【友達≦】幼馴染み萌えスレ9章【<恋人】

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1名無しさん@ピンキー
幼馴染スキーの幼馴染スキーによる幼馴染スキーのためのスレッドです。

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7代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ7章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1136452377/
6代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ6章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1130169698/
5代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ5章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1117897074/
4代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ4章【<恋人】
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3代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ3章【<恋人】
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2代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ2章【<恋人】
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初代スレ:幼馴染みとHする小説
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1073533206/

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気の強い娘がしおらしくなる瞬間に… 第5章(派生元スレ)
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*これまでに投下されたSSの保管場所*
2chエロパロ板SS保管庫
http://sslibrary.gozaru.jp/

■■ 注意事項 ■■
*職人編*
スレタイがああなってはいますが、エロは必須ではありません。
ラブラブオンリーな話も大歓迎。
書き込むときはトリップの使用がお勧めです。
幼馴染みものなら何でも可。
*読み手編*
つまらないと思ったらスルーで。
わざわざ波風を立てる必要はありません。
2名無しさん@ピンキー:2006/07/20(木) 23:38:58 ID:P5uP+TcV
>>1
スレ立て乙!
3名無しさん@ピンキー:2006/07/20(木) 23:54:29 ID:4gKuwUS1
>>1
4 ◆tck5kEzHmE :2006/07/21(金) 00:40:39 ID:eAv1jP2I
>>1
乙です。

前スレ>>632氏に幼馴染を返してもらわないと!
と思うので前回と同じくらいの量を投下します。
5クリック? クラック! ◆tck5kEzHmE :2006/07/21(金) 00:41:33 ID:eAv1jP2I
 結局、多島に促されたような形で瞳と練習をすることになった。
「練習、どこでする?」
 いつものように一緒に下校しているさなか、瞳が訊いて来た。
「まあ、俺の家かお前の家のどちらかだろ」
 他に練習出来そうな場所も思い浮かばないし。
 うーん、と、口元に人差し指をやり考える瞳。
「そうだね……。じゃあ、私の家にしない?」
「ん、俺は別に構わないけど、どうして?」
「しばらくの間、お父さんもお母さん家にもいないの。だから静かだし」
 両親がいないという言葉に、思わずどきりとする。俺も青少年だし、それくらいの反応はするさ。
尤も、いつもと何一つ変わらない幼馴染の様子を見ていると変な妄想なんて消え去るんだけど。
「おじさん達、出かけてるのか?」
「うん。そろそろ結婚記念日だから、今年も二人で出掛けてくるって言ってた。
一週間くらいで帰ってくるって」
「……そりゃまた、仲のよろしいことで」
 相変わらずだな、と俺は苦笑する。
同時に、今になっても衰えないその愛情の深さに感心した。
俺もいずれ結婚したらそんな風になってみたいもんだ、とちょっと思う。
恥ずかしいけどさ。でも、それが幸せならいいだろ?

「で、私の家でいいのかな?」
 それで構わん、と頷く。
 まだ日は高く、それでも夕方の空気を漂わせるいつもの河川敷を歩いて、
俺達は瞳の家に向かった。
6クリック? クラック! ◆tck5kEzHmE :2006/07/21(金) 00:42:25 ID:eAv1jP2I
「ただいま」
「お邪魔します」
 ガラガラという引き戸の音を背に、俺は慣れ親しんだ幼馴染の家に上がり込む。
瞳の家は純和風といった感じで、部屋の殆どは和室、
当然部屋の仕切りはふすまになっている。
それでも台所と瞳の部屋だけは改装したらしく、その二つの部屋だけ現代風という、
微妙にミスマッチな風景だ。今更違和感は感じないけど。

「そういや、瞳の家に来るのは久々だな」
 ここ一、二年くらいはこの家の中に入った記憶はなかった。
ここ最近、どっちかの部屋に集まるって場合は、エアコンありPCありで快適便利だってことで、
もっぱら俺の家だったし。
「そうだね。あ、何か飲み物持って行くから、先に私の部屋に行ってて?」
「ああ、分かった」
 台所の方に行く瞳に応えて、45度近くの角度なんじゃないかという階段を上り、
きぃ、とドアを開ける。
 久々に見た幼馴染の部屋は、以前見た時とあまり変化はないようだった。
大きな窓に薄い緑のカーテン、勉強した痕跡が見られる机、漫画と小説と参考書が並ぶ本棚、
質素なシングルベッド、小さなガラステーブル。
記憶に無いのは、PCが置かれた机とエアコンくらいなもんだ。

 ガラステーブルの前で腰とバッグを降ろし、その中から先程渡された台本を探して取り出す。
さてどうしたもんか、と思いつつぺらぺらとページを捲っていると、
とんとん、という階段を登る音が僅かに聞こえる。
その音はこの部屋の前まで来て、そして止まった。
 やれやれと思いつつ立ち上がる。
「……えーく――わ!」
 扉の向こうにいる少女が声を発するのと、俺が扉を開けたのはほぼ同時だった。
「あ、ありがとう」
 自分が丁度望んだときに扉が開いたことに驚いたらしく、俺に礼を言いつつも、
目は軽く見開かれていた。
「分かりやすい奴だ」
「え、何が?」
 まあ、昔からの付き合いだと分かるもんだ。
飲み物や菓子をトレーに載せてここまで来たはいいものの、当然それは両手に持っているわけで、
開けられない扉を前にして困りあぐね、じゃあ中にいる少年に開けて貰おうと声を掛けようとした――
そんなとこだろう。あっさり予想できる。
「つーかさ、一旦、両手に持ってるもんを床に置いてから扉開けりゃいいだろ」
「……あ、そっか」
 俺は苦笑する。
普段はしっかりしているくせに、たまにどこか抜けた様子を見せる。
その辺はやっぱり相変わらずなんだ。
7クリック? クラック! ◆tck5kEzHmE :2006/07/21(金) 00:43:55 ID:eAv1jP2I
 しゃーっ、しゃーっというペンを走らせる小さな音が部屋に響き渡る。
「じゃあ、取り敢えず自分の台詞のとこだけ蛍光ペンか何かで線でも引いておこう?」
「そうだな」
 つい先程そんな会話をして、今現在俺達はその台詞通りの行動をしていた。
こうした方が確かに分かり易いし。
 大した会話もせずに、黙々と線を引く。
「……え」
 お互いもうそろそろクライマックスというところまで線を引いたところで、瞳からそんな声が漏れた。
「どうかしたか?」
 瞳の方は向かずに、声だけで問う。
「……え」
 ――が、返答を聞く必要は無かった。恐らく同じであろうところで、俺の筆は止まる。
何故なら、そこに書かれていた一文が目に留まり、驚いたからだ。
 俺の視線の先には、こう書かれている。

『ここで王子と姫、口付け』

 口付けなんていう少し古めかしいような感じに書かれているが、要するにキスだ。
俺も瞳も先程は多島に感想を急かされたのもあって、全体の半分程度しか読んでなかったため、
終盤のこの一文には気付かなかった。
 それにしても、キスだって?
「……マジかよ」
 するのか、劇中に?
 確かに王子とお姫様のお話っていえば、白雪姫あたりを思い出す人は多いだろうし、
そのお姫様が王子のキスで目を覚ますっていうのも連想されるだろうさ。
劇でやるなら、そういうシーンの一つでもあった方が盛り上がるだろう。高校生なら尚更だ。
 問題なのは、俺がその当事者ってことだ。
 見れば、向かい側に座っているもう一人の当事者は、ペンを不自然な位置に持って固まっている。
「………………きす?」
 唯一石化の状態異常になっていないらしい口で、それだけを紡ぐ。
 さてどうしたもんだろう。キスって。それ、やらなきゃならないのか。
「……いやいやいやいや。別にキスするフリだけでもいいんじゃないか?」
「……え、あ、そっか」
 俺が言った言葉が状態異常・石化を直す呪文だったらしく、はっとしたように動き出す。
それにしても、このくらいで顔を真っ赤にするとは、純情な奴だと思う。
「……フリ、かぁ」
 ふと、どこか感情のない表情で、瞳がそんなことを呟いた。
「何だ?」
「あ、う、ううん、何でもない」
 俺が問うと目の前の少女は、慌てたようにふるふると首を振る。
あからさまに何でもなさそうにないが、わざわざ聞き出すこともないだろうと、
そうか、とだけ答えた。

「じゃ、じゃあ、ちょっと合わせて朗読してみない?」
 まだ微妙に慌てたままの瞳に、俺は頷く。
「そうだな、やってみるか」
8クリック? クラック! ◆tck5kEzHmE :2006/07/21(金) 00:44:58 ID:eAv1jP2I
「ああ、愛しき姫よ。魔女の呪いがあなたに降りかかるさまを、私はただ見ているしかないのか」
「どうか気になさらないで。これも私のさだめ。甘んじて受け入れるしかないのです」
 ほぼ棒読みによる朗読。
 しかし、恥ずかしい。どこかのステージの上での練習ならまだ気分も出るだろうけど、
明らかな日常の象徴がいくつも存在する部屋で、しかもただ座りながらこんなことを喋っていると、
ほんとに恥ずかしくてしょうがなかった。
「私は決して諦めはしない。魔女を討ち倒し、必ずやあなたを永遠の眠りから救ってみせよう」
 その上台詞自体も恥ずかしさ一杯のオンパレードだ。
にやにやしながら台詞を打ち込む多島の顔が目に浮かんだ。くそ。


 なんとか羞恥心に耐え、最後まで朗読を終わらせる。ああしんどかった。
「……これをステージで演じろってのか」
 思わず溜息が漏れた。今から憂鬱になってくる。
「ちょっと恥ずかしいかもね」
「ちょっとなもんか」
 致死量に達するほど恥ずかしいわ。
「主役だから、しょうがないよ」
 それはそうなんだけど、今ひとつ納得がいかない。
この不満は明日、多島にでもぶつけてやると誓う。
9クリック? クラック! ◆tck5kEzHmE :2006/07/21(金) 00:46:23 ID:eAv1jP2I
「じゃあ、今日はこんなところでいいかな?」
「そうだな」
 もう日も沈んで、夜になる直前って感じだった。
俺と瞳の関係だからあまり気にすることはないとは思うけど、そろそろ帰った方がいいだろう。
「そんじゃ、俺は帰るよ」
「うん。気をつけてね」
「家は隣なんだから、気をつける暇すらねーよ」
「あはは」
 言いながら俺達は、踏みしめる度にぎしぎしと音がする階段を下り、玄関口に向かう。
「じゃあ、また明日」
「うん」
 靴を履いて瞳にそれだけ言って、玄関の引き戸に手をかけ、
「あ、そうだ」
「どしたの?」
「おじさん達、しばらくいないんだろ? 何かあったら連絡しろよ」
 これを言い忘れていた。
 まあ何もないとは思うけど、それでもおじさん達がいないってことは、瞳は数日間ここに一人なわけだ。
年頃の女の一人暮らし(期限付き)となれば、さすがに心配にもなる。
「すぐ来るからさ」
「うん。……ありがとう」
 にこ、と微笑んで瞳が言う。
「……ん」
 少し返答に焦り、それだけを答えて、俺は瞳の家を出た。

 さっきの笑顔に、少しどきっとした。
幼馴染の俺が言うのもなんだけど、やっぱりあいつは可愛いよな。
今まで誰とも付き合ったことがないっていうのが不思議なくらいだ。
 いや、中学時代に何度か告白はされていたって話は聞いたけど。そして、それを全て断っているとも。
女あさりに精を出していた俺とは随分な違いだ。まあ、精を出していたって言ったって、
俺に彼女が出来たのは一回だけで、それもキスまでしかいかなかったけどさ。
 ふと考える。あいつに恋人が出来たら。
幸せそうに笑う瞳。その隣にいる誰か分からない男。
きっと手を繋いで、キスをして、その先の行為もするだろう。思わず、その情景を想像する。
「……あー」
 何故か、心にもやもやしたものが僅かに浮かんできた。
何だ、俺は。瞳が幸せにしている光景に嫉妬でもしたのだろうか。
「……情けねえ」
 自分がよく知る奴が幸せになるなら、それに越したことはない筈なのに。
 軽い自己嫌悪を抱きつつ、徒歩10秒の我が家への道を、月明かりと無機質な電柱が照らす光を頼りに
のたのたと歩いた。
10クリック? クラック! ◆tck5kEzHmE :2006/07/21(金) 00:48:38 ID:eAv1jP2I
以上でした。

話がとってもスローペースで進んでいる気がしないでもないです。
考えてみたら今回投下分なんてほんの数時間しか経過していませんよ!
11名無しさん@ピンキー:2006/07/21(金) 00:49:09 ID:Ky4TFZjU
+   +
  ∧_∧  +
 (0゚・∀・)   ワクワク テカテカ
 (0゚∪ ∪ +
 と__)__) +
12名無しさん@ピンキー:2006/07/21(金) 01:09:04 ID:Ju4RN/MM
>>10
新スレのっけからktkr!!GJです。続き、正座して待ってる。
13名無しさん@ピンキー:2006/07/21(金) 01:28:39 ID:yoVHU1M/
>>1
乙ななじみ

>>10
最後の何気ないやりとりにモエス
14名無しさん@ピンキー:2006/07/21(金) 03:39:16 ID:E6PPEeMV
じわじわ進んでて、とても楽しみです。
このままじわじわくっついていくのか、それとも第三の人物が登場するのか――
期待して待ってます。
15名無しさん@ピンキー:2006/07/21(金) 13:54:27 ID:mQIXGvuw
乗り遅れた……
>>1>>10超乙!!!
16名無しさん@ピンキー:2006/07/22(土) 00:10:14 ID:DBOJnYLN
GJ!!
新たな名作の予感…
17ルキ:2006/07/22(土) 00:14:47 ID:5GY7X+R9
えっと、カキコ入れるの初めてなんで挨拶の仕方がわかりませんがとりあえず
>>1
>>10 GJ。今後の展開に期待。

で、一応途中までだけどSS書いてみたんだが駄文みたいなんでもよろしければ投稿しますが………(初めて書いた物なのでほんと自信の欠片もない)
どうでしょうか?
18名無しさん@ピンキー:2006/07/22(土) 00:27:58 ID:OoCJ+i8S
>>17
どんどん投下しちゃってください。
19名無しさん@ピンキー:2006/07/22(土) 00:46:12 ID:rodl/Nsj
>>17
初めてなら一度最後まで書いてみて、
推敲してからの方がいいかも。
ちょっと寝かすと色々見えてくるだろうしね。

だが投下は大歓迎だ。
20名無しさん@ピンキー:2006/07/22(土) 01:05:26 ID:OxuqhNvo
>>17
後、sageも忘れないでね。
メル欄に半角でsageと入れるだけだから。
もちろん、投下は歓迎するよ。
21名無しさん@ピンキー:2006/07/22(土) 01:14:45 ID:YNg8/q5L
>>17
24時間365日、投下をお待ちしております。
22ルキ:2006/07/22(土) 14:56:49 ID:5GY7X+R9
生殺しみたいになりそうですが、一応投下します。
携帯からなので改行とかミスってたら脳内補完お願いします。
23ルキ:2006/07/22(土) 15:15:07 ID:5GY7X+R9
手で触れることは出来るけど、心が中途半端にしか繋がっていない。そんな曖昧な距離を保って私とあいつはここ数年を過ごしてきた。
高校に入るまではお互いの考えてることなんてすぐに分かったのに、今では分からない事が多い。
成長した、とかいう自覚は私にはないし、見ている分ではあいつもたいして変わってないとおもう。というより、変わってないと思いたい。
それと、何故かここ最近あいつのことが気にかかる。何もする事が無いときとか気付けばあいつのこと考えててたり、授業中にふとあいつの席に目がいったり。
この行動が世間一般にどう言われるか私でも分かってるけど、認めてやるつもりはない。
認めてしまえば今まで作り上げてきた家族としての立ち位置が崩れてしまう。なによりまともにあいつの顔が見られなくなりそうで。
私はあいつ、悠樹との距離をもう一歩、言葉は届くけれど触れられない所まで広げた。

続きは明日の今頃に。
24名無しさん@ピンキー:2006/07/22(土) 15:26:34 ID:4ryPYvfk
面白そうで期待はできるんだけど、
このペースで小出しになるんだったらもうちょっとまとめて投下して頂けると有難い。
携帯だと難しいかもしれないけど、ある程度まとまった量の方が読みやすいし感情移入しやすいです。
25名無しさん@ピンキー:2006/07/22(土) 15:46:18 ID:ImcgmZJx
  ∧_∧  +
 (0゚・∀・)   wktkしながら続きを期待するよ
 (0゚∪ ∪ +        
 と__)__) +
26名無しさん@ピンキー:2006/07/22(土) 15:53:33 ID:v5VJt0iB
まだ冒頭すぎてなんとも言えないけど、確かにもうちょいまとめて投下してもらえないと
間に他の職人さんに割り込まれたりして、色々問題が出てくると思う

まあ次からがんばってくれ
27名無しさん@ピンキー:2006/07/22(土) 15:57:41 ID:D4X144xN
自分のペースで好きに書けばいいんじゃね?
>23なりの投下法でイイと思うよ。ガンバレ。楽しみにしてる。
28ルキ:2006/07/22(土) 22:44:44 ID:5GY7X+R9
ほんとはもうちょっと投下する予定だったけれどバイトの時間が迫ってきてorz

この後もうちょっと書いてきりのいいとこまで睡魔が襲って来なければ続き投下します。
29名無しさん@ピンキー:2006/07/23(日) 16:34:38 ID:3Ish4GOn
前スレ>>635-642の続きを投下するぜフゥハーハハハ
30今宵の月のように:2006/07/23(日) 16:35:45 ID:3Ish4GOn


 よく考えたらすぐに分かることだった。

 恋愛沙汰に慣れていないアイツに、自分の分と橋本君の分の、二人分の慕情を抱え込む
だなんて器用な真似が出来るわけがない。だから、彼への答えを出す前に、誤魔化し隠し
続けていた自分の気持ちにケリをつけようとしたんだろう。
 あの時の紗枝がとても切羽詰っているようにも見えたのは、そういう理由からだったの
かもしれない。

 今日のバイトは夜番だ。だから昼まで寝てても全然構わないんだが、早朝の時間帯が
過ぎた頃には家を出た。人と会う予定があったからだ。
 家から程近い喫茶店の扉を開ける。扉に当たり跳ね返ったベルの音を聞きながら店内を
ぐるりと見回すと、窓際の席に待ち合わせた相手が座っている。外を眺めているせいか、
まだ俺が来たことに気付いていない。
「よう、繭ちゃん」
 声をかけて、相手をこっちに振り向かせる。
「字が違います」 
 文字に書いたわけでもねーのになんで違いが分かんだよ。相変わらず不思議な娘だ。
「遅かったですね」
「毎日バイトだからな、多少の寝坊は大目に見てくれ」
 羽織っていたジャンパーを脱ぎ、席に近づきながらも減らず口を叩く。
「シフトは自分で入れるものだと思いますけど」
「あーはいはい悪かったよ」
 本題に入る前の時点で話が長引きそうだったので、片方の手をプラプラ振りながら自分
の非を認める。注文をとりに来たウェイトレスにコーヒーを頼むと、背もたれのある椅子
にどっかりと座り込んだ。
「で?」
「で、とは?」
「……とぼけんなら今すぐ帰ってもいいんだぜ?」
 ひくついた笑顔を浮かべて、何故かはぐらかそうとする真由ちゃんに釘を刺す。

 まあなんで今日時間を割いてまでこの娘と会うことにしたかというと、ここ最近、毎日
のように俺の携帯に連絡を入れてきやがるからだ。
 面倒だし話の内容も簡単に想像できるもんだから、最初はてんで会うつもりは無かった。
でも、毎日毎日着歴残されたりメール送られてくると、流石にこっちも気が滅入ってくる
わけで。着信拒否しようものなら色々遠まわしな嫌がらせを受けるだろうと考えた結果、
久々に暇を作ってこの娘と会うことにしたわけだ。
「どうなんだよ」
「……」
 普段とは違って、苛立ってるように見せかける。まあ、見せかけなくても実際苛立ってん
だけどな。それが誰に対して、何に対してなのかは俺自身にもよく分からんが。
「言わなくても分かってることを、わざわざ言う必要ありませんし」
 目の前にある、既に運ばれてきているレモンティーに彼女は目もくれない。その瞳は、
じっと俺に向けられている。
「そもそも私は、そんな人に優しくありませんよ」
 というか、睨んでいる。口調も淡々としているものの、その言葉の端々からは、明らか
に俺に対する敵意みたいなもんが込められている。
「お待たせしました、コーヒー……です…」
 俺が注文したコーヒーを運んできたウェイトレスが、そのあまりにピリピリした雰囲気
に耐えかねたのか、トレイを抱え逃げるようにその場を後にしていく。
「……」
「……」
 真由ちゃんの視線をかわすようにコーヒーに視線を落とし、砂糖だけをその中に溶かす。
その間、当然また沈黙。周りから見たら、別れ話をしようとしているカップルにしか見えない
んだろうなとか思うと、ちょっと頭を抱えたくなってくる。

31今宵の月のように:2006/07/23(日) 16:37:20 ID:3Ish4GOn

「紗枝に元気がないんです」



 睨みを利かせても無意味だと悟ったのか、フッとレモンティーに視線を落としたかと思うと、
彼女はそうボソリと呟いた。
「兵太に、あいつは今橋本君と付き合ってるって聞いたんだけどさ」
「……」
「付き合いは順調だっつってたぜ」
 机には灰皿が備え付けられていない。そういやこの店は全席禁煙か、まいったな。
「無理……してるんだと思います」
「ふーん」
 なんだかんだでいつも一緒にいたもんなぁ。そのくらいのことは、傍から見てて分かる
のかもしんねえな。
 スプーンでコーヒーと砂糖を混ぜ終えると、俺はそれを静かに啜り始める。当然、また
微妙な雰囲気のままお互いに沈黙を保つことになった。

「……紗枝とはもう、五年くらいの付き合いになるんですかね」

「……?」
 と、俺がそう思った時だった。真由ちゃんが突然、脈絡のない話を始めだす。ついつい、
奇異の目で彼女を見てしまう。
「この前のドタキャンだってそうです。今まで無かったんです、あんなこと」
 そういえば、この前からこの娘に対しておかしな印象を俺は抱いていたことを思い起こす。
普段はクールなのが、この娘の一番の特徴なんだが。
「へえ…」
 今もあの時もそうだ。感情が顔に出て、何かに焦って心配しているようにも見える。
と、そこまでいって俺ははたと気付く。
 この娘がそうなるのは、いつも紗枝絡みの時だってことに。

「あのさ」
「はい?」
「なんでそんなに紗枝のことを気にすんだ?」
 同時に脳裏に浮かんだ疑問を、そのまま言葉にして投げかけてみる。

「……」
 すると、真由ちゃんの表情に寂しげな陰が落ちた。

「お兄さんは、私はどういう性格していると思います?」
「……? なんだいきなり?」
「答えてみてくれませんか」
 なんかよく分かんねえけど、その顔は随分神妙な面持ちだ。
「んー……クールで表情もあんま変わんねえけど、口の方は随分達者だよな。特に皮肉とか」
 思ってることをそのまんま口にしてみる。
 すると、真由ちゃんは寂しげな表情のまま、口元をフッと緩めた。
「昔からそんな性格ですから」
 お、当たってたか。良かった良かった。で、それがどうかした…


「小学生の頃は、よくいじめに遭いました」
 

 ……。

「男子からはもちろん、女子からもお高くとまってるとでも思われたんでしょうね」

 そう言いながら彼女は、ようやくレモンティーに口をつける。
「小学生の時は、授業で発言する時以外はほとんど喋ったりしなかったんですよ?」
32今宵の月のように:2006/07/23(日) 16:38:44 ID:3Ish4GOn

「……」
「何か言えば、相手を怒らせちゃいますから」
 それまでのイライラした気分は、いつの間にかどこかへ消え去ってしまっていることに
気付く。代わりに胸に宿るのは、むやみにこの娘の過去をほじくった自分の浅はかさと、
どうしようもない申し訳なさ。
「……悪かったね」
「昔のことです」 
 周りの喧騒が急速に小さくなっていく。この席だけ空間が切り取られたような、妙な感覚を
俺は覚え始めていた。

「あの娘が初めてだったんです。他人と打ち解けられずにいた私に対しても、何度も話し
かけてきてくれたのは」

 ああ、そういや一人はぐれた奴なんかを輪に入れたがる奴だったなあいつは。仲間外れ
とか極端に嫌ってたからな。
「顔や言葉には出さないけど、いつも感謝してるんです」
「……なるほどね」
 要するに真由ちゃんにとって紗枝は、自分の人生自体を大きく変えてくれた恩人なわけだ。
紗枝の変化に戸惑い、気を揉むこの娘の理由が分かって短く息をつく。
    
「ですから」

 そこで、また真由ちゃんの口調ががらりと変わった。というか最初の、敵意を剥き出しに
していた状態に舞い戻る。
「紗枝の様子がおかしい原因が俺なら、許さないとでも言いたいのか?」
 睨み付けてくると言っても過言でもないその目を、俺も真正面から受け止め、見下ろす。
「他に誰がいるんです?」
「クラスの誰かと喧嘩したんじゃねーの」
「紗枝がそんな娘じゃないことは、あなたが一番良く分かってると思いますけど」
「……」
 適当な逃げ口上を叩き伏せられ、ぐうの音も出なくなった。

「紗枝をあんな風にしてしまったのは、あなたですよね」

 言葉がいちいち、突き刺さってきやがる。
「見てねえことには、何とも言えねえけどな」
「……」
「他人が相手の性格を全て把握することなんて、出来るわけ無いだろ」
 確かに俺は、紗枝を酷く傷つけた。だけど、あれは仕方なかった。今更後悔なんて出来る
わけない。それにそれを、他人に言う必要もまるで無い。
「いくら恩人が心配だからって、過剰に心配すんのはどうかと思うぜ」
 あの時、嘘をついてたら、紗枝の傷は今真由ちゃんが心配する程度じゃすまなかった筈だ。
「……」
 真由ちゃんの目が更に尖る。
「紗枝の気持ちにまるで気付けなかった人の台詞とは思えませんね」
 一転、目を逸らすと同時にその色は消え去る。代わりに、口調には俺に対する侮蔑が灯った。
「……知ってたのか?」
「本人から聞いてましたから。……まあ、言われる以前からなんとなく気付いてはいましたけど」
 敬語ではあるものの、明らかに敬意はこもっていなかった。

「応えてあげられなかったのは仕方なくても、もう少し優しく言ってあげられなかった
んですか?」
 この前、紗枝に対して思った印象が、そのまま今の真由ちゃんにもあてはまる。
 時折口調なんかに考えてることが洩れてたりすることはあったが、口調どころか、表情
まで感情が剥き出しになっているこの娘を見るのは初めてだった。
「見ても聞いてもないのに随分な言い草だね」
 まあ、それだけ紗枝のことを心配してるんだろうけど。それを俺に八つ当たりするのは
お門違いな気がする。そこらへんは年相応だな。
33今宵の月のように:2006/07/23(日) 16:40:16 ID:3Ish4GOn

「……」
「言いたくなる気持ちも分からないわけじゃねえけどさ」
 ヤニが切れて、そろそろ脳の辺りがジクジクして胸のあたりが落ち着かなくなってくる。
あーあー、そもそもなんでこんな話に付き合わないといけねーんだめんどくせー。

「じゃあ、どうして気付いてあげられなかったんですか」

「んー?」
 注意力が散漫になり始めたのを察知したのか、真由ちゃんは外の雑踏を眺めながら話を
変えた。これに答えたら、悪いけど一旦外でヤニを補給させてもらうか。
「あの娘、一度だけあなたに対する想いを私に語ってくれたことがあるんです」
 言葉を切っても、もう冷めてしまったレモンティーを口にしなかった。

「こんな性格になったのも、髪型をずっと変えないのも、あなたの言葉があったからだって、
そう言ってたんです」


……


「明るくて元気な娘が好きだから、だから頑張って性格を改善したんだって。初めて誉めて
もらった髪型だから、ずっとこの髪型にしていようって。似合ってるって言ってもらえた
のが、本当に嬉しかったんだそうですよ」

…………

「……冗談、だろ」
「本当のことです」
「確かに言ったことあるけど、すげえ昔のことだし、一回だけだぜ?」

「私がこの話を紗枝から聞いて、今ここで喋ってることが何よりの証明だと思いますけど」

「……」
 確かに、そうか。でなきゃ、なんで真由ちゃんがこのことを知ってんだってことになる。

「海でタンキニ着てたのも、お兄さんに目に留めて欲しかったんですよ?」
「……詳しいね」
「買い物に付き合いましたから。真剣に選んでましたし」

 俺が紗枝の水着を酷評した時、随分悲しそうな顔したのは、そういう理由だったのか。
普段の俺なら、相手が普通の女の子なら、絶対気付けたはずなのに。
 改めて、あいつのことをただの幼なじみとしてみてなかったことを思い知らされる。


 それに、そういえばそうだな。あの時、紗枝も言ってたな。


『あたしがこんな性格になったのも…ずっと髪形変えてないのも……崇兄が言ってくれたから
なんだよ……? 明るくて元気な娘が好きだからって……この髪形が凄く似合ってるから
って……そうあたしに言ってくれたのは、全部…全部崇兄じゃないか……』

 あの時は、紗枝のその先の言葉を言ってほしくない一心だったからな。あの場面で忘れてた、
数少ない台詞だ。
 そしてそれがまた、胸の錘になって圧し掛かる。胃に穴が開きそうな勢いだ。
34今宵の月のように:2006/07/23(日) 16:41:32 ID:3Ish4GOn

「……そうか」
 そこまでいって俺は、真由ちゃんが言いたかったことを、何となく察知する。
 どっちも本心を曝け出したのに、傷つくのが片方だけなんて不公平だとこの娘は思った
んだろうな。だから、俺の知らない面の紗枝の姿や気持ちを語って、俺にもそれを味あわせ
ようとしてるわけだ。
「本当に…気付いてなかったんですか」
「考えもしなかったからな」
「……」
「俺はあいつのこと、幼なじみ以上に見てなかったわけだし。あの距離感が一番心地良かったんだ」
 もちろん、同時に俺の本心を探ろうしているんだろうけどな。兵太を使ったり、随分
策士的な真似するじゃねーか。
「…最低ですね」
「何とでも言えよ」
 お前に何が分かるんだよ、そう続きを言いかけて喉で止める。落ち着けよ俺、この娘に
当たり散らして何になるんだよ。

「今村さんは、もっと大人の方だと思ってました」

「……」
 呼び名が普段の"お兄さん"ではなく、"今村さん"へと変わったことに、軽い違和感を
覚える。
「今村さんは、これまで何度か異性と付き合ったことがあるんですよね」




「紗枝の気持ちにも気付けないんだから、さぞ大人の恋愛をなさったんでしょうね」



 
「……」
 言葉の棘は留まることなく鋭くなる。段々と、本心を隠すため、平静を取り繕うための
鉄面を被るのが難しくなってきた。
「それとも、おままごとの真似事でもしてたんですか」
 何とか心を静めようと努める俺に、真由ちゃんは決して手を緩めなかった。

「……さあね」
 とうとう、吐き気まで催す。極めて軽度ではあったけど、それでも気分が悪いことに
変わりは無かった。随分、辛辣だな。

 だけど、自分の過去まで否定されても。何故か目の前の彼女に対する怒りが、一向に
沸いてこなかった。代わりに頭や胸、体全体を支配するのは、散々責め立てられたことに
よる圧倒的な疲労感。それが、絶え間なく俺に襲い掛かる。
35今宵の月のように:2006/07/23(日) 16:42:48 ID:3Ish4GOn

「……真由ちゃんはさ」
 言いたくなる気持ちは分かるけど、ちょっとあんまりなんじゃないか。
 いくらなんでもそこまで言うことないんじゃないか、この時、そういった気持ちもあった
のかもしれない。






「俺がさ……平気で…紗枝を振ったと思ってんの…?」






「…え」


「あ、いや……なんでもない」
 
 やっべ、何言ってんだ俺は。思わずこぼしちまった。
 この娘にこんなこと言ってもしょうがないだろうに、勝手に動くな俺の口。

 今の言葉をごまかすようにコーヒーをがぶ飲みすると、逃げ出すように立ち上がる。
「ちょっとヤニ補給してくるわ」
「あ……いえ、大丈夫です。もう話は終わりですから」
 そう言いながら、明細書を俺のほうへ差し出す。
「……」
「ごちそうさまです」
 相変わらずいい度胸してやがる。

「ありがとうございましたー」

 清算を終えて店を後にする。
「あの」
「ん?」

「色々失礼なことを言ってしまってすいませんでした」

「……いいよ、別に」
 あれだけ好き放題言っておきながら何言ってんだ、そう思った。頭を下げる行為すらも、
しらじらしく見えてしまう。
 どうせこの娘は、紗枝の味方だ。俺の気持ちなんざ、理解しようとしてくれるはずも無い。
そう思うと、少しだけ気分が楽になった。


「それじゃ失礼します"お兄さん"」


「……」
 何を今更、そうは思わなかった。
 何で今更、そう思った。

 考えてるうちに、彼女は身を翻し、雑踏の中へ消えていく。

36今宵の月のように:2006/07/23(日) 16:43:34 ID:3Ish4GOn


カチッ、シュボッ


「フーッ……」
 随分痛いところを付かれまくったな。まあ、そのくらい酷いことをしちまったわけだしな、
しょうがないか。

 最後の言動がよく分からなかったが、とりあえず真由ちゃんの気が晴れたという解釈を
するしかなく、早々に今までの出来事を脳の中心から追い出す。

 さあてどうすっか。タバコをふかしながらこれからどうしようか考え始める。
 家に帰ると二度寝しそうだしなぁ、折角の時間なんだからもっと有効に使いたい。つっても
パチスロくらいか、ちょうど開店する時間だしな。せめて少しの間くらい、紗枝のことを
忘れたい、考えたくない、そう思いながら行きつけの店へと足を向けた。







 が、しかし。



 悪い時には悪いことが重なるとはよく言ったもんだ。



 駅前を過ぎようとしたところで俺は、今一番考えたくない、今一番会いたくない人物と
出くわしてしまう。


「……!」
「あ……っ!」
 
 運まで悪く、気付いたのは向こうも同時。俺の存在を認識したのか、驚きでその目が
大きく開かれる。この状況じゃもう、お互いに無視することも出来なくなった。

 おそらく、デートの待ち合わせの最中なのだろう。



 紗枝が、そこに佇んでいた―――――


37今宵の月のように:2006/07/23(日) 16:45:22 ID:3Ish4GOn
|ω・`)……



|ω・`;)ノシ ゴメンネ、ハナシガススマナクテゴメンネ



|ω・`)……



|ω・´)9m スベテハサクヒンノナカデカタルヨ!


  サッ
|彡

38名無しさん@ピンキー:2006/07/23(日) 16:54:04 ID:HVjkN734
GJです!
初めてリアルタイムの書き込みに遭遇できた・・・
失礼ですが、続きが早く読みたいです
39名無しさん@ピンキー:2006/07/23(日) 17:44:51 ID:+Luro6K7
な、なんなんだ!!このもやもやとした感じはッ!!!!
(ゴロゴロと床を転がる)なんにしてもGJ!!
40名無しさん@ピンキー:2006/07/23(日) 18:11:29 ID:5wNN32xy
うぉぉぉ〜〜ッッ!!つ、続きが気になって何も手がつかない!!
さいっこーにGJ!!
…つ、続きが……
41名無しさん@ピンキー:2006/07/23(日) 18:24:14 ID:GJQlmA/i
俺的には、前スレの579あたりに唐突に投下したやつの続きが見たいww
42名無しさん@ピンキー:2006/07/24(月) 00:07:05 ID:pv7qhfeD
>>37
ムッハー!! (;゚∀゚)=3
これからも存分に作品の中で語ってください。
43名無しさん@ピンキー:2006/07/25(火) 03:50:26 ID:PXr5BBu+
age
44名無しさん@ピンキー:2006/07/25(火) 07:52:18 ID:BaZyR4I0
次の投下までは…生き延びてやる!
45名無しさん@ピンキー:2006/07/25(火) 14:32:31 ID:bExIku14
まったく萌えない、むしろ迷惑だった話…

春休みの時に俺は不覚にも風邪を引いて寝込んでしまったのだが
隣人である幼馴染み(以下幼)が様子を見に来てくれたんだ。
来てくれたまでは良かったんだけど、そいつが俺に昼飯を作ってくれた時に
事件は起こった……

幼「○○君、何か作ってあげようか?」
俺「じゃあ卵焼きでも作って。」
幼「は〜い」
数分後
幼「あーーー!!」
俺「おいおいどうした!?」

台所に行くと、なんとフライパンから火が出ていた。取り合えず蓋をきせて鎮火

俺「何で火がでんだよ!!」
幼「あ〜、油の入れすぎかな。」
俺「にしたってそれは無いだろ。」
幼「まあ、そんなことは良いから、食べてみてよ」
俺「食えるわけねーだろ!」
幼「う〜ん…、仕方ないなあ…」
結局その卵焼き(?)は捨てられ、その後幼は漫画を読んで帰っていった
ていうか実際あるんだな、フライパンから火が出る
46名無しさん@ピンキー:2006/07/25(火) 17:57:27 ID:RXh/RWfb
子供の頃俺もやったことある。
熱しすぎると火がつくんだよなあ。
で、それのどこが萌えないというんだ?
47名無しさん@ピンキー:2006/07/25(火) 20:21:22 ID:BaZyR4I0
>>45
見事なフラグ潰しGJ。
 
だが、萌えない事はないと私は思う。
48名無しさん@ピンキー:2006/07/25(火) 23:04:16 ID:ZGI1gyim
素朴な疑問なんだが、「蓋をきせて鎮火」という言い回しはどこかの方言か?
只の書き間違いなら失敬。
49名無しさん@ピンキー:2006/07/25(火) 23:22:41 ID:6XA+2shh
当方、静岡県西部在住だが。

蓋は「きせる」よ。
50名無しさん@ピンキー:2006/07/26(水) 00:02:35 ID:7Ab2NzVC
蓋は「する&かぶせる」だなぁ…@埼玉
51名無しさん@ピンキー:2006/07/26(水) 00:54:37 ID:7i8jaRgE
「させる」の間違いかと思ったら「きせる」って言葉があるとは…
( ・∀・)つ〃∩ ヘェーヘェーヘェーヘェーヘェー
52前スレ425:2006/07/26(水) 22:22:25 ID:e/cDxAcS
懲りずに投下に参りました
相変わらず携帯からなので読み辛い所があれば申し訳ない

幼馴染み臭が薄いのも相変わらずですが、暇潰しになれば幸いです
53それはまるで水流の如く:2006/07/26(水) 22:23:27 ID:e/cDxAcS
夏休み。
と言った所で教師には盆も彼岸も関係ない。

いや、ある事はあるんだけどさ。

夏休みだからと言って教師に四十日きっかり休みがある筈もなく、それなりに忙しかったりするのだ。
ここぞとばかりに県下の教師が集まって教育論を戦わせたり、生徒が集まるプールの監視員を務めたり。
勿論二学期に向けての授業確認なんかもあったりして、初めてだらけの私はもういっぱいいっぱい。
それでも何とかこなせているのは、他の先生方の指導と助けがあるからに他ならない。

そう。
別に誰か特定の人って訳じゃない。
例え幼馴染みが同じ学校で同じ学年の教師だったとしても、その人だけにお世話になってるなんて事は断じてない。
ないったらない。


なのに──


ほどよくクーラーの効いたリビングで、私は何とも居心地の悪い思いをしていた。
私が今居るのは、昔私が通っていた小学校のすぐ近く。
幼馴染み、門田直樹先生のお住まいである一軒家。
昔、門田先生が引っ越したばかりの頃に一度だけ家族で訪れた記憶がある。その頃に比べれば流石にくたびれてはいるけれど、手入れと掃除の行き届いた部屋は記憶の中と大した違いはない。

数日前、何日かぶりに学校で門田先生と顔を会わせた時、先生から改めて食事のお誘いがあった。
前々から門田先生のお母さんから晩ご飯の誘いはあったんだけど、色々と忙しくていまだにお邪魔した事がなかったのだ。
今日から一週間、私は少し早い夏休みで教職からは解放される。そんな私と全く同時期に休みを取った門田先生は、この機会に私を家に招待しようと思ったらしい。
実家に帰るぐらいしか特に用事もない独り身なので──自分で言ってて悲しいわ、コレ──私は素直にお誘いを受けたんだけど。
肝心の門田先生は、コンビニに煙草を買いに行くと言って、つい五分ほど前に家を出て行った。
残された私は一人ポツンとソファに腰掛け、出されたアイスコーヒーにも手を付けず、きょろきょろと落ち着きをなくしていると言う次第。

54それはまるで水流の如く:2006/07/26(水) 22:25:08 ID:e/cDxAcS
何気無く壁に掛けられた時計を見上げると午後一時を少し過ぎた頃。
晩ご飯を食べるためにお邪魔するには余りにも早い時刻だけれど、門田先生が指定したのは真っ昼間だった。
どうしてこんな時刻に呼んだのか。その理由は私には分からない。
だいたい他人を家に招いておいて、肝心の家人が外出するなんてどう言う事よ。
「家捜しされたらどうすんのよ」
ボソリと呟いてはみる物の、勿論私にそんな気はない。
こんな事で犯罪者なんかにはなりたくないし。
汗を掻いたアイスコーヒーのグラスを手にした私は、大人しく門田先生の帰りを待つ事にした。
氷が溶けて少し色が薄くなったコーヒーは、味も少しぼやけている。
セミの声や時折走る車の音以外は静かな物で、住宅街と言っても子どもの声も聞こえない。
「ただいま」
アイスコーヒーが半分ぐらい減った頃、玄関の開く音がした。
「お帰りなさい」
コンビニ袋を手に戻った門田先生は、パタパタと手で顔を扇ぎながらリビングに入ってきた。
「悪かったな」
「いえ」
「ホイ、お土産」
差し出された袋を半ば反射的に受け取る。覗いてみれば中身はバニラと抹茶のカップアイスだった。
「お好きな方をどーぞ」
言いながら門田先生はキッチンへと向かう。
私は抹茶のアイスと付属のスプーンを取り出すと、残りを袋ごとテーブルに置いた。
遠慮はしない。いや、本来ならするべきなんだろうけど、遠慮したって「食べろ」って言われるのは目に見えている。
この三ヶ月あまり、ほとんど毎日のように顔を会わせていれば、門田先生との付き合い方ぐらいは何と無く分かる。
55それはまるで水流の如く:2006/07/26(水) 22:26:27 ID:e/cDxAcS
私と同じようにアイスコーヒーのグラスを手にリビングに戻った門田先生は、一足先にアイスを食べ始めた私を見て、何故か満足そうに笑みを浮かべた。
「やっぱり抹茶か」
「え?」
木ベラのスプーンでアイスを口にした私は、きょとんとした表情で門田先生を見上げた。
「チィちゃん、絶対抹茶だったじゃん」
「……そう言えば…」
言われてみれば確かに。
昔住んでいた社宅のそばには酒屋さんがあって、私や門田先生、それに「カナちゃん」なんかは良くお菓子を買いに行っていた。
その時から私が選ぶアイスは抹茶味。反対に門田先生は抹茶味が苦手で、必ずと言って良い程にバニラアイスを選んでいた。
「門田先生だって変わらないじゃないですか」
思わず笑みを溢して言うと、向かいのソファに腰を下ろした門田先生は、アイスを取り出しながら小さく笑った。
「好きなモンがそう簡単に変わるかよ。言っとくけど、今は抹茶も食えるからな?」
「本当ですか?」
「……あのなぁ」
日頃のお返しとばかりに態とからかうと、先生は半分呆れたように半分困ったように苦い笑みを浮かべた。
普段あまり見ない表情に嬉しくなって、私は笑顔のままアイスを口に運ぶ。
門田先生はそれ以上何も言わずに、自分のアイスを口にした。
「ところでさ」
性格に似合わずチマチマとアイスを食べていた門田先生が口を開く。
外見に似合わず──と言う事にして欲しいんだけど──ザクザクとアイスを食べていた私は、無言のまま門田先生に視線を移した。
56それはまるで水流の如く:2006/07/26(水) 22:28:02 ID:e/cDxAcS
「その『門田先生』っつーの、何とかなんねぇ?」
また奇妙な事を言い始めたわね、この人は。
いつも唐突に不可解な事を言う門田先生に、私はやっぱり無言のままで首を傾げた。
アイスのせいで少し頭がキーンとしてるからなんだけど、言わなきゃバレないから良しとしよう。
「お袋とか親父に会うのに、『門田先生』のまんまってのもアレじゃねぇ?」
──ドレですか?
そう突っ込もうかとも思ったけど、それは取り合えず止めておいた。
曖昧な言葉で言いたい事が伝わるのは日本語の良い所よね。
「そう…ですかね?」
肯定も否定もせずに手元のアイスに視線を落とす。
考える様子の私を見て、門田先生は小さく頷いた。
「今日は仕事は抜きにしたいし?他のセンセ方ならいざ知らず、チィちゃんにまで他人行儀な呼び方されると……どうもな」
「……はぁ」
言いたい事はだいたい把握した。
ようは叔父さんや叔母さんの前じゃ、仕事モードは控えて欲しいって事だろう。門田先生は普段からかなりフランクな口調や態度だけど、私は結構気を張ってたりするからついつい固くなっちゃうのよね。
しかし、だ。そう言われた所で簡単には行かない。
第一、今更なんて呼べば良いんだろう。
そんな私の疑問が顔に出ていたのか、門田先生は木ベラを口先でゆらゆらさせて首を傾げた。
「『ナァくん』は無理でも、せめて『なおくん』とか『直樹くん』?あ〜…『直樹さん』だと新妻っぽくてヤだな」
私に向けて言ってるのか。それとも自問自答なのか。
恐らくその両方だとは思うけど。
──新妻ってのは何よ。
思わず顔をしかめた私を見て、門田先生は面白そうにニンマリと笑った。
「ま、チィちゃんが選んでくれるなら、俺は何でも良いけど」
態とらしいニヤニヤ笑いが気に食わない。
私はザクザクとアイスを掻くと口の中に放り込んだ。
「『門田さん』は駄目なんですか?」
暫し考えた後、私が出した妥協案に門田先生は顔を逸らせて首を左右に振った。
「却下。親父もお袋も『門田さん』じゃん」
「でも──」
「それに」
悪あがきをしようとした私に、門田先生はピシリと木ベラを突き付けた。
57それはまるで水流の如く:2006/07/26(水) 22:29:03 ID:e/cDxAcS
「こないだ会ったろ?ウチの親は『長谷部センセ』の事を『チィちゃん』だと思ってるんだ。長年の思い出は美化されんだよ。それを簡単に崩してやるなよ」
「……それ、騙してる事になりません?」
「なりません」
ジトと木ベラの向こうの門田先生を睨みつけたけれど、門田先生は飄々とした態度で木ベラを引っ込めた。
詭弁だ。って言うか詐欺だし。お金は絡んでないけど。
「大人になるのは仕方ねぇけどさ。やっぱ寂しいじゃん、他人行儀にされると」
尚も見据える視界の向こうで、門田先生はアイスを食べながらモゴモゴと呟いた。

──あぁ、そう言う事か。

その気持ちは何と無く分かる。
特別仲が良かった訳じゃない級友と再会した時に感じる微妙な溝。
その感覚は級友でなくても当てはまる訳で。
門田先生とは殆んど毎日顔を合わせていたけれど、叔父さんや叔母さんはそうじゃない。
私はどうしたって距離を置いてしまうけど、向こうにしてみればそれは凄く寂しい事なのかも知れない。
となれば尚更、間に立つ門田先生は、その溝に気付かないフリをするのも難しいだろう。

「……分かりました」
溶け始めたアイスを掻き集めて呟く。
門田先生は少し私を眺めていたが、すぐにアイスをすくうとそれを口に運んだ。
「頑張ってみる。うん」
「ン、そうしてくれ。まだ時間はあるしな」

もしかしたら門田先生がこの時間に私を呼んだのは、少しでもその距離を縮めようとしたからなのかも知れない。
嬉しそうに笑う門田先生を見て、私はそんな事を思った。

58それはまるで水流の如く:2006/07/26(水) 22:30:13 ID:e/cDxAcS

アイスを食べ終えた私達は、二人揃って門田先生の家を後にした。
こんな住宅街なのにセミの声がうるさくて、否が応でも夏を感じさせる。
照り付けられる太陽の光はアスファルトに反射され、背中にはじんわりと汗が滲む。
「何処に行くんですか?」
何も言わず連れ出された私は隣を歩く門田先生を見上げる。
門田先生はチラリと私を見下ろすと、少し楽しそうに口許に笑みを滲ませた。
「懐かしいトコ。すぐだから」
「あ……はい」
「『はい』じゃなくて『うん』」
「……うん」
言葉遣いを訂正され、渋々頷いた私は、何も言わずに門田先生に付いて行く事にした。
日傘を持つ手が汗でじわりとして気持ちが悪い。
門田先生も「暑い」「だりぃ」とぶつくさ呟いていたけれど、それでも歩くスピードは衰えない。
そんなにダルいなら家に居れば良いのに。
それでも私を連れ出したって事は、よっぽど私を連れて行きたい場所があるんだろう。

やがて。
門田先生は足を止めると、煙草を取り出しながら私を見下ろした。
「ここ」
「え?……ここ?」
そう古くない住宅が立ち並ぶ一角に、ポツンとあるのは小さな空き地。隅に大きな銀杏の木がある他には何もないその場所は、草があちこちに生い茂り、長い間人が立ち入っていないのは明らかだった。
「あそこに俺ン家。で、隣がカナちゃん家」
「……あ……!」
煙草を持つ手で空き地を示し、門田先生が言う。
その言葉に、私はようやくここが何処だか思い至った。
「ここ、社宅があった場所……」
「そ。社宅が潰されてからは何もない、ただの空き地だけどな」
「そっか。……ここだったんだ」
昔は回りに家も少なくて、記憶の中とは大違い。
昔はあんなに大きいと思っていた場所も、今になって見れば三軒も家が立っていたのが嘘みたいな狭さだ。
59それはまるで水流の如く:2006/07/26(水) 22:31:09 ID:e/cDxAcS
煙草を咥えた門田先生は、ザクザクと草を踏みしめながら空き地に入る。
その後に続きながら、私は辺りを見回した。
「この辺までが俺ン家だから、カナちゃん家がそこぐらいかな」
「じゃああの辺りが、私の家?」
「あぁ。んで、あの銀杏の辺りが昔良く遊んでた庭」
空き地の中に立ちながら門田先生が指をさす。

そうだ。
昔良くビニールプールを出して遊んだっけ。
秋には確かドングリを集めて庭に埋めたし、冬は冬で飽きもせず外で鬼ごっこなんかしてたっけ。

「そっか……こんな風になっちゃってたんだ……」
大学時代に市内に戻っていたとは言え、私が社宅のあった場所を見るのは引っ越ししてから今日が初めて。
感慨、とか。郷愁、とか。
そんな気持ちはない。
強いて言うなら疎外感だろうか。
何だか置いてけぼりを食ったみたいに、私の心の隅っこには小さな穴が空いたような、妙な虚しさがじんわりと滲んでいた。
「……不思議な感じだろ?」
何も言えず立ち尽くす私の鼻に門田先生の吸う煙草の匂いが届く。
小さく頷いた私はゆっくりと銀杏の木へと歩み寄った。
「……こんなに狭かったんだ」
「あぁ」
見上げた銀杏の木は、記憶の中と同じぐらい大きい。
それはきっと、十三年の月日を経て、この木も成長したから。

知っているのに、まるで知らない。
それが酷く寂しくて、私は黙ったままじっと銀杏の木を見つめていた。

「なぁ」
後ろから門田先生の声が掛る。
振り返ると門田先生は煙草に火を点けながら、目を細めて空き地を眺めていた。
「ここは変わったけどさ。親父もお袋も変わってないから。勿論俺もチィちゃんも。だから、何も気遣う必要なんてないからな」
少し微笑んでそう言うと、携帯灰皿を取り出しながら門田先生は私を見た。
60それはまるで水流の如く:2006/07/26(水) 22:32:03 ID:e/cDxAcS

そうか。そう言う事なんだ。
門田先生が名前で呼ぶように言ったのも、私をここに連れて来たのも、決して気まぐれなんかじゃない。
この気持ちを、私に知って欲しかったからなんだ。
頭で理解するのと、本当の意味で心で理解するのは全く別物。
もしあのまま叔父さんや叔母さんに会えば、この奇妙な疎外感に、私は余計に居心地が悪い思いをしていたかも知れない。
私だけじゃなく、叔父さんや叔母さんも。
折角会っても素直に喜べなかったら、それは酷く寂しい事だ。

勿論門田先生がそこまで考えているなんて、私の考えすぎかも知れないけれど。それでも構わない。
少なくとも、私にとっては無駄な事じゃなかったから。

「……ありがと。ナァくん」
呟いた声は聞こえただろうか。
素直にお礼を言う事よりも、名前を呼ぶ事の方が恥ずかしくて、私は日傘を少し傾ける。
そのせいで門田先生の顔は見えなかったけれど、たぶん笑顔に違いない。
「そろそろ行くか。あの酒屋、まだやってんだ。ビール買って帰るか」
「え、まだ昼間ですよ?」
「固い事言うなって。ホラ、置いてくぞ」
驚いた私が日傘を退けた先には、悠々と歩き出す門田先生の姿。
携帯灰皿に煙草を押し付けながら、彼は私を待たずに道路へと向かう。
「ちょ、待って下さいよ!」
「タメ口になったら待ってやる」
「……善処します」
ぶっきらぼうに返しながら慌てて門田先生の後を追う。
何とか隣に追い付くと、門田先生はシャツの胸元を摘むと風を送りながら、いつもの薄い笑みを浮かべて口を開いた。
「名前で呼べたんだから、あと一歩」
「……だから善処しますっ!」
──やっぱり聞こえてたんじゃない!
悔しさと恥ずかしさで門田先生を睨み上げる。
彼はチラリと私を見下ろすと、何処か嬉しそうに目を細めて小さく肩を竦めた。




余談になるけども。
結局私は「ナァくん」と呼ぶので精一杯だったけど、その日の夜の食事は楽しかった事を追記しておく。


心底ナァくんに感謝したのは、私だけの秘密だ。


6152:2006/07/26(水) 22:34:11 ID:e/cDxAcS

以上です

需要があるのかないのか果てしなく不安ですが、懲りずにまた投下します
次こそリベンジ……したい…orz
62名無しさん@ピンキー:2006/07/27(木) 00:54:54 ID:V/rGGgmD
GJ!
ほのぼのした。
続きも期待する。
6345:2006/07/27(木) 00:58:29 ID:TBIFekVt
>>48
返事がかなり遅れたが、俺は愛知県在住。
普段は三河弁丸出しで喋ってるww
64名無しさん@ピンキー:2006/07/27(木) 01:16:46 ID:6844TMG5
>>61
需要アリ。社会人の話、一風変わっててとても面白い。
65名無しさん@ピンキー:2006/07/27(木) 21:11:42 ID:QAyyPUOM
今宵の月のようにの続きが楽しみだ
66名無しさん@ピンキー:2006/07/27(木) 22:20:00 ID:dFGMTr2i
>61
うむ、ほのぼのした。可愛いなぁ。
この先どんな風になるのかすごく楽しみにしています。
67名無しさん@ピンキー:2006/07/27(木) 22:37:37 ID:8FrRSWjz
>例え幼馴染みが同じ学校で同じ学年の教師だったとしても、その人だけにお世話になってるなんて事は断じてない。
>ないったらない。

この「ないったらない」に萌えたw
キャラの性格がよく表れてて上手い表現だなーとオモタ
68名無しさん@ピンキー:2006/07/28(金) 02:11:29 ID:PnaskpmA
>>61
GJでした。和みますね〜。
需要は間違いなくありますんで、ご自分のペースでこれからも
頑張ってください。支援させてもらうっす。
69名無しさん@ピンキー:2006/07/29(土) 11:59:35 ID:QoezW+CQ
前スレに青葉と創一郎の外伝きてるよ。
読ませてくれるぜ。いいねー。青春だねぇ。
これからも投下ヨロシク!
70名無しさん@ピンキー:2006/07/29(土) 13:19:31 ID:sdxjqKBW
見てきた。うわ〜、めちゃくちゃGJ!!です。
出来れば那知子のお話しも見たいなあ、等と戯言を申したくなりました。
71名無しさん@ピンキー:2006/07/30(日) 09:11:48 ID:q9OqpqsD
前スレに短編が来てるよ。
ハッピーエンドはやっぱりいいね〜。
別作品も投下ヨロシク!
72名無しさん@ピンキー:2006/07/30(日) 18:41:12 ID:zdg6uUba
アンカー間違えたorz
書き込めないので、こっちで訂正。前スレ711は710宛て。
ま、なんとかなるだろう。いや、何とかして欲しい!
73名無しさん@ピンキー:2006/07/30(日) 21:59:07 ID:9TtK7K4G
前スレ>>707
243氏GJ!! 相変わらずScarlet Stitchの雰囲気はたまりませぬ(*´Д`)ハァハァ
74名無しさん@ピンキー:2006/07/30(日) 22:26:33 ID:05ac8gv6
よいスレだ。皆、続きが楽しみ。
個人的に>>52氏のナァくんが特に好きだ。めっちゃ需要あるので、気が向いたら供給してやって下さい。
75名無しさん@ピンキー:2006/07/30(日) 23:33:59 ID:+wkAvXVH
>>30-36の続きをひっそりと投下
なんとか完結させたい
76今宵の月のように:2006/07/30(日) 23:35:26 ID:+wkAvXVH

 あれからもう一ヶ月くらい経つのかな。紗枝がいなくなった生活を送るようになってから。
 もちろん最初は慣れなかった。幼い頃から当たり前のようにいた存在が、いなくなって
しまったんだからな。
 かといって、今ではもう慣れてしまったかというと、そういうわけでもない。

 紗枝のいない生活を当たり前のように受け入れることは、まだまだ出来てない。
 慣れてしまったのは、そのことで頭や胸に襲い掛かってくる言いようの無い不快感だ。

 意図的に考えないようにはしていた。考えると、ドロッとした気持ち悪さが、体の中に
注ぎ込まれていくようだったから。けれどそれも、いつしか慣れてしまった。

「……久しぶり…だな。元気でやってるか」

 だからなのかもしれない。
 偶然にも出くわして、目も合わせた以上、無言のまま立ち去るなんてことが、今の俺には
出来なかった。
「……」
 車の侵入を阻むチェーンを繋ぐ鉄柵に腰掛けていた紗枝は、もの言わず視線を逸らす。
逆にそれが、俺の存在を認識しているという裏づけになった。
 まだ姿を現さない待ち合わせ相手を急かすためなのか、無言のままカコカコと携帯電話
のボタンを押し続けている。
「話すこと特に無いなら、さっさとどっか行ってくれないかな」
 液晶画面を見つめて、メールの続きを打ちながら、そう冷たく言い放たれる。

「……」
 やっぱりあの瞬間から、紗枝は俺の知る紗枝じゃなくなってしまったようだ。もう
くだらない口喧嘩をすることも、あの人懐っこい笑顔を見ることも無いわけだ。


 もう…ずっと過去のままなわけだ。


「上手くやれてんのか」
「関係ないだろ」
 送信し終えたのか、携帯をパチンと折りたたみ、ポケットの中にしまい込む。

「振った女の子のこと詮索するなんて……趣味悪いよ」

 紗枝は、決して俺のほうを向かなかった。スクランブル交差点を行き来する雑踏を、ただ
じっと見つめ続けている。眠たそうで、それでいて何もこもっていないような目で。
「ちょっとした世間話くらい付き合えよ」
「……やだね」
 見下すように、一瞬ちらりと舌先を覗かせる。もちろん、俺に視線を向けないまま。


「そんなにあたしをバカにしたいなら、勝手にしてよ」

 
「そのかわり、関わってこないでよ」


「もう、なんでもないんだからさ」


「……」
 紗枝はどうやら、俺が自分に惨めな思いをさせるために話しかけてるんだと思っている
ようだった。

77今宵の月のように:2006/07/30(日) 23:36:35 ID:+wkAvXVH




 違和感って言葉だけじゃ片付けられなかった。




 外見だけそのままで、中身全てが入れ替わってるような、そんな感覚。今ここで、初めて
出会った者同士のような短くたどたどしすぎる会話。
 全てが終わって、変わっていた。


「こっちは順調だよ。毎日楽しくやってる」


 やがて、一度は語ることを拒否した近況を口にし始める。そうでもしないと、俺がここから
立ち去らないと思ったのだろう。
「学校は相変わらず楽しいし、ハッシーも部活で忙しいみたいだけど、週末は空いた時間で
一緒に遊んでるし、誰かさんみたいにセクハラもしてこないよ」


「そうか……」


 紗枝の口から橋本君の名前が出ると同時に、心臓あたりが異常なほど燻った。


 瞬間、ふっと聴覚が遮断される。視界も、紗枝以外真っ白にボケてしまった。
「……」
 と同時に、俺は気付き、思い出す。

「こっちは特に変わり無しだ」
「……」
「バイト三昧だよ、たまにスロット行くくらいでな」
「別に…聞いてないよ」
「合コンする暇もねーんだわ」
「……」
 
 紗枝の言葉を敢えて無視して自分の近況を話し続ける。
 何がどうしてそうさせるのか、自分でもよく分からなかった。ただ、どんなに気まずくても、
やっぱりこの瞬間を大事にしたかったのかもしれない。


「……もう、興味ないから」


 ……。


 もう、か。顔を会わさなかった間も、橋本君と付き合いだしてからも、色々と悩んでた
みたいだな。
78今宵の月のように:2006/07/30(日) 23:38:11 ID:+wkAvXVH

 ついさっきまでの、真由ちゃんと交わした会話が、断片的に脳裏に焼き付く。

『無理……してるんだと思います』

『明るくて元気な娘が好きだから、だから頑張って性格を改善したんだって。初めて誉めて
もらった髪型だから、ずっとこの髪型にしていようって。似合ってるって言ってもらえた
のが、本当に嬉しかったんだそうですよ』

 あれから一ヶ月経つ。受け入れたくないことだが、確かに性格は変わってしまっていた。
目の前にいる紗枝は、もう俺の知ってる紗枝じゃない。



 だけどその言葉と性格とは裏腹に、髪型に……変化は見られなかった。



 そして性格の他に、もう一つ変化があったのが。

 その、表情。

 疲れきったような、追い詰められているような、そんな顔。それでも、他人だとまず
気付かないだろう、幼なじみだった俺だからこそ分かる微かな変化だった。
 変わったところと、変わってないところ。それが両方あるってことは、それはつまり、
まだ悩んでるんじゃないか。
「ねえ」
「……」
「ハッシーがそろそろ来るからさ、もう行ってくんないかな」
「……分かった」
 流石にこれ以上は限界だった。無理を感じ、敢えて顔を向けることなく、またゆっくり
と歩き始める。
「じゃ、元気でやれよ」
 そう言いながら、紗枝の目の前を擦れ違う。




「ばかやろ……」




「…!」
 思わず振り向く。聞き逃してもおかしくないほどの小さな声だったけど、確かに聞こえた。
それまでとは違った、感情のこもった声で。悲しくて辛くて、泣きそうな声で。置いてかれる
ことを寂しがるようにも聞こえたのは、はたして気のせいだったのか。
 振り向き紗枝の表情を伺っても、先程までとなんら変化は無かった。それどころか眉を
わずかに顰め、一体いつになったら俺がここから立ち去るのか、苛立っているようにしか
見えなかった。

(紗枝…お前……)

 無理してるんじゃないのか? そう言おうとしたその時、人波をかき分けるようにこの場へ
向かって歩いてくる男の姿が捉えられる。顔はまだよく分からない。だけど、誰かは分かる。
 
79今宵の月のように:2006/07/30(日) 23:39:44 ID:+wkAvXVH


 
「……」
 再び身を翻す。今度こそ足早にその場を立ち去り、もう振り向かなかった。



 しばらく歩いてから、また歩く速度をゆっくり落とす。
 今日二本目のタバコを咥えながら、逡巡し始める。色々なことを。スロットに行く気は
もうすっかり消え失せていた。

 紗枝の様子もそうだけど、それ以上に戸惑ったことがあった。

 あいつが橋本君の名前を口にした時に、胸によぎった燻る感覚。この感覚には覚えが
あった。ジクジクと侵食されて、キリキリと痛む。陳腐な表現をするならそう表すことの
出来る感覚。
(……)
 受け入れるには抵抗がありすぎた。
 確かに紗枝は俺にとって特別だったけど、そういう意味合いの特別じゃなかったはずだ。


(マジか…ふざけんなよ……)


 文句を言いたくなるのも、仕方なかった。今更にも程がある。うんざりしたように吐き捨て、
自分のものではなくなってしまったような心に悪態をつく。
 ついイラついて、まだ充分長さを保ったままのタバコを路上に投げ捨て足で踏み消す。
だけどもし認めてしまったら、今よりもっと辛くなる。分かりきっていることだ。だから
自分の心を宥めることが出来なかった。

 いつか時間が慣れさせてくれる。どんなことでも、きっと抱えたまま生きていける。

 今になって、もう無くしてしまったものを、また違う形で欲しがろうとしている。

 なにもかもが思い通りになる人生なんて無い。

 認めたくないのに、気持ちだけが加速する。

 左右に大きく揺れ動く、自分の過去の本音に従った建前と、今の本音に従った本心に、
平衡感覚さえ失いそうになる。
 関係が変わって、紗枝が変わって、俺も変わって。真由ちゃんに、俺の知らなかった
紗枝の本心を聞いて。目まぐるしく変わる立ち位置と、とめどなく頭に飛び込む情報。
それらが、俺の頭を激しく、そして静かに回転させ始める。
80今宵の月のように:2006/07/30(日) 23:40:59 ID:+wkAvXVH



 今なら分かる。



 紗枝が俺のことを好きだったと知り、この今更な気持ちを抱えてしまった今なら。



 認めなくたって、気付いてしまえばそれは、もうほとんど意味を成さない気がした。



 そうだな……今なら、分かる気がする。



『崇兄のばかっ!』



 取り乱した紗枝をからかうのが、どうしてあんなに楽しかったのか。



『……どうしたらいいのかな』



 しおらしい態度をとる時の紗枝が、なんで苦手だったのか。



 紗枝をからかうのが楽しかったのは、その時が一番、兄妹みたいに感じられたから。
しおらしい紗枝が苦手なのは、そこにあいつの、異性としての表情を感じ取れそうな
気がしたから。それが無意識だったもんだから、パッと考えても理由が出てこなかったんだ。


 なんだ……簡単なことだったんじゃねーか。


 川原での会話の時以来、ずっと抱えてた胸の錘。
 これは、紗枝との関係が終わったことによる辛さが起因してるものじゃ、なかったんだ。
 
 ただ、嘘をつき続けていたような。

 ただ、分かっていることなのに分からない振りをしていたような。
 
 そんな後ろめたさと背徳感。
  
81今宵の月のように:2006/07/30(日) 23:42:15 ID:+wkAvXVH
  

 なんだよ……そういうことかよ……。


 普通、妹と思っていた相手に告白なんかされたら、頭の中なんか真っ白になるはずだ。
思考なんか当然働くわけ無い。今みたいに、自分の中でモノローグみたいに言葉を語り続ける
ことなんて、出来るわけ無い。
 

 なのにあの時の俺の心は、動揺こそしたものの、後は何も変わらなかった。


 いつものように考えを張り巡らせ、いつものように目に見えるものをちゃんと認識して。
頭が真っ白になるかどうか、そんなんじゃなかった。それとは真逆なくらい、あの瞬間に
佇んでいた。心は驚くほど動揺してたけど、頭の中は普段通り、冷静だった。
 
 一つ胸のつかえが取れると、それに連動するように一つ、また一つと胸の内に溜まった
疑問が解けていく。絡まった糸が解けていくような、難しかった数式が瞬く間に解けていく
ような、そんな感覚に襲われる。

 気付かなかったわけじゃない。気付いていたから、特に何も感じることが無かったんだ。

 肩の骨が外れたように、またズシリと重たい荷物が双肩にかかる。 
真由ちゃんが、あそこまで俺に辛く当たるのも当然だと思った。今の俺が他人だったら、
一発ぶん殴るじゃ済まない。いや、たとえ何発殴ったとしても、気分は晴れないだろう。


カチッ、シュボッ


 ……


 ……フーッ。


 自覚するまで……随分…時間……掛かっちまったな……。








 俺は……紗枝が俺のことを好きだったってこと……とっくの昔から知ってたんだ……。








「ハハハッ……」
 自虐の笑い声が零れる。
 何が兄貴面だよ、兄貴にもなれてねえよ。とんだ悪人じゃねえか、このクソ野郎が。
誰のせいで紗枝があんな目に遭ったと思ってんだよ。
82今宵の月のように:2006/07/30(日) 23:44:10 ID:+wkAvXVH



 …………



 ……まあ、いいさ。

 これから償えばいい。紗枝は、もう俺のいない生活を手に入れようとしているんだしな。
紗枝に告白されたのがきっかけで…気付くのが……ちょっとだけ遅かっただけだ。


 だから俺は、紗枝のいない生活を受け入れないまま、過ごせばいいわけだ。


 未だに時間でさえ解決できないことしな。償う罪としては充分だろ。
 あいつが微かに見せたあの表情と、一瞬呟いたあの言葉は、日々悩まされ続けた俺に対する
嫌味に違いない。そう解釈させてもらうことにした。そうでも思わないと、やってられなかった。


 また、空を見上げる。今日も曇り、隙間から光が差し込むことなんて無いくらい分厚い
雲に覆われている。

ポッ

 見上げたと同時に、微かな雨粒が頬を叩いた。
「……」
 雨脚は随分と遅いようで、続けざまに水滴が落ちてくる様子は無い。

 おもむろに、片手を空にかざす。周りからは、雨が降ってきてるかどうか確認している
ようにしか見えないだろう。タバコを咥えたまま、陽の光の無い空を眩しそうに見上げる。

 片目を閉じる。

 伸ばした腕越しに、掌を透かしてみせた。





 なぁ、紗枝……





 今俺が…お前のことを好きだって言ったら……





 お前は……どんな顔して…なんて言うんだろうな……――――――




83今宵の月のように:2006/07/30(日) 23:48:39 ID:+wkAvXVH


 そうしてまた新たな錘を抱えたまま、俺は流れる時間を無機質に過ごしていく。



 起きて働き、帰って寝る。ただ、それだけの毎日。



 いつの間にやらクリスマスまであと三週間を切り、街路樹には既にイルミネーションが
とりつけられ始めていた。簡易的なネオンも目立つようになってきている。


 もう、二ヶ月の月日が経っていた。


 あれ以来、紗枝にも橋本君にも顔を会わすことは無かった。すれ違うことさえ無かった。
真由ちゃんも俺に会おうとしては来ず、兵太とはいつも通りで、何も変わらなかった。
 大切なものを失ってしまった抜け殻の日常と、今更になって気づいてしまった、宙に
浮いたままの想いと。それによる大きな傷を負ったまま、それが癒されることの無いまま、
だけどその状態に慣れてしまったまま、ただ無意味な時間を過ごし続けていた。


 そんな時だった。兵太からメールが届いたのは。


 バイト中に受信された、『留守電で繋がらないからメールで失礼します』、その一文から
始まったメールは、仕事を終えたばかりの俺の頭の中を、今度こそ真っ白に消し飛ばして
しまう程の衝撃を携えていた。
一度は上手く抑え込んだ湧き上がり、胸の辺りが疼く。平静を保つことなんて無理だった。

 書かれてあったのは、紗枝に関する二つの近況。
その一つはどう受け止めたらいいのか分からず、もう一つはとてもじゃないが信じられない
ことだった。
 もしかして見間違いだったかもしれない。そう思い立って、家に着いてから改めてその
メールに目を通す。当然、内容は変わっていなかった。携帯をパチンと折りたたみ机の上に
放り投げる。そのまま大の字になって布団に倒れこみ、鼻から大きく息を吐く。

兵太自身も慌てていたようで、メールにはところどころに誤字脱字が目立った。けど、
肝心の箇所は、俺の知り得なかった二つの事実を冷たく無機質に伝えていた。


『別れたみたいなんです』


『平松が、学校に来なくなりました』


 事実だとしたら、とてもじゃないが信じられない。
 冗談にしては、度が過ぎている。
 人との付き合いでトラブルを起こしたことも無ければ、元気が取り柄の奴だっていうのに。


 何が、あったんだよ。紗枝。


 頭の中の紗枝の姿は、人懐っこい笑顔を浮かべたまま、答えることはなかった―――――
84今宵の月のように:2006/07/30(日) 23:51:47 ID:+wkAvXVH
|ω・`)……



|ω・´)9m テンカイガシリメツレツナヨカン!



|ω・`)……



|ω・`;)ノシ ゴメンネ、コンナハナシシカオモイツケナクテゴメンネ


  サッ
|彡

  
85名無しさん@ピンキー:2006/07/30(日) 23:52:36 ID:oRj08UYQ
GJ!!

