんなことないよ、愛してる」
「どこがだ」
「ん、まあ言葉では言えないくらい? アンタが浮気しても最後には許しちゃうほど」
ふざけてやがる。そのニヤ笑いはなんだ。

「大体さ。親戚のトコ行ってたんじゃないのかよ」
「直ぐに帰ってきた。だから眠くて」
嘘だ。彼女の親戚の家は、おれの地元よりも遥かに遠い。時間的にムリなのだ。
「よく堂々とウソが言えるな……。
 おまえ親戚に顔出しした、じゃなくて浮気相手に中出しさせた、じゃないのか」
「は? なにそれ全然笑えないんですけど!!」
まあ、この状況で笑えるのは、おれぐらいだろうな。
「浮気したのはオメーでしょ!? なんであたしのせいにするわけ?」
「おれは浮気してないって。おまえより好きな人が出来たってだけでな」
「浮気じゃん! 最低」
「だったら別れようぜ」
「……挙句の果てには、あたしが浮気しているとか疑うし、謝罪もしないし」
浮気って言葉に過剰反応しすぎだ。バレバレなんだよ……。
「おれが何も知らないって決め付けるのはやめようぜ。みんな知ってるんだよ」
「……っ。なんのことよ! 一体誰が言ったのよ!?」
「だからみんなだよ。みんな知っていて、おまえを止めないし、何もしない」
33名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 18:14:27 ID:qmH4kfol
「まあ、そんなことは、どうでもいい。
 一番重要なのはおまえが誰と何しようとも、おれには何の感情も起きないことだ」
「……あたしの性格が悪いから嫌いなんでしょ」
「いきなり話飛んだな。別に、おまえの性格が問題なんじゃない」
「ウソよ。どうせ性格良くて、何でもハイハイ言ってくれる女が良いんでしょ」
「そうじゃない、もっと根本的な問題なんだよ。価値観の違いだ。
 最初の頃は、それでも上手くいくと思ってたけど……」
「…………」
「おまえのことは全く愛していないよ。そして、おれ、好きな人も見つけたよ。
 だから、別れよう。いいな?」
「………………」
おれは席を立った。

「これ、勘定」
しかし彼女は受け取らない。
そんな姿に彼女の誠実さ、みたいなものを感じてしまうおれは甘いのだろう。

「アンタのこと愛しているって言ったのは本当だから……」
「……?」
「でも、どうやって上手くやっていけば良いのかわからなかった」
「そうか」
「それだけは信じてよ」
「……ああ」
もちろん、その気持ちを受け止めることは出来ないが。
おれは喫茶店を出て行った。



今日は……夏にしては涼しいな。確か午後過ぎると暑くなるらしいけど。
……思えば周りの連中が、二人とも陽気で、お似合いだと
冷やかすから付き合ったんだったな。この先どうなるのかも知らずにさ。
そりゃあ世間一般的には、おれもあの女も陽気と分類されるかもしれないけど
そもそもおれはテンションが高いときがあるだけだ。
更に言えば、おれとアイツでは根底にある価値観が違う。
アイツは、いつも無茶苦茶だ。アイツは他人を思いやる心に欠けている。
それが一番の問題で、それは性格という話じゃない。

別に悪いやつだとは思っていなかった。
一般的に悪いとされるようなことさえ時々するようなやつだったけど、
それは周りを楽しませたい一心の行為だと思っていたから。
実際は違ってた。アイツは自分が楽しければ周りも楽しいと思ってしまうヤツだった。
それをいつまでも悪いと非難できなかったおれが愚かだったんだ。
もう決して二人の道は交わることはない。

おれは駅へと急いだ。
34名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 18:15:30 ID:qmH4kfol
そして、あと少しで駅に辿り着くという所で
「健次ちゃん!」
理菜が抱きついてきた。

実は別れ話をしていた時、道路向かいの喫茶店に理菜を座らせていたのだ。
おれが本気で別れることを示すためだ。
そして念のため、駅までのルートを別々にして落ち合う。
もちろん別れる所を見させるなんて外道ではある。
だが、あの女にも随分と酷い目に合わされてきたのだ。最後の仕返しでもある。

「健次ちゃん……っ」
理菜は離れそうもない。
「急ごう理菜」
おれは理菜の肩を抱いたまま、駅へ入る。切符は既に買ってある。
もどかしい改札を抜けて、おれたちは故郷へ帰る電車に乗ったのだった。



理菜は、まだ離れようとしない。
今日は帰省シーズンが終わったからなのか時間帯の問題なのか電車はガラ空きだった。
「ごめんね、健次ちゃん。彼女と別れさせるような事しちゃって……」
「ん?」
「私、健次ちゃんが付き合ってること知ってたのに」
「いいんだ」
「でも………」
やっぱり別れるところを見させたのは間違いだったかもしれない。
理菜は罪悪感が渦巻いているようだった。

「理菜、おまえは何も悪くない」
「……でも私が言わなかったら――」
「強いて言えば都会に行ったとき故郷のこと全てを忘れ、彼女作ったおれが悪いだろ。
 都会で、ずっと暮らすつもりだったとか下らない言い訳はいくらでも出来るけどな。
 理菜。いつごろから、おれが付き合ってるって知ってたんだ」
「ずっと………前から」
「ならばなおさらだ。理菜、おまえはわがままになっていいんだ」
「うっ……ぅぅ………けんじちゃ……ん」

「次は〜毛津駅〜〜毛津駅〜〜、お乗り越しのお客様は〜」
車掌が乗り越し清算している。構うもんか、続けよう。

「けんじちゃん……うれしいよぉ………っ」
「そかそか。理菜に喜んでもらえて嬉しいぜ」
理菜は必死に、おれの胸に頭を擦り付けてくる。
そうやってじゃれつかれると、みょーに嬉しさが、こみ上げてくる。
35名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 18:16:44 ID:qmH4kfol
車内は、お日様が良い感じに差していた。よし、ここは一つ決めちゃえ!
「理菜……」
おれは理菜の頬に手をやる。
「け、健次ちゃん」
おれの意図を察した理菜が赤くなる。
そして覚悟を決めるように、そっと目を閉じた理菜に、おれは口づけをした。
「ん………」

充分した後に、そっと唇を離すと理菜は、ぽーっとした眼でおれを見ていた。
もちろん1回で終わらせるつもりなんてなく、おれはもう一度キスをする。
「ん………っ」
そのままでは前回と同じなので軽い悪戯もしておく。
「…………!」
舌を入れて唾液まで交換してしまう。びくん!と理菜の身体が跳ねた。
もちろん軽い悪戯とは思ってない。
「……はぁ、はぁ………」
口を離すと理菜は荒い息をしながら驚いたような顔でおれを見つめていた。
「ごめん、ちょっと過激だったかな?」

「次は〜打駅〜〜打駅〜〜、お乗り越しのお客様は〜」
さっきの女車掌か。つーか邪魔だなっ。切符は大丈夫だっての。こっち見んな。

「じゃあ今度は普通にな?」
「もう、けんじちゃんったら……」
理菜は甘ったるい声で言う。そして今度は理菜自らが唇を寄せてくれた。
おれの方は今回は理菜の背中に回した手で愛撫する。
撫でられるうちに気分が高まってきたのか理菜も、おれの背中をさする。
殆ど無我夢中と言っていい愛撫をしながら熱烈に口づけをする理菜におれは圧倒されていた。

ながーーいキスが終わり、おれと理菜は互いに身体を寄せ合う。
「健次ちゃん……健次ちゃんとの2度目のキス………」
口に手を当てて微笑む理菜が、おれに更に身体を預け――

「つ、次は〜清駅〜〜清駅〜〜、ハァハァ、お乗り越しの(ry」
ちょっと待て、そんな駅ねーだろ! つーかハァハァ言うなっ。一々来んなっ。

流石に理菜も何かに気付いたらしく、顔を赤くしながら、そっと体を離す。
それでも手は離そうとしなかったけれど。
……車掌が邪魔しなければ誰もいないんだけどな。


そうこうしてると、おれたちの故郷が見えてきた。
ようやくおれたちは馴染んだ土地に帰ってきたのだった。
故郷。
おれは、この地を離れてずっと都会で暮らすつもりだった。
今更になって戻ってきたおれに対しても地元の風は優しく迎えてくれた。
36名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 18:19:57 ID:qmH4kfol
12の続きって言うのわすれてた

投下終了。
37名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 23:07:25 ID:HWh84s3C
お見事! GJです!!

まぁ欲を言えば、この後の初エッチまで書いて欲しいけれどね!
気が向いたらで良いから頑張ってみてくれー!!
38名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 23:40:01 ID:ZwQmpf/I
GJ!ワクワクする・・・と言いたいが、
毛津駅とか清駅とかいうネタ単語を混ぜるのは
正直なところ止めてほしかった。
39名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 23:52:01 ID:UItRS1Pw
>>38
「もうず駅」に「さや駅」でしょ?
40名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 23:54:06 ID:UItRS1Pw
やべ、「ず」じゃなくて「づ」だ、連書きスマソ
41名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 23:59:51 ID:Tlz9MseE
下げませう
42名無しさん@ピンキー:2007/08/20(月) 00:07:34 ID:/uSLdOav
重ねがさね、ごめんなさい。
43名無しさん@ピンキー:2007/08/20(月) 00:47:41 ID:jjwbYfmk
ネタがワカンネ('A`)
44名無しさん@ピンキー:2007/08/20(月) 01:15:16 ID:WMPp+6MU
投下する時はトリップを付けた方がよくない?
このスレはまったりしてるから、今のところは問題無さそうだけど一応ね。
4536:2007/08/20(月) 20:36:48 ID:aekSasDO
どもです。助言に従い次からトリップ付けますけど、投下はいつになるやら……

>>43
女車掌は二人がいちゃついてるのを冷やかしに来てる(ヒマだから)
実在しない駅名を言ってからかっているんだけど見直すと、わかりづらいね

38氏が言うように真面目なシーンに入れるにしては下品だったし、
わかりづらかったとも思うので次から気をつけます。ごめん
46名無しさん@ピンキー:2007/08/20(月) 20:49:16 ID:aekSasDO
連投スマン
>>43
一応正確に言っておくと駅名は全部体液。例)毛津駅→血液
我ながら寒いオヤジギャグだった……凄く反省してる
47名無しさん@ピンキー:2007/08/21(火) 04:30:15 ID:OJqwQCuA
>>46切なくて暖かい。
GJ!
48名無しさん@ピンキー:2007/08/21(火) 08:54:32 ID:nsXWg6uA
こんなことをやってる女車掌は、一日の仕業が終わった時点で
乗務員駐泊所でウテシからお仕置きされるに違いない
49名無しさん@ピンキー:2007/08/21(火) 10:56:53 ID:Q4u4oAbA
 「祥子、オマエ一体どうしたんだよ」
 「……えっと、何の事でしょうか。運転手殿」
 「何の事……じゃなくて、昼間の出鱈目アナウンスの件!」
 「……鉄ちゃ、じゃなくて、ソレは多分、鉄也さんの聞き間違……」
 「俺の耳がおかしいだけなら、お客様からの苦情なんか上がってこないっーの」
 「……」(あんの、若いだけが取り柄のバカップルっ。今度乗車してきたら絶対、コロス!!!)
 「……図星を突かれると、途端に黙り込むあたりは全然成長してないのな。
  とにかく、あんまり度重なるようだと俺の所で食い止めるのも、無理になってくるんだよ。
  オマエだって、あの悪名高き『日勤教育』なんか受けたく無いだろう。
  特に今の担当は、男すら平気で泣かす事で名高い『鬼』の管さんなんだぞ」
 「……」(げーっ、なんでよりによってアレな訳ーっ!!! この前の飲み会からの帰りだって
  鉄ちゃんが気が付いてくれなかったら、危うくホテルに連れ込まれそうに……)
 「おーい、祥子。俺の話ちゃんと聞いてんのか? ……せっかく、子供の頃からあれほど
  希望していた鉄道会社にやっと入れたのに、こんなツマラナイ事で首になんか……」
 「……」(……アンタが鉄道好きだって言うから、アタシも後追っかけただけ……。あ、駄目っ!!!)
 「お、おぃ祥子ぉ……、泣いているのか? ご、ごめん。ちょっと言い過ぎ……」
 「……してょ……」
 「え?」
 「鉄ちゃんと同じ車両に乗っていても、二度とドキドキしないように、ちゃんとお仕置きしてよっ!!!」
 「祥子?」
 「……鉄ちゃんの、莫迦ーっっっ!!!」


 
 えーと、こうでしょうか? よく解りませんっ!!!
50名無しさん@ピンキー:2007/08/21(火) 21:17:53 ID:X3kUd9TG
運転手と車掌も幼なじみなのかw
51名無しさん@ピンキー:2007/08/22(水) 02:43:14 ID:U8oUoxCB
祥子は「さちこ」なのか「しょうこ」なのか
重要なのはそこだ
52名無しさん@ピンキー:2007/08/22(水) 03:47:54 ID:LSLAsdDb
>>51なぜにww
53名無しさん@ピンキー:2007/08/22(水) 04:30:32 ID:U8oUoxCB
>>52
「うえぇっ!?な、なんかわかんないけど、ごめん祥子!」
「ばか…!あやまるだけじゃやだ。行動で示して。」
そう言って泣きじゃくる彼女は時々嗚咽を漏らしながらも口を閉じ、目尻に涙が浮かぶ目で俺の顔を見つめてくる。
保護欲をかき立てる姿。こらえられず、俺は彼女をそっと抱きしめた。
「ごめんな、昔から俺はお前の気持ちをわかってやれないばっかりだ。こんな年になってまで泣かせちゃって、悪かったよ。」
「鉄ちゃん…ううん、いいの。私、いつもわがままで鉄ちゃんを困らせてばっかりだったから…私もごめんね…
でも…ふふっ、鉄ちゃん、あったかい…こうしてると幸せ。」
「さっちゃん……わがままだなんて、そんなことないよ。さっちゃんに付き合うのはいつも楽しかった。
それに今だって……その、すごくかわいいよ。」
気恥ずかしさから小学校高学年ごろから使わなくなった、昔の呼び名が口をついて出てしまう。
やはり気恥ずかしかったが、腕の中の小さな温もりを感じていると、そんなことはどうでもよくなった。
「鉄ちゃん…私、うれしいよ…」




「さちこ」ならこんなことができる
54名無しさん@ピンキー:2007/08/22(水) 04:57:19 ID:LSLAsdDb
>>53致命的打撃を受けました。

いかん・・・死ぬ・・・
55名無しさん@ピンキー:2007/08/22(水) 09:00:29 ID:JBqLV21D
「しょうちゃん」ではダメなのか?
56名無しさん@ピンキー:2007/08/22(水) 11:10:08 ID:4idSWq91
>>55
女の子相手に使うにはちょっと語呂が悪くないか?
57名無しさん@ピンキー:2007/08/22(水) 12:23:02 ID:3Slgiaio
そこで幼少の頃は男の子と思ってて実は女の子でしたパターンが使えるようになるんじゃないか
5849:2007/08/22(水) 12:23:13 ID:FJO7zegP
>>51
 車掌だから「しょうこ」(w
 でも『さっちゃん』ギザモユス

 ちなみに「祥子」とかいて「しょうこ」と読むのは、叔母の本名
 小さい頃は、しょこおば……じゃなくて「しょこ(ねー)さん」と呼んでいた
 
59名無しさん@ピンキー:2007/08/22(水) 13:41:26 ID:jTqBR6oC
>>57

  そ  れ  だ
60名無しさん@ピンキー:2007/08/22(水) 13:54:13 ID:tYWCzlUD
お前らはどうしてこういうとこで才能を浪費するんだw
61名無しさん@ピンキー:2007/08/22(水) 14:59:59 ID:vTs8jwdj
正しい使い道と信じてるからw
6249:2007/08/22(水) 16:11:02 ID:FJO7zegP
 その言葉と共に、俺の腕の中の小さな温もりの
うっすらと赤く染まった目尻に又、新しい煌めきが盛り上がる。
 
「ごめ……、ごめんね、鉄ちゃん。私、嬉しいのに、本当に嬉しいのに
 涙、止まんなくなっちゃった。……変だよね、こん……ひゃっ!!!」

 泣きながら笑う祥子が可愛くていじらしくて、俺は無意識に
彼女の目尻から流れる涙を舌で舐め取っていた。
結構色白なのと、それなりに整っている割には年頃の女に相応しい化粧をほとんど
していない、細かい産毛とそばかすに飾られた白桃のような頬の感触が非常に心地よい。

「……鉄ちゃ……鉄、ん!!!」

 当然、うわ言みたいに俺の名前を繰り返し呟やいていた薄赤い口も、そのまま塞ぐ。
がくがく震えている唇を強引にねじ割って、舌を滑り込ませ心行くまで蹂躙する。
柔らかい唇の裏側や上下の歯茎をねっちりと舐め回し、乱暴なまでに吸いたててから
一旦、唇を離す。
 
「……はぁっ、はぁ……、て」

 にっこり笑いながらも、彼女の口が完全に塞がらない内に、もう一度深い深いキス。
今度は小さな口の中で逃げ回る彼女の舌を絡め取る事に、見事成功した。
じゅるじゅるとイヤラシイ音を立てながら、俺と彼女の間をお互いの唾液が何度も行き来する。
最初はおずおずと、しかしやがてしっかりと俺を抱きしめて来た祥子の腕の力を確認してから
再度ゆっくりと唇を離すと、二人の間に細い銀の橋が架かった。
 
「……鉄ちゃぁん……、わたっ私、本当にオカシ……」

 抑えきれない欲情を湛える目元に辛め取られた俺の全身を、止めようの無い快感が支配する。
我慢しきれずに、太ももをもじもじとこすり合わせてぐったりともたれかかってきた彼女を
横抱きにして、その耳元でそっと囁いた。
 
「本当、可愛いな祥子……。だから、ちゃんとお仕置きして上げるよ」




つー事でっ、後はまかせたっノシ
63名無しさん@ピンキー:2007/08/22(水) 16:46:51 ID:jTqBR6oC
けしからん!もっとやれ!
64名無しさん@ピンキー:2007/08/22(水) 17:29:24 ID:6v1CCvJy
>>62
GJ!
健次理菜カップルといいこの地方は幼馴染カップルの聖地かww


おいおい最近幼馴染スレはじまりすぎだろw
65名無しさん@ピンキー:2007/08/22(水) 20:38:01 ID:Ta2UAA0e
なんか、このスレの皆才能有りすぎだろw
しょうちゃんだと某雀鬼思い出してしまって困る。
66名無しさん@ピンキー:2007/08/22(水) 21:10:15 ID:U8oUoxCB
>>53が俺のエロパロ板初投下であることは俺しか知らない
67名無しさん@ピンキー:2007/08/22(水) 22:36:18 ID:CG4Wch9+
仕事から帰ってきて、朝のカキコがこんな形で大暴走していることに
呆れつつ感心しつつの>>48の俺がいた


特急グリーン車の美人アテンダントもカコイイが
10年ばかり前にローカル線の2両編成で車内を往来していたお下げの車掌娘は思い出深い
68名無しさん@ピンキー:2007/08/23(木) 00:36:33 ID:BYy221mr
>>66
早くSS書き本格デビュー作の執筆作業に戻るんだ
もちろん投下先はここな
6966:2007/08/23(木) 01:03:39 ID:hQsPSkR7
>>68
言われなくてもこのスレ用のSSを鋭意制作中だぜ!
それを処女作にするはずが>>49が可愛かったので思わず
70 ◆prrsJaB8ts :2007/08/23(木) 10:15:12 ID:tvri23pW
生徒会長松宮菜月が初めて学校を休んでから、もう一週間が経とうとしている。

「ああ、平和だ」

昼休みの屋上で、一人具の無いおにぎりを食べる俺こと土谷恵一は、平和を満喫していた。
幼なじみだった松宮にオタクキャラとしていじられ続け、学校全体の笑い者にされた俺だったものの、彼女が学校を休んでからはその嘲笑がピタリと止んだ。

「あいつがいなくなったおかげなのかねぇ」

そうだとしたら、不謹慎だが松宮にはずっと学校に来ないでもらいたい。
俺をイジり始めてからは疎遠になったわけだし、仲直りする気もないし。
そんなことを考えていると、後ろから突然声がした。

「土谷君」

その声だけで、誰なのかが十分理解できる。

「何の用だ?松宮の手先」
「名前で呼んでください」
「はいはい。坂野真琴さん」

長いストレートの黒髪に、ふちの黒い眼鏡を掛けた生徒会副会長、坂野真琴。
生徒会の中では一番おとなしい人だ。
71 ◆prrsJaB8ts :2007/08/23(木) 10:15:52 ID:tvri23pW
「で、何の用?」
「会長のことで、お話があります」
「やだ」

即答。

「あいつの話題を振るな」

彼女に再び背を向けて歩きだそうとした、その時。

「待って!」

後ろから、抱き締められた。

「待って…ください…」

坂野は離れようとしない。
夏服ごしに、背中に小さな胸の感触が伝わるのが分かった。

「離れろ」
「お願いですから…話を…話を聞いてください…」

だんだん、彼女の声が弱々しくなり、涙声に変わっていく。
坂野が泣いているなんて、今まで一度もなかったことだった。

「会長は…菜月は、中央病院に入院しています」
「で?」
「退院の見込みは…ありません…」
「はぁっ!?」

72 ◆prrsJaB8ts :2007/08/23(木) 10:17:00 ID:tvri23pW
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あ、松宮さんの面会ですか?こちらになります」

ナースに案内され、病室に向かう。
正直な話、恐い。
今、俺は平和のなかにいるわけで、わざわざ暗黒時代の原因に会いに行かなければならないというのが恐かった。
坂野が泣きながら頼んだりしなければ、絶対に断っていたぐらいである。

「こちらです」

病室のドア。
恐る恐る、開く。
そして、

「あ……」

驚いた顔をした松宮と、目が合った。

「来て、くれたんだ」

一週間前に見たときと同じ、ショートカットの似合う快活な生徒会長は、病院のベッドの上で、パジャマ姿で笑っていた。

「仕方なくな」

何だろう、少し違和感を感じる。
いじらないから、ではない。少し元気が無さそうだから、でもない。

「坂野が必死に頼むから来た」
「ああ、真琴は精一杯頼むはずだわ」
「で、何だ?」

この部屋に入ってからずっと、笑顔のままの松宮。

「――私ね、来月死ぬんだ」

そんなことも、笑顔のままで言ってのけた。

73 ◆prrsJaB8ts :2007/08/23(木) 10:18:04 ID:tvri23pW
「手遅れなんだって、言われたの。もうだめ」
「お前……」
「きっと、罰が当たったんだよね」

無邪気な笑顔の松宮を見て、ようやく分かった。

「ずっと仲良しだったけーちゃんを、傷つけた罰が、当たったんだよね」

今の彼女には、以前溢れていた、希望が無いのだ。

「ほんとうに、ごめんなさい」

いつのまにか、彼女の頬に光の筋が見えていた。
弱々しく、頭を下げる松宮には、すでに過去の面影などどこにもなかったのだ。

「で、許してくれと?」
「ううん」

突然、彼女が立ち上がると、こっちにゆっくり歩いてくる。

「許しても、許さなくても、いいの」

そして、その腕が俺の背中に回される。

「ただ、私は、けーちゃんに償いがしたい」

とても弱い抱擁。

「けーちゃん……んっ……」

そのまま、彼女は背伸びして唇を重ねた。
74 ◆prrsJaB8ts :2007/08/23(木) 10:19:13 ID:tvri23pW
今回の投下はここまでにします
75名無しさん@ピンキー:2007/08/23(木) 15:42:57 ID:Zgc/YPZq
良くも悪くも調子の良い幼馴染ですね
76名無しさん@ピンキー:2007/08/23(木) 20:30:47 ID:jz4l0ete
ここからどうやって彼女の魅力を表現していくのか気になる
この先に期待
7762の続き? 1/2:2007/08/23(木) 20:59:34 ID:djfka/1n
人間、何が『琴線』に触れるのかその直前まで
まったく解らないものでございます。
で、なにやら又毒電波を受信してしまいました。



「……鉄ちゃぁん……、本当の本当に、私に『お仕置き』してくれるの?」

 この世の醜い理を何も知らぬ無垢な幼女のような、そして同時に、己を強く突き動かす
肉欲以外の何も信じるものが無い天然の淫婦のような妖しく不思議な眼差しが、俺を追い詰める。
心の中で必死に歯を食いしばり、その顔を見ないように見ないようにと最大限努力する俺を
あざ笑うかのように、祥子の視線に、声に、息使いに、身じろぎに、匂いに、それら総てを
ひっくるめた恐らく彼女自身は意識すらしていないのに滲み出す痴態に、何よりも敏感な俺の
下半身が一層硬度と角度を増した。
(……あぁ、クソっ!!! このままじゃ、目的地まで持ちそうにねーよっ!!!)
一瞬、いっそこのまま行きずりの色気違いよろしくホームのベンチの上で……とも考えたが
それでは彼女の望んでいる『お仕置き』にはならない。
しかも、そんな俺の悲鳴じみた叫びを知ってか知らずか、腕の中の小さな温もりはその
細い両腕をゆるゆると伸ばしてきたかと思うと、俺の肩をぎゅっとつかみ、その上体を
ゆっくり起こして、初めて自分の方からうっとりと口付けて来た。

「……ぅん、大丈夫。平気だよ、鉄ちゃぁん。……何をどうされても私は、鉄ちゃんが
  この世で一番だぁい好きな人だから、イケナイ私にちゃんと『お仕置き』して下さぁぃ……」

(あーーーっ、莫迦祥子!!! もう我慢の限界だよっ、畜生!!!)
最初の目的地をあっさり諦めて、目の前の乗務員駐泊所の扉を半分蹴り開けるようにして飛び込み
最大限の性急さと優しさを込めたつもりながら、結局は随分荒々しく簡易寝台の上に、車掌を転がした。
それでも熱に浮かされたように蕩けかかった幸せな顔のままで、ゼンマイが切れかかったカラクリ人形の動きで
のろのろと祥子は、微笑みながら自らの上着のボタンを外し、スカートも脱ぎ捨て、足を開いて、俺を誘う。
それから、目を逸らす事が出来ないまま、それでも俺は最大限の冷静さを装いながら『お仕置き』を開始した。
 
「……本当なら、オマエの恋人の目の前でオマエをめちゃくちゃに犯してやるつもりだったんだけどな」

 ぴたりと祥子の動きが止る。
7862の続き? 2/2:2007/08/23(木) 21:01:51 ID:djfka/1n
「……だけど、イヤラシイ祥子さんは生まれ付いての淫売で、我慢が出来ない体なんだからしょうがない」
「……鉄ちゃん、何を言っているの? ……私、鉄ちゃん以外に好きな人なんかいな……」
「祥子ぉ、本当に俺がなにも知らないとでも思っているのか? …オマエ、結構図太い女だったんだなぁ」
「……て、鉄ちゃん、酷ぃ……。あた、私、今なにか気に触るようなコト言った?」

 熟れ過ぎたトマトみたいに真っ赤だった祥子の顔はいまや、真っ青を通り越して幽霊のように白い。
壊れたスプリンクラーみたいに必死で首を左右に振り、ぼろぼろ涙を溢しながら立ち上がり裸足のままで
ふらふらと夢遊病者の足取りで、俺の足元にへたり込み、そのまますがり付いて来た。
その華奢な肩を態と手荒く小突いて、顎を掴みむりやり顔を上げさせ、思い切り冷たい笑いを浴びせかけ
そして、訳も解らぬまま只しゃくりあげ続ける幼馴染の耳元でそっと囁いた。

「祥子さぁん、君も本っ当ーに強情だね。だけどさぁ、一週間前の今頃、事務室で君が何をしてたのか
  俺、全ー部知ってるんだけど?」

 忙しなく瞬きを繰り返していた祥子の瞳の焦点がやっと目の前の俺に合い、青白い顔にさっと朱が走った。

「やれやれ、やーっと思い出したみたいだね、事務室の机の角っこ相手によがってた、色情狂さん」

 今日と同じく、俺と祥子の組み合わせで、この駅が終点兼終電車までの勤務だったの場合、業務日記を
付けるのは何時も、車掌である祥子の役目だった。
そして、俺が電車内と構内をざっと清掃して電源を落とした後、バイクのにけつで帰るのが何時もの
パターン……だったのだが、たまたま三ヶ月ほど前、構内で蛍光灯が切れてる所を発見して何時もより
幾分早く事務所に行って見たら、祥子は声を漏らさないように自分の指を噛締めながら、お楽しみの最中だった。
最初、祥子の逼迫したくぐもり声を聞いた時は、急に具合でも悪くなったのかと思ってかなり焦ったが
結局、ぶるぶる震えながらも最後はあのすらりとした足をぴぃんと伸ばして、うっすらと上気した顔で
荒い息を吐きながら机の上にぐったりうつ伏せる、祥子の一部始終を息を殺しながらたっぷり視姦した後
大急ぎで運転席に戻り、自分で自分の高ぶりを納める……と言うかなり情無い自分がココにいるというのは
特に祥子だけには、一生知られたくない。
  
 二人のローテーションが偶然一致した深夜のみに許される『ご褒美』が、やがて視姦した直後だけではなく
夢精を伴う淫夢の中にまで現れ、終いに祥子は俺の空想の中では何度も何度も犯される性奴隷と化した。
だけど、本物の祥子は何時も何時も拙い絶頂を迎えるアノ時にも絶対声を漏らさず、俺は見知らぬ相手に
向けて、どす黒い嫉妬心を日に日に募らせていくしかない意気地の無い阿呆のまま、祥子の秘密を一方的に
知り、いざとなったらソレをネタに祥子を意のままに出来るかもしれないなどと莫迦な夢想をしながら
表面的には仲の良い同僚兼幼馴染という、非常に心地よい関係をずるずると続けようとした。
 
 しかし、こんな俺の心の動きを敏感に察したらしい祥子が先に動いて……。
 
  本当に『お仕置き』をされなきゃいけないのは、俺だ。
79三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI :2007/08/24(金) 02:18:40 ID:AbBVSXYt
お久しぶりです。
前スレから引き続き、参上させて頂きました。

『三人』を書かせて頂いている者です。

前スレ
>191-195
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>494-500の続きです。
80三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI :2007/08/24(金) 02:20:19 ID:AbBVSXYt
 そして出会った。


11:What I've Done



 目配せに気付いて、正宗はそっと立ち上がった。何食わぬ顔で部屋から出て、待つこと数分。やはり
しれっとした顔で、美幸が出てくる。ぐっ、と親指を立てる彼女、同じように返す彼。
 こっそりと、ガラス張りの扉の中を覗くと、もはや歌そっちのけで高村と静香は話に夢中になっていた。
 二人とも、正宗と美幸が部屋を出ることに気付いていただろう。それでも止めなかったのは、その意味を
理解していたから。
「あんまり覗くの、良くないよ」
 耳元で小さく囁く少女の言葉に、彼は頷いて離れる。
 最後に正宗が見たのは、部屋の中の二人の視線がしっかりと絡まっているところだった。

「出番、あんまりなかったね」
 苦笑しながらの美幸の言葉に、彼は黙って頷いた。
 すでにカラオケ屋から出て、二人は当てもなく街をブラブラしていた。ゆっくりと歩く彼女に、正宗は
ちゃんと歩調を合わせてくれている。
「もうすっかり、両想いだったよね、二人とも。最初から別行動でも良かったかも」
「そういうわけにもいかないだろう」
 美幸が唇を尖らせて言った言葉に、彼は苦笑を交えて返してくる。勿論、彼女も冗談のつもりだったから、
だよね、と肩をすくめる他になかった。
 ふと見上げる空は、澄んで青い。どこまでも。
 吸い込まれるのは、心。そして想い。
「行きたい所は?」
 正宗の言葉がなければ、そのまま泣いてしまっていたかもしれない。一瞬、目を閉じて小さく息を吐く。
「少し、ブラブラしよ。それから考える」
 それは悲しいこと、辛いことがあった時に言う、美幸のいつものわがまま。買い物をするとか、甘いものを
食べるとか、幸せをたくさん味わいたい。
 もしそこに正宗がいてくれれば、もっと楽しくなる。そして優しい正宗は、何も言わずに付き合ってくれるのだ。


「これなんてどうかな?」
 向日葵の飾りの付いた麦わらの帽子を被って、彼女は笑う。今日の為にと用意した、白のキャミソールに
レース編みのフリルボレロ。七分丈のデニムと相まって、涼しげに夏を楽しむ美幸は、休日で賑わうデパートの
中でも一際、目立つ。
 その隣に立つ正宗は、ぶっきらぼうな表情ながらも優しい目で彼女を見つめる。タンクトップの上に羽織った
薄いブルーのシャツ、その袖からのぞく二の腕は、細いながらも引き締まっていて。
「いいんじゃないか?」
 彼の言葉に、美幸は嬉しそうに笑う。はにかんだ顔のまま、その隣に並んでいた帽子を手に取るが、
「そっちは、あんまり」
「えー。可愛いと思ったのに」
 なかなか正宗の審美眼は厳しい。唇を尖らせて不機嫌を装うが、彼は頑として首を縦には振らない。
美幸は、さして拘る素振りも見せずに元に戻した。それだけ、彼の目を信頼しているということ。
「じゃあ、こっちは?」
「前に着てたシャツにならあうんじゃないか?」
「あー、そうだね。あれに合わせたら可愛いかも」
 わずかな距離だけを置いてかわされる会話は、端から見れば恋人同士のそれにしか見えない。時々、
正宗の冗談に笑いながら、肩や胸を美幸が叩くのなどは、よほど仲睦まじいカップルなのだろうと、
通り過ぎる人々に思わせた。

 それでも聡い人は気付いただろう。
 少女が、彼にわがままを言って甘えながらも、溺れまいとしていることを。
 少年が、彼女を優しく受け止めながらも、強く抱きしめて我が物にしようとはしていないことを。
 つまり。
 二人の距離は、確かに恋人同士かと見間違わんばかりに近いけれど、決してそういった関係ではない
ということに。
 気付いただろう。
81三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI :2007/08/24(金) 02:21:16 ID:AbBVSXYt
 誰がこの夏を一番楽しんでいるかといえば、それは太陽なのだろう。張り切って大地を照らしつけている
様を見れば、誰もが少しうんざりした顔をしながら頷くに違いない。
 正宗と美幸も、その例外ではなかった。
「コルトン、行こうか」
 首筋の汗をぬぐう正宗に、美幸も手で自分をあおぎながらそう声をかける。
 存分にデパートの中を歩き回り、心ゆくまで買い物を済ませた頃には、随分と喉が渇いていた。だが
考えることは皆、同じなのだろう。どこの喫茶店に行っても満席で、席に付くことが出来ない。それは
暑いとわかっていて外に出ても同じことで。
 たまりかねた彼女が提案したのが、普段から通う馴染みの店だった。ここからは少し離れているが、
その分、人通りも少なく、座ることが出来るだろうと思ったのだ。
「ん、そうだな」
 頷きながら、交差点へと向かった彼が、一瞬、立ち止まった。硬直した体、その視線を知らず美幸は追う。

 そこにいたのは、二人だった。
 高村と静香。
 カラオケを終えて、次はどこに行こうとしていたのだろう。互いを見る彼らの目にははにかむような幸せが
浮かんでいて。
 そして彼らの手はしっかと結ばれている。指を絡めて、もう離さないと言わんばかりに。

 あぁ。良かった。うまくいったんだ。
 そう思った、次の瞬間。
 美幸の胸は、締め付けられた。終わりを実感して。

 いつも。いつでも。
 彼女のことを見ていた。だから、気付いた。
 泣き出しそうだと、いうことに。
「美幸」
 彼女の腕を掴んで、正宗は足早に歩き出す。幸い、激しい人波のおかげで彼らは二人の姿を認めて
いないだろう。もしも見つかったら、美幸は涙を我慢する。笑って高村と静香を祝福する。それがわかって
いるから、彼はその場を立ち去った。
 おめでとう、そう言うのは今じゃなくたっていい。美幸が辛い気持ちを抑えてより辛くなるのなら、今でなくても。
 だから正宗は、二人から逃げ出した。美幸もそれに逆らうことはなく、黙って彼に付いて行くのだった。

 彼女は、しかし泣かなかった。
 本当に、本当に泣きそうだったのだけれど。
 ぐっと耐え切ったのだった。
82三人  ◆vq1Y7O/amI :2007/08/24(金) 02:22:04 ID:AbBVSXYt
 噴水の前のベンチに腰を下ろした美幸は、一つ、大きく深呼吸。
 吸って、吐いて。その時に、自分の中の澱みを外に押し出す。
 ダメだなぁ、と彼女は思う。幸せを祈る、なんて啖呵を切ったのに、まだどこか振り切れていなかったから。
「大丈夫だよ」
 それでも。
 美幸はそう言った。目の前に立つ少年に言い聞かせるように。
 これ以上、心配をかけたくはなかった。今日はもう十分、わがままを聞いてもらったから。
 そして実際、彼女は大丈夫だと思っていたのだ。何故なら、彼が……正宗が側にいてくれたから。
「ねぇ、正宗」
 それでもほんの少しだけと、美幸は最後のわがままを言う。いや、言おうとした。
「…………正宗」
 なのに、彼に先を越されてしまって。彼女はくすぐったそうに笑う。

 彼の手は、美幸の頭をそっと撫でてくれていた。

 いつだってそうだった。
 辛い時。悲しい時。側にいてくれたのは、正宗だった。
 何度も何度もしてきた失恋。その度に、落ち込む彼女を励ましてくれたのは彼だった。
 言葉では何も言わない。優しさは態度で示すだけ。それでも十分だった。十分すぎるほどに、十分だった。
 常よりも深く落ち込んだ時には、こうして、頭を撫でてくれる。
 少し照れくさいけれど、彼のぬくもりが直に伝わってきて、暖かな気持ちが生れる。
 我ながら子供っぽい、と美幸は思う。それでも。
 正宗の優しさに、彼女は甘えてしまう。最後には、頼ってしまう。

 幼馴染という、関係に。
83三人  ◆vq1Y7O/amI :2007/08/24(金) 02:22:39 ID:AbBVSXYt
 どれぐらいの間、そうしていただろうか。
「ありがと、正宗」
 立ち上がった彼女の眼差しは、しっかりとしていた。別れを告げたのだろう、自分の想いに。きっぱりと、
はっきりと。
 正宗は、安心したように頷いて、さて、と言った。
「コルトン、行くか」
「そうだね。色々と付き合ってくれたから、今日はおごっちゃうよ」
「随分と気前がいいな。あれだけ買い物したわりには」
 大丈夫、大丈夫。笑いながら、不安になったのだろうか、財布を取り出して中身を見た彼女が、一瞬、
固まる。
「コーヒー一杯、290円でいいさ」
「そうしてくれると助かるかも……つ、次にはね」
 溜息混じりに差し出した言葉に、彼女はあっさりと飛びついてきた。
「さっき、買い物しすぎだ」
「だって、可愛いかったんだもん」
「それはわかるが、計画性を持て、って言ってるんだ」
 他愛もない言い争いをしながら歩く二人、正宗の目はいつだって美幸に優しい。
 だが、時にその目は煙る。二人の間の距離を、掴みかねて。
 美幸に望まれるようにあること。それは彼の願い。だが達観するまでには至っていなくて。
 何も言わずに側にいることも、想いを押し殺して立つことも辛くはなかった。
 辛いのは、知っていること。彼女が彼の全てを知っていると言うように、彼も彼女のことを理解している。
だから、気付いてしまう。
 優しい幼馴染。求められているのがそれだから、正宗はそう振舞う。
 決してその先には進まない。何故なら求められていないから。

 辛いのは、求められるものと、求めているものが違うこと。
 正宗は知っている。
 彼女が彼に求めているのは、幼馴染の自分でしかないことを。

 それでも彼は、他に術を知らなくて。
 幼馴染を続ける。いつ終ると知れなくても。

「正宗? どうかした?」
 覗きこんでくる彼女に、だから彼は言うのだ。
「なんでもないさ」
 と。
84三人  ◆vq1Y7O/amI :2007/08/24(金) 02:23:16 ID:AbBVSXYt
「あれ?」
 コルトンに近付いた時、美幸はふと首を傾げる。裸眼で2.0の彼女は、店内に誰かを見つけたらしい。
「店の中にいるの、忍じゃない?」
「え?」
 言われて、正宗はじっと目を凝らす。
 黒の短い髪。細い頬、スレンダーな首筋。確かに、それは彼の知るもう一人の幼馴染だった。
 だが、その隣には。
「あれって、男の人、だよね?」
 自信なさげに言う美幸に、彼は返事を返せない。テーブルを挟んで向かいあっているのは、確かに
男だった。シャツをラフに着こなし、どこかふてぶてしい。
 そして、何よりも二人が驚いたのは。
「忍、楽しそうだね」
「だな」
 普段は人見知りするのか、あまり表情を面に出さない忍が、今は違っていた。楽しそうに男と話している
彼女の様は、二人にはまるで知らない人間のように思えたほど。
 いつの間にか二人は、こっそりと見つからないように歩いていた。植え込みの影に隠れながら、そっと
窓から中を覗き込む。
 今度は、はっきりとわかった。
 忍の満面の笑みも。彼女の前に座る男の顔も、やはり楽しそうな様子も。

 思い出す。高村が言っていたことを。
『相手は一個上の三年らしいんだけど、なんか笑いながら喋っててさ。俺、塩崎があんな風に笑うとこは
初めて見た気がするな』
 もしかして、あの男が、忍が図書室で会っていたという男なのだろうか。

「忍にも、とうとう彼氏が出来たか〜」
 感慨深そうに言う美幸の声は、嬉しそうで、楽しそうだった。心からの祝福を送る彼女をチラリと横目で
見ながら、何故か。
 何故か正宗は、言いようのない苛立ちを覚えていた。

 後になって彼は気付くことになる。
 それが虫の知らせだったということに。


 ――――そして出会った――――
85三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI :2007/08/24(金) 02:30:06 ID:AbBVSXYt
今回は謎とかはなくて、シンプルなストーリーですー。
忍と亮太から離れて、美幸と正宗の方へ視点を移してみました。

前スレ>502
考えていただけてありがとうございます。コルトンは、やっぱりフェアじゃなかったですね。反省です。

前スレ>503
namelessから「な」と「め」を捻り出すというのも、暗号としてどうかとは思ってはいましたw

前スレ>504
やはりキャラは自分の子供のようなものなので、そう言っていただけると嬉しい限りです。


そんなわけで、新スレとなっても、投下させていただきたく思っております。
お付き合い頂けると幸いです。

ではよろしくお願いいたします。
86名無しさん@ピンキー:2007/08/24(金) 03:50:56 ID:XcBG5m5c
GJ!

今回のラストの意味を素直に受け取るなら、美幸が亮太に惚れるか惚れられるかしそうだな。
もしくは両方か。
87名無しさん@ピンキー:2007/08/24(金) 06:10:27 ID:HotUew72
GJ! しかし、何か正宗が誰とくっつくにしろ、余った方が出そうですねぇ……。

いや、当たり前の話ですが、何か切なく感じてしまいますー。まぁ、そこがまた面白いのですけれど。
88名無しさん@ピンキー:2007/08/24(金) 08:41:16 ID:kYHfZ5Nd
>>78
GJ!

でも早く書ききってくれ。
俺の息子が反抗期なんだ。
89名無しさん@ピンキー:2007/08/24(金) 14:15:32 ID:dKBB0EXl
これはまさかの
正宗→美幸→亮太→忍→正宗

の予感!!
いやー・・・いつ読んでも「三人」は切ないねー
90名無しさん@ピンキー:2007/08/24(金) 23:05:19 ID:pLxjYgfL
俺は忍派だったはず…なのになぜ美幸にこんなに魅力を感じているんだろう!もう両方下さ(ry
ここからどう展開するか楽しみで仕方がない。GJです!
91 ◆QiN.9c1Bvg :2007/08/24(金) 23:44:44 ID:Jy/bcMUJ
久しぶりの投下になります。
前スレ>>461-463及び>>516-523の続きです。

↓以下投下
92防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/08/24(金) 23:47:23 ID:Jy/bcMUJ
第二章「中学生二日目の『出会い』」




「さて、と」
 昨日と同じように起きた後、制服に着替えて、歯磨きして顔を洗って、居間に入ると机の上におにぎりと
書置きを発見した。
「今日も遅くなります、か…」
 キッチンに椅子に座って、おにぎりを食べる。中身はおかか。あたしの好きなやつだ。
 お母さん、最近忙しそうだな。まぁ、それは良いんだけど。リモコンでテレビを点ける。朝のワイドショーの
ニュースキャスターの陽気な声が流れ出してきた。その声がいやに遠くから聞こえてくるように感じた。
 いつも通りの光景。あの時くらいからの。台所を見回す。今日、和美は来ていない。
 ……ちょっと早いけど、もう出ようかな。
 何か耐えられないものを感じたあたしはさっさとおにぎりを片付けて、おにぎりが置かれていた皿を洗って、
戸締りをした。鞄を取ってきて、玄関で靴を履いて、家の中を見る。
「――――」
 いってきます、ってそういえばいつから言ってないかな。
 ふっ、と息を吐いて外に出て、鍵を閉める。すると、後ろで門を開ける音。
93防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/08/24(金) 23:49:37 ID:Jy/bcMUJ
「勇希ちゃん、おはよう」
 和美だった。いつも通り、あたしに屈託のない笑みを見せて――あたしはその笑顔を少し呆然と見詰めてしまった。
「どうかした?」
「え、う、ううん、なんでもないなんでもない。おはよう、和美」
 そのまま二人並んで歩き出す。
「勇希ちゃん、これ試しに作ってみたんだけど」
 和美はそう言って鞄の中から青い包みを取り出した。これは……お弁当?
「自分の分作ったからついでに作ったんだ。良かったら。」
「あ、ありがと」
 あたしは両手でそれを受け取った。結構……いや、凄く嬉しい。
「でも、和美。あんた、あたしがお弁当作ってたり、学食で食べるとか言い出したらこのお弁当どう処分するつもり
だったの?」
 なんだか照れくさくて意地悪を言ってしまう。
「……あー、んー、考えてなかった、かな」
 和美が頬を人差し指で掻きながら答える。
 あたしはその様子を見て、口元を歪めて、目を細めた。
 ――和美らしいな、なんて思ったり。ああもう、なんであたしはこんな和やかな気持ちになっちゃってるのかしら。
94防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/08/24(金) 23:51:56 ID:Jy/bcMUJ
 昨日が入学式。今日が授業の初日と来たら、まだ授業はまともに始まらない。教科ごとに先生の自己紹介
及び、授業内容の解説に半分以上の時間を取られ、あとはちょっとかじるだけ。
 知ってはいたけど、授業ごとに先生が変わるのってかなりおかしく感じる。あと、授業時間も五分だけだけど
長くなってるし。なんか肩が凝る感じ。
「勇希ちゃん、どう? 授業の感じ」
 休み時間に隣の和美が訪ねてきた。あたしは振り向かずに次の時間の教科――英語の教科書を取り出しながら
答えた。
「ちょっと慣れるまで時間かかりそうね。今から成績が心配かも」
「違和感あるよね。ほぼ一ヵ月半ごとにテストがあったりとか」
「そうよね。ところで、和美。あんたこの教科自信ある?」
 あたしは英語の教科書を両手で持って胸元で構えて見せる。
「うーん、どうだろ、やったことないからなぁ」
「あーあ、そうよねー。英語が一番心配。外来語なんて……」
「外来語って……」
 和美が苦笑する。
 だってしょうがないじゃない。苦手なんだから。日本人は日本語さえできれば良いじゃないのよぅ。

 そして、昼休み。あたしは机に突っ伏していた。結局、英語の授業は不安感を煽りに煽る内容だった。
 大丈夫かな、あたし……
95防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/08/24(金) 23:53:59 ID:Jy/bcMUJ
「勇希ちゃん、ご飯食べようよ」
 和美が椅子だけ持ってきて、緑のハンカチで包まれた弁当箱をあたしの机に置いた。はぁ、と溜息を付いて
あたしも朝に貰ったお弁当を取り出した。
「そうね、切り替えないとね…」
 青いハンカチをほどいて、フタを開けると、なかなかの数のおかずが詰め込まれていた。玉子焼き、一口だけの
スパゲティに鳥のから揚げ、あと野菜にプチトマトとレタス、お新香、で白ご飯。
「ちょっと簡単なおかずばっかりで申し訳ないんだけど」と和美。
「そんなことないわよ、色合いも良いし、美味しそうじゃない」
 まずは鳥のから揚げ。あたしは好きな物を最初に食べるタイプだ。軽い塩味と胡椒の風味に生姜の香り。
奥歯で噛むと心地よい歯ごたえが返ってきた。ご飯が進む味だ。間に野菜を食べて、スパゲティ。からめてある
ミートソースはレトルトだけど、それでも美味しい。玉子焼きは砂糖醤油の味付けで葱を混ぜた物。お新香は
和美の家の自家製で、胡瓜と茄子が一切れずつ。噛むたびにキュッキュッと音を立てる。ご飯はお弁当用に
固めに炊いてあった。
「勇希ちゃん、あとこれも」
 同じように箸を進めながら和美が小さな丸いタッパーを出した。中は蜜柑と林檎にヨーグルトをかけた物。
いちいち心遣いが嬉しい。
 全部食べ終わるのに15分もかからなかった。最後に渡されたお茶を一息に飲んで――
「ごちそうさま」
「うん」
 和美が笑顔で頷いて昼食は終了した。和美も同じくらいに食べ終わる。そのままお弁当の品評もかねて雑談
していると、いつの間にか昼休みは終わってしまった。
96防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/08/24(金) 23:56:36 ID:Jy/bcMUJ
 五時限目は…生物ね。それにしても、とあたしは思った。
 お弁当を食べてる時、何か視線を感じたけど一体何だったのかしら。

 そして、放課後は初部活。少しだけ緊張を感じながら武道館へ。道場に入ると、そこは雰囲気が違って感じた。
昔、空手をしていた時にも感じた凛とした空気。棚にズラリと並んだ防具。きらりと蛍光灯の光を反射する板の床。
その全てが特殊な雰囲気を醸し出していた。
 気付くと、周囲にはあたしや和美と同じ、制服に着られているという言葉がぴったりの一年生がいた。とりあえず、
来てみたもののどうすべきか迷っていたその時、奥の扉が無造作に開いたかと思うと、長身の女性が出て来た。
あたしたちを一瞥して女性はぶっきらぼうな口調で言った。
「おい、そこのお前ら、仮入部か見学希望の一年生か?」
 はい、そうです。と誰かが答えた。
「よしよし、良いぞ――私は剣道部顧問の秋水(あきみず)だ。よろしく頼む。見学の者は道場の、あー…」
 今秋水と名乗った先生は道場を見回した後、隅の方の空いてる部分を指差す。
「あの辺に適当に座っててくれ。仮入部の者は体操服を持ってきているだろうから、そこの更衣室で着替えて道場へ
集まってくれ」
 一年が体操服に着替えて、道場で待っていると先輩らしき人達も続々と入ってきた。やがて道場に男女合わせて
二十名以上の剣道部員が揃った。全員、袴は紺色だけど、上の胴着は男子が藍色で女子が白色だった。防具は
棚から下ろされて、床に一列に並べられ、一年生を除く全員が竹刀を持って中央に整列している。
97防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/08/24(金) 23:58:40 ID:Jy/bcMUJ
 道場入り口上部に添えつけられた時計が四時を指し示した時、前に秋水先生が立ち、よく通る声で言った。
「では、準備体操を始める! 仮入部の一年生も見よう見まねで良いから準備体操をするように。別に中央に
並ばなくても、その場で良い。それと、佐藤、準備体操が終わったらいつも通りにこなせ。私は仮入部
を指導する」
 はい、と短く女子の一人が返事をした。
 ちなみに見学をしている一年生が五人。仮入部扱いで体操服を着ているのが私と和美を合わせて三人。見学者は
道場の隅の方に正座で座り、全員が辛そうにしていた。
「まず、基本を教える。剣道の移動の基本となる、すり足だ」
 秋水先生が準備体操が終わったあたし達の前にやってきて動作を示した。
「背筋を伸ばして、少し体重をかけるように右足を前に出せ。左足は爪先を右足の踵から若干ずらして離して、
踵を少し浮かせろ。膝は少し曲げるように。で、前進は右足から動かす。後退は逆に左足からだ」
 一通り見せた後で秋水先生は私達を見た。
「何か質問はあるか?」
「はい」
 和美が手を上げた。
「何だ?」
「僕、マネージャー志望でなんですけど……」
 そういえば、そうだったわね。
「そうか。気にするな」
「……は?」
98防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/08/25(土) 00:00:59 ID:Jy/bcMUJ
「常識で考えろ。剣道の基本もロクに知らないヤツが剣道部のマネージャーなんてやったところでまともに
こなせるはずがない」
「そ、それはそうですけど」
「私はマネージャー志望であろうと、入部希望の者はとりあえず面を被る位までは基本をやってもらうことに
している。ああ、今マネージャーやってるアイツ――二年の小島と言うんだが」
 秋水先生がジャージで動いている女の人を指差した。
「アイツがそうだ。途中まで他の奴らと同じ事をやらせたが、やっぱりマネージャーが良いと言うから、
マネージャーになってもらった」
 また和美に向き直る。
「まぁ、そんなわけだ。とりあえず、基本は覚えろ。覚えてから後でどっちか決めても遅くはない、異議はあるか?」
 反論は無かった。こうして和美は暫定で剣道を本格的にすることとなった。
 和美がやりこめられたところで、ひたすらすり足の練習が始まった。道場の隅の空いてるスペースをひたすら往復。
時折おかしい所を指摘されながらもひたすらすり足。練習が終わったのは六時。ただ歩くだけ、と思っていたけど
終わってみれば足が結構疲れてる。
 一方、和美は腰を落としてへたり込んでいた。
「今更だけど、本当に体力ないわよねぇ……」
 あたしはその光景を回想しながら和美を武道館の前で待った。和美はまだ来ていない。疲れてるから時間が
かかってるのかしら。
99防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/08/25(土) 00:03:42 ID:Jy/bcMUJ
 その時、肩を叩かれた。後ろを振り向くと、何かがぐにっと頬に突き刺さった。目線を頬に。……人差し指? 
そのままその人差し指の持ち主に目を向ける。
「宮間さん、やっけ? 引っ掛かかった〜」
 いたずらが成功したことで嬉しそうにはしゃぐ女の子がいた。それは今日、あたしと和美と一緒に仮入部を
体験した女の子で……そうだ、思い出した。昨日、クラスの自己紹介で、かなり特徴的な喋り方をしてた――
「下園、さん?」
「お、覚えててくれたんか、嬉しいな〜」
 明らかにあたしとはニュアンスというか、イントネーションの違う口調で下園さんが答えた。
「一緒のクラスの人を一緒の部活で発見したもんやからちょっとお近づきになっとこうと思ってな。
……ひょっとして怒っとる?」
「あ、いや、ううん。ちょっと突然だったからびっくりしただけで、別に」
「勇希ちゃん、お待たせ……あれ? どなた?」
 三人とも顔を見合わせる。これが、後にあたしや和美と大親友になる下園静との出会いだった。
100 ◆QiN.9c1Bvg :2007/08/25(土) 00:07:14 ID:pl/e2VgM
以上、投下終了です。

書いてからいつも思うんですが、文を書くって難しい……
終わってみれば序盤とはいえ、今回もヤマが無い始末。
次回からは時計の針を早くまわして行きたいと思いますので、よろしくお願いします。

あと、前スレで指摘がありました、和美の長髪の件ですが、
その、書くのも下らない伏線になっております。ご指摘の分も含めまして見て頂けると幸いです。

次回もよろしくお願いします。では。
101名無しさん@ピンキー:2007/08/25(土) 00:13:54 ID:gjLxUkzY
早速GJ! シロクロにしろ絆と想いにしろ三人にしろ高校の話だから、初々しい感じの中学生、しかも一年生というのはいいね!

二人で仲良く弁当食っといてそれが何を意味するか分からないなんて……。

フフフ……そんな初心な勇希に萌え萌えだぜ!!
102名無しさん@ピンキー:2007/08/26(日) 06:42:04 ID:j32x08rA
これは百合wwwww

いやなんでもありませんwwサーセンwww

GJ!!楽しそうな学園生活だな
10349 の前日談 1/2:2007/08/28(火) 19:08:27 ID:mhKwCwUI

「……祥子ぉ、アンタいいかげん、その腐れ処〇膜、特別急行にでも破いてもらったらぁ〜?
あ〜、なんだったら、アタシの彼氏、貸すよぉ? 超鈍行だけど編成数多めで、結構デカイからぁ
アンタとぉ〜、アタシとぉ〜、アンタの想い人ぐらい、縦に重ねても、余裕で串刺しぃ……」

 この前の飲み会の時、隅っこで超薄っすいチューハイをちびちび舐めてた私の耳元に
酒臭い息を吹きかけながら、ちーちゃんはこっそりそう囁いてくれた。
そしていきなり咳き込んだ私を、その凶暴までに大きな胸へぎゅーーーーっと押し込めつつ
イイコイイコしてから、『んじゃ、私にもご褒美ぃ〜』とか言って、私の太ももにぽすんと
顔を伏せ、そのままぐりぐりめり込ませてくる。

「ちっ、智津子ちゃん、ちょっと飲み過ぎ……。気分悪くなってない? 別室で、ちょっと休む?
 それとも、酔い覚ましのお薬買って……」
「そっかそか、祥子はそんなに『御休み所』に逝きたいのかぁ〜。良ぉし良し、愛い奴じゃぁ〜」

 親友がそんな事を大声で喚いても、殆どの同僚がそれ以上の乱痴気騒ぎを繰り広げていたので
幸い誰にも聞きとがめられなかったと思い込み、その時は迂闊にもホッとしてた。
しかも、ちーちゃんは『う〜ん、遥か昔の懐かしき、処女の匂い〜』とか言いながら、絶えず
変な刺激を与えてこようとするので、本当に始末が悪い。

 ほとんど泣きそうになりながら思わず、鉄ちゃんの姿を探すと、運良くちーちゃんの恋人の
若狭君の近くでウーロン茶を啜っていたので『お願い、こっちに気が付いて下さい』視線を
投げようとした途端、鉄ちゃんが顔を上げて、真正面から私を見た。
  
 それだけで、心臓が跳ね上がり、お腹の一番奥深い所から、熱い何かがじわっと流れ出る。
だから一瞬、鉄ちゃんの顔が、微妙に歪んだのは、自分の目の錯覚だと思った。


 べろんべろんに酔っ払っちゃったちーちゃんを、若狭君ごとタクシーに無理矢理押し込む直前
親友が私の耳元でもう一度、はっきり囁いてくれた。

「祥子〜ぉ、アタシが貸してあげた『資料』で、毎日ちゃんとお勉強してま〜すか〜ぁ?」
「……ぅん……」
「勉強熱心で、本当にアンタは良い子だ〜ぁね〜」

 タクシーが街頭から少し離れた所に止っていたのが幸いして、私の顔がその瞬間、火を噴いたのは
多分ちーちゃんにしか解らなかっただろうが、声が少し震えたのは若狭君にもばれたかもしれない。
ちなみに、ちーちゃんの彼氏の若狭君は『お口とオッパイでの御奉仕』が大好きな人だそうで……。
しかも、ちーちゃんが一週間ごとに私に押し付けてくる『資料』とは、二人の隠し撮り無修正××テープ。
更に、400字詰め原稿用紙一枚以上の感想文提出まで、平気で要求してくる始末。
コレは、若狭君は絶対知らないちーちゃん個人の秘密な趣味だから、私は永遠に孤立無援だ。
10449 の前日談 2/2:2007/08/28(火) 19:10:52 ID:mhKwCwUI
 
 タクシーのテールランプが完全に見えなくなるまで、私はそこでしばらく深呼吸を繰り返していたら
誰かから、いきなり肩を叩かれて、本当に腰が抜けるかと思うぐらい驚いた。

「ひぃやぁぁぁ……、もがっ」
……人聞きの悪い反応はやめて貰えないかね、祥子君」

 薄い眼鏡の奥から、爬虫類みたいに何処を見ているのかよく解らない視線を光らせて『清竜鉄道一の
教育者』を自称する、菅さんが私の背後にこっそり忍び寄って来てた。

(うわ、私、この人、凄く苦手……)

 でも、鉄道会社はサービス業。
どんなに、見た目や第一印象が嫌いなタイプでも、まずはにっこり笑って、愛想良く応対しなきゃ
いけない基本精神だけは、しっかり叩き込まれてる。
特に私みたいな、ちんちくりんが持つ事の出来た武器は、満面の笑顔しかありませんでしたから。

「……えっと、何か御用でしょうか?」

 (何でこの人、私を名前で呼んだだけじゃなく、にたにた笑いながら、私の手を撫で回しているのかなぁ?)
なんて、ぼんやり思ってるあたりで、自分もかなり酔っている事に気が付かなきゃいけなかったみたいで
次の瞬間、菅さんが、私の手を強引に握り締めて、一直線に向かう先はピンク色のネオンがかなり安っぽい
ブティックホテル。

「……え? え? え?」
 
 強引に振り払おうにも、完全に力負けしてる。
しかも、菅さんは卑怯にも『鉄也くんがアソコの前で待ってるって言ってたよ』なんて口走ったので
一瞬、抵抗する力が抜けて……。
 
『げずっ!!!』

 とか、かなり痛そうな音がして、菅さんの体がぐらりと傾いた。
そのまま、誰かが自分の体を、小荷物みたいに脇に抱えて、より暗い方に即効で運搬される。
後ろで、なにか獣が大声で喚いていたけれど、目の前がぐるんぐるんして……。


  次に気が付いた時、私は鉄ちゃんの大きな背中に、ぐったりおぶさっていた。


 当然、翌日全然二日酔いなんかしてない超爽やか顔のちーちゃんが、やっと勤務が終わって
瀕死状態の私に新しいテープを押し付けるのと同時に『鉄也さんから、頼まれたんだけど〜』
とか言いながら、二日酔いに苦しむ私の耳元で、延々3時間以上にわたって、惚気とお説教を
シームレスで呟き続けると言う、言葉攻めをしてくれた。
105名無しさん@ピンキー:2007/08/28(火) 19:12:12 ID:mhKwCwUI
>>88
 では >>78 の続き電波を受信する作業に戻ります 
 サーセンwww
106名無しさん@ピンキー:2007/08/28(火) 22:14:53 ID:MKiFQIh5
ぬはwwwwGJwwwww!!