続編を首を長くしてお待ちしております。
86名無しさん@ピンキー:2006/07/31(月) 00:23:34 ID:+Hweo6L0
GJ! 続き気になる気になる気になるうううううう
87名無しさん@ピンキー:2006/07/31(月) 00:26:24 ID:H73H4hRZ
俺が発狂しないために>>84捕獲大隊を有志によって構成する。
参加するものは俺に続け!!
88名無しさん@ピンキー:2006/07/31(月) 00:46:35 ID:7kT4MBzP
>>87
閣下、今はまだ早すぎます…
しばらく泳がせておいて、機が熟してから執りかかるのが得策かと・・・
89名無しさん@ピンキー:2006/07/31(月) 00:50:16 ID:uuqrlAvf
GJ! 早く続きを……続きを……

>>87
自分も発狂しそうだ。是非とも参加するぜ!
90名無しさん@ピンキー:2006/07/31(月) 01:45:05 ID:vKERy2cU
\\    今   日  も   ま   た   ど   こ   へ   行   く    //
  \\       愛   を   探   し   に   行   こ   う      //
   \\     い  つ  の  日  か  輝  く  だ  ろ  う     //
     \\     あ   ふ   れ   る   熱   い   涙      //
       _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.
     ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡
     (  ⊂彡.   (  ⊂彡.   (  ⊂彡.   (  ⊂彡.   (  ⊂彡.   (  ⊂彡
    _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.
  ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡
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   |   |     |   |     |   |     |   |    |   |     |   |     |   |
   し ⌒J.    し ⌒J.    し ⌒J.    し ⌒J.   し ⌒J.    し ⌒J.    し ⌒J
91名無しさん@ピンキー:2006/07/31(月) 02:25:46 ID:uyMma5tU
>>87
閣下、私の勝手な意見はありますが、釣りというのは針だけでは出来ぬものでございます
やはりここは何か餌のようなものをを用意するべきかと…
92名無しさん@ピンキー:2006/07/31(月) 02:36:42 ID:j9GC05xF
GJ!!!!
続きが気になりすぎて日常生活が疎かに。。。
なんて魔力だ、、、
93名無しさん@ピンキー:2006/07/31(月) 03:14:44 ID:C0O8ufhb
遅くなったけど言わせてくれ〜
>>前スレ704−707
GJというより嬉しいっす
もうこれっきり、という言葉を見たような気がしたので
またあのふたりに会えるとは思わなんだ…。・゚・(ノД`)・゚・。

もちろん、他の職人様たちにも感謝感謝なんだけど
94名無しさん@ピンキー:2006/07/31(月) 03:16:53 ID:htTdv6i5
>>87
…っ!お、落ち着いて下さい閣下!!
確かに、我々は>>84に散々苦しめられてきました。
しかしだからこそ!今は待つべきなのです!
ただ、信じて待つんです!
我々は、ただその時がくるのを信じて…GJを耐えているのです。
95名無しさん@ピンキー:2006/07/31(月) 04:57:17 ID:BuhX4z8u
む、胸が苦しい・・・しかしG(God)J!!
96名無しさん@ピンキー:2006/07/31(月) 13:05:19 ID:aBoyjqa1
GJ!!
続きが気になる
くそっ、>>87大隊に続くべきか、待つべきなのか・・・
97名無しさん@ピンキー:2006/07/31(月) 22:29:44 ID:ihMqtEis
もうなんていうか言葉では言い表わせないわ。
発狂してしまいそう……(ああああああああぁぁぁ!!)
って言いそうなくらいGJ!!です。
98名無しさん@ピンキー:2006/07/31(月) 23:07:02 ID:XbohLyIN
もあ〜違った意味で転がってます〜
面白いけど苦しい…ただ待つのみ…
99名無しさん@ピンキー:2006/07/31(月) 23:13:55 ID:lv6I6iSn
じ、自分はもう我慢できますぇぇぇん!
一人で>>84を捕獲しにいきます!!
100 ◆6Cwf9aWJsQ :2006/07/31(月) 23:39:15 ID:4P2o79B4
お待たせしました。

投下いきます。
101シロクロ 7話 【1】:2006/07/31(月) 23:40:32 ID:4P2o79B4
始めていく幼稚園。
その教室で僕は独りだった。
ここに連れてきてくれた親も今はいない。
「先生」だと教えられた大人達も他の騒がしい子供達の世話で手一杯で僕には見向きもしなかった。
でも僕は泣かない。
「ぜったいになかない」とお父さんやお母さんに約束したから。
そのことを思いながら涙を堪える。
と、すぐ傍から大きな泣き声が聞こえた。
声のする方に目を向けると、すぐ傍にいる女の子が泣いていた。
どうしたのかと声をかけると、母親に置いて行かれたのだと泣きながら教えてくれた。
それを聞いた僕は思った。
この子を泣きやませたいと。
「目の前で泣いてる子がいたら泣くのを止めてあげよう」と、
テレビのヒーローもお父さんも言っていたし、
ついさっき、自分も同じ気持ちになったからその不安はよく分かる。
この子は、誰かの助けを求めてる。
ならば、どうすればいいか。
その答えはすぐにひらめいた。
彼女の手を取って、「いっしょにあそぼう」と言ってあげればいい。
すぐにそうしてあげると彼女はすぐに泣きやみ、僕に笑顔を見せた。
とびきりの笑顔を。
102シロクロ 7話 【2】:2006/07/31(月) 23:41:06 ID:4P2o79B4
それからすぐに――実際には何時間もたったらしいが、時間の概念が理解できないそのころの僕には
あまり時間がたってないように感じた――幼稚園から帰る時刻になった。
一緒に遊んでいた女の子も僕も両親が迎えに来たので別れることになった。
その時、僕は彼女と一つの約束をした。
――――また自分が泣いてしまったら、傍にいてくれと。

それから五年後。
自分を「僕」ではなく「俺」と呼ぶようになった頃。
彼女とは同じ学校に通い、同じクラスで、ずっと一緒にいて、
――時には約束通り、彼女が泣いたときは傍にいて安心させた。
だが、そんなある日。
俺は、一つの過ちを犯した。
約束を、破ってしまった。
彼女が泣いているときに、クラスメートの掃除――他の掃除当番がサボってしまったため、
人手が足りないから手伝ってくれと俺に言ってきたのだ――の手伝いを優先し、
彼女の傍にいてやれなかった。
次の日、俺は彼女にそのことを謝った。
だが、彼女は俺の前で泣くだけだった。
・・・俺が約束を守れなかったから、彼女は泣いた。
俺が泣きやませるはずなのに・・・。

それから数日間、俺は彼女を避け続けた。
――また、泣かせてしまうのが怖いから。
103シロクロ 7話 【3】:2006/07/31(月) 23:41:48 ID:4P2o79B4
そしてその次の日、彼女は学校に来なかった。
次の日も、その次の日も、彼女は学校に来なかった。
・・・俺が、彼女を避けてたせいか?
そう思ってると、クラスメート――あの日、一緒にいた奴だ――が
ニヤニヤしながら俺に話しかけてきた。
あの日、俺に言ったことは嘘で、自分が彼女の元に行かせないようにさせたと。
いつもべたべたして鬱陶しかったからせいせいした、と。
それを聞き、その意味を理解した瞬間、俺の中で何かが弾けた。
気がつくと、俺はそいつの得意そうな顔に全力で拳をたたき込んでいた。
そいつの口からは血が滲んでいたが気にもならなかった。
すぐに騒ぎを聞いた先生が来て止められたが、それがなかったら俺は
もう二、三回は殴ってたかもしれない。

その後、そいつは俺に二度とちょっかいを出さなくなった。
が、俺はそんなことはもうどうでもよかった。
俺が本当に殴りたい奴はそいつじゃなかった。
本当に悪いのは、彼女の傍にが出来なかった自分だ。
俺が彼女の信頼を裏切ったせいで、彼女は傷ついた。
俺が悪いんだ。

そのことに気付いたとき、既に彼女は俺の手の届かないところに行ってしまっていた。
親の仕事の都合で引っ越すことになり、
それに彼女は反対していたらしいと両親に聞かされた。
――おそろく、彼女はそのことで泣いていたんだろう。
その日、俺は自分の部屋の布団に潜り込み、毛布を噛んで声を押し殺して泣いた。
自分のせいで傷つけたことをもう謝れなくて。
自分の罪を償うことも出来なくて。
――何より、もう、彼女と二度と会えなくなって。
俺は泣いた。
104シロクロ 7話 【4】:2006/07/31(月) 23:42:40 ID:4P2o79B4
そして十年後。
俺は高校生になり、彼女のことも記憶から抜け落ちそうになっていた。
そんなある日、俺はあの子と再会した。
彼女は、ずっと――今も俺のことが好きだと言ってくれた。
――――あの時、約束を破ってしまった、俺を。

そしてつい先日。
彼女は俺と初めてあったときの話を持ち出してきた。
正直、穴があったら入りたいぐらい恥ずかしかったが彼女は構わず話を続けた。
――――そして、彼女を初めて泣きやませたときの話題になった。
彼女には、「ドラマでやったことの真似」と言ったが、そんなのは嘘だ。
幼稚園に入学するような子供がドラマなんて見るわけがない。
本当のことが言うのが恥ずかしいから、嘘を言ってしまったのだ。
本当は、俺は――――
105シロクロ 7話 【5】:2006/07/31(月) 23:44:41 ID:4P2o79B4
「―――けいすけ・・・!はやくおきて・・・!」
誰かが身体を左右に揺らしながら俺の名を呼ぶ。
まあ誰かといってもそんなことする奴は1人しかいないが。
だがこのまま放って置いても声や揺れは止まらない――というか止めてくれない――のは
今までの経験でわかっているので仕方なく眠気を堪えて目を開ける。
と、真っ先に目に飛び込んできたのは見慣れた少女の顔だ。
そのことに安堵すると、彼女は笑顔を向ける。
「おはよー、啓介♪」
「・・・おはよう」
そう返すと目の前の少女――綾乃は「良くできました♪」と言いながら俺の頭を撫で、
さらには寝起きでぼんやりしたままの俺の身体を引き寄せ、抱きしめた。
じたばたと――寝起きなのであまり力は入ってないが――抵抗するが
むしろ「可愛い♪」とかいってさらに抱きしめてくる。
無論、こうなるのは今までの経験でわかってる。
が、最近はこうされるのも悪くはないと思ってきているのでわざとこうしているのだ。
ていうかもっとしてくれ。
――――変わったなあ、俺。
106シロクロ 7話 【6】:2006/07/31(月) 23:46:00 ID:4P2o79B4
そんなことを思ってると綾乃がいつにも増して上機嫌そうな顔を向けていた。
「・・・なんでニヤニヤしてんの?」
「べっつにー♪」
・・・もしかして心読まれたか?
もしくは考えてること口にしてたか俺!?
そんな俺の内心を知ってか知らずか綾乃は俺の背中を軽く叩くと身体を離す。
「じゃ、下で待ってるから早く用意してねー♪」
そういうと彼女は俺の返事も待たずに軽快な足取りで俺の部屋を出る。
「なんであんなにハイテンションなんだ・・・」
まあいつもハイテンションだが今日のはいつもとは違う。
いつものが「ルンルン♪」とすると今回のは「ランラン♪」という感じだ。
・・・例えがイタい上に訳解らん・・・。
そう思って頭を抱えると、枕元においていた携帯のサブ画面が目に入った。
そこに表示された日付は――――
「――今日が、旅行の日か・・・」
なるほど。先ほどのハイテンションはこれが原因か。
そう思っておこう。決して心を読まれたからじゃない――はず。
そう考えて自分を無理矢理納得させると、俺は着替えに取りかかった。
107シロクロ 7話 【7】:2006/07/31(月) 23:47:20 ID:4P2o79B4
自室を出て階段を下りるとすぐ傍にあるリビングに入る。
「・・・おはよー・・・」
「おはよう啓介」
「おはよう。朝ご飯出来てるわよ」
「ようやく起きたか」
「ダメよ、毎日夜更かししてちゃ」
「はーい・・・」
珍しく朝から家にいる両親+愚兄+その嫁に軽く挨拶して食卓前に着席すると
鯖の味噌煮が載った皿が向かいの席に座る綾乃から差し出された。
「はい、啓介♪」
「・・・ありがと・・・」
礼を言って綾乃から皿を受け取ると「いただきます」と呟き、ご飯を口に入れ――
「おう、遅いぞ白木」
――ようとしたところで思わず噴いた。
108シロクロ 7話 【8】:2006/07/31(月) 23:49:35 ID:4P2o79B4
「・・・汚いな」
さらに声が聞こえるが、内容は知ったことではない。
すぐさまそちらの方を向く。
すると、視線の先には我が家の食卓――いつの間にか他のテーブルと繋いで延長されていた――についた友人達がいた。
っていうか全員集合してる上に、
「なんでお前らまで朝飯食ってんだよ!?」
「「「「御邪魔してます」」」」
「言うの遅いよっ!」
「まあまあお気になさらず」
「ってなんで綾乃が返事するんだよ!?」
「じゃあ私が」
「いや義姉さんも違うからっ!」
「「まあ落ち着きなさい」」
「父さん達は落ち着きすぎぐげっ!」
俺の連続ツッコミは何者かの腹パンチ――あくまで軽くだが、中途半端に急所に入ったらしく、
痛い――によって阻まれた。
「落ち着け。」
「はい・・・」
殺気剥き出しの兄の視線を受け、俺は沈黙した。
109シロクロ 7話 【9】:2006/07/31(月) 23:50:24 ID:4P2o79B4
そんなわけで、(どういう訳だというツッコミ禁止)私達8人は白木家所有の車で出発した。
ちなみに座席の位置は、義兄さんが運転席で義姉さんが助手席。
私たち女三人は一番後の席。
啓介達男三人はその中間だ。 
本当は啓介の隣が良いんだけど、8人乗りの車じゃあ全員が好きな人の隣に座ろうとすると、
一組がドアに追いやられることになる。
「一組だけそうなるのは不公平だよね?」
という義姉さんの発言から、この編成になったのだ。
「それにしても・・・」
と、そんなことを考えていると、となりにすわったみどりちゃんが前の席の三人を
右、真ん中、左の順で指さし、腕を組んで首をかしげてから一言。
「チューリップトリオ・・・」
「「「それを言うな」」」
前の席に座る男三人は声をハモらせてみどりちゃんの声を遮った。
「なんでチューリップ?」
「ほら、右から赤峰、白木、黄原の順で座ってるでしょ?」
「・・・ああ、あ〜か、し〜ろ〜、き〜い〜ろ♪って奴ね・・・」
なるほどと思い、首を縦に振る。
110シロクロ 7話 【10】:2006/07/31(月) 23:52:18 ID:4P2o79B4
「しかし、色と言えば・・・」
黄原君は――話をそらしたかったのか――唐突にそう呟くと、
全員の顔――義兄さん義姉さんは前の座席なので後頭部――を眺め、
「中途半端だな・・・」
「何が?」
「色と人数が」
「いろ!?」
啓介のツッコミを無視して話を続ける黄原君。
「具体的には桃とか銀とか・・・。赤と青は被ってるのに・・・。それに白黒黄緑の性別逆に
して・・・。でもこの馬鹿メインってのはなあ・・・」
「その馬鹿ってのは俺のことかコノ野郎」
それってつまり・・・。
「戦t「それ以上言うな」」
最後まで言う前に啓介に阻まれた。
「・・・黄原君って、時々おかしな事言いますね・・・」
「時々じゃなくていつもよ、いつも」
「・・・何をさっきから騒いでるんだお前らは・・・」
運転席から義兄さんの呆れた声が聞こえてくる。
「とにかく向こうに着くまであと2時間かかるから、それまで元気はとっとけ」
「「「「「「はーい」」」」」」
義兄さんの言葉に全員が頷く。
そう。旅行は始まったばかりなのだ。
111 ◆6Cwf9aWJsQ :2006/07/31(月) 23:53:39 ID:4P2o79B4
今回は以上です。

旅行編はあと一、二話使います。
112名無しさん@ピンキー:2006/07/31(月) 23:55:47 ID:t5SIKn4M
リアルタイムでキターーーーーーーーーーー!!!!!
GJです。続きを期待してます。
113名無しさん@ピンキー:2006/08/01(火) 00:16:06 ID:bx7N5DI/
>>111
ひゃっほいひゃっほい、GJです!
114名無しさん@ピンキー:2006/08/01(火) 17:50:11 ID:uCu4CyJa
イエッフー!!!!
GJ!!であります。
115名無しさん@ピンキー:2006/08/03(木) 03:51:04 ID:qmYoXTML
このスレ大好きだ、本当に。
116那智子の話・第三話1/11 ◆ZdWKipF7MI :2006/08/03(木) 15:22:32 ID:7T3IdHEM
「待っている」という声があったから書いてしまう、というのは何とも現金だなあと自分でも思うのですが。
『那智子の話』の第三話です。行き詰まりを感じて放置してたのですが、何とか完結を目指したいと思います。

*****


1.
ぴよぴよぴよぴよ……

枕元でずっと小鳥のさえずりがする。
私は寝ぼけたまま、ぬくぬくの布団の中から手を伸ばす。
さえずってる小鳥型目覚ましの頭をちょん、と叩いてその子を黙らせた。
「ううー……」
我ながら色気のない声を出し、のっそり体を起こす。
頭をかきつつ、その目覚まし時計「ぴよぴよちゃん」のお腹についているデジタル時計を見る。
ふむ。七時か。
改めて時間を確かめると、大きく伸びを一つ。

定番の朝の行事を一通り済ませ、私はベッドから降りる。
ここ数日ぐっと温かくなり、もう布団から出るのも苦痛じゃない。
春だ。
今日から私は高校二年生。
カーテンの隙間から差し込んでくる、まっすぐな朝の陽射しも、何だか気持ちいい。
自然に顔をほころばせながら、私は着ていたパジャマの上着を脱ぎ捨てた。
ほどよく冷たい空気が、私の体を引き締めてくれる。
それから箪笥の一段目を開け、ブラジャーを……。

お? あれれ?

そこには何故か、洗濯して綺麗に丸めたパンツはあるのに、ブラがない。
……ああ、そうだ。
昨日の夜、まとめて洗ったんだった。
ローテーションが狂ったとはいえ、手持ちを全部洗わなきゃなんないなんて、私もうっかりしてたな。
昨日のうちに乾燥機に放り込んでおいたから、問題はないけど。

私はやれやれ、と誰言うともなく呟き、部屋を出た。
廊下を走りぬけ、洗濯機一式が置いてあるお風呂場へ。
台所の方からは、包丁のとんとんという小気味良い音。それにお味噌汁の香り。
ああ、お腹空いた。
早く着替えてご飯にしよっと。
そんなことを考えながら、脱衣所の扉を勢いよく開ける。
私の控えめな胸が、ぷるん、と揺れた。

「ああ。なっちゃんお早う」

……そして、凍りつく私。
一瞬の間をおいて脳みそを火花が駆け巡った。

「ぎ、っぎゃァぁぁぁあああああああっ!!!!!!???」


117那智子の話・第三話2/11:2006/08/03(木) 15:23:08 ID:7T3IdHEM


「なっちゃーん」
なんだか人類ヒト科ホモ・サピエンス・サピエンスの♂らしき声がするけど、無視。
通学鞄をぎゅっと握り、足早に歩く。
「なっちゃんてばー」
おかしいなあ。耳の具合でも悪くなったのかしら。
私の名前を呼んでるような気がするわ。
「聞こえてるんだろー? なっちゃーん」
足を早めても、その声はぴったりとついてくる。
あー、あー、あー。何も聞こえない、私は何も聞こえないよー。
振り向かないようにしながら、ほとんど走り出さんばかりに道を急ぐ。
「なっちゃん! もう、なっちゃんって!」
うわ、声が近づいてくる! だ、駄目だっ。

私は突然肩をつかまれ、強引に振り向かされた。
……いや、もう分かってるんだけどね。それが誰だかは。
「まーだ怒ってるわけ?」
半ば呆れた様子の祐輔が、私を見下ろしている。
その顔を、私はおもいっきりの膨れっ面で睨み返してやった。
でも、祐輔の視線は変わらない。
はっきり言ってガキみたいな反応だとは思うけど、ここで引き下がったら負け。
なにが負けかはしらないけど負けなの。
私がそう決めた。

「もう何度も謝ったでしょう」
「……謝って済む問題じゃありません」
私は頬を膨らませたまま、目線を反らす。
祐輔がじっと私を見ているのが、耐えられないから。
そのまま、彼に背を向けて歩き出す。

雲ひとつない青空。まぶしい太陽。
わいわい言いながら傍を通り過ぎていく、かわいらしい小学生たち。
こんなすばらしい春の一日が、朝の出来事のせいで台無しだ。
「だってさ、僕はただ顔を洗ってただけだよ? 勝手に入ってきたのはなっちゃんの方でしょう。
ノックだってしなかったし」
不貞腐れながら歩く私の後ろから、祐輔がもう何度も繰り返した話をまた始めた。
そう。
全部私が悪い。っていうかミス。
第一のミスは、完全に寝ぼけて、祐輔が引っ越してきたことを忘れていた点。
諸事情により祐輔が引っ越してきたのは三日前だったもんで、未だに彼が家にいることをつい忘れがちになる。
第二のミスは、自分で決めたルールをすっかり忘れていた点。
着替えてるときに間違って入られたら嫌だから、脱衣所の扉を開けるときはノックしましょう。
そのルールを言い出したのは私だったのに。
第三の、そして最大ミスは、祐輔がいるってのに、上半身裸で家の中をうろうろした点……。
「でも、祐輔さんが私の……その、は、裸を見たのは事実なんですから。私は悪くないですっ」
あーっ、もう。なに言ってんだ。
全く、完全に、百パーセント、私が悪いんじゃないか。
当たり前だけど、お父さんもお母さんも、「那智子がぼんやりしてるから悪い」って言った。
けれど、私は胸のむかつきが収まらない。

「あー……もう、なんでそんなに怒ってるのやら。もう好きにしなさい」
ほとほと困り果てたのか、祐輔はため息混じりに言った。
私も私が何で怒ってるのか、分からない。
でも、素直に謝る気にもさらさらなれなかった。
だから、祐輔と別々の道になるまで、私はずっと知らん振りしてやった。
分かれるとき、大学に向かう彼の背中に「ごめん」。そう小さく呟いてみたけれど。
118那智子の話・第三話3/11:2006/08/03(木) 15:23:32 ID:7T3IdHEM
2.
「ふはァ……」
盛大にため息をつきながら、私は机に突っ伏した。
クラス発表、担任紹介、始業式……と、気になる行事が盛りだくさんだったっていうのに今日は駄目。
何ていうか、一人でずっと腹を立てていたら、くたびれちゃった。
特に始業式が終わって、新しい自分の教室に戻ったらどっと疲れが出た。
両腕は前に放り出し、頬を机に押し付けながら、目だけで周りを観察する。

「どうしたの、なっちゃん?」
ああ、そうだった。
二年生に進級しても、私は青葉と同じクラスになったんだった。
「何だか、クマが出来てるよ、徹夜でもしたの?」
「……ちがーう」
答える私の声はまるで幽霊。
合間合間にため息を挟みつつ、心配そうな青葉に顔を向ける。
「ふはぁぁぁぁぁー……」
「ほんと、どうしたの? 具合悪いんだったら……ってなっちゃんが病気なんてしないか」
「ちょっとちょっと、怒るよ」
キッと睨むと、それを青葉は笑顔で受け止めた。
私もちょっと肩をすくめる。
「……」
私は青葉の向こうに広がる、窓の外に目を向けた。
ぽかぽかといい天気。
今頃、祐輔も大学第一日目を迎えてるんだろうか……。
私が物思いにふけるのを、青葉はすぐそばで優しく見守ってくれてる。
それが、我が親友のいつものやり方だった。

「……私、帰るね」
勢いよく立ち上がる。
「ほんと、大丈夫? 気分が悪いんだったら、私もいっしょに……」
「大丈夫だいじょうぶ。久しぶりの学校で疲れただけだから」
なおも心配そうな青葉ににっこり笑って答える。
言えない。
誰にも言えないよ。裸を見られた話なんて。

119那智子の話・第三話4/11:2006/08/03(木) 15:23:52 ID:7T3IdHEM

――――なのに、私は何でこの男に打ち明けてるんだろう。
隣を歩く男の子は、私の愚痴とも言えない話を、辛抱強く聞いてくれてる。
「……ってわけでさ。どうにも腹がたってさ、許せないのよね」
「相変わらずですね……」
望月近衛は呆れたような顔をしたが、私は寛大な心でそれは見逃すことにした。
いや、呆れられてる理由は分かるけど。

「でも、その……裸を見られたって言っても、それは妙高さんのせいだし、祐輔さんは謝ったんでしょう?
何が気に入らないんですか。もしかして意味もなく謝ったことが許せない、とか?」
「んー、そうじゃなくて、なんていうか……その反応はないだろう、みたいな」
望月がいいところは、相談に乗りながら、相手の考えをうまく整理していくとこ。
いつも聞き役に徹して、意見も「こうじゃないでしょうか?」みたいな言い方をする。
相手が「それは違う」って言ったらすぐ取り下げる。意見の押し付けは絶対しない。
そういう風に誘導(って言うと聞こえが悪いか)しながら、相手が自然と結論を出せるようにしてくれる。
だからって、うら若き乙女が肌を見られた話をしてしまうのも、どうかと思うけどさ。
まあ、それはともかく。

「反応……だって、慌てず騒がず、妙高さんにバスタオルかけてくれたんでしょう。
それ以外の反応って……んー……例えば僕だったら」
「望月だったら、なに。あんただったら、大騒ぎしちゃう?」
ウブだからね。女の子のおっぱいなんか見たら、慌てふためいて気絶するかも。
「……いや、やっぱり同じようにすると思います。もちろん、びっくりはするでしょうけど」
「何でよ」
望月も祐輔と同じ反応をすると聞いて、私は少しむっとした。
「私の裸なんか、その程度のモンって言いたいわけ?」
「いや、そうじゃなくて」慌てて望月は言葉を継いだ。

「祐輔さんが、いくら小さい頃から妙高さんを知ってると言っても、やっぱり驚くとは思いますよ。
でも僕だったら……やっぱり大騒ぎは出来ないな。一緒に住んでる女性ですからね」
「はあ」
「だって、妙高さんも嫌でしょう。例えば祐輔さんが妙高さんの裸に大騒ぎしたとしてですよ?
そんな様子見たら、いつまでたっても『あ、この人いま私の裸、想像してる』とか思っちゃいませんか」
うーん。そう言われてみると、そうかな……。
大騒ぎなんかされちゃったら、一週間ぐらい祐輔の視線が気になるかも。
たまに電車の中とかで、男の人にじっと胸元なんか見られると、その日一日気分悪いもんね。
いや、見られるほど立派じゃないけどさ、それは置いといて。
「これからも一緒に住むのに、妙高さんのこと……女の子として見ちゃったら、普通には暮らせませんよ」
「やらし。なに、男ってそういう想像するもんなの?」
「あー……いや、それは」
あらら。顔真っ赤にしちゃって。
本当に女の子に耐性がないんだから。

120那智子の話・第三話5/11:2006/08/03(木) 15:24:14 ID:7T3IdHEM

機嫌が悪い理由、分かってきた。
それは、祐輔が私の裸を見ても、全然取り乱さなかったからだ。
あの時、私がものすごい大声で叫んでるのに、祐輔は冷静沈着だった。
全然うろたえもせず、黙ってバスタオルを取ると、私の上半身にかけてくれた。
そのまま言葉にならない悲鳴を上げてる私をおいて、脱衣所から出てっちゃった。
残された私は、何だか取り残されちゃって。
取り乱した自分が馬鹿みたいで。

そりゃ、彼にしてみれば私の裸なんて全然興味ないんでしょうけど。
ちっちゃな時から一緒にお風呂に入ってて、裸なんて見慣れたもんなんでしょうけど。
単なる肉親なんだから、騒ぐ私の方がおかしいんでしょうけど。

――ちょっとは、うろたえて欲しかった。

真っ赤になって、目をそらして。
でも、ちらちらと私の胸の辺りに視線をやりつつ、「ご、ご、ご、ごめん」とかどもっちゃって。
それで、そっとバスタオルをかけてくれたなら。

望月の言うように後々気分は悪いかもしれないけど、でも祐輔のそういう気の使い方が私は気に入らないんだ。
私だって、女なんだ。
そこまで考えて、私はふと気がついた。
私は祐輔に、「女の子」として見て欲しいんだろうか――?

「ねえ、望月。私って――女として、魅力ないかな。その、例えば青葉なんかと比べて、さ」
ちらちらと横目で彼の様子を伺いながら、私は尋ねた。
馬鹿な質問だ。ちょっと仲のいい男の子に聞いていいようなことじゃない。
それでも聞かずにはいられないくらい、最近の私は「自信がない」。
ところが、望月の答えはあっさりしたものだった。

「そりゃ、いつかは妙高さんのこと、好きって言ってくれる男の人も現れると思いますよ」
雨の日が続いても、いつかはお天気になりますよ――それぐらい、単純な理屈。
確かに望月の言う通り。そんな人も、広いこの世間には一人ぐらいいるだろう。
でも、それって。
「それって、今は私に魅力ないってことじゃない?」
「そうは言いませんけどね。相手の望む答えばっかり返しても、面白くないでしょ」
あー。こいつ、酷いやつだ。

でも、やっぱそれでよかったのかもしれない。
望月に慰めてもらっても、私は正しい答えに辿り着けないから。
「じゃあ、僕はここで」
「うん。今日はありがと」
いつもの十字路のところで、私たちは軽い挨拶を交わす。
去っていく望月に、私は声をかける。
「望月」
「何ですか?」
「あんた、やっぱイイ奴だわ。何であんたに彼女が出来ないのか、不思議」
そう言った途端、望月は眉間にぎゅっと皺を寄せて私を見つめた。
「僕も妙高さんにどうして彼氏が出来ないのか、不思議ですよ」
「ちょっと、せっかく私が……」
そういうお世辞言わないから、褒めてあげたのに。
でも、望月は次の瞬間ふっと表情を緩めて、軽く手を挙げて去っていった。
うん。やっぱり、イイ奴だ。
私はちょっぴり自信を取り戻したもの。
よおし。
121那智子の話・第三話6/11:2006/08/03(木) 15:24:35 ID:7T3IdHEM

3.
家に帰った私は、部屋に戻って早速着替えの入ったタンスを開ける。
制服を脱いで、下着姿になった私は、姿見の前に立つ。
それからタンスを全開にして、服を床にぶちまけた。
そう。一度ぐらい祐輔に私が「女の子として可愛い」ってことを認めさせてやる。
そして、私のプライドを復活させるんだ。
私を好きって言ってくれる男の子だって、いつか現れるって自信を。
握り拳を作って気合を入れると、一つ一つ服を検討し始める。

普段はパンツルックが多いけど、やっぱりこういうときはスカートよね。
とはいえ、季節感も大事。残念ながら春っぽいワンピースは一着しか無いんだけど。
うーむ、ちょっと柄が古臭い。まあ仕方ないか、これ買ったの中二のときだもんね。
となるとセパレートスタイルか。ふむ。
一枚のスカートが私の目に止まる。私が気合を入れて出かけるときによく穿く紺のミニスカート。
ちょっと季節は早いけど、これは……
うん、いいじゃない。
太ももからふくらはぎにかけてのラインなんて、我ながらなかなかセクシーだ。
あー、でもちょっと太ったかな? お正月ちょっと食べすぎたもんねー。
ま、いいでしょ。やっぱり少しはサービスしないと、女の子とは見てくれない。
何しろトップレスでも動揺しない相手だ。ここは大胆にいかなきゃ。

自分を奮い立たせるように、私は鏡の目でくるり、と回ってみる。
翻ったスカートのひだが、小さな円を描き、私の短い髪が踊る。
……って、上半身がブラだけじゃ格好つかないね、こりゃ。
上は何がいいかな。
「サービスする」っていっても、さすがにノースリーブとかじゃ寒すぎるし。
いつもならTシャツに、薄手のジャケットとかパーカーみたいなの羽織るけど、それじゃ駄目だし。
春物のニットとか好きだけど、私の持ってるのは色が緑とか黒とか地味だし。うーむ。
と、脱ぎ散らかした服の山の下に、普段ほとんど気にも止めない一着を見つけた。
セーラー風の半袖シャツ。
もちろん学校の制服とは全然違って、どっちかっていうと絵本の水兵さんみたいなの。
確か、青葉と買い物に言った時、彼女がものすごく薦めるから買っちゃったんだ。バーゲンだったし。
子供っぽすぎるから一度も着たこと無かったけれど、これはいいかも。

結局私は、ミニスカートにセーラーシャツという格好に決めた。
脚の太さはあえて気にしないことにして、今回は生足で勝負。少し肌寒いけど、祐輔に勝つためには我慢だ。
それはともかく。
……おお、いつもの私じゃないみたい。
うん。これなら祐輔を驚かせるかも。
にやり、と悪役風の笑みを浮かべて、私は鏡の中の私に笑いかけた。

122那智子の話・第三話7/11:2006/08/03(木) 15:25:20 ID:7T3IdHEM

「ねえ、おかーさん、祐輔さんは」
着替え終わった私は台所に顔を出す。
ところが。台所はからっぽで、冷蔵庫の前に髪が一枚張ってあるだけ。

那智子へ
霧島の叔母さんが『また』調子悪いらしいので出かけます。多分泊まりになると思います。
お昼は冷凍のうどんがあるからそれを食べて。
晩ご飯は、冷蔵庫にハンバーグの種を入れておいたので、焼いて食べてください。
炊飯器は七時に炊き上がるようセットしてあります。
お父さんは残業です。
祐輔さんは大学の関係で帰るのが遅くなるそうです。二人のご飯、よろしく。
母より

読み終わって、私はなんだか気抜けしてしまった。
どうも私が気負うと、それを台無しにするようなことが起こる。
霧島のおばさんは父方の叔母で、なぜか義理の姉であるお母さんとすごく仲がいい。
ずっと一人暮らしで、お母さんに遊びに来て欲しくなると熱を出す人なの。
だからまあ、そっちは心配ないだろう。お母さんの文面も落ち着いてるし。
それにしても、せっかく着替えたのになあ……。
ま、でも祐輔が帰って来たときにこの格好で迎えることは出来るわけだ。
ふふふ、玄関を開けた途端、祐輔が驚く顔が目に浮かぶね。
ていうか、驚いてくれなきゃ困る。意地でも驚いてもらうからな、待ってろ祐輔。

一人真剣に頷きながら、私は居間の方に向かう。
空気を変えようと思って窓を開けた。春めいた風の匂いが、私は好き。
それからソファに座るとテレビをつけ、ぼんやりと眺める。
大したニュースも無く、各地の新学期の模様なんかを伝えてる。
チャンネルを変えても、特に面白い番組はやっていない。まあ平日の午後だしな。

ふわあ……。
駄目だ。なんだか眠たくなってきた。
お昼ごはん作って食べなきゃいけないけど、めんどくさいな。
あんまりお腹も空いてないし、一休みしてから作ろう。
私はごろりと横になる。
あとから考えると、スカートが皺になるから駄目なんだけど。
いつもズボンの私はそこまで頭が回らなかった。眠かったし。
ソファに横になって、ぼんやりとテレビの音だけ聞いていると、なんだか気が遠くなっていく。
窓から吹く風がほんと、心地いい。
カーテンを揺らして通り過ぎる風が……まるで私のほ、……ほを撫でて、るみ、た、い――

123那智子の話・第三話8/11:2006/08/03(木) 15:25:41 ID:7T3IdHEM

4.
突然、辺りが真っ赤に染まった。
船火事だ。私の乗った豪華客船が海の上で火事になったんだ。
火に追われた私は水兵の格好のまま水に飛び込む。
もう皆逃げ出した後なのか、海面には私しかいない。
沈没に巻き込まれないよう、私は必死で泳ぐ。
けれど、泳いでも泳いでも黒々とした水は私を引きずり込むように流れている。
服が濡れて重い。脱がなきゃ。
駄目。この服は祐輔に見せるんだもの。
でも、限界だ。水の中から伸びた見えない手が、私を捕まえようと袖やスカートを引っ張る。
止めて。脱がさないでよ。
私はいつか水の中に引きずり込まれる。
苦しい。息が出来ない。
水面に上がろうともがきながら、私はシャツが、スカートが脱がされていくのを感じる。
そしてそれと共に私は暗い水底に……

「ぷはぁっ!」
私は必死で酸素を求めて、大きく息をする。
布団を跳ね飛ばし、ベッドの上で荒々しく肩を上下させ――「ベッド」?
私は辺りを見回す。
ベッドのすぐそばに地味なシャツとジーパン姿の人が正座している。
ゆっくりと視線を上げ、それが誰か確かめる。
それはもちろん、祐輔だった。
「とりあえず、おはよう」
「……はい、おはようございます」
微笑む祐輔に、私はなぜか四角張って答えた。
私の答えがよっぽど面白かったのか、祐輔は笑いを噛み殺しながら私の額に手を当てた。

「ああ、まだ熱があるな。晩ご飯は僕がやる。なっちゃんは寝てなさい。
あとでお粥か何か作ってあげるから」
祐輔の目の少し心配そうな色に、私は初めて頭がぐらぐらする原因に気づいた。
「頭……熱いです」
そう答えると、祐輔は当然だというように頷く。
「当然だよ。ソファの上であんな寒そうな格好で居眠りしてるんだもの。
窓は開いてたし、ミニスカートで、シャツはまくりあがってお腹丸出しでさ。そりゃ風邪だって引くさ。
僕が帰ってきたら眠りながらウンウンうなされてたんだ、びっくりしたよ」

そう言われて、自分が例の水兵さんの格好じゃないことに気づいた。
いつも来ているパジャマの上下。セーラーシャツは部屋のハンガーに架かっている。
はっとなって、私は掛け布団を抱きしめ、体を祐輔から隠す。
「あ、あの、まさか祐輔さんが……」
「あー、うん……悪いと思ったんだけど。あの格好のまま寝かせるのもどうかと……」

124那智子の話・第三話9/11:2006/08/03(木) 15:26:02 ID:7T3IdHEM

私の頭がかっと熱くなったのは断じて熱のせいなんかじゃない。
見られた。
見られちゃった。
今日のショーツはあんまりお気に入りじゃないのに。
ブラとの上下の統一なんて全然考えずに着けちゃったのに。
いやいやいやいや。問題はそこじゃなくて。
脱がされちゃった。
若い男の人に。祐輔に。シャツと、スカートと。

「言い訳にしか聞こえないだろうけど、出来るだけ見ないようにしたから。
でも、ごめん。なっちゃんは怒っていいと思う」
祐輔は正座したまま、深く頭を下げた。
今朝のアレのあとで、コレ。私はもうどんな顔をしていいのか分からない。
怒っていいのか、泣いていいのかも。
黙りこくっていると、祐輔はそれを「怒り」だと取ったみたいだった。
僅かな床擦れの音をたてて立ち上がると、私の部屋から出て行く。
背中が、妙に小さく見えた。
母親のお皿を割ってしまったから頑張ってお手伝いしたのに、今度はコップを割ってしまった子供みたいに。

「……祐輔さん」
私が思い切って声をかけると、祐輔はドアのところで立ち止まった。
ぎくりと体が震えるのがはっきりと見えた。
私の言葉、それを聞くのがとても恐ろしいといったように。
「…………なんでですか」
きっと祐輔は私が聞きたいことを誤解してるだろう。
だから祐輔がおずおずと口を開くより先に、私は自分の疑問をはっきりと口にした。
「なんで、私をそんな子ども扱いできるんですか」

「なんで、私の裸を見ても冷静でいられるんですか。なんで私の着替えなんて出来るんですか。
なんで、私があんな格好してたと思うんですか……?」
「あの、なっちゃん、君の……」
困ったような笑みを浮かべ、祐輔は振り返る。
ゆっくりと私のそばに戻ってくると、またベッドの脇に腰を下ろした。
今度は胡座をかいて。
「君の言いたいことは分かるよ」

「私ばっかり、損じゃないですか。祐輔さんと一緒に生活することになって、すっごくドキドキするのに。
家にいても祐輔さんの目を気にして、お風呂上がりにうろついたり、下着をベランダに堂々と干したり。
寝癖つけたまま朝ご飯食べたり、コーラ飲んでげっぷしたり、鼻くそほじったり出来ないのに……。
女の子らしく思われなきゃって、結構努力してるのに。なんで祐輔さんは平気なんですか。
なんで普通に私と生活してるんですか……そんなに……」
ヤケクソの私はとんでもないことを口走りながら、ちょっと泣いていた。
「そんなに、私は子供ですか」
そう言ってしまったとたん、顔に火がついたみたいだった。
祐輔に背を向け、布団をかぶる。彼の顔なんて見れるわけない。
何言ってんだ。馬鹿か。私。

125那智子の話・第三話10/11:2006/08/03(木) 15:26:27 ID:7T3IdHEM

「……なっちゃんに再会した時ね」
祐輔の声が不意に優しくなった。
駄々っ子に言い聞かせるように、一言ずつゆっくりと私に語りかける。
私は布団をかぶったままそれを聞いていた。
「『こりゃ、困ったことになった』って思ったんだ。
何しろ僕が知ってるなっちゃんは小さな五歳の女の子だからね。
ところが、目の前にいるのはかわいい、十六歳の女子高生なんだ。
『もし子どもの頃のまま、無防備に暮らされたらどうしよう。
例えば目の前で着替えられたりしたら目のやり場に困る、どうしよう』って。
みんなに誤解されたり、変な心配かけたくないから言わなかったけど。
だからさ、まあ僕も色々気にしてる。
なっちゃんのプライバシーは尊重しなきゃいけない、とか。
見てはいけない物を見ても、あえて目をつぶろう、とか。
実家じゃトランクス一丁で歩きまわってたけど、女の子はそういうの嫌がるぞ、とか。
お茶を啜る時、音が大きすぎるんじゃないだろうか、とか、まあ色々」
自分の告白に自分でウケたのか、祐輔はふふ、と小さく笑った。
「ぶっちゃけ『親しき仲にも礼儀あり』ってことなんだけどね。
そこにいたる道のりは、さ。僕もなっちゃん同様に割と複雑で……つまり、そういうことだよ」
ああ、私いま言いくるめられてる。
それぐらい分かるよ。私の周りには望月近衛っていう、そういうのがうまい男がもう一人いるから。
でも、それは童話の悪魔の誘惑みたいなもので、とっても魅力的な「嘘」だった。

「……ホント?」
布団の隅から目だけ出して、祐輔を見る。
祐輔は、目を細めながら小さく頷いた。もう、ほんと嘘がうまいな。ちくしょう。

でも私は顔が緩むのを止められない。
ちょっとはにかみながら、布団から顔を出す。
祐輔は黙って布団を掛け直してくれた。
「さ、ちょっと寝なさい。何かお腹に入れて、薬飲まなきゃ。
何か食べたいものがあるなら、それを作るけど……」
「玉子おじやがいい」
即答だった。
祐輔は苦笑しながら分かった、と答える。

「他には何かありますか、お姫さま?」
「……ん」
私は頬を染めながら、小さく呟く。
どうせ甘えれる時に甘えてしまえばいいんだ。
熱のせいにしてしまえばいい。明日になったらきっとそんな勇気も無くなるだろうし。
「なに?」
祐輔は私に顔を近づける。
その耳元に、私はそっと囁いた。

「お休みなさいのキスして」

祐輔は恭しく礼をして見せた。
彼の唇が近づく。
私は目をつぶった。目の奥が熱でじんじんする。
でも、祐輔の体温がそれ以上に感じられた。
祐輔が、私の前髪を掻き分ける。
額に、軽いキス。
「……ありがと」
それだけ言って、私はそのまま眠ることにした。
最後に聞いたのは、祐輔が扉を閉める音。もう私はうなされなかった。
126那智子の話・第三話11/11:2006/08/03(木) 15:28:11 ID:7T3IdHEM


祐輔の看病のおかげで、私の風邪は次の日には治っていた。
すっきりした頭で目を覚ますと、ベッドから起き上がる。
今日もいい天気だ。
大きく伸びをすると、私はパジャマ姿のまま廊下に出た。
洗面所の方に小走りに向かう。扉の前で一時停止。ノックは忘れない。
「どーぞ」
中からは祐輔の声。私はためらうことなく中に入る。

「あれ、トランクス一丁じゃないんですか?」
「なっちゃんこそ、今日はストリップショー無し?」
「しょ、ショーじゃありませんっ!」
いくらなんでも、変なこと言われたときは、やっぱりきっちり反論しておかなくっちゃ。
私は、えーと、あれ。そう、痴女じゃないんだから。

二人並んで顔を洗い、髪を梳かし、歯を磨く。
「ご飯は仕掛けておいたから」
「あ、すごい」
「おかずは玉子焼きとサラダぐらいで勘弁ね。おばさんほど料理得意じゃないんだ」
そういうことをさらっと言う男は嫌い。でも祐輔だからかろうじて許す。
「おかずくらい、私が作りますよ」
「いいよ、僕じゃおじさん起こしにいけない」
ああそうか、と当然のことに気づきながら、私は口をゆすいだ水を吐き出した。

その時だった。

不意に玄関の電話が鳴る。
こんな朝に珍しい。
私は顔をタオルで拭きながら廊下に出た。
受話器を取り「はい、妙高です」と告げる。
「祐輔は、いるかな」
その男性の声は、馴れ馴れしかったけれど、聞き覚えの無いものだった。

「祐輔さーん」
受話器を手で塞ぎながら、私は洗面所から出てきた祐輔を呼んだ。
のんびり顔を拭っていた祐輔は、自分に電話だと気づいて慌てて駆け寄ってくる。
「誰?」
「祐輔さんの、お父さんです」

私が答えた瞬間を、私はその後もずっと忘れなかった。
祐輔の表情が、一変したから。
その顔は、私が思わず身を固くしてしまうほど、恐ろしく、冷たい顔だった。


(続く)
127名無しさん@ピンキー:2006/08/03(木) 16:41:59 ID:Jq8cgHZ5
はがゆ〜い、しかしそれもまたよし。




GJ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
128名無しさん@ピンキー:2006/08/03(木) 22:47:38 ID:0cVjoEJL
まさか、本当に書いてくれるとは……感動した!!!!
やっぱ、那知子かわいいよ那智子。
女性の心理描写がうまさに感服。
貴方は女性か!?と思わず思ってしまった。
129名無しさん@ピンキー:2006/08/04(金) 23:35:10 ID:wGA9UpJP
こちらスネーク、87をはじめとする捕獲大隊、99などの単独部隊の目をかいくぐり
無事幼馴染みスレに潜入した

これより>>76-83の続編を投下する


尚、諸々の事情により、今回は二話分投下することで作戦完了となる
注意、ならびに了承されたし

謝意は後ほど表明する
130今宵の月のように:2006/08/04(金) 23:36:12 ID:wGA9UpJP

「それじゃ、お疲れ様でしたー」
 今日のシフト分を働き終え、足早にバイト先を後にする。吐いた息が途端に白く濁り、
空気に混じれて消えていく。視界の端々には、ちょうど一週間後に迫ったクリスマスを
盛大に祝う、色とりどりのイルミネーションがいたるところに飾られている。
「はぁー……」
 また煙のような息を吐いて、家路に沿って歩き始める。カップルが目立つ周りの雑音は、
聞こえてるはずなのに、耳にはまるで届いてこなかった。

 今日バイトへ行く前に、またあの娘と、また同じ店で話をしてきた。

 これがまた随分と頭が痛くなる話なわけで。しかも今回は真由ちゃんだけじゃなく、
兵太も一緒にいたもんだから随分と居心地が悪かった。

『……』
『……』
『……』

 一人が睨んで、一人がハラハラしたように落ち着き無く目線を動かし、一人が素知らぬ
顔でコーヒーを飲む。周りからはどんな風に見えたんだろうな。

『どうして……なんですか』

 紗枝が橋本君と別れたことも、紗枝が学校に来なくなったことも、どうやら悪い冗談でも
なんでもなく紛れもない事実だったようで。疲れきった真由ちゃんの表情と、それを心配
する兵太の表情が、やたらと印象的だった。

『だからさ、俺に聞くなよ』
『……!』
『ちょっ、ちょっと、二人ともやめましょうよ』

 肌どころか身体の中までピリピリするような雰囲気の中、話は進んだ。
 もちろん、怒り心頭の真由ちゃんが俺に対してわざわざ事情を説明してくれる筈もなく。詳しい顛末は、全部兵太の口から聞くことになった。

(何やってんだ……俺も…紗枝も……)
 頭の中で毒づきながら、その時のことを思い返しながらゆっくりと歩を進める。事前に
そんなことがあったせいか、今日のバイトはいつも以上に疲れた。


 兵太から聞いた詳細はこうだ。
 11月も半ばを過ぎ、下旬を迎えるようになった頃。ある日を境に、二人の雰囲気が急に
よそよそしくなったのがクラスの誰から見ても分かったらしい。それまではいつも一緒に
いたのに、急に話をするどころか、顔も合わさなくなったそうだ。
 そんな居心地の悪そうな空気はやがて、一部の生徒の陰口を発生する要因となったようで。

 二人とも性格がよく、友人が多く、人気もある。だけどそんな人物に、一度人聞きの
悪い事実が浮かび上がれば、周りの評判はどうなるか。 
 橋本君は、何事もないように振舞ったらしい。素直に別れたことを認め、二言目には
『俺が悪いんだ』とオウムのように繰り返していたそうだ。

 
 だけど、紗枝がそんな器用ことが出来る性格じゃないってことは、俺もよく知っている。


 黙りこみ、顔を逸らし、暗い表情のままその場から逃げ出す。対照的な二人の対応。
周りからして見れば、印象が悪くなるのはどっちか。印象がよく映ったのはどっちか。
言うまでもないことだった。
131今宵の月のように:2006/08/04(金) 23:38:15 ID:wGA9UpJP

 周りはまだ未成熟な高校生。そんな彼らの元に投げ入れられた、クラスメイトの破局。
そんな格好なネタが、食いつかれ、色々と想像されないはずが無かった。



 悪い噂が立った。



 対象は二人じゃなかった。周りからの印象が悪くなった方にだけ、集中したらしい。
橋本君は本当に自分が悪いと思ったから、紗枝に迷惑かけたくないからそう言ったんだろう
けど、それは逆効果になってしまったわけで。紗枝が皆を避けるような態度をとったのも、
事を悪い方へ加速させる一因になったみたいだった。

 根拠のない悪質な想像が、やがて彼らの中で事実と錯覚されるのに時間は掛からなかった。

 紗枝はどんどん居場所を失っていく。周りの陰口も、やがては本人にわざと聞こえる
ように近場で行われ続けたらしい。真由ちゃんや兵太だけではどうにもならず、橋本君が
全てを否定しても、歯止めはかからなかった。


 そして、とうとう紗枝の心は折れてしまう。


 あいつの席は、いつしか誰も座らない空白の場所となった。

 
 最初はまたすぐ登校してくるだろうとたかを括っていたクラスメイト達も、何日経っても
冷たいままの席を目にするたびに、自分達のしたことがいかにいけないことだったか自覚
し始めたようで。
現在は暗黙の中、教室の雰囲気は悪化の一途を辿っているとのことだった。


『あなたの……あなたのせいです』


 事情を説明する兵太の台詞に、その時の痛々しい紗枝の様子を思い出してしまったのか、
真由ちゃんは涙目になって俺を責め立てた。

『平気で紗枝を振ったわけじゃないって…そう言ってたじゃないですか』

 大切な友人を守れなかった自分の非力さも、そこには混じっているようだった。普段から
は想像できないこの娘の様子に、兵太は相変わらず落ち着きを失ったままだった。

『そんなに紗枝のことが心配なら、自分で会いに行けばいいんじゃないか』
『……』
『おばさんに…会わせてもらえなかったんです』
『おばさんが?』
『本人が…誰にも会いたくないって言ってたみたいで、それで…』
『…へぇ』

 真由ちゃんに問いかけたことを兵太が答えるあたり、どうやら二人で紗枝の家へ赴いて
はいたものの、その行動は空振りに終わったようだった。それで、何をどうしたらいいか
分からなくなったんだろう、溜まりに溜まった恨みつらみを、また俺にぶつけにきたんだな。

 その後も真由ちゃんは俺を責め立てていたけど、その時何を言っていたのか、もうよく
覚えていない。覚えているのは、こっちからはもう何も言い返さなかったこと。それだけだ。
132今宵の月のように:2006/08/04(金) 23:41:15 ID:wGA9UpJP
 
 バイトの時間が差し迫り、中座させてもらうことになった時、真由ちゃんには一言だけ
「ごめんな」と謝った。それ以外何を言えばいいか分からなかったから、それだけしか
言えなかった。
 が、それまでずっとフォローにまわっていた兵太が、店を出る直前に初めて俺に向かって
一言呟いた言葉に、頭と胸を強く穿たれる。



『今村さん……格好悪いですよ』



『……!』
 自分が悩み迷い続けていることを全てを見透かされたようで、その時は聞こえてない
振りをして、立ち去ることしか出来なかった。

「……」
 格好悪い…か。んなこと、言われなくても俺自身が一番よーく分かってんだけどな。
いつまでも同じことでウジウジ悩んでるなんて、俺らしくない。気持ちの切り替えが出来ず
にいることが、こんなにもキツいなんてな。

 お前は俺に、どうしてほしい。俺は一体どうしたらいい。
 ずっとそんな風に考えていた。この二ヶ月間、ずっと脳裏から離れなかった言葉がある。


『ばかやろ……』


 擦れ違い様に、確かにあいつが口にした、気持ちがこもった一言だけの台詞。今でも
あれは空耳じゃなかったって言う確信がある。
 あの時は、目を背けていた事実を認識して、身体に宿った気持ちを、どうにか抑え込む
ことで精一杯だった。手前勝手な解釈をしたまま、ずっと放ったらかしにしていた。

 けどもし紗枝が、あの時点で橋本君とは上手くやっていけないということを予感してた
のなら。あの言葉が素直になれないあいつの、精一杯の本音だとしたら。


「……ふぅ」


 …………


 ダメだな。


 やっぱり、頭を理解させることは出来ても、心までは無理だったようだ。たとえ俺が、
あいつを好きになってなかったとしても、大事な幼なじみなんだしな。
 
 紗枝が俺にとって特別だっていう理由は、あまりにも多すぎる。

 もちろん、あいつの近況を知って心配しなかったって言えば嘘になる。けど、それ以上に

 一度は諦めて封じ込めたはずの感情を、強く激しく煽られた気がした。
 それを頑なに拒むのは、建前を掲げる頭だけ。心も、身体も、感情も。紗枝と会い、
言葉を交わすことを強く求めた。
133今宵の月のように:2006/08/04(金) 23:43:02 ID:wGA9UpJP

 今までも何度か機会はあったと思う。でも、もうこれが、最後のチャンスなんだろうな
っていうのが何となく分かってしまっていた。


 そうだな…このまま、ずっとこんな気持ちで生きていくだなんて……俺は御免だ。


 お前だって……そうじゃないのか。


 そう思ったから、二の足は踏まなかった。決断することに、迷いなんて無かった。
 確かに怖くないと言えば、嘘になるけど。会えばまた、痛烈な言葉を叩きつけられる
だろうけど。紗枝への想いがそれをかき消す。

 バイトを終え、街中をとうに過ぎ、俺はゆっくりと歩き続ける。

 帰路についてるわけじゃない。今、歩いているのは河川敷沿いの道だからだ。

 ボロアパートの一室にある自宅は、回想している間に通り過ぎていた。

 歩みを止めないまま、道の上から川沿いに広がる原っぱを眺めてみるが、深夜に近いせいで
ほとんど何も見えない。風にさらされ揺れて擦れる草木の匂いと、涼しげな音が聞こえて
くるだけだ。


 あの二人に背中を押されたっていうわけじゃないんだが。


 兵太からメールを貰った時、会いに行きたいと思わなかったわけじゃなかった。むしろ、
会いに行きたかった。
 だけど、会って何を話したらいいか分からなかった。紗枝のために、どうしてやったら
いいか分からなかった。それが怖くて、会いに行けなかった。あいつのためを思うなら、
今俺が会いに行ったら、余計に向こうが辛くなるだけなんじゃないか。もしそれがとどめを
刺すような行為かもしれないと考えてしまった時、とても行動を起こす気にはなれなかった。


 でも、それでいいわけないだろってことも心のどこかで分かってたんだ。

 
 詳細を聞いて、疲れきった真由ちゃんの顔を見て、兵太に初めて軽蔑されて。ようやく
気付いた。俺が何もしてこなかった結果が、今のこの状況を生み出してるってことに。
 ずっとこの気持ちを抱えたまま、日々を送ることが罪を償う方法だなんて、らしくもない
殊勝な考えも浮かんだけど、あんなもん今考えたらただの自己満足だ。
 散々他人を不幸にしたくせに、あの時は、不幸な目に遭う自分に酔ってただけなんだよ。
134今宵の月のように:2006/08/04(金) 23:45:48 ID:wGA9UpJP


 だからこれからの行動は、紗枝のためじゃない。


 それもあるけど、それ以上に俺のために、俺はあいつに会いに行く。


 帰路についてるわけじゃない。


 この道を通り過ぎた先にある家に、これから用があるんだからな。


 あの日を迎えてから四ヶ月。初めて、自分の心に素直に従った気がした。


「……」
 家の前に到着する。一階の電気は点いていた。どうやら、おばさんかおじさんかが、まだ
起きているらしい。
 深夜近い時間だったから一瞬躊躇ったけど、押し寄せる感情に背中を押されるように、
俺はインターホンを押していた。

「俺です」

 応答される前に、こちらから言葉を発する。
 流石に深夜の訪問には驚かれたけど。相手が俺だったもんだから、事情を説明すると、
特別に許してもらえた。

「久しぶりだね崇之君」

 そう笑顔で対応するおばさんの顔には、随分疲れが溜まっているようだった。無理も
ないか、自分の娘がいきなり部屋に閉じこもっちまってるんだからな。
 居間に通されソファに腰を下ろし、おじさんも合わせて三人で静かに話を始める。

「なんで…こんなことになったんだろうね……」
 
 沈痛な面持ちで、そう静かにおばさんは喋り始める。様子から察するに二人とも、紗枝の
俺に対する想いについては知らなかったようだ。

「学校で、何があったのか話してくれなくてね。尋ねても、『誰にも会いたくない』と繰り
返すばっかりで……学校側に聞いても、理由を把握してなくて、ね……親としてこれほど
情けないと思ったことはないよ」

 今度はおじさんが淡々と口を動かす。メガネが蛍光灯に反射して、その表情を窺い知る
ことは出来なかった。
「紗枝は……部屋ですか」
「ああ…トイレの時くらいしか、部屋に出てこないんでね。食事を用意しても、ほとんど
手をつけないんだ」
「そうですか……」

 自分の行動の代償を、紗枝が払ってるような気がして、自責の念が今までより一層大きく
なる。だからこそ、より一層あいつに会いたいという気持ちが強くなった。
135今宵の月のように:2006/08/04(金) 23:48:07 ID:wGA9UpJP


「会わせて……もらえませんか」


「……」
「なんでこんな遅い時間に来たんだとか、なんで俺が事情を知ってるんだとか、そういう
理由はあとでちゃんと話します。だから、お願いします。あいつに…会わせてください」

 ソファに座ったまま頭を下げる。

 二人とも困惑し、困ったように顔を見合わせる。俺がここに来た時点で、その目的に関して
想像はついてただろうけど、いざ頼み込まれると、動揺を隠せなかったみたいだ。
 
 しばらくの間、どうしようか決めあぐねていたようだったけど。やがて決心したように
二人とも俺のほうへと向き直った。
「分かった……君が相手なら、紗枝も何か打ち明けてくれるかもしれん」
 おじさんにそう言われ、胸の辺りにザクリとした痛みを覚える。
 その他ならぬ俺が、一番あいつを傷つけているっていうことを知ったら、二人ともどういう
顔をするんだろう。
 だけど、今重要なのはあいつのこと、二人には悪いけど、この場は黙っておくことにした。
「……助けてあげてね」
 おばさんの心配げな声に、黙って頷いてみせる。力強く首を縦に振ったのは、二人を安心
させたかったってのもある。けどそれ以上に、自分自身の気持ちと決意を、揺らぐことの
ないようにするためでもあった。
「あいつの部屋は、二階に上がってすぐの部屋でいいんだっけ」
「そうだよ。……よく覚えてたね。前にウチに上がったのなんて、随分前なのに」

「……そりゃあね」

 おばさんに返すはずの言葉は、途中で消え入る。そこから先は、敢えて続けなかった。
続けたい言葉が、あまりにも多すぎたから。

 最後にもう一言二人に声をかけ、俺はゆっくりと立ち上がり廊下に出る。階段の側まで行き、
そこから二階を見上げる。電気は消されていて暗闇に包まれ、異質な雰囲気を纏って
いるようだった。

「……」
 ゆっくりと登り終えると、すぐ側に一枚の扉が姿を現す。

 この向こうに、紗枝がいる。

 そう思うと、頭が加速し熱くなる。それを必死に抑えるために、音を立てないように
息を吸い、また音を立てないように息を吐く。落ち着け、今まで何度も何度も、話とか
してきただろ、今更焦る必要なんて無い。

 何度も深呼吸を繰り返す。

(よし……)

 そしてまた、意を決する。


 乾いた音が二回、その場に木霊した―――
136今宵の月のように:2006/08/04(金) 23:52:59 ID:wGA9UpJP
|ω・`)……



|ω・`;)ノシ ゴメンネ、ドウシテモ15ニチニマデトウカシタインデス



|ω・`;)ノシ ソノタメニワガママヲサセテモラウコトニシマシタ、ホントウニゴメンナサイ



|ω・`;)ノシ ソウイウワケデモウ1ワブントウカハツヅキマス、ゴメンネ


 
137今宵の月のように:2006/08/04(金) 23:54:22 ID:wGA9UpJP

 振り絞れるだけの勇気は携えてきた。紗枝に何をいわれても物怖じしない打たれ強さも、
今の俺なら持っているはずだ。
 何より、もう後悔することだけはしたくなかった。四ヶ月間、この扉の向こうにいる
あいつと何かある度に、自分を殴り飛ばしたくなるくらい後悔して、妥協して、納得させる。
そんな日々は、もう送りたくない。

 何もせずに後悔するなら、何かやってから後悔したほうがいい。日に日に、そんな思い
は大きく膨らんでいった。



コンコン



「……」
 ノックをしてから、反応を待つ。しばらくその場に立ち尽くしていたが、部屋の中からは、
一向に反応が無い。多分、いやきっと、これからもずっと無いに違いない。

ここで引き返すわけにもいかない。扉をゆっくりと開ける。

 パッと部屋を見渡した瞬間は紗枝の姿を確認できなかった。が、よく見るとベッドの
シーツが不自然に膨らんでいる。
「……」

 言葉は、無い。

「……」
 部屋に入ってきたことでもしかしたら何か言ってくるかもしれない、そう思って向こう
の反応を待ってみるものの、相変わらず部屋の中はただただ無音だ。もしかしたら、俺じゃ
なくておじさんかおばさんだと思ってるのかもしれない。


「二ヶ月ぶり…か、随分だな」


「……!」
 埒が明かなくなって、こっちから口を開く。
 おじさんとおばさん、そのどちらでもないことを認識させて、部屋の中に入り込んだ。
部屋の壁に背を預けて座り込み、頭元にあった窓を少しだけ開けると、縁に携帯灰皿を
置いて肺にヤニを補給する。
 相変わらず、紗枝の姿は見えない。かろうじて、ぼさぼさになった髪の毛に覆われた頭が
見える程度だ。
「……」
「こんなに顔を会わせなかったのは、初めてか」
 早くもちびていく煙草の灰を灰皿に落として、またとりとめもないことを口にする。
「……何しに…」
 そこでようやく、たどたどしく、紗枝が口を動かす。

「俺がお前に会うのに……理由がいるのか?」
 
 いつかの時のように、お茶を濁すような曖昧な答え。だけど以前の時と違っていたのは、
俺が心の底から、本当にそう思っていたから。だから、そう答えた。
138今宵の月のように:2006/08/04(金) 23:55:53 ID:wGA9UpJP


「……」
 言い返すかとも思ったが、紗枝はそこで会話を打ち切った。その様子が、無言のまま、
出て行けと言外に伝わってくるようだった。

 何か無いか、会話を続けることの出来るような事柄が。

 頭の中をほじくっていると、たった一つ、確実に紗枝が反応を示す出来事が思い起こされる。

 ただそれは、最悪の選択だった。この状況では、絶対に選んじゃいけないはずのものだった。


「…別れたんだってな」
「!!」


 なのに俺は、迷わなかった。藁に縋ってでも、こいつの口を開かせたかったから。
いくら俺が言葉を発しても、反応が無ければ意味を成さないと思ったからだった。


 布団に包まれた紗枝の顔が強張るのが、見えなくても分かる。
空気が、張り付く。いつぞやの川原の出来事が、また鮮明に頭の中に蘇ってくる。
ズシリと部屋全体の雰囲気が、更に重くのしかかる。だけどこんなもの、承知の上だ。
この四ヶ月間、俺がどんな感情と戦い続けてきたと思ってやがる。


「……残念、だったな」


 紗枝を包んでいるシーツに、幾重もの皺が刻まれ消えていく。
「わざわざ……」
「……」
「…それだけ…言いに来たの…?」 
 憔悴しきった声が、弱々しく放たれてしまう。


 正直。


 紗枝のこんな声は、聞きたくなかった。


「んなわけないだろ」
 それが例え俺のせいだとしても。紗枝のこんな声は、聞きたくなかった。
「じゃあ……」
 言葉は最後まで放たれることも無く、消え入ってしまう。俺は視線を天井に彷徨わせ、
煙を吐き一呼吸置く。
139今宵の月のように:2006/08/04(金) 23:57:21 ID:wGA9UpJP

「タバコも……」
「……ん?」
 これまた途中で消え入ってしまうが、やめたんじゃなかったの? そういうことを言いたいん
だろうな。俺の吐き出した煙が部屋中を漂い、それが顔にかかって少し煙たかったんだろう。
僅かに頭を動かしながら、問いかけてくる。

 そういや、紗枝はタバコが苦手だったな。口うるさくやめて欲しいと言われた日々も、
今となっては懐かしくさえ思えてしまう。

「そりゃ、な」
 口から離して、指先で弄ぶ。
「振られたからな、四ヶ月前に」
 こんな状況でも泣き言か。情けねえな、まるで成長してねえ。
「ぇ……?」
「許してくれるとは思ってねえよ。自業自得だしな」
「……」
 長くなってきた先端の灰を、携帯灰皿の中へと落とす。そしてまた、煙を肺に蓄える。
その、繰り返し。

「何…言ってんだよ……振ったのは…そっちだろ……」
「……"先に"振ったのはな」
「先に、って……」
「お前に言われた台詞……ショックだったよ」
「……」
「もちろん、お前が受けた分に比べりゃ微々たるもんだろうけどな」
 
 そう、先に紗枝を振ったのは俺だ。んな事は、言われなくとも分かっている。だけど、だ。
「……」
 俺は謝らなかった。謝れなかった。
 そうしたほうが俺は楽になれるの分かっていたんだが。これが偽善だってことも、な。
「……何を…今更……」
 紗枝の台詞に、心が上ずる。


 紗枝とほとんど接点の無かった四ヶ月間。


 120日間、寝て、起きて、漠然と働き続けた四ヶ月間。


 この四ヶ月間で、こいつのいない生活がとてつもなく苦痛だということを、もう俺は
知ってしまっていた。傍にいて、いつもいて当たり前の存在がいなくなった時の辛さを、
身をもって思い知らされたんだ。
140今宵の月のように:2006/08/04(金) 23:58:57 ID:wGA9UpJP

「あれから……二ヶ月くらいか」
 この部屋に入った時の第一声を、また口にする。
「……?」
 肺の中にたまった煙と空気を、全て吐き出す。
「長かったよ。もう何年も経った気がすんだ」
 そう口にした瞬間、一瞬、まだ関係が変わる前の、ちゃんと話がすることが出来ていた頃の
紗枝の姿が脳裏に浮かぶ。

 煙を逃がすために僅かに開けた窓の隙間からは、冬特有の身を切りそうなほどの冷たい風が
吹き込んでくる。体感する温度こそまるで違うものの、その緩やかな空気の流れは、あの
河川敷での出来事を鮮明に思い起こさせてくる。



 秋が訪れたばかりのあの夕暮れ時。心細くなりそうなあの黄昏時は、俺から大切な存在
を奪っていった。



 あの瞬間を、また思い出してしまう。

 
 吸っていた煙草を、携帯灰皿の中に突っ込む。
 あの日以来毎日のように咥えたこいつにも、そしてこのうざったい気分にも。いい加減
別れを告げたかった。
「どういう……」
「つまりな」
 紗枝の言葉を遮ることだって、こいつと話をしている実感が出来、また懐かしくなる。
一瞬息をついて、躊躇わずに次の言葉を紡ぎだす。




「そんくらいの時間があれば、考え方が変わることもあるってことだ」




「……!!」
 息を呑む。見なくても分かる。幼なじみって関係は、得もするし損もする。一から十を
言わなくても、相手の意図が伝わることもあれば。相手が気付いて欲しくないことまで、
気付いてしまうことだってある。

 卑怯だと思った。
 こんな抽象的で、分かりにくくて、回りくどくて、遠まわしな言い方をする自分が。
そうすることしか出来ない自分が。
141今宵の月のように:2006/08/05(土) 00:00:05 ID:wGA9UpJP

「……」
 もそり、と紗枝の頭が揺り動き、シーツの衣擦れる音が静まりきった部屋に届く。下の階
からも、何の音も届いてこない。おじさんもおばさんも、全部俺に任せてくれているようだ。

「遅いよ……」

 そう言い返す紗枝の言葉は、早くも滲みだしていて。
「遅すぎるよ……っ」
 悔しさや恨みしかこもっていない重い声が、俺の耳に届く。


「今更言われたって……辛いだけだよぉ…!」

 
 ベッドの枕元あたりの壁に掲げられたコルクボードには、何も飾られていない。本来、
何かしらの写真が飾られるはずのものなのに。

 同時に胸がまた痛くなる。目を逸らしたほうがいい、見ちゃいけない、本能がそう
語りかける。
「そうだな……」
 だけど、目を細めて顔をしかめながらも、俺は視線を動かせない。
「来るなよぉ……」
「……そうだな」
 いよいよすすり泣き始める紗枝の声を耳に、紗枝の顔の代わりに、そのボードを目にして、
一言ずつ言葉を返す。
 喉がまたからつく。唾を飲みこむ代わりに、フッと短く溜息を零した。

「……どうせ」
 しゃくりを必死にせき止めながら、そんな声色だった。

「どうせ…同情なんだろ……」
 それが一転して、暗く、深く沈む。
「……」
 この数日間、部屋に閉じこもった数日間。きっと時間の感覚なんて無かったに違いない。
何が辛いのか、なんで塞ぎこんでしまったのか、そんなことさえも分からなくなっていた
のかもしれない。
「真由に……あたしの様子聞いて…心配になっただけなんだろ……」
 親友さえも拒絶するようなその口調に、いかに紗枝が苦しんだか、その断片が垣間見えた
ような気がした。自分の顔が、いつの間にかくぐもっていることに気付く。



 あの時、紗枝はこう言った。
『こんな気持ちで付き合うのは、悪いと思うけど。それでもいつか、ハッシーのこと崇兄
より好きになれると思うから』
 俺で埋めていた心の拠り所を、あの瞬間から橋本君に求めた。
『あたしは、そんなに強く…ないから……』
 それが無いと自分を保てないことを、こいつ自身とっくに分かってたことなんだ。


『だから……ハッシーと付き合う』

142今宵の月のように:2006/08/05(土) 00:01:20 ID:wGA9UpJP

「付き合いだけの関係なんて……嫌だって言ったのに…」
「……」
「また兄貴面なんかして来ないでよぉ……!」
 ああ、それも前に言われたことだったな。お前は俺に、そんな接し方はして欲しくなかった
んだもんな。


 結局、紗枝はその代わりの拠り所も失ってしまった。
その上で取り繕えるほど器用に振舞えるような奴じゃない。んなことは、幼なじみで、
ずっと一緒にいて、ずっとこいつを見てきた俺が一番よく分かっている。

「兄貴面なんかしてねぇよ」

「……」
 紗枝自身が知らない紗枝の姿を、俺だけが知っているんだ。
「同情や付き合いだけで俺がここまで行動を起こすかどうか、お前はよーく知ってるはず
だけどな」
 紗枝も、同じことを俺に対して思ってることを、敢えて口にする。
 俺の知らない俺の姿を、紗枝だけが知ってる俺の姿を、きっとこいつも知っている筈なんだ。
 
「……」
「面倒臭がりでがさつで……お前がいつも俺に向かって言ってたことだよな」
 ポケットに入っていた煙草の箱を取り出して、そのまま片手で思い切り握り潰す。
まだ口にしてもいない中身ごと大きくひしゃげる。



 加速する。受け止めてくれないなら、真正面からぶつけるしかなかった。



「その面倒臭がりな俺が、面倒なことになると分かってて、ここに来ると思うか」
 紙とビニールの擦れる音が、無音の空間に強く響く。


「……紗枝」
「…ぅ……」


 以前、偶然にも出会った時、その時はお互いに名前を口にすることはなかった。

 四ヶ月ぶりに呼んだ、名前。そう考えるだけで鼓動が速くなる。同時に、もう俺自身も
こいつをただの幼なじみや、妹みたいな存在と捉えてないことを再認識する。


 ちゃんと、一人の女として、紗枝を意識するようにもなっているってことも。

143今宵の月のように:2006/08/05(土) 00:03:02 ID:wGA9UpJP


 ひしゃげたヤニと空気が触れて擦れ、快感には程遠い匂いが、一瞬だけ鼻を掠めた。
それが逆に、俺を冷静にさせる。落ち着いて、言葉を弾き出させる。



「俺は、もうお前と兄妹ごっこをするつもりは無いぞ」



 いつもいつも、自分本位な考えしかしてこなかった。



「あの時は、お前の気持ちを分かってても、応えることは出来なかった」



 こんなことにでもならない限り、理解しようとも思わなかった。



「断ることしか、出来なかった」


 
 俺も、紗枝と一緒に育ってきたってことに、気付けなかったんだ。



「だけど、俺達の関係が変わっちまったようにさ。俺のお前に対する気持ちも変わったんだよ」




 だからこそ、それに気付けた今、紗枝のいない生活がどんなものであるか知ってしまった今、
何事にも執着してこなかった俺が、初めて強くこだわった。

144今宵の月のように:2006/08/05(土) 00:04:12 ID:UDG5WaO1


「そんなこと……」

 今まで傍にいて当たり前だったものを取り戻すために。

 どんなに無様だったっていい。どれだけ失望されたっていい。

「10年以上の関係が、あの時のたったあれだけの会話で一度は終わっちまったんだしな。
気持ちだって……その、同じようなもんだと思うんだよ」

 紗枝が、紗枝が。


「付き合いや、同情なんかじゃない」


 まだ、紗枝が俺のことを特別に思ってくれるなら。


『約束だよ? 絶対だからね!』


 出来ることなら、あの無邪気な笑顔をまた向けてくれるのなら。


「今なら、言える。何度でも言えるさ」


 俺はもう、迷わない。絶対、後悔なんかしない。






「お前のこと…好きだってな」






 シーツから僅かにはみ出る頭をじっと見つめて。

 身体から剥離してしまいそうな心臓あたりを手でギュッと掴んで。

 意識が頭の中から離れそうになるのを必死で抑えて。

 そして脳裏に、紗枝がいつかの日に見せてくれた笑顔を思い浮かべて。


 俺は、確かにそう口走ったんだ―――――

145今宵の月のように:2006/08/05(土) 00:07:06 ID:UDG5WaO1
|ω・`)……



|ω・`;) トチュウデキヅイタケド、スイコウシナオセバヨカッタンダ



|ω・`;)ノシ ゴメイワクカケテゴメンナサイ



|ω・`)……



|・ω・`)ノシ ジ、ジャア、ソロソロニゲルネ


  サッ
|彡
146名無しさん@ピンキー:2006/08/05(土) 00:08:02 ID:dS2O9BaI
>>145
乙&GJ!!!!!
147名無しさん@ピンキー:2006/08/05(土) 00:10:13 ID:7iHGczWC
GJ!!!!
148名無しさん@ピンキー:2006/08/05(土) 00:22:35 ID:1cWszkLv
GJ!この二人は、是非とも幸せになって欲しかった。
ありがとう!続きwktkで待ってます。

149名無しさん@ピンキー:2006/08/05(土) 00:39:13 ID:ViNmn/xC
楽しみにしてました!!前から心情描写には凄い感嘆していたんですが、今
回の話は…もうこれはそれも超えた気がしました。途中過程がいいんですよ。
色々ご都合あるかと思いますが、続きを是非よろしくお願い致します!!
150名無しさん@ピンキー:2006/08/05(土) 00:52:46 ID:evr32Ph8
\\     く   だ   ら   ね   ぇ   と   呟   い   て      //
  \\       醒   め   た   面   し   て   歩   く      //
   \\     い  つ  の  日  か  輝  く  だ  ろ  う     //
     \\   今   宵   の   月   の   よ   う   に    //
       _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.
     ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡
     (  ⊂彡.   (  ⊂彡.   (  ⊂彡.   (  ⊂彡.   (  ⊂彡.   (  ⊂彡
    _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.
  ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡  ( ゚∀゚)彡
  (  ⊂彡.   (  ⊂彡.   (  ⊂彡.   (  ⊂彡.   (  ⊂彡.   (  ⊂彡.   (  ⊂彡.
   |   |     |   |     |   |     |   |    |   |     |   |     |   |
   し ⌒J.    し ⌒J.    し ⌒J.    し ⌒J.   し ⌒J.    し ⌒J.    し ⌒J
151名無しさん@ピンキー:2006/08/05(土) 05:07:44 ID:XkRG7x+c
早く…早く続きを見せてくれ〜
GJ!
152名無しさん@ピンキー:2006/08/05(土) 07:11:49 ID:Xh/NIQhL
はっきり言って冗長だと思うがなぜかドキドキしてる俺ガイル
153名無しさん@ピンキー:2006/08/05(土) 19:45:15 ID:kPIjIC6V
GJです!!
た、た、隊長ぅぅぅぅ!>>145の捕獲作戦の許可を!
15487:2006/08/05(土) 21:10:21 ID:3JAFI1Rr
>>88>>91>>94の優秀な参謀諸君の進言に従ってここまで待った。
しかし、私はもう待てない。GJすぎる奴が悪いのだ。
これより作戦行動を開始する。
>>89>>96>>153の中隊長は各自作戦行動を開始せよ。
必ず>>145を捕まえてくるのだ。
155名無しさん@ピンキー:2006/08/06(日) 02:48:12 ID:XxVsmYer
ちなみにこれ・・・本番はあるのかな?

本番をして一階におりたときに叔父さん叔母さんにニヤニヤされるという状況を連想して興奮した私は破廉恥な男かもしれん・・・。
156218:2006/08/06(日) 21:50:51 ID:1gTAayu3
>>155
ギジェ乙
157名無しさん@ピンキー:2006/08/07(月) 16:13:36 ID:KFJ55xXo
>>154大佐殿が出るまでもありません…ここは自分にお任せを。
必ずや>>145を…。
158名無しさん@ピンキー:2006/08/09(水) 21:29:17 ID:FhAZueyg
保守るぜ。そして一時間以上誰も来なければ>>145は俺のもの。
159名無しさん@ピンキー:2006/08/09(水) 21:41:21 ID:WQkTyEQX
>>158
そうはい神崎
160名無しさん@ピンキー:2006/08/09(水) 23:56:57 ID:807Fl8P4
>159
公明党乙
161名無しさん@ピンキー:2006/08/09(水) 23:57:10 ID:sNHOUfW+
こちらスネーク、幼なじみスレに潜入した
前回より非常に警備が厳重だが、これより任務を遂行する

なお、私は誰のものでもない
だが恋人は年中募集中だ
162今宵の月のように:2006/08/09(水) 23:58:44 ID:sNHOUfW+

『あたしは…あたしは崇兄のことが……ずっと、ずっと好きなんだよ……?』

 思えば、あの時から既に俺は、紗枝のことを幼なじみとして見れなくなってたんだろう
なって思う。
 紗枝の俺に対する好意にはとっくに気付いていて。それなのに、それまでの距離感が
心地良すぎて、気付かない振りをして。
 だから余計に、紗枝を傷つけた。こいつの心が犠牲になり続けているってことを、まるで
分かってなかったんだ。

「そんな……」
 
 いい加減な態度をとり続けていたから。だからまた、今の俺は、こいつを困惑させて
しまっていた。

「……そんなの…っ」
「同情や嘘じゃないって、もう言ったぜ」
 まだ事実を認められないでいる紗枝に、今のこの状況をつきつける。
あの時とは違う。鼓動も不自然に速まったりしてない。ひどく落ち着けていた。

 口に出すまではいっぱいいっぱいだった割に、今ではしっかりと平静さを保てている。
ここんとこの過剰労働ともうすぐ深夜を迎えるとう時間帯も手伝って、少しだけ瞼が重く
なったような違和感さえ覚えるほどだ。
「……ぅ」
「信じられない気持ちは分かる。俺だって、そうだったんだからな」
 今の紗枝の気持ちは、おそらくあの時の俺と、凄く似通ってしまっているんじゃないだ
ろうか。つーことは、あの時の紗枝は、今の俺みたいな気分だったんだろうか。
「だけど…今の言葉は嘘でも同情でもない……本気だ」
 初めて、真正面から紗枝の辛そうな表情を捉える。あの屈託の無い笑顔の面影は、そこ
には存在していなかった。
「……本気って言えば……」
 声は布団に遮られ、低くこもる。だけれどそれは、確かに俺の胸を貫き消える。
「信じてもらえるとでも…思う?」
 

「……」
 分かっていたことではあったけど。本心をさらけ出しても信じてもらえないっつーのは、
キツいもんだな。


「……」
「……」
 パタリと止まる。無音。今なら、空気の動く音さえ聞こえるんじゃないだろうか。静か
すぎて、逆に耳を塞ぎたくなるくらいの爆音を感じているみたいだ。
163今宵の月のように:2006/08/10(木) 00:00:28 ID:HaNHCCAC

 頭を掻く。
 こんなタイミングで告白とか、最低だと思う。人が弱ってる時に付け込むとか、あまり
好きなことじゃない。
「信じてもらえなくても……気持ちは変わらん」
「……」
 だけど、今しか無い。ようやく自分の気持ちと向き合うことが出来て。だけど時間を
置けば置くほど、俺とこいつの関係は薄くなっていく。そしてやがては真っ白になってしまう。
 だからもうこれ以上、待つことなんて出来なかった。
「会えなかった間、ずっとお前とのことばかり考えてた」
「……」
 積み重ねるのは時間がかかるのに、失うのは一瞬だ。もう、あんな思いはしたくない。


「……崇兄」
 掠れ交じりの涙声。
 俺のことを"崇兄"って呼ぶのはこいつだけだ。
その名前で俺が他人に呼ばれるのも、つまりはあれ以来ってことだ。
「…ん?」
 微かな期待を込めて、紗枝の顔をそっと見つめ返す。

「さっき……『お前の気持ちを分かってても』……って、言った…よね?」

 その期待は、大きく裏切られる。心臓が口から飛び出しそうな、身体全体から発せられた
ような鼓動が、耳を劈(つんざ)く。
 次の紗枝の質問が想像でき、思わず叫びたくなった。

「ああ、言った」

「……」
 だけど、今更誤魔化すつもりなんて無い。全部話す。そう決めて来たんだ。それが、
どんなに面倒な事態を招くことになっても。
「あたしが告白する前から……気持ち…知ってたってこと……?」
「……」
 他人から指摘されるまで気付かなかったこと。思い返してみて初めて気付いたこと。
真由ちゃんと兵太の顔が一瞬だけ浮かぶ。
「……なんとなくな」
 そう言ったと同時に、それまでほとんど動かなかったシーツが捲られる。そして。


バスンッ


「……っ」
「なに…それ……ッ!」
 それまで紗枝の傍に置かれてあった枕が、俺の顔面に飛んできた。傍に落ちたそれに目線
を送ると、枝毛がこびりつき、所々に乾いた涙の跡が残っている。紗枝の心が、具現化された
ような痛々しさが、そこには張り付いていた。
「それなら……それなら最初に言ってくれたら良かったのに…!」
「……」
 ようやく素顔をさらした紗枝の顔は、想像していた以上に痛々しくて。
164今宵の月のように:2006/08/10(木) 00:02:42 ID:sNHOUfW+

「崇兄には分かんないだろ……! 好きな人に、女の子として見てもらえなかったことが
どれだけ辛かったか…!」

 電気がついてなかったせいで、差し込む月の光が紗枝の瞳の縁に反射する。

「彼女を連れて家に入っていく崇兄の後ろ姿を…それをその窓から見届けてた時のあたしの
気持ちが分かる…?」

 だけど紗枝は、それを拭ったりしない。

「好きな人のことを話す崇兄の顔を……あたしがどんな気持ちで見てたと思う……?」

「……」
 溢れてくる。ずっと、紗枝が隠し続けていた黒い部分が。

「その彼女を紹介されて…笑顔で挨拶して……『おめでとう』って言わなきゃいけなかった
あたしの気持ちなんか……崇兄には分かんないだろ……」

「紗枝…もういい」
 それが全部、俺の胸を抉っていくようで。

「あたしの…あたしの知ってる崇兄は……そんなことしないよ…?」

 頭がふっと傾き、その口元には笑みさえ浮かんでいるようにも見える。
 瞳には涙が、いっぱいに溜まっているのに。
「あたしが好きな崇兄は……普段からがさつで、面倒臭がりで部屋も汚くて……すっごく
スケベでいい加減な人だけど……」
 俺は今、あいつの目に映ってないんじゃないかとさえ思えてしまう。
 さっきまでの怒りの表情なんか跡形もなくなり、精神が本当に壊れてしまったかのように
虚ろな表情、それだけが。そこに……ある。
「だけど…あたしの気持ち知ってて、それを弄ぶような…酷い人じゃ……ない」
 声も、それまでより一層揺れ動く。

「あたしは……」
 とうとう、溜まっていた涙が、縁からこぼれて雫の跡を作った。



「そんな酷い人……好きになるもんか…っ」



 ようやく拭って、俯いて。
 それ以上顔を見られたくなかったのだろう、シーツでその表情を覆い隠してしまった。
165今宵の月のように:2006/08/10(木) 00:04:44 ID:HaNHCCAC

「……」

 知らなかったことだけど。察するべきだった、紗枝の気持ちに実は気付いていたって
自覚した時に。俺には紗枝が必要だってことに分かってしまった時に。
 分かったつもりでいて、また分かってなかった。これで何度目だ、バカ野郎が。

「紗枝…」
「帰って」

 近寄ろうと腰を上げた瞬間、全てを拒絶される。起き上がっていた上半身が、再び
ベッドへ沈んだ。


「お願い……帰って…もう来ないで……」


「……」


「『さっきの言葉は嘘だった』って……『同情なんだ』って……そう言ってよぉ…」


「紗枝……」
 完全に拒絶されて、一瞬頭が真っ白のキャンパスに覆われてしまう。意識がぐらりと
遠のき、頭が突然重さを増した気がして、ふらふらと揺れ動く。

「そもそも……」
 顔を再び覆い隠したままの、消え入りそうな声だった。
「崇兄を好きなまま…ハッシーと付き合えると思う…?」
 空気の音にも負けてしまいそうな、それほど小さな声だった。

「あたしが……そんな器用なことできると思う…?」

「……」
 無理だと思った。
 
 器用じゃないから。むしろ不器用だから。だから俺はこいつに惚れたんだ。

 いつもいつも自分の気持ちを押し殺して他人を優先してきた奴だった。ずっと俺のことを
好きでいてくれてたのにそれを言い出さなかったのは、幼なじみでもいいから傍にいたかった
ってのもあるんだろうけど。それ以上に俺が紗枝との兄妹みたいな関係を気に入ってたのを、
こいつが気付いてたんだと思う。

「もう……崇兄のことなんか…好きでもなんでもないよ」

 腕を伸ばして床に手をつく。背筋を伸ばして息を吐き、もう一度今の言葉を反芻させる。
「……」
 だけど次の瞬間、紗枝が口走ったその言葉自体が引っかかった。それが一本の筆と姿を
変えて、頭の中のキャンパスに、静かに素早く絵を描いていく。

 その言葉が紗枝の本心なわけないだろと語りかける本能が、筆を取って、俺にそのことを
教えてくれる。どこかで味わったことのあるような、少し懐かしい感覚だった。


 本気で惚れた女が、幼なじみで良かった。でなけりゃ、今の言葉で諦めてたところだ。
お互いの関係が長くなけりゃ、絶対に気付けなかったことだもんな。
166今宵の月のように:2006/08/10(木) 00:07:23 ID:HaNHCCAC



「そうだな…」
 煙を逃がすために開けていた窓を閉めると、腰をそのまま浮かして膝を立ち上がる。
中腰のままゆっくりと足を進める。
「でも」
 そして、今度はベッドに腰を下ろした。
「……!」
 手を伸ばせば、触れられる。そんな距離まで近づく。そのことが、紗枝の身体を強張らせた
ようだった。
「本当にすぐ、忘れられたのか?」

 距離を縮めて、顔を逸らす。

「ずっと、なんだろ。生きてきたほとんどの時間、俺のこと好きでいてくれてたんだろ」
 紗枝に背中を向けた俺の目に映るのは。外を繋ぐ窓と、今は空き家になっている、昔は
俺の部屋だった向かいの家の窓。カーテンはあの日以来、ずっと閉まったままなんだろうな。

「不器用なんだろ。なのに、ほんとに……そんなすぐに忘れられたのか……?…」

 それをこいつは、どんな思いで毎日眺めてたんだろうな―――



「うるさい…」
「……」
「あたしのこと分かってるようなこと言ってて、一番大事なことだけは、ずっと気付かない
振りしてたんだろ…そんなこと…今更言わないでよ……」
 背中越しに視線を送ると、見つめ返してくることなく、シーツに包まったまま、紗枝は
冷たく言葉を返してくる。

「……紗枝」
「聞きたくない」
「……」
「言い訳も…崇兄の声も、もう聞きたくないよ」
 掠れてしゃがれる、雫の代わりの涙声。

 答えることを、断られる。ってことは多分、そういうことだ。

 今の俺は、そう思いこみたかった。そう思わないと何もできなかった。

「恋愛ってさ……気持ちが100から始まるもんでもないと思うんだ」
 だからどうしても、紗枝の言葉を無視せざるを得なかった。組んだ足の上に肘を立て、
頬杖をつきながら口を動かし続ける。
「……」
「20、30だったのが、付き合い始めてから大きくなっていく形だってあると思うんだ」
 紗枝に背中を向けているはずなのに、目の前に捉えているような違和感を覚える。背中
全部が磁石になったようだった。


「ゼロじゃ、ないんだろ」


 本当は、今すぐ振り向いて、抱きしめたかった。


 ゼロじゃない、そう俺に言わせたのは自信じゃない、確信だった。不器用な性格だって
ことは本人が言ったばかりだし、何より俺の質問に、こいつは答えなかった。
167今宵の月のように:2006/08/10(木) 00:09:58 ID:HaNHCCAC


 断言できる。まだ、紗枝の中でも燻ってるはずだ。


「お前を傷つけ続けて、すまなかったと思ってる」
 無知は罪。そう言ってたのは誰だったっけか。たとえ自分の知らなかったことでも、
相手を傷つけてしまったのなら、それは罪と変わらない。
「あの時、お前の気持ちに応えてやれなかったのも、本当に悪かったと思ってる」
 真っ直ぐ目の前を見つめたまま、俺は背後で横たわる紗枝に向けての言葉を続ける。

 その窓から、昔の幼い自分が顔を出した気がした。その表情が誰かに笑いかけてるように
見えるのは、そこの窓の前に紗枝がいたからか。
 窓越しに大声で話とかして、近所迷惑だってよく親に怒られたっけな。

「でも俺は、お前を傷つけると分かっててもさ。答えに、嘘はつかなかった。つけなかったんだ」

 そう言うと同時に、背後で、シーツの擦れる音が耳に届く。そばにあった枕を、投げ返す。
「お前がありったけの勇気振り絞って……本心をぶつけてきてくれたのに、それを本心で
返さないわけにはいかないだろ?」
「……」
「それに…相手がお前なんだから……尚更だ」
 以前と同じ。未だに、髪型は変わってなかった。だから俺は、それに賭けた。こいつの
本意が、今の言葉じゃないってことに。
 紗枝が凄く意地っ張りで素直になれない性格だってこと、それは俺やおじさんおばさん
だけじゃなく、こいつの友人知り合いみんなが知ってることだ。
 

 頭の中のキャンパスに描かれた絵が教えてくれたこと。


 それは、今のこいつが、意地を張っているだけなんだってこと。


 だから、言葉はそのまま受け取るな。


 紗枝と一緒に積み重ねてきた俺の過去の記憶と経験が、確かにそう教えてくれたんだ。


「俺がこんなこと言える立場じゃないのは分かってる。だけど、聞かせてくれないか」

 顔を覆っていたシーツがゆっくりと動く。
 壁の方を向いたまま、口元あたりがまたあらわになるのが視界の端に捉えられる。

「お前の顔は見ないから。言い出せないなら、それまで待っててやるから」

 再び顔を晒してくれた紗枝に背中を向けるように、俺はまた正面に向き直った。

「ずっと、待っててやるから」
 今までは、からかったり、弄んだり、言葉尻を捕まえて屁理屈をこね返してみたり。
その反応がいちいち面白かったから、ほとんど紗枝の気持ちを汲み取るなんてことはしなかった。

「……」
「……」
 また、耳が痛くなるような静寂。だけど、今度は耐えられるような気がした。
168今宵の月のように:2006/08/10(木) 00:12:03 ID:HaNHCCAC




 時間が、流れる。




 長い針はもう四回、いや、五回も回転していた。時間の感覚を手放してしまっていたから、
その間が長かったのか短かったのか、早かったのか遅かったのかよく分からなかった。
 明るくなり始めた空は、白く濁っていた。今日も、何かを揶揄するような曇り空だった。
早朝になると、なんで鳥は鳴くのだろう。頭の片隅では、そんなどうでもいいことに思考を
割き始めていた。

 紗枝が何かを言うまで、喋るつもりが無かったから。それ以降は時計の音しか部屋に
響かなかった。

 時折何度となく、シーツの擦れる音が耳に届く。どうすればいいのか、迷っているようだった。

 その間俺は目線だけ動かし、部屋を見回す。最後に紗枝の部屋を訪れたのは、いつのこと
だったか。よく覚えてはいないけど、確かこいつが小学校高学年になる頃には、もう訪れる
機会は無くなってたような気がする。
 記憶の中に残っていた部屋の様相とは、随分と変わっていた。具体的にどこがとかまで
は言えないけど、少なくとも枕元のコルクボードには、何枚もの写真が飾られてあった。
そしてそこに必ず映っていたのは、今より大分幼かった俺と紗枝の姿。それを初めて見た
時は、紗枝が俺との思い出を大事にしてくれてるってのが分かって、一人でこっそりと
喜んでいた。写真に、紗枝のもう一つの気持ちがこめられていたことになんて、全然
気付いていなかった。
 それが、こいつを傷つけ続けたっていうのにな。


「ほんとに……自分のために来たんだね」


「……?」
 何時間ぶりだったんだろうな。不意に呟かれ、聞き逃しそうになった。
「崇兄の気持ちばっかり聞かされても……困るだけだよ」
「……」


「あたしの気持ちは……どうなるんだよ…」


 ……


 紗枝の、気持ち。

「結局、あたしのことなんて…考えてくれてない」
 
 気持ちって言うからには、本心か。

「もうあたし……崇兄のことなんか…好きじゃ…」


 こいつも、俺と同じだ。建前が、自分の本音なんだと無意識に勘違いしてやがる。

169今宵の月のように:2006/08/10(木) 00:15:06 ID:HaNHCCAC

 少し苛立ってしまう。いつまでたっても、いたちごっこの会話を繰り返しそうだったから。
だから、この状況を打破したかった。前に進みたかった。数時間ぶりに、紗枝の顔を覗きこむ。

「俺は……お前と、自分を傷つけても、偽らなかったぞ?」

「!!」
 だから、皮肉った。甘やかして全てこいつの言うとおりにしてたら、今度こそ俺たちの
関係は終わってしまう。それは、一番あってはならない未来だった。


「……さぃ……うるさい!!」


 だから、俺は紗枝を皮肉った。再び枕を投げつけられても、もう視線を逸らさなかった。


「あたしの気持ち何一つ分かってなんかくれなかったくせに! 偉そうなこと言うな!!」


 ベッドの上から突き飛ばされると、今度は布団を投げつけられる。身体が覆われ、視界
が遮られる。
「ちょ…紗枝、やめろ」


「崇兄が出て行かないなら……あたしが出てく」


「…待て、待てって!」
 そう言い放たれると、扉を開く音が耳に届く。床を蹴る足音はそのまま廊下へ飛び出て、
階段を下りていった。



「待てっつってんだろ!!」



 被せられた布団を力任せに払いのけ、急いで紗枝の後を追う。飛ぶように階段を駆け下り、
踵を踏んだまま家の外へ飛び出る。
 家のすぐ傍には曲がり角が多く、紗枝の姿は既に無い。右を向いても左を向いても、
見慣れた後ろ姿はどこにもなかった。

 勘だけを頼りに、充てもなく俺は走り出す。皮肉を口にしたことに後悔は無かったけど、
なんでこうなるのか、そればかりが頭の中を駆け巡る。

 河川敷の上を走りながら、視線はずっと川沿いに落とし続けるものの、人影はまるで
見当たらない。

 心当たりになりそうな場所を全部まわる事にした。今になって、故障したチャリの修理を
後回しにし続けた自分の行動を、恨まずにはいられなかった。

 紗枝と一緒に通った小学校、すれ違いになった中学、高校。いずれにも訪れ、正門から
ぐるっと周りを見てみるが、それらしい姿は見当たらない。
170今宵の月のように:2006/08/10(木) 00:17:10 ID:HaNHCCAC


 今更になって、あいつとの思い出から揺り起こされる場所が、決定的に少ないことを思い知る。


 大丈夫だと思っていた自分の心が、ぐらつき始める。


 紗枝、お前は今、どこにいる。


 電話しても、出る気配はない。メールにも、返答は無い。


 くそぉ……なんで、なんでだ。なんでこうなるんだ。なんでそうまでしてお前は何も
言わないんだよ。

 俺達は、幼なじみじゃなかったのかよ。

 だったらそんなに頑なにならなくったって、いいだろうが。
 

 意地張り続けなくたって、いいだろうが!


「ハァッ、ハァッ、ハァッ……う…くっ! ゲホッ! ゲホッゲホッ!」


 胃の中が逆流して、大きく息を乱す。それでも、頭の中の紗枝の姿は揺るがない。


「ハァ…ハァ……ハァ……ハァ…」
 闇雲に探しても埒があかない。一度膝に手をつき立ち止まって、考え始める。紗枝が、
こういう時どういった行動に出るか。

 今、紗枝は、建前だけで行動してる。ってことは見つけられたくないんだけど、俺が
見つけられそうな場所にいる可能性が高い。
 だけど、心当たりのある場所なら全部探した。あいつとの楽しい思い出が残ってる場所は
もう全てまわって来た。そしてその姿は、見つけられなかった。

(……待てよ)

 そこまで思い返して、思い当たった。そして、自分の心に聞き返してみる。



―――――じゃあ、辛い思い出が残っている場所は?


171今宵の月のように:2006/08/10(木) 00:18:07 ID:HaNHCCAC

「っ!」
 再び走り出す。藁にもすがる思いだった。あいつとの思い出の中で、辛い記憶として
残った場所なんて、一つしかない。

 橋本君とデートしているところを偶然見かけて。紗枝と偶然出会って、辛辣な言葉を
投げつけられまくった場所。
『ばかやろ……』
 そして、この四ヶ月間で、紗枝がただ一度だけ弱音を吐いた場所。


 俺は走った。


「紗枝ぇぇーーーーーッ!!!」


 走って吼えた。




 時間は早朝。天気は曇り。目指す場所は駅前の交差点。




 そこにいると決まったわけじゃない。だけどもう、そこしか心当たりが無かった。




 走(はし)って、馳(はし)って、疾(はし)って、駆(はし)る。


 

 ただ、走りながら、吼え続けた――――――――――


172名無しさん@ピンキー:2006/08/10(木) 00:18:36 ID:RR+X0vlA
キタ━━(゚∀゚)━━!!
173今宵の月のように:2006/08/10(木) 00:22:03 ID:HaNHCCAC
|ω・`)……



|ω・`)ノシ ゴメンナサイ、マダツヅキマス



|・ω・´)9m ダケドジカイデラストノヨカン!



|・ω・´)ノシ ソレマデサラバダ、ホカクブタイノショクンニスレジュウニンノミナサン


  サッ
|彡

174名無しさん@ピンキー:2006/08/10(木) 00:32:22 ID:LbwaEgvS
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
175名無しさん@ピンキー:2006/08/10(木) 00:34:25 ID:L7XTdX4L
キタ━━(゚∀゚)━━!!
176名無しさん@ピンキー:2006/08/10(木) 06:02:00 ID:B26Zg0ll
大佐…捕獲は、もう少し待っては貰えないのでしょうか?
信じたいのです…ヤツの事を…。
177名無しさん@ピンキー:2006/08/10(木) 07:26:19 ID:HnwW2YU3
GJ!です
さすがは>>173、これだけの戦力で捕獲出来ないなんて・・・
しかし、次で最後なのか、寂しいな・・・
178 ◆6Cwf9aWJsQ :2006/08/12(土) 04:37:08 ID:CtGOa84K
投下いきます。
179シロクロ 8話 【1】:2006/08/12(土) 04:38:13 ID:CtGOa84K
海。
人類にとっては母なる場所。
ここに来ることで人は安らぎを得る。
そんな事言いだしたのは何処の誰なのか。
まあ全然関係ない前文はおいといて、俺達は海に来ていた。

目の前に広がる巨大な海。
それと地上を分ける境界線となる砂浜。
そしてその上に大量の人間が所狭しと行き交っていた。
それらを真剣な目で見つめる二人の人物がいた。
「先生」
「なんだ生徒」
赤一色の水着姿の男――赤峰は同じく紺一色の水着姿の男――兄の手をがっちりと握り、
しかし視線は水着のネーチャン達から外さず、
「来て良かったです・・・!」
「俺も同感だ同士よ・・・!」
そういって男二人は抱き合い――――
「気味悪いわ馬鹿共ッ!!」
「「ぐげぇっ!?」」
――――俺のドロップキックの直撃を受け見事に吹き飛んだ。
もちろん落下地点は熱砂。
「「う゛わぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃ!!!!!」」
太陽光で十分以上に熱を持った砂浜にダイブした二人はあまりの暑さにのたうち回った。
その光景があまりに見苦しいので、俺は紺と白の水着の裾を直しながら忠告した。
「やかましいぞお前等・・・。全く海に来てテンション高くなったからってそんなに騒ぐな馬鹿共」
「白木。お前の行動なかなかエゲつないぞ」
隣でぼそりとツッコミを入れるのはグレーに黄色のラインの入った水着の男――黄原だ。
180シロクロ 8話 【2】:2006/08/12(土) 04:39:31 ID:CtGOa84K
俺はいつの間にか現れたそいつにも冷ややかな目を向け、
「お前も水着のネーチャン達に鼻の下伸ばして丸焼きになりたいか?」
「いや遠慮しておこう」
そういうと何故か黄原は俺から目をそらして雲一つ無い青空を見上げて、
「俺はみどり以外は特に興味ないしな」
「っだーもー、ただでさえ暑いのに惚気で余計に熱くさせるなよっ!」
「痛たっ痛たっちょ、『あつい』の漢字が違って痛てっ痛てっ!」
俺は黄原の背に何発も紅葉パンチをたたき込んだ。
「っていうか、お前が一番テンション高いような・・・」
「そうか?そんなつもりはないんだがなぁ」
思ったことを口にしただけなのに三人――いつの間にか兄たちも戻っていた――は俺に半目を向けた。
「お待たせー」
と、暑い日に似合わないノーテンキな声が聞こえてきた。
「着替え遅いって四人とも・・・」
そういいながら振り向くと、予想通りの四人組が予想以上の姿でこちらに駆け寄ってきた。
181シロクロ 8話 【3】:2006/08/12(土) 04:40:18 ID:CtGOa84K
向かって一番左側にいるのは青野だ。
青いワンピースとフリルの水着に包まれた身体は、幼いながらもそれなりに成長していた。
まあどちらかというと一般よりは一部の人が好きそうではあるが。
そのすぐ隣――――つまり左から二番目にいるのは茜義姉さんだ。
スタイルが良く背筋もピンとしていて、足も長いモデル体型で濃い赤のセパレートの水着が目を引く。
ただし乳はないが。
一番右側にいるのは吉川だ。
ヘタをすれば男よりもあると思えるほど背が高く、顔立ちだけでなく身体も学生とは思えないほど
成熟しており、紺に黄色のラインの入った競泳型の水着が窮屈そうだ。
もっとも本人はそのことを気にしてるのだが(だから『ちゃん』付けで呼ばれることを好むらしい)。
そして――――綾乃は右から二番目にいた。
いや最初に目についたのだが最後のお楽しみにしようと意識して目をそらしていたのだ。
黒く艶のある豊かな長髪。
その一房に巻き付くように結ばれている白いリボン――おそらくは、俺が昔プレゼントしたもの
――が黒に対するアクセントのようで目を引く。
いつもより露出過多な細身の身体。
それに不釣り合いな大きさの胸。
まあ大きいと言っても大きすぎず、かといって小さいわけでもない、
つまるところほどよい大きさの乳房が白と黒のビキニに包まれて谷間を作り出していた。
ウェストも見事にくびれており、無駄な肉が一切無い。
つーかドコに内蔵入ってんだこれ。
正面からじゃ見えないが、きっと尻もすごいのだろう。
そういやー尻の方は今まであまり意識してなかったなー俺。
足も細く、それでいて太ももは柔らかそうだ。
・・・やべえ、すごくいい・・・。
と、俺の視線に気付いたのか綾乃が俺に笑顔を向けてくる。
それはいつもの表情なのだが、いつもよりも扇情的な彼女の姿に今までにない色気を感じてしまい、
おれはぎこちない笑みを返すのがやっとであった。
182シロクロ 8話 【4】:2006/08/12(土) 04:41:00 ID:CtGOa84K
いや綾ちゃんってかなりスタイル良くってねー」
「・・・お前も十分凄いと思うが」
「いやー、私あんなに細くないし」
「・・・そうでもないと思うが・・・」
「――ってどさくさに紛れてドコ触ってンのよっ!?」
「・・・なにやってるあの黄色・・・」
「・・・不潔です・・・」
「いや〜、若いって良いね〜。まあ茜にはかなうまいが」
「な、なななななななななな何言うのよこんなところで!?」
そんな友人達の声――ついでに打撃音――も遠くから聞こえているように感じる。
「どう?」
綾乃も騒音を無視して笑顔――だが微妙に不安そうな顔――で俺に聞いてくる。
いやお前前にかがんで上目づかいに聞いてくるなよ。
(っていうかさっき、乳揺れたよな・・・)
いつも身体の線が出る服装なので揺れるのは見たことはあるが
今回はちょっと動いただけで胸元から露出した乳房が揺れた。
そのせいで目線が胸に行きそうになるが何とかそれを阻止。
勢い余って顔を背ける形になってしまったが。
「・・・いいんじゃ、ないでしょうか・・・」
緊張のあまり何故か敬語になってしまった。
くそう。いまだに慣れん。
と言うか以前に着替え中の半裸姿を目撃してしまってるからついその姿を思い出してしまう。
そんな俺の葛藤を知ってか知らずか綾乃は表情から不安さを消し、
「ありがとっ♪」
そういった彼女の笑顔は、今日の空にも負けないくらい晴れやかだった。
183シロクロ 8話 【5】:2006/08/12(土) 04:41:38 ID:CtGOa84K
それからすぐにランチタイムとなった。
腹が減っては戦は出来ぬ。
そういうわけで俺達の前に重箱が置かれていた。しかも二つ。
その女性陣手作りの味に舌鼓を打っていると、
綾乃は割り箸で唐揚げをつまみあげ、それを俺の眼前に突き出し、
「あ〜〜〜〜〜〜ん♪」
「・・・やると思った」
俺は綾乃に冷ややかな視線を向ける。どうせ効かないだろうけど。
「ほらここにいるバカップル共でもそんなことやってな・・・」
「「「「「「あ〜〜〜〜〜〜ん♪」」」」」」
俺が最後まで喋りきる前に、他6人が一斉に食べさせ合いを開始した。
しかも全員俺達をきっちり視界の端にとらえている。
そして全員の目がいっていた。『早くしろ』と。
「・・・逃げ場無しかよ・・・」
覚悟を決めた俺は口を開き、唐揚げを口に入れてもらった。
キチンと良く噛んでから喉を通し、一言。
「美味い・・・」
「本当!?」
いつものように身を乗り出して聞いてきた。
いや顔近い顔近いってかそんなカッコで急に動くな乳揺れてるし。
それにとまどいつつも何とか答える。
「お、おう・・・」
「よかった〜。それ作ったの私なんだ〜〜♪」
綾乃はそういって俺に笑顔を向ける。
俺がそういう顔をさせた、と思うと何やら照れくさい。
それから目を背けると、他6人が一斉に溜め息をつくのが見えた。
「「「「「「はいはい、御馳走様」」」」」」
「なんで?みんなまだちょっとしか喰ってないだろ?」
「「「「「「「そういう意味じゃない!!」」」」」」」
何故か、7人全員――綾乃も含む――に一斉に突っ込まれてしまった。
184シロクロ 8話 【6】:2006/08/12(土) 04:43:25 ID:CtGOa84K
そして昼食後。
俺は独りで意味もなく空を見上げて思案していた。
「どうしよっかな〜・・・」
俺がそう呟きながら思い浮かべることは一つだ。
今朝見た悪夢。過去に俺が犯してしまった『罪』。
それが俺の心の中にしこりのように引っかかっていた。
もうあいつにあんな思いはさせたくない。二度と泣かせたくない。
――ならば、どうすればいいのか。
もう、あんな思いをさせないようにするには――――
「け〜い〜す〜けっ♪」
と、突然いつも聞き慣れている綾乃の声とともに、俺の身体にいつものように細い腕が巻き付き、
俺の背中にいつもより柔らかいものが押しつけられた。
「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
背に感じたもののあまりの感触に驚いた俺は自分でも驚くぐらいの大声を上げていた。
周囲から視線を感じるが、そんなことは気にせずに勢いよく首を45度左――アイツはいつも
後から抱きつくときはそっちに顔を出す――に旋回。
するとそこには――予想通り――綾乃が小悪魔のような笑顔を浮かべて俺の肩に顎を乗せていた。
185シロクロ 8話 【7】:2006/08/12(土) 04:44:38 ID:CtGOa84K
「おおおおおおおおおおおおおおまえいいいいいいっったいなにをした!?」
「後ろから抱きついた、っていうかしてるんだけど?」
「サラリと言うなよそんな恥ずかしいこと!
ていうか人前でするなっていっただろ!?」
「だって啓介さっきから元気ないみたいだったし。」
そういうと、綾乃は真剣な目を俺に向けながら俺の頬に手を触れさせ、
「啓介が元気になってくれるなら私は嫌われたっていいし傷つけられてもいいから」
と、綾乃は突然表情から力を抜き、眉尻を下げる。
「・・・ごめんね?」
先ほどのテンションは何処へやら綾乃は申し訳なさそうな表情で、
「結局、言い訳だよね」
「いや・・・」
俺は彼女の頭に手を乗せる。
太陽の光を浴びて熱を持った柔らかな髪の感触を楽しむように頭を撫で、
「ありがとな」
「・・・うん」
腕の下から見える綾乃の顔からは陰りが消えていた。
「じゃ、泳ぎに行こっ泳ぎに!」
「え?あ、ちょ待て、待てって!?」
俺の返事も聞かずに、綾乃は俺の手を取って海に向かって駆けだした。
186シロクロ 8話 【8】:2006/08/12(土) 04:45:25 ID:CtGOa84K
海で一通り遊んだあと、俺達は宿泊先の旅館に到着した。
予約してる部屋は男用と女用の二つだ。
と言っても、宴会に使うようなデカめの部屋を襖で仕切っただけだが。
兄が言うには「その方が騒げるだろ?」らしい。
まあ予算をケチった可能性がないわけではないが、これぐらいは見逃しても良いだろう。
殆どの費用は兄が支払ってるし。
その内の男部屋に荷物を下ろすと同時、兄が宣言した。
「さあ、風呂にでも入るか!」
「また濡れるのか・・・」
「男が『濡れる』って言っても嬉しくねえ・・・」
その場にいた全員で赤峰に鉄拳制裁を行った。

赤峰の屍を引きずりながら部屋から出ると、ちょうど隣の女部屋から出る綾乃達と鉢合わせした。
「あっ、啓介」
「よっ、綾乃」
綾乃は俺が抱えているビニールケース(中身はシャンプーや石けん等)や肩にかけたタオルを眺め、
「これから御風呂?」
「まあな。そっちは買い物か?」
「ううん。私たちも御風呂」
「なぬっ!?」
即座に赤峰が復活した。
「っていうことは直美も・・・!ああこうしちゃいられんすぐにでも――」
「覗いたら殺す」
「「「「すみませんでした」」」」
吉川の殺意のこもった視線に気圧され、何故か俺達まで頭を下げていた。
187シロクロ 8話 【9】:2006/08/12(土) 04:46:26 ID:CtGOa84K
旅館での大浴場。
そこの湯船に仁王立ちする二人の男がいた。
彼らは目の前の壁――男湯と女湯を仕切るためのものだ――を真剣な顔と目つきで睨みつつ口を開く。
「先生」
「なんだ生徒」
全裸の男――赤峰は同じく全裸の男――兄の手をがっちりと握り、
しかし視線は壁から外さず、
「女湯覗きたいです・・・!」
「俺も同感だ同士よ・・・!」
なにやら本当にやりそうな気がしたので、俺はドロップキックを放つため空中で身を縮め――
「「まあ覗かんけど。怖いし」」
――派手な音を立てて背中から湯船にダイブした。
188シロクロ 8話 【10】:2006/08/12(土) 04:47:07 ID:CtGOa84K
私たち四人しかいない大浴場。
ほぼ貸し切り状態な浴場に何故か男湯の方から何かが水に飛び込んだような音が響いた。
「・・・何やってるのかしら・・・」
「・・・まあ馬鹿やってるんじゃないかと・・・」
「・・・いつものことですよね・・・」
口々に率直な感想を述べる友人達。
「悪かったな馬鹿で!!」
どうやら聞こえてたらしく、啓介が抗議の声を上げた。
きっとみどりちゃんや義姉さんあたりがこのあと啓介に冷淡なツッコミを返すだろう。
それは避けたい。私以外の人に啓介をからかわれたくないし。
ここは幼馴染みである私がフォローしなければ!
「でもそんなところも含めて好き〜〜!!」
そう叫んだ途端、女湯男湯両方の場が静寂に満ちた。
それからきっかり十秒後、男湯から絶叫が響いた。
「そんな恥ずかしいことこんなところで叫ぶな馬鹿!!」
どうやら私のフォローは気に入らなかったらしい。
うわ腹立つ。せっかく人が助けてあげようと思ったのに。
「いいじゃないべつに他に人いないんだし!」
「そう言う問題じゃねえ!素っ裸で何トチ狂ってんだお前は!」
「な・・・・・・!裸なのはお互い様でしょこのエッチ!」
その後、私たちは延々と壁を挟んで口論を続けていた。
その間にみんなが退室してることも気付かずに。

浴衣を着込んで脱衣所から出ると、隣の脱衣所から出た綾乃と鉢合わせした。
そのまま二人並んで帰路につく。
「ゴメンね?」
「こちらこそ」
それだけ言うと後は無言だ。
だが、決して険悪な空気ではないことは俺の浴衣の裾を掴む綾乃の手が証明していた。
189シロクロ 8話 【11】:2006/08/12(土) 04:47:40 ID:CtGOa84K
部屋に戻ると、既に食事の用意がされていた。
部屋を仕切る襖も開いており、その境界線を越えてお膳が八つ並べられていた。
「おう遅いぞ二人とも〜」
兄がそういいながら手招きする。
俺達はそれに導かれるまま向かい合うように席に着く。
と、そこで気がつく。
「オイ馬鹿兄」
「なんだ愚弟」
「なんでビールが全員分用意されてるんだよっ!?」
「いいじゃんこんな時ぐらい」
俺は全力でツッコミを入れるが、軽く流された。
「そうそう、空気読もうよ空気」
「真面目すぎるのもどうかと思うぞ〜」
「おかわり〜」
・・・何人かは既にできあがってるようだ。
この状況じゃあ俺1人がどうこう言ってもどうしようもあるまい。
「・・・まあ仕方ないな・・・」
それぐらいの我が侭は許しても良いだろう。本人も悪気がある訳じゃないだろうし。

それがいけなかった。
190シロクロ 8話 【12】:2006/08/12(土) 04:48:28 ID:CtGOa84K
食事開始からどれくらいの時が流れただろうか。
俺が目にしている光景は地獄絵図そのものだった。
赤峰は青野相手にストロベリー――と言うか聞いてるこっちが赤面しそうな――トークを繰り広げ、
青野はそれに黙って頷いてるように見えるが、実際には船漕いでウトウトしてるだけだ。
黄原と吉川は最近のマスコミの姿勢やら国際問題やらについて熱く語り合っていた。
ちなみに両者ともに誰もいない空間に向かってだが。
兄夫婦は一言一言喋るたびに身体をくの字に追って爆笑し合っている。
綾乃はと言うと、浴衣が着崩れるのも構わず俺にベタベタしていた。
その格好が正直目の保養いやいや目に毒なんだが、
とろんとした目で見つめられると何も言えないのが悲しい男の性。
かくいう俺も、船をこぎ始めているというか、既に何度か意識が飛ぶことがあった。
「これ以上、絶対飲んでたまるか・・・!」
そう決意したとき、誰かが俺の肩をつついた。
そっちの方に振り向くと、そこには何かを頬張ったような綾乃の顔があり――
「!?」
――いきなり唇を重ねられた。
慌てて顔を離そうとするが、後頭部を既にホールドされててされに唇を押しつけ合う形となる。
次の瞬間、半開きだった俺の口の間から何かが口の中に入ってきた。
熱く、苦い味が口の中を満たしていく。
ビールだ、と悟ったときには既にそれらが喉を通っていた。
・・・俺に口移しで、飲ませたのか・・・!
「図ったな、綾乃・・・!」
そう言うと同時、俺は勢いよく立ち上がった。
が、妙に視界が傾いていた。
「・・・・・・・・・・・・・あれ?」
そういうと同時、俺の足裏がどこにも触れていないことに気付く。
つまり、俺は今――――
「・・・足を滑らせて転んでる?」
俺の呟きに答えるように後頭部に衝撃が来た。
191シロクロ 8話 【13】:2006/08/12(土) 04:49:09 ID:CtGOa84K
気がつくと、視界全てが真っ暗だった。
まあ目を開けている感覚がないことから
逆に今は目を閉じているというのはわかるが問題はそこではない。
頭が痛い。ものすごく。
その上まるで重りでもついてるのかと思うくらい頭が重い。
が、それて同時に柔らかいものに触れている感触もある。
そのことに対して疑問と好奇心が頭に浮かび、自然と瞼が開く。
すると、俺の目の前に綾乃の逆さまの顔があった。
「気がついた?」
その返答の代わりに起きあがろうとする。
が、額を思いの外強い力で押さえられているため首を小さく震えさせるだけとなった。
と、その動きに応じて柔らかい感触が俺の後頭部に伝わってきた。
枕や布団、ましてや畳では決して味わうことの出来ない、弾力を持った柔らかさだ。
・・・なんで?
よくよく考えてみれば綾乃の顔が逆さまに見えるのもおかしい。
ようするに――――
「俺、膝枕されてる?」
「うん♪」
にこやかに答えるなよ。
しかしこうして見上げると、顎や口元のあたりを隠す胸の立体がよく分かる。
大きさそのものは吉川の方が上だろうが、綾乃のは丸く、ほどよい形をしており、
なんというか、たまらなくそそる。
などと思ってると、綾乃の表情は眉尻を下げた笑みになり、
「ゴメンね?なんか今日、約束破ってばっかりで」
192シロクロ 8話 【14】:2006/08/12(土) 04:54:00 ID:CtGOa84K
俺は知っている。
綾乃は本当に済まないと思ったときにはこの表情になることを。
そうじゃないときは笑って誤魔化すだけだ。
それだけの時間を幼き頃に過ごし、再会した後もそうしてきたつもりだ。
だから、こんな時に俺のすることは一つだ。
「大丈夫。怒ってる訳じゃないから」
俺はそういって笑顔――可能な限り柔らかめな――を浮かべた。
「うん・・・」
綾乃の顔から陰りが消えていくのがわかる。
「おお、やるな色男」
「うるせえ」
俺は聞こえた声にぶっきらぼうに返し――――
――――声?
先ほどの声は綾乃のものとは違う、低い男の声だ。
見れば綾乃も困惑した表情を浮かべている。
そのことを疑問に思った俺は声のした方向に勢いよく身体ごと視線を向けた。
すると、そこには兄や友人達六人が神妙な顔つきでこちらを見つめていた。
「ちっ、気付いたか」と露骨に舌打ちする奴もいるがそれは無視。
「っていつから見てたんだよお前ら!?」
「「「「「「口移しのところから」」」」」」
「最初から!?」
慌てて身を起こそうとする。
が、綾乃の手は未だ俺の額の上から動かず、反動でさらに彼女の太ももに沈み込むことになった。
「ってオイ綾乃、離せって!」
「え?いや、その、あははははは・・・」
「オイ落ち着け!頼むから落ち着いて状況を整理してああもうとにかくパニクるな
ってこの体勢のままで抱きつくなー!」
再び、地獄絵図が展開した。
193 ◆6Cwf9aWJsQ :2006/08/12(土) 04:55:20 ID:CtGOa84K
今回は以上です。
194名無しさん@ピンキー:2006/08/12(土) 08:43:37 ID:1OEV4Xjv
怒涛の神ラッシュに出る物出し尽くして
衰弱しかけてる俺が来ましたよ。
GJ!!!!このままトドメを刺されても文句ない気分です
195名無しさん@ピンキー:2006/08/12(土) 23:32:31 ID:KAioM001
実にバカップルな幼馴染ですねこれわw


しかし人が少ないなぁ
もう大半の住人は去っちゃったんだろうか
196名無しさん@ピンキー:2006/08/13(日) 00:23:55 ID:WIxPTYua
>>195
一時間以内に阻止されなければここの神は俺のもの
197名無しさん@ピンキー:2006/08/13(日) 00:26:35 ID:DypaOF8c
阻止
198名無しさん@ピンキー:2006/08/13(日) 01:00:22 ID:b/7B9d9o
3分も持たなかったなw
199名無しさん@ピンキー:2006/08/13(日) 22:00:39 ID:DE6bEqXI

>>162-171の続きを投下
今回はちょっとかなり長いです

ペースもがたがただったなぁ
途中で規制食らわないといいなぁ
200今宵の月のように:2006/08/13(日) 22:02:43 ID:DE6bEqXI


 物心がついたときには、もう隣にいた。

 親同士の仲が良くて、家も向かい合っていて。外へ遊びに行く時には無理やり連れて行くか、
勝手に付いてくるのが常だった。その頃は、今からは考えられないくらい大人しい奴で、
髪の毛で自分の顔を隠したがるほど臆病で、誰か知らない人と話す時はいつも俺の身体の
陰に隠れてた。

 それがいつだったか、必死の様子なあいつの質問に何気なく答えてから、性格はどんどんと
変わっていった。人見知りもしなくなっていって、小学校高学年になったぐらいには、
もう小さい頃の面影はほとんど残っていなかった。
 変わらなかったところもある。制服を衣替えするたびに、窓越しにその姿を見せつけたり。
減らず口を叩いたり、文句を言うようにはなっていったけど、一緒に登校したがったり。
 新しい髪型を褒めた時に見せた屈託の無い笑顔も、もう何年も前のことになるけど、
今でもよく覚えている。

 思えば、高校卒業と同時に家を出ることになった時、どうにか納得させたのに別れの
言葉を口にした直後、服の端をくいとつかまれたあの仕草で、もう確信めいたものがあった
のかもしれない。

 週に一度は会いには来てくれたけど、以前と比べて話をする時間は随分と減った。それでも
あいつは嬉しそうだった。意識するしない以前に、その時垣間見せる笑顔が好きだった。

 そうやって紗枝がいつも懐いてくれてたから、いつしか錯覚していたんだな。

 高校を卒業して半社会人として揉まれていくうちに、理想論を振りかざし思い描いていた
ことに気付き、現実に目を向けるようになっていっても。紗枝との擬似兄妹みたいな関係
だけは崩したくなかった。


 どっちにしろ、俺にはあいつが絶対必要だったんだ。


 最初から、頭の中だけで理解させることなんて無理だったんだよ。





 結論から言うと、推測通り紗枝は駅前にいた。

 二ヶ月前と同じように、鉄柵の上に腰掛けて、濁った空を見上げていた。

「……」
 息を整えながら、ゆっくりと近づく。始発が出て間もない時間帯のせいなのか、駅前の
スクランブル交差点を行き来する人影は、まだまばらだった。

201今宵の月のように:2006/08/13(日) 22:05:23 ID:DE6bEqXI


ザッ

 
 どうやって話し掛けたらいいのか分からず、舗装された道路と靴底を擦らせた音で
紗枝をこちらに気付かせる。
「あ……」
「……」
 振り向いたのを確認して、正面にまで近づく。顔を拭いたのか、跡は見られなかった。
気付かせ、傍に来たのまでは良かったけど、やっぱり何を言えばいいのか分からなくて、
何も言い出せずに立ち尽くしてしまう。


「崇兄なら、見つけると思った」


 そんな雰囲気を察したのか、先に紗枝が口を開く。
「……」
 部屋にいた時とは、まるで雰囲気が変わっている。すっきりした表情で、口許は微かに
笑みさえ浮かんでいる。
「急に出て行ったりしてごめんね」
「気にすんな……こうして見つけられたしな」
 天気のせいか、湿気た空気が身体に纏わりつく。重たく、ぬるい。心地よい感覚と言う
には程遠かった。

「ハッシーに……」
「…!」
 紗枝の口から彼の名前が出たことで思わず顔がピクリと反応する。それを紗枝に盗み
見られ、表情が少しだけ濃くなる。笑顔の種類が、変わったようだった。
「ハッシーにね、言われたんだ」
「……」
 淡々としている。部屋で話をした時は、あんなに自分を保ててなかったっていうのに。
俺の知っている姿以上に穏やかで、その表情も至って平静だ。どうやら、久しぶりに外に
出たことで、気持ちに余裕が生まれたようだった。


「『俺じゃお前を幸せにできない』って……そう言われたんだ」


「……」


 顔は緩やかな笑みをたたえたままだった。

 それを言われた時、こいつはどんな気持ちだったんだろう。どんな思いで、その言葉を
受け止めざるを得なかったんだろう。
「『俺と付き合い始めてからどんどん元気なくなってって、今の方が辛く見える』んだって」
 言葉の途中で、突然その表情を伏せてしまう。
 俺は立ち尽くし、紗枝は座っている。だけど、顔が見えなくてもどんな表情をしている
のかは、分かってしまっていた。


「だから言われたんだ……『別れよう』って。『お互いに、そうした方がいい』って…っ」


 言葉尻が、震えた。手で目尻を拭い、一度だけ鼻をすする。
「…そっ……か」
 顔だけじゃなくて、その姿全部を見ちゃいけない気がして、自分の足元に視線を落とす。
202今宵の月のように:2006/08/13(日) 22:07:34 ID:DE6bEqXI

「結局ね、ハッシーとは何にも無かったんだ」
「……」
「何にもしてない。ただ、遊んでただけ」
 どうにか気持ちを抑えこみながら、再び淡々と口を動かし始める。
「お互いに全部が初めてのことだったってのもあると思うんだけど……それでもお互い、
ちょっと構えすぎてたのかな」
 少し前のことを思い返しているその顔は、俺が妹扱いしてきた紗枝の顔じゃなかった。
「臆病……すぎたんだよね」
 その言葉が少し寂しそうだったのは、橋本君に対する申し訳なさがそうさせたのだろうか。

「崇兄は…自分責めてたけど、そんなことない」
「……?」
「凄く悩んで、考えて……一生懸命に答えてくれたもん。あたしの気持ちは……届かなかった
けどね」
「……紗枝」
 苦笑を浮かべる。もう、全部吹っ切ったようにも見えた。自分の恋心も。橋本君との関係にも。
いや、吹っ切ったんじゃなくて、諦めているようだった。

「だから……悪いのは…全部、あたし」

「何言ってんだよ、そんなわけ…」
「崇兄はただあたしの気持ちに返事しただけだし、ハッシーもあたしを大事にしてくれた。
なのに……二人とも、すっごく辛い目に遭ってる」
「……」
 否定は、出来なかった。そんなことないって言うのは簡単だったけど、今更になって、
嘘をつきたくなかった。


「だからさ……あたしは…っ」


 ……やっぱり、ギリギリだったんだな。紗枝の声が、途端に上ずってしまう。



「きっと……幸せになっちゃいけないんだよ……」



 それだけ言うと、とうとう両手で顔を覆ってしまう。
「傷つけたのは…崇兄じゃない…っ…あたし…なんだよ…」
「……」
「だから……だからっ……」
 しゃくりをあげて、なおも言葉を続けようとする。だけど、二言目はほとんど形を成して
いなかった。くしゃくしゃになった顔を隠して、流れる雫を袖で拭き続ける。
「紗枝…もういいから」
「あたし…ごめん……崇兄の……気持ちには…応え…られない…っ……」
 言いながら、紗枝はまた右の袖で、涙を拭こうとする。
203今宵の月のように:2006/08/13(日) 22:10:10 ID:DE6bEqXI


ガシッ


「あ……っ」
「……」
 その手首を俺は、無意識に、強引に左手で掴んでいた。



「お前は……ほんっと意地っ張りだな…」



 吐き出す台詞も、半ば無意識だった。ごしごしと、袖で涙を拭ってやる。

「あ…? え……?」

 何がなんだか分からないと言った様子の紗枝に、今度は俺が苦笑を漏らす番だった。
「一生懸命考えてさ、そういう結論出したかもしれんが…それは間違ってるぞ」
「そ、そんなこと……」
「そんなことある。俺だって、似たようなこと考えてたしな」
「……」


「その結果はさ……全てが、余計に悪い方向に向かっちまっただけだったよ」


 想いを伝えられないまま生きていく。伝えるには一生分の勇気が必要で。だけどそれを
振り絞れなかったら一生後悔してしまう。気持ちを抱えたまま口にも出せないでいるのは、
日常生活を普通に送ることさえ難しくさせてしまう。

 今更になって紗枝を好きになり、だけどもう関係は終わっていて。宙に浮いたまま、
どうしようもない想いを抱えて生きていく。
 これほどうってつけな償い方があるだろうか。あの時の俺はそう思った。


 だけどそれは間違ってた。


 決して叶うことの無い感情が余計に燻って。上手くいかずに潰えた関係を生み出した
だけだった。
 何一つ、良い方向へは向かなかった。
204今宵の月のように:2006/08/13(日) 22:12:21 ID:DE6bEqXI

「お前がそう言いたくなる気持ちも分かる。でもな」
 
 言葉を続ける。俺は、紗枝の手首を掴んだまま。紗枝は鉄柵に腰掛け、うつむいたまま。

「橋本君だって、お前が幸せそうじゃないと思ったから別れを切り出したわけだろ」
「……」

「お前も幸せになれる相手を見つけて欲しいと思ったから、そう言ったわけだろ」

 その時の彼の気持ちが、痛いほど分かった。
 おそらくそれは、あの黄昏時に俺の胸によぎったものと、寸分違わぬ同じものだった
だろうから。
 自分の気持ちより、紗枝の様子を優先するなんてな。


「だからさ……そんなこと、言うなよ」
「……だって…」
 また言い返してこようとする紗枝の言葉を遮ろうと、もう一度袖で涙を拭う。
そして、駄々をこねる子供をあやすように、俺はそっと囁いた。




「俺といる時くらい……意地、張るなよ」




「…う」
 額から頭を撫でるように手を這わせて、前髪に隠れていた紗枝の瞳が露わになる。
かちあった瞬間、その表情は、ぐにゃりと歪んだ。真一文字だった口も、形を失う。

「紗枝、俺は……『明るく』て、『元気』で……『素直』な娘が好きだぞ」

「……!」
 幼い頃の何気ない質問。その時に俺が返した答え。そこに、一つ新たに項目を加える。


「今…俺の目の前に『明るく』て、『元気』な娘はいるけど……その娘は生憎かなりの
『意地っ張り』でな」


「だけど、俺がたった一度『似合ってる』って言った髪型を、未だに変えてなくてな」


 少しだけ言葉をおどけさせながら、どっちつかずに言葉をばら撒く。俺としたことが、
紗枝の扱い方をすっかり忘れていた。
 今までずっと、17年間ずっと、そうやって紗枝をからかってきたのにな。


「なぁ紗枝、どうしたらいいと思う?」



 押して駄目なら、引けばいい―――
205今宵の月のように:2006/08/13(日) 22:14:33 ID:DE6bEqXI


 何故か、微かに笑うことさえ出来ていた。
 涙目のままだったけど、悔しそうな顔を浮かべる紗枝の顔が、とてつもなく懐かしくて。


 あぁ……こいつ、こんなに可愛かったんだな。


「……いつも、そうだ」
「……?」
「崇兄は…いつもそうだ。いつもそうやって……あたしの考えてること見透かすんだ…」
 
 新たに流れる透き通った雫は、音を伴わなかった。

「…そりゃ、ずっと見てたからな。お前のこと」

 顔を、無意識に近づける。

「幼なじみで家も隣で、お前は俺のこと慕ってくれてて……これでお前のこと分かって
なかったら、俺はどんだけバカなんだって話になるだろ?」
 
 近づきすぎて、額同士がこつんと当たる。

「まあでも…お前の考えや性格は見抜けても……気持ちは全然分かってなかったんだけどな」
「……」
 髪の毛が、震えている。当たった額と掴んだ手と。触れた箇所からそれが伝わってくる。


「…崇兄のそういうとこ、好きじゃない……」
「……お前ね」


 距離は、止まらず近づいていく。あまりに近くなりすぎて気恥ずかしくなったのか、
紗枝は目の縁に涙をたたえたまま、そっと目を閉じてしまう。

「あたしのこと妹扱いしてて……いつでもあたしのこと分かってるみたいなこと言って、
なのにあたしの気持ちだけ全然分かってくれなくて……」

 だけど言葉とは裏腹に、紗枝はもう逆らない。泣き顔のまま、顔の角度を恐る恐る上げて、
しっかりと向き合った。

「あたしのこと振ったくせに…今更好きだって言ってきて……そうやっていつもあたしを
振り回して……」

 態度は素直になっても言葉だけは意地を張りっぱなしなのが、いかにも紗枝らしくて。
206今宵の月のように:2006/08/13(日) 22:17:11 ID:DE6bEqXI


「嫌いだ……っ」

 
 消え入りそうな声で紡がれたのは、態度とは真逆の、相手を嫌がる否定的な言葉。


「崇兄なんか……大っ嫌いだ……っ」






 その言葉を最後に。距離が一瞬、零になる。






 時間は早朝、天気は曇り、場所は駅前の交差点。






 車のクラクションに、靴底がアスファルトを叩く音。






 信号が変わったことを伝えるカッコウの鳴き声が、辺りから俺の耳に届いてくる。






 そんないつもと同じような、日常が流れる片隅で。






 知り合って久しい幼なじみと、初めて交わした刹那の秘め事。






 多分俺は、今の感触を忘れることは一生無いと思う。
207今宵の月のように:2006/08/13(日) 22:19:16 ID:DE6bEqXI

 掴んだままでいた手首をくいと引っ張りながら、自身も重心を前に倒す。そのまま紗枝
の身体を、ポスンと腕の中に収めた。

「ひっく……ぐす……」
「泣くなよ…」
 
 肩口に顔を埋めて、しがみついてくる紗枝をゆっくりと宥める。

「だって……だって……」
「……だから…泣くなって…」 
 
 こっちからも、紗枝をギュッと抱きしめる。お互いの顔が擦れ違いそうになり、お互いの
耳が隣り合う。背中に回した手から、微かな鼓動を感じ取れた。
 身体の中で凝り固まっていた異物が、泡を立てて溶けていく。緊張し続けていた心が、
ようやく平静を取り戻す。


「いいのかな……」


「……?」
 肘あたりを、そっと掴まれる。

「崇兄にも……ハッシーにも酷いことしたのに…」

 胸元辺りにも、湿った感触を覚える。
「なのに……また、崇兄の隣にいてもいいのかな…」


 むず痒い感覚が、胸をよぎった。



「崇兄のこと……また好きになってもいいのかな……」



「……」
 ああ、なんだ。変わってねーじゃねえか。昔の面影、まだ残ってるじゃねえか。

 感情が溢れそうになる。どれだけ、この瞬間を望んでいたんだっけか。一度は失った大切
なものが一つ。だけどそれは二つになってまた俺の手元に戻ってきた。



「おかえり……紗枝」



 二つの問い掛けに、返す答えは一言だけ。



 本当は頭を撫でたかったけど、それをこらえて言葉で返す。代わりにまた、紗枝の身体を
覆うように回していた腕に、少しだけ力をこめる。極まって、溜息も漏れる。
「うぅ……」
 泣き止もうとする紗枝の様子が、可愛くて仕方が無かった。
208今宵の月のように:2006/08/13(日) 22:21:30 ID:DE6bEqXI

 思えば、親が離婚した時も。引っ越す時が決まり、紗枝との距離が離れる時も。そして
紗枝の気持ちに応えられず、紗枝との関係に幕が引かれた時も。

「……?」

 俺は泣かなかった。そういった感情はもう自分の中では、必要の無いものだと切り捨て
られてるもんだとばかり思っていた。

「崇兄……?」


 だけど、今。俺の視界は、微かに歪んでいて。


 ってことは、そういうことなんだろうが。認めたくなかったし、見られたくなかった。
こいつにそんな目に遭わされただなんて、一生この先、誰にも言えない。
「あぁ……なんでもない」
「……」
 紗枝の問いかけにも、声を作って誤魔化した。



「それじゃ…」
「……?」
「一旦…帰るか。おじさんとおばさんも、心配してる」
 視界の歪みを無理やり直して、紗枝が落ち着くのを待ってから、俺は静かに隣り合って
いた頭を再び向かい合わせて、距離をとる。
 時計は回り、会社へ通勤するサラリーマンの姿が目立ち始めていた。

「……うん」

 掴んでいた手首も放す。

 今は、手を繋がなくても互いを隣に歩くだけでも充分だと思ったから。
209今宵の月のように:2006/08/13(日) 22:23:54 ID:DE6bEqXI


『さえー! はやく来ないと置いてくぞー!』


『うわああああん! まってよー!!』


 肩を並べて帰路に着き始めたその視界に、一瞬小学生くらいの男の子と、まだ幼稚園児
くらいの女の子の幻が見えたのは、一睡もしていなかったせいなのだろうか。
 

 その姿は、すぐに空気に掻き消えてしまう。


 でも、それで良いと思った。


 今はもう、お互いに願いを叶えることができたから。
 それはつまり、幼なじみである前に、また新たな関係が出来たってことだ。

 ま、それが何かは、遭えて言う必要もないだろ。

 口に出すには、まだちょっと照れ臭いしな。



 紗枝の歩調にあわせて、俺達はゆっくり、ゆっくり帰路につく。
 


 分厚い雲からは、段々と晴れ間が覗き始めていた――――――
 






210今宵の月のように:2006/08/13(日) 22:26:06 ID:DE6bEqXI


ピリリリリリリッ、ピリリリリリリッ


 …んぐ……んが? なんなんだこの音は。人がせっかく日々の疲れを癒そうとぐっすり
すっきりじっくり寝てるっていうのに。これじゃー目が覚めちまうだろうが。


ピリリリリリリッ、ピリリリリリリッ


 あー……携帯鳴ってんのか。こんな時間に俺に連絡が来るとは珍しい。くっそー、まだ
横になってたいのに誰だ。


ピッ


「……んー…?」
 枕元においてあったそれを掴むと、寝起きっつーことで割れてしまってた声で応答する。
『……』
「……」
 なんだぁ? 向こうからかけてきたくせに何も喋ってこねーぞ。間違い電話かもしかして。
つーか相手誰だ。
『崇兄、待ち合わせ何時だったっけ?』


 ……紗枝か。なんか口調が明らかに怒ってんな。そういや、今日はデートの約束してた
んだっけか。忘れてたわけじゃないんだが……うーん。


「えーっと、確か10時だっ……け…」
 その時、なんとなしにぐるりと部屋を見回していた俺の視界に、これまた枕元に置いて
あった目覚まし時計が捉えられる。その時計が教えるに、今の時刻は午前10時半を過ぎた
ところらしい。
『今何時か知ってる?』
「……確認した」
『寝てたんだろ』
「うるせーよ、日頃仕事で疲れてんだよ」
『その言い訳もう聞き飽きたよ』
 呆れ交じりの声が電話の向こうから響いてくる。
 肩と頬で携帯を挟んで会話しながら、服を引っ張り出してそそくさと着替え始める。
シャワーを浴びる時間も無いな。身嗜みも大事だが、それ以上にあいつは待たせれば
待たせるほど機嫌を損ねるからな。着替えて顔洗って髪型セットしたらさっさと行くか。

『もぉ……』
「悪かったって、急いで行くからもうちょっと待ってろ」
 窓の外を見ると、いつぞやのように天気は下り坂の模様。もうちょっと厚着していった
ほうがいいか。
『どのくらいかかる?』
「11時までには行くよ、んじゃな」
 財布を掴みながら携帯を切ると、両方をはき終えていたズボンのポケットにしまいこむ。
飯も食う暇ねーな。昼にがっつり食おう。
 ジェルでパパッと髪をセットすると、コートを掴んで部屋を飛び出す。鍵を閉めて靴を
しっかりと履きなおすと、待ち合わせ場所へと急いで向かう――――

211今宵の月のように:2006/08/13(日) 22:28:17 ID:DE6bEqXI


「……」
「……」

 
すたすたすたすたすたすた


 前を歩く紗枝を追いかけるように、俺は後ろからついていく。顔は見えないが、口をへの字に
曲げていることだけは分かる。すたすたすたすた、お互い何も言わず、早足で歩き続ける。
 うおーい、このまんまじゃ埒があかねーよ。

「紗ー枝ー、悪かったからー」
「……口調がそう言ってない」
 謝ったのにちっとも許してくれない。そりゃ豪快に寝坊したのは悪かったが、だからって
何もここまで怒らなくたっていいだろうが。

「せっかくの『はぢめてのデート』なんだからもっと楽しもうとは思わんのか」
 
 ついついその態度にカチンときて言い返してみる。すると、それまでせかせか歩き続けて
いた紗枝の脚がぴたりと止まった。同時に、ゆっくりと俺のほうへ振り返る。

「その『はぢめてのデート』に30分以上遅刻したのはどこの誰?」

 押し殺すような低い声に睨み殺すような鋭い眼光。なーるほど、機嫌が悪い理由はやっぱり
そこにあったわけだな。「初めて」ってのが紗枝の中で特別な事由に当たったらしい。
「だから悪かったって。怒ってばっかで今日を終わらせたいのか」
「……だって」
「そう拗ねるなよ」
「拗ねてない!」
 また口を尖らせる。どこをどう見ても拗ねてます、本当にありがとうございました。
なんでこう、こいつはテンション次第で性格が幼くなったりするんだろう。
「そろそろ機嫌なおせ。な?」
「じゃあ、今日は全部崇兄の奢りね」
「じゃあもクソも、高校生相手に割り勘にするほど俺の器は小さくねーよ」
 ま、俺はフリーターとはいえ一応働いてるからな。最初から金を出させるつもりなんざ
毛頭ない。この半年間バイトばっかりで無駄遣いしなかったし、パチンコやスロットの
勝率もそう悪いもんじゃなかったからな。
「ん、よろしい」
 そう言うと、紗枝はようやくにっこりと笑顔を浮かべる。
 お姫様の機嫌もようやく直ってきたみたいだ。まったく、毎度毎度宥めるのに苦労するわ。
そして、今度はちゃんと肩を並べて歩き出す。さっきまでよりスピードを落として。


 今日の日付は12月25日、世間一般で言うクリスマスだ。紗枝との関係を修復し、また
新たな関係を作り始めてから早くも一週間経った。
 あれから、俺の生活は全てが元通りになろうとしている。いや、全く違った形で始まろう
としているって言った方が良いのかな。

 紗枝もまた、ちゃんと学校へ行くようになった。まだクラスメイトとはギクシャクしてる
ところもあるようだけど、紗枝の気持ちが限界を超えないように、この一週間は毎日紗枝の
顔を見に行った。クラスでは、真由ちゃんと兵太がなんとか取り持ってくれているらしい。
 もちろん、橋本君ともそれは当てはまってるようで。紗枝が俺と付き合うと言うことを
聞かされた時、彼は笑顔で祝福してくれたそうだ。色々言いたいこともあっただろうにな。
 そんな風に人間が出来てる彼のことだ。いつか紗枝以上に可愛く優しい彼女をきっと
見つけられるだろう。
212今宵の月のように:2006/08/13(日) 22:30:28 ID:DE6bEqXI

「なんか言った?」
「いや別に」
 ……今のは口に出してなかったんだが。女の直感は鋭すぎる。

 まあクリスマスにデートっつーことで、本来なら恋人同士でその日の夜にあれやこれや
色々とヤることがあるんだが、付き合い始めてすぐだしなぁ。俺もまだまだこいつのことを
妹として見てしまってる部分もあるし、焦らずゆっくりやろうと思う。
 だから今日はいつも通りでいい。こうして紗枝と遊ぶこと自体が、随分と久しぶりのこと
なんだしな。

 とはいうものの、そういう気持ちが全く無いわけでもないんだけどな。

「またなんか…」
「だから何にも言ってねーって」 
 こういうのにやたらと敏感なところだけ、普通の女の子と一緒なんだよなぁ。まったく、
扱いにくいったらありゃしない。
 

「で、なんだっけか。見たい映画があるんだよな」
「うん」
 頭の中で無理やり自分を納得させ、並んで歩きながらまず今日の最初の行き先を再確認
する。そういや、どんな映画かまだ知らないんだよな。ちょっと聞いてみよう。
「ジャンルは?」
「ラブロマンス」
 
 …………


 え゛。

 
「……あのさ、俺さっき起きたばっかりなんだけど」
「寝坊したのが悪い」
 をいをい、なんか急に肩の荷が増した気がするぞ。頭もちゃんと働いてない寝起きにその
ジャンルはキツい。つーか寝る。確実に寝る。興味無いジャンルだし。
「一応まだ午前中だぜ?」
「いいだろ、見たかったんだから」
「……」
 おっかしーな、こいつここまで甘えてくるような奴だったかな。やっぱり、どんだけ長く
知り合ってても、恋人に見せる顔ってのは違うもんだな。
「どんなの見ると思ってたの?」
「えーっと、アン○ンマンとか」

 
げしっ!