祥子さんモテモテだな! 鉄ちゃん早くお仕置きしてあげないとやばいぞ!
107名無しさん@ピンキー:2007/08/29(水) 04:11:31 ID:Lm7s0tKI
管キメエwwwwwwwwwwwwww

こいつを拷問するSSキボンwwwwギャグ風味でもいいからさwww

>>105GJ!!
108名無しさん@ピンキー:2007/08/29(水) 08:25:08 ID:AVC26q/Y
>>105
アンカーのったら自分のレス表示されて吹いたwwww
俺キメエwww恥ずかしいww

わっふるわっふる
109名無しさん@ピンキー:2007/09/01(土) 05:19:53 ID:xGctEgS9
110105:2007/09/01(土) 13:03:17 ID:9t8FUvOv
10レスほどお借りします
111祥子と鉄也 1/10:2007/09/01(土) 13:04:59 ID:9t8FUvOv

私より2つ年上の、とても気の良い、鉄道が大好きな幼馴染は、ずっと『私のヒーロー』だった。

   田植え前、きれいに代かきされた田んぼの深い泥に足を取られて、全然動けなくなった時も
   七夕お泊り会の深夜、怖い話を聞きすぎて、一人で真っ暗なおトイレにいけなくなった時も
   ドングリ拾いの帰り道、崖の高い所に咲いている竜胆の花が、どうしても欲しくなった時も
   大雪の翌朝、融雪路の雪捨て場にうず高く積もった雪を踏み抜いて、危うく流されかけた時も

 何時でも鉄ちゃんは、莫迦な私をちゃんと助けてくれて、拙い言葉で背一杯感謝の気持ちを伝えると
『さっちゃんは、面白いからほっとけない』とか言って、私のお下げを2、3度引っ張るのが癖だった。

 本当の事を言うと、幼かった時の私にはイマイチ良く解らなかった旧国鉄車両の微妙な差異をいかにも
楽しそうに滔々と熱く語るその内容よりも、きらきらと目を光らせてる真剣な顔にずっと見とれていた。

 だけど、小学校高学年頃から、何故か前みたいに気安く『さっちゃん』ではなく、他人行儀な『祥子さん』
なんて呼ばれ始めてしまった事に少し寂しさも感じたが、鉄ちゃんは中学校で剣道部に入ったあたりから
初夏のイタドリみたいにぐんぐん背が伸びて、声が低くなり、体つきもすごくがっしりして、あっという間に
男の子から男の人になっていったので、それも仕方が無い事なのかなぁ……と思って我慢した。

 一方の私は、鉄ちゃんのお家にも『お赤飯のおすそ分け』をした頃から、背が全然伸びなくなって
胸に付いた以上に腰や太ももに重たく余計な肉がどんどん集まって、ひどくみっともない体になっていた。

 それでも、『清竜鉄道同好会』は、ずーっと鉄ちゃんと私と結局本当にいたのか最後まで良く解らない
何名かの幽霊部員とで、二人がご近所さんだった小・中・高校の12年間は、なんとか細々続けてこられて。

  だから、私が、鉄ちゃんの隣に永遠に居ても良いんだと、一人で勝手に思い込んでしまった。

 勘違いにやっと気が付いたのは、鉄ちゃんが遠くの大学から始めて帰省してきた高二の夏の暑い日。
鉄ちゃんの隣の洒落た日傘の影では、背がすらっと高くて、胸が大きくて、とても垢抜けた、綺麗な都会の
女の人が凄く楽しそうによく通る高い声で、絶えず笑ってた。
112祥子と鉄也 2/10:2007/09/01(土) 13:06:16 ID:9t8FUvOv

井戸でよく冷やした西瓜に麦わら帽子を被せ、鉄ちゃん家の軒先に黙って置き去りにして、一人でまとめた
『清竜鉄道同好会』のレポート抱えて西日に照らされながら、とぼとぼ自分の家へ逃げ帰り、深夜お風呂の中で
12年間以上何にも言わなかった自分の大莫迦さ加減を噛締めながら、生まれて始めて本気で泣いた。

 一年目と二年目は同じ人で、三年目と四年目はそれぞれ違う人。
夏になる度に、背が高くて、胸が大きくて、赤いバラみたいな雰囲気が共通している女の人を連れて
帰ってくる鉄ちゃんと、絶対鉢合わせしたくない一心で、私は毎年一週間決まって酷い夏風邪を患う。

 そして、枕元には毎年律儀に、都会の鉄道会社の期間限定グッズ(主に食べ物)が、届けられた。
玄関先で、お母さんが鉄ちゃんに色々と上手く謝ってくれてる声を布団の中で必死に耳をそばだてて聞き
その後必ずタヌキ寝入りをして、最後にはお母さんからも酷く怒られてしまったけれど……。

 地元の短大を卒業後、保母さんになるつもりだったのに、鉄ちゃんが『清竜鉄道』に入社するらしいと
聞いて、駄目元で試験を受けたら『清竜鉄道同好会』のレポートが功を奏したのか見事、補欠合格。
総合職として採用予定だった大学卒の女の人が、入社直前に寿辞職して、本当に同僚になってしまった。

  鉄ちゃんの邪魔にならない程度の距離から、こっそり見ているだけで、十分だったハズなのに。

 学習能力の無い莫迦な私は、又同じ過ちを犯してしまった。
113祥子と鉄也 3/10:2007/09/01(土) 13:08:01 ID:9t8FUvOv

「おい、祥子」

 ともすれば、後悔やら罪悪感やらで見っともなく震え出してしまう声を、極めて短い語彙の
命令口調でなんとか取り繕ろう事にして、俺は意地の悪いニヤニヤ笑いを貼り付けた顔のまま
俺の戒めから必死で逃げ出そうと無駄な努力を続けている、哀れで愛しい幼馴染を見下ろした。

「聞いてんのか、痴女」
 
 ぎゅっと固く閉じられた瞼からはとめどない煌めきが流れ落ち、泣き声を漏らぬように
強く引き結ばれた薄赤い口元は、俺からの許しの接吻を乞うかのように、わなないている。
力の入らない両手で、弱々しく俺を押し退けようとしているが、どうやら腰が抜けたようで
女の子座りの格好で力無く投げ出されている両足は、青い血管が浮き出して見えるほど白く
むっちりとした太ももが時折ひくひく痙攣するだけで、少しも動かせていない。

「……いっ……ゃ……ぁぁぁ」
「い・や?」

 ぐらぐらと頼りなく、それでもなお小刻みにいやいやと振られ続ける細い顎を掴んだままの手に
ゆっくりと力を込め、吊り下げるようにして無理矢理立たせると、彼女は小さな悲鳴を上げた。
それを態々、猫なで声で繰り返してから、そのまま小さな桜色の耳たぶを咥えて舐めしゃぶり
一気に耳の穴へ舌を突っ込んで掻き回してやると、面白いぐらいに体が跳ねて、又くたりと崩れた。

「ははっ、祥子ぉ。……イッた?」 
「……あ、あっ……、いやぁっっっ、ごめんなさい、ごめんなさい、鉄也さんっ
見ないで、私を、もう、見ないで……ぇ、下さぁぃ、おっ……、お願いーっ!!!」
114祥子と鉄也 4/10:2007/09/01(土) 13:09:03 ID:9t8FUvOv

一度苦しげにひゅぅっと息を呑んだ後、祥子は唯一自由になる両手で己の耳を塞ぎながら、そう喚く。

(本当ならそれは、こっちの台詞なんだけどな、祥子。
 ……あぁ、でも、今ココで辞めてしまったら『お仕置き』にはならねーんだよ)

 心を鬼にして、二人を隔てているその華奢な手を、指が砕けんばかりの勢いで握り締めて
引き剥がし、頭を垂れ身も世もなく泣き続ける彼女に向けて厳かに、魔法の言葉を告げてやる。

……コレは『お仕置き』だよ、祥子。イケナイ体と心に対する、正当な『お・仕・置・き』」
 
 ほどなくすすり泣きが止み、わずかな沈黙の後、ゆっくりと俺を見上げて来た幼馴染の顔には
最早、ある一線を踏み越えてしまい、ほとんどの意識を放棄した、白痴の笑みしか浮かんでいない。
……もっともそれを見た瞬間から、俺の根性無しな下半身様は持ち主の自制心を完全に殴り倒し
一刻も早くこの窮屈な場所から開放しろと、暴力的なまでの快感で全身を乗っ取りに来やがったが。

 出来る事ならもう少し、祥子と遊んでいたかったけど、意志薄弱なこの身では、もう無理だ。
愉悦にのみ支配され、頭のネジを完全にすっ飛ばしたまま『お仕置き』と言う言葉を何度も
嬉しそうにぶつぶつ繰り返す幼馴染の心を取り戻し、二度と俺なんかには届かない遥かに遠く
安全な所に、しっかりと据えてやらなきゃいけない。

 これで『お終い』にするための覚悟を固め、祥子をそっと抱き寄せると、彼女はこれから
自分がどんな目に合わされるのかまったく解らぬがゆえの無邪気さで、俺に擦り寄ってきた。


……俺からの最後の口付けは、わざと小鳥がついばむ様な軽いものにした……。
115祥子と鉄也 5/10:2007/09/01(土) 13:10:09 ID:9t8FUvOv

今時の幼稚園児でも、もうちょっとマシな技を持ってるぞ? とか、突っ込まれそうなほど
無愛想なキスを一度だけ、幼馴染と交わす。
今や、その程度の刺激では物足りなくなってた祥子は一瞬、不思議そうな表情で俺の顔を
覗き込んでくるが、あえてソレに気が付かない振りをして。
 だが、それにめげる事無い彼女は、俺を簡易寝台の上に押し倒し、自分から積極的に舌を
使って、少し前にうっかり教え込んでしまった以上の技で、俺の口内を遠慮会釈無しに犯してくる。
 しかも、今回は俺の胸にわざとらしく、下着越しでも十分柔らかい胸を、絶えず押し付ける
という、とんでもない特典付きでだ。
 
(本当、コイツって、昔っから無駄な所で、器用なんだよなぁ……)

 体中が感じている感覚とは全然関係無い事を必死で考えていないと、あっと言う間に総てを
持って行かれそうな快感を、握り締めた拳の内側に爪を立てると言う恐ろしくしょぼい方法で
なんとか押さえ込む。
……案の定、大莫迦野郎な俺の下半身様には、なんの効果が無かったが。
 まぁそれも、東海道本線の駅名をオサコヘから逆に、何回か行きつ戻りつしながらもシツヘンあたり
まで唱えた辺りで、いきなり口の中に広がった塩辛い錆味のおかげで、あっさり中断させられる。
 
「……なんで、なんにもしてくれないの、鉄ちゃん!!!」

 形良い薄赤の口元から、それ以上に赤い血をつぅっと一筋垂らしながら、祥子が叫ぶ。
この器用だか不器用だか良く判らない幼馴染が、俺の気を引くために、俺のではなく
自分の唇を態と噛み切りやがった事に、やっと気が付いたが、ぐっと我慢して無表情で言い返す。

「『机』は一々、反応しない」

 ざざぁっという派手な音が聞こえそうな勢いで、又、真っ赤な顔が一瞬で真っ青になった。

「『机』は一切、喋らない」

 つい先ほど踏み越えた一線の向こう側から、リニア並の速度で引っ返してきたようで
泣き出すよりも前にこわばった表情が、どんどん険しくなっていく。

「『机』相手に欲情なんかするな、変態」
116祥子と鉄也 6/10:2007/09/01(土) 13:11:22 ID:9t8FUvOv

祥子の体を押し退けながら心底嫌そうに吐き捨てて、簡易寝台と俺の体の間で皺だらけになった
彼女の制服を次々引っ張り出し、手荒く投げつける。
 
「……さっさと、着ろ。歩いて帰るつもりか?」

 絶対、祥子の方を見ないように(帰ったら、まず『配置転換願』か『退職届』だよなぁ……)
なんて事を、天井あたりを半眼で見上げながら、ぼんやり考えていたために一瞬、反応が遅れた。
 腰の辺りでカチャカチャという音がして、いきなりズボンを下ろされる。

「……ソコデ、ナニヲ、シテイラッシャルノディスカ、祥子サン?」
「『机』は喋らないっ!!!」

 どこかで見た覚えの有る表情の幼馴染が、上目使いで睨みつけながら、俺の下着に手をかけてきた。
ソレは間違いなく『スイッチ』が入ってしまった時の顔で、俺がこれまでそれに勝てた事は一度も無い。

「ちょっと待て、祥子!!!」
「私専用の、大切な『机』に、変な釘が、出っぱってるので、これから、修理、しますっ!!!」
「……なんだ、それはーっ!!!」
「『机』は一々、反応しないっ!!!」

 抵抗虚しく、一気に全部降ろされたのとほぼ同時に後退る俺の足がもつれて、二人とも床に尻餅をつく。
結果、男のO字開脚の真ん中で屹立している俺の下半身様の超至近距離で、祥子が固まってしまった。
その顔は、みるみるうちに真っ赤っ赤になって……。

「……う、動くなよ、祥子、絶っっ対動くな……、っ!!!」

 かつて『スイッチ』が入っちゃってる状態の祥子に、俺が何か提案をして、それをそのまま
すんなり聞き入れて貰った事も、決して無かったのを完全に忘れてる辺りがもぅ、てんぱり過ぎ。
そんな追い詰められた状態でも、彼女の荒く熱い吐息を感じ、おずおずと伸びてきた細い指がそっと
やさしく添えられる……、只それだけで、俺の根性無しな下半身様はよりいっそう大きく反り返った。

「……すごい……、熱くて……どきどきしてる……」

 膝を大きく開いた女の子座りのまま、にじり寄ってきた祥子は、とろんとした瞳でうっとりと
呟きながら、凶暴さを増していく俺の下半身様に、冷たくなめらかな指先で絶えず刺激を与えてくる。
 一方の俺はと言うと、そんな祥子の両膝の間のショーツのクロッチ部分が、いまやなんの役にも
立たないくらいぐちゃぐちゃに濡れて喰いこみ、布越しに透けて見える茂みの奥に有るモノの形すら
はっきり判ってしまう光景から完全に目が離せなくなった自分の浅ましさに、一層追い詰められていた。
117祥子と鉄也 7/10:2007/09/01(土) 13:12:35 ID:9t8FUvOv

……あれは、俺が一方的に気恥ずかしさなんて小賢しいものを覚えて、気軽に『さっちゃん』と
呼べなくなり、なんとなく祥子との間に距離を置き始めた時より、ほんの少し前。
 最後に二人っきりで、俺の家のお風呂に入った時にも何故か『スイッチ』が入ってしまった祥子は
恐ろしいまでの天真爛漫さを炸裂させて、俺の股間にあるコレを『私に無いのは、不公平!!!』とか
訳解らん屁理屈こねて散々いじくりまわし、結局コレは取り外しや付け替えが出来ないモノなのだと
十分納得してからやっと開放してくれたという微笑ましい思ひ出も……。

(……あれ? なんかその時、とんでもない『約束』を、させられたような覚えが……)

 目の前の現実から一瞬でも逃避したい俺の甘酸っぱい昔話……なんぞ全然お構いなしに、生身の祥子の
拙い指使いは、自分が空想の中で御奉仕させていた性奴隷の時とは全然違って、素人丸出しな所作のため
早く往かせるためのテクニックとか男を喜ばせるツボもへったくれもない、ぎこちなさ満開なのだが……。
 
「……あ、なにか……出てきた……」

 自分の指先を濡らす、俺の先走り汁の感触をしばらく面白そうに確かめていた祥子は、その
にちゃにちゃで汚された指を一瞬もためらう事無く、自分の口の中に突っ込んだ。

「……ん、ちょっと苦……しょっぱい?」
 
 ぺちゃぺちゃと言うイヤラシイ音を立てながら、細く白いその指をゆっくりなめまわすという
痴態を丁寧に見せ付けた後、俺の下半身に再び覆いかぶさる直前に、記憶力も良い俺の幼馴染は
にっこり笑いながら、言う。

「コレ、私が好きな時に好きなようにして良いって『約束』だったよね、鉄ちゃん!!!」

(やっぱり、覚えていやがったーっ!!!)

 薄赤い口元は、ピンク色の小さな舌をちろりと覗かせて、俺の頂上にゆっくりとキスをした。
118祥子と鉄也 8/10:2007/09/01(土) 13:14:01 ID:9t8FUvOv

ずいぶん小さい頃に、さんざん見せっこや触りあいした時と比べて、随分グロ……じゃなくて
凄く逞しくなってた鉄ちゃんのアレには正直、一瞬驚いた。
 だけど、ちーちゃんの『資料』のお陰でその後の私は、初めてにしては、割と上手く行動出来たと思う。
  
 しかも、ちーちゃんは『良いかぁ〜、祥子〜ぉ。まず、最初が肝心だぁ〜。 相手の反応を確認後
速やかに、対処〜っ!』とか言いつつ、自慢の『資料』をがんがん見せ付けながら、必ず最後には
涙目になってる私の口内に、ミルクアイスバーやソフトクリームを遠慮会釈無しにねじ込むという
『特訓』を何度も何度も施してくれた。
 その、美味しいんだけど結構辛かった練習を無駄にしない為にも私は、鉄ちゃんの顔をちらちら
盗み見ながら、どこをどうすれば一番気持ち良くなってくれるのか、体当たりで調べ始めた。

 溜めた唾を少しずつ少しずつ舌をつたわせて、熱い塊に注いでから、優しく丁寧に舐め上げる。
亀頭から雁首には細かく舌を這わせて、裏筋あたりはゆるゆる舐め上げ、根元の方はくすぐる様に。
時々、鈴口をちょんちょんと舌の先でつっつく事も、勿論忘れてない。
暑い日の犬みたいにハァハァ息を弾ませて、私の唾液と鉄ちゃんのお汁でどろどろになっても
熱さを失わず、そそり立つモノに頬をすりつけると、それだけで頭の中がビリビリ痺れた。
 
 ……なんだか、この辺りから無意識に、鉄ちゃんを気持ち良くさせる方法より、自分の方が
気持ち良くなれる事を、どんどん追求し始めてたような気がするけれど。
それ以上に、鉄ちゃんの切なそうにしかめられる顔や短く息を呑む声が、私を深く酔わせていった。
だから、『じゅぶじゅぼ』と、はしたなく響く水音も、『ふぁぁん、ふぅ、んふ』と鼻に抜ける嬌声も
どこか遠くの方から聞こえてきた『祥子、咥えてくれ』というお願いも、全部私の心が発したモノ。

 出来るだけ大きく口を開けゆっくりと、頂上から麓へと何処まで行けるのか、慎重に飲み込んでみる。
絶対、歯を当てないように、そして舌を全体的に絡め這わせながら、喉の一番深い底まで、誘い込む。
亀頭がこつっと当たった時、思わず咳き込みそうになったけど我慢して、今度は逆の方向へと唾液を
まぶしながらゆるゆると送り出して一転、リズム良く強めに唇でしごく。
119祥子と鉄也 9/10:2007/09/01(土) 13:15:19 ID:9t8FUvOv

急にブラが乱暴に引っ張り上げられ、私のあんまり大きくないオッパイが、ふるんと飛び出した。
 なんだか、少し怒ってるような顔の鉄ちゃんがつっと手を伸ばして来て、太く長い指で背一杯優しく
強く、私のはしたないくらい固く立ち上がっていた乳首を、つまんで捻り上げ、弾きながら転がす。
 すると、そこからきゅんきゅん甘い痺れが立ち起こって、お腹の一番奥深い所に絶え間なく流れ込み
私の中から、どんどんイヤラシイ滴りがあふれ出て、床にオモラシしたような水溜りを作っていく。
   
   
  鉄ちゃん、コレ、私の、モノ、だよね? 
  私、だけの、モノ、だよね?
  もうすぐ、身も、心も、蕩け堕ちる。
  だから、私を、繋ぎ留めて。
  世界中の、誰よりも、大好きな、鉄ちゃん。
  一刻も、早く、私で、気持ち、良く、なって、下さい。
  私の、魂に、鉄ちゃんを、しっかり、刻み込んで、下さい。
  どうぞ、莫迦な、私に、お仕置きを……。
   
  
 口内に収まりきらない熱い塊から直に流れ出る、総てを焼き尽くす媚薬を一滴も漏らさぬよう
私は、小さな子供みたいに良く回らない舌で、ちゅばちゅぶと一層強く吸いたてた。

 瞬間、訳の解らぬ咆哮が、私の名前を繰り返し、がっしりとごつい大きな手が、私の頭をわしづかみ
ながら引き上げて、欲望をその爆発へ向けて滅多矢鱈に突き入れてきた。
思わず、悲鳴を上げて激しく身悶えしたけれど、本当は嬉しくて堪らずに、体が勝手に動いただけ。
何度も何度も、重く粘つくご褒美を流し込まれ、全部飲んでしまいたかったのに、量が多くて間に合わない。
  
 やがて、私の喉の奥底からずるりと、白い粘液が絡みついたままの熱い塊が引きずり出されて……。

(……私の、机……、ちゃんと、綺麗に……)
 
 舌で舐め取ろうとしてみたけれど、何故か口の中からどろどろと青臭い白濁液が次々溢れ出して
更に酷く汚してしまい、私はそのまま、気を失った。
120祥子と鉄也 10/10:2007/09/01(土) 13:17:01 ID:9t8FUvOv

糸が切れた操り人形のようにくたくたと、床に崩れ落ちる体を抱きとめると、祥子はすごく嬉しそうに
微笑みながら、ゆっくり目を閉じた。
 途端に重みが増した体を、簡易寝台にそっと横たえて、こびり付いたままの俺の残滓を拭き取ろう
と口元に当てられた指を無意識のまま、しゃぶり始める。
 その時始めて、屋根を叩く強い雨音に気がついて、内ポケットの携帯を取りだそうとしたら上着の
裾が、強く握り締められていた。
 上着を脱ぐため、未練たらたらで祥子の口内からゆっくり指を引き抜くと『……嫌だぁ……
鉄ちゃん……、もっとぉ……』との御達。

(……流石に、意識の無いヤツを襲うのは、趣旨に反するんだよなぁ……)

 とりあえず、脱いだ上着を彼女に掛けて、そのまま枕元に座り込み、しばし規則正しい寝息を
堪能してから、送信。

  To.MAP 【件名】明日レチ、ウヤ
    本文:オマエと連結中ウテシの最新属性は『緊縛』
 
 携帯画面をぼけーっと見つめながら、左薬指のサイズ とか、祥子の父親は昔から結構腕っ節が
強かった事 とかを、つらつら考えてるだけで胸の奥底がどんどん暖かくなってきた。
 お、早速返信が……。
  
  To.金失 【件名】ヌキ&車交、セチ 
    本文:4P、スワップ、NTRに興味有?

 脊髄反射的速度で

  To.MAP 【件名】市ね!!! 
    本文:今後ともレチ教育ヨロ

 と叩き返し、祥子が次に覚めた時、必ず目の前に居るために腕枕添い寝してやって
まずは最初に『俺もさっちゃんが世界で一番大好きだ』って、しっかり教え込まねーと……
なんて思いながら、幸せな眠りに付いた。


 ……あぁ、これで翌朝、超鈍行とオッパイ性人が、人の枕元でやらかしていた手鎖プレイの嬌声で
強引に起床させられなきゃ、本当に最高だったんだけどな!!!
121105:2007/09/01(土) 13:18:09 ID:9t8FUvOv
以上です

最後に
健次と理菜 の中の人
>>48 の中の人
>>53 の中の人
 本当にごめんなさいorz

>>107
 管の属性は『つるぺた、言葉攻め、足こき』なんだけど
 ソレを出来る拷問役は、某ツンツンお嬢しか自分のストックに無いため、_
122名無しさん@ピンキー:2007/09/01(土) 19:14:47 ID:KhnfYv4K
うはGJ!! 祥子健気だなぁ。次は是非本番の方をよろしく!!

あ、あと、最後のメールに出て来た単語の意味も教えてもらえると有難い。レチとかウヤとセチとか。鉄道用語なんだろうけど……。

123名無しさん@ピンキー:2007/09/02(日) 01:13:16 ID:0lYYH+/h
GJ!

>>122
それぞれ鉄道用語で、レチは車掌、ウヤは運休、ウテシは運転士のこと。

・・・セチって何?
124名無しさん@ピンキー:2007/09/02(日) 06:52:26 ID:WsamF+Fa
ヌキは、当該列車を運行順序の枠組みから抜く事
セチは、承知
この2つ(+レチ、ウヤ、ウテシ)は鉄道用電報略号より

車交は、車両交換の略語
125名無しさん@ピンキー:2007/09/03(月) 20:33:47 ID:9D7RUt0r
最近絆こないな・・・投下きてくれ。
いそがしのかな?
126名無しさん@ピンキー:2007/09/03(月) 22:29:38 ID:6X6RfMl/
関連スレが 新スレになってます、よろしくお願いします o(_ _)o

いもうと大好きスレッド! Part4
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1188824773/
お姉さん大好き PART5
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1186239004/
気の強い娘がしおらしくなる瞬間に… 第8章
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1188575544/
127 ◆RFJeoF38Ko :2007/09/04(火) 18:35:50 ID:TjBUT8k8
1.
私は震えていた。
布団の中で、ずっと震えていた。
泣いていたかもしれない。

夜。
私は押し寄せる後悔と恥ずかしさに、悶えるような思いで一杯だった。
なんてことしちゃったんだろう。
私は、なんてことを。

冷静に戻ってみれば、頭がおかしくなったとしか思えない。
裕輔に、あんなこと言うなんて。
あんな格好で裕輔の部屋で待っていたなんて。
誰がどう見たって、あれは私が……。

誘っていたとしか、見えない。

そんなつもりがなかったなんて言ったって、信じてくれないだろう。
それに私には、もうあのときの話を裕輔の前で蒸し返す勇気も無かった。
きっと、裕輔は軽蔑したに違いない。
もちろん、私たちはキスをしあうような仲だった。
たまにふざけて唇以外の場所にキスもした。
首筋とか、耳たぶとか。
それに抱き合ったときに、普通なら触らないような場所に触れちゃうこともあった。
私の手が裕輔のおなかを撫でたり。
裕輔が私の後ろに回した手が、私のお尻に触れたり。

でもそれは、いいわけが出来た。
多分私たち二人とも、心の中でいいわけしながらこんな関係を続けていた。
「これはいとこ同士のおふざけだ」って。
実際、私たちは決してキス以上のことをしなかったし、そんなそぶりも見せなかった。

いや。
いいわけしていたのは私だけだったんだ。
裕輔は、ずっとおふざけのつもりだった。
私だけが、「おふざけ以上」のことを望んでいた。
一人で興奮して一人で盛り上がって……一人で勝手に裕輔のことを「恋人」だと思ってた。
だけど、裕輔にとって私はやっぱりいとこに過ぎなかった。

私がスカートを捲り上げ、下着をずらし、自分の手で自分を弄りながら彼を待っていた時。
裕輔は一瞬目をそむけた。
そしてそれ以後、私の方を決してみることは無かった。
長い沈黙が流れた。
私はだんだん、心が冷えていくのを感じた。
私はとんでもないことをしてしまったって。

「なっちゃん」
裕輔の声に、私はついに我に返った。
「僕、出てるから、ちゃんと服を直しなさい。お母さんもうすぐ帰ってくる」
そう言って裕輔は部屋を出て行った。
私は一人、裕輔の部屋に残された。
下着をはきなおし、乱れたスカートを直すとき、私は知らず知らず泣いていた。
恥ずかしくて。惨めで。
涙がこぼれて仕方なかった。
自慰に使った裕輔のジャケットを壁にかけるときなんて、死んでしまいたいぐらいだった。
私はそっと部屋を出ると、入れ替わるように裕輔さんが部屋に入った。
後ろで戸が閉まる音がして、それは夕食まで開くことは無かった。
謝ろうと思った勇気は、戸が閉まる音で打ち砕かれた。
128那智子の話・第六話 2/13 ◆ZdWKipF7MI :2007/09/04(火) 18:36:34 ID:TjBUT8k8

私と裕輔は、目を合わせようともしなかった。
お母さんもお父さんも不思議がり、「喧嘩したの?」と聞いた。
喧嘩の方がよっぽどマシだったと思う。
私は勝手に暴走して、裕輔との一線を無理やり飛び越えようとした。
裕輔は戸惑い、自分の心の扉を閉めた。
もう、二度と私たちは仲のいいいとこ同士には戻れない。
キスも出来ない。手も握れない。
目を合わせて微笑みあうこともない。

いつかは二人の様子がおかしいことに両親も気づくだろう。
その時裕輔はたぶん秘密を守ってくれる。
でも。
それを機会に裕輔は私から遠ざかろうとするかもしれない。
家を出て下宿するなり、学校の寮に入るなり。
私はそれを考えると胸が痛んだ。
こんな状況を招いた自分のバカさ加減に腹が立った。
もし神様がいるなら、今朝まで時間を巻き戻して欲しい。
布団の中で体をぎゅっと丸くしながら、私はどれくらい真剣にそう願っただろう。
でも、神様はいないし、ドラえもんもタイムマシンも現れなかった。

こんな辛いときこそ、裕輔に抱きしめて欲しかった。
そして、頭を撫でて欲しかった。
対等な関係でなくたっていい。
子ども扱いでもいい。私は裕輔に甘えていたい。
「裕輔――さん」
でも、私はどう頑張っても、彼の顔をはっきりと思い出せない。
だんだん記憶がぼやけて、裕輔の顔が頭の中から消えていく。
そんな錯覚に、私は怖くなった。

「ゆう……すけ……」
でも、私の部屋の中には、答える声も、支えてくれる腕も、何も無かった。
何も。

129那智子の話・第六話 3/13 ◆ZdWKipF7MI :2007/09/04(火) 18:37:00 ID:TjBUT8k8

ギィッ。

私の部屋の静寂を破る音がした。
夢うつつの私は、それが何の音なのか分からなかった。
と、言うより、本当に音がしたのかどうかすら分からなかった。
風の音か、外の物音。
あるいは、夢の中で聞いている音なんだろう。
私はそんな風に思って、布団の中で丸くなっていた。

ゴト。

だから、二つ目の音がしたときも私は身じろぎ一つしなかった。
外のベランダにおいた植木鉢が転がったような、そんな低く硬い音だった。
私は相変わらず、ぼんやりとした頭で、後悔と羞恥の間を漂っていた。

ギシッ。

ベッドのきしむ音に、私ははっと目が覚めた。
これは、夢じゃない。
何かが私のそばに、いる。
突然私は恐怖に襲われた。
あるいはまだ夢を見ているのかもしれない。
だって私の家には夜、人の部屋に忍び込んでくるものなんていない。

不意に私は友達の青葉に教わった怖い話を思い出した。
女の子が飼い犬といっしょに留守番をしている。
両親は出かけていない。
夜ベッドの中で変な物音がして、女の子は目を覚ます。
怖くなった女の子は、ベッドのそばに寝ているはずの犬を撫でる。
犬は女の子の手をなめたので、女の子は安心して寝てしまう。
次の日の朝。
女の子が目を覚ますと、飼い犬は殺され、天井からつるされている。
犬の死骸にメッセージの紙が挟んであって
「人間だって舐めるんだぜ」……

私は犬なんて飼ってない。
でも、私の横に大きなものが横たわっている。
もうはっきりと目を覚ましていた。
これは、夢なんかじゃない!


130那智子の話・第六話 4/13 ◆ZdWKipF7MI :2007/09/04(火) 18:37:22 ID:TjBUT8k8

2.

突然、私の体が抱き寄せられた。
大きな手が肩をつかみ、隣に横たわるものに引き寄せられる。
シーツが剥ぎ取られた。
目の前に、黒い顔のような影が迫っていた。

(……ゆう……すけ…………?)
その顔は、身間違えようもない。
裕輔が、私の体の上に覆いかぶさるようにして、そこにいた。
一瞬、やっぱり私は夢を見ているのだろうか、そんな風に思った。
でも夢じゃない。
その証拠に、私の顔に裕輔の吐く息が当たる。
こんなリアルな夢、十六年生きてきて一度も見たことなかった。

裕輔の顔は、いつもの優しい微笑みを浮かべた顔じゃなかった。
引き結んだ口は少し青ざめ、目はまるで喧嘩するみたいに私を睨んでいる。
荒々しい息を収めるかのように、肩が時々震えていた。
息を小出しにしようと努力しているのか、吐息のたびに鼻がぴくぴくと動いた。
私は、やっぱり怖くて動けなかった。
まるで裕輔は見たことのない男の人のようだった。

裕輔の両手が、私の顔をつかむ。
抵抗しようにも、私の体は恐怖と緊張でぴくりとも動かなかった。
きっと私の目にはおびえが浮かんでいたに違いない。
突然裕輔は手の力を緩め、そっと私の頬を撫でた。
硬い指が、私の頬をそっとなでていき、やがて唇のところで止まる。
もう一方の手は、私の髪をやさしくかき混ぜている。
彼が、何を望んでいるのか分かった。
指にうながされるように、私はそっと口を開く。

そこに、裕輔の口が押し付けられた。
普段のキスより荒っぽく、普段のキスより熱心に。
思わず私は小さく呻いた。
唇を味わっていたのは一瞬だった。裕輔の舌が、いつもより慌ただしく私の唇を割った。
ねじ込まれた舌に、私も舌を絡める。
私は嬉しかった。
熱い彼の舌も、彼の唇もいつもより愛しい。
今日、今の今まで欲しかったのに与えられなかったもの。
私は、今、裕輔に抱きしめられてる……

131那智子の話・第六話 5/13 ◆ZdWKipF7MI :2007/09/04(火) 18:37:39 ID:TjBUT8k8

気がつけば、私の体の上にぴったりと裕輔の体が寄り添っていた。
裕輔は私の頭を手でキスしやすいようにそっと支えている。
そしてもう一方の手で、私の胸元をまさぐっていた。
もどかしげに私のパジャマを脱がし、破るように開いていく。
私は乳首の先に、冷たい夜の空気が触れるのを感じた。
露になった私の胸を、裕輔の片方の手がそっと揉みしだく。
私は小さく子犬のような声を上げた。
それは初めて彼から受けた、新鮮な愛撫だった。
最初は手全体で私の乳房を揉み、次第に搾り出すみたいに乳首へと力を込めていく。
私は息苦しさを感じて、思わず裕輔の口から逃れた。

裕輔は相変わらず真剣そのもの、といった顔で私を見つめている。
けれど、手は愛撫を止めようとしない。
それどころか、両手で私の対の乳房を激しくもみ始めた。
パジャマを半ば脱がされたまま、私は裕輔が私の胸を弄ぶさまをじっと見ていた。
胸がどきどきして、時々乳首の先からしびれるような刺激が体の中を走る。
私の顔をじっと見ていた裕輔は、やがて私の乳首を口に含んだ。
熱い唾液が私の胸をべたべたと汚していく。
はじけそうなほど硬くなった乳首を舌先で転がし、ついばむ。
片方の胸を十分味わうと、今度はもう一方へと移り、また最初に戻る。
愛撫に合わせて私が淫らな吐息を漏らすようになるまで、彼は私の乳房を吸い続けた。

不意に、体の奥で何かが始まった。
今日、裕輔の部屋で感じたのと同じ感覚。
両脚の間から、わきあがり、背骨を貫くような感覚だった。
私はもじもじと足をすり合わせ、裕輔の体の下で身悶えた。
「ゆぅ……す……け……」
私の囁きが聞こえたのか、それとも聞こえなかったのか。
とにかく、裕輔は不意に愛撫を中断した。

顔の火照りがはっきり分かる。
それでも裕輔は、まじめそのものの顔で私を見つめていた。

さっと彼の手が私のパジャマのズボンにかかる。
ゆるいゴムで私の腰にまとわりついているだけのそれは、何の抵抗も示さなかった。
あっという間に、それは膝のところまで脱がされていた。
既に太ももに滴っていた私の愛液が、空気に触れてひやりと感じられた。
(あ……すっごい、濡れてる……)
私はそんなことを思いながら、膝までずり下ろされたパジャマを自分から脱ぎ捨てた。
くしゃくしゃに丸まったそれを、足首のひねりでベッドの外へと追い出す。

その間に、裕輔の手は私のショーツにかかっていた。
滑り込む彼の手。
太い指が、その場所を確かめるかのように、私の叢をかき分けた。
「んっ……!」
初めて私は怖くなった。
でも、私の声なんか裕輔には聞こえてないようだった。
彼の指が、私の割れ目を撫でて、その場所はしっかりと確かめている。
敏感な先に裕輔の指が触れるたび、私は恐怖と期待の混じった声を上げた。

132那智子の話・第六話 6/13 ◆ZdWKipF7MI :2007/09/04(火) 18:37:59 ID:TjBUT8k8

それは突然やってきた。
裕輔はためらいもなく、私のショーツを太ももの半ばまでずらした。
今度は、私も自分から脱ごうとはしなかった。
最後の一線を越えようとしている、そのことが一瞬だけ頭をよぎる。
いいの?
本当に?
裕輔と?
短い単語が電気みたいにぱちっとはじけて、消えた。
だけど、私には迷う暇すら与えられなかった。

「あっ……い、いたっ――――!」
突然下半身を襲った痛みに、私は叫びかけ……そして声が出せなくなった。
裕輔の手が、私の口を塞いでいた。
彼の腰は、私の腰にぴったりと押し付けられている。
両脚の間に、今まで感じたことのない、はっきりとした異物感があった。
それは私を真っ二つにするみたいに、ゴリゴリと私の体に入ってくる。
あまりの痛みに私は頭を振って、裕輔の手を振り解こうとした。
けれど、裕輔の力を余りに強く、彼の厚い手が苦痛のうめき声すら押し込めた。
体を押しのけようと腕を動かそうにも、半ば脱がされたパジャマが自由を奪っていた。
それでも私は抵抗し続けた。

裕輔の物が、私を裂いていく。
やがて、私の体が裕輔の腰の動きにあわせて、わずかに浮き上がった。
体の奥から、何かが私の骨盤に当たるような、コツッという音が聞こえた。

――最後まで、入ったんだ。

私はそれを悟った瞬間、なぜか体中から力が抜けるのを感じた。
「言い訳は出来ないところにきちゃった」。意味は分からないけど、そんな気分だった。
裕輔も、私がもう抵抗しないのが分かったのか、手を口から離してくれた。
彼はしばらく動かなかった。
きっと、私が破瓜の痛みに慣れるのを待っていたんだと思う。
その間、彼の手はまたいつもみたいに、私の髪をそっと撫で始めた。

不意に、裕輔の顔が私の耳元に近づいた。
私は涙を浮かべた目で(気づいていなかったけど、私は痛みで泣いていた)彼を睨む。
裕輔は一瞬目をそらし、私の頭を抱きすくめた。
「…………だよ」
裕輔が、口の中でもごもごと何か呟く。
抱きすくめられてから、彼が言葉を言い終わるまで、本当に一瞬の出来事だった。

「え……?」
私が聞きなおそうとした次の瞬間、また痛みが体を走った。
裕輔が腰を動かす。私の体をビリビリと痛みが走る。
動きにあわせてコツコツと体の奥から何かが打ち合う音が聞こえた。
それ以上に激しく、私と裕輔の肉が打ち合い、絡み合う音が部屋に響いた。
そして、愛液がかき混ぜられるグチュグチュという音も。
なにより、獣みたいに興奮している裕輔の息も……。
あまりの痛みに言葉を失った私は、不思議とそんな音を冷静に聞き、記憶していた。

133那智子の話・第六話 7/13 ◆ZdWKipF7MI :2007/09/04(火) 18:38:19 ID:TjBUT8k8

どれくらいの間のことだっただろう。
だんだんと裕輔の息づかいが荒くなり、腰の動きも激しくなっていった。
ベッドがぎしぎしと悲鳴をあげ、私は早く終わって欲しい、それだけを考えていた。

やがて。

「くっ」という裕輔の短い苦悶の声がして。

私の中に熱いものが一杯に打ち込まれるのを感じ。

それは終わった。


力尽きた裕輔は私の体の上でしばらく息を整えていたけれど、それは私も同じだった。
のろのろと彼の腕が半裸の私を抱きしめた。
私たちは何も言わず、暗闇の中でじっとしていた。

名残惜しそうに裕輔のものが私から引き抜かれる。
けれど、じんじんとした痛みはひくことはなく、私は体を動かせなかった。
初めてのセックスが終わって初めて、裕輔は私の顔を見た。
眉毛は下がり、目は伏せられている。
困ったような、申し訳ないような顔。
私はどんな顔をしていたんだろう。多分呆然としていたんだと思う。
とにかく自分の体の痛みより裕輔が気になって、彼の顔の隅々まで観察していた。

不意に裕輔が動いた。
彼の唇が、汗をかいた私の額にそっと触れ、離れた。
唇が離れるのと同時に、裕輔は立ち上がった。
暗闇の中で、パンツとズボンをずりあげる衣擦れの音がした。
そして裕輔は、入ってきたときと同じように気配を消して部屋から出て行った。

134那智子の話・第六話 8/13 ◆ZdWKipF7MI :2007/09/04(火) 18:38:36 ID:TjBUT8k8

二人分の汗と、淫靡な臭いが部屋中に立ち込めているのに、しばらくして私は気づいた。
(明日、消臭剤買って来なきゃ……)
初体験の後にふさわしくない、そんなことを考えながら、私は手を下半身に伸ばす。
痛みの元へと指を伸ばし、おずおずと触る。
恐る恐る触れると、私の「中」からねっとりとしたものが湧き出しているのが分かった。
私はそれを指に絡め、目の前に持ってくる。
そこからは嗅いだことのない青臭い臭いと、それに混じってかすかな鉄の臭いがした。

(血……出てるんだ……)
私はそれをそっと口に含んだ。
裕輔の味。
初めての味。
私はそれをしっかりと記憶に刻んだ。

(このまま履いたら、下着汚れちゃうなぁ……)
私は立ち上がると、引き出しから生理ナプキンを一つ取り出した。
そっと部屋を抜け、お手洗いへとむかう。
下半身は裸のままだった。
便座に腰掛け、改めて自分の下腹部に視線を落とす。
私の陰部からわずかに血の混じった精液が垂れてきていた。
まるで科学の実験結果を見るみたいに、私はその様子をしげしげと見つめる。
明々とした電灯の下でみると、それは何か滑稽な物体に思えた。
ふき取ろうかと思ったけど、そうするのは何故か裕輔に悪いような気がした。
まるで裕輔の精液を汚いものとして扱っているようだったから。
逃げ出そうとする裕輔の分身を押し留めるように、私はそっとナプキンを当てた。
そのまま私は部屋に戻ると、パジャマを着なおし、眠りについた。

もう痛みは無かった。


135那智子の話・第六話 9/13 ◆ZdWKipF7MI :2007/09/04(火) 18:38:55 ID:TjBUT8k8
3.

次の朝は、相変わらず気まずい空気が流れていた。
洗面所で会ったとき、裕輔はちょっと会釈しただけですぐ私に場所を譲った。
朝食のテーブルにも、よそよそしさが漂った。
お父さんは余り口出ししないと決めたのか、ずっと新聞を見ていた。
お母さんは私に向かって「いい加減に仲直りしなさいよ」と言っただけだった。
どうやら原因は私にあると勝手に思い込んでいるらしい。
もちろん、最初の原因を作ったのは私だ。それは両親が思いもよらない出来事だけど。
いつもなら二人同時に出て、同時に乗り込むエレベーターも、今日は一人だった。
両親を心配させないよう裕輔と同時に玄関を出たとたん、私は猛然とダッシュした。
そして、裕輔が来る前にエレベーターに駆け込む。
「閉」のスイッチを押し、さっさと一階へ降りた。裕輔も、追ってはこなかった。

――それから、何時間かが経って。
退屈で特筆することのない学校の一日が終わり、私はまた一人で下校していた。
学校は適度に慌ただしく、友人たちは青葉を筆頭に適度に騒がしかった。
だから、学校にいる間私は昨晩起こったことを考えなくてすんだ。
だけど今、私は一人で歩きながら、昨日の夜のことを思い返している。
これほど時間がたってしまうと、あれはやっぱり夢だったんじゃないか。
そんな気がしてくる。
でも気のせいじゃなかった。
その証拠に、私の下着の下には確かにナプキンのごわごわとした感触がある。
朝起きたときと、昼休みのお手洗いで、昨晩の痕跡は全部流れて行ってしまった、はず。
でも私は何故か怖くて、ナプキンをとることが出来なかった。
ふとした弾みで下着が汚れてしまい、それにお母さんが気がついて……
そんな想像をすると、私は直に下着を履く勇気すら出てこなかった。バカバカしいけど。

これから、どうしたらいいんだろう。
そんなことを思いながら一人上の空で歩く。
裕輔と私は一線を越えてしまった。
私はそれを望んでいた、はず。
私が昼間誘いをかけ、裕輔は夜になってやってきた。
(そういえばこれって夜這いになるのか……古風だなあ、と私は一瞬思った)
私は何をされるのかすぐ分かったし、拒まなかった。
だから後悔しているわけじゃない。
でも、何か心に引っかかるものがあった――裕輔の気持ちが、よく分からない。
何より、あの言葉をどう考えたらいいんだろうか、と。
最後の瞬間私の耳元で囁いた言葉。
あれは、どういう意味だったのか……。
結局私の心は、その言葉の解釈にけつまずいて、その先へと進むことが出来ない。
裕輔のところへ、飛び込んでいけない。
だから――

「帰りですか、妙高さん」

――この男の登場は、渡りに船とでもいうタイミングだった。

136那智子の話・第六話 10/13 ◆ZdWKipF7MI :2007/09/04(火) 18:39:12 ID:TjBUT8k8

「……今日は、静かですね」
隣で相変わらずの笑顔を見せている望月近衛に、私は黙って頷いた。
申し訳ないけれど、さすがに今日は元気にもなれない。
というか、望月の顔を見た瞬間、相談しようと決心して、そのことばかり考えている。
余計な口は聞いてられないの、OK?

とはいえ、どうたずねたものか。
「昨日いとことセックスしちゃったんだけどさー」
とは流石に言えない。差しさわりがあるところが多すぎる。
問題。上の文章から差しさわりのあるところを挙げよ。
答え。「昨日」以外全部。
たぶん望月は私に男性経験があると知っただけでパニックになるに違いない。
いやしくも神さまとマリアさまに守られた聖マッダレーナ女子の生徒が……
とはいえ、青葉と「アイツ」が付き合って長いことは望月だって知ってるはずだし。
最近の高校生が約一年付き合ってやることやってないとは思ってないだろうし。
あれ、案外平気なのかな。

いやいや。
望月のことだ。
かつて好きだった女の子(青葉のことね)は清いお付き合いを続けてると信じてるかも。
うむ。
やはり純真な男子の幻想は守ってあげなくては。
とはいえぶち壊してるのは女であるこっちなんだけど。
そもそも、望月と私は友達だけど、さすがに女の子から性の相談は出来ない。
男の方からされても不謹慎だけど、やっぱ男女の友人関係でする話じゃない。
それに、私の場合相手が相手だ。
いとこと関係というだけで軽蔑しないとも限らない。
うーん。
望月が私に変な幻想を抱いていて、それを木っ端微塵にするのはいいとして。
やっぱり軽蔑されるのはイヤだ。

……あれ。私何を考えてるんだ? 望月と私ってそんな深い付き合いかな――

「……やっぱり、静かすぎますね、今日」
恐る恐る声をかけてくれたおかげで、私は自分の生み出した思考の迷宮から救い出された。
ありがとうアリアドネくん、と私はテーセウスの気分。
いやむしろ彼がテーセウスで、私はラビリンスから助け出された乙女かしらん。
ラビリンスに送り込まれる生け贄は清い少年と処女だから、私には資格なしだけど。
……そんなことはどうでもよくて。
「悩み事なら聞きますよ」
そう言ってくれるのを待っていたわけ。
ずるいな、とは思うけど、望月のそういう空気を読む力に私は甘えっぱなしだ。

「……難しい問題なんだけどね」
「はい」
私が言葉を選びながら話始めると、望月はそれを重大事と受け取ったのか、深く頷いた。
「たとえば、たとえばよ? 望月に好きな女の子がいたとして、ね」
「ぼ、僕にですか……えっとそれは、あの仮定として……」
「いいから黙って聞きなさい」
「はい」
何故か急にうろたえまくる望月を黙らせると、私はまた言葉を続けた。
「お互いなんとなく好きかなー、ということは薄々さっしてる関係だとしよう。
(その瞬間、また望月がうろたえたが、私は眼力で黙らせた)
その子とある日一緒に遊びにいったとして、その帰りにね。
突然、『よっていきません?』って言われて、指差す方にラブホがあったら……
望月どうする」
137那智子の話・第六話 11/13 ◆ZdWKipF7MI :2007/09/04(火) 18:39:28 ID:TjBUT8k8

私の言葉の意味を理解するのに、この少年はかっきり三十秒をかけた。
「……えっと、多分、行くと思います」

「あー、やっぱ男ってそういう生き物かー」
私が天を仰ぐのを見て、望月が不意に真剣な顔をした。
「あの、妙高さん、もしかして変な男に言い寄られてるとか、ストーカーとか……」
あまりの真剣さに、私はちょっと吹いてしまった。
「あー違うちがう、そういう深刻な話じゃないから(と私は嘘をついた)、軽く聞いて」
望月が落ち着きを取り戻すのを待って、私は本当に聞きたいことの核心に迫っていった。
「じゃあ、まあホテルに行って、そーいうことをしたとしよう」
「はい」
望月が神妙に頷いたので、私はちょっと咳払いをした。
どうも望月が相手だと、余計なことまで喋ってしまいそうで怖い。
「その女の子を見る目、変わる?」
望月は黙った。
今度は理解するのに時間がかかったわけじゃなかった。
それが証拠に、望月はとっさに何か言おうとして、すぐに黙ったから。
そして、私を横目で見ながら、しばらくブツブツと小声で呟いていた。

「答えが決まってるなら、さっさと言ってよ」
「あー、答えをいうのにやぶさかではないのですが」
あんたはどこの古風な探偵だ、と突っ込みを入れたくなる様子で望月は答えた。
「妙高さんの性格からして、必ず理由をお聞きになるだろうと」
「聞くわね」
望月はさらに困った顔をしかめて見せた。なによ、そんなに言いにくいの?

「その場合、僕を見る目が変わるのではないかということを心配しておりましてその」
探偵から政治家に転向した望月はごにょごにょと言葉を濁した。
まあ、問いが問いだから、何を答えても微妙だけど。
私だって聞きにくいことを望月と見込んで尋ねたのだ。
そちらも誠意ある回答を聞かせてくれてもいいではないか、と私は数分間熱弁を振るった。

「……じゃあ、答えますけど、女の子に対する気持ちは、多分変わらないと思います」
「で、『何故』?」
言いにくいとあらかじめ聞いていたにもかかわらず、私はずばりそれを尋ねた。
望月は視線をさまよわせたり、横目で私をうかがったり、散々迷った挙句、答えた。
「たぶんそのころには、僕もその女の子とそういうことをしたい、と思っているからです」
「……はあ」
「つまり、ここで一般論に逃げるのは大変卑怯だとは思うのですが、えー。
男という生き物はそもそも性欲が女性に比べて旺盛である、と言えるのではないかと。
それは原始時代に男が狩りを受け持っていた名残であるとも、言われますし――
ドーキンスでしたかは、遺伝子をより広範囲に撒き散らすのが生物の役目であると……。
まあ利己的遺伝子論はともかく、その、薄々好きになった女の子に対して、ですね。
そういうことを想像したり、望んだりするのは女性より男性の方が早いわけで。
そこに女性側から提案があった場合、男としては断ることは出来ないというか……」

138那智子の話・第六話 12/13 ◆ZdWKipF7MI :2007/09/04(火) 18:39:45 ID:TjBUT8k8

「『据え膳食わぬは男の恥』ってヤツ?」
私の言葉に、望月は黙った。
「……だから言いたくなかったんです」
私の方はそんなもんだろう、というつもりで言ったのに、望月は意外なほどしょげていた。
望月に聞かなくても、半ばあきらめていた。
まあ、人並みの女の子がさそったら、裕輔ぐらい若い男なら、当然手を出すだろう、と。
そこに対して深い愛情がなくたって、仕方が……

仕方がない、そう思うととたんに情けなくなった。
裕輔に私の気持ちを伝えることは、もう出来ないのかもしれない。
私が、どれだけ裕輔のことを思っているのか、とか。
単なる肉親でもなくて、単なる好きでもなくて、すごくややこしい気持ちなんだ、とか。
そんなこと、もう伝わらないかもしれない。
だって、もう私は裕輔に抱かれてしまったから。
私は隣に望月がいるのも忘れて、涙を拭こうと、かばんのハンカチを探った。

「でも、そんなことを言ってくれた女の子を、僕なら本当に大事にしますよ」
「……?」
望月は私の方を見ずに、そう呟いた。
「女の子なら、そう言い出すまでにきっとものすごく葛藤があったと思うんです。
僕が好きになるようなタイプなら、ですが。
ああ、これは妙高さんの問題にはない勝手な前提条件ですけど。
でも、それだけ勇気を出して僕にむかって飛び込んできてくれたんだから。
僕はその子のことを心から好きになると思います。僕もそれにちゃんと応えたいです」
望月は誰にむかって言っているのか分からないくらい熱心な目で、そう言った。
言ってから、自分の演説が恥ずかしくなったのか、そっぽを向いて頬をかいてみせた。

「……そんなときに言った男の子の言葉、信じていいと思う?」
「僕が言ったのなら、信じてください」
私は笑った。
望月も笑った。
たぶんアイツのは照れ笑いだったんだろうけど。
私は泣き笑いの顔だった。
そうか。
信じていいのか。

ようし。

139那智子の話・第六話 13/13 ◆ZdWKipF7MI :2007/09/04(火) 18:40:01 ID:TjBUT8k8

4.

そのあと、二週間ほど私と裕輔は気まずい日々を過ごした。
言葉少なく、触れ合うこともない日々。
でも私はずっと考えていた。あの時裕輔が囁いた言葉の意味。
裕輔はこういった。

「僕も、なっちゃんで『ああいうこと』をしてた。ごめん」って。

私をずっと求めてた。
裕輔は私をそういう目で見ていた。
ショックで、嫌悪感すら感じる言葉。でもそのあとに裕輔はこう言った。

「好きだよ」

私は信じることにした。
裕輔の言葉を。裕輔に私の気持ちがまだ通じることを。


「おはようございます」
『憂鬱』な朝が明けたある日、私は洗面所で裕輔に声をかけた。
びっくりしたように振り返り、出て行こうとする裕輔。
でも、待ち構えていた私はさっと彼の袖をつかんで引き止めた。
戸惑う裕輔に、私は告げる。

「……アレ、今朝来ましたから、安心してください」
そう、月に一度の憂鬱なあれ。
初めての夜、その心配を欠片も思い浮かべなかった自分に呆れるぐらいだ。
裕輔もそれを薄々気にしていたのか、一瞬心の底からほっとしたような顔をして。
それからまた真剣に私を見つめた。
「……なっちゃん…………ごめん、あの日は……」
なによ、いまさらゴメンなんて、言わせないんだから。
私はしょげかえる裕輔の目を覗き込むようにして、きっぱりと宣言した。
「今度からは、ちゃんとゴム……してくださいね」
そういって私はさっと彼に背を向けた。

駄目だ。
顔が火照る。
こんなこと宣言するなんて、やっぱり変かぁ……?
ああでも大事なことだもん。
私バカだけどやっぱり大学は行きたいし、この年で母になるのはまだ覚悟が……。
なんて。
頭の中は大パニックになりながら、私は一番大事な言葉を告げた。
「私も、好きです」

裕輔もパニックになっていたのだろう。
私の言葉を理解するのにきっかり一分はかかった。
けれど、答えははっきりしていた。
私たちはそっと抱きしめあって、ほぼ一ヶ月ぶりのキスをした。
懐かしくて、たまらない味だった。

(つづく)
140名無しさん@ピンキー:2007/09/04(火) 18:41:45 ID:TjBUT8k8

二ヶ月ぶりの那智子の話の続きでした。
余りに久々で、最初トリップミスしてしまった…orz
大変スローペースではありますが、宜しくお付き合いください。未完にはしません。
141名無しさん@ピンキー:2007/09/04(火) 18:59:54 ID:YyShSMWn
>>140
 お帰りなさいませ
 続きを書いてくださって、本当にありがとうございます
 那智子さんと裕輔さんに幸せな結末が来るのなら、何ヶ月でも待ちます

 後、望月近衛くんも出来るなら幸せにしてやってください
 お願いします
142名無しさん@ピンキー:2007/09/04(火) 20:00:39 ID:bf9m9uOF
GJです!!

遂に一線を越えた二人! これから二人がどうなっていくのか、とっても楽しみです!!
143名無しさん@ピンキー:2007/09/04(火) 23:20:37 ID:BTPG47U8
ktkr
超待ってた。激しく待ってた。GJ
144名無しさん@ピンキー:2007/09/05(水) 00:46:21 ID:VBKtDBD0
GJですー! ではこちらも投下します!!
145絆と想い 外伝2:2007/09/05(水) 00:48:13 ID:VBKtDBD0
夏休みに入ったばかりの、とある日の夕方。学校の弓道場で、一人で練習をしている少女の姿があった。
「ふっ……!!」
弓を引き絞ると的目掛けて矢を放つ。狙い過たず、矢は的のほぼ中央に突き刺さる。
「ふぅ……。」
矢を放った少女は、ゆっくりと息を吐いた。と、ぱちぱちぱちと拍手が聞こえてきた。
「どなたですか?」
彼女が問うと、弓道場の出入り口から一人の少年が姿を現した。

「精が出るね美沙姫さん。皆が帰った後も一人で居残り練習だなんて。」
そう言う少年に、少女……神崎美沙姫は笑顔で答えた。
「そんな事はありません。それに、貴方だって同じではないですか、雄一郎君。」
その言葉に、少年……京極雄一郎(きょうごく ゆういちろう)はまぁね、と応えてにこやかに微笑んだ。

少年の名は京極雄一郎。高校二年で、美沙姫の幼馴染であり、クラスメートでもある。
身長は180を超えるほど高く、また艶やかな髪、綺麗に整った顔を持ち、性格も温厚で優しく、そのため女性からの人気は凄まじく高かった。
成績も全科目トップクラスで運動神経も抜群。更に彼は、合気道の天才でもあった。
中学の時から公式戦では未だに不敗なのである。その容姿ともあいまって、高校合気道界では常に話題の中心となっていた。

「それにしても、君がこんなに頑張るだなんて……。やっぱり副部長としての責任感? IH制覇のため? それとも……。」
持ってきたスポーツドリンクを美沙姫に渡しながら、雄一郎は悪戯っぽい笑みで言った。
「……今度のインターハイが、東京で行なわれるから、かな?」
その言葉に、美沙姫は頬を軽く染めながら頷いた。

「……インターハイ出場が決まったことと、会場が今年は東京だという事を正刻様に手紙でお伝えしたら、絶対に観に行くという返事を頂きま
 して。これはもう、頑張るしかないなぁって。もちろん久遠寺学園弓道部副部長としての責任も果たしますが、それ以上に、あの方の前で無
 様な姿だけは晒さないようにしようって。そう思ったらもっと練習しなきゃって、そう思ったんです。」

久遠寺学園。京都にある小・中・高・大一貫教育を行なっている私立の学校であり、美沙姫や雄一郎が通う学校である。
その規模はかなり大きく、また優秀な講師を多数集めているため、政治・経済・スポーツ等、各方面に多くの優秀な人材を輩出している。
ちなみにスポンサーには神崎家と、京極家も名前を連ねている。

そう、京極家もかなりの名家であった。神崎家程ではないが、主に医療方面でかなりの実績を築いている。雄一郎はその跡取りでもあった。
146名無しさん@ピンキー:2007/09/05(水) 00:49:33 ID:VBKtDBD0
彼は頬を染めた美沙姫を見ると、複雑そうな笑みを浮かべた。

別に彼は美沙姫に恋愛感情を抱いてはいない。
だが、幼い頃から仲良くしている女の子が、自分以外の男に好意……しかもとびきり強烈な……を向けているのを見ると、やはり寂しさと
嫉妬が入り混じったような、複雑な気持ちを抱いてしまうのである。
仲の良い友人が自分以外の者と仲良くしているのを見た時というのが、心情的には近いかもしれない。

それが、自分と因縁のある相手ならば尚更である。

そう、雄一郎と正刻には因縁……少なくとも雄一郎はそう思っている……があった。
忘れもしない、幼き日の出来事。それまで挫折を知らなかった自分に、初めてそれを味わわせた男。

自分に、楔を打ち込んだ男。

その出来事自体は美沙姫も知っている。だが、雄一郎がその事にここまでの拘りを持っていることは、彼女にも分からなかった。
笑顔で話を続ける彼女に相槌を打ちながら、雄一郎は頭の隅で考える。

彼は……正刻は、公式の大会に全く出てこない。
理由は美沙姫から聞いている。家庭の事情の所為だということだが、頭では分かっていても、長年抱いた想いは解消されない。
(いつになったら彼と闘えるのだろう……。)
知らず知らず、拳に力を込めてしまう。彼がここまでの実力を得たのは天賦の才も持ち合わせていたからであるが、それよりも、正刻と再び
闘う日に向けて鍛えに鍛えたことが大きかった。

(早く闘いたい……彼と……!)
中学からずっと、雄一郎は公式戦では無敗であった。もちろん苦戦したことはあるし、強敵も多い。
だがそれでも。幼い時の、あの闘い。正刻と闘った、あの試合の時のような気持ちになれた事は一度も無い。
初めて遭遇した、同世代で自分と互角以上に渡り合う相手。
子供離れした闘志とプレッシャー。
そんな相手を前にした時、幼いながらも自分は確かに闘う喜びに震えていた。
自分の力と技を全てぶつけられる相手。そして、それらを全て受け止め、更に自分の力を限界以上に引き出してくれる相手。
雄一郎にとって正刻とは、そのような存在……まさしく『好敵手』であったのだ。
147絆と想い 外伝2:2007/09/05(水) 00:50:26 ID:VBKtDBD0
「雄一郎君?」
美沙姫に名を呼ばれ、雄一郎ははっと気がついた。どうやら考え込んでしまっていたらしい。
「あ、ごめんね美沙姫さん。ちょっと考え込んじゃって……。」
「いえ、別に大丈夫ですよ? それより貴方がそんなに考え込むなんて。また正刻様と闘いたいと考えていたのでしょう? 違います?」
美沙姫にそう言われた雄一郎は、苦笑しながら頭をかいた。
「参ったね、お見通しか。……そう、彼といつになったら闘えるのかなってね、そんな事を考えてたんだ。いけないよね、本当ならIHの
 事を考えなくちゃいけないのに。」

それに、と雄一郎は続けた。
「彼が、今でも僕と互角以上に闘えるレベルでいるかは……疑問だしね。」
雄一郎は、正刻が兵馬の道場で修業を積んでいることは知っていた。
だが、それで果たして今の自分に匹敵するような腕を正刻が持っているかは、正直分からなかった。
正刻の才能は認めている。だが、十分に修行が出来るような環境だとは言いがたい。
それが唯一、雄一郎が不安に思っていることだった。

しかし。

そう言う雄一郎を見ながら、美沙姫は微笑んで言った。
「大丈夫ですよ。正刻様は貴方の期待を裏切りません。そして貴方はきっと、再び正刻様と相見えることになります。私が彼と再び出逢う
 ことになるように。必ず。」
はっきりと言い切る美沙姫を、驚いた顔で見返しながら雄一郎は言った。
「ずいぶんはっきりと言い切るんだね……。何か根拠はあるの?」
そう問う雄一郎に、美沙姫は少し胸を張りながら答えた。
「根拠なんてありません。強いていうなら、女のカンです。」

その答えを聞いて思わず脱力する雄一郎に、にこやかな笑みを浮かべながら美沙姫は言った。
「馬鹿にしたものじゃありませんよ? 結構当たるんですから。それに、そういう機会はふとした拍子に訪れることもありますから。そう
 考えていた方が、その瞬間が訪れた時に適切な行動をとることが出来ますからね。」

にこやかにそう言う美沙姫を見ていた雄一郎はぽかんとしていたが、やがて笑みを浮かべると、ゆっくりと頷いた。
「そうだね。それに何より僕にはやるべきこともあるしね。まずはそちらを優先させないと、ね。」
「そうです。団体戦は五連覇、個人戦は貴方の二連覇がかかってますからね。頑張って下さい。」
「そっちこそ。今年こそは個人も団体もIH制覇出来るように、ね。」

そうして二人はひとしきり笑いあった後、それぞれの家路へとついた。

高村正刻と京極雄一郎、この二人が激突する時は、意外と早く訪れることになるのだが、それはもう少し先のお話。

148名無しさん@ピンキー:2007/09/05(水) 00:53:45 ID:VBKtDBD0
以上ですー。

温泉編はエロシーンを加えたら膨大な量になってしまったので、現在再構成中ですー。

それと、男の新キャラを出しましたが、NTRはありません。

キャラや伏線ばっかり増えてしまって反省してます。もう少し早いペースで投下出来る様頑張りますー。ではー。
149名無しさん@ピンキー:2007/09/05(水) 01:49:02 ID:RcOktIYv
なんだ、平日にもかかわらずこの恐るべき職人コンボは…!

>>140
遂に関係を持ってしまった二人!まだ続きますか。楽しみで仕方がない。GJ!

>>148
温泉編wktk!誰のエロシーンなんだ誰の!まさか全員と…楽しみだ。待てるかな俺w
150名無しさん@ピンキー:2007/09/05(水) 03:10:56 ID:fAYkHM+1
平日なのに幸せすぎる・・・
>>140ついにですな・・・・
GJです!

>>148GJ!温泉編も待ってます。
151名無しさん@ピンキー:2007/09/07(金) 00:40:11 ID:jAMc3nIg
投下させていただきます
関西弁が苦手な方はスルーしてください


 なぁなぁ、ひろちゃん。

 なに?

 ゆきとけっこんして。

 はぁ?なんで?

 ゆきなぁ、ひろちゃんのこと、すきやねん。

 しらんわ。そんなもん。ゆきみたいなんタイプちゃうし。

 ひろちゃん、ひどい…。

 どーしてもっていうんやったら、ほれさせてみて。そしたら、けっこんしたるわ。

 ほんま?!やくそくやで!わすれたらあかんで!
152ひろ ゆき:2007/09/07(金) 00:40:55 ID:jAMc3nIg
「俊之ぃ!宿題教えてー!」
 広子はノックもせずに俊之の部屋に飛び込んだ。
 俊之は勉強机の椅子に座り、顔だけをこちらに向けて広子を迎え入れる。
「お前の場合は教えてじゃなくて、代わりにやれやろ」
 俊之は椅子をくるりと回し、体をこちら側に向けた。
「たまには自分でやったら?」
「自分でできるんやったら、とっくにやってるわ。問題が難しすぎんねん」
「それはお前が勉強しぃひんからやん。お前、テストとかどうすんの?」
 広子はそれにへらりと笑って答える。
「まぁ、そん時はそん時。どうにかなると思う」
 宿題のプリントをピラピラさせながらローテーブルに置くと、広子はテレビの前へと移動し、いそいそとゲーム機を起動させる。
「おい。ちょい待て、コラ。人に宿題やらせといて自分はゲームか」
「だって、俊之が宿題やってる間、あたし暇やん」
「お前には感謝の気持ちというものがないんか」
「じゃあ、お礼にあたしの使用済みパンt…」
「いらんわ!」
 俊之は広子の発言を遮るように広子の顔面にクッションを投げつけた。
「乙女に向かって何すんねん!」
 広子はクッションを投げ返したが、俊之はそれをいとも容易く両手で受け止める。
153ひろ ゆき:2007/09/07(金) 00:41:34 ID:jAMc3nIg
「ほー。乙女ねぇー」
「なんか文句あるん!?」
「別にー」
 可愛くないと広子は思った。昔はあんなに可愛かったのに。
 広子と俊之は所謂お隣さんだ。物心ついた時にはもうすでにいつも一緒にいた。
 俊之の家が共働きだったため、彼は毎日のように広子の家に預けられていた。
 そこで、俊之は広子と兄弟のように遊んだり、広子の母によって、広子のために買われたが広子が着なかったフリフリの服を着せられたりしながら過ごしていた。
 あの頃の俊之は本当に可愛かった。見た目も勿論可愛かったが、何より性格も可愛かった。
 今のように広子を馬鹿にする態度は取らなかったし、それどころか、ひろちゃん、ひろちゃんといつも後ろに付いてくる従順な犬、否、刷り込みされたヒヨコのようであった。そして、ひろちゃんすきーととろけそうな笑顔で言ってくるのだ。
 しくったなぁと広子は思う。あの頃の広子はミステリアスな色気漂う紫レンジャーが好きだったのだ。まさか、自分が俊之に惚れるとは思ってもみなかったし、ましてや、俊之が自分に対してこんな態度をとるようになるとは夢にも見なかった。
 あの頃に手込めにしていればと何度後悔したことか。
154ひろ ゆき:2007/09/07(金) 00:42:50 ID:jAMc3nIg
 今や俊之は広子を追いかけてくるどころか、追い越してしまっている。
 身長は広子よりもかなり高いし、力も随分強くなった。勉強もよくでき、高校も公立の進学校に通っている。ちなみに広子は家から一番近い中の中の高校だ。
 成長に伴い、好みも変わったようで、今の俊之は、広子とは正反対の純情可憐な女の子がタイプらしい。俊之は隠しているつもりなのかもしれないが、純情可憐を売りにしているアイドルの写真集がこの部屋にあることを広子は知っている。
 ゲームをしながら、俊之をそっと盗み見る。
 今のところ、俊之には彼女が居ないらしいが、それも時間の問題だろう。
 中学は二人とも同じところに通っていたが、俊之はもてていた。元々、中性的で整った顔をしており、勉強もでき、性格もそんなに悪くない。バレンタインでは、毎年たくさんのチョコを貰っていた。まぁ、そのチョコは全て広子の胃袋行きへとなったのだが。
 俊之はなぜか中学では誰とも付き合わなかった。しかし、高校ではそうもいかないだろう。きっと、俊之が通っている高校には、俊之好みの純情可憐ちゃんがうじゃうじゃいるはずだ。
「うしっ!終わったぁ!」
 俊之が手を上に挙げ、ぐぐっと伸びをした。
155ひろ ゆき:2007/09/07(金) 00:43:49 ID:jAMc3nIg
 シャツの裾が持ち上がり、脇腹がチラリと覗く。女とは違う堅そうな肉。
 広子は一瞬目をそらしかけたが、しっかりとそれを目に焼き付けた。
「あー。疲れたー」
 俊之は首をコキコキと鳴らし、肩を叩いている。
「マッサージしたろか?」
 広子はごく普通に提案したが、俊之は顔をしかめた。
「ほんまに?お前が言うとなんか裏がありそうで怖い」
「そんなんないない。ただの感謝の気持ちやん」
 そう。何もないに決まっている。俊之に触ってみたいだなんて不埒な気持ちは全くない。
 こちらに背中を向ける俊之に近づく。後ろで膝立ちになると肩へと手を伸ばした。
「あー。堅いなぁ」
「やろ?めっちゃこってんねん。誰かさんの宿題して。もっと労って」
 その言い方が非常にムカついたので、親指に力を込め、思いっきり肩を押さえてやった。が、俊之は気持ちええわぁなどとほざいている。
 きっと、もう何をやっても広子が俊之より優位に立つことはないのだろう。広子が精一杯でも、俊之はそれを軽々と飛び越して行く。そして、広子が追いかける間もなく遠くへと一人で行ってしまうのだ。
「どしたん?」
 急に元気のなくなった広子を心配してか、俊之は声をかけてきた。
 その声が優しくて。
 広子は思わず、その広い背中へと抱き付いた。
 すると、俊之は広子が想像した以上に面白いほど反応した。
「ななななななな何してんねん!お前!」
 体は飛び上がり、硬直している。顔を見てみると耳まで赤くなっている。
 広子は思わず目を丸くして驚いた。俊之がこんなにも動揺しているところを見るなんて初めてかもしれない。
 まだ、自分にも主導権が握れることがわかり、広子はニヤニヤと笑いながら、広子を剥がそうと躍起になっている俊之の背中へとますます強くしがみついたのだった。

投下終わります
156名無しさん@ピンキー:2007/09/07(金) 01:17:34 ID:ztNR1jt2
GJ! 関西弁の幼馴染も良いね! 続きを待ってます!!
157名無しさん@ピンキー:2007/09/07(金) 07:01:12 ID:VEK8Y8Sa
Gじょ大お大尾大おおおおおおおおおおおおおおおぶ!!!!!!1
ラスト7行にやられた!
158名無しさん@ピンキー:2007/09/08(土) 07:11:59 ID:o9ZlKoi7
何という可愛い性格・・・
GJ!!
159 ◆QiN.9c1Bvg :2007/09/11(火) 14:10:49 ID:vyd3BWKx
少し久しぶりになります。
前スレ>>461-463及び>>516-523

及び>>92-99の続きです。


以下投下↓
160防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/09/11(火) 14:14:47 ID:vyd3BWKx
第三章「難しい『ありがとう』」




 授業終了のチャイムが鳴り、ホームルームが終わると教室の空気が溶けた気がした。だけど、いつもと
違って授業が終わったばかりなのに教科書を開いて何やら確認しながら頷いている者もいれば、ノートを
挟んで何やら話し合ってる人もいる。
 あたしは憂鬱な気持ちでその光景を眺めていた。窓の外に見える青い空と太陽が恨めしい。季節は七月の
初旬。そしてあたしは中学生。となると、そこから導き出される結論は――
「勇希、おつかれさん……と、なんや、目死んでるで」
「静は、元気そうね……」
 下園さんと三ヶ月前には呼んでいたのにすっかり仲良くなったものね、とあたしは思った。ただ、その兵庫
生まれ宝塚育ちの神戸仕込で仕上げは大阪と自称する関西弁はちょっとアレだけど。
「そりゃ元気になるよ、明日から授業全部半ドンなんやで? 遊び倒せるやんか」
「明日から期末テストってこと解ってて言ってるの?」
「別にテストやから勉強し直すなんて面倒なことせんでいいやん、普段の実力きっちり出せれば普通にええ点
取れると思うけどなぁ」
「正論過ぎる正論どうも」
161 ◆QiN.9c1Bvg :2007/09/11(火) 14:17:03 ID:vyd3BWKx
 静は頭が良かった。いや、要領が良いと言うべきかも。授業中寝る事は絶対にしなかったし、ノートは
きっちり書き、提出物は全て提出。言うことを信じるのであれば普段から予習復習もきっちりやってるらしい。
 ちなみにあたしは正反対。授業中は寝てるし、ノートはところどころ抜けてたり読めなかったり。提出物は
期限に遅れることも多く、予習復習などについては……まぁ、そうゆうわけで。
 テスト前なので当然部活は無い。もうじき防具を付けれるところまで来てるのに……うう。
「勇希ちゃん、終わったよ」
 掃除当番でさっきまで細かく動き回っていた和美が鞄を手に言った。
「じゃ、帰りましょうか。ん?」
 変なものに気付いて、手を伸ばす。
「和美。頭にほこりの塊が乗っかってるわよ」
「え、どこ?」
「取ってあげるわよ、ほら」
 あたしは和美に一歩近づくと頭をほこりを払い除けてやった。
「ありがと、勇希ちゃん」
「全く、どこで付けて来たんだか」
「なぁ、あんたらホントに付き合ってないんか……?」
 そんなあたしの振る舞いを見て、静がもうこの三ヶ月で数え切れない程した問答を仕掛けてきた。あたしは
腰に手を当ててやれやれと苦笑した。全く、そんなんじゃないってのに。
162 ◆QiN.9c1Bvg :2007/09/11(火) 14:19:20 ID:vyd3BWKx
「しつこいわねぇ、あたしと和美は幼馴染よ。幼馴染。全く。クラスの皆もなんでそんなねちっこく聞いて
来るんだか」
 この受け答えはもうそれこそ飽きるほどやった。剣道部でも普通に彼氏彼女の関係に間違えられかけた。
あたしはどこを見てそんなことを言ってるのかと聞き返してやりたかった。いや、実際聞き返してみた。
すると「バカップルぽく見えるから」とか返された。もう意味が解らない。
 あたしたちの間では普通であることをちょっと違うんじゃないか、と言われても、ね。
「なんでっても言われても、うーん……なんちゅーか、その……全体的に、近い」
「近いって?」
「物理的な距離とか、心理的な距離とか?」
「言ってる意味が全然わかんない」
「そう見えるんやって。実際一週間の内に三度は島本くんの手作り弁当食べてる人が言うても説得力ないで」
 はぁ、と溜息を付いた。今日はこんなことをしてる暇は無いのだ。
「はいはい、付き合ってないから。この話はお終い。和美、行きましょ」
「なぁなぁ、島本くん。本当は付き合ってるとかじゃないん? 実は付き合ってるけど言うのが恥ずかしい
から隠してましたー、って言う展開ちゃうの?」
「え、えっと……」
 話の矛先が振られると思ってなかったのか、和美は戸惑いの声を出した後、あたしの顔をちらりと横目で見て、
「勇希ちゃんの言うとおり、なんだけど」
 結局、あたしと和美が退散するまで静は「納得いかんなぁ」と呟き続けていた。
163防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/09/11(火) 14:21:24 ID:vyd3BWKx
「全く、参ったわね」
 帰り道、あたしは肩を落としながらひとりごちた。
「テスト?」
「うん、そー」
 そこで、よくカップルと間違われること?と和美が言わないところは阿吽の呼吸だ。
「初めてのテストでああだったから自信がないわ……」
 ちなみに初めてのテストの結果は家族会議が開かれるほどの出来だった。うん、あの時の母さん……
すっごく怖かったなぁ。床に正座させられたし。
「対策とかは?」
「ヤマ貼って一夜漬けして分の悪い賭けを一点張りってとこじゃない」
「ちなみに、勝ち目は?」
 その問いにあたしは答えない。わかりきっているからだ。
 しばし無言で歩いた後、和美が言った。
「勉強……教えようか?」
「あー、うん、それは、頼もうかなー、と思ってたんだけど」迷惑でしょ?という言葉を呑み込む。個人的に
足手まといになるのは大キライだ。和美なら、なおさら。
「教えるのって、教える側にも勉強になるんだよ」
 和美があたしの言葉を遮って話した。
「教える内容のことがきちんと理解できてないと教えることなんてできないから、復習には最適!……って
下園さんが言ってた」
164防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/09/11(火) 14:23:34 ID:vyd3BWKx
「静が?」
「どーせ勇希のことやからテスト対策何もしてへんやろ、島本くん助けたりやー。愛の共同作業は千里の
道も一歩からやでー、とも言ってたけど」
「静〜……」
「あはは。で、どうしようか? 一緒にするなら夕食後に行くけど」
「う、うう……」
 願ってもないこと!と飛びつくのは簡単だけど、簡単だけど……迷惑は。でも、なぁ。また真っ赤な点が
付いたら部活禁止だってありそうだし。母さんにいらない心配かけるのも嫌、だし……やっぱり……
「じゃあ、任せて……良い?」
「うん、任された」
 和美があたしの肩ぐらいにある顔を笑顔にして嬉しそうに頷いた。
「なんでそんなに嬉しそうなの? 面倒を抱え込んだー、みたいな顔してもおかしくないのに」
思った事をそのまま聞いてみる。すると、和美は後ろに短く縛った髪の毛を犬の尻尾のようにぴっこり揺らして、
「なんでだろうね」
 と笑って答えた。
 そのいつも通りの笑顔を見てあたしもなんだかおかしくなってふふ、と笑ってしまった。
 和美に迷惑をかけている、という少し後ろめたい気持ちがもう無くなっていることに気付いたのはあたしが家に
帰ってからのことだった。
 もしかして、あたし手玉に取られてる……?
165防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/09/11(火) 14:25:44 ID:vyd3BWKx
 夕飯(レトルトのカレー)を食べて、十五分くらいして、休んでいると予定通り和美が現れた。会場は
あたしの家。和美の家を使うと(とゆうか、和美の部屋にいると)和美のお母さんとお父さん――おばさん
おじさんが何やかんやと理由を付けて部屋を覗きにこようとするからだ。理由は知らない。聞いてみても
意味深に笑うだけで答えてくれないし……ま、そんなわけで最近は何かあったら邪魔が入りにくいあたしの
家を使うことが多い。
「勇希ちゃん、おばさんはまた?」
「遅くなるって。今日中には帰って来ないかも」
「最近、また忙しいみたいだね」
「しょうがないわよ……と、それじゃお願いします」
「うん」
 こうして勉強会が始まった。どこがわからないのかわからないあたしに対してもう全てを教えるのは時間的に
無理なので試験の範囲内を要点だけ踏んで教えて貰う。あ、今の歴史、あたしが思ってた範囲と全然違うとこ
やってる……マズかったー!
 そのまま休憩を挟みつつ三時間ほど。一人だったらこんな風に出来なくて今頃、後は野となれ山となれ気分で
寝てるだろうな、と思いつつ集中。気が付けば、もう時計は十時を指していた。
 この辺にしておこうか、という和美の言葉でお開き。その後、あたしがそこまでしなくても、と言ってるのに、
折角だから、と言いつつ夜食まで作ってくれた。内容は和美が持って来た夕食で余ったご飯を使った、中身が
入ってない塩だけのおにぎりが二個という素朴なものだけど、何故か驚くほど美味しかった。
166防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/09/11(火) 14:28:37 ID:vyd3BWKx
 あたしがおいしい、と言うと和美はいつものように嬉しそうに笑って、いつものように、
「ありがとう」
と言った。
 あたしはその言葉が頭から離れなかった。和美が帰って、お風呂に入りながらもずっとその事を考えていた。
 お礼、言わないと。
 ありがとうと言わなきゃいけないのはあたしの方だ。なんで言いそびれてるんだあたし。『あたしも今日は
ありがとう』って言えば済む話だったのに。
 鼻の下くらいまで湯に沈めて思う。特に、最近は。
 急いでお風呂を出て、髪を乾かすのもそこそこに自分の部屋に駆け込む。窓を開けた。目の前には和美の
部屋の窓がある。電気は点いていた。こういう時のために部屋に常備してある棒で窓を軽く叩いた。すぐに窓が
開いた。
「どうしたの?」
 和美もお風呂に入った後なのか、パジャマ姿だ。普段括っている髪も括っておらず、いつもとちょっと違った
印象に見える。
「あ、うん、ちょっと、ね」
 まずい、なんか、ちょっと言うだけなのに、改めて言おうとすると……すごい照れくさい。ええい、ガマンしろ
あたし。ここで言わないのもよっぽどどうかだ。
「和美、その……ありがとね、最近色々面倒見てくれて」
「え」
「頻繁に朝ごはんとかお弁当とか作ってくれるし、今日みたいに勉強とかもそうだし……ちょっと、いや、えーっと、
かなり、感謝、してるから。そ、それだけだから! おやすみ!」
167防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/09/11(火) 14:31:22 ID:vyd3BWKx
「ゆ、勇希ちゃん!?」
 和美が何か言おうとしたのを聞かずに窓をカーテンを閉める。心臓がやけにうるさいのはさっき階段を
急いで駆け上がったからよね。うん、きっとそのはず。
 明日朝に顔を合わせたらどんな顔をしようか、と思って激しく後悔して、どうとでもなれと開き直った後、
とっとと済ませるべきことを済ませてあたしはベッドに入った。ちょっとだけカーテンをめくって和美の部屋の
様子を伺う。もう電気は消えていた。何となく安堵の溜息を付いて、部屋の電気を消した。
 そういえば、と目を瞑りながら思った。
 そういえば、昔はあたしが和美の面倒を見てやったことが多かった……はず。いつから、こんなカタチに
なったんだっけ?
 最近じゃない。
 最近になって急に和美がこんな風にしてたらあたしは気味が悪がってたと思う。でも、そんな気持ちを
感じた記憶は無い。だとすると。
 ずっと昔……からこうだったっけ?
 昔? どのくらい昔?
 記憶を手繰る。今。一年前。二年前。三年前。四年前――あ、そうか。なんで気付かなかったんだろう。
 あんなにもくっきりとあの時から変わってたのに。ひどい時期だったからかな。それともあたしが鈍感な
だけ、か……も。
 それきり意識は闇に吸い込まれた。

 翌朝、少しばかりきまずい思いをした後でさっくりと元に戻ってテストを受けた。結果を述べるなら、赤くは
なかったと言っておこう。
168防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/09/11(火) 14:34:05 ID:vyd3BWKx
以上、投下終了です。

相も変わらず話に脈絡が無くて済みません…
何とか次も早く完成させようと思っています。できればお付き合いください。
169名無しさん@ピンキー:2007/09/11(火) 14:36:03 ID:L85KJm3F
リアルタイムGJ!!!!!!!!
ニヤニヤがとまらないんだぜ?
170名無しさん@ピンキー:2007/09/11(火) 15:24:18 ID:GfknvrLX
勇希かわいすぎだろ…それ以上に和美が(ry
GJ!この微妙に拙い関係が中学生っぽくていいですね。
171名無しさん@ピンキー:2007/09/15(土) 09:43:36 ID:dQdcu2HV
GJ!!

とりまもう外では読まないwwwww
172 ◆QiN.9c1Bvg :2007/09/15(土) 10:21:49 ID:nc6El9x0
ちょっと連投気味になってしまいますが、失礼します。

前スレ>>461-463>>516-523
及び>>92-99>>160-167の続きです。

以下投下↓

173防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/09/15(土) 10:23:51 ID:nc6El9x0
第四章「夏休み、『一年目』」




「あー、やっと、終わった……」
 九月二日、日曜日。夏休み最後の日。だからこそ、あたしは朝から家に引きこもって自室で夏休みの
清算をしていた。机の脇には山積みになった完了済み夏休みの宿題。もちろん、解答を写して、ところ
どころわざと間違えを作ってあるものだ。
「あとは……これだけね」
 『夏休みの日記』と書いてある大学ノートを取り出す。なんでこんな面倒な宿題出すかなぁ、うちのクラス
だけ。まぁ、ちょっと楽しかったからいいけど。
 何とはなしに日記のページを繰る。あ、この日はわくわくしたのよね。

 七月二十四日 火曜日 天候:晴れ
 今日は剣道部の練習で初めて防具を付けた。前の日に秋水先生にその旨を言われていたので、ドキドキした。
実際付けてみてかなり動きにくいけど、ようやく剣道が始まったって言う気がする。島本くんを見ると、防具に
着られているという感じで皆の笑いを誘っていた。
174防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/09/15(土) 10:25:58 ID:nc6El9x0
 解ってはいるけど、和美のことを島本くんって言うの気持ち悪い……提出用の日記だから仕方がないん
だけど、もうちょっと……ねぇ。
 ペラペラとページを捲る。ずーっと剣道部のことが書いてある。他の事する暇なんて無かったし……八月の
初旬に四日程度、剣道部の合宿に行ったことくらいかな?

八月一日 水曜日 天候:晴れ
 今日から剣道部の合宿。……ものすごくきつい。島本くんに至ってはバテて夕食をまともに食べていなかった。
他の一年生も食欲旺盛と言う感じではなかった。明日が不安だ……

八月二日 木曜日 天候:曇りのち晴れ
 午前中、何があるのかと怯えていたら、秋水先生の提案で今日は泳ぐぞ!とのこと。合宿所から海は近い。
全員生き返ったようにはしゃいで泳いだ後、秋水先生が嬉しそうに言った。
『じゃ、練習と行こうか』
全員はしゃいで泳いだので疲労が既に溜まっていた。……ひどいめにあった。
島本くんは全てが終わった時、声も出せないくらい疲れていたが、大丈夫だろうか。

あとの二日は――ああ、似たような内容を書いてある。よく日記書く余裕があったな、あたし。
で、帰ってきて、一日休養、と。何したっけ。
175防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/09/15(土) 10:28:30 ID:nc6El9x0
八月五日 日曜日 天候:晴れのち夕立
 夕飯の買い物に行こうと、午後三時くらいに家を出たら島本くんと会った。丁度島本くんも夕飯の買い物に
行くところだったらしい。折角だから一緒に行こう、と誘うと今、島本くんに『今日は一緒に晩御飯食べない?』
と誘い返される。悪い気がして断ろうと思ったけど、やっぱりたまには良いかな?と思い直して有難く誘いを受ける。
 ところが、買い物をした帰りに運悪く夕立に降られて、二人荷物を抱えながら走って帰る羽目になった。止むまで
待った方が良かったかな。
 島本くんの家族とも一緒に食べた晩御飯(ハンバーグ)はとても美味しかった。

 そういえば、着替えてくるから、またねって言って一旦別れた時、和美の顔が赤かったのはなんでだろう。
夕焼けの光が差してたのを見間違えただけかな。
 それでまたずーっと練習。八月十五日は父さんに会いに行ったから休み、また練習。そして最後の最後、
九月一日と九月二日は休み。これは夏休みの清算――宿題とか片付けとけよ、っていう秋水先生の意思
なんだろうな、宿題忘れが後びいたせいで練習に影響を出させることは許さん、っていう意味の。
 それにしても、と日記を一通り読んであたしは思った。
 何かやり忘れてることがあるような……? ま、いいか。
 あとは今日の分の日記を書いたら宿題は完了! うん、我ながらよくやった。和美と一緒に宿題を出来たのも
大きかったし。さて、今日の夕飯どうしようか――
その時、チャイムが鳴って玄関の鍵が開く音がした。和美?
「勇希ちゃん、いる?」
176防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/09/15(土) 10:31:12 ID:nc6El9x0
「いるわよー」
 扉の隙間からひょっこり和美が顔を出した。
「どうしたの、こんな時間に」
 問いかけに和美はにっこりと笑って答えた。
「お祭り、行かない?」
「お祭り? あったっけ?」
「うん、花火大会」
 花火大会かー……そっか、なんかやり忘れてると思ったらまだ今年はそういうイベントに顔出してなかったからか。
「じゃ行こう。待ってて、すぐ準備してくる」
 家の奥にパタパタと走りながら気持ちがうきうきするのは止められなかった。祭りや花火と聞いて盛り上がるのは
人なら仕方が無い事だ。
 流石に浴衣は用意できなかった。どこかにあるはずなんだけど……時間も無いし、仕方無いか。今度母さんに
聞いておこう。ちょっとのお金を持ってすぐに玄関に戻る。お待たせ、と言いながらビーチサンダルを履いて、出て
鍵をかける。夕陽で赤く染まった道を二人で並んで歩き出す。
「いよいよ明日から学校だねー」
「そうねー。あーあ、冬休みが今から待ち遠しいわ」
 なんで秋休みって無いのかしら。他の季節は休暇が全部あるのに。不公平じゃない?
 和美は勇希ちゃんらしいな、と言うように笑った。でもね、とあたしは言葉を続けた。
「クラスの友達と会うのは結構楽しみよ。色々と変わってそうだし。例えば、身長とかね」
177防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/09/15(土) 10:33:23 ID:nc6El9x0
「勇希ちゃん、なんで僕を見ながら身長って言うのかな……」
「中々伸びないわねぇ、って言う意味だけど?」
 あたしよりひとまわり以上小さい和美の頭をぽんぽん、と叩く。
「もう、ひどいなぁ。今にぐーんと伸びて、勇希ちゃんを追い抜くかもしれないじゃない」
「和美がぁ?」
 後ろで手を組みながら、ちょっと前かがみになって和美の全身を眺める。
「へー、和美がねぇ〜そうなると良いわねぇ」
「勇希ちゃん!」
「冗談よ、冗談!」
 なんてふざけながら歩く。和美があたしより大きくなるなんて想像できないなぁ、とも思いながら。
 二人で話しながら歩くと会場まであっという間だった。ところどころに浴衣を着ている人がいて、会場に近づいて
いくにつれその割合が増していく。どこか浮ついた空気も辺りに充満してくる。
 夜店があるような位置まで行くと、夕陽が遠くの山の稜線に沈んで闇が辺りに撒き散らされた。でも、花火が
上がるまだ時間がある。
「時間あるし、夜店見てこうよ」
「いいわね、じゃその辺適当に」
 そう思って歩きだそうとしたけど、
「やっぱり人多いね……わっ」
178防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/09/15(土) 10:35:32 ID:nc6El9x0
 夏休み最後の日だけあって、人の密度が凄い。人の波に押し流されそうになる。和美が言ってる傍から
流されそうになっている。
「ほら」
 あたしは昔よくしてたみたいに和美の手をしっかりと握った。ちょっと違和感。何だか昔より和美の手の皮が
固くなった気がする。何故かびっくりした表情をしている和美の手を強く引っ張った
「これで大丈夫でしょ」
「う、うん」
 昔はいつも、こうだったなぁ。泣きべそかいてる和美の手を握って、あたしが守るように引っ張ってそれで――うん、
懐かしい。いつの間に、こんなことしなくなったんだろう?
 そうして手を繋いだまま夜店を冷かしたり、食べ物を買ったり、くじを引いてみたり。途中、テキ屋のおじさんに
何回もカップルと間違えられたり。違いますってば、もう。なんて言ったりしていると重く低い音と共に夜空に大輪の
色とりどりの花。そこいらに人が座り込んで空を見上げている場所に移動して、その仲間になる。
 どどーん、ひゅー、ぱららららら……どどん、ぱぱぱぱぱぱ……
 時々周囲の人の歓声が混じる。あたしも時々「おー」とか言ってみたり。
途中、ちらりと横を見ると、和美と目が合ってしまった。慌てたように目を逸らされる。
「和美、何?」
「い、いや、なんでもないよ」
「そんな言い方されたら気になるじゃない。何か顔にでも付いてた?」
「そうじゃなくて、その……」
179防人と柱 ◆QiN.9c1Bvg :2007/09/15(土) 10:38:23 ID:nc6El9x0
 途中で和美の声が聞こえなくなるくらい小さくなっていく。変わってないなぁ。なんでその事が嬉しいんだろう、あたし。
 やがて、最後に一際大きい花火が上がったと思うと、それを最後にぷっつりと上がらなくなった。
『花火大会は終了しました。お帰りの際は混雑に気を付けて……』
 近くのスピーカーから大音量でそんな声が流れてくる。
「終わったわね」
「……うん」
 二人の間に何とも言えない空気が流れた。あの祭りが終わった時の何とも言えない寂しさだ。例えば、夢から
覚めたと言ったような。
 気が付けば、手はまだ繋いだままで、無言で帰路に着いた。でも気まずいわけじゃなくて。余韻を感じていたい、
って感じ
 そのまま家の前まで着いた。今までずっと暖かかった手から温もりがするりと抜け落ちていった。
「それじゃ、おやすみ」
「うん、おやすみなさい」
 すると、和美は一度背を向けたかと思うと、はにかむように笑って言った。
「また来年」
「うん、また――来年」
 家に入る。パタン、と扉を閉めた。ほっと息を付いた。寂しいけど、心には暖かさがあった。
 日記、書かなきゃ。最後にはこう書こう。
 ――いい夏休みでした、って。
180 ◆QiN.9c1Bvg :2007/09/15(土) 10:40:39 ID:nc6El9x0
投下終了です。

時間が滅茶苦茶飛んでます。何とかわかりやすいように書く方法考えてます…
またしても山がありませんがご容赦ください。
181名無しさん@ピンキー:2007/09/15(土) 10:50:48 ID:g+HNmS/i
おお続き来ましたか。
日記いい感じ。和美に身長UPフラグがwまあフラグてか大抵の男子は伸びるものですが。
GJ!一年目ということは二年目三年目もあるということですな。wkwktktk
182名無しさん@ピンキー:2007/09/15(土) 11:26:56 ID:jV54Pi6a
日記が極めて島本w
183名無しさん@ピンキー:2007/09/15(土) 11:35:21 ID:RTCSIRf0
夏休みの自由研究の題名は、『島本の観察』w

早く、大きくなぁれーって言いながら、水やら餌やらをどんどんやるの
184名無しさん@ピンキー:2007/09/15(土) 11:36:19 ID:Afd044Uo
これは提出された日記を見る先生もニヤニヤを禁じえないw
185名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 10:13:59 ID:bfJe2L2T
age
186名無しさん@ピンキー:2007/09/17(月) 22:45:40 ID:yd0VkY/j
誰もいない予感
187名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 00:00:33 ID:ALiLT3sB
いるぜ
188名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 03:09:18 ID:aPhhcrfM
ヘ主
189名無しさん@ピンキー:2007/09/23(日) 06:03:31 ID:dbm6zqBe
age
190名無しさん@ピンキー:2007/09/26(水) 14:47:47 ID:r3CSvnEW
ほす
191名無しさん@ピンキー:2007/09/28(金) 04:08:07 ID:o1+Fww1B
保守
192名無しさん@ピンキー:2007/09/30(日) 20:41:35 ID:jY+W1Rdd
山井勝利オメ保守
193 ◆6Cwf9aWJsQ :2007/10/01(月) 00:00:36 ID:etXuYekJ
投下
194シロクロ 15話【1】:2007/10/01(月) 00:02:36 ID:etXuYekJ
一年前のような冬に似合わない暖かな朝の陽射しが俺の部屋に差し込んでくる。
つーか昨日の大雨が嘘のような雲一つない晴天だよコンチクショウ。
が、今の俺にはそんなことはどうでも良かった。
「・・・なんで?」
気がつけば俺は、綾乃の胸を枕にして眠っていた。
それも前のボタンをはずし、ブラすらも着けずに素肌を半ばほど露わにした彼女の乳に顔を埋めて。
あまりに急展開すぎて言葉も出ない。
違うんです違うんです身に覚えはないんですああでもふにふにしてるしあったかくてやあらかいなあ
ってそんなよこしまなこと考えてる場合か。
とりあえず空気も汚れてないしお互い特に服装が乱れもしていないので何もしていないのは分かる。
だがこのままじゃ終わらんつーか今更朝チュンで終わってたまるかって何の話だ。
幸い口元に余裕があるのである程度呼吸は出来、
漫画にありがちな『女の子の胸に顔を埋めて窒息』というマヌケな事態に陥る心配はない。
が、ちょうど彼女の胸の谷間あたりにある俺の頭から、
彼女の細い腕と髪、そしてとてもたわわな乳房の低反発枕のような――もってないので想像だが――
確かな弾力と柔らかな感触が伝わってきて心地よい。
が、俺の視界は綾乃の乳房で殆どが埋まっており、
その上シャツの下の乳の先端が見えそうで見えないけど乳輪がチラリと見えてしまって落ち着かない。
・・・この下の方の俺が元気なのは朝だからだきっとそーだそーだといって俺その2。
とはいえどうしよう。そもそも昨日風呂を上がってからの記憶がないし。
今が朝なのは分かるけど寝るまでになにやってたかはド忘れしてしまった。
この状況をどうにかしたいのは山々だが、
身体を綾乃に抱きしめられている為下手に動くことすら出来ない。
ついでにいうと今の綾乃はあどけない寝顔を浮かべて無防備極まりなく、
いい夢でも見てるのか幸せそうに笑っておりとてつもなく可愛い。
けど流石に寝てる間に襲うのはマズいので今はこの乳の感触でガマンしよう。
・・・けど何でこんな状況になったんだっけ?
寒い冬の朝と対照的に暖かい綾乃の体温を直に感じながら、
俺は寝起きで回転の鈍い頭を必死に働かせて昨日の記憶を呼び起こす。
ええと確か――――
195シロクロ 15話【2】:2007/10/01(月) 00:03:56 ID:S9/SAdBP
――――雨音をBGMにした風呂場で肌を寄せ合う俺と綾乃。
揺れる胸。細い肢体。紅潮する頬。甘い嬌声。そして柔らかな肌。
それらが一気に脳裏に蘇り――――

だあああああああああ違う違う違う違ーう!
桃色の記憶を蘇らせてしまった俺は――綾乃を起こさない範囲で――身悶えした。
違うんですあの時の俺は俺であって俺じゃないというかつい暴走というかリミッター解除してしまって
欲望全開でカゲキにガンガンいってしまったっていうか実はあの直後顔を洗うの忘れてたから
また風呂場に戻ったらガマン出来なくなってもう一戦やらかしたりしてしまってさらにぐったりした
けど今はそのことは置いておいて回想再会。

「大丈夫?」
「・・・微妙」
心配そうな表情で俺を覗き込む綾乃にどうにかそう答える。
現在、風呂から上がった俺は自室のベッドに身を沈めていた。
実際、俺の体力はある程度は回復したものの、
体中にたまった疲労感が重りのように身体にのしかかって指一本動かすことすら億劫にさせる。
でも俺の視線は常に綾乃をとらえていた。
なぜなら、今の綾乃が着ているものは大きめな黒のTシャツに青のジーンズといった
過去に俺が着ていた服装だからだ。
結局、洗濯物の洗浄は終わっておらず現在着られる物が限られていた為、
俺が自分の服を綾乃に貸しだそうとしたところ、
彼女自身が選び、着用したものがこの服装だったということだ。
当然、彼女にとってはサイズが合わずブカブカで襟元から時折胸の谷間がちらりと見え、
その上彼女の持ってきた下着が全滅したらしく、つまり現在の綾乃は下着無しなワケだから、
いつも以上に彼女の身体のライン――特に大きく育った胸や尻――が目立つ。
ただし、ズボンだけはサイズに無理がありすぎたので中学生の頃のものだが。
見慣れたはずの自分の服も着る人が変われば印象が変わる物だと目の前の人物を見つめながら思う。
196シロクロ 15話【3】:2007/10/01(月) 00:05:08 ID:S9/SAdBP
そう考えていると、綾乃の見慣れた黒髪が俺の顔に触れた。
いつも通り艶やかな黒い――カラスの濡れ羽色というんだろうか――長髪に付けた白いリボンが、
なんとなく久しぶりで懐かしい気がして安心する。
なお、着替えシーンは間近でバッチリ見せてもらいました。もちろん合意の上で。
風呂場でも彼女の全裸は見たり触ったりしたけど、
目の前で好きな子のストリップが行われているのに見ないわけにはいかない。
・・・なんだか最近エロくなってきた気がする。俺も綾乃も。
と、綾乃は俺が先ほどから向けていたエロい視線に気付いたらしく、
「そんなにじろじろ見られたら流石に恥ずかしいんだけど・・・」
そう言いながらシャツの襟元から覗く胸の谷間を両手を重ねて隠す。
「・・・バニーとかビキニとか着て裸まで見せあったのに何を今更」
「いやー、それとこれとは別というか・・・」
よく分からないこだわりがあるらしい。
水着と下着が別物みたいなものだろうか。
そう考えていると綾乃は自分の着ている服の裾をつまみ、
「似合う?」
俺は首を縦に振って彼女の問いに答える。
そして目を合わせ直すと、綾乃は目を輝かせながら俺を見つめ返し、
「ありがと♪」
上機嫌にそういうと、俺の頭の近くに腰掛け、問いかけてきた。
「膝枕してあげよっか?」
「ああ、頼む」

――――そ、そういえばそんなこともあったようななかったような気が・・・
当時の記憶を振り返った俺は目を泳がせながら赤面した。
イージャン別に膝枕ぐらいしてもらったって彼女なんだしって誰に言ってんだ俺。
んで確かその後はただ飯喰って談笑してから夜遅くになって――――
197シロクロ 15話【4】:2007/10/01(月) 00:06:25 ID:S9/SAdBP
「一緒に寝よっか?疲れたからエッチは抜きだけど」
唐突に綾乃が出した提案に即座に俺は首を縦に振った。

ぐああああああああああああああ!!
当時の自分の行動を思い出した俺は綾乃の胸に顔を埋めて紅潮した顔を隠そうとした。
だってしょうがないだろう据え膳は食わねば男の恥って言うしいや一緒に寝ただけだ食ってねえ
確かあの時は既に何度もイかせたりイかされたりで疲れてたんで、
本番は明日ってことにして今日は寝るということで話は丸く収まったはず・・・。
いや、確かあの後――

「啓介と一緒に寝るなんて、すっごく久しぶり」
「・・・なんかその言い方いやらしいな」
「そう考える啓介の方がいやらしいと思うけど」
その日の夜。
俺達は一緒のベッドで向かい合わせになって横たわっていた。
「せまいな・・・」
「しょうがないでしょ。シングルベッドなんだし」
綾乃のいう通り、このベッドは成人2人が同時に使うようなサイズではない。
まあそれはいい。綾乃の身体がピッタリくっついて役得だし。
それよりも問題は、
「枕だって1人用のを無理矢理2人で使ってるんだし・・・」
「いいじゃない。好きな人の顔を至近距離で見つめてられるんだし♪」
「そんなに逃げなくてもいいじゃない。私たち恋人なんだし」
「・・・そりゃそうなんだけどさ」
溜め息をついた後俺は綾乃の耳元に口を寄せ、言った。
「情けないけどさ、俺、この期に及んですっごいドキドキしてるんだ」
正直に告白したら、綾乃に笑われた。
198シロクロ 15話【5】:2007/10/01(月) 00:07:45 ID:S9/SAdBP
「わ、笑うなよっ!?」
「ご、ごめん」
そういうと綾乃は目元を拭う(笑ってると涙が出てきたらしい)。
「・・・そこまで笑わなくてもいいだろ、俺がヘタレだからって・・・」
「違うよ。間違ってるよ啓介」
「は?」
なぜか二回も否定の言葉を出した綾乃はマントを翻すように腕を振り上げ、布団をはねのけ、
「私だって、すごくドキドキしてるよ?」
突然、パジャマの前のボタンを外し始めた。
俺はそれを止めることも忘れて、その仕草――というかそれによって露わになっていく彼女の肌――を
食い入るように見てしまう。
そして全部のボタンを外し終わると、綾乃は俺の頭を抱え込み、自分の乳房の谷間に押しつけた。
89センチのEカップという大きさに見合うやわらかい感触が俺の顔いっぱいに伝わってくる。
が、それ故に呼吸するスペースがない。
「・・・むぐっ・・・」
何とか頭を動かして口元だけ外気に触れさせる。
そこで一息つくと綾乃は俺と目線をあわせて質問してきた。
「どう?」
「すごく柔らかくて暖かくて――」
「いやそーゆー感想じゃなくて」
綾乃はなぜか呆れたような声音でツッコミを入れるがそれも一瞬のことで、
「聞こえる?私の心臓の音」
そういわれて――忘れていたのは彼女の胸の柔らかさが原因じゃないはずだ。多分――耳を澄ませる。
トクントクン、と割と速いペースで鼓動が耳に響いてくる。
それも平常時には出るはずのない速さの物が。
「ん。聞こえた」
努めて平静を装って俺はそう答える。
だが内心では愕然としていた。
本当はこんなに緊張してたなんて。
何で一番近くにいるはずにいるはずの俺が気付いてあげれなかったんだろう。
199シロクロ 15話【6】:2007/10/01(月) 00:08:31 ID:S9/SAdBP
と、苦笑しながら綾乃は語り始める。
「私もね、すっごく緊張してるんだ。ただ隠してるだけで」
いや、苦笑というよりは自嘲の笑みだ。
「本当はさ、啓介にだけは嘘つきたくないんだけど・・・」
そういいながら綾乃は俺から目を背け、
「ここぞという時になったら、どうしても格好付けちゃって」
「別にいいと思うぞ」
俺の言葉が予想外だったのか綾乃は目を見開かせて俺の方に視線を戻した。
それをあえて気にせずに言葉を続ける。
「格好付けたいってことはさ、その人に自分を好きになってほしいからするんだと思う。
だから、恥ずかしがるようなことでもないよ」
そこまで言うと、綾乃の顔から陰りが消え、いつもの笑みを浮かべたものに戻っていた。
そして俺の額に軽く口づけて、
「ありがとう」
「おう」
いつも通りの簡単な会話。
だが、これだけでもお互いの気持ちは伝わる。
直接口に出していない部分も含めて。
――――気付いてあげれなくてごめん。
――――今の今まで黙っていてごめん。
・・・もしかしたら、俺達って結構似てるとこがあるのかもしれない。
言葉にすれば『にてる』の三文字で済むこと。
その些細なことがことが今はなんとなく嬉しい。
とか考えてると、急に眠くなってきた。
と、綾乃はそれを敏感に察知したらしく、
「このまま寝る?私の胸枕にしていいから」
「・・・悪い。そうさせてもらう・・・」
「うん・・・」
少し照れたような綾乃の声を耳にしながら俺は睡魔に身を任せ、そのまま深い眠りについた。
200シロクロ 15話【7】:2007/10/01(月) 00:10:23 ID:etXuYekJ
「思い出した・・・!」
今までの記憶がすべて蘇った俺は1人赤面し、その顔を隠すように綾乃の胸に顔を埋めた。
って何やっとるか俺。寝てるとはいえ愛しの彼女の身体に。
今更ながらそう思うが暖かくて柔らかい乳房の感触が心地よすぎて、
寒い日のコタツのように抜け出す意志を削いでいく。
「昔はぺったんこだったはずなんだがな・・・」
ここまでおおきくすくすくと成長するとは当時の俺には予想もつかなかった。
ああそういえばすっごく寝心地よかった気がする。
「今度またこうしてもらおうかな・・・」
「よろこんで♪」
突然、俺の頭上から聞き慣れた声が聞こえた。
ゆっくりとそちらに顔を向けると、予想通りの顔が俺に笑顔を向けていた。
「おはよっ♪」
「ああ、うん、おはよう――じゃなくて!」
とっさに返事してしまったが気を取り直して彼女――綾乃に尋ねる。
「・・・いつ頃から起きてました?」
「啓介が突然身悶えしだしたところあたりから」
・・・めっちゃ最初の方じゃん。
衝撃の事実に愕然としていると、突然綾乃に唇を奪われた。
ただ触れるだけで接触も一瞬だったが、俺を動揺させるには十分だった。
「い、いきなりキスするなよ!?」
「いつもしてるんだしこれぐらいいいじゃない。
寝顔にキスとかおはようのキスとか愛情表現としてのキスとかおやすみのキスとか悪戯なキスとか
ご褒美のキスとか仲直りのキスとか舌入れちゃうキスとかムード重視のキスとか何となくキスとか」
「ただ単にお前がしたいだけだろ!」
「うん」「開き直り!?」
「それはそうとさ」「・・・今度は何だよ」
いつものように俺のツッコミを軽く流すと綾乃は満面の笑みを浮かべながら言った。
「さっきから啓介、七面相しながら私の胸に顔押しつけたりしてたけど」
俺の動揺がさらに深刻になった。
201シロクロ 15話【8】:2007/10/01(月) 00:11:59 ID:etXuYekJ
「えへへ〜」
自分の胸の中で動揺する啓介を見て、私は顔をほころばせた。
さっきから私の頬はゆるみっぱなしだ。
おまけに普段は寝起きの悪いはずの頭や目も冴えている。
当然といえば当然かもしれない。
何しろ目を覚ませば最愛の人物が自分に身をすり寄せていたのだから(性的な意味で)。
気がつけば眠りについた時よりも上着の前ははだけており、
バストやウェスト、そしてパンツを隠すという衣服本来の役目を完全に放棄していたが構わない。
この姿を見ているのはこの腕の中の大事な人ただ1人だから。
それにこの格好になったのも今朝啓介が私の身体に顔をすり寄せたからだけど、
彼の照れて顔を見ると、惚れた弱みでこれもなんだか許せてしまう。
と、服が乱れた理由を思い返して気付く。
「寝相悪いの直ったんだ。昔は布団蹴飛ばしたりしてたのに」
「お前もだろ。目が覚めたら上下入れ替わってたりとかしょっちゅうだったのに」
確かに、と二人で笑い合う。
「まあ、これで将来寝相で迷惑かけあうことはないな・・・」
「え・・・」
その言葉を聞いて私は自分の身体が熱を持っていくのを感じた。
数秒してから言葉の意味に気付いたらしく啓介は顔を赤くした。
「い、いや、別にやらしい意味で言ったんじゃ―――」
その台詞を言い終わる前に、私は啓介を思いきり抱きしめた。
もはや限界だった。っていうかもうガマンできない。
私が彼に抱いている感情が一気に爆発していた。
それまで以上に私の胸に顔を押しつけることになるが気にしない。
「か〜わ〜い〜い〜!けいすけだいすき〜♪」
「ちょ・・・、綾乃・・・!」
抗議の声も無視して私は啓介の額に頬をすり寄せ、強く抱きしめた。
やっぱり啓介はかわいいなあこうやって抱きしめたときの感触やリアクションも最高だし――
と、そこでいつの間にか啓介の動きが止まっていることにようやく気付く。
胸元を見ると、なぜか青い顔をした啓介がぐったりとした表情で力尽きていた。
「・・・息が・・・」
息も絶え絶えになりながらも啓介が何とか紡いだ言葉がそこでようやく聞こえた。
202シロクロ 15話【9】:2007/10/01(月) 00:13:08 ID:etXuYekJ
「・・・エライ目にあった・・・」
綾乃に俺の頭の拘束を解かれると即座に俺は綾乃から身を引きはがし、そこでようやく一息ついた。
結局本当に漫画みたいな体験をすることになった。ある意味本望だが。
と、頬をふくらませた綾乃が俺にあからさまに不満げな視線を向け、
「もうちょっとあのままでもよかったのに」
「いや、女の子下にして寝るのもマズいだろう。逆ならともかく」
「じゃ、そうする」
「へ?」
俺が綾乃の発言の意味を理解するより速く、綾乃は俺に抱きついた。
そしてこちらが反応するより速く俺ごとベッドの上を転がり、上下を逆転させた。
つまりは綾乃が俺を敷き布団代わりにし、その上にうつぶせで寝転がっている。
「これならいい?」
「あ、ああ・・・」
そう答えながらも俺の目線は綾乃の体の方に向いていく。
襟元から見える乳房が俺の胸に押しつけられてそれにフィットするように形を変え、
それを気にもせずに俺に笑顔を向ける彼女の仕草がエロイ。
とか考えていると綾乃は俺の視線に気付いたらしく、俺に邪気のない目を向け、
「どうかした?」
「い、いや!改めてみるとやっぱり美人だなーって思っただけだから!」
とっさに恥ずかしいことを言ってしまったことに気付き、頬を赤らめてしまう。
「あ、ありがと」
綾乃も頬を赤らめて礼を言う。
意外と効果あったようだ。
ならばもっと恥ずかしいセリフを言えばもっと動揺させることが出来るかもしれない。
場を誤魔化す為と綾乃の照れた顔が見たいという二つの欲求をかなえる為に、
俺は頭の中に恥ずかしいセリフを思い浮かべる。
203シロクロ 15話【10】:2007/10/01(月) 00:14:04 ID:etXuYekJ
恥ずかしいセリフ・・・。
・・・。
そんなにスラスラ言えるかぁっ!
一応頭にはいくつか思い浮かんだが言うのはこっちが恥ずかしい。
そして綾乃も顔を紅潮させたままフリ−ズしており、お互い気恥ずかしくなって黙り込んでしまう。
さっきまでとは違い静寂が部屋に満ちる。
が、その沈黙はさほど長くは続かなかった。
唐突に、俺の腹がものすごい音をたててしまったのだ。
その一瞬後、耐えきれなくなったのか綾乃が吹き出した。
「・・・笑うなよ」
「い、いやごめん。――――」
その言葉を最後まで言う前に、再び大きな音が響いた。
明らかに腹の鳴った音だが、俺からでたわけではない。
そしてこの部屋にいる人物は俺以外にはただ1人。
つまりは、犯人は1人しかいない。
「・・・」
「・・・」
犯人も人のことを笑えなくなったからか恋人の前ではしたない真似をしたと思ったのか、
――彼女の性格から考えて多分後者――先ほどよりも顔を赤くさせて黙り込んだ。
再び気まずい沈黙。
「・・・まず何か食べよっか」
「・・・おう」
なんとなく気まずくなりながらも俺達は部屋をあとにした。
204 ◆6Cwf9aWJsQ :2007/10/01(月) 00:15:05 ID:etXuYekJ
今回は以上です。
次回、ようやくエロ本番です。
205名無しさん@ピンキー:2007/10/01(月) 00:18:00 ID:vvXeawsD
この時点で既に討ち死にしそうなんだが、本番に突入してしまったとき俺は生き残れるんだろうか?
206名無しさん@ピンキー:2007/10/01(月) 00:42:40 ID:w1OUCYjX
>>205
むしろ討ち死にこそ本望
207名無しさん@ピンキー:2007/10/01(月) 01:00:35 ID:4EGvICgj
待ってましたよ大統領。
待ってましたよ続き話。
身悶えしながら読み返します。

GJ!早く本番が、続きが、あぁ――――っっ!!
208名無しさん@ピンキー:2007/10/01(月) 04:10:13 ID:Ji1RLajz
やっと・・やっと・・待望のシロクロが・・
待ちかねたよ。

この二人。はじめのほうこそ綾乃が積極的にアプローチしてたが
最近啓介君のほうもメロメロじゃないすかw何このバカップルもっとやれ
209名無しさん@ピンキー:2007/10/01(月) 07:19:06 ID:lDzLpkUM
うむ、待ち望んでおりましたよ。ますます期待。
210名無しさん@ピンキー:2007/10/01(月) 22:10:55 ID:9Ro+TJE2
家族の前だからって必死に顔抑えてたら
頬の筋肉攣ってしまった。
211名無しさん@ピンキー:2007/10/06(土) 04:07:40 ID:0GT4CRN5
212名無しさん@ピンキー:2007/10/08(月) 03:35:38 ID:9rESTEl8
213名無しさん@ピンキー:2007/10/09(火) 12:05:18 ID:OI56GjfV
なんか雑談でもし
214 ◆6Cwf9aWJsQ :2007/10/09(火) 13:59:27 ID:zBgcderv
投下します。
連続投稿で済みません。
215シロクロ 16話【1】:2007/10/09(火) 14:00:24 ID:zBgcderv
「「さて・・・」」
そして日が沈みかけた夕方。
俺達は俺の自室のベッドの前で何故か正座して向かい合い、
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
なぜか三つ指ついていた。
これが悪いというわけではないが、これから若い男女が夜(夕方だけど)の営みをするにしては、
少々堅苦しいんではないだろうかと他人事のように思う。
「・・・ってオイ。ちょっと待て」
「どうかした?」
俺は物思いに耽ってる隙に抱きついてきた不埒物に半目を向け、
「お前今、俺をベッドに押し倒そうとしてないか」
「・・・はっはっは。そんなばかな」
「お前ウソ吐くときは作り笑いになるからすぐ分かるんだよ」
その言葉を聞いた綾乃は動きを止め、少しの間を置くと小首をかしげていった。
「・・・これも愛の力?」
「幼馴染みとしての経験だろ」
まあともかく、といって綾乃は俺から離れ、
「前に私言ったよね。
『啓介が元気になってくれるなら私は嫌われたっていいし傷つけられてもいいから』って」
だからさ、と前置きすると真っ直ぐに俺の目を見て、言った。
「メチャクチャにしちゃって、いいよ。啓介がしたいのなら」
口の笑みとは対照的に目の真剣さが彼女の決意が本気だと物語っている。
とはいえ、俺もそれに答えなければいけない。
あまりこういうこと言うのは気が乗らないが、そうもいってられない。
そう思いながら俺は頭をかき、
「メチャメチャにする気はないけどな・・・」
そこで一息つき、
「今更言うのも何だけどさ。俺はお前のことすごく魅力的だと思う」
俺は真っ直ぐに綾乃の目を見て、言った。
「だからさ、出来るだけ優しくする」
「・・・うん」
俺の言葉に綾乃はそう頷き返し、やがてどちらとも無く唇を重ねた。
それが開始の合図となった。
216シロクロ 16話【2】:2007/10/09(火) 14:01:11 ID:zBgcderv
まず俺は綾乃の上着を脱がせた。
続いて綾乃も同様に俺の上着を脱がせる。
どちらかが求めたわけでもなく、俺達は一枚一枚、お互いの身体から衣服を脱がせていく。
そうやっていると先に――彼女が先に脱がされたため当然だが――綾乃が下着だけになった。
レースのついた黒の下着を身に纏った彼女の肢体は彼女自身の豊かに実った乳房や尻、
細く引き締まった腰、そしてわずかに赤みを帯びた肌と相まって俺の目には非常に官能的に見えた。
「・・・なんか、色っぽいな」
「・・・ありがと」
綾乃は軽く礼を言うと俺のズボンを脱がせ、俺に身をすり寄せた。
いつものように抱きつくわけでもなく、ただ肌と肌を触れ合わせるだけ。
が、触れ合った胸から綾乃の速い鼓動が伝わってきて、彼女の不安と緊張が理解出来る。
それを解消しようと、俺は彼女の背中に腕を回してその細い体躯を抱きしめた。
一瞬後に綾乃も抱きしめ返す。
が、俺はそこで終わらずに彼女の髪をかき分け、背に指を這わせ、ブラに触れる。
髪とブラ、二つの黒い物の感触を楽しみながらも指先がホックに到達する。
そこに指を引っかけて軽く動かすとホックはあっけなくはずれ、薄い背が露わになった。
胸は身体から離さぬまま肩紐を外すと、
綾乃も俺の意図を理解したらしくはずれた肩紐からさらに腕を抜いていく。
そして一度身体を離すとブラが落ち、綾乃の豊かな乳房が露わになった。
俺は即座に自分と綾乃の間に手を差し込んで乳房を鷲掴みにし、揉み始める。
その感触は、例えるならゴム鞠のようだ。
少し動いただけでぷるぷると揺れ、しっかりとした弾力を触れる者に伝える。
その感触を味わうためにさらに指を動かす。
我ながらお世辞にも上手いとは言い難いけど、以前とは違い欲望のままという訳ではなく、
ゆっくりと指を埋めていく。
そうしながら顔を上げると、綾乃と目があった。
・・・喜んでいる。
自分への過信というわけではないのは彼女の恍惚とした顔を見ればわかる。
少しだけ揉むペースを速くしてみると、さらに頬と視線の熱が増していく。
217シロクロ 16話【3】:2007/10/09(火) 14:01:58 ID:zBgcderv
と、突然背中に何かが滑っていく感触がした。
背中に回されたままの綾乃の手指が俺の背を撫でたのだと一瞬後に理解する。
俺も気持ちよくさせようとしての恋人の行動に嬉しくなる。
お互いに熱を帯びた視線を交差させつつそうしていると唇を重ねたくなり、実際そうした。
いつものようにどちらかが目を閉じたりはせず互いの唇と視線、そして舌の感触を交換しあう。
しばらくそうした後唇を離すと俺は本格的に綾乃を攻めようと手を滑らせる。
昨日の風呂場での出来事のおかげで少しはコイツの弱点が分かっている。
その内の一つである彼女の桜色の乳首に俺の指先が触れた。
「ひあっ・・・!?」
先端に指を這わせるだけだが綾乃は針で刺されたように激しく反応する。
無論、痛くしたわけではなくむしろ快感を与えたのだが。
ともかく俺は綾乃の抱擁をほどき、彼女の右の乳房に顔を近づける。
そして右手で彼女の左の乳首を責めながらも右の乳首を舐め始める。
「・・・あぅ・・・」
やはりここが弱点か、と小さくあえぐ綾乃の姿を見た俺は確信する。
だから俺はそこを執拗に攻めた。
舐めて、くわえて、甘噛みし、時には吸いもした。
空いた方の乳房にも攻めを忘れない。
「あぅ・・・、あっ・・・!」
そして俺の攻めに綾乃は敏感に反応する。
ひとしきりその様を楽しむと、今度は身体全体に指を這わせて責める。
「ふぁっ・・・、あぅっ・・・、あんっ・・・!!」
その動きの激しさに比例して綾乃の声もボリュームを増していく。
荒い息。高鳴る鼓動。柔らかな肌。玉のような汗。
それらすべてが俺を興奮させる材料となり、
綾乃の扇情的な姿を目で見て、綾乃の嬌声を耳で聞き、綾乃の柔らかな肌に指で触れ、
綾乃の身体に浮いた汗を舌で味わい、綾乃の髪の匂いを鼻で嗅ぐ。
五感全てを使って綾乃を感じていく。
218シロクロ 16話【4】:2007/10/09(火) 14:03:00 ID:zBgcderv
と、綾乃は俺の身体に残った最期の一枚となったパンツをずり下げる。
すでに固くなっていた俺の肉槍が露わになる。
俺も同様に彼女のパンツに手をかけると、それをわずかにずらして尻のみを露出させ、攻め始めた。
尻を撫でて、揉むことで乳房とはまた違ったやわらかさを堪能する。
そして、パンツを取り払うと露わになった秘所に指を這わせる。
「あっ・・・!」
柔毛に覆われた割れ目を指でなぞり、もう片方の手指で肉豆を弾く。
「うあぅっ・・・、けい、すけ・・・」
「ん?」
「そろそろ・・・、いれて・・・」
「わかった」
彼女の懇願に簡潔に答えると俺は綾乃の身体を抱え上げ、ベッドに横たわらせた。
そして俺は彼女の身体に覆い被さり、
肉棒を入れようと先端を彼女の湿り気を帯びた秘所にあて、腰を突き出す。
が、俺の肉棒は彼女の秘所に侵入することはなく、つるりと音を立ててあらぬ方向へ滑った。
「あんっ・・・!」
もっとも敏感な位置を刺激された綾乃は嬌声をあげるが、
「・・・あれ?」
失敗した俺は首をかしげた。
角度がいけなかったのかと思い再度トライするがまたも失敗。
「・・・」
「・・・」
気まずい。とてつもなく。お願いだからそんな冷めた半目でこっちを見ないで。
・・・ここまで上手くいってたのにこんなところでとちるなんて
まあともかく気を取り直して別のアプローチで行くことにする。
「け、けいすけ?なにやってるの?」
「いや、もうちょっと濡らした方がいきなりモノ入れるより抵抗少なくて済むだろうと思って」
言いながらも俺は指を彼女の秘所にあて、割れ目をなぞり始めた。
219シロクロ 16話【5】:2007/10/09(火) 14:04:07 ID:zBgcderv
「・・・ふあぁッ・・・!」
彼女の喘ぎ声を耳にしながらしばらくそれを続けると、俺はもっとも濡れている部分を探り当てる。
「・・・このあたりか」
そう呟くとまた肉棒を探り当てた部分にあて、今度は滑らないように手を添える。
「・・・いくぞ」
「・・・うん」
お互いに頷きあうと、俺はゆっくりとそれを突き入れた。
「・・・っくぁ・・・!!」
聞こえてくる綾乃の声は喘ぎ声ではなく苦痛に耐えるモノに変わっていた。
「・・・どうする?」
「・・・え?なに、を・・・?」
この時点で既に息を乱れさせている綾乃に、俺は先ほどの発言の補足を行う。
「このまま続けるか?やめるなら今の内だぞ?」
俺の問いに綾乃は首を左右に振ることで答えとした。
それに答え、俺はさらに奥に突き出す。
と、先端が何かにぶつかる感触がした。
処女膜だ。
ふと、彼女の方に視線を向けると綾乃は表情をさらに苦痛に歪ませていた。
その様に、俺の心に少しだけ躊躇が生まれる。
だが、本当に彼女のことを思うならここでやめていいはずがない。
だから――――膜ごと一気に貫いた。
220シロクロ 16話【6】:2007/10/09(火) 14:05:09 ID:zBgcderv
「うぁッ!くぅッ・・・」
闇色の髪を振り乱して綾乃が苦痛に耐えきれずに苦悶に満ちた声をあげる。
「だ、大丈夫か?」
「・・・ちょ、ちょっと、たいむ・・・・・・」
涙目になりながら息も絶え絶えに言う彼女に、俺は首を縦に振って見せた。
とはいったものの、実はこの状況はすごく辛い。
俺の肉棒を締め付ける彼女の膣内は異物を入れているにもかかわらず、
それを受け入れようとしているように暖かく俺の肉棒を包み込んでいる。
決して緩いわけではなくむしろキツく締め付けているのだが
決して痛いわけではなくむしろこちらに快感を与えてくる。
正直すぐにでも果てそうだが綾乃の方はそうはいかない。
「――――――――!!!」
無言で苦痛に耐える綾乃の様が見ていて痛々しい。
が、彼女の目は端に涙を浮かべながらも「続けて」と語っている。
こういうときはこの技能が便利だと思いながら俺は彼女の思いに答え、動きを再開する。
最初のうちはゆっくりとだったが、動きを繰り返すうちにペースがあがっていく。
「ふぁ、あぁっ・・・!あんっ、あっ、あぁぁぁぁっ!!」
俺が動くたびに綾乃の身体も揺れ、それ以上に彼女の乳房が激しく上下に弾む。
そして彼女の声から苦しさが弱まっていき、代わりに甘さが生まれていく。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あぁぁぁぁっ!!」
彼女のその声と同時、俺は彼女の膣中に自分の欲望をはき出した。
221シロクロ 16話【7】:2007/10/09(火) 14:06:17 ID:zBgcderv
「――――しちゃったね、私たち」
「ああ」
少しの間ベッドで眠りについた後。
目が覚めた私たちはベッドの上でいちゃついていた。
率直すぎる表現だけどこれ以外的確な言葉が思い浮かばないから仕方がない。
「もう大丈夫か?」
「うん。最後の方は気持ちよかったし」
「さらりというなよそんなこと・・・」
そう言われた啓介は照れてしまったのか私から目をそらしてしまう。
「啓介は?」
「・・・まあ、すごく、気持ちよかった」
彼は顔を赤く染め、とぎれとぎれになりながらもそう答える。
あんなことした後なのに、まだ照れている。
そこが可愛いと思っていると、啓介は彼の机に置かれた包装された小さな箱
――私からの誕生日プレゼント――を見つめながら言った。
「何か悪いな。誕生日にいろいろプレゼントしてもらって」
「ううん。私たち付き合ってるんだからこれくらい平気平気♪」
そのプレゼントの内容には先ほどの睦事も含まれてるだろうけど、
流石に恥ずかしいのであまり言及はせずに別の話題を口にする。
「なんなら歌でも歌ってあげようか?」
「遠慮しておく。お前音痴だし」
「な・・・・・・・・・・・・!?」
啓介の遠慮の遠慮のない発言に、私は愕然とした。
「人が気にしてることを・・・、だからいつも鼻歌で誤魔化してたのに!」
こうなれば意地でも歌ってやる。
ムキになった私は、大きく息を吸って歌い出した。
222シロクロ 16話【8】:2007/10/09(火) 14:07:17 ID:zBgcderv
「きょっうは〜すってきな、た〜ん〜じょ〜う〜び♪」
「そっちかよ!?」
そのツッコミを無視し、私は素早く啓介に抱きつくと彼の耳元に唇を寄せ、
「わったっしっのっすっきな、啓介っ、おめでと〜♪
わったっしっのっすっきな、啓介っ、おめでと〜♪」
「や〜め〜ろ〜、耳元で歌うな〜!」
「やだもう照れちゃって、素直じゃないんだからぁ♪そこが好きなんだけど♪」
「可愛く言い直してもダメだから!」
「えっ、可愛い!?」
「都合のいいところだけ聞くなぁ!」
顔を真っ赤にしてツッコミを入れる啓介をまあまあといってなだめると、
私は彼の肩に頭を預け、
「・・・ずっと、こうしてたいな・・・」
「・・・ああ」
そういってお互いの身体を抱きしめあう。
そして身体を離して向かい合う。
「じゃあ早速・・・」
私の言葉に啓介は期待をこめて目を輝かせ、
「受験勉強しよっか」
「そっちかよ!?」
思い切り派手にコケた。
即座に立ち上がると私に詰め寄る。
「もっかいHしようとかそんな流れじゃないの!?」
「うん」
「即答!?」
私に平然とかわされ、啓介は狼狽し、がっくりと肩を落とした。
・・・やっぱいいリアクションするなあ・・・。
でもこれ以上は流石に意地が悪い。
「本音言うとさ、そうしたいのは山々だけど・・・」
そういいながら私はある一点を指さす。
「もうそろそろ帰らなきゃ」
「・・・ああ」
啓介は私が指先にある時計の時刻――既に十時になっている――を見ると納得したのか返事をした。
「・・・まあ、それならしょうがないや」
「顔がちっとも『しょうがない』って表情になってないけど」
私のツッコミは啓介に黙殺された。
223シロクロ 16話【9】:2007/10/09(火) 14:08:24 ID:zBgcderv
「ありがとう。この二日間」
「私の方からも、昨日と今日はありがと♪」
私の自宅の前で、私たちはここ二日に起こったいろんなことについて礼を交わす。
「じゃ、また――――」
「――――待った」
急に啓介は私を呼び止めた。
何事かと彼に向き直ると、彼は真剣な表情で、
「忘れ物」
「へ・・・?」
私が間抜けな声を出した直後。
啓介は自分の唇を私の唇に触れ合わせた。
私に促されたわけでもない本当に初めての啓介からのキス。
それは触れ合うだけのキスなのに私の心をときめかせた。
そして、唇が離れる。
呆然とする私に啓介は頬を赤く染めつつも真っ直ぐに私の目を見据えて言った。
「・・・じゃ、また明日」
その言葉で、私はようやく正気を取り戻す。
「・・・うん、また明日」
私がそうオウム返しすると啓介は背を向け、去っていった。
みるみる遠ざかっていく彼の姿を見ながら私は自分の唇に手を当てようとして――――やめた。
つい先ほど啓介と触れ合った感触を消したくないから。
・・・啓介って、何かする時は結構思い切るなあ。そこも好きだけど。
そう思いながら、私はもはや啓介の姿が見えなくなった路地に背を向け、大きく一歩を踏み出した。
「あいたっ!あいたたたた・・・」
――――そして、再発した破瓜箇所の痛みに強制的に現実に引き戻らせられた。
224シロクロ 16話【10】:2007/10/09(火) 14:09:20 ID:zBgcderv
帰宅したあと。
私の前にはなぜか赤飯と鯛の刺身が並べられていた。
これでもか、とばかりに何かの祝いのような夕食に私は首をかしげるけど、
ニヤニヤとした笑みを浮かべたお母さんのこちらに向ける視線と、
どこか上の空なお父さんの様子でピンと来た。
・・・バレてる。
一体なぜバレたのだろうかと考えながらも食事を終え、
気分と身体をさっぱりさせるため浴室に向かおうとすると、お母さんがすれ違いざまに言った。
「お風呂場では静かにね」
「・・・はい」
流石に顔を赤くしながら私は答えた。

帰宅したあと。
俺の前にはなぜか出前でとったとおぼしき特上寿司が並べられていた。
これでもか、とばかりに何かの祝いのような夕食に俺は首をかしげるが、
ニヤニヤとした笑みを浮かべた両親と兄夫婦(こちらが外出してる間に帰ってきていた)
のこちらに向ける視線で理解出来た。
・・・バレてる。
一体なぜバレたのだろうかと考えながらも食事を終え、
場の空気から逃げるために部屋を出ようとすると唐突に父さんが言った。
「初孫まであと十月十日かぁ」
「イヤちゃんと避妊したから!」
途端に4人のブーイングが聞こえてくるが無視。
・・・この分だと綾乃もバレてるかもしれん。
嫌な予感に身をすくませながら俺はその場を後にした。

なお、翌日には友人全員にバレました。
225 ◆6Cwf9aWJsQ :2007/10/09(火) 14:11:24 ID:zBgcderv
今回は以上です。
一応20話までの予定なんでもうちょっと続きます。
226名無しさん@ピンキー:2007/10/09(火) 17:36:54 ID:U4lIJF8z
なんという…GJ
227名無しさん@ピンキー:2007/10/09(火) 22:30:30 ID:RQcClVXD
バレバレ乙!・・・そしてGJ!
228名無しさん@ピンキー:2007/10/09(火) 22:52:02 ID:JcudnbNq
甘いのGJ!!
229名無しさん@ピンキー:2007/10/09(火) 23:05:41 ID:viL99vPk
まだ続く!嬉しい限りだGJ!ラブラブHはやはりいい。
230名無しさん@ピンキー:2007/10/10(水) 09:07:15 ID:Y9UQvRhr
これにはGJと言わざるをえない
231名無しさん@ピンキー:2007/10/10(水) 10:54:26 ID:h1/R8Mhb
おー!
シロクロ来てんじゃん。ついに一線越えたなー
なんか1話からずっと読んでたからこっちも感慨深いなーw
232名無しさん@ピンキー:2007/10/10(水) 23:19:41 ID:SOSlwoKy
>>225
いやもう遂にというかなんというか、とんでもなくGJ!
ここからさらにあと4話堪能できるとなると、wktkを禁じえない。
233名無しさん@ピンキー:2007/10/12(金) 20:24:19 ID:mVcwDeHa
職人こねーな・・・
絆の続きが(ry
234名無しさん@ピンキー:2007/10/12(金) 21:23:55 ID:N0e/u9aL
待つついでに軽い雑談でもしようか?
235名無しさん@ピンキー:2007/10/13(土) 01:16:49 ID:Oy/ZC192
雑談か……俺はぶっかけ派だな。
236名無しさん@ピンキー:2007/10/13(土) 10:57:57 ID:26oY1wtz
フィクションだからこそ容易にできる中出しが大好きです。
出した後にすぐ抜かず、しばらく繋がったまま余韻に浸るのが好きです。
抜こうとして幼馴染みが名残惜しそうに見つめてくるというシチュが大好きです。


ところで、幼馴染みってどれくらいの付き合いから呼ばれるものなのかな。
幼稚園からの付き合いとか、初めて会ったのは三歳のときとかならわかる。
でも小五のとき初めて会ったとか、微妙な歳ならどうなるの?
237名無しさん@ピンキー:2007/10/13(土) 12:28:01 ID:CHqUbk1L
>>236
始まりの時期もそうだけど、付き合いの長さも関係あるんじゃないかな?
幼稚園で出会って、話の時点で中学生なら幼馴染だけど、小五で出会ってる中学生は違うと思う。
でも小五からの付き合いの大学生とか社会人は十分に幼馴染と感じる。

個人的には、スタートは小六以下、付き合いは最低5年くらいは欲しい。
238名無しさん@ピンキー:2007/10/13(土) 23:07:49 ID:Qm61I+EX
>>236のシチュって結構良いな
239名無しさん@ピンキー:2007/10/14(日) 00:59:09 ID:SZMZRQVh
確かに素晴らしいシチュだ
240名無しさん@ピンキー:2007/10/14(日) 01:53:07 ID:LXPThvIi
>>237
ってことは、小さい頃によく遊んでいたがその後引越しとかで別れ、
数年後に再会ってのは、幼馴染じゃないのか
241名無しさん@ピンキー:2007/10/14(日) 03:10:16 ID:ugya92Wi
>>240
ドラクエ5の主人公とビアンカ思い出した。俺の中ではよい幼馴染みなのだが
時間はあまり関係ないのでは?何をしたかの方が重要だと思う
242名無しさん@ピンキー:2007/10/14(日) 11:23:50 ID:euojuly5
幼馴染みの定義は、
子供の頃をいつ頃からいつ頃までととるか(こちらが幼馴染みと思っていてもあちらが思っていなかった場合はどうするのか)、
どれだけの期間どのくらいの関わりだったのか(親の実家に年に二度帰ったときだけ一緒に遊んでいた子はどうなるのか)、
などと面倒だが、文字通り辞書通りなら「幼いときに馴染んでた人」になるか。
待てよ、相手の年齢はいいのか?
243名無しさん@ピンキー:2007/10/14(日) 15:49:47 ID:LzDihFHW
>>242
あまりにも年の差離れすぎてるんじゃなければ何才でもいい






ただし同い年は至高中の至高
244名無しさん@ピンキー:2007/10/14(日) 18:36:09 ID:MhsNrLg4
生まれたとき病院で隣のベッド、以上はあるまい。
245名無しさん@ピンキー:2007/10/14(日) 21:09:37 ID:N9kYYsN0
それはやりすぎかもねん
246名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 02:11:37 ID:f1dyqw4Y
どうしてもその設定だとブロリーを思い出してしまう
247名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 02:50:23 ID:ak3leg9H
>>246
宇宙最強の幼馴染みだなwww
248名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 03:38:31 ID:YbRk+Slx
>>246
バカヤロウ!w
幼馴染の女の子が「ぬぅあああああああ!!」と気合を込めて、
服が破れながら筋肉が盛り上がってスパーサイヤ人に変身する姿が思い浮かんだじゃねえかww
249名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 08:42:21 ID:1Uwt9ObK
>>243
ひーこと紗枝は至高ではないと申すか
そこへ居直れ
250名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 09:04:09 ID:uOUkJOIE
居直ってどーするw
251名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 09:07:00 ID:1fQpPcni
居直っちゃだめだろw

俺が思うに期間ではなくどれだけ濃く馴染んでいるかが重要なのだよ
ドラクエ5のビアンカは期間は短くても
レヌール城で濃厚な一夜を過ごしているので十分馴染んでいると言える
252名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 09:41:16 ID:1Uwt9ObK
>>249>>250
介錯してやるから姿勢を正せと言うことよ

再会型の幼なじみかぁ…
幼なじみラノベ作家が書いた空鐘は良かったな
253名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 10:17:05 ID:y+nMWCIE
とりあえず某スレの如く羨ましければ幼馴染、でいいんじゃないか
254名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 12:14:06 ID:qImlWGzh
>>249
紗枝はわかるんだけどひーこって誰?
保管庫にありますか?
255名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 14:34:37 ID:vwuZ1lsE
幼なじみ欲しいなあ
居ないなあ
欲しいなあ
居ないなあ
欲しいなあ
居ないなあ
欲しいなああああああ
256名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 14:52:20 ID:heBWee9/
こればかりはどんなに望もうとも得られないものだからなぁ

なんで新しい団地で同年代の世帯が多いなんつう好条件の中で育っておきながら、
同じ番地の同級生は野郎ばかりだったんだ…orz
257名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 17:03:37 ID:vwuZ1lsE
ちくしょう
なぜおやはあのとちでしょうがいをおえようとしなかったのだ
りかいできない
りかいできない
りかいできない
りかいできない
りかいできない

人格形成期に外国行かせるとか言う親は冷静に考え直したほうがいいよ
人生が180度変わるから
異性をどう扱っていいのか分からなくなるから
本当に
258名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 17:19:07 ID:vwuZ1lsE
暗くなりそう
以下何事も無かったかのように
259名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 17:53:27 ID:SuBvrZPc
>>257
 酔ってる今だからこそ、マジレス

 異性をどう扱っていいのか分かってるヤツこそ
 それが解ったしまった瞬間、自分を醒めさせるモノは無い

 解らないなりに、不器用な手探りで精一杯狂おしく
 求めて来てくれる貴方相手だからこそ、私は浅ましいほどに濡れる
260243:2007/10/15(月) 22:00:18 ID:HEJUkBu1
>>249
そもそも「幼馴染み」というカテゴリーそのものが至高
その中で敢えて言うならば同い年が一番なんだ


と言ってみる
俺だって「〇〇兄なんて嫌いだ!」って惚気られてみたいさ、できるものならば!!