「そんなの見に行くわけないだろ!」
「冗談だろーが! いちいち蹴んな!」
 あーもー、付き合いだしてからこいつのことがよく分かんなくなってきたぞ。手足を出す
タイミングも随分と早い。今までならまだ減らず口止まりだっていうのに。
213今宵の月のように:2006/08/13(日) 22:33:42 ID:yA5aOryu

「ったく、中学生になってもウサギのバックプリントとか履いてたくせに……」


めきょっ!


 次の瞬間、紗枝の拳が俺の頬に思いっきりめり込んだ。

「今度またそれ言ったら殺す」
「……頼まれても言わねー」
 この前までの弱々しい紗枝と、本当に同一人物なのか疑いたくなるぐらいの逞しさだ。
まあ、それだけようやく元気が出てきたってことなんだけど。ここは素直に喜んどくか、
殴る蹴るの暴行を受ける羽目にはなったが。

「で? 行くの? 行かないの?」
 釣り上がった目で俺をじっと睨みつけ、怒気を含ませながら問いかけてくる。そんな
様子を横目に見ながらも、俺は短く溜息をつき、自分の中で定めた今日の取り決めを静か
に反芻させた。

『紗枝のわがままに全部付き合う』っていう、取り決めをな。

「誰も行かないなんて言ってないだろ」
 それでもやっぱり腹に据えかねたので、ちょっとばかしひねくれた言葉で返してみる。
誰が紗枝の言うことに素直に従ってやるか。
「態度が『行きたくない』って言ってましたぁー」
「喋ることが出来るのは口だけですぅー」
「『目は口ほどにものを言う』っていう諺を崇兄は知らないんだね、あーバカでかわいそ」


むかっ


 おかしい……なんか今日の俺はいつもより口に出してることがガキっぽい気がする。
ついこの前まではシリアスかつ不幸とタバコの似合うダークな雰囲気纏ったシニカルガイ
だったのに。それもこれも全部こいつのせいだ、ちきしょう。
 とはいえ、怒りに任せて紗枝の頭をひっぱたくわけにもいかない。代わりに両手を乱暴に
ジャンパーのポケットへしまいこむことで気を紛らわす。
 走ってきたことで火照った身体も、そろそろ冬の寒さに負けて無くなりかけてるからな。
手もかじかんできてたし丁度いいか。
「崇兄、手袋して来なかったの?」
「まーな、寝坊して急いで来たせいで忘れた」
「ふーん……」
 
んー? なんでそんなことわざわざ聞いてくるんだ?
 
 別に聞かなくてもいいことを聞いてくる紗枝を訝しがって、またその表情を伺ってみる。
すると俺が振り向くと同時に、慌しく顔を前に向けてしまった。それでも、その反応が少し
ばかり遅かったので、こいつが今どこを見ていたのかはしっかりと確認できた。


 確か今、俺の腕辺りを見てたな。なんでまたそんなところ……


 …………


 ははぁ、なるほど。
214名無しさん@ピンキー:2006/08/13(日) 22:35:42 ID:MyAQ47qo
ヽ(`Д´)ノしえーん いる?
215今宵の月のように:2006/08/13(日) 22:35:47 ID:yA5aOryu


「お前は手袋してんのか」
「いいだろー、あったかいよコレ」
 俺がそう言うとにひひ、と笑いながら俺に見やすいように両手を顔の前でかざす。どうやら、
手袋を忘れてきた俺へのあてつけらしい。
 その手袋は黒一色に彩られ、男女どちらも身につけられそうな中性的なデザインをしている。
これなら俺がつけても違和感無いかな。
「じゃあ片方だけ貸せよ」
「え?」
 言うが早いが、俺は自分に近い方の紗枝の左手から、その手袋を掠め取る。そして自分の
左手にはめてみる。思いの他、サイズはピッタリだった。ほほぅ、これは確かにあったかい。
それまで紗枝が身につけていたこともあって、俺の左手はすぐに温かくなっていく。

「あっ、返せ!」
「片っぽだけだろ、別にいいだろーが」
「何にもよくない、あたしの手が冷えるだろ」
 俺の左手めがけて、紗枝の両腕が手袋を奪い返そうと襲い掛かる。
「あー、うざい」
「なら早く返してよっ」
「しつけーな。じゃあ…」
 いつまでもじゃれあうつもりもないので、その動きを軽くいなして、右手で紗枝の左手
ギュッと掴む。


 お互いに外気に晒された手の平同士を、強く繋ぎ合わせた。


「これでもう冷えないだろ?」
「……っ」
 頬のあたりがうっすら赤くなっていくのが分かる。

 いやー久しぶりだけどこいつをからかうのはやっぱり面白いね。思わずにたーっとした
笑みが顔に浮かぶ。更に紗枝が悔しそうに見つめてくるもんだから、もう楽しくて仕方がない。

「ちょ……離せってば!」
「なーに照れてんだよ、恋人同士だろこ・い・び・と」
「やっ、離せー! 気持ち悪いー!!」
「照れるな照れるな」
「照れてなんかない!」
 まったく、いつになったら素直になるのやら。こりゃあしばらくはお守り感覚だな。

「ちょ…やめてよー!」
「ったく、うるせーな」
 とは言うものの、紗枝の方は一向に喚くのを止めようとしない。すれ違う人達のうち
何人かが迷惑そうな顔してすれ違っていくし、ここは一旦、手を放したほうがいいか。
 そして次の瞬間、俺は右手にこめていた力を抜き去る。紗枝がぶんぶんと手を振って
いたこともあって、繋がれていた手はあっさりと振りほどかれた。

「あ…」
 
 紗枝も、こんな簡単に手を離されると思ってなかったんだろう。あっけにとられたように
声を上げる。
「ほら、これでいいんだろ。行くぞ」
 紗枝の反応も待たず、またすたすたと歩き始める。
216今宵の月のように:2006/08/13(日) 22:37:57 ID:yA5aOryu

「……」
「何だよ、映画見に行きたいんじゃなかったのか?」
 振り向いて見てみると、紗枝がついて来ない。振りほどかれた手も、そのままの位置に
とどめたままだ。
「紗枝」
 ちょっと苛立ったように声をかける。もちろん、全てを分かった上での演技なんです
けどね? うふわはははは愉快愉快。

「あ、あの……崇兄」

 声をかけられ、宙に浮かせていた腕を胸の前に移動させ、片や素手、片や手袋という
白と黒という対照的な色をした両手を、もじもじと動かし始める。
 いつだったか、今と全く同じような照れ方をしていたのを思い出し、またまた思わず
相好を崩してしまう。あー、こいつこんなに可愛かったんだな。つい一週間前も同じこと
言ったような気がするが。
「なに? やっぱり手袋も返して欲しい? しょうがねーなまったく…」
「そ、そうじゃなくて」
「んー?」
 頬をこする振りをして、手で口を覆う。口のにやけを見られるわけにはいかねーからな。
「その……やっぱり…」
「なんだよ?」

 言葉尻が聞こえなくなった代わりに、おずおずと、振りほどかれた左手を差し出してきた。

「え、何コレ?」
「だっ、だから分かるだろ! 何が可笑しいんだよ!」
 とうとう顔を真っ赤にして怒鳴りだした。表情を指摘されたと言うことは、口許を隠して
いたつもりでも、実は隠しきれなかったってことらしい。
「いやー紗枝が何したいのか俺さっぱり分かんねーよ」
「さっぱりって…そんなわけ…」

「ほらさー誰かさんが言うとおり俺ってバカで可哀想な人間だからさー、ちゃんと何か
 言ってくれないとお前の意図とかさっぱり分かんないわけよー、ごめんなー?」

「ぐ……っ」
 俗に言うっつーかどこからどう見てもさっきの仕返しだ。やられっぱなしじゃ終わらない
俺の性格を、平松さん家のお嬢さんはすっかり忘れていたらしい。
「じゃ早く行こーぜ、混んでるかもしれねーし」
 振り返り、そのまま映画館へ向かって歩き出そうとしたその時である。


がしっ


 右腕を引っ張られたような感覚を覚え、また思わず振り返る。
 そして視界に映ったのは、案の定、怒ったような顔で俺の手を握り締める紗枝の姿。
「……っ」
 分かってたくせに、視線がそう語っている。まさに目が口ほどにものを言っている。
やー、こんな愉快な気持ちになるのは海でこいつをからかった時以来だなぁ。
217今宵の月のように:2006/08/13(日) 22:40:00 ID:yA5aOryu


「嫌なんじゃなかったのか」
「……うるさいっ」
 そうボソッと呟きながら、ふいと顔を逸らす。しょうがねーな、態度だけでもようやく
素直になったことだし、もうからかうのは止めてやるか。
「ま、よくできました」
「…やっぱり分かってたんだな」
「そりゃそうだろ、お前じゃあるまいし」
「……うーっ」
「ついでと言っちゃあなんだが、これはよくできたご褒美な」
 そう言うと、俺はただ繋がれていただけ手を動かす。指を一つ一つ絡ませ、文字通り
がっしりと握った。肌同士の触れ合う面積が広がり、伝わる熱も強まっていく。
「ちょ……」
「こっちのほうがあったかいだろ?」
 先ほどと同じようなことを言って、お互いの顔の間で繋がれた両手を振りかざす。

「……もういい」
 紗枝はというとまたぶすくれだって、消え入るような声を漏らしている。
「素直で宜しい。いつもこうだともーっと可愛いんだけどなー」
「う、うるさいなぁ、しょうがないだろ」
 こういう性格なんだから、と愚痴る横顔を盗み見る。これからの生活にあたって、自分の
性格が一番の難敵だということは、どうやら本人も重々承知していることらしい。

  
 まあいいか、いっつも素直だと、さっきまでみたいな可愛い仕草を見ることも出来なく
なるわけだしな。
 

「じゃ、行くか」
「…うん」
 言葉と共に、繋ぐ手に力を込める。そして込められる。

 今はまだ、やっぱり幼なじみに近いんだけど。

 それでもいつかは、形だけじゃない恋人同士になれる時が来ると思うんだ。

 まあ、どのくらい時間がかかるかは分からないけど。


 そんな急ぐ必要もないわけだ。


 ずっと大事にする。そう、決めたし。


 そう思うと、堅く握って繋がれた手が、まるで俺達の絆みたいにも思えて、ついつい
笑みがこぼれてしまう。
「? どうしたの?」
 それを紗枝に突っ込まれ、笑みが苦笑に変わった。

 いや、幸せだなーと思ってな。軽くおどけながら、そう口にすると紗枝はまた顔を赤く
してしまう。だけど悪態こそついてくるものの、その表情は綻んでいた。その様子がまた、
俺を幸せな気分に浸らせてくれる。
218今宵の月のように:2006/08/13(日) 22:42:22 ID:yA5aOryu

「あっ…」

 と、紗枝が一声あげながら空を見上げる。つられて俺も顔を上げると、いつかの日のような
曇り空から、ちらちらと白く冷たい欠片が降りてくる情景を目にすることが出来た。
「ホワイトクリスマスだね」
 そう話しかけてきながら、俺のほうへ振り向く。

 
 その時の笑顔が、俺が一番見たかった、俺が一番好きな紗枝の顔で。


 照れ隠しに頭を掻きながら、俺はその言葉に軽く頷いて見せたのだった。




 終わって終わって始まって。再び手にした大事な存在は、もう二度と手放したくない、
かけがえの無いものとなって俺の許へ帰ってきた。
「ねえ、崇兄」
 そしてその大事な存在は、幼なじみから恋人へと変わっていた。
 つい数ヶ月前には、考えられなかったことだな。

「これからは、ずっと一緒なんだよね?」

 分かりきったこと聞くなよ、そう言いかけて口を噤む。もうこいつは俺の恋人なんだから。
いつまでも妹、子供扱いするわけにもいかないよな。そういった考えが頭によぎる。

 甘えてくるなら、昔のように少し甘やかしてやってもいいよな。



 手を握り、顔を会わせ、お互いに笑顔を携えながら。俺は一言、言葉を紡ぐ。



「……そうだな」



 もう決して歪むことの無い、初めて紗枝と気持ちを確かめ合った時に広がっていた、
あの時と同じような曇り空を見つめながら。紗枝の部屋を訪れた時とはお互いの気持ちが
まるで違うこの場面で、敢えてその時と同じ返しの台詞を口にしたのだった。


  全てが今までと同じなようで、どこか何かが変わろうとしている。
  

 それがどう変わっていくのか。 それがなんなのかは分からないけど。
 
 終わって終わったことで、ようやく始まったこの関係を。ようやく訪れたこの時間を。


 俺はずっと大事にしたいと思う。

219今宵の月のように:2006/08/13(日) 22:44:26 ID:yA5aOryu

 これから先、全てが上手くいくとは限らないだろうし。
喧嘩してしまうことだってあるだろうけど。

 今携えているこの気持ちがあれば、きっと、大丈夫だ。



   
    じゃあ、もう行くぜ。




            紗枝が待ってる。




                     またいつか、会えるといいな。




   もちろん幼なじみと、恋人と。




           ちゃんと二人分、大事にするさ。




                 俺達の新しい関係は、始まったばっかりだしな。
   



 白い欠片が降りてくる。地面に木々に降り積もる。漏れる吐息は紛れて消える。

 今日も明日も、どこへ行けばいいか分からない日々を乗り越えて。

 もう二度と戻らない日々を、探し見つけて、形を成した新しいカタチ。

 今度こそ、溢れてくる熱いものは必要ない。




 また、空を見上げる。


 雲の隙間から、光を持たない月が見え隠れしていた―――――



                    〈 fin 〉
220今宵の月のように:2006/08/13(日) 22:52:40 ID:yA5aOryu
|ω・`)……



|・ω・´)ノ サイゴグライマジメニカタルヨ!



というわけで、なんとか全て投下できました
投下するペースがガタガタだったのがアレですが

随分と冗長な話であり、また展開的に本番を入れるのが難しく
反省点が無かったといえば嘘にはなります、しかし
スレ住人の皆さんには作品を愛していただき、非常にありがたく思っております
書き上げた満足感と、多大な評価をいただいたことは本当に誇れることだと感じました
捕獲部隊が編成されるとは思いませんでしたがw

皆さんの応援のおかげで、無事完結させることができました
本当にありがとうございます


……続き、投下できたらいいなぁ
221名無しさん@ピンキー:2006/08/13(日) 22:55:05 ID:rhHiQX8g
GJ!!!
222名無しさん@ピンキー:2006/08/13(日) 22:55:35 ID:DypaOF8c
GJ!!長い間お疲れ様。
途中、一体どうなってしまうのかとハラハラしたけど
無事2人が幸せになれて本当によかった。
続きを書いていただけるのならば、
今から裸一貫でwktkしながら待ち続けます。

223名無しさん@ピンキー:2006/08/13(日) 23:12:57 ID:++2YVHLz
GJです!!
いつもいつも気になるところで終わってたし、どうなることやらとドキドキしてました。
やっぱりハッピーエンドは良いものですね。
ご苦労様でした。
224名無しさん@ピンキー:2006/08/13(日) 23:13:18 ID:S02DIEXy
グッッッジョーーー!!!!

幸せな結末に胸がいっぱいです。
今までお疲れ様でした!
続編が出来たら是非是非投下して下さい!
22587:2006/08/13(日) 23:13:43 ID:WIxPTYua
GJです。神巨大文字AAが今手元にないことが本当に悔しい。


こんなGJ作品をみてもまだ続き(ギシアン)をほしがる俺っていったい・・・
また気が向いたら新たな作品を書いて下さい。全裸で待ってます。

大隊の全員につぐ>>220方面に対しGJ砲ようい。撃てぇぇぇ!!!
226名無しさん@ピンキー:2006/08/13(日) 23:27:11 ID:8v6iDZym
了解しました大隊長!左舷30度、仰角45度、撃って撃って撃ちまくるであります!
超長編GJ!!
227名無しさん@ピンキー:2006/08/13(日) 23:30:04 ID:YA9MaGCw
>>87
ご注進、ご注進!!
閣下、220の捕獲に向かった全部隊との通信が途絶えました。
どうやら、220に寝返り、220を神と崇めているようです。
228名無しさん@ピンキー:2006/08/13(日) 23:35:57 ID:47/osZwi
GOOOD JOB!
個人的には勿論、続きの二人が一つになるところを見たいのですが
敢えてこのままというのはどうでしょう。
恐らくは私同様楽しんだであろう皆さんがそれぞれの二人をイメージできているはずです。
>220さんのそれとはもしかしたら少し違っているかもしれませんし、
そうでなくてもこれだけの作品に無理に付け足す必要はないと考えます。

寧ろ私は、>220さんの描く別の恋人たちの話を読んでみたいと思います。
#今度はもう少し、艶っぽくて短くて軽くてもいいかな、って気もしますがねw
229名無しさん@ピンキー:2006/08/14(月) 00:36:14 ID:HM71+fzc
GJ!
230名無しさん@ピンキー:2006/08/14(月) 01:39:38 ID:7s/j3KgC
すっごいよかった。
こんな作品を読ませてくれて、ありがとう。
231名無しさん@ピンキー:2006/08/14(月) 05:06:42 ID:tCojQXoh
>>220
ありがとう、この言葉しか言えません

続きをすごく楽しみにしてるよ!!
232名無しさん@ピンキー:2006/08/14(月) 06:07:13 ID:OgF98KM1
遅くなりましたが、GJです!
続編も楽しみにしております。
これにて>>220捕獲作戦終了、と
233名無しさん@ピンキー:2006/08/14(月) 08:16:16 ID:nPzumyqT
>>220
GJ!!!!!!!!!!!!!!!
ハッピーエンドになってくれてなによりです。
いい作品をありがとうございました!
234名無しさん@ピンキー:2006/08/14(月) 12:49:42 ID:A4YDZ67P
>>220
いやっほーう!>>220最高っー!
心の奥底からGJ!!幸せっていい…

続きが投下されたら、イイな。お願い。

>>228
君はきっと真面目すぎるんだな。
もっと自分の欲望に素直になりなよ。
235名無しさん@ピンキー:2006/08/14(月) 17:49:49 ID:AlrB1mWC
>>228はすごいな。作品に対する姿勢が真摯だ……
漏れなんか続きが見たくて煩悩全開なんですが(´・ω・`)
236名無しさん@ピンキー:2006/08/14(月) 20:43:05 ID:L/bes18S
>>235
俺もだw
むしろこの二人だからこそ見たいw
237名無しさん@ピンキー:2006/08/14(月) 21:27:45 ID:NMXuZo30
な……なんなんだ!!このバカップルは!!
エロシーンが無いのに勃起した俺はどうしたらいいんだ│││orz
238名無しさん@ピンキー:2006/08/14(月) 23:34:16 ID:sPS+zI3Y
死ぬかしゃぶれよ
239名無しさん@ピンキー:2006/08/15(火) 00:54:59 ID:mhCmjAc8
長編大作、乙。
ハッシーも幸せになってくれ
24052:2006/08/15(火) 01:02:49 ID:fURHFSu3
>>53-60の続きを投下しに参りました
携帯ねらーなのは言わない約束
大作終了直後なので緊張したりしなかったり……
241それはまるで水流の如く:2006/08/15(火) 01:03:42 ID:fURHFSu3
大学時代の友人が結婚した。
友人の間では一番乗りで、彼女は式や披露宴の間中、ずっと幸せそうだった。

そんな彼女を見ていると羨ましいと思ってしまうのは、私の中にもそう言う願望があるからだろうか。
日頃は仕事や何かが忙しくて、それ程相手が欲しいと思う事はない。居た所で、仕事優先になるだろう事は目に見えてるし。

だけど稀に。
本当に稀に。
誰かにすがりたいと思ってしまう時だってある。



昨夜から降り続いた雨は今朝になっても止む事を知らない。こんな日がもう一週間近く続いている。
台風が近いせいもあるんだろう。強い風と小雨ながら降り続く雨。
いつもなら休憩時間に校庭に飛び出す子ども達も、この雨で教室や体育館以外に遊べる場所もなく、校舎はいつもより喧騒を増していた。
私達教師はと言うと、校庭が使えない代わりに体育館使用の割り振りやら、警報が出た場合の対処やらでてんやわんや。
──いつもてんやわんやなのは言わない約束だが。
お昼休みになっても忙しい事には代わりなく、私は給食指導が終わると職員室の自分の席で、深い深い溜め息を吐いた。

今年の梅雨はあって無きが如し。
だもんで、秋雨前線の仕打ちに対する対処法なんて未経験。
初めてだらけの事ばかりなのは今更だが、天候のせいか憂鬱感はいっこうに晴れない。

「溜め息吐いたら幸せが逃げるってよ?」
そう隣の席で言ったのは、コーヒーをすする門田先生だった。
私は横目で軽く門田先生を睨みつけると、態と大きな溜め息を吐いて見せた。
途端に聞こえるのは門田先生の押し殺した笑い声。
私は机の上に広げっぱなしの資料を片付けながら、門田先生から視線を外した。
「寿命が縮むって言うのは聞いた事ありますけど」
ボソリと呟く私を見遣り、門田先生は目を丸くする。それでも直ぐにいつもの薄らとした笑みを浮かべると、専用のマグカップ──底に門田と書いてあるから間違いない──を机に置いた。
「美人薄命?」
「……かも知れませんよ。美人ですから。私」
相も変わらずからかい口調の門田先生を見る事なく、私はいけしゃあしゃあと言って退ける。
と。
「……ぶ」
パシンと何かを叩く音と同時に、蛙の断末魔の様な声が聞こえた。
242それはまるで水流の如く:2006/08/15(火) 01:05:05 ID:fURHFSu3
視界の端に写る門田先生の肩が、小刻みに震えているのが嫌でも分かる。
「何か文句でも?」
「いーえ、全然」
目を細めて門田先生を見ると、彼は口許に手を当てたまま、ブンブンと大きく首を振った。

夏休みに門田先生の──いや、「ナァくん」の家を訪れてからと言うもの、私の中には大きな変化があった。
それが何なのかは明確な言葉にする事は難しいが、その変化は確実に、私と「門田先生」の距離を縮めていた。
例えば、今みたいな遣り取りだってそうだ。
以前の私ならまず間違いなく「門田先生」に当たり障りのない言葉を返していた。
けれど「ナァくん」には冗談を返せる余裕がある。
「門田先生」と言う先輩ではなく「ナァくん」と言う幼馴染み。
どう違うのかと問われれば、これまた返す事は難しいが、私の彼に対する接し方は間違いなく「ナァくん」になりつつある。

笑いを必死で堪える門田先生の表情は、面白くて堪らないとでも言いたげに緩んでいる。
大声で笑わないようにと口許は覆ったままだけど、頬の緩みや細められた目許までは隠し様がない。
「そうなったら困るなぁ。せめて幸せが逃げる程度にして貰わねぇと」
ようやく笑いを押し込めたか、門田先生がヒラリと手を振る。
その姿から再び視線を外した私は、肩を竦めて資料をトントンと机に打ち付けた。
「逃げる程の幸せがあれば良いんですけど」
「あるだろ、そんくらいは」
傍に転がっていたボールペンと一緒に、まとめた資料を引き出しに仕舞う。
午後の授業で使う教科書ガイドと資料を傍らに寄せると、私は席を立とうと椅子を引いた。
そこに引き出しが開く音がして、空になった机の上にポトンと苺味の飴が落ちる。
隣を見ると門田先生が片手をヒラヒラさせながらニンマリと笑っていた。
「幸せのお裾分け」
「……どーも」
思わぬおやつに呟きを返すと、門田先生は引き出しを閉めて仕事の続きに取り掛かった。
243それはまるで水流の如く:2006/08/15(火) 01:06:12 ID:fURHFSu3
取り合えずコーヒーでも飲もう。
職員室の奥には備え付けの炊事場があり、職員が自由にお茶を飲めるようになっている。
机の飴を手に炊事場へと向かった私だが、不意に慌ただしく職員室の扉が開かれた。
「長谷部先生ッ!」
名前を呼ばれ振り返ると、受け持ちの雅美ちゃんが泣きそうな顔で立っていた。
学級委員の雅美ちゃんは、年の割にはしっかりとしていて、こんな表情を見せる事は少ない。
だからだろう。
回りの先生達も何事かと雅美ちゃんを注視している。尋常じゃない様子に私は飴をポケットに突っ込むと、慌てて雅美ちゃんの元へ駆け寄った。
「どうしたの?何かあった?」
取り合えず落ち着かせようとなるべく穏やかに声を掛けるが、雅美ちゃんは目に涙をいっぱいに溜めてふるふると首を左右に振った。
「勇太君が……!」
ぎゅっと私の服を掴んだ雅美ちゃんは、それ以上言葉にならないのか、それでもぐいぐいと私の服を引っ張る。
「どうしたの」
「怪我したの。早く!」
「怪我!?」
子どもが怪我をするなんて日常茶飯事。だから子ども達だって多少の怪我じゃ騒いだりしない。
──だけどこれは……。
血の気が引いていく音が耳の後ろを通り過ぎる。
一瞬気を失いそうな程の目眩に襲われたけれど、雅美ちゃんが服を引っ張ってくれたお陰で私は何とか平静を保つ事が出来た。
「何処?」
「二階の階段!」
雅美ちゃんの手を握り返すと、雅美ちゃんは思いの他強い力で私をその場所へと連れて行く。
私は逸る気持ちを押さえながら、そのあとを付いて行った。

244それはまるで水流の如く:2006/08/15(火) 01:07:21 ID:fURHFSu3

子ども達は私達が考えている以上に悟い。
普通じゃない空気に辺りはひっそりと静まり返り、誰も彼もが好奇心と言い知れぬ恐怖で口を閉ざしている。
ただ聞こえるのは、泣き喚く子どもの声と、呻く子どもの声だけ。
連れられた場所は二階へと続く踊り場で、赤い鮮血が小さな血溜りを作っていて、所々に不自然な輝きが見える。
その光景に私は思わず息を飲んだ。
先に来ていた養護の池上先生の手には、薄く染まった白い布。その布はしっかりと勇太君の肩口に巻かれてはいたけれど、勇太君は痛みに顔をしかめてボロボロと涙を溢していた。
泣き喚いていたのは茜ちゃんで、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を拭えずにいるようだった。
「何があったんですか」
「あぁ、長谷部先生」
私に気付いた池上先生は勇太君の肩を押さえながら、チラと踊り場の壁を見た。
その時になってようやく私は、足元の輝きがガラスの破片だと気付いた。

階段は死角が多い。
その危険が分からない子どもも多く、踊り場の壁には反対側から来る人の姿が見えるようにと大きな姿見が設置されている。
けれど今はその姿見は無惨にも砕かれ、血溜りの中に破片が散らばっていた。
「ご覧の通りよ」
勇太君の左腕はパックリと割れ、生々しい肉が覗いている。血は未だ流れを作り、肘から下は真っ赤に染まっていた。
恐らく、私の顔は真っ青を通り越して真っ白になっていたに違いない。
泣き喚く茜ちゃんの声が耳に届き、一階に立つ子ども達の視線も感じるけれど。
予想もしなかった出来事に足は竦み、寒くもないのに体が小刻みに震えだす。
どうすれば良いか分からない。
私は馬鹿みたいに突っ立って目の前の光景を見つめていた。
「私はこれから病院に連れて行くから、長谷部先生は親御さんに連絡して頂戴。玉置先生にはあとの始末を」
私の混乱を察したか、勇太君を抱き上げた池上先生がテキパキとした様子で指示を出す。
その声に何とか頷いて見せた私は、フラつきそうになる足に心の中で叱咤しながら、急いで職員室へと戻った。
後ろで池上先生が子ども達に近寄らないようにと告げる声が聞える。

後になって、何も出来なかった自分に酷い自己嫌悪が襲い掛ったけれど。
この時の私は、ただただ混乱するばかりだった。

245それはまるで水流の如く:2006/08/15(火) 01:08:38 ID:fURHFSu3
午後の授業の間中、教室の中は異様な空気で満たされていた。

こう言う時、子ども達を落ち着かせなければならないのは、いくら私だって分かっている。
けれど情けない事に、私には其処まで子ども達を気遣える余裕が無かった。


放課後。
病院に同行した池上先生から、六時を少し過ぎた時間になってようやく連絡があった。
勇太君の怪我の原因は、数日降り続いているこの雨。いつもよりも滑り易くなっていた階段を、いつもと同じ調子で駆け降りて、肩から勢い良く姿見にぶつかったらしい。
勇太君は七針を縫う大怪我だったけど、幸い処置が早かったお陰で大事に至る事はないとの事。
それを聞いた瞬間、私は糸の切れた人形のようにカクリと首を垂れて溜め息を吐いた。
「大丈夫だったのか?」
受話器を置いた私の隣から声が掛る。
特にするような仕事もないのに、門田先生は帰り支度もせずに職員室に残っていた。
手持ち不沙汰にペンを回したり、ライターを意味も無く弄んだり。けれど病院から電話が掛って来るまでずっと、好きな煙草を吸いにも行かず、彼は私の隣で黙って自分の席に座っていた。
「明日は大事を取って休むらしいけど……明後日からは学校に来られるって」
「そっか。良かったな」
「はい……」
顔を上げる事も出来ない私だったけれど、門田先生はいつもと同じ様に声を掛ける。
再び溜め息を吐いた私に、門田先生はもうからかうような事はしなかった。
「帰るか」
「はい……」
ただそれだけを告げ、門田先生は自分の荷物をまとめ始める。
私は動く気力も無かったけれど、門田先生に促されてのろのろと帰り支度を始めた。
同じ様に職員室に残っていた教頭先生と教務の玉置先生に報告をして、私と門田先生は二人並んで学校の門を潜った。
246それはまるで水流の如く:2006/08/15(火) 01:09:28 ID:fURHFSu3

黙々と。私と門田先生は並んで帰り道を歩いていた。
傘を打つ雨の音や傍らを通り過ぎる車の音以外は、物音らしい物音はない。
足元の水溜まりを見る度に踊り場の血溜りが思い出され、私は顔を上げて真っ直ぐ前だけを見据えていた。

今になって、自分の無力さに打ちのめされる。
勇太君の無事を喜ぶだとか、降り続く雨を呪うだとか、そんな気持ちは心の何処を掘っても湧いて来ない。
自分勝手かも知れないけれど、今日の出来事は私にとっては酷くショックで。その事が私を無口にさせていた。
隣を歩く門田先生も、余計な事など何一つ言わず。かと言って今の私に効果的な言葉も思い浮かばないのか、私を見る事もなく黙って歩みを進めていた。

二人っきりで帰るなんて、初めてだと言うのに。

やがて駅へと続く交差点に辿り着く。
私の住むマンションはもう近い。門田先生は電車通勤だから、ここで別れる事になる。
丁度良い具合いに赤信号で、私は足を止めると傘を傾けて門田先生を見上げた。
「それじゃあ──」
「送る」
「……え?」
──また明日。
そう言おうと思っていた私に、門田先生は眉一つ動かさずに私を見下ろす。
取り繕うような笑顔が強ばった。
「いや、でも」
「送るったら送る。理由は聞くな」
「いや…………ハァ」
私を見る門田先生の表情には厳しい物が見え隠れする。
それでも断ろうと思って口を開いた私だが、頑な口調で告げた門田先生に、結局逆らえずに曖昧に言葉を濁す。
視線の強さに耐えきれずうつ向いた私の目に、波紋を広げる水溜まりが写った。
247それはまるで水流の如く:2006/08/15(火) 01:10:33 ID:fURHFSu3

天気のせいか薄く闇に染まる街並みの中、ポツリポツリと街灯の明かりが輝く。
マンションまであと数十メートルになった頃、それまで黙っていた門田先生が口を開いた。
──黙っていたのは私もだけど、喋る気にならなかったのだから許して欲しい。
「なぁ」
ぶっきらぼうに呟いた門田先生が足を止める。
自然、私も歩みを止めたけれど、さっきの様に門田先生を見上げる事は出来なかった。
「教師って、大変だよな」
門田先生の声音は変わらない。労うでもなく告げられた言葉に、私は身動きすら出来ない。
それでも門田先生は容赦はしなかった。
「例えどんな時であっても、そこに教え子が居たら教師の仮面を外しちゃいけない。それが最低限のルールだと、俺は思う訳」
「……」
「今日のチィちゃんは、そのルールを破った。……ま、俺の中の勝手な自分ルールなんだけど」
告げられる言葉が胸に突き刺さる。
それはたぶん、私の中にも同じ気持ちがあるからだ。
自己嫌悪に陥ってるのだって、多少の違いはあれど門田先生の言葉が正論だと分かっているから。
だからこそ私は返す言葉もなく、じんわりと湿るスニーカーを見つめていた。
「でも……それってさ。結構しんどい事な訳。俺もそうだし」
細い糸雫がいくつも視界の中を通り過ぎる。
その端に、不意に門田先生の靴が見えた。
「だから教師じゃない時間の間ぐらい、誰かにすがりたいと思ってもバチは当たらない。愚痴でも何でも吐き出しちまえよ。抱えずにさ」
「……え」
ポンとうつ向いたままの頭に重みが掛る。
それが何なのか分からないうちに、ぐしゃぐしゃと頭を掻き乱されて、私はゆっくりと顔を上げた。
248それはまるで水流の如く:2006/08/15(火) 01:12:25 ID:fURHFSu3
門田先生が真っ直ぐに私を見下ろしている。
その眼差しはさっきまでの「門田先生」じゃなく、いつか見た「ナァくん」のように穏やかな眼差しだった。
「そんなんじゃ明日までに復活出来ねぇだろうが。泣きそうな顔してんぞ?」
「そんな事……っ」
ぐしゃぐしゃと撫でる手を払う事も出来ないうちに、鼻の奥に覚えのあるツンとした刺激が走った。
ぎゅっと目を閉じると、熱い雫が私の頬を伝って行く。
漏れそうになる嗚咽を必死になって殺しながら、私は自由にならない喉を動かした。
「……怖かった……。あんな事になるなんて……」
「うん」
「私、何も出来なくて……。……『先生』なのに、全然動けなくて……」
「それから?」
「……茜ちゃんにも、優しい言葉、掛けられなくて……。……自分が……情けなくて」
「うん」
今まで押し潰されそうだった自己嫌悪が、門田先生に頭を撫でられる度に薄らいでいく。
大きな手から感じる安心感に、私は子どものようにしゃくり上げた。

「……良かった。勇太君が無事で……」

その言葉を最後に、私は何も言う事が出来ず、長い時間ボロボロと涙を溢す。
私はただ門田先生に感謝していた。
黙って傍に居てくれた事に。私の弱い部分を見ない振りをしなかった事に。
その間もずっと、門田先生は黙って私の頭を撫でてくれていた。




何を考えているのか、言葉にされないから分からない。

けれど。


けれど。


──どうしてこの人は、こんなに優しいんだろう。

──どうして私は、この人にすがりたいと思ってしまうんだろう。



幼馴染みだからと言うだけじゃない。

そう願う自分の気持ちに気付くには、私にはまだ少しだけ、時間が必要だった。
249240:2006/08/15(火) 01:15:04 ID:fURHFSu3
今回はここまで
前回感想をくれた方々、有り難う御座いました!

何か単なる恋愛話になってるような気がしなくもナイですが、懲りずに投下に参りますので、今暫くお付き合い下さい……
250名無しさん@ピンキー:2006/08/15(火) 01:24:48 ID:CrY0wzyL
いや、毎度毎度実に素晴らしい。続き楽しみにしてます。
251名無しさん@ピンキー:2006/08/15(火) 01:45:32 ID:1T+IOIL1
GJ!
252名無しさん@ピンキー:2006/08/15(火) 10:13:00 ID:wodE2CzE
グジョバ
253名無しさん@ピンキー:2006/08/15(火) 20:31:55 ID:jHbxn8bZ
GJです!
首を長くして、続きを待ってます!
254名無しさん@ピンキー:2006/08/17(木) 00:22:31 ID:/D8vK0Vn
保守っとく
255名無しさん@ピンキー:2006/08/17(木) 16:56:31 ID:ynldfuhN
GJ!
256名無しさん@ピンキー:2006/08/20(日) 11:21:42 ID:wqZtdKq8
保守
257名無しさん@ピンキー:2006/08/20(日) 23:28:26 ID:+xOfVolN
全力でぇぇェー!!保守だぁぁぁぁァァア!!!!
258名無しさん@ピンキー:2006/08/21(月) 08:58:56 ID:Un7I94zL
てか、保管娘が見れないけど俺だけかな?
259名無しさん@ピンキー:2006/08/21(月) 09:04:53 ID:+teQ860H
新ジャンル:保管娘
260名無しさん@ピンキー:2006/08/21(月) 09:50:50 ID:L7RJO/7z
「これ俺が小さい頃あげたやつじゃないか? 
 まだこんなものとってあったのか」

「だって…あなたが初めてわたしにくれたものじゃない。
 一生大事に保管するんだからね」

こうですか、わかりません
261名無しさん@ピンキー:2006/08/21(月) 10:43:34 ID:J3rhvLgC
そ れ だ
262名無しさん@ピンキー:2006/08/21(月) 10:48:35 ID:b1WWo15V
山本元子(通称もともと)か。
263名無しさん@ピンキー:2006/08/21(月) 11:31:59 ID:3duYtgE8
どこのバカだよ・・・と思ったら、お れ か !!
保管娘って・・・orz
真面目な話、鯖で何かトラブルでもあったの?
昨日から繋がらんて話もあるし
264名無しさん@ピンキー:2006/08/21(月) 11:46:01 ID:eYHwGDAR
これは新しいジャンルだ。

ちなみに私は長谷部先生と門田先生のお話が一番好きですぉ。
265名無しさん@ピンキー:2006/08/21(月) 16:00:32 ID:NK0qnzgP
>>263
自分は昨日の22頃から見れなくなったw
266名無しさん@ピンキー:2006/08/22(火) 00:59:56 ID:Nr0zgTNg
俺も見えない。ナンデ?
267名無しさん@ピンキー:2006/08/22(火) 07:47:26 ID:5nDExR1n
2chエロパロ板SS保管庫
ttp://sslibrary.s9.x-beat.com/

保管庫移転したみたい。
268名無しさん@ピンキー:2006/08/24(木) 00:26:19 ID:mC7EaUyQ
ここんとこ長いのが続いてるので

短編が、短編がよみたいです
269作家陣に捧げる保管娘:2006/08/24(木) 02:14:22 ID:5VNzaZG1
うっ、まただ・・・・。

僕は、机の上にあるアイスコーヒーのグラス越しにソレを見る。



ニヤニヤ。

今の彼女の表情を表すなら、この言葉がぴったりだ。

クラスで・・・いや、学校でも1、2を争う人気者。

その彼女がこういう表情をするのは、決まって僕の前だ。

・・・いや、今は彼女に背を向けているから、後ろだけれど。



「・・・ど、どうしたの、さっきから?」

「べっつにぃ?」



またニヤニヤ。

嗚呼、そして僕はついに好奇心に負けてしまったのです。



「なにか、良いことでもあったわけ?」



ディスプレィから体を180度回転させて、彼女に向き合った。

その先にあるものが、ある意味自分の身の破滅とは知らずに。



※続き上げるかは反応次第ということで・・・・
270 ◆lIRqqqQOnU :2006/08/24(木) 02:19:02 ID:Og340e1v
偶然投下しようと思ってたので、短編投下します
去年書いたんだけど、投下しなかったので今頃になりますが

時期的にもひと月遅いんですが、そこは平にご容赦下さい

『いつの間にか』
271 ◆lIRqqqQOnU :2006/08/24(木) 02:20:52 ID:Og340e1v
すみません
書き込み前にリロードすればよかった

うあー また今度にします
272269:2006/08/24(木) 02:22:16 ID:5VNzaZG1
ぎゃー!!
速攻投下するのでどうぞどうぞー!!
273269:2006/08/24(木) 02:23:02 ID:5VNzaZG1
「聞きたい?」



ごろごろしていたベッドから、身を乗り出す彼女。

昔からこうだ。幼馴染の部屋だからって、無防備すぎる。

・・・まぁ、そんな(どんな?)度胸は無いですけどね。はい。



「うっ・・・・聞きたい、です」

「聞きたいんだぁ? どっしよーかなぁー♪」



うわ、笑顔がパワーアップした。心臓に悪い。

・・・本当、彼女は僕をいじめるのが楽しくて仕方ないらしい。

まぁ、それが嫌じゃない僕も、問題なのかもしれないけど。



「今、またネットで恋愛小説書いてるんでしょう?」

「え? ああ、うんまぁ・・・・」



小説なんて大した物じゃなくて、恋愛物のSSだけれども。

彼女はそれを知っていて、毎回僕の作品を批評してくれる。

元々、僕が作家志望であると知っていた彼女が、ネットに作品を

載せて皆の意見を聞いてみたら?と、勧めてくれたのだった。


実際、ネットには下手な小説より面白い作品が沢山あったし、

なんとなく疎遠になっていた幼馴染の彼女とも、それをキッカケに

前のように話せるようになって、僕にとっては良いことづくめだった。
274269:2006/08/24(木) 02:23:59 ID:5VNzaZG1

「・・・君のお陰だよ。文章も、以前より大分ましになったし」

「うんうん。盛大に感謝しなさーい?」



でも、僕が本当に幸運だったのは、彼女の幼馴染に生まれたことだ。

神様がもし存在して、この配偶を決めたのだとしたら、僕は彼(女?)に

感謝してもしきれない。ありがとうございます神様。



「それでさぁ、私、最近気づいちゃったんだよねー?」

「え、なにが?」

「キミの書くのって、青春とか、恋愛とかじゃない?」

「あー、うん。あとは青春恋愛物とか」

「それって同じよね」

「そうだね」



クスクスと笑う彼女。

本当に、どうしちゃったんだろう?



「ああいうのってさ、自分の願望とか理想だったりするんでしょう?」

「うーん、そうかな? ・・・・ああ、確かにそうかもね」



そう、確かに、自分の恋愛観とか想いを描いているかもしれない。

ディティールなんかよりも、気持ちが本物の作品の方が、面白いと思うし。

一人称で描く作品の場合、特にそれが顕著かもしれない。



「でさ、私は気づいちゃったワケよね」

「え? 何に?」
275269:2006/08/24(木) 02:24:38 ID:5VNzaZG1

ニヤニヤのパワーアップした笑顔で、僕に近づいてくる彼女。

体を反らして逃げようとする僕の耳元まで唇を近づけて、囁く。



「いっつも、主人公の好きな相手は幼馴染よね♪」



・・・




・・・・・・・




・・・・・・・・・・え゛!?







「えぇ――――っ!!?」


「ちょ・・・っ、耳元で大きな声出さないでくれない!?」

「あっ、ごめ・・・・っ」



どうしたのー、と階下から母の声。そんなに大声だったのか。

なんでもありませーん、と怒った顔の彼女が返事をしているが、目は笑っている。

そして僕の顔を覗き込んで、その目で、白状しなさいと訴えかける。



「え、ええっと、それはつまり、ほら・・・・っ!」



僕は彼女から視線を逸らして・・・彼女の薄着の胸の谷間に。

さらに慌てて、目を瞑ってくるりと椅子ごとディスプレィに向き直った。

今書いているのだって、主人公は幼馴染の女の子にベタ惚れだ・・・。
276269:2006/08/24(木) 02:25:50 ID:5VNzaZG1

「あらぁ、どうしたのかしらぁ? んー?」



背後から、椅子ごと彼女に抱きしめられて、頭に血が上ってしまう。

僕は何故、リトマス試験紙みたいな単純な反応しかできないんだっ。


僕は、抱きすくめられたまま、アイスコーヒーのグラスを手にして

一気に飲み干し―――







「今度、アレを参考にデートする? 全部保管してあるよ?」







――ディスプレィに向かって黒い霧を吐いた。
277269:2006/08/24(木) 02:27:13 ID:5VNzaZG1
以上、作家陣に捧げる保管娘でした。
◆lIRqqqQOnUさんバトンタッチです!!
278名無しさん@ピンキー:2006/08/24(木) 02:46:34 ID:B7/I3ykR
いいいいますぐ続きをかくんだ!いやかいてくだsだい!11
279名無しさん@ピンキー:2006/08/24(木) 03:09:03 ID:/uCXvDOw
書きなさい?じゃないと命令しちゃいますよ?


ナニワトモワレGJ
280名無しさん@ピンキー:2006/08/24(木) 14:26:23 ID:+ShqThWu
  、
( ゚∀゚)o彡゚保管子!保管子!
281名無しさん@ピンキー:2006/08/24(木) 14:36:07 ID:RacyWN7m
保管娘たんキター
282名無しさん@ピンキー:2006/08/24(木) 22:33:47 ID:xu3Oug/A
つ…つづ、き…我、つづき、求む…つづき
283名無しさん@ピンキー:2006/08/24(木) 23:14:41 ID:lw+XlPCw
続きもいいんだが
◆lIRqqqQOnUさんの投下を待ち続けている
俺はどうすればいい?
284 ◆lIRqqqQOnU :2006/08/25(金) 03:58:20 ID:FwjWYGkU
269氏昨日はすみませんでした

昨日も書き込んだ通り、季節は7月頃の話です
エロなしで
285いつの間にか 1/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/08/25(金) 03:59:44 ID:FwjWYGkU
「っ スマン」

 どさりと音を立てた後に訪れた静寂。
視界を互い以外に遮るものは無かった。
二人同時に驚き固まり、数瞬の様な一秒が経過した後で彼は言った。
 押し潰す事態は免れたものの、勢い余って押し倒してしまった。
多少は運動神経に自信のあった彼は、バランスを崩してしまったことに
ショックを受けたまま、そろりと起き上がる。

「…ほんとよ。痛いじゃない」

 言った後で怒っているはずの自分の声が、妙に覇気がなかったことに
彼女は驚いた。
他の誰かとこのような状況にでもなろうものなら手が出ていそうな場面
で、ただ視線を逸らすことしか出来なかった自分に腹立たしさを感じ、変
わりに彼女は恨めしく傍の本を睨んだ。
頭上の影が消え、相手の身体が離れたことに気付くと、自分も起き上が
ろうとして床に手をつく。
思った以上に力が入らずにがくっと崩れそうになる――のを支えたの
は、自分だけではなく幼馴染だった。
掴まれた軽い衝撃に、反射的に相手の顔を見た。
安堵と自失と焦燥とが次々とスイッチしていって、抱えられた身体に回る
腕と二の腕を掴まれた手の、ブラウス越しに伝わる体温の熱さを意識し
た。
286いつの間にか 2/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/08/25(金) 04:00:58 ID:FwjWYGkU
今に限ってベストを着ていない。
彼女は学校の厳しい規則や押し付けられる大人のエゴが大嫌いでは
あったが、比較的制服は校則通りに着用していた。
ただ今日は前の時間に体育があったことと、茹だるような暑さのために
教室に置いてきていた。
込み上げてきた熱に眩暈を起こしそうになる。
自分の変化で意識がはっと覚醒した。
「…ありがと」
手を借りながらぞんざいに起き上がって、何の変化も感じさせないよう
に注意しながら、身体に付いたであろう埃を払う。
彼女は今の声を聞いていつものトーンだ、との確信を得た。

◆◆◆

 不意の接触で、自分は男で彼女は女だと再認識する。
いつもの表情、いつもの態度、相変わらず素っ気ない言い種と距離感。
同じ時間を歩んできたはずなのに、幼馴染はいつの間にか柔らかくて軽
くて、一歩間違えれば力の加減を誤りそうになる。
ああ、こんなにも違うものなのだな、と今はただのクラスメイト然と化した
間柄を思った。
ふわりと動いた気配で香る、彼女と夏を思わせる爽やかな匂いに気後
れして、彼は身を引いた。
そしていつの間にか自分を素通りするようになった涼やかな瞳に問う。
「頭打たなかったか?」
「平気。――十年もやってたのに受身も取れないなんて情けな」
彼女は自身を嘲笑するように乾いた声で言うと、足を払うついでに捲れ
たスカートの襞を整える。
その動作を目で追っていることに気付き、目に入れた映像を頭の中から
打ち消そうと努力した。
しかし焼き付いた映像の余韻は、なかなか消えることは無かった。
287いつの間にか 3/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/08/25(金) 04:01:56 ID:FwjWYGkU
「そっか……」
目を伏せついでに、彼は傍に散らばった本を集め始める。
幼馴染も同様に、本を拾い集めた。

 常にいるはずの司書が不在であることもあり、二人の間には沈黙が降
りた。
そもそも自習時間中なので、司書がいれば入れる時間帯でもなかった
イレギュラーな空間だ。
ここで沈黙が訪れるのは往々にしてよくあることで、少なくともこの三年
の内にそれは定着してしまっていた。
それ以前は彼の父親が開いている道場に週二日は共に通い、残りも二
人で過ごすことが多かった。
中学生になりそれも徐々に減ったはものの、今はぱたりと親交は途絶え
ていた。
彼女は彼から離れたのだ。
何故。
そうは思うものの、彼女ははっきりとした理由を言わなかった。
そうしている間に受験が近づき、疎遠になって行き――…高校も同じな
のは単なる偶然としか言いようが無い関係になった。
隣にいたはずなのに、今はその間に流れる温度が違う。
その隔たりを悲しいと思ったが、流れた年月を思うと自然な事なのか
な、と諦めに似た境地になっていた。
自分と一緒にいる時に笑わなくなった彼女は、見る間に彼を通り越して
成長していった。
288いつの間にか 4/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/08/25(金) 04:03:08 ID:FwjWYGkU
いや、疎遠になってから彼は爆発的に身長が伸びたのだが、外面的な
ことではなく、精神的に追い越していってしまったと感じていた。
離れてみると彼女は男子に人気のあることが分かった。
さばさばした性格、同学年の女子より抜きん出て整った顔立ち。
彼と過ごしてきたせいか男友達の方が多かったし、また彼女自身も男友
達といる方が楽だ、と言っていた。
聞くところによると女子は疲れるらしい。
自分だって女じゃん、と言うと、うるさい、と殴りかかってきた頃のやり取
りが懐かしい。

 ちらりと横を見ると、彼女の手の届かない高さの棚へ戻そうとしている
ところだった。
「俺がやるよ」
手を伸ばすと少し唇が結ばれて、無言で本を差し出された。
それを見て顔が綻んだのが自分でも分かった。
理由が分からなくても、嫌われてはいないような気がしている。
それが嬉しかった。
今の関係が昔以下であろうとも、彼はそれなりに満足していた。

◆◆◆

 高い場所へ本を戻す姿を黙って見つめながら、じわりと汗をかいた気
分になって手の甲で気付かれないように額を拭う。
汗はかいてはいなかったが、額に触れると手の甲が熱いと感じた。
ほとんど陽の入らない位置に図書室がある事と、窓を開け放っていた事
もあってか、他の場所より幾分涼しい空気が流れている。
喋らなくても気を悪くせずに助けてくれることが嬉しい。
289いつの間にか 5/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/08/25(金) 04:04:19 ID:FwjWYGkU
一緒に行動しなくなって離されてしまった身長差は、二十センチ以上に
なってしまった。
自分だって同じように運動してきたのに、と拗ねるよりも、隣にいられる
心地よさに酔う。
今は誰とも付き合っていないことは知っているが、誰かに掻っ攫われる
とも限らない、との焦りもある。
ごつい外見に似合わず、優しいのだ。
それ故に男女誰からも慕われているし、密かに想いを寄せている娘が
いてもおかしくない。
だけど本人は鈍いから気付かないだろう。
盗み見乍ら自分さえも軽々と持ち上げそうな、逞しくなった身体を眺める。
成長期の名に違わない成長振りに暫し見惚れた。

「ゆーいー!いるー?」
唐突に入り口の方から掛かった声に、彼女は残りの数冊を抱えたまま
棚の脇からひょいと顔を出した。
「いたいた!どこ行っちゃったかと思ったー!杉山がね、トランプ持って
るから皆でやろーって……」
駆け寄って来た友人を止める間もなく、棚の角を曲がったところで彼女
の言葉が途切れた。
友人の美希は彼と彼女を交互に見比べた。
「…ひょっとしてお邪魔だった?」
違う、と言おうとして先に口を開いたのは彼の方だった。
「いや、本を落としちゃって手伝ってもらっただけ」
カタン、と元の場所に本を戻しながら彼は答えた。
「後ここやっておくから、川上は戻ってて」
「…分かった」
残る、とは言い難く、素直に受け入れることにして、まだ仕舞いきれてい
ない本を棚の空いているところに置いた。
290いつの間にか 6/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/08/25(金) 04:05:50 ID:FwjWYGkU
◆◆◆

「ごめん」
小さく彼女は去り際に呟くと、友人と共に図書室を出て行った。
流れる風が彼女の残り香を奪い去り、彼は人知れず溜息を吐いた。
遠くで微かに彼女が友人と喋っている声が響いてくる。
変なところを見られてしまった。
彼女に迷惑を掛けたくない思いが強いため、妙な誤解をしてなければい
いんだけど、と心の内で呟く。
彼女は離れた理由を明言しなかったが、離れたという事は傍にいること
で何かが迷惑になっていたのだ。
それに気付いたのは大分後になってからで、それを問い質す機会も
失ってしまっている。
だけど、こうやって昔懐かしい共有した感覚を、今でもこうして互いに
もっていることがとても嬉しかった。
昔はよく夏の間、何冊読めるかを競争しあったものだ。
何となく今でも気が向いた時に、こうやって図書室に来たりする。
彼女もそうに違いない。
偶々この列で彼女と会った時の衝撃たるや、自分はさぞかし驚いた顔を
していただろう。
 彼女に触れた掌を見る。
「……熱い」
抱きしめた時にぞわりと、えも言われぬ感覚が身体中を巡った。
決して不快なものではなく、寧ろその逆だった。
風が彼をからかう様に吹き込み、連れ去ろうともう一度残り香を攫った。


(おわり)
291いつの間にか ◆lIRqqqQOnU :2006/08/25(金) 04:07:22 ID:FwjWYGkU
ありがとうございました
292名無しさん@ピンキー:2006/08/25(金) 04:52:17 ID:bPtFgYuC
甘酸っぱいぞーーーーー
293269:2006/08/25(金) 05:40:58 ID:Qj/Gi0MG
おー、処女作が意外と好評?
続きは考えてなかったなぁ。善処します。

>>284
◆lIRqqqQOnUさん、わざわざすみません。
むしろ、こっちの続きの方が読みたいです。
294 ◆lIRqqqQOnU :2006/08/27(日) 12:45:15 ID:AnkwA7ac
>>292>>293の269氏
感想ありがとうございます
レスが遅くなってすみません

あまり謝り通しになるのもなんなのでこのへんにしておきます

269氏できたら続きを読ませて下さい ノシ
295 ◆OFayKvDNQg :2006/08/28(月) 22:46:56 ID:vVnX3AaA
だれも待っていない、8スレ387近辺の続きを投下します。
以下の点を踏まえ嫌な方はスルーで

・所謂、お約束、ありきたりな展開、ご都合主義が嫌いな方
・エロを期待する方
・未成年の飲酒に嫌悪感を感じる方
296 ◆OFayKvDNQg :2006/08/28(月) 22:48:28 ID:vVnX3AaA
「なぁ……」
俺はテーブルの上に並べられたものを見てニヤニヤしながら目の前に居る人物を見る。
「何が言いたいかなんとなく判るけど、言いたい事は、はっきり言いなさい」
彼女はやや頬を膨らまして応じる。
自分が悪いと思うが納得がいかない時の表情だ。
こういった処は成長しても変わりがないんだなと思いつつ
「何で味噌汁がないんだ? 」
ずばりと切り込むように疑問点を聞く。
毎日味噌汁を作ってくれと言わせてやると気合が入っていた美鶴に対して、味噌汁なら豆
腐となめこが良いなと俺が答え、それを作って言わせてやる〜と豪語していた。
だが実際、目の前に並べられたた料理の中には、豆腐となめこの味噌汁どころか、味噌汁
自体がない。
ちなみにメニューは鯛めしに鯛のお吸い物、鯛の刺身に鯛のかぶと煮、鯛のアラ炊き、冷
奴、なめこのみぞれ和え、白菜の漬物と、ほぼ鯛尽くしと豪華なものではある。
「うぅ……、まさかうちにもお味噌が無いなんて思わなかったわよ……」
悔しそうに顔を歪めながら、力なく美鶴は呟いた。
297 ◆OFayKvDNQg :2006/08/28(月) 22:49:12 ID:vVnX3AaA
話は夕飯を作る前まで遡る。
買い物に出かけた俺たちはまず、魚屋に向かった。
っつうか俺は連行された訳だが、そこでお約束道理、
「あ〜ら、美鶴ちゃんの彼氏? おや? なんだい、橘さんとこの美晶ちゃんじゃない。
そうかい、そうかい、結局そうなったんだね〜。
うんうん、昔っからそうなるんじゃないかな〜って、おばさん思っていたのよね。
よっし、今日はサービスで安くするわよ、鯛なんかどう? 良いの入ってるわよ」
魚屋のおばちゃんが人の話を聞かないマシンガントークを行いつつ、俺の背中をバンバン
と力強く叩き、美鶴は否定せずうれしそうにニコニコしながら、
「じゃ、それください。ほら、お金」
そう言われて俺は金を払わされる。
飯代を浮かして小遣いに回そうと考えていた俺は渋々と諭吉様を出しつつ、鯛の値段を
見る。
ぉぃ……、そりゃ、腐っても鯛って言われるくらいだし百円、二百円じゃ買えないと思っ
たけどさ、鯛1匹に対して英世先生三人って……。
しかも、諭吉様と交換された一人の一葉さんと二人の英世先生は俺でなく美鶴のほうに差
し出され、当然のように美鶴が受け取り財布の中にしまう。
「え〜と、おばさん、三枚おろしにして半身は刺身で、もう半分は切り身。あと頭は二つ
に割っておいてください。アラも使いますので取って置いてくださいね。帰りに寄ります
ので、お願いします」
そう言い残し、俺を引き摺りながら次の店に向かう。
同様の会話が、八百屋の親父、漬物屋の元お姉さん、豆腐屋の爺さんと繰り返され、その
都度、手ぶらで出てきたはずの俺が手にする荷物が増えていく。
それも買ったものよりオマケで荷物が増えるってどういうことだよ?
八百屋の親父が、大根、生姜、なめこ、柚子、筍のオマケにニラ一把と山芋一本くれたの
は、まぁ良いとしよう。
漬物屋の元お姉さん(現肝っ玉かあちゃん)が白菜の漬物に対してニンニクの醤油漬け一
袋を付けてくれたのも、まぁ許せる。
けどな、豆腐屋の爺さん。
豆腐買ってハブ酒一升(ハブ入り)を渡すのはどうかと思うぞ。
仮にも高校生に対して……。
美鶴も笑顔で受け取るんじゃない。
「人の好意は笑顔で受け取るものよ」
さいですか。
新手の嫌がらせか拷問かと思う、市中引廻しの刑、もとい商店街めぐりを終えて魚屋に戻
ると
「美鶴ちゃん出来てるわよ、あとこれも持ってお行き」
とか言われて解体された鯛とともに鰻の蒲焼を渡される。
……田舎の人情を感じるよ、嫌な方向で……。
298 ◆OFayKvDNQg :2006/08/28(月) 22:49:50 ID:vVnX3AaA
戦利品? を抱えさせ意気揚々と家に帰った美鶴は早速台所に篭る。
料理なんてお湯をかけるもの以外作れない俺は台所に行っても邪魔になるだけだろう。
そう思い居間でテレビをつけて夕方のニュースを見る。
アナウンサーの声をBGMに、鍋が吹き零れる音に混じって聞こえる悲鳴や、掛け声ととも
に包丁を叩きつける音とかするが、とりあえず
「新婚みたいだな」
と言っておこう。
言っておかないと俺の命にかかわるような気がする。
テレビの画面になぜか映り込んでいる、包丁を持ってこっちを見ている美鶴は見なかった
ことにして。
「なに言ってるのよ〜、もぅ〜」
タオルで手を拭きながら満更でもない表情で台所から出てくる。
俺の正面に座り、机の上に載っているポットから急須にお湯を注ぎ、湯飲みにお茶を入れ、
飲み干し一息つく。
「とりあえず終わったのか? 」
美鶴が台所に入って正味三十分、下準備をし、煮物などを火にかけて一段楽する時間だ。
「えぇ、一通り終わったのだけど……。あんた、お味噌どこにあるか知ってる? 」
「ん? 味噌なら冷蔵庫の上段、向かって右側に無いか? 」
うちの母親はいつもそこに置いている。
「冷蔵庫の中、見たんだけど無かったのよね〜」
そう言って、目で
『あんた見てきなさいよ』
と指示を飛ばしてくる。
『やれやれ』
内心ため息を吐きながら立ち上がり台所に向かう。
途中、まな板の上に魔女が毒薬を作るための材料みたいな禍々しいモノが蠢いていたよう
に見えたような気がしたが、今と未来の生命を天秤にかける。
『頑張れ将来の俺』
問題を先送りにすることに決めて、何も見なかったことにし、冷蔵庫を開ける。
「ん、確かに無いな〜」
いつもの定位置に味噌の容器が無いことを確認する。
俺の母親はこういった事はキッチリしているから、出しっぱなしにしてどこかに置き忘れ
ているって事は無いはずだ。
だとすると……。
俺は分別されている燃えないゴミの袋を開け、中を確かめる。
「ふむ……」
ゴミの上のほうに、手抜き……じゃない、忙しい主婦御用達、
『鰹節と昆布の出汁入り味噌』
の容器を見つける。
母親も俺が飯を、ましてや味噌汁を作るわけ無いと踏んで、昨日使い切って新しいのは旅
行から帰ってきたら買うつもりらしい。
299 ◆OFayKvDNQg :2006/08/28(月) 22:50:22 ID:vVnX3AaA
「どうやら使い切ってないらしい」
居間に戻り、状況証拠で固めた報告を依頼者に告げる。
「そう……」
俺の話を聞いた美鶴は顎に手を当てて考える。
「なんなら買ってくるか? 」
どの道味噌なんて最後の最後に使うのだろうから、今から買いに行っても十分間に合うは
ずだ。
まな板のアレを思い出し、コンビニに行けば俺の夕飯も確保できそうだし、上手くすれば
美鶴の料理を食わなくて済むかも……、などの思いも働く。
「いいわ、家から持ってきたほうが早いし」
確かにうちと美鶴の家は徒歩10秒ほど。
買いに行くより早いし、よく調味料の貸し借りはやっている。
「それにあんたを買い物に行かせると何時まで経っても帰ってきそうに無い気がするのよ
ね」
ジロリと睨まれる。
バ、バレてるし……。
ま、まぁ、美鶴が家に帰っている隙に逃亡って手も……。
「あぁ、それから、私が帰ってきた時に家に居なかった場合、どうなるか判っているわよ
ね? 」
「はい、家に居ます。居ますからどうかお手に持っているものを置いて、味噌を取ってき
てください」
いつの間にか手にしていた果物ナイフを光にかざして見ている、美鶴に土下座する勢いで
言う。
昼に食べた雑炊のことを考えれば、まだ料理を食べたほうが命の助かる確率が高い……気
がする。
「じゃあ、すぐに戻ってくるから、ちゃんと居なさいよ」
そう念を押して、自宅に帰っていく。
「ふぅ……」
ひとまず生命の危機が去った俺は自分で湯飲みにお茶を注ぎ生きている事を実感する。
と、えらい勢いで玄関の扉が開き、
「もう〜、なんでよ〜」
と叫びながら、足音も高々に俺の居る居間を横切り台所に飛び込む。
「み、美鶴? 俺、自分の部屋に居るから出来たら呼んでくれ」
台所に飛び込む寸前に見た、美鶴の形相と勢いに恐れをなした俺は、台所付近からの撤退
を決め、奇声のする台所に恐る恐る声をかけて、二階にある自分の部屋に逃げ込み、ベッ
トの上で漫画を読みながら時間が過ぎていくのを待ち、国営放送が夜のニュースを読み上
げる頃に呼ばれ、料理を目の当たりにしたやり取りが冒頭だったわけだ。
300 ◆OFayKvDNQg :2006/08/28(月) 22:50:56 ID:vVnX3AaA
「お味噌汁が無くたって『毎日作ってほしい』って言わせる自信はあるから食べなさい」
美鶴にそう言われて、俺は箸を手にし料理に伸ばす。
「ん、確かにプリプリしてて美味しいな」
食べた感想を美鶴に伝える。
「……それは魚屋さんが切って、私はお皿に並べただけよ」
鯛の刺身を箸で指して不機嫌そうに答える。
「そ、そうか……、なら、こっちは……、うん、まぁまぁだな」
多少、美鶴の手が加わったと思われる料理を食べ舌鼓をうつ。
「私はその大きさに切って器に入れただけよ」
冷奴を口に入れた俺に対して冷ややかな目で見る。
「なら……」
新たな料理に手を伸ばそうとすると
「そんなに私が作った料理を食べたくないわけ? 」
目を吊り上げて言う。
ちなみに箸の向かっている先は白菜の漬物だ。
「い、いや、そういった訳では……」
と言い訳をするが台所にあったブツを考えると、今度は閻魔様と腕組んでコサックダンス
を踊りそうな気がする。
そうなったら帰ってくる自信は無いぞ。
しかも、今回は全部見た目がマトモなだけに、どれが地雷だか判りゃあしない。
「じゃあ、どういった訳よ」
と言いながら自分の茶碗から鯛めしを箸に載せて
「はい」
俺に向けて差し出す。
ん?ナンデスカソレハ?
漫画に居るようなバカップルが行うような行為をリアルでやれと?
「早く口を開きなさいよ。この体勢辛いんだから」
そういって机越しに身を乗り出てあまつさえ箸の下、斜め30度から左手を添える。
「いや……」
そんな事をしなくても(文字どうり死ぬ気で)食べると口を開いた瞬間、美鶴は箸を俺の
口に突っ込む。
口の中に濃厚な鯛の味が広がる。
301 ◆OFayKvDNQg :2006/08/28(月) 22:52:49 ID:vVnX3AaA
「ん、旨い」
箸が口から抜かれた後、俺は呟くように言う。
鯛のアラで出汁をとり、それを酒と醤油で味を調えて炊いたらしい。
具も身と筍だけというのが余計な味がせず、美味しさを引き立てる。
どうやら鯛めしは地雷ではなかったらしい。
と、なると地雷はどれだろうか……。
恐る恐る他の料理に箸をつける。
まずはかぶと煮だ。
酒と塩だけで味付けされた頭の身は鯛ならではの淡白な味わいだ。
「物足りない場合は醤油をつけて食べなさい」
そういわれて、醤油をつけると淡白さが消え、鯛の甘味が前面に出てくる。
次に、鯛のアラ炊きに手を伸ばす。
俺の好みって言うより、うちの味付けを意識したのか薄味で、魚臭くなく、それでいて魚
の臭い消しに使う生姜の香りもしない。
「湯通しして臭みを抜いたのよ。そうしないと別の味が染込むから」
ふむ、そうなのか。
いろいろ考えてるんだなと思いながら、吸い物を口にする。
吸い口に柚子の皮を使い、柑橘類特有のさわやかな香りが仄かにし、身を口にすると、つ
るりとした食感がする。
「出汁は鯛の頭で取って、醤油とお酒、塩で味を調えて、身は片栗粉をまぶして軽くゆで
てるの」
手が込んでるな……。
「本当は豆腐となめこのお味噌汁にしようと思ったのだけど、うちもお味噌切らしていて
から、蒸し焼きにしようと思ってた頭と幽庵焼きを作ろうとしていた切り身で急遽作った
のよ」
とっさにこれを作ったのかよ……。
あの異次元から取り寄せた材料から料理を作っていたとしか思えない美鶴がね……。
立派に成長したのは胸だけじゃないんだ……。
しかし、今のところあの世に逝く位破壊力のあるやつに出会っていない。
むしろ、普通に美味いモノばかりだ。
手をつけていないものは、なめこのみぞれ和えと白菜の漬物だが、白菜の漬物は手が入る
余地は無いだろうし、なめこのみぞれ和えも別段、手が加わっている様には見えない。
あのまな板の上に載っていたブツは俺が過去の経験より見た幻覚か?
まぁ、食えるものが出てくれば御の字だと思っていた美鶴の料理だから、これはうれしい
誤算だ。
安全で美味いなら食が進み、次々と料理が俺の腹に消えていく。
その様子を美鶴はうれしそうにしながら自身も箸を進める。
三十分後、食べるものが綺麗さっぱり無くなった皿を嬉しそうに鼻歌交じりで洗っている
美鶴の姿が台所にあった。
302 ◆OFayKvDNQg :2006/08/28(月) 22:53:31 ID:vVnX3AaA
「はい」
台所から出てきた美鶴が、机の上に中身の入った湯飲みと器を置くと、俺の本能が狂おし
いほどに警告のアラームを鳴らす。
……ここに来てついに恐れていた美鶴の才能が開花した物体が用意されたのか?
俺は恐る恐る器の中を覗き込む。
中には飴色がかった小さい半月状のものが十数個入っていた。
「な、なぁ、美鶴? これはいったい? 」
機嫌を損なわないよう、伺うように聞いてみる。
「え? 漬物屋のおねーさんにもらったにんにくの醤油漬けよ」
そういいながら爪楊枝で刺し、口の中に放り込む。
「お茶請けに良いかも」
湯飲みの中身を啜る。
美鶴を観察するが変化はない。
俺も爪楊枝を持ち齧る。
普通のにんにくで特に変わりは無い。
「ん、確かに……」
そういって湯飲みの中身を飲む。
口の中に生臭いような、青臭いような香りが広がり、喉から胃の腑にかけて熱い塊が落ち
ていく……
「……み、美鶴さんや? これはいったいナンデスカ? 」
どう考えても未成年が飲んではいけない液体のような気がする。
「ふふっ、えっとねぇ〜、ハブ酒をベースに〜、イモリの黒焼きでしょ〜、朝鮮人参でし
ょ〜、マンドラゴラでしょ〜、ベニテングダケでしょ〜、チョウセンアサガオでしょ〜、
それから……」
あのまな板のモノは幻じゃなかったんだ……。
しかも、何気に混ざっちゃいけないものも入ってるし……。
って、ちょっとマテ。
「美鶴、お前の飲んでる物って……」
「よったんとおなじものだよ〜」
顔をピンクに染め、トロンとした目つきになって、すっかり出来上がった状態で言う。
しかも俺のことを
『よったん』
なんて昔の呼び方になってやがる。
303 ◆OFayKvDNQg :2006/08/28(月) 22:54:11 ID:vVnX3AaA
俺が絶句していると
「ん〜、このへやあつぅいぃ〜」
そう言って上に羽織る様に着ていた白い半袖のブラウスを脱ぎ捨て、下に身につけていた
ピンクのTシャツに手をかける。
「待てまてマテまてぇ〜」
そう止める間もなくTシャツが宙に舞う。
グラビアアイドルには劣るが、同姓がうらやみ、異性を惹きつけるグレープフルーツ大の
双丘が顕わになる。
元来白い肌が、酒によってピンクに染まり艶っぽいく、俺の目を惹きつけて止まない女性
特有の曲線はピンク色でギャザーとフリルがふんだんに使われた総レースのブラジャーで
覆われている。
「よったん、目やらし〜」
まじまじと幼なじみの成長した胸を見ていた俺に対して、美鶴は笑いながら抗議して体を
捻って胸を隠す。
「あ、いや、う、その……」
なぜ俺が非難されなきゃいけないかと思いつつ、やましい気持ちを見抜かれた俺は言葉に
ならない音を出して、美鶴より目を逸らし天井を見る。
「と、とりあえず畝に何か羽織って……、のわぁ〜」
さっき見た映像を頭に思い浮かべつつ俺は言おうとするが、いつの間にか背後に回った美
鶴が俺の首に腕をまわし、背中に密着するように抱きついたことにより言葉は遮られる。
『ムニュゥ』
と擬音が聞こえそうなくらい柔らかいモノ二つを背中に押し当て、方にあごを乗せて頬を
ピッタリとくっつける。
微かな酒の臭いと、それを圧倒する女性特有の甘い香りが、俺の鼻腔をくすぐり、脳を蕩
けさせる。
だが、
「あ〜、よったん。のんでくれてない〜」
の一言で蕩けきる寸前の脳が一瞬にして元に戻る。
『ギギギ……』
と、音を立てながら首をひねり、美鶴を見て
「酒とタバコはハタチからだろ」
きわめて常識的なことを言う。
「え〜、おちゃけとタバコはハタチまででちょ〜」
小首をかしげた美鶴から、未成年が酒とタバコを嗜むのに使う王道の言い訳が返ってくる。
「ちなみにハタチ超えたら? 」
「ん〜、ほどほどに? そんなことはどうでもいいの〜、なんでのこしてるの〜? 」
いや、俺、鎧武者の先祖に再会したくないし……、などとは言えない。
言ったら……、今の状態だと間違いなく泣く、遠慮なく泣く、近所迷惑なほど泣く、隣にいる美鶴のおじさんが
『美鶴を泣かした責任を取れ』
と言って婚姻届と実印持って押しかけて来る位泣く。
昔、散々体験したことだ。
それで、俺が美鶴の用意したモノをすべて胃の中に片付けない限り泣き止む事がない……
と思う。
なんせ、胃の中に納めた後の記憶は残ってないからな。
304 ◆OFayKvDNQg :2006/08/28(月) 22:55:33 ID:vVnX3AaA
「むぅ〜、のまないのなら〜」
遠い目をして昔を幻視している俺に焦れた美鶴は体を離す。
俺の体から美鶴の感触と温もりが離れ、残念だと思う気持ちとホッとした気持ちがない交
ぜになる。
もう少し引っ付かれていたらどうにかなっていたなと、力を取り戻した己の下半身を睨む。
いや、別に美鶴とそういう関係になるのが嫌だとかではないし、親しい友人位からしか好
意的な言葉を言われたことの無い、女からすると圏外に位置すると思われる俺にとっては、
美鶴の事実上、
『お嫁さんにして貰うんだもん』
宣言など、
『これなんてエロゲー? 』
的な出来すぎた状況だ。
過去の俺に対して、どんなイベントが在って、どんなフラグを立てたか問い質したい。
じゃないと、心配だ。
BAD END程度ならいいよ。
俺のことだからDEAD ENDが大量に用意されている気がする……。
美鶴の手料理とか、美鶴の手料理とか、美鶴の手料理とか。
俺的にはHAREM ENDが夢なんだがそんな美味しいもの用意されてるか疑問だ。
『クイクイ』
袖を引っ張られる感触であっちの世界に逝ってた精神が帰って来る。
見ると、美鶴が俺の湯飲みを片手に持ち、目には涙を浮かべて、下から覗き込むように見
ている。
「よったんがみつるのことムシした……」
うっ、普段強気の表情しか見ていないから、美鶴が捨てられた子犬のような顔をすると、
なんていうかくるモノがある。
「あ、いや、別に無視したわけじゃないぞ、ちょっと考え事していただけだ。うん」
えらく罪悪感に駆られて俺はあわてて言い繕う。
「じゃあ、のんでくれる? 」
はい、といった感じで湯飲みを差し出す。
「いや、それとこれとは話が別だろ」
話に脈絡ないし。
「やっぱりのんでくれないんだ」
美鶴は悄然として、俯き湯飲みに口をつける。
って、アレをまだ飲むのか!?
唖然として美鶴の奇行を見ていると、いきなり倒れるようにして体を預けてくる。
305 ◆OFayKvDNQg :2006/08/28(月) 22:56:41 ID:vVnX3AaA
「お、おい、美鶴、大丈夫か? 」
あんな変なものを大量に飲むからだと思いつつ胸に顔をつけている美鶴に声をかける。
と、いきなり右腕が伸び頭を掴まれ固定されると、口に柔らかいものが押し付けられ、
体重をかけられ押し倒される。
滑ったもので唇をこじ開けられると、ぬるくなった液体を流し込まれる。
勢い良く流し込まれた液体は咽喉を焼き、胃の腑を燃やしながら体の中を通り過ぎる。
液体がなくなると、口の中に進入した美鶴の舌が何かを探すように蠢き、俺の舌を探り当
てると相方を見つけたかように、なぞり、絡ませ、吸い寄せる。
ファーストキッスなんてイベントはとうの昔にお互いがお互いで済ませてるからいまさら
騒ぐべきことではない。
しばらく、口の中で舌をやりとりしていたが、どちらともなく唇を離す。
最後までお互い未練がましく絡めていた舌が離れ、銀色の糸が切れる。
上気しピンク色に染まった頬、蕩けたような瞳、胸にあたる柔らかい双丘、白いスカート
に隠れているが、跨っている太ももをぬらしているあそこの感触がアルコールと共に理性
を溶かしていく。
息子はすでに覚悟完了状態だが……。
「あっと、美鶴? 家帰らなくてもいいのか? 」
メトロダウン寸前の理性を振り絞って聞く。
このまま返してもおかずは十分ある。
「うん、ダイジョウブだよ〜、ちゃんとよったんのおうちにおとまりするっていってきた
よ〜」
おじさんとおばさん良く許可したな……。
俺、信用されているのか?
それならこの状態は拷問だよな……。
「で、おじさんとおばさんはなんだって? 」
首筋に顔をうずめ鼻を擦り付けている美鶴に聞いてみる。
「ん〜、きょうは〜、かえってきても〜、いえにいれないっていわれた〜。それと〜、
あしたはおせきはんで、まごはふたり〜だって〜」
相手の両親公認……。
孫OK……。
ミツルハオレノコトガスキデ、オレハミツルノコトガスキ。
スエゼンハオイシクイタダキマショウ。
美鶴の言葉にベニヤ板で補強していた理性は雪崩をうって崩壊し、本能が支配し始める。
メタルでネズミな変形ロボットの
『ビーストウォーズ始まるよ』
との言葉が本能が理性に取って代わる寸前の脳裏に響いた。
306 ◆OFayKvDNQg :2006/08/28(月) 22:57:13 ID:vVnX3AaA
「ナンデコウナッテルノカナ」
思わず呟く。
朝、俺は美鶴を貫き、腰をガッチリと足でホールドされ、頭を抱えられて胸に顔を埋め、
口にピンクの突起を咥えているという抱いているんだか、抱かれているんだか判らない状
態で、自室のベットで目を覚ました。
「うぅっ」
ピンクのさくらんぼを口の中で転がしたり、貫いているモノを美鶴の中で抜き差ししたく
なる誘惑を振り切って上半身を起こすと部屋の中に立ち込める異臭に顔を顰める。
さすがに天井やらベットから離れた所には飛び散っていないが、ベットの上や美鶴と俺の
体にはこれでもかと言うほど情交の残滓が生乾き状態で残っていた。
「はぁ……」
俺はため息を吐きながら、美鶴の中に埋め込んでいたモノを抜き出す。
部屋の惨状からかなり出したはずなのに、朝の所為なのか美鶴と俺の体液をまとわりつか
せたそれは十分な硬度を保っていた。
寝ている美鶴を再び見る。
満ち足りた様子で寝ている様は子猫がミルクをたっぷりと貰って満足したような表情を見
せている。
顔を言わず体といわず髪といわずにこびりついた白いものさえなければ。
抜いた場所からは
『ドロリ』
といった感じで粘っこい白い液体が逆流する。
その様子を見てある事が頭の中を駆け巡る。
307 ◆OFayKvDNQg :2006/08/28(月) 22:58:13 ID:vVnX3AaA
「んんっ」
美鶴が一瞬眉間にしわを寄せて、目を開く。
「うぁ〜、酷い状況ね」
俺と自分、ベットを交互に見やり呆れた様に言うが、その表情は晴れ晴れとしていた。
「あぁ」
俺は生返事を返す。
「とりあえず窓を開けて空気を入れ替えて、お風呂に入りましょう。いくら好きな人ので
もこの状態でいるのは、ちょっと気持ち悪いわね」
そういって股間に手をやり、二人の体液が交じり合ったものを掬い上げ、手を広げる。
粘度のある液体が指を伝い手に広がる。
「あぁ」
「シーツは……、捨てるしかないかな〜、血もついちゃってるし。ん、ニガ」
自分の座っている付近を確認して、そう一人で結論付けると、指に付着している液体を舐
めて顔を顰める
「あぁ」
見る人が見れば興奮するような光景なんだろうが俺はそれ処ではない。
「あんたさっきからそればかりね〜。なにか気になることあるの? 」
ふらつきながら立ち上がり、美鶴は机においてあるティッシュを手に取り、情事の始末を
しながら聞く。
「あぁ」
そう答えて、分泌液が美鶴の太ももを伝う様を眺める。
その視線に気づいて、隠すように体を捩り
「あはぁ、大丈夫よ。ああは言ったけど今日は安全日だから。さすがにこの歳で子供は」
美鶴はのたまう。
あぁ……、その心配もあったか……。
だが俺の悩みはそんなんじゃない、そんなんじゃないんだ。
「じゃあ、何なのよ?」
どうやら口に出して言ったらしい。
美鶴に問われて思わず心の中にしまっておくべき言葉を叫んでしまう。
「初めてだったのに、何度もヤッたのに……、記憶がないなんてあんまりだ〜!! 」
一瞬、呆気に取られた美鶴は次の瞬間、方を震わせ怒りの表情を浮かべると、
「美晶の馬鹿〜!! 」
の絶叫と共に腰の入った世界を狙えるであろう左右のフックを一瞬で俺の顎に決め、部屋
を出て行く。
俺は腰を高々と上げ、床にキスをするといった屈辱的なオブジェのまま、しばらく放置さ
れた。

終われ
308 ◆OFayKvDNQg :2006/08/28(月) 22:59:12 ID:vVnX3AaA
以上です。

深く静かに潜行します。
309名無しさん@ピンキー:2006/08/28(月) 23:11:03 ID:+QdAEjon
>>308
GJ!全方位が結婚前提なのがいちいちもゆるw 再浮上の日をお待ちしてる。
310名無しさん@ピンキー:2006/08/29(火) 00:42:57 ID:aekywEVt
>>308
GJです。君が潜行するなら俺も追尾して潜行する。
311名無しさん@ピンキー:2006/08/29(火) 01:30:14 ID:BjfWXcu2
射出角15゚下げろ!照準外すな…ぅてぇー!!
312名無しさん@ピンキー:2006/08/30(水) 12:30:19 ID:lOZ2/eqr
>>308
GJです!

それにしても最近ホントに人減ったなあ
313名無しさん@ピンキー:2006/08/31(木) 09:09:56 ID:L+3237u4
なあ
314 ◆6Cwf9aWJsQ :2006/08/31(木) 14:13:03 ID:jrMruF5f
中途半端な時間帯ですが投稿行きます。
315シロクロ 9話 【1】:2006/08/31(木) 14:14:04 ID:jrMruF5f
俺は珍しく、誰かに起こされたわけでもなく自分から目を覚ました。
朝の光が窓から差し込み、小鳥の囀りが聞こえてくる。
ごく普通の気持ちの良い朝だ。
――――目の前で寝ている綾乃さえいなければ。
「・・・・・・・・・・・・・なんで?」
あまりに状況が理解できなかったため、俺は悲鳴をあげるのも忘れて呆気にとられていた。
ふと、昨夜の出来事を思い出して周りを見回すと、友人や兄夫婦達はそこら中に寝転がっていた。
誰も布団で寝てないことから察するに、みんなあのまま酔いつぶれて寝てしまったのだろう。
ただし俺の腕を枕にして眠っている綾乃だけはどう考えても確信犯だが。
まあとにかくせっかくだしコイツの寝顔でも見ておこうと判断。
こっちは腕を勝手に枕にされてるわけだしそれぐらいは許されるだろう。
が、着崩れた浴衣から素肌――具体的には胸の谷間や生足――が見え隠れし、
ついついそちらに目がいってしまう。
と、彼女の口から声が漏れた。
「・・・・・・けいすけ・・・・・・」
その台詞を聞いた途端、俺の視線と意識は綾乃の寝顔に集中した。
エロい視線を向けたことがバレたか、と思うが彼女の安らかな寝顔からそれはないと判断。
気を取り直して次に言う寝言はなんだろう、と思いつつもとにかく意識集中。
と、以前もこんな風に寝言に耳を傾けたことがあったことを思い出す。
確かその時の寝言は――――

「・・・離れないで、啓介・・・。」

――――その台詞を思い出すと、急速に自分の感情が冷めていくのを感じた。
やっぱやめた。寝言に聞き耳たてるなんて趣味悪いしな。
聞けたとしても結局あの時みたいに後味悪い思いをするだけだ。
316シロクロ 9話 【2】:2006/08/31(木) 14:14:49 ID:jrMruF5f
そう思った直後、綾乃は表情を微笑みに変えるとゆっくりと口を開き、
「・・・・・・すきだよ・・・・・・」
その台詞を聞いた途端、何とも言えないむずがゆさと恥ずかしさがこみ上げてきた。
予想外の台詞に身もだえしたくなるがみんな寝ているのでそれは我慢。
代わりに空いてる方の手で全身――あくまで可能な範囲でだが――を掻きむしった。
しかし寝てるときでも好きだと言ってくるとは。
正直ここまで好かれてるとなると男冥利に尽きる。
今のはきっちりと脳内ハードディスクに保存してプロテクトもかけておこう。
さあ次はどんな台詞を――――
「――――こ、こんなところでなんてことを!?」
目を覚ました友人の叫びが聞こえた。
317シロクロ 9話 【3】:2006/08/31(木) 14:15:56 ID:jrMruF5f
「ふふふん、ふふふん、ふんふんふふ〜ふふ〜ふ〜ん♪」
なんだかんだで朝食後。
俺は今、鼻歌を熱唱中――朝一番に俺の顔が見れたことがよっぽど嬉しかったらしい――の
綾乃と一緒に宿の周辺の街を歩いていた。
土産やその他諸々(綾乃談)を買い込むためだ。
「そして俺は荷物持ち・・・」
「そーんな文句言わないの」
そういって綾乃は俺の手を取ろうと手を伸ばし――――
「・・・あ・・・」
――――途中でやめた。
俺はその行為に眉をひそめ、
「どうした?お前らしくもない」
と、綾乃は俺から目をそらすと、
「・・・昨日、約束何度も破っちゃったし、ちょっとは遠慮しなきゃ、と思って・・・」
彼女はそう言って眉尻を下げた笑みを見せ、
「・・・ゴメン」
しかし俺はその発言を無視し、肩を竦めて言った。
「・・・そこまで気にしなくて良いよ」
その言葉に綾乃は目線を俺に戻し、上目遣いで、
「・・・ホント?」
「俺が嘘ついたことあるか?」
「3歳の頃に5回と4歳の時に7回、それから5歳の時に――――」
「いちいち覚えるなよそんなこと!」
「好きな人にされたことなら何でも記憶に留めておかないとね♪」
「おいおい・・・」
俺はそう言ってウィンク――出来てないけど――する綾乃に半目を送る。
318シロクロ 9話 【4】:2006/08/31(木) 14:16:28 ID:jrMruF5f
まあ「好きな人に〜」のくだりでいつもの調子を取り戻しつつあるのは分かる。
ならば少しばかり背中を押してやろう。
「まあ少なくともこの発言は嘘じゃない。だから安心しろ」
俺のその言葉に綾乃は呆然とした表情を浮かべた。
が、すぐに小悪魔じみた――要するに何か悪戯を思いついた子供のような――笑顔に切り替わる。
・・・マズイ。
俺がそう判断したときにはもう手遅れだった。
「じゃあ遠慮無く♪」
そういうと綾乃は俺の腕を取り、本当に遠慮無く抱きしめた。
ちょうど彼女の豊かな乳房の谷間に挟まる形になり、
弾力のあるものに挟み込まれた感覚がが抱きしめられた腕から伝わってくる。
「って遠慮なさすぎだっ!」
流石に慌てて腕を引き抜く。
が、目の前の幼馴染みにはその行動は気にくわないものと映ったらしく、
「いいじゃない抱きつくくらい」
「よくない!」
「じゃあ、腕組もう」
「もっと却下だ!」
「啓介日本語おかしい」
「そこは問題じゃないだろ!?」

結局、手を繋ぐということで双方妥協した。
319シロクロ 9話 【5】:2006/08/31(木) 14:17:17 ID:jrMruF5f
二人で手を繋ぎながら歩く。
繋いだ手から伝わる柔らかく、暖かい感触が心地よい。
隣には見慣れた幼なじみの笑顔がある。
だが、俺の意識は別のところにあった。
昨日の綾乃の行動だ。
約束を破って人前で抱きついたりキスまでしてきた。(後者は酒の勢いもあるだろうが)
綾乃は平気で約束を破るような奴ではない。
もしそんな奴なら俺もここまで約束を破ったことを悩まないだろう。
つまりは、もうそろそろ我慢の限界、ということだろう。
そりゃあ半年以上も答えを保留されたら焦りもするだろうなー。
って他人事のように思ってる場合ではない。
・・・そろそろ、答えを出す頃合いかな。
でも正直、まだどう答えて良いかは分からない。
正直な話、俺は綾乃が好きだ。
だが、――――
「――――って、あれ?」
思考を中断するようなタイミングで腕に違和感。
次に首元、唇、腕。
疑問に思って腕を見てみると、そこには水滴が数粒ついていた。
「ってヤバ!振ってきた!」
俺は綾乃の手を引いて目的の店に急いだ。
320シロクロ 9話 【6】:2006/08/31(木) 14:18:23 ID:jrMruF5f
「・・・うわ・・・」
買い物を済ませて店を出ようとした俺達は、窓の外から見える景色に思わず声を漏らしていた。
「すごい雨ね・・・」
「・・・ああ・・・」
そう言って同時に溜め息。
「どうする?待ち合わせまで後二十分くらいしかないぞ・・・?」
俺がそう言いながら綾乃の方を向くと、彼女は鞄から長細いものを取り出しているところだった。
「折りたたみ傘〜〜♪」
微妙に舌足らずな口調でそう言うと綾乃は取り出した傘を掲げる。
「なんだ、持ってるなら早く言えよ」
俺は綾乃から傘を受け取ろうと手を伸ばすが、彼女は傘を俺から遠ざけるように後ろ手に持ち替え、
「入れてあげないよ」
「おいおいつれないじゃないかお嬢さん。俺と君の仲じゃないか」
「私たちの仲って要するに友達以上だけどあくまで恋人じゃないのよね」
「こんな時だけそんな事言うなよ!?っていうか自分で『友達以上』っていうな!」
綾乃は俺ににやりとした笑みを見せ、
「じゃあ、腕組んで良い?」
「・・・それが狙いか・・・」
まあこの状態の綾乃に言っても聞くわけ無いのはわかっているので俺は抗議代わりに
わざとらしく肩を落として溜め息をつく。
が、やはりこれも通じないようで綾乃が笑みを崩す様子はなかった。
321シロクロ 9話 【7】:2006/08/31(木) 14:19:30 ID:jrMruF5f
その後、俺は綾乃と相合い傘状態でみんなと合流し、大いにからかわれた。
そのメンツの中に綾乃まで加わっているのはどーゆーことだ。
まあ俺にも腕に当たった胸の感触を楽しむとゆー役得があったから良しとするか。

その日の夜。
故郷の街に戻ってきた俺と綾乃は二人だけで夜の街を歩いていた。
まあ要するに綾乃を送ってるのだが。
ちなみに他の友人連中も同じことをしている。
全くそろいもそろって色ボケな奴らめと自分達のことを棚に上げて思っておく。
まあそれはともかく、俺達は歩きながら他愛もない話をしていた。
「――――まあキツイっちゃキツいけど、まだ夏休み始まったばっかだしどうにかなるだろ」
「まあねー」
そういって綾乃は俺の手を取ろうと手を伸ばし――――
「・・・あ・・・」
――――途中でやめた。
322シロクロ 9話 【8】:2006/08/31(木) 14:20:11 ID:jrMruF5f
「・・・ゴメン。また・・・」
「綾乃」
「ん?」
呼びかけに答えた彼女に俺は言葉を続ける。
「昨日、言ったよな。『俺が笑顔になるなら自分は嫌われても傷ついても構わない』って」
そこで一息つき、
「俺は構うよ。お前が傷つくと」
その言葉を聞く綾乃の表情が変わっていく。
だが今は無視。
「でも、正直どうして良いかまだ分からない」
言いながら、俺は過去を思い浮かべる。
『あの時』のことを。
俺が彼女を泣かせたときのことを。
「正直、綾乃の気持ちは嬉しい。でも、俺はまだ俺自身のことが信用できないし、
そんな中途半端な状態で返事を出すわけにはいかない。
それにもう『あの時』みたいなことは――――」
「啓介」
俺の話を中断するように綾乃が声をかける。
彼女の顔に浮かぶ表情は、無だ。
一切の感情が見られない顔。
それに思わず気圧されてしまい、言葉を失う。
「ひょっとして、時々考え込んでたことって、それのこと?」
言いながら綾乃は俺から視線を背けていく。
「悩んでる原因って、私を傷つけないようにしようっていうこと?
それとも、『罪』を償おうとしてのこと?」
俺はその問いに沈黙、と言う形で答えた。
それを肯定と受け取ったらしく綾乃は俺に向き直り、言った。
「もしそうなら、貴方とは付き合えない。たとえ貴方が私を好きでいても」
323シロクロ 9話 【9】:2006/08/31(木) 14:21:13 ID:jrMruF5f
・・・・・・え?
予想外の言葉に、俺は声をかけることも出来ないほどの衝撃を受けた。
が、綾乃はそれに構わず苦笑し、
「何となく、こうなるんじゃないかなって思ってた」
そう静かに語る綾乃の表情は、俺の全く知らないものだった。
表情こそ笑顔だが、目尻には涙がたまり始めている。
「啓介、優しいもんね」
目尻ににじんでいた涙が一筋、綾乃の頬を伝っていく。
「・・・ゴメン。私の方から告白したのに」
綾乃の顔から、笑みが消えていき、歪みが生じ始める。
「・・・でも」
俺が何か言うより速く、綾乃はイヤイヤをするように頭を左右に振り、
「『罪滅ぼし』なんかで付き合って欲しくないよ・・・」
そういうと綾乃は俺に背を向け、玄関のドアを開け、呟くように言った。
「・・・さよなら」
「待っ・・・!」
俺の制止の言葉も聞かず、綾乃は家の中に入ってしまった。
324シロクロ 9話 【10】:2006/08/31(木) 14:22:05 ID:jrMruF5f
「・・・・・・・・・・・・・」
俺には、彼女を追うことが出来なかった。
追う資格がない。
「・・・・・・綾乃が、泣いてた・・・・・・」
かぶりを振った時に一瞬見えた綾乃の顔。
それは、幼い頃に最後に見たときと同じ――――悲しみの色に染まっていた。
また、俺が、泣かせた。
あれほど、そうしないように悩んだのに。
一人取り残された俺は呆然としながら視線を下に落とす。
と、足下にアスファルトとは違う一つの色があった。
白い布きれだ。
拾い上げてみると、それがリボンだというのがわかる。
そういえば途中から綾乃の髪から白い色が無くなっていた気がする。
先ほど首を振ったときに落ちたのだろうと頭の冷静な部分――あんなことがあったのに
まだそんなところが残ってるのが自分でも驚きだが――が見当を付ける。
が、俺にはそれが、綾乃との別離を表しているように思えた。
325シロクロ 9話 【11】:2006/08/31(木) 14:23:19 ID:jrMruF5f
私は啓介と別れたあと、両親に会いもせずに自室に入った。
荷物を部屋の隅に放り出すとボスリと音を立てたあと、ゆっくりと沈み込んでいく。
それをぼんやりと眺めていると、また涙が頬を伝っていった。
啓介と別れたその日からもう二度と泣かないと決めたはずだ。
でも、今はその決意を守ることが出来ず、ただただ布団に顔を埋めて涙を染み込ませていた。
口を開けば泣き声の代わりに愚痴が出た。
「・・・啓介の・・・、馬鹿ぁ・・・!」
私はそんなこと望んでないのに。
ただ、啓介のそばにいたかっただけなのに。
ただ、啓介に好きになって欲しかっただけなのに。
ただ、啓介と自然に向きあいたかっただけなのに。
啓介は優しい。でも、優しすぎた。
それゆえ、彼は選んでしまった。
――――優しさを押しつけるという、最悪の選択肢を。
326 ◆6Cwf9aWJsQ :2006/08/31(木) 14:24:22 ID:jrMruF5f
今回は以上です。
続きは近いうちに・・・出来たらいいなあ。
327名無しさん@ピンキー:2006/08/31(木) 14:42:58 ID:ctDrgqvX
GJ!! 続き正座して待ってる
328名無しさん@ピンキー:2006/08/31(木) 16:45:23 ID:vRY6Bmnq
GJ!!!! 続きめっちゃ期待してます。 
329名無しさん@ピンキー:2006/08/31(木) 23:41:37 ID:abuzBF7h
GJです。
続きが気になる。
330名無しさん@ピンキー:2006/09/01(金) 00:12:16 ID:AqkKTng6
GJ!
wktkして待ってます
331名無しさん@ピンキー:2006/09/01(金) 04:47:00 ID:zxFtqWKn
うお〜この後どうなるんだろうか気になりますな。
332名無しさん@ピンキー:2006/09/02(土) 00:13:38 ID:rcVjED7x
そりゃオメエ、自暴自棄になったヒロインがヤリマンになって寝取られ展開。
333名無しさん@ピンキー:2006/09/02(土) 21:37:43 ID:2vTXQ1Ic
反村幼児の漫画でそんなのあったね。
334 ◆6Cwf9aWJsQ :2006/09/03(日) 23:06:56 ID:E5liWhKM
投下いきます。今回ちょっと長めです。
335シロクロ 10話 【1】:2006/09/03(日) 23:07:51 ID:E5liWhKM
夏休みも開け、新学期となった九月一日。
俺は一人で学校への道を歩いていた。
あの日以来、綾乃には会っていない。
会おうとすれば拒絶されるだろうし、
俺自身も何て言って良いか分からないからだ。
「・・・でも結局逃げだよなあ・・・」
そう呟いて一人溜め息をつく。
傍にいるのが当たり前だった存在。
彼女がいなくなっただけで――
「「――あ」」
彼女――――綾乃と鉢合わせした。
「あ・・・、その・・・、ええと・・・」
あまりにも突然の再会に言うべき台詞が思い浮かばない。
この前のことを謝るべきだろうか。
それとも・・・。
そんな風に迷っていると、綾乃は俺に微笑みかけ、
「おはよう」
いつもと変わらない微笑み。
それに安心して俺も挨拶を返す。
「ああ、おはよ・・・」
「白木君」
その一言を聞き、俺の口の動きが止まった。
初めて聞く、俺に対する呼び方。
だから俺も、初めて使う呼び方で彼女に答えた。
「・・・おはよう、黒田」

その日、俺達は無言のままだった。
綾乃は俺のことを明らかに避けており、俺自身も綾乃に何と言って良いか分からなかった。
336シロクロ 10話 【2】:2006/09/03(日) 23:08:56 ID:E5liWhKM
「一体どうしたんだよお前ら」
昼休みになると、流石に心配になったらしく、赤峰が声をかけてくる。
「いや、ちょっとな」
「ちょっとじゃないだろ今の状況から察するに」
黄原が口を挟む。
周りを見回すと、気を使ったのか女子二人は
俺とは離れた席で昼食を取る綾乃の方に行っていた。
そのことを確認すると遠慮を解除し、口を開く。
「俺が馬鹿なことやって、嫌われちまった。それだけだよ」
その言葉に二人が息をのんだ。
それに構わず口を開くと、自然に愚痴が漏れた。
「何にも分かってなかったんだ。あいつの気持ちなんて」
二人が口を挟めないように俺は言葉を続ける。
「幼なじみだから考えてることくらい分かるって思ってたけど、そんなの俺の思い違いだった」
目に涙が溢れ、視界が歪む。
が、言葉は止まらない。
「『罪滅ぼし』のつもりで結局は――――」
そこまで言った瞬間、俺は一つの――――とても大事なことに気付いた。
337シロクロ 10話 【3】:2006/09/03(日) 23:09:41 ID:E5liWhKM
・・・そうか。
結局俺は綾乃を気遣ってるつもりで逆に傷つけていたのだ。
『傷つけないように』と気を使うこと自体が綾乃の一番望まないことだったのだ。
そして俺はそれを言い訳にしてただけだったんだ。
恋愛から逃げるために。
「――――白木?」
突然押し黙った俺に赤峰が呼びかけてくる。
その言葉で現実に帰った俺は、まず自分の頬を思い切り叩いた。
呆気にとられる二人。周りのもの達も驚いているのが気配やざわめきで分かる。
が、俺は気にせずに涙を拭うと一息つき、
「大丈夫」
そういって俺は視線を別方向に向ける。
綾乃の方へ。
「ようやく分かった。俺が何をするべきか」
「・・・そうか」
視線を戻すと、二人は俺に笑顔を向けてきた。
俺も笑顔で返す。
すべてわかった。自分の気持ちも、拒絶された理由も。
ならば俺のすることは一つだ。
・・・決めた。
「悪い。ちょっと行ってくる」
「ああ」
「行ってこい!」
俺は友人達に頷くと席を立ち、歩き出した。
綾乃のいる場所へと。
338シロクロ 10話 【4】:2006/09/03(日) 23:10:27 ID:E5liWhKM
俺が近づくと、それに気付いた女子二人が綾乃から離れた。
気を使われてるな、と思いながら綾乃の前に立つ。
先に口を開いたのは綾乃だった。
「白木く――」
「――綾乃」
綾乃の言葉を遮った俺の呼びかけに、彼女の動きが止まる。
が、俺は構わず言葉を続ける。
「ちょっと話が――――」
俺の言葉を待たずして綾乃は走り出し、教室から飛び出した。
「って待て!」
俺も慌てて走り出す。
周りの奴らが騒ぎ出したがそんなことは関係ない。
今するべきことは、
「何が何でも捕まえる!」
思いは、叫びとなって口から出た。
339シロクロ 10話 【5】:2006/09/03(日) 23:12:08 ID:E5liWhKM
俺は走った。
俺から逃げようとする綾乃に、俺が叫ぶ言葉を届かせるために。
綾乃が校庭に出ると、俺もそれを追った。
お互い上履きのままだが気にしてる場合ではない。
そのまま俺達は校舎沿いに走る。
俺が思いを伝えようとし、綾乃はそれから逃げる。
・・・ちょっと前とは真逆だな。
そう思ってると、綾乃が先に朝礼台とすれ違った。
そこは俺からは十メートルほど離れている。
だが男と女では基礎体力が違うため、徐々に距離が近づいていく。
だが、このままでは綾乃は俺が追いつくより早く学校を出てしまう。
俺は何故かそれは避けねばならないと思った。
理由はわからない。
だが、そこから先に行かせたら、もう二度と元には戻れない――――そんな気がした。
しかしこのままでは届かない。
俺の手が綾乃に届く前に彼女は校門から出てしまうだろう。
・・・どうする!
そう思ったとき、俺の視界の隅に何かが映った。
俺は迷わずそれを手に取った。
340シロクロ 10話 【6】:2006/09/03(日) 23:13:01 ID:E5liWhKM
私は走った。
私を追いかけてくる啓介から、彼が叫ぶ言葉から逃げるために。
・・・もう聞きたくない!
そう思いながら走る。
走ることに集中していれば声は聞こえない。
走ることに集中していれば追ってくる姿は見えない。
走ることに集中していれば余計なことは考えなくて済む。
そう思いながら私は全力で走った。
もうすぐ校門に差し掛かる。
そこをくぐれば啓介は追ってこない。
何故かそんな気がした。
だから私はそこを――――
《綾乃ぉっ!!》
声が、聞こえた。
今までよりも大きくて、力のこもった声が。
思わず声が口から漏れる。
先ほどの声の主――――最愛の人の名を。
「啓、介?」
気付けば私は足を止めていた。
校門の直前で。
341シロクロ 10話 【7】:2006/09/03(日) 23:13:52 ID:E5liWhKM
《やっと聞いてくれたな・・・》
俺は手に持ったマイクに向かって言葉をとばす。
足は既に朝礼台の近くで止めていた。
朝礼に使ってたものを先生達が片づけるのを忘れてたようだが今はどうでも良い。
《悪かった、と思ってる。この前のことも、昔のことも》
言いながら俺は一歩ずつ、ゆっくりと綾乃に近づいていく。
綾乃も後ずさろうとするが、構わず俺は言葉を続ける。
《でも、もう『罪』だとか『傷つけないように』とかはどうでも良いし、
もしまた『約束』を破ることになってももう謝らない》
そういった途端、綾乃の動きが止まった。
だが俺はそれに構わずに言葉を紡ぐ。
《でも、それでも俺はお前と一緒にいたい》
言いながら俺は赤峰の言った台詞を思い出す。
『そりゃあ泣かせたこともいっぱいあるけど・・・』
『その分、アイツを笑顔にすれば良いんだからな』
今なら分かる。あれは泣かせたことの『罪滅ぼし』のための言葉じゃない。
つまり――――
《『傷つけないように』気遣ってたら、本音なんて出てくるわけ無いから。
そんな関係じゃなくて、俺は正面からお前と向き合える関係になりたい》
そこまで言うと俺は足を止めた。
綾乃との距離は手を伸ばせば触れられそうにまで近づいていた。
だが、俺はマイクに向かって声を飛ばす。
そうしなければ声が届かない様な気がしたから。
だから、俺は口を開き、
《だって――――》
342シロクロ 10話 【8】:2006/09/03(日) 23:14:45 ID:E5liWhKM
俺は言った。15年目からずっと言えなかったその言葉を。



私は聞いた。15年目からずっと聞きたかったその言葉を。



《俺は、綾乃のことが好きだから。最初に会ったときから》
343シロクロ 10話 【9】:2006/09/03(日) 23:16:19 ID:E5liWhKM
その言葉を聞いた私は頭の中の引っかかりがとれ、心が晴れ渡っていくような気がした。
今、私はどんな顔をしてるのだろうかと頭の何処かが疑問を浮かべる。
が、今はどうでも良い。
私は雑念を追い払うと全神経を耳に集中させた。
彼の言う言葉を一字一句聞き逃さないように。
《ワガママで一方的だけど、俺はお前と離れたくないし、これからも一緒にいたい。
だから――――》
そこで言葉を止めると、彼は私に向かって頭を下げ、
《俺と、付き合って下さい》
顔を上げた彼の顔は不安に満ちていた。
・・・バカ、不安がること無いのに。
私の答えるべきことは一つだ。
そう思うと私は彼からマイクを受け取り、笑顔を向けて答えた。
《やっと、言ってくれたね・・・》
マイクを使うこと自体に意味はない。
が、啓介がそうして思いをぶつけたのなら私も同じように答えるまでだと思う。
《普段は必要以上に気遣ってくるくせに、こんな時だけワガママで一方的になっちゃって・・・》
そこで一息つき、
《でも、そんな貴方が大好きです》
そして私は彼に向かって頭を下げ、
《ふつつか者ですが、末永くよろしくお願いします》
頭を上げると、啓介はの表情は笑顔になっていた。
私も笑い返す。
344シロクロ 10話 【10】:2006/09/03(日) 23:17:07 ID:E5liWhKM
と、啓介が懐から何かを取り出した。
白いリボンだ。
旅行の日以来、無くしていたと思っていたが、
《拾っててくれたんだ・・・》
啓介はその言葉に頷きつつ、私の髪を一房つまみ上げ、それにリボンを巻き始めた。
明らかに慣れない手つきで見ていてもどかしいが私はされるがままになっていた。
それから数十秒――もしかしたら一分以上かもしれない――して、ようやく啓介は髪から手を離す。
直後、いきなり啓介に抱きしめられた。
こちらに遠慮のない力一杯の抱擁。
いつもとは逆の構図だ。
でも、不思議と悪い気はしなかった。
345シロクロ 10話 【11】:2006/09/03(日) 23:18:10 ID:E5liWhKM
久しぶりの綾乃の身体の感触。
それを味わうために俺は綾乃を力一杯抱きしめた。
そして目が合い――――
《あ〜、あ〜、そこのバカップル。イチャつくのはそれくらいにして速やかに投降しなさ〜い》
突然、スピーカー越しの聞こえてきた。
慌てて声のした方を向く。
すると、そこにある校舎の開いた窓から無数の視線がこちらに送られていることに気付く。
見える範囲――視力は良い方だ――で確認できる彼らの表情は笑顔だ。
「ニコニコ」という感じのものではなく「ニヤニヤ」だが。
それに気付いたとき、俺は自分がとてつもなく恥ずかしいことをしたとようやく気付いた。
綾乃が俺にした告白よりもはるかに。
《え、え〜〜〜と・・・》
と呟いた声にエコーがかかる。
《あ。》
俺の手にはまだマイクが握られていた。
そして校舎の窓は全部開いている。
ということは、
《全部、聞こえてた?》
一斉に頷く生徒諸君。
それを見た瞬間、俺は膝から崩れ落ちた。
《もうオムコにいけない・・・》
だが俺の身体は綾乃に抱き留められた。
彼女はいつの間にか俺から奪い取っていたマイクを構え、
《大丈夫。私が責任を持ってオムコにもらうから》
《シャレになってないよそれ!》
マイクを通しての俺の絶叫ツッコミが学校中に響き渡った。
346シロクロ 10話 【12】:2006/09/03(日) 23:21:35 ID:E5liWhKM
そして翌日。
「お・き・な・さ〜い!!」
俺の部屋に、日曜日だというのに聞き慣れた声が響いた。
それを聞くと、本当にアイツは帰ってきてくれたんだなと安心できる。
でも眠いので起きない。
「ね〜む〜い〜」
「起きないと今日は朝昼晩御飯抜き」
「おはようございます」
俺は即座に布団をはねのけてベッドの上に正座して声の主に挨拶した。
声の主――――綾乃は「よろしい♪」と満足そうに頷く。
が、俺は彼女の姿
「って何で浴衣姿?」
「目の保養♪」
と、紺色の浴衣を着た綾乃は笑顔で答える。
「夏休みの間、全然会えなかったからせめて残暑の内にって思ったんだけど・・・」
そこで一回転し、俺に笑顔で向き直り、
「似合う?」
言われて、俺は彼女の姿を観察した。
長い黒髪は結わえており、白リボンもいつも通りだ。
何故か手にはうちわまで持っており、ついでに足は裸足だ。
「やだもう啓介ったらエロい視線向けちゃって♪いくら愛しの彼女さんが魅力的だからって・・・、
あ、ちなみに下着はちゃんと着けてるからね〜♪」
「エロくないっ!っていうか下着がどうのこうのなんて聞いてねえ!」
連続ツッコミを入れたあと、俺は綾乃にいつも通りに答える。
「・・・まあ似合ってるが」
「ありがと♪」
綾乃はいつもの通りそういうと、彼女はいつもとは違う動作をした。
――――要するに、口づけを。
347シロクロ 10話 【13】:2006/09/03(日) 23:22:35 ID:E5liWhKM
「・・・・・・・・・・・・・!?」
悲鳴を上げようとするが綾乃の柔らかい唇が俺の唇を塞いでいるためそれはかなえられない。
そして数十秒――ひょっとしたら数秒かもしれない――してようやく唇が解放された。
即座に俺は文句を言いながら立ち上がり、
「お前なあってぇっ!?」
天上に頭をぶつけた。
「け、啓介!?」
頭を抱えてうずくまる俺に慌てて綾乃が駆け寄り、俺の頭を抱きしめた。
途端に俺の顔全体に彼女の乳房の柔らかさが伝わる。
が、綾乃はそれに構わず、
「大丈夫啓介!?頭打って人格変わってない!?ああでも大丈夫どうなっても啓介は啓介だから
とりあえず今は私の胸に抱かれて――――」
「いや大丈夫だから!」
慌てて彼女の身体を引きはがす。
ああクソ心臓が止まらんいや止まったら死ぬけど。
そんな俺に、綾乃はへらへらと笑いつつ、
「いやゴメンゴメン、久しぶりだったから加減が分からなくて。
それに昨日熱烈な告白を――――」
「うわあああああああああああああああああああああ!!!!!!」
慌てて大声を出して綾乃の声を遮る。
が、綾乃は俺を無視してうっとりとした表情を浮かべ、
「格好良かったなあ、あの時の啓介。マイク持って真剣な声で、
『俺は、綾乃のことが好きだから。最初に会ったときから』とか言ってくれてもう・・・」
「ゴメンナサイこれで勘弁して下さい。」
俺は頭を下げながら両手で持った包みを綾乃に差し出した。
我ながらヘタレだなーとは思うが相手が悪い。
348シロクロ 10話 【14】:2006/09/03(日) 23:24:08 ID:E5liWhKM
綾乃はその包みを見ると素の表情に戻り、
「なにそれ?」
「誕生日プレゼント」
俺はそういいながら携帯を突きつけ、サブディスプレイに映る文字を見せる。
9月3日。この日は、
「私の誕生日・・・」
そう呟くと、綾乃は俺に笑顔を向けた。
初めて会ったときのような、最高の笑顔を。
「ありがとう。すごく嬉しい」
「・・・ああ」
そして俺達は互いの身体を抱き寄せ、唇を重ねた。
少しでも相手に自分の思いを届かせるために。
今まで離れていた時を少しでも補填させるために。
349 ◆6Cwf9aWJsQ :2006/09/03(日) 23:28:31 ID:E5liWhKM
今回は以上です。凹み→復活→告白→いちゃつきに誕生日ネタまで入れたらこんな分量に・・・。
長々とスイマセンが気に入ってくれたら幸いです。

尚、次回から本格的にエロが入る予定です。
350名無しさん@ピンキー:2006/09/03(日) 23:29:40 ID:veRBtBS4
>>349
ぐっじょぶ!

どんどん書いて下され!
351名無しさん@ピンキー:2006/09/03(日) 23:35:21 ID:2FZvbDBh
マイクとは恐れ入った。
っていうか全校どころか学校の周りの家にまで知れ渡ってるぞw

次からたわわなおっぱいが!
激しく期待してます
352名無しさん@ピンキー:2006/09/03(日) 23:37:25 ID:UQqCWAkk
よしきたGJ超GJ!
投降勧告は教員の兄貴だろうかw
353 ◆6Cwf9aWJsQ :2006/09/04(月) 00:23:23 ID:J8yt+Ldu
>>352
はい、その通りです。

ちなみに長すぎたんでカットした部分では
教員一同に散々説教された二人の処遇が彼の弁護のおかげで原稿用紙5枚の反省文の提出で済むことになってました。
354 ◆6Cwf9aWJsQ :2006/09/04(月) 00:28:35 ID:J8yt+Ldu
ってミスッてる!?

×突然、スピーカー越しの聞こえてきた。
○突然、スピーカー越しに兄の声が聞こえてきた。

訂正よろしくお願いします・・・orz
355名無しさん@ピンキー:2006/09/04(月) 00:35:08 ID:f4BcjoPH
作者さん乙です!
356名無しさん@ピンキー:2006/09/04(月) 01:14:48 ID:Xx9irSrW
これが萌え狂うってことだと俺は始めて知ったよ……
357名無しさん@ピンキー:2006/09/05(火) 01:19:45 ID:PoQNFmot
GJ! 友人二人がイイキャラやね
358名無しさん@ピンキー:2006/09/06(水) 21:40:24 ID:b9Yeu6BL
「別れよう」
僕は彼女にそう言った。
小さいころからずっと一緒にいて、気がついたら恋人同士になっていた。
お互いはっきり好きと言ったことはなかった。
彼女のことが嫌いではない。
惰性の関係。
それを終わらすためだ。
「あたしのこと嫌いになった?それとも他の子が好きになったの?」
僕の目をしっかりと見てそう聞く。
「そうじゃないんだ。君だってわかってるだろ。
こんなあいまいな関係は駄目だって。だから僕は…」
「ふうん。」
ぼくをじっとにらみつけていた彼女は、
鞄からタオルを取り出し自分の右手に巻きつける。
そして僕に一歩近づき…
「え」

ズゴッ

彼女に思い切り顔面を殴られてアスファルトの上に尻餅をついた。
僕はびっくりして彼女を見上げる。
「今なら笑い話で済ませてあげるけど?」
とても綺麗な笑顔でそう言った。





僕らはまだ別れていない。
359名無しさん@ピンキー:2006/09/06(水) 22:19:21 ID:sh8thL6q
続きあり?
360夏の約束:2006/09/07(木) 08:22:46 ID:oJN0vBAM
キィキィキィ。
世間一般ではいわゆる夏休みだと言うのに、僕こと井上哲樹は制服を着て使い古しの自転車でいつもの峠道を登っていた。
と言っても別に部活に行くわけじゃない。そもそも三年生なのでとうに引退している。
高校三年生が夏休みに学校へ行くというのはつまり勉強しに行くに決まっていて。
つまるところ僕は夏休みの特別授業というのを受けに10キロ強の道のりを律儀に辿っているのだ。

「ハァ…ハァッ…いい加減っ……トンネルとかできないの…かなっ…」

僕の前方をのたのた進む自転車をこいでいるのは幼馴染の柚橋夏葉。
家も隣なら通う学校に加えてクラスも同じ。
18回目の夏を迎えてそろそろ良い感じに腐れてきた腐れ縁だ。
名字がそれぞれイとユだからクラスでの席はさすがに遠い……のは出席順に席が並ぶ4月だけ。
いつ頃からだろうか、席替えが行われるたびによく分からぬ理屈で前後左右のいずれかにさせられるのが長年の慣例になっている。
これほどひどい話もないとも思うのだが、抗議が通った試しはないので最近ではもう諦めている。

「…まぁっ……無理だろう…ねっ……ハァ…ハァ…」

僕は僕とてのたのたと坂を登りながら返事を返す。
登り坂で会話は体力の消耗が激しくて困る。
ちなみに僕と夏葉の住んでいる町は人口40万程の地方都市……のはずれにある小さな町だ。
コンビニくらいは勿論あるが、あまりコンビニエンスとは言えない距離だったり酒屋さんを兼業していたり。
山あり川あり田んぼありと、どちらかというと田舎に近いそんな町だ。
バスに乗って街中まで行こうと思えば何故か市内なのに市内料金の倍以上の金を取られる。
代々庶民の家柄である僕らは、そのために街中の高校まで一山越えて自転車で通うことを余儀なくされているのだ。
361夏の約束:2006/09/07(木) 08:24:22 ID:oJN0vBAM
「よしっ…あと…すこしっ!」

峠が見えて元気を取り戻した夏葉がペダルを力強く踏みつける。
踏みつけたところで一番軽いギアではたかがしれているけれど、それはともかく。
僕も取りとめもない思考で気を紛らわすのはやめにして、脚に力を込める。
このラストの坂はとりわけ急勾配なため、前かがみになって立ちこぎするがいつものスタイルだ。
必然、夏葉のすらっとした太ももやらスカートの奥のアレがしばしば目に飛び込んでくる。
見慣れているとはいえやはり夏でもあり、なんというか眩しくて困る。
困るのだけれど、まぁ見えてしまうものは仕方がないのでこっそり楽しんでいる。
兄妹同然に育ってきたとはいえ、男たるものこれは自然の摂理というものだろう。

ちなみに今日は白。



「ふー、疲れたぁ……」

ようやく峠にさしかかり、自転車を止めて木陰で一息つく僕と夏葉。
汗に濡れたカッターシャツにバタバタと風を送り込みながら、タオルで汗を拭く。

「飲む?」
「ん。ありがと」

夏葉が差し出した飲みさしのポカリを一口ぐいっとやり、空を仰ぐ。
小気味良いくらいに大きく膨れ上がった入道雲の傍をジェット機が足跡をつけて行く。
吹き抜ける生ぬるい風もこの時ばかりは心地よい。
362夏の約束:2006/09/07(木) 08:25:53 ID:oJN0vBAM
「そういえばテッちゃん。また私のパンツ見てたでしょ」

おっと、ばれてたらしい。口を尖らせてこっちを睨んでいる。
もっともそんなに本気で怒っているわけじゃない。
小さい頃には風呂だって一緒に入っていたわけで、
今更スカートめくりやら胸をちょっと触るくらいでは夏葉は怒らない。
……いや、そういえば中一の頃だったか夏葉の胸が膨らんできたころのことだったか。
好奇心からぺたりと胸を触ってみたときは、さすがに顔を真っ赤にして怒られた。
それ以来ついぞ触ってないけれど、みる間に膨らんだ夏葉のそれは今ではクラスで一二を争うくらいのたわわな果実だ。
よくわからないがそろそろEにはなっているはずで、健康的な高校生にとっては少々目の毒だ。

「見てないよー。ちらっと見えただけだってば」

それはともかくとして投げやりな言い訳を一応する僕。
こんな言い訳が通るなら世の中というのは綿菓子並に甘いに違いない。

「それを見たって言うの! このスケベ」
「そんなこと言ったって仕方ないだろ。不可抗力不可抗力――おっと、もうあんまり時間ないや。行くよ夏葉」
「あ、ちょっと誤魔化さないでよ。もー」

雲行き危うしと見て自転車に飛び乗る僕。ここからは下り坂で一気にいける。
ジーワジーワとうるさいセミを置き去りにして、僕は自転車にぐっと体重をかけた――

363名無しさん@ピンキー:2006/09/07(木) 08:27:20 ID:oJN0vBAM
短めですが箸休めのツケモノ代わりにでも。
一応続く予定ですがどうなることやら
364名無しさん@ピンキー:2006/09/07(木) 11:37:35 ID:eJKVwSJv
GJ!
365名無しさん@ピンキー:2006/09/07(木) 12:04:47 ID:NgW+MLaE
これはうまい漬物ですね(ぽりぽり)
366名無しさん@ピンキー:2006/09/07(木) 21:33:35 ID:ibcM3/AZ
>>365
誰がうまいものを食えと
367名無しさん@ピンキー:2006/09/07(木) 21:41:07 ID:oHuZpnQG
ぜひ、メインディッシュも…
368名無しさん@ピンキー:2006/09/08(金) 22:35:13 ID:HVvaXhXX
今宵の月の続きを未だに信じて待っている俺ガイル
369名無しさん@ピンキー:2006/09/08(金) 23:37:28 ID:McTl5PGI
あれはあそこで完結したんじゃないの?
370名無しさん@ピンキー:2006/09/11(月) 03:24:02 ID:/ISnWZHD
馴染んで保守
371 ◆NVcIiajIyg :2006/09/12(火) 05:54:38 ID:e79OttTY
えーなんとなく思いついてしまったので
短編でバカップルエロのちょっと変な話でも。
なんも深いこと考えてません。すいません。
372『幽霊屋敷』1/6 ◆NVcIiajIyg :2006/09/12(火) 05:55:11 ID:e79OttTY
薄曇りの放課後、秘密基地だった廃屋へ、初めて制服で入った。
十年ぶりだった。
半袖でむきだしの肘にあたる、色素の薄いセミロングの柔らかい髪に指を埋めたくなるのを
こらえつつも辺りを見回して裏へ回った。
つないだ指先が震えたので、立ち止まる。
「け。啓ちゃん。ほんとに、するの」
黙って頷く。
そんなの散々了解済みでここまで来たことは、亜月だって充分分かっているのだ。
学生はそうそうホテルに行く金もないし、互いに自営業の家に住んでいるから
どっちかの家ですることもできないし何より顔が割れていて怖くてそんなことできない。
「だってシャワーもないのに」
「さっき体育館で浴びてただろ」
そんなことを言いながらも想像してしまう。
隣をちらっと見ると耳が赤かった。
つないだ手がどっちのものか汗ばんでいて、息が心持ち荒くなる。
軋む音をゆっくりと隠す。
扉を背で閉めると、ぎゅっと無口な小さな手がこっちを握り締めてきた。
373『幽霊屋敷』2/6 ◆NVcIiajIyg :2006/09/12(火) 05:56:33 ID:e79OttTY

――幽霊屋敷と評判の俺達の秘密基地は本当に幽霊屋敷だ。

「あらー、いらっしゃい久し振り」
玖我山みのりがバルコニーの手すりに空気椅子して半透明に浮いている。
相変わらず時代錯誤な紺のセーラー服だった。
「なになにどうしたの?何の御用かし、ら――」
意地悪子悪魔の彼女は、俺と亜月の様子を一目で見て取りにっこりと(にたりと)笑った。
バルコニーから両手をメガホンのようにして叫んでくる。
「ずうっと遊びに来てくれないと思ったら、人の屋敷で、不純異性交遊ね。
 啓吾のオオカミー!ちょっと前まで剥けてもいなかったくせにー!」
「み、みのりちゃん!!」
「なによーアツキったら胸ばっかり成長したんじゃないの?
 さすが牛乳屋の娘ね!Fでしょー?」
「うっうそ、なんでわかるの!?」
コラコラ。
俺はとりあえず亜月を叩いた。
他の人間に相易々と胸のサイズを教えるんじゃありません。
おまえのおっぱいは俺のなんですよ。
「……うるせーよみのり。十二年前に助けてやったじゃねえか。
 邪魔すんなよな。貸してくれよ。金が無いんだよ」
「なっさけないわねー啓伍。新聞配達の手伝いで何溜めてたのよ。せーし?
 ま、分かったわよ。誰か来たら知らせてあげるわ」
しっしと手をやるとみのりは顔に似合わない発言をかましてから
すうっと三階へ飛んで行ってしまった。
相変わらず意地悪なくせに人がいい幽霊だ。あと下品。
……そういや俺達の性知識ほとんどみのりからじゃないのか?
曇り空だったのが、雨に変わったらしい。
水音が煩く窓ガラスに響いている。
374『幽霊屋敷』3/6 ◆NVcIiajIyg :2006/09/12(火) 05:59:13 ID:e79OttTY

まぁ、そういうわけであるからして。
俺と亜月は幼稚園に入る前から町外れの妙な迎賓館崩れの建物で、
秘密基地ごっこをしていた幼馴染同士だ。
今思えばきっかけは、親同士が朝早いものだから、遊びに出る時間が似通っていたというのが理由だと思う。
泣き虫で髪の色がきれいで、寝顔がすごく嬉しそうなあっきのことが、
その頃から女の子としてすごく好きだった。
本当は中学になっても時間をずらして登校したくなんかなかった。
親兄弟の話だって昔みたいに当たり前にしていたかった。
だから一昨年のバレンタインで顔を真っ赤にして伝えられていちもにも無かったわけだ。
ていうか俺から言えばよかった。情けない。

埃深い奥の仮眠室に入ると、亜月が俺を見上げて眉を軽く寄せた。
「啓ちゃんは。みのりちゃん嫌いなの?」
「嫌いじゃないけど」
それよりとまずキスをする。
「あっきのが大事」
あと何回か普通にキスをして、ベッドに座らせる。
俺はあまり背が高い方じゃないがあっきはそれより更に低い。
まっすぐで細い髪は撫でると柔らかかった。
髪を抱えて口の間で涎をすくった。
ふちゃふちゃと柔らかい唇を押し付け合い、挟んだり舌で味わったりする。
昔はなんてでっかい部屋だろうと思っていたのに仮眠室のベッドは2800円のホテルより小さかった。
「っ、ん、んー、ぁ」
舌の先を何度も往復すると腕の中で震えた。
もっとする。
耐えられないのか亜月は首を振って唇を離した。
「ぁ、はぁ」
荒い息を整え、今度は自分から目で縋ってくる。
まだしばらく舌同士で先端をなぞりあった。
埃が飛ぶ。
ぱらつく雨で薄暗い。
時々亜月が舌先だけなのにないた。
そろそろ限界になってきたので口の奥まで舌で貪っていく。
無意識なのか一生懸命下唇を反撃されたので逆に吸ってやった。
375『幽霊屋敷』4/6 ◆NVcIiajIyg :2006/09/12(火) 06:00:24 ID:e79OttTY
「けいちゃ……、け、ちゃん、や、それぇ」
「相変わらずでけぇな。好きだ、これ」
手に余る胸を掴むと亜月が耳まで赤くなり全身力を抜いてベッドから崩れ落ちた。
なんだ折角揉もうと思ってたのに勿体無い。
襟まで唾液でべとべとだ。
脇に手を入れて持ち上げて、ベッドに寝かせる。
何か言いたげなのを口で塞いで改めて制服の上から尖ったところをくわえてやる。
「ひぁ!」
初めてしたのは一年生の頃だった。
付き合い始めてはじめて制服が替わって、前より目立つようになったこの胸にとにかく
毎日触りたくてたまらなくなってこれが近くにあるのが好きで仕方がなかった。
十年前ぺッたんこだったのが、いつからこんなにでかくなったんだか。
だいたいコイツ結構えろいし。
「あっき。気持ちいいか?」
「う、っん…うん、いい、ぃ…!」
こくこくと頷いては背中を浮かせる幼馴染に満足する。
その間もこっちのを探ろうと手をぱたぱたとシャツの裾付近で遊ばせている。
触られないように逃げてるんだけど。
「啓ちゃんばっか、してずるい……」
「いーんだって」
「ね、あの、また練習したから試したいなー、って」
えへへと亜月が珍しく頬を緩める。
練習って牛乳瓶か。牛乳瓶なのか。
突っ込みたいのを我慢して、いったんやめる。
(でもいつか練習台を突き止めよう。)
からだを起こすとベッドが軋んだ。
ジッパーを下ろしてもうすっかり硬くなっている自身を解放してやった。
柔らかな髪が臍の下辺りに触れて焦れる感覚で溜息をつき、風を吹きかける。
376『幽霊屋敷』5/6 ◆NVcIiajIyg :2006/09/12(火) 06:02:18 ID:e79OttTY
昔からのように亜月の髪を撫でる。
湿った吐息が濡れた亀頭を包み、白い五本指がぎこちなく扱いている。
赤黒い舌が伸びて下から上へ三度舐め上げ、先端を唇が恐る恐る吸った。
……あー。
なんかもういれたい。
「啓ちゃん、せっかち」
「…るせ」
「そんなトコも好き」
なぜか満足そうに懐かしげな声で、亜月が手を少し早くした。
何で胸でするという選択肢がないんだろうとかちらりと思ったりするけどそれは今度にする。
親父に交渉して新聞配達のエリアを増やしてお金をためてホテルに泊まって、こんどゆっくり勉強しよう。
髪を撫でながらそんなことを思いつつ、尻の方からじりじり上ってくる感覚に息をかみ殺した。



亜月がベッドの端を握り、声を出すのを耐えている。
薄い髪に首、スカート奥の腿肉が柔らかくて白い。
最初はゆっくりだ。
浅く突いてから深く。
段々と生温いのが突いている周辺にまとわり着いてきて弄る豆の周囲もぬるついてくる。
一秒間に一回くらいの抜き差しで、馴染んできた襞を味わう。
「やぁ、や…んっ!ん。ぁ…けいちゃ」
「亜月。啓吾って、呼べよ」
「だってそれ、あ―ー―ん、ふぁ…敬語みたいだし」
「おい!」
「ひゃっ」
天然なことを言われるのでちょっと突いてやるとすぐに足が跳ねた。
腰を不覚までねじ込み遠慮無しに激しく動く。
「呼ばない、と、こうだぞ!」
「あっ、あぁ、ああ!やー!それや、それだめ――ッ」
段々頭の中が白くなってくる。
377『幽霊屋敷』6/6 ◆NVcIiajIyg :2006/09/12(火) 06:03:57 ID:e79OttTY
必死に小さな尻を動かす馴染んだ身体があんまりに好きで可愛くて、
なんかこういう存在に小さい頃から会えていたこととかそういう些細なことすら幸せになるのだこんな時は――
「やだ、やだ来ちゃう!けいちゃん、け、……っ、あ、ぁああっー!」
「っ、出る!」
背中を何度も波打たせて締め付ける姿を見ながら、俺も思い切り薄い膜の中に精液を放った。
その感覚が分かるのか亜月はしがみついてくる。
何度か耳の傍で好きといわれて、それで余計に身体の力が心地よく抜けていった。



雨はやんだり降ったりしているらしい。
風はない。
うっすら涼しい中で、乱れた制服を元に戻して、ベッドでぼんやり抱き寄せていた。
「……小さい頃ね。みのりちゃんのことが、二人だけの秘密で、わたしは嬉しかった」
ぽつりと眠そうな顔で、制服姿で亜月が呟く。
三軒隣の裏向こう、寝顔が優しい牛乳屋さんの女の子。
付き合い始めて二年過ぎ。
ああ今更赤くなることなんてないぞ俺。そうだよな。そうだよな俺。
ほうと息を吐いて、亜月がもたれかかってくる。
幸せそうな寝顔を見ながら、
「どういたしまして。そんな風に思ってもらえてうれしいわ」
肘掛け椅子に座ってにこにこ笑っている性悪幽霊に、俺は感謝していいのか怒っていいのかわらかなくなった。
いや、怒ったけど。

「見てんなよ!」



378 ◆NVcIiajIyg :2006/09/12(火) 06:07:45 ID:e79OttTY
バカエロですいませんした!幼馴染ばんざい!
379名無しさん@ピンキー:2006/09/12(火) 09:08:01 ID:MEEqQEdp
いいんだGJ!俺も万歳するぞ!万歳!
380名無しさん@ピンキー:2006/09/12(火) 10:51:14 ID:xKDIrVMB
俺も混ぜて貰おうか、万歳!
381名無しさん@ピンキー:2006/09/12(火) 19:10:13 ID:KWmxuTf6
ちゃっかり俺も混ぜてもらおう!万歳!
382名無しさん@ピンキー:2006/09/13(水) 04:42:26 ID:MPWBXYvL
よし!俺も!万歳〜
383名無しさん@ピンキー:2006/09/13(水) 20:52:00 ID:Gg6Gx0yM
金○日同志万歳〜
384名無しさん@ピンキー:2006/09/13(水) 21:16:11 ID:SdY2+Y65
やると思ったw
385 ◆u7xg2ePixA :2006/09/13(水) 23:52:28 ID:YKflZmBz
キスがエロくてラブくていいなあー。万歳!もうとにかく万歳!