まあ実際問題、俺が今まで見てきた中で一番遭遇率高かったのが「同い年」だったからなぁ
その分印象というか思い入れが強いのかも試練ね
261名無しさん@ピンキー:2007/10/16(火) 00:14:09 ID:9+OQ1rM3
幼稚園からの同じ年の幼なじみいたけど、そんなことにはならんかったぞ。

ターニングポイントは中学入学だと思う。
そこを幼なじみのままで乗り切れば、もしかしたら良い関係になるかもしれん。

同じ中学に行ってたけど、結局疎遠になったし、名前で呼んでたのも名字で呼ぶようになったし。

幼なじみいたからといって、そうなるとは限らないってこった・・・



今考えると、そこそこかわいかったし、若干惜しかったとも思う (´д`)


262名無しさん@ピンキー:2007/10/16(火) 00:26:27 ID:9gqvZok+
>>254
あるよ。
『辞書』 『Scarlet Stitch』のヒロイン。
263名無しさん@ピンキー:2007/10/16(火) 01:34:36 ID:sUh6A35Z
年に2、3度しか会わないとかででもいいなら双子の同い年の幼なじみいる



こないだ久々に会ったら、昔わかったのにどっちがどっちかわからんくて怒られた
264名無しさん@ピンキー:2007/10/16(火) 03:12:24 ID:2LlJgRD8
何故かこっちが先輩と呼び、向こうがあだ名で呼ぶ間柄になっていた
同じ年度生まれだけど
265名無しさん@ピンキー:2007/10/16(火) 13:10:10 ID:8O7YaXAR
『年上の幼馴染』スキーな自分に、クリティカル・ヒットぉ!

孕ませ/子作り/種付/妊娠/妊婦/出産/HR総合【8】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1191404132/65‐74
266名無しさん@ピンキー:2007/10/16(火) 20:53:51 ID:SlT9PvAr
俺、一歳下にいとこの幼馴染がいるんだけど中二くらいからずっとそいつの事好きになってる。
今俺は大学一年生でかれこれ五年位ずっと片思い。
向こうは遊び仲間くらいにしか思ってないし、遊んでたら楽しいんだけど、正直切ない。
267名無しさん@ピンキー:2007/10/16(火) 21:40:34 ID:4idADwYf
おまえらな。幼馴染がいないやつには血涙モンの話を延々としやがって……
しかし、そういうやつが多いというのは意外だ
てっきり幼馴染がいなかった連中が集まってるもんだとばかり思ってたぞ
268名無しさん@ピンキー:2007/10/16(火) 23:51:45 ID:Q+oo/EzX
>>252
あの幼馴染はよかったな
男幼馴染だと思ってて再会したら実は女でした〜!

挿絵も再会するシーンまで一切なかったから、重要人物じゃないと思い込んでたぜ
269名無しさん@ピンキー:2007/10/17(水) 00:49:45 ID:i5d4Wt2t
今日、レジのバイトしてたら小・中で一緒だった女子が客で来て、
「あれ、〜ちゃん(俺の名前の略称+ちゃん付け)?」って呼ばれた。
いくらその呼び名が浸透していたとはいえ、この年になってまでちゃん付けで呼ばれる事になるとは思わなかった。
小から中まで完全持ち上がりで計9年一緒だから、学年全部が幼馴染みたいなものだったからだろーか……
270名無しさん@ピンキー:2007/10/17(水) 01:12:39 ID:5lC1lHLf
俺の幼馴染はモニタの中でいつも微笑んでいて気立ての良い子なんだ。
毎朝起こしてくれるし、お弁当だって作ってくれる。
271名無しさん@ピンキー:2007/10/17(水) 16:25:02 ID:3aU7L4n9
最近の幼馴染はすげー名
272名無しさん@ピンキー:2007/10/17(水) 18:58:25 ID:Sz26A2Su
俺の場合は・・・
生まれた病院が同じ(10日違い)
赤ん坊の頃はそいつの家に遊びに行ったこともあるらしいが俺は覚えてない。
小学校を転校したときに、転校先の小学校にそいつがいたよ。
















男だったけど・・・
273名無しさん@ピンキー:2007/10/17(水) 19:45:26 ID:a5n2/aef
もちろん聞いてるおれも全然嬉しくないぞ

>>252,268
ラノベかあ。読みたいなーと思ったことはあるんだけど
巻数がそこそこあると躊躇してしまう
274名無しさん@ピンキー:2007/10/17(水) 21:19:58 ID:Ic9Db/y+
はやくきて、でも読めばいいよ。
275名無しさん@ピンキー:2007/10/17(水) 22:09:55 ID:RDhwxgnR
最近シロクロでこのスレは持ってるな
職人さんお待ちしてまーす
276名無しさん@ピンキー:2007/10/17(水) 22:13:58 ID:mlGVyT58
仕事の相手先に文句つけに行ったら幼馴染が対応役だった。
ひじょ〜にやりずらかった。
結局こっちが折れちゃったし
277名無しさん@ピンキー:2007/10/17(水) 22:18:48 ID:VA78zVxS
>>273
空鐘は13冊くらいあるからなぁ
まぁ、気が向いたら読んでくれ

渡瀬草一郎 こいつの本は全作品でヒロインが幼馴染だから覚えておけw
278名無しさん@ピンキー:2007/10/17(水) 22:30:45 ID:a5n2/aef
13冊もあるのか。別に文字読むのがイヤというわけじゃなくて
世界観にどっぷり浸ってしまいそうでさ。ハマるのがこわい

>>274
これか!?
ttp://books.yahoo.co.jp/book_detail/30971842
279名無しさん@ピンキー:2007/10/18(木) 00:04:32 ID:5aYTNZe3
お前らお勧めの幼馴染ENDのアニメや漫画教えてくれ
最近幼馴染が振られることが多くて参るよホント・・・・
280名無しさん@ピンキー:2007/10/18(木) 01:45:41 ID:VWjoSxAo
少女漫画で、過去スレでも既出だがキラメキ銀河商店街。とっても素敵。
281名無しさん@ピンキー:2007/10/18(木) 01:56:11 ID:bL28U9+s
前に同じ話題がのぼった時、テイルズオブエターニアのリッドとファラの評価が高かったな
ゲームだが
282名無しさん@ピンキー:2007/10/18(木) 03:45:04 ID:d3pOlzYo
>>277
渡瀬の文章は読みやすくていいな。俺は好きだ。
でもパラサイトムーンの二巻だけは幼馴染みじゃないぞ。
283名無しさん@ピンキー:2007/10/18(木) 11:28:49 ID:Ch7v7/f9
>>279
アニメ版Canvas2   …最終話直前までは
284名無しさん@ピンキー:2007/10/18(木) 21:04:40 ID:303ZoIs5
canvas2は漫画版が神だからなあ。
まあ、一応エリスの方も幼馴染に……入るのかな? 年齢差はあれど、付き合いだけ見るなら長いし。
285名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 01:28:18 ID:z0UuQq/Q
ゲームだが、青空の見える丘とリアリアはメインヒロインの二人が幼馴染み 
286名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 13:50:44 ID:PEoapXGb
エロ漫画なら良いの知ってるけど短すぎか
287名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 16:39:02 ID:eVvvsxG0
くどうひさしの幼なじみはうめぇな
288名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 21:00:52 ID:njdNvQ87
>>287
くどうひさしは妹もしくは姉だろ。
男が遊んでいるゲームはなんでいつもファミコンなんだろうな。
289名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 21:23:24 ID:TShupeHr
>>286
kwsk
290名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 21:40:03 ID:Z2Ij9KvR
ギャルゲやエロゲはルート別に分かれるから幼馴染みキャラ多いな。
というわけで名雪を推薦しておきますね。あ、ぶらばん!の妙も。

ラノベなら「アリソン」
291名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 22:44:14 ID:7FXk30sC
>>289
EDの作品は結構幼馴染みの話が多い。といっても単行本化されてない作品も多いけど。
作者名だと検索しづらかったのでレビューサイト載せとく
ttp://huriru.blog63.fc2.com/blog-entry-108.html
単行本化された作品の中では「幼なじみの長い一日」の破壊力が高い

もう1冊単行本がでたら更に良幼馴染の話が多く載ってる本になる筈だ
292名無しさん@ピンキー:2007/10/20(土) 00:30:06 ID:7GNFlKCY

 ズルズルズルッ

 おおお…旨い。やはりカップヌードルはチリトマト味に限る。邪道といわれようが知った
こっちゃない。俺の味覚を満足させるのに、他人の意見は必要ない。
 学校から帰ってこうしてカップヌードル啜ってるのが、俺にとっちゃたまらなく幸せな
時間だ。流石に、毎日食うのは身体にも財布にも悪いから一週間に一度に留めちゃいるが、
この時間だけは誰にも邪魔されたくない。どれ、今度はスープを…

ドンドンドンッ

「兼久ー、開けてくれー」
 
 ……今言ったばかりだと思うが、この時間は、誰にも、邪魔されたくない。

「おーい、開けろよー!」
「……」
 だったらせめて玄関から入って来いと。確かに数メートルの距離に窓が向かい合ってて
屋根伝いになってるが、毎度毎度こうして来るのはどうなんだまったく。
「かねひさー!」
「……」
 開けるしかないか。また近所のおばちゃん連中に変な噂でも立てられたら困る。

がらがらっ

「邪魔するよ」
「……またか」
「しょーがないだろ? 兄キが彼女連れ込んでうるせぇんだ」
「だったら弟の部屋にでも逃げ込めばいいだろ、わざわざこっち来んな」
 またこれだ。人がおやつ代わりのカップラーメンを啜ってると、こいつは決まって窓から
進入してきやがる。理由は毎回違うけどな。
「あいつ部屋に入ると怒るんだよ、女みたいな奴だよほんと」
「で、本当に女なはずのお前はそんな格好なわけだな」
 胸元がびろんびろんに伸びてしまっているタンクトップは、あまり服としての役割を
果たしているようには見えない。もちろん下着なんてつけてるわけもないから見えそうで困る。
下は一応ジーパンを履いてファスナーは締めてるが、ホックを留めてないからちょっと動いた
だけでもずり落ち下着が見えそうになる。それをポケットに手を突っ込むことで抑えてる
みたいだが、だったら留めろと、ベルトしろと。
「ンだよ、じろじろ見んな」
 そのくせ、見たら怒る。口尖らせる。ただでさえつり目な目を更につらせて睨んでくる。
そっちがいきなり来たのに、本当に一体どうしろと。

「柚稀」

「んー?」
「お前は逆に、もっと女の子らしく姿格好に気を遣え」
「めんどい」
「だったら改善するよう努力しろ」
「だるい」
 なんつーふてぶてしい態度だ、こんなのと幼なじみだなんて泣けてくる。うわ、人前で
脇ぼりぼりと掻いてるよ。よく見たら寝癖直ってねーし。つかまた裸足かよ、またカーペット
汚す気かよ。人の目気にしなると人間終わりだな。
「ふぁー……」
こっち向いてでかいあくびすんなあくび。喉チンコ見えてんぞ。
293名無しさん@ピンキー:2007/10/20(土) 00:31:09 ID:7GNFlKCY

 男口調で男みたいな仕草で、女らしいといったらそこそこでかい胸ぐらいで。いっつも
こうして注意促してるが、聞いてくれた試しがない。
『だってウチ男一家だし』
 そんでもって、大抵の場合の言い訳がこれだ。まあ確かにおじさんは今時珍しい古き良き
日本の頑固親父だし、兄貴と弟っつー男兄弟に囲まれてるから環境的には仕方ないんだろうけどさ。
お前、おばさんが影で泣いてんの知らないだろ。
 というかその理論だと、俺は少女趣味のオネエ言葉な男になってないといけないわけで。
何故ならこっちの家は、カカア天下で兄弟は姉と妹という家族構成なわけだ。まあ、俺は
こうしてすくすくと男らしく育ってるけどな。要はこいつの意思が弱いだけの話だと思うんだ。

 そんな奴だから、前述の通り外見にはほとんど無頓着に近い。髪の長さなんて俺とほとんど
変わらないくらいのショートカットだから、スカートが本当に似合わない。学校の廊下で
見知らぬ奴がこいつの制服姿を見たら、決まって眉を潜めたりヒソヒソ話を始めたりする。
やっぱあれって性別疑われてんだろうなぁ。本人は特に反応を示さないが、慣れてるだけ
なのかもしれない。

「お、旨そうなもん食ってんじゃん。ちょっとくれ」
「嫌じゃ」
「なんでだよ、客に何か礼儀尽くしたっていいだろ」
「ふざっけんな、だったら玄関から入って来い。屋根伝いに素足で来られると床汚れんだよ」
「掃除お疲れ!」
「   だ   ま   れ   」

 まったく、カップヌードルチリトマト味は最高に旨くて困る。それを食べる幸せな時間を
ぶち壊した上、あまつさえそれを貰おうとするこいつの態度にはもっと困る。とか何とか
愚痴ってたらもう全部食っちまった。こいつのせいで後半半分の味の記憶がないぞ。
「兼久ー」
「ん?」
「暇ー」
「そこの本棚にある本でも読んでろ」
「全部読んだから飽きた」
「活字本は?」
「読むわけねぇ」
 くっくと笑いを噛み殺しながらごろんと大の字に転がる。終わってる、こいつほんとに
終わってる。
「お前もそれ食い終わったんだろ? あたしに付き合えよ」
「何して」
「色々」
「具体的には」
「何とか」
「それは具体的にとは言わん」
「お前も考えろよぉ」
「付き合うって言った覚えはないぞ」
「そーか?」
「そーだよ」
 この中途半端にユルくて、無駄に殺伐とした会話がいつもの調子なんだから、俺もちょっとは
おかしいってことなんだろうな。ああ…こんなのと同じ穴のムジナなんてやだやだ。
294名無しさん@ピンキー:2007/10/20(土) 00:32:34 ID:7GNFlKCY

「そもそもお前机にしがみついて何したいんだよ」
「勉強だ勉強。学生の本分は勉学に勤しむことだぞ」
「はー? 何言ってんだ兼久、頭打ったか?」
「お前こそ忘れてないか、明日数学の小テストだぞ」
「え゛」
「一昨日の数学の授業の途中で、先生が言ってたろ」
「…マジ? 新田の奴何考えてんだよ」
「そういうわけだ、お前も家帰って頑張れ」
「本当は、お前なりの、その、冗談とかじゃないのか?」
「……」
「ど、どうなんだよ」
「俺が冗談で勉強すると思うか」
「……」
「すると思うか」
「しねーな…」
 それまで横柄な態度だったのが、急に顔が青ざめ意気消沈していく。新田っていうのは
その数学の授業の先生であったり俺達の担任であったりする。自分の受け持つクラスには
厳しくするのがいつものことで、たまに行う小テストで一定の点数取らないと補修として
プリント10枚分くらいの問題を解かされる羽目になる。ちなみに、柚稀はその補修を受ける
常習犯だったりする。現国や英語はそこそこ解けるのに、数学だけは本当に苦手らしい。
苦手だからって、勉強したがらないから余計に泥沼になってんだけどな。少しくらい克服
しろと言いたい。

 そのまま放っておいて、テスト範囲の問題を解くためにカリカリとシャーペンを動かしていく。
俺は逆に英語が苦手だが数学や科学は結構得意だ。そんなわけで明日のテストもそんなに
苦にしてない。
 と、寝たままの体勢で柚稀が背中をずりずりと擦らせながらにじり寄ってくる。なんか
なめくじみたいだ。
「かねひさー、たのむ…」
 瞳を潤ませて、手を伸ばして服の裾をぎゅっと掴んで懇願してくる、寝たままだけど。
こいつもちょっとくらいは、女の色気を使うことが出来るらしい、寝たままだけど。

「範囲と一般的な問題の解答方法のノート見せてやるから。服伸びるから離せ」
「OKありがと! いやぁ、持つべきもんは幼なじみだよな!」
 ってオイ、そう言いながら今度は何ベッドの上に寝転がってんだ。布団の中に入ってくなよ
お前完全に寝る気じゃねーか。

「……何やってんのお前?」
「いやさー、兼久が問題解いてくれるみたいだからもういいかなって」
 馬鹿だ、馬鹿がここにいる。いるよなこういう準備を終えただけで満足して肝心なこと
しない奴。
295名無しさん@ピンキー:2007/10/20(土) 00:33:16 ID:7GNFlKCY

「解き方覚えないと意味無いんじゃないのか」
「そうは言ってもさー…あたし最近寝不足でさー……」
 げ、声がもう虚ろになってきてやがる。寝付くのが早すぎだろ。
「なんで寝ないんだよ」
「知らないよ、身体の方に聞いてよ…」
「じゃあ何で寝そうなんだよ」
「さぁー……兼久の匂いがするからかな」

 ……

 な、急に何言ってんだこいつ。いきなり変なこと言いやがって。
「臭いから気を失いそうでさぁ…」


「    帰    れ    」


「ちっ…心の狭い男は甲斐性ねえぞ」
 そう言うと、早速しょぼつきだしてた目を擦って、もたもたと布団から出てくる。そのまま
ノートを渡すと、無言のまま口を尖らせ視線はこっちに向けたままやっぱり窓からこの場を
後にする。
 ったく、俺相手だと好き放題言ってくるから困ったもんだ。後でおじさんに連絡しとこう。
おじさんこういうことに厳しいからな、帰ったら拳骨の一発でも食らっとけ。
「お前それ汚すなよー」
「うっさいなぁ、分かってるよ」
 あんな調子で帰ったとしても、どうせすぐ寝るんだろうな。勉強もなんだかんだで
やらないだろうな。というか嫌なことはやらないから柚稀は柚稀なんだよ、間違いないな。



 ちなみに翌日、あいつは放課後涙目になりながら大量の数学の問題を解かされる羽目になる。
答案が返ってきた時何故か睨まれたが逆恨み以外の何物でもない。「お勤めご苦労さんです」と
貸したノートを掠め取りながら、満面の笑顔で励ましさっさと俺は帰宅したのだった。
そしてその日、柚稀の部屋の電気が点いたのは八時を過ぎてからだった。くくくざまあみろ。
296名無しさん@ピンキー:2007/10/20(土) 00:34:53 ID:7GNFlKCY
保守ついでに短編投下してみたり
どこが幼なじみなんだっていう出来ですが(´・ω・`)
297名無しさん@ピンキー:2007/10/20(土) 01:37:00 ID:yo7yz477
保守なんかい。てっきり連載するのかと
それはともかくとして>>296 GJ!
298名無しさん@ピンキー:2007/10/20(土) 04:45:02 ID:MeqYs2a1
名前が…
字が違うけどさ
299名無しさん@ピンキー:2007/10/20(土) 05:24:12 ID:T+O+PvF6
連載しないと許さんぞ
…いえしてください、お願いします
300名無しさん@ピンキー:2007/10/21(日) 19:10:52 ID:WBV+MeRL
いやいやこういうのんべんだらりとした気の置けない関係もいいものさ
恋愛には発展しそうにないがこういう異性の友人欲しいねぇ
301名無しさん@ピンキー:2007/10/21(日) 22:12:05 ID:cVp/Wij9
しそうにないところから発展するのがイインダヨ
302名無しさん@ピンキー:2007/10/22(月) 02:35:21 ID:x+plJEk5
…なあ、スレタイ右の方の不等号逆じゃね?
303名無しさん@ピンキー:2007/10/22(月) 08:27:10 ID:NlGii9a1
友達以上恋人未満な
304名無しさん@ピンキー:2007/10/22(月) 08:55:32 ID:v8HqDQNj
幼馴染という存在は、俺にとって友達以上だし恋人以上だよ
>>302は言いたいんじゃないかと
305名無しさん@ピンキー:2007/10/23(火) 12:32:57 ID:HfMbXahS
その発想はなかった
306名無しさん@ピンキー:2007/10/23(火) 19:01:31 ID:0KbwpKN9
投下町
流るる川も
岩清水
307名無しさん@ピンキー:2007/10/23(火) 19:58:31 ID:+fZB+ga7
清水
308名無しさん@ピンキー:2007/10/23(火) 23:30:15 ID:Lpid144k
清水と流川で幼馴染話を書くと申されたか
309名無しさん@ピンキー:2007/10/24(水) 20:11:24 ID:SLM5hjdE
設定だけ考えたけど、腕的に無理っぽくて諦めた俺チキン
310幼乳:2007/10/25(木) 03:05:57 ID:+M+9CXlK
私はオッパイが嫌いではない
いや、健全なる青少年として、当然の興味と関心も持ち合わせている
しかし、この状態は我慢ならない
「晶!
いつもいつも乗せるなといってるだろうが
慮外者め!」
このアホたれは、学問に勤しむ私の神聖なる頭部を、あろうことか乳置きに使用してやがる
「いいじゃんか
彦の頭、ちょうどいい位置にあって楽なんだよ」
全く悪びれず、後ろからしがみついたまま、私を離そうとしない
すくすくと身体ばっかり無駄に育ちやがった奴は、ガキの思考のまま行動しくさる
「重いし、揺れるし、邪魔なんだよね〜、コレ」
311幼乳:2007/10/25(木) 03:07:45 ID:+M+9CXlK
「ブラジャーを着けろ
横着者」
男子たる我が身には、全く共感出来ようはずもない感想を、無視して冷たく突き放す
ブルンッ
「アンッ」
まるで水枕のような、重く柔らかい感触
一年前はほぼ平地だったはずが、あっという間に隆起したパーツ
その異常な物体が、反作用で信じがたい揺れかたをした
「イタイよ〜」
涙目でうずくまる
胸を押さえているだけだが、抱え込んでいるという表現が、妥当に思える質量
引き付けられる視線を、無理矢理引きはがし、勉学に没と…
「何をしている!!」
何故ゆえに、服をたくしあげておるのだ
312幼乳:2007/10/25(木) 03:09:59 ID:+M+9CXlK
注意深く視線を反らし、信じがたい行動をとる晶を、心中でキツク戒める
バカめ
バカめ
バカめ…
ここは男性の個室だぞ
何をほうり出して……
「ホラ!!
擦れて、朱くなっちゃったじゃないかぁ〜」
ウ〜〜〜〜!
威嚇しているつもりであろう唸り声をあげながら、上目使いで睨んでいる、恐らくは……
視界に入れる訳にはいかずとも、長い付き合い
奴の表情など、容易に頭に浮かぶ
……余計な物まで
「ちゃんと見ろよ
ほらっ!!」
「見れる訳ないだろう!
さっさとしまえ、バカタレが!!」
極力、穏便かつ穏健な表現で優しく戒める私
313幼乳:2007/10/25(木) 03:11:51 ID:+M+9CXlK
一切疚しいところは無い
断固として無い
無いのだが…
「おばちゃんに言い付けてやる」
等と、ほざきながら部屋を出ようとされた以上、止めざるをえなかった
そりゃあ、いくら幼なじみとはいえ、息子の部屋から余所の娘さんが乳ほうり出して出て来たら、
ましてや、無愛想な息子より、愛嬌たっぷりの隣家の女の子を溺愛している愚母である
とりあえず、無条件で倅をぶん殴るだろう
ある意味正しい行為ではあるが、身に覚えのない体罰を行使されるのは、極力避けたい
頭一つ大きい晶の体を、視界から外しながらも、必死で取り押さえる
314幼乳:2007/10/25(木) 03:17:32 ID:+M+9CXlK
「お前は一体、何がしたいのだ
このバカタレが!!」
「離せ〜
バカってゆ〜ほ〜がバカだもん!!」
ジタバタ暴れる晶
ガキのように憤り、もはやわけが分からなくなっているようだ
ドタバタと非常に馬鹿馬鹿しい攻防は、やがて終焉を迎えた
「ウワッ!」
「キャッ!」
ドスン
バランスを崩し、のしかかるように押し倒してしまった
「わ、悪い」
あまり悪くは無い筈だが、この状態で開き直れる程、太い神経を持ち合わせていない
慌てて奴の上からおり、様子を伺う
「晶?」
晶は床に打った胸を押さえたまま、じっとうずくまっていた
315幼乳:2007/10/25(木) 03:19:34 ID:+M+9CXlK
「アキラッ!
大丈夫か!しっかりしろ!!」
「……イタイ、イタイヨウ」
微かな声で応えるが、痛みに呼吸もままならない様子だ
「大丈夫か?
なんなら、病院行くか?」
尋常でない様子に、うろたえ醜態を晒す私
「……ヤダ」
痛みに顔をしかめながらも、晶は断固として拒否した
「しかしだな……」
「彦がみて」
……をい
「晶、オマエなぁ」
「ひーちゃんがみてくれなきゃヤダ」
常日頃、ひーちゃんと呼ぶなと言うておろうが
しかし、そんな主張をしてる場合ではない
嫁入り前の娘の胸に、傷でも残してしまったとしたら、一大事である
316幼乳:2007/10/25(木) 03:22:25 ID:+M+9CXlK
大体、数年前迄は一緒に風呂に入っていたのだ
多少、形態の変化があったところで、うろたえることは無い
我ながら、詭弁をろうしてると思うが、そうでもしないと、割り切れるものではない
「わかった、診せてみろ」
極力、冷静に告げる
「えっ」
聞き返すな、バカタレ
「診てやるから、胸を出せと言っている」
「う、うん」
ペタンと床に尻を付けた、女の子座りで体をこちらに向ける
意外そうにポカンと見つめる顔
口を閉じんか
全く、何も考えていない、警戒心のかけらも見えない表情
見慣れた筈の顔を、正視出来ないのは何故だろう
317幼乳:2007/10/25(木) 03:24:24 ID:+M+9CXlK
他の部分に、目が釘付けになってるからである
真っ黒に日焼けした愛らしい顔でも、意外に細い首や肩でもない
引き締まった腰や、薄く浮き出た肋骨でもない
全体的に成長しきっていない、薄めの肉付きの身体のなかで唯一、たっぷりと膨らむ部分
夏の日差しにしっかり染め上げられ、真っ黒に焼けた顔や手と対称的に、新雪のような白さを保つ胸
その雪山の頂点に咲く、淡い桜のごとき乳首が、最高のアクセントとなる
突如顕れた、完璧な造形美に、私は完全に魂を抜きとられた
「ひーちゃん?」
凍りついた私に、不思議そうに話し掛ける晶
318幼乳:2007/10/25(木) 03:27:34 ID:+M+9CXlK
「晶の胸、おかしいのかな?」
不安げに問う晶の声で、私はようやく、正気を取り戻した
「そっ、そんな事はないぞ
立派な胸だ」
……取り戻してないかもしれん
イラン事まで口走ってしまったが、晶は気にしてないようだ
「……でっ、痛いのはどこなのだ」
アホな発言をごまかす為に、問診を開始する
あくまでも「診る」のが目的あって、「見る」ではないのだ
「うん、あのね
こことここ……」
晶は、ボリュームたっぷりの乳房を持ち上げるようにして、下乳の辺りを指し示す
目視してみるが、外見上特に変化はない
「異常はないようだが」
319幼乳:2007/10/25(木) 03:31:39 ID:+M+9CXlK
「そんなことないよ
ホラッ」
グイッ
晶によって誘導された、私の双方の掌は、左掌右掌が左乳房右乳房を、おのおの保持するにいたった
掌に伝わる重量は、おそらくキロの単位に達しているだろう
触感は、きめ細かさを感じさせながらも、しっとり掌に馴染む
触感は、軟式のテニスボールが近いだろうか
……フニフニ
いや、弾力の戻りに違和感が……
……フユフユ
寧ろ、水風船
いやいや、表面の柔らかさが似つかわしくない
……ポヨポヨ
スポンジでもないし、ゴムでもない
……クニクニ
高分子ウレタンの枕も違うし……
……タユタユ
320幼乳:2007/10/25(木) 03:34:26 ID:+M+9CXlK
「あの、ひーちゃん」
「何だね」
……コネコネ
「チョット、くすぐったいな」
「何が」
……プルプル
「その、オッパイが」
「胸がどうかしたか」
……モミモミ
「ひ、ひーちゃんってば〜」
「だから何だね
質問は明確にしろ」
……プニプニ
「ひーちゃぁん、オッパイ壊れちゃうよお」
ギュウッ!
全力で診断していた私の視界が、突如暗闇に包まれた何事だ!!
一瞬慌てたが、直ぐに事態を悟った
私の頭部は何か柔らかい物に挟まれ、押さえ込まれていた
ぎゅうぎゅうと、後頭部から圧力がかかる
頬に伝わる柔らかな感触が堪らない
321名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 03:51:45 ID:uQH8ZGCp
支援
322幼乳:2007/10/25(木) 03:54:19 ID:+M+9CXlK
良い香りがする
甘く痺れるような芳香
身近な、それでいてどこか懐かしい
もっと香を確かめたかった
しかし、顔面に密着する圧力に邪魔される
そもそも呼吸にすら、差し支えがあるのだが、私の不満は嗅覚に対してのみであった
精神が、いくらのぼせ上がり気付かなくなっていても、肉体は当然、科学的に悲鳴を上げる
酸欠とそれ以上の理由により、私の意識は呆気なく、現実から逃亡を果たした
両手とも未練がましく、柔らかい物を放してはいなかったが……


続く
323名無しさん@ピンキー:2007/10/25(木) 20:13:02 ID:t/21PlYR
いいぞ!
324名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 17:37:32 ID:xkAx/1Z9
YES!
YES!!
YYYYYYYYYYYYYYYYYYEEEEEEEEEEEEEEEEESSSSSSSSSSSSSSSS
325名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 14:10:16 ID:WHfbu7jx
ちんこにがい
326名無しさん@ピンキー:2007/10/28(日) 18:44:36 ID:X3jQ6cWy
ぐへえ
327名無しさん@ピンキー:2007/10/30(火) 02:00:30 ID:crgbX/hq
保守でもしようか



「おかえり。」

スーパーのレジでビールを買ったらおつりと一緒にそんな声がした。
よく見ると地元では近所だったマユミが青いエプロンでこちらを見ていた。
小さく感じたのは俺の背が伸びたせいなのだろう。
「ん」
閉店間際とはいえ、この辺りに一軒だけの大型スーパーだというので
見切り品を狙う層がレジにまだまだ並んでいる。
おつりを握りこんで先に進み、眩しいライトから涼しい夜に踏み出した。
ガラス張りの店の奥で、マユミは淡々とレジ打ちに勤しんでいた。

月がキレイだ。
人もいない国道から、自宅へ向かう畦道に折れる。
ぷし、といい音がしてタブが沈み泡がほんの少しアルミ缶にあふれそうになる。
それを口先で啜りながら山の陰を眺め意識的に遅く歩いた。
喧騒もない、ネオンもない、虫の声と黒い山陰だけが風に吹かれて此処にある。

久々の故郷だった。

国道の方角だけが今も明るい。
大型ショッピングセンターが北地区に出来たせいかこちらはますます寂れていくようだ。
年老いた親父が細々とやっていた文具店も、お袋が亡くなったのをきっかけに閉めることになった。
その親父ももう入院だとかそういう話だ。
冷たい苦味が喉を心地よく滑っていく。
親が両方ともいなくなるのは、正直、まだ先の話だと思っていた。
近所にずっとそういう例があったのに俺が鈍感だったということなのだろう。
328名無しさん@ピンキー:2007/10/30(火) 02:05:08 ID:crgbX/hq

「りぃ。」
呼びかけと一緒に自転車のベルが背から響く。
振り返るまもなく脇から自転車がゆっくり追い越して行き、しばらく先でブレーキの乾いた音がした。
「まだ帰ってなかったんだ。ゆっくり歩いてるね」
月明かりの下で相変わらず何の変哲もない幼馴染が自転車を降りる。
化粧気はなかったが口元は笑っていた。
「あれ。もう仕事終わったん?」
「今日は上がりが早いの。折角だから送ってよ」
マユミは肩をすくめた。
俺に乗れというように自転車のハンドルを揺らす。
俺は。
何やら酒が回って適当な気分になっていた。
「マユミちゃんいけないんだ。飲酒運転は違法なんですよー」
言いつつも軽い身体を荷台に押しやりサドルをまたぎ、空のアルミ缶を前かごに突っ込む。
肩くらいの髪を後ろでひとつに結んだ幼馴染は、慣れた仕草で後ろに腰掛けてこちらの肩を掴んだ。

「いいでしょ。誰もいないんだから」

漕ぎ出すと向かい風がゆるゆると頬に当たった。
アルミ缶がハンドバッグのない隙間をころころと転がる。

――中学高校の頃は何度か一緒に帰ったことも会ったような気がするのだが。
ふと斜め下に目をやって、やわらかなロングスカートをはいているのに妙に感心したりした。

「相変わらず、働いてんのか」
「うん」
「チビたちも大きくなっただろうに」
「でも、おばあちゃんが亡くなったから。それにね、昔からだったけれど、末の拓也が頭いいの。
 多分進学したいんだと思うのよ」

虫の声と遠い車の排気音が、ススキの間に消えていく。
畦道を抜け、二人乗りの自転車はやや広い県道の端をくだっていく。

「りぃは今回もただの帰省、…じゃないね。おじさんのお見舞いか」
「んー」

詳しいことは話す必要もないと思った。田舎だから知れ渡っている。
今でも保育園時代の呼び名が生きている地方なのだから。

「りぃ。桐里。」
「んー」
「結婚した?」
「してね」
「売れ残りかぁ」

からかうでもなく、探るのでもなく、
ただふうん。と頷くだけの声音が、酒の回った頭に染みこんだ。
肩にかかる手は、相変わらず家の水仕事をしている荒れた指先だった。

思い出した。

そういえば髪を切って学ランを着たばかりの頃、
結婚したらこいつを楽にできるんだろうかと、隣で考えてみたこともあったっけ――
329名無しさん@ピンキー:2007/10/30(火) 02:05:41 ID:crgbX/hq
保守以上 ねる
330名無しさん@ピンキー:2007/10/30(火) 18:16:28 ID:lP/QW3GC
このまま書きこまなかったら続きが読めるのだろうか。
クオリティ高い保守を見るたびそう思う。
331名無しさん@ピンキー:2007/10/30(火) 19:36:58 ID:62JlRDjE
いや。GJと言われなきゃ、書く気なんて普通起きないもんだと思うけど

それにしても>>328は良い保守ネタ。主人公の故郷の様子が色々と想像しやすくて面白いね
332名無しさん@ピンキー:2007/10/31(水) 20:40:03 ID:TqpoYyNc
ところで以前も指摘があったが投下後のGJ!が少な目な気がする
好きでもない作品にウソついてまで賞賛するよりかはマシだろうけど…
333名無しさん@ピンキー:2007/10/31(水) 21:53:42 ID:haMIYAAB
>>332
住人が減ったのかもしれんな…
334名無しさん@ピンキー:2007/10/31(水) 23:27:55 ID:SlHCEK5K
八月下旬みたいに連続で投下が来たらまた盛り上がると思うよ
供給少なすぎ
335名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 06:25:15 ID:OEH9uJwZ
去年の八月っつーとピンクちゃんねる閉鎖騒動が巻き起こって
その前に何とか投下完了させようと「今宵の〜」の人が頑張ってた時期か
一定のスパンで投下するのも大事みたいね
336名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 06:48:31 ID:OEH9uJwZ
ああ、去年じゃなかったかw
337名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 19:03:45 ID:h5TqKRa0
去年の八月は突然猛烈な腹痛と下痢に襲われて二ヶ月入院するはめになったぜ
338Dion:2007/11/01(木) 21:14:54 ID:rFuJIJAI
アクセス規制されてて書きたくてもできねーんだよ
339名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 22:10:44 ID:nfRpi9GY
なるほどDion軍は大変なんだな。>>337も身体は大切にな

ところでエロパロのスレとしては人が多く集まる方が良いと思うけど
属性としては、少数ながらもそこそこに和気藹々というのが理想的だと思う
いや本当に。最近。マジで
340名無しさん@ピンキー:2007/11/03(土) 20:37:17 ID:8PSn7+WJ
多くなりすぎると気に入らない作品に文句をつけるのが出てくるからなー
まあそれでも職人さんが多いことは良いことだよ
341名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 00:19:52 ID:ngkG89PW
>>332
GJだけとか、GJ以外の意見が封殺される風潮で、読む方の住人が減ってるだろうしな。
342名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 01:10:20 ID:kGH77kCo
書いてる立場からすれば、GJの一言だけでも感想いただけりゃ嬉しいもんですよ
個人的意見になるけどね
343名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 11:42:03 ID:+lJAsLfE
GJだけでも嬉しいけど、作品内容に言及してくれるとしっかり読んでくれているって分かっていっそう嬉しくなるんですよねえ。
少なくとも自分は、ですが。
344名無しさん@ピンキー:2007/11/07(水) 19:12:54 ID:A8oAfvD1
ちょっとだけ書いた事があるが、既に時代遅れなタイプの幼馴染かなあと思ってたら
ウケがそこそこ良くて、やっぱわかってくれる奴がいるのは良いなあと思った
この属性にはちょっとしたこだわりがあるんだけど、そーゆうのをわかる人が現存してると嬉しい

てか、この前の>>235-以降の雑談で幼馴染欲しいって感じの意見多かったけど
おれは幼馴染萌え語りできる友人が欲しかったぜ




そんな私が孫にあげるのはもちろんヴェ○ター○オリ○○ル
なぜなら彼も友人がいないからです
345名無しさん@ピンキー:2007/11/08(木) 00:39:18 ID:la+WQ2fI
レンタルマギカという作品があるが、あれの幼馴染もとっても健気な感じで素敵だ。関西弁だし。
346名無しさん@ピンキー:2007/11/08(木) 22:35:39 ID:XbNYc5A4
全然知らなかった。調べて単行本いっぱいあるなーと思ったらアニメ化もされてんのか
そんでもって主人公が昔のことを覚えてない、と。
記憶喪失主人公の側には良幼馴染がいることがしばしばあるから今度立ち読みしてみるかな
347名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 01:54:48 ID:1cwEA6Tr
  ピョン
    , - 、
───┐ ! ヒュー
□□□│ ・
□□□│ |\
□□□│i´   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ
□□□│|    ∧_∧     |
□□□│|  ◯( ´∀` )◯   |┌────────────
□□□│|   \    /   < 僕は、アディリシア派!
□□□│|   / __ \   |└────────────
□□□│| (_/   \_)  |
□□□│!、_______,ノ
 ._.  │
 | | |  │
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
348名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 02:28:16 ID:Tm+OnEAB
確かにアディリシアはとっても良いキャラだと思うが、このスレでわざわざ言うかwwwwwここで言うなら穂波だろwwwwwww
349名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 19:30:29 ID:dFQPNmLP
アニメしか知らんがケルト魔術の人は年上に見えてしまう
350名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 20:26:07 ID:Y0DJuskX
なるほど。つまりアレだな。この流れは眼鏡イラネだな?
351名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 21:50:31 ID:e6/uch6Z
というか属性多すぎなんだよな
352名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 23:06:41 ID:h3Ksuzd5
幼馴染み魔女っ娘メガネ関西弁女子高生か
どれか幽霊の子の分けてやれよ
353迷い:2007/11/12(月) 01:06:05 ID:ylpMi7je
妹属性が若干有ります。

「ただいま〜」
学校から帰宅した少年は叩きに腰掛けると大きく息を吐く。
彼の名は大井優祐。ごく普通の高一だ。
特に部活もやってないし、勉強もそこそこでしかない。
特筆する所と言えば、高一にして生徒会長をしているという事だろうか。
「お帰りなさい」
「お帰り〜」
大きく伸びをしていると、リビングから二人の少女が出迎えに来る。
二人の名は大井桜と神上優華。
桜は優祐の妹。優華はその幼なじみで大井家の隣人でもある。
桜は茶色い髪を短く切り揃え、活発な子であり。
優華は漆黒の髪を長くまっすぐと伸ばしている。また性格もおとなしく物静かな子だ。

二人ともタイプは違えど美少女と呼ぶに相応しい容姿だろう。
「よう、来てたのか」
「お邪魔してます」
優華が小さく頭を下げる。
「邪魔なんかじゃないよね、お兄ちゃん」
「勿論。桜、母さんは?」
優祐は桜の問いに笑って答え、逆に母の居場所を聞く。
「遅くなるからよろしく だって〜」
大井家の母は、俗に言うキャリアウーマンだ。なのでしばしば帰宅が遅くなることがあり、そのような時は優祐が夜ご飯を作っている。
354迷い:2007/11/12(月) 01:06:43 ID:ylpMi7je
だからか優祐の料理の腕は高校生の男子としては稀有な腕前だった。
「あいよ。優華ちゃんはどうする?」
「もしいいなら」
彼女が遊びに来ていれば、ほぼ必ず繰り返される会話。
とはいえ彼女は毎回とても遠慮がちにしている。
「OK」
優祐は了解すると鞄を持って自室に戻る。
そして部屋着に着替えるとリビングでゲームに興じている二人を眺めながら夕御飯を作り始める。
「お〜い、二人とも何食べたい?」
遊んでいる二人に後ろから声をかける。
「なんでも〜」
桜は優祐を見ずに声だけで答える。
「なんでもいいです」
一方優華はキチンと振り向いて答える。
優祐はその態度の違いに、うぅやっぱ優華ちゃんは優しいなぁ、なんて若干感動してしまう。
「なんでも、かそれが一番困るんだけどなぁ〜」
とはいえ、“なんでもいい”は作り手からすると困るのだ。
優祐は冷蔵庫を覗くと、何が作れるか例を上げ始める。
「二人とも、生姜焼き、野菜多め湯豆腐、カレー、の中だったらどれがいい?」
二人は手を止め一瞬考えると、「湯豆腐がいいです」「カレー!」
と同時に違った提案をする。
355迷い:2007/11/12(月) 01:07:19 ID:ylpMi7je
クスッ。
その状態に優祐は一人笑い出すと、
「じゃあお客様の意見を取入れて湯豆腐な」
とクスクス笑いながら二人に告げる。
「あっそんな、いいです」
優華は慌てて自分の意見を取り消そうとするが、
「遠慮すんな〜 そんなに遠慮してもいいことないぞ」
優祐はそう言って優華をなだめる。
「は、はい」
その笑顔に気恥ずかしくなったのか俯いた優華を一瞥すると、優祐は桜に命令を下す。
「桜、隣行って夕飯こっちで食べてくって言ってこい」
「はーい」
桜は握っていたゲームのコントローラーを投げ捨てると、ドタバタと騒々しい足音を立てながら隣へといってしまう。
優祐はその騒がしさに苦笑しながらも、手慣れた手つきで下ごしらえを始める。
「あの、私手伝います」
テーブル越しにそれを見ていた優華はそう声を上げる。
優祐も特段断る理由も必要もなく、素直に受け入れる。
「そう?手伝ってくれるなら有り難いけど」
「はい、手伝います」
優華は嬉しそうに頷くと学校の鞄から髪ゴムを取り出し髪をポニーテールにまとめる。
356迷い:2007/11/12(月) 01:07:56 ID:ylpMi7je
「あれ、ゴムなんて持ってたんだ」
優祐は見慣れない姿に疑問の声を上げる。
「学校じゃ結わないといけないんで」
「あーそうなんだ。髪長いもんね」
優華はコクリと頷く。
「そっか、制服か。ちょっと待ってて」
優祐はガサゴソと食器棚の下ーー布巾等が入っている所ーーを漁り始める。
「あった。ほらこれ着けなよ。制服汚しちゃあれだし」
優祐はエプロンを差し出す。
「ありがとうございます」
優華はペコリと一礼するとそれを受取り着け始める。
かなりの時間死蔵されていたであろうエプロンは水色の地に小さい白の花柄が散りばめられており、中々可愛い柄だった。
「どうですか?」
「うん、似合ってる。可愛いよ」
「そ、そうですか……」
優祐の何気ない一言に優華はほんのりと頬を染めて俯いてしまう。
が優祐は頓着せず、冷蔵庫から野菜を取り出すとひょいひょいと優華の前に置いていく。
「それじゃあこれ切ってって。包丁下にあるから。指気をつけてね」
「はい」
優華は頷き野菜を切り分け始める。
さして広くない台所で二人の男女ーーというには少し幼過ぎるがーーが料理するのは、傍目からでも仲睦まじく見えた。

ガチャ
「只今〜、あんまり遅くならずに帰ってきなさいよだって〜」
357迷い:2007/11/12(月) 01:09:16 ID:ylpMi7je
お隣りから帰ってきた桜はそう言ってリビングに入ってくる。
「あれ、なんで優華まで料理してるの?」
二人が台所に立っている姿を見て、疑問顔になる。
「優祐……さんのお手伝いしてるの」

「ふーん、変なの。エプロンは?」
「昔から家にあるやつだよ。制服汚してもまずいしな」
「なーんだ、つまんないの。お兄ちゃんもう少し面白い答え方してよ〜」
心底ガッカリとした表情をする。
「はいはい。ほら、テーブルの上片付けて。優華ちゃん野菜終わった?」
「はい」
「それじゃ鍋の中にどんどん入れて」

二人の共同作業で着々と料理は出来上がっていく。

「よし、鍋通るぞ」
優祐が中にたっぷりの野菜と豆腐、それに熱湯が入った鍋を既に配膳されている皿の真ん中に置く。

「食べるぞ〜」
「はーい」
まず桜が席につきその横に優華が。彼女の向かいに優祐が座る。
「それじゃ、いただきます」
その言葉を合図に、三人は一斉に食べ始める。
白飯に湯豆腐ーー野菜や豚肉が入っているので純粋な湯豆腐ではないーーそれに多少の付け合わせがあるだけで、豪華とは言えない食事だ。
358迷い:2007/11/12(月) 01:09:51 ID:ylpMi7je
が“食欲は最大の調味料”の通り三人は言葉少なに食事を平らげていった。

「ごちそうさま〜」「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
鍋の中を殆ど空にして三人は夜ご飯を終える。

「ふぃ〜」
三人は後片付けもそこそこに、各々楽な体勢でテレビを見ている。
ちなみに優祐は横になっており、その横に優華が女の子座りで、二人の後ろに胡座をかいた桜が座っている。
「優華ちゃんお風呂うちで入ってくの?」
優祐は下から優華を見上げる。
「あ、いや家で入ります」
「そっか。じゃあそろそろ帰った方がいいかな?」
時計は既に8時を回っている。
いくら隣家とは言えど、年頃の娘さんを置いておくのはもうよろしくない時間だろう。
「そうですね、そろそろ失礼します。ありがとうございました」
優華は立ち上がると優祐に向かって深々と一礼する。
「そんなに丁寧にしなくていーよ。それじゃあね、気をつけなよ。って気をつける程距離ないか」
優祐は自分の言った言葉にクスクスと自分で笑い始める。
「そうですね」
359迷い:2007/11/12(月) 01:11:20 ID:ylpMi7je
釣られて優華もクスクスと笑い始めてしまう。
「隣だもんね〜。それじゃ優華また明日〜」
「うん。桜ちゃんまた明日ね。それでは」
優華は再度一礼すると、鞄をもって静かに帰る。とことん丁寧な立ち居振る舞いだった。

「しっかし優華、変だね〜」
桜は優華を見送ったあと、ぽつりと漏らす。
「そうか?」
優祐は言外の意味を汲み取れずに聞き返してしまう。
「だってお兄ちゃんにばりばり敬語だし。優祐“さん”だよ?」
「そういえば……」
確かに桜も優華も生まれてから殆ど一緒に居る。
なので、優祐とも一緒に行動する機会が多々あった。
近所の縁日や市民プール。そんな物でなくても公園にだって三人で行った事は沢山有る。
その時彼女は優祐の事を優にぃと呼び、態度も多少の違いはあれど桜に似通った親しみを見せていた。
それがいつの間にか、ですます調を使うようになり、ついには“さん”付けまでするようになった。
優祐も当然、多少の寂寥感や違和感は持っていた。
が優華も年頃である。
だからこそ年頃の女の子なんだからと考え、口には出さなかった。
しかし今の桜の話を聞く限り、彼はかなり特殊な反応を優華にされているらしい。
360迷い:2007/11/12(月) 01:12:57 ID:ylpMi7je
それは優祐の心の中で、優華との関係に少しの、だがしっかりとしたひびを入れるのには充分だった。


以上です

私は感想、批判大歓迎なんで目についた所があれば遠慮無く指摘してくださいm(_ _)m
361名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 08:01:03 ID:1dIkoX1c
GJ!!勿論続くんだよね?ね?ね?
続いてくれなきゃヤダモン
ここから2人の関係にどう変化が起きるのか楽しみだ

全裸で女の子座りしながら待ってる
あれって男がやると無茶苦茶苦しんだよな〜
362名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 16:30:26 ID:eavqWRIi
GJ!
いきなり暗雲立ち込める終わり方で続きが気になりますな
ただ一つ気になったのが−がーだったことだな
細かくてスマン

>>361
むしろ女の子座りのほうが楽な俺イズヒア
363名無しさん@ピンキー:2007/11/12(月) 22:40:34 ID:ymOTEvYa
昨日の障害長引くかと思ったら直ぐに終わった上に投下まで来たのか

>>360
おれもーは―にした方が良いと思う。おれが指摘できることはそれぐらい
続き楽しみにしてる
364名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 00:39:20 ID:LX6N19y6
GJ! ところで妹は義理の妹かな? そうだよね? そうだと言って! そして3Pモノにして下さい!!
365名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 02:08:36 ID:4h4muqZn
>>292-295を連載してみたりすることにしました
決して他のネタが思いつかなかったとかとかじゃないのであしからず!

……いや、あのスイマセン

366Memories 〜Second〜:2007/11/14(水) 02:14:16 ID:4h4muqZn

ガラガラッ

 自分の部屋の窓を開け、身を乗り出して屋根の上に降り立つ。いつもは裸足なんだけど、
毎回あいつにうだうだ言われるのも鬱陶しいからな。今はっつーか、今回からはサンダル
履いて行くことにした。これで文句言われても言い返せるな、ふひひひ。

「よっす!」
 窓を叩かずに、脅かし目的でいきなり声かけてみる。……なんだ、いねぇじゃねえか
つまんねー。あ、でも鍵開いてんな。入って待つか。
『勝手に部屋に入ってくんな』
 呆れた面してため息をつく兼久の声が聞こえたような気がした。の割りには、あいつこの
窓の鍵あんま閉めないんだよな。まぁ、あたしとしちゃありがたいことだけど。

 大友兼久。

 この何の特色も色気もねぇ殺風景な部屋の持ち主で、物心ついた頃からの腐れ縁。
 なんか戦国武将みてぇな名前なんだけど、顔も図体も名前負けしてないのが怖いところだ。
身長は180越えてるし体重も90近いとか言ってたな。おまけに、まだ高校生なのに不精髭
まで蓄えてやがる。おかげで初対面の奴は大抵ビビる。あたしから見ればでかいし重たいし
熊みたいに見えんだよな。それはそれで怖いか。 

 ついでに、あたしの名前は小宮山柚稀。ま、よろしく。

 しっかし、何してあいつ待とうかなぁ。漫画は全部読んだし、他の本は文字だけだし。
 哲学書とか普通に本棚に置いてあるし、埃も被ってねーんだから恐ろしい奴だ。見た目からは
まず考えらんねぇ。
 大の字で寝転んでるとするか。こいつのベッドあたしのより寝心地良いからなぁ、はふぅ。

ガチャ

「……ん? 柚稀か?」
「あー、邪魔してるよ」
 戻ってきたか幼なじみ。入り口は足元の方にあるから、起きるのも面倒なんで手の代わりに
脚を振って返事をする。あたしは余計だったり面倒なことするのが嫌いだ。
「……ないわー」
「だって面倒臭いしさー」
「お前遊びに来たんじゃないのかー」
「そうだったんだけどさー」
「帰れー」
「いやだー」
 脚で返事されたのがよっぽど不満だったらしい。図体でかいのにあちこち指摘すんだもんな。
もっとこう何ていうの? あははうふふ別にいいよそのくらいー俺とお前の仲じゃないかー的な
感じで……それも気持ち悪いな。
「で、どこ行ってたんだ?」
「買い物」
 そう言うと兼久は、手にしていた買い物袋を見せつけてくる。近所のコンビニに立ち寄って
菓子とか買ってきたみたいだ。起き上がってがさごそと中身を漁りながら覗き込んでみる。
「お、バニラだ」
「取んなよ」
「さすが兼久、この前の小テストであたしを見捨てたことは許してやろう」
「取んなっつーの、お前に買ってきたんじゃねー」
 あたしはバニラが好きだ。好きな食べ物は? と聞かれて「バニラのアイスかな」って
答えるくらい好きなんだ。理由を聞かれても好きだからとしか答えようが無い。こりゃもう
本能的なモンだなきっと。
367Memories 〜Second〜:2007/11/14(水) 02:16:46 ID:4h4muqZn

「まーまー気にすんなよ。折角でかい図体してんだから」
「アイス食うのに体型は関係ありまっすぇーん」
 んなこと言ってさー、お前が一番好きなアイスは抹茶だろ。口には出して言わんけどさ。
自惚れるよー? 自惚れとくよー?
「うまうま」
 木のヘラを勝手に袋から取り出して、勝手にパクつき始める。あぁ、なんでバニラって
いちいちこう最高なんだろう。もうこの味わいこの風味は、あたしに満足してもらうために
この世に生まれてきたとしか思えない。
「そうやって話聞かないから、補修受けまくることになんだぞ」
どうやらアイスの件はもう諦めたらしい、よかったよかった。これでもうこのアイスは
あたしのもんだな。
「まーそう言うなって。あたしだって色々お前を助けてやったりしてるだろ」
「ほほう、例えば?」
「え゛」
 う、やばい。つい売り言葉に買い言葉で言い返しちまった。
「例えばお前が俺に何してくれたっけぇ柚稀ぃ〜」
 あああもう、また話の主導権持ってかれちまった。まあいつものことなんだけど。でも
こうなるとあたしに勝ち目なくなるからな、シカトしよシカト。

「……(パクパク)」
「もっしもーし」
「……(もぐもぐ)」
「あれれー? また無視ですかー?」
「あー……やっぱバニラは最高だな」
「……(ぴきっ)」
「……(ぴくっ)」
「はい! お答えなしということで柚稀さんが食べてるアイス、ボッシュート!」
「やーだー!」
 あああ取られた! 取られた! まだ半分しか食べてないのに! 太い声で「チャラッチャラッチャーン」
とか口で効果音出してんじゃねー!
「かーえーせー!」
「はっはっは、元々俺のものだ」
 このジャイアンめ、人のもの勝手に奪い取るなんて最低の人間がやることだぞ! あたしの
場合特別だからいいんだけど!
「ほーら高い高ーい」
「ふざけんな溶けるだろ!」
 兼久は奪ったアイスを持ったまま、天井に向かって腕を延ばす。当然、そんな高さに届く
はずもない。
「じゃ、いただきまーす」
「あああ、やめろっ、やめろよー!」

ぱくんっ

「あーーーーっ!!」

 半分くらい残っていた溶けかけのアイスを、兼久はヘラを使わず直接口に放り込む。
しばらく口をもごもご動かしていたが、やがてごくんと大きく喉が鳴る。
 その光景を目の当たりにして、気付くとあたしはがっくりと膝をついてしまっていた。
「ひでぇ…こんなの最悪だろ!」
「少しは自分が悪いとは思わんのか」
「すっごく楽しみにしてたのに!」
「お前は何を言っているんだ?」
「兼久のこと信じてたのに!」
「信用裏切るようなことばっかやってんのはお前の方、な!」
 食べ物の恨みは怖いんだからな、いつかきっと仕返ししてやる。
368Memories 〜Second〜:2007/11/14(水) 02:19:22 ID:4h4muqZn

コンコン

「あのさ、うるさいんだけど。せめてドア閉めてくれない」
「あ、あぁ、悪い」
 ドアが開きっぱなしだったから、あたし達の口喧嘩がかなりうるさかったみたいだ。
 そのドアを叩きながら、腹に据えかねた様子で一人の女の子が姿を現す。兼久が謝っても
眉間の皺はとれそうにない。
「あー…ごめんね憐奈ちゃん」
「別にいいですけど…」
 この娘は兼久の妹で、憐奈(れんな)ちゃんて言う。あたし達より二つ年下の中学三年生で、
当然のことながらこの冬受験を控えている。
「あんまりうるさくしないでくださいね」
「うぅ…ごめんなさい」
 そのせいか最近、妙にピリピリしてて態度がちょっと冷たい。昔はあたしに懐いてくれてて、
髪型とか真似してくれたりしてたのになぁ。今もお互いショートっていう共通点はあるけど、
彼女の髪は首元あたりまでは伸びていてあたしの髪みたいにボサついたりしてない。

「そうだ、あのさ」
「はい?」
 そういや彼女を見てて思い出した。気になってたことがあるんだった。本人にいくら
聞いても答えてくれないけど、彼女なら答えてくれるかもしれない。
「最近恭一がさ」
「…っ! 失礼します!」

バタンッ!

……

「……あれ?」
「お前マジ空気読め」
「ん? えぇ?」
 空気読めって言われても、何のことだかさっぱり分からんし。弟の恭一の様子が何か
変だから、その理由知ってるかどうか聞こうと思っただけなのに。クラスは違ってたはず
だけど、あの二人もあたし達みたいにちっちゃい頃から一緒に遊んでるし。
「……」
「なんでだー?」
「…恭一の奴、凄く頭良いだろ?」
「まぁ、そうだな」
 ため息を一つついてから、兼久が口を開く。
 うちの弟は、突然変異と言ってもおかしくないくらいに昔から出来が良かった。ぶっちゃけ
数学ならもう抜かれてるかもしんないし、背丈も兼久ほどじゃないが既に抜かれてる。
 まあそれを鼻にかけたりせずに、あたしのことちゃんと姉と思ってくれてるみたいだから、
可愛い奴なんだけどな。
「で、あいつは極端な負けず嫌いだからな」
「……そういや、そうだったか」
 確かに憐奈ちゃん、勝負ごとになると急に性格変わってたなぁ。特に恭一との勝負は、
毎回勝ててなかったような。要するにそれがきっかけですっかり仲は冷え切ってるってことか。
今の様子を見れば、彼女にとっちゃ天敵みたいなもんのかもしんない。
「年齢的な事情もあるみたいだけどな。最近めっきり口数が少なくなったよ」
「思春期かぁ……あたし達には無かったな」
「姉貴達にもな」
「あの二人は色々終わってるし」
「お前に言われるってことはいよいよ終わってんな」
 ちなみにあたし達には、もう一人兄弟がいる。兼久には姉貴、あたしには兄貴。要するに、
お互い異性の兄弟に挟まれている。これまた同い年の腐れ縁のようで、唯一の違いは兄貴は
社会人で兼久の姉ちゃんは大学生ってことくらいかな。年は三つ上だから今年で二十歳か、
いいなぁ気兼ねなく酒飲めて。あたしも早く二十歳になりたい。
369Memories 〜Second〜:2007/11/14(水) 02:21:25 ID:4h4muqZn

「なんで付き合い古い奴と付き合い辛くなんのかな、今まで通りでいいじゃんな」
「俺にもよく分からんけど、照れくさいんじゃないか。多分」
「ふーん…、まあ後でもっかい謝っといて」
「構わんけど、相手が俺でも姉貴でも態度はあんな感じだぞ」
「ま、いーからいーから」
 思春期っつっても一時的なもんだろうし、高校に入る頃には様子も元に戻ってんじゃないかな。
そうなったら、以前と同じとまではいかなくてもまた一緒に遊んだりできるかな。
「年下の奴には気遣いできるんだなぁお前」
「まーな。お前もあたしに精一杯尽くして恵んで優しくしてくれたら、三つ指立てて頭を
下げてやらんこともないぜ」
「つけあがるだけだろ、何言ってやがる」
「か! 戦国武将みたいな名前と面してんだから、ちゃんと相手に礼儀は尽くせよ」
「戦国時代の女性って、大抵は政治的取引の道具にされてたらしいぞ」
「今はそんな物騒な時代じゃないだろ」
「先に言ってきたのはそっちだよな」
 お互いにお互いを口汚く罵りながらも、こういうやりとりはあんまり嫌いじゃない。
まぁ、アイス食ったことは一生言い続けてやっけど。食い物の恨みは怖いんだからな。

「で、今日は?」
「いつも通り、どうよ?」
「稽古」
 一応、今のやり取りを意訳すると以下の通りになる。
『で、今日は何しに来たんだ?』
『暇つぶしだよ、これからどっかに遊びに行こうぜ』
『無理、柔道の稽古がある』
 繰り返され続けた会話ってのは、こうやって色々省かれてくもんであって。以前学校で
似たようなやりとりしたら、端から見てた奴に「何喋ってんのか全然分かんなかった」とか
言われたりもしたもんだ。あたしは別に悪くない気分だったけど、兼久はなんか苦虫を
噛み潰したような顔になってたっけ。
「またかよー、最近断ってばっかりじゃねーか」
「用事ある時に来るお前が悪い。毎週ほぼ同じスケジュールなんだし、少しは把握したら
どうよ」
「めんどいー」
「だろうなー」
 たまにはね、答えの分かりきった何の実りもない話とかも必要だと思うんだよね。何も
することない時間があったりするんだったら、尚更。一人は嫌だし。

「じゃあ、そろそろ準備するから」
「あーい、帰ってきたらバニラ宜しくー」
「ははは却下ー」
「えーなんで、半分食べたくせに」
「だからあれは元々俺のだと何度言えば」
「ラクトアイスでいいからさー、百円のカップのやつー」
「さっき食ってたのも百円のラクトアイスだけどなー」
「じゃあハーゲンダッツでいいから」
「なんで倍以上の値段するやつにランクアップしてんだ」
「クラスチェンジです」
「意味が分かりません」
370Memories 〜Second〜:2007/11/14(水) 02:23:48 ID:4h4muqZn


 くそう、こうなったら本当に仕返ししてやる。半端に食べちったもんだから余計に食べ
たいのにー。月三千円の小遣いじゃ全然足らん、アイスだけに割くわけにもいかねーし。
「お前もバイトしろよ。どうせ暇なんだろ?」
「高校生でやれるバイトなんかロクなのがねーよ。いいよなお前は見た目で騙せて」
「異議あり! 履歴書は内容に偽りなく提出しています!」
 机をバン、と叩きながらあたしの顔を指差し反論してくる。どこの世界の弁護士だお前は。
「その履歴書を拝見しておらぬことには何とも申し上げられませぬ、三十路に見間違えられた
こともある大友兼久殿」
「だまらっしゃい」
 反論を一喝するように怒鳴り返してくる。いつの世界の軍師だお前は。
「帰れ帰れ、俺はお前と違って色々やることあるんだ」
「学校以外に道場とバイトか。そんなに暇するのが嫌なのかよ」
 口元をつい釣り上げてしまいながら、いつものように声を殺して喉で笑う。こんなに
でかいのに忙しない奴だ。

「嫌っつーか、退屈だよな」

「んー?」
 退屈とか。急に何言ってんだこいつ。
「親父によく言われんだよ。『社会人になると働くことで頭が一杯になるから、学生の間は
色々なこと体験して密度の濃い生活をしろ』ってな」
「…だから色々やったりしてんのか」
「実益も兼ねてるけどな。道場の方も楽しいし」
 以前は、あたしも同じ町道場に通ってた。というか、中学に入って一緒に始めたんだ。
だけどこいつみたいに体格的にも恵まれてなかったし、大して強くもなれなかったから、
中学卒業するぐらいの頃には辞めてしまった。兼久は楽しいとか言ってるけど、あたしの
場合そうは思えなかったな。
「……そんなもんなのか」
「そんなもんなんだよ」
 ま、こいつ自身が満足そうならそれでいいよな。

「じゃあ、そろそろ帰るわ」
「おー、アイス食いすぎて腹壊すなよ」
「好物食べて壊れるほどあたしの腹は柔じゃねえ」
「なら、見舞いの暁にはその時こそハーゲンダッツを買っていってやろう」
「へぇ」
 よし、明日にでも仮病を使おう。
「仮病使ったら今後一切お前には恵まん」
 ちっ、見抜かれてた。

「しゃーねーな。それじゃ、また明日」
「おうおう」

371Memories 〜Second〜:2007/11/14(水) 02:25:03 ID:4h4muqZn

ガラガラッ

 扉から…ではなくやっぱり窓からお暇する。あ、そういや折角スリッパ履いてきたのに
アピールできなかった。これじゃ意味がねー。
 屋根伝いに歩いて自分の部屋に舞い戻る。兼久の部屋を殺風景だの何だの言いまくったけど、
ぶっちゃけこの部屋も大差ない。性別の差を考えりゃ、あたしの方がやばいかもな。
 机に備え付けられた椅子に座って、背もたれに思いっきりもたれ掛かる。窓の向かい側に
見える、さっきまで邪魔してた部屋の電気が消える。カーテンも閉められる。兼久は稽古に
行ったようだ。

 ……

 退屈、か。

 今のあたしはどうなんだろうか。暇してるんだろとか言われるけど実際退屈なのか? 

 実際よく分かんねぇな。これといった不満があるわけじゃねぇし、端からそう見えてても、
肝心なのは自分だし。

「あー……っ」
 ……ったく。小難しいこと考えようとするといっつもこうだ。バニラ成分が足りねえ、
ってわけでもないけど、口の中が妙に寂しくなる。っつーかなんだ、えっと、あーもう、
わけ分からん。

 吸うか。こういうごちゃごちゃした気分になる時はこれが一番だ。

 机の中に隠してあるちっさい入れ物の中から煙草をライターと一緒に取り出す。銘柄は
もちろんキャスター。マイルドだけど。窓を少しだけ開けて、部屋に転がってた空き缶を
灰皿代わりにする。それを窓辺に置いて、一本咥えて火をつける。

「……ふぁー」
 吸い始めたのは一年くらい前からだけど、最近量が増え始めた。理由はまあ、色々ある。
家族は知ってる。嫌な顔はされたけど、止めろとは言われなかった。亭主関白で男兄弟な
家庭に女の子一人じゃ、ある程度仕方ないとか思ってるのかもしれない。
兼久には言ってない。
 言えばどんな反応されるかは分かってるし。あいつとの付き合いも居心地悪いもんじゃ
ねーしな、つまんねぇことでこじれさせたくない。

 あーあ、何も考えないで毎日それなりに楽しく生きてくことができりゃあなぁ。そしたら
楽に生きていけるのに。

 余計なこととか面倒なこととか、あたしは嫌いだ。

 おもむろにくゆらせた煙が、空気に紛れて消えていく――――
372名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 02:26:40 ID:4h4muqZn
なんだか冒険しすぎな臭いがプンプンするぜ!
気長にお待ちいただければ幸いです、スレ汚しして申し訳ありません
373名無しさん@ピンキー:2007/11/14(水) 19:10:47 ID:rFHtcArR
おぉ良作三部作になりそな期待
( ゚∀゚)∩彡つバニラワッフル バニラワッフル
374名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 02:03:36 ID:iuWT3lYJ
タバコ吸ってチンポも吸うわけだな。
淫売め!!
375名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 02:13:16 ID:OjnXvrKJ
んなこといってると続きがこなくなるぞ
376名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 17:20:57 ID:+HGISFtm
これは俺のツボの予感
ワッフルワッフル
377名無しさん@ピンキー:2007/11/17(土) 16:31:30 ID:yPYBpdaj
hosyu
職人さんこないな・・・
378名無しさん@ピンキー:2007/11/17(土) 21:53:40 ID:O8RRwkzr
まあ、このスレの投下スピードは決して速い方じゃないしな
これまで投下してくれた作者さんたちの続きを落ち着いて待つさ
379名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 01:02:35 ID:Ao51ayJJ
集英社スーパーダッシュ文庫の紅という作品の幼馴染が結構良い感じ。

普段は主人公に対して冷たい態度を取るのだが、時折隠し切れない愛情が不器用な形で現れるのが良い。

更には幼い頃に一緒にお風呂に入った時に、胸を触りたがった主人公に触らせてやった事を持ち出して黙らせる所
とか中々良かった。
380名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 03:25:13 ID:byUjv9RX
381名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 17:46:15 ID:f8YQ7AfM
ちんぽ保守。
382名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 18:20:52 ID:Rvdj0UbY
最近スクランが怒涛の幼なじみ展開だな…
383恥じらい肛門丸:2007/11/21(水) 20:55:53 ID:7PWY5iO1
残照の中を安井松雄は魚篭を片手に歩いていた。中には漁師をしている父親が
獲ってきた新鮮な魚が入っており、これを島で唯一の医者である飯島医院まで
届ける所だった。本土の港から西へ四キロの位置にあるこのぽこぺん島には、
平成近くになるまで医者が常駐しておらず、病人が出ると急ぎ船やヘリコプターで
本土の病院まで運んだという。

平成生まれの松雄はその事を父母や島の大人たちから教わり、またこんな辺鄙
な場所で開業してくれた医院の飯島正俊先生は、とても偉い人だといい聞かされ
てきた。実際、松雄自身も飯島医院で受診した事があり、立派な髭を生やした先生
は優しい大人物のように思っているし、看護士を兼ねている奥さんも品の良いお人
で、島の誰とも別段、隔意という訳でもなかった。

しかし、松雄はその娘である飯島尚美だけはどうも苦手でならない。その為、この
お使いが嫌で嫌で仕方が無かった。共に高校一年生、島には中学までしか学校が
無いので、毎日、知り合いの漁船に乗せてもらい、本土の高校まで通っているのだ
が、これがもう、負けん気が強くてきかない。医者の娘で育ちの良いはずの尚美は
生来の癇癪持ちで、粗野極まりなかった。対して荒くれ者の代名詞のような漁師の
倅で、貧しい家に育ったにも関わらず松雄は控え目な性格で、とにかく争いを避け
たがる。

学校へ行ってもそれは変わらず、たとえば尚美が誰かにからかわれたとする。
年頃ゆえ、悪戯好きな男子に尻のひとつも撫でられる事もあろう。そんな時、容赦
の無い鉄拳がその男子には飛ぶ。女だてらに拳を握り締め、相手の鼻っ面をぶん
殴るのである。時には馬乗りとなり、滅多矢鱈に殴るので、松雄が慌てて取り押さえ
る程だった。その際、暴れ馬を乗りこなすように松雄は尚美を羽交い絞めにし、殴ら
れている奴に逃げろと叫び、力尽きるまで尚美を押さえつけた。そうしないと大怪我
をする。相手も、また尚美も傷つくのである。松雄はそれが嫌だった。
384恥じらい肛門丸:2007/11/21(水) 21:10:30 ID:7PWY5iO1
医院には灯かりがついていて、呼び鈴を鳴らすと奥さんが出てきた。
「あら、松雄君じゃないの。こんばんは」
「こんばんは。あの、親父がこれを持って行けって」
「綺麗なお魚。いつもありがとう」
魚篭を受け取ると奥さんは笑ってこう言った。

「尚美、いるけど」
「と、とんでもない!」
松雄は首を振り、手で奥さんの言葉を遮った。
「お茶でも飲んでいったら?」
「結構です、じゃあ・・・」
松雄は慌てて踵を返し、医院を後にした。冗談でも心臓に良くない。松雄はそろそろ
薄暗くなった道を急いで帰っていく。

そして、島の集落の端にある我が家へ続く道に出た時の事。
「おーい」
澄んだ声が松雄の耳に届いた。草道を凄まじい勢いで誰かが駆けて来る。
「尚美・・・」
辺りは暗いが声を聞いただけで誰かは分かる。松雄は立ち止まり、追いかけてくる尚
美を待った。尚美はTシャツに短パン姿。肌はよく焼けているが、顔かたちは美人の部
類に入る。全速力で駆けて来たのだろう、肩で息をして額には汗をかいていた。

「うちに来たんなら、顔を出しなよ」
「夕飯時だと思って」
「母さんに聞いて、慌てて追っかけてきた」
尚美が近づくと、汗と体臭の入り混じった物が松雄の鼻をつく。良い香りだと松雄は
思った。母にも島の女にも無い、熟していく過程にある女の証だった。
「あ、雨だ。降るなんていってなかったのに」
尚美がふと空を見上げ、手をかざした。島の天気は変わりやすく、あまり予報などは
あてにならない。二人は適当な木のウロを探して、そこに落ち着いた。
385恥じらい肛門丸:2007/11/21(水) 21:25:21 ID:7PWY5iO1
「もっと、くっつきなよ」
「いや、大丈夫」
肩が濡れている松雄を見て、尚美は心配そうな顔をする。
「濡れてるよ、肩。風邪ひいちゃう」
「鍛えてあるから大丈夫。俺、漁師の倅だ」
それは、自分へ言い聞かせる言葉だった。

松雄は漁師の倅である事を、別段、卑下している訳ではない。ただ、島でも偉い医
者の娘である尚美に対し、僅かばかりでもやましい心を抱かぬように、自制してい
るだけの話だ。
「そういえば、お魚ありがとう。私、魚好きなんだ」
「そうか。いや、まあ、親父が獲って来たんだけど」
「松雄が持ってきてくれるお魚、いつも美味しいよ」
「新鮮だからな」
「新鮮だからね」
それっきり、二人の言葉は強くなった雨足に消されてしまった。通り雨かと思いきや、
本降りである。

「迂闊だったな。こんなに降るとは」
「そうだね」
そう言った尚美が、小刻みに震えているのを松雄は気が付いた。良く見ると尚美は
随分、薄着である。上着も羽織らずに慌てて家を出て、更には松雄を走って追っか
けてきたので、汗が冷えているのだろう。松雄は自分の上着を脱ぎ、尚美に着せて
やった。

「悪いよ」
「俺は暑がりだから」
「じゃあ、くっつこう。これで二人とも温かいよ」
安手の上着を二人で肩にかけ、体を密着させる。これで温め合おうと言うのだ。
「あ、尚美、お前」
「いいから、いいから」
Tシャツの袖から伸びた尚美の腕に触れると、松雄は急に恥ずかしくなった。すべす
べしていて餅のように柔らかい。尚美の肌はそんな感じである。
386恥じらい肛門丸:2007/11/21(水) 21:39:59 ID:7PWY5iO1
ただ、雨の方はなかなか小振りになってくれず、ウロにいるのもそろそろ限界に
近い。ここから松雄の家までは走って十分ほど、飯島医院へも同じくらいの時
間がかかる。その間、雨に打たれてはいかにも体に悪いので、松雄は思案に
暮れた末、
「尚美、あの小屋まで走るか」
と言って、木々の隙間の向こうに見える、島の皆が集会所代わりに使っている
小屋を指差したのである。

距離にして二百メートルくらいだろうか、曲がりくねった小道を走ればほんの五
分もかかるまい。小屋には囲炉裏があって、火を起こす道具が揃っているのも
松雄は知っていた。
「私、走るのは得意だよ」
「知ってる。じゃあ、行くぞ。上着はお前が被れ」
薄着の尚美をこれ以上、濡らしたくは無かった。松雄は上着を尚美の頭から
被せ、彼女の闘争心をあおるように走り出す。

「先についたもんの勝ちだ」
「負けるか」
ざんざと降る雨の中を二人は笑いながら走った。尚美が泥濘に足を取られそう
になると、松雄も走るのをやめて待つ。口ではああ言ったが競争ではない。二人
一緒でないと意味は無いのだ。
「松雄」
「早く行こう」
松雄は自然に手を出し、尚美の手を取った。手はとても柔らかく、指も細い。いつ
か尻を触った男子を殴ったような手にはとても思えなかった。

小屋にはあっという間についた。ここに鍵は無く、出入りは自由である。二人は早
速、囲炉裏に火を灯し、濡れた体を温める事にした。
「生き返ったな」
「本当」
囲炉裏を挟んで松雄、尚美は火に照らされた顔を見合わせる。小屋に灯かりは無
いが、これでも十分なくらい明るかった。
387恥じらい肛門丸:2007/11/21(水) 21:53:35 ID:7PWY5iO1
「松雄」
「なんだ」
「濡れた服着てると、風邪ひいちゃうよね」
「かもしれん」
「脱ごうか」
「えっ?」
松雄は目を丸くして、尚美の顔を見遣った。どこか恥ずかしげで、照れたような感じ
である。

「脱ぐって、まさか」
「・・・パンツ以外」
「俺は嫌だぞ。恥ずかしい」
「あなた、男のくせに。女はもっと恥ずかしいんだよ。私、脱ぐから」
「ちょっと、待った」
体育座りになって、膝の上に腕を乗せ、またその上に顔を乗せてじっと見つめる尚
美に抗しきれず、松雄はうなだれた。

「脱ぐよ。おあいこだぞ」
「うん、おあいこね」
小屋の中に濡れた衣擦れの音が響くと、松雄はおかしな事になったと思った。囲炉
裏で木がパチッと弾けた時、対面の尚美がびくっと身を震わせた。口では強い事を
言っているが、内心は心細いのであろう、小さな物音にも敏感になっているようだった。
下着一枚を残して裸になると、松雄はできるだけ下を向くようにしていた。対面には
同じく裸になった尚美がいて、とても直視する勇気が無い。

一方、尚美も体育座りのまま下を向いて、何も話さずにいる。結局、囲炉裏の炎以外
に相手の視界から身を遮る物も無いので、自然、そういう風にならざるを得なかった。
雨が屋根を叩く音は相変わらず強い。まさか夜通し降るとも思えないが、どちらも少し
不安である。そんな中で、尚美の方が沈黙に耐えられなくなったのか、うつむいたまま
松雄に話し掛けてきた。
388恥じらい肛門丸:2007/11/21(水) 22:08:07 ID:7PWY5iO1
「ねえ」
「なんだ?」
「私の事、どう思ってる?」
「どうって」
「好きとか、嫌いとか」
松雄は一瞬、間を置いて、
「好きに決まってる」
と、答えた。

「その割には、今日もお魚を届けにきてくれたのに、すぐ帰っちゃったじゃないの」
「うん」
「私、暴力女だし、松雄にいつも迷惑かけてるからさ。嫌われてるのかと思って」
「そんな事あるか」
「本当?」
「ああ」

松雄だって本心は尚美の事が好きだった。しかし、世の中には分を弁えねばならぬ
事が多々ある。万民平等を謳う今の世においても、家柄の貴賎や身分の上下は存
在する。漁師の倅が医者の娘に恋する事は、松雄にとって大罪のような気がするの
である。松雄は尚美が不意に立ち上がったのを気配で感じ取った。それにつられ、ふ
と顔を上げると、ショーツ一枚の尚美が恥ずかしそうに、松雄を見下ろしているでは
ないか。

「松雄」
「尚美・・・」
「ずっと好きだったの。そっちへ行っていいでしょう」
尚美は足音も立てず、松雄の傍らへとやってきた。ショーツの前は雨で濡れ透け、
若草が乱雑にその姿をのぞかせている。松雄にとってはちょうど、目線にそれが
ある格好だった。尚美はショーツに手をかけ、一気に脱ぎ下ろすとしゃがんでいる
松雄に差し向かうような形で片膝をつく。
389恥じらい肛門丸:2007/11/21(水) 22:33:53 ID:7PWY5iO1
一方、松雄のパンツからは魁偉な風貌を持った生き物が顔を出していた。尚美
を獲物と認識し、喰らいつきたがるように先端からは涎を滲ませ、物欲しそうな
表情をしている。
「松雄、じっとしててね・・・」
尚美は手を伸ばし、松雄の首に回していく。指先は揃えて、まるで蛇が木にまと
わりついているようにし、最後は松雄へ体ごと巻きついた。

尚美は口づけをねだった。さあ、早くと小声で囁くと二人は唇を重ね、訳も分か
らず歯を鳴らした。舌を絡めるなどとは考えもつかず、ただ唇と唇を舐め合うよう
に、しかし飽きる事無く口づけをするのである。次第に松雄にも欲が出たのか、
彼の手も尚美の腰から下、特に尻へと執着を見せ始めた。松雄は手を一杯に
広げ、尻を弄った。大きい割に柔らかく、その手触りはつきたての餅を捏ねてい
る時に似ていた。

「ああッ、松雄」
尚美は松雄の頭を抱え、いきりたつ怪物の上に自ら跨っていく。松雄は床に
寝て、その上に尚美が覆い被さっていくのである。若草の少し下、尚美の女園
はすでに開きかけていたが、それでも未開通の処女宮に違いは無い。そこに
蛮族が手にするような松雄の分身が、花弁を分けて入っていく。分身はまず、
温かな肉の感触を知った。それから自然と導かれるように、ぬめる洞穴の中
を手探りで進む。その先はまったくの闇同然の筈なのだが、分身全体が生肉
で包み込まれる如き様子が脳内に結ばれる。松雄は今、ついに少年ではなく
なった。

「うッ、ああッ」
尚美は目の縁から大粒の涙を流していた。彼女もまた、少女ではなくなって
いた。一生、忘れられぬ破瓜の痛みを感じ、脳裏に刻んでいた。胎内でぬめっ
ているのは血水だろうか。尚美は自分が田楽刺しにでもなったような気がした。
「あッ、俺、出そうだ。尚美」
「いいよ、全部、中へ・・・」
松雄が喘いだ次の瞬間、尚美は胎内に生ぬるい液体が放たれるのが分かっ
た。そして、腰を上げて分身を抜くと、我が花弁より滴り落ちる血と子種の混じ
った粘液を見て、ほうっとため息をつくのであった。
390恥じらい肛門丸:2007/11/21(水) 22:44:53 ID:7PWY5iO1
二人はただ抱き合っていた。囲炉裏の火がやけに心細くなったが、体を寄せ合う
若者たちは寒さを感じていなかった。
「尚美、大丈夫か」
「うん、平気。なんか、ズキズキするけど」
松雄は尚美を労わった。すでに乾いた尚美の柔らかな髪を、手櫛で梳いてやった。

「私、嬉しい。初めてを松雄にあげられて」
「尚美」
松雄は折れんばかりに尚美を抱きしめた。愛しくて仕方が無い。女の健気な言葉に
若くして世界中の愛を手に入れたような気さえした。
「これからずっと、一緒だよね」
「ああ、勿論だ」
「好きよ、松雄」
「俺もだ、尚美」
若い二人に愛しているという言葉はむしろ陳腐だった。好きの一言ですべてが通じ
る純真さがあった。

気を利かせたのか囲炉裏の火が落ちて、小屋の中は暗くなった。雨はまだ当分、
止む気配を見せていない。



おすまい
391名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 00:05:05 ID:F3HuN1Qq
久しぶりに乙
いい話やで
392名無しさん@ピンキー:2007/11/23(金) 01:13:27 ID:+Gr942WN
GJです
心地よい文章でした
393名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 20:00:36 ID:/hAv+XTW
>>383-390
何か天然の刺身みたいに鮮度の良いSSですね。
変に凝ったり飾ってない分、素直に好感が持てました。
GJ。
394名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 22:12:39 ID:BWKijHVH
本当に久しぶりだ。良かったぜ


ところで、あと一ヵ月後にはクリスマスイブだな
たぶん、おれはスレに投下された作品や過去作品を見ながら
一人ちびちび酒をやって過ごすんだろうなあ。我ながらなんて清い夜だ
395名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 06:39:26 ID:QLG5I9lw
>>394それでお前は幸せなんだぞ?
世界には戦争、飢餓、病気、虐待、いじめ、貧困、身体知能障害、etc・・・
こんな中で苦しんでる人なんて山程いる。そんな中で穏やかに暮らせる事がどれだけ幸せか分かるだろ?

一人寂しい時はこんな事を思い浮かべ、俺は幸せなんだと自己暗示かけてる。
396名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 10:52:46 ID:mHl11KHu
独りぼっちなのと、萌えとは対極な幼馴染がいるのと、
どっちが不幸なんだろうな
397名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 16:55:47 ID:LCPLTtIK
誰かに気に掛けてもらえる人は、幸せだと思う。
だからといって、独りぼっちだから不幸というわけでも無いと思う。

さて、クリスマス前に独身者だけの飲み会でも企画するか
398名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 03:33:41 ID:Te3oxryB
一緒にいて楽しい人がいれば、それだけで幸せと断言できる。

クリスマスに対して復讐って事で、友達と一緒に日本中のクリスマスツリー薙ぎ倒してくる。
399名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 09:49:53 ID:u6/jZmLM
じゃあ俺サンタ狩り。
400名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 12:16:34 ID:UfQkj5Yt
>>398
くそっwwなんて楽しい計画をw
401名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 22:53:15 ID:0VJEG95Z
トナカイ鍋っていうのもどうだ
サンタが街にやって来れないので一石二鳥
402名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 23:02:04 ID:T7crUQ9Y
これはあれか、クリスマスにモミの木を切り倒そうとする男を
幼なじみの女の子が必死に止めようとするSSが見たいというネタ振りか
403名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 00:14:41 ID:dufTSoqj
久しぶりでアレですが
ひっそり投下します
404夏の約束3:2007/11/27(火) 00:15:30 ID:dufTSoqj
 夏休みという至福の期間をただ暑いだけの平日に変えてしまう、
ありがたい補習授業。
 それもようやく半ばを過ぎた七月下旬のある日。僕はしばしの現
実逃避にと、学校の図書室に本を物色しに来ていた。
 伝統のある学校らしくそれなりに充実しているこの図書室は、や
はり進学校らしくもあって、閲覧用に設置されている幾つかの机は
夏休みにも係らずそれなりに席が埋まっている。勿論大抵の図書館
がそうであるように、その大半はノートと参考書を広げて自習に励
む受験生なのだけれど。
 建造された当時は白亜の城と見紛うばかりに輝いていたであろう
校舎も、数十年の埃が積もりに積もった今となっては苔むす屍。夏
は暑く冬は寒い、嫌がらせのような建物と化している。
 そんな訳で、生徒が気軽に入れない職員室等を除いては唯一空調
が完備している図書室はまさに天国という訳だ。

「あれ、井上じゃあないか」
 僕の名を呼ぶ声に振り向けば、そこにあったのはニヤニヤと笑う
知り合いの姿。
「なんだ中臣か。ニヤニヤ気持ち悪いぞ」
「や、仮にも受験生とあろうものが娯楽小説などを読むのかと驚い
てね」
「本返すついでに補習に来る奴に言われる筋合いはないよ」
 この少年の名は大蔵中臣。いかにもという姓に相応しく代々金融
畑の家柄で、忌々しくもお坊ちゃまであらせられる。大層な名前を
つけて万一名前負けしてはと遠慮したのかどうなのか、どうせなら
大臣にしておけばと思わなくもないところ。
 名前も変なら性格もちょっと変で、目立つ容姿と相まってこの学
校ではちょっとした有名人だ。まあつまり、先祖代々庶民にして常
識人の僕とは随分住む世界が違うのだけれど、お互い本が好きなこ
とが一年の時に分かって以来、なんだかんだでよく話をするように
なったのだ。
 これで頭が悪ければ可愛げもあるのだけど、残念なことに概ね僕
より優秀だ。得意の国語はなんとか勝てるものの、他はまるで敵わ
ない。家では僕なんかよりずっとしっかりやってるんだろうけど、
学校では不真面目な姿ばかり見るので時に世間の不条理を感じてし
まう。
405名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 00:16:39 ID:dufTSoqj
「ところで、今日は一人なのか?」
「いんや、あっちにいるよ」
 カウンターの方をあごでしゃくる。司書の中本先生と喋りながら
茶をすする夏葉の姿を視界に納め、頷く中臣。
 僕が本を借りる時は、夏葉はカウンターの向こうで世間話。本は
あまり読まない癖に、夏葉と中本先生の仲は良い。と言っても僕が
借りた本を横から持っていくからそれなりには読んでいるのかな。
あ、夏葉のやつ、卵焼きもらってるぞうらやましい。
「なるほど、奥さんはあっちか。そいつは邪魔をしたね」
「そういうそっちはどうしたんだ。補習にも来てなかったろ」
 いつもの軽口を聞き流して中臣に返す。尤も中臣の方はほんとに
奥さんみたいなものだから困る。
「ん、春香なら今日は――と、そうだった。頼まれごとを思い出し
たんで帰る」
 ではまた月曜に、そう言い残して中臣はあっという間に姿を消し
た。なんだったんだ、あれは。
 ちなみに倉守さんというのは中臣の彼女だか許婚だかの同級生の
倉守春香さんのことだ。そんなに親しい訳じゃないけど、夏葉と仲
が良いので時々話はする。男女ともに人気は高いみたいだけど、や
んぬるかな、中臣と許婚と知れた今となっては粉をかける者もいな
い。

「結局どうしたんだろ?」
 補習は任意だから来なくても問題はないとはいえ、真面目な彼女
がさぼるとも思えない。
「ハルちゃん? さっきメールしたら夏風邪引いたってさ」
 と、本棚の陰から夏葉が急に出現する。
「なんだ夏葉か、おどかすなよ」
「テッちゃんちょっと選ぶの遅いんじゃないの? お腹空いたー」
 口を尖がらせてブーたれる。はいはい、それじゃあさっさと帰り
ますかね。
 適当に選んだSF小説の手続きを済ませ、図書室を出る。出るや否
や押し寄せてくる生暖かい空気に思わず顔をしかめる。
 昇降口から外に出れば更に凄まじい熱気で、これからの長い道の
りに思いを馳せて気分は早くも熱射病だ。夏葉はと言えば植木のわ
ずかな陰をひょいひょいと渡り歩き、少しでも暑さから逃れようと
奮闘している。
「明らかに無駄な努力じゃないかなそれ」
 動く分余計に暑い気がしなくもない。
「分かってないねテッちゃんは。こういう小さな努力が後で実を結
ぶんだよ多分」
 教室の壁に貼ってある標語だよそれは。そのとおりだけど、無駄
な努力と小さな努力はちょっと違うと思う。
406名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 00:17:28 ID:dufTSoqj
 自転車置き場にたどり着き、日光でようく暖められた座席に手を
触れる。なんというか見事な焼き加減といわざるをえない。
「うひゃ、あつー。帰る頃にはお尻がミディアムじゃないかなこれ」
 隣では夏葉が同じことをして顔をしかめている。もう慣れっこと
は言え、なんとかならないものか。
「そのうち冷えるだろうしミディアム・レアでいけるんじゃない?」
「そうかな。テッちゃんはもうちょっと焼いたら? 最近ちょっと白
いよ」
 暑さで脳ミソが茹っているとは言え、我ながら頭の悪い会話をし
つつ校門を抜けて川沿いの道を走る。
 五分とたたずに水浸しになったカッターシャツは肌にまとわりつ
いてなんともいえず気持ち悪い。これだから夏ってやつは。
 横を走る夏葉も状況は同じで、全身汗まみれ。あの様子ではブラ
ウスから透けてる下着ごとぐしょ濡れだろう。
 これだから夏ってやつは。

「そういえば、夏風邪だって?」
 微妙に聞きそびれていた倉守さんの話を聞きなおす。あれで結構
体は丈夫だと思ってたんだけど、やはりお嬢様ってことかな。
「あー、うん。クーラーかけっぱなしで机で寝ちゃったとか言って
たよ」
「なるほど、中臣の頼まれごとってのもそれかな」
 プリン買ってきてとか大方そんな頼みごとだろう。それにしても
クーラーかけっぱなしで夏風邪とは、倉守さん意外と抜けているな。
そのあたりは夏葉と似たような物だろうか。
「いーな、ハルちゃん。大蔵君に優しく看病してもらうんだよきっと」
 中臣は別に優しくないと思う。いや、倉守さんには優しいか。ま
あ何にせよ羨ましいには違いない。僕も欲しかったよそういう優し
い幼馴染が。中臣はこれっぽっちも要らないけど。
「テッちゃん風邪引いたことないでしょ。バカだしスケベだし」
「馬鹿はともかく後者は関係ないと思う」
 大体僕だって別に見境がないお猿さんじゃないんだから。誰彼構
わず変なことしたりする訳じゃない、と一応弁護しておく。
407名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 00:18:33 ID:dufTSoqj
「じゃあさ、私が風邪引いたらテッちゃん看病してくれる?」
「何がじゃあか知らないけど、そもそも去年の春休みに丸一日看病
してあげたのは誰だ」

 まだ夜は冷えるというのに寝巻き姿で僕の部屋に上がりこんで漫
画を読みふけった挙句に風邪を引いたのはどこの誰だ。
「そういえばそうだっけ。いやいやあの時はお世話になりました」
 お粥はしょっぱかったけどね、と付け加えて夏葉は笑った。
 まああの時はどちらも親が仕事で手が空いているのが僕しか居な
かったんだから、僕が看病せざるを得ない状況だったわけで。と言っ
ても精々氷枕を取り替えたりお粥を作ったりする程度だったけど。
で、ネットのレシピを信用して慣れないお粥を作ってみたらちょっ
と失敗してしまったというわけだ。
「まあでも美味しかったよ? テッちゃんにしては中々」
「いや、さすがにあの塩辛さは自分でもどうかと思ったよ」
「そう? ほんとに美味しかったんだけどな。愛情こもってて」
 いやいやいやそんな訳はない。あれだけブツブツ文句言いながら
作ったお粥のどこにそんな隠し味が。風邪引くと味が分からなくな
るというのは本当だったか。
「おっと信号青だよ夏葉」
「あ、ちょっと! またそうやって誤魔――」

 自転車のギアを重くして、立ちこぎで凸凹の田舎道を逃げる。十
分に勢いがついたところで足を止め、なにやら喚きながら追いかけ
てくる夏葉を緩やかに待ちながら今日の昼ご飯を考える。

 そういえば焼きそばがあるって言ってたかな。うん、今日は焼き
そばで決めよう。
408名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 00:23:10 ID:dufTSoqj
とりあえず以上です。こうしてみると意外と短い(;^ω^)
もうちょっと早く書けるようにならないものか
409名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 09:10:14 ID:3uA4rjit
GJ!
良いほのぼの日常感だ。ゆっくりでも投下してもらえると嬉しい

>>402
言いだしっぺが(ry
410名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 16:13:52 ID:cotup2+q
GJ!なんか和みますな。

最後の文、なんか孤独のグルメ思い出したw
411名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 01:11:49 ID:crxecahL
遅くなりましたが
>>353>>359の続きです



「おはよー」
まだ登校するには若干早い時間に優祐は学校に来ていた。
「あら、優祐早いじゃない」
が既に教室には一人生徒が居た。
生徒の名は、春高文奈(はるたか ふみな)
肩口で切り揃えた髪を高い所で結び、短いポニーテールにしている。
文奈は優祐と、幼稚園に小中高と同じであり、クラスもほぼ同じだった。
決して家同士が近い訳ではないが、幼馴染みのような関係だ。
「うん。朝会議の前に書類出しとかないと、予定立ててくれないから」
「納得。頑張れ生徒会長」
文奈はあははと笑いながら優祐の背中をバシバシと叩く。
「痛いって。俺よりも副会長も頑張って欲しいな」
優祐は文奈の手を退けながらニヤリと笑い返す。
そう、文奈は現生徒会の副会長である。
何故高校1年の彼等が生徒会を運営しているのか。
それは基本的に生徒会を運営すべき高2に会長立候補者が出なかった。
412名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 01:12:52 ID:crxecahL
よって高一に生徒会長の座が回ってきたのだが、一年にも立候補者はいなかった。
なので教職員が指名することになった。
最初は高2の生徒が指名されたのだが断られ、それで優祐が指名されたのだ。
ちなみに理由は、目に止まったから、だそうだ。
優祐は指名を引き受けると、旧知だった文奈と学期当初隣の席だった拓海を道連れとばかりに役員に指名した。
こうして高一生徒会が形成されたのだ。
「えぇ〜」
文奈は不満そうな声を漏らす。
「私サボりたいな〜」
「副会長がサボろうなんて考えるなっ」
すかさず優祐がつっこむ。
ガラガラッ
談笑している二人を割るように勢い良く教室の戸が開く。
「お前ら朝から元気だな、廊下まで声聞こえたぞ」
教室に入ってくるなりそう言った少年の名は仲澤拓海。
高校からの付き合いだが優祐とはかなり親しく、現生徒会の書記でもある。
また彼の通学路は大井家の目の前を通るので、たまに一緒に登校したりする。ちなみに彼女持ち。
「テンション高くしないとやってらんないって。朝っぱらから書記さんの代わりに書類持ってきたんだぞ?」
413名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 01:14:11 ID:crxecahL
「なるほど。あれ、お前家出るとき、名前何って言ったけ……妹ちゃん起こした?」
「桜な。いや起こしてないけど?」
「ああそうそう桜ちゃん。いや、お前の家の前通ったとき真っ暗だったし、人の気配がしなかったぞ。まだ寝てたりしないか?」
「ゲ……マジですか」
「えーっと、もう間に合わないんじゃない?」
文奈は時計を見ながら尋ねる。
既に時計の針は7:50分を指していた。
「いや。中学近いし、今すぐ起きればなんとかなる……と思う」
「親は?」
「もう出掛けてる」
「電話掛けまくれば起きるんじゃない?」
文奈がそう提案する。
「もう留守録にしちゃった」
「なら携帯はどうだ?」
「桜、電源切ってると思う」
「詰み、かね」
「だな。まぁ一日くらい遅刻しても問題ないか」
優祐はアハハと笑う。
しかし既に諦めかけている男性陣とは違い、文奈はまだ方策を探していた。
「ね優祐、優華ちゃんは?優華ちゃんに起こして貰えばいいじゃん」
「優華ちゃんって?」
高校からの付き合い故、拓海は優華を知らなかった。
「優祐のお隣りさん。それで桜ちゃんと同い年。たしか中学も同じはず」
文奈が拓海に説明する。
文奈自身も、優華とは十数回しか会ったことはないが説明には充分だった。
414名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 01:15:35 ID:crxecahL
「なるほど。でも大井は、その子の番号知ってるのか?それに家の鍵だって」
「いや、知ってるし。開いてる」
「本当?じゃあ電話すればいいじゃん」
「早くしないと妹ちゃん遅刻しちまうぞ〜」
始めて見つかった実現可能な案に、二人はその実行を急かす。
「うん……」
が優祐はあんまり乗り気ではなさそうで、携帯電話をバックから取り出した所で動きが止まっていた。
「ほら、早く」
が、それを文奈が急かす。
「あぁ、うん」
優祐は覚悟を決めたように頷くと、メモリーから神上優華を呼び出し、電話をかける。
プルルル プルルル プルルル
「はい、もしもし。神上です」
「あーおはよう優華ちゃん。優祐です」
「優祐さんっ、おはようございます」
優華は電話の向こうでお辞儀してるんじゃないかと思わせるくらい、元気良く、礼儀正しい挨拶をする。
「あーおはよう。それでさ、今家にいる?」
「はい。もうすぐ学校行きますけど……それがどうかしましたか?」
「えーとさ、すごく悪いんだけど、桜起こしてくれないかな?」
「まだ桜ちゃん寝てるんですか?」
優華も若干驚いた口調で聞き返してくる。
「うん。しっかり寝坊してるっぽい」
「しっかりですね。でも鍵は?」
415名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 01:16:46 ID:crxecahL
優華は優祐の不思議な言い回しに笑っている。
「鍵は開いてるから大丈夫」
「分かりました。それじゃ行ってきますね」
「ありがとう。恩に着る」
「別にそんな、いいですよ。それじゃ行ってきますね」
優華は笑いながら電話を切る。
彼女からしてみれば桜を起こしに行くだけ。
それで優祐の役に立てるのが嬉しかった。

「で、どうなった?」
通話を終え、ポケットに携帯をしまった優祐に拓海が尋ねる。
「行ってくれるって」
「そうか、よかったじゃないか。まぁもう遅刻は確定だろうけど」
既に時計の針は8時を過ぎていた。
「まあ一限には間に合うだろ」
席に着きながら大きく息を吐く。
「結果オーライって事にしときましょ。あ、そうだ。優祐、お昼付き合ってくれる?」
「何で?今じゃダメか?」
優祐はいきなりの誘いに若干驚きながら疑問を発する。
文奈はその言葉に大きく頷いて返し、こう言った。
「それじゃ予約しといたからね」
それだけ言うと文奈は答えも聞かずに教室から走り出てしまった。
「なーんだありゃ?」
「俺に聞くなよ」
「謎……か」
「謎……だな」
「行った方が良いかな?」
優祐は内心、幾ら文奈とは言え昼休みを全て同時行動するのは避けたかった。
416名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 01:19:20 ID:crxecahL
別に文奈が嫌な分けではないのだが……
「行った方が良いんじゃないか。約束しちゃったし」
が拓海は優祐の心の内を分かっていながら突き放す。
それは、文奈の行動に若干の違和感を覚えていたからでもあった。
「だな。昼休みは覚悟しとくよ」優祐はそう呟いた



以上です。
一応接続詞には気をつけてみましたがどうでしょうか。
次回はもう少し早く投下します。
417名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 21:01:35 ID:1gfhqBoo
おお? 幼馴染が二人いるのか?
なかなか先が読めないが面白くなってきた。GJ!
418名無しさん@ピンキー:2007/12/01(土) 06:42:01 ID:k738A8FS
なんだか新鮮なSSだな。妹持ちの幼馴染み多数とは。
楽しみにしてる。GJ!
419名無しさん@ピンキー:2007/12/03(月) 23:37:22 ID:wcUlmkv/
アゲ保守
今年はクリスマスネタの投下はあるのかね?
420名無しさん@ピンキー:2007/12/04(火) 01:40:41 ID:cRwLkXY3
「クリスマスだぁ? なんもねぇよそんなもん。バイトだバイト」
「相変わらず投げやりだなぁ」
「そういうお前こそなんか予定あんのかよ」
「さぁ? 今のところは未定だよ。誰かの誘い待ちってところかな」
「……あのさ、それ、俺じゃダメか?」
「何が?」
「何がって……」
「だから、あんたはあたしとどうしたいのかってこと」
「いやそのつまり……ええい細かいことはいい! 俺に付き合え!」
「うん!」
そして結局今年も二人で過ごすクリスマスなのであった。
421名無しさん@ピンキー:2007/12/04(火) 20:56:24 ID:3Vi5lXIv
ネタ投下早すぎw
422名無しさん@ピンキー:2007/12/04(火) 21:45:18 ID:xIAHDFUs
【芸能】「渡鬼」愛ちゃん役の吉村涼(29)が結婚! 小学校の同級生と[12/04]
http://news21.2ch.net/test/read.cgi/mnewsplus/1196739120/
423名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 02:32:04 ID:AZd1n29d

「よし、行ってくるわ!」
「どこへよ?」
「大義のためかなぁ、止めんな」
「理由を聞いたつもりはないけど」

 急に何を思ったか分からんけど、思いつめた表情でそう言ってるのは、
生まれて17年、異性としてじゃなくて、人として付き合い始めて17年経って
しまってる腐れ縁の幼なじみ。
 せっかくのクリスマスイブだっていうのに、薪を拵えるための斧を携えて、
真剣な表情で何か言ってしまってる。いや、意味は分かるけど、そこに込められた
本意がどうにも分からなかったりする。
 普段のこいつなら、斧携えてこんな物騒なこと言ったりしないし。何を考えて
こんなこと言ったりしてんのか。

「モミの樹切り倒してくるわ!」
「はあ?」

 な、何な、何を言うとるんな。
 前々からあんまり頭は良くないとは思っとったけど、ここまで駄目となると
いよいよやばい。よもや都会の何か変な人たちに騙されて、変な薬とか吸っとる
わけじゃないよな。

「いや、だって……、何でそんなことするん?」
「さっき言ったやんか」
「でも…おかしくない?」

 あたし達が住んでるのは、東京から遠く離れた田舎も田舎、あたしの語り口調を
見て聞いてたら分かると思うけど、地方の地方もいいところ。大学進学のために
東京に行ったお姉ちゃんが、あたしらの地元の正確な位置を日本地図出して
聞いてみたら、ちゃんと答えれたのは10人に1人くらいしかおらんかったらしい。

「なんで?」
「聞いてくるんがおかしいよ。おばちゃんに、あの樹の植林にどれだけ金かかったか
聞いてない? あたしらの月のバイト代が100回くらい飛ぶんよ」
「なっ…そんな金かかっとるんか」
「……本当に知らんのか」

 いよいよ本当にアホなんかな。緑化計画の為の植林行為でも十分な費用が
掛かってるのに、駅前の立派な一本モミを一本だけ植林するとなると、どれだけ
その費用が掛かったか、考えなくても大体分かると思うんだけども。まあ、それが
分からんから夏も冬も補講を喰らったりしてるんかな。
 大体あそこには、モミの樹植える前から……

「ハイ質問です」
「何でしょう」
「自分が黙っておいてくれたら、全て丸く収まると思いませんか」
「……」

「……な?」
「……」
 お……終わっとる。腐っても駅前の時点で、あたし以外にも目撃者なんて仰山
できるのに。色んな意味で終わっとる。
424名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 02:33:32 ID:AZd1n29d

「なんでそんなに倒したがるの?」
「……」
「別に、何か被害があったりするわけじゃなくない?」
「……」
 町おこしの一環で、せめて冬の一時でもその一瞬を盛り上がらせロマンチックな
ものにしようと、市議会が駅前にでっかいモミの樹を植えようと決めたのがちょうど
去年の今頃。
「こんなド田舎にそんなことしても無駄」「都会じゃないのにイルミネーション代もかさんで
余計な出費」たくさんの反対意見が出たけども、結局モミの樹は植林されることになった。
今頃、赤に黄色に青にちかちか光って、てっぺんにきらきら光るでっかい星を乗せた樹が、
随分な勢いで自己主張したりしてるのだろう。
 おかげで今年は、駅前のカラオケボックスや飲食店の利用客が増加傾向にあるらしい。

「だって……俺、彼女とかおらんし」
「……?」
「あいつらもおらん言ってたし。なのにあんなん立てられたら、嫌味やって思わんか?」
「……」
 えええ…そんな、それが主な理由なんか。高校生になってもまだまだお子様やな。
 てか、そんなこと言われたら。

「なあ、そう思わんか?」
「……」
 言われたら、駄目駄目や。我慢……我慢が、利かなくなる。
「分からんか? お前だって、彼氏おらんやろ?」
「……そんなん、そんなんだったら」
 こいつに彼氏って言われた瞬間、あたしの中で何かが弾けた。



「あたしが……、あんたがあたしと付き合えばええやんか」



「……」
 弾けて飛んだ。
「……」
「……」
 飛んで、混ざる。
「……」
「……え」
 混ざって直後、後悔した。
「〜〜〜〜〜〜」
 ああもう! ここまで言うて分かってくれんとか、おかしすぎる!
必死こいて一生懸命言ったのに、これじゃこっちの赤っ恥やんか!

「…え」
「……」
「……えっと」
「……」
「えっと、それって」
「……そんじゃ、また明日」
「え!? いや、ちょっと待ってくれって!」
「何よ! そんな態度するってことは別に何でもなかったってことやろ! 
だったら別に呼び止めてくれんでもええやんか!」
「え…いや、でも」
 あああ、おかしい。視界が急にぐにゃぐにゃしてきた。こんなのおかしい。
425名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 02:36:22 ID:AZd1n29d

 別に、期待なんかしてなかった。

 去年の今頃、こいつがクラスの女の子に振られてて落ち込んでて、それを
慰めてあげようと、「来年の今頃あんたが誰とも付き合ってなかったら、あたしが
一緒におってあげるよ」って勇気出して言ったけど。そんなのどうせ向こうには
慰め言葉にしか取られてないことくらい分かってたつもりだった。

 その頃、モミの樹はまだ立ってなかった。でも、そういう計画があるのは知ってた。
だから、まだそのときには存在してないでっかい樹に、叶いそうもなかった想いを。
その時には架空でしかなかった樹に、込めざるを得なかった。

 なのに。

 なのになのに。

「いや、でも、こんなん、おかしいやんか」
「なっ……おかしいって何がおかしいんな!」
「お前が、俺ととか。そんなこと」
「……っ!」

 なのに。

 なのになのに。

 あたしの好きな人は。あたしのことを、ただの古い知り合いとしか
思ってくれてなくて。いっつもいっつも恋の相談とかされる度に、落ち込んでた
あたしの気持ちとか全然知らんで。

 こんなの……酷い。

「アホ!」
「い!?」
「お前なんか死んだらええんじゃ!」

 幼なじみだからって。付き合いが古いからって。
 そんな理由でこんなんとか。いくらなんでも理不尽すぎる。

「ち、違うって! いや待て!」
「待つか!」
「待て!」
「待たん!」
「待てや!」
「うっさい!」

 通いなれた通学路を、お互い全速力で駆け抜ける。流石に当然、
向こうは手にしていた斧を駆け出し始めた地点から手放して追いかけてきてた。
ホッとしたのも束の間、どうせあたしには芽がないことを思い起こして
また腹立たしくなってくる。
 その瞬間、あたしは立ち止まって振り返って、思いっきり手を振り上げた。

ばっちーん!

「……っ!」
「…」
 なのに。なのになのに。
 向こうはそれを、当たり前のように頬で受け止める。
 待ち構えてたから、よけれたはずなのに。
426名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 02:37:14 ID:AZd1n29d

「……ってぇー…」
「なっ、なんでよけんかったんな!?」
「…ごめん」
「なんで謝るん!?」
「……」
「なんで言い訳せんの?!」

 おかしい、おかしいこんなの。
 全部が全部らしくないこいつもこいつだけど。そんなことくらいで
いちいち大声出して怒ったりするあたしもおかしい。

 ……

 …………おかしい?

 ……

 …………なんで

 ……

 …………なんでな

「お前が、そんな風に俺のこと思ってくれてるとか思わんかったから」
 うっさい。
「ずっと、男とか女とか関係ない友達やって思ってた時が、俺にもあったから」
 うっさいうっさい。

「同じこと思ってたら、同じような態度とるもんやな」

「……?」

「俺も、お前のこと、その、なんや」

「…え?」

「なんやその、えっと。その、あの、うんと」

「……」

「ああもう! 笑うなよ! 笑ったら承知せえへんぞ!」

「……」
 な、何言って…



「好きじゃ! 俺もお前が!」



 何……言っとんな…。
427名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 02:38:45 ID:AZd1n29d

「悪かったの! 女に先に告白させるヘタレで!」

「なんじゃ! 悪いか! 悪かったわ! ほんま悪かったわ!」

「でも俺ら幼なじみでずっと一緒におったやんか!」

「こっ恥ずかしくて、逆に言えんわこんなこと!」

 ……

 ……………

「…ひっ」

 ・・・…

「あぁ?!」

 ……

「ひっく、ぐす……っ」

「なっ、何で泣くんや! 先に言ったんはお前やないか!」

 うっさい……うっさい……アホ…・・・

「ひっく……ひっく……ひぅ…ッ…」

 知らんくせに。あたしが、どれだけあんたのこと好きやったか知らんくせに。
どれだけ、ずっと好きやったか知らんくせに。

「あほ……あほぉ……っ!」
「なっ、何で告白し返してそんなん言われんとあかんのや…」
 そう言いながら抱きしめきて。背中にまで手を伸ばせずに、肩までしか抱けてない
ヘタレなくせして。

428名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 02:39:26 ID:AZd1n29d


「……言うなよ。好きな娘にそんなん言われるんは、結構堪える」


 肝心なとこだけ、バッチリ決めるのがまた腹立つ。
嫌いや、本当に嫌いやこんな奴。


「……」
「ぐすっ……ひっく」
「あの…」
「ひっく……ひぅ」

「今年の駅前、カップルで大賑わいらしいんやけど」

 泣きやめない自分が情けなくて。けれども泣く意味合いが徐々に徐々に変わって
しまっていて。



「今から、一緒に、モミの樹見に行くか……?」


 そんなたどたどしい台詞に、相手から後から聞かされた話。
 泣いたまま、思いっきり頷いたと聞かされて、あたしの顔は熱い熱い顔は、そのまま
リンゴになっていたのだった―――――


429402:2007/12/06(木) 02:44:14 ID:AZd1n29d
とりあえず酔った勢いで埋めがてらに投下してみたり

   _、_
| ,_ノ` ) ……推敲ももちろんしてないから出来栄えに期待しちゃいけない



   _、_
| ,_ノ` ) しかし>>409 ある意味俺とお前さんの「約束」…幼なじみスキーにとっては重い言葉だ



   _、_
| ,_ノ` )
ノシ そしてそれを守ってこその幼なじみスキーだよな



  サッ
|彡




430名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 07:15:53 ID:II0Uipgv
GJ! あんた漢だぜ……! 私も頑張らねばなりませんねぇ!!
431409:2007/12/06(木) 21:12:50 ID:BJ0OjlF+
うおおおおおおっ マジでやりやがった……!
おまえさんのおかげで今年のクリスマスは笑って過ごせそうだぜ!!

それにしても方言の幼なじみ可愛いなっ(主人公も良い味だしてるぜ)
432名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 23:19:57 ID:0LFnyP0W
GJ!

日本地図見せられて十人に一人しか答えられない場所というと…
K府K岡?H県T岡?W県K野?それともN県G条?
433名無しさん@ピンキー:2007/12/07(金) 03:29:58 ID:HHOMVKWm
GJ!やべえええ萌えたああああ
俺も地元のしゃべり方こんなんだからめちゃくちゃ感情移入できたわ
まあ俺にはこんな幼馴染はいなかったんですけどねwww
434エロ無し帰省ネタ by唐突に(ry:2007/12/07(金) 23:11:58 ID:bZ9KkALW
実家に帰省したら幼馴染がめっちゃ綺麗になってました。

そんなネタです。
エロはありません。

では投下します。
435エロ無し帰省ネタ by唐突に(ry:2007/12/07(金) 23:12:23 ID:bZ9KkALW
 数年ぶりに帰省する俺――佐野宏明を迎えに来てくれたのは、親父でもお袋でも、
姉貴でもなく、数年ぶりに再会する幼馴染だった。
 その事自体は、事前に親父から電話で聞いて知っていたんだが……。
 ホームを出て、改札を抜け、駅の入り口に重い荷物を担いで辿り着くと、そこに彼女はいた。
「やっほー! おっ久だね、ヒロ君っ!」
 そう言って手を振る彼女の姿に、俺は思わず見惚れていた。
 輝かんばかりの笑顔に、あどけなさの抜けた表情。
 いつも俺がからかうと頬を不満げに膨らましていた"可愛くないアイツ"は、
この数年間の間にすっかりと"綺麗な彼女"に変身を遂げていた。
 "彼女"は、本当に、"アイツ"なのか……?
「……なによぉ。久しぶりに再会した幼馴染に、挨拶の一つも無いわけですかぁ?」
 あの頃と同じように、不満そうに頬を膨らませる"彼女"。
 違えようが無い。"彼女"は、"アイツ"……歌乃(かの)だ。
「あ、すまんすまん。……歌乃があんまり綺麗になってたから、見惚れてた」
 紛れも無い本音の言葉。
「はははっ、お世辞が上手くなったねぇ。このこのー」
 口をついてからしまったと思ったが、歌乃はどうやら真に受けてはいないようで、
ホッとしつつもどこか悲しい。
「やめ……突くなよっ!」
「あははー、ごめごめ。んじゃいこっか?」
「お、おぅ」
 軽やかなターン。踵を返し、歩き始める彼女の後ろ姿に、俺はまた見惚れた。
 何というか、こう……いいスタイルになったなぁ、と。
 吐く息が白くなる寒さ。それを防ぐだけの厚着の上からでも、彼女のボディラインは
はっきりとわかった。昔は、無い胸無い尻筋肉質、だったような気がするんだが……。
「……なぁに?」
 そんな、少しばかり下心が入った視線に気づいたか、彼女は振り返る。
 俺は慌てて視線を逸らし、空を見上げた。
「いや……雪、降りそうだな、と思って」
 慌てて言い訳したが、実際空は灰色の雲に覆われていて、今にも雪が舞い降りてきそうだった。
「うーん、そだねー……今日降るよりは、あともう少ししてから降ってもらいたいけどなぁ」
「……なんで?」
「だって、もうそろそろクリスマスだし」
 そう言って、歌乃は微笑んだ。
「あー、ホワイトクリスマス」
「そ。その方が嬉しいでしょ?」
436エロ無し帰省ネタ by唐突に(ry:2007/12/07(金) 23:12:38 ID:bZ9KkALW
「……俺にゃよくわからん。独りもんだしな」
「あれ? 彼女とか、向こうでいるんじゃないの?」
「いたらこんな時期に帰省するかっての」
「あはは、そりゃそうだねー」
「悲しくなるから納得するなっ!」
「そっかー……いないんだぁ……そっかぁ」
「お前の方はどうなんだよ」
「えっ、私? ……そりゃあ、まあね。ヒロ君の知らない間に、私も成長しているのでありまして……」
「いないだろ」
「い、いるよっ! そりゃもう両手で数え切れないくらいキープしててさぁ……」
「嘘だろ」
「はーい、嘘でーす。はぁ……彼氏がいたら、こんな時期にヒロ君のお迎えを
 おおせつかったりしないよー。今頃二人でデートとか? しちゃったり? えへへー」
「ま、妄想を広げるのは程ほどにな」
「妄想って……空想の翼と言って欲しいなっ!」
「似たようなもんだろ」
「ぶー」
 頬を膨らませる歌乃。
 俺は、昔のように歌乃と言い合える事に、酷くホッとし――そして、同時に一欠片の
物足りなさも、感じた。
「……変わったけど、変わらないな、歌乃は」
 何となく、俺の口をついて出たそんな言葉に、歌乃は眉間にしわをよせた。
「なにそれ?? むぅ……褒めてるのか貶してるのか、どっちなんだろう……」
「褒めてるんだが」
「何だか褒められた気がしないなー」
「む、気づかれたか」
「やっぱ貶してるんじゃないのっ!」
「冗談だよ、冗談」
「ぶー」
 頬を膨らませる歌乃。
 綺麗になったのに、こういう所は変わらない。本当に……変わったけど、変わらない。
「そんな事ばっかり言ってたら、乗せてってあげないんだから!」
「おっ、免許取ったんだ?」
「うん、この前合宿でね。今日は練習も兼ねて、お父さんの車借りて来たの」
「……大丈夫か?」
「まっかせなさーい!」
「……微妙に不安だ」
「ぶー」
「ま、しっかり頼むよ、運転手さん」
「まっかせなさーい! ぱーとつー! ……あ」
「お」
 俺たちは、頬に感じた冷たさに、同時に空を見上げた。
「……降ってきた、か」
「……降ってきた、ね」
 雪が、降り始めた。
 俺と、歌乃の、再会を祝福するように。
 俺と、歌乃の、再開を祝福するように。
 ――雪が、降り始めた――
437エロ無し帰省ネタ by唐突に(ry:2007/12/07(金) 23:15:15 ID:bZ9KkALW
ここまで投下です。

続くような感じで終わらせてしまいましたが、とりあえず
「実家に帰省したら幼馴染がめっちゃ綺麗になってました」
というのが書きたかっただけなので、続くかどうかはわかりません。
438名無しさん@ピンキー:2007/12/07(金) 23:21:25 ID:iN1k9lTy
おっと久々にリアルタイムに遭遇したぜ!! GJです!!

女性は特に変わるというか、化けるからなぁ。俺も久しぶりにあった同級生がすんごく大人っぽくなってて驚いたりちょっ
と置いていかれたようで寂しく思ったりしたこともあるなぁ。

それはともかく、是非続きを書いてみて下さい! 楽しみにまってます!!
439名無しさん@ピンキー:2007/12/09(日) 07:19:59 ID:OUAE9Ea5
>>429お前・・・真の漢だよ。世界で・・・最高のな・・・
こういう安らぐ話見せられると、俺が歓喜の余り暴走しちまうから困る。GJ!!

>>437こんな残い寸止めされるなんて・・・(悔しいでも感ry)
冗談はともかく、二人はどうなるか恐ろしく気になる。続きwktkしてる
GJ!!

さて、クリスマスSSが投下されていい感じにフラストレーション溜まってきたから、クリスマスツリーチェンソー薙ぎ倒しツアーIN日本に参加してくる。

ついでに元旦にも、女と初詣なんかクソ食らえ賽銭箱にメダルぶち込むぜツアーにも行かないと。

男は辛いよ
440名無しさん@ピンキー:2007/12/09(日) 21:18:17 ID:5DiKYuSc
>>439
酷い寸止めって言いたかったんだろうけど、残い寸止めってなんだ?w

>>437
おれも続きを書いて欲しいんだが思いつきでやったから自分の満足いくものが完成できなさそう
と思ったら書かないのも選択肢の一つだぜ
おれは昔思いつきで書いた愚作を完結できずにいるのでね。それでも書いてよかったと思っているけど


そして、2度目のレスだが>>429
そんな未熟なおれに対してお前さんは熱い心を見せてくれた
おれは、言いだしっぺが(ry と書いただけなのにさ
だから小話書くよ。礼には、ならんだろうけど


というわけで投下
441名無しさん@ピンキー:2007/12/09(日) 21:19:42 ID:5DiKYuSc
「ここ最近聞いた話なんだがな」
「うん」
「モミの木を切り倒そうとした奴がいるらしいぞ!」
「ええ!? どこで?」
「おれにも詳しい場所はわからない………ネット上の噂のようだからな……
 なんでも10人に1人ぐらいしかわからない場所だとか」
「それでどうなったの?」
「なんでも、そいつの幼なじみが必死に止めたらしい」
「……幼…なじみ」
「結構可愛い女の子らしいぞ。まあ、それはともかくとして………
 んで、結局その騒動の最中どさくさに紛れて二人は想いを告白し合い結ばれたらしい」
「……………!!」
「おれがなんと言ってもムカつくところは、だな!
 モミの木を切るという野望の話だったはずなのに、いつの間にかラブい話になってるところだ!」
「……ぁ、ぅ」
「なんたる腑抜け! 名前も知らんが、キサマそれでも日本男児か!!! 斬るッ!
 だが、おれはそんな軟弱者とは違うッ! そいつに代わってモミを切り倒す!
 あの忌々しいイルミネーションを消し去り、てっぺんの星を地の果てに投げ飛ばし!
 そして全国の聖夜に怨嗟する亡者どもの悲願を達成するのだ!!」
「あ、あわわ……だ、ダメだよっ」
「止めるな! 山田ァァァァァァァァァァッッ!
 おれは全てを越えてみせる!! おおおおおおおおおおーーーッ」
「ダメっ、直弘ちゃん!! だって……だって………!!」
「……ん?」

「わたしも直弘ちゃんのことが好きなんだもの……っ」

「…………ぉ」
「………………」(///)
「………ぉぁ」
「じゅ、15年前の時だって………」

――15年前。二人が幼稚園生だったとき。
「もみのきって、とってもたかいんだね」
「…………………あぁ」
子供の頃。もみの木は、とても高く見えた。黒く禍々しくも見えるそのもみの木は、
人々が楽しく集ったり願いを掛けたりするにしては不快だった。
クリスマスだけど嬉しくない。理由はもみの木だけではなかったけれど。

そんなとき、フト見上げていたもみの木のてっぺんが光った。
「お星さま………?」
ぼんやりとした明かりを持った星はひらひらと大きくなっていき……
「雪だ……!」
「うわぁ………」
「す、すげえっ! 雪だ!雪だぞひゃっほーーーい!!」
「うん……」
雪に浮かれる直弘を幼なじみはそっと見つめていた。
直弘は、この季節滅多に降らない雪に大はしゃぎ。降る雪をつかもうと辺りを走り回っていた。
「よかったね、なおひろちゃん……」
「ああ! こんなの滅多にないんだぜ!! すごい瞬間なんだぞ!お前も、もっと喜べよっ」
「う、うん……」
「……お、おい。どうしたんだ? どうして泣いてるんだ?」
442名無しさん@ピンキー:2007/12/09(日) 21:21:50 ID:5DiKYuSc
幼なじみは、そっと涙を拭くと笑いながら言った。
「なおひろちゃん、ようやくわらってくれた……」
「え………?」
「なおひろちゃん今日すごくつまらなそうだった」
「うっ」
「わたし、なんとかわらってほしくて。だから、わたしうれしくて……」
今日一日。言いたいこともあったろう。愚痴の一つも言いたかったろう。しかし――
「なおひろちゃん、あのね……?」
「な、なんだよ」
「いまは、まだむりだとおもうけど……もし、もししょうらい、わたしのこと」
「……」
「す、すきになってくれたら――」
直弘は、ただひたすら声を出せずにいた。
「もみのきの前に、わたしをつれてってほしいの……!」
ぎゅっ、と目を瞑り胸の前で祈るように手を組む女の子を前にして直弘は気の利いたことも言えず
「そ、それって」
「うん……」
幼なじみは蚊の鳴くような小さな小さな声で「……しゅき」とだけ言った。
「あ、ああ。……わかったよ!」
雪は二人を冷ますにしては温かすぎる。


そして時を戻し、現在。
「あ。あーーうん。そうだな」
「………」
「あー、つまり、その。………と、いうわけだ!」
「な、なにがっ?」
「ぐっ………つまり……!」
「……」
「好きだ!!!」
「!!」



別に直弘はクリスマスが好きになったわけではない。
無闇に"特別な日"として盛り上がる世間や、わざわざデコレーションされるモミの木も好きではない。
今も黒々と枝を伸ばすモミの木に生理的な嫌悪感を覚えるのか
モミの木を見る直弘は、やっぱり何処か厳しい表情をしている。
でも今までと違う事は、だ。
その手を幼なじみと離れぬように、ぎゅっと絡めている事だ。
443名無しさん@ピンキー:2007/12/09(日) 21:23:30 ID:5DiKYuSc
……と、こーして更にくっつく幼なじみカッポーが誕生し、うわさがうわさを呼び

「モミの木を倒しに行く筈が美談になっただと!? バカめ!ならば、おれがやってやる!!」

「ダメ、○○! 私、私……ずっと………!」

「なにぃ!?」

の連鎖がキレイに決まっていき、やがて気付けば………

全 国 の 幼 な じ み が く っ つ い た


のだった。



……そうなのか?
444名無しさん@ピンキー:2007/12/09(日) 23:56:10 ID:geiosX30
>>443
ちょww訊かれてもwww

私に言えるのは幼馴染みはやはりいい、ということと
GJ!というささやかな祝福の言葉だけだ。
445名無しさん@ピンキー:2007/12/10(月) 00:37:12 ID:Gvr8j01c
>>440 GJ!!
もみの木切り倒してくる。
問題は、俺には男の幼馴染しかいないってことだ
446名無しさん@ピンキー:2007/12/10(月) 01:58:39 ID:0j/Lb7LB
>>440
GJ!

>>445
アッー!!

447名無しさん@ピンキー:2007/12/10(月) 03:43:36 ID:kDtfmTjB
>>440まさか連鎖するとはなwwwww
GJ!!

さて、俺ももみの木を切り倒すんだが、転校して幼馴染みがいないんだよなぁ。
だから心置きなく切り倒して来る。
448名無しさん@ピンキー:2007/12/10(月) 07:38:54 ID:ekHssUlp
>>443
笑ったww

しかし最後はもしかしてWindネタか? そうだとしたらコアなものを……w
449名無しさん@ピンキー:2007/12/10(月) 08:45:43 ID:b7qQupT4
>>443
 GJ!!!

>>447
 転校した幼馴染に出会える時まで、もみの木を切り倒す旅、ガンバレ
450402:2007/12/10(月) 23:20:55 ID:9QV/vpgo

   _、_
| ,_ノ` ) >>440 こちらこそ、まさか連鎖が起こるとは思わなかった



   _、_
| ,_ノ` ) 素晴らしい幼なじみSS、じっくり堪能させてもらった



   _、_
| ,_ノ` )ノシ 次回作にも期待せざるを得ないな



  サッ
|彡
451名無しさん@ピンキー:2007/12/11(火) 15:07:26 ID:lUWaeMnH
ここらで、女の幼馴染みがモミの木を切り倒そうとするのも見てみたい
452名無しさん@ピンキー:2007/12/11(火) 16:20:59 ID:+SXRrdy6
女だったら放火かな
寝小便するぞ!って
453名無しさん@ピンキー:2007/12/11(火) 20:58:19 ID:bfRfenoo
「どうせ私には恋人なんかできないんだ!こんなもの切り倒してやる!」
「バカ野郎!危ないからやめろ!それに…恋人なら俺がなるから!」
「え!?今何て―」




こうですか?
454名無しさん@ピンキー:2007/12/12(水) 02:25:57 ID:NuCZcnMd
455名無しさん@ピンキー:2007/12/12(水) 10:09:48 ID:OI0nuSzR
与作女か
レッスルエンジェルス愛という携帯ゲームにいたな
誰か幼なじみになってやってくれ
456名無しさん@ピンキー:2007/12/12(水) 21:21:45 ID:Lc+1h70q
>>448
どう見てもWindネタだw

>>455
ネタ濃すぎwwってかキャラわからん
しかしリングドリームのキャラが出ているとは…濃ゆいなあ
457名無しさん@ピンキー:2007/12/13(木) 00:31:49 ID:Ig8plY68
クリスマスネタの投下はあるのかなぁ。俺はシロクロや絆と想いや今宵の月のようになどの作品のキャラが織り成す
クリスマス話を読んでみたいのだが。
458名無しさん@ピンキー:2007/12/13(木) 01:20:22 ID:bGITk9Q6
459名無しさん@ピンキー:2007/12/13(木) 02:26:52 ID:zV9FcA6E
今宵の〜は、ラストのデートシーンがクリスマスじゃなかったっけw
460名無しさん@ピンキー:2007/12/13(木) 23:01:09 ID:oY0XJcy0
>>353>>359
>>411>>416
の続きです


4限が終わると同時に文奈は優祐を呼びに来た。
「えぇー、弁当食いたいんだけど」
早々と弁当を開きかけていた、優祐は不満を口にする。
「お弁当も持ってきて。外で食べるから」
「はい!?」
優祐は文奈の言葉に驚きを隠さない。
何故なら今は12月。
真冬ではないにしても最高気温は15℃を切る。
「嫌だ。寒いの嫌い」
優祐はそう言って動く意志を無くしてしまう。
「大丈夫だよ暖かいから。それに付き合うって言ったのは優祐でしょ」
文奈は左手に自分と優祐の分の弁当を持ち、右手で優祐の襟首を掴み、引っ張って行こうとする。
「わーったよ。寒かったら戻るからな」
「寒くない事は保障するわよ」
文奈は優祐が立ち、ついてくるのを見ると、先導してドンドンと行く。
461名無しさん@ピンキー:2007/12/13(木) 23:01:45 ID:oY0XJcy0
「到着」
「へぇ〜」
文奈が連れてきた場所は、コの字型に建っている校舎の真ん中にある、中庭だった。
この学校は後ろに山を背負った場所に建築されている。
更に山に向かってコの字形の口が開いているため、中庭は四方を障害物に囲まれていた。
「ほら、全然風来ないし暖かいでしょ」
文奈は芝山ーー芝生が敷詰められた小さい丘ーーの頂上で両手を広げて見せる。
「なるほどね」
確かに中庭は、芝生が敷かれた地面に真上から冬の陽光が降り注ぎ、風が吹くことも無く、外とは隔絶した温かさだった。
「さぁ食べましょ」
文奈は芝山の上で自分の弁当を広げる。
「あいよ」
その前に優祐も座り弁当を食べ始める。
「それちょっと頂戴」
文奈が優祐の弁当の具を指す。
「はい」
優祐はそれに答えて文奈に取りやすいように弁当箱をずらす。
「ありがと」
文奈は弁当の具をつまむと一口で食べてしまう。
「うん、これ作ったのおばさんでしょ」
優祐から貰った具を食べ終えた文奈はそう言った。
「そうだけど……やっぱ分かる?」
「うん。何となくだけどね」
文奈は恥ずかしそうに笑う。
「そっか。やっぱ母さんには勝てないなぁ……」
どことなく落ち込んだ感じで優祐はそう呟いた。
462名無しさん@ピンキー:2007/12/13(木) 23:03:21 ID:oY0XJcy0
「味じゃないんだよ。 何て言ったら良いか分からないけど……愛情……かな?」
「愛情ってお前な。臭過ぎ」
優祐は呆れ顔でそう言って苦笑する。
「だよね〜。あのね、優華ちゃんにお弁当作って貰えば分かると思うよ」
「ちょっと待て。なんでそこで優華の名前が出てくるんだ?」
優祐は突然出てきた優華の名前に驚きながらも、そう疑問を発する。
「なんでって……何か有ったでしょ」
文奈の目の光が変わる。
いつもの笑っている目では無く、本当のことを見通そうとする目だ。
「何もないよ。なんでんな事考えるんだよ」
優祐は言い返しながらも、自分が少し焦っているのを感じる。
優祐は未だ、こうなった文奈の追求を逃れ得た事はなかった。
「今日の朝さ、優華ちゃんに電話するの妙に渋ってたじゃない、何でかな〜って」
「いや、別に大した事じゃないし、気にしなくても……」
優祐は文奈の視線から逃げるように視線をずらす。
優祐は文奈と目を合わせると全てを白状してしまいそうだった。
それは何と言うか……格好悪過ぎる。
「じゃあ何かがあったんだ。教えてよ」
しかし文奈はしつこく聞く。
これは文奈にとっても重要な問題だった。
463迷い:2007/12/13(木) 23:05:16 ID:oY0XJcy0
ここ2〜3年学校関係で優祐に声を掛ける子は殆どいなかった。
そこに優華ちゃんという新たな伏兵が表れたのだ、放置しておける問題ではなかったし、文奈もそう易々と渡すつもりはなかった。
だからこそ文奈はしつこく聞き続ける。
その追求に隠し通すのを諦めたのか、優祐は渋々と昨日の出来事を話始める。
「ふーん。優華ちゃんに敬語使われたんだ」
「ああ。そしたら桜は優華は俺の事が好きなんだ、とか言い始めるしさ、接し方分かんなくなっちゃって」
結局優祐は洗いざらい吐いてしまっていた。
「優華ちゃん、優祐の事好きなんだ〜」
文奈は優祐を見つめてにっこりと笑う。
「いや、ないって。有り得ないって」
優祐は慌てて否定する。
「そんなの分からないじゃん」
「いや友情から恋愛にはならないって言うしさ、普通兄貴に恋心なんて抱かないだろ?」
「兄って別に兄妹でもなんでもないじゃない。それに親しいからって恋はしない!なんてのは間違いだよ」
文奈は真っ向から優祐の反論を潰していく。
「それに優祐はどう思ってるの?優華ちゃんの事」
この問いは一種の賭けだった。
もしも優祐が優華に親愛以上の物を感じているとすれば、それは則ち文奈の敗北を意味する。
464迷い:2007/12/13(木) 23:06:48 ID:oY0XJcy0
その問いに優祐は大きく息を吐き、間を取ってから答える。
「嫌いではない……いや違うな、桜と同じ……かな」
この答えは、文奈に取って決して最良ではなかった。
しかし最悪でもない。
文奈と優華、二人に平等のチャンスが残された状態だった。
「多分優華ちゃんは優祐の事が好きだよ」
文奈は、そう小さく呟く。
「なんで分かるんだよ」
「女の勘だよ」
文奈はテヘッと笑い、優祐の視線をごまかす。
内実文奈には絶対の自信があった。
女の子が長い時間掛けて作られた関係を壊そうとするのは、相手の事を嫌いになったか、その逆。
優華が優祐に恋した時、関係を作り直そうとしても何等不思議ではなかった。
文奈は、数年前優祐に対する恋を意識しても動けなかった。
「優祐、優華ちゃんに言っといて。簡単には渡さないって」
「はあ?なんだよそれ」
優祐は一人呆気に取られている。
「分かんないなら、そのまま伝えること」
「はあ……」
「あ、そうだ期末テスト終わったあと暇?」
「暇っちゃあ暇だけど……」
「じゃあ空けといてね。25日の昼からね」
「わ、分かった」
「クリスマスプレゼント待ってるからねっ」
文奈は優祐の肩を両手で掴んで、満面の笑みを浮かべた。
465名無しさん@ピンキー:2007/12/13(木) 23:08:06 ID:oY0XJcy0
以上です。

最初の方タイトル入れ忘れましたorz

それではクリスマスイブにっ
466名無しさん@ピンキー:2007/12/14(金) 22:41:18 ID:jr6lMuY6
もっと  妹を!!(幼馴染のほうの)
467名無しさん@ピンキー:2007/12/15(土) 00:18:54 ID:kHHXH9W3
GJなのです! クリスマスイブ、期待してますよ!!
468名無しさん@ピンキー:2007/12/15(土) 21:44:44 ID:Tm/Xe94B
幼少のころからお互いのことを何でも知ってるというのは
利点なのかそうじゃないのか。
今さら異性だって言われてもなー、みたいな苦悩が好き。

きみはどう?
469名無しさん@ピンキー:2007/12/15(土) 23:23:08 ID:YKIGmh+f
きみはどう……ってオマエ誰やねん
しかし>>468は、お互いのことを何でも知ってるというのは利点じゃない
だがそれが好きということか?