そしておひさしぶりです。
覚えていておられる方がいるかどうかわからない上に、
涼しくなろうかという時期外れに、夏休みのバカッポーを投下させていただきます。

386 ◆u7xg2ePixA :2006/09/13(水) 23:53:17 ID:YKflZmBz
                             「女の子って何で出来てる? 女の子って何で出来てる?
                             砂糖とスパイスと、素敵な何か、そんなもので出来てるよ。」



――暑い。暑いあーつーいーなァ、畜生。
……まァ、それも当然か。
八月半ば、それも午後二時を回ったところ。
おそらく、一年でも最も暑いときだろう。
「あっちー……」
扇風機を足で無理矢理こっちに引き寄せながら、ごろごろとベッドに寝転がる。
あー……、涼しい、生き返るー。
「ちょっと、もうっ。みいちゃんっ、扇風機ひとりじめするの、止めてくださいよ」
むうっとふくれっ面をした真由子が扇風機を移動させる。
そのままこっちに背を向けて卓袱台に向かう真由子の白い足の中で、うす赤い踵が妙に目に付いた。
――なんか、舐めたら甘そう。



まゆとみいちゃん・場外編『女の子って何で出来てる?』



「……まったくもうっ。なんだって毎日毎日わたしの部屋でごろごろするんですかっ!?」
背中を向けてレポート用の大量の資料類と奮闘しながら、俺に向かって文句を言ってくる。
「いや、ヒマだから」
それに、冷房代ももったいないし。……あーでも、こっちの部屋の方が暑いんだよな。
真由子は絶対に28度以下まで冷房の設定温度下げないし。
ふと、目をやると、真由子が半眼でこっちを見ていた。
「ヒマって、みいちゃん。あなた、宿題は?」
……母親みたいな事言うよな、こいつは。
「七月中に終わらした。……毎年毎年、偉いよなー、オマエさんはー。夏休みの計画きっちり立てて宿題してるもんなー。
 俺ァ勉強なんざ嫌いだからなァ、とてもじゃねェけど八月末まで宿題しようなんて思わねェもん。あー、エライエライ」
団扇でばたばた扇ぎながらそう言うと、ぷくーとほっぺたをふくらませながら睨んでくる。
「……だったら、わたしの邪魔しに来ないでくださいっ」
それだけ言って、また背を向けてレポートに集中しようとする。
おーおー、怒っちゃってまあ。
やれやれ。と思いながら、ベッドにうつぶせて、ぼんやりと真由子のほうを見る。
387 ◆u7xg2ePixA :2006/09/13(水) 23:53:56 ID:YKflZmBz
今日の真由子の格好は、ホルターネックのトップスに、裾がだんだん白から濃いピンクのグラデーションになっていく、
ふわふわして涼しげなガーゼ生地のスカート。普段下ろしている肩までの髪は、二つに分けて短い三つ編みになっている。
――相変わらず良い尻だ。
こうやって、後ろから正座しているのを見ると、桃みたいな形がはっきりと解る。
今日のスカートは生地が薄めだから余計に。
実際、膝枕をしてもらいながら手を回して揉みしだくと実に良いのだが。
――やりたいけど、今やったら怒るだろうなー。
出来ない。と思うと、余計に柔らかそうな真っ白の二の腕とか、脇から覗ける部分だけでも、ちょっと動くたびに、
ぼよんぼよん揺れてるのがわかるデケェ乳とか、ピンク色のスカートの奥の、白くてむちむちしたふとももなんかを思い出してしまう。
――なんつーか。包み紙みたいだよなァ、今日の服。
駅前の、真由子がお気に入りの菓子屋の包装紙に、ちょっと似ている。
首の後ろから背中に垂れ下がってる蝶々結びの紐が、ケーキの箱に掛かったリボンにしか見えない。
そう思うと、足を組みかえるたびにちらちら見えるうす赤いかかとや真っ白いふくらはぎが、まるで砂糖菓子みたいに見えてくるから不思議な物だ。
――『わたしを食べて』ってか? ハ、とてもじゃねェが、言いそうにねェなァ。
むしろ、ンな事言われた日には、欠片も残さず、あっという間に食い尽くしてしまうだろうな。と自分でも思う。

――いかんなァ。重症だ。と、思いながら布団に突っ伏すと、布団に残った真由子の匂いがはっきりわかる。
真由子が最近付けている、シトラス系の香水の香りとは違う匂い。
夏場だから、少し汗のにおいもあるのだろう。饐えた果物にも似た女の匂いだ。
どこか懐かしく、胸が詰まるような、不思議に眠たくなるような香りを胸いっぱいに吸い込む。
――何ともいえない安らぎを感じながらも、陰茎が固く張り詰めていくのを自覚する。
そのまま薄目を開けて、真由子の後姿を見ながら頭の中でこっそり全裸にしてみたり。
……んー、今日の服装だったら全裸よりもむしろ、下着だけ取り上げたほうがエロいかもしれん。
絶対過剰に裾押さえたり胸元隠そうとして余計に強調させつつ、涙目で「返してくださいー」って、
お願いしてきたりとかするだろうし、そっから色々やらせてみたりしたほうが楽しくて良いかも――。

などと、脳内でさんざっぱらに痴態をくりひろげさせていると、流石に視線を感じたのか、
こちらをくるり。と振り返る。
388 ◆u7xg2ePixA :2006/09/13(水) 23:54:36 ID:YKflZmBz
「……あの、なんですか……?」
訝しげに眉をひそめてそう聞いてくる。
「んにゃー、気にすンなァ。ちっと視姦してただけだからー」
手をぷらぷらと振って答えると、意味がわからなかったのか、シカン?と鸚鵡返しに呟いてきょとん。と首を捻る。
「ええと、よくわかんないですけど、退屈してますよねえ?
 わたし、今日はしばらく終わりそうにないので、すいませんけどみいちゃんの相手できませんよ?」
困ったように眉根をよせ、何故だか申し訳なさそうな口調で謝る。
別に、今日遊ぶ約束をしたわけでもなんでもなく、俺が朝から押しかけてきて真由子の邪魔をしているのだが。
――……ここで罪悪感を感じてしまうあたりが、俺みたいなのに付けこまれる原因なんだよなァ。
本人にはどうも自覚がないらしい。まったく、危なっかしいったらありゃしねェ。
よくもまァ、俺が居ない間、無事で居てくれて良かったと、心の底から思う。
「あのう、みいちゃん?どうしました?」
怪訝そうに聞いてくる声に答えようとした時に、まゆこー。というおばさんの声が、玄関の方から聞こえてくる。

こんこん。とドアをノックする音と同時に、
「それじゃ、二人ともー。おかあさんお仕事行くからねー。
 まゆこー、今日はおとうさん、遅くなるけど帰ってくるから、ちゃんとお夕飯、してあげてようー」
それじゃいってきまーす。と言いながら、部屋の前から足音と声が遠ざかっていく。
「あ、はーい。わかりました、いってらっしゃーい」
座ったまま、廊下に向かって真由子が声を張り上げると、先程の問いはそのままにしたのか、もう一度机に向かって勉強を再開する。
……玄関ドアが閉まる音がしてから5分。
おばさんが帰ってくる気配は無い。
真由子は、よくよく集中しているらしく、俺がベッドから降りてもこちらに注意を向けようとはしない。
ひょっとしたら、俺がもう帰るつもりでいるとでも、思っているのかもしれない。
――……甘いなァ。
ゆっくりと真由子の背後に回る。
今日の髪型だと、普段下ろしているせいか、日に焼けていない白い首筋がよくわかる。
うなじで結ばれて肩甲骨の辺りにまで垂れ下がっている紐を、しゅるり。とほどいた。
「―――え?」
何が起きたのか、すぐには理解できなかったらしく、不思議そうに小首を傾げ、次の瞬間。
「―――ひ、」
悲鳴を上げようとする口を背後から塞ぐ。そのままもう片方の手を腰にまわし、抱えあげてベッドまで運ぶ。
「ちょ、ちょっとみいちゃんっ!? いきなり何をしやがりますかあなたはぁ――っ!?」
ぼすっ。と身体をベッドに放り投げると、すぐに起き上がって顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。
「何って、ナニに決まッてンだろー」
真由子の身体に覆いかぶさるようにして、少女趣味なデザインの安っぽいパイプベッドに登ると、二人分の体重でギシリとベッドが軋む。
……ちぇ。やっぱ俺の部屋にすりゃ良かったかァ?
「お、おじさんみたいですよっ、その発言っ」
さっき紐をほどいたせいで、すでに服としての機能を失った布で必死に胸元を隠しながら、後ずさって逃げようとするが、
狭いベッドの上で逃げ場があるはずもない。
それでも今の状況からよっぽど逃れたいのか、顔を真っ赤にして身を捩る姿に余計に熱を煽られる。
389 ◆u7xg2ePixA :2006/09/13(水) 23:55:41 ID:YKflZmBz
「……真由子」
柔らかい二の腕を掴み、自分の方へと引き寄せる。
「や、やだ、ダメです、ダメですようっ!」
じたばたと抵抗されるが、かまわずに露になった下着をずらして乳房を揉む。
指が埋まりそうなほど柔らかいくせに、不思議な弾力があって、薄い皮膚はすべすべしていて実に手触りが良い。
全体をゆっくりと揉み解してやりながら、中心の尖り、普通の皮膚との境目の辺りに、
少し爪を立てるようにしてやると、高い悲鳴のような声が混じりだす。
――もうちょっと楽しむか。
そう思い、一番いい反応が返ってくる薄紅の尖りへの愛撫は我慢して、
乳房の、たぷたぷぷにぷにした触感を楽しむ事に集中しようとする。

腋の辺りから真っ白で柔らかい乳房を、下から上に持ち上げるようにして、
たぷたぷと揺らし、鎖骨から下へとゆっくりと口付けていく。
汗の浮いた胸元を舐め、乳房全体を肉まんでも齧るときみたいに大口を開け、はも。とかぶりつく。
「……やっ。ふぁ、いやあ……っ。ダメ、ダメですよう、みいちゃ、あ、や、だめぇ……っ!」
高い悲鳴交じりの嬌声があがるのを無視し、今度は脇腹から舌を滑らせながら上に上がっていき、
柔らかい二の腕を少し強めに吸い、甘噛みして跡をつけていく。
くすぐったいのか気持ちが良いのか、肌を粟立たせてびくびくと震える身体を押さえつけながら、
首筋に口付け、更に上に戻って耳のふちを軽く噛み、舌を這わせてやると、もう甘ったるい鼻声になってくる。
上気した頬と、だらしなく半開きになって忙しない呼吸をしている口、とろん。とした目が実にエロい。
思わず知らず見惚れているうちに、我に帰ってきたのか、慌てて俺から離れようと上体を起こそうとする。

「おいおい、逃げんなよォ?」
「に、逃げるっていうか、なに考えてんですかっ!? ま、まだお昼間じゃないですかーっ!」
乱れた胸元を必死で押さえながら、涙をいっぱいに溜めた眼で、精一杯に睨みつけてくる。
――やべえ、超いじめてえ。
この表情といい、心の底から嫌がってるくせに、少し触っただけで真っ赤になって、
イイ反応を返してくる所といい、正直たまらん。
ああ、原田のおじさんおばさんありがとう。
真由子をこの世に誕生させてくれて。
あなた方の娘さんは、すくすくエロく育ってます。
390 ◆u7xg2ePixA :2006/09/13(水) 23:56:26 ID:YKflZmBz
「ま、それはそれとして」
「何がそれ……っ。きゃあ!?」
すでにきゅうきゅうに固く勃起していた乳首を軽く捻ってやると、体中の力がくにゃん。と抜けてベッドに沈み込む。
「ま、いいじゃねェか。夏休みなんだしよォ。ちゃんと夕方までに終わらせてやるから」
それだけ言うと、今度は乳房全体だけでなく、刺激を待ちわびるように固くなって天を向いている乳首を重点的に、
舌と唇で愛撫していく。
「……あっ、や、あ、ひう、んン……っ! だ、ダメです、そこダメなの、ダメぇ……っ!」
舌で転がし、軽く歯を当ててやると、途端に声が甘くなる。
感じやすくて、非常に結構だと思う。
真由子自身は、自分のこういう所が恥ずかしくてイヤらしいが、俺にとってはとても嬉しい。
最も、こんなにエロ可愛いところを見せるのは俺の前だけで充分だが。

ふわふわしたスカートの裾を撒くりあげ、滑らかなふとももに触ると、びくりと反応が返ってくる。
直接敏感なところに触れる事はせずに、乳房を攻め立てながら内腿を触れるか触れないか、という位置で
ゆっくりと撫でてやる。
「うあ、み、みいちゃん、そこくすぐった、あ!」
ふに。と下着越しに柔らかな土手を擦ると、すでに熱く湿った感触を指先に感じる。
股布の端から指を二本差し入れ、熱くトロトロに融けたぬめりをゆっくりと広げていく。
「……んぅっ、んんん……っ。だ、ダメって言ってるのにぃ……っ!」
嬌声を必死で押し殺しながら、秘所をまさぐる俺の手を止めようと掴んで抵抗してくる。
今日は随分我慢するなァ。と思いながら、最後の理性を壊すべく、
指にぬめりを絡ませ、すでに綻びつつある花芽をゆっくりと撫でる。
ソコを撫でられると、もう堪らないのか、切れ切れの嬌声を上げながらも、徐々に腰が浮き上がってくる。

中に入れる指を二本に増やしながら、親指の腹でゆっくりと円を描くように花芯を愛撫しつつ、
乳首を甘噛みしてやると、小さな悲鳴と共に、全身が緊張したかと思うと、すぐに弛緩してぐったりする。
おー、こりゃ盛大にイったなァーと思い、顔を覗き込むと、半べそをかきながら、みないでください。と、細い声で抗議される。
ふむ、ちといじめすぎたか?

機嫌を取ろうと、額に、頬に軽くキスをして落ち着かせる。
何度か繰り返すと、落ち着いたのか、ぐすぐすと鼻を鳴らす音が止まる。
「あ、あの、みいちゃん。……すいませんけど、上からどいてもらえますか?」
ここまできといてそりゃねェだろ。という思いが顔に出たのか。
「い、いえあの。……服、脱いじゃいたいんですけど。そ、それにみいちゃんだけ
 きっちり服着てるのは、なんていうか、ずるいです……」
あ、そういや忘れてた。
適当に脱がせたというか、ずらしただけの為、真由子の服はホルターネックのトップスも、
ガーゼ生地の柔らかなスカートも、両方、腰のあたりでくしゃくしゃになっている。

……まあ、この半脱ぎ状態もこれはこれで?

「今、なにか変な事考えたでしょう、みいちゃん」
いやいや、なんでもねェって。と答え、自分も着ていたTシャツを脱ぎ捨てる。
うひゃあ。と悲鳴をあげて後ろを向き、真由子も自分の服を脱いでいく。
それをじっくりと観察しながらも自分の準備をしておき、こっちを振り向く前に、背後から小さな裸身を抱きすくめる。
391 ◆u7xg2ePixA :2006/09/13(水) 23:57:10 ID:YKflZmBz
足を開かせ、しっかりと潤み綻んだ中心に、自分のモノを擦り付けながら馴染ませる。
それだけでも刺激になるのか、艶っぽい声で反応が返ってくる。
どうにもこうにも、とても愛しいと思う。
「……深呼吸して、力ぬけよォー」
はひ。という、なんとも情けない声で返事が返ってくる。
すでに何度かしているとはいえ、入れて最初のうちは少し痛みがあるらしい。
その痛みの分、余計に緊張して痛みが増す。という見事な悪循環なわけなのだが。
くぷくぷと入り口のあたりを浅く、俺のモノでかき混ぜる様に馴染ませながら、
緊張を緩ませようと、強張っている頬や力の入っている唇を舐めてやる。
「……ん、……ふぅっ。んむ、あ、みい、ちゃ――」
薄く開いた唇にキスをし、そのまま口腔内へと舌を侵入させ、犯していく。
怯えたように奥に引っ込む舌を絡め取って引き出し、歯茎の裏まで舐めていく。
そうしていると、緊張が緩んだのか、単にソッチへ集中できなくなってくるのか、
俺のモノを痛いほどに喰い締めて拒んでいるソコが、ゆっくりとほぐれてスムーズに動かせるようになる。

真由子の中に自分をすっかりと埋めながら、脇腹や乳房を愛撫する。
やっぱりいきなりヤりすぎると辛いだろーなー。などと考えながら、
できるだけゆっくりと腰を動かす。

目眩がするほど心地よい。

真由子の中は、俺がガキの頃からずっと好きだった女の中は、
どこまでも温かく柔らかく、俺を包んできて、必死で我慢しないと、
即座に無茶な動きをして真由子を壊してしまいそうになって、少しだけ恐ろしい。
指に、二人の蜜を絡ませ、繋がっている場所の少し上、紅い尖りに
塗りつけるようにして刺激してやると、即座に甘い悲鳴が上がる。

ふらふらと熱に浮かされるようにして彷徨っていた真由子の手が、ふと俺の肩にかかる。
「……どした? まゆ」
「――あ、あの……」
――ぎゅって、して?
「ちょ、ちょっとくらいたいへんでも、わたし、へいきですから。――みいちゃんも、あの」
――ちゃんと、わたしできもちよくなってください。

……あー、なんつーんだろな、これ。人がせっかくギリギリ踏ん張ってたのによ。
反則だろチクショウ後悔すんなよ、あほまゆこー!

そのまま、お言葉に甘えて真由子の尻をがしっと掴む。
ゆっくりと腰を引き、中に入っていたモノが抜ける寸前まで引くと、
今度は逆に、思いっきり叩きつけるようにして挿入する。
「あ、やあ!? っあ、やああんっ!!」
真由子の、悲鳴に近い嬌声――、いや、きっぱりと悲鳴だなこれ。
を、BGMに、柔らかい尻肉を思い切り掴みながら全力で真由子を犯す。
肉のぶつかるパンパン。というリズミカルな音と、接合部から滴る蜜が泡立つ様が妙に興奮してヤバい。
ここまで激しい抱き方をするのは、実は初めてだったりする。
一応ねー、俺こんな奴だけどねー、気を使ってたんだよ、真由子処女だったしよー。
やっぱり人間、無理な我慢ってよくないよなー。本ッ当、明らかに無理があったもんなぁー。
……あれくらいの言葉で、あっさり理性が陥落するあたり。
自分はとことん我慢が利かない性質なのだと思い知る。
392 ◆u7xg2ePixA :2006/09/13(水) 23:59:02 ID:YKflZmBz
まあ別にいいか。
さようなら理性。こんにちは本能。
とりあえず、今俺に組み敷かれた挙句、じゅぷじゅぷと俺のモノが出入りするたび、
顔を真っ赤にして涙を流す、真由子がとことん可愛いので良しとする。

上体を倒して唇をむさぼる。
胸板に当たる柔らかな乳房と、固くなった乳首。
必死で俺に応えようとする拙い舌の感覚が非常に心地よい。
「――ん! あ、や……っ! ふあ、あ、あ、みいちゃん……っ!」
いつの間にか、悲鳴ではなく、明らかに甘い声を上げる真由子が、俺の首に手を回してくる。
――おねがいですから、いっしょに。
可愛いお願いに応えてやるべく、そのまま腰の動きを早める。
どんどん一本調子に切羽詰ってくる真由子の声。
「……まゆー? 気持ちイイ?」
「や、は、あ、はいっ! ひもち、きもちいいれすう……っ!」
うわーお、最中は正直でいいねェ。
「みいちゃ、みいちゃん……っ!すき、すきです、だいすき、すきいっ!あ、や、あ、ああ――っ」
びくびくと痙攣するように真由子が果てたその直後。
「……う、く……っ!」
搾り出されるような、強烈な膣の締め付けに耐えられず、俺もまた果てていた。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……うあー」
あッちい。
なんともいえない暑さと寝苦しさで目が覚める。
時計を見ると、すでに17時前だった。
……あー、そういやあの後すぐに、バックでもう一戦やらかしたっけ。
布団に戻って、なんとなく隣で裸のまま寝ている真由子を抱き寄せる。
やっぱり暑いのだろう。んむー。などと可愛らしい呻き声をあげ、
眉根をよせたしかめっつらになるが、まだ起きない。
……おじさんが帰ってくるのは、どんなに早くても19時過ぎ。
今日は遅くなるそうだから、もっと時間がかかるだろう。
だったらシャワーを浴びてから夕食の支度をしても、充分ゆっくりできるはず。
あと30分だけ。
そう決めて、真由子の顔を見ながらだらだら過ごす事にする。

「……俺もな」
完全に熟睡していることを、寝息の深さで確認してからそう呟く。
「……好きだぞー、オマエのことー」
……なんとなく、真由子の瞼がぴく。と動いた気がしたのは、たぶん気のせいだろう。
胸元に引き寄せ、ぴったりと身体を寄せて、目を閉じる。
――あと30分。
息苦しいのか、動く気配がするが30分たつまでは放さないと決める。
――ま、もうちょっとだけ付き合えよォ?
背中や尻をゆっくりと撫でて楽しみながら、だらだらと残り時間をすごそうと決めた。
393 ◆u7xg2ePixA :2006/09/14(木) 00:03:06 ID:MslFyEdH
以上で終わりです。

幼馴染み万歳ー。
そして全ての神にありがとう。
普段は1ROMとして全て楽しませてもらっております。
394名無しさん@ピンキー:2006/09/14(木) 02:35:40 ID:+axJ+d8a
ミーチャンキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!
待ってました!GJ!!
395名無しさん@ピンキー:2006/09/14(木) 22:45:14 ID:l1bcDXfP
濡れますた。
396名無しさん@ピンキー:2006/09/15(金) 02:16:16 ID:9W/ZEvMb
GJついでにage
397名無しさん@ピンキー:2006/09/15(金) 23:32:56 ID:y0EbrVO0
sageなからGJ!
398名無しさん@ピンキー:2006/09/16(土) 00:44:29 ID:1Z1cfqAb
まゆこえろいよまゆこ(´∀`)
399名無しさん@ピンキー:2006/09/16(土) 15:27:56 ID:TTs/7Aha
前々版で秋良とみどり書いてたヤシが来ましたよ

・同棲未来設定の思い出話
・消防な話
・ベタ展開
・長話

この項目でなんだそりゃwと思った人はスルーで
または前の話駄目な人もスルーでお願いしる。
暇なヤシはドゾー
400一生、消えない:2006/09/16(土) 15:32:37 ID:TTs/7Aha
ふ、と。
鼻腔に迷い込んできた何かが香った。
浅い河岸にたゆたうような記憶の中にそれはあったような気がした。
秋良はそれを掬い上げて確かめようとするが、何度も掴み損ねてうまくはいかない。
あと少し、もうちょっと、そこで引っかかれ。
滑りぬけようとする記憶のしっぽを夢中で掴もうとしていると、慣れた気配が邪魔
をした。
「うわ、まずい」
秋良とは明らかにキーの異なる、澄んだ声が頭上から聞こえてきた。
あ、あいつか、と瞼を開けようとしながら認識した瞬間。
「わっ」
「ぐえっ!」
401一生、消えない:2006/09/16(土) 15:47:18 ID:TTs/7Aha
蛙を踏んだような声を出した秋良は、腹に容赦のない一撃をお見舞いされもんどりうった。
「ご、ごめん、秋良!だ、大丈夫、ちょっとっ!?」
あほ、大丈夫なわけないやろ、と叫んでやりたかったが、あまりの衝撃に声が出ない。
平均的な体型をした成人女性の全体重を体の一点で受け止めた場合、それは当然の結果と
いえた。
「…っっおま、…ざけんなっ」
「ほ、ほんとにごめんね、秋良!えーと、えーっと、そうだ、今日の夕飯、なんでも好き
なの作ってあげるから!ね!」
必死で謝罪する彼女は、常日頃から秋良の好きなメニューをふるまっていることに気づい
ていない。
ようやく痛みが引いた頃には、何故か腹を踏んづけた本人の方が涙目になっていた。
なんでや、と秋良は少々怒りが萎んだ。
痛かったのは本当だが、半分はフリでもあった。
小さいときから体を鍛えてきて、今や日本のサッカー界を代表するプレイヤーにまでなった秋良の
腹筋が、そうそう駄目になるはずがない。
しかし、今はまったくに隙だらけの、起き抜けの状態で衝撃を受けたので、予想以上の痛み
をこうむったのだ。
だが秋良は、痛みよりむしろ、掴みかけていた記憶のしっぽを逃がしてしまったことの方が
忌々しかった。手放してしまったシナプスをもう一度繋ぐのは容易なことではない。
その上、女の攻撃でこうもみっともない醜態を曝してしまったという羞恥もあり、秋良は必
要以上に怒った態度に出た。
402一生、消えない:2006/09/16(土) 16:01:17 ID:TTs/7Aha
「そんなもんで許せるんやったらケーサツはいらんわい!」
「だっていきなり雨降ってきそうだったから…」
「雨ぇ!?こないに晴れとんのにんなわけ…」
と、振り返った窓の向こうでは、むくむくと肥えきった雲が太陽を遮って白い領土を広げて
いた。秋良が昨夜見たテレビでは、確か今日の降水確率はゼロと表記されていたように思う。
(いい加減な予報すな、殴りこんだるぞ!)
気象観測所と気象予報士に軽く殺意を抱きつつ、秋良は目の前で涙目で謝る幼馴染を横目で
見やった。
もやもやとして蒸し暑い気候のこの時期、彼女もその気温に合わせて、大柄の赤い花が彩る
白のワンピースと、生成り色のニットカーディガンという薄着のコーディネートだ。
そのふわふわとした白いスカートの裾からは、同じくらい白い足がチラと見えた。
秋良の頭にピンと閃くものがあった。
「おい、みどり。そしたら…」
「え?」
きょとんとした顔を向けたみどりの肩を素早く引き寄せて、耳元に口を寄せた。
「ちっと付き合え」
「…って、ちょっ、んぅ〜っ!」
有無を言わさず唇を奪う。
じたばたと、始めのうちは抵抗をしていたみどりの体も、次第に時折震える程度になり、
やがては静かになった。
ぱら、ぱらぱらっ、と窓の方から控えめな音が聞こえ始めていた。
その音を耳にしながら、唇を離した二人は無言で見つめ…いや、睨み合い、最初に声を発した
のはみどりだった。
403一生、消えない:2006/09/16(土) 16:15:36 ID:TTs/7Aha
「雨」
「ん?」
秋良は睨みをきかせながらもみどりの薄い肩に引っかかっているカーディガンとワンピース
の紐をはずした。
「降ってきたから、洗濯物…」
「あとにしとけ」
その「あと」のことを全く考えていない秋良の物言いに、みどりは勿論腹を立てる。
しかし、先ほどの失態の負い目からか、いつものように強気に出ることが出来ない。結果、
顔を真っ赤にしながらも少しだけ唇を尖らせて睨みあげるという非常に些細な抗議の態度を
取ることにしたようだ。
しかし悲しいかな、それは男にとっては抗議のそれではなく、欲情を扇ぎ立てるためのそれ
である。そして秋良もそれに煽られる男の例外ではない。
自然と、彼女の抗議は有耶無耶に消されてしまうことと相成った。
「ちょっ、夜中も…散々しといて、ん…っ。あ、秋…良」
息もつけぬほどのキスの合間に、みどりがこれだけは、と意見した。
「おねが……窓、閉め…あんっ」
秋良の長い無骨な指先が彼女の乳首を布越しに刺激してしまい、最後までは聞き取れなかっ
たものの、彼女の懇願は仕方なしに聞き入れられた。
秋良としても、細かいことを気にして行為に集中できないようなことにはなりたくなかった。
すでに顔が火照ってくたっとしているみどりでは役に立ちそうにないので、嫌々秋良が窓
辺に立つことにする。
曇天が彩る空を視界に入れて、窓を閉めようとサッシに手をかけたとき、風が頬を撫でた。
404一生、消えない:2006/09/16(土) 16:24:48 ID:TTs/7Aha
その瞬間、先ほどまで靄のかかっていた一部が、唐突に姿を現した。
「…あ」
思わず声に出してしまった秋良だった。
「ど…したの?」
少し喜びを含んだような声だったので、みどりは何か面白いものでも見つけたのだろうかと
体を起こそうとした。
しかし秋良はすぐにぴしゃりと窓を閉めて、しっかりと鍵までかけた。
そして敷かれた布団の上のみどりの下へ戻って覆いかぶさり、愛撫を再開する。
不思議そうな顔をしつつも従順に秋良に従う体を弄びながら、秋良は先ほどの風に含まれた
記憶を手繰り寄せていた。
秋良の奥底にあった、遠い昔の波間から顔を覗かせたのは、雨の香りという名の、淡く香る
記憶だった。
405一生、消えない:2006/09/16(土) 16:41:06 ID:TTs/7Aha
1、ファーストインパクト

第一印象は、あまりよくないものだった。
どこにでもいる普通のやつ、とか、あほっぽい顔、とか、鼻持ちならない、とか、その辺の
いずれかだ。
なにしろ、越した先のアパートが以前にも増してボロボロで不機嫌になった所に、隣に建つ
立派過ぎるほど立派な家の子供が笑って話しかけてきたのだ。
大人でも少しささくれ立った気分になるだろうなら、子供にしてみればなおさらだった。
黄色と緑のチェック柄のシャツに灰色のジーンズといった、ボーイッシュな格好をした短髪
の女の子は、玄関先に立ってあからさまに不機嫌な顔をしている少年ににっこりと笑いか
けた。
「わたし、七倉みどり。お母さんが、隣に越してきた子が同い年だから挨拶に行けって。
だから、これからよろしくね。そっちはなんていうの?」
本音を言うとまったくよろしくしたい気分ではなかったのだが、経験からキンジョヅキアイは
初めが肝心だと分かっていたので、しぶしぶ答えることにした。
「俺は秋良高馬。それほど仲良くする気もないけど、お隣さんやったらしゃーないし、
ま、テキトーによろしゅうしたってや」
ことさらテキトーを強調して言い放つと、相手は微妙に含ませた棘に気づいたのか、少しむ
っとした。
「うん…でもテキトーにするぐらいだったら、初めからよろしくなんてしない方がいいと思
うよ」
そう言って、彼女は背を向けるとスタスタと行ってしまった。
秋良は少し呆気に取られながらも、予想以上に生意気そうな少女の態度に鼻白んだ。
そして、行ってしまった背中を見送ることなくさっさと部屋に引き返した。
ものの一分もかからない、これが幼い秋良とみどりの出会いだった。
406一生、消えない:2006/09/16(土) 16:52:47 ID:TTs/7Aha
それから数日しても、秋良とみどりは、話したり一緒にいたりする機会を持つことはなか
った。お互いに最初の出会いは印象が悪く、特に相手に興味を持つようなこともなかったので
当然の結果かもしれなかった。
ただ、通う小学校も学年もクラスも同じなので、朝方の登校する時間や、下校する時間帯が
重なってしまい、顔を合わせないまでには至らなかった。
そして、偶然鉢合わせなどしたときには互いに気まずげな顔をして、少し距離を置いて目的
地までを歩くのだ。
そんな時、秋良は決まって居心地の悪い思いを抱いた。
彼にとってそれはとても以外で忌々しいことだった。
秋良から見る同年代の者たちは、皆同様に低俗で、取るに足らない存在だった。
幼い頃に父が母を捨ててから、ろくに定職に就かず酒を食らっている父と二人で暮らしてきた
秋良は、その年で大人びた思考回路を強要された。
それゆえ、些細な事で囃し立てたり馬鹿にしたりする同級の子供は何も分かっていない馬鹿
で、更に徒党を組んでいじめなどを行う輩は虫以下と思っていた。
だから、そんな奴らにどう思われようが気にしない。
自分は暇な奴らと違って忙しいのだ。
そういった思いで他人と接していた秋良にとって、隣の家に住む七倉みどりという存在は、
どうにも位置づけに困った。
407一生、消えない:2006/09/16(土) 17:02:31 ID:TTs/7Aha
彼女は、クラスの大半の者たちが持つ、異質な者を排除しよう、或いは無視しようという
瞳で秋良に接しなかった。
だがたまに目を合わせると、その視線には明らかに嫌悪の色が浮かんで、表情も仲の良い
友達といる時と比べて硬くなる。
それなのに、今まで転校先見てきたような好奇の目や畏怖の目とは違って、彼女のそれは
不思議と秋良が馬鹿に出来ないような瞳であることだけは確かなのだ。
だからといって秋良が話しかけたり、みどりの方から話しかけてきたりというようなことは
ない。しかし、それだからこそ秋良は彼女の存在を必要以上に意識してしまい、たまに行動
を共にするような事があれば、非常に気まずい思いを抱くはめになるのだった。
それはみどりの方も同じだったのか、出会い頭に一瞬戸惑うような表情をするみどりは、気
まずげに「おはよう」や「ばいばい」を口にするものの、決して挨拶以上の交流を図ろうと
はしなかった。
そんな日々を送り、いつのまにか一ヶ月が過ぎようとしていた。
408一生、消えない:2006/09/16(土) 17:22:25 ID:TTs/7Aha
2、バッドコミュニケーション
近所の商店街でバイトを頼み込んできたものの、全て空振りに終わって腐っていた秋良は、
父が家に戻るまでの間、アパートの空き地でヘディングして時間を潰していた。
サッカーボールは秋良にとって優秀な遊び相手であり、唯一の充実感を与えてくれる物だ
った。
物心ついた頃からサッカーボールに慣れ親しんできた秋良は、テクニックをみがいてはいる
ものの、それを誰かに披露するようなことはしなかった。まして、サッカークラブや、
サッカーで遊んでいる少年たちの輪に加わるなどしようとも思わなかった。
何故なら、どこにいようと秋良を受け入れる輪がないことを直感で悟っていたからだ。
同年代の子供たちと秋良のサッカーに対する思い入れは微妙に食い違っていて、それにより
人と楽しもうとは思えなくなっていた。
暗闇が町を覆い、ボールの影が地面に濃く浮かぶ頃、そろそろ引き上げようと思った秋良は
ボールを一際高くあげて、右ひざでキャッチし、更にワンバウンドさせて軽く前方に蹴った。
すると、ボールは向かいのアパートの開いていた窓に見事に吸い込まれて、畳の上を5、6
回跳ねたあと、静かに転がって壁際に収まった。自分もその後に続こうと窓枠に手をかけよう
としたとき。
ガサッ。
後方から、気配の動く音がした。
秋良は咄嗟に振り返った。
後方に積まれている木材の向こう側に、誰かの影が見える。
秋良は不気味に思って、それを振り払うように声をかけた。
「誰や」
不安からかつい声が荒っぽくなる。
木材の隙間から微かに見える影は、びくっと反応して小さく声をあげた。
409一生、消えない:2006/09/16(土) 17:38:22 ID:TTs/7Aha
「あ、あの」
聞き覚えのある声だが、誰かまでは特定できない。だが、知り合いだということが分かると
不安が取り除かれ、逆に誰なのか確かめたいという重いが湧いてきた。けれど、声の主は動
こうとせず、仕方なしに秋良木材の裏に歩いていくと、そこには予想外の人物が立ちすくん
でいた。
「お前…こないなとこでなにしてんねん」
秋良の驚いたような声に、所在なげな瞳をよこしたのは、隣の家に住む七倉みどりであった。
塾かなにかの帰りなのか、両手で抱きしめるように平べったい茶色の鞄を持っている。
「ごめん、あの、覗き見するつもりはなかったんだけどね、話しかけるタイミング逃しちゃ
って、結果的には覗き見てたんだけど…」
強張った笑みを浮かべたみどりは、まくしたてるようにしゃべり始めた。
「今日、ピアノ教室に行くはずだったんだけど、どうしても行きたくなくてね、でもどこに
行けばいいのかも思い付かなくて、家のまわりぶらぶらしてたら高馬くんがボールで遊んで
るの見かけて、なんか意外だなって思って見てたら、ボールがずっと地面に落ちないからいつ
落ちるんだろうって思って見てたらそのまま…」
別にそれほど後ろめたい行動でもなかったはずだが、彼女にとって覗き見るという行為はま
れなことだったらしく、やたらと申し訳なさそうに状況を説明していた。
秋良はみどりが自分に対して挨拶以上の言葉を話しているのが珍しく、なんとなく見守って
しまった。それからみどりは、ピアノが好きじゃないことや、その原因がピアノの先生にあ
ることなど、しなくてもいい話まで全て語って聞かせた。その長い説明が終わる頃には、
既に日が暮れていた。
410一生、消えない:2006/09/16(土) 18:03:37 ID:TTs/7Aha
「………」
「………」
いったん話が途切れると、いつもの気まずい空気が二人を包んだ。
秋良にとって、みどりが自分を覗き見ていたことは別に怒るようなことではなく、どうで
もいい事だった。邪魔したり五月蝿くしないのなら居ないのと同じだ。
みどりがどういう経緯で、どういった考えで見ていたかなどは関係ない。興味もなかった。
「そろそろ父ちゃん帰ってくる頃や。ほな」
本当は父がいつ帰ってくるかなどは知れたことじゃないのだが、秋良はそれを口実にして
帰ってしまおうと思った。
これ以上ここにいる理由もないし、覗かれていたからといって特に言うべきこともない。
再び背を向けると焦ったように「待って」という声が聞こえてきた。
「なんや、まだしゃべることあるんか」
面倒そうに振り向けば、逡巡したような表情のみどりが立っていた。
「あの、…その」
はっきりしないみどりの声に、秋良は苛立った。
「はよう言うたってくれへんか。俺ははっきりせんのが一番腹立つねん」
すると、みどりはごくんとつばを飲み込んで、意を決して言った。
「あのさっ、みんなと一緒にやってみたらどうかな?」
「はあ?なんのこっちゃ」
「だから、サッカー!」
興奮したようなみどりの声に、秋良はぴくりと眉を跳ね上げて目を細めた。
みどりはそんな秋良の様子には気づかず、興奮を抑えきれないのか早口でまくし立て始
める。
「私、サッカーのことなんてよく分からないけど、でもそれでもすごいよ、高馬くん。
どうやったら一回も地面に落とさないでボール上げられるの?それってさ、みんなに
見せたら絶対びっくりするよ。好きなんでしょ、サッカー?だったら、こんなとこで一人
でやってないで、みんなでやればいいじゃん。きっともっと楽しいよ。私、サッカークラ
ブの子に友達いるから、紹介してあげるよ」
みどりは、それを、まるで自分が楽しくなることのように話して聞かせた。
秋良は急激に怒りと軽蔑が湧いてくるのを感じた。
「そんなん俺の勝手やろが。よう分からんのやったら余計な口出しすんな。迷惑やぜ」
冷たい秋良の一言がよほどショックだったのか、みどりはそれまでのはしゃいだ様子を
ぴたりとやめて凍りついた。
「え、で、でも、だってさ…」
不自然な微苦笑を貼り付けさせるみどりに、秋良は容赦なく畳み掛ける。
「大体な、何を基準に楽しいと思えるんや。こん町のサッカークラブの試合は越してき
た日に見さしてもろたが、あんなんサッカーにもなってへん、ただの玉蹴り遊びやないか。
あんなしょうもないチームに混ざれやと?冗談やない。寝言は寝てから言うてくれ。ほなな」
にこりともせずに早口で言い切って、踵を返す。
罪悪感は微塵もなかった。秋良の事情など何一つ知らない癖に興味半分に面白がっている少女
の鼻を明かした爽快感でいっぱいだった。
411一生、消えない:2006/09/16(土) 18:04:37 ID:TTs/7Aha

とりあえず今日はここまで。
続きは多分投下します
412名無しさん@ピンキー:2006/09/16(土) 18:07:39 ID:yMFP+TMu
お久しぶり。復帰が嬉しい。続き待ってます。
413名無しさん@ピンキー:2006/09/17(日) 00:55:15 ID:KMBVbhVR
二人の出会いはかなりダメダメだったのか……
そこからラブラブに発展していくなんてヤキモキが止まりません!
414一生、消えない:2006/09/17(日) 15:37:09 ID:Ck6Zes8M
続き投下。

>>412
他の神な幼馴染らと違って地味で盛り上がりに欠ける二人だが
そんなヤシら待っててくれたとは。多謝。

>>413
出会いダメダメは後の二人の執着フラグには必須なんで(私論
こんなんでよけりゃ好きなだけヤキモキオカズにドゾ
415名無しさん@ピンキー:2006/09/17(日) 15:43:19 ID:+CaxrjRH
wktk
416一生、消えない:2006/09/17(日) 16:02:59 ID:TJ1d2xYQ
言いたいことを全部言えてすっきりした。
だが何故か妙に胸がざわついているような気もした。
「なによ、えばりんぼ!」
数歩もいかない内に少女の高い大きな声が背中に叩き付けられた。
「なんやと」
振り向いて牙を剥く秋良に、みどりは怯むことなく詰め寄った。
「あんたって何様のつもりなの?そんなにサッカーが上手いのが偉いわけ?そんなに、
お母さんがいないのが特別なワケ?二人暮らしで大変って周りに言いふらしたいわけ、自慢
したいわけ!?あんたがそんな風だったら、いつまでたっても友達なんか出来ないんだから!」
その言葉で、秋良は完全に頭に血が上った。
みどりの白いセーターの襟ぐりを掴むと、乱暴にぐいっと引き寄せた。
「やかましいわい!俺が友達出来ようが出来まいが、サッカーやろうがやらまいが、お前には
一切関係ないんじゃボケ!目障りなんやったら近寄ってこんかったらエエやろが!俺かて
そっちのがせいせいするわ!分かったら、二度と俺に知った口きくんやないでっ」
そこまで言うと、秋良は突き飛ばすようにしてみどりの襟元から手を離した。
よろめいたみどりは、目にいっぱいの涙を浮かべて、悔しそうに言い返してきた。
「なによ…っ。確かに関係ないわよっ、口もききたくないし顔も見たくないわよ!だけど、
私はあんたのクラスメートで、お隣さんで、嫌でも一緒にいなくちゃいけないのよ。
それなのに、高馬くんがそんなだったら、あたしは、みんなだって嫌いなままじゃない。
そんなの、なんだか…。高馬くんだって嫌でしょ?だからっ…」
秋良は遮るように言った。
「でっかいお世話や。いい子ぶりたいんやったら他あたってくれ」
憎々しげな一瞥をやると、みどりは眉間に深く皺を刻んで睨んだ。
「分からず屋!高馬くんなんて…」
「それと!軽々しく人の名前呼ぶんもやめろや。吐きそうになる」またも遮って、いかにも気持ち悪そうな顔で言い捨てると、秋良はもう振り返ることなく窓を跨いで部屋の中に
入った。窓を閉めるとき「バカ秋良!二度と名前なんか呼ぶか!」という罵声が聞こえてきたが
聞こえないフリをしてぴしゃりと窓を閉めた。
第二印象は、最悪のものとなった。
417一生、消えない:2006/09/17(日) 16:03:53 ID:Ck6Zes8M
3、マフラー

いつものことではあったが、秋吉は半ばうんざりしていた。
朱に交われない者をいたぶろうとするのが人間の本能なのだとしたら、人間とはなんと
おろかで馬鹿な生き物なのだろう。
幼いながらそんな風なことを思った明良は、だから軽蔑というよりはむしろ憐れみに
近い眼差しでもって、取り囲む者達を見回した。
「お前、いい加減にしろよ。こっちが優しくしてやりゃつけあがりやがって」
「お前みたいな貧乏人相手に俺たちが相手してやるなんざめったにないことなんだぞ」
「ほら、さっさと金出せよ。そしたら帰してやるから」
なんとも支離滅裂な要求を差し出したそいつらは、明良より一学年上の、近所でも有名
な問題児三人だった。
ケンカに勝つことが強く、負けるものは皆弱虫で、逆らった者は痛めつけられて当然と
思っているような奴らだった。
明良はそんな奴ら関わるのは時間の無駄とばかりに、なるべく避けようとしていたのだが
クラスでも異質な明良は傍から見ればそれ以上に目立つ存在だった。
それ故、目をつけられるのは当然の結果といえた。
そして運悪く下校中に、それも周りに誰も見かけないような道で問題児達と出会って
しまったのだ。
己の不運を嘆きつつも、明良は深い溜息を吐き出して睨んだ。
「貧乏人と分かってる様な奴相手に金たかるんが、そないに優しいことやったとはな。
なんとも親切な話しや」
「なんだと、このヤクザ野郎!」
「いいから早く金出せよ!じゃねえとひでえぞ!」
「自分の立場分かってんのかよ!」
脅しや罵声にしても酷いものだ。どうやらヤクザ野郎というのは、やくざ=大阪弁という
安易なイメージから吐き出されたものらしい。
もっとうまい言い回しは出ないものかと、これだから東京モンはという蔑みの眼差しを
投げた。
「分からんお人らやな。貧乏人言うんは金ない奴のこっちゃ。日本語も分からんような
奴らに出す金なんぞ1円もない言うてんねん」
「なんだとー!」
「もう許さねぇ!」
「半殺しにしてやる」
案の定襲い掛かってきた三人の上級生を、明良はひらひらと軽いステップで避けた。
彼らは虚しく空を切る腕の音にさらに腹をたて、血走った目で避けた明良の後を追った。
明良は走り出した。
どうせ誰もついてはこれまいと、高をくくっていた。
その通り、三人の問題児たちは、腕力はあるかもしれないが、明良の足には敵わない
ようだった。
これで平穏無事に家に帰れると、三人の足の遅さに感謝しているときだった。
するり。
身につけていたマフラーが、解けて舞った。
418一生、消えない:2006/09/17(日) 16:30:28 ID:Ck6Zes8M
「あっ」
まずい。
すーすーする首元の肌寒さに青ざめながら、明良はあずき色のマフラーを横目で追った。
足を止め、マフラーの落ちている後方まで急いで戻り、拾い上げた。
だが、それをジャンパーのポケットに無理やり押し込めようとした時、明良より一回り
太い腕が、無情にもそれを阻んだのだった。
「おっと、なんだそりゃ」
はっとして上を見上げた明良の視界には、汗だくになりながらも厭らしい(あるいは
彼らにとっては余裕の)笑みを貼り付けた問題児の顔が映った。
追いつかれてしまったのだ。
「チッ」
逃げようと踵を返したが、既にもう一人が回りこんで退路は塞がれていた。
形勢逆転したと思ったリーダー格の少年が、嘲笑して明良の足を引っ掛けた。
「うぁ」
背中を見せていた明良は為す術もなく転がされる。
ぎゃはははという馬鹿笑いが起こった。
カスが、と心の中で罵倒しながら、明良は逃げ出す隙を見計らっていた。
「おいおい、なんだこのきったねぇマフラー!」
明良は、はっとしてポケットの中を探った。
薄い科学繊毛の感触はない。
焦って視線をさまよわせると、数歩先の地面に、それはくたっと力なく横たわっている。
掴もうとした矢先、マフラーは自分ではないものの手によって掬い上げられた。
明良はかっとして言った。
「汚い手ェで触るなやボケェ!」
叫んだ明良の顔を、リーダー格の少年が容赦なく蹴った。
「ぐあぁっ」
物凄い衝撃と痛みが顔面を襲い、明良は再びその場に転がった。
ぼとりと血の塊が鼻から垂れた。
だが明良にはそれを気にしている余裕はない。
何故なら、あのマフラーは、カスに触らせていいものではないからだ。
「か、返せやっ…」
必死に足にしがみつく明良を嘲笑って、マフラーを手にした少年は明良の体を踏みつけた。
「おいおい、貧乏人はこんなぼろっちぃマフラーにも必死になんなきゃいけねぇのか?」
「かわいそうだから、今日は金の代わりにこのぼろっちぃマフラーで許してやろうぜ」
「しかたねぇな、貧乏は」
そう口々に言って笑い合うと、少年たちはマフラーを持っていこうとした。
どうやら、問題児達は金が欲しいというより嫌がらせをしたいだけらしかった。
明良はしかし、それで引き下がるわけにはいかなかった。
勝ち目も意味もないケンカをしてでも、マフラーだけは譲れない。
じり、と起き上がって、明良は啖呵を切った。
「待てや、クズどもがぁっ!貧乏人にまで金たからなアカンほど飢えてるんやったら、
ワイが相手したるわ!はよこんかカスっ!!」
子供とは思えぬほどの迫力がこもった啖呵に、三人はすぐさま振り返った。

419一生、消えない:2006/09/17(日) 16:58:52 ID:Ck6Zes8M
「なんだとコラァ!」
「そんなに殺されてぇかよ!」
「顔変形するまで殴ってやる!」
明良の啖呵に得体の知れない怖気を感じながら、三人はその怖気にすら怒りを覚えて襲い掛かる。
明良も、すでに後のことなど考えていられなかった。
とりあえずマフラーさえ取り返せればいい。
保身など頭になかった。
「来いや、コラ!」
しかし、次の瞬間全員が動きをとめることになった。
「せんせぇーっ!高岡先生、こっちです、早く!!」
少女のものと思われる金切り声が明良の後方から響いてきた。
振り返ってみると、30mほど先に七倉みどりの姿があり、こちらと後ろを交互に見ながら、
大きく手を振ってもう片方の手でこっちを指差していた。
「やっべ、高岡!?バレたら今度こそ…!」
「おい、早く逃げろ!」
「あ、待って!」
少年たちはクモの子を散らしたように逃げ去った。
明良はその間、ピクリとも動かずに、走ってくるみどりを見ていた。
後ろから来るはずの高岡教諭の長身は、しかしいつまで経っても来る様子がない。
「はぁっ、はあ…っ。よかった…間に合った」
みどりは、腰を曲げ、膝に両手をついて息を整えると、顔を上げて明良に向き直った。
「…偶然見つけてさ。あいつら高岡先生の名前出すと逃げるんだよ」
要するに、みどりが機転を利かせたらしかった。
「あ、血。すごい出てる」
呆然としていた明良は、みどりがポケットからハンカチを取り出して自分の鼻の周辺を拭こうと
しているのに気づいて、とっさに手で払った。
「あっ」
水色のハンカチは、ふわりと地面に落とされた。
みどりはそれを見送ると、無言で明良を睨んだ。
「……」
「……」
明良も静かに睨み返す。
だが、みどりは怒りを抑えるように素早くしゃがんでハンカチを拾い……
そしてその視線の先に、あずき色のマフラーが落ちているのを見つけた。
明良もそれに気づいて、みどりが手を伸ばして触れようとする寸前に
それをかすめ取るように拾い上げた。
しゃがんだままその素早い動作を見たみどりは、非難の色を浮かべた目で頭上を睨んだ。
明良はそんなみどりの目から隠すかのように、くしゃくしゃにまとめたマフラーと一気に
ポケットに押し込んだ。
420一生、消えない:2006/09/17(日) 17:05:12 ID:Ck6Zes8M
「余計なことしやがって…。イイことしたつもりか?」
明良は、ことさら視線を険しくすると、子供とは思えないほど低い声をみどりに投げた。
「礼なんぞ言わんからな」
すると、みどりはばっと立ち上がって、堪りかねたように詰め寄った。
「あんたからお礼言われたくてしたわけじゃない!あんたが痛めつけられてるのを
見捨てたくなかっただけだよっ。そんなマフラーの為にあんな奴ら相手にするなんて、
何考えてんの?」
次の瞬間、明良は目いっぱい腕を振り上げていた。
無意識だった。
―――パンッ。
乾いた音が二人の周りに響いた。
強いようで、それほどでもないような音だった。
みどりは、左頬を押さえて呆然と明良を見詰めていた。
「お前なんぞに…お前みたいなお嬢に、何が分かるんや!」
ぎりっと噛み締めた歯の隙間から、憎しみとも悲しみともつかない感情に濡れた声が
漏れた。
その声を受けたみどりは、大きな黒目がちな目から、ぽろと涙を溢れさせた。
きらりと光った軌跡が頬を押さえている手の中に消える。
明良は、その光から逃げるようにして、だっと走り出した。
おもむろにポケットに突っ込んで握り締めたら、マフラーはくしゃりと悲鳴をあげた。
明良はそれこそ、こちらが悲鳴を上げたい気分だった。
421一生、消えない:2006/09/17(日) 17:34:21 ID:Ck6Zes8M
4、アイデンティティー
問題児に絡まれた日から数日後、明良は非常事態に陥っていた。
マフラーが、なくなったのだ。
絶対に無くしてはならず、絶対に手放してはならないものだった。
あれから、明良はまた問題児達に絡まれたときのために、マフラーをつけないように
していたのだが、冬の木枯らしが身に染みるこの時期、食料もままならない生活を送っている
明良が、他の防寒具を買い求められるはずがなかった。
その上、父親があてにならないのは分かりきったことだ。
仕方なしにその日はマフラーを身につけて登校したのだが、体育を終えて教室に戻り、
着替えていると、マフラーがないことに気づいた。
明良は探し回り、クラスの全員に知らないかと聞きまわった。
終いには先生にまで訴えたが、とうとう見つからなかった。
クラスメイトたちは、マフラーがなくなったぐらいで取り乱す明良を物珍しげに見ていたが、
誰も探すのを手伝おうとはしなかった。
みどりも、そんな明良をじっと見ているだけだった。
アパートに帰った明良は、座り込んだままじっとしていた。
どこをどう探してもマフラーは出てこなかった。
諦めるという選択肢はないものの、ここまで探して見つからないとなるとさすがに疲れが出た。
次第にどうでもいいような気もしてきて、家に帰った。
すると、人気のないがらんとした部屋にさらに嫌気が差して何をする気も起きなくなった。
座り込んで数十分後、窓の向こう側から、いつの間にかしとしとという音が聞こえてきた。
気づけば、すえた様な、生臭い様な匂いが、どこからか部屋に侵入している。
うんざりとした。
雨の日は大嫌いだった。
洗濯物は乾かないし、サッカーだって思うようにできなくなる。
何より、気分を最悪にさせるような湿気た空気が堪らない。
「今日は厄日かい」
ははっと笑って、呟くとさらに気分が落ち込んだ。
父が大事にしている秘蔵の酒を割って憂さ晴らしでもするか、と立ち上がったとき、
ドンドン、と扉を叩く音が狭い部屋に響いた。
それほど強くもない調子だったのだが、期限の悪い明良には途方もなく耳障りな音となって
聞こえてきた。
「誰や!」
自然と口調が乱暴になるが、構わなかった。
今日は誰とも話したくない。
怒って帰ってくれるのならそっちのほうが明良にとって万々歳だった。
「私。…七倉」
小さな声だったが、薄い扉越しには十分聞こえる声が届いた。
相手を知るなり気分が最低に達した。
明良は、これ以上があるか知らないが、それでももう気分を滅入らせたくはなかったので、
無視を決め込むことにした。
みどりと会ってしまえば更に最悪なことになるのは目に見えていた。七倉みどりは、明良と
どうあっても馬が合わない人間だと、これまで嫌というほど思い知らされているのだ。
422一生、消えない:2006/09/17(日) 18:08:20 ID:Ck6Zes8M
「ねぇ、開けてよ」
図々しい言葉が、独り言のようにくぐもって聞こえてきた。
誰が入れたるか。
心の中で毒づいて明良は座りなおす。
みどりは何の反応も返ってこない様子に観念したのか、「分かった」と言って、
「じゃああんたの探してたもの、私がもらうから」
それを捨て台詞に、みどりは帰ろうとした。
「なんやと」
明良は聞き捨てならないと、すぐさま追いかけようと腰を浮かせた。
がしかし、もしかしたら自分と顔を合わす為の方便かもしれないと立ち止まる。
けれど、みどりが立ち去ろうとしていることを表すぎしぎしという廊下の軋みが耳に届くと、
明良は反射的に部屋を飛び出していた。
「おい!」
明良はすぐにみどりに追いついて呼びかけたが、みどりは気づかないかのように
すたすたと外へ出ようとしている。
「ちょお、待てや!」
憤慨して、肩に手をかけて強引に振り返らせた。
憮然とした表情のみどりは、そこでようやく立ち止まった。
「なによ」
挑戦的な声だった。
明良はさらにむかっときて声を荒げた。
「ほんまに見つけたんやろなっ」
するとみどりは、すっと通った鼻筋の付け根に皺を寄せて、水色の小さな紙袋を
明良の胸に強く押し付けた。
「本・当・に、見つけたわよっ、はい!じゃあね!」
そうして、みどりはさっきよりもさらに肩をいからせて早足で行ってしまった。
明良は、苦虫を噛み潰したような顔になって、上下に激しく揺れる背中を見送った。
受け取った紙袋を見下ろすと、中から安っぽいあずき色のマフラーがのぞいていた。
取り出して確認すると、確かに自分のものだった。
端の方に、白い糸で小さく名前が縫い付けてあるからだ。
明良はそれを見るとほっとして、思わず表情を緩めた。
胸の中に、表現し難い様々な感情が溢れて、さっきまでぽっかりと穴が開いていた心が
急激に満たされていくのを感じた。
中でも一番大きいのは、深い安心感だった。
それが分かると同時に、ふとみどりの顔が思い浮かんだ。
明良が声をかけたとき、みどりは怒りの表情を顕わにしたが、明良はそれだけでは
なかったような気がしていた。
目の奥で、傷ついたような悲しみの光が宿っていたようにも見えた。
そこまで考えて、明良は、くそっ、と毒づいて急いで消えた背中を追った。
423一生、消えない:2006/09/17(日) 18:32:40 ID:Ck6Zes8M
いつの間にか秋良が明良になってたorz
スマン。脳内変換でよろ



アパートを出ると、そぼ降る雨の中、みどりはすぐに見つかった。
彼女は何故か、傘も差さずに道の途中で立ち止まっていて、目の前に見える家に入ろうともせずに
雨に打たれていた。
秋良はなんとなく声をかけづらい雰囲気に躊躇いを覚えて、自分も何分か背中を見続けていた。
「……どこに、あったんや」
ようやく声をかける決心がついたのは、水に飛び込んだように全身ずぶ濡れになった頃だった。
みどりはびくっと肩を震わせると、ゆっくりと秋良の方に向き直った。
驚いたように目を見開かせているので、どうやら秋良がいたことに気づいていなかったことが
窺われた。
みどりは濡れて張り付いた髪の毛を気にもせず、僅かに唇を震わせている。
そのまま何も言わないので、秋良もさすがに居心地が悪くなったとき、みどりは口を開いた。
「その…マフラーさ、なんでそんなに大切にしてるの?」
それは質問の答えではない。
秋良は横を向いて視線を逸らす。
みどりはその様子に、軽く溜息をついた。
「また無視?…いいけどさ」
嫌われていることを知っている者特有の、投げやりな声だった。
「秋良くんて、自分がどれだけ目立つか分かってる?そうやって、自分のことは誰にも
分からせないって態度がどれほど悪目立ちするか。…それが秋良くんのやり方だって
いうなら仕方ないけど、大切にしたいものがあるならもう少しうまくした方がいいよ」
「…なんやそれ、説教か」
「そうじゃないって!ただじれったくて見てられなかったから…」
もどかしそうに告げるみどりの瞳には諦観の眼差しがあった。
「まあ、確かに私が口出しすることじゃないけどね。…それ、早引きした松田くんが
間違って持ってっちゃったんだって。今度はランドセルの中にでも入れておいたら」
秋良は、すっかり水を含んで黒い色になったマフラーを見下ろした。
松田という奴がどういう顔の奴かは、おぼろげにしか思い出せない。
けれど、あずき色なんて趣味の悪いマフラーをしている人間がクラス内にいるとは、
秋良には思えなかった。
だがそれもまた推測に過ぎないのだ。
するとみどりの言ったことが、染み入るようにじわりと秋良の心に入り込んできた。
『大切にしたいものがあるならもう少しうまくした方がいいよ』
認めたくない。
こんな奴の言うこと。
しかしそれは、どう否定しても正論だった。
「…七倉」
寒さに震え、かすれた声は、数歩先に進んだみどりにかろうじて届いたようだった。
「なに?」
みどりが振り返ったのかどうかは、俯いているため分からない。
それでも、秋良は口にした。
「おおきに」
ザー。と音をたてる雨は、秋良の声を遮ったかのように思われた。
だが、陰鬱な空気を晴らすような「うん」という澄んだ声が聞こえてきて、
それきりあたりは雨音に包まれた。
秋良は結局、みどりの顔を見送ることができなかった。
何故かそれが、どうしようもないほど悔しかった。悔しくて堪らなかった。
まるで痛いしっぺ返しを食ったような気がした。
その思いを噛み締めて、重い足取りで震える体を引きずり、アパートに戻った。
気分は、みどりが来訪した時よりも最低に達していた。
424一生、消えない:2006/09/17(日) 18:34:00 ID:Ck6Zes8M
とりあえずここで一旦休み。
425名無しさん@ピンキー:2006/09/17(日) 20:21:57 ID:/h4sJbq1
おっつ、&GJ!
426名無しさん@ピンキー:2006/09/17(日) 23:30:14 ID:gdNLTviB
続き気になる(゜Д゜;)
427一生、消えない:2006/09/18(月) 03:13:11 ID:4HjTdWCX
5、ファースト・コンタクト
雨の別れから、二人の仲が良くなるようなことはなかった。
しかし、何がしかの接点のようなものは、以前より多くなったかもしれない。
少なくとも、秋良はそんな気がしていた。
例えば秋良家の食生活を心配したみどりの母が、みどりに料理を届けさせたりだとか、
回覧板をみどりが届けに来るようになったりだとか。
その事実があるだけで、そこから何かが芽生えるわけではない。
けれど、そんなことが続くと、秋良はいつしか嫌悪感なくみどりの来訪を受け入れる
ようになっていた。
その頃から、みどりは秋良を「秋良」と呼ぶようになった。
くん付けされるのが気持ち悪いと言ったら、遠慮なしに呼び捨てにしてきたのだ。
二人が顔を合わせると大半がケンカ別れで終わったが、その交流の中でも、
二人が得るものは多少なりあった。
互いのやり方を否定しながらも、それを徐々にではあるが受け入れられるようになっていった。
それが、多分最初の一歩だった。
「…おい。それどないした」
聞くまい聞くまい、と思っていた秋良だったが、ついに好奇心が理性を上回った。
いつものように回覧板を届けに来たみどりが、玄関先で目を丸くしたのが分かった。
「なにが?」
みどりは、心底不思議だとでも言うようにまじまじと秋良を見た。
恐らく、普段意図して話しかけないようにしている秋良が、みどりの様子を聞いてきたのが
よっぽど予想外のことだったのだろう。
秋良は自分が一瞬で珍獣にでもなったかのような気分になり、撫然として回覧板を受け取った。
だが、目をまん丸にしているみどりの口元を再度見ると、やはり言わずにいられなかった。
「口の端んとこ。切れて血出てんで」
そっぽを向いて言うと、みどりははっとなってぐいっと唇を拭った。
強い調子だったので傷に障ったのか、「イタっ」と言ってみどりは口元を抑えた。
「アホ。そないにぐいぐい押し付けたら痛むの当たり前やろが」
秋良の呆れた口調にむっとしたようだが、みどりは反論してこなかった。
見かねた秋良は「ちっと来ぃ」と言って強引にみどりの腕を掴んで部屋の中に引き入れた。
「え?ち、ちょっと?」
戸惑った様子のみどりに構わずに、秋良は部屋に唯一生活感を与えている戸棚の
中段をごそごそと探り出した。
428一生、消えない:2006/09/18(月) 03:16:38 ID:4HjTdWCX
秋良が目的のものを見つけて振り返ると、みどりは手持ち無沙汰にサッカーボールを
転がして遊んでいた。
秋良は近づいてさりげなくボールを取り上げ、みどりの前にどん、と木箱を置いた。
緑の十字マークが描かれたそれは、どう見ても救急箱のようだった。
「秋良?」
みどりは、救急箱とみどりの顔を交互に見て、それから首を傾げた。
救急箱が出てきたとなると、それが何を意味するのか流れからいってみどりに分からない
わけがなかった。ただ、あの秋良がまさかという思いが邪魔をして事の成り行きに
思考が追いつかないよいだった。
秋良は無言で救急箱を開けて丸い缶の塗り薬を取り出すと、蓋を開けて指で掬い取り、
それをみどりの口端におもむろに塗ろうとした。
みどりはとっさに避けた。
自然、秋良の指は宙を掻く。
あ、と声をあげたみどりは、どうやら自分の行動に自分で驚いているようだった。
そんなみどりを呆れたように見て、秋良は僅かに眉根を寄せた。
「なんぼなんでも、この状況でカラシ塗りたくるような真似はせんて。
安心して大人しゅう座っとれ」
そして、みどりが体を反らした方へ手を伸ばす。
今度こそ半透明の薬は傷口に塗られた。
秋良は、慎重に、なるべく傷に触れないように、ゆっくりと指を動かしていく。
塗り終わると、身じろぎしたみどりを制して絆創膏を取り出した。
包装紙を剥がして再度口元へ手を伸ばし、両手でそっと貼る。
作業が終わると、どちらのものと知れない息が漏れ、空気が緩んだ。
すると、示し合わせたように二人の視線が互いを捕えた。
その時初めて、秋良はみどりの顔をじっくりと見た。
色白の肌と形の良い目鼻立ちの持ち主である少女は、こうして見れば整った顔に見えなくもない。
それだけに、口元の絆創膏というやんちゃなアイテムにはかなり違和感があった。
429一生、消えない:2006/09/18(月) 03:21:39 ID:4HjTdWCX
そんな風に思いながら見ていたら、ふとみどりがなんともいえない表情をしているのに気付く。
秋良が治療を施している間、まるで置物のように瞬き一つせず座っていたみどりは、
治療を終えたにも関わらず未だに体を硬くさせていた。
秋良はそんなみどりの様子がどことなく可笑しくて、ふっと笑みを漏らした。
すると、みどりの顔はたちまち真っ赤になった。
どうしたことかと秋良が目を見張ると、みどりは慌ただしく立ち上がって玄関へと向かう。
心なしか逃げ出すような行動に見受けられた。
「別に、こんなのほっとけば治るよ」
靴を履きながらそう言ったみどりの言葉は、秋良にはあんた一体どうしたの
と言っているかのように聞こえてきた。
「ま、いつも食いモン貰っとるしな。お前の母ちゃんの手間はぶいたっただけや」
「これぐらいは自分で出来るわよ」
怒ったような声で顔を向けず言い放つみどりを、秋良は戸惑いながら見やった。
何故そんなにむきになるのかさっぱり分からない。
感謝されこそすれ、怒られるようなことをした覚えは全くないのだ。
「なに怒ってんねん。相変わらず可愛くないやっちゃな」
「怒ってない!」
そう叫んで、みどりはドアを力任せに開けると振り返ず帰っていった。
開けっぱなしのドアを渋々閉めながら、秋良は行ってしまったみどりの態度に首を傾げる。
「思っきし怒っとるやんけ…」
430一生、消えない:2006/09/18(月) 03:23:10 ID:4HjTdWCX
遣る瀬ない怒りを抱いた秋良だったが、すぐに同時に湧いた疑問の方へ興味が移った。
治療を施す事の、一体何がそれほど癪に障ったのだろうと。
それに、聞きたかった傷の理由もそういえば分からず終いのままだ。もしかして誤魔化された?
腑に落ちない点がいくつも浮かんでくると、秋良は段々と考えるのが面倒になってきた。
そもそもみどりの事情など秋良には関係のないことであり、どうでもいい事のはずだ。
あの様子だと、食い下がったところで教えて貰えそうもないみたいだし。
確かにみどりの言った通り、放っておいても構わないような傷だったのだ。
理由もどうせ些細なことに違いない。
そう判断すると秋良はもう気にしないことに決めた。
余計なことをしたと後悔したが、終わってしまったことなのでこれもまた気にしない様にする。
救急箱を片付けて部屋を見渡せば、殺風景な中に白黒のボールがぽつねんと寂しそうに
転がっているのを見つけた。
気を紛らわせるため、ボールの相手をしてやることにした。
外へ出た秋良はすぐさまボールの相手に夢中になった。
だから、みどりとの些細なやりとりなど、10分後には綺麗さっぱり忘れられたのだった。
431一生、消えない:2006/09/18(月) 03:25:30 ID:4HjTdWCX
ここまで
残りはまた投下します
432名無しさん@ピンキー:2006/09/19(火) 00:22:55 ID:jt+kSC37
ワクワク(゜Д゜;)
433名無しさん@ピンキー:2006/09/19(火) 00:23:56 ID:g4hVkqcJ
GJ!
2人の不器用な遣り取りがいちいちツボですよ!
取り合えず、萌え転がりながら次回をお待ちしてますー
434一生、消えない:2006/09/19(火) 23:37:35 ID:Zp7OSR6s
6、トラスト
その傷を嫌でも気にするはめになったのは、それから三日後のことだった。
パンをかじりつつ家を出た秋良は、アパートの前を丁度みどりが差し掛かるのを見かけた。
秋良はなんとなしに「おはようさん」と声をかけたが、みどりは振り向きもせずに通り過ぎていく。
それは無視されたというよりも、気付かれなかったという感じだった。
だが、5mと離れていない距離で声が届かないはずはない。
不思議に思って、秋良はみどりを追い越してその進路に立ち塞がった。
「寝ながら歩いとるんか」
さすがに至近距離では耳に入らざるを得なかったのか、みどりはびくっとして秋良を見た。
「あれっ、秋良?おはよう。いつからいたの?」
「お前が俺んちの前通り過ぎたあたりから」
「そうだっけ?」
まったく気付いていなかったらしいみどりは、きょとんとした顔で秋良を見た。
「アカン、完全に寝ぼけと…」
るわ、を口にする前に秋良は見つけてしまった。
少女のとぼけた顔にある、異質なものを。
「お前、それ…」
みどりは、秋良の視線の先を知ってはっとなった。
そして唇を噛んで素早く顔を反らしたのだった。
みどりの一方の口の端には、三日前に秋良が施した治療のあとがあって、
すでに完治しかけていた。だが秋良が目を見張ったのは、そのもう一方の口端だ。
また新たな傷が増えていた。
それも、青痣の浮かんだ、以前より醜い傷が。
「な、何でもないって。夜中にトイレに起きたらさ、寝ぼけて柱にぶつけちゃったの、はは」
傷を見せまいと顔を反らしてそう言ったみどりは、不自然に笑い飛ばした。
みどりなら有り得ると思いはしたが、秋良もさすがにそれを信じるほど愚かではない。
何より、気まずげな表情が嘘だと告げている。
「それ言い訳にすんのは苦しいやろ。なんや、父ちゃんにでも殴られたか」
まさかみどりの父が秋良の父のように酒乱だとは思えなかったが、
差し当たって他に思いつくような原因も浮かんでこなかった。
みどりは曖昧な笑みを浮かべて「うん」とか「まあ」とか、もごもごと答えた。
そして、これ以上は聞くなとばかりに、早足で秋良を追い越して行ってしまったのだった。
秋良は、納得のいかない気持ちで赤いランドセルを見送った。
けれども、みどりと仲のいい友達はたくさんいるので、
そいつらが聞き出すやろ、と一瞬後には思い直す。
そして、自分も行ってしまった少女の後に続いたのだった。
435一生、消えない:2006/09/19(火) 23:43:24 ID:Zp7OSR6s
冬休みの近づく学校は全体的に浮ついている。
話題といえばもっぱら冬休みの予定や家族旅行の行き先、そしてクリスマスプレゼントだ。
もちろん秋良はそんな輪の中に加わることなく適当に相槌打っていたが、
意識は常にみどりの方へ向けていた。
だが結局最後の授業が終っても、まだみどりの傷の原因は謎のままだった。
みどりは笑いながら仲の良い友達と話していたが、
話題が傷の事になるとはぐらかすので誰も深く追求出来ないらしかった。
秋良は、そんなお手軽な扱いを受けているクラスメイトたちに、
なんとなく苛立ちを覚えていた。
帰りの会の終了直後に、担任の先生がみどりに何事か尋ねていた。
秋良は今度こそビンゴだとアタリをつけたが、そばだてた耳に聞こえてきたのは、
今朝とまったく一緒の下手くそな作り話だった。
こうなったら最後の手段しかないか。
秋良は仕方なしに、自分から理由を聞くために、校門でみどりを待つことにした。 待っている間、なんで自分がこんなことしなければならないのかと
馬鹿馬鹿しくなったりもしたが、気になるものは気になると観念して待ち続けた。
しかし、待てど暮らせどみどりは校門に現れない。
とうとう、校門には誰も通りかからなくなってしまった。
もしかして。
秋良は不安になって昇降口まで戻った。
自分のクラスの下駄箱で七倉みどりの名前を探した。
「なにしてんねん、アイツ…」
みどりの靴入れは見つかった。しかし、外履きの靴入れは空っぽになっていた。
秋良の読み通りだとすると、みどりは、秋良のいた正門ではなく、裏門から帰ったのだ。
秋良は舌打ちして、すぐさま裏門の方へ駆け出した。
裏門は、そちらの方が近道になる少数の生徒しか足を向けない。
だがみどりは、秋良と同じ方向なのだから裏門には用がないはずだった。
まさか自分を校門に見つけて避けて通ったのではとも秋良は考えた。
だがすぐにそれはないかと思い直すことになる。
みどりが秋良を避けて逃げる姿を、あまり想像できなかったのだ。
いつも以上に人気のない、というより無人の侘しい裏門が見えてくると、
秋良はいったん足を止めて呼吸を整えた。
大きく深呼吸して再び腹に力を込めようとしたとき、
どこからか男子のものと思われる低い唸り声が聞こえてきた。
436名無しさん@ピンキー:2006/09/20(水) 00:34:48 ID:D1EvC9mI
続きキテルー
437名無しさん@ピンキー:2006/09/20(水) 00:35:42 ID:GT5bETmo
な、生殺し……(゚д゚)
438一生、消えない:2006/09/20(水) 00:54:21 ID:eUM3SCr6
知らずそちらの方へ足を向けた秋良は、段々と近づくにつれ、
それが聞き覚えのある人物の声だということに気づき驚く。
それは出来ることなら思いだしたくない、一生聞かなくてもいい声だった。
「いい加減にしろだぁ?お前、誰に向かって口きいてんだよ」
「いくら女子でも、俺たちが手加減すると思ったら大間違いだぞ!」
「分かったらさっさと金よこせよ」
その子供らしからぬ潰れた低音は、裏門の壁の裏から聞こえてきた。
間違いない。
それはあの問題児三人組の声だった。
秋良はなるべく音をたてないように、息を殺して静かに近寄っていった。
ようやく壁一枚を挟んだ距離まで近付いた時だった。
突然、到底信じられない人物の声が響いてきた。
「あんたたちみたいな最低な奴らにこれ以上出せるお金なんてありません」
凛として、辺りを涼やかにするような澄んだ声。
それは紛れもなく、隣家の住人であり探していた少女、七倉みどりのものだった。
(どういうこっちゃ!?)
どうもこうも、みどりが絡まれているのだということは明白だ。
しかし、この問題児らがよもや女にまで手を出そうとは考えもしなかった秋良だった。
現に今まで、犠牲者となってきたのは男子だけだ。
記念すべき女子第1号がよりによってみどりだなどと、一体だれが予想出来ただろう。
加えてみどりは、奴らの標的からもっとも程遠い存在のはずである。
それが、どうして。
金の有る無しでそれに納得しろというなら、みどりより適当な女子は他にいくらでもいる。
越してきて間もない秋良ですら分かるほど。
「おい、約束が違うんじゃねえか?」
そんな秋良の疑問は、唐突に、それも予想外のカタチで解かれることになった。
「お前があの生意気なヤクザ野郎の変わりに金払うっつーから、
俺らはマフラー返してやったんだぜ?」
(は?)
秋良は一瞬、何を聞いたのかわからなくなった。
「せっかくズタズタに切り刻むとこだったのによ。お前が邪魔してくれたんだよなー?」
「がっかりだったよな。それをたったの10万で許してやるっつてんのに」
「高岡にチクろうとか考えてんじゃねえだろうな?無駄だぜ。
俺のダチらがちゃんと見張ってくれてんだから」
「……」
「なんだよ、その目」パァンッ。
「うっ」
したたかに殴られたような音と、みどりの食いしばったようなうめき声が耳に響いた。
まるで自分が殴られたかのようながんがんと頭の揺れている感覚に、秋良は陥った。
439一生、消えない:2006/09/20(水) 02:08:30 ID:eUM3SCr6
まさか。
「なあ、七倉サン。どんな内容だって約束は約束。破ったらどうなるか分かるよな?」
秋良は無意識に首に巻いたマフラーをほどいて、ジャンパーのポケットに詰め込んだ。
まさか。
まさか。
まさか。
「あのヤクザ野郎にも責任とってもらわねーと…」
「待って!分かったわ、あげる、あげるからアイツは見逃してやって!」
せっぱつまったようなこの声は、まさか。
(俺の…ため)
そんなわけがない、と何処かから声がした。自分のようなやつに、なんの見返りもなく身を犠牲にするような者が、いるわけがない。
そんな特殊な人間、今まで会ったことも見たこともなかった。
秋良は必死に冷静になろうとした。
冷静になろうとして、いつの間にかポケットに入れたマフラーを力の限り握り締めていた。
「なら早く出せよ、ほらぁ!」
ドッ!
「うぁ!」
ドサッ。
みどりがボコボコにされてしまう。
状況がよく分からないぶん、秋良の頭には思いつく限りの最悪なイメージが浮かんでいた。
早く助けないと。
だが、それでも秋良の中にはまだ諦めの悪い葛藤があった。
なんで他人の為にここまで。
しかも友達でも仲が良いわけでもない奴の為に。
自分にはなんの得にもならんのぜ。
ただのお節介で終わってまうかもしれんのやぜ。
まさかこんなボロいマフラー欲しいんか。
違うやろ。
お前が必死になる理由、いっこもないやろが。
みどりの行為は、秋良にとって信じられないほど重く、ありがた迷惑極まりなかった。
ここまでされると、かえって決まりが悪かった。
今の状況はいくら秋良の為とはいえみどりが招いたことで、
秋良が気に病むことでも助けてやることでもないのだ。
(そんでもな…)
……けれど。
秋良は、ぎり、と握り締めていたマフラーから手を離した。
『大切にしたいものがあるならもう少しうまくした方がいいよ』
いつかの少女の言葉が、胸に広がった。
腑に落ちなかったマフラーの出所。
治療した秋良に怒った理由。
曖昧な笑みで隠した傷の事情。
その全ての答えが繋がった今、秋良のとるべき選択肢は一つしかなかった。
…いや、もしかしたらとっくの昔に決まっていたのかもしれない。
(お前の『うまい方法』なんぞ、さっぱりアテにならんわ)
秋良は、一つ息を吸い込むと、勢いよく駆け出した。
「みどり!」
腹の底から声を出し、名前を呼ぶ。
始めて呼んだその名前を、しっかりと力強く。
440一生、消えない:2006/09/20(水) 02:52:46 ID:eUM3SCr6
「秋良…?」
門を通って壁の向こう側に躍り出た秋良に、その場にいた一同が振り返る。
秋良はその中に、三人の大きな体の隙間から除いている黒目がちな目を見つけた。
その次の瞬間、秋良は問題児たちに目もくれずみどりの腕を掴んでいた。
そして間を置かずに走り出す。
呆気に取られていた三人組はそこでようやく我に返った。
「こらぁ、待てお前ら!」
そう言われて待つ馬鹿がどこにおんねん、と後ろに向かって叫んだ秋良は、
すぐ後ろの泣きそうに潤んでいる瞳と目が合った。
秋良は、コクリと力強く頷いた。
すると、みどりはさらに泣きそうになり、顔をくしゃりと歪ませた。
なんだか猿みたいだと思って前を向いた秋良であったが、
それでも決してみどりの手を離すことはせずに、強く握り直したのだった。
441一生、消えない:2006/09/20(水) 02:55:38 ID:eUM3SCr6
中断