しかし、利点なのかどうかというのは主に幼馴染キャラ本人の問題で
苦悩が好きってのは第3者視点で見た場合の話だ
それをごちゃまぜにして考察を進めちゃあダメだ
470名無しさん@ピンキー:2007/12/16(日) 01:02:45 ID:fNB1SIIW
何でも知ってると思ってて、実は一番肝心なことだけ見抜けていませんでしたってパターンが王道
幼なじみという王道ジャンルにはやはり王道なパターンがよく似合う
471コトコのハナシ_1:2007/12/16(日) 01:06:53 ID:XxQ10Myz

 琴子の話は長い。そして脈絡がない。結論もない。
 そんな話に嫌気が差すこともなく延々と付き合っていられるのは、琴子が「聞いてる?」などと絡んできたりしないせい。
 それは僕が素っ気のない相槌でもちゃんと聞いていると知っているからなのか、それとも聞いていなくても関係ないのか。
 どちらなのかイマイチよく判らないけれど、とにかくこの晩酌の時間が、僕は好きだった。

 久本琴子と、僕こと吉見要は、いわゆる幼馴染だ。
 家が隣で、年が同じで、幼稚園から小中高と同じ学校で。
 誰にも文句を言わせないスタンダードかつパーフェクトな幼馴染だ。
 親同士の仲もよく、家族ぐるみのお付き合いなんてことが今でも続いている。
 お互いの祖父母の家にも泊まりがけで遊びに行った仲なのだ。
 そんな幼馴染を持っている人間を、僕は僕ら以外知らない。


 今日はビールと焼酎の日、と琴子が言ったので、僕はもつ鍋の材料を用意した。
 牛もつの下ゆでが終わったころに、ビールと焼酎をもった琴子がインターホンを鳴らした。
 二人でたっぷりのきゃべつとにらを切って、もくもくと切って、豆腐やもつと一緒に味付け済みのだし汁が沸騰する鍋に放り込んだ。
 しなーとキャベツがその身の質量を減らしながらだし汁を吸収する様を、二人でじっと見つめた。
 食欲を刺激する、にんにくと醤油の香りの湯気がたっぷりと台所に立ち込めて、口のなかに唾液が溢れる。

 美味しそうだね。
 琴子が嬉しそうに言う。
 美味しそうだね。
 僕も嬉しくなる。

 スープを小皿にとって一口舐める。うん、完璧。
 もう一口分取って、琴子に手渡す。犬のようにぺろりと舐めた琴子も満足そうに微笑んだ。
 ついでに一切れ取り出した牛もつは充分に柔らかく煮えていた。
 ただし口に放り込んだら熱くて喋れない。
 ほふほふと口内の熱を逃がしてやりながら、右手の親指と人指し指で丸を作って琴子に示す。
 期待たっぷりで頷いた琴子が、冷蔵庫からグラス二つとビールを取り出してダイニングへ向かう。
 僕は火を切って換気扇を止めると、鍋つかみとダスタを駆使して土鍋の耳を持ち上げた。
 ぐっと腕に心地好い熱さと重み。
 今から琴子と二人でこいつを平らげる幸福な予感に、自然と口元が緩む。
 ダイニングテーブルの脇には、やっぱり嬉しそうに口元を緩めた琴子が鍋と僕の到着を待ち詫びていた。

 こんなにも息がぴったりなのに、残念ながら琴子と僕は恋人同士でも夫婦でも、家族でもない。
 限りなく家族に近い異性の友達。
 大抵の友人が、僕らの関係に首を捻る。
 いくら捻ってもらっても、そういう友達をもっていない彼らに理解は不可能で、結論なんて出てこないだろう。

472コトコのハナシ_2:2007/12/16(日) 01:07:27 ID:XxQ10Myz
 小学校の低学年までは一緒に遊んだり登校やら勉強やらもしたけど、そこはやっぱり男と女。
 気がついたら朝は別々に登校をするようになったし、学校で会っても挨拶だけになったし、ずっとクラスが違ったから「今日の課題なに」なんて電話も掛ってこなかった。
 それでも定期的に、どちらかの家で誰かの誕生日食事会なんかが開かれたし、琴子の弟の伊織――僕らはみんなイオ、と呼んでいる――はうちにゲーム目当てで入り浸っていたから、暇を持て余した琴子が格ゲー大会に参戦することもあった。
 ごく稀に一人で僕の本を借りに来たときには、最近どう、なんて話もした。
 だからお互いの成績も交友関係も、初めての恋人も、将来への不安なんかも大体把握していた。

 大学への進学と同時に、僕は実家を出た。
 年に数回帰った時には、琴子とイオがなぜかうちに夕飯を食べにきて、話すことといったら現状よりも昔話ばかりで、照れくさいながらも幸福の形を見ているような気がして。僕は帰省をしょっちゅうしていた。
 そのまま就職をして、地元への移動願いを受理されたのが2年前。
 帰るよ、と母親に報告をしたら、あらあらあら困ったわぁと予想外の返事がきた。
 何でも父親が、地方の子会社の支社長に就任するらしい。

 栄転じゃん、よかったね。何にも出来ない父さんに、単身赴任なんてさせたらだめだよ。
 家だけ僕に貸してくれない? なんたって筋金入りの一人暮らしだから、ちゃんとやるよ。お隣もいるし。

 僕は別に一人でも困るなんてことはなかったから、母さんにそう伝えた。
 母さんは、また家族がばらばらね、と少し寂しそうだった。
 でもそれも、長くて5年ぐらいの話だし。要がちゃんとしてくれるなら、他人に貸すより安心だわ。
 両親は親から夫婦へ戻っていて、僕は一人の男としての生活がすれ違いに継続された。

 だだっ広い一軒家の一人暮らしは、案外快適だった。
 掃除だけは大変だけど、一人分の食事や洗濯なんてたかが知れているし、僕を心配した隣のおばさんがしょっちゅう琴子におかずを持たせてくれるから不自由を感じることはなかった。
 住み慣れた家、歩き慣れた土地、そしてお隣さん。
 僕の生活はそれなりに充実しながら淡々と過ぎていた。

 琴子が突然、飲まない、とやってきたのは春ごろのこと。
 それ以前も、帰省のたびに酒の肴に惚気や愚痴を聞かせてもらっていたのだけど、このときはほんとうに突然だった。
 1ダースのビールを抱えた琴子が玄関先で僕の帰宅を待っていたのだ。
 飲まない? っていうか、どうしても、付き合ってほしいの。
 泣きそうな琴子の笑顔は、今思い出しても胸がずくんとする。

473コトコのハナシ_3:2007/12/16(日) 01:08:00 ID:XxQ10Myz
 彼氏と別れてちょっと辛くて。
 そういうときいつも頼りにしていた同僚の親友は現在年下の恋人に夢中で、とても失恋の痛手を分かち合う相手に不適切だ。

 そんなもん?
 僕は聞いた。
 そうだよ、と琴子は3本目のビールをあおりながらはっきりと答えた。
「だいたい」
 ストーンチョコレートを一粒舐めながら、琴子は続ける。
「前は隔週で飲みに行ってたんだよ。でも最近は月一なの。ハッキリ言わないからよく判んないけど、たぶん彼氏に気を使ってるんだと思う」
「うーん」
 隔週が月一になったからって、全然変わらない気がするけど。
 琴子にとっては重大なのかな。
「私が悲しいのは、彼氏を優先にすることじゃなくて、あの子が彼氏くんがどんなひとなのかとか、どこで出会ったのかとか、いつから付き合ってるのかとか、なーんにも教えてくれないこと」
「そのひと、秘密主義?」
「違うんだけど、こればっかりは聞いてもすぐに誤魔化すの。不倫でもしてないか心配だよ。
 なんでなんにも言ってくれないんだろ。私は余計なことまで聞いてもらってきたのに。
 寂しくって、勢いであんな変な男と付き合っちゃったよ」
 私ってほんとばか。寂しいってほんとだめ。
 口の中でぶつぶつと繰り返しながら頭を抱える琴子を、衝動的に抱きしめたくなって驚いた。
 いい感じに酔っている。酔うと人恋しい。一人で飲んでもつまらないのは、温もりが足りないからだ。

 抱きしめる代わりに、そっと手を伸ばして頭を撫でる。
 弾かれたように琴子が顔をあげて、きれいなアーモンド形の瞳を真ん丸く見開いて僕を見つめ返した。
「要?」
「ん?」
「なに?」
「なんとなく」
「なんとなく?」
「うん」
「そっか」
 くすぐったそうに琴子が笑って、もっと、というように顎を突き出した。
 そのくちびるにキスをしたくなった自分にまた驚きながら、ちょっと乱暴に琴子の前髪をぐいと弄ぶ。
 ふふ、と口の中だけで琴子が笑った。

「ね、また飲むの付き合ってくれる?」
「いいよ。暇だし」
「遠距離の彼女は?」
「あれ、言わなかったっけ。ふられたよ。好きな人が出来たんだって」
「知らないよ。いつ?」
「半年前かな。もう自然消滅っぽかったし」
「そっか。私たち、失恋コンビだね」
「コンビか。そうかもね」
 その彼女とはもう1年も会ってなかったし、そもそも地元に帰ってくるタイミングで別れたつもりだったから特に失恋の痛手を背負ってはいないけど、琴子が分かち合えると思ってくれたならそれでいいか、と僕はアルコールでくらくらする頭で考えた。

474コトコのハナシ_4:2007/12/16(日) 01:08:58 ID:XxQ10Myz
 酒に弱くもないけど強くもない僕らは、その日二人でぐだぐだと話しながら深夜3時までかかって10本のビールを開けた。
 琴子はそのまま居間で寝てしまい、彼女を客用の布団に運んだ僕もそのまま隣で眠ってしまって、翌朝には二人で仲良く二日酔いだった。
 それでも不思議と気分は悪くなかった。
 また飲もうね、と顔をしかめながら笑った彼女が、早く失恋の痛手から抜けられたらいいと僕は願った。


 金曜か土曜の夜ごとに琴子が酒を片手にやってくる。
 あの日以来そんな妙な習慣ができてしまった。
 たまには外に飲みに行くこともあるけれど、僕の家の匂いが好き、と琴子は内食を好んだ。


 今日の料理は完ぺきだ。
 冬に相応しいいでたちの湯気を上げる鍋を見下ろして、自己満足に浸る。
 取り分け用の小皿もちゃんと用意して。
 今日の酒盛りの準備は完了だ。
 きんと冷えたビールで乾杯。
 ぐいと同時に煽る。
 ぴりりと突き刺すような炭酸と、幸福の象徴のような苦味が乾いた喉を滑った。
 うまい。
 きっと僕は、このために、一週間働いてきたんじゃないかとすら思う。

 もつ鍋の中身を、琴子が取り分けてくれる。
 はい、と手渡されて、ありがとうと受け取る。
 琴子が自分の分をとりわけるのを待って、同時に口に入れて、同時にあつ、と眉根を寄せた。


 喉が潤い腹が満たされてきた頃に、琴子と僕は取り留めもなく話を始める。
 学校のこと、友人のこと、趣味のこと。
 今日の琴子の話題は、半年前に分かれた件の元彼について、だった。

「結局ね、先生やってる私が好きだったんだよ」
「うん」
「この仕事、好きだよ。だけど、ちょっと逃げ出したくなるときもあるじゃない?」
「あるね」
「別れて半年後に元カノと結婚って、酷いと思わない?」
「酷いね。同時進行だったんじゃない?」
「そうかもしんない。琴子なら忘れさせてくれると思ったけど、なんて、甘えすぎ」
「うん」
「友達でいてくれる、なんて聞いた私がばかだった。うん、なんて言わないでほしかった。それに囚われてる私は究極のばか。何で結婚してからの方が頻繁にメールくるの?」
「マズいね。もう拒否ったら?」
「うん、昨日そうした」
「偉いね、琴子」
「ううん、私、ほんとうにばか」

 頑張るなあ、と僕は他人事のように思う。

 琴子は決して恋愛をおろそかにしているわけじゃない。
 だけどそれ以上に、仕事に熱中をし過ぎている。
 社会人を数年もやれば、力の入れ所と抜き所が適度に判ってきていて、入社したてのころに抱いていた仕事に対する情熱とか希望とか、青臭いものを恥ずかしい、だなんて判ったように見下したりする。
 忙しいなんて言いながらご多分に漏れず僕もそうだ。

475コトコのハナシ_5:2007/12/16(日) 01:10:10 ID:XxQ10Myz
 だけど琴子は、社会人5年目になった今でも高校教師という仕事に情熱と誇りを持っている。
 のらりくらりと仕事をいい感じに適当に頑張っている男にとって、彼女はさぞ暑苦しいに違いない。
 その熱を、自分に向けてくれたら、だなんて考える気持も、実は、判る。

 結局温度差が大きくなりすぎて、面倒になった男が別れを切り出す、というのが聞いている限りいつものパターン。
 例の元彼氏は、とにかく短かったなあという記憶しかないらしい。
 確か、2ヶ月ぐらいだったかな。
 その付き合ってる2ヶ月の間で、会った時間はたぶん、合計10時間ぐらい。
 職業柄、年度の替わり目は忙しいからしょうがない。
 その時期は、顧問を務めるバトミントン部の卒業生のため、在校生たちと寄せ書きやら手製のアルバム作りやらに追われていたに違いない。
 「へー琴子さん先生なんだ」と言って近づいたんだったら、そこんとこ理解していないのは究極におかしい。
 想像力のない人間は、これだから困る。

 目の前の琴子は、泣いてはいないけれど、はぁぁと盛大なため息を落としながら酒を舐めている。
 恋をして、失恋して、しばらく男はいい、なんて言ってまた仕事に打ち込んで、突然思い出したように合コンやら友達の紹介やらで彼氏を見つけてくる琴子。
 彼女は人見知りをせず誰とでもすぐに親しくなってしまうし、肩のあたりでふわふわと揺れる髪型やアーモンド形の大きな瞳のせいか、一見柔和で穏やかでどこか頼りなくて、守ってあげなくちゃいけないような気になる。
 だけど実際の琴子は、実は姉御肌で面倒見がよく、なまじの男よりさばさばと割り切った付き合いを好む。
 会えないからって無駄に寂しがることはしないだろうし、メールや電話も、毎日はやってられないよ、とすぐに投げ出すし、仕事は忙しいしで、本気の度合いを疑われても致し方ないだろう。
 当の琴子は、彼氏ができたからって仕事や趣味の時間を削る気はさらさらないし、恋人を置いて女友達と海外旅行に出かけたりもする。
 そのギャップについていけない男が多いのも、納得はいく。
 付き合い始めで燃え上がっている時期にそうやって、自分の世界にのめりこんでいる彼女に置いてきぼりにされるとなぜか冷めてしまうものだ。
 このひとが自分を好きだと言ったのは嘘で、自分がこの子を好きだと思ったのも勘違いだったんじゃないかと。

 僕に言わせれば琴子はちゃんと恋人を大事にしている。琴子なりのやり方で。
 そのひとに合わせて映画が好きになったり、アウトドアにハマったり、スノボに出かけたり、日本酒にやたら詳しくなったり。
 おかげで琴子はびっくりするほど多趣味になった。
 全然無理をしていないところがまたすごい。

 頑張るよなあ。僕なんて、おかげさまで忙しい仕事と琴子の相手で手一杯。彼女を見つける暇もないし、見つけたいとも思わない。

 いつもは別れた男のことなんて、1月もすればきれいに忘れてしまう琴子なのに今回は珍しく長く引きずっている。
 そんなにも好きだった、とはちょっと違うだろうと、僕は予想している。
 たぶん、何も始まらずに終わったから惜しいんだ。
 すぐに結婚をしたと聞いて、逃した魚は大きいとか、考えているんだと思う。

476コトコのハナシ_6:2007/12/16(日) 01:10:44 ID:XxQ10Myz
「でさ、結局琴子は、彼氏が欲しいわけ? 結婚がしたいわけ?」
「結婚」
 琴子は即答する。
 まあ年齢的に無理もない。僕らはもう27になってしまった。
 僕は男だから、まだいいかなーなんて悠長なこと考えているけど、琴子は女だ。
 一番あせる年頃だし、周りからもさぞせっつかれているんだろうと想像はつく。
「結婚がしたいの? 結婚式がしたいの?」
「要……私、そこまで夢見る夢子ちゃんじゃないよ。あのね、人生を一緒に生きてくれる人が欲しいんだ」
 人生を一緒に? それは大概夢子ちゃん的発想じゃないかなと僕はふと思ったけど、ふぅんとだけ呟いて焼酎を舐める。

「必要条件ってある?」
「あるよ、あるある」
「どんな?」
「煙草吸わないひとのほうがいい」
「へー」
「あとスーツで仕事に行くひとがいい。出来たら眼鏡」
 形から入るタイプの琴子らしい。僕はこっそり笑った。
 しかし眼鏡でスーツの男なんてたくさんいると思うけどな。そういう僕も、そのスタイル。
「それでね、白衣着てたら最高。でもお医者さんがいいってわけじゃない」
 白衣。なぜ白衣。
 そのフェチズムは理解に苦しむ。
「僕は会社で作業着のジャンパー着るけど」
「作業着かあ。2割減だなあ」
 でも8割は残してもらえるわけか。
「琴子、見た目ばっかりだね」
「……そうだね…………えっとー、例えばね、デートで電車に乗るじゃない?」
「うん」
「で、目的の駅で、うっかり乗り過ごしちゃった時に、じゃあ予定変更して行けるとこまで行ってみようよって、言ってくれるひとがいい。
 その先に、思いもよらなかった楽しいことがあるかもしれないじゃない?」

 琴子がグラスを揺らして、焼酎に浮いた氷がかららんと涼しげな音をたてた。
 へえ、と僕は呟く。
 まあ琴子はそうだよな。明日からアメリカに転勤ですって言われても、満面の笑みで行きますと即答して、行ったらすぐにその土地に馴染んでしまうに違いない。
 人生を楽しく過ごす術を、琴子はよく知っている。
 その楽しい人生を一緒に生きる男はどんなヤツなのか。
 嫌な想像に僕は眉根を寄せて、ぐい、と残り少なくなってすっかり味の薄くなった芋焼酎を煽った。

 早く見つけないとね。
 僕のグラスに新しい氷と焼酎を注ぎいれながら、琴子が言う。
 いつまでも要に甘えていらんないもんね。
 はい、と差し出されたグラスを受けとって、僕は曖昧に微笑んだ。

 いつまでも甘えてくれていていいのに。
 琴子が望むなら、いつでも甘えさせてあげるし、そばにいてあげるし、絶対に琴子を悲しませたりなんかしない。
 僕は煙草を吸わないし、琴子の好きな眼鏡とスーツだし、電車を乗り過ごしたら乗り換えるのが面倒になると思う。
 あいにくジャンパーだけど、なかなか琴子の好みに合致してるんじゃない?
 だけど琴子が望んでいるのはそういう僕じゃないんだろう。

477コトコのハナシ_7:2007/12/16(日) 01:11:42 ID:XxQ10Myz
「ああ……出会いってどこにあるんだと思う?」
「どこだろうねえ。その友達の彼氏さんの友達とかは?」
「だめ。イオより年下だって。弟より年下は、ちょっと無理」
「じゃあ合コン?」
「うーん、あのね、私気がついちゃったんだ」
「うん」
「合コンって悪くないんだけど、なんか駆け足でしょ。駆け足は悪くないんだけど、なんか違うの」
「違う?」
「こう、気がついたら好きだった、みたいに、穏やかに始めたいんだなー。そしたら穏やかにゆっくり続いていきそうな気がするじゃない?」

 琴子はやっぱり夢子ちゃんだ。
 まだそんな思春期みたいな発想を持っているんだ。

「あ、いい年してって思ってるな?」
「思ってないよ。そういう恋愛だったら、職場とかじゃない?」
「今の学校、若い独身の先生がいなくて。あとは生徒?」
「それはマズいね」
「でしょ。懲戒解雇ものだよ。第一、高校生なんて図体だけ大きくて子供だもん。そこが可愛いんだけど」

 そういえばこないだ山井がね、と生徒の話を嬉しそうに琴子は始めて、出会いの話は宇宙のほうへと押しやられていった。

 だから僕は、――僕にしとかない? なんて、恥ずかしいセリフを、酔った勢いでうっかり吐いてしまわずに済んだのだった。


*

 眠い、と琴子が目を閉じそうになったので、とりあえず歯を磨きにだけ行かせて客間に布団を敷いた。
 これもすっかり琴子専用になってしまった。
 隣に帰れないぐらい酔っているとはとても思えないけど、外に出ると酔いが覚めて嫌だと琴子は我がままを言って、3回に1回はここで眠ってしまう。
 酔った勢いのまま眠るために、事前に入浴まで済ませてくる周到っぷりだ。
 戻ってきた琴子にお休みと挨拶を交わして、僕は入れ替わりに居間を出て風呂場へ向かう。

 熱いシャワーを浴びて、もどかしい思いを抱えたまま髪をトニックシャンプーで豪快に洗いながら、そして飛び散った泡を一人虚しく洗い流しながら考えるのは琴子のことばかりだった。


 琴子と僕は幼馴染だ。
 恋人じゃない。
 家族じゃない。
 友人、というのもまた違う。

 付かず離れずの微妙な関係。
 例えるならイトコが一番近いんだろうけど、それにしては距離が近すぎて繋がりが薄すぎた。

 琴子はたぶん、僕のことをイオと同列に考えているんだと思う。
 だけど生憎、僕にはとっくに結婚した兄貴が一人いるだけで、同列に並べるべき人間が一人もいない。
 姉か妹でもいたらまた違ったかもしれないけど、最近の僕は琴子の定位置を決めかねている。

478コトコのハナシ_8:2007/12/16(日) 01:13:13 ID:XxQ10Myz
 あの日抱きしめたくなった琴子は間違いなく女の人で、家族だったはずなのに僕にとってはどうしようもなく女性で。
 でもいきなりそんな感情を抱いては、琴子に申し訳ない気がした。

 琴子の初恋の人だって知っているし(ちなみに僕の兄貴だ)、いつまでおねしょをしていたかも、初めての彼氏も、ファーストキスの場所も、なぜか初めてのセックスの相手も知っている。
 もちろん琴子も、僕の人生のほぼ全てをなぜか把握していてくれている。
 こんなにもお互いを知りすぎている関係を変えてしまうには、今さら過ぎた。

 例えばこれが10年前だったら。
 もう少し何も考えずに、とても素直に想いを告げられたはずだ。
 だけどあの頃は、お互い違う恋人がいて、違う夢を持っていて、違う人生を歩き始めていた。
 だから琴子は琴子でしかなくって、恋人や好きな人、なんてカテゴリにはとても入れられなかった。
 今はただ、そのことが悔やまれる。

 結局、僕たちは、年をとりすぎてしまった。
 大人になって大きな間違いを起さなくなるのは、守りに徹するようになるからだ。
 喪失は絶望で、変化は恐怖だ。
 大切であるがゆえに、僕は琴子を失いたくない。
 臆病すぎると自分を罵るものの、無くすぐらいなら現状維持で、なんて後ろ向きな思いを、27年の人生の中で一番強く抱いている。
 強がりなんてひとかけらもなく、そう考えている。

 彼女が求めているのは男としての吉見要じゃなくて、家族としての僕なのだ。
 人生を頑張って生きている琴子の、安らぎでいたいから、僕は僕の感情に気が付かないフリをする。
 もうずっと、そんな平和な嘘を続けている。

 でも、琴子がもしも結婚をしてしまったら、僕はどうするのだろう。どうなるのだろう。
 兄貴が結婚を決めた時に抱いた感情とは、絶対に違うだろう。
 あの時は単純に、兄貴の幸せと家族が増える喜びが湧き上がってきた。
 だけど琴子が結婚をしたら、もう、こんな風に二人で酒を飲んだりなんて絶対に出来なくなるだろう。
 琴子が、人生を共に生きる伴侶だよ、と紹介するその男に、僕はなんて声をかけるんだろう。

 ますます後ろ向きな想像にぼんやりと浸っていたら、くしゅんと大げさなくしゃみがもれた。
 壁にシャワーを打ちつけながら動きが止まっていたらしい。
 溜息をひとつついて、風呂掃除を続行する。
 掃除はいい。
 一つ泡を流す度に、心の淀も一つ流れていくような錯覚を抱ける。


479コトコのハナシ_9:2007/12/16(日) 01:13:52 ID:XxQ10Myz
*

 髪を拭いながら居間へ戻ると、常夜灯の薄ぼんやりとした明かりの中にみのむしのように布団にくるまった琴子の姿が浮かび上がっていた。
 小さい頃から今でも変わらず、琴子は左を下にして海老のようにくるりと丸まって眠る。
 左手がしびれたりしないのかな、と不思議だけど、どうやら平気らしい。

 そっと枕元に跪いて、その寝顔をのぞきこんだ。
 幸せそうな眠り姫。
 人の気も知らないで、どんないい夢見てるんだろうな。

 手を伸ばして、指先でそっと前髪を撫でる。
 ぴくりと瞼を震わせた琴子が、振り向いてうっすらと眼を開けた。
「……ごめん、起こした?」
 ううん、と掠れた声で首を振った琴子が、ずる、と身体をずらして、あろうことか布団を持ち上げて僕を招く。
「………………いいよ、自分の部屋で寝るから」
「……寒いの」
 ぼんやりとした寝ぼけ眼で見上げられて、胸の奥が痺れた。
「琴子」
「だってヒャドがいないもん」
 ヒャドっていうのは琴子の家で飼ってる猫の名前だ。
 拾い主のイオが、俺がイオだからこいつはヒャドな、なんてふざけた主張をしたがために、残念な命名をされた彼を琴子は溺愛している。
「家に帰らないからだよ」
「……要のいじわる。いいじゃん、一緒に寝よ? ヒャドいないもん」
 ぐっと僕の寝間着の袖をつかんで、琴子が誘う。
 あくまでヒャドの代理ですか。

 大げさにため息をついて、そっと琴子の温もりで満たされた布団に忍び入る。
 くすぐったそうに琴子が笑って、おやすみ、と言い切る前に目を閉じた。
 すぐに規則的な寝息が聞こえてくる。
 相変わらず寝つきのいいやつ、と笑いそうになった。
 押し殺した吐息を察したように琴子が、のそのそと身を寄せてきて、温かくて滑らかな足が、僕のそれに密着をする。

 あのさ……琴子。まったく、僕をなんだと思ってるわけ?

 そっとあたまを撫でて、つむじにくちびるを落とす。柔らかいシャンプーの香りが、鼻腔をくすぐって胸の奥がどくんとした。
 琴子って無防備だよね。
 聞こえないように囁く。
 もちろんこの無防備さは相手が僕であるが故なんだろうけど。
 5年前だったら襲ってたかもしれないけど、今の僕は余裕な大人なのだからそんなケダモノみたいな真似は出来ないのだ。
 後のことを考えると、やっぱりね。怖気づいてしまうんだ。


 寝るときに絶対琴子の布団に入ってくるらしいヒャドは、今日はどうしているんだろうとか、どうでもいいことを考えて気分を落ち着けつつ、そっと僕は眼を閉じた。


480コトコのハナシ_10:2007/12/16(日) 01:14:47 ID:XxQ10Myz
*

 インターホンが鳴ったような気がして、意識が浮上した。
 だけど薄らぼんやりしたあたまと身体は起きてはくれず、もう一回鳴ったら布団から出ようかと諦め悪くぬくもりにしがみついて、ふと、腕の中に琴子がいない、と気がついた。
 ぱたぱたとスリッパで小走りに駆ける音がして、彼女はもうすっかり目を覚まして、元気よく動き回っているのだと知る。
 しばらく後、押し殺したような話声が聞こえてきた。

「…………ら、静かにね」
「んー判った」
「で、あんた何しに来たわけ?」
「姉ちゃんの朝帰りを迎えに。暇だからさ」
「ばか。お隣だから朝帰りじゃないよ。ね、ちゃんぽん作るけど、イオも食べてく?」
「食う食う」

 そんな会話を片耳で聞きながら、いつまでも仲がいい姉弟だよなと改めて感じる。
 じゃあ要をそろそろ起こしてきて、と、琴子のミドルトーンが響いた。

 イオの気配が近づいてくる。
「要にいー」
 イオの起こし方は乱暴だ。
 いい年をして、ダイビング・ボディ・プレスの後に腕ひしぎ十字固めなんてしてくれたりする。
 これがまた半端なく痛いのだ。
 危険を察知した僕は、寝返りを打ってイオを仰ぎ見る。
「……起きてる」
「あそ。おはよ。昼飯はちゃんぽんだってさ」
「うん」
 答えたところであくびをひとつ。
 喉の奥を見透かされてしまうんじゃないかと思うぐらい大きなそれを終えて、上体を起こすと、あぐらをかいて枕元に座っていたイオが、いつになく真剣なまなざしで僕を見ていた。

「あのさ、要にいちゃん」
「…………何、気持ち悪いなあ」
「要にいって、姉ちゃんとヤってんの?」
 条件反射でイオを殴り倒した。
 床に額を打ち付けて、イオがいてぇと呻く。
 琴子を見やると、キッチンでざーざーと水を流してこちらの様子にはまるで頓着をしていない。
 僕はほっと息をついた。
「お前な」
「だってさ、姉ちゃんしょっちゅうここに泊ってくじゃん。とーさんもかーさんも、どうなってんだか心配してんだよ。相手が要にいならむしろ安心なんだけどさあ」
 で、どーなの、とイオが興味しんしんで、額を床にこすりつけたままこちらを見上げる。
「ご期待に添える関係じゃないよ」
「付き合ってないの?」
「…………付き合ってない」
「付き合ってないけど、ヤってるとか?」
「付き合ってないし、ヤってない。……イオ、再起不能なぐらい殴り倒していいか?」
「ヤメテ、要お兄さま」

 がば、とその身を起こしたイオが、ちょっと目を細めて睨むような視線で僕をまた見つめていた。

481コトコのハナシ_11:2007/12/16(日) 01:15:56 ID:XxQ10Myz
「…………二人とも、いい大人だとは思うけどさ。いい加減不自然じゃね?」
「なにが」
「そうやってさ、要にいが琴子を甘やかすからアイツ結婚できないんだよ。琴子が要にいに構うから、要にいが彼女作んないんだよ。そういうことだろ?」
 大人なんだから、ちゃんとしろよな。

 誰に言われるよりも、胸に刺さった。

 家族みたいなもんだろ、甘えて何が悪い、とか。
 そんなこと、僕が一番よく知っている、とか。
 じゃあ僕は琴子が好きだけど、あいつにその気があるように思う? とか。
 今くっついたら、お手軽に済ませたんだ感がぬぐえないよ、とか。
 琴子と僕がセックスするなんて、琴子とイオがそうするぐらい気持ち悪くはないか? とか。

 一瞬にして様々な返答が頭を廻ったけど、どれもこの場には不適切で、二日言酔いでないはずの頭が痛んだ。

「せっかく、俺が……、」

 イオは何かを言いかけたけど、押し黙った僕をみて、結局はくちびるを引き結んだ。
 ごくりと唾を飲んだ後、こんなこと言いたくなかったと呟いた。

「ごめんな」
「イオ―! 要起きた? ごはんもう食べれる?」
 僕の謝罪を掻き消すように、琴子の呑気な声が、キッチンから響いてきた。

「おー!」
 イオが張り切った声をあげて、腰を上げた。
 逃げるように客間を出て行く。

 僕も、それにゆっくりと続いた。
 ダイニングに足を踏み入れて、キッチンの中の琴子と目が合った気がして、おはよう、と出来るだけナチュラルに微笑んだ。
「おはよう、要。眼鏡、テーブルの上だよ」
「ああ、ありがとう」
 ぼんやりとした視界は、今の気分にとても相応しいけれどせっかく琴子が教えてくれたので素直に眼鏡を装着する。

 手伝うよ、と踏み入れたキッチンは整然と片付けられていた。
 昨夜二人で散らかした食器類はすっかりと洗い終えられて、水切りかごのなかにきれいに納まっている。
 まるで、なにもなくなってしまったようだ。
 昨夜の会話もはすべて夢だったんじゃないかとすら錯覚する。一緒に眠ったことも、すべて。

 ぐつぐつとつゆが煮えたぎる土鍋と、琴子の晴れやかな笑顔だけが僕をぬるま湯の現実へ繋ぎ止めていてくれる気がした。

*

以上です。
お付き合いありがとうございました。
482名無しさん@ピンキー:2007/12/16(日) 01:29:26 ID:IoOF1qdo
GJです! 大人になった幼馴染ですか。難しい部分はありますねぇ。

でも、この二人が幸せになるような、そんな続きを待ってます! 是非書いて下さい!!
483名無しさん@ピンキー:2007/12/16(日) 03:16:45 ID:UA7CAMsx
GJ。GJ。GJ。GJだ。
内容も表現も丁寧で落ち着いているのに、じんわりと沁みてくるものが
あって、個人的にとってもツボだった。
この続きでも別のでもいいから、次回作に激しく期待。
484名無しさん@ピンキー:2007/12/16(日) 03:16:58 ID:pKmWn2Vs
これはいい
とてもいい
とても いい!
485名無しさん@ピンキー:2007/12/16(日) 07:07:02 ID:crkYIJ5I
GJ!!!
某スレで以前投下されていたシリーズの外伝?ですよね?
相変わらず文章が丁寧で非常に読みやすく、気付いたら引き込まれて
いました。
続きも期待しています!


486名無しさん@ピンキー:2007/12/16(日) 11:34:58 ID:/+M12eW2
>>485
なんだと、それは一体どこで読めるんだ!?
差支えなければ教えてくださいだぜ!
487名無しさん@ピンキー:2007/12/16(日) 13:00:12 ID:crkYIJ5I
>>486
年の差カップル萌えスレの総一郎と茜シリーズ
1スレ目の作中で茜先生が一緒に海外旅行に行った友人ということで
名前だけだけど触れられている。
488名無しさん@ピンキー:2007/12/16(日) 13:05:21 ID:/+M12eW2
>>487
トン
ちょっと見てくる
489名無しさん@ピンキー:2007/12/16(日) 15:46:26 ID:S1/eDecJ
優也と友梨ってあれで終わりなん?
すんげー好きなんだが
490名無しさん@ピンキー:2007/12/16(日) 19:22:00 ID:tau5uflz
俺もすごい好き
続きがあるならぜひ読みたい
491名無しさん@ピンキー:2007/12/17(月) 01:22:41 ID:19X6MFJe
大人になってからの幼馴染が実にいいな!
492名無しさん@ピンキー:2007/12/17(月) 01:59:32 ID:/5ofsKVQ
結婚&新婚萌え纏めの方にも似たようなのあるよな
こっちも結構好きだ
493名無しさん@ピンキー:2007/12/17(月) 02:07:44 ID:+vX7x4Pe
結婚で締めか…そういうのもありだな
494名無しさん@ピンキー:2007/12/17(月) 10:24:26 ID:OMHE6jym
うはwww
同士テラ多スwwwwwww

もちろんあれで終わりじゃないよな?
な?
495名無しさん@ピンキー:2007/12/17(月) 14:21:01 ID:RiRllWX+
>>481
これ、くっつかないまま曖昧で終わるのがなんかいいなw
496名無しさん@ピンキー:2007/12/18(火) 10:15:54 ID:4N+RbrWZ
>>471氏の作品いいね
年の差の方も読んで来たけどかなりはまった
他にもあるのかな?知っている方いたら是非紹介を
497名無しさん@ピンキー:2007/12/19(水) 15:21:57 ID:lglWJp+1
携帯サイトをもってらっしゃる。URLは晒すと迷惑だと思うからメ欄にサイト名だけ。
498名無しさん@ピンキー:2007/12/19(水) 17:59:41 ID:2XkuCTlT
サイト多すぎワロタ
499名無しさん@ピンキー:2007/12/19(水) 22:57:29 ID:SQ4GY2fJ
サイト名だって晒すなよ。
URL晒しは迷惑だと思うのに、アドレスさえ載せなければいいと思う
その神経がわからん。
検索してヒットする数が多いサイト名なら晒してもいいと思ったのか?
アホだろ。
よそのスレまで行って迷惑がられたり、書き手のサイト晒したり、
しかもこれがいいことだと思ってやってるんだから最悪だな。
もうちょっと考えろ。
500名無しさん@ピンキー:2007/12/21(金) 00:22:32 ID:+nbhHOxw
切れすぎwwwwwwwwww
501名無しさん@ピンキー:2007/12/21(金) 01:14:59 ID:dArCU/92
まあ、やっちゃ駄目なことであることは確かだわな
このスレだけ見てると錯覚しそうになるが2chであることに変わりはない
502名無しさん@ピンキー:2007/12/21(金) 06:04:09 ID:cTCnKlJl
>>500
これを切れ過ぎって思うほうがおかしいよ
書き手のサイトを晒すなんて、普通は袋叩きだよ


そこら辺の感覚からしてズレてんのかね、ここの住人は
503名無しさん@ピンキー:2007/12/21(金) 09:37:47 ID:8vc3OZXC
これがモラルハザードか
郷に入りては(ry
504名無しさん@ピンキー:2007/12/21(金) 10:47:34 ID:QX8gcdrY
個人サイト晒すのが最低であることは確かだな
ただ、一人のレスの問題をスレの住人全員のせいにしようとして
「このスレの住人は…」とか言い出す奴は
スレの雰囲気悪くしたい便乗さんとしか思えないわけで…
まあもうちょっと落ち着こうぜ


505名無しさん@ピンキー:2007/12/21(金) 11:19:12 ID:LR+QE0Nb
俺はどこかを縦読みか斜め読みするのかなぁと思った。見つけられなかったけど。
506名無しさん@ピンキー:2007/12/21(金) 14:22:51 ID:Mh4AI6SK
今回はむしろ、サイト晒しという最低な行為に加えて
>>500とか>>505みたいなのがいるせいで
スレ住人にバカが多いと思われたんじゃないかね。

サイト晒しが最低なのは当然なんだから、
そこはもう反論も弁護もしないで
次の話題に行けばいいんだよ。
何か言うだけサイト晒しを認めてるように見えて印象悪くするだけだよ。
507名無しさん@ピンキー:2007/12/21(金) 15:09:50 ID:ogP52vN9
誰も彼もが一言余計
508名無しさん@ピンキー:2007/12/21(金) 17:22:45 ID:ASAcpQIy
>>452
遅くなってごめんよ。書いてみたよ。短いけど。


インターホンが鳴ってドアを開けると、隣に住む3つ年下の夏帆が立っていた。
短いスカートとダウンコートに、長い髪を頭の横でちょんちょんと結んで、元気一杯、何故かボトルとチャッカマンを持ってポーズを取っている。
「行くよっ、あっちゃん!」
「行くって夏帆、どこに?」
「駅前のおっきなツリーのとこ!」
「夏帆、それ、チャッカマン?」
「そう、チャッカリマン」
「・・・・・・で、その左手のペットボトルは何?」
「ごま油」
「何する気だ?」
「もやすの、ツリーを! 夏帆てっぺんまでとどかないから、あっちゃんに手伝ってほしいの!」
「何のために?」
「本で読んだの。火事が起きたら愛しいウンメイの人に会えるんだって。ツリーがノロシになって、ウンメイの人があたしを見つけてくれるんだよ!」
「あほかっ」
思わずゲンコツで殴ってしまった。もちろん手加減はしたけど。
夏帆はチャッカマンを手に握ったまま頭を撫でると、涙目でこっちを睨みつける。
「いったー、あっちゃんなにすんのよっ」
「運命の人より先に警察につかまるだろ・・・放火犯になりたいんかお前は」
っていうかあのツリーは生木だからごま油とチャッカマン程度では萌えないと思うけど。
夏帆は涙目の目をさらに潤ませて、だって、と小声で呟いた。
「ん?」
「みんなラブラブ仲良し幸せそうで、羨ましいんだもんっ。あたしもプレゼント交換とかしたい!」
「毎年俺と交換してるじゃん」
「あ、そっか。忘れてた」
「えーと、あとぉ、ラブラブでツリー見たい!」
ラブラブでツリーね。最近の中学生はマセてるねぇ。そういうのが流行ってるのか?
「俺が一緒に行ってやるよ」
「あっちゃんほんと?」
夏帆のお守りは俺の仕事だもんな。おばさんからもこのアホな娘をくれぐれもよろしくって頼まれてるし。
「ああ。でも火はつけないからな」
「じゃあ手、つないでくれる?」
「う、うん」
「腕くんでもいい?」
「・・・いいぜ」
「ほんと?ほんとに?うそじゃない?うそじゃない?ねえねえ!」
「だーっまとわりつくなっ、うそじゃない、うそじゃない!」
「ラブラブ?ラブラブ?」
「あーラブラブブラブラだぜっ!」
「あっちゃん大好きっ!」
面倒になって叫んだら、夏帆は納得をしたようで、両手を目一杯上げてばんざーいのポーズを取った。その拍子に左手のごま油がボトルの中でぽちゃんと揺れた。
こいつ、ラブラブの意味判ってんのかね。
「はいはい。駅前のツリーの前に、うちのツリー飾るの手伝えよな。うちのかーさん待ってるんだから」
「手伝うっ。あっちゃんちのツリーも大好きっ」
「ほい、じゃあ入れ。寒いだろ」
「あーい、おっじゃましまーす!おばさーん、夏帆来たよー!」
玄関で靴をぽぽいと脱ぎ捨てる夏帆はまだまだお子様だ。
手を繋いだってきっとぶんぶん振り回すし、腕をくんだって俺にぶら下がるだけだろう。
再来年ぐらいには本物のラブラブになれますように、とサンタにお願いしたらかなえてくれるだろうかと、夏帆の靴を揃えてやりながら、ふと考えた。
509名無しさん@ピンキー:2007/12/21(金) 17:27:07 ID:ASAcpQIy
終わりなんだが、間違えたorz

「あ、そっか。忘れてた」
「忘れんな」 ←これが抜けた
「えーと、あとぉ、ラブラブでツリー見たい!」

ごめん。
あと3日か・・・溜息
510名無しさん@ピンキー:2007/12/21(金) 19:24:09 ID:G/lPHpkE
理想の小説探しますみたいなスレあるじゃん
それとどこが違うの?
テンプレで個人サイトらしきURLが紹介されてるスレもあるよ
511名無しさん@ピンキー:2007/12/21(金) 19:44:17 ID:qR6BBe7q
>>508
元気一杯でかわいいなw
短くてもこれはいいものだ
512名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 00:44:13 ID:8sBPbKWI
ほんと元気いっぱいでかわいいね
そんな娘が一緒にいたら楽しいだろうな〜
グッジョブ>>508
513名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 01:05:37 ID:FO/vE9kK
>>502>>506
馬鹿にしすぎwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
514名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 01:10:40 ID:wqyrTWZo
>>513
大丈夫、お前はそれに見合うだけの馬鹿だから
515名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 01:50:55 ID:8Lix7e+U
>>508
確かに短いのが残念。
でも幼馴染にチャッカリマンと言わせたり、最後の「夏帆の靴を揃えてやりながら」
の表現とか抜け目なく良い味出してるね
516名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 14:38:05 ID:FO/vE9kK
>>514
wwwwwwwwwwwwwwwwwwww
517名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 17:10:53 ID:m7f2OyA0
>>516
wwwwwwwwwwwwwwwwwwww
518『その幼馴染み、驚異のメカニズム』:2007/12/22(土) 17:42:42 ID:hL0YtIjD
安藤夏(あんどう なつ)は、自称・情熱家であるのだが、その実、他称・無愛想だった。


朝、ぼんやりと登校を始めた田川与一(たがわ よいち)少年17歳であるが、隣の家の前を通りがかったところで、そこの住人の一人である幼馴染み、夏(なつ)と遭遇する。

「おっす」

そこそこ年季のいったマンションの、新築出来立ての頃から入居の隣人であるから、これくらいの気安い挨拶もできる間柄。
与一はまぁ、隣人である同級生のことをその程度に認識していた。

彼の持つ価値観、というか、単純に女性の好みとして、儚げな雰囲気のある、上品なお嬢様が好きなのである。
しかしはたしてこの夏は、運動性能に優れ、病気に縁のない頑健な身体が取り柄の女だった。寡黙ではあるがその無口には気品が無く、平たくいえばぶっきらぼうなだけだ。
正直言って、好みの女とは懸け離れていた。
友達ではあるが、恋人にしたいと思わない、という認識。

しかし、この女、夏は違う。

ものすごく、激しく、バリバリ、めちゃくちゃ、超、スゲー、マジ、等々、いろいろとその度合いを表す言葉もあるが、飾りだすと際限が無くなるのでやめておく。
まぁとにかく、それくらい与一のことが好きだった。

そんな、与一好き好き人間の夏であるから、彼から朝の挨拶をされて、無言で返すはずがない。
普通に「おはよう」とでも返せばいいのであるが、夏は自称・情熱家であるわけだから、そんな簡単な言葉で終わらないわけで。

彼女の脳内では、

『おはよう!! 与一君!! 素敵な朝だね!
 今日も朝から、あなたに逢えて私、幸せよっ!!
 あー、もう、与一君スキスキ! もう、大好きで大好きで仕方がないの!!
 たとえるなら、私が植物で、与一君は太陽!あなたの光がないと、私はすぐに枯れてしまうのよ!!』

といったような、情熱的で少々イカレ気味な感情が渦巻いているのだが、それをアウトプットするシステムに問題があるらしい。
つまり、唇が、その言葉を上手く紡いでくれない。

おそらくは、大脳の中の、恋する男の子を想う部分から発信された信号が、同じく脳内のインタプリタであるところの身体の動きを司る部分に伝えられたとき、

(おまえ、長文ウザイよ)

と、辟易と労働を拒否されたに違いない。
ゆえにそのインタプリタは、脳内の長文を、やたら簡素に省略する。そしてようやく、唇へと信号を送るのだ。

『与一君、おはよう』

そして唇もまた、自分に与えられた仕事に対してルーズであった。
飯を食うときとあくびをするときくらいにしか大きくひらかない唇だ、目の前の男に激しい恋心を伝えたい、などという、どうでもいい仕事はしたくない。
いや、普段の会話も面倒なくらいだ。この唇が嬉々として言葉を発する仕事をするのは、定食屋で本日の日替わり定食を注文するときくらいだろう。
だから、脳内のインタプリタによって簡素に省略された文章であってもまだ長文に感じるらしい。食事に結びつかないからだ。

それでも脳からの信号がやたらとしつこく急かすので、やれやれどっこいしょ、とばかりにようやく唇が重い腰を上げる。
そして初めて、思考の一部が言葉として発せられた。

「・・・おは」

だいたいがだいたいこんなかんじで、夏の、朝の第一声が紡がれるのである。



「おめー、相変わらず無愛想だなぁ」

もちろん与一少年は、彼女の中でどのような電気信号のやりとりが行われているかなどと、知る由もない。
519名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 17:55:44 ID:hL0YtIjD
ごめん、間違って投下しちまった。
520名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 18:02:28 ID:6GIeyhqX
間違いは気にせず続きを
521名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 23:23:31 ID:P8puskpp
全然間違いではないと思うぞ

まあ、挨拶するだけの展開にどんだけ行数使ってんだって気はするが、
結果的に面白いから許す

てなわけで、GJ&続きを激しく期待している
522名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 23:26:56 ID:+UDtu5hu
>>508>>519でニヤニヤがとまんねえw
523コトコのキス_1:2007/12/23(日) 01:51:20 ID:BVeesct8
>>471-481の続きです。


 今日は辛口の白ワインの日、と琴子が言ったので、僕は少し悩んで今日の料理を決めた。
 生ハムのサラダと豆のポタージュスープと、ペスカトーレ。
 クラッカーとチーズを用意して、適当な野菜を乗せた数種類のカナッペ。
 よし、これで行こう。
 学生時代にちょっとした洋食屋でバイトした経験が役に立っている。

 野菜を切り終えたころに、琴子がワインを2本片手にやってきた。

 サラダとカナッペの制作を彼女に任せて――やっぱり盛り付け類は女のひとのほうが上手だ――湯を沸かしながら、砂抜きしたあさりを洗っていかをさばく。
 その手つきを、琴子が感心したように覗き込む。
 べつに魚を三枚におろしてるわけじゃないんだし、そこまで驚かなくてもいいのにな。
 はらわたは触れるけどゲソの吸盤がイヤ、と主張する琴子をからかいながら、下準備を終えた。
 沸騰した湯の中にスパゲッティを放り込んで、ぐるぐるとかき回す。
 店長が「麺類は愛を持って接しないとだめだ」と口酸っぱく言っていたなと、麺をゆでるたびに思い出す。確かに、頻繁にかき回してやると味が全然違うように思えた。
 フライパンにオリーブオイルを流し込み、強火で少々。つぶしたにんにくを浮かべると、すきっぱらに心地よい芳香が漂う。
 火を弱めて、赤唐辛子を淹れる。フライパンを耳障りな音を立てながらゆする。
 ゆで汁を少々加えて、にんにくと唐辛子を抜き出した。

 あさりと白ワインを豪快に流し込んで、蓋をする。
 この蒸している瞬間が、僕は結構好きだったりする。
「要って、パスタ上手だよね」
「まあね。女の子はパスタで落とせって言うじゃん?」
「……聞いたことない」
 琴子が落ちてくれるんだったら何でも作るよ、と恥ずかしいセリフがよぎったけど口にはせず、蓋のガラス窓からあさりの様子を伺った。
 ほんとうに伺いたかったのは、琴子の様子だったけど。

 口をぱかんと開いたあさりは、開けっぴろげで素晴らしい。僕はなぜかわくわくする。
 スプラッタなイメージの強い、つぶしたホールトマトをまぶして、水分が飛ぶまで煮詰めればソースは完成。
 スパゲッティが茹であがる直前に、いかとむき海老を加えてさっとゆがいて、キッチンタイマーとにらめっこ。
 ぴぴ、とけたたましい音を立てたらすぐにタイマーと火を止めて、ざるに上げた。
 ざっと水気を切ったそれを、ソースの煮えたフライパンに放り込んで絡める。

 あとは皿に盛ってめでたく完成。
 サラダとカナッペはすでにテーブルに並んでいたし、初めて作ったポタージュスープもいい感じにぐつぐつと音を立てていた。

 料理は二人ですると何倍も楽しい。
 それが、琴子と酒を飲むようになって知った一番の収穫だった。
524コトコのキス_2:2007/12/23(日) 01:52:35 ID:BVeesct8
 ワインの栓を抜くのは僕の仕事だ。
 一度琴子に任せたら、コルクをボロボロにしてしまって辟易した。
 そんな難しい仕事でもないはずなのに。
 それ以来、幾度琴子が申し出ても頑なに断らせていただいている。
 ちなみに琴子はワインを注ぐのも苦手だ。しっかりと液だれを起こす。だからそれも僕の仕事。
 申し分ない役割分担だ。
 まるで、何年もそうしてきた夫婦のよう。
 僕がこうやって甘やかすから、彼女はいつまでたってもワインの栓が抜けないまま。

 琴子が僕へのおみやげにどこかで買ってきた、ぶどう柄のワイングラスにきんと冷えた白ワインを注ぎいれた。
「じゃあ、」
 二人でグラスを持ち上げる。
「乾杯」
「乾杯」
 かちん、と涼しげな音を立ててぶつけたグラスを、ぐいとあおる。
 爽やかな渋みと酸味が舌の上で広がって、でもそれが喉を通ると不思議と甘くフルーティ。
 ワインの味なんてほんとうはよく判らないけど、これは飲みやすくて美味しいと思った。
 どう、と目で問う琴子に、美味しいと伝えると、アーモンド形の目を細めて嬉しそうによかった、と笑った。

 カナッペをほおばりながら、スープを吹き冷ましながら、スパゲッティをフォークにくるくる巻きながら、僕らは取りとめもなく話し始める。

 僕の話題は、隣の席の川上さん。
 5つ年上の川上さんは32歳独身、大人しくて控えめで、でも仕事は速くて正確だし、たまの主張は的確で重みがある。
 どんなに忙しくても、理不尽な欲求にも腹を立てたりせずに淡々と仕事をこなす。
 まさしく絵に描いたような「エンジニア」である。

「川上さんは絶対にプライベートを語らないんだ。
 昼にさ、食事しながらぐだぐだ話したりするじゃん。プラズマテレビを買ったとか、
 奥さんと喧嘩したとか、子供の誕生日でとか、そういうどうでもいい世間話。
 川上さんはね、人の話を聞いて笑ったりはするけれど、自分の話をしないひとなんだ。
 前は寮に入っていたから、一人暮らしだとは思うけど、夕飯はどうしているのかとか、
 休日は何をしているのかとか、家族や彼女はいるのかとか、誰も知らないんだ」
「えー、そんなのどうなんですか、って聞けばいいじゃない?」
「前に聞いたんだよ。そしたら『いや、別に』としか言わないんだ。会話がそこで終わっちゃってさ、妙な空気で気まずかったね。
 川上さんは言いたくないのかも知れないしさ、聞けないよね」
 そうだねえ、と琴子が神妙に頷く。
「聞けないとなると知りたくなる。
 たまに川上さんがいない昼休みは、みんなであれやこれや憶測をして楽しんでるんだ。
 上司がさりげなく尋ねたり、新人にほら聞け、と突撃させたりするんだけど、
 やっぱり応えは『いや、別に』なんだよ。
 上司まで交わせるあの手腕はすごいよ。ほんと徹底した秘密主義。
 あんなひと初めて出会ったし珍しいよね」
「そうだよねぇ。聞かれたら答えるよね、普通」
「でさ、その川上さんに彼女が出来たんだ」
「えっ、なんで要がそれ知ってるの?」
「それはね、その彼女っていうのが取引先の女性社員だから。若いよー20歳」
「12も年下? 川上さんやるね」
「やるでしょ。でね、僕もその子とちょっとやりとりがあるからさ、聞いてみたんだ。
 休みの日、川上さんは何してるの? って」
「うんうん」
525コトコのキス_3:2007/12/23(日) 01:53:18 ID:BVeesct8
 琴子の瞳が期待に丸くなる。
 僕の舌はますます軽快に滑り出す。
「そしたらその子『何もしてませんよ? たまにパチンコに行くだけみたいです』だって。
 実は川上さんにヒミツはありませんでした」
「なにそれ。酷いオチ」
「まだ続きがあるんだ。その子がね『あのう、私たちのことって、そちらの皆さんもうご存知なんですよね?』って聞くんだよ。
 僕が『そうですね、公然のヒミツってヤツですね』って答えたら、お願いがあるんですけどって言われて驚いた」
「お願い? 要に?」
「そう。何ですかって聞いてあげたら、『川上さんに、皆さんが知ってるって言わないでください。
 あのひと、誰にもばれてないって信じてるみたいだから……』だって。これ食べる?」
 クラッカーにチーズとサーモンマリネを載せて、琴子に差し出す。
「食べる」
 あろうことか琴子は、それを直接僕の手からかじり付いて奪っていった。
 なんて、猫みたいなやつ。
 小動物のようにくちをもぐもぐとさせながら、目線だけでそれで、と問う。
「ああ、えーと。そもそもさ、会社同士の親睦会で、隣同士楽しそうに話してたし、番号交換したのも全員知っているし、
 川上さん最近見たこともないぐらい浮かれているし、
 仕事で電話してるときはさすがに普段どおりだけど、話し始めは緊張してるしさ。バレバレなんだよね。
 だけどヒミツが露呈していたと知ったときの川上さんのダメージは想像つくじゃん?」
「ああー、うんうん」
「だからね彼女に判った、みんなに言っときますって伝えたんだ。
 彼女が『折を見て、私から話します。ご面倒おかけしますけど、宜しくお願いします』って言うからさ
 『じゃあそのときの川上さんの様子を教えてくださいね』ってお願いしといたんだ」

 ワインボトルを掴んで軽く振る。
 空になりかけたグラスの足を、琴子が細い指で握ってこちらに差し出した。
 とく、といい音が響いて、ぶどう柄のグラスに透明に近い黄金色のワインが満たされる。
 口元を軽く拭った琴子が、それを軽く含んでごくりと飲み込む。
 喉が上下をするさまに一瞬見ほれて、僕はまた口を開く。

「この前たまたま電話したら、『言いましたよ』って彼女が教えてくれた。
 川上さんは見ててかわいそうになるぐらい動揺してて、
 一日中『そうかあ、みんな知ってるのかあ』って繰り返してました、だって」
「……ちょっと可哀想だね」
「可哀想なんだけどね、職人で背中がぴんと伸びてる感じの川上さんが、肩を落として、そうかあ、そうかあって繰り返してる姿を想像したら、ちょっと笑えた」
「それは……可愛いかも。要、このペスカトーレ美味しい」
「そう? よかった。昨日川上さんと残業しててさ、『吉見くん……あのさ、いいや、何でもないです』って3回ぐらい繰り返すんだよ。
 たぶんハッキリ聞きたいんだろうけど、僕もなんて言ったらいいのか判らないからそのままになっちゃってるんだ」
「うわー、川上さんちょっとした拷問だね。でもソレなんて声かけていいか、ほんと判んない」
「うんうん、そうなんだよ。川上さんはさ、自分から話題を振ることがないから余計どうしていいか判んないんだろうね。
 こないだ珍しく声をかけてきたと思ったら大真面目な顔で
 『吉見くん、萌えってなんですか』って聞かれてさ、ちょっと返事に困ったよ。
 『好きの一種じゃないでしょうか』って返事しといたけど萌えってどう説明するの?」
「要がいま川上さんに抱いている感情は萌えに近いんじゃない?」
「そうかな? 川上さん萌え? ちょっとキモくない?」
「うん、ちょっとキモいね、だめだめ。でも私も川上さん萌えかも」
 二人で萌え、と言いながら盛大に笑った。
526コトコのキス_4:2007/12/23(日) 01:54:01 ID:BVeesct8
 そんな萌えさせてくれる川上さんは、とんでもなく仕事が出来る。
 彼の引いた図面は無駄がなくて美しい。
 一枚の芸術作品を見せられている気になる。
 僕が行き詰って、ちょっと川上さんに見てもらうと、川上さんはするすると正解を導き出して僕を正しい方向へと進ませてくれる。
 あまり下を育てたりするタイプじゃないけれど、川上さんは間違いなく素晴らしい職人だ。
 あと5年したら川上さんみたいになれるのか? と我が身に置き換えて問いかけてみても、そんな自信はまったくない。

 そんな川上さんが、最近丸くなった気がする。たぶん、恋人の影響なのか。
 川上さんの彼女は、人あたりも愛想もノリもよくて、声も笑顔も可愛い。癒されるタイプだ。
 正直、なぜあの子が川上さんと? と思わなくもない。
 あの川上さんが、女の子に愛を囁いている姿が想像できなくてまた笑えて来た。

「そういえば、琴子の秘密主義の友達は、何か教えてくれた?」
 指についたレーズンバターをぺろりと舐めながら、琴子がんー、と声をあげる。
 もう一口ワインを含んで、ううん、と首を振った。
「茜は秘密主義じゃないよ。聞けば教えてくれるもん。
 モトカレのことも初恋のひとも、今読んでる本も寝る時間も知ってるよ。
 ただ今の彼のことだけ教えてくれないだけ」
「今の彼だけ?」
「そう。その話題になるとすぐ話を逸らすの。
 たとえば窓を指差して、あ、って言うからさ、そっち見るじゃん? で、何もないからどうしたのって聞くと
 『UFOかと思ったけど見間違いだった。UFOといえば未確認飛行物体の略で夜間発光体の目撃が多くされているが、
 私の大学時代のゼミ仲間がホタルイカ等自発光体の研究をしていてな、光る金魚の育成に情熱を注いでいたが、在学中はお目にかかれなかった。
 あの研究は続いているのだろうか。ぜひ光る金魚を見てみたいと思わないか?』って一気にしゃべるの。
 何を聞かれたのかぜんぜん判らなくなっちゃってさ、あれ? って思ってるうちに『じゃ、忙しいから』って逃げちゃうの」

 なかなか鮮やかな手際である。
 川上さんの鉄壁の交わし文句といい勝負だ。
「冷静になって思い出してみると、全然たいしたこと言われてないんだよね。でもなんていうか、あの子は口調が無駄に重々しいの。
 無表情で淡々としてるから、すごい迫力あるの。ずるいよね、あれ」
「や、僕会ったことないし」
「そうだっけ? 今日なんて酷いんだよ。クリスマスは予定があるの? って聞いたら、なくはない、って言うからさ、
 誰とどう過ごすのか聞いてみたいじゃない?」
「うんうん」
「いい加減教えなさいよーって詰め寄ったら、突然、『あ、お疲れ様です』ってお辞儀したの。
 あれ後ろから誰か来たのかなって振り向いたら誰もいなくてね、向き直ったらまた誰もいなかったの。
 あの子走って逃げたんだよ。私思わず走って追いかけちゃったよ」
527コトコのキス_5:2007/12/23(日) 01:55:06 ID:BVeesct8
 走って逃げる高校教師と、それを走って追いかける同教師を想像したら、またものすごく可笑しくなってけたけたと笑った。
 箸が転がってもおかしい年頃が、アルコールのおかげでまた巡ってきているのかもしれない。
「すぐ追いついたんだけど、とっさに出てきた言葉がね『廊下は走らない!』だったの。テンパってて結構大きい声で叫んじゃった。
 茜もびっくりして『はい、申し訳ありません』なんて言うからさ、二人で笑っちゃって。
 あーまた今日も誤魔化されたなーって思ってたら、急に真剣な顔で、琴子、って呼ばれてね」
「うん」
「『落ち着いたら絶対に話すから、それまで待っててほしい』って言うの」
「落ち着いたら?」
「うん、今はどうしても話せないんだって。納得いかないから『まさか不倫じゃないでしょうね』って聞いた」
「…………琴子ってストレートだよね」
 その思い切りのよさを少しぐらい僕に分けてほしい、と思いながらボトルを傾けて、残り少なくなったワインをすべて琴子のグラスに注いでしまう。
「そのくらい普通だよ。あ、ありがと」
「で、どうだったの?」
「不倫じゃないって。そんなこと絶対にしないって言い切ってくれたから、すごく安心した。あと、心配かけてごめんって言われた。
 だからもう聞くのは止めにして、待つことにした」
「え?」
「待つの。茜は大丈夫。ばかじゃない。間違えたりしない」

 琴子はじっと僕を見据えて――まるで僕がその茜さんであるかのように見つめて、そうだよね、と問うようにくちびるを薄く開く。

「――――――うん」

 沈黙に耐えかねて、僕は頷いた。
 琴子が、肯定を欲しがっていたから。
 根拠も確信もなにもない、ただの慰めで、ほんとうの優しさなんかじゃないのかもしれないけど。
 案の定琴子は、ふ、と息を抜くと嬉しそうに微笑んで目線をワイングラスに落とした。

「あーでも。クリスマスなんてなくなればいいのに。去年は海外に逃亡できたけど、今年は他人の幸せを直視しないといけないんだ。憂鬱」
「それまでに彼氏を見つけるって選択肢はないの?」
 言ってからしまった、と思った。
 うんそうする、なんて琴子が頷いたら、僕はどうしたらいいんだろう。
「んー、そっちも焦んないことにした。焦るとロクなことがない。そう思わない?」
「……そうだね」
「要は? どうするの? なんか予定ある?」
「ないよ、うち仏教だし」
「仏教は関係ないの。ん、えーと……赤とスパークリングどっちがいい?」
「両方。じゃあローストチキン作ってみようかな」
「え? 買うんじゃなくて?」
「ネットで見てさ、うちのオーブンで出来そうだから一回やってみたくって。
 問題は丸ごとの鳥をどこで買ってくるか」
「え? ほんとに作るの? ほんとに? すごい!」
「作るよ。琴子がちゃんと手伝った上にたくさん食べてくれるならね」
 食べる食べる、とは嬉しそうに何度も頷いたけれど、ついに一度も手伝うとは言わなかった琴子と、今年は一緒にクリスマスを過ごせる。
 幸せな約束に、僕のアルコールで鈍った頭の中はまるっきりピンク色だった。

528コトコのキス_6:2007/12/23(日) 01:56:11 ID:BVeesct8
 それから僕らはまたぐだぐだと話し始める。
 漢字検定のこと。携帯電話にかかってきた間違い電話のこと。キリンはモーと鳴く。
 クリスマスのケーキを予約したいお気に入りのあの店は名前が読めない。結局シンプルがベスト。
 陰気なアメリカ人もあたりまえだけど存在する。
 ベトナムで見つけたへんな入れ物の用途。
 アンコール遺跡で結婚式をしていたカップルは、何に誓いを立てたのか。
 即身仏について。
 演歌歌手としてデビューする同級生。
 ウォーリーの眼鏡はありかなしか(なし、らしい)。
 エクセルの機能熟知度自慢。教師は何故かワードではなく一太郎を使う。
 子供のときどちらがより多く迷子になったか。ビタミンDを「びたみんでー」と言うのはおじさん臭い。
 ヒャドは家族に気を使う。琴子のお父さんの愚痴を誰よりも辛抱強く聞いてあげるのは彼である。
 インフルエンザの予防接種は何故か痛い。僕は針を凝視できない。先端恐怖症かもしれない。


 そんなようなことを、取りとめもなく、つらつらと。

 日付を越えるころに、琴子がまた、眠い、寝てくと言い出して。
 僕ははいはいと席を立って客間に布団を敷きに行く。
 琴子にはちゃんと歯を磨きにいかせる。僕はもしかしていつの間にか琴子の保護者になったのか?

 歯磨きを終えて戻ってきた琴子に、案の定一緒に寝ようと期待通りに誘われた。
 暖かくてよかったから気に入っちゃった、と屈託なく笑う。
 琴子の中ではあくまで代理ヒャドなのか。
 はいはい、と下心を見抜かれないように出来るだけそっけなく返事をする。
 僕もとりあえず歯だけは磨いて、いそいそと客間に戻る。
 もぐりこんだ狭い布団の中でまるで恋人同士のように身を寄せ合って、ぼそぼそと交わす声音が薄闇の客間に響いた。

「今年は、年末の旅行行かないんだ?」
「うん。だって茜に断られたもん。茜以外に一緒に旅行する相手って思いつかなくて」
「……琴子ってさ、茜さんのこと、ものすごく好きだよね」
「うん、好きだよ。茜は男前でカッコイイの。ちゃんと自分の足で歩いている感じがする。
 でもすっごい可愛いとこもあって、すごく、すごく素敵なの」
 ふぅん、と頷きながら、僕は見苦しく嫉妬する。
 美人で男前でかっこよくて、琴子の同僚で親友で、年下の彼がいるらしい茜さんは見も知らない僕に呪いを飛ばされて、さぞ迷惑をしていることだろう。
529コトコのキス_7:2007/12/23(日) 01:56:51 ID:BVeesct8
「茜と私はね、どっちかが男だったらよかったんだよ。そう思う」
「………………どうして? 男と女だったら、話もしなかったかもしれないじゃん」
「上手く言えないんだけど、そんな予感がするの」
 女のひとは運命とか予感とか、そういうのが好きだよな。
 肘で頭を支えながら、へぇ、と呟いた。
「だからね、試しにキスしてみたんだけど、やっぱり性別の壁は大きかった」
「は? キス?」
「うん。キスしてね、あ、無理なんだって思ったの」
「待って、なんでキス? 女のひとでしょ?」
「やだ、そんなすごいキスじゃないよ。高校生の頃とかってふざけて女の子同士でキスしたりするじゃない? あんな感じ」
「女の子ってそうなの?」
「うん、みんなじゃないと思うけど。でもあの時はふざけてなかった。真剣に、確かに性的な意味を込めて触れた。私たちは知りたかったの」
「なにを?」
「えと、試してみてアリだったらそういう人生もあるんじゃないか……って。キスしたら色んなことが判る気がした」
「………………何か、判った?」
「……駄目だって、判った。無理なんだって。
 がっかりしたけど、同じぐらいほっとした。やっぱり自分が異常だって認めるのは辛いじゃない?
 で、違ったって二人で言いあって、それで、おしまい。そんだけ」

 そんだけ、と言われても。
 反応に困って押し黙る僕を置き去りにして、琴子が盛大にあくびをする。
 目じりに滲んだ涙を、子供のように目をこすって拭った。
「それ、最近の話?」
「違うよ、2年ぐらい前かな。……要、ドン引きしてる?」
「ドン引きはしてないけど、琴子って誰とでもそうやって試してみるの?」
「誰とでもなわけないでしょ。茜は特別だもん。それに、試して駄目だったのに友達を平和に続行できるのは女同士だからだよ」

 特別、なんて言葉に、胸がざわざわとした。
 なんだよ、と面白くない気分だ。まるで子供だけど。
 気がついたら僕は、息のかかる距離で琴子を覗き込んでいた。

「じゃあ僕は?」
「………………え?」
「試して、みる?」
「かな、め?」
 琴子の声が遠い。
 アーモンド形の黒くて大きな目が、さらに大きく見開かれている。

 その顔を見て、僕たちはもう、二度と元には戻れないと知った。
 それは琴子も同じだったと思う。
 これで駄目だと知ってしまったら、違ったねと言い合ってそんで終わり、というわけには絶対にいかない。

 でもいいや。もういいや。
 前に進むにも終わりにするにも、これは絶好のチャンス。
 精神的にも年齢的にも、この不毛な関係を続けるにはそろそろ限界だった。
 ――大人なんだから、ちゃんとしろよな。
 ついでに、イオのふてくされたような声音も耳の奥に蘇る。

 そうだ。ちゃんと、しないと。ちゃんと、確かめないと。
 僕の気持ちを。
 琴子の本音を。
530コトコのキス_8:2007/12/23(日) 01:57:38 ID:BVeesct8
 胡散臭い笑顔で琴子をじっと見つめて発言のタイミングを奪って、そっと顔を寄せて、目を閉じてキスを受け入れざるをえなくする。
 琴子が思っているよりずっと、僕はずるい人間なんだ。
 居心地を良くして、ぬるま湯の関係を作り出して、琴子が離れていかないようにずっと策を凝らしていたんだ。
 ぬるま湯はそこから出ると寒い。だからって身を沈めたままでいると、どんどん温度は下がっていく。そして余計出られなくなる。
 僕の心は、いい加減風邪をひいてしまいそうだった。
 なのに好きだという勇気はなくて。
 僕はほんとうに、ずるくてだめな男だ。

 くちびるが触れ合う。
 顔の横についた手が、みっともなく震えていた。
 乾いた僕のくちびるは、まるで心臓のようにどくどくと脈打っていて、ふわりと重ねた琴子のそれも小刻みに震えていた。
 いい年して青春真っ盛りみたいだ。胸が痛い。
 今まで触れたどんなものよりも柔らかいそのくちびるに、酔いの回った頭がくらくらする。

 キスで何が判るのか、僕は知った。
 やっぱり僕は琴子が好きだ。
 琴子は家族じゃない、友人じゃない。
 僕は、琴子が欲しい。


 長い長いキスを終えて、名残惜しみながらそっと顔を離して琴子を覗き込む。
 ゆっくりと目を開いて琴子は、先程まで触れ合っていたくちびるをそっと開いて掠れた声を絞りだす。
「……要……どうしよう…………」
「ん?」
「もう一回……」
 伏せた長いまつげ。丸い鼻、スポンジのように柔らかそうな頬。
 ケーキよりも甘そうな突き出された赤いくちびるに、僕は引き寄せられるように触れた。

 軽く触れて離れるたびに、琴子がもう一回と囁くから、僕らは数え切れないぐらいたくさんのキスをした。
 途中で眉根を寄せてもっと、なんて言うので、何がと聞いてみたら、ぷいと顔を背けられてしまった。
「いじわる」
 苦笑いを浮かべながら、拗ねたように頬を膨らます琴子の頭をそっと撫でて機嫌を取る。
 やっとこっちを向いてくすぐったそうに笑ったくちびるを啄ばんだ。
 薄く開いた隙間から舌を差し入れて、深く、深く口付ける。
 舌同士も恐る恐る触れあって、様子を伺うように絡み合って、熱くぬめる口内の温度を楽しみあう。
 琴子の口の中は、歯磨き粉のミントの味がした。その爽やかさはとても彼女に似つかわしい。
「…………ん、」
 重ねたくちびるの端から、どちらのともつかない息が漏れる。
 最後に、甘いくちびるを軽く噛んで僕らはようやくキスを終えた。
531コトコのキス_9:2007/12/23(日) 01:58:15 ID:BVeesct8
 アルコール交じりの吐息も絡めあって、琴子がうっすら潤んだ瞳でぼんやりと僕を見上げていた。
「…………琴子?」
 囁くように呼ぶと彼女は、ゆっくりと瞬きを繰り返して、腫れてさらに赤くなったくちびるで僕の名を呼んだ。
「要、どうしよう……」
「どうしたの?」
「……気持ちいい。もっとしたい」
 いいよと寄せた僕の頬に、琴子の手が触れて違うのと小さく聞こえた。
 僕はキスの変わりに額をごつんとぶつけて、うっとりと溶けたようなその瞳を覗き込む。
「違うの?」
「キスだけじゃなくて、もっと、したい…………どうしよう、どうしよう、わたし、」
 琴子はちょっと顔を持ち上げて僕のくちびるに軽く噛み付くと、すぐに離れてほう、と息を吐いた。
「……わたしって、要のこと好きみたい」
 その言葉に息がつまった。
 背筋を、ぞわりとした何かが駆け上がって、一瞬遅れて落ち着きを見せ始めた心臓がまたばくばくと高鳴った。
「要って、男のひとだったんだね」
「…………なんだと思ってたの?」
「判んない。要だと思ってた。ね、要はなんで試してみようと思ったの?」
「なんでだと思う?」
「…………んー……そこに顔があったから?」
「はずれ。正解はね、」

 僕も、琴子が好きみたいだからさ。

 照れくさいのではやくちに告げて、僕らはもう一度キスをする。
 今度はお試しなんかじゃなくって、楽しむためのキスを、何回も。

 物足りなくなってくびすじに舌を這わす。
 ぺろりと舐め上げると、琴子の小さな身体がびくりと震えて甘い声が漏れた。
「……あっ…かなめ……」
 耳たぶを口に含んで、軽く引っ張る。
 琴子がくすぐったそうな吐息を漏らす。

 肩を撫でて、胸をなぞって、服の裾から手を差し入れようとしてふと、現実に気がついてしまった。

 はあ、と盛大なため息をついて、琴子の肩に額をうずめる。
「……要?」
 不安げな声で呼ばれて、ああいけない、と僕は顔をあげて彼女を覗き込んだ。
「…………今日は、ここまで」
「どうして?」
「えーと……ないから」
 琴子は何が、というように眼をきょとんとさせて、だけどすぐに僕の言いたいことが判ったようで、恥ずかしそうに目を逸らしてそうだねと頷いた。
 急に、僕らがしようとしていたセックスという行為の生々しさを自覚して、僕もとたんに照れくさくなる。
532コトコのキス_10:2007/12/23(日) 01:59:00 ID:BVeesct8
「ごめん」
「んー……要が常備してたら、ちょっとショックかも」
「あ、そういうもの?」
「うん、なんとなく」
「ふーん。まあ、今日は、残念だけど」
「残念だけど、また今度。ちょっと、自分の気持も、整理してくる」
「その方がいいかもね。そうして」
 いい加減腕が疲れてきたので、僕は琴子の隣にごろんと寝転ぶ。
 琴子が猫のように身体を摺り寄せてきて、僕の腕に触れた。
「ね、要。ぎゅってして」
「ん?」
 お望みのままに、華奢な身体を抱きしめる。
 腕の中で琴子が嬉しそうに笑った。
 僕も嬉しくなる。
 おやすみ、と耳元で囁いて目を閉じる。
 琴子の耳慣れた声が、おやすみと今までにないくらい近くで響いて、僕はさらに嬉しくなった。


*

以上です。お付き合いありがとうございました。
533名無しさん@ピンキー:2007/12/23(日) 02:33:01 ID:yL7tcdHW
うにゅー、いいなぁ幼馴染、いいなぁ両想い。
最後の一線は越えなかったけど、最大の壁を
ようやく越えたような気がする。GJです。
534名無しさん@ピンキー:2007/12/23(日) 02:42:33 ID:SYUCSxp8
すばらしい。川上さんに萌えた。
535名無しさん@ピンキー:2007/12/23(日) 06:06:23 ID:kjIssm0P
いかん、いかん!!
いか〜〜ん!!!


>>523
> 沸騰した湯の中にスパゲッティを放り込んで、ぐるぐるとかき回す。

かきまぜちゃいかん!!
「クリスマスは最低だ、生涯独り身の俺には特にな」
「いやいや……クリスマスってのはやっぱ良いなぁ……俺もさ、あいつとしちまったぜ」
「認識こそが自分の世界を作る。なら……今この瞬間に俺が童貞だと言う記憶を、俺から消す。つまり俺は、童貞ではない」
「はぁ?」
「そして、お前は童貞だ」
「いやいやいや」
「お前は童貞だ」
「違うって言ってんだろ」
「証拠はあるのか」
「だから、昨日の夜に遠音と……」
「そうか……もしもし、トォか?」
『……なに?』
「昨日の夜、おまえ何してた」
『なっ、なっ、なにも……!』
「じゃあ、誰といたんだ?」
『一人……』
「本当だな?」
『……うん……』
「よし。ありがとう。さて……証拠、無くなったな」
「な、何を……俺はたしかに……」
「自分の供述が証拠になるなら、世界に犯罪者なんていなくなるよ」
「じゃあ……どうすれば……」
「他の証拠を出せば良い。俺はお前の真実を見付け出してやりたいだけなんだ……」
「他に証拠なんて……」
「なら、お前は童貞だ! 自分の寂しさや情欲に負けて、妄想と現実が裏返ったみっともない男だよ!
 現実を見ろよ、女も男も何を考えてるかわからない、肝心な時には助けてくれない、ぬくもりをくれない……二次元と何が違う」
「……でも、遠音は……」
「トォ、か……遠音は、おまえに童貞じゃないと、そう騙していた女だぞ? 騙されて、それでも信じて、また騙されるのか? それで良いのか……?
 もしかしたら幼馴染みだという事すらトォの騙りかもしれんのだぞ?」
「よく……ない……」
「なら、どうしたら良いかわかるな」
「……別れる」
「そうだ、それで良い。いつかきっと、おまえを騙さない奴が出てくるさ……俺はおまえの味方だからな。
 それまではほら、このスレを見ながらもみの木をどうやって切り落とすか考えようぜ?
 クリスマスだからな、多分すんげぇぞ?」
「……ああ!」
537名無しさん@ピンキー:2007/12/23(日) 19:04:40 ID:uL4IbU5r
>>536
良く分からん。
538名無しさん@ピンキー:2007/12/23(日) 20:07:23 ID:snV7iJZO
ボッコにするとこ書かないと
ただの喪男ネタだな
539書いた:2007/12/23(日) 21:14:22 ID:6meUY4UW
「いや……待て待て、いくらなんでもアレだ、無理があるぞ」
「何が無理だ、現実から目を背け、素晴らしく甘美なこの桃源郷を共に目指そうじゃないか」
「だいたい、遠音が嘘を吐いてたと決まった訳じゃ……」
「仮におまえの話が本当だとしたら、トォが俺に嘘を吐いている……そんな女を信じるのか!?」
「いや、まあ……うん」
「なっ、友情なんて外来記念日の前には紙クズ同然なのか!?」
「そうは言わないけど……はい?」
『あ、もしもし? 昨日の事誰かに話した?』
「ん? いや、別に」
『そう……へへ、良かった』
「なあ……あのさ」
『なぁに?』
「俺達ってさ、幼馴染みだよな?」
『はぁ? 当たり前でしょ』
「証拠とかさ、その……あるかな?」
『バカな事言って……昔写真取ったでしょ』
「え、あ、マジだ」
『保育園が同じで、卒園の時のも色々残ってるでしょ?』
「うん……あの時、おまえは将来お母さんのお嫁さんになるって言ってな」
『あはは、なつかし〜。今じゃ……』
「そうだ、今から会えるか?」
『大丈夫だけど、明日も会うじゃない?』
「今、会いたいんだ」
『わかった。待ってる』
「それと……好きだよ」
『はいはい、私もよ』
「……じゃ、行ってくる」
「へいへい。……俺はちょっともみの木切ってくるよ」

 彼がもみの木を前にした時、奇跡が起きたのだが……それはまた別の話。
540名無しさん@ピンキー:2007/12/23(日) 21:58:31 ID:snV7iJZO
精神的ボッコか
暴力よりダメージでかそうだw

明日投下されるであろうモミの木の奇跡を待つことにする
とか言ってみる


541続いちゃったエロ無し帰省ネタ by唐突に(ry:2007/12/24(月) 02:06:56 ID:NbQSpePr
「あははー」
 こたつはひとをだめにしますね、はい。
 テレビを見て笑いながら、俺はそんな事を思う。
「サンドウィッチマン面白いなー」
 俺はコタツの中で某漫才一番グランプリを見ながら、のんびりしていた。
 時々ミカンを食べたり、お茶を飲んだりしながら、ひたすらにのんびりしていた。
 無論、ミカンは籠に盛られ、お茶は急須とポットがこたつの上に完備されている。
「ぶー」
 視界の端に、アイツが頬を膨らませているのが見えるような気がするが、気にしない事にする。
「ヒロ、あんた歌乃ちゃん来てるのに、何ぐーたらしてんのよ。遊んであげなさーい」
 台所から聞こえるお袋の声も気にしない事にする。今日の晩飯がカレーなのは、もう知ってるしな。
「……おい、ヒロ」
 背中から聞こえた親父の声も……親父の声?
「てめえ……歌乃ちゃん無視して某漫才一番グランプリたぁ、いい度胸だな?」
「……お、親父殿、いつの間にお帰りに?」
「ついさっきだよ、さっき。それより、ヒロ」
「はいっ!?」
 思わずコタツから飛び出し、背後に仁王立ちする親父に正対する。
 アレほど俺を捕らえて離さなかったコタツの魔力は、親父の言霊に打ち消され、
最早欠片もそこには存在していなかった。
「覚悟は……できてるか?」
 親父の背後に、何か揺らめくものが見える……ような気がした。
「で、できてませんっ!」
「問答無用っ!」
「うぎゃー!?」
542続いちゃったエロ無し帰省ネタ by唐突に(ry:2007/12/24(月) 02:07:29 ID:NbQSpePr



「あはは、おっきなタンコブだねー」
「誰のせいだよ、誰の……」
「ヒロ君の?」
「……ああそうですよ。どうせ俺のせいさ」
 親父の鉄拳制裁を喰らい、コタツから引き出された俺は、何故か歌乃と二人で
夜の街を歩いていた。
 何故かも何も、親父に家を追い出され、歌乃と一緒にどこか行って来いと言われたからなんだが。
 まあ、帰ってきてから、たまに来る友達と遊ぶくらいで、後は家でぐーたらするばっかりだった
わけだし、よく今まで親父もお袋も見逃してくれてたもんだと思うが。
「おじさん、相変わらずきついねー」
「お前には甘いからな、親父は」
「そんな事ないって」
 そう言って、歌乃は笑う。
「ったく、たまに実家に帰ってきたと思ったらこれだ……」
「たまにだから、おじさんもスキンシップ取りたいんじゃない?」
「親父の場合、スキンシップで鉄拳が飛んでくるからな……DVで訴えてやる」
「じゃあ、私、弁護側証人として出廷するね」
「ちくしょう、お前も敵か……」
 言葉を交わしながら、俺達は歩く。
 気づけば、俺は歩幅を歌乃に合わせていた。
 あの頃の俺達には必要のなかった気遣いを、しかも無意識にしている自分に気づき、
何となく俺は照れくさくなった。
「で、どこ行きたかったんだ?」
「え?」
 頬が少し赤くなっているのを悟られないようにそっぽを向きながら、俺は尋ねた。
543続いちゃったエロ無し帰省ネタ by唐突に(ry:2007/12/24(月) 02:07:49 ID:NbQSpePr
「どっか行きたくて、俺んち来たんだろ?」
「え、いや……そういうわけでもなかったんだけどね」
 横目で見ると、何故か歌乃も明後日の方向を向いているようだった。
 何故かはわからないが。
「じゃあなんで膨れてたんだ?」
「だって、ずっとテレビ見てるから」
「……遊んで欲しかったって事か?」
「え、あ、うぅ……まぁ、そうに違いは無いけどぉ……」
 ふむ……こういう時期だから、女友達も彼氏と遊ぶ方に忙しいんだろうか。
 別にそんな事を恥ずかしがらなくてもいいのにな。俺と歌乃の仲なんだし。
 ……まあ、どっちかというと、彼女がいない上に、あわよくば幼馴染と……なんて事を
ぼんやり考えている俺の方が恥ずかしいかもしれないし、どうでもいいか。
「だったら、家でオセロでもすれば良かったな。コタツの中で」
「ホントにヒロ君コタツ好きだよねぇ」
「お前も嫌いじゃないだろ?」
「そりゃそうだけど……ちょっと、今は嫌いかな」
「なんだそりゃ」
「秘密ですよー、だ」
「よくわからん奴め」
 笑いながら舌を出す歌乃に、俺は苦笑を返した。
 軽口を叩き合いながら、何となく俺の足は中心街の方へと向いていた。
「せっかくだから、イルミネーション見に行こうぜ」
「え? あのクリスマスツリーの奴?」
「そうそう。特に行く所があるわけじゃないし、何となく行くにゃ適当だろう」
「うんっ!」
 何故か嬉しそうな笑顔を浮かべ、頷く歌乃。
 なんで嬉しそうなのかはさっぱりわからんが、やっぱりコイツの笑顔は……反則だ。
普通にしてても美人なのに、笑顔になると、その破壊力が倍増しやがる。
 ふぅ……女の気持ちってのはコイツに限らずよくわからんが、やっぱり綺麗なものを見たい
と言うのは、女性全般に共通した考えなんだろうかな……などと、俺はどうでもいい事を
考えて、少しだけ動悸が弾んだ心臓を落ち着けようとする。
 そんな俺の苦労を知ってか知らずか、歌乃は目的地である中心街へ向け、勢いよく歩き始めた。
 丁度、その速さは俺が普通に歩く速度。何となくその事実に苦笑しながら、俺は歌乃に歩みを合わせた。
 ――しかし――
 腕を組むでもなく、手を繋ぐでもなく、かと言って距離を置いているわけでもない
俺達の姿は、一体周囲からはどう見えてるんだろうか。
 兄妹という程には似ていないから……やっぱり、恋人とかに、見えたりするんだろうか。
 ……だとしたら……だとしたら、歌乃はその事を……
「……どう、思うんだろうな?」
「ん? 何?」
 おっと。知らず、思考が口から漏れていたらしい。あぶねぇなおい。
「なんでもねーよ。それより、もうそろそろ見えるぞ」
544続いちゃったエロ無し帰省ネタ by唐突に(ry:2007/12/24(月) 02:08:30 ID:NbQSpePr
 とめどない思考を重ねている内に、いつの間にか俺達は目的地に辿り着いていた。
「あ、ホントだ……」
 ビルとビルの陰から、少しずつ、光り輝く一本のもみの木が姿を現していく。
「ふわぁぁ……すごいっ! すごいよっ、ヒロ君っ!」
 やがて、それは完全に俺達の前に姿を現した。
 この街のイルミネーションは、この木を軸として、中心街全体に広がっている。
 象徴となるこの木は、ちょっとした観光名所になるくらい、規模がでかく、手も込んでいる。
 大きさもさることながら、光の色も虹に比するくらいに鮮やかだ。さらにその色とりどりの
光が遷移する事で、まるで枝が風に波打っているかのような躍動感を演出している。
 その光の使い方を含めた全体のデザインも、けばけばしさを欠片も感じさせない上品なもので、
老若男女誰が見ても一様に「綺麗だ」と思うだろう。
 実際、老若男女問わず、多くの人が足を止め、その光の聖樹を見上げていた。
 かくいう俺も、例に漏れず、その美しさに見惚れていたわけだが。
「すごいよ、ヒロ君! 見て見て!」
「確かにすげえな……って、お前見た事なかったのか?」
 このイルミネーションが灯されるようになったのは、三年ほど前からと聞いていた。
だから、俺は見た事がなかったんだが……歌乃も見た事が無いというのは意外だった。
「うん。……あ、え……う、うん。えっと、その……何となく、ね。何となくだよ?」
 その言葉に応じようと、隣にたたずむ幼馴染の顔を見るまでは。
 何となくって何だよ。
 苦笑しながらそう言おうとした口は、動かなくなった。
 光の聖樹に目を輝かせている歌乃の姿が目に入った途端に。
「なんか、生きてるみたいだよね……」
「………………」
 感動に少しだけ潤んだ瞳。
 俺は、しっかりとこの光景を焼き付けようと、いつもより大きく見開かれた彼女の瞳に、
まるで自分が吸い込まれていきそうな錯覚を覚えていた。
 いや、錯覚じゃないんだろう、これは。
 俺は……俺の気持ちは、今この瞬間、間違いなく歌乃に吸い込まれた。
 脳裏を、あの頃のアイツの姿が走る。その姿が、今の歌乃の姿に重なる。
 ぼんやりとしていた想いが、実体を持って俺の中で固まった。
「すっごい綺麗だよねー……」
「……お前の方が、もっと綺麗だと思うけどな」
 ありきたりで陳腐な、ともすればくさいとすら言われる言葉が、思わず俺の口をつく。
「えっ!? ……いや、いやだなぁ、またお世辞言っちゃってさー」
「……歌乃」
「あ、あはは……ちょ、えっ、えっ、ぇえっ!?」
 俺は、歌乃の両肩に手を置き、真正面から彼女の瞳を見つめた。
「………………だ、だめだよ……こんな所で……」
 そう言って歌乃は、軽くみじろぎするが、積極的に拒否しようとする様子は無い。
 だから俺は――段々と顔を歌乃のそれに近づけて行き――
545続いちゃったエロ無し帰省ネタ by唐突に(ry:2007/12/24(月) 02:08:39 ID:NbQSpePr
「……なんちゃって」
 ――踏みとどまった。
「………………へ?」
 歌乃は、きょとんとした顔もやっぱり可愛いな。
 そんな事を思いながら、俺は慌てて口を開く。
「ちょっと、その、だな……雰囲気にあてられたというか……冗談だよ」
「………………」
 流石に、冗談で流すには無理がある展開だったか……? 半ば本気だったしな。
 だけど……流されて、そういう事はしたくなかった。相手が、昔から一緒にいた
幼馴染(かの)だからこそ。だから、踏みとどまった。
「………………」
「ちょっと性質(たち)が悪かったか……すまん」
「そ、そうだよね……冗談、だよ、ね……」
「歌乃……怒ってるか?」
「んー? 私は全然気にしてないよ?」
「そ、そうか? なら良かったけど」
 それはそれで微妙に寂しいものがあるが、まあ怒らせてしまったりしてないなら、
ギリギリセーフ……か?
「……じゃあ、今日は私、もう帰るね」
 歌乃は、俺に背を向けながらそう言った。……やっぱり怒ってんのかな?
「ん? もういいのか?」
「うん、今日の所は。けど、一つお願いしてもいい?」
「なんだ? さっきのお詫びに何でも聞くぞ」
「明日も……明日も、ここ、一緒に来てくれる?」
「ああ、構わないけど」
「……良かった。じゃあ、明日、夜九時頃に、ここで待ち合わせって事でいいかな?」
「……ああ」
 歌乃の家に迎えに行くでもなく、俺の家に来るでもなく、ここで待ち合わせというのが
少し気になったが、俺は背を向けたままの歌乃に頷きを返した。
「……ん。じゃあ、おやすみ」
「あ、ああ……送っていかなくて、平気か?」
「大丈夫だよ。ちょっと、一人で歩きたい気分だし」
 やっぱり怒ってるんじゃないか?
「わかった。気をつけて帰れよ」
 その俺の言葉に、歌乃は背を向けたまま手をひらひらさせて応え、雑踏の中に消えていく。
「……明日、か」
 いつの間にか、日付は変わっていた。だから、明日は、今日だ。
 そして今日は――クリスマスイヴ。
「やっぱ、プレゼント用意した方がいいよな……」
 俺は、どうやら怒らせてしまったらしい幼馴染の機嫌を直す方法を考えながら、
自分も帰路へとついた。機嫌を直した上で、今度はちゃんと……いや、
それはもうちょっと間を空けた方が……いやしかし……………………。
「お」
 頬に冷たさを感じ、俺は頭上を見上げた。
 雪だ。
 聖夜は、どうやら白に彩られるらしい。
 再開した俺達は、一体、これからどうなるのか――。
 雪は、その白い明かりで道を照らしてくれるのだろうか。
 それとも、道を覆い隠して迷わせるのだろうか。
「……降って来た、か」
 雪が、降り始めた。
 俺と、歌乃の行く先を照らすように。
 俺と、歌乃の行く先を隠すように。
 ――雪が、降り始めた――
546続いちゃったエロ無し帰省ネタ by唐突に(ry:2007/12/24(月) 02:10:51 ID:NbQSpePr
ここまで投下です。

……幼馴染ほしー。
547名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 02:38:19 ID:v8kxP+fb
>>545
gj!

幼馴染かー 
家が同じ地区で小学校中学が同じ程度の異性幼馴染ならいた。
個人の付き合いは全然なかったが

その親父さんに「あいつと結婚して婿にこない?」と事いわれたのが数年前。
ずいぶん会ってもいなかったし有耶無耶にしてしまったが、惜しいことをしたかなぁ

というリアル話


548名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 05:16:17 ID:TJEiScab
>>545
GJ!続きが気になるぜよ

>>547
君がフラグブレイカーということはよくわかった
549名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 10:05:11 ID:8BLUmzFv
>>547

遅くない
私にも見えるぞ>>547
イブの奇跡とやらが
550名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 15:43:04 ID:2W4pIRPE
 幼馴染のままの関係を脱出すべく私からした告白に、なんとも言えない表情をしつつも彼女は首を縦に振った。
 やや焦った面はあるものの昼に告白した後放課後に私は彼女にデートの約束を取り付けた。
 あまり感情を顔に出さない彼女は無言で首を縦に振り、私とは違う方向へと岐路に着いた。
 携帯なんて便利な物をもっているわけでもなく。彼女の電話番号にさえ掛ける勇気もない私は、
焦燥と浮かれで気付かなかった彼女の確固たる了承を得ていないことに気づき、心の底から不安になっていた。
 待ち合わせ場所と時刻を言った後に首を、軽く揺れるように振っただけなのだ。
 その首振りも見間違いだったかもしれない。もしかしたその後に何か言ったかも知れない。
 私は風呂上がりの後すぐにベッドに飛び込み布団を抱きしめながら激しく身悶えた。
 そうして寝ぐせだらけになって朝日を迎え、頭横に置いていた目ざましの時刻を見て目を見開く。
 もし過去に戻れるとしたら昨日デートに約束を取り付けようとした私をぶん殴り、袋詰めにして海へと流してやりたい。
 何故に一日も冷却時間を置かずに次の日に約束を取り付けてしまったのか、そんなその時の自分にしかわからない疑問を頭の中で延々と繰り返し私は身支度を整え家を飛び出した。
 夏の暑い日差しも焦る私にとっては毛ほどの気にもされず、拗ねた顔で流れる雲に身を隠してしまった。
 空の機嫌も悪くなって着始めた頃に私は待ち合わせ場所のバス亭へとついた。
 その時には彼女も着いていて、白いワンピースに麦わら帽子というさっきまで天気ならさぞ似合っていた格好をした井出達自分が着くのを待っていた。
 昨日の約束は自分の思いすごしでは無かったことに安著した私は、時間より遅れてきてしまったことを彼女に詫びると両手を前でブンブンと振られる。

「……早起きだから」

 ――彼女が早起きだと遅れてきた自分は謝らなくていいのか?

  などと頭に疑問符を浮かべる私を前髪がかかった目で見て彼女は酷く困惑した様子を見せた後、腕に掛けた鞄の中に弁当があることを告げてそのまま首を下に向けて黙り込んでしまった。
 かける言葉が見つからず二人して屋根つきのバス亭から容赦なく降り注ぐ雨をを見つめ、私は傘を持ってきてないことに気づく。
 彼女にそのことを告げすぐに取りに帰ろうとしたが、袖を掴まれて私は両足を落ち着かせて後ろを振り向く。
 そこには精一杯という言葉を体現したように首を大きく左右に振る彼女があり、訳を聞くと折りたたみ傘を持ってきているとのことで私は動かなくていいとうことらしい。
 遅刻に忘れ物と男の面目丸つぶれな私は自分の不甲斐無さに気分を沈めた。
 特に会話もなく日に両手で数えるほどしかないバスが着き、バスの一番後ろの横に四人が並んで座れる場所へと二人で腰かけた。
 バス内はお婆ちゃんやお爺ちゃん数人と子供が一人、自分の町は田舎だしこんなものだろうなと私は思った。
 山々を背景に変わり行く田んぼを眺め、流石にそればかりで首が疲れた私は恥ずかしながら反対側へとおずおずと首を向ける。
 ゆっくりと視界に入った彼女は落ち着かない様子で目を右下へと向けて、椅子の上で指を躍らせていた。
 彼女のそんな行動も分からないほど朴念仁でもない私は、彼女の小さな手の甲に自分の手を重ねた。
 案外ひんやりとした手を覆った途端、彼女は痙攣したようにビクリと跳ね上がりこちらを見つめてきた。
 私としてはクールで物静かな態度でかっこつけたかったが、現実では思うようにいかず彼女の潤んだ瞳に見つめられ私は口を開いた。
 
「嫌だった?」

「……そんなこと、ない。……昨日言えなかったけど、私も明人君のこと昔から好きだったから」

 一気に私の頬は熱くなり、確実に自分は今赤面したのだと確信した。
 なにもこんな所で、と思いつつも私の心は歓喜に震え、頭の中では神輿を担いだ筋骨隆々な男達が私のことを祝いに祝ってくれた。
 前方では年甲斐もなくニヤついた老人達がこちらチラチラと見つめ、お爺さんに至っては口笛を鳴らしていた。彼女もやっと状況を理解したのか、二人ともども赤面した。
551名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 15:43:25 ID:2W4pIRPE
 重ねた手が絡み合い最終的に恋人繋ぎへと落ち着いたところでバスは自分達の目的地に着き、
どこで降りるかもわからない老人達の好奇な視線を浴びつつ大勢の乗り込んでくる人達と入れ替わりにバスから私達は退場した。
 流石に都会なだけあって、人通りは私達の町とは比べモノにならないほど凄いもので一度逸れたらもう二度と会えないんじゃないか
と思えるほどだった。実際自分は子供の頃に一度それを体験している。
 都会へと踏み込んだことの無い彼女は不安からか恋人繋ぎを解除して一転、腕を絡めてきた。
 彼女の控え目な胸が腕に当たるたびに何か色々と限界を突破しそうになる自分を必死で抑えて目的地へと向かった。
 
 目的地は都内の百貨店の最上階にある映画館で、女っ気の無い私を心配してか義妹がくれたチケットを有効に使うことにした。
 バスから降りたときには雨が降っており地下道を通ることで難を逃れたがそこから出て来た時には雨はすっかり晴れ上がっていた。
 少々残念な気もするが、相合傘は動きづらいだけと友人が言っていた気がする。それでも腕は絡められたままで、童貞の私にとってはそれだけで十分お釣りが返ってくるものだ。
 百貨店内に入ると彼女の服装の印象もかなり変わってくる。麦わら帽子は外して手に持ってマシになっては居るが、この都会の町中人並みだと田舎上がりのオノボリさんに見えてしまう。
 そのある意味目立つ服装に注目を感じたのか心なしか私に回された彼女の腕の力が強くなる。ある意味こちらとしては嬉しいような嬉しくないような。
 映画館内で規格外に高い飲み物とポップコーンを買い席に着く。最初は空いていたが後からワラワラと人が入り始め映画が始まる頃には空き席は一つも無くなっていた。
 映画の内容は私が読んだ本にもよくあった悲愛物で、本でさえ見るたびに涙していた私にとって映像になったそれは私を号泣させるのに十分なものだった。
 
「明人君の泣き顔見れてよかった」

 映画が終わって感想を尋ねてみると、彼女は涙目になった瞳で私に対する感想を何の恥ずかしげもなくそう言った。
 子供の頃は二人して本屋の彼女の家で本を読み漁り、見事なまで双方無言のまま門限まで本を読むと別れの挨拶だけして家に帰っていた。
 今思えば不健康な上に不思議な関係極まりない。
 一通り百貨店内を回り彼女に栞をプレゼントした後、屋上のビーチパラソルが刺さった机で彼女の弁当を広げることにした。
 屋上に上がった時には天気は晴れ晴れとしすぎパラソルで遮ってそれでも光が透過して机を淡く照らす。
 弁当の中身はサンドイッチで、このまま店に出しても大丈夫そうなほど出来だ。
 その感想を帰りのバスで言うと君しか買わないでしょ、と嬉し恥ずかしそうな顔で返してきた。表情の変化が乏しい彼女の珍しい顔だ。
 ハムスターのように少しづつ齧る彼女とは対照的に一つ三口で食べきる私にとっては物足りなさを感じさせたが、
 腹八分目が体にいいとどこかで聞いたような気がしたのでそういうことにした。
 デートコースかは微妙だが、幼い頃からの私達共通の趣味であるため帰りには本屋に寄った。
 田舎の彼女の店とは品揃えも格段に違い、無表情な彼女の顔も僅かながら興奮してるような変化が見られた。
 多分他人が見てもわからないが、そこは長い付き合いの私だからこそだろう。
 胸いっぱいに本を抱えた彼女と乗り込んだ帰りのバスは流石田舎行きのバスだけあって中はスッカラカンだった。
552名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 15:46:19 ID:2W4pIRPE
幼馴染とやりたいこと書き連ねて溜まったものを物語風にしてみたらこんなになった。
お互いのことは隅々まで理解しときながらもエッチまではいかずプラトニックな関係が理想です
でわ。
553名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 15:49:46 ID:F+RW9TBd
そいやっ、そいやっ、そいやっ、そいやっ、そいやっ!
そいやっ、そいやっ、そいやっ、そいやっ、そいやっ!
そいやっ、そいやっ、そいやっ、そいやっ、そいやっ!

筋骨隆々ではないが、祝わせてもらおう。

GJ !!
554 ◆U3SZPcxj.U :2007/12/24(月) 16:59:02 ID:KKgFLKaW
クリスマスネタ投下します。

保管庫にある1/365というSSの続き。
前作を読まなくても内容はわかるようになっています。
エロ無し、長文注意。好みでない方は、スルーをお願いします。

他の投下の作者様にかぶせてしまう形で申し訳ありませんが、クリスマスイブなので許してください。
 12月21日。

 そうだな。
 世の中には色々な幼馴染みの形があると思う。
 親友もあるだろうし、ロマンティックな恋人の関係もあるだろう。

 オレにとって上原優希は、ちょっとバカで気のおけない、小学一年生のノリそのままで付き合える親友だった。

 「ごめん」の一言で解決しないケンカなんてなかった。
 口にできない言葉なんてなかったし、言葉にならない想いなんてありはしなかった。
 つまるところ、オレはあいつのことをいつまでもTシャツと短パンで走り回っていたガキンチョのままだと認識していたのさ。

 時は過ぎ、いつの間にかオレ達はそれぞれに青い季節を迎え、互いに知らないことが増えていった。
 貧乳の出目金とこきおろすのがもっぱらだったあの男女は、いつの間にか目元のぱっちりしたスレンダー美人という定評を得た。
 オレの方はといえば小学生以来の「アホ」という称号に「スケベ」「へたれ」という不名誉なタイトルが加わわり、負の三冠王に輝くのが精一杯という有様だった。

 クラスの誰にでもかまわない。優希の評判を聞いてみるがいい。
 可愛らしくていつも明るく、スポーツもできて勉強もできる。それでいて気取ったところもない……。
 おそらくステレオタイプの「身近なアイドル」の評価を聞けるだろう。
 実際、そうに違いないぜ。天真爛漫な笑顔と気さくなキャラクターは、親しみやすいクラスのアイドルそのものだ。


 「ねえねえ、純一っ。あたし、また告白されちゃった」
 高校一年生の時に陸上部のキャプテンに告られて以来、優希は律儀にもそんな報告をオレにするようになった。
 そして、何かを期待するようなキラキラした目でオレを見てくる。
 「……告発されちゃった? それは大変だな。実刑が出ないように祈ってるぞ」
 「違うよ。告白されちゃったって言ってるんだよ」
 「独白されちゃった? そいつは面倒くさいな。聞いている振りして頷いておけばいいんじゃないか」
 「……耳が遠いの? おじいちゃん」
 「ちぇっ。聞こえてるよ。告白されたんだろ?」
 白い目で見てくる優希に向かって、オレは手を振って言った。
 「それで、オレにどうしろっていうんだ?」
 「あたし、どうすればいい?」
 優希はいつも真っ直ぐな瞳でオレを見つめてくる。
 「そんなこと、オレに聞いてどうするんだよ。オレが断れって言ったら断るのかよ?」
 「うん」
 「じゃあ、オレが付き合えって言ったら付き合うのかよ」
 「うーん……」
 幼馴染みは考え込んだ。
 「ふん、だったら断ればいいじゃねえか」
 面倒くさくなってオレが投げやりに言うと、
 「うん、そうする!!」
 クラスの身近なアイドルは顔を輝かせて頷いた。

 ……ちぇっ。この女の考えてることはまるでわからんな。

 「──なぁ、浅野」
 オレがある日の放課後帰宅しようと席を立った時、声をかけてきたのはクラスメイトの男子生徒である八木だった。
 「おまえ、上原と仲が良いんだろう?」
 「そうだな。仲が良いという見方もできるかも知れんな」
 オレが言うと、八木は言い出しにくそうな様子を見せていた。
 「なんだ、優希がどうかしたのか?」
 「その──、上原って、彼氏いるのかな?」
 奴はもじもじしながらやっと言った。
 「オレの知る限りでは、いないな」
 「そ、そうかっ」
 八木の顔がぱっと明るくなった。
 「で、その……」
 と、再び奴はもじもじと身をくねらせる。男のくせに気持ち悪い野郎だな。
 「浅野は、上原のことをどう思ってるんだ?」
 オレは、不意をつかれて口ごもった。
 「どうって……、言われても」
 「上原のことが好きなのか?」
 八木は真摯な瞳でオレを見てくる。
 「ば、バカ。そんなわけないだろ。誰があんなバカ女……」
 「そ、そうなのか?」
 「おうよ、こっちからお断りだ。あんな貧乳女、洗濯板代わりが良い所だぜ。がさつで乱暴で口は悪いし、女らしさっていうものがまるでない。私服になったら男だか女だかわからないぜ」
 「そ、そうか」
 オレのまくし立てに若干困惑気味ではあるが、八木は安心した様子を見せた。
 「じゃあ、悪いが上原に俺を紹介してくれないか?」
 「……な、なんだって?」
 オレは絶句した。
 「俺、上原のことが好きなんだ。でも、なかなか話しかけるきっかけがないんだよな。幼馴染のおまえの方から紹介してもらえないか?」
 八木は手を合わせて頭を下げた。
 「や、やめとけよ」
 オレはやっと言った。
 「あんなアホと付き合ったら大変だぞ。デリカシーはないし思いやりもない。おまえみたいな奴はせいぜい締め上げられて尻に敷かれてたかられて、泣くのがオチだぞ」
 「そ、そうか?」
 「そうだよ! あいつと来たら屁はくせぇし、いつも大股開いて座ってやがるし、腹も出てるし足も太い。家に帰ったら百年の恋も冷めるぞ。いつもいつもオレの背中をどつきやがって──」

     どんっ!!

 「──そうだよ、こんな感じに……」
 はっとなって振り返り、オレは目の玉が飛び出した。
 「足が太くて悪かったわね……」
 そこには、大魔神のようにまなじりを吊り上げた親愛なる幼馴染みが立っているのだった。
 「げ、優希……」
 「げ、じゃないわよ。人のいない所で散々悪口を言ってくれちゃって……」
 不機嫌そうな優希。
 八木が肘でオレを小突いた。
 ちっ、アイコンタクトしなくたってわかってるよ。

 オレはコホン、と咳払いした。
 「優希」
 「なによ?」
 「──ここにいる八木が、おまえのことが好きなんだってよ」
 「お、おいっ」
 八木は顔を真っ赤にしてオレに掴みかかる。
 「性急すぎるだろっ」
 「別にいいだろ。さっさと済ませればいいじゃねえか」
 「……で? あたしにどうしろって言うの?」
  優希はさらに増して不機嫌そうな表情になっている。
 「八木のことが気に入ったら、付き合ってやれば」
 オレはぶっきらぼうに言った。
 優希の顔は悪鬼のようになった。
 「あーそう!! じゃあ、八木くんと付き合っちゃおうかなぁ!!」
 可愛くない幼馴染みはオレに顔を近づけると、あてつけのように大声を出し
て言った。
 「良かったじゃねえか。おまえと付き合ってくれるようなマゾヒストがこの
世に存在しててくれてよ!!」
 「はん! 純一と付き合ってくれるようなマニアは当分出て来ないかもしれ
ないけどね!!」
 思い切り顎を突き出してくる優希。くそっ、なんて可愛くない女だ。
 「ちっ、好きにしやがれこのアホ!!」
 「いいよ!! 八木くんと付き合ってやるよ、バカ純一!!」
 「あーそうかい。良かったな、八木!!」
 空中で火花が飛びそうな勢いて睨みあうオレと優希。
 オレ達は同時に「フン」と鼻を鳴らしてそっぽを向く。優希はどかどかと大
きな足音を立てて歩き去って行った。ちっ、このガニマタ女。
 ふと見ると、八木がうらめしそうにこっちを見ていた。
 「──良かったな。付き合うってよ」
 「アホ、あんなの口だけに決まってんじゃねーか。鈍感ヤローが。おまえに
頼んだ俺がピエロだったよ……」
 八木は肩を落として歩き去った。
 ちっ、どいつもこいつも……。

 もう誰でもいいから、男と付き合っちまえよ、優希。
 そして、頼むから馴れ馴れしい態度でオレのそばにいるんじゃない。
 そうじゃないと、オレは……。

 ちぇっ、くそっ。


 12月22日。

 次の日オレが帰宅しようと下駄箱に降りていくと、そこには優希が立ってい
た。
 「どうしたんだ?」
 「待ってたんだよ、純一を」
 そう言って、生意気で可愛らしいオレの幼馴染みはにやっと笑った。そこに
は、昨日の怒りやわだかまりは微塵も残っていない。
 「純一、ショッピングに付き合ってよ」
 それは、いつもの天真爛漫な優希だった。
 この女はまるでわからんな。笑ったと思ったら泣き、泣いたと思ったら次に
会った時には喜んでいる。
 要するに、優希はまだまだその場の感情のみで動いているお子様だっていう
ことなのさ。そうだろ?
 オレは、いいぜ、と言った。


 「──明後日はクリスマスイブだよ、純一」
 浮かれた装飾にあふれた街を歩きながら、優希は言った。うきうきとした雰
囲気に影響されたものか、その顔は明るい。
 「そうだな」
 「昔は、家族ぐるみでクリスマスをしたね」
 優希は空を見上げて言った。
 「ああ。おまえがうちに来て、オレと母親と、時にはふたりの親父も入って、
ささやかなパーティーをしたな。いつから止めちまったんだっけな」
 「中学一年生が最後だよ」
 優希は即座に言った。
 「純一が止めるって言い張って、それで中止になったんだよ」
 「そうだったかな……?」
 「クラスの女の子にからかわれて、それで怒っちゃってね……」
 オレは頭をかいた。
 「そんなこと、あったっけ……。中学一年生だから、きっと恥ずかしい時期
だったんだろうなぁ」
 「──からかったあの子、本当は純一のことが好きだったんだよ」
 ぽつり、といった感じで優希は言った。
 「へえ?」
 オレは忘却の彼方に去ってしまった女の子の顔を思い出そうと試みたが、ど
うにも浮かび上がってくる気配はなかった。
 「後であたし、謝られたんだ。知らなかったでしょ、純一?」
 知るも何も、その女の子の存在すらオレは忘れてしまっていたが、そんなこ
とがバレたら何を言われるかわからないのでオレは黙っていた。
 「あの後すぐ転校していってしまったけど、あたしはあの子と約束したん
だ」
 「へえ、どんな?」
 ここまで言っておいて、意地の悪い幼馴染みは笑みを浮かべたまま、
 「内緒だよ」
 と言った。
 ちぇ、最後まで話しきれないなら最初から振るんじゃない。

 「──ていうか」
 とオレは言った。
 「そんなことをいちいちよく覚えてるな、おまえは」
 「あたしは純一とのことならなんでも覚えてるよ。初めて出会った日から、
今日までのこと。一日だって忘れたりしない」
 優希は夢見るようで、そして儚げな顔つきでオレを見た。こいつ、こんな表
情できたんだな。
 「純一は初めてあたしと会った日のことなんて忘れちゃったでしょう?」
 「ふん、忘れるはずなんてないさ」
 「ウソ。絶対忘れてるよ」
 「忘れてなんかいないさ」


 優希。おまえと出会ったのは、そう、小学一年生の冬。ちょうど今頃だった
な。
 オレの家の隣に引っ越してきたのが初めての出会いだった。
 まだ内気な少女だった優希は父親の後ろに隠れて、ロクに挨拶もできなかっ
たのを覚えている。
 あんまりいつも静かで話さないものだから、その、なんだ、オレは最初の頃
少しいじめてしまった……。
 母親を早くに亡くして、いつも昼間ひとりでいたことが関係しているのかも
知れなかったが、、あの頃の優希は何を言われてもうつむいて無言でいる内向
的な少女だった。
 今思うと信じられない話だが、とにかく優希は無口で物静かだった。
 一体誰のせいでこんながさつな女に育ってしまったのだ?
 ……まぁ、それはいい。
 あれは、クリスマスイブの夜だった。
 隣の上原家からとんでもなく大きな泣き声が上がり、続いて、ドアが勢い良
く開く音がした。
 遠ざかっていく小さな足音。
 こうして、よりによってクリスマスイブの夜に優希の奴は失踪しやがったの
さ。
 ウチの両親も一緒になって探し回ったのだが、優希は見つからなかった。引
っ越して間もなかったから、優希自身も土地勘がなく、迷ってしまったものと
思われた。
 だが、子供のことは子供が一番良くわかっている。
 そう、優希を見つけだしたのは、オレだったんだ。

 …………………………。


 「──どこで、見つけたの?」
 優希に訊ねられ、オレは返答に詰まった。
 「……どこだっけ?」
 幼馴染みは肩をすくめた。
 「ほら、忘れてる」
 「こ、これはほら、度忘れってやつだ。そのうちに思い出すよ」
 オレは慌てて取り繕うように言うが、優希は呆れたような、諦めたような顔
でオレを見るだけだった。
 「あと2日のうちに思い出してくれないとダメだよ」
 「2日? なんでだ?」
 「そうしないと、手遅れになってしまうから……」
 優希は小さな声で言った。
 手遅れだって? 何を言っているんだか。そんな昔の話、そのうちに思い出
せればそれでいいはずさ。


 「ねえ、何かクリスマスプレゼントを買ってよ」
 と優希は言った。
 「金欠高校生のオレに何をねだっているんだ。そんなもん、告発してくれた
ボーイフレンドにいくらでも買ってもらったらいいだろうが」
 「ボーイフレンドじゃないもん。それに、告発じゃなくて告白だって言って
るでしょ」
 優希は遠くを見ながら、
 「あたし、純一からの贈り物が欲しいな」
 と言った。
 「あいにくとオレはロマンティストじゃないんだ。そんな洒落た演出なんて
このオレに期待するだけ無駄だぜ。映画の見過ぎだよ」
 優希は笑った。
 「純一は今年のクリスマスイブ、きっとあたしに最高のプレゼントをくれる
よ」
 指をオレに向けてビシリと差す。
 「ドーン!!」
 おまえは喪○福造か。残念ながら、世の中はそんなに甘いものじゃないんだ
ぜ。
 オレ本人がやらないと言ってるんだから、やらないのさ。
 間違いなんかあるはずがないぜ。


 「──それで結局、八木の奴はお断りしちゃうのか?」
 「当たり前じゃん」
 優希はこともなげに言った。
 「もったいねえな。次から次へとバイバイしてたら、男が寄り付かなくなっ
ちまうぞ?」
 「フン、別にいいよ」
 この話題になるときまって幼馴染みは面白くなさそうな顔をする。最近は特
に、情緒不安定だな。生理か?
 「男にもてて、結構なことじゃないか。オレなんて浮いた話のひとつもない
んだぜ?」
 オレが言うと、優希は何を思ったか、胸を張った。
 「あたしがいるじゃん!!」
 「ははは」
 「……な、なによ、今の乾いた笑いはっ!!」
 「オレとおまえじゃ、誰が見たって兄妹にしか見えないぜ」
 オレが言うと、むっとした顔になる優希。
 「なんであたしが純一の妹扱いなのよっ!!」
 「そんな貧乳の幼児体型じゃあ、絶対に年下に見えるさ」
 オレがからかうように言うと、優希は意地になったようだった。
 「むう。こうすれば、絶対に恋人同士に見えるよっ!!」
 「あっ、バカっ」
 何も考えていない幼馴染みは、オレの腕を取ると、それに抱きついてきた。
 「や、やめろっ」
 オレは突然の凶行に慌てふためき、腕を振り解こうとするが、確信犯である
優希はがっちりとしがみついたままだ。
 「どうだ、まいったか!」
 幼馴染みは楽しげに目を細める。
 「誰がまいるか、バカ」
 オレは一瞬考え、
 「……天保山、てところか」
 と言った。
 「なによ、それ?」
 きょとんとした顔をする優希。
 「日本で一番低い山」
 オレが答えると、彼女は無言でオレの頭をばしっとはたいた。
 「もっとちゃんと触りなさいよ、ほらほら」

     ぐりぐり

 「や、やめんかアホっ」
 胸の隆起をオレの二の腕に押し付けてくる。な、何を考えてるんだこのアホ
女。
 「ほらほら、これでもDカップは一応あるのよ。着痩せするだけなんだって
──」
 そんな情報いらん!
 まったく、こんな胸に、誰が参るというのだ。くそっ。

 い、意外に……、胸、でけぇじゃねえか。けしからんぜ。まったくけしから
ん……。


 「あー、君達、公衆の面前であんまりやりすぎてはいかんよ」
 オレ達に声をかけてきたのは、中年の警官だった。
 そりゃあ、街中で乳さわり(?)を公然と行っていたら声もかけようというも
のだ。
 気付けば、オレ達は周囲の視線を一身に集めていた。
 「す、すみません……」
 すっかりと恐縮して頭を下げる優希。
 「けっ、ちびっちゃいものをちびっちゃいと言っただけじゃねえか」
 オレはそっぽを向いて言った。
 「こ、こらっ。純一、ちゃんと謝りなさい」
 警官を見ると条件反射で反抗したくなる困った体質のオレは、「けっ」とも
う一度吐いた。
 「す、すみません……」
 すっかり常識人サイドに立った優希はオレの代わりに頭を下げる。
 「はは、いいんだよ。仲が良いのはいいことだ」
 クリスマスシーズンという時節柄もあるのかも知れない。人の良さそうな中
年警官は笑って言う。
 「ありがとうございます」
 他人の前では意外に人当たりの良い優希はそつなく笑顔を作る。
 「これからも姉弟で仲良くしてくださいね」
 警官は言った。

 あ……っ

 、とオレは思った。

「誰が姉弟だ、この節穴っ!!」

     どすっ

 優希は条件反射的に警官の股間を景気良く蹴り上げた後、しまったという顔
をして口に手をあてた。
 オレは顔に手をあてた。
 このバカが。そんなに怒る必要なんて、どこにもないじゃねえか。

 ………………………。

 ……優希、おまえはそんなにオレと姉弟に見られるのが嫌なのかよ?



 12月23日、日曜日。

 その日は、朝から冷たい雨が降っていた。
 オレは昼ごろにゴソゴソと起き出し、居間のテーブルに座ると、頭をぼりぼ
りと掻きながら、
 「母ちゃん、飯」
 と言った。
 「台所にあるおにぎりを食べな」
 母はアイロンをかけながら言った。
 オレは台所から皿を持ってくると、無言でおにぎりを頬張っていた。
 「──純一」
 母は言った。
 「最近の優希ちゃん、浮かない顔をしていることが多いね」
 「そうかい」
 オレは一フレーズで会話を打ち切ると、黙っておにぎりを口に運び続けた。
 「優希ちゃん、最近よく丘の上の造成工事現場に顔を出してるんだって」
 オレの母は、一度言おうとしたことは、相手がどんな反応を返そうとも言い
切る胆力の持ち主だった。

 今年に入ってから始まったこの街の再開発計画は順調に進み、長い間手つか
ずだった雑木林の茂る小高い丘にもその波が迫り始めた。
 先月くらいから、ブルドーザーが入って次々と伐採を始めたという。
 「なんだ、土方仕事にでも憧れてんのか?」
 「アホ。よくわからないけど、工事の中止を頼んでいるらしいよ」
 「何考えてんだ、あのバカ。頼んだくらいで開発計画が止まるとでも思って
るのか?」
 「優希ちゃんにバカなんて言うんじゃないの。あんた、何か心当たりでもな
いの?」
 「心当たりか……」
 昔からずっと住んでいるオレ達にすれば、街が急激な変化を遂げていくのに
は一抹の寂しさがある。
 だが、それも時の流れというやつだ。
 とは言え、優希があの丘に人一倍の思い入れを持っていたとしてもおかしく
はない。
 あいつは昔から何か悲しいことやひとりになりたいことがあると、必ずあの
丘にひとりで登っていた。
 ひとりになりたい時とはつまり、いつも相談相手になっていたオレとケンカ
した時に他ならないわけだが。


 「優希ちゃんを守るのは仮面ライダージュンイチの役目なんでしょ」
 母は言った。
 「ちぇっ。そりゃガキの頃の話さ」
 「今だって十分ガキでしょうが」
 母の言い草はいつだって容赦がない。
 「今の優希にはいくらでも王子様の立候補者がいるんだよ。
 間抜けなヒーローの出る幕なんてありはしねえんだ」
 「このバカ息子が、女の子の気持ちがわからないような木偶の棒に育てた覚
えはないよ。
 ガタガタ言ってる暇があったら、さっさと優希ちゃんを元気づけてきなさい。
 それがあんたの唯一の存在意義でしょうが」
 「実の息子と近所の女の子のどっちが可愛いんだ、あんたは!?」
 「優希ちゃんに決まってるでしょうが。ほら、さっさと行け。今日も丘に行
ってるみたいだよ」
 「この鬼母が……」

 オレは半ば追い出されるようにして、雨の降りしきる十二月の外へと足を踏
み出した。


 ………………………。

 ああ、わかっているさ。

 優希は、オレに好意を持っている。
 だが、それは幼馴染みとしての延長線上にある感情だ。

 オレ達、変わってしまったんだ──。

 優希。おまえはいつまでもお子様のつもりなのかも知れないけれど、おまえ
がオレに言っていること、じゃれついていることは、とてもとても重い意味を
持っているんだぜ。
 みんな、おまえのことが女として好きなんだ。
 子供の頃、一緒に走り回っていた時の「大好き」とは違うんだぜ。
 オレ達、友達以上だけど、決して恋人でもないんだ。
 微妙な関係さ。
 誰よりもお互いのことをわかりあっているし、誰よりも長い時間一緒にいて、
いつでも信頼しあえる。
 けれど、肩を寄せていることはできるのに、もう一歩踏み出して肩を抱くこ
とは決してできないんだ。
 その一歩は近くて、遠い遠い距離なんだぜ。

 なのにおまえは、どうしてそれを簡単に踏み出して来れるんだ?


 雑木林が伐採され、地肌が露出を始めている。
 あたりにはブルドーザーが入り、その強力な刃はオレ達の思い出を一瞬にし
てゼロへと還元していく。
 優希は、大人の男ひと抱え分もある大きな石に座って、その光景を黙って見
つめていた。
 「風邪ひくぞ、優希」
 オレは自宅から持ってきたコートを無鉄砲な幼馴染みの肩にかけてやった。
 彼女はこちらを見ると、少しだけ笑った。その笑顔がひどく寂しそうに見え
たのは、オレの気のせいだろうか。
 「工事を止めさせるなんて無理だから諦めろよ」
 オレは言った。
 「オレだってこの場所がなくなっちまうのは寂しいけどさ。いつまでも同じ
ものなんてないのさ」
 優希はオレの目を見た。
 「せめて明日まではここに残っていて欲しいの」
 「明日?」
 「クリスマスイブまでは……」
 「ちぇっ、またそれかよ。クリスマスイブがなんだって言うんだ?」
 フン、と鼻を鳴らすオレ。
 「……純一はあたしと話す時、いつも不機嫌そうだね」
 「そんなことはないさ」
 「そうだよ。いつも『ちぇっ』とか『ふん』って言ってるよ」
 「それは──ちぇっ。なんでもないよ」
 「ほら、また言った」
 優希は笑った。
 ふん。なんでオレが優希と話す時、いつも不機嫌そうかって?
 オレはおまえと違うのさ。
 「いい加減、大人になれよ」
 オレが言うと、優希は不思議そうな顔をした。
 「大人ってなに?」
 「何って、おまえ……、そりゃあ。オレもわからないけどさ」
 「純一、言ってることがおかしいよ」
 「う、うるせえな」


 オレだってわかんねえよ。
 わかんねえけど……、きっと、好きなものをただ好きと言えなくなることじ
ゃないだろうか。
 だってオレ達は、仮面ライダーとお姫様から、ひとりの女と男になってしま
ったのだから。
 その秘密はいつだってオレを苦しめ、無邪気な好意を寄せてくる優希の誘惑
はオレを苛立たせるんだ。


 「あたし、八木くんと付き合っちゃおうかな。純一にも言われたし」
 優希は白い息を吐きながらそんなことを言った。
 「ふん、好きにしたらいいだろう」
 「好きにするよ」
 優希は珍しく投げやりな口調で言った。
 「明日、純一に会えなかったらそうする」
 「なんだよ、明日って。なんの約束もしてないだろう?」
 「純一が忘れているのなら、それでいいんだよ。きっと、そうなるべくして
なったんだよ」
 優希は何かを決意したような真面目な顔つきをしていた。そしてその表情は
オレの心をかき乱し、ひどく落ち着かない気持ちにさせるのだった。
 幼馴染みは大石に腰掛けたまま、上を見上げた。

 それは……、一本のもみの木だった。

 今までオレは、明るくて可愛らしくてそのくせやたらと寂しがりやな幼馴染
みに声をかけるために、何度ここを訪れただろう。
 いつも彼女はこの石に座ってもみの木を見上げていた。
 一体この木にどんな信仰を抱いているのか定かではないが、まるで神にすが
るかのように優希はこのもみの木にいつも何かを祈っているようだった。
 オレ達が出会った頃からずっと立ち続ける老木。オレ達の成長も喜怒哀楽も
すべて丘の上から見下ろしてきた祖父のような存在。
 これだって、もうすぐ切り倒されてしまうだろう。優希の気持ちもわからな
いでもないが、仕方のないことなんだぜ。


 「クシュッ」
 優希はくしゃみをした。
 「雨も降っているし、あまり濡れると風邪ひくぜ」
 「もう少し寒くなればきっと雪に変わるよ。明日は雪が降ればいいな」
 「暢気だな、おまえは。そんなこと言ってて、高熱出して寝込んでも知らな
いぞ」
 「大丈夫だよ。クリスマスイブの雪は大好きなの。なんだかとっても安心で
きるの」
 そう言って、優希はまたもみの木を見上げた。
 オレは強引に優希を立たせ、自宅に送っていった。
 なんだか優希は少しだけふらついているような気がした。


 深夜の丘の上。
 工事を終えた作業員達が車両の点検を済ませ、帰り支度をしている。
 「……なぁ、ブルドーザーの調子、悪くないか?」
 ひとりの作業員が言った。
 「そうだな。火花が出てるじゃないか。こりゃ修理が必要だな。とりあえず、
電源だけは切っておけよ」
 「オーケー」
 作業員がひとり残る。
 彼が車両の電源を落とそうとすると、携帯電話の着メロが流れた。
 恋人からの電話だった。
 「──えっ!? 今日約束してたっけ!? い、いやっ。忘れてなんかいな
いよ。
 ちょ……っ、明日のホテルキャンセルなんてそんなのないよっ。ま、待て、
話し合おうっ!!」
 彼は冷や汗をびっしょりとかきながらいずこかへ走り去っていった。

     バチバチバチバチバチバチッッッ

 残されたブルドーザーの駆動部から、青白い火花が散った。



 オレにはいつも肌身離さず持っている首飾りがある。

 どこで手に入れたものなのか、いつから身につけているものなのか、なぜい
つも身につけているのか、定かではない。

 その首飾りはどこかおかしな形をしている。
 そう、まるで、元々は一つの物だったのを二つに割ったような、そんな不思
議な形をしているのさ。
 周囲の人間には、そんな古くて汚い首飾り、さっさと捨てるように言われて
いるのだけれど、なぜかどうしても捨てることができない。

 何か、絶対に捨ててはならないもののような気がするんだ。理由は思い出す
ことができないのだが、とにかくこれはオレにとってとても大切なもののよう
な気がしてならないんだ。
 そういえば優希がいつも使っている髪留めも、これに良く似ていたような形
がする。

 けれどそんなこと、ほんの偶然に過ぎないんだろうな──。


 12月24日。夜。

 「天にまします我らが父よ、アーメン」
 「アーメン」

 なにげに熱心なカトリックの信者である母親に連れられ、毎年24日の夜には
オレは教会へと連れて来られ、神父様のありがたいお話を聞かされることにな
っている。
 自分で言うのもなんだが馬耳東風とはこのことで、どんなにありがたい話も、
聞く者に教養がなければ豚に与えられた真珠も同じだ。
 オレは、まるで話を聞かずに考え事をしていた。
 それは、昼に携帯で交わした優希との会話の内容だった。


 「なぁ、オレとおまえって、今日何か約束してたか?」
 「してたよ」
 優希は即座に答えた。
 「ぜってー、してねえ」
 オレは、反射的に答えた。
 「ウソ、絶対絶対絶対した!!」
 「オレのシステム手帳をなめるなよ。約束関係はきっちり書き込んでるんだ
ぞ」
 「それでも絶対したもん!!」
 「どこで、何時に待ち合わせなんだよ?」
 「そんなこと、もう言わないもん!!」
 「じゃあ、行けねーだろーが!!」
 「だったら、来なくていいもん!!」
 「そこまで言われて誰が行くか、このわがまま女っ!! 寒い中いつまでも
ひとりで待ってやがれ!!」
 「いいよ。いつまでだって、純一が来るまでひとりで待つもん!!」
 「けっ。せいぜい風邪でもひいて正月はずっと寝込んでろ!!」
 「純一はきっと来るもん!!」
 「本人が行かねーって言ってるだろーが!!」
 「この、バカっ!!」

     ぶつっ

 こうして乱暴に携帯は切られた。
 なんて意地っぱりだ。今年から使っているこのシステム手帳にはどんな些細
なことも書き込んでいるんだ。書き漏らしなんてことは絶対にない。
 去年以上前からの約束でもない限り、さ。
 

 昨日からの雨はいよいよ激しさを増していた。
 外は暗く、気温は急激に下がっている。

 関係を修復しようとしてかけた電話が物別れに終わった以上、残念ながら今
年のクリスマスはお互いに寂しいものになることが決定したようだ。

 ……………………………けっ。

 バカヤローが……。

 オレも一級品のバカヤローだが、優希も相当のバカだと思う。

 とにもかくにも、仲直りしておけばいいはずだ。そんなに意地を張るまでに
大切なものが今日にあるとでも言うのかよ?
 たかがクリスマスイブだろうが。
 少しだけ浮かれて楽しく過ごしたらそれでオーケーだろ?
 ただそれだけのものであって、それ以上でも以下でもないもののはずだろう
が。


 ………………………………。

 ……まさかと思うが、このクソ寒い中、約束したというどこぞの場所でひと
り待っているわけじゃないだろうな?
 いくらなんだって、そこまでバカなわけじゃないだろう?

 なぁ、 そうだろう? 優希。


 「──クリスマスイブというのは特別な夜なのですよ」
 どんな話の流れなのか、神父様は前列の席に座っていた子供と対話する形で
話を行っていた。
 「皆を幸せにしてくれる夜なのです」
 「知ってる! プレゼントをくれるんでしょう」
 子供は、自らの経験をもとに返事した。
 「はは、違いますよ。
 イエス様は世界中の人を幸せにしてくれるけれど、それはお金をくれたり、
手を出して助けてくれることではありません。
 パンひと切れ、ぶどう酒ひと口でも幸せな気持ちになれるようにしてくれる
ということなのです」
 「つまんないの」
 「そんなことはありません。
 あなたは気付いていないかも知れないけれど、いつでもあなたのそばにいて、
笑っていてくれる人がいるでしょう?
 ──それが最高の幸せなのです。
 ほとんどの人は失ってしまってからその大切さに気付くのですよ」
 その言葉を聞いて、オレの胸に何かの違和感が生まれ始めた。
 この言葉、以前にも聞いたことがある気がする。
 すでに爺さんになっている神父様、あんた、もしかするとクリスマスの説教
は一定の周期で使いまわしているんじゃないのか?
 そうだな。
 たとえば、12年前の今日、もしかしてあんた、この話をしているんじゃない
のか。
 次に来る言葉はこれだ。
 「クリスマスイブは魔法の夜なのですよ。人を幸せにしてくれる魔法」

 ──クリスマスイブは、魔法の夜なんだって、神父さんが言ってたぜ。

 忘却の彼方から甦ってきた記憶が収束し、オレの脳裏で像を結び始める。
 この言葉は、オレが自分で言った言葉。
 バカで無鉄砲で、ひどく落ち込んでいた少女に送った初めての激励の言葉。

     がたーんっ!!

 静かな教会の中に響き渡るような大きな音を立てて、椅子を蹴倒し、オレは
立ち上がった。
 周囲の視線が一身に集まるる
 「気でも違ったの、バカ息子?」
 隣にいた母親は目を丸くした。
 「うるせーな。たった今、オレは自分が大バカ野郎だって、気付いたんだ
よ」
 「何を今さら──」
 「オレが自分で気付いたのが手遅れじゃないって、神に祈ってろ、アーメ
ン!!」
 オレは捨て台詞を残すと、教会を飛び出した。

──目指すは、あの丘!!


 クリスマスイブの浮かれた街を疾走していく俺の視野は狭窄していく。
 見えているのは、丘の上に一本立つもみの木だけ。
 目の前など確認せずに全力で走る。

     どんっ

 女連れの男に肩をぶつける。
 「いてーな、ちゃんと前見ろっ」
 「うるせえっ。急いでんだよっ」
 走れ。
 急げ。
 一分でも、一秒でも早く着け。
 そしてこのたとえようもない不安よ、止まれ!