まだ続く。長くてスマソ
もう少し付き合って
442名無しさん@ピンキー:2006/09/20(水) 19:49:40 ID:D1EvC9mI
続きに期待age
443名無しさん@ピンキー:2006/09/20(水) 23:56:55 ID:/W+nLbrZ
ワクワク
444名無しさん@ピンキー:2006/09/21(木) 18:44:54 ID:xSaWhEiR
445一生、消えない:2006/09/21(木) 20:18:07 ID:nbcyK535
7、ラストインプレッション
あてもなくやみくもに走り回った二人は、問題児達の声が消えても走り続けた。
息が限界まで苦しくなっても、秋良は足を止めなかった。
とにかく走りまくって、見知らぬ風景に気付き始めた頃ようやく足を緩めた。
気付けば、後ろから激しい息遣いが聞こえていた。
頭だけを後ろにやると、みどりはもう1mだって走れなさそうだった。
立っているのも辛いといった様子だ。
それでもみどりから文句のような声は聞こえてこなかったように思う。
秋良はみどりの脚力を考えなかったことを少しだけ悔やんだ。
スーパーの駐車場を見つけた秋良は、そこから倉庫の裏へ入っていった。
そして、スーパーと倉庫の隙間の路地に入ったところで、ようやっと足を休めた。
がっくりと崩れ落ちたみどりを残して、秋良は壁の影から油断なく周りを見渡した。
がらんとした駐車場に三人の姿はない。
どころか、人の影すらなかった。夕飯どきだというのに、余り流行ってないスーパーなのだろうか。
なんにしろ好都合だと秋良はほっと息をついた。
「にしても、どこやここ」
聞いてはみたが、声をかけた相手はまだ息を荒げさせていた。
相当きつかったようだ。
秋良は持久力に自信があるが、みどりはそうじゃなかったらしい。
とはいえ、秋良ほど持久力のある者もそうはいないので、
みどりの今の状態は当然の結果といえた。
「…お前あんとき、見つけてきたんやのうて、あいつらから取り返してきたんか?」
みどりの息が落ち着くのを見計らって、秋良が唐突に聞いた。
みどりからの答えはなかった。
「なんでそこまですんねん。お前も前に言うてたけど、
あんなボロっちぃマフラーなんぞで傷もろてたらただのアホやろが」
「だって、大事なんでしょう!
…よく分からないけど、秋良が大切にしたいものなんでしょう」
突然顔を上げ、食ってかかってきたみどりに、秋良は圧倒された。
その強い視線を、今はもう無視することができなかった。
はぐらかすことも出来なくて、秋良はとうとう観念して素直に言葉を紡いだ。
「…せや。大切や。ボロでダサい安物やが、母ちゃんが買うてくれたもんや思うと、
なんや手放せんでな」
ジャンパーのポケットからずぼっと取り出したそれを、秋良はみどりの眼前にかざした。
みどりは、秋良の告げた驚きのエピソードに、丸くなった目を向ける。
「けど、お前に借り作るぐらいなら、もうエエわ。やる」
446一生、消えない:2006/09/21(木) 20:22:00 ID:nbcyK535
「はぁ?」
「明日、これ持って奴らんとこ行き。こんなモンに10万の価値あるんやったら儲けもんやろ」
おもむろに突き出された拳から、マフラーがふわっと落ちた。
反射的に、みどりは慌ててそれを受け取ってしまう。
「で、でも、大切だって言ったそばから、こんなの受けとれな…」
「ちょお待ち。そん代わり、頼み聞いてもらう」
「え?」
まあ聞けや、と秋良はみどりの赤くなっている耳に唇を寄せた。
秋良の提案と魂胆を知ったみどりは、口元を段々と笑みの形に作っていった。
「…と、いうワケや」
にんまりと笑って「そういう事なら貰っとく」と言ったみどりを、
秋良は、案外根性据わっとんな、と感心して眺めた。
そして、ゆっくりと、手を差し出した。
「…なに?」
また走るのかと勘違いしたみどりはその手を恐々と見つめた。
しかし、頬を少し赤く染めた秋良を見て、表情を改めさせた。
「その…これから、やな。もしあいつらがまた絡んで来るようやったら、
言ってこい、っちゅうか…」
物凄く恥ずかしい台詞だったので、いつものようには舌がうまく回ってくれない。
そんな自分に舌打ちしながらも、秋良は差し出した手をそのままに、みどりを見つめた。
みどりはポカンと口を開けて見つめ返したが、秋良が冗談を言っているのではないと分かると。
「うん。じゃあこれからは本当のよろしくね」
そう言って、秋良の手をぎゅっと握った。
「は?なんやそれ」
言葉の意味が分かっていない秋良にみどりは挑戦的な瞳をよこした。
「だって今までは、テキトーなよろしくだったんでしょ?」
「あ…」 思い出した。
『それほど仲良くする気もないけど、お隣さんやったらしゃーないし、
ま、テキトーによろしゅうしたってや』 お互いに好印象とはいえなかった、あの出会い。
しかし今、意外と根性が据わっていて意外と執念深いタチの少女を前に、
秋良は確かな絆が生まれるような予感がしていた。
クス、と笑って、けれど次の瞬間には睨みを効かせた秋良は、
みどりの挑発を受け取ってしっかりと手を握り返した。
「あほ、お前のどこがテキトーなよろしくやっちゅうねん。お人好しがよく言うわ」
もちろん憎まれ口を叩くのも忘れない。
「うるさいわね!素直にありがとうって言えないの?」
みどりも負けじと睨み返した。
447一生、消えない:2006/09/21(木) 20:59:27 ID:nbcyK535
その展開はいつものケンカの始まりと同じだった。
ただ一つ違ったのは、二人して同じタイミングで吹き出して笑い始めたこと。
「…ぷっ。あははは」「…くっ。ははっ」
それだけが常と違い、それこそがそれまでのぎこちない二人を卒業する証となったのだった。
恐らく初めて互いが互いに向けた笑み。
いっそ怖いくらい、なんの混じり気もない歓喜が二人の内を満たしていた。
涙すら浮かべて笑い合う二人は、けれどすぐに収めざるを得なくなった。
「あ、まずい…」
最初に気付いたのはみどり。
どないした、と聞こうとした秋良も、ふっと香ってきた匂いに気付いてあっと声を出す。
「雨…」
建物の隙間から除く狭い空を仰ぐと、今にも泣き出しそうな暗雲で塞がれていた。
「早く帰らないと一雨くるよ」
「言うても、ここどこや?お前帰り道分かんのか?」
「まあ、大体は。でもかなりかかるし、着く頃にはたぶんすぶ濡れになっちゃうよ」
「ほな、雨宿りでもするか」
この季節にずぶ濡れで帰ったら、いくら丈夫な二人でも風邪を引くのは道理だ。
だがみどりは、
「うーん…。いっか、帰ろうよ」
と事もなげに言った。
秋良はびっくりとした。
みどりの発言にではない。そう言われて反発心を抱かなかった自分自身にだ。
「帰ろう、一緒に。秋良」
そう言われて、すぶ濡れになる事を覚悟するなんて、今までなら決してあり得なかった。
だが今、次第に濃厚になる雨の香りをかいで感じるのは、不思議な高揚である。
まさに青天の霹靂だった。
雨は、大嫌いだ。
それなのに今、秋良は、ずぶ濡れで帰るのもいいかと、確かにそう思っていた。
「せやな。…帰ろか」
そう言って見つめた先の、あまりにも印象的な笑顔は、さらなる奇跡を秋良に起こした。
一生に一度しか思わないであろう、嘘みたいに暖かな思いを芽生えさせたから。

明くる日、例の問題児三人組が下級生のマフラーをズタズタに引き裂くという事件が
生徒指導の高岡教諭の耳に入り、彼らはとうとうお縄を頂戴する。
その際、都合良く芋づる式に彼らの非行の証拠が出てきた理由は、
神のみぞ、いや、とある二人と神のみぞ知ることだろう。
生徒たちの間では、あずき色のマフラーを巻いた二人が騙したんだ、
とわめいて三人が停学になったという噂で持ちきりになったが、それはまた別の話だ。
448一生、消えない:2006/09/21(木) 22:36:19 ID:nbcyK535
エピローグ

サー、という耳に優しい雨音で、秋良は目覚めた。
懐かしい夢の余韻は、なんだか無性に照れ臭くなるものだった。
何年も前の、かびて苔むした記憶を掘り起こしたら、夢にまで見てしまった。
照れを隠すように頭を掻いて寝返ると、幼馴染み兼恋人の女が、
妖艶さの欠けらもない寝顔をさらしている。
先ほどまで秋良の下で鳴いていた女と同一人物とは思えない幼顔だ。
秋良は、とても穏やかな気持ちになってその顔を眺めた。
体を重ねている時とはまた違った愛しさが胸を満たしてゆく。
それは、共有者へ寄せる畏敬の念、あるいは甘えにも似ていた。 そう、ちょうどさっきまで夢に見ていた幼い頃の、あの時の気持ちのような。
「う…ん」
みどりの形の良い口から声が漏れた。
すると、目を細く開いて顔をしかめさせる。
眠りの淵から覚醒したらしい。
何を言うのかと期待しとその様子を見守っていると、
みどりは秋良の顔を見るなりかっと目を見開き、かばっと勢いよく起き上がった。
途端、みどりの柔そうな白い肢体が、惜しげなくさらされる。
「私、どのくらい寝てた…?」
恐る恐る、秋良の方を見下ろしてそう聞いたみどりの額には冷や汗が浮かんでいた。
「どのくらい、て、俺も寝とったしなぁ。大体…30分くらいやないか?」
秋良は期待はずれな色気のない第一声に憮然となりつつ、
はっきりしない記憶をたぐり寄せた。
「さ、さんじゅっぷん!?」
叫んで、みどりは慌てて下着をつけ始める。
情事後の色気など微塵も感じさせないその様子に、秋良は唖然となって見守るしかなかった。
「なんや急に。別に仕事でもなし、ゆっくりしとけばええやんか」
二人の休日が合うのは稀なことだった。
秋良としてはなるべく二人で過ごしたいという殊勝な心がけでもってみどりを襲ったのに、
これでは本末転倒もいいところだ。
だがみどりは、とんでもない、という風に顔をしかめさせた。
「私だってそのつもりだったけど、秋良のせいじゃない」
「はぁ?何がや」
「雨。降ってきたって言ったでしょ」
せっかく溜ってた洗濯物一気に片付けられると思ったのに、
と不満げに息まいて、着替えを終えたみどりはベランダの方へ駆けていった。
バタバタ、という恋人の忙しない足音を耳にしながら、秋良ははーっと溜め息をついた。
みどりが所帯くさいのは今に始まったことじゃない。
だから長年側で彼女を見てきた秋良には慣れたことのはずだった。
449一生、消えない:2006/09/21(木) 22:51:11 ID:nbcyK535
だが今日という日だけは、古い記憶の河岸に心地よくたゆっていた今だけは、
少しでもそれなりのムードを楽しんでみたかったのだ。
望み薄な願望だと分かりきっているので、訴えるような真似まではしないけれど。
それに、柄じゃないと自分でも否定したいほど恥ずかしいのだ。口にするなどあり得ない。
冷房の効いてない閉めきった部屋は、もやもやと不快な空気が充満して、
秋良の不満をさらに増幅させた。
仕方なしに、秋良は布団から起き上がってジーンズと黒いTシャツを身につけ、窓辺に立った。
鍵を外し、少しだけ窓を開けてみる。
しとしとと、そんなに強くもない雨脚の霞がかった情景が目に入ってきた。
秋良は、大丈夫そうやな、と判断して、窓を半分まで開け放った。
すると、微風と共に、懐かしい、気恥ずかしい思い出を伴う、あの香りが運ばれてきた。
ツン、と鼻をつく、雨の香りだ。
それが揺さぶり起こすのは、今まで決して色褪せることのなかった、淡い想いだった。
「きゃー」
その淡い想いをかき消したのは、耳をつんざくような高い悲鳴である。
「やかましい!」
思わず叫び返した秋良の怒声は、悲鳴の主まで幸か不幸か届いたらしく、
なんですって、とか言いながらドスドスと音を鳴らして戻ってくるのが分かった。
秋良は、せっかくの休日が甘いムードどころか喧嘩一色で塗り潰されるような予感がした。
うんざりとする反面、けどそれが自分達かと、どこかで諦めてもいる。
そんな自分もみどりも悪くないと思えるようになったのは、
やはりあの日からの想い故だ。
450一生、消えない:2006/09/21(木) 22:55:58 ID:nbcyK535
早速「どうすんのよ、こんなに濡れちゃってるじゃない!」と怒鳴ってきたみどりに
買い言葉を投げ始めた秋良は、それでも消えないだろう想いを噛み締めた。
誰かを信じられた事実は、幼い秋良にとって何よりも驚くべき奇跡だった。
人を愛してみようかなんて、そんな風に他人を受け入れようと思ったのは、あれが初めてだったのだ。
だからきっと、忘れてしまうことはあっても、あの日の雨の香りも彼女の温かい笑顔も、
一生、消えない。
「大体、休みの日までんなしち面倒くさいことせんでもええやろ」
「休みの日だからこそでしょ!?そんなこと言うなら秋良が毎日洗濯してよ。
どうせ三日もしないでやんなくなるでしょうけど」
「なんやと!」
淡い想いなど億尾にも出さず、秋良は今日もくだらない喧嘩を彼女と楽しむ。
激しくも弱くもない長雨の音が二人の騒音を包むと、雨の香はいや増していった。





終わり
451名無しさん@ピンキー:2006/09/21(木) 22:58:04 ID:BVDl7ePc
以前のシリーズではこれからどうなることかと思ってたけど、一緒になれてよかったよかった。
452一生、消えない:2006/09/21(木) 23:01:38 ID:nbcyK535
これにて了。
長々と占拠スマソ

補足・秋良の記憶の中でみどりの下の名前呼んでるシーンあるけど
あれは一回こっきり。
くっつくまではずっと苗字呼び
453名無しさん@ピンキー:2006/09/22(金) 00:05:04 ID:n7JUe2Hp
GJ!
なんつーか、もう、甘酸っぱい。
454名無しさん@ピンキー:2006/09/22(金) 10:38:15 ID:AvDugBxK
あんまりエロくないけどイイ!
455名無しさん@ピンキー:2006/09/22(金) 13:22:41 ID:kou3t+89
GJ!! いつか、再び名前で呼ぶようになったときの話が読めると嬉しい。
つうか、同棲しててもみどりの方は「秋良」なのねw
456 ◆NVcIiajIyg :2006/09/23(土) 01:25:06 ID:BZbEIot+
いいですねぇ。文章もお上手ですごい。雨の空気とか。


そんな後にすみません。
バカップルと幽霊をまた一話。
敢えて言うならもっと全編バカっぽくしたかったんですが…。
とりあえずいちゃいちゃ幼馴染が書けたので満足して投下します。
457『幽霊屋敷』1/9 ◆NVcIiajIyg :2006/09/23(土) 01:31:55 ID:BZbEIot+

汚れたページによだれが落ちた。
ひざのうらがガクガクしてしまって、全身が神経になったみたい。
まだきれいだった新しい大人っぽい下着が、なんだかぐじゅりといっている。
手が勝手に伸びて大きくなってきた胸をさわってる。
こんな、漫画みたいに、わたしもいつか、してしまうんだろうか。
「ん…。ゃだ」
やだ、なにしてるんだろう、なに考えてるんだろう。
「や」
相手は最近、あんまり話してくれなくて、竹刀ばっかり体育館で追っかけてる男の子だ。
昔はいっぱい遊んでくれて、いらない新聞紙でチャンバラしたりして、
「あ―…」
小学校の頃からクラブにも同じく通って、当然みたいに一緒に部活に入って嬉しかったのに――
幼馴染の男の子を思い出しながら、漫画の中の女の人がされているみたいに、
勝手に腕がスカートの中にまではいっておっかなびっくり触っていた。
「やー、や、こんなの、だめなの、に、ぃ……」
今までみたいに遠慮なく喧嘩したり触ったり、後ろからぎゅーってやったり、したくて。
ひやかされたのも、それで、いけなかったのかな。
だから、なんかもう、ひっかくみたいな指が止まらない。
気持ちがいいのかとかそのはじめてのときは分からなかった。
「あ、啓ちゃん、けいちゃん、すき、好き…!!あぁっ!も、止まんないよう……!」
なんかいけないことをしているという感覚だけがあってぐずぐずと半泣きになっていた。
ただ手が止まらなくて幼馴染の男の子のことばっかり思って、
初めて私は薄暗い中で長いことかけて自慰を覚えていった。




肌寒くなった夕暮れに深呼吸して、秘密の入り口から繁みをくぐった。
深緑のスカートが膝の上で引っかかってほつれないようにそっと外す。
胸のボタンに引っかかった葉っぱも一緒に払ってから、庭の深い草を踏みしだいて歩いていく。
目の前には、噂の絶えない迎賓館。
幼稚園に入る前から、二人だけの遊び場だった幽霊さんのお屋敷だ。
今日は遊びにきたのではないんだけど。
「おじゃましまーす」
天窓と崩れた壁から、西日が交差してロビーを照らしている。
その光に透けて、半透明の女学生姿が壁を見つめて浮いていて、
私のほうをふとつまらなそうに見た。
それは一瞬だけで、すぐ、あ、と眼を見開いていつもの笑顔になってくれる。
458『幽霊屋敷・2』2/9 ◆NVcIiajIyg :2006/09/23(土) 01:33:30 ID:BZbEIot+
「アツキ!」
時代錯誤の膝下セーラースカートは、いつ見ても玖我山みのりちゃんに最高に似合っていた。
私が四歳の頃には既に時代遅れだったのだから、
みのりちゃんがいつから幽霊なのかなんてちょっと想像もつかない。
手を降ると、階段に浮いたまま手を振り返し相変わらずの挨拶をしてくる。
「元気ー?今日は啓伍はいないのね、浮気相手と待ち合わせ?」
「ち、違うよお」
さらっとありえないことをいうみのりちゃんに近寄っていく。
埃が舞って落ちていくのが、窓から差し込む淡い夕陽に透けている。
ふわと階段から降りてきた長い黒髪が、なびいて柔らかに陽を含んだ。
「あら、じゃ一人遊びね?アツキは啓伍と違ってよくきてくれて嬉しかったのよ。
 いっつも啓伍の名前呼んでさー、奥でいけない遊びして――」
「うあひゃああ!だ、だめええ!」
っててていうか見てたの!?
しばらく外に遊びに行ってくるからって言ってたのにー!
あと口を塞ごうとしてもみのりちゃんは幽霊だからむりでした!
「――もう、あたしですら教えることがないくらい性徴しちゃってお姉さん寂しい」
『成長』の漢字が違います!

「そ、そそそれは、みのりちゃんがいけないんだからね!
 聞いてないことまでいろいろ教えたりえっちな本おいといたりするから!!」
「あら失礼ね。お姉さん幽霊だから本なんて運べません。
 むかーし忍び込んだ悪いお兄さん達の宝物よ?」
さらっと笑うみのりちゃんは、ちょっと冷たい半透明の指先で、私の額を小突いた。
それからすーっと感覚のない冷たさは私の肌をなぞっていく。
「読んで、発情しちゃったのも、啓伍で想ってたのもアツキでしょ?
 まーだ中学生だったくせに、え・っ・ち」
つんつんつんとまたつつかれてもう言い返せなくなる。
ううう。

そう。
啓ちゃんは十年ぶりだと思っていたようですが、
実は私にとってはそう久し振りでもないのでありました。
ごめんね、啓ちゃん。

459『幽霊屋敷・2』3/9 ◆NVcIiajIyg :2006/09/23(土) 01:34:56 ID:BZbEIot+



「それはともかく、本当に成長したと思うのよ。
 だって初めてここに二人が忍び込んできた頃とか、まだ覚えてるもの」
こーんな、小さい頃だったわね。
と膝上くらいに手をかざして、みのりちゃんがなでなでのしぐさをする。
意識していないのだろうけど妙に色っぽい手つきで私は少し赤くなった。
並んで座った階段の足元を、うろうろとみつめてみる。
「そうなんだ。私、もう覚えてないなぁ」
「そうよ。そうね、ちょっと寂しいな」
くすりと口元をほころばす薄いシルエットに、少し不思議になった。
そういえばこの前もちょっと不思議だった。
みのりちゃんは、あんまり、思い出話をしない。
自分のこともわたしたちのことも。
いつ来たって、初めて会ったときみたいに、
まるで昨日も一昨日も会っていたみたいに、笑って寄ってきてくれたのだ。
なんでだろう。
わけもなく寂しくなる。
薄れていく夕闇を壁の隙間から、幽霊の黒髪越しに見ていた。
不意にそのきれいな顔がこちらを思いだしたように向いた。
「ところでアツキ。今日は本当に何しに来たの?」
「…あッ」
460『幽霊屋敷・2』4/9 ◆NVcIiajIyg :2006/09/23(土) 01:38:24 ID:BZbEIot+
それで思い出した。
流れにのってほのぼのとお話してる私のばかばかばか!
自己嫌悪でしばらく下を向いてから、気持ちをぐっと切り替えた。
私はみのりちゃんに怒りに来たのだった!
「う、うんとね。この前、啓ちゃんと来て、その……したとき、」
「セックスしたときね」
「言わなくていいよ!」
うわーん意地悪!
「と、とにかく、その時見てたんだよね?そ…その、してるとこ……それひどい、よぅ…」
結局最後のほうは蚊が鳴くみたいな声になってしまって、なんか耳まで熱かった。
口にするのが恥ずかしくて怒りきれない私の弱虫っぷりにがっかりだ。
ふふふとみのりちゃんが笑った。意地悪そうに。
「あら、見てたかどうだか、分かったの?」
ちがう。
啓ちゃんが言っていただけで証拠はない。
ないけどみのりちゃんの性格なら見る。
きっと見てる。
ううん見てたに違いないっ。
461『幽霊屋敷・2』5/9 ◆NVcIiajIyg :2006/09/23(土) 01:39:55 ID:BZbEIot+
じーっと睨むと、もうほとんど薄暗くなった中でみのりちゃんが眼を細めた。
「ふうん。それで、見てたとしたらどうなのよ?もう絶交?」
風が少し弱くなる。
隣から、体育座りのまま覗き込む顔はちょっとだけ表情が薄い。
「ねえアツキ、あたしのことがときどきはちょっと怖いでしょう」
「うん。幽霊だもん」
「正直だなぁ。なのに怒ってくるのよね。そういうところ好きよ」
くすりと笑って黒いスカートがひらりと立ち上がった。
階段を少し浮いたまま降りていく。
「ええ、見てたわ、アツキはすっごく可愛かった。
 あと、啓吾はちょっとがむしゃらすぎると思うわね。猿ねー」
鮮やかに笑い飛ばす背中を、むずがゆい気分で見つめる。
みのりちゃんはふと静かになって、顔だけでこちらを見た。
「…ねえアツキ。あたし、あんたたちが好きなのよ。
 ガキの頃からいっつも二人くっついていて、来なくなった時は寂しかったの」
「うん」
それは私達が地域のクラブに入ったからだ。
朝は家のお手伝いで放課後はクラブ、
秘密基地なんて高学年はもう遊ばない年頃だったんだ。
「だから春に制服見せにアツキがまた一人で来てくれて嬉しかったわ。
 このまえ二人で来てくれたときは、懐かしくてもう踊り出しそうだったんだから」
くすくすと肩を揺らし振り返ったみのりちゃんを見つめた。
意地悪で、悪戯好きで、無責任な強引さで下品だけれど。
啓ちゃんへの気持ちでどうしていいのかわからなくなったときに相談に来ると、
みのりちゃんはいつもここでわたしを後押ししてくれていた。
(半分くらいはえっちなことばかり言ってすぐにどっかに消えてしまっていたとしても。)
「もう。そういうこというの、ずるいよ」
そんな風に寂しそうな顔で笑われたら、
覗き見されても怒れなくなっちゃうっていうものだ。
462『幽霊屋敷・2』6/9 ◆NVcIiajIyg :2006/09/23(土) 01:41:22 ID:BZbEIot+
……も、もちろん怒ってる。
怒ってるんだけど。
秘密基地のことをしばらく忘れて道場で新しい友達と遊んでいた私たちは、
みのりちゃんにもっともっと、ひどいことをしていたんじゃないだろうか?
「うん、お姉さんはずるいのよー。意地悪にも年季が入ってるの」
華やかに、幽霊の彼女が笑った。
降りる歩みが扉の近くに辿り着き、セーラー服の端と髪がなびく。
うう。
なんだかごまかされてしまった。
私は雰囲気に促されるままにそれを追って扉に近付き、お屋敷の外を覗いた。
いつの間にか、月明かりが淡い満月だった。
「わ……もうこんなに暗いんだ。さっきまで夕焼けだったのに」
秋の日は落ちるのが早いって言うけど、本当だ。
「あんまり遅くなると危ないわよね。帰る?」
扉の傍で首が傾げられる。
うん、と頷いた。
最後に。
「アツキ。心配要らないわ。杞憂なんだから」
みのりちゃんはそんなことを笑って叫んで、屋敷の窓から手を振っていた。




463『幽霊屋敷・2』7/9 ◆NVcIiajIyg :2006/09/23(土) 01:42:45 ID:BZbEIot+

歯があたってしまった。
「ぁ、わり」
「ん、啓ちゃんばか……」
言いかけたところをまたぬるいのがのめりこむ。
湿った空気が布団の中でちょっと暑い。
呼吸が混じって歯みがきの味がする。
啓ちゃんの舌は長めでぬるぬるしているので、押し返したくても
私の短いのじゃ、ぜんぜん、足りなくてまた攻め込まれちゃうのが悔しい。
このひととするまで、背中も足の裏みたいに痺れるってことを知らなかった。
じっとり染みる膝の骨の下まで、甘いのが、ゆっくりゆっくりと溶けていく。
肉がくっついて腰の奥がすっかりとろけているのに、
頭のてっぺんから体全体がやっとい追いついてくる。
「ぁ、んっ、……んー!!」
二階の奥の畳の部屋で、押入れが足に蹴られてかたんといった。
帰ってきて、啓ちゃんのうちにいって、今晩は誰もいないって聞いた途端にこんなことをしている。
今日はなんか変で、おかしくなってしまいそうだ。
みのりちゃんのうち以来、こんなに気にしないでできる機会は滅多になかったからかもしれない。
それに今日は。
さっきのことを思い出して変に恥ずかしくなっていて、裸を見せるのも緊張してしまった。
今も、啓ちゃんが軽く揺らしただけで身体が震えて唇が離れてしまった。
はじめて、自分でしてしまった日から、こんな風になるのをどきどきして待っていたなんて。
私は啓ちゃんが知ってるより多分ずっといやらしいんだと思う。
そのほうが好きだー、なんて言ってくれるって分かってるんだけど、絶対そんなこと言えない。
また唇だけで何回もキスして、もう少し浅めに舌先同士でやりとりする。
下唇をなめたら啓ちゃんが喉の奥で呻いたのが嬉しくて何回も繰り返したら反撃された。
思わず背中が反ってしまう。
中に入っているものが大きくなって、動いてくれないのがもどかしくて腰を自分から動かして。
なのにぐっとお尻を掴まれて止められて泣きそうになってしまった。
見上げるとにまにまと笑われてなのに、それでもびくびく肩が跳ねてしまう。
464『幽霊屋敷・2』8/9 ◆NVcIiajIyg :2006/09/23(土) 01:43:34 ID:BZbEIot+
みのりちゃんは間違ってない。
……ほんとにいやらしいんだ、私。
「あっき。な、したい?」
「いじわるばっかりー、もう……」
小さい声しか出なくて、悔しいのでぎゅっと締め付けてみた。
中のものはちゃんと反応していて脈打つのが分かるのに、思うように気持ちよくしてもらえない。
ぎゅっと抱きついても軽く胸をもまれたり首に唇で吸いつかれたりするだけで、
なかなか一気に上り詰めさせてくれないままだ。
「してよぅ…啓ちゃん、して」
負けてしまった。
首に抱きついてねだると、こんな時いつもしてくれたみたいに。
幼馴染の恋人は、いつだって笑ってお願いを聞いてくれた。


中でどくどくいっている。
勝手に身体が甘くなって一秒ごとに砂糖漬けみたいになる。
頭が真白だったのがゆっくりと戻ってきていた。
「ぁ……あ、でてる…」
「ん…」
呟く私に低く答えて、啓ちゃんが強くわたしを抱きしめてくる。
抱きついた背中は汗をかいていてぬるぬるだった。
耳元で荒い息が何度も髪を湿らせている。
やがてぐったりした体重がかかってきて、中に入っていたものが抜けて、
いつもの、終わったあとのとろとろとした感じに二人で力なく笑った。
「気持ちよかった?」
聞かれたのに頷いて身を寄せる。
肌が温くて気持ちいい。
肘で腕とか胸とかをぷに、とつつかれたりキスしたりされていた。
髪をふわふわ撫でられるとちょっとずつ眠くなってくる。
微睡む前に、ふとみのりちゃんの手を振っていた姿を思い出した。
465『幽霊屋敷・2』9/9 ◆NVcIiajIyg :2006/09/23(土) 01:44:53 ID:BZbEIot+
……うん、でもねみのりちゃん。
ずっと見てたっていってるけど、幼馴染の私の方がずっとずっと
啓ちゃんを近くで見ていたからみのりちゃんが知らないことも知ってるんだ。
「ね」
腕の中から見上げて初めて口にしてみた。
「啓ちゃんの初恋ってみのりちゃんだよね」
「はあ?」
呟くと啓ちゃんは、なにいってんのおまえーやいてんの?と笑った。
「ううん」
答えてくすくす笑う。
うん。
啓ちゃんは未だに自分でも気付いていなくて、もうずうっと昔のことで、
みのりちゃんは
『啓伍はずっとアツキが好きでしょ?』
と一度だって本気にしないけれど。

昔私は喧嘩ばかりの啓ちゃんと年上の幽霊お姉さんに、ちょっと嫉妬していたのだ。
今はそうじゃないからいえること。
これは誰にも秘密のお話。

頬を頬に摺り寄せ、抱きついてちょっとだけ幸せに浸る。
かすかなインクのにおいが染み付いた壁と、
啓ちゃんあったかいにおいがする布団で小さい頃みたいに一緒に裸で寝ている。
……いやらしくてもいい。
こんなに近くにいられて一緒に気持ちよくなれるなんてとっても素敵なことなんだから。
「啓ちゃん、大好き」
耳元で伝わるように囁いて、今度こそ意識を葛湯のとろみの中にそっと沈めていった。


466名無しさん@ピンキー:2006/09/23(土) 01:57:26 ID:UtQpZkny
実にGJ!!
467名無しさん@ピンキー:2006/09/23(土) 02:26:47 ID:d5nEOGft
こいつは萌え過ぎるぜ
468名無しさん@ピンキー:2006/09/23(土) 11:03:55 ID:MGgzkBLH
>>456
何で貴方は男性視点も女性視点もそんなに上手いんですか!!
469 ◆tx0dziA202 :2006/09/24(日) 23:20:48 ID:DNuqooXu
拙作ですが、久々に投下させてもらいます。
保守代わりにでもなればいいのですが……
470Snow Dusk:2006/09/24(日) 23:22:28 ID:DNuqooXu
幾層もの雲。それはまさしく羊毛の編み物のごとく、遠く、遠く彼方まで町をを包み込む。
――文字通り、目に付くものが凍りつく寒さの日。
曇天から滴るものといえばただひとつ。
深々と、深々と。搾りたての牛乳よりなお白く、町は次第に宵闇へと沈みゆく。
赤々と燃えることすら許されずに陽光はもはや地平に沈み、深緑色の電柱の先についた白熱光のみが処女雪に抱かれた広い空間を照らし出す。
雪は光を反射する。だから、うすぼんやりと浮かび上がるのは、しろがね色の冬の学び舎。
校庭は大きなレフ板となって、古びた校舎を薄闇に淡く確立させる。

その中、ひとつの物影がゆっくりとレフ板を刻み行く。
ざくりざくりと校舎から足跡を転々とつけながら向かう先は、正面以外の三方を木々に囲まれた煉瓦造りの洋館。
真白い雪帽子のほつれた部分からは、この建物が日照る季節には新緑のツタに覆われていたであろうことを示す枯れ草があちこちから覗いていた。

物影は“霧神学園高等学校付属図書館”と書かれたプレートの横、黒ずんだ彫刻の入った扉の前に立つと、差していた黒い傘を閉じて雪を落とした。
傘の下から現れたのは、やはり鴉色の、襟の内側に“高槻”と金糸で刺繍された学校制服と、茶色いコートをその上から身につけた、丸い眼鏡の男子生徒。
上までしっかりとボタンを留め、染めてもいない黒髪を整えたその容姿は、やや童顔気味の彼の信頼に足る真面目さを保障していた。

彼は洋館の扉、飾りのついた取っ手を掴む。
すでに青く錆びたそれを引っ張る動作には何の無駄も無く、
「……四条。居るんだろ?」
扉の軋む音と同時に告げた台詞も同様に、一種の慣れが込められた平坦なものだった。

返事は無かったが、彼はそれを当然というように図書館の中に身を進める。
……と。
「うわ……」
一瞬で眼鏡が曇った。
当然だ。図書館の中は先ほど彼が呼びかけた通り、今まさに誰彼によって真夏とも思えるほどに暖房が効いていた。
冷えた眼鏡ほど結露しやすいものも無く、故にこれは妥当な末路である。

視界が完全に塞がれた彼は、そのまま図書館の入り口の段差――つまりは靴脱ぎ場に足を取られ、すっ転んだ。
「うわたったったたたた!」
土足のまま前に一歩目、右に二歩目、更に右に三歩目。
「――――ッ!」
前のめりになったまま腰を突っ張らせ、何とか持ちこたえようと4歩目を加える。
と。

ぐにょ。

「……ん?」
まるで、ゼリーか何か柔らかいものを踏んづけた嫌な感触。
そのまま、彼――高槻 薪は天地が横に傾くのを知った。
やっと曇りの取れてきた彼の眼鏡の端には――自分の足を滑らせる原因となった、彼自身の足跡がはっきりついた“真白い毛皮のコート”が宙に飛ぶ姿と、
次第に彼の頭に近づいてくる陶器製の傘立てが、まるで蜃気楼のように映っていた。
471Snow Dusk:2006/09/24(日) 23:23:33 ID:DNuqooXu




「……。」
高槻は図書館の地面に座り込み、頭に出来た海月の様に柔らかいこぶを渋柿でも食べたような顔をしながら抑えていた。
が、
「……はー……」
大きく溜め息をつくと、もうそこには先ほど見せた静かな怒りの表情は無い。
代わりに浮かんでいるのは呆れである。
短い溜め息を再度つくと、高槻は落ちていた白いコートを拾い上げた。
「……全く。こんなところに脱ぎ捨てるなって何度も言ってる筈なんだけどな……」

そして、図書館の中を見回した。
外観こそ漆喰がぼろぼろになっているものの、内装はクリーム色の壁紙で覆われ、微塵も寒さを感じさせない。
「……二階には居ないのか。」
彼の言葉通り、二階に灯火は見えず、わずかながらに本棚の影形が見える程度である。
もはや外は薄闇に包まれている。晴れた日ならともかく、探し人は上には居ないだろう。
「……と、なると。」
高槻は図書館の反対側を目指し、いくつもの旧い本棚の間を通り抜けていく。
この図書館はさほど大きくはない。……と、いうよりも、書庫というほうが正しいくらいのものだ。
校舎の方にある図書室で学生の用事は十分足せる。
ここにあるものは、哲学書や学術書……それに詩集や全集といったものばかりなのである。



いくつもの年代物の本の最奥……そこに、暖炉とロッキングチェアがあった。
そして、ロッキングチェアを窓に向けて外を眺める人影がひとつ。
膝の上には“荘子”と書かれた本。暖炉の前には小さな木製のテーブルがあり、ポットとカップ、それにスコーンが置かれていた。

暖炉は赤々と輝いており、高槻の耳にはぱちぱちと火のはぜる様な音が聞こえている。
が、よく見ると暖炉の中にあるのは電気ストーブとラジカセ。
何のつもりか、目の前の人影はわざわざまるで暖炉に火がついているように見せかけているのだ。
そちらのほうを横目で見ながら彼は、人影に――窓から雪化粧をされた森を見る女性に――話し掛ける。
「……探したよ四条。……全く。何でこんなことしているんだ?」

四条、と呼ばれた女性は、それを聞くと、
「……あら。どうかしたんですか? ……薪。」
やや低めの声質で応えた。
四条は本を両手で抱えつつチェアからすらりと立ち上がり、ゆっくりと高槻のほうに表を向ける。
腰よりなお長く伸びた黒髪がたなびく。細い肢体はしかし均整がとれており、華奢さを感じさせない落ち着いた態度を醸し出している。
皺一つ、黒子一つ見えないその顔は微笑を浮かべる表情のためか、白い印象を与えながらも冷たい感じはしない。
美人――というにはややあどけないが、それでもその範疇には含まれるだろう。
紫紺の制服と合わせ、黒と白のコントラストはあたかも今まさに降りしきる雪景色のような印象を人に与える。
472Snow Dusk:2006/09/24(日) 23:24:10 ID:DNuqooXu
「……どうしたもこうしたも無いと思うんだけどね。本当、君は無駄が好きというか呑気というか……」
高槻は暖炉に近づき、ストーブは消さずにラジカセのみを止める。
「……ふふ。性分ですから。」
四条は口元はそのままに、目を細め
「私は薪が、……ええ、薪の火が好きなんですよ。
でも、図書館で火を焚くのは昔ならいざ知らず、今はもうその必要はないでしょう? 
それに、あまり危ないことはしたくないものでして。」
「だからわざわざこんなことを……か。……まあ、いいけどね。
それよりそんなことを人前じゃ言わないほうがいいよ。」
「あら。どうしてですか?」
言われ、高槻は何度目かの溜息をつく。
「あのね、その“薪”ってのは僕の名前だろ? いらない誤解を受けちゃまずいだろ。」
その言葉に四条は表情を変えない。
口元に手を当て、
「……大丈夫ですよ。誰がそこから何を読み取ろうと、それを発した私の真意は変わることはないのですし。
私、四条水城個人が何を思っていても、真実とはそれぞれの内にのみあるものですから。
その逆もまた然り、です。」
そこから胸元に手を当てなおし、目を瞑る。

目を弓にする四条に対し、高槻は呆れ顔。額に手をつき、
「……どうしてそこまで人間関係とか噂とかに無頓着かな、四条は。
…………もういろいろと、諦めてるけどね……」
「あら、それは困りますよ……。薪にはこれからもいろいろと私を手伝って欲しい所存なのですが。」
真顔になる四条。それを見る高槻は、ここに来てやっとわずかな笑みを浮かべる。
呆れ混じり、ではあるが。
「……分かってる。僕も、いつか四条を任せられる人間が現れるまでは手伝うつもりだよ。今更気兼ねする程度の付き合いじゃないだろ?」
四条はくすりと、元の表情に戻る。
「ええ、その通りですね。ふつつかながらも、これからも宜しくお願いします。」
微笑を破顔にしての四条の返答。

「……だからそういうのは……いや、もういいよ。
……と。そうだ、これ……」
そういって高槻が差し出すのは、玄関口に脱ぎ捨てられていた白いコート。
「……四条。邪魔になるからあんなところに脱ぎ捨てないでもらいたいんだけどな。」
「ええと……御免なさいで宜しいでしょうか? ……あら?」
「……一応言っておくけど、その跡はそっちの自業自得だからね。」
四条はまじまじとコートについた足跡を見る。
「……結構雪で濡れていますね。寒かったでしょう、紅茶はどうですか?」
「気にするのはそこ?」
突っ込みつつも、高槻はうなずいた。
473Snow Dusk:2006/09/24(日) 23:24:55 ID:DNuqooXu

四条がポットをストーブの上で熱する間に、高槻はカップを取りに行ってきた。
マイセン様のそれに四条が紅茶を注ぐ。
それを見る高槻は、
「和菓子屋の娘が洋モノね……」
「もてなしの気持ちは、どこの国でも同じですよ。それと……私の趣味です。
……スコーンも食べますか?」
口端を上げていたままの四条の持つポットから、琥珀色の液体が器を満たす。それを受け取り、高槻は同意。
「趣味ね…… 四条の趣味は年寄り臭い物が多いよね。」
スコーンを頬張りながらの告げられた台詞には、内容はともかく声そのものには何の嫌味も無い。
「……そうですねー……。
お茶とお菓子とでゆっくりとくつろぎながら本を読み……それを反芻するために、四季折々の景色を楽しむ。
私はこういうことがとても好きですし、それを誰かと語らうことも楽しみとしています。
それをそう評価しても、全く可笑しいところはないですよ。」
と、再度四条は破顔。

「……やれやれ。冷厳なイメージの生徒会長の正体がこんな天真爛漫、太平楽な人間だと知ったら皆どう思う……か…な……」
急に言いよどむ高槻。それに気づいた四条が心配そうに尋ねる。
「薪……? どうしました? スコーンが喉に詰まったとでも?」
対し、高槻は渋い顔を作る。
「……四条のペースに乗せられてすっかり忘れてた。そもそも今日僕が四条を探していた理由は……」
頭を強めにかき、溜息をつく。
ついでにこぶを思い切り引っかいてしまい、高槻が悶絶する。
うずくまる高槻に、四条が苦笑とともに二重の意味で問いかける。
「ええと……どうしたんですか?」
痛みに顔をしかめながら、高槻は返答する。とりあえず、玄関口での失態は話さないように。
「……四条。今日、何があるか……いや、何があったか知ってる?」
「……? すみません、存じ上げないのですが……」
「―――――!」
高槻はこれ見よがしに大きく息をつく。

「あのね、今日は2学期の生徒会の決算の日だってこの前から言ってただろ!?
前回は珍しく僕に言われずとも来たから安心してたら、この一番肝心な日にこの大ポカ!
ついさっきまで他の生徒会メンバー全員で探し回ってたんだよ!」
息を荒げる高槻を前にして、四条は珍しい動物を見るような目をする。
「はあ…… そう言えばそうでした。それはともかく、あまりいきりたたないほうが健康にもいいですよ?
それに、頼りになる副会長が何でもこなしてくれますから。」
くすりと声を漏らす四条とは対照に、頭を抑える高槻。
「頼りにされる身にもなってほしいよ……
第一、今日は会長の印とか署名とか色々必要なわけでさ……
それでなくても前生徒会からの引継ぎの残務とかも残っているわけだし……
そもそも秋の選挙活動のときから……」
次第に声に力が無くなって行く高槻。
それに対し、四条は
「それならそうと言ってくれればよかったのに……」
と、全くの平静。
474Snow Dusk:2006/09/24(日) 23:25:40 ID:DNuqooXu

「言ってたよ……」
もはや高槻の声は石ころだらけの畑で取れた野菜のように頼り無い。
「大丈夫です。」
「何が大丈夫なの……」
「いいですか? 考えてもみてください。この地球が誕生してはや45億年。
その間にいくつものいくつもの生命が勃興し、世を謳歌し、そして滅び行き……その繰り返しです。
私たち人間もその一環に過ぎません。いいえ、存在を許されているのはわずか遡ること数百万年……数千分の一の期間のみです。
ましてや、その中の泡沫でしかない私たちの活動など……」
「思考がマクロすぎるって……」
高槻の口調にはもはや諦観すら混じり始めている。
それでも四条との対話についていけているのは、彼らの長い付き合いゆえか。

「……そもそもさ。自分で責任感無いって認めるような四条が、何で生徒会長になろうと思ったんだ……?
成り行き上僕も巻き込んでまで、さ。」
紅茶を一気に飲み干し、少しだけ気分を切り換え高槻は尋ねた。
「……なんで、と聞かれますと……皆さんに推薦されたからですけれども。」
相変わらず微笑を絶やさない四条。
「いや、そういうのじゃなくってさ…… 別に断ることも出来ただろ? 他の立候補者も居たんだし。
最後には選挙をやることになってまで四条がこだわる理由がちょっと思いつかなくてね。」

目を瞑り、高槻の台詞を最後まで聞く四条。
今日初めて、ふ、と息を吐く。
「……。強いて言うなら……仮面を被りたかったから、ですね。」
「……仮面?」
高槻の疑問。四条はそれを聞き、目はそのままに、口だけをいつもの微笑の形にする。
「……ええ。先ほども言いましたよね? 真実はそれぞれの内にある、と。
そして、皆はちょうど、私のことを冷厳な人間と思っているでしょう?
……ええ。つまりはそれが目的ですね。」
ふふ、と笑い声を漏らす。
「……分からないな。何でわざわざそんなことするんだ?」
四条は髪をかき上げ、ロッキングチェアを揺らした。
十秒ほどの沈黙の後、口を開く。
「……生徒会長、という仮面をつけずに話せる人間は、わずかに居れば十分だから……ですよ。」
くすくすと声を立て、四条は目を弓にした。
475Snow Dusk:2006/09/24(日) 23:26:26 ID:DNuqooXu

「……まあ、確かに四条の性格じゃよく知らない人と付き合うのは難しいだろうし、事実、生徒会長になってから話しかけられる事が元々少ないのが更に少なくなってるみたいだけど……
……なんだかなあ。行動力があるんだか無いんだか。副会長にさせられた僕のことも考えてほしいんだけどな……」
肩を落とす高槻。
「ふふ。ええ、その点は非常に感謝しています。そのうち何かの形でお礼をさせてもらいますね?」
「……わかった。じゃあ、早速その御礼とやらをしてもらおうかな。」
? と疑問を四条は頭に浮かべる。
「……流石に、そろそろ仕事を始めなくちゃね。」
「……ええと……。」
見れば高槻は口こそ満面の笑みを浮かべているが、眼鏡に光が反射し目つきが見えない。
同時、四条は表情こそ変えないながらも汗を一滴、流した。
「さっきも言ったとおり、生徒会長の署名やら何やらが必要でさ。
他にも色々雑務があったんだけど、どうにも手続きが進められないわけで。
仕方ないから皆で四条を探したんだけど、もうこんな時間だし、雪も凄くなってきただろ?
一年の子も居るから、僕以外皆に帰ってもらったんだ。」
「あの……薪?」
「いや、まさか完全に四条が忘れていたとは思って無くてね。こんなところに居るなんて盲点だったんだ。
結局、本来皆で取り組むはずの書類も丸々残っているんだよ。」
言いながら、鞄を開けて書類の山を取り出す。
今なお優しい高槻の声に、四条が軽く全身を震わせた。
「……さて。どうしようか、四条?」

もはや四条の笑みは能面のごとく形骸と化している。
上ずった声で、四条はつぶやくように、
「……分かりました。ええ、どれほど時間がかかろうと、何とかすべて一人で終えましょう……
ええ、終えますとも……」
うなだれる。
誓約の言葉を聞き、高槻は表情を元に戻した。
「宜しい。……さて、と。」
どっかりと、高槻は地面に座り込んだ。
「……薪?」
四条は思う。話の流れからして自分が全部やるべきであるのに、何故に彼は座り込んでいるのだろう、と。
「……言っただろ? 四条を任せられる人間と会うまでは手伝うって。
長い付き合いだし、今更四条の事を見捨てられないよ。」
「……薪……」
「……さて、はじめようか? ……二人きりしか居ないけど、頑張って何とか終わらせよう。」

照れ隠しの笑いつきの台詞。それを聞き、四条は、
「……ええ。
……二人で。
二人で、何とかやっていきましょう……?」
本日一番の笑みで、そう、答えた。
476 ◆tx0dziA202 :2006/09/24(日) 23:27:23 ID:DNuqooXu
情景重視の三人称の実験作だったのですが、お楽しみ頂けていたら幸いです。
それと、こんなところでフォローしてしまう時点で駄目なのですが、主人公たちの名前は
高槻 薪(たかつき たきぎ)
四条 水城(しじょう みずき)
となっています。

もし保管庫に収録していただけるのなら、一応作者が同一なので、“偶然の必然”の後に入れてもらえるとありがたいです。
出来ればトリップ以外のコテも消していただければ……
477After Short Short:2006/09/24(日) 23:28:24 ID:DNuqooXu
「ふひー…… 何とか……終わった……」
高槻と四条は、床にへたばっていた。
時刻ははや午後十時。子供はおねむの時間である。
「……しんどい……です。」
「……口に出さないで……ほしいな……。かえって……疲れる……」
言いつつ、二人は何とか体を動かし、出口に向かう。
「……会室の鍵は……僕が、持っているから……」
「……はい。とりあえず、これを……置きに行きましょう……」
四条が扉の取っ手をひねる。
……と。
「……あら?」
「……どうしたの?」
「扉が……」
言いかけ、四条は顔を青ざめさせた。一応、なんとか笑みは浮かべてはいるが。
「……あの、薪。非常に言いにくいのですが……」
嫌な予感を覚えつつ、高槻は先を促す。
「……雪……で、扉が開かなくなっている、かも……しれません……」
「……。」
「……。」
「…………ええええぇぇぇぇーっ!」


翌日。
早朝の雪かきの折、用務員により疲れきった生徒会副会長と、いつもとあまり変わらない(様に見える)生徒会長が、雪に埋もれた図書館から発掘されたという。


478名無しさん@ピンキー:2006/09/25(月) 09:13:59 ID:Fbv1NXRH
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480名無しさん@ピンキー:2006/09/26(火) 07:54:13 ID:zYO8Bb+P
>>476
GJ!
481名無しさん@ピンキー:2006/09/26(火) 13:41:25 ID:bgoCckhR
>>476
高槻、四条・・・
俺にゆかりのある地名ばかりだなw
482名無しさん@ピンキー:2006/09/26(火) 14:28:24 ID:90BrpRyv
阪急沿線乙
483名無しさん@ピンキー:2006/10/01(日) 00:01:47 ID:nwPb4F6h
age
484名無しさん@ピンキー:2006/10/03(火) 18:38:30 ID:5lphPwNS
馴染みホシュ。ちなみに現在423KB
485名無しさん@ピンキー:2006/10/07(土) 12:54:27 ID:MNUDDX0t
ヤバいぜ、上げなきゃ。

最近リアルの幼馴染みに会ってないなぁ……
486名無しさん@ピンキー:2006/10/07(土) 22:02:54 ID:R0SfmTaz
俺の幼馴染・・・結婚しちまうんだ・・・。

このスレにでてきたような関係じゃあなかったけど・・・。

それでもやっぱり・・・寂しいもんだな・・・。
487名無しさん@ピンキー:2006/10/07(土) 23:38:00 ID:D8m+Qxh0
>>486
結婚報告乙
488名無しさん@ピンキー:2006/10/08(日) 08:47:50 ID:kZD8Xs7i
奪還フラグktkr
489名無しさん@ピンキー:2006/10/09(月) 23:34:27 ID:RhSMIwZh
>>486
俺の幼馴染みはできちゃった結婚した。
まあ、ふ〜んって感じだった。

おまいの書き込み見て俺は薄情な奴だと気付いた。
490名無しさん@ピンキー:2006/10/09(月) 23:59:54 ID:GsXB4yKd
なかなか作品が来ないなあ…… 大学始まる時期だから仕方ないのかもしれないけど。
自分も暇なときに書いてるけど、今までと芸風変えたのを試しているからなかなかはかどらない……
491名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 06:28:34 ID:a7ebs9Db
シロクロにグッときて一話から読み返し、相変わらず巧い◆NVcIiajIyg師の台詞回しに「すげー」と思い。
つか真由子エロすぎだよ真由子。

神々には遠く及ばないにしても、正月以来久々にこのスレで書いてみようかしらん。
492名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 10:46:47 ID:m6tC7tSU
ひーこと梅タンに続く第3のヒロインまだー
493名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 23:52:44 ID:VAK3BZq3
じゃあ呼ばれてない俺がッ!
空気も読まずにッ!
続きを投下だッッッ!
494Sunday:2006/10/11(水) 23:54:22 ID:VAK3BZq3




 幼い頃から共に過ごした、二人の終わりと始まりは。




 時間は早朝、天気は曇り、場所は駅前のスクランブル交差点。




 車のクラクションに、靴底がアスファルトを叩く音。




 信号が変わったことを伝えるカッコウの鳴き声が、辺りから彼らの耳へと届いていく。




 そんないつもと同じような、日常が流れる片隅で。




 知り合って久しい幼なじみと、初めて交わした刹那の秘め事。




 幼い頃から共に過ごした、二人の終わりと始まりの思い出は。




 これまでも、これからも、二人の中に残り続ける。




 それはつまり、二人がこれから幼なじみではなく。




 恋人としての関係を深めていく何よりの証――――
495Sunday:2006/10/11(水) 23:56:15 ID:VAK3BZq3



「浮気されたぁ!?」


 …………の筈なのだが。


 そんな台詞が発せられたのは、学校も終わり下校途中にファミレスに寄って、自由という
時間を気ままに過ごす女子高生の団体から。4人の女の子が、テーブル席を占領している。

 一人表情が沈み眉は八の字に垂れ、肩を悲しそうに沈めながらため息をつくその女の子を、
取り囲む友人達は各々驚きながら見つめている。
「えぇー……、また?」
「付き合い始めて五ヶ月で二回目か、結構ペース早くない?」
「前回ので味を占めたのかもね、この娘結局許しちゃったし」
 しかもこのような事態はどうやら今回が初めてではない様子。友人達の配慮に欠けまくった
率直すぎる感想に、彼女の心はぐさぐさと貫かれていく。
「そんな大きな声で言わないでよ……」
「あ…ごめん」
 衝撃の展開に色めきたとうとしていたその友人達も、今にも鳴きそうな顔で呟く彼女の
様子に、空気を抜かれたように消沈してしまった。

「でもさ、まだそうだって決まったわけじゃないんでしょ? その一回目も結局は二人で
会ってただけなのを勘違いしてただけみたいだし。今回だって……」

「甘い甘い、あんたの彼氏は絶対浮気しないタイプだろうから分かんないだろうけど、
彼女の預かり知らないところでこっそり二人で会ってんだよ。下心アリアリに決まってんじゃん」

 その内の一人の、後ろ髪を三つ編みに束ねた女の子がへこむ彼女を少しでも元気付けて
あげようと楽観論を主張してみるものの、その正面に座っていた髪を茶に染め、所々に
アクセサリーを纏った女の子が現実論で打ち砕く。
「それに前回だって、たまたまこの娘がその場を見たから止めたのかもしれないしさ。
ぬるい考えしてると痛い目遭うのは自分だよ」
「痛い目遭うのはあんた」

びしっ

「痛っ! 何す……」
 自分の経験からなのだろう意見をどんどんと口にしていく茶髪の娘だったが、隣に座って
いた後ろ髪が跳ねた女の子にいきなりデコピンをかまされる。文句を言おうとしたものの、
みんなの視線がとある一点に集中していることに気付き、その先を見て口を噤んでしまった。
その視線の先にいたのは、がっくりとした様子で机に突っ伏す当事者の姿。
496Sunday:2006/10/11(水) 23:58:06 ID:VAK3BZq3

「ううう〜……」
 今の言葉が止めを刺してしまったのか、とうとう唸り始めた。普段の明るく元気な表情は
どこへやら、すっかりしょげてしまっている。

「真由ー、あたしどうしたらいいのかなぁ……」

 突っ伏したまま、後ろ髪が跳ねた女の子に答えを求める。
「別れればいいんじゃない」
 注文した梅昆布茶を啜りながら、落ち込む彼女に目もくれず真正面を向きながら答えを
返す。頼りにされたのに突き放したと言った方が正しいのかもしれない。
「また元の幼なじみに戻ればいいと思うわ」
「それだけは絶対にヤダ」
 あまりに冷たい親友のものの言い方に流石に怒りが募ったのだろう、顔を動かしてその
親友の顔をじろりと睨む。にも拘らず、その親友は意に介さないまま茶を啜り続けている。
「じゃあ『別れない』で結論出てるじゃない、何を悩んでるのかしら」
「それは、その」


「紗枝」


 湯飲みをテーブルに置き、真由と呼ばれた親友は彼女の名前を口にする。
「…なに?」
「あなたとお兄さんは幼なじみの方がきっと上手くいくと思うわ」
「……大きなお世話」
 うんざりしたように身体の中の空気を全て吐き出しながら、紗枝と呼ばれた少女は再び
机に突っ伏した。



 平松紗枝、17歳。この春、三年生に進級。健康状態は極めて健康。友人関係も至って良好。



 曇り空の広がる早朝に、駅前のスクランブル交差点で二人が初めて想いを通わせたのは、
もう5ヶ月も前のこと。泣き顔と笑顔が交錯し、特別な意味をこめて触れ合った手の平の
温もりは、今でも彼女の手にはしっかりと残っている。
 一度は潰えた気持ちと、17年分の思い出を。しっかりと抱きしめて、これからは一緒に
生きていこうと約束しあったあの日の出来事。それが今の彼女の根幹を支えている。
497Sunday:2006/10/11(水) 23:59:31 ID:VAK3BZq3

 なのに、なのになのに。彼、いや奴ときたら。最初の二ヶ月こそいつでも会ってくれたり
会いに来てくれたり、甘やかしてくれたりなんでも言うことを聞いてくれたのに。今では
たまにしか会えないどころか、預かり知らないところで違う女の子とデートをする始末。
そりゃまあ彼女も鬼ではない。自分以外の女の子と話をしたりしても、そこは仕方ない。
 とはいうものの、初めてそれを知った一度目の時は、その後に浮気だ浮気だとがなりたて
涙を浮かべ、枕で何度もぶっ叩いたせいで随分と相手をげんなりとさせてしまったのは、
恋愛経験の拙さと、好きだという気持ちを裏切られたからという気持ちと、表立って嫉妬
できるようになった立場が複雑にこんがらがったからに他ならないのだが。
 
 だけどその時、彼は約束してくれた。「もう二度と黙って他の女と二人きりで会わないから」と。
何度も何度も念を押した。そして彼は間違いなく首を縦に振った。なのに、なのになのに。

「あ、そろそろヤバそう」
「また爆発するの? あんたも飽きないわねぇ」
「いいんじゃないの、それだけ本気になってるってことだろうし」
 どんどん不機嫌になり涙目になっていく紗枝の表情を横目に、もはや友人達は慣れたもの。
そそくさと自分達が注文したメニューを彼女から遠ざけていく。どうやら浮気以外のこと
でも、彼のことで色々と心を砕いているようだ。


「あ゛〜〜っ、もう!!」


 どこかの弁護士が異議を申し立てる時のような勢いでテーブルをバンと叩くと、いよいよ
その瞳には怒りの炎が灯った。
「なんでこんな思いしなきゃいけないの!?」
 とはいうものの涙目で口はへの字なのだからどことなくかわいらしい。

 しかしそう言いたくなるのも仕方のないことである。ようやく幼なじみという関係から
先に進むことが出来たというのに、そこからたった数ヶ月で停滞するどころか今は後退
しそうな勢いなのだ。
「まあまあ、メールで謝ってくれてるんだしいいじゃんいいじゃん」
「なんにもよくない! 会えないならせめて電話で言ってくれたっていいのに……」
 
 4月末日、時間帯は放課後。彼女が日頃時間を共有することが多い仲の良い友人達と、
目前に迫ったゴールデンウィークをどう過ごすかという話で盛り上がっている時に届いた
一通のメールが、話の展開を劇的に変化させる発端となった。

 端的に言ってしまえばそれは、浮気現場(かどうか定かではないが)を目撃し、理由を
問いつめる紗枝の詰問に対する彼の答えなわけで。
 ところがどっこい肝心要の、そのメールの内容はというと。

『悪い、これからバイトなんだよ。今度ちゃんとじっくり話すから』

 わずかにこれだけ。謝罪の言葉も、紗枝が欲しがっている類の謝罪とはまったく別のもの
だったわけだ。これで紗枝が頭にこないわけがない。
498Sunday:2006/10/12(木) 00:01:14 ID:VAK3BZq3

 再び携帯を取り出し、その液晶画面をまじまじと見つめてみるものの、当然その内容が
変化するはずも無く。魂が抜き出て行きそうな勢いでまたため息をついてしまう。
「前はあんなに優しかったのに……」
 ジュースに刺さっていたストローを取り出すと、先に溜まった水滴で寂しく相合傘を描く。
その不気味な行動が周りの不安を煽り、彼女の気持ちがいよいよ限界に近いということを
感じ取る。

「ね、真由」
「何?」
「真由は知ってるんでしょ? この娘の彼氏がどんな人なのか」
「まあね」
 本人には聞こえないところで耳打ちによる会話が始まる。茶髪の娘は半ば楽しんでいる節が
あるようだが、同じく彼氏持ちの三つ編みの娘だけは本当に心配なようで、事情を詳しく
知っている第三者に説明を求める。

「どんな人なの?」
「言わなくても分かるでしょ? 最っ低な人よ」
「……」
「……」

 ズズズズズズズッ

「いや、そりゃそーだけどさ。私が聞きたいのはそんなことじゃなくてさ」
「……ふぅ」
「いや、『ふぅ』じゃなくて」

 確かにこの多少変わったところのある紗枝の親友は、二人の事情を詳しく知っているし、
二人の馴れ初めもよく知っている。当初は応援さえしていたほどである。しかし、その親友が
一時期引きこもる原因を作り、その後もしばらく我関せずの態度を取った直前の彼の行動
言動が彼女には相当腹立たしかったようで。5ヶ月経った今でもその怒りは解けていないようだ。
なんにせよあの一件で、彼女の中で彼の評価がガタ落ちしたのは確かなようである。

「で、どうすんの紗枝」
「バイト終わったら問い詰める。返答次第によっては殺す」
「別れないんじゃなかったの?」
「別れないけど殺す」

「「「……」」」
499Sunday:2006/10/12(木) 00:02:02 ID:fZLBTm+j

 発言に破綻をきたしてきたということは、それほどまでに腹に据えかねているのだろうか。
それとも、他にまだ何か理由があるのだろうか。
「ねえ紗枝、他にも理由があるんじゃないの?」
 たまりかねて、髪を茶に染めた娘が聞いてみる。


ぎしぃっ


「ひっ…!」
 邪気眼も真っ青の脅威の眼光で睨まれ、友人は言葉を喉に詰まらせる。今までは面白
おかしく弄ったとしても、こんなに恐ろしい形相を見せることは無かった。ということは、
他にもまだ理由があるのだ。しかも、これまでのことよりも大きな理由が。

「実はさ…」
 一睨み利かせて気が済んだのか、どうして今日に限ってここまで機嫌を損ねているのか、
その理由を寂しげに打ち明ける。


「こないだ崇兄がこっそり会ってたの、崇兄の元カノだったんだ…」


「え」
「は?」
「ちょ…」



「「「えええええぇぇぇーーーーーーーーー!!!」」」



 またしても、ファミレス全体を揺るがすような大きな声が、その場に響いたのだった―――

500Sunday:2006/10/12(木) 00:06:28 ID:fZLBTm+j
|ω・`)……オヒサシブリデス



|ω・`;)ノシ ゴメンネ、コンナハジマリカタデゴメンネ 



|ω・`;)ノシ >>228ノヒト、ツヅキカイチャッテゴメンナサイ



|ω・`*)ノシ >>444ノヒト、サシエヲアリガトウゴザイマシタ



|・ω・`)ノシ ツヅキハキタイセズニオマチクダサイ


  サッ
|彡

501名無しさん@ピンキー:2006/10/12(木) 00:36:31 ID:kUOs2eGr
期待せずに待てるかぁぁぁぁぁ!
502名無しさん@ピンキー:2006/10/12(木) 01:05:38 ID:fUbViIda
わぁ〜い、続きだぁ〜w
503名無しさん@ピンキー:2006/10/12(木) 09:23:35 ID:Sz2+hEt5
ちょ、てめ、空気読めよwwwwwww

GJwwwwwwwwwwww
504名無しさん@ピンキー:2006/10/12(木) 14:57:30 ID:njOMGl20
まっっっておりましたぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
505名無しさん@ピンキー:2006/10/12(木) 19:23:00 ID:LIjx4YUi
信じてた、この日が来るのを…!
506名無しさん@ピンキー:2006/10/12(木) 20:00:31 ID:ZgmQ5dw9
空気が読めないのって困るよなw


         / ̄ ̄ ̄フ\               _       ノ^)
       // ̄フ /   \            .//\     ./ /
      //  ∠/  ___\___  __//   \   / (___
    // ̄ ̄ ̄フ /_ .//_  //_  /      \./ (_(__)
   // ̄フ / ̄////////////         |  (_(__)
 /∠_/./ ./∠///∠///∠//      ∧ ∧ /) (_(__)
∠___,,,__/ .∠__/∠__/∠__/       (´ー` ( ( (_(___)
\    \ \/ ̄ ̄ ̄フ\ \ \_ \  _   /⌒ `´  人___ソ
  \    \ \フ / ̄\ \ .//\  //\ / 人 l  彡ノ     \
   \ _  \//___\/∠_  //   < Y ヽ ヽ (.       \
    //\///_  //_  ///     人├'"    ヽ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   //  //.////////∠/      ヽ-i ヽ__  ヽ
 /∠_//./∠///∠// .\\       `リノ ヽ |\  ヽ
∠____/.∠__/∠__/∠フ\.\\      c;_,;....ノ ヾノヽ__ノ
507名無しさん@ピンキー:2006/10/12(木) 23:57:47 ID:/7Tri+Hc
キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━ !!!

ヾ(*´∀`*)ノキャッキャッ
またこのスレに引っ越すよw
508名無しさん@ピンキー:2006/10/15(日) 23:40:10 ID:hAIbYeRy
どうしてだろう?
本人は今回全く登場してないのに、無精髭のばして、煙草くわえて、
頭掻きながら苦笑いしてる崇兄ぃがありありと見える……。

いつもながらGod jobです(^^)。
509 ◆6Cwf9aWJsQ :2006/10/16(月) 00:20:13 ID:U48LTcQG
>>500氏に負けちゃいらんねえ!