 そうさ。
 オレと優希が初めて心を通わせたのは十二年前のクリスマス・イブ。
しんしんと雪の降る聖夜。

 優希が家を飛び出したあの夜。
 ちょうどこんな風に、オレが全力で走った夜。

     ◇

 あの夜、6歳のオレは大人達に混じって夜の街の小さな捜索隊に加わってい
た。
 今思うと見当外れもいい所なのだが、優希の家出の原因は、自分が彼女をい
じめてしまったことだと思ったのだ。
 ひどい罪悪感に駆られ、オレは必死で無口な少女を探し回った。
 一緒に遊んだことのある公園や学校、駄菓子屋を巡回する。
 だが、優希は見当たらなかった。
 ジャンパーを着てマフラーを巻いていたものの、オレの手は冷たさにすっか
りいうことをきかなくなっていた。
 そろそろ諦めるしか選択肢がなくなった頃のことだった。
 オレはふと立ち止まり、丘の上に立つもみの木に目を止めた。
 あそこには一度も行ったことがないはずだった。
 だが今日の昼、あれを見ながら優希が、「あの木はもみの木なの?」と一言
だけ口にしたのを思い出した。
 あまり話すことのない優希だったから、その一言が妙に重いものに感じられ
た。
 オレは本能に導かれるようにして、もみの木の丘へと駆け出し始めた。


 街を見下ろすもみの木の横に6歳の優希はいた。
 すべすべとして座り心地の良い、大きな石に腰掛けて街の灯りを見下ろして
いた。
 それはその後、何かあるたびにあいつがいつも座って考え事をしているお気
に入りの石だ。

 「こんな所で何やってるんだよ? みんな、探してるぜ」
 優希は、いつもの静かで暗く何かを背負いこんだかのような表情でオレを見
た。
 「──家に帰りたくないの」
 と、彼女は小さく言った。
 「なんでだよ?」
 「お父さんが、学校に行けっていうから」
 「なんだ、行けばいいじゃんか」
 オレは大変にデリカシーのない発言をした。
 「……」
 優希は黙ってうつむいた。
 「行きたくないのか?」
 彼女の沈黙は、肯定のように思われた。
 「なんで、行きたくないんだ?」
 しばらくの沈黙。
 「……嫌なことをあたしに言って、いじめる人がいるから」
 「ぎくっ」
 オレは胸に手を当てた。
 「あたしにお母さんがいないのをバカにしていじめる人がいるの」
 「……な、なんだって」
 オレはその頃から大バカヤローではあったけれど、そんな人でなしみたいな
ことをする子供ではなかった。
 なぜならオレは、大人になったら仮面ライダーになるのを夢見た自称正義の
味方だったからだ。
 「──そんなクソ共、気にすんなよ。今度やったらオレが退治してやるから
さ。この仮面ライダージュンイチがな」
 オレはポーズを取り、常に装着していたベルトの変身ベルトのスイッチを入
れた。
 するとそれは、くるくると頼りない回転を始めるのだった。
 「本当に、あたしを守ってくれるの?」
 優希は顔を起こして、目を大きく開いてオレを見た。
 「任しとけ。どんな悪党共が来ようとも、オレが叩きのめしてケツの穴から
手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタいわしてやる」
 「純一くん、台詞がヤクザ映画とごちゃ混ぜになってるよ」
 優希は小さく笑った。その安心した顔から、涙の雫が落ちた。
 なんだこいつ、こんな顔で笑えるのかよ。
 知らない街に引っ越してきて、母親もいなくて、そんなに不安だったのか?
 「よし、わかったら、家に帰るぞ、優希。みんな心配してる」
 オレが言うと、優希はまだためらっているようだった。
 「帰るのが怖い」
 「大丈夫だよ。いつだって、何があってもオレがずっとそばにいるから」
 今思い返すと、ずいぶんと過激な発言をする6歳だったものだ。
 だがその時のオレは、要するに家が隣だ、ということくらいの認識でしか話
をしていなかったに違いない。


 「うん、わかった。帰る」
 と優希は嬉しそうに言って立ち上がり、オレの手を握った。
 彼女はもみの木を見上げた。
 「──でも、純一くん」
 「なんだよ?」
 「いつでも何があってもずっとあたしのそばにいるって、約束をして欲しい
の」
 「おう、いくらでも約束してやるぜ」
 「証拠は?」
 「オレは約束なんて破らないぜ」
 「そうであっても、信じられるものが欲しいの」
 なんだこいつ、すっかり不信感の塊だな。そんなに不安で不安で仕方ないの
かよ?
 「指きりしてやるよ」
 「そんなんじゃダメ。もっと、形のあるものにしてくれなきゃ」
 「うるせえなぁ。わかったよ。今、形のあるものを用意してやる……」



 …………………………。

 ……ああそうさ。

 バカなおまえは、誓いの証を求めた。
 その証は今もあのもみの木の丘に眠っている。
 なあ、優希。
 だからおまえは、いつもあの丘にいたのかよ?
 あの丘を守りたいのかよ?
 寒さに震えながらあの丘にいるのかよ?

 ふたりで街を見下ろしたもみの木の丘。
 ふたりで共有した初めての秘密。
 出会いの思い出。
 あれからたくさんの秘密基地を作って、たくさんの宝物を埋めて、たくさん
の悪戯を含み笑いとともにばらまいてきたな。
 もみの木にはオレ達の十二年を閉じ込めた記憶が眠っている。
 6歳、小学生で知り合った。今、18歳。


 あの遠い日の約束と誓いの証。
 オレは今はっきりと思い出せる。
 だが、あれは子供の時の話なんだ。
 ほんの少しだけれど世の中のことがわかりはじめた今、その約束はあまりに
も重い意味を持つ。

 わかるだろう? 優希。
 ただの幼馴染でいるには、おまえは眩しすぎるんだ。


 出会ってから12年後の今夜。

 再び息せき切って駆けつけたオレの前で、優希は12年前のあの時と同じ姿勢
と同じ表情であの石の上に座り、じっともみの木を見上げていた。

 雨はいつしか雪に変わっていた。
 積もり始めた白い雪はすべての音を吸収し、この幻想的な空間に静寂をもた
らした。
 綿雪がしんしんと降り続ける。
 今日は天候不順のため、どうやら工事は中止になったようだ。
 優希だけがひとりこの丘にいて、後はブルドーザーが止まっているだけだ。

 オレは、優希の前に音もなく立った。
 こいつ、まさか朝から待ってたんじゃあるまいな?
 漆黒の髪の上には粉雪が積もっている。

 優希はオレに気付いて見上げた。
 「ね? 約束してたでしょ……」
 愚かな幼馴染みの浮かべた笑顔は太陽よりも輝いていて、オレの胸をまっす
ぐに貫くのだった。


 「……待たせたな」
 とオレは言った。
 「遅いよ、バカ」
 口ではそう言っているものの、優希の顔からは怒りのようなものは見られな
かった。
 オレと同じように、どんな態度をとったらいいものか、わからないのかも知
れない。
 オレは時計を見た。午後11時55分。ギリギリ24日の間には到着できたようだ。
 「──どれくらい待った?」
 「そうね。ほんの十二年くらいよ」
 オレは黙って優希の肩にコートをかけてやった。
 彼女の頬に手が触れると、ひどく冷たかった。
 「オレが忘れてしまって、ここに来ないとは思わなかったのか?」
 「純一はきっと来るって思ってた。来なかったら、来るまでいつまででも待
ってるつもりだった」
 「ちぇっ、底抜けのバカだな、おまえは」
 「えへへ」
 なぜか優希は嬉しそうに笑った。
 そうさ。巷では、こういうのを真性のバカと言うんだ。
 真性というのは、手がつけられないバカという意味だぜ。
 口で言ってもわかりゃあしない。
 何度言ったってわかりゃあしないんだから、しょうがない。

 ──ずっとそばにいて、見守っているしかないんだ。

 手がかかることこの上ないぜ。

 本当に……。


 オレは、無意識のうちに首飾りをそっと外していた。
 何かに衝き動かされるような不思議な感じがした。
 優希も髪留めを外して同様の飾りを差し出してくる。
 ふたつを噛み合わせると、一本の鍵になった。

 優希がお気に入りの石から立ち上がった。
 オレは屈み込んでその石に両手をかけると、勢い良く転がした。
 長い間大きな石の下敷きになっていた部分には草が生えず、見たこともない
ような小さな虫が大挙して逃げ去っていく。
 オレは近くに落ちていた「ゴミ捨てるな」という立て看板をスコップ代わり
にして、土を掘り起こし始めた。
 一連の動作は神聖な儀式のように、沈黙の中で粛々と進行していく。
 じっと固唾を呑んで見つめている優希。

     ガシャッ

 すぐに看板は硬い感触に突き当たる。それを掘り起こしていくと、オレ達の
目の前には古ぼけてすっかり錆び付いた金属製の箱が姿を現した。



 ………………………………。


 「これが、誓いの証だ」

 12年前の夜。
 オレは優希に言った。
 「これが……?」
 彼女は、オレの差し出したものを見つめながら言った。
 「知ってるか? 結婚指輪って言うんだぜ、えっへん」
 得意げなオレ。
 「結婚ていうのは、要するにずっと一緒にいるってことだからな。約束の証
拠になるだろ?」
 その発想に、幼い優希は夢中になったようだった。瞳を今まで見たことがな
いほどにキラキラと輝かせ、穴が開くほどに指輪を見つめている。
 「婚約指輪は給料の三ヶ月分で買うんだって、誰かが言ってたよ」
 「……オレの小遣い3日分150円で我慢しとけよ」
 オレが買ったのは、近所の駄菓子屋で買ってきた玩具の指輪だった。
 小学一年生の個人的な買い物のフィールドは駄菓子屋に限定されていて、そ
れ以上は守備範囲を超えていた。
 「あたし達、結婚、できる?」
 優希は魅入られたように150円の指輪から目を離さないまま言った。
 「できるさ。だって、クリスマスイブは魔法の夜なんだって、神父さんが言
ってたぜ。
 誰だって幸せになれるんだ。みんな笑えるんだ。だからきっと、どんな願い
だって叶うはずさ」
 「うそ。大人にならなきゃ結婚できないもん。そんなことも知らずに約束す
るなんて本気じゃない証拠だよ」
 「……うぐっ、細かい奴だな。いいよ、わかった。何歳になったら結婚でき
るんだよ」
 「女の子は16歳。男は18歳」
 「誓ってやるともさ。18歳になったら、結婚してやる」
 優希は少し考えた後、
 「しょうがないなぁ」
 と、オレに初めて満面の笑みを見せた。
 「じゃあ、約束だよ」
 「ああ。この指輪は18歳のクリスマスイブにこの場所で、オレがおまえに渡
す。それが結婚の約束だ」
 オレは誕生日に親からもらった玩具の鍵付きケースの中に指輪を入れ、施錠
した。そして、プラスチック製の玩具のキーをふたつに折り、片方を優希に差
し出した。
 「──受け取れよ。12年後の今日、たとえ片方が約束を忘れていたって、ま
たここで出会えるための、時を越えた秘密の切符だ」
 今まで暗くて寂しげな様子ばかりが印象的だった優希は、今や魔法の道具を
手にした子供のように、頬を紅潮させているのだった。
 「ありがとう」
 「ははっ。おまえ、いかにも間抜けで忘れっぽそうな顔してるもんなぁ。
 オレひとりで寒い中待たされたらイヤだろ? はははっ」

 ……………………………。


 「その……なんだ。
 忘れてたのはオレの方だったな。まぁ、許せよ。なはははははっ」
 笑って誤魔化そうとしたが、うまくいかなかったようだ。優希は白い目でオ
レを見ていた。

 長い年月の間にケースの鍵はすっかりと錆び付き、乱暴に割ってしまった鍵
などとうの昔に合わなくなっていた。

 がちゃがちゃがちゃがちゃ、がちゃがちゃ………………………ボキッ

 元々チャチな造作の錠前は、長い年月の腐食によって、本体ごと壊れて外れ
てしまった。
 12年間ふたりが大切に肌身離さず持っていた鍵は、役目を果たす前にめでた
く用無しになった。

 「……さすがは魔法の夜だな。うん、これは神の大いなる意思だな」
 「……うん、そうだね……」
 優希は若干同情して、話を合わせてくれるような口調で言った。

 ケースを開くと、中からやはり錆び付いて真っ黒になったおもちゃの指輪が
姿を現した。
 何の合金でできているものか、すでに変色しきっている。
 オプションで買い求めたJとYのアルファベットのブロックがくっついている
のが辛うじて結婚指輪らしさを主張していた。
 指輪は素っ気無く転がっていて、それの持つ意味の重大さを考えるといかに
も安っぽい作りだった。
 だが、とオレは思う。
 何百万円もする虚しい指輪もあれば、人生の中で最も大切で温かい意味を持
つ150円の指輪もあるんだ。

 クリスマスイブは魔法の夜。

 150円の玩具の指輪を、世界で一番貴重で美しくて涙が出るほどに優しい芸
術品に変えることだってできる。
 オレは、震える手でその指輪をつまみ上げた。
 優希は物も言わずにそっと左手を差し出してきた。
 その瞳は、潤んでいた。
 いつの間にかあたりは一面の雪化粧。
 世界はどこまでも白く、透き通っている。
 ああ。街はあれから大きく変わったけれども、この丘だけはまだ何も変わら
ない。
 あの夜と同じだ。
 あの夜と同じ空と、同じ雪だ。
 ふとオレは優希の目を見つめた。

 ああ、なんだ。
 そうかい。そうだったのかよ。
 優希、おまえも同じだ。
 あれから元気で明るくなって、少し乱暴になって。
 いつの間にか女らしくなって。
 すっかり遠くに行っちまったのかと思っていたよ。
 でも、おまえの瞳も12年前のあの夜と同じだよ。
 同じさ、みんな同じ。

 ただ少しだけ──オレが素直じゃなくなっただけだったのさ。

 オレが優希の薬指に、遅れてきた結婚指輪を通す。彼女はそれを顔の前にか
ざして見せた。
 次の瞬間、笑顔のまま優希の目から大粒の涙が流れ落ちた。

 オレは、優希を抱きしめた。
 優希は、驚いたように俺を見た。

 身体が冷たいよ、優希。
 どれだけ待っていたんだ?
 でも、ぎゅっと抱きしめていると、その芯から温かさが伝わってくるんだ。

 オレ達は12年間、誓いの番人となっていた石の上にふたりで腰掛けた。
 有無を言わせず優希を抱きしめ、オレは顔を寄せた。
 びくり、と身を硬くする優希。
 「なんだよ、怖いのか?」
 オレがからかうように囁くと、幼馴染みは目を三角にして、
 「怖いわけないじゃない。ずっとこの時を、待っていたんだから」
 オレが唇を寄せていくと、彼女は目をぎゅうっと瞑って少しだけ顔を振るわ
せた。
 やっぱり怖がってるじゃないか。
 散々、オレを誘惑し、葛藤し、悩ませた可愛らしい子悪魔は、いざその場に
なれば震えるチキンだった。
 「純一のキスくらいで、緊張なんてしないわ」
 おまけに、口だけは悪い。
 「きっと優希は、キスの後オレに惚れるね」
 オレはニヤリと笑った。
 「純一のキスごときであたしはおかしくなったりしないわ」
 「キスした後に同じ台詞が言えるか、試してやるぜ」
 オレは、ゆっくりと唇を近づけていった。
 「……っっっっっっっ」
 もみの木から、ひとかたまりの雪が地面に落ちてどさりと音を立てた。

 ああ、魔法の夜。

 電撃のように甘い快感が走り、今オレ達はすべての鎖から解き放たれ、空に
舞い上がるよう。
 優希は目を開いた。
 「──純一のキス一回くらいで、あたしは惚れたりしないわ」
 彼女は頬をリンゴのように紅潮させ、白い息を吐きながら言った。その目は
薄い油を張ったようにとろんとしている。
 「一回くらいでは無理だから……」
 と言う。
 「もっと、いっぱいキスしてみたら」
 どこまで行っても優希は優希。
 いいさ、今日は12年越しの特別な夜。
 徹底的に、おまえをとろかしてやる。覚悟しやがれ。


 「──優希、愛してる」
 数え切れないほどのキスをする合間に、オレは幼馴染みの耳に囁いた。
 「ずっと、その言葉を待ってた」
 優希は言った。
 冷え切っていたはずの彼女の身体は内側から熱を持ち、今では全身紅潮して
降り積もる雪を溶かし始めていた。
 「どうして、今まで言ってくれなかったの?」
 「オレ達は幼馴染みだからだよ」
 「幼馴染みだと、言ってはいけないの?」
 「幼馴染みは恋人じゃないからだ」
 「……だから、いつでもそばにいるのに近づいて来なかったの?」
 「ああそうだ」
 優希は空を見上げた。
 「純一は、あたしが男子に告白されるたびに、どんな気持ちだったと思
う?」
 「そりゃあ、嬉しかったんだろ?」
 「バカ、違うよ」
 怒ったような目で幼馴染みはオレを睨む。
 「寂しかったよ。あたしを好きだと言ってくれたのがどうして純一じゃない
んだろうって、いつも思ってた」
 ちっ。だから、いつもいちいちオレに報告してやがったのか。そんなこと、
考えもしなかったんだぜ……。
 「バカだな、おまえは。空気が読めないことこの上ないぜ。オレがどんな気
持ちでおまえを見ていたかなんて、まるでわかっていないんだろう?」
 「純一の方がバカだよ。あたしがどれだけ、純一のことが好きで好きで仕方
なかったか、まるでわかってないんでしょう?」
 優希はオレの身体に手をまわすと、渾身の力で抱きついてきた。
 それは、二度と離さないことを主張するかのようで、痛くて、熱くて、そし
て、今までどれだけ寂しかったかを表現するかのようでもあったのさ。


 結局、オレも優希も底抜けのバカだったということなのかも知れない。
 優希がオレを想って行動すればするほどに、オレは身を引いて距離を取ろう
とした。
 優希が寂しげな態度をとるほどにオレは身を引き裂かれるような痛みに胸を
焦がし、いよいよコントロールできない恋の感情は暴走し、それは天邪鬼なオ
レの口を介して悪態となって飛び出した。
 どちらかがもう少し大人だったなら、もう少し状況は変わっていたかも知れ
ない。
 だが、優希は身体ばっかり大人になって空気の読めないお子様のままだった
し、オレはオレで、アホに拍車がかかるばかりでいつまでも素直になれないガ
キンチョのままだった。
 なんて悪い組み合わせなのだ。
 絶対にまとまるはずがないぜ。

 そうさ、すべての人が幸せになれる奇跡の夜でもない限りな……。


 「純一のバカ。大嫌いだよ……」
 と優希は言った。
 「そうかい」
 オレは言った。
 「まだ、キスが足りないみたいだな」
 唇を再び奪う。啄ばむような軽いキスから、いつしかずっと唇を合わせ、舌
と舌を絡ませる濃厚なキスへと変化している。
 どうして、優希の口はこんなに甘いんだ? 砂糖菓子よりも甘くて、優しく
て、ほっとするような温かさなんだ。
 初めてのはずなのにどこか懐かしくて、オレの琴線を切なく奮わせる。
 唇を離した。
 熱い息が白く煙った。
 「純一のバカ。世界で一番嫌いだよ。純一は、今まで、世界で一番あたしを
不幸にしてきたよ。
 あたしの悲しみの9割は純一のせいだよ」
 「そ、そんなにかよ」
 「そうだよ」
 と優希は言った。
 「だってあたしは、どんなことがあっても、そばで純一が笑っていてくれれ
ば悲しくなんてないんだから。あたしが悲しいのは、純一が離れていくことだ
けなんだから」
 「な、なんだよ、そりゃ」
 「だから、あたしを不幸にできるのは純一だけなんだから。
 ──だから、純一なんて世界で一番大嫌いだよ」
 受け取りようによっては180度逆にも取れる言葉を聞きながら、オレは優希
の頭を撫でていた。


 「バカ、バカバカ」
 オレの胸の中で言う優希。
 うるさいので、オレはキスで彼女の口を塞いだ。
 「ん……うんっ」
 「……」
 さあ、これで黙ったな。
 「──バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ」
 ますます悪態を続ける優希。
 「バカって言いすぎだろ」
 「だって、バカって言ったら、純一はキスしてくれるんでしょう? 本当に
純一はバカだね。もう一生、バカって言われ続ける運命に決まったよ」
 優希は笑った。
 「それに、まだまだキスも、愛の言葉も足りないよ」
 「もうたっぷりしただろう」
 「全然足りない。12年間分には、全然足りない。毎日1回として、365×12は
──」
 愛すべき幼馴染みは指を折って計算を始める。オレはそれをやめさせて、い
つの分かはわからないキスの清算を始めた。
 そんなオレ達を上から見つめるのはもみの木。
 いつでもオレ達を見下ろし続けたふたりの誓いの物言わぬ証人。


 出会ってから、12年。
 オレは、優希のことはたいがいのことはわかっているつもりだった。わから
ないことが増えてきてはいた。
 それでも、概ねはあいつのことはわかっているつもりでいたのさ。
 オレはとんだ節穴の目の持ち主だってわけだ。
 これからオレは、改めて幼馴染みを知ることから始めなければならない。


 その時、少し離れた位置で工事用のブルドーザーが青白い火花を上げた。
 だがオレと優希は互いを見つめることに夢中で、背後の危険な光景にはまる
で気がつかなかった。

     バチバチバチッ

 小さな火花は音を立てていたはずだったが、それはちょうど夢中になって優
希を抱きしめたオレの背後だった。
 優希はしっかとオレの背中に両手をまわし、抱きしめ返してくる。

バチバチバチバチッ

 オレが優希にキスしようとした時、彼女が目を見開いてオレの背後を見てい
るのに気付いた。
 振り返り、はっとなる。

     バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチッッッッ!!!!

 小さな稲妻が走る。
 それはオレ達を一直線に目指し──

 「うわあああああああああああああああああっっっ」
 「きゃあああああああああああああああああっっっっ」

 灼熱感がオレの背中を突き刺した。


 「まったく、まいったね」
 翌朝、病院で背中のガーゼを替えてもらいながら、オレはため息をついた。
 「もうちょっとキスしてもらいたかったのに、残念だったなあ」
 隣で手の包帯を替えてもらうのを待ちながら、優希はそんなことを言った。
 「あら、ふたりはそういうカンケイなの?」
 オレ達の包帯を替えてくれてくれる看護師は悪戯っぽく笑った。まだ20代ら
しい女性看護師は興味を覚えたらしい。
 「そういうカンケイなの!!」
 優希が輝くような笑顔で言う。
 「ちょっと待て。そういうカンケイがどういう関係なのかを確認してから肯
定はしろよ?」
 オレは釘を刺すが、恋愛話の始まった女性達を止める手立てなどない。
 オレの制止など聞かずに優希の話は暴走していき、すっかりと看護師を引き
込んでしまうのだった。

 オレも優希も、軽症の火傷を負っただけで無事だった。
 すぐに雪で冷やして病院に駆け込んだのが良かったのだろう。そういう意味
では不幸中の幸いだった。
 応急処置だけしてもらって、クリスマスの朝にこうしてふたりで外来通院し
て改めて処置してもらっているのだった。
 しかし、こんな所で口の軽そうで恋愛話好きな看護師を相手にするとは想定
外だったが……。


 「──そうか」
 と、看護師は手を打った。
 「昨日の指輪は、彼氏からのプレゼントだったのね?」
 「うん、そう。とっても大切な指輪だったの」
 ブルドーザーから飛んだ小さな稲妻は正確には優希の左手にあった指輪を直
撃した。
 それは彼女の指を灼き、密着していたオレの背中を灼いた。
 元々腐食の進んで脆弱になっていた指輪は壊れてしまった。
 当然のように医者は指輪を外すように言ったが、優希は全力で抵抗したのだ
った。
 あいつは真性のアホに違いない。
 電撃を受けて熱を持っていた指輪を握り締めて、火傷を助長したというのだ
から救いようがない。
 熱を受けたとはいえ、12年の時を経て不潔極まりない状態の指輪だったから、
化膿の原因になっても困る。
 当直の看護師が総動員されて優希を押さえつけ、指輪を砕いて外したのだっ
た。
 日勤の看護師まで知っている所を見ると、すっかり病院中の噂になっている
可能性がある。
 オレは頭を抱えたくなった。
 「かけがえのない大切な指輪だったから、どうしても外したくなかったの」
 優希は少しだけさびしそうな表情で言った。すると看護師は、
 「また、もっと良いのを彼氏に買ってもらえばいいのよ。今度は雷に打たれ
ても壊れないようにダイヤモンドの入ったやつにすればいいわ」
 と、勝手なことを言い出す。自分が金を出すわけじゃないと思って言いたい
放題だ。
 しかし、優希はにこっと笑って首を横に振った。
 「もう指輪はいらないわ」
 「へえ、どうして?」
 看護師は首を傾げた。
 「んふふ。だって、あたしは神様に二度と壊れない永遠の結婚指輪をもらっ
たんだもの──」
 と優希は無邪気な笑顔を浮かべると、指の包帯をくるくるとまわして外して
いった。
 ああ、実際優希は、真性のバカに違いない。
 熱を持った指輪を握り締め、かえって火傷を助長してしまった。
 そのために、彼女の薬指には、指輪の痕が残ってしまった。
 その指には、くっきりとオレのイニシャルを示すJの文字が刻印されている。
 看護師はぽかんとしながらそれを見た後、たった今ガーゼを取り外したオレ
の背中に視線を戻す。
 そこには、優希にまわされていた手を介して刻印された、Yの火傷。
 「んふふ」
 と再び笑う優希と、ため息をつくオレ。

 ああそうさ。
 クリスマスイブは魔法の夜。
 こんな、ほんの小さな奇跡のおまけをくれたって、おかしくはないだろう。
 ちぇっ。
 でもな、神様。こいつはいくらなんでもサービス過剰なんじゃないのか?


 優希は愛おしげに自らの薬指を眺め、うっとりとした。
 「純一、昨日の続きをして」
 オレは自分の耳を疑った。
 「はあ!?」
 「キス、して」
 オレは目の前の看護師と優希を交互に見る。
 看護師は止めるどころか興味津々といった様子で事の成り行きを見守ってい
る。職場なんだから止めろよ。
 「人前で何言ってんだよ!!」
 「人前だって、あたしは恥ずかしくないもん!! だって今はただの幼馴染
じゃなくて、恋人で婚約者なんだもん」
 優希は子供のように頬をふくらませて口を尖らせる。
 「あ、後でな!」
 オレが言うと、優希は頑なに首を横に振った。
 「少しぐらい待てるだろ!」
 「もう12年も待って、待つのは嫌になっちゃった」
 「20分くらい待てるだろ」
 「純一は昨日みたいに約束を忘れちゃうから信用できない」
 オレはうぐっ、と言葉に詰まった。
 いまや看護師はニヤニヤしながら、目でオレに何かを迫っている。

 …………………………。

 わかった、わかったよ。
 オレは疾風のように唇を優希の顔に近づけると、その唇を奪ってさっと離れ
た。
 優希は陶酔したような表情になり、オレを見た。
 「うれしい」
 ちぇっ。熱に浮かされてすっかりおかしくなってしまっている。こんなの、
普段の優希じゃない。
 普段の優希はもっとがさつで、乱暴で、女らしくなくて、空気が読めなくて
……。

 …………………………。

 ……本当は知ってるよ。

 世界で一番可愛らしくて健気な素敵な女の子だってな。

 「ありがとう」
 優希の目からまた涙がこぼれた。
 「純一、愛してる」
 どこまでもまっすぐな幼馴染の愛の言葉に、オレは気恥ずかしくなって目を
そらした。

 さあ、これで今回のオレの話は終わりだ。
 その後どうなったのかって?
 そうだな……。


 「純一、恥ずかしがらないでちゃんと腕を組んでよっ」
 「ば、バカっ。そんな恥ずかしいことができるかっ」
 「大声出して抵抗する方がよっぽど恥ずかしいでしょっ!?」
 ふたりで遊園地を歩く12月25日。
 今までだって休日にふたりで遊びに出かけることなんて頻繁にあった。特別
なことではない。
 いつもと同じ行動なのに、同じじゃない。
 「純一、あたし達、恋人になったんでしょ? だったら、今までとは違って
腕を組んだりしないとおかしくない?」
 「そんなの、別にいいよ……」
 オレは周囲の目を気にしながら、もごもごと拒絶の言葉を口にする。
 「じゃあ、幼馴染と恋人って、どう違うのよ?」
 優希は腰に手をあてて仁王立ちになり、怒ったように言う。
 「そりゃあおまえ、恋人だったら誰も見てない所でふたりきりでキスしたり
エッチしたりするんだろ」
 「なんで純一の発想はいっつもエッチなことばっかりなんだよ!!
 『人妻ぬっぽり温泉』とかそういうのばっかり見てるからそんなになるんだ
よ!! バカバカ、この母乳マニア!!」
 「……てめえ、またオレの部屋を勝手に漁ってエロビデオ探したろ」
 「………………」
 オレの険悪な視線にまずいと思ったのか、はたと優希は黙り、そしてしばら
くしてから言い訳のように口を開いた。
 「………………好きな人のことは何でも知りたいの!!」
 「このアホーーーーーーーーーっっっっ!!!!」


 うん、なんだ。
 こんな感じだよ……はぁ。
 要するに、ファーストキスの時と同じさ。変化なんて何もない。
 幼馴染から恋人に、ただ肩書きが変わっただけだ。結局オレ達はお互いにア
ホでバカなお子様に過ぎないんだ。
 それと、丘の上は造成が進み、オレ達の約束のもみの木は切り倒された。
 優希はやはり全力で反対しようとした。
 だが、オレがそんな彼女を押しとどめたのだ。
 「優希」
 オレは言った。
 「誓いの指輪はもうあそこにはないんだから、気にするな。あの指輪は今は、
ここと……」
 と優希の薬指と、自分の背中を示す。
 「オレの背中にある。これからは、オレがおまえのもみの木の丘になる。も
しさびしかったり、悩み苦しむ時には──」
 ぎゅっと抱きしめる。
 「──いつでもオレの背中に来ればいい」
 優希は小さく、「ありがとう」と押し殺したような声で言った。


 それから数日後、もみの木はオレ達の目の前で倒れていった。それはまるで、
老兵がひとつの重責を果たして安心してへたりこんでいくような感じがした。

 今日もなんていうことのない、365日のうちのただの1日。
 オレ達は1日分大人になる。
 そしてやがて、いつか本当の大人になっていく。
 そうさ、それでいいはずなのさ。
                          了
590名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 17:24:51 ID:KKgFLKaW

以上です。

メリー・クリスマス。
591名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 19:07:17 ID:Uv2/WcVD
>>554-590
ベタすぎる、でもそれがいい。そうでなくちゃいけない。
メリークリスマス。
592名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 19:20:49 ID:rPgY/6gU
とりあえずGJ

でもまだあまり感想コメントを貰ってない他の職人に重ねて投下するのはいただけない。
同じ立場なら嫌だろ、職人のやる気はコメントなのは職人のお前ならわかってるだろ。
職人を減らすだからやめろ
593名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 19:31:11 ID:D4QI+WoM
今日はクリスマスだからしょうがないよ。
投下する方も判ってるさ、たぶん。

今日明日はラッシュだぞww 待ってるとタイミング逃す。
越境感想もアリで、がんがん行こうじゃないか。

と、書けなかった自分が言ってみる。

クリスマスばんざーい。ここで良質SS読めるから現実から逃避できるさ…
594名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 21:21:39 ID:+ZOLNZD2
すさまじい投下ラッシュに乗らせて貰います
>>353>>359
>>411>>416
の続きです
595迷い:2007/12/24(月) 21:22:47 ID:+ZOLNZD2
「優華ちゃん、シチューにルー入れて」
「はい」
12/24日午前11時。
優華と優祐は大井家の台所に立ち、クリスマスパーティの料理を作っていた。
何故こんな事になっているかと言えば、それは約2週間前の話になる。


「お兄ちゃん、お願いがあるんだけど」
その夜、桜は優祐の部屋に入ってくると、開口一番そう切り出した。
「ん?」
「24日にクリスマスパーティー、家でやっていい?」
「別にいいよ。母さんは?」
「優祐がいいならやってもいいよ。だって」
桜は顔色を窺うように優祐を見る。
「ならいいじゃん」
「ただ、料理とか作って貰いたいんだよね。でお母さん居ないから、お兄ちゃん作ってくれる?お願い」
桜は手を顔の前で合わせ、拝むようにする。
「別にいいけど……何人分?2〜3人?」
「私と優華と……女の子4人に男の子3人」
桜は指折り数え、人数を提示する。
「多いな〜」
予想に反し、結構な人数だった事に優祐は苦笑いを浮かべる。
「ダメ?」
桜は不安げな表情を浮かべる。
「いや、いいよ。やるよ。けど結構お金かかるよ?」
優祐は快諾する。
が食材の調達に頭を悩ませる。
596迷い:2007/12/24(月) 21:23:17 ID:+ZOLNZD2
実際食い盛りの食事7人分はかなりの量になるし、クリスマスなのだからケーキも有った方が良いだろう。
少なく見積もっても5000円は必要だ。
「あ、お金はお母さんがくれたよ。予算だって」
その悩みを払拭するかのように、桜は財布から福沢諭吉の肖像が書かれた紙を取り出す。
「こんなに?豪勢だなぁ」
それを見た優祐も驚きを隠さない。
たかが子供のパーティだと言うのに、さらっとこれを出せる母には凄いものがある。
優祐は自分の母の豪勢さに驚いていた。
勿論良い親には間違いないのだが……
「桜、かなり豪華にやれるぜ」
優祐は一万円札を受け取ると、自信あり気にそう言った。
「じゃあお兄ちゃん料理は頼んだよ。あと当日の朝から優華が手伝いに来てくれるからねっ」
こうして冒頭の場面に至ったのだ。


「優祐さん、次は何作るんですか?」
完璧にさん付けが定着してしまった優華は、今日も優祐をそう呼んでいた。
「ん?ホワイトシチューと鳥の唐揚げ、ローストビーフ、南瓜のグラタン、後サラダだから、次は南瓜を薄切りにして」
597迷い:2007/12/24(月) 21:23:51 ID:+ZOLNZD2
豊富な予算を貰ったこともあり、優祐はかなり力を入れて料理を作っていた。
当然ケーキもあるし、子ども用のシャンパンまである。
後者は安かったから買ってしまっただけであるが。

「二人共〜もうそろそろ皆来るよー」
桜はそう言ってキッチンを覗く。
「okこっちはもう殆ど出来てるよ。優華ちゃんも、もう大丈夫。自分の準備していいよ。」
「え、でも」
「優華ちゃんもパーティする側でしょ?」
「はい。ありがとうございます」
優華は大きく頷くとエプロンを取る。
今日の優華は、淡い緑色のワンピースに白のハイソックスという服装だった。
それは優祐の目にも非常に可愛らしく写っていた。

ドアのチャイムが鳴る。
ちょうどよく招待者達が来たらしい。
「失礼します」「お邪魔します」
皆口々に挨拶を述べ、玄関を上がってくる。
「いらっしゃーい」
優祐は台所から面子を見回していく。
チラホラと見知った顔も居ることに安心しつつ、料理を進めていくのだった。
598迷い:2007/12/24(月) 21:24:42 ID:+ZOLNZD2
宴は盛況だった。
皆料理に舌鼓を打ち、それを作ったのが優祐だと知ると驚き、桜は誇らしげに、優華は嬉しそうに笑った。


「優祐さん」
台所で一人ちびちびと残りもののシャンパンを飲みつつ、パーティを眺めていた優祐に話し掛ける。
「どうかした?」
「あの、この後プレゼント交換をするんですけど、あのピンク色のプレゼント分かります?」
そう言って指差した先には、皆の荷物の脇にピンク色のリボンで結ばれた袋があった。
「分かるよ」
「優祐さんの号令でプレゼント回すんですけど、あれを田中君の所で止めてほしいんです」
優祐はそれを聞くと不思議な気持ちになった。
わざわざそれを頼みに来ると言うことは、あの袋は優華のプレゼントだろう。
599迷い:2007/12/24(月) 21:25:43 ID:+ZOLNZD2
そして、そういうことを頼むと言う事は、当然優華は彼に少なからず想いを抱いてるのだろう。
それは、桜や文奈の想像が外れたという事であり、優祐としては安堵こそすれ、悲しむ事ではないはずだ。
しかし優祐は今不思議な気持ちを抱いていた。
決して心地よくない物……
「ふーん、優華ちゃんはあの子のことが好きなんだ」
そのせいか優祐の口から優華を野由する言葉が出ていた。
「え?ああ違いますよ、あのプレゼントは桜ちゃんのです。私はあれの隣の水色のやつです」
優華はそう言って笑う。
確かにピンク色のリボンが結ばれた袋の横に、水色の袋が有った。
「え、じゃあ桜が?」
「はい。あくまで私の勘ですが、多分当たってますよ」
「そうなんだ」
この時優祐には、桜にそういう相手がいたという驚きと、少なくとも2ヶ月前には絶対に抱かなかったであろう想いが去来していた。
「それに私には……そうだ、明日お暇ですか?」
「う、うん。いや、ごめん用事あるんだ」
「もう、どっちですか」
優華はそう言って頬を膨らませる。
「いや用事あるよ。午後からね」
それを聞いた優華はある提案する。
600迷い:2007/12/24(月) 21:26:18 ID:+ZOLNZD2
「じゃあ午前中だけでいいんで付き合ってもらえませんか?絶対に午前中だけなんで」
優華は勢いよく手を合わせて懇願する。
優祐もその勢いに押され、承諾してしまう。
「それじゃ明日の9時に駅前は」
優華は嬉しそうにそう言い残すと、皆の輪に戻って行ったのだった。
601名無しさん@ピンキー:2007/12/25(火) 00:03:26 ID:D4QI+WoM
おわり?
終わりとか続くって書いてくれると嬉しいです
602名無しさん@ピンキー:2007/12/25(火) 01:27:15 ID:dxuoMEhG
規制にでも引っ掛かったのかもね
まったりお待ちしてます
603名無しさん@ピンキー:2007/12/25(火) 03:36:18 ID:Msdi/l8p
604名無しさん@ピンキー:2007/12/25(火) 21:49:22 ID:V4cDc6NL
次スレ立ってからの方がいいかな、投下?
605名無しさん@ピンキー:2007/12/25(火) 21:52:52 ID:WcS9yKE5
長さによるのではなかろうか。
15KB超えるようであれば次スレを待つとか
606名無しさん@ピンキー:2007/12/25(火) 21:53:04 ID:hX/LQ3z/
wktk
607名無しさん@ピンキー:2007/12/25(火) 21:57:46 ID:V4cDc6NL
>>605
いや、このスレに投下してよしという事なら、今日中に仕上げようかな、と
思ったんだが、次スレ立ってからにした方がいいという事なら、
もうちょっと時間かけて加筆修正しようかな、と。

今の所の長さは微妙な所だなぁ・・・。

なんか誘いうけみたいになってすまんね。
ちょっくら読み返して考えてみる。
608名無しさん@ピンキー:2007/12/25(火) 22:23:21 ID:V4cDc6NL
「べっくしょいっ!」
 我ながらど派手なくしゃみだ。
 俺は身体を起こすと、枕元においたティッシュ箱から無造作にティッシュを取り、
思い切り鼻をかんだ。ちょっとグロい鼻水の色に顔をしかめながら、丸めてゴミ箱へ投げ入れる。
 見事にゴミ箱にゴール。ナイスシュート、俺。
 枕代わりのアイスノンの位置を直し、再びそこに寝そべる。
 ひんやりとした感触が、熱に浮かされた頭に心地いい。
 心地いいんだが……。
「……何やってんだろうなぁ、俺」
 ――昨日の晩、待ち合わせの時間になっても、歌乃は来なかった。
 連絡を取ろうにも、その時になって初めてお互いの携帯番号を教えあっていない
という事に気づく有様で――帰ってきてからこっち、ちょくちょく顔を合わせていたから、
強いて電話とかで連絡を取る必要が無かったからだ――仕方なく、時間になっても
来ない歌乃を、俺はひたすらに待った。
 今になって思えば、歌乃の家の方に電話をかけてみれば良かっただけだったのかもしれないが、
その時の俺にその考えはなかった。"アイツが俺を待たせる"という異常事態が、
俺から冷静さを奪っていたのかもしれない。
 アイツは、昔から約束だけは守る奴だった。待ち合わせの時間に遅れた事も無いし、
むしろ俺の方が遅れて謝るというのが、俺達のいつものパターンだった。
 だから、俺は待った。日付が変わっても、人通りが途絶えても、イルミネーションが消えても。
 結果、歌乃は……いつまで経っても来なかった。
「げほっ! ごほっ! ……うー、喉痛いな……」
 そして、寒空の下、待ちぼうけていた俺は……ものの見事に風邪をひいてしまったというわけだ。
 親父とお袋には「何か調子が悪くなってきたんで帰ってきた」とだけ説明しておいた。
変に詮索されたくなかったからな。
「……あー」
 熱に浮かされた頭で、ぼんやりと考えるのは歌乃の事。
 なんで昨日に限って、待ち合わせをすっぽかすなんて事をしたんだろう?
 今朝になってから何度か歌乃の家に電話してみたが、留守のようで誰も出ない。
 歌乃の家は、両親共家を空けている事が多いから、歌乃がいなければ電話はまず繋がらない。
「……何か、あったのかな」
 思い浮かぶのは、事件や事故などの不安な原因ばかり。
「うー……げほっ、げほっ!」
 悪い想像はどんどん広がっていく。
 ……自動車で事故……歩いていたら轢かれたり……いや、家に強盗……。
 もしも。
 もしも、だ。
 もしも、もう、アイツが……この世にいなかったとしたら。
 そんな想像すらも、俺の熱にやられた脳味噌は始めてしまう。
 もう、二度とアイツに会えないのだとしたら。
 
609名無しさん@ピンキー:2007/12/25(火) 22:26:30 ID:V4cDc6NL
ぎゃあああ!!!!

プレビューしようとしたら間違って投稿しちまった・・・orz

何事もなかったかのようにスルーしてください・・・orz
610名無しさん@ピンキー:2007/12/25(火) 22:37:12 ID:dxuoMEhG
続きが気になるな
611名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 00:02:04 ID:sowj+DeE
続きが気になる・・・
612名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 00:37:39 ID:suO3tS2a
もちつけw

そういえばすぐ正月だな
クリスマスネタを投下しなかった巨匠はきっと・・・
613名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 01:08:44 ID:UpvB/Xl3
巨匠にだってプライベートくらいあるだろ。
事実は小説より奇なりって言うしな。
614名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 14:41:00 ID:xxRgYChr
615名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 22:57:04 ID:m+QSjy6h
しゅ
616名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 16:14:19 ID:1sjqPpIe
保守がわりに・・・


可愛い幼馴染みが欲しいやつ、どのくらいいる?
617名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 16:26:01 ID:qp1yjy0f
もちろん俺
618名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 17:34:15 ID:qp1yjy0f
619名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 18:31:47 ID:N3vdek96
幼馴染を欲しいと思った時既に!
その機会は失われている!
620名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 21:53:17 ID:R9wT3Oti
>>618
全力で詳細希望だ! ところで年を越してからクリスマスネタを投下するのってやっぱり変かな? 完成するのがそれぐらいに
なってしまいそうなんだけど……。
621名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 22:21:53 ID:2pirU3Zb
>>618
もうみとのんは漫画描かないんだぜ…
大好きな絵柄だったのに
622名無しさん@ピンキー:2007/12/28(金) 16:56:10 ID:ZGjyR7qn
今週のヤングキングの師走の翁の読み切りが幼なじみモノだった

結末が………なんで、神に補完版を書いて貰いたい
623 ◆6Cwf9aWJsQ :2007/12/28(金) 19:32:42 ID:BlO7XSyK
俺さ、クリスマスイブはぼっちゃまとジャ○クム○ンの喪に服して
SS書かないって決めてるんだ・・・。

嘘ですただ単に遅れただけです御免なさいというわけで今更クリスマスネタ。
本日はクリスマスイブ。
全国の恋人達が仲むつまじくちちくりあい、
全国の恋人のいない人達が涙をのむ日だ(極論)。
ついでに今朝から雪が大量に降ってきて、ホワイトクリスマスとなっていた。
そしてその色を名に頂くこの俺、白木啓介はというと――――

「うー寒・・・」
朝っぱらから自宅でコタツで暖まっていた。
「そうね・・・」
隣にいるサンタ服の少女――――俺の幼なじみにして恋人、黒田綾乃が相槌を打つ。
「サンタ服着てるのにだれてるなー、お前」
「サンタにだって休息くらいあるわよー」
「よりにもよってイブに休むなよ」
「いーの。サンタは夜に仕事するから」
風俗嬢みたいだな、とツッコミをいれそうになったがなんとなくやめておく。
「つーか近い近いって、いくら寒いからってこれはないだろう」
史上最大にやる気のないサンタガールは俺に身をすり寄せて甘えてきていた。
「いーじゃない。啓介だってイヤじゃないでしょ?」
「・・・まー否定せんが」
確かに綾乃は体温高めだし今彼女が着てるサンタ服ももこもこして肌触りいいし、
何より彼女の髪の柔らかさやそこから漂ってくる香りが心地いい。
「ところでさ」
「ん?」
聞き返す俺に、なぜか頬を紅潮させた綾乃は一瞬目をそらすがすぐに視線を戻して
「今啓介が触ってる物って、私の胸なんだけど」
「なぬっ!?」
いわれて自分の手に視線を向けると、確かに俺の手指が綾乃の豊満な乳房を鷲掴みにしていた。
なるほど通りでセーター触ってたはずなのに弾力を感じたはずだ。
「って、指摘しても手は止めないんだ」
「うん。今更言っておくが自分でもビックリだ」
「ホントに今更ねー・・・」
口調は呆れた感じだが、顔は明らかに喜びを表現している。
「啓介さ」
「ん?」
「この前私の胸揉んだよね?」
「あ、ああ・・・」
俺は当時のことを思い返し、こみ上げてくる恥ずかしさに襲われるが、
それを知ってか知らずか綾乃は自分の乳房を揉んでいる俺の手に手を触れさせ、
「あれから、胸で感じるようになっちゃったの。責任とって・・・」
男心を非常に刺激するその仕草に、不覚にもときめいてしまった。
その行為に敬意を表してたまにはこちらから攻めてみようと、
イタズラ心から俺は普段なら絶対言わない台詞を口に出す。
「結婚ならちゃんとしてやるなら安心しなさい」
そういわれた瞬間、綾乃は俺の予想を遥かに超えて体中の肌の露出した部分全てを赤くしていた。
・・・あれ?
「・・・啓介」
「・・・なんだ?」
とてつもなく嫌な予感がしつつも返事をすると、
綾乃は先ほどとは比べ物にならないほど赤くなりながら、
「私、『責任とってエッチなコトして』って、言おうとしたんだけど・・・」
・・・あれれ?
「あー、えーと、うんそれはだね・・・」
ことの重大さにようやく気付いた俺は慌てて彼女から目を全力でそらし――――
「「「「あ」」」」
なぜかドアに隠れてこちらを見ている4つの人影と目があった。
「「・・・・・・へ?」」
予測を超えた自体に俺と綾乃の頭脳はフリーズを起こし、
「なななななななんでお前らいるんだよ!?」
再起動した途端、友人という名の乱入者達にろれつの回らない声を飛ばした。
・・・復帰してもパニック状態は直ってないようだ。
「いや、ヒマだったからバカップルウォッチングしに来たんだが・・・」
そういうと一同は一糸乱れぬ動きで俺と腕の中の綾乃を順に見比べ、
「・・・期待以上だったな」
黄原の発言に頷く他3名。
「つーか、イブなんだからおとなしく恋人同士でイチャついとけよっ!」
「いやイチャつくのは他の日でも出来るし」
「今日ぐらいしかそーゆーことできないわけじゃないし」
「そーゆーのは明日すrゲフンゲフン」
「というわけで御邪魔してます」
「ホントに邪魔してるよお前らっ!とにかく座って待ってろ茶出すから!」
これ以上好き勝手されたら叶わないので不法侵入者どもに釘を刺すと俺達は逃げるように部屋を出た。
「・・・ったくもう」
「いいじゃない。賑やかだし」
「そりゃそうだけどな・・・」
溜め息混じりにそう返すと、俺は綾乃の耳に口を寄せ、
「・・・ちゃんとしたのは今度するから」
「・・・うん。楽しみにしてるね」
他の物には絶対に聞こえないように小声での会話だが、なぜかハッキリと聞こえた。
627 ◆6Cwf9aWJsQ :2007/12/28(金) 19:42:01 ID:BlO7XSyK
以上です。
>>618さんわざわざありがとうございます。

それでは皆さん、よいお年を。
628名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 01:50:50 ID:F2lMkK4e
相変わらずのバカップルぶりにw
とにかく乙です。
629名無しさん@ピンキー:2007/12/29(土) 10:05:26 ID:t2fbeu/m
>>618
啓介は黒髪であるべきだ
もっと全身からオーラが溢れ出てるような

それはそうと、乙です
630名無しさん@ピンキー:2007/12/30(日) 09:42:05 ID:O5QNWiyF
>>627
乙乙乙おつおつおつ(中略)おつ。
来年も期待してますよー
631名無しさん@ピンキー:2007/12/30(日) 20:14:51 ID:JZ4a7699
>>627
なんと義理堅い御方だ。それはともかくGJ!であります


ところで、そろそろ新スレの季節が近づいてきた頃だと思うんだけど
明日立てれば2007年最後の日付が>>1に載るけど明後日にすれば新年の日付になる
一体どっちになるんだろう
632名無しさん@ピンキー:2007/12/31(月) 01:44:44 ID:wnKe1REV
ここは気分良く新年一発目にスレ立てといこうじゃないかに一票
633名無しさん@ピンキー:2008/01/01(火) 12:31:16 ID:uFewZ5m1
誰か新スレ立てない?
634名無しさん@ピンキー:2008/01/01(火) 13:20:09 ID:oxjuAFGG
次スレ立てますた
以下↓

【友達≦】幼馴染み萌えスレ14章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1199161005/
635名無しさん@ピンキー:2008/01/05(土) 21:01:25 ID:0gSbO6FM
埋めネタ待ちアンケート

以下の中から選んでくれ

1.気の置けないサバサバした幼馴染み
2.優等生幼馴染み
3.天然ほんわか幼馴染み
4.年下妹っぽい幼馴染み
5.お姉さん幼馴染み
6.世話やき幼馴染み

住人のみんなはどんな子が好き?中になければ具体的に
636名無しさん@ピンキー:2008/01/05(土) 21:01:54 ID:ojq7bU5r
1か2
637名無しさん@ピンキー:2008/01/05(土) 21:03:51 ID:s8eisU4D
1+6とかはとてもすき
1単体とかもよし
5は3が入らないのが好みだな
638名無しさん@ピンキー:2008/01/05(土) 21:17:34 ID:n6kvfH+0
幼なじみってだけで満足できるからなあw
このスレに投下された作品のヒロインで項目を埋められるかな
639名無しさん@ピンキー:2008/01/06(日) 01:18:44 ID:wiVZ/Qae
何番でもいいが、淫乱というプラス要素が加わればさらに良い。
640名無しさん@ピンキー:2008/01/06(日) 11:04:54 ID:AYiceoio
この中なら1+3とか、2+5とか。
単独でもいいけど、4みたく年下っぽい・年下なのはあわないかも。
641名無しさん@ピンキー:2008/01/09(水) 00:48:45 ID:fBisj38x
>>637
1+6か。流石幼馴染みスレ住人。こういうキャラが良いとか言う奴は
ここ以外にはあまりいない気がする
642名無しさん@ピンキー:2008/01/09(水) 00:54:55 ID:fBisj38x
連投すまん。念のため言って置くとおれもこういうキャラが好きだ
だが、この手のタイプで最近良いキャラって商業作品であんまり出てないような、と言いたかった
643名無しさん@ピンキー:2008/01/09(水) 01:29:27 ID:dGNdumfK
>>642

最近は分からない

古くは

センチ…妙子
TLS…のぞみ

後は忘れた
644名無しさん@ピンキー:2008/01/09(水) 03:35:02 ID:umh7mv54
スクールランブルという漫画があってだな
645名無しさん@ピンキー:2008/01/10(木) 21:50:53 ID:WU7DRSV6
まあアレだ。気の置けないサバサバした(ry と言っても人によって想像する性格は違うだろうしな
勝気系とか悪友系とかを想像しても、それはサバサバした、というのとは微妙な違いが有るような気もする
って国語のおべんきょーみたいなことを言ってしまった
……作品投下じゃなくて雑談でスレ埋めるか?
646名無しさん@ピンキー:2008/01/10(木) 23:35:39 ID:mp/04xi1
じゃあ久しぶりに昔の作品について話題を振ってみる。
まゆことみいちゃんの新作ないのかなぁ。
647名無しさん@ピンキー:2008/01/10(木) 23:53:05 ID:l+AJErr1
ええい、絆と三人の新作はまだか!

ああ来るまで猫のアサナで待つとも!

という訳で待つしかないのだ、同志オサナナジミスキーよ。
648名無しさん@ピンキー:2008/01/11(金) 22:21:58 ID:SG47OH4k
>>646
保管庫で見てみたが中々おもしろいな。連休中に読むかな
649小ネタ?:2008/01/15(火) 00:57:27 ID:wrtj5jfW
「なぁ」
「んー?」
「今日、お前の誕生日だったよな」
「そうだけど」
「こうしてお前とこの日をだらだら過ごすのも何回目だ」
「4才のときからだから…だいたい15回くらい?」
「そうか。で、今年はプレゼントがあるんだ」
「へー、そんなのくれたことなんて、ほとんどなかったのにね」
「ほっとけ」
「はいはい。で、何くれるの?」
「……よし、ちょっとそこ座れ」
「ん?……ここでいいの?」
「大丈夫だ。そしたら目をつぶれ」
「はいはい」
「……」

ちゅっ

「!……んっ…」
「……」
「んっ…むぅ…ぷはぁっ。……今の、って」
「…オレのファーストキスだ、返品は認めない」
「……自分が、何したか、わかってる?」
「口で言うより伝わると思った。いまさら言葉にするのも、恥ずかしいし」
「……こっちのが、余計に恥ずかしいと思うけど」
「気分を害したなら謝る。代わりにいくらでも殴れ。ほら」
「……てか、これアンタ二回目だし」
「なっ!?」
「記念すべき第一回誕生日プレゼントだったでしょ」
「わ、忘れてた……」
「で、これが……」

ちゅっ

「!」
「……三回目、ね?」
「……お前も十分恥ずかしいよ」
「お互い様よ」
「…じゃ、そういうことで」
「今後ともよろしくね」
650三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI :2008/01/18(金) 00:57:34 ID:MDuk2wlu
お久しぶりですと書くのもおこがましい。
5ヶ月ぶりに続きを投下させて頂きます。
651三人  ◆vq1Y7O/amI :2008/01/18(金) 00:59:05 ID:MDuk2wlu
 微かなときめき。それは想いにも似た。


12:Over


「――――でも、やっぱり、してやられた気になりますね」
 そういいつつも、ふと紅い冷麦と白い素麺がくるくると水引の形に結ばれる絵が頭に浮かび、お似合いかもしれない、
と思うのだった。

 そこまで読み終えてからチラリと腕時計を見た忍は、待ち合わせの時間になっていることを確認する。名残り惜しいが、
これ以上はやめておこう。思いながら彼女は、読んでいた本、北村薫の『朝霧』を閉じた。
 ほぅ、と漏らすは溜息。この作者が描き出す世界は、優しい。だがそれは、現実から乖離したファンタジーではない。
綺麗ばかりでない人の心を見つめ、浮かび上がらせ、だけど――――包み込む。読後に残るのは、穏やか。時に
それは、切なくもあったけれど。
「よう、早いな」
 そんなことを考えていたせいか。間近に立たれて声をかけられ、一瞬、忍は驚く。
「なんだ、どうかしたか?」
 敏感にそれを感じ取ったのだろう、怪訝そうに尋ねてくる亮太に、彼女は慌てて首を横に振った。
「別になんでも。ちょっと、ぼぅっとしてただけです」
 答えながら忍は、自分の頬が朱に染まっていくのを感じていた。何となく気恥ずかしい思いを抱きながら、立っている
彼の顔を見上げる。が、そうか、と言ったばかりで特に何の表情も浮かんでいなくて。
「で、そのコルトンってのは?」
「この近くです。そんなに遠くはないですよ」
 応えて忍は先に立ち、彼を件の店へと連れていく。コンクリートの車道にはメラメラと陽炎が立ち昇り、照り返しすら
眩しくて。
「にしても、暑いな」
 首筋の汗を拭う亮太は、ボーダーのポロシャツをラフに着こなしている。だがその色は黒。
「黒なんて、着てくるからですよ」
 からかうように言う忍が身にまとうのは、白のタンクトップの上に淡いブルーのシャツ、下は膝丈のデニム。見た目にも
涼しそうな彼女の装いをチラリと見て、亮太は軽く肩をすくめた。
「いいんだよ。好きなんだから」
「まぁ、似合ってると思いますよ」
 何のフォローにもならないと知りつつ言った彼女の言葉に、彼は小さく溜息をついたのだった。
652三人  ◆vq1Y7O/amI :2008/01/18(金) 00:59:49 ID:MDuk2wlu
「ここが、そうですよ」
 カランカラン。聞き慣れたベルの音を鳴らしながら、忍はドアを開けて店内に入る。テーブルを拭いていたウェイトレス
が振り返って、
「いらっしゃいませ……って、なんだ、忍か」
「なんだ、はないでしょ。由梨さん」
 投げやりな幼馴染の姉の態度に、忍は小さく苦笑する。
「またうちで読書? 休みなんだから、一人で過ごしてないで、誰かと遊びに行ったら? うちのバカ妹なんて、朝から
飛び出して行ったってのに」
「あいにくだけど、今日は二人席で」
 彼女がいつも一人で座るカウンター席に案内しようとした由梨を、忍は呼び止めて振り向かせる。こちらを向いて
ようやく、亮太の存在に気付いたのだろう。由梨は、あら、と小さく呟いて二人を見比べた。
 そして、彼の耳には届かないよう、小さな声で投げかけられる問いかけ。
「彼氏?」
「先輩」
 聞かれるであろうと想像していた言葉に、あらかじめ用意しておいた答えを即座に返す。ふぅん、と頷く由梨はしかし、
納得したようではなかったけれど。
「知り合いなのか?」
 案内された席に向かい合って座ると同時に尋ねてきた亮太に、忍は小さく首を縦に振った。
「幼馴染のお姉さんなんです。ここでバイトしてて」
「ああ、それで」
 納得したように言った後、彼は横目でわずかに由梨を見やる。彼女は、興味津々といった態を隠そうともせずに、
遠巻きに二人を眺めていた。
「ほっときましょう。気にしたってしょうがないですよ」
「まぁ、そうだな」
 頷きあって二人は、テーブルのメニューを開いて見始めたのだった。

「確かに、ここならわかる気がするな」
 運ばれてきたアイスコーヒーに手を付ける前に、店の中を見回していた亮太が、頷きながらそう呟いた。怪訝そうに
見つめる忍の視線に気付いて、彼は椅子に座りなおす。
「なんつーか、いい場所だと思ってな」
「ここが、ですか?」
「雰囲気はいいし、値段もそこまで高くない。あんまりうるさくもなさそうだし、一人で本を読んだりするのにはむいてるな、
ってことだよ」
 亮太の言葉に、彼女は同意の頷きを返す。確かにここには、暖かい何かがある。ゆっくりとした時間が流れる中、好き
な本に没頭するのはたまらなく気持ちがいいものだ。
「よく来てんのか?」
「ええ。一応、家族料金がききますし」
「叔父さんだっけか」
 ハイ、と返して忍は、厨房の方を見やる。少し客が入ってきたせいだろうか、彼の姿は全く見えない。
「ちょっとまだ、話は聞けそうにないですね」
「忙しそうだしな。ま、気楽に待つさ」
 コーヒーも美味いしな。言ってアイスコーヒーを飲む亮太の、どこかおおらかな態度に忍は小さく微笑む。
 一歩間違えれば横柄とも取られかねないその姿は、彼女の目には好ましく思えたから。
653三人  ◆vq1Y7O/amI :2008/01/18(金) 01:00:44 ID:MDuk2wlu
「はい、これ」
 突然、テーブルに置かれた二皿のサンドイッチに、本の話に夢中になっていた二人は戸惑う。持ってきた由梨はと
言えば、近くのテーブルの椅子を引いて座り、食べなさいな、と促して。
「マスターからの奢りだって」
「そういうわけには……」
 困惑して断ろうとする亮太を、しかし彼女は目で制す。
「いいから食べな。ただでさえ忍が男を連れてやってきたってんで、落ち着かないみたいなんだから」
 由梨の言葉に、忍は大きな溜息を吐く。勘違いをしたのは、由梨だけではなかったようだ。
「いいですよ、先輩。食べちゃって下さい」
「そうか? じゃあ、ま、頂くか。腹も減ってたところだし」
 後でしっかりと誤解を解かないと。そう思う彼女をよそに、亮太はサンドイッチを一つ摘む。
「うまい」
 満足そうに言う彼に、忍は思わず苦笑する。なんだか考えているのがバカらしくなって、彼女もサンドイッチに手を
伸ばした。
「それで? なんでうちに来たわけ?」
 客の波が引けたせいか、すっかりとくつろいでいた由梨がそう言ったのは、二人がサンドイッチを半分も食べてから
だった。
「え?」
「何か理由があって来たんでしょ。あぁ、彼氏を見せびらかしに来た、ってわけか」
「ちょっと、由梨さん」
 慌てる忍を見て、由梨はからからと笑った。からかわれていたのだと知って、彼女は憮然となる。亮太はと言えば、
呆れたように二人を見守るばかり。感じるその視線に、さらに気恥ずかしくなって、忍は目を伏せた。その頬は、
ほのかに熱を帯びていて。
「それで? 何があったのよ」
「別に由梨さんには関係がないし……って……」
 何かが引っかかった気がして、彼女は顔を上げた。きょとんとする二人に構わず、忍は問いかける。
「由梨さんって、確かうちの学校の卒業生だったよね。戸塚秀人、って人、知らない? それか、井上玲子って子」
「は?」
 目を丸くする彼女とは別に、驚きの表情を浮かべるのは亮太。
「考えてみたら、由梨さんと同じぐらいの年頃のはずなんです。この二人。だから、もしかしたら知ってるかもって」
「ちょ、ちょっと待って。一体、何がどういうことか、説明してくんない?」
 彼に向かって説明する忍の言葉を遮って、由梨が身を乗り出してきた。
 そこで彼女と亮太は説明する。
 図書館で見つけた本に、手紙が入っていたこと。その差出人が戸塚秀人で、送った相手が井上玲子という名前だった
こと。手紙の本文は暗号だったこと。その暗号を二人で解いたこと。そこから出てきたコルトンという言葉から、彼女達は
ここにやってきたのだということ。
「なるほど、ね」
 かわるがわる話す二人の話を黙って聞いていた由梨は、最後になってようやく、そう呟いた。その唇には、微笑。とても
愉快そうに、そして悪戯っぽく、彼女の瞳は光っている。
「何か知ってる、って顔ですね。由梨さん」
「知ってるってなら、何か教えて下さい」
 頼み込んでくる二人の姿を交互に見つめた後、由梨は小さく頷いた。
「ええ、知ってるわよ、二人とも。私の同級生だったからね」
654三人  ◆vq1Y7O/amI :2008/01/18(金) 01:01:44 ID:MDuk2wlu
 やっぱり、と思うと同時に、忍は思わぬ偶然に驚きを覚える。
 期待をしていなかったわけではない。だが、もう数年近く前のことを、叔父が覚えているとは思っていなかった。
毎日のように訪れる客、その中のただ一人なのだから。
 それが、予想もしてなかった人から、情報が手に入ったのだから。
 ふと見やると、同じように感じたのだろう、亮太も口元に微笑を浮かべていた。視線がぶつかり、彼女もまた微笑む。
「やったな」
 言葉と共に宙に置かれた手、それが何を意味するかをすぐに理解して、忍は同じように手を差し出した。
 パーン。
 響く音。ハイタッチ。掌に微かに残る痛みも、何故か心地良かった。
「あんた達ね、他のお客さんに迷惑でしょうが」
 苦笑と共にかけられた言葉に、二人は驚きと非難で向けられた視線に気付く。想像以上に、ハイタッチの音は
大きかったようだ。
「ま、気持ちはわかるけどね」
 真っ赤になって小さくなる忍、同じように赤くなりながら照れ隠しの仏頂面をする亮太。そんな二人を交互に見て、
由梨は小さく肩をすくめた。
「で、あんた達はその手紙を届けたいわけだ」
「……うん。出来れば、届けたい」
 彼女の言葉に、亮太も頷く。
 最初は、そこまでを求めていたわけではなかった。心のどこかでは、見つけることは無理だろうと思っていた。
 だからこそ、こんなにも驚いたのだ。届けられると知って。

 そこまで考えて、忍は戸惑う。
 無理だと思っていたのに、どうして私は。
 彼を、吉川先輩を誘ったのだろうか。

「でもね、井上玲子って子は、もういないの」
 物思いは一瞬。由梨の言葉に、忍は彼女を見つめる。
「どういう……ことですか?」
 胸のうちに浮かんだ小さな疑問など、一瞬にして吹っ飛んでしまった。次々と脳裏に過ぎる悪い予感に、唇はすっかり
乾いてしまって。
 だが、次に彼女が見たのは、由梨の瞳が悪戯に輝く様だった。
「井上ってのは旧姓……ってのとはちょっと違うのかな。ともかく、古い姓でね。彼女、卒業前に親が離婚しちゃってね。
母親に付いていくってことで、転校していっちゃったのよ」
 だから井上玲子はもういない、ってわけ。そう続けた由梨は、楽しそうにすっかりと脱力した二人を見やる。
「塩崎。お前の知り合いは、なんというか……悪趣味だな」
「偶然ですね、先輩。私も同じこと思ってました」
「あら、失礼ね」
 心外だわ、とおどけるその様は、明らかにこの状況を楽しんでいる。
 そう言えばこういう人だった、と今さらながらに忍は思い出し、深い溜息をついたのだった。
「じゃあ、今の居場所は知らないってわけか」
 憤りのせいか、ぞんざいな口調の亮太の言葉に、しかし由梨は首を横に振った。
「知ってるわよ。あんた達のすぐ側にいるじゃない」
「は?」
 またからかわれているのか。そう身構える隙も与えず、由梨はゆっくりと続けた。

「井上ってのは古い姓でね。今の名前は佐野玲子。あんた達の学校の先生してるはずよ」
655三人を書いた人  ◆vq1Y7O/amI :2008/01/18(金) 01:04:07 ID:MDuk2wlu
まず一言。

投下し終えてから、次スレがあったことに気付きました。



まぁこっそりと戻ってきたということで。
656名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 21:46:28 ID:O+7FsO87
GJ!お待ちしておりました
しかし5ヶ月ですか。なんとも早いものですな
657名無しさん@ピンキー:2008/01/19(土) 00:37:17 ID:y/bwZzgj
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!

久々の三人に癒されまくりですよ。忍しか出てないけど。
先生が玲子さんですか。どう展開していくのか楽しみ。
五ヶ月ぶりなのに空気感の良さは相変わらず素晴らしい。GJ!
658名無しさん@ピンキー:2008/01/20(日) 20:03:24 ID:d1xwMsi7
埋め埋め
659名無しさん@ピンキー:2008/01/21(月) 21:23:41 ID:EPyL9953
そしておれたちの熾烈な1000取り合戦が始まる・・・・!
660名無しさん@ピンキー:2008/01/21(月) 22:34:18 ID:uSg0yxOk
>>1000取れたら
俺に素敵な幼馴染みが降臨する
661名無しさん@ピンキー:2008/01/22(火) 02:31:13 ID:LwiXovjg
埋め
662名無しさん@ピンキー:2008/01/23(水) 02:44:10 ID:Ppv/DeTV
うめ
663名無しさん@ピンキー:2008/01/24(木) 00:43:53 ID:H70GOq9p
664埋め
 幼馴染みは言いました。
「結婚してください」
 私はそれに答えました。
「いやです」
 彼は一瞬呆然となって、それから私に詰め寄りました。
「俺に不満な点があるのか? 教えてくれ」
 私は答えました。
「私はもう八十歳なのよ。こんなおばあちゃんになってしまってからそんなこと言わないでください」
「年齢なんて関係ない! ようやく俺は本当の気持ちに気付いたんだ。遅くなってしまったけど」
「遅すぎです。半世紀早く気付いていてくれたら私も応えたかもしれないのに」
「……もう駄目なのか? いっしょにはいられないのか?」
「……あなたは何を言っているんですか?」
 少しもわかってない彼に、私は言いました。

「これまでもずっと近くにいたではありませんか。結婚しなくてもこれからもそれは変わりませんよ」

 残り少ない時間かもしれませんがこれからもよろしくお願いします、と私は小さく頭を下げました。