と、いうわけで(どんなだ)短編投稿。
「・・・ん・・・ふあ〜あ〜・・・」
小鳥の囀りを耳にしながら私は目を覚ました。
即座に枕元においた目覚まし確認。
時計の針はベルを鳴らす十分前の時刻を示している。
今日も私の勝ちだ。
「三日坊主にならなきゃ良いけど・・・」
連勝記録は今日で三日目だ。
でもこれ以上の連続記録は未だ出したことがない。
まあ正直もっと寝ていたいのが本音だけど、
「もっと手間のかかる人がいるからね・・・」
そう呟きながら思い浮かべるのは一人の少年の顔だ。
幼い頃から傍にいてくれて、優しくて、時には支えてくれて、
でもどこか抜けていて本当は甘えたがりな私の最愛の人物。
全く世話の焼ける人だと心の底から思う。
でもそんな彼の世話を焼くのが楽しいというか彼のためにしてあげること全てが幸せだけど
でもでも彼に尽くしてもらうのも悪くないっていうかたまにはしてくれないかなあ無理かな
でもでもでも彼ってすっごく優しいし風邪引いたときは看病してくれたでもまあ馬鹿だけど
でもでもでもでも彼のそういうところもかわいいかなって思うたまに格好いいときもあるし
でもでもでもでもでも彼ってばもうねああちょっとねむくなってきたおやすみぐう――――
セットしたままだった目覚ましのけたたましい音で私は夢の世界
(いろいろな意味で)から現実の世界へ強制送還された。
登校準備を済ませるとすぐに家を出るべく早足で廊下を進む。
登校時間には早いけど、寄るところがあるからだ。
途中、居間の横を通り過ぎようとしたところでそこで朝食を取るお父さん――毎日帰りが遅いので
この時間帯や夜にしか顔を合わせる機会がない――とお母さんに軽く挨拶。
「おはよー!行ってきます!」
「ああ、おはよう」「朝から元気ねえ、綾乃は・・・」
当然だ。これからいつものところへ出かけるのだから。
最愛の人の元へと。

「け・い・す・け・起きなさ〜い!!」
朝も早くから私の声が人影のない部屋に響き渡る。
それに反応するかのようにベッドの上の布団がもぞりと動き出した。
「・・・ん〜・・・」
うめき声を上げながら布団がゆっくりと真ん中あたりから折れ曲がるように起きあがっていき、
90度に達したあたりで一瞬動きを止めるがすぐに重力に負けてずり落ち、中身を露出させた。
私はその中身だった人物に簡易的敬礼ポーズを取って挨拶する。
「おっはよっ、啓介♪」
「おはよー綾乃・・・」
啓介は瞼をこすりながら気だるさを隠しもせずに挨拶を交わす。
うわ可愛いなあ頭撫でてあげたいなあ。
そう思ったので実際にそうした。
意識がまだしっかりしてないのか啓介はそれにも嫌な顔一つせず、
「・・・いまなんじ?」
「7時15分」
腕時計が示す時間をそのまま言うと私は軽く両腕を左右に広げ、
啓介に抱きつ――
「なんだよまだヨユーじゃないかおやすみ・・・」
――こうとしたところでかわされ、
「あら?」
私は彼と激突した。
「ぶべっ」
何かに顔面からぶつかった衝撃と聞き慣れない悲鳴を耳にしたことをきっかけに
俺は完全に目を覚ました。
・・・なんだ今の悲鳴。
首をかしげるが自分の喉の筋肉がついさっきまで動いていたことに気付き、
自分が出したものだと納得する。
でもなんで悲鳴を上げたんだろう。
当然何かにぶつかったからだ。
・・・何に?
たしか時間に余裕があるんで二度寝しようと布団に倒れ込んで、
でもその割には妙に弾力があるようなっていうか前にもこの感触を味わったような――――
そこで俺は気付いた。
自分が布団ではなく別のものに顔を突っ込んでるということに。
「あの・・・」
その思考が正解だと証明するように聞き慣れた声がすぐ傍から聞こえる。
それも俺の顔のすぐ上から。
どういうことだと思いつつも声のする方へ顔を向ける。
その動きにあわせてまた柔らかい感触が顔に伝わってきて心奪われそうになるが今は無視。
そして視界がクリアになり、
「な・・・・・・・・・・・・!?」
硬直した。
「あ・・・・・・・・・・・・」
現在の俺の視界。
そこには聞き慣れた声の主――綾乃の顔があった。
それもドアップで。
「・・・えっと・・・」
そう呟いた綾乃の顔はハトが豆鉄砲でも喰らったかのように呆然、という感情を形にした表情で、
顔色もなんだか赤く――というよりは桃色に――染まっている。
・・・ええとどういうことだいったい。
まず俺と綾乃の顔が近くてでも俺が見上げるような形になってああなんか唇柔らかそーだなまあ実際
柔らかって違う柔らかいと言えば俺が今触れてるものって綾乃の顔の位置から推測するに――
「――あやのの、むね?」
その質問に綾乃は首を盾に動かすことで答える。
要するに俺は今、綾乃に抱きついている。
それも彼女の胸に顔を埋めるという形で。
「・・・ええと・・・あはは・・・」
流石に綾乃もこの状況が恥ずかしいのか
何より今の状況では綾乃の心臓の鼓動が速いペースで響いて来るので彼女の動揺がイヤでも解る。
「・・・」「・・・」
「・・・・・・」「・・・・・・」
気まずい沈黙。
イカン。この状況を打破せねば。
そう思うが俺の脳は焦りのあまりワケの分からないことを浮かべてばかりで思考がまとまらない。
ヤベェよ兄貴・・・・・・弱い考えしか浮かばねえ――――!!!
とりあえず俺は綾乃に何か言おうと口を開き、
「――――」
硬直した。
俺の視界を占領している綾乃の顔がとてもとてもステキな笑顔を浮かべていたからだ。
その瞬間、俺の危険察知メーターが一気にレッドゾーンを通り越した。
・・・マズい。とてもマズい。非常にマズい。とにかくマズい。
一刻も早く逃げないと――
そう思った俺は彼女の胸から顔を引きはがす。
が、すぐに再び顔を埋めることになった。
というか、埋めさせられた。
「な・・・・・・・・・・・・!?」
「可愛い〜〜〜〜!!!」
綾乃の叫びと遠慮のない抱擁で俺の悲鳴はかき消された。
「啓介、怒ってる?」
「・・・怒ってないけどさ」
登校中、俺はさっきまで(食事以外の時は)閉じていた口を開いた。
なんか言い方にトゲがあるがクセだからしょうがない。
綾乃もそれを承知しているためそこは気にせず、
「気持ちよかった?私の胸」
「・・・すごく」
ボソリと呟くが、綾乃はそれも聞き逃さず、
「ありがとっ♪」
と笑顔で礼を返すと自分の胸に手を乗せて、
「今度、またしてあげよっか?」
・・・遠慮しておきます。
「是非お願いします。」
・・・あれ?
「へえ、そうなんだ」
綾乃のにやりとした笑みを見て、俺の背中は一瞬で汗まみれになった。
「いや違うぞこれは、本音と建て前が逆になって――」
「本音なんだ?」
脂汗の他に冷たい汗まで流れ出した。
そんな俺の様子を見て綾乃は笑顔を慈しむようなものに変え、
「ホント可愛いよね、啓介って」
「・・・うるさい」
そう言って彼女から目をそらそうとする。
と、いきなり腕を組まれた。
「っておい!?」
慌てて文句を言おうと彼女に向き直るがやはり彼女は笑みを崩さず、
「じゃ、行こっか♪」
「・・・ああ」
そう返事をすると俺達は再び歩き出した。
愛しい人と共に歩いていく。
・・・これがずっと続くといいな。
そう心の片隅で思いながら。
516 ◆6Cwf9aWJsQ :2006/10/16(月) 00:28:34 ID:U48LTcQG
今回は以上です。
長編の方はもうちょっと待って下さい・・・。
517名無しさん@ピンキー:2006/10/16(月) 00:53:44 ID:6AW3A8np
GJ!
ついにこの二人もそろそろエチ路線に突乳か!
518名無しさん@ピンキー:2006/10/16(月) 08:51:38 ID:4HQRT4Vm
GJ!
ラビューラビューってポルノか?ポルノなのか!?
519名無しさん@ピンキー:2006/10/16(月) 20:04:56 ID:ibJyCUv4
事の重大さを10分も説きたい…
520 ◆6Cwf9aWJsQ :2006/10/16(月) 21:39:10 ID:sZXdTvFy
>>518
その通りです。
曲聞いたときに「ああ、ウチの二人ってこんな感じかなあ」と思って今回拝借しました。
521名無しさん@ピンキー:2006/10/17(火) 01:05:57 ID:j8S4QNkJ
乙です
綾乃は良いキャラだなぁ
522名無しさん@ピンキー:2006/10/17(火) 06:34:06 ID:KTkeAp87
ベタ惚れ系幼馴染最高!!
523名無しさん@ピンキー:2006/10/17(火) 07:37:15 ID:g3EEHUMi
くそっ、なんて威力だ(*´д`)
524名無しさん@ピンキー:2006/10/18(水) 12:25:47 ID:5EzU2LmZ
神が降りた・・・・・
525名無しさん@ピンキー:2006/10/18(水) 14:12:15 ID:E2AmbrhK
正直エロが待ちきれぬ
526 ◆NVcIiajIyg :2006/10/20(金) 01:22:06 ID:9ytMuuHp
では連載物の箸休めにでもお気軽にどうぞ。
幽霊と幼馴染バカップルです。今回えろくなくてごめん。
527『さよなら幽霊屋敷(上)』1/6 ◆NVcIiajIyg :2006/10/20(金) 01:24:01 ID:9ytMuuHp

森長亜月はよく眠る。
小さい頃からちょっと目を離すと、縁側で眠り俺の背中で舟をこぎソファにうつ伏せ枕を抱いていた。

その寝顔が、その、とんでもなく可愛いのだ。

いわば、お母さんがケーキを焼くにおいが嬉しくてドアの傍で笑ってる女の子が、
そのまま花の香りで眠ってしまったみたいな感じだ(というのはみのり談である。
なぜあの性悪幽霊からこんな乙女チックな表現が生まれるのか?…閑話休題)

しかも色素が薄いので陽射しにとける栗色の髪が透ければ、よりいっそう柔らかい表情に見える。
寝言が「ねこ」とか意味不明なのもまた堪らない。可愛い。
亜月はものすごい美人というわけではないけれど、とにかくその寝顔で可愛い可愛いと評判だった。
小学校中学年くらいまではそれなりにもてたし、俺はもちろんそれにイライラ嫉妬してよく泣かせるくらい喧嘩した。
冷やかされるようになって意識的に距離を取り出した頃には、
もっとおしゃれが上手くてませている女子達がもてるようになっていて、
俺は情けなくも少し安心しながら距離を取ったもんだった。
それが中学に入った頃だったか。
亜月は相変わらず泣き虫で、なのに一緒に続けていた剣道だけは負けず嫌いだった。

「そういやあの頃からか。ここが成長しだしたの」
528『さよなら幽霊屋敷(上)』2/6 ◆NVcIiajIyg :2006/10/20(金) 01:24:48 ID:9ytMuuHp
いつの間にか手に余るほどになったそれは、ビリジアン(懐かしい)の冬服の下でも豊かに皺を作り存在を主張している。
部活の練習疲れなのか、二人でまったりしていたら気がつくと亜月は眠ってしまっていた。
優しい寝顔が喉辺りをむずむずさせた。
懐かしい寝顔は変わらず、身体だけが誘うように成長している。
耳にかかる毛先が流れて、呼吸と共に震える運動が吸い込まれるように手をひきつける。
寝ている相手だというのに、息が荒くなるのを自覚していた。
眠る幼馴染兼彼女を覗き込んで顔を近づけ、制服越しに右の胸をやわやわと揉んだ。
薄い吐息を漏らして肩を捩る姿がエロイぞ、あっき。すごいぞ。
…俺のあれはもうアークインパルスだ。

「啓伍、すごく面白いわ……」
斜め上からしみじみとした声が落ちてきた。
俺のあれは途端にフォークボールと化した!
しばらく脱力しまくったあとで振り向き、眼を丸くした女子高生の幽霊を捉える。
隙間風がかすかに絹の髪をさらう。
――黒髪ロングの膝下スカートに赤いスカーフと三つ折りソックス、時代錯誤も甚だしい格好が星の明かりに透けている。
ふうと溜息をついて玖我山みのりは腕を腰に当てた。
そしてぐっと片手を突き出した。
「しまったー。あまりに啓伍が面白かったからつい。いいよ、続けて☆」
「っ、く、く…っ」
ぐっとサムズアップで真剣にウインクされた。
顔に一秒単位で血が上っていくのは怒っているせいだけではないと、懸命な読者諸君はお分かりだと思われるね!
「み…みのりてめえ……。今日という今日は許せん………」
「しーらないっ。啓伍がやらしーのが悪いのよー!身に覚えのあることするから!
 えっちーえっちー!すけっちわんたっちー!へんたーいすけべー!!」
「っくああぁ!小学生かコノヤローー!」
叫ぶだけ叫びながら実に楽しそうに部屋をすり抜けていく馴染みの幽霊を追いかけて廊下に飛び出し、分厚い埃を散らして駆けた。
一分ほど追いかけっこを続けたところで長い髪がなびいて軽やかにコンクリートの割れ目に消えていくのが見えた。
「くっそ…今に見てろよっ!」
肩で息をしながら月の見える闇を睨む。
529『さよなら幽霊屋敷(上)』3/6 ◆NVcIiajIyg :2006/10/20(金) 01:26:09 ID:9ytMuuHp
コレだから折角の隠れ家デートも油断がならないというのだ。
邪魔しないから自由に使っていいわよ♪とかなんで信じたのか一時間前の俺!
だいたいあの幽霊、客観的に見れば俺だって認めてやらなくもない美人なのに下品な言動で台無しだ。
「ったく、喧嘩中まで嬉しそうな顔しやがって」
「啓ちゃんもね」
後ろからおかしげな声がして、心地よい感触が腕にきゅっと指をからめてきた。
薄手のコートを羽織った体温は暖かくて実に落ち着く。
「あ、起きたのか」
「…ごめんね、寝ちゃって。もう暗くなっちゃった」
「いーって。俺、あっきの寝顔好きだしさ」
疲れてどちらかが寝てしまうのは珍しいことではなかったから、ほんとに怒ることじゃなかった。
頭を撫でてやると、亜月が声にならない声で小さく何か呻いた。
柔らかい髪と小柄な姿が、腕に深めに隠れる。
…そうやって、いつまでたっても誉め言葉に照れる姿は可愛すぎて参る。
っていうかやばい。
単純すぎて何だが、胸が当たってるので再びあれがなにしてきた。
……あっきが眠ったの、これからしようかなーっていう雰囲気の時だったしなあ。
部活帰りで少し汗のにおいがするのもあの空気を思い出させて鼻の奥までくらりとする。
腕時計を覗けば八時前だった。
唾を飲み込んでから腕にしがみつく幼馴染の彼女をそっと見下ろした。
「亜月。時間、いつまでへーき?やっぱしない?俺は、したい」
「……ぁ」
脇にかかる息が熱くなって亜月も同じ衝動を抱いているのが分かった。
スカートから覗く白い膝が期待に痙攣するのを見たところで理性が切れた。
そのまま深緑の制服を壁に押し付け、最後まですることにした。
床の埃が粘って汚れてしまった。


530『さよなら幽霊屋敷(上)』5/6 ◆NVcIiajIyg :2006/10/20(金) 01:28:19 ID:9ytMuuHp

後始末をして、屋敷のホールに降りる頃には九時をまわっていた。
「やっべ。夕飯抜きかもしんね」
「そしたらうちに食べに来るといいよ」
手を引かれる亜月が答えながらきょろきょろ天井を見渡している。
袖口やスカートの皺が先ほどの余韻を伝えて愛しさを増した。
「そういえば今みのりちゃん、いないのかな」
「あー?どうでもいーよ。呼べば来んじゃねーの」
「仲いいよね、二人とも」
亜月がくすくすと呟く声は明るかった。
…ちょっとくらい嫉妬してくれればいいのにとか思ったり。
いや、俺とあの性悪幽霊の関係には昔も今も何も
あったもんじゃないので、嫉妬されても困るんだが。
「いいかぁ?」
「啓ちゃんてば、分かってないなあ。みのりちゃん、私達のこと、大好きだって言ってたよ?」
ほんとかよ。
「本当よ。好きな子達ほど苛めたいだけなの。フフフ」

「……」

けっ。先ほどの恨みはらさで置くべきか。
こんなやつ無視だ無視。
531『さよなら幽霊屋敷(上)』6/6 ◆NVcIiajIyg :2006/10/20(金) 01:30:00 ID:9ytMuuHp
「ああ、空耳か空耳か。さーて帰るか、あっき。
 もうこんなところ来るのやめよう。次からはホテル行こうな」
目の前でまじめ腐った顔で現れた幽霊を無視して横に回っていく。
出口まで振り返らずに何か言いたげな亜月の手を引いて館を出かけたところでいきなり、
「なによっ!啓伍のばかぁ!」
珍しく傷ついた怒鳴り声が背中から飛んできた。
振り返る。
階段の途中で一人きり、普段動じない頬が少し透明に赤く、涼やかな瞳はこっちを睨み返していた。
ガキの頃からの昔馴染みで、今では同じくらいの年頃になった廃屋住まいのエロ幽霊。
こういう面白いやつと、一緒に隣で育って来れなかったのはちょっとばかし残念だ。
「…悪い」
肩を竦めて謝ると、ちょっと決まり悪げな目で幽霊が困って下を見た。
うん、結構ああいう顔は可愛いんだよな。
言ってやらんけどちょっと見とれる。
じっとそうして見ていたらこれまた珍しく、ちょっと傷ついた顔の亜月に足を踏まれた。
願いがかなった。俺は幸せものだ。
「ごめん、あっき。浮気はしません」
囁いてから、手を握り返してもう一度みのりに手を振った。
「じゃあな、みのり。また貸してもらいに来るよ」
「ホテルに行けばいいでしょう」
ふん、と怒ったままの顔で黒髪はつーんと手を振っていた。
「ごめんねみのりちゃん、また絶対来るね!」
一生懸命最後まで手を振っている亜月の柔らかい指先を改めて感じながら、
変な状況に慣れ親しんでいる自分が妙に笑えて冬の終わりの寒さも気分が良かった。
「みのりちゃんはね、あそこに一人で寂しいんだよ。」
ぽそりと呟く幼馴染に言わずもがなのことだったのでただ信号待ちでキスをする。
明日もまた二人であの頃のように、会いに行ってやろう。


(下)につづく
532 ◆NVcIiajIyg :2006/10/20(金) 01:30:51 ID:9ytMuuHp
次で終わりです。ではでは。
533名無しさん@ピンキー:2006/10/20(金) 01:52:35 ID:se89B1ax
さよならなのか!?幽霊とはさよならなのか!?
534名無しさん@ピンキー:2006/10/20(金) 07:00:15 ID:0SVwytH4
GJ!

安西先生……三人の前後関係が知りたいです……。
535名無しさん@ピンキー:2006/10/20(金) 13:18:25 ID:iCftn+bY
>>534
つ過去ログ
536名無しさん@ピンキー:2006/10/20(金) 19:36:05 ID:0SVwytH4
>>535
ありがとう、そしてごめんなさい安西先生……俺がアホでしたorz
537 ◆tx0dziA202 :2006/10/21(土) 23:56:31 ID:rYFbVzOx
>>500氏 まさか続きが読めるとは。
……自分も、出来れば完結しても続編を求められるようなものを書けたらいいなあ……

>>516
とうとう佳境ですか……、楽しみにさせてもらいます!

>>532
こういう雰囲気なので、下を楽しみに待たせてもらいます。



……いちおう、>>470に投下したものの続きです。
長すぎたので前後編に分けて投稿させてもらいます。楽しんでいただければ僥倖です……
538our treasure town is rusted whitely:2006/10/21(土) 23:57:32 ID:rYFbVzOx
漂う白は留まることなく。
降りしきる雪はやむことなく。
街はただただ化粧を施されてゆく。
今日この日は年の末日、大晦日。

白、そしてところどころに古びて薄くなった赤や黄色。
アーケードもなく、しかし人の通りは確かに認められる商店街。
通路ばかりは積雪は取り除かれるも、屋根の上には今も絶えずに無数のそれが重なる。

降る雪、吐く息、そして、それらに加わる最後の白――――漏れる灯。
蛍光灯の無機質な白は、商店街の一角――木造の、黴臭い古本屋からのものだった。

ガラス張りの光沢を持つほどに黒ずんだ扉の奥には、無造作に置かれ、変色しきった本の数々が鎮座している。
好んで訪れるものもあまりおらず、このような雪の日ならなおさら客は来ない。
――そんな、薄暗い中に居るのは、二人の人間。
彼らはそれぞれ、禿頭の好々爺と、清潔感を持つ整えられた髪に、童顔を持ち合わせた丸眼鏡の少年。

前者はまどろみの中におり、彼が牙城から抜け出る気配は微塵も無く、
後者は本の世界の中におり、彼も手の重石を手放す気配は微塵も無い。

――と。
からりからりと、入り口についた鈴が鳴った。
無論、店主も少年もそれに気づかない。
少年は頁を繰るのを止めない。
1頁。

2頁。

3頁。

4頁――

5頁目、少年が、種々の図解のついた内容を吟味し、飲み込んで次へ移ろうとした瞬間――
「何を読んでいるんですか? 薪。」
くすくすという笑い声付きで、ソプラノ気味のアルトが少年の耳に届いた。

少年は顔を上げる。彼にとっては、聞き飽きたとすら言える声の主。
没頭していたところを中断させられたためか、わずかな不快感を除かせつつも半ば諦めた表情で、機械人形のように平行な動きで振り向いた。

「――――四条。」
539our treasure town is rusted whitely:2006/10/21(土) 23:58:30 ID:rYFbVzOx
少年――高槻 薪(たかつき たきぎ)の思ったとおり、そこに居たのは彼の昔馴染みであり、被保護者であり、そして最大の親友である四条水城(しじょう みずき)だった。
足元までカバーする、白いふかふかの飾りのついたコート。
それを着こなして、同じ素材のロシア風の帽子を被るもしかし、彼女を最も強く印象付けるのはその長い黒髪だった。
腰をも越えて、膝裏まで到達するほど長い烏の濡れ羽色の髪を、あたかも神道の祭儀に使う玉串の様になびかせる。
やはり白い手袋を身につけているため、彼女の地肌が除いているのは首より上の部分だが、わずかに見えるその肌すらも透き通るようで、しかし不健康さは絹糸一本ほども見られない。
一見すれば、育ちがよさそうな丸眼鏡の少年でしかない高槻との接点は彼女とは見出せない。
――知らぬ人が見れば、20代半ばにも見えそうなたたずまいの彼女が、なぜ縁遠そうな彼の最大の親友なのか、それは彼らの日常の一コマを見れば、よくよく分かる。

「ええと……The history of mechanical birds ――Evolution of plane's architecture――
……成程。いつものですね?」
外套に薄く付いた雪を本にかからないよう落としながら高槻に近づいた四条は、高槻の持つ、薄汚れた深緑の本の題を読み上げた。
どうやら洋書の様である。

……と。彼女がそう聞いたとたん、それまで渋い顔をして足をほんのわずかに揺らしていた高槻が表情を一転させた。
まるでクリスマスイブの翌朝に、ベッドの下で紙包みを見つけた子供のように。
台詞こそいつもの呆れたような調子が混じってはいるが、口調は疲れた状態がデフォルトの普段の彼とは全く異なっている。
「……いつものとは酷いな、四条。これはもう絶版でなかなか手に入らない名著なんだよ。
航空機の構造の発展を図説付きで詳解したものはよくあるんだけど、これの特徴は、設計者たちの話を伝記風に書いているんだ。
どんな発明にもエピソードがある。それはこういった分野でも――」

生き生きとした目になり、飛行機の薀蓄について、夢中になって演説を始める高槻。
さながらそれは無邪気な小学生が得意になって下級生に勉強を教えているようであり、教鞭を握っているかのごとくオーバーなリアクションをとりながら高槻は破顔する。
「……ふふ。」
それを笑みを絶やさず拝聴する四条。
その笑みには高槻の子供っぽさを嘲笑うような要素は何一つなく、むしろ話そのものを純粋に楽しんだ上で、加えて飛行機に夢中な高槻自身を見て喜んでいるように見受けられる。


――つまり。高槻にとって、四条は自身の望みを躊躇いなく話せた上で、清聴を拝してくれる唯一の人間である。
彼らの関係は、それこそ長い年月によってのみ構成されえたものだ。
四条から見た高槻は躊躇うことなく自分の後ろ盾を任せられる存在であり、高槻の知る四条は自分の、他人がきっと幼稚なと嘲笑うであろう面を受け止めてくれる理解者なのだ。


……と。
「……あー……。二人っきりでミョーな空間作ってるとこ悪いんだがな。
水城、俺たちもいることを忘れるな。薪、せめて俺たちのことに気づいてくれ。」
540our treasure town is rusted whitely:2006/10/21(土) 23:59:27 ID:rYFbVzOx

呆れ交じりの男の声が横から入ったことに四条は気づいた。
はっとした顔になり、ええと、と苦笑いをしながら、薪? と呼びかけてみることにする。
「……そもそも日本の飛行機の歴史は故・二宮忠八氏のカラス型……」
「聞けよ!!」
もはや完全にスイッチの入った高槻の両肩を掴み、先刻の声の主は思い切り揺すった。
「ひここここうきがががが……何するんだ!」
掴まれている肩のうち、右肩を払ってからその影を体を揺すって振りほどく。
言い終え、ここで初めて高槻は声の主に気づき、鳩が豆鉄砲を食ったときの顔をして間抜けな声を上げる。

「……あれ? どうしたんだ、淵辺。」

淵辺、と呼ばれたオールバックの髪と高い身長を持ち合わせる男は、ここで高槻の方から手を離し、はあ、と息をつきながら芝居がかったしぐさで頭に手を当てる。
……と、拳骨で額を軽くぐりぐりと押しているその影からもうひとり。
にやにや笑いで歩み出てきて、高槻の肩を小突いたのは、三原色のストライプのマフラーの目立つ、小柄な影。カーキ色のセーターを着たその姿は、女性のものに他ならない。

「あら……ミズキチと二人きりで居たかった? 邪魔して悪かったかな。
ま、それじゃ邪魔者はお暇しましょうかね〜。行くわよ、セーギ。」

やや天然パーマ気味のショートカット、かつ低い背のその人物は、親切な中年女性じみた声でそういい、淵辺の服を掴んで引っ張り出した。

「……あのね、そんなことしたら僕はともかく四条に迷惑かかるだろ。
ただでさえ四条はそういうことに無頓着なんだから察してくれよ、雛坂……」
先ほど無神経な台詞を言い放ち、いまはじぶんより30pは高い身長を有する淵辺をずるずる引きずっている少女に向かい、高槻は溜息まじりに懇願。
そのまま、改めてその二人に目を向ける。

「淵辺……。仮にも付き合ってるなら、雛坂のこと少しは制御してくれ。」
「そりゃ無理だ、お前もいい加減気づけっつの。ミコは根っからの仕切り体質だからな、こうやって皆を振り回して楽しむこととかは絶対に止めやしねぇ……。S気質ってこった。
ここに来たのだってミコがお前を呼べっつったんだしな。」
聞いて、高槻はそういえば、とつぶやき、腕組をしながら雛坂に問いかける。
顔に浮かんでいるのは、純粋な疑問符。
「……どうしたんだ、こんなとこまで皆して。」
そう言って、瞬きの後に順繰りに、四条、淵辺、雛坂を見回した。


高槻の目の前にいる淵辺正義(ふちべ まさよし)と雛坂神子(ひなさか みこ)は、高槻自身と四条を含めて、いわゆる仲良しグループと言える。
その付き合いは長く、遡れば小学校三年生にまで辿ることができる間柄だ。
高槻と四条、淵辺と雛坂という幼稚園の頃からの二人組みが、雛坂と四条が席替えで隣同士になったことからいつの間にか仲良くなって行き、結果として高校生徒会をこのメンバーで作るくらいに縁が続いている。

541our treasure town is rusted whitely:2006/10/22(日) 00:00:17 ID:rYFbVzOx
何が何やら、といった風情の高槻に対し、ぽん、と手を叩いて弓の形に目を細ませた四条が嬉しそうに事の次第を告げた。
「そうでした。ええと、これから皆でうちで忘年会をやろうかという話になったんですけど……」

「……はあ?」
口を大きく開けて、高槻がアヒルのごとき間抜けな声を出す。
さながらその姿は、風邪で休んだ生徒が学校に戻ってきたら、いつの間にか学園祭での劇の主役にされていたときのそれであった。

「……ちょ、ちょっと待ってよ。そんな話今日になるまで全然聞いてないんだけど。」
「うん。だってついさっき思いついたから。」
平然とあっけらかんと言い放つ雛坂。二の句が告げない高槻に対し、畳み掛けるように雛坂が追い討ちの連携を決める。あくまでも、爽やかに。
「で、皆に電話したらいいって言ってくれたんだけど、タキだけ連絡取れなくてさ、タキのお母さんに聞いたら古本屋だろうって教えてくれたわけ。
いやでも一発目でビンゴでよかったわよ、他のとこまでいくの面倒だし。
あ、予算とかは心配しないで。会計の私が必要経費ってことでしっかり騙……もぎ取ってきたから☆」

「『もぎ取ってきたから☆』じゃないだろ! あぁぁぁもう余計な仕事増やしてくれて!
只でさえ来期の引継ぎまでぎりぎりだって言うのに、どうしてそんな私事で……」
頭を両手で抱え、高槻はうずくまる。
誰が見ても落ち込んでいると分かる高槻に、
「心配しないでください、薪。」
四条がとびきりの微笑みで高槻の肩に手を置いた。
ああ、やっぱり四条はありがたい親友だな、と高槻は思い、それが感謝の言葉とともに口からこぼれる。
「……ありがとう、四条。……分かってくれるのか。」
ええ、と四条はやさしげにうなずく。
「……私事でなければ構わないんですよ。先生方もお呼びして、公行事扱いにしてもらいましょう?」
「か、懐柔してどーするー!! それでも会長なのか、四条……」

あぁぁぁ、と奇声を発する高槻ははやグロッキー状態。
これ以上放っておいても話が進まないので、淵辺が話を切り出した。
ついでに主導権を握って有無を言わせないようにする。
「ま、そういうわけだ。んじゃ、行こうか」
「……行くって、僕はそんなこと決めて……」
「あ、そういうわけにはいかないの。もうあちこち注文しちゃったし。」
「……。うん。もう、いい…… 好きにしてよ……」
もう顔を上げることもなく、高槻は淵辺に引っ張られるままにずるずると店から連れ出された。

ぱたり、と彫刻入りのドアが閉じられ、空から氷の結晶の降る外界と、電気ストーブの効いた黴臭い内界を隔絶する。
騒がしい学生を排除した店の中には再度の平穏。そして、店主は一連の出来事に気づくことなく未だすやすやと眠り続けていた。
室内にはただただ、じ、と電熱線が熱される音が自己主張をするのみ。

542our treasure town is rusted whitely:2006/10/22(日) 00:01:18 ID:rYFbVzOx
雪の降る中、淵辺を先頭に並び歩く。
雪はいまだ止む様子はなく、彼らの脇、日本家屋の瓦葺の塀にもその上から突き出る松の枝にも、仮に切り出したら一抱えは有りそうなほどのそれが積もっていた。

彼らの住むこの街は――やや寂れた地方都市である。
はるか昔城下町だったという伝統だけはあるが、首都圏からも遠いこの豪雪地帯においては発展はあまり期待できない。
その城下町という伝統さえも城がすでに戦国時代に無くなっており、それ以前に作られたごくごく一部の武家屋敷が面影をとどめるばかり。
江戸時代にはすでに、この街はかつて栄えていたというだけに過ぎない大き目の都市のひとつでしかなかった。
残された屋敷や、雪をはじめとした四季折々の景色を求めてくる人々を相手に観光収入でやりくりしている――そんな場所だった。


今、彼らが目指している四条家は、そんな何の変哲もない武家屋敷のひとつだった。
ただし、他の大多数の観光地化された武家屋敷とは違う点がひとつだけあり、それは四条家がいまだにそれを使用しており、和菓子屋を営んでいることである。
“四条亭”と分かりやすい看板のついた家屋、彼らはそこに向かっているはずだった、のだが……


「……あの、淵辺さん…… 私の家はこちらではないのですけど……」
前置きなしに、四条があいまいな苦笑いで淵辺に問いかける。
歩き出してはや二十分ほど。本来ならばすでに四条宅に到着していてもおかしくはなく、彼らの体は当然冷えている。
少なくとも高槻と四条の二人は、一刻も早く炬燵にでも入りたいところだった。
しかし、先を行く淵辺と、そのすぐ後に続く雛坂はどうやら見当違いの方向に進んでいるようである。

何度も来ている筈なのにどうしてかと高槻と四条は顔を見合わせ、首だけで高槻がおもむろに四条が問うことを促したのだ。
淵辺は彼らの問いに対し、歯を見せた笑みで、待ってましたとばかりに答えを告げた。

「ああ、水城んちに行く前に、ゲーセンでも寄って時間潰そうかと思ってな。」

そゆこと、と雛坂もうなづく。
そのようなことは何も説明されていないばかりか、いつの間にか忘年会に強制参加させられたが為に、もはや諦観を受け入れている高槻はあいまいに頷くのみ。
「……分かった。」

……と。
「あ、あの……私、そんなことを聞いてはいないのですけど……」
珍しく動揺した口調で、四条がこっそりと雛坂に話しかけた。とはいっても、顔つきは眉を下げつつも力ない笑みのままである。
「そりゃそうよ。言ったらミズキチ、ついて来ないでしょ?」
ひそかに、しかしにたりと捕食者の笑みを浮かべる雛坂。
高槻に気づかれないように、ぼそぼそ声で四条に応答する。その顔つきには四条で遊ぼうという魂胆がありありと見えていた。

「あ、あの……その……」
「いやー、こうも簡単に引っかかってくれるとは思ってなかったわよ。
ミズキチの家で忘年会やるって言ってるのに、さて、何で私達ゃタキ探しにあんたを引っ張り込んだんでしょう? まとまって動いてんだから、わざわざこっちまで来なくてもミズキチは家でコタツ入ってりゃいいのにね〜……」
「……そ、それって……」
四条は表情こそ変わらないものの、顔色や語調が次第にあせりを帯びてゆく。
543our treasure town is rusted whitely:2006/10/22(日) 00:02:10 ID:lc2aX0P8
「タキを探して三千米ってか〜。うんうん。」
「み、神子さぁん……」
もはや完全に雛坂のペースである。淵辺はにやにや笑いで横目から眺めているのみ。
ここで、雛坂が高槻がいぶかしげに二人を見ていることに気づいた。
「ほらほら水城、地が出てる地が出てる。あの不景気顔が見てるわよ。」
「え、あ、あ……はい。」
瞬時に目を閉じ、気づかれないように深呼吸。
すぅ、と、真冬の冷たい空気を取り入れ、生温かい呼気をゆっくりと漏らす。
静かに目を開けたときには、
「……すみません、神子さん。お手数かけます。」
控えめに微笑む、いつもの四条となっていた。

「や、私が悪いんだしね。めんごめんご。」
ぺろりと舌を出した雛坂に、四条は苦笑で返す。
「いえ、気にしないでください。何せ……」
いつもお世話になっているんですから、と、四条。
もうしないでくださいね、と念を押すよう付け足しはしたが。


高槻は、少し離れた所で内緒話をする四条と雛坂を眺めていた。
珍しく四条が少し慌てているように見えたが、気のせいだろうと思う。

これ以上体を冷やしたくはないな、と思った彼は彼女たちに近づき、
「そこまでにして欲しいんだけど……。」
遠慮がちに二人の間に手を割り込ませた。

「雛坂、何話していたのかは分からないけど、あまり四条に迷惑をかけないでくれ。
僕は貧乏くじ引きなれてるからいい……わけないけどさ、四条にまでそうするってのはやめて欲しいんだよ。」
四条を庇う様に雛坂の前に立った高槻を通り越して、変わらず雛坂の目線は四条にある。
口元を、再度面白おかしむような形に曲げた。
「おやおや、愛しの騎士様が御推参ですぞ、姫様。ちょっと……いや、無茶苦茶頼りないけど。」
この程度の挑発では高槻は振り回されるのに慣れすぎているため、幸か不幸かなんとも感じない。
逆に四条は糸のごとく細めていた目を開いている。心なしか四条の頬が上気しているように見えた高槻は、珍しいな、と感想を持った。
「……。わ、私、先に家に行かせてもらいます。そもそも、ゲームセンターなど真っ当な学生の行くところではありませんよ。」

四条はそういってはいるが、実の所単に五月蝿い所が嫌いなだけなのを高槻はよく知っていた。
それは高槻も同じで、なんだかんだと高槻が四条に付き合うのはそういった趣味嗜好が実に近いためでもある。
故に、これ幸いとばかりに高槻は四条に近づき、
「……じゃ、僕たちは先に四条の家に居るよ。」
四条の真白い手袋越しに掌を握り、
「……あ、」
歩みだした。

「あ、あああのあのあの、た、薪?」
「ん?」
高槻が振り返ってみれば、四条が顔を赤らめて手をばたばたと振っていた。
長身の彼女には似合わず、また普段の大人びた彼女とかけ離れた行為であり、なぜかと高槻は一瞬考え込んだ。
すぐに正解にたどり着く。
「ん……、大丈夫でしょ。雛坂はともかく淵辺が居るんだ。迷いはしないよ。」
四条の家や高槻の家の近くは周囲の武家屋敷の塀に囲まれた袋小路になっており、土地勘のない人間は迷いやすい。
方向音痴気味な雛坂を案じて、皆で行動したほうがいいと主張しているのだと高槻は判断したのだが――
「え、あ、いや、そうじゃなくてですね……」
四条の様子を鑑みるに、どうやら違うようである。
じゃあ何が原因なのか、と考えようとする高槻はしかし、どうやらその必要はなさそうだと感じた。
考えた一瞬の間に四条はすでに落ち着き始めたようだ。す、と息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した彼女は、
「……いえ、なんでもないですよ。行きましょうか?」
いつもどおり、鈴蘭の花のような穏やかな笑みを浮かべ、そう告げた。
544our treasure town is rusted whitely:2006/10/22(日) 00:02:57 ID:lc2aX0P8

「……? うん、まあいいけど。」
多少気にならなくもないが、高槻は四条の言動についてはあまり深く考えないことにしている。
元々マイペースで読書好きの四条の事、やたらに妙なレトリックを使ったり、発想がそれこそ小説並みに飛躍しがちである――と高槻は考えているのだ。
四条が一歩を踏み出し、高槻がそれに続こうとする。
――と。

「へぇ…… ま、育ちのいい“お嬢”は当然庶民の娯楽にゃ興味ないってか?
それとも単に負けるのが怖いだけだったりしてなー。」
ぴたり、と四条が足を止める。それと同時、
「な、ばっ……!」
四条の反応を見る間でもなく、高槻が後ろを振り向く。……無駄だと、経験則から分かってはいるのだが。
彼には今から起こる出来事のパターンが、まるでエドガー・ケイシーの頭の中を覗くかのごとくはっきりと見えていた。

即座に今の言葉を放った人間を視界に収める。
そこにいたのは、傍観をしていたはずの淵辺。
……いや、そもそもゲームセンターに行きたいといっていたのは誰だったか。
彼が傍観していたのはあくまで四条と雛坂の莫迦話のみだ、と今更ながらに高槻は気づいた。

「……今。なんと仰いましたか? 淵辺さん。」
何も普段と変わらない四条の声が、彼の脳内に響く。
それを聞き、高槻はもはや自分にはどうにも出来ず、これからゲームセンターに行かねばならないことを確信し、落胆した。
うつろな目で淵辺のほうを見れば、しめたとばかりに淵辺がうれしそうな顔。
傍らでは雛坂が腕を組んであきれた顔をしている。
先ほどまでの彼女を思い、突っ込みたい衝動にかられながらも、高槻はすでにそうする気力も無い。
嫌な意味で、彼は巻き込まれることを日常としているのだ。

「んー? いやいや、どこぞのお嬢様に下衆な場所は似合わないだろう、と。
わたくしなりに深謀遠慮を積み重ねたつもりなのですが?」
芝居がかった動作で、明らかに作り物の笑みを淵辺が浮かべる。
対する四条も同じく作り物のような笑み。ただし、淵辺が西洋の仮面劇の道化のそれであるのに対し、四条のものは能面の虚ろな笑いだ。

「私は別にお嬢様などではない、“普通”の“どこにでもいる”“一般人”ですよ? 撤回を要求します。」
単語を強調しながら、来た道を戻る四条。淵辺が手元だけで小さくガッツポーズを作るに気づいた高槻は、しかし内心四条の台詞が三重に意味が被っているというどうでもいいことのほうが気になるくらいに現実逃避の真っ最中である。
しかし、今の四条に口出ししたら自分が事の中心に引き込まれるのは自明だったので止めておくことにする。
雛坂は淵辺に異論があるはずもなく、一歩引いたところで淵辺を眺めているのみ。

「んじゃゲーセン行こう。フツーの連中なら皆行ってるとこだぞ?」
「別にどこでも構いませんよ、さっきの言葉を撤回するのなら。
フウイヌムだろうとアスガルドだろうとユッグゴトフだろうと、どこへなりとも行ってみせましょう!」
四条は肩をいからせ、高槻にこそ分かるが他の2人には分からない地名を出した。

……しかし、彼らにとってはそんな瑣末事など気にならない。
四条の台詞の“どこへなりとも〜”の時点で、達成感に満ちた表情の淵辺は雛坂に近寄り、ぱあんとハイタッチ。
彼らの身長差の関係上、淵辺はミドルタッチといったところではあったが。

「よっしゃ、決まりだな?」
「初めっからそう言っておけばいいのにねー。それはそうと。
セーギ、クレーンに新しいプライズ入ってたんだけど……」
「オーケイ、何が欲しいんだ?」
「えっとねー……」
「そんなことよりですね、早く撤回を……」
言いつつ、一行は高槻を置いてあらぬ方向へ。
高槻は一人たたずみ――
「……ここで立っててもしょうがないしなあ……」
一見いやいやながら、四条たちの後ろ十数歩をついていくことにした。
騒がしく、しかしどことなく空虚で現実感のない場所へ、一行は向かってゆく。


545 ◆tx0dziA202 :2006/10/22(日) 00:04:38 ID:lc2aX0P8
……前編は以上です。スレ汚し、失礼しました。


……投下時期次第では後編は次スレのほうがよさそうですね……
546名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 01:51:24 ID:Ylu+zJQ0
GJ!!
情景描写の丁寧さがすごい好みだなぁ。
今後も期待してます!
547名無しさん@ピンキー:2006/10/22(日) 19:12:25 ID:gMqF5abI
保守
548名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 00:42:40 ID:u30TAK+1
残り容量が不安ではありますが、>241-248の続きを投下させて頂きます
相変わらずマイペースですが、お付き合い頂ければ幸いです
549それはまるで水流の如く:2006/10/23(月) 00:43:50 ID:u30TAK+1
運動会。社会見学。芸術鑑賞。二学期は行事が目白押し。
私達教師が忙しいのは言わずもがなで、日々の職務に忙殺されて、いちいち落ち込んだり悩んだりする暇もない。
ゆっくり休養したいと思っていても、そうは行かないのが辛い所。

気付けば私が教師になってから、早八ヶ月になろうとしていた。



十二月も目前に迫ったある土曜日。
お昼を過ぎても私はベッドの中でゴロゴロしていた。
とは言っても基本的にインドア派だから、別に珍しい事じゃない。
たぶん何事もなければ、そうやって怠惰な一日を過ごしていたに違いない。
けれどこの日は違った。
午後一時過ぎ。
枕元に置いてあった携帯から着信を知らせる音楽が鳴った。
大して面白くもないバラエティー番組を見ていたので、テレビのリモコンに手を伸ばして音量を下げる。
そのまま体を起こして携帯のフリップを開いた私は、表示されていた名前に思わず目を見開いた。
「え?」
瞬きを一回。
それでも勿論、表示が変わる訳もない。
『門田直樹』と記されたディスプレイを見つめるうちにも、携帯は早くしろと言わんばかりに鳴り続ける。
一瞬気が動転した私はベッドの上に御丁寧にも正座をすると、震える手で通話ボタンを押した。

心臓がバクバクしている。

「も……もしもし?」
『チィちゃん?俺』
元々あまり電話が得意じゃないせいで、会話の始まりはいつも緊張してしまう。
けれどコレはちょっと緊張しすぎだ。
手は震えるし声も震えて完璧裏返ったし。頭の中は緊張のあまり真っ白で、心臓の音だけがやけに煩い。
それでも当然ながら門田先生に私の気持ちが伝わる筈もなく。
『今大丈夫か?』
「あ、ハイ。平気ですよ」
いつもと変わらない口調の門田先生の声。
悟られないように呼吸を落ち着かせようと、私は携帯を離して大きな吐息を吐いた。
550それはまるで水流の如く:2006/10/23(月) 00:46:08 ID:u30TAK+1
「何かあったんですか?」
『急な話なんだけど、今夜暇か?』
「今夜?」
『お袋が映画の試写会のチケットが当たったんだけど、都合が悪くなったんだよ。親父と二人で行くのもアレだし、良かったら行かないか?』
呼吸を落ち着かせようとしていたのに、その努力は水の泡だ。
──デートってヤツですか?
真っ白な頭の中によぎる単語に、それ以上口が回らない。
心拍数最高潮。
息を一つ飲み込んで逸る気持ちを無理矢理に押さえ付け、私は送話口に口を近付けた。
「い、良いですよ。暇を持て余してた所だし」
『なら六時頃に待ち合わせようぜ。晩飯奢る』
「この間お金ナイって言ってませんでした?」
『言葉の絢ってヤツだよ。たまには良い格好させろ』
呆れ混じりに笑う門田先生の声のトーンは明るい。
いつもとは違うその明るさに、普段の私なら気付いていただろうけど、生憎今の私にはそんな余裕はなかった。
『映画、七時半からだから。待ち合わせはそうだな──』
隣街の駅前を指定した門田先生に了承の言葉を返すと、そこで電話は終った。
終了ボタンを押し、深い溜め息を一つ。
心臓のドキドキは電話を受ける前よりも酷くなっている。
思わず携帯を枕に押し付けた私は、頭を垂れてその姿勢のまま固まった。

これじゃあまるで恋してるみたいじゃない。
確かに門田先生の事は好きだけど、それは『幼馴染み』で『同僚』だから。
男の人と二人で出掛けるなんて久しぶりだし、それに対するドキドキ感はあるけれど、特別な感情なんて私も門田先生も持ってるなんて思わない。
デートのお誘いだって、別に特別な理由があった訳じゃない訳だし、たまたま暇そうな私に声が掛っただけかも知れないし。

無理矢理自分の中で理屈をこねるけれど、膨らむ期待は萎まない。
それどころか心臓が一つ打つ度に、どんどん大きくなっていく。

「何着て行こう……」

顔を上げた私の手の中で、熱を持った携帯は沈黙したままだった。
551それはまるで水流の如く:2006/10/23(月) 00:47:18 ID:u30TAK+1

午後六時少し前。
電車を降りた私は一度トイレに入り鏡で服装をチェックした。
なるべく気張らないように、それでもいつもより少しだけお洒落をして。こんな風に気を使ったのなんて、初めてのデートの時以来かも知れない。
不思議な高揚感と緊張感。初めて教壇に立った時にも似た感覚だけど、それ以上に気分が浮き立っている。
乱れてもいない髪を直す鏡に写った顔は、妙に締まりのないニヤけた顔だった。
思わず頬を叩いて顔を引き締める。
別に何があるって訳じゃなし。晩御飯を一緒になんて今更珍しくもないじゃない。夏休み以来、月に一回は一緒に御飯食べてるんだし。
……まぁ、おじさんおばさんも一緒なんだけど。
「平常心、平常心」
ブツブツ呟く私を見て、通り掛ったおばさんが鏡越しに不審な視線を投げて来る。
それに気付いた私は時間を確認すると、何事もなかった素振りでトイレを出た。
改札を抜けて直ぐの喫煙コーナー。そこで門田先生は一足先に待っていた。
普段は結構緩い性格な割に、時間にだけはやけに正確なのよね。待つより待たせるのが嫌いらしいんだけど。
チラチラと改札を見ては煙草を吸う。
土曜日と言う事もあってか人通りは多い。そのせいか門田先生はまだ私には気付いていないみたいだった。
「平常心っ」
呪文のように繰り返して拳を握ると、私は足早に門田先生に近付いた。
距離にして数メートル。門田先生は直ぐに私に気付くと、灰皿に煙草を押し付けた。
「ごめんなさい、お待たせしました」
「いや、一本分」
ダウンジャケットに手を突っ込んで首を振る。
それが嘘なのか本当なのか分からないけれど、勿論それを追及する気はない。
「取り合えず飯行こうぜ。旨い店があんだよ」
ニィと笑った門田先生が歩き出す。
私も遅れないよう慌てて小走りで隣に並んだ。
552それはまるで水流の如く:2006/10/23(月) 00:48:20 ID:u30TAK+1

他愛ない会話を交してはいるけれど、情けない事に私は気もそぞろ。
いつもはお互いラフな姿が多いから、改まった服装となると気恥ずかしい。何せスカートなんて、普段はスーツぐらいしか履かないからだ。
──気合い入ってるとか思われてないよね?
ほぼ月一の食事会の時だって、パンツ姿だったし。
冬も本格的に近くなって来ているせいか、足元がやけにスースーする。
ストッキングを履いてはいるけど……やっぱ寒い。
「チィちゃん、辛いの平気か?」
「え?あ、はい。大丈夫ですよ」
服装に気を取られていたせいか、思わずいつもの「門田先生」に対する口調で返すと、門田先生は困ったような笑顔を浮かべた。
「それを言うなら『大丈夫』だろ?いつになったらタメ口になんのかね」
「や、今のは突然だったから!最近は……マシになってると思うけど」
「んな事ない。今日は一日タメ口。よし、そうしよう」
「はいぃ!?」
一人勝手に決めつけて楽しそうに頷く門田先生。
私の声が裏返った事も気に留めず。ましてや私の方なんか見もしない。
──ちょっと待ってよ、それは。
正直な所、未だに「ナァくん」と呼ぶのが精一杯の私に、その要請はきつ過ぎる。
本来の順番なら──タメ口から「ナァくん」への変化なら、まだ何とかなったかも知れないけれど。中途半端な距離をいきなり縮めろって言うのは、かなりの無理難題だ。
「駄目。無茶。絶対無理」
「単語も却下」
端から自信もなく強い口調で言う私に、非情にも門田先生はすっぱりと言い捨てる。その表情には薄い笑み。
綻んだ目元と僅かに上げられた口角に、私はそれ以上何も言えなかった。

半年以上一緒に仕事をして来て分かった事が幾つかある。その一つが門田先生の笑顔だ。
いつも何かはぐらかすような薄い笑みを浮かべる事が多いけれど。何か楽しめる対象が──いや、からかえる対象がある時も、門田先生は薄い笑みを浮かべる。
今浮かべている笑みがどちらかの意味か、なんて愚問にも程がある。

──……この人、絶対私の事、オモチャか何かだと思ってるわよね。
そんな妙な確信を抱きながら、私は深い溜め息を吐いた。
553それはまるで水流の如く:2006/10/23(月) 00:49:34 ID:u30TAK+1

門田先生に連れられた場所は、テナントビルの二階にあるエスニック料理の店だった。スパイスの香りが漂う店内は、さほど広くはないけれど結構居心地が良さそうで、カップル連れの姿が多い。
私達も恐らく──考えなくても、か──回りからすればそう見えるんだろう。
なんて。冷静な思考回路は今はない。
門田先生は私にタメ口を使わせようとしているのか、いつもより口数が多い。勿論、イエス・ノーで答えられるような会話じゃなく、私にも意見を求めて来るんだから、私の慌てっぷりは相当な物だろうと思う。
だけど門田先生は、それすらも楽しげに笑っているだけ。
席に案内されコートを脱いだ私は、深い溜め息を吐いて腰を下ろした。
「溜め息吐いたら、寿命が縮むんじゃなかったのか?」
「う……」
ダウンジャケットを脱いだ門田先生がメニューを取りながらニヤリと笑う。
思わず口篭った私だけど、門田先生はメニューを開くと其処に視線を落とした。
「何にする?」
「何がある…の?」
無理矢理言葉遣いを訂正しながら問掛けながら、私はきょろきょろと店内を見回した。
どうやらインド料理が多いらしく、カレーの文字があちらこちらに見える。
「お勧めはベジタブル・サモサとシーフード・カレーだな。辛いのが苦手ならほうれん草カレーもお勧め」
「じゃあ、ほうれん草カレー。あとチーズ・ナン」
店内に貼られたメニューを示して告げると、門田先生は通り掛った店員を呼び止めた。

こうして門田先生と外で食事をするのは、四月末のあの時以来だ。
あの時はまさか、門田先生が「ナァくん」だなんて思いもしなかったし、ましてやこうして休日に一緒に出掛けるような間柄になるとも思ってもみなかった。

そんな事を考える私は、門田先生の様子がいつもと違う事に気付かなかった。
さっきまであれ程饒舌だった門田先生は、店員に注文を済ませた途端に黙りこくって、煙草をくゆらせていた。
554それはまるで水流の如く:2006/10/23(月) 00:51:14 ID:u30TAK+1

そんな門田先生が口を開いたのは、頼んだ品が残らずテーブルに並んだ頃だった。
「今更だけどチィちゃん、ホントに暇だったのか?」
「はい?」
言われた意味が分からず首を傾げる。
門田先生は少し眉尻を落として、何処か言葉を濁すようにベジタブル・サモサを頬張った。
──何だろ。らしくない。
千切ったナンにカレーを乗せながら門田先生の言葉を待つ。
門田先生は暫くモゴモゴとサモサを口にしていたけれど、やがて私の視線に負けたようにカレーに視線を落としながらこう告げた。

「彼氏とかさ。居たら、俺に付き合ってる場合じゃねぇだろ?」

……え?

ぱちくりと瞬き。

何で今更、こんな事を訊くんだろう。──いや、本人も「今更」って言ったけど。そうじゃなくて。

もし、私がここで「彼氏が居る」なんて言ったら、門田先生はどうする気なんだろう。

ざわざわと胸の奥から這い登って来る感覚が私の頭の中を乱して行く。
言い知れぬ感情と混乱のせいで、私はナンを口に運ぶのも忘れてまじまじと門田先生を凝視。
門田先生はと言うと、シーフードカレーの海老の殻をスプーンでお皿の端っこに寄せながら黙っている。


「それは……ナァくんも、でしょ」


何とか口を開いた頃には、私達の間に漂う空気は明らかに色が違っていた。

さっきまでの、他愛ない会話を交すような気楽な雰囲気じゃない。
変に張り詰めていて。互いに何かを探るようで。

──やだ。……この空気は、嫌いだ。

本能的、とでも言えば良いんだろうか。
そう思った瞬間、私は態と顔に笑みを張り付けていた。

「彼女が居たら、私なんか相手にしてる場合じゃないんじゃないですか?今日だって、その人を誘えば──」
「いねぇ」
へらへらと馬鹿みたいに笑う私の言葉を遮ったのは、妙に強い門田先生の口調だった。
「居たら、チィちゃん誘ってねぇし。つか、答えになってなくね?」
──え……と。
何故か不機嫌そうに私を見る門田先生から、私は慌てて視線を外した。
555それはまるで水流の如く:2006/10/23(月) 00:52:05 ID:u30TAK+1
何でこんなに混乱してるのか。そもそも何に混乱しているのか。
理由が分からない訳じゃない。ただ、その理由は追求したくない類の物。
唯一言えるのは、この雰囲気でなければ気付けなかった想いが、私の胸の内にじわじわと滲んでいると言う事。

こんな形で自覚するなんて思いも因らなかったけど。

ともすればその想いに流されそうになっていた私は、無理矢理気持ちを押さえ込むと、ナンを頬張り視線を外したままぶっきらぼうに呟いた。
「ナァくんと一緒。居たら付き合ってません」
早口で言い捨てる姿は、絶対可愛くないだろう。
だけど今は、取り繕おうとか誤魔化そうとか、そう言った余裕がない。
口の中の物を飲み下しスプーンを手にする。

空気の色は変わらない。変えるのに失敗した私には、どうすれば良いのか分からない。

門田先生の持つスプーンが視界の端に写った。
「……チィちゃん」
門田先生の声が降る。呟くような声音からは感情の色が見えない。
動く様子のないスプーンを視界の端に捕えたまま、私は無言でカレーを口にした。


「サモサ、食う?」

──…………ハイ?


ゆっくりと視線を上げる。
門田先生は、いつものように飄々としていて。

さっきまでの不可解な空気なんて無かったかのように、自分の近くにあったサモサのお皿を、空いた右手で私の方へと押し出した。
「チーズ・ナンと交換」
「あ……はい」
笑みを浮かべる門田先生の態度の変化に、私は思わず頷く。
「あ、それと」
「はい?」
「タメ口。忘れんな」
人の悪い笑みは門田先生のいつものそれで。
いつの間にか消え去った空気の色に、私は一人妙な混乱と何とも形容し難い想いを抱えたまま吐息を漏らした。
556それはまるで水流の如く:2006/10/23(月) 00:52:58 ID:u30TAK+1

時折笑いの含んだヒューマン・ドラマだった映画は、前情報以上に面白かった。
食事を終え、映画を見て。人並みにデートのような行程を踏んだ帰り道。
改札を抜けホームに立つ頃には夜の寒さはいっそう増し、時刻は十時前になっていた。
「うぉ、寒ぃ」
一際強く吹いた風に、門田先生は肩を震わせダウンジャケットに両手を突っ込む。
こんな時間だと言うのにホームには私達以外にも何人かの人影が見えた。
「今日は御馳走様。それから、ありがとう」
コートの前を合わせて門田先生を見上げる。門田先生はチラと私を見下ろすと、ハッと短く笑った。
「良いって。俺が誘ったんだし。タメ口も様になって来たみてぇだし?」
「っ……それは、ナァくんが無理矢理使わせたからじゃない」
からかう口調にムッとすると、門田先生はニヤリと笑ったまま煙草の箱を取り出した。
「こうでもしなきゃ、使わねぇだろ?修行だ、修行」
「何の修行ですか、ソレは」
あれから、門田先生の態度はいつもと何一つ変わらない。私もいつの間にか普段の調子を取り戻して、時々軽口を叩きながら他愛ない会話を交している。
けれど。
「ン?そりゃ、付き合う為の修行だろ」
さらりと告げられた言葉に私の思考回路はプツリと止まった。
煙草を咥えた門田先生は私を見下ろし、薄い笑み顔。

──待って。

……て言うか。
何ですかソレは!
ぐるぐると。訳の分からない混乱再び。

馬鹿みたいに目を丸くしていた私の姿に、門田先生は楽しげに目を細めていたけれど。
やがて。
不意にブッと吹き出したかと思うと、咥えたばかりの煙草を手にして、私から顔を背けた。
557それはまるで水流の如く:2006/10/23(月) 00:53:49 ID:u30TAK+1
揺れる肩が私の目の前に写る。
「チィちゃんっ……面白ぇ……」
クツクツと喉の奥を震わせながら、門田先生は口許を押さえる。
その姿に私はハッと我に返った。
「か、からかってる!?もしかしなくてもからかってる?ねぇ、ナァくんっ!」
訊く間でもない。愚問だ。これ程の愚問は有り得ない。
声を荒げた私に門田先生は肩を震わせ笑うだけ。
「いや、あながち冗談でもねぇんだけど」
「嘘。絶対嘘。信じないっ」
子どもみたいにそっぽを向いた私は、悔しさを隠す事も出来ずに口先を尖らせた。

何で自分がこんなに動揺してるのか。答えは至ってシンプルだ。さっき自覚した想いが、全ての答え。

私は、彼の事が好きなんだ。

初めは『幼馴染み』としての好意。
けれどそれは、いつの間にか『ナァくん』じゃなく『門田直樹』に向けられていた。
だからこそ、こんなに簡単にからかう門田先生が憎らしい。例え本心だったとしても、冗談混じりに言われちゃ敵わない。

門田先生は煙草を咥え直すと、尚も膨れっ面の私に困ったように笑い掛けた。
「チィちゃん、変わんねぇな。膨れた顔も昔のまんま」
「誤魔化さないで下さいっ!……もう口利かない」
「あ、その口癖も昔のまんまだ」
「もぉっ!」
傍から見れば立派な痴話喧嘩に見えるだろう。
膨れた私と笑う門田先生。
その遣り取りを拐うように、ホームに電車が到着した。
558548:2006/10/23(月) 00:56:22 ID:u30TAK+1
以上です

残り二回か三回で完結になる予定ではありますが、相変わらずノタノタペースになるかと
長い目と広い心の皆様に感謝
559名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 01:57:35 ID:IVG1XsJM
お、待ちかねた教師話!続きも楽しみに待ってる。
490KB、次の季節か。
560名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 02:00:03 ID:RZGuQqcN
キタコレ
561名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 02:01:00 ID:ajfV2/j2
GJ!
もう2、3回で終わってしまうのか・・・
562名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 07:43:34 ID:q7H8bzFd
むぅ…堪らんw
俺もベッドの上でゴロゴロしてしまったww
563名無しさん@ピンキー:2006/10/24(火) 23:43:58 ID:un+auW1b
相変わらず上手すぎるよGJ!
564名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 22:32:21 ID:wtLtSxiZ
ハァハァ(´Д`)…ゥッ
565名無しさん@ピンキー:2006/10/28(土) 04:04:43 ID:4o2KH2Od
次スレ立てました。移動よろしくです。

【友達≦】幼馴染み萌えスレ10章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1161975824/
566『パンプキン』(1/3) ◆NVcIiajIyg :2006/10/29(日) 18:01:43 ID:S6Kft5FC
宿題を放り出し幼馴染から借りた「明日のジョー」文庫版を読みふけって、
カップラーメンでも食うかなーと畳でごろごろしていたらチャイムが鳴った。
なんだよー、と呟きながら暗い廊下の電気をつけてのろのろとサンダルを履いた。

「トリックオアトリート!!?」

引き戸を空けた瞬間、ない胸を張ったツインテールが目に飛び込んできた。
ご丁寧にかぼちゃの柄がついた黒トレーナーだ。
俺はしばらく、目を合わせたまま深い溜息をついた。
あほだなぁ、こいつ。

「聞くまでもねーと思うけど…。何やってんだ?」
「ハロウィンイベントに決まってるじゃない。
 悪戯されたくなかったら、お菓子よこしなさいよねっ」

手を出して口を曲げるところは中二にもなって本当にこどもだ。
(俺も同い年だけど、それにしたってどうなのか。
 一緒に隣で育ってきたはずなのになぜだ。弟もいるくせに)
そんなことをぼーっと考えつつも、
じっと手を出して待っているのになんとなく顔がほころんでしまった。
愛は、俺を見上げてすごく複雑な顔をした。
すねているっぽい。

「勝利。どーせその顔は、子供扱いしてるんでしょ。分かるんだから」
「別にしてない」
「うそつき」
「鋭いなあ、愛は」

ははは、と笑うと明日のためにその2並の右ストレートが飛んできた。
痛い。
これ以上やられると困るので、手首を掴んで止めた。
こどもだけどトレーナーから伸びたつやのある肌が意外に細
「やっ!」
「ぅが!」
気を抜いてたらやられた。
今度は明日のためにその1(左ジャブ)がもう一発。
いやほんとほんとマジ痛いって!
今日も両親は仕事で遅いのでこのままでは犯行が闇に葬られてしまう。
死んだ後に押入れにある段ボール箱の秘蔵コレクションを探られては死ぬに死ねん。
両手首とも掴んでつむじと赤い二つの髪ゴムを見下ろした。
567『パンプキン』(2/3) ◆NVcIiajIyg :2006/10/29(日) 18:02:44 ID:S6Kft5FC

「だから止めろって。菓子じゃなくて悪戯するぞ」
「なによ。悪戯するのはこっちよーだ」
じたばた暴れる姿は本当に小学生みたいだった。
慣れているとはいえ、さすがにうんざりしてきた。
一人で気楽な夜だったっていうのに、もう昔のよしみなんかで容赦しねー。
「うっさい!いいかげん帰れ!」
「なによ!寂しいかと思ってきてやったのにっ」

怒鳴ったのに返ってきた半泣きの声が、あまりにも意外だったのか言葉が意外だったのか。
思わず両手を放してしまった。
勢いでぶつかってきた小柄な肩を止めようとして、背中ごとしたたかに廊下に打ち付けてしまった。
なんか前にも何度かあった気がする。
結構気まぐれに突進してくる愛を受け止めるのは、そんなに珍しいことではないのだ。
しかし今回は、妙に困った。
相手は妹みたいな奴だというのに、我ながら変だった。
二つ結びの頭を軽く撫でてみたら慌てて首を振って逃れてしまった。
慌てて軽い体重が上からどいて、引き戸の前まで下がるのを見る。
幼馴染が初めて大きな紙袋を持って来ていたのを拾った動作を見て知った。
それにも情けなくうろたえて、立ち上がるのが上手くいかなかった。
なんだ俺。どうした。立つんだジョー。

「もういい、帰る。心配して損した。……転ばせたのは、ごめん」

愛は俯いて引き戸を後ろ手で開けた。

なんだよ。
別に、俺は、両親が仕事で忙しいのは俺のためだって知ってるからそんなに嫌じゃないんだぞ。
なのに思わず押し殺した溜息が出てしまった。
開きかけた戸を無理矢理上から手を伸ばしてまた閉める。
568『パンプキン』(3/3) ◆NVcIiajIyg :2006/10/29(日) 18:03:50 ID:S6Kft5FC
「拗ねるなって。ハロウィンなんだろ。菓子くらい食ってけよな」
「ふんっ。知らなーい」

ぷいと顔ごと背ける様はほんとうに小学生で。
少年漫画ばっかり読んでいて、貸してくれたりして、我侭放題の困ったお隣さんだけど。
そのお節介にうんざりしても、嫌だったことはない。

「いいから、人が折角いってやってるんだからそうしろよ。
 あー……心配してくれてどうもな」
「またそうやって大人ぶる!勝利だって同い年のくせに」
「は?大人ぶってないって」
「はいはいはーいそーでーすかー!」
まだ機嫌を損ねているので、やっぱり困ってしまった。
前言撤回しようかな。
「…愛ってほんと子供だよな」
「ほら!」

それが大人ぶっているって言うのよ。

と悔しそうに睨まれた。
水色のスニーカーを脱いで上がり、小さい頃からの習慣のまままず靴を揃え、
おじゃまします。と言ってから奥に踏み出す愛を見て肩を竦める。
しかも相変わらず茶を入れる手つきは様になっていてついでに
少し散らかっていた周囲を片付ける手際がいい。
「これ、お母さんからね。食べてよ」
持ってきたおかずの類をいつの間にやら見やすく冷蔵庫にしまってくれているし。
それを横目に戸棚の中にしまってあったお茶請けの菓子を出したら
パンプキンパイで、タイムリーだなーと顔がにやにやしてしまった。
(これは愛、喜ぶだろうなー。)
などと思っている自分に気付いてなんとなく気が抜けた。
これじゃどっちが子供なんだか。

って、どっちも子供か。
なんだかな。


569 ◆NVcIiajIyg :2006/10/29(日) 18:09:25 ID:S6Kft5FC
ちょっと気が早いですが埋めネタということで。
いつも変化球ばかり好んで投げるのを読んでいただいて深く感謝します。
ではでは。
570名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 18:22:22 ID:mdKqcBmd
GJ。
そういやもうハロウィンだなー
今年も良作ぞろいの予感
571名無しさん@ピンキー:2006/10/30(月) 03:14:16 ID:+9cPxxIJ
>>243
GJ!ハロウィン話かぁ〜中二かぁ〜
572名無しさん@ピンキー:2006/10/30(月) 03:26:09 ID:V0LOUkPB
>こどもだけどトレーナーから伸びたつやのある肌が意外に細

唐突感を出す為に、文章を途中で止めたのか
上手いなぁ
573名無しさん@ピンキー:2006/10/30(月) 08:05:27 ID:vxrYEb5r
GJ! コイツら前に鯉のぼりで騒いでた二人よな。
好きなノリだったんで、また読めて嬉しいわ。
574 ◆m57W70yg/k :2006/10/31(火) 18:46:25 ID:9roVfy4p
「氏神様、楽しい一年間をありがとうございました」

光が切れ切れにしか差し込まない、竹生茂った林。
男は今、自宅の裏山にひっそりと立てられた祠…氏神様の下、祈りを奉げている。
静かで、そして涼やかな秋のとある一日。
気がつけば日が詰まるのも早くなり、庭の木々も赤く色付いてきた。
カレンダーの日付ももう後がない、そう明日からはもう11月なのだ。

「歌穂とはよく喧嘩もするけど、御陰様で良仲でいさせて頂いてます」

昨年の万聖祭の前夜祭……
あれからもう一年だと思うと、目まぐるしく季節が移り変わり行く様に戸惑いすら感じる。
あの日から男の日常は大きく変化していった。

自分に出来た生まれて初めての彼女……。

彼女は幼馴染という近い存在であったので、
何でも分かっていたつもりでいたがそれは過ちだと気付かされた。
実はお化け屋敷が死ぬほど苦手だったり、しっかりしていると思っていたら実は甘えたがりだったり……
と、付き合ってからは意外な一面を見ることも多々あった。
ただの幼馴染だったときには見られなかった顔。
強さ以外の、そう、弱みも曝け出してくれた事。
それはありのままの彼女を自分に見せてくれているということで、男は素直に嬉しかった。

「これからも苦難とか困難とかあるかもしれないですけど、どうか温かく見守ってやって下さい。」

言い終わると、目を少しずつ開け胸の前で合わせていた手をゆっくりと解いていく。
同時に一陣の風が枯葉を孕みながら男の前を吹き抜ける。
一瞬にして耳内に木枯しの音が響き渡った。
冷たい風だったが竹の合間を縫って差し込む光のお陰か、不思議とそこまでの寒さは感じなかった。
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(……氏神様の返事かな)
風が凪いだ後(のち)にふとそんなことを思う。

男は小さな祠に向かって一礼をすると、金木犀の香り漂う元来た道に踵を返した。
明日は一日だから榊を取りに行かないと……等とぶつくさと、今日すべき事を説いていく。

「あっ、忘れてた」

「最近歌穂の胸が大きくなってきて嬉しいです。これも氏神様が願いを叶えてくれたお陰です。
 じゃ、また報告しに来ます」

その場で氏神様のほうに身体を向け言葉を紡ぐと、もう一度一礼をし家へと足を運んでいく。

が…

「……誰の胸が大きくなって嬉しいですって?」
そこには、見慣れた姿が眉をひくひくさせながら待ち構えていた。
「げっ……!歌穂なんでここに!」
「穂高!あんた、しょうもないこと神様にお願いしてるんじゃないわよ!」
「しょうもないことじゃない!俺にとっては大事なことだ!きっと氏神様だってそう思って……」
「思ってるわけないでしょ!もう……本当にスケベで馬鹿なんだから……」
「ごっ……ゴメン」

「でっ……でも今日は特別な日だから……いいよ……
 って!何言わすのよ!」
男……瓜谷穂高は、女……南野歌穂のその小さな声を聞き逃さなかった。
今夜は激しい夜にしちゃると、氏神様の前で何ともふしだらな事を考えているとは
この時歌穂は気付く由もなかった。

今日は彼女の22回目の誕生日……そして幼馴染同士が付き合って丁度一年が経過した、ある秋晴れの日の小話。